自由の灯火 (Big Versa)
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目覚め

代理人と雑談していると、F45が持っている通信端末から一通の通知が届いた。

 

 

「何だろう」

「誰からですか?」

「ペルシカリア……あ、ペルシカさんだ」

 

 

面識のある名前を思い出すと、通知の内容を確認する。しかしF45は不思議に思っていた。直接通知を届けてくるなんて一体何があったのだろう。グリフィン内では先の件で居場所を無くし、面識のあった人達とも全て関係を断っていた。

 

 

しかしこうやって通知が来た今、何かしらあったということなのかもしれない。F45はあまり期待をせずに内容に目を通した。

 

 

 

 

 

『机上理論が実現するかもしれない。今すぐ研究所に来て』

 

 

 

 

 

「……」

 

 

簡潔で、短く要点だけが纏められた文章。それを電脳で理解すると、F45は立ち上がって瓦礫の上から降りて地上に足をつけた。それに続いて代理人も瓦礫から降りてくる。

 

 

「どのような内容だったんですか?」

「ペルシカさんから、急用だって。代理人も行く?」

「はい。ペルシカさん、という方にも挨拶しておきたいですし」

「じゃあ行こう」

 

 

F45は代理人の手を引いてその方向へと歩いていった。距離はあるがそこは人形、疲れなどは存在しない。

 

 

道中、F45は呟くように言った。今にも消え入りそうな小さい声だが、その言葉はしっかりと代理人に届いているらしく、既に聞くような準備をしていた。

 

 

「時々思うんだよね……皆、生き返らないかなって」

「……」

「戦争とかも全部消えちゃってさ、平和な世界で、皆と一緒にいつも通り暮らせたらって考えちゃって……でもペルシカさんからも皆死んだって言われて……どうすればいいんだろうね、私」

 

 

悲哀に満ちた言葉は無情にも空気中に消えていく。F45も仲間の死という事実は目の前で見てきた。何もできず、何処にいるのかすら分からない敵に撃ち抜かれていく光景を見た。電脳の中で、封印されたと思っていた筈の記憶が蘇る。

 

 

聞こえていたかも、真意が届いていたかも分からないのに叫んで、乱雑に拳銃を撃って、腕と脚を壊された。確かにコアの断片が見つかっただけ状況的には幸運と言えるのかもしれない。しかし、F45の心にはどこか空虚になっている部分があった。

 

 

「これじゃ……私が自由を掴んだって変わらないよ……」

 

 

また、涙が溢れてくる。気づけば歩みも止まり、代理人に縋りついていた。

 

 

「寂しいよ……皆がいないと無理だよ……」

「……私がいます。貴女がどれだけ泣いても、私が慰めてあげますから」

 

 

代理人はF45の背中に手を回し、優しく抱きしめる。廃墟が佇む中での二人の姿は、あまりにも雰囲気と似合わない。それを知ってか知らずしてか、F45は涙を拭い、再び歩き出した。機械的な右手の掌が僅かに濡れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究所に着いたのは、歩いて一時間後のことだった。グリフィン本部とは離れた場所にある白く殺風景、かつ近未来的な建物を代理人は見上げるように見ていた。

 

 

「此処が16Lab……」

「人類の叡智が結集した場所、らしいよ。私の右腕も作ってくれたから」

 

 

人の行き来は滅多にない。というよりも、毎日入り浸っているのがペルシカぐらいなので人が来るとすれば、それはペルシカにコーヒーを届けに来た配達員だろう。それに物や書類が散乱しているので普通の人は近寄りたがらない。

 

 

F45と代理人はゲートを通り、ペルシカがいる部屋へと向かった。代理人は物珍しそうに、F45は手慣れたように歩いていく。程なくして目的の部屋の前に着いたが、中からは何かキーボードを叩くような音が漏れ出していた。F45は一度耳を澄ませてから、扉をノックする。

 

 

「あの……F45ですけど」

「ん―――ん、ああ。大丈夫だよ、入っても」

「あ、はい……」

 

 

恐る恐る扉を開けきって部屋の中に入る。続いて代理人も小声で「失礼します」と言ってから中に足を踏み入れた。やはりと言うべきか片付けなど微塵をされておらず、一見すると足の踏み場も無いような部屋だったが、椅子の上でペルシカは体育座りをしていた。

 

 

ペルシカは作業を終えたのか、F45の方を向いて僅かばかりの笑みを浮かべた。

 

 

「いやぁ悪いね。急に呼び出しちゃって」

「ううん、大丈夫ですよ。それで用事って?」

「ああ、実はね……」

 

 

息を呑む。

 

 

 

 

 

「皆を生き返らせることが出来るかもしれない」

 

 

 

 

 

それを疑わなかったF45は、目を見開いてペルシカに詰め寄った。

 

 

「本当ですかッ!?」

「ああ、本当だよ……げほ、苦しい……」

「あ、ごめんなさい……」

 

 

突然詰め寄られたペルシカは咳払いをして白衣の襟を正す。そして詳細を説明した。

 

 

「君のコアは知っての通り断片を複合させて出来ている。その断片を新しいコアに埋め込んで再構築させようと考えていたところなんだ。デストロイヤーとハンターに関しては素体がないからどうにもできないんだけど……でもF9、F416、F11の三人は生き返るかもしれない」

 

 

F45は喜びの余りか頬を緩ませ代理人の手を握っていた。そして代理人がペルシカに訊く。

 

 

「素体はどうなったんですか?F45から聞いた話によれば回収できなかったと聞いていますが……」

「それに関しても問題はないね。IOPから提供された同型を貰うことが出来たから、あと少し改造させてもらったよ」

 

 

ペルシカはそう言って話を切り上げ、F45の胸に握り拳を軽く当てた。

 

 

「早速コアの摘出作業をするけど……覚悟は出来てる?」

「……はい」

 

 

F45はただ短く返事をし、ペルシカと共に奥の作業部屋へと入っていく。代理人は静かに待っていたが、その目には確かに願いが込められていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

二十分が経った頃、既にコアの断片の摘出を終えたF45が待機しているところにペルシカがやってきた。その顔からは歓喜が満ち溢れていて笑みを浮かべている。

 

 

「……やったよ、F45」

 

 

静かに告げられたその言葉を合図に、F45の眼前には見覚えのある三人が姿を現した。

 

 

「皆……」

 

 

F45が何度も瞬きをして腰を抜かす。

 

 

 

 

 

「やっほー45姉!」

「Nice to meet you 45!」

「何時ぶりかしらね。会えて嬉しいわ、45」

 

 

 

 

 

仲間が笑顔で立っていた。

 

 

「……ひぐっ、よかった……よがっだあぁ~!」

 

 

F45はF9に抱き着き、泣きじゃくった。そして隣にはそれを見守るF416とF11。それはまさしく、あの時のような仲間であり家族の光景だった。

 

 

「45姉、ごめんね……ずっと辛い思いさせちゃって……」

「うぐっ、えぐっ……生きてるぅ、みんな生きてるよぉ……!」

 

 

その光景を、代理人とペルシカは遠巻きに見守っていた。

 

 

「感動の再会ね……」

「ええ、皆喜んでいて何よりですわ」

 

 

代理人は目元を拭いながらペルシカに訊ねた。

 

 

「しかし改造といっても何をしたんですか?」

「まあ、F9には45のショットガンをそのまま移植。F416には両足をモーター駆動の車輪にして、F11には高周波パルスの目と高度の電子戦装備を内蔵してるよ」

「……皆も強くなったんですね」

「そりゃそうさ」

 

 

 

 

 

―――彼女たちには自由があるべき姿だからね。



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赤い雨

404-F小隊が揃ってから数日、F45はF11から右腕の点検を受けていた。本来ならペルシカが担当しているところなのだが、急用でグリフィン本部に赴いているため整備に長けているF11に任せているわけである。

 

 

「どう、痛くない?」

「うん。大丈夫だよ」

 

 

そう言うF45の右腕には複数のケーブルが繋がれており、中には肩の部位まで至るものもある。傍から見れば痛々しい光景だが、あらかじめ痛覚機能をシャットダウンしているため痛みは感じない。そしてF11は一本の太いケーブルを引き抜いた。

 

 

「ジョイントの調整の数値はこんな感じで……よし、終わったわよ」

「ありがとう。F11ってこういう機械とかにすごく詳しいよね」

「元が電子戦モデルだからね。まだ45には早いわよ」

 

 

F11はフッと笑みを浮かべながらケーブルと機材を片付けていく。馬鹿にされたと感じたのか、F45は頬を膨らませてF11のの背中を小突く。

 

 

「むぅ……私だって隊長だもん。すぐに使えるようになるよ」

「じゃあまずはお化けを怖がらないことね」

「うっ……」

「既に憑りつかれてたりして……」

「ひぃ!?」

 

 

F45は泣きそうになりながらF11に抱き着いた。流石に冗談が過ぎたと思い、F11が頭を撫でる。

 

 

「あぁ、その、ごめんなさい。そんなに怖がるなんて……」

「……じゃあ一緒に寝てくれる?」

「心配しなくても、皆一緒よ」

「よかったぁ……」

 

 

F45は安堵してホッと胸をなでおろした。臆病なところはあの時から何も変わってはいないが、それを見捨てたりするほど小隊の仲間は冷酷なわけではない。隊長を守るのがいつだって隊員の役目である。

 

 

「ところで45、ハンターとデストロイヤーの素体は何処で生産されてるの?」

「ハンターの素体なら大体の目星はついてるけど……デスちゃんの素体の生産記録がないんだよね」

「生産記録がない?いくらハイエンドモデルでも一体だけってことはない筈だけど……」

 

 

F45は持っていたタブレットの画面を見ながら溜め息をついた。彼女の言う通りハンターの素体が生産されている工場の候補はほぼ特定できたものの、デストロイヤーの素体に関しては生産記録そのものが見つかっていない状況だった。F11もタブレットの画面を覗き込みながら呟く。

 

 

「確かにSP5NANOは希少性が高いけど……でもここまで出し渋るものなのかしら?基本的にハイエンドモデルは一定数生産されてる筈なんだけど……」

「今の鉄血は昔とは違ってるからかも。まあ素体は引き続き探すとして……疲れた~」

 

 

タブレットの電源を切り、F45は大きく伸びをした。

 

 

「お疲れ様、後は私がやっておくわよ?」

「ありがと~……ふぁあぁぁぁ……」

「寝てないの?」

「昨日寝てない……」

「ちゃんと休んでおきなさい」

 

 

F45は間延びした声で返事を返し、別室へとふらふら足を運んでいった。その後、F11は再度タブレットの電源を付け、素体の情報を確かめた。

 

 

「……これね」

 

 

数回タップしてから、電源を消した。

 

 

「後は返事を待つだけ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ホテル6、敵の対空砲火が激しい。降下地点アルファからブラボーへの変更を要請する》

《こちらリマ9、ネガティブ。予備の降下地点にも多数の鉄血兵が向かっている。どちらに向かっても蜂の巣だ》

《了解、このまま人形に降下を開始させる》

 

 

彼女らにとって、始まりは常に死と隣り合わせだった。

 

 

人形に死生観はない、というのが世間一般の見解だが、少なくともF45率いる404-F小隊にはいつだって人間と同じ死を迎えることが出来る。頭を撃たれれば、コアを撃たれれば、その機能は即座に停止してしまう。しかし幸か不幸か、F45が座っている周りにいる人形は本当の意味での死生観を持ち合わせていなかった。いわばバックアップが存在するため、本当の意味での死を知らないのだ。民生人形という生産性の良い素体は無数に存在している。それゆえ、一体倒してももう一体として復活する。

 

 

F45には、それが微かに不気味に思えた。

 

 

(大丈夫かな……)

 

 

今回の任務ではID認証を偽造して参加しているため、他の仲間とは別行動を取っていた。F9は別の輸送ヘリ、F416とF11は地上での行軍に参加している。今こうしてグリフィンの部隊に紛れ込んでいるのも、全てはペルシカのお陰だった。

 

 

「降下30秒前!全員点検をして!」

 

 

隊長格であろう人形が全員に指示を出した。F45も立ち上がって前にいる人のパラシュートの確認をする。

 

 

《後部ハッチを開ける。繰り返す、後部ハッチを開ける》

 

 

パイロットの指示から数秒後、ヘリの後部ハッチが徐々に開く。風が入り込んできてF45は思わず顔を背けたが、下からは鉄血のものと思われる対空砲火の曳光弾が確認できた。隊長が指示を飛ばす。

 

 

「降下10秒前!!」

《くそ、ミサイル接近!》

 

 

突如としてアラームが鳴り響き、機体に衝撃が襲った。F45含む後方にいた人形はバランスを崩し、前方にいた人形は機内から飛ばされたり四肢を失った者さえ出ていた。声にならない悲鳴も上がる。

 

 

《被弾した、被弾した!》

「全員降下!すぐに降下して!」

 

 

その合図で次々と人形が地上に飛び降りていった。

 

 

「嘘……」

 

 

最後尾にいたF45は何とか立ち上がったが、足は震えて壁に寄りかかっていなければ立っていることもままならない状態だった。しかし機体はバランスを失い始めて揺れている。すぐにでも飛ばなければ機体と共に死んでしまうのは火を見るより明らかだった。

 

 

「うぐっ……」

 

 

恐怖に顔を歪める。が、パイロットの叫びでF45は我に返った。

 

 

 

 

 

《行け、行け!》

「……はいッ!!」

 

 

 

 

 

衰えない対空砲火の中、走り出して重力に身を任せる。

 

 

 

 

 

F45は燃え盛る機体を背後に降下していった。



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赤い雨#2

「うぁあぁぁ……!」

 

 

頭を下に降下していくが、風切り音と対空砲火の音で聴覚センサーのエラーを示す警告が電脳内で反芻していた。無理もないだろう。F45はVR空間で数回、降下訓練を行ったのみだからだ。

 

 

風切り音が聞こえる中、F45はHUDに表示されている高度計を確認する。パラシュート展開の適正高度まで残り15秒だった。

 

 

「あと……少し……!」

 

 

残り5秒。

 

 

 

 

 

4秒。

 

 

 

 

 

3秒。

 

 

 

 

 

2秒。

 

 

 

 

 

1秒。

 

 

 

 

 

「……今ッ!」

 

 

 

 

 

パラシュートが開き、急激に降下速度が低下する。そして程なくして地面に到達した。

 

 

「仲間……そうだ、9とかは……!」

 

 

F45は茂みに身を隠し、通信端末でF9に応答を試みた。数秒間ノイズが流れた後、9の息遣いが聞こえてくる。どうも向こうでも慌てているようだった。状況が芳しくないのかもしれない。そう思ったF45は名前を呼び掛けた。

 

 

「9、9!」

《……あぁ、やっと繋がった!45姉、大丈夫!?》

「うん、何とか……」

《よかった……こっちは予定地点に着陸できたけど、45姉何処にいるか分かる?》

「えっと……どうしよう、敵地の真ん中だよぉ……」

 

 

HUDのマップが示していた通り、敵の反応である赤い点が複数映し出されていた。そしてそのうちの近くにいた部隊がF45が着陸した地点へと向かってきている。その他にもヘリが墜落した地点や他の味方が着陸した地点、複数に部隊が分かれて移動しているのも確認できた。このまま接敵してしまってはなす術がない。

 

 

F45は即座に移動を開始した。武器が見つかっていないが、元々使用したことのないものだったため命中率には期待していない。特殊な戦術人形と言えど、彼女らもスティグマシステムを一応は搭載しているので慣れない武器を使うと命中率や精度は大幅に低下してしまう。F45の場合、手慣れている武器が右腕に搭載されているガトリングであるため無闇に使うわけにはいかなかった。

 

 

「武器も使えないし……早く合流しなきゃ」

 

 

目先の目的は合流して小隊全員で目的地に向かうこと。そしてそれは本筋である鉄血司令部のデータベースのモジュールを奪取することに繋がる。F45が紛れ込んでいたグリフィン部隊は司令部の完全破壊を命じられているらしく、当然モジュールも破壊対象に含まれていた。

 

 

「壊される前に手に入れなきゃなあ……」

 

 

F45には完全破壊を命じられた理由を憶測ではあるが理解していた。恐らく鉄血側のハッキング、正確にはハイエンドモデル『イントゥルーダー』の電子戦を危惧してのことだろう。蝶事件以前のモデルデータに載っていない最新型の電子戦モデルである彼女は確かに脅威ではある。

 

 

しかしF45らにとってはそのモジュールが無ければ今後の活動にも支障が出る。最悪、グリフィン部隊と対峙してでも手中に収める必要があった。

 

 

「えっと、9の位置は……」

《45姉、こちら9。聞こえてる?》

「あ、うん。今そっちに向かってるよ。どうしたの?」

《さっき416とF11に合流して。後は45姉だけだよ》

「すぐに行きたいけど……」

 

 

F45は前方を見る。敵の対空砲が何基も鎮座しており、未だに輸送ヘリに向かって火を吐き続けていた。さらに鉄血兵も多数警戒していて戦うのは得策ではないと一目で分かる。

 

 

「迂回したほうがいいかな……」

《迂回してたらグリフィンが司令部を破壊しちゃうよ。もう時間的にも厳しいし》

「でも真っ直ぐ行ったら見つかるし、ガトリングでも対処できるかどうか……」

《うーん……そうだ!対空砲のレーダーを明後日の方向に向かせればいいんだ!》

 

 

突然向こうから手を叩く音が聞こえてきたかと思えば、F9がそのアイデアを自信満々に言い放った。しかし高性能の鉄血製レーダーをどうやって欺かせるのか。小石や空薬莢を投げた程度ではそんなことは不可能だと理解はしている筈である。

 

 

「欺くってこと……?でも向こうのは高性能なんだよ?」

《そのための私よ》

「F11?」

《あれぐらいなら私一人でもハッキング出来るわ。マルウェイプロトコルを仕掛けてみる》

「……うん」

 

 

F45は通信を入れたまま、ハッキングが成功するのを待つことにした。下手に動いてしまえばレーダーに引っかかって作戦そのものが破綻してしまう可能性すらある。後ろでは敵部隊が通過していってるがF45はただ息を潜めてハッキングの成功を待っていた。

 

 

(まだかな……)

 

 

その時、F11から通信が入った。

 

 

《ハッキング成功。レーダーの座標設定を欺いたわ》

 

 

その声を合図に、F45は伏せの姿勢から素早く走り出して対空砲の陰に隠れた。前方では配置に着いていた鉄血兵が座標設定の再調整を慌ただしく行っているのが確認できる。これを全てF11が一人でやったのだとしたら、それは一人の戦術人形としては相当な能力だろう。UMP45にも劣らない、F45はそう思わざるを得なかった。

 

 

「このまま行けば……」

 

 

混乱に乗じ、F45は大胆にも陣地の中央を突っ切っていった。脚部のパワーを最大限まで引き出し、飛ばし飛ばしで駆け抜けていく。強化された鉄血製の左脚はあらゆる衝撃、着地した際の衝撃を吸収し分散させているため僅かな痛みも感じることは無かった。

 

 

「後少し……!」

 

 

呟きながらHUDを更新し、F9達のいる位置を確認する。合流まで残り500mを切っていた。

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

《45、敵がプロトコルを除去しているわ!もっと急いで!》

「えっ!?これでも最大なのに……!」

《45姉、早く!『この程度でハッキングとか笑わせるねぇ、F小隊?』ッ!?ちょっと、何で……!》

「9?9!」

 

 

 

 

 

突然通信にノイズが入り、同時に対空砲が元の仰角に戻り始めた。おそらくF11のマルウェイが全て除去されたのだろう。状況を悟ったF45はやむなく直進を止めて近くの残骸に身を隠した。出力を最大限まで高めたせいか、左脚からは白い煙が出ている。

 

 

「熱っ……」

《F11、お前のマルウェイで時間が稼げたよ。流石電子戦モデルと言ったところだ……まあ、それ以前にお前の意思も関係してるんだけど》

《ドリーマー……!一体何処にいるの!?》

《お前には聞いていないんだよF9……それでどうだF11?戦術人形にとって一番恐ろしいのは『無自覚』だと思うんだが》

《Do not say what you do not understand!Bitch!》

《どうだF11?》

 

 

「何が起きてるの……」

 

 

話についていけないF45はただ感じる悪寒に震えるのみだった。そしてF11の言葉に耳を傾ける。

 

 

《……そうね》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《少なくとも、無自覚にあんた達を殺すことは出来るわよ?ドリーマー》



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赤い雨#3

合流地点までは500m以内だったが、その距離はとても遠く感じられた。勿論それは思考上での感覚に過ぎず、戦術人形であれば一分とかからずに走り抜けられる距離である。しかしF45は足を動かせず、物陰に隠れているのみだった。

 

 

「どうしよう……」

 

 

対空砲火はいつしか振出しに戻ったかのように上空に火を噴き続け、絶え間ない轟音が彼女の聴覚センサーを刺激していた。武器もなく、動けば見つかる。

 

 

 

 

 

―――まるで創られていたシナリオのように―――

 

 

 

 

 

「早く、合流しなきゃ……」

 

 

F45は首を横に振って立ち上がり、新たに合流するための迂回路をHUDで検索した。いくら敵の陣地と言えど、全てを完璧に監視できることは人形であっても不可能だ。それを念頭にルート検索を掛けたが、どのルートも途中のポイントで接敵する可能性が急激に跳ね上がっていた。それによって九割の検索したルートが候補から除外され、残りの一割から探し出していく。しかしF45の電脳は焦りで支配されていた。

 

 

「どうしよう……どうしよう……」

 

 

通信端末で呼びかけると、F9が応答してくれた。

 

 

《45姉、ちょうどよかった。合流できる迂回路を見つけたから、そっちにデータを送るね!》

「えっ?」

 

 

どういうことかと訊ねる前に、F45のHUDには新しい迂回路を示す青色のインジケーターが表示されていた。F9が新しくデータを送ってくれたのである。F45は頬を緩ませお礼を言った。

 

 

「ありがとう……すぐに向かうね」

《皆待ってるよ!》

「うん」

 

 

通信を切り、F45はインジケーターの表示に沿って走り始めた。左脚からの排熱も済んだのか煙は出ておらず、特に熱さを感じるわけでもない。異常など初めから無かったかのように最大限の出力にも余裕を持って応えてくれていた。

 

 

「……」

 

 

風切り音が響き渡り、F45はその中を駆け抜けていく。途中で、遠目に鉄血兵が見えたがこちらの方が速度も速く距離も取っているため気づかれるはずも無かった。

 

 

 

・・・

 

 

 

やがて敵の対空陣地を走り抜け、F9達がいる場所へと合流を果たした。特に負傷しているところなどは見受けられず、作戦も続投可能状態にある。全員が顔を見合わせると、F9はホログラムで現在地付近のマップを出して目標を設定した。

 

 

「ペルシカさんから言われている通り、これから鉄血の基地内部に潜入してデータベースルームに向かうよ。その部屋に入ったらF11がモジュールの攻勢防壁解除と回収、残りはそれが終わるまでF11の援護、終わったらすぐに基地を脱出して回収用のヘリに乗って16Labに帰投する。質問とか無い?」

「大丈夫よ」

「No problem」

「大丈夫……うん、大丈夫だよ」

 

 

全員の返事を聞いてF9は口角を釣り上げる。それはまさしく作戦開始の合図に他ならなかった。

 

 

「よし……現時刻を持って状況開始。全員離れないようにね」

 

 

それぞれが頷き、一定の間隔を保ちながら鉄血の基地へと足を進めていった。前方にF45とF9、後方にはF416とF11がそれぞれの方向を警戒しながらといった具合にHUDに表示されているルートを進んでいく。

 

 

遠い場所では銃声が響いている。

 

 

「……すごい銃声」

「グリフィンは真正面から潰そうとしてるからね。私達の方が小回りが利いて効率的なのに」

 

 

F9の言う通りではあった。大部隊の物量で敵を押しつぶすことも一理あるが、少人数で裏を取った方が生存率にも大幅に影響する。それを考えてみれば、グリフィンをクビになったのは案外悪いことではないのではないか。F45は一瞬だがそう思った。

 

 

(グリフィンは……信用したくないな。お姉ちゃん達とかAR小隊の方が強いし頼りになるし)

 

 

ふとそんなことを考えていた。404小隊やAR小隊とは多少なりとも接点があり、特に404小隊とは短い間だが任務を共にした仲間である。しかしグリフィンとはほとんど接点がない上に、むしろ敵と見なされて小隊を一度壊滅させられた。そんな仕打ちを受けて、警戒心を無にして穏やかに接しろという方が無理な話だった。いくら温厚なF45と言えど、明確に敵意を向けられては相応の対応をするしかない。

 

 

(いや、今は任務に集中しなきゃ……)

 

 

一度瞬きをし、気持ちを切り替える。歩いていく先では特に接敵することもなく、気づけばゲートの前にまで到達していた。どうも裏口に周っていたらしく、グリフィンの部隊に突破されている様子も見受けられないことからF9はハンドサインで待機を促してゲートを乗り越えた。

 

 

そしてゲートの上でしゃがみ込み、右手を伸ばす。二番手に続いたのはF11だった。そして三番手にF416、順番的に最後になったF45も難なく乗り越えて、全員が基地の敷地内に潜入することが出来た。

 

 

「敵影は……なし。45姉、カードキーちょうだい」

「えっと、あった。はい」

 

 

F45はパーカーの内ポケットから赤黒いカードキーを取り出し、それをF9に手渡した。カードの表面には『Sangvis Ferri』と印字されている。鉄血構造の社員が持っていた認証用のカードキーだが、これは本物ではなくペルシカが作り上げたコピー品だ。つまるところ偽札と同じ原理だが、完成度は折り紙付きであり、その証拠として裏口の扉は何ら警報を鳴らすことなく開いて小隊を出迎えた。

 

 

そこから順番に突入し、すぐさまフラッシュライトで辺りを照らす。F45も武器は持っていなかったが、機能として内蔵されているナイトビジョンスキャナーを起動して視界を確保していた。中は暗く、ライトやナイトビジョンが無ければ迷い込んでしまいそうにさえ思える。そんな中でF9を先頭に停止している簡易的な製造ライン横の階段を上り、別の区画に繋がっている通路を通っていく。データベースは通路の終わりを左に曲がって二番手にある部屋の中らしく、先行偵察として416が向かった。足をモーター駆動の小型タイヤに改造されている彼女はまるでローラースケートを履いているかのように颯爽と通路を走っていき、あっという間にデーターベースの場所まで行った。残りの三人は警戒しながら進んでいったが、途中で416からの通信が入る。

 

 

「こちらF11、どうしたの?」

《There is no abnormality in the vicinity.There are no enemies in the room》

「そう、分かったわ。すぐにこちらも到着する」

《Okay》

 

 

短いやり取りを終え、F11は通信を切った。

 

 

「異常は無かったの?」

「ええ、大丈夫よ」

 

 

そしてデータベースの扉の横に張り付き、F11はゆっくりと扉を開ける。

 

 

「さあ、久しぶりのネットワーク空間ね……」

 

 

そう言ってF11は自身の首筋にアダプターを挿し、伸びたケーブルの先端をサーバーの一つ挿し込んだ。するとF11は急激に瞼が重くなるのを感じ、意識がネットワーク空間へと引きずり込まれていった。

 

 

 

 

 

「……攻勢防壁、おそらくこれね」



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赤い雨#4

「ここが最深層ね」

 

 

ネットワーク空間への潜入に成功したF11は自身のホログラムを構築し、データの海に降り立った。中では様々なデータが視覚化されて飛び交っており、人間が見たら卒倒でもしかねないような量が空間に一定の流れを作り上げていた。

 

 

「攻勢防壁は……結構あるわね。用心深いこと」

 

 

僅かに歪みが生じている部分に手を触れると電流が流れて弾かれた。恐らくこれが攻勢防壁なのだろう。ウイルスを仕込まれていないのは幸運だった。ただの『守るだけ』の防壁だと理解すると、両手をかざし、防壁データの解体を始めていった。

 

 

「デストラップ無し……トロイの木馬レベル3が2176個……ロジックボムが多数……ザルな警備ね。これで追い払えると思ったのかしら?」

 

 

独り言を呟きながらも、F11は淡々と攻勢防壁のプログラムを破壊していった。部隊結成の頃から電子戦を主な武器としてF9と共にハッキングなどをやってきた彼女だが、その実力と性能は衰えるところを知らず、むしろ先の改造の件で電子戦機としての性能は大幅に向上したと言える。とはいえドリーマーを相手取るには分が悪すぎるのだが。

 

 

F11がプログラムを破壊していくと、奥に一瞬だけ光る球体らしき物が見えた。当然それを見逃すはずはなく、メインターゲットをそちらに切り替え設定してプログラム破壊を続けていく。あれがモジュール内のデータなのかは分からないが、少なくとも鉄血にとって重要な情報であることは確実だった。

 

 

「ここをこうすれば……よし、プログラム破壊完了」

 

 

攻勢防壁を全て破壊し、F11はその先の領域へと足を踏み入れた。そして目的の光る球体を手に取り、中のデータを確認する。

 

 

「……当たりね」

 

 

データやプログラム、あらゆる情報を電脳内にインプットした後に二十層にも及ぶ防壁と一定増殖型パスワードを掛けて球体を握り潰した。これで情報の回収は全て完了したことになるので、F11は意識をネットワーク空間からシャットダウンした。

 

 

 

・・・

 

 

 

急激に意識が現実に引き戻され、F11は慣れない手つきでケーブルを引き抜いた。隣にはF45が座っており、心配そうにこちらの顔を見つめていた。

 

 

「どうしたの?」

「あ、いや、ちょっと心配だったから……」

「心配?」

 

 

F45は少し俯いて頷く。

 

 

「前から、そうだったじゃん?ハッキングとかした後だとF11って力が入ってなかったり歩けなかったりとかさ……それで大丈夫かなって……」

 

 

F11はどんな顔をすればいいのか困っていた。確かにF45の言う通りで、あの時から行動に支障が出ていたりもしていたが、最初からだからこそ慣れていたと思い込んでいる自分がいた。しかし実際はどうか、ずっとF45に心配されていたのだ。申し訳ないと思い、F11は彼女の頭を撫でた。

 

 

「ふぇ?」

「ごめんね。心配かけさせちゃって」

「あ、えっと、別に謝るほどの事じゃ……」

「いいのよ。貴女が笑顔でいることが一番なんだから、敵を倒して、自由を掴みましょう」

「……うん!」

 

 

F45は笑顔で頷き、F11に肩を貸して立たせた。F9とF416も武器を手に取り、F11も残弾を確認して指示を出した。

 

 

「データ回収は完了と見なすものとするわ。このままデルタ地点の飛行場跡に向かって、迎えのヘリで戦域を脱出するわよ」

「うん、分かった」

「りょうか~い!」

「OK……But what about Griffin?」

 

 

F416が疑問を口にするが、F11は余裕そうに答えるだけだった。

 

 

「グリフィンなんて今更よ。私達には関係ないわ」

 

 

その言葉を合図に、四人はF45を守るようにして歩みを進めていく。データを手に入れたのはF11だが、今交戦能力が無いに等しいのはF45の方である。右腕のガトリングもむやみやたらに使うことなど出来るわけがなく、結果として残りの三人でF45を守る形となっていた。装填されている100発の弾薬も安くはないのだ。

 

 

「左側面、クリア」

「右側面もクリアね」

 

 

F9とF11が左右を警戒しながら先導していく。

 

 

内部では、ところどころ破壊された箇所もあり鉄血兵の死体も数多く横たわっていた。凄惨な光景にF45は僅かに眉をひそめてF416に身を寄せる。

 

 

「Are you okay?」

「うん……まだ慣れないや」

「Haha、Getting used soon」

 

 

F416が笑いながら鉄血兵の死体を乗り越えようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「csabkjksdcnajo!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一人の鉄血兵がナイフを片手にF416に掴みかかってきた。

 

 

「What the FUCK!?」

「jfciwbviuasinbij!!」

 

 

鉄血兵はおおよそ言語になり得ないノイズを発しながらF416の喉元を掻っ切ろうとナイフの切先を横に振る。しかし素早く反応し、ナイフを持っている手を払いのけてF416は膝蹴りを腹部に食らわせた。鉄血兵は人工血液を吐いてよろめく。

 

 

「―――ッ!」

 

 

その一瞬の隙をついて、F416は左手の握り拳を鉄血兵の口の中に突っ込む。そして力任せに喉を貫いて強制的に機能を停止させた。鉄血兵の死体を乱雑に振り払い、内部部品と人工血液で汚れてしまった左手を壁に擦り付ける。

 

 

F45は慌てて傍に駆け寄った。

 

 

「だ、大丈夫!?」

「Aww、shit……yeah、yeah.I'm fine」

「よかった……」

 

 

鉄血兵の死体で汚れてしまったが、F416自体に怪我はなく元気そうに笑う。その様子を見て安堵したF45は再び歩き始めた。が、すぐに通信が入り確認する。

 

 

「どうしたの45姉」

「傍受してたやつ……えっ?」

 

 

F45は通信端末を耳に近づけ音を確認した。そして、

 

 

 

 

 

「……デルタ地点がやられてる!」

 

 

 

 

 

その報告に、四人はすぐにルートを変更して階段を上がっていった。何故デルタ地点がやられているのかは定かではないが、プランAが潰されたことだけは確定していることだった。F9が走りながら叫ぶ。

 

 

「45姉!これってどういうことなの!?」

「分からない!でも鉄血がそこまで侵攻してるのは、間違いないと思う!」

「Holy shit!!Fucki'n sangvis ferri!!」

「喚いてないでさっさと走りなさい416!」

「I know!!」

 

 

走り続け、基地の屋上を目指す。しかし階段の一部が崩落していたり道が瓦礫で塞がれていたりで強制的に迂回路を探す羽目になっていた。四人分の足音が忙しなく響き渡るが、途中でF45が滑って転んでしまった。

 

 

「きゃ!」

「45姉大丈夫!?」

「何とか……!」

「I found a door!」

 

 

F416が屋上への扉を見つけ、先に体当たりをして屋上に転がり込んだ。しかしそこにヘリは存在せず、ただ炎が燃える音だけが聞こえてくる。

 

 

「Oh my god……」

 

 

脱出路が断たれ、目を見開いて片膝をつく。遠くに見えるのはグリフィンの回収部隊だろうか、しかしそうであるとすれば助けは呼べない。もはや絶望的状況だった。今行ったとしてもID照合で全てがバレてしまい、作戦が水の泡となる。

 

 

「Shit……」

 

 

しかし、突然聞こえた通信が小隊に、F45に希望を抱かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《やっほ~皆、助けに来たよ~》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間延びした少女の声と同時に、光学迷彩を解いたブラックホークが頭上でメインローターを羽ばたかせていた。



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会いたかった人

「いや~万が一でヘリを出しておいてよかったよ。じゃなきゃ崩落に巻き込まれてたからね~」

 

 

ヘリの中で、少女は間延びした声でそう言った。F45こそ面識があるため普通に話せているのだが、残りの三人は複雑な表情でそれを見守っていることしか出来ずにいた。その空気を察したのか、少女は三人に対して笑みを浮かべる。

 

 

「そんな緊張しなくても大丈夫だよ。少なくとも敵じゃないからね~」

「……味方、なのかな?」

「Ah……」

「……悪いけど、あまり信用できないわ。貴女、グリフィンの根回しで来たんでしょう?」

 

 

F9とF416が反応に困って言い淀んでいる間に、F11はきっぱりと言い切った。信用できないグリフィンからの根回しで来たのならば、四人が迎える結末は決して良いものではない。しかし面識のあるF45は怒ったようにF11に抗議した。

 

 

「ちょっと、その言い方は酷いよ。確かにグリフィンの指揮官だけど……」

「あはは、怪しまれても仕方ないよね。でも大丈夫、指揮官だけど根回しなんて一切無いから」

 

 

F45を宥めるように撫でながら、少女は弁明をした。そしてF11に訊く。

 

 

「あなた達の目的って……もしかして鉄血の殲滅?」

「ええ、正確には過激派の奴らだけどね。既に仲間になってる三人以外は全員そうよ」

「三人……?あ、そうか。代理人以外にもいたね。ごめんごめん……その、ハンターとデストロイヤーについては、気の毒って言うか……何て言えばいいんだろ……」

 

 

少女は僅かに俯いて申し訳なさそうに呟く。仲間でもあるハイエンドモデル二人の死は当事者ではない少女にとっても十分にショッキングな内容だった。

 

 

「そんな、そんなに落ち込まなくても……私達が二人を生き返らせるから!それで敵を倒してさ、また皆で平和に暮らしたいから!大丈夫、必ず平和になって、自由を取り戻せるよ」

「……すごい自信だね。会った時よりも凛々しく見えるよ」

「私は隊長だから。皆をリードしなくちゃいけないからね」

 

 

F45と少女の会話に、自然と三人も顔を綻ばせていた。しかし雑談を交わしている時間も長くなく、気づけば基地のヘリポートに着陸していた。四人は少女に促されてヘリから降り、少女は通信端末でパイロットと一言二言交わしている。

 

 

「ありがとうね~」

《これぐらい何てことないさ。ダガー2-1はこれより帰投する》

 

 

パイロットはハンドサインを示してからヘリを離陸させて遠くの空へ飛び立っていった。そして少女は閉じられている瞳を四人に向け元気そうに言う。

 

 

「ようこそ~、此処が私達の基地だよ~」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

案内も一通り終え、四人は司令室の中で寛いでいた。F45はぬいぐるみを選別し、F9は気持ちよさそうに寝転がり、F416とF11は隣り合って本を読み漁っていた。内容は少なくとも少女やF45が理解できるものではない。

 

 

「45姉、指揮官っていつ来るんだっけ?」

「えっと……あ、もうすぐで来る頃だよ」

「片付けなくちゃね。おーい、そこの二人~指揮官が来るから片付けるよ~」

「あら、なら早くしないとね」

 

 

F416とF11も本を元の本棚に入れ、F45もぬいぐるみを箱の中に仕舞った。そして全員が立ち上がって待機する。一度交流で会っているとはいえ、エリート小隊の前では失礼を働くことなんて出来ない。

 

 

そして司令室の扉が開かれ、指揮官とAR小隊が入ってきた。しかし一度見知っているせいなのか、M16が苦笑を浮かべている。

 

 

「おいおい、そんな真面目にやらなくなっていいぞ。リラックスだリラックス」

「あ、えっと、うん……皆、楽にしていいって」

 

 

F45の覚束ない指示で三人は姿勢を楽にして座った。AR小隊の面々も座り、M16が続けて言う。

 

 

「まさかまた会えるとはな……って言っても辛いこともあっただろうが……」

「ううん、こうして生きてるだけでも運が良かったよ。それに私達はまだ諦めたわけじゃないからね」

「ハハ、立派になりやがって」

 

 

M16は笑いながらF45の頭をわしゃわしゃと撫でた。そしてAR15も泣きそうになりながらF9に抱き着いている。隣にいたSOPは照れくさそうにその光景を見ていた。

 

 

「よかった……よかった……ひぐっ」

「うわわっ!?な、泣かなくても……45姉とかも皆生きてるから、大丈夫だよ!」

「うん、うん……」

 

 

皆が楽しそうに談笑する中で、F416はM4だけが座ったまま俯いているのに気が付いた。声をかけてみると、M4は驚いたように顔を上げる。

 

 

「ひゃ!?」

「What happened?Are you getting nervous?」

「い、いや……そういうわけじゃ……」

「?」

「あの、えっと、その……」

 

 

M4は言い訳を考えるようにまた俯いたが、その顔は赤くなっており、何かを恥じているようだった。それに気づいたM16が割り込んできてM4に囁く。

 

 

 

 

 

「もしかして……F45と熱いキスをしたのを思い出したのか?」

「ッ!!!???」

 

 

 

 

 

ボンッ!と擬音が聞こえてきそうなほどにM4は耳まで赤くさせて恥ずかし気に首を横に振っていた。事情を察したM16は悪戯に笑みを浮かべ、F45を連れてくる。当の本人は何が何だかよく分かっていない様子だった。

 

 

「ど、どうしたの?」

「悪いな。M4ってけっこうシャイなんだよ。何か会話すれば戻ってくるだろうからさ、頼んだ」

「は、はぁ……あの、M4?」

「……どう、した、の?」

 

 

M4は歯切れが悪く、顔を赤くしたままである。F45は心配そうにその顔を見つめていた。

 

 

「あんまり緊張しなくても大丈夫だから……それと、あの、チューしちゃった時は……その、ご、ごめん……」

「そ、そんなことないわよ!私だって、悪い感じはしなかったんだし……それなら、いくらでもしてもいいって言うか……したいって言うか……」

 

 

その言葉を聞いて、F45は顔を綻ばせて周囲を見た。そして、

 

 

「それじゃあさ、しても、いい……?」

「……うん。指揮官、ちょっと訓練場に行ってきてもいいですか?」

 

 

指揮官は許可を出すが、理由を聞いてきた。

 

 

「いいけど……どうして?」

「F45が見にいきたいって言うので……案内は私がしてきます」

「それならいいよ。行ってらっしゃ~い」

 

 

指揮官に見送られ、F45とM4は訓練場に向かった。本命は当然案内ではない。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

「ん……んむ……」

「んふ……んん……ぷはっ」

 

 

訓練場の壁際にて、二人は互いの唇を重ね合わせ舌を絡めさせていた。離れれば白い糸が引かれ、二人の顔は赤く染まっている。

 

 

「激しいよ……M4姉ちゃん……」

「ごめんなさい、我慢できなくて……」

 

 

F45は腰を抜かしたかのように壁を背に座り込み、M4はその両腕を掴んで息を荒くさせていた。そしてまた唇を重ね合わせる。

 

 

「んむっ……んちゅ……んん……」

 

 

M4は自身の唾液をF45に飲ませるように舌を入れ込んでいく。気づけばF45は喉を鳴らしてそれを飲んでいた。目尻には涙が浮かび、目は蕩けきっている。何度目か分からない口づけを離すと、F45は優しくM4に抱き着いた。

 

 

「そろそろ、行かなくちゃね……」

「貴女の味……美味しかったわ……」

「私も、M4姉ちゃんの味大好き……M4姉ちゃんすごく大好き」

 

 

 

 

 

二人は二、三度深呼吸をしてから司令室へと足を運んだ。



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ブリーフィング

16Lab研究所にて、ペルシカは二日間眠らずに奪取した鉄血のモジュールを解析し続けていた。元々不健康そうな顔色はさらに悪くなっており、机には飲みかけのコーヒーが入ったカップが資料の下敷きになっている。そしてとどめと言わんばかりに床にも大量の紙媒体の資料が散乱していた。

 

 

「失礼します……随分と汚れているようですが」

「んぁ……ああ、気にしないで……ちょっと無理しただけだから」

 

 

そう言ってペルシカは大きく伸びをした。軽い口調で無理をしたと言ってはいるが、傍から見れば今すぐ医療機関に運び込まれても文句は言えない様子である。これが普段からの平常運転だと本人から言われればそこまでなのだが。

 

 

代理人は些か心配そうにペルシカの肩をもむ。少し痛がっている様子から、相当こりが溜まっているようだった。

 

 

「あいたたた……」

「あ、すみません。もう少し力を抜きますね」

「悪いね……あぁ~そんな感じ。いいよ~いいよ~」

 

 

ペルシカは気持ちよさそうに脱力し、流れるように代理人に身を寄せていた。

 

 

「どうしたんですか?」

「……移動用のベッド持ってきて~」

「ハァ……分かりましたよ」

 

 

代理人は呆れた様に溜め息をつき、移動用の車輪がついたベッドを机の所まで持ってきた。そしてペルシカを抱きかかえてベッドの上に寝かせる。物流で販売している中では庶民的な毛布だが、当の本人はにへら笑いを浮かべながら毛布にくるまっていた。

 

 

「ひゃ~気持ちいい~」

「……そう長くないうちに、寝たきりになってしまいますよ?」

「その時は君達鉄血に世話してもらうことにするよ。そっちの方が楽だろうし」

「そうならないように健康管理は致しますわよ?」

「ひぇ」

 

 

代理人は笑みを浮かべてペルシカの額を軽く叩いた。一見不健康そうに見えても彼女はしぶとく生きることだろう。電脳のどこかでは密かにそう考えていた。そしてペルシカはタブレットを手に解析の作業を続けている。

 

 

「後はこの文字列を解読して……ちょちょいのちょいっと。よし、終わり!」

「終了したんですか?」

「ええ、モジュール内の情報は全て終わったよ。これを見て」

 

 

ペルシカはタブレットを代理人に手渡す。それを受け取って画面を見てみれば、ある要塞の解析画像が映されていた。時代としては中世、騎士がまだ存在したころに建てられたものだろうか。代理人はおおよその考えを纏めていた。

 

 

「これは……要塞、ですか」

「そう。208年前、つまり1854年に建てられた石造りの要塞だね。それこそ当時の要塞としては最先端を行くもので地下牢も備え付けられていたらしいよ。冬はまあ……お察しだけど」

 

 

そしてペルシカはコーヒーを一口飲んで続ける。

 

 

「次に利用されたのは巨大な宗教団体の総本山。でも大粛清からは誰も逃れられなかった……怖い話だよ」

「誰一人として、ですか?」

「そう、生存者はゼロ……少なくとも現存してる資料ではね。まあ、当事者なんて全員死んでしまっただろうし関係ないことだよ」

 

 

ペルシカがコーヒーを飲み干したところで、代理人は新しいカップに取り換えてジュースを入れておいた。

 

 

「……わぉ、美味しい。やっぱり炭酸飲料じゃなくてこっちの方が美味しいよ」

「貴女の炭酸嫌いはプロテクトに通じるものがありますからね。あちらは子供ですけど」

「いいも~ん。私も甘えん坊だから」

「私が母親に見えると?」

「君みたいな美人さんが親だったら羨ましいよ」

「貴女も十分綺麗だと思いますけどね」

 

 

実際ペルシカは美人の範囲には入ると、代理人は思っていた。生活能力はほぼ壊滅的だが一部の物好きな男なら結婚してくれるかもしれない。しかし考えてみればみるほどそのビジョンは全く想像できなかった。いきなり彼女が白衣からウェンディングドレスを着るなど冗談をいいところである。

 

 

「おっと話が脱線しちゃったね。まあ続きだけど……そこから蝶事件が起こる前までは非公式に戦争犯罪者、政治犯など邪魔だけど安易に処刑できない厄介者を収容するのに役立ってきた。そして蝶事件が起こった後の内外部の様子は一切分かっていないけど、多分鉄血が占拠してると思うね」

「新しい拠点でも構えているんでしょうか。だとすればハイエンドモデルの誰かがそこで指揮を執っていてもおかしくありませんわ」

「過激派の誰なのか、それにこの規模だと兵員の数も多いだろうし。それにいきなり此処を攻めることも不可能なんだ」

 

 

ペルシカはそう言ってタブレットのが念をスライドして切り替えた。映し出されたのは内陸部に位置する要塞から離れた洋上、そこに佇んでいる四基の石油プラットフォームである。

 

 

「プラットフォーム?」

「まさにこれが障壁になっているんだ。鉄血兵はこのプラットフォームの至る所に対空設備を設けて防衛拠点として利用している。職員に関しては生存への期待は無し、殺されてるだろうしね」

「まとめて沈めれば解決するのでは?」

「ところがどっこい。人類が石油から離れればその手段でいいんだろうけど……生憎全部沈めるわけにはいかない。再利用したいという政府の思惑もあるだろうから、内部の鉄血と対空設備だけを無力化するほかはないね」

 

 

プラットフォームを沈めてしまえば今後の石油採掘にも大きな影響が出てくる。それを避けるためにも沈める手段だけは絶対にやってはいけないことだった。代理人は納得した様子で一度だけ頷く。

 

 

「でも担当する一基は、F小隊だけでは無理かと……」

「そこは根回し済みさ。あの小隊がいるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかブリーフィングで会うとはね、F45」

「お姉ちゃん……!会いたかったよ!」

「あら、よしよし」

 

 

少女、プロテクトの基地のブリーフィングルームでは404-F小隊、AR小隊、そして404小隊のメンバーが勢ぞろいしていた。しかしF45と45は久しい再会を味わっていたものの、残りの三人同士は全く接点が無いため微妙な距離感を縮めることが出来ずにいる。

 

 

 

 

 

「すごく元気だねー!」

「私たち一緒だもん!ねー!」

 

 

 

 

 

否、F9と9はすぐに親密な関係になって笑い合っていた。その光景を横目に、F416は苦笑を浮かべる。

 

 

「Well、let's get along」

「……それもそうね。まあ、よろしく」

「眠い~……」

「後でラムレーズンアイス買ってあげるからね」

「えっほんと?やったぁ~」

 

 

残りの二人同士も握手を交わし、先程までの雰囲気は消え去っていた。そして雰囲気が良くなってきたところで指揮官が呼びかける。

 

 

「それじゃ~注目~!今回の任務は石油プラットフォームの完全制圧なのはみんな知っているね?それで一基目はAR小隊の担当、二基目に404小隊とF小隊が行くことになってるんだけど、質問は無い?」

「は~い」

「何かある、SOPちゃん?」

 

 

元気よく手を上げたのはSOP、そしてモニターを指差して言った。

 

 

「どうやって乗り込むの?ヘリとかは墜とされると思うし……」

「小型の隠密用ボートがあるからそれで進入するってへリアンさんが言ってたよ」

「うぅ、大丈夫かなぁ……」

 

 

SOPは自信なさげに俯く。真正面からドンパチするような戦い方は得意なのだが、隠密作戦などはあまり得意ではなかった。それに加え想像を絶するような拷問を受けたことも拍車をかけて鉄血兵に対してトラウマを抱いていた。

 

 

「大丈夫だSOP、私達がフォローしてやる」

「うん……」

 

 

M16が肩に手を置いて優しく言う。

 

 

「私からの命令は『全員生還』。任務も大事だけど生き延びることも優先してね。それじゃ~ブリーフィング終わり~」

 

 

 

 

 

エリート部隊総動員の作戦が始まろうとしていた。



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亡き安息日

日がまだ昇り切らない時間帯、第二石油プラットフォームから700m離れた海上で二隻の小型ボートがエンジンを切って佇んでいた。ボートの操縦者以外は伏せの姿勢を取っており、なるべく敵の視線に入らないようにじっと姿勢を保っている。しかし第三者から見れば光学迷彩のシステムが起動しているため、よほどの警戒をしない限り誰にも気づかれることはあり得なかった。

 

 

「こちらUMP45、アルファ地点に到着。待機状態にある」

《こちら司令部、了解。オゾン1とオゾン2はそちらのタイミングで潜入せよ。なお敵歩哨二名を確認している》

「了解。オゾン1、アウト」

 

 

UMP45は通信を一旦切り、ボートを進める。そして残り50m地点になったところで再びエンジンを切り、自身の武器であるSMGを構える。僅かに波で揺れる中、45は秒速、いや、それさえも越す速度で反動吸収、弾道予測、安定性などを割り出していった。

 

 

 

 

 

―――パシュン!

 

 

 

 

 

一発の弾が鉄血兵の頭を撃ちぬき、そのまま流れるように海に沈んでいった。それと同時に反対側にいた鉄血兵も頭部を撃たれ海に沈んだ。

 

 

45を先頭にして404小隊はプラットフォーム最下層の作業用スペースに上がり、各自で武器の点検を始める。少し遅れてF小隊も上がって残弾をチェックしていた。

 

 

「よし、全員ね……司令部。こちらオゾン1。たった今潜入したわ。これより状況を開始する」

《了解だオゾン1。出来る限り隠密に進んで敵を無力化せよ。フェーズ2への移行段階にヴァルチャーの支援を送る》

「了解、アウト」

 

 

すると45は皆の方に向き直り、任務内容の確認をした。

 

 

「ブリーフィングで言われた通り、全員で固まって行動するわよ。互いの距離間隔は2mから3m前後、G11とF11は指定されたポイントで狙撃の支援。残りは私を先頭に内部の制圧に向かうわよ」

「了解」

 

 

F45が返事をし、サプレッサー付きのSMGを強く握る。大規模な作戦はこれが初めてであり、決して気を抜けるものではない。やけに緊張してしまうのも仕方が無かった。それに気づいたのか、45はF45の頭に手を置いて軽く摩る。

 

 

「必ずフォローするから、大丈夫よ」

「……うん」

 

 

そして45は瞬きをしてから、ハンドサインで指示を出して進み始めた。カンカンカン、と金属製の階段を上がる足音が何度も響く。

 

 

階段を上り終えると採掘場らしき場所に辿り着き、中央には巨大な吹き抜けが海まで繋がっているのが見えた。発電機はまだ稼働しており、近くにいれば周囲の音も帰庫辛くなるほどに大きな騒音を放っていた。

 

 

「こちらUMP45。スナイパーチーム、配置には着いた?」

《こちらF11。既に到着済み、向かいの窓から監視しているわ》

「よくやったわ。私達の通り道に邪魔が入ってるの、排除して頂戴。銃声は発電機の音でかき消されるはずよ」

《了解》

 

 

そして3秒もしないうちに三点バーストの銃声が二回響き、中にいた鉄血兵二人を機能停止に追い込んだ。流石一週間立て続けに監視できると言ったところだろうか。その言葉に嘘偽りは存在していなかった。鉄血兵の排除を確認してから、再び部隊は移動を始め、横手にある扉の前に張り付く。

 

 

「F416、センサーグレネードを」

「Copy」

 

 

F416はポーチの中から細長い筒を取り出し安全ピンを外してから地面に置いた。すると超短パルスが360度に広がっていき、部屋の中の鉄血兵を壁越しに赤く映し出す。索敵用グレネードとして、404小隊が普段から持ち歩いている装備品類だった。

 

 

「鉄血兵は……七人。いけるわね、ブリーチングの用意をして」

「お姉ちゃん、はい爆薬」

「ありがと」

 

 

45は受け取った爆薬を扉にセットした。対してF45も扉にセットを完了させ、横に張り付いていた。そしてF45は腕時計で時間を確認し指を三本立てた。おそらくその合図で突入するのだろう。

 

 

―――3

 

 

―――2

 

 

―――1

 

 

 

 

 

「……ゴー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉が爆散し、部隊は部屋の中に突入していった。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

「……クリア!」

「鉄血兵を排除、次のフロアに進むわよ」

「了解」

 

 

鉄血兵を排除し終え、部隊は次のフロアへと足を進めていった。移動区画を通り抜け、外周の作業エリアに到着したところで45は通信を入れた。

 

 

「司令部、こちらオゾン1。ブラボー地点に到着したわ。オーバー」

《司令部からオゾン1。了解、付近で敵のドローン部隊を確認した。警戒せよ》

「オゾン1了解、アウト」

 

 

45が通信を切って外を見た瞬間、

 

 

 

 

 

「……全員伏せてッ!」

 

 

 

 

 

物陰に隠れて伏せた。それに続くように残りの五人も伏せの姿勢を取って物陰に隠れる。そして数秒後に聞こえてきたのはドローン特有の低音で響く駆動音だった。それが一定の間隔で複数回聞こえてきたことからドローンは複数巡回していることに違いは無い。45はドローンが過ぎ去ったことを確認するとハンドサインで移動を開始するように指示を出した。

 

 

「何だったのさあれ……」

「ドローン部隊ね、戦闘になったら飛び回られて厄介だわ。とりあえず次の部屋の制圧を始めるわよ。そこで対空設備のコンソールを見つけ出す」

 

 

45はそう言い切ってF45から次の爆薬を受け取った。この制圧を終えれば作戦はフェーズ2に移行できるため僅かなミスも許されない。

 

 

(お姉ちゃんなら、失敗はしないよね……)

 

 

F45が内心で安堵の息をついた瞬間だった。

 

 

《こちらM16!オゾン1、聞こえるか!?》

 

 

突然聞こえてくる怒鳴り声。45が応答するも、向こうからは銃撃音や叫び声が聞こえてきている。

 

 

「こちらオゾン1、一体どうしたの?」

《奴らそこら中に罠を仕掛けてやがった!突入部隊は全滅、フェーズ2への移行が不可能になった!》

「残存勢力は分かる?」

《SOPが脚を撃たれて動けないでいる!クソッ、フォローはするはずだったのに……!》

「こちらで救援要請を送るわ。私達はまだ担当プラットフォームの制圧を終えていない。それまで持ちこたえて」

《了解……!アウト!》

 

 

そして通信の周波数を変え、45は司令部に連絡した。

 

 

「こちらオゾン1。司令部、第一プラットフォームでAR小隊が足止めを食らってるわ。すぐに救助ヘリを向かわせて」

《司令部からオゾン1。了解、こちらでも状況は確認済みだ。ブラックホークを向かわせる。オゾン1は引き続き任務を続行せよ》

「了解、アウト」

 

 

45が通信を切ると、F45が駆け寄ってきて心配そうに訊ねた。

 

 

「ねえ、M4姉ちゃん達大丈夫かな……」

「ヘリを向かわせたから大丈夫よ。私達は私達の任務を達成させましょう」

「うん……分かった」

 

 

 

 

 

F45は若干不安そうにしながらも配置に着いた。



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亡き安息日#2

「M4!SOPをヘリに乗せろ!私達が援護する!」

「分かったわ!」

 

 

第一プラットフォームの第二フロア。そこでは多数の鉄血兵と比率少数のグリフィン部隊による熾烈な銃撃戦が繰り広げられていた。しかし徐々にではあるが物量の差が出てきており、遮蔽物から頭を出すことすら難しい状況だった。

 

 

「いだっ……!」

「SOP、意識をしっかり保って。もうすぐだから……」

「う、ん……」

 

 

弱々しく返事をしたものの、SOPの顔は青ざめており呼吸も不規則になりかけていた。M4はそんな状態のSOPを引きずって、何とかホバリングしていた救助ヘリに乗せる。そしてスライドドアが閉じられてヘリは戦闘区域から脱出した。

 

 

「M16姉さん、SOPを退避させたわ!」

「よぉしよくやった!AR15、サプレッサーを外せ。ここからはドンパチやるぞ!」

「言われなくてもッ!」

 

 

AR15はサプレッサーを外し、アンダーバレルにM203を取り付けた。そして40mm榴弾を込めて狙いを定める。

 

 

「消えなさい!」

 

 

引き金を引く。

 

 

 

 

 

―――ドゴォォォン!!

 

 

 

 

 

燃料系が近くにあったのか、着弾時の爆発に加えて複数回にわたって敵のいる位置で誘爆が引き起こされた。轟音が響き渡り、多数の鉄血兵が吹き飛ばされる。中には火だるまになって海に飛び込んでいく者も見えた。

 

 

「敵を複数排除!M16、フラッシュバンで牽制して!」

「了解、行くぞ!」

 

 

遮蔽物から手だけを出し、M16はフラッシュバンを一つ投げ入れた。銃声に紛れて爆発音が鳴り響き、その隙をついて全員が走り始めた。そして一気に敵との距離を詰め、M16は銃床で鉄血兵の一人を殴りつける。

 

 

「なるべく距離を詰めろ!」

 

 

どこからか怒号が飛び、制圧射撃をしながら区画を走り抜けていく。

 

 

「ゴーゴーゴー!!」

 

 

激戦は暫く止みそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブリーチングクリア、案外楽勝だったわね416」

「隊長であるあんたが気を抜いてどうするのよ……対空設備のコンソールを破壊できてないのに」

「それに関しては大丈夫よ。F11がやってくれてるもの」

 

 

45が笑みを浮かべて後ろを見れば、F11がコンソールを弄って対空設備のプログラムを現在進行形で破壊していた。ハッキングやデータ収集などと違って強力なウイルスをただばら撒けばいい作業なので、F11としても楽なこと極まりない。その証拠に彼女は余裕そうな笑みを浮かべてパイプ椅子に足を組んで座っていた。

 

 

「大丈夫?」

「大丈夫よ9……よし、後は待つだけ。時間経過で対空設備は無力化されるわ」

「すごい……さすが45姉に劣らない電子戦モデルって言うだけあるね!」

「これぐらいは余裕よ」

 

 

F11はコンソールを叩き割り、45にプラットフォームからの撤退を進言する。

 

 

「そろそろ撤退してもいい頃じゃない?後は後続の部隊が掃除をしてくれるわ」

「……それもそうね。それじゃあ今から司令部に通信を」

 

 

45が通信端末に手を掛けた瞬間、

 

 

 

 

 

爆発音が響いた。

 

 

 

 

 

「ッ!?何、この揺れ……!傾いて……!」

「全員すぐに脱出して!まずい、崩れ始めてるわ!」

 

 

45が発した言葉で、全員が海に飛び込める区画まで走った。しかしこの状況の中でも鉄血兵は変わらず部隊を殺さんと言わんばかりに銃を撃ってくる。

 

 

「Taking fire、taking fire!」」

「早く撃ちなさい!私と貴女で殿を務めるわよ!」

「Okay!」

 

 

416とF416は振り返って同時にグレネードランチャーを発射した。そして数発撃ったところで再び走り始める。F416は悪態をつきながら爆発で飛んでくる瓦礫を避けていた。

 

 

「Holy Shhhhhhhhit!!!」

「何で急に爆発なんてしてるのよ!」

「It's a trap!!」

 

 

怒号が飛び交うなか走っていくと、目的の場所でオスプレイがホバリングで待機していた。それを見つけたF45が仲間に向かって叫ぶ。

 

 

「皆!ヘリが見えたよ!走って!」

 

 

それを合図にF45が飛び乗り、次々に仲間が搭乗していく。そして9が乗ろうとした瞬間、足を滑らせてしまった。

 

 

「あっ……」

 

 

それに気づいた45が手を伸ばそうとするが、それよりも早く誰かの影が横を通り過ぎる。そして両腕を伸ばし、

 

 

 

 

 

「Hang on!」

 

 

 

 

 

F416が9を掴んで機内に引きずり込んだ。その直後にオスプレイの後部ハッチが閉まり、F45は腰を抜かす。それで緊張の糸が切れたのか、残りも疲れたように座り込んだ。特にG11は既に寝息を立てて416の方に身を寄せていた。

 

 

416は呆れたようにため息をつき、G11の頭に手を置いた。

 

 

「あんたねぇ……」

「まあまあ、皆助かったことだし」

「確かにそうだけど……45、これって成功扱いになるのかしら?」

「どうかしら。でも対空設備は破壊したから成功になってるわよきっと」

 

 

45はそう言ってG11と同じように寝息を立て始める。どうやら疲れているのは誰しも等しいらしく、一言二言さえ交わせる気力を持ち合わせていなかった。

 

 

「……次は、要塞ね」

 

 

416も瞼を閉じ、スリープモードに移行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで、収集は出来たのか?』

 

 

『ええ、ついでに後処理も。あの設備は邪魔だったから』

 

 

『そうかい……にしても意外だなぁ。私はてっきり操られて来るものだと思っていたけど』

 

 

『そこらのAIと一緒にしないで頂戴。私には私の目的があるのよ』

 

 

『へえ……まあいいさ。君は電子の海を自在に泳ぐことが出来るからね』

 

 

『……』



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過去の不落要塞

オスプレイ機内にて。404小隊とF小隊は45を中心に次の作戦へのブリーフィングを進めていた。長い睡眠をとりたかったところだが、今はそんな贅沢は言っていられない。45はホログラムで要塞周辺の立体地図を出し、説明した。

 

 

「次の作戦はこの要塞、敵勢力は全て無力化させるわよ。それと、この作戦はRASODFと合同で行われることになっているわ」

「RASODF?聞いたことないわね」

 

 

全員が首を傾げる。が、F45が思い出したかのように喋った。

 

 

「えっと……プロテクトが兵器使用の指揮権を握っている正規軍の一部隊のことだよ。普通の任務じゃなくて鉄血の掃討を専門にしてるらしいよ」

「そう。F45の言う通り、対鉄血専門部隊よ。既に戦闘機三機が先行して待機してる。航空兵器による攻撃後、地上に降りて突入。ハイエンドモデルは地下層にいる筈だから無力化して、その後に脱出よ。質問は?」

「ないわ。精々私の足を引っ張らなければいいけど」

「あら、軍を舐めてるといけないわよ?私達はあくまで傭兵部隊なんだから」

「……どうかしらね」

 

 

45の合図でブリーフィングを終え、各自装備の点検に入った。そんな中、45はF45を呼び止めこちら側に引き寄せる。

 

 

「わわっ、どうしたのお姉ちゃん?」

「……頭の片隅に留めるくらいでいいけど、言っておきたいことがあって」

「言っておきたいこと?」

 

 

45は耳打ちでその内容を喋った。するとF45の表情はみるみる変わり、まるで信じられないと言ったような目をしていた。しかし45はその目を見続けて言う。

 

 

「時が来てしまったら、決断するのは隊長である貴女……その時は自らの心だけに従って」

 

 

それだけを言い残して45は仲間の元に向かっていった。対するF45は自らの胸に手を当て、考えに耽る。

 

 

「私の、心……」

 

 

 

 

 

―――でも、信じたくない。

 

 

 

 

 

―――寝返る人が出るなんてことは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《こちらデネブ、ルビー2-1から3へ。三機のスーパーホーネットで飛行中。これより空対地ミサイルを二発発射する》

《アルタイルからデネブへ。了解した、やっちまえ》

《作戦段階アルファを開始、繰り返す、アルファを開始する》

 

 

まだ雪の溶けきらない地表が広がる中、三機のスーパーホーネットはそれぞれ二発ずつの空対地ミサイルを発射した。その後機体はアフターバーナーを焚いて左旋回し、ミサイルは目標であるレーダー施設、前哨基地もろとも破壊するように着弾、爆発した。

 

 

《こちらルビー2-1。命中、命中》

《デネブ了解。針路を確保した、幸運を》

《ルビー2-2了解》

《ルビー2-3了解した》

 

 

戦闘機が視界から消え、要塞に向かうのは一機のオスプレイと二機の武装したブラックホークだけになる。その内オスプレイの横扉からはF45がガトリングを展開して銃座代わりにしていた。義手の左側面からは弾薬ベルトが伸びており、F45は目標となる要塞に目を光らせている。残りは着陸に備えて完全武装状態で待機していた。

 

 

《2-2は攻撃状態に入る》

《了解》

 

 

一機のブラックホークが上昇を始め、近くにある管制塔に照準を合わせた。

 

 

《Guns、guns、guns》

 

 

 

 

 

―――ズガガガガガガガガガガ!!!

 

 

 

 

 

けたたましいミニガンの連射音が響き、秒もしないうちに管制塔で爆発が起こった。そして二機目のブラックホークも要塞の反対側に回り込み、ミニガンを掃射していく。

 

 

《2-2から1、3へ。目標への攻撃成功》

《2-3了解》

《2-1了解》

 

 

45はオスプレイのパイロットにホバリングするよう指示を出した。

 

 

「こちらオゾン1。2-1はその場でホバリングして。F45、旧監視塔にいる鉄血兵を排除してちょうだい」

「分かった」

《2-1、ホバリング状態に入る》

 

 

45の指示でオスプレイはプロペラを垂直方向に傾けホバリング状態に入った。そして機体が安定してきたところでF45は鉄血兵に向けてガトリングを掃射し始める。

 

 

「鉄血兵排除、倒したよ!お姉ちゃん」

「2-1、移動して」

《了解》

 

 

オスプレイが移動を始め、次のポイントに到着した。そして先程と同様にガトリングで掃討を始める。無数に吐き出される5.56mm弾は弾丸の雨となって鉄血兵の四肢を、身体を貫き刻んでいった。遠目からでは見えないが、旧監視塔に陣取っていた鉄血兵の中に身体を欠損しなかった者は存在していなかった。中には頭部が破裂して内部部品と人工血液をぶちまけている個体もいる。

 

 

《複数人キル。そのまま続けろ》

「了解……!」

 

 

続けざまに管制塔の鉄血兵も撃ち殺していき、やがてオスプレイは次のポイントへの移動を始めた。しかし対空砲火が激しく、移動中に機体に何発か被弾した。

 

 

「お、お姉ちゃん!撃たれてるよ!」

「大丈夫よ!落ち着いて敵を倒していけば対処できるから」

「う、うん!」

 

 

F45は左手で目を擦り、ガトリングを撃ち続けた。銃身は絶え間なく回転を続け、空薬莢が地上に落ちていく。そしてオスプレイのパイロットが次の目標を発見した。

 

 

《次の旧監視塔に敵を確認》

「了解……ん?」

 

 

45が了承したが、直後に違和感を感じたのか辺りを見回した。

 

 

その直後、

 

 

 

 

 

スーパーホーネットがオスプレイの頭上僅か上を飛んでいった。

 

 

 

 

 

ジェットエンジンによる轟音が響き渡り、機体が激しく揺れる。

 

 

《掴まれ!》

 

 

アラートが鳴り響く中、パイロットは何とか姿勢制御を調整して持ち直し安定させた。そして416が通信端末に向かって怒鳴りつける。通り過ぎていった戦闘機はプロテクトの指揮下にあるものではなく、正規軍特殊作戦コマンドのものだった。

 

 

「ちょっと!今すぐ攻撃を止めさせて頂戴!!今のは危なかったわ!」

《……どうもあいつらは要塞を破壊出来ればそれでいいと思っているらしい。少し話をつけてみる》

「ちょっと何なのさあれッ。使える奴だと思ってたのに」

「お喋りは終わりよ9、416。すぐに着陸するわ」

 

 

45の言った通り、オスプレイはヘリポートに着陸し、後部ハッチが開いた。

 

 

「ゴーゴーゴー!制圧しながら進むわよ!」

 

 

 

 

 

要塞陥落への道は、始まったばかりだった。



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過去の不落要塞#2

F45はガトリングを格納し、SMGを持って45についていった。ヘリポートから降りて僅か一分もしない内に敵と遭遇し、遮蔽物に隠れる。

 

 

「ルビー2-2!敵が防衛線を構築している、破壊してくれ!」

《了解。ミニガンによる掃射を行う》

 

 

ブラックホークが武器庫に潜んでいる鉄血兵に向けてミニガンを掃射していく。対空設備を破壊された要塞はもはや防衛能力の大部分を失い、防衛線を担当していたであろう鉄血兵も一部が中に逃げ込んでいく様子が見えた。

 

 

「すごい……」

 

 

これが正規軍と鉄血の差なのか、と僅かに感嘆の声を漏らした。F小隊がグリフィンにいた頃は『鉄血が人類最大の敵である』と飽きるほど聞かされたものだが、今となっては見る影もない。このまま過激派を倒してエリザを軍の保護下におく。

 

 

その目的は案外簡単に達成されそうだ。

 

 

「……フッ」

 

 

F45は笑みを浮かべて、制圧射撃をしながら仲間に追随していった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「416!グレネードランチャーは!?」

「プラットフォームで使いきったわよ!F416は!?」

「Wait……yes!I have last one!」

「でかしたわ!あそこの建物に撃ち込んで!」

「Okay!」

 

 

F416がM320グレネードランチャーを指示された方向の建物に向けて撃ち込むと、爆発を起こしながら壁の一部を崩落させた。今ので五人以上やったのだろうか、F416はガッツポーズをする。

 

 

「Yeah!Enemy down!」

「早く移動するわよ!45、中に入った後はどうするの?」

 

 

45は小型のUSBメモリを片手にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「中には保安室が目と鼻の先にある筈よ。私と9はそこに残ってゲートの操作をする。残りは独房エリアの敵を殲滅しながら進んで。外の敵はF11が受け持ってるから、後ろから撃たれるなんてことはない筈よ」

 

 

404小隊の中でも45と9は電子戦に強い。F11もいれば攻略の速度は大幅に早まるのだが、彼女はヘリに乗って狙撃による援護をしているため持ち場を離れることはできない。416はそんなifを一瞬悔やんだが、すぐに思考を切り替えた。無いものをねだっていても仕方がない。

 

 

「分かったわ。G11、睡眠はしばらくお預けよ!」

「うぇぇ!?聞いてないよ~……」

「ほら、さっさと走って撃つ!」

 

 

G11は416に叩き起こされ、渋々敵に向かって撃っていく。しかし睡眠を邪魔されたせいか、無意識に苛ついて舌打ちも増えていく。

 

 

「……うぁぁ!死ねよ鉄屑がァ!!」

 

 

苛立ちが爆発し、G11は背後から殴り付けようとしてきた鉄血兵の頭を掴み、首に噛みついた。背中や腹部を殴られるが、G11は構わず力任せに喉元を噛みちぎってゼロ距離でライフルを撃った。

 

 

その光景は走ってきたF9も見ていて、彼女は苦笑いを浮かべている。

 

 

「アハハ……すごい倒し方だね」

「早く寝たいのにさぁ……鉄血なんてクソだよクソ」

「アハハ……」

 

 

口元に人工血液が付着している姿に、F9は空笑いをするしかなかった。当然内心ではちょっとした恐怖が芽生えているのは言わずもがなである。

 

 

先行していく45は素早い狙いでヘッドショットを決めていき、確実に撃ち殺していった。そして新たに鉄血兵が出てきたところを狙って9が閃光手榴弾のピンを抜く。

 

 

「45姉、行くよ!立ったまま死ね!」

 

 

笑みを浮かべてそれを投げると、一際大きな閃光と爆発音が響き、鉄血兵の視覚と聴覚センサーに異常を生じさせた。その隙に45と416が道を切り開き、F45も伏せ撃ちで進んでいく。

 

 

「9ったら、それ私のセリフなのに……」

「一回でいいから言ってみたかったんだ~」

「私もお姉ちゃんのセリフ言ってみたい!」

「三人とも姉妹バカはそこまでにしといて。保安室は確保済みよ」

 

 

416が三人の雑談を止めさせると、45は保安室のコンソールにUSBメモリを差し込んで操作を始めた。そして残りの制圧組は416を先頭に独房が立ち並ぶエリアへと足を踏み込んでいった。

 

 

「敵を確認!真正面!」

 

 

その声を皮切りに銃撃戦が始まった。パノプティコン状に構成された独房のエリアには遮蔽物が少なく、独房の部屋の中に隠れるしかやり過ごす方法がなかった。盾代わりとなった鉄の扉に何発もの銃弾が当たり、F45は思わず悲鳴を上げてしまう。

 

 

「きゃあ!」

「F45、落ち着いて敵を倒して!」

「で、でも……ひっ!」

 

 

再び銃声が響き、F45は頭を抱えて体を震え上がらせた。その様子を見かねた416は撃ちながら言う。

 

 

 

 

 

「安心して!私達が必ず守るから!」

 

 

 

 

 

「まも、る……?」

 

 

F45は言葉を反復させる。

 

 

―――そうだ。

 

 

―――自由を掴むのに、怖がってなんかいられない。

 

 

心の中でF45は自らを奮い立たせ、鉄血兵の一体を照準に捉える。そして間髪入れずに45口径弾をフルオートで浴びせていった。腕が千切れ、下顎から上が無くなった鉄血兵はなす術もなく機能が停止する。

 

 

416は前に進んでいくF45を見て笑みをこぼした。

 

 

「本当、成長したわね……」

 

 

数秒だけ感傷に浸り、416は45に指示を仰いだ。

 

 

「45、この先のゲートが閉じられてるわ!早く開けて!」

《分かってるわよ。でも旧式の機械だから回路が……》

《45姉、これじゃない?》

《どれかしら……あ、あった!多分これね!》

 

 

45と9が何かを見つけたのも束の間、ゲートのランプが緑に光り、開けられた。

 

 

 

 

 

一つ先のゲートが。

 

 

 

 

 

「45何やってんのよ!?違うゲートが開いたわよ!」

《嘘でしょ!?ちょっと待って!》

「お姉ちゃん達大変そう……」

「何で肝心なときにドジを踏むのよあいつは……」

 

 

416は身を隠しながら頭を抱え、F45は心配そうに保安室の方を見つめていた。



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過去の不落要塞#3

《これじゃなくて……えっと……あったこれね!クソッタレが!》

 

 

45が悪態をついて回路を弄り直していると、ランプが緑に光り手前の扉が開いた。

 

 

《やったわ!》

「いい感じね、行くわよ!」

 

 

416がハンドサインを出して部隊が進んでいく。途中で敵の銃撃もあったが、一人ずつ倒していき次の閉じられている扉の前まで来た。同じように遮蔽物に身を隠しながら45のハッキングが完了するのを待っていた。

 

 

「9、ハイエンドモデルの位置は特定できた?」

《見つけたよ!ハイエンドモデルは地下の最深層に移動してる、416達の近くに武器庫があるからそこを通過して!近道になってるから》

「了解。45、武器庫への扉を開けて頂戴!」

《了解……開いたわ!》

「F45は援護をお願い。残りは後方180度を警戒しつつ敵を牽制してきて!」

「Copy that!」

 

 

416とF45が先行して武器庫の中に入り、残りが後方や側面の敵を警戒しながら入ってきた。中には様々な銃器が武骨なショーケースに収められており、弾薬も充実している。416はショットガンを手に取り、ライフルを背中の方に背負った。F45もガトリングの給弾口から5.56mmを補充し、展開した。

 

 

「416、敵が来てるよ!」

「こっちでも見えてるわ。45、早く扉を開けて!」

《今やってるわよ……!ああもう!ロックされたわ!》

「何ですって!?」

 

 

416が悲痛に叫ぶが、無情にも鉄血兵は武器庫に向かい始めて集中砲火を浴びせ始める。暴徒鎮圧用のライオットシールドが立て掛けてあったのが不幸中の幸いだろう。しかし多方向からのライフル弾による衝撃を吸収しきれるほど戦術人形は都合のよいものではなかった。

 

 

「一名ダウン!一人やられた!」

 

 

ましてや今回の任務には人間の特殊部隊も混ざっている。刻一刻と敵に押されていく状況に、416は真侑をしかめた。

 

 

「クソッ……!防ぎきれない……」

 

 

シールドで敵の攻撃を防ぎつつも牽制射撃をしていると、ようやく45から通信が入った。

 

 

 

 

 

《繋がった……!開いた、ゲートが開いたわ!》

 

 

 

 

 

その声を合図にするかの如くゲートが完全に開かれ、F45は携行型の劣化ウラン装甲シールドを左腕に装着し、ガトリングを展開して前進していった。三砲身の銃口が勢いよく回転して銃弾を吐き出し、鉄血兵の肢体が引きちぎられていく。

 

 

「皆、私に続いて!このまま行けば道を拓けるから!」

 

 

F45の指示でシールドを持った人形を前に、特殊部隊のライフルマンを後方に陣形を組んで敵の猛攻を退けていった。ライフルマンはシールドの間から銃口だけを出し、的確に鉄血兵の頭部を狙っていく。人間と同じで頭部を破壊すればコアの有無に関わらず人形の全動作が即時に停止する。それはこちら側も同じことだが、前面を完全に防御している布陣が破られる可能性は殆どない。

 

 

「敵を排除、最後の敵を排除した!」

 

 

ライフルマンの一人が叫び、F45が周囲を見るとその場の鉄血兵は全て撃ち殺され物言わぬ死体となっていた。そんな中、F416が死体の一つを蹴り飛ばして悪態をつく。

 

 

「Shit.Fucking enemy is fuck」

「悪態をつかないの。目的のハイエンドモデルまでもう少しだからさ」

「Uh……I pray that no enemies will come」

 

 

F416としては、これ以上の鉄血兵が出てくることが望ましい状況とはお世辞にも言えなかった。弾薬は補充したものの、どれぐらいの兵量が待ち受けているかも分からない。しかし45は通信で近道をするよう全員に指示を出した。

 

 

《416、その地点から降下すれば地下の連絡用通路に入るための入り口があるわ。そこを通ってシャワー室を経由すれば最短で地下層に行ける筈よ》

「確定じゃないの?」

《何せ五年も前の情報だからね……でもシャワー室はその頃から整備されていない。文字通りの近道がある筈よ》

「了解。全員、ラベリングの準備をして」

「俺達はフロア付近にいる敵を掃討してくる。幸運を」

「分かったわ」

 

 

特殊部隊は陣形を組んだまま奥の方へと進んでいった。それとは別に、人形の部隊はラベリングで降下をして一気に地上最下層まで辿り着いた。

 

 

 

・・・

 

 

 

「暗いわね……」

《その一帯は電源が死んでるのよ。元の回路が使い物にならないからどうしようもないわ。警戒して進んで》

「了解。ハンドガン、視覚センサーを最大限にして先行して」

「分かりました」

 

 

ウェルロッドが内蔵されているナイトビジョンを起動して部隊の先頭についた。今は彼女の視覚が全員に共有されているため道が見えているが、何の対策もなしに進めば現在地さえ分からない場所であることに変わりはない。全員が周囲を警戒しながら歩いていった。

 

 

「敵がいない……」

「独房に潜んでるかもしれないわ」

「何か気味悪いや……」

「Where……where is enemy、women?」

 

 

左右には独房が立ち並んでいるが、敵が出てくる気配は微塵も感じられなかった。天井から水が滴っているのか所々で水溜まりが出来上がっており、ゆっくりと踏みしめていく足音に呼応するかのように水の音が響いた。

 

 

F45は不規則になりつつある呼吸を何とか抑えながら左側の独房を一つ一つクリアリングしていく。しかし銃を構える手の震えは完全には収まらず、カタカタと僅かに震えていた。

 

 

(落ち着いて……落ち着いて……)

 

 

恐怖をこらえて前方を見れば、少しだけ光っている箇所を確認できた。つまり、この通路の終わりを一足先に見つけることができたのだ。

 

 

(出口……もう少し、だから……大丈夫、大丈夫……)

 

 

少しだけ希望が芽生え、クリアリングを再開する。その間、ウェルロッドは一足先にクリアリングをして落ち着きのある歩調で歩いていた。

 

 

(全然いませんね……まあ、シャワー室とやらに籠っているのでしょう)

 

 

左右を見終え、正面を向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左から散弾を受け、ウェルロッドはバランスを崩した。



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過去の不落要塞#4

「ウェルロッド!!」

 

 

誰かの叫びが聞こえる。F45が前方を向くと、そこには人工血液を噴き出しながら右に倒れ掛かるウェルロッドの姿が見えた。

 

 

「えっ……」

「敵……!?」

 

 

ウェルロッドは無事な方の右手で銃を構える。その先にはショットガンを持った鉄血兵の姿が眼前にあった。照準を頭部に合わせ、引き金を引く指に力を掛ける。

 

 

「これ、でッ……!」

 

 

あと一発。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後からライフル弾で撃ち抜かれ、両膝をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ……!?」

 

 

既に致命傷となっていた身体に鞭打つだけの力は存在せず、ウェルロッドは機能が停止する中で倒れ伏した。やけにスローに感じられたそれは、苦痛を味わう時間としては十分すぎた。

 

 

「し、んじゃ、う……」

 

 

銃撃戦が始まる中、それが最期の言葉になった。

 

 

「敵兵排除!」

「416、ウェルロッドが……!」

 

 

F45は即座にウェルロッドに駆け寄った。左半身は多数の銃創で傷ついており、右肘から先は千切れて配線のみで繋がっている。その手には彼女の半身であろう愛銃が握られていたままだった。

 

 

「……ごめん、なさい」

 

 

悔しさを噛み締めながら、F45はウェルロッドの瞼を手で優しく閉じてドッグタグを取った。軍隊では戦友が死ぬと、仲間がドッグタグを持ち帰るとされているが、F45はそれに倣ってそのドッグタグを残っているグリフィンの味方に渡した。

 

 

「あの、ドッグタグです……」

「……分かりました」

 

 

人形は引っ手繰るようにドッグタグを取り、内ポケットに仕舞った。そしてすれ違いざまに、F45にだけ聞こえるように呟いた。

 

 

 

 

 

「……あなた達さえいなければこんなことには」

「……」

 

 

 

 

 

F45は何も言えず、暫し立ち尽くす。しかしF9の言葉が耳元で聞こえ、ハッと我に返った。

 

 

「45姉?どうしたの?」

「えっ?いや、特に、何でもないよ!」

「急に立ち止まっちゃって」

「大丈夫だよ、行こう」

「うん」

 

 

F45は笑みを浮かべて先を行く416達についていった。しかし言われた言葉が電脳の片隅に染み付いて離れないでいた。

 

 

(今は任務、任務の方が大事だから……)

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

連絡通路はパイプが入り組んでいて簡単に歩いて通れるような場所ではなかった。道も狭く、人一人分しか通れるスペースが無い。416が部隊の先頭に立ち、照準器を覗きながら移動していく。

 

 

「45、現在連絡通路を移動中。シャワー室にいる敵を調べて頂戴」

《……》

「……45?」

 

 

通信端末で応答を呼び掛けたが、返ってきたのはノイズだけだった。416は再度45のことを呼びかけるも、やはりノイズしか返ってこない。そんな様子を見てF9が訊ねた。

 

 

「どうしたの?」

「45との通信が繋がらないわ。電源が故障したのかしら……」

「そういえば古い機器だって愚痴ってたね」

「繋がらないなら仕方ないわ。私の判断でシャワー室に向かうわよ」

「了解」

 

 

曲がり角を右に曲がると鉄血兵が二人話しているのが聞こえてくる。416はハンドサインを出して部隊を立ち止まらせ、その様子を盗み見た。

 

 

「なあ、あの拷問ってやってもいいものなのか?」

「どういうことだ?」

「ほら、ハイエンドモデルの……ハンター?だっけ。ドリーマーは裏切り者だって言ってたけど、実際やっていいのかっていう……」

「別に大丈夫だろ。今の鉄血のリーダーがドリーマーに置き換わった以上、命令に間違いなんてないさ。でも代理人が裏切るとはな~、あれは予想外だったわ」

「確かに。グリフィンなんかよりうちらの方が戦力も強固だし、それに侵入されたって話だけど、敵なんて一人も見てないぞ」

「どうせどっかで死んでるんだろ」

「ハハハ、違いない」

 

 

「射撃開始」

 

 

416の短い指示により、G11とF416はそれぞれの鉄血兵の頭部を正確に撃ち抜いた。戦術人形の、それもスナイパーとライフルマンによる射撃だから当然ともいえるが。そして再び416を先頭に部隊は通路を通っていった。

 

 

「45、連絡通路のB地点を通過したわ。応答を」

《……4……6……ばく……き……きん……気を……》

「45、聞こえないわ。45?45!」

《……》

 

 

ノイズに混じって45が何かの言葉を発していたものの、すぐに聞き取れなくなって通信が途絶した。やはり要塞の通信システムが45の手にも負えない程古すぎるのだと頭を抱える。しかし現時点での異常はそれだけではなかった。

 

 

「ねえ、416」

「ん、どうしたの?」

「スコープの調子がおかしいんだけど……レティクルが映らないよ」

「レティクルが?ちょっと貸して」

 

 

416はF45からSMGを受け取りスコープを覗いてみると、確かに彼女の言う通り普段は映っているはずの赤いレティクルが一切表示されていなかった。その現象はF45だけに留まらず、F小隊やグリフィン部隊、416とG11のスコープにも異常が出ていた。

 

 

「うぅ、何で壊れるのさ……バックアップのサイト立てなきゃ……」

「F9……これ、電源の故障じゃないわよね?」

「多分。ジャミングされてるとか……」

「Why is it such a thing……?」

 

 

F416がそう言った直後、突然大きな揺れが襲ってきた。

 

 

「うわぁ!」

「今度は何!?」

 

 

立っていられない程の揺れで、全員が柵やパイプの方によろめいた。そして立て続けに通信が入ってくる。416は現状を報告した。

 

 

「ちょっと、何で爆撃されてるのよ!まだ味方がいるのよ!?」

《……あぁ、やっと繋がったわ!正規軍のドローンが爆撃したのよ!私もやめろと言ったのに……!》

 

 

通信に応答したF11は苛立ちを隠すことなく言った。おそらくプロテクトの部隊以外の軍のドローンが爆撃を行ったのだろう。フレンドリーファイアの可能性を鑑みない攻撃は、F45に不安を抱かせた。

 

 

「ドローンだなんて……軍は私達を「416、貸して!」F45!?」

 

 

F45は416の手から通信端末を引っ手繰り、抗議するかのように伝えた。

 

 

「F11!すぐに軍に攻撃を中止するように言って!」

《……分かったわ。今伝えてみる》

 

 

数秒間待機した後、再びF11から連絡が入った。

 

 

《攻撃を中止するように要請はしたわ。でも急いだほうが良いわよ、第二波のドローン攻撃は既に発射準備状態にあるから》

「それって、中断は出来ないの?」

《……無理ね。軍部の方も止めようとしてるけど、座標設定の時点でマルウェイが仕込まれていて中断が出来ないみたい。電子戦機じゃなきゃ不可能な芸当よ》

「分かった。なるべく早く終わらせるよ」

 

 

通信が切られ、F45は端末を返すとともに416に言った。

 

 

「416、すぐに行かなきゃ」

「ええ、ちょっとマズイことになってるみたいね。味方に殺されるのはごめんよ」

 

 

部隊は連絡通路の先に目を光らせて歩みを進めていった。



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過去の不落要塞#5

連絡通路を進んだ先は行き止まりになっていた。どこにも扉やゲートらしきものも見えず、F416は嘆くように壁を思い切り殴りつけた。

 

 

「Fuck!!」

「落ち着きなさいF416。まだ通路はあるわ」

「What?」

「……とっておきの近道がね」

 

 

416はそう言って左側の壁を軽く叩いた。ヒビがある中でも特に老朽化が酷い箇所らしく、少し叩いただけで粉がパラパラと落ちてきた。まさかと思い、F9が聞く。

 

 

「もしかしてブリーチングするの?」

「ええ、何処に繋がっているかは分からないけど。でもやる価値はあるわ」

「そうだよ9、時間も限られてるし」

「う~ん、45姉がそう言うなら……」

 

 

意見が決まり、416が小型の爆薬を四隅に設置して範囲の横に張り付いた。F9も閃光手榴弾を手に反対側に張り付く。416は着けている腕時計を確認して伝えた。

 

 

「後5秒」

 

 

 

 

 

―――此処が、

 

 

 

 

 

壁が砕け、粉塵が舞う。

 

 

 

 

 

―――正念場だ!!

 

 

 

 

 

「ゴーゴー!足を止めないで!!」

 

 

 

 

 

辿り着いた先は、大当たりのシャワー室だった。今いる場所も含めて三つの区画が存在している。シャワーの設備は共通して六つあったが、同時に遮蔽物も少ない。さらに上にも通路があり、セントリーガンが複数設置されていた。当然センサーがそれを見逃す筈もなく、銃口が部隊に向けられ弾が吐き出されていった。

 

 

「二階にターレット多数!誰か援護を!」

「忙しい時に……!スモーク行くよ!」

 

 

F9がスモークを二階に投げてセントリーのセンサーを遮る。目標を視認できなくなったセントリーガンは射撃を中止し、明後日の方向を向いていた。その隙に部隊は遮蔽物から出て走り、次の区画へと滑り込んだ。

 

 

「スモークもう一丁!」

 

 

先程と同じようにF9がスモークを投げてセンサーを騙している間に、残りは前方から迫ってくる鉄血兵を倒していく。単純な命令受信用のAIしか持ち合わせていない量産兵は、部隊にとって敵にすらならない。しかも銃撃戦の舞台が広くないこともあって兵の数も多くはないため行く手を阻むものはいない状態だった。

 

 

しかしF45が突然走るのをやめ、素早く遮蔽物に身を隠した。後から隠れてきた416がマガジンを交換しながら訊ねる。

 

 

「ちょっとどうしたのよ。時間が無いわよ」

「ガードが来てる。あのまま突っ込んでたら死んでたよ」

「ガード……ああ、けっこういるわね」

 

 

416が顔だけを出して前方の第三区画を見ると、横二列に連なった鉄血兵『ガード』の姿が見えた。持っている銃こそ銃剣が付いたハンドガンだけだが、接近戦に持ち込まれればたちまち形勢は逆転する。F小隊はその脅威を身をもって実感していたため、閃光手榴弾などで対策していた。

 

 

「416、手榴弾投げて」

「分かったわ」

 

 

416は手榴弾を一つガードのいる場所に投げた。そして爆発を引き起こし、怯んだのか列が崩れる。そしてF45が大胆にも遮蔽物から飛び出てガトリングを掃射した。

 

 

「これで終わりだッ!!」

 

 

高い連射速度で吐き出された弾丸はガードはおろか、他の鉄血兵すらも巻き込んで一網打尽にしていった。時間にして僅か3秒、気づけば第三区画は血が飛び散り、鉄血兵の無残な死体が多数転がっていた。

 

 

「皆早く!この穴から行けるよ!」

 

 

F45は一足先に穴の下へと飛び降り、他の仲間も次々と飛び降りていった。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

「ここ、下水道かしら」

「臭わないってのも珍しいけどね~」

 

 

降りた先は巨大な下水道だったが、特に異臭を感じることは無い。水もやけに透き通っているので下水道と呼ぶには少しばかり綺麗過ぎた。

 

 

「この坂を下りて右の端っこが目的地。ハイエンドモデルもいるよ」

「何か反応があるの?」

「ううん、直感」

「ああ……まあ、大事だけども」

 

 

特に迷うことなく直感で目的地を決めたと言うF45に対し、416は内心で溜め息をついていた。確かに戦場での直感は何にも変えることが出来ない、いわば『第六感』であるのだが、それはあくまで最終手段の一つに過ぎない。普通はデータや映像、センサーの反応などを吟味してようやく一つに絞ることが出来るのだ。しかし直感を真っ先に信じて行動するF45の姿は異端そのものだった。

 

 

(鉄血が仲間になったから分かるのかしら……今は信じるしかないけど)

 

 

416はそんな考えを振り払い、F45についていく。坂になっている場所を滑り降り、T字になっている部分を右に曲がって進んでいった。中はそれほど暗くなく、敵がいる気配もない。しかしウェルロッドの身に起きた不意打ちのこともあるため、全員の警戒色はより一層強まっていた。

 

 

「止まって」

 

 

300mほど進んだところで行き止まりが見えてきた。そして数歩進んだところでF45は指示を出して部隊を止まらせ、F9を手招きして呼んだ。

 

 

「9、反応はある?」

「うんと、ちょっと待ってね……いるね。反応二つ、どちらかがハイエンドモデルだよ」

「分かった。今から突入するよ。416、爆薬をセットして」

 

 

416は言われた通りに爆薬を壁にセットして待機状態に入る。そして、

 

 

 

 

 

―――ドゴォォォン!!

 

 

 

 

 

壁はいとも容易く壊され、F45が先行して突入する。

 

 

「いた……!」

 

 

銃を構える。が、それよりも早く相手は鉄血兵の首をへし折って走って向かってきた。

 

 

「え……ッ!?」

 

 

頬に伝わる痛み。それは確かに殴られたことによるもので、紛れもなく目の前のハイエンドモデルが放ったパンチだった。されるがままにF45は仰向けに倒れ、馬乗りに銃口を額に押し付けられた。

 

 

「うぁ……」

 

 

相手の息が荒い。

 

 

誰だっけ……あの顔……

 

 

何かぼやけて……

 

 

「動かないで!」

 

 

あれ、9……?

 

 

「……F9?」

「何で、ハンター……?」

 

 

F45は二人が驚いているのを視界に入れると、状況を察した。そして呼びかけるようにハンターの腹部を軽く叩く。

 

 

「ん?F45……何でここに来たんだ……?」

「私もびっくりしたよ……まさかここに居るなんて」

「捕まって尋問されただけさ。さて、此処を出」

 

 

ハンターがそう言いかけた直後、再び大きな揺れが襲ってきた。416は舌打ちをする。

 

 

「第二波……!全員逃げるわよ!私についてきて!」

 

 

416が叫び、部隊は走って回収地点へと向かった。

 

 

「爆撃が激しい!45姉大丈夫!?」

「大丈夫だよ!それよりも回収地点って何処にあるのさ!」

「I don't know!45、run!」

 

 

先程よりも激しい爆撃が要塞を襲う。天井に空いた穴からは、複数の白いドローンが次々と通過していくのが見えた。F45はそれを見て苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

 

(グリフィンだけじゃなくて軍も信用できないの……!?何でFFなんてされなくちゃいけないのさ!)

 

 

一度のみならず二度も味方に殺されることは絶対に避けたかった。これ以上自らが受け持つ部隊を、仲間を殺されることは阻止されなければならない。段々と怒りが湧き上がってきて、半ば自棄に持っていたシールドを捨て去った。苛立ちが止まらぬまま、回収地点が見えてくる。

 

 

「見えた!」

 

 

416がスライディングでヘリの元に滑り込み、F9とF416も後に続いて滑り込んだ。

 

 

「ハンター!私達も早く!」

「ッ!?危ない!!」

 

 

F45も滑り込もうとしたが、ハンターに首根っこを掴まれて引き戻された。その直後に天井が崩落し、道が塞がれてしまった。ハンターはすぐにF45の手を引き別の道を走っていく。

 

 

「何でッ!?出口は何処にあるのさ!」

「クソッ……!」

 

 

走って辿り着いた先は、

 

 

 

 

 

道のない空中だった。

 

 

 

 

 

「ひっ……!?」

「掴まれ!!」

 

 

F45はハンターにしがみ付き、目を瞑った。

 

 

「ああクソッ……よし!掴んだぞ!高度を上げろ!!」

《ゴルフ1-1、上昇する!》

 

 

F45が目を開けると、既に機内に寝かされていた。向かいの席ではハンターがぐったりした様子で座っている。

 

 

「ハンター……!」

「ああ、大丈夫だ。ちょっと体が鈍ってただけだからな……それよりも、お前は寝てろ。長旅で疲れただろ」

 

 

起き上がろうとするF45に対し、ハンターはそう言って諭そうとした。しかしF45はそのまま起き上がってハンターの元に駆け寄ると、ホルスターから一丁の拳銃を取り出した。

 

 

「ハンター、これ……」

「……私の拳銃じゃないか」

「だから、返すよ」

 

 

F45は笑みを浮かべてハンターの手にその拳銃を握らせた。

 

 

「……ありがとな」

 

 

ハンターもまた笑みを浮かべ、それをホルスターに仕舞う。するとF45の端末から通信が入った。

 

 

「どうしたの?」

《45姉、これからの行動なんだけどさ……二手に別れよう》

「どうして?」

《F11からの提案だよ。効率よくハイエンドモデルを捜し出すのにもちょうどいいって言ってたから》

「……分かった。そっちも気を付けてね」

《うん、そっちもね》

 

 

 

 

 

通信が切られる。そしてF45は再び横になって深い眠りについた。



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I love……

「なあF11、本当に良かったのか?」

「何が?」

「二手に分かれたことについてだよ」

 

 

基地に帰投するや否や、ハンターは開口一番F11にそう言った。部隊長であるF45は医務室で眠っていて他の者も別の任務や本部への出向等で出払っている。宿舎にいるのはF11とハンターの二人だけだった。

 

 

疑問を呈されたF11は考える仕草をすることもなく、淡々と結論を言った。

 

 

「私なりに効率を求めた結果よ。このまま部隊仲良く一固まりで行っても時間がかかるし、何より次の行動を察知されやすい。そんなリスクを冒すくらいなら二手に分かれてハイエンドモデルを殺すかつ、デストロイヤーの素体を探した方が楽になるわ」

「……確かに」

 

 

部隊の中でも一際落ち着きを見せていて冷静な性格をしているF11だからこそ即座にF45に判断を仰いだのだろう。しかしそれを込みにしても、ハンターは違和感を口に出さずにはいられなかった。

 

 

「何て言うか……お前、変わったよな」

「……どういうこと」

 

 

F11はハンターの目を見ることなくタブレットを注視している。その目は敵を殺す際の冷酷な目だった。ハンターが知っているF11は、そこまで冷酷な人物ではない。

 

 

「お前だったら、なんだかんだ言って仲間全員で行くと思っていたんだがな」

「人形も人間と同じ、状況が変わると考えも変わってくるのよ。今は合理的な手段を取っただけのことよ」

「そうか……いや、すまない。聞いただけだ」

 

 

そう言ってハンターは宿舎を後にした。一人残されたF11はタブレットにプログラムを打ち込み、匿名で送信させていく。

 

 

 

 

 

「……私にも私なりの自由があるのよ」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンターは宿舎を出た後、医務室に入ってF45の様子を座って見ていた。安らかに眠る姿は先程まで戦っていたとは思えず、思わず髪を撫でてしまう。だが起きる気配は無く、気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 

 

「……」

 

 

雪のように白い肌、大きいとは言えない体躯、そして見る者を癒すであろう顔。

 

 

守りたい。そんな感情に駆られ、ハンターは顔を綻ばせた。

 

 

(何でこいつを戦わせなくちゃいけないんだ……)

 

 

F45は戦術人形であり、そこに疑念の余地は無い。しかし感情の起伏や性格、生まれ持った優しさは戦術人形、いや、人形と呼ぶにはあまりにも輝きすぎていた。まるで人間の一少女のような彼女が何故世界に振り回されなければならないのか。ハンターは鉄血に所属していた頃の自分を殴りたかった。

 

 

(くそ……)

 

 

拳を握りしめる。その時、F45の目がゆっくりと開けられ視線をハンターの方に向けていることに気づいた。

 

 

「ん……ハンター……?」

「あ、起きたか?おはよう」

「おはよう……うんしょっと」

 

 

F45は上体を起こし、大きな欠伸をした。そして出てきた涙を手で拭い、ハンターの方に身を寄せた。

 

 

「F45?」

「ハンターの匂い……落ち着く……」

「寂しかったのか?」

「うん……」

 

 

ハンターはそれを聞き、F45の頭を優しく撫でた。

 

 

「えへへ……」

「妹みたいな立場は変わらないんだな」

「私からしたら皆お姉ちゃんだよ……」

 

 

それから暫しの時間、ハンターはF45の隣に座っていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ時間だな」

「もう行っちゃうの?」

「404の任務の方に編成されてるからな。なに、すぐ終わるさ」

「そっか……うん、死なないでね」

「死ぬものか」

 

 

二人は互いに手を握り合い、その後にハンターは医務室を出ていった。そして一人残されたF45は再び横になって毛布を被り寝ようとしたが、勢いよく扉が開けられ思わず身体を震わせた。

 

 

「ッ!?だ、だれ……?」

 

 

その方向を見ると、息を切らしたM4が立っていた。用事が済んだのだろうか、F45を見るなり笑みを浮かべる。しかしその様子は妙におかしかった。

 

 

「M4姉ちゃん……?」

「……」

 

 

M4の顔はほんのり赤くなっており、手で胸を押さえ付けていた。

 

 

「具合でも悪い……ッ!?」

 

 

 

 

 

突然M4は靴を脱ぎ捨て、F45に跨るようにしてベッドの上に上がった。毛布は地面に滑り落ち、M4の吐息が直に感じられる。

 

 

 

 

 

「M4、姉ちゃん……?」

「……ごめんなさい。我慢、できなくて」

「我慢……んむぅ!?」

 

 

一体何のことかと訊ねる前に、F45はその唇をM4に塞がれた。舌が入り込み、口の中をかき回されていく。そして数秒後に離すと、M4はその小さな体躯を抱きしめた。

 

 

「本部に行ってる時も貴女の事しか考えられなくて……ずっと貴女としたいって、思っちゃって、それで……」

 

 

そう途切れ途切れに呟くM4の内股は、僅かに濡れていた。

 

 

「M4姉ちゃん……」

「私、貴女が大好きだから……!たくさん繋がりたい……!」

 

 

無論、

 

 

「私も、M4姉ちゃんのこと大好きだよ」

 

 

抱きしめ返し、今度はこちらからM4にキスをした。

 

 

「んん……ん……」

「んむ……んん……」

 

 

 

・・・

 

 

 

依然M4の顔は赤く、覚束ない手つきでF45のシャツのボタンを全て外し、スポーツブラのホックを外してそれを脱がした。決して大きいとは言えない胸だったが、M4は生唾を飲んで指を這わせていった。

 

 

「んッ……」

「すごい……」

 

 

冷たい人差し指で触られ、F45は僅かに体を震わせた。そこからM4は小さな双丘を揉みしだくように手を動かし、首筋を舐めていく。

 

 

「ふあぁ……!そこ、なめた、らぁ……だめぇ……!」

「大丈夫よ。私が良くしてあげるから」

「それ、どういう意味……ひぃ!」

 

 

それに関することなど殆ど知らないF45にとって、その感覚はまるで電流が走っていくようだった。それを続かせると言わんばかりに、M4は胸の先端を二本の指で摘まんだ。

 

 

「胸、だめッ!らめぇ……なんか、ビクンって……」

「すごい反応……じゃあこっちは?」

「えっ……?」

 

 

M4は笑みを浮かべたかと思うと、突然スカートを剥ぎ取り下着を露わにさせた。そしてその上から指で触ると、F45は声を押し殺すことなく身体を反らせて痙攣した。

 

 

「―――ッ!?い、やぁ……そこ、いじっちゃ……!」

「濡れてる……感じやすいの?」

「ち、ちがっ……んん!そんな、いじらないでぇ……!」

 

 

M4が指を動かすのを止めると、F45の下着は湿っていた。そしてM4は下着をも脱がし、再びキスをする。

 

 

「み、見ないで……恥ずかしいよ……」

 

 

F45の消え入るような懇願も空しく、M4の視線は釘付けになっていた。今F45が着ているのははだけた白いシャツだけであり、ほぼ全裸に近しい。

 

 

M4は躊躇くことなく、指を入れて動かした。F45はその感覚に弄ばれてM4に抱き着く。

 

 

「んッ……!ぁああぁぁあ!だめ、これダメェ!変なの、きちゃう!かん、かくが、変だよぉ……!」

「気持ちいい?」

「きも、ちいい……いいよぉ!すごい、気持ちいいのぉ!」

 

 

医務室のベッドの上では二人が交わり合い、仕切られたカーテン越しの二つの影がそれを物語っていた。

 

 

 

 

 

そして医務室の扉の横では、ハンターが腕を組んで壁に寄りかかっていた。

 

 

 

 

 

「……あいつも一歩進んだってことか」

 

 

そう、含み笑いをしながら呟いた。



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久しい安らぎは此処に

基地の敷地内では、M16が酒を飲みながら散歩していた。飲んでいる銘柄はウォッカ。ぐびぐびと喉を鳴らしながら飲む様子は、さながら『飲兵衛』と評されていても文句は言えない光景だった。

 

 

「……さぁて、待ち合わせは此処だったかな」

 

 

しかしその目は泥酔しているものではなく、作戦遂行時にするような目だった。

 

 

「……遅いな」

 

 

端末で時刻を確認すると午後の二時。待ち合わせ時間はとっくに過ぎていた。しかし時間の遅れで踵を返すような器ではない彼女は、近くのベンチに座って待ち続けた。

 

 

「……」

 

 

 

・・・

 

 

 

数分ほど待っただろうか。M16がふと顔を上げると、代理人が小走りでこちらに向かってきていた。代理人はM16の前まで来ると、頭を下げて謝罪の言葉を述べた。

 

 

「申し訳ございません。私用で遅れてしまいまして……」

「いや、いいんだ。私もつい数分前に着いたからな。それで、話って何だ?」

「はい、まずはこれを」

 

 

そう言って代理人は小型のタブレットをM16に差し出した。どうやら記録が保存されているらしく、受け取って見れば過去の404-F小隊の作戦記録の全てが文字列として映し出されていた。作戦内容、各自の武装、開始時刻、天候、AIの自己診断プログラムの検査結果―――ありとあらゆる情報だ。無論それだけでは何を意味するか分からないため、M16は再度聞いた。

 

 

「これがどうかしたのか」

「F小隊……いえ、F11の情報について見てほしいのです」

「F11……これか」

 

 

小窓を開きF11の情報を開く。そして代理人は説明した。

 

 

「この夜間作戦についてなのですが……彼女は一度、ハイエンドモデルであるドリーマーと接触しています。それも直接」

「直接だと?あれは電子戦のプロフェッショナルだ、生半可に近づけば即座に機能停止されることもあり得る」

「しかし彼女は……」

「電子戦特化型モデル……そうだろ?」

 

 

M16の答えに、代理人は静かに頷いた。確かにF11が電子戦に特化しているならば、ドリーマーと接触できていたのも頷ける。そして代理人は画面をスクロールして次の作戦記録を開いた。

 

 

「オスカー03872。非公式作戦名『赤い雨』……そこで彼女は一度敵の対空陣地の一部をハッキングしました。しかし敵の対抗策によりマルウェイは除去、そしてF小隊の通信網に干渉して再びドリーマーが接触を図ってきたのです。それも、F11に」

「またドリーマーか……しかもF11にだと?」

 

 

M16にはある疑問が浮かんでいた。鉄血側としては複数のハイエンドモデルを仲間に引き込んだF小隊の存在は邪魔に等しい。確かに小隊のメンバーは個性的な武器を用い強さを発揮しているが、わざわざF11を狙う必要があるのだろうか。それならばハイエンドモデルを仲間に引き込んだ直接の元凶であるF45を捕まえる方が合理的である。彼女は気弱であるのだから、捕まえた後は容易く無力化できるはずだ。

 

 

それだというのに、わざわざ危険な電子戦モデルを狙う行動はM16には分かりかねた。

 

 

「私がドリーマーの立場なら、F45を無力化するけどな」

「それは私も同じ意見です。しかしドリーマーはその方法を選ばなかった……そこから一つ、推測を出しました」

 

 

そして代理人は口を開く。

 

 

 

 

 

「F11を洗脳しようとしているのでは、と」

 

 

 

 

 

その答えはあまりにも単純で、しかし衝撃が強すぎた。

 

 

「……洗脳、か」

 

 

M16は手で口を覆い、目を細める。

 

 

「F11が、万が一洗脳で奪われたとしたら……作戦効率はどれくらい下がる?」

「おおよそ半分は失われることになります。今日までのどの作戦記録を辿っても、最低でも一回はF11による電子攻撃の貢献があります。それにF小隊は仲間との連携を大切にして、それで初めて小隊としてのパフォーマンスが最大限発揮されるのです。F11に限らず一人でもいなくなれば、作戦効率はもとよりF45の精神面にも無視できない影響が及ぼされます」

「……信頼し合う仲間との絆を狙っているってことか。胸糞悪い話だ」

「確かに防がれなければいけない事柄です」

 

 

F小隊が瓦解することだけは避けたかった。彼女達はあと一人の仲間を生き返らせ、そして全員で自由を手にする。そういう目的に向かってようやく歩き始めたところなのだ。彼女の指揮官であったディミトリ・ベルリッジの思いを果たすためにも、F小隊は全力で援護しなければいけない。M16はその思いを噛み締めるかのように、拳を握りしめた。

 

 

そして代理人にタブレットを返し、思い出したかのように言った。

 

 

「ああ、そうだ。六時間後に私と代理人で放棄された区域への調査に行くぞ。グリフィン本部から正式に許可が下りた」

「場所は?」

「そうだな……」

 

 

 

 

 

―――R04地区だ。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

「指揮官~私達ってまだ任務とか来ないの?」

「そうだね~。へリアンさんとかからまだ何も言われてないし、でもこうしてる時が一番だよ。SOPちゃんとも遊べるし」

「えへへ、やっぱり指揮官大好き~!」

 

 

宿舎では、SOPと指揮官が抱き合って寝転がっていた。大好き同士の関係は相変わらず続いており、やはりと言うべきか風呂も寝る時も一緒である。SOPは指揮官を抱きしめて胸に顔をうずめていた。

 

 

「はー、ハー……指揮官の匂い~……」

「もうSOPちゃん、ワンちゃんみたいだよ~」

「だって指揮官の匂い好きだもん。ちっちゃくて可愛いし」

「あはは、それは照れるなぁ~……」

 

 

指揮官はほのかに頬を赤くさせ、SOPの頭を撫でた。

 

 

「でもSOPちゃんが無事でよかった……あの時はどうしたらいいのか……」

「指揮官……」

 

 

SOPはゆっくりと起き上がり、指揮官の顔を見つめる。当の指揮官は顔を俯かせて申し訳なさそうにしていた。やはりあの時の光景が記憶に残っているのだろうか、その時のSOPの姿は、指揮官も思わず目を背けてしまう程に痛々しかった。

 

 

しかしSOPは指揮官を優しく抱きしめ、呟くように言った。

 

 

「指揮官は悪くないよ。私だって、指揮官が見えなくて、すごく痛くて……でも今はこうやって大好き同士でいられることがすごく幸せだから……だからさ、たくさん愛し合おう?」

「……うん!」

「えへへ、可愛い~」

 

 

そしてSOPと指揮官は笑い合って遊んでいた。

 

 

 

 

 

(ずっと大好きだよ!指揮官!)



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思惑の一致

《グリフィン&クルーガー社が七か月前に放棄した区域にて活動中である鉄血人形は依然として立ち去る様子はありません》

 

 

《強制避難の対象となった民間人は避難民区域で生活をしていますが、住民の間には不安と憤りが広まっています》

 

 

《こちらは避難民区域から中継です。防衛境界線付近では今日も抗議デモが行われており、連日一週間を更新しました》

 

 

《また各地では隣接する区域への不法入居が絶えず、戦術人形で構成された治安部隊が鎮圧に乗り出す事態となりました……えー、たった今入ってきた情報です。デモ隊と治安部隊の衝突で一人が死亡したとの情報が入ってきました。一人が死亡したとの情報が入ってきました。どちらの陣営かは確認することはできませんが……》

 

 

 

 

 

《人々は依然として鉄血の侵攻に怯え、暮らす日々が続いています。しかし未来は、我々の手にかかっています。罪の無き人々の命が脅かされ、蝕まれる日々は終わらせる必要があるのです。我々は業界内でも有数の軍事力をいかんなく発揮し、これからも鉄血の侵攻を食い止めることを約束します。我々には人の命を守る使命があるのです》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……胡散臭い会見だ」

「私も同意しますよ。そもそも地区を放棄した時点での死者は想像を超えている筈です」

 

 

グリフィン本部の兵舎にて、ダネル率いるB小隊はテレビ中継を眺めていた。しかしダネルはその内容に不快感をあらわにし、ウェルロッドはそれに同意するように溜め息をつく。少なくとも、この場にいるメンバーで現状を快く思っている者はいなかった。

 

 

「酷い話よね……強制避難の時は重要人物を優先して避難させたらしいじゃない。しかも怪我してる子供を無視して」

「嫌な話ね。グリフィンが民間人を守るっていう謳い文句は意味を為していないってこと?」

「そうなるわね……」

 

 

グリズリーとMk23『ソーコム』は同時に溜め息をついた。別ルートで情報を仕入れている彼女らにとっては真実を知ることは容易い。しかしその真実を知っているからこそ、今行われているG&K社の社長の会見でさえも違和感を感じずにはいられなかった。

 

 

「ところでウェルロッド、放棄された地区でのドローンはどうなったの?」

「とっくの一時間前に墜落してますよ。量産兵もそこまで馬鹿ではなかったみたいです」

 

 

そう言うとウェルロッドは全員に傾注を促し、テーブルにタブレットを置いた。そして全員の情報共有システムを使って視界上に立体ホログラムを出現させる。無論メンバー以外には全く見えていない。

 

 

ウェルロッドは空間をタップして情報を抜き出し、説明した。

 

 

「ダネルさんの言われた範囲内での情報収集は全て終わらせておきました。鉄血兵は抜かりなく配置されていますよ。流石、地区を一つ占領しただけありますね」

「御託はいい。他に敵勢力は?」

「歩兵に加えて哨戒用と思われるプロウラーとスカウトが複数、ジュピターが七基。並の部隊じゃ侵入するのにも時間を要しますよ」

 

 

決して緩んでいるとは思えない敵の警備状況に、先程から瓶のコーラを飲んでいたSAAがあからさまに椅子の背もたれに仰け反り返った。敵の警備が厳重となると、いつコーラを飲めるか分かったものではないため、SAAは楽な任務の方を好んでいた。とうとう運が尽きたと言わんばかりに頭を抱える。

 

 

「うわぁ~……早めに任務を終わらせてコーラ飲もうと思ったのに~……」

「我慢することね。でももしかしたら私のダーリンが奢ってくれるかも?」

「そうだといいんだけど……」

「それは帰ってからでもいいさ。しかしこの地区を易々と見過ごすわけにもいかない理由があってな」

 

 

ダネルは一枚の紙を懐から出して見せた。どことなく前時代的な雰囲気を醸し出しており、黄ばんで汚れている箇所も見受けられる。

 

 

「何それ?」

「デルタ93748。S12地区での補給路分断の任務後に拾ったものだ。どうも情報の符合として持っていたらしい。鉄血がこんなアナログな手法を使うと思うか?」

「それはあり得ないよ」

「ないわね」

「あり得ないわ」

「考えられませんね」

 

 

ダネルは説明を続ける。

 

 

「紙媒体を使うとしたら、人間の方だ。それに……このマークを見てみろ」

 

 

紙の裏には眼球が描かれており、それを囲うようにスコープのレティクルが描かれていた。そのマークを見たグリズリーが違和感を感じる。

 

 

「これって……FB?」

「そうだ。Fake Blood……巷で有名な犯罪組織だ。規模はそんなに大きくない。それにドローンの映像にはFBのリーダーと鉄血のハイエンドモデルであるイントゥルーダーが接触している場面も映っていた。取引をしているんだろうが、表沙汰に動き回ることも難しい……そこでだ。評議会は都合よく私達に出撃許可をくれた」

「……上層部も物分かりが良くて助かりますよ」

「すぐに準備しておけ」

 

 

 

 

 

「R04地区に向かうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降る中、光学迷彩を施されたブラックホークは低空で飛行していた。その機内では代理人がタブレットで情報を確認し、M16は軽食用のチョコバーを頬張っていた。

 

 

「この美味さが共有できないとは、残念だ」

「仕方がないことですわ。どの手段を用いてもその味だけは美味しいとは思えませんもの」

 

 

食べることを拒否する代理人に対し、M16はさも残念そうにチョコバーを食べる。合成由来のカカオから作られたのだが、代理人曰く「それだけは食べようとは思えない」とのこと。ちなみにM16は酒の肴によく食べていて、他の味も好物に入っていた。

 

 

「でもこんな美味いのに出会ったのは幸運だぜ?酒によく合う」

「味覚をシャットダウンすれば私でも食べられるのでしょうか」

「ハハハ、それじゃあ『食事の娯楽』っつーもんが無くなっちまう。味は楽しむものだぞ?」

「そうですか……」

 

 

代理人は息をついてタブレットの情報を見た。任務内容はひどく簡潔にまとめられており、『R04地区の調査』とだけしか記載されていない。悪く言えば大雑把な任務内容だった。M16も呆れた様にそれを愚痴った。

 

 

「しっかしペルシカさんも雑だよな。指揮官はちゃんと作戦を練っているっていうのにあの人ときたら……」

「仕方のないことですわ。移動用のベッドに寝転がっていますけど」

「指揮官に負けず劣らず、G11と張り合えるぐらいの毛布好きだもんな。でもあの人は天才科学者だ、やるときはやる」

「そうでしたね」

 

 

ヘリは低空を飛び続け、目的地であるR04地区へと向かっていく。

 

 

 

 

 

代理人は有事に備え、サブアームの簡易点検を始めていた。



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ブラックコード

《ここが限界だ。後は徒歩で行ってくれ》

 

 

ヘリパイロットがそう告げると、M16はチョコバー残りを食べ終えてスライドドアを開けた。この区域には嵐が近づいているらしく、雨が激しく振り続け、雷の音も鳴っていた。

 

 

「酷い天気だ……よし、始めるぞ」

 

 

M16はそう言って先にR04地区の地面に降り立った。後に続いて代理人も降り立つと、ヘリはスライドドアを閉じ、再び光学迷彩を起動させて来た道を戻っていった。風が吹き荒れる中、M16はライフルのチャージングハンドルを引き初弾をチャンバーに送り込んだ。

 

 

「ここは鉄血の占領地だが、手段は一切制限されていない。本部にも物分かりがいい連中がいるらしい」

「確かにありがたいことです。ですが油断はしないように」

「ああ、分かってる」

 

 

そして二人は移動を始めた。今回の任務はあくまで事情調査だが、のんびりしていられるほど時間があるわけでもなかった。地区に接近している嵐はこの時期にしては規模が大きく、直撃は免れないことも確定している。

 

 

「嵐が直撃した場合はどうなるんですか?」

「風速66mの風に見舞われることになるな。耐えられるよう出力はいつでも最大限引き出せるようにしておけ」

「了解」

 

 

風速66mとなると、戦術人形であろうと容易に飛ばされてしまう。その可能性を少しでも無くすためには出力を最大限にして耐えるしかない。無論、遮蔽物に隠れられるのであればそれに越したことはない。代理人は様々な方向から降り注ぐ雨を直に受けながらライフルを構える。

 

 

(まさかこんな銃を持つことになるとは……いえ、銃と定義することが間違っているのかも……)

 

 

代理人が作戦前にM16から渡されたのは携行型パルスレーザー照射兵器、通称『PLW』だ。引き金を引き続けることによってレーザーが照射され、対象の内部構造を焼き切って無力化するという試作兵器である。しかし貫通力が一切ないなど、試作ゆえのデメリットも存在していた。

 

 

もしこれが成功したのならば、ASST技術を使ってこの武器を持つ戦術人形が製造されるのだろうか。そんな代理人の考えが現実として成就したのなら、第二世代戦術人形の時代も終焉への時を刻み始めているかもしれない。何故だか、そんな考えが電脳によぎっていた。

 

 

「……M16、貴女は第三世代の戦術人形が製造されると思っていますか?」

「藪から棒にどうした?ん、まあ……十何年か経てば試験運転ぐらいまではいってるんじゃないか。詳しくは知らんけども」

「そうですか……いえ、第二世代が戦線から退いた時、あなた達はどうなるのかと思って……」

「武装解除でどっかで働くとかかね……ま、私としては隠居して酒を飲みたいけどな」

「随分と酒好きですこと」

「生き甲斐だからな」

 

 

M16は軽い笑いを浮かべてそう言った。つまるところ、あまり深くは考えていないらしく代理人は思わず頬を緩めた。しかし今はそれでいいのかもしれない。人間ですら今日を生きるので精一杯なのだから似せて作られた人形も詳しくは分からないのだろう。

 

 

その時、通信が入った。

 

 

《聞こえる?》

「AR15か、通信状況は良好だ。何があった?」

《その地区にCBPの秘匿施設があるのよ。そこに行けば何か情報が見つかるかもしれないわ。それにハイエンドモデルが駐在してる可能性も高いし》

「ハイエンドモデルか……見つかりたくはねえな。人数も少ないし、今の武装で対抗できるとは思えん」

《気を付けてね》

 

 

通信が切られると、M16はすぐに代理人に指示を出した。

 

 

「いいか、今回は可能な限り敵との接触を避けろ。見つかれば次々に増援を呼ばれて状況が厳しくなる。隠密行動を維持してCBPの秘匿施設を目指すぞ」

「心得ていますよ。ハイエンドモデルだとしても、殆どが私より地位の低い者ですので」

 

 

代理人も不敵な笑みを浮かべて外の様子を見た。今は廃墟となった建物の中にいるが、外ではスカウトが道路に沿って巡回している。戦闘性能は人形の足元にも及ばないが、大多数で襲われると厄介なことになりかねない。それに二人の武器はサプレッサーを装着できないため、無力化するために発砲するという手段もとれない状態だった。

 

 

「スカウトが三機、すぐ横の道路を巡回しています」

「やり過ごせ。バカな真似はするなよ……」

 

 

息を潜めて窓際の壁に身を隠す。

 

 

 

 

 

―――スカウトは独特な飛行音を余韻に過ぎ去っていった。

 

 

 

 

 

「……ゴー」

 

 

M16を先頭に二人は立ち上がって道路を横切った。捨てられた車の残骸が正面の道を塞いでおり、所々に土嚢を積み上げたバリケードらしき障害物もある。しかし設置されている機関銃は銃身が折れていたり弾薬がなかったりと、使える状態ではなかった。

 

 

「何故、撤去していないのでしょうか……」

「さあな。そんなことする脳がないのかもしれん」

 

 

そう言ってM16は鼻で笑った。本来ならば、占領する上で邪魔なものは全て撤去される。ましてや壊れた機関銃など使う理由が見当たらない。彼女の言う通り片付ける脳が無いのか、或いは―――そんなもしもが思い浮かんでは消えていった。代理人は右手を額に当て、考えを整理する。

 

 

(いえ、今は任務中……余計なことは考えなくてもいい……)

 

 

数秒額を押した後、代理人は考えが整理されたのか目が変わっていた。かつて鉄血にいた頃を彷彿とさせる、敵に対して向ける冷酷な瞳である。

 

 

(分かっていながらも、悪い癖ですね……)

 

 

そんなことを思いながら、M16が見つけた迂回路である半壊した立体駐車場に入っていった。

 

 

立体駐車場といえど中規模に留まる程度であり、しかし明かりは全くと言っていいほど点いていなかった。まるで深淵の闇に包まれているかの如く奥が見えることはなく、二人の視界は瞬く間に奪われていた。

 

 

「クソ、暗いな……代理人、ナイトビジョンはどうだ?」

「起動しても変わりませんよ。5m先も見えない状況です」

「ハァ……コントロールルームに電源がある筈だからそこに行こう。まだ生きてるとは思うが……」

「過度な期待はしたくありませんよ」

「無いよりはマシだ」

 

 

立体駐車場に敵や平気が存在しているかも分からないので、壁沿いに駐車場内のコントロールルームを目指した。無闇に中央を突っ切って罠に引っ掛かるほど戦術人形のAIも愚かではない。

 

 

出来るだけ隣り合わせになりながら慎重に歩いていく。外で荒れ狂う雷雨の音だけが響き渡り、二人の足音をかき消してくれていた。

 

 

「……何でCBPの秘匿施設なんかあるんだ」

「普通は存在しないものなんですか?」

「普通も何も、グリフィンの受け持つ地域はグリフィンが統括してるんだ。政府の諜報機関が関わってくることはあり得ない筈だが……」

 

 

M16の疑問に代理人は微かに頷いた。グリフィンの内情は全く知らないが、憶測を思い浮かべることはできる。

 

 

「もしかすると……今の鉄血と関わりを持っている可能性があるかもしれません」

 

 

「……どういうことだ?」

「もしそうだとしたならば、何故軍が出向いて鉄血という勢力を制圧しないのか。何故有り余る最新兵器を鉄血にぶつけないのか……これほど怪しい話はありませんよ」

「まさか癒着……?」

「現時点では分かりかねますが」

 

 

その話に、M16は思わず立ち止まって聞いていた。

 

 

 

 

 

体内のアルコールが全て失われていく感覚は、妙に気味が悪かった。



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ブラックコード#2

コントロールルームのものと思わしき重厚な扉は案外近くにあった。M16が扉をゆっくりと開けて中に入ると、自動的に補助電源が起動して中の電気が点いた。

 

 

「おいおい、酷い有り様だな……」

「侵入された形跡……鉄血が奇襲してきたんでしょう。少なくとも避難準備が十分だったとは言えません」

「クソ……」

 

 

デスクや機械類は尽く荒らされ、泥や水に濡れた書類も床に散乱している。その内の一枚を手に取って見ると、辛うじて『2月14日』と日付が読み取れた。

 

 

「代理人、今日って何日だったっけか」

「2月14日。俗にバレンタインと言われている日ですが……」

「……そうか」

 

 

M16は溜め息をついて紙をデスクの上に置いた。

 

 

「質悪い奴らだ……私達で弾をぶち込んでやろうぜ」

「次の任務まで怒りを取っておいてください。その時に、終わらせましょう」

「そうだな」

 

 

特にこれといった目ぼしい収穫は無く、二人はコントロールルームを出て再び外に向かった。そして雨に曝される中、代理人は奥の方で何かを見つけた。

 

 

「M16、止まってください」

「どうした」

「……何か声が聞こえます。それと駆動音も」

 

 

残骸が積み上げられてできたバリケードを上り、頭だけを出して動きを止めた。

 

 

 

・・・

 

 

 

「マンティコアの調子は大丈夫か?」

「絶好調だ。イントゥルーダーとドリーマーのおかげでブラックボックスの解析も進んでるから性能も向上している。この地区の占領もさほど時間はかからなかったしな」

「違いない。ところであそこにいる人間はどうする?二人いるが」

「殺せ」

 

 

M16はバリケードから身を乗り出して引き金を引こうとする。が、それを察した代理人が素早くその腕を掴んで隣に引き寄せた。

 

 

「クソ……あいつら……」

「やめましょう。今できることはありません」

 

 

代理人の言う通り、今回の任務は隠密行動を含む内部調査。敵に見つかってしまっては作戦も何もかもが崩れ去ってしまい地区にいる意味が失われてしまう。捕らえられた民間人は『運が無い者』として処理されるが、二人はそれを見ていることしか出来なかった。そうしている内に鉄血兵の一人が男の後頭部に銃を突きつけ、

 

 

 

 

 

―――ダダッ!

 

 

 

 

 

躊躇いなく撃ち殺した。

 

 

「……いやぁ!助けて!誰か助け「黙ってろ」ッ!」

 

 

銃声が聞こえ、女の方も頭部を撃ち抜かれて地に倒れ伏した。血だまりはやがて雨と交り合い、近くのマンホールの穴へと流れていく。戦術人形にとって民間人の命を見殺しにするということは、あまりにも辛すぎるとM16は後悔の念に駆られていた。

 

 

「……あぁ、駄目だ。クソ、内部調査だけだってのに」

「落ち着きを取り戻しましょう。貴女らしくないですよ?」

「分かってはいるが……ハァ」

 

 

M16は何度目かも分からない溜め息をついて思考を切り替えた。作戦中に情に飲まれると予期せぬ支障が生じかねないのはよく知っている。それ自体は国家保安局に所属していた時代から身をもって体験していた。

 

 

「しかしマンティコアか……今の装備じゃ戦っても死ぬだけだな」

「ブラックボックスの解析も進んでいるという話もありましたしね。あれは軍のものの筈なのですが……」

「中枢のコンピューターが何かしらやったんだろ。少なくとも代理人が脱退して以降、技術の進歩がみられるのは確かだ」

 

 

正規軍も所持している四つ足の、ヤドカリを連想させるボディを持つ多脚戦車『マンティコア』は鉄血が奪取したものでさえその大きさに似合わない機動力を持ち合わせている。雷雨で視界も悪い今、性能が向上しているらしいソレに出会ったらその時が最期だろう。無論そんな事態を避けることは最優先だ。しかし作戦を遂行するには、あまりにも情報が不足していた。

 

 

「敵歩兵もいるな……あそこの集合住宅、見えるか?スナイパーもいやがる」

「予想よりも厳重ですね。これで対価に見合う情報が無かったらAR15に問い詰めますわ」

「仲間割れはなしだぞ」

「暴力ではありません……夜に襲うだけです」

「あいつがどんな反応するか楽しみだな、そりゃ」

 

 

M16は笑みを浮かべて車道沿いに歩道を歩いていった。今のところ巡回している敵はいないが、警戒を怠ることなく一定間隔で歩き続ける。

 

 

そして数分歩いていた時だった。

 

 

「ッ!ちょっと待ってろ」

 

 

代理人にハンドサインで止まるよう指示を出し、M16が曲がり角の先の様子を見る。しかし次第に駆動音が聞こえ、地面も僅かに揺れていた。代理人も違和感を感じ、銃を構える。

 

 

「まずいな……私についてこい、この中だ!」

「分かりました」

 

 

M16が近くの建物の扉を開け、即座に伏せて中に入っていった。代理人も後に続き、伏せの姿勢で進んでいく。電気が点いていないのが不幸中の幸いだろうか、すぐ横を通り過ぎていく大部隊に気づかれている様子は無かった。鉄血兵の一人が懐中電灯で中を照らすが、窓際に沿って伏せているため見つかることは無い。そのままゆっくり進んでいると、人間の死体が視界に入った。代理人は電脳内の相互通信で呼びかける。

 

 

(M16、また死体です。しかも武装しています)

(私も見えた。スカベンジャーか、レイダーか?)

(どちらでもないようです。武装はおそらく軍の横流し、それに何かのマークらしき刺青も首に彫られています)

 

 

M16が死体を確認すると、確かに首には刺青が彫られていた。眼球を囲うようにスコープのレティクルが描かれている。しかし見たことが無いマークであり、特定することは不可能だった。

 

 

(代理人、このマークに見覚えは?)

(ありません。何を意味しているのかも不明ですね。ペルシカさんに送りますか?)

(だな。とりあえず電脳内のストレージに保存しておく)

 

 

刺青のマークを保存し終えた時には、敵の大部隊は遠くに過ぎ去っていた。それを見たM16はすぐに立ち上がり、移動を始める。

 

 

「AR15、CBPの施設は何処にあるんだ?」

《ちょっと待って……今マップの様子がおかしくて……座標を送信したわ。少し歪んでるけど、そこで間違いはないわ》

「嵐の影響か?」

《いえ、何かこう……ジャミング的な……待って、通信が……》

「おい?おい、AR15」

 

 

座標は送信されたものの、通信の途中でAR15の声が途切れてしまった。仕方なく通信を切り上げ、M16は目的地の情報を代理人に送る。

 

 

「確かに受け取りました。しかしまたジャミングですか、最近は多いですね……」

「向こうも本腰入れ始めてるってところだな。だがイントゥルーダーを殺せば電子戦の能力はかなり減る筈だ」

「ドリーマーはどうするんですか?」

「馬鹿正直に行ってもウイルスを埋め込まれて終わりだ。だがイントゥルーダーなら何とかなる」

 

 

情報収集の後の目的をイントゥルーダー抹殺に設定し、二人はCBPの秘匿施設を目指していった。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

『監視はどうだ?身近にいるから分かりやすいだろ』

『ええ、とても。そっちも情報を得られて満足でしょう?』

『今後の動きを全て手玉に取れるとは。味方には一人、電子の海を泳げる者が必要だな』

『……自分の意思でこの所属になった存在がそんなに羨ましいの?』

『ああそうさ。傘を埋め込むまでもなくこちら側につくのは都合がいいからね……さて、あの地区に侵入したのはグリフィンの部隊が二つ。妨害はできているか?』

 

 

『とっくに。マルウェイを仕込めばすぐ終わるわよ』



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