魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 (わんたんめん)
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第1話 凍りついた流星

はい、はじめましての人ははじめまして。
わんたんめんです。
タグでもお分かりかと思いますが、ガンダムWとリリカルなのはとクロスです。さらにヒイロはフロティア前で『前奏曲』のインプットもないため、今回、これまでの記憶を全て失っています。
そのことを留意しつつあったかい目で読んで頂けると幸いです。
あと私による勘違いも多々あると思います。
そこら辺もよろしくお願いしますm(._.)m


A.C196年 クリスマス・イヴ

 

 

地球圏統一国家と武装組織『ホワイトファング』による地球の未来を掛けた戦争『EVE WAR』からちょうど一年、誰もが平和への道を進んでいた中、トレーズ・クシュリナーダの娘を語るマリーメイア・クシュリナーダが地球圏統一国家に対して、宣戦布告を行った。

歴史ではこれを『バートンの反乱』と呼んだ。

なぜ『バートン』の名が付けられたのかはマリーメイアはあくまで傀儡でしかなく、事件の首謀者はバートン財団の盟主であった『デキム・バートン』であったからだ。

しかし、反乱の勢いは凄まじく彼らによって統一国家の大統領府まで制圧されてしまう始末であった。

なぜここまで後手に回ってしまったのかを敢えて弁護するのであれば、人々が平和に慣れてしまっていたからであろう。

だが、いつの時代にも目の前の現実に対して、立ち上がる者たちがいた。

目的はただ一つ、『平和』を、これ以上自分たちのような兵士を生み出させないためーー

人は、そのために立ち上がった少年たちの乗るモビルスーツをこう呼称した。

 

『ガンダム』とーーー

 

 

 

『バートンの反乱』から年月は流れ、人々の注目はある惑星へと注がれていた。

地球からもっとも近い惑星、大気のほとんどが二酸化炭素で構成されている『火星』である。

だが、その火星も増えすぎた人口の捌け口とされ、テラフォーミング化された結果、限定的ながらも人が住める土地と化していた。

そして、時はM.C(マーズ・センチュリー)0022 SUMMER

 

物語はイレギュラーをもって開幕を告げる。

 

人口冬眠装置である『星の王子様』と『オーロラ姫』のうち、突如として、『オーロラ姫』が行方不明となった。当然、捜索が行われたが、『オーロラ姫』の行方どころか持ち出した方法さえも不明という有様であった。

そして、誰もが口にする。魔法だ、魔法でしかこの異常現象の説明がつかない、と。

 

 

 

 

「・・・・・これ、本当になんなのかしら?」

「エイミィの調査だと、人工的に人を休眠、いや冬眠させるものと言っていましたけど・・・。」

 

艶やかな濃い緑色の髪をたなびかせているのは時空管理局所属戦艦『アースラ』艦長、『リンディ・ハラオウン』である。そして、その隣にいる黒髪の少年の名は『クロノ・ハラオウン』、弱冠14才という顔つきにまだ幼さが残っている年齢でありながらも時空管理局の執務官という高い役職に就いている秀才である。ちなみに苗字から察すると思うが、先に紹介したリンディ・ハラオウンの息子である。

 

「それは分かっているわ。でも、これを作った意味がよくわからないのよ。」

 

その親子が目の前に相対しているのは一つの機械、いや芸術品といっても過言ではないような美術的な装飾がなされた一つのカプセルであった。全長3メートル以上の巨体を誇るそのカプセルは美しい顔を持ち、そして天使を思わせるような純白の翼に包まれている。さながら中にある人物が天使から寵愛を受けている、と錯覚してしまうような荘厳な様子であった。

その冬眠装置の形状は涙の雫のようであった。さらにあたりに感じる冷気も相まってその装置は凍りついた涙の雫(フローズン・ティアドロップ)、と形容できそうであった。

 

「仮にこれがエイミィの調査通り、人工的な冬眠装置だとすれば、こんなにも煌びやかな装飾はいるかしら?もっと機械的になるのが当然と思わない?」

 

リンディの問いかけにクロノは顎に手を乗せながら思案に入った。

確かにそれもそうだ。ただの冬眠装置であればこんなにも美しいと感じてしまうような装飾はいらないはずだ。

ではなぜこんなにも煌びやかな飾りが必要なのだ?

 

「・・・・もしかして、かなり力のあるものを封じ込めている、謂わばオリという可能性もあるんでしょうか?」

「・・・・それもあるわね。昔から権力や単純な力を持つものは死後もなんらかの形で自分の力を指し示すものを残しているのは歴史が証明している。自分を冷凍睡眠させて、延命をするというのはよくあることだわ。可能性として、ないわけではないわね。」

「・・・・では、どうします?エイミィから解凍プログラム自体の解読は済んでいる報告は上がっています。」

 

実の息子からの提案にリンディは瞳を閉じて、考える。

 

(・・・・今はまだプレシア・テスタロッサの件が済んだわけではないわ。コレも無関係って断じるのは早すぎるわ。このカプセルに入っているのが、話の通じる相手かどうかはわからない。だけど、変に放置して、厄介ごとになってくるのは避けたい。)

 

ここで開くリスクと放置したさいに起こるもしかしたらの可能性。

二つのリスクが彼女の天秤にかけられる。

彼女が選んだのはーー

 

「クロノ、アースラにいる魔導師に召集をかけて。それとエイミィにも伝えて、解凍すると。」

「・・・わかりました。」

 

クロノはリンディからの指令を伝えるために管制室へと向かった。

一人残されたリンディはポツリと呟いた。

 

「・・・・さて、この判断が吉と出るか凶と出るか・・・・。」

 

 

 

 

程なくして例のカプセルが保管されてある部屋にアースラにいる全職員が集結する。

彼ら、または彼女らはバリアジャケットと呼ばれる魔力から身を守る戦闘服を身につけ、目の前の代物に視線を集中させる。

 

「これから例のカプセルの解凍を行います。サイズから鑑みるに出てくるのは人間だとは思うけど、まだプレシア・テスタロッサの件が終わってから間もないし、状況が沈静化したわけではありません。各員は油断はしないように。」

 

リンディの言葉にアースラの乗組員は気の張った表情をしながら大きく頷くことで応える。

その様子に少しばかり笑みを浮かべた彼女はコンソールについている管制官である『エイミィ・リミエッタ』に指示を飛ばす。

 

「エイミィ、解凍を始めて。各職員はバインドの準備を。」

 

リンディからの指示にエイミィはコンソールに解凍プログラムを始動させるためのパスワードの打ち込みを始める。

 

(何かの年号と季節なんだろうけど・・・・。どこの世界のものだろう?)

 

エイミィはパスワードの感じから、どこかの年号と季節であることは察することはできた。しかし、見たことも、聞いたこともなかったものだったため、それ以上の詮索はできなかった。

コンソールにパスワードを打ち込むと冷凍カプセルの様子に変動が起こった。

カプセルを包んでいた天使を彷彿とさせていた大きな翼が広がっていく。

冷気が室温に溶けていくと同時にカプセルには結露により水滴が生まれ、室内の照明に反射して、光を放っていた。

水滴は自身の重みで流れ落ちていき、カプセルの中が望めるようになっていった。

冷凍カプセルの中に入っていたのは、まだ20にも満たない少年であったからだ。

その事実にいち早く気づき、声をあげれたのはーー

 

「っ・・・・!?子供・・・!?」

 

リンディであった。自身の子供と然程変わらない少年が中に入っていることに気づいた瞬間飛び出た言葉に職員に動揺が走った。よもや、大の大人が出てくるならまだしも、子供が入っているとは彼らも露にも思わなかったからだ。

やがて、少年を覆っていたカプセルが開かられる。

 

「救護班!!急いでっ!!」

 

リンディは一応側につけていた救護班を呼び寄せる。理由は冷凍睡眠をされた人間は筋力が低下して、しばらく立つことができないからだ。そういった自身の経験も兼ねた指示であった。

しかし、少年はカプセルから出ると()()()()()()()()()()()()()()()

その事実はリンディはおろか、クロノでさえ驚愕の表情に染まった。

ありえないからだ。冷凍睡眠から解放された人間がすぐさま立てるほどの筋力があるというのは前代未聞に他ならなかったからだ。

 

(もしかしたら、開けてはいけない箱を開けちゃったのかしら・・・?)

 

リンディの頭の中にそんな考えさえよぎってしまうほど異様な雰囲気に包まれていた。

そして、その少年の閉じられていた瞳が開けられる。

 

「・・・・・・・?」

 

彼はリンディたちの様子を見るとあどけない瞳をしながら首を傾げた。

その目に敵意などはなかった。むしろあるのは、純粋、そして疑問。そんな感じだった。

さながらその目はまだ生まれて間もない赤ん坊のようなものであった。

 

「・・・・敵、ではないのか?」

 

クロノがそうポツリと呟いた。

見たところ少年は特にこれといった行動は起こしていない。

だが、まだ何が起こるかは分からなかったため、職員は警戒心を強めながら状況を見守っていた。

誰もが膠着した状況が続くかと思われたその時、徐に前と歩を進める人物がいた。

 

「えっ!?か、母さ・・艦長っ!?」

 

母さんと呼びかけたのはクロノだ。であれば必然的にその人物は絞られる。

アースラの艦長であるリンディその人だ。

彼女には一種の直感があった。それは母親としての勘であった。

 

(もしかすれば、彼はーーー)

 

一抹の不安を交えながらも彼女は少年の前まで歩みを進めた。

少年はリンディの顔をじっと見つめていた。

その様子に彼女は微笑んだ。その表情は母親のような慈愛を持ち合わせたものであった。

目線の高さを少年まで合わせると、彼女は手を差し伸べた。

 

「少し、来てくれないかしら?君のお話を聞かせてくれる?」

 

優しげな声色であった。さながら彼女自身の子供に語りかけるような声に少年はーー

 

「・・・・・・。」

 

無言であったが徐々に手が伸び始める。そして、少年の手がリンディの手に、乗せられた。

 

「うん。いい子いい子。」

 

少年の手を優しく包むように握ると、職員に視線を向ける。

職員たちの表情は皆驚きに包まれていた。

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

我が子の問いにリンディは無言で頷く。そして、職員に向けていた視線を救護班に向けた。

 

「医務室を空けてくれないかしら?多分、この子、記憶がないんだと思うわ。最悪、幼児退行も併発している。」

「わ、わかりました。」

 

リンディからの指示に救護班は室内から出ていった。

 

「職員のみんなは警戒を解いて構わないわ。この子は私が受け持つから。」

 

その言葉に職員に表情は心配するものに変わった。

職員の様子を見かねたリンディは指示を飛ばす。

 

「なら、クロノ。付いてきてくれるかしら?必要以上に集めちゃうとこの子が警戒しちゃうから。」

「・・・わかりました。」

 

リンディは少年と我が子を引き連れて、医務室へと向かった。

まだ少年の正体を知る者は一人もいない。少年の首に下げられてあった翼に包まれた剣のペンダントが光ったように見えたのも誰も気づくこともなかった。



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第2話 記憶を無くした少年

しばらくヒイロは一切喋らない話が続きますな・・・・


「うーん。症状が思ってた以上に深刻ね・・・・。」

 

少年を医務室に連れてきたあとクロノと必要最低限の職員を残して、退室させた後、いくつかの質問を少年に行なった。

しかし、少年の答えは無反応であった。否、反応自体はしてくれるのだが、まるでこちらの質問の意味が分からないと言うように首を傾げるだけであった。

自身の年齢や自分が何者かさえ答えることができない有様にクロノは思わずリンディに質問をした。

 

「彼、記憶を何もかも無くしているんでしょうか?」

「そう考えるのが妥当かしらね。おそらく解凍した際に脳の海馬部分に異常が発生して、事実上の赤ん坊状態になってしまったのね。」

 

リンディの言葉にクロノは表情を暗くした。なぜなら、その少年の記憶を奪ったのは、他ならぬ自分たちだからだ。まだ事件の収束が済んでいないから、関連性があるかもというもしもの関連性を疑って、彼を目覚めさせた。

だが、結果としては関連性を掴むどころか、一人の少年の記憶を奪ってしまった。

 

「・・・・貴方が気にすることはないのよ。指示を下したのは、私なんだから。責任は私にあるわ。」

 

そんなクロノにリンディは優しく諭し、彼の頭に手を乗せる。

クロノはそのことが恥ずかしかったのか、顔を薄く赤らめながらリンディから距離を取った。

 

「や、やめてください!」

 

その様子も愛らしく感じるのは母親としての心なのかしらね、とリンディは軽く微笑んでいた。

 

「さて、本格的にこの子をどうするか、ね。」

「・・・・グレアム提督に預けてみますか?ロッテとアリアに何されるかわかりませんが。」

 

ギル・グレアム。時空管理局の顧問官を務めており、リンディの夫であり、今は亡き『クライド・ハラオウン』の上司に当たるベテランの重鎮である。

クロノの執務官試験の時の監督も務めていた老人である。

ちなみにクロノの言う、ロッテとアリアとはグレアムの使い魔である『リーゼロッテ』と『リーゼアリア』のことである。

彼女らはグレアムの使い魔として彼に連れ添っている。

そのコンビの強さは管理局随一と言われている程である。

なお、リーゼアリアはクロノの挌闘技の師匠である。

 

「そうねぇ・・・。一応、保護したっていう名目で預けてみるのもいいわね・・・。まだフェイトちゃんの裁判も済んでいないし・・・・。」

 

フェイト・テスタロッサ。プレシア・テスタロッサが引き起こした後に『P.T事件』と称されるようになる事件において、保護した少女である。テスタロッサの姓を名乗っている以上、プレシアとの関係性が疑われるが、彼女はプレシアの実の娘であった『アリシア・テスタロッサ』のクローンであり、彼女とプレシアの間に血縁関係自体は存在しない。

彼女は現在事件に関与したとして、裁判が行われているが、彼女自身の意思によるものでなかったのは明らかなため、事実上の無罪は確定している。

しかし、無罪が確定しているとはいえ裁判である以上、時間がかかるためその少女はアースラの艦内にいる。

 

そして、リンディの視線は少年の首に下がっているネックレスに注がれていた。

そのネックレスはとても簡素な造りに翼に抱かれた剣のアクセサリーが付いていた。

おそらく察するに管理局の魔導師たちが持っているデバイスという可能性が高い。

 

(ねぇ、クロノ。彼の首にぶら下がっているネックレス。どう思う?)

 

リンディはクロノに対して念話で語りかける。

 

(おそらく、デバイスだと思いますけど・・・。)

 

クロノからの返答は自身が思っていたことと同じものであった。

リンディは少しばかり意を決した表情をしながら少年に語りかける。

 

「ねぇ、君の下げているそのネックレス。見せてもらってもいいかしら?」

 

リンディのなかなか踏み入った質問にクロノや職員で緊張が走った。

渦中の少年は最初こそ疑問げだったが、少しするとリンディの伝えたいことが伝わったらしく、首にかけていたネックレスをリンディの目の前に差し出した。

 

「ありがとう。」

 

少年にそうお礼を述べると、少年の手からネックレスを受け取る。

 

(うーん、やっぱり悪い子ではないのかしら・・・?)

 

一見するとこの少年はとても素直に見える。だが、それは記憶を失っているからであり、本当の彼はまるで違う人間ということもありえる。

 

(・・・・やっぱり、話せないって言うのが一番ネックね・・・・。少しでも口を開いてくれれば、こっちとしても彼の性格を把握できるんだけど・・・。)

 

視線を向けるも当の少年の反応は軽く首を傾げるだけであった。

思わず軽い笑みを浮かべると少年もまるでおうむ返しのように笑顔を浮かべた。

その事が少年が自身の記憶を何もかも無くし、赤ん坊に戻ってしまっていることを否応がなしに認識させられる。

リンディが少年の処遇について考えに耽っているとーー

 

「・・・・うっ・・・・。」

 

思わずリンディ、クロノの両名はおろか、その場にいた職員でさえ目を見開いた。

今、たしかに喋れないと思っていた目の前の少年が口を開いて、声を発したのだ。

リンディは一瞬、少年が話せるかもしれない、そう思ったがーー

 

「・・・・うー、あー・・・」

 

およそ言葉とは言えない声を発した後、少年はむせてしまった。

多分、冷凍睡眠されていたことで長らく使っていなかったのと記憶が吹き飛んでいるのもあって喉を震わすことにまだ慣れていないのだろう。

 

「む、無理しなくて大丈夫だからね・・・?」

 

若干、肩透かしを食らった気分だったが、リンディは少年に気遣いの言葉をかける。

クロノも手がかかりそうだと言った表情を浮かべながらも柔らかそうな笑みを浮かべていた。

 

 

「それでは私たちは一度、管制室に戻ります。彼に何かあったら直ぐに報告を。」

「了解しました。」

 

職員にそう伝えたあと、リンディとクロノは少年を残して、医務室をあとにした。

アースラ艦内の廊下で二人の歩く音だけが響く。

 

「あの子、やっぱり悪人、ではないのかしら。」

「彼の佇まいを見る限り、今のところはそう判断はできます。ですが、それはあくまで彼の記憶がないだけ。もしひょんなことで記憶を取り戻した時、あのままの彼であるとは・・・。」

「・・・・そうよね。それに、彼が持っていたデバイスも気になるし・・・。」

 

リンディの手の上には少年から預かったデバイスと思われるネックレスは照明の光を反射して、光輝いていた。

 

 

 

 

 

 

『・・・・なるほど、あの冷凍睡眠カプセルの中には少年が入っていたのか。』

「はい。ですが、解凍を行った際に記憶を失ってしまったようです。おそらく海馬に異常が発生したためだと思われますが・・・。」

『記憶喪失の度合いはどれほどかね?」

「その子は・・・。かなり重度の記憶喪失を起こしています。それこそ、精神状態が赤ん坊のそれまで戻ってしまっているほど・・・・。」

 

管制室にやってきたリンディとモニターを介して会話をしているのは青白い髭を生やした初老の老人であった。

その人物は時空管理局における重鎮、ギル・グレアムその人である。

リンディは彼に対して、少年のことに関して、予めの報告は行なっていた。

彼はリンディからの報告を聞くと少々難しい表情を浮かべた。

 

『ふむ、それで今その子はどうしているのかね?』

「現在は医務室で監視を行っています。比較的、パニック症状などを起こしている訳ではないので問題はないかと思われますが・・・。」

『意思疎通はできているのかな?』

「ええ。なんとかこちらの話していることに理解は示してくれているようです。」

 

リンディの報告に対し、グレアムは少々考え込む仕草をした。

 

『確かアースラの定期メンテナンスはそろそろだったかい?その時にその子を預かろう。いつまでも置いておく訳にはいくまい。』

 

グレアムからの思ってもいなかった提案にリンディは驚いた表情を浮かべる。

 

「よ、よろしいんですか?」

『何、君が気にすることはない。デスクワークもいかんせん、暇な時が多いのでな。』

「提督がそれでよろしいのでしたらいいのですけど・・・。」

『・・・しかし、今回、君には中々酷なことをさせてしまったな。』

「・・・大丈夫です。提督が気にすることはありませんから。」

 

リンディの言葉にグレアムは柔らかな笑みを浮かべた。

 

『では定期メンテナンスの時にまた会おう。』

「はっ!!了解しました!」

 

リンディがグレアムに敬礼をすると、モニターの映像が閉じ、通信が終了する。

 

「まさか、提督がこちらから切り出す前におっしゃっていただけるとは・・・。」

「ええ・・・。でも、アースラ自体のメンテナンスはまだ先だし・・・・。あの子の経過次第で、艦内を出歩かせてみるのもいいかしら?」

「いやいやいや、母さん。それは不味いって・・・・。」

 

リンディの発言に思わず一執務官としてではなく、彼女の息子としての口調が出てしまうほどに狼狽した様子を見せたクロノを彼女は軽く笑みを浮かべる。

 

 

「・・・・・・・・。」

 

で、その件の少年、もとい、ヒイロ・ユイは医務室の外に出ていた。

監視していた職員はヒイロがあまりにも何もしなさすぎて、退屈のあまり居眠りをしていた。その間に彼は医務室から退室した。

その職員に咎はない、と思いたい。

ヒイロはその胸に抱いちゃった好奇心の赴くままにアースラ艦内をほっつき歩こうとしていた。

 

「あの・・・・見かけない方ですけど、どなたですか?」

 

声がかけられたが、そんなことは露知らず、ヒイロは御構い無しにそのまま歩を進める。

 

「あ・・・あれ?き、聞こえてないのかな・・・?あ、あのっ!!」

 

そこでようやく自分に声がかけられていると感じたのか、ヒイロは振り向いた。

振り向いた先にいたのはキラキラと輝いてみえる金髪の髪をピンク色のリボンでツインテールでまとめた少女がいた。

その少女の名前はフェイト・テスタロッサ。

 

物語の歯車に本来ありえないはずの歯車が組み合わさった結果、物語は僅かにその動きを変えた。

それに気づくものは誰一人として知りうることはない。

 

 



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第3話 始動する異質な歯車

(・・・・どうしよう、こっちから話しかけちゃったから何か話題を出すべきなんだろうけど・・・。)

 

フェイトは少々気まずそうに視線を目の前の男性(ヒイロ)に向ける。

しかし、等のヒイロはまだ話すことは叶わないためフェイトに視線を合わせ、首をキョトンと傾げるだけで、だんまりを貫いたままだ。

しばらくお互いの間で沈黙が走る。

 

(き・・・・気まずい・・・・。というより、お願いします。そのあどけない瞳をやめてください・・・。話しかけた私の身がもたないからぁ・・・・。)

 

あまりにも無言な間が多かったため、フェイトが精神的にその場にいられなくなりそうになったその時ーー

 

「んー?フェイトー?何やってんの?」

「あ、アルフっ!!」

 

救いの手が舞い降りた。声のした方向へ振り向くと彼女がとてもよく見知った人物、というより使い魔がいた。オレンジ色の髪におよそ人間にあるはずのない獣耳と尻尾を有しているその使い魔の名前は『アルフ』

彼女はフェイトとの付き合いはとても長く、主従を超えて、その繋がりはパートナーや姉妹と言える域まで達しており、ある意味、フェイトの家族であった。

アルフは嬉しそうなフェイトの表情を見て、満足感に満ち溢れるが、彼女が嬉しそうな表情をするのはあまりない。おそらくその前に何かあったはずだろう。そう思ったアルフは視線の先に見知らぬ男がいることに少なからず嫌悪感を抱いた。

 

「アンタ、フェイトに何かしでかそうとしてたんじゃないだろうね。」

 

睨みを効かせた視線でその男であるヒイロを見つめるが、ヒイロは特に意にもかさないと言った様子でその場を後にしようとする。思わずアルフは追いかけようとしたがーー

 

「ア、アルフ、あの人に最初に話しかけたのは私の方なんだから、そんなに睨んじゃダメだよ・・・。」

「え、そうなの?」

 

自分のご主人であるフェイトから静止の声がかかる。その言葉にアルフは踏みとどまって、伸ばそうとしていた手を引っ込めた。

踏みとどまったアルフに対して、フェイトは再度、何処かあてもなく彷徨うように歩いているヒイロの後ろに再び立った。

 

「フェイト、大丈夫なの?」

「うん。まずは、話してみないと分からないから。」

 

長年連れ添っているのもあってアルフは彼女が何をしようとしているのかを察して、心配そうな視線で見つめた。

フェイトはアルフのその視線に笑顔で答えると、ヒイロに向かって声をかける。

 

「あの!!」

 

ヒイロは今度は自分のことだと分かったのかフェイトの呼びかけに対して、一回で振り向いた。

 

「私は、フェイト。フェイト・テスタロッサです。あなたの名前を教えてくれませんか?」

 

かつて自分に対して、名を聞いてきた自分の友達のように彼の名前を聞く。

 

もっとも、今のヒイロは名前はおろか、自身の記憶が全て吹っ飛んでるので答えようがないのだが。

 

そんなことは露知らず、フェイトもヒイロの口が開くのを待ってしまっているため、お互いの間でどうしようもない沈黙が続く。

その沈黙を打ち破ったのはーー

 

「あら?貴方、もう医務室から出ているのね。」

「リ、リンディ提督っ!?」

 

様子を見にきたリンディであった。予想外の人物の登場にフェイトは少々上ずった声をあげる。

 

「フェイトもいるのね。ちょうど良かったわ。」

 

リンディはそういうとフェイトとアルフにヒイロのことの説明を始めた。

 

「記憶が、一切ないんですか・・・?」

「ええ、そうね。この前、たまたま見つけた冷凍睡眠カプセルの話があったでしょう?それの解凍を行った結果、この子が出てきたんだけど、記憶が一切ないのよ。事実上の赤ん坊状態ね。それにだいぶ冷凍されている期間が長かったのか、喉の機能もまだ十全なくて、話すことができないのよ。」

「しっかし、フェイトよりは年上のようだけど、まだ子供だろ?ソイツを冷凍睡眠させた奴の意図が知れないね。」

 

リンディからそのことを聞いたフェイトは少しばかり申し訳ない気持ちに苛まれた。

 

「わ、私、事情を何も知らないで名前を聞き出そうとしてました・・・・。」

「あー、うん。それはしょうがないと思うわ。事情を知らなければそうなっちゃうのも致し方ないわね。」

 

リンディからフォローの言葉を向けるとフェイトは視線をヒイロに向ける。

 

「あの・・事情を何も知らずにお名前を聞こうとしてしまってごめんなさい。」

 

そう言って、軽く頭を下げるフェイトに対して、ヒイロの反応は、彼女の頭に手を乗せることであった。

軽く彼女の金髪を触るように撫でるとほんの少しだけ表情を緩めた。

 

「気にしていないそうよ。」

 

リンディがヒイロの気持ちを代弁するように伝えるとヒイロはフェイトの頭から手を離した。

フェイトも顔をあげるが、表情には若干恥ずかしいものがあったのか軽く赤らめていた。

 

「何というか、感情まで吹っ飛んだ訳じゃあないみたいだね。」

「そうらしいわね。」

 

その様子を微笑ましそうに見つめる保護者枠の二人なのであった。

 

 

「それじゃあ、行ってきます。」

「ええ、行ってらっしゃい。」

 

手を振るフェイトにリンディが振り返す。

今、アースラはフェイトの裁判のために一度次元世界の第1世界であるミッドチルダの周辺次元まで来た。

実際にミッドチルダまで行くのはフェイト、アルフ、そして、弁護として付いていくクロノとユーノ・スクライアという少年であった。

リンディとヒイロは見送りとして、彼女たちが使う転送ゲートの側にいた。

ヒイロは見送りとしてはその場に立っているだけだったがーー

 

「フェイトは貴方にも手を振っているのよ。振り返してあげたら?」

 

リンディにそう言われ、彼女の真似をするような形でフェイトに向けて軽く手を振った。

やがて、転送ゲートから光が溢れるとそこにフェイト達の姿はなかった。

 

「あとは待つだけ、かしらね。」

「あ、提督、ちょうどいいので報告もしていいですか?」

 

軽く息を吐いたリンディにエイミィが声をかけた。

 

「どうかしたの?」

「えっとですね。この子のデバイスの件なんですけど・・・。」

 

リンディが内容を尋ねるがエイミィの声は少々言いずらそうにしていた。

少しゴマゴマした様子を見せたエイミィに疑問気な表情を浮かべる彼女だったが、程なくしてその報告を口にする。

 

「こちらでかなり調査はしたのですが、プロテクトが硬すぎて、大した成果が得られなかったんです。まるで調べられるのをデバイス自身が拒否しているみたいだったんです。」

「・・・それで、わかったことはあったの?」

 

リンディがそう促すとエイミィは説明を続けながらコンソールパネルを操作する。

 

「はい。ですが、本当に微々たるものです。わかったのがこのデバイスの名前くらいで・・・。」

 

エイミィの操作でモニターにある名前が映し出される。

その名前はーー

 

 

『XXXG-00W0 Wing Gundam ZERO』

 

 

「ウイング・・・・ガンダム・・・・ゼロ?」

「おそらく、そう呼ぶのだと思います。それとこの形式番号ですが、該当しそうなものはミッドチルダではヒットしませんでした。」

「少なくともミッドチルダ式ではないデバイス、そういうことなのね。」

 

 

リンディの確認とも取れる言葉にエイミィは静かに、それでいて確かに頷いた。

その報告にリンディは頭を抱えるような仕草を見せる。

 

「こういう時は所有者である君に聞くのがいいのだろうけど・・・・。」

 

リンディはそういいながら側にいるヒイロに視線を向けるが、記憶を失っているヒイロは何も知らない、というより覚えていないと言った様子で首をかしげるだけであった。

 

「記憶がない以上、無理に問い質すことはできないものね・・・・。エイミィ、時間がかかってもいいから解読に全力をかけてって言えばできる?」

「・・・・それは、難しいかと思います。私も含めて全力で事に当たりましたけど、これが精一杯で・・・いや、というよりこれだけ、ですね。この名前を知ることができたのも調べている最中に突然出てきたものだったので。まるで、デバイスに温情をかけられた気分です。」

 

エイミィの意気消沈といった様子にリンディはそれ以上は言えなかった。

 

「わかりました。ひとまずご苦労様、一度解読班には休息を設けます。英気を養うといいわ。」

「すみません。力が及ばなくて・・・・。」

「いいのよ。気にしなくて。今はしっかりと休みなさい。」

 

 

 

 

そして、日付をしばらく進めた12月2日。この日、裁判に赴いていたフェイトに裁判所より保護観察処分が下った。これは事実上の無罪判決であった。

その報告を聞いたリンディは肩の荷が下りたように表情を綻ばせた。

 

「ふぅ、いくら無罪が決まっているとはいえ、実際に判決が下されるのは緊張するわ。」

「・・・・そういうものなのか?」

「そういうものなのよ。」

 

リンディの言葉にぶっきらぼうにも反応したのはヒイロだった。日々をしばらく過ごしたからか、まだ口調が覚束ない時もあるが簡単な会話は難なくこなせるほどには回復した。

あとは、フェイトたちの帰りを待つだけ、そう思われたその時、アースラの管制室でけたたましいほどの音が鳴り響いた。

同時に画面にAleatの文字が表示される。そして警告音、つまり、異常事態だ。

何かが起こり始めた。

 

「艦長!!海鳴市に突如として封鎖結界が展開されましたっ!!」

「っ!?まさか、なのはちゃんが狙われたっ!?術式の解析を急いで!!」

 

不測の事態だったが、焦るような表情を見せず、リンディは迅速に指示を飛ばす。

ただちにエイミィとアレックスと呼ばれた管制官が結界の解析作業にかかった。

しかしーー

 

「これ、術式がミッドチルダ式じゃありません!!解析には時間がかかります!!」

 

エイミィの悲鳴のような声が管制室に響く。それと同時にモニターの一部によくわからない文字の羅列が現れる。おそらくあれが結界の術式、という代物なのだろう。

 

「術式が、違う・・・?転送装置はっ!?」

「問題なく座標の設定はできています!!ですが、それはあくまで行きだけで、帰ってくるには結界の破壊が必要です!!」

 

アレックスが解析を行いながらもそう答える。

 

「っ・・・・。不味いわね、クロノは少し出払っているし、フェイトちゃんたちが帰ってくるのもまだ少し時間がかかる・・・。」

 

リンディが状況を整理するが、現状、そのウミナリシという場所に行ける人物はいないらしい。

移動手段はあるが、行く人間がいない。ならばーーー

 

「リンディ。」

「・・・・なにかしら?」

 

込み入っている状況にも関わらず、リンディはヒイロに視線を向けてくれる。

 

「・・・・俺が出る。偵察ぐらいにはなるはずだ。」

 

ヒイロがその言葉を発した瞬間、管制室に沈黙が走った。

 

「ちょっと待って・・・・。貴方、正気?」

 

リンディが眉間に手を当てながらヒイロに確認するような視線を向ける。

 

「ああ。そうだが?」

「あのねぇ・・・。向こうの状況はなにがあるのかわかったものじゃないのよ!

場合によってはとんでもないやつがいるかもしれないのよっ!?」

「関係ない。俺は借りを返すだけだ。ただし、俺なりのやり方だがな。」

 

リンディの張り詰めた声にヒイロは特に表情を変えることはない様子でまっすぐに彼女の目を見つめる。

アラートの警告音が響く中、しばらくリンディとヒイロの間で均衡状態が続く。

 

「・・・・はぁ、目覚めた時はまだ愛嬌があったと思うのだけど・・・。おそらく、それが本来の貴方なのでしょうね。」

「・・・悪いが、俺がまだ記憶を失っているのは事実だ。」

 

ヒイロは軽く沈んだ表情をする。リンディはそれを見ると表情を柔らかいものにしながらヒイロに忠告をする。

 

「・・・・わかったわ。でも、無茶だけはしないこと。危険な状況になったらすぐになのはちゃんに頼ること!!多分、現場にいるはずだから。」

「・・・了解した。」

 

その様子はさながら手のかかる息子に注意をしている親のようにも見えた。

ヒイロはそのまま転送ゲートまで向かう途中、リンディが何かを思い出したような表情をした。

 

「あ、そうだ。貴方、忘れ物よ!!」

 

若干ヤケになってきているのか、リンディはヒイロに向けて、何かを投げ渡した。

ヒイロは片手でそれを受け取ると疑問気な表情を浮かべながら、それを確認する。

ヒイロの手には彼が目覚めた時にあった翼に抱かれた剣のネックレスがあった。ヒイロは少しばかり困惑した表情でリンディに視線を向ける。

 

「これは・・・。いいのか?」

「貴方がそれに関しての記憶がなかったとはいえ、見つけた時に貴方のそばにあったのであれば、それは貴方のものよ。お守りがわりみたいな感じで持って行きなさい。」

 

そう言って、リンディが軽い笑みを浮かべている様子を見るとヒイロは転送ゲートへと入り込んだ。

 

「エイミィ。転送ゲート、起動させて!!」

「了解!!」

 

エイミィがコンソールパネルを操作すると転送ゲートが虹色の光に包まれる。

 

「フェイトちゃんが戻り次第、すぐにそっちに向かわせるわ。だから、それまでは絶対に生きているのよ。」

「・・・・任務了解。」

 




原作1話、始まりますっ!!


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第4話 悪夢の海鳴市

最近、ヒイロを記憶喪失させた意味がねぇと感じてきたこの頃。


視界が転送ゲートが起動した時の光に覆い尽くされる。

それは目も開けられないほどのものだったが、程なくすると徐々に光は弱まり、目が開けられるレベルまで光の強さは落ち着いた。

 

「・・・・・ここが、ウミナリシ・・・か?」

 

目を開けると自分が今、ビルの屋上に立っていること、そして視界には月夜に照らされたビル群が聳え立っているのが映り込む。

しかし、その視界は妙なセピア色に彩られ、本来時間的にはまだ付いているはずのビルの電気は悉く消え、光源は町を照らしている月しか見当たらない。

さらに言うと人のいる気配が一切しなかった。

ヒイロは確認がわりにリンディに通信を送ろうとするがーー

 

「・・・・そういえば、通信機の類を受け取ってなかったな・・・。」

 

自分の失態に思わず苦い表情を浮かべるが、ないものは仕方ない以上、割り切るしかない。

そう自分に結論を立てたヒイロは空を見上げた。

リンディの話によれば、ナノハという人物がいるはずなのだが、見上げた空にはそれらしき人物は見当たらない。

 

(・・・・建物と建物の間にいるのか?)

 

ヒイロがそう思った瞬間、彼のいるビルが衝撃音と共に大きく揺れた。

咄嗟に身構えると同時に、周りを見回すことで状況を確認する。

 

「・・・・ビルの内部か。」

 

土煙が上がっているのが見えた。先ほどの衝撃音と照らし合わせるとおそらくビルの壁が崩落、もしくは破壊されたことを察する。

ヒイロはビルの屋上の出入り口からビルに入ろうとした時ーー

 

『貴方!聞こえるっ!?』

「!?」

 

突然、リンディの声が響いた。僅かにくぐもった声になっているため、通信機を介しているのだろうが、通信機の類は持ってきていないはずだ。

 

『ちょっとっ!聞こえているのっ!?返事をしなさい!!』

 

ヒイロが少し狼狽した様子を見せていると、再度リンディの声が響く。

音源を辿ってみると自分がリンディから受け取ったペンダントから声が出ているのに気づいた。

 

「・・・・ああ。聞こえている。」

 

ペンダントに向けてそう返事をすると、リンディの安堵したような声が聞こえた。

 

『ふぅ・・・なら良かったわ。通信機を渡し忘れたって思ったら、貴方のペンダント、というかデバイスに通信を送れるみたいだったから繋げたのだけど、そっちは大丈夫かしら?』

「現時点では問題はない。が、一つ確認したい。ナノハとはどんな奴だ?」

『茶色い髪色に短いツインテールの女の子よ。白いバリアジャケットを着ている子なんだけど、見えないかしら?』

「・・・・ついさっきだが、俺が立っているビルに衝撃音が響いた。これからビル内部に突入する。」

『・・・・あまりいい予感はしないけど・・・無理はしないようにね。』

「了解した。」

 

リンディの心配する声を他所に置いておき、ヒイロは屋上の出入り口のドアを僅かに開き、内部を確認する。

異常がないと確認すると、ドアを開け放ち、ヒイロはビルの内部に突入した。

 

 

 

 

「う、うう・・・・・。」

 

ヒイロがビル内部に突入した同時刻、一人の少女が痛みに顔を歪ませていた。

白いリボンで茶色い髪をツインテールにしている少女の名は、『高町 なのは』。

リンディがヒイロに告げた頼りにしろと言われた人物その人である。

だが、今の彼女の状態は杖にはヒビが入り、術者を守る役目を持つバリアジャケットも解かれ、視界が焦点が定まらず、ぼやけ続ける。彼女自身、まさに疲労困憊といった様子で肩で息をしていた。

そんな彼女に近づくのは柄の長い槌を手にした真紅の装束に身を包んだなのはより年端のいかない少女であった。

 

なのははその痛みに耐えながら、彼女が持つデバイス『レイジングハート』の杖を自分を襲ってきた少女に向ける。しかし、その杖を持つ手は力が入らないのか、カタカタと音を立てて震えていた。

それこそ、軽く払っただけで、彼女の腕は力なく振り払われそうなほどである。

そんなぼやけた視界の中でなのはは少女が自身にとどめを刺そうと槌を振り上げるのを見た。

まさに絶体絶命だった。迫り来るであろう痛みに目を瞑ったその時ーー

 

バンっ!!

 

フロアの扉が勢いよく開かれる音が響いた。思わずなのはは一度瞑った瞳を開いた。

 

「っ!?誰だっ!?」

 

少女は突然の乱入者に声を荒げるが、次の瞬間にはその場を離れ、なのはと距離を取った。

なのはが何事かと思ったのも束の間、視界を何やら四角いものがとんでもないスピードで横切った。

 

(え、今の・・・見間違いじゃなければ、パソコン、だよね?)

 

自身がこのビルに叩き込まれた時、それらしきものが転がっていくのは見えた。

だけど、なのはがそれを確認するよりも早く、自分の体が何者かに抱きかかえられている感覚に気づいた。

 

「あっ!?テメェ!!待ちやがれっ!!」

「ふぇっ?な、なになにっ!?」

 

少女の激昂する声が響く。しかし、自身を抱きかかえている人物はそれに気にかける様子もなく全力でその人物が入ってきたドアとは反対側へと走っていく。

 

「確認する。お前がナノハだな?」

 

そんな中、その人物はなのはに確認するような口調で聞く。しかし、その声は彼女にはとても聞き覚えのある声に似ていた。

故に、彼女は思わずーー

 

「お・・・お兄ちゃん・・・・?」

 

そう、口に出してしまっていた。ぼやけた視界が戻ってきている中で、自分を抱きかかえている人物の顔を見ようとする。

 

「・・・少なくとも、お前のオニイチャンとやらではないのは確かだ。」

 

視界のぼやけが完全になくなると彼女自身の兄とは全く違う顔の人物があらわれた

意識が朦朧だったとはいえ、全くの初対面の人を自身の兄だと勘違いしたなのはは顔を赤くする。

 

「あ・・・・その、はぅぅ・・・・・。」

「魔力もねぇ人間がしゃしゃり出てくんじゃねぇ!!Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)!!」

 

後ろから聞こえてくる声にヒイロが振り向くと少女が指の間に挟めるほどのサイズの光弾を生み出していることに気づく。

 

「・・・・あれは?」

 

ヒイロが疑問気になっているのも束の間、少女はその生み出した光弾を自身の持つ槌で打った。

すると次の瞬間、光弾がヒイロにめがけて弧を描きながら飛来する。まだ僅かに部屋の扉まで距離はある。

 

「・・・誘導弾か。」

「あ、あの!!私が防壁を貼るのでーー」

「問題ない。余裕で避け切れる。」

 

なのはの言葉を制すると、ヒイロは軽々と迫り来る光弾を見切り、初弾と次弾を体を晒したり、ステップなどの必要最小限の動きで避けた。

そして、部屋の扉に手をかけ、入ると同時に扉を勢いよく閉めた。

光弾はそのまま部屋の壁に着弾すると、爆発を起こし、部屋の壁を破壊する。

 

(炸裂弾でもあるのか・・・。広い場所に出るのは悪手か?奴の武器から近接戦闘をメインにおいていると感じたが・・・。)

 

ヒイロは先ほどの光弾についての考察を考える。仮に中距離戦闘もこなせるとあれば、広い場所に出てしまえば、一方的に撃たれることは避けられない。

だが、いつまでもビルの中にいれば、いずれは逃げ場がなくなる。

ヒイロの取った選択はーーー

 

(・・・外に出るか。逃げ場を失うよりはマシか。」

 

ヒイロはそう決めると階段を降りていく。いつまでも少女が待ってくれるとは思えないため、迅速に階段を駆け下りる。

 

「テメェ・・・まさか逃げられるって思ってんじゃねぇだろうな!!」

 

案の定、少女に追いつかれてしまう。だが既にヒイロはビルの外への脱出は完了した。

ヒイロが回避行動をとると少女の槌は空を切る。しかし、その威力は凄まじく、道路のアスファルトを粉々に砕くほどの威力はあった。

 

「ちぃ・・・!!」

「・・・・・。」

 

悪態を吐く少女に対して、冷静な表情を浮かべるヒイロ。

ヒイロのその様子が癇に障ったのか、少女は怒りに身を任せてヒイロに槌を振り下ろす。

しかし、それにヒイロはなのはを担いだ状態ながらも少女のラッシュを捌いていく。

 

「す、凄い・・・・あの子の攻撃を全部避けてる・・・・。」

 

一度少女と距離をとるとなのはの驚嘆する声が上がるがヒイロは特に耳を傾けることはなく、目の前の少女に視線を集中させる。

目の前の少女は自身の周囲に光弾を発生させていた。おそらく先ほどの誘導弾を撃ち出してくるのだろう。しかし、先ほど室内で仕掛けてきたときとは違い、数は増えている。

ヒイロは回避行動をするために足を動かそうとしたがーー

 

 

「っ!?」

「バ、バインドっ!?」

 

ヒイロの足がまるで縫い付けられたように動かなかった。咄嗟に足をみると白銀の魔法陣から出ている鎖がヒイロの足を縛り付けていた。

 

Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)!!」

 

ヒイロが少女の方を見たときには既に光弾はヒイロに襲いかかっていた。

まだ避けれない距離ではないが、足が動かないため避けようがない。

咄嗟になのはを庇うように自分の体を間に割り込ませる。

 

そして、爆発がヒイロたちを包み込んだ。が、ヒイロには衝撃こそ伝わったが痛みを感じることはなかった。

 

「・・・・大丈夫ですか?」

 

かわりにヒイロにとっては聞いたことのある声、なのはにとってはなによりの友の声が聞こえてきた。

二人の前に立って魔法陣のようなバリアを展開していたのは、黒いマントに身を包んだフェイトとその使い魔、アルフ。

そして、緑色のマントを羽織っているユーノ・スクライアであった。

 

「・・・・間に合ったか。」

「フェイトちゃん!!」

「なのは・・・よかった。」

 

軽く息を吐くヒイロに対し、なのはは待ち望んでいた友人との再会を涙を浮かべながら喜びの声を上げる。

 

「アンタ、中々やるじゃないか。」

「借りを返しただけだ。」

 

軽い笑顔を浮かべるアルフにヒイロは表情を変えずに答えた。

アルフはヒイロの近くまで来ると、ヒイロの足枷となっていたバインドを解除する。

 

「ほら。あとはアタシとフェイトに任せな。ユーノ、頼んだよ。」

「わかったよ。とりあえず、ここでは満足に回復が出来ませんので、一度建物の中へ行きましょう。」

「了解した。」

 

ユーノに連れられて、建物中に戻るとひとまずなのはを下ろした。

ユーノはなのはに対して、何か言葉を紡ぐと彼女の周囲を緑色の魔法陣とバリアが覆った。

 

「とりあえず、この中にいると回復するから、ここから出ないように。・・・・なのはを頼みます。」

 

ユーノの頼みにヒイロは無言で頷く。それを見届けたユーノは建物の窓から外へと飛んで行った。

ヒイロはなのはの護衛のために周囲を警戒しながら立っていることにした。

 

「あの・・・・ありがとうございます。」

「お前が気にすることはない。」

 

突然なのはがヒイロに対してお礼の言葉を述べた。

 

「・・・・そういえば、お名前聞いてませんでしたね。私はなのは。高町なのはって言います。」

 

なのはに名前を問われたヒイロは少しばかり考えたが、隠す意味もない以上、話すことにした。

 

「・・・・俺には記憶がない。だから名乗れる名前もない。呼びたければ適当に呼べ。」

「え・・・記憶がないんですか?」

 

ヒイロの言葉になのははキョトンとした表情を浮かべる。

ヒイロは頷きながらそのまま話を続ける。

 

「ああ。どうやら俺は最近まで冷凍睡眠されていたらしい。しかもここではないどこかでだ。たまたま拾われたリンディたちに解凍してもらったが、その時に記憶が吹き飛んだらしい。」

 

ヒイロがそういうとなのはは聞いてはいけないものを聞いてしまったかのように表情を沈ませてしまった。

 

「その・・・ごめんなさい。」

「・・・・フェイトのときもそうだったが、なぜ謝る?」

「え・・・。その、聞いちゃいけなかったのかな、って思って・・・。」

 

なのはの言葉にヒイロはそれ以上、何も言わずに窓枠からフェイトたちの様子を伺っていた。

いつのまにか狼のような奴がいたが、アルフが押しとどめている。

そして、あの真紅の装束を見にまとった少女はフェイトとユーノの二人がかりでその少女をバインドで空中に貼り付けていた。

ほぼ制圧は完了したと考えていい。

その時、ヒイロが首から下げている翼に抱かれた剣のペンダントが朧げに光っていることに気づいた。

 

「・・・・なんだ?」

 

ヒイロはペンダントを手にとって眺める。ペンダントから発せられる光は強くなったり弱くなったりと明滅を繰り返していた。

その様子はまるでーー

 

(・・・・警告している、のか?)

 

 

そう思った瞬間、フェイトに向かっていく薄い紫色の光が見えた。高速で飛来してきたソレはフェイトを弾き飛ばすと真紅の装束に身を包んだ少女の前に立ちふさがった。

その光の正体は騎士装束に身を包んだ女性であった。

その女性は高く剣を掲げるとその手に持つ剣の刀身が焔に包まれた。

その焔を纏った剣でその騎士はフェイトに斬りかかる。

その威力は凄まじく、防御行動を取ったフェイトをビルの屋上に叩きつけるほどであった。

 

「・・・・かなりの腕だな。1対1の状況ではこちらが不利か。」

「や、やっぱり、私が、なんとかしないと・・・・。」

「お前は休んでいろ。そんな体で来られてもユーノ達にとっては逆に迷惑だ。」

「で、でも、それじゃあみんなが・・・・。」

 

バリアの中で杖を支えに立ち上がろうとするなのはを制しながら窓の外を見据える。

 

「・・・・なのは、お前はここから動くな。」

 

 

ヒイロはそういうと胸元にかけられているペンダントを掴む。

リンディ曰く、これもどうやらデバイスという代物らしい。そしてその名前はーー

 

「ゼロ、行けるか?」

 

その名前を呼んだ瞬間、胸元のペンダントが強烈な光を放ち始めた。それは視界が潰されるほどの輝きだった。

 

「・・・・いいだろう。」

 

その輝きを肯定だと受け取ったヒイロの視界は光に塗り潰された。

 

異世界の天使が魔法の世界でその美しい翼を羽ばたかせる。




ようやく、あの機体が出せる・・・・。


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第5話 新たなる起動

相手がガンダムファイターだったらレヴァンティンが折れてた。


「ーーーーーーー」

 

彼の持っていたデバイスから溢れ出ていた光が収まり、目を開けられるほどになってくると、なのはは言葉を失った。

先ほどまで彼がいた場所には人の形をした何かがいた。

背中には二対の翼が二つ。その何かの全身が包まれるほどの大きさはあるその巨大な翼は、天使を連想させる。

その天使は少しばかり自身を確認するような素ぶりを見せると、なのはに体を向けた。

その体は胸元に緑色に輝く宝石のようなものが埋め込まれており、白と青を基調とするツートンカラーの装甲を見に纏っていた。

誰がどうみてもそれはロボットと言える外見であったが、その背中の天使を連想させるような生きているような翼がそのロボットの神々しさを際立たせていた。

 

「・・・・綺麗・・・・。」

 

なのはは思わずそう感想を口からこぼしていた。

 

「・・・・なのは。今、俺はどうなっている?」

 

そのロボットから声がかけられる。その声は先ほどの彼のものであった。

どうやら、自分の状況がうまく把握できていないらしいが、なのはがそのことに気づくまでは数秒を要した。

 

「・・・・・聞いているのか?」

「えっ?う、うん!!えっと、ロボットみたいなんだけど、背中に翼が生えているよっ!?」

「翼、か。飛べるのか・・・?」

 

そう呟いたヒイロが軽く飛んでみると、普通であれば地面に戻るはずの足は宙に浮き続けていた。

 

「・・・・問題ないか。武装は何があるか知らんが、やれることをやるだけだ。」

 

ヒイロはそういうとビルの窓枠に手をかけ、飛び立とうとする。

 

「なのは、もう一度言うが、ユーノ・スクライアが言っていた通り、そこから出るな。」

 

それだけ告げるとヒイロはビルからその翼を羽ばたかせながら飛び立っていった。

 

「私は・・・・。」

 

ヒイロにそう忠告を受けたなのはだったが、その表情はわずかに曇らせたままであった。

 

 

(・・・・おそらくあの集団は一対一の勝負に長けている。そして、一番の実力者はあの紫色の奴か。)

 

そういい、ヒイロは先ほどフェイトを吹っ飛ばした騎士装束の人物に視線を向ける。

その表情は凛としていて、彼女纏っている騎士装束も相まって、出で立ちはほとんど文字通りの騎士だ。

 

「・・・・フェイト、聞こえるか?」

『えっ?この声・・・。貴方なんですか?』

 

ヒイロのデバイスについてある通信機能を使ってフェイトに呼びかける。

彼女は驚きながらだったがヒイロに送り返した。

 

「俺も戦列に加わる。お前と俺であの騎士装束の奴の相手をする。」

『す、少し待ってください!!貴方はデバイスを持っていたんですか!?』

「見ればわかるはずだ。それとユーノには赤い奴の相手をしろと伝えてくれ。」

 

少々一方的だが、フェイトにそう告げるとヒイロは騎士装束の女性の前に立ち塞がった。

 

「・・・・お前は何者だ?」

「知らんな。今の俺には俺自身に関する記憶はかけらも存在しない。」

「ならば重ねて聞こう。記憶がないのであれば、なぜ我々の前に立ちふさがる?」

 

騎士装束の女性はヒイロにその手に持つ剣の切っ先をヒイロに向けた。

返答によってはすぐにでも斬りかかるという暗示であろう。

 

「・・・・理由、か。強いて言うのであれば、お前たちの目的、それはなんだ?」

「・・・・悪いが、それを答えることはできない。」

 

騎士装束の女性がそう言うとヒイロに向けていた剣を上段に構えながらヒイロに向かって突っ込んできた。

普通の人物であれば、反応もできないまま、彼女の持つ剣の錆にされるだろう。

ヒイロはそれを紙一重で避ける。そして、そのまま体を回転させて、カウンターの回し蹴りを打ち込もうとするが、女性は左腕でガードをした。

 

「っ・・・。中々やる・・・。だが!!」

 

その騎士装束を纏っている女性、『シグナム』は左腕でヒイロの足を払いのけながら、さらに肉薄する。

構えは腕を後ろに引き、その切っ先の先端はヒイロに向けられている。

 

「はぁっ!!」

 

シグナムは鬼気迫った声と共に引いた腕を前に突き出し、強烈な突きを放つ。

鍛えられた女性の突きはヒイロが体を晒したため、掠めるに留まった。

 

(この男、いや、先ほどの声の質から見れば少年か・・・?それはそれとして、強い・・・!!反撃はーー)

 

シグナムは反撃を警戒したが、ヒイロは反撃をすることはなく、避けた勢いを利用して、そのまま高度を下げることで距離をとった。一瞬、シグナムはヒイロの行動を疑ったがーー

 

「フォトンランサー、ファイアッ!!」

 

その疑いはその声を自身に飛来してくる黄色の魔力光で構成された槍で晴れた。

視線の先には、先ほど弾き飛ばした黒いマントの少女が見えた。

 

「っ!!この程度っ!!」

 

シグナムは手のひらから防御用の魔法陣を展開する。紫色の魔法陣にぶつかったフォトンランサーはその防壁を貫くことは叶わず、爆発を起こす。

視界が爆煙に包まれるが、その程度で敵を見失うシグナムではない。

すぐさまもう片方に持っていた剣の樋で背後からのパンチを防ぐ。しかし、そのパンチに込められた力は凄まじく、拮抗しているように見えながらも僅かにシグナムの剣が押されているように見えた。

 

(バ、馬鹿な・・・。こちらが片腕とはいえ私が力負けしているだと・・・!?)

 

その現実にシグナムは表情には出さないものの内心は驚愕に打ちひしがられていた。

仕掛けてきた主を見ると、そこにいたのはヒイロであった。

ヒイロはさらに腕に力を込めようとするが、先にシグナムがバックステップで後退したため、ヒイロは一度フェイトと合流する。

 

 

「・・・・やっぱり一筋縄では行きませんね・・・。」

「そうだろうな。それに奴はまだ本気を出していないように感じる。近接戦闘では奴に軍配があがる以上、気をつけろ。」

「・・・分かりました。ところで、貴方は一応あの人で間違い無いんですよね?」

 

自分のデバイスである『バルディッシュ』をシグナムに向けて構えながらのフェイトからの確認にヒイロは軽く頷いた。

 

「ああ。一応、リンディからこれはデバイスだと聞いて返してもらっていた。あまりデバイスについてはよく知らんが。」

「分かりました。ですが、できればこっちの話も聞いて欲しかったです。突然言われても、いきなりすぎます。」

「・・・・・・・わかった。記憶には留めておく。」

「・・・・本当ですか?」

 

フェイトが訝しげな視線を向けるが、等のヒイロは顔が装甲に覆われてしまっているため、その表情を伺うことはできなかった。

 

「中距離からの援護を頼む。近接戦闘は俺がやる。」

 

ヒイロはフェイトにそれだけ言うと背中の翼を羽ばたかせながらシグナムに突撃していった。

 

「え、ちょ、ちょっと!?さっき私が言ったこと、何にも覚えていないじゃないですかっ!?」

 

フェイトはヒイロに驚きと困惑を含んだ声をあげるが、当のヒイロは既にシグナムとのクロスレンジでの戦闘を行ってしまっている。

 

「て、手のかかる人ですね、本当に!!」

 

ヒイロの振り回しっぷりに苦い表情を浮かべながらもフェイトは自身の周囲に魔力で編まれた光弾を生成する。その数は徐々に増えていき、最終的に先ほど放ったフォトンランサーの数の倍近くを作り上げていた。

 

Photon Lancer Multishot(フォトンランサー・マルチショット)!!ファイアッ!!」

 

フェイトがバルディッシュを振り下ろすと、光弾は槍の形を成しながら、シグナムを狙い撃つ。

シグナムは飛来するフォトンランサーを迎撃、もしくは避けるために回避行動を取ろうとするが、ヒイロがさながら逃すまいと言っているように近接戦闘を仕掛ける。

しかし、ヒイロはその格闘戦の中、シグナムは己の剣のギミックと思われる箇所に何やら二つほど細長いものを入れているのが見えた。

それはまるで、弾丸のように見えたソレがシグナムの剣が飲み込むと、突如として、衝撃波がヒイロを襲った。

 

「っ!?」

「まさか、ただ距離を取るためだけにカードリッジを使わされるとはな・・・。」

 

その衝撃波の圧は凄まじく、ヒイロが吹き飛ばされるほどであった。ヒイロが態勢を整えた時には既にシグナムはフォトンランサーの弾幕を切り抜け、フェイトに肉薄していた。

フェイトはバルディッシュで彼女の剣を受け止めるが、力の差が浮き彫りだったため、フェイトは再度、吹き飛ばされ、ビルの壁に叩きつけられた。

 

「っ・・・・無事か?」

『大丈夫・・・・。まだ、やれる。』

 

無事の確認をすると、フェイトから念話で帰ってくる。どうやらとりあえずは無事なようだ。

しかし、現状としてヒイロ一人でシグナムの相手ができるかどうかははっきり言って不確定要素が多かった。

だからと言って、フェイトが戻ってくるまでただ待つ訳にはいかない。

ユーノとアルフはどうやら結界を破るために動いているようだが、赤い奴とやけに大きい狼がそう易々と行動を許してはくれない。

ヒイロが状況を整理しているなか、視界の端に突然ピンク色に輝く魔法陣が見えた。

 

何事かと思って見てみれば、あるビルの屋上に自身の杖を構えて立っているなのはの姿があった。

 

「・・・・何をするつもりだ・・・っ!?」

 

疑問気な表情を浮かべながらなのはのその様子を見た瞬間、ヒイロの頭に突如として激痛が走った。

それと同時に流れ込んでくるビジョン、否、ビジョンと言ってもそれは生々しいものではなく、さながら未来を見ているような感覚だった。

思わず頭を抑えながら、そのビジョンを見ると、衝撃的な光景が映っていた。

 

なのはが魔法陣から放ったビームが結界を貫いて粉々に打ち砕いている光景だった。

それはいい。問題はそのなのはの胸部から何者かの腕が出ていたことだ。その腕の中には光り輝くものがあったように見えたが詳しいことはわからなかった。

なのはが結界を破壊した後、胸部から突き出た腕も消え失せたが、なのははその場にうつ伏せで倒れた。

 

ヒイロはこのビジョンに見覚えがあった。だが、見覚えがあったのはなのはのビジョンではなく、そのビジョンを見せるという現象そのものに対してあった。

 

「なん・・・だっ!?これ・・・は・・・?俺は、これを知っている・・・っ!?」

 

痛みに耐えながらもなのはの方を見やる。まだなのははにはなんの異常も見られない。なのはの魔法陣から生成される巨大な光弾は徐々にその大きさを広げていく。

その時だった。彼女の胸部にビジョンで見た何者かの腕が貫いた。

突然の出来事になのはは何が起こったのかわからないと言った驚愕の表情を浮かべていた。

 

「っ・・・・!!おおおおっ!!!」

 

痛みに耐えながらも翼を羽ばたかせ、なのはの元へ直行する。ヒイロ自身、気づくことはなかったが、その速さは一瞬とはいえ突風を生み出すほどであった。

明らかに人間が耐えられるスピードを出したヒイロに周りの人物は反応することが出来ずに呆けた表情を浮かべるだけになった。

 

瞬く間になのはの元へ駆けつけたヒイロは彼女の胸部から突き出た腕を手を伸ばした。

 




ヒイロはゴリラの10倍くらいの握力がないとへし折れない鉄骨を容易く折りやがります。
あとはまぁ、お察しかも知れないっす。


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第6話 介入する天使

ヒイロは次々と現れる突然のビジョンに頭を苛まれながらも視線をなのはに現れた『異常』を見つめる。

それはなのはの胸部から突如として出現した緑色の何者かの腕。

少し観察するとその腕は物理的になのはを貫いているわけではないようだ。その証拠として彼女から出血のようなものは感じられない。

 

(となれば、魔術的な何かによる干渉か・・・?)

 

リンディからある程度魔力について聞いておく必要があるな、と心の中で決めながらなのはに駆け寄る。

ヒイロが近づいてきたことに気づいたなのははその辛そうにしている表情を彼に向けた。

 

「お・・・お兄・・・さん・・?」

「・・・・少し待っていろ。お前はそのまま、砲撃準備を進めろ。」

 

ただそれだけを伝えるとヒイロはなのはの胸から出ている腕に手を伸ばす。

 

「な、何を・・・・?」

 

ヒイロの手がその腕を掴み、なのはがそう疑問気に呟いた瞬間ーー

 

バキィっ!!!!

 

「え・・・・?」

 

なのはは一瞬何が起こったのが理解できなかった。骨が砕けるような音が響いたと思えば、自身の胸から出ていた腕が曲がってはいけない方向に折れていた、というよりそれはもはや腕としての機能を果たさず、ダランと垂れていた。

もちろん、やったのは目の前にいる人物だとは察せる。

 

「い、一体、何を・・・?何をしたんですかっ!?」

 

なのははその目の前にいる人物に驚きとわずかな恐怖を帯びた視線を向ける。

無理もないはずだろう。なのはは確かに戦闘の経験はある。しかし、それは魔法を介し、なおかつ非殺傷設定という人がほとんど傷つかないというものであった。

だが、目の前で起こったのは明らかにそれとは常軌を逸脱したものであった。

 

「・・・・奴の腕の骨を、粉砕した。」

 

ありえない。そんな言葉がなのはの中で渦巻く。

殴るや蹴るといった傷害行為を誰かに行われた結果、骨が折れたのならわかる。だが、彼は掴んだ、もしくは握ったことしかしていない。つまり、目の前の人物は握力だけで骨を砕いたのだ。

明らかに人体に出来る枠組みを超えた行為になのはは本能的に恐怖を抱いてしまう。

 

 

「あ、貴方は・・・一体・・・?」

「俺は・・・・俺は・・・・・!!」

 

なのはに自身の素性を問われた瞬間、ヒイロの頭痛が悪化した。

思わず掴んでいた腕を離し、うめき声を上げながらなのはから距離を取った。

 

「うっ・・・・ぐっ・・・ああっ!!」

 

流れ込んでくるのは相変わらずビジョンで変わりはない。だが、内容が先ほどなのはの姿を見たものとは異なっていた。

何かロボット・・・・いやMS・・・・それも違う。『ガンダム』を駆る自分がシャトルを墜としているビジョン。そして、隣にいる男、名前は・・・名前は・・・確か、『トロワ・バートン』だったはずだ。その男と共に、誰かの墓に手を合わせていた女性・・・俺が偽の情報に気づかずに殺したノベンタの娘だったか・・・。

ビジョンは俺がガンダムを自爆させていたり、戦場で自分が戦う理由を求め、彷徨っていたころなど、凄まじい勢いで切り替わっていく。

 

これは、俺の・・・・記憶、なのか・・・?

 

『命など安いものだ。特に、俺のはな。』

 

『ゼクス!!強者などどこにもいない!!人類全てが弱者なんだ!!』

 

『俺はあと何回、あの子とあの子犬を殺せばいいんだ・・・?』

 

『俺はもう誰も殺さない・・・。殺さなくて済む・・・・。』

 

・・・・間違いない・・・・これは俺の記憶だ。

俺の記憶であれば、俺自身の名前もあるはずではないのか?

 

『ーーー!!!』

 

ーーーーーそう、か。俺の、俺の名前はーーーー

 

(・・・・感謝する。リリーナ。)

 

 

 

 

 

「だ・・・大丈夫ですかっ!?」

「俺に・・・構うな・・・!!」

 

なのはは思わず声をかけるがヒイロは指をさしながら拒絶する。

指をさした先には発射のタイミングを今か今かと待ちわびているようにも見える魔力の塊があった。

 

「そ、そうだ・・・。今は、結界の破壊を・・・。」

 

心配そうな視線をヒイロに向けながらも、なのはは魔力の塊に向けて、自身の杖である『レイジングハート』を振り下ろす。既に彼女の胸部から突き出ていた腕は微塵もなかった。

 

「スターライト・・・・ブレイカーーーーーッ!!!!」

 

振り下ろされた杖と同時に魔力の塊からピンク色の爆光が結界に向かって飛んでいく。

その爆光の威力は凄まじく、結界を粉砕してもなおその威力に衰える様子を見せずに空の彼方へ消えていった。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・・・。リ、リンカーコアから、だいぶ魔力が吸われちゃった・・・・。もう・・・立っているのも、やっと・・・・。」

 

荒い息を吐き、自身の杖を支えにしながらもなんとかその場に立ち続けるなのは。

 

「なのはーーー!!!」

 

そんな彼女に駆けつけたのはなのはに取って一番大事な友人であるフェイトだった。

何度かビデオレターによるやりとりはしていたが、実際にあったのはおよそ半年ぶりだ。

待ち望んでいた友人との再会になのはは表情が自然と緩んだ。緩ませながらも軽く空を見上げてみれば、先ほどまで自分たちを襲ってきた人物はいなかった。おそらく撤退したのだろうと思い、フェイトに視線を向けた。

 

「大丈夫だった!?」

「う、うん。なんとか・・・お兄さんが、助けてくれたからーーー」

 

そこまで言ったところで、なのはは咄嗟にヒイロを探した。

少し周囲を見回すとビルの壁に寄りかかっているヒイロがいた。

だが、先ほどまで展開していた純白の翼と青と白のツートンカラーの装甲を持ったデバイスは解かれていた。

ただ、その表情は顔を下に向けられていたため、伺うことができないのは変わらなかったが。

 

「あの・・・大丈夫・・・・ですか?」

 

なのはは先ほどの腕を粉砕した出来事があったのもあり、わずかばかり気が引けた声でヒイロに声をかける。

 

「ーーーーーだした。」

「え・・・・・?」

 

ヒイロの呟きをなのはは耳にしたが、内容はよく聞こえなかったがために思わず聞き返した。

 

「全て、思い出した。記憶や、俺自身のことを。全てを。」

「・・・・・記憶、戻ったんですか?」

 

フェイトの確認とも取れる問いかけにヒイロは静かに頷いた。

ちょうどそのタイミングでユーノとアルフが駆けつける。

 

「なのは!!大丈夫!?」

「フェイトも、大丈夫かい!?」

「私は、大丈夫。だけど、なのは、リンカーコアから魔力を吸収されたみたいだったけど・・・。」

「うん。お兄さんが、なんとかしてくれたから持っていかれた魔力は少しで済んだよ。」

 

ユーノとフェイトの心配そうな視線を受けたなのはは心配させないためか笑顔を浮かべた。

・・・・もっとも、レイジングハートを支えにしているため説得力は皆無だったが。

ユーノは眉間に指を当てながら手に緑色の魔法陣と魔力の塊の生成を始める。

 

「とりあえず、一度アースラに戻ろう。それとなのはは一度検査を受けた方がいい。何も影響がないとは言えないからね。貴方もそれでいいですね?」

「・・・・問題ない。リンディにも話があるからな。」

 

ヒイロが頷いたことを確認するとユーノは手のひらにあった魔力の塊を増大させる。

視界が光に包まれ、程なくして晴れてくるとヒイロたちはアースラの管制室に戻ってきていた。

管制室には既にリンディの他、クロノといったアースラのメンバーが待っていた。

 

「リンディ、話がある。」

「・・・・・分かったわ。ちょうど私も貴方に聞きたいことがあったから。」

 

ヒイロがそういうとリンディは少々重い表情を浮かべながらそれに応じた。

 

 

 

 

 

「っ・・・・ふっ・・・・・ううっ!!」

 

海鳴市の一軒家、『八神』と表札が出ている家で一人の女性が自身の左腕を別の人物に支えてもらいながら回復魔法をかけていた。

その真っ赤に腫れ上がった左腕はとても痛々しかった。さらに言えば別の人物に支えてもらわなければダランと脱力したように垂れ下がってしまう有様だった。

 

「な、なぁ、シャマル、大丈夫か?」

「じ、時間はかかるけど・・・回復魔法は効いているわ。ありがとうね、ヴィータ。」

 

シャマルと呼ばれた緑色の修道服のような服を着た女性はなのはを襲った紅色の装飾を纏った少女、ヴィータに張り詰めた笑顔を向ける。それがやせ我慢であることはヴィータはおろか、他の二人のシグナムとザフィーラにもわかりきっていた。

 

「・・・・まさか、あの天使があそこまでの怪力を持っているとはな。」

「・・・・我らヴォルケンリッターは人の形を持っていても普通の人間を逸脱した力を持っている。それは耐久性もなおのこと。いくらシャマルが戦闘向きではないとはいえ、その腕の骨を粉砕するほどの力。この先、我々にとっての障害になりかねん。」

 

ザフィーラがそういうとシグナムは静かに頷いた。

この先、あの天使は自分たちにとって、障害以外の何物でもない。魔力がふんだんに持っているのであれば、苦労に見合うものがあるかもしれない。

だが、ヴィータの話でその天使は魔力を一切持っていないことが明らかになった以上、その天使と戦うのは文字通りの骨折り損となる。

 

「・・・・あの天使が出てくれば、私が相手をするほかないだろう。」

「やはり、そうなるか・・・。」

 

シグナムの言葉に今度は難しい表情を浮かべるザフィーラ。

ただでさえ本来の目的を達成できるかどうかが不透明となりかけている今、魔力を持たない上に、目的完遂の障害となる天使は邪魔以外の何物でもない。

 

「・・・・悪い、シグナム。アタシがもっとうまくやれれば・・・。」

 

シャマルの腕を支えていたヴィータが表情を暗くする。

ヴィータは確かに強い。彼女らヴォルケンリッターの中でアタッカーの役割を果たせるほどの実力はある。

切り込み隊長として、彼女の性格と戦闘スタイルはまさにうってつけであった。

しかし、それは十全に機能すればの話である。いくら振るう武器が優秀であろうと当たらなければそれはただのナマクラでしかない。

事実として加減があったとはいえヴィータはその天使に完全に抑えられ、管理局が介入する時間を稼がれてしまった。

その事実がヴィータに怒りや仲間をやられた恨みとして積もり、天使にその矛先が向けられる。

 

「・・・・ヴィータが気にする必要はない。結果としてあの天使は強かった。それだけのことだ。」

 

まさに憤怒といった表情をするヴィータにシグナムは優しげな声色で静止の声をかける。

ヴィータはそれに子供扱いされたのか少々ムッとした表情をあげるが、少なくとも怒りにまみれた表情ではなくなった。

 

「シャマル、今日でどれほどページが進んだ?」

「えっと、ザフィーラ、代わりに開いてくれるかしら?」

 

シグナムはまだ治癒魔法をかけているシャマルにそう尋ねるとザフィーラに代わりを頼んだ。

彼はシャマルのそばに置いてあった本を手に取り、ページをめくっていく。

その本は茶色い表紙に剣十字の意匠が施されている代物であった。

 

「・・・・ざっと15ページといったところだ。天使の介入がなければ30、40はくだらなかっただろう。」

「・・・・中々大きい失敗だったな・・・。闇の書の蒐集は同じ相手にはできないからな。」

 

闇の書。それは時空管理局において、一級のロストロギアに指定されている危険物である。

シグナムは少しばかり考え込む表情を浮かべると他の三人に向けて言い放った、

 

「・・・・主の侵食は今はまだ症状が進んでいないらしいが、いつ進行するかはわからない。場合によっては他の次元世界へ赴く必要が出てくるかもしれん。」

 

そのシグナムの言葉にヴィータたちも表情を重いものに変えながら頷いた。

 

 

 

 

ところ代わり、同時刻のアースラではヒイロがリンディたちアースラの乗組員に自身の素性を説明していた。

自身のこれまでの戦いや行ってきたこと。それら全てを多少のぼかしを交えながら説明した。

ぼかしを入れたのはこの場になのはとフェイトがいるというのも大きかった。

彼女らは戦闘自体は経験しているが、それはある程度の命が保証されているものだ。

しかし、ヒイロが経験してきたのは本物の戦争。命の保証などどこにもないものだった。

そんな凄惨なことを目の前の少女に教えるわけにはいかなかった。

 

「・・・・・アフターコロニー、ね。それと、宇宙に居を構えた人たちと地球による人類同士の大戦争。おおよそ、なのはちゃんたちの地球で起こったものとは思えないわね。」

「・・・・俺はいわゆる平行世界の人間、という部類に入るのだろう。なのはの世界を軽く思い返すととてもではないが戦争の傷跡のようなものは見えなかった。」

「それで、君は他の仲間達と共に、『ガンダム』と呼ばれる兵器に乗り込んで戦った。あの翼を持った姿は君が乗り込んだ兵器、という認識でいいのかな?」

 

クロノの言葉にヒイロは首を横に振った。怪訝な表情を浮かべているクロノにヒイロは説明を続ける。

 

「いや、厳密に言えばそれは違う。あの機体、ウイングゼロは俺たちが乗った機体の大元、いわばプロトタイプだ。もっともプロトタイプとしては異常な性能だがな。」

「・・・・そのウイングゼロの性能とかのそこら辺は教えてくれないのかしら?」

 

リンディの要請にヒイロは再び首を横に振った。

 

「・・・・お前達を信じていないわけではない。だが、この機体の特性や技術を教え、技術漏洩が発生した場合、技術的なブレイクスルーを起こしかねん。そうなれば、間違いなくどこかでテロが始まる。それがきっかけとなり平和だった時代は崩れ、最悪全ての次元世界を巻き込んだ戦争にもなりかねん。」

 

ヒイロの真剣そのものといった表情にリンディは理解の表情を浮かべた。

 

「わかったわ。貴方の気持ちを鑑みて、これ以上の詮索はしないわ。こちらからも貴方の許可なくして、ウイングゼロの解析は行わないと約束する。」

「・・・・・感謝する。それともう一つ頼みがある。」

 

ヒイロの言葉にリンディは疑問気な表情を浮かべる。

 

「どうやら俺はギル・グレアムという男に預かってもらうという話が上がっているらしいのだが、断らせてくれ。」

「・・・・理由を教えてくれるかしら?」

「・・・・あの騎士装束の奴らの目的が知りたい。ゼロの予測だと、あのままでは奴らに未来はない。」

「ゼロ・・・・?ウイングゼロのこと?」

「・・・・ああ。」

 

もっとも厳密に言えば、違うのだが、ヒイロはそれ以上は口を噤んだ。

 

「・・・・・わかったわ。グレアム提督には話を断るいこうを伝えておくわ。それと時空管理局には貴方をアースラ所属の民間協力者として申請しておく。」

「・・・・世話になる。」

「それでなんだけど、そろそろ貴方の名前を教えてくれるかしら?記憶を取り戻したのなら名前も思い出しているんじゃないかしら?」

 

リンディにそう言われ、ヒイロは少しばかり考え込む表情を浮かべた。

 

「・・・・ヒイロ・ユイだ。よろしく。」

 




さーて、どんどん原作がぶっ壊れていくぞー(白目)

ま、いっか。原作はぶっ壊すものだし。


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第7話 未来への布石

「ゼロ、各部兵装の状況を教えろ。」

 

ヒイロはリンディから充てがわれた自室で一人、ウイングゼロにそう呼びかける。

すると、待機状態のゼロから各武装の詳細が表示される。

 

(・・・・ビームサーベル、問題ない。守護騎士とかいう奴らの戦闘でも使用は可能か。)

 

リンディとクロノからある程度騎士装束の人物達の詳細を教えてもらった。

奴らは第一級ロストロギア、『闇の書』のプログラムの一種とのことだ。その守護騎士は主の命に従い、行動を行う、とのことだった。ここのところ管理局員が何者かに魔力を奪われるという事件が発生しているらしいが、それはあの守護騎士達が主犯格であるとのことだ。

 

(奴ら、守護騎士の目的は闇の書の完成とのことだが、完成させればロクでもないことが起こるのは確かなようだ。)

 

闇の書は出現したばかりのころはページには何も書かれていない魔導書である。

しかし、他者からの魔力を奪うことでそのページを埋めていき、全てのページが満たされた時、闇の書は完成する。

先ほどの戦闘の時に砲撃魔法を撃とうとしていたなのはの胸部から突き出ていた腕はその手の中に何か光るものがあった。リンディに聞いてみればあれは『リンカーコア』というもので人間でいう魔力を生み出す臓器のようなものらしい。

守護騎士はそのリンカーコアから魔力を奪うことで闇の書のページを埋めているとのことだ。

 

だが、ヒイロにはその闇の書そのものよりも守護騎士達の方に違和感を持っていた。それはゼロが守護騎士達に未来はないという予測を出したというのもあった。

 

 

 

(・・・一見するとかつての俺たちのような、ただ命令に従う兵士のような奴らかと思ったがーー)

 

ヒイロは少し前に行われた闇の書についての説明を行なっていた際の光景を思い返していた。

ヒイロがなのはの救援に向かう前、紅い守護騎士から襲撃を受けたなのははある程度の抵抗はしていたとのことだ。

その際にその紅い守護騎士が被っていた帽子を落とした時、その守護騎士が怒りの表情を浮かべたとのことだった。その守護騎士にとって、その帽子はとても大事なものだったのだろうと推測は容易い。

 

(奴らは感情がない、ただ言われるがままのプログラムという訳ではない。おそらく、人間となんら変わりもない。それにあのリーダーと思われる守護騎士も俺が目的を聞いた時、『悪い』と前置きを置きながら話せないと言っていた。)

 

普通であれば、主人の命で話すことはできないなどの理由で言わないだろうと思っていた。

だが、『悪い』と思っているということは奴らに感情がないという訳ではない。

自身がやっている行為に罪悪感を抱いている。そういうことだ。

 

(ならば、奴らは魔力の蒐集を自分たちの主人に嫌々やらされているか、もしくは自分たちの意志でやっている・・・?)

 

守護騎士達の目的を考えながらもマシンキャノンや各部スラスター、自爆装置といったウイングゼロの武装データを見ていくとある一点で目が止まった。

それはウイングゼロのメイン武装である『ツインバスターライフル』の欄であった。

 

「ツインバスターライフルにリミッターが設けられている?」

 

ツインバスターライフルの出力は自由に調節が可能だ。本来はリミッターは設けられていない筈だ。そう思ったヒイロはツインバスターライフルの詳しい詳細を調べた。

 

(・・・・出力の限界が下がっているな。どういうことだ?)

 

本来の、ウイングゼロがMSだったころのツインバスターライフルの出力はコロニーを一撃で破壊するほどのものだった。しかし、こうしてデバイスとして形になった今、ツインバスターライフルの限界出力は下がり、それ以上の出力を出そうとするのであれば、リミッターを解除する必要がある、ということであった。

 

(・・・・MSからデバイスに無理やり変化したことから起こる不具合か・・・?まぁいい。それほどの出力を使う時はおそらくないはずだ。)

 

できれば使うことがないようにと、思っているとヒイロは突然ウイングゼロのデータを一度閉じた。

そして、扉の方に視線を向けるとーー

 

「鍵は開いている。入るなら入ってこい。」

 

そういうと少しばかり時間が開いた後、扉が開いた。そこから申し訳なさげな表情を浮かべながら出てきたのはフェイトであった。

 

「・・・・よ、よく分かりましたね・・・・。」

「俺は兵士だったからな。その程度、熟せなければ俺はとっくに死んでいる。」

「そ、そうですか・・・・。」

 

ヒイロのその言葉にフェイトは引き気味の表情を浮かべてしまう。

 

「それで、来た理由はなんだ?」

 

ヒイロはフェイトのその表情に気を止めることなく要件を尋ねた。

 

「その、さっきの守護騎士との戦闘で、貴方に任せきりになってしまったこと。それとあの守護騎士にクロスレンジで圧倒されたことがどうしても悔しくて・・・。それで貴方にお願いしたいんです。」

 

フェイトは真剣な表情を浮かべながらそういうとヒイロに対して頭を下げた。

 

「ヒイロさん。お願いします。私の特訓に付き合ってくれませんか?」

 

ヒイロはフェイトのお願いに少々思案に耽っていた。フェイトの思いは本物であることは先ほどの表情みれば明らかだった。

 

「・・・・一つ条件がある。治せる傷は治しておけ。僅かに腫れているぞ。」

 

そういうとフェイトは咄嗟に自分の左手首を抑えた。

その反応を見たヒイロは軽く呆れた視線をフェイトに向ける。

 

「怪我をした上で特訓を重ねても患部を余計に悪化させるだけだ。自己管理くらいは常に徹底しておけ。なのはの検査と一緒に医者に処置をしてもらうといい。」

 

ヒイロはそう言って椅子から立ち上がるとフェイトの横を通り過ぎて部屋を出ようととする。フェイトは驚いた表情を浮かべながらヒイロを追った。

 

「あ、あの、特訓の方は・・・!?」

「条件は言った。後はどうするかはお前次第だ。」

 

それだけ告げてヒイロは部屋を出て行った。部屋の主が居なくなった部屋でフェイトは嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「・・・・ありがとう、ございます。」

 

部屋を出た後のヒイロはこんなことを考えていた。

 

(・・・・プランは、過度なものにするわけには行かないな。)

 

フェイトに自分と同レベルの訓練を行えば、強くはなるが確実に心の面で持っていかれる。

自分自身と同じ兵士をまた作るわけには行かないと難しい表情を浮かべながらアースラ艦内の廊下を歩く。

少し歩いていると見知った人物と鉢合わせた。

 

「・・・・リンディか。」

「あら、ちょうどよかったわ。」

 

ちょうどいい、とはどういうことだろうか?そう思ったヒイロはリンディに尋ねることにした。

 

「・・・・何か俺に用か?」

「これからアースラはメンテナンスで時空管理局の本局へ向かうのだけど、その時にグレアム提督、貴方を引き取ろうとしていた人が会ってみたいって言うのだけど、どうかしら?」

「ギル・グレアムが・・・・?」

 

ヒイロは最初それを断ろうとした。しかし、思い返してみればアースラがメンテナンスに入る以上、艦内に残ることは許されないだろう。

 

「・・・・・了解した。だが、俺から話すことは何もない。」

「そこら辺は大丈夫よ。クロノやなのはちゃん、それにフェイトちゃんも同席するから。」

 

断る理由がないと判断したヒイロは素直に応じることにした。

 

(なのは達が同席するのであれば別に問題はないか。)

 

 

 

 

しばらくして、アースラはメンテナンスのために時空管理局の本局へと帰港した。

案の定、アースラ艦内に残ることは許されなかったため、ヒイロはなのは達の検査が終わるまでクロノやリンディ達と行動を共にしていた。

 

「なのはちゃんの検査の結果が来ました。」

 

そう言ってきたのは手に検査の結果が記されていると思われるバインダーを持っているエイミィだった。彼女はそのままバインダーをみながら検査の結果を伝え始める。

 

「結論から言えば、怪我自体は大したことはないそうです。ただ少しばかりリンカーコアが縮小しているということでしたが、ヒイロ君が途中で妨害してくれたのが功を奏したのか、それも時間経過で元に戻るそうです。」

「そう・・・。となるとやっぱり一連の事件と同じでいいって言うわけね。」

 

リンディが言った一連の事件、というのは魔導師が襲撃され、魔力が蒐集されるという守護騎士達が起こしている事件で間違いはないだろう。

 

「はい。それで間違いはないようです。」

 

そういうとエイミィは少しばかり表情を苦いものに変えた。

 

「休暇は延期ですかね。流れ的にウチの担当になってしまいそうですし。」

「仕方ないわね。そういう仕事なんだから。」

 

二人がそこまで話したところでヒイロは少々気になったことを尋ねた。

 

「・・・・フェイトの方はどうなんだ?」

 

そう言った瞬間、クロノを含めた三人の表情が意外そうな視線をヒイロに向けた。ヒイロはその視線に疑問を覚えた。

 

「・・・・なんだ?」

「い、いや、そのなんだ。君がそういう誰かの容体を心配するのは珍しいと思って、ね。」

「・・・・あいつから特訓を手伝って欲しいとせがまれたからな。他意はない。」

 

クロノにそう言われるとヒイロは視線を逸らしながらそう答えた。リンディは納得といった表情を浮かべながら、ヒイロにこう伝えた。

 

「それなら、クロノと一緒に迎えに行ってあげたら?なのはちゃんの病室もちょうど同じだったはずだし。」

「・・・・・了解した。」

 

微笑みながらそういうリンディに鋭い視線を向けながらもヒイロはそれを了承した。

クロノと共にエレベーターを降り、廊下を進んでいく。

 

「なぁ、ヒイロ。君は元の世界では兵士として戦ってきたんだよな?」

「藪から棒だが、その通りだ。」

 

廊下を歩いているなか、クロノが突然そんなことを聞いてきた。ヒイロがそう答えるとクロノは少々難しい表情をしながら続けて尋ねる。

 

「それは、その・・・いつからなんだい?」

「・・・・・・・・・。」

 

クロノの質問にヒイロはしばらく黙っていた。話したところで反応が見えていたからだ。

 

「俺は、物心ついた時には既にこの手に銃を握っていた。そこからは何人もの人間を殺してきた。・・・・それしか生き方を知らなかったからな。」

「っ・・・・それは、すまないことを話させた・・・。」

「お前が気にする必要性はどこにもない。同情しているのであればむしろ迷惑だ。」

「う・・・・。それも、そうだな・・・・。すまない・・・。」

「・・・・・面倒な奴だ。」

 

わかりきった反応を見せたクロノにヒイロははっきりと不快感を伝える。

 

「それで、フェイトのことなんだが、よろしく頼む。」

「・・・言いたいことはそれだけか。さっさと最初から言え。」

「・・・・君、時折そのトゲのある言い方で誰かを怒らせたこととかない?」

「俺は事実を述べているだけだ。」

 

若干目が笑っていない笑顔を浮かべるクロノだったが、ヒイロは特にこれといった反応を見せずに淡々と言葉を返した。

そうこうしている間にフェイトの病室に差し掛かったのか、部屋から出てきた彼女が視界に入った。

 

「クロノ・・・それにヒイロさんも?」

「怪我の具合はそれほど悪くないみたいだな。」

 

クロノが怪我の度合いを尋ねるとフェイトは申し訳なさげな表情を浮かべる。

 

「その、ごめんなさい。心配かけて・・・。」

「まぁ・・・君となのはで慣れたよ。気にするな。」

 

クロノはフェイトの謝罪に乾いた表情を浮かべながらそう答えた。

ヒイロは特にこれといった反応を見せることはなかったが、フェイトからの視線が来ていることに気づいた。

 

「・・・・・・。」

「えっと、その・・・・。」

 

フェイトが気まずそうな反応を見せているとヒイロは少しばかり疲れた目を見せる。

 

「・・・プランは考えてある。だが、今は怪我の完治を最優先にしろ。それだけだ。」

「っ・・・・はい!!」

 

ヒイロがそういうとフェイトは目を輝かせながら頷いた。

 

「え、えらく慕っているんだね、彼のこと。結構言動とかにきついものがあるって思っているんだけど・・・。」

「そう、かな?優しい人ですよ、ヒイロさんは。」

 

フェイトのその言葉にクロノは半信半疑でヒイロに視線を移した。

移した先にはーー

 

「ちっ・・・・・。」

 

僅かに気恥ずかしそうに舌打ちをしながら顔をそっぽに向けるヒイロの姿があった。

 

(・・・・・図星か。)

 

割とかわいいところもあるんだな、この人。そう思うクロノであった。

 

 

 




ヒイロは搭乗機に自爆装置がないと不安になるらしい。


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第8話 変革への道筋

うーん、話が中々進まない・・・・


フェイトと合流したヒイロ達はなのはの病室へと足を運んだ。

病室の扉を開くとちょうど医師がベッドに腰掛けているなのはの容態を確認しているところだった。

その医師は何かクロノに用があったらしく、彼を部屋から連れ出し、病室の中にはなのはとフェイト、そしてヒイロが残された。

 

「なのは、体調は大丈夫?」

「うん。リンカーコアもあと少し休んだら元の大きさに戻るって医師の人が言っていたよ。」

 

フェイトがそう尋ねるとなのはは表情を笑顔にする。どうやら大事には至るようなことはないようだ。フェイトも表情を綻ばせて、安堵感を露わにする。

 

「そっか・・・。よかった。」

「ヒイロさんも助けてくれてありがとうございます。」

 

なのはからお礼を言われるが、ヒイロは壁に体を預け、腕を組んだまま軽く視線をなのはに向けるだけで特に言葉は返さなかった。

 

「あの、ヒイロさん、少し質問してもいいですか?」

「・・・・なんだ?」

「ヒイロさんがアースラで素性を話した時、襲ってきた人達、守護騎士に未来はないって言ってましたけど、それは一体どういう意味なんですか?」

 

なのはが言っているのはヒイロがゼロシステムを起動させた時に見た未来のことだろう。ヒイロはなのはの言葉に答えるかどうか少しばかり逡巡する。

 

「・・・・そのままの意味だ。このまま奴らが魔力の蒐集を行うのであれば奴らは死ぬ、というより消滅する。」

 

ヒイロが『消滅』という言葉を使ったのは訳があった。ゼロシステムが見せたビジョンにはその守護騎士達と思われる人物の体が光となって消えていく光景があったからだ。

ヒイロのその言葉になのは達は驚きの表情を浮かべた。

 

「そんなっ・・・!?じゃあどうしてあの人達は魔力を集めているんですかっ!?」

「ヒイロさん、私も気になります。」

 

なのはの悲鳴のような声と対称的なフェイトの物静かな声が病室に響く。

 

「・・・・奴ら、というよりあの紫色の騎士装束の奴は俺が目的を聞くと答えられないと言った。」

「それは・・・当然ですね。わざわざ敵に目的を明かすとは思えない。」

 

ヒイロの言葉にフェイトは同調の意志を示す。フェイト自身、なのはと初めて会敵した時は目的を伏せていた経験からくるものだった。

 

「だが、着目するのはこの前だ。騎士装束の奴は前置きに『悪い』とつけた。つまり奴の心情に罪悪感、ないしはそれに準ずるものが含まれているという裏付けに他ならん。」

「罪悪感・・・・?ということは嫌々やっているっていうことですか?なら、説得することもできるんじゃ・・・。」

「そちらの線も捨て置けないが、可能性は低いだろう。そもそも罪悪感には様々な形がある。もっとも、話し合いでどうこうできるとは思えんが。」

 

ヒイロがそういうとなのははまるでそんなことはない、というような表情をヒイロに向けた。

 

「・・・まさかとは思うが、お前は奴らと話し合いができると思っているのか?」

「・・・私はできると思います。だって、あの紅い服の子は私が帽子を撃ち落とした時、怒っている顔をしてました。」

「それは聞いている。奴らに感情があるのは明白だ。だが、だからといって奴らと対話ができる保証はどこにもない。」

「でも、それでも私は理由を知りたいんです。どうして魔力を集めているのか、その理由を。それを知ることができたら、私達にできることがあると思うから。」

 

理由、その言葉を聞いて、ヒイロは少しばかり言葉を詰まらせる。確かにヒイロは守護騎士達がなぜ魔力を蒐集しているのかは疑問に思っていた。

ただ『闇の書』の完成を目指しているのであれば、元々闇の書のプログラムである守護騎士達に罪悪感のようなものはないはずだ。

だが、集めること自体に罪悪感が生じているのであれば、完成以外の目的がある可能性が高い。

もっともヒイロ自身、守護騎士達が明確な敵であるとはまだ断定はしていない。

ただ話し合いでは解決は不可能であり、理由を聞き出すにも相手を無力化するのが定石である、そう彼の中では結論づけていた。

 

「・・・・確認する。お前はあくまで奴らの目的が知りたい。それは俺も同じだ。だが、お前のその手をさしのばす行為は奴らに取って火に油を注ぐようなものであるという認識はあるのか?最善の手は奴らと戦い、その上で無力化することだと思うが。」

「・・・それでも、です。私の力は誰かを傷つけるためじゃない。みんなを守るためにあるんです。」

「・・・・・・・了解した。次に接敵した時は最初こそ俺も戦闘態勢を解いておく。だが、チャンスはその一度きりだ。その時に奴らがこちらに攻撃を仕掛けてくるようであれば、それ以上の対話は不可能と断定し、俺も戦闘態勢に移行する。それでいいな?」

 

ヒイロの条件付きの承諾になのはは表情を嬉しそうなものに変え、頷いた。

そのちょうどよく話が終わったタイミングで病室のドアが開き、クロノが戻ってきた。

 

「・・・話は済んだのか。」

「ああ。なのははもう立てるのか?」

 

ヒイロがそう聞くとクロノは頷く。そしてクロノの視線はそのままなのはに注がれると同時に質問する。

「うん。一応大丈夫だよ。」

 

クロノの問いになのはは疑問気な表情を浮かべながら答えた。その言葉にクロノは頷きながらこう続けた。

 

「一度、ユーノとアルフにも顔を合わせよう。ちょうど君たちのデバイスの修理作業をしているはずだからな。」

「・・・・わかったの。少し着替えるから外で待ってて。」

 

なのはが着替える様子を見せたため、ヒイロは一度、クロノにとっては二度目の病室の外での待機となった。

ちなみにフェイトは何故か部屋の中にいた。

程なくするとなのはは私服に着替えた状態でフェイトを連れて病室から出てきた。

 

「僕が案内するからついてきて。」

 

クロノを先頭にして一同はユーノとアルフの元へと向かう。その道中、ヒイロはフェイトに話しかける。

 

「フェイト。」

 

ヒイロに突然話しかけられたフェイトは表情に驚きを表しながらヒイロの方を向く。

 

「なんですか?」

「・・・お前もなのはと同じ心境なのか?」

 

そう尋ねるとフェイトは微妙そうな表情を浮かべ、足を止める。

ヒイロも彼女の隣で足を止め、フェイトの答えを待つ。

 

「・・・・私もなのはと同じです。とてもあの人達が悪人とは思えません。分かり合える余地はあると思います。だけどーー」

 

フェイトはそこで言葉を切り、自身の胸元に手を添える。

その表情にはどこか悩んでいるように見える。

 

「私は、心の中であの人達と闘いたい、そんな風に思っているんです。もっと具体的に言うとあの騎士甲冑の人を越えたい。矛盾、してますか?」

 

フェイトはそういうと軽くヒイロに視線を向ける。今度はフェイトがヒイロの答えを待った。

 

「いや、矛盾などはない。お前がそう思っているのなら、その感情に従え。」

「感情に従え・・・ですか?」

 

思ってもいなかった答えにフェイトはヒイロの言葉を聞き返した。

 

「お前のその感情のまま、行動しろ。」

 

ヒイロはそれだけ伝えると先を行くなのは達を追っていった。

 

「・・・・じょ、助言してくれている、でいいのかな・・・?」

 

残されたフェイトはわずかに不安気な表情を浮かべる。

心の中に響いてくるのは、先ほどのヒイロの言葉ーー

 

「私の感情のまま行動しろ・・・。もっと貪欲になれってことなのかな・・・。」

 

フェイトもヒイロの言葉の意味を考えながらあとを追うために歩を進める。

 

 

 

 

ヒイロとフェイトが前を行くクロノとなのはに追いついた場所はちょうどクロノが言っていたなのはとフェイト、二人のデバイスが置かれている場所だった。

 

「・・・・手酷くやられているようだな。」

「わかるのかい?」

 

ヒイロの零した言葉にユーノが反応する。ヒイロは頷きながらも言葉を続ける。

 

「デバイスの待機状態の時点で既にヒビが随所に発生している。展開した状態は言うまでもなく、ボロボロ以外の何者でもないだろう。はっきりいって、戦闘を行うのは現状不可能だ。直すのならばパーツごと変えるのが手早いだろう。」

「うん。ヒイロさんの言う通り、レイジングハート、バルディッシュ共々損傷率はかなり高い。今は自動修復をしているけど、基礎部分の修復が済んだら、一度再起動して、いくつかの部品は変える必要がある。」

 

自身の相棒の痛ましさ、そして自分たちの力不足に直面した二人は悲しげな表情を浮かべる。

 

「・・・・それがお前たちと守護騎士達の力の差の現れだな。」

「ちょっとヒイロ。いくらなんでもそんな言い方は・・・。」

「アルフ、大丈夫・・・。ヒイロさんの言っていることはなんら間違ってないから。」

 

ヒイロの言い草につっかかろうとするアルフをフェイトが諌める。自身の主人の言葉にアルフは不満タラタラながらもとりあえずヒイロにつっかかることを抑える。

 

「なのは、私達は強くならないといけない。あの人達に話し合いのテーブルについた方がいいと思わせるぐらいの強さを示さないとなのはがやりたいって思っていることは多分、できない。」

 

フェイトは厳しいと表情でなのはにそう投げかける。対してなのはは軽く表情を緩ませていた。まるで、フェイトのその言葉を待っていたかのようだった。

 

「・・・想いを届けるためには力も必要なんだよね・・・。」

 

なのはは意を決した顔つきでフェイトに向き直る。

 

「私、強くなるよ。強くなってあの人達に想いを届けたい。」

 

なのはのその言葉にフェイトは笑みを浮かべる。

すると突然なのはは何かを思い出したような表情を浮かべ、フェイトに尋ねた。

 

「あ、そういえばフェイトちゃん。ヒイロさんと特訓するんだっけ?」

「え?えっと、うん。そうだけど・・・?」

「私も混ぜて欲しいって言ったら、混ぜてくれるかな?」

 

フェイトはなのはにそう言われるとヒイロに微妙な表情のまま申し訳なさげな視線を向け、なのははヒイロに期待するような視線を送っていた。

ヒイロはそれを見ると一つ、軽くため息を吐く。

 

「・・・・・問題ない。今のところはな。それほど面倒が見切れないほどの量をやらせるつもりはない。」

「わーい♪」

「その・・・何から何までごめんなさい・・・・。」

「とはいえ、はじめに言っておくが、お前達にやらせるのは専ら肉体改造だ。」

 

ヒイロがそう言うと二人、具体的にいうとなのはが先ほどまでの嬉々とした表情を固まらせる。首は油のさしていない機械のようにぎこちない動きでヒイロにその笑顔のまま青くなった顔を向ける。

 

「に、肉体改造・・・?それってもしかしてバッタとかの怪人とかに改造される奴・・・?」

「・・・・お前は一体何を言っているんだ・・・?」

 

ヒイロが無表情のままなのはに指摘すると呆れた表情をしていたクロノが説明を始める。

 

「肉体改造、つまるところ筋力トレーニングだ。フェイトはともかくなのはにそれはーーーいや、ありだな。」

 

その説明の途中でクロノは手を顎に乗せて考え込む仕草をする。その様子にユーノやアルフも疑問気な表情をする。

しばらくクロノのその様子を見せられているとクロノの顔がハッとしたものに切り替わる。

 

「ヒイロ、なのはの筋トレだが、君の思う存分にやってくれ。」

「何か理由ありきのようだな。聞かせろ。」

 

ヒイロがそう尋ねるとクロノは頷きながらもなのはに視線を向ける。

 

「なのは、君のディバインバスターやスターライトブレイカーと言った砲撃魔法だけど、本来であれば使用者のリンカーコアに物凄い負荷がかかるものなんだ。」

「え?でも・・・私今まで撃ってきた中でそんなことはーー」

 

なのはのなんともないと言った表情にアルフやフェイトも同意するようにクロノに怪訝な表情を向ける。

しかし、その中でユーノだけはハッとした表情していた。

 

「そうだよ・・・。なのはのリンカーコアの魔力係数が異常だったから気づかなかった・・・。」

「ゆ、ユーノ君までどうしたの?」

「ヒイロさん、僕からもお願いします。なのはを鍛えてやってください。」

 

ユーノがヒイロに対して頭を下げたことになのはは驚きの声と表情をする。

突然の事態になのは自身あまり追いついていないのだ。

 

「・・・・砲撃魔法には肉体的な負荷も少なからずあるということか?」

 

話の内容から導き出した予測をヒイロが口にするとクロノはその通りだと言わんばかりに頷いた。

 

「ああ。確かに今はなのはの言う通りなんともないかもしれない。君の魔力量は確かに眼を見張るものがある。だけど、あんな馬鹿出力の砲撃魔法を撃って、何もデメリットがないとは思えない。その小さな負荷がもしかしたら数ヶ月、いや数年と何もしないまま繰り返し撃ち続けていれば負荷はどうしようもないほど溜まっていく。それが爆発してからじゃ遅いんだ。」

 

クロノの説得とも取れる説明に一番早く答えたのはーー

 

「・・・・了解した。だが、限度は俺の方で決めさせてもらう。なのはとフェイトは兵士として戦うわけではないからな。もっともこの平和な世の中に俺のような兵士は必要ないがな。」

 

ヒイロであった。壁に背中を預けながらもその目にはある種の決意が見えていた。

 

 





おまけ

「そういえばなのは、お前はどこから俺がフェイトの特訓をすると聞いた?」
「え?リンディ提督からだけど・・・?」
「・・・・別に情報源がいるな・・・。リンディはフェイトが俺に頼んできた後に会ったが、その時点では知らなかったはずだ。」

ヒイロがそう言うとおずおずと誰かが挙手しているのが見えた。
全員の視線がその人物に集中する。その人物は、他ならぬフェイトであった。

「お前か・・・。まぁ、可能性ならないわけではないが・・・。」
「・・・・確かに私と言えば私だけど・・・正確に言うと言ったであろう人を知ってる・・・。」

フェイトはそう言って、この場にいるある人物に視線を向ける。その視線を向けられたのは、彼女の使い魔であるアルフだった。

「アルフ。私、貴方にしかヒイロさんとの特訓のことは教えていないはずなんだけど・・・。」

フェイトにそう問い質されるが当の本人は口笛を吹いてやり過ごそうとしている。

「アルフ?貴方でしょ。話したの。」

フェイトの冷えた声がアルフに突き刺さる。するとアルフの表情が諦めたものに変わった。おそらく白状するのだろう。

「いやーね。もしかしたらコイツがフェイトに何かするんじゃないのかって思ってさ。内緒でリンディ提督に教えちゃった☆」

テヘッという擬音が付きそうなおどけた表情でそう言うとヒイロはわずかに怒気を孕んだ目でアルフを睨む。

「・・・・・・。」
「・・・・・悪かったって。そんな目で睨まんでおくれよ。」

アルフがそうヒイロに向けてとりあえずの謝罪をするとヒイロは自分の感情を引っ込めた。

「ところで諸々のところなんだが、なんでフェイトはヒイロに特訓を頼んだんだ?」
「えっと、近接戦闘能力がすごかったから・・・。」
「そうなのか?僕はアースラにいたからわからなかったんだが・・・。」
「初見で守護騎士のリーダー格の人を筋力だけで圧倒してた。」

『・・・・・は?』

なのはを除く全員の間の抜けた声が響き、その原因であるヒイロに注がれる。
対してヒイロはこれといった反応は見せなかったがーー

「本当にヒイロさんはすごいよね。だって守護騎士の人の腕の骨を粉砕しちゃうんだもん。」

なのはの言葉に今度は一同は無言に伏した。そして、再度ヒイロに視線が注がれる。

「・・・・なぁ、ヒイロ、君に身体検査を依頼したいんだけど、構わないかい?」
「別に構わない。」

本人の許可を取って検査をした。ちなみにそのあまりな結果にリンディが軽く発狂しかけたのは内緒である。




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第9話 ゼロの警告

今回ちょっと少なめ。普通に書いていたら書こうと思ってた箇所が抜けていることに気づいて途中制作。割と急いで書いたから支離滅裂かもしれないっす。


「ねぇ、二人共、クロノ君知らない?」

 

レイジングハートとバルディッシュのそれぞれ破損したパーツが明日か明後日に揃えられることをユーノとアルフに伝えにきたエイミィはそんなことを尋ねる。

 

「ああ、それだったらなのはとフェイトとそれにヒイロを連れてどっか行ったね。」

「確か、管理局の偉い人に会いにいくとか言ってたような・・・・?」

 

アルフとユーノの言葉にエイミィは合点のついた表情をする。

おそらく前々から言っていた人物のところへ向かったのだろう。

 

「あ、グレアム提督のとこかな。」

「グレアム・・・?確かその名前はフェイトの保護観察官の名前じゃなかったかい?」

 

アルフの確認にエイミィは頷きながらこう続ける。

 

「うん。ギル・グレアム提督。フェイトちゃんの保護観察官でクロノ君の執務官研修の担当官だったんだよ。」

 

 

 

(・・・・・ゼロがこの男に対して警告を告げている・・・?)

 

ヒイロが視線を上げるとそこには一人の初老の男性がいた。青味がかった髪と髭を有し、温厚な見た目を醸し出している人物は、ヒイロと話しをしてみたいと前々から話しが上がっていたギル・グレアムその人であった。

なのはとフェイト、そしてヒイロは用意されているソファに腰掛け、クロノは少し離れたところに立っていた。

しかし、リンディの報告書からフェイトの人柄を優しいといった彼の笑みにからあまり警戒する必要性は感じられない。

 

「ふむ、確かにヒイロ君。君は普通の人間とはわけが違うようだ。」

 

グレアムはヒイロを見やるとそんなことを口にする。長年、管理局に就いているのもあって、人を見る目がついたグレアムにとって造作もないことであった。

 

「君のその目は戦士、いや君の言葉でいうのであれば兵士の目だ。なるほど、リンディ君からの報告はほぼ間違えていないようだ。」

「・・・・俺個人としては話すことは何もない。」

「いいんだ。ただ君のことが心配になった老人のお節介という奴だ。君が話したくないことを話させるつもりは毛頭ない。もちろん、君のそのデバイスのこともだ。」

「・・・・・そうか。」

 

ヒイロはグレアムに対してゼロシステムが警戒を続ける理由はひとます置いておいた。探りを入れるのもいいかもしれないが、それでこちらの立場が悪くなるのは回避しておきたい。

無表情を貫くヒイロにグレアムは軽くほほえむような表情を浮かべるとなのは達に視線を移す。

 

 

「ふむ、なのは君は日本人なのか。懐かしいな、日本の風景は。」

 

そう言って懐かしむ表情を浮かべるグレアム。どうやら彼のルーツは地球にあるらしい。顔つきを鑑みるに西洋人なのは間違いないが。

なのはが驚きの表情をしながら尋ねると、彼は自身をイギリス人だと言った。

彼はそこから自分が管理局の一員となった経歴を話し始める。

今からおよそ50年前、ひょんなことから傷だらけの管理局員を助けたグレアムはその後の管理局の検査により自身に高いレベルでの魔力資質があることが発覚。

その出来事を機に彼は管理局の一員となったらしい。

 

「フェイト君。君はなのは君の友達かい?」

「・・・・はい。」

 

グレアムの質問にフェイトは少々疑問気ながらも頷く。

 

「友人や信頼してくれる仲間を裏切るような真似は絶対にしないでほしい。それを誓ってくれるのであれば、私は君の行動に一切口を挟むことはしない。できるかな?」

「・・・・・はい。誓います。」

 

グレアムの言葉にフェイトは噛み締めながらも力強い口調で頷いた。

 

 

程なくして、フェイトとなのははグレアムの私室から退席する。ヒイロもそれに続くつもりだったが、クロノがグレアムに自分達、アースラクルーが闇の書の捜査・捜索の担当になったことを告げる。

それを聞いたグレアムは険しい表情をしながらクロノに言葉を送る。

 

「そうか、君たちがか・・・・。言えた義理ではないかもしれないが、無理はするなよ。」

(・・・・この男、闇の書と何か浅はからぬ因縁があるようだな。こちらで調べてみるか・・・。)

 

ヒイロはグレアムを軽く見やったのち、なのは達と同じように部屋を後にした。

 

 

ヒイロはグレアムとの面談を済ませたあと、クロノ、フェイト、そしてリンディ達と共に今回の事件の資料を見ていた。その部屋の窓からはアースラなど他の次元空間航空艦がメンテナンスを受けている様子が見える。

ヒイロはその中でリンディの持ってきた捜査資料を見る。その資料には比較的『第97管理外世界』通称地球から個人転送で行ける距離で守護騎士達の出現が確認されていた。

 

「・・・・その守護騎士とやらは地球から然程離れていない距離で魔力の蒐集を行なっているようだな。」

「そうね。おそらくあの子の近くにこの守護騎士達の主人がいるのだろうとは思うのだけど・・・。」

「この結果から見て軽くプロファイリングを行なったがおおよそそれで間違いはないだろう。」

 

ヒイロの言葉にリンディは難しい表情を浮かべる。リンディ曰く、地球に赴こうとするののであれば管理局の転送ポーターでは中継を挟まないと行くことが難しいとのことだった。つまり有事の際には後手に回らざるを得ない状況になる可能性が高いということだ。

 

「・・・・アースラが使えないのは痛いですね・・・。」

「・・・・・使用できる次元航空艦の空きは少なくとも2ヶ月はないそうだ。」

 

フェイトが窓からアースラの様子を見ながら言った言葉にリンディも首を縦に振らざるを得なかった。クロノの言う通り、アースラなどの船が使えないのであれば、拠点を現地に用意するぐらいしか迅速に対応できる手段はなくなる。

 

「というか、フェイト、君はいいのか?それにヒイロも。」

「何が・・・?」

 

突然のクロノの問いかけにフェイトとヒイロは疑問の表情を浮かべる。

 

「フェイトは嘱託とはいえ外部協力者だ。ヒイロに至っては形上、なのはと同じ民間協力者。君たちが無理に付き合う必要はない。」

「クロノやリンディ提督が頑張っているのに、私だけ呑気に遊んでいる訳にはいかないよ。アルフも協力するって言っているから、手伝わせて。」

 

フェイトの答えを聞いたクロノは無表情で腕を組んでいるヒイロに視線を移す。

 

「・・・ヒイロ。君もフェイトと同じかい?」

「・・・・俺は借りを返すだけだ。だが、少しばかり懸念材料があるのが事実だ。それについて、リンディ。お前に聞いておきたいことがある。」

「懸念・・・材料・・・?」

 

そう言われ、リンディは首を傾げながらヒイロの言葉を待った。

 

「・・・・ギル・グレアムと闇の書の因縁関係を教えろ。ゼロがあの男に対して警告を告げていた。」

「っ・・・・!?」

 

リンディはとても驚いた表情をしたのち、その表情を曇らせた。それはまるであまり思い出したくないものを思い出したかのようなものであった。

リンディのその表情にフェイトは心配そうな表情を浮かべ、クロノはヒイロに厳しい視線を向ける。

 

「・・・・貴方のデバイスは、本当に賢い子なのね。」

「賢い、か。それで済めばいいがな。」

 

ヒイロがこぼした言葉に全員の視線に疑問のものが含まれる。

 

「それは、どういうことなんだ?」

「・・・俺がゼロと呼んでいるのは、この機体(ウイングガンダムゼロ)のことではない。これが積んでいるシステムのことだ。」

 

ヒイロは軽く自身の天使の翼に抱かれた剣の意匠を持つペンダントを触ると説明を続ける。

 

「これは俺がウイングゼロについての情報の開示を拒否する理由の一つだ。だがお前達の信用を得るためならば、致し方ない。これを教えるかわりにギル・グレアムの因縁関係を教えろ。」

「・・・・・わかったわ。約束する。」

 

リンディの頷きをみたヒイロはウイングゼロの搭載するインターフェース、『ゼロシステム』についての説明を始める。

 

「ゼロシステム。ゼロ、というのはあくまで略語であり正式名称はZoning and Emotional Range Omitted System。直訳するなら『領域化及び情動域欠落化装置』だ。」

「・・・あまり字面だけではよくわからないわね。」

「このシステムはパイロットの脳をスキャンし、神経伝達の分泌量を制御する。」

 

ヒイロの説明にリンディ達は疑問気な表情を浮かべる。ヒイロも無理もないだろうと思った。あの技術者達の考えることはいつもよくわからないからだ。

それでもそれはあくまで技術開発の面だけであり、自分達の技術力を誇示しようとしないだけマシだったが。

 

「簡単に言えば、人間が本来なら耐えられない動きを神経伝達を抑制することに欺瞞するということだ。」

「・・・・それだけ聞くと何も隠すようなことはないようにも見えるけど・・・。いや、十分にすごい代物だっていうのはわかるが・・・。」

「コイツの本領は超高度な情報分析と状況予測にある。ゼロは敵の動きを徹底的に解析し、敵が次にどう動くのか。いわばその人物の『未来』をパイロットの脳に直接フィードバックする。」

「それって・・・・凄くないですか?だから守護騎士の未来も分かったんですね。」

 

フェイトは純粋に凄いというがクロノとリンディは表情を厳しいものにしたままだった。フェイトはそのことに少しばかりオロオロする。

 

「あ、あれ・・・・?」

「・・・・フェイト。未来っていくつあると思う?」

 

クロノがそういうとフェイトは少し考え、そしてこう返した。

 

「え・・・?それは・・・()()()()ある、のかな。あ・・・。」

 

フェイトが何かに気づいた反応を見せるとクロノは頷きながらも険しい口調で続ける。

 

「そういっぱいだ。それこそ計り知れないほどの未来がある。そのゼロシステムはその未来を頭の中に直接叩き込むんだ。並の情報処理能力では一瞬で潰されてしまうだろう。」

「さらに言うが、ゼロは『敵を倒す』ことに特化している。その未来の中には味方もろともや操縦者を省みないものもいくつもある。その光景を直接脳にフィードバックされ、ほとんど現実と遜色ないビジョンで映し出される。仮にだがお前はなのはを自身の手で殺す未来を見て、耐えられるか?」

 

ヒイロからそう言われ、フェイトは思わず頭の中でイメージしてしまう。自身の手でなのはを殺してしまう情景を。その瞬間、フェイトはその恐怖から顔を青くし、悲痛な表情を浮かべながら首を横に振る。

 

「や、やだ・・・!!耐えられる訳ないっ!!」

 

フェイトのその様子を見て、ヒイロは少し時間を置く。彼女が落ち着く必要があったからだ。フェイトが落ち着きを見せ始めた時、リンディがヒイロに尋ねた。

 

「・・・・ねぇ、ヒイロ君。そのシステムの見せるビジョンに耐えられなかったら、どうなるの?」

「・・・・そうなったが最後、操縦者はシステムの傀儡に成り果て、システムの見せる未来に振り回され、暴走を始める。仮に暴走を止められたとしても、乗っていたやつは脳が焼き切れ、死ぬ。よくても精神が使い物にならなくなっているだろうから廃人がいいところだ。」

「・・・・貴方は本当に強い人間なのね。それに乗って今まで戦ってきたんでしょ?」

「俺にはできた。ただそれだけだ。俺はどうしようもないほど弱者だ。ついでに言えば、強者などどこにもいないと考えている。それこそ、奴ら守護騎士も例外ではない。」

「・・・しかし、貴方が隠すのも頷けるわね。未来を見るなんて、ミッドチルダ式の魔法ですらできないことを機械、というより科学がやってのけている。そんなのが明るみに出れば、ブレイクスルーが起きるのは避けられないわね。」

 

リンディは神妙な面持ちをしながらヒイロの目を見つめ、意を決する表情を浮かべる。

 

「さて、それじゃあ今度はこっちの番ね。貴方がそのゼロシステムについて包み隠さず教えてくれたからこちらも包み隠さず言うわ。」

「・・・母さん。大丈夫なのかい?」

 

クロノが心配そうにリンディに声をかけるがリンディはクロノに対して首を振った。

 

「大丈夫よ。もう自分の中で折り合いは付いているから。」

 

そう言うとリンディはヒイロに向けて話し始めた。

かつて闇の書の捕獲作戦において、自身の夫である『クライド・ハラオウン』が関わっていたこと。そしてその夫は突如として発生した闇の書の暴走に巻き込まれて殉職したこと。

最後にギル・グレアムがその艦隊の総司令官として現場にいたことを。ヒイロに赤裸々に語った。




感想など、気軽に送ってどうぞ^_^作者の励みになりますので^_^


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第10話 引っ越しと出会い

お気に入り250人越えました!!ありがとうございます!!


人々の喧騒が周囲を彩り、12月の冷たい風が肌を突き刺す。

道行く人々もその寒さから少しでも逃れるために身につけている衣服を生地の厚いものに変えて凌ごうとする。

人々から視線を外して周囲の風景に目を向けるとクリスマスの準備のためか街路樹にはイルミネーションがつけられ、大型ショッピングモールには緑や赤を基調とするポスターが貼られていたりする。

ヒイロはこのクリスマス準備真っ只中の海鳴市を一人で歩いていた。

 

あてもないまま彷徨うように人だかりの中を進んでいく。

なぜこうなったのかはおよそ数時間前に時を遡るが、今回はそれより前から説明を始める。

 

 

 

 

 

リンディからグレアムと闇の書との因縁を聞いたあと、ヒイロは彼女らと別れ、話の内容を纏めていた。

 

(・・・リンディの夫、クライド・ハラオウンはかつて闇の書の捕獲任務に就いていた。だが、その運搬中、突如として闇の書が暴走を始め、その男の乗る次元航空艦『エスティア』を掌握。さらにあろうことかその掌握された船はその銃口を味方へと向けた。その時の艦隊総司令であったギル・グレアムはクライド・ハラオウン自身の要求もあり、艦隊にエスティアへの攻撃指示を下した。最終的にエスティアは轟沈。クライド・ハラオウンは還らぬ人間となった。)

 

ヒイロはこの時点でグレアムはクライドの乗艦するエスティアへの攻撃の指示を下したことを後悔していると考えていた。さらに、その後悔は自責に変わっていき、最終的には闇の書に対する私怨に変わっている可能性が高い。

ゼロが警告したのはおそらくグレアムが闇の書に対する手段がよほど危険なものであるからであろう。

 

(・・・さらに言えば、あの男は優しすぎるし、責任感が強い。おそらく心的な負担を無意識のうちに押し殺し、積み重ねている。それが爆発すれば奴がどういう行動をとるのかは未知数だ。行動を起こす前、ないしは行動を起こした直後に何かしらの対策をしておく必要がある。)

 

ヒイロはそういいながらある人物を思い返していた。グレアムのように温厚な思考を持ちながらも自身にのしかかる心的疲労を吐き出さずに溜め込んだ結果、心が壊れ、ゼロシステムに飲み込まれた仲間、カトル・ラバーバ・ウィナーのことを。

 

(・・・あの男は、カトルに似ている。似ているからこそ、俺は奴の暴走を止めなければならない。場合によってはこちらの障害になる可能性もあるからな。)

 

 

 

 

 

 

ある程度時間が過ぎるとリンディから集合の号令がかかった。

休憩スペースと思われる自販機がいくつもある部屋にアースラのクルーが集合するとリンディから件の第一級ロストロギア『闇の書』の担当が自分達になったことを告げられる。

さっそく調査のために海鳴市に赴こうとするのだが、肝心のアースラはメンテナンスのため、動かすことは叶わない。

そこでリンディが発案したのが、海鳴市内に拠点を設けてしまおうという内容だった。

確かに海鳴市に拠点を置いておけば、有事の際には迅速な対応ができる。理にかなった案だっため、アースラに置いていた機材をあるアパートの一室を借り、そこを拠点とした。

なお、引っ越しの作業はヒイロの人外な筋力を持って、それほど手間はかからずに終えることができた。

 

「・・・・・あの細い腕のどこにあんな馬鹿力があるのかしら・・・?」

 

そう苦笑いを浮かべるリンディの目の前には本来であれば大の大人が数人必要な家具や機材を二本の腕で軽々持ち上げ、室内へと運び込んでいくヒイロがいた。

そのヒイロの仕事振りを見て、『もうこの子一人でいいんじゃないか?』というアースラクルーの心の声が重なった。だが、ヒイロは突然、足を止めて、視線をある一点に集中させる。その視線の先には・・・。

 

「・・・・フェレットと赤い子犬・・・。こんな奴、いたか?」

 

その二匹の獣は器用に二本の足で立っていた。フェレットはどうだか知らなかったが少なくとも子犬にそれほどの筋力が備わっているとは思えなかったヒイロはしばらくその二匹を見ていたがーー

 

「あ、ユーノにアルフ。こっちではその姿なんだ。」

 

エイミィがデータを確認しながら二人の名前を呼んだ。どちらも知っている名だったため思わずその二匹に驚いた視線を向ける。

 

「なのはの友達だとこの姿じゃないとダメなんだ・・・。」

 

フェレットが口を開くとユーノの声が響いた。ありえない現象にヒイロはしばらく驚いた表情から変えることができなかった。

 

「・・・・魔法というのはそのようなものもあるのか。」

「色々あるんだよー。今は子犬だけど、おっきくなれたりもするんだからね。」

 

アルフが肉球のついた手を振りながらそんなことを言ってくる。

ヒイロはそれ以上考えることはなく、作業に戻った。

 

そして、荷物の運搬作業もほぼ完了し、一息ついたところに訪問者の訪れを知らせるチャイムが鳴り響く。

ヒイロは最初こそ警戒心を露わにするが、それより先になのはが笑顔を浮かべながら扉を開けはなつ。

そこにはなのはと同年代ほどの少女が二人いた。そこでなのはが友達だと紹介したところでヒイロはようやく警戒心を引っ込めた。

 

「こんにちはー。」

「きたわよー。」

「すずかちゃん、アリサちゃん!!」

 

なのはとフェイトはその二人の友人に笑顔を向けながらお互いの再会を喜びあっていた。話を聞いているとフェイトも知り合いのようだが、ビデオメールでやりとりをしていたらしい。

やることがなくなったため、ヒイロはエイミィから許可を取って事件資料を流し読みしていると、なのは達の元に向かっていくリンディの姿が視界の端に映った。

どうやらリンディもなのはの友人達に挨拶をしているようだ。

 

(・・・・まぁ、俺には関係のないことだ。)

 

そう結論づけ、資料を漁っているとーー

 

「ヒイロ君ー?ちょっと来てくれるー?」

 

リンディの自身を呼ぶ声が耳に入る。何事かと思いながらも借りていた端末の電源を切り、リンディの元へ向かう。

 

「・・・・・何か用か?」

「これからなのはちゃんの実家に挨拶に行くのだけど、貴方も来ないかしら?こういうのあんまり縁がなかったでしょ?」

(それに、周囲の地形環境とかも把握しておける。理由づけにしてはもってこいだと思うのだけど?)

「・・・・了解した。」

 

ウイングゼロの通信機能を介して、リンディの念話が届く。ヒイロとしては周囲を把握しておくのもしておきたかったのもあったため、利害が一致すると判断したヒイロはそれ承諾した。

が、ヒイロの視界には気になるものが映っていた。なのはの友人であるすずかとアリサがヒイロに向けて、呆けたような表情を向けていた。

 

「・・・・・先ほどから俺の顔を見て呆けているようだが、なんだ?」

「え、あ、いや、なんか、なのはのお兄ちゃんに声が似ているって思って・・・。」

「う、うん。そっくりだよね・・・・。」

 

気になったヒイロがそう尋ねるとハッとした二人はヒイロにそう理由を述べた。

ヒイロが別人に間違われるのは初めてではなかった。一度目はその兄の親族であるはずのなのはからだった。意識が朦朧としているのもあっただろうが、それでも間違わられるということはよほど似ているのだろう。

 

「ソイツとは会ったことはないが、それほど似ているのか?なのはにも間違われたのだが。」

 

ヒイロがそういうと二人はなのはに視線を移す。特に金髪の髪をロングにしている少女、『アリサ・バニングス』はなのはに向けてきつい視線を向けている。

 

「な・の・は〜〜〜?アンタ、自分のお兄ちゃんと赤の他人を間違えるって、どういう了見しているかしら〜〜〜?」

「い、いや、それはその、色々と条件が重なっちゃってーー」

「問答無用!!アンタにはコメカミグリグリしてやるわー!!!」

「にゃあああああああっ!!!!!?!!?」

 

狼狽した様子のなのはにアリサが彼女の両方のコメカミ部分に握りこぶしをそれぞれ当てて、グリグリとえぐり始めた。その痛みになのはは悲痛な叫びを辺りに撒き散らしていた。

 

「あ、あの。」

 

なのはが叫んでいる様子を無表情で眺めていると自身を呼ぶ声に気づきそちらの方に振り向く。

その視線の先には紫色のウェーブのかかった艶のある髪を腰にまで伸ばしている少女『月村すずか』がいた。

 

「なのはちゃんがお世話になっています。」

 

そういうとペコリと頭を下げた。ヒイロはそれに特に表情を変えることはなかったがーー

 

「それはリンディに言え。俺はなのはに世話になられた覚えはない。」

「リンディさんって・・・あの人ですか?」

 

ヒイロはすずかと軽いやりとりを行うと一行はなのはの実家である喫茶店へと向かった。

借りたアパートからそれほど距離が離れていない場所になのはの実家の喫茶店はあった。その名は『翠屋』。ヒイロ達が訪れた時には注文したデザートを食べている集団がいくつかあったため、おそらく人気のある店なのだろうとヒイロは推測していた。

リンディはなのはの家族に挨拶をするため、店内に残り、ヒイロ達は頼んだ飲み物を持って、外のテーブルで近況を報告しあっていた。もっともヒイロはそれにはほとんど参加はせず、飲み物を口にしながら、警戒をしていた。

 

(・・・・視線を感じる。それに殺気も混じっているな。)

 

ヒイロは視線は向けずに意識だけをそちらに向けていた。その方角は店内からだ。先ほど、店内で注文を行なった時から妙な視線をヒイロは感じ取っていた。

 

(・・・・リンディと話している奴らではないな。)

 

ヒイロは飲み物を口に含みながらも先ほどから感じる殺気の根源を探す。

店内から感じるがその殺気の大体の発生源はカウンターあたりからだ。つまりこの時点で店内にいる客という線はない。となると、大方なのはの家族辺りに候補は絞り込めてくる。

ヒイロはもう少し情報が必要だと考え、なのはに視線を向ける。

 

「なのは。お前の兄妹は兄以外にもいるのか?」

「え・・・?お兄ちゃん以外にはお姉ちゃんもいるよ。私は一番下の末っ子なの。」

 

なのははヒイロの質問に疑問を覚えながらも答えた。ヒイロはその情報を元に再度店内に意識を向ける。ちょうど視界には眼鏡をかけ、三つ編みをした快活な印象を受ける店員が客から注文を取っている光景が見えた。

 

(おそらく、あれがなのはの姉か。奴もそれなりに鍛えているようだが、殺気の根源ではないか。)

 

となると、消去法でヒイロに殺気を当てているのはなのはの兄ということになる。

ヒイロは飲み物を飲みきると徐に立ち上がる。突然の行動になのは達は困惑の表情を隠しきれない。

 

「ヒイロさん・・・?どうしたんですか?」

「・・・・どうやらお前の側に俺がいることを良く思っていない奴がいるようだ。」

 

なのはに質問されたヒイロがそう答えるとなのはは不安気な表情を浮かべる。

 

「俺がこのままいてもお前たちの気を害するだけだ。適当に海鳴市を回ってくる。」

 

そう言って、ヒイロは席を離れ、出ていこうとする。

 

「ヒイロさん!!それってどうしてなんですか!?」

「知らん。だが、そこの店頭に立っている奴にでも聞け。」

 

なのははその瞬間、視線を翠屋に移す。その先には自分の兄である『高町恭也』が店頭に立っていた。しかし、その目はどこか鋭いものになっており、わずかになのはが兄に対して怖いという感情を覚えるほどであった。

 

「も、もしかして、お、お兄ちゃん・・・?」

 

なのはが確認ついでにヒイロに視線を戻すが既にヒイロは遠いところまで移動していた。

 

「ヒイロさん・・・・。」

 

しょぼくれた表情を浮かべるなのはにフェイトが何かしら声をかけようとした瞬間、なのはは店内に向かって駆け出した。

 

「お兄ちゃん・・・・。」

「なのは?いきなりどうしたんだ?」

 

突然自身の目の前にやってきたなのはに疑問気な表情を浮かべる恭也。なのは特に言葉を返すことはなく、代わりに人差し指を一本だけ恭也に向ける。その表情は顔こそ笑っているが、明らかに目は笑っていなかった。周りの空気は凍りつき、雰囲気は処刑台に立たされ、今まさに刑が執行されようとしているようだった。

 

「・・・・少し、頭冷やそうか?」

 

その日、翠屋に魔王が降臨した。

 

 

その後、風呂場にてドザエモン状態になって、浮いている恭弥が見つかったがこの時の様子をなのはの姉である『高町美由希』はーー

 

「なんか写真とか撮ったら右端に『つづく』って出てきそう。」

 

といって軽く笑いを堪えていたそうな。ちなみに恭弥は五体満足で無事である。

 

 

そんなこんなでヒイロは海鳴市を一人で散策するという羽目になっていた。

連絡自体は取れないわけではないため、問題はない。ヒイロはそう思いながらほっつき歩いていた。

しかし、目的を然程考えてなかったため、どうしようかと思っているのも本音であった。

しばらく住宅街を歩いていると、ひらけた敷地が目に入ってきた。

その敷地の入り口と思われる場所には大理石でできた立派な看板があった。

そこには『風芽丘図書館』と彫られてあった。

 

(図書館か・・・。海鳴市の詳細な地図がある可能性が高い。今のうちに頭に叩き込んでおくか。)

 

そう考えたヒイロは図書館へと足を踏み入れた。図書館の中は綺麗になっており、何人かが机や椅子などで静かに本を読んでいる様子が見えた。ヒイロは図書館の案内に従って地図のありそうな場所に向かっている途中、ふと目にとまる光景があった。

 

「ん・・・・んん・・・・。」

 

それは必死に手を伸ばして、本棚にある本を取ろうとしているなのは達と同い年くらいの一人の少女がいた。

その高さはヒイロほどの身長であれば楽に取れるし、なのは達でも届く高さだった。しかし、彼女にはそれができなかった。決して彼女の身長が低い訳ではない。

彼女は車椅子に乗っていたのだ。足が全く動いていないことを鑑みるにおそらく下半身不随なのであろう。

 

「・・・・。」

 

ヒイロはたまたま目についてしまったというのもあったが、このまま見逃すのも後味が悪かった。ヒイロは無言で車椅子の少女に近づき、その少女が取ろうとしていたであろう本を代わりに取り、少女に手渡した。

 

「・・・・これか?」

「え・・・・。あ、うん!ありがとうございます。」

 

少女は突然声をかけられたことに驚きながらもヒイロに感謝の言葉を述べる。

 

「気にするな。」

 

それだけ少女に言って、自分の目的である海鳴市の地図を探しに行こうとした時ーー

 

「あ、あの!」

 

ヒイロの背後から少女の制止の声がかかった。ヒイロは振り向くと少女は自身の車椅子を引きながら、隣に来る。

 

「・・・何か探し物ですか?」

「・・・・そうだな。」

「でしたら手伝います。先ほどの礼です。これでもこの図書館には何度も来てるので、何か力になれるかと思います。」

(・・・・図書館の常連か・・・。初めて来た俺にとってはちょうどいいか。)

「・・・いいだろう。」

 

探す手間が省けるかもしれない。そう判断したヒイロは少女のその頼みを承諾した。

 

「私、『八神 はやて』って言います。お兄さんの名前は?」

「・・・・・ヒイロ・ユイだ。早速だが、お前の記憶力をあてにさせてもらう。」

 

ヒイロはそういうとはやてに自分が探している本を尋ねた。

はやてはそれを聞くと顎に手を乗せながら、場所を示した。

 

「それだったら、あの辺、です。」

 

少女はその本があるであろう本棚の方角を指差した。だが、ヒイロには少々気になる点があった。

 

「・・・・・無理をする必要はない。お前が話しやすいように話せ。」

 

ヒイロがそういうとはやては目を見開いて顔を上げた。

 

「ど、どうして・・・・?」

「言葉の節々に違和感があった。隠すのであればもう少し努力をしろ。できないのであれば、最初からしない方がいい。」

 

ヒイロの言葉に少女はフランクな笑顔を向けた。

 

「ほんなら、遠慮なく行かせてもらうわ。よろしゅうな。ヒイロさん。」

「・・・・・ああ。」

 

ヒイロは特にこれといった表情を浮かべなかったが、はやては満面の笑顔を見せていた。

ヒイロははやての後ろに回ると彼女の車椅子のハンドルを握って、前へ進み始めた。

 

「え、ちょ、ちょい待ちっ!?じ、自分でもできるから大丈夫や!」

「こっちの方が早い。それだけだ。あとは図書館では静かにするのが規則ではなかったのか?」

「う・・・。」

 

それきりはやては不服な様子を醸し出したままだったが、大人しくなった。ヒイロはそのまま彼女とともに本を探すことになった。




余談

恭弥さんとヒイロの中の人と同じ。


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第11話 相手を思うが故に

前半 まぁ、そうなるな。

後半 (・3・)あるぇー?どうしてこうなっちゃったんだろうねぇー?


図書館の常連である車椅子の少女、八神 はやての案内でヒイロは目的の本がある本棚へとたどり着く。

本棚を順繰りと探索しているとはやてから声を掛けられる。

 

「ヒイロさんはまだ海鳴市に来てから日が浅いんか?」

「・・・そうだな。昨日しがたこちらに引っ越してきたばかりだ。」

 

目的の区画が記されている本を見つけたヒイロはその本を手に取りながらはやての質問に答える。

 

「お一人でなんか?」

「いや・・・・・アパートの一室を借りて、ルームシェアの形で複数人と同居している。」

 

流石に管理局の仕事としてとは口が裂けても言えないため、ヒイロはルームシェアという形ではぐらかした。

そんなヒイロに気づくことなくはやては納得といった表情を浮かべる。

 

「へぇー、私もそんな感じの同居人がおるんよ。みんなええ人達で毎日が楽しんよ。」

「そうか。」

(・・・・多分、海鳴市に何があるのかを知るためなんやろうけど、そもそもとして図書館に来て、わざわざ地図で探すかなぁ・・・・。)

 

そう疑問に思うはやてを置いておいて、ヒイロはそっけなく答えながら机に座り、手に取った地図を開く。

パラパラとページをめくる音だけが二人の周囲に響く。

 

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

 

淡々と本のページをめくっていくヒイロとその様子をただジーッと見つめるはやて。二人の間にどうしようもない沈黙が続いていく。

 

「・・・・こんなものか。」

「え、早ない?もう全部見終わったんか!?」

「知っている奴の家の周辺や海鳴市の主要施設さえ分かれば十分だ。」

 

パタンという本を閉じる音と共にはやての驚いた声が響く。ヒイロは閉じた本を片付けながらはやてに顔を向ける。

 

「俺はここにもう用はないが、お前はどうする?」

「そうやねぇ・・・。そろそろシグナム達が迎えに来るはずやから、私もここいらで切り上げようかな。」

 

ヒイロは効率を考え、はやての車椅子の取っ手に手をかけようとするがーー

 

 

「ちょっ、ちょい待ちぃ!自分で押せるから!!ヒイロさんに手間掛けさせる訳には行かへん!」

 

はやてからの遠慮しがちな声にヒイロは伸ばしかけた手を引っ込めた。はやては車椅子の車輪を自分の手で押して、前へ進んでいく。

 

「・・・遅かったら置いていくぞ。」

 

そうはいうヒイロであったが、歩幅ははやてが遅れないように車椅子のスピードに合わせて歩くのであった。

図書館の静かな空間を二人並んで歩いていく。

図書館の出口から出てみると、空はオレンジ色に彩られ、時刻が6時あたりに差し掛かっていることを伝える。

それと同時にヒイロ達に向かってくる人影が二つほど見えた。日光から逆光で人相を伺うことは難しかったが、状況から判断して、はやての言う迎えの人なのだろう。

辛うじて分かるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるというぐらいであった。

 

「っ・・・・・!?」

 

見たことのある人物に思わずヒイロは表情を強張らさせる。そこにいたのはなのはとフェイトを襲撃したあの守護騎士であったからだ。

ヒイロを視認した守護騎士の二人は予想外の存在に二人揃って目を丸くする。

 

「テメェ・・・!!なんでここにいやがる!!はやてから離れやがれっ!!」

 

赤髪の少女は青い瞳を大きく開いてヒイロに敵意を露わにする。

隣の守護騎士も表情には出ていないものの、ヒイロに鋭い視線を向けている。

 

「・・・・たまたま図書館で会っただけだ。」

「んな言い訳、通用すると思ってんのかよ!!」

 

赤髪の少女は犬歯を剥き出しにしながらヒイロに怒声を浴びせる。

ヒイロはこれといった反応は見せないが、頭の中では状況の整理を行っていた。

 

(はやての言う迎えというのは奴らで間違いないようだ。となると、闇の書の主人というのは十中八九、はやてだろう。よもやたまたま寄った図書館で最重要人物と出くわすとはな。)

 

「な、なんや?ヴィータにシグナム、ヒイロさんとは知り合いなんか?」

 

突然の状況に困惑気味のはやてはヒイロに鋭い視線を向けている守護騎士、シグナムとヴィータに質問を向ける。

シグナムは静かに、それでいて冷たい目をヒイロに向けながら頷いた。

 

「そう、ですね。少々、世話になったので。」

 

その表情は今にも彼女の持つ剣が鞘走りと思うほどの鬼気迫る表情であった。

まさに一触即発。どちらかが動けば直ちに戦闘が起こりかねない雰囲気だったが、両者は一歩も動くことはなかった。

その理由として、はやての存在が挙げられる。はやては今現在ヒイロの側にいる。事実上の人質のような形になっているはやてに守護騎士の二人は迂闊に動くことはできない。

反対にヒイロもなのはに一度は対話の姿勢に臨むと言ってしまった手前、ここでシグナム達と鉾を交える気はサラサラなかった。それに自分の迂闊な発言でなのは達の対話の機会を奪う訳にも行かなかった。緊張感があたりに漂う中、先陣を切ったのはーー

 

「ふぅん。なんやヒイロさんはいつのまにか私らの世話になっとったって訳か。」

 

はやてであった。ヒイロに視線を向けると人懐っこい笑みを浮かべる。

 

「ヒイロさん。夕飯、私の家で食っていかへんか?」

「はっ!?」「ちょ・・っ!?」

 

突然のはやての発言に守護騎士の二人は素っ頓狂な声を上げながら驚きを露わにする。

ヒイロも呆気にとられながらもはやてに厳しい表情を向ける。

 

「・・・・正気か?」

「正気やで〜私は。だってただ世話になった礼をするだけや。なんらおかしいところはあらへんよ?」

 

おどけた表情をしながら手をヒラヒラと振るはやてにヒイロは訝しげな視線を向ける。

 

(はやては俺と奴らが関係が険悪になっているのは気づいているはずだ。その上で家に上がらせるなど、報復やそのあたりしか思い浮かばんが・・・。)

 

「・・・・やっぱり駄目、かな?ヒイロさんとは今日会ったばかりの仲やけど、それでも家族と喧嘩しそうな雰囲気を見るのは嫌なんや・・・。」

 

そう言ってはやては悲しげな表情を浮かべるが、ヒイロにはそれが演技が混ざっていることを見抜いていた。

 

「・・・・演技が混ざっているのは分かるが、お前のその言葉は本心なのだろう。」

 

ヒイロは視線を逸らしながらそうはやてに言う。はやてはいたずらがバレたような表情を浮かべるが意にかさずにヒイロは矢継ぎ早に続ける。

 

「だが、お前らはどうなんだ?俺が上がったとしてもお前達はよく思ったりはしないだろう。」

 

ヒイロに視線を向けられた守護騎士二人、特にヴィータは拒絶をはっきりと感じさせるように嫌悪感を露わにしていたがーー

 

「・・・・それが主人の願いであるならば。」

 

シグナムは割とあっさりと引いた。そのことに思わず困惑を隠せないヴィータ。

ヒイロも少し意外性を含めた表情を浮かべる。

 

「なぁ、ヴィータちゃん。ダメか?」

 

はやてが僅かに潤んだ声でヴィータに問いかける。それにヴィータはしばらく天を仰いで声にならない唸り声をあげていた。しばらく自分の気持ちと格闘した結果ーー

 

「ああもうっ!!わかったよ!!だがなお前が何か少しでもはやてにへんなことしそうになったらぶっ飛ばすからなっ!!」

 

ヴィータもヒイロに指差しながら条件付で承諾した。

これでヒイロが逃げる口実は無くなった。

 

「どや?これで文句はあらへんやろ。」

「ちっ・・・。物好きな奴だ。」

 

軽く悪態をつきながらもヒイロははやて達と同行することになった。

 

「あとシグナム達も家に帰ったらちょっとお話しせなぁあかんかもな。裏で何やってるのか気になったからな。」

 

そう言われたシグナムとヴィータは気まずそうに視線を逸らすのであった。

 

(・・・・主人であるはやてにも話していないのか?コイツらの目的は、一体なんなんだ?)

 

移動中、そう疑問に思うヒイロであった。

しばらく歩いていくと表札に八神と書かれてある一軒家にたどり着いた。

ヒイロは軽く視線を周囲に向けてから八神邸に入っていった。

 

「・・・・・・」

 

その様子を何者かの黒い影が見つめていた。

 

 

 

「おかえりなさい。・・・・って、その子は?」

 

玄関のドアを開けると出迎えてきたのは和やかな雰囲気を持った金髪の女性であった。その女性はヒイロの存在に気づくと見かけない人物に首をかしげる。

 

「・・・・・ヒイロ・ユイだ。お前達、ヴォルケンリッターの主人であるはやてに誘われた。」

 

ヴォルケンリッター。ヒイロがユーノから聞いたことの単語。それは闇の書に搭載されている『守護騎士プログラム』の別名である。シャマルはそれを知っている目の前の少年を十中八九、管理局の手の者だろうと思った。

そう判断した金髪の女性、『シャマル』は自身の指に装着されてあるデバイス、『クラール・ヴィント』を展開しようとする。

 

「シャマル、待ってくれ。結界も張っていないのにデバイスを展開すれば、管理局に目をつけられる。」

「・・・・この子は違うとでも言うの?そんな保障、どこにもないじゃない。」

 

シグナムがデバイスを展開しようとするシャマルに待ったをかける。シャマルは一応手は止めてくれたが、その視線はヒイロに突き刺さる。

 

「・・・俺は確かに時空管理局から民間協力者の形を取っているが、立場はほぼ一般人と相違ない。民間協力者というのもその方が動きやすいと判断したまでだ。」

「・・・・どういうこと?」

「俺が時空管理局に話すかどうかは俺次第ということだ。もっとも俺自身に話す気はない。さらに言えば、俺は魔力とやらは一切ない。魔力の追跡で管理局にここを嗅ぎ付けられるということはないだろう。」

 

ヒイロの言葉でもシャマルは疑いを持った視線を向け続ける。ヒイロは人の信頼というのは思った以上取れないものだと心の中でため息をつく。

 

「・・・ならば、この背の低い奴が言ったが、俺が少しでも怪しい行動を取ればすぐさま切り捨てても構わん。」

 

ヒイロはヴィータに視線を向けながらシャマルに自分の命の裁定を預けた。

およそ少年から出てくるとは思わぬ自分の命を顧みない発言にシャマルは目を見開いた。

 

「・・・・本気なの?」

「それくらいでなければお前達は納得しないだろう。それだけだ。」

 

シャマルの確認にヒイロはさも当然だと言うように言い放つ。

虚勢を張っているのならまだしもヒイロの発言は本気以外の何者でもない。

ヒイロはシャマルの答えを待っていると視線を感じた。そちらの方向に顔を向けるとはやてがいた。その表情はどこか怒っているようにも感じられた。

 

「ヒイロさん。そんな簡単に自分の命を捨てたらあかんよ。」

「どんなものにも対価は必要だ。今回はヴォルケンリッターの信用を得るに値するのがたまたま俺の命を賭けるしかなかっただけだ。」

 

はやてはヒイロにムッとした表情を向け、発言の撤回を求めるような視線を向ける。しかし、ただの少女に気圧されるヒイロではないため、それが当たり前だと言うように反論する。

 

「でも・・・やっぱりあかんよ。そう易々と自分の命を賭けたら・・。それでヒイロさんが死んだら絶対に悲しむ人がいるはずやから。少なくとも私は多分、いや絶対泣いてしまうやろな。」

「・・・・そもそも、俺はそう簡単に死ぬつもりは毛頭ない。」

「・・・・・そっか。ならいいんや。」

 

ヒイロの言葉にはやては軽く笑みを浮かべ、シャマルの方に向き直る。

 

「そんな訳や、シャマル。そう警戒せえへんでええんや。ヒイロさんは私が誘っただけやから。ザフィーラも同じやで?」

 

そう言われ、部屋の奥で様子を見ていた紺色の毛並みを持った狼は警戒を緩めたのか床に座った。

 

「・・・・分かりました。貴方がそう言うのであれば。」

「ありがとう、シャマル。」

 

はやてはシャマルに対してお礼を述べるとキッチンへと向かう。

 

「さて、今日はお客さんもいる訳やし、いつもに増して腕によりをかけるで!!」

「・・・・・料理は基本的にお前がやっているのか?」

「え?そうやね。いつも私がやってるかな。」

 

はやてからその答えが返ってくるとヒイロはシグナムとシャマルに視線を向ける。視線を向けられた二人はシャマルは特に気にしていないようだが、シグナムは視線を逸らした。

 

「私はできることはできるわ。」

 

なら病人であるはやてを厨房に立たせずにシャマルがやった方がいいのではないか?そうヒイロは続けて質問をしようとしたが、ヴィータがちょいちょいとヒイロの服を引っ張っていることに気づいた。

 

「・・・頼む。何も聞かないでやってくれ。シャマルの料理は死ぬほど微妙なんだ・・・!!」

 

その表情は僅かに青い顔していたため、ヒイロはそれ以上は何も聞かなかった。

・・・・死ぬほど不味いなからともかく微妙であればある程度の鍛錬を詰めば出せるレベルになるのではないだろうか、と思ったのは内緒だ。

 

 

 

「えっと、確かここにアレがあったはずやけど・・・。」

 

必要な調理器具を取るために車椅子を移動させて取りに行こうとする。

車輪に手をかけ、いざ行こうとした時、目的のものがある引き出しにはすでにヒイロがいた。

彼はその引き出しを開けるとあるものを手にとって手渡した。

それははやてが必要としていた調理器具であった。はやてはヒイロから受け取ると驚きの表情浮かべたまま作業に戻った。

 

「よ、よく分かったなぁ・・・。」

「視線と作っている料理からある程度の推測は可能だ。」

「・・・ヒイロさん、もしかして料理できるんか?」

「一通りの家事全般は可能だ。」

 

 

しばらくするとはやてが作った料理が食卓に並べられる。

ヴォルケンリッター達やヒイロも用意してくれた席に座りながら家の主人であり、闇の書の主人でもあるはやてが切り出した。

 

「さて、それじゃ、話してもらおか。シグナム、裏で隠れて何をやっていたか話してや。」

 

はやてがそう聞くとシグナムは徐に話し始めた。自分達が主人であるはやてにも隠して行ってきたこと。はやての下半身不随の原因が闇の書がはやてのリンカーコアを浸食していることを知った彼女らが魔道士達やリンカーコアを持つ生物達を襲撃し、魔力を奪い取り、闇の書の完成を目指していたことを。

 

「ーーーこれで全部です。貴方との誓いを破っていたこと、我々は何の申し開きもしません。」

 

シグナムがはやてに対して頭を下げると、ヴィータ達も頭を下げた。彼女らには悪意は少しもなかった。あったのは、ただ自分達に優しくしてくれたはやてを救いたいという一心だけであった。

 

「・・・・みんな、顔を上げるんや。」

 

はやてからの声がかかると守護騎士達は揃って顔を上げた。叱責などを覚悟していた彼女らが見たはやての表情は笑顔であった。

 

「ありがとうな、こんな私のために。大変やっただろうに。」

 

主人からの労いの言葉に困惑を隠せない守護騎士達。シグナムはそんな彼女に思わず質問をぶつける。

 

「主人よ・・・その何もないのですか?」

「何もって・・・・何が?」

 

シグナムの質問にはやてはキョトンと首を傾げた。その様子が守護騎士達の困惑を一層引き立てる。

 

「だって、みんなは私のことを思って魔力を集めていたんや。まぁ、流石に人様に迷惑かけとったのはあかんけど、その気持ちを怒ったりはせえへん。」

「・・・・主人よ。貴方の寛大な御心、感謝します・・・。」

「・・・・ひと段落はついたようだな。それで、お前達はこれからどうするんだ?」

 

ヒイロがそう声をかけるとはやては悩ましげな表情を浮かべた。

 

「うーん。とりあえず魔力の蒐集はやめさせるとして問題は闇の書をどうするかねんな。実を言うと時間がないっちゅうのは私自身なんとなく分かってはいたんよ。それに関してはシグナム達には謝らなあかんわ。ごめんな。」

「というと・・・?」

 

シャマルが疑問気な表情を見せるとはやてはバツの悪い顔をした。

 

「実はというとな。ここ最近心臓辺りが突然激痛に襲われることがあるんよ。心筋梗塞とかそのあたりかと思っとったんやけど、あながち間違いじゃあらへんやな。」

「・・・・闇の書の浸食がそこまで進んでいるということか。」

 

ヒイロがそういうとはやては頷いた。シグナムの言っていた闇の書の浸食が進んでいるということは早急に手を打たなければはやては死んでしまう可能性がある。

 

「でも、闇の書が完成すればはやてちゃんの麻痺も治ると思っていたのですが・・・。」

「・・・その情報は本当にそうなのか?こちらでは完成させれば周りに甚大な被害を生むと聞いた。文字通りの災厄をな。」

 

シャマルの発言に対してヒイロがそういうと守護騎士たちは皆、驚きに満ちた表情を浮かべた。そのことにヒイロは怪訝な顔を浮かべざるを得なかった。

 

「・・・お前たちは闇の書のプログラムの一種のはずだ。記録とかは共有していないのか?」

「そんなの聞いたことがねぇぞ!!どこで聞いたんだよ、それ!!」

「管理局の執務官だ。名前は伏せさせてもらうが。」

「・・・シグナム。我らの記憶は朧げなところが多い。闇の書を完成させれば、主人の体が治るというのも我々の勝手な思いつきだ。ここは彼に情報を集めてもらった方がいいかもしれん。」

 

突然響いた男性の声にヒイロはあたりを見回す。声のした方向にいたのはザフィーラだけだった。だが、ヒイロにはアルフとユーノという前例からある結論を導き出した。

 

「・・・・お前、使い魔だったのか。」

「守護獣だ。そこのところは間違えないでほしい。」

 

どうやら違うらしい。何が違うのかはよく分からなかったが、追及はせずに話を戻すことにした。

 

「ザフィーラの言う通りだ。その、不躾で申し訳ないのを承知で君に頼みたい。闇の書に関する正確な情報がほしい。」

「・・・了解した。だが、こちらからも頼みがある。しばらく、魔力蒐集を続けてほしい。」

「理解しかねる・・・。どういうことだ?」

 

ヒイロの頼みにシグナムが訝しげな表情を浮かべる。先ほど、はやてが魔力の蒐集をやめると言ったのに、それを無下にするつもりなのだろうか、と。

 

「・・・無理に行う必要はない。それこそ蒐集を行う振りでも問題はない。だが、管理局は組織だ。組織である以上、一枚岩であることはありえない。必ず別の考えを持つ奴がいる。ソイツらを引きずり出す。マイナス要因は取り除いておく必要がある。」

「黒幕を炙り出す、ということか?」

 

シグナムがそう聞くとヒイロは首を横に振った。

 

「・・・・ソイツは黒幕ではない。だがこちらの出方によっては味方に引き込むことも可能だ。それに闇の書にも密接に関わっている。情報源としても味方に引き込んでおいた方がいい。」

「・・・主人、どうしますか?」

「え、私に振るんか?そうやね〜・・・・ヒイロさん、それは絶対しなきゃあかんか?」

「・・・しておいた方が誘きやすくはなるが無理強いをするつもりはない。」

 

ヒイロにそう言われると、はやては少々唸り声をあげながら思案に耽る。

 

「・・・・わかった。多分、魔力の蒐集を行なっているって相手に見せるのが重要なんやろうな。シグナム、一応許可は出すわ。けど過度な蒐集は行わないことが条件や。」

「・・・了解しました。」

 

話も一息ついたところで、とりあえず置いてあった夕飯を平らげ、ヒイロは八神邸を後にしようとする。

 

「な、なぁ、ヒイロ。」

「・・・・ヴィータか。」

 

振り向くとヴィータが少々思いつめた表情を浮かべていた。少しばかり逡巡した様子を見せていたが程なくしてヒイロに視線を合わせた。

 

「・・・あの白い服の魔道士の名前、なんて言うんだ?あいつにはちょっと謝りたくてさ。」

 

ヴィータの言う白い服の魔道士というのはなのはのことを指しているのだろう。

彼女を襲撃したことをヴィータは謝りたいらしい。

 

「・・・・自分で聞け。向こうもお前に名前を聞こうとしていたそうだからな。」

「うぅ・・・・ケチ。」

「ヒイロ。」

 

ふてくされるヴィータを無視して玄関のドアから出ようとするヒイロを再度呼び止める声が響く。その声の主はシグナムであった。

 

「なんだ?」

「・・・お前ほどの実力者であれば気づいているだろうが、つけられている。」

「・・・・ああ。理解している。」

「・・・・気をつけろ。」

「ああ。」

 

 

シグナムの言葉に軽く返事をし、ヒイロは八神邸を後にした。日は既に沈み、光源となるうるものは電柱のライトから照らされる光ぐらいであった。

そんな夜道を一人で歩いている中、ヒイロは立ち止まり、振り向いた。そこに広がるのは闇だけであったが、ヒイロには分かっていた。

 

「殺気で丸わかりだ。用があるなら姿を見せろ。」

 

闇に向かってそう呼びかけると闇の中から歩く音が響いてくる。闇の中から出てきたのは仮面を被った男であった。

 



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第12話 募る疑惑 力への渇望

本作が昨日か一昨日の日間ランキングが5位まで行っててびっくりしたわんたんめんです。
まずはありがとうございます!!

皆さんの期待に応えられるかどうかはわかりませんが、頑張ります!!


ヒイロの目の前に現れた仮面の男。その瞳は伺えないがヒイロに敵意を向けていることだけは察することができた。

 

「・・・お前は何者だ?」

「・・・・貴様は知りすぎた。故にここで眠ってもらうぞ。」

 

ヒイロが仮面の男に質問をぶつけるが、その男は答えることはなく一方的にヒイロに向けて言葉を投げかけた。

次の瞬間、仮面の男が一瞬で距離を詰めてきた。目の前に広がるのは既に腕を振りかぶっている男の姿。常人ではおろか並みの格闘家でも対処はできない。まさに奇襲であった。

だが、それはヒイロがただの一般人であればの話である。

ヒイロは突然の状況にも冷静に対応し、自身の腕をクロスさせることで襲撃者の攻撃を受け止めた。

 

「・・・これを止めるか。」

「・・・・・・?」

 

意外性を含んだ仮面の男の声にヒイロは疑問気な表情を浮かべる。そう思いながらもヒイロはそのまま力任せに襲撃者の拳を弾き飛ばし、一度距離を取る。

 

「邪魔をするな。」

「貴様はやはり危険だ!!ここで仕留めさせてもらう!!」

 

そういいながら腕を構えたと同時に仮面の男は再度ヒイロに急接近し、今度は右足で回し蹴りを仕掛ける。鋭いその蹴りはまともに喰らえばただでは済まないだろう。

 

(・・・何かコイツの攻撃から違和感を感じる・・・。一体なんだ?)

 

僅かにやり辛いと感じながらもヒイロはこれすらも軽く斜めに体を晒すことで避け、さらにカウンターのパンチをガラ空きとなったボディに打ち込もうとする。

 

「そう易々と攻撃を受けるわけにはいかんな!」

 

ヒイロの視界の端に僅かに映り込んだのは仮面の男の手の甲であった。回し蹴りの勢いをそのまま使って、ヒイロに裏拳を仕掛けていたのだ。

ヒイロはそれに軽く舌打ちをしながらカウンターを叩き込むのをやめ、そのまま仮面の男と入れ違いのような形で避けることにした。

 

「ふっ!!」

 

ヒイロは入れ違いになった瞬間、仮面の男に背を向けたままバックステップで拳を構えながら一気に距離を詰める。そして、そのまま上半身の回転を加えながら仮面の男に殴りかかる。

 

「何っ!?」

 

振り向いた時には既にヒイロが目の前にいるという逆パターンを仕掛けられた仮面の男は咄嗟に手のひらから魔法陣を展開し、それをバリアとする。

しかし、ヒイロの腕力は常人どころか人としてどうかのレベルまであったためヒイロの拳が当たった瞬間、仮面の男の張ったバリアは粉砕される。

 

「はぁっ!!」

 

乾坤一擲、ヒイロは軸足を地面に軽くヒビが入るほど思い切り踏み込みながら右足で追撃を行う。

 

「うぐっ!?」

 

バリアを破壊されたことに気を取られた仮面の男は防御する間も無く、胸部に蹴りをクリーンヒットさせられ、吹っ飛んだ。

しばらくバウンドしたのち、ようやく仮面の男は止まった。しかし、呼吸もままならない様子で肩で息をしていた。さらにバウンドした衝撃で所々、服が破けていた。

 

「・・・・肋骨は数本持っていったはずだが、加減はした。死にはしないはずだ。お前の正体を話してもらうぞ。」

 

ヒイロがそういって仮面の男に近づいた瞬間、男は何かを構えた。それはカードのようなものであった。ヒイロの視界にそれが映り込んだ瞬間、彼の体に縛り付けられるような感覚を覚える。

 

「っ・・・バインド・・!!」

 

それは四重ほどの青白い色をしたバインドであった。バインドはヒイロの腕を縛り付け、動きを制限させられる。

その仮面の男はその隙にカードから生み出された光で転移魔法のようなもので撤退していった。

 

「ちっ・・・逃げたか。」

 

ヒイロはバインドを平然と力で破壊しながら苦い顔をする。

追跡するのは不可能、そう断じたヒイロは何事もなかったかのように帰路に着いた。

 

(・・・・あの男の攻撃、妙に間合いが近かったな。)

 

ヒイロは先ほどの違和感の正体にあたりをつけていた。仮面の男の攻撃は男の身の丈の割には間合いがヒイロの予想と比べてかなり近かったのだ。

 

(・・・・奴は魔法陣を展開していた。おそらくは魔導士であることは明白だ。ならば・・・。)

 

ヒイロの目には鋭くなっていた。その視線は先ほどの仮面の男に向けられていた。

 

再度帰路につき、夜の海鳴市を歩くと、仮拠点であるアパートが見えてくる。

ヒイロは普通に部屋へ向かっていき、玄関のドアを開いて何食わぬ顔で入る。

 

「あら〜ヒイロ君。おかえりなさい。」

 

一番最初に迎えてくれたのはリンディだった。表情も笑顔だし、声色にも嬉しそうなものになっている。ただ、どうにも目が笑っていないように感じるという一点を除けば。

 

「貴方、一体今までどこをほっつき歩いていたのかしら?お姉さんに教えてくれる?」

 

軽く視線を奥に送ると青い顔をしているフェイトとクロノの姿が見えた。エイミィはヒイロに合掌を向けて、どうしようもないと言うような諦めの表情を浮かべていた。

 

「・・・・海鳴市を回っていただけだ。」

 

「なのはちゃん、すごく心配してたわよ?連絡もつかないわ行方はわからないわですっごく悲しそうな目をしていたわよ?」

 

特にこれといった反応を見せないヒイロにリンディが怒りのオーラを身にまといながら、ヒイロに近づいていく。

クロノとフェイトは慌てふためき、エイミィはヒイロに呆れたような視線を向け、乾いたため息を吐く。

 

「・・・・って、貴方その傷、どうしたの?」

 

リンディはその怒りのオーラを突然解くと、指をさしてヒイロに尋ねた。

リンディが指をさしていたのはヒイロの腕のあたりでそこには擦り傷のようなものができており、出血もしていた。仮面の男の攻撃を防御した時に付けられた傷なのだろう。

 

「・・・・正体不明の男に襲撃を受けた。返り討ちにしてやったが、これはその時できた防御創だ。」

 

ヒイロはそういいながらリンディや後ろで聞いていたフェイトたちに仮面の男のことを話し始めた。無論、はやて達のことは触れられないように細心の注意を払いながら説明を行った。

 

「・・・なるほどね。その男はどうしてヒイロ君を襲ってきたのかしら?」

「理由は不明だ。守護騎士の仲間であるという可能性もあるが、現段階で奴らの正体を掴むのは難しい。だがリンディ、少し聴きたい。魔導士の扱う魔法には自身の姿を変えるものもあるのか?」

「ええ。あるにはあるわよ?」

 

リンディの返答を聞いたヒイロは険しい確信めいた表情を浮かべる。

 

「・・・その男と格闘戦になった際、俺は奴の間合いの取り方に違和感を覚えた。背丈の割には間合いが近すぎる。おそらく奴はその魔法を使って、本来の姿を見せていない。」

「・・・ヒイロはその男の特徴を掴めたのか?」

「・・・擬態した姿の身長自体は180だったが、間合いの取り方から逆算するに奴の身長は150後半から160前半だ。だが、あまり期待はするな。これは俺の推測や主観でしかない以上、確証はない。」

 

傷を負った箇所を包帯で巻きながら、クロノの質問に答える。ヒイロの手際はこなれたものであっという間に応急処置が完了し、リンディ達に向き直った。

 

「・・・・わかったわ。とにかく貴方が無事でよかったわ。」

「格闘戦はできるようだったが、あの程度にやられるほど俺は弱くない。が、奴の目的が知らない以上、注意はしておけ。それと、クロノ。」

 

ヒイロに突然名前を呼ばれたクロノは疑問の表情を露わにする。

 

「なんだい?」

「闇の書に関する正確な情報が欲しい。具体的に言えば、完成させた時に起こる事象等だ。管理局本部のどこかに過去の捜査資料が置かれている区画はないのか?」

「あるにはあるけど、君は管理局員でない以上、立ち入るのは難しい。僕もちょうど欲しかったところだし、そういうのが得意なユーノに任せるつもりだ。彼にも僕の知り合いをつけるつもりだからそんなに時間はかからないと思うけど、それからでも構わないかい?」

 

クロノの言葉にヒイロは少々考え込む様子を見せる。闇の書がはやてのリンカーコアを浸食する度合いについて考えていたが、それを考えたところでどうしようもなさもあった。

 

「・・・・了解した。」

 

ヒイロはクロノの提案を頷くことで承諾した。その時にどこか不安気な表情を浮かべているフェイトに目がついた。少し見つめているとフェイトと目が合い、驚いた様子で慌てて視線を逸らした。少しばかり一体何を気にしているのかと思ったがーー

 

「・・・・特訓なら問題ない。お前が思い詰める必要はない。」

 

察しがついたヒイロはフェイトに向けてそう伝える。ヒイロの予想が当たったのかフェイトを嬉しそうな表情を浮かべ、はにかんだ。

 

「近くに広い丘を確認した。時刻は、朝の10時からでいいな?」

 

ヒイロがそういうとフェイトは今度は気まずそうな表情をし、何故かリンディは何かを思い出したような仕草をした。ヒイロが疑問気に思っているとリンディから説明が入る。

 

「そういえばヒイロ君、その時にはもういなかったわね。実はフェイトちゃん、なのはちゃんと同じ学校に通うことになってるの。その特訓はできれば学校が終わってからにしてくれないかしら?」

「そうか。問題ない。なら、特訓は近場の広場の丘でやることと動きやすい服装で来いとなのはに伝えておけ。連絡の手間が省ける。」

「うん。わかった。」

 

フェイトが頷いたところで話し合いはお開きとなり、時間が流れていく。

そして、フェイトが明日の学校のために寝付いた時刻。ヒイロはベランダに出て風に当たっていた。

 

(・・・・あの仮面の男、いや何か魔法で身を隠している以上、性別が本当に男かどうかも判別はできんな。)

 

ヒイロは今日相対した仮面の人物についての考察を浮かべていた。

技量自体はヒイロ自身ではなんとかなったがそれ以外の人物では対処は難しいと考えられる。それだけの技量を奴は持っていた。

仮面の人物について色々考えていると、ヒイロの側にクロノが現れた。

 

「・・・・話にあった仮面の男のことかい?」

「・・・・・そうだな。奴が敵対する以上、対策を考える必要がある。」

「そう・・・だね。ところで、さっき話した情報収集のことなんだけど、ユーノにつけるつもりの知り合いって言うのはグレアム提督の使い魔達なんだ。」

「・・・ギル・グレアムのか?」

 

確認するような口調で尋ねるとクロノは頷いた。警戒している人物の使い魔と聞いて、苦言を呈しそうになるヒイロだったが、それを抑えながらクロノに続きを促す。

 

「・・・グレアム提督に対して警告を告げていた君のことだ。一応伝えておいた方がいいと思ってね。」

「・・・・そうか。ソイツらの名前は?」

「リーゼアリアとリーゼロッテだ。二人はそれぞれ、僕の魔法、それと近接格闘の師匠なんだ。」

 

ヒイロはそこで引っかかる感覚を覚えた。ギル・グレアムが闇の書に対して私怨のような、責任のようなものを抱いているのは確かだ。それにヒイロは今回、はやて達、闇の書の主要人物を知ってしまった。ヒイロ自身、はやての家に上り込む前から薄々襲撃者の気配を感じ取っていた。そこにクロノの格闘戦の師匠というリーゼロッテという使い魔。複数のピースがヒイロの頭の中で組み合わさり、一つの確信へと構築されていく。

 

「・・・まさかとは思うが。」

「・・・うん。僕自身、あんまりそう思いたくはない。だけど、君の警告がどうしても僕の中で色濃く残って、あの人に対して懐疑心を捨てきれないんだ。」

 

そういったクロノの表情はどこか苦しそうなものであった。無理もないだろう。グレアムはクロノにとっては恩人以外の何物でもない。そんな彼を疑うことはクロノにとって裏切るようなものである。

 

「・・・・心が痛むのであれば、俺がやる。これからの行動の邪魔になるだけだからな。」

 

ヒイロはそう言ってクロノを突き放すような口調で話すが、クロノは首を横に振った。

 

「・・・気を使ってくれてありがとう。だけど、僕は管理局の執務官だ。時には非情に徹しなければならないこともある。今回はそういう経験だと、割り切るよ。」

「・・・・お前がそういうのであれば、俺は必要以上に干渉しない。だが、これだけは言っておく。自身の感情に従って行動しろ。」

「え・・・・?」

 

あまり意味がよく分からなかったという表情を浮かべるクロノにヒイロは続けて言い放つ。

 

「感情で行動することに異論はない。俺はそう学んで、戦い抜いてきた。」

 

それだけクロノに告げるとヒイロは部屋へ戻っていった。クロノはヒイロの言葉の意味を考えながら、12月の冷たい風に当たっていた。

 

「感情・・・自分の本心か。僕の思うようにやれ、そういうんだね、君は。」

 

 

 

次の日、時刻は午後を廻り、おおよそ4時過ぎ。ヒイロはなのは達の特訓のために仮拠点から比較的近い広場に赴いていた。彼の手にはそれなりに膨れた袋が握られていた。

適当なベンチに腰掛け、待っているとこちらに向かって走ってくる小さな人影が二つ見えた。

 

「来たか。」

 

そういいながら徐に立ち上がり、二つの人影、なのはとフェイトを出迎える。

 

「ヒイロさん、よろしくお願いします!!」

「ああ。」

「あ、あの!!」

 

フェイトからの挨拶に軽く返しながら手に持つ袋から用具を取り出そうとすると、なのはから声がかかった。

 

「き、昨日は私のお兄ちゃんのせいで気を悪くさせてしまってごめんなさい!」

 

そう言ってなのははヒイロに頭を下げた。ヒイロとしては別段気にした覚えはなかったが、なのはの中ではだいぶ思いつめていたようだ。

 

「気にするな。むしろお前の兄の反応は至極当然だ。家族の周りに突然知らない人物が現れて警戒しない方がおかしいからな。お前が気に病む必要はない。」

 

それだけ言ってヒイロは袋からシートと棒二本と木刀を取り出した。

 

「あの、それは・・・?」

 

フェイトがヒイロが取り出したもの見つめながら質問する。

ヒイロは用意したシートを二人分敷きながら説明を始める。

 

「筋力トレーニングを行うためのシートだ。服が汚れるからな。棒はお前たちの近接戦闘スタイルに合わせるためだ。長さはお前たちのデバイスと変わらん筈だ。最後に木刀だが、これは俺が扱うためだ。」

「ヒイロさんが・・・?」

「一通りこなした後は俺を相手にした模擬戦をやるつもりだ。もっともお前たちがそこまでメニューをこなせればの話だが。」

 

ヒイロの言葉に二人を驚きの表情を見せながらお互いの顔を見合わせる。アイコンタクト、もしくは念話で何か話し合ったのか、再びヒイロの方に向き直った時にはやる気に満ち溢れた表情となっていた。

 

「・・・いいだろう。だが、先も言ったが、まずはある程度のメニューをクリアしてからだ。」

『はいっ!!』

「まずは腕立て伏せだ。空中に飛んでいる状態では足腰を使うことは不可能だ。問われるのは自分の腕の筋力だけだ。これはなのは、お前が砲撃魔法を扱う際に標準のブレを抑えやすくなる。始めは50ほどでいい。」

 

ヒイロが指示を飛ばすが肝心のなのはたちは意外性を含んだ表情を浮かべていた。その様子はさながら拍子抜けと言ったところだ。

 

「どうかしたか?」

「えっと、その。もっとやらないのかな、って思って・・・。」

 

ヒイロがそう尋ねるとなのはが少しばかり気が引けたような口調で話した。

その瞬間、ヒイロの目が鋭く、冷たい視線に変わった。その様子はまさに怒っている様子だ。予想外の反応になのはとフェイトは思わず表情を強張らせる。

 

「基本的にオーバーワークを認めるつもりはない。自身の身の丈にあっていない訓練を積んだところで、待っているのは自分の体に爆弾を抱えるだけだ。特になのは、お前はただでさえ負荷のかかりやすい砲撃魔法を扱っている以上、オーバーワークは絶対にするな。わかったな。」

「は、はい・・・。」

 

上ずった声をあげながらも返事を返したなのはを見たヒイロは今度はフェイトに視線を向ける。

フェイトは思わず体を少しばかりビクつかせる。

 

「フェイトもわかったな?わかったならさっさとやれ。明朝からだったらペースはお前たちの好きにして構わんが、平日である以上時間のロスは許されないからな。」

 

険しい表情で頷くフェイトを見たヒイロはその怒りをひとまず引っ込める。

なのはたちはヒイロの言う通りに従い、ヒイロが敷いたシートの上で腕立て伏せをやり始めた。

 

 

 




>>無印A.sのフェイトとなのはの特訓シーンを見た感想

うんうん、普通だな。

>>2ndA.sのフェイトとなのはの特訓シーンを見た感想

・・・君たち本当に小学生?特にフェイトちゃん、君なのはの身長飛びこしてたよね。


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