魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 (わんたんめん)
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第1話 凍りついた流星

はい、はじめましての人ははじめまして。
わんたんめんです。
タグでもお分かりかと思いますが、ガンダムWとリリカルなのはとクロスです。さらにヒイロはフロティア前で『前奏曲』のインプットもないため、今回、これまでの記憶を全て失っています。
そのことを留意しつつあったかい目で読んで頂けると幸いです。
あと私による勘違いも多々あると思います。
そこら辺もよろしくお願いしますm(._.)m


A.C196年 クリスマス・イヴ

 

 

地球圏統一国家と武装組織『ホワイトファング』による地球の未来を掛けた戦争『EVE WAR』からちょうど一年、誰もが平和への道を進んでいた中、トレーズ・クシュリナーダの娘を語るマリーメイア・クシュリナーダが地球圏統一国家に対して、宣戦布告を行った。

歴史ではこれを『バートンの反乱』と呼んだ。

なぜ『バートン』の名が付けられたのかはマリーメイアはあくまで傀儡でしかなく、事件の首謀者はバートン財団の盟主であった『デキム・バートン』であったからだ。

しかし、反乱の勢いは凄まじく彼らによって統一国家の大統領府まで制圧されてしまう始末であった。

なぜここまで後手に回ってしまったのかを敢えて弁護するのであれば、人々が平和に慣れてしまっていたからであろう。

だが、いつの時代にも目の前の現実に対して、立ち上がる者たちがいた。

目的はただ一つ、『平和』を、これ以上自分たちのような兵士を生み出させないためーー

人は、そのために立ち上がった少年たちの乗るモビルスーツをこう呼称した。

 

『ガンダム』とーーー

 

 

 

『バートンの反乱』から年月は流れ、人々の注目はある惑星へと注がれていた。

地球からもっとも近い惑星、大気のほとんどが二酸化炭素で構成されている『火星』である。

だが、その火星も増えすぎた人口の捌け口とされ、テラフォーミング化された結果、限定的ながらも人が住める土地と化していた。

そして、時はM.C(マーズ・センチュリー)0022 SUMMER

 

物語はイレギュラーをもって開幕を告げる。

 

人口冬眠装置である『星の王子様』と『オーロラ姫』のうち、突如として、『オーロラ姫』が行方不明となった。当然、捜索が行われたが、『オーロラ姫』の行方どころか持ち出した方法さえも不明という有様であった。

そして、誰もが口にする。魔法だ、魔法でしかこの異常現象の説明がつかない、と。

 

 

 

 

「・・・・・これ、本当になんなのかしら?」

「エイミィの調査だと、人工的に人を休眠、いや冬眠させるものと言っていましたけど・・・。」

 

艶やかな濃い緑色の髪をたなびかせているのは時空管理局所属戦艦『アースラ』艦長、『リンディ・ハラオウン』である。そして、その隣にいる黒髪の少年の名は『クロノ・ハラオウン』、弱冠14才という顔つきにまだ幼さが残っている年齢でありながらも時空管理局の執務官という高い役職に就いている秀才である。ちなみに苗字から察すると思うが、先に紹介したリンディ・ハラオウンの息子である。

 

「それは分かっているわ。でも、これを作った意味がよくわからないのよ。」

 

その親子が目の前に相対しているのは一つの機械、いや芸術品といっても過言ではないような美術的な装飾がなされた一つのカプセルであった。全長3メートル以上の巨体を誇るそのカプセルは美しい顔を持ち、そして天使を思わせるような純白の翼に包まれている。さながら中にある人物が天使から寵愛を受けている、と錯覚してしまうような荘厳な様子であった。

その冬眠装置の形状は涙の雫のようであった。さらにあたりに感じる冷気も相まってその装置は凍りついた涙の雫(フローズン・ティアドロップ)、と形容できそうであった。

 

「仮にこれがエイミィの調査通り、人工的な冬眠装置だとすれば、こんなにも煌びやかな装飾はいるかしら?もっと機械的になるのが当然と思わない?」

 

リンディの問いかけにクロノは顎に手を乗せながら思案に入った。

確かにそれもそうだ。ただの冬眠装置であればこんなにも美しいと感じてしまうような装飾はいらないはずだ。

ではなぜこんなにも煌びやかな飾りが必要なのだ?

 

「・・・・もしかして、かなり力のあるものを封じ込めている、謂わばオリという可能性もあるんでしょうか?」

「・・・・それもあるわね。昔から権力や単純な力を持つものは死後もなんらかの形で自分の力を指し示すものを残しているのは歴史が証明している。自分を冷凍睡眠させて、延命をするというのはよくあることだわ。可能性として、ないわけではないわね。」

「・・・・では、どうします?エイミィから解凍プログラム自体の解読は済んでいる報告は上がっています。」

 

実の息子からの提案にリンディは瞳を閉じて、考える。

 

(・・・・今はまだプレシア・テスタロッサの件が済んだわけではないわ。コレも無関係って断じるのは早すぎるわ。このカプセルに入っているのが、話の通じる相手かどうかはわからない。だけど、変に放置して、厄介ごとになってくるのは避けたい。)

 

ここで開くリスクと放置したさいに起こるもしかしたらの可能性。

二つのリスクが彼女の天秤にかけられる。

彼女が選んだのはーー

 

「クロノ、アースラにいる魔導師に召集をかけて。それとエイミィにも伝えて、解凍すると。」

「・・・わかりました。」

 

クロノはリンディからの指令を伝えるために管制室へと向かった。

一人残されたリンディはポツリと呟いた。

 

「・・・・さて、この判断が吉と出るか凶と出るか・・・・。」

 

 

 

 

程なくして例のカプセルが保管されてある部屋にアースラにいる全職員が集結する。

彼ら、または彼女らはバリアジャケットと呼ばれる魔力から身を守る戦闘服を身につけ、目の前の代物に視線を集中させる。

 

「これから例のカプセルの解凍を行います。サイズから鑑みるに出てくるのは人間だとは思うけど、まだプレシア・テスタロッサの件が終わってから間もないし、状況が沈静化したわけではありません。各員は油断はしないように。」

 

リンディの言葉にアースラの乗組員は気の張った表情をしながら大きく頷くことで応える。

その様子に少しばかり笑みを浮かべた彼女はコンソールについている管制官である『エイミィ・リミエッタ』に指示を飛ばす。

 

「エイミィ、解凍を始めて。各職員はバインドの準備を。」

 

リンディからの指示にエイミィはコンソールに解凍プログラムを始動させるためのパスワードの打ち込みを始める。

 

(何かの年号と季節なんだろうけど・・・・。どこの世界のものだろう?)

 

エイミィはパスワードの感じから、どこかの年号と季節であることは察することはできた。しかし、見たことも、聞いたこともなかったものだったため、それ以上の詮索はできなかった。

コンソールにパスワードを打ち込むと冷凍カプセルの様子に変動が起こった。

カプセルを包んでいた天使を彷彿とさせていた大きな翼が広がっていく。

冷気が室温に溶けていくと同時にカプセルには結露により水滴が生まれ、室内の照明に反射して、光を放っていた。

水滴は自身の重みで流れ落ちていき、カプセルの中が望めるようになっていった。

冷凍カプセルの中に入っていたのは、まだ20にも満たない少年であったからだ。

その事実にいち早く気づき、声をあげれたのはーー

 

「っ・・・・!?子供・・・!?」

 

リンディであった。自身の子供と然程変わらない少年が中に入っていることに気づいた瞬間飛び出た言葉に職員に動揺が走った。よもや、大の大人が出てくるならまだしも、子供が入っているとは彼らも露にも思わなかったからだ。

やがて、少年を覆っていたカプセルが開かられる。

 

「救護班!!急いでっ!!」

 

リンディは一応側につけていた救護班を呼び寄せる。理由は冷凍睡眠をされた人間は筋力が低下して、しばらく立つことができないからだ。そういった自身の経験も兼ねた指示であった。

しかし、少年はカプセルから出ると()()()()()()()()()()()()()()()

その事実はリンディはおろか、クロノでさえ驚愕の表情に染まった。

ありえないからだ。冷凍睡眠から解放された人間がすぐさま立てるほどの筋力があるというのは前代未聞に他ならなかったからだ。

 

(もしかしたら、開けてはいけない箱を開けちゃったのかしら・・・?)

 

リンディの頭の中にそんな考えさえよぎってしまうほど異様な雰囲気に包まれていた。

そして、その少年の閉じられていた瞳が開けられる。

 

「・・・・・・・?」

 

彼はリンディたちの様子を見るとあどけない瞳をしながら首を傾げた。

その目に敵意などはなかった。むしろあるのは、純粋、そして疑問。そんな感じだった。

さながらその目はまだ生まれて間もない赤ん坊のようなものであった。

 

「・・・・敵、ではないのか?」

 

クロノがそうポツリと呟いた。

見たところ少年は特にこれといった行動は起こしていない。

だが、まだ何が起こるかは分からなかったため、職員は警戒心を強めながら状況を見守っていた。

誰もが膠着した状況が続くかと思われたその時、徐に前と歩を進める人物がいた。

 

「えっ!?か、母さ・・艦長っ!?」

 

母さんと呼びかけたのはクロノだ。であれば必然的にその人物は絞られる。

アースラの艦長であるリンディその人だ。

彼女には一種の直感があった。それは母親としての勘であった。

 

(もしかすれば、彼はーーー)

 

一抹の不安を交えながらも彼女は少年の前まで歩みを進めた。

少年はリンディの顔をじっと見つめていた。

その様子に彼女は微笑んだ。その表情は母親のような慈愛を持ち合わせたものであった。

目線の高さを少年まで合わせると、彼女は手を差し伸べた。

 

「少し、来てくれないかしら?君のお話を聞かせてくれる?」

 

優しげな声色であった。さながら彼女自身の子供に語りかけるような声に少年はーー

 

「・・・・・・。」

 

無言であったが徐々に手が伸び始める。そして、少年の手がリンディの手に、乗せられた。

 

「うん。いい子いい子。」

 

少年の手を優しく包むように握ると、職員に視線を向ける。

職員たちの表情は皆驚きに包まれていた。

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

我が子の問いにリンディは無言で頷く。そして、職員に向けていた視線を救護班に向けた。

 

「医務室を空けてくれないかしら?多分、この子、記憶がないんだと思うわ。最悪、幼児退行も併発している。」

「わ、わかりました。」

 

リンディからの指示に救護班は室内から出ていった。

 

「職員のみんなは警戒を解いて構わないわ。この子は私が受け持つから。」

 

その言葉に職員に表情は心配するものに変わった。

職員の様子を見かねたリンディは指示を飛ばす。

 

「なら、クロノ。付いてきてくれるかしら?必要以上に集めちゃうとこの子が警戒しちゃうから。」

「・・・わかりました。」

 

リンディは少年と我が子を引き連れて、医務室へと向かった。

まだ少年の正体を知る者は一人もいない。少年の首に下げられてあった翼に包まれた剣のペンダントが光ったように見えたのも誰も気づくこともなかった。



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第2話 記憶を無くした少年

しばらくヒイロは一切喋らない話が続きますな・・・・


「うーん。症状が思ってた以上に深刻ね・・・・。」

 

少年を医務室に連れてきたあとクロノと必要最低限の職員を残して、退室させた後、いくつかの質問を少年に行なった。

しかし、少年の答えは無反応であった。否、反応自体はしてくれるのだが、まるでこちらの質問の意味が分からないと言うように首を傾げるだけであった。

自身の年齢や自分が何者かさえ答えることができない有様にクロノは思わずリンディに質問をした。

 

「彼、記憶を何もかも無くしているんでしょうか?」

「そう考えるのが妥当かしらね。おそらく解凍した際に脳の海馬部分に異常が発生して、事実上の赤ん坊状態になってしまったのね。」

 

リンディの言葉にクロノは表情を暗くした。なぜなら、その少年の記憶を奪ったのは、他ならぬ自分たちだからだ。まだ事件の収束が済んでいないから、関連性があるかもというもしもの関連性を疑って、彼を目覚めさせた。

だが、結果としては関連性を掴むどころか、一人の少年の記憶を奪ってしまった。

 

「・・・・貴方が気にすることはないのよ。指示を下したのは、私なんだから。責任は私にあるわ。」

 

そんなクロノにリンディは優しく諭し、彼の頭に手を乗せる。

クロノはそのことが恥ずかしかったのか、顔を薄く赤らめながらリンディから距離を取った。

 

「や、やめてください!」

 

その様子も愛らしく感じるのは母親としての心なのかしらね、とリンディは軽く微笑んでいた。

 

「さて、本格的にこの子をどうするか、ね。」

「・・・・グレアム提督に預けてみますか?ロッテとアリアに何されるかわかりませんが。」

 

ギル・グレアム。時空管理局の顧問官を務めており、リンディの夫であり、今は亡き『クライド・ハラオウン』の上司に当たるベテランの重鎮である。

クロノの執務官試験の時の監督も務めていた老人である。

ちなみにクロノの言う、ロッテとアリアとはグレアムの使い魔である『リーゼロッテ』と『リーゼアリア』のことである。

彼女らはグレアムの使い魔として彼に連れ添っている。

そのコンビの強さは管理局随一と言われている程である。

なお、リーゼアリアはクロノの挌闘技の師匠である。

 

「そうねぇ・・・。一応、保護したっていう名目で預けてみるのもいいわね・・・。まだフェイトちゃんの裁判も済んでいないし・・・・。」

 

フェイト・テスタロッサ。プレシア・テスタロッサが引き起こした後に『P.T事件』と称されるようになる事件において、保護した少女である。テスタロッサの姓を名乗っている以上、プレシアとの関係性が疑われるが、彼女はプレシアの実の娘であった『アリシア・テスタロッサ』のクローンであり、彼女とプレシアの間に血縁関係自体は存在しない。

彼女は現在事件に関与したとして、裁判が行われているが、彼女自身の意思によるものでなかったのは明らかなため、事実上の無罪は確定している。

しかし、無罪が確定しているとはいえ裁判である以上、時間がかかるためその少女はアースラの艦内にいる。

 

そして、リンディの視線は少年の首に下がっているネックレスに注がれていた。

そのネックレスはとても簡素な造りに翼に抱かれた剣のアクセサリーが付いていた。

おそらく察するに管理局の魔導師たちが持っているデバイスという可能性が高い。

 

(ねぇ、クロノ。彼の首にぶら下がっているネックレス。どう思う?)

 

リンディはクロノに対して念話で語りかける。

 

(おそらく、デバイスだと思いますけど・・・。)

 

クロノからの返答は自身が思っていたことと同じものであった。

リンディは少しばかり意を決した表情をしながら少年に語りかける。

 

「ねぇ、君の下げているそのネックレス。見せてもらってもいいかしら?」

 

リンディのなかなか踏み入った質問にクロノや職員で緊張が走った。

渦中の少年は最初こそ疑問げだったが、少しするとリンディの伝えたいことが伝わったらしく、首にかけていたネックレスをリンディの目の前に差し出した。

 

「ありがとう。」

 

少年にそうお礼を述べると、少年の手からネックレスを受け取る。

 

(うーん、やっぱり悪い子ではないのかしら・・・?)

 

一見するとこの少年はとても素直に見える。だが、それは記憶を失っているからであり、本当の彼はまるで違う人間ということもありえる。

 

(・・・・やっぱり、話せないって言うのが一番ネックね・・・・。少しでも口を開いてくれれば、こっちとしても彼の性格を把握できるんだけど・・・。)

 

視線を向けるも当の少年の反応は軽く首を傾げるだけであった。

思わず軽い笑みを浮かべると少年もまるでおうむ返しのように笑顔を浮かべた。

その事が少年が自身の記憶を何もかも無くし、赤ん坊に戻ってしまっていることを否応がなしに認識させられる。

リンディが少年の処遇について考えに耽っているとーー

 

「・・・・うっ・・・・。」

 

思わずリンディ、クロノの両名はおろか、その場にいた職員でさえ目を見開いた。

今、たしかに喋れないと思っていた目の前の少年が口を開いて、声を発したのだ。

リンディは一瞬、少年が話せるかもしれない、そう思ったがーー

 

「・・・・うー、あー・・・」

 

およそ言葉とは言えない声を発した後、少年はむせてしまった。

多分、冷凍睡眠されていたことで長らく使っていなかったのと記憶が吹き飛んでいるのもあって喉を震わすことにまだ慣れていないのだろう。

 

「む、無理しなくて大丈夫だからね・・・?」

 

若干、肩透かしを食らった気分だったが、リンディは少年に気遣いの言葉をかける。

クロノも手がかかりそうだと言った表情を浮かべながらも柔らかそうな笑みを浮かべていた。

 

 

「それでは私たちは一度、管制室に戻ります。彼に何かあったら直ぐに報告を。」

「了解しました。」

 

職員にそう伝えたあと、リンディとクロノは少年を残して、医務室をあとにした。

アースラ艦内の廊下で二人の歩く音だけが響く。

 

「あの子、やっぱり悪人、ではないのかしら。」

「彼の佇まいを見る限り、今のところはそう判断はできます。ですが、それはあくまで彼の記憶がないだけ。もしひょんなことで記憶を取り戻した時、あのままの彼であるとは・・・。」

「・・・・そうよね。それに、彼が持っていたデバイスも気になるし・・・。」

 

リンディの手の上には少年から預かったデバイスと思われるネックレスは照明の光を反射して、光輝いていた。

 

 

 

 

 

 

『・・・・なるほど、あの冷凍睡眠カプセルの中には少年が入っていたのか。』

「はい。ですが、解凍を行った際に記憶を失ってしまったようです。おそらく海馬に異常が発生したためだと思われますが・・・。」

『記憶喪失の度合いはどれほどかね?」

「その子は・・・。かなり重度の記憶喪失を起こしています。それこそ、精神状態が赤ん坊のそれまで戻ってしまっているほど・・・・。」

 

管制室にやってきたリンディとモニターを介して会話をしているのは青白い髭を生やした初老の老人であった。

その人物は時空管理局における重鎮、ギル・グレアムその人である。

リンディは彼に対して、少年のことに関して、予めの報告は行なっていた。

彼はリンディからの報告を聞くと少々難しい表情を浮かべた。

 

『ふむ、それで今その子はどうしているのかね?』

「現在は医務室で監視を行っています。比較的、パニック症状などを起こしている訳ではないので問題はないかと思われますが・・・。」

『意思疎通はできているのかな?』

「ええ。なんとかこちらの話していることに理解は示してくれているようです。」

 

リンディの報告に対し、グレアムは少々考え込む仕草をした。

 

『確かアースラの定期メンテナンスはそろそろだったかい?その時にその子を預かろう。いつまでも置いておく訳にはいくまい。』

 

グレアムからの思ってもいなかった提案にリンディは驚いた表情を浮かべる。

 

「よ、よろしいんですか?」

『何、君が気にすることはない。デスクワークもいかんせん、暇な時が多いのでな。』

「提督がそれでよろしいのでしたらいいのですけど・・・。」

『・・・しかし、今回、君には中々酷なことをさせてしまったな。』

「・・・大丈夫です。提督が気にすることはありませんから。」

 

リンディの言葉にグレアムは柔らかな笑みを浮かべた。

 

『では定期メンテナンスの時にまた会おう。』

「はっ!!了解しました!」

 

リンディがグレアムに敬礼をすると、モニターの映像が閉じ、通信が終了する。

 

「まさか、提督がこちらから切り出す前におっしゃっていただけるとは・・・。」

「ええ・・・。でも、アースラ自体のメンテナンスはまだ先だし・・・・。あの子の経過次第で、艦内を出歩かせてみるのもいいかしら?」

「いやいやいや、母さん。それは不味いって・・・・。」

 

リンディの発言に思わず一執務官としてではなく、彼女の息子としての口調が出てしまうほどに狼狽した様子を見せたクロノを彼女は軽く笑みを浮かべる。

 

 

「・・・・・・・・。」

 

で、その件の少年、もとい、ヒイロ・ユイは医務室の外に出ていた。

監視していた職員はヒイロがあまりにも何もしなさすぎて、退屈のあまり居眠りをしていた。その間に彼は医務室から退室した。

その職員に咎はない、と思いたい。

ヒイロはその胸に抱いちゃった好奇心の赴くままにアースラ艦内をほっつき歩こうとしていた。

 

「あの・・・・見かけない方ですけど、どなたですか?」

 

声がかけられたが、そんなことは露知らず、ヒイロは御構い無しにそのまま歩を進める。

 

「あ・・・あれ?き、聞こえてないのかな・・・?あ、あのっ!!」

 

そこでようやく自分に声がかけられていると感じたのか、ヒイロは振り向いた。

振り向いた先にいたのはキラキラと輝いてみえる金髪の髪をピンク色のリボンでツインテールでまとめた少女がいた。

その少女の名前はフェイト・テスタロッサ。

 

物語の歯車に本来ありえないはずの歯車が組み合わさった結果、物語は僅かにその動きを変えた。

それに気づくものは誰一人として知りうることはない。

 

 



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第3話 始動する異質な歯車

(・・・・どうしよう、こっちから話しかけちゃったから何か話題を出すべきなんだろうけど・・・。)

 

フェイトは少々気まずそうに視線を目の前の男性(ヒイロ)に向ける。

しかし、等のヒイロはまだ話すことは叶わないためフェイトに視線を合わせ、首をキョトンと傾げるだけで、だんまりを貫いたままだ。

しばらくお互いの間で沈黙が走る。

 

(き・・・・気まずい・・・・。というより、お願いします。そのあどけない瞳をやめてください・・・。話しかけた私の身がもたないからぁ・・・・。)

 

あまりにも無言な間が多かったため、フェイトが精神的にその場にいられなくなりそうになったその時ーー

 

「んー?フェイトー?何やってんの?」

「あ、アルフっ!!」

 

救いの手が舞い降りた。声のした方向へ振り向くと彼女がとてもよく見知った人物、というより使い魔がいた。オレンジ色の髪におよそ人間にあるはずのない獣耳と尻尾を有しているその使い魔の名前は『アルフ』

彼女はフェイトとの付き合いはとても長く、主従を超えて、その繋がりはパートナーや姉妹と言える域まで達しており、ある意味、フェイトの家族であった。

アルフは嬉しそうなフェイトの表情を見て、満足感に満ち溢れるが、彼女が嬉しそうな表情をするのはあまりない。おそらくその前に何かあったはずだろう。そう思ったアルフは視線の先に見知らぬ男がいることに少なからず嫌悪感を抱いた。

 

「アンタ、フェイトに何かしでかそうとしてたんじゃないだろうね。」

 

睨みを効かせた視線でその男であるヒイロを見つめるが、ヒイロは特に意にもかさないと言った様子でその場を後にしようとする。思わずアルフは追いかけようとしたがーー

 

「ア、アルフ、あの人に最初に話しかけたのは私の方なんだから、そんなに睨んじゃダメだよ・・・。」

「え、そうなの?」

 

自分のご主人であるフェイトから静止の声がかかる。その言葉にアルフは踏みとどまって、伸ばそうとしていた手を引っ込めた。

踏みとどまったアルフに対して、フェイトは再度、何処かあてもなく彷徨うように歩いているヒイロの後ろに再び立った。

 

「フェイト、大丈夫なの?」

「うん。まずは、話してみないと分からないから。」

 

長年連れ添っているのもあってアルフは彼女が何をしようとしているのかを察して、心配そうな視線で見つめた。

フェイトはアルフのその視線に笑顔で答えると、ヒイロに向かって声をかける。

 

「あの!!」

 

ヒイロは今度は自分のことだと分かったのかフェイトの呼びかけに対して、一回で振り向いた。

 

「私は、フェイト。フェイト・テスタロッサです。あなたの名前を教えてくれませんか?」

 

かつて自分に対して、名を聞いてきた自分の友達のように彼の名前を聞く。

 

もっとも、今のヒイロは名前はおろか、自身の記憶が全て吹っ飛んでるので答えようがないのだが。

 

そんなことは露知らず、フェイトもヒイロの口が開くのを待ってしまっているため、お互いの間でどうしようもない沈黙が続く。

その沈黙を打ち破ったのはーー

 

「あら?貴方、もう医務室から出ているのね。」

「リ、リンディ提督っ!?」

 

様子を見にきたリンディであった。予想外の人物の登場にフェイトは少々上ずった声をあげる。

 

「フェイトもいるのね。ちょうど良かったわ。」

 

リンディはそういうとフェイトとアルフにヒイロのことの説明を始めた。

 

「記憶が、一切ないんですか・・・?」

「ええ、そうね。この前、たまたま見つけた冷凍睡眠カプセルの話があったでしょう?それの解凍を行った結果、この子が出てきたんだけど、記憶が一切ないのよ。事実上の赤ん坊状態ね。それにだいぶ冷凍されている期間が長かったのか、喉の機能もまだ十全なくて、話すことができないのよ。」

「しっかし、フェイトよりは年上のようだけど、まだ子供だろ?ソイツを冷凍睡眠させた奴の意図が知れないね。」

 

リンディからそのことを聞いたフェイトは少しばかり申し訳ない気持ちに苛まれた。

 

「わ、私、事情を何も知らないで名前を聞き出そうとしてました・・・・。」

「あー、うん。それはしょうがないと思うわ。事情を知らなければそうなっちゃうのも致し方ないわね。」

 

リンディからフォローの言葉を向けるとフェイトは視線をヒイロに向ける。

 

「あの・・事情を何も知らずにお名前を聞こうとしてしまってごめんなさい。」

 

そう言って、軽く頭を下げるフェイトに対して、ヒイロの反応は、彼女の頭に手を乗せることであった。

軽く彼女の金髪を触るように撫でるとほんの少しだけ表情を緩めた。

 

「気にしていないそうよ。」

 

リンディがヒイロの気持ちを代弁するように伝えるとヒイロはフェイトの頭から手を離した。

フェイトも顔をあげるが、表情には若干恥ずかしいものがあったのか軽く赤らめていた。

 

「何というか、感情まで吹っ飛んだ訳じゃあないみたいだね。」

「そうらしいわね。」

 

その様子を微笑ましそうに見つめる保護者枠の二人なのであった。

 

 

「それじゃあ、行ってきます。」

「ええ、行ってらっしゃい。」

 

手を振るフェイトにリンディが振り返す。

今、アースラはフェイトの裁判のために一度次元世界の第1世界であるミッドチルダの周辺次元まで来た。

実際にミッドチルダまで行くのはフェイト、アルフ、そして、弁護として付いていくクロノとユーノ・スクライアという少年であった。

リンディとヒイロは見送りとして、彼女たちが使う転送ゲートの側にいた。

ヒイロは見送りとしてはその場に立っているだけだったがーー

 

「フェイトは貴方にも手を振っているのよ。振り返してあげたら?」

 

リンディにそう言われ、彼女の真似をするような形でフェイトに向けて軽く手を振った。

やがて、転送ゲートから光が溢れるとそこにフェイト達の姿はなかった。

 

「あとは待つだけ、かしらね。」

「あ、提督、ちょうどいいので報告もしていいですか?」

 

軽く息を吐いたリンディにエイミィが声をかけた。

 

「どうかしたの?」

「えっとですね。この子のデバイスの件なんですけど・・・。」

 

リンディが内容を尋ねるがエイミィの声は少々言いずらそうにしていた。

少しゴマゴマした様子を見せたエイミィに疑問気な表情を浮かべる彼女だったが、程なくしてその報告を口にする。

 

「こちらでかなり調査はしたのですが、プロテクトが硬すぎて、大した成果が得られなかったんです。まるで調べられるのをデバイス自身が拒否しているみたいだったんです。」

「・・・それで、わかったことはあったの?」

 

リンディがそう促すとエイミィは説明を続けながらコンソールパネルを操作する。

 

「はい。ですが、本当に微々たるものです。わかったのがこのデバイスの名前くらいで・・・。」

 

エイミィの操作でモニターにある名前が映し出される。

その名前はーー

 

 

『XXXG-00W0 Wing Gundam ZERO』

 

 

「ウイング・・・・ガンダム・・・・ゼロ?」

「おそらく、そう呼ぶのだと思います。それとこの形式番号ですが、該当しそうなものはミッドチルダではヒットしませんでした。」

「少なくともミッドチルダ式ではないデバイス、そういうことなのね。」

 

 

リンディの確認とも取れる言葉にエイミィは静かに、それでいて確かに頷いた。

その報告にリンディは頭を抱えるような仕草を見せる。

 

「こういう時は所有者である君に聞くのがいいのだろうけど・・・・。」

 

リンディはそういいながら側にいるヒイロに視線を向けるが、記憶を失っているヒイロは何も知らない、というより覚えていないと言った様子で首をかしげるだけであった。

 

「記憶がない以上、無理に問い質すことはできないものね・・・・。エイミィ、時間がかかってもいいから解読に全力をかけてって言えばできる?」

「・・・・それは、難しいかと思います。私も含めて全力で事に当たりましたけど、これが精一杯で・・・いや、というよりこれだけ、ですね。この名前を知ることができたのも調べている最中に突然出てきたものだったので。まるで、デバイスに温情をかけられた気分です。」

 

エイミィの意気消沈といった様子にリンディはそれ以上は言えなかった。

 

「わかりました。ひとまずご苦労様、一度解読班には休息を設けます。英気を養うといいわ。」

「すみません。力が及ばなくて・・・・。」

「いいのよ。気にしなくて。今はしっかりと休みなさい。」

 

 

 

 

そして、日付をしばらく進めた12月2日。この日、裁判に赴いていたフェイトに裁判所より保護観察処分が下った。これは事実上の無罪判決であった。

その報告を聞いたリンディは肩の荷が下りたように表情を綻ばせた。

 

「ふぅ、いくら無罪が決まっているとはいえ、実際に判決が下されるのは緊張するわ。」

「・・・・そういうものなのか?」

「そういうものなのよ。」

 

リンディの言葉にぶっきらぼうにも反応したのはヒイロだった。日々をしばらく過ごしたからか、まだ口調が覚束ない時もあるが簡単な会話は難なくこなせるほどには回復した。

あとは、フェイトたちの帰りを待つだけ、そう思われたその時、アースラの管制室でけたたましいほどの音が鳴り響いた。

同時に画面にAleatの文字が表示される。そして警告音、つまり、異常事態だ。

何かが起こり始めた。

 

「艦長!!海鳴市に突如として封鎖結界が展開されましたっ!!」

「っ!?まさか、なのはちゃんが狙われたっ!?術式の解析を急いで!!」

 

不測の事態だったが、焦るような表情を見せず、リンディは迅速に指示を飛ばす。

ただちにエイミィとアレックスと呼ばれた管制官が結界の解析作業にかかった。

しかしーー

 

「これ、術式がミッドチルダ式じゃありません!!解析には時間がかかります!!」

 

エイミィの悲鳴のような声が管制室に響く。それと同時にモニターの一部によくわからない文字の羅列が現れる。おそらくあれが結界の術式、という代物なのだろう。

 

「術式が、違う・・・?転送装置はっ!?」

「問題なく座標の設定はできています!!ですが、それはあくまで行きだけで、帰ってくるには結界の破壊が必要です!!」

 

アレックスが解析を行いながらもそう答える。

 

「っ・・・・。不味いわね、クロノは少し出払っているし、フェイトちゃんたちが帰ってくるのもまだ少し時間がかかる・・・。」

 

リンディが状況を整理するが、現状、そのウミナリシという場所に行ける人物はいないらしい。

移動手段はあるが、行く人間がいない。ならばーーー

 

「リンディ。」

「・・・・なにかしら?」

 

込み入っている状況にも関わらず、リンディはヒイロに視線を向けてくれる。

 

「・・・・俺が出る。偵察ぐらいにはなるはずだ。」

 

ヒイロがその言葉を発した瞬間、管制室に沈黙が走った。

 

「ちょっと待って・・・・。貴方、正気?」

 

リンディが眉間に手を当てながらヒイロに確認するような視線を向ける。

 

「ああ。そうだが?」

「あのねぇ・・・。向こうの状況はなにがあるのかわかったものじゃないのよ!

場合によってはとんでもないやつがいるかもしれないのよっ!?」

「関係ない。俺は借りを返すだけだ。ただし、俺なりのやり方だがな。」

 

リンディの張り詰めた声にヒイロは特に表情を変えることはない様子でまっすぐに彼女の目を見つめる。

アラートの警告音が響く中、しばらくリンディとヒイロの間で均衡状態が続く。

 

「・・・・はぁ、目覚めた時はまだ愛嬌があったと思うのだけど・・・。おそらく、それが本来の貴方なのでしょうね。」

「・・・悪いが、俺がまだ記憶を失っているのは事実だ。」

 

ヒイロは軽く沈んだ表情をする。リンディはそれを見ると表情を柔らかいものにしながらヒイロに忠告をする。

 

「・・・・わかったわ。でも、無茶だけはしないこと。危険な状況になったらすぐになのはちゃんに頼ること!!多分、現場にいるはずだから。」

「・・・了解した。」

 

その様子はさながら手のかかる息子に注意をしている親のようにも見えた。

ヒイロはそのまま転送ゲートまで向かう途中、リンディが何かを思い出したような表情をした。

 

「あ、そうだ。貴方、忘れ物よ!!」

 

若干ヤケになってきているのか、リンディはヒイロに向けて、何かを投げ渡した。

ヒイロは片手でそれを受け取ると疑問気な表情を浮かべながら、それを確認する。

ヒイロの手には彼が目覚めた時にあった翼に抱かれた剣のネックレスがあった。ヒイロは少しばかり困惑した表情でリンディに視線を向ける。

 

「これは・・・。いいのか?」

「貴方がそれに関しての記憶がなかったとはいえ、見つけた時に貴方のそばにあったのであれば、それは貴方のものよ。お守りがわりみたいな感じで持って行きなさい。」

 

そう言って、リンディが軽い笑みを浮かべている様子を見るとヒイロは転送ゲートへと入り込んだ。

 

「エイミィ。転送ゲート、起動させて!!」

「了解!!」

 

エイミィがコンソールパネルを操作すると転送ゲートが虹色の光に包まれる。

 

「フェイトちゃんが戻り次第、すぐにそっちに向かわせるわ。だから、それまでは絶対に生きているのよ。」

「・・・・任務了解。」

 




原作1話、始まりますっ!!


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第4話 悪夢の海鳴市

最近、ヒイロを記憶喪失させた意味がねぇと感じてきたこの頃。


視界が転送ゲートが起動した時の光に覆い尽くされる。

それは目も開けられないほどのものだったが、程なくすると徐々に光は弱まり、目が開けられるレベルまで光の強さは落ち着いた。

 

「・・・・・ここが、ウミナリシ・・・か?」

 

目を開けると自分が今、ビルの屋上に立っていること、そして視界には月夜に照らされたビル群が聳え立っているのが映り込む。

しかし、その視界は妙なセピア色に彩られ、本来時間的にはまだ付いているはずのビルの電気は悉く消え、光源は町を照らしている月しか見当たらない。

さらに言うと人のいる気配が一切しなかった。

ヒイロは確認がわりにリンディに通信を送ろうとするがーー

 

「・・・・そういえば、通信機の類を受け取ってなかったな・・・。」

 

自分の失態に思わず苦い表情を浮かべるが、ないものは仕方ない以上、割り切るしかない。

そう自分に結論を立てたヒイロは空を見上げた。

リンディの話によれば、ナノハという人物がいるはずなのだが、見上げた空にはそれらしき人物は見当たらない。

 

(・・・・建物と建物の間にいるのか?)

 

ヒイロがそう思った瞬間、彼のいるビルが衝撃音と共に大きく揺れた。

咄嗟に身構えると同時に、周りを見回すことで状況を確認する。

 

「・・・・ビルの内部か。」

 

土煙が上がっているのが見えた。先ほどの衝撃音と照らし合わせるとおそらくビルの壁が崩落、もしくは破壊されたことを察する。

ヒイロはビルの屋上の出入り口からビルに入ろうとした時ーー

 

『貴方!聞こえるっ!?』

「!?」

 

突然、リンディの声が響いた。僅かにくぐもった声になっているため、通信機を介しているのだろうが、通信機の類は持ってきていないはずだ。

 

『ちょっとっ!聞こえているのっ!?返事をしなさい!!』

 

ヒイロが少し狼狽した様子を見せていると、再度リンディの声が響く。

音源を辿ってみると自分がリンディから受け取ったペンダントから声が出ているのに気づいた。

 

「・・・・ああ。聞こえている。」

 

ペンダントに向けてそう返事をすると、リンディの安堵したような声が聞こえた。

 

『ふぅ・・・なら良かったわ。通信機を渡し忘れたって思ったら、貴方のペンダント、というかデバイスに通信を送れるみたいだったから繋げたのだけど、そっちは大丈夫かしら?』

「現時点では問題はない。が、一つ確認したい。ナノハとはどんな奴だ?」

『茶色い髪色に短いツインテールの女の子よ。白いバリアジャケットを着ている子なんだけど、見えないかしら?』

「・・・・ついさっきだが、俺が立っているビルに衝撃音が響いた。これからビル内部に突入する。」

『・・・・あまりいい予感はしないけど・・・無理はしないようにね。』

「了解した。」

 

リンディの心配する声を他所に置いておき、ヒイロは屋上の出入り口のドアを僅かに開き、内部を確認する。

異常がないと確認すると、ドアを開け放ち、ヒイロはビルの内部に突入した。

 

 

 

 

「う、うう・・・・・。」

 

ヒイロがビル内部に突入した同時刻、一人の少女が痛みに顔を歪ませていた。

白いリボンで茶色い髪をツインテールにしている少女の名は、『高町 なのは』。

リンディがヒイロに告げた頼りにしろと言われた人物その人である。

だが、今の彼女の状態は杖にはヒビが入り、術者を守る役目を持つバリアジャケットも解かれ、視界が焦点が定まらず、ぼやけ続ける。彼女自身、まさに疲労困憊といった様子で肩で息をしていた。

そんな彼女に近づくのは柄の長い槌を手にした真紅の装束に身を包んだなのはより年端のいかない少女であった。

 

なのははその痛みに耐えながら、彼女が持つデバイス『レイジングハート』の杖を自分を襲ってきた少女に向ける。しかし、その杖を持つ手は力が入らないのか、カタカタと音を立てて震えていた。

それこそ、軽く払っただけで、彼女の腕は力なく振り払われそうなほどである。

そんなぼやけた視界の中でなのはは少女が自身にとどめを刺そうと槌を振り上げるのを見た。

まさに絶体絶命だった。迫り来るであろう痛みに目を瞑ったその時ーー

 

バンっ!!

 

フロアの扉が勢いよく開かれる音が響いた。思わずなのはは一度瞑った瞳を開いた。

 

「っ!?誰だっ!?」

 

少女は突然の乱入者に声を荒げるが、次の瞬間にはその場を離れ、なのはと距離を取った。

なのはが何事かと思ったのも束の間、視界を何やら四角いものがとんでもないスピードで横切った。

 

(え、今の・・・見間違いじゃなければ、パソコン、だよね?)

 

自身がこのビルに叩き込まれた時、それらしきものが転がっていくのは見えた。

だけど、なのはがそれを確認するよりも早く、自分の体が何者かに抱きかかえられている感覚に気づいた。

 

「あっ!?テメェ!!待ちやがれっ!!」

「ふぇっ?な、なになにっ!?」

 

少女の激昂する声が響く。しかし、自身を抱きかかえている人物はそれに気にかける様子もなく全力でその人物が入ってきたドアとは反対側へと走っていく。

 

「確認する。お前がナノハだな?」

 

そんな中、その人物はなのはに確認するような口調で聞く。しかし、その声は彼女にはとても聞き覚えのある声に似ていた。

故に、彼女は思わずーー

 

「お・・・お兄ちゃん・・・・?」

 

そう、口に出してしまっていた。ぼやけた視界が戻ってきている中で、自分を抱きかかえている人物の顔を見ようとする。

 

「・・・少なくとも、お前のオニイチャンとやらではないのは確かだ。」

 

視界のぼやけが完全になくなると彼女自身の兄とは全く違う顔の人物があらわれた

意識が朦朧だったとはいえ、全くの初対面の人を自身の兄だと勘違いしたなのはは顔を赤くする。

 

「あ・・・・その、はぅぅ・・・・・。」

「魔力もねぇ人間がしゃしゃり出てくんじゃねぇ!!Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)!!」

 

後ろから聞こえてくる声にヒイロが振り向くと少女が指の間に挟めるほどのサイズの光弾を生み出していることに気づく。

 

「・・・・あれは?」

 

ヒイロが疑問気になっているのも束の間、少女はその生み出した光弾を自身の持つ槌で打った。

すると次の瞬間、光弾がヒイロにめがけて弧を描きながら飛来する。まだ僅かに部屋の扉まで距離はある。

 

「・・・誘導弾か。」

「あ、あの!!私が防壁を貼るのでーー」

「問題ない。余裕で避け切れる。」

 

なのはの言葉を制すると、ヒイロは軽々と迫り来る光弾を見切り、初弾と次弾を体を反らしたり、ステップなどの必要最小限の動きで避けた。

そして、部屋の扉に手をかけ、入ると同時に扉を勢いよく閉めた。

光弾はそのまま部屋の壁に着弾すると、爆発を起こし、部屋の壁を破壊する。

 

(炸裂弾でもあるのか・・・。広い場所に出るのは悪手か?奴の武器から近接戦闘をメインにおいていると感じたが・・・。)

 

ヒイロは先ほどの光弾についての考察を考える。仮に中距離戦闘もこなせるとあれば、広い場所に出てしまえば、一方的に撃たれることは避けられない。

だが、いつまでもビルの中にいれば、いずれは逃げ場がなくなる。

ヒイロの取った選択はーーー

 

(・・・外に出るか。逃げ場を失うよりはマシか。」

 

ヒイロはそう決めると階段を降りていく。いつまでも少女が待ってくれるとは思えないため、迅速に階段を駆け下りる。

 

「テメェ・・・まさか逃げられるって思ってんじゃねぇだろうな!!」

 

案の定、少女に追いつかれてしまう。だが既にヒイロはビルの外への脱出は完了した。

ヒイロが回避行動をとると少女の槌は空を切る。しかし、その威力は凄まじく、道路のアスファルトを粉々に砕くほどの威力はあった。

 

「ちぃ・・・!!」

「・・・・・。」

 

悪態を吐く少女に対して、冷静な表情を浮かべるヒイロ。

ヒイロのその様子が癇に障ったのか、少女は怒りに身を任せてヒイロに槌を振り下ろす。

しかし、それにヒイロはなのはを担いだ状態ながらも少女のラッシュを捌いていく。

 

「す、凄い・・・・あの子の攻撃を全部避けてる・・・・。」

 

一度少女と距離をとるとなのはの驚嘆する声が上がるがヒイロは特に耳を傾けることはなく、目の前の少女に視線を集中させる。

目の前の少女は自身の周囲に光弾を発生させていた。おそらく先ほどの誘導弾を撃ち出してくるのだろう。しかし、先ほど室内で仕掛けてきたときとは違い、数は増えている。

ヒイロは回避行動をするために足を動かそうとしたがーー

 

 

「っ!?」

「バ、バインドっ!?」

 

ヒイロの足がまるで縫い付けられたように動かなかった。咄嗟に足をみると白銀の魔法陣から出ている鎖がヒイロの足を縛り付けていた。

 

Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)!!」

 

ヒイロが少女の方を見たときには既に光弾はヒイロに襲いかかっていた。

まだ避けれない距離ではないが、足が動かないため避けようがない。

咄嗟になのはを庇うように自分の体を間に割り込ませる。

 

そして、爆発がヒイロたちを包み込んだ。が、ヒイロには衝撃こそ伝わったが痛みを感じることはなかった。

 

「・・・・大丈夫ですか?」

 

かわりにヒイロにとっては聞いたことのある声、なのはにとってはなによりの友の声が聞こえてきた。

二人の前に立って魔法陣のようなバリアを展開していたのは、黒いマントに身を包んだフェイトとその使い魔、アルフ。

そして、緑色のマントを羽織っているユーノ・スクライアであった。

 

「・・・・間に合ったか。」

「フェイトちゃん!!」

「なのは・・・よかった。」

 

軽く息を吐くヒイロに対し、なのはは待ち望んでいた友人との再会を涙を浮かべながら喜びの声を上げる。

 

「アンタ、中々やるじゃないか。」

「借りを返しただけだ。」

 

軽い笑顔を浮かべるアルフにヒイロは表情を変えずに答えた。

アルフはヒイロの近くまで来ると、ヒイロの足枷となっていたバインドを解除する。

 

「ほら。あとはアタシとフェイトに任せな。ユーノ、頼んだよ。」

「わかったよ。とりあえず、ここでは満足に回復が出来ませんので、一度建物の中へ行きましょう。」

「了解した。」

 

ユーノに連れられて、建物中に戻るとひとまずなのはを下ろした。

ユーノはなのはに対して、何か言葉を紡ぐと彼女の周囲を緑色の魔法陣とバリアが覆った。

 

「とりあえず、この中にいると回復するから、ここから出ないように。・・・・なのはを頼みます。」

 

ユーノの頼みにヒイロは無言で頷く。それを見届けたユーノは建物の窓から外へと飛んで行った。

ヒイロはなのはの護衛のために周囲を警戒しながら立っていることにした。

 

「あの・・・・ありがとうございます。」

「お前が気にすることはない。」

 

突然なのはがヒイロに対してお礼の言葉を述べた。

 

「・・・・そういえば、お名前聞いてませんでしたね。私はなのは。高町なのはって言います。」

 

なのはに名前を問われたヒイロは少しばかり考えたが、隠す意味もない以上、話すことにした。

 

「・・・・俺には記憶がない。だから名乗れる名前もない。呼びたければ適当に呼べ。」

「え・・・記憶がないんですか?」

 

ヒイロの言葉になのははキョトンとした表情を浮かべる。

ヒイロは頷きながらそのまま話を続ける。

 

「ああ。どうやら俺は最近まで冷凍睡眠されていたらしい。しかもここではないどこかでだ。たまたま拾われたリンディたちに解凍してもらったが、その時に記憶が吹き飛んだらしい。」

 

ヒイロがそういうとなのはは聞いてはいけないものを聞いてしまったかのように表情を沈ませてしまった。

 

「その・・・ごめんなさい。」

「・・・・フェイトのときもそうだったが、なぜ謝る?」

「え・・・。その、聞いちゃいけなかったのかな、って思って・・・。」

 

なのはの言葉にヒイロはそれ以上、何も言わずに窓枠からフェイトたちの様子を伺っていた。

いつのまにか狼のような奴がいたが、アルフが押しとどめている。

そして、あの真紅の装束を見にまとった少女はフェイトとユーノの二人がかりでその少女をバインドで空中に貼り付けていた。

ほぼ制圧は完了したと考えていい。

その時、ヒイロが首から下げている翼に抱かれた剣のペンダントが朧げに光っていることに気づいた。

 

「・・・・なんだ?」

 

ヒイロはペンダントを手にとって眺める。ペンダントから発せられる光は強くなったり弱くなったりと明滅を繰り返していた。

その様子はまるでーー

 

(・・・・警告している、のか?)

 

 

そう思った瞬間、フェイトに向かっていく薄い紫色の光が見えた。高速で飛来してきたソレはフェイトを弾き飛ばすと真紅の装束に身を包んだ少女の前に立ちふさがった。

その光の正体は騎士装束に身を包んだ女性であった。

その女性は高く剣を掲げるとその手に持つ剣の刀身が焔に包まれた。

その焔を纏った剣でその騎士はフェイトに斬りかかる。

その威力は凄まじく、防御行動を取ったフェイトをビルの屋上に叩きつけるほどであった。

 

「・・・・かなりの腕だな。1対1の状況ではこちらが不利か。」

「や、やっぱり、私が、なんとかしないと・・・・。」

「お前は休んでいろ。そんな体で来られてもユーノ達にとっては逆に迷惑だ。」

「で、でも、それじゃあみんなが・・・・。」

 

バリアの中で杖を支えに立ち上がろうとするなのはを制しながら窓の外を見据える。

 

「・・・・なのは、お前はここから動くな。」

 

 

ヒイロはそういうと胸元にかけられているペンダントを掴む。

リンディ曰く、これもどうやらデバイスという代物らしい。そしてその名前はーー

 

「ゼロ、行けるか?」

 

その名前を呼んだ瞬間、胸元のペンダントが強烈な光を放ち始めた。それは視界が潰されるほどの輝きだった。

 

「・・・・いいだろう。」

 

その輝きを肯定だと受け取ったヒイロの視界は光に塗り潰された。

 

異世界の天使が魔法の世界でその美しい翼を羽ばたかせる。




ようやく、あの機体が出せる・・・・。


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第5話 新たなる起動

相手がガンダムファイターだったらレヴァンティンが折れてた。


「ーーーーーーー」

 

彼の持っていたデバイスから溢れ出ていた光が収まり、目を開けられるほどになってくると、なのはは言葉を失った。

先ほどまで彼がいた場所には人の形をした何かがいた。

背中には二対の翼が二つ。その何かの全身が包まれるほどの大きさはあるその巨大な翼は、天使を連想させる。

その天使は少しばかり自身を確認するような素ぶりを見せると、なのはに体を向けた。

その体は胸元に緑色に輝く宝石のようなものが埋め込まれており、白と青を基調とするツートンカラーの装甲を見に纏っていた。

誰がどうみてもそれはロボットと言える外見であったが、その背中の天使を連想させるような生きているような翼がそのロボットの神々しさを際立たせていた。

 

「・・・・綺麗・・・・。」

 

なのはは思わずそう感想を口からこぼしていた。

 

「・・・・なのは。今、俺はどうなっている?」

 

そのロボットから声がかけられる。その声は先ほどの彼のものであった。

どうやら、自分の状況がうまく把握できていないらしいが、なのはがそのことに気づくまでは数秒を要した。

 

「・・・・・聞いているのか?」

「えっ?う、うん!!えっと、ロボットみたいなんだけど、背中に翼が生えているよっ!?」

「翼、か。飛べるのか・・・?」

 

そう呟いたヒイロが軽く飛んでみると、普通であれば地面に戻るはずの足は宙に浮き続けていた。

 

「・・・・問題ないか。武装は何があるか知らんが、やれることをやるだけだ。」

 

ヒイロはそういうとビルの窓枠に手をかけ、飛び立とうとする。

 

「なのは、もう一度言うが、ユーノ・スクライアが言っていた通り、そこから出るな。」

 

それだけ告げるとヒイロはビルからその翼を羽ばたかせながら飛び立っていった。

 

「私は・・・・。」

 

ヒイロにそう忠告を受けたなのはだったが、その表情はわずかに曇らせたままであった。

 

 

(・・・・おそらくあの集団は一対一の勝負に長けている。そして、一番の実力者はあの紫色の奴か。)

 

そういい、ヒイロは先ほどフェイトを吹っ飛ばした騎士装束の人物に視線を向ける。

その表情は凛としていて、彼女纏っている騎士装束も相まって、出で立ちはほとんど文字通りの騎士だ。

 

「・・・・フェイト、聞こえるか?」

『えっ?この声・・・。貴方なんですか?』

 

ヒイロのデバイスについてある通信機能を使ってフェイトに呼びかける。

彼女は驚きながらだったがヒイロに送り返した。

 

「俺も戦列に加わる。お前と俺であの騎士装束の奴の相手をする。」

『す、少し待ってください!!貴方はデバイスを持っていたんですか!?』

「見ればわかるはずだ。それとユーノには赤い奴の相手をしろと伝えてくれ。」

 

少々一方的だが、フェイトにそう告げるとヒイロは騎士装束の女性の前に立ち塞がった。

 

「・・・・お前は何者だ?」

「知らんな。今の俺には俺自身に関する記憶はかけらも存在しない。」

「ならば重ねて聞こう。記憶がないのであれば、なぜ我々の前に立ちふさがる?」

 

騎士装束の女性はヒイロにその手に持つ剣の切っ先をヒイロに向けた。

返答によってはすぐにでも斬りかかるという暗示であろう。

 

「・・・・理由、か。強いて言うのであれば、お前たちの目的、それはなんだ?」

「・・・・悪いが、それを答えることはできない。」

 

騎士装束の女性がそう言うとヒイロに向けていた剣を上段に構えながらヒイロに向かって突っ込んできた。

普通の人物であれば、反応もできないまま、彼女の持つ剣の錆にされるだろう。

ヒイロはそれを紙一重で避ける。そして、そのまま体を回転させて、カウンターの回し蹴りを打ち込もうとするが、女性は左腕でガードをした。

 

「っ・・・。中々やる・・・。だが!!」

 

その騎士装束を纏っている女性、『シグナム』は左腕でヒイロの足を払いのけながら、さらに肉薄する。

構えは腕を後ろに引き、その切っ先の先端はヒイロに向けられている。

 

「はぁっ!!」

 

シグナムは鬼気迫った声と共に引いた腕を前に突き出し、強烈な突きを放つ。

鍛えられた女性の突きはヒイロが体を逸らしたため、掠めるに留まった。

 

(この男、いや、先ほどの声の質から見れば少年か・・・?それはそれとして、強い・・・!!反撃はーー)

 

シグナムは反撃を警戒したが、ヒイロは反撃をすることはなく、避けた勢いを利用して、そのまま高度を下げることで距離をとった。一瞬、シグナムはヒイロの行動を疑ったがーー

 

「フォトンランサー、ファイアッ!!」

 

その疑いはその声を自身に飛来してくる黄色の魔力光で構成された槍で晴れた。

視線の先には、先ほど弾き飛ばした黒いマントの少女が見えた。

 

「っ!!この程度っ!!」

 

シグナムは手のひらから防御用の魔法陣を展開する。紫色の魔法陣にぶつかったフォトンランサーはその防壁を貫くことは叶わず、爆発を起こす。

視界が爆煙に包まれるが、その程度で敵を見失うシグナムではない。

すぐさま振り向き、剣の樋で背後からのパンチを防ぐ。しかし、そのパンチに込められた力は凄まじく、拮抗しているように見えながらも僅かにシグナムの剣が押されているように見えた。

 

(バ、馬鹿な・・・。こちらが片腕とはいえ私が力負けしているだと・・・!?)

 

その現実にシグナムは表情には出さないものの内心は驚愕に打ちひしがられていた。

仕掛けてきた主を見ると、そこにいたのはヒイロであった。

ヒイロはさらに腕に力を込めようとするが、先にシグナムがバックステップで後退したため、ヒイロは一度フェイトと合流する。

 

 

「・・・・やっぱり一筋縄では行きませんね・・・。」

「そうだろうな。それに奴はまだ本気を出していないように感じる。近接戦闘では奴に軍配があがる以上、気をつけろ。」

「・・・分かりました。ところで、貴方は一応あの人で間違い無いんですよね?」

 

自分のデバイスである『バルディッシュ』をシグナムに向けて構えながらのフェイトからの確認にヒイロは軽く頷いた。

 

「ああ。一応、リンディからこれはデバイスだと聞いて返してもらっていた。あまりデバイスについてはよく知らんが。」

「分かりました。ですが、できればこっちの話も聞いて欲しかったです。突然言われても、いきなりすぎます。」

「・・・・・・・わかった。記憶には留めておく。」

「・・・・本当ですか?」

 

フェイトが訝しげな視線を向けるが、等のヒイロは顔が装甲に覆われてしまっているため、その表情を伺うことはできなかった。

 

「中距離からの援護を頼む。近接戦闘は俺がやる。」

 

ヒイロはフェイトにそれだけ言うと背中の翼を羽ばたかせながらシグナムに突撃していった。

 

「え、ちょ、ちょっと!?さっき私が言ったこと、何にも覚えていないじゃないですかっ!?」

 

フェイトはヒイロに驚きと困惑を含んだ声をあげるが、当のヒイロは既にシグナムとのクロスレンジでの戦闘を行ってしまっている。

 

「て、手のかかる人ですね、本当に!!」

 

ヒイロの振り回しっぷりに苦い表情を浮かべながらもフェイトは自身の周囲に魔力で編まれた光弾を生成する。その数は徐々に増えていき、最終的に先ほど放ったフォトンランサーの数の倍近くを作り上げていた。

 

Photon Lancer Multishot(フォトンランサー・マルチショット)!!ファイアッ!!」

 

フェイトがバルディッシュを振り下ろすと、光弾は槍の形を成しながら、シグナムを狙い撃つ。

シグナムは飛来するフォトンランサーを迎撃、もしくは避けるために回避行動を取ろうとするが、ヒイロがさながら逃すまいと言っているように近接戦闘を仕掛ける。

しかし、ヒイロはその格闘戦の中、シグナムは己の剣のギミックと思われる箇所に何やら二つほど細長いものを入れているのが見えた。

それはまるで、弾丸のように見えたソレがシグナムの剣が飲み込むと、突如として、衝撃波がヒイロを襲った。

 

「っ!?」

「まさか、ただ距離を取るためだけにカードリッジを使わされるとはな・・・。」

 

その衝撃波の圧は凄まじく、ヒイロが吹き飛ばされるほどであった。ヒイロが態勢を整えた時には既にシグナムはフォトンランサーの弾幕を切り抜け、フェイトに肉薄していた。

フェイトはバルディッシュで彼女の剣を受け止めるが、力の差が浮き彫りだったため、フェイトは再度、吹き飛ばされ、ビルの壁に叩きつけられた。

 

「っ・・・・無事か?」

『大丈夫・・・・。まだ、やれる。』

 

無事の確認をすると、フェイトから念話で返ってくる。どうやらとりあえずは無事なようだ。

しかし、現状としてヒイロ一人でシグナムの相手ができるかどうかははっきり言って不確定要素が多かった。

だからと言って、フェイトが戻ってくるまでただ待つ訳にはいかない。

ユーノとアルフはどうやら結界を破るために動いているようだが、赤い奴とやけに大きい狼がそう易々と行動を許してはくれない。

ヒイロが状況を整理しているなか、視界の端に突然ピンク色に輝く魔法陣が見えた。

 

何事かと思って見てみれば、あるビルの屋上に自身の杖を構えて立っているなのはの姿があった。

 

「・・・・何をするつもりだ・・・っ!?」

 

疑問気な表情を浮かべながらなのはのその様子を見た瞬間、ヒイロの頭に突如として激痛が走った。

それと同時に流れ込んでくるビジョン、否、ビジョンと言ってもそれは生々しいものではなく、さながら未来を見ているような感覚だった。

思わず頭を抑えながら、そのビジョンを見ると、衝撃的な光景が映っていた。

 

なのはが魔法陣から放ったビームが結界を貫いて粉々に打ち砕いている光景だった。

それはいい。問題はそのなのはの胸部から何者かの腕が出ていたことだ。その腕の中には光り輝くものがあったように見えたが詳しいことはわからなかった。

なのはが結界を破壊した後、胸部から突き出た腕も消え失せたが、なのははその場にうつ伏せで倒れた。

 

ヒイロはこのビジョンに見覚えがあった。だが、見覚えがあったのはなのはのビジョンではなく、そのビジョンを見せるという現象そのものに対してあった。

 

「なん・・・だっ!?これ・・・は・・・?俺は、これを知っている・・・っ!?」

 

痛みに耐えながらもなのはの方を見やる。まだなのははにはなんの異常も見られない。なのはの魔法陣から生成される巨大な光弾は徐々にその大きさを広げていく。

その時だった。彼女の胸部をビジョンで見た何者かの腕が貫いた。

突然の出来事になのはは何が起こったのかわからないと言った驚愕の表情を浮かべていた。

 

「っ・・・・!!おおおおっ!!!」

 

痛みに耐えながらも翼を羽ばたかせ、なのはの元へ直行する。ヒイロ自身、気づくことはなかったが、その速さは一瞬とはいえ突風を生み出すほどであった。

明らかに人間が耐えられないスピードを出したヒイロに周りの人物は反応することが出来ずにおどろいた表情を浮かべるだけになった。

 

瞬く間になのはの元へ駆けつけたヒイロは彼女の胸部から突き出た腕に手を伸ばした。

 




ヒイロはゴリラの10倍くらいの握力がないとへし折れない鉄骨を容易く折りやがります。
あとはまぁ、お察しかも知れないっす。


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第6話 介入する天使

ヒイロは次々と現れる突然のビジョンに頭を苛まれながらも視線をなのはに現れた『異常』を見つめる。

それはなのはの胸部から突如として出現した緑色の何者かの腕。

少し観察するとその腕は物理的になのはを貫いているわけではないようだ。その証拠として彼女から出血のようなものは感じられない。

 

(となれば、魔術的な何かによる干渉か・・・?)

 

リンディからある程度魔力について聞いておく必要があるな、と心の中で決めながらなのはに駆け寄る。

ヒイロが近づいてきたことに気づいたなのははその辛そうにしている表情を彼に向けた。

 

「お・・・お兄・・・さん・・?」

「・・・・少し待っていろ。お前はそのまま、砲撃準備を進めろ。」

 

ただそれだけを伝えるとヒイロはなのはの胸から出ている腕に手を伸ばす。

 

「な、何を・・・・?」

 

ヒイロの手がその腕を掴み、なのはがそう疑問気に呟いた瞬間ーー

 

バキィっ!!!!

 

「え・・・・?」

 

なのはは一瞬何が起こったのが理解できなかった。骨が砕けるような音が響いたと思えば、自身の胸から出ていた腕が曲がってはいけない方向に折れていた、というよりそれはもはや腕としての機能を果たさず、ダランと垂れていた。

もちろん、やったのは目の前にいる人物だとは察せる。

 

「い、一体、何を・・・?何をしたんですかっ!?」

 

なのははその目の前にいる人物に驚きとわずかな恐怖を帯びた視線を向ける。

無理もないはずだろう。なのはは確かに戦闘の経験はある。しかし、それは魔法を介し、なおかつ非殺傷設定という人がほとんど傷つかないというものであった。

だが、目の前で起こったのは明らかにそれとは常軌を逸脱したものであった。

 

「・・・・奴の腕の骨を、粉砕した。」

 

ありえない。そんな言葉がなのはの中で渦巻く。

殴るや蹴るといった傷害行為を誰かに行われた結果、骨が折れたのならわかる。だが、彼は掴んだ、もしくは握ったことしかしていない。つまり、目の前の人物は握力だけで骨を砕いたのだ。

明らかに人体に出来る枠組みを超えた行為になのはは本能的に恐怖を抱いてしまう。

 

 

「あ、貴方は・・・一体・・・?」

「俺は・・・・俺は・・・・・!!」

 

なのはに自身の素性を問われた瞬間、ヒイロの頭痛が悪化した。

思わず掴んでいた腕を離し、うめき声を上げながらなのはから距離を取った。

 

「うっ・・・・ぐっ・・・ああっ!!」

 

流れ込んでくるのは相変わらずビジョンで変わりはない。だが、内容が先ほどなのはの姿を見たものとは異なっていた。

何かロボット・・・・いやMS・・・・それも違う。『ガンダム』を駆る自分がシャトルを墜としているビジョン。そして、隣にいる男、名前は・・・名前は・・・確か、『トロワ・バートン』だったはずだ。その男と共に、誰かの墓に手を合わせていた女性・・・俺が偽の情報に気づかずに殺したノベンタの娘だったか・・・。

ビジョンは俺がガンダムを自爆させていたり、戦場で自分が戦う理由を求め、彷徨っていたころなど、凄まじい勢いで切り替わっていく。

 

これは、俺の・・・・記憶、なのか・・・?

 

『命など安いものだ。特に、俺のはな。』

 

『ゼクス!!強者などどこにもいない!!人類全てが弱者なんだ!!』

 

『俺はあと何回、あの子とあの子犬を殺せばいいんだ・・・?』

 

『俺はもう誰も殺さない・・・。殺さなくて済む・・・・。』

 

・・・・間違いない・・・・これは俺の記憶だ。

俺の記憶であれば、俺自身の名前もあるはずではないのか?

 

『ーーー!!!』

 

ーーーーーそう、か。俺の、俺の名前はーーーー

 

(・・・・感謝する。リリーナ。)

 

 

 

 

 

「だ・・・大丈夫ですかっ!?」

「俺に・・・構うな・・・!!」

 

なのはは思わず声をかけるがヒイロは指をさしながら拒絶する。

指をさした先には発射のタイミングを今か今かと待ちわびているようにも見える魔力の塊があった。

 

「そ、そうだ・・・。今は、結界の破壊を・・・。」

 

心配そうな視線をヒイロに向けながらも、なのはは魔力の塊に向けて、自身の杖である『レイジングハート』を振り下ろす。既に彼女の胸部から突き出ていた腕は微塵もなかった。

 

「スターライト・・・・ブレイカーーーーーッ!!!!」

 

振り下ろされた杖と同時に魔力の塊からピンク色の爆光が結界に向かって飛んでいく。

その爆光の威力は凄まじく、結界を粉砕してもなおその威力に衰える様子を見せずに空の彼方へ消えていった。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・・・。リ、リンカーコアから、だいぶ魔力が吸われちゃった・・・・。もう・・・立っているのも、やっと・・・・。」

 

荒い息を吐き、自身の杖を支えにしながらもなんとかその場に立ち続けるなのは。

 

「なのはーーー!!!」

 

そんな彼女に駆けつけたのはなのはに取って一番大事な友人であるフェイトだった。

何度かビデオレターによるやりとりはしていたが、実際にあったのはおよそ半年ぶりだ。

待ち望んでいた友人との再会になのはは表情が自然と緩んだ。緩ませながらも軽く空を見上げてみれば、先ほどまで自分たちを襲ってきた人物はいなかった。おそらく撤退したのだろうと思い、フェイトに視線を向けた。

 

「大丈夫だった!?」

「う、うん。なんとか・・・お兄さんが、助けてくれたからーーー」

 

そこまで言ったところで、なのはは咄嗟にヒイロを探した。

少し周囲を見回すとビルの壁に寄りかかっているヒイロがいた。

だが、先ほどまで展開していた純白の翼と青と白のツートンカラーの装甲を持ったデバイスは解かれていた。

ただ、その表情は顔を下に向けられていたため、伺うことができないのは変わらなかったが。

 

「あの・・・大丈夫・・・・ですか?」

 

なのはは先ほどの腕を粉砕した出来事があったのもあり、わずかばかり気が引けた声でヒイロに声をかける。

 

「ーーーーーだした。」

「え・・・・・?」

 

ヒイロの呟きをなのはは耳にしたが、内容はよく聞こえなかったがために思わず聞き返した。

 

「全て、思い出した。記憶や、俺自身のことを。全てを。」

「・・・・・記憶、戻ったんですか?」

 

フェイトの確認とも取れる問いかけにヒイロは静かに頷いた。

ちょうどそのタイミングでユーノとアルフが駆けつける。

 

「なのは!!大丈夫!?」

「フェイトも、大丈夫かい!?」

「私は、大丈夫。だけど、なのは、リンカーコアから魔力を吸収されたみたいだったけど・・・。」

「うん。お兄さんが、なんとかしてくれたから持っていかれた魔力は少しで済んだよ。」

 

ユーノとフェイトの心配そうな視線を受けたなのはは心配させないためか笑顔を浮かべた。

・・・・もっとも、レイジングハートを支えにしているため説得力は皆無だったが。

ユーノは眉間に指を当てながら手に緑色の魔法陣と魔力の塊の生成を始める。

 

「とりあえず、一度アースラに戻ろう。それとなのはは一度検査を受けた方がいい。何も影響がないとは言えないからね。貴方もそれでいいですね?」

「・・・・問題ない。リンディにも話があるからな。」

 

ヒイロが頷いたことを確認するとユーノは手のひらにあった魔力の塊を増大させる。

視界が光に包まれ、程なくして晴れてくるとヒイロたちはアースラの管制室に戻ってきていた。

管制室には既にリンディの他、クロノといったアースラのメンバーが待っていた。

 

「リンディ、話がある。」

「・・・・・分かったわ。ちょうど私も貴方に聞きたいことがあったから。」

 

ヒイロがそういうとリンディは少々重い表情を浮かべながらそれに応じた。

 

 

 

 

 

「っ・・・・ふっ・・・・・ううっ!!」

 

海鳴市の一軒家、『八神』と表札が出ている家で一人の女性が自身の左腕を別の人物に支えてもらいながら回復魔法をかけていた。

その真っ赤に腫れ上がった左腕はとても痛々しかった。さらに言えば別の人物に支えてもらわなければダランと脱力したように垂れ下がってしまう有様だった。

 

「な、なぁ、シャマル、大丈夫か?」

「じ、時間はかかるけど・・・回復魔法は効いているわ。ありがとうね、ヴィータ。」

 

シャマルと呼ばれた緑色の修道服のような服を着た女性はなのはを襲った紅色の装飾を纏った少女、ヴィータに張り詰めた笑顔を向ける。それがやせ我慢であることはヴィータはおろか、他の二人のシグナムとザフィーラにもわかりきっていた。

 

「・・・・まさか、あの天使があそこまでの怪力を持っているとはな。」

「・・・・我らヴォルケンリッターは人の形を持っていても普通の人間を逸脱した力を持っている。それは耐久性もなおのこと。いくらシャマルが戦闘向きではないとはいえ、その腕の骨を粉砕するほどの力。この先、我々にとっての障害になりかねん。」

 

ザフィーラがそういうとシグナムは静かに頷いた。

この先、あの天使は自分たちにとって、障害以外の何物でもない。魔力をふんだんに持っているのであれば、苦労に見合うものがあるかもしれない。

だが、ヴィータの話でその天使は魔力を一切持っていないことが明らかになった以上、その天使と戦うのは文字通りの骨折り損となる。

 

「・・・・あの天使が出てくれば、私が相手をするほかないだろう。」

「やはり、そうなるか・・・。」

 

シグナムの言葉に今度は難しい表情を浮かべるザフィーラ。

ただでさえ本来の目的を達成できるかどうかが不透明となりかけている今、魔力を持たない上に、目的完遂の障害となる天使は邪魔以外の何物でもない。

 

「・・・・悪い、シグナム。アタシがもっとうまくやれれば・・・。」

 

シャマルの腕を支えていたヴィータが表情を暗くする。

ヴィータは確かに強い。彼女らヴォルケンリッターの中でアタッカーの役割を果たせるほどの実力はある。

切り込み隊長として、彼女の性格と戦闘スタイルはまさにうってつけであった。

しかし、それは十全に機能すればの話である。いくら振るう武器が優秀であろうと当たらなければそれはただのナマクラでしかない。

事実として加減があったとはいえヴィータはその天使に完全に抑えられ、管理局が介入する時間を稼がれてしまった。

その事実がヴィータに怒りや仲間をやられた恨みとして積もり、天使にその矛先が向けられる。

 

「・・・・ヴィータが気にする必要はない。結果としてあの天使は強かった。それだけのことだ。」

 

まさに憤怒といった表情をするヴィータにシグナムは優しげな声色で静止の声をかける。

ヴィータはそれに子供扱いされたのか少々ムッとした表情をあげるが、少なくとも怒りにまみれた表情ではなくなった。

 

「シャマル、今日でどれほどページが進んだ?」

「えっと、ザフィーラ、代わりに開いてくれるかしら?」

 

シグナムはまだ治癒魔法をかけているシャマルにそう尋ねるとザフィーラに代わりを頼んだ。

彼はシャマルのそばに置いてあった本を手に取り、ページをめくっていく。

その本は茶色い表紙に剣十字の意匠が施されている代物であった。

 

「・・・・ざっと15ページといったところだ。天使の介入がなければ30、40はくだらなかっただろう。」

「・・・・中々大きい失敗だったな・・・。闇の書の蒐集は同じ相手にはできないからな。」

 

闇の書。それは時空管理局において、一級のロストロギアに指定されている危険物である。

シグナムは少しばかり考え込む表情を浮かべると他の三人に向けて言い放った、

 

「・・・・主の侵食は今はまだ症状が進んでいないらしいが、いつ進行するかはわからない。場合によっては他の次元世界へ赴く必要が出てくるかもしれん。」

 

そのシグナムの言葉にヴィータたちも表情を重いものに変えながら頷いた。

 

 

 

 

ところ代わり、同時刻のアースラではヒイロがリンディたちアースラの乗組員に自身の素性を説明していた。

自身のこれまでの戦いや行ってきたこと。それら全てを多少のぼかしを交えながら説明した。

ぼかしを入れたのはこの場になのはとフェイトがいるというのも大きかった。

彼女らは戦闘自体は経験しているが、それはある程度の命が保証されているものだ。

しかし、ヒイロが経験してきたのは本物の戦争。命の保証などどこにもないものだった。

そんな凄惨なことを目の前の少女に教えるわけにはいかなかった。

 

「・・・・・アフターコロニー、ね。それと、宇宙に居を構えた人たちと地球による人類同士の大戦争。おおよそ、なのはちゃんたちの地球で起こったものとは思えないわね。」

「・・・・俺はいわゆる平行世界の人間、という部類に入るのだろう。なのはの世界を軽く思い返すととてもではないが戦争の傷跡のようなものは見えなかった。」

「それで、君は他の仲間達と共に、『ガンダム』と呼ばれる兵器に乗り込んで戦った。あの翼を持った姿は君が乗り込んだ兵器、という認識でいいのかな?」

 

クロノの言葉にヒイロは首を横に振った。怪訝な表情を浮かべているクロノにヒイロは説明を続ける。

 

「いや、厳密に言えばそれは違う。あの機体、ウイングゼロは俺たちが乗った機体の大元、いわばプロトタイプだ。もっともプロトタイプとしては異常な性能だがな。」

「・・・・そのウイングゼロの性能とかのそこら辺は教えてくれないのかしら?」

 

リンディの要請にヒイロは再び首を横に振った。

 

「・・・・お前達を信じていないわけではない。だが、この機体の特性や技術を教え、技術漏洩が発生した場合、技術的なブレイクスルーを起こしかねん。そうなれば、間違いなくどこかでテロが始まる。それがきっかけとなり平和だった時代は崩れ、最悪全ての次元世界を巻き込んだ戦争にもなりかねん。」

 

ヒイロの真剣そのものといった表情にリンディは理解の表情を浮かべた。

 

「わかったわ。貴方の気持ちを鑑みて、これ以上の詮索はしないわ。こちらからも貴方の許可なくして、ウイングゼロの解析は行わないと約束する。」

「・・・・・感謝する。それともう一つ頼みがある。」

 

ヒイロの言葉にリンディは疑問気な表情を浮かべる。

 

「どうやら俺はギル・グレアムという男に預かってもらうという話が上がっているらしいのだが、断らせてくれ。」

「・・・・理由を教えてくれるかしら?」

「・・・・あの騎士装束の奴らの目的が知りたい。ゼロの予測だと、あのままでは奴らに未来はない。」

「ゼロ・・・・?ウイングゼロのこと?」

「・・・・ああ。」

 

もっとも厳密に言えば、違うのだが、ヒイロはそれ以上は口を噤んだ。

 

「・・・・・わかったわ。グレアム提督には話を断るいこうを伝えておくわ。それと時空管理局には貴方をアースラ所属の民間協力者として申請しておく。」

「・・・・世話になる。」

「それでなんだけど、そろそろ貴方の名前を教えてくれるかしら?記憶を取り戻したのなら名前も思い出しているんじゃないかしら?」

 

リンディにそう言われ、ヒイロは少しばかり考え込む表情を浮かべた。

 

「・・・・ヒイロ・ユイだ。よろしく。」

 




さーて、どんどん原作がぶっ壊れていくぞー(白目)

ま、いっか。原作はぶっ壊すものだし。


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第7話 未来への布石

「ゼロ、各部兵装の状況を教えろ。」

 

ヒイロはリンディから充てがわれた自室で一人、ウイングゼロにそう呼びかける。

すると、待機状態のゼロから各武装の詳細が表示される。

 

(・・・・ビームサーベル、問題ない。守護騎士とかいう奴らの戦闘でも使用は可能か。)

 

リンディとクロノからある程度騎士装束の人物達の詳細を教えてもらった。

奴らは第一級ロストロギア、『闇の書』のプログラムの一種とのことだ。その守護騎士は主の命に従い、行動を行う、とのことだった。ここのところ管理局員が何者かに魔力を奪われるという事件が発生しているらしいが、それはあの守護騎士達が主犯格であるとのことだ。

 

(奴ら、守護騎士の目的は闇の書の完成とのことだが、完成させればロクでもないことが起こるのは確かなようだ。)

 

闇の書は出現したばかりのころはページには何も書かれていない魔導書である。

しかし、他者からの魔力を奪うことでそのページを埋めていき、全てのページが満たされた時、闇の書は完成する。

先ほどの戦闘の時に砲撃魔法を撃とうとしていたなのはの胸部から突き出ていた腕はその手の中に何か光るものがあった。リンディに聞いてみればあれは『リンカーコア』というもので人間でいう魔力を生み出す臓器のようなものらしい。

守護騎士はそのリンカーコアから魔力を奪うことで闇の書のページを埋めているとのことだ。

 

だが、ヒイロにはその闇の書そのものよりも守護騎士達の方に違和感を持っていた。それはゼロが守護騎士達に未来はないという予測を出したというのもあった。

 

 

 

(・・・一見するとかつての俺たちのような、ただ命令に従う兵士のような奴らかと思ったがーー)

 

ヒイロは少し前に行われた闇の書についての説明を行なっていた際の光景を思い返していた。

ヒイロがなのはの救援に向かう前、紅い守護騎士から襲撃を受けたなのははある程度の抵抗はしていたとのことだ。

その際にその紅い守護騎士が被っていた帽子を落とした時、その守護騎士が怒りの表情を浮かべたとのことだった。その守護騎士にとって、その帽子はとても大事なものだったのだろうと推測は容易い。

 

(奴らは感情がない、ただ言われるがままのプログラムという訳ではない。おそらく、人間となんら変わりもない。それにあのリーダーと思われる守護騎士も俺が目的を聞いた時、『悪い』と前置きを置きながら話せないと言っていた。)

 

普通であれば、主人の命で話すことはできないなどの理由で言わないだろうと思っていた。

だが、『悪い』と思っているということは奴らに感情がないという訳ではない。

自身がやっている行為に罪悪感を抱いている。そういうことだ。

 

(ならば、奴らは魔力の蒐集を自分たちの主人に嫌々やらされているか、もしくは自分たちの意志でやっている・・・?)

 

守護騎士達の目的を考えながらもマシンキャノンや各部スラスター、自爆装置といったウイングゼロの武装データを見ていくとある一点で目が止まった。

それはウイングゼロのメイン武装である『ツインバスターライフル』の欄であった。

 

「ツインバスターライフルにリミッターが設けられている?」

 

ツインバスターライフルの出力は自由に調節が可能だ。本来はリミッターは設けられていない筈だ。そう思ったヒイロはツインバスターライフルの詳しい詳細を調べた。

 

(・・・・出力の限界が下がっているな。どういうことだ?)

 

本来の、ウイングゼロがMSだったころのツインバスターライフルの出力はコロニーを一撃で破壊するほどのものだった。しかし、こうしてデバイスとして形になった今、ツインバスターライフルの限界出力は下がり、それ以上の出力を出そうとするのであれば、リミッターを解除する必要がある、ということであった。

 

(・・・・MSからデバイスに無理やり変化したことから起こる不具合か・・・?まぁいい。それほどの出力を使う時はおそらくないはずだ。)

 

できれば使うことがないようにと、思っているとヒイロは突然ウイングゼロのデータを一度閉じた。

そして、扉の方に視線を向けるとーー

 

「鍵は開いている。入るなら入ってこい。」

 

そういうと少しばかり時間が開いた後、扉が開いた。そこから申し訳なさげな表情を浮かべながら出てきたのはフェイトであった。

 

「・・・・よ、よく分かりましたね・・・・。」

「俺は兵士だったからな。その程度、熟せなければ俺はとっくに死んでいる。」

「そ、そうですか・・・・。」

 

ヒイロのその言葉にフェイトは引き気味の表情を浮かべてしまう。

 

「それで、来た理由はなんだ?」

 

ヒイロはフェイトのその表情に気を止めることなく要件を尋ねた。

 

「その、さっきの守護騎士との戦闘で、貴方に任せきりになってしまったこと。それとあの守護騎士にクロスレンジで圧倒されたことがどうしても悔しくて・・・。それで貴方にお願いしたいんです。」

 

フェイトは真剣な表情を浮かべながらそういうとヒイロに対して頭を下げた。

 

「ヒイロさん。お願いします。私の特訓に付き合ってくれませんか?」

 

ヒイロはフェイトのお願いに少々思案に耽っていた。フェイトの思いは本物であることは先ほどの表情みれば明らかだった。

 

「・・・・一つ条件がある。治せる傷は治しておけ。僅かに腫れているぞ。」

 

そういうとフェイトは咄嗟に自分の左手首を抑えた。

その反応を見たヒイロは軽く呆れた視線をフェイトに向ける。

 

「怪我をした上で特訓を重ねても患部を余計に悪化させるだけだ。自己管理くらいは常に徹底しておけ。なのはの検査と一緒に医者に処置をしてもらうといい。」

 

ヒイロはそう言って椅子から立ち上がるとフェイトの横を通り過ぎて部屋を出ようととする。フェイトは驚いた表情を浮かべながらヒイロを追った。

 

「あ、あの、特訓の方は・・・!?」

「条件は言った。後はどうするかはお前次第だ。」

 

それだけ告げてヒイロは部屋を出て行った。部屋の主が居なくなった部屋でフェイトは嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「・・・・ありがとう、ございます。」

 

部屋を出た後のヒイロはこんなことを考えていた。

 

(・・・・プランは、過度なものにするわけには行かないな。)

 

フェイトに自分と同レベルの訓練を行えば、強くはなるが確実に心の面で持っていかれる。

自分自身と同じ兵士をまた作るわけには行かないと難しい表情を浮かべながらアースラ艦内の廊下を歩く。

少し歩いていると見知った人物と鉢合わせた。

 

「・・・・リンディか。」

「あら、ちょうどよかったわ。」

 

ちょうどいい、とはどういうことだろうか?そう思ったヒイロはリンディに尋ねることにした。

 

「・・・・何か俺に用か?」

「これからアースラはメンテナンスで時空管理局の本局へ向かうのだけど、その時にグレアム提督、貴方を引き取ろうとしていた人が会ってみたいって言うのだけど、どうかしら?」

「ギル・グレアムが・・・・?」

 

ヒイロは最初それを断ろうとした。しかし、思い返してみればアースラがメンテナンスに入る以上、艦内に残ることは許されないだろう。

 

「・・・・・了解した。だが、俺から話すことは何もない。」

「そこら辺は大丈夫よ。クロノやなのはちゃん、それにフェイトちゃんも同席するから。」

 

断る理由がないと判断したヒイロは素直に応じることにした。

 

(なのは達が同席するのであれば別に問題はないか。)

 

 

 

 

しばらくして、アースラはメンテナンスのために時空管理局の本局へと帰港した。

案の定、アースラ艦内に残ることは許されなかったため、ヒイロはなのは達の検査が終わるまでクロノやリンディ達と行動を共にしていた。

 

「なのはちゃんの検査の結果が来ました。」

 

そう言ってきたのは手に検査の結果が記されていると思われるバインダーを持っているエイミィだった。彼女はそのままバインダーをみながら検査の結果を伝え始める。

 

「結論から言えば、怪我自体は大したことはないそうです。ただ少しばかりリンカーコアが縮小しているということでしたが、ヒイロ君が途中で妨害してくれたのが功を奏したのか、それも時間経過で元に戻るそうです。」

「そう・・・。となるとやっぱり一連の事件と同じでいいって言うわけね。」

 

リンディが言った一連の事件、というのは魔導師が襲撃され、魔力が蒐集されるという守護騎士達が起こしている事件で間違いはないだろう。

 

「はい。それで間違いはないようです。」

 

そういうとエイミィは少しばかり表情を苦いものに変えた。

 

「休暇は延期ですかね。流れ的にウチの担当になってしまいそうですし。」

「仕方ないわね。そういう仕事なんだから。」

 

二人がそこまで話したところでヒイロは少々気になったことを尋ねた。

 

「・・・・フェイトの方はどうなんだ?」

 

そう言った瞬間、クロノを含めた三人の表情が意外そうな視線をヒイロに向けた。ヒイロはその視線に疑問を覚えた。

 

「・・・・なんだ?」

「い、いや、そのなんだ。君がそういう誰かの容体を心配するのは珍しいと思って、ね。」

「・・・・あいつから特訓を手伝って欲しいとせがまれたからな。他意はない。」

 

クロノにそう言われるとヒイロは視線を逸らしながらそう答えた。リンディは納得といった表情を浮かべながら、ヒイロにこう伝えた。

 

「それなら、クロノと一緒に迎えに行ってあげたら?なのはちゃんの病室もちょうど同じだったはずだし。」

「・・・・・了解した。」

 

微笑みながらそういうリンディに鋭い視線を向けながらもヒイロはそれを了承した。

クロノと共にエレベーターを降り、廊下を進んでいく。

 

「なぁ、ヒイロ。君は元の世界では兵士として戦ってきたんだよな?」

「藪から棒だが、その通りだ。」

 

廊下を歩いているなか、クロノが突然そんなことを聞いてきた。ヒイロがそう答えるとクロノは少々難しい表情をしながら続けて尋ねる。

 

「それは、その・・・いつからなんだい?」

「・・・・・・・・・。」

 

クロノの質問にヒイロはしばらく黙っていた。話したところで反応が見えていたからだ。

 

「俺は、物心ついた時には既にこの手に銃を握っていた。そこからは何人もの人間を殺してきた。・・・・それしか生き方を知らなかったからな。」

「っ・・・・それは、すまないことを話させた・・・。」

「お前が気にする必要性はどこにもない。同情しているのであればむしろ迷惑だ。」

「う・・・・。それも、そうだな・・・・。すまない・・・。」

「・・・・・面倒な奴だ。」

 

わかりきった反応を見せたクロノにヒイロははっきりと不快感を伝える。

 

「それで、フェイトのことなんだが、よろしく頼む。」

「・・・言いたいことはそれだけか。さっさと最初から言え。」

「・・・・君、時折そのトゲのある言い方で誰かを怒らせたこととかない?」

「俺は事実を述べているだけだ。」

 

若干目が笑っていない笑顔を浮かべるクロノだったが、ヒイロは特にこれといった反応を見せずに淡々と言葉を返した。

そうこうしている間にフェイトの病室に差し掛かったのか、部屋から出てきた彼女が視界に入った。

 

「クロノ・・・それにヒイロさんも?」

「怪我の具合はそれほど悪くないみたいだな。」

 

クロノが怪我の度合いを尋ねるとフェイトは申し訳なさげな表情を浮かべる。

 

「その、ごめんなさい。心配かけて・・・。」

「まぁ・・・君となのはで慣れたよ。気にするな。」

 

クロノはフェイトの謝罪に乾いた表情を浮かべながらそう答えた。

ヒイロは特にこれといった反応を見せることはなかったが、フェイトからの視線が来ていることに気づいた。

 

「・・・・・・。」

「えっと、その・・・・。」

 

フェイトが気まずそうな反応を見せているとヒイロは少しばかり疲れた目を見せる。

 

「・・・プランは考えてある。だが、今は怪我の完治を最優先にしろ。それだけだ。」

「っ・・・・はい!!」

 

ヒイロがそういうとフェイトは目を輝かせながら頷いた。

 

「え、えらく慕っているんだね、彼のこと。結構言動とかにきついものがあるって思っているんだけど・・・。」

「そう、かな?優しい人ですよ、ヒイロさんは。」

 

フェイトのその言葉にクロノは半信半疑でヒイロに視線を移した。

移した先にはーー

 

「ちっ・・・・・。」

 

僅かに気恥ずかしそうに舌打ちをしながら顔をそっぽに向けるヒイロの姿があった。

 

(・・・・・図星か。)

 

割とかわいいところもあるんだな、この人。そう思うクロノであった。

 

 

 




ヒイロは搭乗機に自爆装置がないと不安になるらしい。


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第8話 変革への道筋

うーん、話が中々進まない・・・・


フェイトと合流したヒイロ達はなのはの病室へと足を運んだ。

病室の扉を開くとちょうど医師がベッドに腰掛けているなのはの容態を確認しているところだった。

その医師は何かクロノに用があったらしく、彼を部屋から連れ出し、病室の中にはなのはとフェイト、そしてヒイロが残された。

 

「なのは、体調は大丈夫?」

「うん。リンカーコアもあと少し休んだら元の大きさに戻るって医師の人が言っていたよ。」

 

フェイトがそう尋ねるとなのはは表情を笑顔にする。どうやら大事には至るようなことはないようだ。フェイトも表情を綻ばせて、安堵感を露わにする。

 

「そっか・・・。よかった。」

「ヒイロさんも助けてくれてありがとうございます。」

 

なのはからお礼を言われるが、ヒイロは壁に体を預け、腕を組んだまま軽く視線をなのはに向けるだけで特に言葉は返さなかった。

 

「あの、ヒイロさん、少し質問してもいいですか?」

「・・・・なんだ?」

「ヒイロさんがアースラで素性を話した時、襲ってきた人達、守護騎士に未来はないって言ってましたけど、それは一体どういう意味なんですか?」

 

なのはが言っているのはヒイロがゼロシステムを起動させた時に見た未来のことだろう。ヒイロはなのはの言葉に答えるかどうか少しばかり逡巡する。

 

「・・・・そのままの意味だ。このまま奴らが魔力の蒐集を行うのであれば奴らは死ぬ、というより消滅する。」

 

ヒイロが『消滅』という言葉を使ったのは訳があった。ゼロシステムが見せたビジョンにはその守護騎士達と思われる人物の体が光となって消えていく光景があったからだ。

ヒイロのその言葉になのは達は驚きの表情を浮かべた。

 

「そんなっ・・・!?じゃあどうしてあの人達は魔力を集めているんですかっ!?」

「ヒイロさん、私も気になります。」

 

なのはの悲鳴のような声と対称的なフェイトの物静かな声が病室に響く。

 

「・・・・奴ら、というよりあの紫色の騎士装束の奴は俺が目的を聞くと答えられないと言った。」

「それは・・・当然ですね。わざわざ敵に目的を明かすとは思えない。」

 

ヒイロの言葉にフェイトは同調の意志を示す。フェイト自身、なのはと初めて会敵した時は目的を伏せていた経験からくるものだった。

 

「だが、着目するのはこの前だ。騎士装束の奴は前置きに『悪い』とつけた。つまり奴の心情に罪悪感、ないしはそれに準ずるものが含まれているという裏付けに他ならん。」

「罪悪感・・・・?ということは嫌々やっているっていうことですか?なら、説得することもできるんじゃ・・・。」

「そちらの線も捨て置けないが、可能性は低いだろう。そもそも罪悪感には様々な形がある。もっとも、話し合いでどうこうできるとは思えんが。」

 

ヒイロがそういうとなのははまるでそんなことはない、というような表情をヒイロに向けた。

 

「・・・まさかとは思うが、お前は奴らと話し合いができると思っているのか?」

「・・・私はできると思います。だって、あの紅い服の子は私が帽子を撃ち落とした時、怒っている顔をしてました。」

「それは聞いている。奴らに感情があるのは明白だ。だが、だからといって奴らと対話ができる保証はどこにもない。」

「でも、それでも私は理由を知りたいんです。どうして魔力を集めているのか、その理由を。それを知ることができたら、私達にできることがあると思うから。」

 

理由、その言葉を聞いて、ヒイロは少しばかり言葉を詰まらせる。確かにヒイロは守護騎士達がなぜ魔力を蒐集しているのかは疑問に思っていた。

ただ『闇の書』の完成を目指しているのであれば、元々闇の書のプログラムである守護騎士達に罪悪感のようなものはないはずだ。

だが、集めること自体に罪悪感が生じているのであれば、完成以外の目的がある可能性が高い。

もっともヒイロ自身、守護騎士達が明確な敵であるとはまだ断定はしていない。

ただ話し合いでは解決は不可能であり、理由を聞き出すにも相手を無力化するのが定石である、そう彼の中では結論づけていた。

 

「・・・・確認する。お前はあくまで奴らの目的が知りたい。それは俺も同じだ。だが、お前のその手をさしのばす行為は奴らに取って火に油を注ぐようなものであるという認識はあるのか?最善の手は奴らと戦い、その上で無力化することだと思うが。」

「・・・それでも、です。私の力は誰かを傷つけるためじゃない。みんなを守るためにあるんです。」

「・・・・・・・了解した。次に接敵した時は最初こそ俺も戦闘態勢を解いておく。だが、チャンスはその一度きりだ。その時に奴らがこちらに攻撃を仕掛けてくるようであれば、それ以上の対話は不可能と断定し、俺も戦闘態勢に移行する。それでいいな?」

 

ヒイロの条件付きの承諾になのはは表情を嬉しそうなものに変え、頷いた。

そのちょうどよく話が終わったタイミングで病室のドアが開き、クロノが戻ってきた。

 

「・・・話は済んだのか。」

「ああ。なのははもう立てるのか?」

 

ヒイロがそう聞くとクロノは頷く。そしてクロノの視線はそのままなのはに注がれると同時に質問する。

「うん。一応大丈夫だよ。」

 

クロノの問いになのはは疑問気な表情を浮かべながら答えた。その言葉にクロノは頷きながらこう続けた。

 

「一度、ユーノとアルフにも顔を合わせよう。ちょうど君たちのデバイスの修理作業をしているはずだからな。」

「・・・・わかったの。少し着替えるから外で待ってて。」

 

なのはが着替える様子を見せたため、ヒイロは一度、クロノにとっては二度目の病室の外での待機となった。

ちなみにフェイトは何故か部屋の中にいた。

程なくするとなのはは私服に着替えた状態でフェイトを連れて病室から出てきた。

 

「僕が案内するからついてきて。」

 

クロノを先頭にして一同はユーノとアルフの元へと向かう。その道中、ヒイロはフェイトに話しかける。

 

「フェイト。」

 

ヒイロに突然話しかけられたフェイトは表情に驚きを表しながらヒイロの方を向く。

 

「なんですか?」

「・・・お前もなのはと同じ心境なのか?」

 

そう尋ねるとフェイトは微妙そうな表情を浮かべ、足を止める。

ヒイロも彼女の隣で足を止め、フェイトの答えを待つ。

 

「・・・・私もなのはと同じです。とてもあの人達が悪人とは思えません。分かり合える余地はあると思います。だけどーー」

 

フェイトはそこで言葉を切り、自身の胸元に手を添える。

その表情にはどこか悩んでいるように見える。

 

「私は、心の中であの人達と闘いたい、そんな風に思っているんです。もっと具体的に言うとあの騎士甲冑の人を越えたい。矛盾、してますか?」

 

フェイトはそういうと軽くヒイロに視線を向ける。今度はフェイトがヒイロの答えを待った。

 

「いや、矛盾などはない。お前がそう思っているのなら、その感情に従え。」

「感情に従え・・・ですか?」

 

思ってもいなかった答えにフェイトはヒイロの言葉を聞き返した。

 

「お前のその感情のまま、行動しろ。」

 

ヒイロはそれだけ伝えると先を行くなのは達を追っていった。

 

「・・・・じょ、助言してくれている、でいいのかな・・・?」

 

残されたフェイトはわずかに不安気な表情を浮かべる。

心の中に響いてくるのは、先ほどのヒイロの言葉ーー

 

「私の感情のまま行動しろ・・・。もっと貪欲になれってことなのかな・・・。」

 

フェイトもヒイロの言葉の意味を考えながらあとを追うために歩を進める。

 

 

 

 

ヒイロとフェイトが前を行くクロノとなのはに追いついた場所はちょうどクロノが言っていたなのはとフェイト、二人のデバイスが置かれている場所だった。

 

「・・・・手酷くやられているようだな。」

「わかるのかい?」

 

ヒイロの零した言葉にユーノが反応する。ヒイロは頷きながらも言葉を続ける。

 

「デバイスの待機状態の時点で既にヒビが随所に発生している。展開した状態は言うまでもなく、ボロボロ以外の何者でもないだろう。はっきりいって、戦闘を行うのは現状不可能だ。直すのならばパーツごと変えるのが手早いだろう。」

「うん。ヒイロさんの言う通り、レイジングハート、バルディッシュ共々損傷率はかなり高い。今は自動修復をしているけど、基礎部分の修復が済んだら、一度再起動して、いくつかの部品は変える必要がある。」

 

自身の相棒の痛ましさ、そして自分たちの力不足に直面した二人は悲しげな表情を浮かべる。

 

「・・・・それがお前たちと守護騎士達の力の差の現れだな。」

「ちょっとヒイロ。いくらなんでもそんな言い方は・・・。」

「アルフ、大丈夫・・・。ヒイロさんの言っていることはなんら間違ってないから。」

 

ヒイロの言い草につっかかろうとするアルフをフェイトが諌める。自身の主人の言葉にアルフは不満タラタラながらもとりあえずヒイロにつっかかることを抑える。

 

「なのは、私達は強くならないといけない。あの人達に話し合いのテーブルについた方がいいと思わせるぐらいの強さを示さないとなのはがやりたいって思っていることは多分、できない。」

 

フェイトは厳しいと表情でなのはにそう投げかける。対してなのはは軽く表情を緩ませていた。まるで、フェイトのその言葉を待っていたかのようだった。

 

「・・・想いを届けるためには力も必要なんだよね・・・。」

 

なのはは意を決した顔つきでフェイトに向き直る。

 

「私、強くなるよ。強くなってあの人達に想いを届けたい。」

 

なのはのその言葉にフェイトは笑みを浮かべる。

すると突然なのはは何かを思い出したような表情を浮かべ、フェイトに尋ねた。

 

「あ、そういえばフェイトちゃん。ヒイロさんと特訓するんだっけ?」

「え?えっと、うん。そうだけど・・・?」

「私も混ぜて欲しいって言ったら、混ぜてくれるかな?」

 

フェイトはなのはにそう言われるとヒイロに微妙な表情のまま申し訳なさげな視線を向け、なのははヒイロに期待するような視線を送っていた。

ヒイロはそれを見ると一つ、軽くため息を吐く。

 

「・・・・・問題ない。今のところはな。それほど面倒が見切れないほどの量をやらせるつもりはない。」

「わーい♪」

「その・・・何から何までごめんなさい・・・・。」

「とはいえ、はじめに言っておくが、お前達にやらせるのは専ら肉体改造だ。」

 

ヒイロがそう言うと二人、具体的にいうとなのはが先ほどまでの嬉々とした表情を固まらせる。首は油のさしていない機械のようにぎこちない動きでヒイロにその笑顔のまま青くなった顔を向ける。

 

「に、肉体改造・・・?それってもしかしてバッタとかの怪人とかに改造される奴・・・?」

「・・・・お前は一体何を言っているんだ・・・?」

 

ヒイロが無表情のままなのはに指摘すると呆れた表情をしていたクロノが説明を始める。

 

「肉体改造、つまるところ筋力トレーニングだ。フェイトはともかくなのはにそれはーーーいや、ありだな。」

 

その説明の途中でクロノは手を顎に乗せて考え込む仕草をする。その様子にユーノやアルフも疑問気な表情をする。

しばらくクロノのその様子を見せられているとクロノの顔がハッとしたものに切り替わる。

 

「ヒイロ、なのはの筋トレだが、君の思う存分にやってくれ。」

「何か理由ありきのようだな。聞かせろ。」

 

ヒイロがそう尋ねるとクロノは頷きながらもなのはに視線を向ける。

 

「なのは、君のディバインバスターやスターライトブレイカーと言った砲撃魔法だけど、本来であれば使用者のリンカーコアに物凄い負荷がかかるものなんだ。」

「え?でも・・・私今まで撃ってきた中でそんなことはーー」

 

なのはのなんともないと言った表情にアルフやフェイトも同意するようにクロノに怪訝な表情を向ける。

しかし、その中でユーノだけはハッとした表情していた。

 

「そうだよ・・・。なのはのリンカーコアの魔力係数が異常だったから気づかなかった・・・。」

「ゆ、ユーノ君までどうしたの?」

「ヒイロさん、僕からもお願いします。なのはを鍛えてやってください。」

 

ユーノがヒイロに対して頭を下げたことになのはは驚きの声と表情をする。

突然の事態になのは自身あまり追いついていないのだ。

 

「・・・・砲撃魔法には肉体的な負荷も少なからずあるということか?」

 

話の内容から導き出した予測をヒイロが口にするとクロノはその通りだと言わんばかりに頷いた。

 

「ああ。確かに今はなのはの言う通りなんともないかもしれない。君の魔力量は確かに眼を見張るものがある。だけど、あんな馬鹿出力の砲撃魔法を撃って、何もデメリットがないとは思えない。その小さな負荷がもしかしたら数ヶ月、いや数年と何もしないまま繰り返し撃ち続けていれば負荷はどうしようもないほど溜まっていく。それが爆発してからじゃ遅いんだ。」

 

クロノの説得とも取れる説明に一番早く答えたのはーー

 

「・・・・了解した。だが、限度は俺の方で決めさせてもらう。なのはとフェイトは兵士として戦うわけではないからな。もっともこの平和な世の中に俺のような兵士は必要ないがな。」

 

ヒイロであった。壁に背中を預けながらもその目にはある種の決意が見えていた。

 

 





おまけ

「そういえばなのは、お前はどこから俺がフェイトの特訓をすると聞いた?」
「え?リンディ提督からだけど・・・?」
「・・・・別に情報源がいるな・・・。リンディはフェイトが俺に頼んできた後に会ったが、その時点では知らなかったはずだ。」

ヒイロがそう言うとおずおずと誰かが挙手しているのが見えた。
全員の視線がその人物に集中する。その人物は、他ならぬフェイトであった。

「お前か・・・。まぁ、可能性ならないわけではないが・・・。」
「・・・・確かに私と言えば私だけど・・・正確に言うと言ったであろう人を知ってる・・・。」

フェイトはそう言って、この場にいるある人物に視線を向ける。その視線を向けられたのは、彼女の使い魔であるアルフだった。

「アルフ。私、貴方にしかヒイロさんとの特訓のことは教えていないはずなんだけど・・・。」

フェイトにそう問い質されるが当の本人は口笛を吹いてやり過ごそうとしている。

「アルフ?貴方でしょ。話したの。」

フェイトの冷えた声がアルフに突き刺さる。するとアルフの表情が諦めたものに変わった。おそらく白状するのだろう。

「いやーね。もしかしたらコイツがフェイトに何かするんじゃないのかって思ってさ。内緒でリンディ提督に教えちゃった☆」

テヘッという擬音が付きそうなおどけた表情でそう言うとヒイロはわずかに怒気を孕んだ目でアルフを睨む。

「・・・・・・。」
「・・・・・悪かったって。そんな目で睨まんでおくれよ。」

アルフがそうヒイロに向けてとりあえずの謝罪をするとヒイロは自分の感情を引っ込めた。

「ところで諸々のところなんだが、なんでフェイトはヒイロに特訓を頼んだんだ?」
「えっと、近接戦闘能力がすごかったから・・・。」
「そうなのか?僕はアースラにいたからわからなかったんだが・・・。」
「初見で守護騎士のリーダー格の人を筋力だけで圧倒してた。」

『・・・・・は?』

なのはを除く全員の間の抜けた声が響き、その原因であるヒイロに注がれる。
対してヒイロはこれといった反応は見せなかったがーー

「本当にヒイロさんはすごいよね。だって守護騎士の人の腕の骨を粉砕しちゃうんだもん。」

なのはの言葉に今度は一同は無言に伏した。そして、再度ヒイロに視線が注がれる。

「・・・・なぁ、ヒイロ、君に身体検査を依頼したいんだけど、構わないかい?」
「別に構わない。」

本人の許可を取って検査をした。ちなみにそのあまりな結果にリンディが軽く発狂しかけたのは内緒である。




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第9話 ゼロの警告

今回ちょっと少なめ。普通に書いていたら書こうと思ってた箇所が抜けていることに気づいて途中制作。割と急いで書いたから支離滅裂かもしれないっす。


「ねぇ、二人共、クロノ君知らない?」

 

レイジングハートとバルディッシュのそれぞれ破損したパーツが明日か明後日に揃えられることをユーノとアルフに伝えにきたエイミィはそんなことを尋ねる。

 

「ああ、それだったらなのはとフェイトとそれにヒイロを連れてどっか行ったね。」

「確か、管理局の偉い人に会いにいくとか言ってたような・・・・?」

 

アルフとユーノの言葉にエイミィは合点のついた表情をする。

おそらく前々から言っていた人物のところへ向かったのだろう。

 

「あ、グレアム提督のとこかな。」

「グレアム・・・?確かその名前はフェイトの保護観察官の名前じゃなかったかい?」

 

アルフの確認にエイミィは頷きながらこう続ける。

 

「うん。ギル・グレアム提督。フェイトちゃんの保護観察官でクロノ君の執務官研修の担当官だったんだよ。」

 

 

 

(・・・・・ゼロがこの男に対して警告を告げている・・・?)

 

ヒイロが視線を上げるとそこには一人の初老の男性がいた。青味がかった髪と髭を有し、温厚な見た目を醸し出している人物は、ヒイロと話しをしてみたいと前々から話しが上がっていたギル・グレアムその人であった。

なのはとフェイト、そしてヒイロは用意されているソファに腰掛け、クロノは少し離れたところに立っていた。

しかし、リンディの報告書からフェイトの人柄を優しいといった彼の笑みからあまり警戒する必要性は感じられない。

 

「ふむ、確かにヒイロ君。君は普通の人間とはわけが違うようだ。」

 

グレアムはヒイロを見やるとそんなことを口にする。長年、管理局に就いているのもあって、人を見る目がついたグレアムにとって造作もないことであった。

 

「君のその目は戦士、いや君の言葉でいうのであれば兵士の目だ。なるほど、リンディ君からの報告はほぼ間違えていないようだ。」

「・・・・俺個人としては話すことは何もない。」

「いいんだ。ただ君のことが心配になった老人のお節介という奴だ。君が話したくないことを話させるつもりは毛頭ない。もちろん、君のそのデバイスのこともだ。」

「・・・・・そうか。」

 

ヒイロはグレアムに対してゼロシステムが警戒を続ける理由はひとます置いておいた。探りを入れるのもいいかもしれないが、それでこちらの立場が悪くなるのは回避しておきたい。

無表情を貫くヒイロにグレアムは軽くほほえむような表情を浮かべるとなのは達に視線を移す。

 

 

「ふむ、なのは君は日本人なのか。懐かしいな、日本の風景は。」

 

そう言って懐かしむ表情を浮かべるグレアム。どうやら彼のルーツは地球にあるらしい。顔つきを鑑みるに西洋人なのは間違いないが。

なのはが驚きの表情をしながら尋ねると、彼は自身をイギリス人だと言った。

彼はそこから自分が管理局の一員となった経歴を話し始める。

今からおよそ50年前、ひょんなことから傷だらけの管理局員を助けたグレアムはその後の管理局の検査により自身に高いレベルでの魔力資質があることが発覚。

その出来事を機に彼は管理局の一員となったらしい。

 

「フェイト君。君はなのは君の友達かい?」

「・・・・はい。」

 

グレアムの質問にフェイトは少々疑問気ながらも頷く。

 

「友人や信頼してくれる仲間を裏切るような真似は絶対にしないでほしい。それを誓ってくれるのであれば、私は君の行動に一切口を挟むことはしない。できるかな?」

「・・・・・はい。誓います。」

 

グレアムの言葉にフェイトは噛み締めながらも力強い口調で頷いた。

 

 

程なくして、フェイトとなのははグレアムの私室から退席する。ヒイロもそれに続くつもりだったが、クロノがグレアムに自分達、アースラクルーが闇の書の捜査・捜索の担当になったことを告げる。

それを聞いたグレアムは険しい表情をしながらクロノに言葉を送る。

 

「そうか、君たちがか・・・・。言えた義理ではないかもしれないが、無理はするなよ。」

(・・・・この男、闇の書と何か浅はからぬ因縁があるようだな。こちらで調べてみるか・・・。)

 

ヒイロはグレアムを軽く見やったのち、なのは達と同じように部屋を後にした。

 

 

ヒイロはグレアムとの面談を済ませたあと、クロノ、フェイト、そしてリンディ達と共に今回の事件の資料を見ていた。その部屋の窓からはアースラなど他の次元空間航空艦がメンテナンスを受けている様子が見える。

ヒイロはその中でリンディの持ってきた捜査資料を見る。その資料には比較的『第97管理外世界』通称地球から個人転送で行ける距離で守護騎士達の出現が確認されていた。

 

「・・・・その守護騎士とやらは地球から然程離れていない距離で魔力の蒐集を行なっているようだな。」

「そうね。おそらくあの子の近くにこの守護騎士達の主人がいるのだろうとは思うのだけど・・・。」

「この結果から見て軽くプロファイリングを行なったがおおよそそれで間違いはないだろう。」

 

ヒイロの言葉にリンディは難しい表情を浮かべる。リンディ曰く、地球に赴こうとするのであれば管理局の転送ポーターでは中継を挟まないと行くことが難しいとのことだった。つまり有事の際には後手に回らざるを得ない状況になる可能性が高いということだ。

 

「・・・・アースラが使えないのは痛いですね・・・。」

「・・・・・使用できる次元航空艦の空きは少なくとも2ヶ月はないそうだ。」

 

フェイトが窓からアースラの様子を見ながら言った言葉にリンディも首を縦に振らざるを得なかった。クロノの言う通り、アースラなどの船が使えないのであれば、拠点を現地に用意するぐらいしか迅速に対応できる手段はなくなる。

 

「というか、フェイト、君はいいのか?それにヒイロも。」

「何が・・・?」

 

突然のクロノの問いかけにフェイトとヒイロは疑問の表情を浮かべる。

 

「フェイトは嘱託とはいえ外部協力者だ。ヒイロに至っては形上、なのはと同じ民間協力者。君たちが無理に付き合う必要はない。」

「クロノやリンディ提督が頑張っているのに、私だけ呑気に遊んでいる訳にはいかないよ。アルフも協力するって言っているから、手伝わせて。」

 

フェイトの答えを聞いたクロノは無表情で腕を組んでいるヒイロに視線を移す。

 

「・・・ヒイロ。君もフェイトと同じかい?」

「・・・・俺は借りを返すだけだ。だが、少しばかり懸念材料があるのが事実だ。それについて、リンディ。お前に聞いておきたいことがある。」

「懸念・・・材料・・・?」

 

そう言われ、リンディは首を傾げながらヒイロの言葉を待った。

 

「・・・・ギル・グレアムと闇の書の因縁関係を教えろ。ゼロがあの男に対して警告を告げていた。」

「っ・・・・!?」

 

リンディはとても驚いた表情をしたのち、その表情を曇らせた。それはまるであまり思い出したくないものを思い出したかのようなものであった。

リンディのその表情にフェイトは心配そうな表情を浮かべ、クロノはヒイロに厳しい視線を向ける。

 

「・・・・貴方のデバイスは、本当に賢い子なのね。」

「賢い、か。それで済めばいいがな。」

 

ヒイロがこぼした言葉に全員の視線に疑問のものが含まれる。

 

「それは、どういうことなんだ?」

「・・・俺がゼロと呼んでいるのは、この機体(ウイングガンダムゼロ)のことではない。これが積んでいるシステムのことだ。」

 

ヒイロは軽く自身の天使の翼に抱かれた剣の意匠を持つペンダントを触ると説明を続ける。

 

「これは俺がウイングゼロについての情報の開示を拒否する理由の一つだ。だがお前達の信用を得るためならば、致し方ない。これを教えるかわりにギル・グレアムの因縁関係を教えろ。」

「・・・・・わかったわ。約束する。」

 

リンディの頷きをみたヒイロはウイングゼロの搭載するインターフェース、『ゼロシステム』についての説明を始める。

 

「ゼロシステム。ゼロ、というのはあくまで略語であり正式名称はZoning and Emotional Range Omitted System。直訳するなら『領域化及び情動域欠落化装置』だ。」

「・・・あまり字面だけではよくわからないわね。」

「このシステムはパイロットの脳をスキャンし、神経伝達の分泌量を制御する。」

 

ヒイロの説明にリンディ達は疑問気な表情を浮かべる。ヒイロも無理もないだろうと思った。あの技術者達の考えることはいつもよくわからないからだ。

それでもそれはあくまで技術開発の面だけであり、自分達の技術力を誇示しようとしないだけマシだったが。

 

「簡単に言えば、人間が本来なら耐えられない動きを神経伝達を抑制することで欺瞞するということだ。」

「・・・・それだけ聞くと何も隠すようなことはないようにも見えるけど・・・。いや、十分にすごい代物だっていうのはわかるが・・・。」

「コイツの本領は超高度な情報分析と状況予測にある。ゼロは敵の動きを徹底的に解析し、敵が次にどう動くのか。いわばその人物の『未来』をパイロットの脳に直接フィードバックする。」

「それって・・・・凄くないですか?だから守護騎士の未来も分かったんですね。」

 

フェイトは純粋に凄いというがクロノとリンディは表情を厳しいものにしたままだった。フェイトはそのことに少しばかりオロオロする。

 

「あ、あれ・・・・?」

「・・・・フェイト。未来っていくつあると思う?」

 

クロノがそういうとフェイトは少し考え、そしてこう返した。

 

「え・・・?それは・・・()()()()ある、のかな。あ・・・。」

 

フェイトが何かに気づいた反応を見せるとクロノは頷きながらも険しい口調で続ける。

 

「そういっぱいだ。それこそ計り知れないほどの未来がある。そのゼロシステムはその未来を頭の中に直接叩き込むんだ。並の情報処理能力では一瞬で潰されてしまうだろう。」

「さらに言うが、ゼロは『敵を倒す』ことに特化している。その未来の中には味方もろともや操縦者を省みないものもいくつもある。その光景を直接脳にフィードバックされ、ほとんど現実と遜色ないビジョンで映し出される。仮にだがお前はなのはを自身の手で殺す未来を見て、耐えられるか?」

 

ヒイロからそう言われ、フェイトは思わず頭の中でイメージしてしまう。自身の手でなのはを殺してしまう情景を。その瞬間、フェイトはその恐怖から顔を青くし、悲痛な表情を浮かべながら首を横に振る。

 

「や、やだ・・・!!耐えられる訳ないっ!!」

 

フェイトのその様子を見て、ヒイロは少し時間を置く。彼女が落ち着く必要があったからだ。フェイトが落ち着きを見せ始めた時、リンディがヒイロに尋ねた。

 

「・・・・ねぇ、ヒイロ君。そのシステムの見せるビジョンに耐えられなかったら、どうなるの?」

「・・・・そうなったが最後、操縦者はシステムの傀儡に成り果て、システムの見せる未来に振り回され、暴走を始める。仮に暴走を止められたとしても、乗っていたやつは脳が焼き切れ、死ぬ。よくても精神が使い物にならなくなっているだろうから廃人がいいところだ。」

「・・・・貴方は本当に強い人間なのね。それに乗って今まで戦ってきたんでしょ?」

「俺にはできた。ただそれだけだ。俺はどうしようもないほど弱者だ。ついでに言えば、強者などどこにもいないと考えている。それこそ、奴ら守護騎士も例外ではない。」

「・・・しかし、貴方が隠すのも頷けるわね。未来を見るなんて、ミッドチルダ式の魔法ですらできないことを機械、というより科学がやってのけている。そんなのが明るみに出れば、ブレイクスルーが起きるのは避けられないわね。」

 

リンディは神妙な面持ちをしながらヒイロの目を見つめ、意を決する表情を浮かべる。

 

「さて、それじゃあ今度はこっちの番ね。貴方がそのゼロシステムについて包み隠さず教えてくれたからこちらも包み隠さず言うわ。」

「・・・母さん。大丈夫なのかい?」

 

クロノが心配そうにリンディに声をかけるがリンディはクロノに対して首を振った。

 

「大丈夫よ。もう自分の中で折り合いは付いているから。」

 

そう言うとリンディはヒイロに向けて話し始めた。

かつて闇の書の捕獲作戦において、自身の夫である『クライド・ハラオウン』が関わっていたこと。そしてその夫は突如として発生した闇の書の暴走に巻き込まれて殉職したこと。

最後にギル・グレアムがその艦隊の総司令官として現場にいたことを。ヒイロに赤裸々に語った。




感想など、気軽に送ってどうぞ^_^作者の励みになりますので^_^


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第10話 引っ越しと出会い

お気に入り250人越えました!!ありがとうございます!!


人々の喧騒が周囲を彩り、12月の冷たい風が肌を突き刺す。

道行く人々もその寒さから少しでも逃れるために身につけている衣服を生地の厚いものに変えて凌ごうとする。

人々から視線を外して周囲の風景に目を向けるとクリスマスの準備のためか街路樹にはイルミネーションがつけられ、大型ショッピングモールには緑や赤を基調とするポスターが貼られていたりする。

ヒイロはこのクリスマス準備真っ只中の海鳴市を一人で歩いていた。

 

あてもないまま彷徨うように人だかりの中を進んでいく。

なぜこうなったのかはおよそ数時間前に時を遡るが、今回はそれより前から説明を始める。

 

 

 

 

 

リンディからグレアムと闇の書との因縁を聞いたあと、ヒイロは彼女らと別れ、話の内容を纏めていた。

 

(・・・リンディの夫、クライド・ハラオウンはかつて闇の書の捕獲任務に就いていた。だが、その運搬中、突如として闇の書が暴走を始め、その男の乗る次元航空艦『エスティア』を掌握。さらにあろうことかその掌握された船はその銃口を味方へと向けた。その時の艦隊総司令であったギル・グレアムはクライド・ハラオウン自身の要求もあり、艦隊にエスティアへの攻撃指示を下した。最終的にエスティアは轟沈。クライド・ハラオウンは還らぬ人間となった。)

 

ヒイロはこの時点でグレアムはクライドの乗艦するエスティアへの攻撃の指示を下したことを後悔していると考えていた。さらに、その後悔は自責に変わっていき、最終的には闇の書に対する私怨に変わっている可能性が高い。

ゼロが警告したのはおそらくグレアムが闇の書に対する手段がよほど危険なものであるからであろう。

 

(・・・さらに言えば、あの男は優しすぎるし、責任感が強い。おそらく心的な負担を無意識のうちに押し殺し、積み重ねている。それが爆発すれば奴がどういう行動をとるのかは未知数だ。行動を起こす前、ないしは行動を起こした直後に何かしらの対策をしておく必要がある。)

 

ヒイロはそういいながらある人物を思い返していた。グレアムのように温厚な思考を持ちながらも自身にのしかかる心的疲労を吐き出さずに溜め込んだ結果、心が壊れ、ゼロシステムに飲み込まれた仲間、カトル・ラバーバ・ウィナーのことを。

 

(・・・あの男は、カトルに似ている。似ているからこそ、俺は奴の暴走を止めなければならない。場合によってはこちらの障害になる可能性もあるからな。)

 

 

 

 

 

 

ある程度時間が過ぎるとリンディから集合の号令がかかった。

休憩スペースと思われる自販機がいくつもある部屋にアースラのクルーが集合するとリンディから件の第一級ロストロギア『闇の書』の担当が自分達になったことを告げられる。

さっそく調査のために海鳴市に赴こうとするのだが、肝心のアースラはメンテナンスのため、動かすことは叶わない。

そこでリンディが発案したのが、海鳴市内に拠点を設けてしまおうという内容だった。

確かに海鳴市に拠点を置いておけば、有事の際には迅速な対応ができる。理にかなった案だっため、アースラに置いていた機材をあるアパートの一室を借り、そこを拠点とした。

なお、引っ越しの作業はヒイロの人外な筋力を持って、それほど手間はかからずに終えることができた。

 

「・・・・・あの細い腕のどこにあんな馬鹿力があるのかしら・・・?」

 

そう苦笑いを浮かべるリンディの目の前には本来であれば大の大人が数人必要な家具や機材を二本の腕で軽々持ち上げ、室内へと運び込んでいくヒイロがいた。

そのヒイロの仕事振りを見て、『もうこの子一人でいいんじゃないか?』というアースラクルーの心の声が重なった。だが、ヒイロは突然、足を止めて、視線をある一点に集中させる。その視線の先には・・・。

 

「・・・・フェレットと赤い子犬・・・。こんな奴、いたか?」

 

その二匹の獣は器用に二本の足で立っていた。フェレットはどうだか知らなかったが少なくとも子犬にそれほどの筋力が備わっているとは思えなかったヒイロはしばらくその二匹を見ていたがーー

 

「あ、ユーノにアルフ。こっちではその姿なんだ。」

 

エイミィがデータを確認しながら二人の名前を呼んだ。どちらも知っている名だったため思わずその二匹に驚いた視線を向ける。

 

「なのはの友達だとこの姿じゃないとダメなんだ・・・。」

 

フェレットが口を開くとユーノの声が響いた。ありえない現象にヒイロはしばらく驚いた表情から変えることができなかった。

 

「・・・・魔法というのはそのようなものもあるのか。」

「色々あるんだよー。今は子犬だけど、おっきくなれたりもするんだからね。」

 

アルフが肉球のついた手を振りながらそんなことを言ってくる。

ヒイロはそれ以上考えることはなく、作業に戻った。

 

そして、荷物の運搬作業もほぼ完了し、一息ついたところに訪問者の訪れを知らせるチャイムが鳴り響く。

ヒイロは最初こそ警戒心を露わにするが、それより先になのはが笑顔を浮かべながら扉を開けはなつ。

そこにはなのはと同年代ほどの少女が二人いた。そこでなのはが友達だと紹介したところでヒイロはようやく警戒心を引っ込めた。

 

「こんにちはー。」

「きたわよー。」

「すずかちゃん、アリサちゃん!!」

 

なのはとフェイトはその二人の友人に笑顔を向けながらお互いの再会を喜びあっていた。話を聞いているとフェイトも知り合いのようだが、ビデオメールでやりとりをしていたらしい。

やることがなくなったため、ヒイロはエイミィから許可を取って事件資料を流し読みしていると、なのは達の元に向かっていくリンディの姿が視界の端に映った。

どうやらリンディもなのはの友人達に挨拶をしているようだ。

 

(・・・・まぁ、俺には関係のないことだ。)

 

そう結論づけ、資料を漁っているとーー

 

「ヒイロ君ー?ちょっと来てくれるー?」

 

リンディの自身を呼ぶ声が耳に入る。何事かと思いながらも借りていた端末の電源を切り、リンディの元へ向かう。

 

「・・・・・何か用か?」

「これからなのはちゃんの実家に挨拶に行くのだけど、貴方も来ないかしら?こういうのあんまり縁がなかったでしょ?」

(それに、周囲の地形環境とかも把握しておける。理由づけにしてはもってこいだと思うのだけど?)

「・・・・了解した。」

 

ウイングゼロの通信機能を介して、リンディの念話が届く。ヒイロとしては周囲を把握しておくのもしておきたかったのもあったため、利害が一致すると判断したヒイロはそれ承諾した。

が、ヒイロの視界には気になるものが映っていた。なのはの友人であるすずかとアリサがヒイロに向けて、呆けたような表情を向けていた。

 

「・・・・・先ほどから俺の顔を見て呆けているようだが、なんだ?」

「え、あ、いや、なんか、なのはのお兄ちゃんに声が似ているって思って・・・。」

「う、うん。そっくりだよね・・・・。」

 

気になったヒイロがそう尋ねるとハッとした二人はヒイロにそう理由を述べた。

ヒイロが別人に間違われるのは初めてではなかった。一度目はその兄の親族であるはずのなのはからだった。意識が朦朧としているのもあっただろうが、それでも間違わられるということはよほど似ているのだろう。

 

「ソイツとは会ったことはないが、それほど似ているのか?なのはにも間違われたのだが。」

 

ヒイロがそういうと二人はなのはに視線を移す。特に金髪の髪をロングにしている少女、『アリサ・バニングス』はなのはに向けてきつい視線を向けている。

 

「な・の・は〜〜〜?アンタ、自分のお兄ちゃんと赤の他人を間違えるって、どういう了見しているかしら〜〜〜?」

「い、いや、それはその、色々と条件が重なっちゃってーー」

「問答無用!!アンタにはコメカミグリグリしてやるわー!!!」

「にゃあああああああっ!!!!!?!!?」

 

狼狽した様子のなのはにアリサが彼女の両方のコメカミ部分に握りこぶしをそれぞれ当てて、グリグリとえぐり始めた。その痛みになのはは悲痛な叫びを辺りに撒き散らしていた。

 

「あ、あの。」

 

なのはが叫んでいる様子を無表情で眺めていると自身を呼ぶ声に気づきそちらの方に振り向く。

その視線の先には紫色のウェーブのかかった艶のある髪を腰にまで伸ばしている少女『月村すずか』がいた。

 

「なのはちゃんがお世話になっています。」

 

そういうとペコリと頭を下げた。ヒイロはそれに特に表情を変えることはなかったがーー

 

「それはリンディに言え。俺はなのはに世話になられた覚えはない。」

「リンディさんって・・・あの人ですか?」

 

ヒイロはすずかと軽いやりとりを行うと一行はなのはの実家である喫茶店へと向かった。

借りたアパートからそれほど距離が離れていない場所になのはの実家の喫茶店はあった。その名は『翠屋』。ヒイロ達が訪れた時には注文したデザートを食べている集団がいくつかあったため、おそらく人気のある店なのだろうとヒイロは推測していた。

リンディはなのはの家族に挨拶をするため、店内に残り、ヒイロ達は頼んだ飲み物を持って、外のテーブルで近況を報告しあっていた。もっともヒイロはそれにはほとんど参加はせず、飲み物を口にしながら、警戒をしていた。

 

(・・・・視線を感じる。それに殺気も混じっているな。)

 

ヒイロは視線は向けずに意識だけをそちらに向けていた。その方角は店内からだ。先ほど、店内で注文を行なった時から妙な視線をヒイロは感じ取っていた。

 

(・・・・リンディと話している奴らではないな。)

 

ヒイロは飲み物を口に含みながらも先ほどから感じる殺気の根源を探す。

店内から感じるがその殺気の大体の発生源はカウンターあたりからだ。つまりこの時点で店内にいる客という線はない。となると、大方なのはの家族辺りに候補は絞り込めてくる。

ヒイロはもう少し情報が必要だと考え、なのはに視線を向ける。

 

「なのは。お前の兄妹は兄以外にもいるのか?」

「え・・・?お兄ちゃん以外にはお姉ちゃんもいるよ。私は一番下の末っ子なの。」

 

なのははヒイロの質問に疑問を覚えながらも答えた。ヒイロはその情報を元に再度店内に意識を向ける。ちょうど視界には眼鏡をかけ、三つ編みをした快活な印象を受ける店員が客から注文を取っている光景が見えた。

 

(おそらく、あれがなのはの姉か。奴もそれなりに鍛えているようだが、殺気の根源ではないか。)

 

となると、消去法でヒイロに殺気を当てているのはなのはの兄ということになる。

ヒイロは飲み物を飲みきると徐に立ち上がる。突然の行動になのは達は困惑の表情を隠しきれない。

 

「ヒイロさん・・・?どうしたんですか?」

「・・・・どうやらお前の側に俺がいることを良く思っていない奴がいるようだ。」

 

なのはに質問されたヒイロがそう答えるとなのはは不安気な表情を浮かべる。

 

「俺がこのままいてもお前たちの気を害するだけだ。適当に海鳴市を回ってくる。」

 

そう言って、ヒイロは席を離れ、出ていこうとする。

 

「ヒイロさん!!それってどうしてなんですか!?」

「知らん。だが、そこの店頭に立っている奴にでも聞け。」

 

なのははその瞬間、視線を翠屋に移す。その先には自分の兄である『高町恭也』が店頭に立っていた。しかし、その目はどこか鋭いものになっており、わずかになのはが兄に対して怖いという感情を覚えるほどであった。

 

「も、もしかして、お、お兄ちゃん・・・?」

 

なのはが確認ついでにヒイロに視線を戻すが既にヒイロは遠いところまで移動していた。

 

「ヒイロさん・・・・。」

 

しょぼくれた表情を浮かべるなのはにフェイトが何かしら声をかけようとした瞬間、なのはは店内に向かって駆け出した。

 

「お兄ちゃん・・・・。」

「なのは?いきなりどうしたんだ?」

 

突然自身の目の前にやってきたなのはに疑問気な表情を浮かべる恭也。なのは特に言葉を返すことはなく、代わりに人差し指を一本だけ恭也に向ける。その表情は顔こそ笑っているが、明らかに目は笑っていなかった。周りの空気は凍りつき、雰囲気は処刑台に立たされ、今まさに刑が執行されようとしているようだった。

 

「・・・・少し、頭冷やそうか?」

 

その日、翠屋に魔王が降臨した。

 

 

その後、風呂場にてドザエモン状態になって、浮いている恭弥が見つかったがこの時の様子をなのはの姉である『高町美由希』はーー

 

「なんか写真とか撮ったら右端に『つづく』って出てきそう。」

 

といって軽く笑いを堪えていたそうな。ちなみに恭弥は五体満足で無事である。

 

 

そんなこんなでヒイロは海鳴市を一人で散策するという羽目になっていた。

連絡自体は取れないわけではないため、問題はない。ヒイロはそう思いながらほっつき歩いていた。

しかし、目的を然程考えてなかったため、どうしようかと思っているのも本音であった。

しばらく住宅街を歩いていると、ひらけた敷地が目に入ってきた。

その敷地の入り口と思われる場所には大理石でできた立派な看板があった。

そこには『風芽丘図書館』と彫られてあった。

 

(図書館か・・・。海鳴市の詳細な地図がある可能性が高い。今のうちに頭に叩き込んでおくか。)

 

そう考えたヒイロは図書館へと足を踏み入れた。図書館の中は綺麗になっており、何人かが机や椅子などで静かに本を読んでいる様子が見えた。ヒイロは図書館の案内に従って地図のありそうな場所に向かっている途中、ふと目にとまる光景があった。

 

「ん・・・・んん・・・・。」

 

それは必死に手を伸ばして、本棚にある本を取ろうとしているなのは達と同い年くらいの一人の少女がいた。

その高さはヒイロほどの身長であれば楽に取れるし、なのは達でも届く高さだった。しかし、彼女にはそれができなかった。決して彼女の身長が低い訳ではない。

彼女は車椅子に乗っていたのだ。足が全く動いていないことを鑑みるにおそらく下半身不随なのであろう。

 

「・・・・。」

 

ヒイロはたまたま目についてしまったというのもあったが、このまま見逃すのも後味が悪かった。ヒイロは無言で車椅子の少女に近づき、その少女が取ろうとしていたであろう本を代わりに取り、少女に手渡した。

 

「・・・・これか?」

「え・・・・。あ、うん!ありがとうございます。」

 

少女は突然声をかけられたことに驚きながらもヒイロに感謝の言葉を述べる。

 

「気にするな。」

 

それだけ少女に言って、自分の目的である海鳴市の地図を探しに行こうとした時ーー

 

「あ、あの!」

 

ヒイロの背後から少女の制止の声がかかった。ヒイロは振り向くと少女は自身の車椅子を引きながら、隣に来る。

 

「・・・何か探し物ですか?」

「・・・・そうだな。」

「でしたら手伝います。先ほどの礼です。これでもこの図書館には何度も来てるので、何か力になれるかと思います。」

(・・・・図書館の常連か・・・。初めて来た俺にとってはちょうどいいか。)

「・・・いいだろう。」

 

探す手間が省けるかもしれない。そう判断したヒイロは少女のその頼みを承諾した。

 

「私、『八神 はやて』って言います。お兄さんの名前は?」

「・・・・・ヒイロ・ユイだ。早速だが、お前の記憶力をあてにさせてもらう。」

 

ヒイロはそういうとはやてに自分が探している本を尋ねた。

はやてはそれを聞くと顎に手を乗せながら、場所を示した。

 

「それだったら、あの辺、です。」

 

少女はその本があるであろう本棚の方角を指差した。だが、ヒイロには少々気になる点があった。

 

「・・・・・無理をする必要はない。お前が話しやすいように話せ。」

 

ヒイロがそういうとはやては目を見開いて顔を上げた。

 

「ど、どうして・・・・?」

「言葉の節々に違和感があった。隠すのであればもう少し努力をしろ。できないのであれば、最初からしない方がいい。」

 

ヒイロの言葉に少女はフランクな笑顔を向けた。

 

「ほんなら、遠慮なく行かせてもらうわ。よろしゅうな。ヒイロさん。」

「・・・・・ああ。」

 

ヒイロは特にこれといった表情を浮かべなかったが、はやては満面の笑顔を見せていた。

ヒイロははやての後ろに回ると彼女の車椅子のハンドルを握って、前へ進み始めた。

 

「え、ちょ、ちょい待ちっ!?じ、自分でもできるから大丈夫や!」

「こっちの方が早い。それだけだ。あとは図書館では静かにするのが規則ではなかったのか?」

「う・・・。」

 

それきりはやては不服な様子を醸し出したままだったが、大人しくなった。ヒイロはそのまま彼女とともに本を探すことになった。




余談

恭也さんとヒイロの中の人と同じ。


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第11話 相手を思うが故に

前半 まぁ、そうなるな。

後半 (・3・)あるぇー?どうしてこうなっちゃったんだろうねぇー?


図書館の常連である車椅子の少女、八神 はやての案内でヒイロは目的の本がある本棚へとたどり着く。

本棚を順繰りと探索しているとはやてから声を掛けられる。

 

「ヒイロさんはまだ海鳴市に来てから日が浅いんか?」

「・・・そうだな。昨日しがたこちらに引っ越してきたばかりだ。」

 

目的の区画が記されている本を見つけたヒイロはその本を手に取りながらはやての質問に答える。

 

「お一人でなんか?」

「いや・・・・・アパートの一室を借りて、ルームシェアの形で複数人と同居している。」

 

流石に管理局の仕事としてとは口が裂けても言えないため、ヒイロはルームシェアという形ではぐらかした。

そんなヒイロに気づくことなくはやては納得といった表情を浮かべる。

 

「へぇー、私もそんな感じの同居人がおるんよ。みんなええ人達で毎日が楽しんよ。」

「そうか。」

(・・・・多分、海鳴市に何があるのかを知るためなんやろうけど、そもそもとして図書館に来て、わざわざ地図で探すかなぁ・・・・。)

 

そう疑問に思うはやてを置いておいて、ヒイロはそっけなく答えながら机に座り、手に取った地図を開く。

パラパラとページをめくる音だけが二人の周囲に響く。

 

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

 

淡々と本のページをめくっていくヒイロとその様子をただジーッと見つめるはやて。二人の間にどうしようもない沈黙が続いていく。

 

「・・・・こんなものか。」

「え、早ない?もう全部見終わったんか!?」

「知っている奴の家の周辺や海鳴市の主要施設さえ分かれば十分だ。」

 

パタンという本を閉じる音と共にはやての驚いた声が響く。ヒイロは閉じた本を片付けながらはやてに顔を向ける。

 

「俺はここにもう用はないが、お前はどうする?」

「そうやねぇ・・・。そろそろシグナム達が迎えに来るはずやから、私もここいらで切り上げようかな。」

 

ヒイロは効率を考え、はやての車椅子の取っ手に手をかけようとするがーー

 

 

「ちょっ、ちょい待ちぃ!自分で押せるから!!ヒイロさんに手間掛けさせる訳には行かへん!」

 

はやてからの遠慮しがちな声にヒイロは伸ばしかけた手を引っ込めた。はやては車椅子の車輪を自分の手で押して、前へ進んでいく。

 

「・・・遅かったら置いていくぞ。」

 

そうはいうヒイロであったが、歩幅ははやてが遅れないように車椅子のスピードに合わせて歩くのであった。

図書館の静かな空間を二人並んで歩いていく。

図書館の出口から出てみると、空はオレンジ色に彩られ、時刻が6時あたりに差し掛かっていることを伝える。

それと同時にヒイロ達に向かってくる人影が二つほど見えた。日光から逆光で人相を伺うことは難しかったが、状況から判断して、はやての言う迎えの人なのだろう。

辛うじて分かるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるというぐらいであった。

 

「っ・・・・・!?」

 

見たことのある人物に思わずヒイロは表情を強張らさせる。そこにいたのはなのはとフェイトを襲撃したあの守護騎士であったからだ。

ヒイロを視認した守護騎士の二人は予想外の存在に二人揃って目を丸くする。

 

「テメェ・・・!!なんでここにいやがる!!はやてから離れやがれっ!!」

 

赤髪の少女は青い瞳を大きく開いてヒイロに敵意を露わにする。

隣の守護騎士も表情には出ていないものの、ヒイロに鋭い視線を向けている。

 

「・・・・たまたま図書館で会っただけだ。」

「んな言い訳、通用すると思ってんのかよ!!」

 

赤髪の少女は犬歯を剥き出しにしながらヒイロに怒声を浴びせる。

ヒイロはこれといった反応は見せないが、頭の中では状況の整理を行っていた。

 

(はやての言う迎えというのは奴らで間違いないようだ。となると、闇の書の主人というのは十中八九、はやてだろう。よもやたまたま寄った図書館で最重要人物と出くわすとはな。)

 

「な、なんや?ヴィータにシグナム、ヒイロさんとは知り合いなんか?」

 

突然の状況に困惑気味のはやてはヒイロに鋭い視線を向けている守護騎士、シグナムとヴィータに質問を向ける。

シグナムは静かに、それでいて冷たい目をヒイロに向けながら頷いた。

 

「そう、ですね。少々、世話になったので。」

 

その表情は今にも彼女の持つ剣が鞘走りと思うほどの鬼気迫る表情であった。

まさに一触即発。どちらかが動けば直ちに戦闘が起こりかねない雰囲気だったが、両者は一歩も動くことはなかった。

その理由として、はやての存在が挙げられる。はやては今現在ヒイロの側にいる。事実上の人質のような形になっているはやてに守護騎士の二人は迂闊に動くことはできない。

反対にヒイロもなのはに一度は対話の姿勢に臨むと言ってしまった手前、ここでシグナム達と鉾を交える気はサラサラなかった。それに自分の迂闊な発言でなのは達の対話の機会を奪う訳にも行かなかった。緊張感があたりに漂う中、先陣を切ったのはーー

 

「ふぅん。なんやヒイロさんはいつのまにか私らの世話になっとったって訳か。」

 

はやてであった。ヒイロに視線を向けると人懐っこい笑みを浮かべる。

 

「ヒイロさん。夕飯、私の家で食っていかへんか?」

「はっ!?」「ちょ・・っ!?」

 

突然のはやての発言に守護騎士の二人は素っ頓狂な声を上げながら驚きを露わにする。

ヒイロも呆気にとられながらもはやてに厳しい表情を向ける。

 

「・・・・正気か?」

「正気やで〜私は。だってただ世話になった礼をするだけや。なんらおかしいところはあらへんよ?」

 

おどけた表情をしながら手をヒラヒラと振るはやてにヒイロは訝しげな視線を向ける。

 

(はやては俺と奴らが関係が険悪になっているのは気づいているはずだ。その上で家に上がらせるなど、報復やそのあたりしか思い浮かばんが・・・。)

 

「・・・・やっぱり駄目、かな?ヒイロさんとは今日会ったばかりの仲やけど、それでも家族と喧嘩しそうな雰囲気を見るのは嫌なんや・・・。」

 

そう言ってはやては悲しげな表情を浮かべるが、ヒイロにはそれが演技が混ざっていることを見抜いていた。

 

「・・・・演技が混ざっているのは分かるが、お前のその言葉は本心なのだろう。」

 

ヒイロは視線を逸らしながらそうはやてに言う。はやてはいたずらがバレたような表情を浮かべるが意にかさずにヒイロは矢継ぎ早に続ける。

 

「だが、お前らはどうなんだ?俺が上がったとしてもお前達はよく思ったりはしないだろう。」

 

ヒイロに視線を向けられた守護騎士二人、特にヴィータは拒絶をはっきりと感じさせるように嫌悪感を露わにしていたがーー

 

「・・・・それが主人の願いであるならば。」

 

シグナムは割とあっさりと引いた。そのことに思わず困惑を隠せないヴィータ。

ヒイロも少し意外性を含めた表情を浮かべる。

 

「なぁ、ヴィータちゃん。ダメか?」

 

はやてが僅かに潤んだ声でヴィータに問いかける。それにヴィータはしばらく天を仰いで声にならない唸り声をあげていた。しばらく自分の気持ちと格闘した結果ーー

 

「ああもうっ!!わかったよ!!だがなお前が何か少しでもはやてにへんなことしそうになったらぶっ飛ばすからなっ!!」

 

ヴィータもヒイロに指差しながら条件付で承諾した。

これでヒイロが逃げる口実は無くなった。

 

「どや?これで文句はあらへんやろ。」

「ちっ・・・。物好きな奴だ。」

 

軽く悪態をつきながらもヒイロははやて達と同行することになった。

 

「あとシグナム達も家に帰ったらちょっとお話しせなぁあかんかもな。裏で何やってるのか気になったからな。」

 

そう言われたシグナムとヴィータは気まずそうに視線を逸らすのであった。

 

(・・・・主人であるはやてにも話していないのか?コイツらの目的は、一体なんなんだ?)

 

移動中、そう疑問に思うヒイロであった。

しばらく歩いていくと表札に八神と書かれてある一軒家にたどり着いた。

ヒイロは軽く視線を周囲に向けてから八神邸に入っていった。

 

「・・・・・・」

 

その様子を何者かの黒い影が見つめていた。

 

 

 

「おかえりなさい。・・・・って、その子は?」

 

玄関のドアを開けると出迎えてきたのは和やかな雰囲気を持った金髪の女性であった。その女性はヒイロの存在に気づくと見かけない人物に首をかしげる。

 

「・・・・・ヒイロ・ユイだ。お前達、ヴォルケンリッターの主人であるはやてに誘われた。」

 

ヴォルケンリッター。ヒイロがユーノから聞いたことの単語。それは闇の書に搭載されている『守護騎士プログラム』の別名である。シャマルはそれを知っている目の前の少年を十中八九、管理局の手の者だろうと思った。

そう判断した金髪の女性、『シャマル』は自身の指に装着されてあるデバイス、『クラール・ヴィント』を展開しようとする。

 

「シャマル、待ってくれ。結界も張っていないのにデバイスを展開すれば、管理局に目をつけられる。」

「・・・・この子は違うとでも言うの?そんな保障、どこにもないじゃない。」

 

シグナムがデバイスを展開しようとするシャマルに待ったをかける。シャマルは一応手は止めてくれたが、その視線はヒイロに突き刺さる。

 

「・・・俺は確かに時空管理局から民間協力者の形を取っているが、立場はほぼ一般人と相違ない。民間協力者というのもその方が動きやすいと判断したまでだ。」

「・・・・どういうこと?」

「俺が時空管理局に話すかどうかは俺次第ということだ。もっとも俺自身に話す気はない。さらに言えば、俺は魔力とやらは一切ない。魔力の追跡で管理局にここを嗅ぎ付けられるということはないだろう。」

 

ヒイロの言葉でもシャマルは疑いを持った視線を向け続ける。ヒイロは人の信頼というのは思った以上に取れないものだと心の中でため息をつく。

 

「・・・ならば、この背の低い奴が言ったが、俺が少しでも怪しい行動を取ればすぐさま切り捨てても構わん。」

 

ヒイロはヴィータに視線を向けながらシャマルに自分の命の裁定を預けた。

およそ少年から出てくるとは思わぬ自分の命を顧みない発言にシャマルは目を見開いた。

 

「・・・・本気なの?」

「それくらいでなければお前達は納得しないだろう。それだけだ。」

 

シャマルの確認にヒイロはさも当然だと言うように言い放つ。

虚勢を張っているのならまだしもヒイロの発言は本気以外の何者でもない。

ヒイロはシャマルの答えを待っていると視線を感じた。そちらの方向に顔を向けるとはやてがいた。その表情はどこか怒っているようにも感じられた。

 

「ヒイロさん。そんな簡単に自分の命を捨てたらあかんよ。」

「どんなものにも対価は必要だ。今回はヴォルケンリッターの信用を得るに値するのがたまたま俺の命を賭けるしかなかっただけだ。」

 

はやてはヒイロにムッとした表情を向け、発言の撤回を求めるような視線を向ける。しかし、ただの少女に気圧されるヒイロではないため、それが当たり前だと言うように反論する。

 

「でも・・・やっぱりあかんよ。そう易々と自分の命を賭けたら・・。それでヒイロさんが死んだら絶対に悲しむ人がいるはずやから。少なくとも私は多分、いや絶対泣いてしまうやろな。」

「・・・・そもそも、俺はそう簡単に死ぬつもりは毛頭ない。」

「・・・・・そっか。ならいいんや。」

 

ヒイロの言葉にはやては軽く笑みを浮かべ、シャマルの方に向き直る。

 

「そんな訳や、シャマル。そう警戒せえへんでええんや。ヒイロさんは私が誘っただけやから。ザフィーラも同じやで?」

 

そう言われ、部屋の奥で様子を見ていた紺色の毛並みを持った狼は警戒を緩めたのか床に座った。

 

「・・・・分かりました。貴方がそう言うのであれば。」

「ありがとう、シャマル。」

 

はやてはシャマルに対してお礼を述べるとキッチンへと向かう。

 

「さて、今日はお客さんもいる訳やし、いつもに増して腕によりをかけるで!!」

「・・・・・料理は基本的にお前がやっているのか?」

「え?そうやね。いつも私がやってるかな。」

 

はやてからその答えが返ってくるとヒイロはシグナムとシャマルに視線を向ける。視線を向けられた二人はシャマルは特に気にしていないようだが、シグナムは視線を逸らした。

 

「私はできることはできるわ。」

 

なら病人であるはやてを厨房に立たせずにシャマルがやった方がいいのではないか?そうヒイロは続けて質問をしようとしたが、ヴィータがちょいちょいとヒイロの服を引っ張っていることに気づいた。

 

「・・・頼む。何も聞かないでやってくれ。シャマルの料理は死ぬほど微妙なんだ・・・!!」

 

その表情は僅かに青い顔していたため、ヒイロはそれ以上は何も聞かなかった。

・・・・死ぬほど不味いとかならともかく微妙であればある程度の鍛錬を積めば出せるレベルになるのではないだろうか、と思ったのは内緒だ。

 

 

 

「えっと、確かここにアレがあったはずやけど・・・。」

 

必要な調理器具を取るために車椅子を移動させて取りに行こうとする。

車輪に手をかけ、いざ行こうとした時、目的のものがある引き出しにはすでにヒイロがいた。

彼はその引き出しを開けるとあるものを手にとって手渡した。

それははやてが必要としていた調理器具であった。はやてはヒイロから受け取ると驚きの表情浮かべたまま作業に戻った。

 

「よ、よく分かったなぁ・・・。」

「視線と作っている料理からある程度の推測は可能だ。」

「・・・ヒイロさん、もしかして料理できるんか?」

「一通りの家事全般は可能だ。」

 

 

しばらくするとはやてが作った料理が食卓に並べられる。

ヴォルケンリッター達やヒイロも用意してくれた席に座りながら家の主人であり、闇の書の主人でもあるはやてが切り出した。

 

「さて、それじゃ、話してもらおか。シグナム、裏で隠れて何をやっていたか話してや。」

 

はやてがそう聞くとシグナムは徐に話し始めた。自分達が主人であるはやてにも隠して行ってきたこと。はやての下半身不随の原因が闇の書がはやてのリンカーコアを浸食していることを知った彼女らが魔道士達やリンカーコアを持つ生物達を襲撃し、魔力を奪い取り、闇の書の完成を目指していたことを。

 

「ーーーこれで全部です。貴方との誓いを破っていたこと、我々は何の申し開きもしません。」

 

シグナムがはやてに対して頭を下げると、ヴィータ達も頭を下げた。彼女らには悪意は少しもなかった。あったのは、ただ自分達に優しくしてくれたはやてを救いたいという一心だけであった。

 

「・・・・みんな、顔を上げるんや。」

 

はやてからの声がかかると守護騎士達は揃って顔を上げた。叱責などを覚悟していた彼女らが見たはやての表情は笑顔であった。

 

「ありがとうな、こんな私のために。大変やっただろうに。」

 

主人からの労いの言葉に困惑を隠せない守護騎士達。シグナムはそんな彼女に思わず質問をぶつける。

 

「主人よ・・・その何もないのですか?」

「何もって・・・・何が?」

 

シグナムの質問にはやてはキョトンと首を傾げた。その様子が守護騎士達の困惑を一層引き立てる。

 

「だって、みんなは私のことを思って魔力を集めていたんや。まぁ、流石に人様に迷惑かけとったのはあかんけど、その気持ちを怒ったりはせえへん。」

「・・・・主人よ。貴方の寛大な御心、感謝します・・・。」

「・・・・ひと段落はついたようだな。それで、お前達はこれからどうするんだ?」

 

ヒイロがそう声をかけるとはやては悩ましげな表情を浮かべた。

 

「うーん。とりあえず魔力の蒐集はやめさせるとして問題は闇の書をどうするかねんな。実を言うと時間がないっちゅうのは私自身なんとなく分かってはいたんよ。それに関してはシグナム達には謝らなあかんわ。ごめんな。」

「というと・・・?」

 

シャマルが疑問気な表情を見せるとはやてはバツの悪い顔をした。

 

「実はというとな。ここ最近心臓辺りが突然激痛に襲われることがあるんよ。心筋梗塞とかそのあたりかと思っとったんやけど、あながち間違いじゃあらへんやな。」

「・・・・闇の書の浸食がそこまで進んでいるということか。」

 

ヒイロがそういうとはやては頷いた。シグナムの言っていた闇の書の浸食が進んでいるということは早急に手を打たなければはやては死んでしまう可能性がある。

 

「でも、闇の書が完成すればはやてちゃんの麻痺も治ると思っていたのですが・・・。」

「・・・その情報は本当にそうなのか?こちらでは完成させれば周りに甚大な被害を生むと聞いた。文字通りの災厄をな。」

 

シャマルの発言に対してヒイロがそういうと守護騎士たちは皆、驚きに満ちた表情を浮かべた。そのことにヒイロは怪訝な顔を浮かべざるを得なかった。

 

「・・・お前たちは闇の書のプログラムの一種のはずだ。記録とかは共有していないのか?」

「そんなの聞いたことがねぇぞ!!どこで聞いたんだよ、それ!!」

「管理局の執務官だ。名前は伏せさせてもらうが。」

「・・・シグナム。我らの記憶は朧げなところが多い。闇の書を完成させれば、主人の体が治るというのも我々の勝手な思いつきだ。ここは彼に情報を集めてもらった方がいいかもしれん。」

 

突然響いた男性の声にヒイロはあたりを見回す。声のした方向にいたのはザフィーラだけだった。だが、ヒイロにはアルフとユーノという前例からある結論を導き出した。

 

「・・・・お前、使い魔だったのか。」

「守護獣だ。そこのところは間違えないでほしい。」

 

どうやら違うらしい。何が違うのかはよく分からなかったが、追及はせずに話を戻すことにした。

 

「ザフィーラの言う通りだ。その、不躾で申し訳ないのを承知で君に頼みたい。闇の書に関する正確な情報がほしい。」

「・・・了解した。だが、こちらからも頼みがある。しばらく、魔力蒐集を続けてほしい。」

「理解しかねる・・・。どういうことだ?」

 

ヒイロの頼みにシグナムが訝しげな表情を浮かべる。先ほど、はやてが魔力の蒐集をやめると言ったのに、それを無下にするつもりなのだろうか、と。

 

「・・・無理に行う必要はない。それこそ蒐集を行う振りでも問題はない。だが、管理局は組織だ。組織である以上、一枚岩であることはありえない。必ず別の考えを持つ奴がいる。ソイツらを引きずり出す。マイナス要因は取り除いておく必要がある。」

「黒幕を炙り出す、ということか?」

 

シグナムがそう聞くとヒイロは首を横に振った。

 

「・・・・ソイツは黒幕ではない。だがこちらの出方によっては味方に引き込むことも可能だ。それに闇の書にも密接に関わっている。情報源としても味方に引き込んでおいた方がいい。」

「・・・主人、どうしますか?」

「え、私に振るんか?そうやね〜・・・・ヒイロさん、それは絶対しなきゃあかんか?」

「・・・しておいた方が誘きやすくはなるが無理強いをするつもりはない。」

 

ヒイロにそう言われると、はやては少々唸り声をあげながら思案に耽る。

 

「・・・・わかった。多分、魔力の蒐集を行なっているって相手に見せるのが重要なんやろうな。シグナム、一応許可は出すわ。けど過度な蒐集は行わないことが条件や。」

「・・・了解しました。」

 

話も一息ついたところで、とりあえず置いてあった夕飯を平らげ、ヒイロは八神邸を後にしようとする。

 

「な、なぁ、ヒイロ。」

「・・・・ヴィータか。」

 

振り向くとヴィータが少々思いつめた表情を浮かべていた。少しばかり逡巡した様子を見せていたが程なくしてヒイロに視線を合わせた。

 

「・・・あの白い服の魔道士の名前、なんて言うんだ?あいつにはちょっと謝りたくてさ。」

 

ヴィータの言う白い服の魔道士というのはなのはのことを指しているのだろう。

彼女を襲撃したことをヴィータは謝りたいらしい。

 

「・・・・自分で聞け。向こうもお前に名前を聞こうとしていたそうだからな。」

「うぅ・・・・ケチ。」

「ヒイロ。」

 

ふてくされるヴィータを無視して玄関のドアから出ようとするヒイロを再度呼び止める声が響く。その声の主はシグナムであった。

 

「なんだ?」

「・・・お前ほどの実力者であれば気づいているだろうが、つけられている。」

「・・・・ああ。理解している。」

「・・・・気をつけろ。」

「ああ。」

 

 

シグナムの言葉に軽く返事をし、ヒイロは八神邸を後にした。日は既に沈み、光源となりうるものは電柱のライトから照らされる光ぐらいであった。

そんな夜道を一人で歩いている中、ヒイロは立ち止まり、振り向いた。そこに広がるのは闇だけであったが、ヒイロには分かっていた。

 

「殺気で丸わかりだ。用があるなら姿を見せろ。」

 

闇に向かってそう呼びかけると闇の中から歩く音が響いてくる。闇の中から出てきたのは仮面を被った男であった。

 



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第12話 募る疑惑 力への渇望

本作が昨日か一昨日の日間ランキングが5位まで行っててびっくりしたわんたんめんです。
まずはありがとうございます!!

皆さんの期待に応えられるかどうかはわかりませんが、頑張ります!!


ヒイロの目の前に現れた仮面の男。その瞳は伺えないがヒイロに敵意を向けていることだけは察することができた。

 

「・・・お前は何者だ?」

「・・・・貴様は知りすぎた。故にここで眠ってもらうぞ。」

 

ヒイロが仮面の男に質問をぶつけるが、その男は答えることはなく一方的にヒイロに向けて言葉を投げかけた。

次の瞬間、仮面の男が一瞬で距離を詰めてきた。目の前に広がるのは既に腕を振りかぶっている男の姿。常人ではおろか並みの格闘家でも対処はできない。まさに奇襲であった。

だが、それはヒイロがただの一般人であればの話である。

ヒイロは突然の状況にも冷静に対応し、自身の腕をクロスさせることで襲撃者の攻撃を受け止めた。

 

「・・・これを止めるか。」

「・・・・・・?」

 

意外性を含んだ仮面の男の声にヒイロは疑問気な表情を浮かべる。そう思いながらもヒイロはそのまま力任せに襲撃者の拳を弾き飛ばし、一度距離を取る。

 

「邪魔をするな。」

「貴様はやはり危険だ!!ここで仕留めさせてもらう!!」

 

そういいながら腕を構えたと同時に仮面の男は再度ヒイロに急接近し、今度は右足で回し蹴りを仕掛ける。鋭いその蹴りはまともに喰らえばただでは済まないだろう。

 

(・・・何かコイツの攻撃から違和感を感じる・・・。一体なんだ?)

 

僅かにやり辛いと感じながらもヒイロはこれすらも軽く斜めに体を反らすことで避け、さらにカウンターのパンチをガラ空きとなったボディに打ち込もうとする。

 

「そう易々と攻撃を受けるわけにはいかんな!」

 

ヒイロの視界の端に僅かに映り込んだのは仮面の男の手の甲であった。回し蹴りの勢いをそのまま使って、ヒイロに裏拳を仕掛けていたのだ。

ヒイロはそれに軽く舌打ちをしながらカウンターを叩き込むのをやめ、そのまま仮面の男と入れ違いのような形で避けることにした。

 

「ふっ!!」

 

ヒイロは入れ違いになった瞬間、仮面の男に背を向けたままバックステップで拳を構えながら一気に距離を詰める。そして、そのまま上半身の回転を加えながら仮面の男に殴りかかる。

 

「何っ!?」

 

振り向いた時には既にヒイロが目の前にいるという逆パターンを仕掛けられた仮面の男は咄嗟に手のひらから魔法陣を展開し、それをバリアとする。

しかし、ヒイロの腕力は常人どころか人としてどうかのレベルまであったためヒイロの拳が当たった瞬間、仮面の男の張ったバリアは粉砕される。

 

「はぁっ!!」

 

乾坤一擲、ヒイロは軸足を地面に軽くヒビが入るほど思い切り踏み込みながら右足で追撃を行う。

 

「うぐっ!?」

 

バリアを破壊されたことに気を取られた仮面の男は防御する間も無く、胸部に蹴りをクリーンヒットさせられ、吹っ飛んだ。

しばらくバウンドしたのち、ようやく仮面の男は止まった。しかし、呼吸もままならない様子で肩で息をしていた。さらにバウンドした衝撃で所々、服が破けていた。

 

「・・・・肋骨は数本持っていったはずだが、加減はした。死にはしないはずだ。お前の正体を話してもらうぞ。」

 

ヒイロがそういって仮面の男に近づいた瞬間、男は何かを構えた。それはカードのようなものであった。ヒイロの視界にそれが映り込んだ瞬間、彼の体に縛り付けられるような感覚を覚える。

 

「っ・・・バインド・・!!」

 

それは四重ほどの青白い色をしたバインドであった。バインドはヒイロの腕を縛り付け、動きを制限させられる。

その仮面の男はその隙にカードから生み出された光で転移魔法のようなもので撤退していった。

 

「ちっ・・・逃げたか。」

 

ヒイロはバインドを平然と力で破壊しながら苦い顔をする。

追跡するのは不可能、そう断じたヒイロは何事もなかったかのように帰路に着いた。

 

(・・・・あの男の攻撃、妙に間合いが近かったな。)

 

ヒイロは先ほどの違和感の正体にあたりをつけていた。仮面の男の攻撃は男の身の丈の割には間合いがヒイロの予想と比べてかなり近かったのだ。

 

(・・・・奴は魔法陣を展開していた。おそらくは魔導士であることは明白だ。ならば・・・。)

 

ヒイロの目には鋭くなっていた。その視線は先ほどの仮面の男に向けられていた。

 

再度帰路につき、夜の海鳴市を歩くと、仮拠点であるアパートが見えてくる。

ヒイロは普通に部屋へ向かっていき、玄関のドアを開いて何食わぬ顔で入る。

 

「あら〜ヒイロ君。おかえりなさい。」

 

一番最初に迎えてくれたのはリンディだった。表情も笑顔だし、声色にも嬉しそうなものになっている。ただ、どうにも目が笑っていないように感じるという一点を除けば。

 

「貴方、一体今までどこをほっつき歩いていたのかしら?お姉さんに教えてくれる?」

 

軽く視線を奥に送ると青い顔をしているフェイトとクロノの姿が見えた。エイミィはヒイロに合掌を向けて、どうしようもないと言うような諦めの表情を浮かべていた。

 

「・・・・海鳴市を回っていただけだ。」

 

「なのはちゃん、すごく心配してたわよ?連絡もつかないわ行方はわからないわですっごく悲しそうな目をしていたわよ?」

 

特にこれといった反応を見せないヒイロにリンディが怒りのオーラを身にまといながら、ヒイロに近づいていく。

クロノとフェイトは慌てふためき、エイミィはヒイロに呆れたような視線を向け、乾いたため息を吐く。

 

「・・・・って、貴方その傷、どうしたの?」

 

リンディはその怒りのオーラを突然解くと、指をさしてヒイロに尋ねた。

リンディが指をさしていたのはヒイロの腕のあたりでそこには擦り傷のようなものができており、出血もしていた。仮面の男の攻撃を防御した時に付けられた傷なのだろう。

 

「・・・・正体不明の男に襲撃を受けた。返り討ちにしてやったが、これはその時できた防御創だ。」

 

ヒイロはそういいながらリンディや後ろで聞いていたフェイトたちに仮面の男のことを話し始めた。無論、はやて達のことは触れられないように細心の注意を払いながら説明を行った。

 

「・・・なるほどね。その男はどうしてヒイロ君を襲ってきたのかしら?」

「理由は不明だ。守護騎士の仲間であるという可能性もあるが、現段階で奴らの正体を掴むのは難しい。だがリンディ、少し聴きたい。魔導士の扱う魔法には自身の姿を変えるものもあるのか?」

「ええ。あるにはあるわよ?」

 

リンディの返答を聞いたヒイロは険しい確信めいた表情を浮かべる。

 

「・・・その男と格闘戦になった際、俺は奴の間合いの取り方に違和感を覚えた。背丈の割には間合いが近すぎる。おそらく奴はその魔法を使って、本来の姿を見せていない。」

「・・・ヒイロはその男の特徴を掴めたのか?」

「・・・擬態した姿の身長自体は180だったが、間合いの取り方から逆算するに奴の身長は150後半から160前半だ。だが、あまり期待はするな。これは俺の推測や主観でしかない以上、確証はない。」

 

傷を負った箇所を包帯で巻きながら、クロノの質問に答える。ヒイロの手際はこなれたものであっという間に応急処置が完了し、リンディ達に向き直った。

 

「・・・・わかったわ。とにかく貴方が無事でよかったわ。」

「格闘戦はできるようだったが、あの程度にやられるほど俺は弱くない。が、奴の目的を知らない以上、注意はしておけ。それと、クロノ。」

 

ヒイロに突然名前を呼ばれたクロノは疑問の表情を露わにする。

 

「なんだい?」

「闇の書に関する正確な情報が欲しい。具体的に言えば、完成させた時に起こる事象等だ。管理局本部のどこかに過去の捜査資料が置かれている区画はないのか?」

「あるにはあるけど、君は管理局員でない以上、立ち入るのは難しい。僕もちょうど欲しかったところだし、そういうのが得意なユーノに任せるつもりだ。彼にも僕の知り合いをつけるつもりだからそんなに時間はかからないと思うけど、それからでも構わないかい?」

 

クロノの言葉にヒイロは少々考え込む様子を見せる。闇の書がはやてのリンカーコアを浸食する度合いについて考えていたが、それを考えたところでどうしようもなさもあった。

 

「・・・・了解した。」

 

ヒイロはクロノの提案を頷くことで承諾した。その時にどこか不安気な表情を浮かべているフェイトに目がついた。少し見つめているとフェイトと目が合い、驚いた様子で慌てて視線を逸らした。少しばかり一体何を気にしているのかと思ったがーー

 

「・・・・特訓なら問題ない。お前が思い詰める必要はない。」

 

察しがついたヒイロはフェイトに向けてそう伝える。ヒイロの予想が当たったのかフェイトを嬉しそうな表情を浮かべ、はにかんだ。

 

「近くに広い丘を確認した。時刻は、朝の10時からでいいな?」

 

ヒイロがそういうとフェイトは今度は気まずそうな表情をし、何故かリンディは何かを思い出したような仕草をした。ヒイロが疑問気に思っているとリンディから説明が入る。

 

「そういえばヒイロ君、その時にはもういなかったわね。実はフェイトちゃん、なのはちゃんと同じ学校に通うことになってるの。その特訓はできれば学校が終わってからにしてくれないかしら?」

「そうか。問題ない。なら、特訓は近場の広場の丘でやることと動きやすい服装で来いとなのはに伝えておけ。連絡の手間が省ける。」

「うん。わかった。」

 

フェイトが頷いたところで話し合いはお開きとなり、時間が流れていく。

そして、フェイトが明日の学校のために寝付いた時刻。ヒイロはベランダに出て風に当たっていた。

 

(・・・・あの仮面の男、いや何か魔法で身を隠している以上、性別が本当に男かどうかも判別はできんな。)

 

ヒイロは今日相対した仮面の人物についての考察を浮かべていた。

技量自体はヒイロ自身ではなんとかなったがそれ以外の人物では対処は難しいと考えられる。それだけの技量を奴は持っていた。

仮面の人物について色々考えていると、ヒイロの側にクロノが現れた。

 

「・・・・話にあった仮面の男のことかい?」

「・・・・・そうだな。奴が敵対する以上、対策を考える必要がある。」

「そう・・・だね。ところで、さっき話した情報収集のことなんだけど、ユーノにつけるつもりの知り合いって言うのはグレアム提督の使い魔達なんだ。」

「・・・ギル・グレアムのか?」

 

確認するような口調で尋ねるとクロノは頷いた。警戒している人物の使い魔と聞いて、苦言を呈しそうになるヒイロだったが、それを抑えながらクロノに続きを促す。

 

「・・・グレアム提督に対して警告を告げていた君のことだ。一応伝えておいた方がいいと思ってね。」

「・・・・そうか。ソイツらの名前は?」

「リーゼアリアとリーゼロッテだ。二人はそれぞれ、僕の魔法、それと近接格闘の師匠なんだ。」

 

ヒイロはそこで引っかかる感覚を覚えた。ギル・グレアムが闇の書に対して私怨のような、責任のようなものを抱いているのは確かだ。それにヒイロは今回、はやて達、闇の書の主要人物を知ってしまった。ヒイロ自身、はやての家に上り込む前から薄々襲撃者の気配を感じ取っていた。そこにクロノの格闘戦の師匠というリーゼロッテという使い魔。複数のピースがヒイロの頭の中で組み合わさり、一つの確信へと構築されていく。

 

「・・・まさかとは思うが。」

「・・・うん。僕自身、あんまりそう思いたくはない。だけど、君の警告がどうしても僕の中で色濃く残って、あの人に対して懐疑心を捨てきれないんだ。」

 

そういったクロノの表情はどこか苦しそうなものであった。無理もないだろう。グレアムはクロノにとっては恩人以外の何物でもない。そんな彼を疑うことはクロノにとって裏切るようなものである。

 

「・・・・心が痛むのであれば、俺がやる。これからの行動の邪魔になるだけだからな。」

 

ヒイロはそう言ってクロノを突き放すような口調で話すが、クロノは首を横に振った。

 

「・・・気を使ってくれてありがとう。だけど、僕は管理局の執務官だ。時には非情に徹しなければならないこともある。今回はそういう経験だと、割り切るよ。」

「・・・・お前がそういうのであれば、俺は必要以上に干渉しない。だが、これだけは言っておく。自身の感情に従って行動しろ。」

「え・・・・?」

 

あまり意味がよく分からなかったという表情を浮かべるクロノにヒイロは続けて言い放つ。

 

「感情で行動することに異論はない。俺はそう学んで、戦い抜いてきた。」

 

それだけクロノに告げるとヒイロは部屋へ戻っていった。クロノはヒイロの言葉の意味を考えながら、12月の冷たい風に当たっていた。

 

「感情・・・自分の本心か。僕の思うようにやれ、そういうんだね、君は。」

 

 

 

次の日、時刻は午後を廻り、おおよそ4時過ぎ。ヒイロはなのは達の特訓のために仮拠点から比較的近い広場に赴いていた。彼の手にはそれなりに膨れた袋が握られていた。

適当なベンチに腰掛け、待っているとこちらに向かって走ってくる小さな人影が二つ見えた。

 

「来たか。」

 

そういいながら徐に立ち上がり、二つの人影、なのはとフェイトを出迎える。

 

「ヒイロさん、よろしくお願いします!!」

「ああ。」

「あ、あの!!」

 

フェイトからの挨拶に軽く返しながら手に持つ袋から用具を取り出そうとすると、なのはから声がかかった。

 

「き、昨日は私のお兄ちゃんのせいで気を悪くさせてしまってごめんなさい!」

 

そう言ってなのははヒイロに頭を下げた。ヒイロとしては別段気にした覚えはなかったが、なのはの中ではだいぶ思いつめていたようだ。

 

「気にするな。むしろお前の兄の反応は至極当然だ。家族の周りに突然知らない人物が現れて警戒しない方がおかしいからな。お前が気に病む必要はない。」

 

それだけ言ってヒイロは袋からシートと棒二本と木刀を取り出した。

 

「あの、それは・・・?」

 

フェイトがヒイロが取り出したもの見つめながら質問する。

ヒイロは用意したシートを二人分敷きながら説明を始める。

 

「筋力トレーニングを行うためのシートだ。服が汚れるからな。棒はお前たちの近接戦闘スタイルに合わせるためだ。長さはお前たちのデバイスと変わらん筈だ。最後に木刀だが、これは俺が扱うためだ。」

「ヒイロさんが・・・?」

「一通りこなした後は俺を相手にした模擬戦をやるつもりだ。もっともお前たちがそこまでメニューをこなせればの話だが。」

 

ヒイロの言葉に二人を驚きの表情を見せながらお互いの顔を見合わせる。アイコンタクト、もしくは念話で何か話し合ったのか、再びヒイロの方に向き直った時にはやる気に満ち溢れた表情となっていた。

 

「・・・いいだろう。だが、先も言ったが、まずはある程度のメニューをクリアしてからだ。」

『はいっ!!』

「まずは腕立て伏せだ。空中に飛んでいる状態では足腰を使うことは不可能だ。問われるのは自分の腕の筋力だけだ。これはなのは、お前が砲撃魔法を扱う際に標準のブレを抑えやすくなる。始めは50ほどでいい。」

 

ヒイロが指示を飛ばすが肝心のなのはたちは意外性を含んだ表情を浮かべていた。その様子はさながら拍子抜けと言ったところだ。

 

「どうかしたか?」

「えっと、その。もっとやらないのかな、って思って・・・。」

 

ヒイロがそう尋ねるとなのはが少しばかり気が引けたような口調で話した。

その瞬間、ヒイロの目が鋭く、冷たい視線に変わった。その様子はまさに怒っている様子だ。予想外の反応になのはとフェイトは思わず表情を強張らせる。

 

「基本的にオーバーワークを認めるつもりはない。自身の身の丈にあっていない訓練を積んだところで、待っているのは自分の体に爆弾を抱えるだけだ。特になのは、お前はただでさえ負荷のかかりやすい砲撃魔法を扱っている以上、オーバーワークは絶対にするな。わかったな。」

「は、はい・・・。」

 

上ずった声をあげながらも返事を返したなのはを見たヒイロは今度はフェイトに視線を向ける。

フェイトは思わず体を少しばかりビクつかせる。

 

「フェイトもわかったな?わかったならさっさとやれ。明朝からだったらペースはお前たちの好きにして構わんが、平日である以上時間のロスは許されないからな。」

 

険しい表情で頷くフェイトを見たヒイロはその怒りをひとまず引っ込める。

なのはたちはヒイロの言う通りに従い、ヒイロが敷いたシートの上で腕立て伏せをやり始めた。

 

 

 




>>無印A.sのフェイトとなのはの特訓シーンを見た感想

うんうん、普通だな。

>>2ndA.sのフェイトとなのはの特訓シーンを見た感想

・・・君たち本当に小学生?特にフェイトちゃん、君なのはの身長飛びこしてたよね。


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第13話 ヒイロズブートキャンプ

タイトルネタは言わずもがなのあの新人訓練マニュアル


ヒイロがなのはとフェイトの特訓の師事を始めて数日、メニューとしては腕立て伏せといった一般的な筋力トレーニングのほかにはランニングなどで数をこなしていくうちに徐々にペースを上げられるほどには二人の体力は向上の線を見せていた。

ちなみに体幹トレーニングもしていたが、これにはまだ小学生である彼女らにはきつかったのか終わった後には敷いたシートの上でドザエモン状態になっている時が何回も見受けられた。

 

「い・・・・インナーマッスルを鍛えるのってすっごい、大変なんだね・・・フェイトちゃん・・・。」

「うん・・・。でも、今はちょっと話しかけないでほしいかな・・・。少しでも気が抜けると、落ちそう・・・。」

「ううっ・・・フェイトちゃんが最近冷たいの・・・・。」

 

まさかの親友に話しかけないでほしいと言われたなのははショックを受けながら頑張っているフェイトに負けないように体幹トレーニングに励んだ。

 

「・・・・3分経ったぞ。時間だ。」

 

少ししてヒイロがなのはたちの元に戻ってくる。出された終了の合図が聞こえたと同時になのはとフェイトは疲れ果てたのかシートの上にうつ伏せで倒れた。

 

「にゃぁー・・・・・。」

「まだ、この腕立て伏せとは違った辛さに慣れない・・・。」

「・・・そう一朝一夕に筋力がつくわけではない。こうして訓練は積ませているが、最終的にはどれほど続けたかが結果を左右する。」

 

ヒイロの言葉に、そうですね、と頷きながら顔を上げる。すると、フェイトの視界には気になるものが目に入った。

 

「・・・ヒイロさん?それは・・・?」

 

フェイトはヒイロの手に持っていたものに視線を向けながら尋ねた。ヒイロの手に持っているのは二つのペットボトルだった。

 

「お前たちの水分補給用の飲み物だ。そこの自販機で買ってきた。」

 

ヒイロはそう答えながら、二人のそばにそれぞれペットボトルを置いた。

 

「あ、ありがとう、ございます・・・。」

「あうー・・・ありがとうなの・・・・。」

「それを飲んだらしばらく休んでおけ。次は模擬戦をやるつもりだからな。」

 

ヒイロがその言葉を言った瞬間、なのはたちの目が変わった。やる気に満ち溢れ、今すぐにでもやり始めそうな雰囲気であった。

その様子に軽くヒイロはため息をつくのだった。

 

 

「確認するが、どこか少しでも身体に異常が見られるようであれば特訓は即刻中止する。その点に異論はないな?」

 

ヒイロが木刀を手にしながらそういうと同じように棒を持っていたフェイトは無言で頷いた。

なのははその二人の様子を少し離れた場所から観察していた。

 

「時間は10分を考えている。力加減はするが時間中は何度でもかかってきて構わん。」

「・・・はい!!」

 

フェイトはヒイロに向けて棒を構えた。対称的にヒイロは特にこれといった構えはせずに自然体を貫いていた。

 

(・・・・まさか、他人に戦闘訓練を施すことになるとはな。)

 

ヒイロは内心、そんなことを考えていた。今まで戦いしかしてこなかった自分が誰かの指導を請け負う経験はヒイロ自身、全くなかった。ただ、教えている相手がまだ年端のいかないフェイトとなのはということはヒイロにはなんとも言えない気持ちを抱かせていた。

 

「・・・・行きますっ!!」

 

フェイトが声を張り上げながらヒイロに接近する。振り上げていた棒を上から下へと薙ぐように振り下ろす。

ヒイロは振り下ろされるそれを木刀で受け止め、鍔迫り合いに持ち込もうとする。

 

(ヒイロさんに鍔迫り合いに持ち込まれたら確実に力負けする・・・!!)

 

ヒイロの馬鹿にならない筋力を警戒してか、フェイトが鍔迫り合いに持ち込まれるより前に一度、ヒイロから距離をとって仕切り直す。

 

「・・・・あまり、俺を想定して動かない方がいい。お前の相手は俺ではなくあの剣を持った守護騎士だ。」

「え・・・・?」

 

フェイトはヒイロの言葉の真意を考えようとしたがそれより先にヒイロが動いた。

脚に力を入れ、地面を踏みしめたヒイロはその場から跳躍する。その高さ、およそ10メートルに届きそうであった。

 

「ふぇぇっ!?」

「う・・・嘘・・・!?」

 

およそ、生身では到達しえない高さへの跳躍になのはとフェイトの驚きの声が重なる。高く飛び上がったヒイロは木刀を上段に構えながら、重力に従い、自由落下してくる。

 

「あ・・・・。」

 

ヒイロの特異な行動に気を取られたフェイトは一瞬、その場に固まってしまう。

 

(しまった。逃げ損ねた・・・!!防御、するしか・・・。)

 

立ち止まってしまったことにより逃げる時間を無くしてしまったフェイトは棒を横にして、落下の力が加わったヒイロの木刀を受け止める。ヒイロが力を抜いていたとはいえ、重力による落下スピードが乗った木刀の威力は凄まじく、フェイトは思わず棒を落としてしまう。

 

「・・・それではこの前の二の舞になるだけだ。」

 

棒を落として、自身の武器を無くしたフェイトに木刀を向けながらヒイロは言い放った。

 

「お前の戦闘スタイルはスピードを生かし、相手を翻弄するタイプだ。さっきお前が取るべき手段は防御ではなく回避だ。それはお前の中でもわかっているな?」

 

その言葉にフェイトは無言で頷いた。ヒイロはフェイトの様子を見ると言葉を続ける。

 

「戦闘において重要なのは考えることをやめないことだ。一瞬の思考の停止が仇となり死を招くこともある。仮に相手が想定外の行動を取ったとしても冷静に対処し、自身の優位な方向に持っていく。それが基本だ。」

 

ヒイロはフェイトから視線を外すと彼女が落とした棒を手に取ると、フェイトにその棒を差し渡す。

 

「時間としてはまだ1分も経っていない。先ほどのことを留意しながらかかってこい。」

 

フェイトからヒイロから渡された棒を手に取りながら立ち上がる。フェイトは一度、息を吐いて深呼吸をすると、再度棒を構えてヒイロに向き直る。その表情は真剣以外の何物でもなかった。

 

「・・・お願いします。」

 

手にした棒を握り締めながらフェイトはヒイロに仕掛ける。フェイトは現状持ち得る戦闘スキルの全てを以てヒイロに攻撃を仕掛けていくが、ヒイロはそれを悉くいなしていく。

 

(くっ・・・やっぱり強い・・・!!どんな攻撃パターンを仕掛けても平然と対応される・・・!!)

 

フェイトはヒイロの対応力の高さに驚愕すると同時に有効打を一度も与えられないことに歯噛みしていた。今までやってきた攻撃パターン、もしくはヒイロとの模擬戦最中に思いついた良し悪し問わずのパターン、どんなに攻撃を加えてもヒイロの防御が崩れる様子はなく、フェイトの攻撃を防ぎ続ける。さながら要塞を相手にしているような気分であった。

 

(普通にやってもダメなら・・・!!)

 

決心した表情を見せるフェイトにヒイロの振るう木刀が迫りくる。防御のためにフェイトが棒を構えようとした瞬間、フェイトの姿が搔き消えた。ヒイロの木刀は標的を捉えることはなく、空を切った。

 

(ブリッツアクション・・・!!ヒイロさんには見せたことないからずるいと思われるだろうけど・・・・!!)

 

フェイトはヒイロの頭上へと移動していた。ブリッツアクションと呼ばれるフェイトが使う高速移動魔法。これを使って瞬間移動とも取れるスピードでヒイロの頭上を取ったフェイトは空中で棒を振り下ろそうとする。魔法まで使った完全な意識外への攻撃にフェイトは取ったと確信めいた感情を抱く。

だが、視線をヒイロの背中に向けた瞬間、彼女の表情は固まった。

 

(どう、して・・・?)

 

ブリッツアクションを使った背後を取る奇襲戦法には自信を持っていたフェイト。

しかし、そんな彼女に視線を向ける人物がいた。

 

「・・・・。」

 

他でもないヒイロであった。既に木刀は振り下ろした状態ながらも顔をわずかに横に向け、視線だけを背後のフェイトに向けていた。

その目は迷うことなくフェイトを捉えていた。

 

(読まれた?でもブリッツアクションは見せたことないはずーーそれよりも回避ーー)

「遅いっ!!」

 

ヒイロに奇襲がバレた状態でもヒイロの助言の通り回避行動を取ろうとするが振り下ろした棒はヒイロに振り向きながらの一閃によりフェイトの手から離れ、天高く打ち上げられる。

 

「っーーー!?」

 

フェイトは棒を高く打ち上げられたことに驚きながらもあることに気づく。

ヒイロの攻撃が棒を弾き飛ばした時、フェイトにも少なからず衝撃が伝わった。

その衝撃はフェイトの空中姿勢を崩してしまった。

つまりーー

 

(しまっーー)

「フェイトちゃんっ!!」

 

フェイトの体は重力に従って落下を始める。

なのはの声が広場に響き、フェイトが迫りくるであろう痛みに目を瞑った。

 

「・・・・?」

 

しかし、いつまで経っても想像していた地面に叩きつけられるような痛みが来ることはなかった。疑問に思って閉じていた瞳を開けると、目の前にはヒイロの顔があった。

 

「・・・加減を誤った。俺のミスだ。怪我はないな?」

「え・・・っと、はい。大丈夫・・・です?」

 

ヒイロの問いにフェイトが状況を把握できないながらも答えるとヒイロは表情に変わりはないもののどこかホッとしたような様子を見せる。

 

「・・・ならいい。お前に怪我をさせればクロノやリンディに何を言われるかわかったものではないからな。」

 

そう言ってヒイロが立ち上がると、同時にフェイトの視線の高さも上がった。

 

「あ、あれ・・・?」

 

気になったフェイトが辺りを見回してみるとヒイロの腕がフェイト自身の体を抱きかかえていた。

状況をうまく掴むことが出来ずに親友であるなのはに視線を向けると彼女はまるで凄いものを見ているかのような視線を送っていた。

 

「フェイトちゃんがお姫様だっこされてるの・・・。」

「お、お姫様だっこっ!?」

 

お姫様、つまるところプリンセス。その言葉にフェイトの脳内でドレスを着飾った自分自身を思い浮かべる。

 

(わ、私がお姫様・・・?)

 

さらに一度浮かんだ妄想はそう簡単に留まるところを知れず、彼女を抱きかかえているヒイロに視線を向けると、つい妄想を重ね合わせてしまう。

それはお姫様がいるところその存在ありと言っても過言ではないーー

 

(じゃあ・・・ヒイロさんが、王子様・・・・?)

 

その妄想を設定においた空想がフェイトの頭の中で思い描かれ始めた瞬間ーー

 

「降ろすぞ。怪我がないのであれば、問題あるまい。」

「あ・・・・。」

 

ヒイロがフェイトを降ろした。現実に戻される感覚と共に、僅かにもの寂しげな感情をフェイトは抱いた。

 

「10分は経っていたな。次はなのはだ。お前の場合は遠距離特化だったな。」

「うん!」

 

ヒイロの言葉になのはは大きく頷いた。フェイトはそこでヒイロの視線が既に自分ではなくなのはに向けられていることを察する。

 

「最後にやった背後への移動。あれは単純だが、それ故に安定した動きを出すことができる。お前の戦闘スタイルを鑑みてもそれの使い方が有効打の一つにはなる。今後も使っていけ。」

「え・・・?」

 

フェイトが驚きの表情を浮かべ、ヒイロに視線を向けた時にはなのはに説明を始めているところでとても先ほどの発言について詳しく聞くことはできなかった。

 

「ならば格闘戦に持ち込まれた際の対策を中心に置く。内容としては俺が攻撃を仕掛ける、お前はそれを捌く。それだけだ。お前はいかに相手との距離を稼ぐかを意識しろ。」

「はい!!」

(・・・・・どうしよう。動悸が止まらない・・・・。)

 

フェイトは模擬戦のために広場へと向かうヒイロとなのはをそっちのけで自分の止まらない心臓に顔を赤くしながら抑えるように自身の手を乗せるのであった。

 

 

「格闘戦に持ち込まれた際に相手との距離を取るには主に二つだ。攻撃を避けるか相手にカウンターを叩き込むかだ。」

「・・・・あれ?」

 

なのはと相対したヒイロはなのはに格闘戦についての教示を始める。ヒイロの言葉を聞きながら反芻するように頷いていたなのははふと気になったことがあった。

 

「主にってことは、回避とカウンター以外にも距離を取ることができる方法ってあるですか?」

「・・・あるにはある。それは距離をとってからの魔法による反撃への移行も容易い。だが、それはできればの話の上、どうしても避けられない攻撃への咄嗟の対応という面が強い。失敗した時のリスクを考えれば回避と相手の隙を見出すことを強化したほうがいいと思うが・・・。」

「それじゃあ・・・内容だけ聞かせてもらってもいいですか?やるやらないは別として。」

 

なのはの言葉にヒイロは少々考え込む様子を見せる。程なくした後にヒイロの閉ざされた口が開いた。

 

「・・・いいだろう。簡潔に言えば、相手の攻撃に合わせて後ろへ飛ぶことだ。うまくタイミングが噛み合えば攻撃の威力を減衰させつつ、衝撃を利用して相手との距離を作ることも可能だ。」

「・・・失敗したりするとまともに相手の攻撃を受けちゃいますね・・・。」

「そうだ。だが、実行するかしないかの判断はお前に任せる。間合いの取り方や方法は俺が教えるよりお前自身で考え、経験した方が手っ取り早いからな。」

「はいっ!!」

 

なのはは返事を辺りに響かせながらヒイロに向けて棒を構える。

 

「それじゃあ、10分間、お願いします!!」

「・・・・行くぞ。」

 

 




・・・CVグリリバのキャラにお姫様だっこされると誰でも墜ちるような気がするのは小生の気のせいだろうか。


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第14話 新たなる力

まだ続いちゃう日常回

ウイングゼロ「・・・・・・」←5話以降出番が一切ない

(これからも日常回が)まだ続いちゃうんだなぁ!!これが!!

ウイングゼロ「自爆するしかねぇ。」←ボディから溢れ出る閃光

あー!!おやめくださいお客様ー!!あー!!


「・・・・10分経ったか。今回はここまでだ。後は戻ってマッサージでもしておけ。筋肉痛になっても知らんからな。」

 

10分経ったことを自身の体内時計でなんとなく察したヒイロはなのはとの模擬戦を切り上げ、片付けの準備をする。

その後ろではなのはが息が上がっている状態で棒を支えにして立っていた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・・おかしい・・・ヒイロさんはずっと動いていたはずなのに私の方が息上がってる・・・。」

「元々の体力の差もある。それに相手の攻撃を防御するということはしばらく自分の思うようにできないもどかしさからくる精神的な疲労もある。」

 

ヒイロが用具の入った袋を担ぎながらなのはに近づく。

 

「そこにベンチがある。休みたければそこで休んでいろ。」

「はーい・・・・。」

 

ヒイロに棒を預けたなのははベンチに座ると疲れ果てたように背もたれにもたれかかった。

用具を片付け終わり、それらの入った袋を肩に担ぎながらヒイロはフェイトに視線を向ける。

 

「フェイト。」

「は・・・はい。」

 

突然声をかけられたフェイトは一瞬、肩を震わせながらヒイロに顔を向ける。

フェイトの挙動に若干の疑問を抱きながらもヒイロはフェイトに顔を向けた。

 

「先に戻っていろ。俺は少しなのはの様子を見てから戻る。」

「・・・・いえ、私もなのはのことを待ちます。」

「・・・わかった。お前がそうしたいのなら構わん。」

 

フェイトの言葉にヒイロは特にこれといった反応は見せなかった。

 

「うう・・・ごめんね。世話かけちゃって・・・。」

「そんなことない。なのはの必死さは見ている私にも伝わっていたから。」

 

休んでいるなのはの隣に座りながら柔らかい笑みを浮かべるフェイト。

ヒイロはそんな彼女たちを置いてその場を後にしようとする。

それに気づいたフェイトがヒイロに向けて声をかける。

 

「ヒイロさん・・・?」

「お前がなのはのそばにいるのであれば問題ないだろう。先に帰らせてもらう。」

「そう、ですか。・・・・今日はありがとうございました。」

「あ、私もありがとうございました!」

 

ヒイロはお礼の述べるなのはとフェイトを一瞥しただけで、何も言わずに広場を後にした。

 

 

 

 

フェイトはなのはとしばらく話し込んだ後、彼女と別れ、拠点であるアパートの一室へと戻った。

 

「ただいま・・・です。」

「あら、おかえりなさい。」

「おかえり〜。」

 

ぎこちない挨拶をしながら中に入るとそこにいたのはリンディとエイミィだけで、先に帰っているはずのヒイロの姿はなかった。

 

「あれ?ヒイロさんは?」

「ヒイロ君なら、荷物を置いたあとまたすぐに出かけていったわよ。本人は散策って言っていたけど。」

 

疑問を浮かべるフェイトに声をかけたのはリンディであった。抹茶にミルクを混ぜた飲み物が入ったコップを口につけた後、そう呟いた。

 

(・・・・どこに行ったんだろう・・・。)

 

そんなフェイトの疑問の渦中であるヒイロは風芽丘図書館へと赴いていた。目的はある人物と接触するためだ。

適当に図書館内をふらつくと目的の人物の後ろ姿が見えた。

 

「八神 はやて。」

「うっひゃあっ!?」

 

その人物であるはやてに近づき、声をかける。突然声をかけられたはやてはびっくりした表情を浮かべながらヒイロの方を向いた。

 

「な、なんやヒイロさんか・・・。足音とかしなかったし、急に背後から声かけられたからめっちゃびっくりしたわ・・・。」

 

はやては一つ息を吐いて自身の胸を撫で下ろした。ヒイロはそんなはやての様子を悪びれる様子を見せることもなく、話を続ける。

 

「魔力の蒐集はどうなっている?」

「え、まさかの謝罪も無しに私の発言スルーされた・・・?ま、まぁ、ええわ。私は魔力とかよう分からないからみんなの言っていたことをそのまま言うけど、周りの次元世界っちゅう奴に向かって魔力を持った生き物からもらっているそうやな。」

「そうか。」

「ヒイロさんの方はどうなんや?」

「しばらく時間がかかる。膨大な記録の中から調べなければならないようだからな。」

「そっか・・・。まぁ、仕方ないか。それで、私に何か用なんか?ヒイロさんが目的もなしにここに来るとは思えないのやけど。」

「話が早くて助かる。」

 

ヒイロはそう言うとはやてにやってほしいことを話した。

ヒイロの要求を聞いたはやては少々悪い顔をしながら口角をあげる。

 

「オッケーやで。ふふっ、なんかスパイをやっているようで楽しくなってきたわ。けど、その作戦やとシャマルがちょっとばかし不安やな・・・。」

「こちらにも話のわかる奴がいる。俺がお前たちと繋がっていることは伏せるが、頼めば向かうはずだ。シャマルが協力をする姿勢を付け加えれば問題はないだろう。」

 

ヒイロがそう言うとはやては頷き、納得した様子を見せる。

 

「りょーかい。シャマルやみんなにはそう伝えておく。あ、ヒイロさん、もひとつ質問ええか?」

「なんだ?」

「その作戦ができたあとはみんなはどうすればええんか?そのまま時空管理局とかについていった方がええか?」

 

はやての質問にヒイロは考え込む仕草を見せる。確かにその作戦が完遂されたあとははやて達は時空管理局、というよりリンディ達と合流させれば、後のことは考えやすい。闇の書に関する対策も立てやすくなるし、情報の共有もしやすくなる。

 

「・・・・少し話題から逸れるが、はやて。闇の書について、お前が知り得ることを教えられるか?」

「え?闇の書についてか?いや、私は機能とか全然知らんよ。」

「機能については聞いていないが、闇の書と一番年数を過ごしているのはお前だ。」

 

ヒイロから問い詰められるがはやては悩ましげな表情を浮かべるだけだった。

そのまま困った表情にしながらヒイロと話しを続ける。

 

「とは言うてもなー・・・・。私が精々分かるのは割と勝手に動くことだけやしなぁ〜・・・・。」

「・・・・勝手に動くのか?」

「私は散歩モードとか言うとるけど、時折ふよふよ浮いとるんよ。」

(勝手に動くということは闇の書本体にも自立駆動プログラムでもインプットされているのか・・・?だとすればかなり面倒だ。こちらの事情を顧みず行動される恐れが高い・・・。)

 

ヒイロはその情報を聞いて、内心歯噛みをした。守護騎士たち、ヴォルケンリッターは闇の書のプログラムであるが、各々にちゃんとした性格があり、対話も可能だったためなんとか繋がりを持つことはできた。しかし、闇の書は完全に本であり、無機物である。いわばただ自身のシステムに従う、ロボットのようなものと対話が成り立つとは思えない。

ヒイロは考え込む仕草をやめるとはやてに向き直った。

 

「・・・事が済んだら撤退しろ。闇の書が勝手に動くのであれば、不確定要素になりかねん。こちらの懐で何か行動を起こされればそれこそ事態が悪化してしまうからな。」

「でも、そんな害になるようなことはしておらへんよ?」

「今はそうだが、将来的に害にならないとは限らん。闇の書に関しての情報も出揃っていない以上、不用意に受け入れることはできない。」

 

ヒイロが頑なに言うとはやては残念そうな表情を浮かべる。

 

「そっかー・・・。それはしゃあないな。ヒイロさんの言うことももっともやし・・・。」

 

そう呟くはやてだったが、首を横に振るとすぐさま表情を朗らかなものに変え、ヒイロに向き直った。

 

「うん。シグナム達にもそう伝えておく。」

「頼んだ。」

 

ヒイロははやてにそれだけ伝えるとはやての元から去っていった。

 

「・・・・なぁ、闇の書さん。アンタは本当に悪い本なんか?私にはどうしても信じられへんよ。」

 

上を向き、悲しげな表情をしながらポツリと呟く。その言葉を聞き届ける者はいなかった。

 

 

その日はしばらくフェイトとなのはは特訓の日々が続いた。平日は学校に行かなければならないため、どうしても突貫でやらなければならない日もあった。

そんな特訓を続けてきた彼女たちだったが、今回は少々用事があるようでヒイロとの特訓は行わなかった。

その用事というのが彼女らのデバイスである『レイジングハート』と『バルディッシュ』の修復が終わったという通達が入ったため、それの受領に向かうということであった。

これにはヒイロも二人のデバイスの試運転に付き合わされる形で同行させられていた。

時空管理局の本局における訓練施設のスペースでフェイトとなのはが新しく新調された自身の相棒を手にし、何かを待つように佇んでいた。

そして、彼女らの周囲に無数のマーカーが展開される。魔導士が訓練の際に使われるターゲットだ。

 

「・・・久しぶり。レイジングハート。」

『お久しぶりです。マスター。』

「バルディッシュ。おかえり。」

『ただいま戻りました。サー。』

 

優しい声色でそう呼びかけるなのはとフェイトにそれぞれの相棒は機械音声で答える。

 

『・・・時にマスター、どうやら筋力量が以前と比べて増加しているようですが。』

「えへへ、レイジングハートやバルディッシュが強くなりたいって言う気持ち、私とフェイトちゃんも同じだから。これから使い方が荒くなるかもしれないけど、大丈夫だよね?」

 

レイジングハートにそう問われたなのはは少々恥ずかしげな表情を浮かべながら答える。

そう主人の言葉にレイジングハートはーー

 

『もちろんです。マスター。貴方の新たな全力全開、見させてください。』

「うん!!よーし、行くよ!レイジングハート!」

 

なのはが嬉しそうな声を上げながらデバイスの名前を呼ぶと白を基調した制服のようなバリアジャケットを展開する。

レイジングハートも赤い宝玉から形態が杖へと変化する。

 

「バルディッシュ・・・行くよ。」

 

フェイトも続けざまに自身のデバイスの名前を呼ぶ。バルディッシュは待機状態である金色の台座のつけられた宝石が外れ、それを基盤にして、杖というより、斧のような形態へと変わった。

フェイト自身もなのはと比べると比較的薄く、黒いバリアジャケットにマントを翻らせる。

それぞれのデバイスを構えた二人はターゲットに向かって飛翔する。

 

 

 

「・・・・デバイスに守護騎士達が使っていたシステムを搭載したのか。」

「カードリッジシステム・・・。予め魔力を込めた薬莢をリロードすることで瞬間的に爆発的な火力を発揮させる。」

 

訓練の様子を一望できる場所でヒイロが言葉を零す。リンディはヒイロの方を見やることはなく、レイジングハート達に新たに搭載されたシステムの概要を難しい顔をしながら話す。

 

「だけど、ミッドチルダ式はおろかレイジングハート達インテリジェントデバイスとは相性は良くないはずだが・・・大丈夫なのか?」

「それは・・・あの子達次第ね。」

 

クロノの言葉にエイミィがなのは達の様子を見守りながら答える。その視線はなのは達というよりレイジングハートやバルディッシュといった彼女たちの持つデバイスに注がれているようだった。

 

「あの子達が自分の意思で強くなりたいって言ったんだもん。」

 

 

 

「レイジングハート!カードリッジロード!!」

 

レイジングハートから薬莢が吐き出され、新しいカードリッジが装填される。

なのははレイジングハートを振りかざすと、自身の周囲に桜色の光弾を8つ作り出す。

 

「アクセルシューター!シュート!!」

 

なのはの声と共に桜色の光弾はそれぞれマーカーめがけて飛んでいき、貫いた。

貫いた光弾はそのまま真っ直ぐに飛んでいくかと思われたがなのはが少し念じると急転換し、またそれぞれの光弾が別のマーカーへと向かう。

それを繰り返し行うとなのはは少々物足りなさそうな表情を浮かべる。

 

「・・・もう少し増やそうかな。」

 

そういうとさらに4つ増やし、合計12個の光弾を操り始める。光弾はなのはの指示で縦横無尽に駆け巡り、凄まじい勢いでマーカーを破砕していく。

その桜色の光弾が生み出す嵐の中で一際目立つ金色の輝きがあった。

その輝きはなのはの操るアクセルシューターの光弾を上回るスピードで動き回り、マーカーを両断していく。

 

(・・・ブリッツアクションの連続使用。前まではそんなに乱発できなかったけど、ヒイロさんに鍛えてもらったのが効いているのか、連続使用してもそんなに負荷がかからなくなった。)

 

バルディッシュの先端から金色の光刃を出しながら、フェイトは目まぐるしいスピードでマーカーを切り裂いていく。

 

(強くなった自覚はある、。だけど、ヒイロさんは確実にブリッツアクションのスピードを視認できている。)

 

今まで特訓を続けてきたうちでフェイトはヒイロを出し抜けたことは一度もない。ブリッツアクションを使った奇襲を様々な角度、状況で試してみたが、一度たりとて、ヒイロの視線から逃れることはできなかった。

 

(なら、もっと根本的な魔法を使わない状態でのスピードを上げるしかない。もっと、もっと速く……!!)

「いっけぇぇぇぇ!!」

 

 

 

「おおう・・・フェイトちゃんすっごい動き方をするね・・・。早すぎて全然目で追えないよ・・・。」

「フェイトの動きも目を見張るものがあるが、なのはの方も負けてはいないな。」

 

エイミィとクロノがなのは達の様子を見て、驚きの表情を浮かべる。

マーカーの数も残り少なくなっていることと二人の気合の入り様を見て、程なくしないうちにマーカーを全滅されることは明らかだ。

 

「君のおかげだ。ありがとう。」

「・・・俺は大したことはしていない。フェイトはともかくだが、なのはの方は元々の魔力関係のセンスの高さもあった。それだけだ。」

 

クロノのお礼にヒイロは彼に視線を向けることもなくぶっきらぼうに答える。

 

「つまり、できて当然というわけか。中々手厳しい評価を下すんだな。」

「俺はありのままを言っただけだ。評価を飾ったところで二人が強くなる訳ではないからな。」

 

ヒイロがそういうとリンディは微笑ましげな笑みを浮かべる。その様子にヒイロは不思議に思い、リンディに尋ねる。

 

「・・・なんだ?」

「ふふっ、やっぱり貴方は優しい子なのね。」

 

リンディがそういうとヒイロは少々不機嫌気味に顔を逸らした。ヒイロのその様子すらも微笑ましげに思っていたリンディは唐突に思い出したようにヒイロに話しかける。

 

「あ、そうだ、ヒイロ君。明日、また付き合ってくれないかしら?」

「・・・・まだ何かあるのか?」

「ええ、そうね。今日は用事があったから行けなかったけど。明日は異常が見られなければ何もない日だからね。」

「・・・・了解した。」

 

リンディのそのお願いにヒイロは渋々だが承諾する。

それと同時に訓練プログラムが終了したことを告げるアナウンスが流れた。

記録は管理局の中でもトップクラスの成績だったようだ。

訓練を終えたなのはとフェイトを迎えに行く。ヒイロはリンディ達から少しばかり離れた場所で壁に背をつけながら腕を組んで様子を見ていた。

程なくしてなのはとフェイトが訓練場から出てくるとリンディ達が笑顔を浮かべながらデバイスの感想などの質問をする。

しかし、肝心の二人は質問には答えながらも視線をあっちこっちに向けて誰かを探しているようだった。

その誰かを察したリンディ達は一同に同じ方向を指差した。

指し示された指の先にはヒイロの姿があった。

ヒイロを見つけるとなのはとフェイトは一目散にヒイロの元へと駆けつける。

その様子は何かアドバイスを待っているかのようだった。

 

「・・・・なのはは光弾を操っている時も動けるように善処しろ。あれでは状況によっては的になりかねん。フェイトはスピードを気にかけるのは構わんが、デバイスの振り方が大振りになっている。それで複数の相手を同時に切り裂けるならいいが、一つのターゲットに絞っているならコンパクトに振ることを意識しろ。以上だ。」

『はいっ!!』

 

ヒイロの指摘になのはとフェイトは嬉しそうな笑顔を浮かべながら大きく頷いた。

 




日常回はもちっとだけ続くんじゃ。多分あと一回、だと思います・・・。


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第15話 偽りの闘争

ウイングゼロが久しぶりの登場。


なのはとフェイトが進化した相棒、『レイジングハート・エクセリオン』と『バルディッシュ・アサルト』の試し打ちをした次の日、ヒイロはリンディの頼みで彼女の外出に付き合っていた。

 

「・・・リンディ。」

「どうかしたかしら?」

「頼みに付き合うと言ったが、それはフェイトの携帯電話の購入のためだったはずだ。」

 

ヒイロがリンディを呼ぶと疑問気な声をあげながら視線を向けてきた彼女に気になっていた質問をぶつける。ヒイロが軽く視線を向けた先にはなのはとフェイト、それに彼女らのクラスメートであるアリサ・バニングスと月村すずかの姿があった。彼女らはフェイトの手に握られている袋を見ながら談笑に耽っていた。

その袋の中身がフェイトがリンディに買ってもらった携帯だった。

 

「・・・なぜ俺にも買ったんだ?」

 

その携帯が入っている袋はヒイロにも握らされていた。携帯電話が売られている電化製品店でフェイトを待っていたヒイロだったが、リンディから最初にこの袋を渡された時は割と目を疑った。

 

「まぁ、そうねぇ・・・。持っておいても損はないんじゃないかしら?」

 

たったそれだけの理由でヒイロに携帯を寄越したリンディにヒイロは呆れた表情をする。しかし、もらった以上無下にする訳にはいかなかったため、使わないだろうな、と前置きを置きながら確認のために袋から携帯の入った箱を取り出し、開封する。

デザイン自体はシンプルなもので青と白を基調としたものであった。

デザインには特にこだわりのないヒイロはしまおうとするがーー

 

「あれ、アンタも携帯電話買ってもらったの?」

 

ヒイロが携帯電話を持っていることを目ざとく発見したアリサ。そのことはすぐさま周りにいたなのは達にも伝わり、驚きに満ちた表情をする。

 

「・・・リンディに半ば強制的に押し付けられた。」

「って言うことは・・・それはヒイロさんのですよね?」

 

なのはにそう問われたヒイロはそれを否定する気も起きなかったため素直に頷いた。それを見たなのはとフェイトはお互いに目を合わせ、何か確認するように頷くとヒイロへと駆け寄ると、揃いも揃ってあるものをヒイロに要求する。

 

『携帯のアドレスをください!』

 

ヒイロはそれを聞くと、表情を一つ変えることもなく携帯を操作する。程なくしないうちに自分の携帯の番号やアドレスが書かれてあるページに辿り着き、その画面のまま二人に手渡す。

 

「・・・これだ。あとは好きにしろ。」

 

そう言われ、ヒイロの携帯を受け取るとヒイロの電話番号等を自身の携帯のアドレス帳に登録する。フェイトも覚束ない操作ながらも同じように登録する。

 

「アリサちゃんとすずかちゃんもする?」

「なのは・・・そう言うのはちゃんと本人に確認を取ってからいいなさいよ・・・。」

「え、えぇっと・・・。」

 

すずかは気が引けているといった表情をし、アリサはなのはの行動にため息をつきながらヒイロに視線を向ける。それを確認だと取ったヒイロは少し考え込む表情をするとーー

 

「・・・問題ない。お前達なら迂闊に言いふらすようなことはしないだろう。」

「しないわよっ!!なのはじゃあるまいし!!」

「ひ、ひどいよアリサちゃんっ!?」

「なのはちゃん・・・私とアリサちゃんはまだヒイロさんと出会って時間がそんなに経っていないからヒイロさんの警戒はごもっともだと思う・・・。」

 

友人二人からの口撃にショックを受けたなのはは少しばかりしょぼくれた表情を見せる。

なんだかんだありながらもアリサとすずかともアドレスを交換すると、何やら朗らかな表情しながら携帯を大事そうに握っているフェイトの姿を見かける。

 

「・・・妙に嬉しそうだが、それほどまでに携帯を買ってもらえたことが嬉しかったのか?」

「ひ、ヒイロさんっ!?」

 

突然ヒイロに話しかけられたフェイトは顔を赤らめ、驚いた表情をしながら口調をきょどらせる。

 

「その・・・こう言うの、なんて言うのかな・・・。普通の女の子らしいことをするのは、初めてだから・・・。友達になったのもなのはが一番最初だから。」

「・・・・なら、その繋がりを大事にするんだな。」

 

まるで、今までは女の子らしいことをしてこなかったというようなフェイトの言い草にヒイロは少しばかり怪訝な表情を浮かべるが深く追及することはなく、端的に伝える。

 

「ヒイロさん・・・?」

 

あまりヒイロらしくない発言にフェイトは少しばかり疑問に思った。しかし、それっきりヒイロはだんまりを貫いたため、それ以上、話題が続くことはなかった。

 

 

 

 

「・・・・さて、ヒイロさんが言っとった管理局員の巡回ちゅうのは今日やったな。後の憂いを無くすみたいな感じやったけど、一体誰なんやろうな・・・。」

 

守護騎士達の夕飯を作りながらはやては誰もいない自宅の中で言葉を零す。

ヒイロから管理局に関する多少のことは聞いているものの、その後の憂いの正体を聞いてはいない。

 

 

「まぁ、私が知ることじゃないか。今、私ができることはみんなが無事に帰ってくることを祈るだけや。無論、ヒイロさんもな♪今度またウチに誘おうかな♪」

 

そういいながらはやては表情を緩ませながら料理の工程を進めていく。

全ては自分の愛する家族のために。

 

 

 

 

ビーッ!!ビーッ!!

 

リンディ達のいる海鳴市の拠点としているアパートに似つかわしくないアラート音が響く。

 

「エイミィ!!」

「はいっ!!」

 

突然の警報にも狼狽える様子を微塵も見せず、リンディはエイミィに状況の確認を命じる。

エイミィはアパートの一室に設けられた管制用のシステムを操作し、状況を確認する。

 

「至近距離にて緊急事態!!守護騎士と思われる反応を確認しました!!巡回していた管理局員によりある程度の包囲は完了している模様!!」

「確かその巡回、クロノも一緒にいたわよね!?」

「数分で戦闘エリアに入ります!!」

(・・・・始まったか。)

 

リンディ達のやりとりを聴きながらヒイロはシグナム達が行動を起こしたことを察していた。

今回のヴォルケンリッター達の行動はヒイロがはやてに頼んだ、全て仕組まれたものだったからだ。

目的は仮面の男の正体を明るみに出すため。

 

「フェイトさん、ヒイロ君、問題ないわね?」

「はい。いつでも行けます。」

「・・・問題ない。」

「オッケーよ。エイミィ、なのはちゃんは?」

「少し時間がかかるそうです!」

「わかったわ。それならアルフ、お願いできる?」

 

エイミィからなのはの状況、そしてフェイトとヒイロの状態を確認したリンディはアルフに視線を向け、彼女になのはの移動を頼む。

 

「わかった!とりあえず今はフェイトとヒイロを運んでからでいいか?」

「ええ、大丈夫よ。」

 

リンディの承諾を得たアルフはその手に転移魔法用の魔法陣を展開する。

 

「そんじゃあ、行くよっ!!」

 

アルフの声と共にヒイロとフェイトの視界は光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

「・・・管理局か。」

 

周囲を見渡しながら、ザフィーラが自分達を囲んでいる人物達の正体を言い当てる。

管理局の巡回に引っかかったザフィーラとヴィータはおよそ10人ほどの管理局に囲まれていた。

 

「でも、一人一人の力量はお察しだな。アタシらヴォルケンリッターの敵じゃねぇ。」

 

ヴィータが自身のデバイスである『グラーフアイゼン』のハンマーを構えながら警戒していると、管理局員達は仕掛けようとはせずにヴィータ達から離れていった。

ザフィーラとヴィータが仕掛けてこないことへの不信感を抱いているとーー

 

「上だ!」

 

いち早くその不信感の正体に気づいたザフィーラはヴィータに警告を告げる。釣られてザフィーラと同じように自身の上を見るヴィータの視界には水色の刃が無数にも展開されていた。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフトっ!!」

 

その魔法の発動者であるクロノがデバイスを振り下ろすと無数の刃が雨霰のようにヴィータとザフィーラへと降り注ぐ。

咄嗟にザフィーラは自身の手のひらからプロテクションを発動させ、その範囲にいるものを悉く処刑せんがごとく降り注ぐ刃から身を守る。

しかし、その刃の鋭さは咄嗟だったとはいえ、強固だったザフィーラのプロテクションを破り、数本ザフィーラの二の腕に突き刺さる。

突き刺さる光の刃はザフィーラの筋力で粉砕する。大したダメージにはなっていない様子にヴィータは少し安堵した表情を見せた。

 

 

 

 

「・・・・あれほどの威力で少ししかダメージを与えられないか・・・。」

 

先ほどの魔法にかなり魔力を持っていかれたのか、少々疲れた様子を見せるクロノ。

だが、本来の目的は達成された。先ほどの刃が破壊された時に発生する粉塵でヴィータとザフィーラの視界を奪い、その間に結界の強化を他の管理局員にやらせた。

 

『クロノ君!聞こえるっ!?』

 

次をどうするかを考えているクロノにエイミィからの通信が入る。

 

「うん、聞こえーー」

『今、そっちに助っ人を送ったから!!』

 

クロノが返答するより先にエイミィは内容を伝える。助っ人という言葉を受けたクロノは周囲を見回した。

そして、ビルの屋上にその助っ人と思われる人影を見つける。

 

「あれは・・・フェイトとヒイロか。」

 

ビルの屋上にフェイトとヒイロの姿があった。クロノが声をかけようとした時に二人の周囲に橙色の魔法陣が展開される。

その魔法陣から今度はなのはとアルフの姿が現れた。

 

「・・・早いな。」

「アタシはフェイトの使い魔だからね!!これくらいは安いもんよ!!」

 

ヒイロの言葉にアルフが自信に満ち溢れた笑顔でそう答えるが果たしてそれが理由なのだろうかと、ヒイロは疑問に思ったが口には出さずにヴィータ達の方を見た。

 

(・・・・シグナムがいないな。奴はどこにいるんだ?)

 

そう思ったのも束の間、結界を貫きながら紫電がヒイロ達からさほど離れていない別のビルの屋上に落ちた。

 

(・・・・あれか。)

 

ヒイロがそう決定づけ、紫電が落ちた衝撃から発生した煙幕が晴れるとそこからシグナムが姿を現した。

 

「あの人は・・・!!」

 

フェイトがシグナムの姿を見ると険しい表情を見せる。

この前自分が手も足も出なかったことを思い返しているのだろう。

 

「・・・・前回のお前と今のお前は違う。奴に今のお前を見せつけてみろ。」

「・・・はいっ!!」

 

ヒイロの言葉にフェイトは自身を奮い立たせるように声を出す。

表情に思いつめたものがなくなったと判断したヒイロはなのはとアルフに視線を向ける。

 

「あの二人はお前達に任せる。俺は結界内部を回ってもう一人、闇の書を持っているであろう人物を探してくる。」

「うぇっ!?マジでっ!?」

 

アルフの驚きの声を置いていくようにヒイロはウイングゼロを展開すると、その純白の翼を広げ、飛び去っていった。

 

「ったく、自分勝手だなー、あいつは。」

 

ヒイロの突然の行動にアルフは呆れたような声を出すが、それはすぐさま好戦的な笑みへと擦り変わる。

 

「ま、私もアイツと戦いたかったから、ちょうどいいけどな!!」

 

獰猛な笑みを浮かべながらアルフはザフィーラに向けてファイティングポーズを取った。なのはも少し乾いた表情を浮かべながらもヴィータに視線を向けていた。

 

「・・・行こう、フェイトちゃん。」

「うん。行こう。なのは。」

 

なのははヴィータへ、フェイトはシグナムへと己の戦う相手を見ながら、自身の相棒の名前を呼ぶ。

 

「レイジングハート!」

「バルディッシュ!」

 

『セットアップっ!!』

 

 

 

 

「クロノ、聞こえるか。」

『ヒイロ?どうかしたのか?』

 

なのは達から離れたヒイロはクロノに連絡を取る。

 

「お前に頼みがある。守護騎士は四人いるが、まだ三人しか姿を現していない。残りの一人が闇の書を所持している可能性が高い。俺が結界内部を担当する。お前は結界の外を担当しろ。」

『・・・・わかった。闇の書も確認できていないから、おそらくその最後の一人が持っているんだろうな。』

「・・・仮面の男には注意しろ。状況によっては妨害に走る可能性がある。」

『・・・警告、痛み入るよ。』

 

ヒイロはそこでクロノとの通信を切り、姿を現していない守護騎士、シャマルを探すという名目のもと、結界の張られた海鳴市の空を飛ぶ。

 

(クロノとシャマルが協力関係になれれば、仮面の男の拿捕は可能なはずだ。だが、状況によってはコイツの使用も考える必要がある。)

 

ヒイロは自身の身の丈程の長さのある無骨なライフル銃、『バスターライフル』を二挺ある内の一つを手に取っていた。

 

 

 

 

 

「・・・・強くなったな。」

「・・・そうですか?」

 

フェイトと対峙したシグナムは不意にそんな言葉を零す。それにフェイトは疑問気に首を傾げる。

 

「相手の強さを測る目は持っているつもりだ。それに強さとは己自身では認識はあまりできないものと考えている。」

 

シグナムはそういうと自身のデバイスである『レヴァンティン』を構える。

構えからも改めて自分が対峙している相手がかなりの強敵だと認識したフェイトはバルディッシュを握りしめることでそれに応える。

 

「我が名は守護騎士ヴォルケンリッターが一人、烈火の将、シグナム。お前の名を聞きたい。」

「・・・管理局所属嘱託魔導士、フェイト・テスタロッサ。」

「フェイトか。いい名前だ。お前の全力、見させてもらおう。」

「言われずとも!!」

 

 

その言葉を皮切りにフェイトとシグナムが同時に動き出し、紫電と稲妻が交錯する。

 

 

 

 

「・・・・・・。」

「えっと、前回は教えてもらえなかったけど、今回こそは教えてもらうから。」

「・・・・あー、わかった。アイツ、伝えてないなこれ。」

 

自身を見下ろす形となっているヴィータに向けてなのはは改めて名前を問う。

しばらくヴィータはそのなのはの目を見ていたが、ふと合点がいったような表情を浮かべた。なのははそれに疑問気な表情を浮かべる。

 

「アイツ・・・?一体誰のこと?」

「いや、こっちの話だ。気にすんな。とりあえず名前だったな。それだったらアタシを打ち負かすぐれぇのことはしてくれねぇとな!!」

 

ヴィータは獰猛な笑みを浮かべながらなのはに自身のデバイスであるグラーフアイゼンのハンマーを向ける。

 

「・・・・やっぱりこうなっちゃうか・・・。」

 

なのははそういうと静かに、それでいて決意のこもった目をしながらヴィータにレイジングハートを向ける。

 

「はっ!テメェもやる気なんじゃねぇか!!」

「覚悟はある・・・。私は、闘う。」

 

 

「想いだけでも…力だけでも…。それが今、私があなたに届かせられるものだから!!」

 

 

 




なのはがどこぞの准将になってきた。


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第16話 海鳴の空を照らす山吹色

や、やっと出せた・・・。

一応できる限り端折らずに書いたらいつもより文量が多くなった・・・。

あとそれでもアルフとザフィーラの戦闘書いてねぇ・・・(白目)

追記

シャマルが若干オリジナルになっています(今更)


「はぁぁっ!!」

「やぁぁっ!!」

 

紫電と雷電が海鳴市に聳え立つビル群の中でいくつも重なり合い、火花を散らす。

いくつかの交錯があったのち、フェイトのバルディッシュとシグナムのレヴァンティンが鍔迫り合う。

しばらく力と力の鬩ぎ合いが続くが、お互い弾かれるように一度距離を取る。

 

「バルディッシュ、カートリッジロード!!」

 

いち早く体勢を整えたフェイトがそういうとバルディッシュに新たに装着されたリボルバー部分から薬莢が吐き出され、新しく装填される。

 

『Plasma Lancer』

 

バルディッシュから機械的な音声が流れるとおよそ八つ、フェイトの周囲に金色に輝く魔力体が生成される。

 

「プラズマランサー、ファイアっ!!」

 

フェイトが合図をするかのように腕を振り下ろすと魔力体が環状魔法陣を纏った鋭く尖った槍へと姿を変え、シグナムへと飛翔する。

対するシグナムは避けるような動きを見せることはなく、レヴァンティンを構えるとフェイトと同じようにカートリッジから空薬莢を吐き出した。

 

「ふっ!!」

 

軽く息を吐き出すような声と共に振るわれたレヴァンティンはフェイトの放ったプラズマランサーを四方八方へと弾き返す。

普通であれば、行き先を狂わされた弾丸は目標にたどり着くことはなく、あらぬ方向へと進んでいくだけだ。

ただそれはプラズマランサーがただの銃弾であればの話だ。

シグナムが弾いたプラズマランサーにフェイトは再び手を振るう。

 

「ターンっ!!」

 

その言葉がトリガーだったのか、プラズマランサーを纏っている環状魔法陣が輝くと突如として方向転換をした。その方角はもちろん、シグナムの方へと向いている。

一瞬の硬直があったのちプラズマランサーは再びシグナムへと襲いかかる。

 

「っ・・・・。」

 

ただ斬りはらうだけではダメだと察したシグナムはプラズマランサーに当たる直前で急上昇した。

対象を見失ったプラズマランサーは互いにぶつかり合うがフェイトが『ターン』という言葉を紡ぐと再度シグナムを目標へと定める。

 

「ちっ・・・。」

 

シグナムは苦い顔をしながらも鞘を取り出すとレヴァンティンを収めながらカートリッジをリロードし、薬莢を装填する。

レヴァンティンを鞘の中に収めると少しばかり体を沈め、さながら居合斬りのような構えを取る。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

気迫こもった声を出しながらシグナムは鞘にしまったレヴァンティンを引き抜く。

その刀身には焔が宿り、シグナムが振るったレヴァンティンの剣先を追うように焔が駆け走る。

その焔はシグナムとフェイトの間に壁を作るように張られ、迫り来るプラズマランサーを全て焼き尽くす。

焔の壁がきえ、シグナムはフェイトを探そうとするが、突然後ろを振り向く。

歴戦の勇士であるシグナムの戦士としての直感が働いたのだろうが、背後から気配を感じたシグナムの直感は当たっていた。シグナムの視界に映ったフェイトはバルディッシュを上段に構え、シグナムに向かって突撃してきていた。

焔でシグナムとフェイトの間に壁ができた瞬間、フェイトはブリッツアクションを用いてシグナムの背後に瞬間移動していたのだ。

 

(遅れは取ったが、向こうは上段に構えている。このまま横薙ぎに触ればーー)

 

フェイトが目前に来ながら対応が間にあうと判断したシグナムは勢いそのままレヴァンティンを横薙ぎに振った。

しかし、レヴァンティンの刃がフェイトに届くことはなかった。

刃がフェイトに触れるか触れないかの、まさに紙一重の瞬間に彼女の姿が掻き消えた。

その結果横薙ぎに振るったレヴァンティンは空を切ることとなった。

 

(しまった。今のはわざとかーー)

 

フェイトは敢えてバルディッシュを上段に構えて接近することによりシグナムに対処させるように心理的に誘導したのだ。

その目論見は見事的中し、シグナムはまんまとレヴァンティンを振るわされてしまう。

だが、シグナムも目を見開きながらもフェイトの行方をすぐさま捜索する。

 

「っ・・・上かっ!?」

 

シグナムの耳にある音が入り込む。それはマントのような布が風に煽られてバサバサとはためくような音であった。

咄嗟に上を向くがフェイトの姿は既にクロスレンジまで迫っていた。

振るったレヴァンティンはもう一度構える隙すら与えられず、せいぜい前に持ってくるのが精一杯であった。

バルディッシュとレヴァンティンがぶつかり合い、火花を散らす。しかし、互角の状況だった時とは違い、シグナムは防御するのが精一杯。さらにシグナムの上を取ったフェイトは高高度から落ちてきたスピードも重ねがけ、一気にバルディッシュに力を込める。

 

その結果、シグナムは下へと弾き飛ばされ、フェイトがシグナムと初めて戦った時と同じようにその身をビルの屋上へと叩きつけた。

 

(・・・フェイントからのブリッツアクション、手応えはあったけど、防御自体は許した。まだその程度で倒れる相手じゃない。)

 

フェイトは改めて気を引き締めるようにバルディッシュを構える。警戒するようにビルの屋上を凝視すると、フェイトの想像通り、土煙を払いながらシグナムが現れる。

 

「ははっ、まさか今度は私がビルの屋上に叩きつけられる羽目になるとはな。強くなったな、テスタロッサ。」

 

シグナムは乾いた笑顔を浮かべながらフェイトを称賛する言葉を述べる。

 

「・・・ありがとう。だけど、次はそう簡単に行くような貴方ではないでしょう?」

 

フェイトがシグナムに向けてそう返すと、シグナムは無言でレヴァンティンを構える。

 

「無論だ。この程度でやられるほど柔な肉体ではない。」

 

シグナムのその言葉を皮切りにフェイトとシグナムが同時に動き出し、第2ラウンドを告げるように両者がぶつかり合った。

 

 

 

 

「シュワルベフリーゲンっ!!」

 

ヴィータが指の間に挟んだ鉄球に魔力を込め、橙色に光る玉となった鉄球を彼女のデバイスであるグラーフアイゼンのハンマー部分で叩くと誘導性を持ちながらなのはへと飛んでいく。

なのははそれを落ち着いて軌道を読みながら避けていく。

 

(あの子が中距離戦で来るならーー)

 

ヴィータの攻撃を掻い潜りながらなのははレイジングハートから空薬莢を吐き出させ、リロードさせる。

 

(こっちもそれで応えるだけ!!)

 

リロードさせ、アクセルモードへと移行させたレイジングハートをヴィータに向ける。

 

「アクセルシューター!!シュート!!」

 

なのはの声に呼応するように桜色の魔力体がヴィータに向けて飛翔していく。

その数はおよそ12個。それぞれが複雑な軌道を描き、放たれた鉄球を破壊しながらヴィータヘ迫り来る。

 

「はっ!!お返しって訳かよ!!上等っ!!」

 

対するヴィータは自身に迫り来る桜色の光弾を避けるなり魔法陣を展開して防御するなどしながら切り抜けていく。

 

「足止まってんぞ!!それじゃあ狙ってくれって言ってるようなもんだ!!」

 

そういうとヴィータは自身の手のひらに再度鉄球を出現させる。しかし、先ほどの指の間に挟めるほどのサイズではなく砲丸ほどの大きさまで大きくしたものだった。

 

「お返しのお返しだ!!遠慮はいらねぇからもらってけっ!!」

 

ヴィータはその砲丸サイズの鉄球を放り投げると、グラーフアイゼンでかっ飛ばす。アクセルシューターの制御に追われてその場から動くことができないなのははーー

 

「レイジングハート、バスターモードへ移行!!」

 

レイジングハートの形態を魔力弾など加速させるアクセルモードからその名の通り砲撃がメインのバスターモードへと切り替える。

 

「カートリッジロード!!」

 

続けざまにレイジングハートに命じ、空薬莢を吐き出させ、新しくカートリッジを装填する。

 

「ディバイン、バスターーー!!!!」

 

レイジングハートから撃ち出される魔力の奔流はヴィータが放った鉄球を呑み込み、勢いそのままにヴィータへと迫る。

ヴィータは自身に向かってくるディバインバスターを避けると近接戦闘を行うべく、なのはに接近する。

 

「コイツで・・・・!!」

 

ヴィータはグラーフアイゼンを高く振り上げ、ディバインバスターを撃った直後の硬直で動けないなのはに振り下ろす。

なのはは右手から魔法陣を展開して、それを防御するも吹っ飛ばされる。

しかし、攻撃を当てたはずのヴィータは苦い表情を浮かべていた。

 

(手応えが少ねえ・・・。コイツ、ギリギリのところで後ろに飛びやがったなっ!?)

 

ヴィータは自分から吹っ飛ばされたなのはを追撃しようとするも、桜色の光弾が突如としてヴィータの目の前をかすめる。

出鼻をくじかれたヴィータは思わずその場で急ブレーキをかけた。

 

(あのヤロー・・・吹っ飛んでいる間にもシューターを動かせるだと・・・!?なんちゅうヤローだ・・・!!)

 

ヴィータが驚いている間になのはが飛ばしていたアクセルシューターはヴィータの周囲を囲むように飛び回る。

 

「ちっ・・・我慢比べって訳か・・・。」

 

まともに動けなくなったヴィータが悔しそうな表情をすると自身の周囲に見るからに硬い多面体のバリアを張った。

 

(・・・パンツァーヒンダネスでどこまで凌げる・・・?割とヤベェなこの状況・・・。)

 

ヴィータの攻撃を敢えて自分から吹っ飛ぶことで距離をとったなのははビルの外壁に着地するように足をつける。

 

「な、なんとかうまく行った・・・。まともに防いだら衝撃で手がやられちゃうから・・。」

 

自分でもかなりギリギリだった自覚はあるのか、ホッとしたような表情を見せる。しかし、それも一瞬ですぐさま気を引き締める表情を見せるとヴィータの方向に視線を向ける。障壁は見るからに硬そうだが、それでめげてしまうなのはではない。

 

「やるよ!!レイジングハート!!」

 

なのははレイジングハートにすぐさま攻撃指令を下した。

 

 

 

 

 

 

(さて、はやてちゃん、というかあの子の言った指定ポイントはこの辺りだったけど・・・。)

 

なのは達が戦っている舞台である管理局員が展開した結界から離れたビルの屋上にシャマルはいた。

その腕には闇の書が抱えられていた。

 

(本当に来るのかしら、その仮面の男という人物・・・。でも事実としてシグナムが正体はわからないけど、誰かにつけられていたって言っていたし・・・。)

 

シャマルは一人、不安気な表情を浮かべながら結界を見つめていた。

ヒイロがはやての自宅に来た時、シャマルははっきり言って、ヒイロのことはあまり信用はできなかった。言葉では自身の命を賭けてまでこちらの信用を取ろうとしたが、行動にそれを起こすのはとても難しい。

ヒイロが管理局に自分達の居場所を話して、管理局員が自分達を拿捕しに来るのではないのかと疑っていた。

しかしーー

 

(・・・でもそんなことは一度もなかった。結構期間はあったはずだけど、結局管理局員が来ることはなかったわ。)

 

管理局員がはやての家の扉を開けることは一度たりともなかった。その事にシャマルはヒイロは本当に伝えていないことを何となくだが察した。

 

(・・・あくまで協力者、というのは本当なのかしらね。魔力もない人間が魔導士にはなれないはずだし。)

(でも、あの筋力量はどうかと思うわ。シグナムを腕の筋肉だけで圧倒する人、それも男の子ってーー)

 

シャマルは以前ヒイロに腕をへし折られたことを思い出しながら苦笑いを浮かべる。

骨折は治癒魔法をかけることで治ったが、へし折られた事実は消えることはなく、シャマルの記憶に色濃く残っていた。

ヒイロの異常な筋力に自然と考察を思い浮かべていると、シャマルの背後から何かを構える音が聞こえた。

 

「捜索指定ロストロギアの所持、および使用の疑いで貴方を逮捕します。」

 

シャマルの背後を取った人物はクロノであった。クロノはシャマルに自身のデバイスである『S2U』を向け、投降を呼びかける。

 

「抵抗しなければ貴方には弁解の機会はある。同意するなら武装の解除を。」

(・・・・しまった。思案に耽っていたとはいえ背後を取られるなんて・・・。でも多分だけど、はやてちゃんから聞いた話のわかる人物って言うのはこの子よね?)

 

シャマルははやてを通してヒイロから言われた人物を後ろにいるクロノであると推測はする。しかし、推測である以上、確信へと繋がることはないためシャマルは何も行動を起こせなかった。

 

(どうしよう。この子でいいのかしら。)

 

その時、思案に耽っていながらもクロノに背後を取られた時から改めて気を張り詰めたシャマルがある音を聞き取った。

それは何者かが、この屋上の地面を踏みしめる音であった。

咄嗟に音源であろう人物を脳内でシミュレートする。

シグナム、ヴィータ、ザフィーラは結界内にいるため自動的に排除。

であれば、消去法で残されるのは、例の仮面の男しかない。

 

「クラールヴィントっ!!」

 

シャマルの両手の人差し指と薬指にはめられた青色と緑色に輝く指輪が光をあげると宝石の部分が外れ、そこから出される魔力で編まれた紐のような線が指輪と繋がり、振り子となったクラールヴィントの四つの光がクロノに奇襲を仕掛けようとした人物、仮面の男に襲いかかる。

 

「何っ!?」

 

およそ気づかれるとは思ってなかったのか、はたまた援護中心であるシャマルが物理的な攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったのかは定かではなかったが、出鼻を挫かれる形となった仮面の男はクロノへの奇襲を辞め、距離を取った。

 

「・・・どういうことだ?」

 

シャマルが自分を庇ったと思われる行動をとったことにクロノはシャマルに懐疑心を露わにする。

ヒイロから予め仮面の男について警告されていたクロノだったが、よもや敵であるシャマルに援護されるとは思ってはいなかった。

 

「・・・詳しくは言えません。ですが、今回行動を起こしたのは、あの正体不明の男をこの場に誘き寄せるためのものです。」

「・・・・貴方達の仲間ではないということなのか?」

「・・・これまで幾度となく転生を繰り返してきましたが、あのような男は一度たりとも。」

 

シャマルがクラールヴィントを周囲に展開しながら仮面の男と対峙する。

クロノはその様子を少しの間見つめていたが、程なくすると軽く息を吐き、先ほどまでシャマルに向けていた『S2U』を仮面の男に向ける。

 

「つまり、今は協力してくれるということでいいんだな!?」

「目的は貴方と同じはずです。騎士として後ろから撃つということはしないことを誓います。」

「・・・・・わかった。貴方の言葉を信じます。」

 

シャマルと一時的な協力関係を持ったクロノは仮面の男に鋭い視線を向ける。

その鋭い視線を向けられ仮面の男は明らかに狼狽したような様子を見せていた。

 

「お前が仮面の男だな?その仮面の下の素顔、曝け出してもらうよ。」

「貴方の目的は分かりませんが、少なくともあの子(はやてちゃん)に取って有益になるとは思えません。最低限、その仮面は外させてもらいます。」

「くっ・・・!!」

 

 

仮面の男が狼狽えているうちにクロノは先手必勝で『S2U』を構えながら突撃し、接近戦を仕掛ける。

 

「やぁぁっ!!」

 

振り下ろされる『S2U』を仮面の男は魔法陣を展開することで防御する。

 

「この程度・・・・っ!!」

 

仮面の男はクロノの攻撃を防御しきると一度距離を取ろうとする。

 

「逃がさないよっ!!ここで捕らえさせてもらうっ!!」

 

クロノがデバイスの高速詠唱機能を用いて、自身の周囲に白銀の魔力刃、『スティンガーブレイド』を展開させると仮面の男に向けて、掃射する。

 

「援護しますっ!!風よっ!!」

 

シャマルの一声がかかるとクロノが射出した刃に緑色の風が付与される。風の力を得た刃はさらに速度を上昇させながら仮面の男に迫り来る。

 

「制御が難しくはなりますが、いけますよね?」

「その程度であれば、なんら問題はない!!ありがとう!!」

 

シャマルの援護魔法により爆発的な加速を得たスティンガーブレイドは逃げようとする仮面の男を捉える。仮面の男は再び魔法陣を張ってその身を守るが、加速を得た刃に魔法陣は徐々にひび割れていく。

 

「やはり2対1では不利か・・・!!」

 

状況を不利だと思ったのか仮面の男は懐からカードを取り出した。ヒイロからある程度仮面の男について聞いていたクロノはそれを転移して逃げるつもりなのだろうと察する。

 

「魔力刃をあの仮面の男へ向けてください!!それと、バインドの準備を!!」

 

シャマルの突然の申し出にクロノは驚いた表情を浮かべるが、反射的に動かしていたスティンガーブレイドを全て仮面の男に向ける。

 

「風よっ!!舞い上がれっ!!」

 

シャマルが魔力を込めるとクロノのスティンガーブレイドに付与されていた風の力が倍増し、ただでさえ爆発的だった加速がさらなる加速を得る。

その速度は仮面の男の魔法陣にぶつかると粉々に粉砕されてしまうほどであった。

しかし、その分威力は凄まじく、刃が粉砕されるものの仮面の男が張っていた魔法陣を打ち砕く。

 

「何っ!?」

「今ですっ!!」

「恩にきる!!」

 

クロノが『S2U』を振るうと仮面の男の足元に魔法陣が展開され、そこから相手を捕らえるためのバインドが出される。しかし、クロノが展開したバインドは少々特殊な形状をしていた。

通常であれば、バインドの形状は空間に対象の四肢や体を固定するタイプや鎖型のチェーンバインドが普通である。

だが、クロノが仮面の男に用いたバインドは先ほど挙げた二つとは違う縄状のバインドであった。

魔法名『ストラグルバインド』 このバインドはただ相手をバインドするだけではない。

 

「う、ぐぅああっ!?」

 

このバインドに縛られた仮面の男は突如として苦しみだす様子を見せる。

突然の出来事にシャマルは思わずそのバインドの発動者であるクロノに視線を向ける。

 

「・・・あまり使い所のない魔法だけど、こういう時には役に立つ。」

 

クロノは静かにそれでいて悲しそうに呟く。

努力(ストラグル)の名が刻まれたこのバインドは父を亡くしながらも努力を続けてきたクロノが自ら編み出した魔法だ。その効果は対象にかかっている強化魔法を軒並み解除させる点にある。それは対象にかかっている変身魔法も例外ではなく、しばらく仮面の男が苦しむ様子を見せていると徐々にその変身魔法が剥げてきているのか、その正体が陽の目を見るかと思ったその時、シャマルとクロノに縛り付けられるような感覚が現れる。

 

「こ、これは・・・っ!?」

 

二人に突如として青いバインドがかけられる。シャマルが動揺している様子を見せている中、拘束されている仮面の男の側に全く同じ姿形を持ったもう一人の仮面の男が降り立った。

現れた男は拘束されている仮面の男のバインドを破壊すると、すぐさまクロノとシャマルから離れていった。

 

「・・・・追わないんですか?」

「・・・逃しはしないさ。だけど、あの二人相手だと僕じゃ少しばかり力不足だ。情けないけど、彼女らは僕の師匠なんだ。」

 

シャマルの問いかけにクロノが乾いた笑顔を浮かべる。正体がおよそ分かっているかのような口ぶりにシャマルは怪訝な表情を浮かべる。

 

 

『・・・・・苦戦しているようだな。』

 

突然結界内にいるはずのヒイロからウイングゼロの通信機能を介して、クロノに念話という形で通信が入る。ヒイロの自分達の現在の状況を把握している口ぶりにクロノは一抹の期待を寄せながら質問する。

 

「・・・君、この状況が見えているのかい?」

『・・・一応な。だが、俺がいるのはお前と正反対のところだ。手を届かせるのは無理だ。』

 

期待をかけたつもりだったが、それは叶わなかった。ヒイロの言葉にクロノは少々残念そうな表情を浮かべる。

 

「そうか・・・ならまたの機会にするよ。正体はわかったからね。」

『・・・俺は手が届かないと言っただけだぞ?』

「え・・・?」

 

 

 

「・・・今から奴らを狙撃する。」

『えっ!?ちょっとまーー』

「防御魔法と回復魔法を用意しておけ。奴らを現行犯で捕らえる必要がある。さらに言えば死んでもらっては困るからな。」

 

それだけ伝えるとヒイロはクロノとの念話を強制的に終了する。

ヒイロはクロノがいるポイントとは正反対の結界の端にいた。できる限り仮面の男を油断させるためだからだ。

ヒイロはその右手に身の丈程ある無骨なライフル銃、『バスターライフル』を手にして、照準をクロノ達がいる方角へと向ける。

その照準に迷いなどは微塵もなかった。

 

「ゼロ、奴らの動きを追え。」

 

ゼロシステムを起動し、仮面の男の動向を見る。ゼロが見せる未来に基づいて、ヒイロはバスターライフルの銃口を僅かにずらす。

 

「俺にははっきり見える。俺の敵が。」

 

ヒイロは少し目を閉じるとすぐさまゆっくりと瞼を開ける。

 

「現空域にいる全ての魔導士に告げる。忠告は一度きりだ。よく聞いておけ。直ちに戦闘を中止し、射線を開けろ。従わないのであれば、命の保証はしない。」

 

結界内にいるなのは達とシグナム達守護騎士にそう告げるとヒイロは静かに視線の遥か先にいる仮面の男に照準を向ける。

 

「ターゲット確認。目標、ギル・グレアムの使い魔、リーゼロッテおよびリーゼアリア。」

 

バスターライフルの銃口から光が輝き始める。その光は徐々に大きくなっていきーー

 

「攻撃開始……!!」

 

ヒイロがバスターライフルのトリガーを引くと銃口から山吹色の閃光がほとばしる。

その光は戦場と化した海鳴市の空を一直線に貫きながら目標へと飛んでいく。

 




最初に言っておきますが、猫姉妹はとりあえず死にません。
死ぬほど痛い思いはしてもらいますが(暗黒微笑)


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第17話 リーゼ姉妹、閃光に散る

散る(散るとは言っていない)


「・・・・・・・。」

 

中々唐突な話だが、ヒイロは現在、修羅場の真っ只中に放り込まれていた。

アパートの冷たいフローリングの上で正座させられているヒイロ。フローリングの冷たい感覚が足を伝ってくるが、過酷な任務をこなしてきたヒイロにとってはどうということはなかった。

 

視線を軽く周囲に向ければ、どうしたらいいのかわからないのか終始オロオロした様子を見せるなのはとフェイト。余談だが、アルフも子犬モードでフェイトの足元でプルプルと震えている。

それと、目のハイライトが消え失せ、死んだ魚のような目をしながら部屋に映し出されるディスプレイに現実逃避するように見入っているエイミィ。

 

『ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ』

 

部屋の隅からそんな音が響き、視線を向けるとその先にいた人物達は『ピィッ!?』と情けない声を出しながらお互いの肩を抱き寄せながら身を縮みこませている。

その人物達とはグレアムの使い魔であるリーゼロッテとリーゼアリアだった。二人はヒイロに対し、まるで悪魔やら魔王やら、ともかく恐ろしいものを見ているかのような涙目と怯えきった表情で震えていた。

そして、ヒイロが視線を自身の正面に戻すと仁王立ちしているリンディとクロノの姿があった。

 

クロノは明らかに怒っている様子だったが、リンディの方は笑顔であった。

だが、目が笑っていないことを鑑みるにリンディも怒ってはいるのだろう。纏っているオーラがいつものリンディとはかけ離れていたというのもあった。

 

「ヒイロ君?」

 

リンディの冷え切った声が雰囲気が凍りついた部屋の中で妙に良く響き渡った。

ヒイロはそれに表情を変えずに視線を返すことで答える。

 

「貴方、今回何をしでかしたか、分かってる?」

 

張り詰めた空気の中、リンディがヒイロに問い詰める。

ヒイロは特に表情を浮かべることはなく、意にも介していないかのように自分の行動を説明し始める。

 

時間はヒイロが仮面の男、もとい、リーゼロッテとリーゼアリアにバスターライフルを撃った時間に遡る。

ヒイロがバスターライフルを放った直後の結界内では、それぞれが困惑の様子を浮かべていた。

 

 

(ヒイロさん・・・?さっきの通告は一体・・・?)

 

シグナムも一度構えを解いたため、自然とフェイトも戦闘態勢を解除する。

突然の戦闘中止の忠告と射線を開けろという謎の勧告にフェイトは困惑気味な表情を浮かべていた。

どうしようかと思い悩んでいるとーー

 

『Sir!!高エネルギー体が接近中!!今すぐそこから離れてください!!』

「バ、バルディッシュ?わ、分かった。とりあえず離れればいいんだね?」

 

バルディッシュの急な警告に驚きながらもフェイトは一度その場から距離を取った。シグナムもバルディッシュの警告を聞いたのか、フェイトと同じようにその場から離れた。

フェイトが何事かと思って周囲を見渡す。

ふと視界にそこらの星より一際輝く光が一瞬見えたと思えば、先ほどまでフェイトとシグナムが戦っていた付近を山吹色のビームが駆け抜ける。

そのビームの出力は見るからにとても高い。フェイトはなのはのディバインバスターを彷彿とさせるビームの行き先を追った。

 

そのビームは結界の張られた海鳴市の空を一直線に駆け抜けていく。そのまま行くと管理局員が張った結界の端に到達する。普通であればビームが弾かれるなりなんなりの抵抗を見せる結界。

だがそのビームはその結界に阻まれるどころか、壊れる音すらも立たせずに結界にポッカリと穴を作り出した。

 

「け、結界が・・・!?」

(今のビームは一体どこから・・・!?いや、あのビームはヒイロさんの警告のあとに飛んできた。なら、あのビームはヒイロさんが撃ったもの・・・?)

 

思いもよらない結果にフェイトは思わず驚きの声を零した。

結界が突如として現れたビームに貫通されたことは別の場所からなのはとアルフも見ていた。

 

「い、今のは一体・・・!?」

「ちっ!!なんちゅうトンデモをやらかしてんだよ、アイツはっ!!あんなのに巻き込まれたらアタシらでも無事じゃすまねぇぞ!?」

 

 

「一体なんなんだい・・・?あれ。」

「・・・・よもやあれほどの威力を誇るものが魔力もなしで撃ててしまうとはな・・・。」

 

アルフとザフィーラは先ほどまで交えていた拳を止めながら未だ目標に向かって飛翔を続けるバスターライフルの光を呆然と見つめていた。

 

 

 

 

「とりあえず、あの人の言う通りにするしかないか!!」

 

クロノはヒイロが無理やり通信を切ったことに苦い顔をしながらも自身の周囲にプロテクションを展開する。

程なくしないうちに結界を貫いたバスターライフルの光が見えてくる。

 

「こ、これはっ!?」

 

仮面の男は自身に迫り来る爆光に気づくと自身の周囲に渦のようなプロテクションを展開する。

しかし、そのバスターライフルのビームは仮面の男を飲み込むことはなく掠めるような形で夜空へと向かっていった。

 

「は、外した・・・?」

 

クロノが疑問気な表情を浮かべるが、それはすぐさま驚愕へと変わっていった。

仮面の男が張っていた渦のようなプロテクションが音を立てて破壊される。

 

(か、掠めただけで、あのプロテクションを破壊したのか!?)

 

クロノが見ただけでも、仮面の男が、いや自身の師匠であるリーゼロッテが張ったプロテクション、『ホイールプロテクション』の強度は並の魔導士ではたどり着くことができないほどの強度はあった。

だが、およそヒイロが放ったと見られるビームはそれを掠めるだけで突破する。

それどころか、ビームが掠めたリーゼロッテにさらなる異変が訪れる。

 

「うっ、ぐっ・・・・ああああああああっ!?」

 

リーゼロッテの体から突如として炎が上がる。それはリーゼロッテを包み込むと焼き尽くさんと言わんばかりの火力で彼女の体を焼いていく。

炎に焼かれたからか、変身魔法が強制的に剥がされ、仮面の男から特徴的な猫の耳と尻尾が生えた本来の姿に戻ると火だるまの状態で墜落していく。

 

「なっ・・・!!ロッテ!!アリアっ!!」

 

悲痛な状態へと成り果てた彼女らに向けて悲痛な声をあげながらクロノは彼女らの元へ駆け寄る。

 

「これは、私も向かった方がいいのでしょうか・・・?」

『シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、俺が開けた穴から結界を脱出しろ。』

 

シャマルは回復魔法が使えるため、一応クロノを追おうとする。その時にヒイロから念話で通信が入った。

なるほど、先ほどのビームはそのためでもあったのね。シャマルはそう思いながらクロノを追う。

 

『シャマル。お前も撤退しろ。』

「ありがとう。だけど、私にはやることがあるから。」

 

シャマルがそう言うとヒイロは考え込むように少しの間押し黙った。

両者の間で沈黙が走るがーー

 

『・・・了解した。だが、闇の書を持っているお前が捕らえられればこの作戦をやった意味がなくなるのを忘れるな。』

 

ヒイロはそう言うとシャマルと念話を切った。

シャマルは軽く笑みを浮かべるとクラールヴィントに向けて何かを呟く。

次の瞬間、バスターライフルの余波に当てられて重傷を負ったリーゼアリアとリーゼロッテの周囲を柔らかな風が包み込む。

一瞬、シャマルに鋭い視線を送るクロノだったが、彼女らを包み込む柔らかな風の正体が回復魔法の類だと気づくと、ホッとしたように表情を緩ませる。

みるみるうちに二人の傷口が塞がっていき、最終的には傷痕すら残さず完治した。

クロノは二人の傷を治してくれたことにシャマルに向けて感謝を述べようとする。

しかし、それよりも早くシャマルが軽く一礼をすると予め発動させておいた転移魔法を用いて、現場から飛び去っていった。

クロノは捕縛対象を逃してしまったこととその捕縛対象に知り合いを助けられてしまったことに微妙な表情をしながらリーゼロッテたちの元へと向かった。

 

 

 

「・・・・わかった。すまんがテスタロッサ。今回はここまでだ。」

「・・・・・貴方をここで逃すわけには行きません。」

 

ヒイロからの念話を聞いたシグナムがレヴァンティンを鞘に収めると転移魔法を起動する。

フェイトはシグナムの行動に怪訝な表情を浮かべながらも追撃するためにバルディッシュを構え、バインドを展開しようとする。

 

『Schlangeform!!』

「お前との戦いは久々に心躍るものだった。余程の鍛錬を積んだか、もしくは良き師に教えを請うたのだろう。」

 

そういいながらフェイトより早くシグナムは鞘からレヴァンティンを引き抜く。しかし、その刀身はさっきまでフェイトと斬り結んでいたものとは打って変わり、まるで蛇のように連結した極大の長さを誇る蛇腹剣へと姿を変えていた。

刃と刃がワイヤーのようなもので繋がり、変幻自在となったレヴァンティンの刀身がフェイト目掛けて一直線に飛んでくる。

 

「くっ!?」

 

今まで見せてこなかった攻撃、それも奇襲の形で使われたフェイトは魔法陣を展開して防御するのが精一杯だった。

そして、気づいたときにはシグナムは既に転移魔法の準備を整え終えていた。

 

「・・・やられた・・・。」

 

赤紫色の光の塊となってどこかへ飛び去っていくシグナムを見ながらフェイトは悔しげに言葉を漏らすのだった。

 

 

 

「ん、了解っと。てことはアタシらの役目も終わりか。」

 

シグナムと同じようにヒイロの撤退を聞いたヴィータが徐になのはの方に視線を向ける。展開していたパンツァーヒンダネスもなのはのアクセルシューターと何回かぶつかり合ううちにヴィータのパンツァーヒンダネスが先にひび割れ、そして破砕された。ヴィータは正直言ってなのはの実力に舌を巻いていた。

なのははヴィータのその様子に少しばかり疑問を感じるが、口には出さずに警戒心だけを強める。

 

「ヴォルケンリッター、鉄槌の騎士、ヴィータだ。お前の名前・・・えっと、タカマチ・・・ニャノハ?だっけ。」

「なのはだよっ!?」

 

名前を間違えたことをなのはに指摘されるとヴィータは恥ずかしそうに顔を赤らめながらハンマーを肩に担ぐ。

 

「う、うるせっ!!お前の名前覚えづらいんだよ!!」

 

なのはに怒鳴りつけながらヴィータは光弾を生成する。なのははまたハンマーで殴りつけることで誘導弾を発射すると思って身構えた。

 

「アイゼンゲホイル!!」

 

先ほどとは違う名前の魔法、なのはがそれを聞いた時には既にヴィータのハンマーは光弾に打ち付けられていた。そこから出たのは誘導弾ではなく、なのはの視界を覆い潰すほどの爆光と思わず耳を塞ぎたくなるほどの轟音であった。

 

「っ!?」

 

思わず目 瞼を閉じ、耳を塞いでしまうなのは。光と音が止み、塞いでいた感覚器官を再び開くとヴィータの姿は既にそこにはなかった。

 

「探して、災厄の根源を。」

 

なのははヴィータがいなくなったことを確認すると、すぐさま詠唱を行い、自身の周囲に魔力で作り出した『サーチャー』と呼ばれる探査端末を展開する。

 

(・・・・あの子・・・ヴィータちゃんはどう出てくる?目くらましを使ったってことは奇襲とかありえるけどーー)

 

サーチャーを周囲に飛ばしながら同時進行でなのははヴィータの次の行動を予測する。

様々な奇襲が予想されるが、なのははふとヴィータの発言が引っかかった。

 

(・・・ヴィータちゃんは自分達の役目は終わったって言っていたよね・・?ということはこれ以上ここにいる必要はないってことだからーー)

 

なのはの思考がそこまでたどり着き、全てのサーチャーを隠れられそうなところに向かわせる。ビルの隙間や影、なのはが隠れられると判断したところへサーチャーが向かっていく。

 

しかし、なのはの探索も及ばず、とあるビルの隙間から転移魔法を発動させたヴィータが飛び去っていく様子をなのははただ見ているしかなかった。

 

 

 

 

(シグナム、ヴィータ両名の結界からの離脱を確認。ザフィーラもうまくアルフからの逃走が成功したようだ。シャマルも問題ないだろう。)

 

ヒイロはシグナム達の様子を整理しながらおおよその任務は完遂できたことを確認する。

 

(目標であるリーゼ姉妹の捕縛も成功した。任務完了・・・・か。あとはギル・グレアムの説得か。)

 

ヒイロが次の目標であるギル・グレアムに関してどういうプランで行くべきかを考えているとリンディから通信がかかる。

 

「・・・なんだ?」

「ちょっと拠点まで来てくれる?」

 

リンディにしては珍しくあまり声にいつもの和やかな雰囲気が感じられないと思ったヒイロだったが、応じないわけには行かなかったため、拠点へと赴く。

拠点に戻ったヒイロは何故かリンディに正座を強要された。

 

 

 

 

 

「・・・・以上だ。守護騎士を逃したのは結界を破壊するほどの攻撃をした俺のミスだ。」

「・・・・守護騎士を逃しちゃったのはまぁ、仕方ないとして、私が問題だと思っているのはその結界を破壊するほどの攻撃なのよねぇ・・・。非殺傷設定も為されていないようだし・・・。」

 

リンディがそう質問しながら部屋の隅でガタガタ震えているリーゼ姉妹に視線を向ける。彼女らは管理局では有数の使い魔のコンビだ。それこそ、管理局内では知らない者はいないほどと言われている実力の持ち主だ。そんな彼女らが歯の根も合わないほど表情を恐怖に染めあげるほどの威力、恐怖が一転して興味へと置き換わっていた。

 

ヒイロはリンディの質問には頷いた。しかし、そのことを話そうとするが、リーゼ姉妹の方に視線を向けながらリンディに言葉を返す。

 

「非殺傷設定は確かにない。武装のことを話そうとすると、どうしてもグレアムの使い魔が邪魔だ。よって話すことはできない。」

「貴方ならそういうわよねぇ・・・。ねぇ、貴方達、グレアム提督が何をしようとしているの?」

 

ヒイロの対応に仕方ないとため息を吐きながらリンディはリーゼ姉妹に視線を向ける。

予めゼロシステムによるヒイロからの警告でグレアムが何やらキナ臭い動きをしているらしい程度の認識でしかなかったが、こうして本当に姿を隠してまでグレアムの使い魔であるリーゼ姉妹が暗躍しようとしていた事実には驚きを隠せなかった。

 

「・・・・・提督は絡んでないよ。全部あたし達が勝手にやったことだから。」

 

リーゼロッテがリンディから視線を背けながら呟いた。リンディは困ったような表情を浮かべるとリーゼアリアにも視線を向ける。

しかし、こちらも仏頂面を保ったままで話そうともしてはくれなかった。明らかにしらばっくれている態度にヒイロは少しばかり眉を顰める。

 

「・・・こっちとしても手荒な真似はできない。しょうがないけどここはグレアム提督に直接聞くしかないかな・・・・。」

「・・・その方がコイツらを相手にするよりは断然早いだろうな。」

 

クロノの言葉にヒイロが呆れた口調で賛同する。その様子に姉妹は少しばかり狼狽した様子を見せ出した。

 

「まぁ、ね。その方が早いかもしれないわ。ちょうど私にもそろそろアースラの試験運航の要請が来ているだろうから本局に出向かないといけないし。その時にでも提督の真意を確かめに行きましょうか。・・・あの人の人柄的に闇討ちとかはしないと思うけど。」

 

リンディの一声で翌日、本局に出向き、グレアムに直接真意を確かめることになった。しかし、リンディは『でも』とつけるとヒイロに視線を向けて言い放つ。

 

「貴方はしばらく謹慎ね。」

 

謹慎、つまるところ自宅にいろという指示であった。ヒイロが少しばかりムッとした表情を浮かべているとリンディから説明が入った。

 

「彼女らが敵対行動を取っていたとしても、いくらなんでも流石にあれはやりすぎよ。一歩間違えればバリアジャケットがあったとはいえ死んじゃうところだったんだからね。」

「当たり前だ。コイツらに死んでもらっては後が困る。だから出力を結界を突破できる程度に抑えた上でわざと外したんだ。」

 

「・・・・嘘、あれで出力抑えていたの・・・?」

「それにあの結界の端から端のさらにその先にいたターゲットを捉えた上でわざと外す・・・?」

 

なのはとフェイトが驚きの声を上げている中、リンディが困り果てた様子で頭を抱えながらヒイロに再度告げる。

 

「とりあえず、貴方は謹慎ね。それはよくわかった?」

「了解した。グレアムの方はお前達に任せる。」

 

リンディはヒイロが本当によくわかっているのだろうかとすごく疑問に思ったが、追及してもヒイロが答えることはないと判断し、その場は収めることにした。

 

 

 

そして、その日から物語の歯車は急速に加速する。まるで、これまで足りなかったものを補うかのようにーー

 

はやてが寝つき、他の守護騎士も睡眠を取った深夜、闇の書が怪しく紫色の光を放つ。

守護騎士達の記憶からも零れ落ちた夜の誓い(ナハトヴァール)をヒイロはまだ知らない。

 





さて、As本編も佳境を迎えそうです・・・。


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第18話 破滅へのシナリオ

お、思ったより長くなってしまった・・・・。
一万字を超えたのはすごく久しぶりな気がする・・・。


リンディから謹慎を言いつけられたヒイロ。しかし、謹慎とは言うものの自由は保証されており、エイミィかそのあたりに言えば出かける程度は許されるほどの名ばかりのものだった。というか、ヒイロが同行しようとするともれなくリーゼ姉妹のトラウマスイッチが作動してしまい、同行どころではなくなってしまうため、むしろあたり前の処置であった。

 

クロノはリーゼ姉妹を連れて本局へ、リンディはアースラのメンテナンスが完了したため、その試験運行のためにクロノと同じように本局へと向かった。

そんなこんなで家の中にはエイミィとフェイトしかいなくなった拠点の中でヒイロはリンディから代理司令を任されたエイミィに出かける許可をもらい、必要なものを買ってきた。

 

「おかえりー。買い物って何買ってきたの?」

 

手に袋を携えて戻ってきたヒイロにエイミィが疑問に思い、尋ねた。ヒイロは袋を床に置くと入っていたものを取り出した。

その取り出したものにエイミィは余計に疑問気な表情を強めた。

なぜならヒイロが取り出したのは綿だったからだ。

 

「えっと、どうして綿?」

「必要だからだ。」

 

ヒイロはエイミィの疑問気な表情をスルーしてソファに腰掛けると今度は袋からまた別のものを取り出し、机に設置する。

 

「ん〜〜〜〜〜?」

 

その机に置かれたものにエイミィは首を傾げながらさらに疑問気な表情を強めた。

それは一般的に『裁縫セット』と呼ばれる代物であった。ヒイロはその裁縫セットの鞄から裁ちばさみを持つとこれまた袋から取り出したモコモコのファーがついた布を裁断していく。

 

裁縫道具、綿、そしてモコモコのついたファー。

これらのヒントを持ってエイミィの脳内であるものが組み立てられる。

 

「もしかして、ぬいぐるみでも作るの?」

 

エイミィがそう尋ねるとヒイロは作業を行いながら無言で頷く。

それをみたエイミィは目を輝かせながらさっきまでの疑問気な表情を消しとばすかのように興味深々にヒイロの作業を見つめていた。

ヒイロは手慣れた手捌きではさみで布から必要なサイズを切り取るとパーツとパーツを針で縫い付ける。パーツの縫合が完了するとできたパーツに綿を詰め込む。綿を詰め込まれた部分は徐々に丸くなっていき、最終的に楕円型の球体へと姿を変える。

その楕円形の球体にヒイロは別で作っておいた小さな半月型のパーツを右と左、左右対称になるようにそれぞれ取り付ける。それをつけられたことにより、半月型のパーツは『耳』、球体は『頭』の意味を持った。

 

頭が作られたのであれば次は胴と手足である。同じように布から裁断し、綿を敷き詰めて、胴と手足のパーツを数十分ほどでヒイロは作り上げる。

 

「早っ・・・?あっという間にできちゃった・・・。」

 

エイミィの驚嘆する声にヒイロは気に留める様子すら見せずに袋を弄り、今度はプラスチック製の1㎝ほど半分に切り落とされたような黒い球のパーツを取り出した。

 

再度頭のパーツを手にするとその半球型の黒いパーツを頭に取り付けていく。黒いパーツは全部で三つ取り付けたがそのうち対称に置かれたのが『目』でその下に取り付けたのが『鼻』だ。ヒイロはさらにその鼻の下に糸でカモメを逆さまにしたような形を作り出す。鼻の下につけたのであれば、それは十中八九『口』であろう。

こうして出来上がった頭部と胴体や手足といった四肢を合体させていくと机の上に一つのクマのぬいぐるみが出来上がった。

 

「わぁ〜!!可愛いー!!」

 

小一時間ほどで出来上がった代物だが、出来栄えはそこら辺で売られているぬいぐるみを凌駕しているヒイロ手製のテディベアにエイミィは感嘆の声を唸らせる。

 

「ヒイロ君って裁縫とかできたんだね!!」

「どこへ潜伏しても怪しまれないようにな。それも訓練の一環だった。それだけだ。」

「いやいや、これ普通にお店で出せるレベルだよ!!」

 

「エイミィ?そんなに大きな声を出して、何かあったんですか?」

 

そんなヒイロとエイミィのやりとりを聞いていたのか、フェイトが自室から顔を出した。

エイミィはフェイトを部屋から連れ出すとヒイロが作ったテディベアを見せ、感想を尋ねる。

 

「これ・・・ヒイロさんが作ったんですか?」

「ああ。」

 

「可愛い・・・・」

 

ヒイロが作ったテディベアをじっと見つめながらボソッと口に出した感想をヒイロは聞き逃さなかった。だからといって追及するようなことはしなかったが。

 

「・・・・これ、何のために作ったんですか?」

「あ、それもそうだね。そもそも急にぬいぐるみを作ってどうしたの?」

「・・・・・礼だ。」

 

ヒイロの返答に二人は首を傾げた。ヒイロの端的すぎる言葉にどう返答すればいいのかよくわからなかったのだ。

 

「礼って・・・お礼、ですか?」

 

フェイトの質問にヒイロは頷いた。誰へのお礼なのかはわからないが、これはヒイロがその人に対するお礼として作った品物なのだ。

そのことを認識したフェイトはーー

 

「そう・・・ですか・・・。」

 

彼女自身、気づいてはいなかっただろうが、ヒイロには明らかに残念がっているように聞こえた。理由を考えるよりも早く、フェイトが残念がった理由を直感的に理解する。

 

「・・・・欲しいのであれば、お前にやる。」

「えっ!?い、いえ、私、欲しいなんて一言もーー」

「お前の顔に出ていた。分かり易すぎるほどにな。」

「あ、いや、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」

 

ヒイロはテディベアを手にするとフェイトにテディベアを押し付ける。押し付けられたフェイトは困惑顔になりながらもヒイロを呼び止める。

 

「・・・なんだ?」

 

ヒイロがそう聞くとフェイトは気の引き締まった表情をしながらヒイロにテディベアを大事そうに手に抱き抱えながら差し出す。

 

「・・・これは、ヒイロさんが誰かに対するお礼として作ったものですよね。私自身、欲しいとは思っていませんけどやっぱり受け取れません。ヒイロさんが渡したいと思っている人にあげてください。」

 

ヒイロはフェイトのその様子に軽くため息をつくと自身の後ろを指差した。エイミィも少しばかり気まずそうな様子を醸し出しているのも相まってフェイトは怪訝な表情を浮かべる。

 

「お前の視界にアレが写っていないのであれば、お前の目はかなり節穴だな。」

 

ヒイロにそう言われ、少しばかりムッとしたフェイトはヒイロの指差した方向を凝視する。その先にはヒイロがテディベアを作る時ために買った材料があった。その量はフェイトが持っているテディベアと同じサイズのを作るのであれば材料が事足りる程の量はあった。

 

「えっ・・・・あ・・・・・。」

「えっとね、フェイトちゃん。あんなこと言っていたから凄く言いづらいんだけど。」

 

不機嫌から一転、困惑顔に表情を変えながらオロオロし出したフェイトにエイミィは生暖かい目を向けながら言い放つ。

 

「材料は結構残っているからもらっちゃっていいと思う、よ?それこそヒイロ君、そのサイズ作るのに一時間もかかっていなかったから・・・。」

「あ、えっと、その・・・・。」

 

気を使ったつもりがむしろヒイロからの好意を無下にしていたことに気づいたフェイト。

恥ずかしさと申し訳なさが彼女の感情バロメーターを支配していく。そして、その二つが振り切った瞬間ーー

 

「ご、ごめんなさいっ!!!」

 

とヒイロに謝罪の言葉を言いながら部屋へと駆け込んでいくフェイト。彼女の部屋のドアがバタンっと思い切り閉められる音が響いた後、ヒイロとエイミィは取り残された空間で黙りこくっていた。ヒイロは特にエイミィに何か話しかけることはなく、その場をあとにしようとする。

 

「あ、ちょっと待ってヒイロ君っ!!」

 

苦笑いを浮かべているエイミィに呼び止められたヒイロは顔だけエイミィの方に向ける。

 

「・・・・他に何か、できることとか、ある?」

 

それは場の居た堪れなさにエイミィが困り果てたすえに出たその場凌ぎの言葉であった。ヒイロがどう返すかは一切考えていない、まさに繋ぐだけの言葉。

 

「・・・掃除、洗濯、炊事といった一般家庭で行われる家事は一通りできる。」

「え、なにそのハイスペック。いつでも嫁に行けるレベルじゃん。」

 

予想すらしていなかったヒイロの言葉にエイミィは目を丸くするのだった。

 

「・・・料理、手伝ってとか言ったら手伝ってくれる?」

「了解した。」

 

 

 

「も、もらっちゃった・・・・。」

 

背中をドアにつけながらヒイロからせがんでしまったようにもらったテディベアを抱き上げるフェイト。

テディベアはお店で売られているような出来栄えで、とてもではないが人の手で作り上げられたものとは思えない。

 

「ヒイロさんの手作り・・・・。」

 

フェイトには何故かヒイロの手作りだと言うことが妙に心の中に引っかかる感覚を覚えた。皆目見当がつかないことだったので、そんな心のモヤモヤするような、はたまたときめくような感情を置いておくことにした。

 

「・・・・・柔らかい・・・・。」

 

フェイトはそのテディベアを顔を埋めるように抱きしめた。テディベアの中に詰まったモコモコな綿と柔らかなファーがフェイトになんとも言えない心地よさを与える。

 

「〜〜〜〜〜♪・・・・・・はっ!?」

 

自身の表情筋が緩みきっていたことに気づくと恥ずかしさに耐えきれずフェイトは自分のベッドへ向かって飛び込んだ。

飛び込んだベッドの上で恥ずかしさを搔き消すかのようにしばらくベッドの上で転がっていた。

なおその時でもヒイロからもらったテディベアをひとときも手放さなかったのは彼女のみぞ知ることである。

 

 

 

次の日の朝、エイミィと共にヒイロが朝食の支度をしているとフェイトがリビングに現れる。

しかし、その様子はどこかよそよそしい様子だった。見かねたエイミィがフェイトに声をかけようとするが、フェイトはそれを手の平をエイミィに向けることで制止させる。

フェイトのその視線は安全のため火元を見ているヒイロに注がれていた。

 

「あの・・・昨日は強請るようにぬいぐるみを頂いてしまって、ごめんなさい。」

「・・・・元々材料は多めに買っていた。お前が気にする必要性は微塵もない。」

 

頭を下げ、昨日の謝罪をしてきたフェイトにヒイロは特に視線を向けることなく言葉を投げかける。

ヒイロは一度キッチンから離れるとリビングへと歩いて行く。

 

「だけどーー」

 

フェイトが頭をあげながら話そうとした言葉は出てこなかった。

頭をあげたフェイトの目に映り込んで来たのは何やら茶色い物体のようだった。

 

「っ!?」

 

咄嗟にそれを掴むフェイト。恐る恐る投げつけられたそれを見ると、それは昨日フェイトがもらったものとデザイン性が大差ないテディベアであった。

フェイトは訳がわからないと言った様子でテディベアを投げつけた主であろうヒイロに困惑気味な視線を向ける。

 

「・・・なのはの分だ。本命のついでに作っておいた。学校でもどこででも構わんが、渡しておけ。」

「え、・・・あ、はい・・・。」

 

たどたどしい口調になっている彼女を置いておいて、ヒイロはコンロの上で加熱していた料理をそれぞれの皿に盛り付ける。

 

「できたぞ。さっさと食事を済ませろ。学校に遅れても知らんぞ。」

「あ・・・うん。」

 

ヒイロに流されるままにフェイトは席に座り、ヒイロとエイミィが作った朝食を食べ始めた。

 

「・・・そのテディベア、いつ作ったの?」

「お前達が寝た後だ。」

 

エイミィにそう返したヒイロは彼女の方に顔を向けると思い出したかのように話しかける。

 

「・・・午後から出かけるが、問題はないか?」

「え?うん。大丈夫だと思うけど・・・。」

「そうか。」

 

エイミィから外出の許可を得たヒイロは椅子に腰掛け、朝食を取り始める。

 

「・・・外出って、どこに行くんですか?」

 

口に入れていた料理を飲み込むとフェイトはヒイロに外出の理由を尋ねる。

エイミィも『あ、それ気になってた』とフェイトの質問に乗っかる形で同じようにヒイロに尋ねる。

 

「・・・・少しばかり図書館にな。」

「図書館・・・?もしかして風芽丘図書館ですか?」

 

フェイトの言葉にヒイロは少しばかり驚いた表情を浮かべる。咄嗟にフェイトがなぜヒイロが行っている図書館のことを知っているのか考える。

確信が得られていないような口ぶりからヒイロの行動をフェイトが把握しているとは考えにくい。

ならば、可能性としてあげられるのは知り合いかだれかがその図書館へ赴いていると言うことであった。

 

「・・・知り合いか誰かがその図書館へ行っているのか?」

「すずかちゃんがよく行っているんです。それと、最近車椅子の女の子と友達になったって言ってました。」

 

フェイトの言葉にヒイロは少しばかり眉を顰める。すずかが知っているのであればフェイトがその図書館の存在を知っていてもなんら不自然はないが、車椅子の女の子、この言葉がヒイロが眉を顰めた要因に他ならない。なぜならそれははやてのことを指しているのに他ならないからだ。

 

「確か、はやてちゃんだったかな。その車椅子の女の子の名前は。」

 

ヒイロが変に悟られないようにフェイトに質問しようとする前にフェイト自身が嬉しそうな表情をしながらはやての名前を挙げた。

そのことにヒイロは内心やはりかと当たって欲しくなかった予感が的中してしまったことを少しばかり警戒し、はやてがヒイロのことを話していないかをフェイトの言葉を注視する。

ふとエイミィの方に視線を向けてみるとフェイトの様子に彼女はフェイトが学校を楽しんでいることを喜んでいるのか相槌を打ちながらフェイトの話に聞き入っている。

しばらくフェイトの話を聞いていたが、それらしい言葉が出てこなかったことを鑑みて、はやてはすずかに自身のことを話してはいないのだろうと断定した。

 

 

 

 

キッチンとリビングが組み合わさったダイニングキッチンにトントンと小刻みの快音が響く。

まな板の上で切った野菜を丁寧に盛り付けるとその切られた野菜は綺麗な彩りを持ったサラダへと姿を変える。

 

「みんなー、朝ごはん出来たでー。」

 

はやてが朝食を作り終えたことを知らせると彼女の騎士であるシグナム達が徐に席につき始める。シグナムは読んでいた新聞を置き、シャマルははやての手伝いをしていたのか身につけていたエプロンを外し、ザフィーラは狼の状態で自身の器である犬用の餌やりプレートの前で腰を下ろす。ヴィータは寝巻き姿のまま、まだ眠たそうに目をこすりながら部屋から出てくる。

 

「もう、ヴィータちゃんったら。 顔を洗ってきなさい。」

 

見かねたシャマルがそう促すと少々足取りが重いながらも洗面台へと向かうヴィータ。

そのまるで家族のようなシャマルとヴィータのやりとりをはやては笑顔を浮かべながら眺めていた。

両親を早くに亡くした彼女にとってヴォルケンリッターら四人の存在はまさに『家族』といっても過言ではなかった。

いつまでもそんな光景が続いていくのだろう。そう思っていたーーー

 

「ーーーッ!?」

 

はやては自身の左胸、正確に言えば、心臓に突如として疾った激痛に思わず腕で胸を押さえる。

 

「・・・主?どうかしましたか?」

「・・・う、ううん。大丈夫やから・・・。悪いけどサラダ持ってくれへんか?」

「わ、わかりました・・。」

 

はやての異常にいち早く気づいたシグナムが疑問気に彼女に尋ねる。

しかし、彼女の引きつった笑みに添えられた頼みに騎士としてかそのお願いに実直に従ってしまう。

はやてはいつも通りにすぐに収まると思って車椅子の上で自分の心臓を抑えるかのように深呼吸する。

 

そして、はやての心臓がドクンっと明らかに大きな音を立てて鼓動すると、彼女の様子に明確な異常が現れる。

 

「ッーーーァッーーーハッーーー!?」

 

痛みが治まらない。それどころかいつも以上に酷く、胸を締め付けるかのようにはやての心臓が悲鳴をあげる。明らかにいつもと違う感覚にはやては目を見開きながら痛みに耐えようとする。

だが、その痛みはおよそ小学生の身に耐えられるものではなく、はやては車椅子から倒れるように崩れ落ちる。

 

「ッ!?主っ!?」

 

シグナムははやてが倒れると彼女が丹精に作ったサラダを床にぶちまけながらも彼女に駆け寄る。

すぐにザフィーラやシャマル、そしてヴィータが駆けつけ、はやての身を案じる。

 

(あ、あれ・・・?おかしい・・・な。いつもやったら、すぐに収まるはずやなのに・・・)

 

はやては痛みにより薄れゆく視界の中でシグナムがシャマルに何か指示を出したりしている様子を目にする。

おそらく救急車か何かを呼ぼうとしているのだろう。

はやてはそれを見ながらおよそ似つかわしいとは思えない笑みをこぼす。

 

(ああ・・・よかった。騎士のみんながこの世界に馴染んでくれてーー)

 

はやてはそのまま痛みに耐えかねて意識を暗闇の底へと落としていった。

 

 

 

 

 

「・・・・闇の書を破壊するなり何をするにしてもその無限再生機能が厄介だな。」

「そうなんだよねぇ・・・。傷を負った内から再生が始まるからもたもたしているとあっという間にダメージが全快されちゃうよ。」

 

ヒイロは学校へ登校するフェイトを見送った後、エイミィに頼んで、管理局が分かっている限りの闇の書に関することを教えてもらっていた。

闇の書が持っている機能は主に魔力の蒐集、主が亡くなった時に発動する転生機能、そして無限再生機能の三つだ。

前者二つはリンカーコアがないヒイロにとっては関係ない。だが、最後の一つの無限再生機能が文字通り、ダメージを与えたところで再生されてしまうため厄介極まりない。

 

「手段としては闇の書の回復スピードを上回るレベルのダメージを迅速に叩き込むか、そもそもの無限再生を機能停止させるかだが・・・。」

「なのはちゃんとフェイトちゃんの同時攻撃でも難しいかな〜・・・。」

「・・・・なのはは砲撃魔術師としていいが、フェイトもそれほど高火力な魔法を持ち合わせているのか?」

 

ヒイロがそう尋ねるとエイミィは何か納得したような表情を浮かべるとコンソールを操作してディスプレイにとある映像を映し出す。それはなのはとフェイトが戦闘を行なっている様子だった。

 

「・・・これはなんだ?」

「ヒイロ君、P.T事件のことは知らないでしょ?」

 

P.T事件、およそヒイロがアースラで目覚めてからその単語を聞いたことは一度もない。ヒイロ自身が情報蒐集をさほど行なっていないというのもあるが、ある程度のことならすぐに分かった。

一つはフェイトが関わっていること。そもそもとしてそうでなければこの会話には出てこないだろう。そしてP.Tというのはおそらく誰かのイニシャルであろうとヒイロは推測する。

 

フェイト・テスタロッサ。英文化すればFate Testarossa

 

P.T事件の『T』の文字とフェイトの名字が合致する。ヒイロはエイミィの今の言葉だけでフェイトがその事件に関わっておりーー

 

「・・・フェイトの親族が主犯格の事件か?」

(うっそ・・・!?今のだけでそこまで見抜いちゃうの・・・!?頭の回転早すぎない・・・!?)

 

彼女の親族が事件の中心であることまで見抜いた。ヒイロがそこまで見抜いたことにエイミィは舌を巻いた。

 

「・・・あくまで推測だったがな。お前のその表情で確信へと変わった。」

 

ヒイロがそういうとエイミィは『アハハ・・・』と反省するような表情を浮かべながら映像を操作する。

 

「まぁ、ヒイロ君の言う通りなんだけどね。P.T事件。略さずにいうとプレシア・テスタロッサ事件。フェイトちゃんはその人の娘だった。いや、娘って言うのも変かな・・・。」

「・・・・死んだのか?」

 

ヒイロの問いかけにエイミィは首を横に振った。それでプレシアが生きているのかははっきりとはしなかったが、エイミィの悲しげな表情を見たヒイロはーー

 

「・・・・生きているかどうかは定かではない、と言ったところだな。」

 

ヒイロがそういうと今度は映像の方へと目を向ける。映像ではフェイトがなのはにバインドをかけ、何か詠唱を行なっているところであった。

バインドをかけた理由はなのはを逃がさないためか、はたまた詠唱に時間がかかる魔法なのか、しばらく見つめているとフェイトの周りに無数の金色の魔力の塊が生成され始める。しかも一つ一つがそれなりの大きさを誇っており、そこから放たれる魔法の威力は想像に容易い。

 

「・・・威力を散らばせすぎだな。あれでは防ぎ切られる可能性が高い。」

 

ヒイロが話題を晒したことにエイミィは驚きながらも映像に視線を向ける。

 

「敵が複数いるなら効果的だが、この映像のように単体の場合では、変に散らばすより一点集中型の魔法にした方がなのはを落とせる可能性はまだ高かっただろう。いや、あれも一点集中なのだろうが、それでも威力を分散させすぎだ。」

 

映像の中のフェイトが腕を振り下ろすと槍へと姿を変えた魔力の塊がなのはに襲いかかる。その威力は画面を爆発の煙で覆い隠してしまうほどだった。

一見するとなのはがやられたとしか思えないがーー

 

「ヒイロ君は状況の把握というか、理解が早いよね・・・。」

 

画面の煙が晴れてきて、エイミィがそう言った瞬間、フェイトが桜色の魔力で編まれたバインドに四肢を拘束される。まぎれもないなのはの魔力に画面の中のフェイトは煙を凝視する。

そこにはバリアジャケットがススだらけになりながらもなのはがしっかりと健在していた。

 

なのははバインドで身動きが取れないフェイトに向けてレイジングハートを構えるとその切っ先に魔力の塊を作る。その塊はどんどん大きくなっていき、なのはの身の丈程までに巨大化させるとその塊から膨大な程の魔力のビームがフェイトを包み込んだ。

見るからに強大な威力だとわかるそれはフェイトを一撃で気絶させ、海へと墜としていった。

 

(・・・ツインバスターライフルの最大出力よりは下か。)

 

なのはの全力全開のスターライトブレイカーを見てもヒイロは特に動じることはなかった。

 

「・・・あんまり驚きはしないんだね。」

「・・・もっと威力の出るものを知っているからな。」

「もしかして・・・この前の?」

 

エイミィの言うこの前、というのはリーゼ姉妹をバスターライフルで狙撃した時のことを指しているのだろう。半分正解で半分不正解のような感じだがヒイロは首を振るだけにとどめた。

リーブラ砲やバルジ砲など、少なくともツインバスターライフルより威力だけならありそうなものを知っているからだ。

 

そう思っていると部屋に通信を告げる音が響いた。エイミィが疑問気に部屋の一室に設けられた管制部屋へ向かうとクロノの声が響く。

 

『ヒイロを呼んでくれるかい?』

「ヒイロ君?分かったけど・・・。」

 

エイミィが一声かけるとヒイロもその管制部屋に足を入れる。

 

「何か用か?」

『ついさっきユーノから念話で連絡があった。ある程度だけど闇の書に関する情報が出揃った。』

「・・・・内容を教えろ。」

 

ヒイロがそういうとクロノはユーノから教えられた情報をヒイロに伝える。

無限再生機能や転生機能は置いておき、闇の書は最初からその名で呼ばれているわけではなかった。

 

『夜天の書』

 

それが本来の闇の書の名前であった。夜天の書は元々は世界中を旅し、あらゆる魔法をその身に記す。いわば魔法の図書館のようなものであった。しかし、時が流れるにつれて夜天の書にあらゆる悪意ある改造を施され、現在のような世界に破滅をもたらす代物へと成り果ててしまった悲劇の魔導書であった。

 

「・・・元はなんの害もなかったのに・・・。」

「力とはそういうものだ。扱うものの使い方によっては善にも悪にもなり得る。魔法とて例外ではないだろう。」

『・・・ヒイロの言う通りだ。だから闇の書、いや夜天の書を僕達は止めないと行けない。これを見てほしい。』

 

悲しげな表情を浮かべるエイミィに対してヒイロは淡々とした表情をする。

クロノがヒイロの意見に同調しながらある一枚の写真を出す。

その写真には長い銀髪に深紅の瞳が特徴的な若い女性が映っていた。

 

『夜天の書の管制人格だ。プログラムの全てを統括していて、夜天の書そのものといってもいい。』

「ターゲットはその管制人格とやらか?だが、奴はこれまで一度たりとも姿を見せていない。引きずりだす必要があるのか?」

 

ヒイロがそう確認するとクロノは首を横にしながら画像を拡大する。ちょうど若い女性の左手部分が拡大されると、毒々しいほどの紫色のガントレットが現れる。

 

「クロノ君・・・これは・・・?」

『ユーノ曰く自動防衛運用プログラム、通称ナハトヴァール。これも夜天の書の後付けされたものなんだけど、どうやらこれが闇の書の暴走の原因なのかもしれない。』

「なに・・・?」

 

眉を軽くあげるヒイロにクロノはナハトヴァールについての説明を始める。

 

 

『ナハトヴァールは主の意思に関係なく過剰防衛を働くんだ。それこそ、主の身を滅ぼしてもだ。正確に言えば、これが組み込まれたことにより、夜天の書にバグが生じてあんな危険な代物になったんだ。何よりネックなのがーー』

 

『場合によっては魔力の蒐集を最優先にして、制御を管制人格から奪い取ってしまうんだ。』

 

クロノの言葉からヒイロは咄嗟に頭の中でこれまでのことを整理する。

ヒイロははやて達と出会い、魔力の蒐集を控えめにさせた。そのことにより闇の書に溜まっている魔力はそれほど多くはないはずだ。少なくとも完成には至っていない。それが導くのはナハトヴァールの早期起動による魔力の無差別蒐集だ。そしたらまず始めに誰が犠牲になる?

 

(八神・・・・はやて・・・・。)

 

最後の夜天の書の主であるはやてに他ならない。彼女が闇の書が原因で半身不随になっているのは明白だ。闇の書は今なおはやての体を蝕み続けている。

可能性によっては急激に浸食が進行しているかもしれない。

 

「くっ・・・・!!」

 

ヒイロは苦い顔を浮かべると管制部屋を飛び出した。

 

『ヒイロっ!?』

「ヒイロ君っ!?」

 

クロノとエイミィの驚く声が聞こえるがヒイロは気にすることもなく扉ーーではなく窓の方へ走っていく。途中、何か物の入ったナップザックを背負いながら、窓を開け放ち、ベランダの塀に手をかける。

 

「ちょっ!?ヒイロ君、ここ何階だと思ってーーー」

 

ヒイロを追うような形で管制部屋から出てきたエイミィの言葉はそれ以上続かなかった。ヒイロは塀を飛び越え、拠点としているアパートから飛び降りたのだ。

咄嗟に目を覆うエイミィだったが、いつまでたっても肉と地面がぶつかり合う生々しい音が響くことはなかった。

エイミィが恐る恐るベランダから覗くと、何事もなかったかのように走り去っていくヒイロの姿が見えた。

 

「よ、よかったぁ〜・・・・。」

 

ひとまず無事な様子を見たエイミィは腰が抜けたようにへたり込んだ。しかし、それも少々くぐもったクロノの通信の声が耳に届くとすぐさま管制部屋に戻り、クロノに報告をする。

それを聞いたクロノは少々頭を抱える仕草をしながらため息をつく。

 

『もしかしたらヒイロは既に夜天の書の主と接触していたのかもしれないね。』

「え!?もしそれが本当ならどうして私達に知らせてくれないのよっ!?」

『・・・そこでロッテとアリア、というか仮面の男とも出会ったんだろうね。彼はロッテとアリアの捕縛を優先して、僕達にそれを伝えなかった。となると、この前の捕縛作戦もヒイロが一枚噛んでいたのかな・・・。』

 

そこまで言ったところで一度言葉を切ってエイミィに厳しい視線を向ける。

 

『エイミィ、なのはとフェイトに伝えるだけ伝えておいてほしい。学校だから動けないだろうけど、ヒイロから事情を聞く必要がある。』

「わかったよ!!」

(・・・・もっとも彼女らに捕まる彼ではないだろうけどね。)

 

ヒイロの戦闘力ははっきりいってそこら辺の魔導士では束になっても敵わないだろう。生身の戦闘力でも守護騎士に及ぶものがあるのだ。クロノ自身でも捕らえるのは至難の技だろう。

 

(ヒイロのことはひとまず置いておこう。今はグレアム提督に真偽を確かめる!!)

 

自身のやるべきことを改めて確認しながらクロノは管理局本部の廊下をリーゼ姉妹を連れて歩む。

 

 

 

(奴らの魔力蒐集は結果だけを見ればナハトヴァールの起動の抑制になっていた・・・!!それを俺ははやてに半ば強制的に止めさせ、はやての寿命を縮めることとなった・・・・!!)

 

ヒイロは海鳴市の街を全力で走る。途中通行人から驚きの表情や声が上がるが知ったことではない。一人の人間の命がかかっているのだ。ましてやその人間が少女であることがヒイロを余計にかきたたせていた。

ヒイロの記憶から呼び起こされるのはかつての任務で幼い少女とその子が飼っていた子犬を自分のミスで殺してしまったこと。

 

「俺の・・・・!!俺のミスだぁっ!!」

 

ヒイロは悲痛な声をあげながらはやての家へと向かう。もう二度、あの少女と子犬のような人間を出さないために。




さて、ここからAs編は終盤へとさしかかっていきます。

どこまでヒイロのポテンシャルを引き出せるかはわかりませんが、頑張りたいと思います


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第19話 すれ違う運命

前回と比べてだいぶ文字数少ないけど、許して・・・・。
あれは書けるだけ書いてしまった結果なんじゃあ・・・・。


『ええっ!?ヒイロさんが守護騎士と繋がっているかもしれないってっ!?』

 

なのはは学校で授業を受けながら届いてきた念話の内容に驚きの表情を隠さないでいた。

 

『あの子に限ってそんなことはないって思いたいんだけど・・・!!闇の書の詳細を聞いたら突然ヒイロ君が飛び出していっちゃって・・・!!』

 

なのはの念話の相手であるエイミィが困惑気味ながらもなのはとの念話を続け、ヒイロが聞いた闇の書の詳細をなのはとフェイトに伝える。

 

『クロノ君とリンディ提督はまだ動けないし、君たちしかヒイロ君を探せるのはいないのよー・・・。』

『・・・・わかりました。ですが、今日は流石に難しいかと・・・。』

『うん・・・。今日はちょっと予定があって・・・。』

 

なのはとフェイトは苦い顔を浮かべながらエイミィにその予定を話した。すずかが図書館で知り合った友人が突然倒れてしまい、その連絡を受けたすずかがなのは、フェイト、アリサの四人で放課後見舞いに行かないかと誘われてしまったのだ。

 

『うわっちゃー・・・。それは断れない・・・・。わかった。なのはちゃんたちはそっちを優先して。ヒイロ君は・・・こっちで頑張って探してみる。』

 

顔を覆うような仕草をしながらしょうがないと割り切るエイミィを節目になのはたちの念話は終了した。

 

 

 

 

(・・・・・・妙だ。人の気配が感じられない。)

 

ヒイロは闇の書の詳細、主にナハトヴァールについてクロノから聞いた時、ヒイロの中で最悪の未来を思い描いていた。

それは魔力の蒐集を怠った結果、ナハトヴァールが勝手に起動し、魔力を所構わず蒐集することだった。

それを警戒して、ヒイロはできる限りの全速力ではやての家へと赴いたが、はやての家からは人の気配は感じられなかった。

それどころか守護騎士の面々もいないように感じられる。

 

(はやてが出かけたなら最低限、ザフィーラはいるはずだ。奴は基本、犬の形態でいるようだからな。だが、ソイツすらいないとなればーー)

 

ヒイロははやての家の前で思案に耽る。これまで見聞きした情報を整理し、はやての身に起こった事を考え出す。

 

『実をいうとな。ここ最近心臓辺りが突然激痛に襲われることがあるんよ。心筋梗塞とかそのあたりかと思っとったんやけど、あながち間違いじゃあらへんやな。』

『闇の書の浸食がそこまで進んでいるということか。』

 

 

「・・・・・海鳴大学病院か。」

 

 

ヒイロは頭の中に叩き込んでおいた地図から海鳴大学病院へのルートを導き出すと颯爽と踵を返して()()()()()()()()()()その病院へと向かう。

 

(はやてが家に居ないのは、闇の書の浸食が進んだ影響で倒れ、シグナム達が病院へ送ったからか・・・。)

 

闇の書の情報をもらったときこそ、動揺はしたが、移動している途中で冷やした頭で冷静さを取り戻す。

ヒイロがしばらく海鳴市を駆け抜けていくと、それなりに時間はかかったが、ヒイロは息一つ乱した様子すら見せずに海鳴大学病院へとたどり着く。

 

「ここか・・・・。」

 

病院の自動ドアをくぐり抜けるとヒイロは病院の受付に近づく。

 

「この病院に八神はやてという少女が担ぎ込まれていないか?」

 

ヒイロがそう尋ねると受付の女性は「少々お待ちください」と言って確認の作業に移った。

程なくして受付の女性がヒイロに視線を戻すとはやてが担ぎ込まれているという旨を話した。

 

「ご確認しますが、関係性をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

 

おそらくそのように対応マニュアルに書いてあったのだろう、受付の女性はヒイロにはやてとの関係性を聞いてきた。

それにヒイロは少しばかり理由を考える。

 

「・・・・知り合いだ。親戚から倒れたという連絡を聞いた。」

「わかりました。八神様の部屋番号はーー」

 

受付からはやてのいる病室の部屋番号を聞いたヒイロはすぐさま病室へと向かった。

エレベーターで階層に着き、はやての名前が入った名札がつけられた扉を開けはなつ。

 

その扉の先には病院のベッドの上で静かに眠っているはやての姿があった。だが、その表情はどこか苦しそうだ。ヒイロは咄嗟にはやての口元に手をかざす。

 

「・・・・生きてはいるか。だが、かなり危険な状態になったのは事実のようだ。」

 

はやてがしっかり息をしていることを確認するとヒイロは心なしか安心したように軽く息を吐いた。

だが、いくら病室を見回してもいつもはやての側についていたはずの守護騎士達の姿が見当たらなかった。

そのことがヒイロに少なからず違和感を覚えさせる。

その違和感の正体を探るべくくまなく病室を探してみるとヒイロはあることに気づいた。

 

「・・・・・・闇の書も見当たらない・・・・?」

 

闇の書も見当たらないのだ。普通であれば緊急だったため、家に置いてきたで考えを打ち止めることもできるが、はやて曰く闇の書にはある程度の自律機能が入っている以上、闇の書が主から離れているとは考えにくい。

 

それにも関わらずはやての手元に無いということはーーー

 

「・・・・・・。」

 

ヒイロは無言で背中に背負っていたナップザックを弄ると、在るものを取り出し、寝ているはやての側にそっと置いた。

そして、その手をそのままはやての頭に持っていくと柔らかい手つきで彼女の頭を軽く撫でた。頭部にかけられた心地よさからか、寝ているはずのはやての表情は心なしか柔んだように見える。

 

「・・・・お前の代わりに奴らを止めてくる。俺のミスもあったが、やはりアレは完成させてはならないものだからな。」

 

優しげな口調ではやてに語りかける。その時のヒイロの表情はいつもの無表情ではなく、彼の元来の性格である優しさが現れていた。

 

ヒイロは寝ているはやてを一目すると、病室を後にする。

音も立てないように扉を閉めるとなるべく看護師や医師に怪しまれない、なおかつ迅速なスピードで廊下を進んでいく。

そして、エレベーターを使い、パネルが示している病院の最上階へと向かう。エレベーターがその階層に到着したことを知らせる音がエレベーターの狭い空間で響き、横開きのドアが開く。

 

それと同時にヒイロの身体が振動を感じ取った。歩きながらもその振動の正体を探るとその正体はリンディから押し付けられた携帯電話であった。

 

その携帯は何者からかの通話を知らせるようにバイブ音を響かせながらその画面にある人物の名前を映し出していた。

 

その人物はフェイトであった。

 

ヒイロはフェイトからの突然の通話に眉ひとつさえ動かさずに携帯を操作すると通話する部分を耳にあてる。

 

『ヒイロさん?よかった・・・・。出てくれて。今どこに居るんですか?』

 

携帯からフェイトの安堵したような声が聞こえてくる。ホッとしている表情が目に浮かぶ中、ヒイロは歩みを止めることはなく、病院の非常階段へと進んでいく。

 

「・・・・海鳴大学病院だ。要件は俺が突然飛び出した理由を聞き出すためか?」

『それも、ない訳ではないですけど。ただ、心配で・・・・。』

 

ヒイロが電話をかけてきた理由を尋ねるとフェイトは少しばかり感情のこもった声でそういった。

 

「まぁいい。それで、理由だったな。」

『・・・はい。やっぱり教えてくれませんか?』

「・・・・・どのみちお前達も知ることになる。それが早くなるか遅くなるかの些細な差異だ。」

 

フェイトからそう聞かれ、ヒイロは少しばかり逡巡するとフェイトに返答する。

少しばかり回りくどいが、ヒイロはフェイトに自分が拠点を飛び出した理由を話すつもりなのだ。

 

『えっと・・・教えてくれるんですよね?』

「ああ。確認するが、クロノかエイミィから闇の書、いや、夜天の書のことは聞いているな?」

『はい。少し前に念話でエイミィから・・・。掻い摘んで言うと元々は健全な魔導書だった夜天の書はいくつもの悪意ある改造を受けて、あのような危険なロストロギアに成り果てた、と。』

 

ヒイロはフェイトとの通話を続けながら病院の非常階段を登っていく。あまり周囲に人が寄り付かない区画なのか、ヒイロの階段を踏み鳴らす音だけが響く。

 

「俺が拠点を飛び出した理由はその改造された部分、クロノがナハトヴァールと呼んでいた部分だ。」

 

ヒイロはフェイトにナハトヴァールが魔力の蒐集を怠ると主を差し置いて勝手に暴走を始める危険性を孕んでいることを伝える。

しかし、ヒイロがそれで病院に赴いた理由には足り得ないため、フェイトは怪訝な表情を浮かべる。

 

『それだと、ヒイロさんが病院へ向かった理由にはーー』

「俺は闇の書の主を知っている。名前は八神 はやて。すずかが言っていた図書館で会ったという車椅子の少女だ。そいつが今病院に入院しているから俺はここにいる。」

 

フェイトの言葉を遮ってまで言ったヒイロの言葉は彼女を数瞬押し黙らせる。立て続けに重大な情報を明らかにしてきたため、フェイトの脳内で処理をするのに時間がかかっているのだ。

 

『・・・・いつの間に・・・・一体、いつから、ですか?』

「グレアムの使い魔を捕らえた時には既に知っていた。」

 

落ち着きを取り戻したフェイトがそう聞くとフェイトの中である言葉が思い浮かぶ。それはエイミィが念話を通して言っていた、ヒイロが守護騎士と繋がっているかもしれないと言う言葉だった。

 

『私達を・・・騙して・・・いいえ、利用していたんですね・・・?』

「有り体に言えばそうなるな。」

『どうして・・・・!?なんで教えてくれなかったんですかっ!?』

 

携帯からフェイトの荒くなった声が響いてくる。無理もないだろう、いくらそれなりに信頼を寄せていたとは言え、自分だけ重大な情報を掴んでおきながら、それを伝えないという一種の裏切り行為を働かれれば、怒るのも無理はないだろう。

 

「はっきり言う。お前達ではターゲットに勘付かれる可能性が高かったからだ。」

『・・・・ターゲットって言うのは、グレアムの提督の使い魔ですね・・・・?』

「ああ。お前達にその情報を伝えれば、どこかで必ず甘えが出てくる。戦う理由なんてない仮にお前達がそんなことを思っていれば、場数を踏んでいる奴らはそれを機敏に感じ取ってくる。お前達ではどうやっても足らん、経験の部分だったからな。」

『そ、それはーー』

 

フェイトがヒイロの言葉に言い淀んだ。その隙をついてヒイロは追撃を行う。

 

「守護騎士はいくつもの転生を重ねている。経験も豊富だ。腹芸も容易いだろう。そう言った面では奴らの方が信頼はできる。」

『・・・・・・ヒイロさんは』

 

フェイトの言葉がヒイロの名前を呼んだところで一度途切れる。ヒイロはそのことに少しばかり疑問を抱く。

 

『ヒイロさんは・・・・私達を信頼してないんですか・・・・?』

 

どこか悲しげな声色でフェイトはヒイロにそう尋ねた。そのタイミングでヒイロは非常階段を登りきり、病院の屋上へと続く扉の前で佇む。

 

「・・・・・お前達は純粋すぎる。良くも悪くもな。」

 

ただそれだけをフェイトに伝え、ヒイロは屋上の扉を開けはなつ。

屋上ではシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラがヒイロに背を向けて立っていた。

 

「やはり来たか。しかし、存外に早かったな。主が倒れたとは伝えてなかったのだが。」

 

シグナムが背を向けたまま言葉を紡ぐ。それはまるでヒイロが来ることを予見していたようであった。

 

「情報を仕入れたタイミングが良かったからな。」

『ヒイロさん・・・・?』

 

シグナムの言葉にヒイロがそう答えるとフェイトは状況を掴めていないため怪訝な声を上げる。ヒイロはそれを通話状態を維持しながらも無視し、シグナムの背中に視線を集中させる。

 

「なら、我々のこの行為を見逃してはくれないだろうか?主はもう限界だ。一度は魔力の蒐集を止めたが、それがこのザマだ。」

「・・・・魔力の蒐集を止めさせた要因は俺だ。はやてが倒れた一因でもある。だが、やはり完成させてはならんことは明白だからな。」

 

ヒイロはシグナムに鋭い視線を向けながら静かに告げる。

 

「今回もお前達の邪魔をさせてもらう。お前達の行為は無意味に他ならんからな。」

「無意味だとっ!?貴様は無意味と断じるのかっ!?」

 

それまでヒイロに背中を向けていたシグナムが声を荒げながらヒイロに振り向いた。その表情は険しく、そして憤怒にまみれていた。

 

「主はただ我々と静かに過ごしたいだけだった!!これはその主の願いを叶えるためのものだ!!その尊い願いを叶え、そして明日へ繋いでいきたい!!ただそれだけだ!!」

 

シグナムは己のデバイスであるレヴァンティンをヒイロにその切っ先を向ける。

さながらそれは最終通告であり、ヒイロの返答によってはすぐさま攻撃に移行するという意思表示でもあった。

 

「お前達がやろうとしていることはただ現実から目を背け、問題を先延ばししているにすぎん。そして、その行為が行き着く先は破滅だけだ。お前達のやっている行為は無意味だっ!!」

 

シグナムの言葉にヒイロは感情のこもった声で答える。シグナムはそれに歯噛みする表情を浮かべる。もはや対話は不可能であろう。お互いのトリガーは既に指が添えられている。戦闘に移行するのは秒読み段階に入っている。それをヒイロは既にわかりきっていた。だが、それでも、ヒイロは敢えてこの言葉を口にする。

 

「お前達が戦えば戦う程、はやての願いは無駄になっていく!!それはお前達も気づいているはずだ!!」

 

「今ここにある世界を信じてみろっ!!」

 

「っ・・・・・わかったようなことを、言うなぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

その言葉を皮切りにシグナムは怒りを露わにしながらヒイロに向かって突進し、レヴァンティンの刃を振るう。

それをヒイロは片腕で己の体を支えながらバク転することでシグナムの攻撃を躱すと同時に距離を取る。

 

「フェイト!!」

『ヒイロさん!!さっきから何が起こっているんですかっ!?』

「来るなら早く来い。守護騎士の四人相手では流石に加減が効かんからな。」

『ヒ、ヒイロさん!!待ってくださーー』

 

フェイトとの通話を切るとヒイロはウイングゼロをその身に纏い、自身も戦闘態勢へ移行する。

ヒイロはウイングスラスターの根元のラックからビームサーベルの柄を引き抜くと、その先端部分から緑色の光刃を出した。

 

「もう我々には時間がないんだ・・・!!お前が立ちふさがると言うのであれば、押し通るっ!!」

 

剣を構えたシグナムを筆頭にヴィータとザフィーラが接近戦を仕掛けてくる。

シャマルは何か言葉を紡ぐと病院の屋上とその周囲を取り囲むかのように結界が施される。

ヒイロはウイングゼロの翼を羽ばたかせ、上空へ飛び上がるとその結界が想像より狭く展開されていることに気づく。

 

「っ・・・!!こちらの機動力を満足に発揮できないようにしたか・・・!!」

 

結界自体を破壊することはヒイロにとって容易い。しかし、それをシグナム達もわかっているのか、ヒイロにバスターライフルを握らせないように同じように上空へ飛び上がり、接近戦を仕掛けてくる。

 

「てぇああああっ!!」

「ちっ!!」

 

シグナムが振るったレヴァンティンをヒイロはビームサーベルで受け止める。

お互いの剣がぶつかりあった部分から紫電が発生し、二人の顔を照らした。

 

 

 

 

『なのはちゃん、フェイトちゃん!!結界の反応を検知したよ!直ぐに迎える!?』

『場所はっ!?』

 

念話を通して、なのはとフェイトにエイミィの焦る声が響く。フェイトが咄嗟に場所を尋ねるとエイミィは海鳴大学病院だと答えた。

 

「っ・・・・!!」

「フェ、フェイトちゃんっ!?待って!!」

 

フェイトは険しい表情を浮かべると途中まではやてのお見舞いに行くとして同行していたすずかとアリサを置いて駆け出した。なのはも呼び止めながらもフェイトの後を追う。

 

「ど、どうしちゃったのよ・・・。二人とも。」

「何か、あったのかな・・・・?」

 

置いていかれた二人はなのはとフェイトの動向を疑問視するしかなかった。

 

「フェイトちゃん!!突然どうしたのっ!?さっきの電話もそうだったけど、何かあったのっ!?」

 

なのはは海鳴市を疾走するフェイトの後を追いながら、突然走り出した理由を聞く。フェイトは苦い表情を浮かべながらなのはにこう告げる。

 

「あの病院には・・・ヒイロさんがいる・・・。ヒイロさんは今、守護騎士のみんなと戦っている・・・!!」

「み、みんなって・・・シグナムさんやヴィータちゃんとっ!?」

「多分、映像で見た四人みんなと・・・。」

「は、早く行かなきゃっ!!どうしてそうなったのか、わからないけど!!」

 

なのはとフェイトはヒイロと同じように海鳴大学病院へと向かう。

なのはは守護騎士達が、フェイトはヒイロが、それぞれの気がかりとなっていた。

 




ヒイロが割と過酷なミッションに取り組んでいく・・・・・。

・守護騎士四人の完全な無力化
・もちろん殺しちゃダメ
・それに伴いツインバスターライフルの使用も不可能

実質ビームサーベルとバルカンだけでどうにかしろ。ナニコレェ・・・・?



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第20話 希望と絶望の軌跡

やっと出せた・・・・一週間、お待たせしました!!


「ラケーテン、ハンマァァァっ!!」

 

ヴィータのデバイスであるグラーフアイゼン。そのハンマー部分が変形し、片側が噴出口のように形を変える。その部分がロケットの如く火を噴くとその加速を伴ったヴィータの攻撃がヒイロに迫り来る。

 

対するヒイロはビームサーベルなどで受け止めることはなく、天使を彷彿とさせるウイングスラスターを体を回転させながら羽ばたかせ、上昇することで回避する。

その結果獲物を見失ったヴィータの攻撃は空を切る。ヒイロはその隙を逃すことはなくウイングゼロの両肩に備え付けられてあるマシンキャノンをヴィータに向けて掃射する。

 

ヴィータは咄嗟に掌を掲げ、そこから防御用の魔法陣を展開することで、マシンキャノンが炸裂した際に生じる粉塵に包まれながらもこれを防ぐ。

ヒイロはヴィータの様子を少しばかり伺っていたが、すぐさまその場を退避する。

次の瞬間、ヒイロがいた場所を濃い緑色の風で編まれた竜巻が吹き荒れる。

 

色合いからシャマルの魔法だと判断したヒイロは風の勢いを利用して、まずは守護騎士の中で比較的支援型、なおかつその手に闇の書を抱えているシャマルを戦闘不能にしようと彼女が立っている病院の屋上へ向かって一気に降下する。

 

「シュワルベフリーゲンっ!!」

 

ヴィータの声が背後から響き、軽く視線をヴィータに向けて見やると、ヴィータの身の丈程ある光弾がヒイロに向けて打ち出される。

ヒイロは軽くヴィータの方を見やった一瞬でウイングゼロのスピードとその光弾のスピードを算出。自身の間合いがシャマルに到達する方が早いと結論づけたヒイロはそのまま光弾を無視してシャマルへの接近を続ける。

 

(・・・・しかし、あの誘導弾。俺の対応の仕方によってはシャマルも巻き込まれるな・・・・。)

 

ヒイロは少しばかりの不信感を抱きながらも病院の屋上を舐めるように加速を調整しながらビームサーベルを構える。

迫るヒイロに対し、シャマルはクラールヴィントを振り子形態にすると自身の前に大きく円形に展開する。続けざまにシャマルが何かを唱えるとその円形の中が薄緑色の光で埋め尽くされる。

 

(あれは、確かなのはに仕掛けていた転移魔法か・・・・?展開しているサイズもかなりあるようだが、一体何をーー!?)

 

ヒイロは直感的に危険を感じ取った。その瞬間、シャマルが展開した転移魔法『旅の鏡』からオレンジ色の光弾が飛び出す。それはヒイロの背後にあったはずのヴィータの『シュワルベフリーゲン』であった。

 

「っ!!」

 

ヒイロは苦い顔を浮かべながらシャマルへの接近を無理やり止める。慣性の力が働き、一度出してしまったスピードは大して落ちなかったが、ヒイロは病院の屋上に足をつけると力任せにジャンプする。先ほどまでのスピードとヒイロのおよそ人間とは思えない程の筋力が合わさったジャンプは光弾を飛び越えるところが、シャマルの頭上を取った。

 

そのままシャマルに向けてビームサーベルを振り下ろす。もちろんミッドチルダ式のデバイスに搭載されている非殺傷設定などないウイングゼロではシャマル達を殺しかねないため、ビームサーベルの出力は抑えめにしてある。

 

しかし、ビームサーベルがシャマルに届く前に地面から飛び出た白い魔力光で形成された防壁が弱められていたとはいえ並みいるモビルスーツを溶断してきたウイングゼロのビームサーベルを受け止める。

 

「鋼の軛よっ!!」

「ちっ!!」

 

声の質からザフィーラの援護だと断定したヒイロはシャマルへの攻撃を中断し、再度上空へと飛び上がる。ビームサーベルを防いだ防壁が今度は敵であるヒイロを貫かんと針となって迫り来るが、ヒイロは針と針の間を縫うように避けていく。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

「でぇぁぁぁぁぁっ!!」

 

ザフィーラの繰り出した攻防が一体化した魔法を切り抜けた後にヒイロの目に飛び込んできたのはシグナムとヴィータの同時攻撃。

予想以上にシグナム達の攻撃が早いと感じたヒイロは自身が誘い込まれていることを察する。

 

「ゼロ、奴らの反応速度を超えろっ!!」

 

ヒイロはすぐさまゼロシステムを起動する。これまでの戦闘データを集約したゼロの予測でシグナムとヴィータの繰り出してくるであろう太刀筋を視る。

さらにゼロシステムはヒイロにその攻撃を避けた上でツインバスターライフルで2人を消しとばすビジョンを見せつけるが、ヒイロは持ち前の強靭な精神力でゼロシステムの指示を撥ねとばす。

 

代わりにヒイロが取った行動はウイングスラスターの大きな翼を自身の前面に持ってくることであった。

普通であれば自身の推進力を捨てるような行為だが、ウイングゼロの翼はそう易々とは手折れることはない。

 

ガキィンッ!!!

 

「何っ!?」

「硬ーー!?」

 

響き渡るは鋼鉄と鋼鉄がぶつかり合うような金属音。レヴァンティンの刃、グラーフアイゼンの棘のついた槌。それぞれ、防御する体勢が取れていなかったとはいえ、フェイトのバルディッシュ、なのはのレイジングハートを大破させるほどの業物だ。

 

その一騎当千のヴォルケンリッター2人の武器をウイングゼロの翼は火花を散らしながらその攻撃をヒイロに届かせまいとして押しとどめる。

予想外のウイングゼロの翼の硬度に数瞬、されど常人では反応できないほどのまさに一瞬の硬直。

 

「はぁぁっ!!」

 

ヒイロはその一瞬の硬直を見逃さず翼を勢いよく前に押し出し、シグナムとヴィータの攻撃を弾き飛ばす。

そのまま流れるようにビームサーベルで横薙ぎに一閃ーーー

 

「っ・・・・。」

 

しようとしたヒイロだったが、ビームサーベルを振るおうした腕を途中で止めた。

ヴィータとシグナムはその間に体勢を整え、ヒイロから一度距離を取った。

 

「ちっ・・・。なんなんだよ、あの翼は。普通に硬えじゃねぇか。」

「ただの翼ではないとは薄々感じてはいたが、まさかあそこまでの強度を誇るとはな。だが、少し解せんな。」

 

ウイングゼロの翼の強度に驚いた表情を浮かべるヴィータとシグナムだったが、シグナムは表情を険しいものに変えると鋭い視線をヒイロに向ける。

 

「なぜ、その手に持つ光の剣を振るうのをやめた。お前であれば今ほどの一瞬でも十分だったろうに。」

「・・・・・お前達を殺せば、はやてが悲しむ。それだけだ。」

 

シグナムの問いにヒイロは端的に答える。静かに、それでいてはっきりとした声色で言ったヒイロの言葉にシグナムは軽く視線を落とした。

 

「・・・お前も主はやてのために戦っている、そういうのだな?」

「・・・・勘違いするな。俺は夜天の書の暴走を回避したいだけだ。」

 

「・・・・待てよ。今、夜天の書つったのか?」

 

ヒイロが言い訳がわりに言った言葉にヴィータが疑問気に反応する。戦闘の雰囲気が僅かに薄れたのを見計らい、ヒイロはヴィータとシグナムにナハトヴァールのことを尋ねようとする。

しかし、次の瞬間、出かけた言葉を飲み込まざるを得ない出来事が起こる。

 

 

「何っ・・・・!?」

 

ヒイロは思わず目を見開く。シグナム達と割って入るように現れたのは闇の書だったからだ。しかし、様子がいつもと豹変していた。禍々しいほどの、それこそ魔力が全くないヒイロでも視認できるほどの紫色のオーラを闇の書が纏っていた。

 

「ヒイロっ!!逃げろっ!!」

 

そう言ってきたのはヴィータだった。先ほどの疑問気な表情は一変し、かなり焦っている様子が見て取れる。

 

「くそっ!!なんで忘れていたんだよ・・・・!!なんで!!」

「ヒイロ今すぐに後退しろ!!私の記憶にはないが、身体が覚えている!!コレは不味いっ!!」

「まさか・・・・夜天の書が暴走を始めたのか!?」

 

ヒイロが真偽を確かめるためにシグナム達に確認しようとする。その瞬間、先ほどまで閉じられていたはずの闇の書のページが独りでに開かれる。

次の瞬間、闇の書から数えるのも億劫になるほど夥しい量の木の蔓が吐き出される。しかも蔓といってもその太さは人間の腕ほどの太さはあり、比較的闇の書の近くにいたシグナムとヴィータはあっという間に木の蔓の渦に飲み込まれる。

 

「くっ!?」

 

辛うじてヒイロは襲いかかる木の蔓を避けながら距離を取るが、結界の際で思うように蔓を避けることができない。ゼロシステムのおかげで木の蔦を掠めることはなかったが、四方八方から伸びる木の蔦を避けていくうちにヒイロは結界の端に追い込まれる。

闇の書から吐き出される木の蔓の量は凄まじく、結界の中を埋め尽くそうとしていた。徐々に逃げ場がなくなっていくヒイロだったが、突如として自分を閉じ込めていた結界が消失した。

 

 

「シャマル・・・・?」

 

ヒイロは結界を張っていた張本人であろうシャマルの方を見やるがシャマルがいたであろう病院の屋上は既に木の蔓が覆い尽くしていた。咄嗟にザフィーラの姿も探すが、蔓の渦に覆われた視界にザフィーラの獣耳や尻尾のようなものが映ることはなかった。

結局2人の無事も確認できずじまいだったが、結界という枷がなくなった木の蔓は膨大な質量を持ってヒイロに襲いかかる。

しかし、枷がなくなったのはヒイロも同じであり、ブースターを蒸すと迫り来る木の蔓を振り切り、一気に距離を取った。

 

 

「闇の書が、いやナハトヴァールが暴走を始めたか・・・・!!」

 

木の蔓から逃げおおせたヒイロは病院の屋上に生まれた木の蔓の塊を見るとそう言葉をこぼす。

塊が未だに流動を続けている様子は内部からナニカが生まれてくるようにも感じられる。

 

「ヒイロさん!!」

 

ヒイロがその木の蔦の塊に対する行動を考えていると遠くから声をかけられたのを耳にする。

視線をその方角に向けてみれば猛スピードで向かってくるフェイト、その後ろから彼女を追うようになのはが、それぞれバリアジャケットを着た戦闘体勢でヒイロの元へと駆けつける。

 

「来たか。」

「来たか、じゃありませんよ!!私たちにもちゃんとした経緯とかを説明してださい!!貴方に言われていた状況と違うんですけどっ!?」

「ヒイロさん。今どうなっているんですか?守護騎士の皆さんは?」

 

フェイト、なのはがヒイロに矢継ぎ早に状況の説明を求めてくる。ヒイロは未だ胎動を続ける闇の書を一目する。

 

「闇の書の暴走が始まりかけている。シグナム達もあの木の蔓の塊となった闇の書に呑み込まれ、無事は確認できていない。」

 

ヒイロの言葉にフェイトとなのはは病院の屋上上空にできた木の蔓の塊を目にする。

 

「あれが・・・・闇の書・・・・?」

「フェイト。お前の言う通り、状況は連絡した時とは既に一変している。」

「それは・・・・わかっています。」

 

ヒイロにそう返すフェイトだったが、その表情はどこか悲しげなものであった。

バルディッシュを抱えながら、手を自身の胸に当てたフェイトは視線を僅かにヒイロの方に向ける。

 

「ヒイロさん。」

「・・・・なんだ?」

 

フェイトの言葉にヒイロは闇の書の動向を探るために視線を木の蔓の塊に向けながら答える。

 

「ヒイロさんに電話越しにいろんな事を教えられた時、寂しさを感じたんです。その寂しさは母さんに貴方は私の娘じゃないって言われて拒絶された時の感覚と似ているんです。」

「フェイトちゃん・・・・。」

 

フェイトの言葉になのはも同じように悲しげな表情を浮かべる。彼女もフェイトの言う母親から拒絶された現場に居合わせていたのだろう。

ここで言う母親、というのはヒイロがエイミィからある程度聞いたP.T事件の首謀者、プレシア・テスタロッサのことを指しているのはわかっていた。

 

「ヒイロさんにも考えがあったのはわかっています。だから、これは私のわがままです。聞き流してもらっても、構いません。」

 

「たった1人で背追い込まないでください。いくら私たちが未熟の身だったとしてもできることは必ずあるはずですから。」

 

フェイトがヒイロに想いの内を込めた言葉を届けた瞬間、闇の書の動向を監視していたヒイロの目が異常を捉えた。

 

「・・・・・闇の書の様子がおかしい。警戒を強めておけ。」

 

フェイトの言葉にヒイロは闇の書の様子が変わったことを伝えることで聞き流すことにした。

フェイトとなのはがヒイロの言う通りに闇の書を覆っている木の蔓の塊を見やる。

塊が流動を続けるとその形を変えていく。木の蔓は巨大な木のように病院の側にそそり立つ。

そして、木の蔓に覆われて見えなかった病院の屋上が見えてくるとその屋上に白い魔法陣が展開される。

 

「あれは、魔法陣?でも、魔力が集まっているようには見えないから・・・。」

「転移魔法の類?でも、一体何を・・・?」

 

フェイトとなのはが白い魔法陣を見ながら怪訝な表情を浮かべる。その魔法陣から病院の病衣に身を包んだなのはやフェイトと同い年に見える茶髪の少女が現れた。

その人物は突然の状況に頭が追いついていないのか、困惑した様子で周りを見渡す。

 

「な、なんや急に、なんで私いつのまに外におるん!?」

「っ・・・・はやてだと・・・!?」

「えっ!?あの子がはやてちゃん!?」

 

その少女は闇の書の主であるはやてであった。ヒイロが驚きの声を上げるとなのはとフェイトも病院の屋上にへたり込んでいるはやてに視線を向ける。

さらに困惑しているはやてを尻目に闇の書から吐き出された木の蔓で形成された大木が蠢くと呑み込まれたシグナム達の姿が露わになる。

 

「シグナム・・・・!!」

「やはり囚われていたか・・・。しかもあの囚われ方・・・・。」

 

フェイトが険しい表情を浮かべ、ヒイロはシグナム達の囚われ方が引っかかった。

木の蔓に腕を張り付けられ、ぐったりとした様子で中に浮いている姿。それはさながらシグナム達が囚人、そして彼女らを吊るし上げている木の蔓の大木はまるで処刑台のようであった。その思考に至ったヒイロははっとした表情を浮かべ、苦い顔へと変える。

 

「まさか、奴らをはやての目の前で処刑するつもりかっ!!」

「そ、そんな!!早く止めさせないと!!」

「やらせない・・・!!」

 

なのはがレイジングハートをバスターモードに移行させ、砲撃体勢をとった。フェイトとヒイロはそれぞれバルディッシュから鎌状の魔力刃とビームサーベルを構えながら突撃する。

 

ある程度まで接近すると大木から木の蔓がヒイロ達という外敵を追い払うために襲いかかる。

 

「こ、これは・・・!?」

 

フェイトはあまりの木の蔓の多さに一度足を止め、迫り来る木の蔓をバルディッシュで薙ぎ払う。しかし、ヒイロはスピードを緩めることなくそのまま木の蔓の嵐を突き進んでいく。

 

「ひ、ヒイロさん!!無茶です!!」

「・・・・俺にはできる。だが、お前にはまだ早い。」

 

フェイトの制止する声が響くがヒイロは構うことなく進んでいく。無数の迫り来る蔓をヒイロはゼロシステムを組み合わせながら一つ一つの蔓を把握し、驚異的な頭の回転スピードでそれらを処理していく。

 

そして、蔓の嵐に揉まれること数秒、ヒイロはなんとか大木の元へとたどり着く。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

大木へ向けてビームサーベルを振り下ろす。ビームサーベルは大木を紙切れのように切り裂いた。しかしその巨体さ故に全体的なダメージは少なく、シグナム達の拘束を解くまでには至らなかった。

 

(ツインバスターライフルは最悪はやてにも被害が及ぶ可能性があるため使用しなかったが・・・。ビームサーベルでは無理が過ぎるか・・・!!)

 

ヒイロは苦しい表情を浮かべながら未だ拘束されているシグナム達の方を見やる。

しかし、その時にはヒイロ達の頑張りも虚しく、蔓がシグナム達の胸部を貫いていた。

 

「っ・・・・!!シグナム!!」

 

ヒイロがそう呼びかけるもシグナム達が目覚めることはなく、魔力で編まれたその体を塵へと変えながら消滅していく。

最終的に残ったのはおそらくはやてが守護騎士達に買ったのであろう私服が風に煽られてパタパタとはためくだけであった。

 

「ゼロの予測する未来の通りになったか・・・・!!!」

「間に・・・・・合わなかった・・・・の?」

「そ・・・そんな・・・・ヴィータちゃん・・・シグナムさん・・・!!」

 

フェイトとなのはが憔悴した表情を浮かべる。砲撃体勢に入っていたはずのなのはがその魔法を解いているということは彼女にも蔓が襲いかかってきたのだろう。

ヒイロは太い蔓に引っかかっているシグナムの服を掴むとそれを握りしめ、悔しさを露わにする。

 

「あ・・・・ああ・・・・・!!」

 

今まさに消えそうなほど掠れた声が響く。ヒイロが咄嗟に振り向くとはやてがかなり狼狽した様子で消えてしまった家族(ヴォルケンリッター)達の遺物を見つめる。

目は見開き、表情はさながら目の前の現実を認めていないかのように絶望しきっていた。

そんな彼女を中心に白い三角形の魔法陣が形成されるとはやての頭上に闇の書が瞬間移動してくる。

その瞬間、絶望し、虚ろな表情となった彼女の足元から濃い紫色に染まったナニカが溢れ出る。

まさしく闇と言っても過言ではないソレになのはとフェイトはどうすればいいのかわからないと言った表情を浮かべる。

ただ1人、ヒイロを除いてーー

 

 

はやての足元から闇のようなものが溢れ出るとヒイロは病院の屋上に降り立ち、ウイングゼロを解除する。

そして、そのまま徐に、さらに無防備にはやてに近づいていく。

 

「はやて。俺だ。」

 

はやての目の前まで来たヒイロは座り込んでいるはやてと同じ視線となるようにその場でしゃがみこむ。

ヒイロの声を聞いたはやては先ほどまで光を失っていた目に再び光を取り戻し、はっとした表情を浮かべる。

彼女の足元からは闇が未だにその量を増やし続けている。

 

「ヒイロ・・・・さん?い、生きとる・・・・?」

「俺を勝手に殺すな。だが、まだ会話ができる余裕はあるようだな。」

 

はやての発言に一言申したいヒイロだったが、状況が状況なため、ため息ひとつつくことで流すことにした。

 

「確認する。お前は足元から出ているそれを自分自身で止められるか?」

 

ヒイロがはやての足元から出ている闇を指差しながら尋ねる。はやては自身の足元を見やるも首を横に降る。

 

「もう・・・無理なんや・・・!!もう引き金は引かれてしもうてる!!もう止めようがないんや!!」

 

はやては涙をポロポロとこぼしながらヒイロに訴えるように顔を上げる。

もはや闇の書の暴走を止める術はないようだ。ならば残された手段は世界の破滅を迎える前に闇の書を無理やり停止させるしか手段は残されていない。

ヒイロは嗚咽をこぼしながら涙を流すはやてをただ静かに見つめる。

 

「お願いや、ヒイロさん・・・!!私を今ここで殺してっ・・・・・!!そうすれば闇の書の暴走も止まるかも知れへんから!!」

 

はやてはヒイロに向かってそういうと顔を再度沈めてしまう。ヒイロははやての様子をただ見つめていた。

 

「はやて。」

 

ヒイロがはやてに言葉を投げかける。その声色はどこか優しげであった。

はやてがヒイロのらしくない声に疑問気になりながらも顔を上げる。

 

「最後まで希望を捨てるな。人は希望がなければ生きられない。俺が言えるのはそれだけだ。」

 

そう言ってヒイロははやての頰をつたっていた涙を指で軽くぬぐう。払われた涙が光に当てられてキラキラと反射し、光ったように見える。

そんなヒイロの行動にはやては意味がわからないといった表情を浮かべる。

 

「希望・・・?闇の書が暴走してしまったら、少なくとも地球は滅んでしまうんやろっ!?」

「ああ。だから闇の書が地球を滅ぼす前に停止させる。それこそ、どんな手段を用いてもな。」

「そんなこと・・・・できるんか・・・?」

 

はやては未だに信じられないといった表情を続けたままだった。ヒイロはそんな様子のはやてにただ一言だけを送る。

 

「・・・・・俺を信じろ。」

「・・・・・そんな大それたこと。普通はできひんよ。でも、ヒイロさんならできてしまうんやろな。」

 

ヒイロの言葉にはやては顔をあげながら言葉を紡ぐ。そして、その顔を上げた表情は笑っていた。作り笑いだったのは目に見えたものだった。しかし、それでもはやてはしっかりと笑っていた。

 

「信じてる。私、信じているから。」

 

次の瞬間、はやては紫色の光の柱に包まれる。その麓にヒイロは衝撃をモロに受け、吹っ飛ばされる。

その衝撃の強さは凄まじく、ヒイロは屋上に設置されてあった転落防止用の鉄網を貫通し、屋上から投げ出されてしまう。

しかし、ヒイロは驚異的な反応速度で投げ出された瞬間に手を伸ばし、屋上の淵を片手で掴むことで耐えきる。

 

「ヒイロさんっ!!大丈夫ですかっ!?」

「俺に構うな。来るぞ。諸悪の根源が。」

 

ヒイロの身を案ずるフェイトに声をかけながらヒイロは片手で屋上へと転がり込む。

はやてを包んだ光の柱は天を貫かんばかりに高く伸びていた。その光が徐々に収まりその全貌が明らかになっていく。

 

そこにいたのははやての見る影が微塵も感じられない人物であった。

 

はやてのショートヘアーだった茶髪は銀髪を腰まで下ろしたものへと変わり、四肢はさながら自身を拘束していたように感じられる赤い紐の先に黒を基調としたガントレットとブーツが現れる。なお左手には蛇のようなものが蠢き、集合体となったようなまさに異物といっても差し支えしない禍々しいものが備え付けられていた。

そして何より目を引くのはその女の背中から生えている黒い6枚の翼。

ウイングゼロの翼を天使と表現するのであれば、その女から生えた黒い翼はまさに堕天使といっても過言ではなかった。

 

「あれが・・・・ナハトヴァール・・・・・?」

「奴はあくまで夜天の書の管制人格だ。ナハトヴァールはユーノの調査が正しければ奴の左手についてある蛇のような籠手だ。」

 

なのはの呟きを否定しながらヒイロは現れた管制人格の左手に視線を送る。彼女の左手についた蛇の集合体のようなナハトヴァールはモゾモゾと蠢き、不快感を抱かせる。

 

「つまり、あの人からナハトヴァールを切り離せば、暴走は止まる・・・?」

「そう都合良くはいかないだろう。奴はナハトヴァールと共に既に幾星霜の時を歩んでいる。もはや通常では切除が不可能な領域まで来ている可能性が高い。」

「そ、それじゃあ・・・・!!」

「奴に攻撃を加えて、機能不全に陥らせる。ひとまずそれしか対応策はない。」

 

「またすべてが終わってしまった・・・・。」

 

闇の書の管制人格と思われる人物が言葉を紡ぐ。隠しきれない敵意を感じ取ったなのはとフェイトは自身の得物を構え、戦闘体勢をとった。

ヒイロもウイングゼロを展開し、ビームサーベルを闇の書の管制人格へとその切っ先を向ける。

 

「一体幾たびのこんな悲しみを繰り返せばいいのだ・・・・?」

「貴様の慟哭に興味はない。手早くはやてを過去からの馬鹿馬鹿しい呪縛から解放させてもらう。」

 

 

「最終ターゲット確認。目標、闇の書管制人格、及びナハトヴァール。お前を殺す。」

 

 

最終決戦の火蓋が切って落とされる。過去に振り回されて、家族のいないずっとひとりぼっちだった少女を救うためにヒイロ達は闇の書との決戦へと望む。

 

 




ヒイロがはやての涙を拭ったシーンで『お前を殺す』って言うかと思った人、挙手。
怒ったりしないから。むしろみんながそう思う方に持っていったから。


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第21話 地上を撃つ極光

ヒイロは真正面、なのはとフェイトは空からはやての肉体を媒介にして現れた堕天使(ナハトヴァール)と対峙する。

三人とも鋭い視線をナハトヴァールに向けるが、肝心のナハトヴァールは目を閉じたまま動こうとはしない。

 

しばらく睨み合いの状況が続く中、はじめに動いたのは、ヒイロであった。

足を一歩、前へ踏み出すと同時にウイングゼロのブースターを蒸す。アフターコロニーのモビルスーツにおいても随一の機動力を持つウイングゼロの加速は一瞬でナハトヴァールで接近し、ヒイロの間合いに入れさせる。

 

そして、手に持っているビームサーベルをナハトヴァールへ向けて振り下ろす。立ちはだかる敵を容易く溶断するビームサーベルから発せられる緑色の光刃をナハトヴァールは、瞬時に展開した紫色の魔力シールドで迫る光刃を阻んだ。

 

ビームサーベルと魔力シールドの接触面から稲光が生じるが、ナハトヴァールの魔力シールドにヒイロのビームサーベルが食い込んでいく様子は見られなかった。

 

(・・・・やはり硬いか。シグナム達が展開するシールドとは段違いに硬度がある。)

 

軽く歯噛みしながらヒイロは一度距離を取ろうとする。ナハトヴァールはただシールドを張っただけで腕といった四肢はフリーなのに対し、ヒイロは自身の腕でビームサーベルを振るっている。そのためナハトヴァールが何かしようとすればヒイロは対応が遅れてしまう可能性がある。それを考慮した結果ナハトヴァールと距離を取ることにしたヒイロだったが、不意にヒイロの視界にある光景を捉える。

 

(・・・・なんだ、あれは?)

 

それはナハトヴァールの顔にあまり似つかわしくないものであった。それは彼女の目から溢れ、頰を伝い、一筋の川を作っていた。紫色の魔力シールド越しなためわかりづらかったが、それは謂わゆる、人間で言う涙であった。

 

(涙・・・・か。となれば奴にも感情があるということの証左に他ならんが・・・・。)

 

涙が出ているということはナハトヴァールがこの状況に対して何かしらの感情を抱いているのは確か。嬉しさ、悲しさなど涙が出てくる感情は様々だが、状況やナハトヴァールの発言を鑑みると後者の方が可能性は高い。

 

ヒイロは思案しながらナハトヴァールの様子を観察していたが、ナハトヴァールがヒイロに向けて拳を振るおうとしていたため、瞬時に離脱し、距離を取った。

 

(・・・・速いな。)

 

ヒイロはナハトヴァールに視線を戻した瞬間、そう心の中で呟く。決してナハトヴァールの拳が速かった訳ではない。ナハトヴァールを捉えたヒイロの視界にはその姿とは別のものが写り込んでいた。

それはまるで血のように赤黒く染まりきった短剣であった。しかもそれは一本だけでなく何本もの血に染められたような切っ先がヒイロを取り囲むように宙に浮いていた。

 

即座に状況を確認したヒイロは短剣を動き出す前にウイングスラスターで打ちはらいながら上空へと飛び上がる。

 

病院の屋上で佇むナハトヴァールを見下ろす形となったヒイロの視界に今度は爆発音と共に爆煙が立ち上ったのを見る。ちょうどそこはなのはとフェイトがいた場所でもあった。

ヒイロがそちらの方に視線を向けた瞬間、今度は見慣れた金髪のツインテールが瞬間移動のように視界の端に現れた。忙しなく視線をそちらに向けるとなのはと手を繋いだフェイトがいた。

おそらくヒイロと同じように血のように赤黒い短剣に囲まれてしまった2人はフェイトの瞬間移動の魔法である『ブリッツアクション』を用いてヒイロの側へ転移してきたのだろう。

 

「闇よ、染まれ。」

 

声をかける暇もなくナハトヴァールからの攻撃は続く。視線を再度ナハトヴァールに向けると手を真上へ掲げている様子が見える。

その手の上には黒い稲光を纏った球体が展開されていた。その球体は急速に肥大化し、直径10メートルはくだらないほどの大きさとなっていた。

 

「・・・・爆弾か?」

 

ヒイロがそう呟いたのもつかの間、その黒い球体はさらにその巨体を肥大化させ、ヒイロ達を呑み込まんと迫り来る。

 

「ちっ・・・・・後退するぞ!」

「ふぇっ!?」

「きゃっ・・・・!?」

 

 

舌打ちしながらヒイロはなのはとフェイトを抱きかかえると迫り来る黒い球体から逃走を始める。

黒い球体の肥大化もかなりのスピードを持ってはいたが、ウイングゼロの機動力に追いつくことは出来ず、ヒイロは2人を抱きかかえたまま肥大化の範囲の外へと離脱する。

 

「あ、あの、ヒイロさんっ!?これからどうするんですか!?」

「奴のあの攻撃は範囲が広すぎる。威力も申し分ないだろう。一度身を隠し、対策を考える必要がある。」

 

なのはの質問に返答しながらヒイロは手頃なビルの陰にナハトヴァールから逃れるように隠れこむ。

なのはとフェイトを下ろしたヒイロはビルの陰からナハトヴァールの様子を伺うように顔を少しだけ出した。

 

ナハトヴァールがいる病院付近の空域を覆っていた黒い球体は消え去り、遠目にだが、ナハトヴァールが佇んでいるのが見える。少しの間様子を見ていたが、ナハトヴァールが動きだすようには見えなかった。

 

「・・・・奴がいつ動きだすか分からない。さっきも言ったができる内に対策を講じるぞ。」

「・・・・・あの黒い球体は多分、広域攻撃型です・・・。避けるのは、私たちでは難しいかと・・・。」

「あの攻撃をやられる度にお前達を抱えていくのは時間の無駄だ。闇の書の暴走が世界の破滅を引き起こすのであれば、少しでも手間を省くべきだ。」

「うん。一回一回ヒイロさんに任せる訳にも行かないから・・・・。防御・・・とか?」

「俺は魔法に関しては疎いが、あの魔法の威力は破格だと言うことは俺でも察せられる。防御も難しいと考えるべきだ。」

「あう・・・・。」

 

 

ヒイロにそう言われ、しょぼくれた表情を見せるなのは。現状としてナハトヴァールにあの黒い球体による広域攻撃魔法を撃たせないこと以外の対応が考えられない。

 

「フェイト!!なのは!!」

「あ、アルフ!?」

「全く、エイミィに闇の書が暴走しているって聞いて来てみれば、なんだい今の魔法!?とんでもないじゃないの!!」

 

打開策が浮かばず、思案に耽っている三人のところにアルフがやってくる。その様子は闇の書の暴走を目の当たりにしているのもあったのかかなり苦々しく表情を歪めていた。

 

「アルフ。ユーノやクロノはどうした?」

「一応、グレアム提督の方は済んだみたいだよ。どうやら闇の書を永久に凍結する腹づもりだったみたいだね。」

「・・・・根本的な解決にすらならんな。やはり奴のやろうとしていたことはいずれ同じ犠牲者を生み出す。」

「・・・・・言い方はともかく、解決になっていないってのは同感だね。」

 

ヒイロの言葉にアルフはムッとした表情を浮かべるが追及したりはせずに話を進めることにした。

 

「今はリンディ提督が試験運行中だったアースラを引っ張って来ている。ユーノやクロノもアースラに同乗しているけど、それでも時間はかかるみたいだよ。」

「・・・・今は私達でなんとかするしかないってこと?」

 

フェイトの確認の言葉にアルフは無言で頷いた。なのはも険しい表情を浮かべながらだったが、気持ちを入れ直し、大きく頷く。

その次の瞬間、ヒイロ達を突風が襲う。その風の強さは思わず顔を覆ってしまうほどであったが、なんとかその場に踏みとどまる。

 

「今のは・・・・結界か?」

「・・・・私達を閉じ込める用のだね。完全にターゲットにされたってわけだね。」

 

風が止むと先ほどまで夜の闇で暗かった視界が僅かにセピア色に染まる。それはシグナム達が張っていた結界と酷似していた。

ヒイロが再度ナハトヴァールの様子をビルの陰から見やる。するとちょうど背中から生えた黒い翼を一回りほど大きく広げたナハトヴァールが病院の屋上から飛び立った様子が見て取れた。

 

「・・・・奴が動き出した。」

「ど、どうするんですか?まだ対策と言える対策も立てれてないですけど・・・。」

 

フェイトの言葉にヒイロは軽く思案の海に入る。再度黒い球体を放たれてしまえば、範囲から鑑みてヒイロはともかくとしてフェイトやアルフら三人への直撃は免れない。

ならば最終的に帰結するのがそもそもとして撃たせないように立ち回る他に方法はない。

 

「・・・・・俺が奴に接近戦で組みついておく。」

「やっぱそれしかないのかねぇ〜。」

 

アルフが困ったように頭に手を回し、自身の髪を弄り回す。なのはやフェイトも似たような表情を浮かべているが、代替え案が出てこない以上、ヒイロに限らず誰かしらがナハトヴァールに組みついておくのが一番手っ取り早い。

 

「時間がない。行くぞ。」

 

ヒイロはそう言うとウイングゼロの白い翼を羽ばたかせながらビルの陰から飛び出していく。

ナハトヴァールがビルの陰から現れたヒイロを視認すると悠然と拳を構えながら突進してくる。

ヒイロはこの攻撃を手にしていたビームサーベルで斬り払おうとする。しかし、ビームサーベルの刃はナハトヴァールの拳に触れそうになったところで激しいスパークを発生させながら阻まれてしまう。

ヒイロは表情を一瞬驚愕のものに染めながらも原因を探る。

 

すると拳とビームサーベルとの接触面に僅かにだが紫色のバリアが見えた。ナハトヴァールは拳によく見ないと視認ができないレベルでプロテクションを張っていたのだ。

だが、原因がわかったところでナハトヴァールはもう片方の拳をヒイロに向けて振り下ろす。ヒイロはそれを視認するとナハトヴァールと斬り結ぶのをやめ、距離を取ろうとする。

 

「っ・・・・!?」

 

ヒイロの表情が再度驚愕のものに変わる。ビームサーベルを持っていた腕にいつのまにか桜色のバインドがかけられていたのだ。魔力光そのものはなのはのものだが、十中八九、目の前のナハトヴァールが仕掛けたのは明白だ。

 

(闇の書は元々は魔法を保管する書物・・・!!なのはから魔力を蒐集した時に使い方を記録したのか・・・!!)

 

強度こそは破壊できなくもなかったが、既に目の前にナハトヴァールの拳が迫っていた。

ヒイロは舌打ちをしながら空いていたもう片方の手でナハトヴァールの拳を受け止める。

常人であれば受け止めることすらままならない威力と衝撃だったが、ヒイロはそれを苦い表情を浮かべながらもなんとか押しとどめる。

 

しばらく力と力の取っ組み合いを繰り広げていたヒイロとナハトヴァールだったが、先に均衡を破るものが現れた。

ナハトヴァールの両足をオレンジ色のバインドが縛り付け、行動を制限する。ナハトヴァールはそれに僅かにだが視線を持っていかれる。

 

「ヒイロ!!ソイツから離れな!!」

 

ナハトヴァールにバインドを仕掛けた人物であるアルフがヒイロにそう呼びかける。ヒイロはそれを聞くと同時にナハトヴァールの後方からレイジングハートを構えるなのはの姿が見え、ゼロシステムがヒイロの背後にいるフェイトの姿を捉えていた。おそらく砲撃魔法を使用するつもりなのだろう。

意図を理解したヒイロはウイングゼロの双肩に搭載されているマシンキャノンをナハトヴァールに向けて掃射する。

あいにく放たれたマシンキャノンの弾はプロテクションに阻まれてしまうが、炸裂した煙幕がナハトヴァールの視界を潰す。

ヒイロはその間にバインドを物理的に破壊するとナハトヴァールから距離を取った。

 

『Plasma Smasher』

「ファイアっ!!!」

『Divine Buster Extension』

「シューートッ!!!」

 

砲撃準備をしていたなのはのレイジングハートとフェイトが展開した金色の魔法陣からナハトヴァールに向けて一直線に二筋のビームが疾る。

 

「砕け。」

 

そのような状況でナハトヴァールは表情一つ変えることなく機械的に言葉を紡ぐと闇の書が発光。次の瞬間にはアルフが仕掛けたバインドを粉砕していた。

自身を縛るものがなくなったナハトヴァールがなのはとフェイトが放った二筋の光に向けて、掌をかざす。

 

「断て。」

 

再度一言だけ呟くと両の掌から漆黒の魔法陣が現れる。その魔法陣はなのはのディバインバスターとフェイトのプラズマスマッシャーを塞きとめる。

そのことになのはとフェイトは険しい表情を浮かべながらもナハトヴァールに向けて照射を続ける。

そんな最中、ナハトヴァールから距離を取ったあと、アルフの隣で様子を見ていたヒイロはナハトヴァールの周囲に血塗られた短剣が展開されていることに気づく。

 

「反撃されるぞ!!警戒を怠るなっ!!」

『っ・・・・!?』

 

ヒイロが2人に向けて告げた瞬間、血塗られた短剣が真紅の軌跡を描きながらなのは、フェイト、そしてアルフとヒイロに襲いかかる。

ヒイロはビームサーベルを手にするとゼロシステムを駆使して短剣の軌道を読み切り、ヒイロとアルフに直撃する直前でビームサーベルを横薙ぎに一閃する。

 

短剣を消しとばしたヒイロはなのはとフェイトがいた場所に爆煙が上がっていることに気づく。程なくして2人が爆煙から現れると無意識に無事を祈っていたのか、ヒイロは少しばかり息をついた。

 

「・・・・アンタの指導のおかげってやつかね?2人ともヒイロの声を聞いた瞬間にしっかりと反応していたよ。」

「・・・・・あの程度でやられるほど柔ではないだろう。」

 

アルフとそんなやりとりをしたのもつかの間、ナハトヴァールは次の行動に移していた。

掌を掲げると自身の足元に白い三角形の魔法陣を展開する。そして、掌からは桜色ーーつまりなのはの魔法陣が展開された。

 

「・・・・何をするつもりだ?」

「あれは、なのはの・・・・?」

「咎人達に、滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。」

 

ヒイロとアルフが怪訝な表情を浮かべながら様子を伺っているとナハトヴァールが魔法の詠唱とも取れる言葉を発する。

するとナハトヴァールの周囲から桜色の光が生まれては魔法陣に集束、生まれては魔法陣に集束を繰り返していく。

光は徐々に巨大化していき、ナハトヴァールの身長を優に越すほどまでになっていた。

呆然とした様子のなのはだったがポツリと言葉をこぼす。

 

「スターライト・・・ブレイカー・・・・?」

 

スターライトブレイカー。それはヒイロがまだ記憶を失っていた時になのはが結界を破壊するために放った砲撃魔法。

その威力は凄まじく、結界を破壊してもなお、その爆光は空を貫いてくほどであった。

 

「アルフ!!ヒイロさん!!」

 

フェイトは呆けているなのはの手を引きながらアルフとヒイロに呼びかける。

アルフはフェイトが何を言おうとしているのかがわかったのかナハトヴァールに背を向け、現空域から離れていこうとする。

ヒイロもアルフを追うようにウイングバインダーを羽ばたかせ、現空域を離れる。

 

「・・・・あれは余程の威力を誇るようだな。」

「あれ、ヒイロ見てなかったのかい?てっきり初めて守護騎士の連中と戦った時に知ってるもんだと・・・。」

「・・・・あの時はゼロに苛まれていた。その時の意識は曖昧だ。これまでの記憶を取り戻したというのもあったのだろう。」

「なるほどねぇ・・・。」

「なのは、スターライトブレイカーの射程距離はどれほどだ?」

 

アルフとの会話を終えるとヒイロはウイングゼロの通信機能を介して、なのはに念話という形でコンタクトを取る。

 

『え?射程・・・・ですか?伸ばそうと思えば伸ばせるので・・・わかんないです。はい。』

「・・・・射程ぐらい把握しておけ。戦闘において自分の有効射程距離を把握しておくのは当然だ。」

『ご、ごめんなさい・・・・。』

 

なのはの言葉に呆れ果ててため息すらも出てこないヒイロ。射程がわからないのであれば、どこまで逃げ果せれば良いのか具体的な部分がわからない。

 

『あの・・・とりあえず私が答えますね・・・・。』

 

どうやら代わりにフェイトが答えてくれるそうだ。ヒイロはなのはが知らないことをフェイトが知っているのだろうかと思っていたが、口には出さないことにした。

 

『とはいえ私自身、なのはのスターライトブレイカーの射程はわかりません。だけど回避に専念することを薦めます。まともに喰らえば、防御した上でも堕とされます。』

「・・・・まるで自身が受けたことがあるような言い草だな。」

『はい。なのはと戦った時にバインドをかけられた上でそれを喰らいましたから。』

 

ヒイロはその言葉を聞いて、拠点のアパートでエイミィに見せてもらったなのはとフェイトが戦っている映像を思い出す。

 

『死ぬほど痛かったです。』

「・・・・そうか。」

 

フェイトの抑揚のない言葉にただ一言だけ返すヒイロ。しかし、デバイスには非殺傷設定が施される以上、自爆以上に死ぬほど痛いことにはならないだろうとヒイロは心の中で決め込んだ。

その時、ウイングゼロのセンサーがある反応を示す。

ゼロシステムにより、ヒイロの脳内に直接インプットされる情報によると、どうやら結界内にヒイロ達4人とは別に生体反応が二つほど存在しているということであった。

 

『ヒイロさん・・・!!』

「こちらでも確認した。結界内に生体反応が見受けられる。状況を鑑みるに一般人だろうな。」

「一般人・・・!?こんなところにかい!?」

 

フェイトの念話にそう返すとアルフが焦ったような声が響く。ナハトヴァールは現在スターライトブレイカーのチャージ中だ。ツインバスターライフルには及ばないかもしれないが、それでも高威力なのは確かだ。衝撃に巻き込まれればひとたまりもないだろう。

 

「俺が救出に向かう。お前たちはそのまま現空域を離脱しろ。」

『・・・・わかりました。でも、決して無理はなさらないように。』

「ああ。」

 

フェイトの念話に端的に答えるとヒイロは高度を落とし、ビルの合間を潜り抜けていく。

高度を落としてから程なくして、ヒイロは反応のあった地点に降り立つ。

その時にちょうど建物と建物の間から2人の子供が出てきたのが見えた。

片方はストレートに伸ばした茶色じみた金髪に碧い瞳の少女。

その彼女が手を引いているのはウェーブがかった紫色のロングヘアーに白いカチューシャをつけた少女。

 

ヒイロが出会ったアリサ・バニングスと月村すずかその人であった。

 

ナハトヴァールのチャージは目前まで迫っていた。猶予の時間はほとんど残されてはいないと考えていい。

 

「貫け、閃光。スターライト、ブレイカー。」

 

そして、ナハトヴァールの魔法陣からチャージが完了したスターライトブレイカーが放たれる。地上に向けて撃たれたそれはドーム状の爆発を引き起こすとビルをまるごと呑み込みながらヒイロ達へと迫り来る。もはや選択肢は残されていない。

ヒイロはアリサとすずかに背後から近づくと有無も言わさず2人を担ぎ、スターライトブレイカーの爆発から逃走を図る。

 

 




プランは整えた。あとは自分がどこまでやれるか、確かめるだけです。
こじつけかもしれないけど、二次創作とはそのためにあるものだと考えている。原作とはぶち壊すもの。
祝福の風、その風を途絶えさせないために。


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第22話 悲しみのナハトヴァール

事実上のなのは達の友情回。


スターライトブレイカーの爆発が海鳴市のビル群を呑み込んでいく。 その爆発から生まれた風は徐々に強くなり、余波が迫っていることを否が応にも感じさせる。

 

時間がない。そう判断したヒイロは爆発時に発生した風に煽られてその場にしゃがみ込んだアリサとすずかを小脇に抱えるとウイングバインダーを大きく羽ばたかせながら爆発の範囲からの離脱を図る。

突然、雑に抱えられたすずかとアリサは張本人であるヒイロの顔を見やる。しかし、ヒイロはウイングゼロを展開しているため、その顔を伺うことは出来ず代わりにウイングゼロのガンダムフェイスを拝むこととなった。

 

「ロ、ロボットーーーっ!?もうなんなのよ、さっきから人の気配はなくなるわなんか視界は変な色に染まるわでいっぱいいっぱいなのに今度はロボットっ!?もうアタシのキャパシティのライフはゼロなんですけどーー!!!」

「黙っていろアリサ。舌を噛んでも知らないからな。」

「そ、そうだよアリサちゃん。今結構高いところ飛んでいるんだからーーって、あれ?その声・・・。」

 

小脇の中で喚き叫ぶアリサをヒイロが咎めるとすずかも便乗してアリサを宥める。すると、すずかは目の前のロボットから響いてきた声に聞き覚えがあったのかそのロボットの横顔を見つめながら首を軽く傾げる。

 

「もしかして・・・ヒイロさん?」

「えっ!?うそぉっ!?あ、でも確かになんか聞き覚えあるかも!!ちょっと、どういう状況なのか説明してよ!!」

 

目の前のロボットがヒイロだと当たりをつけるとアリサが先ほどまでの醜態はどこへ行ったのかヒイロに突っかかってくる。

ヒイロはアリサを無視し、少しの間考え込む。アリサとすずかをどうするかを決めるためだ。

 

(いつまでもコイツらを抱えて行動するのは不可能だ。ならば、結界内のどこかに避難させておくか?いや、無理だな。)

 

ヒイロはアリサとすずかを結界内のどこかに隠しておくかと考えたが、即座にその考えを蹴った。

仮にどこかに隠してたとしてもナハトヴァールの攻撃が隠した場所に流れ玉として直撃するかもしれないのだ。

結論としてはアリサとすずかをこの結界から脱出させるのが一番手っ取り早い。

 

「こちらヒイロ。結界内にいたアリサとすずかを保護した。どういう訳かは知らんが確実に迷い込んだと見て間違いないだろう。」

『い、一般人ってアリサちゃんとすずかちゃんだったんですかっ!?』

「ああ。だが見つけたのはいいが、この結界内部に居させるのは危険が多すぎる。転移魔法などで結界の外へ送った方が賢明だろう。」

 

通信を送るとなのはの驚愕に染まった声が念話で響く。無理もない話だ。大事な友達が危険な状況下に晒されていて、冷静でいられるのはそれほどいないだろう。

ヒイロは軽く背後を見やり、スターライトブレイカーの爆発範囲を注視しながら飛行する。爆発は飛行しているヒイロに徐々に迫ってきていた。その様子を確認したヒイロはウイングゼロの翼を抱えている二人を覆うように被せ、風が当たらないようにすると徐々にスピードを上げ、スターライトブレイカーの爆発を振り切っていく。

そのうち地上の風景は海鳴市に聳え立つビル群から僅かに盛り上がった丘が点在するのどかな平原へと切り替わっていく。

 

「す、すごい・・・あっという間に郊外に出ちゃった・・・・。」

 

ウイングゼロの翼で覆われていた二人の視界が再び地上の光景を映し出すとすずかはウイングゼロのスピードに舌を巻く。

 

「ね、ねぇ、ヒイロさん。そろそろ状況を教えてよ。一体何がどうなってるの?」

「・・・・端的に言えば地球の破滅が迫っている。」

「ち、地球の破滅ぅっ!?」

 

ヒイロが出した地球の破滅という言葉にアリサは驚愕の声を響かせる。すずかも声こそは出さなかったが口元を両手で覆い隠していることから驚いているのは明白だ。

 

「ヒイロっ!!大丈夫かいっ!?」

 

郊外へと飛んできたヒイロに同じように海鳴市の郊外へと避難していたのか、アルフが駆け寄ってくる。

 

「問題ない。だが、この二人を結界内へと残しておくのは危険だーーどうした?」

 

アルフに転移魔法の使用を頼もうとしたところでヒイロはあるものが視界に入った。それはアリサのアルフに向けられている表情であった。顎に手を乗せ、訝しげな表情でアルフを見つめるその姿は何かを懸命に思い出そうとしているようであった。

そしてその表情を向けられているアルフはなぜか少しばかり居心地が悪そうな表情を浮かべながら、アリサと顔を合わせないようにしていた。

 

「あ゛ー!!!!思い出したー!!!アナタ、旅館でなのはに突っかかってきた外国人のお姉さんでしょっ!!!」

「うわっ!?やっぱ覚えてやがったよ!!」

「・・・・・確かにあの時のお姉さんに似ているけど・・・あんな犬の尻尾とか耳とか生えてたっけ?」

 

アルフを指差しながらさながら犯人を見つけ出したように叫ぶアリサと対照的にアルフに生えている尻尾と耳を見つめながら首をかしげるすずか。

 

「なんだかゲームに出てくるキャラクター見たいで可愛いですね。」

「・・・・なんかそういうこと言われるとむず痒いね・・・。」

「話を戻すが、アルフ。お前は二人を結界の外へ転移させることは可能か?」

 

すずかに可愛いと言われ、照れているのか髪の毛をいじるアルフにヒイロは転移が可能かどうかを尋ねる。

アルフは緩んだ表情を元に戻すと海鳴市の街に視線を移す。その先ではスターライトブレイカーの爆発が未だに市街を覆っている様子が見えていた。

 

「あの爆発が止んでからじゃないと厳しいね。さらに言うとこの結界はミッドチルダ式とは違うから、転移魔法を起動させるにも時間がかかるよ。」

「了解した。」

 

 

ヒイロはそう言うとアルフに二人を押し付ける。アルフが困惑顔で二人を抱えるのを見届けるとウイングゼロの翼を大きく広げ、羽ばたく態勢を取った。

ナハトヴァールの攻撃を接近するヒイロに集中させ、アルフが転移魔法を発動させるまでの時間を稼ぐためだ。

 

「ヒイロさん!!」

 

しかし、そのタイミングでヒイロは足止めに向かおうとした翼を止めざるを得ない状況が発生してしまう。

的を絞らせないために別方向に向かったはずのなのはとフェイトがこちらに向かってきてしまったのだ。

だが、そもそもとしてどうやって二人はヒイロの後を追ってきたのだろうか?

 

「・・・どうやって追ってきた?」

「えっと、ヒイロさんからの通信を貰った後、空に遠目だったけど、不自然な青白い光が見えたから、もしかしてって思って・・・・。」

 

なのはの口から出た不自然な青白い光というのはウイングゼロのブースターの光のことを指しているのだろう。

なのはとフェイトはそれを追って別々に離れたはずのアルフとヒイロの元へとやってこれた、と言うことだろう。

だが、なのはとフェイトがヒイロの前に姿を現したということはーー

 

「なの・・・は・・・・?」

「それにフェイトちゃんも・・・?」

 

必然的にアリサとすずかにも自身のバリアジャケット姿を見られてしまうことに他ならない。

二人が見たこともない格好、それに宙に浮いている姿を見て、アリサとすずかは驚きを禁じ得ない。

なのはとフェイトも少々気まずそうな表情を浮かべる。それはさながら隠し事が露見してしまった時のような反応と酷く似ていた。

 

「・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

 

しばらく誰も口を開かず、沈黙の時間が続く。なのはとフェイトは友人に隠し事をしていた後ろめたさ。すずかとアリサは開いた口が塞がらないといった様子で状況の理解に時間がかかってしまっているようだ。

 

ヒイロは時間は待ってくれないと思いながらも口を挟むようなことはしなかった。これはあくまで当人たちで解決しなければならないことであり、ヒイロには他人事と決め込む他なかった。

 

そして、ヒイロのその言葉は現実となる。

 

「っ・・・・下だ!!」

 

ゼロシステムの見せる未来がヒイロを突き動かす。たった一言の警告だったが、なのはとフェイト、それにアリサとすずかを抱えたアルフがその場を離れる。

その瞬間、先ほどまでいた場所を下から突き出た火柱が貫いた。思わず下を見つめると地面がひび割れ、そこから溢れ出たマグマが空へと吹き上がるように柱を形成していた。

 

「・・・・本格的に地球の崩壊が始まったか・・・!!」

 

ヒイロは苦い表情を浮かべると海鳴市街の上空に佇んでいるナハトヴァールに視線を向ける。しかし、なのはとフェイトは未だにすずかたちのことが気がかりなのか、表情をうつむかせたままだ。

 

「ーーーーーー行って。」

「え………?」

 

アリサが呟いた。だが、突然のものだったため思わずなのはは表情を固めたまま聞き返した。

 

「早く行きなさいって言ったの。正直言って、まだ自分でも全然呑み込めていない。そりゃそうよ。何にも説明とかもらってないしね。」

「うっ・・・・その、ごめ「だけど。」えっ?」

 

反射的に謝ろうとしたなのはにアリサは言葉を被せ、自身の心の内を語り続ける。

 

「だけど、今地球がとんでもないことになっているってことは分かるわ。それにこれを止めることができるのもなのは達しかいないってのも分かっちゃった。無駄に頭がいいって言うのも考えものね。」

 

アリサは一瞬不機嫌そうな表情を浮かべたが、すぐにそれを引っ込めるとなのはとフェイトを見据える。

 

「だから、アタシの言いたいことはこれだけ。今は、貴方達がやらなきゃならないことをやって。」

「アリサちゃん・・・・。」

「でも、後で絶対全部話すこと!!隠し事なんかしてもどうせろくでもないことになるんだから!!」

 

アリサはなのはとフェイトを人差し指で指しながら笑顔を浮かべる。

その様子につられてふたりも笑みをこぼす。

 

「私もアリサちゃんとほとんど同じかな。二人が何をしていたのかは知りたいけど、そんな悠長なことを言っていられる時間はないみたいだから。」

 

すずかも柔らか笑みを浮かべながらなのはとフェイトを送り出すことを決意する。

 

「すずかちゃん・・・アリサちゃん・・・・。」

「二人とも、ありがとう。それと今まで隠していたことはやっぱり謝らなきゃならないと思う。」

「何言ってるのよ!!」

「私達は!!」

『友達でしょっ!!』

 

泣きそうな表情を浮かべるなのはとフェイトにアリサとすずか(親友達)は笑顔を浮かべながら二人を見送る。

 

「なのは、フェイト、済んだなら行くぞ。アルフは転移魔法で二人を脱出させろ。」

「アリサちゃん、すずかちゃん、いってくるね。」

「必ず、無事に帰ってくるから。」

 

そう言って軽く手を振るなのはとフェイトにアリサとすずかは手を振り返す。

 

『アルフ、二人を結界から脱出させた後、二人の側にいてあげて。』

『・・・・大丈夫かい?』

『うん。二人に何かあると安心して戦えないから。』

『わかった。だけど、無理しちゃダメだからね?』

 

フェイトがアルフに念話でアリサとすずかの警護を頼むと、ヒイロが先導する形でナハトヴァールへと飛翔を始める。

 

程なくして、海鳴市街に戻ったヒイロ達は上空で静かに佇むナハトヴァールを見据える。

ナハトヴァールはヒイロ達という外敵が目の前に現れない限り、ただじっとしていることが多い。さながらいずれ訪れる滅びを受け入れているように思える。だが、ヒイロは少しばかり気がかりがあった。ナハトヴァールがその深紅の瞳から涙を流していたことである。

 

「ねぇ、ヒイロさん。遠目から見ているからはっきりとは分からないんだけど、もしかしてあの子、泣いてる?」

「・・・・そもそもとしてあんな表情を浮かべられて、泣いていないって言うのもどうかと思う・・・。」

 

どうやらなのはもナハトヴァールの涙を見つけたようだ。フェイトも同じようにナハトヴァールの涙を見つけ出したようだ。

 

「・・・・俺も一応は確認している。それがどういう意味を表しているのかは知らんがな。」

「・・・・もしかしたらナハトヴァールさんも本当は暴走を止めたいんじゃないかな?」

 

なのはの言葉にヒイロは呆れるように軽くため息をついた。なのはのこの後の行動をなんとなく予見できてしまったからだ。

 

「・・・・ナハトヴァールに投降でも呼びかけるつもりか?」

「うん。」

 

ヒイロの言葉になのはは大きく頷くことで自分の意志を露わにする。

どうやら決意は固いようだ。なのはの目にはそれほどのものが籠っているのをヒイロは察してしまう。

 

「・・・・勝手にしろ。だが、こちらは既に奴に敵対行動を取っていることを忘れるな。」

 

完全に呆れている口調ながらもヒイロは腕を組むことでなのはの行動への不干渉を表す。

 

「・・・・ありがとう。それとごめんなさい。私のわがままに付き合ってもらって。」

「ふん・・・・。これは俺の所感だが、奴は暴走に関しては諦めている節が見られる。」

「諦めている・・・ですか?」

 

フェイトがそう言うとヒイロは二人と視線を合わそうとはせずに言葉を続ける。

 

「闇の書と成り果てた夜天の書は幾度となく転生を繰り返し、膨大な時間を過ごしてきた。その途中でも暴走した回数も計り知れない。奴は自身の力で破壊されていく世界をまざまざと何度も見せつけられ、どうしようもない無力感に苛まれていき、そして奴は諦めた。」

「それはつまり、あの人は絶望している、ということですか?」

 

フェイトの言葉にヒイロは軽く頷くことでそれが概ね正しいことを伝える。

 

「有り体に言えばそうなるが、そのレベルは常軌を逸脱しているだろう。」

「一筋縄では行かない、ということですね。」

「その上で奴に投降を呼びかけるのはお前の勝手だ。だが、これだけは言っておく。奴と戦う覚悟だけはしておけ。」

 

ヒイロの言葉になのは少しの間、目を閉じ、自身の気持ちを整理する。

確かに自分は既にナハトヴァールに己の得物を向けてしまっている。自分の考えが都合が良すぎるものだっていうのは理解している。

それでもいくら一度は矛を交えているとはいえ、涙を流し、泣いている人を見過ごすことはできない。

 

なのはは目を開くとヒイロより少し前へ躍り出る。

 

「ナハトヴァールさん!!止まってください!!」

 

なのははナハトヴァールに念話を交えずにそのまま語りかける。しかし、ナハトヴァールはこれといった反応を示さず、じっと目を瞑ったままだ。

 

「闇の書の暴走が止まらないとはやてちゃんがいる世界も滅んでしまうんです!!お願いです!!今ならまだ間に合うんです!!」

「・・・・我が主は、この世界が、自分の愛するものを奪った世界が、夢であってほしいと願った・・・・。」

 

なのはの言葉についにナハトヴァールは口を開いた。しかし、その内容に少なからずヒイロは眉を顰める。確かにはやてはヴォルケンリッター達が消滅した時、現実を拒絶するような表情を浮かべていた。しかし、それはヒイロが目の前に現れたことにより、正気に戻っていたはずだ。

つまり、ナハトヴァールの言う世界が夢であってほしいというのははやてが一時的に露わにした感情に過ぎない。

 

「守護騎士達の感情は私と精神的にリンクしている。故に我は親愛なる主の願い、ただそれを叶えるのみ。主には穏やかな夢の内で、永遠(とわ)の眠りをーーー」

「・・・・先ほどから貴様は的外れなことばかり口走っているな。やはり所詮はプログラムか。主であるはやての心情すら理解できんとは管制人格の名折れだな。」

「何・・・・?」

「あ・・・あれ?ヒイロさん・・・?」

「気が変わった。俺も奴に少しぐらいは物申しておく。」

 

突然の罵倒にも等しい言葉にナハトヴァールは表情を歪め、なのはが肩透かしを食らっている内に発言者であるヒイロは上空で佇むナハトヴァールをウイングゼロのフェイス越しに睨みつける。

 

「仮に世界を滅ぼしたところではやてが喜ぶとは到底思えん。アイツは優しい奴だ。ほぼ初対面の俺に命を無下にするようなことは止めろと言ってきたほどの奴だったからな。」

「・・・だが、主は現に世界に、現実に絶望をした。ならば道具でしかない我はそれを叶えるだけだ。」

「それはあくまではやての一時的な感情の発露にすぎない。お前はそれを勝手にはやてが絶望したと解釈し、願いとでっち上げ、暴走するための口実にしただけだ。」

「っ・・・・・貴様っ・・・・!!」

「シグナム達ははやてを、自分達の主を救いたいという一心で魔力蒐集を行なっていた。それこそ、自身を悪だと分かっていながらな。」

 

シグナム達の一連の行動はすべて、主であるはやてを思ってのことだった。

記憶が一部削除されてしまっているということもあったが、今までの主とは違い、自分達に優しくしてくれた、おそらくもう二度と現れることはないであろう心優しき主を。故に彼女らは自分達が悪に堕ちようとも最終的にその行き着く先が破滅であったとしても彼女らにとってはたったひとつの一抹の可能性だった。

 

「だが、対して貴様は何をやっている?たかが少し細工を加えられた程度で主導権を別の存在に奪われ、後は訪れる滅亡をただ呆然と何もしないまま見つめてきた貴様が主を思うだと?妄言を抜かすのであれば、まずは貴様が永遠の眠りにでもついていろ。」

「ちょ・・・ちょっとヒイロさん・・・流石に言葉が過ぎるような・・・。」

 

ヒイロの口から矢継ぎ早に出てくるナハトヴァール、というより闇の書の管制人格に対する罵倒の数々にフェイトは苦い表情を浮かべながら止めにかかろうとするがーー

 

「・・・・私は・・・ただの魔道書でしかない・・・!!」

「ならば貴様が流しているその涙はなんだ?お前は自分の感情のどこかでこの暴走を止めたいと感じているんじゃないのか?」

 

歯噛みするナハトヴァールを尻目にヒイロはついに彼女のその頰を先ほどから伝っている涙について詰問をする。

 

「・・・・そうだ・・・。そうじゃなかったら、この現状に対して、涙を流すはずなんてない!!」

「うん!!悲しいから、諦めたくないから涙を流すんだ!!ナハトヴァールさん、もう一度言います!!」

 

フェイトはヒイロの言葉に同調するように先ほどまでヒイロを止めようとしていた口をナハトヴァールへ向ける。

なのはも口調を強いものに変えながらナハトヴァールへ視線を向ける。

 

「ナハトヴァールさん、止まってください!!まだ、はやてちゃんを助けられるはずだから!!」

「・・・もう・・・遅い・・・。闇の書の主の宿命は始まった時が、終わりの時だ・・・・!!」

 

なのはの言葉にナハトヴァールは自身の左腕につけられたパイルバンカーのようなガントレットを向ける。

その先端から闇のような深淵に染まった魔力弾が放たれる。

ヒイロ達はそれが放たれる瞬間にその場から離れる。

 

「っ・・・・この駄々っ子・・・・!!」

「フェイト、お前が思うのももっともだ。だが、戦場では迂闊な行動が死につながる。俺はお前に感情のまま行動しろとは言ったが、自分の感情に呑まれろと教えた覚えはない。」

「ヒ、ヒイロさん・・・。ごめんなさい・・・。」

 

逸るフェイトをヒイロが腕で制止する。フェイトの気持ちの昂りが収まったと判断したヒイロはナハトヴァールに視線を移す。

 

「・・・・気をつけろ。奴の左腕に変化が見られる。これまでとは違う行動パターンを行うかもしれん。」

 

ヒイロの言葉になのはとフェイトは頷きながらレイジングハートとバルディッシュを構え直し、戦闘態勢を取った。

対するナハトヴァールは闇の書を広げると赤紫色に光る槍を生成する。

 

「それがお前自身の答えか。いいだろう。だが、貴様がその答えを選んだのはミスだ・・・!!」

 

ヒイロはビームサーベルを抜き、ナハトヴァールと対峙する。まだ何もかも諦めるには早すぎることを、伝えるためにーー

 

 




・・・あまりヒイロっぽくないかもしんない・・・。



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第23話 夢惑う戦士たち

ようやく個人的に一番書いてみたいと思っていたシーンまで漕ぎ着けそうです・・・・。


「紫電よ!!疾れ!!!」

 

ナハトヴァールが腕を振り下ろすとその動きに呼応するように赤紫色に光る槍がヒイロ達に雨霰のごとく降り注ぐ。

あっという間にヒイロ達の周囲を爆煙が包み込むが、ヒイロは超人的な反応速度、フェイトは持ち前のスピードでそれぞれ槍の雨から抜け出した。

しかし、それはヒイロとフェイトのように速さで勝負するタイプだからできることであった。スピードで二人に劣るなのははその雨から抜け出すことが出来ずに魔法陣を展開することで防御する。

 

なのはの視界が爆煙に包まれ、視界不良に陥っている中、ナハトヴァールが左腕のパイルバンカーのように形が変化した籠手を構えた。

次の瞬間、爆発的な加速を持ってなのはが取り残されている爆煙の中へと突撃を開始する。

 

「・・・・!!」

 

ヒイロが歯噛みしている間にナハトヴァールは左腕を後ろに引き、力を込める。

狙いはもちろん、爆煙に一人取り残されたなのはだ。

 

「っ……くっ!!」

 

爆煙による視界不良の中、ナハトヴァールの影を視認したなのはは咄嗟に防御用の魔法陣を展開する。なのはの防御力はフェイトの実力を持ってしても破ることは難しい。まさに要塞のような硬い防御を有していた。

 

「はぁぁぁっ!!」

「ーーーっああっ!?」

 

しかし、ナハトヴァールはそのなのはの魔法陣を紙切れのように打ち砕く。それだけでも眼を見張るものだったが、ナハトヴァールはパイルバンカーの先端から闇に染まった光線を撃ちだした。密接した状態からの闇の光線はなのはの体を貫き、衝撃とともになのはは吹っ飛ばされ、その身を道路に打ち付ける。

 

「なのはっ!!」

「フェイト、待てっ!!」

 

親友の危機にフェイトはバルディッシュをサイズフォームへと変形させ、ナハトヴァールへと肉薄する。ヒイロの静止の声は届かずフェイトはその道すがらカートリッジを装填し、鎌状の金色の刃を発生させながらナハトヴァールにバルディッシュを振り下ろす。

 

ナハトヴァールは自身に振り下ろされるバルディッシュの刃に向けて手をかざし、魔法陣で刃を押しとどめる。

フェイトは防御されたにも関わらずそのまま押し切るようなことはせずに一度距離を取り魔法陣に防がれない別角度から攻撃を仕掛ける。

ナハトヴァールもフェイトのスピードに順応し、またそれを防ぐ。

何回か同じようなやりとりが続いていく。いつしか二人の軌道は複雑に絡み合うものとなっていった。

そうなってしまった以上ヒイロでもフェイトのカバーに入ることは難しい。

接近戦のカバーに入るにはする側、される側の両者にある程度の信頼関係が築かれていなければ難しい。

さらに言えば今のフェイトは親友の危機にやや思考回路が狭まっている。

そんな状態の彼女にヒイロが援護に向かってもあらぬ危険を引き起こしてしまう可能性も否定はできない。最悪、二人同時にかたをつけられてしまうことだってある。

 

「ちっ・・・・。」

 

援護は難しい。そう判断したヒイロはナハトヴァールの攻撃で吹き飛ばされたなのはの安否を確認する方向に思考の舵を切った。

幸い、さほど離れていない位置になのはが横たわっていた。

それを確認したヒイロはすぐさまなのはのバックアップに向かい、彼女の側へ駆け寄る。

 

「無事か?」

 

ヒイロがそう確認すると痛みからかうめき声をあげながらだったが、なのははしっかりと頷いた。

 

「意識がはっきりしているならそのまま耳を傾けていろ。ナハトヴァールの防御力はヴォルケンリッターのものとは段違いに硬い。奴の防御を抜くのは至難の業だろう。」

 

ヒイロは軽く視線をナハトヴァールへ向ける。フェイトとのドッグファイトは苛烈さを増しており、海鳴市の空で何遍もぶつかり合い、その度に魔力と魔力のぶつかり合いからなるスパークが生まれ、空を彩っていた。

 

「突破するには文字通りに奴に防御を貫くほどの火力をぶつけるのが常套手段だ。俺がやってもいいが、ゼロに非殺傷設定が存在しない以上、はやてが死にかねん。」

 

ヒイロはウイングゼロのバインダーに収納されてある二丁の大型銃、『ツインバスターライフル』の使用を考えていた。

ヒイロがかつていたアフターコロニーの宇宙に存在していた居住用コロニー。それをたった一度の照射で破壊せしめるほどの火力を持つ代物であったがそれの使用はできずにいた。

 

第1にはやて自身への被害の度合いが未知数であったことだった。はやてが光の柱に包まれていく様子を目の前で見ていたヒイロは彼女がナハトヴァールへと変貌していく様子を垣間見ることができた。

光の柱に包まれたはやては徐々にその体を膨張、というより成長させていったのだ。そしてある程度体が成長したところを見計らい、はやての整った茶髪は銀髪へと変貌していくなどの変身をはさみ、ナハトヴァールへと姿を変えた。

つまるところ、ナハトヴァールの肉体ははやてを媒介にしている可能性が高いのだ。そんなところにコロニーを破壊せしめる火力を撃ち込んでしまえば、闇の書の暴走は止められてもはやての死は避けられなくなるだろう。

 

「魔力攻撃で火力が高いのはお前しかいない。俺とフェイトで奴の気を逸らしておく。その間に立てるようになれば戦闘には復帰せず砲撃の機会を伺っていろ。」

 

ヒイロはそういうとなのはに背を向けながらビームサーベルを抜き放つ。

 

「最後にこれだけ言っておく。俺とフェイトに何が起こっても動揺はするな。」

 

ヒイロは翼を羽ばたかさせ、ナハトヴァールへと接近する。

なのはは苦しげな表情を浮かべ、荒い息を零しながらもなんとか立ち上がるとレイジングハートを支えにしながら静かに砲撃の機会を伺う。

 

「やぁぁぁぁぁっ!!」

「はぁっ!!」

 

フェイトのバルディッシュとナハトヴァールの左腕のパイルバンカーがぶつかり合う。スパークが生じながらもフェイトはバルディッシュでいなしながらナハトヴァールを加速のまま斬り抜けようとし、力を込める。

 

「っ!?」

 

しかし、フェイトがいくら力を込めてもバルディッシュは硬く固定されたように微塵も動かなかった。

不具合か何かが生じたのだろうか?フェイトはすぐさま原因を洗い出す。

目に留まったのはバルディッシュの刃を受け止めている左腕のパイルバンカーであった。

さながら生き物の口のような意匠が施されたナハトヴァールのパイルバンカーはその口をバルディッシュの刃に突き刺し、フェイトが逃げられないようにしていた。

フェイトがそれに気づいた時には遅く、ナハトヴァールが力任せに左腕を振り回し、それに持っていかれるように空中に放り出される。

体勢を整えようにも既にナハトヴァールがフェイトに向けて光弾を撃ちだしていた。魔法陣を展開したり、避ける余裕もないフェイトはバルディッシュの棒の部分を突き出した。

光弾がフェイトに一直線に向かって進んでいく。その光弾がフェイトに直撃する直前、一陣の風がフェイトの前を駆け抜ける。

その風はナハトヴァールが放った光弾を真っ二つに斬り裂いた。純白の白い翼を伴った風の正体はウイングゼロを身にまとったヒイロに他ならなかった。光弾を真っ二つに斬り裂いたのは手にビームサーベルが握られているため、それを振るったのだろう。

 

「ヒイロさん!!」

 

フェイトが感謝を伝えるように表情を明るいものに変えながら旋回し、方向転換を行なっているヒイロを見つめる。

 

「お前は突出しすぎだ。 わざわざ数の理を捨てて戦うのはただの馬鹿がやることだ。」

「あの…なのはは!?」

「アイツには砲撃に専念するように伝えた。」

 

フェイトの側に近づいたところでスピードを落としたヒイロは彼女の隣で相対するナハトヴァールを見据える。

 

「現状、なのはの砲撃魔法が奴に刺さる可能性のある唯一の攻撃だ。俺とお前で奴に近接戦闘を仕掛け、なのはが砲撃を撃てるだけの隙を作り出す。いいな?」

「はい。わかりました。」

 

ヒイロが先頭、その背後から追うようにフェイトが続いていく。ナハトヴァールがヒイロの間合いに入ると手にしていたビームサーベルを上段から振り下ろす。スピードがヒイロより劣るナハトヴァールは変わらず袈裟斬りの軌道を描いていたビームサーベルを展開した魔法陣で防ぐ。

ヒイロが使える武装がビームサーベルかマシンキャノンしかないのもあるが、対処法が変わらないことに関してヒイロは少しばかり疑問を浮かべる。

 

(・・・・まさかとは思うが、コイツ。無意識に主であるはやてを護ろうしているのか?)

 

ウイングゼロの武装を無意識に非殺傷設定が施されていないことを察しているのか、フェイトの攻撃はある程度受け止めてもヒイロの攻撃はほとんど魔法陣で防御している。

 

「・・・・主を守る気概があるのであれば暴走を止めようとは思わないのか?」

「もはや暴走は止められん!!ならばせめて管制人格としての自意識がある内に主に永遠に醒めぬ夢の中でいてもらうだけだ!!」

 

ナハトヴァールはその瞳から涙を流しながらなおもヒイロに魔法陣越しながらも敵意を露わにした鋭い視線を向ける。

 

「・・・・貴様の考えは破綻している。どれほどの改造を受けたかは知らんが同情する気もないし、聞く気もない。」

 

ヒイロはウイングゼロのフェイス越しにナハトヴァールに向けて鋭い視線で睨み返す。ビームサーベルを持つ手とブースターの出力を上げ、ナハトヴァールが展開する魔法陣にその刀身をめり込ませる。

 

「狂った奴を俺は殺す。それがお前とはやてにしてやれる唯一のことだ。」

「っ・・・・!!烈火の将からの記憶でわかってはいたが・・・なんという腕力だ・・・!!」

 

ヒイロは力任せにナハトヴァールの魔法陣を破壊しにかかる。

もっとも勢いあまってナハトヴァール本体に攻撃が入らないように細心の注意を払いながらだ。

故にナハトヴァール自身に攻撃を仕掛けるのはーーー

 

「ハァァァァっ!!!」

 

ナハトヴァールの背後にフェイトがブリッツアクションによる高速移動で現れる。既にバルディッシュからは新たなカートリッジが装填されたのか眩い金色の雷光を纏った鎌状の刃がナハトヴァールへと振り下ろされる。

 

「っ・・・やらせはしないっ!!」

 

ナハトヴァールはバルディッシュの刃が自身に届く前に自身の周囲に何かを展開した。それを視認したヒイロは苦い表情を浮かべる。それは一度見たことのある血のように赤黒い短剣に桜色に輝く光弾であった。

 

(ちっ・・・さっきの血にまみれたような色合いの短剣になのはのアクセルシューターか・・・。二つの異なる魔法の同時併用・・・器用な奴だ。)

 

ヒイロは内心で舌打ちをすると、ナハトヴァールの展開していた防御用の魔法陣を踏み台にしながらブースターを蒸し加速、一気に距離をとった。

フェイトもナハトヴァールのカウンターに気がついたのかバルディッシュを振り下ろしかけた腕を済んでのところで停止させる。その瞬間、ナハトヴァールから『ブラッディダガー』となのはの魔法である『アクセルシューター』がヒイロとフェイトの二人に向かって稼働する。

ヒイロはその迫り来る両方をマシンキャノンで破壊するが、フェイトは避けることは叶わずに爆煙がフェイトの全身を包み込む。

 

程なくして素早く爆煙から離脱するフェイトだったが、そこに左腕のパイルバンカーを構えたナハトヴァールが急接近する。

 

(左腕の打突武器による攻撃ーー当たれば無事では済まないけどーー!!)

『SONIC FORM』

 

フェイトはバルディッシュを構えながら先ほどまで風にはためかせていたマントを消失させ、より速さを追求した『ソニックフォーム』へとバリアジャケットを変化させる。

速さを求めたことにより、防御力は据え置きだが、速度は通常フォームより上昇している。

 

(これでナハトヴァールの攻撃に合わせてーー)

「フェイト!!待てっ!!」

 

自身に迫り来るパイルバンカーの針を紙一重で避けたフェイトはバルディッシュをナハトヴァールへ振るおうとする。

しかし、それを静止する声が同時に響く。それは他でもないヒイロであった。

ヒイロの目はナハトヴァールのこれまでとは違う対応をしっかりと捉えていた。

それはナハトヴァールが手にしていた闇の書がそのページを開いていたことだ。

 

だが、ヒイロの静止の声は一歩遅かった。

 

バルディッシュの刃がナハトヴァールに届かんとしたタイミングでページを開いた闇の書が割り込み、魔法陣を展開しながら防御した。

その瞬間、フェイトの身に異変が起こった。

 

「あ、あれ・・・・?」

 

フェイトは突然脱力したように空中でふらついた。その直後、フェイトの身体が薄く光に包まれると足元から徐々に光の粉となって消え始めた。

 

「何っ・・・・!?」

『フェイトちゃんっ!!!?』

 

フェイトの異常をどこかで見ていたのだろうか、なのはの悲痛な声が念話として響く。

ヒイロも突然の状況に対応が遅れてしまい、フェイトはそのままその身を光の粉にして消えていった。

 

(どういうことだ・・・?フェイトが突然消滅した・・・?)

 

ヒイロはフェイトが消滅した事実に驚愕しながらも原因を探る。魔法による何かなのは確かだ。事実として三角形の形をした魔法陣が展開されていた。

その魔法陣は何者かが接触することで発動する、一種のトラップだったのだろう。

ナハトヴァールは最初からそれを狙ってフェイトに接近戦を挑んだのだろう。

 

(何か仕掛けがあるはずだ。ゼロ、フェイトの行方を追えるか?)

 

ヒイロは僅かな可能性にかけてゼロシステムから送られる情報を確認する。

フェイトが消滅した時に生まれた光の粉はよく見てみると闇の書本体に吸い込まれているように見えた。

仮に光の粉がフェイトだとすればーーー

 

(・・・フェイトは闇の書の中に囚われたのか?待て、中に囚われたということはーー)

 

人間が本に囚われるなど耳を疑うようなものだが、魔法とは元々そういうものだ。人に人智を超えたような働きをすることだって可能性としてはないわけではないだろう。

だが、ヒイロはふとある考えが頭の中をよぎった。

 

(・・・・分の悪い賭けだが、やってみる価値はあるか。)

 

ヒイロはそう結論づけるとなのはに向けて通信を送る。

 

『なのは、聞こえるか?』

『ヒイロさん!!フェイトちゃんが……!!』

『わかっている。だが、推測でしかないがアレのタネは割れた。フェイトは闇の書本体に囚われている。今から救出に向かう。』

『そ、それってつまり闇の書の中に入り込むってことですよねっ!?だ、大丈夫なんですかっ!?』

『可能性は低いが、運が良ければそのまま闇の書の停止まで漕ぎ着けられるかもしれん。』

 

ヒイロの言葉の信憑性はゼロに等しい。無理もないだろう。確信もない言葉である以上、説得としての体面はほとんど存在はしないだろう。

だが、それでもーー

 

『ーーーわかりました。でも、絶対に戻ってきてください!!』

『無論だ。もはや時間は残されていない以上、虎穴に入らねば虎子を得られることはないだろう。』

 

ヒイロはなのはにそう伝えるとナハトヴァールへビームサーベルを構えながら突撃する。

対するナハトヴァールは闇に染まった太刀を出現させる。それはシグナムが持っていたデバイス、『レヴァンティン』に他ならなかった。

 

(・・・シグナムのデバイス・・・。使えないわけではないだろうとは思っていたがーー)

 

なんら問題はない。ヒイロはスピードを落とすことなくナハトヴァールに向けてその翼を羽ばたかせる。

 

「はぁっ!!」

 

ヒイロがビームサーベルをナハトヴァールへ向けて振り払う。左下段から迫り来る光の刃をナハトヴァールはシグナムのレヴァンティンで防ぐ。

ヒイロはウイングゼロの翼の根元からもう一振りのビームサーベルをラックから取り出すとそれを振り下ろした。

しかし、それは先ほどの攻撃とは違う点があった。その攻撃の狙いはナハトヴァールではなく闇の書の本体である、ということであった。

 

「っ!!貴様っ!!」

 

それを理解したナハトヴァールは闇の書の前面に()()()()()()()()()()()()()()()()()()を展開する。

それはつまりーー

 

「っ・・・・!!」

 

ヒイロの身体がフェイトと同じように薄く光を放つ。そして、ヒイロの身体が光となって崩れ始める。

 

「・・・・闇の書本体を狙ったつもりだろうが、あいにくそうはいかん。お前も夢の世界で眠ってもらう。」

「・・・・なるほど、夢の世界か。フェイトはそこに囚われているんだな?」

 

身体が光となり崩れ始めている中、ヒイロはナハトヴァールに不敵な笑みを浮かべる。既にヒイロの身体は半分以上が消失していた。感覚も徐々におぼろげになっている。しかし、ヒイロはそれでもナハトヴァールに向けて軽く口角を上げる。

さながらこの状況を待っていたかのようにーーー

 

「ま、まさか、貴様、始めからこれを狙って・・・!!」

「そうだ、と言えばお前はどうする?」

「っ!!」

 

ヒイロの目論見に気づいたナハトヴァールは咄嗟にヒイロにレヴァンティンを振るう。しかし、ヒイロが闇の書本体に完全に取り込まれるのが若干早く、ナハトヴァールの振るったレヴァンティンは目標を見失い、空を切る羽目となった。

 

「くっ・・・!!おのれ・・・!!」

 

ナハトヴァールは出し抜かれた悔しさからか表情を苦悶のそれに変えながら拳を握りしめる。

その様子を遠目からなのはが眺めていた。

 

(ヒイロさん、フェイトちゃんをお願いします。)

 

闇の書の内部に潜入したヒイロの安全を願いながらなのははレイジングハートをナハトヴァールへ向けて構える。

 

(私は、私に出来ることをやります!!)

 

 

 

 

「こ・・・ここは・・・?」

 

 

朧げな意識を無理やり叩き起こし、周囲の確認をする。先ほどまで暗い海鳴市の空だったはずの場所はいつのまにか空気の澄んだ広い空間へと変貌していた。

その空間はよく見てみると部屋のようであった。だが部屋としてはかなり巨大でさながら宮殿に設けられた一室であると錯覚してしまうものであった。

 

「私は・・・さっきまで・・・。ナハトヴァールと戦っていて、それでーー」

「う、ううん・・・?あれ・・・フェイトォ・・・?」

 

先ほどまでの自分の行動を思い出そうとしている中、フェイトは自身のそばから聞こえた声に思考を中断される。

ふとその方向を見てみると自身が寝ていたと思われるベッドの上に不自然な膨らみがあった。その膨らみがモゾモゾと動き始め、羽織っていたシーツがはだけるとその正体が明らかになる。

眠たげに目をこすりながら現れたのはフェイトと同じような金髪に、これまたフェイトと同じような赤い瞳を有している人物だった。

唯一違うと言えば、その人物がフェイトより身長が小さいことであろうか。

本当にそれくらいしか差異が見当たらないフェイトの現し身と言っても過言ではない人物であった。

だが、それはむしろ当然だ。逆にフェイトはその少女の現し身として生み出された、クローンであったからだ。

そのフェイトの元になった少女の名前はアリシア・テスタロッサ。なのはとフェイトが出会うきっかけとなった『P.T事件』を引き起こした犯罪者、プレシア・テスタロッサの死んだはずの実の娘であったからだ。

 

「アリ・・・シア・・・・?」

「うん?どうかした?フェイト。」

 

死んだはずの人間が目の前にいる。その受け入れがたい事実にフェイトはポツリとアリシアの名前をこぼすことしかできなかった。

対してアリシアはフェイトのまるでありえないものを見るかのような反応に不思議そうに首を傾げる。

 

「ここは・・・一体・・・・?」

 

フェイトが思わずそう尋ねるとアリシアは軽く口元に手を当てながら笑い始めた。

 

「もう、フェイトったら何を言ってるの?ここはコロニーの私達の家だよ。」

「い、家・・・?私、たちの?いや、それよりもコロニー?」

 

フェイトはどこかで聞いたことのある言葉に訝しげな表情を浮かべる。

それに気づいたアリシアはフェイトに説明をする。

 

「うん。コロニーだよ。人が宇宙に住むために作った箱みたいなものだよ。もうー、フェイトったらそんなことまで忘れちゃったの?」

 

若干呆れたような口調でフェイトに語りかけるアリシア。少なくともフェイトの記憶の中にコロニーと呼ばれる場所で過ごした覚えはない。だが、コロニーがなんらかの場所を示していることは理解することができた。

 

「も、もう少しここのコロニーについて教えてもらっていいかな?」

 

フェイトはたどたどしい口調ながらアリシアからコロニーについての情報を聞き出そうとする。アリシアはフェイトの様子に疑問を抱きながらも説明を続ける。

 

「えっと、このコロニーはまだ出来てから7年くらいしか経っていない新しいコロニーなんだよ。確か名前はーーL3 X18999コロニーだったっけ?」

 

 





闇の書が生み出した夢の中に囚われてしまったフェイト。彼女を救出ためにわざと闇の書の中へと潜入したヒイロだったが、その中で予想だにしない人物と出会ってしまう。
ヒイロはその人物と何を語り、思うのか。そして、フェイトの元へ駆けつけることはできるのか。

次回、魔法少女リリカルなのは 『過ぎ去りし流星』

任務・・・了解・・・・!!!


というW風次回予告を書いてみた。


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第24話 過ぎ去りし流星

ちょっと今回一人称視点と三人称視点が入り混じっているので読みづらいと思います。

先に謝罪させてください・・・・。申し訳ないですm(._.)m


これは、私が望んだ夢だ。

 

「プレシア、大変です。明日は嵐になりそうです。今回はフェイトがお寝坊さんです。」

 

アリシアがいる。リニスがいる。アルフもいる。

 

「そうなの?」

 

そしてなにより、母さん(プレシア・テスタロッサ)がいる。意外そうな表情を浮かべながら母さんから伸ばされた手を私は恐怖心を抱いて思わず後ずさりをしてしまう。

本当は母さんの手に何も握られていないのは分かっている。だけど、母さんから受けた仕打ち(記憶)がどうしようもなくその手に鞭が握られているように幻視してしまう。

 

「・・・・何か怖い夢でも見たのかしら?大丈夫よ、フェイト。」

 

母さんが怯えている私に優しそうな声で語りかける。そこにかつて感じていた狂気は微塵も感じなかった。むしろ慈愛。アリシアのクローンである私にしっかりとした親の愛ーー現実では得られなかったものがそこにあった。

 

 

「っ・・・・ああっ・・・あ゛あ゛っ・・・・!!!」

 

 

現実では得難いものだった光景に思わず私は涙を浮かべながら顔を手のひらで覆った。

私が突然泣き出したにも関わらず、アリシアやリニス、それに母さんが私を心配そうに見つめてくれる。

 

 

これは夢だ。それは分かっている。だけど、だけどーー

 

これは私が心底から望んでいたことなんだーーーー

 

ずっと、望んでいた。私なんかが得られるはずのない家族の愛情ーーー

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・・?」

 

闇の書にわざと取り込まれたヒイロが次に目が覚めた場所はまだ建築中と見られる建物が多く乱立する都市の中であった。しかし、そこに人が住んでいるような雰囲気は微塵も感じられなかった。

 

ヒイロは辺りを見回し、自分の記憶と現在いる場所の風景を照らし合わせておおよその場所の特定を図る。

 

「・・・・X18999コロニーか。しかもコロニー内部の建設状況から見て、AC196年、マリーメイアの反乱があったころか。」

 

ヒイロは確信を得るために自身の上空を見上げる。その先にあったのは、青く広がる空ーーではなく同じように建設途中のビルが見える地上であった。

上を見上げても人の住んでいるような風景が見えるのはコロニー住民にとっては当たり前のことだ。

 

(夢、というより俺の記憶の中にあった風景を投影しているような空間か・・・?)

 

上空の様子を見ていたヒイロはふと、ある建物が目に入る。

木々が生い茂り、さながら森林のような状態になっている広大な敷地にポツンとそれなりに巨大な建造物が存在しているのを確認する。

 

「・・・あのような建造物、X18999にあった覚えはないが・・・・。」

 

ヒイロは訝しげな表情を浮かべながらその森林の中に佇む宮殿のような建物に視線を集中させる。

少しばかり考えに耽るが、これといった確信を得ることはなく、ヒイロは現地に赴いた方が早いと判断し、その宮殿に足を運ぼうとする。

 

「お兄さん。」

「っ!?」

 

そのヒイロの足を止めようとする者がいた。その声を聞いたヒイロは彼らしくなく心底驚いた表情を浮かべながら、勢いよく自身の背後にいるであろう人物へ振り返る。

 

「何故お前がここにいる・・・!?」

 

そこにいたのはヒイロにとって忘れられないーーいや忘れることなど絶対に許されない少女がそこにいた。白いワンピースにツバの大きい白いキャペリンを被り、可愛らしい白い子犬を抱きかかえながら黄色いスイートピーのような花を握っている。

それはかつてヒイロが自身のミスで殺めてしまった少女と子犬に他ならなかった。

 

「えっと・・・お兄さんに会ってみたかった、からじゃダメ、かな?」

「・・・・俺は、お前達を殺したんだぞ・・・!?」

 

殺した相手なのに、会ってみたかったから会う。そんな少女の言動にヒイロは明らかに動揺している口調で少女の言葉に返す。

 

「うん。それは分かっているよ。本当にあの時は熱かったし、痛かった。」

「っ・・・!!!恨んでないのか・・・・?」

 

少女のその言葉にヒイロは居たたまれなさから苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべながら顔を逸らした。その反応に対して少女は笑顔をうかべながら笑いかける。

 

「お兄さんはあの後、この子を弔ってくれたでしょ?」

 

そう言って少女は抱きかかえている子犬をヒイロに見せるように前へ差し出した。そのタイミングで先ほどまで少女の腕の中で眠るように動かなかった子犬は突然暴れ出した。

 

「あっ!?ちょ、ちょっと!?」

 

少女の腕から脱出した子犬は一目散にヒイロへと向かって駆け出してくる。

ヒイロは噛みつかれると予想し、腕で防御の構えをとった。

しかし、その子犬はヒイロの足元まで駆け寄るとその足に自身の身体を擦り付け、戯れ始める。さながら懐いているようだった。

その子犬の様子にヒイロは少しばかり呆けた表情を浮かべる。

 

「噛み付いたりはしないよ。その子はお兄さんが優しい人だっていうのは分かっているから。」

「・・・何故、俺がこの子犬を埋めたことを知っている?」

「それは、闇の書のおかげなの。」

「闇の書だと・・・!?」

 

ヒイロの驚きの声に少女は頷きながら話を続ける。

 

「闇の書はこの空間を作る時に取り込んだ人の記憶を元にするの。それは場所とか人は関係ない。」

「・・・元が俺の記憶だから、ついでに知った、ということか?」

「そう・・・なるのかな?あんまり私自身よく分かってないけど・・・。でも、お兄さんが私とこの子を殺しちゃった後、すっごく苦しんだのも、知ってる。それこそ、自分の感情を失くしちゃうほどに苦しんだのも。」

 

少女は悲しげな目線をヒイロに向ける。心なしかヒイロの足元にいる子犬も悲しげな鳴き声をあげているようにも感じられた。

 

「お兄さんはあの後もずっと戦い続けた。自分の感情を殺しながら、でも、それでも私やこの子みたいな人達を二度と生まれさせないように、平和を目指して、戦った。」

 

「時折、色んな間違いとかすれ違いとかあったけど、間違えるのは人間だから仕方ないことだよ。」

 

「だから、私はお兄さんを恨んだりしないよ。そんなことをしたところで何かが、例えば過去とか変わるわけじゃないから。」

「・・・・だが、俺はーーー」

 

ヒイロが何か言おうとしたが少女はそれを首を横に振ることで遮った。

 

「お兄さんは本当に優しい人なんだね。」

 

「でも、今はその優しさを他の人に向けて欲しいかな。この世界、お兄さんと一緒にこの夢の世界に囚われている女の子達に。」

 

ヒイロはその少女の言葉がフェイトとはやてのことを指しているのだと察した。

 

「ほら、おいで。これ以上、お兄さんの邪魔をするわけにはいかないから。」

 

少女がそう呼びかけるとヒイロの足元にいた子犬はパタパタと少女の元へと戻っていった。そのタイミングで少女の身体が淡い光を放ち始める。

 

「あ、そろそろ時間みたい。」

 

自分の身体の異常をたったそれだけで切り捨てながら少女はヒイロへと向き直る。

 

「それじゃあ最後に、教えるね。あの宮殿みたいな建物にはお兄さんの思っている通り、夢の世界に囚われた女の子がいる。それと、その子と合流したら、スペースポートのモビルスーツデッキに向かって。もう一人、闇の書の主の元への移動手段があるから。道中大変だと思うけど、お兄さんなら絶対に大丈夫。」

 

 

少女の身体は徐々に光へと消えていく。それでもなお笑顔を浮かべながらヒイロに語りかける。

 

「最後に・・・本当に最後。お兄さん、もう少し、もう少しだけでいいからーー」

 

 

自分を許してあげて。

 

 

それを最後に少女の身体は子犬と共に完全に光となって消えていった。

 

「・・・・悪いが、自分を許すつもりは毛頭ない。」

 

ヒイロは軽く見上げながらポツリと呟く。

 

「だが、善処はしよう。」

 

ヒイロは少女が消えた場所を軽く一瞥すると踵を返し、駆け出した。

夢の中に囚われているフェイトのいるあの宮殿へとーーー

 

 

 

 

 

 

「フェイトー。ここ教えてー。」

「う、うん。えっと、ここはねーーー」

 

 

私は今、アリシアに魔法技術の勉強の手伝いをしている。草木をたなびかせる風がすごく心地よく感じる。コロニーは見ている限り閉鎖的な環境だと思っていたが、空気もしっかりあるし、風だって吹いていた。

私の側で教科書を開きながら質問をしているアリシアは私より背は低いけど、血縁上、私より早く産まれたのだからお姉ちゃんということになる。

 

何気ない姉妹としてのやりとり、すごく、心が満たされていくように感じていた。

だけど、これは夢だ。それはどうしようもない事実だ。だけど、そんな()に溺れていたいと思っている自分が何となく情けなく感じた。

 

「ねぇ・・・アリシア。これは夢、なんだよね?」

 

ふと、そんなことをアリシアに向けて言ってみる。するとアリシアはちょっとだけ表情を暗く落としながら頷いた。

 

「だけど、ここにいても、いいんじゃないかな?私もいるし、リニスもいる。なにより、母さんもいる。」

 

アリシアは笑顔を浮かべながら私の顔を見つめる。だけど、その目はどこか悲しみを纏っているように感じた。

 

「それでいいんじゃないかな?これはフェイトが望んだ夢なんだから。」

 

アリシアはあくまで私を夢の中に引き止めてくる。それもそうだ。これは私が望んだことなんだから、別に居続けてもいてもーーー

 

『フェイトちゃん。』

 

そんな時、頭の中になのはの声が響いた。その瞬間、急に思考がクリアになった。

そうだ、私は帰らなければならない。なのはやみんなのいる現実に。

たしかにここで母さん達と一緒にいるのもいいかもしれない。だけど、母さんもリニスもアリシアも本来はもういないんだ。会ってはいけないんだ。

それにこんなところを見られたらーー

 

(ヒイロさんに顔向けができない。だからーー)

 

意を決した表情でアリシアにここからの脱出の旨を伝えようとした時、不意にアリシアが視線を別の方向へと向けた。

 

「あれ、なんか遠くから音が聞こえる。」

「え・・・・?」

 

アリシアが疑問気な表情を浮かべながら周りに広がっている森の方を見つめる。

つられるようにその方角に視線を向けると僅かに音が聞こえた。それは少しずつ大きくなっていたことからその音の正体がこちらへと迫っていることを察する。

その音はなんとなく聞き覚えのあるものだった。周りに緊急性を伝えるためにわざと耳を塞ぎたくなるような音を響き渡らせる。

 

「これ、救急車のサイレン・・・?」

 

そう呟いた瞬間、森の木々をなぎ倒しながら一台の救急車が現れた。赤色灯を光らせ、サイレンを周囲に響かせながらその救急車は私とアリシアに突っ込んでくる。

思わずアリシアを庇うが、その救急車は私たちの目の前で急に停止した。

何事かと思っているとその救急車の運転席のドアが開かれ、運転手が降りてきた。

 

普通は一言くらい文句を言いたいところだがーーー

 

「・・・やはりここにいたか。」

「な、なんで・・・!?」

 

運転席から降りてきたのはまさかのヒイロさんだった。予想外の人物の登場に私は開いた口が塞がらなかった。

 

「ど・・・どうして、ここにいるんですか?」

「・・・闇の書を内側から停止させるためだ。お前の救出はあくまでついでだ。」

 

そういうとヒイロさんは腕を組みながら、私の隣にいるアリシアに視線を向ける。

 

「そこのソイツは誰だ?フェイトをダウンスケールさせたような容姿をしているが。」

「あ・・・えっと、その・・・・。」

 

アリシアのことを尋ねられて私は視線を右往左往させてしまう。ヒイロさんには私がアリシアのクローンであることは話していない。仮に話したとしたらヒイロさんはどんな顔を浮かべるだろうか?冷ややかな表情を浮かべるだろうか?それとも気持ち悪いと言ったような表情を浮かべるだろうか?

仮に後者のような表情をされたら、絶対凹む。

それはそれとして、どうしよう、まさかヒイロさんが来ているとは思わなかった・・・!!

 

「・・・・いいよ。フェイト。その表情をしてくれただけで、フェイトのいるべき場所は、わかったから。」

「アリシア・・・・?」

 

アリシアの言葉に驚いた顔をしているとアリシアは服のポケットから何かを取り出した。それはこの夢の中に入ってからずっとなかったバルディッシュだった。

 

「いい・・・の?」

「うん。フェイトには家族より大事に思ってそうな人がいるみたいだからね。」

 

アリシアからそう言われた私は一瞬誰のことを指しているのかわからなかったが、状況的に鑑みた結果、ヒイロさんに行き着いてしまった。

 

「えっ!?あ、いや、こ、この人とはそんなのじゃないから!!」

「ええ〜?ほんとに〜?」

 

咄嗟に手を横に振ることでアリシアの指摘が違うことを表すがアリシアには茶化すような表情を浮かべながら疑われてしまう。

 

「ほ、ホントだってばっ!!」

「・・・・じゃ、そういうことにしておくね。」

 

アリシアが妙にいい笑顔でバルディッシュを私に渡すと今度はヒイロさんに視線を向ける。

 

「ヒイロさん、フェイトのこと、よろしくお願いします。」

「・・・なるほどな。了解した。」

 

ヒイロさんはアリシアと少しだけ言葉を交わすと救急車に乗り込んだ。

私は恥ずかしさからわずかに頰を赤く染めながらアリシアに詰め寄った。

 

「あ、アリシア・・・そのーー」

「フェイト。行って。フェイトにはフェイトの居場所があるからね。」

「・・・・ごめん。」

 

アリシアに一言だけ謝罪の言葉を言うと私はヒイロさんの乗る救急車の助手席に座り込んだ。

これで、お別れかーーそう思っていたけど、いつまでたってもヒイロさんは救急車を出そうとはしなかった。

 

「あの、ヒイロさん?出さないんですか?」

「・・・・お前はその別れ方でいいのか?」

「えっ・・・?」

「お前に悔いはないのかと聞いている。」

 

ヒイロさんは私に視線を向けながらそう言ってくる。その目はまるで何もかもお見通しだと言うように確信に満ちていた。

 

「で、でも、これ以上なのはに迷惑をかける訳にはーー」

「いつまでも他人行儀な奴だ。多少遅れただけでなのはは何も言わないだろう。」

「いいん、ですか?」

「・・・・勝手にしろ。感情のままに行動する。少なくとも俺はそう学んだ。」

 

ヒイロさんはそう言って腕を組んで座席のシートにもたれかかった。

私はヒイロさんの言葉に顔をうつむかせる。そしてーー

 

「ありがとう。」

 

それだけ言うと私はもう一度救急車のドアを開け放ち、アリシアの元へと駆け出した。

 

「フェ、フェイトっ!?」

「アリシアっ!!!!」

 

驚きの声を上げるアリシアを他所に、私は彼女の体を抱きしめた。

最初こそ、呆けたような表情を浮かべるアリシアだったが、程なくして彼女の腕が私の肩に回される。

 

「もう・・・甘えん坊だなぁ・・・。」

「本当は、現実でもこうしてあげたかった・・・・!!」

 

涙で上ずる声にアリシアは無言で抱きしめる力を強くする。

それに私は名残惜しさを抱きながらもアリシアの顔を見つめる。

視界が涙で滲んでいたが、アリシアも涙を浮かべていたのははっきりと見えていた。

 

「でも、ごめん。私、行くよ。」

「うん。フェイト。いってらっしゃい!!」

 

フェイトはその言葉を最後にアリシアを抱きしめていた腕を離し、再度救急車へと駆け出した。

アリシアはそのフェイト()の姿を手を振って見送った。

 

 

「確認する。いいんだな?」

「はい。もう、私は迷いません。」

 

フェイトの意志を確認したヒイロは救急車のアクセルを踏み、宮殿を後にする。

サイレンを鳴らしながら走り去っていく救急車をアリシアは見つめていた。

 

「それじゃあ、私は母さんに最後のわがままでも頼みに行こっと。」

 

 

 

 

「ヒイロさん、これからどうするんですか?」

「このコロニーのスペースポートにどうやら脱出用の手段があるらしい。」

「それ、罠とか大丈夫なんですか?」

「その可能性も無論あるだろうな。だが、俺たちにはこれしか手段がない。ざっとこのコロニーを見たが、細部まで忠実に再現されている。」

 

救急車を走らせながらフェイトとヒイロはこの夢の世界からの脱出を考える。

フェイトの警戒ももっともだが、それしか手段がないため、ヒイロはX18999のスペースポートへと救急車を走らせる。

 

「人の気配がしませんね・・・。なんだか、不気味です。」

「ああ、そうだな。気をつけろ。何を仕掛けてくるか予測ができないからな。」

 

ヒイロの警告にフェイトは険しい表情を浮かべながら頷いた。

そして、何事もないまま、スペースポートが見えてくる。

順調に進むと思っていたがーーー

 

「っ・・・フェイト、伏せろっ!!」

「えっ!?」

 

突然のヒイロの声に驚いているフェイトを無理やり屈ませる。その瞬間、強烈な爆音と共に救急車のフロントガラスが粉々に砕け散った。

 

「きゃあああっ!?」

「ちっ、やはり撃ってきたか!!そのままかがんでいろ。突っ込むぞっ!!」

「え、ええっ!?い、一体何が起こっているんですかっ!?」

 

しばらくヒイロの荒い運転に振り回されるフェイトだったが、それは最終的に正面からの衝撃を最後に鳴りを潜める。

おそらく壁か何かにぶつかったのだろう。フェイトは抱えていた頭を上げると周りの確認を行おうとするが、ヒイロに頭を抑えられてしまう。

 

「フェイト、迂闊に顔を出すな。」

「ヒ、ヒイロさん、一体何が・・・!?」

「スペースポートの前で銃を構えた部隊がいた。」

「や、やっぱり罠だったんじゃ・・・!?」

「いや、その可能性は低い。そもそも先ほどまで人の気配一つしなかったにも関わらず、なぜここにだけ人がいる?」

 

ヒイロがそう尋ねるとフェイトは思案に耽る表情を浮かべる。少しの思考の間、フェイトは何か閃いたように、『あっ!!』という声をあげながらヒイロと顔を合わせる。

 

「何か、見られたくないもの、もしくはそれに準ずるものがある・・・!!」

「そういうことだ。フェイトはバリアジャケットを展開しろ。展開したら3カウントで出るぞ。」

「あの、ヒイロさんはウイングゼロを使わないんですか?」

「使うまでもないからな。」

「え、ええ〜・・・・。」

 

さも当然のように言い切ったヒイロにフェイトは思わず引き面の笑みを浮かべる。

 

「3・・・・2・・・・1・・・・行くぞっ!!」

 

ヒイロとフェイトが同時に救急車の扉を開けはなつ。

スペースポートに配備されていた兵士達はヒイロとフェイトに銃口を向ける。

 

「やらせない!!」

 

兵士が引き金を引くより先にフェイトのフォトンランサーが襲いかかる。直撃を受けた兵士は吹っ飛ばされ、気絶する。

兵士達はフェイトの攻撃に混乱する様子を見せる。ヒイロはその間にそのうちの一人に接近し、蹴りをお見舞いする。

 

「ぐわっ!!」

 

ヒイロの蹴りを受けた兵士は一撃で昏倒させられる。ヒイロは倒した兵士から銃を奪うと兵士達に向けて乱射する。

ばら撒かれた銃弾は兵士達に直撃し、無力化する。

 

「あの・・大丈夫ですか?あの人達。」

「知らん。所詮は夢だからな。」

「そうですか・・・ところであの兵士達は一体・・・。」

 

入り口の兵士達を無力化したヒイロ達はスペースポートに侵入する。その通路の道すがらフェイトは先ほど襲撃してきた兵士達のことを聞いてくる。

その兵士達はピンクがかった紫色の制服に同じような色合いをした帽子を被っていた。

その帽子には『M』のアルファベットが大きく施されていた。

 

「あれは俺達がかつて戦った勢力の兵士だ。要はテロリストだ。もっともテロリストにしてはやることなすことはかけ離れていたがな。」

「というと・・・?」

「・・・悪いが話しは後だ。警戒は怠るな。先ほどの兵士と鉢合わせる可能性もあるからな。」

「・・・わかりました。」

 

X18999の内部をほとんど把握しているヒイロの案内で一直線に目的地であるモビルスーツデッキで進んでいく。

途中、襲撃もあるだろうと考えてはいたがーーー

 

「兵士が倒れている・・・?」

 

なぜかその道すがら兵士が倒れていたのだ。その兵士達は完全に無力化されていて動く気配は見当たらなかった。

 

「他に、だれかいるんでしょうか?」

「・・・・先を急ぐぞ。兵士が倒れているのであれば好都合だ。」

「そ、そうですね。」

 

疑問に思うフェイトだったが、ヒイロはそんな彼女を急かし、先へ急がせる。

 

(・・・・まさかな。)

 

ヒイロの頭の中をとある可能性がよぎったが、今は関係のないことだと切り捨てて駆け出した。

 

しばらく無力化された兵士や謎の爆発音をバックミュージックにヒイロとフェイトは何事もなくスペースポート内を突き進んでいく。

同じような通路を何度も通っているような感覚にフェイトはそろそろ参ってきていたが、ある電子扉を潜り抜けると風景は唐突に変貌する。

そこは先ほどの近未来的な通路とは打って変わってフェイトにとってどこか機械的な印象を受ける場所であった。

ヒイロにはそれなりに見慣れた場所であった。そここそがヒイロ達が目的地としていたモビルスーツデッキである。

 

「・・・・なるほど、これが脱出手段か。」

「あの・・・これは?」

 

そこには一機の戦闘機が鎮座していた。否、それは戦闘機のように見えるが本当は違う。

赤・白・青とトリコロールの色合いをした機械的な翼に外蓋に白いラインの入った赤いシールド、そして眼を見張るのはその戦闘機の先端部分を形成している巨大なライフル銃。

それは紛れもなく、かつてヒイロが地球に降下した際に乗っていた機体、『XXXG-01W ウイングガンダム』であった。

 

「ウイングガンダム。俺がアフターコロニーで戦っていた時の機体だ。」

 




うーん、やっぱ自分の思い通りに中々書けない・・・。
これで本当に良かったのだろうかとすっごく悩んでいます。
点数評価としては30点くらいですね・・・。

やっぱり小説書くのって難しい・・・・(´;ω;`)


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第25話 脱出への糸口

子供には優しいヒイロさんシリーズ、始まります。

5/9 ウイングガンダムの変形プロセスに改定を加えました。


「こ、これが・・・ヒイロさんがアフターコロニーで乗っていたガンダム・・・!?お、大きい・・・!!」

「グズグズしている暇はないぞ。兵士達がいつ来るかわからないからな。」

 

初めて見るモビルスーツにフェイトは驚きの表情を隠さないでいた。その間にヒイロはバード形態の状態となっているウイングガンダムの麓まで行くと開いていたコックピットに駆け込んだ。

 

「フェイト。お前もガンダムのコックピットに乗れ。」

「え、あ、はいっ!?」

 

ガンダムのコックピットに入る直前にフェイトの方を見るとヒイロはコックピットに乗るように促した。

突然のヒイロの言葉にフェイトは驚きながらも同じようにウイングガンダムのコックピットに入り込んだ。

 

「そこで待っていろ。」

 

フェイトがシートの後ろに入ったことを確認したヒイロは一度コックピットを閉鎖するとコックピット内部のコンソールを操作する。

 

(推進システム、異常なし。各部マニュピレーターの異常も確認されず、武装もシステム異常は確認されず。システム・・・オールグリーン。いつでも行けるか。)

 

凄まじいタイピング速度でヒイロはウイングガンダムのシステムチェックを済ませていく。一通り確認していき、稼働に問題が見られなかったことを確認したヒイロはウイングガンダムを起動させる。

電源が入った時のパソコンのような駆動音がしばらく響くと今まで暗かった画面に光がともり、外の映像が映し出される。

その外の映像が映し出されると同時に、ディスプレイにとある座標が周辺宙域のデータと共に表示される。

それは X18999からさほど離れていない宇宙空間に赤いポイントとして表されていた。

 

「・・・目標地点はここか。」

「あの・・・これは一体、何を表しているんですか?」

「・・・おそらく、はやてがいる場所だ。」

「はやてって・・・闇の書の主の・・・。」

「ああ。お前と会う前に接触した人物がいる。この脱出手段やはやての居場所のことはその人物から聞いた。」

「そうだったんですか・・・続けざまで申し訳ないんですけど、この座標、明らかにこのコロニーの外にあるんですけど・・・。」

「・・・闇の書、ナハトヴァールにとって俺が夢の世界に自ら入りこんだのは想定外だった。咄嗟に俺の記憶から再現したのがこのX18999コロニーを含めた宙域なのだろうが、いかんせんコロニーは何億という人間が住むことを前提として建造される。必然的に規模も相当なものとなる。おそらく容量的な問題でフェイト、お前のいた空間やはやてのいる空間まで巻き込まざるを得なくなってしまったのだろう。」

「なるほど・・・・。なんだか、魔道書なのに機械みたいですね・・・・。」

(機械、か・・・・・。)

 

ヒイロの説明にフェイトが納得する声をあげたのを最後にコンソールを操作する音を響かせるヒイロの後ろでフェイトは大人しく作業が終わるまで様子を眺めていた。

しばらく二人の間で無言の時間が続く。

 

「各部チェック終了。後はハッチを開くだけか。」

 

ヒイロはウイングガンダムのメインカメラが映し出す映像の正面にある重厚なハッチを見据える。

普通であれば管制室へ侵入し、ハッチを開かせた上で発進するのがセオリーだがーー

 

(ここでの時間の経過が現実世界でどれほどのズレがあるか計り知れない。手荒だが、強行突破するしかないか。)

 

そう結論づけたヒイロは自身の後ろでずっと様子を見ていたフェイトに視線を向ける。

 

「フェイト、前に来い。」

「?・・・・分かりました。」

 

ヒイロの言葉にフェイトは疑問気な表情を浮かべながらシートに座っているヒイロの前に躍り出る。

すると、対面するような形となったフェイトをヒイロは彼女を自身の太ももの上に乗せ、さながら向かい合って抱き合うような態勢を取らせた。

 

「!?!???!?!?」

 

抱き合うような姿勢、ということはヒイロの身体がフェイトを包みこむことに他ならない。ヒイロのまさかの行動にフェイトは目を白黒させ、顔を真っ赤に赤面させた上で口をパクパクと空気を求める魚のような反応を見せる。

 

「ヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒイロさんっ!?こ、これは一体・・・!?」

「ガンダムに限らず、元々モビルスーツは一人乗りだ。二人以上乗るのであればシートの後ろにいるのが手っ取り早いが、それではお前の身に危険が及ぶ。」

 

アワアワと狼狽するフェイトをよそにヒイロはシートの安全ベルトをフェイトごと締めた。

それにより余計に身体が密着する形となり、フェイトは羞恥心のあまり顔を下に俯かせる。

 

「フェイト、バリアジャケットのマントを消せ。邪魔になる。」

(落ち着くのよフェイトこれは安全上仕方のないことなんだから そうこれは安全上仕方のないことなのよだから落ち着きなさいでもどうしよう今すごく変な顔浮かべてるよ・・・///)

 

フェイトからの反応がないことが気になったヒイロは自身の胸元に顔を埋めているフェイトを軽く揺らした。

数瞬しないうちに正気に戻ったフェイトは驚いた表情を浮かべながらヒイロの顔を見上げる。

 

「バリアジャケットのマントを消せるか?視界に入り込んで支障になりかねん。」

「・・・・あ、はい。ワカリマシタ。」

「・・・・・。」

 

若干口調が覚束ないフェイトにヒイロはわずかながらに心配になったが、声には出さないようにした。

フェイトはバルディッシュにバリアジャケットのマントを消させるように指示をし、先ほどからヒイロの視界を遮っていたマントが消失する。

 

「まずはハッチを破壊する。」

 

ヒイロは左右の操縦桿を握りしめるとそのレバーについてあるボタンを指で押す。

するとバード形態のウイングガンダムの先端部分を形成しているバスターライフルから山吹色の閃光が撃ちだされ、眼前のハッチを消滅させる。

 

「フェイト。」

「・・・・はい?」

「しっかり掴まっていろ。」

 

ヒイロの真剣な表情で言われた言葉にフェイトはヒイロの首周りに腕を回し、絶対に離れないように力を込める。

 

「・・・・発進する。」

 

そう言いながらヒイロはコックピットの操縦桿を勢いよく前に押し出す。その瞬間、ウイングガンダムのブースターから強烈な青い光が灯り、爆発的な加速を生み出しながら前へと急発進する。

 

「うっ・・・・あぁ・・・・!!」

(な、なんて加速力・・・・!!!か、身体が、押し潰されそう・・・意識が・・・保たない・・・!!)

 

ウイングガンダムの爆発的な加速度から生まれるGにフェイトは座席、というよりヒイロの身体に押し付けられてしまう。

歯と目を食い縛りながら意識だけはなんとか保たせようとフェイトはヒイロにしがみつく。

途中、ヒイロが姿勢安定のためにウイングガンダムの軌道を多少動かしたりしていたが、フェイトにはそれどころではなかった。

程なくして先ほどまでフェイトを押しつぶしていたGはなくなり、身体が浮くような感覚を覚える。

おそらくコロニーの外の宇宙空間に出たために自分の身体が無重力状態になっているのだろうと感じた。

フェイトは外の様子を確認するために目を開いたーー

 

「あ……あれ………?」

 

だが、目を開けたはずのフェイトの視界は一寸先の光さえ受け付けない真っ暗な闇であった。

フェイトは突然のことに真っ暗な闇の中で周囲を見渡した。

しかし、いくら視界を動かしても闇が晴れることはなく、広がっているのは無限の闇であった。

急に視界が真っ暗に染め上げられたという状況にフェイトは不安な感情を抱く。

 

自分だけ何か良からぬものに囚われてしまったのではないのかーー?

先ほどまでそばにいたはずのヒイロはどこへいったーー?

 

目の前に広がる闇にこのまま自分だけ残されてしまうのかーー?

微かに声が聞こえた気もするが、それは恐怖心に苛まれた彼女には届かない。

 

 

「や、やだ・・・!!ヒイロさん・・・!!なのはぁ・・・!!誰か、助けて……!!」

「フェイト。一旦落ち着け。」

 

暗闇の中を彷徨うように覚束ない手つきで辺りを探し、今にも消え入りそうな声を出しているフェイトにヒイロが声をかける。

フェイトの視界は変わらず真っ暗だが、ヒイロの声がとりあえず目の前からするという事実は彼女に一抹の安心感を覚えさせる。

 

「今のお前はブラックアウト状態に陥っている。」

「ブラック・・・アウト・・・?」

「急激なGによる重力負荷で下半身に血液が集中し、一時的な貧血状態になることだ。少し慣れれば視界は元に戻る。」

 

そう言ってパニック状態になっていたフェイトを安心させるためにヒイロはほんの少しだけ彼女の頭に掌を乗せる。

 

「ん・・・・。」

 

ヒイロの手つきを感じ取ったフェイトはヒイロに回していた腕の力をさらに強める。さながら孤独さから来る寂しさを紛らわすために居場所を求めているかのようにーー

 

ヒイロはウイングガンダムのスピードを落とし、宇宙を漂うかのように動かしながら、フェイトの視界が戻ってくるまで待つことにした。

 

 

「あの・・・・すみませんでした。情けないところを見せてしまって・・・・。」

「・・・・・気にするな。」

 

結論から言うとフェイトの視界は程なくして戻ってきた。ヒイロにとっては大したことはなかったのだが、フェイトにとっては何か思うものがあったらしく、恥ずかしそうにヒイロの胸元に埋りながら顔を合わせようとはしなかった。

 

(・・・・そもそも落ち着いて考えてみれば、私とヒイロさんは今は密着状態なわけだから普通気付くはずなのに・・・・。その事実が余計に恥ずかしい・・・・。)

 

フェイトが羞恥心に悶え、二人の間で気まずい雰囲気が広がっていく。

そんな最中、ウイングガンダムのレーダーがけたたましく何かがヒイロ達に接近していることを知らせる。

 

「これは・・・警報・・・?」

 

フェイトがまだ暗闇から解放されたばかりで僅かに怯えている様子を見せているうちにヒイロはウイングガンダムが捉えた熱源を確認する。

 

「背後から熱源接近・・・コロニーからの追っ手か。熱紋照合を開始する。」

 

ヒイロが後方からの映像を映し出すと黒い宇宙の背景に同化してわかりづらかったが、黒い飛行機のような風貌をしたモビルスーツが映し出されていた。

 

「あれは・・・・トーラスか。」

 

ヒイロがトーラスと呼んだモビルスーツは然程スピードを出していなかったウイングガンダムを追い抜くと前方で人型へと変形を始め、手にしていた身の丈近くもある巨大なビーム砲、トーラスカノンを構えながらヒイロ達の前に立ちはだかる。

その数、およそ7機。

 

「へ、変形した・・・!?」

 

フェイトがトーラスが人型に変形したことに驚いていると、ウイングガンダムのレーダーがさらなる敵機が迫っていることを告げる。

 

「敵の増援か・・・・・。」

 

ヒイロはそれを確認するともう一度後方からの画像を表示させる。そこには濃い紫色の装甲に丸いシールドを携え、手持ちのマシンガンを持ちながらウイングガンダムへと迫っている様子が映し出されていた。数はざっと見積もっても前で立ちはだかっているトーラスより多かった。

 

「宇宙戦用のリーオーか。ビルゴがいないだけまだマシだと考えるべきか。」

「そ、それよりもヒイロさん!!このままじゃ挟み打ちですよっ!?私のせいでこうなってしまったのは分かりますけど・・・!!」

 

フェイトが焦る声をあげている中、ヒイロは前方のトーラスと後方から迫り来るリーオーを同時に見据える。

 

「・・・問題ない。直ちに敵機を撃墜する。」

 

ヒイロはコックピットの上部のレバーを引き、足元のフットペダルを押し込んだ。すると、先ほどまでバード形態だったウイングガンダムも変形を始め、先端部分を形成していたバスターライフルは右手に、左腕に真っ赤なシールドを装着するとシールドで覆われていた胸元の緑色の水晶体が淡い輝きを放ちながらガンダムフェイスが露わになる。

 

「フェイト、戦闘はなるべく手短に済ます。少し我慢していろ。」

「は、はい!!」

 

ヒイロはウイングガンダムのバスターライフルを前方に向けると迷いなくトリガーを引いた。

バスターライフルの閃光は一直線にトーラスの集団へ向かっていくが、その手前でトーラス部隊が散開してしまい、バスターライフルの閃光は獲物を捉えることなく宇宙へと消えていった。

 

「は、早いっ!!避けられたっ!?」

「・・・・・・。」

 

バスターライフルが避けられたことに驚くフェイトだったが、ヒイロはこれといった反応は見せずにバスターライフルを左手に持ち替え、シールドに内蔵されているビームサーベルを右手で引き抜き、トーラス達に接近戦を仕掛ける。

トーラス達は接近戦を仕掛けてくるウイングガンダムを近づけさせまいとしてトーラスカノンを弾幕として発射する。

直撃すればウイングガンダムのガンダニュウム合金とはいえ無傷では済まないほど威力を持つトーラスカノン。

その弾幕をヒイロは全て見切ったのかただの一度もかすりもしないで突破する。

 

「後方のリーオーに構っている暇はない・・・・!!そこをどけっ!!」

 

ヒイロはウイングガンダムをトーラスに肉薄させると右手のビームサーベルを振るった。

振るわれたビームサーベルはトーラスの装甲を溶断し、左肩から右脇腹を通り抜け、トーラスの胴体を泣き別れにさせる。

 

「相手の反応が鈍い・・・。この程度であれば、なんら問題はない。」

 

だがいくら相手が実力的に問題がなかろうとヒイロに手加減するという考えは毛頭ない。立ちはだかるのであれば全力を持って排除する。

ヒイロは叩き切ったトーラスの爆発を脇目で見据えながら次のターゲットを選定する。

 

ターゲットを見定めたヒイロはトーラスの張った弾幕へ最大戦速で突撃させる。

先ほどのフルパフォーマンスによるトーラスの弾幕を潜り抜けたヒイロにとって、もはや造作もない様子で弾幕を切り抜ける。

 

一機のトーラスに目星をつけたヒイロはその機体に向かってウイングガンダムを操縦する。

トーラスはトーラスカノンをしまうと比較的取り回しのいいビームライフルを取り出す。

そのビームライフルの銃口をウイングガンダムに向け、発射する。

 

トーラスカノンより速度のあるそのビームをヒイロはウイングガンダムの上体を軽く逸らし、紙一重で躱し、懐に入り込む。

 

「破壊する。」

 

その肉薄したトーラスとすれ違いざまにヒイロはウイングガンダムのビームサーベルを横薙ぎに振るった。

上半身と下半身を真っ二つにされたトーラスは爆発四散する。

 

 

ヒイロは続けざまに切り抜けた先にいたトーラスにウイングガンダムのビームサーベルを投擲する。

ビームサーベルを突然投擲するというヒイロの行動にトーラスは何も反応が出来ずに腹部に深々と突き刺さった。

その突き刺さったビームサーベルの柄をウイングガンダムの右手で動かなくなったトーラスから引き抜くと倒したトーラスの陰から別のトーラスが現れる。そしてそのトーラスはウイングガンダムに既に発射態勢が整えられ、銃口にエネルギーが集まっていたトーラスカノンを向けていた。

 

普通のパイロットであれば、万事窮すのシチュエーションだが、ヒイロの幾度となく戦場を潜り抜けてきた戦闘スキルが光った。

 

ヒイロはウイングガンダムの攻撃が届く前にビームを撃たれることを直感的に察すると先ほど倒したトーラスをウイングガンダムの右脚で思い切り蹴り飛ばす。

 

蹴り飛ばされたトーラスは寸分の狂いなくトーラスカノンを構えていたトーラスにぶつかり、ぶつけられたトーラスはバランスを崩す。

その結果、放たれたビームはあらぬ方向へと飛んで行った。

 

その隙にヒイロがウイングガンダムのマシンキャノンをぶつかり合ったトーラスに向けて掃射する。

マシンキャノンの弾丸はトーラスの装甲を蜂の巣にしていき、ボロボロになったトーラスは小規模の爆発を各所に起こしたのち、爆散した。

 

「あと3機・・・・!!」

 

ヒイロはその瞳を目まぐるしく動かし、ほかのトーラスの状況を把握する。

すぐさま別のトーラスに接近、狙われたトーラスは射撃は当たらないと思ったのか迫り来るウイングガンダムに向けて、トーラスカノンを振り回す。

 

その攻撃に軽く眉を顰めるヒイロだったが、その攻撃を上へ上昇することで回避しながらトーラスの頭上を取る。

そしてそのままビームサーベルを振り下ろし、トーラスを縦に真っ二つにする。

続けてヒイロはブースターを蒸し、ペアを組んで固まっている残った二機のトーラスのうちの片方に向かって速度をあげながらビームサーベルを投擲。

流石に同じ手は通用しないのかトーラスは腕で投擲されたビームサーベルを振り払った。

 

「・・・お前がその判断を下したのはミスだ。」

 

ただ振り払った。一見すると隙でもなんでもないように感じるが、トーラスの注意がビームサーベルに注がれたのは事実だ。

ヒイロはウイングガンダムのシールドを前面に構えると、そのままブースターを蒸し、トーラス二機に向かってシールドバッシュを仕掛ける。

 

ウイングガンダムの突進にトーラス二機は成す術もなくバランスを崩される。

 

「終わりだ。」

 

その崩した隙を見逃さず、ヒイロはバスターライフルをトーラスの目の前で構える。それに気づいたのかトーラスが逃げるような隙を見せたが、それよりも先にヒイロがバスターライフルのトリガーを引く。

至近距離で放たれたバスターライフルの光は二機のトーラスを容易く撃ち抜いた。

 

「トーラスの殲滅を確認。あとはリーオーの軍勢だが・・・。」

 

ヒイロはリーオーの部隊を確認する前にフェイトの様子を確認する。フェイトはなんとか意識を保ちながらも荒い息を吐き出している。汗も滲みでているのも相まって限界に等しく、色んな意味で長続きはしないだろう。

 

「・・・・目標ポイントへの移動が最優先か。」

 

ヒイロはリーオーの軍勢に背を向け、目標ポイントへの移動を開始する。ウイングガンダムの加速力でリーオーの追手を振り切る。

ヒイロはレーダーに表示されるポイントと映像を見比べる。そこにはかすかに星が瞬くほとんど真っ暗闇の宇宙が広がっているだけであった。

どうしたものかとヒイロが考えているとーーー

 

『二時の方角に隠蔽用と思われる魔力結界を確認。その情報に間違いはありません。』

 

突如としてウイングガンダムのコックピット内に機械的な音声が響き渡る。

その機械的な音声をヒイロは最初こそ疑問符をあげていたが聞いたことがない訳ではなかったため程なくしてその声の主に当たりをつけた。

 

「お前か・・・。バルディッシュ。」

『はい。サーがこの有様でしたので。』

 

フェイトのデバイスであるバルディッシュがそのコアとなる金色の宝玉を輝かせながらヒイロの声に応える。

 

「・・・・二時の方角だったな?」

『その先に僅かですが魔力反応が見られます。この結界をどうにか破壊できれば闇の書の主の元へと行けるでしょう。』

「・・・・了解した。直ちに破壊する。」

 

ヒイロはバスターライフルをバルディッシュが指し示した方角へと向ける。

ターゲットとしてロックできない以上、ヒイロ自身の射撃センスとバルディッシュの案内、その二つが噛み合わなければ結界に当てることはできないだろう。

 

「最大出力、攻撃開始。」

 

ヒイロは躊躇わずバスターライフルのトリガーを引いた。先ほどトーラスに向けて放ったものとは比べものにならないほどの爆光が宇宙を駆ける。

いずれ消えていくと思われる光線は突然、見えない壁にぶつかったかのように辺りにスパークを撒き散らし始めた。程なくしてバスターライフルの光線は結界に弾かれてしまう。

しかし、先ほどまで何もなかったはずの空間に僅かだがヒビが入っていることに気付く。

 

『直撃を確認。ですが破壊には至っていないようです。』

「お前に言われずとも分かりきっていたことだ。」

 

バルディッシュに言われるまでもなくヒイロはすぐさまバスターライフルを調整し、ターゲットを空間に入った結界のヒビに合わせる。

 

「ターゲット・ロックオン・・・!!」

 

ヒイロはそのヒビに照準を合わせるとバスターライフルのトリガーを弾き、第二射を放つ。

放たれた光線は作られたヒビに寸分の狂いなく直撃し、ヒビが入ったことにより強度が脆くなったのか、先ほどの第1射よりヒビの拡散度は火を見るより明らかであった。

 

『第二射、効果覿面を確認。あと少しで破壊できます。』

 

バルディッシュの報告を聴きながらヒイロは結界に穴を開けるためにバスターライフルを構え、トリガーを引く。しかし、バスターライフルからビームが出ることはなく、カチッと虚しい音を響かせるだけであった。

 

「ちっ・・・弾切れか・・・!!」

 

あと少しのところでバスターライフルの弾が切れてしまったことに悪態をつくヒイロ。

その瞬間、ウイングガンダムのコックピットでけたたましい警報音が鳴り響く。

ヒイロは瞬時にその場からウイングガンダムを動かすと先ほどまでいた場所をビームの嵐が過ぎ去った。

ヒイロがビームが飛んできた方角を見やると振り切ったはずのリーオー達がウイングガンダムにその銃口を突きつけていた。

 

(厄介だな・・・。あの結界を破壊するのに然程時間はいらん。奴らが展開する弾幕を回避するのに問題もない。だがーーー)

 

ヒイロは軽く自身の側に張り付いているフェイトに視線を向けた。

 

(・・・耐えられるか?)

 

これ以上フェイトの身体に負担をかけると夢の世界を脱出したあとに支障になってくる可能性も出てくる。

それはできれば避けたい状況であった。

ヒイロが手をこまねいていると、ウイングガンダムが新たな反応を告げる警戒音を流した。

それはリーオー達とは別方向からトーラスとは比べものにならないスピードで現宙域に侵入してきていた。

 

「新手かっ!?」

 

ウイングガンダムが新たな反応が接近している方向に頭部のメインカメラを向けるとコックピットの映像にもその新手の姿が映し出される。

 

『そこのガンダム01、聞こえるなら応答を願おうか。』

 

装甲に彩られた黒みがかった赤はさながら乾いた返り血のように怪しく光り輝く。さらに背部に広がる二枚の翼。その翼はウイングゼロの天使を彷彿とさせる純白の翼とは違い、装甲と同じように黒がかった赤に染まっている。さながらその翼は悪魔のような風貌を醸し出す。

左腕に備え付けられたシールドから伸びているむき出しの刺々しい鞭は相対する相手を刈り取るように垂れ下がっている。

何よりヒイロにとってその声の主は聞くことのないであろう人物であった。

 

「ゼクス・・・・!?」

『ふっ、やはり貴様だったか、ヒイロ。本来であれば闇の書によってこの夢の世界に生まれ落ちた以上、脱出を計る貴様の妨害に動かねばならん。』

「ならば貴様も敵か?」

『普通であればそういうことになるだろう。だが!!』

 

ゼクスの駆るモビルスーツ『ガンダムエピオン』は左腕に装着されているヒートロッドを構えるとウイングガンダムに向けて突撃を開始する。

それに対し、ヒイロは咄嗟に身構えるがーー

 

(この軌道・・・俺を狙っていない・・・・!?)

 

ゼクスの駆るエピオンの軌道が明らかに自分を狙っていないことにヒイロは疑問の表情を見せる。

そして、ヒイロの見立て通りエピオンはウイングガンダムを通りすぎると、後方にいたリーオーの部隊に向かってヒートロッドを振るう。

 

『闇の書が少女の身体を今尚蝕んでいるのをむざむざと見過ごす訳にはいかんのだっ!!故に私は、ミリアルド・ピースクラフトとしてではなく、ゼクス・マーキスとして抵抗しようっ!!同じ平和を望む者達と共にっ!!』

 

炎熱し、橙色の光を発しながら振るわれたヒートロッドはリーオーの装甲を容易く焼き切り、いくつもの花火で宇宙を彩った。

 

「ゼクス・・・・。」

『ヒイロ、これは私が闇の書に作り出された時に仕入れた情報とエピオンが見せてくれる未来からだが、この闇の書、いやナハトヴァールはただ機能を停止させただけでは意味がない。』

「何・・・・・!?」

『ナハトヴァールを強制的に機能不全に陥らせても無限回復機能がいずれナハトヴァールを修復してしまうのだ。故に闇の書の暴走を繰り返させないためにはナハトヴァールを機能不全にしている間に闇の書を完全に破壊する必要がある。』

 

ゼクスからの情報にヒイロは眉を顰めてしまう。闇の書の完全破壊、それが意味するものはーー

 

「シグナム達、ヴォルケンリッターも闇の書と運命を共にするのか?」

『・・・すまない。私とてそこまで闇の書に関して詳しくなった訳ではない。』

「・・・・そうか。なら、お前に頼みがある。お前の発言を鑑みるにアイツらもいるはずだ。」

 

ヒイロはゼクスに向けて要件を伝える。それを聞いたゼクスは頷くことで承諾する。

 

『お前の頼み、しかと受け取った。だが、間に合うかどうかははっきり言っておくが、彼らでも分からん。機械とは訳が違うのだからな。』

「・・・・やり方はアイツらに任せる。」

『・・・委細承知した。ではここは私が引き受ける!!お前はあの少女の元へ急げっ!!』

 

ヒイロはエピオンに背を向けるとヒビの広がった空間へと一直線に向かっていく。

その加速の中、ヒイロはウイングガンダムの左腕を後ろへ引きしぼり、シールドの先端をヒビの入った空間へと向ける。

ウイングガンダムがヒビの目の前に差し掛かるとヒイロはウイングガンダムのシールドをそのヒビに思い切り突き出した。

 

ウイングガンダムの尖ったシールドの先端はガラスが割れた音と共にヒビに食い込んだ。

その瞬間、ヒビは空間にポッカリと空いた穴へと姿を変え、その先にあった別の空間への通路をつくる。

勢いそのままにその穴の中に突入したウイングガンダムは片膝をつき、そこから火花を生み出しながら空間を滑り抜けていく。しかし、夢の世界から抜け出した所為なのか、その鋼鉄の身体を徐々に光へと消えていく。

 

「・・・限界か・・・。」

 

ヒイロはウイングガンダムのコックピットを開くとフェイトを抱えながらウイングガンダムから飛び降りる。

搭乗者を失ったウイングガンダムは脱力するように崩れ落ちていった。

 

「まさか、この空間にまで入り込んでくるとはな・・・・。」

 

うまく両膝を使うことで着地の衝撃を流しながらヒイロは目の前にいる人物と相対する。

 

「お前が闇の書の管制人格か。」

 

ヒイロの目の前にはぐったりとした様子の車椅子に腰掛けているはやて、そしてその彼女の目の前にはヒイロが夢の世界に入る直前まで対峙していたナハトヴァールとよく似た人物が立っていた。

 

彼女こそが闇の書の管制人格であった。ヒイロの視認した管制人格ははやてとヒイロの間に立ちふさがった。

 

 




さてと、多分これが平成最後の投稿かなぁ・・・・。



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第26話 その名は、祝福の風ーー

新元号令和になったので初投稿です。

ウイングガンダムは決して乗り捨てないです。多分。


5/7 描写に抜けがあったため、追加をしました。


夢の世界から脱出したせいで原型が保てなくなったウイングガンダムから脱出(決して乗り捨てた訳ではない。決して)したヒイロはフェイトを抱きかかえながら闇の書の管制人格と対峙する。

 

「ヒ…イロ…さん……?」

「お前はこのまま少し休んでいろ。」

 

ウイングガンダムの加速力とヒイロの操縦に軽いグロッキー状態になっているフェイトにヒイロは一瞬だけ視線を彼女に向け、休んでいるように伝えるとすぐさま視線を闇の書の管制人格に戻した。

ヒイロの目の前にいる女性は全体的に黒いインナーに銀髪に輝き、銀白の白い雪の世界を連想させるような髪を有し、その真紅の瞳をヒイロに向けていた。

ヒイロがクロノから教えられた管制人格となんら変わりはなかった。

 

「・・・・お前はあの世界で永遠の夢に堕ちることはないのだな・・・。」

 

ふと管制人格がそんなことを口漏らした。彼女の言う『あの世界』というのは十中八九、フェイトとヒイロを閉じ込めていた夢の世界のことを指しているのだろう。

ヒイロは管制人格の神妙な面持ちに少々眉を顰めながら警戒を緩めないでいた。

 

「・・・・あの夢の世界は閉じ込めた人間の記憶を元に、その人物が幸せだと思う空間を作り上げる。そこの、お前が抱えている少女が見ていた家族との和やかな団欒のように。」

「・・・・やはりあのコロニーや見知った奴は俺の記憶から再現されたものだったか。」

 

ヒイロがそういうと管制人格はその美麗な顔を弱々しく頷かせた。

 

「・・・・・?」

 

ヒイロは管制人格のその反応に少なからず疑念を抱く。先ほどから管制人格の表情が妙に悲しんでいるように見える。その哀しみを孕んだその視線をヒイロに向け、さながら同情でもしているかのように。

 

「私は、あのコロニーと呼ばれる巨大な建造物を作り上げる過程でお前のこれまで辿ってきた記憶を見た。」

 

管制人格は表情は沈んだもののままだったが、その目はしっかりとヒイロに見据えられていた。

 

「お前の人生は、はっきり言って、戦争の二文字でしか表現ができないほど凄惨なものだった。私が、お前の記憶を見たとき、初めに見せられたのはお前が人間を殺している様子だった・・・・。」

「・・・・ウソ・・・!?」

 

管制人格の言葉にフェイトは驚きの声をあげながら自身を抱きかかえているヒイロを見上げた。

当のヒイロは静かに目を閉じながら押し黙っていた。

おそらく管制人格が見たのはあの病院の看護師のことだろう。忘れもしない、まだ幼かったヒイロが初めて殺したあの男だ。

 

「その光景を見せられた時、私は言いようのない感覚を覚えた。だが、それだけに飽き足らず、そこからのお前の記憶は目を、背けたくなるようなものばかりだった・・・!!」

 

初老の科学者に拾われたヒイロはその男の元で訓練を積んでいった。その訓練の内容は一般の人間が行える量ではなかった。その結果、ヒイロの精神は破綻の一途を辿ることになったが、まだ彼の心には僅かにだが、元来の性格が残っていた。

その僅かに残ったモノさえ奪い取るきっかけとなったのが、ヒイロの中で色濃く残る少女と子犬を自分のミスで死なせてしまったことである。

その任務を契機に、ヒイロへの訓練の濃密さは人智を超えるものと化していき、彼の精神は破綻した。

 

そのあんまりなヒイロの経歴にフェイトは口元を手で覆い、言葉を失うしかなかった。

 

「お前は、あのような人生を歩んできて、一度も、ただの一度でも辛いと思ったことは、ないのか・・・・!?」

 

そうヒイロに向けて言い放った管制人格の目には涙が浮かんでいた。元々プログラムでしかないはずの管制人格が涙を浮かべざるを得ないほどのヒイロの過去。

 

「ない。思ったところで何かが変わるわけではないからな。」

 

ヒイロはその管制人格の言葉を真正面から叩き斬った。考えるいとまも与えないヒイロの否定は管制人格の言葉を僅かにだが詰まらせる。

 

「・・・・あの世界はお前が望んだものが広がっている。それこそ、戦争など存在しない平和な世界が広がっていてもか?」

 

「あそこに俺のような兵士が一人でもいる時点でリリーナの掲げた完全平和主義は成り立たん。」

 

それに、とヒイロは付け加えて管制人格に向けて言い放つ。

 

「平和とは自分たちの手で物にするものだ。与えられた平和は所詮、まやかしでしかない。またいずれ、世界は戦火に包まれ、俺たちのような兵士が必要となってくる。誰も、誰一人として、そんな時代は望んでいない。」

「・・・・平和、か・・・・。」

 

管制人格がポツリと言葉を漏らした。その言葉はシグナム達含めたヴォルケンリッター達には一度たりとも手にすることが叶わなかったものである。

 

「道理で夢の世界の人物達が好き勝手に動く訳だ・・・。あの者たちはお前達があの世界を望んでいないことがわかっていたのだな・・・・。」

 

管制人格はそういうと乾いた笑みを浮かべる。さながら敵わないと察してしまったようにも感じられる。

 

「お前に暴走に対して諦めていると言われた時、私は少なからず何も知らないお前に何がわかると思っていた。だが、その言葉はそっくりそのまま私に帰ってきてしまったな。」

 

「何も知らないのは私の方だった。お前の言う通り、私は闇の書の暴走に対して何も行動を起こしていなかった。一度暴走してしまえば、もはや止める術はないと見限り、諦観してしまっていた。」

 

管制人格はそう言葉を漏らすとヒイロにバツの悪い表情を向ける。

 

「・・・・私達にもその平和は得られるだろうか?」

「・・・・現にお前たちははやてからその平和を与えられてしまっている。だが、その平和を長続きさせるかはお前の行動次第だ。」

 

ヒイロが管制人格に向けてそう言うと彼女は意を決した表情を浮かべながら車椅子で眠っているはやての元へ向かった。

そして、管制人格がはやてに向けて手をかざすと先ほどまで開く気配のなかったはやての瞼がぱっちりと開いた。

 

「あ、あれ?ここは………?」

 

目を覚ましたはやては辺りを見回す仕草をする。突然訳の分からない空間の中にいれば、困惑した様子を見せてしまうのが山々だろう。

 

「主はやて。」

 

管制人格はそんなはやての目の前で片膝、そして片方の手を握りこぶしの形で地面につき、頭を垂れた。その様子はまるで王に傅く騎士のようであった。

 

「え、あ・・・だ、誰・・・?いや、どこかで見たことがあるような……?」

「闇の書の暴走、貴方に取って家族に他ならなかった守護騎士達の消滅、これら全て、私めの怠惰が引き起こしたことです。」

 

管制人格ははやてに向けて淡々と自身の罪の告白をする。

 

「主からの如何なる罰も、私は甘んじて受けましょう。それだけの罪を私は積み重ねてきたのですから。」

「ちょ、ちょっと待ってやっ!!とりあえず、顔を上げてくれへんか?」

 

はやては管制人格に待ったを掛けると一度大きく深呼吸し、咳払いをすると再び管制人格と向き合った。

 

「えっと、まず確認なんやけど、貴方は闇の書の管制人格さんであっとる?」

「はい、その通りです。」

 

顔を上げ、はやての顔が見えるようになった管制人格は彼女の質問に対して頷いた。

それを見たはやては少しばかり困った表情に変える。

 

「急に罰とかなんや言われても、私にはさっぱりや。闇の書が何遍もの世界を渡ったっていうのはシグナム達から聞いとったけど、それを踏まえても全然頭の中で整理できておらんもん。」

 

はやてからそう言われ、表情を僅かに沈んだものに変える管制人格。しかし、はやてが『でも』と付け加えながら彼女の前で笑顔を浮かべる。

 

「でも、これだけははっきりと言える。貴方は絶対に悪い人やない。私が貴方を信じられるだけの理由はある。」

「な、何故ですか・・・!?私は貴方をずっと苦しめてきたも同然の行いをーー」

 

「本気で悪い人やったらそもそも謝ったりせぇへんもん。理由としてはこれ以上ないもんやと思うけど?」

「たった、それだけの理由で・・・・ですか?」

 

心底から驚いた表情を浮かべる管制人格、そして対照的に笑みを浮かべるはやて。その笑顔に裏は一切見られず、心からの笑顔であった。

 

「ヒイロさん、私なんかのためにここまで来てくれて、ありがとうな。」

「・・・・闇の書を内側から停止させられる可能性があると踏んで、俺は内部構造へ突入した。お前の救出はそのついでだ。」

 

はやてはその優しげな笑顔をヒイロへと向ける。そのヒイロはぶっきらぼうに答える。はやてはそんなヒイロの反応に苦い反応を微塵も見せずに嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「それはそれとして。そこの君、名前を聞いてもええか?」

 

しかし、そんなはやての視線が別の人物に注がれる。その人物とはーー

 

「私・・・?えっと、フェイト・テスタロッサ・・・だけど?」

 

ヒイロに抱えられているフェイトであった。突然話を振られたフェイトは疑問に思いながらもはやてに自身の名前を伝える。

 

「フェイトちゃんかーー。なるほどなるほどーー。」

 

フェイトの名前を聞いたはやてはそのフェイトにも変わらずの笑みを向ける。変わらずの笑みなのだが、その表情にはどこか腹黒さが垣間見えているようにも感じられる。

 

「結構羨ましげなことされてるんやな〜・・・・。」

「ち、違っ・・・!!こ、これはあくまでヒイロさんから休めって言われたから・・・・!!」

「へぇ〜・・・・そうなん?ヒイロさん?」

「・・・・確かに言ったが・・・。フェイト、喋れるぐらいまで回復したのであれば下ろすぞ。」

「あ・・・・。」

 

はやてにお姫様抱っこされているのを茶化されたフェイトは顔を真っ赤に染め上げながら言い訳をする。

そんな元気なフェイトを見たヒイロは彼女を自身の腕から降ろした。その時、彼女がもの寂しげな表情を浮かべたのを、はやて(たぬき)は見逃さなかった。

すぐさましたり顔をフェイトへ向ける。その表情を向けられたフェイトはしてやられた顔を浮かべるが時既に遅し。

 

「へぇ〜。へぇ〜?」

「っ・・・・!!」

 

ニヤニヤと口角をあげるはやてにフェイトは恥ずかしさのあまり、顔を赤らめながらそっぽを向く。

そんな女のやりとりが繰り広げられている中、ヒイロはーー

 

「確認する。お前やはやての方面からナハトヴァールを止めることは不可能か?」

「・・・・・えっ?あ、あぁ・・・。いや、いい、のか?」

 

完全にスルーして管制人格に闇の書の停止ができるかどうかの確認を取っていた。

準備していなかったのか管制人格は遅れてヒイロの言葉に反応する。

 

「何がだ?今は闇の書の暴走を止めるのが最優先だ。いつまでもなのはに前線を張らせておく訳にいかないからな。それにお前に直接聞いておきたいこともあるからな。」

「私にか・・・・?」

 

訝し気な表情をする管制人格にゼクスとの通信でヒイロが聞いた『ナハトヴァールの停止』に関しての疑問を伝える。

 

「・・・・そうか。そのゼクスという男はそのようなことを言っていたのか。」

 

管制人格はそういうと少々考え込む仕草をする。その途中、その視線を僅かにはやてに送った。

 

「その男の言う通り、ナハトを機能停止にさせたところで、無限回復によりいずれ復活するのは事実だ。だが意味がないという訳ではない。消滅の作業中に邪魔されることがなくなるからな。」

「むしろナハトヴァールを一時的とはいえ停止させなければ不可能ということか。」

 

ヒイロの言葉にナハトヴァールは頷く仕草を交えながら話を続ける。

 

 

「それと烈火の将や鉄槌の騎士といった守護騎士の者達は主はやてがシステムの復旧を行えば、問題はない。闇の書本体を消滅させることになってもプログラム自体を切り離せば巻き込まれることはない。」

「・・・お前はどうなんだ?」

「・・・・・・・・・・。」

「お前はシグナム達とは違う。プログラム的な機械工学の観点から見てもそれは明らかだ。」

 

ヒイロの質問に管制人格は押し黙ってしまう。その管制人格にヒイロは追及を行った。

管制人格はちらりとはやての方を見やり、彼女がこちらの会話を聞いていないことを確認した。

その反応だけで管制人格がはやてに何か聞かれたくないことを言わなければならないことをヒイロは察した。

 

「・・・・今はまだ自分でもどうなのかは、わからない・・・。」

「・・・・了解した。今はナハトヴァールの停止が最優先だからな。」

 

ヒイロがそう言うと管制人格は僅かにだが、笑みを浮かべた。

 

「ありがとう。だが結論から言えば、止めるのは無理だ。ナハトの暴走を止めることは私や主の権限でも難しい。だが切り離すことはできる。」

「・・・守護騎士達と同じように、ナハトヴァールと闇の書を分離させるのか?」

 

ヒイロがそういうと管制人格は大きく頷く。しかし、その表情はどこか難しそうであった。

 

「分離するためにはナハトに強烈な魔力ダメージを与える必要がある。それこそ、高町なのはが放つようなスターライトブレイカーといった砲撃魔法クラスのだ。」

「・・・・作戦プランは決まったな。だが、なのはの砲撃にはチャージが必須だ。その時間はどう稼ぐ?」

「そこがネックなのはわかってはいるのだが・・・・」

 

管制人格が困ったような表情を浮かべる。現状、夢の世界の外にいるのはなのはしかいない。アルフも外にはいるが、アリサとすずかの護衛に就いているため、彼女の援護を求めるのも無理だ。

ヒイロが闇の書内部に突入するまでリンディ達の乗っているアースラが来る様子もなかった。

最悪、はやてがいる空間をウイングゼロのツインバスターライフルで無理やり破壊するという考えもあったが、やった後がどうなるか不明瞭なため、手段としては最後に選択するものとなってしまう。

 

はやてとフェイトが痴話喧嘩を繰り広げている傍、ヒイロと管制人格が手をこまねいているとーーー

 

『なら、そのナハトヴァールの足止めは私がやるわ。』

 

突如として頭に直接語りかけるような声が響く。明らかに念話による突然の連絡にヒイロはわずかに驚いた表情を浮かべる。

だが、その声に誰よりも驚いている人物がいた。その人物は先ほどまでの会話をわざわざ止めるほどの驚愕を持っていた。

 

「か・・・かあ・・・さん・・・!?」

 

フェイトはその声の主に心底驚いた表情を浮かべながら目を見開いていた。

そして、彼女がこぼした『母さん』という単語。これが該当する人物は一人しかいない。

 

「・・・・プレシア・テスタロッサか。」

『フェイトが世話になっているわね。何やらあの子に訓練を施してくれたらしいわね。』

「・・・それはフェイトが自ら強くなりたいと望んだだけだ。俺は大したことはしていない。」

 

念話から、というより待機状態のウイングゼロから届くプレシアの声にヒイロが返答する。

およそ、その間にフェイトがかつてなのはと出会うきっかけとなった事件、『P.T事件』の時のような苛烈さはなかった。むしろ和やかなものであり、フェイトはその様子に動揺を隠せないでいた。

 

「どうして・・・母さんが・・・!?」

『アリシアに貴方のことを守ってほしいってお願いされたのよ。もっともお願いがなくても貴方に手を貸すつもりではいたけど。』

 

プレシアの言葉にフェイトは僅かに嬉しそうな表情を浮かべる。しかし、その表情にはどこか暗い影のようなものが同時に含まれているようにも感じられる。

フェイトにとって、プレシアは紛れもなく母親だ。だが、プレシアにとってフェイトはアリシアの生き写しである側面が強い。アリシアのクローンとして生まれたフェイトは元となったアリシアとは様々な部分で差異があったのだ。

 

利き手や性格、挙げ句の果てにはフェイトには高い魔力の素質があるが、アリシアにはそれがないと、もはやアリシアによく似た『誰か』として生まれたフェイト。愛娘を亡くした悲しみやその原因となった事件の責任を押し付けられたことから精神がかなり摩耗していたプレシアにとって、そのことは到底認められることではなかった。

 

『フェイト、貴方にはとても酷い仕打ちをしてきたわ。どう取り繕ったところで貴方にしてきたことが消えることはないわ。』

「母さん・・・・。」

『・・・・・まだ、こんな私を母さんって呼んでくれるのね。貴方のことを大嫌いって言ったのに。』

「・・・・私は貴方の娘ですから。」

 

フェイトがそういうとプレシアはクスリと笑ったような声を上げる。声色的に苦笑いを浮かべているようにも感じられる。

 

『でも、いつまでも私やアリシアのことに引き摺られてはダメよ。過去を振り返るな、なんてことは言わないわ。だけど貴方には貴方の未来がある。』

 

『フェイト、行きなさい。私の娘ではなく、アリシアのクローンでもなく、フェイト・テスタロッサ、一人の人間として今を、明日を、そして未来を生きるのよ。』

「っ・・・・・・はいっ・・・・!!」

 

プレシアの言葉にフェイトは涙ぐみ、そして上ずった声で返事をする。それにプレシアは苦笑しているような声をする。

 

『それじゃあ、私は向こうに喧嘩でもけしかけてくるわね。そこの闇の書の主さんは脱出の準備でも整えてなさい。』

 

それを最後にプレシアからの念話は聞こえなくなった。

 

「・・・プレシア・テスタロッサにできるのか?」

「・・・できます。母さんなら。だって母さんはーー」

 

「次元すらも越えられる、とっても強い魔導師なんですから。」

 

その言葉にかつてフェイトが母親であるプレシアに対して抱いていた恐怖は微塵もなかった。

その証拠に彼女の表情はすごく晴れやかなものであった。

 

 

 

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・。」

 

一人でナハトヴァールの相手をしていたなのは。なんとか対峙できるほどの力は残ってはいるが、バリアジャケットは所々が破けたり、煤で黒ずんでいたりとボロボロ、なのは自身も肩で息をしていたりと既に満身創痍だ。

 

それでも彼女はレイジングハートを構え続ける。闇の書の中に入ったヒイロとフェイトのためにーー

 

(正直言って、カートリッジは残りわずかだし、私自身体力はもう限界・・・。だけど、こんなところで諦める訳には、いかない。)

 

結界内部の光景はかなり酷いことになっていた。空は魔力がこもったドス黒い雲が雷をゴロゴロと鳴らし、地面からマグマのような火が吹き出し、海上では地面がせり上がり、それらが奇妙なオブジェクトと化していた。

もはや地球崩壊まで猶予はない。だが、それで諦めるなのはではない。

 

彼女は硬い意志のこもった視線を未だダメージらしきものが見当たらないナハトヴァールに向ける。

 

『そこの貴方、聞こえるかしら?聞こえるなら念話で返してちょうだい。』

『ふぇ?ど、どちら様ですか?』

 

そんななのはの元に突然念話が入る。なのははわずかに困惑した様子を見せるもナハトヴァールに悟られないように視線を向けたままその謎の人物に返答を行う。

 

『そうねぇ・・・。強いて言うなら、哀れな母親、と言ったところかしらね。然程重要なことじゃないから、私のことは気にしちゃダメよ。』

『・・・・・もしかしてフェ『気にしちゃダメよ?』アッ、ハイ。』

 

その謎の母親は一つ咳払いをするとなのはに手短に作戦の概要を伝える。

 

『ひとまず、あの闇の書の自動防衛プログラム、ナハトヴァールを切り離すために貴方の砲撃魔法が必要なの。援護はこっちでやるからお願いできる?』

『・・・わかりました!!援護、感謝します!!』

 

なのはは念話の相手に感謝の言葉を述べるとレイジングハートをアクセル、バスターとは違う、3つ目の形態へ変化させる。

レイジングハート内部から機械が動いているような音が響くと杖状から先端が尖った槍のような形態へと変貌を遂げ、レイジングハートはコアの赤い宝石から桜色の翼を広げる。

 

その名もエクセリオンモード。正真正銘、なのはの全力全開を叩き出すための最終形態である。

 

「レイジングハート、行くよっ!!」

 

なのははレイジングハートの切っ先をナハトヴァールへと向け、環状魔法陣を展開し、砲撃態勢を取る。

その切っ先から桜色の魔力光が球体となって生成を始める。

明らかに隙だらけなその姿にナハトヴァールはなのはに攻撃を仕掛けようとするがーー

 

「っ!?」

 

咄嗟に身を翻すナハトヴァール。その瞬間、強烈な魔力を伴った雷がナハトヴァールがいた場所を貫いた。

 

「何・・・!?」

 

ナハトヴァールが辺りを見回せばいつのまにか轟音が響き渡る雷の海が広がっていた。当然止まっているなのはの周囲にも雷が落ちるが、むしろその雷が彼女を取り囲み、さながら守っているようにも感じられる。

 

「これほどの規模の魔法・・・一体誰が・・・!?」

 

ナハトヴァールは出所がわからない攻撃に歯噛みをしながら空を飛ぶ。

わからないのも無理もないだろう。なぜならその攻撃が闇の書の空間に広がっている夢の世界からの介入であるからだ。

ナハトヴァールは困惑した顔を浮かべながら降り注ぐ雷の嵐を突き進む。

しかし、その回避運動も途中でピタリと体が固まったかのように空で止まってしまう。

 

「うっ……っ!?ぐっ、アアアアアアアアアアっ!!?」

 

突然苦しみだしたナハトヴァール。それに呼応するかのように左腕の籠手から黒い蛇が侵食するように広がっていく。

なのはは突然のナハトヴァールの変貌に少しばかり心配そうな視線を向けるが、謎の母親(プレシア)はその隙を見逃さなかった。

 

苦しみ悶えているナハトヴァールにプレシアはいくつもの雷を束ねた、もはや光の柱とでも見違えるような巨大な雷をナハトヴァールに向けて、叩き落とす。

 

まともな対応が取れなかったナハトヴァールはその雷に呑み込まれた。程なくしてその降り注いだ時の轟音がなりを潜めると共にナハトヴァールの姿が露わになるが、各所が黒ずみ、ときおり体に電気が残っているのか、スパークを発する程であった。

 

『今よ!!闇の書の主が止めている間に手早くやりなさい!!』

「は、はいっ!!」

 

謎の母親に急かされるようになのははレイジングハートを構える。

 

「レイジングハート!!フォースバースト!!」

 

そういうとレイジングハートを中心とした周囲に4つの環状魔法陣が展開され、カートリッジが4つほど装填される。

 

「全力全開!!エクセリオンバスター、シューーートっ!!!!」

 

なのはの叫びと共にレイジングハートから4つの光線が発射される。その光線は複雑に絡み合うと一筋の光と変わり、ナハトヴァールを呑み込んでいく。

 

 

 

 

「・・・・空間が振動している・・・?」

「主!!これなら行けます!!」

「わかったで!!あ、そういえば管制人格さん、1つええか?」

 

はやての言葉に管制人格は疑問気に軽く首をかしげる。

 

「いつまでも呼び方が管制人格やと味気ないから名前、つけてもええかな?」

「・・・・それ、今決めることなんですか?」

「名前は大事やで!!名は体を現すなんていう便利な言葉もあるんや!!」

 

フェイトの疑問にはやては鬼気迫った表情を浮かべながらビシっと人差し指をフェイトに向ける。

 

「ええっと、そうやなぁ・・・。」

「早くしろ。さもなくばツインバスターライフルでこの空間を破壊する。」

「わぁ〜!!ヒイロさん待って待ってー!!よくわかんないけど明らかな脅しはやめてやー!!ええっと、ええっと……!!」

 

はやては頭をうんうん唸らせながら管制人格の名前を思案する。するといい案が浮かんだのか頭の上に豆電球がついたようなリアクションをした。

 

「せや!!もはやこれしかないで!!祝福の風、闇なんちゅう負のイメージをなくすんや!!その名もーー」

 

 

リインフォース

 

 

その名は祝福の風を意味し、幸運を運び込む、幸せの象徴ーーーー

 

 

「個体名、リインフォース。確かに受け取りました。我が主よ。」

 

その名前を管制人格、否、リインフォースは嬉しそうに受け取るのであった。

 

その次の瞬間、ヒイロ達がいた空間を光が包み込んだ。




いよいよ最終決戦ですかな〜。

多分、次回の推奨BGMは「Rhythm Emotion」辺りだと思います。


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第27話 集う戦士たち

BGMは次回に持ち越しですわ・・・・。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・。」

 

動きの止まったナハトヴァールに向けて、エクセリオンバスター、正真正銘、なのはの全力全開がこもった魔法を放った彼女は荒い息を吐きながら、肩で息をするが、その目はエクセリオンバスターに飲み込まれたナハトヴァールを注視していた。先ほどまで聞こえていたはずのーーよくよく考えてみればジュエルシード事件の時、魔力が掻き消される虚数空間に落ちていないはずのーープレシア・テスタロッサの声はもう聞こえなかった。

 

「フェ、フェイトちゃんとヒイロさんは・・・?」

 

ナハトヴァールに対する警戒を続けながらなのははヒイロとフェイトを見つけようと辺りを見回す。

幾ばくかのうち、分厚い雲が包んでいる空に特徴的な白い翼が羽ばたいているのが見えた。

そしてその翼の傍に対照的な黒いマントと金色に輝く艶やかな髪がはためいているのもなのはの視界は捉えた。

 

なのははそれを見つけると一目散に二人の元へ駆け寄りはじめた。

 

 

 

「ここは、海鳴市・・・?戻ってこれた・・・・?」

「そのようだが・・・なんだこの有様は?」

 

闇の書の夢の世界から脱出したヒイロとフェイト。少し辺りを見回してみるとそこが海鳴市からそれほど離れていない海上であるということはわかる。

だが、その風景は様変わりしており、すぐにはそこが海鳴市であるということはわからなかった。

 

海の中からはマグマの柱が天を貫き、地面が隆起したのかおそらく地面だったものが奇妙なオブジェをいくつも形成していた。とても現実とは思えない情景にヒイロは驚いた様子を隠せなかった。

 

「・・・・どうかしたのか?フェイト。」

 

ふとヒイロはフェイトに声をかけた。なにやら空を見上げたまま物思いに耽っていたようなフェイトはヒイロに声をかけられたことに気づくとハッとした表情を浮かべながらヒイロの方に顔を向ける。

 

「あ、いや・・・そっか、ヒイロさんはリンカーコアがないんでしたね・・・。」

「そうだな。だからと言って、お前やなのはに遅れを取るつもりはないが。それで、お前は先ほど何を見ていた?」

「・・・・あの空に広がっている雷雲・・・。母さんの魔力から作られたものです。」

 

ヒイロはフェイトからそう言われると空を見上げた。空には分厚い黒い雲が覆い、今にも雷が落ちてきそうなほどであった。ヒイロにはリンカーコアがない以上、魔力を感じられないためその雷雲が闇の書の暴走によって引き起こされたものなのか人為的なものなのかの判別はつかない。

だが、プレシア・テスタロッサの因子を色濃く継いでいるフェイトがそういうのであればそうなのだろう。

 

「母さんが手伝ってくれたんだって思うと、なんだか嬉しくなってきたんです。そういうこと、あの人がまだ生きている時には、ほとんどなかったから・・・。」

 

フェイトは空を見上げているヒイロとは対照的に顔を下に向け、表情に僅かに陰を落とす。

だが、その表情もすぐさま意志のこもった、力ある表情へと変わる。

 

「・・・・プレシア・テスタロッサの声はもう聞こえない。俺たちが夢の世界を脱出したことにより、姿形を保てなくなったか、もしくは引っ込んだか定かではない。だが・・・・行けるか?」

「はい。私はもう迷いません。母さんやアリシア、そしてあなたに背中を押されましたから。」

「・・・・そうか。」

 

 

 

「フェイトちゃん!!ヒイロさん!!」

 

そこになのはが嬉しそうな声をあげながらヒイロとフェイトの元へ駆け寄ってくる。

彼女が近づいてきたことに気づいた二人はなのはの方へ視界を向けるとフェイトも同じように嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「無事でよかった・・・!!!」

「なのは・・・ごめんね、迷惑かけちゃって・・。」

 

なのはのバリアジャケットはナハトヴァールとの戦闘の苛烈さを否が応でも感じさせられた。随所で土埃や煤で汚れていたり、裾の方は裂けていたりした。なのはに任せっきりになってしまったことを申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にするフェイトになのははそんなことないというように首を横に振った。

 

「ううん、そんなことないよ。私はフェイトちゃんが無事に戻って来てくれれば、それで良かったから。」

 

なのははフェイトに向けてそういうと今度はヒイロに視線を向ける。ウイングゼロのガンダムフェイス越しだったが、ヒイロはその視線をなのはの視線と合わせる。

 

「ヒイロさん、闇の書の主・・・はやてちゃんのことはどうなったんですか?」

「・・・・あそこだろうな。」

 

ヒイロはそういいながら顔を自身の後ろの方へ向けた。それにつられるようになのはが彼の後ろを見つめると、そこには雪のように白く輝く光の玉が浮かんでいた。

 

 

 

 

『自動防衛プログラム、ナハトヴァールの分離を確認。ですが、やはりというべきでしょうか。暴走は止まらないようです。』

 

ナハトヴァールから解放された管制人格、名を改め、リィンフォースははやての体を大事そうに抱えながらナハトヴァールの暴走が止まらないことを伝える。

 

『う〜ん・・・まぁ、なんとかなるやろ。』

 

まるで根拠がないような言葉を述べながらはやては虚空の空間に手をかざす。

すると次の瞬間、はやての元に闇の書、否、ナハトヴァールが分離し、それまで溜め込まれた『闇』が解放された今、闇の書は夜天の空へと還った。

 

はやては夜天の書のページを開くと記された文字の羅列の中に不自然に抜けた箇所を見つける。

 

『理由を聞いてもよろしいですか?』

 

リィンフォースはまるで答えがわかっているかのような表情を浮かべながらも敢えてはやてにその理由を尋ねる。

はやてもリィンフォースが敢えて聞いてきたことを察したのか苦い笑みを浮かべながらそのページの中の空欄に指を充てる。

 

『守護騎士システム、修復開始。リンカーコアを夜天の書へと回帰。』

 

はやてが夜天の書に命じるとその空いた空欄に文字の羅列が刻まれる。

それははやてがもっとも大事にしていた、家族達の存在証明ーー

 

『さっきの質問に答えるとな。私にはシグナムやヴィータ、シャマルとザフィーラの守護騎士のみんな、ヒイロさんやフェイトちゃんといった私を助けてくれる人達、そして何よりーー』

 

はやてはそこで言葉を切ると自身を抱えているリィンフォースに笑顔を向ける。

 

『リィンフォース。アンタがおる。みんながいれば倒せないものなんかない。私は胸を張って、そう言えるよ。』

 

そういいながらはやてはリィンフォースに向けて手を伸ばした。

 

『行こ、リィンフォース。』

『・・・・はい。主はやて。』

 

リィンフォースは微笑みながら、その伸ばされたはやての手を優しく包み込むように握った。

 

 

 

「あれは・・・・。」

 

ヒイロが光の玉の周囲に変化が現れたことを視認する。それは古代ベルカ式に見られる正三角形の魔法陣が4つ。

 

その色は赤、薄い紫、緑、そして薄い青。夜天の書のプログラムの一種であり、はやての家族である守護騎士達の色であった。

 

「フェイト!!無事かい!?」

「アルフ・・・?すずか達の方は大丈夫なの?」

「一応、結界の外には置いてきたから大丈夫さ!」

 

そのタイミングでヒイロ達の側にアルフがやってきた。すずか達二人の警護が済んだからこちらに援助をするためにやってきたのだろう。

戦力が増えることに越したことはないため、ヒイロは視線をはやて達に集中させ、アルフに対して特に言うことはなかった。

 

その魔法陣がしばらく輝きを続けるとその魔法陣から人影が現れる。

それは紛れもなくヴィータ達、守護騎士の面々であった。

 

「ヴィータちゃん・・・!!よかった・・・!!」

「シグナムも大事ないみたい・・・・よかった。」

「シャマルやザフィーラも問題なく戻ったか。あとははやてだが・・・・。」

 

守護騎士達が生き返ったことに安堵の声を上げるなのはとフェイト。ヒイロも守護騎士達を視認するが、その視線は光の玉の中にいるであろうはやてに注がれていた。

 

その光の玉が突如として轟音と共に真下に光を伸ばすと海の水が衝撃で巻き上げられる。さながらその様子ははやてが闇の書の暴走でナハトヴァールへと変貌した時のようであった。しかし、その柱は身の毛がよだつような代物ではなく、どこか優しげな雰囲気が感じられるものであった。

 

驚いた様子でその根が下された光の柱を見つめるヒイロ達。

しばらく辺りに轟音を撒き散らしながら輝き続ける光の玉は徐々にその姿を縮小させていく。

 

『なのはさん、フェイトさん、ヒイロ君!!リンディよ、聞こえるっ!?聞こえるなら返事をしてちょうだい!!』

 

そのタイミングで、なのはとフェイトには念話、ヒイロにはウイングゼロの通信機能を介して、リンディから連絡が入る。

アルフからリンディが試験運行中だったアースラを引っ張って来ていると聞いていた三人は彼女がアースラを引き連れて地球にやってきたことを察する。

 

「リンディか。お前が来たということは、ユーノやクロノも来ているんだな?」

『ええ、もちろんよ。二人とも既に転送装置で向かっているわ。』

 

リンディとそのやりとりを行った瞬間、ヒイロ達の元に二人の人影が現れる。

黒を基調としたコートのようなバリアジャケットを展開し、銀色に水色のクリスタルのようなものが施された手のひらサイズのカードを手にしているクロノとさながら冒険者が羽織るようなマントをはためかせたユーノが舞い降りた。

二人は険しい表情を浮かべながら、ヒイロ達を見据える。

 

「まずは、ここまで後手に回ってしまったこと、管理局の執務官として謝らせてほしい。すまなかった。」

「僕もだ。もう少し、闇の書に関しての情報を見つけ出すのが早ければここまでひどくなることはなかったのかもしれない。」

「そんなことないよ、クロノ君やユーノ君は私やフェイトちゃんじゃできないことをやっていたんだし・・・。」

「そうだよ・・。クロノは執務官としての目線から、ユーノは無限書庫にある古文書の調査。どっちも私やなのはじゃできなかった。ヒイロさんもそう思いますよね?」

「・・・・・・ギル・グレアムの方は最終的には俺よりクロノ、お前に任せた方が後腐れは少なかっただろうな。特にユーノはお前が仕入れてきた情報がなければ守護騎士達を止めることができなかった。自分を卑下するのもそこら辺にしておけ。どのみち、闇の書は暴走させた方が手っ取り早かったのは事実だったからな。」

 

そういって申し訳なさげな雰囲気を出す二人になのはとフェイトは首を横に振った。特にフェイトは目線をヒイロに向けながら援護射撃を求めた。

それをみたヒイロは少々面倒な空気を醸し出しながら二人にそう言い放った。

 

「待ってほしい。闇の書は暴走させた方が手っ取り早い?それは一体どういうことなんだ?」

 

クロノの言葉にヒイロは視線を守護騎士達のいる方向に移した。

 

「守護騎士達が囲んでいる光の玉だが、あそこには今回の闇の書の主である八神はやてがいる。ギル・グレアムからある程度は聞いてはいるか?」

「ああ。グレアム提督から聞いている。両親を早くに亡くした彼女に提督は経済的な支援をやっていたらしい。」

「・・・・あの男は、そんなことをやっていたのか・・・。よくよく考えてみれば両脚が不自由なはやてに資金を稼げるはずはなかったな。」

 

だが、今は関係のないことだ。ヒイロはそう考えを打ち切った。今は目の前で過去からの呪縛に苛まれ、その忌々しい鎖を断ち切るために立ち上がる少女のために、ヒイロは闘う決心をする。

 

「話を戻す。暴走させるのが手っ取り早いと言った理由だが、闇の書を完全に破壊するにあたって、自動防衛プログラム、ナハトヴァールの存在は邪魔以外の何物でもない。システムを機能停止にさせるために奴を一度、表に引きずり出す必要があった。その結果がアレだ。」

 

ヒイロはそういうと守護騎士達がいる方角とは別の方向に指を向ける。全員がその方角を向くと、そこには驚愕の光景が広がっていた。

 

海の上にぽっかりと穴が開いていた。その穴はそこが漆黒の闇に彩られ、その様子はさながらブラックホール。全てを呑み込んでしまうような不気味さを醸し出していた。

さらにそこからなんらかの生物と見られる触手が見え隠れしていた。そのあんまりな光景になのはとフェイトは表情を引きつらせ、ユーノとクロノはその険しい表情を一層深めた。

 

「アレが分離したナハトヴァールそのものと言っても過言ではないだろう。だが、詳しいことははやてに聞け。」

「そう、だね。どうやら、向こうも準備が整い始めているみたいだからね。」

 

クロノがそういうと徐々に光の縮小が進んでいた光の球が消え失せるとそこには黒いスーツに金色の線の意匠が施されたバリアジャケットのようなものに身を包んだはやてが現れる。その手には先端に剣十字がついた杖と夜天の書が握られていた。

はやてはその閉じられた瞳をゆっくりと開くと手にしている剣十字の杖を空へ掲げる。

 

「リィンフォース、ユニゾンインッ!!!」

 

その声と共にはやての胸元にどこからか飛来した濃い紫色に輝く球体が溶けるように吸い込まれていった。

その瞬間、はやてのバリアジャケットや姿に異変が起こった。

胴体を覆うくらいだった黒いスーツの上に白い丈の短い服を羽織り、腰の部分からは金色に輝く煌びやかな装飾が施された藍色のスカートが現れる。

整った茶色の髪が白がかったクリーム色へと変貌し、開かれたその瞳は黒から碧へと変貌を遂げ、ベレー帽のような白い帽子がかぶせられる。

 

何より目を惹いたのはナハトヴァールにも生えていた左右に3枚ずつ、計6枚の漆黒の翼。

 

「はやての姿が変わった・・・・?」

「もしかして・・・融合型デバイス・・・?ミッドチルダでも滅多に見ないタイプのデバイスだ・・・!!」

 

はやての変身に怪訝な顔を浮かべるヒイロだったが、ユーノが驚きの表情を浮かべながらそう述べた。

融合型デバイス、その字面の通り、今のはやては何か別のものと融合した姿であることは想像に容易い。

 

(問題は一体何と融合したかだが・・・・消去法でしかないが、リィンフォースと融合したのだろうな。ナハトヴァールと分離を果たした今の奴ならばなんら問題は起こらないだろうな。)

 

 

リィンフォースのはやてを思う気持ちは他の守護騎士達となんら変わりはなかったからな。

 

ヒイロはそう心の中で思いながらはやての様子を見守っていた。

そのはやては今、管理者権限で復活を果たした守護騎士達と対面し、言葉を交わしていた。

シグナム達は心底から驚いた様子を見せていたが、ヴィータが目から大粒の涙を零しながらはやてに飛びついたところからはやてを含めた四人の表情が柔らかなものへと変わった。

その光景はまさに家族と言っても過言ではないほど仲睦まじかった。

 

だが、今は状況がそうは言ってはいられない。ヒイロは意識を切り替えるとはやて達の元へと飛翔する。

それにつられるようになのはやクロノ達もヒイロの動きに追従する。

 

「はやて。確認しなければならないことがある。」

「んぉっ!?・・・・もしかしてヒイロさん?」

「・・・・そうだが。」

 

驚いた様子のはやてに対して、ヒイロは少しばかり呆れたような口調で答える。なにせウイングゼロの姿を見て、それがヒイロかどうかのやりとりを既に何回も行ってしまっている。

はやてが目の前のウイングゼロと自身の背中の黒い翼を見比べるように視線を行ったり来たりさせる。

 

「私のは堕天使で、ヒイロさんのはまるで天使・・・。結構私とヒイロさん、相性ええんちゃう?」

「・・・・まだお前がどういう戦い方をするのかわかっていないにも関わらず相性もなにもないだろう。」

「そういうこと言ってるんとちゃうんやけどな・・・・・。」

 

ヒイロの言葉にはやてはどこか不貞腐れたような表情をしながら口をすぼめた。

あまりよくわからないはやての反応にヒイロは怪訝な表情を浮かべながら、話を進めることにした。

 

「はやて、あの海上に開いた渦のようなもの、あれはナハトヴァールという認識で問題ないな?」

「・・・・うん。自動防衛プログラム、ナハトヴァール。その侵食暴走体や。言うなれば、『闇の書の闇』 これまでの夜天の書に悪い改造を施されてきた悪意の塊や。」

『今はまだ活動を本格化してはいないが、仮に野ざらしにしてしまえば、この星1つは容易く呑み込んでしまうだろう。』

 

そうはやてと共にナハトヴァールの概要を話したのはリィンフォースであった。

しかし、その体は手のひらサイズまで縮小し、身体も半透明となっており、さながら妖精のようでもあった。

 

「ならタイムリミットもそれほどないと認識すべきか。迅速に対処する必要があるが、奴にも無限回復機能は備わっているのか?」

『元々、無限回復機能もその改悪の一種です。当然の如く、向こうにも備え付けられてあります。生半可な攻撃はすぐに回復されるでしょう。』

 

リィンフォースの言葉にヒイロは特に表情を変えることなく別の人物に向ける。

ヒイロは魔法に関しては素人同然だ。ならば、その道に通ずるエキスパートに判断を仰ぐしかない。

 

「クロノ、お前の執務官としての知識を貸せ。何かプランはないのか?」

 

ヒイロに問われたクロノは手にしていた銀色のカードを構えた。そのカードはクロノが構えると同時に光に包まれながらその身を銀色に輝く杖へと変える。

デバイスと思われるソレは周囲に目に見えるほどの冷気を吐き出した。その強さはしばらくクロノの周りに氷の結晶がキラキラと光に反射するダイアモンドダストが起きるほどであった。

 

「プランはある。だけど、そのためにはここにいるみんなの力が不可欠だ。なのは達はこの世界を救うため、守護騎士達のみんなははるか昔からの呪いの鎖を断ち切るために。」

 

クロノの言葉に総員の表情が気の引き締まったものに変わる。ヒイロも言わずもがな、ウイングゼロのガンダムフェイスの下で気を引き締め直す。

 

「みんなの力を、貸して欲しい。」

 

クロノが静かに、それでいて意志のこもった言葉に総員の答えは1つ、ただ無言で頷くことであった。

 

「なら、プランを伝えるよ。とは言っても、内容自体はすごく簡単なんだけどね。」

 

そういいながら、クロノはヒイロ達にプランを伝える。途中、はやてからのナハトヴァールについての情報を交えながらプランはより濃密なものになっていった。

 

 

 

「・・・・・了解した。確認だが、最終的には軌道上に展開しているアースラまでナハトヴァールのコアを転送させればいいんだな?」

「まぁ、そうなるね。一応、そこに至るまでの作戦も伝えた通りだけど、不測の事態が起こらないとは限らない。その時はよろしく頼むよ。」

 

クロノの言葉にヒイロは頷く様子は見せずに海上に空いた穴に潜んでいるナハトヴァールに視線を集中させる。

 

大型魔導砲『アルカンシェル』

 

今回のアースラのメンテナンスで取り付けられた大型艦艇につけられる管理局の誇る最終兵器だ。

その砲弾は一定空域に空間歪曲と反応消滅を引き起こし、着弾空域の物体を悉く消滅させる。

 

クロノが建てた作戦を掻い摘むとそのアルカンシェルでナハトヴァールのコアを消滅させるというものであった。

 

ヒイロやなのは達、それにはやてやシグナム達といった総勢、12人の戦士達の目が未だ胎動を続けるナハトヴァールが作り出した空間の穴を見つめる。

 

「・・・・来るぞ。」

 

不意にヒイロが呟いたその瞬間、海の中から無数の蛇のような生命体が空間に開いた穴を取り囲むように現れる。

そして、その生命体が守っている穴から超巨大な生命体が浮かび上がる。

 

無数の脚、人どころかビルを丸呑みできるほどはありそうな巨大な口、胴体から生えている醜い翼。

一般的に化け物と呼ばれる特徴をふんだんに盛り込んだような醜悪な獣がその声にならない産声をあげる。

 

その獣に対し、戦士達は杖や鎌、魔法陣に剣、槌や己の拳と自分達のもっとも得意とする獲物を構える。

 

ヒイロもその例外ではなく、両翼にそれぞれ一丁ずつ収納しているバスターライフルを連結させ、『ツインバスターライフル』として構えた。

 

「・・・・最終ターゲット確認。目標、闇の書の闇。」

 

最終決戦の火蓋が切って落とされる。戦士達は大事な者たちとの明日を守るために飛翔する。

 

 




「・・・・なぁなぁ。守護騎士の奴ら、普通に管理者権限で闇の書から分離されちまったよな?」
「ええ、そうですね。僕たちが手を出す必要性がなくなってこちらとしては嬉しい限りですが・・・。」
「俺たちって残ってる意味あんのかね?ゼクスから連絡があったとはいえ、その必要性もなくなっちまったじゃねぇか。」
「貴様は馬鹿なのか?まだ残っている奴がいるのは明白だろう。」
「はぁっ!?テメェ、好き勝手言いやがって・・・・!!」
「そこら辺にしておけ。俺たちの仕事が終わっていないのは事実だ。そのためにもプレシア・テスタロッサの元へきたのだろう。」
「・・・なぁ、マジでやんのか?アイツを切り離すのは文字通り骨が折れるぜ?」
「君の言う通り、難しいのは確かです。ですが、僕たちみたく兵士としてならともかく、年端のいかない少女にこれ以上、家族を喪う悲しさを味わってほしくはありませんからね。」
「・・・・・ヘイヘイ。おっしゃる通りですね・・・・。とはいえ、お前さんが乗り気になるとは思わなかったな。」
「ふん・・・。貴様には関係のないことだ。」

四人の少年たちは木々をかき分けながらテスタロッサ邸、もとい時の庭園を進んでいく。
やがてひらけた場所に辿り着くとそこではさながら待っていたかのようにプレシア・テスタロッサが立っていた。その表情はどこか面倒に思っているような感じであった。

「お得意の魔術で俺たちが来るのがわかっていたみたいだな。なら、こっちの要件も言わなくても分かってるんじゃないのか?」

腰まで下ろした髪を三つ編みにした牧師服を着た少年はプレシアに向けてそう言い放つ。

「はぁ・・・・。私にはメリットがないのだけれど?」
「それは僕たちも一緒ですよ。言うなれば、ただのお節介です。それに、あなただってもう家族を喪った子供を見たくはないはずです。」

立ち振る舞いから明らかに高貴な生まれの少年がプレシアにそう持ちかける。
その少年の言葉にもう一度ため息を吐いた。

「・・・それで?私は何をすればいいのかしら?」
「闇の書のシステム面での把握だ。魔法技術から作られたデバイスとはいえ、中身は機械とそれほど変わりはない。俺たちの持つ技術でも代用は可能ではないが、やはり専門家としての視線が欲しい。そこで貴方の力を借りたい。」
「間に合うかどうかははっきりしてないのでしょう?それでもやるの?」

特徴的に前に前進した髪型が目立つ少年の言葉にプレシアは疑問気な言葉を返した。

しかし、少年たちは表情を何一つ変えることなくプレシアの視線にじっと見つめ返した。
しばらくの間、少年たちとプレシアの間で長い沈黙が続く。

「・・・・・・分かったわよ。」

その沈黙合戦は、プレシアが折れる形で終幕を迎えた。

「ありがとうございます。」

そのプレシアの言葉に高貴な少年は頭を下げ、感謝の言葉を述べた。




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第28話 未来の行方

推奨BGMは『Rhythm Emotion』もしくは『Eternal Blaze』のどっちか、だと思いますわ・・・。


「まずは足を止めさせます!!アルフさん、ユーノ君、ザフィーラは先行してバインドを!!」

「あいよ!」「了解!!」「心得た!!」

 

後方支援がメインのシャマルの指示で三人が先行して闇の書の闇へと接近する。

バインドを仕掛けて動きを抑制させるためだ。

しかし、闇の書の闇の周囲に蔓延る触手のような生き物の大口が開くとそこから魔力で編まれたビームが発射される。

触手の数も相まってそのビームの数は視界が埋まりそうなほど想像を絶し、アルフたちは足止めを余儀なくされてしまう。

 

「ヒイロ君!!援護を!!」

「任務了解。」

 

シャマルの指示がヒイロに飛ぶ。任務を受諾したヒイロはウイングゼロの翼を羽ばたかせながらビームの中を突き抜けていく。

やがて一度の被弾もなく弾幕を切り抜け、アルフたちの前へ躍り出たヒイロはツインバスターライフルを二つに分割した状態で闇の書の闇にその銃口を向けた。

 

「ターゲットロックオン。直ちに敵生命体を殲滅する。」

 

ヒイロがバスターライフルの引き金を引くと二つの銃口から山吹色の閃光が放たれる。触手状の生命体は変わらずビームを吐き出しているが、バスターライフルの荷電粒子砲の光はそれすらも容易く呑み込み、闇の書の闇を囲っていた生命体、配置的には砲台のようになっていたものをチリ一つ残さず消滅させる。あわよくばバスターライフルによるプラズマ過流とリーゼロッテをプロテクションごと焼き尽くした灼熱の奔流で闇の書の闇本体にもダメージを期待したが、肝心の本体はその巨体を覆うほどの結界を形成して防御しており、ダメージのようなものは見られなかった。

 

(あれが話にあった闇の書の闇が展開する複合4層の防御結界か。あれの破壊は別の奴に任せることになっている以上、余計な手出しは無用か。)

 

「敵生命体の消滅を確認。・・・再生されないうちに早く行け。」

「サンキュー、ヒイロ!!」

「先鋒の役割、しかと果たしてみせよう!!」

「あれほどの火力を瞬時に発射できてしまうなんて・・・やっぱりヒイロさんの世界は科学技術の進歩が著しいんだな・・・。」

 

アルフは感謝、ザフィーラは自身を鼓舞する声をあげ、ユーノはウイングゼロの火力に舌を巻くと三者三様の反応を見せながら闇の書の闇に接近していく。

 

「さぁーて。コア露出までアタシたちで時間を稼ぐよ!!」

「無論だ。盾の守護獣として、敵を押しとどめるのは専売特許だ。」

 

「それじゃあいくよ!!ケイジングサークルッ!!」

「チェーンバインド!!」

「穿て!!鋼の軛っ!!」

 

各々がバインド系の魔法を闇の書の闇に向けて使用する。ユーノのケイジングサークルは闇の書の闇を取り囲み、アルフの鎖は脚を縛り付け、ザフィーラの軛は楔となりて闇の書の闇に打ち込まれる。

楔に鎖、さらには自身を覆う囲いと移動を抑制された闇の書の闇。

しかし、その抑制もあまり効果がないのか闇の書の闇が暴れるとアルフのチェーンバインドとザフィーラの鋼の軛は粉々に粉砕されてしまう。

ユーノの展開しているケイジングサークルは強度が段違いなのか闇の書の闇が暴れても壊れる様子は見られなかった。

 

「そう簡単に、破らせる訳にいかないよ・・・!!!これでも伊達に結界魔導師をやっている訳じゃないからね!!」

 

 

 

「第1陣、なのはちゃんにヴィータちゃん!!お願い!!」

「鉄槌の騎士、ヴィータと鉄の伯爵、グラーフアイゼン!!」

「高町なのはとレイジングハート・エクセリオン!!」

 

「行くぜっ!!」「行きますっ!!」

 

なのはとヴィータがそれぞれの獲物を構えながら闇の書の闇へと飛翔を開始する。

ユーノのケイジングサークルに阻まれ、碌に動けない闇の書の闇は自身の周囲から再度触手型の生命体を作り出し、接近する二人に向けて砲撃を開始する。

 

「ヴィータちゃん!!」

「わーってるからさっさと援護を頼むぜ!!」

 

飛来する砲撃に対し、ヴィータはスピードを上げながらさらに闇の書の闇に接近を開始する。

対するなのははレイジングハートを構えると自身の周囲にアクセルシューター用のスフィアを展開する。

途中、直撃弾の砲撃が飛んでくるがなのはの堅牢な防御力の前に弾かれる。

 

「ターゲット、マルチロックオン・・・・!!当たれぇぇぇぇぇぇ!!」

『Accel Shooter』

 

振り上げた右手を勢いよく振り下ろす。その瞬間、なのはの周囲を飛んでいた総勢32のスフィアが桜色の軌跡を描きながらヴィータに近づく砲撃を悉く撃ち落としていく。

 

「よくもまぁ・・・あんな数を制御するもんだ。」

 

ヴィータはなのはに対し、驚嘆するような表情をしながら、彼女の援護のもと、闇の書の闇の頭上までたどり着く。

長らく自身や幾人もの主を苦しめてきたその元凶を叩き潰し、ついぞ得ることのなかった平和な日常をこの手で掴む。

ヴィータはグラーフアイゼンを握る手に力を込めるとカートリッジの薬莢を吐き出させ、リロードする。

 

「轟・天・爆・砕!!!」

 

ヴィータがその掛け声と共にグラーフアイゼンを振り回すとその槌の部分が分解され、パーツが組み替えられていく。パーツとパーツが組み合わさる音を辺りに響かせながらグラーフアイゼンはその姿を徐々に巨大にしていく。

やがてグラーフアイゼンの槌はヴィータの身長をゆうに越え、闇の書の闇と同等の大きさまで巨大化する。

 

「ギガント・・・シュラァァァァァクッ!!!!!」

 

 

およそ質量保存の法則もへったくれもなくなったグラーフアイゼンをヴィータは思い切り闇の書の闇へと振り下ろす。

闇の書の闇は当然防御結界を展開し、防御するが、グラーフアイゼンのその圧倒的な質量攻撃に第1層目を粉砕されながらその身を海中へと沈められる。

しかし、結界は破壊しても闇の書の闇自体は未だ健在で辺りに砲撃を撒き散らしながら耳をつんざくような咆哮を上げる。

 

「一層目、ぶっ壊したぜ。」

 

それでも一通り、自分の為すべきことをなしたヴィータは得意気な表情を浮かべながら元の大きさに戻ったグラーフアイゼンを肩にかける。それを確認したシャマルが次の指示を飛ばす。

 

「次、シグナムとフェイトちゃん!!魔力攻撃による第2層、第3層の破壊をお願い!!」

「了解した!!剣の騎士、シグナムとその魂、炎の魔剣、レヴァンティン!!」

「フェイト・テスタロッサとバルディッシュ・アサルト。」

 

「参るっ!!」「行きますっ!!」

 

海水ギリギリの高度でシグナムとフェイトが闇の書の闇に向けて肉薄する。

シグナムとフェイトが迫り来ることを視認したのか闇の書の闇は砲撃を二人に向けようとするが、ヒイロ達が瞬時にバスターライフルやバインドを用いた妨害に入り、まともな対応を取らせない。

 

「先行します!!」

「ああ、頼んだ。」

 

フェイトがシグナムにそういうと彼女の前に踊り出て、バルディッシュを構え、カートリッジを二発リロードする。カートリッジからの魔力をもらったバルディッシュはその鎌状の魔力刃の輝きを一層強める。

 

「クレッセント、セイバーっ!!!」

 

そして勢いよくバルディッシュを振るう。バルディッシュについていた魔力刃は斬撃波のように回転しながら闇の書の闇に飛んでいく。

しかし、その刃は結界に阻まれ、その巨体に届くことはなかった。

 

これでいい、フェイトはその心の中で言いながら大きくジャンプすることで闇の書の闇を飛び越え、シグナムと挟み撃ちのような構図を作り上げる。

 

「刃、連結刃に続く我が魂のもう一つの姿、今ここに見せよう。」

 

左手にレヴァンティンの鞘、右手に剣を持ったシグナムは剣の持ち手を本来であれば刃を入れるはずの鞘に差し込んだ。

その瞬間、レヴァンティンの形状が僅かに変化し、剣の切っ先と鞘の先端が魔力で編まれた糸で繋がった。

その様子はさながら弓のようであった。

 

「闇の書の闇・・・貴様の存在、その何もかもを夜天の書から消してみせよう。」

 

シグナムは闇の書の闇に向けて静かに言い放つとカートリッジから二発リロードし、魔力で構成された矢を摘みながら弦を弾く。

視線を鋭くし、闇の書の闇をその眼光で捉える。

さらにシグナムは矢を引いた状態のまま、もう二発、カートリッジをリロードする。

 

「翔けよ、隼っ!!」

『Sturmfalken』

 

シグナムの指から矢が離れる。その瞬間、凄まじい勢いで矢が発射され、その矢が炎に包まれる。

紅蓮の焔に包まれながらもその形はさながら鳥のような翼を持ち、一直線に闇の書の闇へと突っ込んでいく。

その炎の鳥は闇の書の闇の展開する結界を貫き、内部で爆発。その威力は結界内部が炎に包まれて見えなくなるほど強力なものであった。

 

「フェイト・テスタロッサ、目標を破壊しますっ!!」

 

対岸にいるフェイトもバルディッシュにカートリッジリロードを命じる。

 

「バルディッシュ、ザンバーフォーム!!」

『Zanber form』

 

薬莢が吐き出されたことを確認したフェイトはバルディッシュに指示を下し、その形状を変えさせる。

バルディッシュは鎌状から剣の持ち手部分のような形へと変わり、半実体化したような魔力で構成された刀身を作り出した。

 

「撃ち抜けっ!!雷神っ!!!」

『Jet Zamber』

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

乾坤一擲、声を張り上げながら巨大化したバルディッシュの刃を闇の書の闇に向けて振り下ろす。

その太刀筋は一切の迷いなく、闇の書の闇の結界をシグナムが破壊しかけた第2層と第3層をまとめて破砕する。

 

「あと一層・・・・!!」

 

フェイトがそう言いながら追撃を仕掛けようとした瞬間、闇の書の闇に異変が生じる。

胴体の大口が一際大きな咆哮をあげ、その巨体が悶え始める。

 

何かがおかしい。フェイトの直感がそれを感じ取る。

 

「う、ウソ・・・・!?」

 

フェイトは思わず驚愕の表情を浮かべながら、()()()()()()

闇の書の闇がその背中に生えていた生々しい翼を羽ばたかせるとその巨体を空へと浮かせる。

ある程度まで浮遊した闇の書の闇は水色のプレート状の結界を自身の周囲を取り囲むように展開する。

 

「まだクロノの魔法には時間がかかる・・・。このままじゃ・・・。」

『各員に通達する。そのまま作戦行動を継続しろ。』

 

逃げられる。その思った瞬間、フェイト達に念話が届く。その念話の主はヒイロであった。

フェイトは咄嗟にヒイロの姿を探すが一向にその姿を見つけられない。一体どこに行ったのかと思っていると視界の端に僅かに空に輝く光が見えたような気がした。

 

「ヒイロさん・・・・?」

 

目を凝らしてその光を見てみると滞空している闇の書の闇、そのさらに上を取ったヒイロがツインバスターライフルを構えながら滞空していた。

 

 

「出力をリミッター上限の70%に調整・・・・戦術レベル、効果最大確認・・・。」

 

ヒイロは照準を闇の書の闇に向ける。僅かにブレを見せていたサイトは程なくして固定化され、動かなくなる。

 

「ターゲット・ロックオン。ツインバスターライフルを使用する。」

 

その瞬間、ヒイロはツインバスターライフルのトリガーを引く。銃口に一瞬、光が集まったかと思った瞬間、バスターライフルの時とは比べものにならないほどの爆光とエネルギー質量が闇の書の闇に向かい、一直線に飛んでいく。

なのはの持つ砲撃魔法、スターライトブレイカーと遜色ないほどのビームを闇の書の闇は展開していた結界で防ごうとする。

しかし、ツインバスターライフルのエネルギー質量の前にプレートは瞬時に呑み込まれ、消し炭と化す。

そのままツインバスターライフルの光は闇の書の闇に直撃し、その巨体を貫通。突き抜けたビームは海上で大爆発を起こし、海鳴市の空に巨大な水柱を形成する。

高く打ち上げられた水柱から降り注ぐ海水と爆発の余波に思わず顔を腕で覆うフェイト。

しばらく爆発に煽られるフェイトだったが、やがて衝撃波も止み、恐る恐る腕を下げるとそこには目を見張る光景が広がっていた。

 

貫通するほどの攻撃を喰らい、バランスを崩したのか、闇の書の闇はその身を再び海上に下ろしていた。

だが、何より目につくのはその巨体に付けられた円形の空洞、十中八九、ヒイロが撃ったビームが原因だろう。

穿たれた円形の空洞は外縁が赤熱化して、その熱が闇の書の闇の無限再生機能を阻害しているのかしばらく治る気配は見当たらなかった。

 

「結界ごと、闇の書の闇を撃ち抜いた・・・!?これが、ヒイロさんの世界の、ウイングガンダムゼロの力・・・・?」

 

フェイトは目の前に広がる光景に驚くことしかできないでいた。ただでさえ火力の凄まじいバスターライフル。一度、リーゼロッテ達を捕らえる際に撃っていたが、あれは二丁あるうちの片方、それも出力を抑え、わざとビームを外した上でその余波だけで管理局でも有数の実力者であるリーゼロッテを奇襲だったとはいえ、一撃で撃墜した。

それだけでも舌を巻いてしまうほどの火力だと言うのに、そのバスターライフルを二丁合わせた武装はそれすらも軽く凌駕してしまった。

 

「な、なななななな、なんや今の・・・!?ま、まさかとは思うけど、ヒ、ヒイロさんが、やったんか・・・?」

『何という、火力とエネルギー量・・・・。単純火力だけを見れば、高町なのはのスターライトブレイカーと遜色ない・・・!!あれが、ヒイロ・ユイの、アフターコロニーのモビルスーツの、力・・・・!!!』

 

目の前で起こったありえない光景にはやてはベルカ式の正三角形の魔法陣を展開したまま、その中心で驚愕の表情のまま固まり、リィンフォースは改めてウイングガンダムゼロの圧倒的な火力の高さに対して認識を改める。

 

「凄い・・・・・・!!」

『何を呆けている。闇の書の闇は再生を始めているぞ。さっさと作戦行動を再開しろ。』

「あ!!は、はいっ!!」

 

なのはがツインバスターライフルの火力に呆然としているとヒイロから念話が飛んでくる。なのははその声に慌てた様子を見せながら移動を開始する。

チラリと視線を闇の書の闇に移してみればヒイロの言う通り、ツインバスターライフルで開けられた空洞が塞がりかけていた。

やはり、コアをどうにかしなければ停止させることは難しいようだ。

 

 

「クロノ君!!あとどれくらいで行けるんや!?」

 

驚愕していた表情を元に戻し、はやては海上に立ち、グレアムから託され、現在手にしているデバイス、『デュランダル』を構えながら、詠唱しているクロノに声をかける。

 

「…………30秒。いや、20秒待ってほしい。」

「20秒やなっ!!りょーかい!!」

 

詠唱しているクロノは静かに閉じていた瞳を開けるとはやてに端的にそう伝える。それを聞き届けたはやては予め展開しておいた魔法陣の光を一層強める。

 

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち抜け。石化の槍、ミストルティン!!」

 

はやてが詠唱を唱えると背後から魔法陣を中心に六本、その生み出された槍の中心に一本の計7本の槍が闇の書の闇に降り注ぐ。

ツインバスターライフルによるダメージで再生に躍起になっているのか、闇の書の闇は避ける素ぶりすら見せず、槍はその巨体に深々と突き刺さると刺さった箇所からさながら侵食するように石へと変えられていく。

程なくしないうちに闇の書の闇は完全に石化してしまった。

 

「刺さった箇所から石に変換させる魔法か・・・。仮に相手になるのであれば厄介極まりないな。」

 

ヒイロははやての魔法を見て、そのようなことを口にする。どれほど効果が強いのかは検討はつかないが、もし掠めただけでその石化の効果が発揮されるのであれば、ヒイロにとっても脅威になりかねない。

 

「足止めにしかならんと思うけど・・・!!」

「いや、十分だ!ありがとう!!」

 

はやてが苦々しい表情を浮かべるがクロノから感謝の言葉が届く。それが意味するものは、魔法の詠唱が完了したに他ならない。

クロノはデュランダルを石化している闇の書の闇に向けた。その彼の周囲には夥しいほどの視覚化された冷気が立ち昇る。

 

「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ!!」

 

「凍てつけっ!!エターナルコフィンっ!!!!」

 

クロノが手にしたデュランダルから青白く輝くビームが発射される。そのビームは海上を凍らせながら闇の書の闇に迫り来る。やがて、そのビームは着弾すると闇の書の闇を呑み込むほどの眩い光を放つ。

光は周囲に撒き散らすがデュランダルのものと思われる四つのビットがその光を反射し、闇の書の闇を光の中に閉じ込める。

 

エターナルコフィンの光が収まってくると、闇の書の闇は澄んだ氷の檻に閉じ込められ、その動きを完全に停止させていた。

クロノはその様子を確認すると、荒い息を吐きながら、空を見つめる。

見上げた空には一面の黒く分厚い雲ーーではなく、超巨大な桜色のスフィアが形成されていた。その超巨大なスフィアを作り上げた少女の側には、親友である金色に輝く雷光、白い魔法陣を展開している最後の夜天の主。

 

そして、彼女らを守護するようにその身の丈程ある巨大な純白の双翼を広げた天使が、その手に持つ銃身の長い細身の銃を闇の書の闇に向けていた。

 

「なのは、フェイト、はやて、ヒイロ!!あとは頼んだっ!!」

 

 

 

「・・・・準備はいいな?」

 

ヒイロがそう確認を取るとなのはとフェイトは無言で頷いた。しかし、はやては魔法陣を展開したまま、申し訳なさげな表情を浮かべ、考えに耽っているようだった。その様子はどこか悲しみを帯びていた。

 

「・・・・はやて。」

 

見かねたヒイロがはやてに声をかけるとびっくりしたのか一瞬、身を竦ませるとヒイロに視線を向ける。

 

「・・・・もしかして、見とった?」

「深く追及するつもりはない。だが、これだけは言っておく。お前が戦わなければ、またお前と同じような犠牲者が必要となってくる。」

「・・・・・ヒイロさん、時折ずるい言い方しよるよな・・・・。」

「事実を言ったまでだ。」

「でも、ありがとな。気を使ってくれたんやろ?」

 

そう言って笑顔を浮かべるはやてにヒイロは視線を向けることすらせずに闇の書の闇を見据えている。

その瞳がクロノのエターナルコフィンで作られた氷の牢獄の中で胎動を続けていることを目にする。

 

「この状況でもまだ動くか。はやて、もう一度確認するが、行けるか?」

「・・・・・うん。大丈夫。」

「・・・・そうか。」

 

はやての意志を確認したヒイロは再度ツインバスターライフルを闇の書の闇へ構え直す。

なのは、フェイト、はやての三人も自身のデバイスを介して、魔法陣の光を一層強める。

なのははとてつもない大きさの桜色のスフィアの輝きを強め、フェイトは雷光を帯びた半実体化した巨大な剣を、はやては正三角形型の魔法陣のそれぞれの頂点から黒い稲光を帯びた白いスフィアを発生させる。

 

「スターライト……!!」

「プラズマザンバー……!!」

「響け、終焉の笛!!ラグナロク!!」

 

ヒイロもツインバスターライフルの照準を固定する。その照準が捉えているのはその巨体に取ってつけたような女性の上半身の姿をした部分であった。

 

「闇の書の闇、ゼロが見せる未来の中に、貴様は存在しない!!」

 

ゼロシステムが見せたビジョンがその女性の上半身を模した部分にナハトヴァールのコアがあることを知らせる。ヒイロはそのビジョンの通りにツインバスターライフルのトリガーを引く。

 

『ブレイカァァァァァァァァァァ!!!!!!』

 

ツインバスターライフルの閃光が先に迸ると同時になのは達三人の魂のこもった砲撃魔法が闇の書の闇に向けて振り下ろされる。

組み合わさった兵器と魔法、相反する二種類の砲撃は闇の書の闇に直撃すると、大爆発を起こす。

 

その規模は爆発の余波で生まれる衝撃波が周囲にあった岩盤のオブジェを壮大な音を響かせながら崩壊させるほどのものであった。

無論、その爆発の中心にいる闇の書の闇も例外ではなく、三つの砲撃魔法と一つの大規模ビームが組み合わさった爆発はその巨体の肉を容赦なく削いでいく。

徐々に肉や皮が削がれ、骨格のようなものを爆発の中で晒していく闇の書の闇。

その中にヒイロは、怪しく紫色に輝くものを自身が狙い撃った女性の上半身を模した部分の中から見つけ出した。

 

「シャマルっ!!コアの露出を確認したっ!!」

 

直感的にその怪しく輝いている光の球体をコアだと断定したヒイロはシャマルに向けて呼びかける。

 

「こっちでも、確認済み・・・・っと!!」

 

その声が届いたかどうかは定かではなかっつが、爆発から離れた位置にいたシャマルは自身の転移魔法である『旅の鏡』から様子を見ていた。

そして、旅の鏡から映し出される映像にナハトヴァールのコアを確認したシャマルはそのコアを旅の扉の性質で自身の目前に、『取り寄せた』。

 

「長距離転送っ!!」

「目標、軌道上っ!!!」

 

シャマルのそばにいたユーノとアルフが彼女が取り寄せたナハトヴァールのコアを挟み込むように魔法陣を展開する。

そして、ナハトヴァールのコアは二人の転送魔法によって、上空に空高く打ち上げられた。

 

 

 

「コアの転送を確認!!ですが今なおコアを中心にして再生中!!は、早いっ!?」

 

ナハトヴァールのコアが転送されたのを確認したアースラのブリッジでは慌ただしくコンソールのパネルに打ち込む電子音が響き渡る。

 

「各員は落ち着いて対応を!!エイミィ、アルカンシェルのチャージは?」

「既に完了済みです!!いつでもどうぞ!!」

 

その慌ただしい状況の中でも艦長であるリンディは落ち着いた声をあげながらエイミィにアルカンシェルのチャージ状況を聞いた。

 

「試運転中に闇の書の暴走が始まってしまったから、細部の調整まで済んでいないけど、やるしかないわね。」

 

リンディは周囲に聞こえないほどの声量で言葉を零すと目の前に半透明な立方体が現れる。その立方体にはちょうど鍵が入りそうなほどの細い空洞が取り付けられていた。

リンディは手にしていた鍵を静かに見つめる。リンディが持っている鍵はアルカンシェルの火器管制機構のロックシステムを解除する文字通りの最後の鍵だ。

 

「ファイアリングロックシステム、解除。」

 

そういいながら鍵を挿し込むと半透明だった立方体は真っ赤に染まり、さながら閉じられていたものが開いたかのように立方体が二つに分割される。

 

「転送されたコア、来ますっ!!!」

 

アースラの正面に複雑な巨大魔法陣が三つ現れると同時に地球から転送されてきたナハトヴァールのコアが出現する。

その身はぐちゃぐちゃに崩れたまま再生されたのかもはや生物としての原型を留めていないほど様々な生物が混ざりに混ざり合っていた。

思わず艦内でどよめきの声が上がるがリンディは最後まで落ち着いた様子のまま、アルカンシェルのファイアリングロックシステムに手を当てる。

 

「アルカンシェル、発射っ!!!!」

 

 

「・・・・ゼロが激しい警告を挙げている?どういうことだ?」

 

リンディの意志のこもった声とヒイロの疑問気な声はほぼ同時に発せられた。

アースラから放たれたアルカンシェルの光は正確にナハトヴァールのコアへと飛んでいく。

 

 

『Anfang』

 

 

積み重なった闇は天に広がる希望の虹さえ、呑み込んだ。

そのことに最初に気づいたのはーーー

 

「ウソ・・・・!?アルカンシェルを……吸収した?」

 

エイミィの声が管制室の中で静かに響きわたる。それほど大きな声で言った言葉でなかったが痛いほどに響き渡ったのは全員が目の前の現実を正確に認識できていないからだ。

未来へと続く道は未だ、分厚い絶望の雲に包まれたまま。虹すら呑み込む深淵の闇を人は、人類の可能性は乗り越えることができるだろうか?




あー闇の書の闇がしぶといんじゃー^_^

闇の書の闇「まだだ、まだ終わらんよ!!」



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第29話 軌道上に天使は疾った

家族のいないたった一人の孤独な少女を救うために天使は今、闇へと挑む。




こちらの切り札であったアルカンシェルが吸収された。エイミィからの通信になのは達は大なり小なりの動揺を禁じ得なかった。

 

「アルカンシェルが吸収されたっ!?それは本当なのかっ!?」

『本当も何も、闇の書の闇は現在もアースラのいる軌道上を漂っているよー!!』

 

クロノの確認とも取れる声にアースラの管制室でエイミィは泣いているかのような声をあげながらそう伝える。

アルカンシェルが対応されてしまったのであればまた別の対応策を考えなければならない。

なのは達はアルカンシェルが防がれたことで意識が精一杯なのか、『嘘・・・。』や『そんな・・・。』と憔悴しきった声をあげるしかできないでいた。

 

「エイミィ、アースラから分かる限りの情報を伝えろ。現状、お前たちが情報源に他ならないからな。」

『わ、分かってる!!』

 

重要かどうかなど関わらずに現状は情報が欲しい。ヒイロはそう思いながらエイミィに情報の提供を求める。

このまま復活した闇の書の闇を放っておいていい訳がない。ゼロシステムを用いずともそれはわかりきっていたことだった。

 

『闇の書の闇はなんかもうよくわかんないくらいグロテスクな塊になって胎動を続けている!!肉の塊って言っても過言じゃないよっ!!』

「奴の大きさは?」

『おおよそ500メートルは下らないね!!正直言ってアースラの大きさを優に超えちゃってるっ!!』

 

アルカンシェルの魔力を蒐集した闇の書の闇はアースラを越すほどの巨体へと膨れ上がった。

500メートルクラスまで膨張した軌道上の闇の書の闇はもはや隕石といってもいいほどだろう。

 

(・・・・隕石?)

 

ふとヒイロの脳内に隕石という単語が色濃く残った。隕石とは地球の重力に引かれたスペースデブリが落下してきたものだ。大抵は大気圏に突入した時の熱量で燃え尽きてしまうのがほとんどだが、それは然程大きくないものだからだ。

しかし、今の闇の書の闇は少なくとも500メートルを越す巨体と化してしまっている。

仮に落ちてくれば、大気圏で燃え尽きることは、ない。

 

「クロノ、闇の書の闇は地球に大質量攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。」

「大質量攻撃・・・・!?まさか・・・・!!」

 

クロノがハッとした表情を浮かべるとヒイロは静かにそれでいて険しい表情を浮かべながら頷いた。

 

『ナハトヴァールの周囲に魔力反応!!』

「っ!?エイミィ!!術式の解析をっ!!」

『もうやってるって!!』

 

その時、エイミィから闇の書の闇に魔力反応が現れたことを告げられる。エイミィが術式の解析を行なっている間、クロノとヒイロの間で沈黙が走る。

だが、クロノとヒイロには闇の書の闇がなんの魔法を使おうとしているのか見当がついていた。

ついていたが故にその険しい表情は一層深まっていた。

 

『術式解読!!こ、これはーーーー』

 

『アル……カン……シェル…………!?』

「やっぱりか・・・!!」

 

エイミィの消え入るような声で語られた結果にクロノは表情を思い切り歪めた。

ヒイロもウイングゼロのガンダムフェイスの下で苦々しい表情を浮かべる。

 

「クロノ、アルカンシェルが地上に向けて放たれると、どうなる?」

「・・・・アルカンシェルは、着弾地点を中心にして少なくとも100キロの範囲に空間歪曲と反応消滅を引き起こす。仮に地上へ向けて放たれれば、その星に甚大な被害を被らせる。」

 

ヒイロのその問いに答えたのはクロノではなくユーノだった。時間が経ったことである程度冷静さを取り戻したのか、表情は苦しいものながらもしっかりと空を、正確に言えば軌道上にいる闇の書の闇を見据えていた。

 

「絶対に、地上に向けて放っちゃいけない魔法なんだ・・・!!」

「つまり、闇の書の闇がアルカンシェルを放つ前に完全に破壊する必要があるということか。エイミィ、ほかに闇の書の闇に動きはあるか?」

『アルカンシェルの発射方角が変なことぐらい!!地球とかアースラに向けているんじゃなくて、どうしてか自分に向けている!!まるで、爆弾みたいなーーあっ!?』

「・・・・どうした?」

『闇の書の闇が・・・・・!!』

 

アルカンシェルの状況を伝えていたエイミィが突然驚いたような声を上げるとそれきり黙りこくってしまう。ヒイロが不可解な様子で尋ねるとエイミィは驚愕の言葉を口にする。

 

『闇の書の闇、地球に向けて、降下中・・・!!』

「ヒイロが地球に大質量攻撃を仕掛けるって言っていたのはこういうことか・・・!!」

「・・・・・・!!」

 

エイミィの言葉を聞いたヒイロは頭の中で状況のシミュレートを行なっていた。

闇の書の闇が地球に落下を始めているのであれば、直ちに撃墜する必要がある。

しかし、ただ破壊すると言っても大気圏内で破壊すれば、破壊した時の破片が周囲に飛び散ってしまい、どれほどの被害を与えるかは未知数だ。

故に破壊するなら大気圏外の軌道上で破壊する必要がある。

そうすれば破片は少なくとも大気圏で燃え尽きるだろうし、爆発の衝撃波も地球に届くことがなくなる。

 

瞬時にそこまで手段を導き出したヒイロだったが、その視界に僅かにだが桜色と金色の光が見えたような気がした。

ハッとしたヒイロがその光の軌跡を追っていくとそれぞれの光の先頭になのはとフェイトの姿が映り込んでいた。

 

(まさか、闇の書の闇を破壊しに行くつもりかっ!?)

 

ヒイロは二人の行動をそう捉えるとウイングゼロのスラスターを一気に蒸し、彼女らの後を追う。なのははともかく、フェイトはスピード型の魔導士だがウイングゼロのスピードは二人の速度を優に超えると、あっという間に追いつき、彼女らの前に立ちはだかる。

突然ヒイロが立ちふさがったことになのはとフェイトは驚いた表情を浮かべながら急ブレーキをかけることで踏みとどまった。

 

「何をするつもりなんだ?」

「何って・・闇の書の闇の破壊に行くんです!!早くしないとみんなや地球が・・・!!」

「駄目だ」

「なっ・・・!?どうしてですかっ!?ヒイロさんだって早く破壊しないと地球が大変なことになってしまうのはわかっているはずですっ!!」

「ああ。それは分かっている。」

「だったらどうして・・・!!」

 

なのはの言葉を否定の言葉で一蹴したヒイロにフェイトは驚いた表情を浮かべながら問い詰めた。ヒイロがフェイトの言葉に同意を示したことも相まってフェイトの中で困惑の色が支配していく。

 

「お前たちが向かったところで、無駄死にするだけだ。」

「・・・・私たちじゃ、また足手まといって言うんですか・・・!!」

 

ヒイロの言葉にフェイトは顔を影を落としながら俯いた。ヒイロの視線からフェイトの表情を伺うことはできなくなったが、彼女が悔しさに表情を歪めているのは確かであろう。

 

「・・・・・・なのは、お前に一つ聞く。宇宙とは一体どのような場所だ?」

「えっ・・・?宇宙、ですか?」

「ああ。」

「え、えっと、無重力の空間で・・・・?それで水とかの液体がふよふよ浮かんだり・・・。」

 

突然のヒイロからの質問になのはは面食らいながらも宇宙についての概要を話す。しかし、なのはの口から無重力以外の宇宙に関しての単語が出てくることはなかった。

 

「宇宙空間が無重力状態なのは確かだ。だが、何より重要なのは、大気がないことだ。つまり人間にとって必要不可欠である酸素が一切ないことになる。」

『っ・・・・・!!』

「リンディ、聞こえるか?お前に聞きたいことがある。」

『ヒイロ君!?そっちで何かあったの!?』

 

ヒイロがアースラに向けて通信を繋げるとリンディの切迫した声が聞こえてくる。

闇の書の闇が降下を始めている以上、できる限り手短に伝えなければならないため、手早く聞きたいことを尋ねることにした。

 

「時間がないため、率直に聞く。バリアジャケットに酸素を供給する機能は付いているのか?」

 

ヒイロの言葉にリンディはしばらく考え込むような声を上げる。

 

『・・・・もしかして、なのはちゃんとフェイトさんが軌道上に来ようとしてる?』

「・・・そんなところだ。」

『分かったわ。二人には悪いけど、はっきりと言うわね。バリアジャケットには温度調節機能があったりはするけど、人間にとって重要である酸素まで供給する機能は残念ながら付いていないわ。』

「やはりか・・・・。」

 

ヒイロはリンディとの念話をそこで一度打ち切るとなのはとフェイトの方に視線を向ける。

 

「リンディから聞いた通りだ。バリアジャケットもそこまで万能ではなかったようだな。お前達が何の対策もなしに宇宙空間に出れば数十秒経たずに死ぬぞ。」

「そ、それじゃあ、私たちは黙って指を咥えて見ていることしかできないって言うんですか・・・!!」

 

フェイトの言葉にヒイロは黙りこくったまま何も答えなかった。そのヒイロの対応を肯定と受け取ったフェイトはバルディッシュを握る力を強めながら目を思い切り瞑ることで悔しさを露わにする。

なのはも表情を曇らせながら、もはや事態がなのは自身では届かぬ領域まで進んでしまっていることを痛感する。

 

『・・・・ごめんなさい。貴方に嫌な役割をやらせてしまって・・・。』

「お前が気にする必要はない。恨まれるのには慣れている。」

『そう・・・。それと、重ね重ね申し訳ないのだけど、ヒイロ君、というよりウイングゼロなら宇宙空間に出ても大丈夫なの?』

「・・・・問題ない。元々、モビルスーツは宇宙空間での戦闘を念頭に置いている。」

『そこは・・・嘘でもできないって言って欲しかったわね・・・・。』

「事実を誤魔化してどうにかできる状況ではないだろう。それはお前だってわかっているはずだ。」

 

リンディの悲しげな声にヒイロは淡々とそう返した。そのことにリンディはアースラの管制室で僅かに表情をうつむかせ、さながら祈るように両の手を結び、苦渋の決断をヒイロに告げる。

 

『ヒイロ君・・・・貴方に闇の書の闇の破壊をお願いしたいの・・・。エイミィの解析で闇の書の闇に魔力攻撃は悉く吸収されてしまうことが分かってしまっているし、アースラのアルカンシェルのチャージはもう間に合わない・・・!!もう、貴方しか可能性のある人はいないの・・・!!」

 

リンディが悲痛な表情を浮かべていることが念話を通してでも嫌というほど伝わってしまう。本当は頼みたくないという心情がまざまざと伝わってくる。しかし、現状としてヒイロの、ウイングゼロのツインバスターライフル以外に頼れるものは存在しない。

 

「それはクロノ達には伝えているのか?」

『伝えてはある・・・。だけど・・・。』

「・・・もはや手段に構っている暇はない。俺は俺にできることをやるだけだ。だが、これだけは言っておく。俺はクライド・ハラオウンの二の舞になるつもりはない。」

『・・・・本当に貴方は強い子なのね・・・。』

「・・・・直ちに破壊活動に移行する。」

 

リンディのその声にヒイロは静かに、それでいてはっきりとした口調で答えた。

ヒイロはウイングゼロの翼を羽ばたかせると二人の間を通り抜けるように高度を落としていった。

 

「ヒイロさん・・・?一体何を・・・?」

「最後の任務だ。文字通りのな。」

 

怪訝な表情を浮かべるフェイトに端的にそう答えるヒイロ。フェイトはあまり概要を掴めなかったが、なんとなくでなのはを連れて、ヒイロの後についていった。

 

「ユーノ。」

「ヒイロさん・・・。すみません、なのは達を止めてもらって・・・。」

「問題ない。なのはとフェイトが逸るのは想像に容易かったからな。」

「そうですか・・・。それで、ヒイロさん、闇の書の闇のことはどうするんですか?」

「それに関してはお前に頼みたいことがある。」

 

高度を下ろしたヒイロはユーノに声をかけた。ユーノはヒイロの姿を確認すると開口一番になのはとフェイトを止めてもらったことへのお礼の言葉を口にした。

ヒイロは時間がないことを理由に手短にユーノの言葉を打ち切らせるとユーノへの頼みごとを伝える。その内容はーーー

 

「ユーノ、俺を闇の書の闇のいる軌道上に長距離転送で送れ。」

「っ・・・・。やっぱり本気なんだね・・・。」

「リンディやエイミィからある程度は聴いていると思うが、それしか手段がない以上、仕方あるまい。」

 

ヒイロの言葉にユーノは少しばかり考え込む仕草をするが、意志が固まったように手をかざすとヒイロの足元に緑色の魔法陣が展開される。

ヒイロは長距離転送の魔法が発動するまでその魔法陣の上でじっと佇んでいる。

シグナムやヴィータといった守護騎士達もウイングゼロのツインバスターライフルしか残された方法がないことを分かっているのか、悲痛な表情を浮かべながらもユーノの邪魔をすることはなかった。

 

「エイミィ、闇の書の闇のコアを探知はできているか?」

『コアの探知はできてはいるけど、肉塊の中で頻繁にコアを転移させて捕捉されずらいようにしている!!』

「そのデータを俺に送り続けろ。ゼロに処理させる。次の転移まで時間はどれほどだ?」

 

ヒイロがそういうとアースラから闇の書の闇の映像データが転送される。ヒイロはその送り続けられるデータをゼロシステムに処理をさせ、ツインバスターライフルを発射する瞬間のコアの居場所を予測させる。

 

『・・・およそ、1秒から2秒・・・!!』

「了解した。手はかかるだろうが破壊してみせる。」

「たった1秒・・・・!!その短い時間の中でヒイロさんのバスターライフルを直撃させようとするなら・・・。」

「必然的に近づくしかない。それもかなりの至近距離でな。」

「ですが、それだと破壊した時に闇の書の闇が抱えている魔力の奔流からは・・・。」

「・・・・・・。」

 

最悪、巻き込まれるだろうな、ヒイロはそう思いながらも敢えて口に出すことはなかった。余計な不安を煽る訳にはいかない。彼なりの配慮であった。

 

「ヒイロさん、まさか一人で行くんですか・・・?」

 

そこにフェイトの消え入りそうな声がヒイロの耳に入った。ヒイロの視線が声のした方向へ向けられるとその視界に不安気な表情を浮かべているフェイトの姿があった。

 

「現状、宇宙でも問題なく活動が可能なのはウイングゼロしかない。夢の世界でガンダムに乗ったお前なら分かっているはずだ。」

「それは・・・そうですけど・・・。何か、本当に何かできることはないんですか?」

「・・・・・ない。宇宙空間はそれだけ危険な環境だ。下手に出てくれば、死ぬことになる。」

「だけど・・・!!」

「お前にはできない。俺にはできる。ただそれだけのことだ。それにお前には帰るべき場所がある。」

「帰るべき・・・・場所・・・?」

「ユーノ、長距離転送の準備はできているな?」

「・・・・いいんですか?」

「ああ。時間もそれほど残されていないだろう。」

 

ユーノの最後の確認にヒイロは間髪入れずに答えた。ユーノがヒイロの足元に広げた魔法陣の輝きを強め、長距離転送を発動させようとした時ーー

 

「ダメェェェェェっ!!!!」

 

はやてが大声をあげながら、ヒイロの腕を掴んでしまう。さながらヒイロを引き止めるかのようなはやての行動にユーノは発動しかけていた魔法陣を咄嗟に停止させる。

 

「今度はお前か・・・・。はやて、お前は死にたいのか?」

「は、はやてさん・・・?さ、流石に転移魔法の直前は危ないよ・・・?」

「ーーーなんでや。」

 

あまりに危険な行動にヒイロははやてに語気を強めながら詰問する。フェイトも苦い表情を浮かべながらはやてに声をかけた。しかし、はやてはヒイロとフェイトの言葉を聞き入れず、ポツリと言葉を零した。

 

「なんで……なんでヒイロさんがそんな重荷を背負わなあかんのや……!!」

 

はやての大粒の涙を流しながらの言葉にクロノ達は困惑の表情を隠しきれなかった。

 

「本来、あれは夜天の主である私が背負わなきゃならん奴や……!!なのにどうして、どうして……!!」

「主・・・!!」

「はやてちゃん・・・。」

 

 

はやてはそういうと嗚咽を零しながらヒイロの腕にしがみつく。その様子にはやての心情を汲み取ったのか、シグナムは苦虫を噛み潰すような表情をし、シャマルは口元を手で覆った。ヴィータとザフィーラも口にはせずともどこか悲痛な表情を露わにしていた。それはクロノ達も似たようなものであり、はやての慟哭のような言葉に手をこまねいてしまっていた。

 

「はやて、お前には悪いが、その手を離せ。」

「嫌や・・・この手を離せば、ヒイロさんは絶対無茶なことをするんやろ・・・?私言ったよな、命を捨てるようなことしたらあかんって・・・!!」

「お前の願望と現実を履き違えるな。誰かがあれを破壊しなければ、地球はナハトヴァールに呑み込まれる。」

「せやけど、何もヒイロさんたった一人でやる必要はないはずや!!なんか別の方法があるはずや!!なんも対策立てられないで、ヒイロさんになんかあったら、私……!!」

 

はやてはリィンフォースとユニゾンしているその蒼い瞳から大粒の涙を零しながらヒイロの腕に縋り付く。

 

「・・・・・・。」

 

ヒイロは少しの間泣きじゃくるはやてを見つめると彼女に掴まれていた手を動かし、彼女の頰に優しくあてる。

 

「あ………。」

「これがお前にしてやれる唯一のことだ・・・行かせてくれ。」

 

そういうとヒイロは頰にあてていた、手を肩へずらすとそのままはやての肩を押して魔法陣の外へと突き飛ばした。

突き飛ばされたはやては彼女の後ろに回り込んでいたフェイトとなのはに抱き止められる形で体勢を整えた。

 

「フェイト、それになのは、はやてを頼む。」

「・・・・ヒイロさん・・・!!」

 

そうヒイロの名前を呼んだなのはの目は潤んでいた。今にも泣き出しそうであった。

反面、フェイトは表情を変えることなく、しっかりとヒイロを見据えていた。

 

「さよならは、言いません。だから、絶対に無事に帰ってきてください・・・!!」

 

「私にとって、ヒイロさん、貴方も帰る場所なんですから・・・!!」

 

フェイトの肩が震えていた。声も上擦り、よく見てみれば彼女は下唇を噛み締め、血が滲み出てきそうなほど、力が込められていた。

彼女もなのはと同じように涙を必死にこらえているのは明白だった。

 

「駄目や、ヒイロさん!!アンタ、とんでもない無茶をするつもりやなっ!?そんなんダメやっ!!」

 

はやては必死にヒイロに向けて手を伸ばすが、なのはとフェイトが彼女をしっかりと抑えつける。

 

「ユーノ、早くしろ。」

「・・・分かりました!!」

 

ヒイロの言葉にユーノは意を決した表情を浮かべながら足元の魔法陣の輝きをもう一度強める。

徐々にヒイロの視界が光に包まれていく中、ヒイロははやてが未だ必死に自分に向けて、手を伸ばしてくれていることを確認する。

 

ヒイロはそれを見るとらしくない穏やかな笑みをウイングゼロのガンダムフェイスの下で浮かべながらーー

 

(・・・・さよならだ、はやて。)

 

そう心の中ではやてに告げるのであった。

 

「長距離転送!!目標、軌道上っ!!」

 

ユーノの転送先を告げる声を最後にヒイロの視界は完全に光へと包まれる。

時間として数十秒ぐらいの時間、ヒイロはなんとなくだが光に包まれた視界の中で移動していることを感じ取る。

 

そして、目が眩むほどの光が収まってくるとヒイロの目の前には蒼く輝く巨大な物体が広がっていた。

太陽からの光を海が反射することで周囲に蒼い光を輝かせる。

 

ヒイロはその輝いているのが地球だと視認すると視界を自身の背後へと向ける。

 

そこには今にも地球を喰らいつくそうと降下を続ける闇の書の闇、否、もはや原型すらも留めていないソレはもはや肉塊へと成り果てていた。

見るのも憚られるほどの醜悪な物体と化した闇の書の闇をヒイロは静かに見つめる。

 

「魔力を喰らっただけでここまで醜悪な姿に変わり果てるものなのか・・・。」

『ヒイロ君、聞こえる?』

「・・・こちら、ヒイロ・ユイ。所定ポイントへの転移が完了した。」

 

闇の書の闇の変貌に目を疑っているとリンディから通信が入った。ヒイロはその通信に応えながら、ツインバスターライフルをサーチアイの前面で構え、右手でグリップを、左手を銃身に添える。

背中の純白の翼を大きく広げる。その状況はかつてA.Cにて地球に落下するリーブラの破片を大気圏に突入しながら狙撃した状況と酷く似ていた。

 

『闇の書の闇のコアは今もその肉塊の中で忙しない様子で動き回っているわ。ゼロシステムでその転移先の予測はできるの?』

「ゼロの予測はあてにはしている。」

 

ヒイロはそれだけ答えるとツインバスターライフルのトリガーに指を添える。できる限りのタイムラグをなくすためだ。アースラから送られてくるデータにより、ゼロシステムはデータから演算、コアの転移先をヒイロにビジョンとして脳内に直接教え続ける。

そしてーーー

 

「ゼロの予測では、お前に未来はない・・・・!!!!」

 

ツインバスターライフルのトリガーをヒイロは引いた。銃口から放たれた山吹色の爆光は肉塊に突き刺さった箇所を悉く、その醜悪な肉の塊ごと焼き払っていく。

ツインバスターライフルの光は肉塊の中を進んでいく。アースラの管制室でその様子を見ていたスタッフ達は外した、と誰もが思った。

しかし、次の瞬間、ツインバスターライフルの射線上に突如としてコアが転移してきたのだ。さながら吸い込まれるようにも思えたその光景にリンディ含め、全員が目を疑った。

スタッフが声を上げる暇も与えず、射線上に現れたコアを山吹色のビームは呑み込んだ。

ゼロシステムがコアの転移先を読みきったのだ。

 

「コ、コアに直撃を確認・・・!!」

 

エイミィがアースラのコンソールを操作して状況を確認する。疑いを持った目をしながらもヒイロを信じてアースラのモニターに結果を映し出した。

 

そこには随所にヒビが入り込んでいるが、未だに健在のコアの姿があった。

 

「ダ、ダメです!!コアは健在です!!」

「そ、そんな・・・・ヒイロ君のウイングゼロでもダメなの・・・!?」

 

リンディがもはや万事休すか、と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、モニターに映し出されているヒビの入ったコアを睨みつける。

 

『いや、これでいい。これより本命を叩き込む。』

 

アースラの管制室に響き渡ったのはヒイロの声だった。突然の状況にリンディ含め、全員が目を見開いた。

次の瞬間、コアを映し出していたモニターに突如として異物が入り込んだ。

コアに押し付けるようにその二つの銃口をぴったりと突き付けた無骨な印象を覚えさせるライフル銃。

それは紛れもなく、ヒイロの、ウイングガンダムゼロのツインバスターライフルだった。

 

『・・・・ゼロ、ツインバスターライフルのリミッターを解除しろ。最大出力を超至近距離で直撃させる。』

 

押し付けたツインバスターライフルの銃口からエネルギーが迸る。銃口から紫電が走っているのを見るだけで発射されるビームがこれまでのものとは比べものにならない出力であることを否が応でも直感させられる。

 

『・・・・・終わりだっ!!!!』

 

そして、ヒイロはもう一度ツインバスターライフルのトリガーを引いた。リミッターを解除されたツインバスターライフルの最大出力はコアを呑み込むどころかその爆発的なビーム質量でアースラのモニターを砂嵐の映像へと変えさせ、離れていたはずのアースラの船体を大きく揺るがせるほどのものであった。

思わずリンディ達アースラスタッフはその場で自身の身を守ることしかできなかった。

 

 

 

(・・・・いけるか?)

 

ヒイロは肉塊と成り果てた闇の書の闇の内部でコアにゼロ距離で最大出力のツインバスターライフルを叩き込んだ。

コロニーすら一撃で破壊するほどのビームの奔流をゼロ距離という超至近距離で浴びせられたコアは最初こそ耐えていたものの、徐々にヒビを広げていきーーー

 

 

パリンッ!!

 

 

やがてそんなガラスが砕けたような音が響いた。ヒイロはそれをコアが壊れた音だと直感した。

だが、魔力の持ち主がいなくなったことで、アルカンシェル用の魔力とこれまでの闇の書の闇が有していた魔力が暴走を始めてしまう。やがて、行き場を失った魔力の奔流は破壊されたコアを中心に次元震という形となってヒイロに襲いかかる。

ヒイロはウイングゼロの計器からアラート音がけたたましく鳴り響く中、後退しようとする。

しかし、次元震はブラックホールのような形となって周囲の物体を悉く呑み込んでいく。それはもちろんウイングゼロも例外ではなかった。

 

「・・・・離脱は無理か・・・・。」

 

ウイングゼロには大気圏を自力で突破できるほどの推力はある。しかし、距離が近すぎたのが災いし、離脱しようにもそれが叶うことはなかった。ウイングゼロは少しずつ、次元震の中心へと引きずりこまれていく。

 

「・・・・それが俺の未来か・・・・。だが、必要最低限の任務はこなした。」

 

そんな状況下で、ヒイロは軽く視線を地球に向けた。その先には蒼く美しく輝いている地球がしっかりとそこに存在していた。

それ見たヒイロはわずかに表情を緩めーーー

 

「・・・これで何もかも終わりだ・・・・任務、完了・・・・。」

 

その言葉を最後にヒイロの視界は光に包まれ、彼の意識は暗黒へと堕ちていった。

 

 

 

 

「っ・・・・!!!」

 

ツインバスターライフルの衝撃が収まり、アースラが態勢を整えるとリンディはぐらつく意識を頭を振ることで覚醒させる。

 

「エイミィ・・・?闇の書の闇は、どうなった・・・の?」

 

言葉を途切らせながらエイミィに状況の確認を急がせる。エイミィもエイミィで衝撃の揺れでぶつけたのか腕をさすりながらコンソールを操作する。

 

「闇の書の闇・・・・コアの消滅を確認・・・!!再生反応もありません!!!」

 

待ち望んでいた報告にアースラスタッフ達は一同、腕を突き上げながら歓喜の雄叫びをあげる。

 

「そう・・・・良かった・・・。」

 

それはリンディも例外でもなく肩の荷が降りたようにため息を吐いた。

長年の因縁でもあった闇の書との決着をつけれたのだ。嬉しそうな表情を浮かべない方がおかしい。

 

「エイミィ、ヒイロ君にアースラに来るように伝えてくれる?転送ポータルで海鳴市に送るわ。」

「はいっ!!・・・・・・・えっ?」

 

リンディの指示に意気揚々と返事をするエイミィだった。しかし、コンソールパネルに触れている最中、その表情は突然色を失い、固まった。

 

「エイミィ?」

 

エイミィの様子に気づいたリンディが彼女に声をかける。しかし、エイミィはそれに先ほどとは異なり、意気揚々と返事をすることはせずに一心不乱にコンソールを操作していた。

 

「そ、そんな・・・・!!!」

「エイミィ!!何かあったの!?」

 

エイミィのその様子に渦巻く不安感を隠さなくなったリンディは彼女に大声で報告を求める。

エイミィはゆっくりとそれでいてどこか覚束ない口調で報告をする。

 

「ウイングガンダムゼロの反応、ありません・・・・。それと同時に、ヒイロ君の生体反応・・・ロスト・・・・?」

「っ・・・・!?」

 

エイミィの報告に今度は全員が息を呑んだ。痛々しいほどの沈黙が管制室に走った。

エイミィは打ちのめされた様子でただ入ってくる情報を途切れ途切れに言葉にする。

 

「コア破壊と同時に、行き場を失った魔力で局地的な次元震が発生・・・ヒイロ君はそれに・・・巻き込まれた・・・?」

「そ、そんな・・・・!!」

 

管制室では先ほどの歓喜の嵐とは一転、重々しい雰囲気に包まれてしまっていた。

 

「みんなに・・・みんなになんて報告したらいいのよ・・・・・!!!!」

 

その中でリンディは悲しさを押し殺すような声で唸ることしかできなかった。

 

 

 

海鳴市の海上でフェイト達はヒイロの安否を祈るかのように空を見上げていた。

そんな彼らの視界に映り込んでくるものがあった。白く輝く光がフワフワと落ちてくる。今の季節は寒さも本格的になっている12月。空からフワフワと落ちてくるものは季節を鑑みるに一つしか思い浮かばない。

 

「雪だ・・・・。」

 

なのはがその降り注ぐ雪を手のひらに乗せる。その雪の結晶はなのはの体温で手の中で溶けていってしまう。

フェイトとはやてもなのはの真似をするように舞い落ちる雪を手のひらに乗せる。

二人は溶けていく雪を見るとなぜか胸がざわつくような感覚を覚える。

 

それは綺麗な翼を羽ばたかせた天使の羽根のように見えてーー

 

無数もの(羽根)を散らしている今の風景は、さながら天使が堕ちたようにも感じられた。

 

少女達は自身の手のひらで溶けていく雪に言いようのない不安を抱くしかなかった。

 

 

 




この回と後日談を含めてA.s編は完結です。
やっぱり10年って言う年月は流石に空白が大きすぎるんですよねぇ・・・・。

どうしてもこのような展開しか思いつきませんでした。


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幕間 残された者たちの決意/新たなる戦いの狼煙

ここでA.s編は終わりです。とりあえず、一区切りがついたことに安堵しています。
まずはそのことに皆さんに感謝を申し上げます。ありがとうございましたm(_ _)m


空から天使の羽のような雪が降り注ぐ中、フェイト達はたった一人で闇の書の闇の破壊へと向かったヒイロを待っていた。

なのは、フェイト、そしてはやての三人の少女達は降り注ぐ雪に一抹の不安を覚えながら、あの身の丈程もある純白の翼、ウイングガンダムゼロ が降りてくるのを待っていた。

 

しかし、いつまで経っても、天からは白い雪しか降りてこない。

まさか、軌道上で何かあったのだろうか?一同の心のなかに不安の陰が入り込む。

 

 

「エイミィ・・・?状況は、どうなったんだ?」

 

クロノが思わずアースラに向けて通信を送った。だが、アースラからの通信は繋がってはいるが、肝心の返答が返ってこなかった。

クロノがもう一度アースラに向けて通信を送ろうとしたときーー

 

『・・・こちら、アースラ。コアの完全崩壊を確認・・・。再生反応も、ない・・・。』

 

エイミィからの報告が遅れながら飛んでくる。その内容になのは達はとりあえず胸を撫で下ろした。だが、嬉しい内容のはずなのに、エイミィの声に覇気が感じられなかった。

 

「・・・・・何かあったのか?」

 

クロノが思わずそう尋ねてしまう。その瞬間、エイミィが息を呑んだような息遣いが通信に入り込む。

エイミィはアースラの管制室で表情を暗く落としながら、語り出す。

 

『・・・・今から、映像を送るね・・・。』

 

エイミィがそういうとクロノの元にアースラから映像が送り出される。クロノはその映像が映ったディスプレイをなのは達に見えるように拡大する。

その画面にはウイングガンダムゼロのツインバスターライフルの光がコアを呑み込んでいる様子が映し出されていた。

 

「コアの転移先を完全に読みきっている・・・。まさに神業だな・・・。」

『・・・・問題は、ここからなんだ・・・・。』

 

ヒイロがコアを撃ち抜いたことにシグナムは賞賛の声を上げる。しかし、エイミィが何か、感情を押し殺したような声を上げたことでシグナムは思わず口を噤んでしまう。

映像はツインバスターライフルのビームに呑み込まれたが、ヒビが入り込んだだけで未だに健在である様子を映し出していた。

その瞬間、表情を険しいものに変える者もいたが、ツインバスターライフルが映り込み、コアにその銃口を押し付けた映像になると、その表情は驚愕のものに変わる。

 

そして、ツインバスターライフルから山吹色の爆光が放たられ、一瞬、白い光が画面を覆い尽くしたのを最後に映像が途切れたのか砂嵐のものに変わる。

映像が復旧した時にはそこに暗黒の宇宙が映っているだけで闇の書の闇の破片のようなものは確認できなかった。

 

映像をみたなのは達はヒイロがコアを破壊したのだろうと思っただけだったが、クロノ、そしてユーノはその映像の真相を理解した、いや、理解してしまったのか、遣る瀬無い表情を浮かべていた。

 

「ユーノ君?それにクロノ君もどうかしたの?」

 

なのはがそう尋ねるも二人はその表情を一層深め、視線を逸らしてしまう。さながら言っていいのかどうかがわからないと言った様子だった。

 

「・・・・・最後に画面を覆った白い光・・・。あれは、次元震だった。」

「次元震・・・?待ってよ!!それって、まさかっ!!」

『ヒイロ君がコアを破壊した時……アルカンシェルの魔力と闇の書の闇自身の魔力が暴走を開始、その結果、中規模の次元震が起こって、ヒイロ君は、それに、呑み込まれた………!!!!』

 

なのはの言葉にエイミィは消え入るような声でそう答えた。その言葉にある者は驚愕し、ある者は苦虫を噛み潰すような表情を浮かべる。そしてその感情の揺れ幅が一番大きかったのはーーーー

 

 

「嘘・・・・。そんなの嘘ですよね・・・・?」

「・・・・ヒイロさんっ・・・・!!!!」

 

フェイトとはやてであった。フェイトは光を失った瞳でまだ雪の降り注ぐ空を呆然と見上げ、はやては両手で顔を覆い、声を押し殺しながら泣きじゃくっていた。

 

『嘘だったら・・・まだマシだよ・・・!!でもいくら、いくら探してもヒイロ君の生体反応は、ロストしたままなんだ・・・!!』

「そんな・・・・!!ヒイロが・・・!?追跡はできなかったのか!?」

『できてたらやっていたよ!!でも……でもぉ………!!!』

 

エイミィの涙で上ずった声にクロノはそれ以上の追及の手を止めてしまう。それきり、悲しみの空気がクロノ達の周囲を取り囲んでいた。

親しかった者との突然の離別。クロノやユーノ、そして守護騎士達は悲痛な声を上げることはすれど取り乱す様子はなかった。

 

『・・・・クロノ、それにみんな、聞こえる?』

「・・・本当にヒイロは、次元震に呑み込まれたんですか・・・?」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・事実よ。』

 

エイミィの代わりに通信に出たリンディにクロノがそう尋ねる。その問いにリンディは長い沈黙の後にただ一言、そう言い切った。

 

 

「リンディ提督、本当に、本当にヒイロさんは………!!!」

『フェイトさん・・・・・・・ごめんなさい・・・。』

 

たった一言の謝罪、フェイトにはその言葉がヒイロがもう帰ってこないことを暗示してしまっていることを理解するには十分すぎる一言であった。

 

「っ・・・!!クッ・・・・!!あ゛あ゛ッ・・・・・!!」

 

いつまでも一緒にいられるとは思ってはいなかった。ヒイロは元々は別の世界の人間だ。ヒイロ自身から本心を聞いたことはないが、いずれ元の世界であるアフターコロニーに帰らなければならない、ということもあるかもしれない。

だが、その別れはあまりに唐突すぎてーーー

 

「ヒイロさん………!!ヒイロさぁん………!!!」

 

堰を切ったように零れ落ちる涙を必死に抑えようとする。しかし、涙はヒイロがいなくなったという現実を見せつけるかのように止まることを知らず、フェイトの頰を流れ続ける。

 

「フェイト・・・・。」

 

フェイトと同じように目に涙を溜めたアルフが彼女の側に駆け寄り、慰めるようにその背中を優しく摩る。

嗚咽をこぼしているはやてにもシグナム達守護騎士達が側についていた。

 

「・・・・・一度、アースラへ行こう。守護騎士のみんなもそれでいいかな?」

「・・・主もおそらく慣れない魔法の使用でかなりの負荷がかかっているかもしれない。何かの拍子で倒れてしまわれては困る。その提案、断る理由もない。」

 

クロノの提案にシグナムははやての肩に労うように手を乗せたまま頷き、応じる。それをみたクロノはユーノに視線を送る。意図を理解したユーノは掌から転移魔法用の魔法陣を作動させた。

 

 

(主、私は、私は・・・・貴方に、また辛い記憶を、植えつけてしまうかもしれません・・・。ですがどうか、お許しをいただけることを、願います・・・。)

 

はやてとのユニゾンを行なっている最中、リィンフォースは一人、誰も聞こえない声をこぼした。

 

 

 

アースラに転移してきたクロノ達。重たい雰囲気の漂っている管制室で簡単な状況報告を行った。闇の書の闇のコアは確かに破壊された。だが、本来喜ばしいはずの報告を誰も、その喜びを大ぴらに出すような真似はしなかった。役者が足りないのだ。

誰もがその足りない役者(ヒイロ)が生きていることを願った。しかし、奇跡は起こることはなく、その報告の間に彼の生体反応が出てくることは、なかった。

 

 

「ヒイロさん・・・・。」

 

アースラの船内で充てがわれた部屋のベッドでフェイトは自身の膝を抱えて座り込んでいた。

思い返すのは短いながらも色々なことがあったヒイロがいた日々。

初めて一緒に戦った当初は無口で無鉄砲で無愛想で勝手に行動する自分勝手な人だと思っていたが、一緒にいればいるほど、どんなに無茶なことでも熟せることに裏付けされた高すぎる実力やいつのまにか自分やクロノでさえ知らなかった情報を掴んでいたその行動力。

 

そして何より優しかったーーーー

 

無愛想なところもあったりはしたけど、その対応にはしっかりと彼の優しさが滲み出ていた。

 

だが、その不器用な優しさをフェイトに与えていた人物はもういない。少なくとも、彼女の小さな腕で届かないところへ行ってしまった。

 

「ヒイロさん…………!!!!」

 

いくら悲しみを押し殺そうとしても、その感情は嗚咽となり、フェイトはすすり泣きながら膝を抱きかかえる力を強める。

その時、パシュンっと空気が抜けたような音が部屋に響くと同時に閉ざされていたドアが開かれる。

その開かれたドアから心配そうな視線をフェイトに向けながらなのはが現れる。

なのはの来客に気づいたフェイトはその涙で潤んだ瞳を彼女に向け、すぐさま下を向き、表情がうかがえないようにしてしまう。

塞ぎ込んでしまったフェイトになのはは無言で彼女に近寄ると、その座っていたベッドに腰を下ろした。

しばらく、二人の間で静かな時間が流れる。

 

「・・・・ごめんね。こんなところを見せちゃって。」

 

先に口を開いたのはフェイトであった。なのはは無言で首を横に振った。

 

「そんなことないよ・・・。私も大事な人がいなくなる怖さは知っているつもりだから・・・。」

 

「私のお父さんね、世界中を飛び回ってボディガードの仕事をしていたんだ。」

 

なのはの突然の独白にフェイトは彼女に不思議な視線を送りながら隠していた顔を上げた。

なのははフェイトのその様子に気づいているのかは定かではなかったが、そのまま独白を続ける。

 

「それこそ、滅多に家に帰ってこないほどだった。もちろん、寂しかったけど、お母さんやお兄ちゃんとかはしっかりしていたから、私もしっかりしなきゃ、みたいな感じで隠していたの、本当はただ意地見たいなのを張ってただけだったんだけど。そんなある日、お父さんが仕事中に大怪我をしたの。」

「っ・・・・!!」

 

なのはの言葉にフェイトは自身の膝に顔を埋めたまま、表情を苦々しいものに変える。

なのはも大事な人がいなくなるかも知れない恐怖を知っていたのだ。

 

「その時は本当に怖かった。確かに一緒に過ごしている時間は少なかったけど、家族が、大事な人がいなくなるかも知れないって思うと身が竦んだみたいに動かなくなるし、涙もその怖さから止まらなくなっちゃう。」

 

「だから、フェイトちゃん、泣いたっていいんだよ・・?私が言えることじゃないのは分かっている。だけど、その悲しみを押さえ込んでいたら、いつかフェイトちゃんが壊れちゃう気がするから・・・。」

 

親友の言葉にフェイトは肩を僅かに震わせる。一度、綻びが生まれた壁はそこから徐々にフェイトの心の壁全体にヒビを広げていく。

やがて、堰を切ったように感情という名の水流が押し寄せ、そのダムを決壊させる。

フェイトは思わず、目の前にいる親友の肩に飛びついていた。

なのははそれに最初こそ、驚いた様子を見せていたが、僅かに微笑むと、フェイトの震えている背中に腕を回し、優しく抱きしめる。

 

その瞬間、部屋中にフェイトの慟哭が響き渡った。溢れ出る感情の発露にフェイトはもはや抑えることすらせずに思い思いの言葉を吐き出す。

 

後悔、やるせなさ、何より、何もできなかった自分自身に対しての怒り。

それらの感情が混じり混じった言葉になのははフェイトの感情に当てられたかのようにその瞳から彼女と同じように涙を零した。

 

 

 

「・・・・・落ち着いた?」

 

しばらくすると出すものを出したのか、はたまた声がかすれてしまったのか、とりあえず泣き止んだフェイトになのはが声をかける。

なのはの言葉にフェイトはほんの少しだけ頷き、彼女に感謝を伝える。

 

「・・・・そういえば、なのははどうしてここに?」

 

涙で赤く充血した瞳をなのはに向けながら、フェイトはそう彼女に尋ねた。

その質問になのはは少しばかり辛そうな表情を浮かべると、フェイトに向き直った。

 

「実は、フェイトちゃんがこの部屋に籠っちゃった後、はやてちゃんが疲労で倒れちゃったんだよね。」

「え・・・?そう、なの?」

 

ヒイロが居なくなったことで精一杯で気づかなかった。フェイトはそのような驚いた表情を浮かべる。

 

「今はアースラの医務室で安静にしているんだけど、その間にリィンフォースさんからクロノ君を通してお願いがあって・・・・。」

 

そのお願いとは中々酷な内容であった。ヒイロが文字通りに命を賭して破壊した闇の書の自動防衛プログラム、ナハトヴァール。そのプログラムは機能を停止に追い込んでも時間が経てば、無限再生機能でいずれ復活を遂げてしまうということだった。

では、どうすれば良いのか?そこでリィンフォースが出した提案が、闇の書の完全な破壊であった。現在、自動防衛プログラムはその機能を停止させている。その間に闇の書を破壊すれば、プログラムに邪魔されることなく、消滅させることができるということだった。

 

「それは・・・・はやては了承済み、なの?」

 

なのははその質問に首を横に振ることではやてから了承を取っていないことを察する。

 

「多分、リィンフォースさんははやてちゃんが止めにくることがわかっているんだと思う。だから、はやてちゃんが寝ているうちに事を済ませるつもりみたい。」

「でも、シグナム達守護騎士やリィンフォースさん自身は?あの人達も闇の書のプログラムの一つな訳だし・・・。」

「予めリィンフォースさんがシグナムさん達を切り離しているから運命を共にする、なんてことはないみたい。だけどリィンフォースさんは・・・」

 

そう言ってなのはは悲しげな顔を下に向ける。それだけでフェイトには十分に伝わってしまった。リィンフォースは闇の書と共に消滅してしまう事をーー

 

「手は、他にないんだよね・・・?」

「私もそう思って、クロノ君に詰め寄ったんだけど、ヒイロさんが言っていたみたいに癒着が酷すぎて切り離すことは極めて難しいって・・・。仮にできたとしても、どれほど時間がかかるか・・・。」

「そう・・だよね。その間にナハトヴァールが再生されたら、本末転倒だもんね。」

「・・・・リィンフォースさんを含めた守護騎士のみんなははやてちゃんを海鳴大学病院に連れて行くために先に海鳴市に向かっているよ。その、はやてちゃん、一応病院を抜け出したような形になっているから・・・。」

「・・・わかった。えっと、すぐに向かった方がいいんだよね?」

「あまり急ぎすぎるのもよくはないと思うけど・・・。」

「大丈夫。ありがとう、なのは。」

 

微妙な表情を浮かべるなのはにフェイトは僅かに表情を緩めながら、ベッドから降り立った。

その様子になのはもそれに続くように腰掛けていたベッドから立ち上がった。

 

 

 

 

「・・・・・・・。」

 

病院を抜け出したことになっているはやてを病室のベッドの上に寝かした守護騎士達。

その中でリィンフォースは一人、この病院から然程離れていない小高い丘の上で空を見つめていた。

その空からは未だ、雪がしんしんと降り続き、地面を純白の色に染め上げていた。

 

そこに降り積もった雪を踏みしめる何者かが現れる。不意にリィンフォースがその音がした方に視線を向けると防寒用のダウンコートを羽織り、首元にマフラーを巻いたシグナムの姿があった。

 

「烈火の将か・・・・。主はやての様子は?」

「・・・眠っている。だが、あいにくと私はそういうのには疎いゆえ、シャマルたちに任せて一足先にやってきたところだ。」

「そうか・・・・。」

 

シグナムはリィンフォースの側まで来ると彼女と同じように雪が降り注ぐ空を見つめる。

そこからはお互い一言も口を開くことはせずに沈黙の時間が過ぎていく。

 

「・・・・本当に逝くのか?」

「・・・・ああ。やはり無限再生機能はナハトヴァールを修復しつつある。分かるんだ。奴が刻々とその鼓動を取り戻しつつあるのが。」

「だからといって、お前まで運命を共にする必要はあるのか?主はお前のことも家族だとーー」

「ありがとう。その言葉だけでも私にとっては得難いものだ。だが、これは主のためでもあるのだ。」

 

シグナムの言葉を遮って、リィンフォースは彼女に感謝の言葉を向ける。その向けられた表情に笑顔以外の感情をシグナムは微塵も感じられなかった。

 

「・・・・それは重々承知している。だが、他に取れる選択肢はあるはずではないのか?もう少し、もう少しだけこの世界を信じてみないか?」

「ふふ、ならば私はこの言葉で返そう。これが、私にできる唯一のことだ。」

 

笑みを浮かべながらそういったリィンフォースにシグナムは呆れたようなため息をついた。お互いに誰の言葉を引用したのかわかっていたからだ。

 

「・・・お互い、ヒイロにだいぶ感化されているようだな。」

「そうらしい。事実、私はヒイロ・ユイに自分がいかに愚かなことを犯してきたか、まざまざと見せつけられたからな。」

 

 

『俺は誰よりも戦い抜いてみせる・・・!!地球上の誰よりもだっ!!』

 

 

ヒイロの記憶を垣間見たリィンフォースの心中でこの言葉が反芻する。ヒイロの記憶が彼が諦めたような雰囲気を出しているのはただの一度もなかった。

そのことがリィンフォースに自分が目の前で起こるいくつもの破滅を、受け入れていたのではなく、ただ現実から目を逸らしていただけだったことを否が応でも感じさせる。

 

「闇の書を消滅させても誰かがその犯してきた罪を贖わなければならない。だから、私がその業を背負おうと言うんだ。」

「・・・・エゴだな、それは。」

「ああ、そうだな。だが、私はそのエゴを貫き通そう。私が私であるためにもな。」

「・・・・ヒイロのことはどう思うんだ?」

 

不意にシグナムがそんなことを聞いてくる。その言葉にリィンフォースは複雑な表情を浮かべる。

 

「・・・わからない。ただ私個人としては願わくばまた主達の前に無事な姿で現れてくれることを、祈るしかない。」

「・・・そうか。すまない。」

「いいんだ。だが、いつまでも情けないところをみせる訳にはいかないからな。」

 

リィンフォースがちょうど言い切ったタイミングで雪を踏み鳴らす音を響かせながらシャマル、ヴィータ、ザフィーラの二人と一匹が現れる。

 

「主の様子は?」

「今は、まだ寝ているわ。もっとも儀式の最中に起きてこないっていう確証はないけどね。」

 

シグナムの問いにシャマルは肩をすくめるように僅かに表情を曇らせながら答えた。

 

「あとは、なのは達が来るだけか。」

 

ヴィータがそう呟くとザフィーラが自分たちが来た道を振り返るようにその首を後ろに向ける。

その視線の先にはシグナム達の方へ歩いてくるなのはとフェイトの姿があった。

 

「二人とも、まずは急に来てもらったことに関して、謝らなければならない。特にフェイト・テスタロッサ。お前には辛い思いを抱えている状態でこのような頼みをしてしまう。」

「・・・・大丈夫です。いつまでも泣いてはいられませんから。」

「・・・・そういってくれると助かる。」

 

フェイトの表情を見たリィンフォースはそう言って笑みを浮かべるのであった。

 

「では、みんなには私の言う通りにしてほしい。」

 

リィンフォースの指示の下、なのは達は闇の書の完全破壊のために配置に着く。

 

 

 

 

「ん・・・・んん・・・・。」

 

僅かにオレンジ色の日差しが差し込んでいる病室ではやては再び目を覚ました。

眠たげな目をこすりながらあたりを見回すが、周囲に人の気配は少しもなかった。

 

「あれ・・・私、なんで病院に・・・?」

 

はやては自身がなぜ病室にいるのか記憶を手繰り寄せる。思い出すのはヒイロが次元震に巻き込まれて、行方不明になったこと。

そして、その悲しみの果てに自分が途中で倒れてしまったことだ。

 

「せや・・・思い出した・・・。ヒイロさん・・・なんでや・・・・。」

 

病室のベッドで重たげな表情を浮かべるはやて。後悔はいくらでも出てくるがそれでヒイロが帰ってくるとは微塵も思っていない。

 

「そういえば・・・シグナム達はどこにいったんやろ。それにリィンフォースも。」

 

ふと周囲にいつも居てくれたはずの守護騎士達が姿をくらましていることにはやては疑念を抱いた。

不安気に視線を右往左往させているとーーー

 

『風は、どこかへ過ぎ去って行くものです。まるで掴み所のない、流れては消え、ふとした時に再び吹き、そして消えて行くものです。』

 

はやての頭の中に念話のような声が響く。知らない声、なおかつ突然の状況にはやては困惑気味な表情を隠せない。

 

『今再び、その風が旅立とうとしています。見送るかどうかは貴方の思うようにしていただいて結構です。ですが、どうであれ、彼女に会ってあげてください。その一時の別れの前に、どうか・・・。』

 

どこか中性的で包まれるような感じのする声、声質からしてそれほど年を重ねていない人間の声だった。その人間の声は最後の嘆願するような言葉を最後にピタリと止んでしまった。

 

「・・・・・行かな。」

 

はやては決心した表情を浮かべると、まだまともに動かない足に鞭打ちながらそばに置いてあった車椅子に腰かけた。

その作業だけでもはやてにとっては過酷そのものであった。

 

「っ〜〜〜〜〜!!」

 

声にならない声をあげ、その額からは大粒の汗が出てきていた。しかし、はやては休む間も無く車椅子の車輪を操り、前へ、前へと進み始める。

 

 

 

 

 

一方そのころ、なのは達は闇の書の破壊作業に差し掛かっていた。地面にベルカ式の正三角形の魔法陣を形成し、その中心に立っているリィンフォース。そしてその彼女が立っている魔法陣を挟み込むように立っているなのはとフェイト。

二人はそれぞれレイジングハートとバルディッシュを構え、リィンフォースが立っている魔法陣と自身の足元に展開している魔法陣をリンクさせ、魔力を込める。

守護騎士の四人は正三角形の魔法陣の頂点の一角に立ちながら、事の成り行きを見守っていた。

 

「待ってっ!!!」

 

遠くから声が聞こえた。なのは達のいる小高い丘へと続く道から徐々に人の姿が現れる。

その人物は見間違えることもなく、はやてであった。なのは達に静止の声をあげながら車椅子を必死に、一心不乱に前に進ませる。

 

「はやてっ!!」

「動くな!儀式が、止まってしまう・・・!!」

 

車椅子を自分の力で押すはやてに見兼ねたヴィータをリィンフォースが魔法陣から出ないように声を荒げる。

リィンフォースは自身に向かって必死に車椅子を押すはやてを見据える。

はやては魔法陣の光に包まれかけているリィンフォースに声をかける。その途中、降り積もった雪から覗いていた石に車椅子の車輪が当たり、はやてはバランスを崩し、そのまま車椅子から投げ出されてしまう。

 

「主・・・・。」

「リィンフォース!!アンタまで消えることはあらへんやろ!!」

 

はやては車椅子から投げ出されてもなおリィンフォースにその小さな腕を伸ばし、自分の体を引きずりながら彼女に、近づく。

少しずつ、少しずつーー

 

「暴走なら、私がなんとかする・・・!!だから……!!」

 

はやてが這いずりながら魔法陣に手を伸ばす。その展開されている魔法陣にあと少しで手が届きそうになったところで地面に膝をついたリィンフォースがその小さな手を優しく包み込んだ、

 

「主、貴方の与り知らぬところで勝手なことをしてしまい、申し訳ありません。」

「謝らんでもええ!!私は、みんなが居てくれればそれでええんや、それ以上、何も望まへん!!」

 

「だから……!!お願いやから、一緒に居てほしいんや……!!せっかく、これから幸せな時間が過ごせるって思っとったのに……!!」

 

はやては大粒の涙を零しながら、リィンフォースに訴えかける。その様子に守護騎士達は辛そうな表情を露わにし、なのはとフェイトも居た堪れない表情を浮かべながら二人の行く末を見守る。

 

「主、私は十分、幸せでした。貴方は人の身を持たない本の状態であったにも関わらず、この身に有り余るほどの愛をくださいました。そして何より、これは貴方の未来の幸せのためでもあるのです。」

 

「私がいる限り、闇の書の無限再生機能はその機能を忠実に動かしています。それこそ、自動防衛プログラムを再生してしまうほどに。そうなってしまえば、いずれまた暴走を始めるでしょう。そしてそれは、またヒイロ・ユイのような人間を増やす要因になりかねないのです。」

「っ………!!また、アレが繰り返されるって言うんか……!!!」

「・・・・その通りです。何よりそれはヒイロ・ユイの行動を踏み躙ることになります。彼が命を賭してまで繋いだ未来を塞ぎかねない。主はやて、どうか今ひと時の辛抱を………。」

 

リィンフォースの言葉にはやては表情をうつむかせて、黙りこくってしまう。

そんな彼女に悲痛な表情を浮かべながらも、視線をなのはとフェイトに向け、儀式を進めるように目で訴える。

 

二人はリィンフォースの視線に頷く姿勢を示すと魔法陣の輝きを一層強める。

 

「主はやて、顔をあげてください・・・・。」

 

リィンフォースに促されるようにはやては項垂れていた頭をあげる。その顔には涙が頬を伝って一筋の川のように流れ出ていた。

 

「リィンフォース、祝福の風。貴方から賜ったこの名前はいずれ生まれ落ちる新たな命につけてあげてください。それが、私の最後の願いです。」

「そんな…………!!!!リィンフォース、行っちゃダメやっ!!まだ私は何もーー」

「していないとは、言わせませんよ?大丈夫です、貴方は私に有り余るほどの愛情をくれました。それだけで私はもう、世界で一番幸福な魔道書だと、胸を張って誇ることができます。」

 

主はやて、貴方の行く先に輝かしい未来がありますようにーーーー

 

 

呟いた言葉は彼女自身の中を反芻するだけで彼女にその言葉自身が届くことはなかった。

リィンフォースは魔法陣からの光に包まれると光の柱となって天高く飛んでいった。

やがて光の柱が収まってくるとそこには祝福の風の名を持つ者の姿はなかった。

 

座り込んで呆然と空を見つめるはやてだったが、少しすると、空から何か光るものが落ちてくるのが見えた。

それが地面に小気味のいい音を響かせながら刺さるとはやてはその落ちてきたものを拾い上げる。

 

それは、金色の剣十字の意匠が施されたペンダントであった。おそらくリィンフォースが最後に残してくれた贈り物なのだろう。

はやてはそのペンダントを持った腕を大事そうに胸にあてると静かに嗚咽を零し始める。

その様子を見たなのは達ははやてに駆け寄り、優しく、そして慰めるように彼女のその小さく震える体に手をあてる。

 

将来的に『闇の書事件』と名付けられるこの危機は書面上は()()()()()という形を持って収束を迎えた。

だが、その事件に深く関わったもの達は決して忘れない。

自分たちの側にいつもいてくれた不器用ながらも優しかった天使と祝福の風の存在をーーー

 

 

 

 

 

『ーーーーーい!!』

 

誰かに起こされている感覚がする。しかし、体は鉛のように重く、動き出そうにもなかなか動かなかった。

 

『ーーーー聞いているのかっ!?頼む、起きてくれ!!』

 

どうやら自分を叩き起こそうとしているのは女性のようだ。かなり焦っているのか、語気がかなり荒くなっている。どこか機械を挟んでいるようなくぐもった声をしているのは気のせいか?

寝転がっていた体を起こし、朧げな意識を頭を振ることではっきりとさせる。

意識をはっきりさせたら次は状況の確認だ。

少しばかり警戒しながら周囲を見回してみれば、そこはあまり光源のない暗い空間であることは情報として視界に映る。

薄暗い空間で目を凝らして見てみれば、なにやら荷物のようなものが積み上がっているのが確認できる。となるとここは荷物置き場か何かか。さらに言えば自分が倒れていた床がガタンゴトンと、休む間も無く揺れ続ける。推測でしかないが、列車かその類の交通機関であると結論づける。ならば自分が今いるのは荷物を運ぶ貨物スペースか。

 

だが、先ほどまで自分に声をかけていたであろう女性と思われる姿がカケラも見えなかった。

疑問気に思っているとーーー

 

『よかった・・・!!無事だったのだな・・・!!』

 

再び、その女性の声が聞こえた。しかし、その声は自分の胸元から聞こえたような気がした。ふと視線をそこに持っていくとそこには天使の翼に抱かれた剣の形を持ったペンダントがあった。

 

「・・・・喋れたのか?」

 

今まで喋る気配を微塵も感じさせなかった自分の機体(ウイングゼロ)に疑問気な表情を浮かべる少年、ヒイロはそう問いかける。

 

『いや、そういう訳ではないのだが・・・。そうか、貴方の視線からではわからないか。少し待ってくれ。』

 

そういうとウイングゼロのデバイスから吐き出されるように光輝く玉が出てくる。

その光の球は半透明の人型の姿へと変貌を遂げる。雪原のように白く輝く銀髪に真っ赤な赤い瞳、そしてノースリーブのインナーに身を包んだその人物はーー

 

「リィンフォース・・・?なぜウイングゼロのデバイスに・・・?」

『それは、話せば長くなるといえば良いのだろうな・・・。』

 

ヒイロの質問にサイズが手のひらぐらいまで縮んだリィンフォースは困ったような表情を浮かべる。

 

「・・・・わかった。現状では状況の確認を最優先にする。お前の話はそのあとだ。ここはどこだか、お前にはわかるか?」

 

ヒイロがそう質問を変えるもリィンフォースは首を横に振った。

彼女もここがどこかが見当もつかないようだ。

 

『だが、貴方が寝ている間にウイングゼロのレーダーを拝借して周囲をスキャンしたのだが、ざっとこんな感じになっている。』

 

そう言ってリィンフォースはヒイロの目の前にディスプレイを表示する。そこには切り立った崖と切り崩された山肌の上に10個以上の鉄の箱が繋がった物体が走行しているのが映し出されていた。

やはりヒイロの見立て通り、自分が今いる場所が列車に準ずるものであることは確かなようだ。

 

「これは人員と物資を輸送する列車だ。ある程度の場所を把握できたのはいいが、同時に列車内に存在するこの金属反応はなんだ?」

 

ヒイロがディスプレイに指をさした先には列車の車輌内に妙な反応があった。その反応は一つではなく、ヒイロ達に最も近い場所にいる巨大な反応を除いて、サイズにして一メートル前後の反応が20近くあった。

 

『わからない。すまないがこればかりは実際見てみないと・・・。だが、先頭車輌にその一メートル前後の反応がある程度集中しているのはわかっているな?』

「・・・・ああ、確認している。」

『これは私の推論でしかないが、この列車は暴走させられていると思うのだ。明らかにこの列車の速度は危険だ。』

 

リィンフォースの言葉にヒイロは少しばかり考える仕草を見せる。

自分の今いる場所が仮に列車だとすれば、必然的に運転席は一番前の先頭車輌だ。そこに謎の金属反応に列車の危険速度での走行。たしかに異常だ。その謎の金属反応がなんらかの細工を列車に施しているのは間違いない。

 

「大方、その認識で間違いないだろう。」

 

ヒイロはそう結論づけながら先頭車輌へと続くドアの前に立った。そのドアはかなり重厚でそう簡単には破れないという印象を受けさせる。

 

『行くのか?』

「どのみちこの列車を止めなければ安全を確保することはできない。」

『わかった。だが、ウイングゼロの損傷率は著しい。あの大きな翼や手足の部分と武装といったところは問題ないが、お前の身体部分を覆うものはないぞ。』

「武装さえ動くのであれば問題ない。」

 

ヒイロはそういいながらウイングゼロを展開する。しかし、その姿はこの前のような青と白のツートンカラーの装甲はなく、ヒイロの背中から翼が直接生えているような見た目となっていた。

それを認識しながらもヒイロは翼の根元からビームサーベルを抜刀。目の前の重厚な扉へ振り下ろした。

ビームサーベルの刃はその扉を紙切れのように焼き切った。

 

 

「・・・・行くぞ。」

『ああ。成り行きだが、よろしく頼んだ。』

 

ヒイロは半透明の体のリィンフォースを肩に乗せると列車内を駆け出した。

彼の新しい戦いが今、ここに幕を開いた。

 

 




詳しいことに関しては次の話で綴るつもりですので、ご安心くだされ・・・・。


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第30話 はじまりは突然に

別れが突然であれば、再会もまた突然である。


『騎士カリム、騎士はやてがお見えになりました。』

「わかったわ。彼女を私の部屋に通してあげて。それとお茶を二つとお菓子もよろしくね。」

『かしこまりました。』

 

ディスプレイから聞こえる部下の声に優しげな口調で女性が答える。その女性は羊皮紙に走らせていた羽ペンを元の位置に置き、これから来る来客を出迎える準備をする。

程なくして、その部屋の扉が開き、その先から執事と共に長いローブを頭と体が覆うように羽織った人物が現れる。

 

そのローブを纏った人物を部屋へ入らせると部下が一礼をして扉を閉める。一見すると顔が見えない人物に警戒をしなければならないような状況だが、部屋の主であるカリムは柔らかな笑みを浮かべながら、そのローブと大きめの白いマフラーのようなものを羽織った人物、八神 はやてを歓迎する。

 

「久しぶりや、カリム。」

「はやて、いらっしゃい。」

 

ローブのフードを外し、はやての茶髪が露わになる。闇の書事件から10年の時が流れ、年齢を19まで重ねた彼女はあどけなさが残るような顔立ちながらもしっかりとした女性としての体形へと成長を果たしていた。

 

彼女が訪れていたのは『聖王教会』と呼ばれる宗教団体、その総本部が置かれているベルカ自治領であった。

その団体はロストロギア、闇の書や願いを歪んだ形で叶える『ジュエルシード』と呼ばれる宝石のような危険物を調査することを使命としているとのこと。

そのため、ある程度、利害が一致している管理局と協力体制をとっている団体でもある。

 

そして、はやてが対面しているカリム・グラシアと言う女性はその聖王教会において、『騎士』と呼ばれる称号を得ている高貴な身分の人物である。

 

そんな二人は用意された洋風の椅子に座ると仲睦まじい様子でお菓子と紅茶を手にしながら談笑を始める。

久しくお互いに会っていなかった二人は他愛のないことで笑い合いながらお茶会を楽しむ。

 

「カリムには世話になってばかりやなー。設立した部隊の後援とか、ホントにありがとな。」

「ふふっ、そうした方が色々と頼みやすいから。」

「なんや、今回は頼みごとの方面か?」

 

はやてがそういうとカリムは複雑な表情を浮かべながらディスプレイを浮かび上がらせるとその画面を操作し、明るく包み込むような光が差し込んでいた窓をカーテンで締め切る。

光が入ってこなくなり薄暗くなった部屋の中でカリムの表情を見たはやては先ほどまで浮かべていた笑顔を引き締め、険しい表情へと変える。

 

さらにカリムがディスプレイを操作するとカーテンをスクリーンがわりに6枚ほどの画面を映し出す。そこには箱状と思われる代物の他に楕円形のカプセルや丸みを帯びた戦闘機のような形、そして完全な球体を持った機械が映し出されていた。

 

「これ、『ガジェット』?新型も含まれてるんか?」

「本部にはまだ正式には伝えていないけど、これまでの1型(楕円形のカプセル)の他に2型(戦闘機)3型(球体)が新たに確認されたわ。特に3型は、中々の巨体を持っているわ。」

 

そういいながらカリムは3型が映し出されている映像に等身大の人間を出し、比較させる。その3型は優に人間の身長を超えており、およそ三メートルほどの大きさを持っていた。

 

「戦闘力は完全に未知数。一応、監査役のクロノ提督にはさわりだけお伝えしてはいるけど・・・・。」

 

カリムはガジェット3型の映像を引っ込めると別の映像を拡大させる。その映像には箱状の代物が映し出されていた。それを見たはやては驚きの表情を露わにする。

 

「これが本日の本題。一昨日づけミッドチルダに運び込まれた不審貨物。中身は、言わなくてもわかるわよね?」

「レリックやな・・・・。」

「大方、そう認識するのが当然よね。2型と3型も昨日から出現が確認されているし・・・。」

「ガジェットがレリックを発見するまでの時間は?」

「早くて今日明日中と考えるのが妥当ね。」

「つまりいつアラートが出されてもおかしくないちゅう訳やな・・・。」

 

カリムの言葉にはやては難しい表情を浮かべる。そんな彼女の様子を見ていたカリムは少しばかり難しそうな表情を露わにする。

 

「実は、これとは他にもう一つ伝えなきゃいけないことがあるの。」

「これって・・・ガジェットの他にか?」

 

若干驚いた表情へと変えるはやてにカリムは静かに、それでいて重い表情で頷いた。

 

「結構重要なことなの。預言のことに関して、文章に新しい行が追加がされたの。」

「・・・ぶ、文章が追加っ!?何かあったんか!?」

 

カリムははやての驚きの声とともに、その預言の文章を口にする。

 

 

旧い結晶と無限の欲望が交わる地

 

死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る

 

『毒竜から産み落とされた自我持たぬ星座達』は、中つ大地の法の塔を悉く焼き落とす

 

それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる

 

 

それがカリムの持つレアスキル、『預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)』から年に一回だけ作成できる預言の文章に記されていたものである。

これが短くて半年、長くて数年先の未来を書き記すものであり、信憑性も高く、この預言の文章に書かれたことはほぼ確実に起こると言っても過言ではないほどのレアスキルであった。

 

その文章に変化が生じた。つまるところ、これからの未来が変わったと同意義であった。

 

「これが、最初書いてあった文字を訳したもの。問題の文章はこの後のものなの。」

「そ、それで!?その内容はっ!?」

「文章が追加されたのがつい最近だから正確に訳せているとは思えないけど・・・。それでいいなら。」

 

 

北に輝く七つの星が落ちる時、祝福の風を伴い、小人達を侍らせた『白い雪』はその純白の翼を輝かせる

 

 

「これが新たに預言の文章に追加されたことよ。」

「・・・・あんま、ピンと来ぉへんなぁ・・・。小人かぁ・・・・。」

「しょうがないわ。預言の文章は言い回しが凄く抽象的だから・・・・。」

 

カリムが苦笑いを浮かべている中、はやての頭の中で小人と白い雪の文言が錯綜する。どこかで聞いたことがあるようでないような、そんな感じの引っ掛かりを覚えたのが正直なところであった。

 

(なんやろなぁー・・・・。小人に白い雪・・・・?白・・・・雪・・・・。)

 

「あ、まさかーーー」

 

閃いたような表情を浮かべたはやてにカリムが尋ねようとした時ーーー

 

「騎士カリム!!大変です!!」

 

扉を勢いよく開けはなつ音と共にカリムの自室にシスター服を着こなした女性が現れる。

 

「シャッハ、どうかしたの?」

 

明らかに異常事態が発生したと思われる部屋に飛び込んできた女性、シャッハ・ヌエラの様子に二人は険しい表情を露わにする。

 

「調査部から連絡です!レリックと思われし不審貨物を積んだリニアレールにガジェットが襲撃を行っています!!」

「っ・・・・はやて!!」

「わかっとる!!一級警戒態勢、発令やっ!!」

 

カリムがそう呼びかけた時には既に彼女は手元のディスプレイから仲間達の元へ警戒態勢の発令を行なっていた。

程なくして、はやての目の前に仲間達と襲撃を受けているリニアレールの映像がリアルタイムで表示される。

 

「なのは隊長、フェイト隊長、グリフィス君、こちらはやて。状況が状況なため、手短に説明するからよく聞いとってな。現在、レリックと思われる貨物を積んだリニアレールがガジェットに襲撃を受けとる。リニアレールはガジェットに内部侵入されて制御が乗っ取られとる。車輌内部には少なくとも30体のガジェットの他に飛行型や大型の新型もいる可能性が高い。いきなりハードな任務だけど、なのはちゃん、フェイトちゃん二人とも行ける?」

『大丈夫!』

『いつでも行けるよ!!』

 

親友の勇ましい声にはやては自然と笑みが零れそうになるが、それを押さえつけつつ任務の内容の説明を続ける。

 

 

「スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。他のみんなもオッケーか?」

『はいっ!!!』

 

新たにはやての部隊の所属となったスバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエの新人四人の返事を聞き届けたはやてはその返事を褒めながらさらに指示を飛ばす。グリフィス・ロウランには隊舎での指揮を、そして新たに祝福の風の名前を賜った小さな妖精、『リィンフォース(ツヴァイ)には現場での管制を命じる。

 

「それじゃあ、『機動六課』、出動っ!!!」

『了解っ!!!』

 

はやての出動命令と共にそれぞれが為すべきことを為すために動き出す。

 

 

 

 

「ハァァァっ!!!」

 

ヒイロはリニアレールの暗い空間の中で輝きを一層目立たせるビームサーベルを振り下ろす。

その光は目の前の楕円形のカプセルの形をしたガジェットを縦に真っ二つにする。

 

「先頭車輌の制圧を確認。これで前半車輌にあった反応は全てか?」

『ああ、今ので最後だ。流石だな。動きに無駄がない。』

「あの程度で手間を取っているようではガンダムパイロットは務まらんからな。」

 

そういいながらヒイロは辺りを見回す。ヒイロの周囲には破壊されたガジェットが煙を上げながらその機能を完全に停止させていた。

 

「相手のコードを避けた上で掴み取り、力任せに振り回して、他の対象にぶつけたり、浮かんでいた相手には壁を駆け上りながらの回し蹴り。本当にお前の身体能力には驚かされてばかりだ。」

 

ヒイロの身体能力の高さに舌を巻いているリィンフォースを尻目にヒイロは先頭車輌の席に座るとシステムへの干渉を始める。

 

「これより列車のシステム復旧作業を開始する。どこまで応用が効くかはわからんが、やれることをやるだけだ。」

「わかった。周囲の警戒は私がやっておく。」

「了解した。」

 

それきり、リニアレールの先頭車輌ではヒイロが端末に打ち込む音だけが響き渡る。

リィンフォースも周囲の警戒に専念しているため、お互いに喋らない時間が続く。

 

「・・・・そういえば、お前が何故ウイングゼロの中に入り込んだのか、その経緯を聞いてなかったな。」

「・・・・お前の気が散らないのであれば、今話そうか?」

「問題ない。知っておく必要があるからな。」

「わかった。とはいえ、私自身うまく説明できるかは保証しかねるがな。」

 

 

 

 

あれは、お前が次元震に巻き込まれた後、闇の書の消滅の儀式を行った時だった。

 

主はやての未来のため、私はこの身を滅ぼすことを選んだ。そのことに関して悔いのようなものは微塵もなかった。

ただ主の未来のために文字通り自身の未来を閉ざしても後悔はなかった。

 

だが、その時だった、私の未来を切り開いてくれたのはーーー

 

 

 

「闇の書の消滅を確認!!やるなら今しかねぇぞっ!!!」

「プレシアさん!!彼女と闇の書の大元のリンクはっ!?」

「・・・・消滅しているのも相まって、捜索自体は呆気ないものね。あとは貴方達が確立させなさい。」

 

 

視界が包まれている中、二人の少年の声と一人の女の声が聞こえた。

 

「ふん!!貴様に言われずともやっている!!」

「やはり消滅中であれば、いくらか作業時間が短縮できるだろうと踏んだのは正解だったか。」

「とはいえ、猶予が残されていないのは事実です!!みんなは迅速にリィンフォースさんと闇の書の繋がりを表面に出してください!!」

 

「ま、待てっ!?お前達、一体何を・・・!?」

 

思わず困惑する様子を前面に出すしかなかった。なぜなら彼らは消えたはずの夢の世界の人間だったからだ。

 

ヒイロ・ユイの仲間のガンダムパイロット達。

そして、プレシア・テスタロッサ。この人物たちが活動を続け、なおかつ共同作業を行なっていることに驚きを禁じ得なかった。

 

「何って決まってんだろ!!アンタを助け出すためだよ!!」

「む、無理だっ!!私と闇の書の繋がりを断つことなど・・・!!」

「幾度とない転生を迎えた魔導書の奥深くにあるであろう貴方とのリンクを切断するどころか、見つけ出すことすら普通は困難でしょうね。」

「だが、消滅する真っ只中であれば、話は別だ。どんな構造物でも穴だらけの状態で捜索すれば視野は広がる上に発見は容易になる。俺たちはそのわずかな可能性の上昇にかけた。」

「結果は見ての通りだ!あとは大人しくしていろ!!そろそろ奴が来るはずだからな!!」

 

そう声を荒げるような少年の声が聞こえた瞬間、自分の側に何か巨大な物体が舞い降りた。それはヒイロ・ユイとフェイト・テスタロッサが乗ったウイングガンダムを自らの意志で逃したガンダムエピオンであった。

 

「よぉ、ゼクス!!やっと来やがったな!!」

「全く、エピオンをそのままこの空間に持って来させるなど無茶をさせる。色々と維持が大変なんだぞ。」

「それでも貴方なら来てくれると信じてましたよ!!」

「そう煽てるのはよしてくれ、過度な期待には応えたくなるのが性分なのでな。」

「なるほど・・・・これがモビルスーツという代物なのね。」

 

 

声色的にプレシア・テスタロッサがその現れた巨大なもの、モビルスーツに興味があるような声をあげる。

 

「魔力を一切使わずにこんな代物を作ってしまうなんて・・・。」

「おいおい、プレシアのばあ『は?』

 

その瞬間、雷が落ちたような轟音が耳をつんざいた。大方、プレシア・テスタロッサが魔法で雷を落としたのだろう。長い茶髪を三つ編みに編んだ少年は表情を真っ青にしながら落とされた落雷に驚いていた。

 

「ア、アハハ・・・・お姉・・・・さん・・・?」

「あら良かった。今婆さんなんて言葉が聞こえた気がしたから思わず雷落としちゃった♪」

 

少年の震える声にプレシア・テスタロッサは嬉々としたような口調でそう言った。さながら次はないとでも言っているようなものであった。

 

「・・・・マジ怖え。」

「デュオ、女性に年齢のことを聞くのはあまり褒められたことではありませんよ。」

「ヘイヘイ・・・以後気をつけますっと・・・・。」

 

 

中性的な声を持つ少年に咎められたデュオと呼ばれた少年は反省したように力のない声でそういった。

 

「・・・・管制人格、いや今はリィンフォースだったか。アンタと闇の書の繋がりを浮き上がらせることは済んだ。」

「・・・私を本気で助け出すつもりか?」

「ま、どっちかと言うと本命は守護騎士の方だったんだが、夜天の書の主の方でなんとかなっちまった訳で、どうしたものかと残ってみていればアンタがいることに気づいてな。急いでプレシアの姉さんのところに駆け寄ったわけさ。」

「・・・私としては無理に残る必要はなかったのだけどね。アリシアも先に消えてしまったもの。」

「それは、本当に申し訳ありません。貴方にとって、アリシア・テスタロッサさんは……。」

「良いのよ。私だって、他人に家族を亡くすことの悲しみ、味わって欲しくないもの。何よりフェイト、あの子と同じくらいの年齢の子には、ね。」

 

そういったプレシア・テスタロッサの声は優しかった。かつて彼女が嫌悪した自身の娘のクローンであるはずのフェイトを心から娘としてみていなければ出てこないような声であった。

 

「・・・・話の腰を折るようで申し訳ないのだが、手早くリィンフォースを救い出す作業を進めた方が良いのではないのか?」

「・・・それもそうね。さっさと始めましょうか。」

「んじゃ、後はよろしくな。ゼクス。」

「了解した。とはいえ、本当にできるのか?」

 

ゼクス・マーキスの疑問気な声にプレシアは何か魔法の詠唱をする。するとエピオンの右手に持つビームソードに仄かに光の膜が張られた。

 

「次元跳躍魔法のちょっとした応用よ。そのエンチャントがかかった武装で彼女に向けて振り下ろせば、彼女と闇の書のリンクを断ち切った上で次元跳躍させることができる。」

「・・・あまり、魔法に関しての知識はない以上、私がとやかく言うことは出来ないが・・・。」

「・・・・保証はするわ。むしろ今しかできない。次元の境界が緩まっている今しか。」

 

プレシアは今しかできないことを強調するように同じ言葉を口にした。次元の境界が緩まっている・・・?

そのようなことは、確か・・・・・。いや、一つだけあった!!

 

「まさかっ!!私をヒイロ・ユイのところへ・・・!!」

「そういうこと。一応、貴方を安心させるためにこれだけは伝えておくわ。彼は確実に生きている。」

「っ・・・!!本当、なのか?」

「ええ、彼をアンカーがわりにしている私が保証するわ。もっともそれはあくまで彼が生きていることだけで、彼がどのような世界にいるのかは皆目見当も付いていないわ。」

 

それでも、それだけでもいい!!彼が、ヒイロ・ユイが生きていることさえ分かっているのであれば・・・!!

 

「・・・その様子だと、確認はいらないみたいわね。閃光の伯爵(ライトニング・カウント)さん、お願いできる?」

「・・・・なるほど、我々が貴方のことを知っているように貴方も我々のことを知っているという訳か。いいだろう!!」

 

ゼクス・マーキスはそう意気込むと、エピオンのビームソードを天高く掲げる。

 

「夜天の書の主、八神はやては名前は体を現す。そういった。ならばこのエピオンはまさにうってつけ!!その意味は次世代など、そういったものだが、敢えてこう言わせてもらおう!!」

 

 

「リィンフォース、祝福の風の名を持つ者よ!!君の行く道、君自身の『未来』に幸福があらんことを!!」

 

そして、エピオンのビームソードが私に向けて振り下ろされる。斬られた勢いでかなりの距離を吹っ飛ばされるがそれと同時に自身を縛り付けていたナニかが断ち切られたのをはっきりと認識できた。

 

「達者でなー!!あの無口で無愛想で無鉄砲な奴によろしくなー!!」

「彼のこと、よろしくお願いします。」

「アイツはよく無茶をする奴だ。せめてあの女に会わせてやるまで死なせないでやってくれ。」

「フン・・・。行け、二度と家族を泣かせるようなことはするな。」

「さらばだ、リィンフォース!!」

「・・・・ありがとう、最期にアリシアとフェイトに会わせてくれて。」

 

 

別れの言葉を口にする彼らに私は言葉を返そうとしたが、それよりも早く視界が光に包まれ、意識を持っていかれて行った。

 

そして、再び目覚めた私はウイングガンダムゼロ、ヒイロのデバイスの中にいた。

 

 

 

「まぁ、そんなところだ。」

「・・・・・余計な世話をする奴らだ。ならば、フェイトとスペースポート内に侵入した時に聞こえた爆発音や兵士が倒れていたのはあいつらの仕業か。」

「そうだな。」

 

ヒイロは呆れたような口調ながらもその無表情な顔を僅かに綻ばせたような気がした。

その時、リィンフォースが見ていたウイングゼロのレーダーの範囲に入り込んだ物体が現れる。

 

「ヒイロ、この列車に接近してくる金属反応がある。スピードから換算するに空を飛んでいると思われるが、その物体の中には同時に魔力反応がいくつかある。」

「魔力反応は分からんが空を飛んでいるのであれば、それは輸送ヘリの可能性が高い。だが、こちらはまだ時間がかかる。」

「なら私で監視を続けておく、何かあれば直ぐに伝える。」

「了解した。」

 

リィンフォースはその接近する輸送ヘリの中に乗っている魔力反応を注視しているとヘリとはまた別の方向から金属反応が現れたことをレーダー上から見つける。

 

「ヘリとは別方向から別の金属反応だ。質量や反応の大きさ的に車輌内にいた機械の類似タイプの可能性が高い。」

「・・・増援か・・・・。ヘリの方はどうなっている?」

 

ヒイロからのその問いにリィンフォースは再び視線をウイングゼロのレーダーの方に移した。

そのタイミングでヘリから飛び降りたと思われる一つの反応と凄まじいスピードでレーダーに入り込んできたもう一つの反応がその金属反応の迎撃に向かって行った。

 

「ヘリから一人、ヘリを追うように新たに現れた反応が金属反応の迎撃に向かった。だが、この魔力反応・・・・。」

「・・・どうかしたのか?」

 

訝しげな表情を浮かべるリィンフォースにヒイロは視線を向けてはいなかったが言葉の雰囲気的に察し、声をかけた、

 

「・・・・金属反応の迎撃に向かった魔力反応だが高町なのはとフェイト・テスタロッサのものと酷く似ている。」

「・・・・どういうことだ、ここはなのは達のいる地球なのか?」

「分からない。だが、得られる情報から感じる私の個人的な感想だが、二人の魔力が()()()()()。まるで制限でも設けているかのようにあの二人にしては魔力指数が低すぎるんだ。」

 

リィンフォースのその言葉にヒイロは疑問気な表情を禁じ得なかった。

なのはとフェイトによく似た魔力反応があるのはいいが、制限を設けているようにその魔力の量が少ない。

 

「・・・・接触してみるか?」

「・・・いや、今はいい。アイツらは戦闘中だ。となると、はやてがいることも考えるべきか?」

「それは、どうだろうな・・・守護騎士達が一人でもいれば主がいるのは確実だが・・・。」

 

リィンフォースはどこか嬉しそうな、それでいて気まずそうな表情を浮かべながら苦笑いをする。

まさか、消滅すると思った矢先に助け出されたのだ。リィンフォース自身が分からなかったことを当然、はやてが知るはずもないだろう。

 

 

「・・・・どのみち俺たちが動いたところで余計に戦局を混乱させるだけだ。今は大人しく列車の停止作業を優先させる。」

「・・・・・それもそうか。む、ヘリからツーマンセルの二人組で前半車輌と後半車輌に魔導師の降下を確認。両方とも7輌目へ向けて進んでいる。」

「7輌目・・・。俺が倒れていた車輌か。その車輌に何かあるのか?」

「ない、と言えば嘘になるな・・・。あそこにはよくわからない高エネルギー結晶体があった。迂闊に刺激すればかなりの規模を巻き込む爆発を産む可能性もある。」

「・・・・・両勢力の目的はその高エネルギー体の確保か?」

「そうかもしれない。推測の域を超えないがな。」

「他には何か確認できるか?」

「・・・・小さいのが一つ、先頭車輌に向かってきているな。すぐ近くに来ている。」

 

その時、端末を操作していたヒイロの視界がガジェットが割ったフロントガラスの隙間から小さく縮んだ水色がかった銀色の髪を持った妖精のような存在が入ってきたのを捉えた。

 

「・・・・・あれか。」

「・・・・・あれだな。」

 

その妖精のような存在は、ヒイロとリィンフォースをその小さな視界に捉えると、しばらく呆気に取られた表情を浮かべていた。

やがてハッとした表情へと変えると口元をアワアワとさせた後ーー

 

「な、なんで貴方がたがここにいるんですかっ!?」

 

明らかに自分たちを知っているようなその妖精のような存在の口ぶりにヒイロとリィンフォースは二人揃って疑問気な表情をするしかなかった。

 




リィンフォースの生存のさせ方滅茶苦茶だと思うけど、許してクレメンス。

とりあえず、ただいま全力全開でstrikers編を視聴中・・・・・

「少し、頭冷やそうか。」

なのはさん、流石に指導とはいえ、あれは素人が見てもやりすぎっすよ・・・。


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第31話 10年越しのクリスマスプレゼント

フェイトそんは可愛い(確信)


「・・・・・お前は何者だ?俺達のことを知っているようだが・・・。」

 

現れた妖精のような少女にヒイロは声をかけるが、視線を右往左往させて、極めて慌てている様子を見せているだけで、ヒイロの声に応えられるようには見えなかった。

若干、呆れたように目を窄めるヒイロだったが、その少女が手にしていた本の意匠がどことなく夜天の書に似ていると思ったヒイロは再度、その少女に視線を集中させる。

 

「・・・・リィンフォース。お前はアレが何者か知っているか?」

「いや、私にも何がなんだか……「リィンフォース!?今、リィンフォースって言いましたよねっ!?」な、なんだぁっ!?」

 

ヒイロは側にいるリィンフォースに向けて確認を取ろうとしたが、彼女の名前を呼んだ瞬間、魚の餌に誘われたかのようにその妖精のような少女がリィンフォースに駆け寄り、彼女の半透明に透けている手を掴み取った。

突然の少女の行動にリィンフォースは驚いた表情を浮かべる。

 

「え、え!?いや、その……な、なんだぁっ!?」

「私はリィンフォースさん、貴方がいなくなった後に、はやてちゃんが夜天の書の管制人格として創り出した、『リィンフォースⅡ』なのです!!」

 

リィンフォース。自分と同じ祝福の風の名を持つと言った目の前の少女に消滅する直前、はやてに自分の名前をこれから先に産まれてくるであろう命に渡してほしいと願ったことを思い出した。

 

「・・・・そうか。お前が産まれてくる新しい命だったか・・・・。」

「・・・・・結論から聞くが、そこの小さいのもリィンフォースという認識でいいんだな?」

 

先ほどの驚愕をしていた表情から一転して、優しげなものへと変えた彼女にヒイロはそう尋ねた。

 

「ああ。その認識で相違はない。さらに、主はやても確実にこの世界にいる。」

「はやてちゃんなら今は聖王教会の方に向かっていますけど、そろそろ戻ってくる頃合いだと思うのです!!」

「・・・・・リィンフォースⅡだったな。お前にいくつか確認したいことがある。お前を含めた車輌に乗り込んでいる奴らは中央車輌に存在するの高エネルギー体の確保を目標にしているようだが、この列車の停止もお前達の目的に含まれているのか?」

「はいです!少しばかりハードなものではあるんですけど、機動六課として初任務ですぅ!!」

「・・・・・お前はどうする。リィンフォース、いや、その名前はこの小さいのにあげたとか言っていたな。別の呼び名でもいるか?」

 

機動六課という聞きなれない単語があったがひとまずヒイロはそう言いながらリィンフォース、否、半透明の体を持つ彼女に視線を向ける。

その彼女はヒイロに視線を返すとその表情を朗らかなものに変えた。

 

「一応、私はお前のウイングゼロの中に居候している身だ。判断はお前に任せる。だが、名前が混在するのは事実だ。主からもらった名前はこの子に渡してしまった以上、別の名を名乗るしかあるまいさ。何か妙案はないか?」

 

彼女のその言葉を聞いたヒイロは一度リィンフォースⅡに視線を移す。視線を向けられたリィンフォースⅡはキョトンとその小さな首をかしげるが、ヒイロは何か言葉を発するわけでもなく、すぐさま視線を彼女に戻した。

 

「・・・・アインス。安直に数字の1を表す単語だが、あの小さいのが2を指し示すツヴァイを名乗るのであれば、なんら問題はないだろう。」

「アインス、か。中々いいセンスをしていると思うが?」

「俺は安直だと言った。お前はそれでいいのか?」

「ああ。もちろんだとも。」

「・・・・そうか。」

 

初代リィンフォース改め、アインスはヒイロに笑顔を向ける。それを見たヒイロは顔をツヴァイの方へと向ける。

 

「・・・・ある程度、こちらでプログラムの復旧は進ませている。お前も手伝え。」

「はいです!!」

 

ヒイロの声に嬉しそうな表情を浮かべながらリィンフォースⅡもリニアレールのプログラムの復旧作業に入った。ヒイロは先頭車輌の端末から、リィンフォースⅡは自身の前面にディスプレイを展開しながら作業を行う。

アインスはウイングゼロのレーダーを利用しながら周囲の警戒にあたる。

 

「そういえば、今更で申し訳ないのですけど、貴方はヒイロ・ユイさんで合っていますよね?」

「・・・・・はやてから聞いているのであれば、そうだが。俺とアインスのことを知っているのではなかったのか?」

「いえ・・・その、はやてちゃんから聞いていた年齢と変わらなすぎるって思ってまして・・・。」

「・・・・どういうことだ?」

 

ヒイロはリィンフォースⅡに視線を向けはしなかったが表情に明らかに疑念のものを浮かべる。

変わっていないならまだ判断の余地はあるが、変わらなすぎるとは一体どういうことだろうか。

アインスもヒイロと同じような考えに至ったのか疑問気な表情を浮かべていた。

 

「ヒイロさんが行方不明になった闇の書事件からもう10年の時が流れているのです。それなのに、ヒイロさんは皆さんから聞いたお話と全然変わらないというか・・・身体的成長が見られないというか、なんというか・・・。」

「10年・・・・!?待て、それは一体どういうことだ・・・?」

 

ツヴァイの言葉にアインスは目を見開き、驚愕といった表情を浮かべる。

ヒイロとアインスにとって闇の書の出来事はまだ一時間くらい前のことだ。それにもかかわらず、はやて達の間ではすでに10年前の過去の出来事と化している。

 

「・・・・俺は次元震に巻き込まれて、アインスは俺を追いかけるようにこの列車の中にいた。体感的な時間は然程経っていないはずだ。ならばつまり俺にとっては闇の書の事案はつい先程の出来事だが、はやて達にとっては10年も前のことになっているのか?」

「・・・・ヒイロさんのその言葉が事実だとすれば、お二人は時間跳躍をしてしまったのかもしれません。ヒイロさんの目線から10年後の世界へと。」

「魔法や転生を繰り返す書物に、挙げ句の果てに時間跳躍か。」

「・・・・あれ?それほど狼狽えたりはしないのですね。」

 

呆れた口調ながらも狼狽するような様子を見せないヒイロにツヴァイは首を傾げながらそう尋ねる。

 

「慌てている時間があるのであれば、目の前の熟さねばならないことを片付けることをやっていた方が時間の無駄がない。」

「それもそうですね・・・。」

 

暗に列車の停止を優先しろとヒイロから言われたツヴァイは苦笑いを浮かべながら列車のプログラム復旧に意識を向ける。

アインスも視線をレーダーに戻し、列車の状況を確認する。列車内には目の前にいるツヴァイの他に四つの魔力反応が存在する。

前半車輌に降り立った二つはヒイロが金属反応を一掃していたため阻むものがなにもなく、7輌目へ無事到達する。

一方、後方車輌に降り立った二人は8輌目にいた一際大きい金属反応と戦闘中のようだ。

レーダー上ではどのような状況なのかを把握することはできないが、ちょうど列車から離れた反応にもう一つの反応が追うように離れていったところだ。

 

(・・・・・これは落下しているとかそういうのではないよな?)

 

一抹の不安が頭の中をよぎりながらもアインスはそのままレーダーの監視を続ける。

列車から離れていく反応の距離が徐々に近づき、その二つの反応が重なった瞬間ーー

 

「っ……!?膨大な魔力反応!!これは・・・召喚魔法の類かっ!?」

「あ、それでしたら多分、キャロさんの龍魂召喚なのです!!すっごい召喚魔法を持っているんですよ、キャロさんは。」

「・・・そ、そうか・・・。お前の仲間であるのなら別に構わないのだが・・・。」

 

アインスとツヴァイのそのような会話が行われた後、先程まで真っ赤に染まっていた画面やコンソールが緑色、つまるところ正常を示す色へと変わる。

 

「列車のプログラムの復旧任務完了。これよりオートからマニュアル操作へと切り替え、直ちに停止させる。」

 

ヒイロがそういいながら座っている席から別の席に座ると、ハンドルを握り、ブレーキを踏む。

列車の底部とレールが触れ合い、火花を散らし、甲高い音を辺りに撒き散らしながら列車は徐々にそのスピードを落としていく。

そして、慣性の法則により、体が前にもっていかれるような感覚を最後に列車は完全に停止した。

 

「列車の完全停止を確認。終わりか・・・。」

「お疲れだったな、ヒイロ。」

「問題ない。列車内部の状況はどうなっている?」

 

労いの言葉を言うアインスにヒイロがそう言うと彼女の視線はウイングゼロのレーダーに移る。

列車内には一際大きな金属反応が一つあったが、ちょうどアインスが視界に入れたタイミングでフッと消失した。

おそらく後半車輌に降りた二人組が討ち果たしたのだろう。

 

「・・・・列車内に金属反応はなくなった。」

「そうか。・・・・・リィンフォースⅡ。」

「えっと、ツヴァイで構わないのです。それで、どうかしましたか?」

「・・・・俺達はどうすればいい。お前の指示に従った方がいいのか?」

 

ヒイロのその質問にツヴァイは考えるような仕草を浮かべる。少し間の沈黙の後ーー

 

「でしたら、ひとまず付いてきてほしいのです。会わせたい人達がいるのです。」

「・・・・・なのはとフェイトか?」

「はいです!!」

 

ヒイロは運転席から立ち上がるとツヴァイの先導で先頭車輌を後にする。

破壊した金属反応の正体が散らばる車輌の廊下を歩いていくとヒイロは不意にツヴァイに質問をする。

 

「そういえば、俺が破壊したあの機械はいったいなんだ?」

「・・・・・その質問に答えるのはもうすこし後でも構いませんか?アレに関しては色々と機密なのです・・・。」

「・・・・・わかった。」

 

しばらく車輌内を進み、中央の7輌目に差し掛かったところでヒイロとアインスは二人の人影を目にする。

片方は快活な印象を受ける顔立ちに紫色のショートカットにした髪、そして白い鉢巻を巻き、右手に巨大な車のホイールがついたようなナックルを展開していた。

もう一方はオレンジ髪をツインテールに、どこだかきつい性格を思わせるように表情にはあまり余裕が感じられないように思える。

ハンドガンのような形をした銃を持っていることから中・遠距離を自身の間合いとする人物なのだろう。

その二人が羽織っているバリアジャケットはどことなくなのはのバリアジャケットに似ていると思ったが口に出すことでなかったため心の中に留めることにした。

 

「ヒイロ、私は少しウイングゼロの中に戻っている。」

「・・・唐突だな。何か理由でもあるのか?」

「・・・・もっともらしい理由はないのだが、強いて言うのであれば、フェイト・テスタロッサのため、だな。」

 

アインスはそれだけ言うとその半透明な体をウイングゼロの中に入り込んでいった。

ヒイロはその言葉を疑問気に思いながらも深く追及することなく、ただ間違えてもゼロシステムを起動しないように思いながらプカプカと空中を浮遊するツヴァイの後を追う。

 

「あ、リィン曹長!!お疲れ様です!!って、アレ?そこの人は一体・・・?」

「・・・・成り行きでこの列車の停止作業を手伝ってくれていた人、ですね・・・。」

 

こちらに気づいたショートカットの少女がツヴァイにヒイロのことを尋ねる。

しかし、ツヴァイは少々歯切れの悪い返事をした。いきなり時間跳躍で10年前から来た人と言ったところでとてもじゃないが、信じてもらえるとは思えない。

 

「なるほど、乗り合わせた人ですか!それでしたら無事でよかったです!!」

 

どうやら、このショートカットの少女は物事をそんなに深く考えないタイプのようだ。どう取り繕ってもツヴァイのあの対応が良いとは言えないのにこの反応の仕方である。

 

「・・・・・。」

 

対照的にオレンジ髪の少女は先程の少女とは違って、ヒイロに訝しげな視線を向けている。

 

「・・・・色々と聞きたいことがあるのはわかるが、俺がこの列車に乗り合わせたのは事実だ。」

「・・・・そうですか、でしたらひとまずそういうことにしておきます。」

 

ヒイロが言った言葉にツインテールの少女はひとまず引き下がってくれた。

とはいえ疑いの目が晴れたわけではないため、ヒイロのこの後の行動によっては彼女の視線はきつくなるだろう。

 

「そういえば、レリックの回収は無事に済みましたか?」

「はい!!ちゃんと確保に成功しましたよ!」

 

ツヴァイのその言葉に箱状のものを掲げながら嬉しそうに笑みを浮かべる少女。

どうやらその金属製の箱の中に入っているのが件の高エネルギー体のようだ。

 

「スバルさん、ヘリまでの道をお願いしますのです。」

「わっかりましたぁ!!」

 

『Wing Road』

 

スバルの足のローラースケートのデバイスからそのような音声が流れると自身の足元から青白い光で構成された足場を外で待機しているヘリに伸ばす。

 

 

「少しそこで待っていてくださいなのです。ってあれ、アインスさんは?」

「席を外している。構う必要はないとのことだ。」

「そうですか・・・・。」

 

先にスバルとオレンジ髪の少女を外で待つヘリに向かわせ、ツヴァイは何やら通信機に向かって言葉を送った。

 

「リィンフォース?どうしたの、私たちに会わせたい人がいるって・・・。」

「局内ならまだ分からない訳じゃないけど、こんな任務中に?」

 

ヒイロの視界から隠れて見えなかったが、声色的になのはとフェイトがすぐそばまで来ていることは察することができた。

 

「はいなのです!!なのはさんやフェイトさん、そしてはやてさんが絶対に喜ぶ人なのです!!」

 

ツヴァイのその言葉に疑問気な表情を浮かべるなのはとフェイト。さながら皆目見当もつかないと言った様子だ。無理もないだろう、彼女たちがこれから会うのは行方不明になって以来10年も会っていない人物なのだからーー

 

 

「それでは、出てきてくださいなのです!!」

 

ツヴァイのその声に促されるように車輌内から姿を現わす。その姿が徐々に明らかになるにつれ、疑問気だったなのはとフェイトの表情は驚嘆のものへと変貌していく。

そして、その全身がなのはとフェイトに見えるまで姿を現したヒイロは二人の驚く顔を見つめる。

 

「・・・・10年ぶりのようだな。やはり容姿もかなり変わっているか。」

「嘘………ヒイーーー」

 

なのはがヒイロの名前を言おうとした瞬間、ヒイロは片足を軽く後ろに引き、半身を逸らした。次の瞬間、そのすぐそばを風が吹き荒れ、ガンッというぶつけたような音が辺りに痛々しく響き渡る。

その音は先を歩いていたスバルとオレンジ髪の少女の二人組が思わず振り向くほどだ。

 

「・・・・フェイト。ブリッツアクションを使いながら突っ込んでくるな。」

 

呆れるような口調でそういいながら自身の後ろで列車の外壁にぶつけた額をさすっているフェイトに声をかける。金の糸のように煌めく髪はツインテールではなくロングに下ろし、その身長は既にヒイロを超えているくらいまでに成長していたが、その赤いルビーのような瞳は昔のままで、10年ぶりにヒイロと出会ったからなのか、はたまた額をぶつけたことによる痛みからなのかは定かではなかったが、既に潤んでおり、今にも涙が溢れ出そうだった。

 

「夢………じゃ、ないん、ですよねっ………!!!!」

「ああ。現実として、俺はここにいる。」

 

そうフェイトに背を向けて言った瞬間、今まで溜め込んでいた涙を堰き止めていたダムが壊れたのか溢れ出んばかりに涙を零しながら、ヒイロの背中に飛びついた。かなり強い衝撃がヒイロを襲うが彼の強靭な肉体はその衝撃にビクともせずにフェイトの体を受け止める。

 

「今の今まで、どこで何をしていたんですか………!!!貴方が居なくなってから、私は、わたしはぁ………!!!」

 

ヒイロを抱きしめたまま、フェイトは嗚咽を零しながら、涙が頰を伝い、ヒイロの服を濡らしていく。

それにもかかわらずヒイロは彼女を振り払うことはなく、なすがままを貫く。

 

「フェイトちゃん………。」

 

親友であるフェイトの様子になのはも思わず瞳を潤ませていた。突然居なくなってもう二度と会うことができないと思っていた人が今、こうして目の前にいるのだ。

 

「あ、あのー・・・なのはさん?フェイト隊長、どうしちゃったんですか?」

「あ・・・・。」

 

フェイトの様子が変わったことが気になりだしたのか、彼女の隊の一員であるスバルがそう聞いてくる。

隊長としての体面を保つため、なのはは潤んだ瞳を擦りながら、彼女らに向き直る。

 

「えっと、ごめんね。あんなところ見せちゃって・・・。」

「い、いえ、そんなことはないんですけど・・・。」

「ですけど、フェイト隊長、本当にどうしたんですか?いつも穏やかな印象を受けるあの人があんなに・・・。」

 

オレンジ髪のツインテールをもった少女、ティアナの言うこともわからない訳ではない。

いつも穏やかな口調で人と応対する彼女が感情を前面に押し出し、ましてやあのように人目も憚らずに泣き出すなど、イメージとはかけ離れていたからだ。

 

「あの人、何者なんです?乗り合わせたって言ってましたけど・・・・。」

「え、乗り合わせたのならそうなんじゃないの?」

「このバカスバル。このリニアレールは元々貨物列車なのよ?そんなのに乗り合わせたとか考えなくても嘘だってわかるでしょ!?普通だったら犯罪よ犯罪!」

「ご、ごめんてばティア・・・。」

「・・・・ヒイロ・ユイ。それがあの人の名前なんだけど、私やフェイトちゃんが出会ったのは10年前の闇の書事件まで遡るの。」

 

スバルとティアナのそんなやりとりを微笑ましく思いながらなのはは自身とヒイロの出会いを語り始める。

 

ある夜の街で突然始まった、今は頼れる仲間であるが当時は敵同士だった者達との戦い。

 

そのまま訳がわからないまま戦い、傷つき、もう駄目だと思った。

 

そんな状況から救い出してくれたのは親友ではなく、はたまた自分の魔法の師匠でもなく、他ならぬヒイロであった。

 

「ヒイロさんは私やフェイトちゃんの師匠でもあるんだよ。」

「え、そうなんですかっ!?」

「あの人が・・・・!?」

 

なのはの言葉にスバルとティアナは驚きの視線を向ける。高町なのはと言えば、管理局の航空戦技隊において『エース・オブ・エース』の称号を持っていると言われるほどの有名人であり、管理局内では知らない人はいないと言わしめるほどだ。フェイトも管理局内ではかなりの知名度のある人物に数えられている。

その有名人達の師匠であると言う言葉にスバルはもちろんのこと、特にティアナは意外性を持った視線をヒイロに向けていた。

 

「でも、闇の書を巡る最後の戦いで結果的には大元の破壊までにはこぎつけたんだよ。だけどヒイロさんはその大元を破壊した時の次元震に巻き込まれて、今まで行方不明になっていたの。」

「そのなのはさん達の師匠が、今こうして目の前にいると・・・。そういうことなんですね?」

「うん、そういうことになるのかな。」

「・・・・・あれ?」

 

スバルの言葉に頷いているなのはの耳にティアナが疑問気に唸る声が聞こえた。

 

「ティアナ?どうかした?」

「・・・・闇の書事件って確か10年くらい前って言いましたよね。」

「うん。そうだけど・・・?」

 

なのはの疑問気ながらに言った言葉にティアナはヒイロに疑いの視線を向ける。どう見たってヒイロの年は自分とスバルと同じくらいのものだろう。

仮に自分と同じ16だと仮定して、闇の書事件が10年前だから、年齢はおよそ5才から6才ということになる。

 

(正直なところ、ありえなくない?)

 

弱冠6才の子供がいくら子供の頃だったとは言え、なのはとフェイト、二大巨塔の二人の師匠をできていたとはとてもではないが信じることができなかった。

 

 

「ティアナさん。」

「あ、リィン曹長・・・。」

「疑問に思うのも分かりますけど、今はレリックの運搬を・・・・。」

「え?」

 

ツヴァイの言葉に思わず自分の相方であるスバルの方を見やる。その彼女の脇にはレリックの入った金属製の箱ががっちりと挟まっていた。それを認識した瞬間、ティアナの体がワナワナと震え始め、爆発した。

 

「こんの、バカスバルーー!!!!さっさとそのレリックを置きに行きなさいっ!!!」

「うわわわぁーっ!?ご、ごめんってばーー!!!」

 

突然のティアナの怒声にスバルは驚いた表情をしながらヘリに向かって走り去っていった。

少々、いやどう取り繕ってもかなり抜けている自分の相方にティアナは思わず疲れからため息を吐いてしまう。

 

「その、すみません・・・。スバルはどうも抜けているところが・・・。」

「アハハ・・・・大丈夫だよ。」

 

頭を悩ます種に苦い顔をするティアナになのはも苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

「グスン・・・・。ごめんなさい、ヒイロさん。服を汚しちゃって・・・・。」

「気にするな。俺は気にしない。」

「貴方が気にしなくても私が気にするんですぅ……!!!」

 

ヒイロ自身、服を濡らされたことには本気で気にしていないため、憮然としているが、その濡れた肩の部分をフェイトが申し訳なそうな表情を浮かべながらグイグイと引っ張る。

フェイトが引っ張るとヒイロはそれを気にしていないという意志表示の現れで服を引っ張る手を引き止める。

そんなやりとりが帰還中のヘリの中で繰り広げられていた。

 

「おいおい。あれ、ホントにフェイトさん?やけに感情的になってるな・・・。なんか知ってるか、チビ共。」

「そ、そう言われても・・・・。」

「あの人が現れてからのフェイトさん、すっごく活き活きしているとしか・・・。」

 

ヒイロ達が乗っているヘリのパイロットである『ヴァイス・グランセニック』が驚いた表情を浮かべながらヘリの操縦席に比較的近くにいた赤毛の少年エリオと桃色の髪をしたキャロに聞いてみた。

ヴァイスの質問に二人は大した返答はできなかったが、それなりの年齢を重ねているヴァイスにはなんとなくだがその正体を知ることができた。

 

「なるほどなるほど・・・・フェイトさんもれっきとした女性だったという訳、か。しかもあそこまでのぞっこんぶりとはねぇ・・・。浮ついた話も聞かないのも頷けるねぇ。」

 

ヴァイスの言葉にまだ色を知らない子供勢二人はキョトンとした表情を浮かべるしかなかった。

 

 

 

ヘリのローターから響く揺れに身を任せていたヒイロだったがしばらくすると徐々に近代的な都市に見られる高層ビル群が見えてくる。

ヘリは構造的に宿舎と見られる海辺の建物に近づくと屋上のヘリポートにその身を下ろした。

 

「ここは、どこだ?」

「ここは私達が所属していて、はやてが部隊長を務めている機動六課、その隊舎。」

「はやてが部隊長、か。管理局に入局したのか?」

「うん。ヒイロさんがいなくなったあと、はやてや守護騎士達も管理局に入る形で保護観察処分が下されたの。」

「・・・そういうことか。」

 

ヒイロは近くの窓から様子を伺うと外には見たとこのある顔が揃い踏みになっていた。

守護騎士であるシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。

シグナムとヴィータは濃い茶色を基調とした制服のような服を着こなし、シャマルは医師でもやっているのか、白い服に袖を通していた。ザフィーラは狼の状態。それ以外の言い方は思い浮かばなかった。

 

そして、シグナム達と同じように濃い茶色の制服を着こなし、なにやら半信半疑のような様子でヘリを見つめる夜天の書の主、八神 はやての姿があった。

 

「ほい、到着っと。それでは長旅、お疲れさんした。フォワードの皆さん。」

 

パイロットであるヴァイスの声がヘリの中に響くと同時に徐に皆立ち上がり、ヘリから降りていく。

 

「ヒイロさん、行きましょう。はやてが待っていますから。」

「了解した。」

(・・・・外にはやてがいる。やはり10年経っているのはあながち嘘ではないようだ。車椅子がなければ動けなかったのがしっかりと両足で立てている。)

 

そばにいたフェイトに促されるように立ち上がると翼に抱かれた剣のネックレスーーウイングゼロのデバイスにそう小声で伝える。

 

(そうか・・・浸食は綺麗になくなったみたいで、本当に良かった・・・!!)

 

ウイングゼロから念話の形でアインスの声が響く。はやてがしっかりと浸食が治っていることに感極まっているようだ。

 

「ヒイロさん?」

「・・・・どうかしたか?」

 

なのはに声をかけられながらもヒイロはアインスの存在を悟られないように無表情を貫く。

 

「ううん、なんでもない。」

「そうか。」

 

なのはとフェイトに連れられるようにヒイロはヘリから降り、機動六課の隊舎にその足をつけた。

 

「・・・・本当に、生きていたのだな・・・・。」

「マジで生きてやがった・・・!!どういう身体してんだよ、アイツは・・・!!」

「・・・・あれ?ヒイロ君、10年前と然程成長していないような・・・?」

 

シグナム、ヴィータ、シャマルはヘリから降りてきたヒイロに思い思いの反応をする。ザフィーラもその鋭い目をどことなく緩めながらヒイロに向けていた。

 

「本当に、生きとったんやな・・・。よかった。」

「・・・・・ああ。」

はやてと言葉を交わすヒイロだったが、どこかよそよそしい彼女の声からヒイロは何かはやてが感情を押さえ込んでいるように見えた。機動六課の部隊長としての体面上、そう迂闊に泣き出すことができないのだろう。

 

「・・・・おい、いつまでウイングゼロの中で燻っている。出るなら出てこい。出てこないのであれば、俺にも用意がある。」

「・・・・ヒイロさん?」

(す、少し待ってくれ、心の準備がーー)

 

アインスの制止の声が響いている中、ヒイロはウイングゼロを展開する。それによりウイングゼロの中に入っていたアインスは無理矢理、外へ追い出されるようにその半透明で小さい体をはやての目の前に晒した。

 

「えっ・・・・リィン、フォー、ス?」

「えっと・・・・その・・・。」

 

震えるような口調で彼女の名を呟くはやてにバツの悪い表情を浮かべるアインス。

 

「嘘や・・・こんなん、夢じゃあらへんよな・・・?」

「消滅すると言った手前、非常に、言いにくいのですが、その・・・生かされてしまいました・・・・。ですがーー」

 

「また、会えましたね。我が主よ。私にはたったそれだけでも悔いはない気持ちです。」

 

笑顔を浮かべながらのアインスのその言葉が限界であった。ヒイロもそうだが、何より彼女にとって大事な家族ともう会うことはできないと理解していたところに、姿形が変われど、目の前に戻ってきたのだ。

 

「なんや……生きてるんなら、生きてるって連絡の一つくらいよこしいや……!!」

 

涙を零しながらはやては目の前の家族に笑顔を浮かべる。アインスもそのはやての涙に釣られるように目尻に涙を浮かべる。

 

「これにはかなり深い事情があるのです。ひとまず、ヒイロや私、そして主や守護騎士達を含めた主要な人間の全員で一度、情報の整理をさせてほしいのです。」

「・・・・わかった・・・!!みんな集めればええんやな!?直ぐに準備するから!!」

 

アインスの言葉にはやては目を擦りながら答える。その場にいた守護騎士達やなのは達も納得したような表情を浮かべる。

 

(・・・・確かに、一度情報の整理をする必要がある。俺とアインスは10年前からやってきた人間だからな。ここがどこで、世界情勢がどうなっているかさえわかっていない。)

 

ヒイロもアインスの言葉に同意の意志を示しながら、そのように結論づけた。

そこでヒイロは知ることになる。平和を脅かそうとする、新たな危機が既に目前まで迫ってきていることをーーー




sts時点でのなのは達の身長
はやて・・・150cm
なのは・・・およそ158cm
フェイト・・・およそ163cm

おまけ ヒイロ・・・156cm

つまり、はやて<ヒイロ<なのは<フェイトということになる。

ちなみに身長差が5cmから10cmくらいだとお似合いカップルに見られやすいらしい


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第32話 混沌極める聴取会

最近、執筆速度が止まるんじゃねぇぞ・・・・しててやばいって感じています。
あと今回の話みればわかる気がしますが、わんたんめんはクロスオーバーカプが大好物です。

だって、本来出会うはずのない違う作品同士が出会って様々な関係を織り成していく・・・・エモい(死語)


ヒイロとアインスははやてに掛け合い、機動六課の隊舎の一室を借りて、情報の整理を始めようとしていた。

その情報の整理会にはなのはやツヴァイ、シグナム達守護騎士四人のヒイロと面識がある人物達の他に、スバルとティアナ、そしてエリオとキャロのフォワード陣が勢ぞろいしていた。

 

こういう尋問会のような場でもヒイロは情報を漏らさないように訓練を受けてはいたのだが、いつも無表情な顔は僅かにしかめっ面になっていた。

 

「・・・・・こういう場は俺とアインスを取り囲むようにするものが普通だが。」

「ヒイロさんにそんなことする訳ないで!!」

「うん。はやての言う通りだよ。」

「お前達のことだからある程度の予想はできていたからそれはいい。だが、なぜはやてとフェイトは俺を挟むように座っている?」

 

挟むように聞こえてくるはやてとフェイトにヒイロは腕を組みながらそう尋ねる。ヒイロの両サイドをがっちりと固めている二人はお互いの顔を見合わせるとーー

 

「部隊長権限や♪」

「えっと………一緒にいたいからじゃ……ダメかな?」

「・・・・・好きにしろ。」

 

フェイトはともかく、はやての完全な職権濫用にヒイロは呆れたような表情を浮かべ、埒があかないと判断したヒイロはこの状況に流されるままを貫くことをした。ヒイロの事実上の降参宣言に二人は嬉しそうな笑みを揃って浮かべる。

 

「ほんなら、始めよっか。まずは一応知ってる人も知ってるだろうけど、今回のリニアレールの暴走事件において、成り行きながら協力してくれたヒイロ・ユイさんや。」

「・・・・・ヒイロ・ユイだ。」

 

はやての紹介にヒイロは無愛想に自分の名前だけを伝える。目を開かず誰とも視線を合わせようとしないヒイロのその姿勢に初対面のスバル達、新人グループの四人は少々困惑気味な表情を浮かべる。

 

「普通なら協力してくれたことにお礼をするのが定説なんやけど、いかんせん、ヒイロさんは少々特殊な事情を抱えてんのや。それは新人のみんな、特にティアナはなんとなく感じ取ったんやっけな?」

「えっと・・・はい。正直に言いますと、そうですね。そこのヒイロさんはなのはさんとフェイトさんの師匠であるとはリィン曹長から聞いてはいますけど・・・。」

「えっ!?フェイトさんとなのはさんの師匠なんですかっ!?」

「あの人が、フェイトさんのお師匠さん・・・!?」

 

ティアナの言葉にエリオとキャロは心底から驚いた表情をヒイロに向ける。その視線を感じ取ったヒイロは片目を薄く開き、エリオとキャロを軽く見やると再びその瞳を閉じた。

 

「でも、仮にヒイロさんがなのはさん達の師匠だとするといかんせんおかしい点もあるのも事実なの。あの、失礼ですけどヒイロさん、年齢をお聞きしてもいいですか?」

「数えたことはないが、15か16だ。」

「やっぱりそのくらいですよね・・・。それで、ヒイロさんが行方不明なったとされる闇の書事件がおよそ10年前。つまり、僅か5歳か6歳でなのはさん達に指導をしていたことになるんです。常識的に考えて、そんなことはありえない。私はそう思います。」

 

ティアナは最後に首を横に振りながら自身の見解を述べる。その見解はあまり小難しいことを考えるのが苦手なスバルでも納得の表情を浮かべるものであった。

 

「うんうん。ティアナの考えももっともや。なのはちゃん、なんか当時のヒイロさんの映っとる映像とかある?」

「一応、はやてちゃんからこの会議をやる前に連絡はあったから探しては見たけど・・・・。」

 

 

なのはは待機状態のレイジングハートを通して、スクリーンに映像を映す。

その映像には倒壊したビルの中、なのはに背を向けている少年の姿が映し出されていた。

その少年はなのはに何かを言おうとしているのか視線を座り込んでいる彼女に向ける。

 

「ああっ!!?」

「こ、これ・・・!!」

 

スバルとティアナが驚きの声をあげる。エリオとキャロも声は出なかったが驚愕の表情をしながらヒイロの方に視線を集中させる。

その映像には今、自分達の目の前にいる人間となんら変わらない容姿を持ったヒイロの姿があった。

映像の中でヒイロはウイングゼロの純白の翼を展開し、動作確認のようなものをすると割れた窓からその翼を羽ばたかせながら飛び去っていった。

 

「この映像はたまたまレイジングハートが残してくれていた、闇の書事件が始まったばかりのころのものだよ。」

「つまり、10年前からヒイロさんは全然成長してないんですか!?」

「な、中々奇抜な発言やな・・・・。」

 

スバルの見当違いの言葉に思わず苦笑いを浮かべるはやてだったが、すぐさま顔を引き締めたものに戻した。

 

「ここから先は私が説明するのです。」

 

突然響き渡った声に全員がその声の主に視線を集中させる。その小柄どころか小さい体のせいで机の上に腰掛けていたツヴァイが立ち上がると、険しい表情へとそのあどけない顔を変える。

 

「ヒイロさん含め、先代夜天の書の管制人格であるアインスさんは確かに10年前の人物であることはわかってくれたと思います。」

「アインス、出てこれるか?」

 

ツヴァイの言葉に合わせるようにヒイロはウイングゼロに向けて声をかけると中からツヴァイと同じくらいの身長に、さらに半透明に体が透けているアインスが姿をあらわす。

 

「一応、私がアインスだ。今はほとんどの管制人格としての機能を失っている上にウイングゼロに居候しなければこの体を維持させることさえ難が出てしまう体たらくだが。よろしく頼む。」

「・・・・それでも私はアインスが戻ってきてくれただけでも本当に嬉しいんやけどな。」

「主・・・・。」

「・・・・・・話が進まん。込み入った話は後にしろ。」

 

お互いに視線を合わせ、微笑み合う二人にヒイロが先を進ませるように声を上げる。流石に場違いであるとは思っていたのか二人揃って僅かに恥ずかしそうにしているうちにヒイロはツヴァイに視線を送った。

 

「闇の書事件において、その大元であった自動防衛プログラム、ナハトヴァール。ヒイロさんはそれの破壊を行った際、次元震に巻き込まれてしまったのです」

「次元震・・・確か、高い魔力同士がぶつかり合った際に発生する現象ですよね?」

 

ティアナの確認にツヴァイは無言で頷くことで肯定の意志を示す。

 

「その次元震により次元の穴が開いてしまいました。その結果、ヒイロさんは行方不明となってしまい、事実上の死亡扱いの判断を下すしかありませんでした。ですが、その今まで死亡していたと思われていた彼が行方不明だった当時の姿のまま、今ここにいるのです。マイスターはやてやなのはさん達が成長している中、ヒイロさんは決してそのような傾向は見られません。つまり、ヒイロさんは10年前から直接時間跳躍してきた、としか言いようがないのです。」

「時間・・・」「跳躍・・・・。」

 

エリオとキャロがツヴァイの言葉を繰り返し、反芻する。その反応だけでヒイロとアインスが体験した時間跳躍が管理局でもそうそう起こることではないということを察する。

 

「無論、時間跳躍してしまった代償がなかったわけではない。ウイングゼロはその装甲の九割を喪失した。推進システムや武装、そして手足の装甲が残っているだけ運が良かったと考えるべきか。」

「そういえば、さっき私にアインスを見せた時も青と白のツートンカラーのかっこええ装甲はほとんどなかったやね。」

 

ヒイロの言葉にはやてが思い出すような仕草をしながら付け加える。

 

「そんな状態でウイングゼロを動かしても大丈夫なの?」

「ウイングゼロの装甲は元々内部フレームと独立して設計されている。内部フレーム、というよりその場合だと俺の体がその代替えになるか。技術の漏洩を防ぐため、あまり多くは言えないが、結論から言えばスピードに限り人体に影響が出ないレベルまで落とさざるを得ないが稼働自体には何ら問題はない。」

 

フェイトの心配そうな言葉にヒイロは隠すことなく現状を伝える。

隠したところでいずれ露見するのは明白なため、隠してもメリットが微塵も感じられない。

そんな考えからのヒイロの判断であった。

 

「で、ここでさらに頭を悩ます案件がもう一つ・・・・実はヒイロさん、次元漂流者でもあるんや・・・・。」

「・・・・聞いたのか?」

 

はやてが少しばかり頭を抱えるように言った言葉にヒイロは少しばかり目を見開きながら尋ねた。ヒイロが次元漂流者であることははやてには話していない筈だ。だがしかし、はやては事実としてそのことを明らかに知ってる口ぶりだった。それはつまり、ヒイロがこのはやて達のいる次元世界とは全く異なる歴史を歩み、技術を育んだ世界からやってきたことを知っていると同意義であった。

 

「・・・・一連の事件が終わった後にリンディさんから、な。さすがにここで話すような真似はせえへんけど・・・。」

「・・・・そうか。ならいい。」

 

昔であれば即『お前を殺す』案件なことであったが今のヒイロにとっては自分の過去が知られることは些細なことであると片付けられるほどの認識までとなった。もっとも言いふらすようなことでもないと同時に認識しているが。

 

「話を戻すが、俺が次元漂流者であると、何か不都合があるのか?」

「・・・・次元漂流者は基本的にデバイスをもつことは禁止されているんや。」

「・・・犯罪者を取り扱う警察組織らしい対応だ。未知なものに関しては大抵束縛し、取り締まろうとする。」

「次元世界の住民を守るのが管理局の仕事だし・・・・。」

 

ヒイロの嫌味のような言葉にフェイトが苦笑いを浮かべながら話をつづける。

 

「・・・・そういえば、闇の書事件の時点で俺が次元漂流者であることはわかっていた筈だ。なぜあの時にはウイングゼロを差し押さえなかった?」

「あの時は非常性が極めて高かったり、地球が本局から結構距離があったから特に何か言われる要素がないからって母さんが言っていたよ。」

 

ヒイロの問いにフェイトが答えるが、ヒイロは少々懐疑的な表情を浮かべていた。なぜならヒイロの耳にあるフレーズが引っかかったからだ。

 

「母さん、だと?お前の母親(プレシア・テスタロッサ)が生きているのか?」

 

ヒイロの言葉はスバルや守護騎士達にはその真意が伝わらなかったが、フェイトとなのはにはその意味が伝わったようで、合点がいったような表情を浮かべながら軽く頰に指をあてていた。

 

「えっと、ヒイロさんは知らなかったよね。実はフェイトちゃん、闇の書事件が終わったあとリンディさんと養子縁組をして、ハラオウンの姓を名乗ることになったの。」

「だから、今の私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンって言うことになっているの。」

「・・・・つまり身分上はクロノの義妹ということか。」

「うん、そういうことになるね。」

「・・・・・何か俺がいない間に変わったこともあるのか?」

 

試しにそう聞いてみるとフェイトとなのはの口からこのようなことが飛び出してきた。

 

「クロノ君とエイミィさんが結婚したことくらい?」

「子供も確か二人いて、エイミィさんが今産休に入ってることくらいかな。」

「・・・・俺の予想を遥かに上回っているな。」

 

まさか、クロノとエイミィが結婚していた上、既に子供までできていることに流石のヒイロでも驚きの表情を隠せなかった。

 

「ヒイロさんヒイロさん、ちょっち今から割と重要な話するからええか?」

「ああ。俺がデバイスを持っていることは管理局の目線からは好ましくないのだろう?」

「おおう、流石の切り替えの早さ・・・。」

 

僅かに気が緩んだムードから瞬時に張り詰めたものへと雰囲気を変えるヒイロにはやては尻込みしながら話を進める。

 

「実はヒイロさんがデバイスを持っていられたのはもう一つ理由があんねん。ヒイロさんが民間協力者っていう立場をとってくれてたことなんや。」

「・・・・・お前が言いたいことは大体わかった。つまり民間協力者としてお前たち機動六課に協力をしろ、ということで間違ってはいないか。」

「話が早くて助かるわ〜。じゃあ一応聞くけど、ヒイロさんの返答は?」

 

「少し条件がある。」

 

ヒイロははやてに視線を向けながら自分が求める条件を並べ始める。

 

「俺はあくまでお前たち、機動六課に協力をするのであって、管理局自体に味方をするわけではない。部隊長であるはやてからの指示には従うが、管理局の上層部からの指示には従わない。」

 

「二つ目、俺のウイングゼロには決して触れるな。あまり触られたくはないからな。」

「え、それだとウイングゼロの修復とかはいらないってこと・・・?」

「ええんか?ウチには結構腕のたつデバイスマスターとかおるけど・・・。」

「はやて、ヒイロさんは私たちのことを思って、その条件を言ってくれてる。」

 

なのはとはやては疑問気に首をかしげるが、アインスを除き、この中で唯一ゼロシステムの存在、およびその危険性を知っているフェイトが二人に険しい表情をしながらそう言った。

 

「・・・・わかった。事情はよく知らんけど、フェイトちゃんがそういうならそうしとくわ。」

「・・・感謝する。一応、言っておくがウイングゼロの修復は事実上不可能だということも伝えておく。」

 

その言葉にはやては難しい顔をしながらだったが一応、首を縦に振り、承諾の意志を示した。

 

「それなら、後で私経由で本部に民間協力者の申請やっとくから、ヒイロさんのデバイスはそのままもっていてええで。」

「わかった。」

 

 

「まぁ・・・・お前ならデバイスなくてもある程度なんとかなっちまうんだろうけどよぉ・・・・。」

 

一通りヒイロへの聴取の終わりが見え始めた時、口角を少し吊り上げ、まさに苦笑しているというヴィータの表情にスバルたちは疑問を抱く。シグナムはなぜか誇らしげにシャマルはヴィータ同様苦笑いを浮かべていた。ザフィーラも床に座り込んでいたが、その表情からはどこか遠いものを見ているような感じがした。

 

「それって、どういうことなんですか?ヴィータ副隊長。」

「えっと・・・言っていいのか、コレ?まぁいいや。さっきなのはが見せてくれた映像あっただろ。」

 

ヴィータの確認にスバル達四人は頷いた。ヴィータが話していることを何となく察したのかフェイトとなのはも愛想笑いをしながらヴィータの話を見届けていた。

 

「あの前にヒイロはアタシと一回戦闘してるんだ。戦闘、つってもアタシが武器を持たねぇヒイロに一方的に攻撃するっていう、今思い返せば騎士にあるまじき戦闘だったけどな。」

「え・・・ヴィータ副隊長の攻撃を一方的に・・・?」

「その時はダメージを受けて、項垂れていたなのはを抱えていた。どちらかと言えば、反撃しようにもできなかったと言った方が正しい。」

「おい、少しはぼかすことぐらい考えてくれよ・・・・。」

「自業自得だ。」

「うげぇー・・・・。」

 

ヒイロの容赦ない言葉にヴィータは額を机につけて項垂れた。その様子にスバル達は思わず苦笑いをしていた。

あまり見ないヴィータの様子に戸惑ってもいるのだろう。

しばらく項垂れていたヴィータだったが、ムクリと上体を起こし、ムスっとした表情をしながら話をつづける。

 

「・・・・そういう訳で、アタシはヒイロに攻撃を仕掛けたんだが、コイツはそれを全部避けやがった。なのはを抱えてたにも関わらずな。」

「・・・・・・・はい?」

「だーかーら、コイツにマジで攻撃したのに全部避けられたつってんの!!何度も言わせんな!!」

「ええっと手加減とかは・・・?」

「してねぇよ!!それこそ誘導弾とか使った本気中の本気!!それにも関わらず全部澄ました顔で避けやがんだよ、コイツは!!」

 

スバルの言葉にヴィータは声を荒げ、今なお澄ました顔で目を閉じているヒイロにビシッと指を差しながら鋭く尖った犬歯をちらつかせる。

 

「ふっ・・・・初めてヒイロと戦った時は中々心踊るものだった・・・・。」

「嘘こけ。お前思い切り力負けしてて焦った顔してたじゃねぇーか。ばっちり覚えてるからな。」

「・・・・ヴィータ、久しぶりに模擬戦でもやらないか。」

「ああっ!?ほぉーん、そうかそうか。ま、アタシは別に構わねえぜ・・・?」

 

恍惚とした笑顔を浮かべるシグナムをヴィータが言葉のグラーフアイゼンで叩き潰した。

シグナムはその笑顔のまま、それでいて目元が笑っていない表情をしながら親指を突き立てた右手を外へと向け、ヴィータに模擬戦を申し込む。それを挑戦状と捉えたヴィータは獰猛な笑みを浮かべながらシグナムをその視界に捉える。

 

「ちょっと、こんなところでやめてよ!!私なんて腕の骨を粉砕されたんだからね!!」

「は?」

「腕の骨を、粉砕?」

「えっと、誰にですか?」

 

ティアナが素っ頓狂な声をあげ、エリオはシャマルの言葉を反芻し、キャロは恐る恐るその張本人を尋ねてしまった。

シャマルは三人の表情をみると申し訳なさげにヒイロに視線をむける。

 

「ちなみに、ヒイロさんの身体能力はリンディさんのお墨付き。その戦いのあと身体検査をお願いしたんだけど、リンディさんが軽く発狂しました。」

「そ、その結果、どんな感じだったんですか・・・?」

「・・・・聞いちゃう?」

 

なのはの僅かに光が消えている目を見て、スバルはわずかに気圧されるが、ゴクリと喉を鳴らす音を響かせると同時に頷いた。

 

「・・・・計測不能。」

「はい?」

「ほとんどの数値で計測不能を叩き出したの・・・。筋力とか反応速度とか色々。」

「ちなみに私はその反応速度をほぼ実体験済みだよ。」

 

目が微妙に死んでるなのはと微妙な笑顔を浮かべるフェイトにもう四人は笑うしかなかった。

 

「唯一救いだったのが、ヒイロさんにはリンカーコアがないことくらいだったかなぁ・・・・。リンカーコアまであったら本当に私達の存在意義がなくなっていたの。」

「ね、そうだよね・・・。」

 

ヒイロのあんまりな来歴にスバル達は揃ってこんなことを思っていた。

 

(ーーーそれくらいの実力をお持ちならこの二人の師匠ができるのは納得ーー)

 

ちなみにこの新人達四人はヒイロがシグナム達守護騎士が束で掛かっても倒せなかった人物であることをまだ知らない。

 

「・・・・・もはやただの座談会だな、これでは。まだアインスのことも残っているはずだが。」

「みんなヒイロさんが生きて戻ってきてくれたことが嬉しいんやよ、多少は目を瞑ってぇな。」

「・・・・・了解した。」

「改めて思うのだが、ヒイロは本当に人間か?明らかにやることなすこと全てが人外に片足を突っ込んでいるような気がしてならないのだが。」

 

呆れた口調でいうヒイロにはやてが苦笑いを浮かべながら声をかけた。どうやらまだまだ時間がかかりそうなのは明白だった。

アインスの言葉はヒイロに見事にスルーされ、周囲の喧騒の中に消えていった。

その賑やかな喧騒はしばらく続いていたが、ふとなのはが呟いた言葉で一時の歯止めを迎える。

 

「そういえば、ヒイロさんはどこで寝泊まりするのかな?」

「どこでも構わん。それこそ野宿でお前達から適当なものをくれれば問題ない。」

「ヒイロさんはこの部屋ね。」

 

ヒイロは別に野宿でも構わないと言ったがフェイトが即座にディスプレイを映し出すとある一点を指差す。

そこは機動六課の隊舎の間取り図が映し出されており、フェイトの白く、綺麗な指はそのうちの一室を指し示していた。

その間取り図を見る限り、部屋自体はそれなりの大きさがあった。ヒイロ一人で使うにはいささか広かった。

 

「・・・・広すぎるな。」

「んー・・・どれどれ。あー、なるほど、フェイトちゃんも中々強かなことをするんやねー。」

「私も見てもいい?」

 

顔を覗かせたなのはに僅かに顔をニヤつかせるはやてがそのディスプレイの映像を回す。少しの間そのディスプレイを見つめていたなのはだったがーー

 

「あっ・・・・。ここって・・・。」

 

ふと何か気づいたような表情をすると察したような視線をフェイトに送る。そのフェイトはなのはの視線から逃げるように顔をそっぽへと向ける。

その表情はどことなく赤みを帯びていたようにも見えた。

 

「まぁ・・・ベッドも広いから大丈夫だとは思うけど・・・・。」

「・・・・・・その、ごめんね。」

「ううん。そんなことないよ。ただ・・・・フェイトちゃん、割と独占欲って強い方?」

 

なのはがちょっと聞いてみるとフェイトは顔をうつむかせて、その表情が見えないようにしてしまう。

 

「・・・・あまり話が見えてこないのだが。」

「えっと・・・・この部屋はね、私とフェイトちゃんの部屋なの。」

「・・・・・なぜそこにした・・・・。空き部屋はほかにないのか?お前達の自室に俺がいてもなんらメリットなど存在しないだろう。」

 

ヒイロがそういうとなのはの手がヒイロの肩に乗せられる。その目はどこか親友を慈しんでいるような感じであった。

 

「ヒイロさんにはなくても、私やフェイトちゃんにはあるんだよ。少しくらい、一緒にいてあげてもいいんじゃないかな?」

「・・・・・了解した。」

 

 

なのはの説得に渋々といった様子だったが、ヒイロはその部屋割りの件を了承することで一応の決着はついた。

 

「あとはアインスか。」

「あ、それについてなんだが・・・・いかんせんこれといってみんなに知ってもらわなければならないこともないから主はやてに個人的に後で掛け合ってもらうことになった。」

「そうか。お前に関してはそれでもさしたる問題はないか。」

「すまない、一応、私の方も考えてはいてくれていたのだろう。」

「手間が省けることに越したことはない。気にするな。どのみちお前には聞きたいことがあったからちょうどいい。」

 

謝るアインスにヒイロは気にしていない様子で視線を机の上にいる彼女に返した。

 

こうして、ヒイロの機動六課への参入が決定した。

 

 

 

 




どうしよ、色々予定があるのについつい書いちゃう・・・。
だってアイデアが溢れてくる・・・。悔しい、でもつい書いちゃう・・・!!(なんだっけこのネタ)


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第33話 機動六課の隊舎にて

聴取会が一通り終わった後、はやてがこの世界に関してのことを話してくれた。

 

まず、現在ヒイロがいる機動六課が置かれている場所は第1管理世界 ミッドチルダと呼ばれる場所であること。

この世界にははやて達が所属している時空管理局の本部が地上と次元の海の二つに分けられて置かれている。

 

そして二つめはヒイロがリニアレールで接触したあの機械は『ガジェット』と呼ばれる機械兵器であること。このガジェットは『AMF』、略さずに言えば、アンチマギリングフィールドと呼称される、魔力を阻害する効果を持つフィールドを発生させることが可能とのことである。魔法攻撃の威力の減衰、無効化はもちろんの事、タイプによってはガジェットを覆うように展開されるAMFを広範囲に広げるなどと、フィールドの効果範囲内では魔法の使用に多大な影響を及ぼすらしい。

もっともウイングゼロにとっては根本的なエネルギーが違うため関係のないことであったが。

 

そのことをはやてから聞いたヒイロはあてられた部屋、というよりなのはとフェイトの自室にその部屋の主である二人と共に向かっていた。

 

「えっと、一応、ここがヒイロさんのというより私となのはの部屋なんだけど・・・。」

 

フェイトがそう説明しながらも僅かに申し訳なさ気な視線をヒイロに向ける。半ば無理やり自分の部屋にヒイロを招き入れたことが彼女の心の中で引っかかっているのだろう。

 

「・・・・もう過ぎたことだ。俺が何か不平不満を言うつもりはない。」

「・・・・・ありがとう。」

 

フェイトがそうヒイロにお礼を言うと部屋のドアの鍵穴に鍵を挿し込む。そのまま捻ると鍵が開いた音が周囲に響き渡り、部屋のドアが開かれる。

部屋の内装はさながらそこら辺の高級ホテルのようなものであった。

 

窓は広く、快適でなおかつ日光が入り込みやすい形状となっている。置いてある家具の類も見るからに質のいい原材料を使っていることは明白だ。

そして何より、デカデカとおかれたベッドはおよそなのは達ほどの身長であれば優に三人は寝られるほどの大きさはあった。ただし、その大きさ上、ベッドの数自体は一つしかないが。

 

「・・・・お前達、まさかとは思うがいつも同じベッドで寝ているのか?」

「え・・・・?うん、そうだけど?」

 

思わずヒイロはなのはに尋ねてみると、さも当然のような様子で頷いた。

この部屋を使わせてもらう以上、寝る場所といえば、あの大きなベッドしかないだろう。

つまり、ヒイロがそこで寝る=なのはとフェイトと同じベッドで寝るという方程式が成立してしまう。

 

 

「・・・・・安全に睡眠が取れるスペースがあるだけ、問題はないか。」

 

ヒイロとて人間の三大欲求である睡眠は必要だ。だが、ヒイロは今まで戦士として戦場で戦ってきた以上、睡眠時間は疎らになってしまうことは否めなかった。それこそ安全性を求めてしまうと自然と睡眠時間は短くなり、寝られるうちに寝ておくという思考へとなっていく。

 

そんなヒイロの年相応でない思考から導き出されたそんな判断であった。

 

 

 

 

「それじゃあ、私はシャーリーと一緒にレリックの解析に立ち会ってくるから。」

「私もスバル達の訓練に行ってくるね。一応、隊舎の中なら自由にしててもいいってはやてちゃんが言っていたから、部屋から出るときは鍵とかお願いね。」

「・・・・・まだリニアレールにおける事件が終わってから半日と経っていないが?」

「あのレリックは私やはやてが四年くらい前から追っている危険なものなの。時間の許す限り、少しでも早く、レリック関係の事件を終わらせたいの。」

「わたしはスバルやティアナ達が早く一人前になれるように休んでいる暇はないから、ね。」

「・・・・そうか。」

 

ヒイロがフェイトとなのはから部屋に関してのことを一通り聞いた後、二人はそれぞれ部屋から出て行った。なのはは新人達に訓練を施す戦技教導官として、フェイトは執務官として今回確保した高エネルギー体、レリックの解析へと向かった。

 

ちなみに執務官の単語を聞いて、ついでにクロノのことを尋ねてみれば、彼は現在艦隊の提督を務めているらしい。

そのうち彼とも顔を合わせる機会があるかもしれない。ヒイロはそんなことを思っていた。

ただ、そんなことを思いながらもヒイロは少し別のことが気がかりになっていた。

 

 

(・・・・なのはの歩き方、何か不自然だ。)

 

僅かにだが、なのはの歩き方に違和感を覚えた。常人であればあまり気づく可能性は高くないだろうが、人体の理解に関してもそれなりの心得があったヒイロには彼女の歩き方はどこか庇っているようにも思えた。

 

(・・・・何か、下半身に影響が出るほどのダメージを負ったか?)

 

一番は本人に聞くのが手っ取り早いが、確証も何もない状態で尋ねても、なのはの性格では確実にはぐらかすだろう。

ヒイロはひとまずなのはのことは後回しにすると首から下げてあるウイングゼロを手にする。

 

「・・・アインス。」

 

そう呼びかけるとネックレスからアインスが出てくる。半透明の体をフヨフヨと浮かばせている彼女は椅子に座っているヒイロを見下ろすような形を取る。

 

「どうかしたか?」

「聴取会の時に言ったお前に聞きたいことなのだが、現状、その姿ではどんなことができる?」

 

ヒイロがアインスにそう尋ねると彼女は指を顎にあて、考え込む仕草を取った。

しばらく二人の間で沈黙が走るが、ふとしたタイミングでアインスが考える仕草をやめ、ヒイロと向き直った。

 

「できることはかなり限られている。私自身にリンカーコアは残ってはいるがそれも一般的な魔導師に劣るレベルまで落ち込んでいる。精々ちょっとした魔法が使える程度だろう。」

「・・・・・なら、俺が今から言うことはできるか?使用する魔力の量は少量のはずだが、俺に魔力がない以上、どうやっても程度が知れん。」

 

 

ヒイロはアインスに自分が考えていることを伝える。それを聞いたアインスは納得した表情を浮かべると少しばかり考えたのちにこう答える。

 

「・・・・その程度であればできないわけではない。基礎中の基礎な上、それほど必要な魔力を要求されることはない使い方だ。が、それでも精々十分から十五分が限界だ。」

「問題ない。必要だと思った時にしか俺はお前に頼むつもりはない。」

「わかった。だが、お前が少しでもそう思った時は遠慮なく使って欲しい。私とてそこまで柔な存在で終わるつもりはない。」

「了解した。」

 

アインスの意志にヒイロは頷くことでそれを肯定する。やろうとしていたことを済ませたヒイロは表向きの情報収集のために部屋に備え付けられてあったテレビを点けた。そこにはバリアジャケットを着込んだ管理局の魔導師達が犯罪を犯したのであろうデバイスを持った人間を取り押さえている映像が映し出されていた。

 

「・・・・・・やはり、何処の世界、時代でもこのように魔法を悪用するような輩が現れるのだな。」

「・・・・・何処の時代、世界であろうとこうした人間が悪事を働くのは世の中に対する不満、不平などによるものがほとんどだ。それがなくなることはないだろう。だが、中にはこうした不満を持つ者たちを煽動し、何ら罪のない人間を巻き込む戦争へと発展させる奴らがいる。俺はそのような人間を許さない。」

 

悲しげな表情を浮かべるアインスにヒイロは淡々と自身の戦争への嫌悪感を露わにする。

珍しくヒイロが感情を表へ出したことにアインスは少しばかり面を喰らった表情を浮かべる。

 

「・・・・・。」

 

ヒイロは急に立ち上がると待機状態のウイングゼロを手にとって部屋から出ようとする。

 

「・・・・どこかへ行くのか?」

「少し外を回ってくる。お前はどうする?」

「あまりこの状態でいるのも疲れるからな。私もついていくよ。」

 

頷いたアインスがウイングゼロの中に入ったことを確認するとヒイロはなのはに言われた通りに鍵を閉めてから部屋の外へと出た。

 

隊舎の外へ出てみるとすぐ近くにポツンと離れた小島に孤立したビル群が存在しているのが確認できる。

 

「・・・・ここに来るときにあのようなものはあったか?」

「いや・・・あれは幻だな・・・。僅かにだがあの空間一帯に魔力反応がある。」

「・・・・魔法によるホログラムか?」

「その認識で問題ないな。ちなみにあそこになのは達やスバル・ナカジマやティアナ・ランスターといった新人組もいるようだな。」

 

 

つまりなのはが部屋から出て行く時に言っていた訓練というのはあそこでやっているのだろう。

そう判断したヒイロはその訓練施設の元へと歩を進める。

しばらく訓練施設の方へ足を進めているとその小島に繋がる橋が架けられてある場所に燃えるように赤い特徴的な髪色を持った小柄な少女の姿が見える。

 

「ん・・・?おお、ヒイロ、それにアインスもか。訓練の様子でも見に来たのか?」

「外へ出てみれば、見慣れないビル群が聳え立っていたからな。」

 

ヒイロの気配に気がついたのか後ろを振り向いた赤毛の少女、ヴィータにヒイロがそういうと納得のいった表情を浮かべる。

 

「これは六課の技術陣が制作してくれたシミュレーターシステムだ。結構作りは精巧だぜ。」

「見ればわかる。再現性がかなり高いのはもちろんだが、実体性も持ち合わせているのか?」

「見ただけでそこまでわかっちまうお前もお前だな・・・。その通りだよ。このコンソールから色々できるんだよ。」

 

そういいながらヴィータは自身の目の前に映し出されているディスプレイに視線を向ける。

その映像にはシミュレーターの中の様子が映し出されていた。

映像を見る限り、今はどうやらなのはの操るアクセルシューターを避けるなり迎撃する訓練を行なっているようだ。

 

「・・・・基本に忠実だな。基礎的な動きを徹底させているのか。」

「・・・・・お前はどう思う?このなのはの訓練。」

 

ふとヴィータがそんなことを聞いてきた。ヒイロは何気なく答えようとしたが、ヴィータの真剣味を増した表情に気づく。

その表情はさながらヴィータにとってこの質問はかなりの重要性を持っているようにも感じられた。

 

「・・・・戦場において、基礎がしっかりしているのとしてないのでは動きにかなりの違いが出てくる。その分、無駄な怪我を負う可能性も低いだろう。なのはの基礎に忠実な訓練の方向性は間違ってはいない。」

「そうか・・・ならいいんだ。お前がそう言ってくれるとこっちも自信がつくってもんよ。」

 

そう安堵の表情を浮かべるヴィータにヒイロは少しばかり疑念の表情をする。

訓練でも真剣にやらなければならないのはヒイロにとってわかりきっていることだ。しかし、ヴィータのそれは何かなのはに対して不安気なものを抱いているようにも感じられる。

 

「・・・・・ヴィータ、お前に一つ聞きたいことがある。」

「ん?なんだ?」

「・・・・・・俺がいない間、なのはの身に何かあったのか?空を飛んでいるところからはわからないが、歩き方に何か庇っているような不自然さが見受けられる。さながら、腹部、ないしは骨盤に重大な怪我でも負ったか?」

「っ・・・・!?」

 

ヒイロのその言葉にヴィータは目を見開き、驚きの表情を露わにする。

その反応だけでヴィータが何か知っているのは明白であった。

 

「・・・・知っているようだな。」

「・・・・・そこまでわかってんなら、アタシじゃなくてなのは本人に直接聞いたらどうなんだよ。」

「なのはの性格を鑑みるに話すとは思えん。」

 

ヴィータはその様子が易々と思い浮かんだのか苦い表情を浮かべ、視線を暗く落とした。

 

「そのことに関して、アタシはお前に謝んなきゃなんねぇ・・・。」

 

ヴィータの沈みきった声にヒイロはもとより肩に乗っていたアインスも怪訝な表情を浮かべる、

 

「・・・・お前がいなくなったあの時からちょうど2年くれぇ経ったころ、まぁ今からだと大体8年前ってところだったな。」

 

ヴィータはポツポツと語り始める。闇の書事件から2年ほど経ったある雪の降り積もる日、管理局所属の魔導師となったなのはとヴィータはとある任務に赴いていた。

二人の実力を鑑みれば大したことも起こらずに任務を終えるーーそう思っていた。

 

「お前がいなくなった後、なのはは必死に魔法の練習をしてたんだよ・・・。多分、お前ん時みたいに手を伸ばすことができなかった奴を作らないためなんだと思う。」

 

しかし、その儚い願いは無情にもなのはの体を無機質な棘が刺し貫くという最悪の形をもって打ち砕かれる。

 

「止めるべきだったとは今になっても思っている。だけど、お前がいなくなった悲しみはわからない訳じゃなかったからやりすぎだと思いながらも誰も止めなかった。そのツケが、出たんだろうな。」

「・・・・・それで、なのははどうなったんだ?」

「なんとか死ぬ心配はなかったんだけどよ、あとちょっと反応が遅れていれば、瀕死で、最悪二度と飛べなくなっていたほどだった。そこら辺はお前の肉体強化の賜物だったんだろうよ。ギリギリ反応していたみたいだったからな。」

「・・・・あれほどオーバーワークは止せと言ったはずだったのだがな。」

「それに関して、側にいてやりながら止められなかったアタシの責任だ。悪かった。」

 

呆れた口調で教導を行なっているなのはに向けて言葉を放つヒイロにヴィータは頭を下げた。

 

「・・・・お前に落ち度はない。全てはなのは自身のミスが招いたことだ。」

「で、でもよ・・・。」

「アイツは自分の体がまだ出来上がっていなかったにも関わらず、自らの力量を見誤り、過信し、自滅したに過ぎん。それだけだ。」

 

ヒイロはそれだけ言うとヴィータから視線を外し、機動六課の隊舎へと戻っていった。

アインスはヒイロの肩から飛ぶと悲痛な表情を浮かべながら視線を落とすヴィータに接近する。

 

「・・・・ヴィータ、あまりヒイロに悪い気を起こさないでやってくれ。」

「わかってる。ヒイロはアタシに落ち度はないって言ってくれてるけど、あの事件に至ってはアタシが気をつけていれば防げたことだったんだ・・・。」

 

ヴィータはそう言って訓練施設のエリア内が映し出されているディスプレイに視線を移す。

その映像にはスバル達に懸命に指導をしているなのはの姿があった。

 

「だから、アタシがなのはを守るんだ。もう二度と、あんなことにならないように。」

 

ヴィータの決意とも取れる言葉だったが、その様子にアインスはどこか難しめな顔を浮かべていた。

 

「・・・・ヴィータ、お前が自責の念に苛まれるのはわかるが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことなのか?私にはそこのあたりがどうも疑問に思ってしまう・・・。」

「え・・・・?」

「・・・・・いや、忘れてくれ。独り言だ。」

 

呆けた表情を浮かべるヴィータを尻目にアインスは先に隊舎へ戻ったヒイロのあとを追い、その場を後にした。

 

「そこまで変わらなければならない、か・・・・・よく、わかんねえよ。」

 

アインスの言葉にヴィータは悩ましげに頭を掻き分けるだけであった。

 

 

 

再びヒイロの元へ戻ってきたアインスはその小柄な体をヒイロの肩に預ける。

それに気づいたヒイロは一度視線をアインスに向け、確認するように彼女を見やるとすぐさま視線を正面に戻した。

 

「ヴィータの方はいいのか?」

「ああ。・・・・・というより、これはヴィータ達の問題だから私がずけずけと入り込んでいい問題かどうか判断しかねている、というのが正直なところだがな。あくまで私やヒイロはその場に立ち会っていない、いわば全貌を何も知らないような立ち位置なのだからな。」

「中途半端に知った顔をすると事態が悪化しかねない。そういうことか。」

「まぁ、私からお前に頼むとすればいつもと変わらない様子で接してやってくれ、というところだな。元工作員ならそれくらいのポーカーフェイスくらいはできるだろう?」

「・・・・・わかった。」

 

そのまま六課の隊舎のエントランスを潜ると何人もの濃い茶色の制服に身を包んだ管理局の職員達が書類などを片手に歩きまわっている様子が見える。

 

「そういえば、はやてのところへはまだ行っていないのか?」

「ああ・・・・そうだな。主に時間が空いているかどうかは定かではないが、一応、顔は見せに行きたい。」

「了解した。」

 

ヒイロは管理局の職員が忙しなく動き回っている中を進んでいく。隊舎の間取りについてはなのはとフェイトに部屋へ案内されている時に覚えたため、特に迷うことなくはやてのいる部隊長室へと到着する。

 

スライド式のドアの横に設置されてあるボタンを押すと中から来客を告げるブザーが鳴り響く。

 

「はーい。入ってどうぞー。」

 

程なくして中からはやての入室を許可する声が聞こえてくるとヒイロはドアの前に立った。空気が抜けるような音が響くと同時に目の前のドアが横へスライドし、ヒイロは部隊長室の中へと入室する。

そこでははやてが映し出されるディスプレイとにらめっこしながら仕事をしている光景があった。

 

「どちらさまー・・・ってヒイロさんやないか。アインスも一緒か?」

「わぁー!!ヒイロさんなのですー!!」

 

僅かにディスプレイから視線を外し、来客がヒイロだと視認したはやては嬉しそうに表情を綻ばせながら席から立ち上がった。

隣ではツヴァイが小さな机から身を乗り出しているのが見えた。おそらく彼女専用の仕事用デスクなのだろう。

 

「主はやて、どうやら仕事があまり済まされていないようですが、また時間を改めた方がよろしいでしょうか?」

 

アインスのこの言葉にはやては彼女が部隊長室にやってきた理由を察した。はやてはディスプレイを確認して、急がなければならない書類などがないことを確認すると再度ヒイロ達に向き直った。

 

「そんなに急がなあかんものはないから大丈夫やで。それはそれとして、アインス、今は夜天の書の管制人格なわけやないから別に主呼びはせぇへんでええんやで?私的には普通にはやてって呼んでほしいんやけど、ダメ?」

「う、ん・・・・。ぜ、善処は、します・・・。」

 

中々歯切れの悪いアインスの返事だったが、はやては彼女のそのような反応にも笑顔を示した。

 

「アインスにとってはまだ闇の書事件から1日も経っておらへんからな。そんなすぐに改めてなんて言わへんでー。」

 

そう柔らかな笑顔を浮かべるはやてにつられるようにアインスも表情を柔らかなものへと変える。

 

「それで、来てくれた理由はアインスがどうして消滅から逃れられたのか、それを教えに来てくれたんやな?」

「そうですね。先ほども言いましたが、お仕事がまだ済んでおられないようでしたら、また改めて来ますが。」

「大丈夫ー大丈夫ー。多分、長くなるんやから席に座って話しよか。」

 

はやてが部隊長室にある来客との対談用の椅子に腰掛ける。ヒイロもはやてが座った後に彼女から促されるように席に腰掛ける。

体が小さい二人の妖精は机の上に直接座るような形となってしまうが、それを咎めるようなことはしない。

 

「お茶とかいる?」

「・・・・・飲めるのか?」

「・・・・そういえば、どうなんだ?」

 

はやての問いにヒイロは半透明な体と化しているアインスに視線を向ける。自分が食事などの摂取が可能かどうかがわからなかったアインスは軽く首をかしげる。

 

「アインスもそうやけど、ヒイロさんはいるんか?」

「・・・・もらおう。」

「ツヴァイもいるー?」

「ありがとうです!」

 

先ほどの問いが本来は自分に向けられていたことを察したヒイロは一応もらうことをはやてに伝える。

程なくしてヒイロの前にお茶が差し出される。

 

「はい。味は地球のものと同じかわからんけど。」

「問題ない。味に関して俺がとやかく言うつもりはない。」

 

ヒイロはそう言うとはやてが入れてくれたお茶を口にする。アインスはおそるおそる小さなカップ、推察するにツヴァイ用の容器なのだろう、そのカップからお茶を少しだけ飲んでみた。一応、お茶が体を貫通するなどと言うことはなく、お茶は問題なくアインスの体に吸い込まれていった。

 

軽く喉を潤したヒイロとアインスは再びはやてに視線を移した。

そして、アインスが闇の書からの分離を果たすまでの経緯、夢の世界で生まれた存在ながら、本体に反抗し、祝福の風を未来へと送り届けた者達の物語を話した。

 

 

 

「・・・・なるほどなー、闇の書の内部に広げた夢の世界の人達、か。聞いているだけやとかなりメルヘンチックやけど、その夢の世界はヒイロさんとフェイトちゃんの記憶を基に作り上げたんやっけな。え、でも一応本来であればその夢の世界の人達はアインスの管理下にあるんやったっけ?」

「基本、夢の世界の産み落とされた人間達は対象を夢の世界から抜け出さないように引き止めるなりなんなりの反応をするのですが・・・。今回は、特にヒイロの記憶から生み出した者達はその夢の世界が偽りであり、なおかつヒイロがそれを望んでいないことすらもわかっていたらしく、かなり好き勝手やられましたね。」

 

アインスの苦笑いを浮かべながらの言葉にヒイロは夢の世界で再会したあの少女と子犬、そしてかつて敵対したエピオンを駆りながらも自分を援護してくれたゼクスのことを思い返していた。

 

「もっとも、彼らのその好き勝手のおかげで私はこうしてはやてと会話できているので、今となっては彼らには感謝の思いしかありませんが。」

「なるほどなぁ〜。ありがとな、教えてくれて。」

「いえ、謎を謎のまま残していくわけにははやての仕事柄、厳しいと思いますので。」

「い、一応ある程度までは寛容でいようとは思ってるんやけどな・・・・。そういう子、結構ウチにはおるし・・・,」

 

乾いた笑いを浮かべるはやてに表情を緩めたアインスの顔が映り込む。ヒイロはその二人の邪魔をしないように静かに黙っていたのだがーー

 

「あ、せや。ヒイロさん、今度ちょっと付き添ってくれへんか?」

「唐突だな。どうかしたのか?」

「今度、任務で海鳴市に行かなきゃならへんのだけど、リンディさんやエイミィさんが海鳴市におるんよ。ヒイロさんにとってはそんなに月日が経っていないけど、久しぶりに顔を出しに行かへんか?絶対喜ぶと思うんやけど。」

「・・・・・・いいだろう。断る理由もないからな。」

 

ヒイロのその返答にはやてはうれしそうな表情を浮かべるのであった。

 

(・・・・海鳴市、か。あまり実感は湧かないが、10年という長い年月が経っている今、どうなっているのだろうな。)

 

 




ちょっと本文中であまりうまく描写できてないような気がするので補足を少しだけ書きます。

ぶっちゃけるとStsにおけるなのはの撃墜事件ですが、それほどなのは自身に深い損傷はありません。
せいぜい横の脇腹が臓器に影響が出ない程度に貫通されて、半年近く入院していました。
余談ですけど、フェイトちゃんは一回しか執務官試験を落ちていない感じになっています。


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第34話 ヒイロの秘密

ちょっとゴリラより握力が強くて(およそ10倍)骨折とか自力で治せてのうはもそれなりに制御ができるだけのどこにでもいない少年。

戦闘機人もびっくり。ぜひもないよね。


「そういえば、はやて。お前についでに聞いておきたいことがある。」

「ん?どうしたん?」

 

部隊長室で海鳴市での任務について話していたはやてはヒイロの突然の質問に首を傾げながらもその内容を尋ねる。

 

「リニアレールでの戦闘の際、なのはとフェイトをウイングゼロのレーダーで捕捉したアインスが二人の魔力量が少なすぎると言っていた。何かリミッターでも設けているのか?」

「あー、それかー。うん、ヒイロさんの言う通り、私含めて、スターズとライトニングの各隊の隊長、副隊長にはリミッターが設けられておるんや。」

「リミッター・・・・ですか。」

 

アインスの呟きにはやては頷きながら、管理局では『能力限定』と呼ばれる魔力リミッターの説明を始める。

 

「このリミッターを説明するにあたってまず知っててもらわなあかんのが魔導師ランクの存在や。管理局では魔力の質だったり保有する魔力の量でSSS(トリプルエス)を一番上にしてランク分けされておるんよ。ちなみに私は総合SS(ダブルエス)。なのはちゃんやフェイトちゃんは空戦S+。まぁ、Sランクより上いったら管理局でも指折りの魔導師達って言う認識で構わないで。」

「ちなみに私はA+なんです!!」

「ツヴァイもかなり将来が有望なようだな。」

「わーい!アインスさんに褒められたですー!!」

 

はやての説明に途中、総合や空戦という単語が出てきたが、ヒイロはそれぞれ総合的に見てSSランクだったり、空での戦闘能力を鑑みてのS+であるという認識で済ませた。だが、魔力の質や量だけで判断しているということはその人物自体の実力を換算しているわけではないように思える。

 

「・・・・魔力の質など、ということはそのランク=実力という訳ではないということか?」

「まぁ、そうやね。話は戻すけど、その魔力ランクは部隊を編成するにあたってもかなり面倒な制約みたいなもんがあるんや。」

「・・・・大方、Sランク以上の魔導師を中心的に集められなくなっているといったところか。」

「そうなんよ。まさにその通りで、そのままのランクで私達やシグナム達を編成すると管理局が設定した部隊ごとの保有魔力量の上限を余裕でキャパオーバーしてしまうんよ。」

「・・・・なるほど、それで魔力の質や量をリミッターをつけることで下げたのですか。」

 

アインスの結論にはやては大きく頷くことでその結論が間違っていないことを示した。

 

「要は裏技みたいなもんや。アインスが感じたなのはちゃん達の魔力量の低さはそのリミッターのせいなんや。」

「リミッターということはそれを外すことも可能なのだろうな。その権限のようなものは個人で所有できるのか?」

 

ヒイロの推察の上での質問にはやては首を横に振った。どうやらそのリミッター解除は任意でできる訳ではないようだ。

 

「そのリミッター解除の権限はなのはちゃんやフェイトちゃん達は部隊長である私が持ってる。で、私自身の方はクロノ君とカリムが持っとる。」

 

カリムという知らない人間の名前に訝しげな表情を浮かべるヒイロだったが、すぐさまはやてが六課の後ろ盾になってくれている聖王教会という組織の騎士というざっくりとした説明でひとまずヒイロは納得の形を示した。

 

「・・・・そのリミッターについての説明は理解した。しかし、お前も中々規則の穴を狙ったことをするな。」

「あ、わかってしまうん?」

「その魔導師ランクや部隊編成時の制限の説明さえあればすぐにその答えには行きつく。俺はリンカーコアというものがない。つまり俺は魔導師ランクで測ることはできない以上、その部隊編成時の制限に引っかかることはなければ、リミッターを設ける必要性もない。さらに民間協力者の形で敢えて公然に俺の名前を出させることで追及を受けても簡単にはぐらかすことは可能だ。魔力を持っていないから制限には引っかかっていないとな。」

 

ヒイロがそこまで言ったところではやては口角を吊り上げ、悪どい笑みを浮かべる。が、それもすぐにいつもの朗らかなものへと変わった。

 

「・・・・さすがやでぇ・・・。そ、ヒイロさんはいつでもその本気の実力を発揮できるまさに裏技を体現したような立ち位置におるんや。まぁ、ヒイロさんが自分からセーブするって言うならしゃあなしやけど。」

「・・・・・ツインバスターライフルの火力はこのミッドチルダの都市部で使うには危険すぎる。基本、俺の武装はビームサーベルだけだ。そこはお前だってわかっているだろう。」

 

ヒイロの言葉にはやては重々しく頷いた。はやてもウイングゼロの火力を目の当たりにしている。部隊長としてはもちろんのこと、管理局員として、使用することで敵は討ち果たせても、本来守るべきミッドチルダの人達を犠牲にしては本末転倒である。

 

「それは重々わかっとる。あれは都市部で使っちゃあかん武装や。使い方や状況によるけど、どうであれ被害が大きすぎる・・・。」

「・・・・使う時はお前に許可を取っておいた方がいいようだな。」

「・・・・いや、基本的には判断は任せる。私はヒイロさんがアホみたいな使い方はしないって信じとるから。」

「・・・随分と信頼されているな。」

 

はやての信頼しているという言葉にヒイロは呆れ気味の視線を向けていたが、はやての表情はそれでもなお柔らかなものであった。

その表情を見たヒイロは呆れていた視線を閉じると徐に立ち上がり、部隊長室から出て行こうとする。

 

「海鳴市の任務の件はよろしくや。それと、アインスのことも。」

「・・・・わかっている。」

 

アインスを連れたヒイロはドアをくぐり、部屋から退出していった。その姿を送ったはやてもおもむろに立ち上がると自分の机の引き出しを引いた。

そこにはそれなりに年月が経っていたのか、ところどころ毛が抜けたり、綿がくたびれたから萎んだテディベアが出てきた。

 

「はやてちゃん?その熊のぬいぐるみは・・・?」

「そっか。ツヴァイにはあまり見せたことなかったやね。これはなーー」

 

「シグナム達家族とはまた違う、私が大事に思っとる人からのクリスマスプレゼントや。」

 

そういったはやての視線はヒイロが出ていったドアに注がれていた。

 

 

 

 

 

 

はやてと一通り話したヒイロは部屋を後にし、廊下を歩いていた。その時間の中でヒイロははやてとの会話の整理をする。

管理局から下された任務は海鳴市にどうやらロストロギアの反応が現れたらしい。それの捕獲任務にロストロギアの捜査などをメインにおいている機動六課に焦点が当てられた。ざっくりいうとそのような感じであった。

部屋を出たヒイロがふと外に視線を向ける。

外の光景はそれなりに時間が経っていたのか、日は沈み、夜になりかけていた。

 

(・・・・そろそろ部屋に戻った方が賢明か。)

 

そう感じたヒイロは自室、というかなのはとフェイトと部屋にその足を進める。

その道中、隊舎の食堂のそばを歩いているとーー

 

「あ、ヒイロさんだ。」

 

ふと自分を呼ぶ声が聞こえた。どうやら食堂のテーブルが置かれてある方向からその声は飛んできた。とりあえず声のした方角へ視線を向けてみると、そこにはスバル達フォワード四人組がいた。

 

「スバル・ナカジマか。俺に何か用か?」

「うわーお、まさかのフルネームで呼ばれた・・・・。」

 

フルネームで名前を呼ばれたことが意外だったのか、スバルは苦笑いを浮かべながら乾いた笑いをする。

四人が座っている机の上にはかなりの量が盛られたパスタ系の料理が置かれていた。明らかに一食分にしてはカロリー過多な気がするが、まだ幼いエリオの前にもスバルと同じくらいの量が置かれていることにヒイロは追及の口を噤んだ。

 

「特に用がないなら俺はなのは達の部屋に戻らせてもらうぞ。」

「ああっ、ちょ、ちょっとまって!!」

 

その場を立ち去ろうとした足がスバルから制止の声がかけられ、ヒイロは呆れを含んだ視線を向けながらもその足を再度止める。

その反応にスバルは苦い表情を浮かべながらもその目はしっかりとヒイロを見つめていた。

 

「えっと、一緒にご飯でも食べませんかーって思ったんですけど・・・・。」

「・・・ことわ『別に構わない。時間的にもちょうど良かったからな』・・・アインス。」

 

スバルの誘いを断ろうとしたヒイロだったが、不意にウイングゼロから出てきたアインスが勝手にその誘いを承諾してしまう。ヒイロはアインスを睨みつけるが、当の本人は何処吹く風といった様子であった。

 

「ある人間に、無口で無愛想で無神経な奴をよろしくと頼まれてしまったからな。それに彼女らとは任務を共にする以上、それなりに付き合いが長くなるだろう。交流を深めていてもいいのではないか?」

「・・・・・ちっ、余計なことをする奴だ・・・・。」

 

そういいながらヒイロは踵を返した。一瞬帰ってしまうのかと思ったスバルが手を伸ばしたが、その足は部屋へではなく、食堂のカウンターへと向かっているのをみると伸ばした手を引っ込めた。

 

「私達はヒイロの席を用意しておくか。頼めるか?いかんせん、この体ではろくなものが持てないからな。」

「あ、はい!!わかりました!!」

 

ふよふよと浮きながら手がかかるというように両腕を軽くあげ、肩をすくめるアインスの言葉にスバルは心なしか嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

「スバル・・・アンタ本当によく誘えるわね・・・。顔合わせはしていたとはいえほぼ初対面のあの人を、ね。」

「いや〜、せっかく同じ部隊に入ることになったんだし、少しくらいは話しておかないとね。」

「でも、いいんですか?ヒイロさん、それほど快く思ってなさそうな顔をしてましたけど・・・。」

「うん・・・・なんだか少し怖い・・・・。」

 

ティアナの言葉に嬉しげに頭に手を回し照れ隠ししているスバルとは反面にエリオとキャロはどこか不安げな表情を浮かべている。聴取会の時にヒイロがとっていた態度が少し怖く見えてしまったのだろう。

 

「・・・・基本、ヒイロは朗らかな表情が表に出てくることはないからあまりよい印象を与えないかもしれないが、彼は存外に優しいぞ。それほど身構える必要はない。」

「そう、なんですか?」

「彼と接していれば自然と分かるものだ。」

「・・・・何を話しているんだ?」

 

エリオとキャロ、それにアインスがそこまで話したところにちょうどヒイロが料理が盛られた皿を片手で持って戻ってきた。反対の手にはなぜか何も載せられていない小さな皿があった。

 

「あれ、そのお皿、何も乗ってませんけど?」

 

スバルがそう尋ねるもヒイロは何も答えることはせずに両方のお皿を机の上に置いて席に着いた。料理の載せられた皿は自分の前に、真っ白で小さな皿は机の上に座っているアインスの前に置いた。

そのままヒイロはフォークとナイフを器用に用いて自分の皿に盛られた食材を切り分け、アインスの何も乗っていなかった皿に移した。

 

「・・・・お前の分だ。一応渡しておくが、それで足りないのであれば言え。」

 

そう言ってアインスの皿にそれなりの量を移していった。しかもちゃんとアインス用に小さいフォークやスプーンを置くというおまけ付きである。

 

「ほらな。」

「ほぇー・・・・。」

「ホントだ・・・・。」

「ちゃんとアインスさんが食べられるサイズまで切り分けてる・・・。」

「あの・・・その、ごめんなさい。」

 

アインスが笑みをうかべながらたった一言そういうとスバル達は意外性を持った視線をヒイロに向ける。キャロに至ってはヒイロに申し訳なさげに頭を下げている始末であった。

 

「・・・・・なんのことだ?」

 

しばらく見つめられたヒイロだったが、視線の意図が分からず、疑問気な様子を醸し出しているだけであった。

 

 

「そういえば、ヒイロさんってなのはさんとフェイトさんの師匠だったんですよね?」

「・・・・一応な。最初はフェイトにせがまれ、それを聞いたなのはが後から頼んでくる形だったがな。」

 

山盛りになっているパスタを頬張りながらスバルがそんなことを聞いてくる。ヒイロは食事の手を止めると、スバルに視線だけ向けながらそう言った。

 

「でも、ヒイロさんってリンカーコア、ないんですよね?」

「確かに俺はリンカーコアを持っていないため、魔法を扱うことはできない。そのため、俺がアイツらに施してやったのは肉体強化の方だ。特になのはは負荷がかなり高い砲撃魔法を扱っていたからな。怪我を負わないように、なおかつ迅速にやらねばならないという板挟みだったがな。」

 

ティアナの疑問気な言葉にヒイロは表情を変えることなく答える。

しかし、そのヒイロの言葉に四人は疑問気な表情を隠しきれない。

基本的に魔導師にとって重要不可欠であるリンカーコアがなければデバイスを動かすことはできない。

しかし、機動六課にきた時に、ヒイロはデバイスと思われる白い翼を展開していたのを四人は色濃く覚えていた。

 

「でも、隊舎にきた時に出したあの白い翼はデバイスなんですよね?ウイングゼロって言う・・・。」

「カテゴリー的にはそうなるのだろうな。」

「カテゴリー的には・・・・?」

 

エリオの問いに答えたヒイロにキャロが首を傾げることで疑問を浮かべていることを露わにする。

 

「推測の上、試すつもりも毛頭ないがウイングゼロは誰でも扱うことは可能だと考えている。」

「それってつまり、私やティアでもウイングゼロを使えるってことですか?」

「命の保証はしない上にお前達にゼロを扱う覚悟があればの話だがな。」

「えっ・・・・命?」

 

気軽に聞いたつもりだったが予想以上に重い言葉で帰ってきたことに思わず表情を強張らせるスバル。

ティアナやエリオ達もびっくりした表情を浮かべている。

 

「・・・・・もっとも俺はお前達にウイングゼロを触らせるつもりはないがな。」

 

それだけ言うと食べ終わったのかヒイロは先に食べ終わっていたアインスの皿と自分の皿を一緒に持って片付けていった。

アインスもヒイロの肩に乗って、ついていく形で去っていった。

 

「・・・・聞き取りの時もヒイロさん、協力する条件でウイングゼロには触らせないで欲しいって言っていたよね?」

「ええ、そうね。それが一体何を意味しているのかはあたしにはわからないけど。」

「フェイトさんは何か知ってそうな感じだったよね。」

「うん、八神部隊長にも、ヒイロさんが機動六課のことを思って言っているって。」

 

 

ヒイロが食堂から去った後、スバル達はヒイロの言葉にひっかかりを覚えたのかお互いに顔を見合わせて話し合っていた。

 

 

「ティアナさん、何かわかりませんか?」

「ちょっと、あたしも今わからないって言ったばかりなんだけど。」

 

エリオに質問を向けられたティアナは目を細めながらエリオの方を見つめる。

見つめるというより睨みつけられたエリオは乾いた笑いを浮かべながら頰をかく。

 

「とはいえ、あそこまで覚悟やら命やら重い単語を出してきたってことはやっぱりヒイロさんのウイングゼロには何かあるってことなのよね。」

 

ティアナの脳内で何か手がかりはないかと記憶を漁り始める。とはいえ、ヒイロ関係といえばリニアレールにおける戦闘しかないため、ティアナとスバルが降り立った前半車輌のガジェットが悉く破壊されていたことくらいだ。

 

「ごめん。あたしにはこの前の出動で前半車輌のガジェットを倒したのがヒイロさんの仕業だって推測することしかできないわ。」

「そういえばヒイロさん、技術の漏洩うんぬんとか言ってなかった?」

「となると、ヒイロさんのウイングゼロはミッドチルダのとは違う技術で作られているんでしょうか?」

「やっぱりヒイロさんの口から聞くしかないんじゃないですか?」

「・・・・あの人、そう簡単に話してくれるのかなぁ・・・。」

 

キャロの提案にスバルは苦い表情を浮かべながらパスタを頬張る。表情筋がガチガチに固まっているのではないかと錯覚するほどのヒイロの鉄面皮ぶりにスバルはとてもじゃないが、ヒイロが話してくれるとは思えなかった。

 

「うーん、って、もうこんな時間じゃん!!明日もまた訓練あるんだから早く寝ないと!!」

「えーと。うそっ!?ホントだ!!朝起きれなくて寝不足になった状態でなのはさんの訓練耐えられる気がしない!!急ぐわよっ!!」

 

ふと時計を見たスバルが切羽詰まった表情をしながら食堂を出て行く。それにつられるようにティアナ、エリオ、キャロの三人も急いでそれぞれの自室へと駆け込んでいった。

 

 

 

スバル達と別れたヒイロは自室に指定されてしまったなのはとフェイトの部屋に向かっていた。

やはり夜になっているのもあるのか照明で明るいはずの廊下もまばらに人が通るだけで徐々に静寂が包むようになってきていた。

 

「あ、ヒイロさん。」

 

後ろから声をかけられたヒイロが振り向くとその先にはなのはが立っていた。おそらくスバル達の教導の事後処理を終えたばかりなのだろう。

 

「部屋に戻るのか?」

「部屋には戻るけど、明日のスバル達のメニューを考えなくちゃ。だからすぐには寝ないかな。」

「・・・・そうか。」

 

ヒイロは特になのはと言葉を交わすことなく、視線を彼女から外すと再び廊下を歩き出した。

 

「あれ・・・?ヒイロさんは部屋には戻らないの?」

「俺はまだ隊舎を回ってくる。俺が部屋にいれば気が散るだろう。」

 

首を回し、顔だけなのはに向けながらヒイロはそういった。なのはは少しばかり申し訳なさげな表情を浮かべてしまう。

 

「あの、ごめんね。気を遣わせちゃって。」

「お前にはお前のやるべきことがある。が、これだけは言っておく。無理はするな。」

 

その言葉を最後にヒイロは廊下の十字路を曲がり、なのはの視界からは見えなくなった。

ヒイロの姿が視界から見えなくなるとなのはは申し訳なさそうにしていた表情を一層深め、気まずそうな視線をする。

 

「もしかして、ヒイロさん、私の怪我のこと、知っちゃったのかな・・・。」

 

そう言葉を零すとなのはは自身の脇腹ーー8年前、貫かれて大怪我を負った部分を労わるようにさすった。

 

「ごめんなさい、ヒイロさん。私は、貴方の忠告を守れなかった・・・・。でももう二度と貴方を失うような体験は、もうしたくなかった。だからーー」

 

なのはは表情を沈めたまま暗い自室へと戻っていった。

さながら今の彼女の心情を暗示しているような、暗く、黒く、先の見えない部屋であった。

 

 




次回、ヒイロがやらかすかもしれない


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第35話 Tumultuous night

だいたいの意味 ・・・・「騒がしい夜」

それはそれとしてやらかした感が半端ではないです(白目)
あったかい目で見てくれるとありがたいです・・・。


「・・・・高町なのはの怪我のことはとやかく聞かないのだな。」

 

ヒイロの廊下を歩く音だけが周囲に響き渡る中、肩に乗ったアインスが不意にそのようなことを呟いた。

 

「・・・・聞いたところでなんになる。俺に過去でも変えろとでも言うのか?」

「・・・・いや、そこまでは言わないのだが。もう少し彼女に声をかけてやってもいいのではないか?」

 

そういいながらアインスは首を回し、自身の後方を見た。部屋に入っていったなのはのことを見ていたのだろう。

そんな彼女にヒイロは一瞬だけ視線を向けるが、すぐさま前方に戻した。

 

「俺が何かなのはに言ったところで、最終的に決めるのはなのは自身だ。だがーー」

 

ヒイロはそこで一度言葉を区切ると、はっきりとした口調で言葉を放つ。

 

「奴が道を誤るのであれば、止めるなりの対応はするつもりだ。」

 

それだけ言うとヒイロはそれ以上言葉を放つことはなく、お互い無言で六課隊舎を回り始める。

 

 

 

 

「ふぅ・・・・。レイジングハート、今何時?」

『11時を回ったところです。流石に寝ないと明日の訓練に寝坊してしまいますよ、マスター。』

「あはは・・・・そうだね。」

 

明日の教導プランを一通り組み終わると、腕を真上にして腕を伸ばす。ついでにレイジングハートに時刻を聞いてみると日を跨ぐまで一時間もない時間を示しながら睡眠を取るように促してくる。

 

「ねぇ、レイジングハート。ヒイロさん、怒っているかな?」

 

不意にレイジングハートにそんなことを聞いてみる。さきほどヒイロと鉢合わせた時、ヒイロはなのはの怪我についてわかっているような口ぶりを彼女に見せた。

その時は労ってくれているような口調だったが、いつも感情をあまり表には見せないヒイロのことだ。その無表情の先に怒りがないとは限らない。

 

『・・・・どうでしょうか。私もヒイロ殿の心情はわかりませんが、約束を違えられたことに度合いこそはあれど怒りを抱かない人間はいないのでは?』

「・・・・・やっぱりそうだよね・・・。でも、私が頑張らないとみんなを守れないし・・・。何より、またヒイロさんみたいに誰かとあんな急な別れ方はするのはもう、嫌だ・・・。」

『マスター・・・・・。』

「あっ・・。ご、ごめんね、そんな悲しくするために言ったわけじゃないから・・・!!」

 

そう言って悲痛な表情を浮かべるなのはにレイジングハートは何も言えなくなってしまう。

自身の相棒が沈黙してしまったことに気づいたのか、なのははハッとした表情へ変えるとパタパタと手を横に振りながら焦った口調でそう言った。

 

「・・・・とりあえず、今日はもう寝るね。おやすみ、レイジングハート。」

『・・・良い夜を、マスター。』

 

机から立ち上がり、薄いオレンジ色の寝巻きに着替えたなのははベッドで横になると程なくして整った寝息を立て、眠りについた。

 

 

 

「・・・・一通りは回ったか。」

「そのようだな。時刻はそろそろ日を跨ぎそうだが、戻るか?」

「・・・・・戻るか。休める時には休んでおかなければならないからな。」

 

最終的に食堂で部屋への帰路につくことにしたヒイロは特にどこかへ寄り道することもなく部屋へたどり着く。

空気が抜けた音と同時に開かれたドアを潜るとベッドの上にできた山が目に入るが、それをなのはだと判断したヒイロはソファに腰掛ける。

 

「ベッドで寝ないのか?大きさ自体はかなり大きいからお前が寝ても差し支えはないと思うが・・・。」

「この体勢で寝た方が有事の際には早く行動が出来る。」

 

ヒイロの答えにアインスは苦笑いを禁じ得なかった。それなりにヒイロの記憶を覗いてしまっているため、ヒイロの行動になんとなく理解を示している自分がいるのも相まって、その苦い表情を一層深めてしまった。

 

「ああ……うん。お前ならそうするだろうなぁ・・・・。」

 

そのまま眠りについてしまったヒイロにアインスはそれしか言うことがなかった。

話し相手がいなくなったアインスもしょうがないというようにウイングゼロの中に引っ込み、自身も睡眠を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

「シャーリー、ごめんね。こんな時間まで付き合わせちゃって。」

 

時刻はなのはもヒイロも寝付いた頃、機動六課の隊舎に一台のスポーツカーのような車が停車する。その車の運転手が申し訳なさげに謝罪の言葉を述べているのは管理局員として濃い茶色の制服に身を包んだフェイトであった。

 

 

「気にしないでください、フェイトさん。解析やら調べ物が私達ロングアーチの本領のようなものですからー。」

 

フェイトの謝罪の言葉はシャリオ・フィニーノ一等陸士(愛称 シャーリー)は一切気にしていない様子で彼女の代名詞でもある人懐っこい笑顔を浮かべる。

そのシャーリーの笑顔にフェイトもつられるように軽い笑顔を浮かべる。

今回連れ回してしまった彼女とはそこで別れ、指定の駐車場に自身の車を止めたフェイトは隊舎の敷地内を歩きながら、今回の調査の整理を頭の中でざっくりと行う。

 

レリックの解析に立ち会っていたフェイトだったが、ついでに写していたガジェットの内部機械に見覚えのある宝石、そして名前があった。

前者は『ジュエルシード』後者は『ジェイル・スカリエッティ』という名前であった。

ジュエルシードはフェイトがヒイロと出会う前にひょんなことから魔法を扱うことになったなのはとその宝石を巡って、争いあう原因となった代物であった。

そのジュエルシードは本来であれば、管理局によって厳重に保管されているはずなのだが、どういう訳かガジェットの中に埋め込まれていた。

 

その入手経路は専門の知り合いに任せるとして、問題はジェイル・スカリエッティの方だ。

 

ジェイル・スカリエッティ。一言で言ってしまえば、マッドサイエンティストだ。数々もの事件に関わり、未だ逮捕までに至っていない広域次元犯罪者に指名手配されている危険な人物。フェイトが執務官として長年追っている男でもある。

その科学者の名前がこの間のリニアレールで倒したガジェットⅢ型の動力部にプレートとして名前が刻まれていたのだ。

本人なら挑発、模倣犯ならミスリード。ただどちらであれ、その名前が刻まれていることがフェイト達に対する挑戦状であると思っても良かった。

 

思案に耽りながらフェイトは自室へと戻っていく。ベッドには既になのはが寝息をたてて寝ていることがわかる。

本当はもう少し整理やらをしたかったが時刻は12時、日が変わってしまった頃合いを時計は指し示していた。

 

「明日は明日で別の用事があるからもう寝ないと・・・。」

 

そういいながらフェイトは管理局員の制服を()()()()()()()()()()()、ワイシャツの下に隠れていた黒い下着姿一枚になると、そのままなのはが寝ているベッドで寝ようとする。

 

「・・・・あれ?」

 

ふと気になった点を見つけたフェイトはベッドに伸ばしかけた手を止めると視線をベッド全体に向ける。

今そこで寝ているのはなのは一人だ。完全に私情が入っていたが、部屋にいるはずのヒイロの姿はベッドの上にはなかった。

 

(・・・・・ヒイロさん、まだ部屋に戻ってきてない・・・?)

 

そう思った瞬間、自身の格好を再確認する。今、自分が着ているものは上下共々下着しか着ていない。

つまり、とても男性に見せられるような格好ではないということだ。しかもヒイロのような一応は年下の人にはもっと見せられない。

そこまでの思考に至った時、フェイトの思考速度が加速度的に上昇する。

 

(仮に、仮にだよ?ヒイロさんが運悪く、運悪く(ここ重要)このタイミングで部屋に入ってきて、私のこの状態を見たら、どう思うかな・・・?)

 

 

 

1、顔を僅かに赤くしたヒイロが咄嗟に視線を逸らし、自分に服を着るように促す。

 

「・・・・絶対ない。あのヒイロさんにしては流石に都合が良すぎる。」

 

混濁した頭のシミュレートでもヒイロがそんな青少年みたいな反応をするはずがないと結論づけ次のシミュレートを始める。

 

2、ヒイロは特に気にしない様子でいつも通り、無表情な顔で接してくれる。

 

「それはそれで傷つく・・・・。私、そんなに魅力ないかなぁ・・・・。」

 

自己嫌悪に陥りそうなフェイトだったが、その考えを即座に振り払い、次の脳内に浮かんだ未来をイメージする。

 

3、気持ち悪がられ、痴女判定を受ける。現実は非情である。

 

 

「・・・・一番ありえるのは2番かな・・・・。」

 

即座に思考を中断して、心的ダメージを最小限にしたフェイトはひとまず服を着ることにした。

しかし、いつも下着姿で寝ているため、なのはのようにパジャマといった寝間着の服がないフェイトは一度脱いだ管理局員の制服を着ようとする。

仕事に疲れてろくに服も着替えずに寝てしまったことを装うためだ。

 

(とりあえず、これで乗り切ろう・・・・。)

 

 

そう思いながら制服に手を伸ばそうとするとーーー

 

 

「・・・・さっきから制服を脱いだり着たりしているが、何をしているんだ?」

 

現段階で一番聞きたくない声が耳に入ってしまう。その声を確認したフェイトは制服に伸ばした手を石化されたようにビシリッと音でもなりそうな雰囲気を出しながら固まってしまう。

 

(え・・・・ウソ、だよね・・・?)

 

震える手をなんとか抑えながら、フェイトは声のした方向に少しずつ顔を向ける。さながら錆びついた機械のような音がしそうな程の遅さであったが、彼女の視界にはしっかりと写ってしまった。

 

ソファに背をもたれかけながらも顔だけを回して自身をしっかりと見ているヒイロの姿が写り込んでしまう。

 

「え………あ………なん………で………?」

「お前自身がここに指定したからだが?」

 

いや、それは分かっている。分かってはいるんだけど。

 

フェイトは声を出したかったが、ほぼ裸同然の姿を見られたことと自分でもわかるくらい顔が真っ赤になっているのも相まってあまりの恥ずかしさに声を出せないでいた。

 

「あ、あの………一体どこから……聞いてました?」

 

よりによって開いた口から飛び出たのが、それか。これではヒイロの答え方によっては余計にダメージを負うだけじゃないか。

 

フェイトは心の中ではそう分かっていてもおもわず尋ねてしまった。それを聞いたヒイロは特にオブラートに包むことなくーー

 

「先ほどまで睡眠を取ってはいたが、お前が入ってきた時に目が覚めたからな。最初から聞いていた。」

 

ど真ん中ストレートを貫通する勢いで放たれたヒイロの言葉にフェイトは完全にノックアウトされた。

さらに先ほどまでの珍事を見られた挙句、思わず零してしまった言葉の一言一言、その全てを聞かれてしまっていると考えてもいいだろう。

 

「ふぇぇぇ…………////」

 

完全に面目丸つぶれになったフェイトは顔を深紅に染め上げ、涙目になりながらその場にへたり込んでしまった。

 

「・・・・・・。」

 

その様子をヒイロは疑問気に見ていたが突然立ち上がるとフェイトが取ろうとした管理局の制服を彼女に被せるように肩にかけた。

 

「あ…………。」

「お前の睡眠の取り方に何か言いがかりをつける気は無いが見られたくないのなら、最初から脱ぐな。」

 

ヒイロはへたり込んでいるフェイトにそれだけ伝えると再びソファに腰を下ろした。特にフェイトの下着を見て恥ずかしがっている様子は少なくとも見られなかった。

フェイトはヒイロに被せられた制服を握りしめると徐に立ち上がった。

そしてそのままベッドに戻っていくかと思いきや、彼女が向かった先はーーー

 

「・・・・・なぜ俺の方へ来た?」

 

ヒイロが座ったソファであった。薄く瞳を開けてジトっとした視線をフェイトに送るヒイロだったが、フェイトは顔を赤らめながらもむすっとした表情で無視し、ヒイロの隣に座った。

 

「・・・・私、なんだか周りに人がいないと寝られないんです。」

「ベッドにはなのはがいるだろう。その理論でいくと付き合いが長い奴の隣の方がお前も安心して寝やすいはずだが。」

「うぐっ・・・・。」

 

完全に出任せからの言葉をヒイロに正論で返され、思わず言葉を詰まらせるフェイト。しかし、恥も外聞もなくなり、失うものがなくなった彼女は簡単には引き下がらなかった。

 

「じーーーー。」

「・・・・・・・。」

 

フェイトは涙目になった目でヒイロの顔を睨みつける。どうやら徹底抗戦の構えをとったようだ。そのフェイトの視線にヒイロは特に反応を示さなかったがーーー

 

「じーーーー。」

「・・・・・・。」

 

フェイトは変わらずヒイロに視線を送り続けている。しかし、ヒイロは面倒に思っている雰囲気を出しながらも無反応を貫く。

 

「じーーーーー。」

「・・・・・・。」

 

フェイトが睨みつけ、ヒイロがそれに反応を一切示さない。そんなやりとりが三回ほど行われたのち、ヒイロが不意に肩をすくめる。

 

「・・・・・・・好きにしろ。付き合うのも馬鹿馬鹿しくなってくる。」

 

言葉の通り、心底から面倒に思っている口ぶりだったが、ヒイロが先に折れた。不承不承ながらもヒイロから承諾を得たフェイトは涙目から嬉しそうな表情に変えるとヒイロの座っている太ももに自身の頭を乗せた。

要するに膝枕状態である。

フェイトの行動に顰めっ面になるヒイロだったが、好きにしろと言った手前、その言葉を反故にする訳にはいかなかったため、ヒイロはそのまま寝ることにした。

その途中、軽く自身の膝の上で寝ているフェイトに視線を向けるとスヤスヤと寝ている姿が目に入った。

 

「・・・・バルディッシュ。お前はまだ起きているか?」

『・・・・どうかしましたか?ヒイロ殿。』

 

彼女のデバイスの名前を呼んでみるとフェイトの制服のポケットから機械的な音声が響く。

 

「フェイトにバリアジャケットを着させられるか。このまま調子を崩されては目もあてられんからな。」

『なるほど、サーはいつも下着姿で寝ているのでそこまで頭が回りませんでした。』

 

バルディッシュからなかなか悩ましい暴露があった後に一瞬、バルディッシュが輝くとフェイトに薄い防御フィールドが展開される。バリアジャケットの温度調節機能を用いて、ろくに服を着ていないフェイトが風邪を引かないようにするためだ。

もっとも魔力を持っていないヒイロはその無色透明な防御フィールドを感知することはできないが、バルディッシュがとりあえず展開してくれたと判断して寝を決め込んだ。

 

 

 

 

時間は流れ、暗かった空が徐々に明るくなり、光が部屋に差し込んでくる。それなりに部屋が明るくなると同時にベッドの上でもぞもぞしていたなのはがムクリと起き上がる。若干寝ぼけた意識を腕を真上に上げ、伸びをする事ではっきりさせる。

 

「あれ・・・?フェイトちゃん、もう起きてるのかな・・・。」

 

視線を隣に向けるもいつもいるはずのフェイトの姿がそこにはなかった。疑問に思いながらも顔を洗うために洗面台に向かおうとすると、ソファで座っているヒイロの姿が目に入った。

 

「ヒイロさん。おはよう。」

「・・・・・・ああ。」

 

長い沈黙のあとたった一言だけ帰ってくるが、むしろそれがヒイロらしいと思いながら再度洗面台に向かう。

 

「あ、ヒイロさん。フェイトちゃんのこと知りませんか?昨日帰ってくる前に寝ちゃって朝起きてもいなかったんだけど・・・。」

「ちょうどいい。お前の方から起こせるか?このままではろくに動けん。」

 

頭に疑問符が浮かびながらもなのはがヒイロの座るソファに近づくと驚きと意外に満ち溢れた表情を浮かべる。

そこにはヒイロに膝枕をされているフェイトの姿があった。

スヤスヤと寝息を立ててはいるが、服は羽織っているだけでとても着ているとは思えないほぼ裸同然の姿のフェイトになのはは若干赤くなった顔をヒイロに向ける。

 

 

「えっと、これは、その、え?」

「フェイトに強要された。それだけだ。」

 

特に引け目を感じている様子のないヒイロの口ぶりになのははそう言ったことはなかったと判断する。

なのははフェイトの肩を揺すり、彼女を起こそうと試みる。

しばらく揺らしているとフェイトの閉じられていた瞳が徐々に開かれた。

 

「ん、んんー・・・・?」

 

起きた直後のフェイトはまだ意識が朧げなのか目もはっきりと開かず完全に寝ぼけている様子であった。

 

「えっと・・・とりあえず、おはよう。フェイトちゃん。その、寝られた?」

 

その朧げなフェイトの視線がなのはに注がれると彼女は言葉を選びながら状況を尋ねた。

最初こそ、質問の意味が理解できなかったのか、疑問気な表情を浮かべるフェイトだったがしばらくすると昨夜のことを思い出したのか、急に顔を真っ赤にしながら顔を天井に向けると自身を見下ろすヒイロの顔があった。

 

「・・・・・・その、ごめんなさい。」

「・・・・全くだ。」

 

口を手で覆い、くぐもった声で謝るフェイトにヒイロは淡々とした口調で言い放つ。

 

「さっさと起きろ。午前中は新人達四人への教導、今日の午後から海鳴市に赴くのではなかったのか?」

 

続けざまにヒイロがそういうとフェイトはガバッと起き上がりながら焦った様子でバタバタと身支度を整え始める。彼女自身、忘れかけていたのだろう。

 

「手間をかけさせたな。」

「えっ!?あ、ううん!!そんなことないよっ!?」

 

ヒイロに突然声をかけられたことにびっくりしたのか声を裏返しながらなのはは気にしていないことを露わにする。

 

「お前も早く身支度を済ませておけ。教導官が遅刻しているようでは面目がまるでないぞ。」

「あ・・・は、はいっ!!」

 

ヒイロの言葉になのはもフェイトに続くように身支度を整え始める。ヒイロは視線を外し、無関心を貫くつもりだったがーーー

 

「んにゃーーーっ!?!?」

「な、なのはっ!?こんなところでこけないで・・!!手が当たってるから・・・!!」

 

焦りからか何かに躓いたのかなのはの悲鳴が部屋に響き渡った。同時にフェイトの恥ずかし気な声も聞こえる。多分、こけた先にフェイトがいて、巻き込まれたのだろう。

朝から一切休める気がない慌ただしい様子に流石のヒイロも僅かにため息をついた。

 

「・・・・・朝からまるで落ち着きがないな・・・。」

 

ウイングゼロからアインスが飛び出てくると開口一