リライターと乳部・タイラー (シバヤ)
しおりを挟む

1話


千恋*万花に続きこちらも面白かったので書いてみました
他にも書いてる作品があり、リドルジョーカーはまだ進めてる途中なのでかなり遅く書いていくと思います

もちろんこの作品も完結はさせたいと思っていますのでよろしくお願いします


8月下旬、夏休みも残りわずか

昼はめっちゃ暑く、夜もそんなに変わらずジメジメした熱帯夜だ

そんな中俺は冷房を効かせた部屋で過ごしてる

 

「あー涼しー!夏休みも終わるー!」

 

学生が望む、長期間の休日である夏休み

それが終わるとか本っ当に辛い

別に学生生活がつまらないとかそういうんじゃないぞ?

学生なら夏休みとか冬休みっていつまでも続いて欲しいもんだろ?

そこで端末から着信音が流れた

誰だこの野郎、もうすぐ寝るってのに妨害するなんてたたじゃおかないぞと思って画面を見るが、この子ならいつでもOKだ

 

「あーい、こちらレヴィ8」

『非番の時にごめんね!すぐ動けるかな!?』

「いつでも動けるでありますよ〜。で、何があった?」

『レヴィ6が苦戦してて、応援に向かって欲しいの!』

「分かった。ならレヴィ6の現在地を送ってくれ」

『うん、すぐに送るね!』

 

その数秒後、端末に情報が送られてくる

画面を確認すると、赤い点が示されてる

ここから数十キロはあるか

 

「今から向かう。状況を移動しながら教えてくれ」

『レヴィ9、了解。あと警察が動いてるから顔を見られないようにしてね』

「分かってる。兄ちゃんはそんなヘマしないし、能力だってあるからな」

 

通話を切り、着替えるためにクローゼットを開ける

いつも通り仕事着に……こんなジメジメした熱帯夜にこんな長袖着てくなんて嫌だ

適当に軽装に着替え、グラサンをかけ

 

「これは世を忍ぶ仮の姿、その正体は伝説のスパイ、鈴木ィ凡人(ぼんど)!」

 

……何やってんだろ俺

というかなんで鈴木なんだ?ジェームズだろそこは

って急いでるんだ、早く向かわないと

ベランダに足をかけ、夜の街に繰り出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何があったんだ?」

『今回の任務、外からの情報でね……』

「外から?いつもなら面子を気にしてウチに要請なんかしないだろ?」

『調べていく内に今回の犯人と、海外の大規模犯罪組織と繋がりが見えてきたらしいんだよね』

 

つまり向こうはアストラル使いがいるから救助要請

こっちは情報が欲しいから

お互いの利害が一致したためってわけか

 

「だいたい分かった。レヴィ9、あと2分で着くから到着次第襲撃すると連絡しておいてくれ」

『了解、気をつけてね』

 

さてと、こっからでも範囲内だからな

頭の中で猟犬をイメージし、それらをアストラル能力で形作る

そして目の前にいるのはオーロラ色をした猟犬のようなのが3匹

このオーロラは俺の血液で、アストラル能力で外に放出するとオーロラに変化する

 

「敵を殲滅後レヴィ6を連れてくるんだ、いいな?よし、行け!」

 

俺の合図と共に猟犬達は走り出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し数が多いな……まさかここで手こずるなんて……」

 

いずれバレるのも時間の問題……

けど行動したところで撃たれる可能性もある……

このままだと逃げられる可能性も……

 

『レヴィ6!聞こえる!?』

「ああ、聞こえる。けれど今こっちは余裕がなくて──」

『レヴィ8があと2分で着くから到着と同時に襲撃するだって』

「了解、レヴィ8が襲撃しだい、退避する」

 

あと2分でってことは恐らくもうあと1分ぐらいだろう

それぐらいなら光学迷彩があるから耐えられるな

 

『ガルルル!!』

 

この唸り声は……

アイツの能力で作った動物か!

 

「なっ、なんだこいつらは!」

「撃ち殺せ!」

 

どこに撃ち込まれるのがわかるように避けるな

それに動物タイプだから人よりも素早い

それに力も普通の猟犬と違うから桁外れだ

 

『ガウガウ』

「終わったからレヴィ8の所に来いってか」

 

全滅させ、1匹が俺の袖を引っ張る

光学迷彩で姿が見えないはずだけどやっぱり鼻が利くのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら任務は完了したようだな

前から猟犬たちとレヴィ6が戻ってくる

 

「お疲れさん」

「助けられたな、ありがとう」

「別にいいってことよ。お前らも消えてくれ」

 

そう言うとオーロラが分散され、消える

血液で作るからな、それに猟犬型3匹ってなると相当な血が持ってかれるから少しクラっとしてきた

 

「大丈夫か?」

「力の消費による貧血だ。助けに来た側がここで倒れちゃあかんだろ。それよりさっさと帰ろうぜ」

「そうだな。警察も動いてることだし、レヴィ9と合流して戻るか」

 

寝る前だったから今とても眠い

それに能力を使って軽く貧血気味なんだ

これはもう家に戻ったらぐっすり眠れるやつだな!





主人公については次のお話で触れたいと思います

Rewriteの主人公・コタさんはリボンを埋め込まれてたからオーロラを使えましたが、今回はアストラル粒子が関わってるからということで体液操作能力にオーロラ関係を含みました
あと今作のオーロラで作った獣は動物みたいに鳴きます笑


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

「アストラル使いが住み着いてるって情報があったが……まだ子供じゃないか!」

 

ひとりの男が言う

子どもはどう見ても歳が1桁あたりの子供だ

 

「……だれ」

「俺は君に話があって来たんだ」

 

その男はそう言うが、周りの男達の手には拳銃が握られている

いくら子どもが幼いとはいえ、銃というものは知ってた

それに反応すべく、手からオーロラの鉤爪のようなものを出した

 

「それが君の能力か……銃を下ろせ。警戒させてしまっては話ができない」

「…………」

「悪かったな、護身用のために持ってたんだ。でも俺は君に危害を加える気は無い。話をしに来たんだ」

「……はなし……?」

 

男からは敵意がない

だが信用出来ない、いつもそうだった

 

「俺たちは、君を迎えにきたんだ。アストラル能力者である君を」

「ぼくは……アストラル使いじゃない……」

「けれどその腕のものはアストラル能力だ。大丈夫、俺たちは君の味方だ」

「こんな力、願わなければ……書き換えなければこんなことにはならなかったんだ!」

「書き換える?一体どういうことだ?」

「話したって誰だって信じてくれない!あんただって同じだ!」

「俺は信じてやる、絶対にだ。だから話してくれないか?」

 

大人は皆同じ、自分に都合がいいようにしか解釈してくれない

アストラルなんて馬鹿げてる力を嫌ってる人が多いのにさらに馬鹿げた力は誰も信じない

そう、みんな同じなんだ

 

「ぼくは、望んだ力を手に入れられる。アストラルだって欲しいと思っただけだったのに……」

「…………」

「それだけで親に捨てられた!どんなに話しても信じてくれなかった……あんただって──」

「信じる」

「……え?」

「普通ならそんな力があるなんてにわかには信じられん。でも君は苦しんで助けを求めてる。ならそれだけで十分信じれる」

 

この人は……こんな子どもの、まるで嘘のような話を信じるのか……?

でもその人は本気で信じてる、そう感じ取れた

 

「俺と来てくれるか?」

 

手を差し伸べられた

大きく、底から引っ張ってくれるような手を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……あぁ……夢か」

 

父さんに拾われるなんていつの夢だよ……

懐かしいんだか辛いんだかよくわからねーな

ん、このいい匂いは……

きっともうご飯が出来てるんだろうな〜

気分好調で居間に向かう

 

「おっはよー!七海!」

「おはよう空君。今日も朝から元気だね」

 

我が最愛の義妹、在原七海に朝の挨拶を言う

家事は全部やってくれて、容姿も非常に可愛らしい

我が家の癒しの存在だ

 

「そりゃ朝から七海の作った美味しいご飯が食べられるんだからな」

「ありがと。わたしは暁君を起こしてくるから先に食べちゃってていいよ?」

「うぁーい。いただきます!」

 

全く、妹に起こしてもらうなんて駄兄だな

まてよ……七海に起こしてもらえるなら目覚めも良さそうだな

まさかあいついつもそれを狙ってか!?

暁……意外に策士か?

あ、これ美味い

 

「おはよう、空」

「グッモーニン、サットール!」

「なんだよそのウザイあいさつ」

「なんとなく?それよりこんな朝早く起きるなんてなんか用事か?」

「暁君は補習があるんだって」

「補習……ぷっ」

 

俺は補習なんて受けてないからな!

勉強が出来るかって?ふっ、そこそこだ!

もちろん身体を動かすことなら問題ないぜ!

 

「さすがに怒るぞ?」

「わりィわりィ。でも このままいけば留年して七海と同じ学年になって俺のことは先輩呼びだな!」

「わたしは同じクラスでも楽しそうだし全然いいよ」

「兄の威厳を保つために留年する訳にはいかないな」

 

弟と妹は補習を受けず、兄だけ補習受けるわ

妹に起こされるわでもう兄の威厳なんてないんじゃないのか?

 

「毎日妹に起こされる兄に威厳も何も……という正直な気持ちは、妹は優しいので密かにしまっておいたげる」

「それ言ってるんじゃ?」

「そういうことは言わなくていいの。それより暁君、早くしないと遅刻しちゃうよ?」

「わかってる」

「それじゃ俺は部屋にいるから。七海、何か用があったら呼んでな」

「うん」

 

朝食を食べ、俺は部屋に戻る

休みなんだし部屋で溜まってた番組見たり漫画読んだりしなきゃいけないからな!

もう夏休み終わりだし消化せんと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は在原空。暁の義弟で七海の義兄だ

義理なのは父さんに拾われたから

俺の本当の両親はアストラル使いを非常に嫌っていて、俺が能力を使えるようになると捨て去った

そこを父さんに拾われて救われたんだ

ちなみに暁とは同い歳だけど俺の方が生まれが遅いから義弟ということになった

 

それと俺は正確なアストラル使いではない

アストラル使いには先天的なタイプと後天的なタイプがいるが俺は元々アストラル能力が使えなかった

けれど俺にはアストラル能力ではなく、別の能力があったんだ

 

それはリライト能力。自分が望む状態に書き換える力だ

名称は書き換えるという意味を持つrewriteから取り、その能力を持つ俺はリライターということになる

アストラルの話を聞き、なってみたいと望んだら能力が発動し、アストラル能力を使えるようになってしまった

自分が望む状態に書き換えると言っても重い代償もある

それは自分の命を削って書き換えてるってことだ

父さんにリライト能力を使ったら身体の急激な脱力の後に力が溢れるって言ったら代償があると考え、命を削ってるんじゃないかってことになった

だから俺は片手で数えるほどしかこの力を使ってない

この能力があることを知ってるのは父さんと暁、七海と家族だけだ

 

ちなみに俺のアストラル能力は体液操作

主に血液を操ることが出来る

傷口ができてもすぐに止血をしたり、顔の輪郭を変えたり、放出して武器を作ったり動物を生み出し使役することが出来る

それに外に放出するとアストラル粒子が関係してるのかオーロラに変わる

ただし血を使ってることにより量が多いほど貧血になるから注意が必要

 

なんでこんな自己紹介をしてるかって?

たまには自分を見つめ直すのも必要なことなのさっ

 

『空君。起きてる?』

「起きてますよ〜」

 

ドア越しから七海の声が聞こえたから返事をし、ドアを開ける

 

「今からお買い物に行くんだけど──」

「俺も行く!40秒で支度する!」

「あ、慌てなくても大丈夫だよ?」

「最愛の妹を待たすことなんて出来ないからな」

「……シスコン発言はキモいよ?」

「ごめんなさい。謝るからその冷たい視線はやめて?」

「それじゃ待ってるから慌てなくてもいいからね?」

 

よし、支度するか。着替えてスマホと財布を取って

そういや40秒で支度しなって酷すぎるよな。ジ〇リは何を考えてあのセリフを作ったんだが

あ、ちなみに1分少々かかりました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七海と2人でお買い物に

デートって考えていい?考えちゃっていいよね?

なんて思ってるとバレて冷たい視線を喰らうのでやめておきましょう

 

「今日はなにを作るおつもりで?」

「まだ決めてないんだよね。空君は何食べたい?」

「七海のご飯は美味いからなんでもいいんだよな……」

「そういうのが一番困るんですけどー」

「って言われてもな〜……ん、あれは」

 

前方に我が家の長男様がいるじゃありませんか

兄の威厳なんて全くない長男様が

 

「あっ、暁君」

「七海?それと空?どうした、こんなところで?」

「夕飯のお買い物」

「俺は付き添い。別に言えば荷物持ちだな」

「暁君は?ちゃんと補習受けた?」

「起こしてくれた妹の優しさを無駄にせず、弟に馬鹿にされないためにも、ちゃんと受けたよ」

「よろしい。あっ、暁君は今晩何か食べたいものはある?」

「何でもいいよ」

「空君と同じこと言って、困るんですけどー」

 

さすがマイブラザー

血は繋がらずとも、考えることは同じだな!

 

「七海の料理は何でも絶品ってことだ。世界一美味しいぞ」

「そーそー暁の言う通り。七海の料理より美味いものなんて存在しないと思ってる」

「相変わらず適当だなーこの人たち。で、何が食べたいの?」

「じゃあ……チキン南蛮」

「異議なし!」

「甘酢?タルタル?」

「両方頼む」

「異議なし!」

「それしか言ってないじゃないか」

 

ううむ、突っ込まれてしまった

けど今日はチキン南蛮かー、楽しみだなー!

なんて思い、スーパー向かおうとしたら七海が足を止めた

 

「ちょっと待って、着信が──」

「なんだ?」

「え?まさかのこのタイミングで?」

「“お仕事”だって」




2話でタイトルの片方、リライターとは主人公のことです!原作Rewriteやってる人はわかるでしょうが笑
リライト能力の説明これであってるかな…
少し主人公が軽過ぎるかもしれませんがやる時はやるやつなので笑


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

対象(ターゲット)はこの人、違法薬物の運び屋。薬物をキロ単位で密輸してる」

「ほー。それはまた大胆なこった」

「税関でいくら調べても薬物は発見できず。間違いなくアストラル能力が使われてる」

「素直に考えると、隠蔽する能力だろうな」

「バックについている組織は無し。どこにも所属せず、依頼があればどことでも取り引きしてる。ただ相手は大口の卸しだけ。自分で捌くことはしてないみたい。暴力団との取り引き場所に、一度は警察が踏み込んだんだけど……相手の能力で逃げられてる」

「となると、隠せる物には自分も含まれるな。了解した」

 

こういうときは俺の出番だな

俺のアストラル能力で作った獣は、職業犬の鼻を誤魔化すことが出来るものすら臭いを嗅ぐことが出来る

それに俺がリライト能力で書き換えた特別製なのか、五感に関わる能力は受け付けない

 

探知系のアストラル能力ならこんなの見抜くのも不可能じゃないだろう

けれどアストラル能力の中には証拠のねつ造を行える力があるからな

だから警察を始めとする国家機関では、職務にアストラルを使用することが認められない

そこで!俺たちのようなエージェントがいるわけだ!

 

「警察が踏み込んでくるのに合わせて目標を無力化。その後は警察に任せて即座に撤収。アストラル能力で証拠を隠蔽されないように。だって」

「アストラルじゃ俺の目と鼻は誤魔化せないぜ」

「お前の能力の動物、だろ」

「細かいことはいいんだよ。レヴィ8、これより任務を始める!」

「レヴィ6。これより任務を開始する」

「気を付けてね。暁君、空君」

「了解」

「モチのロン!」

 

俺と暁は、夜の闇に紛れるようにその場を飛び出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レヴィ6、積荷は見えるか?」

「ああ、確認出来る。まだ隠蔽されてないようだな」

「よし、なら俺が誘導するから一気に無力化してくれ」

 

警察が踏み込んだタイミングで目標を無効化しないといけない

そうなると暁は透明化してるからまだしも獣型だとその場にいるからバレる可能性が高い

となると目線に入らないようにしなきゃいけないから空を飛べる鳥型が適任だ

 

「上空から適当に突っついて気を引きつけるんだ。お前は警察の動きを見てこい。頼んだ」

 

直ぐに羽ばたき、対象に向かって飛び出す

オーロラで作った動物は音を立てずに動くことが出来る

羽とかないからそのためだな

よし、対象はオーロラバードに気づいてない

ああ、オーロラバードってのは種類名みたいなもんだ。オーロラで出来てる鳥だからな

もし血そのままだったらブラッドバードだったけど、そっちの方がかっこいい気がする……

 

「なんだこの鳥は!あっち行け!」

 

よし、意識を引き付けてるな

 

「あとは頼む」

「了解。すぐに終わらせる」

 

相手は隠蔽能力持ちであるだけで、戦闘能力は全く持ってないようですぐに終わった

それと同時に警察を見ていたもう1匹がこちらに戻ってきた

どうやら動いたようだな

 

「無力化に成功。帰還するぞ」

「了解。ちょうど警察も動き出したようだ」

 

すぐさまにオーロラバードとのリンクを切る

すぐに消滅した

リンクが繋がってれば有効範囲内なら俺の意識で自在に操ることができ、リンクを切ればその場で消すことができる

そのため痕跡は一切残すことは無いため、こういう隠密行動にとても向いてる

もちろん俺自身も顔の輪郭を変えることが出来るから仮に見つかっても正体がバレることはないんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レヴィ6、任務より帰還しました」

「レヴィ8、ただいま帰りましたよ〜っと」

「レヴィ9、同じく帰還しました」

「おう、ご苦労さん……レヴィ8、2人みたいにちゃんと言えないのか?」

「これが俺の性分でしてね」

「はぁ、全く」

 

ボサボサ頭の男

この人は俺たちの上司であり、この“組織”の責任者でもある

『情報局特別班』通称──特班(とっぱん)

アストラル能力を用いた犯罪に対応するためだけに国が設立した、非公開の諜報機関

まさに、闇夜に紛れる特殊エージェントってやつだな

昼は学生、夜は諜報員として働いてるってことだ

 

「これ、今回の報告書です」

「怪我は?今回は取り引き相手の暴力団もいたんだろう?」

「あんなやつら、俺のブラッドハウンドにかかればイチコロです」

「そいつは結構」

 

ブラッドハウンドは殲滅目的に使う猟犬型のことだ

余程のアストラル使いじゃなきゃ消されることは無いし、やろうと思えば噛み殺すことも出来る。さすがにやらんけど

こっちはオーロラって名前につけないのはハウンドにオーロラは合わんだろ

 

「ただ、この時期、長袖はくっそ暑いので半袖を作ってください」

「よしわかった任せておけ。俺が定年退職するまでには何とかしてやる」

 

俺たち特班の制服には効果で特殊な生地が使われてる

その生地というのは、アストラル研究の末に開発された技術が組み込まれている

光学迷彩の様に透明化することが出来るのもその生地、メモリー繊維の性質のおかげだ

ちなみに七海は少し改造をしていて、とても可愛らしい服になっている

七海がそれを着ると破壊力抜群で、お兄ちゃんたちに対して特攻になってるんだぜ

 

「で、どうだった?ここに書かれていないことで報告すべきことはあるか?」

「特には、滞りなく任務は完遂しました。改めて報告すべきことはありません」

「ふむ……細かい部分はあとで目を通すが、報告書にも問題はなさそうだ。改めてご苦労だったな。レヴィ6、レヴィ8、レヴィ9。悪かったな、今回は。急な任務を挿し込んじまって」

「別に?もう慣れちまったからこっちは平気だぜ?」

 

こんなこと一回や二回じゃないからな

もう何度目になるから本当に慣れちまっている

 

「なんだ、反抗期か?昔と随分変わってしまって……父さん悲しいぞ」

「人間不信は治ってこうなったので昔から変わったのはあなたのおかげなんですよ〜」

 

特別局特別班室長──在原隆之介

上司であり、俺を拾ってくれて、暁や七海を引き取ってくれた養父でもある

人を信用出来なくなった時代で、初めて信じることができた人だ

愛情を注いで大切に育ててくれたけど、たまに親バカになることもある

七海には甘いけど

ちなみに俺たちはみんな特班に入れられるために引き取れたりしたわけじゃなく、自らの意思で特班で働いている

 

「報告も終わったので、他に何も無ければ帰っていいですか?」

「いや、待った。次の任務を伝えておきたい」

「次ぃ?今からかぁ?」

「まさか。いくらなんでも、そんなことはさせるわけないだろう。次の任務は水際作戦じゃないんだ。夏休みが明けてからの任務になる」

「珍しい」

「その分ちょっと厄介でな。長期に亘るハードな任務になる可能性もある」

「そんな厄介事なのか?それなら俺がリライト能力で──」

「空」

「……わかってるよ。軽率には使わないって」

 

父さんはこの能力をあまり使わせないようにする

代償が正確に何かわからないから危険ってこともあるから

だからこの力は本当にどうしてもって時にしか使わないって約束してる

 

「それで、一体なんの任務ですか?」

「……偽札だ」

「偽札!?かなり大きな事件じゃないか」

「でも……そんなニュースは見てないよ?偽札が見つかったら、報道されないはずないと思うけど」

「それなんだが……ちょっと面倒なことになっていてな」

 

この前、暁が捕まえたバイクの窃盗犯

そいつらの財布から偽札が見つかったらしい

でも見た目が普通の紙に一万円と書かれてるだけで、子どもでも本物には見えないものらしい

けど犯人たちはその紙切れを本物と言い張る

つまりアストラル能力で本物だと思い込ませてるか何かってことだ

 

「犯人は必ず見つけださなくてはならない。上からも強く言われている」

「それを俺たちに?」

「詳しい説明をする前に、まず見て欲しい映像がある。話はそれからだ」

 

偽札の事件に関係する資料映像か……

どんなものかと思って見せられたものは──

 

『皆さんは鷲逗(わしず)研究都市をご存知でしょうか?鷲逗市東部に位置する、アストラルの最先端の研究を行うために開発された、とっても若い街です』

 

……俺と同い歳ぐらい可愛らしい女の子が出てきた。

なんかどっかで見たことあるけど、街の説明?

 

『そんな研究都市の中にあるのが、ここ橘花(きっか)学院。全寮制の共学の学院で、一般課程だけではなく、アストラルに関する教育と研究も行われています。』

 

ほう、橘花学院とな

アストラルに関する教育と研究ねぇ……

その後はそこに通ってる学生がどんな生活を送っているか、どんな施設があるか説明されて行く

寮、研究所、屋内プール、なかなかの設備だな

 

「偽札と思ったら学院紹介の映像……ん?ちょっと待て、もしかして」

「そう、そのもしかしてだ」

「どういうことだ?何か関係が?」

「このニブチン兄め、ここに潜入するってことだ」

 

なんでわからないのかな〜

だからシスコンってことも自覚しないんだよな〜

俺もシスコン?ちゃうちゃう

 

「空の言う通りだ。任務に当たるのはお前と空、七海の3人。なお、例によって君もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで」

「そういうのはいい。というか兄妹に危機が迫ったら書き換えて何としても救っちゃうし、それで続きは?」

「そう言うなよ。一度は言ってみたかったんだ、このセリフ。ほら、俺の立場ならなおさら!」

「わかる。わたしも、そういう台詞があるよ。『ココは俺に任せて先に行け』とか『倒してしまっても構わんのだろう?』とか」

「あ、俺もあるぜ!『やり直すんだ。そして次はうまくやる』とか『俺たちはまだ生きることを諦めちゃいないんだ!』とか」

「七海のは死亡フラグだし、空は誰と戦ってるんだ」

 

カッコイイのに……

七海は分かってるのになぜ同性の暁はわからないんだ?

 

「流石空と七海ちゃんだ。ロマンをわかってる」

「ほれみろ暁!わかってないのはおまえだけだぜ!」

「うるせぇ。それより何でいきなりそんな話に?」

 

一言で流された

空さん悲しいよ……

 

「件の偽札を入手したのが鷲逗研究都市らしい。あの2人、研究都市の方でも窃盗を重ねていたんだ。で、その犯行のついでに、カツアゲまでしていたんだと」

「そのカツアゲで偽札を手に入れたってか?」

「それが市場で使用されて見つかったのなら本格的に動くんだが……カツアゲだからなぁ」

 

紙に一万円と書いてあれば子どもでも気付く

そんなんじゃ通貨偽造とは言えんだろう

だけど表沙汰になればアストラル使いが偽札作ったなんて過剰反応されるかもしれん

特にアストラル使いを非常に嫌ってる人たちとかはな……

 

「それで潜入の理由は3つ。1つめはお前たちが元々学生の身分を持ってるから」

「教師として潜入するのじゃダメなの?」

「橘花学院の教員採用のハードルは高くてな。ほとんどの教員がアストラルに関する研究にも携わるらしい。それに夏に教員が移動するのも不自然だろ?それなら学生の方が、まだ自然だ」

「じゃあ、2つめは?」

「それなんだが……暁……」

「はい?」

「お前、留年するかもしれないんだってな?」

「バレテーラ」

 

暁は黙り込み、目をそらすが、そりゃそうだ

 

「目をそらすな、こっちを見ろ。ちゃんと知ってるぞ!調べたんだ、丁寧に調べ上げたんだ!出席日数ギリギリ、定期試験の点数だって教科によっては赤点!今日だって補習を受けていただろう!いつも口を酸っぱくして言ってるだろ。何者かに調査されても怪しまれない程度の経歴は作っておく必要があると。卒業くらいはちゃんとしておけ」

「わかっているが、仕事もある。どうしても勉強が後回しになるのも仕方ないだろ」

「空は平均はいってるぞ。それに七海はちゃんと優秀な成績を収めてるじゃないか。しかも仕事だけじゃなく、毎日家事までしてくれてるんだぞ?」

 

七海は凄いよな

家事は全部やってくれてるのに成績は優秀

運動はあまりって感じたけど逆にそこは可愛らしく感じるからいいと思う

 

「で?なんだって?七海の前で、もう一度言ってみてくれないか?」

「毎日家事をしてくれてありがとうございます、七海さん」

「いえいえ、どういたしまして」

「俺も家事手伝ってるんだけど?」

「何言ってんだよ。そんな所見たことないぞ」

「本当だよ?空君それなりに手伝ってくれるし、疲れた時用の糖分補給って言ってお菓子を作ったりしてくれるんだよ?」

「え?父さんも知らなかったんだけど」

 

つっら!手伝いだから目立ってなかったけどつっら!

俺の働きぶりがわかるのは七海だけか……

 

「本来なら学業に専念して欲しい。が、コンビニの学生バイトみたいに簡単にほいほい辞められる仕事でなはい。そこで今回の仕事についてもらう。全寮制の橘花学院に潜入して、怪しまれないように学生として馴染め。言ってること、わかるな?」

「学生らしく振る舞い、ちゃんと勉学に励め……と?」

「健闘を祈る。しっかり学べよ、青年」

「転入か……はぁぁ……」

 

俺も転入ってことか

今のヤツらとはそれなりには仲が良かったけどそこまで深い関係じゃないからな

なんか寂しー学生生活送ってる?

 

「すまないな。友達と離れることになるだろうし、悪いとは思っている。だが……これも仕事だ」

「え?あ、うん。それは平気。友達と離れるのは寂しいけど……仕方ないよ。こういう仕事に就いたんだもん。そういうこともあるかもしれないって、覚悟してたから」

「そうか。七海ちゃんはいい子だな、父さんは嬉しいぞ。空は誰とも話せるし、暁は友達いないからそこら辺は気にしなくていいだろ」

「ん、あたぼーよ!」

「放っとけ」

 

俺はそれなりに誰とでも話せるからな、こんな性格だし

けどあまり踏み込むってことはないのが欠点だ

 

「でも知らない人だらけの空間に行くのが怖い……ッ。みんなの前に立って自己紹介とかしたくない……ッ」

「七海は結構人見知りだもんな〜」

「想像しただけでも……うぐっ……吐きそう……ォェッ」

「えずくの早いなー」

「お兄ちゃん、何か対策ない?」

「そうだな、俺はこの性格だからってのもあるからな。あっ、人を野菜だとでも思って挨拶すれば?」

 

なんかどっかで聞いたんだか見たことがある

野菜だと思って何かをやれば失敗しないんだっけ?

 

「それで成功すればいいんだけど……お兄ちゃんが羨ましいよ」

「落ち着け。まだ先の話だ。それに最初に言ったように、一番の目的は偽札の調査だ」

「それなんだが、カツアゲをした対象の特定は?」

「覚えていないらしい。そこら辺も思い出せないようにさせられた可能性がある」

「能力は……催眠かな?」

「まだわからん。もう少し調査してみるつもりだ」

 

アストラル能力なんて魔法のように様々なものがあるからな

それにアストラル使いもそれなりにいる

街全体ってなると容疑者だらけになっちまうせ

 

「そこで、最後の3つめだ」

「1つめは学生資格、2つめは暁のためってことでいいや。それで3つめは……?」

「橘花学院にはAIMS(エイムス)がある」




まだ映像ですがタイトルのもう片方、乳部・タイラーことあやせが初登場しました!
多分タイトルでわかると思いますがあやせ√を通ります
七海ちゃんも好きなんだけどね、あやせも好きなんすよ

とりあえず寮に入る日までは早めに書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

鷲逗研究都市

真新しいビルに、綺麗に整備された道。そして都市計画に組み込まれた路面電車

本当に都市って言うだけあるな

アストラルの研究目的として作り上げられた街……か

 

「わたしたちが転入する橘花学院ってどうやって行くの?」

「ライトレールに乗ったら橘花学院って駅がある。そこで降りれば、文字通り目と鼻の先らしい」

「ライトレールか〜……何だそれ」

「俺たちが今待ってる路面電車のこと。動力源はアストラル何だってさ」

 

アストラルで動く乗り物か

やっぱり子どものころ憧れるだけあってアストラルはやっぱすごいな

それのおかげで俺はこうしてこの2人の兄妹でいられるんだから……

 

「ら……空!」

「えっ、何だ?」

「電車が来たよ。どうしたの?ボーッとして」

「あっ、いや、何でもない」

 

ったく、何感情に浸ってるんだ俺は

そうだ、俺は書き換えて変わった

拾われた時からやり直してるんだ、だから次は上手くやるんだ……

 

「でも……ちょっと遠いなぁ。これだと会場に行くのも一苦労」

「会場って、なんの……ああ。イベントか。同人誌だっけ?あとコスプレとかの」

「暁ッ」

「お、おう」

「そういうのはデリケートなんだ。こういう場所で言わないのがマナーなんだぞ」

「わかった……って何で空がそんなこと知ってるんだ」

「そりゃ俺だってマンガやアニメとかはそれなりに好きだからこういうイベに参加できるよう知識だけは持ってるんだ」

 

マンガやアニメ、ゲームは話題にしやすいからな

それなりには流行に乗れるようにしてるんだ

イベントにはさすがに行ったことはないが

 

七海が特班の服を改造したり、作れるのはコスプレを自作していたからだ

七海とはそういう話ができるけど、暁はこういうことに疎い

スマホも電話かメールだけしか使わないからよく操作方法がわからないというもはやおじいちゃんなのだ

 

「間もなく『橘花学院前』、『橘花学院前』です。お忘れ物なさいませんよう、ご注意ください」

「降りるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思ったよりも揺れなくて音も静かだったね、あの路面電車」

「区間によってはバスよりも速度が出ていたりもしていたな」

「へー、そりゃ便利なこった」

 

新しい街なだけあって、近代的なビルばっかだし結構開発が進んでいるな

それにビルばっかじゃなく、綺麗な建物が目の前にある

 

「これが橘花学院か……」

「ここも綺麗な建物だね」

「設立されて間もないらしいからな」

「敷地が広そう……ちゃんと道を覚えられるかな?……はぁぁ……心臓がドキドキする。今日から新生活……知らない人だらけ……」

「あっ、お兄ちゃんも緊張してきて吐きそうになってきた……ォェッ」

「なんで空まで緊張してるんだよ」

「いやー、人見知りの気持ちになって挨拶の対策してたら予想以上に役に入っちゃって」

 

その人のことを知るのはその人になりきらないとダメみたいなことがあるから七海のために人見知りの気持ちになって見たけど……

予想外に辛い

 

「………」

「兄弟で漫才なんかやってるから不審がられてるぞ?」

「俺を巻き込むな」

 

そういや学生証とか貰ってないんだけど学院に入れんのか?

さぁ最初っから積んだぜ!

 

「あの──」

「んにゃ?」

 

背後から声をかけられる

今のは、女の子の声?

 

「あっ」

 

そこにはやっぱり女の子が笑顔で立っていた

父さんに見せられた映像の学院を案内してた子だよな

……他になんかで見たことあったんだけど……なんだっけ?

 

「こんにちは。急に声をかけてごめんなさい。もしかして、在原暁君と在原空君と在原七海さんでしょうか?」

「はっ、はいっ!あ、在原七海です」

「俺が在原暁です」

「俺は在原空でっす」

「人違いじゃなくてよかった。初めまして!私は──」

「三司あやせさん……」

「え?」

「ああっ、すっ、すみません。話を遮ってしまって」

「いえ。それは構わないんですが……どこかでお会いしたことが、ありましたか?」

「いえ。ネットで動画を見たことがあるだけで……すみません」

 

三司あやせ……ネット……動画……

 

「そっか。どっかで見たことがあると思ったら俺も動画を見たことがあったんだ」

「直接言われると恥ずかしいですね。でも、見てくれてありがとうございます」

「あの紹介動画で、名前なんて言ってたか?」

「あれじゃないよ、別の動画で見たの」

「俺も七海と同じで別の動画だな。その動画が同じかは知らないけど」

 

七海は歌が歌えるって言ってたけどそこは思い出せんなぁ

でも七海が歌ってるところはお兄ちゃん見てみたい

 

「そんなに有名なのか?」

「アストラル使いとしては一番有名かも」

「もしかして芸能人なのか?」

「あはは、まさか。全然違いますよ」

「でも、テレビに出てたよな?ネットでも『可愛すぎるアストラル使い』って」

「そっ、その話は止めてくださいーっ!アレ、ものすっごく恥ずかしかったんですから」

 

ワタワタと慌てて両手を振る姿が可愛い

今ちょっとドキッとしちまったぜ

それにテレビで見るアイドルよりもかなり可愛い

やや小柄だけど、それと対象におっぱいはほどよく大きい

可愛い上にスタイルもいいとか反則かよ

……なんだ?違和感を感じたが気のせいだろう

 

「とにかく自己紹介させてもらいますね。初めまして。私は『三司あやせ』といいます。この橘花学院の学生会長で、3人の案内を頼まれ、迎えに来ました。ようこそ、橘花学院へ!」

 

おおっ、なんかこう歓迎されると嬉しいな

しかもこう可愛い女の子にだから男としてはテンション上がる

 

「ではまず、理事長のところに案内するように言われているんですが……3人の荷物はそれだけですか?」

 

俺はワンショルダーリュック。暁はショルダーバッグで七海はトートバッグ

そんなに大きくはなく、1泊分の荷物も入んないな

 

「荷物はほとんど送っています。寮の方に届いているはずなんですが」

「わかりました。このまま向かっても大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「それではこちらへ」

 

俺たちは三司さんの後について歩いていく

ふむ、やっぱり広いな

分かれ道ってことは校舎と寮とかかな

 

「今から向かうのが校舎で、あっちに寮があります。歩いて3分くらいでしょうか」

「橘花学院って結構広いな〜」

「敷地内には校舎や寮だけでなく、学院が所有するアストラル研究施設もあるので、一般的なところよりも広いと思います。それに鷲逗市は都心から離れていて、地価も安いですから。理事長室は校舎ですから、まずはこちらへ」

 

とうとう新しい学び舎に入るのか

見た目は綺麗だから中も綺麗なんだろーなー

 

「わっ、中も綺麗……」

「学院が設立してまだ10年も経っていませんからね。それに全寮制ということもあって、学生の数も他に比べるとちょっと少なめですしね」

「どれくらいいるんだ?」

「クラスには大体30人ちょっとで、1学年にクラスは4つですね」

 

えーっと、全体で約400人いかないぐらいか?

 

「学生は382人、その内アストラル使いは100人ほど。1クラスに10人程度でしょうか」

「ちょっと意外です。もっとアストラル使いばっかりなのかと思ってました」

「そう勘違いしてる人も多いですね」

「でも……他の人たちは、どうしてわざわざ橘花学院に?」

「俺たちは能力のことがあったからな」

「ここに通う大半の学生は、この研究都市に仕事を持つ方の子供なんです。他にも純粋に、アストラルの研究に興味のある学生の入学もあります」

 

そういう感じか

さすがに全員が全員アストラル使いって訳じゃないしな

俺みたいなリライターなら話は別……というかリライターがいすぎる方が問題ありすぎだろ

 

「あと、在原君たちは同じクラスになりますから、私に相談してくれても構いませんよ」

「ありがとう。これからよろしくお願いします、三司さん」

「そいつは嬉しいや。これからよろしく!」

「はい、よろしくお願いします!在原さんも。学年は違いますが、何か困ったことなどあれば、いつでも相談して下さい」

「あっ!はいっ、ありがとうございます」

 

俺の耳が間違ってなければはいがひゃいに聞こえたんだが

うん、緊張してるなこの子

 

「……。私、何か怖がらせるようなことしました?」

「いえ、そうじゃないんですが……すみません……」

「人見知りで緊張してるだけです。怖がってるとか、嫌ったりしてるわけじゃないですから」

「そうだ、同じ苗字だとわかりにくいし、七海のことは名前で呼んであげてよ」

「空君!?そんな、勝手に何を──」

「これからよろしくお願いしますね、七海さん」

 

おっと、意外なことに三司さんから逃げ道をふさいだぞ

 

「よっ……よろしくお願いします、三司先輩」

「可愛い!真っ赤になった!私のことも、あやせと呼んで下さい」

「あ、いえ、でも、その……」

「あやせですよ。あ・や・せ」

「よろしくお願いします……あやせ、先輩……」

「はい」

 

真っ赤になったり困ってる顔がまた可愛いなぁ」

「お前心の声出てるぞ」

「えっ!?マジ!?」

 

何かの策にハマってしまったようだぜ……

七海、恐ろしい子!

というのは冗談で、今回は俺のマヌケだった

 

「よし、じゃあついでに俺たちのことも名前で呼んでよ」

「は!?空、何言ってんだよ」

「だって苗字呼びなら同じじゃん。それとも在原兄と呼ばれたいのか?」

「それは嫌だな……」

「というわけで三司さん。俺たちも名前でよろしくな」

「はい。空君、暁君」

 

oh......

七海以外の女の子に名前で呼ばれるなんてなんか新鮮だ……

 

「私はお2人と同じクラスですから、普通にしてくれて構いませんよ。暁君のその丁寧で堅苦しい喋り方、慣れてないですよね?」

「ありがたい。助かるよ。ならその言葉に甘えさせてもらうよ」

「はい。それじゃあ、そろそろ理事長室に向かいましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理事長、三司です」

「入りたまえ」

 

いかにも怖そうなオッサンの声がしたな

部屋に入ると、予想通りのいかついオッサンがいた

 

「転入生をお連れしました」

「ご苦労だった。三司君は下がってくれていい。この後は他の者に頼んである」

「わかりました。それでは私はここで失礼します」

「ありがとう、三司さん」

「ありがとうございました」

「いろいろと助かったぜ」

 

ニコリと笑って、三司さんは部屋を出た

その笑顔も可愛いと思ったが、別に俺は女の子なら誰でも可愛いと思う体質じゃないから変な勘違いはするんじゃねぇぞ

 

その後は理事長からのお話

俺たちがアストラル使いであることがバレて、この学院に入ることになったこと。外ではいろいろな思いをしたけど、ここでは安心して過ごすといいってこと。なんか話した

まぁ要はアストラル使いであろうと関係ねぇ!この学院で思いっきり楽しい学生生活を送りやがれ!ってことか

 

……なんか机に備え付けられた電話の受話器を取って、どっかに電話し始めたんだけど

 

「私だ。理事長室まで来て欲しい。そうだ。伝えていた通り、新しく編入する学生が3名いる。いつも通りだ。登録を頼みたい。ああ、まっている」

 

登録……って言ってたな

 

「すまないが、君たちには編入に関する最後の手続きをしてもらう」

「必要な書類は……全部、提出したと思っていたんですが」

「そうではない。事前に資料を渡しておいたはずだ。鷲逗研究都市の住民はAIMSに登録してもらう必要がある」

 

AIMS……俺たちがこの橘花学院に転入することになった目的の1つ

Ability(アビリティ) Information(インフォメーション) Management(マネジメント) System(システム)

それらの頭文字を取ってAIMS……だったよな

どんなものかって言うとアストラル使いとその能力に関する情報をまとめたデータベースだ

アストラルの内容によっては、協力してもらうって説明されたが、他にもアストラル能力を集めることで管理してしるっていうアピールする1面でもある

話終えた辺りのタイミングで、ノック音が聞こえた

 

「入りたまえ」

「失礼します」

 

白衣を来た女性が入って来た

少し歳上だな

 

「この子たちが編入生だ。後のことはよろしく頼む」

「わかりました。では、失礼します。それじゃあキミたちは、アタシについてきてね」

「あ、はい。それでは失礼します」

「「失礼します」」

「ああ。よい学生生活を」

 

この理事長、顔はいかついけど結構いい人だな

それで俺たちは、理事長室を出ておっぱいの大っきいお姉さんについていった

なんでそこに目がいったかって?

そりゃお前、おっぱいが嫌いな男なんていないだろ




少し瑚太郎要素入れてみました笑

ちなみに自分はどっちかっていうとちっぱいの方が好きです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

 

「こっち。最上階のココにアタシの研究室があるから。わざわざ離れた研究棟まで行かずに登録できるよ」

「……あの、先生」

「ぐぁっ!?」

「な、なんですか?どうしたんですか?」

「ちょっ、おまっ、暁!」

 

こいつまじか!

だからシスコンってことも自覚してねぇんだ!

 

「暁君、暁君」

「なんだ?」

「この人……先生じゃなくて、学生じゃないかな?」

「そうなのか?自分の研究室を持ってるぐらいだから、てっきり先生なのかと……」

「先生にしては若すぎるし、よく見てみろ。制服来てるだろ?」

「え?」

「判断基準、そこなんだ……まあ仕方ないか……自分でもわかってるよ。年甲斐もなくこんな服を着るのは恥ずかしい、ってことくらい。若いキミらから見れば、アタシが制服なんて無理があるよね……AVとかデリへルとか特殊なお店感があるよね……ぅぅっ……」

 

自虐モード入った!?

なんかめんどくさそうな先輩だけど……これも全部ニブチン暁が悪い!

それよりもヘルプ!誰かヘルプ!

 

「あ、いえ、違います!別にそういうわけではありません!制服って気付いたのも、あやせ先輩とスカートのチェックやネクタイが同じだったからです」

 

七海ナイスヘルプだ!ありがとう!

これは異性の俺じゃ無理があったからな!

 

「そっか。理事長室まで案内したのは、三司さんだったのか」

「すみません。うちの兄が失礼な間違いをしてしまって」

「まさか学生が自分の研究室なんて持っているとは思っていなくて……」

「あー……うん。普通はないよね、一学生が校舎に自分の部屋を持つなんて。自分で言うのもなんだけど……アタシはちょっと特別な学生なのさ」

「やっぱり成績が優秀なんですか?」

「それか逆で留年しちゃってるとか?」

「正解。実は留年しているんだよ」

 

えっ?嘘だろ?

適当に言っただけなんだけど……

でも研究室持ってるってことは優秀だけど留年するっておかしくないか?

 

「しかも2回目。2回ダブって、最高学年は3回目ってわけ。他にいないでしょ、こんな学生」

「それは確かになかなか見かけませんね」

「というか特別なことがない限り見ないって」

「おかげで周りと比べると、肌の張りが……水の弾き方が、如実に……ぅぅっ……辛いっ」

 

自虐モード2回目だとっ!?

初対面じゃなきゃなんかツッコミ入れてるところだが……

 

「あ、ゴメンね。自虐モード入って気まずい思いをさせちゃって留年こそしてはいるんだけれど、成績が問題ってわけじゃなく、単位の問題なんだよね。必要な単位を取れば卒業できる。なので、不必要な授業には出なくてもいい身分ってわけさ」

「それって……先輩には単位を取りたくない事情があるってことですか?」

「ん?んーー……ナイショ♪」

 

怪しげな微笑みを浮かべて唇に指を添える先輩

そりゃ初対面にそこまで打ち明ける気は無いよな

 

「そんなわけで『時間を余らせても仕方ない。暇ならここで研究しろ』ってこの部屋をね。他にもたまに、研究棟にも顔を出したりしてるよ。さて」

 

ドアに取り付けられたセンサーに手の平をかざす

中からロックが解除された音がしたな

指紋とかの認証センサーか何かか?

 

「ここがお姉さんの研究室。さあ、どうぞ」

「「「失礼します」」」

「どうぞ、楽にして。そうだ、飲み物を淹れよう。コーヒーと緑茶があるけど、どっちがいい?」

「どうかお気を遣わず」

「遠慮しない。どうせ自分の分を淹れるつもりだったからね。アタシはコーヒーにするけど?」

「それならコーヒーをお願いしてもいいですか?」

「じゃあ俺もヒーコーでお願いします」

「え?あっ、じゃあわたしもコーヒーを」

「オッケー。少々お待ちを」

 

どうやらインスタントじゃなくドリップだ

それだけでも変わるからな

 

「なんだよヒーコーって。それより七海、コーヒー飲めたっけ?」

「なんかヒーコーの妖精がいた気がしたから」

「コーヒーぐらい飲めるよ。苦手ではあるけど……多分」

「素直に緑茶をお願いすればよかったのに」

「こらこら、妹をいじめるでない。無理だったら暁お兄ちゃんが飲むって言ってるからいいんだよ、七海」

「俺かよ」

「じゃあ……その時はお願いね暁君」

「まあいいけど」

 

さて、コーヒーを淹れてる間に少し部屋を見渡すか

血痕を残せばそっから能力で何か作り留守の間に調べ回れるけど血痕だから上手く動けない今はやめとくか

PCがあるが、あれからAIMSにアクセス出来んのか?

 

「じゃっじゃーん。ほい、お待ちどう」

「ありがとうございます」

「ミルクと砂糖はご自由にどうぞ」

「いただきます。ふー……ふー……」

「じゃ俺っちもいただきます」

 

コーヒーを1口飲む

やっぱりインスタントとは違う美味さがある

正直いって美味い。こんなんじゃグルメリポーターになれないな

 

「美味しいですね」

「そう、だね。この苦味がたまらない、感じだね……っ」

「やっぱりダメだったかー」

「あー、ゴメンね。アタシ好みにしてるから、ちょっと口に合わなかったかもしれないね。すぐに緑茶を淹れ直すよ。もう少しだけ待っててくれる?」

「……すみません」

「謝らなくていいから。お湯もまだ残ってるしね。すぐに淹れるよ」

 

そう言ってお茶を淹れに行く先輩

 

「さあ暁、出番だぞ」

「わかったよ。いらないならもらうぞ」

「うん……ありがと、お兄ちゃん」

「感謝しろよ、暁」

「なんで俺が空に感謝しなきゃいけないんだよ」

「ハッハッハ、みなまで言うな」

 

七海にお兄ちゃんって呼ばれて内心喜んでるんだろう?

空さん知ってるぞ、何せ今回は譲ってやったんだからな!

 

「……ジー……」

「……?な、なんですか?」

「仲がいいなー、と思ってさ」

「暁はシスコンなんで」

「お前何言って!違いますからね!?そ、それより、質問しても良いですか?」

「どうぞー?」

「この部屋の鍵ですけど、生体認証が取り入られてるんですか?厳重で驚きました」

「こんな部屋に入っても盗むものなんてないんだけどね。これもアストラル技術の実用実験なんだよ」

 

アストラル技術の実用実験……

あのライトレールもアストラルが関わってたし、この先こういうものがでてくるのか

 

「認証してるのは指紋でも掌紋でもなく、アストラルなのさ。アストラルはその使用者によって大きく異なって、全く同じ変化はないと言われてるのは?」

「聞いたことがあります」

「つまりアストラルで個人の特定が可能であり、そのシステムを組み込んだセキュリティの実験品がアレってこと」

「でもちょっと待ってください。それはアストラル使いしか使えないシステムになりませんか?」

 

確かにアストラルで認証できたりするのは便利だ

でも俺のような存在や、一般人も使えないってなるとまた別の問題が出てくるような

 

「ところがどっこい、そうじゃないんだよ。能力を発動出来なくても、アストラル自体は誰しも干渉してるもので──まあ、ここら辺は授業でその内やると思うよ。とにかくアストラル使い以外にも反応するように設計されてるのさ。じゃないと、ニッチな商品過ぎる」

「こんなシステムが、この学院には沢山あるんですか?」

「まさか、ここ以外だと水や電気の管理をしてる機械室ぐらいじゃないかな?あくまでまだ実験段階だからね。はい、緑茶お待ちどおさま」

「あ、ありがとうございます」

「さて、そろそろ本題に入ろうか」

「具体的には何を登録するんです?」

「名前に生年月日、そしてアストラル能力。あとは基本的に学院で行った体力測定や健康診断の内容も一緒に登録してるだけだよ。今日登録するのは、名前と生年月日とアストラル能力。あと身長体重ぐらいかな」

 

個人情報の保護も関わってるって言ってたからな

そんなめんどくさそうな事じゃないか

 

「で、えーっと……名前は、在原(あきら)君だね」

「サトルです。(あかつき)と書いて、サトルって読みます」

「おっと、間違えちゃってゴメンね」

「いえ、よく間違われますから」

「サトルね。在原(さとる)君、アカツキと書いてサトル…………(さとる)……?」

 

なんだ?なんか暁のことを知ってそうな顔してるけど……

こいつ!いつの間にこんな綺麗な人と知り合いになってたんだ?

 

「……あの、なんですか?」

「もしかしてなんだけど……以前にアタシと会ったことない?」

「先輩と……?……ないと思いますが」

「あの……ちなみに先輩のお名前は?」

「ん?あーそっか。何か忘れてると思ったらアタシの自己紹介か、ゴメン。失礼しました。アタシの名前は式部茉優。どう?この名前に覚えがない?」

「式部……茉優、先輩……」

 

俺と暁が兄弟になってから出会ったってことはないと思うから、もしかしたらその前かもしれないってことか?

でもそういうプライバシーな話は聞いてないし、わからんなあ

 

「すみません。やっぱり記憶にないです」

「……本当に?何も引っかからない?」

「はい、すみません」

「そう……そっか。なら勘違いかな。ああ、突然ゴメンね。気になることがあると口にせずにはいられないのが、アタシの悪い癖で。自覚はしてるんだけど、性分なのか自分でもやめられなくってね」

「それわかります。俺も暁をいじるってなるとつい口にしちゃうんですよ。もちろんわかっててやってるんですけどね」

「度が過ぎるとマジで怒るぞ?」

「アハハ……話を戻そっか。在原暁君……っと。生年月日や血液型は、この書類に書かれてあるので間違いないね?」

「はい、間違いありません」

 

キーボードで入力しながら何かを言ってる

そこまで暁のことが気になるのか?

 

「次は……弟の在原空君だね」

「はい」

「よしよし、こっちは合ってる……っと」

 

空と書いてソラ以外で読む名前ってあるのかな?

クウ……ゴクウじゃあるまいし

でも世の中探せばいるかもな

 

「それで妹の……在原七海さんで、合ってるよね?」

「はい」

「じゃあ同じ女の子の可愛い後輩だし、七海ちゃんって呼ばせてもらっちゃおうかな」

「え!?また!?」

「ダメなの?」

「いえ、その……ダメ、ではないですけど……」

「ありがとう、七海ちゃん」

「〜〜〜ッ」

 

………はっ!

今一瞬意識を失ってた!

くっ、七海のあまりの可愛さに意識を持っていかれるとは……

 

「七海ちゃんは可愛いなぁ〜」

「そりゃ俺の自慢の妹ですからね」

「そ、空君!」

「さて兄妹の仲のいい所を見せて貰ったところで、在原暁君」

「あっ、先輩。俺と暁も名前で呼んでもらっていいっすよ。その方がわかりやすいですし」

「そう?それじゃあ、暁君の能力は『身体能力の強化』」

「はい」

 

と言ってるがこれは少し違う

本当の能力の副産物ってやつだな

 

「それで空君が『体液操作』」

「そうっす」

 

俺もこれは書き換えてできたから副産物であって本当の能力はリライト能力だ

でも今知ってる限り、俺しか持ってなく、アストラルに関わってるものじゃないから隠してる

 

「それから七海ちゃんが『治癒』と」

 

七海の能力は本当だ

暁と違い誤魔化しようがないため、嘘は言わないことにしてある

 

「じゃあ、まずは能力の確認をさせてもらうね。3人とも、これを持って」

 

差し出されたのは、付箋のような長細い長方形の紙

 

「なんすかこれ?」

「アストラル能力の性質を調べるためのもの。知っての通りアストラル粒子の変化は、使用者によって固定されるけど、その変化はある程度分類することが出来るわけ──」

「「「……」」」

「あー……ゴメン。どうも、こういう解説をするとき、無駄に説明を長くしちゃってね。端的に説明すると、リトマス試験紙のような物だと思ってくれればいいよ」

「「あー……」」

「……ん?」

「その紙を持って、能力を発動させてみてくれる?そしたら色が変わる。こんな感じの簡単な検査を複数重ねて、キミたちの能力を特定していくからね」

 

な……なんだってーー!!

俺のはアストラル能力でありつつ俺自身が書き換えてできたからもしかしたら正確に調べるとアストラル能力じゃないかもしれない!

それなのにアストラル能力の性質を調べる検査なんて!

 

「……空君、どうしたの?顔色悪くなってきてるけど」

「……七海も知っての通り俺のアストラル能力は俺が書き換えてできたものだ。もし正確に調べて違うって判断されたら……」

「そ、そうだったよ!ど、どうするの!?」

「とりあえずこの検査をやってみるしかない。それで違うって判断されたらもう1回書き換えてより正確なものにしてみせるだけだ……!」

「……?空君と七海ちゃん?どうしたの?」

「いえ!なんでもないっす!」

「それじゃあもう1回言っておくね。たとえ自分の能力でも勘違いしていることはよくあるわけでね。例えばそうだね……飛行能力とか」

 

飛行と言っても念力で浮かせる類のものか、風を操作する類のものか、複数種類がある

それによって飛ぶ以外の使い方を探せることが出来るってことね

 

「面倒だとは思うけど、よろしくね」

「わかりました。まずはこの試験紙ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして全ての検査を終えたのは、10個近い検査を行ってから

だいたい2時間ぐらいだろうか

頼む……アストラル能力で通ってくれ……

 

「検査はこれにて終了。さてさて。3人の検査結果だけど……まずは暁君。キミは自分にだけ影響を及ぼして、力を発言するタイプ。申告の通り、身体能力の強化で間違いないと思う」

「そうですか」

「次は空君。キミのは自らの体液なら体内でも体外でも操れるタイプ。血液の流れも操れるからすぐに止血できたり、逆に放出もできるようだね」

「は、はい。だいたい認識してる通りです」

 

よかった……

なんとか今使ってるのと同じ検査結果ってことになったのか

それにしてもちゃんとアストラル能力になってるってことなんだよな……

そして当たり前だけどリライト能力についてはバレてないようだ

 

「七海ちゃんの治癒は、対象相手の治癒力を高めるタイプだね。怪我をなかったことにするわけじゃないけど……やっぱりすごい能力だね。アタシとは大違い」

「あの、質問いいですか?」

「なんでしょう?」

「先輩もアストラル使いなんですか?」

「言ってなかったっけ?そうだよ。あんまり役に立たない能力だけど……ほら」

 

そう言った先輩は、コーヒーの入ったコップを持ち上げ、空中で手を離した

けどコップはよーく見ると何かを固定し、作り上げられた土台の上に乗っているにように見えた

 

「物体を固定する能力、ですか?」

「微妙に違うかな。これは、物体ではなくアストラルを停止……その場に固定させてるって考えてくれればいいよ。ざっくり言うなら、空気中に見えない壁を生み出すようなものだね」

 

俺は1回視力を書き換えたことがある

それで目を凝らせばよく分からないものが見えてきたが……これがアストラルだったのか

どことなく俺のオーロラと関わりがあるように見えるけど、それよりは弱く小さいな

じゃああのオーロラは一体なんなんだ?

 

「面白い能力ですね」

「意外と汎用性もなくて、大して役に立たないけどね」

 

コップを手に取ると、粒子が固定から解除されたのか、そこから消えて見えた

 

「これで登録は完了。3人ともお疲れ様」

「式部先輩もお疲れ様です。わざわざ離れた休みの日に、ありがとうございます。俺たちのために」

「あーいやそのー、気にしないで、いいよ?どうせ暇してたから?2回もダブると、周りもどう接していいのかわからないみたいでね……まあ、当然だよね……」

「遠くを見ながら、そんな悲しいことを言わないで下さい。俺でよければ、いつでも先輩にお付き合いしますから」

「わ、わたしもっ、お付き合いしますので」

「もちろん俺も、たまにブラッと寄らせてもらっちゃったりしますよ」

「こんなオバサンでもいいの……?」

「何言ってるんすか!先輩はオバサンじゃなくとっても綺麗なお姉さんですよ!」

「うぅ……ありがとう」

 

というかこの人でオバサンになったら今オバサンの人たちはどうなんだ?と考えたんだけど追求すると世界中の人から刺される可能性があるので心の中のだけの問題でいよう

 

「とにかく、編入したばっかりですから、先輩が友達になってくれると、嬉しいです」

「わたしも、同じ気持ちです」

「七海は人見知りだし、暁は不器用だからな。俺含めよろしくやってください」

「3人とも……ありがとうっ。今後とも、よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」

「こちらこそっすよ」

「何かあれば力になりますから。いつでも言ってください」

「ありがとう。じゃあ……早速だけどちょっといい?」

 

その後暁は式部先輩に捕まり、ちょっとした実験に付き合わされた

それで先輩の気が済むまで実験に付き合って、登録を終わらせたあとは寮に向かったんだ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

場所はわかってるから寮には迷わず着いた

建物は4つある

やっぱり全学生が暮らすってなると1つじゃ足りなのか

ちなみに俺と暁と七海は同じ寮。ラッキー

任務について話しやすいのはもちろん、気軽に遊びに行けるぜ!

 

「なんだかやっと着いたって感じだね」

「まだ荷物の準備もできてないがな」

「その準備をしたいんだけど、俺らの寮ってどれ?」

「あっ……」

「そういや聞いてないな」

 

また積んだぜ!

と思ったが、今回は人が近くにいたぞ

早速聞いてみっか

 

「すんませーん」

「ん?ワタシのことだろうか?」

 

黒髪が長く綺麗な女の子

この学院の子レベル高すぎではないですかね?

 

「はい。教えてほしいことがあるんすけど」

「なんだ?ワタシでわかることならいいんだが」

「俺たちは転入してきて、今日から寮でお世話になるらしいんすけど、管理人さんは中にいるんですか?」

「ああ、それならワタシだ」

「へ?」

「寮の管理を行ってるのはワタシだ」

「え?でも学生でしょ?」

「そうだ。ワタシもキミたちと同じ学生だ。言葉不足で済まない。ワタシは“二条院羽月”という」

 

凛とした雰囲気を持ってるな

それに意外と渋い喋り方をしているが態度が堂々としてるのか似合ってるな

なんか大和撫子って言葉が似合う気がする

 

「全体を統括してるのは教員だが、各寮を管理しているのは寮長である学生なんだ。勿論キミたち3人のことは訊いている。ワタシの管理する第三寮に、入寮することになっている」

「そっか。それなら話が早いや。俺は在原空」

「在原暁です」

「わたしは……妹の在原七海です。よろしくお願いします」

「わかった。こちらこそよろしく頼む、七海君」

「え!?あっはい……お願いします……」

「どうした、体調でも悪いか?顔が赤いぞ?」

「名前で呼ばれて照れてるだけなので、気にしないでください」

「ああ、すまない。いきなり過ぎたな。少々礼儀を欠いていた」

「い、いえ、そんな風には思ったわけではないです……平気です」

「というか名前で呼ばれるの今日で3回目だからそろそろ慣れたらどうだ?」

「今日1日で慣れるなんて無理だよ〜」

 

3回目だというのにまだこの様子だもんな

この先大変かも

でも七海は人見知りだから逆に踏み込んでくれた方が慣れるのかもな

任務とはいえ学生生活

あと2年は過ごすんだから雰囲気に慣れておいて損はない

 

「改めて。よろしく頼む、七海君」

「あっ、はい!こちらこそ……改めてよろしくお願いします、二条院先輩」

「在原君たちも無理に畏まらなくていい。その方がワタシとしても気を遣わなくて助かる。あっ、でも2人とも在原君になるな」

「俺たちも名前で呼んでくれ。その方がこっちとしてもわかりやすいしな」

「そうか。では暁君と空君だな。……男の子を名前で呼んだ経験がないから少々恥ずかしいものだな。だが、これもいい機会だ」

 

七海以外の女の子に名前を呼ばれるなんて……

しかも全員可愛い子と来た

何これ、一生分の運使い果たしたんじゃね?

 

「では早速、中を案内しよう」

 

これから任務がバレるなりして抜け出すことがなければ卒業までお世話になる寮にとうとう入る俺たち

そこで二条院さんから簡単な説明を貰った

 

まず施設から

ロビー、食堂、浴場、ランドリールーム。ランドリールームは男子用と女子用に別れてるから間違えないようにせんと

でも3階までが男子、4階から上が女子で男子用のランドリールームは3階にあるから覚えりゃ間違えることはなさそうだな

 

それから時間について

門限が19時半、夕食が19時〜20時の間で夕食を受けるときに点呼があり、それ以降は寮の外に出るのは禁止

21時半までに入浴を済まし、23時に消灯

起きる時間は自由だけど7時50分までに起きて食堂で点呼を受け朝食

その後に学院に向かう流れだ

 

まさに規則正しい生活ってやつだな

そこら辺も寮っぽく感じる

 

「一気に説明してしまったが、大丈夫だろうか?」

「大体は。わからないことがあったら、確認させてもらう」

「ああ、いつでも訊いてくれ。そうそう、あと、21時半以降に男子が女子のフロアに入ることは禁止だ。気をつけてくれ」

「あの、女子が男子のフロアに入るのはいいんですか?」

「一応問題はないことになってはいるが、あまり好ましくはない。妙な誤解を生まないよう、ロビーで話す方がいいだろう」

「はい、わかりました」

「それで3人の部屋なんだが、暁君は318号室、空君は319号室。七海君、キミは418号室だ。これが鍵だ」

 

渡されたのは小さくて平べったい、言わばカードキーだ

 

「これは部屋の他にも、教室の鍵も開けられる。もし最初に登校することがあったら、この鍵をかざすといい。落とさないように。だが、部屋の中に置き忘れもしないように。部屋に入れなくなってしまうからな」

「りょーかい」

「気をつけるよ」

 

便利なもんだけど無くすと不便ってことか

一応オーロラに触れさせて、ハウンドでも見つけれるように覚えさせておくか

オーロラに触れ、俺の認識次第で記憶させれば、作り上げた魔物を操らず本能に行動させるとき、襲うか護るか判断させられる

暁と七海、父さんは優先的に護るように記憶させてあるんだ

 

「さて、では部屋へ案内したいが……男子フロアのことは男子に任せた方がいいか。わからないことを訊く相手がワタシだけでは不便だろうし……」

「そうしてもらえると、俺も助かる」

「確かに男同士の方が気楽にってのもあるなー」

「2人の部屋の近くの男子は確か……ああ、いいところに周防、ちょっといいか!」

 

ちょうど男子が来たようだな

この学院で初めて友達、つまりアミーゴになれるのはどんな……やつだ……

あれ?小柄な女の子?今男子はって言ってなかったか?

 

「なんだい、二条院さん」

「周防は確か、317号室だったな」

「そうだけど?それが?」

「転入生だ。今日から318号室、319号室で暮らして、ワタシたちと同じクラスになると聞いている。寮や学院での細かい面倒は、同じ男である周防に頼みたい。勿論、ワタシも力にはなるが」

「なんだ、そんなことか。全然構わないよ」

「ありがとう、周防」

「お礼を言われることじゃないよ。二条院さんは相変わらずりちぎだなー。初めまして。僕は周防恭平。今日からお隣さんと、その隣ってことになるね。よろしく。同い年だし遠慮はいらないよね?キミも遠慮しなくていいから。僕のことは気軽に恭平って呼んでよ」

「あ、ああ。俺は在原暁だ」

「俺は在原空。俺たちも名前で呼んでくれ」

「わかった。サトルとソラって呼ばせてもらうね」

 

俺と暁は恭平と握手を交わす

しかし、その手は柔らかかった。女子並に

恭平ってヤッパリ女の子なんじゃね?それとも男の娘ってやつ?

 

「ところで、そっちの女の子も転入生?」

「あ、妹の在原七海です」

「僕は周防恭平。よろしく」

「よろしくお願いします」

「後は任せるぞ」

「はいはい」

「ではワタシたちは418号室に行こう」

「は、はい。暁君、空君、またあとでね」

 

ああ……愛しい妹が行ってまう……

と言っても同じ寮だから家にいた頃とあまり変わらないと思うがな

 

「さてと。案内って、どこからすればいいかな?」

「差し当たっての簡単な説明は、二条院さんから受けた」

「だから次は俺たちの部屋に案内してくれないか?」

「わかった。じゃあ、ついてきて」

 

2人と話しながら歩いたけど、やっぱり全学年いるということで部屋も結構あるな

俺と暁の部屋は男子フロアの1番上だけどその上にまだ女子フロアがあんだろ?

とりあえず念のためにだけど構造ぐらい把握しとかないと

 

「ここが319号室。隣が318号室だよ。鍵は貰ってる?」

「おう」

 

センサーに鍵をかざしてみると、中からカチャリと音がする

うぅむ、便利すぎるぞ

さあ、いざ我が新部屋へ突入!

 

「荷物もちゃんと届いてるみたいだね」

「おおー!こりゃ広いぞー!」

「確かに、思ってたのよりも広いな」

「1人で過ごすには十分……というか、むしろ余らせてる人の方が多いんじゃないかな?寮生活だと安易に荷物を増やせないからさ。後々大変なことになるしね」

 

周りを見た感想として、もう1人暮らし用のマンションに近いんじゃないかって思う

俺は漫画とかゲームとか置くけど、暁なんて部屋がスカスカになりそうだな

 

「しっかりした造りで、下手なマンションよりも防音対策がされてるから、歩くときに階下を気にしなくてもいいよ。ドタバタ騒いでたら、流石に二条院さんに怒られるけどね」

「彼女、しっかりしてそうな雰囲気だったからな」

「確か……由緒正しい家柄で、父親も警察官とかじゃなかったかな?」

「ほう、父親が警察官とねぇ。そりゃあんなしっかりしてそうな訳だ」

「あー、そうそう。何の能力かは知らないけど、お風呂とか覗こうとしても無駄だよ?覗きとかは出来ないように、ちゃんと対策は取られてるから」

「まさか……能力の無効化?」

「いんや、あくまで覗きができる透視なんかの能力に対して対応策がとられてるってだけ。能力を無効化するような根本的なものじゃないはずだよ」

「そっかー。でも俺たちには関係ないからな。なー暁」

「そうだな」

 

流石にアストラル技術の最先端の街であっても無効化はできないのか

そんな技術が開発されてたら暁と七海は動けなくなる

ま、俺には関係ないんだけどな!

 

「さってとー、荷物片付けっかなー。暁も自分の部屋見てきたら?」

「そうだな。そうさせてもらうよ」

「僕も手伝おうか?」

「俺は大丈夫。そんな荷物ねーからさ」

「俺もいい。大した量じゃないからな」

「わかった。じゃあ、夕食の時間になったら呼びにくるよ。19時だから、この部屋にいて。他にわからないことがあったら、遠慮なく僕の部屋に来ていいから。僕の部屋は暁の隣、317号室ね。今からはちょっと外に出るけど、そうだな……20分もあれば、戻ってくるから」

「ちなみに、どこに行くんだ?」

「コンビニに行くだけさ。夜食を買いに行くんだ」

「おっ!なら俺も行く!せっかくだし案内してくれよ。暁は?」

「俺はいいや。今日はちょっと疲れた」

 

AIMSの登録にアストラル能力の検査、それに暁は式部先輩の個人的な実験にも付き合ってたからな

 

「仕方ない、俺がなにかついでに買ってきてやる。リクエストは?」

「じゃあカップラーメンを頼む」

「オケィ!それじゃあ恭平、行こうぜ」

「うん。じゃあ、いってくる!」

「いってらっしゃい。よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いざコンビニに!……ってすぐ行きたかったがセキュリティが厳しいのか外出届けを出さないといけないらしい

うーん、めんどい!

 

「とりあえずやーい!お茶とあとは午前の紅茶……ミルクティー、おやつと夜食用のカップ麺類を数個でいいか」

 

後は頼まれた暁のも買って……よし、買うもんは買ったな

恭平は……おかしいなぁ、俺の倍は買ってるぞ

 

「えっ?なにそれ?そんな買うの?」

「うん!お腹が空いちゃうことがよくあるからね。たくさん買っておかないとすぐなくなっちゃうんだよ」

「そ、そうか」

 

俺夜腹減ることそこまでないけど……

俺よりも食べてるっぽいがなんで俺より細いんだ?

やっぱり女の子なんじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮に戻ったあとはすぐさまに片付け、そのあと夕食を食べ、そのまま入浴

これで大体の流れは掴んだ

 

「さーてソシャゲやらんと……おっ?着信履歴?七海から?」

 

もしかして寂しくてお兄ちゃんに電話かけちゃったのかな〜?

仕方ない!話し相手になってあげよう!

すぐに電話をかけるとすぐに通じる

 

「もしも〜し」

『そ、空、くーん……』

「電話なんてどうした?」

『助けて……空くーん……』

「なっ、どうした!何があった!」

『……助けて……ヤバい、落ちちゃう、このままじゃ落ちちゃうよぉ……お、お兄ちゃ〜ん』

「お兄ちゃんが助けに行くから!どこにいる!」

『外……窓、開けて……』

「外だな!?待ってろ!」

 

お兄ちゃんとして助けを求められたんだ!

直ぐに動かずして何が兄だ!

 

「窓開けたぞ!どこにいる!」

「おっ、落ちる……落ちちゃう……もうダメぇ、むりぃ……」

 

隣から七海の声がしたから見てみるとそこには、ロープに必死に縋りついてぶら下がってる七海がいた

場所で言うと暁の部屋の窓の前だな

 

「変な遊び覚えてお兄ちゃん悲しいよ……」

「あっ、遊んでるわけじゃなくて……ホントっ、もうむりなのぉ……ッッ……たすけっ……お願い、腕っ、痺れて……お兄ちゃんっ、お願い、おにいちゃぁん」

 

声に余裕がなさそうで、見てるだけで可哀想に思えてくる

だから俺は右手からオーロラをだし、複数のロープになるように形成し、七海を掴み俺の部屋に引き入れる

 

「はぁ……はぁ……ほ、ホントに死ぬかと思った……」

「転入してきてテンション上がるのはわかるけど心配しちゃうから危険な遊びはやめてほしいな。あっ、これ水」

「ありがと……ゴクゴク……ぷはぁ……あれは別に遊んでたわけじゃないよっ!この時間、女子のフロアは男子禁制で、女子もみだりに男子フロアに入らない方がいい雰囲気だったから」

「だからロープで外から入ろうとしたのか?」

「ちょうど、わたしの部屋の真下が暁君の部屋だったし……」

「なら暁かせめて俺に連絡を入れてくれよ。こんなことで七海に怪我なんてさせたくないんだぞ」

「……暁君がビックリするかな、って思って」

「お兄ちゃんはビックリどころかとても心配しました」

「下りてみたら鍵は閉まってるし……電話しても暁君も空君も出てくれないし」

「ああ、さっきまで風呂に行ってたんだ」

 

暁はまだ風呂に入ってたからな

そりゃどっちもいないし

 

「っていうか、ダメなら部屋に戻ればよかったんじゃないか?」

「それが……下りるのは簡単だったけど、上るのは難しくて」

「なるほどね……それでさっきみたいな状態になってたわけ」

「ホントに、死ぬかと思った……怖かったよ……ぅぅ」

「よしよし、もう大丈夫だから落ち着いて」

 

なだめるように頭を撫でる

普通にこういうことができるのは兄の特権だな

家族以外の男が七海の頭を撫でることがあればそりゃぶち殺す

 

「それであんな方法で部屋に来るなんてどうしたんだ?」

「あ、うん。なんか家事もしなくていいから手持ち無沙汰で落ち着かなくて。それにこれからのことを相談する必要もあると思って」

「ああ、確かにそうだな。それじゃ暁も呼ぼっか。もう風呂から出てると思うし」

 

スマホから暁の連絡先をだし、コールする

 

「ちゃろー、暁。もう部屋にいるか」

『ちゃろーってなんだよ空。というか隣なら尋ねてくればいいだろ』

「それは流行りの挨拶になるんじゃないかっておもって。それより俺の部屋に今すぐ来い。もう七海もいるから」

『七海が?なんで』

「これからのことを相談する必要があるって七海から言ってきてくれたんだ。だから来い」

『そういうことか。わかった』

 

電話が切れて、すぐにノック音が聞こえる

そりゃ隣だからすぐ来れるわ

 

「よし、これで3人揃ったな!」

「それじゃ早速始めるぞ。まずはこれからの方針についてだ。まずはAIMSに侵入する必要がある」

「それなんだけど……とりあえず、これを見てくれる?」

 

七海は俺たちにタブレットを見せてくる

この画面に表示されてるのは……建物の見取り図かなんかだな

 

「早速、この学院のネットワークを調べてみたの。これがその状況。これが職員室だから、ココに並んでるのは先生たちが使ってるPCだろうね」

「大丈夫なのか?いきなりこんなことして」

「七海だから大丈夫だろ。今までヘマしたことないし。だよな、七海」

「もちろん平気だよ。ちゃんと念入りに対策してる」

「でもこれ、そこいらで売ってるタブレットだろ?」

「外見はね。中身はバリバリ弄ってる、特班お手製の特製品だから安心して。ここのセキュリティも一般的な物、侵入に気付かれた反応もないから、平気」

「ならいいんだが」

 

七海が大丈夫というなら大丈夫

暁はパソコン類関係はダメだし、俺も普通の人よりはできるけど七海にはとても勝てないからな

確か父さんが七海はその気になれば大規模なサイバーテロ起こせるとかなんとか言ってたっけ

アストラル能力は治癒で、身体能力が低い分、サポート能力はずば抜けて高いってことだ

ちなみに俺もリライト能力を使えば天才にでもこんなハッカーにでもなれるにはなれるんだが、命は削りたくはないからなぁ

 

「AIMSはどこにあるんだ?」

「この中にはないよ?」

「つまり隔離されてる?」

「うん。それらしいの見当たらないから、外部からは完全隔離されてるみたい。あと、敷地内にあるっていう研究施設関連も見つけられないから、そっちも隔離されてるんだろうね」

「AIMSとかの重要度を考えると当然か……」

「ならどうする?研究棟に忍び込むか?」

「最悪そうなるかも。でもその前に、ここ見て」

 

指差した場所は最上階の一室

俺たちが数時間前にいたあの部屋か……

そこだけなんの反応がない

 

「あの部屋にもPCはあったでしょう?なのに学院のネットワーク上では見つからない」

「つまり?」

「AIMSと同じように、外部から隔離されてるってこと。普通に考えて、AIMS用の独立したネットワークが構築されて、あの部屋のPCはそこに組み込まれてるんだと思う」

「あの部屋から登録できるって言ってたしな」

「まあ情報の入力だけして、後で端末から登録し直した可能性もなくはないんだけど……」

「でもその場合はあの部屋も隔離させてる必要はないだろ」

「そういうこと。研究施設を調べるよりも、学院の校舎の方が侵入は楽なんじゃないかな?」

 

一度も行ったことない研究棟よりも、今日も少し歩いたし、明日からも中に入ることになる後者ならいろいろルートも考えれるからな

それにセキュリティも研究施設の方が格段に上だろう

 

「よし、七海は引き続きネットワークの方から校舎、特にあの部屋について調べてみてくれ。空も虫型をだして可能な限りは頼む。俺は俺で調べてみる」

「わかった」

「りょーかい」

「じゃあ七海はもう部屋に戻った方がいい。室長への報告は俺がやっておくから」

「そうしたいのは山々なんだけど……隣に飛び移ってロープで上るのは、わたしにはちょっと無理そうで……でもこの時間、廊下は人の出入りもあると思うから」

「いいよ。俺が運ぶ」

「あの……ゴメンね。手間をかけさせちゃって」

「ロープで上って逆に怪我でもしたら困るから、ここは素直に暁に甘えな」

「こっちこそいつも世話されてるからな。ほら、おぶされ」

「……よろしく、お願いします」

「次からはちゃんと先に連絡を入れるんだよ?じゃあ2人共おやすみ」

「うん、おやすみ。空君」

「ああ、おやすみ」

 

さってとー。室長、父さんへの報告は暁がしてくれるって言ってたからな〜

特別な報告もないし、ここは寝ちゃいますか

明日から新しい学院生活か……

任務のことはあるが、彼女ができたり、友達と楽しく過ごせたり、そんな青春を過ごせたらいいな



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

アラームの音がする……起きるか……

 

「……ここはどこだ!」

 

見慣れない天井!部屋は違う!でも俺の荷物が……

寮に入ったの忘れてた

朝から何1人でボケてるんだか

さて、朝は7時15分

支度していつでも食堂行ける準備しとくか〜

 

 

「おっ、暁おはよう。走ってきたのか?」

「おはよう。ここじゃ夜は走れないからな」

 

こいつは夜に走ってる

けど今は夜は出れない環境だからこの時間から走ってきたらしい

俺?走るわけないじゃん。足速いし

 

「ああ、空。あとで話したいことがある」

「……室長からか?」

「そうだ」

 

何が判明したやら、今後どうなるか……

あまり面倒じゃなきゃいいんだけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犯人の能力は認識阻害

確かに催眠とかならこんな面倒なやり方はしないし、あの2人は偽札の正しい認識ができてなかった

紙切れを紙切れと思わなく、紙幣と判断させられる

これならほぼ一致するな

 

それからアストラルの認証を通るためメモリー繊維を暁が受け取ることに

使い方とどういう物かは受け取らないとわからないからあとは暁に任せるか

あとランニング中にカメラの位置も把握したらしいからそれも聞いておいた

これで行動しやすい

 

さて、そんな俺が今何をしてるかと言うと

 

「初めまして。担任の柿本香里です」

「お世話になります、在原暁です。よろしくお願いします」

「弟の在原空です。よろしくお願いします」

 

職員室に来て担任の先生に挨拶をしてる

 

「昨日は申し訳ありませんでした。本来なら私が案内をすべきだったのですがら研究の方で手を離せなくて」

 

父さんからの話だと、この人もアストラルの研究をしてるらしい

 

「大丈夫です。むしろ同じ学生に案内してもらえて、話す機会をもらえましたから」

「おかげでここで楽しい学生生活をエンジョイできるって思えましたよ」

「そう言ってもらえると。なにか困ったことなどはありますか?」

「いえ。まだクラスに自己紹介もしてませんから、困るほどのこともありません」

「暁と同じです」

「そうでしたね。すみません。何かあれば、何でも言ってください。ここはアストラルを研究することもあって、外では違うことも多いでしょう。言ってもらえれば、できる限りの配慮はします」

「ありがとうございます」

「ああ。ちょうどいい時間ですね。それでは、教室に行きましょうか」

 

新しいクラス、今回は暁も同じクラスだし楽しい学生生活間違いないな

まさに青春って感じを送れそうだ

 

「ちゃんと愛想よく挨拶しろよ?お前七海と違って無愛想だから」

「うるせぇ、お前もあまりヘラヘラしてんなよ」

「無愛想よりはマシだっつーの」

 

そう暁と2人でわちゃわちゃしながら歩き、教室にたどり着き、先生の後に続いてはいる

辺りを見ると三司さんに、二条院さん、それに恭平と昨日顔を合わせたメンツがいる

これなら何の心配もないぜよ!

 

「皆さん、おはようございます。もう知ってる人もいるでしょうが、今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。それでは、自己紹介をお願いします」

「はい」

 

返事をしつつ、暁が1歩前に出る

こういう時兄が最初にやるってのが決まりだろ?

 

「今日からお世話になります、在原暁です。これからよろしくお願いします」

 

えっ?これだけ?確かに少しだけにこやかーな雰囲気があったけどなあ

それでみんなから拍手が返ってくる

よしっ、次は俺っちの番だな

 

「俺は在原空、これからよろしくな!暁とは兄弟で苗字が同じだから呼ぶ時は空って呼んでくれよな!」

 

挨拶を終えると、みんなから拍手が返ってくる

こういうのなんか気持ちいいんだよなー

それにラフにって感じだから怪しまれた可能性はナッシング!

 

「ありがとう。暁君と空君はアストラル使いです。この研究都市での生活にも慣れていないでしょう。困っていることがあれば、力になってあげて下さい。暁君の席は二条院さんの隣に、空君の席は周防君の隣となります」

 

なぬっ!なぜ暁ばっかり可愛い子の隣なのだ!?

いや、恭平も女の子の顔だけど……いや、ここは男の友情ってやつを深めるか!

 

「恭平の隣で良かったぜ。よろしくな」

「僕の方こそ、改めてよろしく」

 

この学院での同性での初めてのダチ、アミーゴだからな

何か困ったことがあったら恭平に頼りそうだ

 

「では、授業を始めましょうか。転入生もいるので、基礎からおさらいを」

 

それはありがたい

いきなりついていけないなんて問題が起きたらやってられないって

 

そこから始まったのはアストラルについて

昔は不思議な力とされてた超常現象

アストラルは人の脳とリンクすることで、特殊なエネルギーを生み出す

俺もこれは簡単な想像で書き換えたんだ

リンクした人間によってエネルギーの性質が違うから能力は異なる

そのリンクできる人間を俺たち、アストラル使いって呼ぶ

 

「では、アストラルとリンク出来る人間とできない人間の大きな差はどこにあるか?そうですね……三司さん、答えてもらえますか?」

「はい。現在解明されてる中で、最も大きな理由は“脳“にあります。アストラル使いは一般の方と比べて、大脳の一部が肥大、活性化が見受けられました。その領域こそが、アストラルを感知、干渉する部分であると言われてます」

「ありがとう。三司さんの答え通りです」

 

可愛いだけじゃなくて成績も優秀ってか

それに昨日話した時も親切にしてくれたし、優しい雰囲気も感じられた

ああいう子が彼女になってくれたら人生最高なんだけどな〜

 

おっと、授業に戻るぜ

アストラルを感知する器官が育ってるかどうか、それが大きな違い

だからアストラル使いは先天的に生まれてくる人だけじゃなく、後天的に覚醒する人もいる

俺も覚醒してアストラル使いになれたかもしれんが、書き換えて無理矢理手に入れたから今となっては関係ないことだ

 

「現在判明しているアストラル使いには先天的なタイプと後天的なタイプ、どちらの人が多いか……暁君はわかりますか?

「先天的なタイプです」

「その理由は?」

「後天的に目覚める人も珍しくはありませんが、その場合は力を隠す人が多いためです。そのため、アストラル使いであることを明らかにしているのは、先天的なタイプが多いとされます。ですが、潜在的な人数を調べれば、それほどの差はないのではないかと考えられています」

 

さっすが暁。勉強してるみたいだな

ん?俺が指されたら答えられたかだって?

そりゃわかるに決まってらぁ!

まっ、そんなこったで授業は進んで行った

やはり前のところとは違いアストラルについて学ぶことが多いな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空〜、ご飯食べに行こう……」

「そうだな。あと暁も呼んでやろうぜ」

「そうだね。お腹空いたぁ〜」

 

暁の席に近づく

何やら二条院さんと話してるし、一緒に誘うかな?

 

「暁。ご飯食べに行こうぜ」

「ああ。そういや学食ってどこにあるんだ?」

「校舎に学食はない。各寮の食堂で準備されてるんだ」

「お昼は好きなメニューを選ぶことが出来る上に、寮によってメニューや味はもちろん、量も違ったりするからね」

「なんだそれ!面白いシステムになってんだな!」

 

寮ごとに違うメニューってことは全制覇は時間かかりそうだけど、一つ一つ楽しめるしなんか楽しそうだ!

 

「恭平、大丈夫か?足元がフラフラだぞ?」

「それだけお腹が空いてるってことだよ」

「そんなに?朝食は食べたんだろう?」

「相変わらず燃費が悪いな」

 

二条院さんの言葉に、コンビニに行ったことを思い出す

俺よりも何倍も買ってて、しかも消費が早い

かなりの大食らいだったのか……

 

「それじゃあ行こうか」

「ああ」

「腹減ったぜー」

 

それにしても第三寮に行くって恭平が言ったら二条院さんは案内等を恭平に任せるって言ったんだが……どういうこった?

 

「あっ、暁君。空君」

「三司さん」

「昨日は助かったよ。ありがとな」

「いえ、どういたしまして。昨日はアレからどうでしたか?」

「無事滞りなく。二条院さんと──こうして恭平とも知り合えたよ」

「まだ半日しか経ってないけど、今はかなり楽しく過ごせてるぜ」

「それはなによりです」

「三司さんもこれから昼食?僕らは第三寮に行くところなんだ」

「ああ、第三ですか……」

 

なんか二条院さんと似た反応してるな

えっ?なに?もしかして特定の人しか受け付けないゲテモノ専門系とか?

 

「あっ、すみません。美味しくないわけではないので、気にしないで下さい」

「三司さんも昼食?にしては、方向が逆だけど」

「学院に取材のアポイントがありまして、そのことで先生と相談を。今日も帰りが少し遅くなりそうです」

「いつもいつも大変そうだね、ご苦労さま」

「そんなに大したことでもありませんよ大変なことも多いですが、楽しいこともありますから」

 

取材……?

ああ、そういや学生会長だかだっけ

そういうことならなんか一言ってのもあると思うが取材ってそんな多いもんかな?

 

「すみません。そろそろ行かないと」

「いや、こっちこそ呼び止めてゴメン」

「それでは私はこれで」

「うん、頑張ってね」

「ありがとうございます。暁君と空君も。第三寮のランチも本当に美味しいので、ぜひ楽しんで下さい」

「ありがとう」

「頑張ってな〜」

 

簡単な挨拶をしたあと、俺たちの横を通り過ぎてく三司さん

 

「いやー本当に忙しそうだ」

「それは学生会長だからか?」

「学生会長が理由のような……でも微妙に違うような……?」

「どういうこった?」

 

それにしても三司さんはやっぱりとっても可愛い

ここまで可愛いと思えたのは七海以外には初めてだと思うほど……なんだけどなんかやっぱり違和感を感じる

俺はおっぱいが好きだ、おっきくても小さくても関係なく。というか男はみんな好きだ。だから謎のセンサー的なものが反応する

七海は天使のような果実を持っている

でも三司さんからはなぜかジャミングされたような気がするんだ……あまり詮索はしないけど

……そういや七海と言えば、昨日暁はおぶって部屋に戻してあげたよな

つまり密着してて背中にあの天使のような果実の感触を感じてたってことじゃないのか!?

 

「……暁、お前を恨んでやる」

「は!?急に何言ってるんだよ」

「うるせぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁふざけ合いながら寮に向かう俺たち

 

「各寮で特色があってね、向こうの第四寮とかは女子に人気なんだよ。美味しいパンとかデザートに力を入れてるんだ。そして、第三寮の特色は、何と言ってもこの量さ!」

 

こりゃすげぇって思った

俺はカレー、暁は生姜焼き定食の普通盛りを頼んだ

それでも普通の男子を満足させるには十分な量だ

二条院さんや三司さんが微妙そうな顔をした理由がわかった

俺はもうちょいいけるけど人によっては男子もキチィだろ

 

「いただきますっ」

 

だけどこの女の子みたいな顔をしたこの男子はなんととんかつ定食の特盛を注文しやがった

軽く普通盛りの倍はあり、皿から溢れそうなぐらいはあるけど、バクバク食っていく

 

「いただきます」

「いっただきまーす」

「でね、三司さんの仕事は普通の学生会長とはちょっと違うんだよ」

「さっきの続きか」

「というと?あと、その量本当に食いきれるのか?」

「橘花学院はアストラル能力を受け入れた、日本で唯一の教育機関だからね。テレビや雑誌の取材を受ける機会も多いんだよ。僕はこれぐらい余裕。いつも食べてるから、むしろ特盛じゃないと満足できない体になっちゃったよ、あはは!」

 

恭平の話によると、そういう取材は三司さんが対応することが多いらしい

学生会長の仕事よりもそういう広報活動が多いとか

元は彼女が有名になったから

それは2年ぐらい前に鷲逗研究都市で起きた事故がきっかけだ

内容は予想外の強風が吹いたせいでクレーンが倒れ、建設中の建物が倒壊した事故で、そこで三司さんがアストラル能力で怪我をした人を使い助けたかららしい

それでインタビューに映る女の子がとっても『可愛い』と大評判

それで三司さんはアストラル使いでも有名になったわけだ

それでそんな彼女が橘花学院に入学したら、彼女と学院の両方に取材が殺到した……とだいたいわかった

 

「ごっそさーん」

 

だいたいみんな同じタイミングで終わった……えっ!?あの特盛を俺らと同じタイミング!?

 

「教室に戻る前にカレーパン買いに行ってもいい?」

「は!?お前まだ食うの!?」

「おやつは別腹だよ」

「悪い、トイレに行きたいから先に戻るよ」

「俺はお腹いっぱいだから少し休憩してくわ」

「わかった」

 

恭平を見送り、周囲に目を向け、暁にアイコンタクトをすると暁が頷く

校舎のセキュリティを調べとかないとな

 

敷地内には複数の虫型の魔物を既に徘徊させている

そっから得た情報を暁に伝えつつ、セキュリティを調べ校舎に戻っていく俺たち

 

「大体、予想通りだな」

「これならなんとかなるか」

「ああ、この程度なら七海がなんとかするはず──親父からのメール」

「なんて?」

「どうやらアレの準備ができたらしい」

「そっか。思ったよりはやかったな。そっちは任せるぜ」

「わかってる。今は教室に戻らないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の授業も終わり、今は寮に戻ってる最中

アストラルの授業以外は前通ってた所とあまり変わらない

授業進度が違うくらいだから何とかなるだろう

なんか体育もアストラル使いは能力を実際に使うから違うとかなんとか

 

「空くーん」

「七海。初日はどうだった?」

「疲れたよぉ。予想通りみんなの前で自己紹介させられて……しかもその時、噛んじゃったよ」

「そう落ち込むなよ。そのミスが可愛く見えたり、話しかけられるようになったりするんだよ?」

「うん……まあ確かに、話しかけてもらえたよ。凄いよねぇ……初対面の人間に明るく話しかけるなんて、まさにコミュ力お化け」

「でも友達になれたんだろ?なら良かったじゃないか。その子との関係を大切にな」

「うん。もちろんわかってるよ」

 

人見知りの七海にコミュ力お化けって呼んでたその子

結構いい相性なんじゃないかな

 

「あれ、あそこにいるの暁じゃね?」

「本当だ。声かけてみようよ」

 

なんか突っ立って何やらしてるし

こんな所で何やってんだか

 

「暁君?こんなところで何してるの?」

「七海……空……」

「なんかいかにも不審者って感じだったぞ」

「さっきから1人で呻いて……どうしたの?なにか悩み事なら話ぐらいは聞くよ?」

「それが──……七海……そうか七海だ」

「……?」

「七海!」

「はっ、はいっ?」

「お前の力を貸して欲しい」

 

ん?七海だけで俺はいいってことか?

 

「ここは七海に任せていいかな?俺は部屋に戻って情報収集するから」

「うん。任せて」

 

七海は可愛らしくニッコリと笑って答えてくれる

俺はこの笑顔を見るために生きてるんだ……

っとさっさと部屋に戻って虫たちを消しておかないと

見つかったら学院にUMAが現れたとか珍しい昆虫がいたとか話が回りそうだからな

なんて思って戻ってたら

 

「えぇぇぇーーーーー!?」

 

と七海の声が聞こえた

暁は何を頼んだんだ?




潜入の所まで書きたかったのですが長くなったので2話に分けました
次で秘密暴きます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

時刻は夜。任務の時間だ

でもなんか七海は泣きそうになってるわ暁は謝ってるわでおかしいことが起きてる

 

「何があったの?」

「それがね、暁君のラッキースケベのせいで……」

 

七海が言うには暁のラッキースケベでメモリー繊維が式部先輩の鼠蹊部近くに貼ってしまい、七海が式部先輩を誘って風呂に入って取ったにはいいけどそっち系の趣味を持ってるんじゃないかって疑われたらしい

 

「それなら俺の方が適してたんじゃないか?」

「空君!?何言ってるの!?」

「別にそういうことじゃないよ?先輩はアストラルの研究してるし、こんな使い方できるってオーロラの小型犬でも作ってじゃれさせながらそのまま取らせればよかったんじゃないかと思って」

「……言うの遅いよ」

「なんかごめん」

 

でも詳細は聞かずさっさと行っちゃった俺も悪いかも

俺は七海には絶対に叱らないし怒りもしないからな

でも注意はするよ?

 

「お詫びはちゃんとするからな」

「約束だからね」

「わかってる。それで本題なんだが、セキュリティはどうだった?」

「あ、うん。ちゃんと調べたよ。想定した通り校舎側のセキュリティは厳しくない」

「俺も魔物を通して見たけど、暁が把握した通りだったぞ」

 

俺は自分で作った魔物なら契約線のリンクを通して目線から見ることが出来る

でもその間俺の身体は何も出来なくなるから部屋に戻って少し調べていたわけだ

それに暁の本当の能力“脳のコントロール”

それで脳を活性化し、映像記憶として、カメラの位置などを把握してるってわけ

 

「そろそろ行くぞ」

「うん」

「おう」

 

そっから隠密行動だ

カメラの位置は把握してるから難なく校舎前まで行くことが出来た

もちろんステルス機能があるから警備員の目は誤魔化せてる

七海がセキュリティシステムを切り替えてるうちに鳥型の魔物、オーロラバードを6体作り出す

 

「2体は見つからないように警備員につけ。残りはそれぞれ敷地全てみわたせる所に行くんだ。何かあったら契約線を辿れ。行け」

 

外の監視は俺の役割

動物で動かせるためいつでも対象を追えたりすることが出来るから適所なんだ

 

「空、行けるか?」

「何匹か上空に向かわせた。外のことはもう大丈夫だから中に行くぞ」

 

暁は身体能力を上げ、七海を抱え壁を登っていく

俺も身体は昔に書き換えてるからこれぐらいは余裕だ

窓から中に入り、目的の部屋の前までたどり着く

そして七海がセンサーに近づき、身体を張って回収したシートをかざす

……が反応がない

 

「……やっぱりダメか?」

「反応が弱いのかな?」

「ここまで来てそれはないだろ……」

「一度引き返そう」

 

って暁が提案した時、中から解錠の音がした

良かったな、七海

直ぐに部屋に入り、気配がないため誰もいないことがわかる

 

「すぐに始めるよ」

「俺は1回外の周りを見てみるよ」

「わかった」

 

その場で目をつぶり、契約線をたどり、1匹ずつ目線を変えていく

今のところ特に目新しい変化は見当たらず、警備員もただ見回ってるだけだ

今は異常がないから意識をこちらに戻す

そこでちょうど七海が調べ終えたようだ

 

「認識阻害で登録されてるのは……社会人が1人、学生が1人。両方とも男の人だよ」

「情報出せるか?できれば顔も」

「うん、写真も登録されてるから。はい、これ」

 

1人は小野清国(おのしずくに)。化学工業系の会社でアストラル研究に関わる研究者

顔立ちは大きな体に見合った少しいかつい印象だからこの人がカツアゲされることは無さそうだ

もう1人は菅英人(すがひでと)。俺たちとおなじ橘花学院の1年

痩せすぎの体格にメガネをかけていかにも気弱ってやつだ

 

「よし。覚えた」

「それじゃあ撤収?」

「ああ。長居は無用だ」

「了解。最後にお掃除をしとかないとね」

 

と、七海が端末の操作を続けた時だった

突然、校舎の外でアラームが鳴り響いた

 

「警報っ!?」

「えっ、ウソ!?なんで!?そんなはず──なにかミスった!?」

 

七海が失敗するなんてありえん

これは外で何かしらあったに違いない

 

「どどどどどうしよう、どうしよう……なにかの罠?トロイの木馬!?攻勢防壁!?画面にBABELの文字列が!?」

 

その前に、慌てちゃってるこの子を落ち着かせないと

 

「七海、落ち着け。ミスなんてしてないだろ?だから大丈夫だ。暁、外の様子は?」

「人影が慌ただしく動いてるが、校舎とは反対方向に動いてるように見える」

「わかった。なら俺が外を見る。知っての通り俺はその間無防備になるから暁は誰か来ないか意識してくれ。七海はその間に痕跡を消すんだ」

「う、うん。わかった」

「こっちのことは任せろ」

 

再び目線を魔物の目線に変える

そこにはさっき見えなかった人物が見えた

 

「あれは……三司さんに柿本先生?」

「なんでこんな時間に外に出てるんだ?」

「確か昼に取材とか言ってたよな……」

 

それでこんな時間までいるってことか

……ちょっとまて、そこで何か慌ただしい

誰かが警備員に抑えられてる

 

「三司さんの付近に警備員に抑えられてる人がいる。どうやらそっちがセキュリティに引っかかったらしいな。三司さんはそいつから離れたから大丈夫だろう」

 

他の魔物の目線に通すが……誰だこいつら

侵入者にしては体格が良すぎる

ってちょっと待て!さっき三司さんが向かった方向にいるじゃないか!

このままだと鉢合わせだ!

 

「このままだと三司さんが危ねぇ!」

「待てよ空!クソっ!俺は空を追いかける!七海はステルス機能を使ってこの部屋から動くな!」

「わ、わかった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あそこまでの距離は遠い……!

なら四足歩行のハウンドか!?

いや、まだ守衛対象に入ってないから三司さんを襲うかもしれない!

なら今周囲にいる魔物を……ダメだ、戦闘向けじゃない

こうなったら……俺がやるしかない!

意識しろ、今の俺よりも強く、速い自分を!アクセルを踏むんだ!

 

身体の中で光が収束し、ひとつになるのがわかる

その瞬間、急激な脱力感が起きて、一気に力が溢れてくる

……書き換えてしまった。けれど俺がやらないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……ビックリした。まさか学院の敷地内にまで入ってくる人がいるなんて……でも、どうやって仲間で入ってきたんだろ……?」

「それを誘導した人間がいるという事だ」

「──なッ!?」

 

誰ッ!?この人たち!

誘導って……私を狙ったってこと!?

 

「捕らえろ」

「はなっ!放しなさいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆けつけた先で見た光景は、予想通りのものだった

 

「はなっ!放しなさいっ!」

 

さっき見た黒い服に黒い目出し帽を被ったいかにも怪しいヤツらに襲われてる

警備員の人たちはさっきの方にいるから来てないのか?

前の方はどう見ても一般人だったし熱狂的なファンってやつだ

でも目の前の奴らはどう見ても違う

それにカメラの死角にいる……どう見ても気がついてるってやつだよな

 

「アナタたちは何者?私に何をするつもり?」

「静かにしろ」

「ッッ!?」

 

ナイフを取り出しやがった……?女の子相手にだって?

……父さん、暁、七海、ごめん

でも俺は目の前で襲われてる女の子を助けないような人間じゃないんだ

その気持ちを抱え、気がついた時には飛び出した

 

「おいっ!」

「──ッ!」

「光学迷彩だとッ!?」

 

まずは意識をこちらに向かせることに成功

ステルス機能をONにしてるから見つかることはない

その一瞬の隙にナイフを持ってるやつを無力化する!

 

「ぐっ!」

 

側面から腹部に1発入れ、三司さんの体から吹き飛ばす

書き換えてる俺の一撃は一般人とは違う

だけど書き換えてすぐでコントロールが出来てないため、耐えやがった

打ち込んだ感覚は脂肪じゃなく、筋肉だったからこいつらが普通の奴らじゃないことが分かった

なら、これで!

下に潜り込み、顎を突き上げる

 

「ごッッ!?」

 

おとこは垂直に落ちるように、倒れて昏倒

まずは1人

もう1人を見ると、さすがに硬直はしてないか

手にはナイフがある

 

「──シッ!」

 

はっ、バカが

距離感を掴めてないのに闇雲に振り回したって当たる訳があるか!

 

「ちぃっ!」

 

最小限の動きでかわし続ける

焦るな、隙を見つけ叩くんだ

 

「クソっ!」

 

だんだん相手は焦れて来たのか、動きが大きくなってきた

つまり隙だらけ

そのまま腕を絡め取り、肘の関節を極める

 

「──いぎぃっ!?」

 

ナイフを落としたな

リストブレードを作ればこんなのしなくてもいいんだけど能力を見られるわけにはいかない

なら学んだ体術が有効になる

そのまま一発いれ、相手はその場に倒れる

──終わりだな

 

「……な……なに……なんなの?」

 

やっちまったか

でも俺は心に従ったんだ

心が決めたことは止められない──

これで処分がこようが全部受止めるさ

……が、家族に余計な手間をかけさせるのは心苦しいな

 

「アナタたちは一体……」

 

ステルス機能はまだ維持してる

顔はバレてない

今すぐにここから離脱すれば──

 

「空!後ろだ!」

「なっ!?」

 

暁の声に反応し、すぐに反応する

 

「邪魔を、するなあッ」

「ちぃっ!」

 

力のコントロールがまだ出来てなかったのか!

最初に倒した男が予定よりも早く意識を取り戻すなんて!

この位置は……まずい!

 

「──えっ」

「三司さん!」

 

ナイフの軌道に入ってしまってたか!

 

「野郎っ!!」

 

いち早く反応できてた暁が側頭部に蹴りを入れて、男を吹き飛ばし昏倒させてた

でも今はそんなこと確認してる場合じゃねぇ!

 

「三司さん!無事か!?」

「ちょっ、やっ、放して!」

「落ち着け!俺は敵じゃねぇ!」

「え?その声、もしかして、空……君……?」

 

少しでも不安を取るためにステルス機能を解いた

 

「やっぱり……なに?なんなの?なにがどうなってるの?」

「そんなことはどうでもいい。今はそれよりも胸の傷だ!早く止血しないと!」

 

暁もステルス機能を解き、近寄る

多分俺の意図をわかってくれたんだろう

……巻き込んでごめん

 

「暁君まで……。それより止血って……えっ!?あっ、胸!?ちょっと待って待って!ストップ!大丈夫!怪我なんてしてないから!」

「そんなわけないだろ!斬られたのを見ちゃったんだから!傷口を見せて!せめて応急処置はしねーと」

「落ち着こ!いったん落ち着こっ!ね?ね?お願い、お願いだからぁぁ!あっ、ダメ!ちょ、待って止めてダメェェェェ!」

 

三司さんは必死になって俺を止めようとし、後ろに下がる

けど俺はその静止を無視して、胸元を抑える腕を無理矢理引きがした

──ペラッ

と切り裂かれたシャツの胸元が捲れた

そしてポトリとなんか落ちた

 

「うわぁぁ!!おっぱいがっ!?」

 

ごまだれ〜♪(ゼ〇ダの伝説の宝箱を開けた時風)

おっぱいを手に入れた!まさに男のロマンだ!

……ってそうじゃねぇ!……嘘だろ……おっぱいが……

 

「空、見てみろ。血が出てないんだ」

「…………どゆこと?」

 

えっ?なに?じゃあこの転がり落ちたおっぱいは一体?

 

「パッド……?」

「──ッ!」

 

パッド……初めて見た。当たり前だけど

えっ?じゃあ俺のおっぱいセンサーに反応しなかったのってパットがあったから?

やべ、納得いったわ

しかもよく見ると布製の他に、切り裂かれたブラジャーの下にもシリコン製のブラジャーが見られる

つまり二重……

 

「ぁぅっ、ぁぅっ、ぁっぁっぁっ──」

 

あっ、声にならないってやつだ

でもこんなの同性にも知られたくないもんだよな

それを異性である俺と暁に知られちゃったんだ……どうしよう。しかも泣きそう

 

「ちょっ。待って!落ち着いて!なっ!」

「落ち着けって、アナタ、この状況で、そんな」

「わっ、悪かった!三司さんが怪我をしたと思って……俺たちの早とちりだったんだな……」

「最初からそう言ったじゃない!なのにっ、なのにそれを無理矢理ひん剥いてっ!なんで……なんでこんな辱めを……ぅぁぁぁ……」

「いやだって、パッドのおかげで助かったなんて、想像だにしてなくて」

「ビキッ!」

「俺もそう思った。でもまあ、それで怪我をせずにすんだんだから感謝すべきなのかもれいないな」

「──ブチンッ」

 

あっ、今嫌な音がした気がする

 

「言うに事欠いて……パッドのおかげで助かった……?胸が偽物で良かった……?バカにして……バカにして……ぐぬぅ〜〜〜……ッッ」

「ちょ待てよ!そこまで言ってないぞ!?」

「だれが乳部・タイラーだ!ぶっ殺してやるぅっ!!」

「暁ぅ!」

「俺じゃねぇ!」

 

というか今までの雰囲気違くね!?

これが素の状態!?今まで猫かぶってたんだ!

女の子怖ぇ!

 

「こっちから叫び声が!」

「大丈夫ですか、三司さん!」

「まだ侵入者がいたのか!」

 

やべ!向こうの件も片付いてこっち来たのか!

 

「大体!どうして!?こんな時間に外で何をしてるの?それにさっき、透明になってたのは?」

「それは……」

「えっと……」

「アナタたちは一体何者なの?」

「俺は、その……」

「三司さん!どこです!」

 

声が近づいてる!まずい!

 

「俺は……」

「俺は、君を護るためにここに来たんだ!」

「はぁっ!?」

「空!?」

 

俺はとってもカッコイイことを口走ってました

自画自賛ですけど




とうとう秘密を暴きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

『本当、とんでもない事を口にしてくれたもんだよ。何言ってくれちゃってんのよ、お前』

「何ってカッコいい決め台詞?あの時はちょっと自分でもイケてるって思っちゃったね」

『はぁ……呆れすぎて何も言えん。頭の中を整理したい。悪いがもう一度報告を頼む』

 

容疑者の2人については暁が先に報告してるからな

俺は昨日の出来事をわかりやすく、簡単に説明した

 

『その際、顔を見られたんだな?その上ステルス機能と暁まで』

「いやー面目無い。そこは悪いと思ってる」

『……はぁぁ……』

「でも見過ごすことはできないさ。父さんもわかってるだろ?」

『確かにお前は人を助ける方を優先する。そういうヤツだ。それは親としては、人を助けられる人間で嬉しく思ってはいるが……任務の観点から見れば落第だわな』

「へーい」

『嘆いたところでやっちゃったもんは仕方ない。で?彼女にどこまで打ち明けたんだ?まさか、バカ正直に“特班”の事をベラベラ喋ったわけじゃなかろうな?』

「そこは大丈夫。俺は『君を護る!』ってことぐらいしか言ってねーし、暁はなんか俺にツッコミを入れてることと内緒にしてほしいことぐらいだったしな」

 

昨日の夜のことを鮮明に思い出すがそれしか思いつかない

いやぁ、我ながら漫画の主人公っぽい台詞言えてなんか満足してるなぁ

 

『暁が言わなきゃアウトだったけど、今のところは、彼女は秘密を守ってくれているということだな?』

「ああ。今のところはね」

『ステルスを解除した時、カメラは?』

「カメラの死角だったんだ。というか彼女を襲った場所自体カメラの死角だったんだよ」

『突発的ではなく、計画的な犯行だな。そっちも気になるが、今はお前たちの話だ。ともかく、最悪の事態は避けられてるんだな?』

「俺も暁も先生からの呼び出しはないよ」

 

暁も七海も部屋にいると思うが、今んところ何もないからな

俺もこの通り連絡してるわけだし

 

『では、三司あやせの信用をこのまま勝ち取ることができれば、被害は最小限にとどまるワケだ。とりあえず、自分で蒔いた種は自分で刈り取れ」

「というと?」

『キミを護る!って格好良く言ったんだろ?その責任は取るしかないだろう』

「やっぱ父さんもカッコいいって思う!?さすがわかってるわ〜」

『ちなみにおだてても減給は確定な。それにまだ偽札の件も片付いてないだろ』

「チッ……ダメだったか……」

『その上で在原空、それに在原暁には任務を与える。三司あやせを護れ』

「りょーかい。願ってもない任務だ」

 

俺でも誰かを助けることができる

それが例え任務だとしても実感できるんだからな

 

『こちらでも出来る限りサポートはしてやる』

「サンキュ、助かるよ」

『とにかくお前たちは三司あやせと話を済ませろ。いいな?』

「りょーかい」

『偽札の件はこちらの連絡を待て。お仕置きについては裏付けを取ってからだ。以上、通信終了……の前に、もう一つ確認する』

「ん?まだなんかあるの?」

『空、お前のことだ。三司あやせを護るためにリライト能力を使っただろ?』

 

あー、そういや書き換えてたんだっけ

 

「確かに一段階ほど身体能力を書き換えたよ」

『身体とかは大丈夫なのか?』

「これといってはね。でもコントロールがまだかな」

『そうか、それなら良かった。あまり使うなと言いたいが、今回は自分で納得いく使い方をしたんだろう?』

「もちろん。それで三司さんを助けられたからね」

『その返事が聞けたなら問題なさそうだな。ではこれで通信終了』

 

やっぱり確認するぐらい心配させちまったのか

リライト能力には命を削るほかにもう一つ代償に近いものがある

それは元に戻せないことだ

だから書き換えた後コントロールできないと昨日の俺のように万全ではなくなってしまう

簡単に言えば、今の俺は本気で走れば、身体能力を強化した暁と同スピードくらいで走れたりできる

身体強化を持ってないのにそんなに速かったりしたら明らかに怪しまれる

最初なんてかなり苦労したもんさ

 

さて、朝食でも食べに行きますか

それにしても三司さんになんて説明すっかな

そこは暁と話してみるか

 

「おはようございます、空君」

「やぁ三司さん。おはよう」

「暁君はいないのですか?」

「先に食堂に行ってないならもうじきくると思うけど」

 

と、暁のことを話してたらちょうど降りてきた

ナイスタイミング!

 

「おはようございます、暁君」

「おはようさん」

「おはよう、三司さん、空」

「よかった、お2人ともちゃんと朝食に出てきてくれて。もしかしたら、突然また転校しちゃうんじゃないかって心配だったんです」

「おかげさまでその予定はないよ。今のところは」

 

そう言いつつ、暁の視線がおっぱいを見ているのがわかる

それに今の俺なら前よりおっぱいセンサーを感じ取ることができる

正体さえわかればジャミングとかってなくなるんだな。これで偽乳かどうか判断できるようになっちまったぜ!

 

「何ですか?」

「何でもない」

「それよりも、もしかして俺たちのこと待っててくれたの?」

「はい。あとで少し時間をもらえませんか?」

「念のため理由を聞いても?」

「ふふふ、言わせたいんですか?わかってるくせに」

 

これが別の意味だったら嬉しいんだけど、本当の意味知ってるからなんか怖いんだよなぁ

 

「一応、確認しただけだよ。もちろん応じさせてもらう。だから話をするまでは」

「大丈夫。わかってますよ、それくらい。私よりお2人こそ……わかってますよね?」

「あ、ああ……わかってる……よ」

「も、もちろんであります!」

 

何だ今の!目が殺る目だったよ!

ちょいとビビっちまった!

 

「だったらいいんです。じゃあ、そうですね……お昼休みに、学生会室に来てもらえますか?」

「昼休みね。りょーかい」

「昼食を食べた後でもいいかな?」

「構いませんよ。今日は取材関係の仕事や打ち合わせもありませんから。どうぞ、お2人のタイミングで」

「ありがとう」

「じゃあ、待ってますからね♪」

 

そんな可愛く言われても、猫かぶってるんだなぁってわかっちゃってるとねぇ

でも実際可愛いのは反則っしょ

それよりちょうど人がいないし、暁に報告しとくか

 

「暁。今朝父さんに報告し、新しい任務が言い渡された」

「なんだ?」

「三司さんの護衛とな」

「昨日の襲撃もあったし、お前もあんなこと言ったしな。予想はできてた」

「巻き込んだのは悪いと思ってる。だからこの件は俺1人でも大丈夫だぞ?」

「そういうわけにもいかないさ。俺も手伝う」

「……ありがとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうなの?ちゃんと説得出きそう?」

「わからん」

「話はできるから可能性はある!……はず」

「なんでそこで弱気になるの?」

「お兄ちゃんたち殺されるかもしれないから……」

 

あの目は殺る目をしてた……

 

「殺され──って……2人とも、何したの?」

「……それは」

「ちょっと……なあ……」

 

実は三司さんはパッドでした!盛っていたんです!

なんて七海には言えない。というか世界中の人に言えない

 

「…………」

「なんだよ、その目は。まだ何も言ってないだろ」

「なんとなく察しはついた。どうせラッキースケベで、なにか変なことしたんでしょ?式部先輩の時みたいに」

「さ、さて?何のこと?」

「空君嘘つくの下手すぎだよ。つまりそういことがあったってことなんだ?」

「ん、まあ、その、なんだ……チラっとな」

「やっぱり」

「とにかく、彼女のことは俺が何とかする。というか俺がこの問題起こしたんだからな」

「それにひとまずこの話はここまでだ」

 

暁が途中で話を切ったってことは誰かが近づいてきたってことか?

こいつ人の気配わかるからな

俺もわかるけど学院内でそんな気を巡らせて疲れたくないって

 

「おっはよー!」

「え?あっ、おはようございます、壬生さん」

 

七海に挨拶した……ってことはクラスメイトかな

少し2人が喋っているところを見ているが……七海はまだ敬語使ってる

それに対して、女の子は元気なまま。それに七海の対応にもなんも言わない

七海が言ってたコミュ力お化けの子かな?

 

「ところで……チラリ?」

「あっ、暁君と空君はわたしのお兄ちゃんで……」

「在原さんのお兄さん?そっか。だから雰囲気が教室とは違ってたんだ。あっ!自己紹介が遅れてすみません。壬生千咲っていいます!在原さんのクラスメイトです」

「初めまして、七海の兄の在原暁だ。歳は1つ違いで、学年も1つ上だよ」

「俺は在原空。暁の弟で七海の兄だよ。学年は暁と同じなんだ」

「よろしくお願いします、先輩」

「こちらこそ」

「こっちこそよろしくな」

 

先輩……先輩かぁ!

やべっ、またなんか別の喜びがある!

 

「それと、妹のこともどうぞよろしくお願いします」

「七海は人見知りだからな。それなのに寂しがり屋でね。だから千咲ちゃんから話しかけてあげて」

 

こういう子がいてくれないと七海は孤独になっちゃいそうだからなぁ……

お兄ちゃん心配です

 

「はい!わっかりましたー!」

「2人とも!?そういう余計なことは言わなくていいからぁ!」

「余計なことじゃないだろ。兄として普通に挨拶してるだけだ」

「それが余計なの!昨日から、会う人会う人に恥ずかしいことばっかり言って、もぉ!」

「俺たちがこれぐらい言っておかないとなぁ。七海は自分から踏み込むタイプじゃないだろ?」

「だからそういうところがぁ──」

「ぷぷぷっ!ぷぁはっ、ははは!」

「あっ、うっ、……くぅぅぅ……2人のせいで笑われちゃったじゃない……バカ……」

「ゴメンって。バカにしてるわけじゃないよ?教室と違って凄く楽しそうだった」

「〜〜〜っ、わたし先に行くっ」

「あっ!待って待って!それじゃあ先輩、失礼します」

「悪いけど、妹をよろしく」

「仲良くしてあげてね」

「はいっ!」

 

明るい笑顔で返事してくれる

とってもいい子だな

 

「俺たちが心配しなくても、七海は大丈夫そうだな」

「そうだな。あんな子がいてくれて良かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を食べ終え、俺と暁は学生会室の前に立っている

 

「いざ!死地へ赴かん!」

「少しは静かにしろ」

「ふぁ〜い……」

 

黙ったところで、俺が扉をノックする

 

「はい」

「在原です。入ってもいいっすか?」

「ちょっと待ってください」

 

ん、中から話し声が聞こえる

先客ってことか。少し離れて待つとしよう

と離れてちょっとしたら扉が開いた

 

「理事長!?」

「待たせてすまない。彼女と話があったんだ」

「い、いえ」

「大丈夫っす」

「転入してみた感想はどうだね?」

「ま、まだ2日目ですので。ですが、アストラルに関する授業は興味深いです」

「前の所とは違い、いい経験ができてます」

「そうか、学ぶことを楽しめているなら何よりだ。今後もしっかり学んで欲しい」

「「はい」」

「では」

「「失礼します」」

 

これだけってことは別にバレてるわけじゃないってことだし話もしてないってことか

平静を保っておいて良かった

さて、中に入る前にもっかいノックしてっと

 

「どうぞ」

「「失礼します」」

「約束通り来てくれたんですね、よかった」

「俺たちにとっても重要なことだから」

「扉は閉めて下さい。ああ、鍵も忘れないで下さいね」

 

俺の後ろにいる暁が言われたとおりにする

今回は俺が招いたことだから俺が前にいるのだ

 

「理事長との話、邪魔しちゃったかい?」

「そんなことはありません。大切な話をしていたわけでもありませんしね」

「そうか。なら、いいんだが」

「はい。ということで、早速ですが本題に入りましょうか」

 

と、ニッコリ笑った次の瞬間、そこ雰囲気が一変した

 

「取り繕うのはここまででいいわよね。どうせ、もう気付いてるんでしょう?」

「「…………」」

 

昨日の反応と、『ぶっ殺してやるぅっ!』って発言からもう猫かぶってるんだなってのはわかってたんだけど……

切り替え方が半端ねぇ!さっきまでの優しい雰囲気ちゃうぞ!

おい誰だ!『女神や天使のようだ』なんてふざけたこと言ってたヤツは!

 

「ゴメン。さっきまで話してて時間がなかったから、食べながらでもいい?」

「あっ、うん」

「ありがとう。ん……甘くて美味しい……」

 

気怠そうにマフィンを齧るその姿は、さっきまでの姿の雰囲気を欠片すら感じられない

七海もこんなんなの?お兄ちゃんたちの前と他の人の前だと違うの!?

 

「さて、内容が内容だから、最初から腹を割って話をしましょう。2人も楽にして」

「わかった」

「おう」

「──で?」

「でって?」

「昨日のことに決まってるじゃない」

「……ああ、昨日のパッドのことなら──」

「ぶっころすっ。誰がそんなことを訊いたかっ!昨日のことを説明してって言ってるの!」

「ああ……俺たちの話の方ね」

 

だって昨日なんて言ったらねえ……

ありゃ衝撃的でしたよ

 

「…………。ワザとやってるんじゃないでしょうね。言っとくけど、これ以上バカにするのなら許さない。ましてやムネ・タイラとか無乳会長タイラーとか乳部・タイラーとか、もう一度言ったら……潰す」

「えっ?暁そんなこと言ったのか?酷っ」

「だから言ってねぇ!それに考えたことすらないんだが!?」

「……ならいいんだけど」

「ていうか、潰すって何を?」

「は?そんなの決まってるじゃない。もちろん──…………〜〜〜ッッ」

 

ほう、素の姿でもこういう部分は可愛らしいな

ちゃんとした女の子ってか、なんか安心

 

「細かいことはどうでもいいでしょ!とにかく、変なあだ名を付けたら絶対に後悔させてやる。はむっ」

 

照れ隠しだな。マフィンにかぶりつき始めた

可愛らしいところ見れて少し来てよかったな

 

「だから俺はあだ名なんて付けない。バカにするつもりはない」

「俺も同じだよ。全く、世の中にはアホなやつがいたもんだ」

「いきなりパッドの話を振っておいて、何を言うか」

「いやー、昨日の事って言うから何かフォローしていた方がいいんじゃね?って思ってさー」

「むしろ思い出させないで欲しいんですけど。はぁ……やっぱり、完全に見られたのよね……私の、胸……」

「あー……」

「うん、見ちゃった。あっ、でもシリコンパッドで隠れてたし見たって言えんのか?」

「オ前マジブッ飛バス」

「おい空!」

「えっ!?でもホントだったろ!?」

 

あれはほとんどパッドで隠れてたはず!

大丈夫だ、自信をもて俺!

 

「そうじゃない!それでフォローしてるつもり!?本気なの?神経を逆撫でする、余計なことしか言ってないことを自覚して欲しいんですけど」

「ごめんなさい」

 

暁の方をチラリと見ると

(お前の一言が余計だ)

って言うアイコンタクトが伝わった

仕方ない、フォローは諦めよう

 

「とにかくパ、パ……パッド……の話はいいから。それよりも。私を護るってどういうこと?」

「それはそのまんまの意味さ。俺は君を護るし、暁もサポートしてくれる。昨日が昨日だから説明はいらないと思うけど」

「そういうことじゃなくて」

「悪いけど、質問に答えられるほどの情報は持ってないんだ。知ってるのは君が襲われるかもしれないってことだけ」

「どうして私が襲われるの?」

「俺たちそういう立場にないから知らないんだ。でも俺たちは君の味方。これだけは本当さ」

 

そっから質問され続けたけど……答えられないからな

こればっかりはもう仕方がないんだ

だって特班のこと知られるわけにはいかんしな

 

「これじゃなんの説明にもなってないんですけど」

「申し訳ないけど言えないことばっかだからね」

「……まっ、そんなことだろうとは思ってたけど」

「意外とアッサリしているんだな」

「少し考えれば、それぐらいわかるわよ」

 

ええー?そうかー?……なんて思っててその考えを聞いたら

この学院は身元の確認は厳しいけど、俺たちは普通に転入できた……ってそんな情報は初耳だー!

まぁいい、次はステルス機能

俺たちの能力では透明化できないから道具を持ってるんじゃないか……これは俺のミスです。はい

特殊な仕事に就いてて、発表されてない技術を使ってる。そんな組織がまともであるはずがない。だから正直に言えないんじゃないかってこと

まさかこんな少しの情報でここまで考えられるなんて、これが優秀である証拠か……

 

「でも、何のために私を護るの?アナタたちの組織って、もしかして正義の味方?」

「正義の味方か……だったら、いいんだけどな。詳しいことは言えなくて申し訳ないが……少なくとも俺は、能力を人の役に立てたい。そう思っている」

「俺も似たようなもんだな。これだけで信用してくれっていうのは無理があると思うが、昨日三司さんを助けた。そして逃げずにここにいる。この行動だけでも信じて、少しだけでいい、俺たちに猶予をくれないか?」

「……わかった、今はそれでいい」

「そっか、ありがとう」

「別に……。言っとくけど、信頼してるわけじゃないからね。何も言えない相手を信頼できるはずないでしょ。でも命を助けられたのも事実だから。それぐらいはね。それで、襲撃ってまだ続くの?というか、アイツら何者なの?」

「犯人については調査中。他は聞かされてない。ただ俺たちの敵であることは確かなんだ」

「安全についても、まだ保証できない。だから今後は、なるべく1人にはならないで欲しい。昨日の襲撃から考えても人目は避けるはずだ。警備の人間じゃなくてもいい。とにかく誰かと一緒に過ごすようにしてくれ」

「わかった。心がける」

 

これでなんとかなっかな

それに取材はしばらくは断るそうだし、セキュリティも強化されるそうだし

詳しくはわからないが、また魔物を放って偵察すっか

 

「あと……俺からも1ついいかな?」

「なに?」

「三司さんの能力について。昨日襲われたとき、どうして能力を使わなかったんだ?三司さんはアストラル使いだろう?」

 

そういやそうだな

事故現場で能力を使い人助けをしたんだし、それなりの力はあると思うんだが

 

「何か使えない事情があるなら、先に教えておいて欲しいんだ」

「……まあ、そうよね。同じアストラル使いなら当然の疑問か。使えないわけじゃないわ。説明がわりに、そうね、空君に向けて能力を使ってもいい?それが一番手っ取り早いと思うから」

「それはいいけど……変な憂さ晴らしとかは勘弁してください」

「私を守ってくれる人を相手に、危ない真似はしないわよ。怪我だってさせない。それに何かの影響が残るような能力でもない」

「それならいーよ」

「じゃあ早速。ああ、ちゃんと手加減はするけど……多少は踏ん張ってた方が安全よ?」

「ほえ?……ほー」

 

突然俺の体に見えない力が襲い掛かった

身体を書き換えてるほぼ超人みたいになってるから俺はなんともないが、これ暁じゃあちっと苦しむかもな

 

「おおっと?」

 

力が消えたと思ったら身体が軽くなった

これは天井に引き寄せられてんのかな?宙に浮き始めるし

 

「──イデッ!?」

 

天井に軽く叩きつけられたんだけど

 

「やっぱり憂さ晴らししようとしたでしょー」

「違うわよ。ごめんなさい、ちょっと加減を間違えちゃっただけ。もしかして、そんなに痛かった?」

「軽くだったけど、油断というか不意打ちだったから」

 

診断では、引力と斥力の操作らしい

確かにこの能力なら事故現場でも活躍するな

着地し再び話を聞くが、この力の指定は空間らしい

だから相手が近距離にいると自爆するし、力の調整が必要だから結構神経使うとか

それじゃ昨日みたいな襲撃に対応するのは無理か

 

これは珍しいことじゃなく、出力を調整するとき、集中力が必要になる

慣れてくればその調整を感覚で行えるし、暁なんかがそうだ

ちなみに俺はそんな調整なんか必要ないし、魔物を作るときなんか動物を少しイメージすればだいたいできちゃうんだ

リストブレードなんかは元から金属を斬れるほどだが、血液の量を変えればナマクラにもできる

 

そして!俺はなんと!三司さんの連絡先を手に入れた!

必要事項だからね!仕方ないね!

 

「っと、そうだアレをやっとかないとな」

「そうだな。お前の能力そこら辺しっかりしてないと危ないし」

「アレって?」

「俺の能力で守るべき対象か判断することだな。とりあえず手を出して」

「これでいい?」

 

オーロラを出し、三司さんの手首に絡めつくようにし、リストバンド状にする

そしてのそのまま消えていく

ちなみにこのオーロラは右腕からしか出せないんだ

利き腕だからかな?

 

「今のは一体何?私に何したの?」

「あのオーロラは俺のアストラル能力。自ら外に放出するときだけオーロラ状に変わるんだ。それで手首に絡めて消えたのは三司さんに浸透させたって言えばいいのかな。これで俺の能力で作った魔物は君を襲うことはないから」

「それじゃ空君は自分でコントロールできてないわけなの?それに魔物って」

「魔物ってのはさっきみたいなオーロラで動物みたいなのを作り出したやつのこと。それで操作するのは一定の範囲にいなきゃならないんだ。それを越えるとそいつに命令した行動をする。だから守れって命令してもその対象以外は攻撃しちゃうからこういう風にしなきゃいけないわけ」

「そうなんだ……とりあえずのことはわかったわ」

「それじゃ今後ともよろしくなっ」

「よろしく」

 

ため息混じりか……

でも俺と暁のことを受け入れてくれた

なんとか潜入任務は継続できるし、新たな三司さんの護衛っていう任務も頑張らないとな!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

 

昼休み

暁が今現在、下級生のクラスに行って菅英人について調査中だ

その情報を元に俺が忠告の台本を作るんだが……

今回のはどんなのを作ってやろうか!ケッケッケッ

 

「空、どうしたの?なんか悪そうな顔してるけど」

「そうか?俺は通常運転だから気にしないでくれ!」

「そう?ならいいんだけど」

 

いかんいかん、イタズラ心が顔に出てたようだな

これも仕事仕事、遊びじゃないんだから

っと、ちょうど暁が戻ってきたから後で情報もらわんと

 

「恭平、良いところに。水着ってどこで売ってると思う?時期が時期だから、もう売ってないか?」

「なんでこんな時期に水着なんだ?えっ?変な趣味に目覚めちゃった?」

「ちげーよ!」

「水着?ああ、そっか。来週の体育って水着がいるんだっけ?」

「ふぁっ!?なにそれ初耳なんだけど!というか俺も持ってねぇ!恭平お前が頼りだ!」

「えっと、どうかな?9月だし……今ならギリギリ最終セールをやってる可能性も」

「じゃあ、ショッピングモールをうろつけば、なんとかなるか」

「多分?もしかしたら終わってるかもしれないけど……最悪、スポーツ用品店に行けばあるんじゃない?」

「そうだな。ありがとう、参考になった」

「よし、間にあわせるため買いに行くぞ」

 

そういや室内プールのことをすっかり忘れてたぜ

夏休み明けで時期的に水着なんて用意してなかったからな

 

「ちょっと待ってよ、暁、空。この街にはまだ慣れてないよね?2人さえよければ、僕が案内するよ。その歳で迷子になるのも嫌でしょ?」

「確かに、迷子になった兄を迎えに行くなんて嫌だな」

「俺を迷子にする前提にするな。ありがたいが、いいのか?」

「構わないさ。初日の約束を果たすのに、丁度いいタイミングが来たってことなんだから」

「なら言葉に甘えさせてもらいたい」

「もちろん!ついでに、おすすめの美味しいお店も紹介するよ」

「恭平のおすすめなら期待できそうだな。よろしく頼むぜ!」

「お任せあれ!」

 

俺も暁も持ってないけど七海はどうかな

もしもの時のために誘ってあげるか

ここは新しい水着を買って優しくてカッコいいお兄ちゃんってところをアピールするかね!

 

「3人ともどうしたんだ?なんだか楽しそうじゃないか」

「恭平に街を案内してもらうことになったんだ」

「そうか。行くのはいいが、外出届はちゃんと提出するようにな」

「ああ、あれね。もちろん」

「わかってるさ、それぐらい」

「……」

「な、なに……?」

「周防はそう言いながら『コンビニに行くだけだから』とたまに出さないこともあると聞いてるぞ」

「うっ……すぐに戻ってくるから面倒で」

 

じゃあ俺とコンビニに行った時は教えるために一緒に外出届を出してそれ以降は時々ってことか

寮長である二条院さんの好感度は下げたくないし面倒でもしっかり出さんとな!

 

「2人は、こんなものぐさにならないようにな」

「めんどくさがり屋でも、俺は規則は守るタイプなんで」

「反面教師というやつだな」

「3人ともひどいよっ!」

「あれ?俺も?」

「すまない、冗談だ。それで、何か目的はあるのか?」

「水着を買いに行くんだ。来週の体育で使うと先生に言われて」

「水着か……そうだな、買うなら早くしないとな」

「そうだ。もしかしたら七海も一緒に行くかもしれないが、問題ないか?」

 

何?同じ事を考えてただとぅ?

暁も何かしてカッコいいお兄ちゃんポイント貯めようとしてるんだな!

しかしこいつはシスコンの鑑。勝てるかどうか……

 

「僕は構わないけど。セールが終わってた時は、流石に案内できないよ?女の子の水着がどこに売ってるかは知らないからね」

「……本当に知らないのか?実は詳しかったりしないか?」

「サートールー……」

「な……なんだ?」

「いくら僕が女顔だからって、女装の趣味はないからね!それに、実は女だったりもしないよ!」

「プッ……ククッ……フフッ」

「よく俺の考えてることがわかったな」

「その手の事は、さんざん言われてきたからね!そういう目で見るのは止めてくれ!あと空も笑ってない!」

「悪かった。すまん」

「ゴメンゴメンって」

「まったく……失礼しちゃうよっ」

 

なんて言い方で頬を膨らませるのがそういう風に見られるんだってなぜ気がつかないんだ?

もう狙ってやってるっしょ

 

「それより水着だよ、水着」

「さっき恭平も、スポーツ用品店って言ってたじゃないか。女子の水着も売っているだろ」

「俺たち男子はいいけど七海が選ぶような水着があると思うか!?少し考えろバーカ!」

「なんでお前が熱くなってんだよ。あとバカ言うな」

「ま、まあ空の言う通りだよ。女の子はやっぱり可愛い水着の方がいいと思うよ。素っ気なさ過ぎると周りから浮くだろうしね」

「七海でもそういうの気にするか?」

「気にするに決まってるだろ!お前何年一緒に暮らしてた!」

「七海君のことになると熱くなるな……」

「そりゃ大切な家族だからね」

 

可愛い妹のことを考えるのは兄として当然だろう

暁?こいつは知らん!

 

「で、七海のは自分で選ばせるとして、二条院さん、こういう時期外れに水着買う時って女子はどこ行ったりする?」

「すまない。ワタシはオシャレや流行物などには疎くてな。どこに行けばいいのかはワタシにも……力になれず、本当に申し訳ない」

「そんなに謝らなくていいさ」

「そういうことはワタシよりも……そうだな……三司さんの方が詳しいんじゃないか?三司さん、ちょっといいか?」

「はい、なんですか?」

「暁君と空君が水着を買いに行くそうなんだが、もし彼らの妹が水着を買うとなった場合、どこに行けば可愛い水着があるだろうか?」

「水着なら……ショッピングモールで売っていると思いますよ?確か今週末まで、最終セールをやっていたはずです」

「そうか!では安心だな、よかった」

「じゃあ、ショッピングモールに水着を買いに行くのは決まりってことでいい?」

「そうだな」

「よろしく頼む」

 

今週末ってことはほんとギリギリだったってことだな

さすが俺!日頃の行いが良いから運がいいんだな!

 

「……いい機会だ、ワタシも一緒に行ってもいいだろうか?」

「俺は構わないぜ」

「それは構わないが……予定は大丈夫か?行くのは今週末だが」

「ああ。特に予定はない。せいぜいテレビ……というか、DVDを見ようかと思ってたぐらいだ。いつでも見られる物だから、気にしないでくれ」

「へー、何のDVDを?」

「あっ、いやっ、それは……」

「……?訊くのはまずかったか?」

「まずいわけではないんだが……少々、恥ずかしくてな……」

「恥ずかしい、DVD……?」

 

恥ずかしい……はっ!まさか魔法少女的なものか!?

あの日曜朝にやってる小さい女の子向けの変身しちゃうやつとか!

 

「「…………」」

 

というかなんで暁も黙ってんの

喋り出すタイミング失っちゃったじゃんか

 

「さっきから黙り込んでますけど……2人が考えてるようなDVDじゃないことだけは確かですよ」

「決めつけはよくないと思う」

「そーですよー」

「なら何を考えていたんですか?」

「いやまあ、AV?と考えはしたんだが」

「小さい子たちが見るような魔法少女モノを」

「暁君のはやっぱり変なことじゃないですか」

「暁のエロ助」

「そもそも二条院さんはAVなんて、名前すら知らなそうだよね」

「俺も、即座に自分の考えを否定──」

「………………」

『…………』

「え、エーヴイとは……なんだろう……な?」

 

あれ?この反応……

 

「知ってるんですね」「知ってるんだ」「知ってるのか」「知ってるんだな」

「ししし知らないっ、全く知らないっ。ワタシはそんないやらしい子じゃない……ぅぁぅぁ……じゃないっ!」

「それが、いやらしい物であることは知ってるんですね」

「はぅあっ!?」

「ガバガバだな」

「ガバガバとか言ぅなぁ!」

 

意外だったな

まさか二条院さんってムッツリだったなんて

 

「ワタシが見ようと思ってたのは時代劇だ!勘違いをするなぁ!」

「恥ずかしい時代劇?」

「普通のっ、時代劇っ」

「なんだっけ?荒くれ大将軍とかが好きなんだっけ?」

「ああ。鬼金犯科帳も好きだぞ。DVDも全巻持っているし、今週は鬼金を見るつもりだったんだ」

 

時代劇はワカランチーノだからダメだな

ちなみになぜ恥ずかしいかと言うと好きな番組が時代劇だから年寄りみたいみたいな理由

好きならなんでもいいと思うけどなあ

俺なんてライダーとかガ〇ダムとか好きだぞ?

どっちも男の子が好きな要素で溢れててロマンがあるし

あとドリルで合体するやつも良かったな

 

「まあ、それはともかく。予定はそれぐらいだから、もし3人が迷惑でないなら一緒に行きたい」

「迷惑だなんて思ったりしないよ」

「俺もだ」

「むしろ付き合いがまだ短いんだから友好を深めたいね」

「でもなんで、男3人の買い物に二条院さんが?」

「ワタシも水着を買おうかと思ってな。授業で夏以外にも水着が必要になることもある。セールをしているという事だし、新調しようかと思ってな」

「それなら、一緒に行こう」

「ありがとう。よろしく頼む」

 

華が増えて内心喜ぶ空さんであった

だって男だけじゃむさ苦しいしね

七海はもう別枠よ

 

「そうだ、三司さんも一緒に行かないか?」

「私も、ですか?」

「もし何も要件が無ければだが」

「休みの日も、いつも取材で忙しそうだしね。ちなみに明日も何か入ってるの?」

「いえ、しばらくそういうった仕事の予定はなく、時間はあるんですが……」

「だったらどうだ?実は……ワタシはオシャレには疎いんだ。だが、たまには……可愛いものを身に着けたいと、思うこともあって……だから助言をして欲しいんだが」

「へー……意外だな」

「たたったまにだぞ!?そういうことを考えるのは、あくまでたまにだからな!勘違いするな!」

 

二条院さんが可愛いものを着たりするのか……

うん。かなりアリだと思う

というか元が可愛いんだからな

 

「それで……どうだろうか?助言を貰えるだろうか、三司さん」

「私も流行に敏感というワケではありませんから、あまり自信がありませんが」

「それでもワタシが1人で選ぶよりは……だから是非頼む!」

「……わかりました。二条院さんがそこまで言うなら」

「ありがとう!」

「なんだか悪いな。俺たちのせいで、大事になってるみたいで」

「いや、むしろワタシの方こそ。便乗してすまないな」

「でも二条院さんは、ちゃんと水着を持ってましたよね?」

「夏休み前には、授業に参加してたはずだよ?」

「それはそうなんだが……その……だな……前々から買い替えようと思ってはいたんだが機会がなくてな。しかし、このままだと……」

 

ほう……そういうことか

おっぱいを愛する1人の人間故に、何故水着を買い換えようとしてるか、その謎は全て解けた!

ちなみに俺は一紳士でもあるため、口には出さなかったが恭平はズバリと言いやがった

いくら女の子顔だからって言っちゃあ悪いこともあるんだぞ

 

「……水着がキツい、もしかして、ムネか……ムネなのか……ちっ」

 

今深い闇を見てしまった気がしたが……俺は何も見てない

 

「そっ、そういえば……私も成長して、ちょっと水着がキツくなってきているので、一緒に買い替えようかなぁ」

「そうなのか?よし、では一緒に買い替えよう!」

「……」

 

成長ねぇ。その発言に意識しちまって思わず三司さんの方を見ちまった

 

「……なんですか、空君?」

「ナンデモナイデスヨ?」

 

目を逸らしたが遅かった!

笑顔を浮かべたままこっちに詰め寄ってくる……ってそんな可愛い子が近づいてきたら後ろに逃げるって

でもどんどん距離を詰めてきて……うわわ、近い近い!

 

「本当だから、嘘じゃないから」

「へっ?」

「そっそもそも確かにおっぱいは思春期に膨らみやすいのかもしれないけど思春期を過ぎたら成長しないということではなく、女性ホルモンの増加で大人のおっぱいも成長するしマッサージや筋力トレーニングを行うことでさらに膨らみやすくなって豊胸ドン!さらに倍!」

「最後どういう意味よ?」

「だから私だって成長してるんだからねっ!成長したらキツくなるのも仕方ないのよって、太ったわけじゃないから、私もおっぱいが成長……して……本当に本当だからっ、そんな目で私を見ないでよ!ちゃんと成長してるんだからぁ!」

「そんな目で見てないからな!?ていうか落ち着け?なっ!後ろのみんなも不思議がってるから!」

「2人とも、どうかしたの?」

「いいえ、何でもありませんよ」

 

おおう、切り替えが早い

何という早業だ

 

「……やっぱり胸のことか?」

「そういうこった。あまり話さないようにしよう」

 

暁は当然意味を知ってたが、お互い口に出さないように気をつけなければ

 

「七海さんが一緒に水着を買いに行くかわかりませんが、少なくともここにいる人たちで水着を買いに行くということで」

「七海は俺が確認して、後でみんなに連絡するよ」

「うん!わかった!」

「よろしく頼む」

「ずいぶん賑やかなパーティだな。楽しそうで何よりだぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、お兄ちゃんたちは水着を買いに行くわけだが」

「七海はどうする?水着は?」

「持ってきてない……というか、持ってた水着は数年前の物だから。絶対に合わないと思う」

「だったら、買いに行かないとマズイね。七海ちゃんって顔に似合わず結構いいモノ持ってるもんねぇー。そりゃあ収まるわけないよねぇー」

「ちょっ、ちょっと千咲ちゃんっ!こんなところで何を──ッ!?」

 

確かに七海は立派なモノを持っている

というか七海という存在自体が言葉で表せないものだとお兄ちゃんは思う

 

「そんなに恥ずかしがらなくても。誇るべきモノだよ、それは。うんうん」

「なぅっ!?まるで見てきたかのような言い方は止めて欲しい……」

「ちゃんと見たよ。一緒にお風呂に入ったじゃない。そもそも服の上からでもわかるしさ。むしろ並んでお風呂に入るとき、私の方が恥ずかしい……同じ歳なのに……聞いて下さいよ、お兄さん方。七海ちゃん、浮くんです。ぷかぁ〜って浮くんですよ」

「浮く……だと……!?」

「だからぁ、そういうこと言わないでってばぁ!空君も食いつかないでぇ!」

「落ち着けって。大きな反応すると、余計に注目を浴びるぞ」

「ぅっ、〜〜〜っっ」

 

そっかぁ……浮くんだぁ……

そんなにおっきいだなんて思わなかったよ

 

「とにかく、一緒に行くってことでいいんだな?」

「うん、迷惑じゃないなら。わたしはいつでもいいから、よろしくお願いします」

「わかった」

「ああ、せっかくだし千咲ちゃんも一緒に来ないか?」

「え?いいんですか?」

「千咲ちゃんさえよければだけど」

 

七海以外はみんな俺たちの友達ってことになっちゃうしな

いくらみんな顔見知りとはいえ、同い歳の友達もいた方が七海的にもいいだろうし

 

「是非お伴したいです!それで、七海ちゃんの水着を選びたいな!」

「え?わたし?自分のじゃなくて?」

「ダメかな?」

「選ぶのはいいけど……あんまり派手なのとか、露出が多いのは困るよ」

「わかってるってば。派手だったり、露骨に露出が多すぎると、下品に見えるもんね。そこら辺は考慮する。それに最終的な決定権は、七海ちゃんが持ってるんだから。無理強いなんてしないよ」

「それなら……いいかな」

「やった!」

 

これでパーティは揃ったぜ。なかなか愉快なメンツになったな

こっからの学院生活もこのメンバーを中心に仲良くなって行く気がする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、任務の時間だ

と言っても今回俺はサポートで、行動するのは暁だ

情報を頼りに適切な台本を仕上げ、暁にはその通りに行動してもらうだけ

 

『こちらレヴィ6。準備完了。いつでも始められるぞ』

「りょーかい。録音はバッチリ。それじゃミッションスタートだ」

 

録音は念のためってやつ

何か問題が起きれば証拠としても役立つし、脅しでも使える

あとは暁がやってれるだけで俺はお終いっと

 

『ぁっ……ぁぁ……はふぅ……』

「ん?おいっ、何が起きた」

『いや、忠告しただけで気絶したんだが』

「マジ?やりすぎたかなぁ?」

『でももし同じようなことを繰り返したら、今度こそ命が危ないかもしれない。だからこれぐらいの方がいいかもしれない』

「そうだな。それじゃ最後撤収する前に証拠品よろしく」

 

さて、あとは暁がこっちに戻ってくるのを見届けて無事任務完了

……なんだこれは

外に何か張り巡らされて……マズイ!

 

「レヴィ6!外に出るのは待て!」

『もう外に出てしまっ……なんだ……?ただの水?』

「今すぐそこから離れろ!」

 

周囲には糸のような物、地面には水溜りがいくつか

目を書き換えて特別性だからわかるがこれはアストラル能力で作られたものだ

つまり触れれば使用者に見つかってしまう厄介なタイプ

 

『懲りずにまた三司さんを襲いに来たか』

『なっ!?』

『だがそうはさせん。ワタシの大事なクラスメイトには、指一本触れさせないぞ!そこに直れ、曲者め!成敗ッ』

「この声って二条院さんだろ!?どうしてここに!いやっ、まずは逃げるんだ!」

『わかった!』

 

チッ、ここに来てイレギュラーかよ!

ここは目が効きつつ姿が小さい昆虫系を暁まで向かわせるか!

 

「ビートル、暁のところまで行くんだ!」

 

昆虫系は血の使用量が少しででき、機動性に優れてる

鳥型も機動性に優れてるが、大きさ的に糸に触れてしまう可能性も有る

昆虫系は小さいからセンサーに触れることなく、すぐに追いつくだろう

 

「暁、今ビートルを向かわせた。まずどっかに身を隠すんだ」

『ああ。だがステルスを使ってるのになぜかこちらの行動がわかってるかのようなんだが』

「恐らく二条院さんのアストラル能力だ。水を使ってるな?」

『そうだ。水の弾で攻撃された』

「やっぱりな。その周囲に目で見えない水の糸が張られている。それに触れてるから行動が知られてるんだ」

『そういうことか……』

「だからまず身を隠し、動くんじゃないぞ。そっから俺も何か打開策を考える」

 

何かいい打開策はないのか?

暁が見つからず、かつセンサーに触れないで移動する方法……

クソっ!何も見つからねぇ!

 

『よく聞け、曲者。ここは完全に包囲している。逃げ場はないぞ、大人しく出てこい。素直に出てくればよし。出てこないなら、多少の怪我は覚悟してもらおう』

 

書き換えて超天才的な頭脳にし、瞬間思考能力を手にすれば

いや、それじゃもう間に合わない。今から俺が動いてセンサーに触れれば!

 

『出てくるつもりはないか……そうか、残念だな』

「待ってろ!今から俺がそっちに!」

『そこっ!』

『やったか!?』

『にゃぁぁっ!?』

 

何だ今の鳴き声!?

暁の肩に乗ってるビートルに視線を渡すと、猫が一匹いた

もしかして……助かったのか?

今回のはあの猫に反応したってことになって警備員と二条院さんはそこから立ち去った

 

『ぷぁ!はぁー……はぁー……本当にヤバかった』

「暁、無事か?」

『なんとかな。最後二条院さんが放った弾なんて俺の隣、ほんの数十センチ横に着弾したからな』

「そっか……俺も焦ったぁ……ゴメンな、何も打開策浮かばなくて」

『いや、空がいち早く危険を知らせてくれたからな。助かったよ』

「そう言ってもらえるとこっちも助かる。それで水の糸なんだが普通じゃ見れない。脳の情報処理能力を上げて見れるくらいだ」

『ああ。今こちらでも視認できた』

「能力使いながらだから戻るのも大変だけど我慢してくれ。人が近づいて来たらそのビートルが知らせてくれるから、お前はその糸とカメラにだけ意識を傾けてくれ」

『了解。これより帰還する』

 

三司さんが言ってた機材の設置まで時間がかかるから、マンパワーでなんとかするって言ってたけどアストラル使いの能力のことだったのか

こりゃまた面倒な

とりあえず、七海に報告しとくか

スマホで七海の連絡先を出し、コールする

 

『もしもし、空君?』

「七海、今暁の部屋にいるよな?」

『うん。いるよ』

「それなら良かった。暁は今から帰還するんだけど、ちょいとな。戻って来たら怪我がないか見てあげて欲しいんだ」

『まさか……暁君何かミスしたの!?』

「いや、忠告に関しては問題ないんだけど面倒なことが起きてね」

『面倒なことって?』

「警備にアストラル能力が使われたんだ。それで俺も暁も良きせぬ事態が起きちゃってな。なんとか無事にやり過ごしたけど戻るのもちょっと一苦労で」

『そういうことならわかったよ。知らせてくれてありがと、お兄ちゃん』

「俺からの連絡はこれだけ。後は暁が戻ってくるまで待っててあげて」

『うん』

 

あの能力をなんとかしないと、この後も面倒なことになるな

斬ったり触れたりしたら知られるだろうし、そうなると触らずに進むってことしか方法がないのか……

面倒すぎて嫌になるぜ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

 

「ということで、ちょっとキツめの忠告は済ませました」

 

暁が父さんに報告中。俺は暁の部屋にお邪魔し、それを見ているだけ

ちなみに今日はみんなで出かけることになっている

前話してた水着を買いに行くんだ

 

「父さんなんだって?」

「捜査で必要になった場合に、AIMSから情報を引き出し、後は普通に学生生活を過ごせって。ただし誰かさんから始まった護衛任務を継続な」

「へーい」

「おっと。早く行かないと遅れる。行くぞ」

「もうそんな時間?さっさと行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た感じ今日行くメンバーは揃ってるな

こう、友達と一緒に買い物行くのは久しぶりだからめっちゃ楽しみだぜ!

 

「みんな揃ったかな?」

『はい』

 

メンバーは男子は俺、暁、恭平

女子は七海、三司さん、二条院さん、千咲ちゃん

イェーイ!女子比の方が多いじゃんか!

えっ?こんなこと前の所じゃなかったぜ?

というかあまり友だちと遊びに行かなかったけどな!ハッハッハッ!

 

千咲ちゃんは何人かと初対面だったらしく軽く挨拶していた

それもどうやら終わったようだ

 

「それじゃあ早速、出発しようか」

「詳しい場所を聞いてなかったが、ここら辺か?」

「いんや、駅前。ライトレールに乗って行くよ」

「ライトレール便利だなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜♪」

「なんだか随分とご機嫌ですね」

「そう?ってかこういう風に友だちと遊びに行くからかも。前の所じゃ友だちとあまり遊びに行かなくて」

「そうだったんですか?空君なら友だちも多そうですし、休みの日はよく遊びに出かけるかと」

「確かに自分でもそういう性格だと思ってるんだけどね、なんか1歩引いちゃってさ。だから普段話したりはしてたんだけどそこまでつるまないっていうか」

 

昔の人間不信が影響してるのか人の関係にあまり深く入らないようにしちまってる

だから誰かとどっか行くってことも無く、暁や七海といつもいた方が多かった

それに任務があったからな

 

「それよりも三司さん、今日の行動で改めて言っておきたい。ショッピングモールだから人目もあるし、この時間帯だから滅多なことはないと思うけど、念のために個人行動は避けて欲しいんだ」

「わかってます。それぐらいは心得てますよ。あの、私からも一つ確認したいことがあるんですが、いいですか?」

「どったの?って言いたいけどちょうど来ちゃったか。後でいいかな?」

「はい。構いませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが鷲逗サイドモールさ!」

「思ったよりでかいんだな」

「おおっ!いろんな店があるな!」

 

郊外のスーパーとかそういうの想像してたけど、思ったよりちゃんとしてるっぽいぞ?

こう大きいショッピングモールってなんか色々ありそうでテンション上がっちまうぜ!

 

「他の大きな都市から結構離れてる鷲逗市でもそれほど不便を感じないのは、ここのおかげだからね。意外と有名なブランドも入ってたりするんだよ」

「ほー」

「どうする?まず、どこから行く?」

「そうだな」

「まず男物の水着を買いに行かない?どうせ暁も空もそこまで悩まないでしょ?」

「そうだな。派手過ぎなければ、特に拘るつもりはない」

「俺もそうだなー。とりあえず着ててもマシなやつだったら問題ないし」

 

ちなみにこれは水着であるからで、普段着はそれなりにカッコイイ服を選んでたりするんだぞ?

 

「先に済ませた方が、女性陣もゆっくり選べていいんじゃない?」

「俺はそれで構わない」

「ちゃっちゃと選んじゃおうぜー」

「では、そうさせてもらおうか」

「じゃあこっちだね」

 

さてと、さっきの話の続きをしますか

 

「それで、さっきの続きなんだけど?」

「そうですね。空君の肩書きについてです。暁君も同様ってことは妹の七海さんも同様なんですか?」

「んー、ここら辺は言ってもいっか。そだよ。だからもしもの時には俺や暁じゃなくて七海を頼ってくれてもいいから。事情は知ってるし。でもあの子はサポート専門だから、あくまで連絡するぐらいだと考えて欲しいね」

「わかりました」

「じゃあ、俺からももう一ついい?」

「なんですか?」

「水着ってサイズが重要だけど大丈夫なの?パッドのままで試着とか?」

「よくもまあ余計な気遣いばかりを口に出来ますね。その口縫い合わせちゃいますよ?」

 

やべ、笑顔の裏に本気を感じる

なんかガチでやってきそうだから怖いんだけど

 

「一応、ね?心配したんだけど……」

「そんなことまで心配してもらわなくても大丈夫です。自分のパッドぐらい自分で護ります。いや、そもそもパッドパッド言わないで欲しいんですけど」

「スミマセン」

「2人ともどうしたんだ?早く来ないとはぐれてしまうぞ」

「あっ、ごめんなさい。すぐに行きます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほとんど悩んでなかったけど、ホントにそれでいいの?」

「いいよ。サイズもピッタリで、悪目立ちもしない。十分だ」

「俺もこれでいーよー」

 

俺が選んだのはサーフパンツにラッシュパーカーとまさに今時のメンズって感じのだ

それにダボダボじゃないからこのサーフパンツでも泳ぐ分には問題ナッシング!

 

「先輩方って悩む必要がなさそうですよね。身長もあるし、スタイルもいいし、何でも着こなせちゃう気がします」

「本当に羨ましいよ、服に悩む必要がなくて」

「確かに身長は俺の方が高いが……恭平だって大抵のものは着こなせるんじゃないか?」

「どっちかっていうと身長は俺の方が近いわけだし、似たもんは合うと思うぞ?」

「なにか、こだわりがあるのか?」

「こだわりってほどのことでもないんだけど。何故か僕って、女の子に見られることもあるんだよね」

『でしょうねぇ』

「くっ……そこで納得されちゃうのか」

「もしかしてコンプレックスなのか?」

「僕は男なんだよ?女の子に間違われて嬉しいはずないじゃないか。まったく……失礼しちゃうよっ」

 

ならまずはその女の子っぽい起こり方から直そう……といっても直る気がしないので言うのはやめておこう

 

「自分の顔が嫌いってわけじゃないよ。でも、女顔であることを笑われるのはやっぱり嫌だよ」

「ああ。それはわか──」

「わかりますっ。周防君のその気持ち、すっごくわかりますっ。好き勝手に言って、笑って、憐れんで……そういうの、カチンと来ますよねっ」

「え?あ、う、うん……そ、そう、だね」

 

暁を遮ってまで恭平に共感を示す三司さん

勢いがあったのか、恭平は軽く引いてた

 

「三司先輩みたいな人でも、そういうのあるんですか?」

「え?あっ、それは……あの……」

「あまり深く尋ねない方がいい。三司さんは、取材やネットの露出も多いからな。ワタシたちにはわからない苦労も多いはずだ」

 

まあおっぱいのことやパッドを隠すことだからな

普通わからないだろう

 

「それよりも、今度は女性陣の水着だ。ココからは僕は案内できないから、任せたいんだけど……」

「あ、じゃあ私、行きたいお店がありまーす!」

「ならここは、千咲君に任せよう」

「ありがとうございます〜。こっちですよ」

「……」

 

暁が三司さんのことなんか言いたげに見てる

どうせさっきのことだろ。わっかりやすいなー

 

「……うっ、うるさいな」

「何も言ってないんだが?」

「その目!目が口以上に語ってるっ」

「わかりやすすぎってよく言ってるだろ?」

「そうだったな。にしても……意外と騒ぎにならなものだな」

「なにがです?」

「ああ、三司さんのこと?」

 

確かにそれは俺も思ったな

動画にもあげられるほど出し、アストラル使いでは誰よりも有名だろうしな

 

「有名人だから人の多いところに来たら、サインをねだられたりするのかなと思って」

「有名と言っても、ごく一部の人からです。テレビに出るような芸能人みたいに、大騒ぎになることなんてありませんよ」

「そういうものか」

「時たま、気付く人もいますけどね。それでも、この前みたいな熱狂的な人は滅多に──」

「おや?もしかして、三司さん?」

「バレテーラ……ってあれ、式部先輩」

「こんにちは。ってあれ、暁君と空君も一緒なの?」

「あ、式部先輩。こんにちは」

「ビクッ!?なっ、七海ちゃんまで!?」

 

あの脅えよう……

疑いをかけられた時七海は一体何をやらかしたんだ?

 

「……そんなに怯えないで下さい。アレはホントに誤解ですから」

「う、うん。理解はしているんだけどね……思わず身体が反応しちゃって。ゴメンゴメン。それより妹含めてダブルデート?なんとマニアックな……」

「暁の趣味凄いでしょ?」

「違いますよ」

「式部先輩じゃないか」

「おや?二条院さんに、周防君と壬生さんまで」

「どうもです」

「こんにちは」

 

そういやみんな同じ寮だから顔見知りなんだろうな

それに式部先輩は別の意味で有名人だし

それにしてももうちょいくるの遅ければ暁をいじることができたのにチクセウ!

 

「それで、みんな一緒に何をしてるんだい?って……買い物に決まってるか。お揃いの物でも買いに来たのかな?」

「あっ!ここで会ったのも何かの縁ですし、よければ式部先輩も一緒にどうですか?」

「???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今女性陣が水着を選んでる

俺たち男性陣+式部先輩はと言うとちょっと離れている

別に俺たちのって訳じゃないからな

それにしても女の子の水着っていろいろ種類があるからな。こうみんなとワイワイ話しながら迷いあうから時間がかかるのも納得がいく

男用ももうちょいカッコイイのがあればいいんだけどな

だいたい似たもんで少しが柄が違ったりで要は着る人間がイケメンかどうかで決まってしまうのが世の中

俺も不細工な方じゃないってことはわかるんだがイケメンってわけでもないからなー

 

「あやせ先輩ぐらい胸があると試着で確認した方がいいと思いますけど?」

「そうですね。でも確認するまでもなく大丈夫です」

「でも──」

「大丈夫ですからどうぞお構いなく。おほほほ」

「はっ、はい……なんか、すみませんでした」

 

笑顔の裏にある威圧で黙らせたぞ!?

三司さん怖いって……

でもパッドでサイズ変えれるって偽乳おっぱいって凄いんだな

おっぱいセンサーの反応の邪魔も出来たわけだし

 

「…………」

 

なんて思ってたら睨まれたんだけど……あれ?俺顔に出てた?

それか三司さんの能力ってこういうことに反応するタイプなんじゃないか?

 

「へー。そっか、水着をね」

「先輩もどうですか、一緒に。ここで会ったのも何かの縁ですから」

「アタシが?ハハッ……ご冗談をピチピチギャルたちの前で、肌を晒すなんて考えただけでも……ぅぅぅ……」

「先輩の水着姿ならみんなに負けないと思うっすよ?」

「優しい言葉をありがとう。その心遣いは、ありがたく頂戴するね」

 

ふむぅ、そうなってしまったか

俺としては素直な本音なんだがな

だって式部先輩のスタイルはめちゃくちゃいい。服の上からでもわかってしまう

そんな人が水着姿になってみろ。大抵の男は釘付けだ

俺も例外じゃないと思う!

 

「そんなに嫌なんですか?」

「そりゃそうさ!肌を一緒に晒すなんて殺されるも同然だよ、処刑だよ!処刑!それに水着は持ってるしね。今回は遠慮しておくよ。こうして見てるだけで十分」

「そうですか。ちなみに先輩、は何を買いに来たんですか?」

「ん?特に目的があって寄ったわけじゃないんだよね」

「そうなんですか?」

「別件で外に出たついでにね。ああ、別件の方はもう済ませてるから気にしないで。ウィンドウショッピングでお店を冷やかして、ブラブラしようと思って寄っただけ」

 

なんでだろう……

式部先輩が言うとまさに大人がやる暇つぶしにしか聞こえん……

これが大人の魅力ってやつか!?

 

「やはり女の人は、買わない物でも色々見るのが好きなんですか?」

「んー……その質問はいただけないね。恋人にそんなこと言ったら、不機嫌になっちゃうよ?」

「女の子の買い物が長いのは話に聞いてましたけど、まさかここまでとは……暇すぎる」

「これぐらいで文句を言ってちゃあ、彼女が出来た時に苦労するよ?」

「僕は決断力のある子が理想ですね。ゴメン、暁、空。ちょっとここを離れてもいい?お腹空いちゃったから、何か食べに行きたいんだ」

「構わないぞ」

「当分動きそうにないしなー」

「早めに戻ってくるつもりだけど、もし決まったら連絡を頼むよ」

「わかった」

「了解なりー」

「じゃあ、ちょっと行ってくるね。はぁ……お腹空いたぁ……」

 

あいつの身体の構造は本当にどうなってるんだ?

何故そんなにすぐに腹が減るのか気になるな……

 

「2人は行かなくていいの?」

「お腹は空いてませんから」

「あんまり食べ過ぎもよくないっすからねー」

 

といってもここを離れるわけにもいかない

三司さんの護衛もあるし

多分それは暁も同じ考えだろうな

こっからはモール内のほとんどを把握できるけど今んところはなんの問題もない

 

「じゃなくてアッチ」

「え?」

「あっち?」

 

式部先輩が指差してた方は店の中

つまり女の子たちが水着を探してる店だ

……えっ!?

 

「せっかく一緒に来てるんだから、試着の感想ぐらいは言っておいた方がポイント高いと、お姉さんは思うんだけど」

「女性物の服やら水着やらが並んでる中に、入るのは恥ずかしいです」

「そっ、そうですよ。それに俺はよく余計なこと言っちゃいますしね」

「あはは!なにそれ、そんなに?」

「二人でよく七海を怒らせちゃいます」

「恥ずかしながらその通りで」

 

あと最近は三司さんんにも何度か殺される目線を送られたことがあります

この軽すぎる性格があかんのか?

 

「でもね、多少怒らせたとしても、コミュニケーションを取ることこそが重要なのさ。苦手意識を持つよりも、まずはぶつかってみること。恋人が出来た時の練習だと思って」

「恋人が出来たことを悩むより、まず彼女を作ることが問題ですよ」

「お前無愛想だもんなー」

「これでも直してる方なんだぞ」

「そういう苦手意識を持つのが一番良くない。ほーら、いつまでもここにいないで、2人は水着の感想を言いに行くこと。何か言って欲しいと思ってるよ」

「そういうものなんですかねぇ?」

「そういうものさ。見られたくないけど見て欲しい。恥ずかしいけど感想ぐらいは言って欲しい。乙女心は複雑怪奇。これ、お姉さんからのアドバイスね」

「「…………」」

 

周囲に怪しい気配はなく、能力を使ってまで探索に出す必要もなさそうだし……ここは式部先輩のアドバイスに従うのも良さそうかな

 

「そんな疑り深い目をしなくてもいいでしょ!アタシにだって乙女の時代はあったんだよぅ!」

「そんな失礼なこと言ってないし、思ってもないです」

「俺ん中では先輩はまだまだ乙女だと思いますけどねぇ」

「んー……そう言ってくれる気持ちは嬉しいよ?でもさすがに乙女はねぇ、あまりに痛々し過ぎる……なにより自分の心が痛い。気持ちだけありがたくいただいておきます。それより、早く行かないと感想を言うタイミング逃しちゃうよ」

「じゃあアドバイスに従って、ちょっと行ってきます」

「うむ、よろしい。いってらっしゃ〜い」

 

さてと、水着の試着をしてるのは確か七海と二条院さんだったよな

よし、ここは──

 

「俺は二条院さんの方に行くわ。お前は七海をいっぱい褒めてやりなさい」

「別にいいけど、どうしてだ?」

「そりゃ二条院さんの方に三司さんもいるだろ?護衛作っちまったのも俺だからな」

 

それに本音言うと暁がシスコンでもあるからな

妹の水着姿見て発情するんだろう、ケッケッケッ

 

「……お前他に良からぬこと考えてるだろ」

「はて?なんの事かな?それより早く行かないとタイミング失っちまうからな!」

「あっ、おい!……逃げやがったか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「様子はどう?」

「丁度、試着をしてるところです」

「それで、水着はどんなのにしたんだ?」

「セパレートタイプで、なるべく落ち着いたものを。今までは何の飾っ気もなワンピースタイプばっかりだったそうですから」

「なるほどね。でもそういうのからってのもハードル高くない?」

「言いたいことはわかりますけど、ちょうどいい中間っていうのも見つからなくて」

「水着だしそんなもんか。でも今と雰囲気変えるってならそれぐらいチャレンジした方がいいかもな」

 

人間チャレンジ精神や行動力が大切だもんな

俺もチャレンジはたくさんしてきたぞ。どうイタズラすればバレないかとか、怒られた時どう切り抜けるかとか……

まさに悪ガキの発想だな!

 

「そういや長いと思うんだけど、そんな時間かかるもん?」

「いえ、中に入ってそれなりに経っているんですが……二条院さん、どうです?まだ終わらない?もしかしてサイズが合ってませんか?」

「いや、そうじゃないんだ。サイズに問題はない。だが……やはりこれは大胆すぎる。ワタシには似合ってないと思うんだが」

「せっかくなので確認させて下さい。着替え終えてるなら、カーテンを開けてもいいですよね?」

「あ、ああ……着替え終えてはいるが……たとえ同性でも、この姿を見られるのは」

「では、開けますね」

「ままままままま待ってくれ!まだ心の準備が──」

 

整ってないとでも言う前に三司さんはカーテンを開けてしまう

ま、こうでもしないときっといつまでも中にいちゃうからな

 

「ああっ!?そんなご無体な!」

「そこまで恥ずかしがらなくても……とても可愛いですよ、二条院さん」

「そっ、そうだろうか……腕や足をこんなに晒すことにもなれていないが……やはりこの、腹部を晒すのに慣れなくて、恥ずかしい……恥ずかし過ぎる」

「そういうのは慣れじゃないですか?それぐらいの露出度は普通。今は1人かもしれませんが、他にも同じような水着の学生が周りにいれば、気にならないと思う」

「そういうものだろうか……?」

「それになにより、似合ってます」

「俺もそう思うな。いつもと雰囲気がちがく見えて、とても似合ってて可愛いと思うよ」

 

水着姿も可愛いと思う

これなら恥ずかしくないとは俺は思うな

 

「…………そ、空くん!?な、なぜここにいるんだ!?」

「せっかく一緒に来たんだし、何か感想でも言った方がいいんじゃないかって思って……迷惑だったかな?」

「いや、迷惑なんてことはない。元々、助言を求めたのはワタシなんだから。だが……こんなはしたない姿を、男の子に見られるなんて……っ……見ないでぇ」

「…………」

 

顔を赤くし、両手で隠してしまった

いつもの凛とした雰囲気ではなく、か弱い女の子みたいに、初々しい反応を示してきた

……これがギャップ萌えってやつかー!フゥー!

おっと、声に出さないように気をつけなければ

 

「それにしても本当によく似合ってるぜ」

「そういう空世辞は言わなくていいからぁ」

「世辞なんかじゃないって。二条院さんは、足も肌も綺麗で魅力的、スタイルもとってもいい!それになにより、そのへそ!」

「へ、へそっ!?」

「キュートだと思うぜっ!」

「っ!?なんてことを言うんだぁ!マニアックな変態だぞ!」

「そんなバカな!?」

「ワタシっ、知ってるぞ!男の子が、女の子を褒める時は下心が……あるんだろう?特に身体の一部を褒めるのは、そこを性的な対象として見ているからだって……だから……その……ワタシのへそで何をするつもりだぁ!?このムッツリ助平め!」

「何もしねぇよ!」

 

というかそんな話初めて聞いたわ!

そんなことしたら七海なんて褒めまくってるから大変なことになっちまう!

 

「ほっ……本当に?変なこと、しない?」

「するわけないって。というか何を想像したんだ?」

「何をって……ッッ……いや、別に、何でもない」

 

顔を真っ赤にしたまんま何でもないって言うのは説得力がないって言うんだぜ

 

「言っておこう。俺はへそフェチでもなんでもない。変態でもムッツリでもシスコンでもない。それにムッツリの名は二条院さんがふさわしいと俺は思う」

「ちちち違うっ、ワタシはそんないやらしい子じゃない!」

「二条院さんがムッツリかどうかはさておいて」

「サラッと流さないでくれ!?」

「ひとまず落ち着いてください、二条院さん。ここはお店の中ですから」

「はぅっ……す、すまない……」

「でも、おへそを褒めるなんて……勘違いされても仕方ないと私も思いますね」

「ダメなん?」

「ダメというわけでは……でも可愛いとしても、素直に褒めればいいというワケではないですから。褒められても、言われた方は困りますよ、普通。それに凄く恥ずかしい」

「うんうん!そうだっ、その通りだ!」

「そういうもんかねぇ……ゴメン」

 

ふむ、褒めるというのは難しいもんだな

いつも俺は褒めたりする時は嘘つかないタイプだからなー

 

「確かに、可愛いかどうかで言えば、私だって二条院さんのおへそは可愛いと思いますけど」

「み、三司さんまで!?2人して辱めるなんて……もうやだこの水着。やっぱりワタシはいつもの水着でいいっ」

「ちょ待てよ!変な事言ったのは謝る!けど辱めたり冗談で言ってるつもりはないんだ!その水着は二条院さんにとっても似合ってる。買わないなんて損だぜ」

「さっきの発言、私も謝罪します。ごめんなさい。でもその水着がとっても似合っているのは、本当ですよ。からかってない」

「……。ほ……本当か?」

「嘘はつかない。本当だぜ」

「……おへそを出してても、興奮したりもしないか?」

「いやだから俺はへそフェチじゃないからね?」

 

これで変な印象ついたらマジぃな

次人を褒める時はもっと慎重な言葉を選ばなきゃ

 

「この水着……露出度が高いと思うんだが、その、あの……扇情的じゃないだろうか?」

「ビキニってそういうもんだろ?大丈夫だって」

「そ、そうか……」

「本当に可愛いですよ、その水着姿」

「せっかく試着までしたんだし、その水着を選んでもいいんじゃないか?」

「……それは、その……本当に似合っているんだな?変ではないんだな?」

「本当ですってば」

「何度も言うけど似合ってるぜ。可愛いと思うよ」

「じゃ……じゃあ、これにする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとう。買い物に付き合ってくれて」

「ありがとうございます」

「とっても楽しい1日だったぜ」

 

暁と七海、2人もいるけど家族以外の人と過ごして楽しいと思ったのは本当に久々だ

とっても充実して、満足出来た1日だったと俺は思ってる

 

「それじゃあ、そろそろ帰ろっか」

「門限ギリギリで、バタバタ慌てるより、余裕をもって帰りたいですしね。みんな、もう大丈夫?なにか忘れてる用事とかない?」

「大丈夫でーす」

「では行きましょうか」

 

アクシデントらしいもんはなかったな

やっぱり人混みで襲撃するつもりはないか

これなら何事も無く、無事に寮まで帰れそうだな

 

「はぁ〜、お腹空いたぁ〜……今日の晩御飯はなんだろなぁ〜♪」

「お前、さっきも食べたんだろ?」

「アレはおやつ。この空腹は夕食」

「げっ、マジかよ」

「育ちざかりの男の子なら、これぐらい普通だと思うんだけど」

「いやいや、ありえんっしょ。現に俺はそんな食べないし」

 

燃費悪いし、でも運動部でもないのに太ってるわけじゃない

なんか変な謎が出来てしまった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

 

 

チャイムが鳴り、授業がおわる

 

「次は確か体育でしたね。アストラル能力者はプールに向かってください。遅刻しないよう気をつけるように。それでは授業を終えます」

 

そう、次はプール

つまり前買ったおニューの水着を使うんだ

水着だろうがシューズだろうがおニューの物を使うのはワクワクするなぁ!

 

「行こう、空、恭平」

「よっしゃ!早く行こうぜ!」

「いやいや。僕は能力者じゃないからプールじゃないよ」

「おっと、そうだっけ」

「プールの場所はちゃんとわかる?学校の端っこなんだけど」

「ちゃんと覚えてる」

「そっか。じゃあまたあとで。今日もお昼は一緒に食べようね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着替え終えて、移動する

目の前にあるのはプール、夏も終えてから季節外れのプール!

なんかテンション上がってきたー!

 

「あっ、暁君に空君。そっか、今日は2人のクラスと合同なんだね」

 

なぜ学年が下なのに七海も一緒かと言うと、アストラル使いが集まってる学院でもその数は半数にも満たない

さらに体育はアストラル使いと一般の子で分けられるからこうして学年を問わず合同で行われるんだ

それにしても七海はこんなに可愛く成長して……お兄ちゃんは嬉しいよ

 

「壬生さんは一緒じゃないのか?」

「千咲ちゃんはアストラル使いじゃないから。1人でいるのは不安だったんだけど……良かったぁ、2人がいてくれて」

「ということは、壬生さん以外の友達はまだいないわけか」

「まあまあそう言わず、七海は七海のペースで友達を作っていけばいいからな」

「ありがと、空君。でも話し相手ぐらいはいるからね。特別仲がいい相手がいないってだけで……」

「そかそか。ならそこまで心配する必要はないな」

 

千咲ちゃん以外にもちゃんと話せる子はいるらしいし、一安心

我ながら過保護過ぎるかと思っちゃうけど心配で心配でたまらなかったから仕方がない

 

「それよりも、その水着……土曜日に買ったやつだよな?」

「うん。そうだよ……水着なんて久々に着るから、なんか慣れなくて。変……じゃないかな」

「ん?ああ変じゃないよ可愛いよ世界一だ」

「棒読みで適当なこと言うぐらいなら、無理に褒めてくれなくていいよ」

「いやもう七海が可愛すぎて眩しいくらい。世界が霞んで見える……!」

「逆に大袈裟すぎてキモいんだけど」

「そんな……!?」

 

俺は事実を……事実を言っただけなのに!?

いや、七海自身のことだからその輝きがわからないのか!

くっ、それならば仕方がないか……

 

「七海さん。そっか、今日は七海さんのクラスと合同なんですね」

 

水着姿の三司さんがこっちに来る

余計なお肉はついてなく、スラッとしててとても素晴らしいスタイルだ

胸に谷間が見えるけど……あれパッドなんだなぁ

 

「2人とも、エロい目になってる」

「そんな目にはなってねぇ!俺はただ──」

「ただ……なに?」

「なんですか?」

「この世の中、もう何も信じられない」

「暁……お前もだったのか……」

 

真実は全て知る必要は無い

むしろ知らない事実があった方が幸せってことを学ばせてもらいましたよ

 

「そんなにじっくり見られても困るんですけど?やだ、恥ずかしい……」

「……ハンッ」「……フッ」

 

俺は知ってるが、あの照れも演技だろう

それに思わず鼻で笑ったが、どうやら暁も同じタイミングで笑ったようだ

 

「……やだぁ〜、何か面白いこと言いましたぁ?(お前ら、なにわろとんねん)」

「いや、別に」

「何でもないよ」

 

笑顔なのに視線からなんか心の声が聞こえた気がした

視線をそらすために周囲を見たら、ちょうど二条院さんが更衣室から出て来たところだった

よく似合ってるあの水着は、俺と三司さんが推したヤツだな

みんな釘付けになって、そのあとは可愛いやら似合ってるやらの歓声だ

 

「それにしても……二条院さんは、まだいいとして」

「……?」

「服の上からでもわかってはいたけど……こうして水着姿で見ると……本当に年下なの?」

 

七海を見てはそんなことを呟いてるのが聞こえちゃった

 

「おかしい……絶対おかしい……実は盛ってるんじゃないの?」

「君が言うか……」

「あ゛?」

「ナンデモナイヨ」

「歯を食いしばってもらえますか?」

「ゴメン、悪かったから許してください」

「はーい、そろそろ授業始めるよー。さあ、みんなこっちに集まって。並んでー」

 

あっぶねぇ!先生来なきゃ死んでたかもしれねぇ!

三司さんはなんかもうマフィアとかそう言うのより怖いんだけど……

 

ちなみに、今日の授業はと言うと、水中でのアストラル能力の計測

人により発揮できる力に大きな差があるからな

俺も水中ではあまり力を発揮できない……と思う

いくらオーロラに変わってるとはいえ、元々は血液だからな

でも試したことないからなんとも言えないけど

俺と暁と七海は初めてと言うこともあり、手伝いで来た式部先輩から細かい説明を聞くことになった

式部先輩の格好といったら水着に白衣、メガネまでかけて非常にマニアックな姿なんだぜ?

 

「……そんなにジロジロ見られると、流石のお姉さんも恥ずかしいよ。だから……その、あんまり見ないで……」

「あ……悪い」

「なんてことを言うのは、自意識過剰かもしれないけどね、ははは」

「先輩は綺麗ですし、とてもセクシーですよ」

「茉優先輩」

「……ん?」

 

今暁のやつ式部先輩のこと茉優先輩って名前で呼んだ?

いつからそんな仲に?

 

「……なあ七海」

「何?空君」

「あの2人妙に仲が良くなってないか?」

「……言われてみれば」

「しかも茉優先輩って呼んでたしな」

「えっ!?空君、それ本当!?」

「聞き間違えはなかったはずだ」

 

目は書き換えて強化してるが耳はいじってないのにいい方なんだ

まあ、捨てられた時、生き延びるために自然に良くなったってのもあるけど

 

「…………」

「……なんだよ?」

「わたしたちの知らない間に、式部先輩と仲良くなってる」

「ああ、ちょっとな」

「ほう、ちょっとねえ?」

「それはともかく、さっさと始めよう」

「「誤魔化した」」

「そういうわけじゃない。あ、今は授業中何だからな。無駄話はよくない」

「急に真面目ぶる……」

「まっ、まあまあ。暁君の言うことも一理あるよ。アタシが言うのもなんだけど、早く測っちゃおう」

 

そんなこんなで測定の開始

測るのはリンク値、アストラルに干渉する強さみたいなものらしい

式部先輩の説明によると、どれだけ多くのエネルギーを生み出すかってのをわかりやすく数値化したものなんだって

ものすごく簡略化してるから、微妙に違うらしいけど俺にはこれで十分だっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、オッケー。3人ともありがとう。もう器具外してもダイジョーブだよ」

「今のでもう数値が出たんですか?前に比べると、随分短い時間でしたけど」

「前は複数の検査を重ねたからね。でもこれは数値を測るだけだから」

「ちなみに、それって教えてもらっても?」

「問題ないよ。七海ちゃんは207。空君は121。暁君は56」

「七海が大っきくて暁は小さいな」

「それだけ回復能力には、アストラルが必要になるってことだろ」

 

俺のは体液操作で作りもんだし、そこまで高くないってことかな

 

「ちなみに確認されてる中では、アストラル使いの平均は106だったかな。最低値は26で、最大値は247。普通の人だと、平均で12だったかな?理論上、能力を発揮するためには20は必要って研究結果が出てたはず」

「結構幅広いものなんだな」

「で、今のは通常での数値。水中の場合は、七海ちゃんが108。空君は119。暁君は53。空君と暁君は誤差と考えていいだろうから、どちらでも変わらない。七海ちゃんはかなり下がってるね。能力を発揮できるけど、回復させるのなら陸上の方がよさそうだ」

 

地上でも水中でもほぼ同じか

でも体内で操作した場合だろうな

水中でオーロラを使ったらどうなりんだ?それに魔物を作るときは魚類系にすればあるいは──

いや、考えたって一回試してみないとわからんか。それに俺にはリライト能力があるんだ

むやみには使えないけど、アストラル能力の強化だってできるだろう

 

「空?どうした、さっきからボーッとして」

「えっ?いや、なんでもんさいさ。まあくだらないもんだって思ってくれ。それよりこの後って何するんすか?」

「測定が終わったら、各自で能力に使い方を練習、研究をするように。って言ってるけどね、要はアストラル能力を使って遊んでいいよってこと。あ、もちろん常識の範疇で」

「遊んでいいんすか!?」

「変に目的を与えるよりも“面白そう”“楽しそう”っていう方が自由な発想を生むものさ。そうやって新しい使い方を自分で考え、探り、発想力を養うんだよ。3人とも自由にしていいよ」

 

そんな考えもあるんだなぁ

俺の場合、リストブレードは威嚇、邪魔な物を斬るためにだし、魔物についてだって寝てる間に身を守るために思いついたもんだったからなー

我ながら全く面白くないな!アハハハ!

 

「だったら……先輩。リンク値について教えてもらえますか?」

「リンク値について?変わったことを知りたがるんだね」

「なんだか面白そうなので。もっと知りたいです。それに、体を動かしたりするのは得意ではないですから」

「ほほぅ、勉強熱心だね。よろしい。お姉さんにおっまかせー!暁君と空君はどうする?なにかお姉さんに訊きたいことがあるなら、一緒に勉強する?」

「俺は頭で理解するより体験するタイプなんで。それより暁は基礎的なことでもいろいろ教えてもらっとけ。また赤点になったら困るだろ〜?」

「おや、暁君は赤点を取るくらい勉強が苦手なのかい?」

「そうなんですよ。前のところでだって夏休みに補習受けてたぐらいなんですから」

「余計なこというんじゃねぇ!」

「そういうことならお姉さんがいろいろ教えてあげるよ」

「ぐっ……わかりました」

「それじゃあ暁君、七海ちゃん、向こうで話そっか」

「はい。よろしくお願いします」

 

……計画通り!

いま顔は笑顔だけど心の中ではノートを使う救世主の如くの顔をしてるだろう

暁はこっちに目線で後で覚えてろみたいなこと言ってそうだけどあと数秒で忘れるから問題ない

さってと、何すっかなー。とりあえず辺りを見てみると男子供が能力を使ってか、水で蛇っぽい動作をさせてた

ほう、遊びながらも確かに能力使ってるや

 

「さーて、俺はどうすっかなー。んっ、あれは──」

 

プールサイドに人だかりができてる、といっても5人ほど

なんか見てると思ったら、あれは取材かな?撮影されてる三司さんがいた

見てる連中は男子だったしなっとくじゃ

……せっかくだし俺も見てよ!

 

「目線、こっちにもらえますか?」

「はい──っ」

 

あやや、俺が見てるのがバレたかな?

さっきまでの明るい笑顔がその瞬間だけなんか変わってたし

 

「三司さん?どうかした?表情が固くなっちゃったけど?」

「あ、いえ。なんでもないです」

「ちょっと休憩しましょうか。ずっと撮ってますからね。10分ほどしたら戻ってきます。その時は能力を使った、この学院らしい写真を撮らせてもらえますか?」

「はい、わかりました」

 

なんだ、これから休憩かぁ

なんて思ってどっか行こうとしたら視線がこっちに

 

「……俺?」

 

自分に指差してみるとちょっとだけ表情が変わったから俺のことだな

美少女からお呼び出しだなんて光栄なことだ

 

「どういったご用件で?」

「それを訊きたいのは私です。何をしてるんですか?」

「測定終わって暇なもんで。またなんかの取材?」

「はい。来年度の学院パンフレット用で、プールの紹介記事に、一緒に載せるんだそうです」

「パンフレットに載るんだ、すっげぇ」

「これでも学生会長ですから」

「大変そうだな」

「これぐらい、皆さんのためならなんともありません」

「そういう心がけいいと思う、俺は真似なんかできそうもないからな。で、本心は?」

「ずっと笑顔を維持するのは顔が引きつりそうです」

 

なんて笑顔のまま愚痴言う姿はなんかもうすごい

 

「飲みもんでも取ってこようか?それか何かして欲しいこととかは?」

「それなら、そこのポーチを取ってもらえますか?」

「このタオルの上にのってるやつ?」

「そうです。ありがとうございます」

 

ポーチからケースを取り出す

サプリとか入れるやつっぽい

 

「それサプリか?ご飯はちゃんと食べた方がいいぞ?」

「取材を受ける以上は、肌荒れなんかも気にしてるだけ」

「そんならいいけど。無理しすぎんなよ?」

「最近は仕事が減ったおかげで、規則正しくバッチリ3食食べてますよ。おかげで余剰なものが……なんで足りない部分を補わずに、不要な所に付いちゃうんだろ……くぅっ」

 

なんか地雷な気がする

プールサイドに腰かけた三司さんが俺に声をかける

 

「ごめんなさい。もう一つ、お願いしていいですか?」

「もちろんどうぞ」

「立っているなら、もう少し左に。あと、もうちょっと前に。そう、そこ、そこです。……はぁ……本当に顔が引きつりそう、疲れたぁ」

 

一瞬で気怠そうになった

でもこんな姿を見せるのは俺と暁、後は知らんが少なそうでなんか特別感があるから嬉しい気分

 

「ここの位置を指定ってことは俺は壁役か?」

「そういうこと」

「だろうね、あとさ」

「何?」

「そのパッドも取材のため?」

「それ以上バカにしたら……潰す……っ」

「潰すときましたか。ところで何を?」

「それは──………ッン、タマ……とか」

「なんだって?」

「だからっ……め、目玉……とか」

「『タマ』から『ダマ』に変わってないか?」

「しっかり聞こえてるじゃない……っ!」

「残念ながらその部分だけなんだよね。顔赤くしなきゃいけないこと言うつもりだった?」

「あっ、赤くないしっ、全然赤くないしっ」

 

なんて言ってるけど赤くなってる

ちなみにきゃんたまって小声で言ったのはバッチリ聞こえてました。俺耳いいんで

 

「三司さんって可愛いけどさ」

「はぁ!?っ!ちょっと……変なこと言って、大声を出させないで。変に思われる」

「変なことじゃなくって、可愛いし魅力的でもある」

「…………。急に、なに?気持ちわるーい」

「でもなんでそんなパッドなんかつけてんの?」

「プールに沈め殺すぞ、貴様」

「あっ、いえ、バカにしたいのではなくてですね、本物のアイドルじゃないのになんで男受けしそうなことしてるのか疑問に思っただけですので」

 

沈め殺すぞって言われたときマジで殺られるかと思ったからつい敬語になっちった

七海じゃこんな恐怖は感じないというのに……

 

「別に……男受けのためにしてるわけじゃないわよ。私だって、最初からパッド入れてたわけじゃないし……」

「じゃあ、何か理由が?」

「……………。……大した理由なんてない。ただ……私、取材を受け始めてから2年くらい経つから。当然体も成長するわけ。とある一部分を除いて……」

「あー……(察し)」

「その察したっていう吐息が癪に障るわね。ネットでも似たような指摘をされて。匿名なのをいいことにみんな笑うのよ。なにが草だ!大草原だっ!」

「それだけならまだいいんじゃないか?匿名じゃなきゃ言えないような奴らの言葉なんて聞く価値がない」

「それだけじゃないわよ。可哀想だとか、同情するだとか、マイクロメートル単位では成長してるさだとか。果ては、まな板とか崖とか火サス胸とかムネ・タイラとか無乳会長タイラーとか乳部・タイラーなんてあだ名まで。“三司あやせ平野”とか言い出した奴は絶対ぶっ殺してやる……っ!」

「ネットでつけられたんだ、そのあだ名……」

 

道理でなんか実感がこもってると思ったよ

それにしてもおっぱいが小さいだけでそんなあだ名を付けてくる奴がいるとはな

おっぱいは巨乳でも貧乳でも価値がある

おっぱいそのものに価値があるってなぜ気が付かないんだろう

 

「あまりにムカつくから、見返してやろうと思って」

「でも二重に詰め込む必要あった?」

「ネットの手の平返しのクルクル具合が痛快で、その手首をぶっ壊してやるって、つい興が乗って」

「それもう調子に乗ったでしょ」

「自分でもやりすぎたとは思ってるわよ……ぐぬ〜〜っっ。でも今さら引くに引けないの!」

「そりゃねぇ。減らしたら今よりバカにされちまう。でもそれならなおさら水着になって大丈夫なのか?」

 

平常時なら服を着るから問題ないはず

でも水着ってなると露出が増える。その分バレやすいと思うんだが

 

「今まで隠し通してきたのよ?この程度、苦況のうちにも入らないわ」

「俺的にはそんな自信は持ちたくねぇな……」

「お黙り。それに、最近のはよくできてて、かなり自然な盛り方ができるの。ちょっとやそっとで見抜けるものではないわ。特に、性欲に目がくらんだ男の子にはね」

「そんなに出来がいいものなの?」

「そうなのよ。私も驚いたんだけど胸の包み方とホックに秘密があって高いけどそれだけの価値もあって──……って、なんで男の子相手にパッド談義に花を咲かせなきゃならないのよ。ありがとう、空君。十分休めた。もう切り替えるから、そこをどいてくれても大丈夫」

「わかった。お役に立てたなら何よりだ」

「本当にありがとうございました」

 

すげぇ。本当に一瞬で切り替わった

 

「ところで、空君は能力の研究はしないの?」

「研究といってもねぇ。俺の能力は体液操作だから放出はオマケで体内で動かすのがメインだし」

「能力を使って遊ぶだけでもいいんですよ?ほら、あんな風に」

 

三司さんの視線の先にいたのは、さっき水の蛇で遊んでた2人

まーだ水流のぶつけ合いをしてる

なんかヒートアップしてて、謎のターン制による攻防が繰り広げられてた

フハハハハ!まだまだ子供のよう!

だがしかし──

 

「あれ止めた方がよくね?」

「男の子同士なら、あれぐらいはよくあることじゃないですか。暁君とはああいうことしなかったのですか?」

「俺がイタズラすることはあったけどあまり喧嘩とかやり合いになることはなかったかな〜。でもあれは周りに被害が出そうだぞ?」

「かもしれませんね。でも、止めるのなら、私よりも適した人がいますから」

「2人とも、いい加減にしないか!下手に当たったら怪我をしてしまう威力だぞ、それは。少し落ち着け!」

 

なーる。確かに二条院さんの方がこういうの向いてるな

だが、二条院さんの制止を聞かず、2人は攻撃を続けて、その流れ弾が二条院さんにヒット

「しゃーねー。俺が軽く止めてきますか」

「大丈夫。二条院さんだってアストラル使いだから。それに今行ったら……被害が増えますよ」

「それってどういう……?」

 

というかさっきよりも流れ弾に当たってて辛そうだ

だが三司さんの言葉もあるし……どうすりゃあいいんだ?

 

「ごほっごほっ!…………。……いい加減に……しろぉぉぉ!」

『ぐぁぁあぁぁ!!』

 

怒りが頂点に達したのか、二条院さんが叫びながら竜巻みたいなのを作り出した

ありゃ巻き込まれるから三司さんの言う通りにしといて良かった

2人は竜巻に飲み込まれ、宙を舞い、腹から落水

ありゃ痛いぞう……

 

「ほら、大丈夫だったでしょう?」

「ああ、それはよかったんだけどな。これはマズイ」

「マズイって何が──あっ、きゃ、きゃあぁぁっ!?」

 

天井まで竜巻が昇ってたんだぜ

能力を解除して維持するのをやめたんだ、そりゃこっちに大量の水がくるわけ

俺含めて周囲の人に襲いかかっ……俺のところにもきてんじゃねーか!

まあ怪我はないし、ずぶ濡れになっただけだ。あの2人のようにプールサイドでピクピクしてるよりはマシか

 

「けほっ、けほっ」

「大丈夫か?怪我はないか?」

「ええ、怪我はありません。ちょっとビックリしただけです」

「そっか。それならよかった……んっ?」

 

なんだ?さっきと変わってない光景だがなぜか違和感が……

なんか違うような……なにかが足りてないっていうのか?なんか欠けてる気が……

 

「──ほえぇ!?」

「なっ、なんですか?どうかしましたか?」

「流れてる!個人情報流出だ!別で例えるとピ○ミンが食べられて消えてる!」

「……流出……?消えて……?…………はぇぇあ!?スカスカ!?スカスカ大事件っ!?」

 

叫んでる場合じゃねぇ!

とりあえず隠さなければ!

そうだタオル!あと念のため捜索隊の目に見えないほどの小型魔物探索隊!

 

「うわっぷっ!?」

「とりあえずこれで隠して!」

「あ……ありがとう」

「今の悲鳴は?もしかして、怪我をさせてしまったのか?」

「ちっ、違う!違うから、こっちに来ないで、お願いだからぁっ!」

「いや、しかし」

 

ちっ、予想通り人が集まってきそうだ

ここは──

 

「俺がなんとかするから、三司さんは更衣室に」

「うっ……でも」

「大丈夫。パッドも回収しておく」

「……に、臭いを嗅いだりしない?あと、変なところに擦りつけたりとか」

「するか!というか早くしないと集まっちゃうよ?」

「…………。よろしく、お願いします」

「任しとけ」

「あと、その……さ、三角パッドと……シリコンの2種類あるので、両方ともよろしくお願いします」

「りょーかい」

「……ありがとう……」

「困ってれば助けちゃうのが俺なんでね」

「怒るのは逆恨みってわかってるけど……物が物だけに素直に感謝できないっ。なんなのよこの辱めは〜っ!それもこれもネットであだ名を付けた奴のせい!絶対にぶっ殺してやるぅ!」

 

なんか物騒なことを最後に言いながら、タオルを胸元に押し付けて戻っていく

そんなに押し付けたらスカスカなのばれっぞ

そのあと俺は三司さんは水着がずれて恥ずかしいからとかなんか適当な理由をつけて誤魔化した

それにしてもパッドって……

想像以上に粘着力あるんだ。あ、でもこれはベタベタ触ったわけじゃないから。拾うために仕方なくだから!

これでミッションは難なく達成できたし終わりよければ全て良し!

あれ?ここにパッドがあるってことは三司さんのおっぱいはべったんこじゃ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三司さん!」

「っ!?そ、空君……突然大声で叫ぶから、ビックリした……」

「これ、例のブツ。ちゃんと2種類あっから」

「うん、ありがとう……本当、ご迷惑をおかけしました」

「お礼はいいから、早く中身入れないとマズイだろ!?」

「中身言うな。……気遣いありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。流されたのは水着用です。普段着は身につけてますから」

「へっ?……あっ本当だ」

 

制服に女の子特有の膨らみが見かけられる。偽物だけど

 

「水に入りますから、素材が違うんです。特に貼り付ける方は粘着力の問題もあって──だから変なこと熱弁させないで」

「問題ないならそれでいいよ。そっか。それはハリボテじゃないなら安心だ」

「新しいあだ名を増やすなぁっ」

「あ、つい……ごめん」

「……はぁ……もういいですよ。空君は悪意なくそういうことを言ってしまう人ですから。それに今回迷惑をかけたのは私だから。だが二度目はない」

「わかってるからそんな怖く言わないで!?」

 

この人のオコなところマジで怖いよ!

 

「タオルで助けてくれたこと。回収してくれたことは本当に感謝してる。ありがとう。あと……迷惑をかけてごめん」

「いいって。人助けをできたんだしさ」

「…………」

「……ん?どした?」

 

渡したパッドをジッと見つめる

あれ?もしかしてプールには三司さんの以外にもパッドがあって間違えたとか!?

 

「ちなみに、臭いを嗅いだりしてないわよね?」

「もち」

「変なところに擦りつけたりも……」

「ないない」

「あと、パッドが珍しくて感触を確かめようとベタベタ触ったりとかも、してないわよね」

「シテナイヨ」

「ちょっと待って、なんで片言なの!?まさか……興味本位で試しにブラを試着してみたとか!?」

「さすがにそんなことはしない!」

「じゃあ何をしたの!?」

「ベツニナニモシテナイヨ」

「ならなんで片言で目をそらすの。誤魔化さないでよ!余計に気持ち悪いじゃない!」

「本当何もしてないし、そんなに騒ぐと──あっ」

「えっ!?」

 

今だ!必殺、離脱!

 

「なに、誰もいな──って、逃げるなこらぁぁぁ!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話

 

能力の研究……

俺の力、リライト能力は俺が望むものに書き換えれるし、アストラル能力は俺のイメージ、想像によってその形と性質を変えることができる

だから今より更なる力を求めれるが、それは俺自身が危険になるってこと

もし俺がそんな危険な存在になったら暁も七海も俺から離れて……いや、ないな

あの2人と父さんは俺を受け入れてくれる。俺を家族と思ってくれる限り、そんなことはないだろう

 

「空、ちょっと来い」

「どうしたよ?というか珍しいな、暁が他のクラスメイトと話してるなんて」

「お前も馴染みがないと話さないだろ?だからせっかくだから呼んだんだよ」

「俺は、相模大志だ。昨日は悪かったな。そんでこっちが」

「高階鉄心。今さらだけど、よろしくな」

「昨日?うーーん……ああ、水遊びのことか!あんなの気にすんなって!。で、俺は在原空!改めてよろしくな!」

 

空は新たなアミーゴができた!人脈が広がったぜ!

というより昨日のことは二条院さんの能力の竜巻がすげぇってことと三司さんのスカスカ大事件ですっかりだった

しばらく他愛ない話をし続けたが、恭平と暁以外の同い年の男子と話すのって随分久しぶりな気がする

んで、暁が二条院さんとなんか話始めたと思ったら

 

「アっ、アレは違うんだ!別に勝負する予定も、相手もいるわけではないんだっ!ただ、あの、一組ぐらいは大人っぽい下着を、念のために持っておいた方が安心と聞いたことがあって……だから……興味本位で、一組だけ」

 

……えっ?なんの話してるの?

というか下着って、暁と二条院さんってもうそんな仲になったの!?

 

「お二人さん、なんの話してんだ?なんかすっげぇワードが聞こえてきたんだが」

「な、なんでも!なんでもないからぁ!」

「ああ、アストラルのコントロールについての話なんだよ。今朝一緒にランニングしてるときに相談されてな」

「……仕方ない、そういうことにしといてやろう。で?具体的にどんな?」

「ワタシの能力なんだが──」

 

二条院さんの能力は水を操る力

水が無くても空気中の水分を液体として取り出すこともできると

で、問題があるのは取り出し、集めた水を操作しようとすると上手くいかず、無駄に水を飛び散らせてしまうらしい

 

「なるほどねー」

「空も能力は液体に関わるが、お前はどう力を使ってるんだ?」

「俺?俺の場合はただイメージするだけかなー。こう武器をイメージすればその武器、道具なら道具にって感じ。ただし俺の血液やらが混じってないと操作ができないから、自身から放出して使うわけではない二条院さんとは全く違うと思うぜ」

「そうか……だが確かにイメージというのは必要かもしれないな」

「一回能力見てみたいし、俺もその特訓に付き合うよ。なんだったら今日の放課後からでもオーケーだぜ」

「本当か!?ありがとう、空君!」

 

でも暁は自身の内側、俺は内側外側いけるけど自身に関係するものがなければならない条件付き

なら少しでも似た感じの能力持った人に応援を頼むべきか

 

「なあ、外側に干渉する能力を持った人で心当たりあるか?」

「そうだな……三司さんと茉優先輩あたりか?」

「なる。んじゃあ暁は研究室行って式部先輩誘って来い。俺より仲いいから誘う効率いいと思うし。俺は三司さんに都合聞いてくる。少しでも意見は多い方が結果は違うからな」

「そういうことか。じゃあ昼休みに尋ねてみるよ」

「二人とも、ありがとう。ワタシのためにいろいろしてくれて」

「なにいいってことよ!ダチのためなら手伝いぐらいやってやんぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということで昼、学生会室に行き、扉をノック

 

「どうぞ、開いていますよ」

「失礼しまーす」

「空君?どうかした?ああ、鍵は閉めて下さい。その方が気を張らなくてすみますから」

「あーいよ」

 

言われた通りに鍵を閉める。うん、大丈夫

 

「ゴメン。食べながらでもいい?」

「構わないよ」

「空君も一つ食べる?」

「ちょうどお昼は食べてきちゃったからお気持ちだけで」

 

マフィンかぁ……

七海お疲れ様おやつシリーズで何回か作ったことはあったな

 

「急にどうしたの?まさか……襲撃のことでなにか?」

「いや、そっちの方は大丈夫。今日はちょっと1人のクラスメイトとしてお願いがあってね」

「……おかしなことじゃないでしょうね?」

「俺じゃなく二条院さんのことだから」

 

ここでサラッと簡潔に、悩みと放課後のことを説明する

 

「それで三司さんにも来てもらえないかなーって思ってさ」

「…………」

「なんか用事があったり?」

「そういうわけじゃないけど……」

「あー、もしかして嫌だった?」

 

さすがに嫌がるのに無理してまで連れてくって訳には行かないからな

というか三司さんの怖さ知ってるから俺が殺されそう

 

「面倒ではあるけど、別に嫌だと断るほどでもないかな」

「じゃあ何に引っかかってんの?」

「別に行くのはいいけど……水着にはならないわよ?あの時みたいなラッキースケベを期待してるなら無駄だから」

「わーってる。ただアドバイスとかが欲しいだけなんだって」

「……貸し1つ」

「OK、交渉成立ということで」

 

貸しぐらいなんともない

むしろそれを返される時があるからまた何かと近づく機会が増えるってわけだ

俺としては喜ばしいことだね!

 

「けど正直、役に立てる気はしないのよね」

「能力が感覚的なものだから?」

「それもある。でも、二条院さんと私の能力って、根本的に違うのよ。二条院さんは水そのものに干渉する能力でしょう?」

「三司さんのは、空間に力を発生させるんだっけ。でもそれじゃあ干渉してるんじゃなく特殊な力場を発生させてるとかそういうこと?」

「そういうこと。というか私よりも空君の方が近いんじゃないの?」

「俺の場合俺の体液にしか干渉できないから。また違ったことになるんだ」

 

オーロラ状態でも血液状態でも操ることは出来るし、体内外関係はない

それに水に体液を混ぜれば多少は操作できるんだが、感覚は同じもんだからなぁ

 

「理解はしたわ。とりあえずは放課後ね、わかった」

「サンキュー、助かるよ」

「どうせすることもないから」

「今は取材を受けてないんだっけ。それで急に暇になると手持ち無沙汰で困ったり?」

「別に困るってことはないわよ。むしろ気が楽なくらい。取材を受けてるときは、ゆっくり自分の時間を過ごすこともできなかったんだから。はぁ〜……ずっとダラダラして、ただただ無駄な時間を浪費したい……気付いたら翌日だったって言うぐらい眠りたい……」

 

なるほど、これが現学生会長の願いか

 

「結構だらしない性格なんだ」

「いいでしょ、べーつにー。1人の時はこれぐらい気を緩めても」

「今俺がおるよ?」

「そこはほら、信頼の証?ってやつ?」

「なははっ、光栄だね。そういや三司さんって、自分の時間は何してんの?」

「なに、突然?」

「さっき『ゆっくり自分の時間を過ごすこともできなかった』って言ってただろ。だから、何か趣味とか好きなことやってたりしてるんじゃないかって思って」

 

俺は基本ゲームや漫画見たり、最近は知らないけど七海だって家事以外にも自分のことを、コスプレだったり作ってたりしてた

暁は……何してたんだろ、まあこんなんでみんな何かしらやってると思うんだよ

 

「趣味は特にないわね」

「じゃあこう、今のような時間はどんな風に過ごすんだ?」

「それは…………」

 

質問したら目を逸らされた

あれ?俺変な質問した?

 

「えっ?まさか鍵かけたこの部屋で、人に言えないようなことを……?」

「ちっがうわよっ!どうして、そんなエッチな想像しかできないわけ!?」

「まだ何も言ってませーん。それでエッチなことかどうかわからないでしょー」

「若い男の子が想像することなんて、エロ以外にあるの?どうせオ……オナニー……とかいやらしい想像してたんでしょ。でもお生憎様!言っておくけど私はオナニーなんてしたことないからっ」

「ほー、そうなんだ」

「そうよ、まったく………………〜〜〜ッッ。女の子に何言わせてるの!?バッカじゃないのぉ!?」

 

三司さんの口からあんな言葉を発するなんて思わなかったから、しかも2回

そして誰にも言えないもの凄い情報が手に入ってしまったことは心の中に留めておこう

 

「ちなみにそんなこと考えてないぞ?」

「じゃ、じゃあ!何を考えてたわけ?違うのなら言えるでしょう?」

「言っていいの?怒らない?」

「怒らないわよ」

「バストアップの運動してるかと思った」

「こいつ……っ」

「怒ならない言ったじゃん!」

「うるさい!つべこべ言うなぁ!」

 

何と理不尽な!

ちゃんと確認までしたって言うのにさ!

 

「それにバストアップの運動なんてこんなところでしない!もっと適切な時と場所を選んで──いやそうじゃなくって!あーもぅっ!」

 

そう言って、俺にとある物を見せてきた

 

「これっ!」

「ゲーム機?なんかゲームやってんの?」

「ゲームもするけど、ここではもっぱら動画を見てるの!」

「ほうほう、ちなみに何の?」

「……ねこ……」

「ねこって……英語で言うとキャットの?」

 

他にねこ……ねこ……動物しか思いつかぬ

 

「そうよ。野良だったりペットで飼われてたりする、あの猫」

「三司さんは猫好きなの?」

「……。『猫を被ってる三司さんにはお似合いだ』」とか思ってんじゃないわよ」

「思ってませんよー。まったく、そんなこと考えてもねぇぜ」

「ならいいけど」

「それより、そんなに猫が好きなの?」

 

ちなみに俺は猫は好きだよ

何せ生き残る術を教えてくれた恩師でもあるからな

 

「そうよ。画面越しでも猫を見てると心が満たされるから。1人でよく見てるのよ」

「猫の動画見てることなら隠す必要はあるか?」

「隠してるわけじゃないけど……個人的な情報を公表するのも、なんか嫌なの」

「そっか」

 

俺のようにフルオープンじゃなく、この素の性格は隠してるんだからな

なら全部隠してしまったほうがバレないのかもしれない

 

「それに何より猫の動画を見るときはね、誰にも邪魔されず自由で救われてなきゃダメなのよ」

「すっごいこだわり。猫の動画ってそんな面白いの?」

「空君は犬派?それとも、そもそも猫が嫌い?」

「どっちも好きだよ。どちらも生きる術を教えてくれた師匠達だ」

「師匠ってどういうこと?」

「あーっと、まあこっちの話。それよりも実際に見たほうがいいんじゃないの?」

 

いくら良生活でペットがダメとは言え、この世には猫カフェとか猫に触れれる施設がたくさんできつつある

なら動画よりも休日に会いに行って癒された方がいいんじゃないか?

 

「そうしたいんだけど、私、猫に嫌われるタイプなの」

「嫌われる?」

「そう。全然なついてくれない……なんでだろう……?」

「まあ猫も生きてるし、警戒心強い子だっているもんだろ」

「…………。この学院に、野良猫が住みついてるんだけど……知ってる?」

「猫は見かけたけど、住みついてたんだ」

 

確か暁が危なかったとき、一匹の猫に助けられたんだっけ

あの子ここに住みついてるんだ

 

「たまに、あの子に触れさせてもらおうとするんだけど、絶対に逃げられるのよ……他の人には自ら寄って行って、その足に擦りつけたりもしてるくせにっ。ああっ……一度でいいから、もふもふさせて欲しい」

「何か嫌がる行動を取っているとか?」

「そんなことはしてないと思うけど……。柑橘系の香水を付けてるわけでもないし、驚かせるようなこともしてないし。近づくときはゆっくり動いてる。あ、勿論目と目を合わせすぎないように、気をつけてもいるのに」

「前に何か嫌なことしたとかは?」

「してないわよ。そもそも、何かできるほど近づいたこともないんだから」

 

むむっ、人にはなつきやすいのに、三司さんは嫌ってるのか

ただ一人を嫌うタイプの猫は見たことないぞ?

 

「そうなると……三司さんを怖がってるんじゃないか?」

「やっぱり……そうなのかな?私……知らない間に威圧しちゃってるのかな?もしそうなら、一生触れられないのかも……。そんな人生、想像しただけでも辛い……ぐすっ」

「猫だって同じ存在はいない、中には三司さんのことが好きになるやつだっているさ。それに住みついてるやつも怖がってると決まったわけじゃないだろ?原因がわかれば解決するさ」

「そうだといいなぁ……はぁぁ……」

 

落ち込んでしまったな

どうにかして気を取り戻したいが……

 

「あっ、そうそう猫の動画見てるんだろ?何かオススメはないのか?せっかくだしそれを見て元気出そうぜ。YouPipeにあるんだろ?」

「私はどれもお気に入りなんだけどね。あっ、出てきた出てきた。サムネの時点でもう可愛い。これなんかも可愛いわよ」

「にゃぁ〜〜」

「ああ……かわいい……」

「……ふむ?」

「愛らしい瞳、フワフワの毛並み……ああ、触りたい……はぁ……はぁ……」

 

猫が大好きなのはとてもわかった

ただ──

 

「知ってる?こんな可愛いのに舌は、想像以上にザラザラなの。これは獲物の肉を上手に削ぎ取るためのもので意外と肉食動物らしい部分もあるんだけどそれだけじゃなくて毛づくろいにも役に立つの」

「確かにザラザラしてたけど、そういう意味があったんだ」

「はぁ、はぁぁぁああぁぁん……ねこ……ねこ、かわゆい……はぁっ、はぁ、はぁ……」

 

とんでもなくヤバイことになってる

これって本物の猫を前にしてもこんな風になってしまったから避けられたとかじゃないかな?

なんか原因がわかった気がする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はワタシのためにありがとう」

「いや。まだ役に立てるかどうか、きまったわけじゃないしな」

「結果はどうなるかわからないけど、出来ることはやらせてもらうぜ」

 

時はたち放課後

プールに来て二条院さんの特訓を開始する時刻になった

三司さんも来てくれたし、暁も式部先輩をちゃんと連れて来てくれたようだ

正直コントロールってなると俺も極めたいからこういう機会があるのは助かる

完璧にコントロールできてるって思っても大きさに対して消費量が多く貧血になるってことが多いから

それに下手したら力の制御ができなくなったら最悪なことも起きるかもしれない

そうなったらリライト能力を使って俺自身を書き換え、進化させれば済むが命が削られる

そうなる前にできることはしておきたい

 

「そんで、今からどういう風にやるんだ?」

「じゃあ早速だが、二条院さん」

「ああ」

 

二条院さんはプールサイドに立ち、目を閉じて意識を集中させる

水が二条院さんに集まっていく

 

「はぁっ!」

 

集めた水の一部は、無秩序に飛んでいった

これが朝暁に説明してもらったのか

 

「ぅぅ……やっぱりダメかぁ」

「でも、水流はちゃんと前にいってるわけですから。それに空気中からではなく、水をそのまま操作する場合は、そんな風には飛び散らないんですよね?」

「そうだな。水を集めるのと、その水の操作を連続して行わなければ、こんな風にはならない」

「……うーん……」

「空、お前は形を作る前にオーロラだけを放出するよな?その後に作るわけで連続で使用してるが、何か気をつけてることは」

「俺はそうだなぁ……まず基本なのがリボン状態、あのユラユラしてるのな。そっからただイメージするだけで何にでも作れるんだ。いわゆる万能便利ツールだな」

 

切れ味が鋭い剣をイメージしたら剣が、七海を助けた時のようにロープみたいなのを意識すればリボンが硬くなりそれで引っ張りあげれる

動物をイメージすればその魔物もでき、意思をもってるくらいなんだし

 

「ゴメン、大したアドバイスはできてないな」

「いや、空くんが謝ることじゃないんだ」

 

こればっかりは人によって違うし、俺のなんかは特別性の特別だ

こればっかりは仕方ない

二条院さんのアストラルを使う時の感覚を聞いたが、片方はオンに、もう片方はオフにと切り替えてるらしい

そこでさすが式部先輩、何か気がついたらしい

変化させたアストラルをさらに変化させることはできない。それに変化させられるのはニュートラル状態のアストラだけ

俺は剣状からさらに変化させたり、獣からロープや道具にもできるからやっぱり特別なんだな

 

話を戻すぞ、二条院さんは周囲の空気から水分を取り出すようにアストラルを変化させ、さらに集めた水を操作するために別のアストラルを変化させることになる

ここで集めるのと操作する2種類のアストラルが存在するんだ

集めるアストラルが残っているから操作している水も引き寄せられてしまい、水が都に散るってわけ……らしい

というわけで今からそれを調整して再挑戦

最初水を集める時に俺も不思議な感覚に包まれたが、今はない

 

「どうやらさっきまでと違って来そうだな」

 

水が半分ほど集まったところで、正面に向き、水を飛ばしたら軽くだけど飛び散った

だがさっきまでと違い、一部が上へ引き寄せられた程度で済んだ

なるほど、こうやってアストラルの使い方を変えて研究していくんだな

 

「そういえばさっき暁君が空君に聞いてたけど、オーロラってなんだい?」

「そういや式部先輩と二条院さんには見せたことなかったっけ。俺の能力を放出させた場合の話です」

「確かに空君の能力は体液操作で放出もできるという結果だったけど、血液で作ったりするんじゃないのかい?」

「それであってますよ。でも色はオーロラになるんです。ほら」

 

右腕からオーロラを出す

何にも形状変化させてないからリボンのようにユラユラ揺れてるだけだ」

 

「綺麗なものだな」

「改めて見ると不思議な感じがしますね……」

「確かにオーロラだ……でも本当に血液でできてるのかい?」

「本当ですよ。使いすぎると貧血になりますし、それでフラつくところを暁は何度も見てます」

「確かに何度も見たことはある」

「でもなんでオーロラなのかい?」

「詳しくはわからないですけど、アストラル粒子が影響してるんじゃないでしょうか。転んで怪我した時は普通に血が出てましたし」

 

さすがに変化から変化させるなんて技は見せないよ

そしたら今のアストラルの定義を変えちまうし、俺が第1人者みたいになってまう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は、本当にありがとう」

「もういいって」

「そうそう。それに俺もアストラルについてまた詳しく学ぶことができた」

「二条院さんの気持ちは伝わってます。もう十分過ぎるくらいです」

「そうだよ。本当に気にしないでいいから」

「ワタシとしては感謝してもしきれないんだが…………いや、わかった。しつこくして、困らせても仕方ないしな。ただ、頼みがある」

「なんだ?」

「ちゃんとコントロールできるようになったら……その時にはまた、みんなに見て欲しいんだ」

 

そんなの確認しないでも大丈夫なのにな!

みんなの返答はわかりきってた答えだった

 

「そういうことなら。勿論、構いませんよ。お待ちしてます」

「いつでも付き合うよ」

「楽しみにしてる」

「俺もだぜ!」

「ああ!」

 

俺たちが寮に戻る最中、予想外の人に声をかけられた

警備員のおっちゃんだ

セキュリティが整い、強化されたらしい

それで二条院さんは外れるらしい

俺たちにとっては好都合だ

 

「(小型の魔物を放った。あとで知らせるから七海が調べ次第照らし合わせてくれ)」

「(わかった。行動が早くて助かる)」

 

近いうちにまた新しいミッションがありそうな予感がするなこれ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

 

『空も暁と同じように楽しんでいるようで何よりだ』

「ああ、任務とは言えここに転入できたのが良かったと思ってる」

『そうか。だけど気を抜きすぎるなよ?』

「わーってるって。というかなんで俺と暁別々に通信するんだ?回線まとめて話せばいいじゃないか」

『それでもいいんだが、親としては個々にどう楽しんでるかを聞きたいんだ。いくら兄弟とだからといって言いづらいこともあるはず。だからこうして個人で話してるんだ』

「あー、確かに暁に何もかも聞かれるってのはやだな。特に七海には」

 

七海に何でもかんでも知られちゃって、もし嫌われるようなことがあったら……それこそ俺は生きる意味を失ってしまう!そんなのは嫌だ!

 

『考えてることは予想つく。俺に感謝しろよ?』

「むしろ父さんにはいつも感謝しっぱなしだ。それで?またなんか任務?」

『ああ。“鎌倉寿人”“飛鳥井栞那”この2人の所在、所属、今どこにいるかヒントになりそうな物を調べて欲しい。詳しくは暁に伝えてある』

「わかった。ならこっちの準備が出来次第決行するよ」

『頼んだぞ』

 

通話が切れ、通信終了

さてと、朝食食べて、学院に向かうとしますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暁、恭平、飯の時間だ!行こうぜ!」

「そうだな」

「今日はどこの寮で食べようか」

「そうだな……たまには別のところにも行ってみたいが」

「そっか。じゃあ、どこがいいかな」

「選ぶとしても移動しながらにしようぜ。良い席埋まっちまう」

 

ご飯食べる時も良い場所で食べる

それにより美味しさが倍増するってもんだ

 

「そういや他の寮も味は美味しいんだろ?」

「うん。基本的にはメニューなんかで差があるだけで、味はどこも満足できるはずさ」

「そうか、それなら……」

「あっ、せんぱーいっ」

 

声がする方を振り返って見たら、千咲ちゃんがこちらに手を振っていた

もちろん隣に七海もいる

 

「やっ、2人もこれから昼食?」

「うん」

「真面目に授業を受けてたらお腹空いちゃって、もうペコペコですよ〜」

「七海はいつも、どこで食べているんだ?」

「よく行くのは第四寮だよ。バゲットが凄く美味しいの。外はしっかり、中はもちもち、噛む度に味わいが広がって、香りもよくって……癖になっちゃうぐらい」

 

七海がそこまで絶賛するほどの物なのか……なんか気になってきた

 

「暁君たちはいつもどこで食べてるの?」

「第三寮だな」

「あー、男の人ですもんね。やっぱり量がある方が嬉しいですよね」

「俺というか、空と恭平だがな。こいつら、特盛り頼んでペロリと平らげるから。それぐらいの量じゃないと満足できないんだってさ」

「特盛りをっ!?それはすごい……」

「ちょい待て、俺を恭平と一緒にするな。確かに特盛りは食べられる量だがあれで満腹になるぞ。あの後おやつを食べる化け物と同じにしないでくれ」

「化け物だなんてひどいなぁ。それにみんな驚き過ぎなんだよ」

「驚く“みんな”の中には男もたくさんいるからな?」

 

実際俺も暁も特盛りを初めて見たときには驚きを隠せなかった

いざチャレンジ!ってなって食べて見たら完食できる程ではあったが、腹ん中がキツくて午後の授業で死ぬかと思ったんだよ

でもなんか癖になる量でついつい特盛頼んじゃう

 

「じゃあ、今日も第三寮で食べるの?」

「今日は暁の提案で他のところにしようってことになったんだ」

「どこに行くかはまだ決めてないんだけどね」

「それじゃあ、私たちと一緒に食べます?」

「本当?さっき七海がバゲットのこと言ってたから気になってたんだよね。七海は俺らが一緒でも構わないか?」

「うん。もちろんだよ」

「おーし、じゃあ行くとしますか!」

 

俺たちは第四寮目指して歩き出した

ついでに歩きつつ、新しいカメラ等の事を確認してったが目新しのは見つからなかった

奥とかに設置されたのか?

まっ、今まで通りなら七海がなんとかしてくれるし、暁も大丈夫だろ

 

「にゃぁ〜」

「猫?」

「おっ、野良助だ」

「そんな名前だったのか?」

「ん?いや、僕が勝手に呼んでるだけ。学院内に住み着いてる野良猫だから、野良助」

「へー!お前野良助って言うのか!よーしよーし、可愛い奴だなー!」

 

近づいて撫でたり、くすぐってやる

うん、こいつは人に懐いてるし周りもこいつのこと可愛がってるはずだから幸せそうだ

 

「空先輩って猫が好きなんですか?」

「俺は猫も犬も好きだよ」

「空君は動物とすぐに仲良くなれるもんね」

「へー、そうなんだ。でも動物と遊んでる空先輩の姿っていつもより優しそうですね」

「子どもの頃いろいろあったからね。その時動物が俺の癒しだったんだよ」

 

というのも、俺が捨て去られて拾われるまでの間はいわゆるホームレスっていう奴でな

そんな俺に野良猫や野良犬は近づいて来てくれて、まるで家族のように仲間に入れてくれた

そこで俺は動物たちから生きる術を学び、父さんに拾われるまで生き残ってこられたんだ

だから動物たちは俺の恩師でもあり、魔物を作る元になったベースでもある

 

それにしてもこいつ、三司さんが言ってた猫だよな?

初めて会った俺が触れても何も抵抗せず、寄り添ってくるっていうのに。もしかして三司さんが言ってたのはまた別の猫なんじゃないのか?

 

「そういやこいつの餌って食堂でも貰えるの?」

「うん。もともとは食堂の人たちが餌を与えてたんだ。でも人用に味付けされたものだとマズイし、みんなが好き勝手な物を餌として食べさせるのもよくないってことで市販の餌が導入されるようになったんだ。特に係りがいるわけでもないから、気付いた人が食堂から餌を貰うんだよ」

「そういうことなら戻るときに貰えばいっか。じゃあまたな野良助。俺が先だったら餌を持ってきてやるよ」

「にゃ〜〜〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、第四寮の食堂に初めて入ったわけだが、やっぱり作りはどこも一緒なのな

だけどメニューがかなり違う

パスタとかアヒージョとかオシャレなカフェっていうメニューが揃ってる

こりゃ女子に人気があるのも納得いくわ

俺は今日食べるのはナポリタンと七海一押しのバゲットだ

早速食べてみる

 

「んっ!うめぇ!」

「これは美味いな」

「確かに美味しいんだけどねぇ〜」

「周防先輩は、何かご不満が?」

「やっぱり量か?」

「恭平からしたら物足りないかもな」

「それもあるけど、味付けかな?僕はガツンとパンチのある味が好きだから。あっ、不満ってわけじゃないよ。美味しいし、普段来づらいから、誘ってくれて嬉しかった」

 

それはわかるかも

女の子が食べそうなのが多いから味付けもそこまで濃いわけじゃないんだよね

ただ俺は美味しい物なら何でも文句言わず食べるからどうってことはない

むしろこう言う味も好きよ

むっ、俺は黙々と食べてる中、隣で七海が暁にセロリを食べさせようとしてる

この子セロリ嫌いまだ直ってなかったのか

 

「セロリが苦くて嫌いだったよな、お前。好き嫌いせず、しっかり食べないとダメだぞ」

「……ぅー……どうしても、あの味も匂いも好きになれないんだもん。でも残すのも申し訳ないから……」

「だからって他の人に食べさせるのはどうなんだ?」

「……お兄ちゃん……」

「……まあ……お兄ちゃんだからな」

「ありがと♪はい、あーん」

 

暁、チョロい。さすがに甘やかしすぎだと思う

好き嫌いぐらいは克服してもらわないとってもう1人のお兄ちゃんは思ってます

それにしてもさすがシスコンで定評のある暁だ

 

「まさか暁がシスコンだったとは。僕は空の方がシスコンだと思ったよ」

「ちょい、どう言う意味だ」

「暁先輩と空先輩の時の七海ちゃんの態度が違って見えたんですよね」

「へー。どんな感じ?」

「空先輩には兄として頼りにしてるって見えますね。でも暁先輩にはさっき見たいに甘えてるように見えました」

「どうだ暁。これがお前がシスコンということを表してる証拠だ」

「納得いかん」

 

俺はこの時、漫画で表すとドヤァってバックに出ていたと思う

俺も過保護にしてるって思うけど、それだけ大切で心の支えとなってくれてるからなんだろうな

 

「ちっ、違うもんっ。暁君だからって、あんな風に甘えてるわけじゃないもんっ。今のだって甘えてたわけじゃなくって、わたしが暁君を手の平の上でコロコロ転がしてただけだもんっ」

「えー、そんな風には見えなかったけどなー。なんか甘え慣れてる感じがしたよー?」

「そんなこと……ないもん……もっ、もぉ!暁君のバカ……すごく恥ずかしいところ。見られちゃったじゃない」

「どう考えても、お前のせいだろ。むしろ巻き込まれてシスコン扱いされた兄の方こそ被害者だ。あと何にも被害を受けてない空にムカつく」

「はっはっはっ!そんなこと言ったって事実は事実さ!」

 

はっ!暁の負け犬の遠吠えは珍しいから聞いててニヤついちまうぜ!

完全に勝利だなこれ!

 

「言っておくけど、暁君だけじゃなく空君もシスコン扱いされても仕方ないからね?たまにわたしも、この人たちキモいなぁーって本気で思ってるからね?」

「なんだとっ!?」

「なんとぉ!?」

 

完全勝利が引き分けにまで格下げしまった……

むしり勝ちから下がった分、俺の敗北じゃねぇか……

 

「でも本当に仲がいい。いつもそんな風に嫌いな物をお兄ちゃんに食べてもらってたのかなぁ〜?」

「そんなことしてないよっ、嫌いな物が食卓に並ぶことなんてないんだから!」

「そりゃそうだ」

「うちでは七海がご飯を作ってくれてたからね自分の嫌いなものは出さないはずだよ」

「そうなの?七海ちゃんが?」

「もっと言うなら、料理だけじゃなく、家事全般してくれていた」

 

あの時は本当に助かってた

俺ももうちょい早く手伝いを始めてあげれてればと思ってるんだけど、正直全部を任せてもらえるってほどじゃなかったしなんかカッコ悪いな、俺

 

「じゃあ、七海ちゃんは料理上手なんだ?」

「特に上手ってほどでもないけど……」

「七海は料理が上手だよ。下手に外食するよりも、美味いものを作ってくれる」

「ああ。もう絶品と言えるものしか作れないと思うな」

「ちょ、ちょっと暁君、空君……っ」

「何か得意料理とかあるの?もしくは2人が一番好きな料理とか」

「七海が作るものならなんだって美味いから全部好きだよ。どれも好きだから一番とか考えたことないなぁ」

「料理は全部美味い。家事全般問題ない。どこに嫁に出しても恥ずかしくないぐらいだ。まあ、今のところ出す予定はないが」

 

何言ってるんだこいつ

恭平はどの料理が好きか聞いてきたのになんで嫁に出す話になってるんだ?

 

「暁君……キモいよ。そういうところがシスコンっぽいって言ってるの。空君みたいに褒めるだけなら言わないのに」

「傷つくわー」

「でも、そこまで褒めてもらえるなんてすごいと思うな」

「だが最初の頃は失敗ばっかりしてたよ。真っ黒に焦げてたり、逆に半生だったり、出汁を取り忘れた味噌汁だったり、ご飯もベチョベチョだったり……まあ、色々あったな」

「へー。そこから頑張って努力したんだね」

「それは……だって失敗してても暁君と空君は食べちゃうんです。暁君なんて一回、半生の物を平らげてお腹を壊しちゃったこともあったので……」

「あー、アレは辛かった」

「そうか?俺は美味しくいただいたぞ」

「お前の胃袋と一緒にするな」

 

こればっかりは暁の言い分もわかる

なにせ俺、捨てられて拾われるまでのホームレスの期間、そこら辺の草とか猫や犬が持ってきたものを食べてたし

そのおかげ?で何を食べてもお腹を壊すことがなくなったんだ

ちなみに美味しく感じたのも、人が、七海が作ってくれたということもあり、いくら失敗してようが昔食べてたものよりも全然美味しく感じられたから本当にそう思っただけだ

あー、こう思い出したら七海の料理食べたくなってきた

といか、周りがそういう話になってた

 

「もし、ご飯作ったら暁君と空君も食べたい?」

「今ちょうど食べたいなーって思ってたんだ」

「あー……そうだな。久々に七海の手料理を食べたいから、その時は声をかけてくれ」

「……そっか……ふふん。仕方ないなー。2人がそんなに言うなら、食べさせてあげないこともないよ?」

「是非お願い」

「楽しみにしてる」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂を後にし、学院に戻る

でもその前に、食堂のおばちゃんから貰った猫の餌を野良助にあげないとなー

 

「おーい、野良助ー、餌だぞー」

「もうどこかに行っちゃったんじゃないの?」

「そうかも。でもその前に暁、ちょっと奥まで覗いてきてもらえないか?」

「なんで俺が……ああ、わかった」

 

すぐに俺の意図が伝わってよかった

そう、奥に探させると同時に、増えたであろうカメラの確認をさせたんだ

そして俺は苦労しない。一石二鳥?ってやつ?

 

「こっちにはいなかったぞ」

「そっかー。ならどっか移動しちゃってるかー」

「とりあえず学院の方に行って見ませんか?ほかの人たちについて行ったっていう可能性もありますよ」

「んー、千咲ちゃんの言う通りかも。もう戻ってる人もいるだろうし」

 

ということで、学院に向かって移動

悟に確認したら、ちゃんとカメラの位置は把握したらしい

さすが兄弟。意思疎通もバッチリだな

 

「にゃ〜ぉ」

「おっ、千咲ちゃんの言う通りこっちにきてたか〜。ほーれ、餌だぞー」

 

手の平に餌を乗っけて、野良助の前に差し出す

すると餌にむしゃぶりつく

 

「やっぱりこいつ人懐っこいなー。下手なことしない限り逃げ出しそうもないよ」

「人を怖がるそぶりもないし、前は飼われてたのかもね」

 

一気にペロリと餌を平らげる野良助

 

「にゃ〜ぉ!」

 

まるでお礼を言うように一鳴きして、俺たちの元から立ち去っていった

なかなかできるやつのようだな

というかこんな子なのになぜ三司さんは嫌われるのか謎で仕方がない

 

「これで空も覚えられただろうから。これからはすり寄られるかもね」

「本当か?俺はいつでもウェルカムだぜ」

「空は本当に動物好きだな」

「にししっ、まぁな」

 

動物に好かれるのは俺は嬉しい

野良助はその分可愛がってあげないとな

 

その後、恭平はおやつを買いに、七海と千咲ちゃんは自分のクラスに、暁はもうひと回りしてくるといい別れた

俺はそのまんま教室に向かう

 

「〜〜♪」

「空君、どうかしたんですか?何やらご機嫌そうですが」

「ちょっとね、楽しいことがあったんだ」

「そうなのですか。あっ、服にゴミがついてますよ」

「え?どこ?」

「ほら、袖のところに糸くずが。あれ?でも……糸くずにしては、何か変な気が」

「ああ、野良助の毛だね」

「野良助?」

「猫だよ。この学院に住んでる野良猫。だから野良助。。餌あげたときか撫でたときについたのかな」

 

抱き上げようとも考えたけど、そしたら毛玉が制服にくっついちゃうしね

ちゃんと私服で遊ぶときじゃないと

 

「え?え?ちょ、ちょっと待って。意味がわからないんだけど。空君の時には逃げなかったんですか、あの子」

「全然だったよ。逃げるどころか、足にすり寄ってきたし、ありゃ懐かれたかもね。って、うわっ。ズボンにも毛がついちゃってるや。こりゃ抱き上げなくてよかった」

「……なんで……?なんで空君には甘えるんですか?私だって、餌をあげたいのに……モフりたいのにぃ……」

「俺に言われてもねー。近づいても逃げなかったし」

「ぐぬぅ〜〜〜……ッッ」

 

お、おう。すごい睨まれてる……

 

「ズルい、私にはそんなことなかったのに……。なんで?どうして?もしかしてワイロッ」

「餌はあげたけど、あげる前から人懐っこいように媚びてきたよ?よほど嫌なことがない限り、人を嫌うやつじゃないと思うけど」

「でも私の時は、ビクビクして全然近寄ってこないんですよ」

「うーん。その猫ってもしかして野良助じゃないんじゃないかな?それか何か用事があったとか?」

 

恭平はいないって言ってたし、千咲ちゃんは他は見かけてないって言ってたけど、この敷地の広さだ

あと一匹いたって不思議じゃない

 

「毛並みが似てる子とかいるだろ?それでもしかしてみんな気がついてないとか」

「それは……絶対にないとは、言えないけど」

「野良助なら三司さんでも近づけるはず。モフれると思うよ」

「……空君、手伝ってくれませんか?」

「俺?」

「私、1人だけだと出てきてくれないかもしれないでしょう?だから……お願い、一緒に来て♪」

「……フッ」

「ちっ……ダメか」

「やっぱなんかすごいよ、三司さんって」

 

猫かぶったと思ったらすぐに戻ったし

あとあの舌打ち思いっきり聞こえたし

 

「やっぱり責めてるわよね?」

「あーっと、付き合うのはいいけど、そう変に猫かぶるのはやめてほしいな?」

「……じゃあ……放課後、一緒に来てくれる?」

「もちろん。それに三司さんにはいろいろと借りがあるしね」

「うん、ありがとう」

 

最初っからそう言えばいいのに

でもこれで今日の放課後の予定はできた

うん。なんか今から楽しみだ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

 

さて放課後

俺は三司さんと一緒に、学院の敷地内を歩くことに

これってさ、軽いデートって考えてもいい?考えちゃってもいいよね!?

 

「ここら辺で見たの?」

「えっ!?あっ、うん。野良助ね。そうだよ。おーい、野良助ー」

「お昼にご飯をもらった子、出ておいでー」

 

よっし、俺の頭ん中で思ってたことはバレてないな

暁とのからかいのおかけでとっさに判断する力がいつの間にか身についていたようだ

それにしても野良助出てこないなー

 

「反応がない……これってやっぱり私がそばにいるからなのかなぁ」

「それは無いはず。嫌われることはしてないだろ?」

「勿論、あんな愛らしい存在にひどいことしない。というか……そもそも、何かできるような距離に近づけた事すらないから」

「じゃあ大丈夫だって」

 

心配しすぎよなー

でも好きなのから遠ざけられたら辛いのはわかるから三司さんの気持ちもわかる

と思ってたら、茂みからガサガサって音がして猫が現れた

 

「にゃぁ〜ご」

「おっ!早速現れたな、野良助」

「うにゃ〜」

 

とてとてとこちらに近づき、身体をスリスリと擦り付けるのはまさに野良助だ

 

「にっしっしっ、可愛いなーお前は」

「ぅにゃ〜」

 

顎の当たりをくすぐってやる

特に警戒されてるって様子もないから逃げられるってこともないだろ

 

「ほら、三司さん。こんなに無警戒なんだよ?やっぱ別のね──ヒェッ!?」

 

振り向いたらなんか別の存在がいた!

三司さん……なんだけど興奮しすぎてか怖すぎる……

 

「フーッ……フーッ……」

 

コラやばいし、警戒させないように近づくんじゃなく言葉で表すとジリジリとにじり寄ってくる感じだ

 

「ネコ……もふもふ……フーッ……フーッ……」

「にゃ、にゃぁぁ……」

 

野良助が怯えて俺の足に隠れる

いや、こら猫じゃなくても怯えるわ

だって俺もビビってるもん

 

「今日コソ、ネコ、触レル」

 

もはや人ではないような息をしてジリジリと迫ってくる

この圧力に耐えれる猫がいたら相当なもんだ

 

「逃ガサナイ……今日コソ、絶対……コーホー……コーホー……」

「にゃぅ……にゃぅ…… 」

「コーホーッ……コーホーッ……」

「ニ゛ャャーッ」

「ああっ!?待ってっ!」

 

会って少ししか経ってないけど、野良助のあんな鳴き声を聞いたのは初めてだ

今は逃げろ……生き延びるのだ……

 

「なんで、なんで私からは逃げてしまうの……」

「ありゃ逃げる」

「なんでぇぇぇっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの迫り方は猫じゃなくても逃げるぞ?下手すりゃ人も逃げる」

「うっ……そんな嫌な言い方しないでよ。大げさなんだから」

 

自分が野良猫を怖がらせていることにまだ納得いってないらしい

そんなこんなで部屋に連れてこられてしまった

……ここが三司さんの部屋

あっ、やばい。女の子の部屋にいるから緊張してきた

おっと、あれはゲーム機ではないですか。携帯ゲーム機じゃなく据え置き型も置いてあるとは

 

「あんまり部屋の中をジロジロ観察しないで欲しいんだけど」

「あっ、ごめん。据え置き型もあったからどんなやつやってるのかなってつい」

「RPGとか長く遊べてストーリーのあるものが多いわね。その方が飽きずに楽しめるから」

「でもそれ以外もあるよな?」

「そういう大作の数が少なくて。色々と新しいジャンルを試してる感じかな」

「ちなみに、ゲームするときって部屋にこもりっぱなし?」

 

ちなみに俺はこもるタイプ

RPGなら黙々とストーリー進めるし、FPSならオンラインでマッチングなんかしてる

他にもバ◯オみたいなホラーもやるぞ

 

「そうね。取り繕うのも疲れるし、何よりもラフな格好でダラダラ過ごすのが楽だもの。部屋でぐらい楽な格好でいたいの。空君はもう知ってるんだから、もういいかなって思ったんだけど?」

「それは個人の自由だしいいんだけど……」

「なによ」

「見事なペタン──」

「あ゛?」

「じゃなくって、いつもみたいに盛らなくていいの?」

「あ゛!?それ言い直した意味ある!?」

「悪かった!そういうことじゃなくって、格好が格好だからノーブラなのかなって思っちゃって」

 

だっていつもパッドつけてるんだもん

ブラも盛ってる時にしかつけてないかもしれないじゃん

女の子の事情はわからないが

 

「……はぁ……男の子を部屋に呼ぶのにノーブラなわけないでしょう。それじゃあまるで誘ってるみたいじゃない。ちゃんと身に着けてるわよ。スポーツブラだけど」

「スポーツブラってその名前の通り、運動する時に着けるもんじゃないの?」

「本来はね。でもワイヤーブラって圧迫されたり、肌が痛くなったりするから。それに比べてスポブラは柔らかくてストレッチ性もあるから着け心地もよくて、楽に過ごしたいときには丁度いいの。最近は機能性だけじゃなくデザインにもこだわったのが増えてるから可愛いデザインもすごく多いのよ。今私が身に着けてるのだって衝動買いをしちゃうぐらい可愛くて、見てみる?」

「是非見させてもらいます」

「ほら、これ。なんて見せるわけないでしょ、いくらスポブラとはいえ。なに本気で覗こうとしてるのよ、このエロ助」

「エエエエロ助ちゃうわ!それに男の子なら『見てみる?』なんて言われたら見ようとしちゃうの!純情なんです!」

 

今ので反応しない男がいたらそりゃそいつは男が好きなやつだ

それか彼女がいて惚気てるリア充野郎のどっちかに決まってる

 

「純情じゃなくて下心でしょ。いやらしいー」

「下心もちゃう!」

「まあ、それは置いておいて、猫の話。大げさな言い方はせずに、ちゃんと教えて」

「さっきから正直に言ってるけどめっちゃ怖かった」

「それ……本気で言ってる?」

「本気と書いてマジと読むくらい本気」

「なぁんでぇ!?怖がらせないようにゆっくり動いてたでしょ!?」

「ゆっくりというよりにじり寄る様だったな」

 

にじり寄って相手に近づき密かに殺るという……

 

「威嚇しないようにしてるのにっ」

「威嚇はしてないけど威圧はしてたな」

 

こう、威圧して動けないところを殺るという……

 

「そんなはずは……可愛い猫を愛でる目をしてるわよね?」

「愛でると言うより取って食う捕食者の目だった」

「そんな」

「興奮しすぎてるというか、気合いが入りすぎてるというか、とにかくそんな感じ。それに『コーホー』なんて呼吸してた時はフ◯ースの力がないと倒せないと思ったよ」

「そんな変な呼吸してないっ!」

「してました。さっきから嘘は言ってないからしてた。だから野良助も怖がるんだ」

「……またまた〜」

「…………」

 

三司さんは笑って誤魔化そうとするが、そうはいかない

俺はもちろん首を横に振ったよ

 

「マジで?」

「大マジで」

「じゃあ、私から猫が逃げるのって……」

「怖がられてるからだな。怖がられてちゃ餌でも無理かもな」

 

猫とかの動物って本能とかすごいからな

きっと恐怖にも敏感だったんだろう

 

「それって嫌われてるよりダメなんじゃないのっ!?」

「いや、むしろ嫌われてるより対処はできる。だって怖がらせないように気合いを入れないだけでいいからな」

「そう言われても……今までだって別に、気合いを入れてるつもりはないのに」

「あれだけ興奮しといてか?」

「そ、それはまあ……確かに、ほんの少しハッスルしてたかもしれない」

 

あれでほんの少しねぇ……

じゃあ盛大にハッスルしてしまったらどうなるんだ?

 

「でも、あんなに愛らしい存在を目の前にすると、多少なりとも心が躍るでしょ?」

「まあ、それはわかるけど。俺だって動物好きだから撫でたりしたし」

「そうでしょ?私は本当に怖がらせるつもりはなくて、自然とテンションが高くなっちゃっただけで……」

 

確かに、動画を見ただけで凄いことにになってたんだ

本物を見たらテンション上がっちゃうだろうな

 

「そもそも怖がらせないようにって、どうすればいいの?」

「そうだなー」

 

俺の場合は、向こうの方が俺の気持ちを察してくれて寄って来たからな

そのあと家族みたいに過ごしていたし

それから俺が笑えるようになんかいろいろしてくれたからその逆のことをしないってなると……

 

「嫌がることをしないことは当たり前だし、相手の、猫の気持ちを考えたらどうかな」

「相手の……猫の気持ち……猫の気持ち……にゃ、にゃにゃ〜ん」

「……──はぅぁ!?」

「なっ!?なんで驚いてるわけぇ!私がこうして真面目に猫の気持ちを考えようとしてるのに!」

「い、いや、ただいきなりだったから驚いちゃっただけだから」

「……それならいいんだけど」

 

猫の気持ちを知るために猫の真似をするとは

だけどその……破壊力が高くって思わず声が出ちゃったというか

 

「でも形からかぁ。確かにそういう方法もありかも」

「そ、そうでしょう?」

「猫のことをちゃんと考えてるのがわかる」

「それで猫って、こんなポーズよね?にゃ〜」

「…………」

「……〜〜〜っ、そこで黙らないでよっ、恥ずかしくなってくるじゃないっ!」

「でもどんな反応すればいいかわからなくて」

「さっき、あの野良猫にしてたみたいにしてくれればいいから。そうすれば何を怖がるのかわかるような気がするから。でも無反応ってことは……なりきりが足りないってことよね」

「そういうことじゃないんだけど」

 

本当にどう反応すればいいかわからないだけ

それに……猫の真似をする三司さんが可愛くって

猫を被った姿もそりゃ可愛いかったけど、素の性格は冷たいかと思ってたが、なんかこう好感度持てるな

 

「……なによ?」

「いや、何でも」

「……まあいいわ。それより、猫になりきるためにはどうすればいいと思う?」

「なりきるかぁ……そうだなぁ……真似だけじゃなく形から入ってみるとか?猫耳とか」

「……猫耳ぃ?」

「あー、でも付けるのは嫌かな」

「いいアイディアかもっ!」

「へっ?」

 

おっと、そこ乗ってくるか

ちょっと意外だったぞ

 

「なによ、その反応。言い出したのは空君でしょ?」

「それはそうだけどさ」

「それで、猫耳って持ってる?」

「さすがに持ってないよ。持ってたら気もち悪いだろ?」

「……確かに」

 

三司さんは深く頷く

俺も動物が好きと言ってもそれはねぇ

買うとしても夢の王国のカチューシャぐらいだ

 

「私も猫耳なんて持ってないし……どうしよう……誰か持ってる人、知らない?」

「1人だけ心当たりがあるからちょっと聞いてくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?猫耳?そりゃ一応……持ってるけど」

「やっぱ持ってきてたか」

 

七海のコスプレで何あるか聞いた時、猫耳があったのを思い出したんだ

 

「それちょっと貸してくれないか?」

「えぇ!?空君がっ、猫耳を!?貸すのはいいんだけど……ついに女装するの?」

「俺はつけないぞ。それに自ら女装はしないしあの時のことは忘れてないからね?」

「あの時は一時のテンションに身を任せちゃってたからつい……」

 

昔ある時、俺は七海に女装されかけたことがあった

原因は俺がコスプレに興味を少し持っただけなんだけど……

あの時の七海のテンションは凄かった。暁も助けに来てくれないほどだった

 

「それで、貸してくれるんだよね?」

「うん、ちょっと待ってて。すぐに持ってくるから」

「ありがとう、七海」

「それからコスプレするんだったら言ってね」

「カッコいい男キャラもんだったら考えておくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「借りてきたよ」

「うわっ、本当に持ってる子がいたんだ?ちなみに訊くけど……実は本当の持ち主は、空君じゃないでしょうね?実は女装趣味がある……とか?」

「そんな趣味は持ってねぇ!これは七海から借りてきたんだ」

「七海さん?彼女、どうして猫耳なんて持ってるの?」

「んー……他言はしないって約束できる?」

「他言はしない。約束できる」

 

三司さんなら約束は絶対に守ってくれるだろう

それに俺のことじゃなくて七海のことなら尚更だな

 

「あの子、いわゆるオタクな一面があってな。コスプレをしてイベントに参加することもあったんだ。その猫耳は衣装道具ってわけ」

「そうなの。よかった、安心した」

「それじゃ約束は守ってもらうからな?」

「わかってるって」

「じゃあこれ」

「うん。ありがとう」

 

猫耳を手渡し、三司さんはそれを装着する

 

「にゃぁ〜〜〜」

「可愛い」

「……あ、ありがとう……でもそうじゃなくて猫っぽくなったかの感想を訊きたいの」

「あっ、そっちか。うん、さっきよりも猫っぽいよ」

 

正直言うと可愛いとしか思いつかなかったなんて言えない

 

「そう、なら良かった。じゃあ、早速さっきの、続けてみるわね」

「うん」

 

と言ってもにゃ〜と鳴いてるだけじゃ気持ちなんてわからないからな

三司さんも構ってと言ったし、猫を構うようにしてみるか

 

「よーしよしよし」

「あっ、ふっ、やぁんっ!く、くすぐったい……んひゃんっ」

「…………」

「はぅっ、はっ、はっ、はぁぁぁ……んんっ」

 

何故だ、顎や首の辺りを指先でくすぐってるだけなのに……

なんかいやらしいことしてるみたいに感じてきた。だって俺の指でこんな可愛い子が悶えてるんだもん

あっ、止められねぇわ

 

「ちょっ、あっ、あんっ……んんっ、やっ、あぁんっ」

「…………」

「はっ、ぁぁっ、あっ、んんっ!す、ストップストップ」

「…………」

「ちょっ、ちょっと待ってってば、もうダメ、やだ、やだぁっ……一回ストップ……じゃないと、あっ、あっ、んんーーぁあっ!」

 

すみません、やりすぎました

ということでこのあとちょっと休憩を入れた

でもなんか……エロかった

 

「はぁ……はぁ……ストップって言ってるのに」

「ごめん、なんか歯止めが効かなくて。顎や首に触れられるの嫌だった?」

「嫌悪感があったとかじゃなくて、単純にくすぐったくて……ちょっと身体が変な感じになってきたから」

 

正直三司さんがストップって言ってくれなかったら大変なことになってたかもしれない

やりすぎて

 

「でもおかげで、少しわかったかも。構いすぎると、ひっかいたり噛みついたりする気持ちが。確かに、あんまりしつこくされると困るわね」

「力になれたなら良かった」

「でもこれって、触れ合ってからのことでしょ?私の場合、その前の段階で恐怖を与えてるってことだけど……具体的に、気合いを入れ過ぎてる私って、どんな感じなの?」

「そうだな……見てもらった方が早いか。実際に試しにやってみるよ」

 

百聞は一見にしかず

見てもらえばどんなのかわかってもらえるだろう

 

「お願いしてもいい?」

「いいけど、怒ったりしないでよ?あと出来れば引かないで欲しい」

「わかってる。そんなことしないから」

「それなら……コホン……フーッ……フーッ……ネコミミ、女ノ子、可愛イ」

「ひっっ!?」

「可愛イ……逃ガサナイ……コーホー……コーホー……」

「ひぃぃ、変質者ッ!?」

「それはひどいなー」

 

実際やってみたが、こんなんだったんだ

俺は再現しただけで変質者じゃない

 

「ご、ごめんなさい。つい、生理的嫌悪感が……でも、さすがにそれは盛りすぎ。私はそこまで気持ち悪くないわよ」

「と、思うじゃん?」

「……そうなの?嫌がらせとかじゃなく?」

「だから野良助は恐怖を感じたんだ。わかってもらえた?」

「…………」

 

まっ、これで自分がどれだけ恐怖させてたかわかってもらえたようだ

となると、直すべきところは

 

「あとは落ち着いていけるかだ。恐怖を感じさせなければ大丈夫だと思う」

「うん。じゃあ猫の気持ちはわかったから、今度は撫でる側の練習をさせてくれない?」

「撫でる側って……えっ?まさかの?」

「そう。はい、こーれ」

「……マジで?」

「もちろんマジ。今度は空君が猫になってもらって、撫でる練習」

 

マジですか。この展開は予想外じゃ

 

「でもどうしよう……全然可愛くない。猫を目の前にした時みたいに、心が踊らない」

「そらそうさな!」

「これじゃ練習にならない……?」

「そこまで言われると傷つくぞ?」

「ウソウソ、冗談。落ち着いて練習するんだから、それぐらい可愛くない方がちょうどいい」

「それはそれで、嬉しくないが……仕方ない、最後まで付き合ってあげるよ」

 

乗りかかった船みたいなもんだし、せっかく協力してるんだ

最後まで力を尽くさないとなんか後味が悪い

 

「じゃあ早速、ちちち。ほら、空君」

 

仕方ない、気持ちを切り替えて──

 

「うにゃ〜」

「あれ、意外と上手いわね。可愛くない鳴き声だけど」

「にゃー!!」

「ゴメンって。もう文句言わないから」

「にゃ」

 

全く、こっちは付き合ってあげてるってのに

しかも男なんだぞ?昔ならそりゃ可愛かったかもしれんが、この歳になって猫の真似なんてしても可愛いわけがない

 

「よーし、おいでおいで。にゃ〜、にゃ〜」

「にゃ~ぉ」

「よーし、よしよし」

 

野良助の時と違い、威圧は感じない

そして俺がしたのと同様に、顎から首の辺りをくすぐってくる

 

「これが、念願の猫もふ」

「にゃふっ……にゃ、にゃ……んっ……」

「ああ、これで相手が本当に可愛らしい猫だったなら」

「うにゃー!」

 

さっきから気持ちを切り替えてるから猫の言葉しか出ない

というかヤバっ、くすぐったい……というよりもなんか、悶えるっていうか……!

 

「うにゃんっ!」

「本物の猫も、こんな感じでいいのかしら?」

「ひゃ、んっ……ふぅ……んっ」

「……ねぇ、さっきから変な声を漏らしてない?もしかして、私の指で興奮してる?」

「してにゃふぅっ!?」

「『してにゃふぅっ』だって、ふふっ。空君って可愛い声で鳴くのね」

 

これは非常にまずい!

彼女がなんかドSな目になってしまってるが、俺もあんな風になってしまってたのか……

 

「にゃっ、にゃふっ、うにゃんっ、にゃぁぁ〜〜」

「全然可愛くないくせに、鳴き声だけは可愛いんだから」

「にゃぁぁ……にゃぅん」

「ほーれほーれ、んふふ」

「ぅにゃ……にゃぁ、にゃぁーーー!!」

「ひゃぁ!?び、ビックリした……急になに?」

「な、撫ですぎ……しつこいよ……」

 

あのままやられてたらどうなってたかわからないなら止めさせたなんて言えねぇ……

 

「へぇ……?その割には、とっても気持ちよさそうな声を漏らしてた気がするんだけどなぁ〜」

「そっ、そんなことはないぞ」

「……ふーん?」

「ってか、それなら三司さんだって同じじゃんか。あんな気持ちよさそうな声を上げてたくせに」

「きっ、気持ちよさそうとかっ、そんな変な声は出してっ……ない……」

 

お互い、否定しきれない部分があるよな……

というか、終わって冷静になったから思い出せるが、今までの行動を客観的に見ると……

俺が!猫の真似なんてして『にゃ〜』とか変な声出すなんて!

すっごく恥ずかしいことをしてしまっただろこれ!?

 

「こ、これはここまでにしよう」

「そ……そうね」

 

お互い目をそらしながら、頷きあった

うわー、俺としたことが、顔が赤くなってるのがわかる……

 

「と、とにかく!気持ちよさそうな声を出しててもしつこくしてると怒ることもあるってこと!」

「わっ、わかった!調子に乗って撫で過ぎないように気を付ける……うん」

「それがいいよ。あとはさっきみたいに落ち着いて寄ってくるのを待てば大丈夫なはず。本物の猫じゃ勝手が違うだろうけど、野良助なら大丈夫だと思うよ」

「うん。練習に付き合ってくれて感謝してる。本当にありがとね」

「ああ。素直に受け止めておく」

 

なんか、今日1日三司さんと一緒にいたけど、意外な一面が見れて面白ったな

その後、三司さんの部屋を出て、自分の部屋の前まで移動したが……すっげー恥ずかしいことしてんな俺

 

「あれ、空?こんなところで何してるのさ」

「なんか一人で悶えてたけど、何かあったのか?」

「あ、いや、悪い。なんか思いっきり叫びそうになりそうだったから」

「──って、空!?その姿は一体!?」

「その姿……?」

「頭のもんだけど、お前何つけてるんだよ」

「頭?とんでもない物?……あっ」

 

だーっ、しまったぁー!

逃げたい一心で猫耳つけたまま三司さんの部屋を出てしまったんだー!

 

「……俺を……見たな!」

「まずい、逃げるぞ恭平」

「へっ?ちょっと待ってよ暁!」

「汝らの命をここで絶つ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ……」

「どうしたの?なんだか重苦しいため息だけど……何か悩み事?」

「ああいや、気にしないでくれ」

 

放課後のあの出来事の傷が未だに癒えてないないだけだからな

七海には知られたくないし

ちなみにあの後、暁と恭平には神の怒りを食らわせて黙らせた

 

「ホントに?今から任務なんだよ?集中できないなら、わたしと暁君だけで行ってくるけど」

「ダメ、それは出来ない」

 

俺は暁をジロリと見る

何も言わないと目線から伝わる

 

「俺の方は大丈夫だから。それよりセキュリティの方は?」

「そっちは問題ないよ。今日されたのは、やっぱり外からの侵入に備える部分だよ」

「それなら、心配はなさそうだなよし。行くか」

「ああ。……もしも七海に言ったらどうなるかわかってるよな?」

「大丈夫、心配するな。今のお前に逆らえるやつなんていたら命知らずだ」

「それならいい」

 

セキュリティに関しては七海が言った通り問題なく、いつも通りすぐに学院に入ることができ、研究室のセンサーにカードキーをかざし、入室

 

「そんじゃ外の方は俺が見るから2人とも任せっぞ」

「ああ」

「うん。AIMSのセキュリティも変わってないみたいだし、すぐに調べれられそう」

 

前みたいなことは起きないと思うが、念のために警備員以外にも気になることがないか外を見てみる

……あんまり変わったことはないかな

三司さんだって取材はないだろうから部屋にいると思うし、警備員が何人か増えただけだ

侵略者もいなさそうだし、こりゃ少しの徒労で終わりかな

 

「それが……わからない。調べられないんだよ」

「どうした、何かわからないことがあったのか?」

「外はどうだ?」

「問題なし、それで今の話は鎌倉寿人と飛鳥井栞那についてなんだよな」

「……行方不明になってる」

「行方不明?それは、2人ともか?」

「2人とも。行方不明」

 

行方不明……だって?

調べて欲しいと言われたアストラル使いが2人揃って……?

頭に嫌な考えがいくつも思いついてしまった

暁と七海が俺の前からいなくなってしまった考えを

俺の、悪く嫌な癖だな……





ようやっと七海√に入ることが出来ました…
これがラスト√なので七海√が終わったらまた続き書きます!

ちなみに千恋*万花は全員終わってるのでそちらの方はこのまま書き続けていきますのでよかったらそちらの方も読んでくれたら嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話

長らくおまたせしました

他の書いてる2作品と並行にしつつって思ったのですが1作品に集中してしまったのと、バイトを変えたら予想以上に書き上げる時間が減ってしまいいつもより進行スピードが遅くなってしまいました

なるべく早く書けるようにはしますので待っていてください
では本編どうぞ!


行方不明者……

もし暁と七海もそうなってしまったら……俺は生きることができなくなるだろうし

幼い頃にあった人間不信は治ってきてはいる。けれど完璧に信用できてる人はと言うと父さんと暁、七海の3人だけだ

その誰かが欠けたりしてしまったら俺はもう立ち直る事が出来ないかもしれない……

 

「だー!朝から暗いこと考えてるんじゃねぇ!こういう時こそご飯を食べるべき!」

 

いつもよりちょっと早いからまだ暁も七海もロビーに降りてきてなさそうだな

おっ、三司さんがいるじゃん

 

「おはよ三司さん」

「おはようございます。空君1人ですか?」

「今はね、後から暁とか来ると思うよ。そうだ、みんなで朝ご飯一緒に食べない?」

「すみません、私はもう済ませてしまったんですよ。それよりもう時期星幽(せいゆう)発表祭ですが空君はどうするんです?」

「星幽発表祭?」

 

なんだそれ?

なんか発表でもし合うのかな?

 

「まだ聞いていませんでしたか?星幽発表祭はこの学院でいう文化祭みたいなものですよ」

「ほう、文化祭とな」

「はい。それでいろいろと話し合うことがありまして」

「なるほどねー、教えてくれてサンキュ。そんじゃ機会があったらまた一緒に食べようぜ」

「その時は是非お願いします」

 

星幽発表祭ねー。なんか店出せるなら俺の出番ではないですかな?

 

「空君おはよう。暁君は?」

「まだ来てないな。……報告長引いてるんじゃないか」

「そうかも。あっ、暁君」

「おはよう、七海、空」

「おはー。遅かったな」

「おはよう。それで昨日のことなんだけど、お父さんに報告した?」

「それなんだが……ここではちょっとな。ほら」

 

暁が向けた所にちょうど千咲ちゃんがいた

まあそれにここはロビーだ

内緒話する場所にはどう考えても不向きだしな

 

「七海ちゃんおはよう。先輩方もおはようございまーす」

「おはよう、千咲ちゃん」

「どうかした?こんなところで。朝食はもう食べたの?」

「まだだよ」

「なら一緒に食べようよ」

「話はまたあとでな」

「……?もしかして私、お邪魔しました?」

「いや、ウチの家庭のことで話してただけだから気にしないでくれ」

 

こういう時、兄弟だと家庭の事とかってことで誤魔化せるから便利だな

もしただの友達とか知人とかなら言い訳考えるのめんどくせーし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アストラル使いの……連続行方不明。そんなことが起きてるなんて」

 

朝、暁が父さんと話していたのはその事らしい

昨日の2人はその1部でしかなかったと……やめてくれよ、そういう物騒なの

 

「親父の方もハッキリ把握できてるわけじゃないみたいだ。全部関係してるかどうかも確証はないようだが……少なくとも、好ましい状況ではない」

「下手に動くと逆にリスクがありすぎるな」

「ああ。空の言う通りだ」

「ただ三司さんは俺が絶対守ってみせるさ。1度口にしたことだ、曲げるなんてことしねーよ」

「わかった、ただ何かあれば報告はして欲しい。七海はAIMSへのアクセスを確保しておくことだ」

「了解」

 

流れとはいえ俺が守ると言ったんだ

中途半端で終わらせてたまるか

普段はちゃらんぽらんかもしれんが、決意は人一倍硬いんだよ

 

「あっ、でも……『星幽発表祭』はどうするの?」

「せいゆ……なに?」

「ああ、俺も今朝三司さんから聞いたばかりだからな。暁は知らんだろ」

「何のことだ?」

「星幽発表祭っていうのはつまり文化祭みたいなものなんだって」

「文化祭……ちょっと待て!ってことは、まさか──」

「何を驚いて……いやまて、文化祭といったら普通そうじゃねぇか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今さら説明する必要とないと思いますが『星幽発表祭』が今年も行われます」

 

いま柿本先生から星幽発表祭の説明を受けている

質問の枠があれば聞いてみたいところだが……

 

「発表祭について、なにか質問はありますか?」

「先生」

「なんですか、暁君」

「それは外部の人も呼べるということでいいんでしょうか?」

「はい、呼べます。何の問題もありません。見学希望の一般の方にも解放されますから」

 

ちっ!浮かれすぎてその問題を見落としてたか!

一般の方に紛れ込んで侵入してくる可能性があることを思いつかないなんて俺らしくねえ

それに星幽発表祭はアストラル研究発表の場でもある

研究成果を披露したり、申請して認められれば能力を使った出し物も出来るらしい

去年は炎の能力でフランクフルトを焼いたり、人形にダンスさせたりとそれなりに出し物があったらしい

アストラル技術に携わる人も来るからこういう企業スパイも来そうだが、何かそれ以上な問題が起きそうだな

 

「それから、三司さん」

「はい」

「発表祭のことで少し相談がありますから、後で時間をもらえますか」

「わかりました」

 

三司さんは学生会長だ

運営とか当日の仕事とかいろいろあるんだろう

中止……は無理だろうけど、少しなら話を合わせてもらえないだろうか

後で三司さんと話してみるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、三司さんは生徒会室にいると思いそっちに行きドアをノックする

 

「はい、どうぞ。開いていますよ」

「んじゃ失礼しまっす。ちょいと聞きたいことが」

「空君」

「おっと先生。話のお邪魔しましたか」

「邪魔という程では。ですが、もう少し待ってもらえますか?すぐに済みますから」

「大丈夫っすよ」

「ありがとう」

 

お話を少し聞き耳すると、発表祭、当日の警備、手荷物検査……まあ襲撃があったんだからそれぐらいのセキュリティはあるか

 

「待たせてしまって、申し訳ありません。話は終わりましたから。それでは、私はこれで」

「お疲れ様です」

 

先生は退室し、部屋には三司さんと二人っきり

これでようやく話が出来るもんだな

 

「前みたいに鍵は閉めた方が?」

「お願いします」

 

俺が施錠すると同時に、三司さんはため息を漏らし、素の姿に戻っていた

 

「はぁぁぁ〜〜〜……やっぱりダメかぁ」

「三司さんはなんか出し物すんの?」

「もしかしたら、今年はサボれるかと思ったのに……やっぱり逃げられないかぁ」

「今年はってことは去年もなんかやったの?」

「ライブ。舞台で歌ったの?」

「ライブ?そんなもんもやるんだ」

「私の場合は宣伝もあるからね。だから他の学生とはちょっと事情が違うわけ」

 

取材やら面倒なもんたくさんやってるもんな

そんなんでライブまでやるとか……かなりの苦労人だな三司さんは

 

「実際にやってみると、リハやらなんやらで結構面倒で……その上、すっごく恥ずかしかった」

「大勢の前で歌ったのが?」

「というより会場のノリが。みんなノリがよくて……反応が寂しいよりはいいんだけどね。その分こっちもノリよく……それこそ、アイドルみたいに振る舞わないといけないから。『こんにちはーっ!みんなー、元気ですかー!』なんて言った瞬間『ああ……私何してるんだろう』とかね。思い出しただけでも……〜〜〜〜〜ッ!!」

 

あー、そりゃ恥ずかしいっていうかやりたくねーな

俺がライブなんかやったらジャ○ーズみたいなのじゃなくバンドとかそっち系やりたいもんだ

 

「どうしても何かやらなきゃいけないなら……せめて恥ずかしくない物にしたい」

「やるんならやりやすいもんがいいよな。っと、それより当日のことで話に来たんだった。襲撃がまたあるなら、星幽発表祭では一般人も来るからそれで侵入してくるかもしれねえ」

「そういえば……その後何か進展はあった?」

「すまない、まだ未確定なことばかりで報告できることはないんだ」

 

相手の組織すらわかってない

わかってるのは三司さんが襲われた事実だけだからな

 

「そっか」

「悪い、まだ力になれてなくて」

「別に責めてるわけじゃないってば。でもそれなら、あんまり目立つ行動を取らない方がいいの?」

「そうだな。俺の希望で言えば寮の部屋に閉じこもっているか、あまり俺のそばから離れないでいて欲しい」

「ゴメン。それはちょっと難しい。先生からも直々に言われちゃったし……普段の仕事を任せてる分、やることやって私も役目を果たす必要があると思うの」

「まっ、そうだよな。今のはただの俺の希望だから気にしないでくれ」

 

三司さんは学生会長でもあり、アストラル使いの中では有名な方だ

今回の発表祭ではアストラルの研究とか色々関わってる分彼女も忙しいのは当たり前だ

 

「確認するが、強引にでも発表祭を中止にさせるとかは?」

「……それはあんまり。楽しみにしてる人も多いから。それに……学院の一存だけでは中止にもできないと思う」

「こっち側のイベントなのにか?」

「この学院にはスポンサーがついてるの。アストラル技術を活用してる企業が」

「……そういうことか」

 

アストラル技術の発表には、スポンサーの意向も関わってる

だからおいそれと中止には出来んことか

 

「人を集めさせるためにも学院の広告塔である私に、イベントの参加をさせたいわけ」

「なーる」

「あっ、一応伝えておくけど、寮も人の出入りがあるわよ」

「なんで?」

「食堂が開放されるの。それに家族を自分の部屋に入れたりすることも許可されてるから」

「そっか」

 

人目が少なければ相手は動きやすいだろう

だが逆に連れ去りにくい雰囲気の中であれば、人目につく場所の方が有利になることある

ちっ、何処も彼処も相手の都合が良くなるばっかりじゃねーか

 

「とにかく、心配してくれてるのは嬉しいけど、閉じこもるのは無しの方向でお願い」

「……わかった。じゃあ出し物を手伝ったりするよ。その方が自然に一緒にいられる」

 

1秒でも長く三司さんのそばにいなきゃな

守備対象が遠くだと守りづらい

……それに本音を言えば三司さんみたいな美少女と一緒にいられるのは嬉しいんだよ

男の本音じゃ

 

「え?いいの?ありがとー。助かるー」

「……言っとくけど君を守るためであって雑用を押し付けられるためじゃないんだぞ?」

「わかってるってば」

「本当だか。それで出し物はなんか決めてたりは?」

「全く、まだ何も……ちなみに……手伝ったってくれる空君の立場から、何かある?これだけは止めておいてほしいこととか」

「とりあえず第1に三司さんが1人にはならないようにしておきたい」

 

それが1番危ない

俺か暁。最悪七海の誰かがそばにいることは当たり前にしておきたい

 

「とすると……人を増やして、みんなで出し物をしてみてもいいのかも」

「ああ。そうしてくれるなら俺も助かる」

 

知り合いが周りにいれば人気は絶えない

連絡もなしにいなくなれば誰かが気が付くはず

 

「仕方ないわね。空君がそこまで言うのなら、仕方ないわよね。みんなで協力……友情って素晴らしい……」

「と言いつつ裏で楽できそうって考えてるの見え見えだよ」

「気のせい気のせい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうですか?星幽発表祭では、みんなで何かしませんか?」

「共同で出し物か……」

「特に予定はないから、僕は喜んで手伝うけど。でもどうしたの?三司さん、去年はライブをしてたよね?」

「ライブもいいですけど、みんなで一緒に何かを成し遂げる。それこそが、とっても素敵なことだと思うんです」

「…………」

 

こんなこと言ってるけど実際本人が楽したいだけだ

昼間話し合ってた俺は知ってる

 

「昼間何話したらこうなったんだ?」

「詳しくはまた後で話すがなるべく1人でいないようにするにはみんなでってことになったんだ」

「そうか。それはいいんだが……なんか胡散臭く感じる」

「猫かぶってない姿知ってるからだよ」

 

俺と暁知ってるから何となくわかるが、優等生姿しかしらない二条院さんなんて感動したとか協力して成し遂げるのは素晴らしいとか言ってる

その素直さに罪悪感を抱いたのか三司さんは謝罪を何度かしていた

 

「一緒にいるってことは、空も手伝うんだよね?」

「モチな。みんなはどうするん?」

「んー……お姉さんも一緒でいいの?そりゃ、誘ってもらえるのは嬉しいんだけど……浮いてない?それに、アタシの能力って人を楽しませたりするのは難しいと思うしね」

「そんなこと言ったら俺の能力だってそうっすよ。ただオーロラがふにゃふにゃしてるだけですし」

 

リボン状態で出せばそうだし、いつもはそこからブレードにしたり魔物を作ったりする

学院で能力を使う場合はリボン状態を省略してそっから形状を作ることにしてるが

 

「そういうことを言い出したら、私なんてアストラル使いですらないんですけど……?」

「別に能力者であるかどうかは関係ないよ。みんなでやるからこそ重要だと俺は思うんだ」

「みんなで一緒に、かぁ……そういうことでしたら、私でよければお手伝いさせてください!七海ちゃんも、一緒にやろうよ」

「……そ、そうだね。せっかく声をかけてもらったんだから、お手伝いさせてもらいます」

 

これで後輩枠は参加っと

 

「でも能力は活かした出しもの方がいいですよ。せっかく先輩たちが一緒にやるんです。ド派手な感じで、話題をかっさらっちゃいましょう!」

「いいんじゃないかな。一般の人はアストラル能力を期待して、発表祭に来るんだから。適材適所ってことで」

「ああ。話に乗ってくれるってことは恭平も参加でいいよな?」

「もちろんだよ」

「暁は強制参加っと……」

「ちょっとまて、参加はするが」

 

これでよくつるむ同性枠もOKっと

というか暁は任務のこともあるから強制参加だけどな

 

「確認だけど、二条院さんは参加で大丈夫なんだよね?」

「大丈夫だ。ぜひよろしく頼む」

「こちらこそ、一緒に頑張りつつ楽しもうぜ」

 

二条院さんも参加っと

これで同い年でよくつるむメンツも全員確保だ

 

「先輩はどうすっか?」

「みんなで……能力を組み合わせて、他にないものを……発表祭って大抵は個人の能力を披露させることが多かったけど、複数の能力となると……面白い研究対象だ。そう考えると選択肢が結構あって悩むねぇ、ワクワクしちゃうねぇ……うん、興味深いかも」

 

ここでも研究のことって、この人もう根っからの研究者だな

でもいい方向に考えてるのはわかる

 

「わかった。お姉さんに、お任せあれ!ううん、アタシの方からお願いするよ。手伝わせてください」

「ありがとうございます。よろしくお願いします、式部先輩」

「よっしゃ、これで全員参加ってことだな」

 

俺、三司さんから始め、暁に七海、恭平に二条院さんに千咲ちゃん、それに式部先輩ときた

個性はバラバラだが、めっちゃ面白くなりそうな気がしてきたぜ!

 

「話はまとまったけど……あんまり悠長に構えてられないよね。準備も必要なんだから」

「とりあえず、何をするかは各自で考えて、後日持ち寄って話し合いしましょうか」

「そうだな。週末に一度話し合おうか」

「それじゃあ、週末までにそれぞれ自分の案をまとめておく、ってことで」

『はい』

 

さて、こう人数いると範囲が広く考えれるな

まあそれはまた今度考えるとして

 

「暁君、空君」

「どうした、七海?」

「何か困り事か?」

「ちょっと話があるんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「発表祭、ホントにいいの?みんなでっていうのはともかく……そもそも、出し物なんてしても」

「お前の言いたいことは、理解してる」

「だけど三司さんを護衛するには今回はこれが最善の策なんだ。本人が出し物をするって言ってるし、寮も食堂が開放されるわ、家族なら部屋まで入れるわでここも完璧に安全って訳にはいかないからな」

「そうなんだ?それはちょっとマズイね」

「だからいっそ人目があって、俺たちが一緒にいる。そっちの方が少なくとも安全だと俺は判断したんだ」

 

わずか1%の差だろうがより確実な方をとるだけ

三司さんが常に近くにいる状況なら何とかなるしな

 

「うーん……まあ、向こうの目的が連れ去ることなら、効果はあるかも。でも、あやせ先輩に簡単に近づけるようにしちゃ、意味がないよね?」

「そこら辺はちゃんと頭ん中入れてるし、危機が迫った場合のことも想定してどうするかは考えとくさ」

「それに今は親父に連絡を入れておかないとな」

「うん……あっ、そうだ。発表祭が一般にも開放されるのなら、ウチから応援を頼めるんじゃないかな?」

「それも考えたが、いつも人手不足だ。だから基本は応援無しの場合で考える」

 

変に期待しといて、当日応援出せませんでしたじゃすまされないからこういう場合は来なかった時をベースに考えるのがいいはずだ

俺は昔っから悪いことばっかり先に浮かぶこらそっちを想定して考えることが多い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『星幽発表祭か……』

「そんなものがあると、今日知ったばかりで報告が遅れました」

『いや、学院のイベントに関してはこちらでも把握しておくべきだった。俺の落ち度だな、すまん』

「それはいいとして今は三司さんの件だ。やつらがどういう連中かしらんが、前回は失敗に終わったから焦ってその日に襲撃するかもしれないし。普段なら俺一人で大丈夫だけど人混みだからさすがに不安だ」

 

普段なら魔物を張り巡らさせて死角がないようにしてりゃ見失うことは無い

けれど人混みってなるとどんな準備しても見失うことだってある

 

「それで、当日に応援を回してもらうことは可能ですか?」

『簡単ではないが……なんとか調整はしよう』

「ホントですか、ありがたいです」

『出来る限りのことはする。だが……わかっているとは思うが、どこまでできるか。まさか隊員全員を投入なんてことはできないんだから』

「それはわかってる。だから応援無しから1桁だけの場合を想定していく通りか考えておくから」

『……最悪の場合から考えるくせはまだ直ってないか。でもあの環境で生きてきた空だからか』

 

拾われる前は生きるか死ぬかだったから、そこで最悪の場合、つまり死ぬ場合を想定してそうなることだけは避けるようにしてきたから最初に最悪の場合が思いついちまうんだ

 

「ちなみに……いっそ、中止させるっていうのは?」

「無理だろうね。発表祭はアストラル関係の企業、学院のスポンサーも絡んでるらしいんだよ」

『そういう事情が絡むと……簡単にはいかないだろうな』

「ああ。だから俺たちは発表祭が開催されることを前提に動くよ」

「出し物については、今週末には一度話し合うことになっています」

『わかった。何かあればすぐに連絡入れろよ、レヴィ6、レヴィ8』

「了解」

「ラジャ」

 

こういう時、秘密組織ってめんどうだな

こういう場合があるって堂々と言えないんだし

 

「……中止が無理となると、安全な出し物かぁ」

「三司さんと客の距離が遠くで、なおかつ監視するためにみんなが常に関わっていることが条件……ってなるな」

「模擬店とか……どう考えてもメリットデメリットはあるだろうな。もう少しいろいろ考えてみよう」

「うん、了解」

「ああ、二人ともよろしく頼むぜ」

 

さて、楽しむことだけじゃなく護衛のことも考えなきゃいけない星幽発表祭

考えることが多すぎっしょ。頭パンクしちまうよ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話

時が経つのは早く、あっという間に週末

 

「ということで、出し物について考えてきた?」

 

約束の日のため俺たちは意見を言うことに

 

「すみません。考えはしたんですが……なかなかいい案が出なくって」

「僕も同じかな。せっかくだから、アストラルを活かしたオリジナリティのあるものがいいとは思うんだけど、それが難しくて。アストラル能力を使わなくてもいいなら、目立つのを考えはしたんだけど」

「なに?どんな出し物?」

「握手会さ!」

「却下だ」

「言うの早いよ!」

「それじゃ理由な。三司さんの負担がデカすぎるだろ。それに協力することよりも個人での働きが大きすぎる」

 

何よりその中に襲撃した奴らが紛れ込まれたら何をされるかわからない

その場で連れ去られる……ことは多分ないと思うが何かしらの目に見えない機械なんか付けられたら大変なことになっちまう

それに学院側だって黙ってることはないと思うんだよな、そういう商業的やり方

 

「それに本人の意見が1番大事だ。その返答はどうかな?」

「絶対嫌です」

「ひっ……笑顔なのに怖い……」

「よし次に行こう。他になにか思いついた人はいるかい?」

「……時代劇とか」

「おっ、二条院さんらしいな。それは舞台でってことか?」

「舞台でもいいし、ゲリライベントみたいに、路上でしてもいいんだ。殺陣を……一度やってみたいな、って」

「アストラル能力で、演出を派手にしたりすれば目立つかもしれないが……」

 

暁の言う通り、その方法はやり方次第で出来るだろうし、路上でやれば動きが把握出来たりいいことはある

あるんだが……

 

「考えはいいが、却下だな。理由はいくつかある。まずは予算の問題だな。衣装に小物、他にも必要なのが多々出てくるだろう」

 

チケットを売りゃ解決できるだろうが、その分人が集まるか保証はない

それに使う方が多分多い気がする

 

「次に殺陣だな。俺や暁なんかは運動神経いい方だから練習すりゃ当たり前に本物よりは劣りすぎるが多少はマシになるだろうし、知識がある二条院さんも大丈夫だろう。けどそうだな……七海、練習ありだとしてもできる自信はある?」

「うぅ……きっと無理だよ……」

「そうか……」

 

別に全員が全員覚える必要はないけど、どういう劇かでやるかもしれないからな

そして次が1番の問題だな

 

「最後に印象を悪化させるってことがありそうだな」

「印象?」

「ああ。例え劇で見せ物だろうが“アストラルを暴力的な行為に使用”してるって印象を与えてしまうかもしれないんだ。俺の考えすぎかもしれないが、人によってはそう思い込む人がいるかもしれないからな」

「学院に認めて貰えない可能性がありますね」

「そうか……確かにその通りだ。ワタシの意見は取り下げるから、忘れてくれ」

「でも良い意見だったし、どういう出し物にしなきゃいけないか再確認できたのは良かったよ、ありがとう」

 

アストラル能力の使用に危険がなく、個人での働きではなくみんなが働けて、面倒な予算の問題もだいたい解決出来る……か

 

「空は何か意見あるの?ちゃんと考えて却下したりしてるけど」

「もちろんあるさ。喫茶店だな」

 

料理出来る七海と表に出さないように三司さんを裏方の方に回し、さらに厨房は客から離す

それに真面目な二条院さんにコミュ力お化けの千咲ちゃん、あとはいつでも動ける暁辺りが料理運べばちゃんと全員動ける

もちろんこれは暁と話し合って考えた事なんだが……

 

「そ、空?なんか怒ってる?」

「いーや、俺はいつも通りだ気にすんな」

「空がそう言うならいいんだけど」

 

前に話し合ったこと思い出してマジでムカついてるのは事実だ。恭平、すまんな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『すまん。発表祭は中止には出来ない。許可も下りなかった』

 

意見を話し合う日のもう少し前の日、父さんから報告が来た

 

「……それはやはり、中止にするためにはなんらかの痕跡が残るからですか?」

『それもあるが……“上”はむしろ発表祭に積極的だ』

「はーくそっ、やっぱりかよ」

「どういうことなんだ?発表祭の開催に“上”の連中とは関係ないだろ」

「暁、俺たちの組織をもう一度思い返してみろ。こんな組織なんだから設立に関わってる奴らは少なくともアストラルに肯定してる。だからアストラルの技術を使ってる企業と繋がりがある……そうだよな、父さん?」

「ああ、空の言う通りだ」

 

この手の話については頭の回転が早い。だから大凡のことはわかる

 

「でもそんな顔色伺いのために、中止はできないと?」

『……いや、理由はしがらみだけじゃないんだ』

「これ以上なんかあるのか?」

 

他に何かあるのか?

企業……について関わるのは分かったし、みんなが楽しむから……なんてのはねーか

 

「……まさか、三司さんを囮にする……?」

「おいおい、何言ってんだよ。冗談にしては悪いぜ暁」

『…………』

「なんでそこで黙っちまうんだよ、父さん」

『……アストラル使いの行方不明について、手がかりがつかめない。“上”はその事を憂慮している。このまま放置できない』

「それはわかるさ!でも三司さんは一般人だ!彼女を囮になんか出来るわけねぇだろ!」

『勿論理解している。俺も同じ気持ちではあるが……“上”も本気だ』

 

……なんなんだよ、“上”の奴らってのは平気で一般人を囮に使おうってのか?人の命を簡単に危険に晒そうってか?

ふざけてんじゃねえ、ふざけてんじゃねーよ

 

「もし、拒否をしたら?」

『クビが飛ぶ』

「それは比喩表現?」

『“上”の機嫌がよければ比喩ですむ。悪ければ言葉通りの意味になる。そして代わりの誰かが作戦の指示をする。その場合、お前と七海がどうなるかもわからん。もし作戦の邪魔になると判断されれば……』

「そんな奴ら、殺してやる」

「そ、空?」

「三司さんだけじゃなく暁と七海も危険に晒そうとするんだろ?なら関係ねえ、殺してやる」

 

俺の心の支えである家族

それに猫かぶっているけど一緒にいると楽しく思えてきてる三司さん

そんなかけがえのない人たちを少しでも危険にしようとしてるなら誰だろうと関係ねえ

もし相手が相当な数で武器を持ってようが、アストラル能力を使ってこようがそんなのはどうでもいい

何が来ようが俺には効かないし絶対に勝てない

自身を超人に至るまで強化し、それらを受け付けないように書き換えればいいだけだ

 

『少し落ち着け』

「落ち着いてなんかいられるかよ!」

『落ち着けって言ってるだろ。今の命令に従っていれば暁と七海には危害はない。それに彼女を囮にするとしても空、お前が守ればいいだけの話だ』

「……俺が?」

『そうだ。三司あやせに格好良く言ったんだろ?ならそれを実現してみせろ』

「……ああ、言ってやったよ。わかった、俺が全員守ってやる、良い方向に書き換えてやるよ!」

 

そうだ、俺は書き換える者(リライター)

自身だけじゃない、この先の未来だって全て書き換えてやる

 

『それでこそ空だ』

「でも囮である以上、三司さんの姿は相手に見せなければならないんですよね。俺と七海、空の3人だけでできるとこじゃない」

『わかっている。以前にも言った通り、当日は応援を回す。拒否権がない分、本腰を入れることには文句を出さない。なんとかする、そこに関しては信用してくれ』

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喫茶店と言えば定番であり王道だからな。変に凝ってなく、少しの練習でも誰でもできる。そっちの方が急なハプニングが起きても対処出来ると思うしな」

「気をてらわず王道での勝負ってことか……定番のいいところは赤字になりにくいだろう、ってことだね」

「そゆこと。つまり却下の意見になる協力、予算はクリアできるんだ!」

「確かに、でも残りのアストラル能力の演出は?」

「よくぞ聞いてくれた!それはだな……」

「それは……?」

「何も考えてねぇ!だってみんなの能力バラバラすぎて組み合わせが思いつかねぇし!」

 

あともうちょい、もうちょいってとこまで来てるんだけどな〜

ここさえクリア出来れば喫茶店で安全なものを提供できるってのに……!

 

「喫茶店にアストラルか……あっ……そっか。もしかすると」

「式部先輩?」

「ちょーっとお姉さんにアイディアがあるんだけど、いいかな?」

「マジっすか!些細なことでもいい!なんでもお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先輩につれられ休日の学院、そのままプールに向かってきた

 

「それで……アストラルをどうやって絡ませるんですか?」

「あっ!能力で軽食を作るとかですか?ライブクッキング的な感じで!」

「もしくはアストラル能力で注文の品を運ぶとか?」

 

品運びか……それなら俺の能力で犬とかの魔物でも作れば出来そうだが、式部先輩には教えてないし違うことを考えてるんだろう

1回全員の能力を思い出してみるか

まず俺はオーロラ含む体液操作、暁は脳のコントロール、七海は治癒、三司さんは引力と斥力の操作、二条院さんが水の操作で式部先輩はアストラルによる壁を作ったりできる

暁と七海はこういう場に合わない能力として俺含む4人の能力を合わせるか……

引力と斥力……水……壁……

 

「そっかぁ!わかったぞ!」

「わかったって、何がわかったの空君?」

「そりゃ式部先輩のアイディアってやつさ」

「本当?じゃあ聞かせてもらおうかな」

「了解っす。使用する能力は式部先輩と二条院さんがメインですね。で三司さんと場合によっては俺も関わるんじゃないすか?」

「へぇー、凄いね。正解だよ」

 

っし!勉強では使われないけど面白いこと、任務に関わることになるとホント頭の回転が早いな俺!

いや、面白いことに関しては暁をいじるために考えてたからだと思うけどな

 

「えっと、どういうこと?」

「簡単に言うと、椅子やテーブルを用意して式部先輩の能力でその形を作り、三司さんと俺の力でその形作りで使った椅子を取り出す。そして二条院さんに作った型の中に水を入れてもらう。そうするとそこには水で出来た家具が出来上がるんだ」

「その通り。そうすれば周りからは水の椅子があるように見える。でも透明な壁があって、水に触れることはできないから濡れることはない」

「三司さん、家具とかは能力で動かせれる?」

「家具の範疇なら大抵のものは動かせると思います」

 

よし、条件は揃った!俺の考え通りだなこれは!

ただひとつだけ確認しとかないとな

 

「でもこれって式部先輩に負担かかると思うんすけど」

「そこら辺はダイジョーブ。この学院の研究の1つに、能力の意地をさせるものがあるんだよ。それは後で説明するとして、ちょっと試しに作ってみようか。そのためにわざわざプールまで来たわけだしね」

「そうですね。まず試してみましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで完成!」

「おー……凄い……本当に椅子の形をしてますね」

「でも思ったよりも透明ですね。いや、それが普通だとは思うんですが」

「そんなら本番には色をつけてみるか」

「じゃあ解除するから、離れてー」

 

先輩がそう言うと椅子が崩れて、プールサイドに水が広がっていく

これなら片付けも簡単そうだな

それに式部先輩がさっき説明してくれたんだが、能力を維持するものがあり放っておいても半日ぐらいは能力が維持し続けるらしい

前に二条院さんが警備に関わって水の糸を貼り巡らせていた時に使っていたのもこれらしい

 

「うっし!これで店を決めるための条件はクリアしてるな!てなわけで、出し物は喫茶店で構わないよな?」

 

俺が確認してみると誰も否定的なものは出さない

むしろ表情的に賛同的だな

 

「先輩もいい考え出してくれてありがとうございます。おかげでなんとか出し物も決まりましたよ」

「他には何も思いつかなかったから、ダメって言われたらどうしようって不安だったよ。よかったよかった」

「じゃあ次はメニュー決めだな」

「あ。コーヒーはお姉さんにおっまかせ!美味しいコーヒーを準備するからね」

「紅茶と、ソフトドリンクは準備しないとね」

 

喫茶店だしそう難しいもんじゃなく作りやすいものだから話がさっきよりサクサク進むな

とりあえず喫茶店には決まった

あとは三司さんを厨房に回せるようにすれば……

 

「でも、パンケーキとクレープなら、分量を変えるだけで、材料にそんなに差はないと思いますよ。ねっ、空君」

「ん?ああ、それで合ってるよ」

「もしかして空君って料理できたりするのかな?」

「軽いものとお菓子作りだけならできるっすよ。家事は七海がやってましたんで」

 

本当に誰でも作れるものとかなら俺だって作れるさ

カレーとか、焼きそばとか

 

「だったら、調理を担当してもらえないだろうか?七海君、空君」

「アタシもいいと思う。いくら簡単って言っても、お客さんに食べてもらう物だしね。杜撰な物を提供するのはよくないね。だから、二人さえよければ」

「あ、はい。わたしなんかでよろしければ」

「俺もいいっすよ。お互い作れるジャンル違うし教え合えばちょうどいいかもな」

 

俺はデザートやお菓子など、七海は大抵のものは作れるからな

 

「でもさすがにもう1人はアシスタントが欲しいかな。念には念をってことで」

「それなら、三司さんは厨房担当で奥にいてもらった方がいいんじゃないか?三司さんが注文を取ったりして、お客の前に立つと、自然と握手会みたいなことになるかもしれない」

「いくらなんでもそれはありえませんよ。アイドル活動をしてるわけでもありませんし。以前買い物に行った時も、騒ぎになったりしなかったじゃないですか」

「でも今回は学院での事だから状況が違うぜ?特に男子なんか群がりそうだ」

「そういうのはちょっと困りますね……」

 

三司さんと言えばこの学院では相当な美少女、それに有名人だ

そんな人が接客なんかやれば男なんかひょいひょい集まっちまう

 

「じゃあ三司さんも厨房担当でいいか?もちろんわからないことは全部教えるからさ」

「わかりました。よろしくお願いしますね」

 

これで三司さんはなるべく俺の近くにいられるようにできたな

ここまで全部俺の考えた分配になって良かったぜ

 

「なんだか楽しくなってきたなー。純粋な喫茶店とは違うけど、結構大規模にできそうだし、これは当日が楽しみだよ」

「焼きそばにお好み焼きっていうと、喫茶店っていうより海の家なんかを想像しちゃいますよね」

「海の家…………ハッ!そうだ!いいこと思いつきました!水を使うんですから、出店場所はこのプールがいいですよね?」

「ん?そうだな。プールが側にある方が助かりはするな」

 

プールで出店か

俺や暁にとっても都合がいいかも

プールの出入り口は1つ。それに窓の位置も高いところだけ

俺が気が付かなかった場所の安全面もそれなりにあるな

千咲ちゃんナイス!

 

「許可が下りれば、いいんじゃないか?」

「だったら、店員はみんな水着というのはどうです?」

『水着!?』

「水着喫茶ですよ!水着喫茶!破壊力のあるフレーズじゃありませんか!?」

「うん。男しては興味を持たざるを得ないね」

「いいじゃないか!俺もいつもよりやる気出てきそうだぜ!」

 

三司さんに七海、二条院さんに式部先輩に千咲ちゃんと美少女勢揃いでも嬉しいってのにさらに水着だって?

はっ!男なら喜ぶしかねぇじゃねえかよ!

楽しい祭りになるか、あぶねえ出来事になるか俺の動き次第だな

最高の思い出になるようにやってやんよ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話

話し合いで模擬店は俺の提案の喫茶店になった

けどそっからの準備が予想以上に忙しくてめんどくさいなんてものじゃなかった!

申請の際、アストラルをどのように使うのか教師達に披露

椅子とかテーブル作るだけだから安全だしな、承認貰ったしプールの使用許可も貰えた

で次に調理方法を記載しなきゃなんないからメニューを早急に決めることに

材料を決めたら調達先、予算、使用機材、etc……

だぁぁ!めんどくせぇぇ!

 

「当日はもう暁に全部任せた。俺は味見係やってるよ」

「馬鹿な事言ってるな」

「冗談だっつーの、ったく……あっ、三司さん」

「はい。なんですか?」

「結局ライブもやるんだって?」

「ライブ?三司さんはそんなのもやるのか?」

 

あー、そういや細かいことは暁に言ってなかったっけ

まあ今伝えれたから結果オーライってことで

 

「去年もやったらしいんだよ。それで代わりに俺たちと模擬店ってことにしたかったが」

「頼まれてしまって」

「模擬店じゃあ一押し足りなかったか?」

「いえ、発表祭の訪問者にアストラルを身近に感じてもらえるいい企画だって言われましたから」

「ならなんで?」

「先生ではなく、執行部からの要請があったんです。発表祭のアンケートで、学生が期待していることに上がって。それで……肩書きだけとはいえ会長ですから。これぐらいは」

 

うーむ、俺たちは初参加だからどれくらいとはわからないが、みんなこのイベントを相当楽しみにしてるってことなんだろうな

だけど三司さんにもしもの事があったらイベントが台無しになるどころじゃない

やっぱり、このまま囮になんて俺にはできん

何か考えつけばいいんだけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一応、できました。これが、喫茶店で出すメニュー、焼きそばにお好み焼きです」

「クレープにパンケーキも出来てるよー」

「いいねぇ。盛り付けにもこだわっててプロっぽい」

「食べ歩きじゃなく、席に座っての提供なので、そこら辺も多少こだわった方がいいかと思って」

「俺もそういうこと考えて頑張ってみましたよ」

 

試作品にも関わらずちょっと本気を出しちまった

パンケーキにミッ○ーの絵を書いたんだ

流行りのパンケーキアートってやつだな

 

「あはは……空君のは頑張りすぎじゃないかな?」

「そうっすか?」

「ねえ空君。これってイラスト描いた後に別の生地乗っけてたりするんだよね?」

「そうだよ。部分の焼き色を調整すればこんな風にちゃんとしたキャラ絵になんだぞ」

「教えてくれる時は普通ので大丈夫だからね」

「そうか?七海がそう言うならそうするけと」

 

こっちの方が繁盛するとは思うが

でも多少の手間があるしな、それも結構めんどくさいのもあるし

 

「見た目は普通のを作るとして、次は味を確認してみてくれ」

「匂いからして美味しそうだけどね。それじゃあ空君が作ったクレープをいただきます」

「じゃあ私はパンケーキいただきまーす!」

「なら僕は、やきそばとお好み焼きの味見を」

「……ぅぅ……家族以外の人に食べてもらうって、予想以上に緊張する……っ」

「心配性だなぁ。七海の料理は美味いから心配ないって」

 

この子はもうちょっと自分に自信持ってもいいとお兄ちゃんは思うな

あまり卑屈にしすぎてもダメになっちまうし

 

「美味しい!フワフワで、バターの風味もあって……本当に美味しいです!」

「ん〜、クレープも美味しいよ。もちもち、しっとり。これは十分お金を払う価値はあると思うよ」

「うん。いいよ、美味しいよ。このお好み焼き、周りはサクサクなのに中はふっくらで。ベタッともしてなくて……焼きそばも、まろやかな感じでいいと思う!七海ちゃん、思ってた以上に料理上手だね」

「なっ?言っただろ心配することはないって」

 

ちなみに俺のも褒めてもらえて内心嬉しいね

それに女子2人から好印象ってことは女子ウケに良さそうだしよかったよかった

 

「うん。でもこんなに褒められるなんて思ってなかったから……なんと言っていいのか……え、えへ」

「この味を維持できるなら、それだけで評判になりそうなもんだよ」

「そうそう。もし忙しくなってもこのクオリティを維持できそう?」

「俺は七海に、七海は俺にそれぞれ教え合うし三司さんにもレシピ教えて後でわからない所を教えてみたりするから何とかなると思うっすよ」

 

3人でこれぐらいのクオリティ出せるなら多少忙しくてもカバーし合えるだろう

俺は三司さんを意識しつつ作らなきゃならんが、それはそれだ

 

「接客をするなんて初めて……もし、粗相をしてしまったら……それを想像すると……くぅぅ、胃がぁ」

「二条院さん変な方向に考えすぎだぞ」

「何かあっても、お姉さんがちゃんとフォローするから。って言っても……接客業の経験なんてないんだけどね」

「調理班がお試しをしたみたいに、我々給仕班も練習をしておいた方がいいのかも?」

「ふむ……シミュレーションしておくのは、確かに重要だね」

 

向こうは向こうで練習か

あとは暁に任せておきゃ何とかなるだろ

 

「じゃあ俺たちは調理の方に戻ろっか」

「うん」

「そうですね」

「ちなみに三司さん、あのレシピでわからない所とかあった?」

「いえ、特別難しい工程はなかったので私でも大丈夫だと思います」

「そっか。なら今から実際に作ってみようか」

 

頭で理解してても作るとなると意外に難しいってものはあるある

なので1回実践して見りゃ感覚は掴めるし、悪い点ももしかしたら見つかるかもしれないからな

 

「七海、俺は当日三司さんを意識してなきゃいけないから1番頑張ってもらうことになるけど」

「それはわかってるから大丈夫だよ。空君は万が一のことに備えておいて」

「ああ。優秀な妹で助かる」

 

この子のおかげで何度救われたことか、一応暁にもだけど

いい兄妹を持てて本当によかったぜ

 

「よし、調理開始と行こうか。焼きそばなんかは誰でも作れるもんだからな、今日はお菓子メインでやっていこっか」

「お願いします」

「材料はさっきの続きだからあるからOKっと、それじゃレシピ確認しながらでいいから始めてくれ。それと最初だから分量は守るようにな」

「はい、わかりました」

 

とこんなんで三司さんの調理が始まった

俺から見てもわかるように手際がいい

もしかしたら何か料理とか作れるとか?

何だかんだで間違ってる部分とかなかったし、これなら当日も心配なさそう

そうして出来たてのパンケーキとクレープを食す時

 

「そんじゃ早速、いただきまーす」

「いただきます」

 

うぬ、ちゃんとフワフワの食感で味も薄すぎず甘過ぎずでちょうどいいな

クレープの生地もベタベタ感がなく食べずらいなんてことは無い

 

「どう、ですか?」

「美味しい、文句無しの出来だよ」

「とっても美味しいです」

「そうですか。それなら良かったです」

 

調理班の方はこれで問題ないな

あとは別の問題をどうにかしねーと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解散して、自室でベッドの上で考えてたけど何も思いつかない

今回は護衛という慣れてない任務

しかも相手だって何も分かりゃしない鬼畜すぎる状況だ

その事がわかって父さんも応援をくれるはずだけど、それでも100%安全なわけない

 

「どうにかして三司さんを守りきらないと」

 

俺はあの日に君を護ると言った

あの時は勢いでカッコつけて言っちまったけど今じゃもうそんな気は無い

今では三司さんは俺にとって大切な人の1人だ

もちろん二条院さんや式部先輩、恭平に千咲ちゃんもだけど

だから、みんなの笑顔を曇らせずにしたい

そしてみんな楽しく発表祭を終えたい

 

「俺が三司さんになれればこっちが標的になれるんだけどなぁ」

 

顔の輪郭は変えれるけど三司さんって認識まではできないし……

ん?認識……?

 

「あるじゃねぇか!一つだけ可能性が!」

 

急いでスマホを取り出し、暁に電話をかける

 

『どうしたんだ、こんな時間に』

「起きててよかった!お前に頼みたいことがあるんだ」

『頼みたいこと?』

「ああ。今すぐ菅英人の部屋に侵入してあいつの協力を得て欲しい」

『どうしてだ?』

「あいつの能力を思い出してみろ!あの能力があれば三司さんを囮にせずに済むかもしれん!」

『……そうか、そういうことか!』

「効果範囲とか詳しいことはわからないから本人に聞いてきてほしい。頼まれてくれるな?」

『ああ。任せておけ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発表祭の前日の夜、暁の部屋で父さんに報告と確認をしている

 

「こちらは予定通りです。発表祭では喫茶店を行います」

『わかった。こちらも問題ない。搬入される機材や材料については、事前に確認を行っている。業者に不振な点は見当たらなかった。勿論、しっかり遡って調査しているからな。喫茶店の詳細についてはどうだ?もし変更があれば些細なことでも、念の為に教えてくれ』

「特にはない。厨房には俺もいるし、一般客から離れた位置に配置してある椅子やテーブルなんかは当日製造だし、配置も予め決めてある」

 

あの能力で当日製造するってことで、何かしらの装置を付けられたのを使うなんてことは無い

式部先輩には本当に感謝しないと

 

「ただお客がどうなるかですが……さすがにこれは当日にならないとわかりません」

『わかった。こちらも予定通りだ。明日はそちらに応援を送る』

「例の件は……?」

『全部話はついている。作戦も立案済みで、承認も得ている』

「よかった。よろしくお願いします」

『ああ。そっちも、よろしく頼むぞ』

「はい」

「任せておけって」

『それから空、自分の能力の使い時は自分で決めろ』

「……ああ、ありがとう」

 

それで通信が終わる

最後の一言は俺を信頼してるって証だ

 

「ついに明日……」

「明日さえ乗り切れば終わるんだ。やってやろうぜ」

「……ああ!」

「よっしゃ、その意気だ。落ち着いてない場合じゃないかんな!んじゃ、俺は部屋に戻るからなー、おやすみー」

 

大丈夫、俺には力がある

万全な体勢で挑むために今は身体をゆっくり休ませないと

貧血になって能力が使えないなんてなったら最低のバッドエンドだな

いーや、俺は負け知らずのリライターだ

最高に楽しいハッピーエンドにしてやんよ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話

発表祭の当日

プールサイドで水の調度品を作っていた

俺もオーロラで物を引っ張ったりする作業をしてる

これぐらいじゃ貧血にならないから問題は無い

でも別の問題がひとつある

 

「お客が来ないのは寂しいが……あんまり沢山来られるのも、恥ずかし過ぎる……ッッッ」

「それは確かにそうですね。水着で接客なんて……想像しただけでも、ぁぅ」

 

そう、千咲ちゃんが提案した水着喫茶もオリジナリティを出すために採用されたんだ

つまり目の保養すぎて問題になってしまってる

まあ定員っぽさを出すためにエプロンはつけているんだが、パッと見裸エプロンみたいでこりゃもうマジい

 

「ダメだ、別の意味で仕事できないかも」

「馬鹿なこと言ってるな」

「男なら普通だろ?なっ、恭平……いや、恭平は違うのか?」

「なんでそうなるの!?」

 

さて、馬鹿なコントやったら少し落ち着けた

これから気を引き締めて、護衛と調理に気合い入れてかないとな!

 

「さてと。それじゃあ形取ったテーブルや椅子を、片付けてしまわないと」

「あ、手伝いますよ」

「大丈夫です。人の手で運ぶには、ちょっと重たいですから。能力で運びますよ」

 

三司さんはそう言って、手も触れずに元となったテーブルや椅子を空中に持ち上げる

 

「けど一度に全部って訳じゃないでしょ。俺も手伝うから。まだ準備はあるから、みんなで運ぼうぜ」

 

オーロラをいくつか出し、物を持ち上げる

ちなみにこのオーロラは所詮ロープとかの役割にしかならないから、物の重さはダイレクトに俺につたわるし、こうやって持ち上げるのも筋力が必要だ

身体を何回も書き換えてるからできるだけ

周りにはオーロラ自体物凄い強度があるから持てるってことで説明してる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お待たせしました。これより“星幽(せいゆう)発表祭”を開催いたします』

「それじゃあまあ、いっちょ頑張りましょうか!」

『おー!』

 

よーし、やってやるぜ!

俺のスイーツで老若男女、人類問わずあの世に送ってやるぜ!フハハハハ!

 

「調理始める前に……三司さん、ちょっと」

「何でしょうか?」

「念には念を入れとかないとって思ってね」

 

素早く獣型と鳥型の2体の魔物を作り、形態を変化させ三司さんの手首に纏わせる

見た感じ髪を止めるゴムとかそういうのにしか見えない

 

「今作った2体を三司さんにつけといた。危険になったら1匹が君を守り、1匹は俺のところに来るようになってる」

「わかりました。ありがとうございます」

「うん。こいつらを使うことがなければいいんだけど……」

「空君がいるんです。使うことなんてありませんよ」

「……ああ、その通りだな!俺がいるんだ、任せておけ!」

 

頼られてんだ、これ以上に張り切る要素がどこにあるってんだ

よーし、今日は一日中空さんは最強だぜ!

 

「焼きそば2つにお好み焼き1つお願いしまーす」

「早速オーダー来たのか!七海、三司さん、仕事開始だ!」

「う、うん!」

「はい!」

 

開催早々、このオーダーから結構客が集まってきた

厨房からチラッと見てたけど半分くらいは橘花学院の男子生徒が占めていた

まっ、こんな美少女だらけだし水着だからな

気持ちはわからんでもない

それに他の一般の客も来店していてくれてるのも見えた

 

「すっげー……本当に水なんだ、これ」

「あっ。でも触ることはできないんだね。見えない壁みたいなものがあるよ」

「これがアストラルなのか」

 

なんて声が聞こえたからどうやら好印象とか与えられてるようだな

これなら発表祭の本懐も果たせているはず

 

「空君。パンケーキを2つ、よろしく頼む」

「パンケーキ2つっと。アートの希望はないんだな?」

「ああ。何も言ってなかったな」

「りょーかい」

 

せっかくだしパンケーキ限定でアートはやることにした

よくある店じゃ追加料金とか取るんだろうけどもちろん無料

それにどの絵を描いて欲しいかは希望でっていうことにした

さっきまでに色んなキャラクターやらも描いてた

 

「七海さん、このお好み焼きの具合はどうです?多分、中まで火が通っていると思うんですけど」

「そうですね。はい、大丈夫です」

「ありがとうございます。お好み焼き2つ、出来上がりました」

 

七海はもちろんのこと、三司さんもかなり戦力になれてるからバタバタするってことはない状態でいられてる

この調子で終わりまで行ければいいんだけど

 

「わっ、わわっ!?」

「あぶなっ」

 

千咲ちゃんが声を上げてたから、確認してみると宙に浮いていた

どうやら人とぶつかったかぶつかりそうになった所を三司さんが能力で宙に浮かせ助けたんだろう

距離的に俺の能力じゃ間に合ってなかったはず

その場の空間で発揮する三司さんの力だからこそ間に合ったんだな

ちょっとしたトラブルもあるけど、みんな楽しそうに働いてる

この様子なら模擬店は成功だろうな、まだ1時間ちょっとしか経ってないけど

 

「……問題はあれをどうにかしてもらいたいんだがな」

 

若い男性が一人でいるが、あいつは盗撮してる

対応は暁と恭平がやってくれてるけどプールサイドじゃ壁になるものがないから完全に視界を遮断するってのは無理がある

それに俺は厨房係だから離れるわけにゃならんし……

あれっ、暁と話してた先生が何やら近づいて行って……一瞬でスマホを上着のポケットから取った

あれってミスディレクションだよな。まあ練習すれば誰だって出来るから不思議じゃないか

 

「空君、パンケーキ焼けました」

「おっけい、問題無し。こっちもクレープ出来たよ」

「わかりました」

「七海、焼きそば2人前頼む。俺はお好み焼きの方をやる」

「わかった!」

 

想像以上に人が多いな

変な人物がいるかどうかは暁に任せてるが、この人の出入りだと大変そうだな

かと言って俺の方もオーダーを聞きつつ、三司さんを見ていなきゃならない

七海も三司さんを注意深く見てもらっているが、俺と同等の忙しさだから大変なはず

全く、特班の応援は来ているんだろうな?

なんて思ってたら、勘が一瞬危険を察知してた

──誰かこっち来てる?

 

「お客様、そちらは関係者以外立ち入り禁止となっておりますが」

「ッッ!」

 

勘に従った方を向くと、男が懐に手を忍ばせてこっちに向かってきてた

 

「おいっ!」

「止まれ!」

 

俺と能力を使った暁で男の正面に回り込む

でも男は止まらず、懐から──

 

「あのっ!写真をお願いできないでしょうか!」

 

スマホを出していた

 

「……は?」

「写真?」

「はい。僕、彼女のこと……初めて見た時から可愛いなって思って……ようやく本人に会えると思ったんですけど、注文を取りに来てくれる様子もないから」

「彼女……三司さんのファンか」

「でも、今日は喫茶店なわけで……」

「誠に申し訳ありません、お客様。模擬店は喫茶店となっております。そういったことは、他のお客様のご迷惑にもなりかねません。ですのでどうか、お控えいただけないでしょうか?代わりと言ってはなんですが、ご注文は誠心誠意、気持ちを込めて作らせていただきます」

 

すっげー……

俺と暁とは全く違い、むしろ慣れてるように対応したよ

どうやら暁もすぐ反応したけど、今日はこういう人もいるから勘が変に動くなこれ

さっきのファンも戻ったし、仕事に戻るか

 

「あ、それからさっき柿本先生が来た。一件取材が入っていて、三司さんにインタビューをしたいから、職員室に来て欲しいそうだ」

「職員室……でもそれは……」

「わかってる。そこに関しては、こっちで考えるから。1人で勝手に職員室にはいかないようにして欲しい」

「一応三司さんには魔物を付けてあるが……1人で行動はしないで欲しいな」

 

獣型1匹でも十数人相手できるが武装によっては話が違う

なるべく俺自身でそばにいないと

 

「三司さんに関しては俺に任せてくれ。職員室に移動の問題は任せていいか?」

「ああ。頼む」

「よっし。じゃあ三司さん、戻ろっか」

「うん。今は喫茶店に集中しないとね」

 

そういやしれっと普通に居たよな

仕方ない

厨房に戻り、七海に一声かける

 

「七海、焼きそばかお好み焼きの準備しといた方がいいよ」

「えっ?どうして」

「父さんがいた。きっと七海特性の料理食べたいんだろう」

「わかったよ……って、お父さんがいるの!?」

「まさか父さん直々に来るとはな。対応も暁がしてるから後で聞けばいいさ」

 

だが、特班の応援が来ていることはわかった

そんなら、俺は俺の仕事をするだけだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬店は大好評

時間が経つにつれて、人が増え忙しさも増えなんと短い行列も出来ちゃってた

ちなみに俺のパンケーキアートなんかは女の子に評判だったぜ

暁から軽く聞いたが、どうやらアストラル技術を盗みに来た産業スパイもいるとか

だがそいつらは三司さんを狙っているわけじゃないから軽く注意しとくって所にしといた

それに客がくるから誰もちゃんとした休憩は取れていないが、午後をある程度過ぎれば空席も出来るようになってきた

 

「七海、三司さん。空席も出来てきたようだし少し休憩してもいいぞ?」

「わたしは大丈夫。それより空君が休憩した方がいいよ?」

「私も大丈夫ですよ」

「そうか?それじゃあ──」

『2年A組、三司さん。職員室まで来てください。2年A組、三司さん。職員室まで来てください。』

 

時間を伸ばしすぎたのか、取材での呼び出しだよな?

暁は何か考えついていりゃいいけど……

 

「取材にしろ、別の要件にしろ、ちゃんと行って確認をした方がいい」

「丁度、休憩の話もしてたことだしね」

「お店のことならお任せあれ。心配はいらないよ」

「ですけど……」

 

ヤバい、何も思いつかん!

クソっ、悪知恵よ!働け!

 

「三司さん、それに空。その前にソフトドリンクとかの補充を手伝って欲しいんだが」

「っ!頼み事なら仕方ないなぁ!」

「え?あ、う、うん、わかりました」

「じゃあ補充が終わったら、そのまま職員室に向かってくれていいよ」

「はい、ありがとうございます」

 

これで俺、暁、三司さんだけ外に出られるのか

いい考えじゃないか、コンニャロー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さっきの放送は聞いた』

「予定とは違いますが、このタイミングで作戦を開始させてください」

「このままだと、仕込みが無駄になっちまう」

『……わかった。だが一網打尽にするためにも、タイミングはこちらに任せてくれ。もし相手が罠にかかっても、お前たちは無理に動くな。俺たちを信用して欲しい』

「了解」

「ならべく善処する」

 

信用できてないってわけじゃない

でも、暁と七海と父さん以外には完全に信じれない俺の人間性がまだおかしいだけだ

 

「というワケだ。事前に話した通り、三司さんはここに隠れていてくれ」

「それはわかったけど……空君が身代わりになるなんて、本当に可能なの?」

「ちゃんと準備はしてあるさ」

 

ポケットから1枚のカードを取り出す

それは菅英人のアストラルをメモリー繊維に記憶させ、カードに定着させたもの

俺が咄嗟に閃いたアイディアだな

 

「周囲にいる人間の認識を阻害するものでね、これがあれば俺の姿は三司さんに見えるはず。俺たちは離れるけど、護衛はいるし、その手首に付いてる魔物は三司さんの命令に従うものだから。それからこの通信機も。これで俺たちの上司とも連絡が取れる」

「……うん、わかった。でも……」

「どうした?」

「本当に、この作戦で行くの?」

「何か気になることでも?」

「だって……やっぱり私の身代わりで、空君を危険に晒すなんてこと……」

 

自分の身代わりになって、その人が傷つくかもしれない

そう考えれば三司さんの気持ちもわかる

けど──

 

「大丈夫だって。俺は君を護ってみせる、絶対に」

「空君……」

「空の言う通りだ。ここは任せてくれ」

「……お願いだから、無事に戻ってきて。もう、あんなことは……」

「……あんなこと?」

「あっ、いや……なんでもない。とにかく、気をつけて」

「おう!」

 

俺は三司さんに向けて、親指をたてサムズアップをしてみせる

 

「では、作戦を開始します」

『了解した』

「カウント始めます。──5、4、3、2、1、今!」

「ミッションスタート!」

 

アストラルとリンクする。俺の場合は少しばっかし違うが

カードに意識を集中させ、記憶させたアストラル能力を解放した




次回は発表祭の終わりまで書けたらなって思います


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話


いい所まで書けたので連続で投稿しました


この学院は広いからな

発表祭に来たゲストは研究棟以外なら寮の方まで行ける

だから特班のメンバーが各所に立って、一斉に菅英人の能力を発動させる

1人じゃ無理なら増やせばいいんだよ

1人の範囲じゃたかがしれてるが、特班のメンバーが各所で能力を発動させたから、敷地内にいる全員が在原空の姿を、三司あやせだと“誤解”させることができてる

そっから俺は野生の勘に従い、危険だと感じる方向に足を進めてた

 

「……」

 

やーっと、出てきたやがったか

長身痩躯の優男と、ガッシリした大柄の男

ああ、こいつらから危険って勘告げてやがる

スーツの上からでも、動けるように体が作られてるのがわかるしな

 

「三司あやせさん、だね」

 

前方の優男が、優しく呼び掛けてくる

口調は柔らかいが、目元なんか笑ってないぜ

どうやらミッションはファーストフェイズは終わりでセカンドフェイズに移行だな

 

「抵抗は無駄です。命を無駄に散らしたくもないでしょう。我々と一緒に来てくれますね?」

 

後ろに下がろうとするも、反対側にも男が1人……いや、2人はいるな

これは囲まれてる

特班の動く気配はないし、暁だって1人では動かないだろう

父さんに言われてるし、ここは大人しく従っておくか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アストラル使い(ばけもの)が相手だとは聞いていたが……拍子抜けだな、所詮は学生か。この発表祭とやらも、文化祭の延長上のようなものだし。ま、中には気持ち悪い出し物も混じってはいるようだが」

「……」

「……というか、何か返事ぐらいしてくれないかな?俺たちは命を取るような真似、するつもりはないよ」

 

どうだかな……って言いたいところだが、喋る訳にはいかない

喋ったらそこで認識阻害が消え、俺だっていうことがバレてしまう

 

「おい。いい加減黙ったらどうだ、喋りすぎだ」

「へいへい」

「命が惜しければ、さっさと歩け。いくらアストラル使いだろうと、引き金を引く方が早い」

 

やっぱり、下手なことすりゃ撃つ気満々だなこれ

それにこいつの言う通りアストラル使いでも先に撃たれたら最悪死ぬだろうな

でも俺にはそんなもんは効かない

引き金引かれようが、弾よりも速い反射速度があれば避けれる

俺にはそういうふうにできる力がある

けど今は大人しくしとくべきか

 

「警備の方は?」

「問題ない。それに、カメラはマンティスの支配下にある。今もカメラでこちらを監視しつつ、映像を誤魔化しているはずだ。証拠は残らないさ」

「そうか」

 

なるほどね、動かなかったのは当日にセキュリティを誤魔化すためか

それじゃあ七海が調べても何もないはずだ

 

「……」

「……妙だな」

「何がだ?」

「この子、大人しすぎやしないか?」

 

まずっ、喋れないから仕方がなかったものの、何かリアクションしとくべきだったか!

 

「今のセキュリティの話を聞いても動揺しない。そもそも、事情を尋ねてくることすらしない。まるで、こうなることをわかってたみたいじゃないか?」

「何……?」

「それにプールにいた、あの少年2人はどうした?奴らはずっと、彼女を護るような動きを見せていた。なのに、今はどこにいる?何故、彼女を1人にした?」

「考えすぎだ。所詮はガキだぞ。同年代の異性に、いいところを見せようとはしゃいでいただけだろう。三司あやせはここにいるんだ。このまま連れて行けばいい」

「……それはそうだが」

 

確か、暁から能力を聞いたけど疑いを持たれても誤解が溶けるんだっけ……

頼む、気づかれてないでくれ

 

「いや、そうだな。ここで時間を潰している暇はないな」

 

あっぶねぇ。なんとか維持はしているみたいだな

このまま連れ去られるか、父さんたちが動くのを待つか──

 

『こちらマンティス──』

 

これは、こいつらの無線機からか?

本当、俺の耳はいいんだよな

 

『ハーミット、何をしている!』

「こちらハーミット、対象の身柄を確保しました。移動中です。事前の作戦通りに移動していますが、何か?」

『ふざけるな!よく見ろ!そいつは女ですらないじゃないか!』

 

マンティスって言ってたな!

さっきカメラの支配下がどうとかって言ってたからそりゃ敷地の外にいるか!

今の一言でバレるよなぁ!

 

「らぁっ!」

 

一瞬の動きで、相手が気絶するようにちゃんと箇所を決めてそこに重い一撃を食らわせる

リライトで強化されてる俺の攻撃は、軽い一撃に見えるがそれが常人を超えてる攻撃になってる

残りは前の優男と大柄の男

 

「ちぃっ!」

 

大男は戸惑っているが、優男の動きには躊躇いがなく、すでにサプレッサー付きの拳銃が手に握られてる

俺に狙いを定め、引き金を引こうとするが、その発砲よりもはやく、拳銃を下からはね上げる

 

「くそっ!?」

 

バンザイなんかしやがって、無防備だと狙いやすくやりやすいんだ

苦しむ感覚もないように、気絶させる

 

「やってくれたな、ガキがっ!」

「身を守るためだ、当然だろ」

 

大男は銃を俺に狙いを定めているが、撃たれる前に近づきゃいいんだよ

 

「なっ!?」

 

ほぼ瞬時に目の前に来たんだ、驚くのは当たり前

引き金にかかっていた指も止まり、撃たれることはなく反撃できた

そのまま一撃を食らわせてやった

 

「ぐっ!?舐めるなぁ!」

 

俺がリライト能力のせいであえて加減しているとはいえ、その一撃を食らっても倒れないなんて

やっぱり見た目通りタフそうだなコイツ!

 

「いい加減倒れとけ!」

「──ぐは……っ!?」

 

もう一撃を畳み込み、男の手から拳銃が離れた

けど、左足から急な鋭い痛みが走った

 

「──チッ」

 

拳銃を失ったが、代わりにナイフを握りしめてやがった

その刃から、俺の血が滴り落ちてやがる

 

「コイ、ツ……ごほっ。調子に、乗りやがって……タダで済むと、思うなよ……っ!」

 

血に濡れたナイフを突き出すように、大柄な男が腕を振るう

ナイフを避けるが、やっぱり左足が痛い

ここは……あえて腕も切られておくか(・・・・・・・・・・・・)

 

「──つぅ!」

 

狙い通りに腕を切り裂かれ、地面に流れる血の量が増えていく

そっから後ろに飛び、大男から距離を離す

足に力が入らないか、片膝をついてしまう

そこに大男はこっちに向かってくる

 

「死ねぇぇ!」

「──罠にかかったな」

「ぎゃあぁ!?」

 

大男は悲鳴をあげる

そいつは地面から出てきてきた針の山に突き刺さっていた

 

「な、なんだ……っ!これは……!」

「見てわからないのか?俺の血(・・・)だよ」

 

そう、そこは腕を切られ増えた血の量でできた血の溜まり

体内だろうが体外だろうが俺の血は俺の血

ならどこでだって操ることができる

だからその溜まり場を踏んだ瞬間、形状を変え針の山を作った

量が量だから死ぬまでにはいかず、動きを止める程度だけど

 

「く……クソがぁ……!」

 

ナイフを投げようとしたのか、腕を少し動かしたがそれも無意味

何故ならナイフには俺の血がベッタリだ

刃は粉々に砕いておいた

 

「アンタ達の負けだ。命があるだけ幸運だと思え」

「化け物めぇ……!」

「アンタの言う通り、俺が化け物だ。化け物扱いしてた他のアストラル使いなんかと一緒にしないでくれ」

 

リライトなんて能力を手にした時点で俺は人間じゃない

そしてその力があるから他のアストラル使いなんかとは比較的にならないほど強くなれる

能力を解放し、血は元の液体状に戻る

そのまま大男も地に伏せるように倒れる

 

「動くな……と言いたいところだが、もう動けないようだな」

 

父さんが銃を構え、特班のメンバーと共に来る

 

「マンティス……こちらハーミット。作戦は失敗だ……」

『あー、あー、聞こえる?マンティスはすでに無力化、他の連中も拘束した。アンタたちも大人しく投降しなさい。繰り返す、大人しく投降しなさい』

 

外の方もすでに終わってるのか

これでもう一安心ってやつだな

 

「レヴィ8!大丈夫か!?」

「おーさと……じゃなかった、レヴィ6。モチのロン。俺を誰だと思ってるよ」

「だがかなり血を流してるし……」

「知ってるだろ?怪我をすればするほど色んな事が出来る能力なの」

 

ちーっとばかし痛みを伴うが、死ななきゃ十分

生きてりゃ痛いことだってあるんだからねぇ

 

「すまない。敷地の外の連中の特定に手間取ってな……間に合わなかった」

「いやいや、謝ることじゃないって」

「危うく殺されるところだったみたいだが……本当に良かった」

「俺が殺される?そんな寝言言わないでよ」

「無事……とは言い難いな。傷の具合は?」

「2箇所切られたけど止血はもうしてある。その部分は便利なんだよね」

 

一定量の血を流したら止血は直ぐにした

これが暁だったら今も血を流してたりでやばかったかもな

 

「そのままだと戻ったら騒ぎになるな。七海に来てもらおう」

「止血はできるけど傷跡は治せなないからな。ということで暁、七海呼んできてくれない?」

「わかった。それから室長は早く撤収してください。見つかると厄介なことになる」

「……わかった。すまないが、そうさせてもらう」

「生きてるし五体満足なんだから気にしないでって。報告等は後でな」

「ああ。任務ご苦労だったな、空、暁」

「はい」

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空君!」

「ゴメンな、こっちまで来てもらって」

「空君、血が!」

「三司さんまで」

 

というか俺の姿酷いな

いくら止血はしたからって言っても血が垂れた後が残ってる

そりゃ怪我しましたーって証拠残してるもんか

 

「だって、切られて怪我をしたって聞いたら、心配になりますよ!」

「暁、お前大袈裟に言ったな?」

「誰だって切られたって言われりゃこうなるだろ」

「そうだよ、空君!それで……怪我の具合は?」

「あとは傷口を塞ぐだけ。頼めるよね?」

「う、うん。すぐに治すから」

 

七海が両手で、傷口の付近に触れる

全身に温もりが広がって、痛みが取れていくのがわかる

止血だけじゃなく、傷口も塞ぐことできりゃあまり心配かけずにすむんだけど

 

「すごい……本当に、治るんですね」

「ありがとう。七海のおかげでもう大丈夫」

「まだダメ。ちゃんと治さないと」

「もう治ってると思うんだけど、そんなに力使わなくても──」

「お兄ちゃん!」

「はっはい!」

「わたしの能力は、あくまで自分の治癒力で怪我を治すだけなんだよ?今回だって、少しずれてたら……わたしじゃどうしようもなかったかもしれなかったんだから……」

「そうなっても、また書き換えれば」

「そうやってなんでも力を使おうとするな。あれは危険すぎるんだから」

 

ぐっ……確かに、万能と言え使用の代償が命となりゃ危険すぎるはず

だからといってこんな姿を見せるわけにゃいかんし

 

「……ゴメンな、それに心配もさせたんだよな」

「そうだよ、心配したんだよ。全然戻ってこないし……怪我をしたって暁君から聞いて……すごくすごく心配したんだから!……お兄ちゃんのバカ」

「そうだよな。俺自身のことも考えないとだよな。なるべく気をつけるようにする」

「……そんなこと言って、結局怪我ばっかりするんだから」

「次はないようにする。それといつもありがとうな、七海。もちろん暁も」

 

やっぱり俺はこの2人にとっても救われてる

だからその分本当に心配かけないようにしねぇとな

ちっとばかし難しそうだけど

 

「……」

「ん?どした?」

「3人だと、そんな雰囲気なのかと思って」

「いつもの感じとは随分違って、優しいというか、甘いんですね、空君。それに暁君と七海さんも」

「そっ、それは……ち、ちがうんです、わたしは別にっ」

「別に照れなくても。兄妹、仲がいいのは素晴らしいことですよ」

「へへっ、俺たち3人仲が良いもんな」

「そうだな」

「〜〜っ!は、はい!これでおしまい!もう平気だよね?」

「ああ、ありがとう。お疲れ様、七海」

「……お兄ちゃんも、お疲れ様」

 

どこか不満げながらも、そう答えてくれた

 

「それから三司さんもありがとう」

「え?なにが……?お礼を言うのは私だと思うんですけど」

「無事でって祈ってくれただろ?ああいうのがあったから頑張れたんだ」

「あんなの……気休めですらないことです」

「気休めだろうと、俺にとっては重要な事だったんだ。だからありがとう」

 

あんな生活を送ってきた俺だから、人に無事を祈られたことなんてない

だから、ほんの少しだけでも、あの時の三司さんを見て嬉しかったんだ

 

「さってと、そろそろプールに戻ろっか。調理担当が3人ともここにいちゃってるんだからな!」

「あっ!そうだった!」

「大丈夫なのか、それ」

「念のためにみんなにレシピ覚えてもらってるから大丈夫なはず!ちなみに暁以外のメンツな!」

「なんで俺以外には教えてるんだ!」

「急ぎましょう、七海さん」

「はい!」

「待てよ空!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『16時になりました。これにて“星幽発表祭”を閉幕致します』

 

遠くから聞こえる拍手の音

こうして発表祭は、俺の活躍なんて誰にも知られず大成功

もちろん表でも活躍して大成功!今回は大手柄じゃないかな?

それはそれとして、今回捕まえた相手は特班で取り調べられるだろう

それも1人や2人じゃないから誤魔化しきることもできないはず

後は父さんに任せておけばいいかな

 

「いやー、全部上手くいって良かった良かった」

 

喫茶店は大成功し、犯人たちは捕まえることが出来た

こうしてドタバタした発表祭は、幕を閉じることになった





これにて共通ルートは終わりです
次回はあやせルートに入る帰り道でのお話です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話

三司さんが1曲歌って、本当に発表祭は終わり

えっ?もう幕を閉じたんじゃないかって?

うるせぇ!俺の出番はってことだよ!

まあいい、喫茶店にあの騒動と色々あって疲れた様子ではあったが、舞台の彼女は輝いていた

三司さんの歌は正直もう1回聞きたいくらいだ

ライブはすごい大盛況で、大盛り上がりの中で、本当に幕が閉じた

せめて一言でもって思い俺は寮じゃなくて校舎に向かう

暁と七海は一緒にいたのを見かけたけど、あえて声はかけないでおいた

さーてと、会長室に行けば会えるか……ってあれは三司さんと理事長?

 

「何話してんだろう」

 

つい物陰に身を潜め、2人を見る

短い付き合いからでもわかる、彼女は自然な笑顔を浮かべている

んー、何話してるんだ?

 

「今日はご苦労だった。本当にすまなかったな」

「ううん。私は平気だから」

「それから、これは補充分だ」

 

んん?今何を渡したんだ?

三司さんは特に躊躇うことなくそれを受け取る

 

「ありがとう」

 

んー、こっからはプライベートとかになっちゃうし、あまり踏み込むのはやめておくか

それに、装った雰囲気じゃなく、理事長にあんな態度で接するのか

ってそりゃそうか。俺はまだ出会って数ヶ月

取材とかいろいろあるし、柿本先生や理事長の方が付き合い長いしな!うん!

でも俺がこんなこと考えるなんてな

まだ暁や七海までとはいかないけど……俺の中で三司さんの存在は大きく、とっても信頼できる人になってるんだと思う

 

「先に会長室に向かっておくか。まだあの派手な服のままだし、着替えにでも来るだろうしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?空君?こんなところで何してるの?」

「今日の内にお疲れ様って言いたくてかな」

「そのためだけに、ここで待っててくれたの?律儀だなぁ……とにかく入って」

「うん」

 

中に入ると、三司さんは疲れがわかる声をあげる

 

「はぁ……今日は本当に疲れたぁ」

「お疲れ様」

「私よりも空君の方こそ、お疲れ様」

「ありがとさん。でもあんなライブのあとだし、三司さんの方が疲れたんじゃない?」

「そのことは、言わないで。恥ずかしくて身悶えると疲れる。お願いだから思い出させないで……」

 

結局──

 

『みんなー、今日は楽しかったー?私はとっても楽しくて、とてもいい思い出ができましたー!』

 

とめちゃくちゃテンション高かった

その分盛り上がってたんだけどね、その分のダメージが今になって戻ってきてると

 

「良い盛り上がりだったし、三司さんの上手い歌も聴けて俺個人としては最高の発表祭だったぜ」

「……からかってない?」

「んなわけ。そう思ってたらもっと言ってるさ。なんにせよ模擬店も成功して良かったよ」

「それに関しては、私もそう思ってるけど……怪我は本当に大丈夫?」

「それならだいじょーぶ。強がってるわけじゃないし、もういつも通りだぜぃ」

 

痛いのは最初だけ

止血して七海に治して貰えば後はもういつも通りに戻る

 

「そっか。それなら良かった」

「それにしてもこういうイベントって楽しいもんなんだな。生まれて初めてかも」

「そうなの?」

「まあちょっと人付き合いが悪いって言うか、上手く踏み込めないからね」

「私も別人を装ってるから深くまで踏み込んでないから似たようなものかな」

 

そっか。普段猫かぶってるし逆に素の姿を見る方が三司さんが心許した相手ってことになるんだろうな

性格に、そのおっぱいに。色々と作ってるからな

 

「胸ばっかり見てるんじゃないわよ……コロスゾっ」

「その秘密ってやっぱり知ってるのは俺と暁だけ?」

「そうよ。まさかあんな露見の仕方をするとは……夢にも思ってなかった」

「俺もだ。まさかおっぱいってドロップするのかって思っちゃったし」

「ドロップ言うな。ぶっ飛ばすぞ」

「あははは、ごめんごめん」

「……はぁ……もういい。空君がそういう人だってことは知ってるから、諦めてる」

「俺ってこういうやつだからね」

 

一言多かったり、おちゃらけてるのは自分でもよくわかってる

でも正直直すつもりなんてない。今から直したって、本当の俺なんて分からなくなるだけだからな

 

「でもバレた時はどうしようかと思ったけど……意外と悪くないって最近思うようになったしね」

「そうなの?」

「気兼ねとかせずに会話できる相手がいるって……気が楽だから」

「そう思ってくれるのは嬉しいな」

「だからって、余計な一言を許したわけじゃないから。気兼ねしないのと、配慮しないのは、全くの別物だからね?」

「わかってるって」

 

子供の頃は親に捨てられ、動物たちと過ごし、父さんに拾われてからは暁と七海だけと仲良くなり、後は仕事に追われたり、学校でも友達は作っても深くは関わらなかった

だから、気兼ねとかせずに話せられるって言われただけでも俺にとってはものすごく嬉しいんだ

 

「さてと。そろそろ寮に戻りましょうか」

「そうだね」

「それじゃあ着替えるから、廊下でちょっと待ってて」

「あーい」

「わかってるとは思うけど……覗いたら、潰すわよ?」

「そんなことしないって」

「……」

「……?どしたん?」

「いや、そこまで興味なさそうにされると、それはそれで腹が立つというか……『おっぱいが小さいから覗く価値すらない』って言われてるみたいじゃない」

「えっ?じゃあ覗いていいの?」

「絶対言うと思った。見せるわけないでしょ、バーカ」

 

悪態をつきながらも、彼女は笑顔で、その表情はとってもかわいいって思えた

やっぱりこの地の性格を表した表情が、その人にとって1番魅力的なものなのかもしれないな

 

「黙って廊下に出て、覗いたりせずに、大人しく着替えが終わるのを待ってて」

「ラジャー」

 

見ないと怒る。でも見ても怒るなんて、全く、乙女心って複雑過ぎてわけわからん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寮に戻ったら、お風呂に入って……その後はもうすぐ寝ちゃお」

「俺も楽しんだけど疲れたし、すぐ寝れそうだな」

「気を抜きすぎて、風邪なんか引かないようにね」

「1回も風邪ひいたことないんでご心配なく」

 

ちなみにこれは実話だ

強化する際に書き換えたことがあるが、その影響で風邪とか病気とかにも強くなったのかもしれない

本当のことはあまりよくわからん

 

「にゃ〜」

「おっ!野良助じゃないか!よーしよしよし」

 

俺の脚に擦り寄ってきたから喉を撫でてやる

そうやると野良助は気持ちよさそうな鳴き声を出てきた

愛いやつめ〜……殺気!?

 

「フーッ……フーッ……ね゙ご……フーッ」

「ニャ!?」

「落ちつけぇ!それは殺る目だ!前のこと思い出して!」

「ハッ!?そ、そうでした……かわゆい姿を見たら気持ちが高ぶってしまって、つい……落ち着いて……興奮せず、猫が寄ってくるのを待つ……すー……はー……すぅー……はぁー……」

 

深呼吸をしたおかげか、殺気のようなものは少なくとも感じなくなった

うん、これならいけそうな気がする

 

「チチチ」

 

あの三司さんが自分から近づかず、野良助が寄ってくるのを待っている

これは練習したかいがあったもんだ

 

「ほら、もう怖くないですよ」

「……ぅにゃ……にゃぁ……」

「だーいじょうぶだって。なっ?」

 

俺の意思が伝わったのか、恐る恐るだけど三司さんの方に近づいていく

戸惑いがあるか、俺の方を見たが俺はお得意サムズアップ!

三司さんは鼻息が荒くなりつつあったけど、ちゃんと練習の成果をだしてジッと見続けている

 

「にゃぅん」

 

そしてやっと、三司さんの指が野良助の額を撫でた

 

「き、来た!ついに、もふもふできる時が!!」

「アウトなっちまうぞー。落ち着けもちつけー」

「そうでしたね……欲望を、抑え込まないと……っ」

「にゃう……にゃ、にゃ〜」

 

おおっ、野良助が三司さんの指に体を擦り付けてる

逃げられてることからしたらこりゃもう克服まで近いか?

 

「はぁぁぁ……かわゆい……私の指に、体を擦り付けて……ああ、もう、かわゆすぎる」

「にゃう〜……にゃ、にゃあぁぁ……」

 

撫でてる方も撫でられてる方も蕩けきってる

見てるだけでも面白いが、幸せなのもわかる

なんか、あの時を少し思い出しちまうかな

 

「猫をこんなにモフれるだなんて……今日は人生最良の日……感激」

「確かに今はそうかもしれないが、囲まれた時なんてもっとモフモフだぞ?」

「モフモフだらけ……でも今はこの状況だけでも満足」

「そっか」

「もふもふぅ〜。こっちももふもふしてる。ここも、柔らかい、ああ……映像では知られなかったことも沢山で……」

「にゃ、にゃ、にゃぅん!にゃー!」

「あっ!待って、お願い、行かないで!」

 

今の恋人を引き止めるような悲痛な叫びだったな

別の意味ですっげぇ

 

「……行っちゃった」

「最後興奮してたからな」

「もしかして、また怖がらせちゃった?」

「いんや、怖がらせたというより触り方が強引だったな。力加減っていうのもあるし、そういうので逃げたんだろ」

「そんなぁ……嫌われないように、頑張ったはずなのに」

「最初の時より進歩はしてる。嫌われてるってわけじゃないから気をつければ向こうから寄ってくれるさ」

「そうだといいんだけど……」

 

少し強く撫でただけで逃げられたってこともあったしな

でも野良助は人懐っこい部分があるし、またすぐにやってくるだろう

 

「ありがとう、空君。空君が練習をさせてくれたから、こうして野良助と触れ合うことができた」

「あんな練習でも役に立ててよかったよ。動物のことなら、アニマルマイスターの俺にお任せ!」

「何よ、アニマルマイスターって」

「動物を愛でることに特化した職人……かな?」

「一体何を目指してるのよ」

「うーん?さぁ、なんだろうな?」

 

本当にそんな職人制度があったら、面白いかもな

特に俺みたいな奴には向いてるはず?

 

「こうして猫と触れ合うことが出来たのも、襲撃から逃れることができたのも、アナタのおかげだがら。本当に感謝してる。ありがとう」

「お、おう。どういたしまして」

「はぁ……でも、本当に気持ちよかった。また、もふもふしたいなぁ〜」

「あいつはよく出てくるからな。近いうちに会えるだろう」

「私でもちゃんと触れ合うことができた……これは大収穫だった」

 

再び並んで歩きだす

と同時に、軽いめまいで軽くふらついてしまった

 

「どうしたの急に……まさか、怪我の影響が!?」

「いや、怪我は本当に治ってるさ」

「でも今、ふらついたでしょ?」

「今の感覚は貧血だ。今日一日で力使いすぎた……」

「力?」

「ああ。俺のアストラルは体液操作ってことは知ってるだろ?それで血を使えば体内から消えるから血が不足しちまうんだ。こういうことも何度かあったし、ゆっくり寝れば大抵治るから心配ないよ」

 

寝るのが1番回復速度が速いって何度も試してわかったことだからな

貧血対策もあるけど今回は量が量だったらしい

 

「本当に……?嘘、吐いて誤魔化してない?」

「なーいよ。それより早く戻ろうぜ?休むにしても寮に戻らないとだしな」

「……わかった……けど、もし何かあるなら、隠さずに正直に言って」

「……ああ、そうさせてもらうよ」

「いつでもどうぞ」

 

俺は人には頼らず、家族にだけは頼りきるって決めてた

けど……三司さん、彼女にだけは暁や七海と同じように頼ってもいいって……そう思えたんだ




あやせルートに入りました
ちょくちょく七海ルートの話も含めるかもしれません


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。