メタリックなスライムになっちゃった (フリードg)
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1話 なんじゃこの身体!?

浮気して作品です……w

異世界魔王~と同時進行で ちょこちょこっと書いてたのを投稿。
温かい目で…… ( ´艸`)



 

 

 

――告。

 

 

「ん?」

 

 それは、スライムのリムルがオーガの一行を打ち負かし、オーガ達が話し合いに応じる姿勢を見せた時に唐突に告げられた世界改変の周知だった。

 

 

 

 

 

――新たなユニーク個体がこの世界に出現しました。

 

「ユニーク個体? 何それ、何が誕生したんだ……?」

 

 スライムのリムルは自身の持つスキル、『大賢者』に聞いた。大賢者

 

 

――解。把握できませんでした。

 

「そっかー、出来なかったかー、ってマジ? 今まで大賢者が解析出来なかったのってあったっけ?」

 

 リムルの持つ大賢者は、複数持つユニークスキルの1つ。中でも非常に頼りになるスキルの1つだ。

 この世の疑問に対して答えてくれて、更にあらゆるものを解析する力をも持つ。故にリムルは様々な物を解析し、様々なスキルを開拓し、強大な力を得続ける事が出来たのだ。

 

 

 

――解。ユニークスキル大賢者の上のスキル、強力な隠蔽系統のスキル、若しくは上位存在に意図的に隠されている可能性が高いと思われます。

 

「………ナニソレ、怖い」

 

 

 一難去ってまた一難、と思わずにはいられないリムルだった。いや そもそも、オーガ達の話す内容もまだ把握してないから、一難去った訳じゃない。

 

「面倒な事が重なりそうだ……」

 

――告。残留魔素から誕生した場所を把握しました。《封印の洞窟》と判断しました。

 

「封印の洞窟……って、暴風竜。ヴェルドラが封印されてた場所じゃん。……あ、オレが転生された場所でもあるか。……ん? ってことは」

 

――解。主同様、新たな転生者の可能性大です。

 

「おー、つまり日本人かもしれないって事か。うん。転生者の先輩として、会っとくべきか?」

 

――解。能力が未知数、相手の性質も未知数。強大な力を持つ個体の可能性大。慎重に動く事を推奨いたします。

 

「………はい。了解であります」

 

 

 大賢者の助言により、今まで切り抜けてきた場面は多い。その大賢者が此処まで言うのだから。

 

「触らぬ神に祟りなし、って感じかな?」

 

――解。接触してこない訳ではないかと。地理的にも接触してくる可能性は極めて高。

 

「わかってるわかってる。でもまずは目の前の事に集中するよ」

 

――了

 

 

 

 

 その後、ずっと独り言(周囲からはそう見える)を言っていたリムルは、周囲にそれとなく心配されたが、誤魔化しつつ帰路に就くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それは時間にして数十分ほど前の事。

 世界の声が発したその原因は、静かに洞窟内で慟哭を上げていた。

 

 

 

 

 

 

『なんじゃこれーー! なんでこんな身体なんじゃーーーーっっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは生前の記憶。

 唐突に死んでしまったが、まるでテレビでも見てる様な感覚で思い返せる。

 

 オレ事、敷島隆太はまさに社畜と呼ぶに相応しい労働に身を窶していた。毎日毎日残業残業。五月蠅い上司に嫌味な先輩、手のかかる後輩。

 

 労働基準法? ナニそれおいしいの?

 パワハラ? ナニそれ、食べれるの? 

 

 って 言わんばかりの環境だった。

 毎日、訴えてやるっ! と思い、ICレコーダーを忍ばせ、DVD-R10枚程の証拠を集めて……としたりしてたのだが、手のかかる後輩がいるから、せめて一人前にしてやらねば、と妙な責任感みたいなのがオレの中で生まれてて、何故か頑張っていた。

 

 おかげで、オレは後輩には慕われるようになった。と言うか呈よく人身御供な感じな気もするが、それでも後輩は後輩。頼られるのは悪く無いし。

 

 ……今思えばちょっと狂ってる、って思うかも。

 

 

 そんなこんなで、数か月ぶりに定時で帰れたのが運命の分かれ道だった様だ。

 

 駅まで歩いている途中……、空から鉄骨が降ってきた。

 

『危ない!!』

 

 って声が聞こえたかもしれないけど、超反射など出来る訳もなくそのままぐしゃり。肉片を周囲にぶちまけてグロい姿に変わってしまったよ。あの辺には女子高生とか女子大生もいたから、トラウマになってしまったかもしれないな。……申し訳ない。

 

『うがーーー! 何であのタイミングで鉄骨なんかおっこちてくるんだよ! あんなの耐えれるボディな訳ねーじゃん! ドリフじゃあるまいし! あー……格好良く 受け止めてケロっと出来てたらなぁ……モテただろうに。……鉄骨相手にそれは化け物か』

 

 

――確認しました。堅い身体を作成します。

 

 

『堅い身体ねぇ……、ミスリル? オリハルコン? アダマンタイト?? 並の堅さじゃ文句言いますよ、オレ』

 

 

――確認しました。世界最高硬度と呼ばれる鉱石をも超える身体を作成します。

 

 

『堅いだけじゃーねぇ。堅くなりつつも柔らかさも失いたくないっていうか、常に堅いまんまだったら、パンツも履けねぇじゃん?』

 

 

――確認しました。ユニークスキル《変体化》を獲得しました。これにより身体は流体多結晶合金へと変体可能となります。

 

 

『あらヤダ、変態って………。そもそも、何で会話できてんの? ていうかオレグチャグチャだったよね? この声誰? 神様?? おー、会えるんなら会ってみてぇなーー。……なーーんでこんな目に遭わせたかっ! ってガツンと言いてぇな!』

 

 

――確認しました。転生時に神を召喚します。……が、あまり可能性は高くはありません。

 

 

『神様ねぇ……、自分で言っといてなんだけどさ。そんなのいるんだな。会話成立してんの、すげー違和感あるけど。それも良いや。オレ運が良いって事かな? ……だったら、あんなんに当たらねぇよなー!! ちくしょーーー!』

 

 

――確認しました。ユニークスキル、《強運》を獲得。

 

 

『悪い方の運が当たるのは溜まったもんじゃねーぞー。それに強運? じゃ物足りんて。宝くじ10回連続で当たるくらいの運は欲しいなー。……つぶされたんだし、それ位願っても罰あたんねぇよなー?』

 

 

――確認しました。ユニークスキル《強運》を進化させます。…………成功しました。ユニークスキル《強運》は、《超絶運》へと進化しました。

 

 

『なんじゃー超絶運って。テキトーに作った様に聞こえるぞ! なんならその上は爆絶か? 轟絶か!? モン〇トかよ!』

 

 

 

 その後、もっと沢山お喋りしたかもしれない。だからこそ、寂しく無かった。死んだって認識はある。暗い闇の中だったけど、声が聞こえてきて、デジタル音声みたいだったけど、それはそれでよかった。孤独を感じなかったから。

 

 

 でも、やっぱり五体満足でいられた訳はなかったんだ。

 

 

 何にも見えないし、聞こえもしない。匂いもない。手足がある様な感覚さえない。でも、動ける事はできた。触覚はどうやらあるみたい。なんか凄くギコちなく動いている様な感覚。言ったら一昔前のロボット? の動きみたいにカクカクしている感じだ。

 

 色々と頑張って カクカク動いているうちに、自分が人間の身体じゃなくなってるのに気付く。そんなに時間は掛からなかった。

 動くのに凄い神経つかう。(神経あるのか判らんけど)ちょっと躓く? だけでゴトンッ、ゴトンッ! て感じで転がる。……直ぐに止まるけど。

 それで、急斜面みたいなのがあったのか、メチャ転がってぶつかったりもした。……でも、痛みは全く感じない。

 

 そんな時だ。

 

 見えないのに、ピカ―――ッと 何か光みたいなのが見えた気がしたのは。

 

 

『この儂を呼んだのはお主か……?』

 

 

 それと同時に声が聞こえてきた。どうやら、聴覚はあるみたいだ。……でも、衝撃音とか全く聞こえなかったんだが。

 

 

『おい、返事をするが良い』

 

 

 せかされても無理だよ。声出せるんならさっさと出してるってーの。

 

 

『儂を呼んどいて無視する気か?』

 

 

 いやいや、話してーーよ! メチャクチャ話して――よ! 来てくれてサンキューだよ! でも話出来ないの、日本語通じますか!? きゃんゆーすぴーく、じゃぱにーず?

 

 

『……イエス』

 

 

 ん??

 

 

『あぁ、面倒くさいヤツに呼ばれたもんじゃわ。どれ、仕方のない…… ぬんっ!!』

 

 

 身体が突然熱くなってきた?? あれ、あれれ? なんだ、目の前が……?

 

 

『スキル《魔力感知》じゃ。周囲の魔素を感知する事で見ることも聞くことも可能。……獲得の仕方は簡単じゃが、いちいち教えるの面倒故、とっとと獲得させてやったぞ』

 

 お、おおっ、ほんとだ! 何だか見えてきた……気がする!

 

 

――エキストラスキル《魔力感知》を獲得。

 

『これは儂からのギフト。魔素の流れだけで周囲の情報の全てを見聞きするのは膨大な情報を頭ん中へと入れにゃあならん。並の頭じゃパンクして終わりじゃしな』

 

――エキストラスキル《魔力感知》が進化。ユニークスキル《自動魔力感知》を獲得。

 

 

 おっ、おおお! 周囲に色が! 暗闇から抜け出たみたいだ! うわーー感激ーーっ!! ずーーっと電気消した様な暗闇だったし! 

 

 

『うむ。副作用なくできたようじゃの』

 

 

 は、はい! ありがとーありがとーー、ほんと嬉しいですっ! ……ん?

 

 

 ぎゃーーーー! ま、まぶしいーーー!!

 

 

 

 

 

 くるりと振り返った先には、メッチャ輝く何かがいた。見えたのは良いんだが、あまりに光度が強すぎて目が無いのに潰れる気がした。

 

 

『いちいちうるさいヤツよの』

 

 眩しすぎるよ!

 

『しょうがなかろう。儂は光の神 G.O.D. 火が燃えるのを止めないように儂は常に光るのじゃから』

 

 ……水かけたら火は消えるよ?

 

『そういう茶々はいらん。儂は光そのもの。消失する時即ち、この世界からあらゆる光が消える時じゃ』

 

 

 そりゃ困る。……でも、顔を拝見したいなー、なんて。目開けれないから見れないしー。それにオレ声出せてないんだけど、どうやって話をしてるの?

 

 

『念話じゃ念話。主の心の声が儂に届いておる』

 

 

 成る程。……でも、やっぱり面と向かってお話したいしー。

 

 

『……本当にしょうがないヤツじゃの。んんん―――ぬんっ』

 

 

――スキル《観察眼》を獲得しました。

――身体再度構築、スキル《声変換》を得ました。念話⇒変換⇒声 と可能になります。

 

 

 

『……お、わわっ! おおーーっ! 見える。大丈夫になった。わっ、声も出てる!?(めっちゃ優しい神様! この勢いでドンドン頼んでみよう!)』

『全く、世話の掛かる。……じゃが、呼ばれたのは何百年ぶりの事。たまには良いか。……じゃが、際限なくスキルやるのどーかと思うからの。あまり強請らない事じゃ』

『うぐっ…… 心読まれた……』

『ここまでしてやってるんじゃぞ?』

『ははぁー。有難き幸せにございます!』

『調子の良いヤツじゃな、まったく』

 

 

 こんな感じで大分勝手が良くなってきた。周囲の状況が見えるようになったのは本当に嬉しい。暗闇の中だったから。別に暗い所が怖い、と言う訳ではないが、永遠に暗闇が続くのか、と考えたらやっぱり怖い。そして、なんだかんだと 光の神様はとても優しい。

 

『まさに神様って感じですねー。……ラムウ?』

『ラムウは、雷の精霊の名じゃよ。儂は光の神。どっちかと言えば上位に位置する』

『わ、ごめんなさい。オレのいたとこに神様に似たキャラがいて……』

『……んん、成る程。ふぁいなる、ふぁんたじー、と言う娯楽の世界の精霊、か。なかなか良い腕をしておる絵師じゃな』

『おー、また読みましたか。そうですそうです。本物の神様に褒められたとなったら、デザイナーさんも鼻が高いでしょうに。んん? そういえばオレってどんな姿なんだろ?』

『なんじゃ。お主。自分の姿も解っとらんかったのか? ほれ、そこの湖、水面を見てみぃ』

 

 光が更に輝いたかと思えば、洞窟内の湖を照らした。まるで鏡の様に反射している。

 

『うわっ、メッチャでっかい鏡になった! いやほんと凄いっす。……んーどれどれ』

 

 ひょこひょこ、がきんっ、がきんっ、と動いてる音とは思えない音を発しながら……。この時既に判っていたのかもしれない。こんなロボットみたいな動き、音。碌な姿じゃない、って事が。

 

 でも、想像以上のものだった。

 

 

 そして、慟哭を上げる切っ掛けになった。

 

『なんじゃこれーー! なんでこんな身体なんじゃーーーーっっ!!』

 

 つるんっ、とした流線形。光に照らされてるからか、更に身体のメタリックさを強調していた。灰色? いや、どちらかと言えば銀色っぽい身体。

 

 俗にいう………メタルスライム?

 

 

『自分の姿が判ったか?』

『……正直、判りたくなかったかもです。 ……なんでメタルスライム?』

『その姿はお主の願いを具現化したものじゃ。死して、そして転生する際に』

『いや、そういえば確かに堅い身体~と願ったかもだけど……』

『喜ぶ所じゃ。その堅さは並じゃない。おまけに身体に慣れればじゃが反応速度、反射速度、移動速度、どれをとってもこの世界、下界ではトップクラスじゃろう』

『もろメタルスライムじゃないっすかーー! 堅いのと早いのって! でもHPが絶対的に少なくて、……経験値稼ぎで狙われるぅ…… ぐすんっ』 

 

 某国民的ゲームで登場するそのモンスターは他のモンスターとは比べ物にならない程の経験値を齎す。逃げられる事は確かに多いけれど、それでも得られる経験値が大きいから気合が入るというものだ。……狙われる側。メチャ大変。

 

『泣くな泣くな、涙腺もないのに みっともない。全部避ければよかろう?』

『無茶言わんでください……』

『強ち無茶とは言わんぞ。主のスキルを駆使すれば造作もない事』

『……沢山スキルくれたような気がしますが、全部把握しきれてないので、全然自信ないです』

『はぁ……。儂が ぱっと見確認出来た所でじゃが、まず《超絶運》を持っておるの。悪意ある敵の攻撃であれば、避けれる可能性がかなり上がるわい。と言うか傷1つおわん場合の確率の方が遥かに高い。……おまけに身体の強度が最高硬度と言ったじゃろう? そんだけあったら、そこらへんのモンスターなら眠ってても十分じゃ』

 

 色々特典ありありな身体を説明してくれた。他にも沢山。

 

 聞けば聞くほど凄い身体をもらったみたいなんだけど、それよりまず最初に確認すべき事があった、と思えた。

 

『……えっと、つまり 敵、モンスターって事は、この世界って 所謂 剣と魔法な世界? って事なんですか?』

『ふむ。そうじゃな。ほれ、お主の言うてた娯楽の世界。その世界と似たようなものじゃ』

『……やっぱりぃ。狙われる……』

『だから大丈夫じゃて。ここまで来たんじゃから覚悟を決めんか。この儂を呼んでおいてほんと愚痴ばっかりじゃな』

『はい……』

 

 確率は低いけど、神様召喚、って確かに言ってた気がする。成功したみたいだ、と今更ながら思って、そして感謝した。何にも判らない状態で放り出されたらって考えたら、怖さMAXだから。 

 

『それにほれ、まだ面白いスキルがある様じゃの。《変体化》か』

『………うぅ、オレ変態じゃないっす』

『意味が違うわい。身体を変化させるスキルじゃい。これは念じるだけでいけるの。自身が液体になるイメージをすれば』

『液体になるイメージ……、何だか、何処かの格闘漫画みたいな感じがする……。って、いやいや メタルなスライムが液状化したらって……』

 

 と、考えてたら自分の身体が変わった。本当に変わった。ふにゃ、となってただでさえあ低い視線が更に低くなって……。

 

 

 

『わー、すごーい。メタルスライムからはぐれメタルに変化したーー。やったぜー(棒)』

 

 

 更にメッチャ経験値をくれるモンスターへと変わってしまった。

 いくら凄い身体で、安心安心、と言われても…… 狙われる事を考えれば まーーったく安心できないのだった。

 

 

 そしてその後も色々とレクチャーをしてくれて、一段落ついた。

 

 

『ほんと……神様がチュートリアルしてくれるなんて、まんまゲームな世界だよ』

『そうじゃのー。実の所、良い暇つぶしになったと思っておる』

『いや、助かります。ほんとありがとうございますです。神様』

 

 無い手足を頑張って連想させて、崇め奉るポーズを決めた。 

 それを見た神様は気を良くしたのだろう。うむ、と頷いた後。

 

『これが本当に最後。特別サービスじゃ。お主に名をやろう。そして この辺の情勢を調べて教えてやろう』

『名? 情勢?』

『うむ。名は持ってる方が良い。魂に名を刻み込め。それだけで心強い味方となる。そして情勢は知っておいて損はない。身の振り方も決めれるしの。普段下界の状況なぞ見んので今から見てやるわい』

 

 そういうと、何やら手に持ってる杖を上にあげていた。

 すると、また光の輝きが増した。

 

『ふむふむ……オークの軍勢がどうやらこの周辺の森で暴れているそうじゃ』

『おーく…… ブタ?』

『そう、豚じゃ。間違ってはおらん。成る程…… オークの頭が豚頭帝(オークロード)に。ふむふむ』

 

 色々と教えてくれるんだけれど、中々理解出来ない。

 

 そして全部終えた所で確認。

 

『つまり、えーっと豚の侵攻で鬼がやられて、次にワニが狙われそうだと。それで、豚の侵攻阻止の鍵は、他種族な村が要となる、と』

『うむ。……そして、その他種族の村の長。なかなか興味深いの』

『えっと、確かオレと同じくスライム。いーや、ただのスライムなら、メタリックなオレのぼでぃには敵わないかな? いやいや、他種族をまとめてるスライムなんて 普通じゃないし、生まれたて、レベル1なオレは眼中になしかな』

 

 身の丈を弁えるのが一番、と思った。正直別なスライムの話が出た瞬間、親近感が湧いて あってみたい! とも思ったが、モンスターはモンスターなんだから、と考え改めた。

 

『うむ。身の内に暴風竜 ヴェルドラを感じる。よくよく考えてみれば、この場所はヴェルドラが封じられておった筈の場所じゃ。その気配がスライムにあるとは。……そのスライムが取り込んだのかの?』

『いやー、オレに聞かれましてもー。………いや、竜を取り込むスライムって。よし、会うの止めとこう』

 

 最初の街の周辺に出てくるようなモンスターが最強クラスと言っていいドラゴンを取り込むとか強さのバランスがおかしいと思えてきた。自分の身体も凄いらしいが、それでも中々納得が難しい。

 

『じゃが、他種族をまとめとる所を見ると、身を落ち着けるにはそこが一番じゃと思うぞ。オークの軍勢は見境なく食い荒らしとる用じゃしの。まぁ、お主の身体には文字通り歯がたたんと思うが』

『わー、神様ジョーク面白いですー(棒)』

『まじめに言っとるんじゃ。……ま、儂はそこを目指すのを推奨する。後は自分で判断する事じゃ。……ほれ、次は名じゃ。名をやるぞい』

『はい。宜しくお願いします』

 

 名前をくれる、となると神様が親の様だ。

 親とはまだ中学の時に死別したから、何だか不思議な感じがする。……いや、嬉しく思う。

 

『アティス・レイ。と名乗るがよい』

『あてぃす、あてぃす…… うん。気に入りました。ありがとうございます。おじいちゃん!』

『おじいちゃん……?』

『あ、ああー、なんかごめんなさいっ! つい……』

『ふむ。家族と呼べる者が幼少よりおらなんだ、と言う事か。その程度で謝る必要なぞないぞ』

 

 何処かで聞いたことのある気がする名だった。何かの神話? 神様がくれるのだから、そこに似通っていてもおかしくない。それに、レイの部分。光の神様だから、きっと同じような名をくれたんだと思う。

 

『さぁ、ゆけ。短い時ではあったが、暇つぶし、否。存分に堪能する事ができたわい。ふふ。感謝かもしれんな。久しく話すという事をしてなかった故に』

『こちらこそ。では、頑張ってきます』

『うむ』

『また、何処かで会えたら……』

『それは保証できん。下界に降りる事自体稀じゃしの。……ここから巣立つようなもんじゃ』

『ですね。これ以上甘えるのは流石に』

 

 

 相手は神様。

 これ以上の甘えは贅沢過ぎる、と言う事で言われた通り回れ右をした。はぐれメタルになったボディを頑張って操って手を作り、そしてぶんぶん、と左右に振る。

 

 

『行ってきます』

『うむ。息災でな』

 

 

 

 



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2話 森の最上位

 

 この洞窟内をまずは散策。

 

 冒険の基本は散策だ。自分の足で(ないけど)周囲をしっかりと観察して、何か無いかの確認。

 

「宝箱とかないかな……? んん、それにしても この辺、なーんでこんな黒焦げなの?」

 

 草とか燃えるような可燃物は殆ど燃やし尽くされるんだろう。

 何にもなくて 煤だらけになっている。こんな場所で何かが自然に燃える~なんて考えにくいから、きっと誰かが燃やしたんだろう。恐ろしく広範囲に。

 

「………何を燃やしたかは考えたくないなぁ」

 

 モンスターとか? 迷い込んだ人とか?? 残骸も死体も残さず灰にする炎なんて考えるだけで恐ろしい。メタルスライムなぼでぃ 持ってても怖いものは怖い。

 

「確か、ゲームでも とくぎっぽい技は メタルボディ貫通してたような気もするし……。一先ず、こいつらの攻撃は大丈夫みたいだけど」

 

 こいつら、と言うのはこの洞窟を住処にしているモンスターたちである。

 

 なんか大きなヘビやらクモやら、蝙蝠やら。

 気持ち悪い系の虫や爬虫類嫌いだったら それだけで即倒しそうな光景だ。

 

 ヘビの黒い霧っぽい何かは 触れたものを溶かしちゃうエグイ攻撃らしく、自分の周辺が溶けていっていた。それも飛び火して蝙蝠にあたったみたいで接近してた蝙蝠も溶けた。……なんかグロい事になっていた。

 

 クモの糸攻撃? みたいなのは粘々してて気持ち悪い。堅い糸も出せるみたいだ。

 

 沢山エンカウントしたが、運よく(スキル超絶運)躱せたり、逃げたりできてる。

 別に受けてもノーダメージだから逃げる必要ないかもしれないが、受けたくないのだ。攻撃受けて良い気はしない。害意ぶつけられたら気持ち悪い。殺気を浴びるの怖い、の三重苦だから。

 

「……やっぱり経験値くれるからって、人間だけじゃなくモンスターにも狙われるのか……。ふんっ、別に良いし! 逃げ切ってやるし!」

 

 倒してやる! な選択はせずに逃げ一択の手段を取る。

 

 ヘタレと言われるかもだが、いきなり剣と魔法な世界のモンスターと対峙して、ウラウラ~ オラオラオラ~ と無双できる程、対応力も順応力もない。

 

 せめて、色々と練習してから 襲い掛かって来てほしかった(……いや、欲しくないけど)

 

 スキルを駆使して 形態を液体状に変化。はぐれメタル化(自分で命名)

 

 かたーい身体がふにゃっと柔らかくなって 動く速度も相応にアップ。身体は柔らかくなったんだけど、実は堅いという矛盾した身体だ。でも、なんか良い。天井にへばりつく事も出来るし、防御力が更にアップしたのか、全然気にしない。見た目気持ち悪くて精神ダメージは来るけど。

 

 

「よし、撒いたな。……んん、こっちかなー、出口」

 

 うねうね~ とはぐれメタルの身体をそれなりに楽しみながら、僅かに漏れる洞窟内の光目指して突きすすむ。

 

 因みに神様から頂いたスキルの1つ《観察眼》がある。集中力が凄く上がってるみたいで、一度通った場所は忘れないし、構造図も大体が眼を通して頭の中に入ってくる。迷路みたいな洞窟だけど何のその。マップ情報? みたいなのが頭の中に浮かんでスイスイ進める。まるでゲーム、RPGのダンジョンみたい。 

 RPGなら迷いながら散策に時間をかけつつ、頑張って気付いたらレベルアップっ! なんて事が多々あるが、生憎これはリアルなRPG。さっさとイベントに進める方が良いに決まってるので、最短距離を導き出して、エンカウントは限りなく0で突き進む。

 

 そして、漸く辿り着いたのが出口。

 

「ここから外に出て、大丈夫かな……? ねぇ、いきなり 争いに巻き込まれる事ない?」

 

――解。周囲2㎞。魔素の乱れ、争いの鬨等は感じません。

 

「そっか。ありがとー」

 

 そして、もう1つ。神様に感謝したいのがこのスキル。

 

 エクストラスキル《賢者》。あまり事細かい説明はしてくれないらしいが、それでも話す事ができるだけでも十分心強い。なんでも、この上に《大賢者》と言うユニークスキルと言うのがあるらしく、そっちは教えてくれるだけでなく、スキルの解析やら、解除やら、オート運転やら、更に殆どの事を答えてくれたり、最善策に導いてくれたり~ と 正直チート。

 全ての面で当然ながら賢者よりも上位なスキルなんだけど。

 

『お主には これで充分じゃろ』

 

 強請った訳じゃないんだけど、そう言われて賢者のスキルになった。

 何だかんだと気にかけてくれたり、話し相手として授けてくれたりと、神様も孫の様に思ってくれてるかもしれない。

 

『……んな訳なかろう』

 

 と否定する声が聞こえてくる気がするが、そう思う位は許してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふんふん~♪ ぷるぷるぷる~。『ボクわるいスライムじゃないよー』はぐれメタルだけどー♪」

 

 何だかんだでメタルなスライム生活を楽しむのが一番である。

 楽しい事が1つでもあれば、それを糧に頑張れる気がするから。

 

 でも、調子に乗ってると危ないのはどの世界でも共通みたいで。

 

 

 

“キッシャーー! キィキィ!! ガサガサガサ………!”

 

 

 

 モンスターの三重奏。トリオアタック、とでも名付けてみよう。

 空には蝙蝠、陸にはヘビとクモ。独立してて、モンスターもお互いに敵同士だと思ってたのに、まさかの共闘。当然ビックリする。こんな洞窟で囲まれた! 状態なんだから。それも気配をバリバリ絶っての突撃だ。

 

 

「うひゃああああっっ!!」

 

 

 でも、絡まれても、囲まれても、全力で逃げたい! と思いながら地を這い、宙を舞い? 世界を駆け巡ると、あら不思議。沢山に囲まれてても針の穴に糸を通すように、正確無比に逃げれる。

 

 モンスターたちにとってはストレスがたまる事だろう。攻撃しても避けられるし、追いつめたー、と思っても逃げられるし。

 

 ほんと、メタル系モンスターって感じ。

 

 

 相手はイラついていてもそんなの知らない。まさに逃げるが勝ち。

 

 

 そんなこんなで色々とスキルの試し、試行錯誤しつつ、逃げつつ、倒せそうな相手にはちょっと試してみたりしつつ、洞窟を抜け出す事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 日光がメタルな身体に降り注ぎ、何だかよりあったかく感じる気がする。

 と言うか身体の性質が金属だから、ただの太陽の熱を集熱しただけなんだけど、それはそれ、気にしなく日光浴。

 

 

「んーと、太陽(だよな?)の位置的に正午くらいかな?」

 

――解。現在時刻12:33

 

「ありがとー(時間の概念は元の世界と一緒、と)。さて、どこに進んだら良いかアドバイスとかあるかな? やっぱり他種族が暮らす集落を目指した方が良い?」

 

――解。接触し襲われる可能性、オーク=100% リザードマン=39% スライム軍=11.5% と推察されます。

 

「……選択の余地なしって事ね。スライム軍って 一見一番弱そうに想うんだけど、……逃げるオレだったら似合いかな?」

 

――解。スライム軍の推察。内部戦力。主戦力 鬼人。オーガの種族で極稀に誕生する上位種族。嵐牙狼(テンペストウルフ)。オーガ同様、牙狼族で稀に誕生する上位種族。牙狼族より名付けで進化する事例もあり。後は……。

 

「あーー、もーいいよ。いい。すっごいの判ったから! よくよく考えたら、えっと、暴風竜? とかを取り込んじゃったスライムがボスなんだよね? 嵐の狼って、まさにそんな感じだし」

 

 話を聞くだけでゲッソリしてしまう感じ。吐きたいんだけど吐けない感じに似てるかもだ。口無いからどうしても吐けないんだけど。

 上位種族、と聞いただけで メチャ強敵な感じがするし、それも複数の種族でだ。途中で話を切り上げてしまったが、何体いるか判らない。

 

「……えーと、怖い人? モンスター? を感知したら直ぐ教えて。頑張って逃げるから」

 

――了。ただ、何れにしても接触は推奨致します。身を落ち着ける場所は必要と判断しますので。

 

「お気遣いありがと。そーだよね。孤独ってきついし。………何百年~とか考えただけで寂死(さびし)しそうだし」

 

 現実世界ででもこんな感じだったかもなぁ、と思い返す。会社を、上司を訴える! とか完全な行動に起こせなかったのも、なんだかんだで繋がりが途絶えてしまうのが怖かったのかも。

 

「……な訳ない。オレは ただのヘタレ」

 

 と言う考えは即刻削除した。最後まで行動に移せなかったのはヘタレ属性のせいだと。相手が破滅したら可哀想~とか 考えててが出せないヘタレ。自分で言ってて恥ずかしいけど。

 

 

 そんなこんなで森の中をずんずん進む。幸いな事にモンスターらしいモンスターには出くわしていない。洞窟内の事を考えれば ここはエンカウントしない場所? って思える程だ。でも、普通の所謂森林フィールド。モンスターがいない、と言うのはどうも考えにくい。

 なので……。

 

「ひょっとして、オークっていうのが影響してるのかな? 喰い荒らしてるらしいじゃん……」

 

――解。森の異常はオークが起因しており、その影響が表れている、と推察されているのは正しいかと。

 

「やっぱし。……と言うかさ。オークってそんな強い種族だったっけ……? まぁ悪いイメージはあるけど」

 

――解。豚頭帝(オークロード)の出現により、勢力図が変わりました。豚頭帝(オークロード)とは 世に混乱を齎す厄災の魔物。生まれた時から持つのは 支配下にあるすべての者に影響を及ぼすユニークスキル《飢餓者(ウエルモノ)》。満たされる事のない飢餓を代償に、喰らう相手の力、能力を取り込み糧とします。

 

「うへぇ……、喰えば喰う程強くなるって事? なんか、そんなチートキャラ漫画でいたような気がする……。 んじゃあ、鬼食べちゃったんだったら、少なくとも鬼より強くて……」

 

――解。オーガの種族を取り込んだとなれば、この森一帯の通常種では歯が立ちません。

 

「………えーと、聞きたくないんだけど、しょーじき聞きたくないんだけど…… 一応。オレのぼでぃに、歯、たつ? ぼりぼりばりばり食べられちゃわないよね……?? オレ……」

 

 目をうるうるさせてる。

 目はない筈なんだけど、何処となくボディに目っぽい部分がある様な感じがしていた。

 

――解。歯は立ちません。

 

「ほっ……」

 

 冗談っぽい会話になってるけど割と本気でほっとした。神様信じてない訳じゃないけど、やっぱり何度も確認したいから。

 

――尚、硬度は、牙の硬度と咬筋力が合わさったとしても、傷1つ追わせず、如何なる酸、腐蝕性のある攻撃を受けたとしても、溶けもしないので、例え飲み込まれたとしても、力は奪われる事なく、後日排泄されるだけかと。

 

「そっかそっかー。よかったよかったー…………ん? って!! はいせつって、排泄っ!? それはそれで嫌ーーー! ぜーーーったい、いーやーー!」

 

 森の中に悲鳴が響いた。

 

 その悲鳴を聞きつけられたのか、或いは最初から目をつけられていたのか判らないが、突然木の葉が舞い散ってきた。まるで、意思を持ってる様な感じだった。

 

 勿論、その気配にも気付く。だって今までモンスターとか全くおらず、ピクニック気分と言われても全然否定しない。そんな中の突然の現象だったから。

 

 

「……えっと、ぜんぜん きづけ、なかった。逃げ……推奨相手?」

 

 

――解。森の最上位存在。樹妖(ドライア…)…。

 

 

 最後まで聞く事は無かった。

 自分が聞いておいて無視する形になるのは失礼! な気もするが、仕方ない。

 

 

「いきなりそんなのこわいーーっっ! 序盤で最上位ってなに―――っ!?」

 

 

 ぴゅぴゅ―――と逃げる逃げる。

 森の大樹の枝を、木々の間をすいすいと縫うように。流石はメタルスライム。防御力に目が行きがちだったけど、やっぱり特筆すべきはスピードだ。沢山の冒険者が、どんな勇者でも一度くらいはぜーったい逃げられた事はあるだろう。

 おまけに草木生い茂った森の中での逃避行動を捕らえられるものなどいるだろうか。

 

「神様ーー逃げれるよねーー!? だってだって 言ってたもんねーー!?」

 

 情けない、と思われても良いから逃げる逃げる。逃げるが勝ち。

 

 

 

 ただ――、この時失念していた。

 

 

 

 強運、超絶運は確かに作用している。どんな強敵でも逃げ切る事が出来るだろう。

 

 だが、今回の相手は危害を加える様な害意はない。

 

 つまり敵ではないという事。そして何よりも相手は森を知り尽くしていると言う事。

 

 それらの条件が合わさった事で天性の逃げ属性スキルを持ってるアティスに追いつく事が出来たのだ。

 

 

「……どうかお逃げにならないでください」

 

 

 追いつかれてしまった。否、回り込まれてしまっていた。

 

 つまり

 

 

 

 

――アティスはにげだした。……しかし、まわりこまれてしまった。

 

 

 

 

 と言う状態。

 ただ、もう1つ失念がある。アティスは この相手の事をしっかりと聞いてなかった、と言う事。かつての記憶を揺り起こせば、簡単に連想できそうな相手だというのに。

 ちゃんと考えてたら、ここまで怯える必要もなかったかもしれないのに。

 

 頑張って逃げたのに追いつかれてしまった、回り込まれてしまったという現実に恐れおののいている様子だった。

 

 

 

「突然の接触、相すみません。わたしは樹妖精(ドライアド)のトレイニー」

「(わ― あれだ―、逃げれない相手なんだ―。きっとイベント戦なんだーーー)」

 

 

 

 



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3話 話聞かぬ、命乞い

 

 

 

「あのー、そんなに震えなくても……。危害を加えるつもりは毛頭……」

「ぷるぷるぷる、ボクわるいスライムじゃないよー……」

 

 

 緑の凄い存在が突然目の前にきたようです。

 

 賢者曰く森の最上位の存在らしい。所謂この森のボス。そんな存在(ひと)に目つけられて、いきなりバッドエンドコース気分。何処でセーブしたのか判らないけど、セーブポイントからやり直したい。割と本気で……。

 

「えっとですね? 何百年ぶりになりましょうか、光の神様と謁見する事ができ、貴方様の存在を知りまして……」

「ぷるる、ボク、いまはスライムだけど、あっ、メタルスライムだけど、にんげんになるのがゆめなんだっ」

「え、えーっと……」

 

 スキルを駆使して、逃げようとしてるのに逃げれない。神様から頂いた(厳密にはちょっと違うけど) 《超絶運》もどうやらこの存在には通用しない……。全く効かないみたいだ。

 

 

『知らなかったのか……? 最上位の存在からは逃げられない………!!』

 

 

 って聞こえた気がする。流石っ! 最上位な存在っ!

 

 ここは良いスライムネタで押し切るしかないと瞬時に悟ったよ。だって、逃げれないから。勇敢に攻勢に出る! なんて、出来ないし。ヘタレ上等! ゴマすり上等!! 

 

 

 

『こいつ、何かヤベェ。触れない方がええわ』

 

 

 

 と、相手に思わすしかない。……と言うか 思ってください! 見限ってください!

 

 堅い身体だから 攻撃はどうにか出来るかもしれないけど、……そこに目をつけられて、一生盾になれーとかされるかもしれないし。

 

 

 

「うぅ~ん、にんげんとおともだちになりたいな~。ライアンさーんっ」

「らいあんさん? とはどなたでしょうか……?」

「ぼくのとくいなのはホイミで……、や、できないや……。ごめんなさい……」

「い、いえ。その様な事で謝らなくても……」

「ぷるぷるぷる」

 

 

 

 どう? オレ、イっちゃってるでしょ? 見限って! と強く強く念じるアティス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 前も(前話でも)言ったが、もっと冷静になって、しっかりと目を凝らして、《自動魔力感知》に集中して、ちゃんと彼女を見れば、怖がるような相手じゃない、と判る筈。

 

 彼女は敵じゃなく、友好的。むしろ光の神G.O.Dの話をしているのだから寧ろ、おじいちゃん、と呼んだアティスであれば身内の話をしてくれるので安心さえ出来る筈だ。(多分)

 

 でも、アティスは未だに彼女の顔を見てない。樹妖精(ドライアド)のトレイニーの事を 緑色の怖い人。ラスボス。みたいに思えているだろう。だから、拗れてる。話が先に進まない。

 

「……仕様がないですね。えーっと、悪くないメタルなスライムさん」

「ぷるぷるぷる。なぁに~?」

「堅そうなお身体をしていますが、柔らかくなる事も可能ですよね? 流動する身体へと」

「ぷる……ぷるぷる」

「できますよねっ!」

「……………………で、き、る、よ↷」

 

 会話が成立出来たのは良かった。

 そして、アティスに普通の目が無かった事が残念だ。

 

 

 

「申し訳ありません。お連れしたい所がありますので、私に液状化した貴方を纏わせてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時は少し進み――スライムの村 テンペスト。

 

 

 ここでは、オークの軍勢についての話し合い、今後の方針を立てていた。

 何よりも驚くべき所は、その圧倒的な軍勢。それにリムルは驚きを隠せられないでいた。

 

「はぁ――――っ!? 20万―――?? 20万ものオークの軍勢がこの森に侵攻してきてるってのか?」

 

 まさに数の暴力。個の力をも容易に飲み込むであろう圧倒的な破壊の力だった。

 信じられない、と言った顔をしているのは実際に襲われた鬼人の紅丸(ベニマル)も同じ。諜報活動をし、情報を集めてきた蒼影(ソウエイ)以外は誰も信じられなかった。否、信じたくない、と言うのが本音かもしれない。

 言葉にすると簡単だが、実際に20万の豚を想像するのは億劫だから。

 

「は……。その通りでございます」

「だが、オレ達の里を襲撃したのは数千程度の筈だったが……?」

「あれは別動隊だったのだ。本隊は大河に沿って、北上している。そして本隊と別動隊の動きから予想できる合流地点はここより東の湿地帯……。つまりリザードマンの支配領域という事になります」

 

 自分たちが今いる街の位置を確認し、オークの侵攻域を見るリムル。

 そこに違和感を感じていた。

 

「(オレ達の街はターゲットに入ってないって事。……でも、それなら、オーガの里だって、本体の進路の妨げにはなっていなかった筈)……オークの目的ってなんなんだろうな」

 

 行きつく疑問はそこにある。

 オーガを襲った。だが、この街はスルーした。美味しそうな所を狙った、と言う訳だろうか? と色々と考えを張り巡らせるが、どうもリムルはしっくりこなかった様だ。

 

 そこにドワーフのカイジンが声をかける。

 

「……ふむ。オークはそもそもあまり知能の高い魔物じゃねぇ。この侵攻に、本能以外の目的があるってんなら、何がしかのバックの存在を疑うべきだろうな」

 

 オークと言う種について、リムルはそこまで詳しく知らなかった。

 何か大きな何かが、背後にいる。それが格上のオーガを襲い、滅亡の手前まで追い詰めた、と言うのなら、……そんな生半可な相手じゃない。そして、思い浮かぶのは ベニマル達と一戦交えた時に、発していた《魔人》と言う存在。

 

 いや、それよりも上。

 

 

「たとえば魔王……とかか? って、なんてな。まぁ、何の根拠もない話だ。忘れてくれ」

 

 魔王。

 その存在はリムルにとって他人事ではない。……今は亡き彼女の想いを受け継いだリムルだからこそ、強く思うのだ。シズと言うかつての人間界の英雄。……そして、それを苦しめたのが魔王レオンなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話し合いを進めていた丁度その頃。

 

「素晴らしいですね。この形態。鋼のはごろもとでも言いましょうか…… いえ、世に4種しかいない竜種の鱗を纏っているかのようです。なのに軽くて動きやすく、極上です」

「ぷるぷるぷる……」

 

 嫌な予感的中致しました。

 このまま一生防具としてこき使われるのだろうか。逃げれないのなら、戦うしかない?

 ヘタレ返上しなきゃダメ?

 

 

 

「(戦いのスキルって何かあったっけ? 賢者さん)」

 

 

 

――解。エキストラスキル 黒炎 が使用可能です。

 

「(ナニソレ。神様にそんなの貰ったっけ?)」

 

――解。洞窟内での残留魔素を纏った時に習得致しました。………世界の声として周知された筈です。

 

「(そーだっけ? あれ? 蝙蝠たちに襲われてたとき、かな)」

 

――はぁ。

 

「(!! あ、呆れないでよ! 必死なんだから! うぅ……、オレ、どうしたら良い?その黒炎使った方が良いかな?? ちょっと頭のおかしなメタルスライム~ を演じてたら、いらんっ、って放られると思ったのに、はぐれメタルにされて、上手い事 服にされちゃったし……)」

 

――解。黒炎の使用は推奨いたしません。このままでも問題ないと思われますので。危害を加えられる可能性0%。

 

「(えー、だってそりゃ、今オレ防具だもん。……自分で自分を傷つける様なもんじゃん? うぅ……この窮地を逃れる方法は無いかな? 緑のひと、最上位なひとなんだよね……? きっと、変身は5~7回は残してて、手が捥がれ、頭捥がれ、更に生えてきて、どんどんゴツクなってて、この世を恨んで~ って………。あぁ…… あたまのなかで、あのBGMがながれる……。最後の戦い、始まる……。どう、すれば……)」

 

――解。流動する身体、流体多結晶合金の状態でも触覚は問題ない筈です。前方面に触覚を集中させると判明します。視覚での方が早いと思われますが、身に纏われている以上、触覚の方が早いかと。

 

「(ナニソレ……? 触覚?)」

 

 

 

――解。纏っている者を、正確(・・)に把握する事、それが解決の糸口です。

 

 

 確かに、このはぐれメタルの身体は余すことなく感覚は行き渡ってる。五感、多分味覚は無理だと思うけど。

 

 

 

「(え、えーっと、やってみよう、かな。んんーーー、前面に前面に……)」

 

 ぷるんっ、とした体をゆっくりと動かした。

 勿論バレない様に、細心の注意を払って、ゆっくりとストーキングする様に。

 身体の扱いはそれなりに慣れてきたつもりだったので、何とか出来た。

 

 

「(う、う~ん…… あれ? 身体ってイメージしてた程大きくない? ゴツイのを想像してたんだけど……、頭二つあるとか……。ま、まぁ あんまり大きすぎると、オレの身体の容量オーバーしちゃいそうだし……。どれだけ広がるかわかんない、か。 んん、それより、これ 多分肩だよねー、えとえと、これ鎖骨。人間っぽい? ん? んん? …………んんん!??)」

 

 肩、そして鎖骨、と人型であろう身体の中心部へと感覚が張っていく。と言うかよく判らないがメチャクチャ感度が上がったみたいで、身体の輪郭が手に取る様に判る。

 

 ぽよんっ、ぽよんっ、と、スライムの身体に負けないくらい……。いや、堅いスライムと比べるなど烏滸がましい! はぐれメタルなぼでぃ…… いなっ!! もっともっと心地良い感覚!

 

「(ちょちょちょちょ、こ、これって……!! これって、なにっ、この柔らかいの、なにっっ!?)」

 

 

――解。樹妖精(ドライアド)。個体名:トレイニーの胸部です。

 

 

 別に賢者に聞いた訳ではない。でも、気を聞かせてくれたのか、しっかりと、淡泊に答えてくれた。

 

 ちゃんと認識できたので、認識してしまったので、超精密な動きなんかできる訳がない。一気に解除された様に、うねうねと身体を動かしてしまった。そのおかげで、より この人の身体に密着をしてしまう結果になって、さぁ大変。

 

 

「おぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱおぱーーーーーーっっっ!!??」

「っ、と。どうしました? もう少しで目的地へと付きます。もう暫し我慢していただけると助かります。……そこで全てお話しますので」

 

 

 

 告…… はぐれメタルな身体が変色……チェリースライム色へと進化。

 名前も生前もチェリーがついてる。わーい、お揃いだ――。

 

 

 

「お、お、お、おんなのひとで ありんしたか!?」

「ありんし? ……はい。私は、樹妖精(ドライアド)は性別は雌。人族で言う女性のみに構成されてますよ」

「ほわっわわっ!! え、ええっと、わわ、お、オレっ、なんで、こんなひっついて……っ! ご、ごめんなさーー」

「………?? 纏わる様に、とお願いしたのは私の方ですよ。……ああ、もう到着しましたので。向かいます」

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと取り乱してしまったけれど、大丈夫です。感動に胸を打たれてるだけです。

 

 女の人の身体の感触……、なんと柔らかい事でしょーか。こんな柔らかさ…… 社会人になって一度だけ、たった一度だけ体験したコンパニオンさんのパフパフ、以来じゃのぅ……。

 

 

 

 

 もーちょっと心の準備をさせてくれたら、『FOOOOOOOOOOOOO!!』っと歓声上げたのに。もうそれも終わりそうで、残念だ。

 

 

 

 

 ぼふんっ! と舞い散る花びらと共に、鮮やかに華麗に演出を決めて、色々と怖いだろう、と予想して半ばビクビクしてたスライムの領土、その中心へと入ってしまった。

 

 

 

 

「―――初めまして、“魔物を統べる者”及びその従者たる皆さま。そして、突然の訪問相すみません。わたくしは樹妖精(ドライアド)のトレイニーと申します。どうぞ……お見知りおきください」

 

 

 流石は最上位な存在。

 こんな上位種やらドラゴンを取り込んだ? スライムやらがいる中に入っても威風堂々としてた。何とか持ち直したのに、また心臓?バクバクいってる。(気がする)

 

 

 

「オレはリムル=テンペストです。初めまして、トレイニーさん」

 

 

 そんなトレイニーに笑顔で挨拶してる女の子がいた。固まってる人が多い中、ただ1人だけ、笑顔で挨拶。

 

「(うわぁ……、ぜーーったい、あの子も凄い存在なんだろうなぁ……。判るかな? あの子、どんな子?)」

 

 

――解。スライム。個有名:リムル=テンペスト。この集落の長、そして樹妖精(ドライアド)が申した通り、“魔物を統べる者”です。

 

 

 

 

 

「ええええっ! この子がっ!? この子なのっ!? マジっ!?」

 

「「「ん?」」」

 

 

 

 多分、視線が一気に自分に集中したんだと思う。最悪の展開。ただでさえ また取り乱しそう。

 

 だって、皆の見てる所……トレイニー様! であって、違うかったから。オレの方を見てる、気がするから。……気のせいなんかじゃないから。

 

 

 

「んーー、んん?」

 

 あの水色の髪の女の子? がゆっくり近づいてきた。気が付いてるのかもしれない。だって、最強のスライムさんだから。

 

 

 それに、なんか怖い人たちの視線も集まってる。頭に角があって……、明らかに纏ってるオーラが違ってて……、アレが前に聞いたオーガの上位種 鬼人だと判る。

 

 

 

「(……あらヤダ。現実逃避したい。睨まれただけでちびっちゃう。……って、ダメダメダメ! トレイニー様にかかるっ!!)」 

 

 

 なので、必死にアティスは念じに念じた。己に暗示をかけるかの様に。

 

 

 

 

 

「え、えーと。トレイニーさん? 今日はいったいなんのご用向きで……、と言うのと 今の声は……?」

「(……オレは、鎖帷子(くさりかたびら)鎖帷子(くさりかたびら)、いやいや、水の羽衣(はごろも)水の羽衣(はごろも)…… いやいや違うか、メタル羽衣(はごろも)……?)」

 

 

 



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4話 光の神からの贈り物

 

 水色のスライム、リムルは考える。

 

 

 トレイニーにどういう要件でここに来たのか? という疑問より、先ほどの正体不明の声についてだ。

 何故だか判らないが、あの正体不明の声の方が、妙に気にかかっていた。

 

「(今のって、絶対この人の声……じゃないよな? と言うか、どっから声出た? なんでか判らんけど、すっごく気になる……。んー、なんでだろ?)」

 

 それは、全く脈絡もなく、文脈も合わないセリフが突然聞こえてきたから。

 

 

 確か、『マジ?』とか『ええええっ!』とか、『この子なの?』とかがだ。

 

 

 大賢者に聞いてみると、このトレイニーと言うお姉ちゃんは、森の最上位の存在であり、《樹人族(トレント)の守護者》または《ジュラの大森林の管理者》とも呼ばれている存在。更に周りの話に耳を傾けてみれば、なんでも 最後に姿を現されたのは数十年も前、らしい。凄く珍しい存在。

 

 例えて言ってみれば 女社長、みたいなものだと思った。

 

 そんな階級が上なお人が下々の皆さん相手に『マジ?』だの『ええええっ!』だの言うとは思えない。外観から見ても、そんな風に思えないし、想いたくもない。

 

 つまり、結論付けると 今のはこのお姉ちゃんじゃない。

 

 でも、不思議な装備みたいなのがこの世界にあったっておかしくない。喋る剣、みたいなのがあったって全然不思議じゃない。なので 普通はそこまで追求しなくても良い、と思うんだけど、凄く気になる。

 

「(大賢者。今の声の主、判るか?)」

 

――解。声の主は 樹妖精(ドライアド)が今、身に着けているモノ、と推察いたします。

 

「(身に着けているモノ ……あの羽衣? ほんとに?)」

 

――告。現段階において、これ以上の解析不能。捕食者を使用すれば或いは可能かと。

 

「(……またぁ? っていうか、いきなりお姉ちゃんの着てるものを捕食しろなんて無理に決まってるだろ! ………と言うより、なんで出来ないの? トレイニーさんが妨害してるとか?)」

 

――解。違います。……断片的にではありますが一部判明。超高濃度、凝縮された魔素の残滓を確認。残滓であるのにも関わらず、魔素量(エネルギー)測定不可能。残滓の輝きから推察し 光と断定。……故に推察の域を超えませんが、光の神の守りにより、侵入不可となっていると思われます。

 

「(ええ! ひ、ひかりのかみ?? ……なんかヤバい感じなのが出てきたな、それ)」

 

 樹妖精(ドライアド)、、つまり木の精霊さんが存在するのだから、その更に上、神様の様な存在がいたとしても不思議じゃない……けれど、まさかこのタイミングでそんな存在の片鱗を聞こうなどとは思いもしなかった。

 ただでさえ、トレイニーの出現で何十年ぶりだーとざわついているというのに、更にその上位にもなれば、何百……下手したら、この世界に降りた事のない伝説とも言われる相手かもしれないのだから。

 

 何より、想ったのが 大賢者を使って解析しようとした事が、不敬ととられるのではないか? と言う不安だ。

 

 あの声に関しては、自分以外にも聞いていて、不審に思っている者たちが多い。特にベニマルやシオンに関しては、やや臨戦態勢気味。

 

 

「(追及するのが正しいのか、下手に刺激せず、ここは抑えた方が良いのか……)」

 

 

 

 

 

 時間にして、数秒にも満たない程だが、リムルは自問自答を繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メタルなスライム、アティスは考える。

 

 序盤の初見殺しより酷い大ボス級、と勘違いしてた。

 最上位な存在の方は樹妖精(ドライアド)のトレイニーさん。それも美しいお姉さんだと判明したから安心できた? ………のも束の間。

 この辺でも最強(想像)のスライム軍の中に飛び込み、その主力部隊に囲まれて、……さぁ大変。

 

 

「(羽衣羽衣羽衣…………ボク羽衣)」

 

 

 だから、もう装備品として生きていこう……。と自己暗示する勢いで念じ、さっきの失言を無かった事に。発言そのものを無かった事にしようと頑張っている。

 もの凄く頑張ってる。

 

 一生装備として使われたりするんだーー、と悲痛な想い、そして回避しようと おかしいメタルスライムまで演技したのに。大根役者でもそれなりに頑張れた! と褒めたいくらい頑張ったのに。それも忘れて。

 きっと、そう踏み切れたのはトレイニーの存在があったからだろう。

 

 

――……さっきまでの事は忘れて、さぁさぁ今は、ただの着物、供物、……トレイニー様、我を捧ぎましょう。

 

 

 装備として頑張れば、見逃してくれるかもしれない。四六時中ずーっと着ている訳でもないだろうし(それはそれで嬉しいかもしれないけど……)、きっと自由にしてくれるかもしれないから。

 

「(………賢者さん。ボク、がんばって メタルな羽衣になれてる??)」

 

――解。何もせず動かなければ 立派な羽衣です。

 

「(………そうっ!? よっしゃーーっ!!)」

 

――……そこは喜んで良いのでしょうか?

 

 簡単な応答、回答くらいしか出来ない筈なのに、賢者の感性がやや上がってきた気がする。

 

 

 

――告。スキル《相談者(ソウダンシャ)》を獲得。エキストラスキル《賢者》と統合。

 

 

 

 賢者の性能? が上がったらしい。完璧とはいいがたいが、より人間味を増したナビゲーターとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな色んな意味で同族と言っていいかもしれないスライム達の思考、其々の思惑をよそに、トレイニーは一歩前に出た。

 

「本日はお願いがあって罷り越しました……が、まずはこちらのご説明を優先した方が宜しいですね」

 

 スルっ、と纏った衣服? を脱ごうとするトレイニー。確かに下にまだ羽織ってるものがあるとはいえ、まさかのストリップショーに目の前のスライム驚愕。脱ごうとされてるの判ったはぐれメタル驚愕。

 

「えええっ! ちょ、ちょっと脱いじゃ駄目ですって!!」

「そーですそーですっ! 脱がないでーーーっ!!」

 

 殆ど同時に言葉を発した。アティスに関しては折角暗示が成功しかけてたのに、台無し。……成功したらそれはそれで自我が崩壊する一歩手前だったかもしれないが。

 

 因みにスライムたち、声色は正直似ている。そんな2人が同時に発した事でステレオ感がこの場に響いて更に訝しむ人たちが増えた。発生源には、場にはトレイニーとリムルしかいないというのに。

 

 トレイニーの存在を知っていて、それにリムルの手前、下手な行動はとらないが、それでも違和感バリバリだから。

 

 

「誤解なさらずに。皆さんもお気づきでしょう。私が纏っているこのお方は、決して羽衣などではありません」

 

 呆気にとられる面々を余所に、マイペースに説明を続けるトレイニー。

 

「訳がありまして、今このようなお姿になっておられますが、この方は“魔物を総べる者”リムル=テンペストの同族。アティス=レイ様にございます」

 

 トレイニーがまるで、神様に捧げる……、と言った姿勢で両手で大事に羽衣をもって、上に掲げていた。

 更に、自身の身に纏っている森の輝き? みたいな光をキラキラと羽衣周辺にちりばめて、と演出抜群。

 

 当の羽衣=アティスはと言うと。

 

 怒涛の展開についていける訳もなく、トレイニーが一言一言発し、その言葉の意味が自分に当てはまるのを感じる度に、びくんっ! びくんっっ! と反応してしまうから、もう皆にただの羽衣じゃない、と言うのがバレてしまっていた。

 

 

 突然、同族紹介されたリムルはと言うと。

 

「へ? ……オレの同族?」

 

 いきなり何を言い出すの? と混乱したのと同時に、妙な胸騒ぎと知りたい、と言う欲求。なんでそんなに気になったのか、その答えが理解できた。

 どうしてなのかは判らない。大賢者でも判らなかったのだから、自分が判る筈もない。なのに、なんでか反応した。……つまり、同族だから反応できたのだ。

 

 

「トレイニーさん。それは本当なのか? その羽衣(さっきから動いてるし、羽衣とはもう思ってないけど)が?」

「はい。その通りですよ」

 

 トレイニーは素晴らしい笑顔でリムルに答えた。

 それを聞いてリムルも何だか笑顔になる。

 

 

 そして、リムルを取り巻く面々には少々衝撃が走る。

 

 

 リムルはスライムでありながらも圧倒的な力と魔素量を持ち、彗星の如く現れ、瞬く間に複数の種族を統一した偉人。魔物の主。魔物を総べる者。つまり、皆のボスだ。

 

 唯一無二、と思っていたお方にまさかの同族がいたとなれば、驚きは隠せられないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな周囲の反応を余所に混乱していたアティスは正気を取り戻していた。

 

 

「(―――すとぉぉぉっぷっ! え、えと、えとえと、賢者さんっ! トレイニーさんとだけ、念話! できますですかっ!? できれば 体感時間圧縮、超圧縮! いつまでも喋れるよーに!!)」

 

――解。可能です。実行いたしますか? YES/NO

 

 

『イエスっ! とと、いけるのかな!? トレイニーさーーん! 聞こえますか? 応答してくださいっ! あ、出来れば 皆さんに判らないように!』

『はい。聞こえておりますよ』

 

 意外にも直ぐに返事が返ってきた。

 皆の前で分けわからず披露されて、正直悪意の様なのを感じられずにはいられなかったアティスだったのだが、安心できた。ほんのちょっぴり。

 

 

『突然なに言い出すのですかーー! ぼ、ボクはただのスライム。いえいえ、メタルなスライムと言ったでしょっ! それにスライムとメタルスライムって 同じ……と言えなくもないかもですけど、違うでしょー!』

『漸く貴方様とお話できますね。心よりお喜び申し上げます』

『いえいえ。こちらこそです。トレイニーさんっ! ……じゃなーく! それはボクとしても嬉しいですっ! でもでも、なんでこんな魔物さんたちの中心でボク、掲げられちゃってるんですかっ! それに、ツッコまない様にしてましたけど、どーして、ボクに敬語で話すんですか!??』

 

 そう、アティスはそこにも正直気付いていた。ずっと怖がってて、どうにか逃げれないかを考えてて、トレイニーの事が判って、今度はこっちが従う気満々にしてて……、つまり 完全な上。最上位だから当たり前だが、媚び諂うつもりだったのに、トレイニーの方が敬意を払ってるんだ。

 

 そんなパニックなアティスとは対照的に、トレイニーは落ち着いた様子で、それでいて喜んでいる。話せるのが嬉しい、と言わんばかりな声色で続けた。

 

『本当は出会ったあの時に全てを説明致したかったのですが、アティス様がお話を聞いてくださいませんでしたので……』

『はぅ……』

 

 最後の方だけやや悲しそうだった。

 そう。混乱しまくってて、最上位な存在。としか認識してなかった時の事だ。……ほんのちょっと前の出来事。正直凄く恥ずかしいかもしれません。

 

『今は落ち着いてお話できますね? この念話はどうやら 時間を気にせず行える様ですので』

『あ、ハイ。……オネガイイタシマス』

『光の神G.O.D様の事は、ご存じでしょう?』

『あ、勿論。おじいちゃ……。オレに色々と世話をしてくれた恩人。いえ、恩神様です』

『はい。神様に、その御方に あなた様を宜しく、と頼まれたのです。……魔物を総べる者、リムル=テンペストの集落に溶け込めるように、と』

『……へ?』

 

 トレイニーさんの説明は更に続いた。

 

 なんでも、光の神様は あの洞窟で別れた後も地上に滞在してて、樹妖精(ドライアド)のトレイニーと接触。

 そして、神様も言っていた様に、この地上に降臨するのは滅多にない。異例、と言っていいらしく、図らずも謁見出来た事に感激したトレイニーは その切っ掛けを与えてくれたアティスの事を崇拝したとの事だ。

 

 

『……光のおじいちゃん。ほんと色々とありがとう、だよね……。こんなオレに』

 

 

 話を聞いてて、じーんっ、と感激するアティス。愚痴ばっかり言ってた気がするのに、こんなに優しくして貰えるんだから。

 でも、そんな感激も吹っ飛んだ。

 

『えっとですね。最初は『首に縄付けて、運んでやれ』と申されました。『十中八九ヘタレるじゃろうから、問答無用で スライムの集落に放り込んでやれ』と。後『無敵の身体持って癖に怖がるな、けしからん。さっさと爆心地にもっと近づかんかい』とも言付かっております。そして、最後に『見守っとるぞー』……と』

『……………………』

『あの御方の命令……とはいえ、流石にそこまで強引には、私としても抵抗がありましたので 羽衣状でお連れした次第です』

 

 おじいちゃんは、きっと孫の様に思ってくれてるんだろー、と思ってたのに、何だか今は、ちょっと違う。

 

 孫は孫でも、前の世界では超人気だった漫画に、海賊が主人公な漫画に出てくるおじいちゃんと孫な関係に思えた。

 

 そして、アティスは何だか幼児化してしまったのだろうか。念話上の事なのに、まるで大泣きしている様に見える。

 

 

 

『さぁ、期待を背に、頑張りましょう! アティス様!』

『うわぁぁんっっ! おじいちゃんのっっっ、違うっ! G.O.Dのばかーーーっ!』

 

 



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5話 下っ端から

 

「リムルさま~ 次はこちらを! 次はこちらをお召しに~!」

「いえいえ、こっちの方が可愛らしいでございますよー! きっととても似合います!」

「「「きゃーーーっ、リムルさま~!」」」

 

 

 今揉みくちゃにされてるのは、この最強スライム軍のトップで領主で盟主で……兎も角本当に凄い人、じゃなくスライム。

 

 でも、今はそんな気配が正直霞んでいってる気がする。

 だって、凄く可愛らしい女の子たちに今オモチャにされちゃってるから。

 

 でも、それが良い。とても楽しそうだと思うし、見ていて仄々とするから。とても和む。殺伐したスタートだったから嬉しささえ出る。

 

「いやぁ……ほんと色々と大変ですねー? リムルさん。でも、とても楽しそうで何よりです!」

「スライムスマイルで他人事の様に言うな。楽しそうっていうなら、代わってやるぞ? 次お前な」

「えっ!?」

 

 後ろで静観してたら、まさかのリムルからのバトンパスだった。

 他人事の様に言うな、とリムルから言われたが、間違いなく他人事なのだけれど。

 

「同族の性」

「いやいや。オレ、メタルスライムですから! それに、リムルさんのよーな素敵な身体持ってませんし? お色直し~の様には出来ないかと!」

「その辺は気にするな。シュナがしっかりと見繕ってくれてるぞ。スライムぼでぃでも安心、可愛らしい羽織だ」

「そうですっ♪ アティス様のも沢山ありますよっ、気にしないでくださいね?」

「ええっ!?」

 

 綺麗な可愛い笑顔で迫ってくるのは鬼人の朱菜(シュナ)

 

 

 勿論、私も可愛らしい女の子たちに囲まれるのは嬉しいですよ? いや、本当に嬉しいですし、とても照れます。直ぐ銀色な身体が赤く染まって、チェリースライム化しそうな勢いです。

 

 でも、やっぱり慣れてないからなのか、とてもドキドキし過ぎて心労がすごいんです。

 

 転生前プレイボーイだったら……せめて、夜のお店誘われた時、頑張ってスルーせずに、乗っていれば…… ここでどんなに良い想いが出来た事か。

 

 

 その点、同郷のリムルさんは本当に凄い。やいのやいの言いつつ、ちゃんと楽しんでて、女の子たちも満足してて…… いやぁ、無性生物になった自分ですが、元男として見習いたい所存です。

 

 ですが、現在ハードルが高いのは紛れもない事実。揉みくちゃにされるイメージは湧いても、嬉々と参加する度胸は無いので(まぁ、ヘタレなので)……。

 

 

「……これにて ドロンしますっ!」

「うわっ! こら、はぐれ化して逃げるなアティス!」

 

 しゅるんっ、と持ち前の素早さを利用して、ぴょんぴょんと頑張って逃げる。

 

 因みに、そんな逃げるのを追いかけるのも彼女たちにとっては楽しいイベントの様です。

 

「シオンっ、そちらに行きましたよー」

「お任せください姫様! でも、最初にアティス様を捕まえた人からですからねっ? 負けても文句なしですからねー」

「ふふ。負けるつもりはありませんよー」

 

 

 

 

 

 

 この様に、しっかりとこの街に受け入れられたアティス。

 最初の頃がウソの様だ。

 

 しかし、豚頭帝(オークロード)の一件があるというのに、随分と呑気な気もする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間を遡って、トレイニーを含めた会合時の事。

 

 トレイニーの物凄い無茶ぶり。否、光の神経由のキラーパスを受け取った(取らされた?)アティスは 皆から注目を一気に集めていた。

 

 リムルと同族と紹介された時から、威圧される様な気配。怖い気配は和らいだのだが、やはり上位種のオーラと言うものはやっぱり凄まじい。ただ見られてるだけなのに、特に鬼の皆さんからは 燃える様なオーラを感じた。でも もう気にしない。

 

 衣服のままでの会話はどうかと思うので、意を決して。頑張って覚悟を決めた。

 

 もう何度目になるだろうか判らないが、いつものネタで勝負。ネタが少ないけれど、これしか思いつかなかった。

 擬態を解いて スライム形態……つまりメタルスライムになって自己紹介。

 

『ぷるぷるぷる。ボクわるいメタルスライムじゃないよー』

『ぶふっっ!!!』

『ん? えっ?』

 

 渾身のスライムネタに気付いてくれたのはリムル本人だけだった。他の皆は 何だか腹を抱えて笑いをこらえてるリムルが心配みたいで、側近にいた女性シオンは気遣っていた程だった。

 

 それだけのやり取りでよく理解できた。

 

『(悪くないスライムネタ知ってるって事は、……彼女もオレと同じ転生者なのかな?)』

 

 いつからこの世界に来たのかは判らないが、それでも トレイニーが言っていた同族、と言う意味が本当の意味での事だと分かって更に安心できた。

 

 

『うんうん、そーかそーか。そうだよな。ぜんぜん悪くない! キミは悪くないスライム…… メタルスライムだ! オレ達は間違いなく同族だなっ! 皆も良くしてやってくれ! ほれ、こうやって並んでみれば、間違いないだろう?』

 

 

 ぷるんっ、と女の子な姿だったリムルは、瞬く間に水色の柔らかく、触り心地良さそうなスライムへと変化した。

 

 2人並んで 水色と銀色のスライム。まさに瓜二つ。……まぁ、デザイン的にも簡単だから。

 

 その後、ここにいる皆も徐々に友好的に接してくれた。リムルと一緒、同族であるという事、そして何よりもリムルが笑顔、スライムスマイルで接してくれたから。

 

 

『では、アティス様の事 宜しくお願いいたしますね? リムル=テンペスト様』

『了解だ。トレイニーさん。と言うかさ、引き合わせてくれてありがとう、と言いたいよ』

 

 ひゅるん、と人型に戻るリルム。そしてアティスの頭をそっと撫でた。

 

『まさかオレ以外にも スライム族? がいるなんて思ってなかったし』

『ふふ。それはよかったです。では、アティス様も、宜しいですよね?』

『……はい。勿論ですよー』

 

 もう、トレイニーに確認されるまでもなかった。

 大歓迎ムードが出てる所で断る様な事はしないから。

 

 それに何よりリムルに理由はあった。初対面であるのにここまで友好的に接してくれるのだから。

 

 リムルには最初は物凄く怖いイメージがあった。何せ竜を取り込み、鬼を降し、最強の座にいる最強生物! と思って勝手に盛り上がってしまっていたんだ。

 

 勿論、それは大いに反省。

 

 よく考えたらトレイニーの時もそうだ。なのでしっかりしよう、と思う。

 

 

 そして、この世界は剣と魔法の世界。1人で怖がって、1人でずっと逃げ回っていても、絶望的な未来しかない。なら、こうやって迎えてくれるひとたちの元で頑張るしかない。

 

 

『腹くくるのが遅いわい。自分をもっと信じるんじゃ。……この儂が言うのじゃぞ?』

 

 

 とまた激が飛んだ気がする。

 

 うん。この場所で頑張っていくしかない。生きる為に。そして孤独にならない為に。

 

 アティスは、メタルなボディを変形。変体化の応用で、手を二つ作ってぱちんっ、と叩いた。

 

 

『トレイニーさんからの紹介でもありましたが、改めてアティスです。役に立てる事は正直 少ないと思います。でも、精いっぱい頑張りますのでよろしくお願いしますっ』

 

 

 ぷるんっ、と今回初めて メタルなボディを普通のスライムの様に動かせる事が出来た。

 なぜだろう? ちょっと試した事はあったけれど、メタルボディはやっぱり堅くて、はぐれメタル状態じゃないと出来なかったのに。

 

 何だか、リムルを見てたら……出来る気がしたんだ。

 

『どうしてだろ?』

 

 って唸ってたら、賢者さんが教えてくれた。 

 

 

 

――告。ユニークスキル《物真似(モノマネ)》の効果によるものです。

 

 

 何でも光の神G.O.Dに頂いたスキルの中の1つらしい。全然覚えてなかったアティス。賢者さんに呆れられたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその後、何だかリムルより口調が愛くるしい、という理由で シオンに抱きかかえられてた。『堅いし、持ちにくいでしょ?』 と言ったら笑顔で否定されて、更に頬擦りまで。……また メタルな身体が、若干チェリースライム化 したのは言うまでもない話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間はまたもとに戻る。

 

「アティスさま? もう逃げちゃダメですよー?」

「……はい。もう 逃げないです。降参です。シュナさん」

 

 結局シュナに捕まってしまった。抱きかかえられて、頭をナデナデされて、言い聞かされて。観念しない訳はない。シオンやゴブリナ達が悔しそうにしてたけど。

 

 その後は綺麗にはぐれメタルぼでぃにデコレーションしてくれた。ピンク色のリボンが決め手との事。

 

 

 因みに、リムルはずーっとにやにやしてた。

 

 

『リムル様、今よろしいですか?』

「おっ、ソウエイか。うーん、名残惜しい気もするけど、良いよ。はい、皆今日は終わり。また今度なー」

 

 号令で 皆 リムルが言う様に名残惜しそうにしつつ、アティスを解放した。

 

 

「ふぅ……。慣れないです。すんごく役得だと判ってるんです。皆、いろいろと柔らかくって、温かくって、……ほんと、判ってるんです。けど……、もーちょっと楽しめる胆力が欲しいです……。肉食系スライムになっちゃいたいです!」

「はは。オレは捕食者もってるし ある意味肉食系かもなー。……んでも、アティスが突然キャラ変したら、心配されるかもしれないぞ?」

「ぅ……。それは確かに」

 

 するする~っと、はぐれメタル状態のアティスはリムルの隣に座って メタルスライム化した。

 

「リザードマンの所に行ってるソウエイさんからですか?」

「おう。もう終わったよ。話。内容はちゃんと側近の1人であるアティスにも説明しとかないと、だからな」

「(側近とは、何だか恐れ多い……)あ、そうでしたね。声に出さなくても出来るんでしたね」

「そう。念話な。アティスも出来るだろ? っというか、そろそろオレに対しての敬語は取ってくれよ」

「いえいえ。ここの主はリムルさんですから。余計に取れませんって」

 

 

 同族、と言う事は生まれと育ち、そして前世は違うかもしれないが、兄弟の様なものだとリムルは思っていた。だからこそ、アティスに普通に話せ~と、何度か言っているけれど、アティス本人が中々頷かない。

 

 日も浅いし、何より、先ほど言った通り主はリムルだから、と言って。

 

「ったく。まぁ それはそれとしてだ。会談の段取りが決まった。7日後だ」

「1週間後ですか……。つまり、準備期間って事ですね」

「そう。準備以外にも移動時間とか色々と考慮した結論だな。さてさて、そこでだ。アティス君」

「………わぁー、とっても良い笑みですねー(棒)」

 

 顔をぐいっ、と近づけて笑うリムル。そしてその笑顔は あまり良いものではない事。よくない事の前触れである事を、こんな短い期間ででも理解しだしたアティス。

 そして予想通りだった。

 

「時間は多いとは言えないし、早速 稽古だ。ハクロウには話を通してる」

「うへぇ……、やっぱり。でも、ほんとにするんですか?」

「トレイニーさんからも言われてるし。ほれ、性根叩き直してやってくれ! と」

「そ、そこまで言ってないでしょ、絶対! それにオレ、人型になれないんですから、剣術指南とか無理あるでしょ!」

「それもそっか。修行や師匠、って言えばハクロウのイメージが強くてな」

「たしかに、ハクロウさんのイメージって そんな感じですけど………」

 

 ハクロウとは、鬼人のまだまだ若さが残ってるお爺ちゃん、と言った印象。落ち着いていて優しそうな表情をしてるんだけれど、身のこなしとか隙が全く見えない、と言うのか、所謂達人! な感じがする。だから、そんな人に稽古つけて貰ったら強くなれそうだけど、地獄の特訓なイメージバリバリだ。

 

 でも、驚くことなかれ。色々と愚痴愚痴言ってるけれど、そう言う系でのきついのには慣れてる! ヘタレでも出来るって所を、社畜根性ってヤツを見せてやる! って事で。

 

 

 

 

「じゃあ、最初はやっぱりオレとだな。色々とスキル持ってるって話だし、見てやるよ」

「わ、ほんとですか? リムルさん直々?」

「おう! ……って、あれ? 何だかやる気あるっぽい? 何だかんだと最初は拒否すると思ったんだけど」

「いえいえ、下っ端ですし。精いっぱい頑張らせてもらいますよー。それに、最初に皆の前で宣誓しましたから」

 

 



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6話 恥ずかしいオーラ

 

「お待ちしておりましたリムル様。アティス様。出撃用の武具の準備、整っております」

 

 

 

 鬼人クロベエと伝説の鍛冶師と名高いカイジン、ガルムの合作。そして最高傑作。

 

 格好良い……といつの間にか ウットリと見つめていたアティス。

 リムルもにやっ、と笑っていた。

 

「……へぇ。いいじゃないか」

「ああ。これが旦那の分、そして、あいつがアティス殿の分だ」

 

 カイジンがそっと差し出した。中でも格好良い! と思ってた、

 柄に部分に銀の装飾が施されている刀。日本刀のような形状の武器。

 

「わぁ……。格好良いです。ありがとうございますっ!」

 

 ひょこっ、とメタルスライム状態で器用に受け取った。

 剣など使える訳ないでしょ? とハクロウとの修行を拒んでた筈だったのに、剣をすっかり気に入っていた様だ。

 

 勿論、理由がある。剣が格好いい、と言う理由以外にも。――使えるように(・・・)なったからだ。

 

 

 

 

「さてさて、出発前にお披露目式だ。ほーれ、アティス」

 

 リムルは ぷるんっ、っと身体を震わせた後、人型へと変化。そして、指示を送ったのだが、反応は一切なし。

 なので リムルは ちらっ、とアティスを見る。どうやら 話しを聞いてなかったのだろう。いつまでもいつまでも、ただただウットリと刀を掲げていた。

 

 まるで伝説の聖剣? でも掲げているかの様に。

 

「ふふっ、わー格好良いなー……。大剣豪に、オレはなるっ! って感じかな? かな? 3本使ってみようかな?」

 

 ひょい、ひょい、と本当に器用に剣を持ちなおしたり、鞘から抜いてみたり。スライムボディの扱い方は限りなく満点だ、と評価したいが今は違う。ので、リムルはアティスの元へ。

 

「コラコラ。無視すんな」

「あたっ!」

 

 リムルは、ぱかんっ! とアティスの頭を引っぱたく。……掌がじーんっ、と痺れた。

 

「痛いとか気のせいだろ? オレの手が痺れたぞ」

「でも、いきなりは酷いです……。ビックリするんですから。それでどうしました? リムルさん」

「お披露目式。さっさとする。師匠命令」

「おひろ……、あっ、そうでしたね。判りました」

 

 場にいる全員がきょとんっ、としていた。いったい何が行われるのか? と。

 でも、その疑問は直ぐに解消される。リムルの隣にいたアティスの身体が変化した。堅い身体がグネグネと動き、体積が明らかに増えて……そして、見覚えのある姿へと変化。

 

 

 

「え……っ?」

「あれ? リムル、さま?」

 

 

 

 そう、アティスの身体はリムルの姿へと変化したのだ。

 でも、やや違いがある。まず、髪の色がリムルが水色に対して、アティスはそのスライムのボディを象徴する様に鮮やかな銀色。そして、身長がリムルよりやや小さい。ぱっと見は判りづらいけど、横で並んでみたら一目瞭然だった。

 

「アティスのは、オレのと違って喰って解析、擬態をする必要は無いみたいでな。便利なもんだ」

 

 リムルが簡単に皆に説明した。

 一緒にと見てあげた、つまり修行した過程で、アティスのスキルが色々と判明した。

 

 アティスのユニークスキルの1つ《物真似(モノマネ)》は、相対する対象者のスキル、外見を真似る事が出来る。正し、スキルに関しては約8割程度までしか出来ない。故に、強大な相手を真似てそのまま倒す! みたいな事は出来ず、オリジナルに勝つには心もとないスキル。

 だが、使い方次第で応用が利きまくる極めて便利な能力だと、リムルは勿論、リムルのスキル大賢者まで太鼓判だった。

 勿論、アティスの中の賢者も同じく。

 

「リムルさんは、オレの事を同族で、……兄弟だと呼んでくれました。それと姿を継承する事も許してくださいました。なので、オレが真似るのはリムルさんの姿で固定しましたので。暫くは混乱しちゃうかもですが、髪の色で判断してくれれば。……あっ、勿論 いたずらなんかしませんよ? リムルさんに提案されましたが」

「よけーな事言わない」

「いたっ!」

 

 ニコっと笑うアティスとリムル。

 そして、中々理解が追いついていないのか、ちょっと固まってる面々。

 

「ほら、やっぱりビックリさせちゃったみたいですよ。リムルさん。出来た当初に言った方がやっぱり良かったんじゃないですかね?」

「いやいや。あの時にお披露目なんかしてたら……」

 

 リムルが お披露目式を早めたらどうなっていたか、の予測説明をしようとしてたその時。

 

 

 

「きゃーー! かわいらしいですっ!」

「ほんとですっ、アティス様。すっごく可愛いですっ!!」

「わぷっ!??」

 

 シュナとシオンに抱きつかれた。

 揉みくちゃにされて、アティスは、2人のスライムにも負けない柔らかなボディに埋もれていった。

 

「こうなるだろ? そんでもって、折角の修行期間がぜーんぶおじゃんになる可能性大だ」

「成る程……。だから、この出発ギリギリに、と?」

「ああ。もう出発しないと 時間が延びる一方だし、それに、アレは出発道中でも出来るだろ?」

「ほほほ。確かに。……ですが、少なからず妬くのではありませんか? アティス様を見ていると。お2人を取られてしまった、と」

 

 身体いっぱいでアティスを愛でる2人を見て、ハクロウがリムルに告げる。

 

 でも、リムルは涼しい顔を、そして笑顔だった。図星、とかはなさそうだった。そもそも、リムルはシュナやシオンに名を与え、鬼人にしたその日から、殆ど毎日行われているから、ちょっぴり代わってくれる? アティスがありがたいのかもしれない。そして、それ以上に兄弟が出来た事に嬉しいのかもしれない。

 

 

 

 

 

「いいや、全然。だって オレ達は兄弟だからな。兄弟には平等、ってヤツかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後――ぐったりしていてもなかなか解放してくれないので(2人に埋もれてしまって声も出せなかった)、アティスは はぐれ化してつるんっ、と脱出。

 

 シュナもシオンもある程度、満足出来た様で 逃げられた後 残念そうにはしていたものの、ちゃんと出発出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「洞窟でリムル様とアティス様が戦闘訓練をしていたとは。オレも参加したかったですね」

「あはは……。ベニマルさんとも一緒にーとなると 封印の洞窟内が壊れちゃってましたよ、きっと。……何でも、あの洞窟の入り口付近が、黒焦げになってたのがリムルさんの仕業だーって知りましたし」

 

 道中。話題はリムル師匠による、アティス改造計画(笑)とアティス自身の話題で持ち切りだった。そして、トレイニーとの出会いについても。

 

 

 何でもトレイニー曰く、本当に光の神がこの世界に降臨する事は 極々稀。

 

『トレイニーさん、樹妖精(ドライアド)も似たようなものだと皆から聞いたが?』

 

 とリムルが聞いてみたら、そんなの比べ物にならない、との事。存在は把握出来ていても、気配は感じる事があっても、姿を現すなど前代未聞。そして 身に余る程の光栄だとの事。信仰の類が具現化した結果みたいなものだと解釈。

 以前いた世界のキリ〇ト教信者の前に、本当にキ〇スト様がいらした~ の様な感じだろう、と。リムルもアティスも解釈。

 

 そして、熱弁しているトレイニーの姿を見て、リムルはアティスにトレイニーが入れ込む理由もよーく理解出来た。そんなレア。……超がいくつも付きそうなレアな存在が気にかけ、世話をやいたともなれば、全身全霊でー、と言う事なのだろう。

 

 でも、怖がってるアティスを見るのも何だか楽しかった、と小さくぼそっ、と言って笑ってたのをリムルは聞き逃さなかった。

 まだ知り合って間もないのだが、十二分に判る気がした。

 

 

「そこまで手荒にはするつもりはありませんよアティス様。次は是非、呼んでいただければ」

「はーい。って……う~ん。あのぉー ベニマルさん。やっぱり、〇〇様って止めません? 普通に接してくれて良いんですが……」

「いえ。我々はリムル様に名を頂き、あの方の元に集っておりますので。その同族、親族であるアティス様にも首を垂れる所存です」

「えーっと。うん。確かにリムルさんは 色んな意味で凄い人だから、判るんだよ? 勿論、オレもさ。んでもさ、どーしてオレまでって思うんだ……。何だか恐れ多いって感じが……。ほら、知り合ってまだ10日くらいだし。それに ちょっと恥ずかしいけど 正直自分は皆さんの足を引っ張りそうな気もします……」

 

 

 リムルとは訓練の最中、お互いの身の内話もした。どのような経緯でこちら世界に来たのか、と。

 逃げ回ろうと思ってた自分と違って、リムルは竜と友達、親友になり、ゴブリンたちを、嵐狼牙族(ランガ)たちを、ドワーフたちを、そして このオーガ達を従えている。

 

 単純にスケールが違い過ぎるよ、とリムルに言うと笑っていた。ただの成り行きで偶然と幸運が重なって出来た事だと。

 でも、幸運だろうと偶然だろうと、従えてきた事実は変わらない。アティス自身そんな事が出来るとは思えないし、自分の事が強いとも思えなかった。

 

 同じ様な種族だからと言って、自分まで畏まられると……嫌と言う訳じゃないが、何だか悪い気もするのだ。

 

「足を引っ張る……? ……ふふ。はははは。ご謙遜をアティス様。リムル様。そろそろ宜しいのではないでしょうか?」

「んー、ほっておいても面白いと思ったんだけどな」

「ん? ……んん? どゆこと?」

「アティス。お前にも大賢者……、賢者のスキルがあっただろ? 魔力感知の視点を自分自身に切り替えて見てみればわかる」

「そう? えーっと 賢者さん賢者さん。リムルさんの言う通りにしてみて」

 

――了。

 

「………………」

 

 自分視点では判らなかった。でも、なんで判らなかったのかも判らなかった。

 第三者視点で自分自身の身体を見てみると……。

 

 あらヤダ。なんか纏ってる。

 

 光って表現した方が良いかも。なんで気付かなったの? って自分に言いたい程、纏ってるじゃありませんか。神々しいというか、お体が輝いています! と言うか、何にせよ スライムと言う魔物が放って良いオーラ? じゃない気がする。

 幾ら光を反射しやすいメタルチックなボディとは言え。

 

「それ、妖気(オーラ)って 皆いっててな。その総量で力量も解ってくるんだと。あー、後 見え方が少々違うが、オレん時も随分と怖がられてた」

「って、判ってたのなら、どーして教えてくれないんですかー! なんか、すっごい恥ずかしい! こんなの自分を大主張してるみたいで!」

「おー、気持ちは判るよ。オレも最初は、社会の窓を全開にしたまま、大通りを闊歩してたかの様な気分だったし」

「ぅぅ……、なんか実に的確な表現と言うか……。って、だからどーして教えてくれないんですかー!」

「そりゃ、舐められないよーにってヤツだ」

 

 リムル曰く、ただのスライムは正直舐められる事が多いらしい。

 オーラを抑えている状態だったら特に。現にリザードマンのガビルには散々言われたらしい。

 最初が肝心、と言う事であえて伝えなかった、と。

 

 因みにトレイニーの羽衣になってた時は、トレイニーが纏う事で何かオーラの漏れを抑えてたらしい。

 

「う~……。つまり結論するとアレですよね? 社会の窓全開にしてて歩いてる所に気付いてたけどあえて教えず、遠目で、ニヤニヤと見てた、と?」

「いやいや~。オレの話ちゃんと聞いてましたか? アティス君!」

「その何だか いやらしい笑顔がぜーーんぶ物語ってんですっ!」

 

 人型になって、リムルをぽかぽか~! っと叩くアティス。

 リムルも頭を押さえながら ぴゅ~! っと逃げる。

 

 何だか愛らしい2人を見てて、シュナやシオンは混ざり、ベニマル達はただただ笑っているのだった。

 

 

 

 

 色々と疲れちゃったので、ランガの背にのせてもらうアティス。リムルは ベニマルと何やら話をしていた。

 

「うー……。ランガも気付いてたの? オレだだ洩れだって」

「はい。主の命により明かせませんでしたが」

「……ふーん。ランガも楽しんでた?」

「??」

 

 流石に狼であるランガは、この人間としての感性みたいなのは判らない様だった。

 それにしても、ランガの乗り心地は素敵だ。モフモフとした毛はぎゅっ、と抱きついてみると本当に気持ちが良い。

 

「……あ、言うの忘れてたけど、乗せてくれてありがとう」

「いいえ。アティス様であればこのくらい喜んでお引き受けます」

 

 ランガはリムルの事を主と呼び、本当によく慕っている。

 魔素切れを起こしたら、リムルの影の中に入り、常々、とまではいかないが、よくリムルにくっついている。

 なので リムルに似てるから(殆ど一緒)しているのかな? と一瞬思ってしまったが、ランガはそれに気づいたのか、或いはただの偶然なのか、アティスであれば問題ない、とまで言ってくれた事が嬉しかった。

 

 そんな感じで、極上のベッド内で転がってる感覚を楽しんでいると、リムルがやってきた。ん~ と目を細めてるアティスを見て笑う。

 

 

 

「どうだ? ランガの背は気持ち良いだろ?」

「はい~…… とってもぉ……」

「後走るのも凄いぞ。ジェットコースターみたいで」

「そ、それはまた今度、と言う事で……。今は 心労回復中ですから」

「ほほぅ……わかったわかった。また今度な(・・・・・)(絶叫マシンは苦手とみた)」

「変な事、考えてません?」

「いーえ、なんにも」

 



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7話 働かざる者、大空へ

 

「ほいストップ。みんなー この辺で野営にするぞー」

 

 

 パンパン、手を叩いて号令をかけるリムル。

 なんだか生徒を引率する先生の様にも見える気がするなー、とランガのモフモフを身体全体で堪能しながら、アティスはリムルを見ていた。皆が信頼していて、尊敬もされてて、憧れだってありそうで……、理想的。

 

「やっぱり自分とは違うよね~……。似てるだけで似て非なる~って感じだよぉ……」

 

 尊敬の念を送り……だが、そんな念もランガもふもふするモードになってしまってる。この素晴らしい感触を前に抗えない。

 

 ぐでぇ、と更にアティスはだらしなく力を抜いていた。

 

 それを横目で確認したのはリムル。

 

「おーいアティスー! そろそろ起きろー」

「むにゃ~ あと5分だけですー……」

「ベタな事言ってないで働けっての。1人だけ楽すんの禁止だ」

「あぅ~……確かに、働かざる者喰うべからず、だよね……」

 

 皆がせっせと野営の準備をしてくれてるのに、自分だけだらけるのなんてもってのほかだし、ありえない。……でも、ランガの背から離れるとなると……恋しくなる。名残惜しい。

 でも、何とか煩悩? を退散させてるアティス。ランガの背に頬擦りさせながら。……逆効果だと思うが。

 

 そんな 未練がましく頬を摺り寄せてるアティスを見て リムルは苦笑いしつつため息。

 

 外見は兎も角、精神はいい歳の男だというのが正直複雑な所。これで本当に女子だったら、と何度か思ったりもした。……シズの外見でそれをされると凄く微笑ましくも思える。客観的に自分自身を見たらきっとこう思うんだろうな、とも思いつつ……やっぱりそれ以上に占めるのは悪戯心である。

 

 アティスはいじりがいある、ともいえるが、反応の1つ1つが妙に面白いのだ。

 

「この辺結構生い茂ってるっすね~。小さい虫も多いし。寝ると刺されまくりそう」

「お、なら焼き払おうか? 虫も含めて」

「そんなのしたら、ここら一帯が焼野原になっちゃうっすよ……」

 

 そして、リムルはゴブタとベニマルの会話を耳にして、1つ閃いた。

 

 この時偶然にも またいやらしい笑み? を見たアティス。でも、何を考えてるのか、とか 何をするのかの予測までは出来ないから、後手後手に回ってしまった。

 

 

 

 

 ここでリムルが取った行動は、ランガに。

 

『喜べ、リミッターを解除しても良いゾ~』

 

 と言った事。更に。

 

『アティスはメチャメチャ ランガに感謝しているよ。兄弟のオレとしても嬉しい事極まれり、だ』

 

 そうとも加えた。アティスは嫌な予感がビンビンと感じていたんだが、言っている所に変なトコは無いし、乗せてくれて背中を堪能させてくれて、本当に感謝はしてる。

 だから、リムルの言う通りだよ、と軽く会釈をする。……のが失敗だった。

 

 リムルが何をしようとしてるのか、大体察したハクロウとベニマルは せっせと移動。それとなく全員に指示した。

 

 

 

 その後の結果、草木の生い茂ってるこの場所が、まっ平らになった。

 

 

 

 リミッターを解除したランガの狂乱……狂喜? は凄いものだった。

 リムルに言われた事がやっぱり嬉しい、と言うのもあるだろう。尻尾をぶんぶんと振って喜んでいた。尻尾を振って喜んでるだけなのに、竜巻が発生したのかな? と錯覚する様な暴風がランガの尻尾を中心に沸き起こり、あっという間に色々と吹き飛ばしてしまったのだ。

 

 

 

 つまり、油断してたアティスは当然ながらお空の彼方、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー さっきのランガさんのアレ凄かったっすね。んでも、この辺綺麗になって、これで気兼ねなく焚火も出来るってもんスよねアティス様。生い茂った所での焚火。正直、燃え移っていったら危ないっす」

「そーだねー。火の取り扱いには注意してねー。火は危ないからねー」

「だ、だいじょうぶっすか? 自分の炊き出しの準備は自分に任せてゆっくりしてきて良いんすよ??」

 

 青い顔をするアティスに心配してくれるのはゴブタ。どうやら今の自分は、リムルにより近づけたのかもしれないな~、と割とどうでも良い事を考えてた。

 隣でにやにやと笑うのはリムル。引き起こした張本人だ。持ち前の運のスキルで怪我とかは一切ない。そもそも堅牢な身体を持ってるから、運のスキルが無かったとしても、かすり傷1つ負わないだろう。……でも、所謂 心の傷? は別。

 

「ま、早く起きなかったアティスが悪いな。きっと」

「否定しません。ちょっとだらけ過ぎちゃってたって思ってます。……んでも絶対、ジェットコースターの件の時、既に考えてたんでしょ!? あの生身クレージーヒュー・ストンさせたのって!」

「おー、何だか懐かしい響きがする単語だ……。ある意味嬉しいよ。今は亡き故郷の話題が出るのは」

「そりゃどーもですっ! でも、ほんと 自分には しゃれにならないんですから、カンベンしてくださいっ!」

 

 顔を青く? させながらもぷりぷり怒るアティス。

 

 

 

 何があったのかの詳細を説明すると。

 竜巻に巻き上げられたアティスだが、最後には見事にランガでキャッチした。いい位置に落下出来たのは運のおかげ。それでも60mくらいは上空に飛んだ気がするまさかの事態だった。そして、リムルが睨んだ通り、絶叫系……落ち系は苦手との事だ。かつての記憶、人間だったころの記憶が鮮明に戻り、つまり心? に凄いダメージがいったようで、口から変なの吐き出して、新たな はぐれメタル…… いや、バブルスライムを生む、なんて事態になるかも、と思ったが、避けられた。

 それでも なかなか尾を引く様だった。

 

 リムルは、怒るアティスを どーどー、といなしつつ、周辺の状況確認をソウエイに指示。

 

 ぷんぷんと怒りつつも、おちゃらけている様で、それでもしっかりと周囲の確認は怠らない様にと指示を出せるリムルを見て やっぱり凄いな、とアティスは思う。……色々±0になりそうだけど、それはそれだ。

 

「あっ、そういえばリムル様。約束の褒美っすけど、ちゃんとクロベエさんに頼んでくれたっすか?」

「約束の褒美? ゴブタ何かしたの?」

「そっすよ。リザードマンの連中が押し掛けてきたとき、そのリーダーのヤツと一騎打ちになって、自分がとりゃー! っとやってやったんすよ! その時、リムル様が約束してくれたんす。自分が勝ったらクロベエさんに武器を作ってもらう様頼んでくれる、と」

「へぇー、凄いじゃんそれ! それにクロベエさんの武器って格好良いし、凄い業物! って感じがするし。やる気出るよね。そんなご褒美があったらさ!」

 

 クロベエ、カイジンの合作に目も心も奪われそうになっちゃったアティス。だから ゴブタの嬉しそうな、生き生きしてる様な目も解るから意気投合。

 

「(……違う意味で、背水の陣だったんすけど、それは言わない方が良いっすよね)」

 

 ゴブタはと言うと、クロベエの武器と聞いて、さっきの疲れ? も吹き飛んだ様子のアティスを見て、本当の意味で気合が入ったのは、別に理由があるとは言えなかった。

 

 

 

 これが後に新たな災いを呼ぶのはまた別の話。

 

 

 

「ゴブタの武器だったら、小刀……小太刀とかかな? でも、オレにくれた時に一緒に渡したらよかったんじゃない?」

 

 ちらっ、とアティスはリムルを見た。ゴブタも同じく視線をリムルに。

 ばっちりと2人と目があったリムル。……目が完全に泳いでいた。

 

「……ん? リムルさんどうしたの?」

「……まさかとは思うっすけど。忘れてました?」

「いやいや、忘れてないよ?? 帰ったらちゃんと頼むって!」

「いやいやいやいやリムルさん。帰ったら、って……忘れてたって事じゃん」

「そんな事ねーって。あっ、ソウエイからメッセ入った! この話中断中断!」

 

 そそくさと逃げるリムル。

 どうやら、本当に忘れてたみたいだ。

 

「めっせ、ってなんすか?」

「めっせ、っていうのはね……。まぁアレだよ。ソウエイさんから連絡がきたーって事で……」

 

 懇切丁寧に教えてあげるアティス。

 

 話の肝はそこじゃないと思うけれど、ゴブタがちょっと気の毒なので、ここでアティスがプレゼントを考えた。ゴブタにもとてもお世話になってるから。

 

「じゃあさ、戻るまではこれで代用っていうのはどうかな? 短刀だけど」

 

 とぷんっ、とメタルスライム状態に戻って、身体からうねうね~ と短刀を取り出した。

 全体的に銀色。アティスの身体の色そのもの。

 

「わっ、アティス様くれるんすか!?」

「うん。まだまだ練習中のスキルで作ったものだから なまくらだと思うし、クロベエさんの代用って言うのは烏滸がましいけど、これでも貰ってくれるなら」

「いえいえ! すげーー嬉しいっすよーー! ありがとうございますっすっ!」

 

 ぴょーんと喜びをあらわにするゴブタ。結構立ち直りが早い性質らしい。

 

「もっともっと練習しないとだけど、喜んでくれたなら嬉しいかな? やっぱり」

「あれはアティス様がお作りに?」

「ん? そうだよー。スキルのおかげだから、そんな大層な事じゃないんだ。だから、カイジンさんやクロベエさんたちとは比べないでね?」

「ははは。そんな事はしませんよ。リムル様もそうですが、様々なスキルをお持ちでやはり凄いです」

 

 アティスは人型に戻ってベニマルにそう告げる。ベニマルはスキルの多い2人を見て改めて驚きと敬意を込めてみていた。

 

 

 

 因みにアティスが判明した生成系のユニークスキルは『金属王(キンゾクノオウ)

 

 

 

 光の神様曰く、最高クラスの堅い身体を貰ったようなので、それを利用するスキル、らしい。

 

「(キンゾクノオウ、ってまんま訳したらメタルキングだね……)ん? よくよく考えたら、自分の身体を削って作ってるのかな……? ひょっとしてコレ」

 

――解。自身の魔素で身体の硬度を再現。そこから金属に生成し、作成しています。

 

「んー よく判る様な判らない様な……、つまり似たようなもの、って事かな……? 練習し過ぎたら不味いかな?」

 

――解。体内の魔素残量が一定値を割り込むと、低位活動状態(スリープモード)へと移行します。

 

「すりーぷもーど? 何それ」

 

――解。全てのスキル使用不能、行動不能となります。

 

「……成る程。全く動けなくなっちゃって、周りも見えない。……そんなのぜったいやだっ! 練習は程ほどにっ! だね!! だから、危なくなりそうだったら、直ぐに教えてね!」

 

――了。

 

 敵陣でそれになったら最悪中の最悪。体動かない、魔力感知も使えなくなるから、つまり周囲が見えなくなる。真っ暗闇で動けないとか、考えたくない。

 

 

 そこにシュナがやってきた。

 

 それも後ろから抱きしめられてビックリ。

 

「大丈夫ですよ。アティス様。私達が付いてます。リムル様の時もしっかりお守り出来ましたので、任せてください」

 

 スライム型でも人型でも、シュナの方が大きい。にこっ、と笑う笑顔に凄く心が洗われる気がする。

 

「ありがとう。シュナさん。嬉しいよ」

 

 守ってもらえるのは確かに嬉しい。でも、やっぱり今は無性だけど、前は男性だった。だから、いつかはリムルの様に守れる存在になりたい。堅い身体なんだから盾にでもなって。

 

 と言う訳で、笑顔でシュナに礼を言うアティス。その笑顔を見て、一気に顔を紅潮させたシュナ。また、さっきの様に ぎゅ~~っとハグしてくれた。

 

 とても照れるのと同時に、窒息状態にもなっちゃうので、アティスはお礼を言いつつ、はぐれメタル化して逃げるのだった。

 

 

 

 逃げて一息ついた所でリムルがやってきた。

 

 

「アティス。ちょっとトラブルだ。一緒に来るか?」

「どうしました?」

「ソウエイからメッセ。何でもリザードマンの首領の側近がオークたちに襲われてるらしい」 

 

 リザードマンとオーク。

 イメージ的にはリザードマンが勝ちそうな気がするんだけれど、やっぱりオークロードの飢餓者(ウエルモノ)は、相当厄介なスキルだという事だろう。 

 

 つまり、捕食対象として見ているのだという事が判る。リザードマンを食おうとしているのが。考えただけで恐ろしい。

 

 

 

「実戦経験も兼ねて。模擬戦はそこそこしたつもりだけど、実際相手を前にして、縮み上がらないかの確認だ。無理にとは言わない」

「むっ、煽ってますね! だいじょーぶです! リムルさんよりバケモノいないんでしょ? ナントカ、っていうドラゴン食べたスライムを前に怖いものなんか無いですっ! (……たぶん)」

 

 



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8話

 

 

「その襲われてるリザードマンのひとは大丈夫なんですか? 多勢に無勢、とは聞きましたが」

「ソウエイが今見てるよ。聞いてみたら容易く勝てる、と即答貰ったから 大丈夫だろう」

「……即答で、ですか。まさしくイケメンですね。そんなの出来るのって」

「ああ、マジでな」

 

 ランガの背に一緒に乗せて貰った。

 移動するには少々距離があるので、影移動を行ってもらうとの事。

 

「んん~~ 影のスキル、物真似っ!」

「おっ?」

 

 

 そして移動する時、ランガの影移動のスキルを物真似でスキルコピーも実施。

 出来る時に手持ちは沢山増やした方が良いよ、と賢者さんにアドバイスをもらったからだ。なんだか安易に能力を盗んでるみたいで ちょっと複雑な気分だった。アティス様なら良いです~~、と皆に言ってもらっても、正直免罪符にはならないと思ってるし。

 なので、皆の役に立てるんだから! 絶対に役に立つんだから、と自分を納得させている。

 

 影移動の能力が自分の能力になったと認識しだした頃、アティスは リムルの視線を感じた。

 

「やっぱそれ便利だよなー。ちょっとオレにも解析させてくれない?」

「それって、食べられろ、って事ですか? やですっ! そんなの怖い!」

「冗談だって冗談ー。大賢者も実際やってみても解析は凄く難しそう~って話も聞いてるし。今は別スキルの解析に手を回してもらってるしな。また今度(・・・・)にしておくよ」

「うー、それなら……、って 今度っ!? 食べられるの前提!? 嫌ですってば!」

「ぐえっ、コラコラ 首絞めるな。冗談だってば」

 

 ランガの背中で暴れてる2人。 

 ひとの背で暴れるんじゃないっ! と思われそうだが、ランガは文句の1つも言わず運んでくれた。

 

 

 

 

 そして、現場に到着。外だというのに、血の匂いが充満する場所へ。

 

 

 

 

 

「なんだ? もうお終いか? つまらんなぁ」

「もう殺っちゃっていいんじゃないすか?」

「は、早く喰いてぇよ」

「……そうだな。奴らも飽きてきたってよ。そろそろ〆時だ」

 

 多勢に無勢。本当に見たまんまだった。

 単純な力量も劣っている上に万が一も逃げられない様にしてる。その上 手を出してる相手は 完全に嬲ってる。遊んでると言っても良い。もう殆ど終わってるとは言っても、見ていて本当に不快だった。

 

 

 

 そんな不快な光景を一蹴してくれたのが、イケメン……じゃなく、ソウエイだった。

 

 

 

 颯爽と間に割って入り、まさにイケメン。

 

『勝手に死なれては困るな』

 

 と言葉を添えて目にもとまらぬ斬撃で真っ二つ! ……とまではいってないが、一瞬で切り伏せた。

 

 リザードマンのひとは、きっと死を覚悟してたんだろう。でも、突然の光景に目を奪わててて固まっていた。

 

 

「あれ? 女の子……?」

 

 身体はリザードマンだから判別がつきにくかったけれど、髪型や体形、そして 何処となく見ていたら ガサツさがない、と言えば良いのか より女の子だと判った。

 

「ん。無事で何よりだ。君がリザードマンの首領の側近だな? ほら、これを飲め。回復薬だ」

「大丈夫です安心してください。リムルさん印の特製回復薬! これ凄く効き目があるんですっ。はやく飲んでください!」

 

 沢山の血を流し、明らかに重症、致命傷の傷を負っているのは、医療に携わってなくてもよく判る。このままだと死んでしまう。だから リムルは回復薬を差し出し、アティスは早く飲むように促した。

 

 いきなり現れた者たちの得体のしれない液体を飲む……。正直ハードルが高いかもしれないけど、四の五の言ってられない。無理矢理にでも、と思ってたが、リザードマンの子は素直に飲んでくれた。

 

 そして、もう一瞬。

 

「………!? 傷が……!? ウソ、致命傷だと思ったのに……」

 

 顔色は、正直人間とは違うリザードマンだから判りにくいケド、ここまで効果が現れたらよくなったんだ、と判る。流れる血も止まってるし、塞がっている。

 

「はぁ……ほんと良かったよ~。まさにエリクサーだね、これほんと」

「おっ、その名も良いけど、正しくは 完全回復薬(フルポーション)な」

 

 完全に回復する回復薬と言えば、エリクサー! と自分の中では決まってたんだけれど、どうやらフルポーションと言う名前の様なので、認識をアティスは改めた。

 

 そして回復していく様子をじっと見て、賢者に問いかける。

 

 

「(賢者さん賢者さん。物真似のスキルだけど、効果そのものを真似る様な事って出来そうかな? ほら、回復魔法に昇華! みたいなの。もう真似るんじゃなくて、独自改変(アレンジ)するみたいだけど、出来たら凄く便利だよ。……回復薬って有限だし、白魔法使いみたいなのがいた方がきっと良いと思うんだ)」

 

――解。物真似スキルそのもので解析・復元・複製・作成への応用は可能です。正し、現状スキルでは 完成度は8割が限界ですが。

 

「(8割も有れば十分だよ! 10割って完全回復だからさ、8割あれば絶対助けれるから! リムルさんが傍にいてくれたら、きっと大丈夫だと思うけど、目の届かない所はオレが頑張るから)」

 

 目の前で死にそうになっているひとを見て、それも女の子が傷ついてる、ともなったら 助けてあげたい気持ちにはなる。女性差別してる訳じゃないけれど、気のいいものじゃないじゃない?

 

 

――お優しいですね。やはり。

 

 

「(ん? 何か言った? まだ追加情報とかある?)」

 

――解。特にございません。解析の方は進めておきます。完了と同時にお知らせします。

 

「(うん ヨロシクっ! ありがとね!)」

 

 

 頭の中で賢者との会話が終わる頃にはリムルは自己紹介を終えていて、ちらっ、とアティスを見ていた。何だか上の空の様な気がしたので、肘で突く。

 

「ほれ、自己紹介しとけって 会談前だぞ。印象印象」

「わっ、は、はい。そうでした! オレはアティス=レイです。えーっとリムルさんの側近の内の1人、で良いのかな? 立ち位置」

「んー。兄弟。……家族、だろ?」

 

 にっ、と笑ってリザードマンの彼女に説明。

 そして、家族と言う単語を聞いて、アティスは 頬を緩ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ソウエイが敵側の情報を引き出す為、あえて殺さず急所を外して殺さなかった~ と話してたら、オークは激昂した。

 

『負け惜しみを~』

 

 とか。

 

『主の手前格好つけたかったのか?』

 

 とか言ってて。

 最後に『貴様らは敗北――』と言おうとした所で、こちら側の1人の逆鱗に触れてしまったみたいです。

 

 自分の身体よりも大きな大きな剣を振り上げて。

 

 

「痴れ者め……!」

 

 普段からは考えられない程冷たく、重いセリフ。そして 怖さを兼ね備えてた。

 

「あ、おいシオン。そいつからは情報を聞き出さんといかんのだぞ」

「リムル様たちの前に不敬です。問答無用」

 

 と、振り下ろす。

 完全に怒っちゃったシオンは、何言っても止まらない。そう判断したリムルは 早速行動を開始した。

 

「おい、出番だ。アティス、絶対防御形態に移行っ!」

「ふえっ!? なんですか、それ!?」

 

 ぎゅむっ、とリムルはアティスの身体を オークと怒れるひと……シオンの間に放り投げた。アティスは抗う間もなかった。返答を聞く時間もなかった。

 

「なっ、あ、あてぃす……さまっ!?」

 

 ダメです。止まれませんっ!

 と顔色が青くなってるシオン。

 

 アティスは、周りがスローになっているのを身で体感した。……そう、死の間際に感じるという走馬灯……。生憎前回潰されちゃった時は感じる間もなく死んだから見れなかったが、今回は違った。

 人生を振り返る……のではなく、極端に回りの速度が遅く、遅く感じた。

 

「(……リムルさんヒドイっ!! 確かに今相手をやっちゃうより、情報をっていうのは判りますけれど!! って、今はそれより、ここは格好良く決めないと……! よし。秘技っ、真剣、しらはどりっっ!)」

 

 えいっ、と人型から一瞬でメタルスライムに戻って 変形。大きな手を2つ程作って、シオンの剣を挟み込め―――。

 

 

“どかんっ!”

「ぶべっっ!!」

 

 

 無かった。

 

 

 アティスは、シオンの剣を直撃。その身体はまるで弾丸のごとき速度で、オークの腹部に直撃。スライムの刻印をその腹に刻んだ。貫通はしなかったが、良い感触とはいえないだろう。

 

 

 

 オークは人間で言う鳩尾部分? に凄いのを喰らった様で、悶絶して七転八倒してて……最後は動かなくなった。痙攣はしてるけど。

 

 

 

「あ、あ、あ、あ、あてぃすさまぁぁぁぁーーーーっっ! うわぁぁぁんっっ! ご、ごめんなさぁぁぁいっっ」

 

 

 

 シオンにぶっ飛ばされて、オークに直撃したアティスは。反動でぽよんっ、とシオンの前に着地出来てた。……運よく遠くの彼方には飛ばされなかった様子。

 

 

 シオンはアティスを拾い上げると、ぎゅ~~~っと抱きしめた。涙を流しながら、何度も何度もごめんなさい、と謝るシオン。

 

 

 正直な所、気絶の一歩手前だった。確かに痛みみたいなのは無い。堅い身体は見かけだけじゃない、っていうのは判った。んでも、斬られる瞬間も見てるし、綺麗に真剣白刃どりが失敗したのもはっきり分かった。……走馬灯っぽいのも体感してるし、オマケに、ランガに空中に飛ばされた時以上に吹き飛ばされた衝撃を感じてる。

 身体は大丈夫でも精神が1つや2つ逝っちゃっても不思議じゃない衝撃だったんだけど、シオンの涙と抱きしめてくれてる感触で、繋ぎ止められた。……それどころか救い上げられた。

 

「シオンさんシオンさん。泣かないでください」

 

 だから、そっとシオンの頭を頑張って撫でる。抱きしめられちゃってるから、なかなか身動き取れないけど、うねうね~ と変化させて手だけ伸ばした。

 

「オレは大丈夫! こう見えても凄く堅い身体だし。大丈夫大丈夫っ! でもちょっと自制した方が良いかもですよ? 確かにオレも許せない! って思っちゃいましたけど、有力な情報って必要ですし」

「うぅぅ…… 本当に申し訳、ございません……」

「ソウエイさん。説明をお願いします! ……ちょっとリムルさんに おはなし してくるのでー」

「……承りました」

 

 

 しゅるんっ、とはぐれメタル化して、シオンの胸元から抜け出てリムルの前に。

 

「な? これで立証されただろう! お前の防御力は最高級だ」

「………」

「ずーっと半信半疑だったもんなー。何度か賢者に言われてる筈なのに。習うより慣れろ、ってヤツだ」

「…………」

「だ、だからな? 落ち着け、落ち着け。ほら、シオンにも泣かないでー、って落ち着かせてあげてたじゃん? アティス優しい! 紳士! パーフェクト!」

「……………」

 

 

 とこの辺りで、アティス憤慨。

 

「もーーーっ!! 荒療治過ぎるんですっっ!! し、しぬかと思ったんですから!! マジで走馬灯っぽいの、感じたんですからーーーっっ!!」

「わーー、今回のはマジで悪かったってば!」

 

 ふんがーー! と両手をふるってリムルをぽかぽか、と叩く。

 確かに身体の堅さ。防御力を確認するには実際に受けてみるのが一番手っ取り早いとはわかってたが、シオンの剛力。剛剣の前に放り出すのは、流石に不味かったかな? とリムルも反省してた。

 それ程までに、シオンの一撃には怖さがある。とリムル自身も解っていたから。

 

 

 

「ほほ。リムル様にも届き得た儂の剣を幾度となく防ぎきる堅牢なお体をお持ちだというのは判っておりましたが、あの怒りに任せたシオンの渾身の一撃を受け、無傷とは。……改めて感銘を、そして同時に、御見それ致しました」

「確かに。……シオンのアレは斬るというより叩き潰す一撃。斬撃と打撃を併せ持つと言っていい。アティス様は本当にご謙遜しているが、紛れもなく最強のスライム。その1人と数えて良いな」

 

 

 

 リムルとアティスのやり取りを見てたハクロウとベニマル。

 

 どうやら、残党の処理が完了した様だ。……あっという間に。 ぽかぽかとやり合ってた2人は手を止めて視線を変えた。

 

 ……確かに、その先は死屍累々だった。オークたちの。

 

「アレ? 君たちもう終わったの? 強すぎない??」

「いえいえ。アイツらが弱すぎるんですよ。それに、オレ達はそれ以上に凄まじいものを見せてもらいましたよ? 霞みますって」

「……何のことを? とは聞きません。そんなの見せるつもりなんて無かったですよ! 白刃どり、思いっきり失敗しちゃいましたし………」

 

 

 リザードマンの親衛隊長にして、首領の娘は、目の前の光景に、連続して起こるあり得ない光景に目を奪われ、数秒間思考が停止してしまっていた。

 

 そして、思考停止から復帰後……そこに希望を見た。

 

 リザードマンは最早 滅亡は避けられないと覚悟を決めていた。

 

 豚頭帝(オークロード)を見誤い、過小評価し、暴走し謀反を起こした兄ガビル。この人たちと同盟を組めば リザードマンは助かる。間違いなく助かる。

 

 だが、それは身内の過ちだ。同盟を締結させる為の会談を前に、勝手に行動を起こしたのは身内。……他の者たちを巻き込むなど、リザードマンの沽券にかかわる失態。

 

 総長にもそう告げられた。最早滅亡は免れない、と。リザードマンの種族、最後の意地と誇りが自身の肩にかかっている、と。

 

 

 だが、それでも……。

 

 

 

――父上。言いつけに背くことをお許しください。

 

 

 

 意地より、誇りより―――仲間の、家族の命の方が大切だった。

 

 

 

 

「お願いがございます! どうか我が父たる首領と、兄たるガビルをお救いくださいませ!!」

 

 



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9話

ガビルさんの頑張り! ガッツな戦い……オールカットしちゃいましたm(__)m


 

 ジュラの森、とある場所にての騒動、小競り合いがあった。

 トレイニーが()と接触したのだ。結果は、追いつめたと思った相手に逃げられてしまった。

 

 

 

「―――まさか、逃げられてしまうとは、状況は思わしくない様です」

 

 

 

 樹妖精(ドライアド)のトレイニーは、このジュラの森の管理者。

 その領域内での悪巧みは決して見逃さない。……それが、森の生態系を著しく乱した者どもであれば猶更である。

 

 だが、敵も想定を遥かに超えた者だった。

 

 トレイニーは、確実に捕え、排除できると確信していた相手に、まんまと逃げられてしまったのだ。

 

 敵は 正体不明の魔人。

 

 風の精霊による斬撃で 片腕を飛ばしたのにも関わらず、一切おくびに出さない。その飄々とした態度は絶対的な自信の現れの様にも感じられた。

 

 

「……あの方は、リムル=テンペストは 何処まで信じられるのでしょうか。アティス様も―――。いえ、考えていても仕様のない事」

 

 

 トレイニーは、天を仰ぎ そして拝んだ。

 

 脳裏に浮かぶのは、暴風竜の加護を受け、牙狼族を降し、鬼人を庇護する。それらを僅か短期間成し遂げたスライム。

 そして、もう1人。――何処か抜けていてもその心は安らぎさえ覚える銀の身体を持つスライムの事。

 

 前者のリムルは本当に信頼できるのか、そこに問題はあるけれど、実の所、そこまで心配する程ではない。大丈夫。

 

 でも、アティスは何処か心配。加護を受けているのに。……それも、光の神の加護なのに。何だか心配。

 それがトレイニーの心情。

 

 

「G.O.D様……。どうかお見守り下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は代わり、リザードマンとオークの戦場上空。

 

 あちこちで戦塵が巻き起こり、無数のオークが上空からも確認できた。そして、追いつめられているリザードマンも。

 

 

「ひょーーっ、『大賢者』さまさまだよなー。簡単に空を飛べてしまったよ」

『いやいや、大賢者さんもそうですけど、単純にリムルさんのセンスと言うか、才能がずば抜けてる~って思うのは気のせいじゃないですよね? だって元々 本来の身体には無い部位をはやして使ってるんですから動かす筋肉みたいなの、その使い方とか考えたら、慣れるのにすっごく時間かかりそうなのに』

「何言ってんだ。アティスだってやろうと思えば直ぐだろ? 物真似とか便利な力持ってんだから」

『………空、飛ぶのは難しいです』

「ひょっとしてトラウマになったのか? 空飛ぶの。いやー でも高所恐怖症とかにはならなくて良かったな。一緒に だけど飛べてる事は飛べてるし」

『ッ!? って、誰の所為だと思ってるんですかっ!』

 

 

 空中でやいのやいのと騒がしい2人。一見すると1人だけだと思われるが、実はリムルがアティスを纏っていた。つまり、見た目はトレイニーの時と同じ様なものだ。

 

『っとと、それより戦況は…… うーん、やっぱりリザードマンの方は分が悪いですね。数の暴力ですよ、これ』

「ああ。シミュレーションゲームなら完全に詰んでるな」

 

 魔力感知をマクロにして、戦況を見た。其々の陣を判りやすく色分けして改めてみると、完全に囲まれてしまっている。数でも負けている上に、ユニークスキル 飢餓者(ウエルモノ)の力。リザードマン、オーガ、其々の能力を得たオーク。そう考えれば…… もう一縷の望みもないかもしれない。

 

 それでも退く理由は無い。助けに行く理由ならある。

 

 

『でもほっとけない。同盟相手なら助けに行く。当たり前なんでしょう?』

「わかってる。……それに心配してないさ。心強い連中がいるからな」

 

 

 

 そう、リザードマンとのスライム軍の同盟は締結したのだから。

 

 

 

 あの時 オークに襲われていた首領の娘、親衛隊長の願いは叶えられたと言う訳である。

 

 因みに、あの後の状況を説明すると……《アティス弾》を腹部に受けたオークはどうにか九死に一生を得ていた。

 そして 話を出来る程度に、回復してあげたのが残念な結果になった。

 

 回復後、様々な暴言を命知らずにも吐いてまわっていたから。

 

『この下等生物が!』

 

 とか。

 

『何したか知らんが、まぐれだ! 今すぐ喰ってやる!!』

 

 とかだ。

 つまり、残念な結果と言うのはオークにとってのもの。

 

 回復して目を覚ました時、自分が何をされたのか、あの瞬間のシオンの殺気とかもすっかり忘れてしまったとでもいうのか、圧倒的な戦力差があるというのに暴言の嵐は止まなかった。

 

 そして、何度も良いよ、と言われていてもアティスを傷つけた事実に涙していたシオンは、オークが一言一言発する度に、涙は止まり代わりに殺気と闘気が身体から溢れ出ていた。逆鱗に触れたのは言うまでもなく 怒れるままに リムルに目で。

 

 

 

―――こいつ、殺して良い?

 

 

 

 と何度も念じて……訴えていた。

 

 鬼人のメンバーも同様。全員がもれなく苛立ちを覚えていたのだが、シオンのそれが一番大きかった。

 アティスを傷つけた(厳密には傷は入ってないが)原因を作ったオークだから仕方ない。

 

 

 その後はソウエイの見立てで、オークには情報共有の秘術がかけられている疑いがあり、これ以上は、こちら側の情報を敵に与える結果となる可能性が公算が強いとの事。

 リムルは無益な殺生は~的な事も少なからず考えていたのだが、シオンの怒りがヤバい事と、仲間たちをも貶し続けた事、そして 同盟相手を集団で喰おうとしていたオークに最早慈悲は無しと言う事で断罪した。  勿論、シオンが一刀の元、両断である。 

 

 

 

 リムルが言う心強い連中と言うのは当然、仲間たち全員だ。

 オークに比べれば僅かな部隊数ではあるが、全員がオークにも引けを取らない。それに一騎当千の猛者たちもいる。

 一騎当千、と言うのは比喩じゃない。見たまんまだから。ふき飛んでるから。……あの時のアティスの様に。いや、それ以上の高さまで。

 

『……アレ凄いですね。黒い竜巻、うわっ、雷まで纏って……。これって、ランガの力……ですよね?』

「……さぁ? なにコレ?」

 

 リムルも解らない様子。突然現れた広範囲殲滅魔法? を全く。世界の破滅? と思える程の大きな大きな竜巻が複数。更に雷が降り注いでる。ここは地獄だろうか……?

 

 兎も角、其々の御意見番に質問タイム。

 大賢者も賢者も答えは同じ。

 

 

――解。個体名:ランガの広範囲攻撃技「黒雷嵐(デスストーム)」です。

 

 

「……あ、そう」

『モノマネ』

「レパートリーが順調に増えて何よりだな」 

『………正直、今もビックリしましてますが。とりあえず備えあれば憂いなしです。でも、……なんだか器用貧乏になりそう』

 

 

 

 

 その後の戦い。ランガの黒雷嵐(デスストーム)を開始の合図としたその後の戦いは、凄いの一言以外出てこなかった。

 

 

 

 

 

 ランガの竜巻と雷。ベニマルの黒い炎。ハクロウやソウエイ、そしてシオン。白兵戦では無類の強さを持つ。『多勢に無勢』『数の暴力』等の常識は皆には当てはまらない様だ。

 

 

 

 

「リムル様~! アティス様~~! 不届き者どもを一掃致しましたよーーっ! 見ててくださいましたかー!」

 

 

 

 

 上空高くで戦況を見守っていた所にシオンの声が届く。

 手をブンブンふってる。凄くきれいな笑顔で。

 見たところ、無数のオーク達を一刀のもと、屠った所だった様だ。二つに分れた屍が沢山出来上がっていたから。綺麗な笑顔とオークの死体の山。ギャップが凄まじい。

 そして、シオンのあの体躯からは正直考えられない程の力。……あまり考えたくない力だった。

 

「うん。……シオンを怒らすのは止めとこう」

『後、未来永劫オレをシオンさんのあの時に放り込むのも禁止ですよ? と言うか、次何かあってもリムルさんが絶対に止めてくださいね!?』

「お、おう。判ってるって……、と言うかさ アティスって、超絶運ってスキル持ってるんじゃなかったっけ? それで何とかならなかったのか?」

『それ、思いっきりやってくれた人が言うセリフじゃないと思いますが。 まぁ、運のスキルですが、それは持ってると思いますよ。……何でだか、味方の皆さんにはぜーんぜん通じてないみたいですけどねーっ!!』

「うーむ…… 大賢者、その辺はどうなんだ? なんで??」

 

 

――解。ユニークスキル《超絶運》。主に所持者への悪意・敵意・害意等が強ければ強い程、それに比例し、反応するスキル。深奥まで探る故、感知を欺く事は現状不可能。個体名:アティス=レイに対して、悪意・敵意・害意、それらの気配はこれまで一切無かった為と推察。

 

「成る程。そういう事」

『大体何を言われたかわかりますよ。オレの賢者さんも同じ様な事言ってると思いますし。………よくよく考えたら、もう十分過ぎる程、効いてるかもしれませんから』

 

 

 アティスはこれまでの経緯を考える。

 

 明確な敵と対峙した事がないから、まだ検証の余地はあるけれど、それでも判る事はある。 トレイニーにリムル、そして先ほどのシオン。

 皆、仲間と認めてくれた人たち。皆に関わるナニカ(・・・)には 正直あまり効果が得られてないのは事実だった。一応、それっぽい運は発生した。でも、本当微々たるもので、最近で一番と言えば シオンの一撃で星の彼方に飛ばされなくて良かったね? くらいの運だった。スキルと呼ぶにはそぐわない気もする。

 でも、更によく考えてみると、もうとっくに極上の運を得ているんだ。

 

 超絶運は、もう既に発動しているともアティスは考えている。辿ってきた道を振り返れば自ずと判る。

 

 自分は死してこの世界に来た。そしてそのスキルを得た状態でここへと来た。

 

 あの洞窟で始まり、光の神の加護を得た、次いで森の管理者 樹妖精(ドライアド)のトレイニーとの接触した。早くに同族で同郷のスライムのリムルと出会い仲間になれた。孤独など一切感じる事のないあたたかな場所だった。

 

 これらがこの世界に転生して僅か一日足らずで起きた。リムルでさえ それなりに日を重ね、色々と頑張って今の状況に持って行けたというのに、早さと起こった事を考えれば、十分超絶運スキル開眼! なのだが、体感してないので 何とも言えない表情をしているアティスだった。

 

 

「何が十分過ぎるんだ?」

『……いーえ。何でもありません。さ、ここから頑張りますよ。リムルさんの事、しっかりと守りますから、どーぞ、やっちゃってください』

「おう! 任せとけ! そろそろオレも良い所見せないとだ。……目標もはっきり見えた。多分、アレだ。あの妖気(オーラ)が身体と同じでデカいヤツ」

 

 眼下にいるのは一際大きなオーク。全く動きを見せていないが、周囲にまき散らしている妖気(オーラ)は、他のモノとはくらべものにならない。

 

『期待してます! えーと、マスター!』

 

 そして、アティスはリムルにエールを。

 何だかんだとやる気になってる理由の1つが リムルと一緒にいるから、と言うのに尽きるだろう。防御が凄くなったとしても、攻撃が出来なかったら意味無いし、単純に心強いから。

 

「よっしゃ。……ん? ますたー?」

『だって、今リムルさんがオレを使ってるような状態ですし? そう呼んだ方がしっくりくるかなー、と思いまして。金属王(このスキル)、まだまだ練習が必要で、色々拙いですけど、……一応、耐久性には優れてるみたいですから』

 

 アティスの言葉を聞いて、リムルは軽く苦笑いをした。

 

 主、主、と皆が自分をそう呼び、仕えてくれてる。その現状が嫌だという訳ではないが、アティスと出会い、接して強く感じた。この世界で対等に接し合える間柄になる、と。そう思っていたからこそ、マスターと呼ばれてちょっぴり複雑だった。

 

「その呼び方、許すのは今だけだからな?」

『はい?』

「マスターってヤツだ。……兄弟だろ、オレらは」

『……はいっ!』

 

 

 リムルの意図を、言わんとする意味を何となくではあるが察したアティスは返事を返したその時だった。

 

『ッ!?』

 

 アティスが身震いをしたのは。そして、アティスの衣を纏っているリムルは、それに直ぐに気が付いた。

 

 

 

「……どうした?」

『見られてる感じがしました。いえ、今もしてます。………何か、とてつもなく嫌なモノに』

 

 

 

 



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10話

遅くなってごめんなさいm(__)m


 

 

「アティス。見られてるっていうのは、アレにか?」

『………どう、でしょうか』

 

 

 リムルが指さした先にいるのは、突然飛んで乱入してきて騒いでる男だった。顔は仮面をつけてるから判らない。でも、何だか脇役、雑魚っぽい印象がぬぐえない。癇癪起こしたガキの様な感じもする。

 

『凄く、嫌な感じがしたんです。――賢者さん。判りますか?』

 

――解。周囲に豚頭帝(オークロード)以上の魔素を持つ者の反応はございません。

 

『……そう、ですか。気のせいなのかな? それともリムルさんが言う様に、あの人? の気配?? でも、こっち見たような感じは無かったんだけど……』

「大賢者も多分、アティスの方と似たような回答だった。……ん、ただの気のせいって訳じゃない様な気もするけど、そっちの方がありがたいかもな。今は特に…。あぁ、勿論 アイツが原因、っていうのが一番わかりやすいし、ある意味安心できるかも」

 

 リムルが見る眼下の男は まだまだ喚き散らしてる。

 何でも名前は 《ゲルミュッド》。自分の事を《様》をつけて呼んでる。そういう相手に限って小物だったりするのが定番なんだけれど、聞き捨てならないのが、《上位魔人》と言う単語だった。

 

「アイツがトレイニーさんの言っていた豚頭帝(オークロード)誕生にかかわりのある魔王の手のモノ、か。……にしては ほんと小物っぽいんだけど」

『う~ん……、同じくです。……さっきは、ほんと凄く嫌な感覚がしたんですけどね。蓋を開けてみればビックリ拍子抜け~ ってヤツでしょうか。でも、魔人なら……』

 

 そう簡単な存在なのなら、森の管理者であるトレイニーが逃がすとは到底思えない。

 でも現に、自称魔人のゲルミュッドは此処に来ている。更に言うのなら 鬼人であるベニマル達、リザードマン、そして敵対しているオークたちの間に割って入ってきている。

 発言こそ小物っぽい所はあるんだけど、相応の力量が無いとここまで突っ込んで来れないと思えるんだ。

 

 ……退けない理由があるのなら、別だが。

 

「ッと。アティス。急降下するぞ」

『え?』

 

 リムルは、アティスの返事を待つ前に、一気に地上へと降りた。

 

 何故なら、あのゲルミュッドがガビルに攻撃したから。

 

 死者之行進演舞(デスマーチダンス)。と言う攻撃スキルで。

 

 

 

豚頭帝(オークロード)。あのトカゲを喰え。使えぬヤツだったが、一応この俺が名を与えた個体の1つだ。貴様を魔王に進化させるだけの力はあるやもしれん」

 

 喰う事を推奨するのは確かに構わないかもしれない。喰えば喰う程強くなるのであれば、それが最善の手段だ。

 だが、聞き捨てならないのが、あの男の言い方。名を与えたというのなら、言ってみれば名づけの親も同然。自分の魔素を分け与えたのだから。その相手もこうも簡単に始末、否 食料にしようなどと、外道以外の何物でもない。

 

『この魔人が不快な存在だって言うのは、よく判った。……よく、判った』

「みたいだな。気に入らないよ。オレも。……お前、複数の魔物に名付けしてるみたいだな。それも計画の一端か?」

 

 ガビルの間に割って入ったリムル。

 リムルのスキル捕食者で先ほどの攻撃を捕食。……技の余波はアティスの防御力で完全に遮った。

 

「なっ……!? き、貴様!?」

 

 ゲルミュッドは、突然現れた事に動揺を隠せれてない様だ。

 仮にも上位魔人を謡うなら、このくらいで動揺してどうする、と思うが今は良い。

 

 

 この男、そしてこの男の背後にいる大物が、今回のオーク信仰の黒幕である可能性が非常に高いと判断出来たから。

 

 

「ひょっとしたら、アティスが感じた視線っての、その魔王の事かもな」

『……ヤな事言わないでくださいよ。魔王に目をつけられた、みたいじゃないですか……。っと、それより リグルドさんの息子さん。兄のリグルの名を与えた者らしいですよ。このゲルミュッドっていうのは』

「ああ。……オレも聞いた。それにもう1つ、聞き覚えがある」

 

 

 

 リムルが視線を鋭くさせ、ゲルミュッドに睨みを利かせていた時だ。

 次に行動したのは、ベニマル達だった。

 

 

「自分の役に立たないヤツは消す。……つまり、それがそいつのやり方なんだろう。ガビルを消そうとしたのもそうだ」

「そ、そんな……吾輩には見どころがあると……」

「甘言にそう易々乗るものじゃない。……こいつはそういうヤツ。それだけ頭に入れておけ」

 

 ただただ混乱するガビル、そして 怒りに燃えるのはベニマル。

 

 そう、リムルが覚えがあると言ったのは、ベニマル達の話を思い出したからだ。

 

 ……滅ぼされたオーガ族の事を。

 

 

 

 ベニマルだけでなく、シオン、ハクロウ、ソウエイ。其々が身に宿す尋常ではない憎悪の炎をゲルミュッドに向けていた。

 

「よう、ゲレ……じゃなくてゲルミュッドか。オーガの里で全員に突っぱねられた『名付け』は順調なようだな」

「き……鬼人!」

 

 ゲルミュッドはどうやら、自分のおかれた立場を判ってなく、ただただ闇雲に突っ込んできただけだった、と言う事も理解出来た。強大な力を持つのなら 幾ら癇癪起こした状態でも、余裕の1つや2つ見せても良い場面なのに、明らかに鬼人の前に萎縮してしまっている。

 

「我らの里をオークどもに襲わせたのはお前だな?」

「ほっほ。……違うというのなら、早く弁明をしなされ。無限に湧き出るオークどもの狩りにも飽いてきたところ。……明確な仇がこれと判れば、殺る気も出るというものぞ」

 

 

 完全に包囲されたゲルミュッドに成す術はない。

 

 開き直ってさっきのスキルで攻撃を放ったが、ベニマル達には一切通じず、耳を削がれ、打ち倒された。

 

 

 死なない程度に手加減をしながら。……直ぐにでも殺したい気持ちを必至に抑えているのが判る。

 

 

 

「そんなもんじゃないぞ。……親父はオレと妹を逃がすために死んだ。親父だけじゃない。多くの仲間が生きたまま喰われたんだ。……その程度の痛みじゃなかった筈だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『とても残酷な世界……ですね』

「ああ。モンスターがいて、色んな種族がいて人間もいて、オレ達はスライムになってて、……そういう世界に来たって事だ。最初、オレもそうだったが、アティス。言わばゲームの世界の中に入ってきた感覚が残ってるか?」

『……目の前で起きているのを見てみれば、虚構じゃなくて現実だって分かりますよ。ベニマルさんたちの怒りも、判ります。……だって、オレ自身も怒りを覚えるんですから』

 

 故郷を、家族を、同族の皆を殺された。その根源が目の前にいる。

 これがゲームだって言うのなら、本当に安易な設定だな、と思うだけだろう。

 

 でも今目の前で広げられている光景。ベニマル達と短い時間ではあるものの、共に行動をして、色々と良くしてもらった今。そんな気持ちは微塵もわかない。

 

 ただ、思うのは血で血を洗う様な、戦わなければ生きていけない様な、そんな残酷な世界だと。……そして湧き出るのは 全ての元凶であるあの魔人への怒り。

 

「手を出そうとは思うなよ? アティス。……あれはあいつらの戦いだ。それにオレ達にはやる事が残ってる」

『判ってますよ。豚頭帝もいますし、それに オレがいった所で、きっとベニマルさんたちの邪魔になっちゃいます』

「アイツらがお前を邪魔だって思う訳ないし、そもそも自分の力過小評価しすぎだっての。……っと、さっさとやろう」

 

 リムルは歩を進める。勿論相手は 豚頭帝(オークロード)

 その傍に控えている側近のオークが少々気になるが、これ以上森を食い荒らされる訳にはいかなかった。ゲルミュッドに操らわれているのなら、気の毒ともいえるが、操られたまま、意のままに操られたまま このまま永遠に使われる方が気の毒だ。

 

 ベニマル達の決着を待つまでもなく、終わらせようとしたその時だ。

 

 

 ゲルミュッドが成す術無く殺される寸前まで追い詰められ、甚振られた後にとった行動は 豚頭帝(オークロード)に助けを求める事だった。

 

 名を与え、食事を与えた。手駒にするつもりだったのが真実だが、それでも 助けられた事には変わりない。だからこそ、豚頭帝(オークロード)は沈黙を破り、動きだした。

 

 当然、ベニマル達も戦う相手が変わった所で 殺る気がそがれる事はない。直接的な原因はオークたちにあるのだから。オーガの里を襲い、蹂躙し、食い荒らしたのは オーク。

 

 

 

 ならば、手心を加えるつもりは一切ない、と。

 

 

 

 ここで予想外の事態が起きた。

 

 

 ゲルミュッドは安堵していた事だろう。

 少なくとも標的が一斉に自分から豚頭帝(オークロード)に変わったのだから。

 

 

 だから、彼自身も思いもしなかった。自身の頭を切り落とされるなんて。

 

 

 何が起こったのか判らぬまま、魔人ゲルミュッドは その命を散らした。

 そして、頭を切り落としたのは、手駒であり、味方側である筈の豚頭帝(オークロード)

 

 豚頭帝(オークロード)はそのまま、ゲルミュッドの身体を貪り始めた。貪り続ける度に、周囲に嫌な気配が充満していくのが判る。

 

 

 その気配が、可視化されるほどまで高まった所で リムルやアティスの頭の中に声が走った。

 

 

――確認しました。個体名ゲルドが魔王種へと進化を開始します。

 

 

『まおう、しゅ? なんで? 何それ』

「……アティスも聞こえたか。……今のは大賢者の声じゃないよな?」

 

 

――解。「世界の言葉」です。豚頭帝(オークロード)がゲルミュッドの要望に応えるべく進化を望んだと思われます。

 

 

 賢者、大賢者ともに答えは全く一緒だった。

 

 そして、それと同時に警告される。

 魔王種へと進化したあの者が放つ妖気の危険性。

 

 

「ッ!! 全員離れろ!! アイツの妖気(オーラ)に触れるな!」

 

 

 風が吹き荒れている訳でもないのに、その妖気は瞬く間に拡散した。

 ベニマル達は勿論の事、他のメンバーも回避する事は出来たが、戦いの中で力尽き、倒れたオークたちはその妖気をまともに浴び……、そして その身体は瞬く間に腐蝕していった。

 

「と、とけたっすよ!! オークの死体が溶けたっす!!」

 

 何とか逃げる事が出来たが、少しでも触れてれば……と思うと寒気が走る。

 

 それが、あの者の…… 魔王となった豚頭帝(オークロード)の能力。

 

「これはちょっと予想以上だな」

 

 

 

――成功しました。個体名ゲルドは豚頭魔王(オーク・ディザスター)へと進化完了しました。

 

 

 そして新たな魔王の誕生である。

 

 

『……溶かしてる。……みんなを、とかす……?』

 

 アティスは、倒れているオークたちが溶けていくのを見た。

 触れれば即座に腐蝕させるその能力は強力で凶悪。捕まれば命はないと考えた方が良い。それに加えて 相手は魔王だ。力は未知数。いつ、どの世界でだって魔王は凶悪。弱い訳が無い。一見すれば、アティスにだってわかる。膨大な魔素量が備わっている事が。その総量は半端では無かった。

 

『アイツは、魔王になる、って願った。だから、アイツを食べて、進化を開始して……そうなった。……叶った』

 

 

 なら、皆はどうなってしまうのだろう。魔王相手に、どうなってしまうのだろう。

 

 リムル達が強い事はアティスだって判っている。ベニマル達鬼人の戦い、ランガの戦い、各個体全員の戦いを目にしてきたのだから、疑いようがない。

 

 だけど、常に最悪のケースを考えてしまうのがアティス。

 

 悪い方へ悪い方へと考えてしまうからこそ、いつもいつも過剰に反応してしまうのだ。

 だが、今回は少し違った。悪い方へと考えてしまう事に変わりないが。

 

 

 

 

 

『オレは、オレの能力は、皆を守ってくれるかな……?』

 



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11話

 

 凄く不思議な気分だった。

 

 目の前にいるバケモノ。本当に怖い。物凄く怖い。

 

 そもそも名前からしてアウトだ。

 魔王なんて名は普通だったら、自分の知る世界、つまり前の世界だったら、ただの笑い話で終わるんだけど、この世界ででは違う。圧倒的なものを、絶対的強者(オーラ)を感じる。

 

 傍でいるだけで判る。まだ拙いスキルだけれど判る。

 

 よく考えてみれば、ここに来てこんな感覚の連続だと言えるかもしれない。

 不運にも突然死んでしまって、異世界に飛ばされたかと思えば、モンスターになってて、剣と魔法な世界で、……本当に怖い事だらけだ。

 

 

 でも、光の神様とトレイニーさんにお尻(無いケド)を叩かれて、安心できる場所にくる事が出来た。

 

 

 たった数日だけど、本当に心地良い場所だったし、楽しかった。

 

 

 色々とトレーニングしてくれたんだけれど、きっと、自分の性質は変わって無いと思う。怖かったら逃げる。怖いものは怖い。一朝一夕じゃ無理だ。性根ってヤツは。

 

 でも、それは1人だったら。1人だけだったらの話。今は1人じゃない。リムルさんが、……皆がいる。社畜時代も、なんだかんだで 部下とか見捨てれなかった。きっといなかったら、とっくに逃げてると思う。

 

 逃げちゃダメだって時くらい判ってる。 そして、やれるのなら……勿論やれる範囲内になるかもしれないけれど、やってやりたい。

 

 

 

――皆を 守ってくれるかな? じゃなく、護れるような存在になりたい。

――だって、メチャクチャ堅い身体なんだから、それ位は!

 

 

 

 

 

 

 

――解。スキル 変体化、金属王にて、守護する事は可能。強度は豚頭魔王(オークディザスター)の放つ腐蝕性妖気を上回ります。

『………そう、だよね。うん。了解、賢者さん』

 

 皆を守ってくれるかな? と言う問い。殆ど独り言に近かったけれど、答えをくれた。

 この身体は、あの魔王よりも堅い。魔王の攻撃よりも堅い。光の神様が教えてくれた通り。

 

 何度も教えてくれていた筈だったのに、こうしてウジウジと考えてしまっていたせいか、当然アティスは出遅れてしまう。 

 

「リムル様! アティス様! 我々にお任せを!」

 

 ベニマルが率先して前へ出てきて、彼のスキル 黒炎獄(ヘルフレア)を放った。オークたちを一瞬で消し炭へと変えていた黒い炎は、半球体に形成され 魔王を焼き尽くそうと猛威を振るったのだが。

 

「多分、ダメか」

 

 リムルは冷静沈着に戦況を見ている風だった。ベニマルの炎は強烈で凶悪。触れる者全て灰燼に帰す炎は、ある意味先ほどの魔王の腐蝕のオーラに負けていないとも思えるのだが、少なくとも魔王の名を関する相手だ。これだけでいけるとは到底思えない。何より、その魔素量も魔王の名に相応しいとさえ思える量だ、

 

「ランガ! 炎が消えたら雷をぶち当てろ!」

 

 ベニマル自身もリムルと同じ様に感じていたのだろう。すかさず追撃をランガへと伝え。

 

「了解した」

 

 ランガ自身もリムルの命令で行いたかった、と言う私情があったのだが 今の優先順位を考え、広範囲ではなく一点に収束にさせた 黒稲妻 を放った。

 

 

 

 黒い炎の超高熱の後に、黒き雷が轟く。

 

 

 

 これまで以上の轟音と舞い上がる砂塵を前に、さしのリムルも身震いした。

 

「正直、オレもアレを耐えろ、と言われたらきつい……。いや、アティスを纏ってるから大丈夫なのか?」

 

 リムルは、ちらっ、とアティスを見た。今は羽衣状態になっているから、丁度自分を見下ろす形で。だが、アティスから返事が返ってくる事はなく、それよりも早くに攻撃の結果が判った。

 

「……成る程。これが魔王か」

 

 リムルは、ぎりっ、と歯ぎしりをした。恐らく技を放ったベニマルやランガ、そして、それを見ていた者達全員が同じ気持ちだろう。

 

 表面こそ、炭化している。殆ど死んでいるのでは? と思える様な見てくれ。

 だが、平然と起き上がる豚頭魔王(オーク・ディザスター)。 何より驚嘆するのは、自らの腕を喰っている所だった。その行為にどんな意味があるのか? と言うのは考えるまでもなかった。

 更に、魔王の元へ走り寄るオークの1人が、己が身を差し出す仕草をすると、軽く一瞥しただけで、意図もたやすくその首を跳ね落とし そして喰らった。

 

 吐き気さえする光景だが、喰うたびに炭化した皮膚がはがれ新たな皮膚が生まれ、回復していく姿の方がある意味最悪だ。引き千切って喰らった腕でさえ生えてきた。

 凄まじい回復能力だ。

 

「やれやれ 新品に戻りやがった……」

「ぐっ……」

 

 とんでもない化け物の一言だ。

 ランガは、今の攻撃で魔素量が空になった様で、蹲ってしまっていた。

 

「オレの影で休んでいろ、ランガ」

「申し訳ございません……」

 

 無防備な状態でランガを放置する訳にはいかない為、リムルの影の中へと緊急避難させた。

 一先ず、ベニマルはまだ余力がある様で大丈夫。ランガも避難させたから大丈夫。これからどうしたものか、と考えていた時、次に放つのはシオンの一閃。

 

 大太刀を全力で振るったシオンの一撃。それはアティスが少しばかり前に受けたその一撃よりもはるかに強力なものだった。力任せ、鬼人の力を存分に使ったシオンならではの剛力。

 

 それを片手に持つ肉切包丁で容易く受け止めた。

 

 あの巨体で反応速度も早い。

 

 そして、間髪入れずに ハクロウの一閃が追撃を入れる。シオンの様な剛力は無いが、目にも止まらぬ神速での一閃。さしもの豚頭魔王(オーク・ディザスター)の知覚も追いつかなかったのだろう、その首を跳ね飛ばした。

 

 一瞬、やった! と思っただろう。首を落とし、生きていられる生物など考えたくもないから。

 

 だが、魔王種と言うものの真の恐ろしさを垣間見た瞬間でもあった。その凄まじい回復力は、首を落としても健在の様で、地に落ちる前に首のない身体は容易く己の頭を掴み、そして元あった場所へと押し込むと……つながったのだ。

 まるで、ホラー映画の様だ。

 そして、受け止めたままのシオンも強引に力任せに押し切り、ダメージまで与えた。

 首を跳ねたダメージなど、最初から無かったも同然かの様に。

 だが、それでも追撃の手は止まない。ハクロウの影から、ソウエイが飛び出した。どうやら機を窺っていた様で、粘鋼糸を使い、編み出した技で一気に捕縛する。

 

「操糸妖縛陣!」

 

 一瞬のうちに捕縛された豚頭魔王(オーク・ディザスター)。確かに捕縛は回復能力とは関係なく働く。動けなくしてしまえば、手はあるともいえるのだが、相手の凶悪なスキルは回復のみではなく、全てを腐蝕させるようなオーラもあった。

 

混沌喰(カオスイーター)

 

 オーラは全てを腐蝕させ、喰らう。それはソウエイが生み出した糸も例外ではない様で、捕えたのも束の間、あっと言う間に糸を喰らいつくしてしまった。糸まで食べるとは悪食、此処に極まれり。

 

 

 

 

 

「……ハラ、減った。もう、いい。……まとめて、喰う。餌、喰う」

 

 

 ゆらり、と不気味に動くと、身に抑えきれないと言わんばかりに一気に腐蝕のオーラ、混沌喰(カオスイーター)を発動させた。

 

 ただでさえ、凶悪なスキルだというのに、その範囲は一気に広がる。ベニマルの炎と比べても何ら遜色ない。寧ろ、気体の様に広がるソレは 更にひどい。

 

「まずいッ!」

 

 リムルは、咄嗟に動いた。

 凶悪な腐蝕のオーラは、戦況の全てを覆いつくさんと広がっている。敵味方関係なく……いや、ある程度は配慮しているのか、前面に広がっていく。アレを受ければ、どうなるか言うまでもない。

 

――皆が喰われる!?

 

 リムルにとって大切な仲間達が魔王の餌食になるなど、みたくもない。

 自分自身のスキルの《捕食者》で捕食する事で、広がる 混沌喰(カオスイーター)を防ごうとした。

 

 だが、間に合うか判らない。それ程までに広がりが早いから。

 

 最悪の光景が頭に浮かんだその時だった。

 

『―――大丈夫です』

 

 アティスの声がリムルの頭に直接届いた。それは《世界の声》や《大賢者》のスキルの様に。

 

『皆は、オレが護ります』

 

 いつの間にか、リムルに纏っていた筈のアティスの衣が姿を消していたのだ。

 

 

 

 

 

「……さっさと、食わセロ」

 

 先ほど、己を、そして味方、配下をも喰らった豚頭魔王(オーク・ディザスター)は、それでもまだ足りないのか、極限の飢えを満たすために混沌喰(カオスイーター)を放った。

 

 鬼人達は、極上の餌。喰えばどれだけ満たされるか判らない程の餌。

 

 涎を垂らし、今か今かと御馳走を待っていた。後寸分で、まずは鬼人の娘を喰らおうとしていたのだが、いつまでたっても満足感は得られない。

 

「………ム?」

 

 ……満足感を得られないどころではなかった。

 

 腐蝕のオーラに負けない程の速度で、何か(・・)が広がっていた。

 

 時折、キラキラと輝くそれは、まるで星屑の様に綺麗で、何処か安堵感さえ醸し出す、魔王のオーラとはまるで真逆の存在。光の様な速さで味方達を囲む様に包み込んだ。

 

 

 

 

『変体化 メタルミスト……って感じかな?』

――告。成功いたしました。

 

 



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12話

 

 それは、仲間達を銀の守りで包む少し前の事。

 

 

――告。スキル:変体化を使用。粒子状にまで変化させる事で、周囲の守護は可能。

「了解! ……んん、でも 凄く繊細に力を使わないといけないんじゃ……。今は予断を許さない状況だし、ぶっつけ本番って、昔から苦手だったんだけど……」

 

 身体の変化は、メタルスライムな身体を ウネウネと動かし続けたから、何ら問題ない。擬態する事により、リムルの姿を模倣する事も出来たのだから。

 

 だが、粒子状…… つまり気体…… 霧状に、あの豚頭魔王(オークディザスター)の放つオーラの様な状態にしなければ ならない。身体の操作は慣れた!とはいえ、見た通り桁が違う制度が必要になる。

 

――告。エキストラスキル:賢者に主導権を移行し、自動防御態勢(オートディフェンスモード)にする事で、この場での制御は可能。

「……おおっ!! 賢者さんが制御してくれるって言うのなら、安心だね!」

 

 賢者のスキルは、リムルの大賢者には及ばなくとも、情報処理の類は得意……と言うより、専門分野だ。機械の様な精密さで行ってくれる事だろう。

 

――告。リムル=テンペストの特異(ユニーク)スキル《大賢者》と連動、制御を移行するとより高い性能で行う事が可能です。

「え? リムルさんのスキルの?」

 

 大賢者と言うスキルは、文字通り 賢者の上位のスキルだ。その能力は、全てにおいて上回ってる。アティスは少しだけ考える。

 

「えっと、賢者さんだけじゃ無理っぽいのかな?」

――解。防御の範囲、個体数、全てを考慮。可能です。

「じゃあ、賢者さんにお願いするよ」

――了。……理由を尋ねてもよろしいですか? 大賢者のスキルの方が強力です。

 

 スキル 相談者を取り込んでいる賢者。

 機械的な受け答えが印象的な賢者のスキルは、時折人間味を帯びる事がある。今回の受け答えの後半部分がより人間のソレだった。アティスは気付いてない様だが。 

 

 そして、言葉にはしていないが、より人間味を その感情を深める事になるのはこの次だった。

 

「大賢者さんは、リムルさんの相棒だからね? オレは賢者さんだよ。賢者さんなら、信じられる。何せ、ほんとの意味で生まれた時から一緒だし! あ、勿論 大賢者さんを信用してない、って訳じゃないからね? そこんところヨロシク!」

――………了。

 

 たった一言だったが、温かい気持ちが芽吹き、花を咲かせた。それと同時に賢者のスキルの能力を解放。大賢者のスキルに肉薄する程の精度を誇るスキルとなり、主導権がアティスから賢者へと移行した。

 

 銀色の瞳が赤く染まり、瞬時にその身体が霧散し 仲間たちを包み込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……〈なんだ? コレは〉」

 

 早く餌にありつきたい。満たされぬ飢え少しでも、と その本能だけに従っていた豚頭魔王(オークディザスター)が、瞬時に冷静さを得た。だが、直ぐに激昂する。

 

「……喰エ。喰い尽くセッ!」

 

 怒りのままに、飢えのままに雄叫びを上げ、混沌喰(カオスイーター)を放つが、まるで通らない。あの銀の光が全てを遮る。まるで、自分とは真逆の存在。

 

「……豚頭魔王(オークディザスター)ゲルドの名において命ずル。餌となレ!!」

 

 喰えない事のイラつきが、憤怒の炎を沸かせた。

 

――ふっふふーん! これ気分良いね! ぜんぜん攻撃通らないや! 痛くないし、透き通るような隙も全然ない! ま、攻撃出来る気もしないけど! 相手が飽きるまでずーっとこうしてるっていうのも良いね! 逃げなくて良いし。

 

「解。保有する魔素は護る対象の数、そして敵の攻撃により常に消費しています」

――……つまり、消費し続けて、無くなると 解除&すりーぷ? 賢者さんすきるもだうん?

「解」

――わーーー! ダメダメ! それ困るッッ! すっごく困るッッ!! オレも皆も困るっっ!!

 

 大パニックになっていた所に、違う声が頭に響いた。

 

「大丈夫だ。任せろ、アティス」

 

 よく知る人物、リムルの声。

 どうやら、さっきまでのやり取りは、賢者・大賢者・リムルとしっかりリンクしてくれていた様子。

 

 せっかく 恰好つけて皆を守る事が出来たというのに、台無しである。

 

 

 

 

 

 

 

  

「この光は、アティス様の……?」

「我々だけじゃない。リザードマンの生き残り全員にも」

「凄まじい程の魔素量…… 此処まで範囲を広げた上に、強度劣る面が無いとは」

 

 シオンとソウエイ、ハクロウは銀の光に包まれているのを目の当たりにし、ソレの正体を直ぐに把握出来た。よく知る気配を広く強く感じれたから。 それは他のメンバーも同様だ。

 

「何と凄まじくも神々しい。……これがアティス様の。だが、アレだけの力を保ち続けるのはきつ過ぎる筈だ」

 

 魔王の圧倒的な回復力を前に、決定打に欠ける鬼人たち。

 アティスの守護で、こちらも魔素量の桁が跳ね上がった故に負けの文字は消えたが、それはアティスに消耗を強いる事になる。長引けば長引く程、魔王の力は全力でアティスを蝕むだろう。

 

 それを良しとする者は此処にはいない。

 

 ベニマルは直ぐに行動をしようとしたときだった。

 

『聞こえるか? ベニマル。ここは オレ達に任せろ』

 

 聞こえるのはリムルの声。

 リムルはいつの間にか、混沌喰(カオスイーター)を全方位、全力で解き放ってる眼前に迫っていた。

 

「リムル様!? いつの間にそんなに前へ!?」

「待てシオン」

 

 前に出ようとするシオンを引き留めるベニマル。

 

 

 

「リムル様は、任せろと言った。……オレ()に、と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆の主として、満を持してリムル=テンペストが動いた。

 スライム軍VS魔王軍 最終決戦の幕開け! と言っていい展開なのだが……。

 

『いやはや お前たちの信頼関係は微笑ましさが湧き出るもんだが、ちょーっと台無し感が漂ってるよーな気がするゾ? 『――大丈夫です。オレが皆を護ります』キリッ だったのにさー』

『わーーー、や、止めてください!! ってか、目の前! 目の前!! まおーですよ!』

 

 魔王を前に、随分と余裕のあるやり取りをしている様子が見て取れる、が、勿論理由がある。

 アティスがそうであるように、リムルもアティスと同じ様に、大賢者に自身の主導権を移行。自動戦闘状態(オートバトルモード)になってる為だ。

 

 しっかりと働いてるのは、其々のスキルのみ。

 

 

「「……はぁ」」

 

 

 実に人間味のある反応を見せるスキルたちだった。

 

『なぁ、大賢者。オレのテキトーな見立てなんだけど、アティスの賢者のスキルって、全然大賢者に迫ってる様な気がするんだけど』

特異(ユニーク)スキル 物真似の効果。賢者のスキルは 元々アティス=レイの経験も相乗し、8割以上大賢者のスキルに迫ると推察」

『成る程な。(なーんか、アティスの賢者って、相棒って言うより、お母さんって感じがするんだよなー)。それより、どうだ? アティスが頑張ってくれる間に、やれそうか?』

「解。アティス=レイの魔素量の測定は不可。正確なエネルギー量が判らない以上、推察の域を出ません」

『それでもかまわないよ。アティスも、ああは言ってるけど、根性は見せてくれそうだ』

 

 リムルの周囲の光の輝きが増した。

 色々と騒いでたアティスだったが、『頑張る!』と言ってる様に瞬いていた。

 

 そして、眼前の魔王。混沌喰(カオスイーター)が通らない事のイラつきは急速に冷めていき、認識を改めなおしていた。

 

 実体がよく判らない相手。喰えない相手。即ち餌ではない。

 

「敵……。強敵か。だが、貴様は別だ」

 

 視線の先にいるのはリムル。

 

「一点集中。存在している以上、貴様は喰えぬ相手ではない。そして、永遠に維持する等も出来まイ」

 

 ゲルドは、視線を他のオークたちに向けた。

 全員が首を垂れている。幾万の兵達は、全員が糧になる腹積もりなのだろう。最初から持久戦のつもりの様だ。

 

 

「否」

 

 

 リムル……大賢者は、ゲルドの言葉を短く否定した。

 そして、自身の剣に黒炎を纏わせた。

 

 それと同時に、ハクロウの速度にも勝るとも劣らない神速で接近。ゲルドの腕を斬り飛ばした。

 

 

 

 

「アティス=レイの自動防御状態(スキル)。リムル=テンペストの自動戦闘状態(スキル)。現状、負けの要素は限りなく皆無」

 

 

 



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13話

 

 

 魔王種の力を得たゲルドは、得体の知れない存在を前にしても冷静だ。

 飢餓感を持っても冷静さは決して失われない。

 

 1人だけと思っていた得体の知れない存在が またもう1人現れたともなれば、当然と言えるのかもしれない。

 

 最初の存在。

 

 それは得体の知れないどころではない。実体を持たない存在に思えた。

 

 だが、明らかに意思がある。その輝きを見せる光輝くオーラは、こちらの全てを防いでしまうのだから。

 自身のスキルをもってしても、直ぐには喰えない。だが、無限に存在し続けられる筈はない。直ぐに喰えないが、攻撃すればするほど霧散し、僅かにだが魔素が消費されているのが判った。弱りきれば喰えるとも判断。

 

 どんな力でも使えば無くなっていくものだという事だろう。そして、魔王となった自分自身の魔素量も決して少なくない。故に持久戦の構えを取った。

 

 魔王ゲルドが取った行動は正解だ。

 

 オークの勢力は有限こそ、万を余裕で超える。喰えば喰う程に強く、身体も超速で修復される。護りの構えしかとっていない相手であれば、時間は掛かるだろうが、最後には果て、軍配はこちら側に上がる。

 普通なら、先に根を上げそうな気もする程気が遠くなる戦いになりそうだが、折れる気配は毛頭ない。そこはアティスにとっては最悪だ。(基本諦めてくれるの待ちだから)

 

 ただ、唯一誤算があったとすれば、……もう1人の存在。そう リムル=テンペストだ。

 

「何だ? 貴様は…… ム!?」

 

 身に感じる違和感。我が身の一部、片腕がいつの間にか斬り飛ばされた。更に驚く事に斬られた腕が再生を始めない。

 見た目は矮小な存在。……だが、その者も身に宿すオーラが得体の知れないものだった。

 

 攻めと守り。両方の特化型。

 

「(オレの腕を一瞬。それも一太刀で、カ……)成る程、強敵が2人。……だが! 混沌喰(カオスイーター)!」

 

 腐蝕性オーラを今度は広範囲・拡散型ではなく、集中型。

 オーラは、まるで無数の大蛇の様な形を取り、リムルに襲い掛かる。

 

『賢者さん! リムルさんを護って!!』

「――告。周囲の守護を中断、リムル=テンペスト周囲に集中させると瞬時に拡散させると推察。恐らく敵は我々に狙いを定めつつも、自陣を喰らい、能力を得ようとしているとも推察。……」

 

 一瞬、賢者は言葉を切った後 告げた。

 

 

「――告。魔王ゲルド スキル 飢餓者(ウエルモノ)の威力・効果範囲が加速度的に向上を確認」

 

 

 賢者が説明している際に、《世界の声》が頭の中に響く。

 

 

 

――成功しました。豚頭魔王(オークディザスター) 個体名:ゲルドは、飢餓者(ウエルモノ)悪食者(イカモノグイ)に進化しました。

 

 

 

 腐蝕のオーラの色合いが、より薄気味悪く、濃く、なってゆくのが判る。威力・質量ともに賢者が言った通りになった。内包するオーラの濃さがその強さも大体把握できた。

 見るだけで吐き気さえする程の気味の悪さだった。……スライムは吐かないけど。

 

『大丈夫……? オレの力で、リザードマン達は勿論、皆を護れる? 護りきれる? 護る、なんて言うとベニマルさんたちが怒っちゃいそうだけど』

「……(やはり、逃げると言う選択はもうしないのですね)」

『んん?? ひょっとして不味いのっ!?』

「――告。光の神に与えられた魔素は、現状 魔王ゲルドの力の上位の存在。しかし、無限に守護する事は不可」

『良かった……。でも、リムルさん頼りになっちゃうって事……かな』

 

 アティスは、防御に特化した能力を開花させた為、多少ヤキモキする気分だった。自分が格好良く! 敵をコテンパンにする姿など、妄想上でも想像が出来ないのが悲しい性だが。

 

『おいおい。任せろ、ってオレは言ったんだぞ。ちょっとはオレ、いや オレの大賢者を信じろっての』

 

 そんなとき、葛藤がリムルにも伝わっていたのだろう。リムルの声が聞こえてきた。

 勿論、大賢者の声も。

 

「解。現状負けの要素は皆無」

『そゆことだ。しかし、流石は大賢者。超速再生を持ってるアイツをあんな形で止めるとはな。あそこまで器用に黒炎、オレ操れないと思う』

 

 切り飛ばしたゲルドの腕は一向に再生する気配は見えない。あの腕に纏わりついている黒炎が再生を阻んでいるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況を見つめているスライム軍。大なり小なりの傷は負っているが、オークたちに比べたら擦り傷程度だ。今も尚、僅かに漏れる腐蝕性オーラは油断してはいけないものだが、それは完璧に遮っていた。

 

「いやー、しかし凄いっスね。リムル様もそーですけど、アティス様のこのオーラ? あったかい感じがするっス―!」

 

 ゴブタは感激! って感じで、手に取ったオーラに頬擦りする様にしていた。

 

 正直、オーラ。粒子の一粒一粒と感覚は繋がってるので、頬擦りされても気持ち悪いだけだ。女性陣なら兎も角。アティスは主導権を賢者に移行しているが、、、それでも気持ち悪さはなぜか伝わってきたので、ちょっぴりゴブタの周辺解除。

 

「ちょちょッ!! アティス様!? なんか、薄れてきてるっスよ!! なんで!? わーーーっ、服が溶けてるっスーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勿論、ゴブタを喰わせる様な事はする筈もないので、テキトーな所で切り上げていた。

 そんな騒ぎはとりあえず無視しているベニマル達はただただ、戦況を見つめていた。主に止められたが、いついかなる時でも参戦出来る様に備えながら。

 

「リムル様にしても、アティス様にしても、あそこまで精密な魔素の制御は相当の技術が必要でしょう。……まるで、お人が変わられたかの様だ」

「あの方たちは、同族だと言っていた。……伝わる秘奥の様なスキルを備えていたのかもしれない」

 

 ハクロウとベニマルは、リムルやアティスの変化に驚いていた様だ。同じく戦況を見守っているソウエイも同じく。

 ただ、シオンだけは。

 

「……護られている、と言うものも良いですね。とても暖かいです。アティス様……」

 

 シオンは リムル護衛兼秘書と言う立場。護ると言う立場から、護られるという事を体験し、やや戦闘狂な面を持っている彼女だが、たまには……と頬を少しばかり染めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして、リムルの大賢者の放った黒炎斬撃は、いつまでも再生を阻む事は出来なかった様だ。悪食者が炎ごと喰らったからだ。

 

「黒炎も取り込んだゾ。……餓鬼行進演舞焔(デスマーチダンス・インフェルノ)!!」

 

 黒い炎をも纏った腐蝕性オーラが周囲から迫ってきた。

 

『うわッ!! なんか、ズルい!! あんな簡単に自分たちのチカラ奪うなんてっっ!! ブーブー!』

「解。アティス=レイのユニークスキル:物真似も似たようなものかと」

『似たようなモンどころか、見ただけで真似れるアティスの方が絶対ズルい。ズル過ぎ』

「解。以下同文です」

 

 アティスの文句に一斉に非難が飛ぶ。

 確かに、見て解析して、スキル全部ではない、とは言え真似る。安易に、と言うのであれば、アティスだって負けてない。寧ろ、リムルやゲルドは喰わないと体現出来ないので、アティスの方がズルい。

 

『なんで皆して矛先がオレなのッ!!? と言うか、すっごい余裕だよねっ! 大賢者さんっ!? 掴まれちゃってるよ!?』

 

 炎に包まれてると言うのに、オマケに、炎の中からあの大きな大きな腕が出てきて、捕まえられたというのに、ツッコミを入れる所を見て驚くアティス。

 慌ててるのはアティスだけである。

 

「リムル様!!」

「……いかん。如何にアティス様の守護範囲は広範囲に広げてるが故に、密着されてしまえば防ぎきれん」

 

 キチッ! とシオンとハクロウが己の獲物を引き抜こうとしていたが、ベニマルが制止させた。『我らが主を、お2人を信じろ』と。

 

 

 

「さぁ、防げるモノなら防いでみロ。我が進化した悪食者は、脆弱な貴様らの全てを喰らい、奪ってくれる。サァ、腐り溶けて死ネ」

「……否。ここまで密接したのにも関わらず、かの力を、かの存在を把握できないとは。……魔王種とは言え、誕生間もなく酷な話」

「……ナニ? フン、何を喚こうと貴様の腕を見ロ。溶け始めたぞ」

 

 リムルの手がドロリ、と原型を留め無くなり、それはまるで本当に腐っている様にも見える。色も蒼っぽいから。

 

 でも、アティスもここまでみて漸く皆が落ち着いてる理由が判った。

 

 アレは溶かされているのではない。部分的にスライムに戻り、そして ゲルドの身体を拘束しているのだと。そして、決め手は 次のリムルの技――炎化爆獄陣(フレアサークル)

 以前聞いた事のあるイフリートを捕食した時に習得したリムルのスキルの1つ。

 

 

「光の加護を得た我々に、現状負けの要素は皆無」

 

 

 炎に包まれるゲルドにそう告げる大賢者。 

 リムルは炎の耐性があり、一緒に燃えたとしても関係なく、元々 超防御力を備えたアティスには炎は通じない(炎耐性を獲得、物真似をしていないので、熱い!! と思うかもしれないが……)。

 故にゲルドのみが燃え尽きるだけだ。……と考えていたが、魔王と言うのは甘くない様だった。

 

 

――確認しました。豚頭魔王(オークディザスター)ゲルドは炎熱攻撃耐性を獲得。

 

 

 燃え尽きろ! と放った炎に耐性が出来てしまったから。

 

「グクク……。魔王の力。オレには炎は通じぬ様だゾ? 耐性も経たオレ。これからもあらゆる耐性を得続けよう。そして、攻め手に欠けるのは貴様らダ。軍配はどちらに上がるカ、それこそ火を見るより明らかダ。極上の餌。どれだけ時間をかけようとも、喰らいつくしてくれる」

「敵、炎への耐性獲得を確認。殲滅計画変更」

「告。――貴様に、アティス=レイを喰らう事など不可能」

 

 大賢者は次なる手を模索。

 賢者は何処となく怒ってる様な口調だった。対象に《貴様》と言う時点で、何だか怖い。

 いや、大賢者も殲滅! と言う単語を使ってるので、それなりに怖いかもしれない。

 

 そんな スキル達と比べて 今度は主人格側は落ち着いていた。

 

 

 

『アティス。任せとけ、って言っておいて格好悪い気もするが、物は相談だ』

『はい、だいじょうぶですよ! と言うか、こっちも格好悪いトコメチャ見られてますし、リムルさんなんか、まだまだ全然ですっ!』

『そりゃそうだな。んじゃあ 前に大賢者に聞いたんだけどな、魔素融合(ユニゾンレイド)ってのを試してみたい』

 

 

 



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14話

 

「敵、殲滅に向け軌道修正を」

「無知で幼稚な者に分相応を」

 

 物凄く不機嫌モードになってしまってる賢者と大賢者。賢者に関しては姿形はミスト状だから見えないんだけど、はっきりと表情が判る気分だ。

 

 まさに怒髪天、と言う事が。

 

『交代だ。大賢者』

 

 あまりに熱くなり過ぎてる様なので、リムルが表立って出る意思を示した。

 不機嫌だと言う事はリムルも十分に判ってる。だから、落ち着かせる様に徹した。

 ……いつもと逆な気がするが。

 

『大丈夫だって、あんまり熱くなるな。今度はオレ()に任せてくれ』

 

 達、と言う言葉を聞いたのとほぼ同時に、アティスも声を上げた。

 

『だいじょーぶ……だからね? いつもより怒ってる賢者さんも、なんだか、嬉しい気もするけどさ。リムルさんからのとっておきの作戦聞いたから。 そう、大丈夫大丈夫!』

 

 怒ってくれてる賢者に対して、嬉しくもあり、それでいて何だか頭が上がらない様な気もするアティス。おずおずと声をかけて、後半からは リムルの作戦を思い出しつつ、絶対の自信を醸し出し、大きく頷いていた。

 

「……了」

 

 それを聞いた賢者は、ある程度 頭? が冷えたのか、応じる様子。心なしか声色も元通りとまではいかないが、柔らかいものになっていた。

 

『前に大賢者が言ってただろう? 互いの魔素を融合させて より大きな力を得る術があるって。単純な足し算じゃなくて、上手くいけば掛け算。魔素同士の波長とか、色々合わせるみたいだけど、魔素の性質は十人十色で、不確定要素も多くて、かなり確率が低いって言ってたが、成功すれば凄い。アティスとなら何となく出来そうな気がする』

「解。可能性面から鑑みると、限りなく高いかと」

 

 大賢者も頷いた。 

 これで決まりだ、と。

 

 その間は時間にして数秒ではあるが、置いてけぼりを喰らってるゲルドは 自分が何処となく無視されている事に感づいたのだろう。

 

「……どれだけ時間がかかろうトモ、喰らい尽くしてくれるワ!」

 

 激昂すると同時に、魔素量もより強化されていた。可視化する腐蝕のオーラは視る者全てを喰らい尽くすかの様な勢い。

 

 アティスのメタルミスト、光で守られ、暖かささえ感じていた者達も、思わず身震いしてしまう程だった。

 

 が、それでも余裕を一切崩さないのは、大賢者と交代を果たしたリムル。

 

 そう、全てはもう終わったのだ。いや、決まったと言うべきだろうか。

 

 この戦いの勝者がどちらなのかが。

 

 

――解。成功しました。

 

 

「焼け死んだ方がまだマシだったかもしれないぜ? こっちの炎の方がまだ優しいってもんだよ。こりゃ」

 

 

 

 そのリムルの言葉と共に、覆っていた炎が消失した。

 

 

炎化爆獄陣(フレアサークル)が解けた!? それに、光が!?」

「リムル様! アティス様!!」

 

 炎が消失し、人間形態だったリムルの姿が ドロリと溶けた。 それと同時に、周囲を護る様に覆っていたアティスの粒子も同時に消失。 最悪の光景を目の当たりにしてしまったのだから。

 

 だが、その真の意味を直ぐに理解したのは ハクロウだった。

 

 

「(魔素が急激に増大した? 成る程……、まさか この目で見られる日がこようとは)お待ちくだされ」 

 

 思わず駆けつけようとしたベニマルとシオンを制する。

 

「お2人の消失、とは真逆。先ほどとはくらべものにならない程のオーラを感じられます。……そして、リムル様のアレは腐り溶かされたのではないでしょうな。よくごらんなされ」

 

 ハクロウの言葉を聞き、改めて魔王ゲルドの方を凝視。すると、ドロリと溶けたリムルの身体はうねりながら、ゲルドの腕にとりついていた。

 それだけでなく、そのリムルの身体はまるで輝き出したかの様に、青く光沢を放っていた。

 

 

「ぐ、グあ……!? き、貴様……ッ!」

「言ってなかったか? オレは、オレ達はこう見えてスライムなんだよ。それに喰うのはお前の専売特許じゃなくてな」

「オノレ……! ならば、先に…… ヌぁ!!」

 

 リムルの身体を喰らおうとするが、出来ない。

 

「それも無理。今のオレは融合してるも同然だ。さっき、お前が喰えないって言ってたヤツを纏ってる。……お前は一方的に喰われる」

「そんな、馬鹿な事が……!! ならば、他の餌どもを!」

 

 他の者達を喰らおうとするが、一瞬でも気を抜けば、手が、足が先端から無くなってしまう。

 ゲルドは、自己再生にて 回復を優先させなければ、喰う間もなく、自分自身が喰われてしまう事に気付いた。

 つまり、八方ふさがりだ。

 

「ば、バケモノ、か……!?」

「オレもそう思うよ。今回のコレは結構偶然。すげぇな、魔素融合(ユニゾンレイド)って。オレの捕食者(スキル)とアティスの変体化(スキル)を合わせたら、凶悪ってもんだ。――ま、宝くじ当てるくらいの確率っぽいし、モノにしたのは偶然だけど。……同情するよ、お前には」

 

 リムルは、本来のスライムの姿をゲルドの眼前に出した。それと同時に、アティス自身も姿を見せる。

 

「皆を傷付けた、傷付けようとしたんだ。……やり返されたって、文句は言えないよね?」

「き、きさま、が……!?」

 

 光の粒子が集まって、姿を見せたアティス。 

 まるで、自分とは真逆な存在。魔と対照的な存在を、今更ながら本能的に理解するゲルド。

 

 だが、それでもあきらめたりはしなかった。

 何とか喰らおうと足搔く。圧倒的な差を見せられても、足搔く。

 

「(そりゃ、オレだって諦めるなんてしたくないが)」

「(何でここまで……)」

 

 ただただ、極限の飢餓に襲われてしまって、見境が無くなっているだけとは思えなかった。言動からは考えられない程の想いが、伝わってきた。

 

 

 

 そして――、景色が変わった。

 

 

 その場所は、枯れ果てた大地。乾いた土地に、泣き続けるオークの子供と、それを見ている大人のオーク。 オークの王、つまり 魔王ゲルドとなる前のオークだ。

 

『腹が減ったのか。少し待ちなさい』

 

 泣き続ける子供たちにそう告げると、己の腕を引きちぎり、与えた。

 

――大きくなれ。

 

 そう言葉を添えて。

 

 それを止めようとする側近。

 貴方を失えば絶望しか残らない、と。

 

 だが、それでも止めない。

 

 それは、オークたちの住む土地の未曾有の大飢饉。

 一昨日生まれた子は死に、昨日生まれた子は虫の息。

 

 今以上の絶望はもうない。

 

 そして、己の身体は幾ら切り刻まれようとも、再生するが、他の子達はどうしようもなかったのだから。

 

 これが、ジュラの大森林へと足を踏み入れた理由であり、魔族ゲルミュッドに利用されてしまった理由でもある。

 

『………』

 

 アティスは言いようのない感情に見舞われる。

 確かに目の前で仲間達が襲われ、仲間達は家族を、その一族を失う切っ掛けになってしまった。その怒りの感情も確かに見た。感じた。

 敵側の事情など殆ど考えてなかった。ただ、領土を広げようとした程度にしか。

 

 なのに、目の前の光景は――。

 

『あの方はオレに食事と名を与えた』

 

 そして 目の前のオークの姿が魔王ゲルドのものになると同時に、起こった全てを語り始めた。

 

豚頭帝(オークロード)となったオレが喰えば『飢餓者(ウエルモノ)』の支配下にあるものは死なない。飢える仲間達を救えるのだと。……邪悪な企みの駒にされていたようだが、それに賭けるしかなかった。……それしか 道はなかった』

 

 魔王の表情は、先ほどまで戦っていたゲルドのモノではない。心優しき、オークの王のものだった。決して譲れない決意をその表情に感じた。例え、他の誰かを犠牲にしてでもと。

 

『だから、オレは喰わねばならないのだ。……お前たちの存在の異質さは身体全体で感じている。例え、何でも喰うスライムだとしても、……たとえ』

 

 くるり、と 振り返り、その場にいるリムルを、そして アティスの目を見た。

 

『……たとえ、神であろうと、喰わねばならない』

 

 光を感じたゲルドが表現したのは、神と言う名だった。 

 

『生憎だが、お前は喰えない。そしてオレは喰える。……大賢者や賢者の言葉じゃないが、負けの要素は一切こちらにはない。お前は負ける』

『それでも、同胞が飢えているのだ。オレは負けられぬ。……オレは他の魔物を食い荒らした。名づけの親でもあるゲルミュッド様も喰った。……助けるべき同胞をも喰った』

 

 ここは、ゲルドの意識の世界。

 現実では、確実にリムルの捕食者はゲルドを覆いつくしている。再生も追いつかず、身体が溶ける様に小さくなりつつあった。

 

 光の防護を纏うリムルの捕食者に敵う道理が無い。

 

 それを肌で感じたオークたちは、ただただ ゲルドの名を呼び続ける事しか出来なかった。

 

 そんな仲間達の声を、視線を感じるゲルドは決意を新たにする。もう、幾ばくも無い命の残り火を燃やす。

 

 

『オレが死んだら同胞たちが罪を背負う。……最早、退けぬのだ。皆が餓える事の無いように、オレがこの世の全ての飢えを引き受けて見せよう!!』

 

 

 王の決意、威圧はすさまじいものだった。瀕死の状態だとは到底思えない。

 

 でも……。

 

『それでも、お前の負けだ』

 

 リムルは告げる。勝てないと。……負けると。

 アティスも声を上げた。

 

『ゲルドの想いは判る。……けど、退けないのはこっちも同じ。だから オレが、全部護るよ。……全ての罪を背負ってでも助けようとしたオーク達の事も、……オレが護る』

『……なに?』

 

 光の礫が、リムルの仲間達だけでなく、オーク達をも覆い始めた。

 まるで、加護を……光の加護を得たかの様な、温かささえ感じられた。……感じられる資格など、有る筈がない、と思っていたのに。

 

『オレは、アティスの様に甘い事を言うつもりは無い。……だけど、意味は一緒になるかもな』

 

 リムルは、最後の仕上げと言わんばかりに、身体の面積を広げた。

 

『お前の罪も、お前の同胞の罪も、オレが喰ってやる。オレは、『捕食者(クラウモノ)』だからな。お前たちの罪を喰い、そして、オレの罪事 こいつに護ってもらうよ』

 

 その言葉を聞いたゲルドは、とうとう膝を落とした。

 

『罪を喰う……、いや、我らを 護る、だと……? オレの同胞も含めて?』

『ああ。判ると思うが、こいつは相当な甘々でな。さっきまで怒ってたんだけど、もうソレ忘れてるみたいだ。……それに、オレは欲張りで、何でも喰うんだ』

『……オレは負ける訳には――、いや 護られる権利など、オレには』

 

 光の粒子が、ゲルドの手に纏う。まるで、手を握っている様に。

 

『別に甘くたって良いじゃないですか。……オレは、もう何も言えないです。ベニマルさんたちには、申し訳ないですけど。見てしまったから、何にも、いえないです』

『非情になりきれない、ヘタレスライムだから、か?』

『……自分でヘタレって言うならまだしも、他のひとに言われるのには抵抗ありますけどね!』

 

 ゲルドは、その手に 殆ど原型をとどめていない手に、温もりを感じた。

 

『……まさか、魔王になった我に、光の加護……とは。それに 久しい。……いや、初めてかもしれぬ。ここまで暖かいと思うのは』

 

 だらりと力なく、ゲルドは倒れた。

 

『眠い、な。ここは心地良い。……暖かい。強欲で、罪を、全てを喰らう者よ。……そして、光の神よ。多大なる、感謝を―――。オレは、もう――飢えること、はない』

 

 溶け続ける身体が微かにだが、光始める。

 まるで、ゲルドの身体が光の中へと、光になるかの様に。

 

 

『オレは、満たされた――。光に、全てを……』

 

 

 

 豚頭魔王(オークディザスター) 名をゲルド。

 

 たった今、完全にリムルの中で、アティスに看取られ、意識が消滅した。

 

 スライム状になっていたリムルは、人型へと姿を変える。

 アティスも、散らばっていた光の粒子が集まり、人の姿へ。アティスの目には涙が一筋流れていた。

 

 そのアティスの頭をくしゃっ、と一撫でした後に、リムルは仲間達を見て告げた。

 

 

「オレ達の勝ちだ。……安らかに眠れ、ゲルド」

 

 

 その場が歓声に包まれる。

 オーク達は悲痛な顔持ちの者達が多く、信じがたい表情もしていたが、先ほどの様な 眼をぎらつかせ、極限の飢えに縛られた悪魔の様な顔をしている者は一人もいない。

 

 

 

「……王よ。やっと、解放されたのですね……」

 

 側近のオークは、もう形すら残さず逝ったゲルドを思い、頭を下げていた。

 

 

「アティス。あんだけ、皆にも、……ゲルドにも啖呵切ったんだろ? 有限実行も出来たんだ。しょげた顔はもう止めにしよう」

「……判ってます。護るって言っといて、情けないですもんね。ずっとコレじゃ」



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番外編

転生したらスライムだった件~魔物の国の歩き方~ より。


ちょっとしたネタバレっぽくなってます。あの時系列まで行けるかなぁ、m(__)m


 

 

 

 

 

 これは、魔物の国 魔国連邦(テンペスト)での愉快な日常のほんの一部である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、写真撮るだけなんだろ? なんでこんな格好……?」

「お似合いですよリムル様。さぁ!」

「………」

 

 ビシッとタキシード姿に決めている魔物の国を治める盟主にして、魔王でもある、リムル=テンペスト。

 その横でニコニコと笑顔を絶やさないのは、これまたドレス姿をばっちり決めていて、化粧も完璧なシュナ、ほんと、どこぞの結婚式ですか? と言えるような姿のお2人だった。

 

「はーい! 準備はいいですかー?」

 

 そして、その2人の前で、この国でも……否、この世界でも1つしか無いであろうカメラを構えているのは兎人族の少女フラメア。

 ひょんなことから、リムルに出会って この国のガイドブック制作を依頼し…… そして今回のはその一環のひとつ?

 

「(いつの間にか、リムル様の周りに広まってましたね。このカメラで一緒に写真を撮った人々はより親密になれるって。だから、リムル様やアティス様は大人気で、今日も……ん?)あれ? そういえば アティス様のお姿が今日は拝見できてない様な……」

「お、おお! そーだったそーだった! アティスが心配だ! だから、今日はそっちの捜索を!」

 

 フラメアの一言で、今がチャンス! と言わんばかりに、人型からスライムに戻って 逃げるリムル。

 

「待ってください! アティス様の事は 私が後で必ず! 後ほどアティス様とも一緒に写真をと考えてましたので、命に代えてでも!」

「そんな大げさな……。アティスを本気で心配してる訳ないだろう? アイツ、アレでも、ここでは《神》なんだぞ?」

「勿論、判っていますよ。……判ってるからこそ、です。なぜ逃げるのですか、リムル様。もしかして、写真がお嫌いなのですか?」

「(しまった!?)っっ! そういうわけじゃないんだけ……どぉっ!!」

 

 油断してたリムルは、ガシッとシュナに捕まえられてしまった。

 

「うふふ。捕まえましたよ……?」

「いや、だから、その目がなんだか……ね?」

「今日の為に、こんな場所を用意して、最高傑作と言える織物を完成させたのですよ? お願いします、リムル様」

「え、えーーっと、ほら、そうだ。アティス! アイツがいないし、やきもち妬いちゃうかもしれないぞ??」

「大丈夫です。アティス様とも必ずっ!」

「堂々と二股宣言っ!? まぁ、いつもの事だけれども!!」

 

 きゃいきゃいとはしゃぐ2人を見て、微笑ましそうに頬を緩めるフラメア。いつもなら、横にもう1人いらっしゃって、同じく笑ってて……、そして最後には捕まってしまうと言うのが大体のパターンなんだけれど、今日はおられないから、結構レア、星5つな光景かもしれない。

 

「シュナ様、とってもお綺麗です!」

「場面に合い過ぎるコメントやめようね、フラメアくん!」

「さぁさぁ、リムル様! 一緒に写真を!」

 

 魔王が捕食される!? かもしれない勢いのシュナに押し切られそうな所で、これまた定番なお邪魔。

 

「待ってください!」

 

 ばっ、と部屋に入ってくるのは、シオン。巫女姿に着替えているシオンが入ってきた。

 

「恥ずかしながら、私も一緒に撮らせていただければと」

「シオンもかよ! ってか、ほんとにオレばっかでいーのか!? アティス、泣いちゃうぞ!!」

「っっ……」

 

 リムルの言葉にびくっ、と体を震わせるシオン、ついでにシュナも。

 だが、それは一瞬だった。直ぐに艶っぽい表情へと姿を変える。

 

「何だか、可愛らしいですね……」

「ふふふ……、アティス様に甘えられるのも これまた格別な……」

 

 別の世界へとトリップしそうだった。でも、リムルをがっちりつかんでるシュナのホールドはいつまでも解除されない。

 

「ちょっと戻ってこようか!? お2人さん。 それにこの国、一夫多妻……じゃなく二夫多妻とか、推奨してませんよ?? あまりに堂々とし過ぎないで」

「リムル様とアティス様のっ!」

「それはそれは…… 良いですっ!!」

「うぐっ……(地雷だった……)」

 

 色々と盛り上がってる所で、さらなる地雷。爆弾を投下するのはフラメアだった。

 

「あ、あのー、すみません。シオン様。カメラの魔力残量がもう少なく……あと恐らく1枚しかとれないんですが……」

 

 ピシっ!!

 

 空間に亀裂が入ったのは言うまでもない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、大騒ぎしてるリムル達の部屋の外では二つの影があった。

 

「ヒナ姉ー、もう、いつもいつも笑ってないで助けてよ……。皆にニセモノ~って追いかけられるのって大変なんだからさ」

「あら? 結構楽しそうだったじゃない。子供たちも皆楽しそうだったし」

「楽しんでくれるのは結構なんだけど、不意打ちとか多いし、何よりあの子達メッチャ強くなってて、結構ビックリするんだから。……しんぞーに悪いよ」

「……神にまでなっちゃってる貴方が何言ってるのよ。っと、ここにいる筈よね?」

 

 がちゃっ、と扉を開いて中へ入ってきたのは、ヒナタ・サカグチ、そして この国の守り神(リムル命名 笑) のアティス=レイ。

 姿が見えなかったのはヒナタとあっていたからである。

 

「リムルが此処にいるって、聞いたんだけど? ちょっと相談が――って」

「ただいまー、って」

 

 揉みくちゃ大乱闘な光景を見て、2人して言葉に詰まる。でも、よくよく考えたら、いやいや、考えなくてもいつも賑やかなのは当然だから、直ぐに笑ってるのはアティス。リムルを取り囲むような光景など、もう何度見たか判らない程。

 

「何やってるのよ、あなた」

「いやー、今日も晴天なり、って感じだね。あ、フラメアちゃん。昨日はどうもありがとね??」

 

 呆れるヒナタ、挨拶するアティス。

 

「げげっ、ヒナタまで! ってか、お前、いつの間に ヒナタと一緒に? どんな予定だったっけか??」

「……別に驚く事じゃないよ。だって、あの子達の所に言ってたら、十中八九、ヒナ姉と会うでしょ?」

「そりゃまーそうだけど……。こっちはこっちで大変で……」

 

 リムルは隙を見て、シオンとシュナから脱出を果たしていた。

 邪見にされ気味なヒナタは表情をしかめる。

 

「何よ。私は邪魔だって言いたいわけ? 訪ねちゃダメなの?」

「いやいや、そういう訳じゃないんだよ()はなの! アティスとっちゃうのが()はちょっと遠慮願いたいなーーって思ってて」

 

 そして、漸くここでヒナタも大体の事情を察す。

 ばっちり衣装を決めた2人を見て、ため息を1つ。メタルスライム状になってるアティスの身体をぎゅむっ、と掴んで出発。

 

「さ、邪魔みたいよ。行くわ」

「わわっっ、ちょっとヒナ姉っ、握るの強いって! ちぎれるっ!」

「お前がちぎれるか! じゃなく、誤解してるだろっ! ちがうちがう、アティスもつれてくなー」

 

 そして、リムルはしっかりと説明。フラメアも加わって、説明した為、ヒナタにどうにかとどまってもらえた。

 

「はぁ、なるほどね。なにやってんのよ……。そんなことにこんな建物まで用意して」

「バイタリティ凄いって知ってるでしょ……。皆皆凄いんだよ」

「その筆頭の1人が自分もだって自覚しなさい。口ではどーのこーの言ってても、しっかりする時はしてるんだから」

「……はい。ヒナ姉……」

 

 ヒナタには頭が上がらない……な、様子のアティスもいつも通り。でも、フラメアはまだまだ慣れてないからちょっと珍しい光景でもある。

 

「あっ、もしかして、ヒナタ様も写真を希望ですか??」

「は?」

「リムル様、いえ、アティス様と。ほら、アティス様とお2人でいらっしゃる事が多いですし。ヒナタ様もこのような格好がお似合いになるかな、と……」

 

 フラメアが、ぽわ……と頭の中で妄想したのは、ヒナタのドレス姿。漆黒の黒いドレス妖艶な色気も出してて、女でも惚れてしまいそうな姿。

 

「まっさかー、リムルさんなら兎も角、なんでオレをヒナ姉が?? あはははっ」

 

 けらけら、と足元で笑うアティスを見て、一瞬淡く染まった頬が直ぐに漆黒なものへと。そして、ぎゅむっっ!と思い切り踏みつけるヒナタ。

 

「ふげげっ」

「……リュウ。少し黙ってなさい」

「わ、わかったよ、わかった! って、ほんみょう禁止だよって!」

 

 ヒナタは、すっとフラメアに近づく。

 

「アナタ、何を言ってるの……?」

「ひいっっ!!」

 

 凄まじい眼力だ。最強の聖騎士の殺気をもろに受けたフラメアは、一瞬で腰が抜ける。 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「……? 何を謝るのよ」

「ヒナタが怖すぎるからだろ。まぁまぁ、落ち着いてフラメアも。アティス君。色々と空気読めないの止めなさい。後でしっかり説教するから、そのつもりで」

「何で、オレ説教されるの!? そもそもヒナ姉からもなんで踏まれるのっ!?」

 

 色々と納得がいってないアティスを置いといて、とりあえず場は収まる事が出来た。

 

 

「はぁ、騒がしい。それにしても、魔物に結婚なんて風習あるの?」

「うん? 魔物は子孫を残すと弱体化するっていうし、どうなんだろうな。〈そもそもスライムってどうやって子孫残すんだ?〉」

「んー、オレ達スライムは分裂すれば、それで繁栄って感じですから、ほんと無縁な事ですよね」

「あ、なるほど……。それはそれでどうなんだ……?」

 

 ぱかっ、と今度は ヒナタに殴られるアティス。

 

「馬鹿な事考えないの」

「痛い……。ただ、リムルさんのに答えただけなのに……」

「だから、痛いとか無いだろ、お前に。――ったく、それにしてもどこからそんな変な噂が広がったんだよ」

「ほんとに! 何だか、今日は とばっちりばっかり! 噂の元突き止めて、浄霊(ニフラム)してやろうかな!」

「それ、普通に消滅するからな? 冗談でもするなよ」

 

 色々と理不尽な目にあってるアティスを今度はリムルが抑える。

 

 この時、何処か別な場所で、、盛大にくしゃみをしていたゴブタがいた事に気付いた者は誰一人いなかった……。

 

 

「ん、そーだ。写真後1枚だけなら、皆で集合写真っていうのはどうかな? 皆呼んでさ」

「おっ、それ採用! 写真は、(まじな)いみたいなものじゃなく、記念を形に残すものだ! せっかくだ、アティス、シュナ、シオン。皆を呼べ」

 

 

 

 こうして、魔物の国テンペストの重鎮たちが全員集まり、記念撮影を執り行う事になった。全員が平等に映れば、とりあえずシュナもシオンも納得するだろう。

 

 場所は外。ここに全員を呼ぶのは狭いから。

 

 そんなとき、何処か儚そうに見ているのはヒナタだった。

 

「ヒナタも一緒にどうだ?」

 

 そんなヒナタを誘うリムル。

 一瞬考えるヒナタ。……共に映っても良いのだろうか、と考える。記念写真に写る資格は? と。

 そんなヒナタの手を引くのはアティスだ。

 

「勿論 良いわ、だよね?」

「………」

「即決しなさい! ってよく言われてるし、ほらほら、ヒナ姉!」

「はぁ……。判ったわよ。何だか、悩んでた私がばかみたい」

 

 ため息を1つしながら、引かれた手に続くヒナタ。

 

 

 今日も平和な一日。魔物の国の日常の光景

 

。 

 写真、カメラで色々とあったけれど、楽しい一日だった。……後日、とある子供たちとの件で大変だけど、それは今は置いておこう。

 今は記念撮影をする。撮影は笑顔で、だから。

 

 

 

「もう大丈夫だからね? ヒナ姉は」

「……判ってるわよ」

「そーいうトコだけは、アティスって鋭いんだよな。もうちょっと他の分野にも感性広げとけよ……」

 



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番外編2

ちょっとまだ書いてたので、本編出来上がってない為、こちらを先にm(__)m

こんな続くとは当初思ってなかったなぁ~( ´艸`) 
早く本編! って思ってる人には申し訳ないですm(__)m


 

 

 写真騒動直ぐ後の事。

 ヒナタは(アティスも)元々のリムルへの用事の件を伝えていた。

 

 

 

 

 

「へー 肝試し?」

「ええ……。この間、あの子達に何処かに連れて行ってと言われてね」

「ふーん。それでアティスは、あいつらとのゲームに負けて、肝試しのお助けキャラ役になった、と?」

「そうそう」

 

 リムルやアティス、勿論ヒナタも面倒を見ている子どもたちの願いにこたえる為に、リムルに相談に来たのだ。

 

「ヒナ姉とも話したけどさ。一応、色々と場所の候補はあるんだけど、リムルさんにも相談しとこうかな、って。何より、あの子達リムルさんに会いたがってたし。……素直じゃないけど」

 

 あはは、と笑うアティス。それを見たリムルは少し笑った後に、ため息。

 

「思いっきり遊ばれてるな。ゲームとは言え負けてやるなんて、面倒見が良い事で」

「それ、リムルさんに言われたくないって。後、あの子達凄く強くなってるからさ。わざと負けた~ とかじゃないよ? んでも、色々とヒナ姉の監視の目も厳しくって……」

「……当たり前じゃない。それに 子供相手に本気になるなんて、大人気ないでしょ」

「いやいや、あの子達その辺の大人より断然強いじゃん……」

「そんな子どもみたいな事言わないの」

「はい……」

 

 色々と脅かされてるアティスだから、それなりに脅かしてやろう! と思ってた所が沢山あったのだけれど、ヒナタの絶対零度な視線を前に頓挫してしまっていた。

 大体の光景が目に浮かぶリムルは口元を緩ませつつ、候補について考える。

 

「あいつらが楽しめそうな場所かぁ……、確かに、アティスの言う通り、もうその辺の冒険者より強そうだしなー」

「強そう、じゃなくて、強いって。オレも太鼓判。ヒナ姉のお墨付き」

「ん、んー……」

 

 色々と考えている所で、話についていけてないフラメアがひょこっと顔を出した。

 

「あのー、肝試しってなんですか? それに、あの子達?」

 

 3人だけで話が弾み、取り残してしまってる事に気付いていったん話を中断する。

 

「あ、そっか。肝を試す~なんて、そんなのある訳ないか」

「ええ。こちらにはそんな概念はないもの。あのね、肝試しは――」

 

 ヒナタとアティスが説明をしようとしたとき、イイことを思いついた、と笑ったリムルが割って入る。

 

「ふふ、そうだな。フラメアも一緒に行って来たらどうだ? ヒナタとアティスが一緒なら、完璧。安全安心だろ」

 

 体験してみるのが一番。百聞は一見に如かず、と言う訳だろう。アティスも賛成。

 

「言葉で説明するよりも、伝わりやすいしね。こっちでも流行ったらなんか、面白い!」

「………」

「ん? ヒナ姉は反対?」

「違うわ。リムルが連れていくもんだって、思ってたから。あなたがあの子達との約束があって、一緒なのは当然として。子供達、リムルには会いたがってたって、知ってるでしょ?」

「あ、うーん。確かにそうなんだけどさ、大体想像がつくような……」

 

 アティスはちらっ、と横に控えているシュナに視線を向けた。シュナはとても良い笑顔なんだけど、何だか怖い。

 

「そのとーりなんだ……。アティスは元々仕事の一環で~って事だし、何より約束なら 守らなきゃだし。……オレも行きたいけど、オレの仕事があるから抜けられそうに……」

「はい。ダメです。リムル様」

「……デスヨネ」

 

 この国の盟主でもあるリムルは多忙を極める。

 勿論、その片腕でもあるアティスもそうなんだが、今回はこれも仕事の内。……仕事~なんて無粋な言葉は使わないけれど、枠組みにおいてはそのカテゴリーだ。

 

「はぁ、仕方ないわね」

「え、えっと。私も一緒なのですか……?」

「そっ、がんばってねー。(オレ、お助け係なんだけど、あの子達に助けなんて、いらない様な気がするし、久しぶりに楽できそう!)」

 

 意味深に笑うアティスを決して見逃さないのはヒナタ。ギロっ、と睨み1つ入れる。

 

「……しっかり働きなさいよ」

「……はい」

 

 逆らえません、と頭を下げるのは、この国の神様。シュールな絵である。

 

「ははは。んじゃあ頼むよ。多分、ヒナタとアティスの候補の1つに上がってたと思うが、場所は、ヴェルドラがいた洞窟なんてどうだ? 結構強いモンスターもいるし」

「第一候補でしたね。オレは問題ないと思います」

「此処からそう遠く無いし、妥当ね」

 

 場所も決まり、いざ出発。フラメアは 何だかんだで ついていく事になるが、物凄いひと達と一緒と言う事もあり、身震いをしていた。

 

「はぅ……、な、なんだか緊張してきました……」

「はははっ、まぁまぁ気楽にね?」

「は、はい。アティス様……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、子供達と合流。

 今日の事を凄く楽しみにしていたのだろう、皆目が輝いている様に見えた。しっかりと装備も整っていて、子どもなの以外は風格、身に纏う雰囲気も一流のソレだ。

 

『宜しくお願いしまーーす!』

 

 まずは挨拶。初めて会うフラメアにはしっかりと。その辺りはヒナタの教育の賜物かもしれない。……最初はいきなり攻撃を仕掛けられてきた~ とかあったが、それは古い話。

 

 メンバーの名は 《クロエ・オベール》《関口良太(リョウタ・セキグチ)》《三崎剣也(ケンヤ・ミサキ)》《アリス・ロンド》《ゲイル・ギブスン》

 

 

「あ、はいっ、こちらこそよろしくお願いしま――」

「すっげーーーっ!」

 

 フラメアも挨拶を返そうとしたが、もう子供達は行動開始。好奇心旺盛なのは、如何せん子どもなので仕方ない。

 

「兎の獣人初めて見た!」

「わーーーっ すごーーい」

「あ、えっと……」

「その耳本物!?」

「ちょっとちょっと、ケンちゃん。失礼だって」

「あ、あはは……」

 

 元気なのは良い事だなー、と面食らったフラメアだった……が、不意打ちをフラメアも喰らってしまう。

 いつの間にか、背後に回られてて、自身の尻尾をモフモフと触られてゃった。

 

「モフモフね~。おお~」

「ひゃあ、あ、あ、あの尻尾は…… やめっ」

「こら、アリス! すみません。みんな久々の遠出で、舞い上がってしまいまして……」

 

 メンバーの中でも特にしっかりしてる者の1人であるゲイルがアリスのセクハラ?(子どもなので違うが)を防ぐ。不満顔だったアリスだが、渋々放していた。

 

「ああ、いえいえ、大丈夫ですよー。……あれ? そういえばアティスさまは……?」

「あー、アティス先生なら、クロエの所です」

 

 後ろで笑っていたクロエの方を見てみる。

 その影がうねっ、と動いて、更に光が僅かにだが漏れた。どうやら、アティスは影の中にいる様だ。

 

「ぶー、ニセモノせんせー召喚! したかったのに……」

「じゃんけんで負けたからだろ? 今回はクロエだって」

「ふん、っだ」

 

 ぷくっ、と頬を膨らませるアリス。

 それを見て、子どもたちから心底慕われているのが一目でわかったフラメアはただただ笑い、そしてその後 ケンヤの先導でヴェルドラの封印されていた洞窟へと入っていった。

 

 

 

 洞窟内はそれなりに薄暗く、滴り落ちる水滴の音が反響に反響を重ね、色々な効果音を演出している。

 

 流石は暴風竜が封じられていた場所、と言う事もあり、物凄く雰囲気がある。うってつけの場所だ。でも、当然 怖がる様子は見せない子供達。ただただ強い魔物と戦いたい! と言う気持ちだけだった。

 

「ほんとにこんなところに強い魔物なんて出るのか?」

「う、うーん。どうだろうね。でも、ケンちゃんがいればどんなのがいたってへっちゃらだよね?」

「おう、まかせとけ! 残念だったな、クロエ! オレがいるから、お助け召喚! 使う場面なんて来ないぜ!」

「ふふ。どうでしょう? 色々と楽しみ。ね、先生」

 

 ずんずん、と奥へと入っていく。

 引率役のヒナタだが、もう完全に手は離れてる。ただただ見守るだけだ。確かに一介の冒険者程度なら、危険な場所には違いないが、これ以上安全な状況は他にない。皆楽しんでて何より。

 

「ふぅ。……ん?」

 

 ただ、1人を除いて……。

 

 フラメアはガタガタ、と震えていた。ここに入ってきたその時から。

 

「……大丈夫?」

「そ、その…… 暗い所とか、狭いところが苦手でして……。それに、ここってヴェルドラ様のいらっしゃった洞窟……。更には、周辺諸国を見渡してみても、光の神G.O.D様が降臨したのは、唯一ここだけ、って言われてましたし……。森では近づかない様にと言われてまして、こうもあっさり入るなんて……」

 

 恐れ多すぎるうえに、怖すぎる。色々と気苦労が絶えなく、物音ひとつでビックリしてしまうから、ちょっと 大き目な音が鳴ったり、首筋に水滴が落ちきようものなら……。

 

「ヒィっっ!!」

 

 びっくりしてしまって、ヒナタに抱きつく。

 

「あ………ッ、す、すみませんすみませんっっ!」

「貴女が一番“肝”を試されてるわね……」

「もうちょっと肩の力を抜いて抜いて。ヴェルドラさんもそーだけど、光爺ちゃんもそんな事で怒っちゃうひとじゃないって」

 

 ひゅんひゅんひゅん、と小さく淡い光の粒子が、フラメアの傍に瞬き、そして小さなアティスが形成された。分身体である。

 

「皆いるし、安心でしょ?」

「そ、それはそーですけど……」

「まぁ、本当の意味で肝試しが体験出来て良かったわね」

「う、うぅ…… 肝試し、怖いです……。そ、それよりも 子供たちは放っておいて大丈夫なんですか?」

「ああ、あの子達なら大丈夫よ、ほら」

 

 無数の魔物相手に完璧な連携、完璧な攻撃を加え、瞬く間に屠っていく子供達が眼に入る。結構騒いでるのに、気付かなかった様だ。

 

「今日、オレきっと呼ばれないと思うなー(ほんと楽だねー)」

「……しっかり監督もしなさいよ」

「わ、わかってるよ! んでも、ヒナ姉もだよね!?」

「……私が処理したら怒るでしょ? あの子達。でも、りゅ……、アティスは神経使っときなさい、って言ってるの。何が起きても良い様に」

「……了解です」

 

 すっかりモンスターたちを全滅させて、勝利の歓声を上げてる子どもたちを見ながら、アティスはげんなりとしつつも、クロエの影の方へと戻っていった。

 

「強い……、凄く」

「あの子達は、“精霊使い”。リムルやアティスも言ってたけど、もうそのあたりの冒険者よりよっぽど強いわよ」

「へー(まだ子どもなのに精霊を……)。ふふ。でも、アティス様もヒナタ様も面倒見が本当に良いですね」

「……………私は」

 

 言い淀むヒナタだったが、クロエの方に戻った筈のアティスがまた、いつの間にか戻ってきて。

 

「昔っからそうだったよ、ヒナ姉は! ね?」

「っ……」

 

 言い淀むヒナタを察知するアティスの行動が早い。

 でも、いつもいつも言い過ぎる、何処か抜けてるのがアティスでもある。

 

「あはは、まぁ、人使い荒いケド、途中で投げ出したりせず、一途! 単純一途!」

「一言余計よ」

「いたっっ!」

 

 だから、いつもこうなる。……痛いとか絶対に気のせいだと思うが、ヒナタの攻撃はいつまでも慣れないのである。

 

 

 そんなこんなで、洞窟の奥まで来た所で、もうモンスターたちは出なくなっていた。

 

「おおーい、先生たち、遅いーー! もう殆どやっつけちゃったよ、オレ達が」

 

 Uターンしようとしたその時だ。

 

 

『フ、フハハハハハ! なかなかやりま…… おほんっ やるではないか!!』

 

 

 不気味な声が洞窟内に響いたのは。

 

「だ、誰……!?」

「音が反響して――どこから??」

 

『だが、ここに踏み込んだ以上、逃がすわけにはいかんな……。魂を浄……ではなく、喰ろうてくれるわ!』

 

 声の発生源がなかなかつかめなかったが、漸く判明。まだ少し奥行きがあり、広まったエリアがあったから。

 

「この先から聞こえる!」

「よし! やっつける! 行くぞ、みんな!」

 

 一斉に走って向かう子供達。

 

「……この洞窟に言葉を使う魔物なんていたかしら?」

「……報告はない、かな」

「兎に角追いかけるわ」

「はいっ!」

 

 ひゅんひゅん、と今度こそ、アティスはクロエの元へ。

 ヒナタとフラメアも走った。

 

 アティスは、影の中へと戻る前にクロエの肩に着地して一声。

 花開く様に笑顔を見せるクロエ。

 

 

『いつでも呼んでね? 今日はお助けマン。約束だったしさ』

「うんっ、せんせいっ!」



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番外編3

凄まじい速度の執筆! 執筆速度が向上した!!

……訳ではありませんm(__)m

結構前に書いてたのをちょこっと直しての投稿なのです。この話で番外編は終了(ストックが)ですm(__)m

次から本編再開になります( ´艸`)


 

 

 

 

 ここは ヴェルドラの封印されていた洞窟。

 リムル、そしてアティスが転生し、生まれた場所でもあるこの洞窟の最奥にて あの不気味な声の正体が姿を現した。

 

 

 

 怪しげな炎が円を描く様に発生し、暗黒が生まれ――姿を現したのは3体の魔物。

 

 

 

『よく来たな……。盛大に出迎えてくれようぞ―――!!』

 

 

 所謂スケルトンウォリア、幽霊(レイス)、そしてエルダーリッチの3体編成の魔物。言葉を話す時点で上級の魔物だが、更に連携もしてくるとなれば厄介極まりないだろう。……身に纏う雰囲気も、これまでの魔物とはくらべものにならない。

 

「お前らが、ここのボスだな! よーし! やっつけてやる!! ヒナタ先生たちは

手を出さないで!」

 

 ケンヤを筆頭に、子供達も陣形を取った。

 

『フハハ! お前たちだけで我らに挑もうと言うのか! 笑止千万! 我が部下たち………の………』

 

 魔物のリーダー格っぽいエルダーリッチが 何だか突然急に黙り込んだ。

 

 それには理由がある。

 

 

 何とビックリ! 

 他の2体 スケルトンウォリアとレイスの正体は、ヴェルドラとリムルだったからだ!

 

 

 

 そしてボス役がアダルマン。

 凝ったセリフは、演技だとは言え、相手が相手。萎縮して当然だ。だから、小さな声でお伺いを立てていた。子どもたちには聞こえない様に。

 

『あ、あのぅ……り、リムル様? 私などがボスみたいな役目で良いのでしょうか……? ヴェルドラ様もいらっしゃるのに……』

 

 暴風竜と魔王リムルを前に、無茶ぶりも良い所なのだが、そんな小さな事を気にするようなものでもない。

 

『クアーハハハハッ! かまわん! こういうのは見た目が重要だからな! うぅむ、今は引っ込んどるが、アティスのヤツと一戦交えるかもしれぬと思えば、更に楽しみで仕方ない! 故に、どっしり構えるボス役はお前がやるがよい!』

『ははは……ヴェルドラはこう言ってるし、気にすんな。疑似魂で器にしてるだけで、見た目は普通のスケルトンと幽霊だからな。それにアダルマン。お前でもあいつらの相手は結構きついだろう? そもそも、アティスやヒナタが向こうについてる時点で、不公平だし、補助を任せたぞ』

 

 快く言ってくれたからこそ、リーダー役を任されたエルダーリッチ……事、アダルマンは、覚悟を決めた。

 

『か、畏まりました! この命に代えましても、お2人を補佐させていただきます!』

『命って……、お前もう死んでるよな?』

 

 そんなこんなで、魔物側の準備も万端。

 万全の体制で――、リムル達(モンスター役)がとびかかってきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明らかに普通じゃない魔物を前に、最初こそ子供達に任せれば問題ない、と思っていたヒナタも警戒する。……それに、違和感があったから。

 

「……どこかで見たことがある気がするわね。あそれに、あのスケルトンと幽霊(ゴースト)……、どちらかと言えば、あの2体が……」

「うぅ、本当に子供達だけで大丈夫でしょうか……? あの魔物たちには、違和感が凄くあって、私の好事家(ユニークスキル)でもよくわからなくて…… 普通の魔物ではない雰囲気です」

「…………」

 

 ヒナタとフラメアは勿論、相対している子供達もそれは十分に感じていた。

 これまでの相手とは格が違う、と。

 

 

「ケンヤ。あいつらはここまでの魔物とは一味違いそうだ。油断するなよ!」

「判ってる! リョウタもしっかりついてこいよ! 一気にやっつける!」

「う、うん」

 

 前衛、後衛とバランスの良い陣形。剣も魔法も使えるクロエは、遊撃位置だったが、今回は後ろに下がった。

 

「わたしは皆のサポートに回るね。危なくなったらわたしの判断で、アティス先生呼ぶから」

『がんばって~ みんな!』

 

 クロエの影から、グっ、とサムズアップされた右手が見えた。ここは温かく見守る様子だった。……安心してる訳は勿論、アティスは相手の正体がはっきりと判ってるからである。

 

「うーん、こんなことなら私のお人形をちゃんともってくればよかったわ。せんせー、お人形持ってこれる?」

『出来るけど、アリス。臨機応変に、その場の状況や条件で困難を乗り越えるのも楽しいよ?』

「うー、それもそうかなぁ、あーしょうがない! 即席だけど、私の力をみせてやるわ!」

 

 と言う訳で戦闘開始!

 

「まずは、前に出てきてる2体からだ!」

『クアハハハ!! 返り討ちにしてくれるワ!』

 

 戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半分遊びだったリムル達だが、数合打ち合った所で誤算に気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 こちらの攻撃は子どもたちの連携できっちり防がれ、更には精霊を上手く利用した属性攻撃で思いっきり当てられ、ヴェルドラに限っては、クロエの連続攻撃からのアリスの即席人形パンチでぶっ飛ばされた。

 リムルは、直撃は何とか避けられたものの、ケンヤの光を纏った一撃を霞めて、肝を冷やした状態だ。

 

『おいおいリムルよ、あいつら……』

『あぁ、思ってたよりさらに強いな――。なんか、途中、クロエの中にいるアティスがニヤニヤと笑ってるのが見えて イラっとしてたが、笑ってる訳が分かった。よく考えたらあいつらの相手をオレたち以上にしてるんだから当然だったか』

 

 一時下がった2人は作戦会議。勿論、アダルマンも合流。

 

『い、如何いたしましょう!? この辺りで撤退なさいますか!?ここは地下迷宮(ダンジョン)の外、ラミリス様の復活の腕輪はありません。あちら側にアティス様がいますので、守護を……とも思いますが、万が一にでも、御身に何かあったりしたら……』

『うーむ………、確かに疑似魂でやられるとどうなるか判らないけどな……、ああもアティス(アイツ)に笑われた上に、子ども達(アイツら)にもやられっぱなしってのも癪だ。もう少しだけ――』

『うむ。ならば アレ(・・)でいってみるとしようぞ!』

『ああ――考えてたところだ! だが、武器は今回はなしだ』

 

 作戦会議、終了。

 

 

『ふ―――ワハハハハ! なかなかやるではないか! こちらもそろそろ本気を出すとしようか……!!』

 

 

 バサッ! とアダルマンがマントをはためかせたかと思えば、次の瞬間には、魔物(リムルたち)の姿が変わっていた。

 

「なに! 魔物が装備を変えた……!?」

 

 装備を途中で変える魔物など聞いたことが無く、一瞬困惑してしまうが、それでも手は休めない。

 

「あんなのこけおどしに決まってるわ! 行きなさい!」

 

 アリス即席人形連続パンチ! を繰り出すが、強固な鎧を纏ったスケルトン……ヴェルドラには通用しなかった。さっきはぶっ飛ばせたのだが。

 

『クアーーハハハハ! 無駄よ無駄ァ!』

 

 そして、ローブが上級なモノに変わった幽霊(レイス)……リムルにも攻撃が通じなくなった。クロエの斬撃が通らなくなってしまったのだ。

 

「さっきと違って全然手ごたえがない……!」

「風よ―――! くらえっっ!」

 

 リョウタの風の斬撃も、簡単に防がれてしまった。

 

 そんな戦いをクロエの影から見てたアティスは少しだけ呆れてた。

 

『流石にこれは、大人気ないよ…………? オレが可愛く見える。絶対』

 

 

「……大人気ないわね」

 

 それはアティスだけでなく、戦いを見守っていたヒナタも同じく。 

 フラメアはオロオロとしている。

 

「そろそろ私も戦った方が‼? い、いや、でも私じゃ足手まといにしかならないよぉ……」

「落ち着きなさい。……はぁ、大丈夫だから」

 

 それでも、子供たちを! とフラメアが前に出ようとするが、ヒナタがそれを制した。大丈夫だから、と。

 

『やっぱり気付いたのか? あいつらにも少しは楽しんでもらわないとな。簡単にアティスやヒナタに頼ってないってのもいいもんだ――な?』

 

 フワッ、と音もなく近づいたリムル。そのローブが靡き――ヒナタの項部分へと当たった。幽霊特有の冷たい冷気が項部分にはっきりと伝わった瞬間。

 

 

「ひゃっ!」

 

 

 ヒナタが小さく、……いや、彼女にしてはありえない程の大きさの悲鳴を上げた。

 

 そんな声を出すヒナタはレア中のレア。

 戦闘中だと言うのに、時が止まったかの様に静まり返っていた。……視線だけはヒナタに集中してて。

 

 クスクスっ、とどうにか笑いを最小限に収めていたアティス。クロエの影にいて大正解である。……たぶん。

 

 

 

「………ッッ!!」

「あ、いや、あの……わざと触れた訳じゃなくてですね?? お、落ち着いてーー」

 

 リムルは、特大の地雷を踏んでしまった様だ。

 直ぐに弁明を――としたのだが、味方側にも敵がいた。

 

「クアーーーーハハハハハハッ!! こやつもこんな声を出しよるのだな!! かわいいではないか!」

「うぉぉい!!」

 

 それはヴェルドラである。

 空気を読まず、大笑い。

 

「意外だったが、楽しい余興であったぞ! クァーーーハハハハハッ!」

「あ、あ、煽るな! 煽るなって! 頼むから!! 今、こっちにはアティス(ヒナタのサンドバック役)いないんだぞ! ここで殺されたら洒落にならないかもしれないんだぞ!」

 

 ヒナタの怖さを十分に知ってるリムルは必死にヴェルドラを止めようとするが、時は既に遅し。

 

「……リュウ、出てきなさい」

『了解であります。……クロエ、ごめんね? ちょっと行ってくるよ。直ぐに帰ってくるから』

「う、うん……」

 

 アティスを呼び寄せるヒナタ。有無言わさずの雰囲気に萎縮し、直ぐに答えるアティス。

 

「さて、フラメアっていったわよね。ちゃんと写真を撮っておきなさい。……無様な魔物の、ね。それに、テンペストのカミサマが戦うなんて、珍しくて話題にもなるわ」

「は、はい…… わかり、ました?」

 

 一瞬で、ヴェルドラの背後へと回り、アリスのパンチの数倍はありそうな一撃で鎧をまとい、強固な防御力を誇っていたヴェルドラを吹き飛ばした。

 

「あーーー……」

「ここは地下迷宮(ダンジョン)の外。つまりは復活の腕輪は使えないのよね?」

「くっ!」

 

 急いで、逃げようとするが、今のヒナタが逃がす訳もない。剣を取り出すと瞬時に間合いを詰めた。

 

「もしかしてこれって貴方を滅ぼすチャンスじゃないのかしら? ……纏いなさい、リュウ」

『了解であります! ヒナねぇさまっ』

 

 アティスの粒子が、ヒナタの剣に纏わり……そしてより光輝いた。

 

『んなっっ!?』

「手ごたえは薄いみたいだけど、7回刺されば……死ぬわよ? それに、注意する事ね。刺さるのは、剣だけとは限らないから。効果は全て同じよ……フフ」

 

 光の粒子が無数の刃となり、リムルの身体に迫った。

 

七彩終焉刺突撃(デッド・エンド・レインボー)とアティスの光粒子(シャイニング)魔素融合(ユニゾンレイド)!? いつそんなの試したんだよ!? ってか、そんなの出来るのか!?』

「喋ってる余裕ある? もう5撃入ったわよ」

 

 

 

 うわわわ、と逃げるリムル。

 当然だ。光速で迫ってくる刃も同然だから、怖すぎる。

 

 

『(撤退! 撤退だ、アダルマン!)』

「じゃあね。さよなら」

『うげげ!! 斬撃が飛んできた!?』

 

 キラキラ~~と輝く刃が後2撃分――どころじゃなく、10や20くらい飛んできた。

 

『ちょちょちょ、おまちくださーーー』

 

 アダルマンが直ぐに前に。流石の彼も、ヒナタのスキルを受けたら消滅は免れない、がそれでもリムルをこんな形で死なせる訳にはいかないので、文字通り命?を使って壁になろうと前に出た。

 

 そして、光の刃が触れるか触れないかの段階で、かくっ、と刃の軌道が変わった。

 

 飛んだ斬撃が、宙高く上がり……天井を貫いたからだ。

 

「ひ、ヒナ姉……流石にやり過ぎだからね? ダメだからね??」

「なによ? 文句、ある?」

「うぅぅ、ないよー――、じゃなくって! お、落ち着いて落ち着いて! 一応、オレ守り神! 守り神! それいじょーはダメだって!(6くらいで止めると思ってたのに……)」

「そうです! どうかお怒りを沈め下さい……!」

「頼む、頼むから落ち着いてくれって!!」

 

 皆で、ヒナタを説得にかかる。

 ある程度発散出来たのか、ヒナタは ふぅとため息を吐いた。

 

「………別に、最初から私は落ち着いてるわ。冗談よ。余興ってそっちも言ってたじゃない。文句ある?」

「……絶対本気だったじゃん」

「―――何? 文句あるの?」

「ありませんですっ!」

 

 

 

 

 ヒナタの怒りを鎮めれた所で、そそくさと退散。

 

 

 

 

 

 

 

 

――ふ、フ……フハハハハ! 今日はこの辺りにしといてやろう! 次回はもっと歯ごたえのある戦いを楽しみにしてるぞーー。

 

 

 と、それっぽいセリフを言ってたんだけど、リムルもヴェルドラもボロボロ。全く説得力がなかった。

 

 味方側で、殆ど戦ってないアティスも、何だか精神面に多大なるダメージを受けちゃった様だ。

 なんでも、クロエの影の中で笑ってたのがバレてたらしい。

 

 

 

 子供達は、最後は 何だかわからないが 勝った! と言う事で歓声を上げ 冒険は大成功を収めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕刻。

 

 冒険を終えて、その成果をリムルに報告。……当事者の1人だから知ってるんだけど、その事実は子供達は知らない。

 

 

「おー、おかえり。肝試し楽しかったか? 強い魔物もいただろう?」

「……あーいうのは今後ちゃんと打ち合わせしてからにしてください。こっちの肝が冷えました」

「しーー、しーーー!」

 

 ヒナタやアティスは兎も角、子供達にはバレる事なかったので、とりあえず良しとしよう。

 

 皆は、笑顔で報告。大した事なかった――と。

 でも、最後はヒナタとアティスのおかげだから、不満が残る様子だった。強くならないと、と。

 

 

「あぅ……肝試し、怖いです……。もうこりごりです…… あ、でも奥の魔物の写真は撮ってきましたよ」

 

 フラメアは最後の最後まで怯え続けるだけだった。

 

 そんな彼女だが、写真はしっかりと残す事が出来た為、仕事はきっちりこなせている。

 

 

 それがまたちょっとした騒動を生む結果となった。

 

 

 何故なら 人一倍騒がしい男がいたから。騒がしいヴェルドラも、その写真を見たから。

 

 無様にやられる自分たちの姿を見てしまったから。

 

 

 

 

「あーー、こりゃほんと上手くとれてるなー」

「ピンぼけもなく、完璧ですねー」

「おのれ! 本体ならこーはいかんからな!! 覚悟しとくがいい!!」

「コラコラコラ!」

「???」

「はぁ………」

 



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15話

ちょっと短いです……m(__)m


 

 

「心配しましたよ――! リムルさまっ、アティスさまっっ!」

「むぎゅっ」

「むぐっっ」

 

 

 

 

 

 リムルとアティス、まとめて抱きしめる包容力を持つシオン。

 色々と豊満なお体は容易に2人の身体を包み込んでしまった。………シオンのアレ(・・)はある意味最強の凶器である。魔王ゲルドさえ討伐した2人が悶絶気味だから。

 

 

 

 

 

「………。オークのみんな、正気に戻っていってるみたいだね」

 

 ぽよんっ、と人型からスライム状に戻ったアティスは、するりとシオンの身体から、降りると 今の今まで魔王ゲルドの敗北など信じられない! と驚愕した表情ばかりだったのだが、魔王の呪縛から解放されたのか、或いは ゲルド自身が最後に解放したからなのか、それは判らない。

 でも、明らかに変わっていた。王を失った悲痛な想い、そして 自分たちが仕出かしてしまった事の重さ。様々な負の感情がその顔に見て取れた。

 

 彼らを護る。アティスは ゲルドと約束を交わした。必ず。

 

 でも―― 自分にそのような大それた事が出来るのか? と不安も出てきた。

 

 安請け合いをしてしまったのではないか、そんな事できるのか、と考えていた。

 

 そんなマイナスな面、考えを簡単に見抜いていたのはリムル。ぷるんっ、とシオンの胸の中でスライム状に戻り、身体を変形させて手を作って ぱかっ! と叩いた。

 

「1人で気張るなよ。あー言ったが、オレだっているんだぞ?」

「……です、よね。あー、情けない情けないっ! ほんと。せめて 顔に出さない様にしないと!」

「んっんー、それ 出来るのかなー?」

「が、がんばりますよ!」

 

 ぐしっ、とメタルスライム状では涙は出ないと思うのだが、変形させた手で目元を拭い、ばちんっ、と両手で挟み込む。

 

 シオンやベニマル達が一体何の話を? と聞こうとしたその時だった。

 

 温かい風が花弁と共に舞い上がると殆ど同時に、トレイニーが姿を現した。

 

「……お見事でした。流石はリムル様。約束を見事果たしてくれましたね」

「ほんと良いタイミングだな、トレイニーさん」

「ふふ。それと……」

 

 ちらり、とアティスの方を見たトレイニー。アティスもトレイニーと目が合い、挨拶をしないと~ と考えていた所で、再び一陣の風が舞い、気付けば アティスはトレイニーの腕の中。

 

「わぷっ!?」

「アティス様もお見事でした。――それに、その慈愛の心には私も心を打たれました。G.O.D様もアティス様のご活躍を見て、きっと喜んでる事でしょう」

「うぅ……、何だか恥ずかしいですよ。でも、そーかなー。光爺ちゃんに関しては、なーんか悪口言われそうな気がするんだけど……」

 

 ヘタレとかヘタレとか鼻垂れとか、とアティスがややげんなりしていた。光の神とのやり取りを考えたら、以前の事を考えたらそう思っちゃっても仕方ない。

 

「リムル様。これからも アティス様を宜しくお願いしますね」

「ああ。勿論だとも。オレはアティス(こいつ)を逃がすつもりは無いよ。何せ――」

 

 リムルは、にやっ と笑って告げる。

 

「色んなもん背負ってるから、纏めて護ってもらうつもりだからな」

「――出来る範囲で、なるべく頑張りますよ」

「そこは 弱気発言せずに、ビシっと言えよな」

「あ、あははは……」

 

 トレイニーの腕の中な状態のアティス。こんな状態でビシッ、と決めれる訳ないでしょ? とも思ったのだが、兎に角口にチャック。墓穴をどんどん掘りそうだと思ったから。

 

「むむ…… アティス様……」

 

 シオンはシオンで、アティスを盗られた! と思ったのか、或いはアティスがまんざらでもない表情(判りにくいから何となく)してたから 嫉妬したのか判らないが、軽くにらみをきかせている。そして トレイニーと目が合った。

 何だか余裕のある含み笑いに加えて、アティスを抱く力が仄かに増し……、更に胸に抱くと言う行動をとり……、つまり 優雅さは健在で、何処か挑発している様にも見えた。

 

「……………ッ、ッッ!」

「し、シオンさん止めて! 身体がちぎれちゃうっ! スリムボディどころじゃなくなっちゃうっっ!」

「はっ、も、申し訳ありません、リムルさまっ!」

 

 独占欲が強い様子だ。それにしても リムルを抱いているのに、今度はアティスも と言うのは聊か強欲過ぎるのではないか、と 二股を目の前でするつもり? と色々な感情が、捻られた身体を戻しながらリムルは考えていたが、シオンは いわゆる魔物。魔物社会の仕来りや常識など、まだ全然知らないも同然なので今はツッコまない様にするのだった。

 

「こほんっ」

 

 トレイニーは、咳払いをひとつ。

 色々と遊んでしまったのだが、ここに来た目的を果たす為、この場をとりあえず収める為に皆に告げる。

 

 そもそも樹妖精(ドライアド)が現れる事 自体が希少(レア)中の希少(レア)だから、場がざわつき始めていたから丁度良い。

 

 

「森の管理者の権限において、事態の収束に向けた話し合いを行います。日時は明日早朝 場所はここより少し南西、森寄りの広場。参加を希望する種族は一族の意見をまとめ、代表を選んでおくように―――以上です」

 

 

 流石は森の管理者(トレイニー)

 

 オークたちを含めて、混乱はまだまだありそうだが 場は収束に向かっていった。

 

「(うーん、流石は女社長(仮)だな。こういう時は頼りになる。……ていうか、アティスはトレイニーさんと一緒にきたんだったよな? 鍛えられなかったのか? ………あの感じじゃ 可愛がられただけか)」

 

 トレイニーを見てみると、その腕の中ではアティスはまだすっぽりと収まっていた。

 色んな感情が渦巻き、シリアス面がより大きく出ていたアティスだったが、シオンへの挑発行為(多分)をされた時から、仄かに銀の身体が淡い朱色を帯びだしている。上品な女社長(仮)の胸に抱きしめられたらそうなってもおかしくないだろう。

 

「(ま、いきなりオレのトコに放り込むトコを考えてみたら、放任主義っぽい面もありそうだけど、今回は任せても良いだろうな。事後処理)」  

 

 戦闘後、数多の種族、今後の課題。

 ゲルドとの約束は必ず果たすつもりであるが 多種族への説明やら後処理やらは 色々としんどすぎるから好都合だ、と考えていた時。

 

「ふ、ふぅ……、流石はトレイニーさんですね。皆を纏める~ なんて凄いです」

「いえいえ。纏めるのは私ではありませんよ?」

「「へ?」」

 

 話の流れから、トレイニーが務めるものだと当然思っていたアティスとリムル。

 

「議長はリムル=テンペストとします。異論はないと思いますが」

「ええ!?」

 

 まさか自分が当てられると思ってなかった+任せる気満々だったリムルはビックリ。

 そして、アティスは驚きはしたが、間違いなく一番の功労者であり、勝者でもあるのはリムル。当然の流れだと思うし、何より自分でなくて良かった…と一安心。

 

「リムルさんなら ばっちりですね~」

「おいコラそこ!! 安心しましたー、的な顔するんじゃない! ってか お前もやれ!」

「い、いえいえいえ。リムルさんが皆の長ですし、それに議長が2人っておかしいでしょ!? ね、ねー トレイニーさん! 相応しいのはリムルさんですよね!?」

「はい。アティス様は リムル様の補佐をお願いしますね?」

 

 良い笑顔で、アティスを解放するトレイニー。

 

 アティスはぴょんっ と飛び降りるとリムルの傍へ。

 

「頑張ってください! えっと、出来るか判んないですけど、補佐頑張りますので!」

「……後で覚えてろよ。色々こき使ってやる」

 

 こんな大きな戦いの後のまとめ役を考えたら、軽いもの……とこの時アティスは思ってたが……。

 

 後に、大変な事になってしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日、集まると言う事で解散した後。

 リムルは、少々不機嫌気味になっちゃったが、それは置いといて ベニマル達の話を始めた。

 

「この戦いまで、と言う話だったからな、今までご苦労だった」

「……えっ!? そ、そうだったんですか……」

 

 アティスにとっては突然の話だ。

 アティスが此処に来た時は既にベニマル達は仲間……リムルの配下であると言うのは見てわかるし、もうずっと一緒にいるものだと思っていた。

 

 でも、考えてみれば 種族の為に、これからの繁栄の為に、それを考えたら これが一番なのかもしれない。

 アティスも寂しい……とは思うが、今生の別れと言う訳でもないだろう、と気丈にしようと振舞っていた。

 

「ご心配なく、アティス様。私は、私達は何処にも行くつもりはありませんっ!」

「え? わぷっっ」

 

 そんなアティスに充てられたシオンはぎゅっ、と抱きつく。

 一体どういう事か? とアティスは勿論、リムルも思っていた矢先に、ベニマルが口を開いた。

 

「お願いがございます。リムル様」

「え、えっと、なんだ?」

「どうか、なにとぞ我らの忠誠をお受け取り下さい。我らは、これからもリムル様にお遣い致します」

「……良いのか?」

「はい」

 

 

 ベニマルの答え。それは自由よりも リムルの傍に仕えると言うものだった。

 ハクロウもソウエイもベニマルに従う……と言うより、心からリムルに仕えたい、お慕い申し上げる、と言った。

 

 それが、先ほどシオンが言った事の意味だ。

 

「そ、そっか……、そう、なんだ」

「ふふ、安心しました?」

「勿論、だけど…… ベニマルさんより先に話しちゃってよかったの?」

「寂しそうにしてるアティス様を見てると我慢できませんでしたので。これからも、私はお2人をお守りします!」

「いやいや、オレはどっちかっていうと リムルさんの下なので、対等……と思ってくれていいんですよ」

 

 しゅるんっ、とシオンから抜け出したアティスは ベニマル側に立った。

 それを見たリムルは。

 

「アティス。そっち行く前に あの戦いの時みたいに オレに纏え」

「え? なんで今?」

「良いから、ほら」

「?? 構いませんが」

 

 やる理由、意味がいまいち判らなかったアティスだが、とりあえず言われた通りに 羽衣状になってリムルにスムーズに装着。

 

「条件があるぞ。コイツがオレの相棒で、右腕。2人で1人。……アレだ簡単に言うとこうだ。No.2」

「へ? はい??」

 

 アティスは、自分 まだまだ新参者ですよ? と言おうとしたが、先に言われる。

 

「まぁ、コイツはお前たちより後に入ってきて、お前たちが先輩って事にはなるんだが、その辺は オレの権限ってヤツで納得して欲しい」

 

 勿論、納得しないものなど要る訳もない。

 

「元より。アティス様と我らが同格であるなどと思ってもいません。……アティス様は リムル様の御兄弟ではありませんか」

「異論はありませぬ」

「同じです。お2人に仕える事ができ、我らは幸運極まれりです」

「私は、リムル様の秘書兼護衛ですが、アティス様にも尽くしますので! ぜーったい離れませんからね」

 

 変な冷や汗でリムルを汚しそうになった。でも、お構いなくシオンは抱きつく。アティスを纏ってるから、丁度良く2人を抱きしめる事が出来て、心地良い。

 

 

 能力的に、つまり強さ的に言えば アティスがNo2を名乗ったとしても、決して不思議ではないだろう。

 

 負けない戦いをする事が出来るから。

 

 

「な、納得するの何だか難しいんですが……。ベニマルさんたちよりも上……?」

「追々な。色々とこき使ってやるからな。幾ら右腕って言っても楽させないからそのつもりで」

「は、はい」

 

 

 

 

 



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16話

遅れた上に全然進んでません……ごめんなさい_(._.)_


 

 

 会議――それは、リムルにとって頭の痛くなる苦手な仕事の1つ。

 

 

 

 人数が多ければ多い程、纏めるのが大変。上に気を使い、下にも気を使う。休みたいのに鞭打って頑張る所存。中間管理職は大変だ。……今回のは議長だからトップの様なモノだけど。

 

 勿論、アティスも得意か不得意か? どちら? と聞かれれば、完全に後者である。同期や後輩のみの会議ならいざ知らず、である。

 

 

 と言う訳で、会議スタート。

 

 

 出席者は、リムルとアティス、鬼人たちは シュナも来て合わせて5人。

 リザードマンから首領と親衛隊長、そして副長。因みに一番賑やか? なガビルは反逆罪で連行されたので、出席はしていない。

 ガビルに連れてこられたゴブリンたちからは数人が集まり、オークからは代表10名が集まった。

 樹妖精(ドライアド)からは、トレイニーのみ。

 

 オーク達側の空気が同じ場所とは思えない程重く、暗い。アティスが感じていた通りのもので、最初に比べて5割増し以上に死にそうな表情だった。

 

「(まったく! 何が 『議長はリムル=テンペストとします』 だよ! 戦後処理なんてどうやって進めていいかわかんねーよ! 何とかトレイニーさん説得しろよ、アティス!)」

「(オレに説得させようとしたって変わらないですよ? だって、オレは断然リムルさん推しですし、説得する理由が……ですね)」

「(俺らは兄弟だろ! 押し付けるのか?? 全部!?)」

「(頼みます、おねぇ……兄さん! 背中を見て、育ちますっ! 日々此れ精進!)」

「(おいコラ! オネェっつったか!? オレはそっち系の趣味はねぇぞ!)」

「(いやいや、違います! オレだってないですッ! そんなの最初っから判ってますよ! でも、リムルさんの容姿みたら仕様がないじゃないですか! ……まぁ、自分の姿もアレなんですが)」

 

 やいのやいの、と小さく言い争いをするのは、シオンとシュナの膝の上にいる2人のスライム族。そんなやり取りをニッコリと良い笑顔で見つめるのはトレイニー。

 因みに、シュナがアティスを、リムルをシオンが支えて? 来た為 今回はトレイニーの膝はフリーである。

 何処となく寂しさはあるものの、トレイニーはリムルとアティスが仲良さそうに? している姿を見るだけで 満足と言った様子だ。

 この中では一番大人(精神的にも年〇的にも)だからか、時折 ドヤ顔のシオンを軽い微笑みで答えていた。

 

 勿論、無言の抗議をするリムルに対しても笑顔で応えていた。

 

「(くそぅ……いい笑顔)」

「(リムルさん、皆待ってますので、そろそろ……)」

「(あー、もう判ったよ! じろじろ注目集めるのには慣れてるけど、そろそろこっちも限界ってヤツだ。仕様がないから、オレなりの考えは言うから、アティスも相槌しろよ)」

「(了解です)」

 

 腹をくくったリムル。そしてアティスも議長ではないものの 魔王ゲルド、……ゲルドの想いをリムルと共に聞いた責任はあるので、表情を引き締めていた。

 

 

「まず、オレはこういう会議は初めてで正直苦手だ。……だから、思った事だけを言うつもりだ。そのあとで皆検討をして欲しい。―――まず最初に明言するが……」

 

 

 リムルの口に出た言葉に一番動揺を隠せれなかったのは、オーク達だった。

 それも仕方のない事だ。何せ、事の発端であるオーク達を『罪には問う考えはない』とはっきり告げたのだから。

 

 そして、次に反応があったのはリザードマンの面々。オーク達程ではなく、やや表情が動いた程度、微かなものではあったが、はっきりと判った。

 

「被害の大きいリザードマンからしたら、不服だろうが聞いてくれ。彼らが武力蜂起に至った原因、そして現在の状況を話す。……これは全てゲルドから聞いた事だ。アティス(こいつ)が証人だ。と言うより、ある意味一番の責任者でもある」

「……何だか悪意の籠った紹介の様な気がしますが、……概ね間違えてないです、とだけ言います。オレの証言に価値があるのか、それは正直わかりませんが、誓って嘘ではない、と」

 

 リムルは勿論の事、今更アティスの事を疑ったりする者などここにいる訳が無いが、謙遜するのはアティスの性分の様なので、リムルはツッコんだりはしなかった。

 

 それよりも現状の説明を優先させた。

 

 ――未曾有の大飢饉。そして ゲルミュッドと言う黒幕ともいえる魔人の存在。

 

 大飢饉は兎も角、ゲルミュッドに関しては、あっと言う間にゲルドに首を撥ねられたが、存在自体は把握出来たので、疑う余地もない。

 そして、嘘を言う理由もない。大飢饉はオーク達の領土へと赴けば簡単に裏はとれる筈だから。

 

「まぁ、だからと言って侵略行為が許されないのは当然だ。……でも逼迫した状況からわかる通り、彼らには賠償できるだけの蓄えは無い」

「……この場にいる事、その意味も皆には判って欲しいです。トレイニーさんが宣言したとはいえ、逃げる事が出来ない訳じゃないと思うんです。でも、彼らは逃げず、此処に集った。集ってくれたんですから」

「まぁな。針の筵だって言っていいのに。……こほんっ、まぁ アレだ。ここまでのは建前でもある」

 

 アティスの言葉も解る。蹂躙した相手が、蹂躙された相手と共にいる。まともな話し合いになるのかどうかさえ、判らない筈だ。即座に殺される可能性だって大いにあった筈。でも、彼らは此処へとやってきた。悲痛な表情を浮かべながらも、その覚悟は誰の目にも見えて取れる。

 

 リザードマンの首領が次に声を上げた。

 

「我らも彼らについて思う所が全く無い、とまでは言うつもりはありませぬ」

 

 ペコリ、と一度アティスの方を見て頭を下げた。それが何を意味するのか いまいち判らないアティスはとりあえず、その言葉を聞いてホッと一息。アティスを抱いているシュナもそんなアティスを見て、ニコリとほほ笑むと より慈愛の心を込めて、その身体を抱きなおした。

 

「……リムル殿とアティス殿は総意とお見受け出来ております。御二方の本音を、建前ではなく、本音を伺ってもよろしいかな?」

 

 リムルの言っていた建前ではなく、本音。……全ては約束があるから。

 少しだけ間を開けた後に、リムルは答えた。

 

 

「オーク達の罪は全てオレが引き受けた。文句あるならオレに言え。あー、後 問答無用! っていうなら、アティス(コイツ)も超えていけよ? ちっとやそっとじゃ、傷つかないと思うが」

「もうちょっと言い方を……、ま、まぁ 良いですよ。えっと、オークの皆さんの事はオレが護るって事になってますので、判ってもらいたいです」

 

 最強のスライム2人の庇護下にあるオーク。

 いったいこの場の誰がそれに逆らう事が出来るものか。何せ鬼人たちの総攻撃でも仕留めれず、敗戦色濃かった魔王をたった2人で仕留めたのだから。

 それは勿論客観的な感想だ。2人に触れて、接して、反乱を起こそう者などそれこそこの場には1人もいない。

 

 でも、納得できない者はいた。他の誰でもないオーク達だ。

 

「お、お待ち頂きたい! いくらなんでも、それでは道理が……」

 

 罪を肩代わりしてもらった挙句、護ってもらうなどと、いきなり受け入れるのは難しかったからだ。

 

「勿論、理由はありますよ」

「ああ。それが魔王ゲルドとの約束だ」

「ッ………」

 

 それを聞いてもう言葉も無かった。それを覆せるだけの言葉もなく、ただただ表情を落とすしか出来なかった。

 

「成る程……。しかし、それは少々ずるいお答えですな」

 

 リザードマンも控えめな受け答えだった。簡単には受け入れるのは難しい、と言葉には言わなくても伝わる程度には。

 

「ぅぅ……」

 

 アティスは不安に苛まれる。こればかりはどうしようもないから。言葉ひとつで許される様な事ではないと判ってるから。でも、約束はどうしても護りたかった。……すべてを投げうってでも、民を護ろうとした王に応える為に。

 

「(ま、簡単には……か。でもここで引き下がる訳には、な)」

 

 リムルも同様。

 誰が殺した、一族を滅ぼした。そんな物騒極まりない案件、昔の自分が扱う訳もない。そんな戦争時代も昔の話だ。話し合いだけで解決するなんて烏滸がましいのかもしれない。

 

「「大丈夫です」」

「「え?」」

 

 シオンとシュナ、2人が殆ど同時に そっとリムルとアティスに告げた。

 一体何が? と聞く前に、次に言葉を発したのは、鬼人側のベニマルだ。

 

「魔物に共通する唯一不変の法律(ルール)がある。……それは弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。……立ち向かった時点で覚悟は出来ていた筈だ」

「そなたは、ソウエイ殿と同じく鬼人か! (オーガは、我らより先に襲撃され、ほぼ壊滅させられたと聞く……)……確かにその通りですな。弱肉強食の理の中で、駄々をこねてはリザードマンの沽券が下がりましょう」

 

 

 父は自分と妹を護る為に殺されたと聞いた。最後の最後まで逃げる事なく戦い、そして散った。それがオーガの前頭首。現在の頭首であるベニマルの言葉だからこそ、芯に響いたのかもしれない。

 

「いいんですか?」「いいのか?」

 

 ほぼ同時にリムルとアティスの言葉がリザードマンに刺さる。

 それに軽く頷きを入れながら続けた。

 

「もとより、この戦の勝者はリムル様とアティス様方の一族……、お2人にございます。お2人の意見が違えた状況であるならばいざ知らず、お2人の総意を、その決定に異論などあるはずもございません」

 

 こんなにあっさりと受け入れる事が出来たのはどうやらそういう事だったらしい。色々と意見を言い、聞くところは聞いて、最後には従うつもりだった様だ。

 なんだか嬉しくてほっと安心出来た。シュナ達が大丈夫と言った意味が分かった瞬間でもあった。

 

 だが、問題点も当然ながらある。

 

 

「――しかし、それはそれとして、どうしても確認せねばならぬことがございます」

 

 

 誰でもわかる事だ。生き残りのオーク達全てをこの森で受け入れるのか? と言う事。

 

 当然ながら、この場にいるのが全てではない。忘れてはならないのはその数。15万を超えるであろう人数。その数字は戦士の数だけではなく全部族総出。大飢饉から逃れる為、出てきたのだ。受け入れれないと言う事は即ち、オーク達の死にも直結する。……戦士だけではない。戦えない女、子供。飢餓者(ウエルモノ)の影響が消えた今、弱いものから次々に命を落としてしまう状況だ。

 

 

「………夢物語のように聞こえるかもしれないが、オレの話を聞いてくれ」

 

 

 その事を聞かれるであろうのはリムルもアティスも判っていた。故に、打開策はないか、夜な夜な2人で話し合ってみていたのだ。そして、強ち夢ではない、と言う事も今確信できている。

 

――人間相手では、きっとこうはいかないだろうから。

 

 

「森にすむ各種族間で大同盟を結べたらどうだろうか」

『大同盟……』

 

 

 

 其々の種族は独立していて、殆ど鎖国状態か領土を広げるかだ。自然の摂理に従って、淘汰されたりもした一族もきっといるだろう。でも、大同盟は違う。

 

 つまり、オーク達の数は、その力は 労働力として活用できる。その対価を、見返りとして住む場所、そして飢える事の無いように食糧を提供する。軌道に乗れば、互いに助け合い、無論ボランティアじゃないのでそれに見合った対価を支払い……良い循環を生む。

 

 行きつく先の理想。

 

「他種族共生国家、ですね」

「ああ。それが一番面白いし、何にしても平和が一番ってな」

 

 

 全ての話を聞いた所で、おずおずと口を開いたのはオーク達だった。信じられない、と言わんばかりの表情で。

 

「わ、我々がその同盟に参加してもよろしいのでしょうか………」

 

 その問に関しての答えは1つだ。

 

「ちゃんと働けよ? サボる事は許さんからな?」

「甘えはダメですから。……流石にそこを護る!! とまでは言いませんからね?」

 

『もちろん……、もちろんです!! この命尽きるまで働かせてもらいます!』

「い、いや、死んじゃうのはダメですよ!! そこ! そこです! そこ護らないとなんです!」

「言葉の綾だろ。心意気として受け止めてやれって……」

 

 リムルは、オーク達の言葉を聞いて慌てるアティスにツッコミを入れた。

 僅かな間だが、穏やかで、和やかな空気に包まれた。……ほんの僅かな時ではあるが。

 

 まず、リザードマン達が跪いた。

 

「我ら、リザードマンに異論はありませぬ。ぜひ、協力させていただきたい」

「??」

「??」

 

 参加してくれるのは有難い。でも、リムルもアティスも跪く意味が判らなかった。

 

「(あれかな。仕来り?)」

「(かもしれませんね……。と言うか、リムルさんが知らない事で、オレが知ってる事って殆ど無いって思ってくださいね? 向こう(・・・)の話なら兎も角)」

「(それもそうか。……でもなぁ、未だにオレだって全然だ。まぁ、スライム歴は短いから仕方ないと言えばそうなんだけど、魔物の常識って難しい)」

「(追々ですね……、こっちでも勉強は必要って事でしょうか。そういう勉強は苦手って訳じゃないですが)」

「(一先ず、オレ達も2人から降りる?)」

「(OKです。上からなんて、正直気が重くなりそうですから)」

 

 2人の脳内会議(スキルを利用した会議)を終えて、其々の柔らかい膝上から、ひょこひょこ、と降りようとした所で、2人に抱き留められた。

 

「何をなされようとしておられるのですか?」

「え? だって、礼を……とかじゃないんですか? ほら、オークの皆もしてますし」

「ふふ。アティス様はこちらに」

 

 促されるままに、丁度 シュナとシオンが座っていた長椅子にバランスよく二匹のスライムは設置された。鬼人たちも全員 オークやリザードマン達側に跪いた。

 

「(これって……)」

 

 ここまで来たら、アティスもぴんっ! ときて そそくさと降りる準備を。一応No.2ではあるんだけれど、リムルと同じ高見に入れる訳ないよね? と自分なりに理由をつけに着けて。

 

「まてコラ!」

「ぎゅむっ!」

 

 そうは問屋が~ とリムルに阻まれる。勿論アティスも黙ってない。

 

「これ絶対アレじゃないですか。これは流石にリムルさんですっ! 王は1人で良い! ってヤツです!」

「こき使うって言ったろうが! オレらは 一蓮托生。同郷で同族の好! 運命共同体! あー、もう 言葉で言うのめんどくせえ! 兎も角、お前の場所、こーこ!」

「うー、でも やっぱり不自然な気がして……、わぁわぁ! 融合する! 融合しちゃいますって! そんな趣味ないです!」

「何が融合だ! 好きでやってる訳ねーだろ! 成りは兎も角、心は野郎相手に!」

 

 きゃあきゃあ、と騒いでる所に咳払い1つして、収めるのはトレイニー。

 

「よろしいでしょうか。わたくし、トレイニーの宣誓をお聞きください」

「「は、はい……」」

 

 一瞬でまとめられてしまった2人。やっぱり、トップはトレイニーが良いのでは? と思ったのだが、その張本人からまさかの、いや、やっぱりなセリフが飛び出した。

 

 

「森の管理者として、ここに宣誓致します。リムル様をジュラの大森林の新たなる盟主として認め……、その名の下に“ジュラの森大同盟”は成立致しました」

「ほ、ほら! リムルさんですよね? えと……めいしゅ、は。オレそっち側で……」

「従える範囲ではあると思いますが、盟主の命には応えないと……ではありませんか? アティス様」

「ぅ……」

 

 トレイニーの言葉も最もだ。リムルは一瞬だけドヤ顔して見せたが、それも直ぐに消え失せて、冷や汗が出る出る。もう半ばやけくそである。とりあえず、観念した様子のアティスの事はがっちりホールド。

 

 

 

 

「えーーー、コイツもオレと 殆ど どーとー! ま、意見が割れる時はみんなに頼ったり、たすーけつしたりするかもだけど、だいたい、きほん、 どーとー! な! それまず最初に決定!! はいはい! ここでいったん休憩!」

 



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17話

 

 

 

 

 

「山‐634M、山‐635M……」

「リムルさん……、あとどれだけでしたっけ……?」

「……1分前に言っただろ」

「でしたっけ……」

 

 

「湖‐1F、湖‐2F、湖‐3F……」

「リムルさん……、あとどれだけでしたっけ……??」

「あ゛あ゛ーーー! しつッッこいッッ! 喰うぞ!?」

「はい。……しょーじき そっちの方が良いかもしれないです……。リムルさんのお腹の中で待ちたいです……。あ、ヴェルドラさんとか、イフリートさんと話、してみたいですし」

「現実逃避すんな!! それにサボろうともすんな! オレだっていっぱいいっぱいなんだからな!」

 

 

 

 リムル達は、オーク達に名前を付けている真っ最中です。

 時折、ゴブタが隊列を整える様に見回りに来る以外にいるのは、ずら~~~~っと並ぶオークたちのみ。

 

 因みに、今つけてる名前がテキトー過ぎ……と、きっと思うだろう。と言うか名前じゃなく記号だ。勿論これにも理由がある。

 オーク達の名前を付けてる為だ。

 

 

―――そう、15万を超える数のオーク達の。

 

 

 会議での休憩(強制)が終わり、その後 今後の課題の対策を模索していた。

 食糧問題に関してが一番大変だと思っていたのだが、その辺りは問題ない、と断言してくれたのがトレイニーだった。

 

 森の恵み、実りを出し惜しみせず提供する、と。つまり樹人族(トレント)も同盟に参加して貰える事になったのだ。

 

 その食糧の運搬や指揮、スムーズに決まったのだが、問題は今現在、衰弱しているオークの子供や女、非戦闘員たちだった。オークの王 ゲルド 亡き今、良くも悪くも影響を与えていた《飢餓者(ウエルモノ)》の影響が弱まり、体力のないものから倒れるのも時間の問題だ、と。

 ゲルドの影響で、魔物にとっての生命線でもある魔素が一時的に増加していたのだが、それも失われていき……軈て死んでしまう。

 

 つまり、食糧用意し、配布している時間はないと言う事だ。

 

 そして、それを防ぐ手立てが……今回の名付けである。15万もの数の……。

 

 

『……アティスとオレで、半分ずつにするか? オレが7千5百で、残りがアティスだ』

『って、無茶な計算しないでくださいっ! 桁間違えてるのわざとでしょ!』

 

 15万の半分なら7万5千……、なのは置いといて、アティスはこの名づけの過酷さが正直な所、まだ本当の意味では分かってない。単純に15万と言う数に圧倒されてるだけで……。

 

『名をつけると魔素を持っていかれるんだよ。強化分の魔素を喰って、その喰った分を与えるって感じで 理論上は ずーーっと出来るって、大賢者も言ってるけど、疲労感が半端ないだろ? と言う訳で公平に分けるぞ、アティス』

『ダメです』

『そうだな。よしよし、頼んだ……って、ダメ!? なんでだよっ!!』

 

 今回はアティスは、嫌々逃げてる様子は一切なかった。

 顔は真剣そのものだったから、リムルもあまり怒ったりツッコんだりせず、理由を聞く。

 

『名付けって、その付けられた人が付けた人の子。……配下になるも同然なんですよね? なら、自分が付けちゃうと色んな問題が……、亀裂が生まれそうなのが嫌なんです』

『はぁ? 問題? 亀裂?? そんなもんに心配してるのか? 大丈夫に決まってるだろ』

 

 リムルは断言するけれど、アティスは首を横に振った。

 

『……はい。リムルさんならそう言うと思ってました。判ってました。オレだってきっとそう思います。皆の事だって信じてますから。……けど、これからも絶対に無い、とは言えないと思うんです。数が増えるに従って 知らない所で派閥とか、独立~とか。ほら、人の歴史でも……、家族間で、兄弟で争った事なんて沢山ありますし。……オレも無い、とは思うんです。でも……、理想の国が出来て、沢山仲間……家族が増えて、リムルさんが盟主である以上、少しでも蟠りが出来るかもしれない事はしたくないんです』

 

 そこまで説明されて、流石のリムルも黙る。

 リムル派! アティス派! その対立!! ……現在では決しておこる事はないと思うが、後々にどうなるか…… それはリムルも断言は出来なかった。でも、おこるとしたら大分先の事だとは思うし、可能性とかを考えたら、起こらない方がきっと高い。だから、小さい事を気にし過ぎだ、とアティスに言いたかったが、きっと首を縦に振る事はないだろう、と理解出来た。そっちは100%の確率で。

 

 ゲルドの話を聞いていた時、ゲルドが消滅した時、その時のアティスの姿を見てるから。気が小さい、消極的、と言うよりは 優し過ぎるとも言える性格だから。その性格が現在の能力に反映しているのではないか? とも推察出来た。逃走に……じゃなく、防御に特化した能力。攻撃ではなく守る力になった訳が此処から来ているのでは、と。

 

 

『はぁ…… ったくもー、判ったよ』

『……ほっ』

『あからさまに安心しやがって。大賢者、アティスに別方面で手伝って貰いたいんだけど、なんかいい手あるか?』

 

――解。アティス=レイの魔素を譲渡しつつ、名付けを行う事により不安は解消されると推察。

 

『んー、つまり、疲れたらアティスから力貰って、オレが続行。アティスの力をもらって名づけ祭を開催してるけど、オレがしているから、名付け親はオレになる、って事で良いか?』

 

――はい。

 

 

 

 と言う訳で、それなら頑張ります、と嬉々と意気込んだアティス。

 でも、数が減った訳でも無い。

 

 

 15万の名付け地獄――デスマーチダンス! 

 

 

 その過酷さを……完全に甘く見てた。

 

 

 

 

「……リムルさん、オレ、すりーぷもーどに入っちゃいそうです」

「その辺はだいじょーぶだ。自己申告より、はるかに正確に測ってもらってっから。オレらの相棒(大賢者と賢者)に」

「ぅぅ……」

 

 

 

 色々と文句や弱音を言い合いつつも着実に進んでいく名づけ地獄。

 それが証拠に、ゴブタが次に来た時こう言っていたから。

 

『リムル様、アティス様。次で最後の集団っすよ。約2千っす』

 

 と。

 

 

「2千が多いのか少ないのか……わかんなくなっちゃってます」

「気にすんな。オレも同じだし」

 

 15万に比べたら……約1%くらいだ。小さい小さい、と自分たちに言い聞かせてると、そこへやってきたのは、オークの中でも特に強力な力を持つ者達だった。

 

「お願いがございます。……我らは、豚頭親衛隊(オークエリート)の生き残り。この力をお側で役に立てたいのです」

「(そうだな……、うちにも労働力が欲しいのは事実だし)良いぞ、判った。アティスもそれで良いか? って、聞くまでもないか」

 

 アティスは、手を作って 親指と人差し指で〇を作っていた。

 聞かれるまでもない事だ。

 

 

「よし――、ここまで来たんだ。折角だからお前に先に名前を付けよう。ずっと考えてたんだ。お前には豚頭魔王(オークディザスター)の遺志を継いでもらいたい。だから、お前の名は《ゲルド》。死の間際まで仲間を想い続けた偉大なる王の名を継ぎ、ゲルドを名乗れ」

「良いですね! それに格好悪いけど、オレだけじゃきっと抜けちゃってる所があるから。宜しくお願いします、ゲルド!」

 

 王ゲルドの記憶の世界で、その傍にい続けたのが目の前にいるオークだ。最後まで心配し、そして 飢餓者(ウエルモノ)の支配下になった時も最後まで傍にい続けた。……きっと、逝ってしまったゲルドも本望だろうって思う。

 

 

「その名を賜る事の重み、しかと受け止めました。……我が忠誠は、貴方様方に。この命、尽きるまで」

「おう。期待してるぞゲルド」

「頑張りましょう!」

「ははッ!」

 

 

 ゲルドの忠誠をスライム肌で感じていた所で、アティスの頭の中に 賢者の声が響いてきた。

 

――告。リムル=テンペストの魔素を急速に消失を確認。至急、自動魔素譲渡変更を推奨致します。

「ええ!? それはまずいよ! わ、判った、判ったよ! リムルさん!!」

「へ? “ぷすんっ……”あ……やばっ」

 

 リムルの身体が徐々に形を保てなくなり、液状化しそうになったので 即座にアティスが魔素を送る。今までは制御が難しいから、賢者のスキルを活用し 効率さを重視した譲渡を行っていたのだが、魔素の消失があまりにも早いから方法を変えた。

 

 

 因みに――この方法を行う時の注意事項はちゃんと事前に賢者からアティスは聞いている。リムルの魔素が尽きそうになると言う事は、アティス自身の魔素も危うくなってると言う事。リムルが先に倒れる訳にはいかないから、頑張らなければならないと言う事。

 つまり――

 

 

「はうっ……」

 

 

 アティスの方が先にリタイアしてしまう可能性が高い、と言う事だ。

 

 

 リムルの代わりに、アティスの身体が変化しだした。メタルスライムから所謂はぐれメタルな感じに。元々変体化のスキルで身体を自在に変化出来るから、見栄えは変わらないのだが、中身が完全な別物だった。

 

――告。低位活動状態(スリープモード)へ移行します。

 

「(わー、これがすりーぷもーどなんだーー、……ぜーんぜん、うごけない……)」

「アティス、キミの犠牲は忘れないよ……、って言いたいんだが、まだ2千あるんだぞぉ……」

「(オレ、死んでないよぉ……、りむる、さん…… ごめんなさい……、あと、おねがいします……)」

 

 

 初めてのスリープモード。正直な所 意識が遠くなりつつ視界が暗くなり、周りが全く見えなくなり、恐怖以外の何物でもない状態だった。

 これなら起きて名付け地獄を一緒にしたいくらい、とも言えるのだった。 

 

 

 アティスがダウンした事で、魔素供給が無くなり、リムルの負荷が増大したのだが、結論から言って最後の1人に名付けをするまで耐える事が出来た。

 名を付けた瞬間……、べちょりと身体が溶けてしまい、最終的に2人はシオンとシュナの手で手厚く介抱されるのだった。

 

 

 

 

 その後も色々とあって、皆で頑張った。

 

 豚頭族(オーク)猪人族(ハイオーク)になったり、中でもゲルドは猪人王(オークキング)になって、頑張り過ぎる様になったり…… それはいけないので、無理矢理休ましたり。

 他のゴブリン一族が総出でやってきて、オークの時に比べたらマシとは言え、また名づけ祭が始まってしまったり。

 

 

 何だかんだと大変だったけれど、皆で 頑張った甲斐はあったと思う。顔つきが全然違うし、其々の家族が家を持ち、衣食住も整いつつあったから。

 

 ここは 1万を超える魔物たちが暮らす街。まだまだ小規模だけれど、魔物の国が出来たから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ 武装国家ドワルゴン □□

 

 

 ドワーフの王――ガゼル・ドワルゴはかねてより、秘密裏に調査を命じていた暗部からの報告を受け、そして思案に暮れていた。

 

 元々は、以前この国にやってきた1匹の魔物(スライム)が始まりだった。一見しただけで、その異常性は判ったが、現在はそれ以上のもので、無視することなど到底出来ない内容へとなっていた。

 

 1つは、魔物の住む町を建設中と言う事。

 そしてもう1つは、警戒する魔物(スライム)が増えたと言う事。

 

 街に関しては、正直冗談か? とも考えたが、王に虚偽をする様な不届き者はこの国には存在しない。

 

 ただ事実を告げるだけで、それは今までも、これからも変わらない。

 

 そして、もう1つの存在――銀色の魔物(スライム)の件だ。

 暗部も目を疑いたくなる存在らしく、魔物らしからぬ光を纏う存在との事だ。

 光と一重にいっても数多の種がある。火を起こし、発するのも火の光だろう。朝日の光もそう。……だが、神々しささえ醸し出す光は、なんとも形容しがたい存在らしい。

 

 歴史上、光を纏う魔物など存在しなかった。光は、無くてはならないもの。この国でもそれは変わらない。国民が暮らす為には、光が無ければならないだろう。街の光、国の光、……一定の輝きを超えれば、それは聖なる存在となる。正直、報告だけでは計り知れない

 

 まだ、報告書には続きがある。

 今回は 光の魔物(スライム)に目を奪われがちにはなるが、その他の報告も決して軽いものではなかった。

 

 

豚頭族(オーク)の群れが暴走を開始(豚頭帝(オークロード)の出現が影響と推察)、蜥蜴人族(リザードマン)と戦闘状態になる。

 

□ 謎の魔物集団の参戦により、終戦。

 

※ 謎の魔物達の中に光を持つ魔物(スライム)も確認。それらは、例の通常種の魔物(スライム)の一味であると思われる。

 

 眼を疑いたくなる報告を受けるのは 王となって初めての事だった。

 それでも、幹部たちにも伝えぬ訳にはいかないので、ガゼル王は即座に緊急会議を開く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「――王よ、暗部からの報告はなんと?」

「脅威の1つ、豚頭帝(オークロード)。それは新勢力の介入により、豚頭帝(オークロード)は討伐された、と」

 

 

 最初の王の言葉から場が騒然となるのは仕方ない。此処にいる者全員が、豚頭帝(オークロード)の危険性を理解しているからだ。

 

「なんですって!? 一体どこの国の部隊が……」

「国と呼べるかは、まだ判らんな。確認できたのはホブゴブリン、牙狼族の変異種、鬼人と思しき魔人が4名、……その全てが例のスライムの配下だと思われる……、と言うのが報告だ」

 

 場がどよめく。

 鬼人もかなりの上位な存在。それを従えるスライムの存在など誰が信じようものだろうか。これが暗部の、王の言葉でなければ一笑するにとどまるだけだろう。

 

 

「鬼人を従えるスライム……豚頭帝(オークロード)より、よっぽど捨て置けないじゃないか」

「ふむ。が、注目すべきは次だ。……不確定要素はあるが、光を纏うスライムも出現した、との事だ」

「……光?」

「うむ。変異種か新種か……、または……。いや、まだ判らぬ」

 

 

 口ごもる王。王が不安を煽る様な物言いをするのは初めてだった。それ程までな存在なのだろう、と誰もが思った。……スライムの光とは? と疑問にも。

 

 

「王よ。どちらのスライムも捨て置けぬ、と言う事でしょうな」

「どうなさるおつもりですか、王よ」

 

 

 

 ここから先は、机上で論を交わすだけでは限界がある。

 ならば、どうするのか。……もう決まっていた。

 ガゼル王は、報告書を蝋燭の火で燃やして焼失させると、告げた。

 

 

 

 

 

「決まっておろう。余自らが見極めてやろうではないか、あのふてぶてしいスライムの正体をな。それに迫れば光のスライムとやらも自ずと把握出来よう」

 



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18話

 

「リムルさん。お客さんみたいですよ」

「みたいだな。なんか騒がしい」

 

 

 

 

 呼ばれて向かって ガチャリ、と開いた先は街の食堂だ。

 

 ちゃっかりとそこで美味しそうにご飯を頬張ってるのはよく知った人物だった。

 ただ、街の住人ではない。

 

 

「えーっと……、君たち、なんでここにいんの?」

「あれ? 確かリザードマンの……… ガビルさん?」

「これはこれは! リムル様にアティス様! アティス様、吾輩の名を覚えていただき感謝感激でございますぞ!」

 

 

 ガビルである。

 戦いの時は意気消沈していた気がするが、反省期間はもう終わっていた様だ。

 テンションMaxのお調子者なガビルに。

 でも魅せる所は魅せ、決して仲間を裏切らず 最後まで漢を魅せる者でもある。

 

「――……招待をした覚えはありませんね」

 

 アティスを抱いてるシュナが頭に記憶した帳簿を思い出しつつ……、ガビルの名がないのも確認できた。

 それを聞いて眉を顰めるのは リムルを抱えたシオン。

 

「では、斬りますか?」

 

 中々に過激な発言だ。

 会うなり斬られるとはたまったものではないだろう。

 

「シオンさんシオンさん。穏便に穏便に……ね?」

「はぅっ……、 はいっ!」

 

 すかさずアティスが諫める。メタルスライムスマイルは 女性陣には効果覿面で、シオンを止めるのには特に最善だったりする。

 そもそも流石にいきなり斬って、この場を血だらけにするのは アレだから、と言うのもあるだろうきっと。

 シオンは 大剣を握りしめてたが アティスに言われて(主にスマイルで)落ち着けた。

 

 

「あっ、突然の訪問相済みませぬ!! 吾輩の話を聞いていただきたい!!」

 

 

 10分程で ガビルは、ここまで来た経緯を説明してくれた。

 

 蜥蜴人族(リザードマン)を滅亡させかけた罪は死罪をもって償うつもりだったが、勘当で済まされたらしい。

 

 ガビルの父……現在はリムルが名前を付け《アビル》と名乗っている。きっと、彼には彼なりの思惑があるのだろう。そして、ガビルが後々にここへとくる事も。

 ただ――来るのが少々早い様な気もするが。

 

 

「……アビル(親父)さんに勘当されたってのは判ったけど、で? だからってなんで俺んとこに来るんだよ」

「今、まだまだ街も建設途中だからね……、直ぐに此処に住むのは難しいと思うよ?」

 

 

「必ず御二方のお役に立ってみせます! 住まいに関しましては、認めていただけるまでは無償で働かせていただきたい! どうか、吾輩たちを配下に加えてくださいませ!」

「何卒!」

「お願いいたします!!」

 

 ガビルを始めに、一斉に頭を下げる100名程のリザードマン達だった。

 

「他に行く当てもなさそうだし……まぁ、別に良いかな。ってあれ? 親衛隊長さんじゃないか」

 

 一番最後尾に控えていたリザードマンに ふと目をいった。皆皆同じ様に見えるけれど、親衛隊長……彼女だけは違ったから。

 

「あ、ほんとだ。え? 君も勘当を?? あんなに頑張ってたのに なんで??」

「混乱させてしまい申し訳ございません。私は勘当されたわけではありません。リムル様から名を賜った父の統率は100年は揺るがないでしょう。故に見聞を広めよ、と私を見送りだしてくれたのです」

「あー成る程……(アビルさん凄くなったし、親心ってヤツかな。子には旅をって)」

「ガビルの事といい、アビルなら確かに言いそうだ」

 

 アティスもリムルも納得してたんだけれど、ガビルは違ったらしい。混乱していたから。

 

「ちょっとまて! 吾輩を慕ってついてきたのでは……っ?」

「いいえ、違います」

 

 これでもか、ときっぱり否定してた。本当にはっきりきっぱりと。

 

「私、一応は兄上を尊敬しておりますよ。ですが、それよりもソウエイ様にあこがれておりまして………」

「がーーーんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、成る程。確かに あの時ソウエイさんが助けてたから きっとその時からだよね(イケメンだからかなぁ……)」

「おまけに すげー自信で、サラッと。更にはアビル達も助けたんだし、だよなぁ(イケメンだからだな)」

 

 アティスやリムルが色々と納得してる間に、ガビル達は口喧嘩を始めてた。

 『お前は昔から生意気!』だの『少しは自重を覚えろ』だの。

 ケンカする程仲が良い、と言うのを体現してる様だ。

 

 

「名付けが始まりますね……、あ でも今回はざっと100人くらいですし、リムルさん1人でも?」

「まぁ、100くらいじゃな…… あー、なんか麻痺してきた。アティスには他に仕事任せてたし、そっちの方を頼む」

「判りました。えっと、なのでシュナさん。ええっと、オレ行きますね?」

 

 アティスは抱かれてる為、シュナに行っていいかの確認をしてた。シュナは笑顔。微笑みを絶やさず笑いかけると、『私もご一緒致します』との事。しっかりとリムルに許可を貰って。

 

「お2人の護衛、お世話は私達が責任をもって執り行いますので! ご安心くださいませ!」

「では、シオン。リムル様をお願いします」

「はい、姫様」

 

 

 因みに、シオンとシュナは日替わり交代でリムルとアティスのお世話係。

 リムルとアティスは四六時中一緒にいる、って訳じゃないので こういう感じに収まった。

 

 ……色々と良いのかな? と思う所はあったものの、本人たちが強く希望してるし、逃げれないので従う事にしたのはアティス談である。

 最初こそは2人ともが其々美女、美少女、と言った感じで役得! と思ったりしたのだが、何処まで行っても種族がスライムだと言う事と、何だか時折怖いオーラが2人に見えるので やっぱり生前と同じく何処まで行っても肉食にはきっとなれないんだな~ と苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 アティスの今日の仕事は、進捗状況の現地での確認だ。

 

 因みに、アティスが何かを指示する訳ではない。皆黙々と自身の腕を振るえば振るう程に良くなっていくから、指示する事が何にもないし、そもそも 前世? 生前? つまり 人間だったころの仕事はデスクワークが基本だったから、畑違い。

(出来ない訳ではなく、アティスには賢者と言う心強い味方がいるから、それなりには知識をそろえて熟す事は出来る)

 

 

 でも、やっぱりアティスが見に来てくれるだけで気が引き締まるし、皆喜ぶ……と言う事もあって 見回りの様な事をしているのがアティスの大切な仕事、と言うより日課だ。

 

 

「菜園と街の厨房……、危惧してた食糧問題も 思いのほか順調! ほんと日に日に活気が増してきますよね。短期間でほんっとに凄い!」

「ふふふ。そうです。アティス様の為に、私が存分に腕を振るいますね?」

「嬉しいです! シュナさん」

 

 スライムになって食事等は摂らなくても良いんだけれど、やっぱり美味しいものは食べたい。人間化する事が出来るので、味覚も楽しむ事が出来るから、美味しいものを食べる時は何度もリムルに感謝の念をアティスは送っていた。

 

「そういえば、リムルさんが今度、食事会を開いてくれる~って言ってたかな」

「……え? 私は聞いてませんよ」

「あれ? そうなんですか??」

 

 シュナはそれを聞いて少し頬を膨らませていた。リムルに限って仲間外れにしたり~などは考えられないが、料理や裁縫、そっち方面の分野でシュナに声をかけていないのは珍しい。ただ、まだかけてないだけかもしれないが。

 

 

 

 勿論、それはワケ(・・)がある。――――この時のアティスは想像をもしてない凶悪極まりないはワケ(・・)が。

 

 

 

シオン(・・・)さんが腕を振るって楽しませて~ って言ってたんですけどね。てっきりシュナさんにも伝わってるとばかり思ってたんですけど。……んーリムルさんも忙しいし、まだ伝わってなかっただけかな?」

「……えっ?」

 

 アティスの言葉を聞いて、思わず身震いをするのはシュナ。しっかりとアティスを抱きしめてる為、伝わっているんだけれどあまり気にしてない様子だった。

 

 

 ちゃんとシュナの様子を気にしてたら……まだ暫く後にはなるが、惨劇(笑)は回避できたかもしれないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして1時間後の事。

 リムルの部屋に戻ってきたアティスは(今度は1人で)、リムルがスリープモードに入ってしまってるのをみて少しびっくりしていた。

 

「あれれ? えーっと、なんでリムルさんすりーぷもーどに?」

 

――解。リザードマン達への名付けの影響と推察。

 

「え? 確か100人くらいだった筈で、それ位じゃ問題ない、って思ってたんだけど……」

 

――告。蜥蜴人(リザードマン)龍人族(ドラゴンニュート)へと進化。進化に見合う魔素が必要となります。

 

「成る程……、それでなんだ。名付けって難しいし、危ないんだね………。変に覚えてなくてほんと良かった」

 

 べちょりと溶けた状態のスライムになってしまってるリムルを見ながらアティスは納得していた。最後のトドメがガビルの名付けだったらしい。元々名前を持っていたガビルだったが、リムルに上書きされる形で新たな力を得る事が出来たとの事だ。

 

「うーん。ねぇ、賢者さん。スリープモードのリムルさんを助ける事って出来るかな? ほら、後々を考えて」

 

――告。完全に低位活動状態(スリープモード)に移行した場合における魔素の供給は不可。

 

「そっか。直前じゃないとダメなんだね。……よっし、リムルさん動けないんじゃ、オレが頑張らないとだよね! しっかりやるので安心して眠っててください!」

 

 人型へと変身し、リムルに一礼したアティスはささっと仕事に戻っていった。

 せっせ、せっせと 他の皆に負けずと劣らない働きを見せ、空いた時間はちゃんと休むし、真面目なアティスは、より増し増しで皆の信頼を得るのだが、誰も(リムルに言われてるから?)シオン料理について教えてあげる人はいなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に数日後。

 

 

「ぃよーし、今日もスキルの練習頑張ろうかな。マザーっ! 今日も宜しくね」

――了。 

 

 アティスのスキル賢者は、人知れず進化を果たしていた。

 当初より 甘えるかの様に何度も何度も賢者に話かけ続けた事で 得た 相談者(ソウダンシャ)との統合、更に一番は 意図せず内に、リムルの大賢者に対して物真似(スキル)が発動して、能力が急向上。

 

 

 賢者は ユニークスキル:聖母(マリア)へと進化した。

 

 

 普通、賢者とくれば次は大賢者じゃ? と疑問が浮かんでいたアティスやリムル。実際に大賢者のスキルを持ってるリムルがいたから尚更だ。話を聞けば転生する時に賢者⇒大賢者に進化を果たした、とあったらしいから。

 

 でも、アティスとのやり取りを見たり聞いたりしてたら、時々 スキルに時折よく感じる淡泊な反応の中に まるで母親の様な温かさもあったから、別に名に違和感はなかった。因みに大賢者にリムルが確認した所、賢者からこのスキルに派生したのは判る範囲では初らしい。

 

 最初は照れくさそうにしてたアティスだったが、満更でも無い様で、聖母を《マザー》と呼ぶ様にしたのだった。

 

 

 

 

 

 そして今。

 

 アティスは仕事だけではなく、自分自身のスキルについてもしっかりと練習する事にしていた。 皆を護る! と大口を叩いた負い目も少なからずあるのだろう、大言壮語にならない様にする為にだ。

 

「街を覆う位の粒子を飛ばすのって、制御が難しいかな? マザーに制御を手伝ってもらうのもアリだけど、有事の際によりスムーズに、安全を最優先で、って考えたら自動(オート)手動(マニュアル)も両方やってた方が良いって思うんだよね……」

 

――はい。間違いではありません。尚、魔素の操作能力の向上により、あらゆるスキルへの能力向上が可能となります。

 

「だよね。んんーでもさぁ……粒子状になるだけでもこれだけ大変だし、神経使うし……。やっぱマザーに頼った方が良いかなぁ……」

 

――リピート再生実施。『皆はオレが護ります』

 

「わーわ―っ! リムルさんみたいな事しないでっっ!」

 

――『ぃよーし、今日もスキルの練習頑張ろうかな』

 

「わか、わかったから! わかったからヤメテ! がんばるからっ!!」

 

 

 

 母とは、甘やかすだけではないのである。

 時には厳しさも必要と言う事だ。

 

 

 

 ひーひーと マザーに尻を叩かれながら、スキルの練習に励んでいたその時だった。

 街の北の空に異変を感じたのは。

 

 

 そして、異変を感じたと同時に 粒子状に飛ばした魔素から視覚的情報もキャッチ。

 無数の影が、こちら側に迫ってきているのが見えた。

 

 

 

「……何アレ? 鳥?」

――否。天馬(ペガサス)です。

 



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番外編4

魔物の国の歩き方……大好きです( ´艸`)


 

□□ ラミリス迷宮95層――エルフの森 □□

 

 

 

 

 リムルはテンペストの主だったメンバー全員を引きつれてこの層にまでやってきていた。

 

「あの…… アティス様。ここで何を?」

 

 迷宮体験はフラメアもしているが、残念な事に冒険者メンバー全滅と言う末路になっちゃってるから、この層までは届いてなく、ここに何があるのか知らなかった。そして、何をするのかも知らされてない為、疑問に思っていた様だ。

 

「んーーー、ないしょ?」

「ふぇ?」

「あはは。直ぐに判るよ。と言うかリムルさん言ってたでしょ? 『お花見』するって」

「そうですが……よく判らなくって」

「まぁ それもそうだよね。お花見…… 桜は多分此処にしかないと思うし。まぁ 楽しみにしてて。フラメアちゃんのセリフ借りるなら絶対星3つだから」

 

 迷宮と言う事もあり、それなりに緊張をしていたフラメアだったが、アティスと話をしたことで、大分楽になれた様だ。

 

 アティスは、魔物の国(テンペスト)でリムルに次ぐ地位の持ち主。

 ……と言うか同等と言うか、対を成す存在と言うか、相棒と言うか……。兎も角 様々な異名が轟いてるので これと言った断言は出来ないが兎に角物凄い地位を持つ存在で、物凄い存在である。

 でも、気さくと言うか朗らかと言うか、身体の堅さに反比例して色々と物腰柔らかい為、打ち解けるのにも異様に早い。 だから、フラメアも直ぐに気楽に話す事が出来るようになったのだから。アティス自身が、かったるい話し方禁止! と言ったからというのもあるかもしれないが。

 

「ほんと、色々とやり過ぎなのよね。リムルは」

 

 アティスの隣にいるヒナタは 呆れた様子でため息を吐いていた。当然彼女も同郷の為 花見の事は知ってるし、何をするのかも知ってる。でも、まさかその為に全てを用意するとは思ってもなかった様だ。

 

「何言ってんの。ヒナ姉も楽しみにしてる癖にー」

「っ……。まぁ、嫌いじゃ無いわよ」

 

 ヒナタとアティスのやり取りを見てたフラメアは また楽しみが増した。辛口コメントの多いヒナタも楽しみにしているともなれば当然だ。

 

 

 そして――先頭を歩くリムルから声がかかる。

 

 

「お前らーー、こっちだ。この先。ついたぞーー!」

 

 

 光を遮る巨大樹の森を抜けた先に見えたのは 鮮やかな桃色の輝きだ。

 それはリムルやアティス、ヒナタ…… 異世界人たちの故郷 地球で春を告げる木、桜の並木。

 

 暖かい風に乗り舞い散る桜吹雪は圧巻で、フラメアはただただ目を奪われていた。

 

「うわぁ~! 星3つ!」

「ふふっ。だよねー。ここはいつきても良いな」

 

 子どもの様にはしゃぐフラメアを、そして鮮やかな桜を見ながら、アティスはただただ笑っていた。

 

 

 

 今回の事を説明をすると花見の企画は、リムルからの提案だった。

 

 

 

――それは遡る事5日前のこと。

 

 

「お花見…… ですか?」

「ああ!」

 

 緊急会議! と突然銘打って集められて、言われたのは まさかのお花見企画だった。

 

「お花見かぁ……、良いですね! でも緊急招集! なんてしなくても良かったんじゃ?」

「う……、まぁ そうなんだが、ほら オレ迷惑かけちゃったじゃん? この間の銅像の件で……」

「ああ…… なるほど。納得です」

 

 銅像の件、と言うのは リムルを象った銅像が盗まれた、と言う騒ぎの件である。

 あまり増えるのもよろしくないな、と思ったリムルが誰にも相談なく持ち去った結果――窃盗事件として、大々的に報じられ、職人間は勿論、テンペスト全体がパニックに陥ったと言っても良い。

 

 怒りに震えるシュナとシオン、静かな殺意を漲らせるディアブロ、ソウエイの分身体総動員、ベニマルの紅炎衆(クレナイ)。何処かの国でも滅ぼしに行くのかな? と思う様な殺気が国中を巡っていた。

(因みに、アティス像もあったのだが、リムルと殆ど姿が変わらないという事と『これは全部リムル像にしましょう!』のアティスのごり押しで リムルの像のみになったのは別の話)

 

「いえ、それはリムル様の考えがわからなかった私達が原因で……」

 

 シュナが慌てて 迷惑なんてとんでもない! と伝えようとしたのだが、間に割って入って煽ってくるのは、魔王の1人ラミリス。

 

「まったくよ! 魔王なんだからもう少し考えて行動しなさいよ! このラミリス様みたいにね!」

「ぐぬぬ……」

 

 煽り耐性はそれなりにあるリムルなのだが、いつも面倒を起こすラミリスに 言われるのは相当堪える様子だ。自分が原因で、間違いなく自分が悪い騒動だと判っているからこそ、である。そう騒動によく巻き込まれる1人でもあるアティス。今回は特に同情していたので、リムルの目の前で煽るラミリスをひょいっと持ち上げた。

 

「まーまー、ラミリスちゃんもそんなに言ってあげないでって。リムルさんだって色々大変なんだからさ?」

「って、コラ――! アティス! この私をつまむな! 魔王様だぞっ! リムルと違って魔王になってないくせに!」

「それ言ったら、オレ神様だぞーー、がおぅー! ほらほら~~」

「揺らすな私で遊ぶなーーー!」

「(ほんと、助かるよ……、アティス。ちょっとスッとした)」

 

 あはは~ とラミリスで遊ぶアティスを見て、グッジョブ! と言わんばかりにリムルは親指を立てる。

 

 色々と話が脱線している様だが、ここでフラメアが花見の話題に戻した。……戻した、と言うより、よく判らないから聞きたかった様だ。

 

「え、えっと、お花見……でしたっけ? お花を見るのであれば、わざわざ皆さんで見に行かなくてもその辺にあるんじゃ?」

 

 お花見。読んで字のごとく……の行為であれば、街を着飾る花は幾らでも植えられているから、とフラメアは思った様だ。

 

「それが少々違うんだよ、フラメア君。何故なら、花見は1つのお祭りなのだからね」

 

 キランッ、と目を輝かせながら言うリムル。

 そして、それに同意する様にアティスも笑顔で頷く。ラミリスはアティスの顔を引っ掻いていた。(傷1つ付かないが)

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、場面は 95層のエルフの森に戻る。

 

 

 鮮やかな桜の並木を前にして、リムルが言っていた意味が解る気がするのは フラメア。

 沢山の美味しそうな料理を並べながらリムルとアティスに聞く。

 

「これがリムルさまやアティスさまの故郷の花なんですね」

「ああ、そうだ。この花が咲く季節にこうやってみんなで親交を深めるのが“花見”なんだ」

「因みに、これは桜って言うんだよ。普段からとても美味しいけど、こう言う場所で食べたり飲んだりって ほんと格別なんだー」

 

 コチンッとジョッキを合わせ、酒を酌み交わすリムルとアティス。本当に楽しそうだと思った。何より、フラメアはもっともっと聞いてみたくなった。

 

「お2人の故郷はいろんなお祭りがあるんですね! もっとお話しを聞いてみたいです!!」

「お、おう……」

「フラメアちゃんのスキルなら、聞くより見る~ 百聞は一見、だけど 全部再現するのは大変、かな。でもさ まずはこの花見を楽しんでよ。はい」

「勿論ですっ! あ、わざわざすみません」

 

 酒を注がれ、きゅっ と言い飲みっぷり。

 

 このまま、お花見と言う名の宴会が始まった。

 

 

 

「綺麗な花ですね。薄紅色に包まれ、なんとも……」

「ええ、本当に綺麗です」

 

 

 シオンとシュナ。今回ばっかりは リムルやアティスより 花に、桜に魅入っている様子だった。因みに、シオンは 花より団子だったようで、直ぐに美味しい美味しい料理に目を奪われ、食したのは言うまでもなく、リムルやアティスを笑わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集まりからやや離れた所で、ハクロウが腕によりをかけて握ってくれた寿司を食べているヒナタ。

 

 

「あはは、ヒナ姉はやっぱ寿司好きだよね~、ワサビ抜きの」

「何よ、文句ある?」

「いやいや。なんかさ ちょっと昔――思い出して」

「……そうね」

 

 舞う桜の花弁を眺めながら、アティスは言う。

 

「ちょっとだけ、ほいっと」

「っ……。はぁ、皆が混乱するからその姿にはならないんじゃなかったの? リュウ」

「いや、何だかさ。自分で本名禁止ー! って言っといてなんだけど、ヒナ姉といる時はこの姿が自然かな、って。もうずいぶん昔の話なんだけど、ついこの間の様な気もするし」

「……それは否定はしないわ。しっくりくるもの」 

 

 アティスの姿は、リムルの姿―――ではなく、少年の姿へと変貌していた。あまり見せない姿で、テンペストのメンバーもリムルを除けば殆ど知らない。だから、侵入者? 不審者? って思われる可能性も捨てきれないので見せない様にしている。と言うより、昔の姿を見せるのは少々恥ずかしくて抵抗があったりもする。

 

「昔――……ね」

 

 ヒナタは、アティスの言う『昔』と言う話を聞いて、少しだけ表情が曇っていた。

 思い返すのは、アティスの言う この世界に来る前の話――ではない。

 

 脳裏に映るのは、翅の様に軽く扱えていた筈の武器が重く、重くのしかかる様に扱えなくなった姿。ただただ、止められない あふれ出る涙。

 

 

 どうしてわからなかったのか。どうしてあんなことをしたのか。

 

 

 ただただ、見ているだけしか出来なかった。涙を流しながら。

 

 

 

 冷たくなっていく最愛の………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ?」

 

 

 まだ ヒナタは引き摺っているのかもしれない。『大丈夫』と何度も言われているが、どうしても。

 

 

「ヒナ――」

 

 

 こんな穏やかな気持ちに自分が成れても良いのだろうか、と思う。魔物は悪だと決めつけ、刃をつき続け続けた過去は消せないのだから。例え、理由があろうとも。

 

 甘んじている自分が情けなくなる時もある。あの何処までも沈む絶望の感触が、まだ脳裏に残ってて、身体が重く沈みそうに――。

 

「ヒナ姉!」

「ッ……」

 

 そして、沈みそうな身体をいつも救い上げてくれるのが、このアティスだった。

 

「な、なに」

「………ヒナ姉?」

「……御免なさい。ダメよね、こんな席でこんな気持ちじゃ」

「うん。判ってるならヨシ! って、なんかいつもとは逆だねー。説教されるのって、オレの方ばっかりなのにさ」

 

 ちゃんと元に戻ったヒナタを見て、ははっ、と安心して笑うのはアティス。姿もしっかりと元の姿に戻っていた。過去の……昔の姿を見せたのが少し悪かったのかもしれない、とアティスは少し自分を責めかけたが、直ぐに安心出来た。

 

「こうやって、こっちだけでなく、向こうでも飲みに行きたかったわね」

 

 ヒナタはそういって笑ってくれたから。

 アティスは、ただただ笑って頷くだけだった。

 

 

 

 そんな思い出に浸ってる所に闖入者が1名。

 

 

 

 

 

「妾を差し置いて、随分と楽しそうじゃのう、小光神(アティス)

 

 

 

 

 舞い散る花弁を演出に、現れたのは魔王の1人 ルミナス。

 

「あれ? ルミナスさんも来てたんだ」

「来ぬ訳ないじゃろう? 妾も興味があってのぅ……」

「桜に? ああ、ヒナ姉から聞いた? 今回の事」

「それもそうなんじゃが……、もう1つ、興味とは少し違うか」

「??」

 

 ふわっ、と消える様にアティスの横に移動するルミナス。後ろから抱きつく様に腕を回し、耳元で妖しく囁く。 そして、勿論 ヒナタも黙ってない。

 

 

「妾の事を、『ルミ姉』と呼ぶのはいつか、とな?」

「……ッッ、ええ! ソレ、もう良いって言ってなかったっけ!?」

「くくっ、やはり来てよかった。子ウサギも見れ、楽しみが増えそうで何よりじゃ」

「ルミナス……?」

「(ヒナタのこの表情を見れるのもこれはこれで―――……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も沢山沢山楽しんだ。沢山食べて、飲み、語らい、全てを楽しんだ。

 

 あっという間に日も落ちて、月明かりが照らす空間へと変わる。

 

 殆どが飲み潰れて眠っていたが、リムルは 酒を片手に桜を見ていた。

 

 想うのは、彼女(・・)のこと。 

 

 

「(シズさん。……見せたかったな――、この景色。シズさんにも)」

 

 

 きっと喜んでくれるに違いない。

 彼女が生きた時にも当然ながら桜はあった筈だから。沢山の惨劇があった中でも、桜はいつも春と共にあった筈だから。

 

 そんな時、ふいに升に酒が注がれる。

 

「……さんきゅ」

「どういたしまして」

 

 いつの間にか、横に来ていたのはアティスだった。

 

「毎日毎日、大変だけど、楽しい事も沢山あって……、こういう夜も良いよね」

「……まぁ、な。やっぱ 色々と思い出しちゃうんだな、桜って」

 

 リムルもそっと、アティスの升に酒を返杯。

 もう本日 何度目になるか判らないが、コチンッとまた合わせた。

 

 まるで、それに応えるかのように、丁度2人の升に一枚ずつ、桜の花が落ちてきた。

 

 

「――なぁ」

「ん?」

「また、こんな風に咲くかな?」

 

 

 鮮やかに咲き誇る桜をみて、呟くリムル。儚げなリムルを見て、アティスは笑った。

 

 

 

「魔王権限じゃーー、桜よ咲けーー! で、きっと、だいじょうぶ!」

 

 

 それを聞いて、つられてリムルも笑った。

 

 

 

 

「なんだよ、それ。どっちかっていうと、神様権限じゃーーの方が咲いてくれるんじゃないか?」

「んじゃ、2人で頑張りましょー」

「……だな」

 



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19話

 アティスは、はっきり言って、いや はっきり言わなくてもビビりだ。

 

 実に辛辣で辛口なコメントではあるが、事実である。……だが、それは決して悪い事ではない。自分自身に過信する事も慢心する事もなく、大体最悪の想定をしつつ動いている。間違った方向へと直進しようものなら、アティスの聖母(スキル)が軌道修正をしてくれるので、殆どが良い方向へと導かれる。

 

 そして、今回の件。

 

 突如飛来する無数の脅威(現時点では本当の意味で脅威なのかどうかは不明)。

 本来なら、まだ自分達の暮らす街から見える筈もない遠間ではあるが、アティスは察知した。持前のビビり……ではなく、主に彼のスキル 超絶運の効果である。

 粒子状に変化させた身体を上空へと飛ばし、色々試しているうちに……発見に至る。

 

 より近づけば、常に街の警戒に当たってる隠密のソウエイ辺りが気付くだろうが、現在の距離では誰もが気付けない。

 アティスがパニックを起こしたのは言うまでもなく、しっかりと聖母に窘められて冷静に行動出来た。魔王ゲルドの時と比べてみればどうか? と言う聖母の言葉で 頭が冷えた様だ。 

 

 

「えっと、絶対コレ知らせた方が良いよね? 傍に誰かいる?」

 

――解。同意致します。近辺に個体名:ソーカ、ソウエイの存在を確認。交信致しますか?

 

「2人が傍にいるんだ。訓練かな? えっと、直ぐ傍にいる?」

 

――解。街の北部の森林地帯にて確認。

 

「了解。なら、直接行くよ。スキルの練習にもなるし。マザーも言ってたけど、あのペガサス?とは まだ距離的に余裕はあるんでしょ?」

 

――到達予測時間……凡そ1時間。

 

「ん。だいじょーぶ! はぁ、でももっともっと冷静にならないとだよね……。今は一人じゃないんだし」

 

 背後には仲間達がいる。傍には心強い聖母もいる。何処に怯える要素があるのだろうか、と自己嫌悪気味だ。

 

――全てが良い方へと向かっておりますよ。

 

「うーん、そうかなぁ…… なーんかやっぱり情けないよーな。……って、ウジウジ、クヨクヨ タイム終わり終わり! 時間は有限! えっと、メタルミスト~じゃなく、光粒子化!」

 

 アティスは、練習中のスキルを仕様。メタルスライムの身体が再び無数の粒子状に散らばり浮遊。

 

 そして、まだ練習中とは思えない程の速度で、まるで光の如き速度で、街の北部森林地帯へと超高速移動を開始したのだった。

 

 

 

 

 森の中では、ソウエイとソーカの2人がいた。ソウエイに憧れてる、と明言しているだけあって、四六時中行動を共にしている……訳ではなく、ソウエイの指示にはしっかり従い、特に任務や訓練が無い時は 彼の傍で技術を習得しようと頑張っているのだ。

 淡い個人的な感情は………ここではノーコメントとしておく。

 

 木の枝の上にて ソーカが一時休憩をしている時 光の粒子がソーカの周りに集まってくる。

 

「ッ!? 何者!」

 

 突然の事に混乱したソーカだったが、ソウエイが即座に現れ、膝をついた。

 

「こちらへ いらっしゃるとは。アティス様。どうかなされましたか」

 

 ソウエイがそういったと同時に、ぽんっ! と効果音と共に、アティスはメタルスライム化する。

 

「えっと 驚かせてごめんね、ソーカさん」

「っ、いえ そんな滅相もございません。私がまだまだ未熟なばかりに、アティス様を警戒するなど……」

「仕方ないよ。頑張ってくれてるし、いきなり出てきたら誰だって……じゃない! 呑気に話してる場合じゃなくって大変なんだ、2人とも! 北の空、まだ遠いけど変なのが沢山来てる!」

 

 慌てるアティスの言葉を聞いて、瞬時にソウエイは動く。

 高く跳躍し北の空を確認すると…… まだ黒い点の様にしか視認できない程の小ささではあるが、無数の何かが飛来してきているのが判った。

 

 直ぐにアティスの元へと戻ったソウエイ。

 

「………申し訳ございません。警戒していたのにも関わらず気付かない等、隠密として恥ずべき事」

「いやいや、ほんと偶然だから。オレ、結構向こうの方でスキルの練習1人でしてて、気付いただけだから! だから そんな頭下げないでー! それより早く皆に知らせようよ! オレ、リムルさんの所に戻るから。マザーの見立てじゃ1時間くらいは時間ある見たいだし。ソウエイさんたちは、このまま見張ってて。ひょっとしたら進路変えるかもしれないからね」

「了解致しましたアティス様。変化がありましたら随時、連絡致します」

「宜しく。んー でもやっぱり何も無かった、が一番の理想なんだけどねぇ……」

 

 そうとだけ呟くと、アティスは再び光になってこの場から姿を消した。

 

 いなくなったアティスの姿を、街の方へと向かったであろう姿を目で追いながら――ソーカは思う。

 

 アティスをリムルと同格――主として仰ぐ決意を見せ、仕えている。その期間は決して長くはないが、自身の主の性質はよく判った。

 

 リムルは勿論だが、それ以上にアティス。それは……何よりも優しい、と言う事だ。

 

 オークとの戦争の時も、敵側である筈のオークに、ゲルドに涙を見せた。更に護るとまで約束した。今現在も誰に対しても分け隔てなく接し続けている。 

 

 

――その優しさが、いつの日か災いを呼ばねば良いが……。

 

 

「そのために我らがいる」

「ッ……」

 

 

 ソーカの考えを読んだかの様に、ソウエイが告げた。

 

「あの方々はおやさしい。……敵であれ、如何なる輩の命を奪う事を禁じ、命じている程にな。街が大きくなれば成る程、我らが主たちのやさしさに、そこに付け入る者どもも必ず現れるだろう。……その時は」

 

 ニヤリ、と妖しく笑みを見せるソウエイ。普段は決して見せない笑みを見たソーカは思わず身震いしそうになるが、意思は同じ。故にソーカは頷くのだった。

 

 

「(しかし、アティス様の索敵能力は凄まじいの一言。恐らくは、オークを護る為にその能力を……、いや このジュラの森全てを守護するおつもりなのでしょう)」  

 

 

 アティスの能力。

 怖いのが嫌で嫌で怖がりで……、と言う理由で得たと言う事はソーカは知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ リムルの家 □□ 

 

 

 

「へぇ……って、空から!? 航空機、戦闘機か!?」

「いや、マザーが言うのはペガサスだって」

「ペガサス! なんか凄そうだな……。それでソウエイ達の連絡待ちって訳か。でも 今のうちに最悪の想定はしておいた方が良いな。避難命令とか。……あー、素晴らしい平和な期間だったのに。時間は大体どれくらいだ?」

「マザー。リムルさんの大賢者さんと連動して、情報を伝えて」

 

――了。

 

 聖母と大賢者は情報を共有。 1時間、と言うのは発見時点での目標到達時間だったから、その更新だ。

 

「了解だ、大賢者。それと聖母(マリア)もサンキュー」

 

 リムルの家について、だらだらとしてるリムルを叩き起こして、アティスは状況を説明。

 無数のペガサスがやってくる、と。まだ此処に来るとは確定してなく、ソウエイが見張ってくれる事も告げた。

 

 

 緊急事態になる可能性もあるので シオン達に指示。

 リムルとアティスは、万全の体制で迎え撃つ構え。……勿論、ここに来なければいいんだが……、ソウエイからの報告もあって、そんな希望的観測は淡く打ち砕かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――告。目標が下降を開始しました。目的地はこの場所で間違いありません。

 

「うぅん。統制の取れた武装集団って感じだぞ、アレ。下手したらオークの軍勢より脅威だ」

「空からって言うのがそうですよね……。空を飛べるひとって限られますから」

「街もせっかく出来てきたんだし、争いは避けたい……、と言うか あれ何者なんだ? ペガサス乗り回すなんて、何と羨ま……じゃなく、興味深い」

 

 

 色々と話している間に、ベニマル達戦闘参加者が集まってきて、更に万全な状態となった。勿論、先手必勝!とするわけではないが、常に最悪を想定しつつ、穏便にが一番。

 

「あれ、もしかして……」

「おいおい、なにしてるんだよカイジン。早く避難してくれよ」

「危ないのは嫌ですけど……、ここ危ないかもですから」

 

 戦闘員ではなく、生産職鍛冶を専門に持つスペシャリストのカイジンがなぜか前線にまでやってきていた。腕っぷしは凄いの一言なのだが彼は非戦闘員だ。

 

「オレ、カイジンさんを送っていきますね?」

「ちょい待ってくれ、アティスの旦那。あの部隊には心当たりがあるんだ。……昔、酒の席で退役した老将に聞いたんだ。ドワーフ王の直轄に極秘部隊がいるってな」

「それが奴らかもって?」

「ああ。なにせ、その部隊は――天翔騎士団(ペガサスナイツ)って名なんだ」

「ペガ…… あー、成る程 これ以上ない心当たりだね。名前のまんまだし……」

 

 沢山のペガサスが下りてきた。背中にしっかりとナイトたちを乗せている。だから、ペガサスナイツ! そのまんまだった。

 

 軈て一番大きなペガサスが前にやってきて、その背から一人の男が下りてきた。

 その人物を見るや否やカイジンは跪いた。

 

「……お久しぶりでございます。ガゼル王よ」 

 

 圧倒的威圧感が半端でない。生まれながらに王である、と言っても全然不思議じゃないのがその姿に体現されていた。がっちりとした筋骨隆々な身体。その身の内に収まりきってないのだろう、迸るエネルギーがあふれ出てるのがよく判る。

 褐色の肌、後ろに撫でつけた漆黒の髪……、威厳たっぷりな髭。

 

 ガゼル・ドワルゴはカイジンを、そしてリムルを見た。

 

「久しいな、カイジン。それにスライムよ。余―――いや、オレを覚えているか?」

「(ガゼル王…… 忘れる訳ないよ。色々あったし)あー、でもお前は知らないだ……ろ? あれ??」

 

 隣を見ようとしたが、いつの間にかアティスはいなかった。

 何処にいった? とキョロキョロ見渡してみると……いつの間にかリムルの影にすっぽり収まってた。

 

「(何してんの?)」

「(あ、いや…… その………)」

「(……ナニぷるぷるしてんの? ってビビってんの?? まぁ、判らんでもないけど、魔王相手にあんだけ立ち回ってた癖に、ほんと過小評価も此処に極まってるな、お前……)」

「(うぅ……そう、じゃなくって……、でも そうじゃない、とも言えないような……)」

 

 呆れたようにため息を吐くリムル。 

 アティスは、いつの間にかリムルの影に逃げていた様子だ。

 でも、違和感がないわけでもない。逃げるのであれば、何処か遠くに光粒子化して逃げれば良い。影の中より遥かに安全だ。……でも、仲間たちを置いていく様な真似をするとは思えない。リムルが言う様に魔王相手に引けを取らず、立ち回り最後には打倒の位置役を担った男なのだから。

 

「(じゃあ何で?)」

「(苦手です………、むかし(生前)、あんな生徒指導の先生がいて、めちゃめちゃ怒られて……)」

「……はぁ」

「うぅ……」

 

 どうやら、トラウマを思い出してしまったらしい。幼き頃に刻まれたモノは、挫折はそう易々とぬぐえないのは それなりに判るつもりだ。時として、その悪夢は……魔王さえも凌駕するのだろう。……多分。

 

 

 

 そんなスライム同士の会話は置いといて、話題はガゼルだ。王をいつまでも無視する訳にはいかないので。

 

「王よ。本日は何か御用があるのでしょうか」

「なに。そこのスライムの本性を見極めてやろうと思ってな。今日は王としてではなく、一私人として来た。物々しいのは許せ。こうでもせぬと出歩けぬのでな」

 

 王が1人で出歩くなど出来る筈もないのは当然だろう。それが例え一騎当千の強者であっても、万が一でもあれば 国の崩壊だから。

 

「まあ、王様だしな。(……でも、これはヤバい。この言い方でオレが貶されたって思ってるのか? 鬼人たちが怒ってる)」

 

 ちらっ、と後ろを見てみると、集まっていた鬼人のベニマル、シュナ、シオンの表情が怖い。唯一笑っているのはソウエイだけだが、その笑みが一際怖い。

 

「もう一匹スライムがいると聞くが、姿を現さんのか?」

「ん? ああ、アイツは……」

 

 アティスの事を言おうと思ったが、影にすっぽりハマってて出てきそうにないので、どういえば良いか悩む。

 

「臆病風に吹かれた、と言う訳でもあるまい」

「(まさかの正解だよ……。って、やばいやばい! オレに加えてアティスの事も、爆発寸前!?)」

 

 一際視線が鋭くなっていて、心なしか 鬼人を象徴する角が鋭く漲ってる様に見えた。背後に炎も見える。いつ爆発するのか判ったものではない。そして、アティスは出てくる気配はない。

 

「(まぁ、戦うような事になったら、出てくるだろ。そこまで根性無しって訳じゃないし)あ――、今は裁判中でもないし、こちらから話しかけてもいいんだよな? 後、もう1人のヤツはオレの兄弟で、今はお休み中だ」

「ふむ。……下がっておれ」

 

 ガゼルも側近たちを後ろに下がらせる。

 それと同時に、リムルは姿を変えた。

 

「まずは名乗ろうか、オレの名はリムル。……スライムなのはその通りだが、見下すのは止めてもらおうか。これでも一応ジュラの森大同盟の盟主なんでな」

 

 スライムが人の姿に化けるのを見て どよめくがガゼルは全く動じなかった。

 

「まぁ、これが本性って訳でもないが、こっちの方が話し易いだろ?」

「ほう……、人の姿で、剣を使うのか……」

「一応武器を携帯してるだけなんだが……、そんな警戒しないで欲しいんだけど」

「それを判断するのはこの俺だ。……貴様を見極めるのに、言葉などは不要」

 

 ガゼルは剣を取り出し――剣先をリムルに向けた。

 

「この剣一本で十分だ。この森の盟主などという法螺吹きには分と言うものを教えてやらねばなるまいしな」

「(いや、煽んないで欲しいんだけど……)」

 

 リムルの背後に燃えあがる炎が……、冗談抜きでベニマルは小さな炎を出していて臨戦態勢だ。

 

 そんな時、リムルの影からぽんっ、ともう1匹のスライムが飛び出した。

 

「おお?」

 

 こればっかりはリムルも驚く。まだ暫くは隠れてるだろうな、と思っていた矢先だったから。

 

「(確かに 物凄く怒られたし、凄く怖かったし、拳骨メチャクチャ痛かったし、何度も泣いた……。でも それはオレが悪さしたり、忘れ物したり、……兎も角、オレが悪かったから故のムチ! でも、この人理不尽っ!! ……………苦手な顔だけど)」

 

 ひゅるん、とリムルの身体に纏わりついた。

 

「む……?」

「オレ達の盟主様に酷い事いうなーー、このアホーー!」

「オレに隠れるな! 子供かお前! と言うか煽り反すな」

 

 

 王に対して、アホとは……と周囲が更に色々と殺気立つ。アティスの発言は少なからず溜飲が下がったのか、にやっと笑ってた。

 

「ほう。貴様がもう一匹のスライム。……光るスライムとやらか」

「ぅ……あ、あほー、あほーー」

「(ダメだこりゃ、心おられかけてるし)って、何でコイツの事を? あの時はいなかったんだけど」

「ふん。こちらも色々と掴んで居るのだ。……さぁ、まずは得物を抜け」

「えぇ……」

 

 一瞥するだけで、アティスの子供染みた悪口は無視してくれた。そんなことに動じる様な王なら、正直ダサいだろう。

 

 そんな時、一陣の風が舞い そして、姿を現した。

 

 

「……我らが森の盟主に対し、傲岸不遜ですよ、ドワーフ王よ」

 

 

 現したのは樹妖精(ドライアド)のトレイニー達だ。

 心なしか、トレイニーは怒っている様で、表情が険しい。

 

 森の管理者である樹妖精(ドライアド)が姿を現した事に当然場が騒然となる。数十年に一度現れる……そんな存在が突然出てきたんだから仕方ない。

 

「よう、トレイニーさん」

「御無沙汰しておりますリムル様。同盟締結の日以来ですわね。アティス様も」

「ば、ばーかばーーか!」

「そろそろ落ち着け、トレイニーさんに呆れられるぞ」

「ふふ、元気そうで何よりですよ、アティス様」

 

 楽しそうにトレイニーと話すスライム。

 色々な情報を掴んでるドワーフ側だが、まさか樹妖精(ドライアド)まで出てくるとは想定してなかった。それと話しを交わすスライム リムルにも驚きだった。様々な魔人を従えていると言う情報だったが、樹妖精(ドライアド)とまでつながりがあるとは思いもしなかったから。

 

 そんな混乱の最中、笑い声をあげるのはガゼル。

 

 

 

 

「ふはっ、ふはははは! なるほどな。森の管理者がいうのであれば真実なのであろう。法螺吹き呼ばわりは謝罪するぞリムルよ。……だが、貴様の人なりを知るのは別の話。得物を抜けい!」

 



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20話

短めです すみません……m(__)m
漸くあの魔王が出てきそう……


 

「………来ましたか」

 

 

 男は、薄く目を開くと来訪者に視線を向け、小さく呟く。

 これで揃ったのは広く大きな部屋にたった4名。しかし、たった4人としても決して侮る勿れ。

 

この者達は――魔王なのだから。十大魔王と呼ばれる者達の内の4名なのだから。

 

 魔王の会議――それを進めるのは魔王クレイマン

 

「集まった所で進めましょうか。……残念な事に、今回の計画は白紙と言う事になりそうです」

「――なんだと?」 

 

 クレイマンの一言にぴくっ、と眉を上げるのは まだ幼さが残る少女の様ないで立ちの魔王。

 

 ……だが、決して、―――けーーーっして、外見で判断する事勿れ、この少女がこの4名の魔王の中でも最古にして最強の名を欲しいままにしている魔王ミリムなのだから。

 

「ちょっと待つのだ! では、豚頭帝(オークロード)を魔王化させるという話が無くなる、と言う事なのか!?」

 

 ミリムは乱暴に椅子から立ち上がると、鋭い眼光をクレイマンに向けた。

 白紙と言う事はそういう事だろう……? と内心呆れつつもクレイマンは、慌てる事なく……宛ら紳士の様なふるまいで落ち着き怒れる魔王ミリムに告げた。

 

「ですからミリム、言ったでしょう? その豚頭帝(オークロード)が死んだ、と。なら、この計画は白紙に戻すしかないでしょう。魔王化しようにも もういないのですから」

「ぐぬぬ……」

 

 まさに、ぐうの音も出ないとはこのことだろう。でも、怒りが収まらないミリム。楽しみにしていたのに、といった様子だ。

 

「久々に新しい魔王(オモチャ)が生まれると思ったのに! つまらぬのだ!! どこのどいつなのだ!? 豚頭帝(オークロード)を倒したのはっ!」

「それも含めて、全てをお話しましょう。……まずは 今回の計画を持ち込んだゲルミュッドの事の顛末についてを」

 

 魔人ゲルミュッドについては、この場の4人の内3人が知っている。今回の計画を持ち込んだとされる魔人なのだから。

 

 顛末を話そうとするクレイマンを遮る様に、獣の様な鋭い眼光とそれに見合う闘志、体躯を持つ獣人族(ライカンスロープ)の 獅子王 魔王カリオンが口を開いた。

 

「ゲルミュッドの野郎は死んだんだろ? 急ぎ過ぎたんだ。計画の言い出しっぺが出張って返り討ちに合うなんざ、世話ねぇこった」

「そうなのだ! 全く、カリオンの言う通りなのだ! フレイもそう思うだろ?」

 

 カリオンに同調するミリム。ぷんぷんと、頬を膨らませながら怒る姿は、……本当に姿だけは幼女なのだが 中身が別物なのであまり刺激してはいけない。さりとて、ナァナァで済ます訳もいかないだろう。

 そして、ミリムに同意を求められた最後の1人。有翼族(ハーピィ)の女王 魔王フレイは 呆れていた。

 心なしか、その背に生える有翼族(ハーピィ)を象徴する大きな白い翅ががっくりと下にさがった様に見えた。

 

「あのねぇ、ミリム。私があなたたちの計画とやらを知る訳が無いでしょう?」

「むむ、それもそうか」

「ってかよ、なんでここにいるんだ? フレイ」

「それは私が聞きたいくらいだわ。面白いから来いって、ミリムに無理矢理連れてこられたのよ。私は忙しいって断ったのだけどね」

 

 ミリムには こういう所もある。色々と巻き込んでしまうと言う性質が。その尻拭いを毎度しているフレイは もう慣れっこだと言っていいかもしれないが…… 慣れたくはない様だ。

 

「いいのかよクレイマン」

「…………」

 

 口には出してなかったし、表情にもなるべく出さない様にしていたクレイマンもフレイの登場には 驚きを隠せられなかった。ミリムが巻き込んだのだろうコトは理解出来たが、改めてカリオンに言われると頭が痛くなる気分だ。……だが、彼は計画(・・)に多少影響があった所で、結末は変わらないと言う自信がある為、そのまま進めていたのだ。

 

「今更でしょう」

「違いないな」

「……では、本題は此処からです。計画は頓挫してしまったわけですが……、少々軌道を修正してやればまだチャンスはあります。まずはこれをご覧ください」

 

 4つの水晶玉を取り出すと、そこに映像が映し出された。

 

「なんだこりゃ?」

「これはゲルミュッドの置き土産です。……計画が頓挫した原因が此処にあります」

「むむ、見えてきたぞ。……? なんなのだ、こいつら。鬼人か?」

 

 全員が注目する中で、映像は流れ続ける。無双する鬼人たち。牙狼族の変異種、……そして仮面をつけた空飛ぶ魔人?

 

 クレイマンは 考察を加えながら説明する。あのジュラの森で何があったのかを。豚頭帝(オークロード)がどうなったのかを。

 

 そんな説明を聞いていたのは、フレイとカリオンの2人だけで、ミリムは目を輝かせながら見入っていた。

 

「おお……っ、面白そうなのだっ! これは、面白い! ……む?」

 

 見入っていて、良い所で途中で映像が途切れてしまった。

 

「ゲルミュッドが死んだせいでこれ以降の展開は不明ですが、判る通り鬼人を中心とした魔人が多数存在しています。故に豚頭帝(オークロード)は倒されたのだとみるのが現実的でしょう」

「もしも、生き残っていた場合、彼らを餌に進化。―――魔王へと進化している、そうでなかったとしても彼らの中には魔王に相当する力をつけている者がいるかもしれない。なるほどね、つまり貴方たちの計画と言うのは新たな魔王の擁立――といったところかしら? 違うミリム」

「…………む、むむ?」

「ミリム? ………はぁ、随分気に入った様ね」

 

 何度も何度も映像を見ては戻し、見ては戻しを繰り返しているミリムを見てため息。豚頭帝(オークロード)にしろ、鬼人たちにしろ、ほぼ間違いなくミリムに目をつけられたのは間違いないだろう、と内心フレイは どちらが生き残っているかははっきりわかっていないが、同情をしていた。

 

「でも、呆れる程大胆なことを考えたものね。あの森が不可侵条約に守られているコトをお忘れ「ちょっと待つのだ!!」っ、ってどうしたのよ」

 何度も何度も映像を見てるミリムが突如、大声を上げながら立ち上がった。

 

「この感覚、まさか……、ひょっとして? もしかして?? でも実際見てみないと……。でも、そうなのだ??? どうなのだ、フレイ!」

「……判らないわ。ちゃんと話してくれないと」

「ええい、ここを見るのだ! ここなのだ! ここが重要なのだ!」

 

 ミリムは、差し出す様に水晶をフレイの眼前に出す。

 

「この飛んでる仮面をかぶった……魔人? それがどうかしたのかしら? 見たところ……、いいえ、これだけの情報じゃ何とも言えないけど 角がない所を見ると鬼人じゃなさそうね」

「違う! そうじゃないのだー。話の肝はそこじゃないのだ! 感じないのか!」

「……うん。綺麗に取れてるわね。最後まで頑張ってくれてたら良かったのに。先が見たかったわ」

「そうなのだ!! ゲルミュッドのヤツ、もうちょっと粘ってくれたら、より確信持てたと言うのに! でも、この感じは………」

 

 ミリムが1人だけ盛り上がっている。支離滅裂な会話だが さらっと流す辺りフレイもミリムの扱いは多少慣れがやっぱり見えるのかもしれない。……が、今回のコレはいつものミリムとはやや違う気もする面々。

 

「こほん。フレイの言う通り、不可侵条約に守られてる森ではあります……が、これはゲルミュッドが持ち込んだ計画なので、我々魔王が直接動いた訳でもなく、抵触はしませんよ」

「………(どうだかね。操ってたのでしょう? クレイマン(あなた)が)」

「まぁいいじゃねぇか。大群率いて攻め込もうって訳じゃねぇし、そもそも強者を引き入れるチャンスって訳だからオレも乗ったんだ。ミリムがどこに釘付けになってんのかは、オレもよく判んねぇが、オレは断然この鬼人の野郎たちだな。面構えが気に入った。間違いなく豚よりこっちの方が美味そうだ」

 

 陰謀渦巻く魔王たちの会談。

 クレイマンがゲルミュッドを操り、豚頭帝(オークロード)を そして新たな魔王を誕生させようと目論んでいたのは、フレイの考え通りだ。そして、それを失った痛手はあるものの、彼の笑みは消える事は無かった。

 

 ただ――ミリムだけが気がかりだ。映像を何度も見直しているのは気に入ったから、と言う理由だろうコトは判る。だが、見る戻すを繰り返し続け、10を超えた辺りからは流石に気になった。

 

 クレイマンも何度か見ているが、ミリムがそこまで注目する程の者達か? 何を注目しているのか? と改めて聞こうとしたその時だ。

 

 

 

「うむ、善は急げと言うヤツだな、この目で確かめてくるのだ!! 次いでに生き残った者達へ挨拶に行ってくるのだ!」

「「!」」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は 魔物の街。

 

 

 

 

□□ リムルの家 □□

 

 

 

 

 

「オレにくれ」

「ダメ」

「ダメか?」

「絶対ダメ」

「どうしてもダメか?」

「どうしてもダメ」

「交渉の余地なしか?」

「余地なしだって。っというか何度するんだよこの会話。さっきから言ってるだろ? ずっと続けてたら、アイツらから暴動が起きるぞ、そろそろ」

 

 

 ドワーフ王 ガゼルは盃を片手に食い入るように、熱心にリムルに交渉を続けていた。宴会中で、酒を飲み交わしていたのだが、今、傍にいるのはリムルとアティスだけである。他の者達がいた時が、かなり大変だったからだ。主にシオンやシュナ、そしてトレイニーも例外ではなく。

 

 

 

 ガゼルが熱心に求めるモノ――それは、リムルの傍でふるふると首を振ってるもう一匹のスライム。

 

 

 

 

「……ちょっとでいいです! オレの意見、尊重して聞いてくださいよっ!」

「うむ。無論、待遇、報酬、様々なモノを弾むぞ」

「何度言われてもNOです! NOと言えるメタルスライムなんです!」

「まぁ先は長い。ゆくゆくはと考えてくれ」

「ダメです! イヤです! そもそも、トラウマなんですーーー!」

 

 

 大きくバッテンを腕で作って首を振るアティス。

 

 

「トラウマ克服出来てそうだけどな……、本人の前で言えるトコを見ると」

 



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21話

更新速度上がって嬉しいですm(__)m

でもあまり進んでないのが残念です……m(__)mm(__)m 気長に付き合っていただけたらな、と( ´艸`)


 

「アティス様は渡しませんっっ!」

「少しくらいよいではないか」

「少しもダメです!」

「なんか、オレ モノみたいに扱われてないっ!? 少しってなに! と言うか さっきも言ったけど オレの事そんちょーしてよっ!」

「我儘言うでない」

「オレがわがままっ!? 王様って こんなジコチューなのっ!?」

 

 

 

 暴動こそ起こらないにせよ、やっぱり シュナやシオンが参戦してきて大混雑した。

 トレイニーは涼しい顔でお茶をすすっているが、アティスがドワーフ側へ行こうものなら、全力で阻止するだろう。光の神G.O.Dとの約束の様なものがある……と暴露してでも。

 

 

 ガゼル王も、最初は威風堂々、威厳も有り これぞ王者……と思わせる風格だったんだが、何だか飲み屋で絡んでくるオッサン先輩って感じになってしまっている。

 

心底アティスを気に入った事と、酒がそれなりに入ってるからのテンションなのだろうか……、或いは 本気でアティスを口説こうとしているのか、或いはその両方か。

 

 

「(それにしてもなーんで こんな風になったんだったっけ?)」

 

 

 リムルは、ガゼルの相手を最初してたんだけれど、乱戦が始まったと同時に一時避難し、酒を片手に チビチビと飲みながら思い返していた。

 

 そんな席の隣にやってきたのは ハクロウ。

 

「ほっほ。儂が原因の一端であるでしょうな」

「ハクロウ……、考え読まないでくれよ。まぁ、確かに それはあるか。一端じゃなく発端だ」

「ほっほっほ。そうとも言うかもしれませんな。……しかし、今日は 良いモノを多数見せていただきましたぞ。かつての小僧……弟子の成長も然り。そして 何より―――」

 

 ハクロウは アティスを見た。シオン達に揉みくちゃにされながらも、必死に否定している姿は見ていてつい笑ってしまう。

 

「アティス、か?」

「勿論ですとも、リムル様。……鍛えがいのある御方ですな。まだまだ我流で あれ程まで剣を使うとは。型に嵌れば更に倍増し……比例して強くなるでしょうな」

「ん、んー アイツも大概反則だよなぁ……」

「何でも喰らい、如何なる傷をも一瞬で再生されるリムル様もアティス様のコトは言えませんぞ。……それにしても 魔素融合(ユニゾンレイド)を見せられた時から、アティス様のお力は気付いておりましたが、剣については此処までとは思ってませんでした。リムル様との特訓の成果でしょうな」

「そんな大層な事してないって。んでも、アイツのあのスキルがこれまた応用力半端なくて……。なのに、なーんで アイツって自分をあそこまで過小評価すんのかなー」

 

 リムルは ぐでー、っと樫木で拵えたテーブルに突っ伏した。どうやら、流石のリムルも色々と疲れた様だ。精神的に。

 ハクロウは 少し笑みを見せた後、目を閉じる。そして アティスの姿を目に浮かべながら自身の考えを言葉にした。

 

 

「――力を持てば誇示したがるもの。それが強大であればある程にその欲は増し、軈ては支配欲とも繋がりましょう。数多の魔物を引き連れ、国を作り、領土を拡大させ……弱肉強食とはそういうもの。……ですが、アティス様には()と言うものが無いといっていい。ただ、お優しいだけでは片づけられませんな」

 

 

 魔物の世界であれば、確かにハクロウの言う通りアティスは異端だろう。だが、リムルは大体は判る。そもそもかつての世界は、確かに世界を見渡せば まだ修羅な国はあるけれど、平和と言っていい自分達の国では そんな血生臭い争いなどは無いから。幾ら力を持っても、いきなりこんな世界へやってきて、最強じゃー! と立ち回れるような事はそうそう出来ないだろう。

 

「んー、ハクロウも大体判ってると思うけど、オレもアイツもちょっと特殊な魔物(スライム)でな。まぁ 色々察してくれよ。間違ったり裏切ったりは絶対しないって、そこは保証するからさ」

「ほっほ。あなた方の何を心配する事がありましょうか。心配など毛ほどもありませぬ」

 

 

 リムルは ハクロウと酒を飲み交わしつつ あの時の事を思い返す。

 

 

 

 確かに、あの時のアティスは 正直圧巻の一言だ。嫌だ嫌だ怖い怖いと言いつつも……最後にはちゃっかりやったのだから、トラウマって何? と言いたくなる。

 

 あの時――リムルとガゼルは剣を交えた。

 

 トレイニーがガゼルの無礼を力づくでも収めようとしたが、そこをリムルが制し ガゼルの挑発に乗ったのだ。無害で愛らしいスライムだと証明する為に、剣を交えた。

 

 結果は――リムルの勝利。ただ、内容を見れば勝てたのか? とリムルが聞かれれば首を横に振るだろう。

 

 剣の腕の差は歴然だった。どんな角度からの攻撃も、どんなにスピードを上げても、全て受け流される。それだけでなく最小限度の動きだけで全て受け流されてしまう。立ち合いの最中一歩も動かなかったのはリムルにとっても苦い経験だろう。

 

 

 

『リムルさんっ! いけーーー! やっちゃえー!』

 

 

 

 後ろから何処の近所の子供(ガキ)だ? と思いたくなる様な声援を受け取りつつ、どうにかガゼルのスキルを防ぎ、剣による攻撃を防ぎ…… そして、ガゼルは降参した。

 

 

『こやつめ、オレの剣を受け止めるか。ふははははははっ!』

 

 

 大笑いしながら。

 どうやら、剣を通して本質を、本性を探ると言うのは本当だったらしい。100の会話を重ねるより、1度ぶつかり合い。剣をこれだけ交えば十分だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

『(アレ……? そんなにひどい人じゃないのかな……?)』

 

 殺伐とした決闘の雰囲気が霧散していくにつれて、アティスもどうにか戻ってくる事が出来た様だ。 ガゼルの表情も、怖いけれど柔らかいものになっていっているのが判るし、何より『邪悪な存在ではないと判断した、良ければ話し合いの場を設けてもらいたい』と言っていて、それが嘘だとは思えなかったから。

 

 そして、驚いた事にハクロウの弟子だったらしい。

 太刀筋が似てた……? と考えてみたアティスは、リムルの応援に全力で、全然思い出せなかった。少し呆れ気味な聖母(マザー)に聞いてみると、シンクロ率90%オーバーとの返答をもらえた。

 

『(ハクロウさんの弟子なら、そんなひどい人な訳ないよね……。と言うかオーサマだし? う、うーーん…… そういえば、あのせんせーも、凶悪で豪快だけど、こんな一面もあったよーな、なかったよーな……、ぅぅ 頭が痛くなる思い出の方が強すぎて、直視できない……)』

 

 色々な考えがぐるぐると頭の中を回っていたが、何にせよ 決闘は終わったし、これにて一件落着な雰囲気だったので、アティスは 何食わぬ顔でリムルの影に戻ろう――としていた時だった。

 

『剣鬼殿の弟子であれば俺の弟弟子でもあり。今後とも負けられませんな』

『ほっほ。ですが、リムル様だけではありませんぞ。アティス様のお力も強大。……儂も斬る事はかないませんからな』

『……なんとっ!?』

 

 

 この辺りの会話から雲行きが怪しくなり始めた。

 

 

 色々と考えている間に、アティスは摘まみだされ、ガゼルの前にやられ、何故か剣を交える! と言う事になってしまった。

 

 

 

 

『なんでこーなるのっ!?』

 

 

 

 目も合わせられない、姿なんか見れない、って思ってたばかりだったのに間近で接する事になってしまったのだ。

 

 

『アティスと言ったな。気が変わったのだ。話し合いをする前に、一度手合わせ願いたい。……剣鬼殿が斬れぬ、と言うその剣。オレも見てみたい』

『い、いやいや、それオレの身体が堅くて斬れないってだけですよっ!?』

『ほほう……それ程までに堅牢だと。剣鬼殿が斬れぬと言う程の……』

『変な目で見ないで! だからって、試し切りなんてさせませんからね! そんな怖いことっ! と言うか話を聞いてーー!』

 

 

 

 

 やいやいと言い合ってて(アティスが一方的にわめいてるだけ?)進まないので、ここはリムルが前に出た。

 

『えー、オレ達魔物の街の事をよりよく知ってもらうため、ドワーフ王との円滑な話し合いをする為、アティス君には頑張ってもらいたいと思ってまーす』

『ちょっと、リムルさーんっ!』

『うっさい! さっきお前全力で逃げようとしただろーが! 前々からコキ使うって言ってるし、敵前逃亡なんてもっての外だ! と言う訳で、オレの時はトレイニーさんが立会してくれたから、今回はオレが立ち会うって事で、はじめ!』

 

 

 

 有無言わせぬとはまさにこのことだ。

 

 はじめ、の一言の後 本当に始まってアティスは 『へぶっ!』とぶっ飛ばされてしまった。ガゼルの放った剣は まさに一撃必殺。技よりも力、剛力を生かした太刀筋。

 元々、アティスの事も調査対象に上がっており、話し合いの場にて聞き出そうと考えていたのだが、今は変わった。

 

 剣鬼(ハクロウ)――自身の師が斬れぬと言う身体を心底体感してみたかったと言うのが正直な気持ちである。

 

『ぬ……!?』

 

 剣でぶっ飛ばしたのは良い……が、アティスはいつの間にか戻ってきていた。吹き飛んだ先々の木々やら岩やらで反射に次ぐ反射、アティス自身の体術? 身体さばき? で、あっさりと戻ってきていた。

 

『び、びっくりした……』

『ふはっ、真実であったか。我が剣を受け、傷1つないとはな。姿形はリムルと変わらんが、中身は別物らしい。彼方へ飛ばす勢いだったのだが、容易く戻ってくるのも驚きだ』

 

 リムルをちらりと見るガゼル。 

 けしかけたリムルだったが、どんなもんだ!? と誇らしい顔も見せていた。アティスが吹き飛ばされてしまったのにも関わらず、全く心配をしていなかったのだから。

 

 これだけでも十分な収穫。世界はまだ広い。英雄王とも呼ばれているガゼル自身も知らぬ事が多く、その1つを体験出来ただけでも僥倖だと判断し、切り上げようかと思った矢先に、プルプルと震えるアティスの姿があった。それは、先ほど 幼子の様に罵倒していた時のソレとは違った。吹っ切れた戦士の素顔だ。

 

『うぅーー! もー怒った! もっと驚かせてやる!』

『ほう?』

『リムルさんは、剣術だけで勝負してた(らしい……)けど、オレは違うから! 存分にスキル使ってやる!』

『ふは、面白い。使ってみろ。……お前を見せてみろ』

 

 

 アティスは、自身の頭の少し上に、光を生み出すと、その後 銀に輝く物質を生成した。

 

金属王(キンゾクオウ) 金属生成(メタルメイク)・剣!』

『ぬッ!?』

 

 きんっ、ききんっ、と鍔迫り合いの様な金属音が響き渡ると同時に、アティスの上にある物質が、無数の剣に代わる。

 

『多勢に無勢っぽいけど、確か300年前だっけ? 指南の年期が全然違うんだから、これくらいは許してよね! いっけーーー!』

 

 剣が生き物の様に、ガゼルへと迫る。

 

 

 

 

『成る程、確かに驚いた。ほほう、全ての剣、その太刀筋も悪くない』

 

 しかし、そこはハクロウを師に持ち、英雄王とも呼ばれる剣の達人であるガゼル。

 如何に無数の剣を持ってしても、まだまだ素人同然、付け焼刃な太刀筋で、一撃入れれる筈もない。 余裕を持って捌き、受け流し、叩きつけ、一本一本流れる動作で処理し続ける。

 

『なかなかやるではないか、アティスよ。面白いぞ!』

『まだまだ、驚くのは早いよ! もっとだ、生まれろ金属王(キンゾクオウ)!』

 

 アティスは、ペタっ、と地面に手を付けると、アティスの魔素が大地を這い、ガゼル周囲10m程に広がる。綺麗な緑の芝生が ガラリと変わり、これが本当の銀世界。

 

『……っ、成る程、大地をも剣に変え、出させるか!? これは良い! 空と大地からの剣撃とは恐れ入るな! ふはははははは!』

『うぐぐ、笑わないでもっと驚いてよ! オレ、アレだけビビらされたのに!』

『それは知らんが、これは面白い。久しくない感覚だ。四方八方攻められるなどな! 修行時代を思い出す! 否、新しい! もっとだ、もっと来い!』

 

 

 アティスが頑張ってるのか、ガゼルが遊んでる? のか…… 途中から判らなくなってしまったのだった。

 

 何にせよ、これが アティスを気に入った原因の1つ。更に言えば 剣を生み出し続けるスキルにも着目し、ドワーフ王としても是非欲しくなったと言うのもあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほっほっほ。あの後、最後に アティス様自身も剣技を披露し、ガゼル王も更に満足しながら受け止め……、それで収まりつかなくなったので、リムル殿が仲裁したのでしたな」

「まぁ、オレがはじめの合図出したし、仕様が無いかな~、って」

 

 リムルが止めて、ガゼルも満足したようで 再び敗北宣言をした。

 リムルの時同様の歓声が上がり、アティスは揉みくちゃにされたのは言うまでもない。護りを主としていたアティスが、ここまで戦ったのは 初めての事だったから。

 

「ほほ。アレもまた、懐かしい光景でした。そう、困難に直面した時、ガゼル王…… あの小僧はああやって笑っていたのです。笑って笑って乗り越え、強くなっていったのです」

「って事は あの強さを持ったガゼルを笑わせたアティスって何気にヤバいって事だよな?」

「うむ。最後の剣技もまだまだ粗削りな所があるもののお見事でした。勿論、リムル殿同様、まだまだですが」

 

 懐かしむハクロウ。なんだか 鼻が高いと感じるリムル。

 アティスの『絶対嫌ですーーー!』をBGMに暫く酒を飲み続けるのだった。

 

 

 

 

 

 暫くたった後。

 

 

「リムルよ。オレと盟約を結ぶつもりはあるか?」

「………?」

 

 突然真面目な話に切り出された。リムルが言葉に詰まるのも無理はない。

 

「『何言ってんだ、このオッサン』みたいな顔をするんじゃない。それに『絶対にアティスはやらんぞ』とも考えているだろう? 貴様はあやつの母親か?」

「……前半は兎も角、アティスを好きになり過ぎてるから、そう思っちゃっても仕方ないんじゃない?」

「うむ。否定はせんが、今回は引き下がるとしよう」

 

 次回もない、と言いたいが、全く聞く気がないので止めた。アティスも行くつもりは毛頭ない、って断固反対してるので大丈夫だろう。

 

 ……ドワーフの国のお姉さん達に頼まれたら怖いなぁ、と頭に過ぎってしまったのは別の話。

 

「これは王として言っておる。この街は素晴らしい造りをしており、いずれは交易路の中心都市ともなるだろう。……つまり、後ろ盾となる国があれば便利だぞ?」

「………確かに。でもいいのか? それはオレたち魔物の集団を国として認めると言う事だぞ?」

「無論だ」

「ぅぅ………」

「ふっ。それを条件にお前を……と言うつもりもない。双方に利のある話だ。善意だけではない」

 

 アティスは、ガゼルの言う通りオレを条件に――と思ってた様だ。しっかりとバレてたが。

 

「ホントにぃー? オレ騙されてない? 後々、そいつくれ、とか言わない?」

「ふはははははっ、恩師、そして樹妖精(ドライアド)を前にその主を謀ろうなどとはせん。それに、ここの者達全員に大層好かれておるこやつを そのような手で貰おうとも思わん」

「だから、モノみたいな扱いしないでくださいって……」

 

 何だか納得のいきかねる様子なアティスだが、話自体は悪いものではない。寧ろ良い所が多すぎる。魔物の国を作ろうと考えていたその時から、他の国との交流については考えていた。後ろ盾としては申し分ないどころの話ではないのだ。

 自分が行けば そうなるなら―――と少し心が揺らぐが、リムルがそれを是としないのも解るから、アティスは口に出しては言わなかった。

 

「条件はとりあえず2つだ。1つは国家の危機に際しての相互協力。1つ 相互技術の提供の確約。これだけだ。答えは急がずともよいぞ。よく考えるがいい」

「いや――」

 

 本当にアティスの事が入ってないのを確認した後、リムルは即決した。

 如何に良い話とはいえ、仲間を――家族を売ってまでしたいとは思ってなかったから。

 

 

 

「この話、喜んで受けたいと思う」

 

 

 



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22話

漸く本格的に、あの魔王ちゃん この二次小説に参戦ですm(__)m
お待たせしました……( ;∀;)


 正式に魔物の国の王は リムル であると決定し、ドワルゴンとの盟約も結び。

 

 そして、宴会は朝方近くまで続いた。

 

 

 

 

――翌日。

 

 

 

 

 

 

 

 国に戻る前に、何だか衝撃的な事を教えてくれた。

 

「ええ!? オレ達が災禍級(ディザスター)!?」

災禍級(ディザスター)って、確か魔王級の危険度……、まぁ リムルさんだし、違和感はないかな?」

「何でだよ。ってか、お前も似たり寄ったり、と言うか一緒だろ!」

 

 何やら、自分達の危険度が3段階の中で最上位の位置にあるらしいと言う事だ。

 討伐の対象に上がったとしても不思議じゃない。

 

ドワルゴン(ウチ)との同盟を蹴っていたら討伐対象になったかもねぇ」

「うぇ……、それは怖いね、良かったよ お婆ちゃん……。……あっ、オレが断った事を口実に!? なんて事ならないよね?」

「ほほほ。王が気に入ってるからそれも無いだろうさ。あそこまで王が気に入る事など 滅多にない事。魔物が街を造るのも前代未聞だけど、王の方もそれこそ似たり寄ったりだよ」

「ほっ……」

 

 討伐対象になってしまうなど正直嫌過ぎる。懸賞金でも付けられたら、各国の腕自慢、賞金稼ぎなどが襲ってきそうだって簡単に想像が出来るから。

 

「まーた無駄に怖がってるし。……それより、よくよく考えたら、その危険度の区分ってざっくりし過ぎじゃないか? 三段階しかないんじゃ、同じ階級でもピンキリだろ?」

「ええ。それは勿論。……ですが、正確にはもう一段階上があるんです。『天災級(カタストロフ)』と呼ばれる階級が。文字通りの天災です。怒らせたのなら、世界の崩壊を覚悟すべきでしょうな」

「うへぇ……」

 

 災禍の上は天災。ありきたりな名前だが、実際に付けられると言う事は 魔王よりも上って事になる。

 

「魔王より上って………、ナニそれ。大魔王?? 真魔王??」

「ありきたりなゲーム設定みたいだな。あ、天災級(カタストロフ)のヤツって実際にいるのか?」

 

 しっかりと確認しておくべきだろう、と言う事でリムルが聞いた。聞いたからってきっと心配はない。接触がある訳もないと思うから。―――普通は。

 

「ええ、いますとも。例えば暴風竜ヴェルドラ」

「………(あいつかよ! 一気に怖くなくなったな)」

「(リムルさんの友達の……。うん、ちょっと安心かな)」

 

 暴風竜ヴェルドラについて、リムルは勿論の事 アティスも話は聞いている。彼は 勇者によって洞窟に封じられていている所にリムルと出会って、友達になり、一緒にその封印を解こうと頑張っている、と。

 アティスも、光の神から その存在を大体聞いていた。スライムがドラゴンを取り込んだ! と壮絶な事実として……。だから、今こそ打ち解けているが、最初心底ビクビク気味だったのは言うまでない。

 

「それに一部の魔王が該当します」

「あぁ 魔王の中の魔王って感じ……。魔王の中にも序列ってあるんですね、やっぱり」

「勿論。中でも最古の魔王ともなれば、その強さはまさに天災。と言っても、あまり現実的ではない階級だから、省略されることも多いのです。普通に生きていれば会う事もないでしょう」

「ですよねっ! でも、よくよく考えたらオレ魔物だから 会う可能性って考えたら 高いのかも……」

「大丈夫だろ。スライムなんて無視されるって。(しかし、シズさんの仇の魔王レオンが天災級(カタストロフ)じゃないことを祈るばかりだな)」

「成る程、そう考えたらちょっと安心するかもです」

 

 魔王と相対するスライム――。確かに絵面的にマッチしてない。

 

 暫く話をしていて、アティスは気になった事があった。

 

「あ、神様は 危険度の階級に加わったりしてるんですか?」

「は? 神様?」

「はい。えっと、光お爺ちゃ……、こほんっ、光の神G.O.Dの事です」

 

 名前を出したら、ちょっと驚かれた。驚かれるどころか、少し怪訝気味な顔をされてしまった。でも、魔物だから仕様が無いか、とも思ったのか、直ぐに表情が元に戻る。

 

「分類するとすれば、名が4つではなく5つになるでしょうな。そしてその名の通り《神》だと思いますが、危険度と言う括りではありえません。神を危険視する事自体がありえませんから。天使とはまた別な存在ですし」

「成る程。それもそうですね(天使もいるんだ。……まぁ、神さまがいるんだし)」

樹妖精(ドライアド)のトレイニーさんが信仰してるくらいだからな、そっちの方が会えないと思うゾ、普通」

 

 リムルやアティスは ヴェルドラは勿論、光の神G.O.Dとの接点がある、とまでは公言していないし、これからもするつもりは無い。存在が大きすぎるが故に無用ないざこざが生まれ、巻き込まれてしまう可能性が極めて高いからだ。普通に考えて 信じられないと思うのだが、魔物が国を造るのが前代未聞な事だし、その盟主の発言ともなれば……一概に信じられないと言えないだろう。

 

 例外があるとすれば、ヴェルドラ。

 

 ヴェルドラについては、封印が解かれた時に きっと大公開! なるだろうから。

 

 

 

 その後、ドワルゴンとジュラ・テンペスト連邦国における協定、調印式が執り行われた。

 

 何やらこの盟約は口約束~で終わる訳ではなく、魔法によって保障されて、世の中に公開されるらしい。連邦国になったのは、蜥蜴人族(リザードマン)樹人族(トレント)など、支配地域を持つ種族も加わるから連邦。名前がテンペストなのは当然の事。盟主の名前からとるのが自然な事だ。

 

 

 因みに、町の名前は 中央都市リムル。

 

 

『じゃあ、『リムル』を第一候補。第二に『アティス』ではどうでしょう?』

『甲乙捨てがたい!!』

『うぅ……、贅沢過ぎます!!』

『どちらも素敵な名です!』

 

 

 

 

『初の街の名ですし! リムルさん、《リムル》に一票です!!』

『恥ずかしいからヤメテ! なら、オレは《アティス》に一票だ!!』

 

 

 多数決を行えば

 

 リムル 1票。

 アティス1票。

 無効票 多数。

 

 決まらない。主張は平行線をたどり―――最後は恨みっこなしのジャンケンで決めた。

 ジャンケン文化の無い皆は不思議がっていたが、直ぐに勝敗が決まる儀式(遊び)。これ以上公平なものは無いだろう。街に子どもが増えたら広めてみるのも面白そうだ。

 

 それは兎も角――、結果は 先ほど告げた通り都市の名は《リムル》。

 

 アティスのビクトリーサインは、実際に輝き、光っていた。皆は《アティス》の名になるのと勘違いしてしまったのはまた別な話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、この調印式も無事に終わって ほっと一息ついていた誰もが気付く事は無かった。

 

 

 

「気になるのだ気になるのだ気のなるのだーーーー!!!」

 

 

 

 先刻話をしていた天災そのものが、理不尽極まりない力を持つ者が――急接近しているということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ テンペスト首都 中央都市リムル □□

 

 

 街の発展は怒涛の勢いで進んだ。ドワルゴンとの盟約について、一瞬で世に広まった効果が此処に来たのか? と思う位だ。実際に言えば中央都市リムルの名に、テンペストの名に恥じない街を! と皆がメチャクチャ頑張ってくれたと言うのが真相だ。

 少し休め、と何度かアティスやリムルも言っていたのだが、これも押し切られて アレよアレよと言う間に見た目完全に大都市になってしまった。

 

 テンペストの首都リムルは毎日千客万来。その多くは友好的な魔物やドワーフ達。中には其々の種族の顔馴染みたちが来ていて、進化した皆を見て仰天してたりする。

 勿論、盟主のリムルへの挨拶もばっちりだ。挨拶がくる度に、リムルが『此奴が余の右腕じゃ!!』と口調を強引に変えて、アティスを宣伝して回るから、リムルだけでなく アティスの名も都市名に負けないくらい広まってしまった。―――更に言えば、トレイニーもそれとなく広めてる。

 

 後、魔物の街だから、当然 血の気の多いのもやってくる。

 

『ひゃっは―――! 良さそうな街じゃねぇか! 今日から贔屓にしてやるぜぇぇ!』

『酒だ酒ー 酒持ってこーーい!』

 

  

 一体いつの時代のスタイルだ? と思う様な輩。

 勿論、手厚い歓迎をするのは主にシオン。そして 陰ながらのソウエイ。そして率いてる隠密部隊。

 

 シオンがニッコリと百万ドルの笑顔で、大きな大きな剣を持って 叩き潰す。

 ソウエイが かつて言っていた様に、命までは決して奪わないが、その代わり甚振り甚振り、恐怖を刻み付けて放逐する。

 

 大体がそれらで終わる。それ以上抵抗する様な強者などここにはまだ来てなかった。

 

 

 

 

 

――来るもの拒まず、これからゆっくりとこの街の存在を認知してもらおう。

 

 

 

 

 とリムルはシオンと共に街中を見回りながら思ってる時だ。そうも言ってられない事態が起こったのは。

 

 

――告。

「言わなくても解る!」

 

 

 

 ドワルゴンのペガサス軍団が来た時から考えてた。

 アティスが感知してなかったら ひょっとしたらヤバかったかもしれない、と。

 だから、今後街の存在が公になった今 それなりに危機察知能力を磨いていたのだ。

 

 そして、その能力を使うまでもない。

 解る程の巨大な何かが、とてつもなくデカい何かが接近しているのだ。

 

「大賢者! アティスは何処だ!?」

 

――告。個体名:シュナ と街中央広場に感知。

 

「判った! 聖母(マリア)との連携はどうなってる?」

 

――告。ほぼ同時に察知。連携をする必要もない程です。

 

「と言う事はアイツも解ってるって事か。逃げずに来てくれる事を祈ってるよ!」

 

 

 

 

 急ぎに急ぎ、街の外に出て、まだ森整備の行き届いてない場所へ。

 

 街にあの大きな気配が突っ込んできたら、一気に崩壊するかもしれないからだ。

 そして、嬉しい事に(あまり嬉しくないが)街に降りる事なく、リムルの場所に降りてきた。衝撃波を周囲にまき散らせ、着地地点に巨大なクレーターと轟音を響かせながら。

 

 

「初めまして、ワタシはただ一人の竜人族(ドラゴノイド)にして、破壊の暴君(デストロイ)の二つ名を持つ魔王 ミリム・ナーヴァだぞ! 漸く会えたな! お前だ、お前に会いたかったのだ!」

「(いきなり魔王にエンカウント! 最初って四天王の最弱! とかじゃないのかよ!! ってオレの事を知ってる?)」

 

 

 見た目を見ればただの幼子……だが、とんでもなく巨大で強大な覇気は、只者ではないと容易に想像がつく。懇切丁寧な自己紹介も済ませてくれた。ですとろい、だの どらごのいど、だの聞いてて背中がかゆくなりそうな思いだったが、あまりにも巨大すぎて何も笑えなかった。

 

「(これ、ヴェルドラの時に匹敵する……? いや、それより)えーと、初めまして……なのに、オレを知ってるんですか?」

「知っているぞ!」

「初めまして、なのに?」

「細かい事は気にするな、なのだ。……む? あれ?」

 

 魔王ミリムは、リムルの身体をひょい、と持ち上げた。

 至近距離でじっくり、舐られるように見られるのは悪くない……、事もない。これだけの強者であれば猶更だ。

 

「え、えーと 何か?」

「むむ……おかしいな。やはり 水晶からだったから間違えたのか? うーん」

「間違い?」

「まぁ、良い! 次の予定なのだ! お前がこの街で一番強そうだったからな、つまりは挨拶だ! 挨拶にわざわざ来てやったのだ!」

 

 一瞬残念そうな顔をしたのだが、直ぐにミリムは元気? を取り戻していた。

 

「(次の予定って言わなかったか? って事は、オレよりも他に? っとそれより名乗らないと)えっと、リムルと申します。なぜ私が一番強いと思ったのですか?」

「ふふん。それで妖気を隠したつもりか? この「竜眼(ミリムアイ)」にかかれば、相手の隠してる魔素量(エネルギー)など、まる見えなのだ! ワタシの前で弱者のフリなど出来ぬと思うがいい! わははは!」

「(みりむあい? 最初間違えたか? とか言ったし、万能って訳じゃないか…… って、これは口には出さないでおこう)」

 

 子供っぽいので、ちょっとした事で癇癪起こして~ とか考えられそうだったのでリムルは口にチャックした。口は禍の元とは今回が一番当てはまりそうだから。

 

「おい。青髪の人型が本性じゃないのか?」 

「あ、えっと、この姿のことですかね?」

「おおっ、これだこれ! うーむ……、あの時 この姿だったのだ。それで、朧げに見えた筈なのだが……」

 

 ミリムに言われた通りリムルは人型に変化した。するとミリムは持ち上げてたリムルを下ろし、色々とみている。単純な人違い……と言う訳でもなさそうだった。

 

「むぅ……、それにしても見た時は、もう少しちまかった気がするのだ。さてはお前が豚頭帝(オークロード)を喰ったのか?」

「(見た時? おーくろーど? ……つまりはあの時見られてたって訳か。アティスが感じた気配って、こいつだったか)……えぇ まぁ」

 

 合点がいく所があった。

 あの時、リムルはアティスをその身に纏っていた事があり、最終的には魔素融合まで果たしている。何処から見られていたのかは判らないが、恐らくアティスが言っていた『何かに見られてる』と言うのはこの目の前の魔王ミリムの事だろう、と。

 

「(あの時、確かゲルミュッドだ。アイツが魔人で このミリムって魔王が背後にいたのなら、復讐? 御免被りたいな。勝てそうな気がしない。それに、……早合点はよそう) それで今日はどんな御用でお越しでしょうか?」

「む? 挨拶、と言ったぞ」

「(それだけかよ!! っと、もうひとつ……)私以外にも誰かに挨拶をしたかった、とか?」

「むむむむむ! ひょっとして、貴様知っているのか!?」

「ぐええっっ」

 

 ミリムはリムルに抱きつく。力をセーブしているとは思うが、強さは半端ない。痛覚無効のスキルがあるはずなのに、苦しかったと錯覚する程に。

 

「そうなのだ! 水晶で見た時、お前にヒカジイ(・・・・)の気配を感じたのだ! ちらっと見えたのだ!」

「ひかじい?」

「おおお! 知っているか!? なら、早くワタシに教えるが良い! ワタシはソレが一番の楽しみでここに来たのだ! まぁお前に挨拶にきたのも楽しみの内の1つだぞ」

「(なんか、フォローされたな……。魔王にフォローされるのってシュール。ええっと、そもそも誰の事? ひかじいって。戦わずに済むのなら、それで良いケド。何せ大賢者曰く『測定可能中現段階で、魔素量が10倍以上』だし)」

 

 色々苦しいが、争いにならない様な選択は間違いなく出来そうなので、ほっとしていたのも束の間だ。

 

 リムルの背後より、何かが飛び出してきたのは。

 

「おー」

「へ?」

 

 巨剣を手に、思い切り魔王ミリムに振り下ろす。

 

「ランガ! リムル様を連れて逃げなさい! 早く!!」

「心得た!!」

 

 現れたのはシオンとランガだった。

 ランガは、リムルの制止も聞かず、そのまま連れて離脱。

 

 シオンは、渾身の一撃を魔王ミリムに喰らわせるが、全く手ごたえが無い。

 いつも強気なシオンも今回ばかりは別だった。

 

 そして、振り下ろした剣を軽々片手で受け止めたミリムは笑顔だった。とてつもない覇気の籠った笑顔。

 

 

 

「なんだ? ワタシと遊びたいのか……?」

 

 

 

 たったそう言われただけで、己が圧倒的な弱者であると言うのが痛い程判った。渾身の一撃を遊びと称される程なのだから。

 

 だが、ここで、ひるむわけにはいかなかった。主を護る為なら命など要らない。

 

 それはシオンだけではない。

 

 一瞬の隙をついて、ミリムの身体を糸にて捕縛。

 

「如何に魔王と言えど、簡単に逃れることは出来まい。……少なくとも数秒は」

「ああ。数秒で充分だ。―――黒炎獄(ヘルフレア)!」

 

 糸にて捕縛し、動けない所に渾身の炎。

 ソウエイとベニマルも参戦。ランガ、そして鬼人の3人がかりで ミリムを止めにやってきた。 

 

「火傷くらいしてくれると嬉しいが……」

 

 ベニマルは 炎を撃ちはなったが、仕留めた自信は全くなかった。無傷以外なら良い、と考えていた程だ。……が、その希望はあっという間に砕ける。

 

 黒き炎が消えた先に、笑う魔王が姿を現したから。全くの無傷で。

 

 

「わはははは! 凄いのだ。面白いのだ! これほどの連携、それに攻撃。他の魔王ならあるいは倒す事も出来たかもしれぬ。だが、ワタシには通用しないの――――だ!!」

 

 

 ただ、内なるエネルギーを表に出しただけ。

 ただそれだけの行為だった。それだけで まるで巨大な竜巻でも巻き起こったかの様な衝撃が周囲を襲った。性質が悪い事に触れれば簡単にバラバラになりそうな凶悪なオーラで、全魔素を防御に集中しても、ここまで接近してしまえば良くて致命傷である。

 

 ただ遊んでるだけの相手に 『死』 をイメージしてしまう。

 

 

 これが、天災級(カタストロフ)の魔王の力だ。

 

 破壊の暴君(デストロイ)の名に恥じない程の破壊の力を持つ魔王。

 

 今のこの魔王の笑顔は、恐らくは満足するまで簡単には崩れないだろう。

 

 

 そう――。

 

 

「わはははは! もっとだ、もっと遊ぼうではないか! ……む? むむ?? むむむむっ!?」

 

 

 本人にとって、想定外の事が起きなければ、だ。

 

 

「ったく、来るのが遅いぞ。何でベニマル達の方が早いんだよ」

「『イケません! 行ってはダメです!』って、シュナさんに言われてて。あまり無下にするのも……って思いましたが、頑張って説得してたら遅れてしまって」

 

 



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23話

遅くなりましたが、何とかかけましたので、投稿しますm(__)m 


 

「(俺は あの凄まじいエネルギーを受けた筈、だが)」

「(傷が、塞がりかけている……。全員共だ。何故……?)」

「(これは、リムル様の完全回復薬(フルポーション)の輝き……? いや、何処か違う……。温かい……)」

 

 

 魔王ミリムの攻撃? を至近距離から受けた筈の3人は困惑をしていた。

 あの一瞬、頭を過ぎった死の予感。なのにも関わらず、擦り傷こそ身体にはそこらかしこにあるが、五体満足に生存出来ている。寧ろ、無傷だって言っても決して大袈裟ではなかった。

 

 

「ほっ、でも、間に合って良かったよ……」

 

 そんな折に、ぱっちりと目が合うのは 銀の髪を靡かせるアティス。心底ほっとしているのが、その言葉以上に表情で分かった。

 

「これはアティス様が……?」

「うん。まだまだ練習中のスキルだけど、これからも必須のスキルだからね。特製の回復の魔法! リムルさんのフルポーション! まではいかないと思うからこれからも練習あるのみ。でも、まだまだで3割か4割回復って言ったところかな? 兎も角皆が無事でよかった」

 

 キラキラと輝きを見せるアティスの光。何故気付かなかったのだろうか、淡い光が自分達の周囲に浮遊しているのだ。全て理解できた。

 

 

 

 この光が、我々を護り――そして癒してくれたのだと。

 

 

 

 多大なる感謝の意を、とも思ったが 今はそれどころではないとも思う。

 アティスは、謙遜をしているが、体感で回復量は5割は超えているだろうが、それでも焼石に水だと思えてならないからだ。

 

 回復をして貰ってそう思うのは失礼極まりないが それでもあの魔王ミリムに勝てる未来が全く見えない。

 ただ、遊んでいただけの攻撃でここまでのダメージ。このまま続ければどうなるのか、火を見るより明らかな結果が眼に浮かぶ。如何に回復の手があったとしても。

 

「助けていただいたのに何だが、アティス様、早く逃げてくれ……! オレ達なら、大丈夫だ!」

「ダメだって、ベニマルさん。シュナさんとも約束したんだ。皆無事で帰ってくるって。大丈夫ですよって。その条件でここにいかせて貰えたんだしさ。それに―――」

 

 アティスはチラッとリムルを見た。

 そして、ベニマルたちを見直して ニコッと笑う。

 

 

「リムルさんに、何か手があるみたいですよ? なので、俺は防御に徹するのみです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リムルは、正直生きた心地がしなかった。

 大賢者が言っていた10倍以上の魔素量(エネルギー)。それは測定可能な範囲に限りであり、更に言えば下限段階ででもあった。 

 遊び半分だった様だが、それでも自身の10倍以上のエネルギーをぶつけられたら、どうなってしまうのか 考えたくもない。

 豚頭魔王(オークディザスター)のあの気味の悪いオーラが可愛く見える程だったから。

 

 そして、大賢者から聖母の交信があり、あのミリムのエネルギーが放出される刹那、街の方より輝く光を見て、心底ほっとした。

 某国民的ゲームに出てくる最速のモンスターは、やはり速いのだと改めて思う。

 

 

「オレの部下たちが粗相をした見たいで申し訳ないな。お礼と言っちゃなんだが、ここからはオレが引き継ごう」

「……………」

「ちょっとした手を思いついたんでな。出来れば受けてたってもらいたいんだが。魔王なら、下々の攻撃なんて取るに足らない筈だろう? 受けてみないか」

「………………」

「あれ? おーい、魔王さん?? 魔王ミリムさーん??」

 

 

 恰好付け気味で前に出ていったリムルなのだが、無視されてしまった様だ。無視――と言うより、ミリムは 何かに釘づけになったようだ。

 

 争いにならないのが一番なのだが、ベニマル達が攻撃を仕掛けた以上、何か落とし前をつけなければ穏便には済まないだろう、と考えていたリムルだったが……どうしたものか、と困惑してきたその時だ。

 

「………アイツは何なのだ?」

「アイツ?」

「お前の分身体……と言う訳でもあるまい?」

 

 ミリムが指さした先にいるのは……アティス。

 因みに リムルが真ん前にいるのに、見られた挙句、指さされて アティスはビックリ仰天してた。

 

「ああ、アイツはオレの部下~ と言うより兄弟でNo.2で……」

 

 色々と考えている時だ。ミリムが突如動き出した。その一歩は大地を削り、勢いそのままの力技による瞬足。一足飛びでアティスの元へとたどり着き――。

 

「捕まえたのだーーー!」

「わぁぁぁ!!」

 

 アティスをあっさりと捕獲。逃げ足の速い筈のメタルスライム、危うし。

 

「あ、アティス様ッ!!」

 

 すかさずシオンが反撃しようとするが、また強引な力技、脚力で元居た場所に戻ってしまい、衝撃波で吹き飛ばされてしまった。ミリムはアティスを抱きしめて頬擦りまでしていた。

 咄嗟に勝てないまでも、攻めようとしていたリムルだったが、ミリムの姿を見てとりあえずホッとした。

 

「にゅっふっふ~~」

「ふぇっ!? ふぁっ!?」

「お、おい。相手をするのはオレの予定なんだが……?」

 

 幼女と戯れる(姿は)美少女。

 絵になるなぁ、とも一瞬思えたが、どっちも中身がとんでもないので直ぐに払いのけた。

 ミリムは暫く抱きついていたが、堪能できたのか、話が出来る程度には解放してくれた。

 

「わっはっはっは! お前だな? お前なのだな?? あの時、こやつに取り付いておったのか?」

「ぷはっっ! あ、あの時ってなんです!?」

「間違いないのだ! この竜眼(ミリムアイ)でもなかなか見えづらいのが何よりの証拠なのだー! それ以外ないのだ! ヒカジイ! お前に感じるぞ!」

「みりむあい!? ひかじい!? だから何の事なんですかっ!?  え、えすけーぷっ!」

「おっ!?」

 

 

 にゅるんっ、と はぐれメタル化して逃げるアティス。一度魔王に捕まった筈なのに、逃げ出せるところを見ると、仮にステータスがあるとするのなら、防御回避の項目は、もれなくSなのだろう! と。

 

 

 

「ほほう、褒めてやるのだ! ワタシでも驚く程の素早さだな! これは遊びがいがあると言うものなのだー! 直ぐに捕まえてやるのだー!」

 

 両手を腰に当て、大笑いするミリム。どうやら、魔王に褒められた様だ。あまり嬉しくない様だが。

 

「よかったな。遊び相手認定されたみたいだぞ? 魔王の」

「ヤに決まってるでしょっ! そんなのっ!!」

「わっはっは! 良いではないか! 楽しむぞ!」

 

 アティスはひゅるんっ、と再びリムルに纏わる。

 今度は、正真正銘の羽衣状になって。

 

「ほう? あの時の姿、形態と言った所か。それがお前の、お前たちの本気と言うヤツなのだな」

「まぁ、そんな所かな」

 

 ミリムの反応がヒーロー物の特撮かなんかの影響を受けた子供みたいだな、と思ったリムル。勿論口には出さず、頭で思っただけである。正面からやり合うのはほんとごめんなので、兼ねてよりの対処法を繰り出す事にしていた。

 そして、アティスはしっかりとリムルに纏わる。何処まで硬い身体が通じるか……否、防ぐことが出来るか判らないが、出来る事はしよう、と心に決めていた。

 

 つまり、怖がりでビビりなアティスだが、仲間達と一緒なら、だれかが傍にいるのなら、巨大? で強大な相手を前にしても、逃げると言う選択肢はとらないと言う事だ。

 

 そんなリムルとアティスの姿を見て、ニヤリと笑うのはミリム。

 その姿はまさしく魔王たちが見た映像のままの姿だった。1つ違う点があるとすれば、あの映像ではリムルは空を飛んでいて、今は空を飛んでいない、と言った点だけ。

 

「(……この魔王()メチャクチャ強いってマザーも言ってたけど……大丈夫? リムルさん……)」

「(おう。一応手は考えてるって。この手の相手に最適な手をな)」

 

 魔王相手に実に頼もしい回答をしてくれるリムル。アティス自身もミリムの凄まじいオーラと聖母からの情報を前にしても、何処か安心できる想いだった。そして、改めて全力で手伝う覚悟も。

 

「さぁ、遊ぶぞ!」

「おう。なぁ、自信があるなら、オレからの攻撃を受けてみないか?」

「……む? ワタシにただでヒカジイの力を受けろ、と言うのか?」

 

 ミリムの視線がやや鋭くなる。

 ヒカジイとやらが、一体何なのかは判らないが、この話から察するに 魔王ミリム相手にも引けを取らないどころか、遊びじゃなくなるような ナニカ である事は察する事が出来た。

 なので、リムルは一先ず首を横に振る。

 

「違う違う。純粋に、オレの力だ。ひかじい、って言うのオレは知らないし」

「ほう? だが、お前から……いや、そいつからは間違いなく感じるのだぞ。見てみてもよく判る! ……んー、ま それは置いておくか。お前の力とやらも楽しみだ」

「言質とったぜ?」

「魔王に二言は無いのだ。ただし、条件があるぞ」

 

 ミリムはニヤリと笑った。純粋に楽しむ笑いではなく、何か企んだそんな笑み。絶対的な強者には何処かそぐわない何かだった。

 

「通じなかった場合、お前はワタシの部下になる事。約束するのだぞ?」

「わかった」

「うぅ………(殲滅!とかに比べたら全然良い条件なんだけど、リムルさんが部下になっちゃうのか……、でも、それ以上に何か嫌な予感がする)」

 

 仕掛けたのはこちら側だと言うのに、それだけで許してくれるのは大分優しいと思える。だが、

 

「そんでもって、お前! ヒカジイ、じゃなく えーっとアティス、だったか? お前はワタシの遊び相手認定だ! 喜ぶが良いぞ! 色々と確認したい事があるからな!」

「うぇぇ!? え、えっと リムルさんの攻撃が通じなかったら、ですよねっ!?」

「うん? 決定事項なのだぞ?」

「無条件!? ま、待ってください! そ、そのオレ達は一蓮托生と言うか、心の友! と言うか、兄弟、兄弟なんで!」

「我儘で、仕様が無いヤツだな。それで許してやる」

「(うぅ…… 横暴だぁ……。また、我儘言われた……。オウサマに続いてマオウサマも、似たようなものだよ……)」

 

 アティスは、どんよりと気落ちするが、そんなアティスを撫でるのは リムル。

 

「とりあえず、此処はオレに任せとけって。まぁ、なる様になるさ! 条件もそんな悪くないだろ?」

「いや……、リムルさんが負けた日には オレ、大変な未来しか見えないんですけど……」

 

 遊びと生じて、ボコボコにされそうな気がしてならないアティス。単純にじゃれられるだけで、凄まじいオーラで吹き飛ばされては戻ってきて……捕まえて、放られて、延々と……、と言うのが未来予知。

 

 どう転んでも最悪な事態は回避出来そうなので、やるだけやってみる精神でリムルは 立ち向かう事に決めた。寧ろ、強引に奪われないだけいくらかマシなのだから。

 

「じゃあ、オレだけが攻撃する、って事で こいつは一先ず離れておいてもらうぞ」

「うむ。いつでも良いぞ」

「では、これを喰らえ!」

 

 笑顔で仁王立ちするミリムに突っ込むリムル。

 

 その時間にして、1秒程度の間にも頭の中では大賢者の情報が巡る。

 

□ 膨大過ぎる魔素量の為捕食は不可。

□ 通用する攻撃手段は皆無。

□ 全ての攻撃は反射される可能性大。

 

 絶望しか浮かばない様な内容だが、それでも自信満々にリムルは攻めた。

 

 自身の掌に、まるでアティスでも纏っているかの様な光を纏わすと……、それをミリムの顔面に押し当てる。

 

 

 ぱちっ! と乾いた音が周囲に響き渡った。 

 

 

 傍から見れば見事な掌底突きが決まった! と思うが、相手が相手なので楽観視は出来ない。

 全員が固唾をのんで、見守る事 2秒。 

 ミリムの目が輝きだした。

 

 

 

 

 

「な、ななな、なんなのだ!? これは!? こんな美味しいもの、今まで食べた事がないのだ!!!」

 

 



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24話

 

 

 

「みゅふふふ~~♪」

「………………むぎゅっ」

「むっふふ~~~♪」

「………………むぎゅぎゅっ」

「(なに? この状況)」

 

 

 ランガの背には今3人いる。

 1人は言わずと知れず、主であるリムル。そして、もう1人の主! と言っても差し支えの無い相手であるアティス。

 

 そして、最後の1人が、まさにこの混沌な状況を生み出した張本人である存在。アティスを思いっきり抱きしめ、ご満悦な顔をしてるひと。

 

 

 魔王ミリム。

 

 

 

 因みに他のメンバーは 全回復したので一足先にテンペストに戻ってもらって、色々と周知して貰ってる。シオンが少し渋ったのだが、何とかアティスがお願いした形で戻ってもらった。

 

「しかしまぁ、あのヒカジイが名を付ける様な事をするとは、思ってもなかったぞ。パワーバランスがどーとか、色んな生態系に影響が~とか言ってたと記憶してるんだがなぁ」

「むぎゅ……。ぷはぁっ、そ、そうなんですね……」

「にゅふふ。まぁ、お前はヒカジイと唯一の繋がりのある存在なのだからな。丁重にもてなすぞ! かわいがってやろうではないか!」

「え、えーーっと、今向かってるのは テンペストのリムルだから、どちらかと言えば、ミリムさんのほーがもてなされる相手、になるんだけど……」

「わっはっは! 細かい事を気にするな、なのだ!」

「く、苦しいです~~……」

 

 ぎゅむっ、と背中に抱きつかれてる形になってる。

 そして、最高硬度な身体を持ってるアティスと言えども、この世界で天災とも称される魔王ミリムの可愛がりは、強力極まりなく、肉体的なダメージは無くとも、精神的に来るものがある。

 

「そういや、アティスの名付けの相手、今までフワッとしか聞いてなかったな、オレも。トレイニーさんにも色々と教えてもらってるけど、そのヒカジ…… 光の神ってどんなヤツなんだ?」

 

 光の神。

 魔王って名を持つ者がいるなら、勇者、そして 神みたいなのも存在したって不思議じゃないし、驚きは無い。……が、色々と今までの事を総合して 連想してみると…… 何だか異質な存在である、と言う事はよく判る。

 

 連想するのは 未確認の伝説上の存在、実際に存在するのかどうかもわからない偶像……等々。

 

 トレイニーの話から、実際にいるのは間違いないと言えばそうなのだが、トレイニー自身もそういったレア存在なのだから、それが崇拝する相手ともなればやはり違う次元の存在なのだろう。 更に言えば、此処にいる最強魔王が心底慕ってる相手。

 

 考えれば考える程、気が遠くなりそうな相手、と言うのがリムルの結論だ。

 

「えーっと、オレもよく判んないと言うか、兎に角色々と眩しいお爺ちゃん? かな」

「何だよそれ……」

「うむ。間違っては無いぞ。ヒカジイはずっと輝いてるからな! う~む。次来るのは何時になるのだ? アティス」

「お、オレは知らないってば! くるしいーー」

「むむ。まぁ、良い! 美味しい食べ物に面白い相手が沢山。うむうむ、楽しいのだー」

 

 

 此処で少し時を遡ろう。

 

 それは、ミリムに最後の一撃を入れたあの場面。

 リムルの一撃はダメージ狙いの攻撃! ではなく、美味しい美味しい蜂蜜を食べさせる目的での攻撃だった。

 

 ハチ型魔蟲に採取してもらったとっておきだ。美味しさは抜群で、一気にミリムの興味を引き付け、―――最終的に交渉に持ち込む事が出来た。

 

 あの勝負は 引き分け と言う事にできた上に、今後、最強の魔王であるミリムが手を出す事はない、とまで約束させた。この時点で大金星。 アティスを掻っ攫おうとした様だが、そこは アティスがゴネにゴネて、リムルと一緒にいるからいつでも会えるから、で何とか妥協して貰えた、と言うのが真相である。

 

 

 

 

 そして、場面は元に戻る。

 

 今 ランガの上にいるので、あまり暴れないで欲しいんだが、と思ったりするリムルだが、上機嫌なミリムを咎める様な事は止めとこうと判断。ランガも平気そうだから大丈夫だろう。

 

「おお、そうだ。お前たちは魔王になろうとしたりはしないのか?」

「……しねーよ」

「同じくです。(……仮にも光なんだし、色んな意味で、魔王は無いと思うなぁ)」

 

 ミリムは意外な返答だったのか、首を傾げていた。

 そもそも、豚頭帝(オークロード)を魔王にしようと計画していて、それを頓挫させた相手…… 打ち破った相手であれば、大なり小なり願望がありそうだ、と思っていたから。

 

「え だって魔王だぞ?? 格好いいだろ? 憧れたりするだろ??」

「そもそも、魔王の第一印象は【怖い】です」

「またでたよ、ヘタレ発言」

「………しょーが無いじゃないですか。もうアレですよ? 真・魔王みたいなもんなんですよ? 相手は」

 

 アティスの言葉を聞いて、ミリムは胸を張った。

 

「ふっふっふ。そう、恐怖し、畏怖され、崇め奉り……そんな存在が魔王なのだ。まさに格好良い、の一言ではないか」

「どーしても、オレの中のベクトルは、そっちに向かないです。怖いです」

「まぁ、怖い~は兎も角、オレもやっぱ別にどうとも思わねーな」

 

 そっけない回答を再びもらったミリム。流石に2度目なので驚いた。

 

「えええーーー!? じゃあ何を楽しみに生きているんだ!?」

「魔王格好いい! だけが楽しみなの? ソレ なんか寂しいと思うよ?」

「うぐっ!?」

「ヒカジイ、光のお爺ちゃんってなかなか来てくれないみたいだし……、もっと他に楽しい事だって沢山あると思うんだ。大変な事も多いと思うけど」

「オレ達がまさにそれだな。発展途上も良いトコだし、繋がりとか今後の事とか考える事が山積みだ」

 

 次々に反論してくる2人。ミリムは魔王なのに、少し圧倒されてしまった。

 それにイジケ気味な様子。

 

 

「でもでも、魔王は魔人や人間に威張れるのだぞ?? 面白いだろ??」

 

 

  何とか同意してもらいたい感満載だが、生憎だった。会心の反撃を受ける。

 

「やっぱり、ミリムさん寂しそうな顔、してますって。それだけじゃ楽しくないでしょ?」

「流石 色々と感情面を掬い取るのが得意っぽいアティス。……と言いたいが、流石にオレにもわかるぞ。ソレ、退屈してるんじゃないか? 威張るだけとか。ミリムくらい強かったら 訳ないと思うけど、顔色ばっか窺ってくる奴らばっかだと退屈に拍車をかけそうだ」

 

 

「ッッ―――――!!!」

 

 

 電撃が身体を貫いた。

 如何なる攻撃魔法(電撃系)を受けてもビクともしない身体なのに。

 

 瞬間的に、腕の力が増し増しになる。つまり抱いてるアティスは 万力の様な力で締め上げられてしまう。

 

「むぐぐぐぐぐ、つ、つぶれちゃう、つぶれるぅぅーー」

「まてまてまてーーー、お前ら、お前ら! アレだな!? 魔王になるより面白い事してるんだろ!? ヒカジイ独り占めにするどころか、楽しい事までしてるとは! 何たる狼藉なのだ!!」

「ちょちょ、ちょーーっと待て! ランガの上で暴れるな! それにオレはヒカジイにあった事無いって言っただろ!?」

「兄弟と言ってたではないか! ならば同罪なのだ同罪なのだーー! ズルいのだズルいのだーーー! もう怒った! ワタシも仲間に入れるのだ!!」

「駄々っ子かよ……」

「むぐぐぐぐ……(息っ、息っっ!! 死んじゃうっ! ま、まざーたすけてぇ……)」

 

――解。呼吸の必要はございません。

 

 

 

 ある程度締め上げたら満足出来たのか、少し緩めてくれたので、アティスは脱出した。はぐれメタル状になってランガと並走する

 

「うぅ……、ランガ、ごめんね? 背中で暴れちゃって……」

「問題ありません。それに、アティス様は暴れてませんが」

 

 ミリムが暴れてるのが正解なのだが、何だか自分が謝らないと、と思ってしまったアティスだった。悪さした知り合いの子、いやいや 姪っ子の面倒を見てる気分だ。力が凶悪過ぎるのが玉に瑕……どころではなく、頭を悩ませる所ではあるが。

 

「こらーー、アティス戻ってこい! 押し付けるな!」

 

 アティスがいなくなったので、腹いせにリムルを盛大に揺らすミリム。

 

「ワタシも仲間に入れるのだ入れるのだ、入れるのだーー!」

「わーーー、わかったわかったから、オレ達の街を案内してやるから!」

「本当だな!? 本当なのだな!?」

「ほんとほんと。じゃあさ、お前のことはミリムって呼ぶから、オレの事リムルって呼んだらいい」

「確かに仲間っぽいですね~。その方が」

「だーかーら! 戻ってこいコラ!」

 

 遠目で眺めてる感じなアティスをスライムボディ操作で巻き付けて再びミリムに押し付ける。ミリムも待ってました! と言わんばかりに両手を広げてた。

 

「ふむ……。いいケド、特別なのだぞ? ワタシをミリムと呼んでいいのは、仲間の魔王たちだけなのだ」

「アレ? 光のお爺ちゃんは違うの?」

「うむ。ヒカジイは、ミリーや、って呼ぶぞ」

「大体一緒じゃんソレ。(孫みたいなもんか……)」

 

 名前呼びを渋々と応じてくれるミリム。確かに最強の魔王なのだから、名前で、それも呼び捨てにして呼ぶような事は滅多にないだろう。でも、仲間と言うのなら、他人行儀っぽくなるので、やっぱり名前呼びが良い。……いや、仲間と言うより、もっとしっくりくる言葉がある。

 

 

「仲間って言うより、友達が良いかな?」

「そうだな。今日からオレ達は友達だ」

 

 

 口喧嘩したり、わぁわぁと絡んだり、楽しんだり。

 これらが出来る相手は、仲間~と言うより友達と呼びたい。勿論、仲間と言う呼称が悪いわけではないが、寂しがりやッポイ所があるミリムにはこれが一番だと感じた様だ。

 

「と……、とも……だち。ともだち、ともだち……」

 

 ミリムも新鮮だったのだろう。そして、温かい気持ちが身体の中に流れ込んでくるのが判る。もう、こんな感覚は一体いつぶりになるだろうか……。最後に光の神G.O.Dと会ったあの時以来の感覚だった。

 

 そんな嬉しい様な楽しい様な、温かい様な 色んな感覚を堪能していた時だった。

 

 

「ホラ、ついたぞ。アレがオレ達の街だ」

 

 

 見えてきたのは、魔物の国―― 魔国連邦(テンペスト)

 

「おおおー!」

 

 子供の様に目を輝かせているミリム。

 

 ここから新しい事が始まるのだと確信した様だ。間違いなく楽しく――――退屈など決してしない事が。

 

 

 

 

「ここは やっぱり、ようこそ、テンペストへ~ かな?」 

「だな」 

 



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25話

遅れてごめんなさい……m(__)m
体調がまだまだ優れず……、でも、ちょこちょことガンバります( ´艸`)



 

 テンペストに魔王がやってきた! と大騒ぎな前回。

 

 ……よくよく考えてみれば、魔物の国(テンペスト)なのだから、魔王がいても不思議じゃないだろう。

 盟主、国の王、魔物たちの主は リムル。もうリムルが魔王みたいなものなのだから。別の国の王がやってきたと言うべきか。ドワーフの王とはまたくらべものにならない程の相手だが。

 

 

 

 

 

「わははは! これは何なのだ!?」

「わーー! まってまって そんなに動かしちゃ壊れちゃいます! それはポンプ……、水を汲み上げる道具ですー」

 

 

 

「わはははは! ここは何なのだ!? 武器を作っているのかーー!?」

「わーーー! 扉壊しちゃダメですーー! って、近づきすぎでもダメです! 危ないですよ! 火傷しちゃいますよ!」

――解。魔王ミリムに火傷(ダメージ)を与えられる可能性0。

 

 

 

「わははははは! いい匂いなのだーー!!」

「うぅ……、屋台壊しちゃってごめんなさい。串焼き1つくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 かの暴風竜ヴェルドラにも匹敵するとも言われている魔王ミリム。暴風が街に吹き荒れる!? かの様に遊びまわっていた(そう体感しているのはアティスのみ)

 

 ヒカジイこと、光の神関係で 特にアティスに懐いてる? 様子なミリムだから、そのお世話係を任命された。

 当然、全力で拒否をしていたアティスだった。盟主リムルに言われたからとはいえ、拒否しても別に良い程の案件だろう。でも、拒否とかしている間にミリムが早速行動を開始してしまったのだ。暴風の様な勢いで。暴れないでくれ、と約束はしてくれたが、この調子では妖しすぎる。と言うより、じゃれるレベルで街が壊れそうだから。

 そんな訳で アティスは持ち前の責任感……と言うより、街の皆の事が心配! と言う事でなし崩し的に受ける羽目になった。なんだかんだでリムルも心配だから、アティスとミリムの傍にはいるが。

 

「うぅ~む。こりゃまるで兄貴の子をレジャーランドに連れてった時みたいだな」

「……実に的確な表現をどーもです。だから、そろそろ代わってください」

 

 げんなり、としてるアティス。リムルもこれ以上の負担は流石に可哀想か、と思うレベルだったので(注:先ほどのやり取りは極一部に過ぎません) 代わってやる事も吝かでは無かったのだが……、此処でさらなる問題が起きた。

 

「おやおや! リムル様! それにアティス様も! 丁度良かったです。回復薬についての進捗状況を―――」 

 

 問題の原因。やってきたのはガビルだ。何かと色々と起こしてしまうトラブルメーカーッポイ立ち位置な彼。そんな所に 厄災がいたとなれば、どうなるか……。

 

「何か、嫌な予感がします……」

「同感……」

 

 

 ぶるッ、と身震いをするアティスと同じ感覚に見舞われたリムル。

 

 そのアティスが感じた嫌な予感……早速やってきた。

 

「おお! 龍人族(ドラゴニュート)ではないか、珍しいな!」

「おや?」

 

 龍の名を持つ種族ガビル。格が遥かに違うとはいえ 竜魔人(ドラゴノイド)のミリムはガビルに少なからず興味を持った様だ。それが騒動のはじまりはじまり~なのである。

 

 

 

 

「吾輩はガビルと申す。この街は初めてかチビッ娘(・・・・)よ」

 

 

 

 

 圧倒的な禁句(タブー)

 

 失礼極まりない禁句(タブー)

 

 命知らずな一言(タブー)

 

 

 

 

 ミリムの表情が消え、一瞬にして、場が静かになった。嵐の前の静けさ……と言った所だろうか。

 そして、嵐はやってくる。

 

 

「……チビッ娘(・・・・)?」

 

 

 ピシッ と大気にヒビ。

 暗黒、漆黒、闇を纏ってかの様なミリムの表情。

 

 その見るだけで昏倒してしまう様な眼光がガビルを捕らえた。

 

 

 

 

「そ れ は ま さ か ワ タ シ の 事 か ?」

 

 

 

 

 凄まじい殺気が溢れた。

 とてつもない殺気に見舞われたガビルは何が起きたのか当然判らず、ただ『えっ?』と惚けた声を出すだけに留まり。

 

 

 

「こ、これは不味い? 絶対不味いよね??」

――解。凡そ1秒後。攻撃されると推察。ガビルの生存率は――――――……。

 

 

 ぎゅーーー、っと凝縮された時の中で、アティスと聖母はやり取りをする。

 ガビルの運命や如何に!? 不運、そしてちょっとだけ自業自得ッポイから 傍観してた方が良い気もするが、『オレが皆を護ります!』と宣言しているアティスはそうもいかず。

 

 

 

 ミリムは魔素を込めた拳をガビルに放った。

 バコッ? ズガッ? どう表現していいのか判らない轟音と共に後方へはじけ飛ぶ。

 

 腹部に魔王の一撃を受けたガビルは、折角綺麗に仕立てたレンガ造りの通りを抉り返しながら吹き飛んでいった。

 

 

「ガ、ガビルーーっ!!」

「「「ガビルさまーーー!!」」」

 

 

 絶対死んだ……と思ったが、どうにか生きてる様だ。

 

「いいか、リムルやアティスとの約束があるから今回はこれで許してやるのだ。……が、次は無いから気を付けるのだぞ?」

 

 にっ、と綺麗でキュートな笑顔を見せるミリム。どうやら手加減をしてくれた様だ。一応いっておいた『街では暴れない』を護ってくれてる様だ。

 

「う、う~~ん……… お、おやじどの~~。わ、わがはいは、まだまだ精進、いたしますぞぉ……、ゆえに、そちら(・・・)がわへ 逝くわけには~……」

「おいコラ! どこで誰と話をしてんだ? 第一アビルは健在だろうが。さっさと起きろ」

「うむうむ。そうなのだ。手加減したうえに、アティスに護られたのだろ? さっさと起きるが良い」

 

 げしっ、とガビルを蹴り起こした。

 

「は、はっ!? こ、ここは何処であるか!? 吾輩はガビルであるか!?」

「馬鹿な事いうなって。何ボケてんだよ。それと、おーーい、アティスも起きろーー」

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 ガビルの周囲をキラキラキラと細かな光が漂っている。

 

 天から光が降り注ぎ、ひゅりゅりゅりゅ~~ と、天へと召されていく様子が眼前に広がっていく……。

 

 

 

 

 

 ハーレルヤっ♪ はーーれるやっ♬    あーめんっ

   

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわーーー! コラコラ馬鹿馬鹿!! おまえもいったいどこ行くつもりだ! 帰ってこーーーーい!!」

「わっはっはっは! しかし、アティスは硬いな! もっと激しく遊んでも大丈夫そうだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 その後 何とか街の住人達の幾重の祈り? でアティスを蘇生する事に成功した。アティスの御霊を呼び起こし給え~ と言った所だ。

 

 

「リムルさん……。みんなにミリムさんの姿、早く覚えてもらいましょう、直ぐに早く!」

「お、おう。そのつもりだ。なるべく多くの住民に中央広場にって、ガビルに伝えてある。アイツもビビりまくってたし。……それに、もう1人地雷踏みそうなヤツいるし」

「……《ゴ》~で始まる子ですよね、ええ、判ります」

「ああ、有りそうだろ? ってか、お前ほんと堅いよな。ミリムのパンチ受けて大丈夫なんて」

「大丈夫じゃなかったから、天に召されかけたんでしょ? 走馬灯の代わりに、光爺ちゃんに またあえた気がしましたよ……」

「その辺は精神力鍛えたら良い、って大賢者が言ってたゾ? 身体面は問題ないっぽいんだから。ミリムと色々と修行するのも有りか?」

「……ムチャ言わんでください。オレを廃人……廃スライムにするつもりですか?」

 

 

 

 

 そんなこんなで、街の広場へ。

 まだ、皆は集まりきってないが 徐々に集まってきた。

 

「うう~む、アティスに護られたとはいえ、あのガビルとやらも結構頑丈そうだな。もいっかい試してみるか?」

 

 プレゼントされたポテチ(もどき)をパクパクと頬張るミリム。

 ため息を吐くのは リムル。

 

「あのな、怒っても直ぐに殴ったりしたらダメだぞ?」

「止めてください……。ホント、仲良くが一番なんですから……」

「む? でも最初が肝心だろう? ガツン! といかないと舐められるのだ」

「ダメだって。そもそもミリムを舐める様なヤツこの街に絶対いないから。言い聞かすから」

「むむ~……」

 

 何だか納得がいってない様だが、それでも友達なのだから、と直ぐに拒否はしなかった。

 

「なら、アティスが相手してくれるか?」

「いきなり関係なく突拍子もない事言わんでくださいっっ、嫌ですっ! ノーですっ!」

 

 

 ぶんぶんぶん、と首を振って両手を交差させ、×を造る。

 一頻りミリムは笑った後。

 

「仕様が無いのだ。リムルが言い聞かすと言って居るし、全て任せるのだ。ワタシもなるべーーーく、殴るのは止めておこう」

「そうしてくれ」

「……蹴るのもダメですよ?」

「わ……わかっておるぞ?」

 

 視線を逸らせるミリム。どうやら、蹴る気は多少あった様なので、先に言っておいてよかったとアティスは安堵。リムルも 『次は蹴るつもりだったのかよ……』と、またため息を吐くのだった。

 

 

 そして、街の皆が集まった所で、マイクを取り出した。因みに 正式名称は 魔イク。ドワーフのドルドが作ってくれた物で、魔鋼で作られてて、スピーカーとか無くても十分声を広く響かせる事が出来る魔法道具である。

 

 

「えーと、今日から新しい仲間が滞在することになった。客人と言う扱いなので、くれぐれも失礼のないようにしてくれ」

「粗相はしないでくださいね? ………お願いですから、ほんと」

 

 

 リムルやアティスの言葉に異を唱える者なぞいる訳もなく、あっと言う間に周知される。

 それに、魔王ミリムの事を何人かは知っている様で驚いてる者も多かった。

 

 

 ここで、本人から一言の時間。

 

「あーー えーーミリム・ナーヴァだ! 今日からここに住むことになった。よろしくな!」

 

 一言の時間が、あっという間に ( ゚Д゚)ビックリする時間へと変わる。

 

「おいおい、待て待てそりゃどういう意味だ!?」

「マジですか!?」

「マジもマジ、おおマジなのだ。ワタシもここに住む事にしたのだ」

「ちょっと待て‼お前は今住んでる所があるんだろ?」

「そーですよ! 主様がいなくなっちゃったら、大変じゃないですか??」

「大丈夫なのだ! たまに帰れば問題ない」

 

 

 

 本当に大変で目まぐるしい一日だった。

 でも、もう終わる――とはならない。

 

 どうやら、嵐が過ぎ去るのではなく、嵐がこの場に留まってしまう様なのだ。

 

 身体中の力が抜けてしまって、ぐにゃりとアティスは はぐれメタルになってしまった。

 

 そんなアティスをむぎゅっ、と掴み上げて 強引に身に纏わせるミリム。

 

 

 その小さな胸を大きく張りながら腰に手を当てて笑いながら宣言した。

 

 

 

 

「この国の主たちとワタシは友達なのだ!」

「ちょっ、主はリムルさんですよっ!?」

「似たようなもんだ。ぜ~んぶ受け入れろ」

「って、全部!? 大変なの全部押し付ける気満々に見えるんですがっっ!?」

 



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26話

 

 

 

 

 

 

「やったー、まおーとともだち、どころか親友(マブダチ)になれたー、うれしいなーー(棒) さぁて、次はまだ見ぬ新天地に向けて冒険開始だ~~(棒)♪」

「コラコラ、天に帰りそうになった次は大冒険に出発か? 現実逃避すんな。現状の問題点解決に寄与せんか」

「うまうまっ♪ これが、かれー と言う食べ物か! めちゃくちゃ美味いのだ!!」

 

 

 

 

 3人の見た目美少女(内2人は男)が楽しそうに燥いでいる。

 1人は、この魔物の国の盟主にして、最強名高いスライム。

 もう1人は、同じくスライム族にして 唯一絶対とも言われてる《神》より名を与えられし稀有なスライム。

 

 だが、現在……街にとって最も厄介極まりないのが最後の1人の魔王である。

 

「シュナ! おかわりなのだーー!」 

「はい。判りました」

 

 見た目どう見ても子供なのだけどその実力は計り知れず、最古の魔王の一角とも言われたり、デストロイ! 等とも言われたり、最強の魔王とも言われたり、天災(カタストロフ)級とも言われたり……、つまり、とてつもない存在だという事だ。

 

 そんな存在と友達どころか親友(マブダチ)とまでなってしまった2人のスライムもやっぱり計り知れなかったりもする。

 

「うまうま~ なのだ! こんな美味しいのはハチミツぶりなのだ!」

「ハチミツって、今朝の話ですね。お土産を大事そうに持ってるの見るのは何だか嬉しいです。頑張った甲斐がありましたね、リムルさん」

「おーおー、オレも嬉しいよ。お前さんが正気に戻ってくれて」

「ちょ、ちょっとした現実逃避じゃないですか……」

「お前の場合、何処までが本気なのか判らんから嫌なんだよ! 空高く帰りそうだった時、大変だったんだからな!」

 

 またまた燥ぎに燥ぐ。そんなやり取りを笑いながら見ていたシオンは、ふと ミリムが手にしているハチミツを見て思った。

 

「ミリム様が興味を持たれたあれは、ハチが集めた蜜だったのですか?」

「はい、そうですよー。リムルさんからはまだ秘密にしてて、って言われてて」

「っ! いきなりバラすなよ……」

「別に良いと思うんですけどね……。後々には公開! って予定でしたし」

「ったく、まだまだ量産化の目途たってねーだろっての」

 

 とっておきのおやつとして持っていたリムルは何だかばつが悪かった様だ。アティスは純粋にリムルの計画に賛同してて、後で食べようと取っていたわけでもないから、なんとも思わず公開したのである。因みに それが判るのはもう直ぐ後である。

 

「回復薬かと思ってたが……(結構アレも美味いし) そういえば色が青ではなく黄色と違ってたな」

「いえ、ベニマルさんの言う通りですよ。ハチミツは薬効がありますからね。間違いじゃないです。でもやっぱり リムルさんポーションと比べたら、味は断然ハチミツだと思いますよ。甘くておいしいです」

「へぇ……、断然……甘い……」

 

 じっ、とベニマルの視線がミリムの持つハチミツに集中。

 ベニマルは何気に甘党なので、より興味を持った様だ。

 

 勿論、魔王ミリムも黙っては無い。そんな視線など簡単に察知できる! のである。

 

「やらんぞ! ぜーーーったい! これはワタシのものなのだ!! やらないのだ!! 美味しいのだ!!」

「いえいえ、とりませんて。魔王様から奪い取るなんて無茶しませんて」

 

 甘党だけど、自殺行為に等しい+迷惑な事になりそうなことはしないとベニマルは誓った。

 

「はぁ、アティスが色々とばらしてくれたから、もう喋るけど、補足するとな 他にも砂糖っていう甘味料の代わりに用意したんだけど、多くは取れないうえに、抽出も今のところ、オレやアティスにしか出来ないんだ。量産化も、ってさっき言った通りで その後にお披露目しようと思ってたんだよ。ほら、皆舐めてみ」

 

 取り出したハチミツを皿に小分けして 皆に渡した。

 指ですくった後に口の中へと入れる。舌の上で甘未が口の中に広がり…… 皆の目が変わった。特にベニマル。

 

「ッ!! ッッ!!」

「ま、まぁ、アティスに黙っとけって言った手前だ。一人占めしてたようなもんだし、悪かったよ。それに砂糖も量産化して 色々と料理の幅が広がって、甘いお菓子なんかも沢山作れるようになるって。もうちょっとの辛抱だ」

「あはは…… ベニマルさんも甘いのには目が無いんですね。シュナさんのお兄さんですし」

 

 アティスは、リムルの説明を聞いて目の色を変えたベニマル、そしてシュナを見て笑っていた。甘いお菓子には目がない様子。勿論、シオンやミリムも同じく。同盟を造っちゃいそうな勢いだ。

 

「理解しました。明日からはお砂糖の発見に全力を尽くすと約束致します! 高級品をお手軽に手にする日を、直ぐにでも! いいですね? シオン」

「はい! シュナ様! このシオン 一命に代えましても、砂糖を発見してご覧に入れます!」

「うむうむ! 頼んだのだ!」

 

 

 結成―― スイーツ同盟。

 

 

 がっちりと堅く握手を交わす3人の女たち。甘いものは別腹とはこの世界でも言う様だ。

 

「女の子たちですからね」

「その内バイキング形式で始めたら面白いかもな。スイーツバイキング」

「良いですね! 美味しいものを沢山作って広めて、販売して…… そんなことしてる国が悪い国~ なんて、きっと誰も思いませんって! うーん。平和が一番です~」

「おう。何かあってもお前がいるから大丈夫だろ? なんせ、ミリムの一撃を防いだ程だ。最強の盾はお前だアティス」

「へ? い、いやいや、天に召されかけた~ ってリムルさんも言ってたでしょ! あんな事故はもう二度と御免です!」

「安心しろって、そうそうないさ。そもそもミリム以上なんて、寧ろないんじゃないか?」

「何かある前提で話さないでください! 平和一番! って言ってるでしょ!」

 

 

 

 

 騒いでる所にいつの間にか、ミリムがやってきた。

 何だか悪い顔してるミリムは、リムルが言っていた『ミリムの一撃を防いだ』と言う単語だけ、聞き逃さなかった様だ。

 その後『もう一度するのだーー!』と目をランランと輝かせながら腕を振る。アティスも『ダメです、嫌ですー』とぴゅーーと逃げる。

 傍目からは、戯れてる童女たちに見えるのだが、その衝撃の規模を考えたら悠長に観戦できない。だって、建物が吹き飛んでしまうかもしれないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の夜――ミリムの世話係として、アティスは勿論のコト リムルも担当する事になった。

 

 

「まぁ、アイツだけに任せるのは、ちょっとだけ不味いって思ってたから別に構わないけど、お前らも手伝ってくれよ?」 

 

 リムルが見渡すと、大体が頷いてくれた。遠い目をしてたような気がするが気のせいだと願いたい。

 

「それとだ、旦那。ちぃと気になってる事があるんだ」

「なんだ? カイジン」

「魔王ミリム様の動向も確かに気になるが、オレぁ他の魔王の出方にも気を付けた方がいいって思うぜ」

「? どういう意味だ?」

 

 カイジンの言葉を聞いて、リムルは ぽよんっ、と人型からスライムに戻って話を聞く。

 

「魔王は他にも何名かいるんだが、名が、その名称が同じだけでってだけで、別に仲間同士じゃないんだよ。互いににらみをきかせ、けん制し合ってる間柄と言っていい」

「いかにも」

 

 そこに付け加えるのは、博識でもあるハクロウ。

 

「しかもです。リムル様はジュラ・テンペスト連邦国の盟主と言うお立場。そして、アティス様は リムル様の同族というだけではなく、かの光神の加護を受けし存在。まだ、ミリム様と我々のみ共有とは言え何れは漏れる事。 つまり、『テンペストが魔王ミリムと同盟を結んだ。その背後には 光の神の存在がある』と伝わる事になりましょう。……経緯を知らぬとは言え、そう見えるのは明白」

 

 ハクロウの言い分は正しいだろう。ミリムもそうだが、あの何処か抜けていて、甘えったれなアティスも正体を探っていけば、ミリムにも引けを取らない。その背後の存在の事を考えれば、更に上位……この世界の神と信仰~ではなく、交友関係~ ともなればどうなってしまうのか、正直考えたくない。

 

「それに同盟が事実なら、今まで配下を持つことすらなかった魔王ミリムの勢力が一気に増す事になるでしょう。魔王の間の力の均衡が崩れる。森の管理者やミリム様を見てわかると思いますが、光の神とは絶大な存在。魔王といえど無視など到底出来ぬ存在。それが背後にいる国。……正直、面白く思わない魔王もいるかもしれない……ってことです」

「成る程な。この森が勢力争いに巻き込まれる可能性も、って事か。っておいおい、ちょっとまて。唯一の絶対が光の神っていうGODなんだったら(って、よく考えたらGODってただ神を英訳しただけだな……)、そんなもんがいるかもしれない所に無暗矢鱈に手を出したりしないんじゃないか?」

「確かに。アティス様自身が、GOD様の光の御業をお使いになり、更にはその御神をおよびし、力を誇示し、 ともなれば話は代わりましょう。……ですが、それは不可能なのでしょう?」

「お、おう。本当に僅か。片鱗。ちょこっとだけ、雰囲気だけ、ってな感じで本人は言ってるだけだし、完璧に再現っていうのは どんなスキルでも無理だ。大賢者が言ってた」

「人側もそうでしょう。魔物風情が神の名を語るなどと不届き千万、とそれだけでも攻める対象になるやもしれませぬ」

「……下手な力の誇示は、魔王たちの勢力~云々より、更に余計な争いを生むって事か? アイツ自身がカミサマにでもならない限り、そんなもん、ハッタリだーーって言ってくる連中が寄ってたかってくる、と?」

 

 リムルの言葉に全員が頷く。

 確かにアティスの力は計り知れない所があるが、それはあくまで下界? の者達の範囲内で語れるもの。完全な上位、それも最上位…… 神? とも聞かれたら、そんな上限が判らない様な存在ではないというのは一目瞭然。更にあんな性格してるし、余計に無理だろう。

 

「光の神の件は、我々が崇め奉り~ と言うていで済む問題でしょうが、そこにミリム様が加わるとどうなるか想像がつきませぬ。……しかし、実際にお帰りいただこうとしても無理なのでは。……言っても聞いてくださるとは思えません」

「リグルドのいうとーりだ。目に浮かぶよ。『大丈夫なのだ!』って感じで。何が大丈夫なのかは知らんけど、機嫌損ねられても後が怖いし。う~ん、飽きてくれるのを待つだけか」

「はい。仮に敵対するともなれば、他の魔王を相手にする方がマシです。魔王ミリムはまさしく天災ですので」

「だろーな……。やっぱりそーだろーな。……で、お前ら。もし アティスをミリムが無理矢理連れてく、って状況になったら?」

 

 リムルがそう聞いたら、即座に返答が返ってきた。

 

 

 

「「「「全力で抗います」」」」

 

 

 

 まさに即答。

 少しだけ頬がにやける。

 

「ここにアイツがいないのは残念かもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでリムル様。そういえばアティス様のお姿が見えませんが、どちらに?」

「ん? ああ、アイツならミリムにさらわれたよ」

「なんと!!」

「いやいや、変に考えるなよ? タイムリーな話題で難しいと思うが、多分風呂だろ。シュナやシオンに連れてって貰ったんだ。……まぁ、アティスは逃げるって喚いてたけど、逃げれると思えないから、一緒に混浴してるんだろ(う、うらやましくなんて、ないんだからねっ! とかいってみたり……)」

 

 と、色々と噂してる所で、勢いよく扉が開いた。

 

 

 

「リムル!! ここの風呂はすごいな! 泳げる程広いのだ!! 面白いのだ!!」

「!?」

 

 

 

 タオルを胸部と腰に羽織っただけのほぼ半裸状態のミリムが入ってきた。

 幼児体型ではあるが、仄かに育つ部分もあって、少々目のやり場に困る面々……ではなく、殆ど唖然としてる様子。

 

「ミリム様! ほら、まだ御髪を洗えてないでしょう?」

「おお! すまぬな、感動したから早く親友に伝えたかったのだ! わはははは! おっ、親友と言えば、もう1人! 面白いな、アティスは! 堅かった身体が風呂でドロドロになったぞ!」

 

 わはは、と笑うミリム。どうやら、アティスは はぐれメタル化した様だ。湯でふやけたのだろうか……(笑)

 

「じゃあな! リムル! 明日はお前も一緒なのだぞ!」

「きゃ、ミリム様、タオルがはだけてますよ」

 

 

「………………」

 

 

 

 ちらっ、と見えた。シオンにしっかりと抱きかかえられているアティスの姿。所々赤くなってるのは やっぱりのぼせたからだろう。きっと。

 

「うふふ……、失礼しました……」

 

 そそくさと立ち去る女性陣を見送った後に、わずかに静寂が流れ……。

 

 

 

 

 

「あー、改めて言うが、ミリム様のお相手はアティス様、そしてリムル様に一任するのが最善でしょう。そう、全てを」

『異議なし!!』

「おいベニマル貴様!! なんだ、『全てを!』って!」

「いやいや、あそこまで懐かれちゃったら、これが最善でしょう? アティス様にこのコトを伝えておきますよ」

「うむ。それ以外に適任者は考えられませぬ。我々は本当に幸運でした」

「うぐぅ……、なんだ? さっきもそうだけど、最初に決まった時より 何だか疲れが更に出てきたような気がする……」

 



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27話

 

 

 ミリムの世話役に任命されて大変な日々を送るこの国 最強族のスライム達。

 

 この世界にやってきて、嫌と言う程思い知ったのは やはりどうしても戦いで物事が決まってしまう場合が多いという事だ。強国、大国が小国を支配、領土を拡大していく。魔物の世界も当然ながら、弱肉強食を理にしている。

 

 だからこそ、日々の戦闘訓練も欠かせない。嫌々、と言ってられないからだ。

 それに、戦闘訓練(そういう事情)を聞いたミリムもいる。

 

「わはははっ! ならば、わたしが相手をしてやるぞ!」

 

 こうして、最強の魔王様が直々にご教授して頂けるという事だ。

 

 単純なサンドバッグ役が欲しいだけの様な気もするが―――――きっと気のせいだろう。

 

「じゃあ、頑張ってくれ給え、アティス君!」

「………………」

「………じょーだん。じょーだんです」

 

 流石のリムルも今回ばかりはアティスだけに任せておけない。

 普段の難題なら、アティスに押し付けても良い様な気もするのだが 事、戦いにおいては別だ。物事が戦いで決まるというのであれば、盟主である自分自身が鍛えないと示しがつかず、更に言えば盟主であるのと同時に、鬼人たちをはじめ、街の仲間達の中では一番の実力者の位置にいるのがリムル。その相手ともなれば……実力差は歴然ではあるが、やっぱりミリムが一番であるのは間違いないから。

 

 

 と言う訳で戦闘訓練はしっかりしないといけないから 日々の訓練相手はミリムに決定。今日もしっかりトレーニング。

 

炎化爆獄陣(フレアサークル)!」

 

 炎の上位精霊 イフリートを捕食した際に習得した技。範囲内を獄炎で包む。並の相手が受ければ一瞬で消し炭になる程の攻撃だが、ミリムに通用するか? と言われれば首を激しく横に振るだろう。

 

 と言うより何よりも当たってないのだ。

 

「わはははっ 何処を狙っておる!」

 

 丁度ミリムの右斜め前、1m満たない程の距離で炎が上がった。炎による高熱は範囲外にも伝わるが、ミリムにはそよ風に等しいものだ。……だが 勿論これだけで終わる筈もない。

 

 炎攻撃は囮であり、真の狙いは炎に隠れながら背後を取り、ハクロウ直伝の剣撃で攻めるというもの。

 

「――隙あり! ……あ」

「にっ!」

 

 ミリムがその攻撃に気付かない訳もない、と言うのも『勿論』である。

 笑顔で振り返るミリムは、リムルの剣を受けるまでもなく、魔王覇気を放出。

 ドゴッ! と凄まじい力の奔流が天まで届かんばかりに放出され、轟いていた。

 

「ぬわーーー!! って、アレ??」

 

 その覇気に吹き飛ばされた! と錯覚したリムル。……自分自身の周囲にキラキラと光を放つ粒子の存在をすっかり忘れていた様だ。

 

「おおっ、流石だな! よくぞ防いだというものなのだ! タイミングもばっちりなのだ!」

 

 両手を腰に当て、まるで自分の事の様に喜ぶミリム。

 今アティスは、リムルに纏わっていて、傍から見たら融合した様にみえる。

 

「おお、そーだったそーだった……、って、おい空に昇ろうとすんなアティス! もう二回目はウけないから止めろよな!」

「…………何とか 受けとめれたとはいえ、しょうげきハンパないんですよ!?」

「うむうむ。肉体的ダメージはほぼ無しのようなのだ。流石はヒカジイの力だな! ……だが、まだまだアティスはその片鱗、残滓、数%も引き出せてはおらんぞ? そこの所も訓練すれば 更に良いと思うぞ! むっふっふっふ~…… わたしもワクワクするぞ!」

「ぅぅ………、そんな笑顔しないで。ワクワクもしないでください……」

 

 やっぱり、ミリムとの訓練は ある意味最悪、ある意味災害、ある意味天災……、そして 有意義であると言えなくもなくない。この世界の力の頂きと相手してもらえるなんて、と。

 

 それは兎も角、訓練は大事と言う訳で只管実践あるのみ、である。

 

 リムルもそれなりにアティスに防御してもらえている為、吹き飛ばされるような事はないのだが、ミリムの攻撃の余波が来る為、アティスが言う様に精神がごっそり持ってかれてしまう様だ。

 この攻撃を直に受けているアティスには、本当に心底同情している。自分の事の様に感じているのだった。

 

 

 

「しかし、アティス。お前はほんとに護ってばっかだな? 攻めた方が楽しいと思うぞ!」

 

 休憩をはさんでいる間に、シュナが作ってくれたおやつを美味しそうに頬張りつつ、アティスにそういうミリム。デストロイ! なんて呼ばれてる魔王だから、当然ながら護りなど性に合わない様子。……と言うより、理由はあるが護る必要性も、そして強すぎる故にか護られる必要性もあまりないのかもしれない。

 

「うーん……、どっちかと言うと、オレはあまり攻めるっていうのは……」

「真正のドMって所か?」

「って、誰がドMですか! ヤられて喜ぶ趣味なんかないですからね!!」

 

 確かに防御に特化している事はアティスも認めている。こちらの世界に来るあの時に、堅い身体を願った様な気がする……程度だが、覚えているのだから。

 だけど、だからと言って嬉々として その身体の性能チェックをしたいとは思わないし、したくない。……仲間を護る為! と言う明確な現実に突き付けられた時のみ、その真価を発揮するのである。

 

 と言う事はリムルもよく判っている。なんだかんだ言いながらも、最後には文字通り身体を張って皆の前に立つであろうアティスの姿は簡単に想像できるから。

 

「まぁ、それは置いといて、ガゼル王相手に結構立ち回ってたじゃん? ハクロウも剣技は光るモノがある、って言ってたぞ?」

「ほほう! ハクロウにそう言われたと! 私には到底及ばぬとは言え、その力量は知ってるぞ! 面白そうなのだ! 次、それをやってみるぞ!」

「えぇ……」

 

 ひょんな事から、今度はアティスがミリムの相手? と言う名の訓練をする事になった。

 

 

 

「うむうむ! アティスが堅いのはわたしもよーく知っているぞ! だが、身体の強さと精神の強さは、同じなのだ。ヒカジイからの名付けで継がれた魔素も使いこなせれなければ宝の持ち腐れなのだ!」

「あぅ……、し、しんどい……。身体に悪いです……」

「と、言う訳でドンドン行くぞ! しっかりつかんでみるのだ!」

「良い笑顔しないでくださいよぉ……。なんか ストレス発散に扱われてるよーな気が……」

 

 ぶんぶん、と笑顔で腕を振るミリムを見て、ゾッとするのを今は通り越してる。

 

 

 どかーん、ばこーーん!

 

 

 と何度もミリムパンチ! を受けたアティス。ガビルを護った時みたいに、意識が昇天しかける様な事はだんだんと無くなってしまったが、それはそれで地獄。精神を護る為に、昇天……みたいなものなのに、現実に縛られちゃってるから、ひょっとしたら、廃人…… 廃スライムになっちゃうかもしれないのである。

 

「わっはっはっは! 攻撃ダメとか言っていたがアティス。さっきの攻撃は悪くなかったゾ! 全方位の攻撃とは面白いのだ! 面白いからもっともっとするのだ!」

「あぅぅ……」

「あの技名……剣の世界(ソードアートオンライン)ねぇ。元ネタが判るなぁ。お前が生前()に何が好みだったのかもよく判る」

 

 アティスが前にガゼル王相手に立ち会った時に行った技。金属王(キンゾクオウ)による無数の剣の生成。その名をアティスは そう名付けていたのである。

 何でも、決め台詞ではないが、何かしらの()を付ける事で技の安定化、更には強化が見込めるらしく。アティスは単純に気に入っている名を自身の技名として付けた事で強化が出来た様だ。名付けが重要な要素である、と言うのは最早疑う余地なし、である。

 

「さぁ、もいっちょヤルのだ!」

「そ、そろそろ休憩にしません……?」

「まだまだ余裕なのだ!」

「(オレがもーやばいんです!) ほら、シュナさんがご飯を作ってくれてますよ!? ね? リムルさんっっ!!」

「お、おう。パンモドキとかジャムとか……」

 

 アティスの必死の形相に面食らったリムル。流石に自分もそろそろ休憩を入れたかった、と言う理由もある。

 

「何っ!? よしっ、休憩にするのだ!」

 

 ご飯と聞いて、コロっと意見変えたミリム。色気より食い気……ではなく、暴れるよりは美味しいご飯を食べたい、と言う事だろう。

 大張り切りで、街の方へと向かった。それに続く様にリムルやアティスも向かった。

 

「にしし。しかし2人とも、なかなか良い具合だぞ。攻撃と防御のバランスも良いし、私はどちらが魔王になっても良いと思うのだ!」

「ならねーって」

「右に同じです……」

 

 賞賛してくれるのは嬉しい事ではある。最強の魔王に認められたスライム達。……何気に凄い事なのではないだろうか。スライム界に衝撃、である。

 

 

 

 

 

 その後、美味しい美味しいとミリムはご機嫌。

 更に後には、可愛い服を見繕うと約束してた為、シュナがミリムを連れていってくれた。

 

「ふぅ。シュナにも懐いてくれて助かるな」

「全くです……。研究所で暴れ…… 色々と壊しちゃったら大変ですからね」

 

 これから2人は日課の視察である。

 2人で行くときもあるし、リムルやアティスがバラバラで行く時もあるが、今回は2人でいく。

 勿論それには理由がある。

 

「カイジンも連れてくから、製作所にも寄るぞ」

「了解です!」

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で カイジンも連れてやってきたのは回復薬研究所。

 

「ガビルさん、身体の方は大丈夫ですか?」

「アティス様……、吾輩 アティス様の為に今後とも粉骨砕身、この命さえ惜しくはありませぬ!! 次は吾輩を盾にお使いください!」

「いやいやいや。そんな命なんていらないですから!」

「ん。元気そうだな。一応殺す気は無かったってミリムも言ってたし。アティスが護ってなくても大丈夫だったと思うゾ。………多分」

 

 研究所にはガビルもいる。ポーションの現状であるヒポクテ草栽培に携わっているからなのと、前にアティスに護られたとはいえ、ミリムに殴られた事もあって より一層回復薬についての研究に精を出したかったらしい。

 あの恐怖を刻まれたら……、やっぱり回復薬のありがたみが痛い程判る様なのである。

 

 因みに、ガビルは原料部門。研究部門で活躍しているのは、更にもう1人。

 

「よう。調子はどうだ? べスター」

「こんにちはー」

 

 研究部門の責任者はべスター。

 カイジンと同郷のドワーフの1人である。

 

「これはこれはリムル殿にアティス殿。よくぞいらっしゃいました」

「ゆっくりと話は出来てませんでしたよね? べスターさん。改めて宜しくお願いしますね?」

「こちらこそ、よろしくお願い致します、アティス様。……腕がなります。ここで研究をさせていただけている御恩に報いる為にも、頑張りますとも」

 

 ニコリと笑いながら朗らかに話す面々。

 アティスは知らないのだが……、以前べスターとは確執があったらしい。何でも、カイジンがドワーフの国から追放される切っ掛けを造った人物だとか。

 

 因みにべスターは、突然ガゼル王がやってきて放り込んできたのである。

 問題を起こしたとはいえ、かなり有能な人材と言う事もあって、遊ばせるのはもったいない、と言うのとその研究成果を国に持って帰る様に、と言う理由があって此処に来た。

 

 話にしか聞いてないだけなんだが、べスターは土下座しながら小一時間平謝り。

 当事者じゃないから、どうして良いか判らないアティスは、ただただオロオロしてて、最終的には これ以上は めんどくさい、と言う理由とカイジンも許し賛成したということで晴れて魔物の国 テンペストの一員になってくれた。

 

 

 

 

「こちらが最新の回復薬です。……どうでしょうか?」

 

 そして、今日の視察の最大の目的……、それは べスターが研究に研究を重ねた成果をリムルに報告する為なのだ。ドワーフの国では、どう頑張っても上位回復薬(ハイポーション)しか作成が出来なかった。……だが。

 

 リムルは、捕食し……解析。

 

「ふむ。……オレ(大賢者)が作ってるものと同じだ」

「旦那、ってこたぁ、コイツは……」

「ああ、完全回復薬(フルポーション)だ。やったな? べスター」

「おおお!」

「凄いっ!」

 

 ついに、その高い高い壁を……超えたのだ。

 

「……わ、わたしは……わたしは……」

 

 思わず涙ぐむべスター。その肩にはカイジンの手があり、ガビルはお祭り騒ぎ。

 アティスも便乗する様に 光輝く光の粒子を振らせて祝福。

 

「何だかんだあったが、一本気な気質だしな。奇跡でも偶然でもない。日々研究に没頭するべスターなら必然。当然の結果だ」

「でも、凄いですよね?? 素直に褒めましょう!」

「褒めてるじゃん。やったな? って」

「もっともっと! 部下を褒めるのは上司の仕事でもありますよー」

「わかったわかった」

 

 と言う訳で、リムルも加わってファンファーレ、である。

 

 

 その後は、アティスの回復魔法についての話になった。

 

「回復量は、完全回復薬(フルポーション)(ベース)にしてますけど、オレの物真似(スキル)じゃ、8割が限度ですし、そもそも物真似を応用して作ったオリジナル回復魔法だから、ちょっとムラがあるんですよね」

「ふむ……。色々と検証は出来ると思います」

「はい。ありがたいです。流石に意図的に怪我人を出させて、試すっていうのは嫌ですから……」

 

 魔法は基本的に専門外ではあるが、この研究所は回復薬に特化しているので、回復系統であれば色々と検証できるのだ。

 完全回復薬は、損傷し、失った部位をも回復させる。……が、そんなの普通に検証しようと思ったら、実際に色々と取れてるヒトを見つけてくるしかない。あまりにグロい話になるので、割愛する。

 

「と言うか、アティスには 聖母(マリア)がいるから、制御面は問題ないって思うんだが? 効果とかも」

「確かにそうなんですけど……、実際にやってみた方が良いですし、自信にもなるかな、って。それにほら マザーにずっと頼るのも、って思ってますから」

「……もうスキルって呼べねぇよな。お互いに」

 

 自分のスキルなのに、頼ってばかりいられない、って考えるのは 正直間違ってる様な気もするんだけれど、あれだけ人間味を持ってるスキルと一緒にいたら……、とリムルもアティスの言う事がよく判っていたのである。―――今後も頼る事になるが、なるべく自分も頑張る様に、と気合を入れ直すのだった。

 

 

 アティスの話が終わった後、カイジンとべスターは、何やらガゼル王の話で盛り上がってしまっていた。ぜんぜん終わる気配が無かったので、ここで2人は御暇する事になって……問題が起きたのは、その帰りの道中。

 

 

「ふぁ……元素魔法の 拠点移動(ワープポータル)ってホント便利ですよね。……会社と自宅に欲しかったです」

「おっ、同じ気持ちだ。日本で普及して欲しかったよなぁ、コレ」

 

 べスターが設置してくれた転移系魔法陣のあまりの便利さに感銘を受けていた。

 アティスの物真似のスキルでも出来そうな気がするが、入り口と出口をしっかり設置出来ている魔法陣の方が遥かに精度が良い。8割成功する転移と10割成功する転移魔法陣であれば後者を選ぶのが当然。

 

 ……話は逸れたが、問題が起きたのはこの後。

 

「さて、そろそろミリムを、って ええ………??」

「……うわぁぁ。ナニアレ?」

「さぁ……」

 

 2人して、唖然として見上げるのは街の中央広場の方。

 何故なら、街の上空に爆炎? 炎の竜巻?? が発生してるのだから。

 

 

 

「火災旋風……?」

 



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28話

 

 

 テンペストの町の空に燃え上がった炎。

 

 あんなのが突然町の上空に現れるなんてあり得ない。普通の炎ではなく、相応の力を持った炎でアレ程の炎を操るとなれば、ベニマルくらいだと思うが、町を守護する侍大将であるベニマルがそんなことをするわけがない。つまり身内での聊かいではないという事だ。

 

 

「何事ですか!? ソウエイさん!」

「アティス様」

 

 光粒子となり、移動するアティスの速度は 羽根を使い空を飛ぶリムルのそれを遥かに上回っている。なので、一足飛び足で問題の場所についていた。

 

 炎が発生したであろう地点には、かなりの人だかりが出来ていたが、どうにかソウエイを見つけて、状況を確認、すべて把握した。

 

 

 

 

 

――魔人がソウエイの警戒網を抜け、この町に入ってきたとの事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その後にリムルも到着。

 アティスが今は離れてるので ソウエイが しっかりと事後報告をしてくれた。

 

 

「へぇ…… それで、リグルドは大丈夫だったんだな?」

「はっ。アティス様の力にて、全快致しております」

「う~ん、ワンパーティに必須なヒーラーって感じだな。アティスのヤツ」

 

 感心感心、としてるリムルだったが、ここからが大変な所だ。

 町にいらっしゃった魔人は、もう既に無力化されていた。

 それはアティスが来るよりも前になっていたとの事。

 

 そして、頭が痛い事にその魔人を無力化したのがミリムであるという事―――。

 

「わっはっは。リムルも来たんだな! 遅いのだ。あやつが舐めた真似をしおったからワタシがお仕置きしてやったのだ! だが、アティスが回復させ中の様だから、起きたら もう一発殴ってきて良いか?」

「…………」

 

 リムルは頭を抱える。

 ソウエイから聞いた話では、ミリムがノックアウトした魔人は、魔王カリオンの部下との事だった。先に攻撃を仕掛けてきたのは、向こう側とはいえ、腹いせに カリオンに この町の者から攻撃されたとでも報告されたら、心証が悪くなる事も視野に入れなければならない。

 下っ端とかなら多少安心かもしれないが、他の国へ派遣される者がそんな地位の低い者とは考えにくい。あの舞い上がった炎の勢いを見ても判る所だ。

 

 

「ふぅ……、リムルさん。とりあえず、このひとは、マザーに見てもらったけど、大丈夫みたいだよ。ミリムさんも手加減した、って言ってたし」

 

 ちらっ、とアティスの方を見たリムル。丁度回復魔法をかけ終えた所の様だった。まだ、頭にアザが残ってるようだが、アティスと聖母(マリア)が言うのなら間違いないだろう、と一先ず部下の死、と言うある、こちら側の死傷者が出たよりは断然いいものの、ある意味では最悪な展開は回避する事が出来た。

 

「ふぅ、わかった。サンキュ、アティス。……んで、ミリムは俺の許可なく暴れたのか? 暴れないって約束してなかったか??」

「うぇっ!? こ、これは違うのだ! そ、そう この町の者ではないから、セーフ、そうセーフなのだ!!」

「ダメだろ、アウト。一発アウトだ。……だがまぁ、今回は昼飯抜きで許してやるか」

 

 ミリムは、知らない事、色んな新しい事を見たりやってみたり、と楽しい事が多いテンペストの中でも、特に料理を楽しみにしていた。その大好きなごはんをお預けともなったってしまったら、大変だ。

 

「ヒドイ! ヒドイのだ!!」

 

 わあわあ、と泣き出すその姿はどう見ても魔王には見えない。親に怒られた娘っといった感じだろうか。わぁ、わぁ、と泣き出すミリムだが、リムルは罰を変えようとはしなかった。なので、ツカツカツカ、とアティスの方へと向かい。

 

「そこのけ! アティス!! どれもこれもこいつが全て悪いのだ! マブダチの子分に手を出したコイツが全部!! 一発では飽き足らぬ……っっ」

 

 拳に凄まじい魔素を込めるミリム。

 回復したとはいえ、あんな一撃を食らったら、そんな回復意味をなさないくらいに成ってしまう。

 

 せっかくHP全快まで上がって、あとは状態異常の回復だけだったのに、またHP0になってしまう。

 

「わぁぁぁ、待って待って!!」

「ストップストップ!! 待て待て待て!!」

 

 大慌てで アティスとリムルが止めた。

 

「り、リムルさん! アウトでも復活はありますよねっ!? ほ、ほら、アウト一回とっても退場はまだですよねっっ、ラストわんちゃんす、ありますよねっっ!?」

「そうだそうだ。今回だけは良い事にするっ、それに リグルドをやられて怒ってくれたんだったしな!!」

 

 

 と言うわけで、どうにかミリムの追撃だけは回避する事が出来た。

 

 ついでに、ノびてた魔人の男も目を覚ましたので、場所を移す事にした。

 

 

 話を聞いてみると、あの炎はミリムが使った技! と言うわけではなく、リグルドを攻撃し、激昂したミリムに気付いて、慌てて男が繰り出したらしい。――が、ミリム相手に通用するような技ではなく、ミリムの魔王覇気で上空に巻き上げられ、そこをアティスやリムルが見ていたのだ。

 

 ミリムにノックアウトされて、ノビてる所も見ている為、大したことなさそうに見えていたのだが、そうではなかった。 リムルの大賢者、アティスの聖母もそろって男の正体を告げてくれたからわかったのだ。

 

 

――警告。個体名 フォビオ。魔素量は個体名ベニマルを上回ります。

 

 

 と。

 

 

 ベニマルは、このテンペストでも屈指の実力者。鬼人の若頭でNo.1。リムルの名付けによって、更に進化に磨きがかかった彼は、侍大将の座を承っている。つまり軍部のトップ。単純な魔素量で強さは推し量る事は出来ないとは思うが、それでも、上回ってくるとなると、驚きだ。

 

 そして、目を覚ましたフォビオは当然敵対心剥き出しで威嚇してくる。まともに話を聞いてくれる様子もない、だからこそ、リムルの傍にいる皆も苛立ちを隠せれず、敵意も増してきていた。

 

 

「はぁ、ヨカったですね? ミリムさん」

「うむうむ♪ さんどいっち、美味しいのだっ♪」

 

 

 場面が修羅場になりそうだと言うのに、ミリムはおいしそうに お昼ご飯を頬張っていた。

 確かに、ミリムが傍にいるとなると、仮に戦闘になった所で負ける事はないから、安心と言えば安心。……でも、友達だと、親友(マブダチ)だと言ったミリムに おんぶにだっこ状態では、示しがつかないし、この町のトップはあくまでリムル。全てを頼り切る訳にはいかない、と言う事と 友達同士で対等である事を組んでる。だから、リムルやアティスの接し方は変わらないのだ。

 魔王ミリム相手に、引き分けに持ち込んだスライムたちだからこそ、出来る芸当かもしれない。

 

 そんな、凄いスライムの一角でもあるアティスは、魔王ミリムの付き人役を買って出てくれている。……決して押し付けられてる訳じゃない。

 

 

 

 

 ミリムの事も大変だが、フォビオの応対もそれなりに大変だ。完全に敵意剥き出しで来てるので、面倒なのと更に鬼人達も自分達の主を貶されてるとして殺気立っている。

 

「お前たちは良いから下がってろ」

 

 そこはリムルの一喝でどうにかなるが、それを見たフォビオはその様子を見ていて、更に付け上がらせてしまった。

 

「はッ! こんな下等な魔物に従うのか。雑魚ばかりだと大変だな!」

「そう言うからにはお前の主はさぞ大物なんだろうな」

「ああ? 当たり前だろ。お前、カリオン様を知らねぇってんのか?」

 

 ただただ、フォビオと言う男が交渉事に関しては得ているとは到底言い難いのは解った。

 まだ、この魔物の町、テンペストと言う国の未知数さを理解していないらしい。……ミリムがこの町を大層気に入っているという時点で、ある程度は把握しないと弱肉強食のこの世界で生きられるとは到底思えない。

 

 もしも、リムルが理知的・友好的でなく ミリムを利用している者なのであれば、その時点で自分は死んでいてもおかしくないという現実が見れていない。

 

 そして、それ以上に抜けている部分がある。カリオンの意思として捉えられるという可能性を失念している所がだ。

 

「では、言葉に気をつけろ。そもそも先に手を出したのはそっちだ。お前の態度次第では、今すぐオレ達は敵対関係になる。……つまり、このジュラの大森林全てを敵に回す判断を、カリオンではなくお前が下すのか?」

「……ちっ、スライム風情が吹かしやがって」

 

 

 去勢を張っている様だが、フォビオもそこまでのつもりでは考えてないらしい。

 そして、リムルの大賢者の見立てによるとフォビオと戦闘になったとしても、問題なくリムルが勝つ。現状、リムル側にはミリムがいる時点で負けは無いが、身内で処理をするとしても、アティスが加わり 更に死角は無くなる。―――最強の魔王の一撃でも受けきる鉄壁の防御を誇るアティス。フォビオの攻撃等かすり傷も負わす事は出来ないだろう。

 

 

「ミリムさん? ほら、このジュースも美味しいですよー。ハチミツの味がするジュースです」

「なにっ!? そんな美味いジュースもあるのか!! 寄こすのだ!!」

「はい、どうそ!」

「にゅふふふ~」

 

 

 ミリムがフォビオを威圧しようとした瞬間を狙ってアティスが間に入る様にミリムのストッパー役に徹する。今のところ美味しいもの系を出せばミリムのコントロールは可能なので、アティスも頑張ってる。

 

 因みに、アティスとリムルは時折思念で会話をしていた。

 

『昼飯抜きをまた条件に付ければいう事聞くんじゃね??』

『いえ、ストレスが逆にかかり過ぎて、別な所で爆発しない為にも適度にアメは必要ですよ……。ミリムさん最強の魔王なんですよ?? 『どーでもよくなったのだーーー!』ってなっちゃったらどーするんですか……』

『あー、それもそうか……。ま、兎も角そっちは任せた。フォビオってヤツらの事はオレに任せてくれ』

『了解です』

 

 等等だ。

 

 

 

「こほんっ、ああ、信じられないって言うなら、樹妖精(ドライアド)を呼んでオレの支配域を証明しようか? お前の中ではスライム風情なオレでは説得力がないんだろ?」

 

 リムルが牽制をするが、そこまでする必要性は無かった様だ。

 フォビオの忠誠心は本物で、カリオンの名を汚そうとする者になら容赦はしないだろうが、カリオンに不利益になる様な事は決してしないだろう。……ただ、あまりに直情過ぎて交渉事に向いていないのは一発で分かる。

 

「……ここへはカリオン様の命令できた。豚頭帝(オークロード)と戦争した奴らがこの森にいる。その魔人たちを確保しろってな」

「ふむ。……成る程な。あの戦いで勝った方をスカウトしに来たって事か。なら、オレから言うのは1つだけだ。魔王カリオンに伝えてくれ。日を改めて連絡をくれれば交渉には幾らでも応じる、とな」

 

 全て下手に出る必要は無い。不利益なままで言われるがままにするのはリムルとて納得はしない。相手が魔王であったとしてもだ。勿論、ミリムと言う友達の力もちょっぴり頼りたいという下心はあるが、ミリムとは友達であり、ギブアンドテイク的な感じで上手くやれそうだから大丈夫だろう、とも思っていた。

 しっかりと美味しいものを貢物としているし。アティスと言うお気に入り? もいるから。 これからもしっかりと世話をして貰いたい、とリムルはちらりとアティスの方を見た。

 

 何やら、悪寒が走ったのか アティスは身震いしていたようだが、気のせいだろう。きっと。

 

 

 

 

 その後――フォビオは去っていった。『きっと後悔させてやる』と言い残して。

 

 

 

 

「はぁ……、何で平和的に行けないんですかね……?」

「魔物の世界だからな。全部が全部友好的に~なんて行きっこないだろ」

「う~ん……」

「わははは! 気に入らんヤツがいれば、ぶんなぐってやれば良いのだ!」

「……ミリムさん? それ、リムルさんに了解をもらう前にしちゃったら もう美味しいもの食べれなくなりますよ??」

「今のは無かった事にするのだ!」



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29話

「ミリムに魔王カリオンについて話を聞いておこうと思う」

「………他の魔王、ですか。やっぱり関わっちゃいますよね?」

「そりゃあな。使者がここに来た時点でもう確定だろ。それに、豚頭帝(オークロード)の件を考えてみりゃ、カリオン以外の魔王も注目してる可能性大だ」

「うぇ……」

 

 

 普通に考えてみればリムルの方が正しいってアティスだって判る。

 

ただ、わかりたくなかっただけ。

 

 ミリムが襲来したその時から、もうわかりきっていた事だった。限られた数の魔王の中の1人が、それも最強の魔王が拠点にした、ともなれば 他の魔王だって黙ってみてるとは到底思えない。何らかのアクションを取ってくるのは目に見えている。

 

 更に言うなら、アティスは 光の神G.O.Dとの絡みもあって不安が募っていた。

ミリムみたいに友好的な関係なら良いんだけれど、他の魔王がどんな絡み方をしたのかが判らないから、希望的観測に過ぎず 不確定要素が大き過ぎて困る。

 

『嘗て、光の神に封印されて以来、ずっと機会を狙っていたのだ! さぁ、我が腕の中で悶え苦しむがよい!』

 

 と言った口上で襲い掛かってくる可能性だって0じゃない。

 

「と言うワケでだ。ミリム。魔王カリオンの話が聞きたいんだが。あ、それ食べ終わってからで良いから」

 

 げんなり、としてるアティスを置き去りに リムルはミリムの方を見た。

 それを聞いたミリムは サンドイッチを口の中いっぱいに放り込んで飲み込み……首を左右に振った。

 

「それはお前たちにも教える事は出来ないぞ! お互い邪魔をしない、と言う約束なのだ」

「……(何か約束がある、って言ってる様なものじゃない?)」

「(単純で助かるな。秘密あり、と自白貰いっと)」

 

 

 

 

 その後―――あの手この手でミリムを篭絡。

 そんな難しい事では無かった。

 

 ミリムとは友達であり親友であり……大切な存在である事を強調しつつ、今度ミリム専用の武器を作るという約束をした。友情の証として。それで篭絡完了。

 

 

 

「ふぅ……、武器(オモチャ)で釣るのが定番ですね」

「そりゃあな。俺自身そういう経験だってあるし。やりやすい事この上ない」

「ですね~~~。後はミリムさんたちの秘密が特に問題ないものだったら更に良かったんですけどぉ……」

「―――……それは諦めろ。俺たちが邪魔したも同然なんだから」

 

 リムルの一言で、人型に戻っていたアティスは肩を落とす。

 

 ミリムから判明したのは、魔王4人の企み、傀儡の魔王を誕生させるという計画。

 その魔王と言うのが、他の誰でもない。豚頭魔王(オーク・ディザスター)のゲルド。

 

 自分達が討伐した魔王なのだから。折角育てた魔王を他のモンがやっつけたともなれば……怒っても不思議じゃない。ミリムは大丈夫だったんだが……。

 

 ベニマルも苦々しい顔をしていた。

 

「想定していた状況とは違いますが、他の魔王もここへ干渉してくるでしょうね。ミリム様の言う邪魔をしない、と言う盟約はあるようですが……」

 

 ミリム自身がここへやってきてる時点で、他の魔王が行動しないという理由はどこにも無い。現に魔王カリオンの部下がやってきているんだから、他の2名が指をくわえてみていてくれるとは思えない。

 

「これは大変な事です。トレイニー様にも相談せねばなりませんな」 

「う~~…… あ、リグルドさん。今度、俺 トレイニーさんの所に行く予定ですから、その時に伝えておきますよ」

「感謝致します、アティス様」

 

 

 魔王ミリムの来襲と共に巻き起こった暴風は、より勢いを増しつつ……この魔物の国も飲み込んでいく事になる様だ。

 

 非常に頭が痛い案件。

 

「大丈夫ですよ! アティス様っ!!」

 

 しょぼん、としていたのがバレたのだろう。シオンがアティスを抱きかかえた。

 因みに、リムルはお眠のミリムの枕をしてる。

 

「リムル様にアティス様、お2人ならば他の魔王など畏れるに足りません! 大丈夫です!!」

「わーーありがとうございますーー(棒)」

 

 根拠のない自信は嫌いではないんだけれど、魔王とか物凄い存在を改めて考えてみると……どうしても怖い。ゲルドの時は頑張って立ち回れたアティスだが……。

 

 

「(……うぅん、今更なんだけど、皆の事守る守るって言ってて……、こんな魔王魔王ってばっかり来てる状況で そんなの出来るのかなぁ……)」

――解。魔王ミリムとの訓練成果は着実に出ております。全体能力向上も確認。守護出来る可能性は限りなく高いです。

「………精神のほう、持つかなぁ、マザー……?」

――………。頑張りましょう。

「やっぱ精神面ダメなのっ!?」

 

 

 ダメだしを貰ったわけではないが、最後は頑張ろう! と言う精神論で聖母(マリア)からエールを受けたアティスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少しだけ流れ―――。

 

 

魔物の国 テンペストにて、魔王ミリムの餌付けが更に進行真っ最中の頃。

 

 とある理由から、テンペストの首都 リムルを目指す一行が窮地に陥っていた。

 このジュラの森は広大だ。様々な魔物が生息している。

 そんな中でテンペストは人間とも良好な関係を築こうとしているんだけれど……、生息する全ての魔物がそうか? と問われればそうはいかない。知性的な魔物の方が少ない方だ。

 

「うおおおおおおお!!! なんでこんな目にいいいいいぃぃ!!!」

「お前が槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)の巣を面白半分につっついたからだろうが!?」

 

 とある一行は、大きな大きな蜘蛛に追われていた。

その名の通り、槍の様な脚を8本も持つ人間よりも遥かに巨大な蜘蛛。動きも俊敏で、今まさに食らいつこうとしていた。

 

「死んだらカバルの枕元に出てやるんだからね~~~~!!!」

「わははは! そりゃ無理ってもんだ!! 俺だって一緒に死ぬからな~~!! ってこのやり取りも前に此処でしたよな!!? いやぁぁ懐かしい!」

「思い出に浸ってる場合じゃないよぉぉ!」

「思い出っつーか、走馬灯だーー!!!」

 

 

 

 その後も追われつつもどうにか魔法で応戦していたんだけれど、効きはいまいち。

 その名の中に鎧とある様に、物理的な攻撃も通りが非常に悪い。簡単な太刀筋では弾かれてしまう。

 

 

「姐さん魔法全然きいてやせんぜ!?」

「そんなの見ればわかるわよぅ!! とっておきだったのにぃ!」

「ちっ、頑丈な上に魔法まで効かんとは進退極まったか? このままじゃ魔物の町の主とやらに会う前に全滅だ……!」

 

 

 

 会話の流れには緊張感が欠けている様に見えるがかなり危ない状況である。

 簡単に言えば、このパーティは 魔法使いに剣士が2人とシーフの4人パーティ。

 

 魔法が効かないので 魔法使いは攻撃に参加するのはリスクが高い。更にシーフの持つ武器は短剣なので、大きな大きな槍上の脚を持つ蜘蛛には太刀打ち出来ない。

 つまり、支えるのは2人の剣士のみ。

 

 

「うおおおおっっ!! 無理、無理無理!! 向こう脚8本もあるなんてズルいだろっっ! ギド! てめぇも手伝いやがれ!!」

「無茶言わんで。短剣で捌けるような攻撃じゃねーでしょーが!!」

「おいカバル! 目の前の敵に集中しないか。お前か、俺がしくじれば4人とも全滅なんだぞ!」

「うわぁぁぁんっ! シズさーーーーんっ!!」

「亡き英雄に頼るな!!」

 

 

 精いっぱい抗っているものの、状況は極めて悪いと言えるだろう。防御ばかりで攻撃に転じる事が殆ど出来ないうえに、攻撃が通らないのだから。

 だが、そんな絶望的な状況ででも、光明は突如訪れた。

 

 

カバルに迫る槍の脚。今度は避けれない、と目を瞑った所に割り込む影があった。

 

 

「んなっ……誰だ? あんた……」

「ヨウムだ。厄介なのに絡まれてんな? あんた等」

 

 剣士がもう一人助太刀に入ってくれたからだ。長剣を携え、攻撃を捌く。そして、攻撃にも転じる。

 

「無理しない方が良いわよぅ! コイツ、魔法も効かないんだからぁ」

「あん? 堅い上に魔法まで効かねぇのかよ。ほんと厄介だ。どうしてあんなのに追われているのか、後で問い詰めてやるから……なッ!!」

 

 ヨウムは、剣を振るって攻撃を捌く。

 

 元凶であるカバルは遠い目をしていたが、直ぐに攻撃に参戦。 

 前衛職が1人増えた事は大きい。……が、状況が悪いのには変わらない。少しだけ光が見えただけだ。

 

 

 そんな時――だった。

 

 

 突如森の中が、きらきらと光りで満ちていっていた。

 

「姐さんですかい? これ??」

「私知らないわよぉ~」

 

 光がどんどん集まってくる。そして、それが異常な光景である事は、この場の誰もが悟った。超常現象? とでも言えば良いのだろうか。発生源が不明であり正体も不明。そんな何かが軈てあの巨大蜘蛛に纏わりつく。

 

 そしてまるで、蜘蛛の巣に引っかかったかの様にジタバタと身動きが取れなくなっていってた……。

 

「えぇ~蜘蛛の癖にぃ?」

「知らんでやんす。そんなの」

 

 呆気に取られている間にも光は集まり続けている。

 

「こりゃ一体どういう事だ?」

「ヨウムさん、無事ですか?」

「おう。ちと危なかったが、な。……っていうか、今も危ない状況じゃねぇだろうな? なんだこりゃ」

「ボクにも……何が何やら」

 

「おいカバル。腰抜かしてる場合じゃないぞ。今の内に体勢を立て直す」

「う、うぃっす……」

「さっさと立て!!!」

 

 げしっ、とカバルに蹴りを入れつつ立たせた。

 この現象の正体は判らない。そして、、今でこそ巨大蜘蛛が拘束されている状態だが、これがいつまでも続く保証は何処にもない。そして、今こうなってる意図も判らない。

 

 

「神様っていたのよぅっ! いい子にしてたからねぇ、きっとっ!」

「一体何歳っすか。姐さん。それに それで助けてくれるなら、これまでの苦労は何だったんスか……」

 

 

 助かった事に大喜びしている時だ。

 

 

 

 

 

 

 

「神様、っていうのは強ち間違いじゃないっすよ」

 

 

 

 

 

 

 

 後ろからぞろぞろとホブゴブリン、嵐牙狼族の群れがやって来た。

 その先頭に立っているのがゴブタだ。

 

 

「アティスさま~~~。俺たちも到着したっす~!」

 

 

 

 その声に反応する様に、光は瞬きを繰り返しながら、微小な光の粒子で蜘蛛を攻撃。 あっという間に絶命させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、蜘蛛に集まってた光は死骸になった事で分散。

 光の粒子が集まって1つの形になった。

 

 ……ぽよんっ、と現れたのは銀色のスライム。

 

「あっ、リムルさんですかぁ!?」

「あ、違います違います。俺はリムルさんの弟分でアティスって言います。襲われてたのには気付けましたけど、到着遅れちゃって……。皆さんほんとご無事で何よりです」

 

 スライムスマイルで会話を進めようとするんだけれど、あからさまに警戒されて、目の前の女の人以外は話してくれないのをアティスは残念がっていた。愛らしいスライムを演じたら大丈夫、とリムルに言われていたのは何だったのか、と。

 

 

「アティスさま~。蜘蛛の解体終わったっす」

「お疲れ様~、ゴブタ」

「むっふふ。どうっすか?? 二刀流! っすよ!!」

「あ、クロベエさんに作ってもらえたヤツ? 似合ってるよ」

「ほんとっすかっ! アティス様の剣もすんごいっすよ! いつか、比べないで~~って言ってたっすケド、全然大丈夫だと思うっす!!」

「あ、あはははは。なら良かった」

 

 剣を持ってはしゃぐゴブタを見て苦笑いをしつつ。

 

「じゃあ、皆は食材を町まで宜しくね? 俺はこの人たちと一緒に帰るから」

「!!? そ、それはどういう」

「あ、すみません……。ここに来た理由を勝手に想像してました(聖母(マリア)が)リムルさんに用事があるのではないですか??」

「それは……」

「この森はさっきの見たいなの結構いますし、まだちょっと掛かりますから、俺が案内しますよ」

 

 

 リーダー格の男がちらっ、と他のメンバーの顔を見てみると、激しく首を振っていた。

 もう追われるのは懲り懲りなのだろう。怖いことにも。

 

 

 

「………どうか 宜しく頼めないだろうか」

「勿論です! ウチは人間とも仲良く~がモットーなので。悪いスライムじゃないんですよ~」

 



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30話

 

 それは、槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)を狩る少し前の事。

 

 アティスは日課にしていた訓練を町から少し離れた場所で行っていた。

 以前、ガゼル王率いる部隊が空からやって来た時みたいに、事前に察知できる様にする訓練。それを聖母(マリア)と共に勤しんでいた。

 

『う~ん……、気取られたら相手に変に警戒されるかもしれないし、相手には全く気付かれないで、それでいて広範囲、魔力探知や熱源探知みたいなスキルにも負けない距離の索敵って出来ないかな?』

――解。光粒子化(シャイニング)による広範囲の索敵は可能。粒子をより極小にする事により、魔力感知をも潜り抜ける事は可能。

『え!? ほんとなの? マザー』

――本当です。……光の神により授けられた魔素を使用する事で可能となってます。

『うぅ~ん……。成程。何かズルい気がするけど、光おじいちゃんの力ってすごいんだーー、ってミリムさんに聞いてたけど、ほんと凄いんだね』

 

 アティスは、まるで他人事の様な事を言っているが、もう自分の力でもある。

 なので、自信を持って頑張ればよりもっともっと出来る幅が広がる~~と聖母(マリア)も伝えてるんだけれど、なかなか上手くいかないのは、慎重すぎるからだろう。

 

 だが、いざとなれば相応の行動をするという事も聖母(マリア)は知っているので、そこまで危機感は与えてない様子。……お尻を引っぱたくような事はしてるけれど。

 

『んじゃ、練習練習!』

 

 

 こんな感じで、アティスの索敵能力向上の為の訓練を開始してて―――あの巨大蜘蛛の事を知る事が出来た。

 

そのおかげで迅速に対応できる結果となったのだ。特訓の成果も出て万々歳。

 

 

――告。点数 80点の出来でした。

 

因みにアティスは、訓練の時にマザーに頼んで採点をしてもらうことにしていた。今回のも勿論しっかり採点。無駄なく、一人の重傷者もなく迅速に対応できたのだが、まだまだ満点ではないとのことだ。

でも、アティスがしっかりと攻勢に出れたことは大いに評価する、とのこと。

 

『えっと、いやまあ……、だって今までを考えたら流石にあのくらいの相手なら、ねえ?』

 

 

新米魔王に最強魔王、その他もろもろ。そう言われれば確かに、としか言えないだろう。まだまだ過小評価する癖は抜けないものの、しっかりと成長しているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時は元に戻り、場所は首都リムルにある建物。

 

「お客さんですよ」

「お客さんっす!」

 

 

 ゴブタとアティスに知らせを受けて、リムル達もやって来た。

 

「アティスから『でっかい蜘蛛が暴れてるみたいだから行ってみる』って思念伝達されたかと思ったらお客さん連れてきたよ、この子……。っと、それは兎も角 皆さんは一体何の用なんだ?」

「知らないっす!!」

「おいコラ! ゴブタ!」

「あ、俺はちゃんと聞いてるんで。後は任せてゴブタ」

 

 アティスが前に出ると、『了解っす!』と敬礼を一つしてゴブタは離れた。

 

「こちらがブルムンド王国のフューズさん。こちらの3人の方々はリムルさんとは顔見知りだそうで」

「おう。そっちで飯食ってる奴らなら十分すぎるくらい知ってるよ」

 

 アティスに紹介されて、フューズだけが頭を下げて改めてアイサツをしていた。

 

 

「個人的な理由の1つがリムルさんに会う事で、後は豚頭帝(オークロード)の一件ですね。ソウエイさんに頼んでた件で来られたとの事です」

「あー、そういえばソウエイに頼んでたっけ?」

「はい」

 

 ソウエイは後ろに備えてて、肯定する様に静かに頷いた。

 リムルは色々と考えを張り巡らせつつ、フューズに聞いた。

 

「つまり、アレだろ? 豚頭帝(オークロード)の脅威は無くなっちゃったけど、やっつけたのが俺達魔物だから、それはそれで心配って感じか。ドワーフ王の様に」

「その通りです……。ッ。ドワーフ王? この地へと来たのですか?」

「あぁ。ガゼル王が俺を見極める、って言ってな。その結果ウチとドワルゴンで盟約を結んだんだ」

「は……?? 盟約……!?」

 

 

 その後、固まるフューズに色々と掻い摘んでではあるが説明をした。

 

 ドワルゴンとの盟約は本当である事。信じられないなら、カイジン・べスター等の元ドワルゴンの大臣と伝説と称される鍛冶屋に証明に来てもらうと告げて嫌でも信じる結果になった。

 

 

 そして、たまたま予定があってべスターが入ってきてくれたので、より早く信じてもらえたのだ。

 

 

 

「それで、個人的に俺に会いにっていうのは?」

「え、ええ。……今から十月程前になりますか。森の調査を依頼したこの3人から報告を受けまして、……ギルドの英雄を手厚く、丁重に弔ってくれた事への感謝、そのお礼が遅くなってしまった事への謝罪をしたいと思いました」

「………(シズさんか) それはご丁寧にどうも。フューズたちの目的は判ったんだけど、そっちの兄ちゃんたちは? 何しに来たんだ?? ギルドの所属のひとたち??」

「あー、えっとこの人達はー」

 

 アティスが割って説明に入ろうとしたその時だ。

 

「ちょっと待ってくれねぇか? さっきからずっと思ってた事なんだが、なかなか言い出せなくてよ」

『??』

 

 

 ややガラの悪い男――ヨウムが更に割って入ってきた。

 

「なんでスライムがしゃべってんだ? こっちの光ってるヤツもスライムだし、この町のスライムは皆しゃべんのか?」

『そこかよ』

 

 

 

 一番のガルムの疑念がそこだった様だ。

 どうでも良い事……と思いがちではあるが、スライム族と言えば数多くいる種族の中でも最弱に分類されているからだ。

 

「あのでけぇ蜘蛛を殺ったコイツはマジで底知れねぇ。光ってる所も異常だ。んでも、んなスライムが何匹もいてたまるかってこった。後ろのヤツなんかもっと強そうだし、なんで此処じゃスライム全面に出してくるんだよって話だ!」

「あ、あのぉ…… スライムに何か恨みでもあったりするんですか……? 身内の仇! とか? ボク悪いスライムじゃないんですが……」

 

 渾身のアティスのネタに、リムルが思わず吹き出しそうになったがどうにか堪えた。

 

「んな訳ねーわ! スライムだぞ!! そもそもお前の存在も今の俺をメチャクチャ混乱させてる内の1人、っつーか1匹だ! 突然あんなでっけぇ蜘蛛釣りあげてぼこぼこにして仕留めたトコもよ! むちゃくちゃだろ!? 聞いたことないぞ、んなスライム!」

「え、えっとボクはメタリックなスライムでして……、固さが売りなんです。だから、固い身体を活かした攻撃をしてみたら、意外にもああなって……」

「お試しの攻撃であの蜘蛛全部やっちまった、ってのか!? バケモンか、お前!!」

「あぅ……(もう人間じゃないとはいえ、やっぱりそれなりに傷つくかも……)」

 

 ヨウムは脚を乱暴に組み替えながら、リムルを指さした。

 

「つまりだ! わけもわからんスライムは、こっちの光ってるヤツだけで十分だ! これ以上混乱させんなってことだ。つーか、誰か突っ込んでくれ!」

「知らんがな。イキナリやって来た身で随分偉そうだな。因みにそいつはウチのNo.2。強さに関して言えば 君の言う通りのもの。折り紙付きだ。えっと、槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)だっけ? そのくらいだったら、眠っててもやれるんじゃないか?」

「んなスライムいてたまるかぁ!」

 

 混乱が覚めやまないのは仕方のない事なのかもしれない。

 事前に事情をそれとなく聴いていたフェーズ、そして実際に会った事のある3人の冒険者たちを除けば他の2人は初対面。

 突然変異なスライムを続けざまに見たら、輪にかけて混乱してしまうのだろう。

 

 そのやり取りを聞いていたシオンは少し怒りながら前に出た。

 

「リムル様とアティス様に無礼ですよ!」

 

 秘書・護衛役でもあるシオン。主を軽んじられたら怒るのも無理はなく……更にこの後、地雷を踏む。

 

「うるさい! 黙ってろおっぱい!! っぶっっ!!」

 

 

 セクハラ発言をされた瞬間、シオンはその手に持つ自身の身体程ある長身を持つ剣(鞘付き)で頭をどついた。

 相応の威力があるので、一発で昏倒。

 

「あ、つい……」

「つい、じゃねーよ!」

「か、回復しますね」

 

 完璧に気絶したヨウムをせっせと回復するアティス。

 そして、シオンは粗相をしてしまったと、沈んでしまった。

 

 

 そして数秒後。

 

 

 頭にいい具合に一撃貰ったヨウムだったが、アティスの回復魔法? で無事回復。しっかり目を覚ました。でも、アティスの回復があったとしても鬼人であるシオンの一撃を受けてここまでで済んでいる所を見ると人間の部類ではそれなりに強者に位置するんだろうな、とリムルは考えつつ、一先ず詫び。

 

「ウチの秘書がスマンな。ちょっと我慢が足りない所があるんだ。……んでも、セクハラはいかんよ」

「………………」

 

 そこに関してはヨウムは口出しをするのをやめた。

 やはり、痛みを持ってしたら人は学ぶというのがよく判ると言ったものだ。

 

 そして、横ではミリムが大笑いしていた。

 

「わははは! シオンは短気すぎるのだ! ワタシの様に大人になるのだな!」

「うぅ………」

 

「「(流石にミリム《さん》には云われたくないだろうな……)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して自己紹介に戻る。

 

「えっと……、私たちはファルムス王国の調査団です。こっちは団長のヨウムで、私がお目付け役のロンメルと言います。こちらにお邪魔したのは成り行きですが、調査対象である豚頭帝(オークロード)が既に居ないと知れたのはラッキーでした。目に見えて危険な調査ですのに、領主は強欲で寄せ集め集団にまともな装備などそろえてくれるはずも無く……」

 

 

 ロンメルの説明で大体把握出来た。

 とんでもないブラックな所に居たのだという事が。更に寄せ集めと言った部分にも納得だ。ヨウムが率いている部隊のメンバーはかなりガラが悪いから。酒飲みばかりで、控えの部屋があっという間に酒場みたいになってしまったんだから。

 

「うぇ……、ブラックですね……」

「だな。そんなんでよく逃げ出さなかったな? 豚頭帝(オークロード)はメチャヤバイヤツだったんだぞ? あんな装備じゃあっという間に返り討ち……喰われて全滅だ」

「あ、あははは……、そのために私が同行を命じられたんです。契約魔法と言う強制的に従わせる術がありますので、それで縛るのです」

「うへぇ…… 超ブラック」

 

 ブラック、と言う単語を理解している者はリムルとアティスだけで、他のひとたちは皆わかってくれてなくて『ぶらっくって何ですか?』とアティスに聞いたりしていた。

 話がそれるので、その辺は軽く省いたが。

 

「あはは、ま、その魔法はもう解いちゃったんですけどね? 何で、ヨウム達を縛る魔法なんて存在しませんよ」

「へ? えーと、ロンメル君はお目付け役じゃなかったっけ?」

「そうでしたよ。ですが、今はこのヨウムについていくと決めたのです」

 

 ヨウムを見るロンメルの目は憧れの選手を見る少年の目だ。

 ガラが悪そうだが、人を惹きつける何かを持っているのだろう。

 

「まぁ、ヨウムさんが逃げ出したりしないだろーな、って言うのは俺も判る気がしますけどね」

「んあ? なんでアティスが判るんだ??」

「ああ、いえ。フューズさんたちがあの蜘蛛に襲われてる時、ヨウムさんが助けに入ったんです。結構離れた位置にヨウムさんたちが居たんですが、わざわざ助けに向かってまして、そんな人が途中で逃げたりしないでしょ?」

「………けっ」

 

 アティスは 笑いながらそういうが、やはりリムルにはまだ解せない。

 

「それとこれとはまた状況が違うだろ? 危険度を置いても、あの豚頭帝(オークロード)の調査に安い装備だぞ。……それに強欲な領主なんだったら、成功報酬を奮発する、なんて絶対しなさそうだと思うし」

 

 リムルの疑問に答えるのはヨウムよりも早く……なぜかアティスだった。

 

「見ず知らずの他人を助けようと、危険を顧みず駆けつけるんなら……、きっと ファルムス王国って所の顔見知りな人たちを見捨てる様な事はしないだろうなー、って思いましたんで」

「も、お前ちょっと黙っててくれ!!」

「凄いですね!? アティスさんは心も読めちゃったりするんですか?? 光ってますし!」

「あ、いや ただの洞察と言うか推理と言うか……、光ってるのって関係なくないですか??」

「ロンメル! おめーも黙ってろ!」

 

 ズバズバ、と心の内を明かされたかの様だったヨウムは、やや顔を赤くさせながらも、否定はしなかった。なのでアティスの推測が正しいんだとリムルも理解。アティスは そういう人の心を読む力には随分長けているんだと改めて思った。

 

「ったく、何にせよだ。んなヤバイヤツの情報を教えねぇとあぶねぇって思っただけだよ! それ以上でもそれ以下でもねぇ! 勘違いすんじゃねぇぞ! 慈善家って訳じゃねぇ! ただ国の奴らが死んだら目覚めが悪いってだけだ! あのタヌキ伯爵はどうでも良いがな。聞いた話じゃ防衛強化に充てるべき国の援助金も着服してたクズだ」

「あははは。そこは僕が証人です。そんな所へ災害でもある豚頭帝(オークロード)が出現した、なんて話が出まして慌てて我々が編成されましたから」

 

 とんでもなくダメダメなトップの元でガラや口が悪くとも真っ直ぐで、何よりもイイ男といっていい者が居るのもある意味では凄い事だ。上が腐ってたらその部下も~と言うのが定番な気がするんだけれど。

 

「それによく考えてみろよ。んな危険きわまりない調査にこんな若造たった1人だけにしとくと思うか? もっと熟練の魔法使いの1人や2人抱えてんだろうによ。んでも、しねぇって事は結果だけわかれば良いって魂胆が丸見えなんだよ。だからケチって経費云々殆ど払わなかったんだろうよ」

「………それは、確かにな(間違いなく捨て駒だなそれは。ロンメルがヨウムに従う理由がよくわかったよ)ああ、それとアティスにも聞いたが、カバル達を助けてくれたんだったな。友人として礼を言うよ」

 

横でウンウンと頷いてるのはアティス。

大分気に入ったのだろうか、或いは生き様に憧れてるのか、ロンメルの様な表情になってる気がした。

何処かの王様に向けていた表情とは全くの別物だ。

 

「いや、あれは……って、さっきもいっただろ? 俺は殆どやってない。そこの光ってたスライムがやったんだ。なんかよくわからんが、その辺ははっきり言っとくからな。俺はあの蜘蛛の脚一本捌くので精一杯。礼なら俺じゃなく、そのナンバー2ってやつにしっかりしてやれって」

照れたのか、アティスをぐいっと持ち上げると机の上に出した。

アティスに不敬な!と感じたシュナとシオンだったが、アティスとリムルがどうにか静めた。

 

その後は改めてヨウムを見る。

腕は悪くないが決して調子にのったりせず、仲間に慕われてカリスマ性もあり、人見知り癖のあるっぽいアティスも気に入ってて、顔も悪くない。決定的なのは良いヤツであるということ。

 

「よし…」

 

リムルは小さく声を出すと、完全に決めた。

回りの皆ももう付き合いが長いことから、何かを企んでいるであろうことは分かり、ただ笑っていた。

 

そして、リムルの企み。

 

 

その名は『ヨウム英雄化計画』

 

 

丁度ギルドマスターのフューズも居ることから周知させるのにも都合がよく現状では最短でいける。

 

この計画は何より、魔物である自分たちは、決して悪ではなく人間たちとも友好的になれるアピールをする絶好の機会なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして、粗方説明すると当然ながら何いってんのコイツ? みたいな顔をされたのでちゃんと説明。

 

 

「俺たちは勇敢な若者を支援した、と言うことにしたい。大体あの騒ぎは俺たちにとっても災害そのものだったし、人間たちと手を取り合って、という形にしたとしても全然自然だ」

「それ良いですね♪ トレイニーさんたちからの森の情報、それに武器防具、食料も提供して全面バックアップ! まさに仲間! じゃないですか!」

「おう。仲良くしたいウチとしては対等~よりも協力を惜しまないそんなポジションがいいからな。悪いスライムじゃないし、俺たち」

「あははは! そーですよね! 平和が一番! サイコーです!」

 

 

 

 

 

 

 



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31話

 

「この俺に英雄になれ……? 何言ってんだアンタら」

 

 

 何だか満場一致みたいな感じで決まりそうだったんだが、それはあくまでテンペスト側の意向だ。当然ながらヨウムは何言ってるのかさえ分からなくもあった。

 

「別に強制じゃない。これはお願いだからな」

「是非、よろしくお願いします!!」

「いや お願いっつっとって、横のヤツの中ではなんか決定事項みたいになってんだが!?」

 

 

 アティスはアティスで、喜びながら周囲にきらきらと光る粒子を舞わせていた。宛ら勇者様誕生、もしくは勇者様凱旋! で演出されるような感じの光景である。

 

 

 とりあえず、その大仰な演出は 今は(・・)早い、と言う事でリムルに止められたので、一時停止。

 

「ほら、そこのフューズさんが言ってたろ? 豚頭帝(オークロード)倒したのが魔物じゃ、脅威が去ったとは言えないって。そりゃ、俺達が取って代わっただけ、ってなっちゃったら同じ事だろうし。んだから、ヨウムとその仲間たちが豚頭帝(オークロード)を倒したって事にしてもらいたいんだ」

「………はぁ?」

「ほれ、さっき俺達側だけで盛り上がってたけど、筋書きは、言った通り お前たちの全面的な支援。協力を惜しまない体勢を強調したい」

「みんな友達大作戦です!」

 

 

 脅威が去っても新たな脅威……と言うのは正直定番の展開。

 それを黙って容認するくらいなら、やはり協力ポジションが現状ではベストである、とリムルは判断していた。ゆくゆくは対等の関係でいたいものだが、いきなり魔物と対等! ともなれば、人間側がどう出てくるか……と。

 なので、最初は無償の提供から信頼を勝ち取るのが狙いだ。がめつくされたら勿論対処するが、それも追々に。

 

 そんな中で、ほわほわ~ と何処か気持ちよさそうな表情(に見える)アティス。

 普段より更に倍増しで、幼く感じられる言動の裏腹には、やっぱり色んな打算もアティスの中にはあるのだろう。

 

『人間と友達な魔物って、最後は一緒に手を取り合って~が定番ですよねっ! いつの間にか、周辺諸国が危険視して討伐対象! とかなっちゃったら嫌ですし! ね、マザー。ヨウムさんたちが討伐って事になるんだけど、人の身で合っても、豚頭帝(オークロード)を倒せたりするよね?? 不自然にはならないよね??』

――解。夫々の力量に合わせた成果であれば、問題ありません。……現状での、人間:ヨウム、その他人間たちの総合的な力量では不可能。

『う~~ん……、説得力ある様にヨウムさんたちにもある程度頑張ってもらわないとなんだね……』

 

 

 と色々とやり取りしてるアティス。

 会話からわかる通り、ヨウムが言ってる通り、……もうアティスの中では決定事項になっちゃっていた。否定してみたら騒ぎそうなのでそのままリムルは放置。……決定事項を目指すのだから、小さな光の神(アティス)にゲン担ぎと言う事にした。

 

 

 そして、追い風は吹く。

 その切っ掛けは 黙って聞いていたフューズだ。

 

「……その計画ですが、ブルムンド王国も協力出来るかもしれません」

 

 なんと、別国からも協力要請が可能であると示唆してくれたからだ。

 

「えっ、ほんとか?」

「是非是非!! 人間皆協力し合いましょう! 今日はお祭りです! 人と魔が手を取り合ったら絶対平和な世界です!!」

「ちょっとアティスはステイ」

 

 ずいっ、とアティスが前のめりになるので、流石に勢いがつきすぎ、と言う事で リムルは大きな手に身体を変形させて、アティスの身体をつかむと、横でカバル達と一緒におやつを頬張ってるミリムの元へと押し付けた。

興奮しすぎた事をアティスは自覚した様で、大人しくなった。……少し しゅんっ、となっていた。

 

「こほん。……知り合いの大臣に掛け合えば周辺諸国へ噂を流す事くらいは出来るでしょう。悪い話ではない。幾ら別国の人間であったとしても豚頭帝(オークロード)を討伐したのが魔物に比べたら、断然良い」

「っ……、ちょいまてよ。アンタまで何その気になってんだ! こいつら魔物なんだぞ!? イキナリ協力とか無理あるだろ!」

「……君に困惑も理解できる。だが、彼らとの友誼を得る事は人心の混乱を避ける以上の意味があるんだ」

「は? どういうことだよ」

「……ひとつ、いや ふたつだな。情報を教えよう」

 

 フューズは、一呼吸を置いてヨウムの知らない情報を言った。現状の価値観を揺るがすような驚愕な事実を。

 

「……我々が知りえた情報では、1つは この国の国民1万余は一人残らず全て名前持ちの魔物(ネームドモンスター)である事。そしてもう1つはこの地に () が降臨した、との噂までたっているという事だ。……1万のネームドがいる、と言うのは実際目にしてみたはっきりと判った。そして噂の方だ。噂は噂なのだが、こちらの方が真実だとするならば、1万余の新たな魔物が生まれたとしても、幾らでも説明が出来るからな。……つまり全てが繋がる」

 

 神の定義が人間の世界ではどんな感じなのかはわからない。

 だが、最強の魔王の一角であるミリムが、物凄く友好的になったのを考えてみると、人間の世界じゃ宗教のトップ、みたいな感じだろうか。アティスは一縷の不安が頭をよぎる。

 

 1万余の名のある魔物誕生 ⇒ 神がもたらした ⇒ 悪しき神だ!! 討伐!!!

 

 

 みたいな感じにならないかな? と。

 ……魔王なら兎も角、人間が神に挑むなんて早々あるものじゃない。ゲームの世界だったら、挑む展開があるとしたら裏ボスなポジション。……まだまだ早計。万が一、億が一、兆が一あったとするなら、それは遠い未来の話だろう。仲良くなって、力自慢が腕を見てくれ~~って感じで挑んでくる。みたいな? 希望的観測である。

 

 フューズは、色々と思案しているアティスを他所に、続けた。

 

「……彼らがその気になれば、この場にいる我々はおろか、国が一つ滅んでもおかしいとは思わない」

「っ………」

 

 

 そこまで言われた所で、ヨウムは押し黙った。

とんでもない相手に無礼を叩いてしまった、と言う事を今更ながら少しは理解したのだろう。

 

 リムル側とすれば、脅すようなつもりは毛頭ない。だからこそのこの提案なんだから。友好的にいこう! と色々と模索してるのに、破綻する様な事をするわけがない。

 

「……こんなに愛らしいのになぁ」

「デスヨネ……」

 

 プルプルしてる2人が揃ったら和むような気がするんだけれど、そのプルプルボディの向こう側には強大な力があるのであれば…………、暫くはしようがないのかな、とあきらめるしかなかった。

 

 でも、フューズはこの提案には前向きに検討してくれているので良しとした。

 

「先ほどの計画、私としては賛同いたしたい。もちろん、あなた方が本当に人間の敵ではない、と言う事が大前提ですがね。ここばかりは口上だけでは納得はし難く」

「それは当然だな。―――なんなら、暫くこの国に滞在すると良い。この国の事をもっともっと知ってもらいたいし、悪意があるか無いかは、各々の目で見て、そして感じてもらいたい」

「ああ、それは助かります」

 

 ミリムに抱きかかえられてたアティスは、上手く はぐれメタル状になってすり抜けて、机の上に戻る。

 

「町の案内なら任せてくださいね? ヨウムさん」

「いらねーよ」

「ぅー……。悪いメタルスライムじゃないんですよ……」

「その辺はもう疑っちゃいねぇって。……なんのかんので俺らを助けてくれた事実には変わりねぇんだ」

 

 ヨウムはそう告げる。

 口では色々と言っていたが、感謝すべき所はしているのだ。命の恩人と言っても差し支えないのだから。それ程までに、あの巨大蜘蛛は人間にとっては脅威なのだから。

 

「ふむ。ヨウム君にも是非、前向きに検討してもらいたいんだがな。この計画の要なんだし。……でも、無理強いはするつもりは無いからそのつもりで」

「……ったく、俺はそんなガラじゃねぇよ。勇者にでもなれってか? 俺の出生とか聞いたら呆れられるぜ。そんなヤツが勇者の真似事なんて」

 

 と、否定気味の言葉を発した時だ。

 アティスをぐいっ、と元の定位置に戻したミリムが言った。

 

「勇者はダメだぞ。あれは魔王と同じで特別な存在なのだ。勇者を自称すれば因果が廻る。……つまり、長生きしたければせいぜい英雄を名乗る事だな」

「なるほど、そんなのがあるんですね……。あ、でも勇者より英雄の方が親しみが沸く感じがしますね。勇者だったら、その……、魔物と戦うのが定番な気がしますし?」

「それ、お前ん中でドラ〇エがずっと根付いてるからだろ? 絶対」

「……仕方ないですよぉ」

 

 リムルは色々と認識を改めていた。

 ミリムが言う以上、勇者、魔王 と言う名は それを使うだけでも世界に影響を与えるんだと。名前を付けるだけで、進化・強化される所を鑑みても……嘘であるとは到底思えない。ミリムが嘘を言う理由も同じく無い。 うっかり魔王を名乗る!なんて思わなくて良かったと実感。アティスに関しては、魔王怖い 状態だったから尚更良かった。

 

 そう一息ついてた時だ。

 

 ドゴッ!! と大きな音がしたのは……。

 

「わーーー、ヨウムさん!!」

 

 頭から湯気を放出しながら白目向いて気絶したヨウムがそこにはいた。

 そして、リムルとアティスの隣では、思いっきり拳を突き出してるミリムの姿が。

 

「ミリム様……」

「お前なぁ……、このタイミングで暴力とかアウトだろ……??」

「い、いや 違うのだ!! さっきアイツがわたしの事をガキとか言ったから、つい、なのだ!」

 

 頑張って言い訳を言ってるミリム。

 如何せん魔王相手に暴言は確かに不味い……。何とか収まってくれているんだけれど、ミリムはとんでもない存在なんだ、と直ぐに他の人間たちにも周知する必要がある、と認識するのだった。

 

 そして、アティスはせっせと回復(2回目)。

 

 

「(二度も殴ったせいで)なかなか信用できないかもしれないが、本当に無理強いするつもりはないんだ。……ゆっくりと考えてみてほしい。この国にも拘束するつもりもない。直ぐに出ていくのも自由だ」

「…………直ぐに出てくつもりはない。……ただ、俺もこの国を見てみたい。構わないか?」

「勿論だ」

「ちょっと待ってくださいね。もうちょっとで全快しますから」

「……大丈夫だ」

 

 

 綺麗に頭のタンコブが無くなった所で、ヨウムは席を立った。

 自分の目で、この魔物の国を見て回る為に。

 

 

 

 

 

 

 その後、残ったロンメルからヨウムについて更に聞いた。

 曰く『豚頭帝(オークロード)の軍勢に見つかって全員死亡……と伯爵に伝えろ』と

 

 死亡した事にすれば、国から追手もかからないだろう。そして、何よりも 命の危険がかなり大きい大仕事。拒否した所で、強欲な伯爵であれば そんな無様は許さない。 戻れば処罰か強制労働しかない。

 だからこそ、ヨウムは仲間たちに言ったのだ。

 

『嫌なら俺についてきな』

 

 と。

 そして、全員がヨウムについてきた。説得力の無い言葉であればついてくる訳がない。行くも地獄、戻るも地獄な状態でヨウムを選んだ。それがどれ程のものなのか、容易に想像できるものだ。

 

「ほんっと男前だねー」

「ちょっと恥ずかしいですけど、言いたいセリフランキングに入りそうですね……」

「あははは。それだけヨウムには皆が信頼しているんです。彼が仲間を大事にする男であると言う事はもう皆が知ってる事ですから」

 

 ふんふん、と頷いてる時だ。

 

「ちょっと良いですかぁ??」

 

 はいはい! と手を上げるのは、さっきまで オヤツのポテチモドキを頬張っていた 冒険者のエレン。

 

 何事? と振り向くアティスとリムル。

 

「アティスさん、って言うんですよね?? 前にリムルさんと会った時は居なかったと思うんだけど」

「えーっと、ちょっと色々あって前は別行動してて……」

 

 ふんふん、と頷いてる。

 兄弟分である事は前に伝えていたから、それとなく気になってたんだろう。……オヤツの次に。ヨウムからも貰ってたポテチが完全に無くなっていた。

 

「私、アティスさんともお話してみたいですよぅ!」

「そーだよなー。何だかんだ色々とあってちゃんと話せてなかったし」

「そうでやんすね。リムルの旦那に兄弟ってのも驚いたやんすが、恩人って共通点もありやすし。それに あっしらは 思っちゃいないっすからね。悪いスライムなんて」

「おぉ……ボク悪くないスライム のセリフに返答があるとは! 嬉しいですね! 悪くないって信じてもらえるっていうのも! リムルさんのおかげです!!」

 

 今回のはネタ発言ではないのだが、それでもツボに入ったリムルは思わずまた笑いそうになるのを必死に堪えていた。

 

 アティスは何だか嬉しくなって、身体を粒子化させると 追加のポテチを取り出した。

 きらきらと舞うポテチに皆が凝視する。

 

神々しいポテチここに有り、である。

 

 

「ワタシの分は何処なのだ!?」

「わぁっ、も、もちろんミリムさんのもありますから、落ち着いて! しゅ、シュナさん。在庫はまだ大丈夫でしたっけ??」

 

 

 ポテチをエレン達に渡してる最中、ミリムの目が光ったかと思えば、腕を回された。

 ミリムもすでにたくさん食べてるんだけど、と思いつつも お預けするのは可哀想なので、シュナに在庫状況を確認。

幸いにも笑顔で問題ありませんよ、と還ってきたので、ミリムに改めて追加を渡すのだった。

 

 

 

 カバル達が黙々とオヤツのポテチを堪能しているのを呆れながら見てたフューズは、ヨウムと同じく席を立った。この町を見る為にだ。3人を連れていくかな? と思ってたリムルだったが、1人で出て行っていた。

 

「もぐもぐっ、んっ! あーー、おいしいぃ……! あっリムルさん聞いてくださいよぅ? 私良い子にしてたから、神様みたいにアティスさんに助けてもらえたんですよぅ!」

「食べるか喋るかどっちかにするでやんす」

「ギドも人の事言えねぇだろー? 食ってばっかの癖に」

「これ止まらないでやんすから しかたねーです」

 

『こいつら全員食ってばっかだな』

とリムルは呆れ。

 止められない、止まらない~♪ って古い歌が頭の中を流れた気がしたのがアティス。

一先は肯定する。

 

「神様にかー、確かに。何れはテンペストを守る神様だな。アティスは」

「……いやいや、神ってなんですかソレ。俺 崇められるのとか、絶対嫌ですからね?? 皆友達、皆仲間、皆家族で楽しくです!」

 

 ふよふよ、と光の粒子がポテチ運びと言う任務を終えて戻ってくる。

 光が集まってきて、集約する様は 何とも神々しくて 神と言ってもおかしくないだろう。……まぁ、スライムである事がちょっとしたハードルになっているが。

 

「でも、私たちを守ってくれた時、ほんとに神様だーーって思いましたよぅ! 嬉しかったですよぅ!」

 

 がばっ、とアティスに抱き着くエレン。

 うわわっ、とビックリしたのがアティス。

 

 

 本当に賑やかな人達だとアティスは感じていた。リムルから聞いていた通り。

 

 

「私たちと一緒に冒険しませんかぁ! アティスさんっ!!」

「ええっ?? ……リムルさん これって、ホイ〇ンになるって事かな?」

「違うだろ。そもそも向こうはホイ〇スライムだし。つーか、色々やんなきゃダメな事てんこ盛りだから、アティスはやらんぞ」

「少しくらいなら貰っても……」

「やらんっつーのに」

「………わぁ、また物扱いされてるー」

 



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32話

 

――拝啓 リムル様。それにテンペストの皆。お元気でしょうか? トレイニーさんたち樹妖精族(ドライアド)の集落に向かって3日。 つまりテンペストを少し留守にして3日くらいですかね? 何だか凄く昔のような気がします。ヨウムさん達が頑張ってくれたことも。ついこの間の筈なのに遠い過去の様な……。あぁ……、あの平和な国の暮らしがとても恋しいです。え? それは どうしてか? ですか? ……ええっとですね。何故なら、ボクは元気ですって言える様な状況じゃ無くなってしまったので。ええ。目の前に物凄いのがいるからなんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アティスは今、全力で現実逃避をしたいと強く想える程の光景が目の前に今、広がっていた。

 

 何故なら、空が真っ黒に染まっているから。

 黒くなっている原因は判り切っている。

 物凄い数のお魚さんが空を泳いでいる事にあった。身体も凄く大きくて隙間が殆どなく泳いでるので、光を遮ってしまっているのである。雲が光を遮る様に……。物凄く薄気味の悪い光景だ。

 

 最早魔物の世界で驚く事など もう殆ど無いだろう、と心の中では思っていた。何せ最強最古の魔王の1人であるミリムとの付き合いもあって、耐性が出来たと言っても過言じゃなかったのに。

 

 

「あれが、暴風大妖渦(カリュブディス)……」

「……はい。そして その周囲に集っているのが 異界より召喚した魔物――空泳巨大鮫(メガロドン)

「わーー、すごーい。メガロドンが絶滅したのって、この子がこっちに取り寄せちゃったからなんだー。凄い発見だねー! 謎は解けた! なのかな?? かな??(棒)」

 

 現実世界――ではなく、別世界と言うべき地球では、メガロドンは 太古の鮫であり 絶滅したとされている。その巨大さは現存する鮫の中で一番大きい鮫、ジンベエザメよりも遥かに大きく、ホホジロザメが巨大化したようなものだ、と言われていた。(うろ覚えだが)

 でも、その真相はこの世界に召喚されちゃったからだという事が今判った。時間軸に色々と矛盾がありそうな気もするが、目の前の光景を見たら、そう推測される。

 

 そんな歴史的発見を目の当たりにしたアティスは妙なテンションになってしまっている。さっきまでは現実逃避していたのに。

 

 そんなアティスを見て、トレイニーは頭を下げつつ進言した。

 

「……やはり、アティス様はリムル様の元へ退散してください。ここは私共が対処致します。アティス様はリムル様たちと迎撃の準備を整えてくだされば」

 

 トレイニーがそういった直後、妙なテンションだったアティスはすぐさま復活した。

 あの、巨大なモンスター カリュブディスが復活した場面に出くわした時、トレイニーにもう何度もいわれた事だった。でも、アティスは首を横に振る事は無かった。危険な目に遭わせる訳にはいかない。自分達の領土内であるなら尚更ったトレイニーは、何度も何度も避難を進めて、強引な手段にもっていこうともしていたが、アティスは折れなかった。

 

『トレイニーさんは大恩人だからね。そんなひとを見捨てて逃げる様な事はしたくないんだ。……光お爺ちゃんにまた笑われちゃうよ。ヘタレがー! って』

 

 そう言ってアティスは笑っていた。そこには、いつもの逃げ逃げ一極なアティスはいなく、ジュラの森の全てを守護する神の風格を垣間見た。

 

 でも、やっぱり性格と言うものは直ぐに変わる事は無い様なので、トレイニーに心配されちゃったのだ。その辺りもアティスらしいと言えばそうだ。

 

「だいじょーぶ! 圧倒されちゃったけどさ。……何とかなりそうだよ。マザーにも確認取れてるし。それに倒す(・・)んじゃないんだ。……俺が出来るのは、護る事。だから、アイツを止めて(・・・)見せるよ。だから、トレイニーさんはリムルさんたちに伝えて欲しい。脅威が迫ってる事と、ここで俺が頑張ってますよー! って。たまには男らしい所も見せないとですから!」

 

 

 アティスはそういうと高く高く跳躍した。

 カリュブディスと同じ視線の位置まで。

 

 

「魔力妨害はとても厄介みたいだけど、どうやら 俺には関係ないみたいなんで、……ね! いくよ! マザー」

――了。発動補佐実行。……個体名:アティス・レイの深淵に存在する光魔素確認。使用開始。……臨界点到達。―――更なる高みへの試み、挑戦実施。……成功しました。使用開始致します。

 

 

 聖母(マリア)が補佐してくれたことによって、アティスの内に存在する未だ解析不能の力である光の神G.O.Dの魔素の効率的運用と放出を行う。

 理由は不明だが、この魔素は スキルによる妨害等は受け付けない様だった。故にあのカリュブディスが取得している《魔力妨害》にも影響を及ぼさない。大妖の力をも受け付けない反則すれすれの力なのである。

 

 

 後はアティスが聖母(マザー)の指示の通りに発動するだけだ。

 詠唱による効果を発動させる。心と身体が一致した時、如何なる力もよる強力になるのは、以前のアティスの御業、剣の世界(ソードアート・オンライン)で経験済み。

 子供か!? って思われるかもしれないが、思い入れのある言葉を必殺技や魔法として発動するとより安定し、強固になる。何度も何度も練習したので、最早今更何叫んでも恥ずかしがったりしない。……と言うか、そんな風に想ってる場合でもない。

 

 アティスは、精神を集中させ、身体の周囲に光の粒子を集中させて両手を前面に構えた。

 

 

「この力で皆を――守る。来れ、光の守護神(エクスペクト・パトローナム)

 

 

 それは嘗ての世界で好きだった映画から拝借した名。

 技に名を与えるコトで、その光の粒子は更に輝きを増して、カリュブディスを、そしてメガロドンたちを包み込んだ。

 

「ぐおおっ!?」

 

 カリュブディスからすれば、アティスは視認できていなかったのだろう。突然の光に包まれて、混乱をしている様だ。

 

「少なくとも皆が来るまでは絶対に逃がさないからね! 皆で作った街やこの森を傷つけさせない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、同刻。テンペストにて。

 

 

 ミリムが遊びたい! と言うので、折角だから 人間の冒険者たちに同行させていて帰ってきていた。勿論、冒険者とはあの3人組である

 魔王だから、と萎縮するかな? と思っていたが、神経が図太いというか、いつもいつも厄介極まりない魔物の巣を突いて回る度胸? も持ち合わせている為か、はたまた 激運(スキル)でも持ち合わせているのか……、難なくミリムとは合わせていた。

 

『ミリムちゃんはすごいんですよぅ! すぐに魔物を発見するので狩りがらくらくでした!』

 

 との事。

 魔王様をちゃん付けとは失礼な! って思ったりもしたが、ミリムは全然気にしてなく、寧ろリムルに成果を見ろ視ろ! とせっついていた。

 

「うむうむ。そう言えばリムル! アティスはまだ帰らぬのか??」

「ん? ああ。トレイニーさんの所に用事があるって言ってたからな。それにトレント族との打ち合わせもあるし、……打ち合わせみたいな所にミリム行っても面白く無いだろ?」

「勿論なのだ! でも、アティスは別なのだぞ??」

「わかってるわかってる。もうちょっとの辛抱だから(一緒に言ってたら余計な負荷かけて、時間も伸びちゃいそうだし。何より、向こう側がすげーーー大変な目に遭いそうだからな。その辺はしっかり管理しないと……)」

 

 リムルはアティスがいなくてミリムが暴走? しない様に頑張っていた。光の神様直伝の堅さはやっぱり凄いもので、真っ向からまともにミリムに付き合えるのはこの街でもアティスくらいなのだ。そんなアティスがいてくれるからミリムも思いっきり出来たりするのだ。……アティスにとっては悲惨極まりない事なんだけれど、人?には役割と言うものがあるので、今後とも頑張ってもらおう! とリムルは常々思っていたりする。……勿論、また前みたいに天に昇天されるのは御免なので適度な休息は設けているが。……手伝ったりも当然しているし。

 

 

 そうこうしている間に、ミリムの成果がはっきりとわかる外へ、ギドやカバルの元へと到着。……そして、異変に気が付いた。

 

 

 そこには2人だけでなく、樹妖精(ドライアド)のトライアが来ていたから。

 

 当然突然の事で、ミリムやシオンが警戒したが、リムルが牽制した。

 

「その人は敵じゃない。確かトレイニーさんと一緒にいた人だ」

「……はい。突然の訪問相すみません。私は樹妖精(ドライアド)のトライア」

「ああ。覚えているよ。ガゼル王が来た時、トレイニーさんと一緒にいたし。アティスが世話になってる事も知ってる」

 

 全員の警戒が解かれたのを確認しつつ、シオンから降りてトライアの元へと向かうリムル。

 

「お久しぶりでございます。盟主様」

「……ああ。だが、懐かしむ前に説明してくれないか? その殺気………、一体何と戦っている? アティスは来てないのか?」

「っ―――。ご報告を申し上げます。暴風大妖渦(カリュブディス)が復活いたしました。そして……、アティス様が……」

 

 アティスの名を出した時、弾かれた様に動いたのはシオン。トライアに詰め寄る勢いで迫った。

 

「カリュブディス!? アティス様はどうしたのですか!!」

「っ……っっ……」

 

 トライアも凄く辛そうなのは見てわかる。

 それに、アティスの事は樹妖精(ドライアド)たちはある意味 盟主(リムル)よりも上、最重要人物として見受けている事も知っている。

 光の神との接触は、それほどまでに希少で、有難い事なのだという事だ。

 

 リムルは、興奮しているシオンを抑えた。

 そんな彼女たちが、アティスに何かをするとは到底思えなかった。だから、十中八九……。

 

「その何か凄そうなヤツ相手に……、アイツは向かっていったのか?」

「……その、通りです。姉のトレイニーが、私達が止めましたが……。その、リムル様に言伝があります」

「……ああ。教えてくれ」

 

 トライアは大きく息を吸い、そしてゆっくりはいて呼吸を整えて、伝えた。

 

 

「『テンペストを狙ってるみたいだから、俺が頑張って足止めするからね? だから、皆の事宜しく』」

「っ……。なんなんだよアイツ。自分のこと、過小評価しまくってた癖に、なんでこういう時に……」

 

 アティスの性格は判っていた。

 一緒にいる時は、……結構甘えるというよりヘタレる所が多い。それはリムルの事を頼っているから、と言うのもあるが、共にいるからこそ安心できるからこその行動だ。そして、ここぞという時は何だかんだ言いつつも しっかりと対応してくれる。

 

 それが、皆の危機的な状況なのであれば、尚更顕著に現れる。豚頭魔王(オーク・ディザスター)の時が良い例だ。

 その上、自分しかいない場面で、テンペストの皆に危険が迫っているのであれば、1人で向かって言っても不思議とは思わない。その場に甘える相手も、ヘタレれる相手もいないのだから。腹を括って力のある限り頑張ってくれる。……そして、無茶もする。

 

 

 そういうアティスの事は此処にいる誰もがもう判っているのだ。だからこそ、皆もアティスを守ろうとするのだから。

 

 

 リムルは即座に人に変化した。

 

 

 

「今すぐ対策を練る! この場所へ皆を集めてくれ!」



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33話

 

 アティスが 災厄級(カラミティモンスター)相手にたった1人で戦っている、と言う事実は瞬く間にテンペスト中に広まった。 そして、勿論 誰もが手に武器を取り、アティスを助けに! と我先に行動開始しようとしていたのだ。

 統率が乱れてしまっている。これは非常に珍しい事で、ここテンペストの軍部はベニマルをトップに統率はしっかりとれている筈なのだが。

 

 特にリムルとアティスの秘書を名乗り出てるシオンが一番暴走していて、大剣片手に猛ダッシュ! で向かおうとしていたが、リムルがどうにか捕まえて引き戻した。

 

 まずはすべき事、全て片付けてからだ。

 

 リムルもアティスの事は心配している。仲間であり、テンペストNo.2であり、弟分であり……家族だ。

 別の仕事があって、長期間離れたりする事はあるにはあったが、この様な事態は初めての事。リムルとて、真っ先に行きたい所だが、国を背負っている。更に他国の者達もここテンペストに集まっている。諸外国にこの災害についての迅速な周知が必要だ。すべき事、纏めるべき所はあるのだ。

 

 直ぐにでも行きたい。と言う強い気持ちは、当然仲間達全員に伝わっており、リムルは 慌てる皆を見て冷静さを保つことが出来、そして慌てた全員は リムルの様子を見て、冷静さを取り戻す事が出来たのだった。

 

 

 

 

 そして――街外れにて。

 

 

 

 

「……既にもう皆判ってると思うが、巨大な敵が直ぐ傍にいる。……そこでアティスが頑張って止めてくれている。アティスが無事だっていう事はトライアさんが常にトレイニーさんと交信しているから、そこは安心してくれ。何かあったら、ふん縛ってでも連れてくる様に伝えてるから」

 

 リムルの言葉を聞いてより落ち着く事が出来た。非戦闘員は特にだ。アティスが慕われているのがよく判る。心優しきアティスだからこそ、その想いが伝わっていったのであろう、とその場にいたフューズは思っていたが……、今回の相手の強大さを鑑みたら、そう落ち着いてなどいられない。

 

 

「――アティスの事は心配するな。アイツはオレの兄弟だ。アイツの実力は、皆も知っているだろう? それに、ベニマルが迎撃態勢もしっかりと整えてくれた。なので、非戦闘員はリグルの指示に従い、戦況を見たうえで、森の奥へ避難する様に。以上! 来るべき時が来ても、慌てず騒がず行動を心掛けてくれ!」

 

 

 集った全員が 一糸乱れぬ動きで頷いた。

 それを見たリムルは安心して次の指示を出す。

 

「べスター。ガゼル王へ連絡を頼む。……そちらにも被害が及ばないとは言えないからな」

「……はっ。お任せください」

「うむ。頼んだ。……ああ、フューズ君。悪いな、折角の休暇を楽しんでいたってのに。良ければ一緒に皆と避難をしてくれ。ここが爆心地になるかもしれないからな」

 

 リムルがそう言うと、フューズは再び険しい顔になる。

 カリュブディスの事を知っている人間の内の1人だからだ。

 

「なぜ――逃げないのですか?」

「うん? 決まってるだろ? ……仲間が1人頑張ってるんだ。俺たちが逃げる訳にはいかないさ」

「………カリュブディスは災厄級魔物(カラミティモンスター)ですが、その脅威は災禍級(ディザスター)以上とも考えられています。……つまり魔王クラス。認定されない理由は【知恵ある行動をとらない】その一点のみなんのです。……あなた方は、魔王を相手にしようとしているんですよ? 言い方は悪いですが、見捨「それ以上は言わない方が良いぞ」……っ!」

 

 

 フューズは、『見捨てた方がまだ賢明である』最後まで言えることは無かった。その場にいる全ての者達の殺気が充満し、集中していくのを感じ取れたからだ。普通の人間であれば即座に昏倒してもおかしくない程の圧力だった。

 

「フューズ君の言う事も最もだ。でも、此処は俺たちの国で、今、その魔王クラスの相手をしているのは、俺たちの大切な仲間。此処に揃ってるのは みーんな仲間想いな奴らばっかだからな。……怒られても知らないぞ」

 

 まだ平静っぽいリムルが一番のソレ(・・)を纏っているのが判る。最後まで言った時には、何をするか判らなかったからだ。

 

「一蓮托生なんだ。アイツとは。だから、俺も負けたなら、皆には逃げるように言っている。だけど、負けて諦めるつもりは無いよ。――でもまぁ、万が一の場合はブルムンドでの住民の受け入れを検討してみてくれよ」

「っ!? 万が一って……… いえ。すみません。あなたはこの国の王……皆の主でしたね。私も言葉が過ぎました。申し訳ない」

「―――いや、構わないさ。フューズ君が俺たちの事を想って言ってくれてる事くらい、ここの皆判ってるからな。……それに、魔王に匹敵すると聞いたら、尚更引くわけにはいかないし、やる気も増してくるってものだぞ」

 

 リムルは、ゆっくりとスライムの姿から、人型へと変化していく。……その姿は、フューズにも見覚えがあった。

 

「俺はシズさんとは同郷なんだ。彼女の意思と姿を継いだ。魔王レオンをぶん殴るためにはカリュブディスなんぞにビビってるわけにはいかんのだよ」

「っ!! そ、その姿は……。あいつらから話には聞いていたが、本当にあの人の……!?」

「……あとすまないが、ひとつだけ、頼みがあるんだが」

「……わかりました。聞きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、戦闘員を厳選し――行動を開始する。大規模転生魔法陣を設置して、トレント族の集落付近に転送場所を調整。

 

 その間に、トライアからカリュブディスの話を聞いていた。

 そして、意外な事実が判明する。

 

「え? ヴェルドラの申し子??」

「はい」

 

 何と、馴染み深い存在が絡んでいるのだ。暴風竜の名が。

 

暴風大妖禍(カリュブディス)は、ヴェルドラ様から漏れ出た魔素溜まりから発生した魔物です」

「……そうか。えーっと、って事はまさか……」

 

 リムルの中である可能性が浮かびあがった。何でも突然、復活を果たしたこと。勇者に封じられていた存在がそう簡単に復活出来るとは思えないのだ。あの暴風竜ですら 身動きが取れないのだから。今はリムルの胃袋に入る、と言う形で何とか消滅をさせないようにしつつ、解析を進めている。

 

 もしも、原因が暴風竜ヴェルドラにあるのなら、今まさにリムルの中にいるヴェルドラに反応し、何等かの現象、いわば災害でも災禍でも、何かが起きて復活を果たしたのであれば……? 可能性はゼロじゃない。寧ろ高いとも思える。

 

「……ヴェルドラ様の因子を持つ、ということでその危険性は伝わったかと思います。――はじめに、申し上げておきます。かの大妖には魔法は殆ど通用しない、と思ってください。あの者の持つエクストラスキル《魔力妨害》の影響で魔素の動きが乱されるのです」

「って、ちょっと待て! 物理攻撃で削るしかないって事?」

「はい。……ですが、傷を負わせても直ぐに回復してしまうのです。あの凄まじさは間違いなく《超速再生》を保有しているものと思われます…… その上」

「まだあるのかよ!!」

「はい……。かの者の周囲には無数の魔物――空泳巨大鮫(メガロドン)が存在し、従わせています。厄介な事に配下の為、それらにも魔力妨害を持っているのです」

「聞けば聞くほどメッチャ心配になってきたぞ! アティスのヤツ大丈夫なのか!!? 直接接近戦とかになったら!」

 

 やる時はやる男! だとはわかっているのだが、転生してきた天性のヘタレ。……洒落ではなく、この世界の神様でさえ、そう呼んでるのだから、尚更心配なのである。

 

 そんな心配は余所に、トライアは 表情が少し朗らかになりながら答えた。

 

「アティス様が身に纏う光の魔素は、それらに影響されません。唯一の例外があるとすれば、光の神G.O.D様の魔素でございます」

「……おおっ! 改めて聞いてみたら なんか反則っぽいな! つーか、色々と黙ってないんじゃないか? そんな力があるっていうのなら、ほら、他の魔王とかも反応したり、その力を手に入れようとしたり、とか」

 

 その話をしてる所でやって来たのはミリムだ。

 

「それは無いぞリムル! ヒカジイの力は絶対。不可侵なのだ。仮にヒカジイがここにやってきたとして、わたしたち魔王を含め、世界中皆で遊んだ所で、力を得るコトは出来ないだろう!」

「うえぇ、唯一絶対神ってヤツ?? ま、その方が公平っぽくて良いんだけど……んじゃ、アティスは何で仕えたりするの??」

「うーむ……、全てな訳はないと思うが。わたしもこんなの初めてだったからな。細かい所は判らんのだが、ヒカジイの意思で、魔素を分け与えた、と言うのなら、可能なのではないか? 色々小難しそうだがな!」

 

 ミリムの説明を聞き、色々と納得しつつ…… その凄い力をやっぱりアティスは持ってる事から安心出来たりもした。

 

 そして カリュブディスの件。厄介さを皆が目の当たりにし、表情を顰めていた。そんなのを1人で相手しているアティスの事も同時にやっぱり皆心配、なのである。

 

「だがな! リムルよ! わたしが誰だか覚えてないのか? そんなことは言わせぬのだ!! アティスと遊んでも良いのはわたしだけなのだ!! 魚なんぞにくれてやるつもりはないぞ!」

「ミリム!!」

 

 ヴェルドラの申し子――、それを相手にするのはヴェルドラに匹敵する天災級(カタストロフ)の魔王ミリム。

 

 その手があったか! とリムルは思わず歓声を上げそうになった。……でも、それは出来なかった。

 

「……そのような訳にはまいりません。ミリム様。これは私達の街の問題……そして、私達の守り神であるアティス様をお救いする為、私達がしなければならない事なのです」

「そうですよ。お友達だからと、なんでも頼ろうとするのは間違いです」 

 

 リムルの表情が一気に青くなっていく(元々青いが)。

 秘書や側近の皆さんが勝手に仕事を断ってくれている。仕事を取ってきてくれる事があるのも有難い事だが、これは非常に痛いだけだ。

 

「リムル様がどうしても困ったとき、その時は是非ともお力添えをお願い申し上げます」

「(おれ、今めちゃくちゃ困ってるのに……)」

「ぅぅ……、そっかぁ……。アティスを取り返してくれるか?」

「勿論です!! アティス様は私たちの、リムル様の大切なお方なのですから!」

「(ええーーーーーー!! そのとーりですけれども―――――!?)」

 

 皆の視線がリムルへと集まる。

 ここで、頼む! ミリム!! なんて言った日には、アティスにヘタレ! と言えないくらいヘタレで格好悪い。

 相手は魔王なんだから、そんなこと言ってられない気もしたが。

 

「そうだぞ! ミリム。まぁ俺を信じろ! ほれ、俺とアティスが揃ったらさいきょーだ! その証拠にミリムとも一緒に結構遊べたりするだろ!? なー??」

「ぅぅ……わかったのだ………」

 

 しゅんっ……と目に涙を浮かべながら とぼとぼと立ち去っていくミリム。なんだか可哀想だ。

 

「(―――すまんな、ミリム。俺も泣きそうなんだ)」

 

 

 と、そんなこんなと色々とあった所で 準備が完璧に整った。

 

 

 

「よし。皆―――行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして丁度その頃のアティス。

 

 

「ぐるおおおお!!!」

「わあああああ!!!」

 

「ぐおおおおおお!!!」

「ひゃあああああ!!!」

 

「ぎょおおおおお!!!」

「ぴゃあああああ!!!」

 

「ぐるおおおおお!!!」

「ひぎゃああああ!!!」

 

 

 大大々絶叫真っ最中なのである。

 

 見事、初手でカリュブディスとその側近のメガロドンを全員、光の粒子体 《光の守護神(パトローナム)》に封じるコトは出来た。

 行動を削ぎつつ、それでいて森に被害を及ばさぬ様に宙にゆっくりと持ち上げて……大空大決戦な舞台に出来た。

 

 ――そこまでは良かった。

 

 でも、忘れてはならないのが、この粒子のひとつひとつが アティスと感覚が繋がっている、と言う事。

 つまり、極小の粒子の1つ1つがアティスであり、それらを操作して色々と攻撃したり、防御の厚みを変えたり、軌道を変えたり……と、色んな事が出来る。

 

 でも、その感覚が繋がってる(・・・・・・・・)のが一番の問題だった。

 

 アティスの中で暴れているのは、カリュブディス……メガロドン……、つまりサメだ。

 

 サメとくれば、過去の記憶を遡ってみて、覚えがあるのは当然ながら超有名なサメ映画。サメ映画の金字塔 『ジョ〇ズ』である。

 あの映画を見てしまったおかげで、海へ行くのが怖くなった。風呂場でさえ恐怖を感じる、とまで言われ、社会現象となってしまった事は覚えがある。

 

 それは、アティス君も当事者だったりした。あれを見たせいで、当分海に行っても泳がなくなったから……。

 

 そんな恐怖が 自身の中でたっくさん存在している。あの大きな口で、牙で襲い掛かってくる恐怖。……魔王とかも当然ながら恐怖の塊なんだけれど、言わばガゼル王に感じたトラウマと同種のものだから、理屈ではないのだ。

 

「アティス様……。大丈夫ですか??」

「あ、あい……。だいじょーぶです。ええ、とってもだいじょーぶです! がんばりますよっ!!」

「いえ。一度下がられた方が良いかと思います。我々が精霊召喚にて援護致しますので」

 

 トレイニーの提言を聞いて、怖がって大絶叫だったアティスだったが、何とか保たせた。

 

「……いや、それはダメだよ。マザーに聞いたから。……申し訳ないけど、トレイニーさんの上位精霊じゃ あれを止めるには足りないって」

「っ……」

「俺なら大丈夫だから! ……ちょっと子供の時のトラウマを思い出させてくれちゃっただけだから!! ていうか、こっちの世界のひと、いじめっ子みたいなのが多くない!?」

 

 別にそんなつもりは毛頭ない筈だけれど、色々といじめられることが多いので、そう叫んでしまってるアティス。

 

 勿論 何だか情けないので、直ぐにそんな事を言うのは止めたが。

 

 

「大丈夫。絶対負けない戦いをするから! 勝ち! もなかなか見えないけど、負け! も無い。光粒子弾(シャイニングバレット)でちくちく攻め続けたらきっといつかは樹っと勝てる」

 

 光に閉じ込められたカリュブディスとメガロドン。その眼下には、メガロドンが数体転がっていた。それは、アティスの光の弾丸を浴び、絶命したものたちだ。質量・数共にあまりにも多いし大きいので、まだまだ焼石に水だが、点数性で言うなら まだまだ無失点である。

 

「絶対に 街の皆は傷つけさせない。トレイニーさん達の事も、絶対に護るから。この森の皆を護るって、決めてるから」

「……アティス、さま。微力ながら私もお手伝いさせてください。私の魔素(エネルギー)を貴方様に」

「えへへ。ありがとね。トレイニーさん! じゃあ、頑張る!!」

 

 アティスは両手に込める力を更に上げた。

 攻撃の出力を上げる為に。

 

 手に伝わってくる抵抗感、そしてそろそろ襲ってきた倦怠感。凄い力を持っていても、使い切るだけの上手さ、精神力、その他もろもろがやっぱりまだまだ足りてないのが悩ましい所だが、アティスにもイジってものがある。

 

 だから、限界のギリギリまでやってやる! と力を入れ直した時だった。背後より、声が聞こえてきたのは。

 

 

「お前、今回は格好つけすぎだぞ? 急にキャラ変わっちゃったら皆ビックリするだろ?」

 



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34

超遅くなりましたm(__)m


 

「……………」

「あぁぁ、アティス様お気を確かに」

 

 

シュナが賢明にアティスを介護してくれているが、何だか廃人ならぬ廃スライムになったかの様に動かない。

擬態した人間の姿も解除されており、更に言えばメタルスライム状ではなく、溶けてしまったかの様な姿、はぐれメタル化してしまっていた。

 

 

「オレの【暴食者(グラトニー)】も物真似(コピー)した上に、マジな神サマオーラ持ってるアティスこそが、最強じゃね? って思ってるんだが。だから おーい、そろそろ起きろ~~、アティス~~! ミリムの話じゃ、心配ないんだろー? 大丈夫なんだろー?」

「わっはっはっはっは! ヒカジイの加護を持つお前が、あの程度でやられる筈がないのだ! ほれほれ、ワタシと遊ぶのだっ! 魚が終わった後、遊ぶ約束だった筈なのだっ!」

「……………そんな、かんたんに………、あれ? やくそく、してたっけ……?」

「お? やっぱ話聞けるじゃん? ほらほら、皆心配してるぞ。安心させてやれよ」

「………あい」

 

 

シュナは勿論、テンペストの皆アティスの事は心配で心配でたまらない。

 

それも当然だ。たった1人で、厄災(カラミティ)、否災禍(ディザスター)級以上とも言われる大妖、カリュブディスを相手にしていたと聞かされたから。

 

本来ならば、街総出で迎え撃つ体勢で臨まないといけない相手だと言うのに、タイミングが悪かった、と言う理由もあるかもしれないが、アティスはたった1人でトレイニーを護っていた。

 

確かにアティスは頑張った!

ヘタレなりに、返上する勢いで頑張った!

元々、超が何個もつくハイスペック能力保持者なので、相応のメンタルを持ち合わせれば、この世界ででも屈指の実力になれる事間違いなし(災禍(ディザスター)級以上の階級、天災(カタストロフ)級の魔王ミリムの遊び相手に務まる時点で御察し)

カリュブディス相手でも、そう易々とやられる訳がない、精神破壊? などされる訳もない……のだが。

 

それでも、今回は仕方ない。

何だかんだ苦言をいっているリムルも、心底同情する構え、である。

 

 

 

結論から言うと、カリュブディスを討ったのは、アティスでもリムルでもなく、皆でやっつけた! と言う訳でもなく―――……討伐したのはミリムだった。

 

 

 

最初はテンペストの問題であり、安易に手を借りるのを良しとしない街の意向もあって、リムルも渋々それに応じて、ミリムは控えて置く様に……と言う形となったのだが、戦いの渦中、カリュブディスが口をきいたのだ。

知能の無い大妖である筈なのに、はっきりと【ミリムめぇ……】と恨み節を只管呟いていた。

 

 

それを聞いてから戦いの流れが変わる。

 

 

カリュブディスの正体が判明。

万物を見通すと言って良いミリムの眼、竜眼(ミリム・アイ)で確認した所、カリュブディスの核となった存在は、以前ミリムにぶっ飛ばされた、魔王カリオンの配下が1人フォビオだったのだ。

 

カリュブディスになった時点で、自我は消し飛んでいた筈なのだが、その魂にまで刻まれた恨みの念がカリュブディスに乗っ取られて尚残っており、あらビックリ。言葉を発するカリュブディス、となったのである。

 

 

元々、ミリムが目的である相手だと言う事もあって、ミリムが相手をする事になった。

当然、フォビオを殺す事なくカリュブディスだけを吹き飛ばす様に提案し、ミリムはそれを受け入れて、最近覚えたらしい手加減攻撃を披露。

 

 

その名も【竜星拡散爆(ドラゴ・バスター)】。

 

 

光を纏った隕石流星群?

隕石が世界に降り注いだのか? 

 

と思える様なこの世のモノとは思えない光の奔流。

その後に訪れる破滅の爆炎。

 

リムルの優秀なユニークスキルの1つであり、頼りになる相棒でもある大賢者の解析能力をもってしても、解析不能、情報収集に失敗。

それは勿論ながら、同系統の力を持つアティスの聖母(マリア)も言わずもがな。

 

 

そんな果てしなく、底が見えないエネルギー波を受けた大妖カリュブディスがどうなったのか。

 

 

無論、五体満足で居られるワケも無く、一撃で粉々になった。

実は、カリュブディスの中に以前テンペストへとやってきて一騒動起こしたフォビオが居た。フォビオを核として、カリュブディスは復活を果たしたのである。

 

魔王カリオンの使いでもあるフォビオに死なれては正直困るから出来れば救出を~~と考えてはいたのだが、あまりにも凄過ぎるミリムの攻撃。

 

もしかしたら、中のフォビオも死んだのでは? と思ったリムルだったが、そこは大丈夫だったらしい。ミリムが手加減、と称した様にしっかりと依り代にさせられていたフォビオは死ぬ事なく助かった。

 

だが、それだけでは安心出来ない。

 

カリュブディスは、依り代に寄生する事で生き永らえる大妖だ。

フォビオの身体がある限り、幾らでも再生できるし、仮に切り離したとしても、精神生命体だから、逃げる事も可能。フォビオの身体を放棄して、また別の誰かを依り代にして復活する。そんな悪夢のような連鎖を持つ大妖だった。

 

だが、そこは我らがリムル様。

リムルの持つユニークスキル、【変質者】と【暴食者】を駆使して、カリュブディスとフォビオを分離させ、カリュブディスがフォビオから離れた時点で喰らいつくした。

ミリムが、極限までカリュブディスを削いでくれたからこそ出来た芸当とも言えるが、非常に難しい手術の様なモノ。流石はリムル&大賢者の一言である。

 

 

 

そして、実に10時間にも及ぶ死闘の幕が下りた―――のだが、敵をやっつけてはい終わり、という訳にはいかない。

一体誰がこんなマネをしたのか、と言う疑問は残る。最も重要な点だ。

 

カリュブディスは、危険な大妖だ。だからこそ、勇者の力を以て封じていた―――筈なのに……。

 

 

 

 

 

 

――――いや、まだ他にも問題がある。

その問題に最初に気付いたのは、シオンだった。

 

 

問題とは、アティスの様子がおかしい事。

 

 

たった1人でカリュブディスを止めていて、更に皆が合流した後の戦いでも、ずっと皆の援護に回っていた。

空中で戦う者、地で迎え撃つ者、全員に超広範囲にて、光の守護(パトローナム)を発動させており、延々と守り通した。

 

皆の為ならば、頑張る! と気合を入れて、頑張りに頑張って―――10を超える時間、光で守り続けた。

 

最終的には力を使い果たしてしまって、スリープモードになったのか……? と思われがちだが、実は違う。今のアティスの状態の原因は他にある。

 

 

アティスの精神をすっ飛ばした真の原因は、ミリムだ。

 

 

アティスの光の粒子の1つ1つが、感覚で繋がっている。

その無類の硬度故に、大抵の攻撃は弾いてしまうし、問題ないのだが……、如何せん精神面ばかりはどうしようもない。

 

当初、カリュブディスの周囲を泳いでいたお付きの妖怪メガロドンの噛みつく攻撃を1度受けたら悲鳴を上げ、2度受けたら2度悲鳴を上げ……と大絶叫だった。

 

サメに襲われる場面。それがアティスにとっての、幼少期のトラウマを掘り起こした様で、ドワーフ王のガゼルと相対した時以上の大絶叫だった。

 

それでも何とか踏ん張って頑張ったのだが―――、問題はここから。遅くなってしまったが、一番の原因はここから。

 

 

アティスは、ミリムの一撃 竜星拡散爆(ドラゴ・バスター)をその身で体感してしまった。

直に感じ取ったのだ。国の崩壊……いやいや、まさに世界の崩壊と言って良い程の力の奔流をその身で体感した。

 

 

結果どうなったか。

……たったまま気絶をしていたのである。(その後、擬態が解けて はぐれメタル化した)

 

 

 

そして今に至る。

 

何とかリムルにも発破をかけられ、ミリムにも無理矢理起こされ、どうにか精神を安定させた丁度その後、フォビオが目を覚ました。

 

 

「スマン! ……いや、スミマセンでした!」

 

 

目を覚まして直ぐに土下座。

どうやら、彼は、何が起きたのか、カリュブディスに依り代にされて尚、ハッキリ覚えている様だった。

 

 

「今回の件は、オレの一存でした事なんだ。カリオン様は関係ない。なんとかオレの命1つで許して欲しい………!!」

「―――むぅ……、カリュブディスやっつけて、大団円……、なんだから、いのち差し出す、とか言わないでよ……。頑張ったんだし……」

 

 

ミリムの腕の中に居るアティスが苦言を呈する。

この戦い、一番の苦労人は誰がどう考えてもアティスだろう。

バトル時間が長いのもアティス。

 

 

「んじゃ、アティス(お前)も許すよな? 問題ないよな?」

「許すも許さないもないよ! やっと訪れた平和。……なのに、そんな事言わないで。平和が一番! 平和ラヴ!」

「――――……あー、今回が一番だよなぁ。これまでで一番。新しいトラウマ植え付けられちゃったか」

 

 

プルプル、と震えてるアティスを見て、リムルは苦笑いをした。

平和が一番なのはリムルとて解る。

その為に、共存が難しい魔物たちを纏め、多種共生国家、魔国連邦(テンペスト)を造ろうと言う発想に至った訳だ。

 

アティスは、いつも通りの大袈裟~と言いたいがだが、地獄巡りをしたも同然。

いや、地獄と言う言葉で片付けるのすら生易しい体験をした身。

今回に関しては、同情の余地あり。

過剰反応したって良い、とリムルだって思ってる。

 

 

「ってな訳だ。お前さんの命なんか要らないよ。と言うか、ここで殺したら何のために助けたかわからんだろ。そんな事より質問に答えてくれ」

「ッ―――。………ああ。何でも答える。聞いてくれ」

 

 

命を持って謝罪としようとしていたフォビオは、何でも話すと言った。ここから嘘偽りを口にする事はあり得ないだろう。

 

リムルは、そう判断し、次にトレイニーの方を見た。

 

 

「じゃあ、事の顛末をよく知るトレイニーさんお願い。アティスはこんな感じだし」

「心得ておりますよ。リムル様。……では」

 

 

笑顔で受け答えしたトレイニーだったが、フォビオを見る時の彼女の目は真剣そのもの。憎悪こそはもう無い様だが、カリュブディス復活に関しては思う所が幾つもある。

だからこそ聞かなければならない、とその決意が表情に表れたのだろう。

 

 

「貴方は、何故カリュブディス(彼の大妖)の封印場所を知っていたのですか? あれは勇者から託された我ら樹妖精(ドライアド)しか知らぬ場所。……偶然見つけたとは言わせません」

 

 

勇者が封じる程の大妖だ。

そう易々と封印解除―――が出来る訳もなく、そもそも封印場所も秘匿とされている。

だからこそ、森の管理者である樹妖精(ドライアド)に、勇者は封印場所を託したのだろう。

 

それが知られるとはあってはならない。

トレイニーが迂闊な事をしでかすとは思えない面々も、気になる重要な点の1つだ。

 

 

「………教えられた。仮面を被った、道化……二人組の道化に」

「仮面の道化? それはもしや、こんな仮面でしたか?」

 

 

トレイニーは、仮面と聞いて覚えがあるのか、地面に仮面の絵を描いた。

簡易的ではあるが、特徴をとらえている仮面。片目を閉じ、口を開け、笑っている様な面。

 

だが、フォビオは首を横に振る。

 

 

「……いや、オレの前に表れたのは涙目の仮面の少女と怒った仮面の太った男だった」

「! まて、怒りの仮面と太った男……だと?」

 

 

「ッ………それって」

「ああ、ベニマルの反応から見ても解る。……集落を襲ったオーク。それを率いていたヤツなんだろ。仮面の魔人、か。複数いるっぽいが、一体何人居るんだ?」

 

 

今の所判明しているのは、既に死んでいるゲルミュッドに加えて、怒った仮面と泣き顔の仮面、更にトレイニーが地面に描いた仮面。……少なくとも3人以上は居る。

 

 

 

「怒りの面の太った男……私は覚えがあります」

 

 

 

ここで声を上げるのはゲルト。

彼もまた、仮面の魔人に踊らされた種族の1人。後が無い状態だったとはいえ、敬愛する偉大なる王を失う切っ掛けとなってしまった相手だ。忘れる筈も無い。

 

 

「ゲルミュッドの使者を名乗る上位魔人がその様な仮面をつけていました。名を【フットマン】。中庸なんとかという組織の者だとか」

「……中庸道化連だ。奴らはなんでも屋と言っていた」

「ああ、それだ。……なんでも屋、か」

 

 

アコギな商売ではないのだろう。

間違いない。直に接し、齎した災いを鑑みれば。弱肉強食の理とはまた違う裏で蠢く存在。

不快感しかない。

 

 

そして、次に声を上げるのはガビル。

 

 

 

「そのトレイニー様の図柄……見覚えがありますぞ。ゲルミュッドからの使者で、ラプラスと名乗った道化が……」

「ラプラス? ……そうですか、ラプラスと言うのですね。あの魔人」

 

 

トレイニーもよく覚えている。

森を知り尽くし、何が起きているか、何を起こそうとしているのかを察知し、森を侵すその不届き者に罰を与える為に、相まみえたのがこの仮面の魔人だった。

至近距離からの風の上位精霊の攻撃を躱して見せた手練れでもあるから。

 

 

「フットマンね。その名、覚えておくとしよう」

 

 

ベニマルも静かで、穏やかとさえ思える装いだが、その内には静かだが、確かに燃えるものがあった。故郷を踏み躙った元凶。それは、オークではない。……かの魔人なのだから。

 

 

「むむ、んーー」

「? どうしました? ミリムさん。あ、そろそろ、大丈夫なので離してくれても……」

「む? 話ならいつでもしてやるぞ! 何せ、アティスとワタシの仲だからな! 親友(マブダチ)に加えてヒカジイだ! だから、とってもお気に入りなのだっ!」

「い、いや、()じゃなくて、離し(・・)……」

 

 

と、解放を願うアティスはさて置き。

考え込んでいたミリムは、どうやら結論が出た様で、ぽんっ! とアティスの身体をひと叩きすると。(結構な衝撃)

 

 

「むむむ、やっぱり知らないのだ。そもそも豚頭帝(オークロード)計画を指揮ッていたのは、ゲルミュッドだが、中庸道化連などと言う連中……覚えが無いのだ!」

 

 

忘れっぽいミリムではある、が。面白そうな話題に関してはその都度ではない。都合が良い事、面白い事は基本覚えているのがミリムだから。

 

そして、その面白い……面白そうな中庸道化連の話を聞いて、ちょっぴり憤慨する。

ぼでっ、と倒れ込み、アティスをぽんぽんお手玉しながらぼやいた。

 

 

「そんな面白そうなヤツ等が居るなら、会ってみたかったのだ! まったく、ゲルミュッドのヤツめ……」

「まーまー、アティスが居る時点で、大分面白いんだろ? ミリムにとって」

「む? それはそうなのだが、別腹! と言うヤツなのだ! アティスも道化の奴らも、皆纏めて遊びたいのだ! 勿論、リムルもだぞ!」

「―――リムルさ~ん、ご指名なので、交代致しますよ~~?」

「いや、まだまだ話がまとまってないから、そのままで」

「……ずるいっ」

 

 

されるがままに、アティスはそのままお手玉遊びに付き合う事になった。

精神面のダメージが回復しきってない事もあるので……、何とかこの間に回復を。

 

ミリムの相手は大変だが、あの超必殺爆撃魔法? の直撃に比べたら、何のその。世界の真理が見えるも同義なのである(現実逃避)。

 

 

ぽーん、ぽーん、と2度3度と真上に上げた後に。

 

 

「そうだ! クレイマンのヤツだ! アイツが何か企んでいたのかもしれないぞ!」

「クレイマン? 誰だそれ」

「…………ひょっとして、ミリムさん以外の魔王~……だったりします?」

「おおお! よくわかったな。そうだ。魔王の1人なのだ!」

 

 

リムルよりも早くに気付いたアティス。

当然ながら嫌な予感がビンビンに感じられたからだ。名前~と言うより、中庸道化連とかいう、ジュラの森全体を騒動の渦中に巻き込み、魔王級でもあるカリュブディスを操り……、ここまでしでかした黒幕っぽい雰囲気。

 

魔王しかいない。

それがアティスの解答。外れて欲しかったんだけど……残念ながら正解、である。

 

 

「(マザー……、クレイマンって魔王の事調べたり出来る?)」

【解。隠蔽魔法等で厳重に情報統制をしており、現在、この場所での情報収集は不可】

「……だよね。なんせ、まおーだもんね」

 

 

色々対策をマザーと一緒に立てておきたかったんだが……、それも無理と悟って、出たとこ勝負と言ういつも通りな綱渡りとなるだろう事を覚悟した。

 

 

「……皆護る、って言っちゃってるもん。頑張らないと……」

【解。カリュブディスとの戦闘、加えて天災(カタストロフ)魔王ミリム・ナーヴァの一撃を受けた事による、経験。それらを力に変え、糧とする事に成功しております。とりわけ、ミリム・ナーヴァの一撃が膨大な魔素(エネルギー)だった為、全て、と言う訳にはいきませんが】

「おお……、経験値up! ってヤツかな。……うん。後はオレ次第かぁ」

 

 

能力アップしたとしても、魔素量の上限が解放、絶対値を押し上げる事が出来たとしても、最終的にはそれらを操る自分次第、となってくる。

 

 

「頑張らないと……っ!」

「ほい、頑張るのは大いに結構! ミリムから漸く離れる事が出来たの忘れるくらい、集中してんのは解るし、期待もしたいが、取り合えず今日はもうお開きだぞ。身体休めとけよ、アティス」

 

 

いつの間にか、リムルが人型になり、アティスの傍に来て肩に抱えた。

褒められたものじゃないが、皆の為に、皆を守る為に、孤軍奮闘していた男を労う為にも、今回はシオンの持ち運び? を辞退して、アティスをリムルが抱える事になったのだ。

ミリムは渋っていたが、少し話があるから~~と説明して、何とか納得してくれた。

勿論、オヤツで釣ったのは言うまでもない。

 

 

「んじゃ、皆も同じだ。お疲れさん。しっかり身体を休めてくれ」

 

 

そういうと、皆が空に向かって己の武器を放り投げて歓声を上げる。

まだまだ、終わってないのは解るが、一先ずカリュブディスの脅威を退ける事が出来たのだ。

勝鬨を盛大に上げた。

 

 

「じゃ、フォビオ。お前も気を付けて帰れよ?」

 

 

終わり、と言わんばかりにフォビオに元いた国、獣王国(ユーラザニア)に戻る様に促した―――が、ぎょっと目を丸めて驚いた。

 

 

「っは!?? ちょっとまて、オレは許されないだろう!!」

「駄目です。自分自身を許せないのかもしれませんが、それこそ許しません! オレは許しません! 許されないとか、許しません! 罰とか求めないで下さい! 折角の平和なんですっ!」

 

 

リムルに抱かれたアティスが、フォビオの眼前にまでメタルスライムボディを伸ばして、目の前で×! をする。

 

どうにも血生臭い感じがする。

獣の王国は血気盛んな激情家が多そうだ。指一本、腕一本堕とせ! とか言いそう。

そんなのは嫌だ。

 

 

「無罪だとはオレも思ってないがミリムを除けば、今回の戦で一番の功労者で、テンペスト(ウチ)のNo.2がこんな調子なんだ。素直に受け取ってくれ。そもそも、フォビオは真犯人に利用されてただけみたいだし、コイツが頑張ってくれて、人的被害は殆ど無い。ミリムのスゲー一撃貰って、精神ゴリゴリ削られて、メチャクチャにされただけだ。だいじょびだいじょび」

「………思い出させないでくださいよっ!」

「わっはっはっは! 手加減攻撃とは言え、流石はアティスなのだっ! 次は全力で放ってみたいぞ!」

「ヤメテクダサイ! タスケテクダサイ!!」

 

 

ニカッ! とVサインを送ってくれるミリム。

彼女も彼女である程度のパワー放出した事もあってか、大分スッキリした様子だ。

だから、裁かせろ! なんて事言いそうに無いだろう。

 

 

 

「あーもう……。……ん? アレ??」

 

 

アティスは、ミリムの全力発言で、思わず光粒子を周囲にばら撒いてしまった。

そのおかげ? もあって、今の今まで気付けなかった者が近づいてきている事に気付く事が出来たのである。

 

 

「ほぉ。オレを察知したのか。やるじゃねーか」

「当然なのだ! アティスはワタシの親友(マブダチ)なのだぞ。当然、カリオンの事も気付いていたに決まっているぞ!」

「ふはははは。やはり、ミリムも気付いていたのだな」

 

「「え? え?」」

 

 

凄い認定してくれたが、生憎偶然。

完全に置いてけぼりにされた瞬間だった……が、直ぐに状況は察した。

 

 

「よう。そいつを殺さず、助けてくれた上に、許してくれた事、礼を言うぜ」

 

 

いつの間にか、接近されていた。

十大魔王の一柱。

 

 

「カリオン……様」

 

 

獣王国(ユーラザニア)を統べる魔王カリオン。

 

 

「……あんたが魔王カリオンか。わざわざ出向いてくれるとはな」

 

 

リムルも気付く事は出来なかった。

大賢者に索敵をやらせていた訳では無かったとはいえ、ここまで接近されて、アティスは気付いて自分は気付けなかった事に対して、不満が残るが今は置いておこう。

 

人型になった状態で、両腕でガッチリ抱えていたアティスを片腕、脇に移動。

アティスも、リムルが身体を移動させたタイミングを狙って、人型へと戻った。

 

するり、と腕から解放されて、2人はカリオンに向き直す。

 

 

「オレはリムル=テンペスト。この森の魔物たちで作った魔国連邦(テンペスト)の盟主だ。それで、コイツはオレの兄弟分」

「アティス=テンペストです」

 

 

アティスはぺこりっ、と頭を下げた。

魔王と聞いて、身体が固まってしまっていたが、どうやら物騒な事にはならないだろう、と判断して、出来る限り丁重な姿勢で応じた。

王たる風格は、リムルだけで十分だから。

 

 

「2匹のスライム……か。方やG.O.D()の力を継いでるとくれば、もう国の1つや2つ、興した所で疑いの余地は無い。………おまけに豚頭帝(オークロード)をも喰らった。中々に愉快なスライムたちが生まれたもんだ」

「GODに関しては、ハッキリ言って又聞きつーか、専門外つーか。兎も角、豚頭帝(オークロード)に関してはオレが喰った。……お前達の企みを潰してしまった事にも繋がるんだろうな。だけど、アレが悪かったとは思ってない」

 

 

リムルは、ハッキリとカリオンを見据えて答えた。

アティスも同じくだ。

あの豚頭帝(オークロード)……いや、魔王ゲルドを放っておけば、被害は甚大だった。森の全てが喰らいつくされたと言っても不思議じゃない未曽有の事態だ。

仮に、それが何かの企みの1つだったのだとしても……、後悔の類は一遍たりとも無い。

 

 

「ふっ―――」

 

 

そんな2人の姿勢を見たカリオンは、堪えきれなくなった、と言わんばかりに大口開けて笑い始めた。

 

 

「ふははははははは! 面白いな! オレも気になってたっちゃ、そーなんだが、ミリムが気に入る理由も解るってもんだ!」

 

 

 

豪快に一頻り笑った後、フォビオの方を見た。

 

 

「改めて謝罪しよう。……悪かったな。オレの部下が暴走しちまったようだ。部下の失態だ。オレの監督不行届でもある。お前らは許すと言っているが、こっちの気が納まらない」

 

 

カリオンはそういうと、親指を自身に向けながら、告げる。

 

 

「今回の件、借り1つにしておく。もし、何かあればオレ様を頼ってくれて良い」

「!! ほ、ほんとですかっ!?」

「おいコラ。前のめりになんな。嬉しいのは解ったから、ちっとは落ち着け」

 

 

カリオンの提案に目を輝かせるアティス。

魔王1人、また1人……と、このまま友好の懸け橋を―――と考えてしまったからだ。

 

ただ、No2としての、箔と言うものは必要だろうから、ちょっとくらい自重して貰いたい。

 

 

リムルはアティスの頭を抑えると、改めてカリオンを見た。

 

 

「それなら、オレ達との不可侵協定を結んでくれると嬉しいんだが……」

「えっ!? 友好条約、とかじゃないんですかっ!?」

「いきなり国同士仲良くしよう♪ なんて綺麗事そう簡単に出来る訳ないだろっ! 千里の道も一歩って事で、ちょい落ち着いて待ってろっての」

「………あい」

 

 

リムルに一喝されてアティスは下がった。

 

 

「ぷはっ! お前さん、そんな形であのカリュブディスと戦ったってのか? つかみどころがねぇヤツだな。……益々気に入ったぜ」

「ぅ……」

 

 

カリオンの値踏みをする様な目は、何処となくドワーフ王(トラウマその①)に似てる感じがして、アティスは更に一歩下がった。

 

 

「ふっ。まぁ、最初の不可侵に関しては全く問題ない。獅子王(ビーストマスター)カリオンの名にかけて誓ってやる。獣王国(ユーラザニア)魔国連邦(テンペスト)に牙を剥かん、とな」

「(流石魔王だな。器のデカさが半端ない。……この分じゃ、そう遠くない内に、友好条約ってのも出来そ――――)」

 

 

とリムルが思っていたその時だ。

まるで爆発? でも起きたかの様な轟音と衝撃波、立ち込める砂埃と襤褸雑巾の様になった―――フォビオ?

 

 

「殴った……。体育会系?」

「容赦、なしですよ……全く……」

 

 

痙攣して血塗れになってるフォビオを見て……、彼も罰を望んでいたから、ある意味有難かったのかもしれないが、素直にそうは思えない。

 

 

「ったく、しょうがねぇな。おら、帰んぞ。……そんでもって、アティス。いらん気遣いは寄せ。コイツにとっちゃ、苦痛よりもっと痛ぇ」

「!」

 

 

あまりにも痛ましい姿だったので、それとなく回復を~~と思っていたアティスだったが、カリオンに察知されて、事前に制された。

部下だからこそ、想っているからこそ、わかるのだろう。

 

アティスは、直ぐに回復魔法を引っ込めた。

 

 

 

「じゃあ後日、使者を送る。なに、今度は礼を守らせるさ。―――また会おう、リムル。アティス」

 

 

 

 

こうして、一大決戦の幕をとじる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テンペスト側の勝利。カリュブディスの消滅―――それは新たな火種を生む結果にも繋がる。

 

 

 

 

 

 

「――――守備はどうだったのかしら」

「ええ。上手くいったようですよ。カリュブディスはミリムによって倒されました。……これで、貴女の心配事も消えたでしょう? 天空女王(スカイクイーン)フレイ」

「………そうね」

 

 

魔王同士の密談。

ミリムが抜け、カリオンが抜け……、それでもまだこの2人が残っている。

 

 

「それで、私は貴方に何を支払えば良いのかしら」

「特には」

「……そう」

 

 

魔王フレイの事よりも、最重要で、要注意な人物がこの男―――クレイマン。

何等かの企みがある事は解っているが、フレイは此度のカリュブディスの件、世話になったのは事実。

天空を統べる女王とは言え、あのカリュブディスは天敵と言って良い相手だからだ。

 

 

「何が目的?」

 

 

だが、だからと言って隙を見せ続ける訳にはいかない。

クレイマンもその辺りは解っている様だ。

 

 

「そんなに警戒しないで下さい。何も企んではいませんよ」

「企んでるひとは皆、そう言うものよ」

 

 

腹の探り合い、化かし合い。

そう言った裏工作はクレイマンの十八番。真っ向からでも、牽制しておくに越したことは無い。

 

フレイの言葉を聞くと、クレイマンは朗らかに笑っていった。

 

 

「そうですね。……では、今度何かひとつだけお願いを聞いてください」

「今度? 今ではなくて?」

「ええ。……例えば、魔王会議(ワルプルギス)の時にでも」

「――――いいわよ。私に出来る範囲ならね」

 

 

これ以上探りを入れても無駄。

お願いとやらを聞くその時に、判明するのだろう。

 

フレイはゆっくりと立ち上がり、離れていく。

 

 

「今回の件、助かったわ。さようならクレイマン」

 

 

最低限の感謝の意を伝えると同時に、この部屋から消え去った。

 

 

「……お気になさらず。貸しは必ず返してもらいますから」

 

 

ワインを口に運び、その味を堪能する。

堪能しながら―――脳裏に思い描くのは、今後のシナリオ。

 

 

「光……、成る程成る程。まさか、かの様な存在が。……それを手中に収める事が出来るなら、一泡どころか、直ぐにでも消滅させる事も可能でしょう」

 

 

ワインを掲げ、血の様に赤いそのワインの色を楽しむ。

この色で、染まって貰わなければならない相手が居るのだ。

 

 

 

 

「く、くく、くくくくく………」

 

 

 

 

必ず、必ずやり遂げる。

 

 

 

 

「――――待っているがいい。……魔王レオン」

 

 

 

 



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35話 忘れてない

 

「いやなぁ、アティスの旦那なら大丈夫なんじゃねぇか? 傷1つ負わなかったんだろ?」

「いやいや、これだけはぜーーーったい譲れませんよ! それに目に見えない傷ってのは存在するんですっ! ね~リムルさん?」

 

 

今日は完成間近の装備を見にドワーフ&オーガの工房へと足を運んでいる。

いい加減、ミリムが御馳走を前にして我慢できない~~と言った表情になってきてるので、それを落ち着かせるという意味合いでもあり、なるべく早く仕上げてもらう為に、最後の仕上げ(仕掛け)を施す為に、リムルとアティスの2人は訪れている。

 

 

「まぁ、あれだな。被害がアティスだけだってなっちゃうと、別に――――」

「えええ!!?」

 

 

今回の件に関してはリムルも間違いなく同意するモノだと確信していたアティス……だったが、まさかの返答に驚愕を通り越してしまった。だけど、取り合えず心配も杞憂となる。

 

 

「んでも、やっぱミリム(アイツ)は加減知らずだ。リスク管理ってヤツは徹底しないとだしなぁ。ほら、他にも及ぶ危険性を考慮しなきゃだろ?」

「ヒドイっっ!! 他ってなんですか! 俺の危険もしっかり考慮してくださいよっ!」

「いや、だって。アティスってば、ミリムとジャレてたのもそーだけど、カリュブディスやらメガロドンやらと耐久勝負出来てた挙句に、あのデカいミリムの必殺技(ドラゴ・バスター)喰らっても大丈夫だったお前の力量や硬度、この国随一の力ってのを考えてだなぁ……」

「ヤメテください!! 思い出させないでくださいっ!!」

 

 

ミリムがカリュブディスを吹き飛ばした必殺技に関しては、もう誰もが目に焼き付いて離れない。それほどの衝撃を持った事だろう。

そんな一撃を巻き込まれた形で、ミリム自身がカリュブディスのコアとされたフォビオを殺さない様に加減していたとはいえ、五体満足で生還を果たしているのだからある意味ではリムルの感性が正解だ。

 

ただ、あのトラウマはアティスにしか解らないのも事実。

そして、何より――――

 

 

「そもそもリムルさん、悩んでないですよね!? 目が笑ってます! いつかのイヤらしい笑みです!!」

「ははは、バレたか。冗談冗談」

「言って良い冗談と悪い冗談があるんですーーー!! ミリムさんのアレ、大変なんですからねっ! 無傷な訳ないじゃないですかーーー!」

 

 

アティスは、ヒト型に戻ってリムルの身体をポカポカと叩き始めた。

リムルはスライム状態のままで、そのポカポカを受け止めつつ……何だか遊んでいる。

この様子はたまに見かけるので、慣れてる者達からすれば、和むのでありがたいイベントの1つになってしまっているのだ。

 

当の本人は物凄く、ものすごーーーく真剣なのだが。

 

 

「わかったわかった。と言うか、マジで冗談だって。俺だって他人事じゃねーし―――ってな訳で、『減速』と『脱力』の効果を刻んだ魔鋼を忍ばせて~~~っと、ほい完成!」

「よかった……」

 

 

最強の魔王が一角、ミリムに対してどこまで通用するか……いや、端から通用するとは思っていない。何せ大賢者(先生)聖母(マリア)も断言してたから。ミリムにそういったデバフ的な能力・効力は通用しない―――と。

 

でも、何もしないよりはマシだという事で……

 

 

そんな時、まるで見計らったかの様に乱暴に勢いよく工房の扉が開いた。

笑顔のまま、飛び込んでくるのはミリム。ワクワクしている様子は宛ら少女と言うより少年の様な面持ちだ。

 

 

「できたのかっ!?」

 

 

ちゃんと注意した通り、扉を壊さない様にしてくれてる。

リムルやアティスは勿論の事、シュナもミリムに頼んでいるので、どうやら効果はあった様だ。……扉の寿命的なのは幾らか縮まったかもしれないが、即破壊に比べたら何ら問題ない。

 

 

「約束してたミリム専用の武器……ドラゴンナックルだ」

「おお~~~~~~っっ!!」

「カイジンさんやクロベエさん達、それにリムルさんも加わった力作ですよ。凄い一品ですっ」

「うおおお~~~~~~っっ!!」

 

 

ミリムは頬擦りして目を輝かせていた。

物凄く喜んでくれていて、ここまで喜んでくれたらこちらも嬉しくなる、と言うものだ。

 

 

「むむ、アティスは何もしてくれてないのか? ……マブダチなのに?」

「えっ?」

 

 

目を輝かせていた―――が、少々しょんぼり? した様な様子も突然現れた。

リムルやカイジン・クロベエたち、皆の名前が出てるのにアティスの名が出てない事に対する不満が有った様子。

何より、アティスは身体そのものが鍛冶にピッタリ? でドワルゴンの王国からも国王直々にスカウトが来る程の天才肌(笑)。

 

 

「えっと、ほら。俺はこれから仕上げをするんですよっ? すんごいのが出来ますよっ!」

「おおおっっ!! ほんとかっ!??」

「は、はい!」

 

 

可哀想だ、と言う事と後で大変そうだ、と言う気持ちが合わさって慌ててアティスはそう言い、リムルは耳打ちをしてきた。

 

 

「(おい、俺聞いてないけどだいじょーぶなんだな? てきとーな事言ったり、軽はずみな事いったり、じゃないんだな?)」

「(は、はい。多分……。自信満々って訳じゃないですが……、何せ今回は自分の発言から、ですし。ちゃんと後でフォローはしますよ……)」

 

 

アティスは、そういうと身体を光らせた。

光粒子がゆらゆらと空中を揺蕩い―――ミリムのドラゴンナックル周囲に瞬く。

そして、仕掛けておいた魔鋼に取り込まれる様に―――消えていった。

 

 

「あの、ミリムさんは元々が最強で、何も効かない! とは解っているんですが……、一応、光おじいちゃん……、ひかじいの光を武器に込めました。日に1回だけ、1度のみの完全防御。物理・魔法・精神……etc あらゆる攻撃を無効化出来ます」

「うおおおおお~~~~~~!!」

 

 

また、ミリムは目を輝かせた。

すると、ヒト型になってるアティスに腕を回して、リムルも抱き寄せて。

 

 

「嬉しい! 嬉しいぞ!! 私が最強だとか、関係なく、凄く嬉しいぞっっ!!」

「むぎゅっっ、よ、よろこんでいただけて、光栄で――――」

「良かったな」

 

 

 

以下・大賢者・聖母を使った思念会話。

 

 

『お前ってほんっと器用と言うかなんというか…………って、おいおいおいおい、器用ってレベルのデキじゃねーよな? 無茶苦茶凄い能力じゃね? 今の。大賢者も思わず黙ったぞ』

『……はぃ。聖母(マザー)から出来る、って聞いた時物凄くそう思いました……。伝説級の武具に備え付けてるクラスのモノ、だそうで。……でも、代償に俺、物凄く疲れちゃいます。自分の一部削って与えてるみたいなモノ、らしくて。名付けの数十倍のきつさだとか……』

『うへぇ……。想像しただけでヤバい……。でもまぁ、ミリムも喜んでくれてるみたいだし、後の責任取ったって意味じゃ、よくやったな、って言っておくわ。流石、我が弟よ! 今後も、テンペストを頼むぞ!』

『………嬉しい事極まれり~~~ですが、名付けの何十倍ですからね? 乱用できませんからね??』

『ぴゅ~~~~』

『聞いてくださいよっっ!! 弟殺す気ですか!?』

 

 

楽しそうな脳内会話? が続く。

 

そんな2人を、まるでお茶でも酌み交わしながら見ているかの様に―――直ぐ傍にはそれぞれの相方がいた。

 

 

『『はぁ………』』

 

 

それは呆れてるではない。半分は入ってるかもしれないが、それでもあのカリュブディス騒動が終わり、平和な日常に在る意味安堵しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、あのカリュブディスの1件から数日たって、ここ魔国連邦(テンペスト)はすっかり平和になった。

戦いを見届けていたフューズたち冒険者はブルムンド王国に帰還。友好関係を結べるように、国王はじめ貴族らを説得してくれるらしい。

 

 

『なぁに、ヤツらの弱みを握っているのでね。どうとでもしてみせますよ。……と言うか、全力で媚び売る所存だよ。脅迫してでも』

 

 

説得、と言うよりハッキリと脅迫と言い切った所を見ると……色々と思う所があるが、安心感・説得力が凄い。

 

それと駆けつけてくれた兄弟子が治めるドワーフ王国。後日改めて今回の件を報告する事になっていた。……なっていた(・・)、である。

 

気付かない内に何やらガゼル王から正式な招待状を貰ったのだ。

 

 

『よし。ウチで言う国賓待遇にされて然るべきヤツはアティスだな。うんうん、適材適所』

『………ぼく、1人じゃガゼル王に、あの顔に抗うのムリですぅ……、気づかない内に、ドワーフ王国に取り込まれて―――』

『あーーー、それ却下。わかったわかった』

 

 

と言う訳で、後日。王であるリムル、No.2であるアティスは揃って向かう事に。国賓待遇されるので、物凄くビビっているのは秘密だが、互いに支え合ってるも同然なので、ある程度は緩和された。

 

 

続いて獣王国(ユーラザニア)からは、カリオンの言葉を携えて、元凶、とまでは言えないし、言うつもりも無いが、ある種切っ掛けでもあったフォビオがやってきた。

なんでも、使者に志願したらしい。

物腰が非常に柔らかく慇懃で最初とまったく違う。

因みに、頭を下げる際 リムルよりもアティスの方が角度にして2.5度ほど深く、時間にして2.3秒ほど長く下げていたそうな。(測定者:大賢者&聖母)

 

 

つまり、これらから解る通り、成り行き、行き当たりばったり感満載だった魔国連邦(テンペスト)も、「国」らしくなってきたとの事。これからは政治的な駆け引きなんかも必要となるのだろう。

 

 

『大変ですねぇ……』

『メチャクチャに働いて貰うからそのつもりで。サボんなよ』

『……サボれませんて。そんな事したらもっと大変になるのが目に見えて分かるので』

 

 

 

 

駆け引きがあるとはいえ、基本的には平和なのは事実。

気を引き締めよ、勝って兜の緒を締めよ。

隙を見せない様にする。

この魔物が当たり前の様に跋扈し、色々な所で争いが絶えない世界なら当然だ。

 

 

だから、しっかりと日々の戦闘訓練は欠かせない。

 

 

「リムルさん、ファイトですっ!」

「おー、いい加減変わってやるよ」

「わっはっはっは! 変わる必要などあるまい? 2人まとめて相手してやるのだっ!!」

「え……………」

 

 

そして、訓練の質は間違いなく世界中探してもそうは見つからない程良いと言える。いや、何処よりも上と言っても良い。

何せ、最強の魔王がここで暮らしているのだから。

 

 

「にっ」

「あ……」

「ひぇ……」

 

 

 

命からがら。

命がけ。

 

訓練とはどこの国でも……、どの世界でも………命の危険性は付きまとうモノ、だろう。

2人がかりで攻めても攻めても、ちょっと攻勢を強めただけ(の様に見える)のミリムに一蹴されてしまう。

超高密度のエネルギー波をぶっ放されたら、即座にKO。

 

 

「―――――――――」

「……ぐへぇ……、お、おら……きぃ、うしなって、んじゃ、ねーぞ」

 

「にひっ。2人ともなかなかよくなってきているぞ! ワタシ以外の魔王ならば2人ならば間違いなく倒せるだろう! だから、2人ともが魔王になれ! ワタシは反対しないのだ」

「……いや、ならないって。そもそも、魔()が2人いちゃメンドウだろ?」

「メンドウ、か? それ以上に面白くなると思うから、問題ないのだっ! と言う訳でもう一度なのだ!」

「いや、休憩な? ほら、シュナが弁当作ってくれたし」

「なにっ!? なら休憩なのだ!! アティス、こっち来るのだ!」

「………………」

 

 

 

と言う訳で、地獄の特訓が済めば、シュナの美味しい美味しいお弁当タイム。

至福の時。

アティスもどうにか復活を果たして同じく美味しいお弁当タイム。

 

 

「むむ、やはりアティスは良いな。良い匂いがするのだ」

「え……、俺、臭ってます? ねぇ、マザー……」

『解。ヒトの五感、魔力感知、それら含めたとしても感知不能』

「すんすん。……臭うか? 風呂入ってくるか?」

「ええぇ……、なんか嫌です。後で直ぐ入ります」

 

 

匂う発言で色々と身嗜み、エチケットに気を付ける様にしたのか、アティスはミリムの腕の中からすり抜けて、ヒト型に戻った。丁度、ミリムとリムルの間に座って、己の嗅覚で確認をしようとする……が、メタリックな感じの臭いもしなければ、汗臭い……みたいな臭いも無い。自分では感じられないだけ、と言う事も考えられるんだけど、己のスキルやリムルの言葉もあるから、安心……したい。

 

 

でも、指摘しているのがミリムだ。

竜目(ミリムアイ)竜耳(ミリムイヤー)の様に、竜鼻(ミリムノーズ)の様な到底凡人ではたどりつけない意気にまで感知する超常的な力があるのかもしれない。

 

 

「わっはっは! 解らないのも無理ないのだ! ヒカジイと長く遊んだワタシだからこそ、その片鱗を、アティスから感じ取れているだけだからな。如何なる技、スキルを用いた所で、ワタシの様に感じる、とまではいくまい。―――だからこそ、嬉しいのだ。アティスに敢えて。……勿論、リムルもだぞ?」

「あ、あはは……光栄ですよ」

「へいへい。ん? そういや、ミリムは何で魔王になったんだ? そのヒカジイ……、光の神と何か関係が?」

「ん?」

 

 

以前からミリムに関する事、気になっていた事をリムルは聞いた。

最古参の魔王、最強の魔王、くらいしか情報が無いミリム。友人となったからには、マブダチとなったからには……色々と聞いてみたくもなる。

 

 

「んーーーそうだな……。なんでだろ? 何か嫌なことがあって……、まぐまぐ、んぐんぐ」

 

 

ミリムはサンドイッチを頬張りながら暫く考え込んで……。

 

 

「ムシャクシャして?」

「え、小首傾げるって事は俺たちに聞いてる?」

「歴史が短すぎる。解る訳ないだろ。聞くなよ」

「む~~~、よく解らん。思いだせん! 忘れたのだ!!」

「そっか」

「……そう、ですね」

 

 

気になるのは事実。

でも、無暗矢鱈にその歴史を、その深淵を覗こうとも思えない。

 

何せ、魔王なのだ。その過去がどんなモノだったのかなんて……、良い話だとは思えない。

ミリムのムシャクシャして、と言う言葉が真実なのであれば、魔王化する程のナニカが、彼女の身に起こったという事。

 

 

それは、決して楽しい思い出だとは思えないから。

 

 

「あ、ミリムさんは、家族とかはいないんですか? ヒカジイ以外に」

「お、それは俺も気になってた。なんせずっとここにいるから、心配してるんじゃないか? って」

 

 

話題を変えて現在の話に。

流石にそれを忘れている、なんて事は無いだろうから。

 

 

「ワタシの世話をする者達はいるぞ。でも、あの者どもは心配などしておらぬのだ。ワタシはサイキョーなので、心配すら恐れ多いと思われているのだぞ」

「……なるほど、祀られてる、崇められてる、って事なら解りますね」

「むむ! 解らなくて良いんだぞアティス! いきなりあの者達の様に振舞ったら、ゲンコツなのだ!!」

「ヒェッッ!? わ、わかりましたっっ!!?」

 

 

慌ててミリムはアティスを抱きかかえる。

ヒト型に戻っていたアティスだったが、直ぐにスライム状に変化。そしてあまりにビックリしてしまったので勢い余って液状化までして、はぐれメタルとなった。

 

 

「いや、ビビり過ぎだろ。……俺だってわかるよ。トモダチじゃないもんな? そんな関係」

「おう! その通りなのだ。リムルは解っているのだ!」

 

 

ミリムはアティスを纏い、そしてリムルを抱きかかえた。

 

 

 

「マブダチはお前達だけなのだ!」

「ですね。そうですね。よろしくお願いします」

「……そうだな。これからもよろしくな、ミリム。2人揃って迷惑かけるかもだが」

「勿論なのだ! 全然かまわないのだ!」

 

 

 

 

そして、この数日後だった。

ミリムが仕事に行くといい、この国から姿を消したのは――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロケットの様に空を飛び、あっという間に見えなくなったミリムの軌跡を目で追いながら―――呟く。

 

 

「やっぱり心配、ですね」

「ああ。アイツは戦闘分野オンリーにスキルポイント振り分けてっから、誰かに騙されたり~とかは普通にありそうだからなぁ。体よく利用されるとか。……一先ず、マブダチになっといて良かったって事か。騙されたとしても、いきなり俺たちに攻撃してくるなんて無いだろ。精神系の攻撃にもべらぼうに強いし」

「その辺は心配してませんよ」

「お? そりゃ意外だったな。てっきり、ミリムのあのドラゴバスター!! 想像して震えるかと思った」

「…………そりゃ、怖いですけど、ミリムさんを、トモダチを信じてますから」

「だな」

 

 

リムルはアティスに全面同意――と言わんばかりに笑って踵を返す。

まだ、しなければならない事が多いからだ。

 

 

 

そんな時……だった。

 

夢か現か、幻か……。

 

 

 

大木の切株に1人の女性の姿が視えた。

その姿は儚く、悲しく、虚空に視線を向けていた。

 

もう一度、はっきりとリムルがその姿を見ようとしたその時、一陣の風が吹く。

一瞬、ほんの一瞬視線を外した後……もうその姿はどこにもなかった。

 

 

「ああ……、わかってるよ。忘れてたわけじゃない」

「???」

 

 

アティスはリムルの独り言? が聞こえて傍に向かうと。

 

 

「じゃあ、こっからは手分けして工事の様子でも視察に行っとくか?」

「あ、はい了解です」

 

 

はい、と元気よく頷くアティスの頭を、無意識にリムルは撫でた。

そして、いつもからは考えられない程優しく

 

 

「わぷっ!? ど、どーしたんですか」

 

 

何故か優しくなったリムルに、アティスは目を白黒させるのだった。

 

 

 

 



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36話 泡沫の夢

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


 

 

 

「はぁ……。さっきまで格好つけてた癖に、何ボロボロ泣いてるのよ」

「ぅぅぅ、い、痛い。すごく、いたい……」

「痛いの嫌なら、なんで割り込んできたの?」

「だ、だって! 男の子は、女の子を守るものだっ! って、アニメで言ってたもんっ!」

 

 

 

これは―――この光景は………?

 

どこか温かくて、それでいてとても懐かしくて、心が洗われる。そんな感覚がする。

 

 

幼き男児は夢を描いている。

絡まれていた数人の男児たちに立ちふさがり……そして今に至る。

 

格好いい自分になりたくて、懸命に困っている女の子(自分より歳上)を守ろうとしたのだ。

 

そんな子を見て、女の子は呆れた様に頭をかき、叩かれてベソ掻き、倒れこんだ時に擦りむいたのであろう膝を抱えている何ともみっともないヒーローに手を差し伸べた。

 

どっちがヒロインで、どっちがヒーローなのか、ぱっと見では解らない。

 

 

「ほら。ばんそうこうよ」

「うぅ……、あ、ありがとう、お姉ちゃん……」

「まったく。次からは自分の出来る事がちゃんとわかった上で行動しなさいよ? 私なんかより、あなたの方がよっぽど心配だわ」

 

 

土埃を払い、滲んだ血を拭い、大事ない事を確認すると立ち上がる。

 

 

「っ~~、ぼ、ぼくは頑張るもん! つぎも、おねちゃんまもってみせるもんっ!」

「…………」

 

 

無鉄砲でどこまでも純粋で真っすぐなその瞳を見て思わず表情を綻ばせた。

何故だろうか? つい今し方まで呆れてモノも言えない気分だった筈なのに、今は思わず笑ってしまう。

 

 

「……なら、私を守れるくらい強くなってみせること、ね? さっきだって、あの連中は大人が周囲にいたから逃げて行ったのよ? もし、私たちだけだったら一体どうなってたか……。またやってきたり」

「ぅ………」

 

 

恐怖がきっと男の子の中では芽生えている事だろう。

今の痛いのが続いていたかもしれない。もっともっと痛くなるかもしれない。

 

それでも、この情けない小さなヒーローは、目に涙を浮かべながらもギュっ、と拳を握って、服の裾を握って言い切った。

 

 

「ぼく、負けないもんっ! つよくなって、もっとつよくなって、おねえちゃんまもってみせるっ!」

「……そう」

 

 

守られる、と言うのは何だか性に合わないと苦笑いをするが、それでもどこか心地良い。

 

この小さなヒーローが何処まで大きくなるのか、見てみたい気分になってきた。

 

 

「あなたのお名前は?」

 

 

だからこそ、知りたくなった。

次があるのなら、……いや、当然無い方が良いに決まっているが、もしも次があると言うのなら、この何処までも真っすぐで、純粋で、情けないながらも強い光を備えている様な瞳を持つ男児は、きっと大きくなっている筈。

 

それを見てみたい気分になったのだ。

 

 

 

「りゅー! おねえちゃんは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、不意にアティスの意識が覚醒する。

 

 

 

「――――……何だろう。物凄い懐かしい夢を見てた気がする……」

 

 

夢を見る。

魔物の身に転生して以来、夢を見る事なんて初めてだった。

 

レム睡眠? 睡眠が浅いと夢を見るらしいが、この世界にきてスリープモード以外の睡眠は物凄く深いと自覚してるから夢を見る隙間や隙は無かった。

 

スキルの練習や自身の仕事関係。物凄く疲れる事が多いからいつもグッスリ、気づけば翌朝~なのが通常だったから。

 

 

「おはよう! ……お? 良い具合に緊張解けてる様だな」

「あ、リムルさん。おはようございます」

 

 

ゆっくりと身体を起こして、スライムから人型に変身したその時、リムルが入ってきた。

何やら空を飛びながら。

 

 

「あれ? 羽なしで飛んでる……?」

「おうよ! ついさっき、暴風大妖怪(カリュブディス)のスキルの解析が済んでな。これぞ重力操作! 魔力妨害スキル持ちの癖に、空飛べてた理由はここにあるんだろうな。あれは、自分自身にも影響が及ぶっぽいからさ」

 

 

魔力妨害。

 

それには随分苦労をさせられたのをアティスも覚えている。

あのせいで、魔法の類が通らず霧散してしまって、純粋な攻撃、所謂物理な攻撃しか効果が無い。

物理攻撃と魔法……魔素を扱った攻撃とではどっちが強いかなんて当然魔法の方だ。それを妨害された上に、超速再生持ちだから生半可な攻撃じゃ簡単に再生されてしまうと来てる。

 

思い出せば出す程、もうトラウマ級になっちゃってるあの戦闘を思い出してしまうので(9割方ミリムのせい)頭をぶんぶん振って、アティスは考えるのをやめた。

 

 

「物真似」

「あ、ずっこい」

 

 

そして反射的に、自分の物真似(スキル)を使ってリムルの重力操作をコピー。

 

 

「んな事しなくても、聖母の力使えば余裕じゃないのか? あんだけ傍でやり合ってたんだし」

「えっと、その……ほら、こっちの方が楽、ですし? 物真似(コピー)した後、聖母(マザー)の試行錯誤で昇華させていく~って感じです」

「……やっぱし、ズルいわ。それ」

 

 

呆れる様にため息を吐くリムル。

リムルの捕食者も十分狡い領域に入る規格外な力なのだが、最近はやっぱりアティスの方が上だとリムル自身も思っちゃってる。

勿論、アティスは絶対認めないが。

 

 

「どんなにズルだったとしても、皆を守る為ですから!! ………力がないと、もっともっと強くなって、皆を……おねえちゃん(・・・・・)を守れる様に……」

「は? お姉ちゃん? なんだそれ? 誰の事だ?」

「……え? オレ、何か言いました?」

「お姉ちゃん守るって言ってたぞ。シオンの事か?」

「……あ。……えと、その、……昔の、話。前の世界(・・・・)の話で……。聞かなかった事にしてくれたら……」

「…………まぁ、別に良いけど」

 

 

先ほどまで見ていた夢のせいだろう。

この国の為に頑張る気持ちに嘘偽りないが、それでもあの夢を見てしまったから、ついつい無意識に口に出してしまっていた様だ。

 

リムルも、アティスの前世の話に関しては、深く追及したりはしない。

そもそも、自分自身の事もあまり言いたくないし、聞かれたくない事も多い、と言う事でもあるので(生涯童●……生涯彼女なし……etc)

 

 

 

その後、無事にコピーしたアティスも、リムルに習って光粒子化せず、重力操作だけで宙に浮く練習をして………何度も何度もバランス崩してスっ転んでリムルに笑われるのだった。

 

 

 

「ぅぅ……むずかしい……、直ぐ習得してそこまで使いこなせてるリムルさんの方がズルいじゃないですかぁ……」

「はっはっは! これが兄の実力なのです!」

「御見それいたしました~ですよ。でも、いつの日か、ミリムさんの様に大空を駆け回ってみたいですね」

「あーーー、あの域まではなかなか、なぁ?」

 

 

兄とは常に弟よりも先に行ってなければならない―――。某兄弟の兄のセリフが何故かリムルの中で木霊して、実際に先に進めている様なので気分を良くしている。

アティスのスキルの性質上、仕方がないと言えばそうなのだが、その辺りの細かい事は気にしない。

 

 

「ふふふ」

 

 

そんな時だ。

新たな来訪者……シュナがやってきたのは。

 

空を飛ぶ練習風景もばっちり見られていた様で。つまり、スっ転んだシーンも見られてしまっていた様で、恥ずかしそうに赤くなるのはアティスだ。

 

 

「シュナ。時間か?」

「はい、もう兄もリグル殿も既に準備は完了しています。威厳のあるお姿をみせてくださいませ」

「しゅ、シュナさん。抱きかかえなくて大丈夫ですよ。痛くないですから」

 

 

倒れこんだアティスを胸に抱きかかえるシュナ。

誰がどう見ても威厳あるとは言えない姿だろう。せめてリムルが纏う形になれば、光を纏う魔物の国の主、と格好もつくだろうが……格好悪い所を見せてしまったのは自業自得ともいえる。

 

 

 

『解。修練推奨』

「……了解です」

「その前に使節団の見送りが先だ。激励してやらないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、本日からなのだ。

 

魔王カリオンからの提案の件。

魔国連邦(テンペスト)獣王国(ユーラザニア)は違いに使節団を派遣する事になって、その任命したメンバーが現地に赴く、ここから出発する日が。

 

 

幹部候補のホブゴブリンら数名、それを取りまとめる役目のリグル。

更に団長としてベニマルを加えた布陣を見送る日。

 

 

まだまだ国としては赤子も同然なこの国が、より大きく、平和で、楽しい国になる為の大きな一歩。

獣王国(ユーラザニア)とも良好な関係を築く。

 

だからこそ――――

 

 

 

 

「諸君。ぜひとも頑張ってきてくれたまえ!」

 

 

 

リムルからの激励が何よりの励みになる――――のだが。一瞬で終わってしまった。

今か今かと皆が楽しみにしていたリムルからの演説が、瞬きする間に終わってしまった事に対して、現場はし――――ん………となってしまった。

 

 

「(い、いくら何でも短すぎますよ!? 社内朝礼でのちょっとした時間で話す特記事項や報告会議でももうちょっと長いですよ!?)」

「え? そう??」

「……あれ? リムルさんってオレより歳上じゃぁ……」

 

 

それなりに上になっているのであれば、その手の役割はになっているモノだと思っていたアティス。勿論、本当の本気な訳はないが……。

 

 

「……それだけ、ですか?」

「っ!?」

 

 

シュナにまで指摘されちゃったので。

 

 

「(やっぱダメか)」

「(ダメでしょ)」

「(かわってやるぞ?)」

「(領主様はリムルさんです! リムルさんじゃなきゃ、カッコつかないです!)」

「(……はいはい)」

 

 

こほんっ、とリムルは咳払い。

そして、見計らった様にアティスがリムルの周囲を光粒子で輝かせた。

 

それを見た民衆は目を輝かせ、そしてどよめきの声を上げる。

当然、これだけで終わらないよ~~、演出だよ~~~と主張する様に。

 

 

「……もう少しだけ、話そうか」

 

 

後光さすリムルの姿は、やはり王者のそれだ。

或いは神か。

 

でも、(それ)に関してはリムルは辞退済みだったりもするが。

 

 

 

「いいかお前ら。今回は相手と今後も付き合っていけるのかを見極めると言う目的もある。我慢しながらじゃないと付き合えそうもないのなら、そんな関係はいらん」

 

 

どちらが上で、どちらが下。

そんな感じに我慢を強いられる様な関係性は友好的とは、良好とはとても言えないから。

 

 

「お前たちの後ろにはオレは勿論、仲間たち、そして何より今オレを包んでくれる光の神の加護までついている。だから恐れず自分たちの意思はきっちり伝えてこい。友誼を結べる相手か否か、その目で確かめてほしい。――――頼んだぞ」

 

 

そして、場は大喝采に包まれた。

 

リムルに纏われていた光粒子が、軈て風に乗りながら―――ベニマルとリグルに到達。

 

 

「大変だと思うけど、よろしくお願いしますね。2人とも」

「! ハッ!! お任せください!」

 

 

リムルから、光の神~~とまで言われちゃったので、いつも以上に緊張気味で敬礼するリグル。

そして、ベニマルはそこまで遜ること無く、ただただ笑顔で頷き。

 

 

「お任せください。リムル様より授かりし大役を果たす為、そしてアティス様のお望みのままに、……カリオンが信用に足る者かどうか、この目で見極めてきます」

 

 

力強い返事を貰って、アティスも笑顔で返す。……勿論、光粒子化してるので、表情は見えないが、色々と通じ合ってる所はあるので、何となくわかってくれている事だろう。

 

 

「ああ。お前たちの事は何も心配してないよ。頼んだ」

「は。お任せください」

「ハッ! 見聞を広めてまいります!」

 

 

皆に見送られながら、ベニマルはテンペストを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~~~、やっぱアティスの旦那は心臓に悪いぜ。何処にいても天から見られてる気分になっちまう」

「や、ほんとたまたまですよ? ヨウムさんが格好良く親子を助けてる場面みちゃって。手助けする必要ない、って思ったら何だか嬉しくなっちゃいました。曲がりなりにもオレも訓練手伝いましたからね。きっと、ハクロウさんも喜びますよ」

「ぅ……。ハクロウ(師匠)に見られてたら、喜ぶ前に、まだまだ精進が~って説教コースだよ………」

「そうですかね?」

 

 

皆を見送り、カリオン達獣王国からの使節団来訪に備えて色々と整理整頓正装清潔躾―――所謂5Sに精を出していた時、森を守護する立場もあるアティスが光粒子で見回りをしていた時に、ヨウムと出会ったのだ。

 

森のバケモノ相手に、親子を狙う魔物相手に一瞬で間合いを詰めて、格好よく助けていて、その姿はまさしく英雄の二文字が似合う出来だった、とアティスは太鼓判を出す。

 

 

「こっちとしてもヨウムの活躍は喜ばしい事でもあるな。今後とも仲良くやってきたいものだよ」

「いやぁ……、そちらさんの方が圧倒的だから。こっちのセリフ、ってヤツですぜ、リムルの旦那。それよか、街見た感じ以前より明らかに忙しそうだし、変なタイミングで来ちまったの気にしてんだけど」

「いやいや、その辺は良いよ。アティスだって別に何も言ってなかっただろ? 寧ろ折角来てくれたんだ。皆の接客の練習相手になってくれるとありがたい」

 

 

本当に大変だったなら、入国前にアティスはリムルに進言するし、或いは待ったをかけるだろう。でも、そんな事は無くあっさりとテンペストに迎え入れているのだから本当に問題ないのだろう、とヨウムも解っている。

でも少し気になるのは……。

 

 

「ん? そういやアティスの旦那も言ってたっけ? そろそろお客が~って。最初にきいときゃよかったけど、誰がくんの?」

「ああ。もうじき魔王カリオンとこから使節団が来るんだよ。ウチからも出してるから、入れ替わりに、って感じだな」

「テンペストの歴史の1ページに乗るヤツですよね。これって!」

「………………」

 

 

リムルの言葉を聞いて……、その内容を理解するのにコンマ数秒ではあるが時間を要した。

そして、理解すると同時につい先ほど頂いた……何なら風呂上りの一杯、と口に含んでいたテンペスト名物珈琲牛乳が一気にヨウムの口から噴射された。

 

 

「アティスガード」

「ぎゃぴっっっ!!??」

 

 

ヨウムの反応を予知していたリムルはと言うと、ヨウムから視線を外していたアティスを利用して、まさに鉄壁の盾でその攻撃? を止めた。

 

 

「なな、なにすんですか!!」

「ご、ごほっっ、ごほっっっ!! す、すまねぇアティスのだんな……」

「いや、ヨウムさんもですけど、リムルさん!! ヒドイじゃないですか!」

「……いや、何となくノリで? みたいな」

 

 

盛大に抗議するアティスを置いといて……ヨウムは身を乗り出した。

 

 

「こうなんのも、魔王の名を聞いちまったら、仕方ないでしょ!? アティスの旦那なら解ってくれるって信じてるぜ!!」

「あ……、ま、まぁそうですね」

 

 

ビビりだからこそ、魔王の名を聞いたら第一声が、第一行動がどうなるのか。アティスにも解る……と言う事で不問にした。後でフロに入りなおさなければならないが。

 

 

「やっぱ優しいな、お前は」

「リムルさんは猛省してください! それと、ヨウムさんには直ぐ説明しますから―――」

 

 

 

アティスは国交樹立のチャンスの件をヨウムに説明。

 

「ドワーフ王国に続いて獣王国とは……、そりゃアティスの旦那は目ぇ輝かせますね。見た通り」

「平和へのでかい一歩だしな」

「そのとーりです!」

 

 

むんっ、と胸を張るアティス。

その姿を見てヨウムは思わず笑ってしまう。

 

色んな雄姿を見せて、聞いて、なんなら最凶最強魔王ミリムの攻撃を耐え抜くアティスだと言うのに、その精神性が何処となく気の弱い人間に非常に近いのが面白いのだ。

 

大きな力を持っているのに、それを他人へと向けない。何かを守る為に、その力を使おうとする光は優しい。

ヨウムはそう思う。

 

それでも不安材料はあるが。

 

 

「魔王の配下ってこたぁ、さぞかしおっかねぇ相手なんじゃね?」

「ぅ………」

 

 

その不安はアティスにも当てはまる。

 

 

「今更ビビる事ってある?」

「や、でも。ほら……ドワーフ王の件もありますし……」

 

 

力云々は関係ない。

心の奥底にあるトラウマは、例えスキルを用いたとしても拭うのは難しいのを重々承知しているから。でも、リムルはそれを一蹴。

 

 

「そこは克服しろ。そもそも、喧嘩する訳じゃあるまいし、隙を見せるのは容認できないぞ」

「っ。が、頑張りますよ」

 

 

口には出しているが、アティスだっていつまでもしり込みする訳にはいかない、と理解は出来ている。そして、なんだかんだリムルは十全に信頼を寄せているから口では何といっても、気にしていなかったりもした。

 

 

 

 

 

「あ、ヤバくなったら光って誤魔化すってのもありじゃないか? アティスの旦那なら余裕だろ?」

「……威嚇になりませんかね?」

「だいじょーぶだろ。その辺はリムルの旦那がフォローするって」

「あー、その辺はオレが兄貴だからな。尻は拭ってやるよ」

 

 

 

 

もう一度、リムルは思った。

 

アティスなら大丈夫。

信じている、と。



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37話 三獣士

数日後———。

 

 

「………来たか」

 

 

無数の影。

そして獣人独特の覇気に似た威圧感(オーラ)

影の数こそは少ないが、少数でここまでの威圧感(オーラ)を出せる者など限られてくるだろう。それに時間もピッタリだ。

 

 

「……虎が、馬車牽いてる……つまり、虎車?」

「って感じだな。野盗除けみたいなのにもなってそうだ。虎に襲い掛かるヤツなんて早々居ないだろうし」

「………カリオンさんのトコを攻める~自体無いデショ」

「それもそうか」

 

 

口に出している様に感じるが、実は脳内会議。

リムルはシオンが、アティスはシュナが抱きかかえているので、やり取りに関しては大賢者と聖母を接続(コネクト)すれば造作もない事だ。

ついでに、互いを召喚し合う事も可能なのでユニークスキル

 

《リムル召喚》

《アティス召喚》

 

をそれぞれが取得した、と言う事になりそうだ。

そう言った世界の声の類は来ていないが。

 

 

そうこうしている内に、虎車が止まりその扉が開いた。

 

 

「お初にお目に掛かります。ジュラの大森林の盟主様」

 

 

それは優雅な所作。

一挙一動、一言一句が気品に満ち溢れている、と言うのがこの僅かな間でもしっかり解った。

そして、その容姿も端麗である事が。

 

 

「私はカリオン様の三獣士が1人、黄蛇角(オウダカク)のアルビスといいます」

 

 

先に名乗ったという事で、こちらも名乗り返さなければならないだろう。

シオンが一歩前に出て、やや遅れてシュナも前に出る。

一見、ただの色違いなスライムに見えるが、この2人こそがこのジュラ大森林に頂点に位置するモノ達で――――。

 

 

「はッ!!」

 

 

と、リムル&アティスを紹介しようとしたのに、鼻で笑われてしまった。

 

 

「弱小なるスライムが盟主だと? バカにしてんのか!?」

 

 

そして、優雅さなどは微塵も無い、ただただ粗暴で怒気が野性味があふれんばかりの者が扉を蹴破り出てきた。

まるで虎の様な眼光を周囲に向け、威圧する。

 

 

「その上、矮小で小賢しく、卑怯な人間どもとつるむなど、魔物の風上にも置けねぇな」

「控えなさいスフィア。カリオン様の顔に泥を塗るつもりですか?」

「うるさいぞアルビス。オレに命令するな」

 

 

直情的で好戦的、そしてそれらを前面に出せるだけの力も兼ね備えているのだろう事が、その風貌からも解る―――が、だからと言って怖気ずく訳もない。

 

 

「……ずいぶんな物言いだな。この人間(ヨウム)はオレ達の友人で、同じ師についた弟弟子でもあるんだが」

「お、おいリムルの旦那。何言って――――」

 

 

ヨウムがリムルを止めようとしたが、そこをアティスがヨウムにだけに見える様に器用に身体を変体化させて《×》の字を作って見せた。

 

 

「あ? だからどうしたってんだ?」

 

 

スフィアは何ら関係ない、と言わんばかりに腕を組んで、更にヨウムを睨みつける。

一触即発!? な空気に見えるが実はそうではない。

 

「よしよし。ビビッてないし、解ってる様だな?」

「幾らなんでも大丈夫ですよ。……オレだって、あのサメとか、何よりミリムさんのヤツ、受けたり見たりしてんですよ? もう早々動じたりしません。………ドワーフ王みたいなのを除けば」

「盛大なフリかましたな~、って思ってたのに、ちゃっかり予防線張ってんじゃないよ、この子は」

 

 

と、再び頭の中で雑談。

 

アティスはアティスで、争いごとを好まないのは当然。とっても臆病なのもある意味治っていないのだが、日に日に成長して行ってるのも事実。その成長速度はこの町の誰よりも早い、と聖母や大賢者、リムルからのお墨付きである。――――元が低過ぎた~、と言うのはご愛敬。

 

兎に角、相手の出方が分かった今、次にやる事は決まっている。

 

 

「なぁ、ヨウム。ちょっと実力を見せてやったらどうだ? ヤバくなりそうだったらいつもの(・・・・)付けてやるから」

「はぁっ!??」

 

 

ちらり、とヨウムの方を見て提案するリムルに思わず目を見開くヨウム。

 

 

「い、いやいや、平和的にいくんじゃなかったのかよ!? 平和大好き! って言ってたじゃんかよ!」

「平和っつっても、無抵抗主義者な訳ないし。そもそも平和は勝ち取らなきゃ駄目なもんって事でもあるだろ?」

「だいじょうぶ! 守りは万全ですっ!!」

「とまぁ、そういうことだ。基本は平和主義。でも、向こうから仕掛けてくるなら話は別。そう心配すんな。―――――あぁ、でも情けないトコ(・・・・・・)師匠の前で見せたら大変かもなぁ?」

「ひでぇ!!」

 

 

リムルのいう情けないトコ(・・・・・・)が一体なんなのか……言われるまでも無い。

アティスが一緒に居てくれてる時点で、守りは万全どころの話ではなく、死なないと断言できる程堅牢強固な守りの加護だ。

でも、だからと言ってソレに頼ってばかりいると、背後で気配を消しつつ、凍てつく様な殺気を向けている師匠、ハクロウが黙ってはいないだろう。

トンデモナイ脅迫もあったもんだ、とヨウムは頭を一掻きすると――――腹を括った。

 

 

「ほう? やるか人間」

 

 

そんな心情もまるで読み切った、と言わんばかりに、スフィアが舌なめずりをしてヨウムを品定めている。

その煽り? に反応するのは英雄ヨウムの一団(笑) な面々たち。

 

 

「頭ぁ! やっちゃってくださいよ!!」

「お願いしますよヨウムさん!!」

「やっちまえぇぇ!」

 

 

自分でやる訳じゃないのに、ただ煽られた憂さ晴らしを頭に丸投げかよ、と折角覚悟決まったのに

、拗れてしまいそうになるヨウムだったが、一度牙を抜きかけた心情を引っ込めるわけにはいかない。

 

 

「しょうがねぇなぁ。……ちゃんと骨は拾ってくれよ」

「勿論!」

「任せとけ……え?」

 

 

ここで想定外な出来事が起こる。

リムルを抱きかかえていたシオンが、何故か傍らに居たソウエイ(分身体?)に手渡したのだ。

どういう事? と言う疑問を問いただすまでも無く、シオンが更に前へ一歩前進し。

 

 

「黙って聞いていれば、リムル様とアティス様に対する暴言の数々。我慢に我慢を重ねて居ましたが、どうやらその必要は無かったようですね!」

 

 

ふんっ! と鼻息荒くし、手に入る力も漲り、あっと言う間に秘書から武士の顔にチェンジし―――臨戦態勢バッチリになってしまった。

 

 

「え? ええ?? あれ??」

「ちょ、ちょっとシオンさん?」

 

 

やや遅れてアティスが、そして一番前に出ていたヨウムがシオンに手を伸ばそうとするが、気にも留める事なく、そのままスフィアの前へと躍り出た。

己の武器である剛力丸をザクッ! と地面に突き刺し、無手のまま勝負をする! と言った姿勢を取った。

何処となく、剛力丸が哀愁を漂わせている様に見えたのは気のせいだろうか……。

 

 

「ああ、面白い。面白いね。スライム共の配下がどの程度のものか、このオレ直々に確かめてくれる!!」

 

 

目をカッ! と見開き、その瞳が縦に鋭くとがった瞬間、スフィアの姿は掻き消えた。

目にも止まらぬ速度で跳躍し、まるで宙を蹴ったかの様に虚空を跳ね、一足飛び足でシオンを捕らえる。

シオンもそれに反応し、受けて立つ構え。獣人と鬼人の戦闘が火蓋を切った。

 

 

あっという間に、周囲を荒れ果てさせる2人の戦闘。

折角整備の行き届いた街道だというのに、また直さなければならないなぁ、と頭を抱える思いだ。

 

 

「――――はぁ。まったく。しょうがありませんね。スフィアは」

 

 

アルビスは、しょうがない、の一言だけで済ませてる様だ。気品で優雅で雅な彼女でも……やっぱり好戦的な種族の血は持ち合わせているのだろう。本当の意味で止める様子は見えない。……無論、止める必要も無いのもあるが。

 

 

「では、替わりにアナタがあの人間の相手をなさい。グルーシス」

「え?」

 

 

相手を取られて、振り上げた剣は何処へ? となっていたヨウム。

でも、大丈夫。その相手はちゃんといますよ、といらぬ気遣いをみせてくれたアルビスは、1人の従者に指示を出した。

 

 

「オレですか……。人間の相手ね。まぁ、別に良いか」

 

 

流石は獣人。弱者は誰一人としていないと言わんばかりに、面倒くさそうな顔をしているが、その戦意は高い。

懐からナイフを取り出すと、ヨウムを手招きした。

 

 

「おら。遊んでやるよ人間」

「―――おう。よろしく」

 

 

魔物と人間は元々生まれ持ったその力量に大きな差がある。

故に人間は知恵を振り絞り、武具を作り、鍛錬し、そして団結し、その種族の差を埋めようとしている。

ヨウムのそれも同じ。

素の実力であれば、恐らくグルーシスの方が上だろうが、今日まで鍛え上げてきた全てを以て戦えば―――。

 

 

「なっ!」

「おっとっ!!?」

 

 

獣人の顔色も変えられる程の攻撃を出す事が出来る。

たかが人間、遊んでやると格下に見ていた獣人の鼻を明かす事が出来る。

 

 

ヨウムの大剣、グルーシスの二振りの短刀。

小回りを活かした獣人の速度を活かし、ヒット&アウェイでヨウムに斬りこむが、その悉くを防ぐ。時には渾身の一撃を見舞う。

直撃すればヤバい、と顔を歪ませ、口端を吊り上がらせるだけのヨウムの力量に、グルーシスは思わず笑ってしまいそうになったが、その笑みは一瞬で消え去った。

それは、100%の集中力を発揮し挑んだヨウムにも言える。

 

 

「「(なんだ、この急激な魔素の高まりは………!!?)」」

 

 

嵐の前の静けさ。

目の前の戦う相手さえ忘れさせてしまう様な巨大な力が突如発生したのを察知したのだ。

 

勿論、その根源はお隣で暴れていた2人。

正しくは、その内の1人———シオン。

 

 

「鬼人の真の力————見せてあげましょう」

 

 

三獣士を名乗るだけあり、スフィアの力量も非常に高い。

ベニマルと同格か、それ以上の魔素を内に秘めていたフォビオと同格と考えれば、シオンとて本気の本気にならなければならないだろう。

 

 

「だ、駄目ですよ! シオンさん! この辺りが吹き飛んじゃいますよ!!?」

「あ~~、駄目だ。アレ全然聞こえてない。戦いを楽しむ者の顔になっちゃってる」

「何悠長にそんな事言ってるんですか!?」

「大丈夫だろ? ウチには頼りになる守護神が居るんだ。……だろ?」

「ぅ………」

 

 

期待してるからな? とばちんっ、とウインクされるアティス。

全部おっかぶせる、全部丸投げ~と言った感じではない。ただただ純粋にアティスの力を力量を信じてこの魔国連邦(テンペスト)を守護する光の小さな神である、とリムルは思っているのだ。……まぁ、2~3割くらいは丸投げ楽~~って思ってる様な気もしなくないが。

 

 

『解。個体名リムル=テンペストの心情より算出。5割程度と推察』

「もうっ、別に要らないよ! そういうの!! ……了解です。オレが何とかするから」

 

 

アティスは両手を翳して見せた目に見えないまだ光を発してない、日光に遮られてる無数の粒子がシオンとスフィアの周囲に向かう。

 

 

「ふふふふ。受け止められますか?」

「……ああ、勿論だ。勿論だとも」

 

 

そして戦いを楽しむ2人は本当に楽しそうに嬉しそうに続けていた。

 

 

「さぁ、本能を解き放て鬼人よ! このオレをもっと楽しま――「それまで」――――!!」

 

 

そんなスフィアの暴走? を止めたのはアティスでもなければリムルでもなく、勿論シオンでもない。

大蛇の半獣の姿を見せたアルビスその人だった。

いつの間にか、シオンとスフィアの間に入り、己の武器を双方に向けて制した。

 

 

「もう、十分です。この辺りに致しましょう」

「……ちぇっ。いいトコだったのに」

 

 

その言動の意図が解らない、と言わんばかりに驚きの表情を見せるのはヨウム。

スフィアも、最初はアレほど命令するな、と牙向きだしだったのにも関わらず、大人しく身をひいていた。

 

そしてヨウムの相手のグルーシスも気づいたら武器を収めて距離を取っていた。

 

 

「え? え? こりゃ一体。って、おい? お前も終わんのか??」

 

 

混乱してるヨウムに対し、リムルが声をかけた。

 

 

「剣をおろせヨウム」

「だ、旦那?」

 

 

続いて、アルビスの方を見た。

 

 

「それで、オレ達は合格(・・)なのか?」

「ええ。堪能させていただきましたわ」

 

 

笑顔でそう答えるとアルビスは一歩後ろに下がる。

先ほどまで戦っていたスフィアが前に出た。

 

状況についていけてないのはヨウム。

 

 

「ごうかく、って合格って事か?? えっと、それってつまり―――」

 

 

一言一句、この場で発せられた言葉を1つ1つ頭に入れ直し、漸く意図を感づいた所で。

 

 

「ああ、どうやらオレ達は試されていたらしいな。誇り高く、勇猛果敢な獣王が治める国の使節団だ。これくらい荒っぽくても何ら問題ないだろう」

 

 

スフィアはゆっくりと頷くと拳を上に振り上げた。

そして控えてる使節団の面子、配下たちに命じる。

 

 

 

「見たかオマエラ! 彼らは強く、度胸もある。我らが友諠を結ぶにふさわしい相手だ! 彼らとその友人を軽んじる事は、カリオン様に対する不敬と思え! わかったな!!」

【ははッッ!!】

 

 

 

力こそが全て―――とまではいかないが、己の高め続けてきた力に誇りを持っているからこそ、多少荒っぽくなろうとも、友諠を結ぶ相手の力量を肌で感じてみたくなった、としても何ら不思議じゃないだろう。

流石にカリオン直々にソレをやってくるとは思わないが………、兎にも角にも合格したのは喜ばしい。

 

 

「スフィア様の言われる通りだ。獣人とこれだけやり合える人間は滅多にいない」

「! ……嬉しいね」

 

 

グルーシスから手を差し出され、固く握手を交わす。

ヨウムと彼らも間接的にではあるが良い信頼関係を気付けていければ更に平和への一助となる筈だ……と、穏やかな表情で見ていたアティスだったが。

 

 

「ほれ、大丈夫だったろ? 実はな、そろそろ向こうが止めてくれるだろうなぁ~~って思ってたからこそ、大丈夫だって言った訳でもあってだな~?」

 

 

うんちく垂れる様にリムルがアティスに言うが……、アティスの胸中は穏やかとは言えない。

 

 

「お言葉ですがリムルさん? やっぱり駄目そうですよ?」

「へ?」

 

 

何を言っている、綺麗にまとまったではないか。と言いたかったのだが、そのアティスが言ってる意味は直ぐに理解できたので、何も言わなかった。

 

 

「ど、どうしましょう。コレ。こ、この魔力弾……」

 

 

急激に高まった魔素は周囲の魔素をも取り込み、更にデカく、強く成り果てていた。

それはいつ爆発してもおかしくない特大球の爆弾の様な代物。

 

 

「と、取り合えず落ち着け。そっとだ。そっとそれを上に向けて、威力を空に逃がしてだな……」

 

 

スフィア自身も、受けてみたい! と意気揚々だったが、元々の目的が達成した訳であり、そもそもあれだけ高まった爆弾(モノ)が暴発したともなれば、折角結んだ友諠に亀裂が入りかねなくなり、更に言えば自分の責任問題にもなりかねない……と、冷や汗をかいてしまう。

 

そそくさ、とその場から離れようとしているアルビスを見ても、やっぱりカリオンから罰せられる可能性があるのは嫌な様だ。

 

 

「シオンさん、落ち着いて落ち着いて。ほら、それを消したり~~は?」

「で、出来ません! といいますか、もう留める気力が限界で……」

「なにーーー!!」

 

 

消せないし、限界とすれば上に盛大に打ち上げ花火の様に放つわけにもいかない、と言う事か。

 

 

「まったく、しょうがねぇなシオンは。……と言う訳で、見せ場残してくれたって事でサクッと頼むわ」

「了解しました」

 

 

シュナの腕の中にいたアティスは、ヒト型になった。

それはリムルと瓜二つで、髪の色が違うだけの風貌。

初めて見る者も多少居たので少々騒めいたが、シオンの特大魔力弾を前に、そんなのは些細な問題。

 

 

「シオンさん、大丈夫ですよ落ち着いて」

「でで、ですが―――!!!」

「大丈夫です。……皆を護る。そう言ったのは決して嘘じゃない、って所。見せさせてください」

「!」

 

 

それは嘗て皆の前で誓った言葉。

あの時は、生き残ったオークたちに込められたモノだと思っていたが、その守護の範囲はこのジュラ大森林全て。

盟主であるリムルも認める誰よりも優しく力強い守護の力。

 

 

「ん――――――」

 

 

アティスは両手を広げた。

すると、周囲で既に控えていた粒子が瞬く間に輝きを放ち、周囲を光で染める。

真っ白のそれは、あの魔力弾の色を優しく包み込み……軈て消失した。

 

 

 

「これで、どうでしょう?」

「うむ、上出来。流石は我が弟!」

 

 

 

リムルもヒト型に戻って盛大に親指をおっ立てた。

 

ジュラの森に、かの光の神が降臨したという話は噂の範疇だが聞いている。

そして、その噂は尾ひれをついて回っていた。

その光の神の加護が、とある魔物に宿ったのだと。

神々しい力を前に、笑顔を向ける。

驚く事は不思議と無かった。驚く必要が無い、となぜか本能的に感じたからだ。

 

 

この優しい光は味方であり、皆を護ってくれるという安心感がある、とこの場に居る誰もに感じさせたのだから。

 

 

 

 

「流石、ですね。カリオン様のお認めし方々。古より伝わりし光の御業———ご堪能でき光栄極まります。貴方がたの国と縁が出来たことに、心より感謝を―――――」

「こちらこそ」

「末永くよろしくお願いしますね。アルビスさん、スフィアさん」

 

 

「「ようこそ、魔国連邦(テンペスト)へ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその後の夜———。

今日と言う日にも備えて新築した迎賓館で歓迎の宴を催した。

それで解った事がある。

 

 

 

「んく、んく―――――ああぁ……幸せ……♡」

 

 

 

獣人の皆さんは酒豪揃い、酒好きだらけだ、と言う事。

アルビスなんか最初は優雅に嗜む様にタンブラーを傾けていたのだが……、ある程度酒が入ってくると、量を求める様になっちゃって。

 

 

「わぁ……、リアルで樽飲み、ってあるんですね。初めてみました……」

「悠長に言ってる場合かよ。そもそも誰だ? 樽ごと渡したのは………スフィアさんも、そろそろ止めた方が……って、ええ―――!?」

 

 

ちらり、と反対側を見てみると、こちら側も本性を隠さなくなった様で、完全な獣化。まんま虎の姿となったスフィアがいた。

 

 

「変身解く~~って結構秘密だった~って設定があると思うんですが」

「設定言うな。っと、それよかこの姿他人に見せて良いもんなのか?」

「ええ。特段見せてはいけないものではないのですが……、聊かお恥ずかしい限りですな。油断し過ぎで」

 

 

従者の1人、モロ西遊記に出てきそうな孫●空っぽい猿人が頭を下げていた。

1人だけ酒が飲めない幹事役~の様な立ち位置を見て何だか親近感を覚えたり、可哀想だと思っちゃうのは昔ながらの性か。

 

 

「えへへ。気にしてませんよ。だってそれだけ心を許してくれてるって事でしょう? 何だか嬉しいです」

「まぁ、アティスのいう事も解るな。―――――でもだ。気づけばリンゴのブランデーの空樽が積み重なっていってるのはどーすんだ?」

「…………オレも頑張って働きますよ!」

「お前は、暫く外交面だ。現場作業はちゃんと割り振ってる。逃げるな」

「ぅ………」

 

 

ドワルゴンへ赴く予定もある。

兄弟子であるガゼル王がアティスも来る様に! と超絶指定してるので、友好関係を維持する為にも今後とも外交面をアティスには頑張って貰いたい。

何なら分身体でもOKだ。

 

 

「分身体って言ったって感覚で繋がってるので、嫌ですよぉ……倍疲れる所じゃありません……」

「おや? 口に出てた?」

「でーてーまーしーた! なんなら笑ってましたよ! こーんな感じで!」

「こりゃこりゃ、くちひっぱるにゃ」

 

 

リムルの頬を思いっきり引っ張って見せた。

アティスも引っ張って伸ばしてみたいが……メタルスライム状ではメチャクチャ固いので無理。

そんな時だ。ほろ酔い気分なアルビスがその長い尾を伸ばす。

 

 

「それにしても、アティス殿は素晴らしいですわ~」

「ひゃあっっ!?」

 

 

リムルを引っ張って遊んでたら……大蛇に捕食されてしまうアティスだった。

 

 

 

 

 

 



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38話 つよいおとこのこ

 

 

「どう! どう! さっきの見た!? ぼく、カッコよかったでしょ!? ひな姉!」

「……………はいはい」

 

 

これは夢———泡沫無限。

今とは違う嘗て過ごした世界の……記憶()

 

それはそれは随分と懐かしい記憶()だった。

 

あまりにも心地良い。

ただ何故、なぜ今見るのか、それだけが気がかりではあったが、そう言った感情も、この心地良い夢の前では直ぐに霧散する。

泡の様に消えて、嘗ての世界の………儚くも温かい夢に身も心も委ねる。

 

 

駆け出す姿が見える、満面の笑みで駆け出す。

 

 

「はぁ……、確かに前は3位だったのに徒競走でトップになったじゃない。素直に凄いと思うわ。それに皆も褒めてくれてたでしょ?」

「うんっ! でもやっぱり皆より、ひな姉に一番見てもらいたかった! すごいね、って最初にほめてほしかったから! だからうれしいよ! ねぇねぇぼく、かわれたよね! カッコよくなった! よねっ!?」

「なんでそこまで私に拘るのよ……。私なんかじゃなく、自分の為に頑張れば良いじゃない」

 

 

口に出さなくても解っていた。解り切っていた。

何をそんなにこだわっているのか、その理由は――――よく、解る。よく……知ってる。

 

 

 

「ひな姉のこと、なんか、なんて言わないでよ! だってひな姉だから、なんだから。だって、だってぼくは―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ひな姉を守れるつよいおとこに、なりたいから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獣王国(ユーラザニア)からの使節団、アルビスとスフィアたちは、思う存分テンペストを満悦した後無事に帰国。ただ、彼女達の配下は数名テンペストの首都(リムル)に滞在して色々と技術を学ぶとの事。

リムルが快く了承。これで獣王国との不可侵条約~から友好条約へと変わって、みんなみんな仲良し大作戦! は完遂する訳で――――。

 

 

「おいコラ、いい加減起きろーー」

「ぷげらっ!」

 

 

リムルは、ヒトの姿で深い眠りに入っていたアティスを容赦なくスライム・平手打ち往復で叩き起こした。

変化させた大きな大きなスライムの手は、結構な圧力で顔面に一撃。気付けとしてはこれ以上無いだろう。

 

 

「ててて……、もーヒドイじゃないですかぁ……。もっと優しく起こしてくれたって……」

「わざとらしく痛そうにすんな、それになーにがヒドイ、だ。ドワルゴンに行く日だってのに、幸せそうにグ~スカ寝やがって。あわよくば、このまま寝過ごす気満々だったろ?」

「~~~~~~♪」

「だーかーらーテンプレみたいに口笛拭いて誤魔化すな!」

「あたっ」

 

 

かの王が治める武装国家ドワルゴンへの訪問は以前から決まっていた事だ。

細かな日程も当然決まった。

 

勿論、アティスは日が近づく度にメタルスライムではなく、普通のスライムの様に顔が青に変わりつつあったが、そんなものはお構いなく。

それに、シュナやらシオンやらが日々アティスを代わる代わる構い倒して、余計な事を考えられなくした、と言う面もあったりする。(リムルの指示)

 

 

アティスは異様に疲れてしまったのは言うまでもない。

ドワルゴンに行きたくない、ガゼル王に会いたくない、とか考えるのも面倒だと思える程に。

 

 

「そりゃ、アティスのが悪いだろーよ。だって、あの時、お前アルビスさんにメロメロになっちゃっただろ? そんな場面をシュナとシオン(あの2人)が見てたんだから。俺の指示聞かなくても、あいつらは行動するよ」

「めろめろって何ですか……、ってか、それもう死語じゃないです? リムルさん向こう(・・・)じゃいくつだったんです?」

「喧しいわ! どーせ俺は古い人間だよ!! そもそもこの世界に死語とかねーよ!」

 

 

ヒト型に戻ったリムルは、今度は背をバシバシ叩く。

基本、スキル関係で痛覚とかは殆ど無効、そもそも防御力最強クラスな存在だから、痛いとかは無いんだけれど……何処かで聞いた愛ある攻撃? は成す術なし! が本当だったのか、………アティスは悲鳴を上げる事が多い。その度にリムルが痛いとか無いだろ! とツッコミが入るのが基本パターンとなってる。

 

「いたっ、いたたっっ! すみません、って! ……でも、あの件はちゃんと弁解したのに……」

「確か、【格好良かった】って言われたのが嬉しかっただけだった、ってか? ………いやいや、シュナやシオンに言われて喜んでたのもある程度緩和に繋がったと思うが、幾らなんでも、幼過ぎるだろ。お前こそいくつだったんだよ?」

「ぅぅ…………、や、まぁそうなんですけどぉ……。いえいえ、こっちの世界で生まれてまだ殆ど経ってませんし? 年齢的に言えばまだ一桁前半。ね? 全然おかしくないじゃないですよね?」

「そりゃまぁそこん所は俺だってそう変わらない訳で……、つーか、互いに向こうでの細かな年齢も聞いてなかったか。……今更別に聞くつもりは無いけど」

 

 

プライバシーを侵害するつもりも無いし、最早前世の事を細かく追及するつもりも毛頭ない。同郷が要ると言うだけで十分だったから。

 

 

「兎にも角にも、シオンやシュナに、散々【格好良い】連発されたって訳だ。今現在でも。良かったじゃないか。よっ二枚目」

「ぅ~~~、だ、だからってそんな連呼して欲しかった訳じゃないですから、凄く恥ずかしかったですよ……」

 

 

リムル達と出会って結構時間はたった。その間に凄い! やら、可愛い! やらを連呼される事が多く、アルビスの様に格好良い! と言われる事は無かった。

だからこそ新鮮だった、と言うのも少なからずあるだろう。

アティスの深層意識、人間だった頃の記憶を呼び覚ました結果とも言える。

 

ただ、先ほどにもあった通り、連呼されると有難みが薄れる? と言うもので、少々ゲンナリとしてしまった。

だから、流石にヤメテ~~とシュナ&シオンに頼み込み、アルビスに対して鼻の下を伸ばした(様に見られた)事を強く謝罪する事で受け入れられたのであった。……それがつい先日の事。

 

 

 

「さぁて、いざドワルゴンだ! 皆もう準備整ってるぞ」

「………………ガンバリマス!」

「よっしゃ。行こうか」

 

 

 

アティスも本気で引きこもりになるつもり―――は多分無かったのだろう。目算(大賢者推察)8割程。

なので、気合を1つ入れて移動を開始した。

 

正直、一番最後になってしまった申し訳なさも有ったりする。

もう皆が集っていて、お見送りをしたい面々も揃っていたから。

 

 

 

 

 

「出してくれ。ランガ」

「はッ!!」

 

 

 

 

いざ出陣!

武装国家ドワルゴンへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの~……今更ですが、ドワーフ王の条件に俺が入るのって絶対引き抜きと言うか、王様直々実行犯、拉致監禁目的もあるかもですよね? 全力で守ってくださいよ、リムルさん。ボク、無力デス」

「ほっほ~ぅ。そりゃ、シュナがしっかり守ってくれるんじゃないかな?」

「はい。勿論ですよ。アティス様をドワルゴンへ亡命させる訳には参りません」

「……………えと、自分でガンバリマス…………」

 

 

シュナに、女の子に守ってもらう訳にはいかない。

と言うより、守るべき人達な筈。

 

 

『解———』

「(………言わなくて良いからマザー!!)」

『……………』

 

 

いつも通り、辛辣なコメントを残しそうだった聖母(マザー)を牽制しつつ、アティスは前を向く。

脳裏にあの顔を思い浮かべる。

ドワルゴンの王———ガゼル王の姿を。

 

トラウマを克服する為に………。

 

 

「うん。無理っ!」

「っておい! 情けない事極まれりだぞ!?」

『解。リムル=テンペストと同感です。ユニークスキル大賢者(えいちあるもの)も以下同文とのこと』

「つーん。しらないもーんっ!」

 

 

散々な言われようだ。

でも、リムル達の言い分も尤も。これまでも何度もこの手のやり取りはあった。

 

テンペストNo.2であるアティスの人間側から見た脅威度は厄災級(カラミティ)……否、災禍級(ディザスター)とも言われるモンスターに分類されている。

※本人は超否定。

 

ある意味暴風竜(ヴェルドラ)の子と言って良い大妖《暴風大妖渦(カリュブディス)》の侵攻をたった1人で長時間に渡って防衛し負傷者0をキープ。

更に更に、一発で精神に多大な負荷がかかり、放心してしまったとはいえ、この世界の頂点に分類する天災級(カタストロフ)の魔王ミリムの特大の一撃を喰らって生き延びていると言う事もあり………なのにも関わらずこのザマだ。

 

 

大なり小なり抱えている過去のトラウマ(笑)は、きっとあのミリム級だと言う事なのだろうか。

だからと言って、それを口には絶対にしない。

 

 

……どこで、竜耳(ミリム・イヤー)発動しているか解らないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後少々荒れた道、あの暴風大妖渦(カリュブディス)戦でボロボロになった道を迅速に、丁寧に路面工事をしてくれてるゲルド達に、出発の連絡と慰労を兼ねた寄り道をしつつドワルゴンを目指し、つづがなく進んで出発から4日目。

 

 

 

「………凄い。ずっと見えてたけど、近づいてみたら一段と――――」

 

 

ドワルゴンへは初めて訪れたアティスは、眼前に聳える大山脈に目を見開き、目を輝かせていた。

ここに、あのガゼル王がいると言うのに、それもすっかり忘れている様で冒険を楽しむ少年の様な目をしているのが解る。

リムルも似たような心境だったから猶更。

 

 

 

 

 

「ふはははは! 外交などは、ハッタリが全てなのだぞ。アレでは他国に甘く見られても文句は言えぬなぁ。観光にでも来たつもりか?」

「ぁぅぅ………」

 

 

 

 

ドワルゴンの入り口、関所が開門されて、使者が道すがら案内してくれた。

その間は、シュナがしっかりキッチリ、リムルを、アティスを紹介してくれて…………街並みに目を輝かせていたら、いつの間にかもう王宮内へと来ていたのである。

眼前に、あのトラウマが大笑いをしているんだけれど、アティスはアティスで、今まではしゃぎ過ぎてた事を自覚した様で、違う意味で小さくなってしまっていた。

 

 

 

「どうだ? リムルよ。今後を考え、アティスをウチで修業させる兼大使として暫く滞在させる、と言うのは」

「へぁっ!??」

 

 

バシッ! とアティスの背を叩くガゼル王。

攫うでもなく、拉致監禁でもなく、違う意味で堂々と正面突破をしてくるガゼル王。

酒に酔った訳でもないのに。

 

そんなアティスの前にシュナとシオンが……入れる訳もなく、静かだが確かに威圧をする勢いでガゼル王を見据えていた。

 

 

「はっはっはっは。そりゃ魅力的な提案だが遠慮させてくれ。アティス(こいつ)はこんなんでも、魔国連邦(ウチ)のNo.2だ。いなくなられてしまったら色々と大変でね。下手したら暴動が起きかねない」

「ふはっ。それはそうだろうな。案ずるな言ってみただけだ。……それに、周りの身の固さはよく伺えると言うものでもある」

 

 

ガゼル王は当然シュナとシオンの圧には気付いている。と言うより、それを含めてどことなく楽しんでる様にしか見えない。

一頻り笑った後、ガゼル王は真剣な面持ちで2人を見た。

 

 

「さて、ここからが本題だ。大臣らもおらず、腹の探り合いや迂遠な言い回しは無しといこう。――――単刀直入に聞く。貴様らの国では高出力の魔法兵器を所有している、と言うのは事実か?」

「あ――――――……」

「………プルプル、……プルプルプルプル」

 

 

リムルは納得し、アティスはプルプルと言いながらプルプルと震え出した。

 

 

「何故アティスが震えておる?」

「ぷるぷるぷるぷる……ぷるぷるぷるぷる………」

「いや電話か」

 

 

リムルは取り合えず、アティスの頭をぱしんっ! と叩いた後に説明を始めた。

あの戦———— 一体何があったのか、包み隠さず。ガゼル王が言う様に、腹の探り合いは無しにして。

 

 

「……なにぃ? 魔王ミリムだと?」

「うん。暴風大妖渦(カリュブディス)を葬ったのはアイツの一撃だよ。そんでもって、アティス(こいつ)は、その余波に巻き込まれて、心に多大なダメージを負っただけだ。安心してくれ。ドルフさんは魔法兵器を疑ってたみたいだけど」

「…………………」

 

 

ミリムの一撃の方が、ガゼル王と言うかつての世界でのトラウマを超える様な気がしてならないのは、リムルである。

やっぱり、天災級魔王の一撃をその身で受けた衝撃の程は―――……想定以上なのだろう。

何せ、あの大賢者ですら正確に把握出来ず、最後は光の神GODの御力~だけで乗り切ったくらいだから。……因みに、アティスの聖母(マザー)にもリンクしてみて確認をしてみた所、似たような返事しか帰ってきてなかったりする。

 

 

「確かに、あの日もそう言っておられましたが……、申し訳ないが信じられません。あの場に居たというのですか? 天災級(カタストロフ)の魔王が……」

「いましたよ。……ほら俺の事、抱きかかえてたじゃないですか。ピンク色の髪、ツインテールの」

「おう、漸くお目覚めかアティス。まぁ、ピンとこないのは仕方ないか。あの時ははぐれメタル化(液体みたいに溶けた状態)だったし―――ほれ、アティス変身」

「あいあい」

 

 

どろんっ! っとアティスは変身した。

あの時、心身ともに多大なるダメージを負って、力の芯まで抜けきった状態……。

変身能力を使うのは随分と久しぶりだった。ユニークスキル《物真似》では限界こそはあるものの、外見的な容姿そのものだけに重点を置けば特に問題ない。

ただ、ミリムに見られたら色々と厄介極まる可能性が極めて高いのとリムルの姿で固定する、と言う宣言もあるので、アティスは姿かたちを変えるのはなるべく控えているのだ。

 

 

「ああ! そういえば!!!?」

 

 

あの日、テンペストに来た面々は口々に声を上げる。どうやら、思い出した様だ。

今のアティスのその姿を、魔王ミリムの姿を。

確かに、あの時あの場で、こんな感じの生物? はいた筈だ。そして、それを抱えて笑っていた少女がいた――――と。

 

 

「ある日突然やってきたんだよ。挨拶にきた、とか何とか。そのままの流れで友達になったんだ」

「トモダチです。トモダチ。皆仲良し大作戦です!! ……トモダチの筈、です。筈、なんです……」

「ほれほれ、そんないじけるな。あん時ミリムも謝ってたろ?」

「謝って済む様なもんじゃなかったでしょーが! 規模も考えてくださいってば!!」

「いや、それはミリムに言ってくれ」

「ぅぅぅ……」

 

 

 

アティスは、ミリムの必殺技を受けた時の事を思い返しては震える。ごめん、で済んだら警察は要らない。……警察なんてモノがある訳がないし、それが抑止になるとも思えないが、てへぺろっ! で許せる範囲を軽く凌駕している事くらいは伝えたい。

まぁ、だからと言ってアティスがミリムをどうこう出来る訳はないのだが……。

 

 

「ふっ。ふはははは! まさに荒唐無稽が過ぎるとはこの事、と言いたい所ではあるが、結果と相まっていっそ真実味があると言うものだ! 良かろう。貴様らを信じるぞ」

「どーも」

「………あぃ」

 

 

側近の皆さまは、まだ正直現実感ない感じではあったが、己の王が認めている以上は仕様が無い、と諦めに似た境地で頷いた。

アティスは色々と諦めの境地+ミリムの一撃を受けた事をまた思い出してしまったのか、力なく項垂れた。

項垂れながら、リムルの傍へ。変身も元に戻した状態で。

 

 

「して、アティスよ」

「……あぃ?」

 

 

そんな時、ガゼル王は酒を片手にアティスの方を見た。咄嗟に目を逸らせてしまうだけで、またはぐれメタルに戻らなかった自分を褒めてあげたい。

 

 

「貴様は、かの天災(カタストロフ)———最古の魔王が一柱、その攻撃を受け切った、と言う事で相違ないな?」

「…………オモイダシタクナイです」

「くっくっく。そうかそうか。つまりはそう言う事か」

 

 

グイっ、と酒を煽るとガゼル王はニヤリと笑った。

 

 

「やはり、アティスは我が国が最も欲する人材よな。改めてそう感じたわ。……のう? 弟弟子(リムル)よ」

「アティス様は渡しませんよ!!」

「ガゼル王よ。お戯れが過ぎます」

 

 

兄弟子権限でも使うつもり? な様子だったので、アティスやリムルよりも早く、シオン&シュナがアティスを庇う様に声を上げた。流石に、2人の前に出る~と言うのは出来なかったが、それでも気持ちは同等だ。

 

 

「くくくっ、何、戯れだ。言ってみただけに過ぎん」

 

 

まさに想像通りの光景に、ニヤリと笑うガゼル王は、もう一度酒を煽る。

二度目で漸く気付いたと言うのか、目を丸くさせながらその酒の入ったグラスを手に取った。

 

 

「それにしても、この土産にもらった酒は美味いな?」

「おっ、キョーミがアティスから酒に移った?」

「そう言う訳ではないが、気づくのが少々遅れたのは迂闊だった。……非常に美味なる酒を無意識に飲み干そうとしていたのだからな」

 

 

舌先で味を、酒精を確認し……やはり美味いっ! と評価するガゼル王。

 

 

「流石、ガゼル王ですね! お目が高いっ!」

 

 

良い具合に話題が逸れた! と思ったアティスがPRに入る。そして、そのアティスを完璧に補佐しようと、シュナが追加の酒を注いだ。

 

 

「りんごで作った蒸留酒(ブランデー)です! 果実類を輸入できる目途が立ったので、上手く増産にこぎつけました」

「ほほう?」

 

 

シュナはガゼル王だけでなく、他の側近にも酒をふるまう。ドワーフは基本的に酒好きな種族。大いに喜んでくれる! 掴みはOKと最初から思って土産に酒を選んだのは文句なし、大成功だった。

 

 

「輸入と言う事は、このドワルゴン以外にも貴様らと国交を結ぼうとする者が現れた、と言う事か?」

「うん。獣王国で―――――」

 

 

国交の話は現トップであるリムルがすべきだろう、と言う訳で盟主のリムルが説明をしようとしたその時だ。

酒が美味い! と味わっていたのも忘れてガゼル王らは身体を乗り出して聞いてきた。

 

 

『ユーラザニアか!??』

 

 

知らない訳がないのだろう。

何せ魔王の1人———カリオンが治めている国なのだから。

 

 

「カリオンさんもやっぱり有名人? なんですねぇ……」

「そりゃ魔王だしな? 10人いる魔王の内の1柱。その国ともなれば四方八方にその名は轟いてるだろうよ」

「称号だけじゃないわ。その誇り高き勇猛な獣王として、カリオンの名は、魔王と言う肩書が無くとも知れ渡っておる。王として以前の1人の武人として、尊敬の念を持っておるからな」

 

 

魔王は恐怖の象徴———と言う印象だけど、魔王である前に獣王であるカリオンに対してはまた少々違った様だ、とアティスは思った。器が大きく、色々と融通を利かせてくれているところを見ても解る印象だが、強大な国であるドワルゴンのトップ、ガゼル王がそう言うのなら俄然説得力が増すと言うものだ。

 

 

「それにしても、獣王にも懐かれたか。このたらしどもめ。……ううむ、これは困る。先に盗られる訳にはいかぬな……」

「べ、別に俺カリオンさんには狙われてませんから!! だから王様は何もしなくて良いですっ! ってか、何もしないでください!!」

「たらし、て……。違う違う。魔王カリオンの部下を助けただけだ。たらし呼ばわりはヤメテくれ! 偶然恩を売れたから、交易申し込めて、了承してくれたんだよ」

「皆トモダチ大作戦! 進行中です!! そして、俺の家は魔国連邦(テンペスト)ですから!」

 

 

何処にもいきません! とアティスは大きく×を作って首を振る。

そんなアティスを見て、笑顔のシュナとシオン。誰に何を言われても、アティスを渡すつもりは無いが、本人の意志———と言うモノもあるから……。100%とは言えないから、アティスの発言はちょっぴり安心できるのだ。

 

ガゼル王は、まだ色々と言いたそうだったが、少々話が長くなりそうなので、側近の男が口を挟んだ。

 

 

「だとしたら、魔国連邦(テンペスト)の重要性は一気に跳ね上がる。いずれはファルムス王国に代わる貿易の中心になるやもしれん」

「……む。うむ。それは確かにな」

 

 

アティスばかりに目を向けてられない。

王ならば当然———。

それくらい、ガゼルは一応は解っているので、話を貿易関連に移行。

もう一度、あの酒を味わう。

 

 

「―—うむ。少なくとも(これ)は我が国がファルムスから輸入するどの酒よりも美味い。市政でも直ぐに流行るであろうな」

「…………」

 

 

酒の評価は上々……所ではなく、直ぐに取って代われるくらいの評価を得た。十分過ぎる成果の1つだが、それ以上にリムルには気になる所があった。

 

 

「ファルムス、って聞いた事あるだけでよく知りませんよね? ヨウムさんの出身地、ってくらいで……」

「ああ、そうだな」

 

 

アティスもどうやら自分と同じ考え、気になる点があった様だ。それに表情も何処か険しい。

ファルムス王国に良い印象は持ってない、と言う事がその顔からでも解る。アティスは腹芸には向いてないのもよく解る、と言うものだ。

 

 

「それで、ファルムス王国って、どんな国なんだ?」

 

 

だからこそ、ガゼル王にその印象を訪ねる事にした。

ヨウム関連で、リムルも良い印象を持ってないのも事実。でも、ヨウムはあくまで傭兵だ。兵士は道具、消耗品扱い~なんて、容易に想像が出来る為政者の姿だし、何なら地球であってもその手の話は聞く。だから、その扱いが雑になってしまうのも少なからず仕方ない、と思っている節もあるし、他国の意向にとやかく言うつもりも無い。

アティスは認めないかもしれないが……。

 

 

「まぁ、かの国は西方諸国の中でも一、二を争う大国と言って良いだろうな。……が、ここだけの発言だが、俺はあの国王は好かん」

「…………」

 

 

オフレコの場では、ガゼル王はその気持ちを包み隠したり、誤魔化したりせずストレートに告げてくる節がある。アティスの勧誘に然り、だ。

だからこそ、好まないと言う発言は真実であり、個人ではなく国としては是非も無し……と言う訳で付き合いがあるのだと言う事は理解できた。

 

 

「……なんか、嫌な感じがする。虫の知らせ、ってヤツかなぁ」

ファルムス王国(向こう)亡命する(行く)気なら、今この場で捕縛するぞ」

「そんな気さらさらありませんっっ! 何処にもいかないですっ!」

 

 

何を好き好んで嫌な感じがする場所に行かなければならないのか。

外交関係ならいざ知らず……。そもそも、魔物の国を認めている様な場所じゃないといけない。その時点で色々とハードルが高いと言うのに、色々と飛び越えまくって亡命は絶対にない。

 

 

「ならば良し。……だからこそだ。是が非でも獣王国(ユーラザニア)との貿易を成功させろ。そして、兄弟子である俺にも酒を融通するのだ」

「いや、兄弟子関係ねーだろ」

「そっちが本音ですか……」

 

 

色々と抜け目ないのは今更だが……と、アティスが辛辣な目をしていたその時だ。

 

 

「アティス様はリムル様が離しませんよ! それに私もですっっ」

「わぁっ!??」

「ぶっっ!」

 

 

背後からアティスを抱きしめる。

その衝撃で、リムルは飲んでた酒を盛大に吹き出してしまった。勿体ない。

 

 

「お二方が居てこその魔国連邦(テンペスト)! 絶対に素敵に、ぱぱーーーっとまとめてくださいますっ!!」

「オイコラ、シオン」

「むぎゅっ、むぐっっ」

 

 

後頭部にはシオンの豊満な二つの巨峰が……顔を抱きかかえられてるので、口が塞がって息が出来ないアティス。

勿論、その後聖母(マザー)が『解:呼吸は必要としておりません』と冷静なツッコミを入れるのが通例だが。

 

 

「この蒸留酒(ブランデー)も、お2人の成果の1つ! 我らの食卓に当たり前の様に並ぶ様になりました! お酒に限らず料理も。素敵です!」

「待ちなさい、シオン!? あなたまさか飲んで……っ! もう、控えなさいってば!」

 

 

シオンをシュナが諫める……いや、止めようとするがもう収まらない。

元来、鬼とは酒好きと言うモノ。中でもシオンは珍しく好きなのは好きなのだが、あまり強くなく、直ぐに酩酊状態となってしまう節があり、今回もアティスを抱きかかえたままそのまま仰向けに倒れ————。

 

 

光粒子(ひゃいひんふっっ)!!」

「「「!??」」」

 

 

そうになったシオンを、アティスの光でどうにか受け止めた。

ここは1つ叱って上げないと~と思うのが普通だけど、物凄く幸せそうに眠っているシオンにはそんな言葉すらかけるのを躊躇ってしまう。

 

 

アティスはシオンの拘束? をはぐれメタル化ですり抜けるとそのまま光を操作しつつ、人型に戻り、その背にシオンをおぶった。

 

 

「ナーイス。……んでも、醜態みせちゃった、よなぁ?」

 

 

ちらり、とガゼル王らを見て見ると確かに呆気に取られているが———直ぐに【ぶわっはっはっはっはっは!!】と、爆笑の渦が湧き起こる。王と側近、その場にいた誰もが、だ。

 

 

「悪いな。ウチの秘書が」

「ふふ。よいよい。早く部屋に連れて行ってやれ」

 

 

笑って許してくれるのもまた、器量が大きく、懐が深い、と言う事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その帰り道。

 

 

「もう……恥ずかしい」

「ははっ。本当にな」

「でも、嬉しいですよ。凄く凄く嬉しい。信じてくれてるって言ってくれて」

「それもそうだな。応えてやろう、って思うよ」

「私たちの中で、リムル様とアティス様を信じていない者などおりませんよ?」

「それは勿論解ってるよ? でも、やっぱり嬉しいからさ」

 

 

その後、シオンは寝室へ。流石にその辺りの世話はシュナに任せた。

リムルは明日の演説の原稿の読み直し。アティスは何もする事ないな~と余裕ブッこいでいたのだが、リムルから叱咤されて役割を与えられる。

神々しさ(笑)を出す為に、リムルを纏って必要であれば空中浮遊やら更に光らせたりやらの演出担当となった。

 

二国間の友好宣言の式典だ。ある程度のインパクトを残しつつ、ガゼル王とも仲良しアピールもきっちりしなければならない。

つまり、魔国連邦(テンペスト)のイメージは、2人の双肩にかかってると言う訳だ。

 



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39話 悪夢

ドワーフ王国とは、苦しく、苦々しく、トラウマを刺激するような所……だけではありません。

忘れてはならない場所が、この王国にはあるのだ。

 

今日、それを再確認する為にリムルはアティスを連れてやってくる。

 

 

「き、キンチョーしてきました……」

「ふっふっふ~~。約束の地はもう直ぐそこだ! 散々、演説をガゼル王にダメ出しされて、傷心気味なオレの心を癒してくれる約束の地へいざっ!!」

 

 

どういう場所なのか、事前にアティスは聞いている。

それでも、ガゼル王へのトラウマの方が強烈過ぎた為、それを餌にされても全く心は動かなかったのだが……、来たのだから、しっかりちゃんと満喫? しなければならないだろう。

 

リムル自身も、アティスを置いていく~と言う考えは持ってなかった。

ただ単に、餌として使った話題だから、最後まで筋を通す―――と言う訳ではなく、アティス1人残して、万が一にでも残してきた女性陣達にリークされて、極めて危険な状態になるのを、その危険性を少しでも取り除く為だ。

 

つまり、リスクアセス的な話だ。社会人として、幾度となく取り掛かった業務の1つ!

しっかりと、元社畜の身には染みている。

 

 

「リムル様~アティス様~~!」

「ゴブタ、声がでかいって。しーしー!」

「……っス」

 

 

そして、更にその後はゴブタが合流。

ゴブタだけでなく、その他大勢も集ってる。

 

何でも、ゴブタは前回置いてけぼりを食らって血涙を流したとか。今日こそは連れてきてほしい、と誰よりも懇願したとか。

男の性をよーく解ってるリムル。その魂の叫びを無碍にする事はあまりにも酷だ――――と言うより、アティス関連と同じで、ゴブタから女性陣へ、つまりシュナやシオンにリークするのを阻止。リスク管理はバッチリ。

 

 

「さぁさぁ、野郎ども! 行くぜ、約束の地へ!」

「り、リムルさんも声おっきいですって」

 

 

ベタベタな展開を演出しつつ~~、やってきました楽園(エデン)

 

美人で可愛く、際どいお召し物を羽織るエルフ族のお姉さんたちがたくさんいるお店―――夜の大人なお店。

 

 

「わーーー! いらっしゃ~~い!」

「待ってたわよ、スライムさん!」

「あっ、やっぱり一緒に来てくれたんだ~! スライムさんの家族っ」

 

 

出迎えてくれるお姉さんたちはやっぱり綺麗だ。

解りやすく真っ赤になるアティスと、ゆるみにゆるみまくるリムル。目をハートにさせるゴブタら。

 

確かに、リムルが言う通り楽園(エデン)と言って良い。

 

でも、こういう場に限って経験と言うモノが大事になってくる。最高に楽しく遊ぶ為にも。だから、殆ど初心者なアティスは姿を赤くさせる以上の活動が出来るか甚だ疑問なのである。

 

 

「やぁやぁお姉ちゃんたち、元気だった? こっちのはオレの弟。シャイボーイだから、そのつもりで接してやってほしい」

「もちろんっ!」

「わー、ほんと可愛い! 色違いもキューティーだよ~」

「だっこして良い? 2人とも良い??」

「どうぞどうぞ♪」

「あうあうあうあううぅぅぅ……」

「きゃーーー! カワイイ~~~!」

 

 

お店が一気に盛り上がりを見せた。

この店で勤務しているお嬢様たち、皆等しく昼間のリムルとアティスを目にしている。最早2人は有名人(?)であり、前回やってきたお得意様~と言うだけではないのだ。

 

 

「こっちのスライムさんも相変わらずカワイイ♡」

「随分ご無沙汰だったから、忘れちゃったのかと思ったよ~。でも、ご兄弟と一緒に来てくれたから許しちゃうっ」

「忘れる訳ないよ~~、こーんな楽しい場所っ」

「~~~~っっ」

「あははっ。良い感触~~ひんやりして気持ちいい~~~」

 

 

リムルは余裕な大人な対応。

アティスは頬ずり頬ずりの波状攻撃を受けてKO寸前。

魔国連邦(テンペスト)でも、同じ様な扱いをされた。だから初めてと言う訳じゃないのだが……、こういうお店での、更に際どい服、魔力感知でも見えないギリギリラインを責めてくるこの感じとは比べてはいけない、と身体の何処かがサインしているのか、ただただ真っ赤なスライムへと変貌してしまったのである。

 

 

「あ、ぅ……」

「おいおい、ちょっとは話せよ? ゴブタだって同じ初心者な筈なのに見てみろよ」

 

 

促されるままに、ゴブタの方を見てみると……。

 

 

「好きです」

「あら、ありがとう」

 

 

自分の気持ちに素直に、正直に、初対面堂々告白までやって見せた。

ある意味男の鏡なのだ。

 

 

「……あしらわれてますケド」

「でも、行動できる・できない。言える・言えないの差は天と地ほどある! だろ?」

「~~~~っっ、わ、わかりましたっっ! が、頑張りますからっ!!」

「よしっ」

 

 

 

―――告、……留めておきます(・・・・・・・)

 

 

何やら、己のスキルが……大賢者か聖母か、いやそもそもスキルではなく世界の声かもしれない。兎も角解らないが、何やら聞こえた気がしたが、気のせいだと言う事にした。

 

 

 

「お席へどうぞ、スライムさん達。お連れさんはもう出来上がってるわよ」

 

 

中へと通されて、そこで合流したのはカイジンとその弟カイドウ。

 

 

「よう! 旦那たち!」

「リムル殿!」

 

 

ピカピカと全てが輝いているお店で、……おっさん2人が居てくれる事は、良いカンフル剤になる、とアティスは少しだけ落ち着く事が出来た。

 

 

「初めまして、ですね。オレはアティス。リムルさんの弟分です」

「おお、話はかねがね。……リムルの旦那と身体の色以外は変わらねーから、親近感がわくよ。うん、そっちの方がしっくりくるな、やっぱり」

「おや? カイドウ君は、人型はお気に召さなかったか? 瓜二つなオレたちの姿見ても」

「いやいや、そういう訳じゃねぇが……、どうにも一致しなくてな?」

「……まぁ、解ります」

 

 

リムルの人型、つまりアティスの人型でもあるが、その姿はこの国ではあまり周知していなかった。スライム型で活動していた時期でもあったからか、このスライムの姿が一番メジャーなのだ。

だから、打ち明けた際にはかなりカイドウは驚いていたと記憶している。

見た目愛らしい女性タイプな身形だから、驚いていた、と言うよりやや緊張していた、と言うのが近いかもしれないが。

 

 

「2人とも、ありがとうよ。オレまで招待して貰って。英気を養うって場所だったんだろ?」

「ふっふっふ~、構わないさカイドウ君。どうせなら、こういう場所ビギナーなオレの弟分に、しっかり作法を叩きこんでもらえる相手がいた方が嬉しいかも? とか思ったりしてたりしなかったり? だよ」

「………それ、オレ聞いてないですよリムルさん」

「そりゃ、今考えたもん」

「かっはっはっは! オレでよけりゃ、幾らでも教えてやれるぜ。その、アティスの旦那!」

「ぅぅう……お、お手やわらかに」

 

 

アティスは苦笑いをしつつ―――カイドウとカイジンの2人を見比べた。

こちら側は兄弟(偽)だが、この2人は本物の兄弟だ。でも……似てない。

 

でも、こうやって2人で飲んでるのを見ると、仲の良い兄弟だと言うのが解る。

離れ離れで暮らしているのだから、誘ったリムルの判断はきっと正しいと思うアティス。

 

 

「久しぶりの兄弟水入らず、ですからね。その、オレに作法どうこうより、再会を祝する方が先じゃないです?」

「それもそうか。今夜はゆっくり兄弟で語り合う方優先で。こっちはテキトーに慣れるだろ。なんたってオレの弟だし」

 

 

リムルの言葉がプレッシャーに感じるが……、足踏みしてられない! と謎の責任感も出た。これでも国のNo.2を担う役処。公の場ではないとはいえ、あまりにもだらしない姿は御法度でNG。

頑張ろうと心に決めたその時、カイドウとカイジンは2人して反論。

 

 

「何言ってんだ旦那! こんな場所で野郎と話してどうする!?」

「そうだぞリムル殿! お姉ちゃんたちに失礼ってなもんだ! アティス殿を()にする為に行動した方が何倍も良い、ってもんだ!!」

 

「あ、はい」

「お、おとこ!? えと、その、お、オレはど、どうて……ぃじゃ、なく、別におとこに、なんて……」

「嘘つけコラ」

「いたぁっ!!?」

 

 

リムルはカイジンやカイドウの事よりも、アティスの言葉が一番引っかかった。

どうせ、嘘だと思うが、万が一、億が一、兆が一にでも、「どうて……ぃ」じゃなかったとしたら? 大変だ。国を揺るがす。

 

 

「意味わかんないですっ! つか、ほんとに痛かったですよ!? オレ」

「どこかで聞いたな。愛ある一撃は防ぐ術なし、だ」

「どこに今のやり取りで愛がありました!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も、楽しかった。

カイドウとアティスを抱えたお嬢様。

リムルは少々離れて、お店のママと色々とやり取り。

ゴブタは、出血多量。……なんで?

 

 

 

「少し目を離した間に何が……?」

「私の冗談を本気にしちゃったみたいで……」

 

 

割れたグラスを片付けながら説明してくれたが……それでも解らない。

なので、アティスは自身の金属王(スキル)を使って壊したグラスを元通り。

 

 

「もー、よくわかんないけど、お店のモノ壊しちゃダメだよ?」

「い、今のは不可抗力っすぅ~~……」

 

 

「おぉ、すげぇ……。ありゃ、確かに王が是が非でも欲しがる力だよなぁ」

「金属を生成して、形にしちまうんだ。リムルの旦那とはまた違った方向性で、それでいて同じ様に規格外な方だよ全く」

 

 

始めて力を目の当たりにしたカイジンは、やっぱり興味津々。

カイドウの様に職人~と言う訳じゃないのだが、それでも凄いモノはスゴイ。ドワーフとは元来そういうモノなのだろう。……多分。

 

 

「ごめんね、ママさん。ウチの弟は優秀だから、壊したモノは大抵直しちゃうんで、それで勘弁してもらえないかな?」

「いえいえ。大丈夫よ。スライムさんの弟さんなら、何でも大歓迎だから」

「そりゃ、兄としても鼻高々。……それともう一つ、これ(・・)、よければお店においてみてくれない??」

 

 

ぺっ、ぺっ、ぺっ、と取り出したのは、胃袋の中で保管していたガゼル王も大絶賛の蒸留酒(ブランデー)

しっかりとお店に並んでも見栄えがする様に、装飾を施している。準備万端売り出し前。

 

 

「まぁまぁ、これは……お酒ね?」

「そう。ウチで作った新商品だよ。ガゼル王にも卸すから、あんまり沢山渡せないんだけどね。お得意様限定、とかで出してみてよ」

「あらまぁ! そんな希少なモノを? でも良いの?」

 

 

無論、ただの善意~と言う訳ではない。

ある程度の見返りは期待している。

それも、双方に益があるタイプのモノ。

 

 

「ふふ。1人1杯のサービスで、幾らまで出せるかリサーチしてほしいんだ」

「あらあら、スライムさんは強かなのね。商魂たくましいわ。カチカチになって演説していたのが嘘みたい」

 

 

ここで、ビックリ!

どうやら、あの演説を聞いていたらしい。……解っていた事、ではあるが。

 

 

「散々ガゼル王にはダメ出しされちゃったんだよねぇ……。『短か過ぎる、謙り過ぎる、情に訴えかけ過ぎる』以上を以て零点だと。全く、演技も見抜けないとはガゼル王もまだまだだ!」

「うふふ。そういう事にしておきましょう。……でもね、私は。多分このお店の皆も好感を持った、って思うわ。やっぱり、人を引き付けるのは誠実さだと思うから」

 

 

この国だからこそ、上手くやれているエルフたち。

でも、他の国だったらどうなるだろう?

 

 

 

「だからこそ、私は満点をつけたい。だって、見てみたいから。人や魔物……エルフ。そんな垣根のない、皆で笑い合えるような国を」

 

 

 

楽しく暮らせる国を作りたい。

 

それが基本理念。

ガゼル王にはダメだしされた。でも、それが間違ってるとは思ってない。王たるモノの当然の心構えであり、弟弟子である自分にしっかり教育してくれたと思っている。

 

それでも、こういう風に言ってもらえるのが何よりも嬉しい。

 

 

「……ありがとさん」

 

 

 

だからこそ、より気合が入ると言うモノだ。

 

 

「お嬢さんたちにプレゼントするよー! ほらほら、はーい!」

「きゃ~~~! スライムさん素敵!」

 

 

直ぐ横では、自分のスキルを思う存分,ふんだんに使って綺麗なグラスを作ってるアティス。

感慨深い気持ちが霧散していく……。

 

 

「おいおい。貢がされてんじゃないよ、全く」

 

 

世の男たちは、これで借金をして破滅までした……と言うのは決して大袈裟じゃない。節度を守ったアソビ方が良いと言うのに、全く。

 

 

「その辺は任せてくれ! 旦那!」

 

 

カイジンは自信満々に親指立ててるが……、一抹の不安はぬぐえない。

 

でも、別にしりぬぐいをさせられる訳でもないから良しとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リムルさん、楽しかったです」

「そりゃよかったな。オレ、スリープモードに入るんじゃねーか、って結構心配だったわ」

「流石にそれはないですよ。……でも、なんだか聖母(マザー)が怖い気がしちゃいましたが」

「あ~……そういや、なんか声聞こえたっけ? お前の保護者も同然だからなぁ。多少の羽目外しは許すかもだが、節度守らないと、雷落とす! かもよ?」

「えぇ……」

 

 

なので、このまま、はしごだ~~と言う事はせず、今日はもうこれで終わり。

でも、このまま気分よく終わり、とはいかない。

 

 

「あにぃき~~いくらなんでも、飲みしゅぎだじぇ~~~」

「おみゃぇしょ~~~、まっしゅぎゅ、あるけぇにぇ~じゃにぇ~のぉ~~」

 

千鳥足な酔っ払いの世話がある。

流石に招待した以上、このまま路上で眠られても困るから。

 

 

「ったく、あーあ、耐性スキルのせいで酔っ払えないのが辛い所だなぁ。あんなふうに、久しぶりに~って思ってるのに」

「……や、流石にあそこまでは」

「あれ? アティスはそういう経験ないの?」

「飲み会はありましたよ? でも、あそこまでの酒乱になる事は無かったです。と言うより、後始末やら尻ぬぐいやらの対応をする方が多かったですね」

「なーる。そこでも守る! か。流石、テンペストの守り神!」

「や、やめてくださいよー。そんな大層なものじゃないですって」

 

 

色々と異常耐性無効スキルを持っているリムル。それをとことん物真似(スキル)で習得たアティス。だから、ああやって酔う事は出来ない。雰囲気だけを見るしか出来ない……のだが、なんだかこの時のアティスはちょっぴり酔っ払えたような気がしていた。

 

 

 

「それよりゴブタですね」

「ったく。アティス。担架でも作ってくれ」

「いや、普通に担ぎます。聖母(マザー)の制御なしの、金属王(スキル)って、結構難しくて、気使いますから。背負った方が楽です」

 

 

アティスはひょい、とゴブタを背負った。

 

 

「アティスさまぁ……、すまねぇ、っスぅ…… ひ、貧血で……」

「もう、解ってるよ。でも、オレの上で血ながしたり、口から何か吐いたりしないでね? もししたら、ランガから教わったクレイジーヒューストンの刑だからね?」

「なんス、か。それ……」

「お空の旅だよ。全く。これからこっそり宿に帰るってのに、大通りでコレ。滅茶苦茶目立ってるじゃん」

 

 

それでもその場に置いて帰る~なんて、事はしない。王として民を導かなければならない。ついてこれない者を切り捨てる訳にはいかないのだ!

背負うのはアティスだが。

 

 

そんな時―――――だった。

夜闇に紛れて音もなく、誰かがいつの間にか急接近していたのは……

 

 

「お手伝いしましょうか? アティス様」

「あ、はい。だいじょうぶで………す……」

「ほらほら、迷惑かけるんじゃないよゴブタ。すみません――――ね?」

 

 

黒い笑みと共に、顔を覗き込む様にしているその存在。

凄まじい威圧感と魔素を放出しているその存在の正体は……なんとシュナだった。

下手なホラー映画より何倍も怖い。

シュナは凄まじくカワイイ。さっきの店のコらにも負けてない程カワイイ容姿な筈なのに、物凄く怖い。

 

つまり、バレた、と言う事だ。

 

なんの為に、秘密裡に行動していたのか……、これまでの努力が水の泡だ。

 

 

「あ、あれ? なんで? どしてどして??」

「お、おおお!? しゅ、シュナ!? なぜここに……」

「お二人とも落ち着いてください。最初から知ってましたよ? ……ゴブゾウが全て話してくれましたので」

「「ええ!?」」

 

 

ゴブゾウとは、ゴブタの部下。

何なら、今日一緒にきて遊んで帰ったウチの1人。

 

 

「えと、なんで言っちゃったの、かな? 秘密裡~って話は……」

「シュナ殿に聞かれた、お答えしたダス。勿論、仲間内以外では話してないダス」

「そっかー、素直だなーー」

「何現実逃避してんだ! いや、いやいや、なんで、どーして! こーいうシチュで秘密っていや、絶対――――……」

 

 

と、盛大な抗議と、出来る事ならお仕置きもしてやりたい衝動が出てきたが……無理だった。

何故なら、シュナに続いてもう1人やってきていたから。

 

 

 

「ひどいです。リムル様。アティス様も」

 

 

 

シュナが来ているのだから、当然もう1人、シオンだって来るだろう。

でも、シュナ程は怖くない。

 

 

「おいていくなんてあんまりです! 私は、アティス様にも言いましたよね?? 決して離れない、ってあの時だって言いましたよね? ヒドイですっ!」

 

 

純粋に、おいて行かれた事を嘆いているだけっぽいから。

女の子なお店に言った事を咎める~と言った感じではない。

 

キャバクラに行った事が嫁にバレた時のヤツじゃない。

純粋に、本当に純粋に、除け者が嫌だった、と言う事だ。ゴブゾウと同じく純粋シオン。

 

 

「えと、でも、だって。ほら、シオンさんだって今日疲れたと思って……。昨日のお酒、とか?」

「もう回復しております! 今日こそは挽回を~と、アティス様には言いました! 受けてくださいました!」

「はいぃぃぃ!! そう、でした!!」

 

 

アティスはゴブタを乱暴に落とした。

シオンの傍に行き、襟を正す為に。

 

 

「いや、まて。シオンもシュナも。……ほ、ほら、店の性質上、女の子が行って楽しい場所なのかわかんないし……、ほ、ほら。酒の提供先としての検討とかもあったし、色々と重なって……」

「そうだとしても、黙っていくのがひどいんですっ!」

「ぅぅ……」

 

 

取り付く島もない。

シオンだけならまだ良いが、黒い笑みを浮かべてるシュナだけが要注意。最大級のアラームを鳴らしている。

 

 

「因みに、情報共有のスキルで、アティス様の聖母より通達を受けておりました。とても楽しそうにしてらしたのも、承知しております」

「えええええ!!」

 

「(だ、大賢者!? 知ってた!? 主の意に反して自律行動しちゃってたよ!?)」

――解。知っておりました。

「(なんで、黙ってた!??)」

――解。聞かれておりませんので。

 

 

シュナの黒い笑みは周囲にも伝染してゆく。

酔っ払いだったカイジン・カイドウ兄弟も一気に冷めた様だ。

 

 

「あなた達が、リムル様とアティス様を夜遊びに誘ったのですか?」

 

 

これは、返答を誤ったら……ヤられるヤツだ、と瞬時に理解。

 

 

「ええ! えと、誘ったと言うか、提案した、と言うか……」

「お、オレは招待されただけ、と言うか……」

 

 

カイジンは兎も角、カイドウは招待されただけ~で逃げれそうな気がしなくもないのだが……、この黒い笑みに対して、背を向けて逃げるような真似をしたら即座に断罪される! と思ったのか、中々行動に移せなかった。

 

 

 

 

その後、尋問も受けて暫くすさまじい圧を受けていたが……徐々に和らいでゆく。

 

 

 

 

 

「……私は、お二人を。なさりたい事をお止めするつもりは毛頭ありません、が。ちょっぴり寂しかったと言う気持ちも理解してもらえれば幸いなのです」

「ぅぅ……」

「ぁぅ……」

 

 

シオンの様に、シュナの根幹部分にもやはり除け者にされて寂しかった、と言う感情はあったのだろう。

大人なお店に行った事による嫉妬。他の女に目が向くゆえの嫉妬も無論……と言うより、そっちが大多数を占めるだろうが。

 

 

「すみませんでした!! もう、2人に黙ってこういった事はしませんっっ!」

「ご、ごめんなさい………」

 

スライム姿なので、土下座~までは出来ないが必死に頭を下げる。

 

流石に、リムルも人型……シズと瓜二つなあの姿で、今回のしりぬぐいをさせるのは気が引けるから。そもそも、あの店で人型に戻なてないので、この姿のままが一番良い。

 

 

兎に角、下手な言い訳は全て逆効果だから、言葉短めに、低姿勢で、加えてスライムの可愛さも全面にアピール。これで情けはかけてもらえるだろう。

 

 

「(アティス! キラキラモード!)」

「(あい!)」

 

 

アティスの光の力で、ちょっとしたロマンティックな風景を演出。

女の子ならクラっ、コロっ、となれる様に意識。

 

 

それを見たシオンとシュナは、にっこりとほほ笑んだ。

 

こうかはばつぐんだ、か!?

 

 

と、確かな手ごたえを感じていたリムルだったのだが……。

 

 

「わかりました。では、1週間シオンの朝ごはんで許してあげます」

「ほっ ありがとうございます」

「ええええ!!!??」

「ん? え?」

 

 

許しを得た、とアティスはホッとしていて……対照的にリムルは大慌て。

 

 

「お、おまっ、な、なにを」

「え、何をって………んんん???? シュナさん、すみません。もう一度いってもらえます? その、条件を」

「はい、アティス様。シオンの朝ごはんです。1週間分を」

「その条件で許し頂ける、と?」

「はい、その通りです」

「おれ、しおんさんのごはん、まだ食べた事ないんですが、ゆるされるようなもの、だと? そういうたぐいの、代物、だと?」

「ええ。勿論です。天にも昇るとはこのことだ、と思われるかと存じます」

 

 

アティスはぐるっっっ!! と身体を回転させてリムルを見た。

 

 

「大絶賛してませんでした? ものすごく紹介してくれませんでした?? どういうことですか??」

「……あ~~~~、アティスは知らんかったっけかぁ。そういや、まだネタバレもしてなかったっけかぁ……」

「こっち向いてハッキリ説明してくださいよ!!!! どーなんですか!? いや、そーなんですよねっ!?? 在り来たりで、ベタな展開なんですよねっっ!??」

 

 

知らなきゃよかった事など、世の中にはいくらでもある。

 

そして、知らなかったとしても……身に必ず起こるのであれば、意味は無。

それを教訓とした。

それと、最近では夢見が良かった日が続いていた。

 

夢とは、あまり覚えてられないものであり、起きたら泡のように消え去る……と言うのが通例なんだけど、今回のそれはそうはいかないらしい。

 

夢は夢でも……悪夢の始まり、かもしれないから。

 

直接言うと、流石に傷ついちゃうかもしれないから言わないが。

 

 

 

 

 

リムルはリムルで、ガゼル王がダメ出ししていた3点。

それを全面に使ってこの場面。

 

思いっきり反省するのだった。

 



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