Sword Art Online Irregular Soldier (コジマ汚染患者)
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1話 現れる戦場の鴉

反省はしてる、
後悔はしてない。


『Pipipipipi・・・』

 

けたたましいとまではいかないが、それでも小煩いアラームの音で目を覚ます。モゾモゾと布団の中でもがきながらも、右手を携帯端末へと伸ばし、アラームを止める。安眠を妨害する音が鳴り止むと、再度手を布団の中に戻し、二度寝の体制に入る。しかし、ふと気になって携帯端末の横に置いてあるデジタル時計に目を向ける。そこに映る時刻は、午前8時半。

 

「・・・うぇあ!?やっば!?」

 

叫ぶと同時に慌てて布団から這い出し、クローゼットを開く。中から学生服を取り出し、過去最高速度と言える速さで着替え、冷蔵庫を開き買っておいた惣菜パンを掴むと、机の上のカバンを引っ掴む。

 

「くっそぉ、まだ慣れねぇ・・・二年も不規則な生活してれば当然か」

 

独り言を呟きつつも玄関へと向かい、革靴を履き部屋を出る。

 

「あっと、鍵鍵。こっちじゃあ『あっち』みたいに立ち入り許可の登録とかないしな・・・」

 

鍵がしまっているのを確認すると、靴のつま先をトントンと鳴らし、駆け出す。

 

「・・・二年、か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やあ。

ドーモドーモ、ハローエブリワン。転生者様だよー。・・・自分で言っててアホらしくなった。

今言ったことだが、俺は転生者だ。その原因はトラックでも神様の間違いでもない。強いて言うなら俺の自業自得。適当に気になった小説を買った帰りに足滑らせてそのまま池にダイブ。そして気がつくとよく分からないおっさんがデスクワークしてる真っ白空間にいた。

 

『・・・え?』

 

『・・・は?お前なに!?なんでこんなとこいんの!?』

 

・・・と言う具合でおっさんと俺は混乱していた訳だが、事情を話すとおっさん・・・後で知ったが神様が呻いた。

 

『えぇー・・・。死んで魂だけでここまでふらっと来たのかよ・・・。まあいいや、ちょうどいい、俺今ちょっと暇な訳だから、転生してこい!』

 

『ちょっ、どうしてそうなる!?』

 

『いいからいいから、はいドーン!』

 

『ぎゃあぁぁぁ!?』

 

・・・ってなわけでとある転生特典?を押し付けられて転生したわけだ。転生自体は別に嫌なわけじゃあない。趣味でもあった小説漁りがまたできるわけだから。ただ、俺の転生先はどうやら普通ではなかった。

ナーヴギア。この専用のヘッドギアを被り、体へと向かう脳波を一部シャットアウトし、VR世界へとダイブすることでアバターを自分の手足のように使って遊ぶことのできるという前世では実現していなかった技術とそれを使った今までにないスリルと楽しさに、俺は夢中になった。そして、とあるタイトルに手を出した。

『ソードアートオンライン』

略してSAO。世界初のVRMMORPGと銘打たれたそれは、過大表現でもなんでもなく、世界中のゲーマー達の期待感を煽った。かくいう俺もその発表に大興奮し、大学受験かというレベルの倍率を突破し、SAOを見事手に入れた。この時、なんとなくあれ、こんな話どっかで・・・と頭によぎったが、きっとこの前に読んだSF系の小説だろう、と思い嬉々としてナーヴギアを被った。

 

そして俺は、デスゲームへと巻き込まれた。全100層あるソードアートオンラインの舞台、浮遊城アイングラット。その全てをクリアするまでログアウト不可、蘇生機能の全撤廃、ゲーム内での死がそのまま現実での死となる。唐突に始まったそれに、絶望し泣き喚く者、狂う者、先を見据え動き出す者などに分かれる中、俺は呆然と突っ立っていた。何故なら、思い出したから。

 

(・・・俺はどこまで馬鹿だ!?そうだ、SAO。これは、小説の・・・『ソードアートオンライン』の世界観まんまじゃねえか!)

 

そこに思い至ると同時に、ふと視界に入った同い年くらいのプレイヤーが視界に入る。おそらく男性であろうが、やや中性的な黒髪のそのプレイヤーを見つけると、俺は慌てて追いかける。そのプレイヤーはバンダナを巻いた男と共に路地裏へと入ると、なにやら話し合い始める。それを隠れて見ながら、俺は震える。

 

(間違いない、あいつらが・・・クラインとキリトだ・・・)

 

そしてキリトがクラインから離れ路地の先へと消え、クラインも目元を拭い広場へと戻っていくのを見送り、俺はその場に座り込む。

 

「・・・どうしよう」

 

これからどうするか。この世界が、もし原作通りに進むのならば、75層にてキリトがヒースクリフ・・・茅場を倒しゲームがクリアされる。つまり、ただ生きているだけなら、2年。2年生きていれば現実へと帰れるのだ。

 

(でも・・・本当に原作通りに進む保証はない。もし75層まで行けても、キリトが負けるかもしれない。いやそもそも、75層にすらたどり着かなかったとしたら、その時はどうなるんだろう・・・)

 

そこに思い至ると同時に、背筋が凍ったような感覚が襲う。もう一度死ぬ・・・?いやだ、イヤダ、嫌だ。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、せっかくまた生きることが出来るんだ、こんなとこで死ねるか・・・!」

 

震える体を押さえつけながら立ち上がり、街の外へと向かう。

 

「・・・とにかく、生きないと。死なない程度でいいから、生きれる力をつけないと・・・!」

 

こうして俺は、三津平 八彦(みつひら やひこ)、アバター名 ミツヤとして二年間をアイングラットで過ごすこととなった。

 

そこからは必死だった。結局俺のレベルはせいぜいが中堅レベル、最前線に行くことは出来なかった。原作通りにキリトが茅場を倒していなければ詰んでいただろう。病院のベッドで目を覚ました時は、今世で初めて心から泣いたものだ。

 

そんな二年間を超え、現在俺はSAO事件の被害者が通う専用の学校に通うため、親元を離れ一人暮らしをしている。学校にいるのは同じSAO生還者ばかりなため、中には攻略組という有名人もいる。とあるお昼時、俺は友人達と食堂に来ていた。どんな経験をしていようと、中身は結局青春真っ盛りの男共である。故に会話もまた脳内真っピンクな話ばかりである。

 

「いやー、やっぱいーよなー、『閃光』のアスナさん!」

 

「美人で」

 

「名家の出で」

 

「頭もいい!」

 

「「「いいよなぁ〜」」」

 

かなり頭の悪い話をしている3人の友人ABC。SAO内でたまにチームを組んで戦ったこともある頼もしかった彼らも、現実に戻ればこのざまである。・・・自分も人のこと言えないが。

 

「なー、ミツヤもそう思うだろ!?」

 

そう言いながらこちらにだらしない顔を向けてくる友人A。八彦はそれをちらっと見てからすぐに小説に目を戻す。

 

「まあ美人だとは思うよ。でもお前ら忘れてねぇか?あの人彼氏いんぞ」

 

その一言に友人達はうなだれ、次の瞬間嘆き出す。

 

「うるせぇやい!ンなことわかってるよ!」

 

「ちくしょう、なんで俺らには彼女が出来ないんだ!」

 

「顔か!?やはり顔が問題なのか!?」

 

「うるせえのはお前らだよ。もう少し静かにしろよ、食堂だぞここは」

 

 

 

 

 

「じゃーなー、また明日!」

 

「おう」

 

そんなこんなで放課後、友人達と別れた八彦は、足早に家へと向かう。家に着くと、即座にシャワーを浴び、ベッドへと向かいそこに鎮座する機会を手に取る。

 

「・・・ようやく俺が戦える所が手に入ったんだ」

 

手に持っているのは、ゴーグルのような、しかしやたらとゴツい機械。名をアミュスフィア。ナーヴギアの問題点を解決し、ナーヴギアの後継機として現在飛ぶように売れている新型である。そのアミュスフィアを被り、ベッドに横になる八彦。

 

「ここが、俺の魂の場所だ・・・!」

 

深呼吸を一つし、目を閉じて起動のための言葉を呟いた。

 

「リンクスタート」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、ひどく荒れた荒野だった。そのまるで某世紀末漫画の舞台のような荒地にある少し大きめの岩の連なる場所。そこに、とあるスコードロンが待機していた。

 

「なーダイン、本当に奴らが来るのか?ガセネタなんじゃねえのかよ?」

 

スコードロンのメンバーの一人、ギンロウがそう言ってリーダーである西部劇のような格好をした男、ダインにぶーたれる。

 

「奴らはこの3週間、ほとんど毎日同じ時間、同じルートで狩りにでてるんだ、今日はたまたまMobの湧きが良くて粘ってんだろ。その分分け前が増えるんだ、文句言うなよ」

 

「でもよぉ」

 

ギンロウはなおも不満そうに口を尖らせる。

 

「そいつらは前に襲った奴らなんだろ?警戒してルートを変えたんじゃねぇのか?」

 

「前に襲ってから六日も経ってんだ、モンスターの相手ばっかしてるプライドのねぇ連中だ、どうせすぐに忘れてるさ」

 

そう言って嘲るように笑うダイン。仲間の男達にもその言葉に笑いが起こる。笑っていないのは、少し離れた位置に座る少女だけだった。

 

「そもそもMob狩り専門のスコードロンで光学銃しか持ってないはずのあいつらが対策しようと思っても、精々が支援火器を一丁持ってくるのが限界だろうさ。もしそうだとしても、今回はシノンに狙撃ライフルを持ってきてもらってんだ、問題はねえさ。なあシノン」

 

「・・・」

 

話を振られた少女、シノンは無言で頷くだけで、会話には入りたくないことをアピールする。その後シノンがギンロウに言い寄られるが、すげなく断る。と、監視をしていた男が目標を発見する。

 

「・・・きたぞ」

 

おしゃべりが止まり、ダインが相手の戦力を確認する。

 

「・・・一人増えてるな・・・。それに『ミニミ』持ちが一人。狙撃するのはこいつで決まりだな」

 

ミニミとは、ベルギーの国営銃器メーカー、FNハースタル社が開発した、5.56x45mm NATO弾を使用する軽機関銃である。分隊の支援火器として用いられる軽機関銃で、アメリカ陸軍や日本の陸上自衛隊でも配備されているものである。

その言葉を聞きつつ、シノンは持っていた狙撃銃、『ウルティマラティオ・へカートIIを構え、スコープを覗く。シノンはその際、増えた一人、フード付きマントを羽織った男を危険視するも、結局はダインにいわれ『ミニミ』持ちを狙撃する。しかし、それは残念ながら悪手であった。

 

「くっそぉ、聞いてねぇよ!『ミニガン』だとぉ!?」

 

増えていたマントの男の持っていたのは、『GE・M134ミニガン』。秒間100発と言う狂気的な速度でぶっ放される弾丸は、痛みを感じる前に相手を絶命させることから、「Painless gun」(無痛ガン)とも呼ばれる。

 

シノンの行った狙撃は見事命中し、ミニミ持ちは即死した。その後ダイン達が意気揚々と攻め込むが、ミニガンの前に前衛であるギンロウが一瞬でやられ、明らかに劣勢だった。

 

完全に諦めムードの彼らの元へ、突如シノンが現れる。シノンを見て驚くダイン。しかしすぐにうなだれる。彼曰く、ミニガン使いの名はベヒモス、北大陸を中心に傭兵の真似事をしているプレイヤーだと言う。勝てるわけない、もう諦めるしかないとのたまうダイン。それを聞きながら意気地のないダインにキレるシノン。メンバーへと指示を出し、どうにか戦況を立て直そうと作戦を伝えようとしたその時。

 

「ーーーーー、ーーーーーー、ーーーーーー」

 

「・・・歌?」

 

「なんだこりゃ・・・どこから・・・」

 

何処からか、男の声で歌が聞こえてきた。ニュアンス的に、英語であると言うことがわかる程度、さらにはその英語も随分とお粗末であるため、なんと言う歌なのかはわからない。状況を忘れ、シノン達が辺りを見回す。その頃、ベヒモス達も謎の歌に戸惑っていた。

 

ー来たれ来たれ、福音よ来たれ。ー

ー来たれ来たれ、福音よ来たれ。ー

ー来たれ来たれ、福音よ来たれ。ー

ー来たれ来たれ、福音よ来たれ。ー

 

ーああ、私は怖ろしい。ー

ーそう私は怖ろしいのだ。ー

ー全て解かってしまったから。ー

ーそれ故、私は怖ろしい。ー

ー全ては空想だったのだ。ー

ー全てが幻想だったのだ。ー

 

 

どこからともなく聞こえてくるその歌に、光学銃のブラスターを持っていた一人が無意識におびえ、後ずさった瞬間、

 

「・・・welcome(ようこそ)」

 

彼は胸から鉄杭を生やした。何が起こったのか、彼はそれを知覚することなくポリゴンへと変わった。もう一人とベヒモスが振り返り、銃口を向けると同時にポリゴンの向こうから男が姿をあらわす。この世界ではごくありふれたどこにでも売っている軍人風コスチュームに、ややくすんだ黒色のコートを着た眼鏡の青年。その顔にはニヤリと悪辣な笑みが浮かんでおり、左手には籠手にしては大きすぎる機械が付いており、その先端には今しがたプレイヤーを爆殺した円柱形の鉄杭が飛び出ている。右手は今の所無手だが、ズボンの横にあるホルスターにはリボルバーが収まっている。

 

「・・・おいおいおい、嘘だろ。嘘だと言ってくれ・・・!」

 

「・・・ダイン?」

 

その男を見た途端震えだすダイン。シノンが訝しんでいると、急に状況が動く。ベヒモスが、ミニガンを構え直し突如現れた青年へとぶっ放したのである。普通ならこの時点で細切れよりひどいことになるだろう。しかし、シノン達の予想だにしない展開が起こった。青年はベヒモスがミニガンの引き金を引く前に、ほんの一瞬の隙をついてベヒモスに肉薄したのだ。ミニガンの弾は1発も当たることなく、青年の背後にあった壁を砕くのみであった。急に目の前に現れた青年に、ベヒモスは面食らいミニガンの銃撃が止まる。その一瞬の間に、青年は左手の機械ーーー杭打ち機(パイルバンカー)を構え、ベヒモスの腹へと軽く当てる。

 

「OKーーーーー」

 

ベヒモスが咄嗟に後ろに飛び退ろうとするが、いかんせん彼はミニガンの重量ゆえに重く、鈍い。また、それすら読んでいたのか、青年がさらに一歩踏み出し、腰を落としてトリガーに手をかける。驚愕に染まるベヒモスの顔を見ながら、さらに悪辣に笑いながら、青年はトリガーを躊躇いなく引く。

 

「let‘s partyーーーーー!」

 

べキャッと言う不快な音と、杭が放たれたガキョッという機械的な音と共に、装備されていた装甲ごと体を杭に貫かれたベヒモスが少しだけ後ろに下がり、その後膝をついてポリゴンへと変わる。

 

「シノン・・・知らねぇのか?奴もベヒモスと同じさ。傭兵として働き、報酬さえもらえばどんな戦いにも現れ、引っ掻き回す。あいつの通り名はーーーーー」

 

「ハッハー!やあ諸君!小便は済ませたかな?神様にお祈りは?戦場の隅でガタガタ怯えて命乞いをする準備はOK?」

 

「ーーーー『鴉』(レイヴン)だ・・・!」




次回はまだ未定。どのくらい書くのかも割と未定。


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2話 お前で28人目

サウンドトラックも有難いけど・・・






アーマードコア新作はよ。


荒野に降り立った黒い鴉(レイヴン)。そんな彼がGGOに現れたのはごく最近のことだった。突如として現れ、場を蹂躙し忽然と姿を消す。その台風のようなと形容される戦いは、敵味方問わず恐怖に震え上がる程に強大だった。

 

『ああ?鴉のことだぁ?知るか!あんの野郎のせいで俺はレアドロップの銃を落としちまったんだよ!』

 

『てめえ、これ以上聞いてくんな!あいつのことを思い出すだけでイライラする!』

 

現れてほんの数日で被害者は3桁に及び、ついには大手スコードロンのプレイヤーでさえ被害を受けるようになった。そして三日前、大手スコードロン三つが鴉包囲作戦を敢行。これまでの被害地域から絞り込まれたポイントにて100を超えるプレイヤーがたった一人のニュービーを襲うという、前代未聞の事態へと発展した。軽機関銃、自動小銃、果てはロケットランチャーを引っ張り出す輩まで出た大規模作戦。誰が見ても狙われた鴉は瞬殺、過剰戦力だと感じていた。しかし、全ての人間の予想を覆して、鴉は大手スコードロン三つの作った包囲網を脱出してみせたのだ。更には、脱出後スコードロンのトップ3人をワンキルしていくというおまけ付き。これには包囲網参加者のみならず、その話を聞いた、あるいは野次馬していた者までが度肝を抜かれた。その結果、スレでは多くの議論が行われた。

 

 

 

1.名無し

で、結局鴉は本当にあのクソ包囲網を脱出したの?

 

2.名無し

嘘松安定だろうが。あんな馬鹿みたいな包囲網を抜けれるやつとかw

 

3.名無し

闇風さんでも無理だろ

 

4.鴉にやられた兵士

いやガチ。俺その作戦参加してたから

 

5.名無し

マジで!?どこのスコードロン?

 

6.鴉にやられた兵士

薄塩たらこさんとこ。俺も実際にキルされたわ

 

7.名無し

kwsk

 

8.鴉にやられた兵士

鴉を昼頃に発見してから、街に逃げられないようにうまく誘導して旧市街地エリアに閉じ込めたんだよ。俺らんとこは包囲網のちょうど真ん中あたりだった。作戦では、市街地に追い込んだら直ぐにロケラン勢がブッパして逃げ出してきたところを機関銃とか小銃で滅多打ちにしてはい終わり、のはずだったんだよ。でもなぜかロケラン撃ち終わっても全然出てこない。それで今度は先遣隊を送って状況を確認しようってなったんだよ。で、先遣隊の大体10人くらい?が市街地に入っていった30秒後には、そいつらみんなキルされてた

 

9.名無し

えぇ・・・

 

10.名無し

うっそだろおい!どうせ先遣隊とかレベル低いやつだろ?

 

11.鴉にやられた兵士

いやいや、確か実際にスコードロン戦とかでも一軍に入ってる人らだった筈。んで、やっぱり居るってことで、4人くらいごとにかたまって死角をカバーしながらしらみつぶしに捜索してたわけ。俺も同じスコードロンの仲間と一緒にビル付近の車の影とかを探してたんだが、いきなり視界が鉄色一色になって、気づいたら俺リスポーンしてた

 

12.名無し

あの野次馬が撮ってた動画の最初の被害者、あれお前か!いきなり頭ぶち抜かれてたやつ!

 

13.名無し

どんまい(笑)

 

14.名無し

どんまい(笑)

 

15.鴉にやられた兵士

うるせえ!そんなにいうな!泣くぞ!

・・・で、その後のことは人伝に聞いたことだけど、見つけることはできても銃撃は全部避けられて、気づくと後ろに立たれててやられる、ってパターンでほぼみんなやられてたらしい。最終的に生き残ったのは30人くらいだったらしい

 

16.名無し

100人のハイレベルプレイヤーの内7割方ぶっ殺してんのかよ・・・

 

17.名無し

これまで集められた鴉の情報(武勇伝?)

①傭兵プレイやってて、報酬次第でどんな汚れ仕事もやってくれる

②使う武器が毎回違う。でも基本的に杭打ち機をよく好んで使うらしい

③戦ってる最中は調子っぱずれの英語の歌をよく歌っている

④たまにフィールドで無差別にPKしてる。なぜか28人キルするとどんなにプレイヤーが残っていても帰っていく。28人目キルしたら、「お前で28人目・・・」とかつぶやいてどっかいく。

⑤Mob戦の助っ人を依頼したやつによるとMob相手でもめっちゃ強い

⑥ザスカーにチーター疑惑で抗議文を送ったやつに届いた公式メールによると、チート使用の痕跡はなかった

 

18.名無し

有能

ってかこれだけ見るとマジでチーターかと思うわ

 

19.名無し

ってか杭打ち機って・・・

 

20.名無し

GGOでかなり不遇なデリンジャーとか光剣とかを抜いてダントツに不人気、というか使いこなせたやついなくてほぼ空気だった武器。銃撃戦が主体のGGOにおいて射程ゼロ距離、当たればVIT極振りのタンクですら抜けるけど装弾数3発、使い切ったらリロードがクッソめんどくさい上になぜか立ち止まってるか、歩いてないとリロード不可。トドメに要求STR値がロケットランチャーを超えるというクソっぷり。正直なんでこれ使ってんのか理解不能

 

21.名無し

でも鴉はめっちゃ飛び跳ねてたしAGI高いやろ?それにロケラン集中砲火に耐えきったんならVITも大分あるはずだし、杭打ち機持てるだけのSTR値足りんのか?

 

22.名無し

せやからチーターやないかって何人かザスカーに抗議文送ったんやで。でもチートじゃないらしい

 

23.名無し

最近ではなんらかのレアアイテムとかのカラクリがあるっていう説が濃厚

 

24.名無し

あ、依頼を出したことあるやつがアバターネーム知ってたらしい。鴉のアバターネームは・・・なんだこれ、ミツヤ?

 

25.名無し

いやもう鴉でいいだろ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突如現れた鴉・・・もといミツヤ。GGO内での名前もミツヤであるが、諸々のぶっ飛んだ話と誰かのつけた鴉という異名によってその名を知るものはいても呼ばれることはあんまりない。最後のプレイヤーを杭打ち機で串刺しにし、炸薬の入った薬莢と使い捨ての杭を排出しながらも、彼は今非常に深刻な事態に陥っていた。

 

(・・・やばい、これ原作で言うところのシノンvsベヒモスやん)

 

この男、実は狙ってベヒモスを杭ブッパしたのではなかった。学校から帰りアパートに戻ると即座にGGOへダイブ。もはや日課となったPKをしているプレイヤーをかたっぱしからキルしていくPKK(プレイヤーキラーキラー)を行なっていた最中だったのであり、たまたまでかい銃声が聞こえてきたので突っ込んでいっただけなのが実情であった。

 

(どうしよう、確かシノンはスナイパーだよな?こんな近距離になってるのに突っ込んできたりはしねえよな?ってかもうやだ帰りたい)

 

内心でヘタレつつ、努めて笑顔で固まったままのダイン達とこちらを警戒するシノンへと話しかける。

 

「あー、あんたらもういいよ?」

 

その言葉にビクッとなるダイン達。しかしシノンはその言葉に眉をしかめる。

 

「・・・どう言うことだ?」

 

意を決してスコードロンを代表してダインがそうこたえる。それを聞いたミツヤは明るい声で言う。

 

「いや、こっちとしてはあんたらに手を出すつもりはないし、これ以上やる理由もない。ならさっさと帰るに越したことはないだろ?」

 

ミツヤにしてみれば自分はいきなり現れて相手の獲物を分捕ったコソ泥である。もしここでドロップ品を寄越せと怒られてもすぐに謝って返すつもりだった。

肩をすくめるミツヤを見て、驚愕の表情のダイン。メンバーと顔を見合わせ、即座に立ち上がる。もちろん銃口は下げて。

 

「そうか、あんたがそれでいいならいいさ、こっちも藪蛇はごめんだしな」

 

そう言って立ち去ろうとするダイン達。そこへ何とは無しにミツヤは声をかける。

 

「ああ、どうせダインさんにはまた会うだろうしね。それとシノンちゃんだっけ?もまたね」

 

また今度この謝罪はしに行こうと思うし、と考えるミツヤ。ついでに始めてまとも(?)に会った原作キャラを今のうちに拝んどこうとガン見する。ミツヤの言葉に、ピタリと足を止めるダイン。他のメンバーも顔面蒼白でミツヤを見る。一体何事か、と面食らったミツヤの横を、何かが掠めながら飛んで行き、背後にあった壁が粉々になる。ゆっくりと、顔を引きつらせながらミツヤが視線を向けると、そこにはこちらへ向けて巨大な狙撃銃ーーーへカートを向け、呼吸を乱しながらも敵意を向けてくるシノンがいた。

 

(・・・why?)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(・・・凄い)

 

圧倒的なまでの蹂躙を見ながら、シノンはそう心の中でこぼした。距離をとってブラスターを当てようとする相手に対し、その努力をあざ笑うかのように一瞬で近づき、左手の杭打ち機を当て、無造作に引き金を引く。真っ直ぐ行って最大の攻撃を叩き込む。たったそれだけのシンプルな行動だが、それ故にその一連の動きの恐ろしさが伝わる。あの鴉と呼ばれる男は、とてつもない戦闘センスの持ち主だ。彼に接近されたが最後、誰であろうとあの必殺の杭で串刺しにされてしまうだろう。同じことを考えたのか、隣にいたダインがゾクっと体を震わせる。者の数十秒足らずで残りを殲滅したその男は、ふとこちらに視線を移す。

その顔は笑っていた。どこまでもふかく、嗤っていた。その顔、そして目に、シノンはかつて自分が殺めた男、今なお苦しめられるその男の幻影を垣間見る。息が止まりそうになり、咄嗟に目をつぶりまた開けた時には、鴉の目に男はいなかった。そのことにホッとしつつ、シノンは考える。

 

(もし・・・。もし彼を倒すことができたら)

 

あの忌まわしい過去を乗り越えられるんじゃないか?

 

そこまで考えたところで、ダインと鴉が喋り出す。どうやら彼はこちらを攻撃する気は無いようだった。

 

「いや、こっちとしてはあんたらに手を出すつもりはないし、これ以上やる理由もない。ならさっさと帰るに越したことはないだろ?」

 

そう言って肩をすくめる鴉。先程の戦闘からずっとその顔にはニヤリと悪辣な笑みが張り付いており、何をしてくるかわからない狂人のような凄みがあった。

 

「そうか、あんたがそれでいいならいいさ、こっちも藪蛇はごめんだしな」

 

そう言って立ち去ろうとするダイン。シノンもそれに追従し、他のメンバーも疲れた顔で立ち去ろうとする。しかし、そんな中鴉の放った一言に場の空気が凍る。

 

「ああ、どうせダインさんにはまた会うだろうしね。それとシノンちゃんだっけ?もまたね」

 

ダインはその言葉の意味を最初理解できなかった。否、理解したくないと脳が拒んでいた。

 

(また会う・・・!?まさか俺が鴉の標的になっているのか!?それにシノンも!?)

 

ダインの胸中に、とある噂が思い出される。『鴉は依頼さえすれば報酬次第でどんな大物でもキルしに行く』。過去に起きた「ゼクシード粉微塵事件」によって広まった噂である。単騎でスコードロン三つを相手取れるような化け物。そんな存在に自分が狙われていることに恐怖し、思わず立ち止まってしまうダイン。他のメンバーも同じ考えに至り、恐怖で足が止まる。そんな中、シノンだけは全く別の恐怖を味わっていた。

 

(ーーーーーー)

 

殺気。それも過去に自分の殺した男が向けてきていた以上のものを感じるシノン。その殺気の元凶は探さなくてもわかる。鴉と呼ばれる謎のプレイヤー、その視線ははっきりと自分を捉えていた。

 

(なん、で・・・。こんな、たかがゲームプレイヤーがどうして・・・!)

 

名乗った覚えはないが、にこやかに笑いながら自分の名を呼ぶ鴉。しかし、その目は笑っておらずむしろ冷たい、鋭い視線がシノンを貫く。ダイン達はその視線に気づいていない。つまり、この殺気は自分に向けられている。

 

(なんで、今日会ったばかりのはず・・・!それがどうしてこんな・・・!)

 

あまりの恐怖にシノンの手は、無意識に自らの相棒であるへカートを構え、そして気づいた時には狙いも定まらないままに引き金を引いていた。

 

「・・・参ったな」

 

銃弾は、鴉を掠め、背後の壁を破壊していた。しかし、そんなことは気にもとめていない様子で鴉は笑っていた。

 

(私は・・・何を・・・)

 

無意識に発砲してしまったことに自分で驚き、固まるシノン。ダイン達も突然の事態に何が何だかわからないと言った面持ちである。全てのプレイヤーが動かない中、鴉は踵を返す。

 

「・・・こんなものか・・・」

 

そんなつぶやきを残し、荒廃した市街地を走っていく鴉。それを確認し、シノンは顔を真っ赤にした。

 

(こんなもの・・・ですって・・・?)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ええ知っていましたとも、そりゃいきなりガン見されたら不快ですよね。

 

【お仕置き?】シノンガン見してたら容赦なくへカートぶっ放してきた件について【ご褒美?】

 

いやね?たしかにガン見しすぎだったとは思うしそこは反省してるよ?でもまさか「キモ・・・」とか通り越してへカートぶっぱは心にくる。しかも打った本人はすっごい鬼の形相やったし。つい自分への罵倒をつぶやいてすたこらさっさしてもしょうがないと思うんだ。シノンちゃ・・・さんももう虫をみるかのような目で見てきたし、これはもう仲良くはなれないっぽいなぁ・・・。いやでもお茶くらいはしたかったなぁ・・・。

 

「・・・全く呆れるな」

 

恥ずかしさとシノンへの恐怖で走って逃げてからしばらく。走るのをやめて歩きつつ、そんな益体も無い考えを巡らせるミツヤ。

 

「おっ、こんなとこにセーフエリアあんじゃん。はー、さっさと帰ろ・・・!」

 

街へ戻るまでの道にある安全地帯へと歩き出そうとするミツヤだったが、咄嗟にその場にしゃがむ。すると、先程まで頭のあった場所を亜音速の弾丸が通過していった。ミツヤはしゃがんだ体制からすぐさま岩場へとヘッドスライディングを決め、身を隠す。

 

(・・・っぶねー!?なんだ!?)

 

心の中で叫びながらも周囲を少しずつ索敵スキルで下手人を探していると、はるか後方にプレイヤーを示す光点の反応を一つ発見する。それをじっと見て、ミツヤは驚愕する。

 

(・・・アイエエエ!?シノン!?シノン=サンナンデ!?)

 

そこには、先程別れたはずのシノンがいた。シノンは、あの後ダイン達が止めるのも聞かず、制止を振り切ってミツヤを追いかけ、狙撃を仕掛けていたのだった。

 

(ちょっ!?何がどーなってんだ!?さっきたしかに不機嫌そうだったけど、まさかそこまで見つめられたのが不快か!!)

 

そこには、岩場の陰に隠れたまま、アイエエエと呻く鴉が一羽いた。

 

一方シノンのほうも、驚愕の中にいた。

 

(どこまでふざけているの・・・!最初の一射を避けるなんて・・・!)

 

スナイパーの利点である「最初の狙撃までは弾道予測線による回避ができない」という必殺の一撃を避けられたことに、シノンは唇を噛みしめる。基本スナイパーとは相手に位置を悟られることが死を意味する。鴉ほどの強敵ならなおさらだ。また、スナイパーの強みである最初の狙撃を避けられた時点で、次の狙撃からは弾道予測線が出る上、それを避けるためには場所を変えて1分待たなくてはならない。シノンは圧倒的不利だった。

 

(・・・でも、奴との距離は十分にある。まだ狙撃ポイントの変更は可能・・・!絶対に仕留めてみせる!)

 

目にいつも以上の殺気をたぎらせ、神経を研ぎ澄ましていくシノン。鴉のこぼした言葉、それが自分の先程の咄嗟の射撃のことだと考えているシノンは、まるで期待外れだ、と言われたように感じていた。これまでトラウマを克服するために作り上げてきた自らの技量を嘲笑われたと。

 

(ふざけるな・・・!私は強くならないといけないんだ・・・!だから・・・!)

 

「消えろ・・・!鴉『イレギュラー』!」




だれか・・・私に文才をください・・・。
オリジナル設定込みなら書きやすいだろ(笑)とか思ってた自分を殴りたい・・・。

ミツヤ「ほんますんません、また謝りに行きますので」

ダイン「俺狙われてる・・・!?」

ミツヤ「ほんまシノンちゃんかわゆす」

シノン「殺気!!ぶっ殺す!」

ミツヤ「アイエエエ!?」


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3話 ガ●ダムファイト!レディー、ゴー!

あ、タイトルは内容と関係ないです。


夕日ももうすぐ落ちようかという時間の荒野に、銃声が轟く。シノンの持つ対物ライフル、へカートの必殺の弾丸は、しかし狙う標的に全く当たらない。

 

「なんて動きよっ!本当に人の入ったアバターなの!?」

 

シノンのスナイパーとしての技量は、決して低くない。むしろGGOのなかでは高水準にあると言って良い。そんなシノンの狙撃を、鴉は難なくかわす。時には岩陰に隠れ、時には不規則かつ高速な動きで翻弄し、はては弾丸を左手につけたパイルバンカーの本体でガードしてしまう。へカートの装弾数的にもこれ以上無駄玉を撃ちたくないシノンは、一度距離を取ろうと立ち上がる。その時、

 

「・・・っ!?」

 

咄嗟に頭を下げたシノンの真上を、鉄杭が飛翔していく。正面にはパイルバンカーをこちらへ向けて構えた状態の鴉。間一髪でかわしたシノンは、そのまま後ろへ全力疾走する。

 

(鉄杭を飛ばすって・・・!なんでもありね・・・!)

 

自身のAGIの許す限界の速度で後退するシノン。しかし、鴉はシノンの努力を嘲笑うかのように圧倒的スピードで接近する。AGIではあちらが上。シノンは即座に腰に携行したサイドアームのMP7短機関銃を抜き、鴉へ向けてばらまく。だが、またしても変態的高速機動で回避し、さらに距離を詰める鴉。

 

「くそっ」

 

悪態をつきつつ再度へカートを構えるシノン。

 

(距離が離せないなら、このまま撃つ・・・!)

 

照準を合わせ、ボルトハンドルを引く。それを見た鴉が、ギョッとしたように感じたシノン。一瞬の戸惑いを即座に打ちはらい、スコープを覗くことなく引き金を引く。

 

(殺『とっ』た!)

 

愛銃の頼もしい反動から確かな手応えを感じたシノン。しかし、次の瞬間、とてつもない衝撃がシノンを襲う。

 

「恐れるな・・・死ぬ時間が来ただけだ」

 

一体何が、と考えるまでもなくポリゴンへと変わっていく自身を知覚しながら、シノンが最後に見たものは、沈んで行く夕日を背にしてこちらを見つめる鴉の赤い眼と、白い煙を吐くパイルバンカーだった。

 

《GGO》では、弾道予測線というシステムがある。プレイヤーが銃を構えると、銃口から弾丸の通り道を赤いバレット・ラインが伸び、どこへ銃弾が飛ぶのかが分かる。これのおかげでプレイヤーは銃弾を躱すという超人技が可能となっている。しかし、それはあくまで十分な距離があればの話である。近距離での銃撃戦や、極端な話連射可能な機関銃を真正面から躱し続けるなんて事はただの一般人であるプレイヤーには不可能である。いまの状況で言うのなら、近距離ですでに狙撃可能な状態の対物ライフルに突っ込む、というのは最早無謀という問題ではない。自殺行為である。

そう、『普通のプレイヤー』なら。

 

「・・・ふう。あっぶな、あの距離でへカート撃つか普通?」

 

シノンからの襲撃を乗り切るため、杭を一本無駄にしてしまった。あれ無駄に高いんだよなぁ・・・。本体の方も煙吐いてるし、こりゃもう廃棄かな・・・。

 

「ま、今日もデスペナ喰らわずに済んだんだし、良しとするか!」

 

そう、生きてりゃ文句なし!それこそが俺の信条!そう言って鴉はグロッケンの街へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「・・・」

 

アミュスフィアを外し、軽く深呼吸をしてから起き上がる八彦。そのまま頭を抱えると、うぐぉぉぉぉと呻く。

 

「やっっちまったぁぁぁ」

 

その場のノリとテンションと良くわからないナニカに感化され、シノンを杭ブッパした事である。

 

「うあぁぁぁぁどぉぉしよぉぉぉ、もう無理か?仲良くはもう無理か!?」

 

その後、夜通し八彦の部屋の明かりはつきっぱなしだったとか。

 

 

 

 

 

 

その頃、シノンーーーー朝田詩乃も又、ゲームからログアウトしていた。アミュスフィアを手に持ち、俯いて肩を震わせる詩乃。

 

(あんな・・・簡単に、それも一度も当てられずに負けるなんて・・・!)

 

その顔は苦々しく歪み、激情を余すことなく表していた。そのまま台所へ向かい、コップに水を入れがぶ飲みし、前を見据え呻く詩乃。

 

「絶対に・・・次こそ、次こそ撃ちぬく・・・!」

 

その右手は、無意識のうちに人差し指と親指だけを立てた、子供がよくお遊びでする銃の形をしていた。

 

 

「・・・隣うるさいな・・・」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、八彦は学校帰りにスーパーへと立ち寄っていた。一人暮らしゆえに、食事を作るのも自分である。今日はたまたま食材が切れていたために調達に来ていた。

 

「・・・お、キャベツ安い」

 

思っていたより安く手に入った食材に、少しテンションの上がる八彦。

 

「ーーーーー♪」

 

スーパーを出て、自転車にまたがり鼻歌交じりに漕ぎ出す。その脳内はすでにGGOのことでいっぱいだった。

 

(昨日はD-04ポイントでPKKやったし、次はどーするか・・・。久々に『依頼』を受けて行くってのもありだしなぁ・・・。っていうか、そろそろBoBの準備も・・・って)

 

「あっ、死銃どーしよ・・・」

 

ボソッと零しながらあちゃー、という顔になる。この男、死銃事件のことをすっかり忘れていたのである。

 

(まーこっち狙ってくれたら儲けもん的に考えとくか。それなら被害者が一人減るだろうし、こっちには対抗策として『チート』が有るわけだし)

 

そんなことを考えながら、再度鼻歌を歌いつつ帰る八彦。その鼻歌は、段々と大きくなり、終いには調子っぱずれの熱唱となっていた。

 

 

 

 

 

 

朝田詩乃は、学校の帰り道、いじめを受けていたところを新川恭二・・・自身をGGOに誘った同級生に助けられ、カフェへと向かい前日の事の顛末について話していた。

 

「昨日は・・・その、残念だったね」

 

言葉を選びながらそう言う新川に、少し不機嫌さを醸し出しながらも頷く詩乃。

 

「・・・結果を言えば標的をあいつ・・・鴉に盗られたわけだしね。それに、私もやられちゃったし」

 

そう言って手に持ったカップを傾ける詩乃に、新川はきょとんとする。

 

「意外だね。てっきりもっと悔しがると思ってたけど」

 

その言葉に、ピクリと反応する詩乃。カップを置くと、

 

「悔しがるのは昨日のうちに終わったわ。でも、だからってこのままにはしない。次にあいつに会った時は今度こそ・・・」

 

殺す、と続けそうになり慌てて別の言葉を考える。

 

「・・・撃ち抜いて見せるわ」

 

なお、あんまり変わらない。

 

その後も、間近に迫ったBoBに参加する事などの近況を話し込んだあと互いに帰路に着いた。スーパーで野菜と豆腐を買い、アパートへと帰る詩乃。階段を上がり、二つ目のドアが自身の部屋である。と、階段を上がりきったところで、詩乃は自分の部屋のドア・・・の隣のドアの前で地面に手をついてオロオロする男を見つける。

 

(・・・不審者?)

 

男であると言うことに少々ドキンと胸が跳ね、警戒しつつ近づく。どうやらその男は買い物袋から落ちた野菜などをかき集めているようだった。おそらく、誤って落としてしまったのだろう。そんな男は、せっせと野菜や豆腐、そして何故かあるプラモの箱などを集めている。そこで詩乃は男の後ろ・・・つまりは自分の部屋のドアの前に林檎が落ちていることに気づく。

 

「あの、これ」

 

林檎を拾って男に話しかける。振り向いた男は、何処にでもいるような顔立ちの、言ってしまえば特徴のない顔立ちをしていた。まだ若く、自分と同じくらいかな?と思う詩乃。

 

「あ、すみませ・・・」

 

振り返り、礼を言う途中で固まってしまう男。なぜか自分を見て目を見開いて驚く男に、戸惑う詩乃。

 

「・・・何か?」

 

「・・・あ、いえ、ありがとうございます。・・・あー、すみません、お騒がせして」

 

「・・・いえ」

 

停止状態から復活した男は、詩乃から林檎を受け取り立ち上がると、なにやら気まずそうに謝る。詩乃はなぜそんな顔をするのかと疑問に思うが、まあいいか、と自分の部屋の鍵を開ける。男の方もそそくさと隣の部屋へと入っていった。その時、男の鼻歌が詩乃の元へと届く。

 

「〜ー来たれ来たれ、福音よ来たれー」

 

「っ!?」

 

聞こえてきたのは、聞き覚えのあるーーー最近聞いた、忌々しい英語の歌。咄嗟にバッと振り向く詩乃。しかし、すでに男は部屋へと戻っていた。

 

「・・・まさか、ね」

 

聞き間違い、空耳だろう、幻聴が聞こえるほどあの鴉が印象的だっただけだと自分に言い聞かせる。そのまま、自分の部屋へと入っていったのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「・・・で、あんたが言いたいのは、つまりその『死銃』とやらに撃たれてこい、ってことだな?」

 

お洒落な喫茶店内で、似つかわしくない物騒なことを話すのは、SAO事件に巻き込まれた『生還者』にしてデスゲームを終わらせた勇者、と言うことにされた少年桐ヶ谷和人。ゲーム内での名前はキリト。その言葉に、はははと笑いつつも、否定しないのは、菊岡誠二郎。国の公務員にしてVR世界の監視を任される男である。現在彼らは、GGO内で起きた殺人事件、『死銃事件』について話していた。

 

「嫌だよ!何かあったらどうすんだ!あんたが行けよ!」

 

そう言って帰ろうとするキリトを抑え、話を再開する菊岡。彼曰く、死銃なる犯人は、相応の強さを持つものでないとターゲットとせず、自身では実力不足である。そこで、SAOでトップをひた走ってきたハイレベルプレイヤー、つまりキリトに代わりにGGO内で接触を試みてほしい、と言う話であった。

 

「頼むよ、報酬は出すからさ。・・・これだけ」

 

「ぐっ・・・」

 

提示された金額に心が揺らぐキリト。結局は嫌だと言えず、引き受ける流れとなった。死銃の音声データを聞き、そのまま帰ろうとするキリト。そんな彼を、菊岡が再度止める。

 

「あ、まった、キリト君。もう一つ、最優先ではないけど言っておくことがあった」

 

「なんだよ、俺これから明日菜と会うんだけど」

 

そう言って不機嫌になるキリトに、菊岡がタブレットを差し出す。そこには、GGOのゲーム内の画像・・・1人のアバターが表示されていた。

 

「・・・なんだ?こいつが死銃か?」

 

「いいや。ただ、GGOでかなり有名なプレイヤーなんだ。今回の依頼以外に一つ、このプレイヤーとの接触も頼みたい」

 

そこには、黒いコートをはためかせ、その下に『大葉亜土武雨洲斗』と書かれた珍妙なコンバットスーツを着た、メガネをかけたアバターが顔に入れ墨の入った女性アバターへと襲いかかる姿が写っていた。男はとてつもない怒りの表情で、女は狂気に満ちた満面の笑みである。男は両手にショットガンを持ち、女性の方はカスタムされすぎてはいるが、ある程度原形をとどめたAK47を構えている。菊岡がズームしてみせたのは男の方だ。

 

 

「なんだこの画像」

 

「ネットに出てた画像だね。他にもいくつかあったけど、これが一番顔がはっきりしている」

 

「死銃との関係は?」

 

「不明だ。が、恐ろしく強いらしい。ネット上の書き込みを信じるなら、半端じゃないね」

 

そう言って肩をすくめる菊岡。プリンを一口食べ、咀嚼しながら続ける。

 

「あまりの強さにチーター疑惑まで出てるって言うんだから驚きだね。ザスカーに抗議文まで送られてるらしく、上の方も少し調査してこいってうるさいんだ。そこで、ついでに調べてきて欲しいんだ」

 

そう言ってにこりと笑う菊岡にげんなりしつつ、はいはいとおざなりに返事をするキリト。

 

「・・・で、このプレイヤーの情報は?」

 

「アバター名はミツヤ、基本ソロで活動してるみたいだね。通り名は『鴉(レイヴン)』、なんともかっこいい名前だね」

 

「鴉・・・」

 

「まー、これに関しても報酬は出すからさ。頼むよ」

 

「簡単に言ってくれるよほんと・・・。死銃を優先するから、こっちは分からなくても文句言うなよ」

 

そう言ってキリトは喫茶店を出ていくのだった。




ミツヤ「てめえ俺のP90返せやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

???「あははははっ、じゃあ私を倒してみなよ!」

ミツヤ「やらいでかぁ!!」

そんな画像。なお、撮影者はその後巻き込まれてキルされたとかされてないとか。


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第4話 はぁーるばる来たぜ〜箱だけ〜♪

オデノカラダハボドボドダァ!(0w0)


薄暗い部屋、パソコンの光のみが照らす中で、その男は画面を凝視しつつ様々なサイトを開いていく。全てに共通しているのは、『死銃』に関する情報を扱うサイトであること。その中から、『死銃情報まとめ』と題されたサイトをアクティブにする。管理人の更新はなく、掲示板にはいくつかの新規ログがある。

 

『結局のところ、ゼクシードもたらこも出てこないな』

 

『引退ドッキリだろ?BoB近いし、もうすぐ戻るだろ』

 

その他、様々な意見があるが、共通してどれもドッキリや引退の記念企画のようなものとして捉えていた。そのことに歯噛みする男。と、そんな中、ログをたどり、BoBに関する意見の1つが目に入る。

 

『で、今回のBoBに鴉が出るって情報はマ?』

 

「・・・っ!」

 

鴉。その言葉に、ただの名称が出ただけで底知れない憎悪を燃やす男。男の計画では、死銃の力に怯えた多くのプレイヤーがこの時点で引退するという想定だった。しかし現実は、ユーザー総数に変化はなく、このサイトのように冗談めいたやりとりばかりが繰り返される。死銃の事件は、それなりに大きな話題となった。しかし、死銃の犯行が始まったその2日前から、唐突に現れた鴉。その圧倒的かつ異常なプレイヤーの出現に、瞬く間に注目を取られていたことが、死銃の計画に少なからず影響を及ぼしていた。

 

『本気らしいぞ。情報屋曰く、本人の口から出たことらしい』

 

『どっちにしろ、予選で落ちるだろ』

 

『鴉考察スレ見てないのか?やってることまとめただけにしてもだいぶイカレてるぞこいつ』

 

『いやいや、今回の優勝は闇風さんで決まりでしょ』

 

『AGI型が勝つ時代はもう終わったんだよ』

 

その後も、終始鴉やBoBの話題ばかりが取り上げられ、そんな些細なことが男の気に触る。即座にブラウザを閉じ、別のファイルを開く。そこにはゲーム内で取られたと思われるスクリーンショットが8枚。そのうちの2つ、ゼクシードとたらこの写真には赤い✖︎印が刻印されている。その中には、唯一の女性プレイヤーとして、シノンの画像もある。しかし男はそれを無視して1つの画像を拡大する。最大望遠で超遠距離から撮影されたと思われるその画像には、どこか近代的な形状のメガネを指で押し上げ、レンズ越しにこちらを睨む軍服型コンバットスーツに暗い緑色のコートを羽織った男が写っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・迷った」

 

多層構造の複雑な街並みの広がる首都、SBCグロッケンの中、美少女・・・いや、美青年が一人、ため息をついていた。その正体は、何を隠そうキリトである。ALOからキャラをコンバートし、GGOの世界へと降り立った彼は、予想外の事態(ぱっと見美少女化)に見舞われつつも、本日行われるBoBへとエントリーするため、会場を探していたーーーーーそしてあっけなく迷っていた。

 

「・・・ええい、ままよ!あのーすいません、道を聞きたいのですが・・・」

 

そう言って話しかけ、相手が振り返るとキリトはしまった、と思った。振り返ったのはどう見ても女の子であった。ナンパと間違われてはまずいと慌てていると、そんなキリトの予想外にも、その女の子は微笑を浮かべていた。

 

「・・・このゲーム初めて?どこに行きたいの?」

 

はて、なんでだろうと思考するキリトは、己が今美少女(っぽい)であることに気づく。一瞬誤解を正そうか迷うも、結局は悪いと思いつつ黙っていることにし、その女性プレイヤー・・・シノンについて行くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

「・・・来ない」

 

一方、グロッケンの初心者が出てくるドーム、その前にある広場のベンチでは、鴉ことミツヤがじっとドームをにらんでいた。目的は当然、キリトとの接触である。SAO時代には一切接点を持てなかった相手ではあるが、せっかくなので一目見る、あわよくばお近づきになって案内をして、ゆくゆくは友人に・・・という邪?な考えではあるが。

 

「なんでだ?BoB当日にコンバートしてくる、筈なのに・・・」

 

すでにキリトはログインしていることに気づくことなく、その後もミツヤはドームをガン見して、周囲から変なものとして見られているのだった。

 

 

間抜けな鴉がいまだにドームで張り込んでいるとき。シノンとキリトはグロッケンのマーケットの1つでキリトの装備を整えていた。初期資金のみではまともな装備など揃えられなかったであろうが、キリトは持ち前のプレイスキルでもって、ミニゲームで資金を荒稼ぎしていた。

 

「シノンさん、この銃はどんなやつなんですか?」

 

「・・・弾道予測線を予測とか・・・ありえない。でも実際にやってる。判断力?思考スピード?分からない・・・」

 

「あ、あのー、シノンさん?」

 

「え?あ、ああ、その銃はね・・・」

 

途中、シノンが思考の深みにはまり、戻ってこなくなることもあったが、その後滞りなくキリトの装備は整えられていった。

 

「いやー、まさかあのミニゲームをクリアするだけで『九十万』も手に入るとは思わなかったです」

 

「普通はあんなのクリア出来ないわ。最後のインチキレーザーを見たでしょう?それに『15発』連続かつ時間1秒未満のクイックリロードをなんで避けれるのよ。あなた見かけによらずとんでもないわね」

 

「あはは・・・」

 

驚くと言うより、むしろ呆れたと言うようなシノンの言葉に苦笑いをこぼすキリト。そんなキリトに再度ため息をこぼしながら、ふと時計を見て固まるシノン。

 

「・・・っ!?やばっ!エントリー受付時間もうすぐ終わっちゃう!」

 

「ええっ!?」

 

こうして、ドッタンバッタンしつつ、2人は急いで会場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「・・・ああっ、時間ねぇ!?ヤッベ行かなきゃ!?」

 

一方、間抜けな鴉もようやく動き出していた。

 

 

 

 

 

 

会場内には、物々しい空気が立ち込めていた。いたるところに銃をぶら下げたいかつい男たちが睨みをきかせている。おっかなびっくり歩くキリトとは対照的に、堂々と前を向いて歩くシノン。2人はあの後、必死に走りながら見つけたバギーにより、ギリギリで間に合っていた。好奇心で向けられる視線に辟易としながらどうにかエレベーターまでやってくると、シノンがため息とともにつぶやく。

 

「まったく、やんちゃなだけのやつらがうっとおしかったわね」

 

「え!?あの、めっちゃ見られてたんですが・・・」

 

「わざわざ予選前から武器を見せびらかすような奴ら、雑魚以外の何物でもないわよ。対策してくださいっていってるようなものじゃない」

 

そう言ってまた黙るシノンにすごい胆力だなぁ、と思うキリト。エレベーターが止まりドアが開くと、その先では上階以上にいかつい男たちがひしめき合っていた。そんな中をまたしても堂々と歩いていくシノンについて行くと、個室の1つへと入る。そこに入るや否やアバターの衣装を解除するシノン。ギョッと目を向いているキリトに、キョトンとし首をかしげるシノン。

 

「?どうしたの?早くしないと」

 

「え、あ、う・・・ご、ごめんなさい!」

 

「きゃっ!?な、なに・・・え?男?」

 

高速で頭を下げ、ネームカードを提示するキリトに困惑するシノン。しかし、その困惑は別のモノへと変わる。ネームカードには、キリトという中性的?なアバターネーム。そして、メイルと書かれた性別欄・・・male(男)?

 

「あ・・・あ・・・あ・・・」

 

言葉にならない、と言った風に絶句するシノンを前に、ばつが悪そうに顔を上げたキリトが見たのは、涙目で拳を振りかぶるシノンの姿だった。

 

 

 

 

 

 

一方、どうにかこうにか、AGIステータスをフル活用して登録に間に合ったミツヤは、控え会場をうろついていた。

 

「あー、間に合ったぁ〜。もう少しで終わるとこだった」

 

「なんで?」

 

「そりゃお前、キリトが来るってんだから待ち構えて・・・ん?」

 

独り言に対して答えてきた何かに、疑問を覚え後ろを向くと、脊髄反射で拳を振り抜く。

 

「おっと、危ないなぁ。ミっちゃん、ちょっと怒ってる?」

 

「ああ、今この瞬間に怒りの頂点だよボケが、あとミっちゃんとか呼ぶな!!」

 

ミツヤ渾身の一撃をひらりとかわし、ニヤニヤ笑うのは、顔の半分が刺青に覆われた女性プレイヤー。名を毒鳥(ピトフーイ)。ピトフーイはチッチッと舌を鳴らしながら指を立て揺らす。

 

「やだなぁ、お互い知らない仲じゃないんだし、ピトって呼んでよ」

 

「誰が呼ぶか、お前なんざクソ鳥で十分だボケが」

 

心の底から嫌悪が顔に出ているミツヤに、あははと笑うピトフーイ。全く応えていない。

 

「で、なんであんたがBoBに出ることにしたの?前に会った時は公式の大会に興味ないって言ってたじゃない」

 

「事情が変わったんだよ。お前こそ、スクワッド・ジャムの準備で忙しいんじゃなかったのか」

 

「そりゃ、あんたが出るからよ」

 

その言葉に顔をしかめるミツヤ。それを見たピトフーイは、ニヤリと笑い自分の考えが当たっていることを確信する。

 

「ルール無用の戦いしか興味ないあんたがわざわざ公式の大会にでるなんて、依頼を受けたか、若しくは『何か面白いことがあるから』だと思うのよねぇ。そして情報屋から最近あんたが依頼を受けた形跡がないことは確認済み。とくれば、後はもう・・・分かり易いわねぇ」

 

自身の推理、とも言えないような憶測をつらつらと述べるピトフーイ。しかしミツヤの表情がその考えが当たっていることを教えていた。

 

「・・・俺にとって面白くても、お前にとって面白いとは限らねぇだろ」

 

その言葉に満面の笑みで答えるピトフーイ。

 

「何いってんの、あんたと私は『同じ』。敗北者であり、そして狂っているもの同士である私達の感覚が、違うわけないじゃない」

 

そう言って笑いかけるピトフーイに、ミツヤは険しかった表情をすっと引っ込め、ピトフーイを睨む。

 

「・・・まあ別にいいさ。もう言葉はいらない」

 

「・・・?」

 

「あとは戦場で鉛玉ぶち込んで教えてやるよ」

 

そう言ってブロック表を指差すミツヤ。その先を見て、さらに笑みを深めるピトフーイ。そこには、「予選第一回戦:ミツヤ vs ピトフーイ」と出ていた。

 

「あはっ、ほぉらやっぱり。面白くなってきたじゃない」

 

「はぁ・・・とりあえず」

 

「ええ、まずは」

 

「「お前(あなた)から殺そうか」」

 

その言葉を最後に、2人を含めたプレイヤー達は、予選へと転移していった。

 

ーーーBoB予選、開幕ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少々遡り、数分前。会場の一角の座席に、2人の美少女が座っていた。一方は怒りの表情を浮かべ瞑想をしている水色の髪の、ネコ科を思わせる少女シノン。もう一方は、そんなシノンの顔色を伺いつつ、ビクビクしながら座っている少女・・・もとい男性アバター、キリト。あのあと全力の拳をもらったキリトは、ダメージこそなかったがものすごい勢いでぶっ飛ばされ、シノンに謝る機会を失っていた。一方のシノンも、騙されたことに関しては自分の油断、と割り切っていた。・・・だいぶキレているが。

 

「・・・あの、シノン・・・さん?」

 

「話しかけないで」

 

「アッハイ」

 

猛烈な殺意を向けられますます縮こまるキリト。と、その時2人の元へ話しかけてくるプレイヤーがいた。

 

「やあ、シノン。遅かったね。・・・そちらの方は?」

 

「シュピーゲル。ちょっと、色々あってね。こいつは・・・」

 

「どーも、キリトです」

 

「あ、ど、どうも」

 

にこやかに挨拶するキリトに、戸惑いつつ答えるシュピーゲル。そんな2人を見て、不機嫌げにシノンはキリトを睨む。

 

「気をつけて、こいつ男よ」

 

「・・・え?」

 

目を丸くするシュピーゲルを見ながら、キリトは改めて挨拶する。

 

「あー、改めて、キリト、男です」

 

「は、はぁ」

 

突然のことに戸惑うシュピーゲルにあははと苦笑するキリト。その姿を見ながら、ため息をこぼすシノン。そんな中、キリトはシノンへと話しかける。

 

「あ、そうだ。出来れば、この大会のルール教えて・・・」

 

「規約くらい読みなさいよ。さっき送られてきてたでしょうが」

 

「・・・いや、英語あったし・・・」

 

すまなそうにそう言うキリトに、本当にこの男は、とため息を再度つくシノンであった。

 

 

一通り規約について話し終えたシノン。するとやや離れたところで、プレイヤーの人だかりができていた。

 

「・・・なんだアレ?」

 

「さあね」

 

『おい、あそこ見ろよ!毒鳥と鴉が睨み合ってるぞ!』

 

『まじかよ、あの基地外どもが来てんのか!?』

 

「「っ!?」」

 

聞こえてきた言葉に思わず反応するキリトとシノン。突如席を立った2人に、戸惑うシュピーゲル。そんな中シノンがその人垣の向こうへと歩き出したその時、

 

「っ、もう・・・!?」

 

シノンとキリトの体が転送され始めていた。なんだこれ、と驚くキリトを尻目に、シノンはなおも人垣の向こうをにらみつつ呟く。

 

「・・・次会ったら殺す。絶対に・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予選会場の1つ、廃れた遺跡のようなエリア。キリトが現在飛ばされ、餓丸による洗礼を受けているのとは別の会場。そこでは、異様な光景があった。ピトフーイは武器を持ち、安全装置も解除済み。にもかかわらずミツヤの方は何も持たず、無手で無造作にゆっくりと歩いて距離を詰めている。ピトフーイとミツヤのその光景をモニターで見た他のプレイヤーは、「何をしているんだ?」と困惑する。そんな中、2人の距離はどんどん近づき、遂にはほぼ肉薄していると言っていい距離になる。

 

「・・・おい、撃てよ」

 

「あんたこそ、ひょっとして遠慮してる?」

 

軽口を叩く2人の姿に、モニター前のプレイヤー達はヤジを飛ばす。

 

「なんだよ、さっさとやれー!」

 

「おいおい、ひょっとしてヘタれてんのかー?」

 

「所詮噂は噂でしたってことかよ!」

 

本人達に聞こえていないのをいい事に、重い思いのヤジが飛ぶ。と、その時、2人は同時に動いた。

 

「っ」

 

「よっ」

 

ピトフーイが構え、ミツヤが武器をお披露目する。お互いに持っている武器を即座に相手へと向け、同時にバックステップで急激に距離を取る。ようやくか、とプレイヤー達は思う。しかし、次の瞬間驚愕が走る。

 

「「なんだよあれ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

遺跡での戦闘開始と共にお互いの武器のネタバラシをしたピトフーイは、ミツヤの武器を見て引きつった笑みを浮かべる。メインアームの魔改造済みAKを持つ手が動揺からか震える。

 

「・・・いちおー聞くんだけどさ。それ、何?」

 

その視線の先、ミツヤの構えた腕に持っていたのは、ピトフーイが初めてミツヤと交戦した時に装備していたレバーアクション式散弾銃ウィンチェスターM1887/1901でも、シノン達を屠ったパイルバンカーでもなかった。ましてや、銃ですらなかった。

 

「見てわかんねーか?銃剣だよ、銃剣。AKMとかにつけるアレ」

 

そう言って量の手に持つ『ソレ』を軽く回してみせるミツヤ。しかし、ピトフーイは笑いながらも未だ震える声で訂正する。

 

「いや、あんたのソレはAKMって言うより、M1905のもんでしょ。明らかにでかいわよ。何より

 

普通ソレ、銃につけなきゃ使えないんじゃないの?」

 

このGGOは驚くほど忠実に現代の実銃をデザインしている。しかし、それ故に奇をてらった行動や装備は出来ない。ゲームなんだから現実では出来ないことをしようとしても、サイレンサーを付けつつマズルブレーキを付ける、なんて言う矛盾した装備は出来ない。ある意味でゲームらしくない、ひどく現実的な仕様となっている。

 

ゆえに、ミツヤのソレは異質だった。

 

「まあンなことはいいさ。これはただの抜け道(ズル)だからな。さて、毒鳥よぉ」

 

のらり、と銃剣を体の前で交差し、構えるミツヤ。

 

「首、置いてけや」

 

まるで十字架のように交差する銃剣の刀身の向こう、鴉の眼光が嗤っていた。




鉛玉ぶち込むとか言いつつ銃剣を使っていくスタイル。
どこぞのCV.若本かお前は。

Q.なんでキリトがやったミニゲームの賞金が増えてるの?

A.ミツヤが暇つぶしで遊びまくってるから。

Q.ガンマンの性能が高くなってるのは?

A.ミツヤが最初の設定で鼻歌交じりにクリアして運営がブチギレたから。

結論:だいたいミツヤのせい。

シノン「鴉死すべし、慈悲はない」

ピトフーイ「やっぱサイコーだわミっちゃん!」

鴉「エ“ェェイ”メ“ェン”!!」


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