転生したらマーリンの弟子になった (黒猫街夜)
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舐めんな!

昨日HF見てきました!
色々と感動してFateでなんか書きたくなりました!
とりあえず桜はエロい。

え?完結してない作品?
なろうのサイトの方に逃げてました。
.....のんびり書くから許して下さい、何でもしますから(なんでもするとは言ってない)


いきなりですが転生しました。

俺自身も舐めんなと思うくらい唐突だが仕方が無いのだ。

何せ俺も気がついたらここにいた。そしてここがどこかも分からない。

さてこれからどうしようか…...

 

とにかく今は自分がどうなってるのかが知りたい。

見える範囲で自分を観察する。

すると自分の着ている服がまず目に入った。

何とそれは砂だった。

俺はまるで砂を纏うかのように着ていたのだ。

 

うっわぁ不思議だなぁ。

というかこれマジで何なん?

こんな事は地球じゃ絶対に有り得なかった。

だって砂の服だよ?

俺はもしかして魔法とかそういうのがある世界に転生させられた訳?だとしたら楽しそうだな〜

とはいえ赤ん坊スタートじゃなくて助かったわ。

俺の中身は高校生だからね?

その状態で赤ん坊スタートだと羞恥心とか色々半端なかったと思うしね。

 

その時だった。

 

「やぁ少年.....でいいんだよね?」

 

いきなり背後から声をかけられた。

振り返ってみるとそこにはある意味とてもよく見知った顔があった。

 

「マー.....リン?」

 

「おや、私の事を知っているのかい?」

 

えぇ知ってますとも。

FGOで何度お世話になったことか。

サーヴァントの中では割と好きな部類に入る。

そして同時にこの世界がどんな世界かある程度予想が着いた。

 

……この世界、Fateやん。

割と詰んでね?

だっているのは怪物みたいな人間と怪物ばかり。

真面目に生きなきゃ死ぬ。

割とマジで。

 

「さて、君は何者かな?」

 

うんうん、マーリンはこの胡散臭い感じがいいよね。

普通の言葉も胡散臭く感じるのはもう才能だと思うんだよ俺。

 

「知りません」

 

「む、しらばっくれるのかい?」

 

「いやいや、本当に分からないんですよ。俺が誰なのか」

 

「ふむ……なるほど、じゃあとりあえず着いてきたまえ」

 

「は~い」

 

これからどうなるかは分からないけどまぁ楽しくなることを願おうかな。

 

♢♢♢♢♢

 

「さて、ではまず君が何者なのかから調べようか」

 

「お願いしま~す」

 

その後は血を抜かれたり皮膚を調べられたり砂の服を調べられたりした。

大体1時間くらいかな? かかった時間は。

 

「……なるほど、よく分かったよ」

 

「お、どうでした?」

 

なんかこういうの無性にワクワクするな。

 

「結論から言えば君はこの島そのものだね。神秘が薄れていくこの島そのものが生み出したブリテン島の防衛システムのようなものだ。仕組みとしてはこの島で神秘を宿した生物が死ぬとその神秘は君を経由してブリテン島に流れ込むというものだね」

 

「……それって人間って言える?」

 

「言えるわけないだろう? 君の砂の服はブリテン島の砂だ。その砂はもう薄れてきているとはいえこの島の神秘を色濃く宿している。さらに流れる砂の特性は流転。君のその流れる砂の外套は性質を変え、形を変え、強度を変える。この島の中にいる限り君に攻撃を加えれるものはそう居ないだろうね」

 

転生したら人間ですらなかった……

まぁいいか。

とりあえずこの島から出なければそれなりに強いと思う。

 

「ねぇ君、私の弟子にならないかい?」

 

「唐突ですね!?」

 

「私はウーサー王とある契約をしていてね。内容はこのブリテン島を救うこと。赤い竜の化身である理想の王を作ろうとしているのさ。しかしそこに君が現れた。君が居ればこの島が滅びる確率はかなり下がる。私としては手離したくない。だから私の弟子になってくれればとりあえず手元に置いておける。君も私から魔術を教わることができるからお互いに得をすると思うんだ」

 

あぁなるほど…...

この人あれだわ、流石はクズと呼ばれるだけはある。

確かにそれならブリテンを安定させられるかも知れない。

しかしそこに本人の感情は含まれない。

ただ自分のために。

なるほど、人外とはこういうものか。

とはいえ俺に選択肢は無い。

俺の役目がこの島の守護ならまぁ頑張ろう。

そのためにもマーリンに弟子入りするのはかなりお得だと思う。

 

「よろしくお願いします!」

 

「ありがとう! まぁまずは君に名前を付けないとね…...何がいいかなぁ」

 

名前かぁ.....前世の名前を名乗るわけにもいかないもんなぁ。

そこら辺は考えてなかった。

 

「うん、ラックなんて名前はどうだい?」

 

「ラックですか?」

 

「あぁ、君は私にとっては幸運そのものだ。だから運を意味する名前を付けさせてもらおうと思ったんだよ」

 

「ラック、ラック、ラック、ラック.....うん! いいですね!」

 

「気に入ってくれたかい?」

 

「えぇとても!」

 

「ではこれからよろしく頼むよラック」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

前世では呆気なく死んだけど今度こそはそうならないようにしないとな!

頑張るぞぉ!

 

 

 

 

 




伸びなきゃ泣いてやる。


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俺にそっちの趣味は無い!

割と伸びてびびった。


「失礼しますよ」

 

「どうぞ」

 

マーリンに弟子入りしてから早くも五年が経過した。

今では習った魔術は手足のように扱える。

まぁマーリンは魔術よりも剣で殴った方が早いとか言って俺に剣術を教えてきた。

というかこの人ほんとに魔術師か?

魔術よりも剣術が得意な魔術師ってどうなのよ。

 

「お呼びですか?」

 

「あぁ呼んだとも。でもその前に幻術を解除してくれると助かるよ」

 

あ、忘れてた。

今世の俺はどちらかと言うと中性的な見た目をしている。

なおかつかなり整った顔立ちをしている。

さらに髪は灰色、目は金と中々珍しい色合わせらしくかなり目立つ。

そのため色々と言い寄られるのだ。

 

男からも女からも(・・・・・・・・)……

だから幻術を使って姿を老人に変えているのだ。

結果として全く注目されずに済んでいるから大成功だろう。

うん俺は男だよ?

何が悲しくて同じ男に告白されなきゃいけないんだ!

俺にそっちの趣味は無い!

まぁ自分で言うのもなんだが俺の幻術はかなりのレベルに達している。

触ったって感触は本物なのだ。

とはいえ自分以外に幻術をかけるのは苦手である。

 

「相変わらず男性に人気だね。羨ましいよ」

 

「変わります?」

 

「いやぁ遠慮しとくよ。私が好きなのは女性だからね」

 

「分かってんなら言わないで下さいよ! それに師匠は普通にモテるじゃないですか!」

 

軽く睨みながら文句を言っても爽やかに笑いながら受け流される。

もはやお決まりのパターンだな。

 

「それで? なんの御用ですか?」

 

「この所イナゴによる麦の被害がかなり出ている。君にはその原因の発見と解決を頼みたい」

 

「イナゴですか? まぁ了解です.....」

 

「おや、不満そうだね」

 

「この所まともな仕事が無かったのにいきなりイナゴですからね。俺がやる必要あるのかとか思うわけですよ」

 

「ふむなるほど…...とはいえそうはいかないんだよ」

 

「と言うと?」

 

「これを見てくれ」

 

そう言って投げ渡された巻物は空中で開きそこでピタリと止まった。

 

「地図ですか?」

 

「あぁ。イナゴの被害が出ている所に印を付けてみた。なにか気になる事は?」

 

気になる事ねぇ。

まぁマーリンがそう言うって事はなにかあるんだろうな。

そう思って見てみると案外すぐに違和感に気がついた。

 

「……随分綺麗に円状に被害が出てるじゃないですか」

 

「あぁその通りだ。あまりに綺麗すぎる円が出来た。この一件に魔術師が関わっているのは確定事項だろうね」

 

「......姉弟子じゃないでしょうね?」

 

「違うとは言いきれないがまぁ君なら大丈夫だろう?」

 

「いやいや! あのイカれ魔女相手じゃ負けますって!」

 

「今回は君の杖も使用を許可しよう」

 

「.....いいんですか?」

 

俺の杖は俺自身が作った杖である。

しかしそのあまりに強力な能力上マーリンに使用を禁止されていたのだ。

 

「まぁ今回はしょうがないだろう。でも使用は最大で二回までだ。それ以上はブリテン島が危険だからね」

 

「了解です!」

 

いやぁこの杖使うのも久々だなぁ!

まぁ割と危険だから制限かかるのもしょうがないとはいえ、やっぱりこういうのは使ってなんぼだよ。

とはいえ姉弟子相手にはしたくないなぁ。

犯人が姉弟子じゃないことを祈ろう。

杖を使ったら普通に勝てるかもしれないからね。

 

「じゃあ行ってきます!」

 

「あぁ行ってらっしゃい。私はその間にデートでもしてくるよ」

 

「仕事してくださいよ!」

 

「はははははは」

 

「笑って誤魔化さない!」

 

この人はまじでサボる。

誰かが見張ってないとやばい。

アルトリアを王にするためにやる事はいっぱいあるのだ。

サボってる場合じゃない。

というか俺が仕事中なのにこの人だけサボるとか認めねえ。

 

その後数十分の鬼ごっこの末溜まりに溜まった仕事をやらせる事に成功した。

俺の砂で椅子に縛り付け無理やり仕事をやらせている。

涙目で助けてくれと訴えかけてくるが知ったことか。

いい気味だ。

 

♢♢♢♢♢

 

俺の目の前ではイナゴの群れがまるで軍隊のように規則正しく並び、空を飛び回っていた。

どう見ても魔術師が関わってんなこりゃ。

まぁどうしてこうなったか説明しよう。

被害が円状に出てるって聞いたから何となくその円の中心に行ってみたらそこには他の場所とは比べ物にならない量のイナゴがいて更には明らかに怪しい小屋がポツンと建っていた。

とりあえず調べてみようと小屋の戸を開けた瞬間、中から大量のイナゴが飛び出した。

そして同時に外にいたイナゴ達も一斉に飛び立ち、結果的に俺はイナゴの群れに包囲されてしまった。

そして今に至る。

 

とにかくこの群れを片付けるにはまず魔術師を片付けるのが手っ取り早い。

恐らくはあの小屋の中にいるのだろう。

この周辺に隠れる所は他にないからね。

周りは田んぼばかりで建築物は目の前の小屋だけ。

 

まぁ恐らく姉弟子じゃないだろう。

確かに王位継承権を産まれる前からアルトリアに奪われたモルガンならこういうブリテンに大打撃を与えかねない魔術師に喜んで協力するだろうが、こういう魔術は姉弟子の趣味じゃない。

 

それはさておき、このイナゴの群れを何とかしないとな。

様子見がてら火球を小屋に向けて撃つ。

すると周りのイナゴ達が集まり盾になった。

 

「なるほど、このイナゴの群れは盾にもなるのか......」

 

この群れを何とかしないと魔術師に攻撃できない。しかし魔術師を何とかしないとこの群れはどかないだろう。

厄介すぎるだろ…...

 

まぁ杖を使えばどうとでもなるな。

とはいえ使ったらこの土地が死ぬからなぁ…...ん?

 

そんな事を考えていると小屋から一際大きいイナゴが飛んできた。

ってデカ!? キモ!?

 

「お前は誰だ!」

 

イナゴが喋った!

というかセリフから三流臭プンプン臭うんだが……情報引き出すために煽ってみるか。

軽薄そうな口調で話しかけよう。

 

「そうだよ〜君は誰?」

 

「俺が質問してんだよ! お前は黙って質問に答えやがれ!」

 

「大人しく投降して欲しいなぁ」

 

「てめぇ、自分の立場が分かってねぇのか? 周りにいるのがイナゴだからって舐めてんのか?」

 

「あんまりこの国を敵に回さないほうがいいよ? 今ならまだ間に合うって」

 

「死ね!」

 

その言葉を合図にイナゴ達が一斉に突っ込んでくる。

 

キモすぎんだろ!

もはやホラーだよ!

 

咄嗟に結界を張ってイナゴの攻撃を防ぐ。

 

まぁこれで安心かな。

って足!

結界にぶつかって死んだイナゴの足が結界に張り付いてるから!

ひぃぃぃぃぃぃ!

やばい! 超キモい!

 

「随分頑丈な結界じゃねぇか! そこは褒めてやるぜ!」

 

あ〜うぜぇ。

こっちは早く仕事終わらせて帰りたいのに。

なんでこんなやつの相手しなくちゃなんないんだよ。

全く.....まぁ姉弟子がいない事は分かったしさっさと終わらせて帰るか。

 

右手を中にかざす。

すると黒い杖が現れた。

しかし当然ながらただの杖じゃない。

その杖は黒い砂でできていた。

 

「『解錠(アンロック)』」

 

呪文を唱えると杖をかたどっていた黒い砂が弾け飛びその中から真っ黒な剣が出てきた。

 

『擬似エーテル体生成完了』

 

そして剣を地面に突き刺す。

 

「なっ!?」

 

ドロリとした何かが剣から溢れ出す。それは魔力のようで、それとは別のおぞましい物だった。

グチャリと柔らかい物が潰れるような音と共に闇に近い暗色の手が伸びる。

 

『デモンズハンド』

 

空間そのものを侵食するかのように埋め尽くす。

 

そしてその手がイナゴに触れた瞬間、そのイナゴは死んだ。

特に目立った外傷もなく、突然死んだ。

それは一匹だけではなく他のイナゴも全く同じ事だった。

 

「何だ.....何なんだその手は!」

 

このイナゴまだ居たのか。

巻き込まれて死ねばよかったのに。

 

「自作の杖でね。カラミティって名付けてるよ」

 

「そんな事は聞いていない! あの杖は一体何なのかと聞いているんだ!」

 

「はぁ.....しょーがない説明してやるよ。あの杖はね、俺が各地の戦場を渡り歩いていた時に思いついた杖なんだ」

 

ちなみに渡り歩いてた理由はマーリンに言われてだ。

目的は死霊の討伐。

戦場の跡地ではよく発生するらしい。

 

「そこに集まってる死霊を見て思ったんだ。沢山の死霊を集めて使い魔にしたら使えるんじゃないかってね。ほら、今の世の中戦争ばっかりだろ? だったら集めるのが簡単な死霊にすればかなりの数集まると思って。まぁ成功したんだけどね。その死霊で実験してたらたまたま出来た杖でね。まぁやろうとして事は死霊を触媒に閉じ込めて見ようと思ってさ。剣に大量に封印してみたんだ。そしたら死霊同士が共鳴してどんどん呪いが強くなってくからさ。結果的に触れたら即死するなんてやばすぎる呪いが出来上がっちゃってさ。慌てて俺の砂も使ってまで二重で封印したんだけどそれでも微妙に漏れてくるんだよね。まぁ今回のはそれを解き放っただけ。ね? 簡単でしょ?」

 

「そんな訳があるか! 大体あれ程の規模の呪いだ! あれを封じている剣を持つだけでも呪われるだろうが!」

 

そこは簡単な話である。

俺は大前提としてこの島そのものなのだ。

つまり俺を呪いたければ島ごと呪える規模の呪いを持ってきてくれなきゃ俺は絶対に呪われない。

 

まぁそこまで教えてやる義理はないので黙っているとイナゴが騒ぎ出した。

 

「くそっ! だがこれで終わりだとは思うなよ! 俺にはまだまだイナゴの群れが.....あれ?」

 

おっ気がついたかな?

 

「イナゴ達が操れない!? 貴様一体何をしたのだ!」

 

「魔術の制御を奪った」

 

「.................は?」

 

たっぷり数秒固まってからようやく疑問の声を絞り出す。

まぁ普通は他人の魔術の制御を奪うなんて不可能だもんね。

 

「正確には君の魔術に俺の魔術を流し込んだんだけどね。気がつかなかったでしょ? これが俺の得意魔術魔術強奪(マギカ・スティール)

 

「他人の魔術を奪う魔術だと.....」

 

「とはいえ俺も相手の魔術を使いこなせるわけじゃないけどね。精々制御を奪うのが関の山だよ」

 

「くっくそぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

その絶叫を最後に魔術師の魔力を感じられなくなった。

これで仕事は終わりだね。

 

まぁ向こうの得意魔術は認識のすり替えだったみたいだしね。

それは魔術強奪(マギカ・スティール)で既に確認済み。

自分の事をイナゴの王であるアバドンだとイナゴ達に認識させる事で命令を可能にしてたらしい。

 

まぁこれはこれで凄いことなのだ。

自分の認識をイナゴの王にして奈落の王でもあるアバドンにすり替えるなんて神秘が色濃い今の時代ならではだろう。

 

ともかくこれで仕事完了だな。

マーリンに連絡しなくては。

マーリンから借りたこのガラス玉は二つが対応していて両方で連絡が取れるようになっている魔道具なのだ。

 

『師匠! 仕事終わりました!』

 

『おやお疲れ様。早速で悪いが次の仕事だ』

 

『え〜またですか.....』

 

『あぁ。実は森で巨大なムカデの魔獣が確認されてね。それの討伐に.....』

 

『虫はもう嫌です! 絶対に!』

 

そう言って一方的に通話を閉じた。

 

 

 



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おら仕事しろ

今回は短めです。


「ただいま帰りました〜」

 

「やぁおかえり」

 

部屋に入るとニコニコと笑いながらマーリンがこちらを見ていた。

未だに砂に椅子に縛れたままだった。

 

「ねぇラック。この砂を解除してくれないかな? 流転のせいで解除してもすぐに戻ってしまうんだよ。これほど捕縛に向いた魔術は他にないかもしれないね?」

 

「いやぁそれほどでも」

 

「褒めてないよ? それよりもこの砂を解除してくれ。もうかなり長いこと座りっぱなしなんだ」

 

今思ったけどこれはいい罰になるのでは?

いつもの仕返しにもなるしこれでマーリンがいつも女に構ってばっかりで溜めてる仕事を終わらせられるなら万々歳じゃないか。

ここでマーリンを解放する必要性があまりない気がする。

 

「聞いてるかいラック。早くこの砂を解除して欲しいんだが」

 

「師匠今どれくらい仕事溜まってます?」

 

「.......」

 

「俺ここ最近師匠が真面目に仕事してるとこ見た覚えが無いんですよね。で、どれくらい溜まってます?」

 

「.....一週間分くらいかな」

 

「もしかしてイナゴも師匠の仕事だったりします?」

 

「.....最近君は暇そうにしてただろう? だから仕事を回してあげたのさ」

 

「サボりたかっただけですね?」

 

「.....この砂を解除してくれないかな?」

 

「溜まってる仕事を持ってくるので少し待っててください」

 

「待った! 謝る! 謝るから! 仕事もちゃんとやるから! 今日はちょっと予定が.....」

 

「どうせデートでしょう?」

 

「.....人間休息が必要だと思うんだ」

 

「師匠人間じゃないでしょう」

 

「.....半分は人間だとも」

 

「仕事持ってきますね」

 

「ちょっ!」

 

これでしばらくは反省してくれるだろう。

仕返しもできて俺的には大満足だし。

というかまさか最後に言ってたムカデも師匠の仕事か?

.....よし、こっそり俺の仕事も混ぜておこう。

これくらいの仕返しは許されると思う。

 

「ラック!」

 

「おや、アルトリアじゃないですか。どうも」

 

金髪碧眼の少女がペコリと頭を下げる。

アルトリア・ペンドラゴン。

俺がマーリンの弟子になってからすぐに産まれた。

後のブリテン王にして聖剣エクスカリバーを引き抜く者である。

 

「マーリンを知りませんか?」

 

「溜まった仕事をやらせるために椅子に縛り付けています」

 

「またサボっていたのですか……しかし困りましたね」

 

本当に困っている様子だった。

一体どうしたのだろうか?

 

「マーリンに剣の修行を頼もうと思っていたのに……」

 

あぁなるほど。

そういえばマーリンは剣もそれなりに使えたっけ。

しかしどうしようか。

マーリンは仕事があるから論外。

だからといって他の騎士に頼むわけにはいかない。

アルトリアには竜の因子がある。

そのためそこら辺の騎士と鍛錬すればその騎士は潰れてしまうだろう。

そもそも勝負にならない。

今のところ俺しかいないだろう。

 

はぁ……久々に休めると思ったんだけどな。

まぁしょうがないか。

 

「俺がお相手しましょうか?」

 

「いいのですか!?」

 

キラキラした目線を向けてくる。

可愛い。

いやそうじゃない。

アルトリアとは一度だけ鍛錬をした事があったのだがその時に普通に俺が勝って軽くアドバイスしたらそれで懐かれた。

アルトリア本人曰くマーリンと違ってまともな会話が出来るからだそうだ。

まぁ感情が分からないマーリンではまともな会話が出来るわけがない。

 

「すぐに行きます! 準備するので先に行っててください!」

 

そう言ってバタバタと走り去っていく。

竜の因子を持っているため子供が出せる速度ではないが。

ちなみにアルトリアは俺がどういう存在か知ってる。

流石に転生者であることは教えてはいないが俺が島そのものであることは説明した。

そしたら鍛錬の事もあり軽く崇められたが色々あって今では普通に接している。

 

まぁ誰かに教えるのはかなり楽しいからいいけどね。

マーリンにも弟子を取ってみないかと言われていたしちょっと真面目に考えておこうかな?

おっと早く行かないと。

アルトリアを待たせる訳にはいかないからね。

先に行って色々準備しておこう。

 

 

 




テスト勉強がしたいため少し投稿をおやすみします!
ご了承ください。


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戻りますよ。仕事が待ってます

テストが終わったので投稿です~

追記 アルトリアの恋愛感情的な描写は後々邪魔になるので削除


「ありがとうございました!」

 

「ぜぇ……ぜぇ……お疲れ……」

 

何とか一時間弱にも及ぶ剣の訓練を終えたがとんでも無くきつい。

竜の因子を持つアルトリアは魔術師ではないにもかかわらず自力で魔力を生成することができる。

その結果としてアルトリアは無自覚に身体強化をしている。

さらには生まれ持った戦闘センス。

流石に砂は使わないがもう既に俺も身体強化をしないと勝てない。

とはいえまだ指導をする余裕はある。

まぁそれもあと数年したら砂を使わざるを得なくなるだろう。

というかそろそろ負けかねない。

既に剣術だけを見れば負けている。

俺が身体強化だけで勝てるのはアルトリアがまだ剣術に頼りすぎてるからだろう。

俺は勝つためには割となんでもやる。

既に一度死んでから運よく手に入れた第二の人生。

俺はなるべく死にたくないのだ。

普通に蹴りを放つ。

地面の砂を蹴り視界を潰す。

最初は卑怯だと言われたが戦場でそれは通用しないとカッコつけたら何も言えなくなった。

まぁそれからはアルトリアもたまに蹴ってくるようになった。

アルトリアの力で蹴られるとまぁ普通に痛い。

 

「やぁ二人とも、剣術の鍛錬かい?」

 

「おや師匠、よく抜け出せましたね」

 

「うん? さっきようやく眠れてね。外側からやって何とか解除できたよ」」

 

「あぁなるほど。拘束が緩みましたか」

 

夢魔の血を引くマーリンは本体が眠っている間、依り代さえあれば世界に干渉することが出来る。

だからこそ眠らないように寝そうになったら軽く締め付けるように仕掛けを施しておいたのだが…...

どうやらアルトリアとの鍛錬で意識がこっちに向きすぎたらしい。

その間に眠られたのだろう。

 

「しかし一体何を依り代にしたんですか? あの部屋にあった依り代になりそうな物は一旦俺の部屋に移しておいたんですけど?」

 

暗に俺の部屋に入ったのかと聞いたのだが当の本人はそんな事は知らないと言わんばかりに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「君の砂を依り代にさせてもらったよ。あれだけ濃厚な神秘を含んでいるからね。依り代としては充分だったよ」

 

……は? 今なんて言った?

俺の砂を依り代にした?

俺は慌ててマーリンを拘束していた砂がどこにあるのか探る。

すると砂は部屋にはあったが誰も拘束してはおらずマーリンを縛り付けていた椅子を拘束していた。

ありえないだろ…...

あの砂は俺の一部のようなものだ。

ブリテン島の神秘である俺は今のブリテン島そのものだとも言える。

だからマーリンを縛っていた砂も俺の一部であるのだ。

それを依り代にしたのだと言う。

それも俺に全く悟らせずに。

とんでもないな。

 

「なるほど。ここに来れた事情は分かりました」

 

「ようし! それじゃあ私はちょっと出かけて……」

 

「ところで師匠、仕事は終わったんでしょうね?」

 

マーリンの身体がびしりと固まった。

そして顔をサッと逸らすので顔の前に回り込む。

しかし再度逸らされる。

俺はさらにその先に回り込む。

 

サッ! バッ! サッ! バッ!サッ!

 

そして運悪くマーリンが顔を逸らした先にまるでゴミを見るかのような絶対零度の視線を向けているアルトリアと目が合ってしまった。

石になったかのように固まるマーリン。

そのマーリンを冷めた瞳で見つめるアルトリア。

それを面白そうにニヤニヤ笑いながら見届ける俺。

 

「……マーリン」

 

「……何かな?」

 

「仕事をして下さい」

 

「……たまにはサボりたくなるものだろう?」

 

「昨日も同じ事を聞きました」

 

「……今日だけは見逃してくれないかな? 今日は特に大事な用事があるんだよ」

 

「昨日も同じ事を聞きました。それにどうせ大事な用事ってデートでしょう?」

 

「……人間休息が必要だと思うんだ」

 

「マーリンは人間じゃないでしょう」

 

「……半分は人間だとも」

 

「さあ戻りますよ。仕事が待ってます」

 

「ちょっ! ラックとやり取りがほぼ同じなんだけど!?」

 

「……全く同じ事を言われるのが悪いと思いませんか?」

 

「待って!? なんか乱暴になってるよ!?」

 

「いいから行きますよ!」

 

「痛い痛い! 耳を引っ張らないで!」

 

「いいから仕事しますよ!」

 

「痛い痛い!」

 

アルトリアは元気よく、そして楽しそうにマーリンの耳を掴んで笑っていた。

やっぱり可愛いなぁ。

この少女が人の心が分からないだなんて思えない。

年相応の可愛らしい女の子だ。

しかしアルトリアは産まれた時からかなりの運命を背負っている。

産まれたその瞬間から女でありながら王であることを決められ、さらには竜の因子を持ちその身体にとんでもない神秘を宿した少女。

その小さな背中には宮廷魔術師であるマーリンと父親であるウーサー王。

大人の欲に巻き込まれその未来を強制された哀れな子供。

そしてそれを受け入れ明るく笑う少女。

俺はそんな少女の少しでも助けになれるように隣で笑いかけるのだ。

 

「そうだラック! 君は明日は森に行って人喰い蜂を討伐してきてくれ! これは本当に君の仕事だからね!」

 

俺は全力で逃げた。

 

そして三秒でマーリンを掴んだアルトリアに捕まった。

 

「師匠! 巻き込まないで下さいよ!」

 

「こうなったら君も道連れだよ!」

 

隣でアルトリアに掴まれたままニヤニヤ笑ってくるのが鬱陶しくて空いていた手で思いっきり殴った俺は悪くないと思う。

 




マーリンのチートっぷりがよく分かる回になったかな。


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理性が弾け飛ぶ音を聞いた

最近内容が進展してないなと思って頑張って書いたら7000字超えた。
反省も後悔も微塵もしていない。

あと頼むから今回は最後まで読んで欲しい。
割と切実に。


俺はとある家で一人の老人を壁際に追い詰めていた。

老人は俺の目の前で尻もちをついていた。

しかしそれでもなお俺を奥の部屋に行かせないように必死に押し留めていた。

 

「頼む! 見逃してくれ! こいつは家族なんだ!」

 

「悪いけどそうも行かないんだよね~」

 

「そこを何とか! 頼むよ!」

 

「あんたも分かってるでしょ? もう被害が出てるんだってば。見逃す訳にはいかないよ」

 

「でも! こいつだって悪いやつじゃないんだ! ちょっと腹が減ってただけなんだよ!」

 

「いやぁ悪いけど家畜を喰うような蠍を放置しては置けないんだよねぇ」

 

そう俺はまたマーリンに虫退治を指示されているのだ。

ふざけるんじゃないと言いたい。

マーリンは俺を虫退治専門家何かだと思ってるんじゃないか?

 

「通るよ~」

 

「待て! 待ってくれ!」

 

老人の制止を無視して奥の部屋に踏み込む。

するとそこには想像以上の光景が広がっていた。

血溜まりの中で牛を食べ続ける蠍がいた。

 

「ガージュ! 食べるのを止めるんだ!」

 

「キシャァァァァァァァ!」

 

「思いっきり威嚇されてんじゃねえか」

 

「腹が減って苛立ってるんだよ! いつもはこんなに凶暴じゃない!

 

「とりあえずこれ以上被害が出ないように排除するぞ」

 

問答無用で火球を撃つ。

しかし火球は身体に当たってもなんの効果も出なかった。

 

「硬すぎだろ!? 何喰ったらこんな硬度になるんだよ!」

 

「ガージュはなんでも食べるからな!」

 

「自慢げにすんなくそじじい!」

 

まずは砂で拘束したいな。

動きさえ止めてしまえばあとはこっちのもんだ。

そんな事を考えていると蠍が尻尾を伸ばしてくる。

慌てて砂を伸ばし、尻尾を逸らす。

俺の砂の属性は流転。

それがあれば尻尾を受け流すことなどわけない。

つまり俺に攻撃を当てたければ動かずにさらには砂の最高硬度はダイヤモンドにも匹敵すらする攻撃じゃないと当てられない。

 

万物は流転する。

俺はこの島の中ならよっぽどの事がない限り攻撃は喰らわないだろう。

まぁ島から出たらかなり弱体化するけどな。

砂の維持に使う魔力も他の魔術の魔力も全部自分で調達しなければならなくなる。

俺はこの島にいる限り魔力を消費する必要がない。

俺が魔術を使おうとすれば勝手に島が魔力をくれる。

だから俺のこの砂を操作する魔力も島が出してくれてる。

しかし島を出たら俺の魔力で砂を操作する必要がある。

まぁ俺個人の魔力もそれなりにあるし問題ないけどな。

そんな事を考えているといつまで攻撃しても全く当たらないことに業を煮やして蠍自ら突っ込んできた。

まぁ捕まえられるけどさ。

砂を操作して空中で締め上げる。

そして徐々に全身を砂で包み込んでいく。

そしてその状態の砂を中心に凝縮していく!

結果として蠍は断末魔の声を上げる間もなくその身体を粉々に砕かれ死んでいった。

ちなみにこの技は某忍者マンガに出てくる技を参考にしている。

実際に試したらとんでもない威力だったから俺としても助かる。

 

「あぁ! ガージュ! なんて事だ!」

 

背後で老人が喚き(わめき)立てているが知ったことではない。

人が死んでいなかったから良かったものの既に家畜には被害が出ている。

見逃すことはありえない。

 

「じゃあなじいさん。次からはもっとまともな生き物を飼ってくれ」

 

呆然としている老人に声を掛け家を出て行く。

この後寄るところがあるからな。

悪いがこのじいさんに構ってる暇はない。

マーリンから言われて寄るところがあるからな。

 

♢♢♢♢♢

 

コツコツと歩くと幻想的な湖に到着する。

あまりの美しさに引っ張られるかのように近づくと湖から一人の乙女が現れた。

 

「初めまして島の化身様。私はニュミエと申します」

 

乙女は優雅に一礼するとふわりと笑った。

見た目は大体10代後半と言ったところだろうか。

綺麗な藍色の髪を腰の辺りまで伸ばしていた。

 

「俺が島そのものだって言うのは知ってるんだ?」

 

「えぇ、その異常なほど濃い神秘を見ればある程度魔術に関係を持つ大抵の者は分かるでしょう」

 

「今まではマーリンにしかバレなかったけどなぁ」

 

「そうなのですか?」

 

そう言って小首をかしげた。

まぁ大抵の者って言ったって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

感覚にズレが生じるのはあるのだろう。

その証拠にマーリン以外にバレたこと無かったし。

 

「それより、本日は一体何の御用でしょうか?」

 

「あぁ選定の剣の件でね。あの剣は絶対にアルトリアに抜かせたいらしくてね。だから選定の剣の台座に魔術までかけてアルトリア以外には抜けなくしたんだけどさ。定期的にかけ直す必要があってね。それをマーリンに頼まれたんだけどそのついでだし湖の乙女にも会ってこいって言われたんだよ」

 

「なるほど。そういう事ですか」

 

「えぇまぁ、そういえばアルトリアに加護をくれたみたいで、ありがとうございます」

 

「いえいえ、私が気に入っただけですから」

 

そこでふと気がついたように俺の砂に、正確には砂の中に取り込んでいた物に目を向けた。

 

「……それは?」

 

「あぁこれ? これさっきマーリンの依頼で討伐した蠍の毒針と皮だよ」

 

「……くださいませんか?」

 

「何でかな?」

 

「剣は持っていても鎧は1つも持っていなかったので作ってみたくなったのです。その素材があれば最高の鎧を作ることも可能でしょう。もちろんお礼はします」

 

「内容によるかな? その内容によっては譲ってもいいよ?」

 

「まずは千里眼を差し上げます」

 

「……へぇ? 千里眼か……正直かなり欲しいけどどんな効果になるのかな?」

 

「それはあなた次第です。私に出来るのはあなたの目を千里眼に変えることだけです」

 

「なるほど、まぁそれなら……」

 

「まだあります」

 

「まだあったの? 千里眼でも破格なんだけどな」

 

「ならば個人的な贈り物とお考えください」

 

「ありがたいけどいいの?」

 

「はい、何も問題ありません。ですが気になると言うなら私に魔術を教えてくださいませんか?」

 

「はい?」

 

俺はFateにかなりハマってそれに関する人物の歴史を調べたりもした。

その知識をこの世界に当てはめていいならマーリンが乙女を気に入って自分の魔術を教えたはずだ。

それをFate時空に当てはめていいのかは分からないけどな。

なんせ既に俺というイレギュラーが存在する。

 

「俺が教える必要ある? 湖の乙女の君なら普通にかなりの魔術が使えるはずだけど?」

 

「私の場合は魔術と言うよりどちらかといえば特性や異能と言った方がいいのです。ですから一応魔術というものを習ってみたかったのです」

 

「まぁ貰えるものが貰えればいいけどさ。それで何をくれるの?」

 

「幻想種の皮で作られた外套です。まぁ頑丈だということだけが取り柄ですが……」

 

「ふーん。まぁそれでいっか。じゃあこれどうぞ」

 

「有難うございます! では失礼しますね?」

 

そういうと湖の乙女は俺の両目を覆い隠すように手をかざした。

そしてその手から魔力が溢れ自分の目に流れ込んでくるのが分かる。

数秒経つとすっと手が退けられ目の前に湖の乙女の顔があった。

 

「どうですか?」

 

「うーん、まだなんとも言えないね」

 

「そうですか……まぁいずれ分かる時が来るでしょうね」

 

「だといいね〜」

 

「では魔術を教えてください」

 

「いいよ。まぁそれは明日からかな」

 

「? 何故ですか?」

 

理由に全く思い至らないかのように小首をかしげる。

なんか可愛いな。

思わず見とれてしまった。

 

「もうすぐ日が暮れるからね。俺も結構歩いたしそろそろ休憩したいんだよ」

 

空は既に夕焼けに染まっていた。

もうすぐ日が暮れる。

どんな魔獣が出るか分かったもんじゃない。

 

「本当ですね。全く気が付きませんでした」

 

「まぁその辺で野宿するから。また明日ね」

 

そう言って踵を返すが袖を掴まれる。

 

「この辺りには魔獣が出ますから家に泊まっていってください」

 

「家?」

 

この周辺に家は見当たらない。

彼女が見つからないようにしているのだろうか?

彼女ならそれくらいはできそうな気がするし。

 

「はい、私の家です」

 

彼女はそう言うと()()()()()()()()()()()

 

「な!?」

 

いきなりの事で抵抗らしい抵抗もできず呆気なく水の中に落ちた。

しかし不思議な事に冷たさを感じない。

それどころか呼吸ができる。

水の中特有の浮遊感も感じない。

不思議に思ってとっさに閉じた目を恐る恐る開くとそこにはポツンと一軒家が建っていた。

驚きに言葉を失っていると悪戯に成功したように可愛らしく笑う湖の乙女が楽しそうに俺に語った。

なんでもここは水を境界にして別の空間に繋げたらしい。

そしてここは妖精鄉の外れにある場所なのだそうだ。

流石は湖の乙女だと感服する他ない。

湖の乙女にもそう告げたが若干顔を赤くして照れていた。

なんだこの可愛い生き物。

でもなんて言うかアルトリアとは別のベクトルの可愛さだな。

アルトリアは微笑ましい可愛さだが湖の乙女の可愛さはなんとなく守ってあげたくなる可愛いさなのだ。

流石に照れくさいから本人には言わないが。

 

「じゃあお世話になろうかな」

 

「是非そうしてください。明日はあなたに魔術を教わるんですから」

 

「じゃあ泊めてくれたお礼替わりに俺が料理を作ろうかな。妖精も食事は摂るのかな?」

 

「そんな! 悪いですよ! あなたはお客さんなんだから!」

 

なんというか思った以上に人間味があるな。

妖精はやっぱり人間とは違うのだ。

しかしこうして接すると同じ人間と接しているような気がする。

まぁそれはそれ。

お礼は押し切るとも。

 

「妖精って食事は摂れるのかな?」

 

あえて同じ言葉を繰り返す

 

すると湖の乙女は口ごもりながらも肯定した。

 

「食事は摂れます。ですが娯楽としてです。別に食べなくても何も問題は無いのですが……」

 

「じゃあ食べられないものは?」

 

「……特にはありません」

 

「分かったよ。これでもそれなりに料理はできるんだ。早速厨房借りるよ〜」

 

反論はさせずに厨房へと向かう。

まぁこれからお世話になるしこれくらいはね?

 

保管してあった食材を許可をとってから使う。

流石に他人の食材を無許可で使うのは気が引ける。

ジュージューと音を立てて肉を焼く。

大体30分程たっただろうか。

二人分の料理を砂を使って人手を増やし一気に二人分作った。

 

「できたよ〜」

 

「わぁ! やっとですか! 美味しそうな匂いでもう限界です!」

 

皿を机の上に置いて俺も座る。

 

「~~~~!!!」

 

湖の乙女は一口食べると驚愕したように目を見開いた。

 

「こ、これは!?」

 

「オリジナル料理です」

 

まぁ嘘だがな。

実際はただのデミグラスハンバーグである。

色々と手間がかかるがこれだけ喜んでくれるならそのかいもあったというものだ。

「オリジナル料理ですか? これすごく美味しいです! なんて言う料理なんですか?」

 

「デミグラスハンバーグですね」

 

俺は前世でも普通に料理はできた。

まぁあの頃は役に立てばいいかと思っていたが今は違う。

この時代の料理は雑すぎる。

焼いただけだったり生野菜だけだったり。

前世の美味い飯を知ってる俺からすれば拷問に近かった。

だから俺はこの世界で前世の料理の味をなるべく再現しようとめっちゃ頑張った。

これはその努力の結晶なのだ。

 

「あっ……」

 

ふと気づくと湖の乙女は食べ終わっていた。

そしてまだ食べ足りないと言わんばかりに小さく声を上げた。

そして懇願するようにこちらを見上げてくる。

可愛すぎるかよ。

マジ天使。いや妖精だけど。

 

「申し訳ない。お代わりは作ってないんですよ」

 

「あっ、いえその催促したわけじゃないんですよ? ただすごく美味しいから……」

 

「そう言って貰えると嬉しいです」

 

そう言って微笑むと湖の乙女も微笑んだ。

 

「疲れてるなら水浴びとかどうですか? 外にありますよ?」

 

「ありがとうございます。じゃあ入ってきます」

 

今日は結構歩いた。

魔術を使えば飛ぶことはできるが足が地面から離れるため魔力は自腹になる。

さらにどちらかと言えば弱体化するのでいざと言う時に備えて俺はなるべく歩いている。

そのため汗をかくのだ。

島の神秘である俺も汗をかくし疲れる。

マーリン曰くそういった法則は人間に近いのだそう。

まぁ性能と正体は人間とは言えないが。

 

そんなことを考えながら外に出ると確かに湖があった。

とても綺麗で不純物が1つもなかった。

俺は服を脱いで傍に置いてあった桶で水を被る。

そして湖に入る。

すると湖には神秘の島であるブリテンなんか目じゃない程の大量の神秘が含まれていた。

これを見て1つひらめいたことがある。

この水ブリテンに持っていったら神秘を保つ手助けになるんじゃないか?

これだけ神秘が含まれていたら一部分だけでも神秘を保つことができるかもしれない。

……いや、やめておこう。

ブリテン島は滅びる運命。それを本当に覆してしまったら抑止力に目をつけられかねない。

流石に抑止力と喧嘩をするつもりは無い。

あのアーチャーとは会ってみたいけどね。

うん、やっぱり何も気づかなかった事にしよう!

それが1番いい気がする!

 

数分程で湖を出て家の中に戻る。

 

「おかえりなさい。どうでした?」

 

「とんでも無い魔力だったよ。流石は妖精鄉って事かな」

 

そうでしょう? と彼女は笑った。

 

「もう遅いですし寝ますか?」

 

「そうさせてもらうよ。もう眠くてさ」

 

「でしたら2階にベッドがございます。まぁしばらくはのんびりしていってください」

 

「ありがとう。それじゃあまた明日」

 

「はいまた明日」

 

湖の乙女と別れて2階に上がると聞いた通りベッドが置いてあった。

何故かダブルベッドだったが。

まぁそこはあまり気にせず眠りにつく。

疲れていたのかベッドに入ってから数分で眠りについた。

 

部屋に誰かが入ってきた気配で目を覚ます。

気配を探ると入って来たのは湖の乙女だった。

まぁここは妖精鄉の外れにあるらしいからな。

この部屋に来るのは湖の乙女しかいない。

しかし問題は目的が分からないことだ。

目的が分かるまでは寝たふりをしておくか。

湖の乙女はゆっくりと俺に近づいてくると布団に向かって手を伸ばす。

これ以上は危険かな?

そう判断して砂で手を絡め取る。

 

「え!?」

 

そして起き上がり湖の乙女を見た。

いや()()()()()()

湖の乙女は()()()()()()()()()

俺は呆然とした訳でもなく興奮した訳でもないが、見とれていた。

完璧な程の調和された美に目を奪われていた。

たっぷりと数秒間フリーズしたあと湖の乙女が照れて顔を俯いたところでようやく我を取り戻した。

とりあえず応急処置として腕を絡めていた砂を湖の乙女を纏うように動かした。

これで一安心かと思いきや砂から伝わる柔らかい感触にまたフリーズした。

俺の砂は身体の1部のようなものだ。

だから砂が触った物の感触を俺に伝えるという機能もある。

慌てて砂の感覚同調を遮断する。

あっぶねぇぇぇぇぇ!

割とマジで理性が飛ばされるところだった。

 

何度か深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

そしてしっかりと湖の乙女の目を見つめる。

 

「……何故こんなことを?」

 

「…………」

 

「…………」

 

お互いを気まずい沈黙が包む。

この空気はどうしたらいいんだろう。

 

「……何故寝て無かったんですか?」

 

「へ?」

 

「私はあなたに睡眠誘導をかけたんです。ですから寝てないとおかしいでしょう!」

 

なるほど。それであんなに早く眠れたわけだ。

俺は基本的にあらゆる魔術が効かない。

理由は前にも言った通り俺は島の神秘そのものだ。

だから俺に魔術をかけたければ島に効くレベルの魔術じゃないといけないのだ。

それゆえに俺には睡眠誘導なんて普段は効かない。

しかしここは妖精鄉。

ブリテンでは無い。

だから睡眠誘導が効いたのだろう。

しかしだからこそ俺は予防線を張っていた。

この部屋には俺の砂を撒いてある。

その砂に触れると俺にも触れられた感覚が分かるのだ。

 

それを説明すると湖の乙女はなるほどと納得していた。

 

「いやいやいや! 俺は全く納得できないんだが!? 頼むからちゃんと説明してくれ!」

 

「……笑わないで下さいね?」

 

「内容による」

 

「そこは笑わないって言うところでしょう……まぁいいです。私がこんな事をした原因は…………ひ、一目惚れです///……」

 

「………………………………………………ん?」

 

理解するのに長い時間をかけた。

いやまぁ今世はそういう事はよくある。

この顔はよくも悪くも目立つからな。

俺が驚いたのは湖の乙女はアーサー王伝説の登場人物だからだ。

そして俺は本来部外者である存在。

その俺が湖の乙女である彼女に恋を(いだ)かれた。

これは大丈夫なのだろうか?

抑止力とまではいかなくてもなにかが大きく変わるかもしれない。

アルトリアと関わって置いて何を今更と思うかもしれないが俺はなるべくマーリンでもできることはマーリンに任せている。

俺がやる事は他の誰かができることしかやらない。

俺にしかできないことは絶対にやらないように避けていた。

しかしこれは違う。

俺に好意を抱いた。

他でもない俺に。

これじゃあ歴史が変わる可能性がある。

それはなるべく避けたいのだ。

 

「……迷惑でしたか?」

 

「……いや、そうじゃないよ。驚いただけ」

 

どうしよう。

俺としてはとても嬉しい。

不安要素が無ければ全力で喜ぶところだ。

でも……。

 

「駄目、ですか……?」

 

あ、これダメだ。

潤んだ瞳、上目遣い、着てるのは砂だけ。

スリーアウト。

理性が弾け飛ぶ音を聞いた。

問答無用で布団の中に引きずり込む。

 

「お前から来たんだし……いいよな?」

 

何がとは聞かないし、そもそも返答を聞くつもりがない。

砂を解除すると恥ずかしがって隠そうとするがそれは許さない。

両手を砂で縛り抵抗できなくするとさらに顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。

もはや理性は欠片も残ってなかった。

 

抑止力とかしらん。

歴史の改変? うるさい黙れ。

どうせ俺は既に死んだ人間だ。

今世では人間ですらない。

そのくらいはなんとかしてやるさ。

俺はブリテンに生きるマーリンの弟子、ラックだ。

そんな細かい事を気にしてたらマーリンに笑われる。

 

この時ようやく俺はラックになれたと思う。

今まではどこか前世と今世を重ねて慎重になりすぎた気がする。

 

俺はもう迷わないとそう誓った。




やり切ったぜ……
非リア充の俺が書くにはダメージが大きすぎたw
これ友達も読んでくれてるんだけどなんて言われるか……コワイナー

今回の進展

・千里眼をゲット!(内容不明です)
・幻想種の外套ゲット!(もしも砂の防御が突破されても大丈夫になった)
・妖精の嫁さんゲット!(戦力として考えたら普通にとんでもないしさらに魔術でまだまだ強くなるぞ)

……これなんてチート?


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水も砂も割と似ているかもしれない

前回ちょっとエロいの書いたら俺の精神が死んだw
まぁ楽しかったけどね。


目が覚めると知らない天井が目に入った。

ふと隣に温もりを感じて布団をめくると一糸まとわぬ状態の湖の乙女が眠っていた。

それでようやく昨日何があったのかを完全に思い出した。

正直やっちまったとも思うがまぁもう割り切った。

マーリンにも色々からかわれそうな気はするがまぁやっちまったものはしょうがない。

ちょうどその時、俺が起きたことで彼女も起きたようだった。

そして目が合うとぱちくりと目を(またた)せ幸せそうに微笑んだ。

やべぇ可愛い。

女神かよ。いや妖精だけどさ。

 

「……おはようございます」

 

「……おはよう湖の乙女」

 

「ニミュエと呼んでください。もう湖の乙女なんて呼ぶ間柄じゃないでしょう?」

 

「……分かったよニミュエ」

 

前世ではこういったことに関する経験は皆無だった。

そのせいで何となく気恥しい。

 

「今日は魔術を教えてくれてくれるんですよね?」

 

「そういう約束だからね。ちゃんと教えるよ」

 

「やったっ!」

 

小さくガッツポーズをするニミュエ。

可愛い。

 

「まぁまずは水浴びでもしようか。流石にこのままじゃねぇ……」

 

何でとは言わないが色々と汚れすぎている。

ニミュエもそれに気づいたようで頬を赤らめている。

 

「……そうですね、じゃあ一緒に入ります?」

 

からかう様な笑顔で耳まで赤く染めながら言う。

恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。

そこで軽くイタズラをしてやろうと思った。

ニッコリ笑いながら。

 

「うんいいよ。一緒に入ろうか?」

 

「……へ?」

 

まさか了承されるとは思わなかったのかポカンとほうけている。

そしてすぐに顔を真っ赤にすると部屋から飛び出して行った。

羞恥心が限界を超えたのだろう。

そこまで恥ずかしがるなら本当に言わなきゃ良かったのに。

まぁ可愛かったからいいけどね。

とにかく今はニミュエが出てくるまで待とうかな。

 

♢♢♢♢♢

 

「あの、水浴び終わりました……」

 

「じゃあ次は俺が入ってくるよ」

 

「は、はい……」

 

未だに恥ずかしそうにするニミュエを尻目に湖に向かう。

その様子に思わず微笑む。

 

そして屋敷を出ていざ湖に入ると1人の妖精が近寄ってくる。

当然ながらニミュエでは無い。

 

「初めまして~」

 

どこかほんわかとした空気を漂わせながら挨拶をしてきた。

いつの間に近づいてきた?

全く気づかなかったんだが……

 

「わたくしヴィヴィアンと申します~以後お見知り置きを~」

 

ヴィヴィアンと言えば湖の乙女の1人だよな。

確か湖の乙女は1人じゃないし名前もいっぱいあったはずだ。

彼女も湖の乙女の1人なのだろう。

しかし俺に何のようなんだろうか?

 

「どうも、俺はラックと言います。どうぞよろしく」

 

湖に浸かったまま挨拶を返す。

するとそこで家からニミュエが飛んできた。

 

「ヴィヴィアン!」

 

「あらニミュエ~久しぶりね~」

 

「なんでここに?」

 

「知らない気配を感じたら来てみれば島の化身様がいるじゃない~挨拶しない訳にもいかないでしょう~」

 

くすくすと笑って言うヴィヴィアンにニミュエは何も言えないのか不機嫌そうに口を閉じる。

その様子にまたヴィヴィアンは笑って言う。

 

「そんなに心配しなくても取ったりしないわよ~安心しなさいな~」

 

既にニミュエとの関係はバレているらしい。

 

「……信用するわ」

 

「ありがとう~化身様、この子は意外と嫉妬深いので気をつけてくださいね~」

 

「ヴィヴィアン! 余計なことを言わないで!」

 

「はいは~い。じゃあまたね~」

 

また静けさが周囲に戻る。

俺も今の格好的に地味に恥ずかしい。

ニミュエはため息をつき。

 

「ごめんなさい騒がしくしちゃって」

 

「気にしなくていいよ。まぁもう少ししたら出るから。そしたら魔術を教えるよ」

 

「はい! 待ってますね!」

 

不機嫌そうな様子から一転して上機嫌に家の中に戻って行った。

それを見てようやく一息つく。

一気にどっと疲れた。

まぁもう少しのんびりすれば疲れも取れるかな。

 

数分経って湖を出る。

傍に置いてあった服を着て家の中に戻る。

先っきまでいた部屋とは違う部屋だがそこにニミュエはいた。

 

「お待たせ。じゃあやろうか」

 

「はいっ! 楽しみです!」

 

「まぁ家の中じゃ危ないから外でやるよ。ついてきて」

 

そう言って家を出るとニミュエも素直についてきた。

そして湖の前に立つと砂を展開する。

 

「俺の砂の性質は流転。これは万物の流れそのものだ。そして君は水の妖精、相性はかなりいいと思う」

 

「なるほど?」

 

そう言いながら分かっては無さそうだったので苦笑いしながら教える。

 

「まぁ要するに流れて変化するものを操れると思えばいいよ」

 

「なるほど!」

 

今度は分かったらしいな。

思ったんだがニミュエは思ったことが顔に出やすいな。

その時だった。

ちょうど遠くから魔獣が向かってくるのが見えた。

実演にはちょうどいいかもな。

 

「的が来たから実演してみようか。まずは」

 

湖の反対側から来ていた魔獣は湖を飛び越え俺に飛びかかる。

しかし俺が伸ばした砂に触れた瞬間、魔獣の向きが変わり俺から数歩分横に着地した。

魔獣もそれに驚いたのか硬直する。

それを見てつま先で地面を叩くと砂でできた無数の蛇が口を大きく開き魔獣を飲み込む。

そして次の瞬間には魔獣は砂の塊に全身を囚われ動けなくなっていた。

必死に逃げようとするがもがけばもがくほど身体が沈んでいく。

1度捕まるとほぼ脱出不可能の砂の監獄。

そしてその砂の塊を魔獣を中心にして圧縮する。

当然魔獣はぐしゃっと潰れた。

生存はありえない。

 

「こんな感じかな。俺は島の神秘だからブリテン島の砂を使ってるけどニミュエは湖の乙女で水の妖精だから水を使えばいいと思うよ」

 

「なるほど……私にできますかね?」

 

「できると思うよ? 相手の攻撃をいなしてそのまま拘束する。やってることはこれだけだからね。慣れてきたら攻撃や防御のパターンを増やすといい」

 

「分かりました! やってみます!」

 

そして水に手を向けて試行錯誤していた。

水の妖精でもある彼女なら水を操るくらい容易いことだろう。

水を境界に別世界に繋げるなんていう荒技が可能なのだ。

今操れていないのは操ったことがなく勝手が分からないからだろう。

そしてそのまま待つこと数分。

ニミュエは既に水を操れるようになっていて目の前には湖の上に浮遊する巨大な水球があった。

 

「凄いなぁ。流石は湖の乙女ってことかな」

 

「ありがとうございます!」

 

嬉しそうに彼女がそう言ってこっちを向いた瞬間水球が形を失い崩れていく。

 

「あっ……」

 

「水が操れればできることは多い。あとはこれの操作性の訓練かな」

 

「はいっ! 頑張ります」

 

あれ? 考えたらこれ俺がニミュエを弟子にしたってこと?

水の妖精で湖の乙女でもあるニミュエを?

マジやばくね?

マーリンの弟子は俺と姉弟子しかいない。

まぁマーリンには弟子を取れと何度も言われていたが面倒くさそうという理由で今までは弟子は取って無かった。

なんというか……楽しいな。

他人にものを教えるのは意外と楽しい。

自分の知識を他人に授けるのはとても楽しいな。

これを機に他にも弟子を取るのを真面目に考えてみるのもいいかもしれない。

そんなことを考えているとまたさっきと同じ魔獣がやってきた。

しかも今度は1体だけじゃなく群れでやってきた。

 

「じゃあ今度は魔術だけで相手してみようか。まぁ危なくなったら助けるよ」

 

「はい! 頑張ります」

 

そう言ってばっと手をかざすとまた巨大な水球が浮かぶ。

 

(水で受け流して拘束する。権能を使えば余裕だけれど魔術だけだと難しいかもしれない)

 

ニミュエはそう思いながらも魔術のみで水球を維持する。

そして魔獣の群れの先頭が 飛びかかる。

しかしニミュエは冷静にその魔獣の進行方向に水球を置く。

空中にいた魔獣は水球を避けられず水球の中に沈む。

後続の魔獣も同様に水球に飲み込まれる。

踏みとどまった魔獣もいるが関係ない。

水球を動かし直接飲み込む。

溺死。

それだけだった。

たったそれだけで終わった。

水の中で呼吸ができずにもがく魔獣達。

そのえげつなさに思わず頬を引き攣らせるが褒めて欲しそうにこっちを見るニミュエを見て頬を緩ませる。

 

「お疲れ様。魔術のみの初戦闘はどうだった?」

 

「思ったより何とかなりますね! しかも魔術に慣れたら水の操作性が上がりそうです!」

 

これよりさらに強くなるってことかよ……

これは俺も頑張らないと追い抜かれそうだな。

 

まぁ頑張るか!

 

なんとも情けない新たな決意だった。




言葉によって物事を説明しようとする時には、必ず「AはBである」などといった形で述語形式となっているが、この場合にはAとBというのは等価であったり同一であるということになる。だが、物事を詳しく考えれば考えるほど、等価であったり同一であると規定するのは難しくなっていく。細かく見たならば同一人物であっても、時の経過とともに老いていくという事であるから、同一人物を後に見たならばそれが同一人物であると確定できないということにさえなる。人間だけでなく、山や川などの自然にもこれは当てはまる。ヘラクレイトスはこのような万物流転を「誰も同じ川に二度入ることはできない」という言葉で表現した。

wikiより抜粋

……俺の流転の解釈も間違えてないよね?

あとニミュエとヴィヴィアンは分離しました。
都合がいいので


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不朽不壊の黄金剣

遅れてすみません。
UA1万突破しました!
本当にありがとうございす!


ニミュエに魔術を教えて3日目。

ついに俺は選定の剣の台座に魔術をかけ直すために出発することになった。

元々はこんなに道草を食うつもりは一切なかったが頼み込まれて出発が遅くなってしまった。

まぁ俺も他人に魔術を教えるのは楽しかったしお互いに満足できたんだから何も問題は無し。

帰ったらマーリンに小言は言われそうだがしょうがない。

仕事をサボっていたのだ。怒られるくらいの覚悟はしている。

 

「……もうお別れですか。寂しくなりますね」

 

「また遊びにくるよ。その時まで待っててくれ」

 

「はい分かりました。次に会う時までに魔術の腕を磨いておきますね!」

 

太陽のように眩しい笑顔。

やはり可愛い。

そこでニミュエは何かを決心したようにふと真面目な顔になり。

 

「ラック様、お渡ししたいものが」

 

「渡したいもの?」

 

「はい。まずはこれから役に立つであろう幻想種の素材です」

 

そう言ってニミュエはどこからか大量の幻想種の素材を取り出し俺に渡してきた。

 

「まぁくれるなら貰うけどさ。こんなに貰っていいの?」

 

俺が受け取った幻想種の素材はかなりの量があった。

これだけあればいくつかの礼装を作ることが可能だろう。

いくつか作りたくても素材が足りなくて作れなかった礼装があるのだ。

構想は既に立ててある。

あとは素材さえあれば作ることができる。

 

「構いません。この素材は全てこの間仕留めたものです。まだまだ大量にありますから」

 

「まぁそういうことならありがたく貰っていくよ」

 

「はい。ではもう1つ」

 

「まだあるの?」

 

「えぇ。ちょっとついてきてください」

 

ニミュエは俺の手を握り水の中に引き込む。

またかよ。

そう思ったがしかしついた先は全く見覚えない場所だった。

そこはゴツゴツとした洞窟だった。

 

「じゃあついてきてくださいね」

 

そう言ってニミュエは歩き出す。

足元は少し濡れており歩く度にぴちゃぴちゃと音を立てる。

一切曲がること無く洞窟の終着点へとたどり着く。

 

()()()()()()()()()()()()3()()()()()()()()

一体なんの剣なのかはすぐに分かってしまった。

真ん中にあるのは黄金に輝く剣。約束された勝利の剣(エクスカリバー)

アルトリアが持つことになる神造兵器。

そして横にあるのは約束された勝利の剣(エクスカリバー)の姉妹剣である輪転する勝利の剣(ガラティーン)無毀なる湖光(アロンダイト)の2本。

のちにガウェインとランスロットに渡されることになるがここで見ることになるとは思わなかったな。

そしてその後ろから漂う色濃い神秘の気配。

一見ただの行き止まりだが俺は壁の向こう側からとてつもなく濃密な魔力が漂ってくるのが感知できた。

その魔力は目の前にある約束された勝利の剣(エクスカリバー)と同等レベルに濃い。

 

「ニミュエ……この先に何がある?」

 

「流石ですね……目の前の剣ではなく奥の物に気がつきましたか……」

 

「そりゃあなぁ」

 

ニミュエは無言で剣を通り過ぎその先の壁に手を当てる。

するとたちまち壁は崩れ去り、その奥に目も眩まんばかりの黄金の輝きを放つ1本の剣が台座に刺さっていた。それはまるで芸術品のように目を引いた。この世にある全てが霞むほどの輝きに俺は目を奪われていた。

知らず知らずのうちにもっと近づこうと足が前に進む。

しかしその途中でニミュエに袖を捕まれ我に返る。

 

「これはこの島に残された神秘に惹き付けられ流れ着いた(つるぎ)、それを私の姉達とマーリンが改造した物がこれです。秘める神秘に関しては約束された勝利の剣(エクスカリバー)よりも上です。その名を不朽不壊の黄金剣(クリュサリウス)

 

不朽不壊の黄金剣(クリュサリウス)ねぇ……」

 

そう呟いて解析を掛けてみる。

 

西方の海より流れ着いた神秘。死した蛇の(はら)より有翼の馬と共に産まれ落ちた黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金黄金

 

「……は?」

 

まるで理解ができない。いや、情報が多すぎて読み取りきれない。

俺は今確かにあの剣に解析をかけたはずだ。実際今も解析を続けている。

膨大な情報量が完結せず、脳が焼かれるような痛み発する。

 

「大丈夫ですか!?」

 

ニミュエの声がどこか遠くから聞こえる。声を頼りに必死に意識を浮上させる。視界がぼやける。

数度頭を振って思考をクリアにする。

 

不朽不壊の黄金剣(クリュサリウス)に解析でも掛けましたか?」

 

「掛けた。そしたらいつの間にか倒れてた」

 

「やはりそうでしたか……では説明しますね。この剣、不朽不壊の黄金剣(クリュサリウス)はこことは違う敷物(テクスチャ)から流れてきた剣です。今や改造により聖剣と化しており、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の雛形となった剣でもあります」

 

あの聖剣の雛形、それだけでも驚愕に値する事実だ。更にはニミュエの姉妹達にマーリンまで関わっているとなれば、とんでもない一品になっているだろう。

 

傷一つ無い剣身(ブレイド)に、無骨ながらも煌びやかな装飾がなされた黄金の剣。正直約束された勝利の剣(エクスカリバー)よりも高性能かもしれない。

 

「まぁとにかくこの剣はその特殊な出自のためかこの剣自体もかなり特殊なものになっています。この剣は真名解放を行えば竜種にすら対抗できるでしょう」

 

とんでもない話を聞かされてしまった。

 

「で? そんな話を聞かせたからにはなにかあるんだろ?」

 

まぁそうじゃなければ実物まで見せてこんな話をしないだろう。

そう思って聞いて見ると案の定なにか要件があったのかニッコリと綺麗な笑顔を見せた。

 

「この剣を引き取ってはいただけませんか?」

 

「……………………は?」

 

今なんて? どれだけポジティブに考えてもこの厄介な危険物を俺に預かれと?

 

「大丈夫です! ちょっと神秘が内包され過ぎていて、鉄も簡単に斬り裂ける事を除けばに気をつけさえすればとっても便利ですよ!」

 

「そういう問題じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

思わず絶叫する。

場所が洞窟だからかとってもよく響く。

 

「あからさまな危険物を押し付けないでくれよ!」

 

「そうもいかないんです! この剣は他の聖剣使い達が暴走した時の抑止力なんです! こんな危険物をそう簡単に渡す訳にもいかないですし、信用できるのはラック様だけなんです!」

 

「自分でも危険物って言ってるじゃないか! しかも俺が解析できなかったレベルだぞ! 扱える自信がねぇよ!」

 

「ラック様が解析できなかったのは神秘としての格が違ったからです! 私も同じことをやったのでよく分かります! でもラック様なら絶対大丈夫です!」

 

「根拠の無い自信やめろ!」

 

もはや兵器に近いそれををなんとか俺に預けて俺の手助けがしたいニミュエ。竜種をサクッと葬れる可能性のある剣を受け取りたくない俺。

聖剣の押し付け合いという傍から見れば信じられないような光景が繰り広げられている。

 

「大丈夫です! ちゃんと用法を守れば安全ですから!」

 

「そのセリフは怖すぎるだろうが!」

 

薬じゃないんだぞ!?

 

「大丈夫です! きっと大丈夫ですから!」

 

「だから根拠を言えってば!」

 

「これがあればきっと役に立ちますよ!」

 

「災厄を撒き散らす可能性の方が高いと思うんだ! 俺は!」

 

「でも! これがあればラック様はきっと安全です! お願いですから受け取ってください!」

 

「うっ……」

 

赤く潤んだ瞳で俺を見つめてくる。

この目はずるいだろ……

純粋に心配してくれているのは分かっている。元々俺に選択肢は無い。この目をする彼女の頼みを断ることはできない。

それに一度解析に失敗している以上、詳しく調べ直したい気持ちが無いわけじゃない。

 

「はぁ……分かったよ! 貰ってくよ! それでいいんだろ!」

 

「はいっ!」

 

花が咲くような笑顔を浮かべる。なんて言うか普通に可愛い。ふわふわと本当に幸せそうに笑う。それを見たらまぁいいかと思える。

 

「じゃあこれは鞘です。ちなみに鞘も不朽不壊の黄金剣(クリュサリウス)と同じ所から流れてきた物です。正確にはそれを素材にして作った鞘ですけどね」

 

そう言って渡された鞘は黄金の剣にふさわしい白銀の鞘だった。

有翼の白馬(ペガサス)に乗った戦士が描かれた鞘は恐ろしい程の芸術性が感じ取れた。それがこの鞘の素材となった何かによるものなのか、それともこの鞘を作ったマーリンと湖の乙女達のセンスによるものかは分からない。

不朽不壊の黄金剣(クリュサリウス)を白銀の鞘に収めてさっき貰った幻想種の素材同様俺の砂の中にしまい込む。

 

「じゃあそろそろ行くか」

 

「はいっ!」

 

今にも鼻歌を歌いそうな程上機嫌になりながら足元の水たまりに俺を引きずり込んだ。

どうやら水であれば水の深さは関係ないらしい。

そして次の瞬間には懐かしの湖が広がっていた。

ニミュエと一緒にいた間は現世には戻ってはいなかった。

故に俺は実に3日ぶりの現世になる。

 

「それじゃあまたな。たまには遊びにくるよ」

 

そう言って歩きだそうとするがニミュエに袖を掴まれる。

その顔を見るとどこか不満げな顔を浮かべている。

 

「? どうしっ!」

 

言葉は続かなかった。

不意打ちで口づけをされたからである。

突然のことに驚いているとニミュエは恥ずかしそうにはにかみながら。

 

「たまにじゃ寂しいです」

 

と言った。

やっぱり可愛いな。

 

「分かったよ。ちょくちょく遊びにくるよ」

 

「はいっ! いつでも待ってますからね!」

 

ニミュエは俺が見えなくなるまで手を振っていた。

それに苦笑いをしながら道を急ぐ。

流石に時間を食いすぎた。

早く帰らないとマーリンに文句を言われかねん。

それは嫌だからな。

 

目指すは選定の剣。

まぁ別に俺が抜くわけじゃないけどな?

 

 

 

 

 

 




早く目的地に行けよ(威圧)
エクスカリバーよりも強いかもしれない剣を獲得!


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千里眼を悪用してんじゃねえ!

早くzeroとかも書きたいなぁ


ニミュエと別れてから1日ほどで目的地にたどり着く。

台座に突き刺さっている黄金に輝く剣。

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)

今回の俺の仕事は台座の魔術の掛け直し。

珍しく今までのように純粋な魔獣の退治ではなくまともな仕事なのだ。

魔獣退治も今では得意だし、だんだん楽しくなってきたからいいんだけどね。

 

台座のそばに座り込むと確かに台座に魔術が掛けられているのが分かった。

しかしその構造は全く分からない。

いやまじで。

微塵たりとも理解ができない。

まぁ分かる必要はないけどね。

俺はこの魔法陣に魔力を注ぐだけでいい。

そうすればこの魔法陣は維持できるらしい。

 

実は単純な戦闘力で言えば俺はマーリンに勝てる。

しかし技術は圧倒的に、比べるまでもなく完敗している。

こういう細かい作業はマーリンの方が得意なのだ。

しかし本人が面倒くさがりなため俺がやることの方が多いけどな!

さらに俺に虫退治なんて押し付けるのだ……

やっぱり1回くらい殺しておいた方がいい気がするな。

マーリンは別に殺しても他人の夢に逃げるから実質死なないし。

うん。そうしよう。

 

まぁそれはさておき仕事はしっかりしないと。

魔法陣を人差し指でそっとなぞる。

するとぼんやりと赤く光り始めた。

魔力がしっかりと溜まった証拠だった。

はい仕事終了。

あとは帰るだけだな。

ちょっと予定よりオーバーしてるからなるべく急いで帰ろうかな。

流石にこれ以上遅れたらマーリンにマジで怒られかねん。

 

♢♢♢♢♢

 

3日かけてようやくキャメロットにたどり着く。

普通に時間がかかった。

 

「やぁおかえりラック。随分と遅かったじゃないか」

 

背後から突然声をかけられる。

当然ながら聞き覚えがある。

振り返ると予想通りマーリンがそこにいた。

 

「すみません。帰るのが遅れました」

 

「まぁ仕事をしっかりとやってくれれば文句はないさ。それでどうだった?」

 

「台座にはしっかりと魔力を補給してきましたよ。あと1年ほど持つはずです」

 

「それなら大丈夫だね。じゃああと10年後になったらアルトリアに選定の剣を抜かせようかな」

 

「了解です。俺はそれまで誰にも剣を抜かれないようにすればいいんでしょう?」

 

「まぁそういう事だね。よろしく頼むよ」

 

そこでマーリンはなにかを思い出したかのようにニッコリと笑った。

それはとても嫌な予感のする笑顔だった。

 

「そういえばラック。ニミュエはどうだった?」

 

……あぁ仕事で会ったことを聞いているのだろう。

そうに違いない。

というかそうであってくれ。

 

「会ってきましたよ。面白そうだったので魔術も教えてきましたしね」

 

「あぁ()()()()()()()()()()

 

「……はい?」

 

知ってるはずがないだろうに。

だってマーリンはずっとここにいたはずなのだから。

その疑問が顔に出ていたのかマーリンは非常にいい笑顔を浮かべて致命的な一言を放った。

 

「私の千里眼を忘れたのかい?」

 

それを聞いて思い出した。

思い出してしまった。

 

マーリンの千里眼は現在全てを見通す目。

恐らくそれで俺とニミュエを見ていたのだろうな。

 

「……師匠。プライバシーって知ってますか?」

 

「夢魔の私には全く関係ないなぁ」

 

「人間社会に生きてるならそれくらい守りましょう?」

 

「はははは。まぁ私が聞きたいのは違くてね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………おい」

 

「大丈夫だよ。最後までは見てないから」

 

「そういう問題じゃないと思うんですけど?」

 

ニッコリ笑いながら災厄の杖(カラミティ)を抜き放つ。

それには流石に焦ったのかマーリンは引きつった笑いを浮かべる。

 

「なにか言い残すことは?」

 

マーリンが全力で逃げ出した。

 

「逃がすかよ!」

 

世界一くだらない鬼ごっこが開催されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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選定の剣

リィンカーネーションの花弁とFateのクロスとか書いてみたいなぁ。
まぁマーリンが終わってからだろうけど。


「やぁアルトリア。準備はいいかい?」

 

「えぇ、大丈夫ですマーリン」

 

アルトリアと俺、そしてマーリンは勝利すべき約束の剣(カリバーン)の前に立っていた。

選定の剣。

これを抜けばアルトリアは王になる。

後戻りはできない。

 

俺がニミュエと出会った年から10年になる今年。

アルトリア、現在15歳。

本日この時、この選定の剣を抜く。

滅びが約束されたブリテンの王。

俺だったら絶対やりたくない。

まぁ俺達はそれを押し付ける訳だが。 

とても申し訳ない。

15歳の少女に滅びの運命を押し付ける。

良識ある大人とは思えない。

とても罪悪感が湧いてくる。

まぁマーリンはそんなことはどうでもいいのだろう。

常日頃から美しい物語が見たいと言い続けている男だ。

アルトリアがどうなろうとあまり気にしない気がする。

だからアルトリアを助けてくれる誰かを探す必要があるな。

俺? 俺はこれでも島の管理で忙しいのだ。

ブリテンには厄介事が多すぎる。

俺はそっちをなんとかするので精一杯なのだ。

正直ランスロットをなんとかしたい。

あいつが浮気とかするからブリテンがとんでもなく荒れたのだ。

しかしランスロットがいなければブリテンは機能しないだろうなぁ。

そうなるとランスロットと同レベルのやつを用意する必要があると思う。

まぁそれぐらいは手助けをしてあげてもいいだろう。

 

「それを手にしたが最後、人間ではなくなるよ?」

 

おぉ名場面!

これ生で見れるのは嬉しいなぁ。

 

「多くの人が笑っていました。それはきっと間違いではないと思います」

 

あぁやっぱりいいわ。

マーリンの気持ちも少しは分かる。

人間はいい。

純粋で綺麗で儚い。

元人間である俺でもちょっと客観的に見ればそう思えるのだ。

夢魔であるマーリンの視点で見れば人間の生み出す物語はとても美しく見えるのだろう。

 

アルトリアは選定の剣に近づき柄を掴む。

そして一気に引き抜く!

 

シャリンと音を立てて選定の剣の剣を抜き天に掲げる。

これで運命は決まった。

アルトリアは王になりそして滅ぶ。

これは決定している。

悲しいことだがな。

 

「まぁこれから頑張ってねアルトリア、いやアーサー王」

 

そう言うとアーサーは悲しそうな顔を浮かべた。

 

「ありがとうラック。これからも助けてくださいね?」

 

「まぁ島の管理がてらね。多分ニミュエの所と行き来することになるだろうねぇ」

 

「おやそうなのかい? てっきり城に住むのかと思っていたよ」

 

「それは師匠に任せますよ。俺はもうのんびりしたいです」

 

「う~んまだまだやることは沢山あるんだけどね……なんとかならないかい?」

 

「……まぁヴォーティガーンの討伐は手伝いますよ」

 

「あぁ頼むよ。あの卑王の野郎はなんとかしないとね」

 

まぁアイツなりにブリテン島を護ろうとしての行動なのだろうがそのやり方が問題なのだ。

もう少し考えてから行動して欲しい。

まぁ気持ちはとても分かるしその心持ちは俺としてはありがたい。

ダメなのはやり方だけだね。

 

「まぁ応援してるから。頑張ってね。じゃあこれ就任祝い」

 

この日のために準備していたものを手渡す。

 

「? これは一体?」

 

それは黄金に光り輝く竜の意匠を施された短剣だった。

 

「まぁ君の血と幻想種達の素材を大量に使って作った礼装だね。それに君の血を垂らせば一時的に竜の因子を軽く暴走させることができる。そうすれば身体能力や魔力が軒並み上がるけど効果が切れると一切動けないレベルの疲労と吐き気、あと魔力不足になるから使い所には気をつけてね」

 

「なるほど。いざと言う時には頼りにさせてもらいますよ」

 

「名前は……栄光冠する竜の頭(ザ・ペンドラゴン)かな」

 

栄光冠する竜の頭(ザ・ペンドラゴン)ですか……ありがとうございます! 大事にしますね!」

 

嬉しそうに笑っている。

まぁ喜んでくれるなら頑張って作ったかいがあったってもんだよ。

 

「じゃあアーサー王をお願いしますねマーリン」

 

「任せてくれたまえ。アーサーを立派な王にして見せよう」

 

まぁマーリンなら大丈夫だろう。

マーリンはクズではあるが仕事はできる。

できる癖にやろうとしないが。

流石に国が滅びるレベルになって仕事をしないとは思わない。

そうであることを願う。

 

「じゃあしばらくはお別れかな? まぁたまには遊びに来てくれると助かるよ」

 

「……仕事を押し付けるつもりですか?」

 

「たまには手伝ってくれるだろう?」

 

「……まぁいいですけどね」

 

「よしっ!」

 

小さく声に出しガッツポーズをするマーリン。

仕事なんてちゃんとやれば貯まらないはずなんだけどなぁ。

 

「じゃあニミュエに会いに行ってきますね」

 

「あぁ行ってらっしゃい。楽しんでおいで」

 

「いつでも待ってますから!」

 

アルトリアがブンブン手を振ってくるのに振り返しながら歩いていく。

この所仕事が忙しくて会えてなかったからな。

拗ねてなきゃいいけど。

まぁ拗ねてたら拗ねてたで可愛いんだけどね?

 

目指すはニミュエの住む湖。

なるべく急いで会いに行こう。

俺も早く会いたいからね。

 

 

 



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引っ越し

最近執筆に余裕が出てきた。

後ようやくFGO第一章クリアしました(約1年半かかったw)


「ただいま〜」

 

「おかえりなさいラック様!」

 

前に来た時は数週間前だったがちょっと会わなかっただけでかなり久々な気がするのは俺がニミュエに依存しているからなのだろうか。

駆け寄ってくるニミュエはまるで犬のように見えてついつい微笑ましくなり頭を撫でてみる。

するとニミュエが頬を赤らめ、こちらに擦り寄って来るので余計に愛おしく思える。

 

「遅くなってすまん、これからはここでのんびり暮らそうと思う」

 

「是非そうしてください!」

 

実はかなり前から一緒に住もうと誘われていた。

しかしまぁその頃は休む暇がないほど忙しく、仕事に忙殺されていたためメインの住まいは城の一室を借りていたのだが今回仕事が一段落して俺の仕事もほとんど片付けてしばらくは仕事が無くなったのでこれを機にニミュエの家へと引っ越すことにしたのだ。

 

城にあった工房は跡形も無く片付けてしまった。

必要なものは全て持ち出したしそもそも島の化身である俺に本来工房は必要無い。

魔力は島から借りればいいし礼装だって全部砂の中に収納しているから物置すら要らないのである。

それでも工房があったのは一人でのんびりできるスペースをくれとマーリンに頼んだらくれたので寝床として活用していただけだしね。

まぁ仕事場で寝泊まりするブラック社員ってこんな感じかなぁとは思っていたよ。

 

それにニミュエと暮らさなかった理由はそれだけではない。

ニミュエは俺といる時だけなにかと遠慮が無くなる。

色々と大胆になるので俺の精神と忍耐がゴリゴリ削れていく。

まぁつまりは色々と我慢ができなくなる。

流石にそれはまずいと俺でも分かるのでちょくちょく訪れる程度に留めていたのだが仕事が終わり断る理由が無くなったためニミュエの誘いを受けることになったのだ。

 

まぁたまに呼ばれるだろうが俺じゃなきゃできないこと以外仕事はしないつもりだけどね。

 

「とりあえず行きましょうか!」

 

そう言ってニミュエはいつも通り俺を湖の中に引きずり込んだ。

水を境界に別の場所に転移するという限定的な魔法の真似事はニミュエにしかできないことだろう。

 

そして次の瞬間には景色が変わっていた。

ニミュエの住む屋敷。

今からここに住むのかと思うと感慨深い気持ちになるが正直あまりここには居ないと思う。

俺はブリテン島の化身なのだ。

あまり島からは離れられない。

しかし湖の乙女であるニミュエもまたあまり湖から離れられない。

お互いのことを考慮した結果ブリテン島にある俺が初めてニミュエに会った湖のほとりにほとりにこの屋敷を持ってくることにしたのだ。

普通はこんなことはできないがこの屋敷を水で包めばあとはニミュエの能力でどうとでもなる。

屋敷を移動させたら俺が結界を貼り、誰にも見つからないようにすれば完璧だ。

不可視の結界と物理的に侵入を拒む結界の二重構造で結界を構築すればたとえマーリンでもそう簡単に突破はできない。

 

「じゃあ始めちゃいますね!」

 

そう言うと背後にある湖からゴポリと巨大な水球が浮かび上がり屋敷を包んだ。

初めに魔術を教えた頃とは比べ物にならない発動速度と制御。

ここまでになるのに一体どれだけの修練が必要になるのか。

間違いなく水を操ることに関してはニミュエが最強だろう。

少なくとも俺でも勝てないのは間違いない。

 

たった数秒で屋敷を全て包むと、徐々に屋敷を飲み込み始めた。

(はた)から見れば屋敷が水に溶けているように見えるだろう。

まぁ見物人は俺しか居ない訳だが。

 

そして屋敷が全て消えると満足そうな顔で近づいてくる。

 

「移動できました!」

 

「お疲れ様。じゃあ行こうか」

 

「はい!」

 

スっと手を差し出すとニミュエは俺の手を握って湖の中に再度引きずり込んだ。

この感覚は何度体験してもあまり慣れないがまぁ贅沢は言えない。

そして次の瞬間にはまた景色が変わり見覚えのあるブリテン島へと戻って来るのだった。

 

「じゃあ部屋を決めましょう!」

 

「はいはい、とりあえず落ち着こうね?」

 

どこか興奮しているように見えるニミュエを宥めると彼女は恥ずかしそうに。「だってずっと一緒に暮らしたかったから……」と言った。

 

……可愛すぎませんかねぇ?

いつか悶え殺しにされそうなんだが……

思わず頭を撫でると嬉しそうに頭を押し付けてくるのがとても可愛く思えた。

 

おっと、このままだと永遠に話が進まなそうだな。

まぁニミュエが可愛すぎるのが悪い。

 

「グルルルルルル!」

 

空気の読めない魔獣がやってきた。

まぁニミュエが体内の血液を全て抜き取り死ぬのだが。

ニミュエは水で作った小さな針を体内に撃ち込み血を全て体外へと出すことで殺すという魔術的な対抗手段を持たない魔獣相手にはこれ以上ない手段だと言える。

 

そしてお互いに魔獣など居なかったかのように屋敷の中に入っていく。

 

 

 

 

「……ねぇニミュエ」

 

「……はい何でしょう!」

 

「なぜいきなりベッドに案内されるのかな?」

 

「……駄目ですか?」

 

赤く染った頬と上目遣いで見上げてくるニミュエを見てまだ昼であることも気にせず扉を砂で閉めるのだった。




リア充爆発しろ!

ちなみにこれを友達の真横で書くスリルよw
見られたら生きていけない……


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招かねざる来訪者 一人目

遅れてしまい申し訳ございません。

高熱の中書いているので誤字脱字等あるかも知れません。
もしあったら報告お願いします。


あと今回はオリジナル設定が出てきます。
まぁ許してください。


朝目が覚めると隣にニミュエがいた。

まぁ当然お互い何も着ていない。

可愛らしく寝息を立てて眠っているニミュエの髪を撫でて起こさないようにそっと部屋を出る。

あぁ当然服は着たよ?

 

外はもう暗く空には綺麗な月が浮かんでいる。

結局あの後はニミュエの誘惑に耐えきれずにニミュエをベッドに引きずり込むことになったがまぁしょうがない。

全部ニミュエが可愛すぎるのが悪い。

それはさておき、何が言いたいのかというとまぁ簡単な話結界を貼るのを忘れてた。

途中で思い出したが意識を逸らすと何故かバレて拗ねるのだ。

なんとも可愛い話である。

 

まぁとにかく、さっさと仕事を終わらせようかな。

まずは侵入者を撃退するための結界。

これは正確には許可の無いものが侵入しようとすると昔俺がお遊びで作った迷宮へと転移させるための結界なんだけどね。

目の錯覚や魔術による暗示、更には大量の魔獣を放ってあるこの迷宮から脱出するのは非常に困難でかなり殺意の高い仕様になっている。

まぁ過去の悪ふざけの結果だが迷宮を見に来たマーリンはすぐに頬を引き攣らせ「絶対に人が来ないようにしろ」と真顔で釘を刺された。解せぬ。

つまりはこれは結界と言うより門と言った方が正しい。

まぁ残念なことに一方通行だが。

脱出方法はただ一つ、迷宮の奥底に潜む魔獣を討伐することだけ。

その最奥の魔獣は俺が作った。

まぁ元々は大量の魔力をどうにか保管していざと言う時に持ち出せないかと考えて作ったんだけどね。

しかも持ち歩かなくて済むように生き物として作ればかなり楽じゃないかと思って作った所までは良かったのだが……

 

まぁ実は遠坂家の宝石魔術を元に思いついたものだったが残念過ぎる欠点がある。

魔力を貯めるために身体を大きく作ったんだけれど大き過ぎて全く動けないのだ。

あまりにも間抜けな結果に恥ずかしくなって昔に作った迷宮の奥底へと封印したのだ。

ついでに迷宮の番人に据えたのは我ながらいい判断だと思う。

何せこいつの欠点は動けないことだけ。

それ以外は膨大な魔力を持ち、その吐息すら含まれる魔力が高密度過ぎて毒のようにもなっている。

俺は全く問題ないが一般人は近づくだけでも危険なレベルになっている。

まぁそいつを倒さないと迷宮からは絶対に脱出はできない。

我ながらかなりの鬼畜仕様である。

 

長々と書き連ねてしまったが次に不可視の結界。

こちらはかなり簡単だ。

魔力で光を捻じ曲げて屋敷の存在そのものを外部から見えなくする。

よく漫画などで見る透明化ってやつだね。

とはいえこれが中々馬鹿にできない。

この時代に光がどうこうなんて知られていないからどうして見えないのかがバレにくい。

そうなればこの結界が破られる確率もグッと下がるだろう。

これならそうそうこの屋敷がバレることは無いと思う。

じゃあ二度寝でも……

 

「あなたが島の化身で間違いないだろうか?」

 

……休ませて欲しい。

しかしこんな夜中に一体誰が……

 

そこにはガタイのいい男がいた。

着ている服からそれなりに身分がいいことが分かる。

 

「誰かな?」

 

「おっと、申し遅れました。私はヴォーティガーンと言います。本日はあなたにお願いがあってまいりました」

 

……ヴォーディガーン?……ヴォーティガーン!?

何故ここに!?

こいつはアーサー王の敵だ。

ここで殺すか?

 

「突然のことで申し訳ないがどうか聞いて欲しい。私にはもう時間があまりないのだ」

 

言葉と態度から真剣であることが分かる。

それはまぁ話くらいならと思わせるには十分なものだった。

 

「はぁ……まぁ話だけならな。だが今この場でだ」

 

「分かりました。では単刀直入に言います。私に協力しては頂けませんか?」

 

「……それは俺がブリテンに就いたと分かっての言葉だよな?」

 

「えぇその通りです。しかしあなたは島の化身。であれば島の神秘がなるべく残る方に就くはずです」

 

ヴォーティガーンの目的は知っている。

島の神秘を保つこと。

しかしそう上手くはいかないだろう。

まぁだからこそ俺に協力を求めたんだろうけどね。

 

「なぁヴォーティガーン、あんたはこの島の神秘を本当に守れると思ってるのか?」

 

「……どういうことですかな?」

 

「そのまんまの意味なんだけどね。まあ簡単な話、ほぼ不可能なんだよ」

 

「……えぇ知っています。しかしだからこそ! この島から人間を排除するべきでしょう!」

 

目を見開いて熱弁しているところ悪いけど全く響かない。

 

「ブリテン島には悪いけどな? この島を救うにはお前の言う方法が正しいんだろう」

 

「ッ! でしたら!」

 

「でももう手遅れなんだよ」

 

「え?」

 

ほうけた顔をしている。

どうやら本当に分かっていないらしい。

 

「お前が招いたサクソン人はブリテン島の神秘とは別系統の神秘を持っている。そんなやつらが大量に入ってきたらこの島の神秘がズタボロになるのは当然だろう?」

 

ヴォーティガーンにとっては残酷過ぎる真実を告げる。

案の定ショックを受けたのか目を大きく見開いて魚のように口をぱくぱくとさせている。

 

「そんな……私はただ……」

 

ヴォーティガーンも別に悪気があった訳では無いのだ。

ただ知らなかっただけ。

それがこんな結果を招いた。

 

ヴォーティガーンがやろうとしていたことはブリテンの統一。

確かに神秘の無くなる原因は技術が発達するからだが、性質の違う神秘を混ぜ合わせた場合もまた同様である。

 

「分かったら帰るといい。島から命令が出たらお前を殺さなきゃならんしな。今は頑張って誤魔化してはいるがそれもそろそろ限界だ」

 

「……分かりました。本当に……申し訳ございませんっ!」

 

自分がやってしまった重大なミスに気がついたのか涙を流すヴォーティガーン。

まぁ良かれと思ってやったことがその実滅びを招いていたと知ってしまったからな。

とはいえ自業自得だ。

同情はするが絶対に手は貸してやらない。

 

「化身様! しかし私は諦めませんよ!」

 

「へぇ……?」

 

この期に及んでまだ何かやらかすつもりか?

だとすれば本当にここで殺すのだが……

 

「私はとんでもないミスを犯した。ならばそれを償えるのは私しか居ないのです! 私はアーサー王に討たれようと思います。しかし私の身体はあなたに役立てて頂きたい!」

 

そこにはとんでもない覚悟があった。

……まぁいいか。

 

「分かった。とはいえ普通の人間の身体が役立つかは知らないぞ?」

 

「それに関しては心配ご無用、私は白き竜の血を飲んでアーサー王と戦います。その身体であれば必ずやあなたのお役に立てるでしょう!」

 

なるほど、確かに竜の身体はかなり欲しい。

知ってる人間を実験に使うのは色々と倫理観が訴えてくるが、まぁ本人の希望なら俺も遠慮しなくて済む。

 

「まぁいいだろう。但し約束を間違えるなよ? その場合はお前には名誉ある死は訪れないと思え」

 

「はっ! いやしかし、私には名誉ある死など勿体ないことです。島を滅ぼした愚か者で十分でしょう」

 

そう言ってヴォーティガーンは去っていった。

なんというか予想とはだいぶ違うな。

前世ではただブリテン島を支配しようとしてるだけだと思ってたからなぁ。

 

さて、部屋に戻ろうか。そろそろニミュエも起きる頃だろうしね。

 

「もしそこの御方、聞きたいことがあるのだが」

 

……また客人か。

あまりニミュエを放っておきたくないんだけど。

 

そう思いながら振り向くとそこには紫の髪を持つ歳若い男がいた。

 

……もしかしなくてもランスロット?

 

 

 




ランスロットももうちょっとちゃんとしてれば言うことないのにねw


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ラックの試練

今回は完全にオリジナル展開です。



「ここが湖の乙女の一人であるニミュエ殿が住む湖で間違いないだろうか?」

 

のちの円卓の騎士最強、ランスロット。

彼はニミュエに用事があるらしい。

まぁどんな用事かは予想がついている。

間違いなく無毀なる湖光(アロンダイト)が目的だろう。

ランスロットの代名詞の一つ。

確かランスロットは湖の乙女に育てられ、その過程で無毀なる湖光(アロンダイト)を送られたのだろう。

しかし神造兵器やその姉妹剣である聖剣などは全てニミュエが管理している。

だからこうしてニミュエに貰いに来たのだろうな。

しかしそうなるとランスロットを育てたのは一体誰なんだ?

 

まぁそれよりもとにかく返答をするのが先か。

 

「ニミュエは今部屋にいるよ。もう少ししたら来るだろうけど用事があるなら聞こうか?」

 

「……あなたは?」

 

思いっきり不審者を見る目で見られた。

そういえばまだ名乗ってもいなかった。

それなのに今の返答は不審に見えるだけか。

 

「すまんね、名乗り忘れてた。俺はラック、まぁそれなりに腕に覚えのある魔術師でニミュエの夫をやってるよ」

 

そう言うとランスロットは目を見開きそしてすぐに納得がいったかのような顔をしていた。

 

「そういえば母が妖精の伴侶となった魔術師がいるとそれは楽しそうに語っていましたが……まさか本当だとは」

 

「まぁそういうことでな。ニミュエに用事なら俺が聞いておこうか?」

 

「……まぁそういうことなら問題はないでしょう。私はランスロット、アーサー王に仕えるために聖剣を授かりに来た次第」

 

「そっかぁ聖剣ね。まぁそれなら俺が渡すわけにはいかないね。それは湖の乙女の役目だ。俺が関与すべきではない……だがアーサー王に仕えるなら話は変わる」

 

俺の雰囲気が変わったことに気がついたのかランスロットは思わず身を固くする。

 

「彼は俺の知り合いでね。子供の頃に面倒を見たこともあった。まぁ君に彼を守る力があるのか見せてもらおうかな?」

 

「……なるほど、分かりました」

 

「……意外だね。だからなんだと跳ね除けることも君ならできるだろう?」

 

これに関しては正直とても意外だった。

だって彼には俺の言った通り俺に力を見せる必要など全くないのだから。

生意気だと、傲慢だと跳ね除けることもできただろう。

しかし彼は、ランスロットは了承したのだ。

俺を配慮してくれたことが分かる。

本当にいい青年じゃないか。

これが不貞とかいうくだらなすぎる国家の崩壊を招く人物になるとは……

本当になぜなのだろうか。

 

「……まぁいいや、じゃあ君には俺の迷宮でもクリアしてもらおうかな。流石に最後の蛇は倒せないだろうからとりあえずはそこに到達するだけでいいからね」

 

「え?」

 

「じゃあ行ってらっしゃい。頑張ってね」

 

一方的に告げて迷宮に放り出す。

まぁこんな夜中に尋ねて来るのが悪いのだ。

流石に眠すぎる。

ランスロットは鎧も着てたし剣も持ってた。

それに例え迷宮で瀕死になっても生きてさえいれば一応帰って来られるようになっている。

生きてれば俺が治療を施せばいいだけの話なのだ。

割と何も問題は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは」

 

一方的に迷宮へと飛ばされたランスロットは辺りを見渡している。

地面は足首まで水が張っており思い通りに動くことは難しい。

獣の呻き声や争うような声が響いており、自分はそれなりに広い部屋にいることが分かる。

そして壁や地面は明らかに加工されていることが分かる茶色い石材でできている。

その壁や地面一体に青白く光る文字が書かれているのが分かる。

それは幾何学模様のように見えるが実際には全く規則性がなく書かれておりじっと見ていると遠近感覚さえ狂わされそうになる。

極力それらを見ないように立ち上がると一本の道があることに気がついた。

止まっていても仕方がないとその道に向かって歩き出す。

 

その時だった。

今まさに向かっていた道から一体の魔獣が現れたのだ。

それは緑がかった水色の皮膚を持ち海藻のたてがみを持つ馬。

幻獣ケルピー。

それが目の前に現れた魔獣の名前である。

ケルピーは背に乗せた人間を水の中に引きずり込みその肉を食べてしまうという。

そのケルピーがかなりの速度で猛進してくる。

ランスロットはギリギリで身体を逸らしすれ違いざまに斬りつけるがまるで金属同士がぶつかったかのように甲高い音を立てて弾かれた。

ケルピーはそのまま身を翻し再度ランスロットへと向かっていく。

 

どうするっ! 剣では切れないし攻撃手段がない。

打つ手なしか!

そんなことを考えながら横に転がってケルピーを躱す。

すぐに立ち上がり剣を構える。

 

しかし唐突に戦闘は終わった。

急に空が暗くなる。

実はこの迷宮の天井や壁、そして地面は発光する。

夜の間は光量は抑えられるが昼の間は本物の昼のように明るい。

故に空というものはないがまぁそこは察して欲しい。

それにここの天井はとても高く天井に書かれた文字は見えない。

だから空だと言い張ることもできるかもしれない。

 

まぁそれはさておき急なことに驚き空を見上げるとそこには、

 

巨大な怪鳥が睥睨していたのだ。

 

黄金の羽毛を持ち4枚の翼を羽ばたかせ尾羽の代わりに真っ黒な蛇を生やした怪鳥が悠々と空を飛んでいる。

 

怪鳥は尻尾の蛇を伸ばすとケルピーに噛み付こうとするがケルピーは跳ね上がることで蛇を回避する。

しかし怪鳥はケルピーに直接掴みかかると爪を食い込ませ、そして持ち上げた。

苦しみ暴れるケルピーに黒い蛇が追い討ちをかけるように牙を食い込ませる。

ビクンビクンと痙攣するケルピーを急降下する勢いで地面に叩きつけとどめを刺す。

グチャリと肉が潰れる音と短いケルピーの悲鳴が絶命を告げる。

そして怪鳥は死んだことを確認するかのようにくちばしでつつくとランスロットをギロリと鋭い瞳で睨みつけてからケルピーを咥えてどこかに飛んでいった。

 

ランスロットは今起こったことを信じられず呆然としている。

しかしこれはのちにランスロット最大の難関とまで言われる試練の始まりに過ぎなかった。

 

弱肉強食を体現するラックの迷宮。

しかしここに弱者はいない。

存在するのはラックが被害を出したため捕獲した魔獣やラックが実験や趣味で作った合成獣(キメラ)達。

罠やラックが時折遊び半分で放り込む悪霊で溢れるため魔獣たちですら移動に最新の注意を払う最強の監獄。

昔アルトリアに攻略してもらおうと中に入れてみれば数分で音を上げられたということもあった。

違う魔獣同士が混ざり合い全くの新種が生まれることもあった。

しかしこの迷宮の創造者はそれを楽しんでいる。

 

最古の魔獣観察のための施設(攻略不可能の迷宮)

生存競争の絶えない強者のみの監獄(地獄)

しかしここには4つのルールがある。

 

 

一 徘徊者に見つかるな

 

二 鉄人形と戦うな

 

三 砂の部屋には近づくな

 

四 蛇の王には逆らうな

 

これらは魔獣達が作った暗黙の了解である。

そのためランスロットはこれらを知らない。

これさえ守っていれば生きていられる。

それでも魔獣達が戦うのはラックが気に入ったやつはたまに外に出してやると宣言したからである。

だから魔獣達は自身の強さを知らしめようとその力を振るうのだ。

 

そしてたまに人間が入ってくる。

彼らは皆ラックが入れた罪人達でありここでは強くなければ餌でしかない。

ランスロットは知る由もないが大抵は人間が放り込まれるとこの大広間に放り出される。

故にもう既にランスロットは餌として見られている。

 

ここは魔獣達の巣窟(楽園)

この世ならざる者達の闘技場。

今そこに異物が投じられた。

 

 

壮絶な殺し合いが幕を開ける。

 

 

 




怪鳥はオリジナルです。


それから活動報告で魔獣の募集とかやってみたりします。
まぁ初めての試みなので色々あるとは思いますがお願いします!


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迷宮の悪意と?

……知ってたよ? どうせあんなゲテモノの内容で応募しても誰もコメントしないって……でもまぁやってみたかったんですw


「はぁ……はぁ……」

 

ランスロットはたまたま細道の先に見つけた小さな部屋で休息を取っていた。

道は細いため大型の魔獣は入って来れないだろうとこの部屋に籠城を決め込んだが時折聞こえる魔獣達の唸り声に休まる暇がない。

 

「ふぅ、さてどうするか。ゴール地点はどこにあるか分からない、さらには大量の魔獣が蠢いている……ここからどう動くべきか」

 

「グルルルルル!!」

 

「ッ!!」

 

その時だった。

通路の奥から獣の低い唸り声が聞こえる。

咄嗟に立ち上がり剣を構える。

しかしどれだけ待っても魔獣は現れない。

さっきのは幻聴だったのかと息を吐いた。

 

()()()()

 

頭上から何かが降りてくる気配を察知し寸前で転がり避ける。

ゴロゴロと転がり避けるが掠っていたのか頬から血がたらりと流れる。

それを指で拭い襲撃者の姿を見る。

そこには四足歩行の灰色の身体に丸太のように太い尻尾を持ち、まるで魚のようにビッシリと鱗を纏った魔獣が口から涎を溢れさせていた。

その魔獣は首が異様に長く、両前足に付いている鋭く長い1本の鉤爪を持っていた。

その魔獣は不意打ちが失敗するや否やランスロットと距離を取るべく離れ始めた。

その様子に不意打ちを得意とする魔獣なのかと思い、ならば一気に距離を詰めようと剣を握り直す。

 

しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

突然グニャリと視界が歪みだし剣を取り落とした。

 

一体何が!?

 

定まらない視界で魔獣を見るとニヤニヤと牙を剥きながら笑っていた。

何が起こったのか理解できなかったが鉤爪から緑色の液体が滴っているのが見えた。

それでようやく自分の急な不調の原因がこの魔獣の毒であることが分かる。

恐らく最初の不意打ちで掠った攻撃で魔獣の毒に感染したのだろう。

魔獣が近づいてくる気配を感じる。

このままでは確実に殺されるだろう。

しかしそう簡単に殺されてはなるものかと最後の力を振り絞る。

意識を閉ざさないように唇を噛み痛みで意識を保つ。

最後の抵抗とばかりにフラフラと立ち上がる。

しかし魔獣はそんな身体で何ができると嘲笑うかのように唸り声を上げる。

 

「おおおおおおおおおお!!!」

 

ランスロットはすぐそばに落ちていた自分の剣を拾い上げ、魔獣に向かって走り出した。

しかしその速度は素人が見ても遅いと言えるほどのお粗末なものだった。

足元はふらつき、視界は揺れる中こうして剣を握り魔獣へと向かっていけること自体が奇跡に等しいのだ。

 

しかし魔獣は鉤爪でランスロットの剣を弾き飛ばす。

そんな僅かな衝撃にも関わらずランスロットは堪えきれず倒れ込む。

 

その身体にはもう一切力が入らなかった。

その様子に魔獣は自分の勝ちを悟ったのか足に噛みつきどこかへ運ぼうとする。

 

しかしここでランスロットにとっては2度目の奇跡が起きる。

いや、不幸かもしれない。

 

突然ガシャガシャというまるで鎧が擦れるかのような音が聞こえてくる。

その音を聞いた途端ランスロットの足を加えていた魔獣はピタリと動きを止める。

そしてそのままランスロットを離し猛然と、まるで何かから逃げるように走り出した。

 

一体なんだというのか。

その答えはすぐに現れた。

小柄な人影が通路の奥からこちらに向かってくる。

まさか人間かと一瞬期待するがその期待は一瞬で崩れることとなる。

それはちょうどランスロットと同じような大きさの鉄の人形だった。

予想外過ぎて思わず呆けてしまう。

しかしこの人形を相手にそのすきは致命的である。

 

バキリという音が響く。

気がつけばランスロットは壁に埋まっていた。

当然のように意識を保つことはできておらず既にランスロットは死に体である。

 

しかし鉄人形はランスロットにとどめを刺すようなことはせずその場を立ち去っていく。

 

その場には静寂が残った。

 

しかし数10秒後、ドゴン!という凄まじい音が響くと続いてぱしゃぱしゃと何者かが歩く音が聞こえる。

 

そしてランスロットの部屋に入りランスロットを見つけると何かを考え込む仕草を見せそしてランスロットを担いで消えていった。

 

部屋にはもう何も無かった。

 

 



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地獄で掴む蜘蛛の糸

パチパチと何かの弾けるような音を聞いて目が覚める。

目を開けると焚き火が目の前にありそのそばにフードを被った男が佇んでいた。

 

「……目が覚めたか?」

 

その声は掠れていて聞きとりずらかったが辛うじて男であることは分かった。

 

「あなたは?」

 

「名前などこの場所では無意味だ。この場においては全ての生物は餌に過ぎん」

 

「……一体ここはどういった場所なんでしょう?」

 

男が名前を名乗る気はないのが分かり質問を変えてみる。

 

「そんなことも知らずに来たのか? 呆れたな」

 

男は本当に呆れたかのようにため息をついた。

 

「ここはブリテン島の正当なる支配者、ラックの創造した異界に存在する脱出不可能の絶対迷宮。名前は怪物達の深淵永久監獄(ブリタニア・アビス)。ここでは弱者は死ぬしかない」

 

そう言う男の様子はとても疲れたように見える。

 

「……ここにはラック殿に連れてこられました。アーサー王に仕えるのに相応しいのか見定めるために」

 

「……覚えておけ、それは死刑勧告に近い。この迷宮には出口など存在しない。常に広がり続けその広さは確実にブリテン島よりも広く、そしてその全貌は迷宮の管理者であるラックですら把握していないらしい」

 

「……あなたはなぜここに?」

 

「ここは監獄だ。ブリテン島の害悪になる者達が強制的に収監された監獄の皮をかぶった処刑場だ。もう分かるだろう? 俺はこの地獄に堕とされた罪人だ」

 

そう言ってランスロットの方を男が向くとランスロットからは男の頬についている3本の獣の爪痕のようなものがくっきりと見えた。男にはそして何より左目がなく、そこには黒々とした孔があるのみだった。

 

「……あなたは一体何をしたんだ?」

 

「……今思えば愚かなことをしたものだ。この島を俺の物にしようと島の化身たるラックに戦いを挑んだ。そしてその思想をこの島の危険因子だとここに閉じ込められた」

 

男の顔には昔を懐かしむ老人のような哀愁がハッキリと見て取れる。

 

「……ラックについて詳しいことを知っているか?」

 

「湖の乙女の夫であるということだけは知っている」

 

「そうか、なら教えてやる」

 

そこで男から聞いた話はとてつもないものだった。アーサー王が子供の頃、突然現れマーリンの弟子となりまだ幼いアーサー王に剣術などを教えていたそうだ。そしてその正体は薄れていく神秘を取り戻そうとブリテン島が生み出した装置のようなもので人間どころか生物と呼べるのかも怪しいとの事だった。

 

「……そうだったのか」

 

「お前は一体何をしたんだ? この迷宮には基本的には罪人しか来ることはない」

 

「……いや、私は何もしていない。湖の乙女に聖剣を授かるように母に送り出されそこでラック殿と話したのだ。そして先程も言った通りアーサー王に仕えるのに相応しいのか見定めるためにここに送られた」

 

「……こりゃあ驚いた。あのラックが罪人以外を送り込んで来るとはな」

 

「そんなに前例のないことなのか?」

 

「ない。これだけはハッキリと言える。俺はここに閉じ込められて4年になるがお前のようなやつは初めて会った……ラックは何か言っていなかったか?」

 

「蛇の元までたどり着いたなら私を認めるとだけ」

 

「……もしや蛇の王か!」

 

「知っているのか?」

 

そう聞くと男は視線をさまよわせそして同情を残った右目に浮かべた。

 

「この迷宮において最強の存在だ。出会ったのならば蛇の気まぐれを祈れと言われる程だ。それに会いに行けとは……」

 

「それ程の存在なのか……」

 

「この迷宮にはいくつかのルールがある。このルールはこの迷宮の魔獣共が勝手に作った不文律のようなものだが魔獣と言葉を交わせる者が昔いてな、そいつ曰くここの魔獣達はそのルールだけは絶対に破らないそうだ」

 

「そのルールとは?」

 

ランスロットは藁にもすがる思いで男に質問する。当然だろう、自らの命がかかっているのだから。

その様子に憐れみの表情を浮かべて男は話し出す。

 

「一 徘徊者に見つかるな。二 鉄人形と戦うな。三 砂の部屋には近づくな。四 蛇の王に逆らうな。この4つだ」

 

ランスロットはその内の1つ鉄人形に覚えがあった。

それを表情で悟ったのか男は言った。

 

「その通り、お前が殺されかけたあいつこそが鉄人形だ」

 

「なぜ戦ってはいけないと?」

 

「やつらの習性と機能が異常に厄介だからだ。やつらは100体以上の数がいて常にその情報を共有している。そしてやつらはとある魔術師がマーリンとラックを殺すために作り出したゴーレムのようなものらしい。その2人を殺すために誰彼構わず殺戮を行い戦闘記録を共有し、自己強化を行っているらしい。つまりは戦えば戦うほど強くなりそして1度戦えば殺すまで何度も追いかけてくる。作った魔術師はラックが処理したらしいが……その結果鉄人形だけが残った。ラックはそれらを処理せずにこの迷宮へと連れてきたらしい」

 

「それは……なんとも言えないな」

 

「まぁな、だがラックに喧嘩を売ったやつの末路なんてそんなものばかりだぞ? この迷宮だって昔はラックを殺してやろうと息巻いているやつらばがりだったがそんなやつらはみんな死んだ」

 

男はそこで言葉を区切ると腰にぶら下げていた石筒を手に取ると何かを飲み出した。

 

「それは?」

 

「あぁこれか? この迷宮の壁を削って作ったまぁ水筒だな。この迷宮の壁は削ってもすぐに再生する。だから穴を掘って隠れるなんこともできない。ちなみに中身は水だ。お前も飲むか?」

 

「いただこう」

 

男は石筒をランスロットに投げ渡す。水が零れると思い慌てるが予想に反して水は一滴も零れることはなかった。

 

「俺も一応魔術師でな。その程度の芸当は朝飯前だ」

 

「なるほど……」

 

受け取った石筒から水を飲むと疲れが取れていくのが分かる。これも魔術の影響なのかそれとも自分が疲れていたからなのかはランスロットには分からなかったが久しぶりに落ち着けたことに思わず息を吐いた。

 

「でだ、残りの3つについてだが……徘徊者は恐らく妖精の成れの果てだろうな」

 

「なぜそう言える?」

 

「魔力の質だな。前に妖精を見たことがあるが魔力がよく似ていた。これは推測だが変質した妖精がこの島を滅ぼさないようにこの迷宮に閉じ込めたんだろう。まぁそれはいい、問題は徘徊者は鉄人形と同じで目につく生物を殺しまくることだ。理由なんて一切分からん」

 

「……勝てると思うか?」

 

「無理だ。やつは魔力を無尽蔵に吸収してしまう。近づけばたちまち無力化されるぞ」

 

「そうか……では砂の部屋とは?」

 

「あれは間違いなくラックが作ったものだな。これも徘徊者と同じで部屋に入った瞬間、魔力を奪われて殺される」

 

「なんのためにそんなことを……」

 

「恐らくだが神秘の回収だろう」

 

そう言えばラック殿は島の化身だったか。その理由ならば納得できる。

 

「最後に蛇の王だが……これはラックが作った最悪の魔獣らしい。膨大な魔力を溜め込みそれを放出するらしいが……」

 

「見たことはないと?」

 

「蛇の王自体は見たことはある。遠目だったがな、とてつもない大きさで迷宮の通路を破壊しながら移動していた。あれに気付かれたら間違いなく死んでいたな」

 

「なるほど……話は分かった。……しかしここは安全なのか?」

 

ランスロットは自分達がいるここだけは水に満ちていないことに気が付いていた。

まるで祭壇のように四角く盛り上がった地面の上に自分達はいたのだ。

 

「安心しろ、魔獣避けの結界を張ってある。そうそう魔獣が来ることはないさ」

 

その言葉を聞いてひとまず安心する。そしてランスロットは突然真面目な顔をして男に話しかけた。

 

「すまないが蛇の王に会う方法を知らないか」

 

「……話を聞いていたか?」

 

男がランスロットを見る目は自殺者を見る目だった。

 

「聞いていたとも、しかし私がこの迷宮を脱出する方法がそれしかないのだ」

 

「……ラックは割と適当な性格でな、約束を守るかは分からんぞ」

 

「それでもだ。私はアーサー王に仕える男だぞ? この程度乗り切れなくてどうする」

 

そう言うと男は心底呆れたようで、顔を覆い頭を振った。

 

「馬鹿かお前は、いや、確実に馬鹿だお前は! 自ら命を捨てるようなものだぞ!」

 

「それでもだ」

 

同じ言葉を繰り返す。それはランスロットの固い決意の表れでもあった。

 

「……ならば止めん、好きにしろ」

 

「あぁ……すまんな」

 

「ふん」

 

ランスロットが立ち上がりこの部屋を出ようとする。男はそれを止めずに見送った。

しかしその時、通路からノシノシと2匹の魔獣が現れた。

「……さっき魔獣避けの結界を張ってあると言っていなかったか?」

 

「……恐らくお前の血をたどって来たのだろうな。俺としたことが失敗だった」

 

そしてついに魔獣はその姿を表した。

虎の身体に人間の顔を貼り付け尻尾の代わりに百足を生やした魔獣と赤い鬼のような顔に痩せ細った犬のような身体を持つ魔獣の2体。

 

「まぁ仕方がない。お前の身体は治癒はしたがまだ完全では無い。あまり激しい動きはできないと思え」

 

「その程度なら全く問題ないとも。では一人一体を相手にしよう。私は虎の方を」

 

「ならば俺は『死体漁り(ジャッカル)』を相手にしよう」

 

「名前があるのか?」

 

「あぁ昔もっと仲間がいた時に名前を適当に付けた。ちなみにあの虎は『人面虎(フェイスタイガー)』だ」

 

2人は敵を前にして実に緊張感のないやり取りをしていた。それが2人の余裕を表していた。

 

ここに試練は再開した。

 

 

 

 




最後の魔獣は活動報告で募集したものです。
本当にありがとうございます!


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訪問者

繋ぎ回ですがラック視点に1回戻ります。ランスロットの迷宮脱出もそろそろ山場。頑張ります!


朝目覚めるとそばにはいつも通り一糸まとわぬ美貌が眠っていた。どうやらニミュエは朝が弱いらしくいつも俺より遅く起きる。

そのまま風呂場に移動して身体を軽く洗う。

そのままいつも通りの服を着てその上に砂を纏い、被せるように黒いローブを着込む。服の洗濯はニミュエが行っている。服を水の中に入れれば水が汚れを吸い出してくれるという仕組みになっている。

だから服はいつでも清潔であり、まさに便利な洗濯機というところである。

 

まぁニミュエも家事なんてやったことがないから新鮮で楽しいなんて言っているし俺も助かってるからこれでいいのだろう。

 

しかしニミュエは料理だけはどうしてもできない。なので料理は俺が担当している。ニミュエはいつかきちんとできるようになって俺に振る舞いたいと言ってくれる。

とても楽しみだ。

 

鶏の卵を取り出して魔術の炎でジュージューと焼いていく。

するとその匂いに釣られたのかニミュエが2階から降りてくる。

 

「おはようございますラック様」

 

「おはようニミュエ。よく眠れた?」

 

「はい! バッチリです!」

 

ニコニコと綺麗な笑顔を浮かべて微笑んでいる。この笑顔のために戦えと言われたら俺は戦争も辞さないだろう。そんなことを考えながら目玉焼きを完成させる。

やっぱり目玉焼きは半熟こそが至高だと思う。

 

「今日も美味しそうですね~」

 

「ありがとな。じゃあ食おうか」

 

「はい!」

 

ついでにパンも焼いたのでそれも一緒に食べる。平穏な朝の食卓。

 

「私もお邪魔していいかしら~?」

 

そこに響いたのはどこか間延びした穏やかな女性の声。それと同時にニミュエの機嫌が目に見えて悪くなる。

 

「……ヴィヴィアン、何の用ですか?」

 

「あらごめんなさいね~ニミュエ。でもあなた達にどうしても聞かなければならないことがあってね~」

 

「いいけど……どうしたの?」

 

「実は私が育てた人間の子の反応がこの辺りで急に消失したんだけど~心当たりはある~?」

 

……ランスロットのことだよね。なるほど、ヴィヴィアンが育ててたのか。そしてその反応が消えたからここに来たと。う~んどうしようか。

 

「……人間なんて育ててたんですか?」

 

「まぁね~私の湖のそばを通った女がね~子供を抱いてたから貰ってあげたの~それでそのまま育てたら色々と面白いことになってね~ついでだからニミュエの預かってる聖剣を貰いに行かせたのだけれど~」

 

流石は湖の乙女。それが誘拐だということなどお構い無しなのだろう。彼女にとってその子供が興味を引くものだった。それだけが彼女の行動理由なのだ。

 

「ふーん、でも私は知らないわ」

 

「そっかぁ~ラック様は知らないかしら~」

 

「知ってるよ」

 

流石にこれを誤魔化すわけにはいくまい。経緯は誘拐だとはいえヴィヴィアンはランスロットを大事に思ってるみたいだしな。教えておいた方がいいだろう。

 

「昨日夜中に訪ねてきてさ。聖剣を貰ってアーサー王に仕えるって言ってたもんだから夜中の来客に苛立ってたのもあるし、一応剣を教えたりもしたアーサー王に仕えるってことなら俺が試してみようってことで異界の迷宮に送り込んじゃって」

 

「あ~あの子夜中に訪ねたんですか? 申し訳ないです~」

 

ペコリと頭を下げる。その様子に本当に母親をやってるんだと納得できてしまう。妖精である湖の乙女がまさか人間の子育てをするだなんて……前世の知識があっても驚愕するレベルだよな。

 

「まぁそういうわけだから今ランスロット君は俺の作った迷宮にいるよ。呼び出そうか?」

 

「……いえそれはやめておきます~その方が面白そうですし」

 

自分が育てた子供の危機を面白そうと言い切っちゃうあたり人ならざる妖精の証拠なのだろう。掛け値無しの愛情を注ぐ癖に飽きたらゴミのように捨てられる。

ニミュエには俺を見て人間の常識を学んでいるからまだましな方ではあるがたまにかなりずれた発言をすることがある。

しかしはたから見たら少しおかしな発言をする子くらいに見られるだろう。だがヴィヴィアンは違う。彼女と会話したら相手は間違いなくヴィヴィアンの正気を疑うだろう。

 

俺だってこの時代の常識に慣れるのは未だに苦労している。しかし彼女達湖の乙女にはそんなことをする理由も必要もないのだ。

 

「……了解、じゃあそういうことだから。ごめんね?」

 

「いえいえ~今回はあの子が悪いみたいなので~しょうがないです~」

 

ニコニコと綺麗な笑顔を浮かべて微笑んでいる。しかしその笑顔はさっきの発言もあり、どこか作り物めいて見えた。そしてそのまま状況も理解したので帰る、と言い屋敷の外にある泉に飛び込んだ。

 

「ヴィヴィアンがすみません……」

 

「ニミュエは悪くないさ。ただランスロット君に同情してただけ」

 

ランスロットの境遇を思い少し悪いことをした気分になる。罪滅ぼしという訳では無いが様子見という意味で迷宮からランスロットの魔力を探し出す。

 

すると目に飛び込んで来たのは魔獣の群れに襲われるランスロットと、それに同伴する魔術師であろう男だった。

 

……なんでさ。

 

 

 

 

 




全く関係ないですがよーちゃん誕生日おめでとうw


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迷宮の不審者

そろそろ迷宮終わらせないとなぁ……よし次で終わらせよう。


「ふっ!」

 

人面虎(フェイスタイガー)』の頭部を真っ二つにしようと剣を振り下ろすが素早い動きで避けられる。しかしそのまま返す刃で足元を狙う。だがこの攻撃も上空に飛び上がり躱されてしまった。

 

「『人面虎(フェイスタイガー)』はとんでもなく素早い魔獣だ! 動きを先読みするか動きを誘導しろ!」

 

「ッ! 助かる!」

 

男のアドバイスを受けて攻撃にフェイントを織り交ぜて動きを誘導する。すると見事にフェイントに引っかかり空中に飛んだ。その隙を見逃さずに心臓を1突きすると『人面虎(フェイスタイガー)』は短く悲鳴をあげて手足を力なく垂れ下げた。

それを剣から下ろして男の方を見ると男も既に魔獣を殺していた。

 

「やるじゃないか。まさかここまでできるとは思ってもいなかったぞ」

 

「そちらこそ。終わったら援護に入ろうかと思っていたが……謝罪しよう。その考えすら不敬だったようだ」

 

「気にするな。俺はこいつらを相手にする経験があるだけだ。俺とお前が戦ったなら俺が負けるだろうな」

 

そう言った男は息1つ乱さず、そして身体には傷1つついていない状態で魔獣の死体を見下ろしていた。その余裕のある姿はまるで魔獣を狩るために必要なことを熟知しているようにも見える。

 

「……じゃあな。あとは頑張れよ」

 

この男を手放すのは惜しいように感じた。だからなのだろう、ついつい呼び止める声を掛けてしまったのは。

 

「待ってくれ!」

 

「……何だ?」

 

「私と一緒にここを出るつもりはないか!」

 

「……はぁ?」

 

男は俺の言葉が理解できなかったのかまるで非常にありえない言葉を聞いたかのような顔をした。いや、実際理解できなかったのだろう。なにせ彼は何年もこの牢獄に閉じ込められているのだから。

 

「私は蛇の王に会うことさえできればここから脱出できる。その後にラック殿に貴殿をここから出してくれるように頼むことができるはずだ!」

 

「……頼んでやる代わりに手を貸せと? ……あのラックが俺を出すとは思えんな」

 

「絶対に説得してみせる! 騎士としての誇りに掛けてもいい!」

 

「……お前はまだ騎士では無いはずだがな」

 

そう言われると何も言えない。確かに私はまだ騎士ではない。しかし誇りだけは、誰よりも持っていると自負している。騎士たるもの王に仕える駒であるということはまず最初に己に刻むべきことなのだから。

 

「それでもだ! 貴殿はこのような地で死んでいい者ではない!」

 

「その評価はありがたい限りだがな。俺に王に仕える資格などないのさ」

 

「そんなことはない! 貴殿は素晴らしい力を持っているではないか! それは私にはない力だ! きっと王の役に立つはずだ!」

 

自分でもなぜ? と思うほど熱心に男を勧誘する。私がこの男の何を知っているというのか。だが心から思ってしまったのだ。この男をここで死なせるには惜しい。

彼には別の死に場を用意する。それが正しいのだろうと。

 

「……面白い男だなお前は。だが私はお前の隣に立つ自信も資格もないただの犯罪者だぞ? それでも連れていくというのか?」

 

男の顔には明確な苛立ちが浮かんでいた。確かに私はしつこいのかもしれない。しかしここは譲らない。彼は私が連れていく。

そしてそのまま睨み合うこと数10秒。先に折れたのは男の方だった。

 

「……好きにしろ」

 

「あぁ! そうするとも!」

 

投げやりではあるが私に委ねてくれたことは素直に嬉しい。彼なら私とは違う方法で王の助けになれるのだろう。

 

「では行こう! 蛇の王に会いに!」

 

「できる限り助けるとしよう。しかし蛇の王と戦闘になれば確実に負けるがな」

 

「ラック殿は会うだけでいいと言っていたでは無いか?」

 

「あの適当な性格のラックが約束を守るならな」

 

彼はラック殿を疑っているようだが……ラック殿がアーサー王を案じる気持ちは本物だった。ならば私が王の役に立つのだと証明して見せればきっとここから出してくれるのだろう。

そう信じるばかりである。

 

「では行こうか? 未来の騎士よ」

 

「あぁ行こう未来の同胞よ」

 

♢♢♢♢♢

 

パシャパシャと水音が響く。あれから数分、警戒しながら蛇の王を探し続けているのだが一向に姿が見えない。

それどころか他の魔獣すらいないではないか。これは一体どういうことなのか。

 

「本当にこっちで合ってるのか?」

 

「あぁ可能性は高いだろう」

 

「どういうことだ?」

 

「蛇の王はあまりに強い。他の魔獣が必ず逃げ出すくらいにはな。だから魔獣がいないこの辺りにいる可能性はあるが……」

 

ランスロットは言葉を止めた男に不審に思い眉を動かす。と言っても理解が及ばなかった故の行動であり男の言葉を疑ったわけではない。

男はそれを理解して特に思うことも無く説明をする。

 

「この迷宮には4つのルールがあるのは説明したな? まぁ要するにそいつらに近づかないようにしているのだ。他にも魔獣共が避ける理由はいくつもあるが、こうして魔獣がいない場所は危険地帯であることは間違いない」

 

「なるほど……ならば何も問題はないな。進むとしよう」

 

ランスロットは一瞬たりとも考えずに進むことを決断した。この先が危険であることをたった今聞いたにもかかわらず。

その判断力に男は素直に感心しランスロットを先導する。

 

しかしその時、突然遠くから地響きが聞こえてくる。その音はどうやら自分達に向かって近づいているようだった。

そしてそれはすぐに姿を見せた。

 

真っ黒な毛に覆われたクマのような身体に、人間の頭と狼の2つの頭を持ち、背中から2本の腕を生やし計6本の腕を持つ魔獣。そんな魔獣が数え切れないほど正面の通路から迫ってくるのだ。

 

「『復讐者(アヴェンジャー)』だと!? なぜこんな所に!」

 

「知っているのか!?」

 

「説明はあとだ! こんな狭い通路ではろくに戦えん! 広い部屋で壁を背に応戦する!」

 

「分かった!」

 

魔獣に背を向けて走り出す。しかし残念なことに魔獣の群れの方が速度が速い。このままでは広い部屋にたどり着く間もなく追いつかれて食い尽くされるのがオチだろう。

 

「くっ! 先に行け!」

 

「貴殿は!?」

 

「すぐに追いつく! 心配するな!」

 

そう言うと男は何かを取り出し魔獣の群れに投げつける。そして炎が吹き出し魔獣の群れに襲い掛かる。

しかし効果があったのは先頭にいた数頭のみで後ろにいた魔獣達は倒れた者を踏みつけて乗り越える。当然その魔獣は無事で済むはずもなく血を吐いて動かなくなるのが見えた。

 

それでも一定の効果はあったのか少しだけ魔獣の群れとの距離が開いた。これならなんとか間に合うだろう。

 

「さぁ全力で走れ!」

 

男の速度が先程とは比べ物にならないほど上がった。恐らく魔術で自分の身体を強化しているのだろう。ランスロットと並走してようやく部屋へとたどり着く。

しかしその部屋はお世辞にも広い部屋とは言えず、魔獣の群れが流れ込んでくれば数秒で部屋が埋め尽くされる程度の広さだった。

 

「……仕方ない、ここで迎え撃つぞ。覚悟を決めろ」

 

「なに、この程度乗り越えてみせるさ」

 

「ふっ、そうか。ならば俺も安心だな!」

 

そしてついに魔獣の群れが部屋に侵入する。それと同時に再度何かを投げつけると炎が吹き出し魔獣を焼く。

しかしここが通路ではなくある程度広い部屋になったからか横に広がり勢いが緩むことはなかった。

 

「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

しかしランスロットは近づいてきた魔獣を全て一太刀で斬り捨てていく。そしてランスロットが打ち漏らした魔獣は男が炎で焼き払う。

さっき出会ったばかりとは思えない完璧なコンビネーションを発揮していた。

だが魔獣達も怯まずに向かっていく。その圧倒的な数はランスロット達を苦戦させるには申し分ないと言える。実際ランスロット達は魔獣達を捌ききることはできずついにランスロットに魔獣の鋭い爪が鎧に引っかかった。

そしてそのまま壁に叩きつけられる。

それによりランスロットを援護していた男も魔獣の攻撃をもろに食らいランスロットと同じように壁に叩きつけられた。

 

「がはっ!? ゲホッ……全く、これは駄目だな」

 

男が壁に身体を預けて諦めの言葉を口にする。しかしランスロットはここに至っても微塵も諦めてはいなかった。

 

「……まだだ、まだ諦めるものか。私は王に仕える騎士になるのだ。こんな所で死んでいられるか! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

気合いの声と共に起き上がる。しかし視界は先程の衝撃で揺れておりまともに立っていることさえ奇跡だった。

そんな状態で魔獣の群れを相手にできるはずもない。

 

誰もが2人の死を鮮明に思い浮かべるだろうこの状況でもランスロットは諦めなかった。彼は最後まで諦めなかったのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「アハハハハハ!! 凄いね! これでも諦めないんだ!?」

 

炎の波が魔獣の群れを飲み込む。いきなりのことに何も反応できなかったがさっきの炎が魔術で、そして男が使っていた魔術とは段違いの火力であることは容易に理解できた。

魔獣の群れは1匹残らず黒焦げになっており生存している魔獣はいなかった

 

そして炎の出てきた方向を見るとそこにはニコニコと笑う灰色の髪を腰までたなびかせて黄金に輝く瞳を面白そうに細める美女が立っていた。

 

 




最後の美女は誰だろうなぁ? 分かる人は割と凄いと思う。


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謎の美女っていいよね?(作者の声)

感想が嬉しくって頑張って早めに書き上げました~( *´ ∀ `*)< ホメテホメテホメテホメテ!

そして申し訳ないです。迷宮編は今回で終わりませんでした。でも次回で終わらせますのでお許しを~


「やっほぉー! 初めまして! 私は……メルランだよ?」

 

……まるで自分の名前ではなく他人の名前を名乗っているかのように一瞬詰まって名乗る。しかし助けてもらったことには変わりないので一応お礼はしなくては。

 

「すまない、助かった」

 

「ふふふっ! いいんだよ? 間に合って良かったよ~」

 

何が面白いのかニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。少しむっとするが助けたもらっのだから文句は言えない。

 

「……メルランだと? そんな名前はここでは聞いたことがないし、当然お前も見たことがない。一体何者だ?」

 

「私はメルランだよ? それ以上でもそれ以下でもないよ~」

 

「……まともに名乗るつもりはないと?」

 

「あはは~ちゃんと名乗ったじゃ~ん」

 

やはりまともに会話をする気はないのだろうか。かなりの実力者であることはさっきの炎を見れば分かるが……なんというかこちらをおちょくるために会話をしているような印象を受ける。

掴みどころがなく、飄々としている。それでいてとても楽しそうに見える。こちらからすれば何が面白いのかと問い詰めたくなるがメルランと名乗った美女はトコトコと歩き出した。

 

「どこへ行く」

 

「どこに行ってもよくない?」

 

全くその通りである。その証拠に呼び止めた男も何も言えないようだった。

 

「私は私の住処に帰るよ~ここに来たのは気まぐれだからねぇ。まさか『復讐者(アヴェンジャー)』がこんなに動いてるとは思わなかったけどね~」

 

「……お前が何かしたんじゃないのか」

 

「私? 私は本当にたまたまだよ? 魔力がかなり荒れてたから遊びに来ただけ」

 

あれほどの魔獣の群れを遊びだと言い切るのは彼女が並々ならぬ実力を保有していることの証拠だろう。

彼女がいれば蛇の王の元にたどり着くのは簡単になるのかもしれない。

 

「メルラン殿、蛇の王がどこにいるか知りませんか?」

 

「ランスロット!?」

 

男が驚いているが今は少しでも情報が欲しい。ならばメルラン殿に聞くしかないだろう。

 

「蛇の王ねぇ、今はラックが用意した部屋でのんびり寝てると思うよ」

 

「ラック殿が用意した部屋? それは本当なのですか?」

 

メルラン殿が言ったラック殿が用意した部屋。そんなものがあるのか……それなら確かにそこに行けば蛇の王に会えるのかもしれない。

ちらりと男の方を見ると男も驚いていた。どうやらその部屋については知らなかったらしい。

まぁ蛇の王は絶対に避けたいらしく、そんな部屋に近づく者がいなかったのだろう。

 

しかしならばなぜメルラン殿は知っているのか?

 

「それは一体どこに?」

 

「この迷宮のちょうど中心、そこに王の部屋はあるよ。ただ問題は蛇の王はその部屋に近づかれるのがとても嫌いなんだよねぇ。もし近づこうものなら……死ぬよ?」

 

その言葉は真に迫っており、また冗談だと笑い飛ばすにはメルラン殿の顔は微塵も笑ってはいなかった。

 

「私はそれでも行かねばならんのだ。どうか案内して欲しい」

 

そう言って頼み込むとメルラン殿は少し考え込むような素振りをすると見とれるほど綺麗な笑顔で頷いた。

 

「うん、いいよっ! 私はマーリンみたいに人でなしじゃないしね!」

 

「おおっ! 助かる!」

 

「ふふっ、でもその前にあれを片付けないとね?」

 

メルラン殿の視線を追うと、そこには緑色の蛇のようなしっぽにドラゴンのような頭、そして背中に亀の甲羅のようなものを背負った亀とドラゴンを組合われたかのような魔獣が私達を見ている。

 

「なんだあいつは!」

 

男の様子を見るにあの魔獣を知らないのだろう。ならば私にも分かるはずもなく、希望を込めてメルラン殿に視線で問いかける。

すると知っていたのか緊張すらせずにのんびりと語りだした。

 

「あれは『ビュームズ』だねぇ。まぁのろまな癖に攻撃力と防御力が馬鹿高い亀だと思えばいいよ」

 

「なるほど、ではどうやって倒すのですか?」

 

「どうやってって、普通に?」

 

「え?」

 

この人はさっき自分で防御力が高いと言ったばかりではないか。だというのに普通に倒す? 一体どういうことだろうか。

しかし疑問は次の瞬間に解決した。

メルラン殿は親指を立てて人差し指を向ける。

 

「ばぁん♡」

 

ものすごく楽しそうにその手を上にあげる。それと同時に真っ赤な一条の光が飛び出すと『ビュームズ』と呼んでいた魔獣を貫いた。『ビュームズ』は頭から背中まで拳が通るほどの穴を開けており、そしてその穴は赤熱しておりとんでもない高温の攻撃であったことが用意に分かる。

 

「まぁざっとこんなものかな?」

 

その光景に言葉も出なかった。なぜなら魔獣の背後、再生するはずの迷宮の壁が赤熱化して穴が空いていた。さらにその奥から見える光景に別の壁が見えることから迷宮の壁をいくつも貫いたのだろう。

 

正直に言ってこの光景が異常なことは流石に分かる。この迷宮はあのマーリン殿の弟子であるラック殿が作り出した異様な迷宮。

そんな迷宮の再生力を上回る破壊力をメルラン殿は保有しているということなのだろう。

 

そんな存在がこの迷宮にいるのは少しおかしいと思うのだが……

 

「じゃあ行こうか?」

 

「待て」

 

「……もう、今度は何かな?」

 

男がメルラン殿を呼び止める。するとメルラン殿はうんざりとしています、と顔に出しているがそれでも答えてくれるあたり根は優しいのだろう。

 

「お前は一体何者だ? 話に聞けばこの迷宮はあのマーリンでさえ手を焼くような場所だと聞いている。そんな場所で飄々とした態度を取り続けている貴様は何なのだ?」

 

「う~ん、それは今は重要じゃないけどまぁ気になるのも分かるしなぁ」

 

分かりやすく考え込む仕草をして、そして数秒後に目を開ける。その瞳は悪戯心に満ちていた。

 

「私はただのメルランだよ? それでいいじゃない!」

 

「……まさかマーリンだなんてオチじゃないだろうな?」

 

「あのクズ代表のマーリンなんかと一緒にしないで欲しいなぁ──やっぱり師匠嫌われすぎだろ。まぁ自業自得だけど」

 

最後に小さく何かを呟いていたようだがあまりに小さな声で全く聞こえなかった。だが追求しようにもニッコリと見惚れるような、それでいて有無を言わせない笑顔を浮かべて喋り出した。

 

「細かいことはいいじゃない! 今は私に着いてこないと蛇の王の部屋に行けないんだしね?」

 

そう言って返事を待たずに歩き出す。私は男と顔を見合わせるとメルラン殿を走って追いかける。彼女の言う通り、現状メルラン殿が唯一の手がかりなのだから。

着いていくしかないのだ。

 

これから向かうのはラック殿が作り出した蛇の王の部屋。一体何があるのかなんて何も分からないがやれることは全てやっておこう。

 

そしてラック殿に認められるのだ。それでこそ私は王の騎士だと胸を張れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メルランは一体誰なんだ~……流石に分かるかなぁ?


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試練の終わり

令和1本目の投稿! 0時ジャストに出したかったけど間に合わなかったかぁ。


「……着いたよ諸君、ここが王の玉座、魔術の王に仕える厄災の蛇、オルトースの住処だよ」

 

彼らは迷宮では見ることがなかったゴツゴツとした崖の穴から巨大な一室を見下ろしていた。

 

そこは今までに全く見ることがないほど広すぎるほど広い石の祭壇だった。そしてそこに巨大な黒蛇がとぐろを巻いて眠っていた。

今からあれのそばに向かうのだと思うと身体が震えるがそんなことは言ってられない。

 

私はアーサー王に仕える騎士。この程度のことで引く訳にはいかないのだ。

 

「助かりましたメルラン殿。では私はここで」

 

「我々だろ? ランスロット? 俺は最後まで付き合うぞ」

 

「……助かる。あぁそう言えば結局名前を聞いていなかったな」

 

「……ウォルクム、昔はそう名乗っていた」

 

「では行こうかウォルクム! 私達の忠義を見せつけるのだ!」

 

「私の忠義の先はランスロットだが……まぁいいだろう。あまり変わらんしな」

 

そう言って彼らは剣や杖を抜き放ち歩き出す。

 

しかしメルランは動くつもりは一切なかった。なぜなら彼女はただの案内役であり蛇の王に干渉するつもりは皆無だからだ。

そして彼女はとある男の別側面であり、彼女は本来の己の役割を果たすためにあらゆる手段を問わない冷酷さを見せる女性でもあるからだ。

 

だが彼女はそれだけが本質ではない。彼女は役目を果たすために己の優しさを封じようと自らの属性を反転させていた。

普段の()が優しさと純粋であるならば()()は冷酷と加虐を司る存在である。

そんな彼女がここまでランスロット達を案内したのは多少の罪悪感と彼らを自ら娯楽とするためであった。

 

「じゃあ私が案内するのはここまで! いい来世をね!」

 

そう言い残すと彼女は虚空へと溶けるように消え去った。

 

「……全く、最後まで嫌な女だ」

 

「だが助けてもらった恩がある。もしできればメルラン殿もこの迷宮から解放してくれるように頼むとしよう」

 

「……お前がいいならそれでいい」

 

ウォルクムはメルラン殿に思うところがあるようだが反対されないだけマシというものだろう。それに苦笑いを浮かべながら彼を諭す。

 

「ウォルクム、我らは騎士になるのだ。ならば恩を忘れてはならないのだ」

 

「……魔術師の俺が騎士というのもおかしな話だがな。まぁ理解した。俺はお前に従おう」

 

「ならばよし、そして無駄話も終わりだ」

 

崖を降りてついに玉座の前に立つ、だが既に蛇の王の吐息がここまで伝わってきた。ぞわりと全身の毛穴が開いたかのように思えるほどの濃密な魔力。

 

そして足を踏み入れる。

 

だが次の瞬間、私の身体はまるで石になったかのようにピクリとも動かない。横目でウォルクムを見やると彼も同じように動けなくなっていた。

身体に異常がある訳では無い。蛇の王、メルラン殿曰くオルトースという名の蛇の魔獣が放つ圧倒的な魔力に萎縮して動けなくなっていたのだ。

 

『……我が眠りを妨げる愚か者は貴様らか、では死ね。この世に肉片1つ、骨片一欠片残すことも許さんぞ』

 

それはまるで天の怒号にも思える憤怒に満ちた声だった。

ランスロットとウォルクムは揃って死を幻視し、己の生存を本能が諦めた。

 

『さぁくたばれ人間、我が主にいただいたこの部屋に侵入した罪、死を持って償え!』

 

オルトースは大きく口を開けるとそこに膨大な魔力を収束させた。

そして、魔力の極光を放つ。

それはまるで光の壁のようにランスロット達に迫る。

 

常人であればここで何もできずに死ぬのだろう。一切の抵抗もせずに死ぬのだろう。

しかし後の円卓最強の騎士となるランスロットは己でも意識せずに手を動かした。

 

人間の限界に迫る腕の動きで剣を振るう。

そしてありえないことに()()()()()()()()()()

 

「……は?」

 

『……人間風情がラック様より賜りし我が力を跳ね除けるか!』

 

再度光の極光。今度は先ほどよりも威力が高い。

しかし再度ランスロットの剣は蛇の王のブレスを斬り続ける。

その速度は亜音速にも迫っており、その奇跡の斬撃は蛇の王のブレスとも相まって本来再生するはずの周囲の迷宮の壁を削っていた。

 

「ぉぉおおおお!!!」

 

『人間風情がァァァァァ!!!』

 

そしてついに、その勝負に決着が着いた。

轟音が止み、土煙が晴れるとそこにはランスロットとウォルクムの姿はなかった。

しかし蛇の王、オルトースは今の一瞬で察していた。本来であれば今の勝負はオルトースの勝ちであった。

あの拮抗はいい勝負にも見えたが実はあの勝負はオルトースのブレスにランスロットの剣撃は間に合わなかった。

あれ程の速度でもオルトースのブレスを消し切るには足りなかったのである。

 

ゆえにオルトースのブレスが彼らを消し去るあの瞬間、オルトースの創造主であり、主君でもあるラックが2人を連れ去ったことはオルトースには分かった。

彼がラックの気配を間違えることなどないのだから。

 

だからこそオルトースは今回のことを考えることをやめた。

主君のやることに間違いなどないのだから。しかし疑問だったのは主君であるラックが()()()()()()()()()()()()()()

 

♢♢♢♢♢

 

「「……は?」」

 

気がつくとそこは見覚えのある森の中だった。聖剣を授かるために湖の乙女を訪ねた際にラック殿と遭遇したあの森の中。

 

「……帰ってきたのか?」

 

「どうやらそのようだぞランスロット、懐かしい気配だ」

 

ウォルクムは感動してか泣いていた。しかしそれも仕方の無いことだろう。彼にとっては久方ぶりのブリテンなのだから。ここは好きなだけ泣かせておくのがいいのだろう。

 

「やぁおかえりランスロット、そして久しぶりだね? ウォルクム」

 

「ッ! ラック!」

 

「そう警戒しないでよウォルクム、お前の特異な能力も俺には効かない。分かってるんだろ? しかしあの迷宮ではお前の能力は封じてたのによく生きてたな? そこだけは素直に感心するよ」

 

そこにいたのは憎たらしく笑顔を顔に貼り付けた中性的な男であるラックだった。

 

 

 

 




というわけであの美女はラックオルタです笑。そうなってた理由は次回説明しますねぇ。


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聖剣授与

どうも2部の第3章クリアしてないせいで事件簿のイベントに参加できずグレイたんもお迎えできず、ならばガチャだと30連回して爆死した黒猫さんです。
今ロシアなんですけども楽しいですねぇ。

というか最近のイベント参加条件厳しくないですか? 黒猫さんはイベントで種火を大量に獲得したい人なのでかなりきついです。カレスコもないしね~宝石のおじいちゃんうちのカルデアでお待ちしてます笑

まぁこれでGW3本目の投稿になるのかな? 割といいペースでは? でも小説は楽しく書きたい勢なので、義務で書いたら負けな希ガス……





……グレイたんお迎えしたかったなぁ。


 あぁ何とかランスロットがオルトースに殺される前に助け出せて良かったな。まぁ何か予想もしていなかったオマケも一緒にいたからつい助けてしまった。

 

 「……ラック殿が助けてくれたのですか?

 

 「まぁな。間一髪間に合って良かったよ」

 

 「……感謝します」

 

 「止めておけランスロット。感謝などする必要もないぞ。元凶はこいつなんだからな」

 

 ……それはその通りなんだけどこいつに言われるとムカつくなぁ。

 

 「……ウォルクム? お前だけ迷宮に戻してやろうか?」

 

 「………………チッ」

 

 渋々ながらも黙ることにしたらしい。それが正しい選択だろうよ。誰だってあんなところに戻りたくはないだろうからな。

 

 「まぁウォルクムを助けたのはついでだったが、それはいいや。とりあえずランスロットは迷宮攻略達成おめでとう」

 

 ぱちぱちと手を叩いてランスロットを祝福する。何せあのマーリンでさえ無理ゲーだと放り出した迷宮の再奥地にある蛇の王の祭壇までたどり着いたのだから。

 あの祭壇は迷宮で死んだ魔獣と人間の神秘を回収し、俺を通して島へと還元するための最重要施設。そう簡単にはたどり着けないように色々と罠を置いたり、迷いやすい構造にしたり、挙句の果てには祭壇に蛇の王、オルトースまで配置した。

 オルトースと戦わなくても良かったとはいえ、とんでもない難易度の迷宮だったはずだ。

 なんせ作成者の俺ですらその全貌を把握できていないのだから。

 

 「とりあえずランスロットには渡す物を渡さないとね。はい聖剣。大事にするんだよ?」

 

 拍子抜けするほどあっさりと聖剣は譲渡される。ランスロットもそう思ったようで口を開けて呆然としている。とはいえさっさと受け取って欲しい。わざわざニミュエに湖の底の洞窟まで取りに行って貰ったんだから。

 というか普通に重いから。

 

 「お~いランスロット? 受け取って欲しいんだけど? これ貰いに来たんだろ?」

 

 「はっ! そうでした!」

 

 そう言うとランスロットは震える手で聖剣を受け取る。よしよし、これで聖剣の内1本の所有者は決まった。残りは2本。まぁ歴史通りに行けば受け取るのはアーサー王とガヴェインだろうけどな。

 まぁ歴史通りならいいことだ。大まかに分かってればある程度の対処はできるからな。

 それに、本来俺はこの歴史においての最大の異分子。俺が関わることによって歴史が変化することもこれから多々あるかもしれないな。

 

 それよりもランスロットには色々と言わなければならないことがある。

 というかこういうのは聖剣の担い手であるニミュエの役目だと思うんだけどなぁ……まぁ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「じゃあランスロット、君にはその聖剣無毀なる湖光(アロンダイト)について説明しなければならないことがあるんだ。それは聞いていってくれ」

 

 「は、はい」

 

 「まず君に渡した聖剣の1本、無毀なる湖光(アロンダイト)にはいくつかの能力がある。その内容と発動方法を教えるから。じゃあ1つ目、無毀なる湖光(アロンダイト)にはとある事情によって役目を果たすことができなくなり、本人から望んで無毀なる湖光(アロンダイト)に宿ってもらってる。彼女は君に力を貸してくれるだろう」

 

 あれは3年程前のニミュエともヴィヴィアンとも違う湖の乙女と出会った時のこと。俺は神秘の減衰の被害が最も酷い地域を訪ねていた。そこで出会ったのがその湖の乙女、名をニニアンという。彼女は神秘の減衰の影響を受けて、この世界に存在すること自体が難しい様子だった。大半を妖精鄉で過ごし、湖に誰かが来た時だけ湖に姿を現す。

 だから俺は彼女に聞いた、これからどうしたいのかを、そして帰ってきた言葉は「まだやるべき仕事が残っているからこの世界に残るための手伝いをして欲しい」というものだった。

 だから俺は彼女の願いを叶えてやることにした。その方法こそがたった今ランスロットに語った、聖剣のどれかに彼女を宿らせることで存在を固定する。あとは持ち手から魔力をある程度回収すればこの世界に残れるだろうことを説明した。

 彼女二つ返事で了承した。そうなると問題はどの聖剣に宿るかということだけだったが他の2つに比べて、能力と呼べるものが特にない無毀なる湖光(アロンダイト)にするべきでは? と俺が提案したところ、彼女は別にどれでもよかったのか特に悩むことなく了承してくれた。

 それだけ消えたくなかったということなのだろう。

 

 まぁそこまで説明してやるつもりはない。俺が教えるのはその剣が持つ力のみ。

 

 「じゃあ今度は使い方。両手で柄を握れ」

 

 「は、はい」

 

 「そのまま起動しろ」

 

 「……はい?」

 

 首を傾げているランスロットには悪いがこればかりは感覚を掴めとしか言えない。だってあの聖剣、扱いにくすぎるんだよ! 聖剣に宿ってる湖の乙女の魔力を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まさかその湖の乙女が聖剣の中を気に入って休眠状態になったせいで魔力が全く引き出せなくなるとか誰が予想できるんだよ!

 そうつまり、聖剣から湖の乙女の魔力を引き出したければ、眠り続けている湖の乙女をたたき起こして、なおかつニニアンから魔力を貰わなくてはならないという鬼畜しようである。

 

 それをランスロットに説明するとその難易度ゆえか、ランスロットはもちろん、ランスロットの隣で聞いていたウォルクムも頬を引き攣らせた。気持ちはすげぇ分かる。だが何とかしてくれ。こればかりはどうにもならんぞ。

 

 「……コツとかはないのか?」

 

 「……妖精の起こし方にコツとかはあると思ってんの?」

 

 「……」

 

 まさしくその通りであり、なんというかこれは大抵の長命種に当てはまることなのだが彼らはのんびりと生き過ぎている。なまじ寿命が長い分、かなり余裕を持って生きているからか数年間眠り続けているなんてやつもいるくらいだからな。

 

 「まぁ強いて言うなら根気強く呼び掛けてみろ。そうしたらもしかしたら起きるかもな?」

 

 「呼び掛けるですか……」

  そう言うとランスロットは目を瞑り剣を鞘から抜き放った。恐らく意識を剣に集中させてニニアンを呼び出そうとしているんだろうけどその程度で上手くいくとは思えないんだけどなぁ。

 

 そう思っていたが次の瞬間には剣先から赤い魔術回路が剣身を伝いそのままランスロットの右腕へと到達する。赤い魔術回路はどんどん腕を登っていき、ついに肩へと達した。

 あまりの膨大な魔力にランスロットは顔を顰めるが俺はそんなことは全く気にしていなかった。なぜならそのあまりに膨大な魔力はまるで力を示すかのようにランスロットの右肩を突き抜けて形を成そうとしていたからである。

 

 ……まじで? あんな即興の瞑想程度でニニアンを起こして、なおかつニニアンから魔力を受け取ったのか?

 正直全く意味が分からんが、この場は傍観するべきだろう。ここで邪魔したら間違いなくニニアンの機嫌は急降下するだろうからな。せっかく起きたんだから余計なことはしない。

 

 「ぉぉおおおおおおおおお!!!」

 

 そしてランスロットの裂帛と共に右肩に溜まっていた魔力が姿を見せる。

 それは翼だった。薄く緑色に輝き、流動する純白の翼。

 

  ……そうなったか。あれは間違いなく妖精の翼、というよりも羽だな。片翼だから飛ぶことは不可能だろう。しかしあれは妖精の羽、ならばその要素は飛ぶことではなく跳ぶこと。

  別次元への跳躍、それこそがあの羽に込められた力。

 というかランスロットのやつ、地味に人間辞めたな? あいつも俺と同じで湖の乙女の加護を貰ってるから水の上に立ったりできるが、乙女の加護とはつまり権能の分配。そこに湖の乙女の魔力を()()()()()ことで加護と魔力が組み合わさり、今のランスロットは半妖精と呼べる存在に進化していた。

髪も元は紫だった髪が1部が真っ白に染まっており、右目も薄く輝いているように見える。

 

 「……ランスロット、戻ってこい」

 

 「……はい」

 

 ランスロットが再度目を瞑ると羽が掻き消えて、白かった髪の毛も元の紫色へと戻った。ランスロットは今自分に起こったことに呆然としており焦点が合ってない。

 恐らくは妖精の羽を発現させたせいで意識の1部が妖精鄉へと跳んでいたのだろう。これでランスロットは妖精鄉のやつらからも目を付けられるだろうな。

 

 「ランスロット、お前は今自分が何をやったか分かってるのか?」

 

 「……はい、理解しています」

 

 「……そうか、自覚があるならまだいいだろう、問題はお前の能力は完璧に制御できないと危険過ぎるということか」

 

 「待てラック、俺にも説明しろ」

 

 ウォルクムが俺に聞いてくる。それなら俺も今見たものを整理するために1度言葉にして説明するとしようか。

 

 「ランスロットは湖の乙女の加護と魔力を自分の体内で混ぜ合わせることで一時的に自分の肉体を妖精へと進化させた。あの状態ならもしかしたらマーリン辺りなら余裕で勝てるかもしれないな」

 

 「……とんでもない力だったとは思ったが妖精の力だったか、それなら納得できるな」

 

 「まぁとりあえず湖光解放・妖精臨界(アロンダイト・フェアリーバースト)と名付けておこう。それはとにかくさっきの妖精化の状態だと周囲の魔力を無差別に吸収して君に与えられてるから使いどころには気をつけろよ。もしも、呪いの混じった魔力を吸い上げたりしたら大変なことになると思えよ?」

 

 「わ、分かりました」

 

 原作通りならランスロットは第四次聖杯戦争に召喚される。そうなった時に冬木の汚染された魔力なんて吸収したら割ととんでもないことになるのは目に見えてる。

 正直英雄王でも投げ出すレベルじゃないか?

 

 「分かったらお前には1年間の修行を命じる。その力を完璧にコントロールできないとまずいからな。せめて無意識の魔力吸収だけは何とかしてくれ」

 

 「分かりました。必ずや使いこなして見せましょう!」

 

 「頑張れよ。あぁそれからもう1つだけ」

 

 余計かもしれないがこれだけは言っておきたい。だがこれは未来を知っている俺だけが可能である忠告、俺が言わなければ誰も言うことがなく終わってしまう余計な一言。

 

 「君は何となく女関係で色々と失敗する気がするから気をつけろ。もしそれで何かあったらここに来い。相談に乗ってやる」

 

 「えっと……分かりました」

 

 不思議そうな顔をしてランスロットとウォルクムは帰っていく。ウォルクムは最後に睨み付けてくるがその程度では何も思わない。

 

 「お疲れ様ですラック様」

 

 「ほんとに疲れたよ全く……次からはもう少し自重を覚えてもらいたいな」

 

 後ろからやってきたニミュエの労いの言葉に答える。

 実はランスロットオルトースのブレスから救った時に、その瞬間はまさにオルトースのブレスとランスロットの音速の剣撃の威力が最高値であった。俺は特にそっちに対処した訳ではなかったがそれが予想外の結果を呼び起こした。

 何と、本来鋼鉄にも匹敵する硬度と、再生するために完全な破壊が不可能であるはずの迷宮の壁が破壊されてしまったのだ。

 流石に予想外過ぎたが壁の破壊に気がついた時には迷宮の外へと脱出しており、対処は不可能だった。

 その結果、異界にある迷宮とこの世界のブリテンとが繋がってしまい、その繋がりから数体の魔獣が脱走した。

 まぁそれは正直大きな問題ではない。

 

 というかメルランを助けるように頼むとか言ってたけど俺が適当に掛けた思考誘導程度の暗示に引っかかるのはどうなんだろう。

 色々と面倒すぎる頼みを聞かなくてよくなったのは俺としてもありがたいけどせめて魔術師であるウォルクムは気づこうよ。あの暗示は割と簡単なものなんだけど……

 

 「しかし性別変えられたんですね?」

 

 「まぁ俺は本来島そのものだからな。性別にあまり意味は無いよ。男なのは……何となくかな」

 

 ニミュエにはそう言ったが俺が普段男でいるのは前世が男であるためこの方が気持ち的に落ち着くのだ。別に女は女で楽しめるけどな。

 

 「じゃあ今回はなぜ?」

 

 「流石に俺があんな危険地帯に放り込んだのにそれを忘れてしかもクリア条件がとんでもない鬼畜だとね……だから助けに行ったんだけど、ラックのままで行くのは気まずくてな」

 

 「なるほど……それしてもあの妖精状態凄かったですねぇ。まさか私達と同じ妖精になるだなんて」

 

 「それは俺も驚いたよ。まさか人間辞めるとはな」

 

 それに関しては今後も要観察するべきだろう。この島を滅ぼしうる原因になるようなら……俺が直接殺す必要がある。

 まぁそうならないことを願うか。流石に知り合いの部下を仕事で殺すようなことはしたくないからな。いざとなったら躊躇わずに殺すけどさ。

 

 俺はそんなことを考えながら俺は自然な流れでニミュエの肩を抱いて屋敷へともどるのだった




はいチート聖剣の完成です笑。能力としては周囲から魔力を吸収してランスロットに供給する無尽蔵な魔力と、アロンダイト本来の絶対に折れないっていう特性ぐらいですかね? あ、ちなみにビームが撃てるようになりました。唯一ビームが撃てない聖剣卒業おめでとう!

まぁ原作通りにいくと魔剣になるんですけどねぇ笑


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お悩み相談

前に友達と話してた時に、「ジャックちゃん可愛くね?」って言ったら、「ロリコンでヤンデレ好きとか救いようがないな」と言われた黒猫さんです! ……いいじゃないかジャックちゃん! あの無邪気な感じが大好きです。

でもあの子黒猫さんの無課金石90っ個溶かしても来なかったんですが……まぁきっとApocryphaの撮影で忙しかったんでしょう!(適当)
でももう撮影終わったし来てくれるといいなぁ。

俺がママになるんだよぉ!(唐突)

まぁアサシンには初代様がいるので何とかなってますがねぇ。Buster脳筋アサシンじゃなくてスター効率バケモノのジャックちゃんも欲しいのです……

あっ、静謐ちゃんが最終再臨できる!? (まじでリアタイ)
これはやるしかないよなぁ!?




ちなみにですが黒猫さんはデアラの四糸乃も大好きです。雨の日に出かけたらいないかなぁ。


 最近なぜかニミュエがソワソワしている。なんと言うか何かを言おうとしてもそれを飲み込んで言わないような印象を受ける。すぐに顔を逸らされるし、時折顔を真っ赤にして何かを考え込んでいる。

 いつもは食事の匂いに釣られて速攻で起きてくるのに最近では俺が呼びに行かないと全く起きなかったり。

 どうやら夜遅くまで夜更かししているらしい。いつもであれば「夜更かしは美容の敵なんです!」とか言って割とさっさとベッドに潜り込んで眠ってしまう。まぁ結局俺も一緒に寝ようと誘われるのでお互い夜更かしするのがほとんどなのだが。

 

 しかし一体どうしたのかね?

 言いたいことがあるならはっきりと言ってくれた方がありがたいんだけど……

 

 そして今日も、ニミュエは起きてこない。さて今日も起こしに行くか。

 

 2階へと登ると可愛らしくニミュエと書かれた札のかけられた扉の前に立つ。お察しの通りニミュエの部屋である。

 

コンコン

 

 「ニミュエ~? 開けるぞ?」

 

 返事がない。これは初めてのことだった。今までニミュエは考え事をしていても話しかけたりノックしたりすれば返事はしていたのに今日はそれすらない。

 流石に心配になってくる。

 

 再度ノックしても返事がないので扉を開けてみる。

 するとそこには物憂げに窓の外を見つめる美少女がいた。思わずその様子に見とれてしばらく動くことができなかったが、すぐに本来の用事を思い出してニミュエに向かって無意識に伸ばしていた手を引っ込める。

 思わずまだ朝であることを忘れて、手を出しそうになったがそれは流石に節操がなさすぎる。というよりも今のニミュエはとても儚く、そして犯し難い神聖な雰囲気を感じたのだ。

 このニミュエに手を出すのは流石にはばかられた。

 

 「……ニミュエ?」

 

 「……」

 

 ニミュエはそれでも返事をしない。ニミュエがここまで近づいて、声もかけたのに気がつかないなんて……流石に放っては置けないな。

 

 「ニミュエ? 大丈夫か?」

 

 「ッ!! ラック様!? なぜここに……」

 

 すぐそばまで近寄っていき、声をかける。しかしやっぱり俺に気づいてなかったか、さてさて何があったのやら。

 

 「食事だから呼びに来たんだけどさ、ノックしても返事がなかったから入らせてもらったよ」

 

 「そ、それはごめんなさい。じゃあ行きましょうか」

 

 「はいストップ」

 

 「ふぇ!?」

 

 まるでこの場から逃れるためにベッドから降りようとするニミュエの両手を砂で拘束してベッドに縛り付ける。さらにその上から覆いかぶさるようにニミュエと顔を向き合わせる。

 あわあわとまるで生娘のように顔を真っ赤にして拘束から逃れようとするニミュエの頭を優しく撫でる。それだけでニミュエはさらに顔を赤くして借りてきた猫のごとく大人しくなった。

 

 「じゃあ説明してもらおうかな?」

 

 「えぇっと……何がでしょうか?」

 

 「最近ニミュエの様子がおかしいからさ、何を考えてるのか喋ってもらうよ?」

 

 そう言って問い詰めると、ニミュエあからさまにビクリと身体を震わせる。身体を密着させているのでニミュエの状態が事細かに伝わってくる。

 そんな反応したら何か隠し事がある事が丸わかりなんだよなぁ。

 相変わらず分かりやすいなぁ。

 

 「べ、別に何でもないですよ?」

 

 「あれ? 嘘つくの? ダメでしょ? というか嘘つくならもう少し上手く嘘つこうよ……」

 

 「うっ……」

 

 ニミュエは根が優しいせいでか、とんでもなく嘘が下手すぎる。混沌渦巻くこのブリテンにおいて、割と致命的な気がするんだけど……上手な嘘のつき方でも教えてみるか?……でもなぁ、ニミュエの純粋さも可愛いし……まぁこのままでいいか。俺が支えていけば問題ないだろうさ。

 

 「で? どうしたの?」

 

 「……笑わないですか?」

 

 「……笑われるような悩みなの?」

 

 「し、真剣な悩みなんです!」

 

 「それなら素直に相談してくれれば良かったのに」

 

 ニミュエはたまに1人で抱え込んで俺に話さないことがある。そんな時はこうやって砂で拘束して多少無理矢理でも聞き出す。

 そうしないとニミュエ色々と溜め込むからな。

 

 「じ、実はですね? この間ヴィヴィアンの育ててたランスロットが来たじゃないですか。その時にふと思いまして」

 

 「何を?」

 

 「……私も子供が欲しいなぁって思いまして」

 

 ……………………………あ~なるほど。

 俺とニミュエが出会ってからもう10年になる。

 その間にヤルことはヤってるが子供はできない。そしてその原因もとっくに判明している。

 俺はブリテン島の神秘の化身であり、ニミュエは水の妖精にして、湖の乙女。

 人外と人外の子とか生まれる可能性は砂漠から目的の砂粒を拾い上げるくらいのものだろう。

 ニミュエも俺も気がついているが、その上でお互いが触れることはなかった。

 俺が好意を向けるのはニミュエであり、そしてニミュエもまた俺にのみ好意を向けている。その間に生まれる子に愛情を注げるのかと問われると正直微妙としか言えない。

 それを理解しているからお互いの間に子供ができないことが分かった時も特に気にすることはなかったし、それどころか別に必要ないだろうという結論に至った。

 

 元人間の俺だが正直もう前世の記憶はFGO以外の知識は薄れてきている。だから家族がいたのかも分からないし、それもどうでもいいと思えてしまう。俺はラックであり、前世の知らない誰かじゃない。それが少し寂しくもあるが、俺がしっかりとこの世界の住人になれたようにも思える。

 

 そしてそんな不文律があるにも関わらず、ニミュエがこんなことを言い出したのは本人が言ったように同僚の湖の乙女であるヴィヴィアンの育てた人間であるランスロットと出会ったからなのだろう。

 

 「……それは不可能だって話はしたろ? 気持ちは分かるけど」

 

 「それは分かってます。だから言わなかったんですよ?」

 

 まぁニミュエなりの気遣いなんだろうけど普通に相談してくれれば良かったのに、まぁ気持ちは分かるから口には出さないんだけれどね。なんと言うかどんどんニミュエの人間味が増していってる気がする。

 

 まぁ確かにそんなことを言われても諦めるしか……いや待てよ? 確か型月世界には生き物を作るための方法があったはずだ。

 錬金術によって鋳造される生まれた時から完成された存在である。そしてこのブリテンにおいては姉弟子であるモルガルがアーサー王を1夜限りの男にした時に精液を採取して作り出されたアーサー王のコピーホムンクルス。モードレッド。

 彼女は前述の通りホムンクルスである。その技術を使えば俺とニミュエの子供とも言えるホムンクルスを作り出すことができるのではないだろうか。

 というかあのスーパー暴走魔女の姉弟子も早く何とかしたいんだがなぁ……どこにいるのかも分かんねぇし、い今のとこはどうしようもないか。この島にいるのは間違いないはずなのに俺の探知から逃れるとか流石にとんでもなさすぎる。俺の探知はこの島の中限定なら島民全ての位置を把握できんだぞ? なのにどうして見つからないのやら。

 

 まぁ今はそれは置いておこう。十中八九この方法なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それをニミュエに説明すると元々丸い瞳をさらに丸くして驚いていた。そして次の瞬間、満面の笑みを浮かべてキスされた。いきなりのことで驚いたが驚かされただけで終わるのもなんか悔しいので舌を割り込ませる。ニミュエも驚いたらしく一瞬目を見開くが、その後すぐにとろけるような笑顔を浮かべる。

 そのままニミュエの手が俺のズボンを脱がそうと伸びてくるが鋼の意思を総動員して手を掴む。

 ニミュエはなぜ止めるのか分かっていないようだったがそもそも俺が何をしにこの部屋に入ったのか忘れてるのか? 忘れてるんだろうなぁ。

 

 湿った水音を立てながら唇を離す。そして本来この部屋を訪れた理由を告げる。

 

 「朝ごはん冷めちゃうからね?」

 

 「あっ」

 

 やっぱり忘れてたか。まぁ俺もさっきまで忘れてたが、ニミュエとことに及びそうになった時、流石にこんな早朝からはまずいだろうとなんとか誤魔化そうとして思い出したのだから。

 ニミュエは恥ずかしそうに顔を赤らめて部屋を出る。それを追いかけていくとニミュエは俯いて席に座っていたので俺からは顔は見えなかったが、耳まで真っ赤に染まっていたため、羞恥心から逃げ出したであろうことはすぐに分かった。

 

 それに苦笑いを浮かべて俺も席に着くのだった。

 

 余談だがしばらく放置していた朝食は当然ながら冷めていた。魔術で温め直して食べたがニミュエは出来立てが食べたかったなんて可愛いことを言うので急遽デザートを追加すると、ニミュエは飛び上がって喜んでいた。

 

 

 さらに余談だがその日の夜はいつもよりも激しかった。子供の作り方を知ったため、その方法を実践するためにそれなりにサンプルが必要だったから別に構わないけどさ。まぁ上手くいくことを願おう。

 

 

 

 

 

 




もうちょい甘くする予定だったんですがねぇ。まぁそれはまたの機会ってことでw

──────以下第2部のネタバレを含みます











そういえば黒猫さん、この間ようやくロシアをクリアしました。
なんかもう感動したよね。イヴァン雷帝はバケモノのじみてデカいし、それと戦うゴーレムケテルマルクトも馬鹿デカいし。
そのゴーレムケテルマルクト出すためのアヴィケブロンの最後とかまじで感動したよね。
というかあの人Apocryphaの記憶残ってるのな? 子供のマスターを殺したって言ってたし。

というかあのイヴァン雷帝とゴーレムケテルマルクトの対決とかもうデカすぎて大怪獣対戦みたいでしたねぇ。
なんというかゴジラVSモスラ並のインフレを感じたw
いや好きだよ?


あとはアナスタシアとパツシィですかね。あの二人もよかったなぁ。
銃とかアナスタシアのトラウマなのにカドックを庇うために飛び出すところとかまじで感動したなぁ。
皇女様可愛い

パツシィも最後のセリフが男前すぎんよォ! 黒猫さんも死ぬ間際になんかかっこいいこと言っておこう。そうすれば逸話が昇華されて英霊になれるかも?w

まぁ作者のノミ蟲みたいな語彙力じゃこれぐらいが限度ですかな。あとは皆さんが実際にプレイして確かめてください!


では長文失礼しました。(作者はブラック・ブレットの小比奈ちゃんとかも好きですw)


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太陽の騎士

ちゃんと北欧もクリアしてやりますた! どうも黒猫さんですぅ。

今もやってるクラス別ピックアップガチャ、黒猫さんはワルキューレ狙いでランサークラス引きに行ったんですけど、まさかの李書文先生w まだまだドレイクとか、アンリマユとか、メルトリリスとか、柳生の爺さんとかも育てなくっちゃならないのに……まぁ好きなのでしっかり育てますけどね!w


 「お願いしますラック殿! どうか私に聖剣を!」

 

 唐突で悪いが目の前にはあの太陽の騎士が深々と俺に頭を下げて懇願しに来た。さて、どうしてこうなったのかと聞かれれば簡単な話、アーサー王がブリテンを復興させて王位を継いだことに感銘を受けて自分もアーサー王に仕えようと思ったらしい。

 そしてそのための力として聖剣を授かりに来たとか。

 

 いやだからさ、こういうのはニミュエの役目のはずなのにどうして俺が対応してるのさ。というかガウェインって姉弟子の子供でしょ? 何で魔術師じゃなくてとんでもなく強い騎士になってんのさ。

 

 というか生ガウェイン初めて見た。これがゴリラか、確かにかなり筋肉はあるしさらに聖者の数字もここに加わるとなると相当なスペックを発揮できるだろう。

 

 「しかしよくここを見つけたな。結界も貼ってあるし中々気づかれないと思うんだが……」

 

 「3日程森を走り回ってようやく見つけました。ここら一帯は私の聖者の数字が無効化されていたので何かあると思い調べて見たのです」

 

 The脳筋探索……もうちょいマシな探索方法はなかったのか。

 

 「まぁいいや。それよりも聖剣が欲しいんだって? 確かにお前さんにピッタリの聖剣はあるぞ」

 

 「おぉ本当ですか! では早速試練を!」

 

 試練? そんなものないんだけど……

 

 「ランスロット殿はラック殿の試練をクリアして聖剣を賜ったと聞きましたが?」

 

 うっわぁ凄い変な伝わり方してるなぁ。あれは眠気とド深夜に訪ねてきたランスロットにイラついて適当に理由付けて迷宮に放り込んだだけなんだけど。でもそれを伝えるのもなんだかなぁ。

 ……あぁそういえばちょうどやって欲しいことがあったな。

 

 「じゃあガウェイン。君に試練を与えよう」

 

 「はっ! なんなりと」

 

 ちょっと楽しくなってきた。

 残念ながらやってもらうことはランスロットと、オルトースのやらかしたことの後始末なんだけどな。本来ならアイツらか俺がやるべきなんだろうがオルトースは当然論外、俺の命令を達成するために周囲を更地にしかねない。

 ランスロットは修行中、そして俺は……ただただめんどくさい。

 

 という訳でガウェインに押し付けてしまおう。

 

 「今回ガウェインにやってもらいたいのは俺が作った迷宮から逃げ出した魔獣の捕獲を頼みたい」

 

 「魔獣の捕獲ですか?」

 

 「あぁ、とある事情で魔獣が迷宮から脱出してな。それを捕まえて欲しい」

 

 「なるほど、分かりました。このガウェイン! 誇りにかけて捕まえてみせましょう!」

 

 そう言ってガウェインは颯爽と走り出してしまった。

 

 「……まだどんな魔獣かすら言ってないんだが」

 

 魔獣の容姿も特徴も能力すらも知らずにどうやって捕まえてくるつもりなのだろうか。まぁガウェインは太陽の加護を持ってる。だからこそ大抵のことは上手くできてしまうのだろう。

 だが流石に今回ばかりはそうはいかない、今回の魔獣は捕まえ方に特徴があるのだから。

 

 はぁ……めんどくせぇ。だが仕方がない。サポートに行ってやろう。

 

 しかし普通に助けるのもつまらんな。最近刺激が無さすぎてどうも享楽的な性格になってる気がする。よし、ならば幻術で……いや幻術は必要ないな。それよりも上位の能力を使えば幻術とか比べ物にならないし。

 という訳で性質を反転させまーす。

 

 自分の内でスイッチを切り替える。まぁこれは感覚的なものだがこの表現が1番しっくりとくる。

 すると、身長が少し縮み灰色の髪を腰までたなびかせ、黄金の瞳を自虐的に輝かせた美少女がそこにいた。

 まぁお察しの通りメルランモードです。

 この状態だと思考すら普段とは真逆に走るからなぁ。

 

 「そう言わないでよ私、こうやってたまには出してよね?」

 

 (はいはい)

 

 そう、メルランは俺とは意志をほとんど分離させており、俺と会話が出来たりと中々の自由度を誇る。

 まぁ正確には性質を反転させたためか俺とは全くの別人となり、その結果として別人格を形成し、俺の中へと保存されたのだ。

 何でそんなことをしたかと言われれば単純に割と便利だからである。

 主導権は俺にあるし、万が一ということもない。

 この間のランスロットの1件でメルランを初めて出した時にせっかく作ったのだから完成させてみたいと思ってしまった。そんな考えから生まれたのがメルランという俺の中に備わる人格。

 しかしこれは二重人格と言ってもいいのだろうか? 1つの身体に2つの人格、確かにこれだけなら二重人格なのだろう。しかし俺とメルランは性質が違うだけの同一人物。しかし別々の思考回路を持ち、よく意見が割れる。

 

 メルランは冷酷で他者の苦を愛おしいという人でなし。対して俺は他人にある程度の関心を持ち、慈しみを持って接する。

 しかしメルランは俺のやることを無駄だと嗤うし、俺はメルランを心無い存在だと憐れむ。

 

 しかしお互いにお互いを理解し合い、補完する。まぁ散々カッコつけたが言ってしまえば要するに同じ自分と会話するための存在を作ったと思えばいい。

 まぁメルランにメルランの時の身体を預けるかと問われればそれも俺のさじ加減。なんとでもなる。

 

 そして今回はメルランに預けてみる。正直性質を反転させてる身体を俺が動かすとそっちに引っ張られるので割とめんどくさい。

 

 (じゃあ頼んだぞ?)

 

 「分かってるわよ。仕事はちゃんとするもの」

 

 さぁどうなるのやら、試運転は上手くいってくれることを願うばかりである。

 

♢♢♢♢♢

 

 私は森をさまよっていた。この森は太陽の光が届きにくく、中々力を上手く使えない。

 まぁそれとは関係なく、複雑な森の中を方角する分からずに歩き回っていただけなのだが。

 

 「やっほぉお兄さん? 迷子かな?」

 

 私はそこで救いに出会った。しかしそれは救いではなかったのかもしれない。なぜなら彼女は善悪で区別するならば、確実に巨悪に属する存在だったからである。

 しかし私はそれをまだ知らない。

 

 「迷子ではないです。しかしそうですね。森の出口はどこですか?」

 

 「やっぱり迷子じゃん」

 

 森の中でケタケタと笑う美少女とその美少女の目の前で道を聞く騎士らしき男。傍から見れば何があったのかと首を傾げるだろう光景だが幸いと言っていいのか、この光景を見ている者はいなかった。

 

 「ふぅ、面白かった! 久々に笑ったしお礼に出口に案内するよ。私みたいな怪しいやつを信用できるなら着いてきてね!」

 

 「えぇ分かりました」

 

 「……即答かぁ。いいね! 気に入ったよ!」

 

 言葉通りに途端に機嫌が良くなる少女。その少女が鼻歌を歌いながら歩き出したのでその後ろをついて歩く。

 

 「しっかしよくこんな森に来ようと思ったね? ラックかニミュエに何か用事でもあった?」

 

 「あぁラック殿に聖剣を授かるために試練を受けに来たのです」

 

 「へぇ~どんな試練なの?」

 

 「なんでも、迷宮から魔獣が逃げ出したらしいので私に捕まえてこいと」

 

 「どんな魔獣?」

 

 「それは……あっ」

 

 そういえば魔獣について詳しく聞くのを忘れてしまった。今から戻って聞きに行くか? しかしかなりデタラメに歩いたせいでどの方向にラック殿がいたのかが全く分からなくなってしまいました。

 

 「……聞くのを忘れてしまいましたよ」

 

 「アハハッ! おっちょこちょいなんだね! でもそうだなぁ。ラックの迷宮から逃げ出した魔獣の中でまだ捕まってなかったり処分されてない魔獣は……ケルピーぐらいかな?」

 

 「ッ! 知っているのですか!?」

 

 「まぁねぇ、私もこう見えて魔術師だし? ある程度は詳しいよ?」

 

 「で、ではそのケルピーという魔獣はどのような魔獣なのですか?」

 

 そう聞くと顎に細くて真珠のように白い指を当てると考え始めた。そしてすぐに思い出したのか再度喋り出した。

 

 「緑がかった水色の皮膚と海藻のたてがみを持つ魔獣なんだけどね? 属性で区分するなら水に当てはめられるかなぁ。でもまぁ君なら相性も悪くないんじゃない? 太陽の加護と、水属性なら火と水で水が有利に思うかもしれないけど太陽の加護とそんじょそこらの火を一緒にはできないからねぇ」

 

 「なるほど、ならばなんとかなりますか」

 

 「残念だけど今回に限っては微妙かなぁ。君の仕事は捕獲だろう? そうなると殺す訳にはいかない。ケルピーは捕まえるよりも討伐の方が楽なのさ」

 

 「そうなのですか?」

 

 「まぁねぇ、ケルピーはしっかりと乗りこなさないとこっちの言うことを聞かないからね。でもアイツら背中に乗られるとたてがみで拘束されて水の中に引きずり込むんだよね。そうなると君は若干不利かなぁ。傷付けずに捕獲するためには水中のケルピーを乗りこなさないといけない。正直呼吸が続かないだろうさ。全く、厄介な仕事を押し付けられたね?」

 

 ……それほどに難しいことなのだろうか? 今の話を聞いている限り、そんなに難しいことには聞こえないのですが。

 そう思っているのが顔に出ていたのか、メルラン殿は呆れたようにため息をつくと、笑った。

 

 「まぁ確かに君ならなんとかなるかもね? 正直全く予想がつかないからなぁ。私も結果を楽しみにしてるね!」

 

 そう言い残してメルラン殿は霞のように消えた。そして気が付くとそこは、森の出口だったのだ。

 

 さぁ私の栄光はここからです!

 

 

 

 

 

 

 



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天然チート騎士ガウェイン

前回の話を投稿した瞬間お気に入り登録が減ったことに何となくショックを受けた黒猫さんです。
まぁ黒猫さんもメルランに人格を付けたのは思うところがありましたが、それでも今後の展開としてこうした方が便利であるという黒猫さんの判断によりこうなりました。

そしてそろそろ原作に入りたいけどブリテン編でやりたいことが大量にあるため、まだまだ時間がかかるかなぁ。


side メルラン

 

……あの騎士は馬鹿なのだろうか? 確かに太陽の騎士に相応しいだけの力は持っている。しかしあれは全く頭を使わない。自分の太陽の力さえ奮っていればなんとかなると思っている。いや、実際なんとかなってしまうからさらに質が悪い。

 

あれだけの魔力と凄まじいまでの腕力があるならもっと効率よく物事を進めることもできるだろうに。

まぁ? 私としては愚かで滑稽な未来の騎士様を見るのは楽しいからいいんだけどね? 全くあのゴリラめ、アイツが破壊した森を修復するのは誰だと思っているのやら。ニミュエはこういった森の修復とかはかなり苦手な部類に入るらしい。ニミュエは水の妖精であって、森の妖精では無いということだね。

 

(アイツは姉弟子の子供らしいし、俺としてはしっかりと見張っておきたいけどな)

 

「見張るって、私には原作知識があるじゃん。必要ある?」

 

(現に今、原作から外れてるぞ)

 

そう言われると何も言えない。しかしこの試練を与えたのはラックだろう。まぁラックはメルランでもあるため、微妙なところだが。

 

「まぁそれはいいや。この後どうする?」

 

(妖精鄉からガウェインを見張る。まぁこの先は任せるぞ。俺はしばらく眠る)

 

「はいは~い、おやすみぃ。後は私がやっておくよ~」

 

……どうやら本当に眠ったらしい。じゃあお仕事しますか~

 

♢♢♢♢♢

 

ねぇアイツ本当に馬鹿じゃないの? いや、馬鹿だね。あれが馬鹿じゃないなら他に何だと言うのか。ケルピーにたどり着けるように色々と誘導したが、その内の6割を無視して歩いていく。だというのになぜか自力で誘導したかった方向にたどり着く。

運がいいらしいが、正直とてもやりずらいのでなんとかしろ。はぁ……ラックから身体を借りたのは早計だったかな? あの太陽ゴリラにはもう関わらないからね。

 

という訳でパ~ス。後は任せたよ。

 

「……アイツ、俺に押し付けて消えやがったな?」

 

という訳で強制的に入れ替わられました。ここから俺に丸投げとかマジかよ……まぁ実際やることは少ない。

俺は少しサポートするだけでガウェインならケルピーにたどり着くことができるのだろう。

 

*****

 

……化け物かよ。アイツケルピーを無理やり押さえつけやがった。

 

ガウェインはケルピーを見つけた瞬間に剣すら使わずに殴り倒して気絶させた後縄で縛り上げると、そのままズルズルと引きずって森に戻るべく歩き出したのだ。流石にその光景にはドン引きした。

しかしケルピーは引きずられる衝撃で目を覚まし、そしてそのまま暴れだした。特に神秘が宿っている訳でもない縄は、速攻でちぎれ飛び、ガウェインから逃げ出そうと近くの湖に飛び込んだ。

しかしガウェインはそんなことお構いなしにケルピーの背中に飛び乗ると当然ケルピーと一緒に湖の中へと入っていった。

本来ならばそのまま呼吸ができなくなって溺死するまで背中に乗せ続けてその肉を食らうのだが、こともあろうかガウェインは、背中に乗り続けたままケルピーを殴り続けたのだ。

水中であるため、威力が半減していて、呼吸がいつまで持つかも分からないのに殴り続ける。正直言って正気とは思えない。

 

しかしガウェインはケルピーを再度気絶させてしまったのだ。そして縄はもうないため、今度は両手で掲げて森にまで運ぶつもりらしい。

道行く人々の好奇の視線を浴びながらも、ガウェインは森へと数日かけて戻ってきた。

 

「この馬で間違いないですか?」

 

可哀想に、ケルピーのヤツ恐怖で震えてるよ。

ケルピーは途中で運搬の途中で起き、暴れたのだがガウェインに地面に叩きつけられそれからはまるで置物のように大人しくなってしまった。

 

今もケルピーからは助けてくれという視線を感じる。

 

その後はケルピーを迷宮の中へと戻し、太陽の聖剣、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の姉妹剣である輪転する勝利の剣(ガラティーン)を渡した。

どうもこれからアーサーに仕えるためにキャメロットに行くらしいが、まぁそれなら頑張ってくれと送り出した。

 

 

 

 

 

ガウェインは非常に浮かれていた。念願だった太陽の聖剣である輪転する勝利の剣(ガラティーン)を授かることができ、これからあのアーサー王に仕えるのだと思うとどうしようもなく心が躍る。

 

しかしそのガウェインに水を差すかのように少女が声をかけた。

 

「こんにちは騎士様、気分はどう?」

 

その少女はこの森を出る際に道案内をしてくれた少女、狂気の魔女(メルラン)だった。

 

「こんにちはお嬢さん、今はとても気分がいいですね」

 

「そっかぁ、あっ! そういえばまだ名乗ってなかったね! 私はメルランって言うの! よろしくね」

 

「私はガウェインです。それで、あなたはこの森で何を?」

 

「私? 私はねぇ、暇潰しかな? この森に迷った人達を案内したり、嘲笑ったり、結構楽しく過ごしてるよ」

 

「……そうですか」

 

嘲笑うと言った少女に思うところはあったが、恩人故に何も言うことは無い。

 

「まぁ今回はちょっと違うけどね。あなたにお話があって来たの」

 

「私に話ですか?」

 

「まぁ単なるお節介だけどね」

 

そう言って少女は嗤う。しかし今回はそれほど悪意に満ちたものではなかった。これはメルランにとっては非常に珍しいことだったのだがそんなことをガウェインが知るはずもなく会話は続く。

 

「あなたの太陽の加護は確かに強いけど無敵って訳じゃない。例えばこの森、あなたの太陽の加護を弱体化させるような仕組みがいくつもある。まぁあなた対策で用意されたものじゃなくて偶然なんだけどね。つまりあなた対策で用意したらこれ以上の効果が出るって訳だけどさ? そこら辺をちゃんと理解してこれから頑張ってね?」

 

「ッ! あなたは一体!?」

 

しかし少女の姿は既になかった。そこにはまるで最初から何もいなかったかのような静けさがあった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

これ以降メルランは、度々騎士達や、旅人達の前に現れては助言や悪意に満ちた罠などを用意する魔女として後世に伝えられるようになった。

 

その正体は全く分からず、湖の乙女のような妖精なのでは? という意見もあれば名前の語感からマーリンが変化したものでは? という意見もあった。

ただ分かっているのはメルランは決して善の存在ではなく、混沌を呼び込み、破滅を愛する魔女であると同時に、正しい騎士や、旅人を導く賢者でもあるということだけだ。

 

 

アーサー王伝説 メルランの助言より抜粋

 

 

 

 



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星を閉じる

頑張って投稿しちゃうのだぁ。

今回はちょっとオリジナル設定がございます。苦手な方はブラウザバック推奨です。


 今日、マーリンの馬鹿から面白い話を聞いた。唐突にやって来て言うことが、『明日ブリテンの上を星が通るよ』とだけ言ってどっかに去っていった。話の脈絡が無さすぎる上に、だからどうしたと言いたくなる内容。相変わらずのマイペースっぷりだと呆れていたが、隣で同席していたニミュエは話を聞いて非常に楽しみだと言わんばかりにキラキラとした目をしていたのでまぁいいとしよう。

 

 まぁ恐らく流れ星か何かだろう。この世界ではそんなことは分からないしな。問題なのは、その流れ星、超高純度な魔術触媒として魔術師の間で有名なことだろう。どうにかして星の光を閉じ込めようと、躍起になっているヤツらも多いと聞く。

 

 ……なら俺も頑張って捕まえてみるか? そのままニミュエにプレゼントすれば喜んでくれるかもしれない。やってみる価値はあるだろう。

 まずは膨大な星の光の魔力を閉じ込める器を見繕わないとな。そこら辺にあるような魔術触媒程度じゃ、魔力に耐えきれなくて、自壊するのがオチだろう。幸いにもこの世界に来てから、割と大量の触媒が集まってくる。

 自分で集めたものや、俺に覚えてもらおうと、それなりに高純度の魔術触媒を俺に献上してくる魔術師のおかげで、俺の倉庫には触媒が山のように積み重なっている。

 きっと星の光を閉じ込める器として機能する物もあるだろう。

 

 そうと決まれば早速探しに行こうか。

 

 「ちょっと行ってくるよ」

 

 「私も少し行くところがあるので」

 

 どうやら用事があるらしい。最近ニミュエと2人っきりの状況が中々ないな。今度、ちゃんと時間を作ってやらないと。

 

 ニミュエと別れて、俺は家の地下室に用意された倉庫へと向かう。重厚な黒い扉が、固く閉ざされているが、この扉は俺の魔力に反応して開くようになっているから何も問題は無い。

 中には金銀財宝、ワイバーンの死体に、竜の涙、10年に1本しか生えない貴重な薬草etc.....もしも魔術師がこの倉庫を覗き込んだなら、半狂乱で喜び、持ち出せるだけ持ち出していただろう。

 まぁその場合は俺が殺すし、手に入る事など何1つ無いのだ。最近では、ニミュエの思考も苛烈化してきていて、俺の物は俺のもの、自分の物も俺のものと、なぜか俺至上主義みたいになってる。

 

 まぁそれはさておき、ここに来た目的は星の光を閉じ込めるための器を探し出すこと。方法としては星の光を1度魔力に変換して、触媒の中に封じ込める方法。これをやるためには、星の光を魔力に変換するための魔術処理が必要になることか。膨大な魔力を扱うことは割とあったが、自分でその膨大な魔力を用意するのは今回が初めてになる。

 

 倉庫の中身を乱雑に、それでいて壊れないように丁寧に退かしながら目的の器を探していると、ようやく出てきた。

 それは真紅の宝石、ニミュエと最初に出会った時に、彼女から貰った大量の素材の1つ。

 宝石というものは、それ自体がかなりの魔力を内包しており、魔術触媒としては割とポピュラーな部類に入る。分かりやすく説明するなら、遠坂家やエーデルフェルト家何かが分かりやすいかもしれない。

 

 要するに宝石には魔力を貯蓄するという、少々便利な特性が備わっている。魔術師としては、ありがたい限りだ。

 その宝石に星の膨大な魔力を閉じ込めるための仕組みとして、まず何より、星の光を魔力に変換する方法が必要になる。

 まぁそれは正直どうとでもなる。問題なのは、魔力に変換した星の光をどうやって宝石に閉じ込めるのか。これも簡単だ。なぜなら、そもそも、星の光が魔術師にとって魔力をの塊のようなものなのだ。ならば星の光の魔力を宝石に誘導すればいい。

 

 誘導するのに、かなりの魔力を使いそうではあるものの、比較的成功率は高いだろう。ならばやってみる価値はある。この宝石の許容量なら、星の光の器としてしっかりと機能するはずだ。しかし明日の何時か分からないのは辛いな。それさえ分かれば後は完璧なのに、やっぱりマーリンは役に立たない。

 今度会ったら腹いせにアイツの工房から何か触媒でも持って帰ろう。今まで散々迷惑かけられてるしそれぐらいは許される。

 

 まぁそれはさておき、星の降る時間はちゃんと自分で調べておく必要がありそうだ。

 

♢♢♢♢♢

ニミュエside

 

 今日はマーリンから非常に面白い話を聞きました。なんでも、明日ブリテンの上を星が通るのだそうです。もしもその光を捕まえることができたら、ラック様は喜ぶでしょうか? えぇ、きっと喜んでくれるはずです。

 私はラック様から魔術を教わっており、今回の星の光の価値ぐらいならば分かります。星の光があればその魔力で国1つ滅ぼしてもお釣りの出る魔力量です。

 

 ……あぁなるほど、だからマーリンは私達にこの話をしたのですか。ブリテンに悪心を抱く者に星の光を与えないように、その者達が確保する前に私達で先に確保してくれということですか。

 確かに私達はこのブリテン島の味方です。お互いその立場ゆえにこの島を──そしてブリテンの頂点たるアルトリア・ペンドラゴンの国を守る必要がある。

 私達はこの島での、これ以上の動乱を望んではいない。安定さえしてくれればそれで言うことは無い。

 

 というか落ち着いてくれないとラック様との時間が減るんですよお願いですから問題を次から次へと持ってこないでくださいラック様という大切な御方がいるのに仕事なんてしたくないんです。

 

 というかなんならマーリンがやればいいのでは? ……いえダメですね。それを使ってさらに問題を引き起こす未来しか見えません。どうせ私達にやらせるのは自分でやるのが面倒臭いとかいう適当な理由なのでしょう。

 やっぱり今度マーリンをラック様と一緒に殴りましょう。

 

 この瞬間、キャメロットの城でハッピーエンドについて考えていたマーリンは突然原因不明の寒気に襲われたらしい。

 

 さて、それはさておきとりあえずは星の光を捕まえる方法を考えなくては、星の光を安全に管理する必要がある。誰かも分からない魔術師に管理させる訳にはいかない。

 あれほど膨大な超魔力の塊を悪用でもされようものなら、どれだけの影響が出るのか全く分からない。

 

 少なくともこの国が滅びるのは確定ですね。まぁ私の役割は聖剣の管理、残ってるのは後1本。

 まぁ渡す相手はアルトリア・ペンドラゴンでしょうけどね。

 全く……ラック様に数年に渡って教えを受けるだなんて、羨ましい限りです。私もラック様から魔術の鍛錬を受けているとはいえ、アルトリア・ペンドラゴンにも魔術を教えたことがあると、ラック様は言っていた。

 ラック様の初めては全て私が欲しかったのに……まぁ妻になれたのだからみっともない嫉妬は止めておきましょう。私が格下に思えてきてしまいますからね。

… …身長は負けてますが、まぁ胸は私の方がありますし? ただ、もう少し身長があればなぁ〜なんて思うこともあります。

 

 コホン、話がそれてしまいました。では私は星の光を捕まえる触媒を探して来なければ、待っていて下さいね? ラック様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ニミュエのキャラがブレてヤンデレっぽくなってしまったw


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閑話 王の素質

お悩み相談の数日後の話になってます。最近忙しいので投稿は遅めになりますがそれでも読んでくれる読者様には感謝しております!


side アルトリア

 

 私の名はアルトリア、今はブリテン王、アーサー・ペンドラゴンと名乗っています。しかし私の王座は、二人の魔術師である花の魔術師マーリンと、その弟子であるラックの手によって作り出された石の王座。

 しかしその中身は泥で造られた非常に不安定な物。多少のことは石の王座が耐えてくれるが、大きな衝撃は防ぎきれず、中身の泥が零れ落ちてしまう。そんな事になってしまう前に、早く中身を入れ替えなくては。

 もっと言ってしまえば手足が欲しいです。特にどれだけ離れても痒いところに手が届く優秀な手が。

 

 マーリンは役立たずですし、ラックは新婚生活真っ只中。まともな働きができるのはケイ兄さんぐらいなものです。まぁ今の私の仕事はサクソン人やピクト人を聖剣で追っ払い、神秘の不足で育たなくなった畑の対処。正直言ってかなり楽チンです。

 ラックからは、育たなくなった畑は一度破壊して神秘の侵食を少しでも留めるように、と言われている。

 

 そして今日は久しぶりにラックが城を訪れる日、正確にはマーリンに呼び出されて仕事に来る日。どうやらサクソン人がかなり暴れているらしく、その殲滅を任されたらしい。

 彼に会うのは私が王になってからは初めて、実に三ヶ月ぶり、それまでの間ずっと仕事漬けだったのですから少しぐらいサボっても許されるでしょう。ほどよくサボるのは必要だ、とも言ってましたしね。

 

 「あ〜アーサー王? 仕事はどうするんです?」

 

 「サー・ケイ……後は任せます!」

 

 「ちょっ! 待てや! せめて片付けてから行けって!」

 

 後ろからケイ兄さんが呼び止める声が聞こえてきますね。口調が崩れるということはこれから仕事が本当に多くなるのでしょうね。まぁ帰ったらやりますよ。それまではぜひ頑張ってください。

 

 暴風の如き勢いで廊下を駆ける。その勢いは、ギリギリ走っているのがアーサー王だと言うことが分かるぐらいの速度だった。

 

 そして次の瞬間には、フワリと抱き留められていた。

 

 「こらこらアーサー、城の廊下は走っちゃダメだろう?」

 

 「あなたに会いに来たんだから見逃してくださいよラック。このところどうですか?」

 

 「ニミュエとの新婚生活を楽しんでるよ」

 

 ニコニコと笑う彼の顔からは、マーリンとは違って一切の邪気を感じない。彼は笑顔の裏に刃を潜ませる他の魔術師とは違い、常に自然体でそこにいる。私が王になる前は、マーリンからの仕事に忙殺されながらも笑顔を絶やさなかったらしい。

 まぁ目は笑っていなかったらしいが。

 

 「やぁラック、早速で悪いけど仕事を頼みたい」

 

 「……マーリン、久しぶり」

 

 しかしそんな彼もマーリンの前にいる時だけはその笑顔を苦々しいものに変える。当時、マーリンがサボった仕事は全て、ラックが肩代わりしていたらしい。

 そしてラックが仕事を辞めてマーリンが上司じゃなくなってからは一切の敬語を使う事がなくなった。

 マーリンの屑っぷりも、ラックの有能ぶりもとてもよく分かる。王宮魔術師が屑の国って国際的に見てどうなんでしょうね。

 

 「はははっ! そんな嫌そうな顔をしないで欲しい。私とて傷つくんだよ?」

 

 「他人からコピーした感情が傷ついただけだろ? 気にすんな人でなし」

 

 「う〜ん、人でなしは君もだと思うんだけど……まぁいいや、明日のサクソン人討伐に参加してくれ。正確には聖剣を使ってくれればいい」

 

 ラックが呼ばれたのは、彼が持つ聖剣の力を借りる事が目的だったようですね。まぁ確かに彼の聖剣ならばサクソン人がどれだけ数をを束ねても、到底及ばない力を持っていますからね。

 

 「じゃあそれまでは休んでるからな」

 

 「それは構わないよ。久しぶりに来るキャメロット城なんだからのんびりしていくといい」

 

 「じゃあ私はラックとのんびりして来ますね!」

 

 マーリンの返事を聞かずにラックを引っ張って私の部屋に引き込む。ケイ兄さんやニミュエに知られたら怒られそうですね……いえ、ニミュエに知られたら間違いなく殺されるでしょう。ちょっと後悔してます。早計でしたかね? とはいえさっきケイ兄さんがすぐそばまで来てるのが分かりましたし、あそこで捕まったら仕事に連れ戻されてしまいます。

 流石に王の私室であるこの部屋にはケイ兄さんは入ってきません。たまにマーリンは入ってきますが聖剣でぶっ叩いて追い出します。

 

 「こうしてお前とのんびり話すのは久しぶりだな?」

 

 「えぇそうですね。最近仕事詰めで休む暇もなかったですし」

 

 なんだかんだここ数日寝てないですしね。今だって目元の隈を化粧で軽く誤魔化してます。久しぶりに会うのだから多少は可愛く見てもらいたいものです。まぁラックは妻帯者ですからラックの妻になる事はありませんが、それでもやっぱりたまには王じゃなくて十五歳の少女になりたいのです。

 

 ラックはニミュエと結婚してさらに雰囲気が和らいだ気がします。魔術師とは思えない程の優しさに磨きがかかった今、昔のように街に出れば昔以上にモテるでしょう。

もしそうなればニミュエの嫉妬で物理的に街に甚大な被害が出かねません。それは避けなければ。

 

 あぁしかしたまには良いものですね。王としての責務を忘れて、まるでどこにでもいる少女のように過ごすのは。

 ずっとこうしていたい。そう思うのは罪でしょうか。

 きっとそうなのでしょう。ラックは肩の力を抜けとよく言っていましたが、私は一国の王、アーサー・ペンドラゴンです。私が選び、私が築くものです。

 

 だから私はこの国を平和な国にしてみせます。誰もが笑える平和な国、それこそが私の目指すべき国の姿だと思うのです。

 

 ですが私にはそのやり方は分かりません。後でマーリンに聞いておくべきですかね……いいえ、やめておきましょう。ろくな答えが帰ってくるはずがない。

 そうですね……自分で考えつく限りの平和な国といえば、争いのない国ぐらいしか思いつかないのですが……ここは素直にラックに聞いておきましょう。

 

 「ラック、争いのない国はどうやったら作れるのですか?」

 

 「……何でそんな事を?」

 

 あれ? ラックの顔が若干強ばってますね。何かまずい事でも聞いてしまったのでしょうか?

 

 「いえ、私はどのような国を作ろうか決めたのです。でもやり方が分からない」

 

 「争いのない国が作りたいのか?」

 

 「正確には平和な国です。私はこの国を歴史に残る平和な国にしたい」

 

 「そっか……なぁアルトリア」

 

 「!! 何ですか?」

 

 ラックが私をアルトリアと呼んだ。これは私が王になってから初めての事です。

 

 「絶対に戦争が起こらないようにする方法は俺の知る限りひとつだけだ」

 

 「……それは?」

 

 「人間を全員殺す。そうすれば戦争は起こらない」

 

 ……なるほど、確かにそれなら戦争は起こらないでしょう。しかしそれは平和ではない。殺戮という非道の上に成り立つ最低最悪の結末でしょう。

 

 「人間が戦う理由は沢山ある。信じる神、明日の生活、祖国の繁栄、薄汚い欲望(エゴ)。明日の食べ物すら無いヤツらが食べ物が欲しくて戦争を起こした。戦争だけ止めれば万々歳か? 違うだろ。平和っていうのはな、何かしらの犠牲があってこそ成立するんだよ。自分が幸福だってことは誰かが不幸ってことだ。それを忘れるな?」

 

 王としてのあり方はマーリンに散々習いました。少しでも国をいい方向に導く。完璧なハッピーエンドを作り出す。それが私の王としての勤めだと。

 しかしこの国には少し外に目を向ければ悲劇に溢れている。

 

 「平和やら栄雅なんていずれ終わるものだ。だがな、争いは終わらねぇ。人間は誰かを傷つけて、奪い、殺して生きていく生き物だ。だから恒久的な平和なんて願うなよ? それは確かに素晴らしいものだが、同時に人間の可能性を全て奪う事でもあるんだからな。お前も気をつけろよ? 俺も平和は好きだが、争いのない世界は絶対に作れない」

 

 「……ならばどうすればいいのですか? 私は王として何をすればいいのですか?」

 

 「目に付く範囲で人間を救え、そんでもって正しい方向に導いてやれ。王は全ての民の道しるべだ。だから絶対にお前は迷うな。そしたらお前の国の民は誰に着いていけばいいんだ?」

 

 あぁやはり私は王の器ではない。私は割り切る事がどうしてもできない。争いはなくならない。恒久的な平和はない。だがそれでも懸命に生きる民が、美しく見えたのだ。

 だから私は────この国を救いたい。

 せめてこのブリテンの民だけでも。

 

 「ありがとうございました。私も頑張って見ます!」

 

 「疲れたら休みに来いよ。歓迎してやるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




恒久的な平和……うっ頭が。笑
まぁ某救われない正義の味方を思い出したラックのお節介です。どう転ぶかは作者も知らない(おい)

設定ガバってたりしたら教えていただけると幸いです。


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星は輝く

オリジナル要素はこれ以上出すつもりはないです。あとやるのは細々とした原作改変ですかね。その後にFate/ZEROに入ろうかなと思います。もうしばらくお付き合いくださいペコリ((・ω・)_ _))




そんな黒猫さんは、今回のFGOイベントを頑張って回りますた。というのも、今回の配布鯖の景虎さんが非常に黒猫さん好みだったのですっ! しかしそばに待ち構えるのは超大事なテスト! 終わったらめっちゃ回ってやると決意。

そしていざ終わるとたった一日で回りきる英傑✧\\ ٩( 'ω' )و //✧
最終再臨までやって霊衣開放して宝具レベル5にして聖杯まで捧げたったw

虎さんのあの笑顔良くない? あの顔で名前とか呼ばれたくない? あっMではありません。ただあのやばい目と顔が好きなだけです。勘違いしないように。



 魔術やらを駆使して調べた結果、ブリテンの上を流れ星が通過する時間を把握する事ができた。

 

 という訳なので当日、家の前の湖でニミュエと流れ星を観察する事になった。どうやらニミュエも流れ星が降ってくる時間を魔術で調べてたらしく、特に約束した訳でもないのに、家の前に揃う事になったのは意外だった。

 

 まぁマーリンがせっかく教えてくれたんだし、この機会を逃さずに、しっかりと星の光を捕まえておこう。星の光を閉じ込める器もバッチリゲットしたしな。後は調べた通りに星が流れる事を願うだけだな。

 

 「楽しみですねぇ」

 

 「こうやってのんびり夜空を見るのは初めてだっけ?」

 

 「そうですね。いつもは……まぁ……」

 

 まぁそうだね、大抵夜は一緒に寝てる。当然寝てるだけじゃなくて、色々とやる事はやってるけどな。

 例の妊娠実験もやってるから、そろそろ結果が出る頃だとは思うんだけどな。もし出来てたら名前とかどうしようか? 俺にセンスはないから、ニミュエに決めてもらう事になるだろうなぁ。

 そもそも生まれるのが男か女かすらも分からない。流石にそこら辺は調整できなかった。

 

 生まれる子供には、俺とニミュエの因子を半々にして調整してるから、まぁ間違いなく魔術は使えるだろう。本人がそれを得意とするのかは分からないが。

 使えるのと、使いこなせるのは違うのだ。別に魔術を極めて欲しい訳じゃないしな。確定してるのは、なるべくあのクソ夢魔(マーリン)に近寄らせる気はないという事だけだな。

 

 まぁ正直、前にも言った通り、俺が愛してるのはニミュエなので、間に生まれる子には愛情を注げるかと言われると言葉を濁さざるを得ない。

 

 生まれる経緯もあって、確実に魔術の才能はあるだろう。とはいえ確実にあると言えるのは魔術の才能のみ。本人が魔術を嫌がるなら、特に強制する必要はないだろう。自分の持つ才能と、自分の理想が合わない事なんてよくある事だ。だから絶対に強制はしない。

 この時代の魔術なんて、ほとんど魔法みたいなもんだし、使えれば便利なんていうレベルじゃない程、役立つことだろう。俺とニミュエの子供なら、膨大な魔力を保有して生まれるのは間違いない。

 

 「星の光があれば実験に役立つかもね」

 

 「そうですか……分かりました」

 

 ニミュエから、かつてない程のやる気を感じる。やっぱりニミュエも星の光を閉じ込めるつもり満々だったらしい。どうやって捕まえるつもりだったのかは知らないけど、ニミュエには形のないものを捕まえる魔術も教えてるから捕まえる事はできると思うけど。

 ニミュエが用意した器が一体なんなのか気になるところだが、それはこの後分かるだろう。

 

 そしてついに、時間が訪れる。

 

 夜空から急激な魔力が接近してくる。

 

 「来たか!」

 

 「はい! 来ました! でもこれは……」

 

 「……マーリンの野郎っしっかり説明してから帰れよ!」

 

 ()()()()()()()()()

 

 「役割分担! 一つ任せた!」

 

 「はいっ!」

 

 予め準備していた宝石を懐から取り出す。儀式もなしに星の光を封じ込めるのはほぼ不可能だと言える。ならば、最初から準備していた訳だが……この魔力は想定以上だな。封じ切れるか?

 まぁやるしかないんだけどな!

 

 宝石を媒体に、星の光の魔力を回収する。膨大な魔力は紅い宝石の中に吸い込まれ、そして宝石を変色させる。

 炎のような紅は、昼の太陽の如く純白へと生まれ変わった。ひとまずは成功したと言っていいだろう。

 

 ニミュエの方はどうなった?

 

 俺は気になってニミュエがいるであろう後ろを振り向いた。そこには、何かの生き物の外殻のような物で、魔力を回収しているニミュエがいた。

 というかあの器って俺が初めてニミュエに会った時にあげた蠍の素材じゃね? こんなところで活用してくんの? というか儀式場を作った訳でもなし、外殻に細工がしてある訳でもなし、なのに完璧に魔力を回収できている……魔力の回収は俺より上手いな。

 

 「ふぅ、お疲れ様です!」

 

 「お疲れ様、しかし魔力の回収上手いね?」

 

 「ラック様の教え方がいいんですよ」

 

 俺より上手く魔力回収しといてよく言うよ。まぁ口には出さないけどな。それはみっともないし。ここは素直に弟子兼嫁の成長を喜んでおくべきだろう。

 

 「中々魔力の扱いは上達してるっていうか俺よりも上だから、もうそこら辺は教える事はないね。後は経験を積んで、力を高めていこうか」

 

 「はいっ! 頑張ります! ですからこれからもしっかりと見ていてくださいね?」

 

 ニミュエの魔術の上達速度は異常だ。妖精としての能力が水を操る能力だった事を考慮しても、異様に成長が早い。膨大な魔力を駆使し、それらを完璧と言ってもいい程に操る。ついこの間まで魔術の素人だったとは思えない。

 まぁニミュエは妖精だからそういうものと相性が良かったのかもしれない。本人に聞いたら「愛の力です!」とか言ってまともな答えが帰ってこないのは目に見えてる。

 

 「じゃあ帰ろうか?」

 

 「はいっ! 今日こそ孕んで見せますよ!」

 

 嬉しいんだが、大声で宣言されると恥ずかしいんだよなぁ。まぁニミュエも自分で相当恥ずかしい事を言ったのを察したのか顔を真っ赤にして黙っちゃったし。可愛い。

 そして断言しておくが、今回こそ子供を作る事ができるだろう。試行錯誤の実験の結果、違う種族同士の間に子供ができないのは、母胎が他種族の魔力や精に適応できないからである事が分かった。

 

 簡単な話が、一時的に俺が妖精になればいいのである。マーリン辺りは『無茶言うな』とか言いそうであるが、俺に限ってはそんなに難しい話じゃない。そもそも性別すら定かではない俺は、この世界において非常に奇妙な存在だと言える。

 膨大な魔力を持ち、自らの内に別の人格を定着させ、肉体の性別すら変えられる。さらに言ってしまえば、俺の種族は唯一無二の種族、島の神秘の化身。

 この定義もかなり曖昧である。島の神秘であるくせに、俺は島の外に出る事もできる。まぁかなり力は削られるし、魔術に使用する魔力も自腹になるから自分から進んで出る事はほとんどないけどな。

 

 そんな俺ならば、ニミュエを参考にして自分の構成情報を組み替えてニミュエと同じ妖精になる事だってできるだろう。理論自体はできてるから何も心配はいらない。

 まぁ要するに、ニミュエとの間に子供ができる可能性が、いよいよ現実味を帯びてきたという訳だ。

 

 

 まさか前世で恋愛らしい恋愛をしなかった俺が、転生して、死亡フラグしかない型月世界で恋愛する事になるとはな……人生ってのは分からないもんだ。まぁ今の俺は人じゃないから人生じゃないけどな。言うなら島生ってところか?

 まぁそんな事はどうでもいい。とにかく今日も俺はのんびり眠る事はないんだろう。いつも通り疲れきって眠る事が確定している。

 

 「そういえば子供の名前とかどうしましょうか……」

 

 「そこら辺は生まれてから考えてもいい気がするけどなぁ」

 

 「ダメですよ? 私達妖精は、妊娠から出産まで一ヶ月もないんですから。しかもその後は急成長しますしね。だから妖精の子供はかなり希少なんですよ?」

 

 「……まじで? 急成長ってどれぐらい?」

 

 「そうですねぇ……だいたい一年もすれば人間でいう成人になるかと」

 

 それは凄いな。相変わらず幻想種には常識が通じない。

 

 「なんでも、一時期妖精の魔力に目をつけた人間達に妖精が乱獲された事があったそうで、そのほとんどがまだそんなに力のない子供だったそうです。だから少しでも抵抗できるように急成長するようですよ?」

 

 ……人間ってやつはろくな事しないな。元人間として情けなくなってくるんだが……まぁそういう事情なら仕方がないか。子供が成長していくのを見るのも若干楽しみにしてたが、種族としてそういうものだというならそれに逆らうのも問題だろうからな。

 生まれたばかりの子供にゆっくり育つように細工をすれば、のんびり育っていくのを楽しめるんだろうが、それも却下。自分の子供をこっちの都合で改造するのもどうかと思うしな。

 

 「そういう理由なら確かに名前は考えておかないとなぁ」

 

 「女の子の名前なら思いつくんですけどねぇ。男の子だった場合はいい名前が思いつきません」

 

 「女の子の名前を思いつくだけいいだろ。俺に関してはさっぱりだな。参考までにどんな名前を思いついたんだ?」

 

 「ガレスとかですかねぇ。まぁもう少し色々考えたいですし、二人で一緒に考えましょう?」

 

 「まぁそうだな」

 

 あれ? ガレスってどこかで聞いた事があった気が……まぁいいか。思い出せないって事はそんなに重要じゃないって事だろ。特に気にしなくて良さそうだな。

 というかヴォーディガーンが暴れ出すのもそろそろかね? いつ暴れるかは言ってなかったしなぁ。まぁ気長に待つか。白い竜を使った魔道具とかも作ってみたかったし。ヴォーディガーンが魔力全開で暴れれば、吹き出た魔力でしばらくブリテンの土地から神秘が流出するのを抑えられそうだし。

 

 「じゃあ今日も一緒に寝ましょう!」

 

 「はいはい……ちょっとは手加減してくれよ?」

 

 「はいっ! 頑張ります!」

 

 「頑張るのか……まぁいいや」

 

 

 

 

 

 




まぁ子供の名前で察しがついた方がほとんどだと思いますが原作改編ですw


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新たな目標

受験シーズンなのでしばらく投稿をお休みします! そして受験が終わったら友達との共同作品を友達の垢で投稿しますので是非見てください。


 突然だが、アーサーの聖剣が折れたらしい。使い魔を通してその様子を見てたが、どうやら勝利すべき黄金の剣(カリバーン)に魔力を込め過ぎて折れたらしい。

 一応あれでもマーリンが割と力入れて作った聖剣だったんだけどなぁ。それを魔力で折るとか……どんだけ魔力量多いんだよ。流石は竜の因子持ちってところか。

 

 「……凄い魔力ですねぇ」

 

 「まぁマーリンが理想の王として生み出した存在だからな。それなりに強力な力は持ってるとは思ってたが……ここまでとはなぁ」

 

 勝利すべき黄金の剣(カリバーン)が折れるのは知ってたけど、実際に見ると凄いな。

 さて、史実通りなら、アーサーはこれから折れた勝利すべき黄金の剣(カリバーン)の代わりとなる、アーサー王の代名詞と言える聖剣、約束された勝利の剣(エクスカリバー)を貰いに来るはずだな。最近みんな聖剣貰いに来すぎじゃねぇか? まぁ残り一本しかないからこれで終わりだけどな。

 

 勝利すべき黄金の剣(カリバーン)は、アーサーがブリテンの王である証明でもあった剣だからな。対外的にもアーサーが王である象徴があった方がいい。ならばマーリンは確実に、この湖に約束された勝利の剣(エクスカリバー)をアーサーに取りに来させるだろうよ。

 Fateでは、アルトリア・ペンドラゴンの誇る最強の対城宝具にもなっている約束された勝利の剣(エクスカリバー)は、世界でも屈指の知名度を誇る。抑止力的には確実に約束された勝利の剣(エクスカリバー)をアルトリアに渡したい事だろう。歴史の修正力とはそういうもんだ。

 

 「じゃあ後はアーサー王に約束された勝利の剣(エクスカリバー)を渡したら私の仕事は終わりですね」

 

 「そうだな、まぁ残念ながら俺の仕事は残ってるけどな。ヴォーディガーンの対処に、神秘の保護。他にもたくさんやる事がある。……めんどくせぇな」

 

 「ふふっ、頑張ってください。私もできる限りお手伝いしますから」

 

 「それはありがたいな」

 

 実際このところ仕事続きで疲れる。職場から離れても仕事に追われるとか……どこのブラック企業かな? まぁ本当にめんどくさくなったらこっちの意思で突っぱねられるから別に構わないけどさ。

 でも俺に仕事を回す前に少しは自分で解決する努力をするべきだろうに、なのにあの夢魔(マーリン)は、俺にやらせた方が早いし楽だからなんていう理由で俺に押し付けてくる。やっぱりアイツ今度殴っておこう。

 

 「今日は何をしましょうか……」

 

 「俺は変わらず実験かなぁ。そろそろ目処が立ちそうだよ」

 

 「じゃあ私は魔術の練習でもしてますね」

 

 「了解、頑張れよ」

 

 「ラック様も頑張ってください。

 

 相変わらず笑顔がまるで太陽のように眩しい。最近はニミュエの笑顔で仕事を頑張ってる気がする。

 

 俺には三人の上司がいる。

 一人目が俺をこの世界に生み出した張本人、ブリテン島の神秘。

 そして二人目が俺の魔術の師匠でもあり、世界でも有数の屑、マーリン。

 三人目は、上司の中では唯一の俺の癒し、アーサー王こと、アルトリア・ペンドラゴン。

 アーサー以外の上司は無理難題を平然と押し付け、自分はそれを見ているだけ。やろうと思えば自分でなんとかできるだろうに……島の神秘にそこまでハッキリした意思はないからそこはしょうがない。問題はマーリンの方だ。大抵の事なら自分で解決できるであろう問題を全部俺任せにして自分はハッピーエンドの台本作り。舞台もキャストもいるけど内容がハッキリしてない物語(茶番劇)

 滅びが確定してるのは分かってるだろうに、少しでもいい滅びをってか? でもそこに入れるのはお前が決めた人間だけだろう? そんなつまらないものをハッピーエンドって言ってしまうのは正直どうかと思う。

 

 まぁそもそも人の心が分からない夢魔に、理想の人の王なんて作れるはずがない。どう足掻こうと運命は変わらないだろうし、その滅びは悲惨なものになる。

 そんな事も分からないようじゃ、ハッピーエンドなんて夢のまた夢だ。

 

 だけどそれにアルトリアは関係ない。

 

 アイツは生まれながらに王となる為に作られた。本来なら普通に15歳の少女として育っていたかもしれない。だが王の子として生まれただけでその道は初めから存在すらしなかった。俺としてはそういう平和な普通の女の子としての生活もさせてあげたかったんだけどな。まぁそれは無理だっただろうな。周りの環境全てがアルトリアを王にする流れだった。

 アルトリアはその境遇に文句なんて言わなかった。でも俺は知っている。ケイの家に住んでいた頃、アルトリアが他の女の子を見て羨ましそうな顔をしている事を、俺と会話をするのを楽しみにしてるのは、俺が彼女を王であるアーサー・ペンドラゴンではなく、少女であるアルトリア・ペンドラゴンとしての顔を知っていて、その上で彼女の心の内の無意識の願望を俺が肯定しているからだという事。

 

 アルトリアは自分でも気がついていないのだろう。昼は騎士としての訓練、夜の夢の中ではマーリンによる王のための英才教育。よく心がもったと思う。

 そしてこれからも少女(アルトリア)理想の騎士王(アーサー)として生きていく事を余儀なくされるのだろう。

 

 仕方の無い事なのは分かってる。俺の力ではどうしようもない事も分かってる。でも納得はできない。する訳にはいかない。俺までそれを当然の事だと受け入れたら、アルトリアは本当に壊れるだろう。あれは誰かに願われれば救わずにはいられない。

 それこそがマーリンの描くハッピーエンドの姿なのだから。

 

 アルトリア本人の意志を度外視している辺りが、流石はマーリンと言えるだろう。

 

 ……よし、当分の目標をアルトリアの救済に設定しようかな? ブリテン島の滅びを少しでも良いものにしよう。

 

 「……ラック様?」

 

 笑顔が怖い。さっきまで太陽が霞むぐらいの眩しい笑顔だったのに、今では不機嫌な肉食獣の笑顔に早変わりしている。原因は……アルトリアの事をずっと考えて、さらにこれからの目標をアルトリア絡みの目的にしたからか。

 まぁ要するに嫉妬だな。可愛い。

 

 でも今回ばかりは譲って欲しいんだが……

 

 数秒程見つめ合う。

 俺からすれば息が詰まりそうな程の苦しい時間だが、目を逸らす訳にはいかない。

 

 

 

 

 そしてニミュエが諦めたようにため息をつく。

 

 「仕方がないですね……どうせアルトリア・ペンドラゴンの事なんでしょう? ならさっさと救って戻ってきてくださいね? 待ってますから」

 

 「……悪いな」

 

 「……ラック様がアルトリア・ペンドラゴンに恋愛感情を抱いていないのは分かっています。でも女として不安になるのです……」

 

 「俺にとってはお前が一番だよ。それは絶対だから」

 

 「………………ラック様は魅力的な方です」

 

 「うん? いきなりどうした?」

 

 「ですから女がよってくるのは仕方の無い事だと思うんです」

 

 「お、おう」

 

 「………………で、ですので…………私を一番大事にしてくれるなら…………ちょっとの浮気ぐらい許しますよ?」

 

 「馬鹿言え」

 

 考察の余地もない即答だった。

 流石に驚いたのか綺麗な瞳を大きく開いている。

 俺からすればその反応はかなり不満だ。

 

 「俺が愛するのはお前だけだ。だからそんな事をお前が言わないでくれ」

 

 そう告げると俯いて身体を震わせる。瞳からは透明な雫が溢れ頬を伝う。

 

 そしてそのまま抱きついてきた。

 

 「……ごめんなさい」

 

 「気にすんな」

 

 短い会話だが、これで大抵の事は伝わる。伊達に長い付き合いじゃないからな。

 

 「でも何でそんな事を?」

 

 「…………アルトリア・ペンドラゴンはラック様に好意を抱いています」

 

 「……やっぱり?」

 

 それに関しては薄々気づいてた。正直割と露骨だよな。でもあの感じだとアルトリア自身は自覚はなく、無意識の好意なんだろうなぁ。

 俺としては一番めんどくさいが、救うと今決めたばかりだし、そんな事は言ってられない。

 

 「それだけじゃありません。街に住んでる女達の半分はラック様に好意を抱いています」

 

 「それも知ってる」

 

 実際、幻術使わずに街を歩いた時の視線はヤバい。獲物を狙う肉食獣の目って言うのかな? というかマーリンが手を出してない奴は、ほとんど俺を見てくる。

 別に自惚れてる訳では無いが、それがハッキリ分かるぐらいには、誰も視線を隠さずに俺を見てくるのだ。俺としては全く笑えない。

 

 「ですから、いずれ私が大事にされない日が来てしまうのでは、と……」

 

 「はぁっ……ニミュエ」

 

 「は、はい」

 

 「俺が愛してるのはニミュエだけだし、それは今までもこれからもずっと変わらない。なんなら契約でもするか? 目に見える物があった方が分かりやすい?」

 

 「目に見える物ですか?」

 

 「まぁそうだな……渡すにはちょうどいいか」

 

 いつも持ち歩いていたとある物を取り出す。

 それが何か分かったのだろう。ニミュエはただでさえ大きな瞳を大きく見開き、また涙を零しながら幸せそうに笑う。

 

 まぁいつか渡すために持ち歩いていたが、俺が勇気を出せずに渡せていなかった──────

 

 「ニミュエ、まだしっかり言ってなかったから言うぞ。……俺と結婚してくれ」

 

 婚約指輪である。

 

 「は、はいっ!」

 

 良かった。無いとは思ってたが、これで振られたらしばらく立ち直れないところだった。

 

 そしてニミュエは恥ずかしそうに左手を出してくる。

 その白く細い指にこの間採取した星の光を封じ込めた宝石をあしらった、銀の指輪をはめる。色々考えたが、実験のデータも十分に取れたからな。指輪とは循環の象徴、そこに超魔力である星の光を合わせれば、まぁ子作りのほんの少しだけでも手助けになればいいと思う。

 子供と親は循環する運命、お守りとしては十分だろうな。

 

 

 

 

 そして、左手の薬指にはまった指輪を見るニミュエのその顔はとても幸せそうに蕩けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後の指輪の設定はオリ設定となってます。というかこの流れがやりたいがために星の光の下りをやった感があるのでw


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嫁さんが可愛すぎて辛い

ただいまです〜遅くなり申し訳ないです。
せめて月一で投稿できるように頑張りますのでよろしくお願いします。


 このところ幻想種が騒がしい。どうやら本格的に島の神秘が薄れてきたらしい。どうやら人間達を殺して、人間達が持っている神秘を少しでも回収しようと躍起になっているらしい。

 だがそう上手くはいかないらしく、回収できる量は微々たるもので、さらには襲撃に失敗して返り討ちに合う個体もいるようだ。

 

 魔獣と人間の明確な違い、それは知能だろう。魔獣は戦いに戦術など持ち込まない。自身の身体に備わっている武器を振るい、敵を殺す。それだけを目的としているちょっと強いだけの単純な動物。それが魔獣だ。

 しかしこの感想は、魔獣を片手間で葬れる俺だからこそ言える事。普通に暮らしてるだけの人間達にとっては、自分達の生存を脅かす最悪の生物なのだから。そんな彼らを返り討ちにできる時点で、戦う術を持っていた人間に挑んだということになる。

 まぁある程度の幻想種は回収して妖精鄉に送っている。だから今ブリテンにいる魔獣達には悪いが、別に滅んでもらっても構わない。どうやらヴォーディガーンの奴は幻想種を少しでも救おうとして躍起になってるらしいが、無駄な事だ。

 ブリテンの滅びは決定付けられてしまった運命。

 

 そもそも、ブリテンの滅びは神代の神秘の崩壊の象徴として歴史に刻まれる事が確定している。抑止力が決めた運命だからな。

 

 「ラック様〜ご飯の準備ができましたよ〜!」

 

 「すぐ行く!」

 

 最近ニミュエの料理の腕が上がってきた。最近の一番の楽しみでもある。妻の料理を楽しみにしてる夫って、割と理想的な家庭なのでは? まぁそんな事よりも、早く行かなくてはニミュエが拗ねる。

 

 「今日はローストビーフを作ってみました!」

 

 「へぇ、割と面倒な料理だったと思うんだけど。よく作れたね」

 

 「えへへ〜頑張ったんですよ?」

 

 ふわふわとこちらが溶かされそうな笑顔を浮かべている。なんとなく撫でてみる。すると、気持ちがいいのか、目を細めて頭を軽く押し付けてくる。きっと尻尾があればちぎれんばかりにブンブン振られている事だろう。耳があったらピコピコ揺れ動くのだろうか? どちらにしてもとても可愛いだろうな。

 ……今度獣化の魔術でも作ってみようか。絶対似合うと思う。犬にしようか、それとも猫か? とても迷うところだな。

 

 「あの、ラック様? どうしたんですか?」

 

 「獣耳っ娘っていいよな」

 

 「……ウワキデスカ?」

 

 「違うってば、俺はニミュエ一筋だよ」

 

 「ではなぜ獣耳っ娘なんて発言が?」

 

 どんどん瞳からハイライトが消えていくのが怖いので正直に白状する。すると納得してくれたのか、ようやく瞳に色が戻ってきた。

 

 「今度やってみます?」

 

 「あれ? 獣化の魔術もう作ってあるの?」

 

 「いえ、そこら辺の獣の耳でも使おうかと」

 

 「そんな猟奇的なものは求めてないからね?」

 

 最近どんどんニミュエの発送が魔術師側に寄ってきている気がする。まぁそんなニミュエも可愛い。最近だと魔術の腕もかなり上がってきていて、水の操作は俺も絶対に叶わない領域まで成長している。湖の水を巨大な水球状にして空中に浮かせて維持するとか。俺でも中々難しい事を平然とやってのける。

 まぁ才能と努力の賜物だろう。流石は湖の乙女ってところか。

 

 というかそろそろアルトリアが聖剣を取りに来る頃だろうからな。歓迎の準備ぐらいは今度やっておこう。

 

 「じゃあ冷める前に食べちゃいましょう」

 

 「そうしようか」

 

 しかし今考えるべきなのはニミュエの事だろう。子供の事、島が滅んだ後の事。たくさん考える事はあるが、今だけは、この平穏な時間を楽しみたい。というか今は飯に集中しないとまた嫉妬される。

 

 ローストビーフはとても美味かった。

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえばラック様、そろそろヴォーディガーンが暴れ出す頃では?」

 

 「まぁそうだな。でも白き竜の血を取り込んだアイツに勝つなら、もうちょい戦力は欲しいだろうなぁ」

 

 実は俺も招集を受けていたりするが、割とサボるつもりでいる。別に行ってもメリットがある訳じゃないからな。邪竜ヴォーディガーンの相手とか面倒だし御免蒙る。

 

 「でもまぁ、マーリンがなんとかするだろ。俺はノータッチでいいかな」

 

 「でも白き竜の素材だけは持っていくんですよね? そんなに上手く行きますか?」

 

 「危なくなったら手助けすればいいよ。それで恩を売っておけば素材ぐらいは貰えると思う。もし貰えなかったら……強奪するか」

 

 白き竜の素材はなんとしても欲しい。割とたくさんの道具が作れるだろうからな。貰っておいて損はないどころか、役に立たない事は絶対にない。

 

 どうせ苦戦するんだろうからな。正史においても約束された勝利の剣(エクスカリバー)転輪する勝利の剣(ガラティーン)を真正面から封殺するような化け物だし。まぁ残念ながら俺の敵じゃない。

 白き竜の化身程度なら魔術だけで殺せる自信がある。不朽不壊の黄金剣(クリュサリウス)とか使ったなら、勝負にすらならないだろうな。そもそも不朽不壊の黄金剣(クリュサリウス)に対抗しようとするのが間違ってる。俺だったら全力で回避するね。

 まぁそんな感じだから、適度にアルトリア達が死なないように援護してやればマーリンからの仕事を果たした事になる。ついでに貴重な竜種の素材も手に入る。いい事づくめだな。

 

 たとえ貰えなかった場合でも、妖精鄉を経由して、キャメロット城に侵入すればいい。どちらにしたって素材は手に入る。

 

 「なるほど、分かりました」

 

 「よし、じゃあ納得したところで検査するか」

 

 「はいっ」

 

 最近の日課に毎日の認識検査がある。まぁといってもニミュエの内部の魔力を検査して子供が宿ってるかを検査するだけだからな。体内に魔力が2つあるなら妊娠している、1つならまだ妊娠はしていないという事だ。

 さぁ今回はどうだ?

 

 ニミュエの腹部に手を当てて魔力を探る。腹の中の赤子の魔力はとても小さなもので、かなり集中しないと見つけ出す事は難しい。ニミュエもそれをわかっているからか、一言も喋らない。

 

 そして──────見つけた。

 

 少し意識をそらせば即座に掻き消えそうな程小さな魔力。そんな魔力がニミュエの中に1つ、存在していた。

 

 間違いなく、それはニミュエが妊娠しているという証拠だった。

 

 「……ニミュエ」

 

 「は、はい」

 

 普段と少し違う俺の雰囲気に、少し緊張しているのか、若干固くなる。

 

 「おめでとう、妊娠してるよ」

 

 「ほんとですか!!」

 

 「もちろん、嘘なんてつかないよ。間違いなく妊娠してる」

 

 ニミュエは歓喜のためか、俯いて震えている。そして頬を伝う液体を見て、ニミュエを抱きしめる。

 

 「これからニミュエがお母さんになるんだよ? 頑張ってね」

 

 「……ラ、ラック様もお父さんになるんですよ? 私にだけやらせないでくださいね?」

 

 「分かってるよ。でも俺は子育てとかやった事ないしなぁ。上手くできるかな?」

 

 「私だって初めてですけど……一緒に頑張りましょうっ!」

 

 子供ができた。たったこれだけの事だが、それでも俺達にとっては大きな1歩であると言える。そもそも最初は子供を作るつもりすらなく、その手段も確立されていない状況から、ようやくここまで来れたのだ。膨大な魔力と素材と時間を注ぎ込み、ようやく完成した愛の結晶。

 どんな子供が生まれてどんなふうに育つのか、今から楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ついに妊娠……ここまで来るのにだいぶ時間がかかったな……

まぁここまで書いても、書きたいことの半分以下しか書ききれてないんだけどね!


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新たな命

お久しぶりです。
今回みたいな話を書くのは初めてなので違和感あっても見逃してくだしあ


 「はぁ……はぁ……」

 

 「頑張れよ! もう少しだからな!」

 

 「うっ、あぁ」

 

 さて、もう察しているかもしれないが、もうすぐ出産が始まる。最初は空気を読んで部屋から出ていようかとも思ったが、ニミュエ本人からの希望で、俺は部屋に残りニミュエの手を握っている。何でも、俺から魔力を受け取っていた方が、色々と安定するらしい。やっぱり妖精とはよく分からん種族だ。

 だから俺はそばに居て応援するだけ、後の事は産婆の人に任せている。ちなみにこの産婆はマーリンが事前に呼んでいたらしい。まぁ人外としての先輩としてのマーリンの事だ。今日がその日だと察してたんだろう。千里眼での覗き見だったら流石に引くぞ……

 

 

 

 

 

 

 

 それから大体10時間程度の事だった。

 

 「おぎゃあ! おぎゃあ」

 

 「よく頑張ったなニミュエ!」

 

 「はぁ……はい、私、頑張りました……」

 

 産まれたのは女の子で、それはとても可愛らしかった。……心配な事は多々あるが、それでもこの子のためならきっとやっていける。ニミュエも居る事だしな。

 

 「ありがとな婆さん」

 

 「いえいえ、気にしないでくださいな。これが仕事ですじゃ」

 

 産婆の婆さんは他の人達とは違い、随分とフランクだった。

 その後はいくつか注意事項を言って、帰っていった。

 

 「……ありがとなニミュエ」

 

 「いえ、私こそ……私が新しい命を授かるだなんて……思いもしませんでした」

 

 あぁ可愛らしい。俺はきっとこの子のためなら何でもやる。きっとやるべきじゃない事さえもやってしまえるだろう。

 

 「……ほら、ラック様はお父さんになったんですよ? 抱いてあげてください」

 

 「あ、あぁ」

 

 割れ物を扱うかの様に、そっと受け取る。それは思ったよりも軽く、しかし同時に重かった。これが命の重みかと理解すると同時に、これを失いたく無いと強く思う。

 

 「……名前は、どうしようか」

 

 

 「女の子ですし、前に考えていたガレスでいいのでは?」

 

 「じゃあそうしようか、特に悪い名前じゃないしな」

 

 こうしてあっさり子供の名前が決まった。もう少し考えた方がいいのかもしれないが、子供の名前付けるなんて経験ないんだから許して欲しい。

 

 その時、カリカリと窓が引っ掻かれる音がする。ふと見てみると、そこには小さな白いリスの様な獣が後ろ足で立ち上がり、懸命に窓を引っ掻いていた。

 ……第一の獣(プライミッツ・マーダー)じゃねぇか!?!? 何で此処にいんだよ! というか既にマーリンの使い魔になってたのか?

 

 「やぁラック、元気にしてるかい?」

 

 「今元気じゃなくなった、どうしてくれんだ?」

 

 「あはははは、それは済まなかったね。だが許してくれたまえ」

 

 「殴らせろ!」

 

 思わず殴りかかるが、ヒラヒラとかわされる。

 

 「まぁまぁ、落ち着いて、今回は仕事を頼みに来たんだ」

 

 「仕事だぁ?」

 

 とりあえず真面目な案件らしいので、殴りかかるのを止めて話を聞く。

 

 「ヴォーディガーンがそろそろ無視できなくなってきた。だからアーサーに約束されし勝利の剣(エクスカリバー)を授け、白き竜の化身の討伐に手を貸して欲しい」

 

 「……条件がある」

 

 「言ってみたまえ、君の願いならなるべく聞こう」

 

 「白き竜の化身の素材をいくつか寄越せ」

 

 「ふむ、それぐらいならいいだろう。流石に全部は無理だけどそれなりの数は渡せるだろうからね」

 

 「ならいい、報酬があるなら仕事ぐらいは受けてやるよ」

 

 「本当かい! なら私の仕事を……」

 

 「それは却下だ色ボマーリン」

 

 何が悲しくて、子供が生まれた直後に前の職場に戻らなければならんのか。ふっざけんな。

 

 「ダメですよマーリン、そんな事になったら私とラック様の時間が減ってしまうじゃないですか」

 

 ニミュエから、何か黒い物が漏れ出ている様に感じられる。怖い、怖いから……

 

 「……あはははは、全く、私の弟子は怖いお嫁さんを貰ったものだね」

 

 「いい嫁さんだろ?」

 

 ニミュエさん、照れてるのは可愛いですが、あなたのせいで場が混沌とし始めて……いや、原因はマーリンか。やっぱコイツ殴った方がいいって。アルトリアに今度言っとこうかな。

 

 「あれ? 何だか急に寒気がしてきたぞぉ!?」

 

 「気のせいだろ、気にすんなよ」

 

 「そうかい? それならいいんだけど……まぁいいか、それよりもアーサーは明日ここに来る。その時に適当な試練でも与えてやってくれ」

 

 「別に試練何てやらなくてもやるが?」

 

 「いやいや、それは無理だよ。今や聖剣は、君に試練を与えられ、それをクリアする事で聖剣を授かる事ができるという話になっていてね。いくらアーサーでも、その流れを無視する訳にはいかなくてね」

 

 確かにヒトヅマニア(ランスロット)と、脳筋太陽ゴリラ(ガウェイン)には確かに試練を与えたが、業の深い馬鹿(ランスロット)には八つ当たりだったし、ポテト馬鹿(ガウェイン)には向こうから頼まれたから試練を与えただけだ。それが風習化しても、俺が困る。

 

 「試練とか俺が面倒なんだけど?」

 

 「始めた君が言うかい? まぁ頼んだよ」

 

 「あっ! てめぇ! ……逃げやがった」

 

 マーリンは花弁になって消えていった。どうやら途中から夢を見ていたらしい。相変わらず厄介というかなんというか……

 

 「まぁそういう事らしい」

 

 「大変ですねぇ、……明日はガレスの面倒は私が見ますね」

 

 「任せるよ、悪いな。いきなり任せちゃって」

 

 「しょうがないですよ、お仕事ですから……構って貰えないのは少し悲しいですが……

 

 「え? 何か言った?」

 

 「いえ、何でもないです」

 

 またニミュエの笑顔に黒い物が含まれだしたため、追求は辞めておく。……最近ニミュエからの視線が、獲物を狙う目になっている時がある。まぁ妊娠してからは、少々収まってきたが、さっきからまたそういう視線を感じる。……確かにニミュエを抱いたのは俺だが、ここまでになるとは思わなかった。こっそりベッドに潜り込んで、アピールしてくるニミュエとか、可愛いからいいけどね。

 さて、明日はアルトリアに約束された勝利の剣(エクスカリバー)を渡すための試練を作らなきゃな。まぁやるとなれば、今度のヴォーディガーン戦でも役立つ試練にしよう。原作だと約束された勝利の剣(エクスカリバー)輪転する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)の同時攻撃でも倒せなかったらしいからな。そうとなれば、もっと別の方向で倒せるようにするしかない。

 相手は白き竜の化身、普通の人間が勝つには、それ相応の手段が必要になる。俺なら魔術のゴリ押しでどうとでもなるし、ニミュエでも勝てるだろう。とにかく、キャメロットの奴らが勝つには、何かしらの対抗手段を用意しなくてはならない。ランスロットは未だに修行中だしな。

 

 後は、円卓の騎士を発足する事だな。アルトリアは騎士を集めているらしいが、その中でも英雄級の奴らを集めれば、円卓の騎士が完成する。まぁ流石にヴォーディガーンが暴れる前に作るのは、もう間に合わないだろう。

 キャメロットがヴォーディガーンに勝てるようになって、それでいて明日までに準備ができて俺がなるべく仕事をしなくてもいい試練……中々難しい条件だが、まぁ何とかなるだろう。ならなかったら、適当に迷宮にぶち込めば、修行にはなるだろうさ。

 

 今しばらくは、ガレスが産まれた余韻に浸りたいからな、仕事について考えるのは、その後でいいだろう。

 

 「ふふっ、可愛いですね」

 

 「あぁそうだな」

 

 どうかこののんびりした時間がずっと続いていきますように、それだけが今の俺の願いだ。これが叶えられるかは、俺次第。

 頑張るか。

 

 

 

 

 

 

 



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視線

 申し訳ございません(初手土下座)
 ほぼ一年間お待たせしました。追記修正(稲を麦に、詠唱、宝具名変更、聖剣名変更)を繰り返し、モチベをある程度復帰させて恥ずかしながら戻って参りました。構想は浮かんでますし、結末も考えているのですが……頑張って完結まで持ってきます。
 今回は解説というか魔術の設定が多めです。


 

 

 星が生み出した聖剣、人々のこうであって欲しいという願いが結晶化した神造兵器、最後の幻想(ラスト・ファンタズム)

 

 約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

 正史においては、ブリテンの王、アーサー・ペンドラゴンが使う聖剣の中でもトップクラスと言っていいレベルの代物だ。白い竜の化身と化したヴォーディガーンを討滅するためのキーアイテムと言い換えてもいい。

 

 俺はこれからアーサー、アルトリア・ペンドラゴンにその剣を託す。そのための試練を課す。

 

 「ブリテン王、アーサー・ペンドラゴン。これより貴公に試練を与える」

 

 「はっ!」

 

 今や俺の立場は、聖剣の守護者として認められている。呼び名としては、前述の聖剣の守護者、湖の魔法使いとまぁ中々なラインナップになっている。そんな訳で今の俺はアルトリアよりも上の立場にある。昔はアルトリアの助言者として名を知られた俺だが、意図せずしてこんな立場まで成り上がった。

 

 「貴公には民の肉を食い荒らす二頭のワイバーンの討伐を命じる」

 

 「拝命します」

 

 ワイバーン、飛龍、竜種のなり損ないと言ってもいいそれは、竜の因子を持つアルトリアにはそれ程討伐は難しくない。まぁ勝利すべき黄金の剣《カリバーン》を持たない今のアルトリアなら、少しばかり苦労はするだろうが、討伐は可能だろう。

 だがついでにマーリンからの頼み事を伝えよう。どうせ史実通りだしな。

 

 「加えてアーサー王、来るべき白き竜との戦いに備え、花の魔術師より、最果ての槍を授かれ。槍は俺の試練の領分には無いため、詳しくは花の魔術師より聞くといい」

 

 マーリンから聞いていなかったのか、ここ数日の激務で人形のように凍りついていた顔に驚きの表情が現れる。とはいえ俺もつい最近知った事だし、あの槍(さず)けたのってマーリンだったかね?

 世界の裏側を繋ぎ止めるための塔、その端末たる槍、俺の不朽不壊の黄金剣(クリュサリウス)と同等レベルの神秘を内蔵する聖槍は、正直それさえあればヴォーディガーンなんぞ何とかなるのではと思わなくもないが、約束された勝利の剣(エクスカリバー)を渡すいい機会だったからな。これを逃すと忙し過ぎるアーサーがいつ来られるかも分からないし、特に理由も無しに聖剣に固執すると、それはそれで外聞が悪い。

 

 「その二つを以てブリテンを平定するがいい。その暁にはコーンウォールの()()()を名乗るがいい」

 

 事前に決められた気取ったセリフを言い終えた直後、俺の身体は砂になって消滅する。まぁ言うまでもなく砂で作った偽物だった訳だ。

 獅子王、日本で言うなら平安時代末期の刀の号であり、スコットランド王ウィリアム一世の呼び名でもある。イングランド王リチャード一世の獅子心王もまたこれに通じるものがある。

 そしてFGOにおけるIf世界のアーサー王を指す言葉である。合理性の王、聖槍の化身。別にそうなって欲しいと願う訳じゃない。そもそも決めたの俺じゃないし、アーサーとウーサーとマーリンの話し合いでずっと前から決まっていた事だ。俺はそこには参加してない。

 

 「おかえりなさい」

 

 意識を本体に戻すと、目の前にはエプロンドレスを着たニミュエが家事をしていた。ガレスの面倒を見ながらの家事は大変だと思うかもしれないが実はそれ程でもなかったりする。汚れた衣類や食器は水流を球体状にして固定して洗っているし、細かい掃除も微風でできる。

 現状気を使っているのはガレスのみである。ガレスの揺りかごが置かれている部屋は一時間事に空気が入れ替わり、使ってる水なんかも妖精達が浄化している。

 さらにいえば生まれてからたった数週間しか経過していないにも関わらず、既に揺りかごの縁に掴まって立ち上がっている。妖精の子供は成長が早いというのは本当のようだ。

 ガレスは俺とニミュエの子供なだけあってか、赤子にしては魔力が異常に多い。ガレスの種族は俺が特殊すぎるために妖精のようなものとしか説明できない。なのでこのガレスの保有魔力量が異常なのか普通の事なのかは分からない。

 

 

 そのせいなのか時折こういう事が起こる。

 

 ガレスの視線の先、部屋に突然現れた俺に向いたその視線は濡れたアクアグリーン。

 次の瞬間、背中に氷柱を差し込まれたかのような悪寒と共に爆発的な魔力が発生した。一瞬の後に起こるであろう事を察し、割と全力で砂を動かし身を守る。

 

 ドスン! という音が部屋に響く。恐る恐る周囲を覆う砂を見やると、そこには魔力で編み上げられた赤熱した弓矢が刺さっていた。言うまでもなくガレスの仕業である。

 慣れたくもないがもはや慣れたもので、一日に一度は必ずこれが起こる。マーリンと俺の診断結果としては、先程も述べた種族としての不確定要素(ブラックボックス)により詳しい事は分からなかったが、恐らくは有り余る魔力を制御しきれず、ガレスの小さな意思の揺らぎにより現出しているものだろうとの結論に至った。

 魔術の仕組みとしては視線を合わせた場所に空気中のエーテルで構成された物体を出現させるものだろうと予想している。重要なのは射出ではなく出現だという事。今回の場合(ケース)でいうなら矢は最初から刺さっていた場所に現れた事になる。砂で咄嗟(とっさ)に視界を塞がなければ、今頃矢が生えていたのは俺の頭だっただろう。

 

 とりあえずこのガレスの魔術を《突き刺す視線》と名ずけてしばらく過程を見る事にした。ガレスには妖精の血が流れている。ニミュエが水を手足のように操れるように、ガレスもまた成長するにつれて制御が可能になるだろうというのが俺とマーリンの予想である。

 

 しかしこれだけでは済まないのが妖精の血の厄介さ、もしくは島の神秘の一部を引き継いだ厄介さである。

 ピタリと、砂が全く動かせなくなる。というよりは少しでも動かした瞬間、元の位置に戻るように力が働いている。固定、これもまたガレスの視線を起点として発動する魔術《縫い止める視線》。

 予め言っておけば、これらの魔術は魔眼は関係ない。いわば邪視、魔眼とは眼球に備え付けられた魔術回路を通して起動するものであるが、ガレスのこれはそうではなく、視線そのものに魔力を乗せて術を発動させる魔術式。

 

 赤子が使うにしては異常がすぎる魔術に苦笑いして、ニミュエに視線を送る。それにニミュエは頷くと、ガレスの背後から近づき、手をガレスの顔の前に出して視線を塞ぐ。

 それと同時に砂が自由を取り戻し、発動していた魔術の崩壊を感じる。

 

 「相変わらずとんでもないな……」

 

 「そうですね、私でも発動を妨害できませんし……本来完全にラック様の支配下にあるはずの砂に効果を出せるだなんて、私でもできるかどうか分かりませんよ」

 

 確かにニミュエの水流と俺の砂がぶつかり合えば、どうなるかは分からない。ニミュエは水流操作だけなら、湖の乙女、すなわち妖精として俺に(まさ)る。俺だって流転を使えば水流をある程度扱えるが、水の扱いに特化したニミュエには勝てない。

 しかし操作の技術そのものに関しては俺の方が上である。

 だがガレスはそれらをサクッと超えてくる。

 妖精とブリテン島の神秘の貴血(サラブレッド)故にか、魔力も多く赤子とは思えない程の魔術発動速度、詠唱すら必要ない一工程(シングルアクション)としては破格の性能の魔術等、もしこのまま成長していけば俺やニミュエが(かな)わなくなる日が来るのかもしれない。将来がとても楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜、早速アーサー王と数人の騎士がワイバーンの討伐に(おもむ)いたと聞いた後、ここ数日の疲れを癒す為に早めに眠りについた。その日はどうやら満月で、眠る前に青ざめるように綺麗な月が空に浮かんでいたのを覚えている。

 

 目が覚めたのは夜も更けた頃、ガレスの夜泣きが聞こえたからである。ガレスは赤子にしては中々泣かない大人しい子だった。だから寝ぼけ眼で起きたニミュエと顔を合わせてまだ眠気で重い身体を引きずってガレスを見に行く。

 揺らりと風が頬を撫でそれに対して気持ちがいいなどと思い()()()()()()()()……

 

 

 は?

 

 直後に正気に戻る。急いでガレスが居るであろう揺りかごを見やると、既に青黒い(もや)に覆われて見えなくなっていた。俺にもニミュエにも気づかせない緻密かつ完璧な魔術に、二人揃って完全に遅れをとった。

 

 「ガレス!」

 

 俺の叫び声に反応したのか、ニミュエの様子にも正気が戻り急いで駆け出す。

 揺りかごを覆う靄を魔力で起こした風で吹き飛ばすと同時に、突然粘つくような重い視線を感じた。視線を辿ろうかと怒りで白熱した思考で考えながら娘を案じる冷静な思考でそれを抑え込み、ガレスの安否を確認する。

 ガレスの頬には黒い二匹の蛇が絡みついているかのような(あざ)が浮かんでいた。遠見の魔術と視線を起点として発動する呪い。それを正しく認識した直後、何処からかくつくつと嘲るような笑い声が響いた。

 

 『中々良き子だ、大事にせよ』

 

 その声は聞き覚えがあり、同時にこんな真似をした人物もまた彼女であろうと察する。

 瞬間、爆発する怒りと共に自分でも驚くような、深い怒声とありったけの魔術を放つ。それらはブリテン島においては必中のそれ、喰らえば竜種とて無視できないそれが自分に向かうのを分かっていて、再度楽しげな声を響かせた。

 

 『ではまた、滅びの時にまみえようぞ』

 

 「モルガンッッッ!」

 

 邪悪な魔女にして姉弟子、ケルト神話の戦神を起源とする稀代の悪女は静かな夜に嘲笑を撒き散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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呪獣

 

 

 

 「間違いなくモルガンの仕業だね」

 

 「……だろうな」

 

 あの後すぐにマーリンを呼び出してガレスの診断をさせた。あわよくば呪いの解呪ができないかと思っていたが……

 

 「分かってると思うけどね、私と君が全力で解呪に取り組んだとしても、十年以上かかるよ」

 

 「……そうだな」

 

 ガレスにかけられた呪いは、言ってしまえば獣性の呪いである。人は誰しも内側に獣性を持っている。この呪いはそれを強制的に引き出して維持する。自分の意思では解除不可能の永続維持する獣性魔術という表現がしっくりくる。

 しかしこれは自らの獣性に蝕まれ続けるようなもので、いずれは人としての理性を無くした獣と成り果てるだろう。

 その証拠とでも言うかのように、ガレスの頭からは髪を掻き分けて()()()が生えていた。

 

 そんじょそこらの呪いならば、俺とマーリンが揃えば大抵は解呪ができる。だが今回の呪いは姉弟子(モルガン)の手によるものだ。何百種もの呪いが複雑怪奇に絡み合い、この呪いを解くためにはそっちの呪いを解く必要があり、それを解くためには更にと、絡まった紐を一つずつ解く作業になっている。

 それだけならまだしも、流石はケルト神話の神性を元にする魔女と言うべきか、俺やマーリンすら知らない形式の呪いすらあった。例えるなら、答えは全て同じなのに全ての数式が違い、かつ全て解かなければ正解にならない問題。それに加えてまだ誰も見た事のないオリジナルの数式が加わっているのだ。この呪いを何とかするには、まずは呪いの種類の解析が最優先になる。

 俺とマーリンなら、解けなくはないだろう。時間がかかるとはそういう意味だ。

 

 チラリとガレスを見るとニミュエが瞳に涙を浮かべながらガレスの頭を撫でていた。

 

 モルガンには既に呪いを逆算してモルガンに攻撃を仕掛けてある。モルガンの実力なら、全く問題無い程度のものだが、何もしないよりはマシだろう。

 ガレスは自信に起きている現状を理解できないのか、楽しそうに笑っている。そしてその口の中にキラリと光る獣を彷彿(ほうふつ)とさせる八重歯、否、人としてはあまりに鋭い犬歯が見える。

 

 「正直に言って、この程度で済んだのが僥倖(ぎょうこう)と言えるだろうね」

 

 「……そうだな」

 

 ガレスの妖精と島の神秘という特殊な出自のおかげだろうか、本来であれば醜い獣と成り果てる呪術は、極めて抑え込まれ、身体の一部に呪いの影響が出るだけとなっている。恐らくは精神にも少なからず影響は出ているだろうが、それでもこの結果は最悪ではない。

 しかしタイムリミットがあるのもまた事実。それが過ぎればガレスは本来の呪い通り、獣と化すだろう。

 

 「ふむ、ラック、提案がある」

 

 「……何だ?」

 

 「この呪いを解かずに、反転させるつもりは無いかな?」

 

 ゆらりと視線を上げる。ピクリとマーリンが反応する。どうやらマーリンでもたじろぐ程の怒りが俺の視線にこもっていたらしい。

 

 「ッふざけないでください!」

 

 しかし怒りを爆発させたのは俺よりもニミュエの方が早かった。

 

 「こんなッ! いつ爆発するかも分からない爆弾を常に抱えておかせるなんて真似! 許すわけないでしょう!」

 

 ゴボリゴボリと花瓶の中の水が花瓶を突き破って蠢く。それは怒り狂う蛇の様にも、子を守ろうとする母の手にも見えた。

 

 「まぁまぁ落ち着きたまえよ」

 

 マーリンが手に持っていた杖を一振りすると、マーリンの周囲をふわりと花が囲う。

 

 「私は何も爆弾を放置しようと言ってるんじゃない。爆弾を有用な何かに変えて危険性を無くそうと言ってるんだ」

 

 「それを信用しろとッ!?」

 

 「そうだね、そういう事だ」

 

 ……呪いの対処そのものは可能、だがそれにはマーリンの手助けが必須、俺だけではどうしようも無く、どうにかなったとしてもタイムリミットまでに間に合うかは不明。

 

 「……聞かせろ」

 

 「ラック様!?」

 

 「ひとまず聞いてからだ」

 

 ろくでもない意見なら、無視して無理矢理にでも解呪を手伝わせる。ついでにモルガンは殺す。

 

 「今回の呪いの問題点は獣性に呑まれて人としての在り方を失う事だ。しかし解呪にはタイムリミットがあり、間に合うかは分からない。なら、呪いに私達が魔術で介入して、()()()()()()()()()()()()()じゃないか」

 

 納得せざるを得ない意見だった。確かにこの呪いは解呪は難しい。なら解呪せずにそれを利用して別のものに変えてしまえばいい。これなら呪いではなく、後天的に獲得した獣性魔術となり得るだろう。

 

 しかし……

 

 「人手が足りない。俺とマーリンが互いに協力してやっと解けるかもしれない魔術だぞ。

 まずは呪いの解析、その後この呪いに適合して、尚且つ呪いを魔術として使用可能になる新しい魔術の開発が必要になる」

 

 言葉にすればする程焦りが増す。

 

 「……仕方がない。妹を呼ぼうか」

 

 「妹?」

 

 最早かなり薄れつつある俺の過去の記憶が正しければ、マーリンには妹なんで居なかったはずだが、いつの間にかできたのだろうか。

 その疑問を俺達の顔を見て読みとったのか、

 

 「まぁあまり頼りたくはないがね、魔術の腕はムカつくけれど私と同じぐらいさ」

 

 不満たらたらに子供の様に顔を膨らませるマーリンの言葉に、ようやく光明が見えた気がした。

 

 「ならすぐに呼んでくれ、さっさと解析に入りたい」

 

 「いいとも」

 

 マーリンはそう言うと近くにあった紙に文字を焼き付け、それを鳥に変えて窓から飛ばした。相変わらず呆れる程卓越した魔術の腕だ。

 

 「これで妹は明日までには来るだろう。とはいえ気をつけるんだよ、妹の性格は最悪だ」

 

 俺とニミュエは顔を見合わせると声を合わせた。

 

 「「お前が言うな(あなたが言わないでください)」」

 

 「これは手厳しい」

 

 マーリンはそう言って笑った。

 

 

 

 

 

 



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花の魔女

 

 

 「やぁやぁやぁやぁ」

 

 翌日の朝、我が家を(たず)ねたのは胡散臭く、それでいて人間味を感じさせない透明さすら感じさせる笑みを浮かべたマーリンに良く似た女だった。

 常に微弱ながらもかなり洗練された魔術を二十以上展開し続けるその女は、あからさまに異様かつ浮いているにもかかわらず、そこに居る事に違和感を感じさせなかった。その魔術の技量は間違いなくマーリンと同等規模、もしくはそれ以上の実力を感じさせる。

 

 間違いなくこの女こそがマーリンが昨夜呼んだ妹とやらだろう。

 

 「妖精郷(アヴァロン)で忙しく眠っていたボクを叩き起してまで呼ぶとは、どういう了見かな? ()()

 

 「なに、暇だろうと思ってね、未来ある若い命が悪意によって摘み取られそうになっているんだが、それがなんと弟子の子供と来たもんだ。更に呪いの主はもう一人の弟子、流石私の弟子と言うべきだろうね。複雑怪奇だから君にも手伝わせてあげようと思ったのさ()()

 

 初手から挨拶と呼ぶのがとてもはばかられる会話から始まり、来客の気配を察して玄関を開けたニミュエと一緒に硬直していると、お互いニッコリ笑って舌戦を再開する。

 

 「キミの弟子の後始末をボクに押し付けるとは……底が知れるよ。それでも冠位の器(グランドクラス)の適性があるなんてね。さっさと引きこもったらどうだい?」

 

 「いやいや、ずっと引きこもっていたら鈍ってしまうからね、適度な運動は必須なのさ。もっとも、花も恥じらう美貌とやらの持ち主は引きこもりの食っちゃ寝生活を送ってるらしいけど……そいつこそ冠位の器(グランドクラス)の適性を誰かに譲ってやった方が建設的だとは思わないかい?」

 

 険悪(けんあく)、そんな言葉がぴったりな空気を一瞬で作り出した二人が杖を構え出した辺りで、ニミュエと一緒に止めに入る。

 

 「止めろマーリン、無闇に魔力を散らすな。ガレスが泣く」

 

 「あなたもです! 杖を下ろしてください」

 

 マーリンとその妹はチラリとコチラを見ると、本気で争うつもりもなかったのか杖を下げた。

 

 「初めましてだラック君、私はアンブロシウス、もしくはアンブローズだ。愚弟が世話になっているようだね。今回の件にも一応協力はするつもりだから安心してくれていいよ」

 

 「私以上のろくでなしだけどね、魔術の腕だけは保証するよ」

 

 どうもこいつらはいちいち煽り合わなきゃならないルールでもあるらしい。訪れるだろう波乱の予感に頭が痛くなり、そっと息を吐いた。

 

 「ではアンブローズと呼ばせてもらう。それよりも早速呪いを見てもらいたい」

 

 「あぁそうだね、そうしよう」

 

 俺の後ろについて歩くアンブローズは、とても絵になっていた。感情を悟らせない笑みをごく自然に顔に貼り付けて歩く彼女は、本当にマーリンに似ていた。きっとマーリンが女だったらこんな見た目だっただろうと思う。

 しかし決定的に違うのは目だ。まるで昆虫のように無機質でガラス玉でできているかのように感情が見えない。

 今も興味深そうに周囲を見渡してはいるが、見る人が見れば周りに興味を示す振りをしているだけである事が簡単に分かる。マーリン以上に人外に近い。と言うよりはマーリンよりも夢魔としての側面が強く出ているのだろう。

 感情を他者から搾取し、消費する。夢魔が人間らしい感情の発露を可能とするのはそういう方法を使うしかなく、それは消耗品で使い捨て。感情の機微(きび)を吸収しなければならない彼らは、未来永劫消費者でしかない。

 しかしアンブローズはそれをしない。正確には自らの内に溜め込んでいる。それにどれ程の意味があり、何が目的なのかは全く分からないが、不気味なことこの上ない。

 とはいえガレスの一件に関しては協力者であり少しでも人手が欲しい。無下にはできない。

 

 まるで生きた機械を案内しているような気分になりながらガレスの部屋にアンブローズを入れると、ニミュエが忙しい時の乳母代わりの妖精達が散っていく。

 それらを眺めながらアンブローズはふらふらと、それでいてしっかりとした足取りで近づいていく。

 

 「……確かに厄介な呪いだ。タイムリミット内に解けるかどうかは五分といったところかな」

 

 「まぁそういう訳でな、解析を手伝ってもらいたい」

 

 「構わないとも、更に助っ人も来たみたいだし作業もぐっと楽になるね」

 

 「助っ人?」

 

 そんな便利な存在に心当たりもなく、マーリンを見ると、驚いたような表情で窓の外を眺めていた。視線を追って外を見ると、そこには──────

 

 「あははは!」

 

 やっと俺達が気づいた事に大笑いする俺の歪んだ鏡像、()()()()()()()()()()

 




 進まねぇ

 言うまでもなくプーリンです。アーケードやってないから口調とかちょっと不安ですけどね。好きだから出しちゃった。


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