緋弾のアリア~次元の名を継ぐ者~ (マグナムリボルバーはロマン)
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プロローグ

ある日の朝、ソファーに横になり、一人の青年は高鼾をかいていた。

 

身じろぐと、顔に乗せていたソフトハット帽が落ちる。

 

「………ん?もう朝か………」

 

帽子が落ちたことで、朝日が目に刺さり、青年は寝床にしていたソファーから体を起こす。

 

「8時か。ちょいっと寝過ごしたな」

 

スマホで時間を確認すると、立ち上がり、帽子を被り直すと、キッチンへと向かう。

 

手早くコーヒーを用意し、一口飲む。

 

「ふぅ……今日から二年か………」

 

彼の名前は次元康介

 

康介は、東京武偵高に通う学生。

 

武偵とは、近年増加する凶悪犯罪に対抗するために、新設された国家資格の一つで、これを所有するものは武装を許可され、逮捕権を有することができる。

 

そして、武偵を育成する教育機関のことを、武偵校と言い、康介は東京にある武偵校の高等部に在籍している。

 

学科は大きく分けて14学科あり、また、実力によってランク付けされている。

 

康介はその内の一つ、強襲学部強襲科(アサルト)に在籍しており、Aランクの武偵である。

 

コーヒーを飲み終えると、康介はカップを雑に流しに置いて、リビングの椅子に掛けてある上着を手に取る。

 

そして、テーブルの上にある、メンテナンスを終えた愛銃、S&W M19 コンバットマグナムを、背中の後ろに、ズボンとワイシャツの間に差す。

 

「さてと、行くとするか」

 

強襲科(アサルト)男子寮を出て、駐車場に止めてあるバイクに跨る。

 

心地よいバイクの振動を感じつつ、康介は学校へと向かう。

 

「ん?」

 

学校へ向かう途中、何やら物騒なものを見つけ、康介は思わず、バイクを止める。

 

「UZI付きのセグウェイが数台………嫌な予感がするな」

 

康介はバイクを反転させ、セグウェイが向かった方向に向かう。

 

そこは、武偵校の体育倉庫だった。

 

すると、そこでは、UZI付きのセグウェイ6台と対峙する一人の武偵高生がいた。

 

UZIから弾丸が放たれる。

 

だが、生徒は弾丸を躱すと、脇のホルスターからベレッタM92Fを抜き、発砲をする。

 

6発の弾丸は、全て、寸分の狂いなくUZIの銃口に入り、内側からUZIを破壊する。

 

生徒は不敵に笑うと、ベレッタを懐にしまう。

 

その瞬間だった。

 

新たなUZI付きセグウェイが6台現れ、生徒の背中に銃口を向ける。

 

武装解除後の死角からの攻撃に、生徒は咄嗟に反撃ができなかった。

 

すると、康介はバイクのアクセルを一気に全開にし、飛び出す。

 

セグウェイを追い越し、巧みな運転技術でUZIの9㎜弾を、バイクで防御し、生徒の前に立つ。

 

そして、目にも止まらぬ速さで、背中のコンバットマグナムを抜き、そのまま発砲する。

 

マグナム弾を受け、UZIは粉々に砕け散り、沈黙する。

 

「よぉ、余計なお世話だったか、キンジ?」

 

銃口で、帽子のつばを持ち上げ、康介はその生徒、遠山キンジを見る。

 

「いや、助かったよ。すまないな、康介」

 

そう言ってキンジは、前髪を払い、康介を見る。

 

(ん?ヒスってるのか?)

 

ヒスってると言うのは、キンジの体質のことだ。

 

キンジの家、遠山家は、ヒステリア・サヴァン・シンドロームと言う特殊体質で、βエンドルフィンが一定以上分泌されると神経伝達物質を媒介し、大脳・小脳・脊髄と言った中枢神経系の活動を劇的に亢進させ、思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上する。

 

キンジの家、遠山家は先祖代々、この力を使い、正義の味方を生業として来た。

 

時代と共に、その仕事は違って行き、今は武偵としてその力を使っている。

 

キンジはこの力を、ヒステリアモードと呼び、このモードになることをヒスると言っている。

 

だが、キンジはこの力を制御出来ておらず、性的興奮によって意図しない状況でヒスることがある。

 

つまり、何者かに襲われている状況で、キンジは性的興奮に陥る状況になったということだ。

 

「(襲われて興奮したか?いや、流石に親友にドMの気があるとは思いたくない)それで、これはどう言う状況か、説明してもらえるか?」

 

「ああ、それは構わないが、話はあちらのお嬢さんの相手が終わってからだ」

 

そう言って、キンジは体育倉庫に戻っていく。

 

「……女が居たか。なら、納得か」

 

キンジのヒスりの原因が分かり、康介は、溜息を吐きつつ、弾をリロードする。

 

次の瞬間、キンジは体育倉庫から投げ飛ばされる様に飛び出してきた。

 

「キンジ、どうした?」

 

「ちょっとした誤解さ。だが、いい腕だ」

 

「逃がさないわよ!」

 

すると、頭に響く様なアニメ声が響き渡り、体育倉庫からピンク髪のツインテールに身長がかなり低い女子が出てきた。

 

もちろん東京武偵校の防弾制服を着た、女生徒だった。

 

「私は今まで一度も犯罪者を逃がしたことはないんだから!」

 

そう言って、女生徒はスカートの中に手を入れ、手にしたガバメントのマガジンを交換しようとする。

 

「あ、あれ?マガジンが………!」

 

「探し物はこれかい?」

 

「あ!?」

 

キンジの手には、ガバメントのマガジンがあり、キンジはそれを遠くに投げ飛ばした。

 

「私のマガジン!」

 

「悪いね」

 

「くっ……許さない………」

 

女生徒は、ガバメントを足の太ももにつけたホルスターに仕舞うと、今度は背中に手を伸ばす。

 

そして、制服の中から、二本の小太刀を抜く。

 

「強猥男は神妙に!」

 

その瞬間、二発の銃声が響く。

 

「きゃ!?」

 

撃ったのは康介だった。

 

女生徒が小太刀を抜き、キンジに飛び掛かろうとした瞬間、得意の早撃ちで、女生徒の小太刀を弾いた。

 

「いきなり襲い掛かるのはマナー違反だぜ。お嬢さん」

 

「だ、誰がお嬢さんよ!私は、高二だ!」

 

「……マジか」

 

「どうやら、そのようだ」

 

「まさか……冗談だろ?」

 

「本人が言うにはそうらしい」

 

「ああ、あれか。飛び級とかできた天才小学生とか」

 

女生徒そっちのけで、話し出す康介とキンジに、女生徒はどんどん怒りを募らせる。

 

「私を………無視すんな!」

 

とうとう飛び掛かろうと、女生徒が走り出す。

 

「わぉきゃっ!?」

 

女生徒は謎の悲鳴を上げて、転ぶ。

 

女生徒の足元にはガバメントに使用する45ACP弾が転がっていた。

 

「ごめんよ、ちょっとばら撒かせてもらったよ」

 

キンジは一発の45ACP弾を手の中で転がし、地面に投げる。

 

「やるじゃねぇか、キンジ」

 

「康介が時間稼ぎをしてくれたお陰さ」

 

「なら、とっととおさらばしようぜ。後ろに乗りな」

 

「ああ、悪いな」

 

康介は再びバイクのエンジンを入れ、キンジが後ろに乗るのを確認すると、バイクを走らせる。

 

「くっく……」

 

「ふふ……」

 

「くははははははははははははは!!」

 

「ふははははははははははははは!!」

 

二人は、自然と笑い出し、武偵校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、後に“(エネイブル)”と呼ばれる遠山キンジ。

 

後に“緋弾のアリア”として世界中の犯罪者を震え上がらせる鬼武偵、神崎・H・アリア。

 

そして、“現代の拳銃王”と呼ばれる次元康介。

 

これが三人の、硝煙の匂いにまみれた、最低で最悪のファースト・コンタクトだった。

 



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1弾 神崎・H・アリア颯爽登場

「そう落ち込むなよ」

 

「別に落ち込んでねぇよ」

 

教務科(マスターズ)に今朝の事件を説明した後、康介はキンジと、教室へと向かっていた。

 

「別に、俺はお前がロリコンだったとしても、気にはしねぇよ」

 

「誤解だ。俺はロリコンじゃない。んなことより、早く教室に行くぞ。くそっ、事件に巻き込まれて遅れたなんて良い笑い者だ」

 

「安心しな。これぐらい、武偵じゃ日常茶飯事だ」

 

そんな会話をしながら、二人は教室に向かう。

 

「よぉ、キンジ!康介!今年も、車輌(ロジ)の武藤剛気様が同じクラスだぜ!」

 

教室に入ると二メートルほどの身長がある男が二人に声を掛ける。

 

武藤剛気。

 

車輌科のAランク武偵で、乗り物と名のつくモノならなんでも乗りこなすことが出来る武偵で、康介とキンジの友人でもある。

 

キンジは武藤を無視し、自分の机に座ってうつ伏せになる。

 

「どうしたキンジ、星伽さんと一緒のクラスじゃなくて悲しいのか?俺は悲しいぜ」

 

「………武藤、今の俺に女の話をするな」

 

そう言ってキンジは何も話さなくなった。

 

「武藤、俺の席は何処だ?」

 

「康介は向こうの席だぜ」

 

そう言って武藤が指さした方を見て、康介は思わず舌打ちをした。

 

そして、席に近づき、そこに座ってる生徒に声をかけた。

 

「おい、峰。そこは俺の席だ。どきな」

 

「そんな固いこと言わないでよ、コー君」

 

その生徒の名は、峰理子。

 

探偵科(インケスタ)のAランク武偵で、趣味が覗きに盗聴、盗撮、ハッキングなど武偵向けである為、情報収集能力が並外れて得意。

 

康介の知り合いでもある。

 

正確には、やたら康介に付きまとってくる、康介にとっては厄介者でしかない。

 

「いいからさっさと退きやがれ。鉛玉食らいたいのか?」

 

「ちぇ~……今退きまーす」

 

理子はそう言って、席を立ちあがると、康介の一つ前の席に座る。

 

「……何のつもりだ?」

 

「だって、ここが理子りんの席だも~ん」

 

もう何か言うのも疲れた康介は、何も言わずカバンだけを置くと教室を後にした。

 

康介が向かったのは屋上だった。

 

授業をサボって、ここで日向ぼっこしつつ、一眠りしようと考えてのことだった。

 

問題があるのではと思うが、東京武偵校に限らず、武偵校の偏差値は基本低い。

 

単位さえ取って入れば、進級も卒業もできる。

 

康介は既に、卒業できるだけの単位を取得しており、今更授業の一つ二つどころか、十、二十サボっても問題はなかった。

 

さらに、見た目に似合わず意外と頭も良く、定期テスト前でも余裕で眠りこける程だ。

 

「まったく、朝っぱらからツイテないぜ」

 

帽子を顔に乗せ、手を頭の後ろに組み、そして、足を組んで、康介は寝る準備に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

康介が寝始めてから、数時間がたった頃。

 

何者かか梯子を上がってくる音で康介は目を覚ました。

 

その瞬間、素早く起き上がり、腰のマグナムを抜き、銃口を向ける。

 

「やめろ、俺だ」

 

顔を出したのはキンジだった。

 

「なんだ、キンジか」

 

「授業サボって、昼寝かよ」

 

「俺は授業出なくても問題ないレベルで単位取ってるからいいんだよ」

 

マグナムを仕舞い、康介は再び寝転がる。

 

キンジはそのまま康介の近くに移動し、同じように寝転がる。

 

「しかし、珍しいな。お前さんが、ここに来るってのは」

 

「ちょっと問題が発生したんだよ」

 

「問題?」

 

「今朝のあの女。同じクラスだった」

 

「マジか?」

 

「ああ。強襲科(アサルト)所属で、名前は神崎・H・アリア。俺らとタメだ」

 

「神崎だと?」

 

その名前に、康介は思わず反応する。

 

「知ってるのか?」

 

「……ああ。イギリスじゃ、有名人だぞ。Sランク武偵の二つ名持ちだ」

 

「Sランクか。ま、あの腕前なら納得だな。ちなみに、その二つ名ってのはなんだ?」

 

双剣双銃(カドラ)。小太刀の二刀流、ガバメントの二丁拳銃の使い手のことから、そう呼ばれてる」

 

「へー、他には?」

 

「そうだな。……そう言えば、リアル貴族らしい」

 

「貴族って、今も実在してんだな」

 

「らしいな。ま、俺も見たのは初めてだがな」

 

二人して特に意味があるとは思えない話をしていると、屋上の扉が開く。

 

声からして女子が数人来たらしい。

 

女子が来たことに、キンジは顔を顰め、康介も溜息を吐く。

 

「ねぇねぇ、周知メール見た?」

 

「見た見た。武偵殺しの模倣犯だってね」

 

「てかさ、この被害に遭った武偵って康介とキンジじゃない?」

 

(流石は武偵高。噂が広まるのが早いな)

 

キンジは変に納得しながらそっぽを向く。

 

「二人も不憫だよね。新学期の初日に模倣犯の被害に遭って、おまけにアリアに目を付けられるとか」

 

「二人?おい、キンジ、どういうことだ?」

 

「なんか神崎の奴が俺の隣がいいって言いだしたんだよ。それと、お前もアリアの隣の席になったぞ」

 

「マジかよ……ま、峰の後ろじゃないだけマシか」

 

「お前、本当に理子が嫌いだな」

 

「嫌いなんじゃねぇ。ああいうタイプの女は、どうも苦手なんだよ」

 

「同じようなもんだろ」

 

小声で話しながら、女子たちの会話を聞いていると、さらに話し声が聞こえてくる。

 

「そう言えば、さっき情報科(インフォルマ)で二人の資料漁ってたの見たよ」

 

「私も二人の事聞かれた。キンジは昔、強襲科(アサルト)で、凄かったって言っておいたけど。康介は、早撃ちでは、誰も勝てないって。あとは、キンジと康介の二人は最強のコンビってぐらいかな」

 

「あ、それ分かる。あの二人が一緒にいると、どんな事件も立ちどころに解決しそうだよね」

 

「それに、二人ともかなり息合ってるしね」

 

「最強コンビだとよ」

 

「Eランク武偵と、SランククラスのAランクが最強のコンビな訳あるかよ」

 

「抜かせ、実質SランククラスのEランクじゃねぇか」

 

二人で空を見上げつつ、言い合う。

 

「でもさ、キンジも康介も、女嫌いなのによりによってアリアとか最悪だよね。アリアってさ、ヨーロッパ育ちだかなんだか知らないけど空気読めてないよねー」

 

「でもでも、アリアってなにげに男子の間では人気あるみたいだよ」

 

「あー、そうそう。3学期に転校してきてすぐファンクラブできたんだって。写真部が盗撮した体育の写真、万単位で売れるヤツもあるって聞くし」

 

「特に水泳とか新体操の奴は高値で売れてるらしいよ」

 

そんなどうでもいい情報を聞きながら、二人は思った。

 

(どうやら、神崎は武偵高の中でも、一際浮いてる存在なんだな)

 

(なんか、スゲー嫌な予感がする………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になると、キンジは教室を窓から飛び降り形で逃げ出し、一目散で走り出す。

 

「よぉ、キンジ」

 

校門の近くでは、康介が待っていた。

 

「ナイスタイミングだ」

 

「いいから、乗りな。厄介な連中が来る前にずらかるぞ」

 

「ああ」

 

キンジがバイクの後ろに乗り、康介はバイクを走らせる。

 

「今日は逃げ切ったが、明日はどうするか………」

 

「同じクラスだからな………逃げ道がねぇな……それよりよ、キンジ。お前さん、強襲科(アサルト)に戻る気はねぇのか?」

 

「断る。あんな血生臭くて、硝煙臭くて、鉄臭い場所、二度とごめんだ。俺は

一生探偵科(インケスタ)で行く。普通の武偵としてまっとうに生きていくんだ」

 

「武偵の時点で、まっとうからかけ離れる気もするぞ」

 

そうツッコミ、康介はキンジを探偵科(インケスタ)の男子寮まで送る。

 

「康介、上がれよ。神崎への対策考えようぜ」

 

「あいよ」

 

バイクを停めると、康介は、キンジの部屋に上がる。

 

ソファーに座ると、キンジは上着を脱ぎ、康介はマグナムを抜き、キンジの部屋に置いてある道具で、マグナムのメンテを始める。

 

「相変わらず、メンテするんだな」

 

「テメーの()は、テメーで手入れしないとな」

 

康介はメンテをしつつ、キンジに尋ねる。

 

「それで?どうやって、神崎に対抗するんだ?」

 

「それを今から考えるんだよ」

 

「……そもそも、どうして神崎は、俺とキンジのことを調べてたんだ?」

 

「それが分かったら苦労はしねぇよ。……まぁ、強いて言うなら、俺のヒステリアモードかもな」

 

「なるほど。その力目当てってことか。……だとしても、俺のことを聞く理由はなんだ?早撃ちなんて、誰にでもできる芸当だぞ?」

 

「0.3秒の早撃ちで、100m先の1セント硬貨すら撃ち抜く奴のどこが、誰にでもできるんだよ?」

 

「………神崎もそうだが、もう一つ気になることがある」

 

「なんだよ?」

 

「お前さんを狙った武偵殺しだよ」

 

康介がそう言うと、キンジは反応した。

 

「ただの模倣犯だろ?」

 

「模倣犯にしては手馴れていたって言ってんだよ。それに、大量のセグウェイにUZI、模倣犯がそろえるにしても、かなりの量だ。値も張るだろう」

 

「………確かに」

 

キンジが頭を抱え、何かを考え始める。

 

すると、部屋のインターホンが鳴る。

 

「鳴ってるぞ」

 

「ほっとけ」

 

そう言ってインターホンを無視するが、しつこくなり続け、キンジはとうとう諦めて、玄関に向かう。

 

康介は、最後のメンテを終わらせ、弾を込め、仕舞う。

 

それと同時に、リビングの扉が明けられる。

 

「あら、アンタもいたのね」

 

「神崎か?お前、どうしてここに?」

 

「キンジに用事があったのよ。ま、アンタにもあったけど」

 

アリアがそう言うと、後ろからキンジが、アリアの持ち物と思われるキャリーバックを引きずってくる。

 

「この部屋、アンタたち以外いないの?」

 

「俺は強襲科(アサルト)の男子寮だ。ちょいと訳合って、来てるだけだ」

 

「あっそ。ま、ちょうどいいわ」

 

「それで、神崎。一体何の用だ?用件言ってさっさと帰れ」

 

キンジはアリアの荷物を置き、そう言う。

 

「それはアンタの返答次第よ。それと、あたしの事はアリアでいいわ」

 

そう言ってアリアは二人の方を振り向く。

 

「キンジ!康介!アンタたち、あたしの奴隷になりなさい!」

 



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2弾 女には毒がある

奴隷。

 

その二文字にキンジと康介は頭を悩ませた。

 

アリアの顔は、決して冗談を言ってるような顔ではない。

 

(康介、どう思う?)

 

(本気とは思えないな。多分違う意味があるんじゃないか?)

 

(いや、でも、相手はリアル貴族だぞ。冗談じゃない可能性も……)

 

(そう言われると否定できねぇな)

 

「ちょっと、さっきから何固まってんのよ」

 

康介とキンジは、アリアに気づかれないように、指の動きだけで会話をしていた。

 

ついでに言うと、これは一般の武偵が使うものと異なり、康介とキンジが考えたものであり、アリアはそれに気づかなかった。

 

「いや、悪い。てか、奴隷ってなんだよ。俺たちに小間使いでもさせるってか?」

 

「それも悪くないわね。でも、今はそれより頼みたいことがあるの」

 

「頼みたいこと?」

 

「それよりさっさと飲み物ぐらいだしなさいよ!無礼な奴ね!」

 

「行き成り押しかけてくる奴は、無礼じゃないのか?」

 

「コーヒー!エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ!砂糖はカンナ!1分以内!」

 

康介の言葉も無視し、アリアはソファーにぽすっと座る。

 

そんなアリアに、キンジは溜息を吐き、台所に向かう。

 

「素直に従うからお前はダメなんだよ……」

 

キンジがコーヒーを入れる姿を見つつ、康介は溜息を吐く。

 

そして、キンジはインスタントコーヒーを三つ持ってきた。

 

「ほらよ」

 

「悪いな」

 

康介はお礼を言ってコーヒーを受け取る。

 

「これ本当にコーヒー?」

 

「それしかないんだからありがたく飲めよ」

 

「変な味、ギリシャコーヒーに似てるけどちょっと違う」

 

お礼すら言わないアリアに、康介は頭が痛くなりつつも、コーヒーを飲む。

 

「今朝助けてくれたことには感謝してる。それにその…お前を怒らせるようなことを言ってしまったのは謝る。でもなんでここに押し掛けてくる?」

 

「分からないの?」

 

「分かるかよ!」

 

「アンタは?」

 

今度は康介の方を見て聞いてくる。

 

「知るかよ。そもそも、俺は途中から来たんだ。あそこまでの経緯なんて知るか」

 

「アンタたちならすぐわかると思ったのに。んー、そのうち思い当たるでしょ、まあいいわ」

 

何一つよくないと二人は思いつつも、何も言わないでいた。

 

「おなかすいた。なんか食べ物はないの?」

 

「ベーコンとグリンピースならあるぞ」

 

「おっ!ベーコン豆か、いいね」

 

ベーコン豆は康介の好きな料理の一つで、キンジもまた簡単に作れることから好んでよく食べている。

 

「なにそれ?変な料理ね」

 

だがアリアには理解できない料理らしく、たった一言、変だけで片付けられてしまった

 

「流石に毎日ソレってわけじゃないでしょ。普段はどうしてるのよ?」

 

「俺の基本はベーコン豆か、下のコンビニだ」

 

「こんびに?ああ、あの小さなスーパーのことね。じゃあ、行きましょう」

 

「じゃあってなんだよ。じゃあって」

 

「決まってるでしょ。買いに行くのよ。もう夕食の時間でしょ。あ、そこって松本屋のももまんって売ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンビニで夕食を揃えた三人は再びキンジの部屋に集まり、夕飯を摂り始める。

 

康介はコンビニに行った隙に自身の寮に帰ろうとしたが、キンジにバレてしまい、いい笑顔で「俺たちは相棒だろ?逃げるなよ、次元ちゃ~ん」と肩を掴まれた。

 

康介のことを「次元ちゃ~ん」と呼ぶ時のキンジは、康介を巻き込む気満々で、もし逃げる様であれば、容赦なく愛銃のベレッタで撃ってくる。

 

武偵とは言え、コンビニの前で発砲事件なんかを起こしたくないので、康介は大人しくキンジに従った。

 

「それで、奴隷ってなんだよ?」

 

ハンバーグ弁当を食べつつ、キンジが訪ねる。

 

強襲科(アサルト)で、あたしのパーティーに入りなさい。一緒に武偵活動するの。あと、康介もよ」

 

アリアは買ってきた5個目のももまんを頬張り言う。

 

「はぁ?なんで俺もなんだよ?」

 

康介は適当に買った焼肉弁当を食べつつ、アリアに尋ねる。

 

「太陽はなぜ昇る?月はなぜ輝く?アンタたち、質問ばっかの子供みたい。仮にも武偵なら情報を集めて推理しなさいよね」

 

「……なぁ、神崎」

 

「アリアでいいって言ったでしょ」

 

「悪いが、俺はテメーを信じてねぇんでな」

 

「………どういうこと?」

 

「武偵が気を付けなければいけないモノ。金と毒。そして、女だ。金は言わずもがな、毒はどんな実力者でも一舐めすりゃあの世行きだ。ま、毒にもよるがな。俺はこの三つの中でも、特に女には気を付けている。女を庇って死んだ奴はごまんと見てきた。それに、ハニートラップを仕掛けられて、情報を漏らし、裏切られた奴もな」

 

「あたしは、そんな女とは違うわよ」

 

「そりゃな。お前さんの体型みりゃ、それ目当てじゃないのはわかってる」

 

康介のその発言にアリアはイラっと来て、ガバメントを抜こうとする。

 

だが、それよりも早く康介はマグナムを抜いていた。

 

その速さにアリアは目を見開きつつも、すぐに冷静になり、ゆっくりとガバメントから手を放す。

 

「話を戻そう。いくらお前さんが、Sランクの実力者だろうと、女とは組まねぇ。単純に信じられないからな」

 

そう言い康介はマグナムを仕舞い、立ち上がる。

 

「帰る。キンジ、明日までにソイツを追い出しとけよ、でなきゃ、絶交だ」

 

「絶交のハードル低すぎだろ!?」

 

「ちょ、待ちなさいよ!」

 

二人の声をさっさと無視し、康介は部屋を出ていく。

 

「女………か」

 

康介の脳裏に金髪の一人の女性の顔が過る。

 

「ちっ!嫌なこと、思い出しちまったな………」

 

帽子を深く被り直し、康介は寮へと向かった。

 

「嫌な夢見そうだな………」

 



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3弾 銭形と呼ばれた少女

「……ちっ!やっぱ嫌な夢見たな……」

 

寝汗でベットリとした体を起こし、康介は頭を掻く。

 

ワイシャツを脱ぎ、熱いシャワーを浴びて体を清める。

 

新しいワイシャツに着替え、仕度を終えると寮を出る。

 

教室に着くなり、アリアが教室にいないことを確認するとカバンを置き、教室を出ていく。

 

いつもの定位置に向かい昼寝を決め込もうとした時だった。

 

「次元君、ちょうど良かったです」

 

次元を呼び止めたのは、担任で、探偵科(インケスタ)の担当教師の高天原ゆとりだった。

 

「先生……何か用ですか?」

 

「はい。次元君にご指名ですよ」

 

そう言って、先生は次元に書類を渡す。

 

「俺宛に?」

 

武偵校では、優秀な生徒に教務科(マスターズ)から仕事が斡旋されたり、こうして外部から仕事を指名で依頼されることがある。

 

「朝から早々で悪いんだけど、受けるなら今すぐに現場に向かって欲しいんだけど」

 

「いいですよ。授業サボって寝るよりは、建設的ですし」

 

「できれば、授業には出てほしいんですけど…………」

 

そう言う先生の声を後に、康介は現場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛車のバイクで康介が向かったのは、とある美術館だった。

 

バイクを駐車場に止め、美術館に入る。

 

途中、入り口前にいた警官に止められそうになったが、武偵手帳を見せて、中に通してもらう。

 

「俺を呼んだのは、やっぱりお前か」

 

「やっぱり気づいてたんですね」

 

康介を出迎えたのは、東京武偵校の女子制服の上からベージュのトレンチコートを羽織り、頭には同色のソフト帽を被った一人の少女だった。

 

少女の名前は銭形浩美。

 

東京武偵校の二年生で、ICPOに出向している架橋生(アクロス)だ。

 

「俺を態々指名する物好きなんざ、お前さんしかいねぇだろうが」

 

「あら?私は康介さんの腕を評価した上で、今回の事件のお手伝いを頼んだんですけど」

 

浩美は口元をコートの袖で隠し、クスっと笑う。

 

「はぁ~……それで、今回は何の事件だ?」

 

「では、こちらに」

 

浩美に案内され、美術館の奥へと向かう。

 

「しかし、随分と物々しい警備だな」

 

「ええ、それだけ今回の事件は特別なんです。着きましたよ」

 

そう言って、浩美は康介にとあるショーケースを見せる。

 

そこには一本の刀が収められていた。

 

白鞘に納められ、鞘の形状が真っ直ぐなことから刀身の反りはほぼ直線か真っ直ぐに近い曲線だろうと、康介は推測する。

 

「この刀がどうかしたのか?」

 

「見てもらえれば、分かります」

 

そう言って、浩美はショーケースの鍵を開け、刀を取り出す。

 

「いいのか?」

 

「ええ。見る分には構いませんよ」

 

言葉に甘えて、康介は鞘から刀身を抜く。

 

「刃こぼれ一つしてねぇな。余程、修繕が旨いか、一度も使われなかったか、どちらかだな。だとしても、この時代にまで、これだけの保存状態なのはスゲェな」

 

「それはどちらも違いますよ」

 

「何?」

 

「その刀は、これまで一度も修繕したことも、一度も使われなかったこともない。その刀が生まれてから、今日この日まで使われ続けた物です」

 

「………冗談はよしてくれ。お前さんも武偵なら、分かるだろ。刀は消耗品だ」

 

康介の指摘通りである。

 

刀は人が思ってるより頑丈ではない。

 

刃が骨に当たれば刃は欠けるし、三、四人斬れば使い物にはならない。

 

「そうですね。ですが、一流の剣士が業物である刀を使えば、それも可能では?」

 

「………まぁ、有り得なくはないか」

 

康介はそう言い、刀身を戻し、浩美に渡す。

 

浩美は、刀をショーケースに戻し、鍵を閉め直す。

 

「で、この刀がどうしたんだ?」

 

「今日の早朝に予告状が届いたんですよ。この美術館に」

 

「予告状だと?」

 

「これです」

 

浩美が渡して来た予告状にはこう書いてあった。

 

『本日 未の刻 鉄を斬る剣を 頂戴に参る』

 

「随分と、古臭い言い方だな」

 

予告状を浩美に投げ返し、康介は頭を掻く。

 

「しかし、鉄を斬る剣………こいつがあの斬鉄剣って訳か」

 

斬鉄剣。

 

その剣の名を知らぬものは、武偵はもとより警察でも知らぬ者はいない。

 

文字通り、鉄を斬る剣ではあるが、鉄以外にもなんでも斬れる剣であり、その製法は未だに明かされてはいない。

 

康介自身、話では聞いてことがあるが実物を見たことがなかった。

 

「ええ。もっとも、その可能性のある一本の刀ですけどね」

 

「可能性のある?」

 

「知りませんでしたか?斬鉄剣の可能性のある刀は、現在、四本あります。一つは、とある一族が作り出した特殊合金で打たれた物。これは現在、その一族の現当主が保管しています。もう一つは、東洋の秘伝の金属で打たれた物。こちらは、アメリカのとある大富豪が所有しており、最新の電子金庫に保管してあるとのことです。そして……」

 

言葉を区切り、浩美はショーケースの方を指す。

 

「虎徹・良兼・正宗、三本の名刀を溶かし打ち直されたこの刀です」

 

「なるほど。それで、最後の一本は?」

 

「……流れ星の金属で打たれた刀。もっとも、これは現在、どこにあるかはわかりません」

 

「どういうことだ?」

 

「確かに刀は実在するのですが、今は誰の手元にあるのかは不明なんです。ま、それはともかく、問題は、何者かがこの斬鉄剣を狙っているということです。銭形の名に懸けて、この刀を盗ませません」

 

拳を握り、厳しい目つきになって浩美は言う。

 

康介は、溜息を吐きながらも帽子を被り直し浩美を見る。

 

「わーったよ。犯行予告時間まで、俺もここで警備に着けばいいんだろ?やってやるよ」

 

「流石は康介さん。期待してますよ」

 

浩美は、先程とは打って変わって笑顔になり、康介の背中を叩く。

 

「だが、未の刻って言えば、確か13時から15時の間だよな。まだ結構時間あるぞ」

 

康介の言う通り、時刻はまだ11時になったばかり。

 

予告時間まで、まだ2時間ほどある。

 

「ええ。少々早いですが、昼食にしましょう。それに、康介さんのことを口説かないといけませんのでね」

 

「お前さんの相棒になって、ICPOに出向しろって話ならお断りだぞ」

 

「あら?バレてましたか。では、普通にデートと行きましょう」

 

「ただ昼めし食いに行くだけだろう」

 

「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか。この近くに、美味しい和食のお店があるんです。海外の料理もいいですけど、やっぱ日本食が一番ですしね」

 

小走りに美術館を出ていく浩美の背中を見て、康介は今日何度目かわからなくなる溜息を吐き、その後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、犯行予告の13時が回ってきた。

 



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4弾 斬鉄剣を守れ

久々の更新で忘れ去られてるかもしれませんが、更新は不定期でします


「14時だな。不気味なほど静かだ」

 

康介は自身の腕時計を確認し、そう呟く。

 

「まだ14時です。犯行予告時刻は13時から15時の間。15時が過ぎるまで、油断はできません」

 

一方で、浩美は辺りへの警戒を怠らず気を張り巡らせながらそう言う。

 

その瞬間、浩美の持つ無線に通信が入った。

 

「はい、こちら銭形」

 

『ぜ、銭形武偵!犯人です!例の予告状の犯人と思われる人物が現れました!』

 

「本当ですか!?今犯人は何処に!」

 

『そ、それが正面入り口の警備を倒し、そのまま乗り込んできました!』

 

まさか、正面から正々堂々と来るとは思っておらず、これには浩美も康介も驚いた。

 

『現在、展示室前の階段を駆け上ってうわああああああ!!』

 

その言葉を最後に無線が切れ、ノイズ音だけが無線から虚しく聞こえる。

 

「おい、浩美」

 

「ええ、分かってます」

 

浩美は康介にそう言い、懐からコルトM1911A1を抜く。

 

(……そう言えば、神崎の銃もコルトだったな)

 

そんなことを思いつつ、康介も愛銃のマグナムを抜こうとする。

 

マグナムに手が触れた瞬間、突如扉が勢いよく開き何者かが飛び出してくる。

 

顔は紫の頭巾で隠されているが、袴姿の小柄な人物だった。

 

「止まりなさい!」

 

浩美は素早く銃を向け、威嚇射撃をする。

 

だが、その人物は怯みもせず突っ込んでくる。

 

「喰らいな!」

 

康介は狙いを素早く定め、引き金を引く。

 

しかし、その人物はこれも躱し康介に接近する。

 

軽くジャンプし、そのまま康介の胸に蹴りを入れる。

 

「うをっ!?」

 

蹴りを喰らった康介は、そのまま床に転び、襲撃者を斬鉄剣が収められているケースへの接近を許してしまった。

 

そして、襲撃者はそのまま素手でケースを破壊し斬鉄剣を手にした。

 

「この野郎!」

 

康介は床に寝転がる様に転び、銃を撃つ。

 

そして、放たれた弾丸は襲撃者の持つ斬鉄剣へと向かう。

 

「しまった!?」

 

刀や剣などは、刃の横から衝撃を与えると壊れやすい。

 

康介の撃った弾丸は、斬鉄剣の横っ腹目掛け飛ぶ。

 

弾丸は斬鉄剣の鞘を砕き、刀身をへし折る。

 

そう思った。

 

次の瞬間、襲撃者は一瞬で斬鉄剣を構え、そして、抜刀した。

 

弾は切り裂かれ、そのまま襲撃者の背後の壁に二つの穴だけを残した。

 

「嘘だろ……!」

 

弾丸をも斬れる斬鉄剣のキレ味にも驚いたが、康介はそれ以上に襲撃者の技量とその能力にも驚いた。

 

亜音速で飛来する弾丸を追える動体視力、ソレを刀で切り裂く技、そして、刃毀れ一つ起こさない技量。

 

どれをとっても一流のものだった。

 

(武偵ならA……いや、Sランククラスだな!)

 

そんなことを思いながらも、康介は発砲する手を止めない。

 

素早く立ち上がり得意の連続早撃ちを繰り出す。

 

だが、襲撃者はその全ては斬鉄剣一本で防ぐ。

 

「ちっ!」

 

康介は素早くシリンダーから排莢し、左手でシリンダーと銃を持ち、右手の人差し指と中指の間に弾を二発、そして、中指と薬指の間に一発挟み同時に三発をリロードする。

 

そして、同様に弾を持ち、手首を捻って残りをリロードする。

 

ここまででリロードに掛かった時間は一秒にも満たない。

 

至近距離で康介は、襲撃者に発砲する。

 

しかし、襲撃者は至近距離からの発砲に対しても斬鉄剣で弾丸を防ぎ、康介へと向かっていた。

 

「おりゃ!」

 

康介は脚を上げ、蹴りは襲撃者の手に当たる。

 

斬鉄剣を持つ手は上へと上がり、わずかばかりの隙が出来る。

 

その隙を逃さず、康介はマグナムを襲撃者の足へと向け、発砲する。

 

唐突だが、武偵には武偵法と言うものがある。

 

その中にある9条に、『武偵は如何なる状況においても、その武偵活動中に人を殺害してはならない』と言うのがある

 

康介の使うS&W M19は.357マグナム弾と言う弾を撃つことが出来る。

 

.357マグナム弾は威力が高く、殺傷能力も高い。

 

つまり、当たり処関係なしに人を再起不能にしてしまう。

 

だからこそ、康介は装備科(アムド)の知り合いに頼んで.357マグナム弾(タイプ)の弱装弾、通称“弱装マグナム弾”を特注で作らせ、使用している。

 

鈍く、強い痛みが襲撃者を襲い、襲撃者は頭巾の下で、顔を苦痛に歪ませる。

 

だが、襲撃者はその痛みを抑え込み、康介に斬り掛かる。

 

今の一発で、康介のマグナムは残弾が零。

 

襲撃者はすでに目の前。

 

斬鉄剣の刃が、康介へと振り下ろされる。

 

しかし、その動きは唐突に止まった。

 

何故なら、襲撃者の左手には手錠が嵌められていた。

 

そして、本来なら鎖がある部分は縄があり、縄の先を持っているのは浩美だった。

 

「へっ!俺ばっか気にして、周りが疎かになったな」

 

「康介さんばかり、見てるんじゃありません!」

 

そう言い、縄を一気に手繰り寄せると同時に走り出し、浩美はバランスが崩れた襲撃者の胸ぐらを掴む。

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

そして、そのまま一本背負いをする。

 

「ぐっ!?」

 

流石のコレは効いたのか、襲撃者は苦しそうな声を出す。

 

「これで終わりです」

 

そう言い、浩美は襲撃者の右手にも手錠をかける。

 

「流石だな。銭形警部自慢の生け捕り術と手錠捕縛術」

 

「まだまだ父には及びませんけどね」

 

浩美の父、銭形幸一。

 

彼の名を知らない者はICPOは愚か、警察や武偵、その筋で生きる者には居ない。

 

数多くの犯罪者を捕まえ、その功績から特例として銃の所持・発砲許可と逮捕権を与えられた。

 

さらに、本来なら武偵でも御法度とされる犯罪者の殺害も特例で許可されていた。

 

だが、銭形警部はあくまで自身を一介の刑事と言い、銃は所持しても発砲することは少なく、犯罪者は全て生け捕りにし、引退するまで一度も犯罪者を殺したことがなく、加えて取り逃したこともない。

 

浩美は、そんな父に憧れ、父の様な優秀な刑事になりたいと思っている。

 

事実、浩美は威嚇射撃はしても犯罪者に対しての発砲はしたことがない。

 

武偵の道に進んだのも、何かと都合がいいからだ。

 

「ともかく、これで仕事は完了。報酬はいつも通りで頼む」

 

「ええ、分かってます。お疲れ様でした。それにしても………私たち、やっぱりいいコンビになれそうじゃないですか?」

 

「だから、お断りだっての!」

 

康介はそう言い残し、美術館を後にした。

 



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5弾 キンジの帰還

ある日の放課後、康介は久しぶりに強襲科(アサルト)棟に顔を出していた。

 

「次元君、久しぶりだね」

 

「不知火か。元気そうで何よりだ」

 

声をかけてきた同級生で、クラスメイト、そしてAランク武偵の不知火亮が声をかけてきたので、康介も挨拶をする。

 

「ここに顔を出すの、随分久しぶりなんじゃない?」

 

「かもな。最後に顔出したのいつだったか、憶えてすらいねぇや」

 

そう言い、康介は射撃レーンへと向かう。

 

「射撃訓練かい?」

 

「ああ。たまには、弱装弾じゃなくて本物のマグナム弾を撃ってやらねぇとな」

 

リボルバー内に.357マグナム弾を籠め、いつも通り背中側に差し戻す。

 

「勝負するか、不知火?」

 

「次元君相手に射撃勝負なんて、勝つ気がしないけど、折角誘われたんだし、いいよ」

 

不知火は自身の愛銃“H&K MARK 23”、ソーコムを構える。

 

「じゃ、始めるぞ」

 

射撃レーン使用のブザーが鳴り、それを合図に不知火はターゲットに発砲する。

 

康介はブザーを合図に、マグナムを抜き、早撃ちで6発を撃ち切る。

 

撃ち切ると素早くリロードし、再びターゲット目掛け撃つ。

 

互いに12発撃ち切り、ターゲットの確認をする。

 

不知火のは、多少のズレはあるものの、全てが中心の円に当たっていた。

 

「流石だな」

 

「次元君にそう言われると光栄だよ。でも、次元君には敵わないね」

 

そう言い、不知火は康介のターゲットを見る。

 

康介のターゲットには、中心にのみ穴が開いている。

 

最初に当たった穴目掛け、早撃ちで弾丸を通すと言う技を康介はやって見せたのだ。

 

「こんなの宴会芸の範疇だ。実戦じゃ、ここまでのことはできやしねーさ」

 

そう言って、康介は新しい弾を込める。

 

その時、急に棟内が騒がしくなった。

 

「どうしたんだろう?」

 

「さぁな。なぁ、ちょっといいか?」

 

近くにいた生徒を捕まえ、康介が尋ねる。

 

「ん?なんだよ?」

 

「急に騒がしくなったんだが、何かあったのか?」

 

「キンジだよ。キンジが帰ってきたんだよ」

 

「なに?」

 

キンジが強襲科(アサルト)に戻って来たと聞き、康介は驚く。

 

足早に強襲科(アサルト)棟の出入口に向かうと、そこには多くの生徒に囲まれているキンジがいた。

 

「キンジ!」

 

「康介か!ちょっと助けてくれ!」

 

「たっく、仕方ない奴だな」

 

呆れつつも、康介はキンジに群がる生徒を追い返し、キンジを救出する。

 

「それで、どんな風の吹き回しだ?お前さんが、強襲科(アサルト)に戻ってくるなんざ、ちょっとしたニュースだぞ」

 

「アリアだよ。それと戻ったんじゃなくて、自由履修で来ただけだ」

 

「神崎だと?」

 

アリアの名前を聞き、康介は嫌そうな顔になる。

 

キンジの話によると、昨日、アリアにキンジの体質、ヒステリアモードのことについて迫られ、勢い余ってキンジは自由履修で、一度だけ強襲科(アサルト)に戻り、そこで起きた事件を一つだけアリアと共に解決すると言う条件を付けて、アリアと一時的にコンビを組むことになったらしい。

 

「お前ってやつは………だからお前はダメなんだよ」

 

「何がダメだって?」

 

「そこで、変に妥協するから厄介な事になるんだろうが!」

 

「これでも、俺なりに頑張って交渉したんだよ!」

 

「小学生だって、小遣いのUPにもうちょっとマシな交渉するっての!」

 

互いに罵り合う様に口喧嘩するも、二人は何処か楽しそうな表情をしており、その姿をアリアは遠目に眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっく、康介の所為で時間が無くなっちまっただろ」

 

「俺の所為だってか?よく言うぜ。あいつらの相手してたからってのもあるだろうが」

 

「銃の訓練ぐらいはしたかったのに………」

 

二人肩を並べて強襲科(アサルト)棟を出て、寮に帰ろうとしていた。

 

「キンジ、康介」

 

そんな二人の前に、アリアが現れた。

 

「なんてオメーがここにいるんだよ、神崎」

 

「何処で何してようと、私の勝手でしょ?」

 

アリアはそう言うと、キンジの方に視線を向ける。

 

「それにしても、アンタって人気者だったのね。ちょっと意外だったわ」

 

「別に、あんな奴らに好かれたくもない。そういうお前はどうなんだよ?」

 

「私は………実力差があり過ぎて誰も近寄ってこないわ。まぁ、あたしは“アリア”だからいいんだけど」

 

普段と違うイントネーションで自分の名前を読んだことにキンジが首を傾げる。

 

「オペラの一人で歌うパートのことだな」

 

そんなキンジの疑問を察して、次元が呟く様に言う。

 

「なるほどな……で、ここで俺と康介を奴隷にして“トリオ”にでもなるつもりか?」

 

「うまいこと言ったつもりかよ。面白くねぇぞ」

 

アリアの方を見ずに、そう言うキンジに、康介は辛口のコメントをする。

 

しかし、アリアはクスクスと笑った。

 

「あんたも面白いこと言えるんじゃない」

 

「面白くないだろ」

 

「面白いわよ」

 

「お前のツボが分からん」 

 

「やっぱりキンジ、強襲科(アサルト)に戻ったとたんちょっと活き活きし出した。昨日までのアンタはなんか、自分に嘘ついてるみたいで、どっか苦しそうだった」

 

「そんなこと……ない」

 

キンジはまるで本当の事を言われてるかのような気分になり、足を僅かに速める。

 

「てか、俺を頭数に入れるなよ。組むのはお前と神崎なんだから、コンビだろ」

 

先程のキンジのギャグに、自分が入ってることに気づき、康介はそれを指摘した。

 

「何言ってるのよ?あんたも一緒に決まってるでしょ。キンジとはそう言う風に話がついてるわよ」

 

「なんだと?」

 

アリアにそう言われ、康介はキンジを見る。

 

「おい、キンジ。どういう事だ?」

 

「あぁ……いや、そのな………アリアに出す条件としては少し弱いと思って、条件の中に、お前も含めた」

 

「はぁっ!!?」

 

今になって明かされた取引の内容に、康介は声を上げる。

 

「キンジ、お前な!」

 

そして、キンジの胸ぐらをつかみ引き寄せる。

 

「なに勝手に俺のことを取引材料に使ってんだよ!てか、なんで黙ってた!」

 

「言ったら、お前怒るだろ?」

 

「当たり前だ!俺は女とは組まねぇんだよ!」

 

「そう固いこと言うなよ」

 

「お前って奴は…………はぁ………」

 

康介はキンジの胸ぐらから手を放し、溜息を溢す。

 

「………一回だけだぞ」

 

「悪いな、康介」

 

最終的に康介が折れてキンジの出した条件を飲み、こうして康介はアリアのチームに一時的な加入をすることになった。

 




だいたいルパンって次元や五右衛門に対して一部のこと(主に不二子関係)を隠して仕事に付き添わせて、現場でついポロっと漏らし問い詰められるってこと多いですよね

次回から時間が飛んでバスジャックになります


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