第6宇宙の最強サイヤ人 (ジーザス)
しおりを挟む

往来

ドラゴンボール超の未来トランクス編が大好きな作者です。知識ゼロなので間違っていればご指摘お願いします。


ここは惑星サダラ。

 

数多ある裏路地のとある一角で、大勢の男達に囲まれた好青年が1人立っていた。

 

「おい兄ちゃん、何してんだ?こんなところでよぉ」

「パトロールだ」

「正義のヒーロー気取りか、あーん?」

「近いな...」

 

戦闘ジャケットを着たガラの悪そうな男達が脅しをかけている。肌は浅黒く、ピアスやらリングなどを耳につける様子は、ヤクザや不良にしか見えない。

 

「ビビって言葉もでねぇのか、あーん?」

「離れてくれないか?そろそろ我慢の限界なんでな」

「おうおう、舐めた真似してくれるじゃねえか兄ちゃん。これはお仕置きが必要なようだな」

 

リーダー格らしき男が拳を握ると、ひゃひゃひゃひゃひゃ!と取り巻きが笑い出す。リーダー格と思しき男は、その肩書きに恥じないほど鍛え抜かれた肉体美を晒していた。隆起した胸板に押し上げられた戦闘服の胸部。死線をくぐり抜けてきたのであろう治りきっていない傷跡が残った上腕。

 

街を歩けば誰もが歴戦の戦士だと思い疑わない見た目の男は、ワルの笑みを浮かべながら指の関節を鳴らし脅しをかけた。だがその青年はため息を吐き出すだけで、萎縮する様子もない。

 

「なんか言えやこらぁ!」

 

雑魚キャラ感満載にいっちょ前のセリフを言いながら、上目遣いに脅してくる男の頭を掴む。

 

「離せやこら!待ってあ!?...いやいやいやちょちょちょちょ待って!」

 

両側に建つ建物の壁を交互に蹴り、屋根へと到達した青年はプロ顔負けの投球フォームを取る。まさかの様子に青年を囲んでいた男らは、ポカーンとして上を見上げている。頭を掴まれたままの雑魚キャラは、何をされるのか予測したらしく激しく暴れる。

 

「動くなよ。じゃないと綺麗に投げつけれないだろう?」

「待って!いや、待ってくださいそれだけは勘弁「ふん!」ぁだぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

ヒューン、キラーン!という効果音が似合う速度で、真昼の大空に星を瞬かせた男は手を額に掲げ告げた。

 

「よい旅を」

 

屋根から飛び降りたのだが、ワル共は通行人たちと同様に星が煌めいた方角を見上げたままだった。

 

「全員ああなりたい?」

 

コンマ1秒で逃走した男達であった。土煙を上げながら逃走する男達から「覚えてやがれぇ!」「次会った時はただじゃ置かねえぞ!」「せいぜい足掻くことだな!」という捨て台詞が聞こえてくる。

 

無愛想に手を振ることでワル共の学習を褒める。

 

「悪かったな待たせて」

 

声をかけると路地裏から3人の子供が恐る恐る出てきた。青年が質素な麻の道着の内側から取り出した葉に包まれた肉を見て、子供たちの眼が輝き涎を飲む音が聞こえた。

 

「時間が経ったから冷えてしまった。だが味だけは保証するぞ」

 

差し出すと我先にと飛びかかる子供たちに苦笑する青年。少ないがご馳走にありつけたことで空腹感が満たされたのか、子供たちはお礼を言ってから遊び始めた。

 

角を曲がって笑い声が聞こえなくなったところで、下げていた腰を上げる。路地裏から出た青年は、この星の陸地における中心にそびえる城に眼を向けた。

 

そこにいるであろう貴族と王族を見据えるように。だがその視線は崇めているでも支持するでもない。嫌悪感を抱くような負の感情が含まれていた。

 

自身の迷いを振り払うかのように視線を外した青年は、王宮とは反対方向に足を踏み出した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

呼び出し

上手く書けてるのかな?不安になります。


ヤンキー共を成敗してからそれなりの時が経った頃。王から呼び出しを受け、嫌々宮殿へやってきていた。

 

「用とは何だ」

「貴様、礼儀を弁えぬか!」

「雑魚は引っ込んでろ。権威でしか争うことができない輩と話すつもりはない」

「貴様ぁ!」

 

豪華に飾り付けをした長衣を着た男が罵ってくるがそれがどうした。本気を出さずともここらの大半には余裕で勝てるから気にせず挑発できる。

 

だが侮れない存在がいるのも事実なため自制する必要もある。

 

「…よい、余の前でも自身の態度を変えぬという心意気に免じて許そう。では本題にでも入りたいのだが構わないか?」

「勝手にしろ。俺だって暇ではないし、此処にいること自体が不快だ」

 

ああ、そうだ俺はこの星のこの場がもっとも嫌いな場所だ。贅にふけり怠惰に溺れるような集団が集まった場所など、不快以外の何物でもない。

 

「よくもまあ、国王である余の前でその態度を崩さずにいられるものだ」

「生憎俺は礼儀とかに疎い存在なのでな」

「ふんっスラム出身が…ぐあっ!」

「死にたくなかったらそれ以上口を開かないことだ」

 

余計な言葉を発した貴族に、気弾を撃ち込むことで物理的に黙らせる。それほど威力を上げて撃ち込んだつもりはないが、日頃から鍛えていない肉体にはそれなりのダメージがあるようだ。

 

悪党を毎日のように懲らしめ、戦っている俺と比べれば仕方のないことかもしれないが。

 

「貴様らも自制せぬか。報告によれば先日、エリート部隊の小童共がこの男に喧嘩をふっかけて呆気なく一蹴されたところだ」

「その小童共とは?」

「《サダラ防衛隊》三班 分隊長ピーマ率いる以下5名だ」

「「「「なっ!」」」」

 

王の口から発せられた驚愕的真実に、〈王の間〉に集った貴族や大臣などが一斉に言葉を失った。

 

〈サダラ防衛隊〉は、簡単に言えば悪を懲らしめる正義の軍隊だ。戦闘能力に秀でたエリートの集団である。防衛隊に推薦されることでさえ名誉であり、配属されることはそれ以上の名誉なことである。

 

分隊長クラスにまで昇進すると、惑星全土にその名前が広まることとなる。そしてその中でも一班から四班までの分隊長は、《サダラ四天王》と称され〈王の右腕〉やら英雄として扱われる。

 

ピーマはその4人の中でも屈指の腕前であると言われている。それと同時にかなりのくせ者扱いをされているが。

 

彼の部下もピーマの名前に劣らず腕前は確かなのである。しかしそんな彼等が名も知れず素性も定かではない青年に、こっぴどく絞られることなど真実なのかと疑問に思うのであろう。

 

「その腕を見込んで頼みがある。後日開催される〈力の大会〉に、《第6宇宙》代表として出場してもらいたいのだ」

「断る」

「…何?」

 

二つ返事で断りを入れた青年に、さしもの王も不機嫌な表情を隠すことができなかった。

 

「その要求には応えられないと言った。それに出場して俺になんのメリットがある?何もないだろう」

「陛下が貴様の腕を見込んで頼んでいるのだぞ!それを無碍にするとはどういう了見だ貴様!?」

「どうしろと言いたい?俺は戦いになど興味はない。あるのは子供の嬉しそうな笑顔を護ることだけだ」

「…偽善者が」

 

ぽつりと呟かれた言葉に怒りが込み上げたのか、青年が握りしめた拳がさらに強く握られる。それと同時に彼の全身から圧が発せられ、宮殿全体が小刻みに揺らぎ始めた。

 

「なんだこれは!何が起こっている!?」

「床がいや、宮殿自体が震えているというのか!?」

 

事態を理解できていない貴族共の声が、余計に青年の神経を逆なでる。眼には憎しみというより、憎悪にも似た光が生まれ今にも爆発しそうだった。

 

「やめい。其方も事を荒たげるな」

「…話は終わりだ。俺以外を当たることを勧める」

 

そう言って〈王の間〉から出て行こうとした青年の背に、予期せぬ言葉が投げつけられた。

 

「其方が出場してくれるのであれば、其方が活動している場所の治安を改善し衣食住を提供しよう。もちろんその場限りではなく、未来永劫維持することを約束する」

「王よ、それは過ぎた報酬なのでは?それほどの財をこのような素性も知れぬ子供に与えるなど」

「この星だけではなくこの宇宙全体の滅亡の危機なのだ。防ぐため自らを犠牲にしてまで戦ってもらうというのに、それに似合う報酬がなければ意味はない」

 

つまり王自身のためにではない。この宇宙、《第6宇宙》全土のために戦ってほしいと言っているのだ。負けることは許されないことではなく、この宇宙のために戦ってくれるだけでもいいと王は言っている。

 

「…考えさせて貰えるだろうか。返事はまあ期待して貰っても構わない」

「良き返答を期待している」

 

振り返ることもなく返答してから、〈王の間〉の扉を押し開けて青年は出て行った。青年がいなくなったことで、〈王の間〉には安堵の空気が流れている。

 

「ふぅ」

「大丈夫ですかな王よ」

「何、ほんの少し疲労を感じただけだ。気に病むほどではない。しかしあの青二才は何者だ?あれほどの圧力を感じたのは久方ぶりだ」

「生半可な鍛え方では、あれほどの力を見せることはできませんでしょうからな」

 

王の〈知〉としての右腕である初老の男は、青年が立っていた場所へと視線を向けながら、吟味しているような表情を浮かべている。2人以外にはおらず全員彼の発した圧にやられたのだろう。気分転換にでも外出したようだ。

 

「これならば《破壊神選抜格闘》に出て貰えればよかったのですが」

「その時は彼の存在を知らなんだ後悔しても遅かろうよ。シャンパ様が直接命令すれば出ないわけにもいかぬが、されるとは思えない以上余が頼み込むしかないのだ」

「返事はどうなるでしょう」

 

期待を込めた様子で聞く男に、若き王は口元に笑みを浮かべながら確信めいた様子で発した。

 

「受け入れるだろう。正義感に熱い彼の者のことだ余程のことがない限り断ることはない」

「余程のこととは?」

「スラムの子供らが死ぬような事態だ」

 

王はマントを翻し〈王の間〉を出て行くのであった。




ピーマは野菜のピーマンからとりました。重要人物ではないので簡単な名前でいいかなと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

模擬大会①

ドラゴンボール超を〈破壊神選抜格闘試合〉から見直している作者です。映画を2Dと4Dで見て衝動で書きたくなったので期間を短縮して投稿することにしました。


それから数ヶ月の時が過ぎた。〈力の大会〉に出場してくれと言う惑星サダラの王の願いというより、強制に近い形で受けることにした。対価も悪いものではなかったし、《第6宇宙》の代表として出るのも悪くないと思った。

 

そういうことで参加を決めた俺は、王に意思表明を行いギブアンドテイクで行くことにした。強力な敵と戦うためには自身を鍛える必要があった。無理を言って立ち入り禁止区域への進入を許可してもらい、修行に明け暮れた。

 

 

 

 

 

ある日、惑星サダラ全土に御触が出された。それには〈強者を求む 腕に自信がある者は集え〉とだけ書かれており、それ以外には日にちと会場が記されていた。

 

俺は別段することもなく修行の休憩日として市場を歩いていただけだが、人垣を見つけたので屋台の上から見下ろす。

 

するとそこに先程説明した文字が書かれていた。意気揚々と雄叫びを上げる筋肉男などが、我先にと試合会場へと駆けだしていく後ろを姿微笑ましそうに見送る。

 

強さを求めるのは男として普通のことだし、金と名声を手に入れたがるのは知性を持つ生き物として可笑しくはない。

 

開催日は2日後。この街からそこに着くには、1日はかかるから今この瞬間から向かうのは正しい。まあ、それは交通機関を利用したらという注釈付きだが。

 

惑星サダラはサイヤ人の他にもたくさんの種族が存在している。

 

工学系の知識に富んだ者。

 

環境系の知識を有する者。

 

機械系の知識を有する者。

 

多種多様な多方面に優れた技術者がいる。

 

そのおかげで惑星サダラは他の宇宙に後れを取るどころか、勝るほどの文明を有している。〈サダラ防衛隊〉によって危険な惑星や星々から避難民を連れて帰ることで、優れた技術がもたらされた。

 

救助者からすれば命は助かるわ職業にありつけるわで、サダラからすれば文明は発達するわ支持は得られるわでメリットしか存在しない。だがメリットだけの話など存在しないかのように、問題はそれなりにある。

 

例えば言語・生活習慣・宗教。さらには土地などだ。

 

宮殿周辺はかなり環境が整っているが、裏側になると悲惨でしかない。荒廃した景観とやせ細った土壌という環境汚染的な状態である。

 

王や大臣たちもなんとかしようと努力してはいるのだが、焼け石に水または雀の涙といった状況なのである。俺にとってはあまり関係のない話なので別段気にしていないが。

 

先程まで歩いていた通りを脇に逸れて、迷路のように入り組んだ裏通りを抜ける。その先は大通りと同じ土地なのかと疑うほどさみしい景観だ。王族や貴族などからすれば近寄りたくもない場所。

 

そうここは俗に言うスラム街だ。窃盗・殺人がいつ起こっても可笑しくはなく、味方と言える存在はいない。自分を護るのは自分だけ。弱肉強食という言葉を体現した場所がスラム街。

 

〈力こそが全て〉であるスラム街は、強くなければ生きていくことはできない。

 

「あ、兄ちゃんだ!」

 

木材と藁で建てられた家の入り口に、座り込んでいた少年が俺を見つけて走り寄ってきた。俺もスラムで育ったから信頼できる存在がいることがどれほど嬉しいことか。子供の無邪気さは宝だ。

 

「今日はお別れを言いに来たんだ」

「え?」

「俺はこれから旅に出る。いつ帰ってこれるかもわからない。だが必ずこの星にこの場所に戻ってくるから待っててくれ」

 

涙を流さないと決めていたのにいざその瞬間になると堪えきれなくなった。嗚咽も漏らすまでではないが肩が震えるのは止められなかった。

 

「戻ってきてくれるんでしょ?だったら僕は泣かないよ」

「…強いな。俺にはない強さだ」

「強さにだって種類はあるんだ。負けない強さは兄ちゃんが泣かない強さを僕が持ってる」

 

5歳も年下に教えられるとは俺もまだまだだな。強さには色々あるのは知っていたが身を以て教えてもらえたのは今日が初めてだ。

 

「もう行くがみんなの世話は頼んだ」

「任せてよこれでも年長者だ」

 

手を振って自分のねぐらへと向かった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

半日かけて試合会場へは空を飛んで行ったが、それほど注目を集めることはなかった。もちろん求めていたわけではなかったが、そうなることもあるのではと思っていただけだ。

 

いざ会場に足を踏み入れるとその巨大さに驚く。宮殿より小さいがそれでも巨大だと思わされる。

 

これほどの会場を造るとなると、資金は莫大なものになるのはスラム出身の俺でも容易に想像がつく。出場者は見渡しただけでも数千人はいるだろう。

 

強さに自信がある奴らばかりだろうが、そう上手く行くはずもない。自分だって腕には自信があるが、それがどこまで他人に通用するのかはわからない。

 

「おい、そこのガキ」

 

壁際に荷物を置こうと歩き出すと後ろから声をかけられ振り返る。見てげんなりとした表情を浮かべてしまったのは失態だと認識する。

 

「あの時はよくもコケにしてくれたもんだな」

「…お前か。どう考えてもあれは自業自得だろう」

「てめぇのせいで次の日から俺はゴミ扱いだ。〈サダラ防衛隊〉分隊長のくせに、一般人に負けるなんて一生の笑いもんだ!」

 

そうやって大声で怒鳴れば怒鳴るほど、自分の首を絞めることになると気付いていないのか?自分の黒歴史をこれだけの人数が集まる大会、さらには選手控え室でこうもまくしたてるとは。余程のことがあったと見て良いだろう。

 

知ったこっちゃないんだがな。

 

「不満はいつでも聞いてやるから、まずはその五月蠅い口を閉じろ。それ以上喚けばお前の首を余計に絞めることになるぞ。俺は一向に構わんがな。むしろお前が喋れば喋るほどお前の評価は下がり、俺の名が知れ渡ることになる」

「黙れ!」

 

右の掌を広げて押し留めた後、反対の親指で自分の背後を指差した。その先に視線を向けたワルは、不満爆発とばかりに俺へ鋭い視線を向けてから去って行った。

 

壁には〈一切の戦闘を禁ずる〉と書かれた張り紙が赤文字で大きく描かれている。

 

よく見れば四方の壁にも、同じように描かれているから眼にできないはずがない。まあ、さっきの様子から察するに俺への勝手な私怨で、視界が狭まっているところに俺を見つけたのだろう。

 

迷惑な話だがここで問題を起こさなかっただけありがたい。

 

『えぇ~、この度〈格闘武道大会〉に参加いただきありがとうございます。私は今大会の責任者のオニオンと申します。この大会は非公式であるため!内部でどのようなことがあったのかはご内密に願います。もし情報が漏洩した場合は、スパイ容疑として惑星全土に指名手配させていただきます。ご理解の程をよろしくお願いします』

 

突如ライトが点り、壇上に上がった男性にスポットが当てられる。質素でありながら華やかに見える服装は、かつての王宮を連想させた。

 

情報漏洩禁止とは厳重だな。公にはできない事情が絡んでいるのは、機密保持するための手段を見れば一目瞭然。話すつもりは毛頭ないし問題はない。王や大臣の悔しがる顔を見るのは面白そうだが、そうあれば子供たちが危険にさらされる。

 

自分より他人を優先するように、生きてきた俺からすれば切り捨てることはできない。

 

『試合は翌日の正午より開催され、ルールはバトルロイヤルで行います。時間は無制限で残った5人が決勝トーナメント進出となります。ちなみに武器の使用は禁止、また殺人も同様です。ルール違反をした場合は、速やかに退場してもらいます。従わぬ場合は、刑罰が科せられますのでご注意ください』

 

上位5人が惑星サダラのトップを争って戦うってわけか。面白そうだな。どれほど強い輩がいるのかをこの身を以て知ることができる。俺は意外と戦闘マニアだったって事が今ようやくわかった。今まで戦っていた理由としては、子供たちを護るという目的意識があったからだ。

 

だが今の俺は自分が楽しむことを望んでいる。他人のために生きていくと決めていたのに、こうなってはその誓いを変更しなければならないようだ。

 

だが簡単に勝てるはずもないだろうな。これだけの人数が来ているのであれば、〈サダラ防衛隊〉の奴らも出てきているだろうし。

 

『上位5人のうち1人は既に決定しております。惑星サダラが誇る精鋭〈サダラ防衛隊〉のエリートで若きホープ。その名はキャベ!』

「「「「「「「おおぉぉぉぉぉ!」」」」」」

 

まったく接点のない俺でもその名前は耳にしていた。勇敢で強いにもかかわらず、優しく仲間思いだと言われている。選手控え室を振るわせるほどの声量を上げたのは、壇上に上がったキャベと似た戦闘ジャケットを着た奴らだった。

 

予想通り〈サダラ防衛隊〉から幾人かが参加していたようだ。照れくさいのか、大声を上げている奴らにキャベが静かにするよう口に人差し指を当てている。

 

『彼はその才能を見いだされ、今回の大会においてチャンピオン扱いとなることが決定しております。トーナメントの優勝者がキャベ選手への挑戦権を手にし挑むことができます。さあ皆さん全力で盛り上がりましょう!』

 

乗せるのが上手いとしか言えないな。だが俺も乗り気でないわけではなかったので少々の羽目を外すことにした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

翌日の正午。試合開始のゴングが鳴るとステージのあちこちで取っ組み合いや集団で個人へ挑む輩など、戦闘方法は様々で決勝トーナメント進出へ向けて頑張る出場者。

 

最初から飛ばしていると体力が保たない。なんせ時間は無制限なのだから。いくら体力に自信があっても限度というものがある。

 

「見ぃつけたぁ」

「げっ」

 

一番見つかりたくなかった奴に早々に見つかってしまい本心が漏れ出た。それを耳にしたらしく額に青筋が浮かび上がっていて、今にも飛び掛かってきそうだった。

 

「ぶっ殺す!」

「いや、殺人禁止だから」

「事故ってことにすりゃいいんだよ!おらぁ!」

「猪突猛進か!」

 

右ストレートを首を逸らすことで避ける。必要最低限にして最小限の動き。それが体力の消耗を一番減らす方法だ。力任せに攻撃すればするほど体力は減少し攻撃は弱くなり、それに比例して防御も脆くなっていく。攻撃が当たらなくなれば速度を上げて攻撃する。

 

それによって体力は減少する。精神にも疲労は蓄積し何もしなくても敵は自滅してくれる。精神的疲労は眼に見えないからこそ自覚しにくい。

 

「何故だ、あ、たらねぇ。ハアハア」

「そりゃそれだけ撃ち込めば体力切れを起こすさ。拳が97発に蹴りが72発。普通ならいまここで体力の限界が来て気を失っていても可笑しくない。だからあんたの実力は〈サダラ防衛隊〉の名に恥じないものってことだ」

「黙れ!俺、は負けね、え!勝って、俺を見下、した…奴ら、を見返し、て…やる!」

 

負けられない理由か。地位が上になりそれが当たり前だと認識していた。または自分がその地位にいることが当たり前だと思っていたから、数ヶ月前の出来事で見下されたことが悔しかったのだろう。地位への執着は決して悪いことではない。

 

なければそこにいる理由もなく生きる理由もない。生きる屍となって残りの人生を歩むなど俺はしたくない。

 

「あんたの心意気は理解できた。だがこれとそれとは別の問題だ。じゃあな。はぁ!」

「ぐあ!馬鹿なぁぁぁぁ!」

「あ、やっべ」

 

気合いで手っ取り早くふっとばすつもりが、周りの奴らも同時に何名か吹き飛ばしてしまったことで、俺は危険分子と認識されてしまったようだ。壁を作って俺ににじりよってきやがる。

 

こうなったら同じように吹き飛ばすのが一番効率が良いし体力も減らない。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

周囲に圧を飛ばすとドミノ倒しのように倒れていく。まあ当然全員が気絶しているのだが。こうして俺は相手を倒す度に敵を作っていくのであった。

 

 

 

 

1名が無双しているのを、特別席から眺めている影が複数ある。

 

「凄いですねあの人!若いのにあれだけの動きは普通できないですよ!」

「お主もまだまだ幼いであろうに」

「陛下もそこまで変わりませんよ」

「ふん、口が過ぎると思うが余は気分が良い。気にせず今の口調でも構わんから続けろ」

 

少年のような風貌の彼は、昨日チャンピオン枠で参加することが決まっているキャベ。もう1人は惑星サダラを統括する国王。

 

「それほど強い存在には見えませんね」

「俺からしたら視界にも入れたくないぐらいだぞ。それよりあれ持って来い」

「カロリー計算すれば、今日の食事は無しにすべきところですよ」

「いいからさっさとよこせ!」

「はいはいただいま」

 

横にいるのはかなり顔の整った容姿をもつ従者らしき女性。

 

ふくよかな体型で上半身裸、耳も生え尻尾が生えた人物。

 

だが周囲に頭を垂れ、王でさえ跪いているのを見るとそれ以上の地位を持つ存在であるとわかる。何故かキャベはそれほど気にはしていないようだが。

 

「まあ、そうかもしれませんが僕からすれば相当な腕前だとわかります。倒されたピーマさんは僕が選ぶ強者の1人ですから、その彼に余裕で勝ったあの青年は恐るべき存在ですよ!」

「…熱く語るではないか。よほど気に入ったと見える」

「彼を〈力の大会〉に参加させましょう!」

「彼をですか?」

「あいつをか?」

 

従者とふくよかな体型の彼は異口同音に問いかける。

 

「ええ。彼の動きを見ればわかると思いますよ」

「そうかぁ?そんなに凄いとは思わんぞ俺は」

「確かになかなかの動きはしていますね」

 

意見の相違があるところを見ると、評価はどちらが正しいのかわからない。だが〈破壊神選抜格闘試合〉に出たキャベが言うのであれば間違いないだろう。

 

「おい、さっきは強い存在には見えないと言っただろうが!」

「見た目はという注釈付きですよ。動きをよく見れば評価には値します。といってもまだまだ動きは未完成ですが」

「その通りですよ!」

「ふ、ふん!それぐらい俺にもわかってたさ!」

 

どう見てもそうは思えない言いぐさだが、これについては言及しないでおくのが一番だ。彼の実力は未知数であり、予測不能というのも考えられる。

 

女性とキャベは真の力を知ってはいるが。

 

「キャベさんが言うピーマさんを倒した彼の動きは無駄のないものです。まだという注釈付きですが」

「というと?」

「彼はまだ本気を出していませんし、あの程度の相手では本来の腕を見せる余地はありません。見せる必要もなければ使うわけにもいきませんから」

 

その言葉の意味が理解できないとばかりに、全員の視線がその人へと向ける。その視線を気にする様子もなく女性は言葉を続ける。

 

「戦いというのは勝てばいいというわけではありません。彼は戦いというのをどういうものか理解しています。如何にして相手を倒すことが大切なのかをです。必要最低限の動き、必要最小限の体力で相手を戦闘不能にする術を体が知っている。成長していくうちに気付いたのか。それとも無意識のうちに体が覚えてしまったのかは不明ですが」

「それは武人としての才能を持っているということか?」

「そうですよ。シャンパ様は破壊神であるが故に絶大な強さを持っていますが、彼は己の力だけで境地に片足を踏み入れています。覚醒すれば《第6宇宙》の切り札になるかもしれません」

 

手放しで褒め称えることに、破壊神シャンパと呼ばれた存在・王・キャベは不思議そうに見上げていた。

 

「とまあこれ以上褒めるとシャンパ様がお怒りになるでしょうからやめておきます」

「おいヴァドス!それは俺より見込みがあるって言ってるだろ!?」

「よくお気づきで」

 

毒舌家という肩書きが似合いそうなヴァドスと呼ばれた女性は楽しそうに笑みを浮かべ、大勢をリングから落としている青年に視線を向けていた。

 

「そんな人がカリフラさんとケールさんと戦う可能性があるんですね?楽しみです!」

「そのお二方は強いのですか?確かシャンパ様に『もっとサイヤ人を増やせ!』といわれて見つけたと聞いていますが」

「強いですよ。なんせスーパーサイヤ人になれるんですから!」

「それは楽しみですね。私が気になるのはあの青年の臀部の少し上辺りが膨らんでいることですかね」

「「「え?」」」

 

3人が言葉通りに視線を青年へと向けた。キャベはともかく王と破壊神が口にするべき言葉と表情ではなかったが、それを咎める人物はいなかった。する暇も無いほどその言葉の意味を考えていたからというのもあったのだろう。

 

「言われてみればそうですが気になるほどでは」

「余も同じ意見だ。比較すれば気付くかもしれないが、普通にしていれば何とも思わない程度だと思われますが」

「俺には違いがわからん」

 

約1名は眼が悪いのか頭が悪いのかわ。からない言葉を発しているが、これもスルーさせていただく。

 

「私の勘違いだったのかもしれませんね。お気になさらず観戦を続けてください」

「勘違いですか…」

 

尚もキャベは腑に落ちない様子だったが、無双する青年の戦いにいつの間にか夢中になり忘れるのだった。




〈力の大会〉前の話で進んできますが原作の流れをそこまで理解できていないのでずれているかもしれません。

しかしみなさんが心優しいことを信じていますので気にしないよう頑張ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

模擬大会②

戦闘シーン書くのは苦手ですが次話から頑張ります。


無双していた青年の背後には、折り重なって白目をむいている参加者たちがズラッと積み重なっている。そこらに倒れているわけではなく律儀に重ねられているのは場所を取らないためにだろう。

 

血塗れではなく白目というのがまたシュールだ。側で座り込み残りの選手が戦っているのを見守っている青年も戦いたいのは山々だが、誰も相手にしてくれないので仕方なく観戦しているという次第だった。

 

相手にして貰えない理由は、手足を使わずに気合いだけで勝ってしまっているというのが原因だった。絶対に勝てるはずがないと思わせるほどの実力差。それを否応なく知らされた出場者は戦うのを避けているのだ。

 

上位5名のうち1名は決まっているから決勝トーナメントにでられるのは実質4人。それに収まるためにしのぎを削り合って戦っているのが大半。

 

残りは青年と同じように観戦している女性が2人。そして戦いというより殲滅という言葉が似合う様子で戦っている男。

 

その戦いぶりを見て青年は自覚しないうちに笑みを浮かべていた。その強さに恐れるでも怯むでもなく、喜びや楽しさを見いだしている青年は真の格闘マニアなのだろう。

 

 

 

 

「おいケール、あいつの強さわかるか?」

「えっと、あの戦っている強い人ですか?」

「違うぜ。大量の野郎共の側に座っている男だ」

 

言われように視線を向けるとその存在感に圧倒される。視界に入れただけだというのにこれほどまでの圧力は一体なんなのだろう。そして胸の内に広がっていくもやもや感。言葉にはできなくとも普通ではないなにかだとはわかる。

 

「こりゃとんでもない奴が出てきたもんだぜ。自分も勝てるか不安になってきたよ」

「姐さんでさえですか?」

 

慕っている人の強さは自分が一番知っている。側で見てきたからこそわかっている。この人が弱音を吐くことはないと。なのに一瞥しただけでマイナス発言をしたことに驚き危惧している男の実力に生唾を飲み込む。

 

「キャベの野郎と正式な戦いでやれると思ってたのになぁ。こりゃトーナメントで当たったらその目標も果たせそうにないかな」

「確かに実力はわかりませんが姐さんの奥の手を使えば行けるのでは?」

「どうだろうな何もしない自然体であれだけの圧力だ。決め技をいくつか持っていると考えても良いと私は思うんだ」

「そうですか…」

 

戦いの行方を見守っている男の危険度をさらに上方修正させた少女は終了するまで待つのだった。

 

 

 

 

 

『そこまで!これで決勝トーナメント出場選手が決定しましたぁ!選手の名前は対戦カードが決定し登場する際に発表いたしまぁす!それではまた明日ぁ!』

「予想通りですがあの人は一体何者でしょう」

「おや知らぬのか?奴は我が直属の精鋭部隊〈ゼロ〉の次期隊長よ。まあ表に出ることはなかったので知らぬとも仕方なしか」

 

大会責任者の言葉を無視してキャベは全員へ疑問を投じていた。〈ゼロ〉とは王の命に従い全うする部隊のことだ。表に出ている彼らは英雄とは別枠で崇められている。

 

王への忠誠心の高さと戦闘能力の高さ。武道大会で上位に食い込むのは〈ゼロ〉出身の者たちが大半を占めていたことで誰もがその力量を知っていた。

 

「〈ゼロ〉あれが次期隊長…」

「そちが勝てるかどうかはわからぬ。勝ってほしいのは王として当たり前だが、負けてはならないと命令しているわけではない。負ければそれを超える強さを手に入れ、限界を超えれば良いと考えている」

「ふん。俺だったらさっさと破壊しているけどな」

「それはシャンパ様の場合の話ですよ。今は王としての立場ですから考えが違っても仕方ないかと」

 

ヴァドスに言われてご機嫌斜めになったシャンパはジュースのがぶ飲みを始めた。それも樽一杯分の量を一気飲みしているのだ。カロリー計算などしたくなくなるのは誰もが同じようだ。

 

実際キャベは頬をひくつかせて乾いた笑いを発している。王に至っては破壊神の前であるにもかかわらず左手を額に当てて首を振る始末。

 

「今日の夕食はデザートばかりか肉料理は禁止ですからね」

「お前は俺の母ちゃんか!」

「破壊神の従者として当たり前のことです。それから運動をしなければそのお腹は減りませんよ」

「「ん?」」

「よ、余計なこと言うなぁ!」

 

出っ張ったお腹部分を隠すようなに体ごと背を向けるシャンパの様子に気をよくしたのか、王の表情も威圧的なものは消え失せ穏やかに微笑んでいる。普段見せる事のない様子に、キャベは不思議そうに王を見ているが何処か納得しているようにも見えた。

 

「決勝トーナメントはどうなると思いますか?」

「誰が誰とぶつかろうと面白いことにはなるだろう。そちが選んだ女子(おなご)の片方の腕は知らなくもない。レンソウとやらの妹は本人曰く自分より潜在能力があるようだしな」

「それは僕もレンソウさんから直接聞きました。性格があれだからむらがあるとか」

「逆に言えばそれさえなければ彼女は強者になり得るということですね」

 

ヴァドスの言葉は的を射ていた。だからこそ3人とも言葉を返すこともできず黙り込むしかなかった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

翌日、休憩を得たことで体力は完全回復した。といっても昨日の試合は準備運動にもなりはしなかったのだが、試合会場で体を動かせただけでも良しとしよう。

 

上位4人に残った俺は特別な接待を受けて対戦カードを決める控え室に来ていた。無駄に広いリングとは違い人数にあった大きさで一安心したのは仕方ない。あれほど面積のある場所にいることに慣れてしまうのは避けたいからだ。

 

俺を除いた残り3人の情報は渡された書類に全て書かれている。配られているのはキャベを含めた決勝トーナメント出場全員に配布され、平等になるようになっている。

 

簡単に言えば長所と短所を知られた上で、どう対処して勝つことができるのかという〈成長具合〉と〈危機回避能力〉を推し量るためだ。

 

エントリーナンバー2 氏名 カリフラ 女性。〈サダラ防衛隊〉元隊長レンソウの妹。兄曰く潜在能力は一級品だが性格故に戦闘は不向き。

 

なるほど、好戦的な性格でいるときは才能の塊の申し子と言われるだけの腕前。だがかなりの面倒くさがり屋でその時は目を覆いたくなるほどらしい。

 

エントリナンバー3 氏名 ケール 女性。カリフラを姐さんと慕っているが姉妹ではない。本人曰く戦うことは嫌いだが姐さんのためなら戦うということらしい。

 

戦うのが嫌いな奴と戦うのは気が引けるが好き嫌いを言うわけにはいかない。武人として名を馳せることは二の次であるとはいえ、戦うことになったならそれはそれでやるだけだ。

 

戦いが嫌いで戦わないなら戦いがあったと思わせないほどの速度で決着を付ければ良い。

 

問題は次か。顔を知らなければ名前も知らない。俺が下町で暮らしているのも知らない理由の一つだがそれにしては妙だ。

 

昨日の戦闘を見た限りではかなりの腕前だとわかる。攻撃する瞬間の癖や呼吸のタイミングは洗練されたものだった。

 

〈攻撃は最大の防御〉という言葉を体現したのが彼なのだろう。一撃一撃の重さと意思力、そして勝利への執着が生半可な鍛え方で得られたものではなく、長く辛い修行を続けてきていることを証明している。

 

前にも言ったが執着は身を滅ぼす。とは言うものの良い方向に招くこともあれば悪い方向に向くこともある。

 

執着はいわば執念と言い換えることもでき、言い方向としては自分の限界を突破することも可能にする。悪い方向としては、肉体の限界を超えるのを繰り返すうちに死を招く諸刃の剣だ。

 

執念は生と死を併せ持ち半永久的に表裏一体。ものには表と裏が存在するように表は〈生〉裏は〈死〉を示す。

 

おそらく彼は敗北という言葉を知らずにこれまで生きてきているはずだ。

 

勝利をし続けた存在にとって、これまで味わったことのない〈敗北〉は未知の存在。そうやって生きてきた人間は大抵…

 

 

 

《脆い》。

 

 

 

エントリナンバー36741 氏名 パチーク 男性。王直属の精鋭部隊〈ゼロ〉の次期隊長である精鋭部隊きっての猛者。

 

生来表舞台に立つことはなかった。裏でその才を遺憾なく発揮してきた彼が、何故今になって突如表舞台に素顔をさらして出てくる気になったのだろうか。

 

これまで溜まりに溜まった鬱憤を晴らす為か?それとも自分の実力を試したいが為なのか。どちらにせよ強い奴が出てくるのは喜ばしいことだし、むしろウェルカムといったところだ。

 

自分の強さがどの程度なのか知ることもできるだろうし、負けても前に進むきっかけを得る可能性がある。

 

壁にもたれかかって資料に目を通していると視線を感じたので横目でチラッと見てみる。予想通り今まさに目を通していた男がこちらを警戒するように見ていた。憎悪や憎しみといったマイナス感情でないぶんまだマシか。

 

だがそれにしても向けてくる視線は初対面である相手に向けるものではない。仇敵やライバルに向けるような強い視線は復讐に来た奴のような強すぎるものだ。俺が何者(・・)なのかを知っているのだろうか。

 

まさかそれは抹消された(・・・・・)情報であるからして今の王族や大臣が知る術はない。いや、1人だけそのことを知っているのがいる。

 

「スックール、お前か…」

「それでは対戦カードを決めますので集まってください」

 

不満を口にしたところで大会責任者が集合の合図をしたので、部屋の中心に集まるため壁際から離れ敢えてパチークの側を通っていった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

控え室で対戦カードが決定した頃、シャンパは暇をもてあまし惑星サダラの菓子類を貪り食っていた。

 

「まだモグツ始まらないモグツのか?うめぇ~」

「選手の心の整理をするために少しばかり時間を長くしているんですよ。もう少々お待ちください」

「余は彼の者とパチークの試合を見たいのだが2人が最初に戦うとは限らんか」

「おや?直属の部下を応援するのはわかりますが彼の者を買っているようなお言葉ですね。なにか理由でも?」

「簡単な事よ、余が直々に〈力の大会〉にでてくれと言ったのだ。その意味がわからぬほど其方の脳は抜けてはおらんだろう?ヴァドス殿」

 

王とはいえ破壊神の従者に対する言葉遣いではないがヴァドスは気にした様子もなく、むしろそのように立場を気にせず話すことに喜びを感じている様子だ。

 

ただ破壊神に対して話すときは言い直させるという謎が起こっている。

 

なんせヴァドスは破壊神シャンパより高い地位にいる存在なのだから。それを気にせずにいる王が図太いのか、ヴァドスの心が狭いのか判断は難しい。

 

「王がわざわざ頭を垂れるほどには実力があると言いたいのは理解できます。しかしそれだけではないようにも感じましたが?」

「それ以上は踏み込まんことだ。どうせ其方なら少し調べただけでわかるだろうからな」

「はて?…まあそういうことでしたか。通りで評価が甘いことでもちろん他言は致しませんのでご安心を」

 

杖の先を少しの間眺めていたヴァドスは、疑問解決とばかりに笑みを浮かべている。話の内容が理解できないとばかりに、キャベとシャンパは首を傾げて互いを見合っていた。

 

『お待たせいたしました。これより武道大会決勝トーナメント第1戦を開始いたしますが陛下よろしいでしょうか?』

「構わぬ。シャンパ様も待ちくたびれておるさっさと始めるが良い」

『それではぁ!第一戦の対戦カードはこちらぁぁ!』

 

やけにテンションの高い大会責任者は王とキャベ、シャンパ、ヴァドス、そして少し離れて会場をぐるりと囲う王族と上級貴族そして大臣たちに、見えるよう設置されたモニターに向かって声を張り上げる。

 

『最初に東門から登場するのはぁぁぁ!陛下直属の精鋭部隊〈ゼロ〉の次期隊長ぅぅぅ!あらゆる武術を制覇した武道の申し子!与えられた二つ名は《グランドマスター(地の超越者)》ぁぁぁ!パチぃぃークぅぅ!』

 

文武両道、才色兼備を体現したような容姿の白銀のマントに身を纏った男が現れた瞬間、会場のあらゆる方向から黄色い声援と拍手の嵐が舞う。

 

若いとは言わないまでも中年の域には達していない男の人気度と期待度が見てわかる。

 

『次に西門から登場したのはぁぁぁ!今大会2人しか参加してない女性の片割れぇぇぇ!控えめな容姿と可愛らしい声音で、数多の男性選手を悶え死にさせたが故に与えられた二つ名は《小悪魔》ぁぁぁ!ケぇぇールぅぅ!』

「変な二つ名付けないで下さい!それにそんなのしたくてしたのではありません!」

『おおっとぉ!これは意外や意外無意識のうちに虜にしていたとは罪な女だぁぁぁ!』

「だから違いますぅぅ!」

 

審判の暴走は留まることを知らず本人の否定も意に返さない。その様子にキャベは面白いのを我慢するのとケールに同情する気持ちが合わさって残念な表情になっている。

 

王に至っては大会責任者が熱しやすいことを知ってるからか高笑いをしている。

 

「くはははははは!これよこれを待っていたのだ!余を楽しませてくれるそんな茶番をな!」

「…陛下、選手は撃沈する可能性ありますよ?」

「何を言うかそれを乗り越えて真の武道家というものであろう?ふははははははは!」

「相当性格がひねくれてるなこいつ」

「シャンパ様と良い勝負ですね」

 

キャベの疑念にも己が楽しくて仕方ないとばかりに笑う王に、シャンパは自分を棚に上げてヴァドスは恒例の毒を吐きそれぞれの感情を吐き出した。

 

そんな間にも試合は開始され、武道をそれなりに極めた者や初心者からすれば満足のいく戦いではあった。だが破壊神やその従者はともかく〈破壊神選抜格闘試合〉に出場したキャベでさえ不満そうだった。

 

極めつけは退屈とばかりに玉座に肘をついている王なのだが。

 

「ご不満そうですね陛下」

「当たり前よ。そちがなったという超サイヤ人にならずに負けたうえに、パチークは実力の半分程度しかだしていないのだ。もっと心躍る試合を期待していたのだから落胆具合もそれなりよ」

「ケールさんはまだ上手くコントロールできないらしいので致し方ないかと。ですが戦いが嫌いであっても、あのパチークさんから半分も実力を引き出させたのは評価されるものではないかと」

「あまいな」

「え?」

 

試合中眼を閉じて観戦していなかったシャンパが鋭い視線をパチークとケールに向けながら言った。

 

「俺が破壊神であるからしてこのようなしけた戦いは見たくない。そこの王とかいうやつの最強の駒の実力の半分を引き出せたからなんだ。制御できないからならなかっただと?ふざけるな。その程度のことで評価をもらおうとするのは未熟者がすることだ」

「しかしケールさんは全力で戦いました!それで良いではないですか!」

「お前誰に向かって口聞いているんだ?」

「っ!」

 

無礼な口答えだとキャベ自身が理解している。だが全力で戦った人の悪口だけは許せなかった。人を守るだけの力を持ちながら誰より優しい心の持ち主だからこそ黙っていられなかった。

 

「そこまでですよシャンパ様。シャンパ様が仰っていることは事実だとキャベさんだってわかっています。しかしシャンパ様の言い方に棘が生えすぎていたからキャベさんは怒っていらっしゃるんですよ」

「ふん。どうだか」

「はぁ、キャベさんもですよ?お気持ちは理解できます。破壊神であるお方に意見や質問をするのは許されますが反論は論外です。自分にとって許せない言葉を発せされても自制できるだけの忍耐力を得ることもまた修行の一つですから」

 

ヴァドスに諭されキャベは矛先を納めた。普段のキャベならもう一歩踏み込んでいただろうが、いつもの淡い笑みを受けベながら言うのではなく真面目な表情で言われては何も言い返せない。

 

「シャンパ様だって本当はわかっていらっしゃいますよ。ケールさんという方が未熟なのを一番理解しているのは自分自身なのだと。周囲を巻き込まないために今の自分でできる限りのことをする。見窄らしい無様だと罵られても構わない。それでも自分の全力を持って戦うという武人として大切なものを彼女は持っていると」

「キャべとやら少しは落ち着け。それぐらいのことがわからないほど頭の回転が遅いわけではなかろうに」

「次の試合はきっと面白いことになるでしょうね」

 

ヴァドスの言葉は暗くなっていた空気を霧散させるだけの力を持っていた。いや、それだけ彼の戦いを楽しみにしていたのだろう。

 

 

 

 

その頃噂されている彼は準備運動をしていた。

 

「ほっ、よっ、なっと。ふぅ、まあ1人の準備運動はこんなもんか。あとはあいつとぶつかり合って温めればいいだけの話だ」

 

独り言を呟くと不思議と緊張が和らいだ。大勢の前で戦うのはこれが初めてなのだから多少は緊張する。

 

程よい緊張は普段動かさない筋肉まで影響を与えるから良い恩恵だ。逆にし過ぎると体が縮こまって動きを阻害するから意外と難しい。

 

対戦相手がケールという少女じゃないのは正直ありがたい。カリフラも少女だが戦いは好きなみたいだしその気にさせればこっちのもんだ。

 

あのレンソウという〈サダラ防衛隊〉元隊長の実妹でお墨付きなのだから相手に不足はない。負ける気は毛頭ないが負けてもきっと後悔はしないだろう。

 

「さあ行くか!」

 

門が開いた先は光に包まれている。その光は希望かはたまた絶望へ誘うための幻か。どちらであろうと俺は苦にはならない。

 

意思を固めた俺は足を踏み出した。

 

 




この始末はてさてどうなりますことやら


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

模擬大会③

シレっと投稿。お久しぶりですドッカンバトルで悟空がかっこよく参戦してきたので、勢いに負けて書いてしまいました。


『準決勝第2試合。東門から登場するのはぁぁぁ!彼の名高き〈サダラ防衛隊〉元隊長レンソウの妹にして、兄さえも認めるその実力の持ち主ぃぃぃぃ!今大会においてわずか2名の女性参加者の片割れ、与えられし二つ名は【予測不能】。カぁぁリフラぁぁぁ!』

 

格闘技場の門の奥から、赤紫色のチューブトップと紫色のズボンをはいた小柄な女性が現れる。華奢な体格だが知る人はみんなが口にする。

 

「彼女こそ真のサイヤ人だ」と。

 

確かにその潜在能力はレンソウをもしのぎ、〈サダラ防衛隊〉に所属しても可笑しくない戦闘力だが性格が問題視されている。実際、荒くれ者達をまとめ上げる指揮力はかなりのもの。実際その才能と戦闘能力を買ってキャベがスカウトしたのだから。

 

『続いて西門登場するのはぁぁぁ!王直々のスカウトによって参戦した新参者ぉぉぉぉ!だがしかしその能力は噂ではないとバトルロイヤルで示した武の天才ぃぃぃぃ!その甘いマスクで女性の心を奪い去ったことによって、与えられた二つ名は【天使】。アぁぁぁレッタぁぁぁぁ!』

「…やかましいわ」

 

身も蓋もない説明をされて愚痴を吐きながらリングに上がる。その瞬間、7割方女性の悲鳴が含まれた歓声が格闘技場に響き渡った。群青色の胴着に似た服を着る男の瞳には強い光が宿っている。サイヤ人としての誇りではなく、自身の目的のために成すべき事を成すという意思の光だ。

 

「よろしく頼むレンソウの妹」

「ああ、よろしくな。といってもお前の実力は戦ってなくてもわかるぜ」

「見抜かれているということか」

「さあな。さっさとやろうぜ!」

 

リングの中心で握手を交わし適度な距離をとる。リングの形は円形で場外のルールはない。己の実力で戦ってもらうためにはそういったルールは必要ないのだ。禁止事項としては武器の使用と相手を殺すことだけ。真っ向勝負だけだが、ある意味それは2人が望んでいることだ。

 

『試合開始ぃぃぃ!』

 

大会責任者の合図で準決勝第2試合が始まった。

 

「お前の戦いは見てねぇけど強いのはわかってる。だから最初から全力だ!はあぁぁぁぁぁ!」

「…これは」

 

カリフラが大声を吐き出すと金色のオーラが足下から沸き上がり、戦闘力を大幅に上昇させていく。黒髪だったのが金色へ瞳は翡翠色へと変貌する。爆発的な気の上昇は気圧を変化させ風をも引き起こす。気の上昇具合によっては風が強風または暴風へと昇華されることもある。

 

カリフラとアレッタの距離は2m程度で少しばかりのけぞる風の強さ。つまりカリフラの気の上昇率はかなりのものだったということだ。だがその上昇具合を見てもアレッタは落ち着いて構えを執っている。戦力差がありすぎる故の諦めではなく、呆れに近いような落胆のような表情だ。

 

アレッタの構えは右拳を引いて左拳を頬の少し下辺り。身体は半身にしている状態。

 

「いっくぜぇぇぇ!だりゃあぁぁぁ!」

「…笑止」

 

地面を蹴ったカリフラの突撃の速度は眼を見張るものがあった。突進力とその速度に負けない体幹の安定性によって距離を詰める。それにより拳の威力は桁違いに上がっている。

 

パシッ。

 

「なっ…」

 

だが突き出された拳はアレッタの左手によって軽く受け止められていた。超サイヤ人に変身したカリフラの拳を、通常状態のアレッタが余裕の表情で受け止めていることがカリフラには理解できていなかった。

 

カリフラは自分の腕に自信を持っていた。

 

だから荒くれ者達をまとめ上げられるだけの指揮力と実力を兼ね揃えていると。だから〈サダラ防衛隊〉のエースのキャベ直々のスカウトを受けることができたと。兄にも認められるだけの腕はあり、超サイヤ人に容易になれたことも自信の一つだった。

 

なのに目の前の男は自分が超サイヤ人に変身した拳を涼しい顔で受け止めている。有り得ない。素の状態で超サイヤ人の拳を受け止めるなどできるわけがない。だがこの男はそれを見せつけている。男が強いのは予選の時からわかっていた。

 

ただ座っているだけで威圧させているように感じる闘気を。意図して流しているわけではない。自然に身体から溢れているのだと理解していた。だがそれを見ても勝てる気がしていた。超サイヤ人に変身すれば白目を向けさせることができると思っていた。

 

その予測は簡単に裏切られて自尊心さえも打ち砕かれた。

 

だがそれによって超サイヤ人の血が騒ぐ。心が高揚するようにざわつく。まるで自分が野性味を帯びていくかのように感じられる。

 

この男の実力は一体どれほどのものなのか。感じたい。そしてその強さをこの身体で体験してみたい。驚きで見開かれていた眼が細められ、開いていた口が閉じて獰猛な笑みを生み出す。それを見たアレッタは訝しげに眼を細めた。

 

「…何が面白い」

「お前すげえな。あたしの拳をその状態で受け止めるなんてよ正直自信失うところだ。でも何か知らねぇけどそれが心地良いんだ。だからここで終わるわけにはいかねぇんだよ!たあぁぁぁ!」

「ふん、いいだろう。その心意気に免じて俺もそれなりに本気出させてもらう。はあっ!」

「うわっ!」

 

アレッタが押さえ込んでいた気を解放する。その気の上昇率によって風が突風を引き起こし、カリフラを軽々と吹き飛ばした。カリフラが小柄ということもあるが、アレッタの解放した気の威力がとんでもなかったというべきだろう。

 

気が具現化したように身体を白く覆い、その実力の一部がそれを引き起こしたという事実。超サイヤ人でもない生身で超サイヤ人のカリフラを上回ることはキャベさえ驚かせていた。だがその力は本来のアレッタの力の一部でしかない。

 

「これでも本気じゃねえってか。そそるぜまったくよぉ!」

「行くぞカリフラ!」

「どんと来いやぁ!」

 

同時に地を蹴り空へと飛び上がる。蹴りの威力は凄まじくリングの床は大きく凹んでいた。上空で拳と蹴りを交わすと、その衝撃波は波となって観戦している観客にも届いている。

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃ!」

「ふんっ!」

 

手数で言えばカリフラが圧倒的に上だが、一撃の重さで言えばアレッタが数段上回っている。体力を奪われる速度が速いのはカリフラである。

 

「ちいっ!これで決めてやる《クラッシュキャノン》!」

「こっちも終わらせるぞ《蒼龍波(せいりゅうは)》!」

 

カリフラは右手から、アレッタは身体の中心に両方の掌底を横に合わせた状態でエネルギー波を放った。カリフラの紅いエネルギー波とアレッタの碧いエネルギー波が、2人の中心部分で凄まじい音と衝撃を放つ。その波動は、強固な岩石で造られている観客席やリングを破壊するほどだ。

 

「うおりゃあぁぁぁ!」

「ほう、なかなかにやりやがる。だが俺の本気はこんなもんじゃねぇ。はあぁぁぁ!」

「…これがあいつの超サイヤ人か?」

 

気の上昇が先程は違い一瞬にして引き上げられる。アレッタが纏っていた白い気が変化して黒色の気を纏い始める。だがそれはカリフラの予想の超サイヤ人ではなかった。

 

その気は何故か先程と違って、風を引き起こさずに静かに高まり続ける。アレッタを中心に腕の長さを限界にして嵐が吹き荒れる。

 

禍々しい色ではあるが決して邪悪な感じではない。そして気の上昇特有の熱反応は一切感じられない。まるで冷え切った氷のように冷たい。

 

「《獄王拳》!」

「超サイヤ人とは違う!?だがこの気の上昇はそれに近い。なのにこの力はぁぁぁぁ!」

 

拮抗していたエネルギー波は一瞬にして破綻し、碧い気弾は黒の気弾へと変化してカリフラの放った《クラッシュキャノン》を飲み込んだ。その反動で吹き飛ばされたカリフラの背後に一瞬にして移動したアレッタ。

 

「終わりだ。はあっ!」

「がっ!」

 

肘打ちによって背中に強烈な一撃を受けたカリフラは、為す術もなくリングに叩き付けられた。肘が背中にめり込んだ瞬間、カリフラの超サイヤ人は解けていた。超サイヤ人はダメージを受けすぎると変身が解けるという欠点がある。

 

気の流れを掌握し流しているから超サイヤ人は維持される。その流れが滞っては維持できなくなるのも道理。

 

『勝者アレッタぁぁぁぁ!』

「面白かったぞカリフラ」

「いってててて、なんて重い一撃だよ。強ぇぜ」

「いや、俺にここまでの力を出させたのはお前で久々だ」

 

立ち上がったカリフラと握手を交わし、それぞれが入ってきた門へと歩いて行く。その後ろ姿をキャベは凝視していた。

 

「彼は一体どれほどの力を…」

「全力でなくともカリフラさんを圧倒するほどの戦闘力。ますます興味が湧いてきます」

「才能の塊というべきか…」

「それに頼っているだけではないようですね」

 

天才という存在はそれに頼って努力を怠る。戦いにおいて相手を下に見てしまう。そこをつけ込まれ勝負に負ける。そうなると自分の力のなさを実感し修行に邁進する。上手くいけばという話だが、悪い方向に走ると悪に落ちてしまう。

 

アレッタの場合はその心配が全くない。そうヴァドスは言いたいのだろう。

 

「決勝戦はどうなるでしょうか」

「我の予想では瞬殺だな」

「どういうことでしょう」

 

キャベの疑問はもっともだろう。王直属の部隊の次期隊長パチークと予測もつかない戦闘力を誇るアレッタ。この2人の戦いなら長時間の戦闘になると誰もが予測する。だが王はそうならないと言っている。

 

「あの者は王家を憎んでいる。王家に近い存在を甘く見るとは思えぬ。勝負して負けるのはパチークだ」

「次期隊長が負けると?」

「アレッタの潜在能力は未だ不明。それを考慮すれば限界を知っているパチークをはるかに凌駕している」

 

冷や汗を浮かべる王を見てキャベはそれが嘘であってほしいと願う。〈サダラ防衛隊〉と王直属部隊〈ゼロ〉に実力はそれほど差は見られないが、隊長は圧倒的な強さを誇る。〈サダラ防衛隊〉と〈ゼロ〉の違いは血筋だけだ。

 

サダラ防衛隊は平民の成り上がりでも入隊が許される。だが〈ゼロ〉は成り上がりであろうと入隊は決して許されない。その実力が隊長に匹敵するものであっても王であろうとそれを覆すことはできない。何故なら〈ゼロ〉は貴族しか入隊できないのだから。

 

貴族という枠組みでも正確に言えば上位貴族だけだ。上位貴族は王の身の回りを世話する者や大臣などを排出しているエリートの血筋を指す。エリート同士の血が混ざるのだから武勇に秀でた者、知略に秀でた者が多く存在するのは当然だ。

 

そして何十年間に1人だけどちらも併せ持った存在が生まれることがある。それが成長すると〈ゼロ〉の隊長の世代交代が行われる。そしてまさにそれを体現したのが次期隊長と言われているパチークなのだ。

 

「では決勝は…」

「しない方が身のためだろう。パチークにとっても我々にとっても」

「両者が納得するでしょうか」

「アレッタはするだろうがパチークは認めんだろう」

 

己の力が偉大だと自負する者は自尊心が極めて高い。己の強さを証明し続けることが存在意義であり、それを邪魔する者はたたきのめされる。だが王はたたきのめされるのがパチークだと言う。

 

「パチークは強さこそ定評があるものの、人間性には難がある」

「つまり中止すればパチークさんは」

「暴れ回る可能性がある。抑えられるとは到底思えん」

「続行というわけですね?」

「そうなるでしょう」

 

ヴァドスの言葉に王は頷くことしかできない。王は大会責任者に試合続行を伝えた。

 

 

 

 

 

『お待たせしましたぁぁぁ!格闘試合最後の試合決勝戦の始まりです!東門から登場するのは、精鋭部隊〈ゼロ〉次期隊長パぁぁぁチークぅぅぅ!西門から登場するのは、彼のカリフラ選手を圧倒的な力で倒したアぁぁぁレッタぁぁぁ!』

 

審判の紹介と同時に白銀のマントをたなびかせた男と、シャープな顔立ちの青年が同時に登場した。リングに上がった2人は互いの瞳を見ることなく、拳を軽く接触させて挨拶をする。距離をとった2人は、臨戦態勢で審判の開始の合図を待っている。

 

2人の醸し出す雰囲気を不吉だと予感したのだろうか。息を飲んで構えている2人を二度見する。だがその動作さえ2人は見えないかのように無視して敵を睨み付ける。

 

『は、始めぇぇぇ!』

「せあぁぁぁ!」

「ずえりゃぁぁぁ!」

 

マントをたなびかせながらパチークは突進を開始する。それと同時にアレッタも地面を強く蹴り、同じように突進する。引き絞られた拳が腰を捻って突き出され衝突した。その場所は、まさに2人が拳をぶつけ合った場所と寸分の狂いもない同じ場所。

 

衝突した拳で押し合うでもなく追撃を繰り出すでもなく。2人は同じように距離をとる。だが先程と違うのは、両者の瞳に宿る光がさらに強まったことだろうか。突如パチークが身に纏っていたマントを脱ぎ捨てた。地面に置かれたマントはリングの床を軽く凹ませる。

 

その重さがどれほどのものなのか。そしてそれを身につけていたというのに、重さを感じさせなかった動きは不可思議すぎる。そしてその移動速度はアレッタと同等かそれ以上だった。つまり速度は、身につけていたときより数倍速いということになる。

 

「かあぁぁぁぁぁ!」

 

パチークが気合いを吐くと同時に紫色のオーラが足下から沸き上がる。戦闘力の格段の上昇に観客達は驚きを隠せない。

 

それを見たアレッタも気を高めていく。

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

 

黒いオーラがアレッタを中心に立ち上り、気の高さが尋常ではないことを示している。

 

「はあっ!」

「ふっ!」

 

超高速の戦闘が開始され、観客の誰もがその動きを把握できていない。肉体だけでだせる速度には限界というものがある。だが2人はそれを超える速度で拳をぶつけあう。

 

瞳に宿るのは高揚感による光ではなく、目の前の敵をたたきのめすという本能の光。戦闘を楽しむのではなくただ目の前にいる敵を倒すという純粋な戦闘欲。

 

カリフラと戦ったときに見せた笑みは見えず、無機質なまでに張り詰めた表情が浮かんでいる。能面とも言えるその表情からは、戦いを楽しんでいるようには見えない。

 

だが戦闘自体を嫌っている様子はない。まるで戦闘することだけを脳にインプットされた殺人マシーンのようだ。

 

「うおわぁぁぁ!」

「おおぉぉぉぉ!」

 

高速の戦闘で見えていなかった観客が次に見た光景は、大きく吹き飛ばされているアレッタだった。頬を殴り飛ばされたのか身体を横にして水平に飛んでいく。それを追い掛けてパチークが両手に紫色の気弾を収束させている。

 

「はあっ!」

 

オーバースローで投げつけられた2つの気弾がアレッタを直撃し、大きな爆煙を上げて煙がアレッタを包み込む。だがパチークの攻撃はそこで終わらない。続いて上空に飛び上がり大量の気弾を投げ込む。

 

「だだだだだだだっ!これで終わりだぁ!」

 

頭上に作り上げた特大の気弾が放たれる。リングを破壊しかねない威力の気弾は、未だ土煙を上げ続けている場所へ着弾した。一際大きな爆発が起きその衝撃波が観客席を襲う。腕で顔を庇わねばならないほどの風圧に、誰もが決着がついたと思った。

 

着地したパチークが大きく肩を上下させているのを見ると、どれほど先程の攻撃に気を込めていたのかがわかる。勝利を確信したのだろう不敵な笑みを浮かべている。

 

「…へぇ、意外とやるもんなんだな」

「なっ!」

 

土煙の中からアレッタの声がパチークの耳に届く。勝敗は決したと確信していたパチークにとって、その現実が信じられなかった。

 

「…終わったな」

「…ええ」

 

パチークの耳に微かに聞こえたアレッタの声を、王とキャベは聞き取っていた。そしてそれを聞いた瞬間に勝負はついたと理解する。何故なら先程から寒気を感じるほどに高まった気を浴びるほどに感じているからだ。そしてその気の強さが、カリフラと戦ったときとは比べものにならないほどに高まっていると。

 

「思った以上に効いた。防御するほど強くはなかったが及第点はくれてやる」

「ば、バカな…。俺の最強の技を喰らって立っていられるはずがない!」

「確かにそこらの武闘家なら死んでたかもな。だが生憎俺はこの程度で倒れるほど、生半可な修行はしていない」

 

土煙の中なら姿を現したアレッタは、服の至る所が破れているものの、大きなダメージを負ったようには見えない。ノーダメージというわけでもないが、この程度は修行当時に何度も体験している。

 

あの場所(・・・・)での修行の方が圧倒的に苦しかったし、本当に死んでしまうのではないかと思うほどの怪我だってした。

 

それと比べれば今の攻撃なんぞかすり傷のようなものだ。

 

「お前が奥の手を見せたなら俺も見せてやろう。はあぁぁぁぁ!」

「ぬう!」

 

《獄王拳》とは違う気の高まりに、王専用の観客席からキャベ達が思わず身を乗り出す。カリフラが見せたような爆発的な気の高まりと周囲に引き起こる突風。それはまさに超サイヤ人の変身だ。気の嵐に吹き飛ばされないように踏ん張っているパチークを、さらなる突風が襲った。

 

一度の突風ではなく二度目の突風。それはまさに超サイヤ人の殻を更に割ったことに他ならない。

 

「な、なんだその姿は!」

 

パチークが眼にしたのは金色のオーラを放つアレッタの姿。だが今目の前で、自分自身に歩み寄ってくる青年は似ているようで違う。立ち上る気の勢いが高いことで、気同士がぶつかりあってスパークを放つ。カリフラのように金色の髪は変わらないが、逆立ち方が大きい。

 

金色のオーラが立ち上る音とは違う音、さらには雷が弾けるような重い音さえ響いている。

 

「カリフラのあれが超サイヤ人なら、今の俺の状態は超サイヤ人2だ」

「…超サイヤ人2…だと?」

 

彼にしては珍しく表情は明るい陽気な笑みだ。陽気な中にも獰猛な野生動物のような牙が見え隠れしている。獲物を狩る前に動きを予測し狙いを定めている。そんな畏怖を抱かせる笑みだった。

 

「悪いなこの姿は軽い興奮状態になるんだ。だから戦い始めたときみたいに無表情にはなれねぇ。そこは理解していてくれ」

「っがあ!」

 

一歩ずつ近付いてくるアレッタに恐怖したのか、パチークが膨大な数の気弾を撃ち出す。それ自体にかなりの威力があると思われるが、弾き返す様子もなくアレッタは進軍する。まるで触れる気弾は風船であるかのように、歩みは衝撃にも負けない。

 

一歩進む度に気弾は5個直撃している。それでもアレッタは止まらない。一発の重さでは止められないと悟ったのだろう。パチークは放出した気弾をアレッタにはぶつけず周辺にまき散らした。触れるべきではないと判断したアレッタは歩を止める。

 

「ふはははは!そこから動けば貴様は気弾の爆風にやられるぞ」

「1つが爆発すると他も爆発か」

「その通りだ。俺の気弾は1つが爆発すると他も連鎖反応を起こし、貴様は爆風を気弾の数だけ受けることになるのだ!」

 

身動きが許されない状態ではアレッタにも為す術がない。気弾の隙間を抜けようにも、爆発を意図的に起こされれば結局は一緒だ。

 

「だが動かずとも俺の技は完成している。超サイヤ人2などになったところでこれには耐えられまい。喰らえ《空間包囲弾》!」

 

パチークが腕を振り下ろすと、浮遊していた気弾が一斉にアレッタへ襲いかかった。1つがアレッタに触れた瞬間、爆発が発生して近くの気弾も連鎖的に爆発する。局所的な爆発は中心部分にいるアレッタを巻き込み、巨大な土煙を上げた。

 

「ははははははは!所詮は平民、エリートに叶うはずもないのだ」

「そうかな」

「はははははは…は?」

 

今度こそ仕留めたと思っていたパチークは、土煙の中から聞こえた声に高笑いをやめる。いや、やめさせられたと言うべきだろうか。土煙の中から現れたアレッタは先程と何一つ変わらない状態。コンマ1秒にも満たない間に全ての爆発を防いだということだ。

 

パチークにとっては理解できないことだろう。逃げ道などあるはずもなく、最初の爆発は確実にアレッタの身体を直撃していた。それを見間違えるはずもない。

 

「気、なのか?」

「気の性質を変えることができれば、これぐらい造作もない」

 

よく見るとアレッタの身体は不思議と薄く発光し、金色の気が全身を覆っている。アレッタはあの瞬間に身体を覆っていた気の性質を変化させ、全身をその膨大な気で覆ったのだ。気が肉体と空気の間に層を作ることで、あの爆発から守っていた。

 

「《バリア》とでも言っておこうか。それにこういったこともできる」

「つあっ!なっ!」

「おっと、使うのは初めてで上手くコントロールできないんだ」

 

伸ばされたアレッタの右手からは気の道がパチークへと伸びている。それはパチークの頬を掠めて背後へと貫通している。それはまるで剣のようにパチークの頬を切り裂いていた。

 

「俺の攻撃はまだ終わってない。一気に決めさせてもらうぜ。はあぁぁぁぁ!」

「ひっ!」

 

距離をとったアレッタが気を高めると、その高さに恐れをなしたパチークが背中をアレッタに向けて逃げ出した。もちろんその隙をアレッタは見逃さなかった。だが決して背中へは攻撃しない。回り込んで問いかける。

 

「逃げるなよ。〈ゼロ〉の次期隊長なんだろ?」

「ひいぃぃぃぃ!」

「その腐った性根をたたき直してやる!だりゃあぁぁぁ!」

 

パチークの首を掴んで空へと放り投げたアレッタは、気を更に高めて飛んだ。

 

「だだだだだだっ!はあっ!」

 

連続の殴りから右の蹴りによって、さらに上空高く舞上げられる。その時点でパチークは気を失っていたが、途中で攻撃をやめるつもりなどない。

 

「これで終わりだ《グランド・ストライク》!」

 

超サイヤ人2特有のスパークを纏った拳を大きく振りかぶる。振り下ろされた拳はパチークの腹部に鋭く突き刺さった。その威力は凄まじく、音速に匹敵する速度で落下し、リング中央の床へ直撃する。パチーク自身が作り上げた気弾の被害よりも、数十倍大きなクレーターを形成した。

 

まるで星自身が揺れているかのように錯覚するほどの振動が周辺を襲う。ピクリともしないパチークの横に、超サイヤ人2を解除したアレッタが降り立つ。パチークを見下ろすアレッタの表情は、試合が始まる前と全く同じものだった。

 

先程までの獰猛な笑みは何処へ行ったのか。別人とも呼べる変貌に驚くしかない。

 

『凄まじい戦いに勝利したのはアレッタだぁぁぁ!これをもちまして格闘試合は終了となります!観覧の皆様、素晴らしい戦いを見せてくれた両選手に、大きな拍手をお送りください!』

 

割れんばかりの拍手を送られながらも、アレッタは表情を何一つ変えない。観客に失礼にならない程度の挨拶をして、アレッタはリングを後にした。選手専用通路を歩いていると、知った気を感じてそちらに眼を向ける。

 

「…何のようだ」

「素晴らしい戦いだった」

「お世辞はいらない。褒めに来たのが目的じゃないだろ王様」

 

尊敬の文字が全く見られない態度でも、王は全く気にしていない。むしろそれが心地良いとでもいうような、穏やかな表情を浮かべている。それがアレッタにとって気に食わないものだった。親が子を慈しむような穏やかな瞳は、彼にとって毒に等しい。

 

それを感じるだけで尾骨辺りがうずく(・・・・・・・)。意識的にそれを抑え込んだアレッタは王を睨み付ける。

 

「お主と話をしたいという御方がおられる」

「御方?お前より位の高い存在がこの星にいるとはな」

「この星だけではない。この宇宙一体を統べる存在だ」

「信じられんな」

「論より証拠という。ついてこい」

 

有無を言わさず命令して歩いて行く。もちろんアレッタはそれを無視してもよかったのだが、何故か言われたとおりにしたほうがいいのではないかという感情に苛まれていた。ここで立ち去れば、後々自身が望まない何かが起こるという根拠のない予感が。

 

かぶりを振ることで余計な思考を追い出したアレッタは、無防備な王の後ろをついていく。階段を上っていく王を信用はしていない。敵であると認識しているが戦う気にはならない。殺したいわけでもないのだから、関わらずにいる方が精神的に落ち着ける。

 

通路の傍にあり今上っている階段は非常階段ではないが、一般人や貴族でも使われないものだ。一部の上位貴族だけが使う所謂VIP通路である。そこを使うとなれば出迎えを待っている相手は、この星に影響を与える存在だと予測できる。それに先程の王の言葉も意味深だ。

 

「この宇宙一体を統べる御方」とは一体どういう意味なのか。会えばその疑問も解決することだろう。

 

「シャンパ様、お連れいたしました」

「おう」

 

階段を上りきった先で王が頭を垂れている。椅子に座っていた何かが俺を見下すように視線を投げてくる。その視線は俺の過去を刺激したため殴りかかった。いや、殴りかかろうとして強制的に動きを止める。何故なら向けられる視線以外に、俺を動けなくさせる圧力を放っているからだ。

 

俺が普段感じている気では断じてない。先程多々戦っていたパチークとも違う気。いや、気と表現しても良いのだろうか。まるで空気を当てられているみたいだ。とてつもなく重い空気が、断続的に投げつけられるような錯覚を覚える。

 

風が吹いてくるというあまいものではない。円形の気弾ではなく、平らな範囲の広い気弾が身体に直撃している感じだ。ただ見られているだけで呼吸が速くなっていく。動悸が激しく、平常とはほど遠い自身の体調に違和感を覚える。

 

「ふーん、俺の力(・・・)を感じることはできるわけか。そこだけは及第点を上げてもいいが、礼儀がなってないな」

「…あんたは誰だ」

「俺に向かってなんて口を利きやがる!」

「失礼ですよアレッタさん。この方はシャンパ様、破壊神です」

 

シャンパという男の後ろに立つ女性は、青白い肌に白い髪に白い瞳。それと同時に発している圧力が、目の前の男と同じく普通の気ではないとわかる。それに予測不能な立ち振る舞いから、その実力は圧倒的な者だと直感する。どれほどのものかは見てからではないとわからない。

 

でもこれだけは言える。今の自分では勝てないと。何があってもそれだけは覆らないと頭が言っている。逆らうべきではないと本能が訴えている辺り、言うことを聞いておくべきだろう。

 

「失礼しました。先程の非礼についてお詫び申し上げます」

「まあ、それぐらいでは俺も怒らねえけどな」

「先程不遜な態度を取ったら破壊すると言ったのはシャンパ様では?」

「冗談に決まってるだろ!」

 

片膝をついて頭を垂れた俺の態度は何だったのかと聞いてみたくなる。だが今ここで聞く必要はないと自分自身に言い聞かせて目的を聞く。

 

「自分をここに呼んだ理由は何でしょうか」

「そいつから《力の大会》のことは聞いてるな?」

「開かれるということだけは」

「そこで勝つためにお前を推薦しようと思ったんだ。お前の力はまだこれから伸びると俺は見抜いた。そこでお前を選抜メンバーに入れるために訓練することにした」

 

破壊神直々の稽古?そもそも破壊神がどれほどの実力なのか俺にはわからない。かなりの腕前であるとは存在感からわかるが自分との差がわからない。

 

「破壊神のことも知ってもらう良い機会だ。時が来たら迎えに来るその時までゆっくりしていろ。キャベ、次に来たときは残りのサイヤ人もそれなりに腕前を上げとけよ」

「わかりましたシャンパ様」

「じゃあなぁ」

 

そう言うとシャンパと呼ばれた破壊神とその付き人らしき女性は、空間をねじ曲げる速度で消えていった。その様子をキャベと共に見送る。

 

「それにしても凄いですねアレッタさん。シャンパ様直々の推薦ですよ!」

「破壊神ときたか。どれほどの実力の持ち主なのか知れない以上、喜んで良いことなのかわからん」

「そうですね。簡単に言えば、この星を数秒で塵に還ることができるぐらいの御方と言えばわかりますか?」

「…冗談だろ?」

「事実ですよ」

 

嘘であると信じたいが、真っ直ぐな瞳と先程話かけてもらった事を考えると嘘ではないのだろう。〈サダラ防衛隊〉のエースが嘘をつくはずもない。虚実を伝えたところで利益は全くない。

 

星を簡単に破壊できるほどの存在とそれに付き添うことができる存在か。それなりに自分の腕前があるということだと思うことにした。

 

 

 

 

格闘大会後、パチークは精神に疾患を抱えたと精鋭部隊〈ゼロ〉の統率責任者より王に報告された。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

修行と過去

「オラオラオラオラオラ!その程度だと勝ち残れねぇぞ!」

 

強烈な連擊をどうにかして腕を使ってさばく。だが手数による差で、みるみるうちにダメージが積み重なっていく。

 

「っ!んなこたぁわかってるつぅの!」

「口の利き方に気をつけろ!オラぁ!」

「があぁぁぁぁ!」

 

いい加減意味耳にたこができるほど聞かされた台詞に、つい過剰反応を示してしまう。言葉遣いがなっていなかったらしく、少しばかり沸点に達したようだ。身体中の骨がきしむほどの蹴りを顔面に喰らい、大きな水しぶきを上げて湖に落下していった。

 

「…えげつねぇ攻撃。アタシだったら即死亡案件だぜ」

「いたたたた。軽くあしらわれている僕たちからすれば、あれだけの戦闘を短時間であっても続けているアレッタさんは凄いですよ」

 

水中深くへ沈んでいくアレッタを心配するように、カリフラは水面を覗き込みながら呟いた。その隣に身体中を傷だらけにしたキャベが弱々しい笑みを浮かべている。2人はアレッタがシャンパと戦っている前に稽古してもらっていたのだが、ものの数分で戦闘不能にされていた。

 

2人と比べて倍以上の時間を戦っているアレッタは、厳しめに評価を付けたとしても、文句の付けようはないだろう。超サイヤ人状態の全力で挑んだカリフラとキャベだが、片腕で軽くあしらわれている。だがアレッタは通常状態で、それなりに力を出しているシャンパと互角の戦いをしている。

 

吹き飛ばされたとはいえ、2人以上に実力が高いのは言うまでもないことだった。

 

「っ!何だぁ!?」

「何て気の圧力!」

 

突如、湖の底から水が間欠泉のように噴き出して雨のように周囲へ降らしていく。その水はアレッタが気を爆発させたことによって吹き飛んできたらしい。湖の一部が切り抜かれたように、底まで見通せる道を上がってくるアレッタの様子は、これまで見たことのないものだった。

 

髪は超サイヤ人のように逆立ちながらも金色ではない。瞳や眉も翡翠色に変化はしていない。身体中を覆う黒色の気も見えている。少し違うことといえば、黒色の中に薄く深紅が混ざっていることだろうか。超サイヤ人2特有のスパークをする瞬間に、深紅が垣間見えているようだ。

 

「見たことねぇぞその姿は」

「奥の手ってのは最後まで見せないもんですよ。《超獄王拳》!」

 

シャンパの問いかけにアレッタは冷え切った声音で応えて、爆発的に気を放出させる。その風はキャべとカリフラが顔を手で覆うほどだった。

 

「はっ、おもしれぇ。何処まで通用するか見せてもらおうじゃねぇか」

 

気の風を浴びても表情を厳しくしないシャンパが、左手の指を自分に向けてクイクイと動かす。俗に言う「かかってこい」という意味だ。そういうことをする人物というものは、自分の実力を理解しているか傲慢故かの両方にわけられる。

 

シャンパの場合は、どう考えても前者に他ならないが。

 

〈破壊神〉という生命の生死を左右することを許される存在。それを担うと言うことは、なれるだけの所以があるということ。そんな人物を相手にして、アレッタには未だ奥の手があるということに驚きを隠せない。

 

「行きますよシャンパ様」

「来いよ」

「ふっ!」

 

シャンパの言葉を引き金に、アレッタは瞬時に攻撃を開始した。

 

「なっ!」

 

空中を滑るように移動したアレッタは、大きく振りかぶった拳を、驚きで眼を見開いているシャンパの後頭部に叩き込んだ。アレッタが落下していった湖に向かって落ちていく。もちろんただ落下しているだけのシャンパではない。

 

追撃してくるアレッタに向けて気弾を連発する。だがその気弾を身体を軽く動くだけで避ける。さすがのシャンパも、大量の気弾を余裕で躱しているアレッタに危機感を感じ始めていた。

 

自分が未だ3割も本気を出していなくとも、ここまで攻撃を避けられていては焦ってしまう。稽古を始めてから1ヶ月で、異常なまでの成長を遂げるアレッタは一体何者なのか。〈破壊神〉でありながら人間如きの存在に違和感を覚えている。

 

ここに来たばかりの頃は、重力の差に身体が着いていけずに倒れ込むだけだったというのに。いや、その適応能力が異常だったのを思い出す。翌日には普通に立って生活することができていたし、3日も経てば自分で勝手に修行を始める始末だ。

 

キャベやカリフラ・ケールに限って言えば、1ヶ月経ってようやく修行に辿り着いた状態。異常なまでの適応能力と成長速度は、〈破壊神〉の付き人のヴァドスでさえ眼を見張るものがある。下手をすれば〈破壊神選抜格闘〉で見た《第7宇宙》のサイヤ人孫悟空に、勝るとも劣らぬのではないかと思えてくる。

 

つまりは殺し屋を生業としているその孫悟空と互角に戦ったヒットとも、かなりのハイレベルで渡り合えるということ。《第6宇宙》最強の戦士であるヒットと直接稽古したわけではないので、実際のところはわからない。

 

それにヒットはシャンパと手合わせをしたこともないので、アレッタが3割の実力も出していないシャンパと互角に戦えているといっても、その実力を正確に測ることはできない。

 

 

「…調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 

殴り飛ばされた勢いで落下するのではなく、自由落下していくシャンパが追撃してくるアレッタに怒号を飛ばす。つまりそれはシャンパが少なからずキレたことを意味していた。爆発的に圧力が膨れ上がり、アレッタや観戦していたキャベとカリフラにもそれが押し寄せてくる。

 

ちなみにケールは気を失っているため、ヴァドスが安全地帯まで移動させている。

 

「気じゃねぇぞこれは!」

「これは…神の気(・・・)!?」

 

サイヤ人同士で戦って感じる気の強さではなく、異次元の存在が放つ言葉にし難い圧力。それが離れているというのに、命の危険を感じさせてくる。目の前でそれを身体中に浴びているアレッタは一体どうなのだろうか。動くこともままならず見事なまでに壊されるのではないか。そう予測してしまう。

 

「あんな圧力の攻撃喰らったら、いくらアレッタの野郎でも唯じゃ済まねぇぞ!」

「アレッタさんっ!」

 

圧力の乱流によって2人を視認できない2人は、心配することしかできなかった。

 

 

 

そんな2人の心配をよそに、アレッタは自身に吹き付ける形容し難い圧力を感じて、薄い獰猛な笑みを浮かべていた。まるで簡単に倒れない全力を以て互角に戦える相手に、ようやく出逢えたことを喜ぶ武人のように。だがその顔は決して敵を舐めてなどいない。敬意を表するように戦いを楽しもうとしている表情だ。

 

それを見たシャンパは怪訝そうに顔を顰めた。5割近くの実力を解放したというのに恐怖でおののく顔をせず、むしろ喜びを感じている様子を見て。現に離れた場所で休憩している2人のサイヤ人は、その圧力で腰を抜かしている。

 

どうにもアレッタの表情が理解できなかった。

 

「…何がおもしれぇんだ?」

「さあ、自分でもよくわらない。けどこうして自分の手が届かない存在の力を感じることができて、高揚してるのかもしれない。聞いた話によると、《第7宇宙》のサイヤ人は《第6宇宙》のサイヤ人と違って、戦闘を好む血気盛んな野郎らしい」

「その戦闘好きな性格が災いして数人を残して全滅したようだがな」

「宇宙が違う時点で共感はしないさ。けど、その話を聞いて自分の性格が《第7宇宙》に近い感じがしてると思い始めた」

 

獰猛な笑みを消して真剣な顔をするアレッタに、シャンパも少なからず戦闘をするのをやめた。その言葉の意味を理解しようとしているのだろう。

 

「《第6宇宙》のサイヤ人のくせに《第7宇宙》のサイヤ人に近いだぁ?」

「まあ、その理由として非人道的なことが関係しているんだろうさ」

「俺からすれば、お前達が非人道的なことしてようとどうでもいいけどよぉ。それと何が関係してるんだ?」

「《第6宇宙》と《第7宇宙》のサイヤ人の違いは2つある」

 

その言葉は別段特別な話ではない。シャンパやヴァドスはともかくキャベはそれを知っている。〈破壊神選抜格闘〉でベジータから聞いているからだ。

 

「1つにさっき話した性格だ。《第7宇宙》のサイヤ人は凶暴で残忍性が高い。他種族の星を奪って他種族に高く売りつけることが生業だという。だが《第6宇宙》のサイヤ人は穏やかで大人しい。他種族と手を取り合って敵と戦う。これはまあ知ってることだろうが。そして2つ目は尻尾が生えていないということ」

「ああん?当然だろうが。キャベやそれ以外にも生えていないんだからな」

「…かつて俺の両親はより強いサイヤ人を求めて研究を行ったらしい。その結果、尻尾を生やすことで驚異的な戦闘力上昇が見られることを発見した」

 

遠い過去を見るように語るアレッタに、シャンパはどうでもいいという顔で話を聞いている。どうでもいいならさっさと攻撃すれば良いだけの話なのだが。それなりにシャンパにも聞いてやろうかなと言う感情が、僅かながらに膨れ上がっているのかもしれない。

 

「で、どうなったんだ?」

「サイヤ人は生まれてからしばらくの間は、保育カプセルという機械の中で育てられる。保育カプセルの中には、成長を促進させる成分を含んだ液体で満たされている。その液体に、細胞分裂促進剤なるものを秘密裏に混ぜ込んだ。そうして誕生したのが俺だ」

「つまりお前は普通のサイヤ人とは違うってことか?」

「それを聞かされたのはそれなりに時が経ってからだ。その頃には他のサイヤ人と自分は何かが違うと思い、1人で生きていた。他の誰とも関わらず孤独で。けどたった1人だけしつこくつきまとう奴がいて、根負けしてそいつとは少なくない時間を過ごした。この力は俺本来の力じゃない。科学力にものを言わせて生み出された悪魔の力だ。他人から貶され蔑まれて当然の存在」

 

己の存在を許せないとばかりに嘆くアレッタ。それを見てもシャンパはそれほど心を動かされなかった。死にたいなら命を絶てばいいだけの話だろうと思ったからだ。

 

「でも俺の正体を知らなくとも必要としてくれる子供達がいる。そいつらのために俺は生き続けなきゃならない。たとえ自身が望んで手に入れた力でなくとも、必要とする人がいるなら喜んで命を散らそう」

「英雄気取りかよ。いいぜその慢心を後悔するんだな!」

 

瞬間移動にも迫る速度でアレッタの背後に移動したシャンパは、手刀を首筋に叩き込もうとした。

 

「何!?」

 

振り返ることなく余裕でそれを防いだアレッタが、ゆっくりと視線をシャンパに向ける。防がれたことの驚きがその静かに燃える瞳を見て霧散する。それと同時に少しばかりこの戦いが面白くなりそうで期待感が高まっていく。

 

もしかしたら少しぐらい本気で戦っても壊れはしないのではないだろうか。そう思わせてくれる。

 

「おもしれぇ!」

「はぁ!」

「はっはぁ!」

 

腰の捻転力でアレッタが繰り出した拳を躱し、シャンパが右蹴りを繰り出しても、今度はアレッタが躱して拳を叩き込む。拳を掴むことなく避けるので拳圧がそのまま吹き抜けていく。草木を揺らさず空間を揺らす。もはや神の域の攻撃である。

 

「ちょっとばかし本気でいかせてもらうぜ!《スターダスト・フォール》!」

「ちょまっ!」

 

超スピードでシャンパから距離をとったアレッタは、上空から蒼色の気弾を雨のように降らせていく。その数は視認できるだけでおよそ100発。これからも続くとなると、その数は500を下らないだろう。なんとか直撃するのを避けているシャンパでも、範囲内からは逃げようがないらしい。

 

それでも擦るのが精一杯で大したダメージは与えられない。

 

「あったまきたぞぉぉぉ!」

「ぬぁ!」

 

我慢の限界が来たらしく、シャンパが神の気を周囲に爆散させ気の雨をはじき飛ばしていく。

 

「手加減なんかしないからな!」

「っ!」

 

気弾の雨を全て弾かれたアレッタは上空で厳しい表情をしていた。今の自分の全力攻撃を防がれてはこれ以上の策は考えられない。精々可能な限り攻撃を防ぐことだけが対応策だ。

 

押し潰されそうな圧力にどうにか耐えていたアレッタだったが、迫ってくるシャンパの存在感に圧倒されていく。目の前で止まったシャンパを見ても回避行動はおろか、呼吸の仕方さえ忘れたかのように動けなくなっている。

 

「お前、生意気だ」

「うおわぁぁぁぁ!」

 

左頬を殴られたと認識したときには、俺は体勢を大きく崩してとてつもない速度で吹き飛ばされていた。眼下の景色さえ見る余裕もなく、身体を停止させることに全意識を向ける。そのせいか背後に移動していた〈破壊神〉に気付かなかった。

 

「警戒を怠ったな?はぁ!」

「があぁぁぁぁ!」

 

今度は回転力を加えた尻尾の一撃で、今度は地面に向けて叩き付けられた。

 

「ぐぅ!」

 

どうにか体勢を立て直して受け身を執らずに叩き付けられるのは防いだ。だが尻尾による攻撃は俺の体力を限界近くまで奪っている。空中戦闘する余裕もない。

 

「…耐えたのか。じゃあとっておきをお見舞いしてやる」

「星ごと破壊する気なのか!?」

「喰らえ」

 

頭上に構築させた破壊の気を俺に向かって振り下ろした。巨大な破壊玉が直撃すれば俺だけでなく、キャベやカリフラ・ケールまでもが道連れになる。仲間として過ごした時間はごく僅か。カリフラとは準決勝で戦った仲でもある。

 

たったそれだけの時間ではあるが、ある程度には仲間意識を持ち始めている。サイヤ人という共通点だけでなく、人間性に少しずつ興味が湧いてきているからだ。それにキャベといると心が軽くなる。子供達といるときとは違った安らぎがある。

 

そんなこいつらを失うわけにはいかねぇ。

 

「おおおぉぉぉぉぉ!」

 

消えかけていた《超獄王拳》を再度発動させる。全身から限界を告げる悲鳴が聞こえるが、こいつらを失うことと比べればかすり傷と同じだ。

 

「《蒼龍波》ぁぁぁ!」

 

全身全霊を込めた技だが、〈破壊神〉の巨大破壊玉に通用するはずもない。僅かに勢いを弱めただけで、何か意味があったわけでもない。

 

「ぐおぉぉぉ!」

「その程度で止められるわけないだろ。バカが」

 

罵られようとできる限りのことをする。それが今の俺にできる唯一の行動だ。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

 

そう意識した瞬間、身体の内側から熱い何かが膨れ上がってきた。俺の意識を飲み込むかのように身体全体に広がっていく。

 

『壊せ壊せ壊せ壊せ』

 

破壊衝動が生まれてくる。こんなものに飲み込まれたらそれこそ無差別殺人だ。〈破壊神〉はその役目を果たすだけに破壊をする。害ある生命を払拭し、未来ある生命を庇護する。生死の天秤を委ねられた審判なのだ。

 

だが一介の存在が破壊をすることなど許されない。

 

俺はあらゆる命を護る守護者になる!

 

そう心の中で叫ぶと破壊衝動が収まり消えていった。それと同時に熱さから暖かさを持った何かが流れ込んできた。懐かしいような心が安らぐようなそれでいて力が溢れてくる。

 

破壊の力ではなく純粋な戦いの力が溢れてくる。

 

「ああああぁぁぁぁ!」

「何!?」

 

膨れ上がる確かな力が巨大破壊玉の落下を防いでいる。だがそれでも均衡を保つのがやっとで押し返すほどにはならない。たとえこれが続いても何の解決にもならない。それにずっと押し返している俺には負担がかかるが、破壊玉を投げ終わった〈破壊神〉には何の影響も出ない。

 

放っておけばいつかは体力が尽きて着弾するのは誰にでもわかる。

 

「何かむかつく。もう一個おまけだ!」

「なっ!うおわぁぁぁぁぁぁ!」

 

新たに生成された巨大破壊玉が均衡を保っていた破壊玉に衝突すると、俺は為す術もなくはじき飛ばされた。はじき飛んだ俺をキャベがどうにかキャッチしてくれたが、大部分の気と体力を使い果たした俺は、立つこともままならない。

 

「…すまんな。何もできなくて」

「いいえ、十分守ってくれましたよ。貴方のせいで死ぬわけじゃありませんから」

「そうだぜ。あたしらが弱いのが原因だ。ま、あれだけの戦闘見れただけよしとしようぜ」

 

どうやら納得した状態で現状を受け入れているらしい。

 

2つの破壊玉の衝突によって莫大なエネルギーが発生していく。2倍ではなく2乗のエネルギーへと変換され、触れた地面から無へと還されていく。

 

アレッタたちの目前に迫った刹那。

 

「お戯れはそこまでですシャンパ様」

 

透き通るような声と共に、つい今し方まで星の破壊をしていた破壊玉が一瞬にして消え去る。死を覚悟していたアレッタたちはその様子に呆気にとられてしまう。

 

「邪魔すんなよヴァドス!最高の花火が打ち上がるところだったのによぉ!」

「これ以上の破壊は私が許容しません。勘違いはしないで下さい。別に肩入れしているわけではなりませんよ。今ここで彼らを破壊してしまえば、《第6宇宙》の存続どころか〈力の大会〉に出場することさえできません」

「別にこの星を破壊したところで問題ねぇし」

「そういう問題ではありません。論点がずれているということにお気づきください。まったく」

 

シャンパの無茶を見慣れているとはいえ、今回のことだけは見過ごせなかったらしい。彼女の立場として、戦いに参戦することはできない。〈天使〉の立場は中立。如何なる場合でも誰かの味方になるということはない。

 

今回は自身の〈宇宙〉がなくなるということを危惧しても行動だった。誰かの味方になったわけではなく、〈全王〉が破壊する役目を務めるのだから、〈破壊神〉が個人的な理由で破壊していいわけではない。だから今回の仲裁は、意図して誰かの味方をしたのではなく、工程を守るためという意味合いが強い。

 

結果的にアレッタたちをかばうことになってしまったが、これは偶然や奇跡といってもいいだろう。

 

「けっ。こいつらがいなくなっても他の奴らを補充すればいいだけのこった」

「おそらくですが、彼らほどの腕を持つ戦士はいくら探しても見つからないと思いますよ?たとえ将来それだけの腕を持つ戦士がいたとしても、開催まで残り僅かとなった今では、修行を付けても現段階の彼らぐらいにしかなれないでしょう。奇跡を以てしてと付け加えますが」

「ふん。俺は寝る」

 

ヴァドスの言い分が正しいと理解したのか、それとも自分の立場が危うくなったと気が付いたのか。おそらくはその両方だろうが「口は災いの元」と言うので言わなくともいいだろう。

 

「っ…」

「「アレッタ(さん)!」」

「疲労と緊張の糸が切れたことで気を失いましたか」

 

杖をアレッタに向けて浮遊させる。アレッタを移動させようとすると、キャベが不思議そうにヴァドスに聞いた。

 

「緊張の糸…ですか?」

「彼が今まで意識を保っていたのは貴方たちを救うためです」

「あいつがあたしたちを守るために戦ったって!?」

「気付いておられなかったのですか?」

 

少なからず戦いを共にしていた仲なので、多少なりとも戦いを見ていればわかっているとヴァドスは思っていたようだ。

 

「彼がシャンパ様が放った破壊玉を避けずに受け止めようとしたのは、何故だかわかりますか?」

「強くなるためじゃないのか?」

「本来〈破壊神〉の破壊玉を受け止めることは容易ではありません。下手をすれば放った気弾ごと消え去る(・・・・・・・・・)のですから。6割以上の力を出しているならば尚更です。彼が放った気弾は押し負けましたが少なからず耐久して見せました。これがどれだけ驚異的なことかわかりますか?」

「僕たちからすれば凄いとわかっていても、どれほどの事なのかわかりません」

 

理解できない自分の実力にうなだれるキャベを見て、ヴァドスは同情するような笑みを浮かべた。

 

「〈破壊神〉が本気を出すにつれて、神の気に含まれる破壊の気は増えていきます。増大すればするほど普段使う気の倍失われていきます。当然と言えば当然ですが」

「何故でしょうか」

「簡単なことです。破壊玉本来の気を受け続けつつ破壊の気を中和しなければならないのですから。話を戻します。一時的にとはいえ、破壊玉を押し留めて弾き返そうとした力は神の域に近いことを意味しています。ただしその域にいられるのはごく僅かな時間だけ。今の彼の実力では達することができても維持はできず、身体を傷つけるだけになるでしょう。戦闘しながらその域に留まるに、まずは神の域にいる状態に慣れることでしょうね」

「慣れることができればアレッタさんはヒットさんを越えると?」

 

キャベの言葉にカリフラも驚愕する。キャベから聞いた話では、《第6宇宙》最強の戦士はヒットだと聞いている。殺し屋として名を馳せる彼は、「生ける伝説」と称されるほど。〈破壊神選抜格闘〉では《第7宇宙》のエース孫悟空と互角の戦いをしたらしい。

 

互角に戦ったヒットを越えるとなれば、《第7宇宙》に単独戦闘を挑めば負けることはないということ。だが〈力の大会〉が開催される頃には、孫悟空もその時以上の実力を身につけてくるだろう。ヒットを越えたところで勝てる可能性が100%というわけでもない。

 

《第7宇宙》に勝ったところで、それ以外にも敵は多くいる。他の《宇宙》だって生き残るつもりで挑んでくるのだ。《第7宇宙》だけを注意していればいいわけではない。《第7宇宙》より手強い敵だっているかもしれない。アレッタだけに力を付けさせておくだけでは勝てない。

 

エース候補またはエース各が敗北すれば、チームの士気に多大な影響が出てしまう。エースだけに頼っていては、いなくなった際に生き残ることなどできない。チームが相対的な実力を付けて挑む《宇宙》が勝つのだ。

 

「残りの期間で彼がどこまで強くなるか。それは彼自身が決めることです。私たちが介入する事柄ではありません。チームプレーであっても最終的に必要とされるのは、個人の実力と運。運ばかりは〈破壊神〉にも〈天使〉にも操作はできませんけど」

 

意味深な言葉と笑みを浮かべて、アレッタを浮遊させてヴァドスはその場を後にした。

 

 

 

2人から十分に距離をとったところで、ヴァドスは普段浮かべている真面目なのとは違い、悩むような表情を浮かべている。まるで自分に理解できないないかが起こっていることを、暴いてやるとでもいうのように。

 

{シャンパ様との話を聞いた限りですが、彼は普通のサイヤ人とは違って遺伝子操作をされたサイヤ人ということ。キャベさんやカリフラさん・ケールさんとは違うサイヤ人。遺伝子操作による危険な異常性は今のところ見当たりませんね。むしろ不思議なほど落ち着いているように見えます。実験で遺伝子操作された生物は、いつのときも何かしらの欠陥を抱えているもの。成長できない・凶暴性が増す・繁殖できないといったところですが、この例も私が知っていることの一部分。1つ気がかりがあるとすれば、一時的に破壊玉を押し返していた瞬間、彼の内側から〈破壊神〉とは違った別の破壊の概念を持った何か(・・)を感じたこと。すぐに消え去って膨大な力に変わりましたが、あれは普通の気ではありませんでした。}

 

「…わからないことをいくら考えたところで、結果は見えませんね。今はその疑問を棚上げにして星の修復をしましょうか。アレッタさんとシャンパ様の戦闘でかなり傷ついてしまいましたから。貴方の腕前は私が保障しますよアレッタさん。〈天使〉からすれば気にすることもありませんが、一介の生物の実力としてはピカイチです」

 

気を失ったままのアレッタを休憩室に運ぶために、ヴァドスは穏やかな笑みを浮かべて歩を進めた。




《超獄王拳》・・・《獄王拳》を完全習得したアレッタがさらに上の次元へ覚醒させたもの。

《スターダスト・フォール》・・・上空から気弾の雨を降らせる現時点でアレッタ最強の技。



《超獄王拳》は悟空があの世一武道大会で、パイクハーンと戦った際に使用したものと同じです。正確には、超サイヤ人に《界王拳》を重ねたものですが、今回は《獄王拳》の強化版という設定にしています。

《スターダスト・フォール》はドラゴンボール超 BROLYで登場したゴジータの技ですね。ゴジータは原作に出てきませんが、作者が一番好きなキャラクターでもあるので出した方という次第です。

今頃になりますが、主人公アレッタの顔や髪型はゴジータそのものです。べジットなら悟空やベジータなどは気が付きますが、ゴジータの出番は劇場版だけでありパラレルワールドの世界なので2人が知ることはありません。

映画ドラゴンボール超 BROLYを見た方ならば、アレッタの破壊衝動がどういったものなのか予測はついていると思いますが、ご内密にお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。