刻印虫(ガストレア) (ワカメ#たまごすーぷ)
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神を目指したものたち chapter0

zeroコラボやり忘れたので初投稿です。


ーーーぐちゃぐちゃと、湿っぽい音がする。

感覚器を使って辺りを探る。斜め下と傍らに熱源を感知。片方の熱源からはゆっくりと熱が失われいく。

その上に、ワタシはいた。

ーーワタシとワタシとワタシとワタシ。すべてのワタシが赤い複眼を光らせ、こちらを見ていた。

哄笑が上がる。傍らの動く熱源を見る。いましがた手に入った『記憶』によれば、それは老人といって差し支えない姿をしていた。

 

「やっと、やっと現れてくれたな。もう潮時かと思っていたわい、統率個体」

ーーゆっくりと、地を這う。もはや搾取しきった肉に用はない。ワタシたちも四方から寄り添い、あとに続く。

 

「貴様をサンプルに持ち帰り、組織へと返り咲くことが出来れば、もはや東京エリアを手中に納めることも夢ではない。それでこそ、助手も浮かばれるというものよ」

 

ーー老人は動かない。『記憶』によると服にバラニウムを編み込んでいる。なるほど、確かに近づく程忌避感は高まる。高まるがーー

「なに!?」

 

___別に、無視すればいいだけだ。

 

「儂の、儂の腕がァ!」

 

ーー痩せ細った腕が音を立てて落ちたかと思うと、あっという間になくなった。血の滴る腕を押さえて、老人は蹲る。

 

「あり得ぬ、あり得てたまるものか!」

 

ーー政府要人を暗殺し、その人物に擬態させて操る。啜る生き血から記憶を読み取り、模倣をさらに進化させる。老人のデザインは完璧だった。間違いがあったとすれば、蟲と人との時間の流れを見誤ったこと。バラニウムが有効だったのは、蟲にとっては過去の話だ。

 

__オマエヲクワセロ。

 

 

閉じられた部屋で、微かな咀嚼音が響く。固まりになった大量の蟲は蚊柱の様になったかと思うと、瞬く間に老人となった。そのまま部屋を出ていくところで、アタッシュケースに気づく。ケースの中には幾本の注射器と、『侵食抑制剤』のラベル。

羽音が、鳴った。

 

 

 

 

今から十年前。突如現れたガストレアウイルスは、数多の生物に感染した。感染した生物は化け物(ガストレア)となり、多くの生物を襲い、そこからまた感染が拡大した。

ーそれは、人類もまた、例外では無い。あわや絶滅の危機に瀕した人類はガストレアに絶大な効果のある金属、『バラニウム』を発見し、それぞれの主要都市にバラニウムで作られた巨大なモノリスを建築することで難を逃れた。基本的にガストレアウイルスは血液感染しかしないこともこれを後押しした。

しかし、空気を媒介に微量のガストレアウイルスが母体に侵入し、母体に異常が無くとも、赤目の女児が生まれることがあった。いわゆる『呪われた子供達』だ。

彼女らは一様にガストレアウイルスによってもたらされた超常の力をもち、それゆえに迫害された。バケモノ、と。

しかし同時に警察機構等による都市防衛に限界が見えていたため、ガストレア駆除を専門に請け負う『民間警備会社』(民警)が職業として成立。そうして幼女のカタチをしたバケモノ(イニシエーター)それを制御し管理する責任者(プロモーター)という二人組で依頼を遂行するのが常識となった。

 

 

突然防衛省に呼ばれた『天童民間警備会社』の女社長、天童木更と、唯一の社員でありプロモーターの里見蓮太郎は困惑していた。

 

「木更さん、呼び出されたのは例の件じゃないのか?」

「知らないわよ。とにかく来い、としか言われてないわ」

 

案内された部屋につく。重厚な会議室の扉を開くと、中は緊張した空気に包まれていた。

縦長のテーブルを囲うのは、すべてが東京エリアの上位に位置する民警の社長達。それぞれの後ろには、社員のプロモーターとイニシエーターが直立し、睨みを効かせている。

一瞬気圧された二人だったが、気を取り直し机の末席に座ろうとする。が、巨漢が立ち塞がった。

 

「オイオイ、最近はガキまで民警ごっこかよ?」

 

見上げる程の上背に、服の上からでわかる筋肉。金髪に骸骨プリントのスカーフを口元に巻いた男が見下し、嘲笑する。聞き捨てならないと蓮太郎が言い返し、それぞれの得物に手を添える。そこでおもむろに男が放った言葉は、蓮太郎の逆鱗に触れた。

 

「オイガキ、プロモーターなら道具はどうした?」

「道具?」

()()()()()()()だよ」

「延珠を、道具だとっ!!」

ーー激昂した蓮太郎が銃を抜き、男が大剣を構える直前。

 

「ひどいことを言う」

ーしわがれた声が、場を支配した。

 

カツ、カツと杖を突きながら、腰の曲がった老人が歩いてくる。和服を纏った体は、年相応に腰が曲がっていて、どうみても荒事に向いているようには見えない。それでも、老人から漂う雰囲気が、不穏なモノを予感させた。

 

「ワシの可愛い孫娘たちを、道具扱いとは。東京エリア上位の民警が集うということは、この儂が来ることも予想できなんだか」

 

老人はゆっくりと男の前に立つと、白濁して何も見えないであろう目で巨漢を見上げる。皺だらけの顔を嘲笑で歪める。

「それとも、その矮躯で儂を相手取れるとでも?」

「ーーーーッ!!」

激昂した男が大剣を抜く。鍛え上げた筋肉をもって、老人の首を両断するーーー

「やめたまえッ!将監!」

ーことはなかった。

振り下ろされた大剣は、老人の肩口で止まっている。

「三ヶ島さん!」

「私に従えないのであれば、今すぐここを出ていけ」

「……へいへい」

自らの後ろに巨漢の男ー将監ーが控えたことを確認すると、三ヶ島は老人に向き直った。

 

「この場はこれで納めてくださいませんか、間恫社長」

「うむ。聞き捨てならんコトがあっただけで、別に怒ってなどおらぬ。若人を諌めるのも、年長者の責務じゃろうて」

 

…老人がゆっくりと一番前の席に着く。それを見送って三ヶ島は蓮太郎たちに向き直った。

 

「…君たちも、この場は納めてくれないか」

「…わかった」

 

席に着いた木更は、蓮太郎に小声で話しかける。

「『三ヶ島ロイヤルガーター』所属、伊熊将監。IP序列1584位」

「1000番台!」

「彼の民警ペアは世界で70万以上存在するイニシエーターとプロモーターのなかでも、上位1%に属するわ。

ちなみに、里見くんと延珠ちゃんペアの序列は12万と幾つ。イニシエーターは優秀なのにねぇ」

痛いところを突かれた蓮太郎は押し黙る。

「…そして、あの御老人が間恫臓硯。蓮太郎くんも知ってるでしょう、従来より効果の高い侵食抑制剤を開発して、一時期話題になった人よ」

「あれがか…」

「本人もプロモーターらしいけど、実際に戦場で見かけたことは無いわ。滅多に表に出てこないし」

「なんでも、虫が好きで、四六時中愛でているとか」

「虫、か」

…脳裏に浮かぶのは、先日倒した蜘蛛型のガストレア。虫といえばガストレアを想起してしまうご時世で、虫好きとは変人に違いない。

 

会議室の前方から制服を纏った男がやって来た。

「空席、1か…」

空いた席を一瞥したあと、声を張り上げる。

「この依頼を辞退するものは速やかに退席していただきたい。依頼を聞いたあとに辞退することはできない」

辺りを見渡す。一人も席を立つものはいない。

「これより、依頼の説明を行う」

波乱に満ちた会議が、始まった。

 




将監さんは全方位に喧嘩売っていくスタイル。ハレルヤさんは出したい。

追記:話を進めるにあたって蟲の能力を変更。


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chapter2

前回読み返して思った。俯瞰的にしすぎてオリ主の心情描写薄くてつまらないと。原作なぞるのに必死になりすぎた。

今回はっちゃけてます。



防衛省からの帰り道。滅多に行かない中央に出てきたため、欲張って買い物をしすぎてしまった。しかし、ワタシが手ずから買ってきたモノを与えると、彼女たちは非常に喜ぶ。それを見るのはなかなか楽しい。

背中に巨大な風呂敷包みを背負った老人が歩く。ここが外周区近くでなければ、騒ぎになりそうな大きさだ。なるべく人目と日光を避けて移動したため、予想外に時間がかかる。ほてほてと、月明かりに照らされながら家路を急ぐ。あと少し、曲がり角を出た瞬間、

ーーー黒刃が煌めいた。

「な、にーーーー!!」

慌てて両手を前に出すが、 なんの遅延にもならず。老人の両手もろとも首を切り飛ばした。

とさり、と首が転がる。下手人はもはや目もくれず、死体に背を向け父親に声をかける。

「ぱぱぁ、こいつよわっちぃ」

「依頼主に頼まれてね。警戒しろとは言われたけど、やはりただの老人か。さ、小比奈。蓮太郎くんたちを迎えに行こうーーーー!

 

ーーー老人の死体があるべき場所。月明かりに照らされたそこには、なにもなく。かわりに、影のなかで無数の赤が光っている。

 

蛭子影胤は直感する。これは、こいつは目だ。無数の目玉が、こちらを無機質に観察しているーーー

 

「小比奈ぁっ!!」

「……へ?」

 

直後、大量の蟲が飛びかかり、少女の姿は見えなくなった。中にいる小比奈に被弾することを恐れて、影胤にはどうすることもできない。

時間にして数秒。離れたところに移った蟲は固まると、みるみるうちに老人となった。

 

「うむ。なるほど、なかなか甘美な味であった」

 

老人はカカ、と笑う。まるで、先程の惨劇がなかったかの様に健在だ。対する小比奈は、仰向けで倒れている。

走りよった影胤は、娘の体調を確認する。多量の発汗で髪は額に張り付き、頬は紅潮して体全体が熱を持っている。忙しげに呼吸し、放り出された肢体をせつなげに震わせていた。

 

「…なにを盛った」

「はて。何故教えてやらねばならぬのか」

 

蛭子影胤は銃を抜く。放たれる殺気。されど老人はおかしげに体を震わせるだけだ。

 

「聞いたぞ、わしを襲ったのは本意ではないと。現状わしを殺す手段がないのであれば、ここは引くのが得策であろう。

ーーーーそこな小娘。手遅れになるぞ」

 

と。憎々しげに睨み付けると、影胤は小比奈を背負って立ち上がる。

 

「…このバケモノが」

「おぬしは、人類の敵じゃろうに」

 

カカ、と笑う。背を向け走り出した影胤の耳には、老人の哄笑がいつまでもこびりついていた。




正直、礼装の蟲がかっこよくてこの話を書いたまである。

原作既読タグつけるので、原作描写は薄めでいこうと思った。


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chapter2 2回目

説明会。&オリ幼女。
あと性転換タグを追加したのはこのため。
臓硯(真性)ではないので、魂の問題はない。
というか、蟲を主人公にすえた意味がない。

最後に、私はTSもの大好きです。


影胤と小比奈を見送ったあと、少し歩くと家の玄関が見えてきた。

老人の足は遅々として進まない。もう家も近いし、辺りは真っ暗だし、少しズルをしてもバレないだろう。

ーー足の合成皮膚を分解。足先から雪崩落ちるように蟲が溢れ出す。袴の内側に潜んでいた蟲達が、我先にと飛び出してくる。キチキチと、喜びの声をあげ、主の体を支えて蠢く。

そのまま、スイーと平行移動。気分はまさしくスケート選手。人目のあるところでは殺虫剤待ったなしな姿で、夜の道路を滑る。滑る。

 

ーそうやって調子に乗っていたのが悪かったのか。白衣を着た中年男性が、唖然とこちらを見つめていた。

双方しばらく硬直。

 

「…我が屋敷になに用かな」

「お、お届けものです。室戸先生の使いで…」

 

後ろを見る。彼が乗ってきたと思われるクレーン付トラックと、今下ろしたらしい厳重に封印されたコンテナ。

 

「なるほど、あの引きこもりの遣いか。後のことはこちらで行う。君はもう帰って宜しい」

「はっ、はいっ!!」

 

焦ったような返答を疑問に思うが、体は疲れきっている。急いで車に消えた白衣を尻目に、玄関の扉をあける。ただいま。

 

 

 

 

中年医師、菅谷卓人は怯えていた。

(なんだ!なんなんだアレは!)

震える指でキーを差し込む。何度も繰り返してやっとエンジンを起こし、荒っぽい運転で来た道を戻る。

(人間なのか!アレが!)

ー暗闇から滑るように現れる老人。足先から闇に溶け、老人自体が底無しの威圧感を放っていた。極め付きは虫達の大合唱。明るいとこなら楽しむソレも、ヘッドライトのみの暗闇のなかでは不気味に響く。

(もう絶対行くものか!あんなとこ!)

自分に頼んできた室戸菫を恨む。小間使いにしては高い報酬に飛び付いたが、もう二度とやるものか。

四賢人に意見など恐れ多いが、あんな恐ろしいところに行ってられない。霊安室など、アレと比べればスイートルームだ。

今夜は一先ず飲んで忘れよう。菅谷卓人は決意した。

 

 

 

 

「ただいま」

玄関は自動で点灯し、家主を温かく迎え入れる。

足元を見ると、小さいサイズの靴が2セット。大人の靴が無いことから、家政婦はもう帰ったようだ。

いつもより格段に帰りが遅い。時刻はもう深夜近くで、二人とも寝てしまっているだろう。と思っていたが、

トテトテと足音。

 

「おかえりじっちゃーん!」

「…お帰りなさい、お爺様」

 

うむ、と頷き。二人に後ろを向くよう促す。背を向けたのを確認すると、結合を解除した。

ーーーすべての蟲が体から溢れ、ボロボロとこぼれる。蟲で溢れ帰った玄関とは裏腹に、老人は跡形もなく消え失せる。

直後、脳蟲を核として体を再構成。ミチミチ、キチキチと冒涜的な音がして肉を鋳造する。

一瞬で、白衣の女性が出現した。髪が黒より藍色に近いのを除けば、典型的な日本人だ。

 

「よし。もう見て大丈夫よ」

「…別に、作り直さなくてもいいのに」

「そうだぞじーちゃん。もう大丈夫だ!」

 

首を振る。確実に癒えていると言っても、まだ少し男性恐怖症は抜けていない。そも、不快感を与えることが嫌なのだ。それに、

 

「老人は疲れるのよ。腰が曲がってるから重心を置きづらいし。この前だって重さに耐えきれなくて落っこちた首見てビビってたじゃない」

「…あれは卑怯」

「じーちゃんのあくしゅみー」

 

ムスっとした顔をされるが、眠気を隠しきれていない。

ーほら、二人そろって大あくび。

 

「お出迎えは嬉しいけど、もう寝なさい。お土産もあるけど、また明日ね。」

「…おやすみなさい。お爺様」

「おやすみじっちゃん」

「はい、おやすみ」

 

連れだって部屋へと戻る二人を見送る。

いつもはお団子にしている蜂蜜色の髪。それを寝るために降ろしている小柄な少女。小春。

紫髪を靡かせ、片時もマスクを外さない少女。梅。

ワタシの大事な娘たちであり、『呪われた子供達』だ。

 

 

届けられたコンテナを、地下にある蟲蔵に運び込む。

過去に研究室として使われた名残か。複数あった机と機材はほぼ撤去され、剥き出しのコンクリートを晒している。

壁面には複数の穴。人工の巣穴には、赤い光が瞬いていた。

ーーコンテナの中身を地面に空ける。転がり出るのは巨大な蜘蛛型ガストレア。よほど強い衝撃を受けたのか、四肢はバラけ、頭蓋は両断されている。途端に強くなる腐臭は、ガストレアの死体から漂っていた。

蟲の時なら芳しい匂いも、人の時だと不快に思う。この時だけ、人の感性は不便だ。普段は擬態に最適なのだが。

それじゃあ、イタダキマス。

 

 

キチキチ、という鳴き声と、グチグチと響く咀嚼音。

地面に投げ出されたガストレアの死骸に、数多の蟲達がびっしりと集る。集る蟲すべてが人間のような歯と歯茎をもち、甲殻に覆われた流線型のフォルムは、肉に潜り込むのに適している。強靭な顎で肉骨関係なく砕き、飲み込む。

 

そうやって腐肉に無数のトンネルを作り、コンテナの中にこぼれた体液も舐めきっていると、電話が鳴る。

瞬時に臓硯としての肉体を再構成。助手の体は公的には死亡扱いになっているので、電話に出るわけにはいかないのだ。

 

「さて。夜分になに用かな。四賢人殿」

「…ただの確認だよ。遣いに出した物がなかなか帰ってこなくてね。今週分のガストレアはもう届いたかい」

「おうとも。なかなかに美味であったぞ。この分だと、いつもより少し多目に産まれるじゃろうて。納期はいつも通りでよいかな?」

「構わないよ。むしろ量が増える分には大歓迎さ」

 

電話しながら穴を覗く。内部に設置したウエハースのような建材には、びっしりと青白い卵がくっついている。

世代交代のサイクルが早いということは、その過程で突然変異が起こる確率も上がることを示している。

ガストレアでありながら侵食抑制剤を体内に含むことは苦痛の極みだったが、耐性がついた個体が生まれればなんということはない。今では持ち前の繁殖力を生かしてすべての個体が耐性持ちに生まれ変わっている。

産んだ卵を精製し、希釈して常用すれば()()()()()()()()()()()()侵食抑制剤の出来上がりだ。

民警が存在する限り需要がある。まさしく金の卵を生むガチョウ(ガストレア)だった。

 

「それにしても変なモノを食べるねぇ。食いでは有るだろうけど、味は最悪だろう」

「あいにく、そんな高尚な舌ではなくてな。それにお主に言われたくはない。死体の消化物を食べるなど、常軌を逸しておるではないか」

「『グロック』というれっきとした料理だよ。それに私は()()()()()()()()()()()()()()

「…ぬかせ。狂人めが」

「そうかい。じゃあ納期はいつも通りで頼むよ。カッカしすぎると体に障るよ、御老体」

 

返事はせずに電話を切る。

…ワタシに同類はいない。ガストレアとしての同胞(ウイルスに犯されたモノ)は数多くいても、それを同類として認めない。認められない。

会話が通じない生き物を、ワタシと同列視することはどうやったって、ムリだった。

 

 

 

室戸菫は持っていた受話器を耳から離す。

「…切られた」

ついで、机の上のアンダーギー(死体の胃袋産)に手を伸ばす。思い出すのは、昼間の少年との会話内容。

『ガストレアには知能がないというのが日本ではなぜか定説になっているが、これはもうほとんど否定されている。』

「否定されている、ねぇ…。里見くん、私はたった今その生き証人と喋ったところだよ」

 

自らを外道と称する女医の独り言は、霊安室の中で寒々と響き渡った。




ボリューム増えてしもうた。こっから先のこと考えてない、つらい。

作者の脳内イメージでは

主人公:臓硯or結界士の藍緋
小春:プリヤの獄間沢龍子
梅:花札の幼女桜

の見た目となっております。オリ幼女なんて作れなかったんよ。というか、十歳て幼女なの?もう少女だと思うんですが。感想で幼女派が多かったら幼女に変更します。(露骨な乞食)


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chapter3

オリ幼女回。古本屋でブラブレ買い直して、プロット(のようなもの)立ててたりしました。ぶっちゃけ
臓硯「なにっ!」
小比奈「ずんばらりん」
臓硯「無駄じゃ!」首サイセイ(強者オーラ
みたいなのしたかっただけだからその先考えてなかった。


ヘリコプターの音が機体の中にバタバタひびく。

初めて乗ったヘリコプターは少し緊張したけど、じっちゃんが側にいるので頑張った。

乗ってしまえば好奇心のほうが勝ってキョロキョロしていると、じっちゃんの膝に抱えられてしまった。

ここにいる民警は6組。全員がじっちゃんと同じ『七星の遺産』をうばいかえすために集まった()()()()らしい。

なかでも一番怖かったのが、伊熊という男の人。乗ってきた瞬間からすごい目付きで睨んできた。じっちゃんがお喋りしたら、すぐに不機嫌そうにそっぽを向いてたけど。

なので、お返しに私もそっぽを向いてやる。そのままじっちゃんの懐に抱えられると、だんだん眠たくなってきた。

(まぶた)が、落ちる。じっちゃんは虫のくせに、人をマネしているせいか少し暖かい。そのぬくもりにつられるように、意識が落ちた。

 

 

 

ーーー地獄だった。トラックの荷台には、薄汚れたコンテナが乗っている。中には腐肉。ガストレア、呪われた子供たち、ただの浮浪者。一切問わず、それら全てが折り重なっていた。

確固とした行政がある中央はまだいい。それすらもない外周区周辺では、死体の処理は行われるのか。

ーー否。迫害され、遺体でさえ保菌してるがために足蹴にされる『呪われた子供たち』。身寄りもなく家もない浮浪者。たまさか侵入してすぐ死に絶えたガストレア。

それらは、外周区の片隅にひっそりと集められ、捨て置かれる。誰も話題にせず、いつしか忘れ去られる。そんな場所だからこそ、後ろ暗い人間は度々利用し、需要が発生していた。

 

ほら、今だって。

ーー自分の体がコンテナの死体の上に追加される。投げこまれた体は、糸の切れた人形のように脱力していた。頭ではなく心で、これが夢だと直感する。

薄汚れた体。千切れかけた手足。ヒュウヒュウとか細い呼吸は、かろうじて死体では無いことを主張する。

けれど、もうすぐ死ぬ。

 

「あんたさぁ、これで何回目よ。さすがにウチらもIISOに目を付けられるのは勘弁なんだけど」

「仕方ねぇだろっ!一回囮にしただけで壊れるコイツがわりぃんだよ!任務中だっていちいち口を挟みやがって…!」

 

コンテナの乗ったトラック。その前方、運転席に座っている回収業者と、相棒(プロモーター)であったはずの男がいがみ合う。

 

「そもそもソレまだ生きてるじゃない。ちゃんと始末つけてくれないと困るわ。『相棒殺し』さん?」

「…っ!わっーたよ!」

 

バラニウム製の弾丸が数発、少女の体に撃ち込まれる。衝撃で少し跳ねるが、それだけ。

 

「これでいーだろ!さっさと行けよ!」

「…仕方ないわね。多目に貰うわよ」

「クソっ!」

 

業者の差し出した手に乗せず、代金を直接運転席に投げ込んだのは男の意地か。数枚の紙幣が宙を舞う。業者は横目で紙幣の枚数を確認すると、男を一瞥すらせずに発進した。

 

 

ガタゴトと揺られることしばし、突然宙に放り出され、地に落ちる。転がった体に土が付着する。…すでに、体は虫の息。かろうじて、目と耳が機能する。

 

「…幸運を祈るわ」

 

今さら、なにに祈れと言うのだろう。神様はなにもしてくれなかった。

身勝手な一言を呟いて、業者はその場を去っていく。トラックのエンジン音が遠ざかれば、辺りには静けさが満ちた。

…静かだった。肌を焼く太陽の感覚が薄くなっていく。

…静かだった。心臓の弱々しい拍動しかわからない。

…静かだった。気が狂いそうなほどに。

生きることはもう、諦めた。ただ、独りぼっちで死ぬのだけは、堪らなく嫌だった。

 

ーー突如、影が落ちる。霞んだ視界に、少女の健康的な素足がうつった。

「…お爺様!この子まだ生きてる!」

足元に向かって少女が叫ぶ。よく見れば、緑色の尺取り虫のようなものが蠢いている。

…ガストレアだ。とうに死に体の彼女にはどうすることもできない。諦感と共に見続ければ、尺取り虫は四方から沸きだし、一人の老人のカタチになった。

 

「…ふむ。まっこと悪運の強い娘よ」

 

…よかった。一人で死ぬ、というのは避けられそうだ。

虫はさすがに嫌だったので、ヒトの姿はありがたい。

そう考えて、落ちてくる瞼に逆らうのをやめる。

…もう、十分ーーーー

 

「娘よ。生きたくはないか」

 

ーーなはずがなかった。

 

「家も、服も、ぬしの望むモノは全て与えよう。金ならば腐るほど手に入るのでな。小娘一人が散財する程度で、我が権力は傾いだりせぬ。

ーーだが、この身はガストレア。ワシの手を取るということは、即ち人類の敵となるというコトだ」

 

…そんなコト、どうでもいい!私はもう、独りぼっちで死にたくない!

 

「生きるのならば、目を開けよ」

 

必死で、下がってくる瞼を押し上げる。独りぼっちはもう嫌だ!

 

「カカーーよろしい。おぬしの身、この間恫臓硯が貰い受ける」

 

ーずっと、そばにいて。

 

 

 

 

 

瞼を開ける。くしくしと目を擦りながら辺りを見渡すと、私たち以外のペアが、ホバリングするヘリコプターから降りているところだった。

…そうだ、もうここは戦場だ。じっちゃんの膝を叩いて降ろしてもらう。

懸垂降下で、森に降りる。先に降り立った民警たちは、三々五々に散らばって影胤を探しに行った。

…ありがたい。さすがにじっちゃんが降りるところは見せられない。老人でありながら華麗に着地などおかしい。擬態する気があるんだろうか。

ジト目を送りながら、じっちゃんにどこから探しに行くのか聞く。

 

「行かんよ」

「えっ」

「影胤の相手は彼奴(きゃつ)らに任せる。老骨には荷が思いのでな」

 

老人は怪しく嗤う。

 

「資源回収のお時間じゃ」




「」の最後に 。 つけるのやめました。間違ってたみたいなので恥ずかしい。

映画のセリフ言わせたかっただけの回。

追記:fateとクレしんの動画見てたらオカマ口調になってしまった。他意はないです。


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chapter3 2回目

将監ペア視点。やっぱ臓硯は客観的に外道したほうがいい。心情なんぞ今際の際にこぼれるくらいでちょうどいいとおもいました。
あと外道します。幼女(のみ)に優しい世界。


足元を、見る。

2人分の赤。夥しい量の血は、そよ風に反応し、さざめく。

赤い川の源には、イニシエーターとプロモーターが、折り重なるように倒れていた。

既に事切れた相貌は、驚愕に染まっている。

…当たり前だ。事は東京エリアの命運を左右する。今回を手柄やリベンジなど、自己中心的に考えられる将監(脳筋)さんは異端だ。

「…イニシエーターは殺すための道具です」

震える両手に言い聞かせるように、呟く。明晰な頭脳は、たったそれだけで切り替えを終える。構えていた銃を下ろして、相棒のプロモーターに駆け寄った。

「終わりました。将監さん」

「うっし、じゃあ行くか。なんども言ってるがーー

「はい。『弱い奴らに渡す手柄はない』『仮面野郎は一番にぶっ殺す』ですね」

「わかってんじゃねぇか」

伊熊将監はバスターソードを担ぎ直す。フェイススカーフの下で獰猛な笑みを浮かべながら、一歩を踏み出そうとしーーー

 

ーー足を、止めた。

 

「…?将監さん?」

「出てきやがれクソジジイ。そこにいるのはわかってんだよ」

 

はたして。

 

「やれやれ。敬老精神が微塵も感じられぬ。前回あった時よりも、狂犬具合に拍車がかかっておるようじゃ」

 

滲むように、闇の中から老人が現れる。羽織と袴を身につけた姿は、未踏査領域を闊歩しているという気負いをまったく感じさせない。自らのイニシエーターを引き連れて、間桐の翁が出現した。

 

「ちと、話しをせんか?」

「断る。ジジイと話すことはねぇ!いつも通り穴蔵にこもって虫でもいじってろ」

 

すぐに断る。当たり前だ。得体の知れぬジジイに構っている暇はない。むしろ殺害現場を見られたかと焦りが募る。さっさと引き離そうと決意してーー

 

「先程見た()()()()のことなんじゃが」

 

一閃。鍛え上げられた筋肉は、いつもの動きをトレースする。考えるより先に体が動く、右斜め上からの振り下ろし。バラニウムで出来た漆黒の大剣は、吸い込まれるように老人の肩口に消えーーー

 

ーーー首の皮一歩手前で止まった。

自主的に止めたワケではない。見られたからには殺すと、その瞳が語っている。実際に将監の筋肉は緊張し、ありったけの力を込められた大剣は、震えながらその刃を進めようとしている。

 

ーーー雫が光る。白濁した粘液が、将監の体の至るところについていた。

絡みついた粘液は空気に触れるとたちまち硬くなり、その場に将監を固定する。大剣を握った手も間接も、水飴によって固められたような有様だ。

下手人は臓硯のイニシエーター。両手の指先から粘性の高い液体を放出したせいか、僅かに指先がテカっている。

 

「クソっ!!」

「血の気が多いのう。儂は取引に来たというのに」

「取引だぁっ?」

 

相棒のイニシエーターに粘液を剥がして貰い、将監は疑惑の声を上げる。

構え直された大剣は、油断なく臓硯を指し示している。

 

「そうじゃ。ぬしが殺した民警ペア、そのままでは畜生共に喰われただ朽ち果てるのみ。それはあまりに酷かろう。まして、大剣による斬殺痕など見られて困るものでしかあるまい。

ーーならば、儂に譲ってはくれぬか」

 

場に静寂が満ちる。さすがの将監も困惑する。動転したのか司令塔のイニシエーターを振り返るが、その夏世(イニシエーター)さえ困惑している。納得するは間桐一行のみ。

 

「…それで、死体をどーすんだよ」

「こうする」

 

木々が、ざわめく。ボトリ、ボトリと掌ほどの尺取り虫が落ちる。血の海を掻き分け、ご馳走にあずかろうと歯を鳴らす。

ーーーキチ、キチキチ。

 

「なに。決して益になることしかやらんよ。お互いにとってのう」

 

瞬く間に虫食いだらけになった死体を前に、老人は商談を持ちかけた。




夏世ちゃん死にます。(次回予告)


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chapter3 3回目

次回殺すと言ったな、アレはウソだ。
おもしろい奴(夏世)だ。殺すのは最後にしてやる。


夜の森を、テクテク歩く。周りには誰もいなかったが、少女に気にしている様子は見えない。無論、周囲の警戒は怠っていない。

 

「これでよかったの、じっちゃん」

「うむ。これくらいが丁度よい。これ以上近づくと何をされるかわからんのでな」

 

突如口を開いた少女に、しわがれた声が応える。その声は少女の胸元からしていた。少女の身につけているタクティカルベスト。その胸ポケットに、拳大の虫が潜んでいる。

 

「商談成立と相成ったが、もとよりあやつとはソリが合わぬ。その上、所構わず辺りに噛み付く狂犬じゃ。寝首を掻かれても儂は構わぬが、娘に噛み跡が付くのはごめん被るのでのう」

「そっかー。…ありがと、じっちゃん」

 

少女は照れ臭そうにはにかむ。間桐臓硯の肉体は、端末の虫で作られている。もとより、危険地帯となる未踏査領域に核となる脳虫をもってくるはずがない。少女の安全が最優先となるのは自明の理であった。この遠征自体も調査と食料調達につられて受けたのであり、戦闘する気などさらさら無かった。

もっとも、老人に戦闘など期待されていない。間桐臓硯と室戸菫の作った侵食抑制剤は効果が高いが、値段も相応にする。こればかりはIIISOにもどうしようもなく、給付は高位序列者を優先的に年4回に限られていた。それを今回の功労者に、言うならば報酬として提供したいと政府側から打診があり、間桐臓硯はこれを快諾。代わりに未踏査領域の単独調査の許可をもぎ取った。

 

「礼はいらぬ。それより将監と離れすぎてもいかん。せっかくの馳走を掻っ攫われるのは具合が悪いのでな。よいか、付かず離れず、じゃ」

「はーい」

 

少女は明るく返事をする。引き続き将監ペアを追おうとして。

直後、ちょうど将監ペアのいた場所から衝撃と爆発音が響き渡った。

 

「いかん!なにを考えておる!」

「ッ!じっちゃん!」

轟音が轟く。前方の闇を掻き分け、伊熊将監とそれを追うガストレアが走ってくる。

奇妙なガストレアだった。ムカデの頭に円筒形の筒が載っていると言えばわかりやすいか。見上げるほどにそそり立つ頭部は、下が青色、上が赤色に光輝き、点滅していた。巨大な頭を多数の足と長い胴体でバランスを取っている。全身を彩るように腐臭を放つ花が咲き誇り、大量のハエがたかっていた。

必死に逃げているのは伊熊将監だ。イニシエーターである夏世とはどうやらはぐれてしまったらしい。よしんば協力して倒せたとしても、あの巨体では押しつぶされるかもしれない。

凄まじい形相で逃げている将監が、こちらに近づいてくる。

小春は、「呪われた子供たち」の力を解放すると、走り寄る将監の肩に飛び乗った。

 

「なッ!!」

 

驚きの声を上げる将監の肩を蹴り、さらに跳躍。距離を詰めながら、空中で両手を広げる。迎い入れるように広げた指先から、多量の粘液を散布。シャワーのように広がった雫はガストレア前面の脚を固定する。

 

「ギィィィィィィィィィィィィ!!」

 

ガストレアが咆哮する。勢いづいた体は止められず、動かない脚は地面を削りながら擦り下ろされる。そそり立つ頭部を支えきれず、体が徐々に傾いてくる。それでも下手人を押しつぶさんと、未だ空中にいる少女と正面衝突するーーーー!

ー転瞬。爪が煌めいた。

少女の指先から、半透明の爪牙が生えている。長さは10センチほど。少女はそれを、間近に迫る頭部に突き刺した。

絶叫。聞くに堪えない悲鳴を意に介さず、爪は肉を千切り、削り取りながら主人の体を減速させる。

 

「よっと」

 

降り立った小春の後ろで、地響きをあげながらガストレアが横転した。

その隙を見逃す将監ではない。旧態依然と言われながらも、戦闘職を担ってきたのだ。IP序列1000番台は、決して伊達や酔狂ではない。

ゆえに必殺。

 

「死ねやオラァァァッ!!」

 

振り下ろされた大剣が、ガストレアの頭部を叩き切った。

 

 

 

沈黙したガストレアから大剣を引き抜く。ずるりと引き出された大剣には、青色の体液がこびりついていた。見渡せば、巨大なガストレアの死体には、もう既に虫が噛り付いている。

…見渡して気づいたが、臓硯のイニシエーターしかいねぇ。くたばっちまったなら万々歳だがー

 

「儂はここじゃ」

「…生きてやがったか」

「カカ。そう簡単に死ぬ筈がなかろう。真っ先に隠れたのでのう。老人に戦闘は荷が重い」

「…そうかよ」

 

イニシエーターは臓硯に駆け寄っていく。ケッ、道具と仲良しこよしか。気色わりぃジジィだ。

…道具と言えば夏世もトランシーバーもねぇ。クソッタレが。ジジィと会ってから何も上手くいってないように思えてくる。

 

「おいクソジジィ、夏世がどこいったか知らなぇか、はぐれちまった」

「儂が知る筈もなかろう。距離を開けて歩いておったからな」

 

臓硯のイニシエーターも首を振る。さすがの将監も影胤に単独で勝てるとは思っていない。だが、トランシーバーを無くし一体どうやって合流するのか。

この際、臓硯を殺してイニシエーターを従わせるか。頭脳派だった夏世よりも戦力はある。目の前でジジィを殺して見せればーー

 

「ご歓談中失礼します。間桐臓硯様、伊熊将監様」

「ああッ!」

 

弾かれたように体を向ける。今現れた見慣れないイニシエーターに剣を向ける。

 

「お二人へ伝令です。蛭子影胤を発見しました」

「テメェどこのイニシエーターだ。プロモーターはどうした」

「お二人を連れてくるようにと使いに出されました。今、民警が何ペアか集まって奇襲をかける手筈となっています」

「…トランシーバー持ってねェか」

「私のプロモーターが持っています」

「…チッ!わかったよ、ついて行きゃあいいんだろ」

 

舌打ちをひとつして了承する。老人はというと、向けられたイニシエーターの視線に鷹揚に首を振った。

 

「儂は行かぬよ。檜舞台は未来ある若人に譲るとしよう」

「…そうですか」

 

背を向ける。伊熊将監と先導するイニシエーターがみるみる遠ざかっていく。

その背中を、老人は白濁した目で見送った。




オリ幼女の戦闘描写なんて誰得なんだ(呆れ)
言い訳させて貰うとカッチョ良く登場した1話で娘いるって言わせちゃったので「ぼくのかんがえたさいきょうのようじょ」出したくなった。
平均文字数あげようと思って頑張ったら寝落ちして書き直した経緯があって遅れました。これくらいの文字数が限界です。
バーに色ついててうれしい、うれしい。投票してくれた人ありがとうございました。読んでくれてありがとうございます。
次回は外道します。あのhf一章(にあたるpc版)の臓硯登場シーンをやるんじゃグヘヘ。(すいませんメディアさん的なのいないのでヘルシングのVSウォルターみたいなカンジになります)


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chapter4 終章

なんかランキングに一瞬載ってた。


…まじで!!って二度見した。
でも一瞬だったんで夢だったかもしれぬと思っている。
でもたぶん夢じゃない。
応援ありがとうございます。
注意!夏世ちゃんのっけから死にます!


「ーお前は、俺のかけがえのない友達だ。俺はお前を忘れない」

蛭子影胤ペアを下し、ステージVガストレア『スコーピオン』を倒して東京エリアを未曾有の危機から救った男、里見連太郎。

彼の拳銃は、眼前の少女に向けられていた。

千寿夏世。伊熊将監とペアを組むイニシエーターにして、頭脳担当。戦闘職ではないにもかかわらず、一匹たりともガストレアを戦闘に乱入させなかった影の立役者。

その身体は、もはや人として生きられない。

片手片足が吹き飛び、一枚岩に背を預けて座り込む姿。もはや虫の息だというのに、手足の切断面が異常な速度で再生している。

体内侵食率の増加。ガストレアとの連戦で侵食率は50%を超え、新たなガストレアが少女を苗床に生まれようとしていた。牙を剥いたガストレアウイルスが、歪な延命行為を押し付ける。

見た目にそぐわぬ聡明さが、少女に真実を悟らせた。もともと、それだけ賢い彼女自身がここを死守すると決めたのだ。

ーー人として終わりたいと、いっそ穏やかに彼女は彼に願った。

歯をくいしばって了承し、泣きそうな顔に震える指でトリガーを握る高校生。少女を狙った銃口は、飛んだり跳ねたり大忙し。

ーねぇ、里見さんってあんまり友達いないでしょう?

ーえ?

ーしょうがないから、私が友達になってあげます

最期に、年相応な無茶ぶりをして。

 

一発の銃声が、朝焼けの中静かに響いた。

 

 

 

 

 

硝煙がなびくXD拳銃をホルスターに戻す。バタバタという音に気がつき見上げれば、施設の屋上にヘリが着陸しようとしていた。

もの言わぬ骸に、背を向ける。

ーー操縦士にハンドサイン。待機してくれている間に、延珠を起こして来なければ。

来た道を足早に戻る。

 

「すげー!あってる!」

「当たり前じゃ。間違えるはずがなかろう」

 

即座に拳銃を抜き放ち、揺れる茂みに向ける。

 

「ほへ?」

「ぬ?」

 

現れたのは、1人の少女だった。タクティカルベストを着ていて、パッと見だと手ぶらに見える。蜂蜜色のお団子頭が、とぼけた顔を晒している。

…未踏査領域にいるということは、イニシエーターなのだろう。拳銃を下ろし、プロモーターはどこにいる、と聞こうとして。

少女の胸ポケットから、聞いた覚えのある声がした。

 

「おお!誰かと思えば、将監に噛み付かれていた小僧ではないか」

「間桐臓硯か…、ということはコイツは」

「応とも。ワシの大事な娘の1人じゃ。無論、イニシエーターであり、此度のワシの護衛でもある」

「…そういうわりには、アンタの姿が見えねぇな」

「なに。少しばかり所用があってな。護衛は他にも手に入った。ならば娘だけでも先に返そうと思うのは、当然の親心であろう。ここで会ったのも多少の縁。ひとつ、頼まれてくれぬか?」

「なんだよ。厄介ごとならごめんだぞ。…見ての通り疲れてるんだ」

「簡単なことじゃ。ワシの娘を我が屋敷まで送ってほしい。場所は小春が知っておる。ただ、外周区に近くての、一人帰らせるのも不安が尽きん」

 

…率直にいってめんどくさい。それに寝ているが延珠もいる。…ただ、「呪われた子供たち」を一人で歩かせた、というのも良心が痛むし、先程から臓硯のイニシエーターの視線も痛い。お、俺をそんな目で見るな…!

 

「…ふむ。ならば政府報酬と別口で、幾ばくかの金銭、それとワシと菫医師が作った「侵食抑制剤」を差し上げよう」

「その依頼受けるぜ」

 

即答だった。臓硯のイニシエーター、改め小春の目が驚きに丸くなっている。

…仕方がない。今回の戦闘で延寿の侵食率がどれほど上がったのかわからない。今はひとつでも多く、質の高い抑制剤が欲しい。

決して!お金に釣られたワケではないのだ!

 

「商談成立じゃな。ほれ、小春、挨拶せぬか」

「よ、よろしくお願いします」

 

お辞儀をひとつ。…どうやら礼儀正しい子のようだった。見たところ延珠と同じくらいだが、しっかりしているらしい。技を見せろとせがまれた一件は、少しトラウマになっている。

 

「頼んだぞ」

「おう。任せとけ」

 

それきり、臓硯の声は聞こえなくなる。小春は引っ込み事案なのか、服の裾を掴んで少し後ろを歩いている。多少歩きにくいが、まあいいか。

 

「ん?」

「どうしました?」

「ああいや、なんでもねぇ」

 

…疲れてるなぁ。虫がポケットにいるように見えちまった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーずるずる、ずる。

ガストレアの亡骸が、千寿夏世の骸が、ひとりでに動き出す。

血の足跡を引きながら、ゆっくり森へと消えていく。

朝焼けに照らされた森の影。そこから、無数の闇が集う。

ーーキチキチ、キチ。

死闘があったという場所には、もはやなにも残されていなかった。

 

 




ここまで書いて力尽きた&キリがいいのでここまで。
外道ムーブは次に持ち越し。なるはやであげる。
めんどくさかったので将監ペアはぐれる→夏世ちゃん死亡まで飛ばした。
あとちゃんと夏世ちゃん羅針盤云々も言ってますが長くてめんど(ry
そこに原作既読タグがあるじゃろ?
じゃあなんでモノローグ風に夏世ちゃん死亡シーン入れたのと言われたら、やっぱ好きなのとその方が後々楽しいから。
読んでくれてありがとうございます。


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chapter4 終章後

日刊ランキング載ってました!応援ありがとうございます!
これもfateの映画の影響かのう。

それとまた予告詐欺です。書いていたらギャグみたいになり虫爺登場できる空気じゃなくなったので完全オリ幼女回。
刻印蟲がわちゃわちゃしてるの見たいんじゃ!という人は次まで待ってくだしい。もう半分は書けてるからぁ…!


里見蓮太郎は、かなり機嫌が良かった。

というか絶好調だった。帰ってきたばかりなのでもちろん体はボロボロだが、シャワーを浴びたせいか心なしかスッキリしている。乗っているおんぼろ自転車のペダルもかなり軽く感じて、頬に当たる風が心地よい。

背中に僅かに感じる重み。胴に回された小さな手は、眠りこけている少女自身をしっかりと座席に固定している。

滅亡の危機にさらされかけたことが夢だったかのような麗らかな日和。背中に感じる子供特有の温い(ぬくい)体温と、春らしい陽気につられてあくびがこぼれる。

 

「しかし、ここまで楽でいいのか…」

 

多々島警部の件を筆頭に、民警の仕事は命をかける。名が売れてないために失せもの探しなども請け負うが、それもそれで、地道で辛い作業だった。

それに比べると、少女の送迎というのは遥かに楽な仕事といえた。

…口約束だし、踏み倒されるかもしれないとは思う。でも、娘を大事にしているのは本当のようだし、どちらにしても少女を送っていこうと思う程度には、蓮太郎はお人よしだった。

そんなことを考えていると、目の前に屋敷が見えてくる。

一目見て思ったのは、ホラー映画に出てきそうだということだった。壁にはツタが這い、漆喰は所々剥げている。広い庭には草木が鬱蒼と茂っており、いくつかある窓はほとんどカーテンが閉じられていた。そんな寂れた洋館風の屋敷を見上げて蓮太郎は

ーー意外と小せぇな

などと失礼なことを考えていた。もちろん、比較対象は天童の屋敷である。

 

「おーい、着いたぞ」

「……」

 

声をかけて揺さぶっても起きない。仕方なくお姫様抱っこをして、インターホンを鳴らした。

いたって普通の、ピンポーンという呼び出し音。つかの間の静寂。

 

『…どちらさまでしょうか』

「民警の里見蓮太郎だ。臓硯に頼まれて小春を連れてきた」

『…話は聞いています。鍵は掛かっていないので、中へどうぞ』

「わかった」

 

行儀が悪いが、足で蹴るようにしてドアを開ける。玄関は寂れた外見とは裏腹に、小綺麗に掃除されいていた。

中には一人の少女が待ち構えていた。目につくのは大きなマスク。その上の紫色の瞳は、こちらをジッと凝視している。臓硯の娘の一人だろうか。ハイライトの消えた目で見つめられ、たじろぐ。

 

「えっと」

「…」

 

スッと差し出される両手。無言の圧力に負けて小春を差し出す。危なげなく抱えられた小春は、未だにぐっすり眠っている。突如、少女は小春の腹に顔をうずめた。

 

「えーと、じゃあ俺は帰るから、爺さんによろしく」

「…スンスンスンスン」

 

ここからでは少女の紫髪しか見えないが、どうやら匂いを嗅いでるようだ。

突然の奇行に引き気味の蓮太郎は、そのままゆっくり去ろうとして。

聞こえてきた少女の声に固まる。

 

「…知らないシャンプーの匂い。行きと違う服。すごく疲れて眠っていて、朝に終わったはずが昼前に帰宅。おまけに送ってきたのは男」

「おいやめろ」

 

傍らに小春を転がして、少女はゆらりと立ちあがる。溢れ出る殺気。いつの間にか、両手に黒光りする得物を握っている。

 

 

「…ふふふ、中華包丁で、性犯罪者は切れるでしょうか」

「バラニウム製の包丁なんざ、あってたまるかーー!!」

 

少女の足元が爆発する。玄関の三和土(たたき)を踏み砕く勢いで移動、跳躍し、一瞬で間合いを詰める。渾身の力で振り下ろされる両手。仰ぎ見る蓮太郎の頭上で、中華包丁がギラリと光る。

 

「三枚おろしにしてあげます!!」

「『轆轤鹿伏鬼(ろくろかぶと)』ッ」

 

甲高い炸裂音がして、蓮太郎の右腕から空薬莢が排出(イジェクト)。爆速の拳が、包丁の刃をかちあげる。

そのままの勢いで、がら空きの胴にタックル。両手首を押さえて馬乗りになり、得物を振るわせないようにする。

双方共に荒い息を吐く。少女のマスクはいつの間にかどこかに飛んでいた。蓮太郎が弁明しようとしたとき、少女がゆっくり口を開く。

 

ーーマスクに隠されていた唇は、血色の良い桜色。唇に隠れるように小さな白い歯が覗いている。曝け出された口腔粘膜と小さな舌は、唾液にまみれて艶めかしく光っている。吐き出された吐息は、微かに甘い匂いがした。

 

目を奪われる。いや、さっき殺されかけた相手だぞ、正気に戻れと頭を振って。

ーー結果的に、それが彼の命を救った。

耳元でなる歯ぎしりの音。頬が薄皮一枚切れて、血がポタポタと落ちる。

少女の口から伸びた第二の『口』。横からみれば、少女の口からヘビが出ているようにも見えるだろう。

 

「ウツボかッ!」

「大正解」

 

咽頭顎(いんとうがく)』。ウツボの口のなかには第二の顎があり、それで獲物を喉奥に引きずり込む。映画の『エイリアン』といえばわかりやすいか。それが蓮太郎の首を噛みちぎらんとうごめく。

膠着状態に陥る。少女は蓮太郎に抑え込まれて身動きできず、蓮太郎は油断すれば死ぬ。互いを見張る姿は、第三者からすれば見つめあっているようにもみえただろう。

 

「梅おねえちゃん…?」

 

そして、ここにはそれ(第三者)がいた。

ハッとして振り返る。ボーとこちらを見る小春の、寝ぼけていた顔がみるみるうちに朱に染まる。

そして。

 

「じっちゃーん!おねえちゃんが蓮太郎にとられたー!」

 

ドタバタ消えていく末っ子。残った姉といえば

 

「ううう、ハルちゃんに誤解された…!不幸顔の性犯罪者なんかに…!」

 

号泣していた。

 

「メンタル豆腐かよ…」

 

あきれてため息を吐く。簡単な依頼なんて無かったと、蓮太郎は肩を落とした。




間桐小春 モデルカギムシ
間桐梅 モデルウツボ

見事にイロモノ枠で作った。後悔はちょっとある。


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chapter4 終章後

前回の誰得かわからないオリ幼女見てくれた皆、ありがとう。
やっぱそんな面白くなかったよね、すまぬ。でも次の登場くらいで死ぬ予定だからお披露目したかったんだ。すまない。
今回はジジイ出るよ!最後らへんだけどね!
ゲームのセリフは次に持ち越し。とりあえず映画のセリフをぶっこんだ。


✳︎話を進めるにあたって設定を変更しました。詳しくは一話の冒頭をどうぞ。
要約:成りかわるのが得意なフレンズなんだね!すごーい!


青年は運が良かった。

ここは外周区近く。「呪われた子供たち」を散々食い物にしてきた青年にとって、通い慣れた道筋だ。事が事だけに一睡もできなかった青年は、昂ぶった精神と性欲を混同したまま外に出る。そして少女たちを手篭めにする。割といつもの事だった。

 

「へへ…。動くなよ、動いたら撃つぞ」

 

銃口を小さな頭に押し付ける。バラニウム製の銃弾が込められている拳銃は、引き金を引けば容易く頭を弾けさせるだろう。

 

「ほら、歩け」

 

銃口で軽く頭を小突く。暗がりになっている路地裏に、少女を押し込む。先程まで東京エリア滅亡の危機だったせいか、昼すぎだというのに人通りはまばらだった。…都合がいい。もっとも、「子供たち」が襲われても、庇い立てするような奴はいない。

目の前の少女を見下ろす。落ち着いた色のワンピースとスパッツ。亜麻色の髪は、編み込みが施されている。ぱっちりとした目は無感情を表すように冷めていた。男はそれを見て、絶望していると解釈する。

 

「動くなよ…」

 

絶望して従順になったのなら、話しが早い。ニヤつく口元を引き締めて少女を壁の方に向かせる。体の前面を壁に押し付けて、後頭部に銃口をねじ込む。ここまでしてやっと警戒を解き、空いた左手で少女のスパッツを撫でた。臀部を這うように手を動かし、スパッツを脱がそうと指をかける。

 

ーーゴリッ

 

「…へ?」

 

骨に響くような重い音がした。

指先の感覚が、ない。痛みも、ない。それならば、目の前に滴る血は一体どういうことだーー!

背筋に走る寒気。得体の知れない恐ろしさに押されて、慌てて左手を抜こうとする。

ーー抜けない。拳銃を投げ捨て、右手も添えて全身で引っ張る。その間も、少女はピクリとも動かない。

ーー抜けない!やばい、やばいやばい!

瞬間。少女のワンピースがずるりと()()()()。左手が解放され、引っぱっていた反動で尻餅をつき、反射的に目を閉じる。

 

ーー目を開けると、そこは地獄だった。

少女の露わになった背中に、無数の虫が蠢いている。

左手は指先のみならず手首までなくなっている。それでも痛みは感じない。切断面には沢山の尺取り虫が集っていた。もっとも、人骨を砕けるほどの歯を持つ尺取り虫がいればだが。

 

「ガストレアかッ!クソッ、クソォォッ!」

 

とにかく、早く逃げなければ。立ち上がろうとして地につけた右手はしかし、肘から先が引きちぎれた。飛び散る血潮は壁を汚し、荒い切断面は筋繊維と神経が垂れ下がっている。凄惨な絵面は、痛みがない分おぞましさが際立つ。気づいた時には既に遅く、両手を失った青年は、這いずるようにして逃走を始める。

 

「ヒィ!ヒィィィィ!」

 

みじめに地面を這いずって、元凶から一歩でも離れようとする。どこだ、どこで間違えた。途中まではいつもどおりだったのに、これじゃあ、まるで、俺が餌みたいじゃないか…!

霞む視界に、誰かが走り寄ってくるのが見える。

 

「た、助けてく」

 

ナニカを激しく嘔吐する。ビチャビチャとコンクリートの地面に跳ねる。末期の言葉は、口から溢れ出る虫に押しつぶされた。

彼は幸運だった。虫の主人の機嫌が悪ければ、容赦なく貪られていたかもしれない。痛覚がない分、他の犠牲者より彼は格段に運がよかった(ツイていた)

 

 

 

 

 

 

蓮太郎はため息を吐いた。

そうすると、目の前の背中がビクリと震える。

 

「本当にごめんなさい!」

「もういいから、顔を上げてくれ」

 

場所は間桐邸の客室。戦闘行為の跡が色濃く残る玄関から移動して、完全に誤解が解けたのはつい先ほどのことだった。

それから、紫髪の少女が土下座を行い今にいたる。

 

「お風呂を頂いたばかりか、朝食までご馳走になったみたいで…!」

「別にいいんだ、延珠の友達になってくれたしな」

 

友達。蛭子影胤によって交友関係を破壊された延寿には、早急に必要な存在だった。…そのために自身の痴態が多少犠牲になったのは納得いかないが。

なにせ連れてきた小春が目に入った瞬間、『妾の知らない女がいるぅ!』だ。これには蓮太郎も頭を抱えた。初対面の印象は最悪かと思われたが、そこはそれ。延珠の『ふぃあんせ』発言に始まる怒涛の「蓮太郎武勇伝」をワクワクした顔で聞いていた。そのおかげで小春のなかの蓮太郎は『延珠のために死すら乗り越え、キック一発で怪人仮面男を倒し、愛の力でゾディアックを倒した超人』になっている。なんだよ愛の力って。

 

「爺さんはまだ帰ってないのか」

「はい。帰ってくるついでに、パトロールをしているみたいで。…最近、『子供たち』の姿が見えないから」

「すげえな」

 

思っていてもそうそう実践できることではない。

間桐臓硯は積極的な『子供たち』擁護派らしい。聞けば、松崎さんとも懇意にしているようだった。

 

「…このことは、お爺様に私からいっておきます。使ってしまった装備代もばかにならないでしょう」

「怒られるんじゃねえか、ソレ」

「早とちりした私が悪いんです、本当にごめんなさい!」

 

繰り返される謝罪。どうやら卑屈になっているようだ。これ以上ここにいるのも気が引ける。時刻をみればちょうど昼過ぎ。延珠も起きてくる頃合いだ。途中で食材を買いがてら、家に帰るとしよう。

報酬の金銭は後日天童民間警備会社に振り込まれる。「浸食抑制剤」は、先生(室戸菫)経由で手に入るらしい。病院には帰りに寄っていこう。

梅に暇を告げる。玄関先で見送ってくれた彼女は、いつまでも頭を下げ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし」

 

自転車の籠に、見慣れたスーパーの袋が入っている。外周区近くの店に寄ったせいか、少し野菜の値段が安い。おかげで、他の食材を買う余裕ができた。時刻は三時半。自転車に乗ろうとして、ポケットの携帯が鳴りひびく。

着信は天童民間警備会社から。やっべー、すっかり忘れてた。

 

「あーもしもし」

「もしもし、ではないぞ蓮太郎。起きたら小春ちゃんもいないし、妾をおいてどこへいっておるのだ!」

「わりぃ、小春を家に送るついでに買い物してたら遅くなっちまった。安く買えたから、今夜はハンバーグだ」

「本当か!本当なのか蓮太郎!嘘だったら妾は恨むぞ!」

「…嘘はつかねーよ」

 

怒った声音をコロリと反転させて、ハンバーグ!ハンバーグ!と喜ぶ延寿の声が聞こえる。どうやら話はそらせたらしい。

ちなみに、延珠は豆腐ハンバーグの存在を知らない。教えるつもりもない。

そんな策士蓮太郎。じゃあ今から帰るな、と電話を切ろうとして、不審な男が目に入った。

 

シャッターの閉じられた商店街。だれも寄り付かない路地裏に一人の少女が連れ込まれようとしていた。

所々に金が混じった亜麻色の髪は、側頭部に編み込みが施されていて。

身に着けているのはワンピースとスパッツ。凪のような瞳を最後に見たのはいつだったか。

ーー千寿夏世だった。見た目だけなら間違いなく。

 

咄嗟に走り出す。自転車もその場に放置。電話口の延珠の声も無視してポケットに携帯をねじ込む。

ーーありえない。千寿夏世は俺が殺した。硝煙の匂いも、託された思いも、脳裏にしっかりと刻み込まれている。

否定材料なら湯水の如く湧き出てくる。それでも、夏世を殺したのがなにかの間違いで、自分の見ていたものは全部夢で、あの夏世を連れ込んでいる男を倒せば、延珠と一緒に三人で暮らせるーー

 

なんて、儚い希望に押されるように飛び込んだ路地裏は、端的にいって地獄だった。

 

 

目についたのは、赤。

夥しい量の赤のペンキが、路地裏にある室外機やごみ箱を一色に染め上げている。

ペンキを供給しているのは、成人男性ほどもある肉塊。

両手にあたる部位のないソレは、吐しゃ物をまき散らしたあと動かなくなった。

 

鉄さびと酸っぱい臭いが鼻につく。肉塊から伸びる血の跡をなぞるようにして、目線を動かす。赤く伸びるヴァージンロードは、夏世の背中につながっていた。

 

「…夏…世?」

 

思わず出た声は、自分のものとは思えないほどひびわれていた。

ーー背中には、底なしの穴が広がっている。穴の(ふち)から、大量の蟲が流れ落ちる。流れ落ちた蟲はそれぞれ血の川をさかのぼり、死肉を貪った。

 

夏世のようなものはピクリとも動かない。ただ、その背中から蟲を溢れさせるだけ。蓮太郎といえば、XD拳銃を構えたまま、友の変わり果てた姿に凍り付いた。

 

「ふむ。隠しておきたかったのだがしかたあるまい。畜生の処理は早めに済ませるに限る」

 

その声は、眼前の少女の口から発せられた。

 

「誰だよテメェ…!」

「これは異なことを。今朝がた依頼をしたばかりではないか」

 

少女が溶ける。異音を立てて、少女が内側から貪られる。若々しい肌がしなびて老人のそれになり、小柄な体は猫背に矯正される。負荷に耐えきれない皮膚がさけ、出来た裂け目から蟲が顔を覗かせ修繕する。

瞬く間に、化生の老人が姿を表した。

間桐臓硯。小春と梅の保護者にしてプロモーター。積極的な『子供たち』擁護派。そしてーー

 

「このッバケモノがァッ!!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

まごうことなき、怪物(ガストレア)だ。

 




とりあえずキリがいいのでここまで。
↑こいついっつもキリがイイって言ってんな。
作者が文章書くのに慣れてないせいなんだ。更新不定期だから!(予防線)
次で一巻分ラスト。
なるはやって言って焦ったんで、今回は遅くなると宣言しておきます。

✳︎誤字報告ありがとうございます。誰だよ延寿って…


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chapter4 終章後

おまたせしました。一巻分ラスト。
こんなニッチな二次創作を読んでくださってありがとうございます。

おかげさまで日間ランキング7位。拙い文章ですがよろしくお願いします。




目前の老人との間合いを詰める。天童式戦闘術二の型十四番ーー

 

「『隠尖・玄明窩(いんぜん げんめいか)』ッ」

 

脚部のスラスターから空薬莢が排出。路地裏に一瞬火花が散る。豪速で放たれた蹴りが、老人のそっ首をたたき折る。

ぶちりと、足首になにかが潰れる感触。ひしゃげた首の皮から、赤い目がいくつも覗いている。

ーー見れば、首の皮一枚でぶら下がる顔が、こちらを嘲笑っていた。

戦慄。ついで振りぬこうとした足に激痛が走る。

やすりがけされるような痛み。慌てて引き抜いた足の人工皮膚は剥げ、バラニウムの義足を露出していた。

 

「クソッ」

 

バックステップで後退する。もげかけていた老人の首は、みるみるうちにつながった。

蓮太郎は構えを取ったまま動かない。うかつに手を出せば、文字通り()()()()

 

「なんで」

「ぬ?」

「なんで、夏世の姿なんだよッ!!」

 

だから、落ち着いて情報を引き出さなければ。そう思って開いた口は、まったく落ち着いてなどいなかった。

激情が迸る。憤怒によって、体がおこりのように震えている。

対する老人は微塵も動揺を見せずに。

 

「都合が良かったからじゃ」

 

あっけらかんと、のたまった。

 

「は?」

「最近ここいらで『子供たち』を食い物にする畜生がいての。今朝がた手に入れた姿は撒き餌として具合が良かった。よって使った」

 

理解、できない。いや、理解はできている。梅の『性犯罪者』発言も、落ちている拳銃から覗く黒い弾丸も、そう考えれば辻褄は合う。

だからといって、死人を弄ぶ行為が、許されていいはずがないーー!!

 

「この、外道がッ!」

「さて、ワシは使われなくなったモノを拾ったまでよ。

それを外道と言うならば構わぬがな小僧、それではおぬしの行く末は、その外道より劣ってしまうぞ?

なにしろ自らが手にかけた娘を、魑魅魍魎の跋扈する森に捨て置いたのだ。放置された骸がどうなるか、わからぬお主ではあるまいて」

「政府が回収したはずだ!」

「政府が!回収!」

 

老人は笑う。少年の無知を嘲笑うように。

 

「面倒を厭う役人どもが、放置すれば消える肉片を、わざわざ拾いに行くものかよ。そも、未踏査領域に素人が行く危険性は、お主が一番知っておるはずではないか!」

「てめえ!」

「カカカ、何を憤る!所詮死体に意思などなく、どのように扱うかなど問題ではあるまい!ガストレアの糧になるも、死してなお使われるも同じ!ならば心無い人形と化すがうぬらの為であろう!」

 

ーー殺す。

この存在は、ここで終わらせる。必ず殺す。方法など知ったことか。一撃で死なぬのなら、二撃三撃をもって撃滅するーー!!

神速の踏み込み。地面をけり砕く勢いで放たれた体は、一瞬で臓硯を間合いに入れる。既に振り上げられている右腕からは、黄金色の空薬莢が二本、排出されようとしている。爆発的な勢いで放たれる拳で、老人の矮躯を地面と挟んで押し潰す。決まれば、老人の体は原型すらとどめずに圧殺されるだろう。

 

赤熱しスローモーションのような視界で目標を捉える。それが間違いだった。

 

ーーーこんなに目標は小さかったか?否。

ーー亜麻色の髪をしていたか?否。

ー少女だったかーー!?

勢いづいた拳は止まらない。老人ではなく、少女の顔めがけて落ちていく。

千寿夏世にしかみえない化物は、蓮太郎の顔を見上げてほほ笑む。

 

「『蓮太郎さん?』」

「う、うおおおおおおおおおおォッ!!」

 

地面が、爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようならだチャーリー。君との逢瀬は中々に楽しかったよ」

 

解剖台に載せた死体を愛し気にさする。物言わぬ骸は返答を返さないが、その静寂こそ室戸菫は好んでいた。

突如として静寂が破られる。荒々しく扉が開ける音が聞こえて、眉をひそめながら解剖室を出る。

俯きがちに、こちらに詰めよる蓮太郎。彼は菫の肩を掴むと、そのまま、見上げるように恩師を糾弾した。

 

「先生!あれは、間桐臓硯はいったいなんなんだッ!先生は知ってたのかッ!」

「そうか、知ってしまったか」

 

ともすればそれは、悲鳴にも聞こえる。蓮太郎の目は、悲嘆と絶望に染まっていた。

淡々と蓮太郎の手を外して、血がこびりついている白衣を脱ぐ。真新しい白衣に身を包むと、椅子に座った。

 

「座り給え。コーヒーはいるか?」

「……」

 

返事がない。対面の椅子に腰かけた蓮太郎は、憔悴しきっている。よく見れば、右腕と右足の義足が露出していた。

 

「とりあえず、どういう経緯でそうなったのか教えてくれ」

「…アンタから話してくれ」

「いやだね。君が先に話さなければ私は話さない。執刀医として、君が義肢を何に振るったのか知る義務と権利がある。というか鏡を見てみたまえ。顔色がブルーを通り越して白くなっているぞ。普段の不幸面のほうが何倍もましだ。そんな顔じゃあ延寿ちゃんも君が誰なのかわからないんじゃないか?」

「オイッ!!」

「いいから話したまえ。吐き出せば、多少は楽になる」

 

かもしれない、と(うそぶ)きながら、二人分のコーヒーをビーカーから注いで、片方を押し付ける。不承不承コーヒーを受け取った蓮太郎は、口を湿らせながら話し出した。

小春を送る帰りに、死亡したはずの千寿夏世を見つけたこと。臓硯の正体がガストレアで、千寿夏世に化けていたこと。その姿で、路地裏に一般人を連れ込んで殺害したこと。臓硯を排除できず、気づけばなんの痕跡も残っていない路地裏に一人立ちつくしていたこと。

 

「ふむ。そこまでわかっているなら話が早い。間桐臓硯は、完全に新種のガストレアだ」

「それぐらい俺にもわかる。今まで言葉を理解するガストレアなんてーー」

「そういう意味じゃない。彼はね、人工的に生み出されたまったく新しい生物兵器なんだよ」

「なんでそんなこと知ってんだよ」

 

蓮太郎は絶句したが、すぐに聞き返す。驚くのにもいい加減疲れてきた。真実を見極めるときだ。

 

「本人に教えてもらったんだよ」

「絶対うそだ!」

「私自身信じられなかったよ。この目で見るまではね」

 

今度こそ沈黙。意図が読めない。それとも、ガストレアの意思を読み取ろうとするのが間違いだったか。

 

「まあ結局、こうして君に話してしまっているわけだが」

「周りに助けを求められなかったのか」

「誰に言ったって信じやしないさ。私自身、打ち明けられるまで気づかなかった。新しい浸食抑制剤を共同開発した直後だったしね。国は国防の要であるイニシエーター(消耗品)を長持ちできて万々歳だったし、私たちは一つでも多くのイニシエーター(いのち)を救うのに必死だった。多少持ち込んだ(ぎじゅつ)が怪しくても、皆目をつぶったさ」

「ちょっと待ってくれ、それじゃあ」

 

辻褄があわない。千寿夏世に化けた能力はなんだったのか。

女医は頷くと話を続ける。

 

「そう。薬を生み出す能力はあくまで副産物にすぎない。目標を秘密裏に食い殺し、入れ替わる。それが彼の兵器としての運用法だ。さながらドッペルゲンガーだな。そうして傀儡となった人物は誰にも気づかれない。間桐臓硯としての姿もその一つにすぎず、あくまで彼の兵器としての名前は『刻印蟲』だ」

「『刻印蟲』」

「そうだ。そしてその能力ゆえに、彼の存在は露見しない。一度彼が接触しているマンホールチルドレンや、周辺住民を見に行ったが、彼の評判は概ね良好だった」

「…喰われてるんじゃねえか」

「それはないよ。『刻印蟲』は見た目は似せるが、中身までは頓着しない。サーモグラフィーで見れば違和感は見つけることができる。もっとも、中身が蟲だと気づくことができるかは、また別の話だ」

「被害はないのかよ!!」

「ないよ。あったとしても我々では見つけられない。一般人にいちいちサーモスキャンなどかけていられないし、未踏査領域の遺体はそれこそ何をされても感知できない」

「先生はそれでいいのかよッ!」

「よくはない。それでも、あるかわからない犠牲より、この蟲を使えば救える『子供たち』が必ずいる。そちらのほうが私には重要だし、それには君の延寿ちゃんも含まれる」

「…どういうことだよ、ソレ」

 

声が震える。話がいきなり自分の相棒に飛び火したことに不安を覚える。

 

「今回の戦闘は激しいものだった。機密の関係で生では見れなかったが、録画した動画を見せてもらったよ。

率直に言おう。間違いなく延寿ちゃんの体内浸食率は上昇している」

「なッ!」

「後日精密検査も行うが、内容によっては臓硯の報酬の抑制剤が必要になる。抑制剤の安全性は私が保障する。思うところもあるだろうが、考えておいてくれ」

 

返事が、できない。

温かかったコーヒーは、すっかり冷めきってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

     藍原延寿診断カルテ

                                担当医 室戸菫

 

・藍原延寿、ガストレアウイルスによる体内浸食率四十二,八%

・形象崩壊予測値まで残り、七,二%

・新型の浸食抑制剤を使った長期治療を推奨。

・担当医コメントーー超危険域。ショックを受けないように本人には低い数字を告げてあります。規定により、本人への告知はプロモーターの任意とします。

 

 

 ここからは医師としてでなく、友として忠告する。

 これ以上彼女を戦わせるな、蓮太郎くん。

 

 




最後のカルテと臓硯のセリフ言いたかっただけ。

未踏査領域の遺体とかどうしたんだろうね、と疑問に思って出来た話。

ぶっちゃけ二巻の内容は飛ばそうかと思ってます。ティナ死なないし、ほとんどティナと連太郎が殺し愛してるだけだし。
連太郎が保脇に拳銃突きつけて「上官命令で云々」のところはブラブレで一番好きなシーンなんですけどね。
人死にそんなにでないからね、仕方ないね。つまり手加減するティナちゃん天使。


…ちなみに作者が一番好きなのは火垂ちゃんです。


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炎による世界の破滅 chapter0

原作に沿っていくので、本持ってれば今どこくらいか分かるようにします。あとサブタイカッコつけたかった。丸パクリですが。

原作買って♡

今回ジジイがほのぼのしてるだけ。


天気は快晴。

駒を動かすパチパチという音に、子供の笑い声が混じる。

外周区の青空教室。その昼休みを使って、大人二人は将棋にいそしんでいた。

固い地面にシートを引いて、盤上でマグネット付きの駒を取り合う。屋外だというのに、春の陽気は微塵も寒さを感じさせず、むしろ暑いほど。

 

「どうぞ」

「うむ」

 

自分の駒を動かして、言葉少なに手番を回す。返事をした相手はすぐさま熟考にはいった。

知らず知らずのうちに熱中していたらしい。少し面映ゆく思いながら、汗を掻き始めた胸元を寛げて、対戦者を見る。松崎の丸メガネ越しの視界には、一人の老人がうつっていた。

間桐臓硯。今時見ない和装に、かなりの年齢を感じさせる曲がった腰。関係性は、教師とその生徒の保護者という簡素なもの。それなのにここまで交友が深いのは、ひとえに生徒たちが関係していた。

体内にガストレアウイルスを保菌し、いつ形象崩壊するともしれない『呪われた子供たち』。松崎ひとりで運営している青空教室は、生徒のほぼすべてが『子供たち』で構成されていた。

ガストレア戦争を経験した『奪われた世代』にとって、『子供たち』は忌むべきものだ。無論それは、松崎自身にもあてはまる。それでも彼は、いくら『子供たち』だからといって、無垢で、なぜ害されるのかわからぬまま迫害される彼女たちに、憎悪を向けることなどできなかった。

彼女たちの助けになればと、一人で始めた学校経営。知人友人は軒並み『奪われた世代』だ。誰にも相談できず、当時いっぱいいっぱいだった自分に、梅と小春の手を引いてやってきたのが臓硯さんだった。

 

今でも思い出す。

警戒心の強い彼女たちを集めるのに奔走し、噂を聞きつけた隣人には面罵される毎日。心身ともに疲弊していた自分のところに、入学希望だと幼子二人を引き連れてやってきたのだ。

唖然として、質問したのを憶えている。なぜここを選んだのですか、と。

臓硯さんは、ただしきりに困惑する私に、好々爺然とした笑みを消して、獰猛に笑いながら言ったのだ。

 

「どこの教師も『子供たち』と聞けば尻込みし、それとなく転校を進めよる。内地の彼奴らは腑抜けばかりよ。

____ワシはのう、『子供たち』であることを、一切負い目とは思っておらん」

 

涙が出るほど、嬉しい言葉だった。

 

「おい、ぬしの番じゃ。なにを呆けておる」

 

自分の番がきていたようだ。白濁した眼球を向けてくる臓硯さんに、慌てて盤上の駒を見る。

僅かに劣勢。盤面を取り返すため、駒を漁る。

ふと、今まで聞けなかったことがこぼれた。

 

「なぜ、ここまでしてくださるんでしょうか?」

「ぬ?」

「いえ、すごく有難いんですがね。わざわざ私の休憩に付き合う理由がわからなくてですね」

 

今では多少の協力者もいるが、自身と直接会うような人物は少ない。世間体なども考えると、妥当な判断だろうなとは思う。そこに、なにも思わないわけではないが。

 

「隠居生活も退屈での。ワシの息抜きのついでじゃよ。娘たちも見れるしのう」

「そうですか」

 

ニヤリとしながら放たれた言葉に、知らず笑みがこぼれる。

 

「ワシはむしろ恨まれとるかもしれんと思っておったぞ。このケチ爺がぁ!とな」

「そんなわけ!」

 

あるはずがない。ただでさえ孤児が大半を占める学校で、毎月きちんと月謝を払う臓硯さんには助かっているし、寄付金が欲しくてこの学校をはじめたわけではない。

そう言っても、臓硯さんは首を傾げるばかり。

 

「そうかのう?」

「そうですよ、私は大変感謝しております。しかし、臓硯さんにもわからないことがあるんですね」

「ぬかしおるわい」

 

クツクツと喉で笑う。変わった人だとは思うが、変わっていなければ会うこともなかっただろう。

パチパチ、という駒の音。そして。

 

「王手じゃ」

「参りました」

 

願わくば、この穏やかな日常が続きますように。

 

 

 




(続か)ないです。(アルデバラン)

虫爺がアップを始めました。


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chapter2

…こっそり投稿。

前 説明
中 いつもの
後 常識人枠&フラグ建築


 それから、特筆することはほぼなく日常がすぎていた。いた、と過去形なのはモノリス崩壊の未来が公表されたから。政府から発表されたそれは、順当にいけば二日後にはモノリスが倒壊し、侵入するガストレアによって東京エリアが壊滅するというもの。一応政府の用意する地下シェルターなどはあるものの、定員が限られるために抽選となり、落選したものが徒党を組み暴徒と化していた。

 

「うーむ」

 

 場所は蟲蔵。地下に設けられた秘密の部屋は、その気密性で暗く湿っている。薄汚れた蛍光灯が照らすのは、熟考している老人といくつかの十字架。和装の老人は袴の裾から大量の蟲を溢れさせている。

 

「仕方がない…か」

 

 結論は静観。いくら絶望的な状況とはいっても、ノウハウのある自衛隊がいるという楽観と、自身の異常性を隠すためにアジェバントを組みたくない考え。加えて外周区にちょっかいをかける輩が増えたとなれば、わざわざ戦場に出る気も失せる。

 

 刻印蟲に、一般人を守ろうという気は欠片もない。刻印蟲の優先順位は家族と室戸菫が一番で、次点が他の『子供たち』と松崎、それ以外は眼中にない。無論、家族の友人はその限りではないが。

 その点でいえば、藍原延珠は残念だった。『聖天使狙撃事件』で浸食率はさらに上がったろう。あれほど短いスパンでは、新薬の効果も期待できまい。

 

「小春に言ったら怒られたのう。何故かはいまだにわからぬが」

 

 友人ならいくらでもいる。生い先短い者に固執する娘の気持ちがわからない。そうぼやきながら老人は歩き回る。歩く、というと語弊があるか。正確には老人に足などなく、足元を覆う蟲たちによって、滑るように移動していた。

 滑る先にあるのは十字架の一つ。そこには肌色の物体が磔にされている。丸みを帯びた長方形。切断面が五つあるソレは不気味に脈打ち、そのたびに随所に空いた穴から蟲が出入りしていた。

 それを触診しながら、老人は続ける。

 

「肉はもつが、問題は心か」

 

 触診していた手を離す。それを合図に蟲の流入が止まると、脈動は徐々に小さくなり、やがて止まった。用済みとなったソレに蟲が群がる。見届ける老人の肩に、ガガンボのような蟲が降り立つ。手に取った老人は少しの躊躇いも見せずに、それを口に放り込んだ。

 しばし咀嚼。一つ噛む事に口角が上がっていく。

 

「飛んで火に入るとは、まさにこのことよ」

 

 獰猛に笑う老人の姿は、瞬く間に地下から消え去った。

 

 

 

 

========

 

 

 朝方。危機とか特に関係なく寂れている外周区の端。錆びて朽ちかけたコンテナと廃車が積まれたゴミ捨て場。その一つに、三人の男が潜んでいた。

 

 「じゃ、俺ちょっと小便してくるわ」

 「いってらー」

 

 外周区に打ち捨てられたコンテナ。その扉から、一人の青年が姿を表す。コンテナの中には明かりがついていて、ひとりの若者と中年の男性がモニターを見ていた。

 

 今出ていった彼と、彼の友人の二人組は、外周区でもなかなかに頭が切れると自負していた。それはもちろん自負であって、彼らより頭のいい奴は少なからずいたし、そういった機転のきく奴はすでに今回のピンチも金にしていた。

 つまり、マスコミから情報をいち早く手に入れると、地下シェルターの抽選券や東京エリアから脱出する航空券の転売を始めた。それらは多少()()()()()()()で手に入ったものでも高く売れたし、そこを気にするものはいなかった。券を手に入れる者は皆、生きるのに必死だった。

 それに二人組は出遅れた。買い占められた航空券を手に入れるには多額の金が必要だ。抽選券はハズレた。失意のどん底で八つ当たりじみた気持ちを抱き、そしてそれが金になると気づいた。

 ターゲットを変える。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼らから、金をむしり取る。

 

 「今からってとこなのによ…」

 

 コーラ片手に相棒の尿意をぼやく。あいつ頻尿気味だよなぁと考える青年は、静かにこみ上げる興奮を隠し切れないでいる。

 彼らが行ったのは爆弾の製造だ。圧力鍋を使用し廃材に近いバラニウム片を積んでできた単純な爆弾は、単純であるからこそ安く、また大量に生産できた。それらはネットの片隅でひっそりと宣伝され、ひっそりと売られていく。

 法外な値段をつけても誰も気にしない。気にする余裕もない、といったところか。支払いと商品は電話で決めた引き渡し場所で行い、たがいに過度な干渉をしない、といったシステムは思いのほかうまくいった。荒稼ぎした金で飛行機のチケットも手に入り、にやつく口元を抑えきれない。

 

__だから、魔が差して言ってしまったのだろう。

  『だれを殺すのか聞いてもいいですか』と。

 

爆弾を引き渡す途中、突然質問してきたこちらを胡乱げにみる依頼人。突拍子のない質問をした相方を諫めるように、そのわき腹を小突く。相方もどつき返す。無言のどつき漫才を3セットほど繰り返して、こちらが折れることにした。長年の付き合いで、こうなったら引かないのを知っていたからだ。なんでも、”実際に使われてるとこ見たくない?”とのこと。

 言われてみれば見たくなったし、金で遊ぶのも飽きた頃合い。どうせ明日には高飛びするし、諸々の事情を考慮して、彼は了承することにした。

 好奇心に負けたともいう。

 

 「ハハ、大丈夫ですよ。順調じゃないですか。あとは設置して、あなたがお持ちのスイッチを押せばドカンですよ。うまくいきそうでよかったです」

 「…」

 「ハハ、ハ」

 

 ため息を吐く。おべっかを言っても完全に無視。モニターのなかでは共犯者が行進中だ。

 

 口のうまい相棒の交渉はうまくいって、彼と相棒はライブで殺人映像(スナッフムービー)を鑑賞する権利を手に入れた。手に入れたが、爆弾のサービスとひとりの監視をつけることが条件だった。サービスは彼らの復讐相手である『子供たち』を確殺し、監視は自分たちを見張るためだ。

 

 「ハァ」

 「…」

 

 もう一度ため息。監視の暗い瞳は机の上のモニターとこちらを往復している。しわの目立つ口元は固く閉じられていて、スイッチの前に陣取っている。両脇のポケットに手を突っ込んだまま、こちらの一挙一動を監視していた。

 おおかたこちらが戯れに通報やネットにあげたりしないようにするためだろう。復讐なんてたいそれた名分を掲げているが、実際は『子供たち』を使った憂さ晴らし。死ぬ前に誰かを道連れにしようというマイナス思考の極致だ。そもそも死にそうにならなければ動かない、世間体を気にする時点で、どこまでも一般人だった。

 

 ”まぁ、それの片棒担いでる俺がいうことじゃないけどなー”

 口のなかで温いコーラを遊ばせる。いつものように相方の思い付きに乗った彼だったが、早々に、この現状に飽きてきていた。

 ”おっさんまじ暗ぇーし。ずうっっっと下水道映してるだけだし。これ帰っちまってもいいかね?”

 ぶっちゃけダリい、とひとりごちる。さもありなん。彼に『子供たち』へ含むものはあまりなく、せいぜい爆弾のセールスポイントのひとつ、といった程度の認識である。

 外周区で弱ければ食い物にされるのは当たり前。その対象がたまたま『子供たち』だったということだけ。

 冷徹にアウトローらしく、彼はそう判断していた。

 

 『こちらポイントにあと5分ほどで着く。支部長は、スイッチを押す準備をしてください』

 「わかった。合図を待つ」

 

 モニター横のスピーカーから声がする。モニターには、代わり映えのしない下水道の様子が映っている。淡くライトで照らされるのは、コンクリートと前を歩く『復讐者』たち。彼らの背中には圧力鍋が背負われていた。

 ターゲットとなる『子供たち』はこの下水道の近くで学校生活を送っている。彼は自分の作った爆弾が使()()()()のを見るのは初めてだ。知らず知らずのうちに、画面に注ぐ視線は熱のこもったものになる。

 

 5分というのは、待ち始めると長い。それが下水道の映像ならなおさらで。すぐ飽きた青年が『そういやアイツしょんべんなげーなー』と思い始めたころ。

 

___異変が、起きた。

 

 

 先頭の男が声を上げる。

 

 『あれ、いま雨降りませんでしたか』

 『どうした』

 『いや、なにか首筋に落ちた気がしたんですけど。気のせいだったみたいでずね”___え”?』

 

 ぐるり。どちゃ。ばたり。

 そんな擬音が聞こえそうな一連の流れ。疑問を発した男の首が一回転。水っぽい音とともに落ちた頭部に遅れて、頭の無い体が崩れ落ちる。

 一瞬の惨劇。目にした事象の唐突さに、全員の時が止まった。

 

 『はぁ!?』

 「はぁッ!?」

 

 あちらとこちらで同時に再起動。突然死した仲間に、隊長格の男が近づく。食い入るように見つめるモニターは、撮影者が動揺しているのか手ブレがひどい。

 モニターを見ながら、青年は考える。となりで黙っていたのが嘘かのようにマイクに向かって怒鳴る中年も無視。思い出せ、男はたしか、『雨が降った』と言っていた。つまりーー

 

 「上だ…ッ!!」

 

 ゆっくりと、カメラの目線が上がる。あらわになる下水道の天井。

 __そこには、びっしりと夥しい量の蟲がぶらさがっていた。

 

ライトの光を反射して無数の複眼が赤色に光る。あまりの事実に硬直し、モニター超しに目が合ってるかのような錯覚を抱く。

 

 __一泊おいて、そのすべてが一行に降り注いだ。

 

 『ガストレアだッ!!』

 

 『目が、なにも見えない!』『あハハハハハ!頭の中がシャリシャリ言ってる!』『ああ神様ぁッ!!』『いだいいだいよォッ!』『あれ、私の足はどこ?』『やめてぇ!おっぱい食べないで!』『やだやだやだやだ』『許して、許してくれぇ!』『入らないッ!入らないからぁ!』『しねしねしねしね』

 

 悲鳴と罵声、そして銃声がスピーカーから溢れる。カメラは落としてしまったのか、先ほどから見当違いの方向を向いている。そのためモニターからは何も見えず、聞こえてくるのは音声のみ。

 

 聞き覚えのある声が壊れていく。すでに銃撃の音はなく、勢いのあった罵声が、慈悲を乞う哀願に変わっていく。湿っぽい、ただれたようなコーラスが下水道の壁に反響する。

 時折挟まれる絶叫。背筋を凍らせるようなアクセントは、完全にアレの趣味だろう。

 

 それが、『殺してくれ』というアンコールに変わるのは間もなくのこと。

 一般人である彼らにとって、『殺すなら殺される覚悟』など、望むべくもなかったのだ。

 一種の逃避行動。奪われた世代の自分たちには、復讐の正当性があると信じ込んで。

 __ちょっとすっきりしたら、何食わぬ顔で日常に戻ろう。なに、人にはシツレイな発想でも、『子供たち(ムシ)』相手ならいいだろう。だって、あれは人ではないのだから__

 

 そう言って彼らは、”ホンモノ”のムシの縄張りにずかずか無断で踏み入った。

 慈悲も容赦もなく、侵入者は食べられる。ただ、それだけの話だった。

 

 

 

 意識が再起動する。

 モニターの前で意識を落としていたらしい。握りこんだ拳は小刻みに震えている。

 マイクから出るスプラッタな音声は、弱弱しいものに変わっていた。

 …厄介なことになったと歯噛みする。ガストレアが出没したのは完全に予想外だった。民警や警察に救助を求めても、なぜわかったのか聞かれるのも面倒だ。

 …ここは証拠になるものが多すぎる。一旦離れた場所に移ってから通報しよう。

 

 自己保身を優先しながらも、見捨てられない小悪党ぶり。

 そんな思惑は、隣の中年男によって覆された。

 

 「なッ!携帯でどこにかける気ですか!あんた捕まるぞ!」

 「皆が死んでしまう!君には悪いが通報させてもらう!」

 

 鈍く光る銃口。

 頑なにポケットから出さなかった手には、真新しい拳銃が握られている。それを向けて、男は片手で携帯を操作する。

 銃口を向けた相手から目をそらさずに、携帯の番号をプッシュする。緊迫した空気のなか、両方を同時にこなすのは平時であっても難しい。その手が震えてるのならなおさらだ。

 何度もボタンを打ち間違える。

 そのたびに、指の震えはひどくなる。

 

 その時、鈍い音を立ててコンテナの扉が開いた。小便に出ていた青年が帰ってきたことを察っして、青年は叫ぶ。微かな希望。拳銃を持っていても、2対1ならどうにかなる。なにせ相手はど素人だ。

 

 「河口ぃ!そいつからスマホ取り上げろ!」

 「い、いいや、そこから動くな。お友達がどうなっても知らないぞ」

 

 ふらふらとした足取りで、河口と呼ばれた青年は近づく。

 止まらない。

 友人が人質になっているというのに、青年はまったく歩みを止めない。

 

 「止まれ、止まらないと撃つぞ!」

 

 距離が近くなる。中年男の額を汗が伝う。彼我の距離が短くなるごとに、拳銃を持つ手の震えが激しくなる。2メートル、1メートル、50センチ、__そしてそのまま、横を通り過ぎた。

 

 「は?」

 

 河口、とよばれた青年は気にしない。幽鬼のような足取りでモニター前の起爆スイッチへ。そもそも、前提からして間違っている。

 

 「やめろ…ッ!?」

 

 スイッチが押される。中継中のカメラが、一瞬真っ白な画像を送ってそのままブラックアウト。なにも映さない画面と足に響く微かな揺れ。全員が一瞬で理解する。

 確実に、彼らは死んだ。もとより瀕死だったが、今のでミンチ以下になり果てた。

 

 「う、うわあああああああッ…!」

 

 意外にも真っ先に再起動した中年男が河口に向かって発砲。号泣しながら放たれた弾丸は至近距離だったために5発中3発命中。甲高い発砲音とともに吐き出された銃弾が着弾し、河口の肉片が飛び散る。

 確実に致命傷。なにせ弾の一つは頭蓋を貫通している。仲間は死んだ。仇を討った。凄まじい展開に中年男は混乱しながらも、

ーあれ?ここでもう一人(コイツ)を殺せばなにもなかったコトになるんじゃないかー

そんなことを、思いついていた。

 

もちろんそんなことはない。 仮に口封じに成功しても、撃った死体の処理や使った機材の隠蔽をどうするか。 それらが男一人では不可能だということも、混乱した頭では考えられない。

それ以前に、はじめての殺人の感触に対処するだけでいっぱいいっぱい。

混乱した頭は事態の簡略化を望む。すなわち、

 

 ___証人を殺して逃走する。

 

同じように呆けていた青年に銃を向ける。友人の突飛な行動と死に驚愕していた青年は、ようやく向けられている銃口に気がついた。

 

 「いや、待ってくれ。こいつが勝手にしたことだ!俺は関係ねぇ!」

 

 …それこそ関係ない。証拠となるものはすべて片付けなければ。ただそれだけの一心で、引き金に力を籠める。同時に首筋に冷たい感触。

 

 __瞬間。視界が一回転。ゆっくりと落ちる視界にうつるのは怯えた顔の青年と、首から上のない自分。その後ろに立つ殺したハズの青年。

 

 青年だったソレは、血ではなく蟲をこぼしている。

 銃弾によって穿たれたあとから、ぽろぽろと落ちる大小の蟲。

 腹部を突き破って、サソリのようなハサミ足が生えている。赤黒く光るのは、彼と私、いったいどちらの血なのだろうか。

 明滅する意識。走馬燈の最後のページにうつるのは、撃ったのに一滴の血も出ない青年の死体。

 

 __ああ、最初から死んでいたのか。

 

 死人を殺せるはずもなく。弾がもったいなかったなぁと。

 見当違いの貧乏性を発揮して、意識は暗闇に落ちていった。

 

 

========

 

 

 モノリス崩壊前日。

 青空教室にいく里見蓮太郎と藍原延珠を遮ったのは多数の警官と黄色いテープだった。

 風に乗って微かに漂う焦げ臭さ。物々しい空気だ。

 

 「…延珠、ここにいろ」

 「れ、蓮太郎?」

 

 不安げに見上げる延珠を置いて、警官に近寄る。軽く事情を説明すると、警官は複雑な顔をしながら話し出した。

 

 「爆発があったんだよ。下水道でね。被害者?うーん、なんと言えばいいのか。ああ、マンホールに住んでる『子供たち』なら無事だよ。じいさんも無事だから安心してくれていい。どっちかというと、これは集団自殺に近いのかなぁ?」

 

 自殺?わざわざ外周区の、『子供たち』のいる場所で?

 

 「いや、それは確かにおかしいんだけど。なにせ爆発物にはバラニウムも入っていた。死体の損傷も激しいけど一応身元の確認もできて、彼らが過激派というのも分かったんだ。パソコンから爆弾業者とのやり取りも拾えたし」

 

 「ところがメンバーの一人と販売した業者が見つからないんだ。業者のアジトも見つけたけどもぬけの殻。痕跡はあったけど、そこから動いた跡がない。長引きそうでいやになるね」

 

 そうですか。お勤めご苦労さまです。気持ち丁寧にお礼を言う。民警だというのに嫌悪感も見せずに接する警官は貴重だ。

 

 「どうも。ああそうだ。通報してくれたのはあの老人だよ」

 

 ついでとばかりに話した警官が指さした先には、間桐臓硯がいた。

 

 

 

 

 「あんたの仕業か」

 「いかにも」

 

 事件現場から少し離れた空き地。その場所で、二人は向かい合っていた。

 延珠はいない。友達に会いに行けと、この場所から遠ざけた。

 

 単刀直入な質問にも、毛ほども動揺したそぶりを見せない。むしろ常から浮かべている笑みが深まったほど。

 …当たり前か。路地裏で垣間見た性根から、人を人とも思わないことは知っている。あれほどの残虐行為を平気でこなす化物が、いまさら動揺するハズもない。

 

 「しかし、何故わかった。証拠はなにも残しておらんかったはずじゃが」

 「通報したのがアンタって時点でおかしいだろ。…なんでわざわざ通報した。べつにあんたが通報しなくてもよかったはずだ」

 「善良な一市民としての義務じゃよ。…そうにらむな。なに。わりにあわぬと思ってな。ここは英雄殿に感謝のひとつでも貰えなければやっていけん」

 「感謝だと…!」

 

 血が上る。努めて冷静であろうとした頭が熱をもつ。話はできるのに、決定的に違う生き物だと再認識する。

 事件現場には、爆発にあった彼らの遺族がいた。慟哭の声が、離れたここからでも聞こえてくる。

 人が何人か行方不明になってる時点で、『食われた』と考えるのが妥当だ。喰ってしまえば、痕跡は微塵も残るまい。

 まさに完全犯罪。それほどのことをしておいて、あまつさえ感謝を求めるとは、完璧にこちらを侮っている…!!

 

 固く握られた拳が、音を立てる。人工皮膚がわれて、バラニウム製の肌が顔を出す。

 怒りにあてられて徐々に臨戦態勢になる蓮太郎。それを見て、不思議そうに首を傾げる老人。

 一触即発の状況は、次の一言で凍り付いた。

 

 「なにせ、()()()()()()()()()()()()()()()のはこちらじゃ。感謝こそすれ、恨まれる覚えは微塵もないのう」

 「なに言って…!」

 「気づいておろう。ワシが手を出さなければ、あそこに転がっておったのは『子供たち』の骸じゃ」

 「ッ…⁉」

 

 そうだ。『バラニウム』が入っていると聞いた時点で薄々感づいていた。

 バラニウム入りの爆弾。そして、青空教室の直下、下水道での爆発。

 極め付きは、遺族たちのストラップや服にプリントされた、「日本純血会」のシンボルマーク。

 

 奥のブルーシートの下、遺体らしき肉片(カケラ)からは、シンボルマークなど見つかっていない。もとからなかったのか、それとも判別できないほど粉々になったのか。

 それは、もう目の前の化物以外は知りえない。

 それでも。

 それでも、遺体にしがみついて泣く年配の女性が、奥で警官に怒鳴る初老の男性が、呆然と立ち尽くす青年が、還暦が、少年が、少女が、男が、女が、人が、人人人人_____

 

  全員がこちらを見ている。

 

 『なんで間桐のジジイがここにいるんだ』

 『子供をこの学校に預けてるんだって。噂によれば『赤目』専用らしいぜ』

 『うわきもちわりぃ。ほんと…』

 

 『なんで、なんでしゅんちゃんが死ぬの!』

 『おかしい、おかしい』

 『なんで、しゅんちゃんが死んで、『赤目』が生きてるのよ!それならあいつらのほうが…』

 

 『刑事さんよ、私は思うんだがね。これは『子供たち』のやったことだ』

 『確かに爆弾はつくれないだろう。でも、起爆するのなら』

 『恐ろしいね。彼女らはできるなら…』

 

  死んでほしい

 

 若い、おぼろげにしか覚えてない『奪われた世代』

 地面を掻きむしり吠える『奪われた世代』

 口調は軽く、しかし凍えた目の『奪われた世代』

 

                      

 彼らは一様に、『子供たち』への怨嗟を吐き出している。

 …先生(室戸菫)は、『子供たち』を潜水艦にたとえた。その肉体の強靭さ、『構造』からして違うことを、蓮太郎に自覚させ、それに寄り添うことで起きる、いつかの破滅を予告した。

 『クジラと潜水艦は別の存在だ。その交わりは、ハッピーエンドにはなりえない』

 結局のところ、その忠告は覚悟を問うようなものだったが。

 同時に思ったのだ。

 体が潜水艦に例えられるほど人外でも、中身もはたしてそうなのか。

 『命を懸けて救われた潜水艦の船員たちは、それを見て、なにも思わないものなのか?』と。

 

 「気づいたか。もしここに転がっていたのが『子供たち』ならば、彼らは()()()()()()

 

 ___それならばまだよい。実際には、歓喜するものが大半じゃろうな。

 

 いつの間にか近くまで来ていた臓硯が、硬直している蓮太郎に囁く。

 紡がれた言葉は、ゆっくりと心を染め上げる。

 

 _まったくの逆だ。

  精神でいえば、クジラのほうが『子供たち』で、潜水艦が『奪われた世代』。

  クジラが潜水艦を守って命を落としても、彼らは悲劇と感じない。

  当たり前だ。

  そもそも彼らは『子供たち』を同じ生き物として見ていない。むしろ『ガストレア』を宿すとして、憎むものが大半だ。

  憎む相手に同情など、いったい誰がするものか。加えて、同じ『ヒト』だとも思ってないのだ。

 

 

 イニシエーターが命がけで敵を倒しても、彼らは決して認めない。自分たちの日常は、『子供たち』の奮戦によって保たれていると頭ではわかっていても、憎悪を止めることができない。

 それほどまでに、彼らの憎悪は深いのだ。

 

 「今度こそわかったか。この場に限らず、『子供たち』の生存を喜ぶものはほとんどいない。『子供たち』は誰にも生誕を寿がれず、母親にすら捨てられ、殺される。

 周囲の様子がわからぬほど唐変木ではあるまい。貴様とて、ガストレアに対する恨みのひとつやふたつ、腹の中ではかかえておるはず。

 それでもなお『子供たち』の生存を喜ぶ貴様は、はっきり言って異端じゃ。それもとびきりのな」

 

 「それが、なんだ」

 

 確かに、ムリなのかもしれない。

 どうやったって『奪われた世代』の憎悪は深くて、『子供たち』との共存は難しいと理解した。

 理解、してしまった。

 自身は『子供たち』に耐えろと言ったが。

 …その結果、『子供たち』が無抵抗で殺されてしまったら、いったいどうなっていただろうか。

 想像して、乾いた笑いが出る。

 

 天童の屋敷を出たばかりの頃なら、『子供たち』も憎んでいたころなら、自分も『奪われた世代』(あちら)側だったころならば。

 それならば、ここまで苦悩することはなかったハズだ。

 きっとそのほうが楽だった。実際屋敷にいたころは、憎悪が自分を動かしていた。

 ああ、それでもーー

 

 「なに…?」

 

 「それがどうしたっていってるんだよクソジジイ。俺は今の自分が延珠や木更さんのおかげでこうなっていることを分かってるし、そのことに感謝してる」

 

 延珠がくるまでの、自分の顔を思い出す。

 毎朝ひとりで向かう洗面台の鏡には、憎悪と悲哀で凝り固まった、すさんだ顔が映っていた。

 今思えば笑えるぐらいひどい顔だ。それでも当時は、笑う余裕なんてまったくなかった。

 

 「だから、『子供たち』の事情を知って後悔したことはねえし、するつもりもねえ。

  __延珠は俺の相棒だし、『子供たち』は東京エリアの希望だ。

  誰がなんと言おうと、俺はそうだと思ってる。

  …それに、言い出しっぺの先生(オレ)が辞めたら、生徒にカッコがつかないだろ」

 

 俯けていた顔を上げて、前を見据える。

 ポケットの中の手で、プリントの束を握りしめて。

 当たり前のことを言うように、異端な内容を口にする。

 それはたしかに『夢』であったが、同時に覚悟の証明でもあった。

 

「それでこそウチの社員よ。里見くん」

「木更さん…!?え、ちょっといつからいたんだ…!」

「だいたい最初から」

「うがあああああッ…!」

 

物陰から黒髪をなびかせて、女子高生が現れる。

若干クサイ台詞を聞かれて悶えてる社員を一瞥して、天童木更は老人の対面に立つ。

創業時からの社員の覚悟を、誇るかのように胸を張って。

  

「天童の娘か…。それで、貴様はどうする。命をかけて守った相手から罵倒され、下手すれば命を狙われる。イニシエーターに守られながらも、その卵である『子供たち』を迫害する。

そんな腐った輩のいる町は、いっそのこと、捨ててしまうのもありではないか。

ワシならば、空港へと通じる安全な道も知っておる。チケットも幸い一枚余っておるがーー」

 

「残念ながらお断りします、間桐の翁」

 

ちっとも残念そうでない声音で、木更は断る。

口元は、微かに上品な弧を描く。

 

「私はまだここでやりたいことがありますし、それに、周りが腐っているからと言って、自分まで腐るのはどうかと。

障害物は全部正面から切り捨てる。腐ってるというのなら、その憎悪を切り捨てる。『奪われた世代』が、間違った感情を抱かぬように。

 __そのために、私達『民警』はいるんです」

 

どこまでも誇り高く。

天童の姓を冠する少女は、そう言って花のように笑った。

 

「…そうか。またもやフラれるとは、ワシもヤキが回ったか。まあよい」

 

ーーー結末は、特等席で見させてもらうとしよう。

 

そう言って、風にさらわれるように消え失せる。後に残るのは、微かな羽音と、勇敢な二人の戦士のみ。

 

そして。

遠目に見える摩天楼。第32号モノリスが軋みをあげる。

 

「そんな馬鹿な…」

「ちょ、ちょっと里見くん!おじいさんが消えちゃったんだけど…!!」

「いいからアレを見てくれ…っ!?」

 

 二人が見つめる先。

 人類守護の建造物は、唐突にその終わりを告げた。

 白化した肌が砂塵となり、何10トンもあるバラニウムが砂糖菓子のように崩れ落ちる。

 __ありえない。崩壊まではまだ一日あるはずだ。これは、聖天使サイドで計算した厳密なものではなかったのか…!?

 

 崩落は、地震と錯覚するほどの地響きをともなった。咄嗟に木更をかばった蓮太郎に、たたきつけるように風が吹く。

 蓮太郎の黒い学生服が、真っ白に汚れていく。

 朝から続く風は、外周区の広範囲に白い灰をまき散らしていた。

 

「そうか、風…」

 

 2031年現在、いまだ気象の完全な予測は難しく、カオス的に吹く気象の流れを正確に把握することはできていない。

 現にモノリスは倒壊し、 風に乗って砂煙が発生している。

 JNSCの連中は読み違ったのだ。風の流れを。

 始まる。『第三次関東会戦』が、___まったく意図しないタイミングで。

 

「里見くんッ!」

「わかってる!」

 

 電話をかける。短いコール音。すぐ出てきた松崎さんに、延寿へ電話をかわってもらう。逸る心とは裏腹に、彼の目線はしっかりと戦場を見据えていた。

 

 二〇三一年七月十二日午後三時十六分。

 この時この瞬間こそが、東京エリア史上最悪の戦争と呼ばれ歴史に名を刻まれる『第三次関東会戦』の始まりだった。




いろいろ忙しかったのもありますが!
端的にいってfate熱が冷めちゃってました。すまぬ。
動画の切り抜きやようつべでちまちま見てるだけじゃ冷めちゃうってはっきりわかんだね。

あと途中まで書いて日を置いてたら続き書くのが面倒に感じてしまった。
初投稿の興奮が冷めてしまった。

とかいろいろあります。
ただ私の目標は『原作の嫌いな奴ぬっころし&蟲爺アゾット』だったりするので最後まで書くつもりです。書き溜めとかないのでいつ終わるかわかりませんが…。

次の更新も未定です。気長に待ってくれるとうれしい、うれしい。

気づかれてると思いますが、筆者は奈須きのこ大好きマンです。爆弾の下りは未来福音けっこうパクッテるような気がしますし、文体も似せようとしてます。

人の文章の劣化しか書けないような私ですが今後とも付き合っていただけると幸いです。






あと念願のまほよ手に入れました。あ~マイ天使が可愛くてテムズカッコいいんじゃあ~。プロイになりたい。





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