東京ドールズinGrease (剣崎 誠)
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渋谷に転生
そこは真っ白な空間だった。天井もなく、壁もなく、果てのない、言葉通り真っ白な何もないだだっ広い空間だった。
懲りずに何度も辺りを見回してもそこには何もない、そこにはなにも存在せず、ただ白色の空間が広がっているだけ。
【俺】はふむと右手を顎に添えると考えるような仕草をし、慌てず冷製に自分はなぜこんなよくわからない場所、否、空間に居るのかを考えた。
手始めにここに来る前の事を思い出してみる。
ここに来る前、自分はファミレスのバイトをしていて確かその帰りだったはず…とここまで思い出したところで急に記憶に霧が掛かったようにその先のことが思い出せなくなる。この先の記憶がなにか重要なものな気がするが今はどうしようもないので気にしないことにする。
これでとりあえずここに来る直前の行動がバイトの帰りだったと理解すると次にここは一体なんなのか、辺りを再度見回し考える。
「……」
当然、見えるのはだだっ広い真っ白な空間のみでここがどこでなんなのかなど分かるわけ無いのだが。
額に冷や汗がじわりと滲み出る。
俺はまだ焦るべきじゃない、冷製に考えろと自身に言い聞かせるとここは何処なのかと再び思考する。すると声が聞こえた。
「ここは神界。いわゆる神の世界さ」
その声は透き通った、けどどこか幼さを感じる少女の声で、その声から奏でられる言葉はまるで自分の思考に答えるかのようだった。俺はそんな少女の声と言葉にビクッと驚きつつも後へと振り返る。
「やぁ、こんばんわ。突然で悪いけど今日、
◇
後ろに居たのは声で聞いた通り幼い少女だった。
格好はシンプルで、着ているものはこの空間にと同じくらい真っ白なワンピースにサンダル。髪は黒色の長髪で下ろしていて、顔は整っており幻想的と思わせるほど。幼さはあれど美しい、そう思わせる顔立ちだ。
だが俺はそんな彼女の容姿など一切目に入っていなかった。そんなもの当然だ。突然良く分からない空間にいて突然現れて突然自分に君は死んだなんて衝撃発言されれば誰だってそいつの容姿なんて気にせずまずその言葉の意図を問うだろう。
「えっと言葉の意図が分かりかねますけどとりあえずこの真っ白な空間は神様の世界であなたは神様ってことであってますか?」
「あぁ、察しが早くて助かるよ。最も、自分が死んだこを理解できていないようだけどね」
「死んだって俺はバイトからの帰りで気づいたらここにいたって言うか…」
その言葉を聞いて少女改め神様は先ほどの自分のように手を顎に添えるとなるほどと一人なにか納得した。
「覚えてない、いや正確には思い出せないのか。仕方ない」
言葉の意図が分からず俺はさっきから何を言ってるんだ、と言葉を口にしようとした瞬間だった。神様がパチンと指を鳴らす。すると俺の頭中に数秒の映像が流れ込んできた。
その映像は横断歩道を渡る俺がトラックに跳ねられる、というものだった。
思い出した。さっきまで霧の掛かったように思い出せなかったその先の記憶が鮮明に思い出せる。横断を渡っていたその最中、信号を無視して横からやって来たトラックに自分は跳ねられたのだと。
「思い出してくれたかい?」
俺の様子を見ていつの間にか腕組みをしている神様はそう俺に問いかける。
「あぁ。俺、死んだんっすね」
俺は不思議と冷静でいられた。恐らく未練などがないからだろう。これといって大きな後悔もやり残したことも無かったし。そんな事を考えながら俺がジっと神様を見つめていると
「そうだ。君はトラックに跳ねられ死んだんだ…
私のミスでね」
瞬間、は?っと言葉が口から漏れるように出た。俺は聞き間違えかな?と冷や汗を額に滲ませながらそんなラノベみたいなこと有るわけがないと否定し恐る恐る神様に聞いてみる。
「今私のミスって言いましたか?」
刹那。
そこには土下座姿の少女、否、神様が居た。この時、俺は確信した。あ、これ神様に間違って殺されたやつだわ、と。
「すんません!マジですんません!二次会の帰りだったんです!お酒の飲み過ぎで泥酔してたんです!すんません!マジ許してください!」
先ほどまでのミステリアスな雰囲気や神々しさはどこえやら、神様は俺の足元で土下座しながら両手を合わせ叫ぶように並みだ目で俺に謝罪していた。もはや口調やキャラさえも360°ガラリと変わっている。というかさりげに酒の飲み過ぎとか言ってなかったか?いやまぁ神様だし容姿がどうであれ年齢は自分よりかは全然年上なのだろうが。
「えーっとまぁ話はだいたい理解しました。要するに神様のミスで俺は信号無視したトラックに跳ねられて死んでここに居る、と?」
「あ、はいそうっす。マジですんませんッ!」
「あいや、別に怒ってないですよ、家族とか友人も居なかったんで」
ついでに恋人も居ませんがと付け足して言うと俺は土下座する神様に手を差しのべる。
「君は神か!」
神様の言葉に神は貴方でしょと苦笑いを浮かべ俺から差し出された手を神様はつかむと立ち上がる。
「それで俺はこれからどうなるんですか?」
ここで俺は本題に入った。ここで予想される答えはなろう系ラノベよろしく特典もって異世界転生しろってなるのがセオリーだが俺が今経験しているのはラノベじゃなく紛れもない現実だ。ぶっちゃけ元の世界に未練など有りはしない。さっき言った通り自分には家族はいないし友人もいなければ恋人も居ないのだ。人付き合いなど社交辞令程度しかない。追加して言うと読みたかった漫画もラノベもないし見たいアニメもやりたかったゲームもない。言葉通り未練など何一つもなかった。
神様はそんな俺の考えを知ってか知らずか予想通りの言葉を俺に言い放った。
「君は私のミスで死んでしまった。掟上、元の世界へと転生、または生き返らせることは出来ないからなろうラノベよろしく別世界への転生だね。」
神様は付け足してそもそもこんな状況自体初めてのことだから掟も糞もないんだけどと呆れたように言う。俺はつまり前例がないのかと思いつつじゃあどんな世界に転生するのか聞いてみる。
「君が行くのはあくまでも別世界であって異世界じゃなち。魔物も居なければ魔法何て物もない科学がある程度発展した世界さ。ぶっちゃけ元いた世界と大差ないね」
その答えに俺はなんとも言えない顔になる。確かに異世界に行って可愛い美少女達と出会いたいと思ったがよくよく考えてみればそれで仮にチートな特典を得たとしよう。その貰い物の力で美少女達に強いねとちやほやされて何が嬉しいか。かといって元いた世界と大差ない別世界に行ったところで以前と同じただ代わり映えしないつまらない人生を歩むことになる。
神様はそんな俺を見て、まるで自分が考えていることが分かっているかのように
「私は別世界へ行くならチート特典貰って異世界に行くね。そんでもって美少女達とイチャイチャするよ」
「……レズ?」
「悪いかい?性別なんてただの壁さ。そこに愛さえあれば関係ないよ。」
「いや別に神様の性癖をどうこう言ったわけじゃなくてだな、単にその容姿でレズってのはインパクトがデカイって言いたかったんだが…」
俺はレズという性癖を何処か誇らしげに語るロリ神様に表情同様なんと言えない視線を向けながらんじゃ特典くれよとそれとなく頼んでみる。神様はいいよと一言答え何がほしい?泥酔して殺してしまったせめてもの詫びだと申し訳なさそうに言った。
スクラッシュドライバー…とポツリと呟いた。
「なるほどスクラッシュドライバー…仮面ライダービルドか、了解。でスクラッシュゼリーは?ドラゴン?それともロボットかな?またはボトルのクロコダイル?」
「ロボットだ。」
「ほう、グリスね。君とは気が合いそうだ。」
神様はそう言って嬉しそうに笑うと何処からか要望したロボットスクラッシュゼリーとスクラッシュドライバーを取り出すと投げ渡した。咄嗟の事だったがうぉっとと、と俺は慌ててゼリーとドライバーをなんとキャッチする。いきなり投げんなよ!と怒るもその手にある本物を見てうぉ…と小さく歓喜の声を漏らした。
神様は神様で悪びれたようすもなくごめんごめんと笑うと特典も渡した事だしそろそろ君を別世界へと転生させよう、そう言ってこちらに手の平を向けた。
「何だかんだあったが…ま、俺は代わり映えしないつまらない毎日を過ごすとするよ。じゃあな神様、スクラッシュドライバーをありがとう」
「いいさお礼なんて。元は私が原因だしね。そのスクラッシュドライバーがあればちょっとは刺激のある日常が過ごせるんじゃないかな?、なんにせよ次は楽しめる人生を過ごすといい。それじゃ、良い人生を…『石動一海』君。」
俺はそんな何処か寂しげな神様の声を聞くと、瞼を閉じ、その意識を手放した。
◇
真っ白な空間、私は一人の人間を別世界へと送り、再び一人となった。神の世界、それはここのことを指す。だが神は私しかいない。故に私は彼と会話したことで心の何処かで少なからず寂しいと言う感情が現れ始めていた。
彼をこのままこの世界に、なんて考えようともしたが仮にも私は神様だ。そんな残酷な事出来るわけがない。私は先ほどまで彼がいた場所をしばらく見つめるとはぁ…とため息をはいた。
すると何処からか声が聞こえた。
《ずいぶんと寂しそうな顔をするが、神様が嘘を吐くなんてね。世も末だ》
私はその聞き覚えのある声にフ、と鼻で笑ってやると神様だって嘘の二つや一つ付くさと声に返事をする。
「神様にだってそのくらいの感情はあるさ。それに最初で最後の私の人間の話し相手である彼には楽しめる人生を送ってもらいたいからね」
心の底からそう思って
「そのための嘘なら、悪くはないだろう?」
私はもうその場には居ない彼を思って一人微笑んだ。
◇
ーー…ょ…と!
声が聞こえる。自分は地面にでも横たわっているのかやけに体の下がらゴツゴツした感触がする。だがそんなことはどうでもいい。寝ている場所が地面だろうが空だろうが眠いものは眠いのだ。俺はその場から起きることはせず目覚めかけていた意識を再び睡眠へと誘う。
ーーち…っ…!!
声が聞こえる。今度は先ほどよりも大きく確実に自分を起こす為の声だと寝ぼけている俺はようやく理解し、意識を眠りの海から無理やり引っ張りあげると嫌々ながらも上半身起こした。
「ちょっと!ってやっと起きたわね…急に倒れちゃうからびっくりしたじゃない、大丈夫?」
俺は声の主を確認すべくゴシゴシと目を擦る。声からして女の子だというのは分かるが何故女の子に自分は起こされているのだろうかと言う疑問が頭の中に浮かぶ。自分には友人は居ないし家族も居ない。勿論恋人もいるはずなど無いのだが……とここで俺は女の子の言葉から急に倒れた、と言うワードが飛び出したことにん?となり目を開いた。
そこには赤いリボンを付けたツインテールの少女が立っていた。少女は学生か何かなのか白と赤がベースの制服ような服を着ていて首に赤いチェックのリボンがネクタイのように巻かれ、左胸にはDOLLSという金のバッチが付いていた。
俺は急に倒れたという彼女の言葉にどう言うことだ?と疑問を抱くがだが少女の背後にそびえ立つ一つの建物に目を奪われ思考が止まった。少女の背後に映るもの、それは様々な建物のその先に円柱形の上に大きく109という看板を持つ建物、SHIBUYA109だった。
「なんで、俺、渋谷に居るんだ!?まさかあの夢…!」
俺は何が言っているツインテールの少女に気づか無いまま、左手に何か握られていたので見てみると少し大きめのボストンバックが。それもご丁寧にそのバックの持ち手には自分の名前、石動一海と書かれていた。慌ててバックの中身を確認すると、案の定スクラッシュドライバーとロボットスクラッシュゼリーが入っていた。
「現実だったのか、あれ…」
だとすると冗談抜きであの日自分は死んだことになる。しかもそれだけじゃない、あの神様の言っていた言葉が本当だったなら今自分がいるこの世界は全く別の世界いると言うことになり、つまり転生した、と言うことになるのだ。だが何故渋谷に?そう思った矢先の事だった。
「聞いてるの!!!」
耳元から女の子の声が聞こえた。しかもその声はかなりの大ボリュームで尚且つ怒と言う感情付きの。俺はキーンとなる耳を押さえながらドライバーとゼリーの入ったバックを持ち立ち上がる。
少女の声で完全に意識が覚醒したことで季節的に今は春なのか、若干肌寒さを感じるが今はそんなことはいい。俺はとりあえず自分を怒鳴った少女に視線を向ける。
二つの赤いリボンで結ばれたさらっとしたオレンジのツインテールに見てると吸い込まそうな青い瞳。顔は絵に描いたような美形でスタイルもいい。良く見ると少女はかなりの美少女だった。俺はアイドルでもやっていたらかなり人気ありそうだなと率直に思った。
少女はそんな事を考える俺に少し怒ったように、けれど心配する様子で
「突然目の前で倒れるからびっくりしたんだけど?で、大丈夫なの?」
「あ、あぁ。大丈夫、ちょっと立ちくらみしただけだから」
俺は一様そういいながらも万が一のため体調をチェックしておく。痛みを感じるところは特にないし調子も悪くない、寧ろ好調だ。体調もいたっていつも通り、だが強いて変だと思う所を挙げるとするならば体が妙に軽い、と言う所だろうか。
「そ、なら良いわ…でも一様病院には行くことね。それじゃ」
少女はそう言うと手を降りながらその場を去った。取り残された俺は既にその場には居なくなっている彼女にお、おうと一人言葉を返した。
ここで周りの視線に気づいた。そりゃそうだ、歩道のど真ん中でいきなり倒れた上にあんな美少女が介抱すりゃそりゃ誰でも足を止めて見るわな。今頃写真撮られてTwitterだとかで拡散させられてんだろうな。
俺は途端に恥ずかしくなり顔を真っ赤にしながらその場から走り去った。
場所は歩道から走ってまた別の歩道。俺は手近な階段を見つけ座り込むと自分が今所持している物を確認するべくバックやらポケットを探る。出てきたのはまぁ先ほどみた通りのドライバーとゼリーだけ…と思っていたがズボンのポケットにもなにか入っていた見たいで、それは何かのチケットだった。
なんのチケットだ?と思いながら表裏を見てみる。表は左側にDOLLSと言うアルファベットがピンク色に描かれており右側には白い枠があり中に日時が書いてある。
どうやらアイドルか何かのライブチケットのようだ。
裏には小さな地図と利用規約のようなものがずらっと書かれている。最も日時を確認する為の時計やスマホなど持っていないし渋谷なんて来たことがないため場所も日時も分からないのだが。
しかしこんなものが何故がポケットの中に入っていたのだろうか。生前の持ち物は着ていた服だけである。スマホや財布などは入っていないのだから恐らくこちらの世界に持っていくことは不可能だったのだろうがだとするとこのチケットは一体なんなのか。自分はアイドルオタクとかアイドルに詳しい人間ではないが少なくともDOLLSなんてアイドルグループは知らないし見たことがない。
ならばこの世界のアイドルなのかと思うがそれなら尚更何故自分のポケットの中に入っていたのか……無論どれだけ考えたって分からない。もしかしたらあの神様がスクラッシュドライバーじゃ足りないと思ってついでにくれたのかもしれないし倒れている俺に誰かがイタズラで入れたのかもしれないがそれだとそいつにはメリットがないから俺は後者の考えを否定した。
まぁチケットがポケットに入っていた理由がなんにせよ無闇に捨てるとか売るとかはしない方が良いだろう。特にこれと言った目的や目標の無い俺はこれからどうすっかなぁとDOLLSのライブチケットを見つめながらぼんやり考える。
どこぞの蜘蛛男みたいにグリスに変身して町の平和を守るというのもありだがそこらじゅうにいるスマホを見ながら道を行き交う人並みを見ると平和だな、とそんな気は失せた。
そう考えるとこのスクラッシュドライバーは遊び以外で使うこと無いかもなぁと俺は残念そうにため息を吐く。遊び以外にあるとしてもハロウィンの仮装に使えるくらいかとさらにため息を吐く。
「まいいか。とりあえずぼちぼち散歩でもしながらこれからの事を考えながら情報収集でもすっかね。」
そう言って立ち上った瞬間だった。
「そういや俺を起こしたあの女の子の制服にDOLLSってバッチがついていたような…」
あの時は転生のことやらなんで渋谷にやらでよく見ていなかった為確信のしようがないが仮にだとしたらあの時自分が考えたようにもしかすると人気があるアイドルなのかもしれない。
「つうことは最初に会った人物がアイドルだってことか?だったら幸先がいいなこりゃ」
俺はちょっと得したかもといい気分になると鼻唄を歌いながら渋谷の探索を始めるのだった。
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失敗
アヤ「ねぇそれあんた一人で言ってて寂しくない?」
一海「うるさいな。ってあんたは今朝の!?なんでここに!?」
アヤ「無事仮面ライダーグリスの変身アイテムを特典として貰い転生した石動一海は人気アイドルDOLLSのメンバーである私こと、アヤに助けられその後今後の為、渋谷を探索し情報収集を始めるのだった」
一海「いや助けられたっつかただ起こされただけつかってなに然り気無くあらすじ紹介しちゃってんのさ!てかさらっとネタバレしないでくれる!?」
アヤ「こんなものネタバレでもなんでもないでしょ、ほらさっさと第二話始めるわよ!」
一海「えぇ……ネタバレはどんなものでもダメな気がするけど…まいいか、と言うわけでどうなる!第二話!」
一通りこの世界での情報の収集を終えた俺は疲れて若干痛みが生じてる足を休ませるべく公園のベンチに座り込んでいた。
まず一にこの世界は自分が元いた世界となんら変わらないこと。ゲームや漫画からラノベやアニメまで全て変わらない。ラノベ特有の名前やその登場人物の名前がちょっと違うとかは全くなかった。強いて違いを挙げるとするならば新宿がこの世界の何処にも存在しない、という所だろうか。
それでDOLLSというアイドルグループについてだがかなり有名らしい。確かにそこらじゅうにDOLLSに関するグッズやポスター、張り紙がありどうやら渋谷を中心に活動をしているようだ。
因みに今朝俺を起こしたのはやはりそのDOLLSの一人で名前はアヤと言うらしい。出会い方はどうであれ人気アイドルと会えたのだからと彼女と会えたことを心の中ひっそりと幸運に思った。
俺は公園の中心に立つ時計塔に目をやり時間を確認するとズボンのポケットからチケットを取り出して開催する日時を確認した。なんでもこのチケットで行けるライブはDOLLSが出来てから丁度一周年たった記念のライブらしくいわゆる一周年記念ライブらしい。
「明日か…」
その一周年ライブの開催日は明日だ。ただここで問題が生じた。
現在の俺は無一文で絶賛ホームレス状態である。まさか
とまぁこんなわけで現在進行形でホームレスをエンジョイしているため泊まるところも住むところもないのだが。もっと言うと住む家どころか戸籍も学歴も、俺に関する情報、いや
「どぉすっかなぁホントに…」
転生一日目にして早速二度目の人生が詰んだ気がする。時間は午後の6時過ぎ。朝から今に至るまで何も口にしていない俺の腹がグゥーと空腹のコールを鳴らす。飲み物は公園やらデパートやらで補給出来るからいいが食べ物はそうは行かない。そう言えば昔見たテレビ番組で確か人間は飲み水さえあれば生きられるとか言っていたような…と同時にそれはミイラになる方法でもあると言うことを思い出し俺は考えるのをやめた。
「そうだなぁ…暇だし試しに変身出来るか試してみるか?」
そう言うと俺は回りに誰もいないか確認をするとチケットをポケットにしまう。黒色のボストンバックからスクラッシュドライバーを取り出しそのままグリスになるためのロボットスクラッシュゼリーも取り出す。
「ん、割りと重いな」
神様から渡された時は重くなかった、いや重力と言うものを感じなかったが今だとしっかり重力を感じるためスクラッシュドライバーが重く感じる。まるでこれが本物だと言わんばかりに。いやまぁ片手で持てるくらいの重さではあるのだが。
俺は取り出したスクラッシュドライバーを右手に持ち腰まで持っていく。すると『スクラッシュドライバァ!』という音声が鳴り、同時に銀のベルトが飛び出し腰に巻き付く。
神様にドライバーを貰ったときと同じようにようにおぉ…と思わず歓喜の声を漏らす。
俺はそんな声を口から漏らしつつ左手に握られたロボットゼリーのギャップを右手で前に合わせるとドライバーに装着した。だが
「グガァアアアアーーッ!?」
瞬間スクラッシュドライバーから電流が身体に流れ俺の身を焼いた。服が少し焦げ煙が立ち上る。
スクラッシュドライバーは俺から剥がれるように飛びロボットゼリーもドライバーから外れドライバーと共に地面に転がる。
ビルドの設定上、桐生戦兎や万丈龍我の使用しているビルドドライバーはハザードレベルが3.0、俺が貰った猿渡一海や氷室幻徳の使うスクラッシュドライバーは4.0にならないと使えず、なおかつ強い思いがなくては変身出来ない、という設定になっている。もし無理に変身しようとすれば今の俺と同様ドライバーから電流が流れドライバーと引き剥がされる。俺は一般の人間だ。ビルドの登場人物ようにスマッシュと戦ったことも無ければ万丈のように宇宙人でもない。そんな一般人が登場人物ですから気絶するドライバーの電流を浴びればどうなるかなどすぐに分かるだろう。
「設定、反映されてん…の…かよ…」
俺はそう愚痴るように言うと膝から崩れ落ちるように地面に倒れるとそのまま意識を失った。
◇
柔らかく良い香りのする布団の中、俺は目を覚ました。
「痛ッ…」
上半身を起こすと僅かに身体に痛みが走り声が出る。けれど激痛と言うほどの痛みではなく、運が良かったのか筋肉痛程度で済んだようだ。
それよりも、と自分が寝ているベッドと部屋を見回す。スクラッシュドライバーとゼリーはご丁寧にボストンバックの中に入っておりボストンバック自体は枕元にあった。だがそんなことよりも
「何処だ…ここ?」
当たり前だが元の世界の自分の部屋では無さそうだ。記憶では確か自分は試しにグリスに変身しようとして、結果しっぱいして公園の地面に倒れたはずだ。
けれど目を覚めばあら不思議、いい匂いのする柔らかベッドで寝ているではありませんか。部屋は見たところ病院ではなくパっとみ女の子の部屋って感じのする部屋で所々にぬいぐるみが置かれている。そんな部屋の中コルクボードに貼り付けられた写真に目を止めた。
「DOLLSの写真か?」
俺はベッドから降りるとコルクボード前まで行き写真に優しく触れる。写真にはDOLLSのメンバーが写っており、まるでそれが思い出の品のように俺には見えた。とここで
「人の写真を勝手に見つめてなにしてるのかしら?」
「うおッ!?」
唐突に背後から聞こえた声に驚き声を漏らすと同時に身体がビクッとなった。デジャブ、そんな単語が頭の中に浮かび俺は後ろへと振り返った。
そこに居たのは勿論白いワンピースを着たロリ神様ではない。がしかし予想外の人物であった。
「ってDOLLSのアヤ…!?」
「知ってたの?今朝は知ってるように見えなかったのに…って言うか1日にどんだけぶっ倒れてるのよあなた」
そう、今朝俺を起こしたDOLLSの一人、アヤだった。お風呂上がりなのか妙に艶々しいというか色気があるというか頭に煩悩とういう文字が浮かぶ。しかしまたなぜ俺は彼女に助けられているのだろうか。俺は倒れた理由をはぐらかしながら何故また助けたのかを聞いた。
「人が倒れてるの見かけたら誰だって助けるでしょ普通」
至極真っ当な答えが帰ってきた。だが何故救急車を呼ばなかったのか、普通なら病院へ連れていくべきだと思うのだが。そんなことを考えている俺に知ってか知らずかアヤはそれよりもと言って
「なんでまた倒れてたのよ?その服の焦げ跡と関係あるの?今朝は焦げ跡なんて付いてなかったけど」
「あーえっとー…」
言葉が詰まる。どうも自分は嘘が苦手らしく過去にも同じような経験を幾度となく繰り返している気がするが俺は気にせず火遊びしてたんだよと答えみる。
「あなたのバックにもポケットにも倒れてた回りにも火をつける道具なんて無かったわよ。」
この口論圧倒的に不利になったな、と俺は1人確信した。さて、スクラッシュドライバーのことを言うべきか、だが言った所で信じてもらえる訳がない。実演するというのも一つの手だが痛いのと服が焦げるのはもうごめんだ。さてどう誤魔化そうかと思考しているとアヤはボストンバックを見ながら
「それともう1つ聞きたいことがあるんだど、なんであなた玩具なんて持ち歩いてるの?趣味?」
悩んでる側からその質問かよっと俺はアヤの質問に動揺した。動揺する俺を見たアヤは怪しむように俺をじっと見つめる。もうこうなればヤケクソだ。俺はそうだよ趣味だよ悪いか!と顔を赤面させて大声で言いはなった。確かにこの世界に来る前は仮面ライダーの玩具は良く買ってたし本編もしっかり見てた。勿論ビルドもしっかり見てる。だから恥ずかしい事ではないはずなんだ、そう俺は自分に言い聞かせる。
だが俺の回答にアヤはちょっと引き気味でう、うんそうなんだと返事をするともういいわと言って布団を敷き始める。
「私もう寝るからあなたはベッドで寝なさい、それじゃお休み」
確かに部屋の時計を見てみると既に9時を回っている。良い子や女の子、特に忙しいアイドルは仕事やレッスンが無ければもう寝る時間だ。だがだからと言って俺を自分のベッドに寝かす、泊めるのはおかしいだろう。俺はちょ、ちょっと待ってくれ!と若干裏返った声を上げる。
「なによ、明日あたし一周年ライブがあるのあなた知ってるでしょ?だから早く寝かせてくれない?一様斑目さんには話通してあるからヘーキよ」
「分かってるよそんなこと、聞きたいのはなんで俺を然り気無く泊めようとしてるんのさあんた!って許可取ってんのかよ!?」
「ギャースカうるさいわねぇ…仮にもあんた怪我人でしょ?そのあんたを真っ暗な外に叩き出すとかそんな非情な事できるわけないでしょ」
「いやでもその、俺男なんだけd「その時はボコボコにして警察に突きだすから」……うっす」
俺は諦めてアヤに言われるがままベッドの中へと身体を滑り込ませる。アイドルがボコボコとか言っていいのか?ベッドからいい匂いがする。その匂いは不思議と俺を安心、リラックスされて行きさっきまで寝てたと言うのに沸いてくる眠気に誘われ俺は彼女のベッドで眠りについた。
◇
一周年ライブの前日である今日、私はレッスンを終え珍しく気晴らしに散歩へと公園を歩いていた。
「明日は一周年ライブ、いつもより気合い入れて行かないと……ん?あれは今朝の…こんなところでなにやってんのかしら?」
公園には先客がいてそれは今朝歩道で助けた青少年だった。なにをやっているんだろうと思いながら私はふと片手に持っているチケットに目が止まった。そのチケットは明日私が出るであろうライブのチケットだった。彼は自分達のファンなんだろうか?と私は思ったが今朝の私を見たときそんな反応は見られなかった。つまり今日DOLLSのことを知りそしてライブのチケットを購入たことになるのだが。私はその事を疑問に思い彼に声を掛けようと一歩踏み出したその時。
彼はまるで誰か居ないか確認するように辺りをキョロキョロと見回し始めた。それを不信に思った私は花壇の後ろへと身を隠すと彼を見張るようにじっと見つめる。
彼は身を隠した私に気づかないままボストンバックからなにやらスクラップ機のような玩具を取り出すとそれを腰に当てた。すると玩具はスクラッシュドライバァ!と音を立てながらなんと彼の腰に自動的巻き付いた。
最近の玩具ってあんなハイテクなの!?と私は心の中驚きの感想を漏らす。
次に彼は左手に持ったロボットのような絵が描いてあるゼリー飲料の容器のようなもののキャップを締めると腰に巻き付いたスクラップ機の玩具に差し込んだ。
瞬間、スクラップ機の玩具が彼を拒むように電流が流れ彼の身を焼いた。無論電流に焼かれた彼はなにか一言言うとそのまま膝から崩れ落ちるようにその倒れた。
私は目を見開き流石にあれはまずい、そう直感的に感じて花壇の後ろから飛び出すとスクラップ機とゼリー飲料の容器のようなものとボストンバックを回収し彼の身体を【
私は近くに病院がないかと頭の中にある渋谷の病院を記憶から探る。がどれもここから離れていて走っても一時間以上は掛かる。救急車を呼ぶにしても近くに病院がないのだから来る時間などたかが知れてる。
私はやむを得ないわねと呟くと公園をすぐさま走り出て出来るだけ目立たず人通りの無い道を選び事務所、自宅であるDOLLSHOUSEへと向かった。
私は焦るようにDOLLSHOUSEの扉をバン!と開けると中へと入る。事務所の中では茶髪のボムカットの女性、カナさんが仕事をしていて私が帰ってきたことに気付きこちらに振り向く。マダラメはいないようだ。
「あ、帰ってきたんで…どうしたんですかその人!?」
「説明してる暇はないわ!この人を早く治療してあげて!」
「見たところビグマリオンによる物ではないようですが…分かりました。では医務室に」
そう言ってカナさんは医務室へと向かい、私は言われた通り彼を医務室へと運ぶ。途中、斑目所長に会い事情は後で話すと言ったら分かったと了承してくれた。恐らくあとで何かしら言われるだろうが人一人の命が助かるならそれくらい安いものだ。
医務室につくと私は彼をベッドに寝かし、カナさんは彼の服を脱がし身体の状態を見る。彼の身体は電流でも流れたような火傷があった。まさに現場を見た通りの状態である。
「軽い火傷のようですね。処置さえしっかりすれば大事にはならないと思います」
私はその言葉に安堵し良かったと胸を撫で下ろす。カナさんは医術を心得ているのか手慣れた手つきで彼の身体を処置していく。
「これで大丈夫です。けれど火傷のあとが不自然ですね…まるで身体に電流でも走ったみたいな…」
私はカナさんに見たもの全て説明すると彼のボストンバックから回収した玩具を取り出した。
「これが…ですか?」
「はい…確かスクラッシュドライバーとか言うらしいんですけど…」
「彼がそう言ってたんですか?」
「ああいえそうじゃなくてこの玩具がそう言ってるのが聞こえて」
カナさんはしばらくスクラッシュドライバー?とゼリー飲料の容器を見つめると解析してみますと言って医務室を後にした。
「…なんか寒そうね」
そう呟くと私は彼を掛け布団の無いベッドから持ち上げ連れてきたときのように抱き上げると自室へと向かった。
幸いなことに他のDOLLSのメンバーと会うことなく自室につき私は彼を自分のベッドへと寝かせた。掛け布団を掛けてやる。そう言えば何気に自分の部屋に初めて男の人を上げたような。いや、もしかすると人形になる前はこのくらい普通にしていたかもしれないが今は今だ。
そう考えると若干顔が熱くなった。何故だろう、ちょっと恥ずかしくなってきた。かといってあの寒そうな医務室のベッドに寝かせておくのもどうかと思う。
そんな事で悩んでいるとコンコンと扉をノックする音が響き続くように私だと低い女性の声が聞こえる。私は扉の向こうにいるであろうマダラメにどうぞと返事をする。ん?そう言えば彼を私の部屋に連れてきたの誰にも言ってないと思うのだけど…と何故か居る場所がマダラメバレているのだろうと考えてるとそのマダラメが扉を開けて中へと入ってくる。
マダラメの片手には彼のボストンバックが握られており、ベッドで寝ている彼をじっと見ると私に視線を移しちょっと来い、少し話があるそう言って直ぐに部屋を出た。私は言われた通りマダラメに続き部屋を出ると扉を締めマダラメと向き合う。
「まず一言言っておこう。分かっているとは思うがお前は人形だ。一般の人間にそれがバレてはいけないと言うことを再認知しておけ。お前は物事を楽観的に見過ぎだ。」
私は「分かってるわよ。次からは気をつけるわ」とマダラメから目を背けながら答える。
マダラメはそんな私を強く睨むように見つめる。しばらくしてマダラメはボストンバックからスクラッシュドライバーをとゼリー飲料の容器を取り出す。
「これについてだが解析の結果、これは我々には遠く及ばない科学技術で作られた人体強化アイテム、だそうだ。ただし使用者を選ぶようである一定の条件をクリアしないと扱えないらしい」
「そんなものが…」
「それでこれをつけ使用した彼は電流を浴びたそうだがそれは本当か?」
「えぇ。それにそのゼリー飲料の容器を刺した途端、彼に電流が流れて…」
「なるほど…やはり解析した通り一定の条件を満たさないと使えないようになっているのか…」
マダラメはボストンバックに出した物を戻すと少し考えたような仕草をし、彼に返しておいてくれ、そう言ってボストンバック私に手渡す。てっきり押収するのかと思っていたがマダラメにはなにか考えがあるのか、とそんな事を考えながらボストンバックを受け取るとわかったわと了承した。
「明日はライブだ。レッスンや訓練の疲れを取るためにも早めに寝ておけ」
マダラメはそう言うと事務所の方へと行ってしまった。
私は部屋に戻り彼の枕元にボストンバックを置くとため息をついた。彼は一体何者なのだろう?そんな考えが頭の中をぐるぐると駆け回る。今朝起こした時も妙な反応をしていたし、その様子はまるで右も左も分からない幼い子供が迷ってしまったときのような。
そう言えばと私は思い出す。
彼は確かこのボストンバックとその中身の玩具、強化アイテムしか持ち物は所持していない。ポケットの中にスマホや財布が入ってるような膨らみは無かったし、となると渋谷から渋谷付近に住んで居るのかと考えたがそうなると今朝の彼の反応と矛盾していることになる。DOLLSが出来てから明日て丁度一年になり、知名度も高くかなり有名だ。もし彼が渋谷の住人なら私の事を知っていてもおかしくはないはずだ。
彼は一体何者なのか…知るには直接本人に聞くしか無さそうだ。私は考えても分かりそうに無いわねと一人呟くとお風呂入って寝ようと部屋を後にするのだった。
アヤの口調とか性格がちょっと違ったかもしれませんがそのへんはご指摘していただくと助かります。あと後半かなり文章力が落ちてると思いますがこちらもご指摘していただくと助かります。
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ヒーローになるための心火
アヤ「開幕からなにぶっこんでんの!?アイドル違いもいいところよ!てか怒られるわよ!?」
一海「いいじゃねぇかこんなんSSじゃ普通だ。さてそろそろあらすじ紹介するぞ」
アヤ「なんか前回のあらすじ紹介と立場が逆転してない…?」
一海「世界初!選ばれた転生者こと俺、石動一海は転生した世界のことを知るべく情報収集のため渋谷を探索した!結果前にいた世界と対して変わらないことが分かった!がしかしここで同時に自分が一文無しのホームレスだという事実が発覚し転生一日目で人生が詰むはめに!」
アヤ「え!?いまあんたそんな状態なの!?嘘でしょ!?」
一海「しょうがないでしょ!!まさか住む家も暮らすための金ももらえるもんだと思ってたんだからさ!ボストンバックの中何回も調べたけどドライバーとゼリーしか入ってないし…」
アヤ「いや…なんか…災難だったわね」
一海「同情するなら金をくれ。と言うことで気分転換にグリスに変身しようとした俺だったがなんと本編の設定が反映されているのかドライバーから電流を浴び意識を失ってしまう!」
アヤ「そんでそれを見ていた私が慌てて意識を失った一海を抱えて自宅であるDOLLSHOUSEへ。幸い軽症ですんだ一海は私の判断で自分の寮に抱えていく」
一海「目を覚ました俺は訳も分からず困惑するがアヤの脅迫によりその日は渋々寝ることにしたのだった」
アヤ「脅迫ってそんなことした覚えないんだけど!?」
一海「いやほぼ初対面の男を部屋に連れ込んだ挙げ句寝ないとボコって警察に突きだすとか脅迫以外の何者でもないでしょ」
アヤ「あんたねぇ人の良心をなんだと思ってんのよ!なくわよあたし!?」
一海「と言うわけでどうなる!第三話!」
アヤ「本当に泣くよ!?」
早朝、俺は不自然な寝心地を感じ目を覚ました。
すると目を覚ましたばかりの視界に惑星や島のような何かが空中に浮かびその背景に青やピンクの空が何処までも広がっている、という幻想的だが訳の分からない光景が写り混んできた。
ゑ、ここは何処だ?と嫌な予感を感じながら寝そべった半身を起こす。時折吹く生暖かい風が俺の頬を撫で俺は心地よさを感じながら辺りを見回した。
そこは様々な花が咲き乱る緑豊かな幻想的な花園だった。
そんな光景を寝起きで目の当たりにした俺の意識は一気に覚醒しえまじで何処だここ!?と焦り始める。転生するときはこんなに焦らなかったのになぜ今こんなに焦っているのだろう…ふとそんな考えが脳裏に過った。
俺ってなんか不思議な性格してんなぁと何故か冷静になる。とりあえず座っててもしょうがねぇと立ち上がり俺は再度辺りを見回す。見えるのは幻想的な花園だけで自分以外に人はいないようだ。
どうやら前回と同じような状況に俺は立たされているらしいと一人呟く。違いは場所があの真っ白か空間ではなく花園というところ、記憶がしっかりと思い出せるのと死んでいないと言うところ、そして神様がいないところだろう、まぁ前のように突然現れるのかもしれないが。
なにがともあれまた死んだというのは無さそうだ。と安堵した時だった。
『物語が、始まる』
頭の中に声が響いた。突然の事で一瞬驚いたものの、度重なる異常な状況のお陰でもう慣れてしまったのか冷静に
「お前は誰だ?」
だがその声は俺の質問をまるで聞いていないのか無視すると
『もちろん、主演はアナタ。』
あーこりゃなに言っても駄目だな、と理解した俺は黙ってその声を聞くことにした。
『まずはアナタを定義します。アナタの名前を教えてください』
「その前に俺の質問に答えろ。お前は誰だ?ここは一体なんなんだ?」
返事は帰ってこない。予想通りかよ、と心の中愚痴を垂れると俺は諦めたように「石動一海」と自分の名前をその声に教えた。
すると声は聞いた通り俺の名前を何度か繰り返し言葉にすると『アナタの定義を完了します。アナタは【石動一海】となりました。おめでとうございます』と訳の分からないとこを言い始めた。俺はその声何を言ってるんだ?と首を傾げた。
声はそんな俺を無視すると言葉を続ける。
『これで準備は万端です。』
今のが準備…?と困惑するが俺はもうどんだけ考えたって訳わかんねぇしいいや、と考えるのをやめた。
『物語を開始します。』
と考えるのをやめた直後そんな単語が聞こえたのだから考えずにはいられない一海さん。俺は物語とは何なのかを思考し、そして直ぐにその答えが浮かび上がった。こんな事、もはや考えるまでもない。
「この世界での俺の物語ってか?死ぬ前の世界見たいに糞つまらねぇ第二の人生歩むんじゃねぇかと思ってたが…面白れぇ演じてやるよ。その物語とやらの主演ってやつをよォ!!」
俺はそう声に宣言すると意識を失った。
◇
ーー目覚め…なさい…
ーー目覚めなさい…
「ん…」
下から感じるゴツゴツとした感触を感じて俺はまたこれか、と地面の感触に慣れつつ気がついた。
意識はまだはっきりしないものの転生してから二回目、流石に一回経験しているのだから自分がどんな状況に置かれているのかくらいもう理解している。そして同時に目が覚めたら知らない場所なんて経験はもう慣れた。なにせ今回で
俺はもう慣れた、冷静に対処して今度は何処にワープしたのか見てやろうと余裕を見せるかのようにニヤっと笑い目を開けた。
するとどういう事でしょう、目の前には桜のような髪色をしたアホ毛がかわいいセミロングの美少女が自分の顔を覗き込むようにこちらをみているではありませか。
よし、俺焦ってよし。
「あ、えと…」
さっきまでの余裕はどこへやら俺はしどろもどろになり言葉が詰まる。一気に顔の温度が上がっていき今自分が人生史上一番(前世を含む)照れて尚且つ緊張しているのがよく分かる。なにせ美少女の顔と俺の顔との距離はまさに目と鼻の先なのだから照れない訳がない。恐らく、いや確実に今自分の顔は熟したリンゴのように真っ赤になっていることだろう。
余裕ぶっこいた瞬間すぐこれだ、マジどうなってんのこの世界。なに?この世界になんかしたのか?ねぇ!?。いやまぁ美少女と巡り会えることはこの上なく嬉しいけどやっぱり出会い方ってあるじゃん?俺なそう心の中この世界に愚痴を垂れているとセミロングの美少女があの…大丈夫ですか?と俺に手を差し伸べてきた。
「だ、大丈夫」
前回の場合は転生してすぐで混乱していたのとそこまでアヤが接近していなかったからこうはなら無かったのだろう。そんな事を考えながら彼女の手を取り立ち上がる。
少女はよかったぁと俺の無事を確認すると胸を撫で下ろして安堵する。
「いきなり倒れたからびっくりしました」
どうやらまたいきなり倒れた事になってるらしい。前回もそうだが俺は意識がない状態でいきなり歩いてきていきなり倒れているのか?この少女にその答えを聞いてみるのもいいがそうなると話がややこしくなりそうだから止めておこう。
俺は疑問の念を胸に抱きながらも適当に話を合わせることにした。
「…あぁ、なんか急に立ちくらみしちまって。心配かけて悪かったな」
「いえいえ、せっかくのライブなんだから倒れちゃったら勿体ないですよ」
彼女はにこやかに微笑みながらそう言った。
ライブ?と俺は首をかしげる。確かにDOLLSのライブチケットは持っているがどうして彼女は俺がライブに行く人間だと分かるんだろうか?はそんな疑問が頭の中に浮かぶがその答えはすぐに分かった。
「だってそのチケット、DOLLSのライブのチケットですよね?」
彼女は俺の左手に視線を移しながらそう言った。そう言えばさっきからなにか握っているような、と自分の左手に視線を移す。確か彼女の言う通りその手にはDOLLSのライブチケットが握られていた。
もう慣れたつもりだったがやはり慣れないこのよく分からない現象。俺はもういいやと考えるのを止めてもう何が来ようが彼女の話に合わせることにした。それでしばらく黙っている彼女は確認でもするように
「DOLLSの一周年ライブ、です。…あなたも、見に来たんですよね?」
「お、おう。そうだよ」
何処かぎこちないがとりあえず話を合わせ返事をする俺。だがこれは本当の事である。一体どうやって手にはいったのか知らないこのライブチケットで俺は確かにライブに行こうとしていた。昨日行って見るかってちょっと楽しみにしてたし。まぁ面白半分興味半分と言うのがライブに行く動機だったりするのはここだけの話だったり。
もうこの時点で察するがもう1日たったらしい。起きた場所はアヤの布団ではなく思い切り地面だったが。とそんな事を考えていると彼女はじゃあ私はライブに行くのでと歩道を駆けて行ってしまった。
一人取り残された俺はあの子結構可愛かったなぁと去ってしまった接近していたあの汚れを知らない顔を思い出しながら俺も行くか、と彼女のあとを追うように歩きだした。
◇
俺は割りと迷うことなくライブ会場に到着することができた。ただ問題が一つ。スクラッシュドライバーがない、と言う大問題が発生した。恐らく、いや100%アヤの部屋に置いてあるだろう。
これではライブを楽しむに楽しめない。さてどうするか、と俺はこれから始まるライブに興奮し騒ぐドルオタ達の列に並びながら考える。まぁ例えばそれで悪人に渡ったとしてもあのスクラッシュドライバーには本来の設定があるためハザードレベルが4.0に達していなければ使えないから悪用される心配はない。があれは言ってしまえば今の時代の科学に一瞬で影響を与えかねない代物で、そうやすやすと手放す事は出来ない。これが原因でビルド本編でエボルトが言っていたように科学が行き着く先は破滅なんてことが起こってしまう可能性も十分あり得る。
俺はそんな事を考えなんとしてもスクラッシュドライバーを回収しなければ、と意気込み、でもやっぱりライブは楽しまないとな、と顔をにやけさせるのだった。
数分後、ライブ開始のアナウンスが辺りに鳴り響きスタッフらしき人間達が会場の扉を開け、騒いでいたドルオタ達はより一層騒ぐ。俺も俺でそのドルオタ同様に騒ぎはしないが気分が高場する。俺はまるでヒーローショーに来た子供ようにウキウキとした気持ちで会場の中へと入っていった。
「おぉ…」
会場内はもうすでに観客でほぼ一杯になっていた。並んでいるときはあまり見ていなかったが数は恐らく四桁を越えているだろう。数に思わず声が出るほどだ。
観客が全員会場に入ったのか背後の出入口がバタンと閉じる音が聞こえバッ!とスポットライトが付き、ステージに当てられた。
ステージには8人のアイドル、DOLLSの姿があった。もちろんその中には俺を何度か助けてくれたツインテールの少女、アヤもいる。それを見てホントにあの子アイドルなんだなぁとしみじみ実感する。
ま、恐らく今後もう会うことはない。いや、スクラッシュドライバーを取りに行くときに一度だけ会うかもだがそれからはもう会うことはないだろう。転生者と言っても俺は所詮一般人、プロデューサーかマネジャーにでもならなきゃ再び会うことは叶わないだろう。
ステージの上、歌いそして踊る
それにしても凄いと同時にその歌とダンスに感動を覚える。歌は美しく、踊りは鮮やかに、尚且つ一人一人の動きに一切のズレがなく、動きと声、そして心の一つ一つが洗練されてかなりの練習を積んだと言うことがよくわかる。
俺は完全にステージ上で歌い踊り輝く8人のアイドル、DOLLSに魅了されていた。
いつの間にか数時間と時が過ぎDOLLSの一周年ライブは大盛り上がりし、その幕を閉じた。人混みに押されつつもライブに大満足した俺は外に出ると軽く延びをしライブを見るために突っ立ていたことで凝り固まった身体をほぐす。カズミンほど熱狂的に、までとはいかないがドルオタになるのも悪くないかも知れないな、と思いながらあー楽しかったとライブの感想を溢した。
とここで先ほど俺を介抱してくれたセミロングのアホ毛が可愛いあの少女を発見した。少女もこちらに気づいたのかお互いに目が合い手を振る。
少女はこちらにやって来るとさっきの人ですよね?と俺はおうと返事をし
「さっきはありがとな。ちゃんとお礼言っときたくて」
「いえいえ!全然大丈夫ですから」
俺はきちんと彼女にお礼をすると彼女は大丈夫ですから!と首を横に振った。それにしてもほんとに可愛いなこの子。生前の俺はあまり、いやほとんど人との関わりがなかった。それは女子も、勿論男子もだ。ので恐らく女子の中でも可愛い部類に入る彼女をこうして改めてしっかり見てるとこう、込み上げてくるものがある。一様言っておくが込み上げてくるものは性欲とかそう言ったものではないからそこは勘違いしないでほしい。
「えっと…あの…私の顔になにかついてますか?」
おっとつい見つめてしまった。俺は怪しまれないよう、けれどテンパりながらい、いや何でもないと言って話題でもかえるかのように
「そ、そう言えばライブさ、すごかったよな」
「はい!やっぱりDOLLSは素敵だなって」
どうやらなんとか話のベクトルを変えることができたようで、俺はそうだよなぁ俺もファンになっちまった、といいかけたときだった。
「これは……?」
見たこともない一匹の青白い蝶が彼女の隣を横切った。すると今度は一匹のみならず何処からともなく青白い蝶が現れ横切っていく。
「青白い…蝶…?」
と俺がそれを見て呟いた時、グラグラッと唐突に地面が揺れた。かなりの震度だ。建物中でならまだしも外でこれだけはっきりと感じられる地震はそうそう無い。俺の第六感がなにかヤバイと知らせ、額に汗が滲む。
そしてその第六感が当たったかのように、瞬間、そいつらは現れた。
「ギャァアアアアアーーッ!!」
そいつらは、まるで歯の模型を黒く塗りたくったような容姿で口の中に明らかに危険なエネルギーのようなもの含んでおり、とんでもない速度で浮遊してこちらに向かってきた。ざっと見て10体以上は居るだろうか。
「なんだあれ…てかこの世界って普通じゃかったのか?いやいまはそんな事どうだっていい!」
「え!?危ないですよ!?」
俺は明らかにヤバイ怪物を目の前にすると守るかのように少女の前に出た。少女は俺を止めるため静止の声を掛けるが俺は聞かない。
「悪いが
もう二度とあの時のような思いしたくはないと心のそこからそう思った。だからこそ転生の特典に
俺が死ぬ一年前の事、とある事件を切っ掛けに俺は誰とも関わらなくなった、いや絶ったと言ったほうが正しいだろう。それは後悔や恐怖、怒りと言う感情からのものだった。元々人付き合いの少ない俺は特に親しい友達もいなかったため高校を中退し、ファミレスでバイトをし働くことにした。
それからは特になにもなく、俺はただ一人で生きて、働いて、そしてある日死んだ。
神様は言った、別の世界へと転生させてくれると。俺はこの時に決意したのだ。変わって見せると、弱い人を守り、愛と平和を守る正義のヒーローになって見せようと。
「変わんだよ、俺は。もう何も守れないままなんてのは嫌なんだよ…」
俺はいつの間にかその手に握られたスクラッシュドライバーを腰に装着すると逆の手に握られたロボットスクラッシュゼリーのキャップを合わせ『スクラッシュドライバー!』という音声が鳴るドライバーに差し込んだ。『ロボットゼリー!』と言う声が響きガシャコンガシャコンとスクラップ機のような音がドライバーから流れ始める。
どうやら成功したらしい。
ハザードレベルがいくつあるかなんて知らない、精神が汚染されようが今は知ったこっちゃない。今はただ後ろの彼女を守る、それだけだ。
拳銃の構えのように指を動かすとその手をゆっくりと顔の前まで持ってくる。そして
「変身!」
ロボットゼリーがスクラップ機に潰され、中のゼリーがドライバーのビーカーへと流れて行き、ゴポゴポと音を立てながら黒い液体の入った大きなビーカーが自分の下に現れた。
『潰れる!流れる!溢れ出る!』という音声が流れると共に俺をビーカーが包み込み黄金の装甲へと変化する。頭部の装甲からゼリーが吹き出し、落ちてくるゼリー頭と胴体を覆い、次の瞬間頭と胴体を覆っていたゼリーが吹き飛んだ。
『ロボット・イン・グリスゥ!ブラァ!!』そんな荒々し音声と共に、黄金の鎧に顔、そして胴体に黒く透き通った装甲が装着され、俺は仮面ライダーグリスへとその身を変えた。
「心の火、心火だ…心火を燃やしてぶっ潰すッ!」
薄暗い装甲の中にあるグリスの赤い複眼がギラリと睨むように光り、自分を変えるため、そして後ろの彼女を守るため、俺は奴等へと一人駆け出したのだった。
主人公のキャラが安定しない…けどグリスに変身できたからいいよね!(無理やり)
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人形と選択
アヤ「だからアイドル違いだって!!いい加減にしないと怒られるわよ!?」
一海「まぁまぁ、へーきへーき、へーきだから」
アヤ「…もうツッコまないわよ?はぁ…。はい前回のあらすじはー」
一海「世界初選ばれし転生者ことこの俺!石動一海は朝目を覚ますとセミロングのアホ毛のかわいいなんというか全体的にピンク色な子に介抱されていた!」
アヤ「いやさ、もっと違う表現の仕方は無かったの?その表情だとその子すごくその…卑猥な子のように聞こえるのだけど」
一海「うるさいなぁ小説家でもないただの思春期男子高校にこれ以上の表現力ないっての」
アヤ「あーはいはいわかったわよほら続きます話してくれる?」
一海「こほん、ピンクの子に介抱された俺はその子と同じようにドールズのライブに行く予定だったのでピンクの子が去ってからライブに行くことに!それでライブが終わってからピンクの子に再開!けれどそこに謎の化け物が襲いかかってきた!どうする俺達!ってなるが俺はなぜその手にいつの間にか握られていたスクラッシュドライバーでグリスに変身することに!見事仮面ライダーグリスに変身した俺はピンクの子を守るべく化け物のどもとの戦いに身を投じるのだった!」
アヤ「ピンクの子ってもうそれ人って認識じゃないような…まいいやもう、どうなる第4話!」
仮面ライダーグリスへの変身に成功した俺は背後で怯える少女を守るべく、拳を構えると奴等に向かって駆け出した。
「ハッ!ラァッ!」
拳を振るい、蹴りを放ち、片手に握られた電動ドリルの玩具のような武器、ツインブレイカーで殴り付ける。戦闘経験何てただの一般人の俺にはない無い。だけど感覚でわかる。いつ相手からの攻撃がくるのか、どのタイミングで攻撃出来、当たるのか。
身体の底から力が沸き上がって来るのが分かる。だんだん身体が熱くなっていくのが分かる。身体が軽くなっていくのが分かる。感情が高ぶっていくのが分かる。
「オラァッ!!」
横から噛みつかんと口を開け奴が俺に向かってくる、が俺はそれを身体を後ろに傾けて避けるとちょうど目の前に来た奴を蹴り飛ばす。奴は壁に激突すると小さなクレーターを作り霧散した。俺はそれを見てグリスの力がどれだけ強力なものかを実感する。
俺は後ろの少女に敵が寄っていないか確認しつつ次々と涌き出る敵を迎撃していく。
「やらせっかよボケがッ!」
目の前の奴を殴り倒すとなにがなんでも後ろの少女を守ると意気込むみ拳を構え直す。噛みつかんと口を開け飛び掛かる奴等を蹴り飛ばし、少女に向かおうとする奴に拳を叩き込む。
「こいつでしまいにしてやるよ」
俺は奴等が霧散するのを確認すると次の標的へと視線を向け、レンチ型のレバーを握りしめ、下ろした。ドライバーから『スクラップフィニッシュ!』という音声が流れ、俺は高く宙へと飛ぶと肩や背中から黒いゼリー状の液体が翼のように噴出する。
「ハァアアアアアーーーッ!!」
そのまま滑るように落下して奴等を射ぬくように蹴り、ライダーキックを叩き込んで着地した。奴等は背後で金切り声のような断末魔を上げると爆発し霧散した。
周りを軽く見渡し奴等を倒しきったことを確認すると後ろへと振り向き慌てて彼女の方へと駆け出した。
「大丈夫!?怪我とかない!?」
「あ、はい怪我とかは特に……それよりその姿は…?」
俺は彼女を酷く心配するように大丈夫かと声を掛けるが彼女は怪我はないと答え、安心して胸を撫で下ろす。と彼女は俺の姿が気になるのか聞いてくる。
「あぁこれね。でも説明する前に一旦ここから離れた方がいい」
「そう…です、ね」
俺は彼女の質問にあとで教えるから早くこの場を離れようと提案する。彼女はコクリと頷きそれを了承してくれた。
俺は一様と彼女の身体に傷などがないか怪しまれない程度に見てみる。怪我などは本当に無いようだが身体ビクビクと震えているのがよくわかる。よほど怖かったのだろう、当然だ。いきなり出てきたよく分からない生命体が自分を殺そうと迫ってきたら誰だって怖いと思う。足だって震えるし腰も抜ける。俺は少女を安心させるかのように両手で彼女の手を握る。
と彼女の手を取った瞬間だった。
「なッ!?」
グシャリ、そんな肉を噛みちぎったような生々しい音が彼女から聞こえた。直後に何かがポタ、ポタと垂れる音がする。俺は目の前で、その音の正体をみていた。それは何処から再び沸いた奴等が少女の腹部を噛み千切る、と言ったもの、だった。
「え…?」
そう言葉を溢すと少女はまるで電池の切れた人形の玩具のように、膝から崩れ落ちて地に倒れた。真っ赤な鮮血が倒れた少女の腹部から流れ、地面を染め上げる。
俺は直ぐ様奴に蹴りを入れ、拳をねじ込む。考えるより先に身体が動いた。理性が飛ぶかのような異常な殺意が心の中を覆い尽くした。
「糞がァアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッ!!」
レンチ型のレバーを下ろす。『スクラップフィニッシュ!』と言う音声と共に前腕部にロボットを彷彿とさせる手がゼリー状のもので形成され、俺は叫ぶと同時にそれを奴に叩き込む。奴はその威力に耐えられなかったのか直後爆発を起こしながら霧散していった。
残ったのはグリスである俺と死にかける彼女だけとなった。
俺はゆっくり彼女の元へと歩み寄り、膝をつき地面に倒れる彼女の上半身をそっと抱き抱えた。
彼女の口は微かに呼吸をしているがなにせ腹部を噛み千切られてる。病院に連れ行ったとしても助かる確率など皆無だ。
彼女の身体の体温が下がっていくのがよく分かる。血も一向に止まらない。
「へま…しちゃいました…」
「……ごめん」
へまをした、そうまるで自分のせいのように言う彼女に俺はただ謝ることしか出来なかった。完全に俺のせいだ、最後の最後で油断して奴に彼女を殺られてしまった…一年前のように、また守れなかったんだ。
先ほどの青白い蝶が彼女を囲むように現れ、俺は右手を強く握りしめると行き場のない様々な感情をぶつけるように右手を地面に叩きつけーー
「ようやく見つけたぞ」
ることはなく後ろから聞こえた低い女性の声でそれは止まった。俺はなにも答えることなく後ろへと振り向いた。そこにいたのは睨むように俺を見る黒いスーツを着た黒髪長髪の女性だった。
「…あんた誰だ?態度からしてあのよくわかんねぇ化け物と無関係って訳じゃなさそうだが…それよりも彼女を助けたい」
「…わからないか?この娘はもう」
俺は荒れ狂う感情をなんとか抑えて冷静になると女があの化け物たちと無関係ではないと推測する。彼女を助けられか聞いてみる、がそれに対し女は手遅れだ、そう言おうとしたが俺は女の言葉を遮った。
「さっきようやく見つけた、とあんたは言った。理由は知らないがあんたは彼女を探してたんだろ?だったら彼女を助けられる方法があってここに来たんじゃないのか?」
あくまで予測だがこの女がさっき言ったようやく見つけたと言う発言、それはつまり俺が抱き抱えているこの瀕死の彼女のことを言っているのだと俺は考えた。俺を探していると言う考えもあったがこの世界にスクラッシュドライバーやグリスについて知る人間は俺以外に居ない。
恐らくだが女は彼女が殺される、いや、化け物がここに現れる事をしていて、尚且つ彼女にはあの化け物に対抗しゆる何があることを知ってここまで探しにきたんだろう。と言うことは何かしら彼女を助けられる方法があるのだろう。
「ほう…勘が鋭いな。確かに私は彼女を探していたし助けられる方法もある。もっと正確にはお前も、探していたのだがな」
「なに?」
女は半分違うとでも言うように俺の事も探していたと言い俺は怪しむように女を睨む。女は続けてやはりと言って、まるで俺がグリスに変身出来る事を知っていたかのように
「お前はその腰についているベルトを使いこなせる人間だったか」
「…これについてなんで見も知らずのあんたが知っている?」
「昨日解析させてもらった。覚えていないか?お前は昨夜DOLLSのアヤに運ばれうちに来たことを」
あの時か…と俺が女の言葉を聞き納得する。
「話を戻すがこの娘を助ける方法はある。」
女はそう言うと彼女に視線を移す。彼女は掠れた今にも死にそうな声で…誰…?と女に聞く。
「お前は選ばれた。だから、決めるといい」
女は彼女に問いかけた。なにをいってるんだこいつは?と俺は疑念の眼差しを女に向けるがとりあえず黙って聞くことにした。彼女は喉から声を絞り出して
「なにを……ですか…?」
女はそんな彼女に問いかける。
「人形として惨めに生きるか。人間の尊厳を持って死ぬか。お前はどちらを選ぶ?」
「………っ」
彼女は女の問い顔を歪めた。察するに女が持ちゆる彼女を助けらる方法、もしそれを行えば彼女は人間ではなくなるのだろう。
もっとも、俺も恐らく人間ではない。このスクラッシュドライバーが原作、仮面ライダービルドの設定を受けているのは昨日のあれで分かっている。ならば転生する際に俺はネビュラガスを神様に投与されていることになるだろう。でなければグリスに変身することなど不可能だ。
俺は女の問いに待てと言おうと思ったがこのスクラッシュドライバーを使ってグリスに変身した時点で俺も人間ではなくなっているから言うことを踏みとどまった。
「私は…生きたい……」
「お前……」
その答えがど言う意味を示しているのか、しかし彼女は知ってか知らずか女に、生きたい、そう答えた。
「だって…まだ…なにもしてない……まだ、なにも…出来てない…!」
彼女は瀕死の状態で弱っていて、けれど彼女から放ったその言葉は強く、けれど彼女のその瞳からは明確な生きたいという意思が感じ取れる。
死ぬ前の俺と違って彼女にはあるのだろう。やり残したことが、やりたいかったことが、確りとした生きる意味が。
「だからーーーー!」
彼女は女にその意思を証明し、生きたい、と答えた。
女はわかった、と言い小僧と言って俺に何かを手渡す。それは羽根が付いていて真ん中に鍵穴のようなものがあるハート型のなにかだった。
そのハート型の何かは銀色に輝きながら俺の手のひらでふわふわと浮いている。
「せめてもの手向けだ。生前の知り合いであるお前が楔を打て」
なんだこれは?と俺が女に聞くと女はそれを彼女の心臓部に差し込め、と指示した。俺は少し黙ると彼女に聞く。
「本当にいいんだな?」
そう聞く俺に彼女はお願い…助けて…と頷き答える。元はと言えばあの訳の分からない化け物どもの仕業だが結局は彼女を守りきれなかった俺の責任でもある。
ったく、どこぞの堕天使に変身した彼女に槍で殺されて起きたらなんか悪魔に転生してましたとかいう某ラノベ見たいに事が軽けりゃなと俺は心のなか緊張を解すように愚痴を溢した。
女は意味深な発言などはしていない、俺ならそれくらい分かるだろうと踏んだのだろう。確かにこれがどんな代物なのかは知らないがこれだけは分かる。指示通りにこれを心臓に突き刺せば彼女は人間ではなくなる。
そう頭の中わかっていながらも、俺はその手に光るそれを、彼女の心臓へと差し込んだ。
瞬間、ハート型のそれはピンク色の強い光を放ち彼女を包み込んだ。あまりの眩しさに俺は彼女から手を離し、片手でその光を視界から遮る。
しばらくして光が止み俺は片手を下げた。
そこにいたのは瞳を血のように赤く光せ、戦闘服のような黒い衣服を纏う、無傷の彼女だった。
「なにがどうなってんだ?おいまさかとは思うがこれ後ろの腰から触手やら尻尾やら出して人間食べるようになったりしてないよな?」
彼女の変貌っぷりに俺はそんな冗談混じりの感想をこぼし、とりあえず化け物に成らなかった事と彼女が助かったことを心の中喜んだ。女は彼女の変貌に見慣れているのか、特に驚いた様子もなく、おめでとう、これで君も立派な人形だ、と彼女に告げる。
しかし様子がおかしい。
「ん?」
彼女は女の言葉になにも答えない、いやなんの様子も示さないといったほうが正しいか。表情も驚いたり困惑した様子も特にない、いやそれどころか真顔なのだ、そう、まるで感情が無くなってしまったかのような…。
女が言っていた人形、という単語が頭を過った。
「まさか…!」
嫌な予感がする。確かに化け物に代わりはしなかった…が女が先ほどから口にしている人形、その言葉の意味、恐らくそれは
「心を無くした…いや、心と引き換えに力と命をってか?」
俺は怒りを表すようにそう女に言った。女は俺の言葉を無視し彼女に周りの青白い蝶を散らせと命令した。
「ーー了解」
彼女は俺の読みが当たったかのように、感情の無い声で返答し従い何処からか剣を取り出すと先ほど差し込んだハート型のそれを光らせると巧みな剣捌きで、尚且つ常人とは思えない動きで蝶達を散らしていく。
「お前の言う通り、あれを差し込まれた彼女はドールとなった。命と超常の力の対価に感情と記憶を捧げて、な」
「感情だけじゃなく記憶も…なるほど文字通り
俺は自分がやってしまった事の重大さに愚痴るように呟くと剣を振るう彼女へと駆ける。
「無駄だ。なにをしたって記憶は戻らないし感情も元には戻らない」
「んなこと知るかよ!いくら彼女が生きることを望んだからって記憶と感情を失う?そんな重いもん背負う気俺はにはねぇよッ!」
俺は女の言葉に反論するように、まるで聞き分けのない子供のようにそう叫ぶと彼女の肩を掴んで振り返らせる。ダメ元だろうが何だろうが助けてやるッ!。
「会ってからの時間なんざ小さなもんだけど!君がどんな人間かくらいは理解してるつもりだ!俺は…!」
仮面の下、泣きそうな顔で、けれど力一杯に空気を吸うと
「君を覚えてるッ!!!!」
刹那、小さな光が彼女の胸元のそれから発せられると、赤く光を放っていた瞳がもとのアメジスト色へと戻った。
ちょっとサクラを殺すところの無理やり感とタイトルが…文才ほしいですねほんま。あと無理やり閉めてすんません!
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