FGOキッズが型月世界に転生した末路 (夜未)
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0日目
召喚


俺、谷栞(ヤシオリ) (ツトム)(17歳)は転生者である。

信号無視の大型トラックに愉快なオブジェにされたと思ったら赤ん坊になっていた。

まあ、よくある話である。

 

そしてここからが重要なのだが、どうやらこの世界はFate/Grand Orderの世界らしい。

なぜ判断出来たかと言うと、実家が魔術師の家系だったからに他ならない。

魔術回路とか魔術刻印とかどっかで聞いたことあるなーって思ってたが、こないだようやくこの世界がFGOの世界だと気づいた。

いや、FGOでは魔術回路とか魔術刻印とかマイナー設定もいいとこだったし、俺がわからないのも実に仕方がない事である。

むしろこの二つだけで気づけたらそれは相当のマニアだろう。

うんうん、仕方ない仕方ない。

脱線はともかく、俺は先日ある要因によって初めてこの世界がFGOだと知った。

その要因とはズバリ!───聖杯戦争のお誘いである。

 

 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

魔術回路からバリバリと持っていかれる魔力。

ギラギラと光る魔法陣!

前世で少しだけみたzeroの召喚シーンと瓜二つ。

ジルとか言う雑魚が出てきて萎えて見るのは辞めてしまったが、1話だけでも見ていてよかった!

というかあんな雑魚召喚しても即負けるだろ。

キャスター召喚するならちゃんと人権3人組の誰かを召喚しなきゃ意味ないよな。

あ、でもイリヤちゃんは許す。

 

 「───Anfang(セット)

 

横目で魔法陣に添えられた触媒を確認。

前世でもガチャの際にお目当てのサーヴァントに関係あるものを用意するのが流行っていたが、どうやらこの世でもそれが通用するらしい。

 

「───告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

我が家の家宝たる、()()()()()()()()が魔法陣の光を浴びてキラキラ光る。

俺は本当に幸運だ。

なにせ、推しの触媒にぴったりな物が家に転がってるんだから。

 

「誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

より一層魔法陣が輝きを放つ。

そして、光が収まると───

 

「ふふ、うちを召喚してくれて、おおきにありがとう」

 

佇んでいたのは紫の着物を申し訳ない程度に纏った半裸の少女。

額から伸びる二本の角は彼女が人外であることを表していた。

 

「好きにやるけど───かまへんね?」

 

御伽噺に語られる鬼の御大将。

FGOが誇るはんなりロリ。

酒呑童子が、そこにいた。

 

ぉぉおおお!!すげぇ!ホンモノだ!

前世では〇〇万かけてやっと来てくれた最愛の推し!

聖杯も金フォウも夢火も全部突っ込んだのはいい思い出だ。

すごい!かわいい!なんか甘い香りがする!

 

「あの、旦那はん?聞いてはる?」

 

意識をトリップさせていたら心配した酒呑が俺の顔を覗き込んでいた。

チカイアザトイカワイイ!!声もカワイイ!蕩ける!

 

「あ!えっと、俺は谷栞 勉って言います!えっと、その、握手してもらっていいですか!?」

「なんや、えらい喜んでくれるんやねぇ。握手くらいええよええよ」

 

差し出された酒呑の手のひら。

思った以上に小さく、すこし戸惑う。

おおおお!触れられる!柔らかい!すごい!夢じゃない!

 

「ふふ、そんな喜んでくれると、あの子思い出して」

 

握手に感激する俺をみて酒呑は見惚れるような笑顔で微笑む。

そして───

 

「つい、手ぇだしてしまうわ」

 

笑顔のまま俺の腕を引きちぎった。

 

「──ァァァァァアアアアアア!!!!」

 

痛い !

空中に赤い鮮血が舞う。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

投げ捨てられた腕がグロテクスな音を立てる。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

肩口を残った手で押さえるが、そこには何もない。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ!

 

「な、なんで……」

「ん?旦那はんがあんまり喜んでくれるものやさかい、ついな」

 

酒呑は笑っていた。

酒呑童子は笑っていた。

 

「辛いなぁ、痛いなぁ。これじゃもうくっつかへんねぇ」

 

鬼は嘲笑(ワラ)っていた。

血を浴びて嘲笑(ワラ)っていた。

 

「あぁ───かんにんなぁ?」

 

鬼が謝る。

自分の指についた血を舐める傍らに。

なんでもないことのように。

興味がないことかのように。

ちょっと肩がぶつかっただけかのように。

 

───俺が死のうがどうでもいいかのように。

 

「たすけ……」

 

それでも俺は彼女に助けを求めるしかない。

零落しきった我が家の魔術ではこんな怪我を治せない。

この町外れに訪れる人もいるはずがない。

間違っても召喚を見られないように、自分で選んだのだから。

令呪を使えばいいのだと気づいたが、その令呪は引きちぎられた腕の上でぼんやりと光っていた。

もう血が流れすぎていた。

頭はもう朦朧としており、意識なんてフラフラとどこかに飛んでいきそうだった。

 

「たすけて……」

 

縋り付く。

跪いて、助けを乞う。

 

「かんにんなって、うちでは助けられへんわぁ」

「でも、痛いよなぁ?辛いよなぁ?解放されたいよなぁ?」

「そやさかい───」

 

酒呑童子が俺の胸ぐらを掴む。

仕方がないな。全くこの子は。

そんな声が聞こえてくるような苦笑を浮かべていた。

 

「───このくらいはしてあげるわ」

 

 

 

そして、腕と同じように、首を引きちぎった。

 

 

 



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1日目
死に戻り


「あの、旦那はん、聞いてはる?」

 

はっ、と目が覚めた。

目が覚めたというよりは意識が冴えたという方が正しいだろうか。

ぼやーとしていた意識が一瞬で覚醒するあの感覚。

授業中ぼんやりしてると急に当てられた時になるアレに近い。

 

「あ、ああ」

「うちはアサシン、酒呑童子。よろしゅうな?」

 

アサシン(酒呑童子)が握手を求めるかのように手を伸ばしてくる。

普段なら断然その手を取りたいところだが、今さっき見た妙な白昼夢を思い出す。

痛み。苦しみ。混乱。恐怖。

ただの白昼夢としてはリアルすぎた。

それによって思わずアサシンの手をとるのを躊躇ってしまう。

 

「……俺は、谷栞 勉」

「もう、いけずやなぁ。そないに怖がらんでも、骨なんか抜かへんで? 」

 

アサシンの手を見る。

小さな手だ。こんな小さな手では戦うどころか剣すら持てるのか怪しいだろう。

だが、FGO内では彼女はこの腕で大剣を振り回し、腹わたを引きずり出す。

きっと───俺の腕や首を引っこ抜くことなんて容易いだろう。

 

だがまあ、うん、アサシンがそんなことする理由はないから大丈夫だろう。

がっしりとアサシンの手を掴む。

 

「よろしく、酒呑!」

 

すると彼女は何故か少し驚いたような顔をする。

どうしたんだろうか?

 

「あんたはん、おもろいなぁ」

 

そう語る彼女の顔は、新しいおもちゃを見つけた猫のようだった。

 

 

 

 

聖杯戦争が始まったからといって、学校を休むことはできない。

あゝ哀しい哉、学生の宿命。

まだ薄暗い通学路を歩きながら学生という身分に嘆く。

酒呑が居てくれればまだマシなのだか、こちらの時代を散策してみたいとか言って一人でどこか言ってしまった。

 

二度目の人生となると、高校なんて面倒臭さの集合体でしかない。

小さい頃は外見同い年精神年下のガキにマウントとったり出来て楽しかったが、高2とまでなるとガキ共もそれなりに賢くなってきて全然面白くない。

前世で受験勉強頑張ったおかげで高校の内容程度少し勉強すれば思い出せる為、勉強に忌避感はないが単純にめんどくさいのだ。

だがしかし、そんな灰色の日常にも潤いというものはある。

 

そう、彼女はいつも、早朝の教会にいる。

 

若干建て付けが悪くなっている教会のドアを派手な音を立てながら開く。

ギギギギギィィ!という如何にも不快な音が教会内に鳴り響き、彼女は俺のことに気づいたようだった。

 

「あ、谷栞くん。おはようございます」

 

礼拝堂で祈っていた少女が振り向き、挨拶をしてくる。

彼女こそが俺の日常の癒しこと、佐倉(サクラ)アリス先輩である。

俺の一つ年上の18歳。つまり高校三年生だ。

ハーフゆえの美しい金髪碧眼と整った顔立ち。

すらりとした長身はそこらのモデルなんかよりも美しい。

というか以前実際にモデル活動をやっていると話していた気がする。

なにより胸がでかい。それだけで素晴らしくて涙が出るね。

俺は二次元だとロリ派だが、三次元なら断然お姉さん派なのだ。

 

「おはようございますアリス先輩。今日もご一緒いいですか?」

「ええ、もちろんです」

 

了承を取ってアリス先輩の隣で(カシズ)き祈るフリをする。

俺は別に神なんて全く信じていないのだが、敬虔な教徒たるアリス先輩との繋がり作りの為にそういう風に演じているのだ。

 

別に祈る内容もないので適当に雑念で時間を潰し、アリス先輩が祈り終わったのを横目で見計らって自分も祈るフリをやめる。

俺からしたら全く理解不能なのだけれど、アリス先輩にとって毎朝の祈りはとても大切なことらしい。

 

そこから二人で雑談でもしながら学校に向かうのが俺たちの日課なのだ。

いつも通りアリス先輩に通学のお誘いをしようとして、そこではたと気づいた。

いつのまにかアリス先輩の横で見覚えのある少女が祈っていることに。

 

年齢はたぶん10歳ほど。

白い肌と、色素の薄い金髪。

服は詳しくないため名状できないが、ゴスロリめいた黒くてフリフリした服を着ていて、頭にはハットのような黒い帽子をかぶっていた。

髪にはこれまた黒いリボンと赤いリボンをつけている。

 

うん。なんというか、言ってしまえばアビゲイルだよね。

FGOより若干幼いし、髪色や格好が若干違うが、アビゲイルに瓜二つである。

リリィ?いやオルタか?

黒いし赤いしオルタだな。

 

「あの、先輩。そちらの子は?」

「え?あぁ、この子ですか。この子はウチでしばらく面倒をみることになったキャスターちゃんです」

 

キャスター……?

クラスも違うしやっぱりオルタだな。間違いない。

 

じゃなくて!キャスターだと!?

ウチのアサシンと相性最悪じゃないか!!

しかもアリス先輩がマスターだなんて……。

 

内心穏やかなじゃない状態で混乱していると、キャスター(アビゲイル・オルタ)が立ち上がり、俺を見る。

その瞳は()()だった。

 

「よろしくお願いします、おにいちゃん。ホントはちがうんだけど、今はキャスターって呼んでね」

 

可愛らしい声。

けれどその雰囲気はどこか妖しさを纏っていた。

なんとなく、イヤな感じだ。

 

「あ、ああ。よろしく。俺は谷栞 勉」

「そう、ならツトムおにいちゃんね」

 

年相応の無垢な笑顔を浮かべる。

けれどその笑顔すらどこか不気味だった。

 

「あら?ツトムおにいちゃん、ちょっと手を見せてくださらない?」

「え? うんどうぞ」

 

キャスターが小さな両手で俺の右手を掴みマジマジと見る。

どうしたんだろうか?

 

「ここ、どうしたの?」

 

示された場所を見ると、そこにはカットバンが貼ってある。

昨日料理するときに間違って切った傷だ。

 

「ああ、それは昨日ちょっと包丁で切っちゃって」

「そう……痛そうね」

 

キャスターは心底同情した表情を浮かべ、いたわしそうにカットバンの上から傷を撫でる。

なんとも可愛らしい様子だ。

 

「けれど、変ね?」

「ん?何が?」

「ツトムおにいちゃんはあんなにも勤勉に神に祈っていたのに、怪我をするだなんて」

 

よくわからないが、キャスターの様子が変だ。

なにか、なにかがヤバイ気がする。

 

「だって、我らが神のご加護があれば、怪我なんてするはずがないでしょう?

だって、あんなに勤勉に祈っているのに、神のご加護がないはずなんてないでしょう?」

 

背筋が急速に冷たくなっていく。

本能が警笛を鳴らす。

死にたくなければ、ここから逃げろと。

こんな小娘突き放して逃げだせと。

 

「ああ、わかったわ。わかってしまったわ」

 

逃げようとするが、いつのまにか教会の出口と俺との間にアリス先輩が陣取っていた。

逃げ道を塞がれていた。

(ニゲ)げられない。(ノガ)れられない。

 

キャスターが俺の右手を両手で掴んだまま、上目遣いで俺を見る。

その瞳には光が一欠片すらなかった。

まるで事実を追求する裁判官のように。

まるで悪を憎むセイギのミカタのように。

まるで遊びに熱中する子供のように。

 

「貴方───魔女ね?」

 

───宣告を述べた。

 

「そう、谷栞くんは魔女だったのですか。

ああ、非常に、非常に残念に思います。

しかし、魔女をのさばらせておく事は出来ません」

 

アリス先輩が語る。歌うように。(ソラ)んじるように。

俺を見る碧色の瞳はまるで無機質なガラスのようだった。

 

「キャスター。その魔女を殺しなさい」

 

おもちゃのような儀式槌(ガベル)を振り、キャスターが告げる。

 

「判決を下す。汝の罪状は魔女であること。死をもってその罪を償え」

 

少女の判決とともに突如現れた絞首台。

魔女を殺す道具。死の具体化。死刑の担い手。

 

そして、その縄は俺の首へひとりでに絡みつき───

 

「──死刑、執行」

 

少女の声が朝の清廉な教会に響いた。

 

 

 




本編では触れる予定はないのでこの場で補足しておくと、主人公の死に戻りには特に設定がありません。
SNでも士郎がタイガー道場通してループしてるとも言えるし、だいたいそんな感じです。


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監督役

気づけば夢心地で目の前の木製の扉を眺めていた。

意識がはっきりしてくると、どうやらここは教会の前らしい。

なにをしようとしていたんだっけと少し考え、アリス先輩に会いにきたのだと思い出す。

迷いもなく扉を開けようとして、右手のカットバンが目に入った。

ついさっき見た白昼夢だとこれが理由でとんでもない目にあっていたな。

しばし悩んでカットバンを剥がし、魔術で治療を施すことにした。

我が家に伝わる魔術は錬金術である為に、治療にはとてもじゃないが向いているとは言えない。

臓器移植のような手段をとるため、体への負担が大きいのだ。

だがまあ、薄皮一枚程度ならなんとかなる。

いつもならそんな面倒くさい事なんてしようとも思わないのだが、さっき見た白昼夢もあり、多少手間を掛けてでも治しておくほうが良い気がしたのだ。

 

そして、俺は教会のドアを開いた。

 

 

 

 

「じゃあ、アリス先輩。また今度にでも」

「ええ、谷栞くん。またね」

 

校舎についた為にアリス先輩と別れる。

アリス先輩は手を振って名残惜しそうに別れてくれるので、なんだか恋人の逢引みたいで楽しい。

これがもし人が多い時間帯なら野郎どもの嫉妬の視線に優越感を覚えられるのだが、残念ながら今の時間は朝練に来るなら遅く、普通に来るなら早すぎるという微妙な時間帯だ。

校舎前に俺たち以外の人影はない。

アリス先輩と一緒に登校しているなんて自慢しても、目撃者がいない為に嘘つき扱いされるのが非常に遺憾である。

 

そういえば、教会内で起きた出来事は白昼夢とほとんど違いがなかった。

右手の怪我から始まる云々こそなかったが、アリス先輩と一緒にサーヴァントがおり、それがアビゲイル・オルタであることも完全に同じだった。

昨日も似たような白昼夢を見たが、あれは一体なんなのだろう。

まさか未来予知だったり?

そんなはずないか。

 

考え事をしながら歩いていると、気づけば教室に着いていた。

ああ、今日も憂鬱な1日が始まる。

 

 

 

 

「きりーつ!きおつけー!れー!」

 

やる気のない学級委員長のあいさつと共にホームルームが終わり、放課後が始まった。

ガヤガヤと騒がしくなる教室を早めに去る。

あの若い喧騒の中にいるのも悪くないのだが、今日の俺には予定があるのだ。

 

今日の予定とは、即ち!

聖杯戦争の……えっとなんだっけ、まとめ役?監督役? なんかそんな感じのやつに報告に行かなければならないのだ。

よくわからないけど、聖杯戦争の運営側らしいし、たぶんFGOでのロマンみたいなもんだろう。

 

 

そんなこんなで今朝訪れたばかりの教会に戻って来ました。

腕時計で時間を確認する。

3時35分。

先方が指定した時間ぴったりだ。

相変わらず立て付けの悪い扉を派手な音を立てて開くと、そこには今朝は見かけなかった人影が一つ。

 

細身を包む神父服に、瓶底のような丸いメガネ。

そして瞳の見えない狐のごとく細い目。

 

「やぁ、約束の時間にココに来たということは、どうやら無事マスターになれたみたいだね」

 

俺を聖杯戦争に誘った張本人。

一文字(イチモンジ) 秋詠(アキヨミ)がヘラヘラと笑ってそこにいた。

 

「ということは、君で5体目。そして最後のサーヴァントだ」

「五体目で最後?聖杯戦争って7体でするんじゃないの?」

「へぇ、詳しいね。本来の聖杯戦争ではそうなんだけどね、どうやら今回は5体で限界みたい」

「ふうん、そういうもんなの?」

「そういうもんだよ」

 

5体かぁ。

俺のアサシン(酒呑童子)とアリス先輩のキャスター(アビゲイル・オルタ)以外にはあと三体。

いろんなサーヴァントにリアルで会えるって楽しみにしてたのにあと三体かぁ。

ネロとか邪ンヌとかエドモンとか以蔵さんとかあってみたいサーヴァントは沢山いるのに。

 

「ところでヤシオリくんはどのクラスのサーヴァントを召喚したんだ?」

「あー、俺はアサシンだな」

「そうなんだ。君ならてっきり三騎士を狙うと思ってたのに意外だよ」

 

一文字神父と雑談に興じていると、教会中に響く不快音。

毎朝聞きなれた、扉を開ける音だ。

振り返って入り口を見ると、そこには顔に大きく刺青を入れたガラの悪そうな男が立っていた。

教会という場所に最も似合わないと言っては過言ではないほど浮いている。

何者だろうか?

 

「あれ?君との約束は一時間後の筈なんだけどな」

「まァまァまァ、そう(カテ)ぇこというなよ。時間なんざそう気にするべきことじゃあねえだろ?世界には大切なモンが他にもあるって」

 

刺青の男は一文字神父に歩み寄り、背中をバンバンと叩きながら(ノタマ)う。

刺青の男の馴れ馴れしい態度にも一文字神父は嫌悪感を覚えていない。

どうやら二人は既知の仲であるようだ。

 

「はぁ……それで、何の用だい?ご覧の通り取り込み中なんだが」

「大丈夫大丈夫すぐ終わるって」

 

刺青の男が俺を一瞥してそう言った。

 

「そこの坊主(ボーズ)も悪いな、邪魔しちまって」

「急ぎじゃないんで、気にしなくてもいいですよ」

「そうか、じゃあ遠慮なく」

 

男の手元でナニカが煌めく。

蛇のように動く男の手。

 

そして、俺の首はナイフによって切り裂かれた。

 

「───ッ!?」

 

気道を切り裂かれ、悲鳴すら出せない。

どれだけ叫ぼうとしても出るのは、首元から鳴るヒューヒューという空気の漏れる音。

膝をついて首を抑える。

どくどくと流れる血。

指の間から抜けてゆく空気。

命が、溢れてゆく。

 

「聖杯戦争が始まる前に、ライバルを()っちまっておく方がおトクだと思ってよォ

この時間帯に詐欺神父のとこ来たら他のマスターがいるかと思って見に来たんだわ

いやァ、まさか本当にいるとはなァ。

(オラ)ァつくづくついてる男だぜ」

「詐欺師とは人聞きの悪いな、ぼくは敬虔な神の信徒だというのに。それに、今ここで他マスターを殺すのはルール違反の上に、神の家で人を殺すとは何事だい?」

 

神父と男の会話が聞こえる。

この二人は何を言ってるんだ?

いま正に目の前で人が死のうとしているのに。

いま正に目の前で人を殺したというのに。

 

「そう怒るなって、いや別に怒ってないなその顔。まァお前だって儀式は早く完成した方が嬉しいんだろ?俺が殺せば殺すほど早く終わるんだからむしろ感謝してほしいね」

 

日常会話でもするように、何気なく会話する。

助けてくれと、神父に手を伸ばそうとしてもその手は届かない。

 

「まったく。今回は見逃すけど、次はないからな」

「リョーカイ リョーカイ、次は気をつけるとするわ」

 

次第に二人の声すらわからなくなった。

次第に血の感覚すらわからなくなった。

次第に息の仕方すらわからなくなった。

次第に自分の事すらわからなくなった。

意識が溶けて、なにもかもが、もう、わからない。

 

そして、俺は──────。

 




ネットで色々調べてたらapo時空の亜種聖杯戦争は最高五騎しかサーヴァントが召喚されてないみたいな事が書いてあったんで、サーヴァントが5騎しかいない亜種聖杯戦争にすることにしました。

あと今回雑さが目立ちますけど、どうか繋ぎ回だと思って許してください。
次こそはサーヴァント出します。


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初陣

初の平和回(?)です



「ところでヤシオリくんはどのクラスのサーヴァントを召喚したんだ?」

 

誰かの声が聞こえる。

なんでもない雑談をするような、そんな声が。

 

気づけば首を抑えていた。

血は流れていない。

息も漏れていない。

それどころか傷ひとつない。

わかっているのに、わかっているはずなのに、息苦しくて、自分の息が弾んでいるのがありありと感じられた。

 

今回の白昼夢はあまりに生々しかった。

鬼に首を引っこ抜かれるとか、突然現れた絞首台で吊られるとか、そんな馬鹿らしくない本当の死の恐怖。

ゆっくりと己の命がこぼれ落ちて行く感覚。

終わる自分の人生と、続いて行く他人の人生。

 

「どうかしたかい?」

 

俺の様子を不審に思った一文字神父が声をかけてくる。

眉尻が下がっていて、いかにも心配そうな顔だ。

 

「いや、なんでも───」

 

白昼夢を思い出す。

俺はなんで死んだんだった?

誰が俺の首を切り裂いたんだった?

───あの男は一体いつ教会に来たんだった?

 

一文字神父を無視して礼拝堂に駆け込み、教会入り口に背を向けるようにして跪き、神に祈るフリをする。

いや、今回ばかりは本気で神に祈る。

 

「ちょっと、ヤシオリくん本当にどうしたんだよ?」

 

一文字神父のそんな声が聞こえてくると同時に教会内に鳴り響く不快音。

木製の扉を開ける音。

 

「あれ?君との約束は一時間後の筈なんだけどな」

「まァまァまァ、そう(カテ)ぇこというなよ。時間なんざそう気にするべきことじゃあねえだろ?世界には大切なモンが他にもあるって」

 

聞こえてくるのは一文字神父と聞き覚えのない、いや夢で聞いた男の話し声。

バシバシという人の体を叩く音まで夢とまったく同じだった。

 

「どうせ暇してたンだろォ? って、アレ?もしかして俺ほんとにお邪魔だった?」

 

背中に感じる視線。

彼らの声すら聞こえないかのように必死に祈る。

神さま神さまお願いします。どうか、どうか、見逃してください、と。

 

「……ああ、そうだね。ここでは彼の祈りの邪魔になってしまうから場所を移そうか」

「チッ、仕方ねェな。しっかし、今時のガキがどうしてあそこまで必死に神に祈る事があンのかねェ。今時神なんざいなくても願いを叶える方法程度いくらでもあるだろうに」

「ここから追い出してもいいかい?」

「オイオイ、冗談だろうがよ」

 

毒にも薬にもならない会話を交わしながら遠のく二人の声。

遠のいていく方向を鑑みるに、教会の奥に行ったらしい。

二人の声が完全に聞こえなくなってからゆっくりと祈りを解く。

心臓はまだバクバクと高鳴っていた。

 

 

 

 

 

教会からそそくさと抜け出し、帰宅路につく。

もう胸の動悸は収まっていた。

 

「あれ?えらい顔色悪いけどなんかあったん?」

「ッ!?」

 

背後から聞こえてきた甘い声に思わず驚く。

収まったはずの心臓が握り締められたように痛んだ。

 

「なんだ、酒呑か……」

 

しかし、振り向くとそこにいたのは前世から見慣れた少女。

アサシン(酒呑童子)はいつもの紫色の着物を巻きつけ、呑気にも盃で酒を飲んでいるようだった。

可愛らしい姿には似合わない良い飲みっぷりだが、それもまた酒呑の魅力だろう。

 

「なんや、ほんまに真っ青やないか。どないしたん?」

「なんでもない」

「そぉ?」

 

アサシンを見る。

酒呑童子、星5のアサシン。

日本で有名な鬼で、イベントでは黒幕をやっていたし、英霊剣豪七番勝負ではガウェインレベルに猛威を奮った。

強いサーヴァントだ。

ジャックや山の翁には劣るかもしれない。

だが、それでも攻略サイトでの評価はA。

その強さは、FGOで聖杯も金フォウをつぎ込んで使い続けた俺がよく知っている。

 

心の中で小さな火が灯る。

その火はどんどん大きくなり、やがて猛る大炎となった。

 

ああ、どうして俺があんな奴を恐れなければいけないのか。

どうして俺がこんなにビクビクしなければいけないのか。

気に入らない、気に入らない。気に入らない!!

 

「酒呑 」

「ん?なぁに?」

「今晩、戦いに出よう」

 

絶対に、潰してやるッ!

 

 

 

 

顔に大きな刺青を入れた男などそういない。

あいつはすぐに見つかった。

使い魔によってもたらされた情報によると、好都合なことに刺青の男は人気(ひとけ)のない廃工場をブラついているらしい。

今晩から聖杯戦争が正式に始まるというのに、ずいぶんと気楽なものだ。

 

情報の通り廃工場へ行くと、確かにそこに白昼夢でみたあの男がいた。

 

「ふぅん、あん人が獲物?えらい不注意やねぇ。それだけ自分の英霊に自信があるってことやろうか」

「関係ないさ。酒呑より強いサーヴァントなんてそうそう引けないからな」

 

酒呑で苦戦するサーヴァントとなると最低でも星4以上。

となると確率は4%だ。

俺みたいに最高の触媒を用いた確定ガチャならまだしも、普通の奴がたった一度のチャンスで狙うには無理がある。

例外があるとすれば、相性不利のキャスターだが、それはもうアリス先輩と一緒にいたのを確認している。

負けるはずが、ないのだ。

 

 

「オイオイ、そろそろ出てきたらどうだ?そんな不細工な気配の消し方だと流石にわかるぜ?」

 

刺青の男が声を上げる。

どうやらバレていたらしい。

シラを切ってもいいが、どうせ負けることはないのだ。

堂々と姿を表してやろう。

 

「アレ?坊主(ボーズ)、お前どこかで会ったことあるか?」

「さあ?しらないな」

「まァいいか。しかし、坊主がマスターとなると横の女の子がサーヴァントか?ガキとガキの陣営たァ、この俺をしても躊躇(タメラ)っちまうね。今なら自分からサレンダーするなら許してやってもいいぜ?」

 

鈍く光るバタフライナイフをくるくると手元で回しながら男が言う。

ナイフの煌めきをみて少し身体が強張(コワバ)る。

心を落ち着けるように一つ深呼吸。

酒呑を垣間見る。

負けるはずがないのだ、落ち着け。

 

「冗談も休み休みに言えよ」

「ハッ、そりゃそうか。こんな儀式に参加する奴がおめおめと逃げるはずがねェよなァ」

 

刺青の男を睨む。

ニタニタと笑う男は負けることを考えていないようだ。

絶対に潰してやる。殺してやるッ!

 

「バーサーカーァ!」

「ヒヒヒ!ウマソウダァ!」

 

男の掛け声ともにサーヴァントが現れる。

現れたサーヴァントの特徴は、全身傷だらけの()()()()と額から伸びる()()()。亀裂のような傷は赤く光っている。

顔は()()()()()に覆われており、見ることは出来なかった。

 

しめた!

あのサーヴァントは見覚えがある。

前世では一度も使うことなく、名前もまともに覚えていないが、それこそが雑魚の証拠。

アレはたしか星一のバーサーカー。

ネットでは強い強いと言われていたが、所詮最低レアの雑魚に過ぎない。

 

「あの雑魚をぶちのめせ!アサシン!」

「ふふ、昂ぶるわぁ」

 

俺か叫ぶと、アサシンがバーサーカーに飛びかかる。

大剣と大斧がぶつかり合い、廃工場に激しい衝撃が走った。

 

 




この場で補足しておくと、バーサーカーの姿は2部1章のミノタウロスの仮面が壊れてないバージョンです。

それと、なぜ三度目の死なのに今回の死だけ主人公が過剰反応しているかというと、主人公の今までの死因がトラックの交通事故(即死)、首もぎ(即死)、首吊り(意識が即落ちるため苦しまない)の三つだったためです。
ゆっくりと死を自覚しながら死ぬのが初だってわけですね。それ故にあそこまで過剰反応してました。


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迷宮

大剣が空を裂き、大斧が地を砕く。

腹わたにまで響く衝撃波は止むことなく、廃工場全体がギシギシと軋んでいた。

 

英霊同士の戦闘は圧巻だった。

一人と一人の戦いのはずなのに、軍隊同士がぶつかっているかのような止むことのない破壊音。

目まぐるしく入れ替わる攻防。

攻めて防いで逸らして狙って砕いて欺いて。

戦闘なんて素人もいいところの俺の目ではそれを追うことすら能わない。

どちらが優勢なのか。

どちらが劣勢なのか。

予想すらつけられない。

 

戦闘が始まってはや5分。

二体は互角であるように思えた。

負けてはいない。だが勝ってもいない。

その現状が俺を苛立たせる。

 

なぜだ?

どうして星一の雑魚サーヴァントに酒呑が苦戦する?

特にバーサーカーなんて格好のカモのはずなのに……ッ。

 

噛み締めた歯がギリギリと音を立てる。

 

楽に殺れると思ったのに。

あの男を、潰せるはずだったのにッ!

 

刺青の男を睨みつける。

相手はバタフライナイフを弄りながら野球でも観戦するようにヤジを飛ばしていた。

余裕の態度。苛立つ。ナイフが煌めき、心臓が痛む。

ああ、イラつく。ムカつく。

今この瞬間にあの刺青面を吹っ飛ばしてやれたらどれだけ爽快か。

しかしそれは不可能だ。

俺の魔術は、攻めることに向いていない。

防ぐ為の準備は万全にしているが、サーヴァント同士の戦闘が始まってから男は俺を一瞥すらしていなかった。

 

「ちょっとばかし、時間がかかりすぎてんな。このままじゃ他の奴らも寄ってきちまう」

 

戦闘音の合間を縫って男の呟きが聞こえてきた。

どうやら相手側も少し焦っているようだ。

 

「チッ、しょうがねェ。バーサーカー!」

 

白い巨体が名を呼ばれて一瞬止まる。

その隙を狙ってアサシンが攻撃を加えるが、丸太のような腕に少し傷をつけただけで防がれて致命打とはならなかった。

 

「宝具使用を許可する!」

 

宝具!?

すっかり頭から抜け落ちていた。

そりゃあ、あれだけバシバシ戦っていたらNPだって貯まってしかるべしだ。

 

あのサーヴァントの宝具は一体なんだった?

攻撃か?バフか?防御か?

バスターか?アーツか?クイックか?

あーくそ!思い出せねぇ!星一の雑魚だろうと一回くらいは使っとくべきだった!

もし約束された勝利の剣(エクスカリバー)のようなビームだった日には俺ごと吹き飛ばされる!

 

「アサシン!一度戻れ!」

「はぁい。あちらさん宝具つこうてくるみたいやけど、うちらも対抗して宝具つかう?」

「いや、そうじゃない。

令呪をもって命じる!『アサシンよ!宝具を完全に防げ!』」

 

令呪。

サーヴァントへの絶対命令権。

FGOではリトライやNPチャージくらいしか使い道がなかったが、この世では様々な使い道があることを一文字神父から聞き及んでいる。

その一つが令呪での強化(バフ)

令呪の強制力を使ってサーヴァントの性能を引き上げる方法だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから、使い渋る必要なんてない!

 

バーサーカーの魔力が爆発的に高まり、空間を歪め始める。

 

「キヒヒ!ハテガナイゾォ、オワリモナイゾォ……万古不易の迷宮・邪(ケイオス・ラビュリントス)ゥッ!」

 

そして、廃工場は迷宮に呑まれた。

 

 

 

 

 

どこまでも続く石造りの道。

壁に覆われ天井を塞がれ、そこはまさに迷宮という他ない。

いや、違う此れこそが迷宮なのだ。

世界最古の大迷宮。

神が作りし、化け物(ミノタウロス)を押し込める為の禁断の箱。

主人(ミノタウロス)以外の怪物も跋扈し、その広大さ故に迷い人は決して出ることは出来ない。

英雄以外が立ち入ることは即ち死を意味する“人を喰らう罠”。

 

そんな場所に、俺は一人で立っていた。

 

「どこだ……ここ?」

 

ズキズキと痛む頭を抑えながら周りを確認する。

壁道天井。

ゲームに登場するダンジョンのようだ。

 

周りを見渡してもアサシンは見当たらない。

 

「おぉい!アサシン!どこに居る!」

 

大きな声を上げて呼びかける。

その大声はら空虚な迷宮の中何度反復し、山彦のように返ってきた。

しかし、酒呑の甘い声で返事が返ってくることはない。完全に分断されてしまったようだ。

 

「な、なんだよここ……」

 

その時、目の前の角の向こうから物音が聞こえてきた。

コツコツという石畳を叩く音。足音だろう。

 

なんだ、返事はしないけど、居るんじゃないか。

俺はその足音の主が酒呑だと思い、自らその角へと近づいていった。

 

一歩、一歩と近づくにつれ、その足音がおかしい事に気づく。

妙に音が多いのだ。

たった二本の足にしては音が多すぎる。

音の多さから予測すると、おおよそ3人分くらいだろうか?

 

その尋常ではない音の様子から、俺の中の小胆が顔をだし、猛烈に不安になる。

本当に酒呑か?

だとしたら誰と居るんだ?

まさか寝返った?

いや、バーサーカーの足音にしては音が軽すぎる。

だとしたら一体……?

 

音を立てないように忍び足でゆっくりと角へと近づき、息を殺して覗き込む。

 

六本の足。鋼ような甲殻。不気味に光る複眼。手から生えた鎌が迷宮の僅かな光を反射して光る。

それはカマキリだった。

ただし、その大きさは2mをゆうに超え、毒々しい紫色の体は明らかに尋常な生物ではない。

 

本能的な恐怖から、すぐに頭を引っ込める。

なんだアレは?なんだアレは?なんだアレは?

ありえない。あんな生物が現代に実在するはずがない。

無意識に息が上がって行く。

逃げなければ、ただその一心で俺は走りだした。

 

 

迷宮の中はカマキリ以外にも化け物で満ちていた。

どれもこれもが普通じゃなかった。

どれもこれもが容易に俺を殺す事が出来ると本能的に悟った。

だから走り続けた。

化け物に見つかって追いかけられても、巨大な蜘蛛の巣に掛かりそうになっても、ひたすらに走り続けた。

階段を駆け上がり、駆け降り、いつのまにかワープしていても気にせず、延々と。

出口を探すなんて毛頭(モウトウ)考えなかった。

ただ怖かった。

ただ恐ろしかった。

そして何よりも、もう、死にたくなかった。

 

だから走り続けた。逃げ続けた。

方向も何もわからずにひたすらに、ぶざまに。

涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっても。

恐怖で頭の中がからっぽになり、自意識すら薄れても。

自分の走る足音だけ聞きながら、めちゃくちゃに逃げ続けた。

 

そうして───

 

「オイオイ、マジかよ。この大迷宮の主人の元(ゴール)に辿り着くとか、とんだラッキーボーイだな」

 

気づけば(ヒラ)けた大きな部屋に出ていた。

疲労と恐怖でガクガクと震える足腰を必死に宥めながら、声が聞こえた方を見ると、そこにいたのは刺青の男。

その側にはバーサーカーが控えている。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「なんだ息も絶え絶えか?どうやらマジで一人でこの迷宮を攻略したと見える。サーヴァントはどうした?死んだか?それとも令呪が無くて呼べなかったか?」

 

男が何か話しかけてきているが、脳が働かなくて何を言ってるのかが理解できない。

とにかく心臓と喉と、足と腰と、頭と目が、痛んで痛んで仕方なかった。

 

「チッ、なんだよ無視かよ。それとも話せないのか。まァどっちでもいい。おい、バーサーカー!」

 

焦点が合わない視界が急に暗くなる。

見上げると、巨大な何かが俺の目の前にいるようだった。

 

「せっかくご自慢の迷宮をお客様がクリアしてくれたんだ。お前が終わらせてやれ」

 

少しずつ焦点があって行き、やっとその正体がわかる。

白い巨体。牛の鉄仮面。処刑道具のような大斧。

刺青の男のサーヴァント。

弱いはずのサーヴァント。

星一の、バーサーカー。

 

「アァ、コワイカ?コワイヨナァ?」

 

そうだ。思い出した。

こいつは俺がチュートリアル以外で初めて引いたサーヴァントだ。

聖晶石を集めるまでが我慢できなくて、フレンドポイントで回した俺の元へ、一番はじめに来てくれたサーヴァントだ。

 

大斧がゆっくりと持ち上げられて行く。

 

 

その真名は確か───

 

 

「ヒヒヒ!シネェ!」

 

そして、大斧は俺ごと地面を砕いた。

 




なぜカマキリ?と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、これにはちゃんと元ネタがあります。
気になる人はバレンタインイベントでアステリオス君にチョコをあげてみよう!


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名前

「───アス、テリオス」

 

それは小さな呟きだった。

夢心地の俺が無意識に発した本当に小さな声。

特に、サーヴァント同士がぶつかっているこの場においては、戦闘による衝撃音にかき消されて決して誰にも聞こえるはずがない音だった。

 

しかし、偶然にもある怪物の耳へとその声は届いた。

 

途端に戦闘音が止む。

今の今まで嵐の如く猛威を奮っていた巨体がピタリと静止していた。

アサシンが此処ぞばかりに攻める。

たが、彼はいくら斬られようと抵抗すらしない。

アサシンの猛攻によって白い巨体に次々と傷が増えていくが、その頑丈さから決め手にはなり得なかった。

 

「オイ!バーサーカー!どうした!?」

 

刺青の男は己のサーヴァントの尋常ならざる様子を感じ取り、声をかけるがバーサーカーはその声にも反応を返さない。

どれだけ攻撃を加えようとビクともしない巨体に嫌気がさし、アサシンは一度マスターの元まで引き下がった。

 

「あかん。あちらさん固すぎてラチがあかへんわ。どないする旦那はん……旦那はん?」

 

声をかけられて急速に覚醒する。

またも白昼夢を見ていたようだ。

 

「あ、ああ、なんだっけ?」

「もう!せやから固すぎてどうしようもないって、ゆうてんの。隙だけはあるんやけどなぁ」

 

アサシンに指さされてバーサーカーを見る。

白い巨体は両手に持っていた斧を投げ出し、頭を抱えて苦しんでいるようだった。

 

「ぼくの、なまえ、は……チガウ!オレハ!ぼくは…っ!」

 

何かブツブツと呟いているのが聞こえてくる。

どうしたんだ?

白昼夢ではこんな事は起こっていなかったはずだ。

白昼夢と現実が一致しないという初めての経験に俺も微かに焦る。

 

「おい!バーサーカー!チッ、仕方ねぇ。オイ坊主(ボーズ)!今日はここまでだが、次は容赦しねぇからな!」

「はぁ?逃すと思ってんのか?」

「逃亡はオレのただ一つの特技だからな、逃げさせてもらうぜ」

 

刺青の男が懐から取り出した機械をいじる。

 

その瞬間、廃工場に響く爆発音。

サーヴァントによる戦闘音とは違う、爆薬によって生み出される破壊の音。

廃工場に前もって爆弾を仕掛けておいたのだろう。

激しい砂埃とともに廃工場が崩壊を始める。

クソッ!こんな狙われやすい場所で呑気にいられたのはこんな仕掛けがあったからか!

 

「はぁ!?ふざけんなてめぇ!」

「ハハッ、悔しかったら次からはステージは自分で用意することだぜ、ガキ!」

 

偉そうに語る男の声が遠のいて行く。

しかし、崩れ去る廃工場の中それを追うのは自殺行為に相違ない。

 

「くぅぅ……撤退するぞアサシン!」

「はいな」

 

こうして俺の初陣は引き分けに終わった。

 

 

 

 

 

遣る瀬無い感情を抱えて深夜の街をアサシンと二人、歩いて帰る。

 

「元気だしなはれ旦那はん。(イクサ)ゆぅのはこないなこともあるもんや」

 

そういうアサシンは戦闘直後だというのに、盃で酒を転がすように飲んでいた。

やけに甘ったるい酒の匂いがこちらまで流れてくる。

 

「ん?なんや旦那はん。コレが飲みたいんか?」

 

自身の青い瓢箪を振ってチャプチャプと鳴らす。

酒呑童子を倒すために源頼光が用いたと言われる伝説の酒。

曰く、神から与えられたとも言われている。

そして、俺が酒呑童子を召喚する上で用いた触媒もこの酒の入れ物たる瓢箪だった。

あれ?よく考えたらあの瓢箪って酒呑童子よりも源頼光の方が縁があるな。

いや、別に、頼光さんもそれなりには好きだし強いからそっちが来ても別に問題はなかったのだが。

 

とにかく、あの酒は伝説にも登場するものすごい酒なのだ。

それはもうすごいものなのだろう。

 

正直、かなり興味がある。

俺の魔術は錬金術だと言ったが、より詳しく言うならば酒精を媒体とした錬金術である。

そんな魔術を使う魔術師なのだから、当然伝説の酒とやらには興味がある。

 

少しだけ飲んでみようかな?

いやでもまだ未成年だし……。

前世でも結局成人出来ずに死んでしまったので、酒を飲んだ経験というのがまだ一度もない。

前世今世含めた人生で初めて飲む酒が伝説の酒というのはいかにも凄そうじゃないか?

 

「なんや、そんなに悩まんでもええのに」

「……今はいいよ」

「そう?」

「あ、でも家に着いてから少しだけ分けてくれると……」

「ふふ、ええよええよ。なんなら一晩中酒盛りでもする?」

「いやそれは遠慮しとく」

 

なにせ酒呑って無限に酒飲みそうだし。

というか召喚してから暇さえあれば彼女は酒を飲んでいる。

推しと一晩中語り合うのは非常に魅了的だが、それが相手が酒呑で、酒を飲みながらとなると流石に怖気づいてしまうのも仕方がない。

 

「いけずやなぁ」

 

そういうアサシンは大して残念そうでもなく、カラカラと笑っていた。

なんともつかみ所のない性格である。

 

「そいや現代の酒ってのも興味あるんやけど、旦那はんなんかもってへん?」

「ああ、魔術用のやつがいくつかあるから後でわけてやるよ。名酒って言われてるのもそれなりにあったはず」

「ほんとぉ?うれしいわぁ」

 

アサシンとダラダラと話しながら二人で歩く。

刺青の男には逃げられたし、一日かけて何度もエゲツない白昼夢を見た。

けれど、この思い出だけで今日は悪くない一日と思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?(クサ)(クサ)いと思って来てみれば、こんなところに虫がいるじゃありませんか」

 

目の前で酒呑の首が飛んだ。

笑っていたそのままに、そこだけが時空がズレたかのように。

雷鳴と共に現れた襲撃者は、音すらなくアサシンの首を切り落とした。

 

「うし…おんなぁ……!」

 

空を浮くアサシンの顔が憤怒に染まり、忌々しげにその襲撃者を睨みつける。

 

だが、襲撃者は首を断ち切るだけでは飽き足らず、死に体のアサシンに追撃を食らわす。

腕が飛び、足がちぎれ、胴が別ち、胸を突き刺す。

1分も経たずアサシンをバラバラ死体にした襲撃者は最後に雷によってその全てのパーツを焼き切った。

異様とも言える所業だった。

異常とも言える所業だった。

 

目の前で巻き起こる嘘みたいな光景に、なんの行動も取れずに唖然とする。

そして、アサシンとのパスがぶちりと切れ、ようやく自体に頭が追いつく。

だが、俺が逃げ出そうとするよりも襲撃者が動く方が遥かに早かった。

 

「ああ、虫の主人ですか。あのような虫を行使するとは貴方も鬼畜の類でしょう」

 

トッ。

胸を突く軽い衝撃。

視線を向けると、そこには刀が生えていた。

痛みすら感じない業前で、心臓を貫いていた。

 

「名乗り遅れました。(ワタクシ)はセイバー、源頼光(ライコウ)。悪を誅すものです」

 

襲撃者(源頼光)は、凍った瞳でそう告げた。

 




今回の補足、バーサーカーはアステリオスではなくミノタウロスとして呼び出されています。ですが、彼の性質的に反応してしまい、あんなことになってました。
そして酒呑があんなに簡単に倒されたのは、頼光との相性もありますが、神便鬼毒を飲んでいる+首を狙った攻撃という伝説を再現した状態であった為です。

ご感想お待ちしております。


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2日目
デート


あたりに響く爆発音。

崩れゆく廃工場。

俺はその様子を、廃工場の外から眺めていた。

 

「ギリギリやったね。さすがのうちも冷や汗かいたわ」

 

隣にいるアサシンがそう話しかけてくる。

 

「ああ、そうだな」

 

まだ意識が朦朧としていた。

神が如し雷光が、脳裏に焼き付いて離れない。

だめだ、アレは。

()()()()()()()()()()()()()

理性で考えるまでもなく、本能に尋ねるまでもなく、直感でそうわかった。

 

「どしたん旦那はん?また夢心地?」

「……大丈夫」

 

大丈夫なはずがない。

とにかく逃げなければ。

考えろ。考えろヤシオリツトム。

どうやったらあの英雄から逃げられる?

どうやったら死なずに済む?

人混みに紛れる?まさか、東京じゃあるまいしこんな田舎町はもう眠ってしまっている。

正面から対峙する?アレ(頼光)に、勝てるヴィジョンが浮かばない。

考えろ。考えろヤシオリツトム。

アレは一体何に反応していた?

酒呑童子の気配に反応して現れたはずだ。

なら、もし酒呑童子を隠せば?

 

「なぁ、アサシン」

「んぅ?なんや?」

「極限まで敵にバレないようになる方法ってあるか?」

「そやなぁ、気配遮断と霊体化の合わせ技ならそうそうバレへんのちゃうやろか」

「それをやってくれ」

「なんでぇ?それやとおもろないやん。霊体化してると酒も飲めんしぃ」

「それでもだ。頼むアサシン」

 

アサシンと見つめ合う。

彼女は口を尖らせて不満げだった。

 

「あー、じゃあ後でうちにある名酒軒並みくれてやるから。飲みたかったんだろ?」

「あれ?なんで旦那はんうちが今の酒に興味あるってしってはるの?」

「え?お前が言ったんじゃなかったか?」

「そぉやっけ?」

 

アサシンが首を傾げる。

あれ?もしかしてこれって白昼夢でした会話だっけ?

 

「まあ、そこまでゆぅんならやったるわ。とびきり美味しい酒、期待しとるよ」

 

声だけ残してアサシンがスッと姿を消す。

マスターたる俺は魔力パスによってアサシンが側にいることを確信できるが、第三者なら見破ることは不可能に近いだろう。

 

それでもなお心配だった為、白昼夢で通った道を避け、大きく遠回りして帰る。

家に着くまで警戒し続けていたが、襲撃者は現れなかった。

 

 

 

 

 

 

朝日に目が覚め、制服に着替えてから気づく。

 

「そういや今日は休みか…」

 

確か、創立記念日かなんかで週半ばにして今日は休みなのだ。

姿見で自分の制服姿を確認し、少し悩む。

わざわざ着替えたのにまた脱ぐと言うのは些かめんどくさい気がしたのだ。

 

「1日くらいはいいか」

 

こうして今日は制服で過ごす休日となった。

 

キッチンへ入り、まずはポットへ水入れ沸かしす。

数分待ち、湧いたお湯でインスタントのカップ味噌汁をつくり、昨晩のうちに予約しておいた炊きたての米をお椀によそう。

そしてごはんの上に冷蔵庫から取り出したツナ缶を雑に乗せ、醤油とマヨネーズを一回し。

これで今日の朝食の完成である。

朝っぱらから自分でメシを準備しなければいけないのが

一人暮らしの特に滅入るところだが、変に凝ろうとしなければなんとでもなる。

無音だと寂しくなるので、朝食をリビングまで持っていき、テレビをつけた。

テレビでは話題の俳優が浮気を〜とか、原因不明の意識不明者が〜とか、大して興味もわかないニュースが流れている。

 

「いただきます」

 

気に入っているビームセイバー箸を使って一人で黙々と食べる。

これがオレの日常だった。

 

けれど昨日からそれは少し変わっていた。

 

「あらぁ、今日も随分と貧相なもん食っとるなぁ」

 

いつのまにか隣に座っていたのは酒臭い少女。

暗殺者のサーヴァント、酒呑童子だ。

彼女が飲んでいるのは昨日とは違い、我が家秘蔵の名酒だった。

 

「そんなん酒の肴にもならんと思うけど」

「現代人の朝は“そんなん”で十分だからな」

「そぉなん?あ、そうや旦那はん。うち今日も町ぶらぶらしとくから、自分の身は自分で守ってな?」

 

人目の多い昼に仕掛けてくるやつもいないだろう。

そう考えて俺はツナ丼をかきこみながら頷いた。

 

 

 

 

木製の扉が軋む音の気づき、アリス先輩が俺をみる。

休日とはいえ平日なのだから居るかもしれないと教会へ来てみれば、アリス先輩は本当にいつも通り祈っていた。

信仰には休みという概念がないのだろうか。

 

「あら、おはようございます谷栞くん」

「おはよう。ツトムおにいちゃん」

 

当然、アリス先輩の側にはキャスターの影。

幼い少女らしい無垢な笑顔のはずなのに、なんとも悍ましいものを見た気分になる。

 

「おはようございます。アリス先輩、キャスターちゃん」

「谷栞くんは今日もお祈りに?」

 

アリス先輩が微笑みかけてくる。

うむ、実に顔がいい。

 

「ええ、まぁ」

「ツトムおにいちゃんは勤勉なのね。とってもいいことだわ」

 

キャスターが微笑みかけてくる。

うむ、顔()可愛らしい。

 

 

 

 

「そういえばアリス先輩。今日は休みじゃないですか。それで良かったらですけど、一緒に遊びに行きませんか?」

「えっと、そのごめんない。今日はモデルの仕事が入ってて」

「そ、そうですが……」

 

祈りのあと、いつもなら一緒に学校へ登校するタイミングで、思い切ってお誘いをしてみた。

だが、無情にも答えは否。

美人のアリス先輩とお出かけするいいチャンスだったのに……。

とても悲しい……。

 

「あ!じゃあ私の代わりにキャスターちゃんにこの町を案内してあげてくれませんか?この子まだこっちに来たばかりで色々見てみたいそうなんです」

 

悲しむ俺をみかねた先輩が代替案を出してくる。

視線を下げるとニコニコと笑って居るキャスターが目に入った。

笑顔のはずなのに、少女は不気味な雰囲気を醸し出して居る。

 

「え、それは……」

「お願い、できませんか?」

「もちろんオーケーですとも!キャスターちゃんの面倒は俺が見ときます!」

 

結論、男は美人の上目遣いに弱い。

 

 

 

 

 

教会から始まり、高校、本屋、雑貨店。

コンビニ、スーパー、喫茶店にごはん処。

そして最後に商店街を二人でぶらつく。

時間はもう昼前に迫っていた。

 

「へぇ、この時代(まち)には色んなものがあるのね」

 

町の見どころを一通り案内し終わると、キャスターはそんなことを感心した風に言った。

案内している途中も、なにかを見つけると「アレはなに?」「コレはなに!?」と大はしゃぎだったキャスターは、俺の中で大きく印象が変わっていた。

今もなんとなく不穏な雰囲気を放っているが、慣れてしまえば気にならない。

もはやただの愛らしい女の子である。

 

「あ、ねぇツトムおにいちゃん。あれはなに屋さん?」

 

キャスターが指差したのは、騒がしい音が外まで聞こえてくる娯楽の宝庫。

 

「ああ、あれはゲームセンターだな」

「げーむせんたー?」

「遊ぶ場所っていうかなんていうか……まあ、遊んでみればわかるよ。ほらコレあげるから遊んできなさい」

 

財布からなけなしの500円をキャスターに与えてやる。

遊ぶ場所と聞いてからすごいウズウズしてたから思わず甘やかしてしまった。

 

「ありがとうツトムおにいちゃん!」

 

笑顔でお礼を言ってゲームセンターに走っていく。

うむ、可愛らしい。

 

キャスターがゲームセンターに入店したのを見届けたタイミングで、背中がちょんちょんとつつかれる感覚。

誰だ?と振り返ると、そこにはこの数日で見慣れた小さな鬼。

酒呑童子が立っていた。

好きに別行動しておくと言っていたのに、一体どうしたんだろうか?

 

「なぁ、旦那はん。うちもアレで遊びたいんやけど」

 

そう言って右手でゲームセンターを示し、左手を差し出して金を催促してくる。

サーヴァントってみんなゲームセンターに興味を示すのか?

というかこいつそのためだけに出てきたのか?

 

「はぁ、お前もかよ。わかったわかった。キャスターと同じく500円な」

「おおきに」

 

チャリンチャリンと100円玉を5枚。

キャスターと合計で1000円と地味に出費がでかい。

今月はあまり贅沢できそうにないな。

 

 

 

「ねぇ、ツトムおにいちゃん。とっても可愛いお人形さんがあったからもう一回…………そちらはどなた?」

 

幼い声に振り向くと、キャスターが帰ってきていた。

500円使い切るの早すぎたろ。

 

「その人、なんだか変だわ……。(ミダ)らな格好に、鋭い角。まるで聖書の悪魔のよう」

 

けれどその様子がおかしかった。

いや、アサシンを見ておかしくなり始めたといった方が正確か。

無垢な少女らしい笑顔が剥がれ、冷たい瞳が現れる。

 

「そう、そういうことね。そうなのね。わたし、ツトムおにいちゃんのこと大好きだったのに。ああ、悲しい。かなしいわ」

「お、おい?キャスター?どうした?」

「なんやこの子、サーヴァントやったん?うちというものがありながら浮気するなんて旦那はん冷たいわぁ」

「悪魔との契約は魔女の証。つまり───」

 

いつかの白昼夢が脳裏に蘇る。

背筋が凍り、冷や汗が全身から吹き出る。

止めなければ。

そうわかっているのに動けない。

 

「───あなた、魔女だったのね」

 

そしてキャスターは、宣告を述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、大剣がキャスターを真っ二つへと両断する。

キャスターだった二つの肉塊がバランスを崩してグチャリと倒れた。

 

「ふふ、かんにんなぁ?マスター殺されちゃあかんさかい」




長めの上に一話一死のノルマ未達成と今回は少々アレな回になってしまいました。
いや、よく考えたらキャスターが死んでるから一話一死のノルマは達成してるのかな?

キャスターの様子について不穏だとか不気味だとか悍ましいだとかボロクソ言ってますが、これは彼女のスキルの効果です。イメージはめだかボックスの過負荷みたいな感じ。

ご感想お待ちしてます


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まじないの唄

倒れ臥した、少女だったモノ。

斬り伏せたのは、巨大な(ツルギ)

 

一拍おいて理解する。

アサシンがキャスターを殺したのだ。

 

「なっ」

 

理解はできる。

理解はできるが、頭が追いつかない。

 

「どしたん、旦那はん。そない驚いてもうて」

 

大剣を引っさげたままアサシンが尋ねてくる。

その顔は心底不思議そうだ。

 

「だって、なんで、そんな…」

 

胃の腑から酸っぱいものがせり上がってくる。

これ以上言葉を重ねたら吐いてしまいそうだった。

 

「なんでもなにも、ねぇ?この子が攻撃しようとしたかい、ざしゅっとな?」

 

大剣でキャスターをつつきながら答える。

その死体は早くも消え始めていた。

わかっている。

あのままだと俺は確実に死んでいた。

けれど、けれど。

人を殺すというのがこんなにも───

 

耐えきれなくなり、うずくまって吐き出す。

今朝食べた朝食だけでなく、恐怖も、罪悪感も、悲しみも。

全て、全て口から流れ出ていく。

 

「なんやだらしないなぁ。そないな有様やと生き残れへんよ?」

 

アサシンの声が頭上から降ってくる。

彼女はうずくまった俺を見下(ミオロ)すように立っていた。

その表現は見ることも出来ない。

 

その時、親の背中なにかが飛んできた。

コツン、と軽い音を立てて俺にぶつかり、地面に落ちる。

拾って見るとそれは小石だった。

拳大もない本当に小さな小石が飛んできたのだ。

 

「ぁ?」

 

奇妙な現象だ。

小石が一人でに飛ぶはずがないのだから。

飛んで方角を視線で辿る。

 

そこにいたのは───小さな男の子だった。

母親に片手を握られ、微笑ましく歩いていたであろう幼い少年だ。

 

冷や汗が頬を流れる。

 

今は昼時。ここは商店街。

平日といえど、人通りは多い。

そんな場所の中で俺たちは何をした?

アサシンはキャスターに何をした?

 

気づけば俺たちの周りには大きな人だかりが出来ていた。

空気は凍りついており、全ての人が俺たちを凝視する。

道のど真ん中でこんなことが起きたのだ。

当たり前である。

だがしかし、群衆の様子は異常でもあった。

その表情には恐怖というものが一欠片もない。

たったいま目の前で人が殺されたというのに、その顔に映るのは一様に憤怒の表情だった。

義憤からくる怒りで染まっていた。

 

「ひとごろし!!」

 

男の子が叫んだ。

その声をキッカケとしてザワザワと声が上がり始まる。

 

「こいつら人を殺したぞ!」

「神の戒めに逆らった!」

「捕まえろ!犯罪者だ!捕まえろ!」

「悪魔だ!あの角を見てみろ!悪魔に違いない!」

「捕まえろ!殺せ!悪魔を殺せ!首を晒せ!」

「あの目を見ろ!こいつら俺たちも殺すつもりか!?」

「あの剣を見ろ!俺たちも殺らなきゃ殺られるぞ!」

「魔女だ!こいつらは魔女に違いない!」

「魔女せいで人が死んだ!魔女が人を殺した!」

「捕まえろ!捕まえろ!捕まえろ!」

「お前のせいで!魔女のせいで俺の息子は死んだんだ!」

「魔女がばら撒いた病のせいで沢山の人が死んだんだ!」

「あいつのせいだ!魔女のせいだ!ぜんぶ全部魔女(オマエ)が悪い!」

 

「「「魔女を殺せ!魔女を殺せ!魔女を殺せ!」」」

 

義憤は憤怒に。

憤怒は害意に。

害意は殺意に。

 

目まぐるしく感情を変え、群衆は叫ぶ。

金切り声ように喚き、声を揃えて「殺せ」と騒ぐ。

異常だった。異様だった。

異色だった。異例だった。

 

「な、なんだこいつら」

「生きとった頃を思い出すわぁ」

 

俺と同じく群衆から殺意を受けているはずのアサシンは、カラカラと笑っていた。

楽しんでいるようにすら見える。

 

「「「魔女を殺せ!魔女を殺せ!魔女を殺せ!」」」

 

殺意は膨れ上がるように高まり、そして、臨界点を超えた。

輪を作るように俺たちを囲っていた群衆か崩れるように襲いかかる。

男、女。子供、大人、老人。

そんな垣根は関係なく、ありとあらゆる人々が津波ように押し寄せる。

 

「ほいっと」

 

それを、アサシンがまとめて切り裂いた。

大剣による斬撃は一般人など容易く刻み、吹き出た血によって全てが赤く染まる。

俺も、アサシンも、地面も、まだ生きている群衆も。

 

しかし、それでも群衆を止まらなかった。

津波のように、とりとめもなく襲いかかる。

はじめに俺たちを囲っていた人数よりも明らかに増えていた。

 

「あー。こらぁ、マズイわ」

 

アサシンが冷や汗を垂らす。

群衆が止まらない。

叩き斬られた同胞の死体を踏み潰しながらもなおも止まることはない。

アサシンは踊るように群衆を切り刻んで行くが、その波が止まることはなかった。

 

襲いかかり、切り刻まれ、地に伏し、踏み潰され、ミキサーにかけたようにぐちゃぐちゃになる。

目の前で凄まじい早さで命が散っていった。

道が、町が、赤く紅く染まってゆく。

俺はその光景を無様にへたり込んで見ていた。

 

「なんだこれ……なんだよこれぇ!」

 

キャスターは死んだはずだ。

俺は生き残ったはずだ。

死んだのはキャスターのはずだ。

 

だというのに、俺は窮地に立たされていた。

 

 

 

 

湧き続ける無辜の群衆。

切っても切っても終わらない無限の殺戮。

それは永遠に続くかと、思われた。

だが、何事にも終わりはある。

 

終わりは、空から降ってきた。

 

空を破る衝撃音。

輝く雷光。轟く雷鳴。

絵の具をぶちまけたように赤く染まったアスファルトに、その人物は突き刺さるように降り立った。

 

「なんや、オマエも来とったんか。牛女」

「サーヴァントになってまで民草を虐げるなんて……。その悪、誅します」

 

 

 

鬼と英雄の戦闘は凄まじいものだった。

大地を砕き、空を割り、稲妻が走れば毒によって相殺される。

互角の力を振るう二体のサーヴァント。

それは正に伝説と言われるにふさわしい破壊の嵐だった。

 

その余波は暴風と化して町を荒らす。

無力な人間は、その暴風に抗うすべを持たない。

群衆の一部が吹き飛ばされ、包囲網に開いていた。

それに気づいた俺は、自らの幸運に感謝し、その穴を走り抜ける。

 

「アサシン!あとは任せたぞ!」

 

声をかけると、アサシンは俺を一瞥し頷く。

この場に残ったとしても俺にできることはない。

むしろ残ることによってアサシンの弱点となりうる。

そう考えた上の判断だろう。

 

俺はなおも残る吐き気を抑え、必死に逃げ出した。

 

 

 

商店街から十分離れてからへたり込み、肩で呼吸する。

商店街の方向を確認すると、激しく雷か猛っているのが見える。

まだ決着はついていないようだ。

ガンドも打てない雑魚魔術師の自分に出来ることはない。

せいぜいがパスを通じてアサシン目一杯魔力を送り込み、神に祈ることくらいだ。

 

「なぁ、あんた大丈夫か?」

 

道の端っこに座り込んでいた俺を不審に思った老人が話しかけてきた。

その表情はあの群衆たちとは違い、ホッとする。

 

「ああ、ちょっと疲れてて」

「誰かから逃げてるのか?」

「え?まあ、そんな感じかな」

 

たしかに俺はあの群衆から逃げてきた。

なんでわかるんだ?

俺の答えを聞いた老人は我が意を得たりと言わんばかりに頷く。

 

「やっぱりなぁ。あんた警察から逃げてんだろ?」

「は?」

「いやぁ、あんたの顔どっかで見たことがある気がしたんだよ。アレだ。交番に貼られてる指名手配犯だ」

「え?ええ?」

「こんなところで息を上げて座り込んでるなんて、誰がどう見たってやましいことがあるって言ってるようなもんだからな」

「いや、俺は」

「悪いことは言わねぇから自首しなよ、兄ちゃん」

「だから!俺は指名手配犯なんかじゃねえって!」

 

なんなのだこの状況は。

何かがおかしい。

俺が指名手配犯だと決めつける老人の瞳。

その瞳にあの群衆の影を見て、思わず逃げ出す。

 

「まてぇ!誰か!指名手配犯が逃げたぞ!」

「だから俺は!」

 

そこから言葉は続かなかった。

老人の声を聞き届けた正義感に燃えた人々が俺を全力を追ってきたのだ。

ついさっき逃げてきたばかりで、体力もロクに回復していなかった俺は容易に捕まってしまう。

強引に組み伏せられ、押さえつけられる。

気づけば周りには多くの人が集まっていた。

ガヤガヤと人々の話し声が聞こえてくる。

 

「こいつ何をやったんだっけ?」

「指名手配犯じゃなかったか?」

「いやいや、ひったくりだよ」

「殺人と聞いたが?」

「痴漢じゃないの?」

「いや違う!こいつはお爺さんに暴力を振るったんだ!」

「その孫も殺したんじゃなかったか?」

「なんて悪いやつなんだ!神様もきっとお怒りだろう!」

「神の代わりに我らが裁かなければ!」

 

「「「()()を裁かなければ!」」」

 

人だかりの誰かが俺を蹴る。

それを皮切りに人だかりが、いいや、新たな群衆が俺を嬲り始めた。

腕を殴られ、腹を蹴られ、足をへし折られる。

罵詈雑言を叫びながら、怒りの表情で群衆は俺に私刑を加える。

全身が痛かった。

全身が熱かった。

いつ終わるのかわからない地獄。

やめてくれと、冤罪だと懇願しても、その声はヒートアップした群衆には届かない。

 

 

 

そして、俺が最期に見たのは、群衆の一人が鉄バットを振り上げる場面だった。

 

 




やっと能力の一端が出たのでアビゲイル・オルタのステータス乗っけときます。

【真名】不明 (主人公はアビゲイル・オルタと仮称)
【クラス】キャスター
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E
魔力D 幸運C 宝具A+
【クラススキル】
陣地作成E-
狂気B〜EX
【スキル】
信仰の祈りC
魔女裁判EX
魔女宣告EX
無辜の怪物B
【宝具】
不明

オリジナルスキル 魔女宣告EX
指名した一人を魔女と宣告する。宣告されたものは周りの人間から無条件に猜疑心を抱かれ、その勢いは時間と共に加速してゆく。最終的には憎悪を向けられるようになり、無辜の群衆に襲われる。
何か罪を犯すことで時間経過関係なく、群衆に襲われるようになる。
また、宣告された者は魔女特性を得る。
このスキルの効果はキャスターの生死に関わらず1時間持続する。

このスキルが今回の死因です。
商店街では目の前で人を殺すという罪を犯したから、逃げた後はただ座り込んでいただけで疑われてリンチに会いました。


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お人形さん

「うち今日も町ぶらぶらしとくから、自分の身は自分で守ってな?」

 

ツナ丼をかき入れようとして、むせる。

あれ?俺いま朝食食べてたっけ?

咳が収まってから机の上を見ると、そこにはカップ味噌汁にツナ丼。

お茶はないのに、酒は置かれている。

ちぐはぐな印象を受けるが、朝食を食べているのと酒を飲んでいるのは違う人物なのだから当たり前だ。

意識がはっきりしてくると、ついさっき自分で朝食を準備して、いま正に食べていたところだったと思い出した。

白昼夢、いや時間的には寝ぼけていただけか?

 

酒を飲んでいる少女を見る。

申し訳ない程度に紫の着物を巻きつけた半裸。

額から伸びる鋭い角。

大江山に語られる大鬼、酒呑童子だ。

 

酒呑童子に少し待つように告げて、席を立つ。

向かったのは自分の部屋に置いてある勉強机。

鍵が掛かっている引き出しを開き、中に安置されていた封筒をとる。

封筒の中には一万円。

俺が再来月に発売する最新ゲーム機を買う為に貯めていたへそくりだ。

次はタンスを開けて酒呑が着れそうな服を探す。

しかし、どうにもサイズが合いそうにない。

仕方ないと押入れをひっくり返し、中学生時代の服を取り出す。

その中から適当に見繕ってリビングへ戻った。

 

 

「どしたんそれ?」

 

持ってきた服と一万円を見て酒呑が驚く。

 

「その格好じゃなにかと目立つだろ。あとこの金は小遣いだ。これ一回きりだから大切に使えよ」

「ええ……、うちにそれ着ろゆぅん?」

 

指差したのは俺が持って着た服。

ぶっちゃけ体操服(芋ジャージ)である。

 

「半裸でうろつくよりはマシだろ?」

「いやぁ、流石にそらぁ……」

「嫌なら小遣いで服を買えばいいから」

「うぅん……そないゆぅなら」

 

まだ躊躇いが見える気もするが、酒呑はおとなしくジャージを受け取る。

これで服は解決だろう。

 

「その角ってなんとか縮めれないのか?」

「むりに決まっとるやん。旦那はんは手ぇ縮められるんか?」

「そりゃ無理だ。簡単な幻術でも使えばなんとか誤魔化せるかな」

 

とはいえ俺の本領は錬金術。

幻術なんて本当に基礎の基礎くらいしかできない。

角を透明にするなんて不可能だ。

出来るのはせいぜいあんまり意識しなくなる程度だろうか。

まあ、余程注目を受けない限りそれでも十分だろう。

 

 

 

 

 

「あ、ねぇツトムおにいちゃん。あれはなに屋さん?」

「ああ、あれはゲームセンターだな」

「げーむせんたー?」

「遊ぶ場所っていうかなんていうか……」

 

 

今朝の白昼夢と全く同じシチュエーション。

全く同じセリフ。

全く同じキャスターの表情。

 

遊びたくて仕方がない様子のキャスターに激しい既視感を覚えながら会話をする。

わかっていたはずなのあれよあれよとこの場面に辿り着いていた。

 

「まあせっかくだし、遊んで行こうか」

「ほんと!?早く行きましょ!」

 

キャスターにぐいぐいと手を引かれながらゲームセンターへ向かう。

パスを通じて探っても、近くにアサシンの気配はなかった。

 

 

「わぁ!このお人形さんすごく可愛い!」

 

キャスターがゲームセンターで一目散に興味を持ったのはクレーンゲームだった。

キャスターが張り付いて覗き込んでいる透明な壁の向こうには、デフォルメされた羊の人形が鎮座している。

確か最近やっているニチアサ魔法少女のオトモだっただろうか?

もこもことした毛がとても可愛らしい。

 

「やってみるか?」

「え……いいの?」

「ここはそういう場所だからな」

「ありがとう!ツトムおにいちゃん!」

 

財布から100円玉を5枚取り出し、キャスターに手渡す。

心底嬉しそうに受け取ったキャスターは、意気揚々とクレーンゲームに百円玉を投入した。

 

 

 

「なんでぇ……」

 

しかし、ゲーセン初体験の少女に商品をくれるほどクレーンゲームは易しくない。

案の定キャスターは撃沈していた。

彼女は恨めしそうにクレーンゲームを見るが、無機物たるクレーンゲームにはなんの効果もない。

キャスターの不機嫌オーラで俺が少し冷や汗かいたが、それだけだ。

 

「うう……ツトムおにいちゃぁん…」

 

涙目になったキャスターが俺を見る。

うむ、愛らしい。

 

「しょうがないな。こういうのにはコツがあるんだよ。よく見てろよ」

 

さて、前世でゲーセン通いしてた実力を見せてやろうじゃないか。

 

 

 

「ありがとうおにいちゃん!」

 

そう言ったキャスターはギュと人形を抱きしめる。

とても幸せそうな顔だ。

一方俺は、人形の原価と取るのに掛かった金の差を考えて苦しんでいた。

まさかあそこまで苦戦すると思っていなかったとはいえ、予定の倍以上金をかけてしまった。

正直今月の食費が若干怪しい。

あとでアサシンから金少し返してもらおうかなぁ…。

 

「わたし、このお人形さん大切にするわ!」

 

だけどまあ、ここまで爽快に喜んでくれるならそれ相応の価値もあったのかもしれない。

 

 

 

人形を抱きしめて離さないキャスターと共に教会を目指す。

アリス先輩のモデルの仕事は昼頃には終わるそうだから、昼過ぎに教会で合流、その後3人で昼食を食べに行く約束だったのだ。

 

商店街から教会をまっすぐ目指すとなると途中で墓地を通ることになる。

あの墓地は昼であろうと時が凍ったように静かで、その不気味な雰囲気からこの町の子供たちは絶対に近づこうとしない事で有名だ。

幼い少女であるキャスターも例にもれず怖がるかもしれないと心配していたが、どうやら人形に夢中で気にしていないらしい。

 

 

「おやお嬢ちゃん。こんなところでお散歩かい?」

 

だがしかし、その歩みは別の要因によって止められることとなった。

墓地の半ば程にて出会ったのは激しく既視感を覚えるとある人物。

既視感も当たり前だ。俺はこの人物を知っているのだから。

FGOでもお世話になった事がある星5のサーヴァント。

その名は───

 

「やぁん!ダーリンしっぶーい!かっこいー!惚れ直しちゃう!でも絶対浮気はしないでね?」

「しねぇーよ!?流石にあれ(ロリ)は守備範囲外だわ!」

 

───オリオン。

露出度の高い白いドレスを纏った女神(アルテミス)と、その頭に乗っかった微妙に可愛くない喋るクマのぬいぐるみ(オリオン)

FGOで見たまんまの奇妙なコンビだった。

 

「なっ!あなた、アーチャー!?」

「ウンウン。いいリアクションをありがとう、可愛らしいお嬢ちゃん。そちらはマスターかな?」

「ううん。違うわダーリン。だってあの子とパスが繋がってないもの」

 

俺一人を置いてきぼりにして3人は会話を進める。

どうやらキャスターとアーチャー(オリオン)は顔見知りであるようだった。

 

その状況を利用して必死に考える。

目の前にはキャスターとアーチャーという敵サーヴァント二体。

側にアサシンはいない。

俺自身の戦闘力は皆無。ガンドでも撃てたら話は変わるが、そんなモノ俺には使えない。

 

端的に言って、詰んでいる。

 

ただ一つ生きる道があるとしたらマスターとバレずに一般人としてこの場を乗り切ること。

運がいい事にちょうど目の前で、キャスターのマスターであることをアルテミスが否定してくれた。

そしてキャスターは俺がマスターであることを知らない。

光明がみえた。

このままシラを切ろう。

そう決めようとして……

 

「でも、あの人も倒しておいた方がいいわね」

 

アーチャーが矢をつがえる。

メカチックな大弓と、白く輝くエネルギーの矢。

 

「おにいちゃん!逃げて───」

「気の毒ながら」

 

絶叫めいたキャスターの声。

俺を指差し、呑気に語るクマ(オリオン)の声。

 

それらが耳に届くよりも早く俺は逃げ出そうと構え、

 

こいつ(アルテミス)は強いぞ」

 

 

まともに狙いもつけず、めちゃくちゃな構えで射られた筈の矢によって正確に眉間を貫かれた。

 

 

 




少し前に芋ジャージ着た酒呑のイラスト見たことあるなーってことで本作でも酒呑は芋ジャージ。
これには流石の酒呑も涙目。

死に戻りパワーによってキャスターが復活しました。
これによって聖杯戦争の終わりがまた遠ざかりましたが、実は彼女には役割が準備してあるのでそれまでは死にません。
あと自分を二度も殺しているのに主人公がキャスターと仲良く出来るのは、主人公がバカだからです。
未だに死に戻りを白昼夢と思い込んでるとかどうしようもねぇなって思いながら見守ってあげてください。

今回の話によってサーヴァント全員が揃いましたので、ここで一覧しときます。
セイバー 源頼光
アーチャー オリオン
アサシン 酒呑童子
キャスター アビゲイル・オルタ(仮)
バーサーカー ミノタウロス

あとオリオン&アルテミスはFGOの設定通り神性を失っており、通常のサーヴァント程度しか馬力が出てません。


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交渉

「うぉっ」

 

足が(モツ)れて転びそうになるのを、寸でのところで耐える。

周りを見渡すと、ここは商店街から少し教会側に進んだ位置であるようだった。

もう少し進めば墓地が見えてくるだろう。

 

「あら、ツトムおにいちゃん大丈夫?」

「ちょっと足が縺れただけだから大丈夫だ」

 

側にはデフォルメされた羊を抱きかかえた少女。

キャスターは俺が突然転びそうになったことに驚いているようだった。

 

また、白昼夢を見ていたようだ。

眉間をこする。

当然穴は空いていない。

そのことに少しホッとして、今度は墓地の方角を睨みつけた。

あの墓地にはアーチャーがいる。

少なくとも白昼夢ではそうだった。

いつもならあんな縁起の悪い夢を見たのだし、それを回避するように動く。

だが、今回ばかりは少し事情が違った。

 

「なぁキャスターちゃん。俺ちょっと用事思い出しちゃった」

「え?そうなの?」

「ああ。ここから学校の方に行って、川に沿って歩いていけば教会に着くから」

「わかった。ツトムおにいちゃんとごはん食べるの楽しみにしてたのに残念だわ」

「ほんとごめんな」

 

本心からそう言ってくれているらしいキャスターに心を痛めつつ、道を別れる。

俺は墓地へ、彼女は学校へ。

それはほぼ()()の方角である。

 

キャスターが見えなくなったのを確認してから、魔術回路を切り替える。

炎を吸い込んで内側から全身が燻されるイメージ。

ゾワゾワと背筋に悪寒が走り、魔術回路が本格起動したのを感じた。

 

『アサシン!アサシン聞こえるか!?』

 

魔力パスを通じてアサシンに念話を飛ばす。

やり方は一文字神父から聞いていたが、実際にやったのは初めてだった。

 

『なんや旦那はん。こないなこと出来たんか』

 

甘く蕩けるような声が頭に響く。

おおう、これヤバいな。

あんま何度もやってたら癖になりそう。

 

『さっき初めて挑戦した。じゃなくて!急いで来てくれ!場所は墓地前。下手したら戦闘が起きるからちゃんと戦闘できる姿で来てくれよ』

『何するつもりなん?』

 

『アーチャーのマスターと、交渉をする』

 

 

 

 

「それで、ホントにここにアーチャーがおるん?」

 

ものの1分も経たずにアサシンは墓地の前に現れた。

文字通り跳んで来たらしい。

格好は今朝渡した芋ジャージではなく、いつもの紫の着物。

戦闘準備は万端といったところか。

 

「ああ、いるはずだ。たぶん。おそらく」

「そこは断言してくれへんかなぁ」

 

アーチャーと交渉する目的はただ一つ。

俺たちの天敵たるセイバーの処理だ。

対セイバーといえばアーチャー。

バーサーカーでも悪くはないが、あの刺青男と手を組むのは絶対嫌だ。

しかも星五のアーチャーとなると、これはもうセイバーなんて楽に倒してくれるだろう。

セイバー版頼光のレア度がわからないが、例え星五同士だとしても相性有利さえあればゴリ押せる。

そのためにもアーチャーのマスターと話をつけて、うまい具合に共闘関係(フレンド)になっておきたい。

 

「よし!行くか!」

 

俺は自らの頬を叩いて気合いを入れ、墓地へと進んだ。

 

 

 

墓地には足を踏み入れると、アーチャーはすぐに姿を現した。

スタンバっていたのかと疑問に思うほどのスピードだったが、サーヴァントを従えたマスターが現れたのだからその早さも当たり前なのかもしれない。

女神(アルテミス)クマ(オリオン)が警戒した顔持ちで俺たちを見る。

いや、警戒してるのはクマ(オリオン)だけだな。

女神(アルテミス)の方はニコニコ笑っていて心情が読み取れない。

アサシンにしばらく控えておくように念話で頼み、アーチャーに話しかける。

 

「そう、警戒しないでくれ。俺はお前らのマスターと交渉に来たんだ」

「交渉だぁ?そんなおっかないサーヴァントを連れてか?」

「小心者だからな。大目に見てくれよ」

「ダーリン、あの人嘘はついてないわよ?ホントに話し合いに来たみたい」

「……はぁ、オマエがそういうならそうなんだろうな」

 

クマ(オリオン)がポリポリと頭をかく。

ぬいぐるみということもあって、可愛らしく見えないこともない。

結構好みの外見である女神(アルテミス)に目が吸い込まれそうになるが、意識してクマ(オリオン)に目を向ける。

 

「けど、可哀想ね。あの人たちの目的は果たせそうにないわ」

「それはどういう意味だ?」

「あー、言葉通りだ。俺たちのマスターがアンタらと会話することは絶対にない」

「ん?交渉決裂かいな?」

 

黙っていたアサシンが口を挟む。

会話の雲行きの怪しさを察して警戒しているのだろう。

俺の前へ出ようとするアサシンをジェスチャーで抑え、アーチャーとの話し合いを続ける。

 

「なんでだ?」

 

アーチャーからの殺気は感じないが、アーチャーの返答によっては戦闘となるだろう。

そう考えたら喉がカラカラに乾いて行く気がした。

そして、返って来たアーチャーの答えは、

 

「俺たちのマスターはもう死んでるんだ」

 

俺の予想を超えたものだった。

「は?」

「だから、もう死んでるんだって。昨日キャスターに()()()ちまった」

「すごかったよねぇ、私たちも危なかったし。あの子ちょっとした権能に届いてるんじゃないかしら」

「アンタも気をつけた方がいいぞ。あのキャスターに宣告されて、宝具を使われたらもう終わりだ」

「マスターが居ない?じゃあお前ら魔力はどうしてんだよ?」

「単独行動のスキルをしらねぇのか?アーチャーのサーヴァントはマスターが不在でもしばらく活動ができるんだ」

 

単独行動?

それってクリティカル威力が上がるだけのアレか?

ただのパッシブスキルにそんな効果あるはずないのだが……。

この世では変わっているのだろうか。

 

「まぁ、そんな訳でアンタらが幽霊と会話でも出来ない限り俺達のマスターとは交渉不可能ってことだ」

「じゃ、じゃあせめて───」

「ついでに言うと、俺たち自身も交渉に応じるつもりはない。別に聖杯戦争で勝ち残りたい訳じゃないからな。コイツと二人でいられたらそれだけで十分だ」

「ダ、ダーリン!そんなに私のことを思って……!」

「あ、でも美女がいたら是非紹介してくれると嬉しいです。はい」

「ねぇダーリン。射法・玉天貫(みこっと)、しとく?」

「すいません調子乗ってました許してください!」

 

 

こうして、アーチャーとの交渉は決裂に終わった。

 

 

 

沈みきった気分で教会へ向かう。

アサシンは交渉が終わると共に何処かへと消えてしまっていた。

ゲーセンにでも行ったんだろう。

アーチャーとの交渉によって、もう昼頃など通り越していたが、もしかしたらアリス先輩が待っていてくれないかという未練からだった。

 

立て付けの悪い教会の扉を開くと、そこにいたのは美人の先輩ではなく、狐目の神父。

 

「おや、どうしたんだい?随分とお疲れのようだけど。悩める子羊の悩みなら、聞いてあげるよ?」

 

一文字神父は貼り付けた笑顔でそう尋ねた。

 

 

 

「コーヒーにミルクと砂糖は?」

「ミルク一つ」

「了解」

 

教会の奥、生活スペースのキッチンで一文字神父にコーヒーを入れてもらう。

こんな場所には初めて入ったが、思っていたよりこじんまりとしていて、庶民的だった。

今の俺は一文字神父に勧めらるままにテーブルについていた。

 

「そんなにキョロキョロするなよ。恥ずかしいだろ?はい、ミルク入りコーヒー」

 

そういう一文字神父の手には二つのコーヒー。

差し出された方のコーヒーを受け取る。

一口飲んでみると、強い香りと、ミルク入りだというのに感じる深い渋み。

何というか、あまり飲んだことがないコーヒーだ。

俺が普段買うような缶コーヒーやパックコーヒーとは違った、高いヤツなのだろうか。

 

「美味しいかい?」

「大人の味がする」

「砂糖持ってこようか?」

「いいや、これでいいよ」

「そうか、存分に飲んでくれ。おかわりもあるからね」

 

またひとくちコーヒーを飲む。

なんだかやたらと一文字神父に見られている気がする。

コーヒーに自信でもあるんだろうか。

 

「しかし、君も苦労してるみたいだ。やっぱ聖杯戦争絡みなのか?」

「まあ、そんな感じかな」

「こんな儀式だからね。疲れてしまうのはしょうがないさ。そういえば、君は一体何を願うんだっけ?」

「え?俺は……」

 

何を願うか。

そんなこと考えすらなかった。

ただ聖杯戦争のお誘いがきて、サーヴァントに会ってみたい一心で参加したのだから。

俺は一体、何を願うべきなのだろう。

 

「言えないかい?秘密の願いというわけか」

「別にそういうわけじゃ……」

「ミナまで言わなくていいよ。願いってのは胸に秘めておくものでもあるからね」

 

一文字神父が自らのコーヒーに目を落とす。

俺の茶色のコーヒーとは違って真っ黒で、俺にはとても飲めそうにない。

というか一文字神父もコーヒーを全然飲んでない。

まさかカッコつけてブラックにしたけど、苦くて飲めないってオチか?

 

「願いというのは恐ろしいものだよ。叶う可能性があるものは特に」

「それはどうして?」

「どんな手を使ってでも叶えたいと思ってしまうだろう?

詳しくは言えないが、アーチャーのマスターなんて絶対にありえないはずだった願いが叶うチャンスが転がり込んできたって喜んでたよ。きっと彼はどんなイカサマをしてでも勝ち残ろうとするだろうね」

 

アーチャーのマスター。

神話に語られる狩人(オリオン)を、いやもしかしたら女神(アルテミス)を召喚しようとした人物。

故人となってしまっているが、もし彼が健在でアーチャーの力を存分に奮っていたら、大きな脅威となっていたはずだ。

 

「それに、イカサマに関してはぼくも人のことを言えないしね」

「え?」

 

一文字神父の言葉に聞き返そうとして、世界が流転する。

上は下へ。

左は右へ。

 

全身から力が抜けて、座っていたはずなのに崩れ落ちる。

一文字神父その様子に少しも驚いていないようだった。

 

「誰にも言ってないけど、実はぼくもマスターとして参加してたんだよ」

「まあ、こんなこと君みたいな死に損ないにしか話せないけどね」

「毒が効いてくれて本当に良かった。なかなか効かないから心配したよ」

「君のサーヴァントはアサシンだったよね?じゃあ君が消えればそのサーヴァントも敗退だ」

「これで勝者へと近づいた」

 

世界が流転する。

上は下へ。

左は右へ。

神父は悪魔へ。

 

 

そして、生は死へ。

 

 

「ぼくの願いのために、死んでくれよ。ヤシオリくん」

 




前話でアーチャーが主人公を攻撃したのは、自分のマスターの仇であるキャスターと一緒にいたのと、アサシンがいるのにキャスターと共にいる浮気者だったからです。
アルテミスゆえ仕方ないですね。
今回はアサシンと一緒に居たからセーフでした。

ちなみにアーチャーのマスターの聖杯でもないと叶いそうにない願いというのは、不治の病を患った子供の治療とかそんなんです。
最も、その願いは「凄い魔術の才能をもつ跡取りを失いたくない」という実に魔術師らしい感情から来てるんですが。


ご感想お待ちしております


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居候

今回は完全なる平和回です。


教会の扉を前にして、思わずしゃがみこむ。

白昼夢によって立っていられなくなったからだ。

まだ視界がぐるぐると回っている気がした。

目を閉じて、少し意識を集中する。

 

上はどちらだ?

空だ。

下はどちらだ?

地面だ。

俺は死んでいるか?生きているか?

生きている。

 

よし、もう大丈夫。

 

立ち上がり扉を睨む。

この向こうには一文字神父がいるのだろう。

そして彼は俺を殺そうと企んでいるはずだ。

自分が聖杯戦争の勝者になるために。

最もそれは白昼夢があっていたらの話なのだが、今はそうであると仮定する。

 

馬鹿正直に突っ込んだとして、俺は一文字神父に勝てるか?

無理だ。

直接的な攻撃魔術の一つも使えず、装備もまともに持ってきていない俺では、例え相手が平均的な魔術師だとしても手も足も出ない。

今は撤退する他ないだろう。

 

俺は再び扉の向こうを強く睨みつけ、教会から離れた。

 

 

 

 

 

夕日によって赤く染まった中、ガチャガチャと乱暴な音を立てて自宅の鍵を開ける。

近頃調子が悪いのか、どうにも開けにくい。

今度業者に見てもらうべきだろうか。

 

家に張られた結界に変わりがないことを確認する。

地下室を魔術工房として使っているので、念のため結界を張ってあるのだ。

よし、変わりないな。そう

確認した瞬間、激しく反応し始める結界。

今まさに侵入者現れたのだ。

一体どこから?

決まっている。俺が今背を向けている玄関からだ。

防衛本能からか、恐怖からか。

ろくに撃退できる戦闘力もないはずなのに、咄嗟に振り向いて侵入者を確認しようとした。

そこにいたのは……。

 

「へぇ〜、現代の家ってこんな感じなのね。ちょっと狭いけどダーリンとの愛の巣にはむしろこれくらいが丁度いいわね!」

「あ、どうもどうもお邪魔します。俺たちのことは気にせず寛いでください」

 

女神とクマのバカップルだった。

 

 

 

いつまでも玄関にいては話が進まないので、一旦家に上がってもらう。

というかアルテミスが勝手に上がってきた。

突然その頭に乗ったオリオンも一緒にだ。

仕方なしにお茶を出してやり、話を聞く。

 

「あー、俺はやめろって言ったんだけどさ。こいつがいつまでも墓地(あそこ)にいるのは嫌だって言い出してよ」

「なにこのお茶。全然美味しくない……紅茶だして こ・う・ちゃー!」

「オマエは遠慮ってもんをしらねぇのか!?」

 

紅茶なんて我が家には常備されていない。

あるのはせいぜいやっすい麦茶である。

バカップルの戯れを見ながら混乱した頭を働かせるが、全然状況が見えてこなかった。

 

「で、なんで我が家(うち)?」

「だってこっちの世界で知り合いなのアナタくらいなんだもん」

 

アルテミスが麦茶をオリオンに押し付けながら答える。

激安麦茶がそんなに嫌か。

 

「すまん。コイツ言い出したら聞かなくてな。適当な余ってる部屋貸して貰えたらそれだけでいいから」

 

申し訳なさそうな顔をしているが、このクマ言ってることは中々図々しい。

というかアルテミスはワガママで言ってるだけだが、オリオンの方は見込みを持って話を持ちかけているように見える。

アーチャーを仲間にしたいと考えている俺たち側からしたらアーチャーの心象を悪くすることは言いづらいし、共に暮らすことで口説き落とせる可能性も出てくる。

そもそもよく考えたらアサシンがそばにいない今、俺ひとりではサーヴァントの頼みなんて断れる筈がない。

下手に断ったら撃ち殺されて家強奪エンドだ。

クマの癖に頭の回るやつである。

 

「わかった。余ってる部屋でもいいんだな?」

「ああ、それでコイツも文句言わなくなるはずだ」

 

仕方がない。

確か物置にしていた部屋があった筈だから、そこを使ってもらおう。

 

「そういや自己紹介してなかったな。俺の名前は谷栞 勉。これからよろしく」

「はーい!私の名前はアルテミ……じゃなくてオリオンでぇす!よろしくね!」

「ペットとかぬいぐるみとかのオリべぇでーす!よーろーしーくー!あ、そういやアンタ一人暮らし?実は美人なお姉さんと一緒に住んでたりない?」

「ダ・ア・リ・ン?」

 

ギリギリと首を絞められているクマのぬいぐるみは無視して話を進める。

 

「じゃあ、部屋に案内するからついてきてくれ」

「はーい!」

「え、ちょ、俺の無視?あ、やべキマってるキマってる!」

 

 

 

 

「それで、そんなことになっとん?」

 

芋ジャージを見事に着こなしたアサシンがそう確認する。

俺の状況をみてその表情は呆れ返っていた。

 

寝袋に入ったままモゴモゴと反論する。

 

「仕方ないだろ。空き部屋で良いとか言っときながらまさか寝室を取られるなんて考えもしねぇよ」

 

そう、俺が今寝袋に包まってリビングに転がっているのは全てあのバカップルのせいである。

話がついたから空き部屋へ案内しようとすると、目ざとく道中にあった俺の寝室を発見。

一番大きい部屋であることと、空調完備だったのが悪かったのか、アルテミスが寝室を気に入ってしまい、なし崩し的に俺は追い出されてしまった。

許すまじリア充。

 

「しっかし、アーチャーが居候にくるなんて、うちがいない間にえらいおもろいことになってるなぁ」

 

そう言ってカラカラと笑うアサシン。

何が楽しいかさっぱりなのだが、本人は楽しそうだ。

 

「そいや今晩はどないすんの?また使い魔さん飛ばして他のマスター探すん?」

「知らん!俺はもう今日は寝る!おやすみ!」

「もう、不貞腐れてもうて……。なんならうちと夜通し明かす?」

「遠慮しときます!」

 

あ、そういや寝室に明日の分のカッターシャツ置いたままだわ。

明朝にでも取りに行かなきゃ。




オリオンが主人公をストーキングし始めたタイミングは、墓地で別れた直後ではなくしばらく経ってからです。
主人公達が帰ってゆく姿を完全に見送ってから、アルテミスがこんな寂しいところ飽きた!もっと素敵な愛の巣を探し行きましょう!とか言い出し墓地を飛び出して愛の巣を捜索開始。
その後、教会から離れてゆく主人公をたまたま見つけ、そこからずっと霊体化でストーキングしてました。
それと、アルテミスは主人公の家を狭いと表していましたが、彼の家はむしろ結構大きい一軒家です。
そりゃどれだけデカくても神殿には敵いませんて。

ご感想お待ちしています。


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幕間
佐倉アリスの聖杯戦争


タイトルから分かる通り、アリス先輩目線の話です。



佐倉(サクラ)アリスという少女のオリジンは幼い頃に聞いた母親の言葉から始まる。

 

「神はいつでも私たちを見ていらっしゃるから、力の限り信じなさい」

「喜しい時も、怒れる時も、哀しい時も、楽しい時も、常に神に祈りを捧げなさい。祈りは必ず届くはずだから」

「信じるものは救われる。祈れるものは救われる」

 

そんな言葉をアリスの母親はいつも呟いていた。

恐らくそれは自己暗示だったのだろう。

彼女は決して幸せとは言える人生を送っていなかった。

虐げられ、追い込まれ、戯れに拾われて、捨てられた。

手元に残ったのは、自分を捨てた男によく似た娘が一人。

世間知らずの小娘か経験する、よくある話だった。

 

しかし、彼女は立派だった。

生まれてきた赤ん坊を見たとき、どれだけ苦しもうと立派な母親になろうと覚悟を決め、必死に努力した。

だが、頼れるものが誰もいないシングルマザーというのは誰が予想するよりも遥かに過酷なもので、次第に彼女は神に救いを求めるようになった。

 

そして、その命はアリスが7歳になろうかという時に散ることとなる。

子持ちの小娘に許される仕事は全て安月給で、無理に働いた結果だった。

過労によって体を崩し、それからは転げ落ちるように死に向かっていった。

病院にかかる金もまともになく、硬く冷たい布団の上で彼女は生涯を終えた。

その有様をアリスはじっと見ていた。

最期の最期まで愛娘の頭を撫でながら、神に救いを求めながら、死んでいく母親の姿を見ていた。

 

こうしてアリスの中にカミサマが生まれた。

 

 

しばらくして、彼女は遠縁の親戚夫婦に引き取られる。

夫婦はもともと子に恵まれておらず、アリスをとても大切に育てた。

これまでと違ってなに不自由のない生活のなか、アリスは母親と同じように教会に通い始めた。

母親の死を、その悲しみを、カミサマに()()()()()のだ。

 

スクスクと育ち、アリスは中学生になった。

アリスはその頃にはもうクラスで一番と言われるほどの美貌を手に入れていた。

美しい金髪に涼やかな碧眼。

彫刻のような整った顔立ち。

圧倒的だった。

マドンナ扱いされ初めるのも時間の問題だと思われた。

 

だが、その美貌が仇となった。

クラスの中で最も力を持っていた女子生徒に目をつけられてしまったのだ。

気づけば周りに友人は誰一人おらず、靴箱には画鋲が入っているようになった。

彼女はその苦しみを祈りに変えた。

ああ、カミサマお願いします。

神という概念すらも理解せずに、ただ暴力的に願い続けた。

 

ある日、夫の浮気をきっかけにして義両親の仲が砕け散った。

仲の良かった夫婦は、暇さえあれば口論をするようになり、家で気の休まることはなくなっていた。

彼女はその悲しみも祈りに変えた。

ああ、カミサマお願いします。

自分の感情を全て右から左へと流すように、神に押し付け続けた。

 

毎朝毎晩毎日毎春毎夏毎秋毎冬毎年。

何か感情が生まれる度に教会へと足を運ぶ。

祈って(押し付けて)祈って(押し付けて)祈って(押し付けて)祈って(押し付けて)

喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも。

全てを神に祈った(押し付けた)

そうすればいつか、救われると信じて。

 

 

高校生になってしばらく経って、アリスはモデルにスカウトされた。

彼女に新しい居場所ができたのだ。

アリスは神に感謝した。

苦しい学校でもなく、悲しい家でもない新しい居場所を与えてくれたことに。

 

だがしかし、その功績は奮わなかった。

いくら美しかろうとコネの一つもない小娘が生き残れるほどモデルの世界は甘くなかった。

初めは来ていた仕事は、すぐに途絶えてしまった。

そんな中持ちかけられた、モデルの先輩からの紹介。

アリスはその話に乗った。

祈り続けた神からの助け舟だと思ったからだ。

 

そうして、その結末が───

 

 

「なんで……私……そんなつもりじゃ……」

 

止まらない動悸と、体の震え。

アリスの視点の先には、ひとりの男が倒れていた。

でっぷりと太った腹を空に向け、仰向けに倒れる男。

寝ているように見えなくもないが、その男から尚も流れ続ける鮮血がそれを否定していた。

 

そんな筈がない。

そう信じながらアリスは男の脈を確認する。

けれど手首を触ろうが首を触ろうが脈が見つからない。

脈がない。

 

なぜこんなことになったのか?

簡単なことだ。

モデル界に流れるよくあるうわさ。

それが本当で、アリスはその餌食になりかけ、必死になってそれに抵抗しただけなのだ。

激しい揉み合いの抵抗。

バランスを崩した男は、運悪くもその頭蓋骨を砕いた。

 

「なんで……なんでなの……」

 

この話は、神からのご褒美だと思った。

祈り続けた自分へ遣わされた神からのチャンスだと思ったのに。

だがその実態は、権力だけはもっている男の醜い性欲だった。

 

「わたしは、わたしは悪くない!」

 

悪くない筈がない。

誰がどう見たって過剰すぎる防衛。

誰かに見つかったら逮捕は免れないだろう。

そんな事はアリスだってわかっていた。

 

ああ、カミサマ。

と、懲りもせず神に祈る(押し付ける)

その場に膝をついて、願うように祈る(押し付ける)

罪悪感も、恐怖も、不安も。

けれど、今回ばかりは訳が違う。

どれだけ祈ろうと、その罪は許されないとわかっていたから。

神は、殺人を許してくれないと知っていたから。

 

「わたしは………悪くない……」

 

口から絞り出すように声を出す。

そうしなければ崩れ落ちてしまいそうだった。

掠れ掠れになった小声を聞いて、情けなくなる。

視界は()うに歪みきっていた。

ボロボロと頬から雫が落ちる。

 

誰かに、許して欲しかった。

神じゃなくてもいい。この際悪魔だっていい。

とにかく自分を肯定して欲しかった。

誰かに、許して欲しかった(押し付けたかった)

 

「ええ、そうね。貴女は悪くない」

 

独り言だったはずの声に、返答があった。

声変わり前の小さな女の子の声。

 

気づけば見覚えない人影が、男の死体の上に腰掛けていた。

キラキラと輝く白銀の髪。

どこまでも吸い込まれそうな金の瞳。

まるで、天使のようだとアリスは思った。

 

「こんなに怯えてしまって可哀想に」

 

死体から踊るように降り立った少女が、アリスに触れる。

優しく、その涙を掬うように。

 

「だけど、安心して。だって、この男は魔女だもの」

「ま、じょ?」

「ええ、そうよ。人の世界に潜む神の敵。殺すべきモノ」

 

少女が語る。歌うように。(ソラ)んじるように。

アリスを見る金色の瞳はまるで無機質なガラスのようだった。

 

「だから、貴女は悪くない」

 

少女が告げる。

アリスが、求めていた言葉を。

アリスが、求めていた許しを。

涙が止まらなかった。

神は私を見捨てていなかったと、アリスは思った。

神が与えたもうた救いはあの男ではなかった。

この少女こそが、神が与えた救いなのだ、と。

あゝ、その姿はまさに───

 

「天使様……」

「天使?ふふ、違うわ。わたしの名前は■■■■■・■■■・■■■。聖杯によって呼ばれたサーヴァントの一人よ。

あなたが、私のマスターね?」

 

それは奇跡だった。

この部屋に配置された小物が1cmでもズレていたらこんなことは起こらなかっただろう。

だが、奇跡は起こってしまった。

部屋の小物、男の死体、アリスの立ち位置。

それらが、偶然にも原始的な生贄魔法陣に酷似していた。

魔法陣が、成立してしまった。

かくして英霊(キャスター)は舞い降りた。

アリスの遠い先祖の魔術師の血を導として。

 

 

こうして、アリスは聖杯戦争に巻き込まれてゆく。

 




勘が良い人は気づいているかもしれませんが、アリス先輩はめだかボックスの蝶ヶ崎蛾々丸を元ネタにしてます。
今回の話から薄々分かる通り、起源も『転嫁』です。神に祈るというのは責任転嫁に似てるなーって考えてたらこんなキャラが生まれました。
というかここだけの話、キャスターの性格も一部めだかボックスの球磨川からイメージしてます。
この陣営だけ過負荷オーラやべぇな。

次回からはまたFGOキッズくん視点に戻ります。

ご感想お待ちしております。


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3日目
教会


更新遅れました。


つい昨日までは自身の寝室だった部屋の前で、一つ深呼吸をする。

よし、覚悟は決まった。

ドアノブを掴んで勢いよく開く。

こういうのは勢いが重要なのだ!

 

「はーい!おはようございまーす!忘れ物とりに来ましたー!」

 

部屋に入ってまず目に付いたのはくまのぬいぐるみ。

本来は動くぬいぐるみのはずなのだが、何か本に見入っているらしく、俺の挨拶に反応すらしていない。

猛烈に嫌な予感がしてクマが読んでいる本を覗き込む。

それは、俺が丁重に隠していたはずのお宝品だった。

 

「ん?おおツトム。どうしたんだこんな朝っぱらから」

「忘れ物を……じゃなくて!一体どうやってそれを……」

「そりゃあ、ベットの下なんて古典的な場所に隠してたら見つかるだろ」

 

そ、そんな……,

見つけにくいようにとベットに隠し引き出しまで作っておいたのに……。

愛の狩人と呼ばれるだけあって、このクマ只者ではない。

その嗅覚に衝撃を受けつつカッターシャツを回収。

ここでようやく違和感に気づく。

違和感というか、どこをどう見てもこの部屋には本体がいない。

 

「あれ?アルテミス(アーチャー)は?」

「あいつならアンタのとこのアサシンと酒盛りしてるぞ」

「アサシンと?」

「ああ、女子会だとよ」

 

俺がリビングで凍えているうちにサーヴァント達は随分と仲良くなっていたらしい。

というか鬼と神って相性悪そうだけど大丈夫なのだろうか?

女子会ならぬ女死会になってないといいが……。

 

「なあツトム。もっとこういう本ないのか?」

「そこになければないですね」

 

 

 

 

制服に着替え、朝食を準備するためにキッチンに向かう。

昨日はカップ味噌汁とツナ缶丼だったので、今日はメニューを変えよう。

でもなんかあったかな……ああ、そういえばセールで買ったカップラーメンがあった。

朝から食べるものとしてはちょっと濃いが、アレでいいだろう。

 

そうと決まれば、レッツ調理。

キッチンの扉をガラッとあけると、そこには二人の少女。

 

「ん?だんなはんおはようさん」

「うぇへへ〜ダーリンそこはダメよ……」

「お、おはよう。アサシン」

 

一人はシラフのような顔つきで、一人は酷い寝顔を晒している。

二人の周りには空になったボトルが散乱していた。

どうやら相当飲んだらしく、キッチン中に酒臭さが漂っている。

空のボトルを抱きしめてだらしない笑顔を晒す女神を踏まないように気をつけながら、流しに移動。

ポットに水道水を流し込み、沸騰させる。

 

「今日はなに食べるん?」

「カップラーメン」

「らぁめん?」

 

なんだそれ、とでも言いたげな表情を浮かべるアサシン。

彼女が生きていた時代はまだラーメンがなかったんだっけ?

コテン、と首をかしげる様子はとても可愛らしい。

的確にオタクを萌え殺すムーブだ。

うちの推しはこんなに可愛い。

 

「食べてみるか?」

「ええの?」

「沢山あるし大丈夫」

 

冷蔵庫の横に置いてあるダンボールからカップラーメンを二つ取り出す。

味は両方シーフード。

というかシーフードのカップラーメンを箱買いしてるので、シーフードという選択肢しかない。

ポットが音を鳴らして沸騰を教えていたので、二つのカップラーメンに順番に注ぐ。

3分待機。

興味深げにカップラーメンを見ているアサシンが可愛らしい。

 

「よし、もういいだろう」

「へぇ、あんなカピカピの麺がこうなるなんてすごいもんやなぁ」

 

昨日と同じくリビングへ移動し、テレビをつける。

テレビでは、ホテルで見つかった首なし焼死体云々のニュースが流れていた。

アサシンと二人して小さなテーブルにつき、ラーメンをすする。

テレビの音とラーメンの啜る音だけがリビングに響く。

 

「お?なんかうまそうなもん食べてんじゃん。なにそれ?」

「ぁあ!ダーリンだぁ、アレ?すごーい!なんでダーリン分身してるのぉ?」

「うわ、酒臭!ちょっとオマエ酔いすぎだろ!」

「だってぇ、こんなの初めてなんだもん」

 

そこへ、寝室から出てきたオリオンとその声を聞いてキッチンから這い出てきたアルテミスが加わると、一気に騒がしくなった。

 

「なぁなぁ、それ俺にもくれよ」

「ダーリンが食べるならわたしもー!」

 

ふてぶてしく言ってくるクマと、元気よく手を上げてアピールする酒臭い女神。

ああ、今日はお祈りに遅刻するかもしれない。

 

 

 

 

 

教会の扉に立つ。

アーチャーやアサシンと一緒に朝食をとっていると、いつもより遅くなってしまった。

教会に入ろうと扉がに手をかけ、動けなくなる。

つい昨日まではなんの躊躇いもなく開けられたはずの扉が、今は開けるのが怖かった。

やはり酒呑についてきて貰うべきだっただろうか?

いやだがしかし、一文字神父のサーヴァントはきっとセイバー。

アサシンとは致命的に相性が悪い上に、見つかったらきっと必ず殺しに来るだろう。

なら連れてこない方がまだマシ……か?

 

しかし、いつまでもこうしてはいられない。

ついに覚悟を決め、扉を開けようとして微かな違和感を覚える。

早朝にしても辺りが静かすぎるような……?

そんな思考が走ったのも束の間、扉の向こうを見た俺はそんなこと思考する暇すらなくなった。

 

「ぇ……?」

 

瞬時にはその光景を理解するなんて出来ない。

礼拝堂に差し込む清廉なる朝日の中、生々しく光る金属(カタナ)

それは一人の女性によって掲げられており、その美しい姿勢は彫刻のようにも思える。

掲げられた刀が貫くのは小さな体。

 

セイバーによって、キャスターが殺されていた。

 

「キャス、ター……ちゃん?」

 

キャスターがセイバーによって殺されていた。セイバーによってキャスターが殺されて殺されてセイバーによって殺人が行われてあの女によって刀がキャスターを貫いて死んだキャスターは殺人されて殺人の罪がセイバーは狂ったように笑っていないように殺人鬼はセイバーであの体勢で人を殺せるなんてセイバーは殺戮者たる不思議な力を何かから授かった悪魔たる女の魔法の罪の契約した悪魔のセイバーと神は許さない敵の神罰は罪を犯した女はそれはつまり、()()()()()

 

「殺したな……」

 

ああ、なんたることか!少女が()()によって殺されていたのだ!

無垢なる少女が、()()の手によって命を散らした!

視界をずらすと、もうひとり誰かが倒れているのが見える。

どこか見覚えがある美しい金髪。

いいや!それが誰だあるかは重要ではない!

この魔女はもうすでに二人も人を殺しているのだ!

 

「人を……殺したな……」

 

俺の声に反応して()()が俺を見る。

ああ、許せようかこの()()を!

赦せるだろうか、この()()を!

 

「マスター。人払いの結界は張ってあるはずでは?」

「うん。でもこれでいいんだよ。彼は僕がわざと招き入れたんだ」

 

魔女は悠長にも側にあた神父服の男に話しかける。

本物の神父が魔女と会話するなどあり得ない。

あれ神父を装った悪魔に違いない!

 

人を殺した魔女と、神父を装う悪魔。

許せるはずがない!赦せるはずがない!

神は十戒を我らに与えてくださった!

十戒を破るものは許されない!

殺人を許せるはずがない!

あの魔女を見よ!あの悪魔の使いを見よ!

血を反射して輝く刀はまた新しい犠牲者を作るだろう!

あの魔女はまた人を殺すだろう!

神の信徒たる俺たちを殺すだろう!

神の敵たる魔女を!一体!誰が!許せようか!

 

「殺してやるぅぅぅうううう!!!!!」

 

殺せ!殺せ!魔女を殺せ!

神の敵を殺せ!悪魔を殺せ!

殺さなくて如何する!魔女を殺さなくて如何する!

殺せころせコロセ!!

魔女をころせ!

 

 

「彼も敵だ。殺せ、セイバー」

「承知しました」

 

魔女が動く、いや、魔女が動いていた。

気づけば魔女は全てを終わらせていた。

空を飛ぶ視界で、自分の体を見る。

空を飛ぶ視界で、自分の死体を見る。

 

ああ、魔女を殺さなければ。

だれか、だれかあの魔女を───




わかりずらかったかもしれないから細くしておくと今回の死因は、首をスパーンと切られたことによる失血死(?)です。
キャスターが殺される直前にセイバーに魔女宣告を使っており、主人公はそれに巻き込まれました。

ちなみに主人公は魔女宣告によって思考がまとも出来なくなっているために気にしてませんが、ちょっとだけ描写した金髪の死体ってのはアリス先輩のことです。

ご感想お待ちしてます


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選択

「ねえダーリン。これそろそろ開けていいのかしら?」

「まだお湯を入れてから1分だぞ」

 

話し声を聞いて、ふと目が覚める。

隣を見ればアサシンが、正面を見ればアーチャーの二人が座っていた。

手元を見る。

熱々のカップラーメンが湯気を立てている。

良い香りがしていて、実に美味しそうである。

ああそうだ、確か今はオリオンとアルテミスの分のカップラーメンをダンボールから出してやって、お湯を入れてやったところだ。

俺はなんでこんな事をわざわざ確認したんだっけ?

それは白昼夢を見たせいで意識が朦朧としていたからで……。

 

今度こそ完全に目が醒める。

俺がさっき見たのはどんな白昼夢だった?

俺が死んだ。いやそれはいつも通りだ。

キャスターが死んだ。

アリス先輩も死んでいた。

 

ガタリと大きな音を立てて椅子から立ち上がる。

素早く時計を確認。

今から家を出たらいつもより少し教会に着くだろう。

急がなければ、手遅れになる。

 

「どないしたん?急に立ち上がって」

 

ズルズルとラーメンを啜りながらアサシンが話しかけてくる。

俺のサーヴァント。アサシン、酒呑童子。

彼女を連れて急げばアリス先輩たちを救えるか?

敵はセイバー、源頼光だ。

セイバーとアサシンという等倍同士ながら、相手はこちらに刺さる特攻を持っている。

しかも二重。とてもじゃないが相性がいいとは言えない。

 

ならばどうする?

いいや、悩むまでもない。

こういう時の戦法は───令呪と聖晶石(アイテム)だ。

 

 

俺の使う魔術系統は錬金術(アルケミー)だ。

とは言っても、パラケルススのように賢者の石をポンポン作ったりなんか当然できない。

というか賢者の石をポンポン作るとかパラケルススって実は凄いキャスターなのでは?

話を戻そう、俺が出来るのは精々が酒精を媒体とした錬金術だ。

錬金物は主に魔法薬。

飲んだら体を強化する酒や爆発する酒、かけることで体にバリアを張る酒、その他いろいろを作っている。

ぶっちゃけ前者の二つはドーピング薬と火炎瓶と結果は変わらないのだが、逆にそれ相応の効果はあるとも言える。

 

俺はその(錬金物)たちを、片っ端から鞄に詰めていた。

 

「ほんまなんかあったん?そないなぶっそぉなもん持ち出して」

 

魔術工房の出入り口に寄りかかっていたアサシンが話しかけてくるのを聞きながら、大小様々な入れ物に入った酒を割れないように気をつけながら学生鞄に詰める。

漫画やアニメとは違ったボストンバック型の高校指定鞄を、ずっとダサくて邪魔くさいと蔑視していたが、今だけは許容量が多い鞄がありがたかった。

 

「これから教会でキャスターとセイバーの戦闘が起こる」

「それで?」

 

身体強化(ドーピング)の酒と、防壁(バリア)の酒を二つ手に持ち、吟味する。

この二つに関しては鞄に詰めてバックなら持って行っても意味がないだろう。

流石にリアルでバフを盛ってるのを目の前で待ってくれるとは思えない。

意を決して、身体強化(ドーピング)の酒を一気に煽る。

人生初の飲酒のはずが、どうにも薬臭く美味しくない。

とてもじゃないが、いい思い出とは言えないな。

 

「だから、急がなきゃキャスターが殺されちまうんだよ!」

 

語尾が荒だっているのを自覚しながら、防壁(バリア)の酒を頭から被る。

 

「せやから、それで?」

「は?だから、」

「別にええやんそんなこと」

 

凄まじい速さで気化していく酒。

その匂いに皮をしかめた。

 

アサシンを見る。

いつも通りケラケラ笑っていた。

 

「キャスターとセイバーが潰し合うんやろ?両方敵同士、別に割り込む必要なんてあらへんわ

敵と敵が潰し合う。そのまま行けばひとり消えて、運が良ければふたり消える。ええこと尽くしや」

 

何を言ってるんだと反論しようとしたが、口から言葉は出なかった。

だってアサシンは何も間違ったことを言っていないから。

声を出さないまま、口をパクパクとする俺のにアサシンが続ける。

 

「だんなはん聖杯戦争ってどないなもんかわかってはる?殺し合い(ばとるろわいやる)や。願い叶えるために英霊を4人殺す。それが聖杯戦争ってもんやろ?」

 

言われなくてもわかっている。

わかっているつもりだった。

聖杯戦争は聖杯探索(グランドオーダー)とは違う。

信じられるのは自分のサーヴァントただ独りだけ。

それ以外は皆が敵。殺すべき相手。

共闘なんて出来ない。共生なんて出来ない。

あの愛らしいキャスターだって、そしてアリス先輩(そのマスター)だって殺しあうべき敵なのだ。

 

持っていた鞄を手放したことで、鞄に詰まった酒瓶たちがカチャカチャを音を鳴らした。

今まで見てきた白昼夢を思い出す。

キャスターに()られた。バーサーカーに殺られた。セイバーに殺られた。アーチャーに殺られた。

みんな、みんな俺を殺そうとしていた。

みんな、みんな俺の敵だった。

 

「せやから、他の陣営どおしの潰し合いなんてほっとけばええんやん?」

 

FGOのようにみんなで仲良くするなんて出来ない。

皆が誰かを殺すタイミングを見計らってて、皆が誰かに殺されないように警戒している。

たとえアリス先輩(ダレカ)が死んだところで、それはその人のミスに過ぎない。

 

「ああ、そうだな」

 

俺が、助ける必要なんてない。

俺が、頑張る必要なんてない。

全身から力が抜けるようだった。

全身から気が抜けるようだった。

 

「……リビングに戻ろうか。アーチャーたちも待ってるだろうし」

 

鞄を床に放り投げたまま立ち上がる。

今の俺には必要のないものだ。

だって、キャスターとセイバーの戦いに割り込む必要なんてないんだから。

俺はただ、敵のサーヴァントを倒すことだけ考えておけばいいのだ。

敵のサーヴァントを救うのは俺がやるべきことじゃない。

 

「うん、顔が変わった。やっと(カシコ)うなってくれたんやね」

 

アサシンは笑っていた。

その笑顔はいつものケラケラとした愉快そうなものではなく、苦笑にも近いものだった。

 

一方俺は、アサシンによって(モタラ)された答えに、目が覚めたようだった。

アサシンの言葉を聞いて、やっぱりそうだと安心する。

こっちの方が賢い選択だ。

こっちの方が正しい選択だ。

 

魔術工房から出ようと、アサシンの横を通ろうとする。

 

───本当に?

 

小さな疑問が湧き出て、思考が急速に回り出す。

本当にこれが正しい選択か?

狂っていた歯車が急に噛み合ったように、思考が軽快に回る。

思い出せ。思い出せ谷栞 勉。

もしもこんなとき、物語の主人公ならば───藤丸立花(FGO)ならばどんな選択をする?

 

「ああ、賢うなってくれて本当に」

 

高速思考の中でアサシンの甘い声が聞こえる。

 

見捨てるはずがない。

彼ならば、彼女ならば見捨てるはずがない。

賢い(こんな)選択なんて、するはずがない!

思い出せ!俺は誰に憧れた?

思い出せ!俺は何に憧れた?

こんな選択、正しくない!

覚悟を決めろ。

俺は───

 

「おもろないわ」

 

 

アサシンの甘い声。

血肉が貫かれる音。

 

そして、俺の意識は途絶えた。

 

 




アサシンは主人公のことをバカだと知ってます。
そして、バカだからこそ気に入っていました。
またバカなことをしようとしてたから、すこしちょっかいを出してやったら主人公が『賢い選択』をしようとしたので、壊れたおもちゃを処分するが如く殺しました。
アサシンとしてはこの後はapoジャックのように主人公の心臓を食って、次のマスター(おもちゃ)を探し出しに行くつもりです。

そして変な方向に覚醒しようとしてる主人公。
次回にご期待ください。

ご感想お待ちしてます。


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愚行権

プリズマコースの周回やってたら更新に日が空いてしまいました。すみません。


「せやから、他の陣営どおしの潰し合いなんてほっとけば───」

「それでも俺は、二人を助ける」

「……だんなはん、はなし聞いとった?」

 

アサシンを睨みつける。

彼女は面白そうに笑みを深めた。

 

そうだ。

これは愚かな選択かもしれない。

いいや、きっと間違いなくバカな選択だ。

でも、そうだとしても!

 

「その上で、俺はこちらを選ぶ」

 

「……全くだんなはんはおもろいなぁ」

 

アサシンから目を離し、作業を再開する。

なるべく使いやすいように精一杯工夫を凝らしておく。

正念場であたふたしたら目を当てられないからな。

携帯を取り出して時間を確認する。

まだ間に合う時間だ。

今から行けば、俺がみた白昼夢(ミライ)を変えられる。

アリス先輩とキャスターを救えるのだ。

 

鞄を持って立ち上がると、鞄からカチャカチャと音がした。

 

一つ大きく呼吸して、アサシンを見て告げる。

 

「よし、行くぞアサシン」

「ふふ、しゃぁないから付きおうたるわ」

 

 

 

 

 

 

厳かな雰囲気に満ちた教会の中、二体の英霊(サーヴァント)が対峙していた。

一人は、刀を携えて時代錯誤な装備を身に纏う妙齢の女性(セイバー)

一人は、ゴスロリのような愛らしい衣装に身を包んだ幼い少女(キャスター)

その側にはそれぞれ狐目の神父と、美しい少女を連れていた。

 

「ああ、恐ろしいわ。神に仕える神父が、こんな女と繋がっていたなんて」

 

キャスターが口を開く。

演技がかってすら見える大袈裟な口調を、セイバーは構えることもなく眺めていた。

余裕にすら見える態度。

当たり前だ。セイバーにとって、キャスターはすぐに殺せる小娘に過ぎない。

警戒する必要すら、ない。

 

キャスターがまっすぐにセイバーに指を向ける。

 

「あなた、」

 

けれどそこから先の宣告は紡がれなかった。

教会中に衝撃音が響き、建て付きの悪かった扉が派手に宙を舞う。

予想外な自体にキャスターが動きを止め、警戒からか必然と四人の視線はその音を出した犯人へと向く。

入り口に佇む人影は、自分に存分に視線が集中しているのを実感し、

 

「壊してもうたわ。ふふ、かんにんな?」

 

乱入者(アサシン)は、はんなりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

セイバーを見る。刀すら抜いていない。

キャスターを見る。死んでいない。

アリス先輩を見る。怪我一つしていない。

間に合ったのだと実感した。

セイバーが二人を殺す前に、間に合ったのだ。

思わずへたり込みそうになるのを抑え、状況を把握する。

セイバーが刀すら抜いていないあたりを顧みるに、どうやら戦闘が始まる前に割り込めたようだ。

 

「あれ?セイバーって牛女やったんか」

「え?知らなかったっけ?」

「聞いてへんけど?ただえらい強いセイバーとは聞いてたけど」

 

アサシンとの情報のズレに暫し考えこむ。

なんでだろう?だって何度も会ってるはずなのに……。

あ!いや違うぞ。そもそも俺自身もセイバーには会ったこれが初対面じゃないか。

あくまで俺は白昼夢の中でセイバーに会ったに過ぎない。

現実では今回が初めましてだ。

というか改めて見たらセイバーの胸すごいな。人体の神秘を感じる。いや、鬼体か?

すぐに視線が吸付けられるから気をつけないと。

 

ウチ(教会)の扉を吹き飛ばすなんてひどいな。買い換えなきゃいけないじゃないか」

「建てつけも悪くなってたし、買い換え時だったから丁度いいだろ?」

 

狐の様に細い目からは、心情が全く読み取れない。

けれどその声音には動揺の色が少しも伺えず、身構えもしていない佇まいからは随分と余裕があるように見える。

白昼夢でも彼は同様に俺の登場に驚いていなかった。

むしろ自ら招き入れたと言った旨の言葉を言っていた気もする。

 

「や、谷栞くん!?」

「おはようございます。アリス先輩」

 

反面、アリス先輩は実にわかりやすく驚いてくれた。

元々大きな碧眼がこれでもかと見開かれている。

その側にいるキャスターも同様。

この二人は一文字神父とは違って驚きで構えを取れていない。

 

その三人とは違い、明確に俺たちに敵意を向けるのが一人。

 

「こんなところにまで湧いてくるとは、害虫とは本当に目障りですね」

 

腰に下げた鞘から、見せつけるようにゆっくりと童子切安綱(カタナ)を引き抜く。

臨戦態勢というやつだ。

その瞳はまっすぐとアサシン(酒呑童子)を射抜いており、その側にいる俺としては非常に怖いのだが、当のアサシンはニヤニヤと笑っている。

なんだか俺が召喚してからで一番愉快そうな笑顔だ。

 

「よし、じゃあアサシン。作戦通りに」

「作戦ゆぅてもウチはセイバー(牛女)を抑えとけばええんやろ?相手があの牛女なら俄然やる気もでてきたわ」

 

本当に心底楽しそうだ。

これだけご機嫌ならきっといい仕事をしてくれるだろう。

 

魔術回路を解放、全力でアサシンへ魔力を供給する。

あらかじめ呑んでおいた魔術酒によって、ドーピングされた魔術回路が悲鳴をあげた。激しい痛みが走るが、これくらい覚悟の上だ。

だが、まだ足りない。

この程度では、セイバーに負けてしまう、そう経験(FGO知識)からわかっていた。

故に、見せつけるように右手の袖をめくりあげる。

前腕に刻まれた赤い紋章(令呪)は、煌々と輝いていた。

 

「令呪をもって命じる!『セイバーを3()()()抑えつけろ!』」

 

高密度の魔力で編まれた令呪が紐解かれ、命令を完遂させる為にアサシンを強化する。

アサシンの話によると、令呪は具体的な命令ほど効果が上がるらしい。

教会に来るまでの間で二人で話し合った結果、俺たちはそこからさらに時間制限をつけることにした。

星5サーヴァントであるアサシンに令呪を3分限定で作用させる。

結局のところ力押しでしかないが、これだけやればアサシンが負けることはないはずだ。

 

令呪の発動を感じると共に、腕時計のタイマーを起動させる。時間は当然3分。これが鳴り出したらアサシンが殺される可能性が生じてくる。

まあ、つまり───

 

「3分間でカタをつけてやる!」

 

突進めいたアサシンの攻撃によってセイバーが吹き飛ばされたのと同じくして俺も走り出す。

アリス先輩とキャスターのすぐ側までたどり着くと、鞄から取り出しておいた比較的小さな酒瓶を一文字神父の足元へ投げつけた。

 

「くらえ詐欺神父!」

 

床にぶちまけられた酒から弾けるように煙が発生する。

すぐさま視界が真っ白に染まり、辺りをほんの少し先も見えない白い暗闇が覆い尽くした。

見た目はただの煙にしか見えないが、魔術によって付与された効果により、この煙に包まれた者は上も下も右も左も、なんなら時間だってわからなくなっているはずだ。

もっとも術者の俺を除いて、だが。

煙のなか右往左往していたアリス先輩を見つけ出し、その腕を掴む。

アリス先輩(マスター)さえ連れて行けば、サーヴァントであるキャスターなら容易に抜け出せるだろう。

 

「アリス先輩!こっちに!」

「えっ?」

 

驚いたままのアリス先輩を半ば無理やり引っ張りながら、戦線離脱を図る。

俺の目的は別にセイバーを倒すことではない。

アリス先輩とキャスターの救出、それが目的なのだからセイバーを抑えてこの場から逃げ出せばいい。

一文字神父は煙に包まれる直前に相当警戒していたようだから、攻撃が来るかもしれない可能性を考えて動けないはずだ。

 

セイバーはアサシンによってこの場から引き剥がされ、抑えられている。

一文字神父は煙の中で俺からの攻撃を警戒して動けない。

となると後はアリス先輩を連れて逃げるだけ!

三分もあれば余裕だ。

 

けれど、そんな俺の甘い計画はすぐに覆された。

アサシンとセイバーの戦闘音とは違う、破壊音が教会に響く。

硬いモノを砕く音と、同時にやってくる衝撃波。

それによって煙が掻き消される。

 

「なっ!?そんなのありかよ!?」

 

衝撃波の中心にいたのは一文字神父。

けれど、その足にはバチバチと帯電する灰色の鎧甲を身に纏っていた。

足元をみると、蜘蛛の巣状に罅が走った砕かれたコンクリートの床。

震脚という言葉が脳裏に浮かぶ。

前世でみたアニメでキャラクターが似たようなことをしていた。

けど現実でやるか普通!?サーヴァントじゃねぇんだぞ!?

 

「こまったな。荒事はあんまり得意じゃないんだ」

「そんなバカみたいなことしでかしてといてよく言うぜ」

 

余裕たっぷりの一文字神父に適当な言葉を返して時間を稼ぐ。

幸いながら逃げの一手を選んでいた為に一文字神父と俺たちの距離は稼げている。

カツカツと音を立てて地面を蹴っている一文字神父を改めて見る。

一文字神父の装備は見た感じ足鎧だけだ。

そして多分だか、あの漫画みたいな震脚はあの足鎧の効果だと思われる。

自身の身体能力であんなことをするには、彼の身体は些か軟弱過ぎる。

アサシン(酒呑童子)セイバー(源頼光)のように種族からして違うならまだしも、そうポンポン鬼が現代に生きてたらたまったもんじゃない。

そもそも昨日毒を用いて俺を殺そうとした辺りを考えるに、彼自身の戦闘力はそう高くないとはずだ。

もし素の戦闘力があれだけあるのならば毒なんて使わずに殴り殺す方が早い。

それに足鎧一つであの威力を出しているのだとしたら、攻撃力以外に取り柄はないはず。

つまり、この距離を一瞬で詰めてくるなんてことはないはずだ。

ならば遠距離攻撃でチマチマ牽制しながら退却すれば……。

よし、光明が見えてきた。

ならば鞄からあの酒とあの酒を取り出して───

 

「だから、僕はこれに頼らせて貰うよ」

「は?」

 

神父の袖口から突然現れた黒い銃口(ナニカ)

彼はその引き金を、俺に真っ直ぐに向けて躊躇(タメラ)いもなく引いた。

 




同盟も結んでない相手を助ける為に令呪使うとか、率直にいってバカの権化なんですけど、主人公は実はもっとバカなんですよ。
「迷宮」で描写しましたが、なんと彼はFGOのように令呪が一日経ったら復活するって思い込んでいるのです。
そんな勘違いをしていたからこそ出来た作戦ですね。

一文字神父が装備している鎧甲というのは執行者の装備である灰錠のことです。
設定的には黒鍵よりもこっちの方がメジャーらしいんで灰錠を使わせました。けれど手足じゃなくて足にのみ装備って感じです。
そして一文字神父の身体能力は主人公の見立て通り言峰みたいに超人ではありません。むしろ弱い方です。

あと主人公がすごい必死に考えたり銃で撃ち殺されたりしてる時アリス先輩はいつも通り恐怖を神様に祈って(押し付けて)ました。
ご感想お待ちしてます


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脱出

ノルマ未達成(へいわ)回です。


夢を見る。

俺の夢の結末はいつも同じだ。

自分で死んで、驚いて起きる。

白昼夢を見る、

白昼夢の結末はいつも同じだ。

自分が殺され、目が覚める。

 

 

「こまったな。荒事はあんまり得意じゃないんだ」

 

一文字神父を睨みつける。

服装は神父服、眼鏡をかけて、足には鎧甲。

そんな装備だけのようにみせかけて、彼は袖に小型銃を仕込んでいる。

確信はない。だが経験がある。

その小型銃によって撃ち殺された白昼夢(経験)が。

 

コツコツとわざとらしく神父は床を蹴る。

足元へ視線を集中させようとしているのだろう。

その隙に袖から小型銃を取り出してバンッ!

詐欺師みたいな手だ。

 

「そんなバカみたいなことしでかしてといてよく言うぜ」

 

わざと白昼夢と同じセリフを返す。

注意は足元へ向いているように見せかけながら。

情報とは武器だ。

どんな難しいゲームだろうと攻略(情報)さえ知っていればクリア出来るように、どんな難しい状況だろうと未来(情報)さえ知っていれば打破できる。

ゆえに、知らないフリをする。

小型銃なんて考えてもみない素振りをする。

絶対に相手の手元は見ない。

そもそも見る必要すらない。

 

「だから、僕はこれに頼らせて貰うよ」

 

白昼夢と全く同じセリフ、全く同じ動作で一文字神父が小型銃を飛び出す。

そして、ここまでくればわかるように、その狙いも白昼夢と全く同じ。

身体強化(ドーピング)の酒の効果にモノを言わせて、少し体をズラして弾丸を回避する。

どこにどのタイミングで弾が飛んでくるのかを身をもって知っているのだから、その回避くらい容易い。

 

回避と同時に鞄へ手を突っ込み、驚きからか初めて表情を歪めていた一文字神父の元へ酒瓶を投げる。

赤いラベルが特徴的な雫型の酒瓶、その中身は火炎の酒。

床にぶつかることで瓶が割れた瞬間、一文字神父に激しく燃える炎が襲いかかった。やっぱこの酒の効果ってただの火炎瓶だよな……。

見た目的にも効果的にもマジカル要素が恐ろしく少ない。

次いで鞄からもう一つ酒瓶を取り出し、今度は自分たちの足元に叩きつける。

効果は簡易幻術。

酒の水たまりから向こう側がボヤけて歪んで見えるようになる。

そして、それはあちら(一文字神父)も同じ。

こんな視界じゃあ銃撃もままならないだろう。

再びアリス先輩の手を強く握る。

タイマーを確認すると丁度2分半を過ぎたところだった。

 

「よし、撤退するぞアサシン!」

 

念入りににもう一つ火炎の酒を投げつけ、俺はなんとかアリス先輩を連れて教会から逃げ出した。

 

 

 

 

「ここまで来れば大丈夫かな」

 

教会へ行く道すがら用意しておいた結界へ逃げ込む。

効果は人払いと侵入者探知、それと中の様子をはっきりと認証できなくなる幻術の三つ。この幻術はアサシンの角にかけてやったのと同じ効果である。

場所としては公園、しかも小さくて地味な人気(ニンキ)のない公園だ。

正直教会から抜け出す時にセイバーか追ってくる可能性も考えていくつか対策を考えていたのだが、意外なことに呆気なく見逃してくれた。

 

「おつかれさん。結構上手(うも)ういったねぇ、うち絶対だんなはんが死にかけるくらいはしてくらはると思うとったのに」

 

どこか残念そうな表情を浮かべるアサシン。

声音こそ冗談っぽいが、その表情はガチである。

こいつ人になに期待してんだ。

 

「そんな簡単に死にかけてたまるかよ」

「あらそぉ?じゃあ次に期待しとくわ」

 

次にも期待するなよ。

本来ならなんやかんやと文句を言ってやりたいところだが、我慢しておこう。

なにせ憂鬱そうな推し(アサシン)の顔が素晴らしいからな!

 

「あの、谷栞くん?その、色々説明してもらってもいいですか?」

 

アサシンと戯れていると、アリス先輩が自信なさげに話しかけてくる。

その側にはちゃんとキャスターも一緒だ。

というかキャスターがとても不気味だ。

これまでの白昼夢だとこんな時は即襲ってきていたのたが、今回は羊の人形を抱きしめて何も言わずに佇んでいる。

大切そうに羊の人形を持っている辺り少し嬉しかったが、そこはまあ割愛。

 

 

アリス先輩に説明を行なっていると、驚きの事実が浮き彫りになった。

なんとアリス先輩はマスターであるのに関わらず、聖杯戦争について殆ど何も知らなかったのである。

自分のサーヴァントであるキャスターすらも、神の使いだと信じていたらしい。

どんだけ信心深いんだこの人。

彼女の言い分としては神の使いであるキャスターが何かしてるのは知っていたが、詳しくは把握していなかった。

神様から任された仕事をしているのだろうと思っていた。

魔女は殺すべし。

だいたいそんな具合だ。

 

「……と、まあこんな感じですね」

「聖杯戦争……そんな事が起きていたのですか。ああカミサマ……」

 

祈り出した先輩を横目に、今度はキャスターと向かい合った。顔を覗き込むと、その瞳が揺れる。

けれど、その瞳がアサシンを捉えると、キャスターは覚悟したかのような顔つきで俺に尋ねた。

 

「ねぇ、ツトムおにいちゃんは」

「魔女じゃないぞ」

 

なんとなく嫌な予感がしたので食い気味に答える。

いや、彼女の質問が魔女関連かどうかはわからないが、これまでの白昼夢(経験)上、先に否定しておく方がいいと思ったのだ。

 

「ほんとうに?」

「本当だとも」

 

キャスターが不安げな表情を浮かべるので、あえて大袈裟に自信満々の様子で答えてやる。

ここで黙ったり、自信なさげにしたらロクでもないことになるのは薄々わかってるのだ。

 

「じゃあ、証明できる?」

「ああ、証明できると……証明?」

「そう。証明」

 

だんだんと白昼夢で見た雰囲気に近づいてゆくキャスターに、嫌な汗が流れる。

チラリとアサシンへ目を向ける。

楽しげに手を振ってくれた。違うそうじゃない。

だが、どうやら俺とキャスターの会話には注目しているようなので、いざとなったら助けてはくれるだろう。

しかし、キャスターの能力は未だ不明なのだが、敵対した時点で地獄を見るのは白昼夢でよく知っている。

 

「えっと、証明って何すればいいのかな?」

「ふふ、大丈夫。おにちゃんが本当に魔女じゃないならなんともないはずだわ」

「そ、そうだね」

 

魔術師って魔女じゃないよな?

そもそも俺、男だし。大丈夫だよな?

 

キャスターがどこからともなく取り出した儀式槌(ガベル)を振る。

すると、今まで何もなかったはずの空間に巨大な鍋が現れた。

焚き火のような火にかけられ、グツグツと煮えたぎっている。

 

猛烈に嫌な予感がしてきて、本格的に冷や汗が吹き出る。

ブリキのようなぎこちない動きてキャスターを見ると、彼女の雰囲気はもう完全に白昼夢で見たものと同一になっていた。

昨日一緒に遊んだ時とは違う、どこか妖艶さ漂わせた笑みでキャスターが告げる。

 

「神明裁判よ。神のご加護があるならば、熱湯に手を浸しても火傷し(醜くなら)ないはずだわ」

 




銃弾避けるとかおかしいだろってツッコミか来るかもしれないので補足しておきます。
まず主人公が魔術酒のんでドーピングしているというのもありますが、他にも主人公の起源も関係してます。
主人公の起源は「回避」
死亡フラグを一度の死に戻りで避けられるのもこの起源のおかげです。もし主人公が起源覚醒したら流水制空圏みたいなことができるようになるかもですね。起源覚醒予定はないですけど。

魔女狩りっていうのは性別関係なく行われたらしいですね。
日本語では魔女と訳していますが、本来はWitchなので別に女性に限らず、怪しげな者なら男だろうが女だろうが対象にされたそうです。

ご感想お待ちしてます。


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神明裁判

しんめいさいばん 【神明裁判】
神意を受けて、罪科または訴訟を決定するという考えから行われた裁判。鉄火・熱湯・くじなどを用い、正しければ神の加護により罰を受けないとした。

デジタル大辞泉より引用




グツグツと煮えたぎる鍋をみる。

今朝食べたアツアツのカップラーメンより遥かに熱そうだ。

この中に手を突っ込め?

それで火傷してなかったらセーフ?

バカじゃないのか?火傷してない方が余程怪しいだろ。

 

「冗談、だよな?」

「まさか。これは私の時代でも使われていた魔女を見分ける素晴らしい方法だわ」

 

キャスターの目は本気だ。

本気でこの方法で魔女を見分けられると信じている。

正気じゃない。

いや、そういえばFGOでもアビゲイルは狂気っていうクラススキル持ってたな……。

バスターUPだけでいいのになんで本当に狂ってしまったのか。

 

『なんとか打開策とかないか!?』

『魔術師なら魔術つこうて治せばええやん』

『俺にそんな高度な治癒魔術使えねぇよ!』

 

思わず念話で救いを求めるが、叶わず。

俺を心配する様子もなく、カラカラと笑っている。

どうやら止めるつもりはないらしい。

 

くそ、どうするべきか。

もしここで俺が躊躇って熱湯に手を突っ込まなかった場合、キャスターは俺を魔女認定して襲ってくるだろう。

そのカウンターとしてアサシンがキャスターを殺害、なんてことも普通にありえる。

わざわざ命張って助けたのにそんなことになったら本末転倒もいいところ。

なんとかしてここはやり過ごさなければいけない。

 

鍋の手をかざしてみる。蒸気に手が包まれた。

グツグツと浮かんでくる泡が、炭酸ではないことが証明されてしまった。

見た目は熱湯にしか見えないが、実は炭酸水でしたーなんでオチは用意してくれてないらしい。

 

けれど、どうにも妙だ。

蒸気に手を包まれているというのに、その熱を感じない。

それどころか湿り気すら感じない。

まさな幻覚?きっと本物だろう。

そもそもあのキャスターがそんな手心を加えてくれるとは思えない。

白昼夢の中では慈悲もなく殺しに来ていた。

だとしたら、何故だろう?

 

あ、いや……まさか……そうか!

ならばイケる!これならイケるぞ!

 

「この熱湯に手を浸すとして、どれくらいの時間すればいいんだ?」

「そうね……じゃあこのロザリオを取って貰おうかしら」

 

自分の首元からロザリオを取り、チャポンと音を立てながら鍋にロザリオを投入する。

よしよし、ツイてるぞ。

もし鍋に数分間手を浸しっぱなしにしろ言われたら詰んでいたかもしれないが、鍋の中のロザリオを取るくらいなら()()()()()()

 

「この鍋の中のロザリオを取って、火傷してなかったらいいんだな?」

「ええ、そうよ」

「言質とったからな!」

 

胸の前で十字を切り、神に祈る()()をする。

「我にご加護を〜」とかそんな感じでブツブツ呟き。

しばらくそうした後、カッと目を見開いて鍋に手を思いっきり突っ込んだ。

そして、鍋底を漂っていたロザリオをわざと時間をかけてを掴み、今度は勢いよく引き抜く。

ゆっくりを手を開き、ロザリオを視認。

 

「これほどの加護を……おお、我が神を感謝します」

 

そして締めには神へ感謝するフリ。

 

俺の腕は、そもそも()()()()()()()()()()

 

その理由は極めて単純。

今朝に頭からかぶっておいた防壁(バリア)の酒の効果である。

その効果は防壁といいながらも体の表面に保護膜を張ってくれる程度なのだが、今回はそれがシチュエーションにドンピシャだった。

頭からかぶらなきゃいけないし、酒臭いし、効果は微妙だしとあまり信用していなかったのだが、何事も備えて置くものだ。

 

「これは……たしかにツトムおにいちゃんは魔女ではないみたいね。良かった」

 

正直俺からしたら熱湯に手を突っ込んで全く濡れてない方が魔女っぽいのだが、どうやらキャスター的にはセーフだったらしい。俺が頑張った大袈裟な神への祈りのおかげもあるかもしれない。いや無いな。

キャスターが纏う雰囲気が、不気味で狂気的なモノから昨日のような年相応の少女のものへと戻る。

難は去ったようだ。

 

 

 

「それで、これからどうしましょうか」

「どうしよう、とは?」

 

なんとか未曾有の大ピンチをくぐり抜けた俺は、これからの事に頭を悩ます事になった。

あざとく首を傾げるアリス先輩に和みながら、一文字神父の思考を考えてみる。

白昼夢からの情報によると、どうやら彼はどうしても叶えたい願いがあるらしい。

それを叶えるためにどんな手を使ってでも聖杯戦争に勝とうとしている。

彼が従えているサーヴァントは、セイバー源頼光。

アサシンとは致命的に相性が悪く、白昼夢内ではキャスターもあっさりとセイバーに殺されていた。

いや、そもそもアサシンにもワンパンされていたし、キャスター自体があまり強くないのかもしれない。

星5のアルトリアがオルタになった途端星4に下がることもあるのだから、彼女(アビゲイル)もその同類だろう。

キャスターのレア度は置いといて、セイバーはとにかく強い。

準人権鯖と呼ばれていただけあって、もしかしたら今回の聖杯戦争では最強な可能性すらある。

少なくともアサシンやキャスターがタイマンしても勝てる気がしない。

だとしたら、このままアリス先輩と手を組んでしまうのが一番いいだろうか。

二体掛かりならなんとかなるかもしれない。

本当はFGOと同じように三体パーティを組めたら一番なのだが、アーチャーは力を貸してくれそうにないし、バーサーカーとは敵対関係だ。

 

だとしたら、俺が取るべき行動は……。

 

「先輩。とにかく今は学校に行きましょうか。流石に学校では手を出してこないでしょうし。詳しい相談は道すがらにでも」

 

魔術の秘匿はこの世での常識だ。

俺も父親に口を酸っぱくして教え込まれた。

下手に家に引きこもるよりは、人が多い場所に紛れたほうがずっと安心だろう。

 

 

 

 

 

「じゃあ、放課後また校門(ここ)で」

「はい、わかりました」

 

そうして、俺は初めて放課後の約束をしながら先輩と校門で分かれた。

 

 

 

「待ちました?」

「いえ、私もいま来たところですから」

 

周りから突き刺さる嫉妬の視線に思わず愉悦を覚える。

ふはは、美人な先輩とのデートみたいなやりとりが羨ましいか非モテども!

お前たちも俺のようになりたいならまず教会で祈るところから始めるんだな!

 

「あの、どうしました?そんなにキョロキョロして」

「問題ないです。無問題(モーマンタイ)です。とりあえず行きましょうか」

 

朝の約束どおり合流してから、アリス先輩と二人で帰宅路を歩く。

今朝、登校しながらサーヴァントたちの意見も聞きながら相談した結果、やっぱり協力同盟を組むことになった。

なったのだが……なんというか、英霊というやつらは実に恐ろしいもので、サラッとトンデモない提案をしてくる。

一番初めはキャスターだった。

少女らしい無垢な表情で「せっかく同盟を組むのだから、しばらくは一緒に住んだらどうかしら?」なんて言い出した。

アサシンは面白がってそれにノリノリで肯定。

なぜかアリス先輩も断らなかった結果、アリス先輩は聖杯戦争中はうちに泊まることになったのだ。

確かに完全なる一般家庭であるアリス先輩の実家にいるより、魔術師の家であるうちにいる方が防衛力はあるのだが、美人の先輩が家に泊まりにくるだなんてギャルゲやエロゲみたいなシチュエーションに困惑を隠せない。

あ、そういやfateって元々はエロゲなんだっけ?

興味ないから全く調べたことなかったけど、もしやこのシチュエーションもそのせいなのだろうか……?

 

「そういえば、うちに泊まるのはこの際いいですけど、ご両親は大丈夫だったんてすか?」

「はい、大丈夫です。ちゃんと了承はとっておきましたから」

「そうなんですか。じゃあ安心ですね」

「荷物もキャスターちゃんとアサシンさんに頼んで学校をやってるうちに運んで貰いました。準備万端です」

 

ふんす、と自信満々に答える。実にあざとい。

そんな具合に会話に花を咲かせながらアリス先輩と帰る。

何度も行きだけじゃなく帰りもアリス先輩と一緒にいたいな、なんて考えたことがあったがまさかこんな突然叶うとは……。

無意識に少しはしゃいでしまう。

だからだろうか、俺は周りのことが目に入っていなかった。

 

赤信号の待ち時間。

アリス先輩との会話に盛り上がっていた俺は、背後に忍びよる人物に気づかなかった。

 

「うぉ!?」

 

強い力で背中を押されてバランスを崩す。

真っ直ぐに、()()()()()()()()()()

頭が真っ白になる。

真っ白になって、「これは危ない、早く戻らなきゃ」なんて考えるよりも早く、俺は突っ込んできた自動車によって吹き飛ばされた。

 

すぐそばにいたアリス先輩の悲鳴が響き渡る。

周りの人間が一斉に動きを止める。

全身が痛くて熱くて、頭もまともに働かなくて、「ああ、これは死んだな」って本能的にわかった。

前世でも交通事故で死んだのに、今世でも交通事故かよって。

 

けれど、今回は前世と少し違った。

前世では勢いよくトラックに轢かれた。

けれど、今回はつくづく運が悪かったらしい。

俺は車に轢かれた。轢かれたけど、即死じゃなかった。

激しい痛みと死が忍び寄ってくる感覚のなかで、俺は死ねなかった(生きていた)

痛くて痛くて。

一体俺がどれくらいの時間そうしていたのかなんてわからない。

たったの数十秒間だったかもしれないし、数時間だったかもしれない。

苦しくて苦しくて。

気が狂いそうだった。

ぐしゃぐしゃになった全身が、熱かった。

体から()が流れでて、寒かった。

脳から放出されたアドレナリンによって時間が引き延ばされる。

寒くて寒くて。

アリス先輩の泣いてる声がした。

キャスターの心配する声がした。

痛くて苦しくて寒くて熱くて悲しくて悔しくて痛くて寒くて熱くて悲しくて苦しくて悲しくて痛くて寒くて熱くて悲しくて苦しくて痛くて痛くて痛くて痛くて。

なのに、死なない。

痛くても死なない。苦しくても死なない。寒くても死なない。熱くても死なない。悲しくても死なない。悔しくても死なない。死にたくなくても死なない。

 

───死にたくても死なない。

 

 

激痛と苦しみのなか、死がゆっくりと近づいてくる。

もはや眼前まで近づいてくる。

だというのに死はおれをつかまえない。

思コウがにぶって、感カクがきえていいく。

けれど痛みだけはいつまでもいつまでもいつまでも。

 

ああ、くるしい。ああ、いたい。

 

ああ、どうか、おれを、はやく、しなせて、ください

 

 




死因(オチ)がちょっと雑に見えるかもしれませんが、犯人とかなんでそうなったかとかは次回で補足しますので許してください。しいて言っておくなら犯人はアリス先輩やキャスターではありません。

キャスターの神明裁判を目の前で乗り越えた故に、キャスターはこれからは主人公に魔女疑惑を抱きません。
なにせ彼女は本気で神明裁判を信じているので。狂気Bは伊達じゃないんですね。

ちなみにアリス先輩はメールで義親に友達の家に暫く泊まると伝えており、夫婦仲崩壊で精神的余裕もない義親はそれを了承しました。
また、アリス先輩が主人公の家に泊まることをokしたのは、ギスギスしまくってた実家から逃げ出せるからです。
しかも、キャスターの英才教育によってアリス先輩は悪人=魔女という洗脳をされているので、魔女ではない主人公を信頼しており、男女の間違いが起こる可能性など少しも考えていません。ピュアですね。


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遭遇

またしてもノルマ未達成(へいわ)


赤く光る信号。

目の前を通り過ぎて行く自動車。

隣には微笑みを浮かべながら話しかけてくるアリス先輩。

 

あれ?俺は何をしていたんだっけ?

夢を、見ていたんだっけ?

ああそうだ。白昼夢を見てたんだな。

白昼夢を………

 

「───!!」

 

勢いよく背後を振り返る。

アリス先輩が突然の俺の行動に驚いているが、そんなの関係ない。

 

白昼夢の俺はどうして死んだのか。

血が流れすぎたから?

全身がぐしゃぐしゃになったから?

自動車に轢かれたから?

いいや違う。

俺は、誰かに()()()()()()から死んだんだ。

 

不注意からの交通事故ではない。

誰かの明確な殺意によって殺された。

だとしたらその犯人は今どこにいるのか、決まっている。

俺の真後ろだ。

 

振り返ると、そこには背の高い男性か立っていた。

動きやすそうな格好をしており、年齢は多分20台前半。

そして、その顔には大きな()()が刻まれている。

男性がバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「あーあ、バレちまったか。まァ、これで殺せたら棚ぼただもんな」

「な、刺青野郎ッ!?」

「おいおい、こんな色男に向かって刺青野郎たァ失礼なガキだぜ」

 

やれやれと演技がかった動作をする刺青男を睨みつける。

バーサーカーのマスター。クソ野郎。敵。

こいつの事は名前すら知らないが、俺にとってはその情報だけで事足りる。

 

「あの、谷栞くん?お知り合いですか?」

 

不思議そうな表情を浮かべるアリス先輩に、手で下がるように指示する。

体は刺青男へ向けたまま目だけ動かして周りを見渡す

放課後の通学路ということもあり、結構な人かいる。

こんなところで英霊がぶつかったら死傷者の数はシャレにならないだろう。

 

「そんなに警戒すんなって。流石にこんなところじゃ手を出しやしねぇよ」

「人を殺そうとした奴が言うことじゃないだろ」

「ああ?あんなんお前が無防備だからちょっと手を出したくなっただけじゃねぇが。実際にはやってないんだから気にすんなって」

 

ヒラヒラと手を振って男は笑う。

軽薄な口調、大袈裟な手振り、敵意も感じない。

だが、その瞳は笑っていなかった。

やっぱりこいつは敵だ。

俺の白昼夢の中でも、こいつだけなのだ。

こいつだけがなんの感情もなく、俺を殺そうとする。

殺意も、敵意も、悪意も、愉悦も、失望も。

何もなく、あるがままに俺を殺す。

暗殺者のように感情を抑えてるとかではなく、本当に何も感じていないのだ。

 

「はァ……。いや全く悲しい限りだね。正直、さっきのはお前も悪いんだぜ?」

「どこがだよ?」

「顔も隠さず戦場に出てきて、昼は間抜け面晒して日常を送ろうなんてしてるところがだ。これは戦争だぜ?殺せるならいつだって殺そうとするに決まってんだろうが」

「アンタだってそんなわかりやすい刺青(トレードマーク)をつけるじゃないか」

「人が親切に忠告してやってんのに反論と来たか。いやァ嫌だね、近頃のガキは。礼儀もクソもなってやがらねぇ。

全く、ぶっ殺したくなるぜ」

 

どこまでも軽薄に、戯言みたいな口調で殺意を伝える。

けれど、俺には俺にはそれが冗談じゃないことがわかっていた。この男は本当にやる。

少しのためらいもなく、少しの迷いもなく、息をするように殺しに来る。

信用なんてできない。油断なんて出来ない。

アサシンに念話で戦闘準備をするように指示をする。

しばらくの睨み合い。

緊張感のある空気が流れ、唐突に刺青男がニヤっと笑った。

 

「まァまァ、そうガチになるなよ。さっきも言ったが、俺も流石にこんなところで仕掛けるつもりはねぇ。坊主(ボーズ)もせいぜいガキらしく彼女と乳繰り合ってるんだな」

 

「じゃあな」なんて言って軽く手を振って男が歩き出す。

アサシンによると、どうやらバーサーカーもそれについて行っているらしい。

本当に撤退するつもりなのか?

 

「あァ、そうだ。刺青野郎とかいうクソダセェ呼び方やめろ。俺は、そうだな……野叉(ヤマタ) (アキラ)とでも名乗っておこうか」

 

野叉(刺青男)は最後にそんなことをほざいて、人混みの中に消えて行った。

 

 

 

 

「ただいまー」

 

誰に言うわけでもなく、そう口にする。

最期まで実家暮らしをしていた癖というか、一人暮らしにそんな挨拶は必要がないのに玄関を(クグ)る時、無意識に口から漏れ出るのだ。

いつもはそんな癖を気にする事はないのだが、一緒に玄関を潜ったアリス先輩にそれを聞かれてしまったことに気づいて、無性に恥ずかしい気分になる。

 

「お邪魔します」

「あー、いらっしゃいませ?」

 

今まで人を家に招いたことなんて一度もなかった為、作法がよくわからない。

とりあえずそれっぽくやっとけばいいのかな。

 

「ふぅ、やっぱ霊体化してたら窮屈やわ」

 

アサシンが何もない空間から姿をあらわす。

いつのまにか芋ジャージに着替えていた。

もしかして気に入ったんだろうか。

 

「あ、キャスターちゃんも出てきて良いよ」

「そうなの?じゃあお言葉に甘えて」

 

声をかけてやると、アサシンと同じようにキャスターがスッと現れる。

透明人間がそばにいるというのもどうにも気になってしまうし、俺としても家ではサーヴァントに霊体化を解いてもらっていた方がありがたい。

どこにいるかわからないとか怖いし、おちおち部屋でお宝鑑賞も出来ない。

 

「おう、おかえりツトム。急にどっか行って心配してたぞ。って、なんだナンパしてきたのか?」

 

玄関かにわかに賑やかになったことに反応したのか、家の奥から自立したクマの人形(オリオン)が出迎えしてくれた。

後半のセリフはアリス先輩をガン見しながら言っている。

この狩人ほんと俗っぽいな。

どこを見てるのかよくわかない人形eyeでスーッと俺たちを見渡し、キャスターを見た途端ピタリと動きが止まった。

 

「ダーリンどおしたのー?お客さん?」

 

遅れてやってきたアルテミスもまた、キャスターを凝視し出した。

というかこの女神サラッと家主()のことをお客さん扱いしようとしたな。

我が家がドンドン奪われていく……。

 

「あなた、アーチャー?どうしてここに?」

 

キャスターもまた、アーチャーに話かける。

あれ?この二人って面識───あっ!?

いやいやいや面識どころではないじゃないか!

アーチャーのマスターを殺したのは他ならぬキャスターだった筈だ。

そんな重要なことを、アリス先輩のことで頭がいっぱいですっかり忘れていた。

やばい、猛烈に嫌な予感がしてきた。

 

「あ、あー!その、キャスターとは同盟を組むことになったんだ」

「同盟ぃ?おいツトム。悪いことは言わねえからそいつと手を組むのはやめとけ」

「え?いやでも……」

 

人形でもクマはクマ。

強く言われたら迫力があって少し怖い。

思わず口籠ってしまう。

 

「……谷栞くんも、私を捨てるのですか?」

「え?」

「そうですか。あなたも、私を捨てるんですね……」

 

そんなことをしていると、今度はなんかアリス先輩が不穏な雰囲気を出している。

殺意とか悪意はないけど、なんというかキャスターの雰囲気にも似た嫌な感じ。

 

「ふふ、優柔不断やと嫌われてまうで?はい、がぁんばれ、がぁんばれ」

 

愉快に茶々をいれるアサシン。

その声でそんなこと言われたら脳が蕩けるからやめてくれ。芋ジャージが似合っててかわいい。

 

「ねえ、ダーリン。見覚えある気がするんだけど、その娘誰だっけ?」

「キャスターだよ!?マスターの仇の!お前本当に他人に興味ないな!?」

「ああ、カミサマ……」

「一人でに動く人形……浮世離れした女性……淫らな格好……もしかしてアーチャーって魔──」

「ところでだんなはん、昨日の酒盛り(女子会)で酒がぜんぶ切れてもうたんやけど」

 

ガヤガヤと各々が思い思いのことを話しはじめる。

なんだこの混沌具合……。

 




オリオンはキャスターを敵視はしてません。どっちかというと危険視です。キャスターの秘める狂気を正確に見抜いて誰よりもキャスターの危険性に気づいているからです。アルテミスは誰この娘状態です。彼女の脳のキャパシティは全て愛しのダーリンのために使われているので。
キャスターはアーチャーのマスターは魔女として断罪しましたが、現状アーチャーは魔女宣告してません。

ご感想お待ちしています。


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幕間
野叉彰の聖杯戦争


谷栞(ヤシオリ)(ツトム)野叉(ヤマタ) (アキラ)と名乗った刺青の男に、オリジンと言えるものはない。

しいていうなら、生まれたこと自体がオリジンであろう。

 

男は、なんの変哲もない平凡な家庭に生まれた。

母親一人、父親一人、3歳年の離れた兄が一人。

どこにでもいるような、普通の家族だ。

説教として怒鳴られることはあっても、理不尽に()たれることはなく。

両親も我が子を雁字搦めにするような過干渉というわけでもなかった。

むしろその逆の放任主義に近かっただろう。かといって完全に放置するわけでもなく、ダメなことはちゃんとダメと伝える。

3歳年上の兄は、兄として弟の世話を見ようと優しく接し、喧嘩にだって発展したこともなかった。

お世辞にも不幸だなんて言えない、恵まれた家庭環境だ。

そんな家庭に、彼は生まれた。

そんな幸せな家庭に、彼が生まれてしまった。

 

彼がソレに目覚めたのは小学校に入ってすぐことだった。

ある日、偶然目に止まった古臭いサスペンスドラマシリーズ。

ストーリーも、映像技術も、演技も、そのサスペンスドラマはとことん平凡だった。

特に心を惹かれる要素もなく、当時流行っていた流れにストーリーを当てはめただけのような所謂(いわゆる)駄作だ。

けれど、そんな駄作こそが彼の起源を揺りうごかす事となる。

サスペンスなら必ずある犯人による被害者の殺人シーン。

そのシーンが幼い少年の脳にべったりと刻まれていった。

トラウマ?いいや、そうじゃない。

ひらがなを覚えるように、足し算を覚えるように、彼は当たり前の知識として殺人を覚えたのだ。

 

人は、頭を打ったら死ぬ。

人は、首を絞められたら死ぬ。

人は、腹を刺されたら死ぬ。

人は、背骨を折られたら死ぬ。

人は、動脈を切られたら死ぬ。

人は、高所から突き落とされたら死ぬ。

人は、銃で撃たれたら死ぬ。

人は、車に轢かれたら死ぬ。

人は、海に沈められたら死ぬ。

人は、燃やされたら死ぬ。

人は、毒を飲まされたら死ぬ。

人は、精神的に追い詰められたら死ぬ。

人は、獣に襲われたら死ぬ。

人は、必ず死ぬ。

 

ああ、こんなものかと少年は悟った。

人間は()()()()()()()()()()、と。

その頃には彼は中学生になっていた。

 

答えを得たならば、それが正しいのか確かめたくなる。

数学のテストを検算したくなるように。

中学2年生の夏休みのこと、彼はそんな軽い気持ちで始めて人を殺した。

彼が得た答え通りに、あっさりと殺せてしまった。

 

彼には、人を殺す天賦の才があったのだ。

 

 

 

気づけば男は裏世界に身を浸していた。

人を殺せば金が貰えた。

息をするように人を殺す男にとっては、それはまさに天職。

むしろ何故他の人間がやらないのか不気味に思うほど、彼にとっては簡単で、割りの良い仕事だった。

 

あいつを殺せ、と命令してきたから目標を殺してやった。

所持金が底をついて悲しかったから殺してやった。

特別機嫌が良かったから殺してやった。

涙ながらに懇願してくるから殺してやった。

頼まれたから仕方なく殺してやった。

殺してやりたかったから殺してやった。

特になにもないけど殺してやった。

 

圧殺(殺して)殴殺(殺して)暗殺(殺して)抹殺(殺して)嚢殺(殺して)虐殺(殺して)

挟殺(殺して)撃殺(殺して)故殺(殺して)誤殺(殺して)惨殺(殺して)斬殺(殺して)

刺殺(殺して)射殺(殺して)重殺(殺して)銃殺(殺して)笑殺(殺して)瀟殺(殺して)

礫殺(殺して)畜殺(殺して)誅殺(殺して)毒殺(殺して)屠殺(殺して)爆殺(殺して)

封殺(殺して)焚殺(殺して)鏖殺(殺してやった)

 

そうして裏社会で有名になり始めた頃、彼の元へ一つの依頼が舞い降りてきた。

ターゲットはある神父。

その依頼が、彼の人生を大きく変えることなる。

 

 

 

 

細身の体に、ニコニコと弧を描く狐目。

清廉なる雰囲気を湛えた教会に、わざわざ足を運んでターゲットを見にきてみれば、現れたのはそんな男。

瓶底メガネも相まって、いかにも鈍臭さそうな神父というのが第一印象だった。

 

「はァ?なんであんなヤツがこんなに報酬良いんだよ?あんなの俺に依頼しなくても殺せるだろ」

 

とうとうと聖書を朗読する神父を横目に教会から出る。

ターゲットも確認したし、もう十分だと判断したからだ。

どうやらあの神父はこの教会で暮らしているようだし、夜にでも忍び込んでその首を掻っ切ればいい。

きっと、料理用のナイフでだってそれくらい容易いだろう。

 

けれど去り際、神父が妙に男を見てみるのが少し気になった。

いや、正確にいうならば嫌な予感がした。

 

そして、こういう時の嫌な予感というのは当たるのが相場なのだ。

 

 

 

「やぁ、いらっしゃい。君が来るのを心待ちにして待っていたよ」

 

草木も眠る丑三つ時に教会へ忍び込んだ男へ歓迎の言葉が送られる。

場所は礼拝堂。窓から差し込む月光によって昼とはまた違った神聖さが満ちていた。

昼と同じように、神父はニコニコとした笑顔を晒している。

だというのに、男にはその神父が昼間とは全くの別人物に思えた。

 

「……てめェ、何者だ?」

「僕が気になるのか?

そうだな……僕の名前は一文字(イチモンジ)秋詠(アキヨミ)。25歳の魚座。血液型はAB型で、座右の銘は『諦めなければ夢は必ず叶う』。嫌いなタイプは生真面目で胸の大きな女性。趣味はなんの得にもならない空想。特技は誰の得にもならない空言だよ」

「巫山戯てんのか?」

「ふざけてなんかないさ。君が欲した情報を僕は言っただけだ。ああ、でも一つ言い忘れてたことがあった」

 

神父の口がクルクルと淀みなく回る。

経験から神父は己よりも弱いと直感しているのに、男はどうしても動けなかった。

無警戒に立っているだけの神父が、()()()()()()

なにかを仕掛けているんじゃないかと疑ってしまって、下手な行動を取れなかった。

 

「君に僕を殺すように依頼した依頼者だよ」

「はァ?」

「ちょっと君に会ってみたかっただけだよ。神父(こんな身分)だから裏社会とかあんまり潜ったりはできないんだ。だから逆転の発想で君の方から来てもらおうと思ってさ」

「そこまでして俺になんの用だよ。殺って欲しいライバルでもいんのか?」

 

神父の口がクルクルと淀みなく回る。

刺青男を絡めとるように、雁字搦めに逃がさないように。

 

「まさか、僕はアゲハ蝶と人だけは殺さないと決めてるんだ。君に来てもらったのはもっと別の用だよ」

「別の用ゥ?」

 

そこでようやく男は気づいた。

いや、正確には神父の目が始めて開いたと言った方が正しいか。見えなければ気づきようがない。

 

「君には、僕の予備(オルタナチブ)をやって欲しいんだよ」

 

神父の口がクルクルと淀みなく回る。

けれど神父の瞳は、どうしようもなく淀み切っていた。

男にはその瞳に見覚えがある。既視感がある。

鏡の中の刺青男(自分)と、その神父は全く同じ瞳をしていたのだ。

男は直感する。この神父は鏡写しの自分だ。

毎朝鏡の向こうに立っている、自分なのだと。

 

男はいつか顧客から聞いたことがあるジェイルオルタナチブ理論というモノを思い出した。

世界の全ての事物は代替が可能であるというケッタイな理論だ。

たとえ俺が目標(ターゲット)を殺さなくても、俺の代わりの誰か(オルタナチブ)がその人物を殺すという具体例を、その顧客は使っていた。

 

「予備……予備ね。確かに俺とてめェならピッタリだろうな」

 

鏡写しの自分(一文字 秋詠)を見つめる。

どうしようもなくそっくりで、どうしようもなく同じだった。

見た目は全くの真逆だ。

顔に大きな刺青を入れた軽薄な男と、神父服に身を包んだ狐目の神父。共通点を見つける方が難しい。

けれど、二人は共にわかっていた。

互いを互いに鏡写しの自分だと認識していた。

 

神父の手が、男に向かって差し伸べるように向けられる。

 

電池(魔力源)や諸々はこっちが用意してあげるよ。

だからさ、聖杯戦争って興味ないかい?」

 

神父はニコニコとした笑顔ではなく、心の底から浮かべるような醜い笑顔を浮かべていた。

 

「乗ってやるよ。この詐欺神父め」

 

刺青男もまた、神父と同じように歪んだ笑顔を浮かべて、その手を掴んだ。

 

 

こうして、刺青男(野叉 彰)は聖杯戦争に飛び込んだのだ。




刺青男掘り下げ回でした。
本当はもう少し後でやる予定だったんですけど、本編が予想以上に難産なのでこっちを先倒しで投稿しました。

カンが良い人は気づいているかもしれませんが、刺青男(野叉 彰)は戯言シリーズの零崎人識をモデルにしてます。その起源も『殺人』です。
戯言シリーズを読んだことがある方ならきっと神父のモデルもバレてしまうでしょうね。零崎人識の鏡写しと言ったら彼ですから。

ご感想お待ちしてます。


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4日目
共同生活


()()の使い方がやっとわかって、ハシャイで多用してます。読み辛かったらすみません。


俺の必死な説得と話し合いにより、なんとかオリオンに納得してもらうことに成功した。

横で話を聞いていたアルテミスが援護射撃してくれたのも大きいだろう。

アリス先輩について説明していると、急に目を輝かせながら「つまり、恋ね!?」と騒ぎ出し、そこからは何故か積極的に援護射撃を行なってくれた。

まさか恋愛(スイーツ)脳に助けられることになるとは……。

 

アリス先輩とキャスターには本来アーチャーに貸そうと思っていた空き部屋で暮らしてもらうことになった。

少しばかり日当たりの悪い部屋だが、広さ自体はそれなりにあるので気に入って貰えたらしい。

お泊まり用の荷物と称して布団やヒーターなども持っていたので、それなりには快適な夜を過ごせたことだろう。

 

一つ問題があるとすれば、家主の俺が何故リビングで震えながら寝なければいけないのだろうか……。

安物の寝袋って、とてもさむい。

 

 

 

 

窓から入ってくる微かな朝日と、なんだか美味しそうな匂いで目が覚める。

実家暮らしの前世でよく嗅いでいた、良い匂いだ。

蛍光灯に惹かれる蝶のごとくフラフラとキッチンを向かうと、そこには1人の女性。

金糸を思わせる美しい金髪に、人形のように整った顔立ち。そして母性を感じる巨乳。

そんな女性が、いやアリス先輩が制服エプロン姿でキッチンに立っていた。

良い匂いの正体とは、アリス先輩が作っている朝食から香っていたのだ。

 

「あ、おはようございます谷栞くん。お台所お借りしてますけど、大丈夫だったでしょうか?」

「………おはようございます。朝食を作ってくださっていたんですか?」

「はい、一方的にご厄介になるわけにはいきませんし、せめて自分ができることをしようと思ったんです」

「でも冷蔵庫すっからかんじゃありませんでした?」

「ある程度は実家から持ってきていたので。まさか冷蔵庫にウィダリンゼリーしか入ってないとは思いませんでしたが……」

 

アリス先輩は困ったように笑う。

日常用品に衣類、布団と暖房、果てには食材まで持ってくるとは彼女は一体どれだけの荷物を我が家に運び込んだのだろうか。

「もう少しで完成だから待っていて」と伝えられて、大人しくリビングで待機していると、匂いにつられたサーヴァントたちが続々と集まってきた。

気づけば全員集合だ。

ガヤガヤと騒がしくなるリビングの中、朝食を携えたアリス先輩の登場して朝食が始まる。

総勢5人(+一匹(オリオン))での朝食は、それはもう五月蝿いものだった。

女神と熊が日本食に感動していたり、キャスターが納豆に本気で拒否反応を起こしたり、アサシンが酒の催促して来たり。

騒がしくて五月蝿くて、今日は久々にテレビをつけずに朝を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

「どうかされましたか?」

 

それに気づいたのは、ちょうど13時を回った頃。

朝のうちにこじつけた約束通り、アリス先輩と二人で昼食を取ろうと集まった時だ。

ざわざわと(ニワ)かに騒がしくなる廊下の中、俺たちが佇んでいた瞬間だ。

初めは小さな違和感だった。

間違い探しを俯瞰して、薄っすら覚えるような違和感。

なんとなく、おかしい。その程度の違和感だ。

()()()()()()()()()のに、おかしい。

両手で目を軽く擦り、もう一度廊下を見渡す。

漫画を貸し借りしている男子生徒、たわいもない話題で盛り上がっている女子生徒、生徒に絡まれて困っている新任教師、誰かを探している()()()()()

何も()()()()()()、至って()()()

どこの学校にだってある()()()()()だ。

そのはずなのに、頭の奥が酷くいたんで、本能が何かを警告し続けてくる。

目の奥がチクチクするような嫌な違和感。

アサシンに確認をしようと思ったが、そういえば彼女はまたも単独行動をとっていたのだったと思い出す。

また町を探索したいと言い出したので、今は自由にさせてやることにしたのだ。

とはいっても自由にさせるのは学校の間だけで、送り迎えは勿論やって貰う予定である。

 

「あの、アリス先輩」

「はい」

「なにか、変じゃないですか?」

「変?」

 

俺の言葉を聞いてアリス先輩がキョロキョロと周りを見渡し始めた。

生真面目にもその場でゆっくりと一回転するように、目を凝らす。

そして一通り見終わると暫く暝目し、首を傾げた。

 

「なにかおかしいですか?」

「キャスターもそう言ってますか?」

「はい。キャスターちゃんも何もおかしくない、と」

「俺の気のせい、なのかな……」

 

今度は俺が首を傾げる番だった。

脳の奥がチリチリと疼く。

何かがおかしいのだ。

何かがおかしいのに、()()()()()()()()

聖杯戦争でずっと気を張っているから、疲れが出たんだろうか?

まあ、学校のような人が多い場所では、流石に相手も仕掛けてこないだろう。

刺青男ならあり得そうな気もするが、昨日手を出さなかったということは彼も最低限のルールは守るつもりのはずだ。

わざわざ学校なんていう場所に忍び込むよりも、昨日あの場所で戦った方がメリットが多いからな。

 

そもそも人が多いところで戦闘するメリットなど本来皆無なのだ。

神秘の秘匿に関しては、俺も親から口を酸っぱくして言われ続けた。

某漫画においても魔法をばらしてしまったらオコジョに変えられてしまうなんて設定もあるのだし、きっとこの世界でも相応のペナルティがあるはず。

一般人の多いところでは戦闘を仕掛けないというのは、聖杯戦争参加者の中でも暗黙のルールといってもよい。

故に、この学校内においてはなんの心配もないのだ。

そのはず、なのだ。

 

弱気になり始めているのを自覚して、両手で挟むように頬を叩く。

アリス先輩が俺の突然の行動に、アリス先輩が目を丸くしているが、気にしない気にしない。

 

警戒というのは確かに必要だが、必要以上に神経を尖らせていると疲れがたまっていざという時に反応できないかもしれない。

たかだか小さな違和感など気にする必要もないのだ!

 

「よし、じゃあ食堂行きましょうか。急がないといっぱいになっちゃいますし」

「そ、そうですね。早く行かなきゃ席が埋まっちゃいます」

 

アリス先輩を迎えに来たため、今は三年生の教室がある三階にいる。

3-Bのホームルームからチラ見えしている掛け時計を見るに、少し急げば席に座れないなんて事態にはならないだろう。

さあ、行こう!と歩みだそうとして、思いっきり人にぶつかる。

 

「あ、すみません」

 

考えごとに夢中になっていたからか、その()()()()()が目に入っていなかった。

……あれ?この人いつのまにこっちに来たんだ?

()()()()()()()()()

 

「いや、気にすることはないよ。僕のほうも不注意だったからね」

 

狐のような目を更に細めて男性が笑う。

それを認識した途端、頭痛がより強くなる。

ぐわんぐわんと脳が揺れるようだった。

おかしいぞ、おかしいはずなんだ。

なのに、なんでなにも()()()()()()んだ?

何がおかしい?何がおかしくない?

神父の男を見る。狐目の男を見る。瓶底眼鏡の男を見る。

何が──────

 

「谷栞くん?急がなきゃ席なくなっちゃいますよ?」

「あ、はい。すみません」

 

先輩に声をかけられて目が醒める。

そうだ、今は()()()()()()よりも食堂にいかなきゃ。

神父服の男にぺこりと会釈し、彼に背を向けてアリス先輩とともに食堂を目指す。

 

そして、

 

灰色の鎧甲を纏った足によって、俺の頭はトマトのように蹴り潰された。




「学校が安置だなんて誰が言った?」という内容の回でした。

主人公が明らかにおかしいのは、神父の魔術によって認識を弄られていたからです。
同じくアリス先輩も弄られてますし、キャスターも魔術の効果を食らってます。
サーヴァントのくせに魔術食らうのかよって思うかもしれませんが、キャスターは宝具とスキルを抜いたら唯の一般人レベルのステータスなのでこんなことが起きました。
対魔力なんてそんな便利なもの持ってません。

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問答

遅くなりました。


「谷栞くん?急がなきゃ席なくなっちゃいますよ?」

「───あ、はい。すみません」

 

先輩に声をかけられて目が覚める。

どうやらまた白昼夢を見ていたらしい。

しかも今回は不吉極まりないことに、()()()()()()()急に死んでしまった。

一体、夢の中の俺はなぜ死んだのだろう?

 

ああ。いけない、いけない。

またどうでもいいことに意識を飛ばしかけていた。

ついさっき無駄に気を張るのはやめようと決めたばかりなのだから、気楽に行こう。

白昼夢がなんだ。ただの不気味な夢だろう?

気にすることはないさ。

それよりは今はアリス先輩との昼食タイムの方がよっぽど重要じゃないか。

 

神父服の男にぺこりと会釈し、アリス先輩と共に───待て、()()()だと?

なぜ、学校にそんな格好をした人物がいる?

おかしいぞ、おかしいだろう。

おかしくない事がおかしいんだ。

なぜ、こんな露骨な異常を俺はおかしいと思わなかった?

 

アリス先輩を庇うようにして神父服の男と対峙する。

神父服を纏った瘦せぎすの体に、瓶底眼鏡の奥で弧を描く狐のような目。ああ、間違いようがない。

この男は、一文字 秋詠だ。

 

「なんでアンタがここにいる?」

「あれ?この魔術には自信があったんだけど、よくわかったね」

 

一文字神父はまるでイタズラがバレた子供のように罰の悪そうな苦笑を浮かべた。

油断しそうになる態度だが、彼は依然としてその足に灰色の鎧甲を纏っている。

しっかりと確認は出来ないが、おそらくは小型銃も袖口に隠している事だろう。

つまり、臨戦態勢ということだ。

 

「谷栞くん?急にどうしたんですか?」

「はぁ?どうしたもなにも──」

「無駄だよ。その娘はこの状況に違和感を覚える事ができない。いや、正確にはこの場にいる全ての生徒が、かな」

「違和感を覚えられない?」

「彼らには僕の事が()()()に見えてるんだよ。僕がなにをしても自然体に見える。それが当たり前であると勘違いして意識を向けられない。ドラえもんの石ころぼうしって言えばわかるかな?」

「残念ながらドラえもんの道具なんざどこでもドアとタケコプターくらいしか知らなくてね。なにせアンパンマン派だったもので」

『アサシン!聞こえるか?』

「なんだって?君それでも本当に日本人か?ドラえもんはジャパニーズの義務教育だろ?」

『なんやだんなはん。えらい切羽詰まった声出して』

「んなこと聞いたことがねえよ」

『学校で一文字神父から襲撃を受けた。助けに来てくれ』

「つまり君はアレか?ドラえもんの漫画を読みながらあんなこといいな出来たらいいなって色々妄想した経験がないってことか?」

『えらい面白(オモロ)いことなってんなぁ。わかった、全速力で向かうわ』

「ないね」

『頼んだぞ』

「なんとも嘆かわしい限りだね。どうやら君とわかり合うことはできなさそうだ」

「なんだよ?ドラえもんを知ってたら同盟でも組んでくれたのか?」

「まさか、残念ながらドラえもんにそこまでの思い入れはないよ。実を言うと僕もあの作品は数えるくらいしか見たことがないんだ」

「義務教育云々はなんだったんだよ」

「さあ?誰の得にもならない空言じゃないかな」

 

しょうもないことに怒り、すぐにどうでもいいと投げ捨てる。

口から紡がれる言葉全てが嘘であるような、まるで条件反射(ムイシキ)で話しているみたいな語りぶり。

一文字神父とは業務的な会話しかしたことがなかったが、存外彼はめんどくさい性格をしているらしい。

だが、そのおかげでアサシンと連絡を取れたのは僥倖だろう。

彼女が今どこにいるのかは知らないが、サーヴァントの力をもってすれば直ぐに合流してくれるはずだ。

 

それまで時間を稼げばなんとかなる……はず。

チラリとアリス先輩を確認すると、未だに一文字神父の術中に囚われているようだった。

俺がなぜこんなことをしているのか本気で理解出来ていない顔をしている。

さっきした会話の中で、キャスターもこの状態に違和感を覚えてないと言っていたので、戦力にはならない。

つまり今行動できるのは俺一人。

俺一人だけで一文字神父から時間を稼がなければいけない。

そういえばセイバーはどうした?

見渡せど姿が見えない。霊体化しているのか?

慢心して一文字神父が連れてきてない、なんてオチなら最高なんだが。

 

「とりあえず、場所を移動しないか?ここで戦闘するとしたら生徒を巻き込んでしまう」

「君たちが抵抗せずに大人しく死んでくれたら、周りに被害は出ないよ」

「それは脅しか?」

「ただの親切な提案さ。神に仕える神父が脅しなんてするわけがないだろう?」

「マトモな神父なら聖杯戦争(殺し合いゲーム)なんか開催しないだろ」

「そうは言っても聖杯戦争の監督役を神父がするのは決まりごとなんだよ。テンプレと言ってもいい。文句ならこんなシステムを一番はじめに作った人達に言って欲しいな」

 

場所移動の失敗に内心舌打ちをする。

いいや、失敗どころじゃない。

この男はいま「大人しく殺されなきゃ周りの人間を巻き込むぞ」と脅してきたのだ。

聖職者とは思えない言葉だが、彼はやると言ったらやる。

経験(白昼夢)でそれを、俺ははよく知っている。

 

「ところでさ」

「なんだよ?」

「君は一体何を願ってこの戦争に参加したんだい?」

 

また、この質問だ。

いつかの白昼夢でも聞かれた質問。

確かFGOでもマイルームで各サーヴァントに聖杯への願いを聞くことができたな、なんて他人事のように思い出した。

彼らは一体何を願っていただろうか?

俺は、一体何を願いたいのだろうか?

何か適当に答えようとしても喉から声が出ない。

当然だ。その適当な答えすら俺は思いつかないんだから。

 

「だんまりか。まあ、わかっていたことではあるかな。けれど、これだけは聞いておこう。

────君は、本気で聖杯戦争を勝ち残るつもりなのかい?」

「は?」

「僕とて好きに人を殺したいわけじゃないんだよ。僕の鏡(あっち)は殺人者だが、僕自身は平凡な神父に過ぎないからね。だからもし君が聖杯戦争をここで降りるというなら、僕が君を殺す必要はなくなるんだ」

 

特に表情を変えるわけでもなく、神父はそう宣う。

大事な交渉というわけでもなく、本当にどっちでもいいと内心思っているのが透けて見えるやる気のない提案だ。

降伏(サレンダー)すれば見逃してくれるだと?

確かに冷静に考えれば、もうゲームから降りたプレイヤーを殺す必要はない。道理は通っている。

 

「本気で言ってるのか?」

「もちろん。僕は嘘はつくけど、約束は守るタチなんだ。ついでに言うとそっちの方が楽だからね。君はただ令呪で命令するだけでいいのさ。『自害せよ』ってね」

「そんなこと……」

『あー、だんなはん。緊急連絡や』

『どうした?アサシン』

『高校に着いたんやけど、鬼払いの結界が張ってあるわ。強烈(きょおれつ)なヤツ。入れんことはないんやけど、時間かかりそう』

『どれくらいだ?』

『んー、(はよぉ)ても5分はかかりそうやなぁ』

「どうしたんだい?急に黙って。あ、もしかしてアサシンと連絡を取ってるのかな。だとしたら残念ながら対策をさせて貰ったよ。鬼に対する術式なんて五万(ごまん)とあるからね。この高校には鬼は入ってこれないと思ってくれ」

 

パチンと一文字神父が指を鳴らすと、虚空からセイバーが現れる。

しかもご丁寧に抜刀済みで準備万端と来た。

 

「さて、答えを聞こうか」

 

ああ、クソったれが!

万策尽きたとはこのことか。

笑えない。お世辞にも笑えない。

どうする?どうすればいい?アサシンの言葉を信じるならあと5分は時間を稼がなきゃいけない。

今までは会話で無理に稼いできたが、この様子からはとうてい出来そうにない。

周りの様子を伺うに、セイバーにも自然体の魔術とやらを掛けているらしく、廊下には相変わらず生徒が居残っていた。

逃げるのはダメだ。他の生徒が巻き込まれるかもしれないから。

戦うのは無理だ。魔術酒も持って来てないし、アサシンは校舎に入ってくることすら出来ないから。

だとしたら、だとしたら──俺に残された選択肢はもう一つしからないじゃないか……ッ!

 

「……わかった。俺はこの聖杯戦争を、()退()()()

「うん、僕としてもそちらの方が有難いね。とは言え言葉だけじゃあ足りないな。ほら、令呪は残っているんだろう?」

「…………」

『アサシン』

『ん?今ちょっと忙しいんやけど』

『ごめん』

「───令呪をもって命じる『自害せよ、アサシン』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

令呪が然りと輝き、しばらく経つとアサシンとのパスがプツリと途切れた。

あと一画残っていた令呪も、解けるようにして消えてゆく。

俺が、マスターではなくなった証拠だった。

 

「よし、君の覚悟は見せて貰ったよ。君はこれから聖杯戦争とは何の関係もない一般人だ。」

 

一文字神父が柔和な表情でそう告げると、セイバーは霊体化して姿を消した。

助かった?ああ、助かったのだ。

そして安心の束の間、酒呑童子を生贄にしたという罪悪感が胸を蝕む。

本当にこれで良かったのか?

自分のために、彼女を犠牲にして、俺は本当に……。

いいや、これでいい。これでいいんだ。

そうだ。これで良かったのだ。こんな詰んだ状態で生き残るにはそれしかない。もともと俺が聖杯戦争に参加したのだって、サーヴァントに会ってみたい一心だったのだし、目的はもう完了している。聖杯にかける願いなんかない。聖杯戦争で勝ち残る手段もない。だとしたら、こうするしかなかった。俺は間違っていない。確かに酒呑には悪いことをしたけど、彼女もきっとカルデアにでも戻って金時とイチャイチャしてることだろう。そうだ、そうに違いない。彼女のことだから、笑いながら今回の聖杯戦争を話しているに違いない。生き残るためだったんだ。仕方ない。しょうがない。だから俺は───

 

「じゃあ、君の後ろの娘を殺すからどいてくれるかな?」

「え?」

 

背後を振り返る。

アリス先輩は相変わらず立っていた。

少し困ったような顔をして、俺のことを待ってくれていた。

一文字神父が何を言っているのかわからない。

わかりたくない。

 

「ほら、その子もマスターだろう?上手く術中にはまっているうちに殺した方が楽だからね。もちろん君のことは殺さないよ。だって君は自分のサーヴァントを殺してもう聖杯戦争には関係ない人間になったからね

でも、彼女は別だ。今もマスターとして健在している。

ああ、グロ耐性がないなら目を覆ってどこかに逃げればいいよ。流石に友人が死ぬのを目の前で見たらトラウマになるかもしれないからね。

───さあ、そこをどいてくれよ」

 

アリス先輩を差し出す?

簡単なことじゃないか、アサシンと同じだ。

ここで彼女を見殺しにすれば、俺は生き残れるんだ。

カチャリと神父の手元から金属の音がする。

いつか見た小型銃だ。人を殺すための凶器だ。

あの銃ならアリス先輩の命なんて容易に散らせられるだろう。

息が切れる。

きっと即死だ。苦しくない。

 

「ア、アリス先輩も降伏すればいいんだろ?」

「いや、それはダメだ。二人以上見逃すのは不都合が出るからね」

 

ハッ、ハッ、ハッと走った直後みたいな呼吸音。

仕方ないといった表情で一文字神父がこちらに近づいて来て、ちょうどの俺の肩越しに手を伸ばしてアリス先輩の頭に押し付けるように銃を向ける。

カチリと、撃鉄をあげる音がする。

 

「ああああああああああ!!!」

 

気づけば一文字神父を突き飛ばしていた。

怖かった。目の前で人が死ぬのが怖かった。

少しよろけた一文字神父は呆れた表情を浮かべる。

 

「全く、なんて邪魔するんだ?さっきは簡単にアサシンを見捨てたクセに」

「ち、違う!それは……!」

「何も違わないよ。アサシンが目の前にいなかったから実感がなかっただけで、これらは何も変わらない」

「違う!違う!!」

「まあ、いいや。だとしたら君も殺さなきゃね」

「は?いやだって俺は」

「そのマスターを守るというんだろう?だとした一般人とて容赦はしない。それが、君の選択なんだから」

 

真っ黒な銃口が今度は俺に向けられる。

凶器が、殺意が、俺に向けられる。

アリス先輩はその様子をなんの違和感も覚えずに見ている。

周りの生徒たちは友人と幸せそうに笑っていた。

一文字神父の心情は顔からは読み取れない。

セイバーは姿を現さない。

キャスターの声は聞こえない。

 

アサシンは、もういない。

 

 

俺を助けてくれる人は、誰一人としていない。

 

 

そして、廊下に脳漿がぶちまけられた。




ひたすら神父に踊らされた話でした。
でも主人公が本気でアリスも見捨てていたら神父は主人公を見逃すつもりでいました。
彼は約束は守る神父(自称)なので。

また、作中の描写からなんとなくわかる通り、主人公は目の前にアサシンがいたならば自害させることなんて出来ません。覚悟が足りませんね。

鬼払いの結界というのは元ネタ皆無の設定なんですけど、長年鬼と戦って来てるんだからそれくらいの魔術開発されてるだろうってことで登場です。
効果としては鬼が通ることが困難な壁で覆うとかそんな感じ。
壁で覆う系の結界なので、ワープは素通りです。つまり令呪ワープを使うのが最適解でした。もっとも、主人公は令呪ワープの存在を知らないのでそんな事思いつきもしないんですけど。

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宣告

ノルマ未達成(へいわ)会。



白昼夢が頭に叩き込まれ、堪らず膝をつく。

くうくうと空腹を主張していた腹からすっぱいものがこみ上げて来て、口を押さえてなんとか耐えた。

 

なんだあれは?

なんだ今の白昼夢(ミライ)は?

追い詰められ、チェックメイトを宣言されて、アサシンを殺して生き残って、アリス先輩を見捨てられずに殺される。

今までの白昼夢の中でも最高に最悪な白昼夢(ミライ)

 

「や、谷栞くん!?どうしたんですか!?」

「どうしたんだ?調子が悪いなら保健室にでも行くことをオススメするよ?」

 

アリス先輩の声が聞こえる。

一文字神父の声が聞こえる。

 

落ち着け。今の状況を整理するんだ。

まず、俺は一文字神父を認識している。その存在を違和感として遺憾無く感じられている。

だが、相変わらずアリス先輩とキャスターは一文字神父の術中だ。

次に、まだアサシンには連絡を取っていない。

一文字神父と適当な問答をやりながらアサシンと連絡を取ろうとして、白昼夢を見た。

 

吐き気が治まってきた。

 

考えろ、考えろヤシオリツトム。

白昼夢の情報を整理するんだ。

アリス先輩、キャスターは共に俺の最期まで目覚めることはなかったこと。

この高校には鬼払いの結界とやらが貼ってあり、アサシンを今から呼んでも間に合わないこと。

一文字神父は霊体化したセイバーを今も連れていること。

そして、彼は俺が逃げたら躊躇いなく周りの生徒達を巻き込むだろうということ。

 

ああ、クソ。もうこの時点で詰んでいる。

フル装備一文字神父と、大英雄であるセイバー。

この二人をなんとかできる戦力(アサシン)を完全に封じ込められてしまっている。

魔術酒もまともに持ってきていない俺では戦闘は不可能。

アリス先輩は言わずもがな。キャスターは教会でセイバーに一方的に殺されていた。

 

対抗できる戦力がない。

───いや、本当にそうか?

 

刹那的に脳裏を走った発想。

自分の考えの筈なのに、その発想に吐き気が湧き上がってきた。

詳細は不明だが、キャスターは()()()()()()()スキルを持っている。

その強力さは、俺もよく知っている通り。

アサシンをして、防戦一方へと追い込まれかけた(オゾ)ましき狂気の群衆。

だが、そのスキルは周りの環境に強力さを左右される。

例えば、人が全く寄り付かない人払いが成された教会などでは、その効果は発揮出来ないだろう。

必要なのは周辺の人なのだ。

昼下がりの商店街のような、人の多さ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

思考は疾る。

未だ嘗てないほど軽快に、調子よく。

だが、同時に精神は掻き毟られる。

吐き気は湧き出て、息は切れ、全身が小刻みに震える。

 

白昼夢内ではキャスターは確かにセイバーに負けていた。

だが、それは環境(ステージ)があまりにキャスターに不利だったからではないだろうか?

ちゃんとキャスターに有利な環境(ステージ)なら、セイバーを倒せるかもしれない。

いや、もし倒せなくても()()()()()()()()()程度は稼げるんじゃないか?

 

だが、キャスターの能力は、人を()()する。

湯水のごとくとは正にあの様。

キャスターがただ能力を発動するだけで、その場は戦場よりもなお凄惨な地獄となる。

 

「先輩、俺の言うことを復唱してくれませんか?」

「え、いいですけど……」

 

悪魔の発想だ。最悪の発想だ。鬼畜生の発想だ。

思いついてしまった自分が気持ち悪い。

気づいてしまった自分が憎い。

だけど、だけど俺は───

 

「令呪をもって命じる」

「れ、令呪をもって命じる」

 

───死にたくない!

 

「「『 キャスターよ、目を覚ませ 』」」

 

 

 

 

 

虚空から突然現れた少女は、目を見開き、違和感に気づく。

聖杯より与えられた知識によると、ありえない状況。

どうしてタダの高校に神父などが現れようか。

そんなの、おかしいに決まっているのだ。

 

「あら?どうして此処(学校)に神父さんがいるのかしら?」

 

かくして魔女狩りの女王(キャスター)は目覚めた。

 

 

 

 

 

「令呪を使ってキャスターを目覚めさせたか。アサシンを呼ぶべきだったと僕は思うけどね」

 

けれど、一文字神父の表情は変わらない。

なぜなら、彼には最強のサーヴァントがいるのだから。

一文字神父がわざわざ言葉をかけるまでもなく、セイバーが霊体化を解き、キャスターの前に立ちはだかる。

昨日無茶をしてでも中断させた二人が、皮肉にも止めた本人(オレ)の意思によって再戦させられることとなったのだ。

 

一文字神父は余裕の表情だ。

セイバーも少しの警戒すら抱いていない。

キャスターを脅威だなんて思っていないのだろう。

日本製(ジャパニーズ)ヘラクレスだなんて、前世で言われていたこともある源頼光(セイバー)に敵うサーヴァントなど、それこそ神代から引っ張って来ないとそう居ない。

それに、キャスターの本人の戦闘力はそこらの一般人と変わらないとアサシンは言っていた。

アサシンとライバル関係にあるセイバーなら、当然同じようにキャスターの戦闘力など読み切っているはずだ。

負ける要素などサラサラない。

そう、思っているのだろう。

 

「どうして気づかなかったのかしら。こんな違和感、わからない方がおかしいのに」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

こいつらは知らないのだ。

キャスターの恐ろしさを。

その脆弱さゆえに恐ろしいと、神代の英雄(オリオン)は語った。

即ち彼女は無辜の市民に過ぎないのだ。

警戒などするはずがない。

英雄ならば、むしろ守る側にすら近いキャスターに警戒など抱かない。

 

慢心を、してしまう。

英雄ならば、英雄であるほど、少女に慢心してしまう。

魔術もまともに使おうとしない少女に、油断してしまうのだ。

彼女の異能(ツルギ)はもう既に目前に迫っているというのに。

 

「まるで……そう、まるで魔法みたい。人を騙す魔法みたい」

 

キャスターは唄う。

小鳥のさえずりのようなささやかな声。

一文字神父もセイバーも、そんなこと気にはしない。

タダの少女の呟きなど、気にも留めない。

 

それこそが、()()()だなんて考えもしないで。

 

俺は知っている。

身をもって知っている。

その言葉を告げられたら、もう負けなのだ。

全身が疼く。

白昼夢であるはずの記憶から痛みを想起(フラッシュバック)して、全身を激しく焼いた。

殴られ、蹴られ、罵声を浴びせられる。

容易に地獄を作り出す、少女の言葉が脳の中でリフレインする。

 

少女が地獄をつくる条件は二つ。

ひとつ、周りが人に溢れた環境であること。

ふたつ、対象が少女の言葉を抵抗せずに受けること。

 

ここはどこだ?

学校だ。そう広くない建物に総勢400人近い生徒たちがひしめき合う、学校だ。

 

対象は何をしている?

静観している。陣地外のキャスターに何が出来ようか、ただの少女ではないかと判断し、静観している。

 

条件は完全に揃っていた。

 

「ああ、わかったわ。わかってしまったわ」

 

キャスターは、人形を片手に抱えたまま天を指し、その指をゆっくりとスライドするように指をセイバーへ向けた。

犯人を追い詰める名探偵のように。

判決を告げる裁判官のように。

ごっこ遊びをする少女のように。

 

 

「貴女、魔女ね」

 

 

───魔女宣告を、つげた。

 




これまで何度も作中で語られた通り、キャスターはめちゃくちゃ弱いです。スキルと宝具がメインで、本体の性能はそこらの女の子と変わりません。素のステータスが無力の殻レベルです。
そんな女の子がブツブツ言ってるだけ。
百戦錬磨の英雄ならば、そりゃあ油断してしまうというものです。

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英雄(しょうじょ)

どうしても納得のいく出来にならず、本来は次話の内容も今話にまとめたかったのですが、技術不足により断念。悲しみの二分割。
二話同日投稿です。



キャスターによる宣告の効果はすぐに現れた。

ザワザワと騒がしかった廊下が、別のベクトルへ騒がしくなる。

そう、キャスターの魔女宣告(スキル)によって、今や全ての生徒がセイバーを認識していた。

彼らにとっては、突然目の前に怪しげな女武士が現れたこととなる。

実を言うと、キャスターが虚空から現れた時点でそれを目撃してしまった生徒たちが騒いでいたのだが、セイバーに向けられる喧騒はそれの何倍も上を行っていた。

 

「誰?あんな先生いたっけ?」

「いや、こんな先生いねぇよ。こんなバインバイン美女がいたら男子ネットワークで流れて来るはずだ」

「なんか変な格好してね?」

「ここ学校だよな?」

「コスプレイヤー?なにかイベントでもあったっけ?」

「バカ、そもそもコスプレイヤーが学校にいること自体がおかしいだろ」

「不審者?タカハシさんってやつ?やばくない?」

「フホーシンニュウじゃん!先生呼んで来る?」

 

キャスターの宣告の効果は出ているのだろう。

現に、俺はセイバーに激しい猜疑心を抱いているのだから。

けれど、それは猜疑心止まりだ。

怪しい人物、その程度にしか感じない。

周りの生徒たちも同様だと、会話から読み取れた。

 

「認識されている?キャスターのスキルの効果か……厄介だな」

 

一文字神父が忌々しそうに表情を歪めた。

魔術を使って透明人間になっていたはずなのに、突然注目の的になる。一文字神父からしたら予想外のことだろう。

これだけの数の人間に視認された状態で戦闘などした日には、神秘の秘匿なんて不可能だ。

 

だが、これは俺が望んだ効果ではない。

白昼夢では、まるでゾンビのような群衆に襲われたのだ。

仲間が死のうと御構いなし、その屍を踏み砕いて襲いくる狂気の群衆。

俺はアレを想定していたのだ。

 

確かに、周りの生徒達から監視されているというのは抑止力にはなるかもしれない。

もし俺があちら側の立場なら、ここは戦闘を諦めて撤退する。

しかし、相手はあの一文字神父だ。

毒殺不意打ち騙し討ち、どんな手でも使ってくるあの一文字神父だ。

この程度の抑止力では、彼が少し覚悟を決められただけで無意味になる。

 

だからこそ、俺は焦っていた。

どうして群衆にならない?

セイバーに感じるのは、何とも言えない不審さだけ。

白昼夢とこの状況では一体何が違う?

思い出せ、思い出せヤシオリツトム。

あの時、群衆はどうして襲いかかってきた?

あの時───

 

人殺し。指名手配犯。ひったくり。暴行犯。

そういえば、白昼夢の中では俺は犯罪者として扱われていた。

そこから彼は叫ぶのだ。

「神の名の下に、罪人(魔女)を殺せ」と。

その罪に真贋は必要ない。

疑わしきは罰せよと言わんばかりに、群衆は襲いかかる。

つまり、罪が必要なのだろう。

叫べばいい。

冤罪でもいい。真実でもいい。

「人殺し」としでも叫べば、それだけで生徒達は群衆と化すだろう。

 

そうと分かればあとは簡単だ。

大きな声を出すために息を目一杯吸い込もうとして、硬直する。

 

───本当にそこまでする必要はあるか?

一文字神父が抑止力に負けて撤退する可能性だってあるじゃないか。

やめた方がよくないか?

だって、群衆となれば、()()()()()()()のだから。

そこまでする必要は、ないんじゃないのか?

 

躊躇う。そんな思考が浮かんでしまって、躊躇う。

ここで何もしなくても、もしかしたら助かるかもしれないという誘惑。

人殺しになる必要は、ないかもしれないという甘い誘惑に襲われる。

 

その結果もたらされたのは静止だ。

一文字神父も静観を決めており、俺もまた動かない。

よく言うなら睨み合い、悪く言うなら膠着状態。

 

 

だが、その中でもっとも早く動いたのは、アリス先輩だった。

 

「そう、魔女なのですね?」

 

一歩、俺の後ろから歩み出る。

 

「キャスターちゃんが言うのならそうなのでしょう」

 

一歩、歌うように言葉を紡ぎながら。

 

「…さなければ」

 

一歩、その顔は見えなかった。

 

「魔女は、殺さなければ」

 

一歩、そうして少女(アリス先輩)は俺の前へ立つ。

真っ直ぐにセイバーを睨み、演説のように声を上げた。

 

「この女は、魔女です!人(アラ)ざる()()()()です!目を覚ましなさい!アレは悪そのものなのですから!」

 

ざわりと、生徒たちの雰囲気が変わる。

生徒たちのセイバーを見る目が、変わる。

不審者を見る目(戸惑い)から、忌み者を見る目(敵意)へと。

それを受けて、ずっと黙っていたセイバーが口を開いた。

 

(ワタクシ)がバケモノ、ですって?民草の守護者たる私が……? いいえ、いいえ、そのような戯言を───」

「おい!誰か先生呼んでこい!」「はあ?先生呼んでどうするんだよ。こういうの(犯罪者)は警察だろ?」「ヤバイヤバイヤバイ!」「ちょっと男子!こういう時こそ出番でしょ!」「下手に刺激したらヤベェだろうが!殺されるかもしれないだろ!?」

「───え?だ、だから(ワタクシ)は……」

「いやァ!こっち見た!」「怖いよぉ……」「みんな!男子が前に出て女の子を守るんだ!」「生徒会長!?俺死にたく無いんですけど!?」「クッソォ!くるから来やがれ!」「動いたぞ!剣を抜くかもしれないから気をつけろ!」「そんなこと言ったって!」「数て押せば!」「囲め囲め!」

 

セイバーの言葉は喧騒の濁流によって押し流される。

誰一人その言葉を聞き入れることもなく、セイバーへ敵意を向ける。

生徒たちの視線は、セイバーを畏れていた。

まるで、凶悪な殺人鬼に遭遇したように。

まるで、獰猛な肉食獣に遭遇したように。

 

まるで、()()()()()()に遭遇したように。

 

「君たちもこちらに!」

「え?俺たちは……」

「いいから!」

 

俺とアリス先輩は人混みに飲み込まれ、輪の中にはセイバーと一文字神父のみが残る。

責め立てるような生徒たちの喧騒が二人を覆う。

たった一人の人間(英霊)を大人数で囲み、疑い、拒絶する。

ああ、その構図はまさに─────(魔女狩りだった)

 

(ワタクシ)は、民草(アナタ)たちの為に……!」

 

セイバーが声を荒げる。

その姿には少し前まであった超然とした態度は、影も形も残っていなかった。

例えるならば、泣き喚く幼い少女のような雰囲気。

或いは、ソレそのものだった。

地団駄を踏むように怒りを込めて振り下ろされた腕によって、風が周囲を吹き荒らす。

 

「セイバー。落ち着くんだ 」

「違う!違う!(ワタクシ)じゃない!悪なのはあっちではありませんか!」

「警戒しとけよ!何をしてくるかわからないからな!」「武器!バット持って来たぞ!」「ナイス!これであの頭おかしい女を叩きのめせる!」「あんなバケモン女に、そんな武器で勝てるか?」「な、無いよりはマシだろ」「剣防げるかもしれないだろ!」「誰か早くあの女を殺してよぉ!」

 

一文字神父が声をかけようと、セイバーが正気に戻ることはない。

ざまぁみろ。と、脳内で誰かが呟いた。

罪人は苦しむべきだ。と、脳内で誰か(オレ)が呟いた。

……俺は今何を考えていた?

 

周りを見渡す。

たった数分で気づけば人だかりは膨れ上がり、皆が一様にセイバーに敵意を向けている。

害意を、向けている。

正気じゃない。

今さっきのセイバーの動きを見ればわかるはずだ。

ただ手を振っただけで風を吹き荒らす相手に、勝てるはずなんてない。

なのに、人だかりは戦意を見せていた。

俺もまた、一瞬前はセイバーに憎悪に近いナニカを抱いていた。

異常だ。異様だ。異色だ。異例だ。

 

───俺は、この状態を識っている。

 

魔女()は、誅さなければなりません」

 

諳んじるように、アリス先輩が述べる。

その声は喧騒の中でも妙に響き、人だかりの中へと浸透して行った。

 

「そうだ!」と誰かが叫んだ。

魔女()を許すな!」と誰かが怒鳴った。

魔女()に誅罰を!」と誰かが喚いた。

 

「殺せ!」と群衆(みな)が騒いだ。

 

脳に直接言葉がねじ込まれる。

思考回路が悲鳴をあげて変形する。

 

セイバーを殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。セイバーを殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。セイバーを殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。セイバーを殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。セイバーを殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。セイバーを殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。悪を殺せ。魔女を殺せ。魔女を殺せ。魔女を殺せ。殺せ。殺せ。殺せ!殺せ!

 

魔女(セイバー)に、誅罰あれ!

 

(ワタクシ)は悪ではありません!(ワタクシ)はずっとずっと民草(アナタ)たちの為に戦って来た!だから、違う!違う!違うのです!」

 

魔女(セイバー)が無様にもそんな言い訳を叫ぶ。

幼子のように這い蹲り、同情を誘うかのように涙を流す。汚らわしい。魔女の言葉に意味などない。耳を傾けてはならない。悪魔に命を持っていかれたくなければ、魔女はすぐに殺さなければならない。

 

コツン、と足音が聞こえる。

何事かと思うと、そこには少女(キャスター)が立っていた。

ああ、そうだ。彼女こそが裁判官。邪悪なる魔女に誅罰を与える審問官。魔女にとっての処刑人。

 

群衆(みな)がヒートアップする。

彼女によって邪悪なる魔女(セイバー)へ審判が下るのを今か今かと待ちわびる。

殺せ、誅せ、魔女(セイバー)に罰を。セイバー(魔女)に処刑を。

 

「くっ、セイバー!令呪をもって───」

 

魔女(セイバー)を手助けしようとする一文字神父(ダレカ)の声が聞こえる。

視線を向けると、そこには神父服の男。

ああ、彼は一体誰だったか。そんなことはどうでもいい。

魔女を助けようとする?

なんたる悪行か。なんたる悪業か。

魔女に助力する人間などいない。

いるとすれば仲間の魔女か、契約した悪魔だ。

止めなければならぬと理解した。

どういうわけか、群衆(みな)にはあの悪魔が見えていない。

俺が、行かねばならぬと理解した。

 

「アアアアアアァァァア!!!」

 

悪魔へと真っ直ぐに飛びかかる。

恐怖心(心のどこか)が騒いでいたが、魔女を狩るには些細なことだ。

狙うは腕。彼は袖の中に小型銃を隠し持っている。

それを奪えば───まて、なぜ俺はそんなことを識って、いや違うどうでもいい。

今はそんなこと、どうでもいい。

魔女は殺さなければならない。悪魔は殺さなければならない。

 

「なっ!?」

 

瞠目する悪魔の隙を盗み、その袖から小型銃を引きずり出す。

小型銃を手の中に収まると、触れたこともないはずなのに妙に手に馴染んだ。

そのまま両手で構えて悪魔へ向けた。

悪魔の表情が苦々しく歪み、俺たちは時が止まったように睨み合う。

もし彼がその鎧甲から蹴りを繰り出すと、俺は死ぬだろう。いいや、俺だけではなく周りの群衆(みな)を巻き込んで大惨事へと発展するかもしれない。

もし俺が引き金を引けば、悪魔を殺せるだろうか?いいや、悪魔たるものそのくらいは防げるかもしれない。ただし、こんな人が密集した場所では、跳弾によって死傷者の一人や二人出るかもしれない。

どちらが動いても、周りの人間を巻き込む可能性があった。

 

───だからどうした?

魔女は狩らねばならない。悪魔は殺さなければならない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

照星(フロントサイト)越しに悪魔の顔を睨んだ。

そして、引き金に手を掛け───

 

 

「判決を下す」

 

歓声。

 

「汝の罪状は魔女であること」

 

怒号。

 

 

一気に群衆(みな)が沸き立つ。

 

『『『殺せ。殺せ。その女を殺せ。でなければ、おちおち寝ることもできない!!』』』

 

魔女が意地汚くも泣き叫ぶ。

 

『ああ、違うのです。私はアナタたちの為に!許してください……私をどうか───』

 

全てが遠くのことのように声が聞こえる。

最高潮にまで白熱した群衆(みな)の叫び声も、魔女の泣き声も。

目の前にいる悪魔の心情も、俺にはわからない。

酷く歪んだその表情の意味が、どうしてもわからない。

 

 

「死をもって、その罪を償いなさい」

 

告げられる最終判決。

ならば次は決まっている。

 

魔女の背後に、絞首台が現れた。

付き添うように。突き落とすように。

フラフラと縄は不気味に揺れ、蛇のようにひとりでに魔女へと食いつく。

今日一番の歓声をあげる群衆(みな)。呆然としたまま涙を滔々(トウトウ)と流す魔女。

 

 

「死刑、執行」

 

キャスターが儀式槌(ガベル)を振り下ろす。

虚空へと振り下ろしたはずなのに、何かを打ち抜いたような小気味の良い音が鳴り響いた。

 

 

「───魔女に与える鉄槌(フィニス・ヴァルプルギス)

 

 

そうして英雄(セイバー)は、親に見捨てられた少女のような表情を浮かべたまま、あっさりと消滅した。

 




話の解説は次話のあとがきでする予定なので、ここにはセイバー版源頼光のステータスとキャスターの宝具詳細を載せておきます。
頼光は知名度補正で強化されたステータスです。

【真名】源頼光
【クラス】セイバー
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力A 耐久B 敏捷A
魔力A 幸運D 宝具C
【クラススキル】
対魔力B
騎乗A+
神性C
狂化C
【スキル】
無窮の武練A+
魔力放出(雷)A
神秘殺しA
【宝具】
童子切安綱(どうじぎりやすつな)
ランク:C
種別:対人宝具
レンジ:1〜2
最大補足:1人

天下五剣の一口として知られる太刀であり、頼光が生前愛用した一振り。
この刀自体が怪異に対する特攻を持っており、(こと)に対鬼に関しては恐ろしいほどの切れ味を発揮する。
ビームを撃ったり出来るわけではないが、頼光が使う武器として最適化されており、頼光の魔力放出の効果を何倍にも跳ね上げさせる。
この宝具を真名解放した頼光は、雷そのものと化し雷鳴と共に敵を蹂躙する。発動中は筋力、俊敏のパラメータに++補正。


キャスター
【宝具】
魔女に与える鉄槌(フィニス・ヴァルプルギス)
ランク:A+
種別:対魔女宝具
レンジ:3〜50
最大補足:1人

玩具のような小さな儀式槌(ガベル)
しかしその正体はこの世全ての魔女狩りという概念そのもの。
判決を降すことで発動し、魔女狩りに用いられた凡ゆる処刑道具を具現化し、対象を処刑する。
その処刑は攻撃ではなく呪いの一種であり、キャスターの賛同者(群衆)が多ければ多いほど強力なものとなる。
どんな処刑道具も具現化することができるのだが、キャスターは好んで絞首台を使用している。


セイバーの宝具は自バフ宝具です。
あと「雷そのものと化し〜」とか書いてますけど、別に雷天大壮するわけじゃないです。速さの比喩表現です。でもその速さは本物なので、下手なサーヴァントだと雷鳴が聞こえたと思ったら三枚に降ろされていた、なんてありえます。
因みに、セイバーなので刀以外の武器は縛ってます。

キャスターの宝具は明らかに不相応な感じですが、これもちゃんと理由を考えてあります。いずれまた説明します。

ご感想お待ちしてます。


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少女(えいゆう)

この話は同時投稿の二話目です。
同じ話の別視点なので、順番はあまり問題はありませんが、前話今話を両方読んでくださると幸いです。

まさかのセイバー目線。


「僕は、絶対に敵マスター以外の人間を傷つけない。だが、もしも君が僕の所業を悪だと断じたならば、迷いなく僕を切ってくれても構わない」

 

頼光が召喚された時、彼女のマスターは開口一番にそんなことを言った。

宣言するように。宣誓するように。

 

彼は酷く澱んだ瞳をしていた。

この世全ての破滅を、うっかり覗き込んでしまったかのような淀み。

けれど、その中に悪心はなかった。

深い絶望と灼けるような焦燥はあれど、その瞳の中に悪はいなかった。

故にこそ、頼光は彼を信じることにしたのだ。

 

 

しばらく(マスター)と行動を共にすることで、頼光にも少しずつ一文字秋詠という人物がわかって来た。

まず、彼の本質は善である。

他人のために何かをしてやれるような、善人のそれである。

それと同時に、彼の行為は悪である。

利益のために他人を騙し、追い込むような悪人のそれである。

いわば、秩序・悪(手段を選ばない善人)

現代風に表すならばダークヒーローという奴だ。

 

一度だけ一文字に聖杯に託す願いについて尋ねたことがある。

その時の彼の答えはただ一言。

『セカイを救うことだよ』

逡巡もなく、男はそう言い放った。

 

ああ、源頼光(ワタクシ)は幸運だ。

彼ほどの正義の味方(ヒーロー)がマスターだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方、魔女ね」

 

キャスターがそう宣言すると同時に、辺りの子供(民草)達が突然騒がしくなる。

一文字の魔術によって見えなくなっていた頼光の姿が、彼らにも見えるようになったらしい。

ポーカーフェイスを貫きながらも、彼女は内心顔を顰めていた。

なんと醜悪な手なのだろう。

一文字は確かに周りの子供(民草)を人質に取るような動きをしていたが、それはあくまでブラフ。

抑止力として虚勢を張っておき、抵抗も許さず敵マスターを暗殺()する。

それこそが彼の作戦だったのに。

その作戦も最早元の木阿弥。

本当に周りの子供(民草)達を巻き込まれてしまったら、こちらのブラフなんて無意味なものと化す。

なんて最悪なことをしてくれたんだと頼光はキャスターを睨みつける。

 

「認識されている?キャスターのスキルの効果か……厄介だな」

 

現状を忌々しく思っているのは一文字も同じらしい。

一文字はわかりやすい程に表情を歪めている。

誤魔化し(ポーカーフェイス)が得意な彼としては珍しいことだ。

 

『マスター、如何(イカガ)なさいますか?』

『ここまで生徒たちに注目されてしまったら作戦は破綻だ。暗殺なんてできたものじゃない。ごめん、これは僕の失態だよ』

『いえ、そのようなことは』

『彼がアサシンを呼び出さずにキャスターに頼るというのは本当に予想もしてなかった。彼のメンタリティなら必ずアサシンを呼ぶと誤認識していた。失敗した。外に貼っておいた鬼払いも無駄になっちゃったな。

ところでセイバー、注目を集めている事以外に異常はないかい?』

『ええ、はい。身体共に十全です』

『ならキャスターの能力は本当にただ注目を集めるだけか? いや英霊の能力がその程度のはずないだろう。もっと他の要素が……全く、これだから不測の事態は嫌なんだ』

 

相手は動かないが、頼光たちもまた行動を起こせない。

キャスターのスキルによって、セイバー陣営は完全に釘を刺されていた。

このまま戦闘に突入でもした日には、周りの子供(民草)を巻き込みざるを得ない。

特にアサシン()。アレとの衝突はこの建物ごと崩壊させ得る。

だからこそ呼び出す暇すらなく、或いは結界によって時間を稼いでいるうちに敵マスターを電撃撃破したかったのだが、こんな状況になってはどうしようもない。

今はまだ到着していないが、相手は必ず呼び出しているはずだ。

キャスターの能力によって、アサシン()が鬼払いの結界を突破する時間を作る。

アサシンが到着してしまえば、頼光は周りの子供(民草)達を守りながらの防戦となり、その戦いは厳しいものとなるだろう。

それに、キャスターもまだどんな力を残しているのかわかったものではない。

気配こそ周りの子供(民草)と変わらないように思えるが、その本質は英雄のはず。

 

『……ここは一旦撤退するのがよろしいかと』

『そうだね。今日のところは───』

 

その時、停滞していた戦場が動いた。

正確には戦場に巻き込まれていた一人の少女が、動いた。

ブツブツと小言を呟きながら歩き出し、頼光を睨みながら演説のように声を張り上げた。

 

「この女は、魔女です!人非ざる()()()()です!目を覚ましなさい!アレは悪そのものなのですから!」

 

()()()()

その一言を聞いた瞬間、頼光は胸の奥に鋭い痛みが走るのを感じた。

想起する。

傷ましいモノを見るような女中の視線。凍った表情を浮かべる()の顔。恐怖を叫ぶ怪異の声。幼少期の孤独への絶望感。ひとりぼっちの夜の寂しさ。

 

(ワタクシ)がバケモノ、ですって?」

 

胸の痛みが過ぎると、次は腹わたが煮えくりかえるような怒りが沸き起こった。

頼光は憤怒する。

バケモノ?悪?一体何を言っているのだこの小娘は。

民草の味方、朝廷の(ツルギ)、都の守護者たるこの頼光に対し、事を欠いて悪だと?

なんたる世迷言か。なんと見苦しい妄想か。

民草を守ってきたこちら(頼光)と、その民草を戦に巻き込もうとするあちら(キャスター)

果たしてどちらが悪なのか。

(アサシン)と手を組んでいるあちら(キャスター)と、神秘()殺しのこちら(頼光)

果たしてどちらが悪なのか。

そんなこと──考えるまでもなく知れている。

決まりきっている。

 

「民草の守護者たる私が……? いいえ、いいえ、そのような戯言を「おい!誰か先生呼んでこい!」「はあ?先生呼んでどうするんだよ。こういう犯罪者は警察だろ?」「ヤバイヤバイヤバイ!」「ちょっと男子!こういう時こそ出番でしょ!」「下手に刺激したらヤベェだろうが!殺されるかもしれないだろ!?」

 

それ故に、頼光は理解できなかった。

何故、周りの生徒(民草)達が自分に悪意を向けてくるのか。

なぜ、周りの子供(民草)達が自分を畏れているのか。

なぜ、都の守護者(自分)がそのような目で見られるのか。

だって、その目は(キャスター)に向けるべき目だろう?

 

「───え?だ、だから(ワタクシ)は……」

「いやァ!こっち見た!」「怖いよぉ……」「みんな!男子が前に出て女子を守るんだ!」「生徒会長!?俺死にたく無いんですけど!?」「クッソォ!くるなら来やがれ!」「動いたぞ!剣を抜くかもしれないから気をつけろ!」「そんなこと言ったって!」「数で押せば!」「囲め囲め!」

 

わからない。わからない。わからない。

なんで自分が怖がられているのかわからない。

なんでそんな目で見られるのかわからない。

 

頼光は守護者である。民草を守る守護者である。

彼女の行動を観察すると、それはすぐに理解できる。

彼女は、民草の守護者がするべき行動のみを実行するのだから。

 

頼光は守護者である。民草を守る守護者である。

そう、己で決めたのだから。そうあれかしと願われたのだから。

そうでないと、頼光はまた戻ってしまう。

女中から畏れられ、父に敵視される小娘(バケモノ)に。

 

だから縛った。雁字搦めに己を縛った。

守護者がするべき行動のみを選んだ。

守護者がするべきでない行動は全て捨てた。

故に、頼光は守護者である。

故に、頼光は守護者でなければならない。

 

そうしないと───嫌われてしまうから。

 

 

(ワタクシ)は、民草(アナタ)たちの為に……!」

 

 

知らず知らずのうちに、頼光は声を荒げていた。

【ダメだ。こんな行動は守護者(ワタクシ)が取るべきものではない】

頭ではそうわかっている。わかっているのに、止められない。

自分の抱いている想いの名前がわからなくて、感情のままに腕を振り下ろす。

その行為だけで周囲には突風が巻き起こり、周囲の生徒(民草)達が悲鳴をあげた。

【ダメだ。こんな行動は守護者(ワタクシ)が取るべきものではない】

頼光に向けられるのは、恐怖と敵意に塗れた民草達の視線。

ちがう。頼光(守護者)が向けられるべき視線はコレではない。

尊敬と、憧憬に満ちた視線をこそ向けられるべきなのだ。

そのためにこそ頼光は守護者になった。

認められたかった。受け入れられたかった。

だから、頼光は守護者になった(自由を捨てた)のだ。

 

「────。──────」

 

誰かの声がする。聞き覚えがある男性の声だ。

けれどそれもすぐに頼光の意識からはじき出された。

それどころじゃなかった、というのが彼女にとっての事実だろう。

 

守護者になる(自由を捨てる)という対価を払って、頼光は人間に認められた。

その対価を払い続ける限りは、頼光はヒーローであり、人間達にも受け入れられる存在である事を許される、()()()()()

だというのに、この現状はなんだ?

左をみても、右を見ても、後ろをみても、前を見ても。

守るべき民草が守護者(頼光)を睨んでいた。

手負いの猛獣を見るように、恐ろしい悪人を見るように。

 

「違う!違う!(ワタクシ)じゃない!悪なのはキャスター(あっち)ではありませんか!」

 

その視線は自分ではなく、キャスターに向けるべきモノの筈だ。

わからない。わからない。わからない。

どうして自分がそんな目で見られている?

どうして守護者(自分)がそんな目で見られている?

 

頼光の口からはスルスルと思考が漏れでる。

彼女の精神は、限界に瀕していた。

敵に悪意を向けられるのはいい。

仲間に畏怖を抱かれるのはいい。

だが、民草に敵意を抱かれるのは───。

 

「警戒しとけよ!何をしてくるかわからないからな!」「武器!バット持って来たぞ!」「ナイス!これであの頭おかしい女を叩きのめせる!」「あんなバケモン女に、そんな武器で勝てるか?」「な、無いよりはマシだろ」「剣防げるかもしれないだろ!」「誰か早くあの女を殺してよぉ!」

 

けれどその叫びすらも群衆の喧騒に飲み込まれた。

頼光の言葉は、誰にも届かなかった。

 

「悪は、誅さなければなりません」

 

頼光とは正反対に、喧騒に響く声。

視線を向けると、そこに立つのはキャスター()のマスター。

演説でもするように、勝鬨でもあげるように、その少女は凛として言葉を放った。

まるで、()()()()()のように。

 

「そうだ!」と民草(誰か)が叫んだ。

「悪を許すな!」と民草(だれか)が怒鳴った。

「悪に誅罰を!」と民草(ダレカ)が喚いた。

 

「殺せ!」と護るべき人々(みんな)が騒いだ。

 

 

 

(ワタクシ)は悪ではありません!(ワタクシ)はずっとずっと民草(アナタ)たちの為に戦って来た!だから、違う!違う!違うのです!」

 

(ココロ)が止まらない。

【ダメだ。こんな行動は守護者(ワタクシ)が取るべきものではない】

(ココロ)が止まらない。

【ダメだ。こんな行動は守護者(ワタクシ)が取るべきものではない】

腰が抜けるように蹲り、ただ泣き叫ぶ。

【ダメだ。こんな行動は守護者(ワタクシ)が取るべきものではない】

【ダメだ。こんな行動は守護者(ワタクシ)が取るべきものではない】

【ダメだ。こんな行動は守護者(ワタクシ)が取るべきものではない】

【ダメだ。こんな行動は守護者(ワタクシ)が取るべきものではない】

ポロポロと、化けの皮(守護者)が自分から剥がれ落ちるのを頼光は感じていた。

守護者(英雄)から落ちた自分など、ただの小娘でしかないことを頼光はわかっていた。

わかっていても、もうどうしようもない。

 

 

『判決を下す。汝の罪状は■■であること」

『『『■■。■■。その女を■■。でなければ、■■■■■■こともできない!!』』』

 

声が聞こえる。()が漏れる。

自覚はあれど、頼光はもう止まらない。

 

「ああ、違うのです。私はアナタたちの為に!許してください……私をどうか───」

 

───どうか、()()()()に生まれてしまった私を許してください。

 

 

「死をもって、その罪を償いなさい」

 

 

かくして、死刑は執行された。

 




「人間は怪物に喰われる。怪物は英雄に倒される。そして、英雄は人間に殺される。」
そんな言葉がありますが、聖杯戦争内で英霊が人に殺されることはあるんだろうか?
そういう発想でこの話を書きました。
つまり、キャスターとは人間の属性を持つ唯一のサーヴァントなんです。英霊殺しに特化してます。
それが、ピンポイントで頼光のトラウマを突いた結果、このような結末になりました。

FGOの頼光というのは母親や鬼殺しというイメージが先行しますが、作者は頼光の本質は「おままごとをしている幼女」であると考えています。
大人の体と巨大な力、しかし精神は幼い。そんなイメージなんです。
その彼女が負けるとしたら、どのようなシチュエーションになるか考え続けた結論でもあります。

こんな可哀想な目に合わせてしまいましたが、作者は頼光を100レベスキルマにして愛用してるほど好きです。
共に獅子王を倒し、バーストⅡを倒し、ビーストⅠを倒し、最近ではシンを滅ぼしました。
自分の中で最強のサーヴァントだからこそ彼女を倒すのにこうするしかなかったのかも知れません。

ご感想お待ちしてます。


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ハッタリ

久々の更新。


前世で、スマホ越しに何度も見た光景。

金色の粒子となって、ひとりのサーヴァントが無に帰った。

 

「──あれ?」

 

そうして、俺はようやく正気に戻る。

だが、現状が理解できなかった。

どうして俺は拳銃を持っている?

どうして俺は拳銃を一文字神父に向けている?

いつもの白昼夢とは違う、薄ぼんやりとした膜が脳を覆っているようだった。

意識がはっきりしてくると、ようやく自分がどうしてこんな状況になっているのか思い出す。

しかし、その記憶は本当に自分がやったのかと疑いたくなるほど実感が湧かなかった。

 

「全く、やってくれたね」

 

一文字神父が左手で頭を抑えながらそう呟く。

頭が痛い問題と考えているのが目に見えてわかる表情だった。

けれど、その目に諦めの色はない。

なにかを企んでいると、直感で感じ取れる。

 

想像より幾分も軽く、なんとなく手に馴染む小型拳銃(デリンジャー)を構え直す。

狙いは真っ直ぐ脳天。

そのはずなのに、うまく照準が合わない。

しばらく照準と格闘したのち、自分が震えているのだと気づいた。

 

「なるほど。キャスターのスキルが解けたみたいだね。思うに、アレは人に狂化を付与するスキルなのかな?」

 

キャスターのスキルが解けた?

そう言われてみれば、周りの喧騒は無くなっていた。

チラリと周りを確認すると、群衆は生徒に戻り、「なんでこんなところに集まっているんだ?」なんて表情で顔を見合わせている。

拳銃を構えた俺がいてもみなが気付かないのは、おそらくまだ一文字神父の魔術が効いているからなのだろう。

一文字神父(対象)に対して違和感を覚えさせない魔術は、一文字神父が拳銃を向けられているなんて状況の違和感も揉み消してくれるらしい。

例外(スキル)によって視認されていたが、その例外(スキル)が終われば魔術の効果は再発現する。

要はそういうことなのだろう。

ゾッとするほど強力な魔術だ。ウチのショボい魔術も見習ってほしい。

 

「う、動くな!動くと撃つぞ!」

「その震えた腕で?そんなガタガタ揺れる銃身じゃあ、この距離でも当たらないさ」

 

悠々とした動作で動き出す一文字神父。

たしかに、こんなガタガタ震える銃身では怖くもないだろう。

自分でもなんでこんなに手が震えるのかわからなかった。

まるでオモチャみたいな拳銃に、こんな本当に人を殺せるかもわからないような拳銃に、俺は恐怖している。

あたかも、この拳銃が人の命を奪えることを()()()()()()()()()()()()()()()

 

一文字神父は俺を中心として四分円を書くように歩き、校庭側の壁を背に立ち止まってこちらを向く。

窓から見える青空を背に立つ一文字神父は、妙にサマになっていた。

 

 

「一つ聞きたいことがあるんだ」

 

一文字神父が口を開く。

拳銃なんて怖くないと言わんばかりの余裕の態度だ。

なぜ彼は怖くない?この近距離で凶器を突きつけられ、どうして恐怖しない?

俺が震えてるからとはいっても、この距離では震えなんて関係なしに当たる。

正確に脳天を撃ち抜くことはできないかもしれないが、少なくとも体の何処かには当たる。

だというのに、なぜ……?

 

対策があるというのか?

足にあんな鎧を纏い、小型拳銃を隠し持っているような奴だ。

なにか秘策があってもおかしくはない。

だとしたら、俺は完全に無意味な脅迫をしていることになる。

脅迫どころが隙だらけの間抜けだ。

 

本当にそんな対策があるのだろうか?

そもそも秘策あるとしたらもう行動を起こしているはずだ。

セリフがブラフであってもおかしくない。

だとしたら、ここで撃てば一文字神父を倒せることになる。

撃ちさえ出来れば勝ちなのだ。

 

どっちだ?どっちなんだ?

結局のところ、撃てばわかる。

撃ってしまえば真実がどちらなのかわかるのだ。

秘策かブラフか。

けれど、もし本当に神父が秘策を用意していたなら……。

撃てばわかる。撃てばわかるのに、確認するのが怖くて引き金を引けない。

圧倒的に有利なはずなのに、ほんの少しの不安によって引き金が固められているようだった。

 

「ヤシオリくん。君が聖杯に祈る願いとは、一体なんなのかな?」

「聖杯に祈る願い……?」

 

俺の必死の思考など気にもせずに神父が質問を飛ばしてくる。

白昼夢でも聞いた質問だ。それも一度だけじゃなく、何度か。

そして、俺はまだその質問に一度も答えられていない。

 

「なんでたってそんなことを聞くんだ?」

「うん?そうだな……願いが同じだったら協力出来るかもしれないだろ?」

「はあ?こんな状況から協力?バカじゃないのか?」

「さて、どうだろうね」

 

男は曖昧に笑う。

なんとなく、化かされているような気がした。

一文字神父によって雰囲気を全て掌握されているような、そんな感覚。

 

「お、俺の聖杯への願いは……」

 

聖杯への願い?

そんなもの、ないじゃないか。

俺はただ酒呑童子に会いたい一心で聖杯戦争に参加した。

俺にとって聖杯戦争は目的であって過程じゃない。

聖杯戦争に参加して、本物のサーヴァントと出会うことこそが目的だったんだ。

願いなんて、あるわけない。

 

けれど、何となくここで黙ってはいけない気がした。

このまま神父に()らせてはダメな気がした。

予感というよりは経験則。

 

「君の願いは?」

 

一文字神父が急かすように繰り返す。

 

俺の願いは叶いは……なんだ?

 

『アリス先輩と結ばれたい』

聖杯で作った愛なんて虚しいだけだ。

『大金が欲しい』

どうせすぐ使い果してしまう。聖杯の無駄使いだ。

『嫌な奴に死んで欲しい』

今世にはそんな恨んでいる相手は居ない。

『幸せになりたい』

幸せってなんだよ?薬でもキメたみたいになるかもしれない。

『前世に帰りたい』

それはない。

この世界の主人公(フジマルリツカ)になりたい』

酒呑童子(推し鯖)には会えたから別にいい。

『未来を知りたい』

知ったところでどうなる?

『根源に至りたい』

なんか没個性的で嫌だ。

『ゴキブリの死滅』

ゴキブリだって生きてるんだぞ!

『最強の存在になりたい』

戦闘(痛い思い)はしたくない。

『ハーレムが欲しい』

胃が痛そうだし、刺されそう。

『ガチャ運が欲しい』

今世(1999年)にはまだソシャゲがない。

 

どうせなら、普通じゃ叶わない大きな願いが良い。

どうせなら、カッコいい願いが良い。

どうせなら、ドヤ顔で言ってやりたい。

 

ああ、そうだ。アレがちょうどいいじゃないか。

 

「俺の願いは、世界平和──恒久的世界平和だ」

 

世界平和。

聖杯でもないと叶わない願いで、かっこよくて、まるで主人公みたいな願いだ。

それを聞いた一文字神父は少し眉を顰めていた。

 

「世界平和?それは世界の人が皆が傷つくことなく幸せに〜ってやつかい?」

「ああ」

「ふむ……」

 

なるほど、なんて具合に声を漏らしながら一文字神父は考え込んでしまった。

顎に手を当てウンウンと唸る。

なんで考え込んでるんだ?

まさか一文字神父の願いも世界平和だったりするんだろうか?

 

「世界平和、ね。うん。そうだね」

 

考えをまとめるように、コクコクと頷き、いつも通りの笑顔を浮かべる。

 

そして、狐めいた笑顔のまま彼は宣言した。

 

「やっぱり、君は僕の敵だ」

 

瞬間、けたたましい音とともに校舎の壁が吹き飛ぶ。

一気に視界が開き、次いでバチバチと音を鳴らしながら帯電する鎧甲が目に入った。

 

蹴り壊したのか?銃を突きつけられたこんな状況で?というか公共施設をなに破壊してんだよ。税金だぞ?いやそうじゃなくて、そうじゃなくて……このままでは、逃げられる?

 

「な、何やってんだアンタ!撃たれたいのか!?」

「いやぁ、ずっと言おうか悩んでたんだけどさ」

 

人が丸々通れそうな穴を背後に背負い神父は笑う。

 

小型銃(それ)、弾入ってないよ」

 

小馬鹿にするように、滑稽なものを見るように、そんな嘲笑を神父は浮かべていた。

 

弾が入ってない?いやそんな筈がない。

だって俺は、実際にこの銃で撃ち殺されたのだから。

だが、アレはあくまで白昼夢。白昼夢が100%当たるという根拠もない。

一文字神父の言っていることは本当か?

嘘だろう。

しかし、嘘だとしたら銃を突きつけられてあんな表情浮かべられるか?

実は本当なのかも?

いや、でも……

 

嘘のハズなのだ。嘘のハズなのに神父の表情が、声のトーンが、纏う雰囲気がその言葉を嘘だと断言させてくれない。

 

そんな俺の一瞬の迷いを狙い、神父の腕がうねる。

銃を隠し持っていたのとは逆の袖から飛び出たそれは、ワイヤーだった。

まるで漫画やアニメに出てくる糸使いのように、神父はワイヤーを器用に操って隙を晒していた俺の左腕を凝固に搦めとる。

糸使いといえば細い糸を使った斬撃が代名詞だが、流石に現実でそんなことが出来るはずもないらしく、ワイヤーが巻きついた左腕には圧迫感のみが与えられた。

 

なんのつもりだ?

 

両手で構えていた銃を右手一本で構え直しなから、俺はその行動に首を傾げた。

左手のみを拘束したところで、銃を撃つ動作になんの邪魔にもならない。

むしろ、二人が繋がったことによってより逃し難くなったとすら言えるのではないか?

銃を構え直すのと並行動作で、強度を確かめるようにワイヤーを引っ張るとワイヤーを越しに神父を引っ張れた感覚があった。

……()()()()

 

弾かれたように神父へ顔を向ける。

けれど()()()に気づいても、時は()うに遅かった。

なぜなら、神父へ向けた視界に映ったのは、彼が勢いよく穴に身を投じる姿だったからだ。

 

踏ん張らなければ。ワイヤーを解かなければ。

そんな思考を実行するよりも早く、ワイヤーは俺を空へと引きずり込んだ。

 

 

浮遊感。

 

 

内臓が軒並み持ち上げられる感覚。

 

胸の奥がバカみたいにうるさくなって。

 

わけもわからず息が苦しくて。

 

眼下の白いグランドに目がくらむ。

 

一瞬であるはずの時間が引き伸ばされて、妙に頭が冴える。

主観が客観へと変わり、ゲームアバターでも見てるかのように状況を俯瞰する。

 

腕を引っ張られて落ちた為に、見事に頭から俺は落ちていた。

 

神父は?

神父は俺よりも更に下にいる。不平等な事に彼はしっかり足を下に向けて落ちている。

スローモーションの映像の中で見える笑顔、雷電を纏った鎧甲。

どうやら彼方は着地の秘策があるらしい。

 

一方俺は?

下には神父。

落下軸が微妙にずれており、クッションには出来そうにない。

 

上には青空のみ。

 

横には校舎と街並み。

校舎に捕まるには些か以上に距離がある。

 

手元には銃一つ。

ポケットの中身は学生証とハンカチ。

 

そして、左腕に巻きつくワイヤー。

 

 

真下から風が吹く。

 

グラウンド(タイムリミット)はどんどん近づく。

 

 

考えろ、考えろヤシオリツトム。

 

必死に頭を働かせて、どうにか助かる方法を考えろ。

 

 

ワイヤーを逆に利用して、無理だ。

 

銃の反動で、間に合わない。

 

神父を真下に、不可能だ。

 

 

キャスターに助けを、届かない。

 

 

せめて足から、出来ない。

 

 

酒呑を呼んで───

 

 

 

 

「あ 」

 

漏れる声。

 

響く音。

 

林檎のように、柘榴のように。

 

 

 

ナニカが砕ける音がした。

 

 

 




サラッと出しましたが、この物語は1999年のお話という設定です。
apoの聖杯大戦が2000年頃の話らしいのでそのちょっと前ってことにしました。
1999年の2月です。

感想くれたらとても嬉しいです。


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