ガッシャーン!
お皿の割れる音が部屋中に響き渡る。
「ハァ、またかよ…ったくいい加減にしろ!」
いつものようにノイトラはリビングに向かって走る。そしてようやくリビングに着くとそこには…
「アー?オロァ??」
「何?」とでも言いたげな奇声に近い声を上げているワンダーワイスの姿。
「テメェ何回やれば気がすむんだァ?少しはこっちの身にもなって考えてみろよ!」
「チッ…そうかコイツは考える事が…って実際どうなんだ?」
お皿を割ってしまったワンダーワイスを怒鳴りつけ、考えることについて考え始め自問自答をするノイトラ。
「いつまで続くんだこの生活はよォ…!(ドカッ)」
ゴミ箱を足先で蹴飛ばし、完全に苛立った様子のノイトラ。なぜこんなことになったのか?
それは遡ること1ヶ月前…
「やぁ、エスパーダ諸君、おはよう。」
程よい低音に、どこがゾクゾクするような雰囲気を持ち合わせた男、藍染惣右介が口を開く。
「今日は君たちに、紹介したい子がいてね。」
「新人か?」
「この時期にですか?」
「へぇ、誰だよ?」
藍染の発言に興味をもった一同が次々に口を開く。
「紹介するのは彼だ、入っておいで。」
藍染が言葉を発するのと同時に黄色い髪の少年が入ってくる。
「ワァー……ス……!」
少年は奇声に近いような声で自己紹介をする。
「彼の名前は、ワンダーワイス・マルジェラ。
今日から君たちの新しい仲間となる。仲良くしてやってほしい。」
ワンダーワイスが発した声に驚いた表情の一同。それを物ともせず一定のトーンで話し続ける藍染。
「さっそくだが、君たちに頼みがある。内容は簡単だ、彼はまだ幼い、誰か世話をしてやってくれないか?」
「俺は、失礼します…用事を思い出したので。」
藍染が言い終わるのと同時に急に立ち上がり、その場を去ろうとする青髪の男、グリムジョー。
「女の世話をしなくては…」
続いて、グリムジョーが言い終わると、目を細めてから冷静にそう呟いた、黒髪の男、ウルキオラ。
「やれやれ…今日はなんの実験をしようかな?フフフ…。」
怪しげな笑みを浮かべ、スッと立ち上がり、藍染の言葉などなかったかのように実験室に向かおうとするピンク髪の男、ザエルアポロ。
3人に続き、破面唯一の女ハリベル、ダルそうにあくびをするスターク、だから何だと興味もなさそうな老人バラガン、チラとワンダーワイスを見るも素通りするゾマリ、無反応のアーロニーロ、ゴミが増えた。と言わんばかりのヤミー。
それぞれがワンダーワイスを完全に無視し、次々に部屋から退出していく中、なぜだか1人、出遅れた男がいた。
そう、彼はノイトラ。
「…お前、喋れんのかァ?」
興味津々な様子でワンダーワイスに話しかけるノイトラ。
「ワワァ〜オ?」
「ハハッ、笑わせんなよ、正気かァ…?」
「おや、ノイトラ。彼に興味があるのかな?」
ワンダーワイスに話しかけているノイトラを見て、藍染が嬉しげに微笑する。
「…!そんな事は。」
「違うのか?」
慌てた様子のノイトラに、藍染が眉をひそめる。
「違う…ただ…からかっ…」
「なんだね?からかってみたかっただけだと?」
困惑するノイトラの言葉を遮るように言葉を発する藍染。
「君に、頼んでもいいかね、彼の世話を。」
「俺がこいつの世話を…?」
「あぁ。」
「…分かりました。」
「ありがとう、期待しているよ。部屋は…そうだな…私の別荘があるのだが、しばらくそこで生活していてくれるかな?」
「別荘なんてあったのか…(ボソ)あ…はい。」
「オイ、行くぞ。」
「アァー…」
一連の会話を終え、ワンダーワイスと共に部屋を出るノイトラ。
そして今に至るーー。
「とりあえず、愚痴ってても仕方ねェな…オイ、掃除すっからそこ退けよ。」
掃除用の
「このままじゃ危ねぇなァ…なんか袋みたいはもんはねェか……?」
「ア…オ!」
「うわ…!ビビらせんなよ…なんだ?って…お前それゴミ袋…。」
突然背後に現れたワンダーワイスに驚きつつ、ゴミ袋を見るノイトラ。
「やっぱりこいつ…言葉が通じて…」
割れたお皿の破片を袋に入れながら、ワンダーワイスはもしかしたら言葉が通じるのではないか?と、少し苦笑いするノイトラ。
そして時間は今、朝の10時。
今日は敵襲もなければ藍染の指示もない。
ノイトラは久しぶりに休日ができたことに喜びを感じていたのも束の間、ワンダーワイスが落としたお皿の音で10時前に叩き起こされてしまった。
−ノイトラ視点−
1ヶ月前、いつものように藍染の呼び出しを受け、十刃のメンバーと藍染、市丸、東仙たちによる会議が始まる。
あの男はいつも、会議が始まる前に紅茶を人数分入れる。
それを各自の目の前に置き、あの男、藍染惣右介は優雅にそれを飲みながら話を進める。
小さなことであったが、俺はなんというかその紅茶から、何から何まで退屈で仕方がなかった。
そして話は進み、今日は何か変化が起こらないものか?と密かな期待をしていた時、それは起こった。
「入っておいで。」藍染の声と同時に入ってきたのは、目がうつろで、黄色い髪色をした奴。
そいつが声を発した瞬間に、会議室の中が静まり返り、他の奴らは嫌そうな顔をした。
だけど俺はなぜだか、そいつに興味を抱いた。
理由は分からないが、とりあえず声をかけてみた。
「…お前、喋れんのかァ?」
まぁ喋れるはずがないと分かっていたが、別に良い。
当然、奴は変な奇声を上げた。
だろうな。と、笑いが止まらず、つい吹き出してしまったが、そんな様子を見た藍染から話しかけられた。
最初はただ退屈な毎日が嫌で、興味本位でワンダーワイスに近づいた。
だが、ワンダーワイスの目を改めて見た時に、得体の知れない感情が湧いた。友情や愛情、そんなモンとは違う、孤独…は少し違う、その「何か」は置いておくとして、こいつと過ごすのも悪くないかもしれないな。と、あまり深く考えずに藍染の指示に従った。
当然だが俺は、ワンダーワイスに興味を抱いていることなど誰にも知られたくはなく、藍染に対しては、「ただからかってみただけだ。」と言いたかったが、言い終わる前にものすごく威圧され、さすがに耐え難いものがあった為、そんな軽率な口は叩けなかった。
俺の予想だと、藍染も皆の態度に相当イラついていたのだろう。
「あ〜…さっきのはちと当たりがきつかったかァ……」
掃除を終え、ワンダーワイスに対する先ほどの発言でかなり苦悩していたノイトラは、とりあえず気分転換に現世へ向かおうとしていた。
そして黒膣を通り、降りる場所の真下に人がいない事を確認し、現世へ降りた。
「っと…久しぶりの現世だな。っても何すっか決めてねェけど……
…あ、思い出したぜ。確かここにはゲーセンってのがあんだよなァ?」
前に現世を訪れた際、ノイトラはゲーセンに入ろうとし、入る寸前でウルキオラに止められた。
誰もが知るゲームセンター、略してゲーセン。
ノイトラは何故だかその、ゲーセンに興味をもっていた。
「このあたりか?ン?」
「お母さん、あと1回やりたい!」
「ダメよ、キリがないんだから…」
ゲームセンターでUFOキャッチャーに挑戦している女の子とその子の母親が何やら話している。
「あいつらァ人間か、あれは確か…」
ノイトラの目に入ってきたのは、くまのぬいぐるみ。
「えー!やだやだ、最後の1回だから、お願い!!」
「はぁ…もう、仕方がない子ね…」
「わーい!」
「お、面白そーじゃねーか。ちょっとやってみるかァ!」
女の子がくまのぬいぐるみをゲットした姿を見て、俺は一発で取ってやるぜ!と自信満々なノイトラ。失礼だが、甘いぞ←
「このレバーを…こうか?左に…ストップだ!」
テレレレ〜♪
掴んですぐに落とす予兆のbgmが流れ始ry
「いけんだろォ!そのままだ!いけェ!!ヒャッハー!!!」
周りの人々が皆、驚いた顔をしているがそんなことを気にするはずがないノイトラ。
まさに気分は最高潮。
そしてなんと…
パンパカパーン
「っしゃあ!少々焦ったけどな、結果オーライ。」
くまのぬいぐるみを1発で手に入れたノイトラ。
「オイ女、袋ねェか?」
「…え。」
「なんだよ、袋ないのかって聞ィてんだよ。」
「あ、いえ…はい、どうぞ…!」
突然ゲームセンターに、身長2メートルの男が現れ、袋を寄越せと話しかけてきたら実際どうだろうか?しかも手には、大事に抱えたくまのぬいぐるみ。恐怖しかないのが当然だ。
まぁそれはおいておくとして。
「次はどうすっかなァ〜」
とてもご機嫌なノイトラ。
「そういや腹減ったなァ、なんか食べれるモン〜」
そして早くもコンビニを発見。
ピポピポーン♪
コンビニの自動ドアが開き、愉快な音楽が鳴る。
そして堂々とコンビニの中へ入って行くノイトラ。少々服の襟元が引っかかりがちだったが、強引に押し入った。
「何にすっかなァ〜…」
お菓子の棚も気になったが、ノイトラが真っ先に向かったのはお弁当やおにぎり、ほっとドリンクなどが取り揃えてある棚だった。
「現世のメシには種類がたくさんあんだなァ。」
そう言いながら手に取ったのは鮭のおにぎり1つ、昆布のおにぎり1つ、梅干しのおにぎり2つ、合計4つのおにぎり。以前にテスラからもらったお金を持ち、会計らしき場所に近づくと、無言でそこにおにぎりを置く。
「440円になりまーす。」
「400…?」
ここでノイトラ自身、計算があまり得意ではなかったことに気づく。
「100が4つで400…か?」
とりあえずレジの上に100円玉を4枚置いてみる。
「…あの、お客様40円不足しております。」
「あァ?40足りねぇだと。」
怯える店員をよそに少し考えてから、
「10が4つで…」
ポンと小銭を散らすと、即座に会計を済ます店員。
「ありがとうございましたー!またお越しくださいませー。(とは思っていない)」
店員から袋を受け取り、店員の怪訝そうな視線には気づかずコンビニの外へ出るノイトラ。
「さァ〜て、そろそろ戻らねェとなァ…」
まだ色々と見て回りたかったが、さすがに現世では体力を使う。
十分に楽しんだノイトラは、2つの袋をしっかりと掴み、また黒膣を通り虚圏に戻った。
「よっ…と、久しぶりの現世だったからなァ、あっちとこっちじゃ空気が違うぜ。」
黒膣を抜け、虚圏に戻ったノイトラは、早足で別荘へ向かう。
ガチャ。
別荘の扉を開ける。
「よォ、戻ったぜェ〜いるか?ワンダーワイス ?」
「…ラ?」
「お?なんか言ったか?」
「ノ…イ……ラ?」
「お前…いつの間に俺の名前を?」
扉を開けワンダーワイスに呼びかけると、突然呼ばれた自分の名前に戸惑うノイトラ。
「ワンダーワイス、土産だ。ココに置いとくからなァ、好きにしろ。」
名前を呼ばれた事の戸惑いを隠すように土産の話で誤魔化してみる。
コンコン。
と、そんなやりとりをしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「ん?誰だ。」
「私だよ、扉を開けてくれるかな?」
ガチャ。
閉めたばかりの扉を再び開けると、そこには藍染が立っていた。
「やぁ、ノイトラ、ワンダーワイス 。機嫌は如何かな?ここでの生活には慣れたかい?」
「おう…まぁ広いしな、色々置いてあるし問題ねェ。」
「そうか、それはよかった。ワンダーワイスとはどうだい?」
「ン、あいつとも仲良くやらせてもらってるぜ。そうだな…藍染サマが来る前に、俺の名前を呼んだ。」
「なんだって?名前を…?」
「あァ、俺もさすがに驚いた…なぁ藍染サマ、あいつァ何者なんだ?」
「何者…か。彼はワンダーワイス ・マルジェラ。それ以外の何者でもない。彼は彼だよ、ノイトラ。君が君であるように。」
「でも、感情だけはあるよォーだぜ?」
「そうだね、彼には喜怒哀楽がある。喜び、怒り、悲しみ、楽しさ。しかし何を考えているかまでは、私にも分からない。」
「へぇ、なるほどなァ〜…ま、害はなさそうだしな。これからも楽しくやらせてもらう。」
「あぁ、是非ともそうしてくれ。では、私はこれで失礼するよ。(微笑)」
いつもの微笑を浮かべると、藍染はさっさと行ってしまった。
「チィ…反吐が出る。何の用があって来たのかはわからねぇが……やっぱ苦手なモンは苦手だ。」
突然訪問してきた藍染に、多少の恐怖を感じたノイトラは、苛立っていた。
ガサガサっ
ワンダーワイスが、ノイトラが先ほど置いた土産袋を漁っている。
「……?」
くまのぬいぐるみを見つけ、不思議そうに眺めるワンダーワイス 。
「…!」
狙っていたかのように、ノイトラが反応する。
「〜〜〜♪」
ワンダーワイスの鼻にかけたような鼻歌が聞こえる。ワンダーワイスは、くまのぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
「おーおー、気に入ったかソレ?」
先ほどの藍染を見た時の機嫌から、一気に口角を上げにんまりするノイトラ。
(現世に行った甲斐があったな…と思うノイトラだったが、そんな事は口にしない。)
「メシだメシ〜。」
(ガッと袋からおにぎりを掴むと、ガサツに袋を破く)
「ん〜こりゃ美味ェなァ〜!やっぱ虚圏のメシが如何にクソか分かるよな。ハハッ!」
(テンションが上がるノイトラ)
それを見つめていたワンダーワイス 。
−ワンダーワイス視点−
「やぁ、目が覚めたかい?ワンダーワイス 。
さっそくだが、これから私と一緒に来てもらうよ。」
暗闇の中にずっと居た。
深い暗闇の、もっと奥深くに居た…はずなのに、
突然視界がはっきりしたかと思ったのも束の間、
目の前の男は言う。
僕はワンダーワイスという名前らしい。
男が何かを言ったが、どうする事も出来ずに呆然と立ち尽くしていると、
「行くよ。」
男が言い、腕を引っ張られた。
そして辿り着いた先は、大きな部屋。
「君を皆に紹介したいんだが、私が合図をするまではここにいるように。」
そう言われ、男の向かう先を壁から少し覗いてみる。
すると、
「やぁ、エスパーダ諸君、おはよう。」
皆、その男を見る。
何故?
「紹介するのは彼だ、入っておいで。」
男が手をクルと回すのを見てから、
皆の前に出ていく。
「ワァー……ス……!(ワンダーワイス )」
名前を叫んだ後、隣にいた男が皆に向かって何かを言っている。
だが男が言い終えた後、なぜか皆は1人、また1人と目の前から消えていった。
今の自分はどういう状態なのか分からない、消えていった皆も…
その場で呆然としていると、突然変な奴が目の前が現れた。僕よりもでかい、とにかくでかい奴。
よく分からないけれど、この人は僕に向かって話しかけている。だからとりあえず返事をしてみた。
すると、また口を動かし、何やら面白がっている?
それを見ていたのか、でかい奴とさっきの男が話しだす。
「おや、ノイトラ。彼に興味があるのかな?」
でかい奴はどうやら、のいとらと言うらしい。
そしてしばらくして、
「オイ、行くぞ。」
のいとらに呼ばれた気がして、のいとらの後ろをついていった。
ここでの生活にはもう慣れた。
僕はただぼーっとしていて、のいとらは相変わらず。
ある時白い物が目に入り、ちょっとだけ触れてみた…だけどそれは後にのいとらを怒らせることになった…白い物に触れたと思った瞬間、それを落としてしまった。それも1回や2回ではなく、数えきれないほどに。
そのたびにのいとらがなにかを言っていたけど、
言っている意味が分からなくて、それでも怒っているのだけは分かった。
のいとらが何やら動いていて、何かを探しているみたい…?だからこれといったものは分からなかったが、適当に渡してみた。
そしたらのいとらが、少し笑った気がした。
のいとらは笑ったけれど、外に行ってしまった。
しばらく、のいとらを待っていようと思う。
そしてしばらくたってから、のいとらが帰ってきた。「ノ…イ……ラ?」気がつけば僕は、のいとらの名前を呼んでいた。のいとらは驚いた顔をして何かを言ったあと、不思議なものを置いた。
そんなやりとりをした後、見たことのある男が来て、のいとらと話しはじめた。
だけどそれよりも不思議なものに特別な何かを感じて、漁ってみた。
男と話を終えたのいとらが来る頃には、目の前の茶色いものに興味津々だった。
もしかしてこれは…のいとらが…僕の為に…?
確信などなかったが、ただ笑いが込み上げてきて、僕は笑って、歌った。そしたらのいとらもなぜか笑っていて。
僕はそれを見て、もしかしたらこれが感情なのかな…とか思ったけど、やっぱり分からなかった。
でも、のいとらは悪いヤツじゃなかった。
のいとらは…
興味本位でワンダーワイスって奴に近づいたら、相当面倒なことになっちまった。
だが俺ァそんな奴のことをなぜだか放ってはおけなかった。理由なんてのは話せばキリがねェ。
まぁ、ワンダーワイスは分かんねェヤツだけど…
あいつは救われないヤツなんかじゃない。
ワンダーワイスは…
【心の在り方】を、俺(僕)に教えてくれた。
〜Fin〜
友達からのリクエストで、ワンダーワイスとノイトラが一緒に暮らしている様子を見てみたい!と言われ書いてみました。初投稿です。
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