朝凪を迎えに (藤城陸月)
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1話 朝露の師弟たち

 就活と試験勉強のストレスから、脳内プロットのみだったものを発作的に書き上げました。

 二話以降の構想は有りますが、色々大変なので更新は暫くないです。



 ──────それじゃぁ、あなたの名前はローズ。ローズ=アクアマリン。そう名乗りなさい。

 ──────いい名前ですね。この子の瞳にそっくりです。

 

 ああ、なんて奇跡。

 

 ──────ちょ、ちょっと。どうしたのだわさ!?

 ──────なにかトラウマに触れたりでも……。

 

 いいえ、いいえ……ありがとう。ただ、嬉しいのです。

 名前をくれた事だけではなく、名前で呼ばれることがこんなに嬉しい事だなんて知らなかったんです。

 

 泣きながらで、大半は言葉にならず。

 そんな自分を、ぼろきれを纏った浮浪児を二人は抱きしめてくれた。

 

 

 ああ。本当に、なんという奇跡なのだろうか。

 

 

 ──────目が覚める。

 ──────随分と懐かしい夢を見たものだ。

 

「──────良い夢は見れましたか?」

 

 柔らかな声が聞く。

 聞き慣れた──────恩人の声。

 

「ええ、随分と懐かしい夢を見ましたよ。兄さん」

 

 闘技場の観客席。

 本来ならば、立ち入りが出来ない時間のところを無理に頼み込んで入場し、特等席を占拠───したは良いものの、待ちくたびれて熟睡し、至る現在───という訳だ。

 

「まったく。いくら弟子の初試合とは言え関心はしませんよ」

「申し訳ないです」

「まぁ、分かりますけどね」

 

 自分の右隣に座った黒の癖っ毛に丸眼鏡の洋服に関心の無さそうな青年。彼はそう言って、少し困ったような笑みを浮かべる。

 その向こうには胴着に坊主頭の少年が同じような苦笑いを浮かべている。よく似た師弟だ。自分と彼女も似たようなモノかもしれないが。

 

「──────弟子の成長ってこんなにも楽しみで、嬉しいものなのですね」

「おや、あなたの口からそのような言葉が出るとは」

 

 何処か面白そうに笑う、兄弟子。

 彼を見る弟子は、少し不満げに頬を膨らませていた。

 そして、恐らく自分も見たような顔をしているのだろう。

 

 

  †

 

 

 ──────まず、絶で200階までたどり着く事。そして、ここでの初試合の結果を見て判断します。

 

 えー!

 えー、じゃありません。師匠として、修行が終わらない内に受験は認められません。

 

 

 まあ、仕方ないか。

 そんな風に受け入れてから一月。

 やってきました200階。そして、初試合。

 

 対戦相手はカストロ。

 武道家としての実力が抜きん出ており、念能力者としても本人が強化系なのに、具現化系・操作系の能力を使うという並外れた素質を持つ。

 そして、宿敵ヒソカと戦い──────念の奥の深さと間違った修行の結果を主人公二人に死を以て伝えることになる悲運の選手である。

 

 今の自分の戦闘力は正直に言って低い。

 特質系故に自身の強化の効率が悪いというのもあるが、念能力者との一対一での戦闘の経験が圧倒的に不足している。

 師匠であるローズはそれを見越しての事なのだろうが、それでも超えるべき壁が余りにも高すぎる。今の自分が勝つためには『だからありったけを』くらいの覚醒が必要となる。

 

 おっと、自己紹介自己紹介。

 私、サクラ。アマギ=サクラ。年齢的に恋する女子高生やってます。

 あと、俗に言う転生者です。

 

 

 

 ──────自分の前世に気がついたのは、日常が終わってしまった時だった。

 

 そして、前世の私がどの様にして死んでしまったのかは分からない。もしかしたら、壮大な夢という可能性もある。

 

 前世の私は、何と言うか…………そうとう()()()()()()()()

 理系女子兼オタク、腐女子、夢女子……まぁ、そんな感じだった。

 それ故に、この世界が『HUNTER×HUNTER』の世界だと気がついた。

 そして、私が使っている能力についても心当たりがあった。

 

 何時の間にか発現していた能力。

 平穏な日常を壊した者に向けて、その力を無慈悲に行使していた。

 

 あの日が何の変哲もない、良く晴れた日だったことを覚えている。

 何の疑いもなく、変わり映えのしない明日がやってくるのだ、と疑う事なくそう思っていた。

 その夜の事だった──────。

 

 

 星降る夜に雨に降られた少女。

 星を眺めて世界を旅する少年。

 

 私にとっての破壊と創造の日。

 それは、そんな二人の出会いだった。

 

 

 ──────少し落ち着いたほうが良い。

 

 全身が返り血で染まっていた私に、彼はそんな風に声を掛けた。

 滲む目で睨みつける。なぜ、と問う。

 

 ──────そうでないと、君の両親の死を純粋に悲しむことすら出来なくなる。

 

 怒りに染まっていた思考が止まった。

 

 ──────君の両親の死を悲しむと同時に、激しい殺意と復讐心に囚われるようになる。

 

 強張っていた全身からナニカが抜けていく。

 氷のナイフを持っていたはずの両手から力が抜ける。

 

 ──────先ずは、自分が泣いている事に気がつきなさい。

 

 え、頬に手を当てる。

 熱くて冷たい液体が流れている。一瞬、目を切られたのかと思った。

 そして、不意に気付く。

 う、あ…。私は。

 声が、考えが纏まらない──────流れ出す。

 私は、わたし、は……あ、あああああああああぁぁぁぁぁ────────────

 

 

 彼は、泣きじゃくる血まみれの自分を無言で抱きしめてくれた。

 

 それから色々な事が目まぐるしくあったが、それらの記憶は曖昧なものである。

 

 私が鮮明に覚えているのは、黎明を迎え風が凪いだ後の目を焼く朝日と心の澱の全てを吹き飛ばすかの朝風。そして、それを隣で眩しそうに見る青年の姿だった。

 

 今から思えば、その時から私は彼に──────ローズ・アクアマリンに恋をしていたのだろう。

 

 

 

 さて、閑話休題。

 私は転生者である。それ故に、主要な登場人物や出来事は頭に入っている。

 そして、その中にローズの名はない。対して、兄弟子のウィングは主要な人物である。

 

 つまり、私の運命の人(断言)は『原作』には登場しないのである。

 

 考えられるのは二通り。

 一つは、『原作』では語られる事のなかった人物。

 そしてもう一つは、()()()()()()()()可能性。

 

 自分にはどちらが真実なのかは分からない。

 だが、後者であって欲しいと思う。

 

 

 ──────自分と同じ境遇の存在がいて欲しい。

 

 

 制限はあれど、基本的に念能力に不可能は無い。

 例えば、過去に転生する、なんて念能力があるのかもしれない。

 仮にその能力が存在し得るのならば、私は未来の断片を知っているだけの人間になる。

 

 つまり、私も()()()()()()()()()()()()()()()()()()となる。

 

 この事実に思い至った時は全てが恐ろしく思えて仕方がなかった。

 仮にこの仮説が正しいとする。そうなると、私の性格や名前、容姿といった自身を構成する要素に基となるキャラクターが思い浮かぶのは、『転生』前の自分の事を客観的に捉えているのではないのか?そう考えると、一切の矛盾が存在しないのである。

 ──────自分がどの様なルーツなのかが分からない。

 ──────自分がどの様な将来を進むかが分からない。

 それは、自分が特殊な存在だからこそ到達しうる恐怖──────。

 

 

 ──────いや、みんな怖いよ。

 

 

 私だけが味わう恐怖だ、と。そう思い込んでいた。

 

 真夜中。余りの恐怖に我を失い、隣のベットの青年に泣きついた。

 要領を得ないであろう私の訴えを聞いた彼はそう言ったのだった。

 

 この時、私は自身が『転生者』なのかもしてない、という事も話してしまっている。

 

 ──────そういう事もあるのか。たまたま、記憶を持ったまま産まれてしまったんだね。

 

 そんな、ごく当たり前であるかのように、受け入れてくれた。

 その上で、「よく頑張ったね」と一言。何時かのように、私を抱き留め、頭を撫でてくれた。

 

 今でも、その恐怖は消えないが、そういう時は夜明けを待つことにしている。

 朝日の美しさと朝風の力強さが、これからも付き合わなくてはならない私の不安をほんの少しだけ和らげてくれる。そんな気がするのだ。

 

 

 

 さて、(何時もの)回想はここで終わり。

 やる気のチャージも終わり、後は全力を出し切るだけだ。

 

 細身だが筋肉質な体つきをした長身の青年。

 アクアマリンのように透き通るような水色の瞳とアイスブルーの長髪。

 全身を青系のロングコートやブーツ、手袋にマフラーなどの防寒具に包んでいる。

 

 そんな二次元にしかいない様な──────同時に極限まで現実な、性格含めて性癖ドストライクな思い人に今の自分を知ってもらうのだ。

 

 

 例え私が誰であろうと、この思いは変わらないのだろう。

 

 

 ……所で、試合が始まる前に激励してもらおうとしたたんだけど、ローズは何処に行ったのだろうか?

 

 

  †

 

 

「さて、試合開始か。待ちくたびれたな」

「そりゃそうでしょう。何時間待ったのですか?」

「んーと……朝食は食べてないな」

「朝食も、ですよね」

「あと自分達は昼食を食べてきました」

「マジですかい……」

 

 

 

「お久しぶり、サクラさん」

「久しぶりだな、カストロ」

「言いたいことは多くあるが……そうだな、貴女とローズさんには随分と世話になった。その恩を少しでも返させてもらうよ」

「そうか……正直、何と言っていいのか分からなかったから助かる──────では」

「ああ──────始めよう」

 

 ──────戦闘起動、開始。

 ──────ディレクトリ『悪魔使い(ソロモン)』からフォルダ『デーモン』をオープン。空間曲率変換デーモン「アインシュタイン」起動。

 

 空間が捻じ曲がる。

 私の掌に、剣の柄が触れる。

 

 ──────空間曲率変換(アインシュタイン)

 

 空間を捻じ曲げることで距離を誤魔化したり、相手を閉じ込めたりすることが主な使い道。前者を使って、後方に立てかけておいた長剣を引き寄せた。腰のサバイバルナイフはブラフ兼予備である。

 

 現れた長剣は美しい宝玉を思わせる結晶体が柄にはめ込まれており、刀身には精緻な電子回路を思わせる”神字”が刻み込まれている。

 

 長剣を手にしたこちらに対し、カストロは無手──────いや、拳を構えている。

 

 深呼吸。

 

 ──────短期未来予測デーモン「ラプラス」運動係数制御デーモン「ラグランジュ」起動。

 ──────容量不足「アインシュタイン」強制終了。

 

「──────行くぞ」

「ああ──────」

 

 ──────騎士剣「雪花」接続。運動係数制御(ラグランジュ)常駐。知覚倍率を10、運動能力を5に設定。

 

 世界の明度が落ち、全ての物は10分の1の速度で動いているように認識できる。

 自身の運動速度が、念能力で強化した場合の5倍の速度に跳ね上がる──────しかし、空気が普段の2倍重く感じる。

 同時に、短期未来予測(ラプラス)によりカストロの動きが「今」と「未来予測」で二重写しのようになって見える。

 

 そして──────カストロの右足でオーラの爆発が起こり、未来予測が一瞬だが破られる。

 

 それに対応して、書き換わる未来予測。そして、それを越えた瞬発力を見せるカストロ。

 

 

  †

 

「良い試合だったよ」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 差し出された手を掴んで立ち上がる。

 

 

 決着が着くのに、さほど時間は掛からなかった。

 

 

  †

 

 

 天空闘技場242階。

 試合終了から30分ほど後──────

 

「おつかれさま」

「うう……」

 

 試合終了後、しばらくは取り繕えていたが、二人きりになった途端、悔しさがあふれ出た。

 拗ねる子どものように椅子の上で膝を抱えて、行儀悪く体育座り。

 

 正直、手も足も出なかった。

 敗因は数えきれない。

 『流』によるオーラの移動の素早さと滑らかさ、肉体そのものの強靭さと技の練度。

 短期未来予測(ラプラス)に頼り切っていたことに由来する、こちらの先読み不足。

 

 そして、油断。

 明らかに格上であることは明かなのに、ローズと共に研究した事、一時的に弟弟子だった事、そして『原作』から体術や『発』を知っている事から、どこか軽く見ていたのかもしれない。

 

「そんなに落ち込むことは無い。

 強化系をあそこまで極めた達人相手に10-6なら十分だと思うぞ」

「──────そうじゃない!」

 

 そう、それだけではない。

 

「カストロさんがヒソカに殺されてしまう。それだけを取って、彼を侮っていた。それが私の敗因に違いない」

 

 準最強キャラにやられる強キャラに対して噛ませ犬扱い。

 それ以外に、カストロがローズと組手などをやっているのを見て、ローズより弱いと判断していた。

 確かに、カストロは念能力者としてはまだまだ成長途中なのだろう。十分に鍛え上げられた念能力者と戦えば負けることも多いだろう。

 だからと言って、私が強くなったわけではないのだ。

 私は、一体どれ程思い上がっていたのだ──────!

 

「はいはい、落ち込まないのー」

 

 頬を引っ張られる。

 

「うにゅ───っ。にゃ、にゃにをすりゅー」

「師匠に良いとこ見せたくて張りきって空回りして、そんでもって落ち込んでイジイジしてる可愛らしい弟子を玩んでまーす」

「む、むーー」

「むすっとしても可愛らしいだけだよっと」

 

 頬を引っ張っていた手が離れる。

 代わりに、椅子の後ろから抱きしめられ、ついでに頭の上に顎を乗せられる。

 

「初めから飛ばしてて不安になったけど、相手の行動にきちんと対応してた。

 剣だけじゃなく体術も向上してたし、ナイフの投擲は恐ろしい威力だった

 それに、カストロを侮っていたなら、あんなに遅くまで試合のビデオ見たり、体調を万全に整えたり、なんてことはしないだろ。そもそも、カストロは君の知っている『原作のカストロ』とは全然違うのだろう。たまに面倒を見るくらいの一時的な仮の弟子とはいえ、姉弟子だった君なら良く分かっているだろう。

 君はあの試合で全力を出した。その上で負けた。

 負けた事を悔しがるのは良いけど、それ以外のことで悔しがるのを止めなさい。それこそ、虎咬拳なしだから全霊ではないとは言え、全力で戦ってくれた彼に対して失礼だよ」

 

 言葉が胸に響く。心に染み渡る。

 あの頃から変わらない、教え導く声。

 

「はい……。単純に自分の実力不足だった」

「その通り。よく素直になれました」

「そうだ、次は───次は負けない」

「そうだね。じゃぁ、修行しないとね」

「はい───!」

 

 

「それじゃあ、ハンター試験受けておいで」

 

 

「はい!──────はい!?」

「だから、修行の一環として、ハンター試験を受けておいで」

「え?200階の初試合の結果を見て判断するって」

「そうだよ。これだけ出来れば十分かな、って」

「え。でも……え?」

「だから、試合で1階から200階までの修行の結果を見て判断したよ」

 

 茫然としていた私は「まぁ、意味を取り違えるように言ったんだけどねー」というからかうような声で我に返った。

 

「あ、貴方という人はいつも私をからかって──」

「ごめんね。反応が可愛くてつい」

 

 解けてきた混乱と、馴れているとは言え沸き上がる憤り。そして、気恥ずかしさが声にならない呻き声を作り上げる。

 そういう意味ではないと分かっていても、ローズに可愛いと連呼されるのは……なんと言うかむず痒い。

 

「──────という訳で、馴染みの空港員に金を積んで飛行挺を確保してあるから、明日の朝に此処を出れば余裕をもって到着できると思うよ」

「いきなり!?」

 

 現在時刻──────18:34。

 

「はぁ……なぜ何時も突然なのだ貴方は」

「いや……今回は申し訳ない。君の天空闘技場のペースを読み間違えた。

 本当は『今年のに間に合わなかったから、ハンター試験は来年にしようね』と言うつもりだったんだよ」

 

 僕の想定より一月ほど早いから驚いたよ。よく頑張りました、と頭を撫でられる。

 困ったときは頭を撫でれば何とかなる、と勘違いをしているのではないだろうか?

 ……大抵の場合は勘違いではないけれど。

 

 

 

「いつ出かけてもいいような準備は揃っているから、手早く済ませて今日は早めに寝ることにする」

「そのほうが良いだろうね。お休み、サクラ」

「ああ、お休みだ」

 

 ──────ガチャリ。

 

 

  †

 

 

「──────さて、と」

 

 準備は数分で完了した。

 既に寝巻に着替え、後は寝るだけである。

 

 準備、と言っても《論理回路》──────じゃなかった『神字』を刻み込んだショルダーバックに空間曲率変換(アインシュタイン)を使って詰め込んだだけだが。

 1ヶ月前後の予定なので、洋服や食料が多くなってしまった。

 

「1ヶ月、か」

 

 1ヶ月。

 思えば、1ヶ月を一人で、ないし初対面の人と過ごすのは初めてかも知れない。

 

 始めは両親と三人暮らし。

 ローズと出会った8年前からは主に二人で、たまにローズの知人と一緒に活動する程度。

 

 ふと、もうそろそろローズと出会ってからの方が長くなるのかと気付く。

 本来は他人であるのに、無条件で安心するのも当然だろう。

 

 ──────少し補給しておくべきだろうか?

 ──────何を補給するかは自分にも分からないがローズ成分とかだろう。

 

 そんな風に思いながら、自然にドアを開け、

 

 ──────いや、これって17歳の女と23歳の男がやったらマズい事なんじゃないか?

 

 一瞬だけドアを開けて、閉める。

 気付く。

 これはマズい。

 小さな頃とは勝手が違うのだ。

 こういう事は気軽にやっていい事ではない。

 そんな風に自分に言い聞かせて、自分のベッドに戻り腰掛ける。

 

 冷静になれ。

 自分は17歳。転生前を考えたら、精神面では少なくとも40歳を超えているであろう。……鬱だ。いや、落ち込んでいる場合ではない。こういう事には順序がある。17歳の思春期の体に振り回されているだけだ。いくら自分がローズの事が家族や相棒としてだけではなく、少女として好きだとしても──────

 

 ──────彼は私の好意に気付いているのだろうか?

 

 そんな事に気付いた。

 例え私が好意を伝えても、ローズは相棒や家族として好意を持っているのだ、としか思わないだろう。

 

 ……………………。

 

 そのまま私はドアを開き、再び閉める。

 

 

 

 今度は自分の下着を確認するために。

 

 

  †

 

 

 左手の掌の上で氷の塊が具現化する。

 具現化した氷塊にオーラでもって特殊な文様──────神字を書き込んでいく。

 

 そんな作業を無意識化で繰り返しながら、右の手帳で今後の予定を確認する。

 

 この一月は大変だった。

 快く受けてくれたとはいえカストロに無理を言ってサクラと戦ってもらう事を頼み、念の指導をしている老夫妻が取り敢えずの目標まで到達したり、忙しい事を伝えてあるのに、見計らったかのように協会から無理に依頼されたり……。

 

 思い出したら苛立ちが募って来た。

 マズいな、自分は変化系なので操作系に属するこの手の作業は本来不得手である。精神的に不安定になると失敗しやすい。

 この手の作業はサクラの方が、というよりサクラは神字を書く天才である。彼女はコンピュータで制御したかのように正確かつ微細に書く。

 

「──────ローズ。少し、良いだろうか?」

 

 ちょうど思い受けベていたところに本人からの声。「大丈夫だよ」と返す。

 

「失礼する」

「どうかした?」

「その、だな──────」

 

 可愛らしいパジャマに身を包み、顔を真っ赤にして。

 

「こ、今夜は、私と床を同じくしてはくれないだろうか」

 

 そんな事をのたまいやがった。

 

 

  †

 

 

 不安だから一緒に寝て欲しい。

 それだけの事を伝えるのに時間が掛かってしまった。

 半ば建て前とはいえ、嘘ではない。──────嘘ではないのだ。

 

 何時もの完全防御の防寒具ではなく、柔らかめな紺のスウェットと適当な灰色のシャツに着古したワイシャツ。

 

 そんな、私にしか見せない姿のローズ。

 その事に少しの喜びと大きな不安が沸き起こる。

 

 やはり、ローズは私の事を家族や相棒。あるいは妹のような存在、としか思ってないだろうか。

 失敗できない以上、当然だが直接確かめることは出来ない。

 ここは遠回しに聞くべきなのだろうか?

 

「──────安心感のある格好だな」

「そうかい?」

 

 私は何を言っているのだろうか?

 

「そうだな。貴方の事を霧の魔術師とか氷の貴公子などと呼んでいる女性に見られたら、普段の姿とのギャップに驚くだろうな」

「その名で呼ばないで……。

 でも、まぁ確かにね。まぁ、サクラにしか見せないから見逃して欲しいな」

 

 先ほどと同じく、湧き上がる喜びと不安。

 

「まぁ、見ているし、今夜は逃すつもりはないのだが」

「一本取られたね」

「それに、気の抜けた格好をしているのは私の同じだからな」

「可愛いよね」

「……。子供っぽい、と正直に言っても構わないのだが」

「まぁ、パジャマはね」

「いや、体つきもだ。身長はともかく、もう少し胸が大きい方が良い……。貴方もそう思うだろう」

「スレンダーなモデル体型で良いと思うけどな」

「……巨乳好きなローズに言われても信じられん」

「あー……虚ろな乳って書いて虚乳、ってことでどうかな?」

「どうかな、じゃない。挑発だとしても、反応する気力すら湧かん……」

「まぁ、需要はあると思うよ。

 それに、念能力者には外見の年齢と実年齢の間に差異が大きい。まだ、諦めるのは早いと思うよ」

「そんな無責任な……。貴方はどう思うのだ?」

「僕?胸限定かい?」

「いや、胸だけではなく全身……むしろ、私そのものが魅力的かどうか答えてもらおうか」

 

 まて、勢いだけで話過ぎた。

 先ほどから何を口走っているのだ私は──────!

 

 

 

 整った鼻梁と口元に紫水晶(アメシスト)を放つ鋭い瞳。それらが、キツさや厳しさを感じさせないバランスで成立している。

 白魚のような、という形容詞が相応しい筋肉の付きにくい手足は、普段の服装や腰まである闇色の髪と真逆で、そのコントラストが互いの美しさを強調している。

 

 普段の恰好をしていると童話に出て来るお姫様を思わせるような少女。

 本人は知らない──────というか、興味がないだろうが、男性からだけではなく女性からの人気も高い。

 影でファングループに襲撃をくらい、こっそりと処理したこともある。一番恐ろしかったの女性10人ほどの集団に教われた時だった。彼女達は、二人を一緒に捕まえて、全裸で同じ檻に入れてその様子を撮影したいと口走っていた。狂気である。

 

 その少女──────サクラが、自分にしか見せない様な可愛らしいパジャマを身に纏い、上目遣いで顔を赤らめながら自分の事をどう思っているのか、と遠回し(と恐らく本人は思い込んでいる)に訪ねて来た。

 

 さて、どうすべきか。

 長考すると怪しまれるであろうことは言うまでも無い。

 正直に言ってしまうべきなのだろうか?それとも、最小限の一言で誤魔化すべきだろうか?

 

「とても魅力的だよ。独占欲を感じるくらいには」

 

 3秒の時点で思考を放棄。誠実さに欠ける、という謎のフェア精神で思っている事を吐き出す。

 

「そうか、やはり貴方は私の事を妹のようにしか──────独占欲?」

 

 途中までの威勢は何処へやら。

 吐き捨てるかのようだった体をぎこちない動作でこちらを振り向く。

 

「どく、せんよく?」

「そう。独占欲」

 

 独占、独占欲、と何度も反芻するサクラ。

 その行程を繰り返すごとに顔を赤くしていく。

 

「そうか、独占欲か──────それでは失礼するっ」

「逃がさん」

 

 ドアは先んじて具現化した氷の薄板で物理的に封鎖してある。

 

 

 

「暴れてもいいけど、調度品を壊さないようにね」

「まて、待ってくれ。こういう事には順序があるだろう」

「はて、こういう事ってどういう事かな?」

「いや……その、だな」

「じゃぁ、どういう事がしたいのかな?」

「た、頼むから待ってくれ!こういう展開になるかもしれないからと、下着の確認は済ませてあるが心の準備がまだ──────」

「問答無用」

 

 

 

 普通に摑まりました。

 俗に言うお姫様抱っこをされて「捕まえた。それじゃ、ベッドに行こうか」などと耳元で囁かれてしまった事が原因─────ではない。無駄に高級感のある調度品を傷付けたくなくて、ろくな抵抗が出来なかったことが原因である。別に期待してしまった事が原因ではない。断じてないのである。

 

「──────で、これはどういう状況なのだ?」

「抱き枕の刑」

 

 お腹に手を回される。接触は厚い洋服越し。

 ……ちくしょうめ。

 何となくだが、初めから分かってはいたさ。明日から暫く会えないとは言え、ハンター試験に挑むのだから、直前に体に負担を強いるような事はしないという事は分かってはいた。

 

「罪状は上手にオネダリ出来なかった事かな」

 

 耳元で囁くな──────!

 少女漫画。少女漫画か何かなのか?

 

「興奮と緊張で眠れないのは分かるけど、明日に響くから早めに寝るんだよ」

 

 先ほどより、体の距離を縮められる。

 どの口で言うか。

 こんなシチュエーションで寝れるはずあるまいに。

 後頭部に安定した心拍を感じ、普段から慣れ親しんでいる匂いに包まれて安心感が──────。

 ……あれ?

 

「僕と違って、サクラは温かいね」

 

 ──────違う。

 体温はそうかもしれないが、精神的な温もりならばの方が温かいのだ。

 今まで私は、その温もりに何度救われたことか。

 私はそんな貴方の事が──────

 

 …………くぅ。

 

 

 

「何時もありがとう。サクラ」

 

 両腕の中で意識を手放した、小さな温もりに感謝を告げる。

 君は僕に救われたと言うけれど、本当に救われたのはこちらの方だ。

 

 初めて出会った時だってそうだ。

 涙に暮れながら、自らを省みずに敵を屠る。

 その姿に、同じ施設で育った同胞を殺すことを強要され、失意に暮れていた自分が重なった。

 不自然に身寄りのなかったサクラに自分を更に重ね、彼女が笑顔を取り戻して行く度に、薄汚れたこの身でも真っ当に生きてもいいんだと思えた。

 

「僕の全ては君が救ってくれたんだ」

 

 無意識に頭を撫でようとして、顔が同じ向きでは少し難が有ることに気付く。

 えいっと。サクラの体をひっくり返し、抱きしめる。

 

「これからもよろしく、サクラ」

 

 そう言って、意識を手放した。

 

 

  †

 

 

 1998年12月23日04:54。

 

 気がついたら、目の前に愛しく見慣れた顔があった。

 切れ長の目を長い髪と同じ色のアイスブルーの睫毛が飾る。

 鼻は高く整っており、薄く開いた唇と一緒に、静かな呼吸と連動して微かに動く。

 

 ローズ=アクアマリン。

 

 恩人にして思い人。

 ここが何処かは分からないが彼の香りに包まれた場所。その事実だけで、心が躍る。

 少し体をずらせば彼が必要としている空気の供給を独占し、一手に握ることが出来る。ふと思い浮かんだ、そんな思い付き。何故かは分からないが、独占、という一説に強い魅力を感じた。

 

 ……えいっ。

 

 後頭部に手を回し、唇を奪う。

 我ながら、今までこのような事をしなかった自分に溜め言いが出る。

 キスすらしたことがないのに下着の心配をするなど、段階を飛ばすにも程がある。

 

 そこまで思考が働き──────急速に、今の自分を取り戻す。

 

 初心で臆病な、そんな何時もの自分。

 昨晩の空回りして眠りについた自分。

 そして、今の状況と──────先ほどの行動。

 

「──────ん……?」

 

 至近距離で、目が、合う。

 

 夜明け前の部屋で、私の悲鳴は寝起きの唇に奪われた。

 

 

 

「気の早いクリスマスプレゼントかと思ったよ。ハンター試験の許可と交換かな?」

「そういうつもりではないのだ……」

「今の表情だけでも十分なプレゼントだよ。お礼代わりにコーヒーでも飲むかい?」

「……いただきます」

 

「兄さんが見送ってくれるらしいね」

「そうか。暫く会えないから、素直に嬉しいな」

 

「ほっぺにジャム付いてるよ」

「ん?ああ、本当だ。すまな──────」

「えいっ」

「流れるように指を咥えるな──────!」

 

 

 

 朝霧に眠る街。

 上る息は白に。

 もうじき、この街は活気にあふれ、喧騒に満ちるだろう。

 

「うん。いい天気だ」

「夜が明けるまで、あと十数分。私はこの時間帯が一番好きだ」

「分かるよ。その気持ち」

「偶然とはいえ、この時間に間に合ってよかった」

「そりゃぁ、目が覚めるよね」

「……そうだな」

 

 天空闘技場を背景に。

 白み始めた空の下で。

 氷霧と夜闇の師弟は、目的地に向け足を急がせる。

 

 

「──────おや、おはようございます」

「おはようございます、兄さん」

「おはようございます。ズシ君は?」

 

 目的地には先客あり。

 自分たちが好む場所を知らない筈がない。

 

「彼はまだ寝ていますよ。昨日は試合を見た興奮で、寝るのが遅かったのですよ」

 

 背負われている少年に対して「起きたら、軽くお説教ですね」とため息。「まぁ、お手柔らかに」苦笑い混じりに返す。

 私が見慣れた、兄妹弟子の二人のやり取り。

 二人とも私を形作る恩人である。

 

 ──────凪いでいた風が、微かに流れ出す。

 

「──────ローズ」

「うん。そろそろだね」

「ですね。ズシ、起きてください」

「──────ハッ」

 

 連なる山の間から黄金の光が溢れる。

 吹き下ろす山風が朝霧を掃い始める。

 

 魂を洗う黄金の清流と心を濯ぐ白銀の伊吹。

 

 

 ──────やはり、この場所が一番美しく見える。

 

 

「──────さて、そろそろ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

 この光景を前に、余計な言葉は不要。

 此処にいるのは、そんな似た者同士。

 

 心配事は尽きぬども、湿っぽい見送りになることはご免だった。

 

 

  †

 

 ──────朝日の方角に消えていく、風に流れる黒。

 

「言ってしまいましたね」

「そうですね。でも、サクラさんなら無事に帰ってくるでしょう」

「…………」

 

 霧の向こうに消えていった後ろ姿。

 

 出会ったのは8年前。

 どうしても兄さんに預けざるを得なかった5年前。

 1年が経ち、一連の処理を終えサクラを迎えに行き、厄介ごとを整理するために天空闘技場に住み始めた4年前。

 

 都合7年間。

 特に後半の4年間は、例え仕事であってもアシスタントとして同行していた。

 

 高が一月。

 それだけの時間。

 会えなかった1年間と比べれば12分の1。

 

 ……いや、時間で考えて良いものではない。

 

「ローズ?」

「そうですね。サクラなら無事に帰ってくるでしょう──────よし」

「待ちなさい。安心しているのに、なぜ後を追おうとしているのですか?」

「ローズさん……」

「なるほど、つまり二人はこう言いたいんですね──────倒してから行けと」

「「どうしてそうなる」」

 

 二人にとっては完全にとばっちりだが、不安で仕方がなくて考えが纏まらない頭を一度リセットするために、全力で体を動かすとしよう。

 

 

 

 ──────さて、日ごろの成果を見せるとしよう。

 ──────それは楽しみですね。貴方と拳を交えるのは久しぶりですからね。

 ──────今日こそ。僕は貴方を超える。

 ──────あなたと戦うのが、霧の中では分が悪いですが───さて、兄弟子としての意地を見せましょうか。

 ──────えっと……今一つ展開についていけないッス。

 ──────では。

 ──────ええ。

 ──────朝霧フラッシュ!

 ──────目が、目がァッ!な、何も見えないッス!

 ──────光というオーラを使わない攻撃、見事です。 

 ──────電撃などと同じく、オーラでは完全には防げませんからね。では、今度こそ正々堂々と。

 ──────そう言いながら、氷の暗器を具現化させるのを止めなさい。

 

 

 

 後方でぶつかり合う二つのオーラをスルーして歩き続ける。

 

 あの二人は仲良く、かつ全力でぶつかり合うので何時も見ごたえがある戦いになる。

 会った事は無いが、二人の師匠が『原作』通りならば、あの二人の戦いが噛み合うのにも納得できる。

 

 

 二人を始めとした多くの人に出会い、多くのモノを手に入れた天空闘技場。

 ここで手に入れたモノを総動員して、ハンター試験に挑戦しよう。

 

 二人の会話も、もう届かない。

 さあ、今の自分とこれからの自分を見極めに行こう。

 

 

 

 ──────しかし、今回の判断は本当に急でしたね。

 ──────自覚はしています。協会に無理言って、強引にねじ込みましたからね。

 ──────いえ、悪いとは言っていないのです。ですが──────

 ──────ライセンスが身分証明になる以上、サクラは何時かは取らないといけない。それならば、十分な実力が確認できたなら、極力早めに取っておいた方が良い。

 ──────ローズ。

 ──────聡明なサクラの事です。恐らくは気付いています。

       ですが……そうですね。言えない事が増えるのは辛いです。全く、ままならないモノですね。

 

 

 

 五里霧中。

 風に乗り、正面から流れて来る霧の中を歩く。

 

 先行きが不安であることを暗喩するようか情景だが、私にとっては幸運の直喩だ。

 霧の向こうには朝日の輝きが待っている。これを希望と呼ばずに何と呼べばいいのだろうか。

 

 

 あの夜明けの光景。

 朝凪の向こう側へ。

 

 

 此処を抜けたら、何が見えるのだろうか──────。

 

 




 一話で終わってもいい(つーか、これが限界)だから、ありったけを──────

 ──────詰め込みました。
 そのせいか、初めから互いの好感度が青天井に……。某『さすおに』を彷彿とさせるレベルの開幕チートです。


・ 人物紹介

 ローズ=アクアマリン

 23歳男性。念能力者。変化系。
 いつも防寒具を纏っている青年。イメージカラーはアイスブルー。
 天空闘技場では霧の魔術師、氷の貴公子などの(痛々しい)二つ名を持つフロアマスターの一人。
 とある研究組織を壊滅させたで1つ星(シングル)ハンター、協会内での教導の成果により2つ星(ダブル)ハンターを与えられたブラックリストハンター。協会からの斡旋にはある程度の発言権在り。

 ローズ=アクアマリンはライセンス上の名前。師と仰ぐ人物から貰った限りなく本名に近いナニカである。本人は気に入っている。
 生来の名前は本人にすら分からない。

 因みに、『とある原作登場主要人物』に対するメタキャラである。

 朝霧に眠る世界(レスト・イン・ミスト)
 冬晴れの朝の窓(アイシー・アラーム)
 ?????(?????)



 サクラ=アマギ

 17歳女性。念能力者。特質系。
 後天的学習能力(?)。詳しくは『ウィザーズ・ブレイン』の『悪魔使い』を参照のこと(布教)。

 『悪魔使い』の能力の一部

・ 短期未来予測(ラプラス)
・ 運動係数制御(ラグランジュ)
・ 仮想精神体制御(チューリング)
・ 分子運動制御(マクスウェル)
・ 空間曲率変換(アインシュタイン)
・ 電磁気学制御(?????)

 出禁にした能力

・ 論理回路生成(ファインマン)
・ 世界面変換(サイバーグ)
・ 量子力学的制御(シュレディンガー(?))

 チートだから仕方ないね。おのれ《論理回路》……ルビが上手く振れないじゃないか。


 こんな二人が主要人物です。なんと言うか、やってしまった感がすごいです。

 明らかに寝不足で設定を作った事が分かる二人ですが、よろしくお願いします。……二話以降の更新が出来たらの話ですが……。


 後、後天的学習能力はクロロとある程度互換性があるような、もっとマイルドな感じの別のものにしようと思ったのですが、つい発作が……。正直、物理学を無視できる力がある世界で『物理学』無双しても噛み合わないのです。






 尚、HUNTER×HUNTERは『情報制御理論』が確立してない(あるいは成立しない)世界であるが、超高性能生体コンピューターがないとは誰も言ってない件。

 暗黒大陸にあったりするかもしれないね☆


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2話  クライム

 お久しぶり。あるいは初めまして。
 二話です。説明回を兼ねて。

 就活と教職のストレスから、続かないつもりだったモノの二話を発作的に書き上げました。

 四月こそ、新刊出てくれ……待つさいくらでもな。



 紹介にも書きましたが、サクラは完全な別人です。
 (自分含む)『真昼×サクラ』過激派の方々などで、不快に思われた方がいたら申し訳ありません。

 俺、就活と教職が一段落したら、WBF(ウィザーズ・ブレイン・ファンタズム)書いて自給自足するんだ──────


「あ、ビーンズさんですか?ローズです。

 今期のハンター試験の監査員について何ですけど──────。

 ──────はい。あ、会長から聞いて……?そろそろ電話が来るだろう、と。なるほど……。

 了解です。それでは、29日の13時に。はい。お手数を掛けました」

 

 

「話は着いたようですね」

「ええ、何とか。サクラの試験をねじ込んだ時点で、電話が来ることを予想していたそうです」

「まぁ、そうでしょうね」

 

「ところで、体調は大丈夫ですか?」

「ええ、何とか……。サクラと一緒にいたので、ある程度楽になっていたのに、逆戻りです……」

「やはり……。全く、お前のそれは──────」

「話してませんよ」

「でしょうね……。二番目以降に大切な人には相談するのに、一番大切な──────本当に打ち明けるべき人には相談しない。あなたの悪い癖です」

「分かっています。心配を掛けたくない事に加えて、あの子は話したら無茶をする事が分かっていますからね」

「ええ、するでしょうね」

「ある程度、何とか出来てしまうから困るんですよね……。それが大きな負担になってしまう」

「何とか出来るのですか……後天的学習能力、でしたか。末恐ろしいですね」

「ええ、彼女は無意識的に周囲の温度や湿度、空気密度を快適なものに保つ性質があるので、コイツらを抑えるのに最適なんですよね……。それ以外にも──────」

 

 

  †

 

 

「──────先ほどの乱取りは失礼しました」

「ええ、本当ですよ。お前の抱えている性質からして、ある程度耐えればいいのが分かっているから良かったモノの、もし暴走したらどうするんですか」

「本当に申し訳ないです……」

「私だけではなく、ズシにも謝る事です」

「はい」

 

 

 自分はズシ。念を使っての戦闘経験はない。

 あの時何が起きたかは頓と見當がつかないが、目眩ましを喰らった後、目が目がぁ、と叫んだ事丈は記憶して居る。

 

 纏まらない思考のなかで、何となくだが、名前を呼ばれたような気がした。

 微かに呻きながら、ぼんやりと目を開く。

 

 どうやら自分は、自室のベットに寝かされているようだ。

 

「おや?気付きましたか、ズシ」

「おお、それは良かった。

 ──────早速ですが、貴方に言わなくてはならない事がありまして」

「えっと……、はい。何でしょうか?」

 

 

「ズシ君、先ほどは──────」

 

 ローズ、23歳、冬。

 

 愛弟子の心配に限界を感じ

 悩みに悩み抜いた結果

 彼がたどり着いた帰果は──────

 

「誠に申し訳ありませんでした」

 

 ──────謝罪であった。

 

 

「…………はい?」

 

 会派の流れに置いて行かれ、今一つ状況が分からないズシであった。

 

 

  †

 

 

 ──────試験会場までの道のりは体力診断みたいなところがあるから、極力、念能力を使わない事。

 ──────はーい。

 

 

 空気の薄さと寒さに思考と体が蝕まれる。

 地上の楽園という一説から最も遠い場所。

 

 ここは雲海の上。山脈の尾根。死神の楽土。

 ゴツゴツとした岩を僅かな高山植物が彩る。

 遮蔽物がないので、暴風は弱まることなく、自然の脅威として体を叩きつける。

 

 

 おっと、自己紹介自己紹介。

 私、サクラ。アマギ=サクラ。

 俗に言う『転生者』。『HUNTER×HUNTER』の世界で生を受けて17年。

 私の事を心配する、ありがたくも過保護な保護者の出して来た試練を通過し、ハンター試験を受ける事になりました。

 そして今、私は──────

 

 ──────ジャージで登山とロッククライミングしてます。

 

 脳内でくらいふざけないとやっていられない。

 ………………それと、安易に『はーい』なんて同意するんじゃなかった。

 ロッククライミングにおいて、周囲の分子運動を制御できる分子運動制御(マクスウェル)と無機物をゴーストハック(生物化)させて操る仮想精神体制御(チューリング)があれば簡単なのに。

 まぁ、ハンター試験を訓練の場として捉えるのならば最適な指示ではあったが……。

 

 

 

 ハンター試験。

 

 プロハンターという特権階級に憧れる者はあまりにも多い。

 試験は年に一度行われ、一回の受験希望者は数万人に上る。

 それ故、試験を受験する人数を減らす為の篩が必要になる。

 

 それは分かっているし、仕方ないと納得も出来る。

 承知している事柄に理不尽だと感じても仕方ないだろう。

 

 ──────だが。

 

 

「ハッハッハ。どうした、若き挑戦者よ。これしきの山道で根を上げているようではハンターにはなれんぞ」

「──────そう、ですか……」

 

 明らかに、インストラクター(?)の基準がおかしい。

 こちらは、ちょっと脆弱なセブンティーンでしかないというのに。このタ◯シは……。

 

「しかし、他の挑戦者が全員脱落しているなか、ここまで着いてきたことには称賛を送ろう」

「……素直に受け取っておこう。しかし、明らかにふるい落としているように感じたが」

「挑戦者の一人が、他を置いていくようなペースで登山をするものだから、つい楽しく待ってしまってな」

「……ああ、確かにな。ムキになって、誰よりも早いペースで登ってしまったからな」

 

 思い出されるのは──────ジャージに着替えてから、回りの挑戦者を置いていくペースで山を登り、その光景を面白そうな顔で眺め、山登りのペースを早めるタ◯シ似のインストラクター。

 集まったハンター試験受験希望者が、私以外全員むさ苦しい男ばかりで、その事をさんざんからかわれた事が、無茶なペースでの登山の原因であった事に今さらながら気が付いた。

 

 まぁ、何と言うか……他の挑戦者は私が置いてきた。ハンター試験に挑みはしたがハッキリ言ってこの後の本試験にはついてこれそうもない。

 

「他の挑戦者がいる中で、スカートで山を登ろうとしていたのは驚いたな」

「…………」

 

 スカートで登山を初めてしまい、その事を他の挑戦者に指摘され、ジャージに着替えている最中に置いていかれたので、ムキになって彼らを追い越す速さで山を登り始めた。

 そんな、敢えて忘れていたことを思い出した。

 

 ………………貴様らが最後に見るSexyはこの私だ。

 

 因みに、普段──────戦闘起動させていない無意識下でも仮想精神体制御(チューリング)分子運動制御(マクスウェル)を使っているため、スカートの中は不自然にならないように一手間加えた上で見えなくしている。この操作は意識して止めることが出来る。今?……聞かないでほしい。

 

 

 

「もう少し頑張れ。もう少しだぞ」

「それを……聞いたのは、六回目ッだぞ……」

「そうか?……まぁ、何処までを言ってないからな」

「詐欺まがい、だな……。で、今回は、何処までもうすぐ、なんだ?」

「なに、頂までよ」

「いただき……?」

 

 

 感覚が薄れた足。

 白に染まる視界。

 そんな状態の中、一段上から差し出された手を取る。

 

 ──────真下からの突風。

 咄嗟に顔を覆った袖の向こうで霧が晴れていく。

 

「どうだ、良い眺めだろう」

 

 ──────そんなキメ台詞が聞こえたが、頭に入ってこなかった。

 

 地面に足が付いているのに、本来そびえ立つべき山々がミニチュアのように思える。

 険しい山肌を覆い隠す濃霧。

 湧水が集まり、大地に時を刻む渓谷。

 幾筋の白糸が一つになり、森を越え、橋をくぐり、小人の営みを支え、蛇行を繰り返し、やがて形の悪い碁盤の目を通り抜けて──────溢れんばかりの白い光を放つ、曇りガラスに繋がっていく。

 

 

 その鏡は朝日を浴びて光を放つ水面。

 大型の船が数多く来航する商業都市。

 

 光の揺らめきとして彼方に見える港。

 その港の名前を私は知っている──────。

 

 

「──────ドーレ港。それが、お前が目指すべき場所だ」

 

 そう、ドーレ港。

 『原作』において、彼らの乗った船はこの港街に到着し、彼方に見える一本杉を目指して歩く。

 遠すぎて一本杉見えないけど。

 

 ──────あれ?どうやって行くんだ?

 

「勿論、歩いてだぞ」

 

 口に出ていたらしい。

 いや……無理だろう。

 

「いや、無理ではないだろう──────」

 

 

「──────お前さん、使()()()()()()

 

 

 一拍。

 

「何の事だ、とは聞かないが──────」

「なぜ分かったか、か。まぁ、勘だな」

「勘か。勘が働くには原因があるからな……私の落ち度だな」

「まぁな。何と言うか、体力と経験の差が大きすぎたのだ」

「すまない、どういう事だ?」

「つまりだな──────」

 

 年齢の割には山登りの経験が豊富に見える。

 仮に、見た目通りの年齢で膨大な経験を積んだのならば、相応の密度が必要になる。

 それならば、密度に応じた体力がついていなければおかしい。

 

「──────という訳だ」

「なるほど。参考になった」

「まぁ、俺には()()()()()()()()()は分からないけどな」

「──────は?」

 

 一端落ち着いた心が、再び乱れる。

 基本的に、念は秘匿されている物。

 罰則などが在るわけではないが、それを無闇矢鱈に伝えていいものではない。

 

「いや、そういうものがあることは何となく知ってはいるが、俺は使えないってだけだ」

「そうか……存在は知っているのか」

「ああ──────隠さないとマズい事だったりするのか?」

 

 その通りだ、と返す。

 周囲に自分とインストラクター以外の人影はいないので、必要以上に情報が拡散される必要は無い。

 まぁ、この場合は問題ないのだろう。

 

「この力は才能の多寡こそあれ、誰でも使うことが出来る。

 それ故に、本来ならば秘匿されなくてはならないモノだ。

 この力を総称して”念”。使いこなす者を念能力者と言う。

 ごく稀に、自然に才能を開花させる者が居るが、ほとんどは念能力者から使い方を伝授される。

 そして、プロのハンターとして活動するには、最低限の強さとして、念を使いこなせることが求められる。

 それ故に、ハンター協会は念についての情報を秘匿、管理している。

 別に話してしまっても罰則があるわけでもないし、ついでに私は()()プロのハンターではないからな。……まぁ、今回は例外という事にしてしまおう」

 

「なるほど……念、か」

「まぁ、名前くらいは問題ないだろう。代わりと言っては何だが、私からも一つ聞いても良いか?」

「何だ?俺に答えられることなら」

「いや、大した事ではないのだが───貴方はハンター試験の案内をしているのだろう。それならば──────」

 

 

「──────自分がハンターになろうとは思わんのか?」

「いや、全く思わないな」

 

 

「そう、か」

「ああ。意外か?」

 

「正直意外だ」目の前の男はハンターに求められるレベルの基礎体力を十分に保有している。また、(ライセンス)を持っている事の恩恵は計り知れない。「ハンター(ライセンス)だけでも、とか思ったりもしていないようだしな」

 

「まぁな。正直、特権階級としてのハンターは憧れではあるが、俺の性に合わん」

 

 どこか遠くを眺めるように、自分に言い聞かせるように。そんな風に呟く。

 

「所詮俺は山登りしかできないのだ。ハンターは何でも出来なくてはならないのだろう?」男は少し悪戯気な表情で「俺には、山を登る以上の特技も楽しみもない。お前さんはどうだい?何故、ハンターになりたいんだ?」

 

 ハンターになりたい理由。

 

「難しいな」頭の中を整理しながら「一つは身分証明。ハンター(ライセンス)はどこでも通じる身分証明書だからな」これはすんなりと出た「もう一つは」一拍「もう一つは──────そうだな、同じ視線に立ちたいから、かな」

 

「そうか。目標になる人でもいるのか?」

「ああ、恩人であり──────そうだな、思い人、でもある」

「なるほど。素晴らしい人物なのだろうな」

「そう、だな……そうとも。彼以上の人物はまずいないだろう」

「では、頑張らんとな」

「言われなくても」

 

 ローズが見ているのは今の自分では見えないもの。

 視点の高さは『原作』を知っている私とは大きく違う。

 彼が知っているのは『原作』の外側。情報量だけでも、未来の一部を知っている程度では覆しようがないようなほどの差があり、到底敵うものではない。

 そもそも、『原作』の知識も大分曖昧だ。今期のハンター試験が『原作』のモノと同じだとは、先ほどドーレ港を見るまで気がつかなかった。その上、バタフライエフェクトなどを考えると、参考にならない事の方が多くなるのだろう。

 だからこそ、先ずはプロのハンターにならなくてはならない。それが最低限。そうでなくては、スタート地点にすら立てないのだ。

 

「さて、俺からの試練はお終い。合格だ」満足げな笑みを浮かべ「おめでとう。ハンター試験の予選の突破の報酬は特にないが、登頂の報酬としてこの景色を堪能してくれ」

「ありがとう。これ以上ない報酬だ」

 

 差し出された手を握り、握手。

 大きく硬い。その力強さに、この問答で自分の気持ちを再確認できた事への感謝を込めて返す。

 

 視界を遮るモノは一切なく、上には無窮の蒼天。

 一切の翳なき山頂に相応しいような清々しい気分だ。

 

「さて、次の目的地はドーレ港。そこに着いたら、今度は一本杉を目指して歩け」

「了解した。ここまでの案内に改めて感謝を」

「どういたしまして。常人じゃ一月は掛かる行程だが──────そうだな、一週間を目安にすると良い」

「かなりキツイな。だが、()()()()()()()()()な」

「おや、ばれていたか」

「当たり前だ。本当は、別の目的地がもっと近くにあるのだろう」

「その通り」至極嬉しそうに、獰猛に笑う「だが、お前さんなら行けるだろう」

「当たり前だ」サバイバルナイフの柄にはめ込まれている結晶体に触れた後、一歩踏み出す「せっかくだから、一端を見せようか」

 

 ──────戦闘起動、開始。

 ──────ディレクトリ『悪魔使い(ソロモン)』からフォルダ『デーモン』をオープン。空間曲率変換デーモン「アインシュタイン」起動。

 ──────騎士剣「雪月」接続。外部演算装置として演算補助を開始。

 

「ほう……”念”か」

「ああ。今から行うのは正確には”念能力”だがな」

「つまり、分かりやすいパフォーマンスとして、何かしらの超常現象を起こす、という事か?」

「ご名答」理解力の高さに驚き、感心しながら「今から使うのは、長距離移動──────瞬間移動、言った方が良いかな?」

 

 ──────目標座標までの演算完了。

 ──────Alart(警告)

 ──────本命令を執行した場合、オーバーフローにより、再起動には18000秒以上の休止時間が必要になります。

 ──────命令を執行しますか?Y/N?

 

「ほう、瞬間移動か」

「そこまで精度は高くないがな」ドーレ港に程近い、小高い丘を指さし「その上、負担が大きい。あの山の頂上まで跳んだら、五時間ほどは念能力を使えなくなる」

「ほう、あそこまでか……。負担が大きいは言うが、普通に歩いた時の時間を考えたら軽いのではないか?」

「そう聞こえるだろう。だが、この距離を移動するのに、ヘリコプターなら二時間だろう」

「む……。確かにそうだが、比較する対象が可笑しいのではないか?」

「確かにな。だが、正論ではあるだろう」

 

 念についての例え話で良く用いられるのは、『具現化した武器』と『購入した武器』の差だろうか。

 武器を具現化するよりも、武器を購入する方が手っ取り早い。むしろ、通常の武器ならば具現化したモノの方が有用な事の方が多いだろう。

 武器を具現化する事の大きな利点は、持ち運びの手間が掛からない事。使わないときは消しておけばいいのだから当たり前だ。

 これは具現化だけではない。強化系なら重機を使えばいし、操作系ならばリモコンで十分足りる。

 ならば、念は何処で使われているのか?

 

 それは、対人間───特に、対個人。或いは数人から数十人程度───の戦闘である。

 

 武器を具現化させる例で言うのなら、相手の油断を誘える。その上で、凶行に使われた得物の出所が分からなくなる。

 それ以外に、特殊な条件───例えば眠気を誘う、一時的に麻痺させるなど───を付けることで戦局を一気に傾けることが出来る。

 強化系ならば単純に相手よりも肉体や武器を強くすればし、操作系ならば相手を操作できれば戦闘する必要性すら消える。

 

 念の歴史には人間同士の諍いの影が付きまとう。

 特質系を始めとする、人間には再現不可能な”能力”も存在するが、ほとんどのモノは現代の技術でカバー出来る。

 念能力者に工事をさせるなんてのはナンセンスなのである。但し、特殊な修行の場合は除くが──────。

 

「なるほどなぁ……」

「夢が無くて済まないな」

「いや、そんなことは無いぞ」

「ほう」おっと「言うではないか」これは期待しても良いかな「ならば、聞かせてもらおうか」

「いやなぁ。誰かと戦うことを目的に作ったからと言って、それ以外に仕えないワケじゃないんだろう」

「そうだな。日常生活で便利、みたいなことは多いな」

「なら、それでいいじゃないか。それに、俺たちが普段から使っている物だって、元々は兵器だったものだっていっぱいあるだろう」

「そして我々も、か」思わず笑みがこぼれる「上手い事を言うじゃないか」

「お褒めに預かり光栄だ、とでも返そうかな」

 

 真面目くさった顔が笑みで崩れる。

 会話力・理解力に優れ、己の欲し求める事に忠実な純朴な男。

 全く。何故これ程の男が何故インストラクターをしているのか?

 いや──────これ程の男だからインストラクターをしているのか。

 高水準な体力と知識。そして、ハンターではないがハンターに相応しい精神性を持つ者。

 

「名を聞こうを思ったが、止めておこう」振り返らずに「聞いてしまうと、名残惜しくなる」

「まぁ、そうだな。俺はインストラクターで、お前さんは挑戦者の一人。それで良い」

「人生は一期一会。先を急ぐ場面でなければ、もう少し会話を楽しみたいのだが……まぁ、この場面で出会うのも定めなのだろう」

 

 脳内で引き金を引く。

 目の前の空間が捻る。

 

「ではな。もう会う事はないだろうが──────次に会う時まで達者でな」

 

 飛び込む。

 お前さんもな。という幻聴を残して。

 主観的に三歩ほど空中を歩き、次の瞬間には地面に足が付いている。

 

 今いるのは、先ほど目印にした小高い丘の山頂。

 一帯は開けていて、目の前には深い森が広がる。

 

 振り返る。

 

 彼方に──────遥か向こうの、見上げる高さの山の頂に人影。

 大きく手を振る。その人影は振り返してくる。

 人懐っこい。その人影が笑ったような気がした。

 

 笑みを返し、森の中に足を踏み入れる。

 気持ちを切り替えていこう。

 幸先の良いスタートとは言え、まだ試験会場にすら辿り着いていないのだから。

 

 

  †

 

 

「──────というわけで、今回の試験の監査員に加えて欲しいのです」

「別に構わんぞ」

 

 即答。

 

 

 1998年12月29日正午過ぎ。

 ハンター協会にて。

 

 事務方のビーンズさんに会いにハンター協会を訪れ、廊下を歩きながら「年末なのにお疲れ様です」「ハンター試験が終われば、暫く楽になりますから」などと話していたら、会長が向こうからやって来た。

「ではまた」とビーンズさんが言い残して奥に行った後、出口に向かう会長と歩きながら直談判を始めたら、すぐに許可を貰えたのであった。

 

「毎回、参加者の人数が変わるから、監査員にはある程度の余裕が必要じゃし、別に構わんぞ」

「こんなにもすんなり決まっても良いのでしょうか?」

「すんなりも何も、お主が監査員を志望しにくることは読めてたしの」

「ビーンズさんも、そう言ってましたね」

「そりゃの。何時もは余裕をもって行動しているお主が、急に愛弟子のハンター試験参加を認めたのだから、何かあったと思うのは当然じゃろうに」

 

 そんな事を話しながら、出口に向かって歩き続ける。

 先ほどから人の気配を感じていた目の前の曲がり角から、人影が現れる。

 

「おや、奇遇ですねネテロ会長──────それと、直接会うのは久しぶりですかねローズさん」

「うげ」

 

 人影は自身のわざとらしさを隠さない。

 ハンター協会副会長パリストン=ヒル。

 まるで何かの作業の途中かのように、胡散臭い程の山積みの書類を持ち抱えている。

 

 ハンター協会に数多くのシンパを持ち、その中でもハンター協会からの斡旋を専門とする協会員───通称、教専のハンターに対して強い影響力を持つ男。

 そして、ローズ=アクアマリンの天敵、である。

 なので──────

 

「会長、後は頼みました」

 

 ──────逃げる。

 

「せっかくの機会なのですから、少しくらいは話をしても良いでしょう」

 

 失敗。ギリギリで聞こえないが、それとなく分かるように小さく舌打ちをする。

 

「話をすると言っても、特に話すこともないと思うのだがな」

「そうかもしれませんね。先月の依頼の件と教導のお礼、くらいでしょうか」

「その節は、わざわざ忙しい時期に入れてくださり、誠に感謝しています」

「これはご丁寧に」

「ええ、例え腹立たしい事でも、甚だ遺憾ながら世話になっているのですから当然でしょう」

「いやいや、お礼を言うのはこちらの方ですよ。

 貴方の能力───"自身のオーラを相手のオーラを奪う冷気に変化させる"───は念の修行にうってつけですからね」

「だからと言って、ホンの少し修行に付き合っただけのハンターが1つ星に認定されたからって、半ば強引に2つ星に認定するのは強引な気もするがな」

「貴方は見込みがあるハンターですからね。署名が在ったことも大きいですが、本人の才能とハンター協会への貢献が十分であれば、早めに2つ星を認定しても問題ないでしょう」

「相変わらずの流れるような詭弁ですね。何時見ても素晴らしいです」

「いやぁ、嬉しいですね」

「副会長に至っては顔を分厚いようで何よりです」

「どうしたのですか?そんなに誉められると舞い上がってしまいますね」

「随分とオメデタイのですね」

「ありがとうございます」

 

 一発触発の雰囲気──────。

 

「相変わらず仲が良いのぅ」

「何処がですか!?」

「ですよね!」

 

 ──────が会長の一言で崩れ去る。

 

「いや、似た者同士だしの」

「撤回してください。自分の好きな子に、照れ隠しでイタズラしたり、ちょっかい出したりする子どもみたいなヤツと一緒にしないでください」

「えー。ローズ君だって、愛弟子に嫌がらせして可愛がっているじゃないですかー」

「大っぴらにやるか、やらないか。この差は大きいんですよ」

「ふむ……。ローズ、お主の方が問題じゃないかの?」

「勿論です。僕のは犯罪で、彼のは犯罪的。この差は大きいのです」

「……何処で張り合っとるんじゃ?」

「僕は大衆の面前で恥ずかしげもなく可愛がることで、サクラが可愛らしい反応をするのを楽しみたい。

 パリストン・ヒル。貴方は、単純に困らせたいだけ。其処に大きな違いがありはしないか!?」

「ほぼ無いでしょう!」

「五十歩百歩じゃのう」

「違うのだ!」

 

 

 

「──────という訳で、彼とは音楽性が違うので人間関係を解散します。再結成の予定はありません」

 

 

 

「やれやれ、逃げてしまいましたか……僕は嫌われているのですね──────おっと」

 

 ワザとらしくよろける。その手から一枚の書類が逃げ出す。

 

 

 ──────機密事項:■■■■市大量死亡事件に伴う一連の事柄。通称、コード711最終報告書

 

 1994年7月11日早朝。■■■■国郊外の■■■■市および周辺で発生した大量変死事件について。

 当日の深夜から翌日夕方にかけて、同市周辺では季節外れの大寒波・大雪に見舞われている。死因は寒さによる衰弱死と見られており、死体および生存者の手足には程度の差こそあれ凍傷が見られた。

 協会外部の医師は熟睡時に大気温が氷点下にまで下がったのだろうとの見解を示した。

 しかしながら、数日の気象条件を鑑みると、明らかに起こりえないような異常気象であることに加え、この事件と同時に協会員───後述の捜査・検挙による功績で1つ星ハンターに認定される───賞金首ハンター■■■・■■■■■■による”■■■■研究所および関連施設の強制捜査・違法研究従事者の一斉検挙”と■■■■による国庫襲撃および主要官僚の大量虐殺事件が発生したことを考慮すると、これらの事柄には何かしらの関連があるのではないかと推測される。

 周知の事実ではあるが──────追記として、以前から違法研究が行われているのではないか、との懸念があった■■■■研究所は■■■■市にあり、関係者やその家族の大半が居住している事から、市全体での隠蔽がなされていた可能性も高いとされている。

 協会側の派遣員は、死体の司法解剖の結果と生存者の診察の結果、事件発生時の被害者の位置、交通機関への影響および■■■■の侵入・逃走経路に相関が強く表れていると報告。

 この件について■■■・■■■■■■氏に聞き取りを行うも、同氏は関係を否定。証拠が不十分なことも有り、聞き取りは終了された。

 ■■■■国は国家機能の停滞による治安悪化を基因とする暴動などにより、■■■帝国に吸収された。それにより、住基ネット以外の資料の大部分が所在不明になるなどの影響が出たため、この件についての詳細な情報の入手が困難と判断。本報告書の作成を以って、調査を終了する。

 また、本書類を含んだ今回の事件に纏わる書類は速やかに破棄を行う事。

 

 

「おや、これは私が副会長になる前のモノですね」

「わざとらしいのぉ」

「いやいや偶然ですよ偶然。折角ローズ君が来るのですから、彼についての資料を集めていたんですよ」

「機密事項で、処分したはずなんじゃが……。抱え込みの事務員かの?」

「ええ、そうです。事務員の子の能力です。

 まぁ彼女の念の”破棄された書類の複製”は制約の影響で、機密書類の場合、固有名詞だけは黒塗りになってしまうんですけどね」

「機密になっとらんのぉ……。で、これを見せてどうするんじゃ?」

「別にどうもしませんよ」書類を拾い「この事知ってた上での判断なら、私としては納得致しますし」破りながら「この事がバレても、"念"を知らない一般の方からすれば協会の戯れ言ですしね」

「嫉妬かの?」

「……はて、何のコトでしょうか?」

「本当に分かりやすいの」

 

 

  †

 

 

 1999年1月1日06:53。

 

「──────さむ……」

 

 ここはドーレ港──────目前の、森の中の湖畔。

 湖から出て来る霧が立ち込め、一面真っ白がった。

 

 昨日はドーレ港を目前として、無念の日没。

 水の確保が簡単な事。そして、朝方は水際の方が温かいから、この場所にテントを張ったのだった。

 

 夜間は地面より水の方が温かいとは言え、霧が体温を奪っていく。

 これだけ寒いと霧が大量に出る事を失念していた。

 普段から、分子運動制御(マクスウェル)を多用していたツケだろうか?

 

 また、テントについても昨晩は上手くいったが、それ以前は酷いものだった。

 分かってはいたが、私は仮想精神体制御(チューリング)分子運動制御(マクスウェル)による補助に頼り過ぎているのだろう。

 

 いい練習だと思う──────だが、理不尽だ、とは感じる。

 この世界にノイズメーカーなんて邪魔なものはないのに、とも思う。

 

 まぁ、そう思う事を含めてお見通しなのだろう。

 

 全く……やれやれだ。

 

 仕方がない、と思えるようなローズに対して。

 私の事を考えている事に、ほんの少し喜びを思える自分にも、だ。

 

 

 ふと、手持ち無沙汰になり、携帯電話を確認する。

 

 アドレスを登録している人が少なく、普段は一人からしかメールが来ないソレ。

 ハンター試験の為に一人で行動している、この一週間弱はメールが来ないソレ。

 

 ──────着信一件。

 

 口元が緩む。

 全く、年賀状の代わりだろうか?

 

「ハッピーニューイヤー、だ。ローズ」

 

 そんな独り言は霧の向こうに消えていく。

 

 

 

 ならば届いただろう。

 届けたい相手は霧の彼方に居るのだから。

 

 もし、届かなかったのからば、直接届けに行けばいい。

 さて、ならば霧の中を進もう。目的地はすぐそこだ──────。

 

 




 登山での移動のイメージ──────中央アンデス踏破。


 という訳で二話でした。
 タ〇シ似のインストラクターとの会話がメインとなる説明回でした。彼は原作での船長ポジションです。今後、出る予定はありません。注意一瞬、怪我一生(ハザード・アラート)という能力の案はありますが、今後(ry

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
 感想や評価を頂けると幸いです。

 次回更新が何時になるかは分かりませんが、次回もよろしくお願いいたします。



 4月こそ、新刊出てくれ……。それまでに就活を一段落させて、自分へのご褒美にしたいんだ──────。


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3話 ビーチフラッグしようぜ!お前だけカバディな!

 3月……!辛うじて3月……!
 お待たせして、大変申し訳ありません。

 お久しぶり。あるいは初めまして(、一気読みお疲れ様です)。
 3話です。ハンター試験ダイジェスト(前半)。
 非常に難産でした。就活とか教職とかもあったけどね☆
 ──────ん?他作品に浮気?いや、スランプで(言い訳)……。

 タイトルについては聞かないでください。本当はカッコイイ感じにしようとは思ったんです。

 えー……タイトルを含めて、今回は色々と悩むところが多かったです。原作キャラとの絡みが特に。ゴンがひたすらに癒し。

 長々と、愚痴のような物を失礼しました。それではどうぞ──────



 クラピカ強化(カストロに次ぐ二人目)。


 ドキドキ……

 

 ……。

 

 ドキドキ、ビックリ2択ク~~~イズ!

 

 ……………………。

 

 ──────父親と恋人のどちらを助ける?

 ──────恋人、だ。

 ──────理由を聞いても良いかの?

 ──────答えは沈黙なのだろう?だが、私の両親はもういないのだ。

 ──────そうかい、悪い事を聞いたね。

 

 両側を高い壁に仕切られた細い路地の内、片方の壁の一部が開き、小さな道が作られる。

 

 ──────問題の方が悪かったようだね。先に進むといいさね。

 ──────ありがとう、おばあ様。ところで、道が多いのは挑戦者が多いからか?

 ──────そこまでお見通しかい……そうだよ。まったく、察しが良すぎるのも考え物だよ。

 ──────それは済まないな……。さて、目印などはあるのか?

 ──────ああ、湖の側の一軒家を訪ねればいい。まぁ、頑張りな。

 ──────改めてありがとう。心から感謝する。

 ──────はっ……。さっさとお行き。後は……そうさね、恋人の事を大切にするんだよ。

 ──────いや、ローズは恋人というか、その……私が勝手に好意を抱いているだけというか……。

 ──────やれやれ、可愛げのない小娘かと思ったら、随分と可愛らしいトコロがあるじゃないか。

 

 

 

 湖畔にある一軒家にて。

 

 ──────手を放せ。演技だと分かっていても、見ていて気持ちの良いものではない。

 ──────……どうして分かった?

 ──────試しているのが丸わかりだ。貴方たちなら、もっと手際が良いはずだ。

 ──────ふむ……成る程な。これは一本取られたようだ。

 ──────それに、嬲り方に違和感がある。

       死ぬことが──────殺すことが決まっている相手に、外傷が残らないように気を遣う加虐趣味者が何処に居る。

 ──────……そうか。

 ──────嫌な事を言って済まなかったな。たが、仲間に気を遣う貴方たちの目はアイツ等とは違ったんだ。

       全く……心配し過ぎだ。その目線は温かすぎる。

 

 

 

「──────弱火でじっくり」

 

 

  †

 

 

「──────ごちそうさまでした」

 

 なかなかに美味しかった。

 強いて言えば、ライスが足りなかった、くらいだろうか。

 

 手持ち無沙汰になり、何と無しに天井を眺める。

 試験開始の一日前に、何とかここまでたどり着くことが出来た。

 過酷なスケジュールではあったが余裕がなかったわけではない。

 しかし、無駄な時間があったわけでもない。

 飛行艇の中でも、何かしらの作業があった。

 久しぶりの、何もすることが無い暇な時間──────。

 しかも、いつ終わるかが全く分からない、と来た。

 

 ──────ローズは今、何をしているのだろうか?

 

 そんな、考えても仕方がない事を思いつくのは当然なのかもしれない。

 今回のハンター試験へ向けての一人旅──────とは言え、連絡をしてはいけない、などのルールはない。

 彼の行動を知りたいのなら、メールをするなりすればいいのだ。

 つまるところ、何となく心細い、程度の感傷なのだろう。

 試験の前に不安になる事は、精神的にあまり良くないとされる。

 それならば、試験が終わった後の自分へのご褒美を考えた方が、よほど建築的だろう。

 さて、自分へのご褒美──────。

 一体、何が良いだろうか?

 私にとっては、ハンターになることよりも、なった後の活動の方が大切なのだ。

 正直、今まで私はハンター試験合格を通過地点としか考えていなかった。

 それならば、私以外の人はどのような反応をするのだろうか?

 

 ──────ローズは喜んでくれるだろうか?

 

 ……なんだ、そういう理由か。

 自分でもあっけに取られてしまう程の、あからさまな理由付け。

 単純な自分に呆れると共に、どこか納得してしまう。

 

 ──────それならば仕方がない。すんなりと合格して、ローズに褒めてもらおう。

 

 全く、我ながら欲のない事だ。

 

 

 

 ──────。

 

 不意に、重い振動。

 エレベーターが止まる。

 

 体の芯に響くようなソレに意識を切り替える。

 

 部屋の中心にあったコンロの火は既に消えている。

 その炎と熱は体の中に──────心に宿っている。

 

 そして、唐突に開いた扉に足を進める。

 

 

 1999年1月6日18:33。

 

 試験開始まで、あと──────。

 

 

  †

 

 

 あれは──────新人だな。

 

 キョロキョロと周りを見渡す、露出した白い肌以外は黒一色の少女。

 常連にとっては何時ものことである、プレートを受け取る時の反応も、いかにも初々しい。

 

 間違いない。

 というか、間違いようがない。

 もし仮に、自然にあの仕草が出来るのならば──────まぁ、その時はその時だ。

 

 ──────さぁ、お立合い。

 

 楽しませて貰おうじゃないの。

 

 

  †

 

 

 貰ったプレートの番号を確認し(361番だった)、コートの上に着ける。

 何となく達成感──────いやいや、ここからなのだから気を引き締めなくては。

 

「──────やぁ、新人さんかい?」

 

 そんな中、不意に話しかけられる。

 ……何処かで視たような顔の男。

 

「ああ、そうだが」

「そんなに警戒しないでくれよ。俺は──────まぁ所謂ベテランでな。分からない事があったら聞いてくれよ」

「……そんなに、警戒しているように見えたか?」

 

 怪しまれただろうか?

 何となくだが、この男は警戒しなくてはならない──────そんな気がする。

 そして───こちらも気のせいかもしれないが───先ほどから周りからの視線が気になる。

 

「ま、分かるよ。俺も、35年前はそう思った」

「35年前?」

「そうそう35年前。10歳の頃だっだなぁ」

 

 独り言つ男に胡散臭さを感じる。

 怪訝そうな顔をしていたのがバレたのか、男は誤魔化し笑いをしながら「ま、これはお近づきの印に」そう言って、ジュースの缶を差し出す「緊張しすぎだ新人(ルーキー)。これでも飲んで、ちょっとは落ち着くと良い」

 こちらを気遣う様な言葉で差し出された缶を受け取る。

 この男を警戒していたが、単純に心配してくれていただけで杞憂だったのかもしれない。

 

 そんな事を思いながら、プルタブを開け──────失敗。

 ──────あれ?

 もう一度試すが、手が強張っていて上手くいかない。

 深呼吸をしてもう一回。成功。

 

「緊張しすぎだぜ、嬢ちゃん」

「どうやら、そのようだな」ジュースの缶を口元に「言葉に甘えて、一杯いただこう」中身を一気にあお──────

 

 ──────Alart(警告)

 

「ごふ──────」

「おわァ──────!」

 

 思わず、そのまま吐き出した。

 

「ど、どうした!?き、緊張の余り、むせでもしたのか」

 

 咳き込む私に、心配したかのように声を掛ける男。

 甘かった。コイツは警戒が必要だ。

 

 これは──────毒、か?

 

 ジュースは吐き出したが、僅かに飲み込んでしまった。

 体内に残ったジュースを体外に出すことは諦め、分解を促すことにする。

 

「ああ、済まない」警戒心をかくして「折角もらったのに、悪い事をしたな」

 

 床に落ちたジュースは、その中身を出しつつある。

 

「いや、こちらこそ悪かったよ。若い子にさせたらマズい事をしちまったな」

 

 本当に申し訳なさそうに男は言う。

 だが、胡散臭さは隠しきれていない。

 

「まぁ、ジュースはまだある。気が向いたら飲めばいい」

 

 そう言って、ジュースの缶を差し出してくる男。

 この期に及んで、と思わなくもない。だが、コイツは私がジュースの中身に気付いたことに気がついていない、と考えると納得できる。

 突然目の前でむせ、思い切りジュースを吐き出したことで、気が動転しているのかもしれない。

 不幸中の幸い、なのだろうか?……真に遺憾ながら。

 

「ああ、受け取っておこう」ジュースを受け取りながら「そうだ、名を聞いても良いだろうか?この礼はキチンと返したい」

 

「俺か?ああ、まだ名前を言ってなかったか」今気づいたように「俺はトンパ。35回ほど試験に落ち続けた、ただのベテランさ」

「そうか、トンパか」思い出した「私はサクラ。改めてだが、この礼はさせてもらう」

 

 期待しないで待ってるぜ、と言いながら離れていくトンパ。

 とんでもない、期待させてもらうさ──────新人潰し。

 

 

  †

 

 

 壁にもたれ、床に座り込む。

 

 色々と疲れた。

 まさか、あのトンパに下剤入りジュースを飲まされるとは。

 ほとんど接種していないとは言え、油断は禁物だ。

 幸い、スタート地点にはある程度の設備があるので問題はないのだが……。

 

 しかし、緊張しすぎていたのは事実。

 このままでは、始まる前に潰れてしまう。

 全く、質の悪い──────。

 

 それに加えて、周りの視線も気になる。

 彼らも新人潰しの仲間だろうか?

 気配と視線の向かって来る先を、何となく察知する。

 

 彼らの中に、一人だけ違和感を感じた。

 私を試している気配は同じなのだが、質が大きく異なる。

 移動しているソレは気配がほとんどしない。

 

 ──────目線を合わせる。

 

 銀髪の少年。

 彼は、ほんの少し目を見開き、面白そうに笑う。

 

 ──────キルア=ゾルディック。

 

 流石に彼の名前は分かる。

 伝説の暗殺一家ゾルディック家の次世代を担うであろう天才児。

 

 何となく、口元に笑みが浮かぶ。

 立ち上がり──────

 

「やあ」

 

 キルアが目の前に現れる。

 まぁ、これくらいは出来るよね。

 

「こんにちは──────こんばんは、かな?」

「どっちでも良いよ、そんなの」

 

 気ままな猫を思わせるツリ目は私よりも少し下にある。

 イタズラ好きそうな彼の年齢は12歳(11だったかな?)。

 

「私はサクラ。君の名を聞いてもいいだろうか?」

「キルア。短い付き合いだろうけどヨロシク」

 

 先程の反省と後々の矛盾(名前を知っている等)を消すために自己紹介。

 自己紹介は大事。記紀どころかマハーバーラタにもそう書いてある。

 この世界に『それら』があるかは知らないけど。

 

 何と言うか──────ものすごく可愛らしい。

 握手のために右手を差し出して──────。

 

「──────頭撫でないでくれる?」

「──────はッ」

 

 おっと、いけない。

 つい、封印したはずの腐女子が。

 

「済まないな。可愛らしくて、つい」

「──────へえ」

 

 少し怒っているのだろうか?

 ──────益々可愛らしい。

 

「そこら辺はキョーミないけど──────どこら辺が可愛いのか聞いても良い?」

 

 冥土の土産に、という言葉が付きそうな言葉。

 それに私は──────

 

「おもちゃ屋を物色する子供に似ていてね」

 

 ──────そんな風に素直に返す。

 

「自分が殺せそるかどうか、探ってたんでしょ」

 

 小声で返す。

 

「──────へえ」

 

 少年の──────キルアの気配が変わる。

 どこにでも良そうな少年から、稀代の暗殺者。正確にはその卵に──────。

 

「おっと」その喉元に氷のナイフを突きつけながら「オイタはいけないよ」

 

「な──────」

「私みたいな──────私たちみたいな、常識が通用しない相手もいるからね」

 

 ナイフを消し、笑みを見せる。

 

「気を付けなさい。私より強い奴は、この中に山ほど──────はいないけど、そこそこはいるんだから」

 

 柔らかい銀髪に、もう一度だけ手を乗せて立ち去る。

 

 

 強い視線に目線を合わせる。

 顔に多数の針を刺した長身の男──────イルミ=ゾルディック。いや、ここではギタラクル、か。

 

 私より強い奴。その1。

 

「(可愛い弟さんですね。ですが、目が行き届いていないのでは?)」

 

 読唇術くらい使えるだろう、()()()そんな感じ投げやりに。

 

 

 何より危険なのは──────その隣にいる男。

 

 ヒソカ。

 自称、奇術師。ピエロを思わせるメイクをした正真正銘の危険人物。

 

 私より強い奴。その2。

 この男に至っては、私どころかローズより強いかも知れない。能力の相性が良い(ローズの能力は大抵の念能力者に対して有利)とはいえ、確実にローズが勝てるとは言えない。

 

 私を見る。その顔に張り付くのは、お道化た表情では断じてない。

 そこから感じ取れるのは──────純粋さ。誰よりも純粋な狂気。

 

 ──────狂気のピエロは、誰かを健全に楽しませることでは笑わせない。

       それを楽しみ、笑うは同類のみ。手段と目的が入れ替わった者。

       彼らは戦うことに喜びを覚えた、戦うために戦う生粋の戦闘狂。

 

 自分の興味の対象に対して、誰よりも純粋な感情を抱く。

 それは、紛れもなくハンターである事の必要条件。

 私の目指すべきハンター像とは異なるが、或いは──────或いは彼こそがハンターなのかもしれない。

 

 

 この二人には関わりたくはなかったが、ヒソカは天空闘技場で何度か会ってしまっている。

 

 この一瞬、私を殺さんとばかりのイルミ。そんな彼を私と遊びたいヒソカが抑えている。

 

 私は、目線をズラさずに距離をとり、ある程度離れてから”絶”を使って人込みに隠れることにした。

 

 

 さて──────ハンター試験を穏便に済ます方法を思いついた。

 

 

  †

 

 

「ぎゃあぁ~~~っ」

 

 ──────!!

 

 人込みの向こうから叫び声が聞こえる。

 両手を失った男と、薄く笑う奇妙な男。

 

「ア───ラ不思議♥ 腕が消えちゃった♠」

 

 意味をなさない悲鳴を上げる被害者の前で「タネもしかけも御座いません♠」とピエロのメイクをした男はお道化る。

 

 トンパ、という(自称)ベテランの受験生によると、ヒソカという危険人物らしい。

 危険人物という紹介には納得だ。ヒソカは明かに禍々しい。

 

 それは余りに物騒なパフォーマンス。

 あの男は目立ちたがり屋なのだろう。

 

 そして、幸悦の表情で立ち去るヒソカは唐突に真顔になり、何事もなかったかのように──────

 

 ──────拍手。

 静まり返った空間に響くソレは、集団に紛れ込もうとしていたヒソカの足を止めた。

 

「──────面白い手品をありがとう。ピエロさん」

 

 可憐な声。

 黒ずくめの少女だった。

 

 白い肌、華奢な手足。腰まである濡れ羽。

 闇を集めたかのようなワンピースと外套。

 それらはハンター試験の受験生とは思えない、まるで令嬢のような雰囲気を与える。

 

「おや♥ 嬉しいね♣️」

「いやいや……こちらこそ、素晴らしい物を見せて貰ったよ」

 

 本当に嬉しいのだろう。満円の笑みを浮かべる奇術師。

 対する少女は──────感心しているように見える。

 

「ところで、消した腕は何処に行ったのかな?」

「腕?」

「そう腕──────おっと、凄腕のマジシャンに種明かしを要求するのはマナー違反かな?」

「いやぁ♦ 構わないよ───っと♠」

 

 そう言って、何処からかヒソカの手に腕が現れ──────

 

「はい」

 

 ソレを少女に手渡す。

 

「熱心なファンの娘への特別サービスさ♥」

「ありがとう、ピエロさん」

 

 それを平然と受け取った少女は──────先ほど両手を失った男の下に。

 

「両腕を出してくれ」

「え?あ、ああ」

 

 茫然自失としている男に、腕を出すように指示する。

 そして──────

 

「──────よいしょ」

 

 そして、()()()()()

 

「え?あ、腕。オレの腕が──────」

「──────今度からは気を付けるように」

 

 何のことなし、とばかりに、そのまま立ち去る少女。

 その姿を舌なめずりするかのように見つめる奇術師。

 

「──────なんだったんだろう?」

「気にするんな、気味の悪いパフォーマンスだろう。関わらないほうが良いぜ」

 

 傍らの二人の言葉で我に返る。

 

「──────ああ、そうだな。少女はともかく、ヒソカは危険すぎる」

 

 二人──────ゴンとレオリオが頷くのを尻目に、私はあの二人について思いを巡らせていた。

 

 

 あの二人は何かが違う。

 彼らと接触することで、コレの正体が掴めるかもしれない、と。

 

 

  †

 

 

 一次試験の内容は持久走。

 距離は不明。ただ、ただひたすらに試験官の後を付ければいい。

 

 

  †

 

 

 集団が走った距離は既に百キロを超えていた。

 今までは平たんな、コンクリートの地下道を進んでいた。

 そして今、受験者の目の前には──────終わりの見えない階段が、彼らに絶望を伝えていた。

 

 そんな中、階段を上っている先頭集団。

 彼らは、もうじき出口───を示す光───が見える直前まで来ていた。

 

 そして、その更に先頭にて。

 

「──────おや、また会ったね」

「いや、絶対ワザとだろ」

「知り合いなの?キルア」

 

 黒髪の少年と金髪の少年。

 試験官の真後ろに居た、その二人に後ろから話しかける。

 

「知り合いたくはなかったけどな」

「ツンデレだなぁ、キルア君は。 黒髪の少年。私はサクラだ、よろしく頼む」

「オレはゴン。よろしく」

「平然と挨拶するなよな」

 

 やはり、名前を知っていても自己紹介は大事。

 こちらが一方的にプロフィールを知っていると齟齬が生じる。

 

「ふふ、嫉妬させてしまったかな?キルア君」

「いや、そんなんじゃないから」

「と言いつつも?」

「どういう事だよ」

「二人は仲いいんだね」

「は? こいつが一方的に絡んでくるだけなんだけど」

「えーそんなー。おねーさん、傷ついちゃうなー」

「本当にそう思ってるんなら、棒読みで言うなよな」

 

 そんなことを言い合いながら、試験官の後に続いて階段を上って行く。

 暫く話し合っていると、当然ながら『その質問』が来た。

 

「そういえば、さっきのはどうやったの?」

 

 ゴンからの質問に対して──────

 

「そうだな──────ひとまずは手品、という事にしてくれないかな?」

 

 ──────先の事を考え、ヒソカを出汁にして応じる。

 

「うーん……分かった。そういう事にしとくね」

「──────ふーん……ひとまずは、ね」

 

 順にゴン、キルア。

 返って来た反応はほぼ同じ。強いて言えば、先ほど警告したキルアの方が疑いが強いだろうか。まぁ、当然だが。

 そして、先の警告を除外して考えると──────

 

「ひとまずは成功、ってところか?」

 

 そんな私の思考をキルアが途絶えさせる。

 

「バレていたか」わざとらしく肩をすくめる「具体的に聞いても良いかな?」

 

「いや、バレバレだろ。ヒソカを出汁にして、周りに警戒させる。要するに、邪魔されたくないんだろ」

「正解。ヒソカのような戦闘狂から狙われるよりも、トンパのような連中から狙われる方が厄介だからな」

 

 まぁ、キルア君にはバレるか。

 

「そういう事か。オレは単に、サクラがお人好しだと思ってたんだけど」

 

 そして、君は素直だな。ゴン君。おそらくだが、君以上のお人好しキャラはまずいないだろう。君にお人好しと指摘されるとは……。基本的に、私は簡単に他人を見捨てるような冷酷な人間なのだ。全く、私がお人好しな筈がないだろう。君のような、素直で、人の事を直ぐに信じてしまうような、お人好しとは一緒にしないで欲しいものだよ。

 

 

  †

 

 

「君って、お人好しって言われない♦」

 

 …………。

 

 濃霧の中。

 変質者と交戦しながら。

 

「はて、何のことかな?」

 

 ふざけるな変態!お前と比べたら誰だってお人好しだろうが!

 ──────と言いたい、が堪える。

 

 落ち着け、クールになるんだ。

 これは作戦。ヒソカと関わり合いたくない(常識的な)挑戦者からの妨害を防ぐために仕方なく戦っているのだ。

 ヒソカの餌食になるであろう人を逃がす為ではない。

 

 

 運動係数制御(ラグランジュ)で運動速度と知覚速度を底上げ。

 常駐している短期未来予測(ラプラス)による「未来予測」と現実の視界に映る「今」が二重写しのように認識できる。

 

 それでも尚、遥か格上。

 このままでは不利になる一方である。

 とは言え、打開策が無いワケではない。。

 例えば、電磁気学制御(ファラデー)による超音速の電磁投射砲(レールガン)

 これならば”堅”あるいは”硬”による防御すら打ち破るだろう。

 ただし、予備動作で軌道が読まれる。

 また、近接高速戦闘を行っている以上、短期未来予測(ラプラス)運動係数制御(ラグランジュ)を解除することは戦闘経験で劣る以上、則敗北である。

 

 

 ──────ならば、奥の手を見せるしかない。

 

 

 左腰に佩いている細剣(レイピア)──────騎士剣「氷柱」を抜く。

 右手に細剣、左手に投擲用の短剣を構え、二刀流。

 

 ──────騎士剣「氷柱」接続。騎士剣「氷柱」内フォルダより、物質低温移行デーモン「カメルリング」常駐。

 

 短期未来予測(ラプラス)運動係数制御(ラグランジュ)物質低温移行(カメルリング)

 本来、容量不足で三つのデーモンを同時に常駐させることは出来ないが、騎士剣を『賢者の石』のように使う事で限定的に行使できる。

 限定的、と書いたことからも分かるように、この裏技には制限がある。

 一言で言うと、計算速度が足りなくなるのだ。

 計算補助に騎士剣を使って、物理現象に干渉しない短期未来予測(ラプラス)と計算の軽い運動係数制御(ラグランジュ)を常駐させることで辛うじてカバーしているに過ぎないのだ。

 もちろんだが、負担も大きい。その上で、騎士剣に内蔵されているのは──────いや、内蔵できたのは物質低温移行(カメルリング)だけなのだ。

 

 私が使う騎士剣は特殊な念能力で作られた氷を素材として創られている。

 本来、想定される騎士剣とは性能が大きく乖離している(前提として計算機能を持った武器が作れたことが驚きなのだが)機能が限定されるのは仕方ないだろう。

 この世界では情報制御理論が確立していない以上、情報解体は成立しない。その上、本体の計算処理能力が理想を下回る以上、計算の補助以外の本来の騎士剣としての機能──────自己領域の展開は出来ない。

 本来の性能を発揮できないのならば、他の機能で帯びなうしかない。そこで、変わりに内蔵したデーモンが物質低温移行(カメルリング)。これは氷を作った念能力者───ローズ───の能力をデチューンしたモノ。

 即ち──────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()能力である。

 

 長々と説明してしまったが、要するに負担が重いと言いたいのだ。

 だから、私が引き付けている間に逃げて欲しいのだが。

 

 

 そんな心の声も虚しく、背後からヒソカに飛び掛かったレオリオが一発ノックアウト。

 ある程度、距離を取って二刀流を構えるクラピカ──────()()()()()()()()()()だ。何らかのバタフライエフェクトか?

 

 一瞬だけ、頭によぎった疑問が大きな隙となる。

 当然、それを逃すヒソカではない。

 そして。

 そして──────。

 

「やっぱり、お人好しなんだね」

 

 そして、ヒソカの顔に釣り竿のウキがめり込んだ。

 

 

  †

 

 

「楽しいダンスだったよ♥」

「私にとっては恐ろしいだけだったがな」

「ええ……ひどいなァ♣ さっきまでアレほど情熱的だったのに♠」

「おぞましい事を言わないでくれ。 二度と戦いたくない」

「ファンだって言ってくれたのになぁ♦」

「記憶を捏造しないでくれ。 凄腕のピエロだとは言ったがファンだとは言っていない」

「そうだっけ?」

「仮にファンになるのならば、その技量にだ。 性格や劇術性に関しては趣向が違い過ぎる」

「そっかぁ……まぁいいや♣ はい、お礼にコレ上げる♠」

「カードを真っ直ぐに投げて渡すな。危ないだろう。 スペードのQ──────剣の女王か」

「そういう事。 君に相応しいと思ってね♦」

「お礼にカードか。お前らしいよ」

「気に入ってくれたかな?」

「及第点。 女王よりもお姫様と呼ばれたいのでな」

「……なるほどね♥ クク、君の王子様と戦ってみたいものだ☠」

「──────!」

 

 

  †

 

 

 レオリオを担いで奇術師は去った。

 殺していない、合格だから大丈夫、などと言っていたが心配だ。

 

 そして──────

 

「はじめまして、かな?」

 

 そして、先ほどの黒染めの少女。

 華奢な見た目からは想像できないが、ヒソカと渡り合っていた実力者。

 私は、彼女に聞かなくてはならない事がある。

 

 

 簡単な自己紹介を終え、ヒソカの後を追う。

 

 サクラ、と名乗った少女を見て思うのはハンター試験の参加者についてだ。

 まだハンター試験の最中だというのに目を疑う様な人間が多すぎる。

 ヒソカやサクラといった、異様な戦闘能力を持っている者。

 目の前を走るゴンのように、一般人離れした身体を持つ者。

 ハンター試験を受験した目的はハンターになる事。そして、()()()()()()()

 

 力が必要だった。

 その為には、持っている者と出会う必要が有った。

 この機会をふいにしていいはずがない。

 

「君は使えるのか?」

 

 その質問は、ほとんど無意識に口から出ていた。

 

「勿論」

 

 返った来たのは肯定。

 

「ほら」袖から無数の青い小鳥が飛び立つ「手品だろう?」

 

 無数の鳥に「すごいなー」と素直に感心しているゴン。

 湯気のような膜を微かにを纏った氷の小鳥に戦慄すると共に確信する。

 

「興味があったら、後で教えてあげるよ」

「後でって、いつ?」

「取り敢えずはハンター試験が終わった後で」でも、と一言挟んで「プロに教わった方が良いだろうけどね」

 

 何処か得意げなサクラと目を輝かせているゴンとの会話。

 このやり取りから、コレは本来秘匿すべきモノであり、例外的にハンター試験を突破することで手に入るのだろうと推測できる。

 

 何としてもハンター試験を突破しなくてはならない。

 サクラやヒソカといった、真の実力者が使いこなしている技術について詳しく知らなくてはならない。

 その為には、これからの試験行程を軽々と突破していくであろう彼らに追いつく必要が有る。

 決意を新たにする。目指すべきものはすぐそこにあるのだから──────。

 

 

 

「ところで、先ほどとは服装が変わっているが、それも手品なのか?」

「ダメだよクラピカ。女の子にそんな事を聞いたら」

「別に私は構わないが、確かにその通りだな。ゴン君はそのまま素直に成長すると良い」

 

 

 

「メンチ試験官。やはり男性は、料理が上手な女性の方が好きなのだろうか」

「場合に依るわね。当たり前だけど、相手に依るだろうし」

 

 先ほど、これからの試験行程を軽々と突破していくであろう、と思ったサクラが膝を屈していた。

 哀愁すら感じる程激しく落ち込むサクラと彼女からの相談をバッサリと切り捨てる二次試験の試験官メンチ。

 

 

 

 ハンター試験とは無常であった。

 

 

  †

 

 

 電気水道などの設備が整った個室。

 ハンター試験の試験官に宛がわれた部屋の一つ。

 

 その部屋の中でローズはいた。

 

 試験官の部屋があるのは雲の上を行く飛行船の中。

 現在、二次試験の内容の変更に伴い、大量の受験生を収容しようとしていた。

 その受験生の中に、彼が執心している少女がいるのだが、ここにいるとバレてしまうわけにはいかないのであった。

 

 ローズは予め準備しておいたソレ──────ジョイステーションを起動させた。

 




 という訳で3話でした。長くしてしまったと後悔中。
 ダイジェストでも十分長い。これでも結構削ったんですけどね。
 説明会を兼ねていたのでクドイ所が何か所か……。修行不足を痛感します。
 読みづらい個所が多かったと思うので、ここまで読んでいただいたことに多大なる感謝を──────。


 因みに騎士剣の名前一覧は

 長剣……「雪花(せっか)」
 短剣……「雪月(せつげつ)」
 細剣……「氷柱(ひょうちゅう)」

 こんな感じで氷雪系で縛っています。


 改めて、ここまで読んでいただいてありがとうございました。
 前回、今作で初めて感想を貰いました。創作の励みになります。これからも評価、お気に入り登録、感想などをお待ちしています。
 次回更新は(も、ですが)何時になるか分かりません。恐らくですが、内容はハンター試験ダイジェスト(後半)になるかと思います。気長にお待ちしていただく事をお願いします。


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