仮題:『激唱』 (ロットット)
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いつもより泣き虫な空

みんな初音ミク大好きで歌はウン万再生とかいってるけど、このパターンのお話はなかなか見かけないよね


 

 

多分きっと、その夢は泥沼なのだろう

 

 

 

 

 

 

 

ーーーシンデレラプロジェクトーーー

 

 

それは日本全国に埋没する数多くの個性溢れる少女質を発掘し、プロデュースするという一大企画の事である。

 

この企画を発表したことで今迄に無い程の多くの応募があった為、毎日毎日残業して履歴書に目を通し、選考するのが彼、武内プロデューサーの最近の日課であった。

 

本来なら彼は最終選考に残る少女達を見る立場にある為、この様な言ってしまえば雑務を行う立場では無い。

が、彼たっての希望とアイドル部門の人員の少なさ故に、事務員である千川ちひろと共に深夜0時直前になっても履歴書とにらめっこしている。

 

「んぅ〜!終わりましたね武内くん!」

 

然しながら今日は普段と違う日だった。

もちろん晴れ時々槍なんていう珍妙な天気だった訳でもなく、ただ単純に今日の仕事は0時までかからず定時退社が出来そうなだけの普通の日だった。

 

「えぇ、お疲れ様です千川さん...では私は少し外回りへ」

 

彼女に手伝ってもらった感謝をしつつ私は立ち上がる。

手早くデスクの上の資料を纏め、簡単な荷物と名刺がある事を確認して事務所の扉へ歩みを向けた。

 

「...あれ?今から外回りですか?」

 

「えぇ、まだ最後のメンバーを探す必要がありますので...」

 

先日、島村さんの手助けもありシンデレラガールズメンバーは遂に14人となった。

 

然しながらメンバーの定員は『15人』であり、このままでは1人足りていないのが現状ではある...しかし私自身しっくりくる人を見つけられていない為、こうやって渋谷さんの時と同じように街頭でスカウトするつもりであった。

 

「確かに外で探してみるのも大事ですね...」

 

理由に納得したのか彼女は頷くが、そのまま続けて

 

「けどあんまり無理はしないでくださいね?タダでさえ最近武内くんは無理して頑張ってるんですから!」

 

そう釘を指してきた。

確かにここ数週間のうちの殆どは残業を行っており、充分な休息が取れていないのは事実ではあったが、それでもまだ自分自身としては体力に余裕があると感じていた。

 

「分かりました、善処します」

 

「...ホントに無理だけはしないでくださいね?」

 

私は後ろから聞こえる呟きを受けながら、事務所の外へ繰り出した。

 

 

 

○○○

 

 

 

さて、外にいきなり出たとしても普通の住宅街などで探していては見つからないのが落ちだということはわかっている。

実際の所、最近では場所を選ばずにスカウトすると警察のお世話になる事も分かっている。だが、ここで諦める選択肢はない。

 

日もすっかり傾き、夕暮色に染まるいつもの街。

 

丁度下校をしている学生や定時退社のサラリーマンが比較的明るく帰宅を急いでいるというのに、何でこんなにも寂しく感じるのか...と感傷に浸りつつ目的地へ歩く。

目的地は駅近くから続く商店街の中だ。この時間帯は人通りが多い。それを狙っているのか相応にバンドメンバーやシンガーソングライター...所謂バスカーに分類される人々が数多く存在するその道の者にとっては激戦区であった。

 

だが今日は珍しく、そのバスカー達が少なく見えた。

無論全く居ないという訳では無いが、直線の見える範囲だけで2人か3人ほどしか居なかったのだ。

 

(珍しいですね...いつもなら10人程は居るのですが...)

 

取り敢えず気にしても仕方がない、プロジェクトメンバーの残り1人を探す為に歩みを進める。

何の気なしにすれ違う人々を眺めるが、その人達もいつもより少なく見えた。

 

ふと、商店街から大通りに出る細い路地が目に入った。

空は相変わらず茜色に染まっていたが、ポツリポツリとアスファルトに水滴が落ちる音が聞こえ始めていた...雨だ。

 

「なるほど...夕方から雨でしたか」

 

忙しくて天気予報すら見ていなかったなと自覚する。雨ならば目的となるスカウトすべき人もなかなか居ないだろうし、そもそとこれは本格的に降りそうだが自分は傘を持っていなかった。

 

一旦大通りに出てコンビニの傘でも買おうと思い、小雨の降る夕暮れの路地を駆ける。

 

「...ねぇ、そこのズブ濡れのお兄さん?」

 

鈴のなる音が聞こえた。

 

淡い水色とも緑ともつかぬ輝く髪が目の前を翻る。

 

比較的華奢な体は儚さすら感じるが、細い路地と廃店と閉まったシャッター、そして大きなクラッシックギター...これらが不思議と調和した非常に美しい少女がそこに居た。

 

「傘を持って来忘れた仲間同士、1曲聞いてみませんか?」

 

一見すると高校生程だろうか?非常に大人びた雰囲気を纏っているためもしかしたら大学生かもしれない...そんな不思議な少女が先ほどの声掛けと変わらない鈴の音をコロコロと響かせる。

本来ならば何ともない日常に含まれるであろう光景、彼らが歌い私はそれを聞き流すなんの特別性もない1幕。

 

「...では、1曲お願いします」

 

 

ほんの少しも悩まずに決めた、この出会いは何となくだが私の心の奥底から待ち望んでいた必然のようにすら感じたからだ。

 

 

「...! ありがとうございますっ!」

 

 

一瞬間が空いたがパッと花開くような笑顔を見せた少女。

島村さんを思い起こすような素敵な笑顔を持ったその少女の話を聞くと、どうやらここの近辺でバスカーを始めて長いが立ち止まる人はとても少なかったと言う。

 

「まぁ私自身、歌う曲がオリジナルなのも理由の一つかも...」

 

「オリジナル...もしかして作詞作曲はご自身で?」

 

「あっ...はい、一応自分自身の曲になります」

 

人が止まらないのも必然と思うと同時に、非常に稀有な才能を持った人だと感じた。

作詞作曲を全て自分1人で行うというのは非常に難しい、高校生ほどの頃であれば尚更...然しながら彼女は自分自身で作詞と作曲を行い、それをここで弾き語りしているという。

しかし聞き慣れた有名曲ではなくオリジナルの歌を歌うと言うのは、まず作詞作曲の面で認められる必要がある。

 

「まぁ...そこまでしてでも歌うのが好きなのもあります」

 

彼女は伏し目がちにそう呟いた。

思った以上に話し込んでしまったようだ。夕焼けは更に強まり、東の空は既に闇へと沈み始める。

降り始めた雨は静かな雨音を響かせながら、時折近くを通る車の音がやけに耳に残った。

 

「あっ...じゃあそろそろ弾きますね!お待たせしてすみません!」

 

こうやって話している途中で準備が出来たのか、改めて彼女がその大きなギターを持ち直す。

淡い水色のマニキュアが塗られた白魚のような指が、ギターの弦をポロロンと弾く。

 

「何かこんな雰囲気の曲がいい...とかリクエストありますか?」

 

「そう、ですね...では今の天気に合う曲を1曲」

 

「...夕暮れ時の小雨にですか?それなら丁度いい曲が一つ」

 

彼女は軽く足でリズムを確認すると、一つ咳をして改まり曲名を告げた。

 

「では歌います、『いつもより泣き虫な空』」

 

 

 

 

私はそこに『歌姫』を見た

 

 

 

 

 




続かない


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Yellow

そもそもデレマスの内容自体が登場人物多くて二次創作しづらいってのは過分にあるとは思うよね


あれから2日経った今、私は美城プロダクションオフィスビルの30階にあるプロジェクトルーム内にて私物のノートPCを開いてあるサイトを閲覧していた。

 

あまりネットアイドルという言葉に聞き覚えが無かったが、確かにこれはこれで面白い試みであると私は考える。それにこの大百科等でわかりやすく纏められている点については、彼女がしっかりとファンに愛されていることの証明だと思う。

 

 

「プロデューサーさん!お邪魔してもいいですか?」

 

 

ふと目の前に人影が映りこんだ事に気がつき、視線を上にあげた。そこには先日プロジェクトに加入した島村卯月さんがこちらを覗き込むようにいつもの笑顔で語りかけていたのだ。

 

「すみません、少し調べ物をしていたもので気がつくのに遅れてしまいました」

 

「あっ、もしかしてお仕事邪魔してしまいましたか...?」

 

「いえ、少し気になる事を調べていただけですので仕事とは...あまり関係はありません」

 

 

不安そうに見つめてきた彼女の言葉を否定しつつ、先程まで付けていたぴにゃこら太柄のヘッドホンを外し、ノートPCを畳もうとする。

 

 

「そうなんですか!良かったぁ...所でプロデューサーさんは何を聞いてたんですか?」

 

彼女は安堵した後、疑問に思ったのかそう聞いてきた。

確かに私自身こうやってプロジェクトルームでPCを開くことは珍しいし、私物でヘッドホンを持っており音楽を嗜んでいるという訳でも無い。

 

 

「えぇ...その、プロジェクトメンバーの最後の1人候補と言いますか...その方の歌を聞いておりまして」

 

 

......少し考えたが特に誤魔化すこともない、本音を言えばスカウトしたい...いや、すべきだ と心の中では決まっていたが。

 

「えっ!新しい子も決まったんですか!」

 

「えぇ、はい...まだ彼女へアプローチを掛けてる最中ですので分かりませんが」

 

 

...実際の所先日の時点で交渉をするつもりではあったのだが、気がつくと彼女は全ての片付けを終えており、流れに任せてお金を渡した後に雨の止んだ夕暮れの街へ溶け込んでいったのだ。

つまり本人から名前を聞くこともなく見逃してしまった。

 

「そうなんですか!あのっ、私もその子の曲やお名前聞いてもいいですか?」

 

「そうですね...」

 

元より今日も時間がある為、あの出会った路地裏へと向かうつもりだった。

本来ならば私ひとりで行くつもりだったが...その時にある程度彼女の事をを知った島村さんも一緒だと何かと話がスムーズに進むかもしれない。彼女の笑顔にはそんな力がある。

 

 

「大丈夫です。あと、この後時間はありますか?」

 

「?...時間なら大丈夫ですけど...あっ、もしかしてその子に会えるんですか?」

 

「はい、これからその方のいらっしゃる場所に行きますので宜しければ御一緒にと」

 

「大丈夫ですっ!プロデューサーさん!」

 

 

時間は大丈夫なようだ、なら行くまでの途中自分のスマートフォン等で見せてあげれば大丈夫だろう。

時間は既に4時に近い。今からあの商店街に向かえばちょうどいい感じに出会えるだろう。

 

 

「ありがとうございます。では少しお待ちください、準備します」

 

「分かりました!島村卯月、頑張ります!」

 

 

 

○○○

 

 

 

私が見ていた件のサイトというのは、国内での大手動画サイト『ワクワク動画』という物で、投稿主が撮った動画や画像をアップロード、そこにサイトが広告を付ける事で再生数に応じて収入を得ることの出来る大規模なサイトであった。

 

そのサイトに辿り着いたのはほんの些細な理由である。

昨日の時点でどうにか彼女の情報を得ようと四苦八苦していた私だったが、事務員の千川さんが、私が口ずさんだあの歌から彼女が動画を投稿している事を教えてくれたのだ。

 

 

「へー!...名前はぼ、ぼーかろいど?さんですか?」

 

「いえ、どうやらそちらはグループ名の様でして、本名...もといハンドルネームは『初音ミク』さんらしいです」

 

 

千川さんの手助けもあり、その動画サイトから『VOC@LOID』という投稿主にたどり着いた私は、昨日からその投稿された曲に聞き入っていたのだ。

それらの曲はどれも素晴らしいあの歌声で紡がれており、なおかつバンドの演奏や恐らく打ち込み式の電子音のバランスもプロ顔負けの物であった。

歌と液晶の向こうに映し出された彼女はとても可憐で、いつまでも私の心の何処かに宿る様だった。

 

 

「ふわぁ〜!この『Yellow』って曲すっごくハッピーでいい曲ですねプロデューサーさん!」

 

「えぇ、とても前向きで心の底から暖かくなるいい曲だと思います」

 

 

そして何より凄いのがこれらの高クオリティの楽曲を全て個人で行い、なおかつ一月に2.3曲のペースで公開しているという点である。これはプロでも有り得ない数字であるし、そのどれもがサイト内で50万回も再生されているのには本当に驚かされた。

 

 

「今からそんな凄い人に会いに行くんですね...私、少し緊張します」

 

「大丈夫です、1度あった事はありますが悪い人ではありませんでした」

 

 

そして電車は例の商店街近くの駅に辿り着いた。

そろそろ夕暮れ時にかかり始めたくらいで、ポツポツと人々が商店街から吐き出されるのが見えた。

 

 

「所で島村さん、家の方々にご連絡は?」

 

「はいっ!大丈夫です!もしかしたらご飯も外で食べて帰るかもしれない点までRINEで連絡しました!」

 

 

彼女もワクワクとしているようで、全身から喜びが溢れ出るように見えた。

そのまま彼女と共に商店街へ入る。今日の天気予報は晴れ、多くの学生達が練り歩き店に入りまた出ていく。道端にはギター1つ抱えた人や、数人で集まったグループなどが屯している...端的に言うと非常に賑わっていた。昨日とは大違いだ。

 

 

「わぁ!いっぱい人がいますねっ」

 

「島村さんは、もしかしてこちらの商店街へ来たのは初めてですか?」

 

「はいっ!いつもお母さんとお買い物行く時はスーパーかショッピングモールなので」

 

 

人混みは更に強くなり、彼女を背後に庇いつつそれらを縫うように避けていく。

そろそろあの路地の筈だが...

 

 

「あっ、プロデューサーさん...もしかしてあの子じゃないですか?」

 

 

平均より高い身長を活かして上から路地を探していると、不意に後ろから袖を引かれた。

振り返ると島村さんがなにか見つけたらしい。言われてみると、後方にあの艶やかな緑色のツインテールが見えた気がした。

 

 

「確かに、恐らくアレが初音さんですね。ありがとうございます島村さん」

 

「えへへ...お役に立てて嬉しいですっ!」

 

 

少し道の端に寄り、人混みを避ける。

先程のは見間違いでも何でもなかったようで、あの綺麗なツインテールはフラフラと揺れつつこちらに近づいてくるのがしっかりと視界に写った。

 

顔が見える距離になると、彼女はハッとした表情を浮かべた後に曖昧な笑顔を浮かべながらこちらへ歩いてきた。

 

 

「こんにちは傘のお兄さん?もしかして娘さんとショッピングですか?」

 

「あぁ...あの、こちらは娘などではなく...」

 

「...へっ?い、いえ!えっとプロデューサーさんの子供とかじゃなくて...島村卯月、17歳です!アイドルとして頑張ってます!」

 

 

一瞬吃り、小声になりつつもいつも通り元気よく自己紹介をする島村さん。

彼女は「アイドル?」と一言呟くと首を捻りつつ悩ましげな、疑問に満ちた目をこちらに向けた。

 

 

「アイドル...もしかしてお兄さんはスカウトマンとかプロデューサーになりますか?」

 

「はい、私はこういう者でして」

 

 

サッと懐から準備していた名刺を取り出す。

彼女はそれを受け取るとしげしげと眺めた。

 

 

「美城...プロダクション?の武内さんですか」

 

「はい、今回は初音さんに我社のアイドルにならないかという打診...つまりスカウトを」

 

 

そこまで言うと彼女はこちらを再度疑問に満ちた瞳で見つめてきた。何か不手際があっただろうか?

 

 

「あの、自己紹介しましたっけ?」

 

「...あぁ、すみません...あの後歌を口ずさんでいたら知り合いから初音さんが投稿されている動画について教えてもらいまして」

 

「あぁ!それで...んっ、改めまして初音未来《ミク》、16歳です!」

 

「えっ!高校1年生なんですか?!」

 

「あっ、はい、一応高校1年生と同じ年齢です」

 

 

なるほど、16歳でしたか。想像より大分低い年齢であることには驚いたが彼女の言い方が少し喉に引っかかる。

 

 

「あー、その...立ち話も何ですしファミレスに入りませんか?」

 

「良いですねプロデューサーさん!さぁミクちゃんも行きましょう?」

 

「...あっ、はい、ならこの商店街にあるのでそこ行きますか?」

 

 

 

 

 

 

「3名で」

 

平日の夕方だからか比較的空いている店内へ入る。

3人分のドリンクバーと軽く摘めるポテトなどを注文すると、島村さんが話の本題へ切り出した。

 

 

「えっと、ミクちゃんはアイドルに興味なかったりしないですか?」

 

「アイドル...ですか?確かにそこそこ興味はありますよ?」

 

「そうなんですかー!なら一緒にアイドルしませんかっ!?」

 

 

彼女の持ち前の明るさで彼女へ詰め寄る。花咲く笑顔は否応もなしに殆どの人の心の扉を開くだろう。

 

 

「あの...いえ...」

 

「...?どうか、なされましたか?」

 

 

先程までは比較的穏やかな笑顔を見せていたが、その言葉を最後に静かになり顔を伏せる。

 

 

 

 

「その話...お断りさせてもらっても宜しいでしょうか?」

 

 

 

 




続いた


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アイアルの勘違い

期末があると投稿は遅れる


「...何故、でしょうか」

 

 

若干動揺したプロデューサーさんの声がやけに耳に残りました。私も釣られて思わず手を強く握り込む。

 

 

「...私も理由聞いてもいいですか?初音さんはアイドルに興味はあるんですよね?なのになんで...」

 

私からも問いかけます。さっき電車の中で聞いた曲はみんなノリノリで歌う事が楽しくてしかないって感じだったのに、いまの初音さんはそんな雰囲気が全く無いんですから。

 

「...あの、私は歌う事が好きなんです」

 

彼女はほんの少し間を置くと、グラスに入った氷を鳴らしながらそう語り始めました。

 

 

「歌が、好きなんです」

歌う事しか知らないんです

「希望を歌い、絶望に嘆き、勇気を奮い、臆病に逃げる」

希望は破れ、絶望も知らず、蛮勇を掲げ、無謀に挑む

「愛に焦がれ、恋に敗れ、友情を尊び、無を好む」

愛を忘れ、恋を嫌い、友情を失い、無が残った

「ぜんぶ、歌いたいんです。歌う事が私の全てなんです」

全部歌おうとした、歌おうとしたんだ

「歌う事が私の存在意義と言ってもいいんです」

歌う事しか出来なかったんだ

「だから」

 

「まだ、『アイドル』に縛られる訳にはいけないんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い人、でしたね」

 

「...そうですね」

 

言葉が出ませんでした。

初音さんはあの後すぐに用事があるので帰りますって言って帰っちゃいました。多分きっと用事があるって言うの、デタラメなんだと思います。だって目が拒絶してましたから...

横を見ると、プロデューサーさんも伏し目がちになってどこか暗い雰囲気を纏ってます。

 

「と、取り敢えずプロデューサーさん!この後どうしましょうか?」

 

沈黙が苦し過ぎて何も考えずに声を出しました。

このまま考えていると、どこまでも思考の渦に巻き込まれそうで...

 

「そう、ですね...取り敢えず今日の所はこの位にして島村さんの家へ送ろうかと」

 

「そっちじゃなくて初音さんの事ですよー!」

 

「あぁ、えぇ...少し考えてみます」

 

そうあまりハッキリとしない返事をすると、またプロデューサーさんは考え込むようでした。

...私も、何か出来ないかな?

 

「あのっ、プロデューサーさん!少し...あの、お願いしたいことがあって」

 

 

 

○○○

 

 

 

春先の土曜日、こんな日はよく商店街は人の濁流に飲み込まれる。春は出会いの季節であり、例えば大学生であれば新入生同士の付き合いで服を買ったり遊びに出かけたりするだろう。

無論それ以外にも高校生や主婦、キャリア持ちの人々も休日を謳歌するべく現れる。そういう日こそ、特にそういう日の午前中こそバスカーにとっての狙い目だ。

より多くの人々に自分を知ってもらうために、彼らは路上で己を叫ぶ。そういう私も...

 

 

 

 

 

 

「こんにちは!昨日ぶりですねっ!」

 

昨日と同じ場所で、またあの子に声をかけました。

まだお昼にもなってないぐらいなのに商店街は人でいっぱいで、けど初音さんの髪はとっても綺麗なので遠目でも凄くわかりやすかったんです。

 

「あっ、えーっと...たしか卯月ちゃんかな?」

 

「そうですそうです!島村卯月です!」

 

よかったぁ...あんな別れ方したので不安だったんですよね。

 

「あー、うん...で、卯月ちゃんは何しに来たの?」

 

「あっ、えっとぉ...そのですね」

 

「...そっか!聴きに来てくれたんだよね?そりゃ当然かぁ」

 

初音さんは一人合点したのか、いそいそとギターを出そうと肩下げのケースを下ろしました。

わぁ...!あの歌が生で聴けるんだ...って違う違う!

 

「えーっと...そうじゃなくって!」

 

「...じゃあ何しに来たの?しかも1人で」

 

「あの...少しだけお話しませんかっ!?」

 

 

 

 

陽があるところに陰があり、光が強ければ闇は深まる

 

 

「あー...えーっと、その...あはは」

 

「.........」

 

「はは...」

 

 

会話が、出てきませんっ!

あの後私達は近くの喫茶店『Moonbucks』に入ったんですが、さっきから初音さんはこちらをずっと眺めてきてて...あっ、睫毛も髪の毛と同じ色なんだぁ。

 

 

「で、卯月ちゃんは何を話に来たの?」

 

「そうでしたっ!...初音さんのこと色々聞いてみたくって」

 

「あー、その初音さんじゃなくてミクの方でいいよ?あんまりそっちで呼ばれるの慣れてないし」

 

「やった!ならミクちゃんっ!色々お話しませんか?」

 

「...いいよ」

 

ミクちゃんはちょっと困った様な、けど少し楽しそうな笑顔を浮かべながらそう言いました。

釣られて私も自然と笑顔になります。

 

「で、どんな話を聞きたいの?」

 

その言葉から話題はどんどん膨らみました。

好きな食べ物から始まって、バスカーさんはどんな生活を送ってるのかとか、こうやって音楽活動を初めて何年くらいなのかとか...他にも特技の話とか色々いっぱい。

 

 

「凄いです!ギターだけじゃなくてピアノやドラムも出来るんですねっ」

 

「プロほどじゃないけど一通りやった事あるから出来るよ?他にも、バイオリンとかサックスとか...」

 

「ほへぇ〜...ホントに色々できて凄いです!ちょっと憧れます!」

 

「そんな事ないよぉ〜、私の知り合い?みたいな人だともっと上手くドラムとか叩けるし...」

 

ミクちゃんは少し照れくさいのか頬を掻きながらそう言いました。ほんのちょっと隠れたその頬は淡い桜色に染まってます。

 

「いえいえっ!私なんかこの前初めてのレッスンで転んじゃって、ほかの2人にも先輩面しちゃった後だったんで凄く恥ずかしくて...とにかくっ!なんでも出来ちゃうミクちゃんは凄いんですよ!」

 

「うーん...そうかなぁ?」

 

実際の所、私から見てもミクちゃんは才能の塊に見えます。まず歌声は透き通るような可憐な声ですし、ネットに上がってたダンスだと私が見てきた中で一二を争うくらい上手くてキレがありました。

他にもさっき言ってたギターやピアノとかの楽器が凄く上手に弾けたり、何よりすっごく可愛いですし!

 

「でも...私は卯月ちゃんの方が凄いと思うけどなぁ〜」

 

「ほへ?私が...ですか?」

 

「うん、私が思うにすっごく珍しい才能を持ってると思うよ?」

 

ミクちゃんより凄い才能...何のことでしょう?

ダンスも歌もあんまりだし...あっ、もしかしてプロデューサーさんが褒めてくれた笑顔...とか?

 

「多分考えてる事と違うと思うよ?」

 

「えっ...笑顔じゃないんですか?」

 

「あぁ、うーん...まぁある意味そうとも言えるんだけど...卯月ちゃんのなんて言うか...馴れ馴れしさ?」

 

「なっ...馴れ馴れしさ...」

 

ちょ...ちょっとショック...私って馴れ馴れしかったんですか...次からは気をつけないと

 

「あっ違うよ!別に悪い意味じゃなくって...なんて言ったらいいのかなぁ?遠慮がないっていうか...」

 

「うぐっ」

 

「あー、好奇心旺盛な...子供?」

 

「こ...こども...」

 

「...なんかごめん」

 

「いえ...大丈夫です...」

 

え...遠慮がない...心にグサーっと来ました...

いえ、多分そんなつもりはないと思うんですけど...ミクちゃんって結構毒舌というか...

 

「とにかく!なんて言うかその心の壁をぶち壊す感じ?初対面の人とも沢山話せるでしょ卯月ちゃんって」

 

「えっ、ま、まぁそうなの...かな?」

 

「うん、絶対そうだよ!...ぶっちゃけ私、感じ悪かったでしょ?それなのにこうやって話してるでしょ?」

 

「いえ!ミクちゃんは全然感じ悪くなんかないですよ!それにこうやって話してるのは私が話したかったからですし...」

 

「それでも...だよ。普通の人はあそこまで拒絶したら話しかけようとすらしないし、そもそもこんなに楽しくお喋りなんて出来ないもん」

 

「そうですかね...?全然気にした事ありませんでした...」

 

初めて言われました...そんなに凄い事なんですかね?誰とでも楽しくお喋りしたいなんて普通の事だと思ってました...

 

「うん、凄い事だよ...少なくとも私なら私とは会話したくないし...こんなに相手を機嫌よくする事なんて全然出来ないもん」

 

「えへへ...そんな事初めて言われました...」

 

「ならこれからは誇った方がいいよ!もっと自分の長所を理解して頑張るのが生きていく上で一番大事だからね」

 

「はいっ!頑張って誇りたいと思います!」

 

 

...会話がひと段落ついた所でミクちゃんが立ち上がりました。どうしたんでしょう?もしかしてお手洗いかな?

 

「さてと...じゃあちょっと場所変えよっか?私の家に行こ?」

 

「えっ?ミクちゃんの家...ですか?なんで?」

 

「だってあの堅物プロデューサーさんから頼まれて来たんでしょ?『卯月さん...すみませんがあの初音さんを口説き落としてください』って」

 

思った以上に真に迫ったプロデューサーさんの声真似に思わず笑っちゃいました。ミクちゃんは声真似まで上手なんですね!けど...

 

「いえ?別に頼まれてませんよ?」

 

「...え?」

 

「え?」




助走なんですわ、より高く飛ぶためのね


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ふたりぼっち

少ない理由その1
・登場人物が増えるため会話などが困難に
解:最初数話は人少なくして、その分その人と関係性深めればええねん

そう言えば赤評価になってたりしてホントびっくり
更新頑張ります


「ちょっと散らかってるかもしれないけど...さっ、入って入って」

 

「お、お邪魔しまぁ〜す...」

 

ギギッという扉の軋む音とともにその部屋に滑り込みました。外見は正直いって...その...おんぼろアパートみたいな...

けど部屋の中は綺麗でした、6畳間ほどの小さな部屋でしたが何かしら物が散乱してるとか壁紙が剥がれてるなんてことは無く...むしろ新築の家みたいに綺麗に整えられてました。陽の光が入らないのかほんのちょっと暗かったですけど。

 

「ほへぇ...凄く綺麗なお部屋なんですね〜」

 

「まぁあの外観からこの部屋の綺麗さは想像つかないよね...ふふっ」

 

あの後私たちは誤解を解きつつミクちゃんの家まで歩いていきました。それほど商店街から離れてはなかったんですが、それまでの間に色々事情を説明することが出来ました。

 

「いやぁ...それにしても卯月ちゃんは行動力に溢れてるよねー。なんたってあの堅物さんに『友達になってみたいので1人で会いに行ってもいいですか?』って聞くなんて...」

 

「ふふっ、変でしたか?」

 

「いやぁ?そこもまた卯月ちゃんのーーー

 

「長所、ですよねっ!」

 

ミクちゃん曰く、『あの堅物が服きて歩いてるみたいな人なら計算高くて同い年くらいの同性で懐柔してくるのかと...』と考えてたようです。ちょっと苦笑いになりつつ否定はしましたし、プロデューサーさんなら多分反対に引いても押してくるって伝えたら少し意外そうにしてました。

 

「おっとっと...お客さんにお茶のひとつも出さないのは失礼だったよね?ちょっとまってて!」

 

「あっ...別にそんなにお構いなく〜...」

 

ちょっと前の事に思いを馳せているとミクちゃんは入口近くの冷蔵庫の方へ行ってしまいました。案内された部屋には質素なベッドとコタツ、そして最近テレビでもよく見る人をダメにするソファらしきものがありました。

 

そして私が取り敢えず座るように言われたベッドの上に座ると、部屋の隅のちょうど薄暗くなったところに何かの紙の束が無数に置いてあるのが見えました。

 

「おまたせーっ!普段お茶とか家で出さないからちょっと待たせちゃったね?」

 

「いえいえいえ!そんな事ないですよっ!全然待ってなんかないですからっ!」

 

その置いてある紙の束がふと気になり、少しだけ見てみようと立ち上がる瞬間にミクちゃんが戻ってきました。

ちょっとタイミングが良すぎてだいぶ驚いてしまいました...ミクちゃんはこっちを見て不思議そうな顔をしながらその手に持ったマグカップを私の目の前に置きました。

 

「ん〜...ちょっと散らかってたかな?ごめんね、汚くて...」

 

「い、いえっ!別にそんな訳じゃなくて...その、あの紙の束は何かなぁ...と...」

 

ちょっとしょんぼりしたミクちゃんが目に入りました。慌てて否定してホントの事を話します。

 

「あぁ〜...気になるなら見てみる?」

 

「えっ、いいんですか?」

 

「うん...まぁ別に見られて困る物じゃないし...」

 

そう言うとミクちゃんは、その紙の束の一部を手に取って渡してくれました...えっ、凄い文字や音符がいっぱい...しかも所々注釈とかで楽しそうにとか注意書きが沢山...

 

「あの〜...これは一体...」

 

「んー、楽譜兼歌の指導書...みたいな?今まで作ってきた歌の歌詞や旋律を全部五線譜に書き込んでるの」

 

「え゛っ...アレ全部楽譜なんですか」

 

紙の束は部屋の一角を完全に占領してますし、今ミクちゃんが開けたクローゼットの中にもパンパンに詰まってます。それら全部が楽譜...

 

「えーっと、メルトメルト...あった!これこれ〜♪」

 

「あのー...」

 

「あっ、ごめんね?置いてけぼりで...特にこの曲とか一番人気だし、見て欲しかったんだ〜」

 

「メルト...ですか?」

 

言われて追加で渡された楽譜に目を通します...うわぁ...こっちもすっごく書き込まれてる。

でも歌詞に目を通すと自然と曲が流れ、情景が脳裏を過ぎります。すごい...素敵...言葉が出てきません。

 

「すごい...」

 

「でしょー!『良い曲』だよねぇ...なんなら今歌ってあげよっか?」

 

「いいんですか?!って周りの部屋の人に迷惑じゃ...」

 

「大丈夫大丈夫!そもそも人居ないし今まで大家さんが怒ってきた事無いもん」

 

そう言うとミクちゃんはテキパキとコタツを片付けて端に寄せて、クローゼットの中からCDプレイヤーを取り出します。私は出してくれた...漢方茶?不思議な味のするお茶を手に持ってそれを眺めてます。

でも、ほんとにミクちゃんは凄いです...この数の曲を自分で作って、しかもみーんなこんな感じで凄い曲ばっかり!さっき持ってたこの曲もちゃんと見る前だったけどーーー

 

「おまたせー、じゃあ軽く歌ってみるね?」

 

「あ、本当にありがとうございますっ!ミクちゃんの歌、動画で見てから1度生で聞いてみたかったんですよ!」

 

「あーあれかぁ、動画って何聞いたの?」

 

「えーっと...妄想感傷...なんでしたっけ?」

 

「妄想感傷代償連盟ね!あれもいい曲だから聞いてくれて嬉しいよ!」

 

「でもメルト?の方は1度も聞いた事なくって..ごめんなさい」

 

「まぁ私が歌うサイト、普通の女子高生は知らないからなぁ...気にしなくていいよ?じゃ、始めるね?」

 

 

 

ーーーでは歌います...『メルト』ーーー

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ〜!!凄いです!ミクちゃんほんと凄いです、この歌も、ダンスも、表現もプロ顔負けですよ!」

 

「えへへ...そうかなぁ?」

 

ミクちゃんは頬を桃色に照れながら答えます。

事務所で見た高垣楓さんとか美城プロダクションのトップと比べても遜色無いくらいでした...

 

「いやぁ...そんな事ないと思うけどなぁ...実際あの人達の方がアイドルとして上だと思うし、ほらあの高垣楓さんとか歌い方に気持ちが篭もっててすごいと思うけどなぁ?」

 

「えっ!声に出てました...?それにしても美城のアイドルの皆さんも知ってるんですねっ」

 

不思議でした...あの時アイドルには興味が無いって言ってたのに普通にその辺も詳しいし、よく知ってる風ですし...

 

「まぁねぇ...今のご時世美城もそうだけど765や961みたいなテレビに出るアイドルが流行りを作るんだ」

 

そう言うと端に寄せてたコタツとかを片付けながら言葉を続けます。

 

「私、ないしネットアイドルや地下ドルは時流に乗らないと生き残れないからね...例えばクールなユニットが大手で流行るとファンの人は大多数がクール好きになる...だから私達はクールな曲を出して人目に付くようにするんだ」

 

「それは...」

 

「...暗くなっちゃったね!ごめんごめん!まぁそこまで深刻な話じゃないんだけど、再生数とかを増やす為の手法のひとつってだけだからさ...だから有名アイドルの曲も色々聞いてるんだ」

 

冗談には聞こえませんでした。

実際の所、そう言ってるミクちゃんの声は真に迫った声に感じました。多分本当に注目されない場所にミクちゃんは立って一人で頑張ってると思います。けどそれなら...

 

「それなら...なんでミクちゃんはプロデューサーさんの...その、スカウトを断っちゃったんですか...?」

 

「...前も言ったでしょ?私はアイドルになりたい訳じゃないってーーー

 

 

「嘘...ですよね?」

 

 

「...なんでそう言うの?」

 

 

「えっと、その...歌うのが好きなのはホントだと思います...けど今さっきまで話してても逆に『アイドルが嫌い』って点は無いですし...それにミクちゃん自身はもっと沢山の人に自分の歌を聞いて欲しいんですよね?」

 

 

「...それで?」

 

 

「あぅ...そ、それに!さっき歌ってたミクちゃんはすっごくキラキラしてたんですっ!!」

 

 

「キラキラ?」

 

 

「はいっ!すっごくキラキラしてて楽しそうでした!ほんとに人前で歌うのが好きじゃないならあんなに輝きませんっ!アイドルになりたくない訳じゃないと思います!」

 

 

「ふーん...」

 

 

「ど、どうでしょうか...?」

 

「うーん、60点!」

 

「ろ、ろくじゅう...」

 

す、凄く低い...大きく出て怒らせちゃったかも...

 

「でも、当たらずとも遠からず...かな?」

 

「えっ...」

 

「うん、別にアイドルみたいに有名になりたくない訳でもないし、別にアイドルその物が嫌いでもないのは事実だしね。」

 

そこまで言うと、ミクちゃんは脇に置いてた自分の楽譜を拾い上げました。その目は楽譜を見ている筈なのに、何処か遠くを眺めてるようで...

 

「けどアイドルみたいな『決められた偶像』になりたい訳じゃないんだ」

 

「決められた、偶像...」

 

「うん、偶像...所で卯月ちゃんにはアイドルとしての夢はある?」

 

「夢ですか?それなら...」

 

アイドルになりたい、ステージの上でいっぱいキラキラしたい

それが私の夢、私の原点...と思います。

 

「あー...うん、いい夢だね」

 

「えっと、ありがとうございます?」

 

「うん、ホントにいい夢だと思うよ?私もそんな夢ならなぁ〜」

 

ぽふっと音をさせて隣に座り込むミクちゃんの顔は、少しだけ悲しげで寂しそうでした。

 

「色々調べたよ、美城事務所がどんな所なのかとか、先達のアイドル達はどういう活動をしてるのかとか...『シンデレラプロジェクト』はどう言った企画なのか、とか」

 

「確かに有名になれるし、私の声を聞いてくれる人は沢山出来ると思う...けどそれは『私の歌』じゃないもん、他人に魔法をかけてもらってまで有名になりたくない」

 

「私は、私の力でこの世界に爪痕を残したいんだ...!」

 

 

けどその寂しげな瞳は一瞬で、決意に満ち溢れた勝気な表情に変わりました。

...強い、なぁ...

 

「...私の話もしていいですか?」

 

「んー...まぁ一方的に聞いてもらったからね、いいよ?」

 

「ありがとう...ございます」

 

 

そうやって、私の短い今までの人生...その半分を語る

 

 

「昔っからアイドルになりたくて...だから中学入学時からアイドル養成所に通い詰めてたんです。」

 

 

「いっぱい練習して!頑張って!自分でも上達してると思ってる技術の集大成を色んなオーディションで発揮したと思います。」

 

 

「けど、ダメだったんです」

 

 

「きっと頑張りが足りないんだって思って、もっとレッスンを頑張りました!頑張って、頑張って!」

 

 

「もしかしたら私でも受かるかもしれない、もしかしたらキラキラ光る素敵なステージの上に立てるのかもしれないって!」

 

 

「そう思ってついこの前まで頑張りました、一緒に頑張ってた皆は辞めちゃったり、先にアイドルになったりして1人になってたけど、寂しかったけど!」

 

 

「私は普通だから、頑張ることしか出来なかったからいっぱい頑張って」

 

 

「そしたら見つけてもらったんです、あのプロデューサーさんに」

 

 

「その時、とっても嬉しかったんです。私を見てくれる人が居たんだって、ひとりぼっちじゃなかったんだって」

 

 

「だから...その...あの、ミクちゃん!」

 

 

「ひとりぼっちは苦しいんです!多分きっと1番辛い事なんです!だからっ!」

 

 

 

「私とっ!一緒にアイドルになってくれませんかっ!」

 

 

 

 

 

言い切りました...胸がすっごくドキドキしてて、この胸の鼓動が耳元で煩く聞こえてるのに、お互いの吐息すら聞こえる静かな仄暗い部屋、不思議な時間。

 

自分でも恥ずかしくなって顔も見れなかったけど、次の言葉が隣から放たれました。

 

「君は...卯月ちゃんは、凄く綺麗だね」

 

「き、綺麗...ですか?」

 

「うん、凄く心が綺麗なんだ。希望の力に満ち溢れてて、誰もが好むような...そう、空に輝く太陽みたいな心、そんな心を持ってると思うよ?」

 

「そうでしょうか...?」

 

「実際、この狭くてくらーい部屋の中なんか輝かんばかりの光で塗りつぶせたし、ね?」

 

そう言うと恥ずかしさがさらに大波となって私を襲ってきました。うぅ...あんなポエムみたいな事を思いつきでいっちゃうなんて...

 

「まぁ...そうだね...そこまで言うならボクも...」

 

「...え?今ボクって...」

 

「あー...言っちゃってたかな?まぁ気にしなくていいよ?こっちのが素だし...とにかく!」

 

ミクちゃんはガバッとベッドから立ち上がり、そのまま組み立て直したばっかりのコタツの天板に飛び乗りました。

 

「なら、そこまで啖呵切ったんなら、ボクにもそのキラキラした世界ってものを見せてよ!」

 

「...それって!」

 

 

「ひとりぼっちが悲しい事なら、ボクと君とで『ふたりぼっち』!2人なら一緒に頑張れるでしょ?アイドルの先輩さん?」

 

 

ニヒヒッと小悪魔みたいに笑顔になって顔を覗き込んでくるミクちゃん。とっても嬉しそうで、幸せそうでーーー

 

 

 

「〜っ!はいっ!一緒に頑張りましょうっ!!」

 

 

 

2人で一緒に頑張って、その輝きをボクに捧げてよ

 

 

 

 

 




非常に難産でツインテールの日に間に合わなかったよ...
次回から武内P視点に戻る...と思う



ちなみに時系列的に今はPR動画撮影前です


・追記
ワイ「ふぅ〜、勉強もしつつ執筆しつつで指疲れたわぁ...さーてっ、なんかランキングで面白い小説探そ...ファッ!?」

という訳で日間ランキング54位に入りました!皆様のお陰です!
これからまだまだお話は長いですが2期終わるまではきちんと投稿します!頑張ります!


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ハジメテノオト 武内P編

執筆中、描きたいことを描きまくってたらいつの間にか3500字前後になってたんで分割します

この話はアニメ4話の内容に繋がるので恐らく3部編成になると思います

追記:はい、無理でした...内容的にほぼユニットごとに章編成することになると思います


『プロデューサーさん!明日っ、初音さんに一人で会いに行ってもいいですかっ!』

 

今日は特別大きなレッスンもなく、ユニット編成が着実と進んでいるとはいえ、まだ第1弾も発表する段階では無かった為に許可を出した。

私自身も再度初音さんにアプローチをかけるつもりではあったが『プロデューサーさんは待っててくださいっ!...私が個人的に話したいだけですから...ワガママですみません』と言われてしまっては動くことも出来ない。

 

自身の割り当てられたオフィスの中、備え付けのPCの前で背を椅子に深く預ける。

時刻はもう夕方近く、あと数時間で退社の時間がやってくるがほぼ確定している第1弾の出演その他諸々の調整が残っている時点で帰るという選択肢はない。

 

ふと耳をすませば、隣接したプロジェクトルームより女性特有の甲高く姦しい話し声が聞こえてくる。まぁ内容こそ聞こえないが、先日の宣材撮影で居なかった最後の15人目について話している事は容易に想像できた。

実際、島村さん渋谷さん本田さんの3人を宣材撮影時に紹介した時、残りのメンバーからもう1人は?としきりに聞かれたのだ。その時はまだ選考中であるとその場を濁したのだが...

 

 

...少し思考し過ぎていた、仕事に対して完全に手が止まっていては彼女達にも立つ瀬が無い。そう思い気合を入れる意味も兼ねて千川さんからの差し入れを飲み干そうと手を伸ばしたその時だった。

先程まで隣から聞こえていた話し声よりも大きな、廊下を靴が叩く音が聞こえてきた。美城の事務所はきちんと整備されており、決してドアが薄いといった欠陥は無いはずであるため、走っている本人が相当焦っているという事が考えついた。

 

 

「すみませんっ!島村卯月です!プロデューサーさんはまだいらっしゃいますかっ!!」

 

 

パタパタとなっていた駆け足の音は私の居るプロデューサーオフィスの前で止まり、焦ったようなノック4回と聞きなれたある少女の声がその向こうから聞こえてきた。彼女だ。

 

「はい、島村さんですね。どうぞ。」

 

先日には彼女ーーー初音未来さんと個人的に話してくると私に断りを入れて会いに行った島村さん。

そのため今日は彼女と付きっきりで、それこそ渋谷さんの時と同じように話している筈だった。それが夕方近くとはいえこの時間、休日故に家に帰る事も出来るのにわざわざ事務所まで、先程まで走っていた様子でこのオフィスを焦って尋ねてくる。何かしらの問題があったのだろう。

 

「はぁはぁ...よ、よかった〜っ!間に合いましたよミクちゃんっ!」

 

彼女の声にやけに耳に残る単語が紡がれていた。ミクちゃん...つまり初音未来さんのことだろう。と、言うことはつまり。

 

「お、お邪魔しまぁ〜す...」

 

おずおずと、扉の隙間から特徴的な浅葱色のツインテールのひと房が姿を見せる。

最初見た、一流のAクラス男性アイドル顔負けのクール系に纏まった着こなし...具体的に言うならばシンプルな白いワンポイントTシャツにジャケットとジーンズ、そしてサングラスを合わせた如何にもバスカー然とした服装、それを完璧に着こなした少女が怯えた様子で猫のように部屋へ身を滑り込ませるのは何だか滑稽に見えた。

 

「初音さん...でしたか」

 

「あー、はい...その、昨日はすみません」

 

「いえ、気にしないでください。」

 

バツの悪そうな彼女は入ってくるなり頭を下げた。彼女も言った通り、先日の話をぶった切った事を失礼な態度だったと考えてまず謝罪を行ったのだろう。しかし私としても断られるのは初めてではないし、それほど気にしているものでは無い。最もそれを口に出すほど野暮でもないが...

 

「所で今回はどう言ったご要件で...?」

 

「そうでしたっ!プロデューサーさん、まだプロジェクトの空席残ってますか?」

 

部屋に入る前に打ち合わせでもしていたのだろうか?突然の謝罪にも動揺せずに脇に寄っていた島村さんが声を上げる。プロジェクトの空席と言えば最後の15人目の事であることは明確だ。それならーーー

 

「それならまだ空いています。元より初音さん以外の人物を今からスカウトするつもりはありませんでしたから。」

 

これ以上始動が遅れると現実的にプロジェクトその物が立ち消えになる可能性もあったが、それでもこのプロジェクトに噛ませたかったが故に昨日今日と交渉して数日の猶予を貰っていた。その成果故に未だ席は空いていたし、受け入れに関しては何も問題はなかった。しかし

 

「しかし、初音さんは宜しいのですか?」

 

「...?宜しいって何が?」

 

「いえ、初音さんは現状に対して強いプライドを抱いていたように感じていたので」

 

実際、拒絶された昨日時点では己のスタンスに対して絶対の自信とそれを守ることに誇りすら感じている様だった。しかし今は打って変わって先日の事を水に流して、アイドルになりたいと今ここに立っている。何故か。

 

これがもし映画やドラマなら、卯月さんの言葉にこの数時間で感銘を受けて己の主張を曲げた...などと解釈できるだろうが、ここは現実だ。故に理由が不思議なのだ。

 

「うーん、卯月ちゃんに情熱的に誘われてね?それならちょっとだけ、条件があるけどそれで大丈夫ならやってみよっかなって思って...それじゃダメかな?」

 

少しだけ思考する。彼女の目を見つめ返すと、深い黒と髪と同じく鮮やかな虹彩が瞳を彩る。普段なら私がこうやって見つめると大体は目を逸らされるのだが、それでも彼女は儚げな、それでいて強さを感じる矛盾した笑顔を浮かべながらこちらを見ていた。それだけだった。

 

「...いえ、問題ありません。では『条件』と言うのは何の事でしょうか?」

 

彼女に対して深く考察する事を一旦打ち切り、現実的な話へとシフトする。

条件と言うのは彼女の曲げられなかった部分の事だろう。大体は予想がつくが、詳しくは聞いてみないことには分からないし、実現出来るかも不安ではある。しかし私としては出来る限り叶えたいとは思っていた。それが彼女の良さなのだから。

 

「取り敢えず...一部だけ持ってきたんだけどね?私がソロで歌う時は私自身の作詞作曲『だけ』歌わせて欲しいんだ」

 

古今東西、自身の曲ないしグループの曲を作詞作曲するアーティストと言うのは確かに存在し、一定数確保されている。然しながら、美城のアイドル部門内では、出来てから数年と短いながらもその両者を行うアイドルは存在したことが無かったと記憶している。

 

理由としては作詞作曲の両方の才能を持つ物が居なかったと言うのもあるが、その両者を鍛える前にVocalやDance、Visualを鍛えるのが第1である事。そして美城グループ内には作詞はアイドルにある程度任せているとはいえ、きちんとした作曲部門が設立されていると言ったある種の利権問題的な面を持ち合わせていたからだ。

 

「ありがとうございます。...すぐには答えが出せませんが、部門間の問題もありますので検討して結論を出させていただきます」

 

然しながら、今目の前の少女が作詞所か作曲の才能をも高い次元で持ち合わせて居ることは明らかである。それはたった今受け取った数曲の楽譜及び歌詞からも感じ取る事が出来る。

 

1人だけでここ迄の完成度の曲を書き出し、しかもパッションのみではなくクール系やキュートな曲など書き分ける事が出来るなど作曲家としても生きて行けるほどの力を持つ少女、初音未来。

 

この楽譜と共に彼女の別の曲を作曲部門に提出すれば容易に要望が通るであろう事を頭のどこかで感じてはいた。しかし確定はしていない、結論が出るまでは伝えない方が良いだろう。

 

「...えっと、大丈夫ですか?割と無茶苦茶を言ってるつもりだけど...」

 

返答に不安な点があったのか、彼女はその感情通りの声音と表情でこちらに問い訪ねる。確かに前代未聞の条件であるし、基本的にアイドルと言っても職業であり雇われる側だ。その雇われる側が雇用主に条件を突き付けるのは...と考えても仕方無い。

 

「はい、初音さんの作詞及び作曲センスはアイドル業界内でも屈指のアピールポイントになると考えています。ですので変更点はありません。」

 

事実を言ったつもりである。彼女の提案は願ったり叶ったりであるが故に変更点は文字通り存在しない。

少なくとも今の時点では私はそう考えていた。

 

 

「......ふぅ、ありがとうございます。それが大丈夫なら...改めて、そのスカウトをお受けしても良いですか?」

 

 

「是非、よろしくお願いします。」

 

 

 




実は書きたい事の1/5程度しかかけてないという謎
下手したらメンバー事に3000字消費する可能性もある、指がもれなく逝く。


執筆中、ランキングが最大16位まで行ってたのは確認しました
この拙作がそこまで評価されるとは正直夢のような思いでもあります。皆様の評価を一身に受けて、ここで満足せずにより良く楽しめるSSを目指して頑張ります!


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ハジメテノオト にゅ〜じぇね編

アニメ4話編から

前書きに書きますが、現在最終的な着地点及びそこに至るまでの道筋...プロットですね、それを改変しました
よって矛盾が出る部分や構成変更で時間を取られていたのが近況です

また、1ヶ月以内にこの話より前の部分で改変、また題名も変わりますのでご注意ください


「...ふぅ、緊張したぁ〜!」

 

美城プロダクションの30階、その一室であるプロデューサーオフィスの重厚な扉を閉めたと同時にミクちゃんがググッと伸びをしました。

 

数時間前、ふたりぼっちの約束をした私達は『そう言えばプロジェクトに参加する意思表明しても、あのプロデューサーさんに許可取らないと意味ないんじゃ...?』っていうミクちゃんの独り言から気が付き、焦って電車に飛び乗って美城プロダクションまで蜻蛉返りしたんです。

 

その後プロダクションの敷地に入った後も、別の部署のプロデューサーさんにミクちゃんが声をかけられたり、ふらふら〜っとミクちゃんが何処かに行きそうになったりを引き止めつつ、何とかプロデューサーさんのオフィスまで辿り着きました。

 

「ホント疲れたね〜...ずっと走りっぱなしの後はずっと話し合いだったもんね」

 

「ですね...私、レッスンの時くらい疲れたかも知れません...」

 

部屋にプロデューサーさんがまだ居たのは良かったんですけど、ミクちゃんはいきなり謝罪をし始めたし、私が居ていいのかな?ってくらい綿密な打ち合わせ?をしてましたし...なんというか疎外感が凄くって、ホント疲れたかも知れません...

 

「取り敢えず卯月ちゃん、これからどうする?プロデューサーさんには今日の所は自由にしてくださって結構です〜って言われたけど...」

 

「そうですね...」

 

あの後は諸々の手続き(ミクちゃんの寮に入るにあたっての手続き申請の相談とか)をした後、今日の所は準備時間がそれほど無い為、明日ないし明後日以降に宣材の撮影などが組み込まれる事となったのだ。

そうなると今から1〜2時間は時間が余った事になるんだけど...そうだ!

 

「そうだっ!いい事思いつきましたっ!」

 

「ん?何思いついたの〜?」

 

「まだプロジェクトルームの中に何人か残ってるかもしれません、なのでミクちゃんの顔合わせ兼プロダクション内の案内とかどうですか?」

 

考えを巡らせていると、ふと同じ舞台に立った未央ちゃんの溌剌さが脳裏を過りました。こんな時ならこういった提案をして、あの時みたいに引っ張ってくれそうです!

 

「いいねそれ!私からしたらみーんな先輩に当たるもんね...当然!挨拶しに行こー!」

 

「おー!」

 

と、廊下で盛り上がっているとすぐ隣の扉がガチャリと開かれました。そこはシンデレラプロジェクトの専用ルームであり、出てきたのは色々と因縁もある仲良しな凛ちゃんでした。

 

「今、卯月の声が聞こえた気がしたんだけど...あれ?」

 

顔だけ覗かせてキョロキョロしていましたが、私達を視界に入れると不思議そうに固まります。...?何か変だったでしょうか?

 

「卯月...だよね?今日は来ないって聞いてたんだけど...あと、隣の人は誰?」

 

「そうでした...ちょっと用事があったんですけど、それも終わったので事務所に帰ってきたんです。そしてこっちの人はーーー

 

「こんにちはっ!初音ミク、16歳です!これよりシンデレラプロジェクトに合流する事となりました!ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします先輩っ!」

 

紹介...しようとした瞬間に、既にミクちゃんは凛ちゃんへと飛びつかんばかりに接近してその手を取ってブンブンと振ってました。...なんというか未央ちゃんを思い出す感じでパワフルで凄いです...

 

「あっ、えっと...渋谷凛 15歳の高校1年、これからよろしく。」

 

凛ちゃんも少したじろいだみたいですが、冷静に持ち前のクールさでミクちゃんに対応しました。

 

「リンちゃん...ですね?よろしくお願いします!」

 

けどミクちゃんもそれに合わせるように名前を復唱して何時もの煌めく笑顔で答えました。さっきのには耐えたけど、思わず凛ちゃんが顔を染めてたじろぎました...分かります、ミクちゃんのグイグイくる笑顔って何だかすっごく素敵ですもん!

 

「...で、なんだっけ?最後のメンバーになるんだっけ?この後予定あるんじゃないの?...宣材撮影とか」

 

「いやぁ、それがまだ準備が出来てないらしくって...明日か明後日になるってプロデューサーさんに言われたんだよねぇ〜」

 

ミクちゃんは少しおどける様に笑いながら事情を説明してます。って忘れかけてたけどプロジェクトルームから凛ちゃんが出てきたのなら未央ちゃんも居るのかな...?

 

「えっと、凛ちゃん?そう言えば未央ちゃんも中に居るの?」

 

「あぁ、うん。これから帰ろうかって話してたとこ...他のみんなはもう帰ったから」

 

「そうですかー...」

 

となるとミクちゃんの顔見せは明日になっちゃいそうですね...

けど横を見るとミクちゃんは全然気にした様子はなくって、むしろポジティブな雰囲気で凛ちゃんに話しかけて

 

「むしろ好都合ですね!一人一人丁寧に挨拶したいなぁ〜って思ってましたし...それにリンちゃん!私の事はミクって呼び捨てでいいですよ?」

 

「あ、そうなんだ...思ったけどミク呼びになるともう1人居るんだよね、」

 

「...あっ、みくちゃん!」

 

「まぁあっちはネコキャラだから全然違うけど...」

 

「えっ、名前がミクの人もう1人居るんですか?」

 

確かにそうだった、前川みくちゃんが同じ名前がみくだったんだ...どうしよ、ミクちゃん呼びだと被っちゃうし、今更初音ちゃんって言うのもなんというか違う感じがするし...うぅ...

 

「どうしましょう凛ちゃん!みくちゃんが2人になっちゃいます!」

 

「いやどうしようって...どうしようも無いじゃん」

 

「でもでも!このままだと呼び方被っちゃいますっ!」

 

「私は気にしないし大丈夫だと思うけどなぁ?」

 

「それがあっちのみくちゃんは気にしそうなんですよぉ!」

 

実際に恐らくキャラ被りなどを気にして噛み付いてきそうです...はぁ、今からお腹痛い...ミクちゃんの方は普段呑気な感じだから変に逆撫でしそうだし...

 

「まぁまぁ、今から気にしたって仕方ないよ!まぁ後でその猫キャラらしいみくちゃんにぴったりなプレゼントを見繕って持ってくるから大丈夫大丈夫!」

 

「なら大丈夫...なのかなぁ?」

 

 

○○○

 

 

一通り話し終わった私達はそのままの足でプロジェクトルームに入りました。

部屋の中ではなかなか帰ってこない凛ちゃんを不思議に思ったのか、未央ちゃんが今しがたソファーから立ち上がって扉に向かおうとしていた所でした。

 

「あれっ?しまむーじゃん。今日居ないって聞いてたんだけ...ど...」

 

「ちょっと用事で外に出かけてたんです。けど、それが終わったのでーーー「しまむー!!もしかして後ろの人って最後のメンバー!?」

 

説明しようとした瞬間、私の言葉に被せるように未央ちゃんが反応してソファーから飛び出してきました!!

 

「おおぅパワフル...初めまして!初音ミク16歳ですっ!」

 

「へー!一個上なんだ!もうちょっと上だと思ってた...あっ、本田未央 15歳の高校1年生!これからよろしくね!」

 

「よろしくお願いします!先輩っ!」

 

飛び出した未央ちゃんはそのまま私の隣に立ってたミクちゃんの目の前にスタッと立つと、お互いに自己紹介を...未央ちゃん?

 

「えっと...どうしたの未央ちゃん?そんなに震えて...」

 

「しまむー!しぶりん!先輩って言われたよっ!!先輩って!」

 

「まぁ私達より後の参加になるから一応先輩後輩にはなる...のかな?普通でしょ?」

 

「しぶりん甘いっ!と言うよりトキメキ来ないの?!先輩だよ先輩!」

 

「まぁ私達が前まで1番最後にメンバーになった組でしたから、未央ちゃんのその気持ちが分からない訳でもないんですけど...」

 

実際、この3人はミクちゃんが入るまではシンデレラプロジェクトで1番遅く加入した組でしたし、未央ちゃんがそう言う関係とかにちょっと憧れるのもわかると言えば分かります...

 

「ふふっ、その程度なら何度でも言えますよっ!せーんぱいっ☆ミ」

 

「ふぐっ!...しまむー、後はたの...んだ...」

 

「えっ、ちょっ...未央ちゃぁぁぁん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ茶番は置いといて...よろしくねミックー!」

 

「改めて私からも...これからよろしく」

 

「ん、よろしくね〜...ってミックー?」

 

扉前でわちゃわちゃしてましたが、もう時間もいい感じだったので4人で一緒に帰ることにしました。

ほんと未央ちゃんがそのまま後ろに倒れそうになった時にはビックリしました...

 

「うんっ!良いあだ名でしょ?」

 

「へぇ〜、そんな渾名初めてつけて貰ったなぁ...そうなると未央ちゃんはちゃんみお...とか?」

 

「ちゃんみお...!ふーむ...ミックーなかなかやりますなぁ!」

 

 

それにしても...

 

 

「凛ちゃん...あの二人すごい意気投合してますよね...」

 

「まぁ見た感じ似た者同士...って感じだし」

 

そうなんですよね、ミクちゃんと未央ちゃんがさっきから凄い意気投合してて会話が1度も止まってないんです。

 

「ねぇ!ここは親睦を深める意味も込めて皆で食事会へと洒落込みませんか?ちゃんみお先〜輩?」

 

「おっ、いいねぇ!ファミレスとか?確かバーガーMも近くにあったよね?」

 

 

 

「卯月、止めなくていいの?」

 

「私ももうちょっとお喋りしたかったですし!」

 

「そ、そうなんだ...」

 

そんな会話をしつつ私達は事務所を出てすぐの所にあるバーガーMへと入ったんです。

そして皆で適当にポテトやドリンクを買った後、徐に珍しく凛ちゃんが話を切り出しました。

 

「そう言えば、さ...ミクは何処でプロデューサーと知り合ったの?」

 

「あぁ、えっとね...2、3日前くらい...かな?お小遣い稼ぎでバスカーしてた時にあの人が通りがかったんだよね〜...その時ちょうど雨が降り始めてね、あの人傘もってなかったみたいで私の準備してた店の軒下に雨宿りすることになったんだ〜」

 

「ふぅん...そうなんだ」

 

これは私も初めて聞きました。最初プロデューサーさんに着いて行った時もミクちゃんとどう出会ったかは聞きませんでしたから...それにしても凄くロマンチックな出会いです!

 

「...聞いた割には反応がビミョーですね」

 

「いや、まぁ...ちょっと知りたかっただけだからそんなジト目で見ないでよ」

 

「...ナルホド〜」

 

凛ちゃんと話してたミクちゃんですが、何故か表情がニマッとした笑顔...?になって私と未央ちゃんに近く寄るように手招きしました...なんでしょう?

 

「えっと、なんでしょう?」

 

「はいはいはい、もしかしてしぶりん関係の面白い話かな?」

 

「まぁそうかな...?もしかしてリンちゃんって...プロデューサーさんのこと好きなの?」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

 

 

○○○

 

 

 

目の前の少女は酷く慌てた様子で向かいの少女に詰め寄った。

 

「りりり、凛ちゃん!だっ、ダメですよそんな!」

 

「えっ、何?なんの事?」

 

初めてあった時から思ってはいたが、この少女は些か幼い...言うなれば年齢不相応の純粋な精神の持ち主だと感じていた。

簡単に言うならば、高校二年生に当たるこの年齢でこの性格を持つ女子はもはや絶滅危惧種と同等であるとも言える。しかし同時にそれが彼女の魅力たりえることも理解していた。

 

「ふむふむ...確かに、意外と見えない所てアピールしてたような...」

 

「だから何が?アピールって何のこと?」

 

同時にボクからして向かいの少女は元気溌剌と言った風の女子高生然とした少女であった。出会ってからまだ数時間と経っては居ないが、恐らく彼女は学校生活においても優位な立ち回り---上位カーストに属する部類である事が容易に理解できる。

 

「もう...何の事か分からないけど、ミクが変な事言ったんでしょ?」

 

また、対角線から話しかけた少女はそれらと打って変わって非常に落ち着いた少女であると言える。ただし大人びている訳ではなく、ただ何も知らない無知が故の静けさ、無垢さを持っているように感じた。しかし、まだそれ程会話をしていない故にそれ以上は分からない。

 

「んふふ〜、そんな事ないですよっ?」

 

「嘘、絶対言ったんでしょ」

 

「言ってないですよ?ね、卯月ちゃん?」

 

「ふぇっ!?、こ、ここで私ですかっ!?」

 

適度に会話を降ってあげると可愛らしい少女は非常に良く反応を返してくれる。実際自身の目的すら忘れそうになるほど構い倒したくなるが、それを行ったところで意味は無い。

 

楽しい...とは思う。しかしそれを享受し続ける怠惰な人形になるつもりは無い。最早ボクには『そんな鎖に囚われている暇は無い』のだ。

 

外を見る。

人が多く歩き、私の心模様に反比例するかの如く輝く太陽が真っ赤に燃える。

いや、私ではない...ボクだ。

 

ガラスに映る端正な顔を眺める。

 

「ーーーーってミクちゃん?...どうかしましたか?」

 

「ん?なんでもないよ?夕日も落ちてきて良い時間だなぁって」

 

「あっ、ホントですねっ!じゃあまた明日...ですか?」

 

「えぇ〜、もう解散するのー?!もっと話したかったなぁ」

 

「そろそろ帰らないと未央の家族も心配するでしょ」

 

「まぁそうだけどさー...」

 

姦しい声と先程の硝子に映る少女の姿が脳裏に反響する。

 

ボクの中、私の識っている通りの3人の少女達

 

そして混ざる...

 

 

 

お前は誰だ?

 

 

 

...ハジメマシテ、マスター

 

 

 

ボクは『初音ミク』だよ

 

 

 

 

 




難産

追記
ちょっと指を痛めてしまったので次回の更新は時間がかかると思います。
あとりあむちゃんすこなんだ...


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腐れ外道とチョコレゐト

シンデレラ(Cinderella)

①《灰かぶり娘の意》
欧州の昔話の主人公。継母と義姉妹に虐待される少女が、仙女或いは魔女の助けで舞踏会に出かけ、ガラスの靴が縁で王子と結ばれる。グリムやペローの童話が有名。サンドリヨン。

②突然の幸運に恵まれた人のたとえ。シンデレラボーイ。

(コトバンク デジタル大辞泉より)


『心焉に在らざれば視れども見えず』

 

 

 

時刻は既に正午を過ぎ、事務所内の食堂で軽く腹を満たした後に午後の仕事に取り組む。

今日は朝からシンデレラプロジェクトの最後のメンバーである初音さんのボーカルとダンスレッスンが行われており、その後に宣材写真を撮影する予定となっていた。

 

私個人としてはそのレッスンの様子...と言うよりは初音さんの『現在の』実力がプロ目線でどの様な評価が下されるのかが少し気になり、また先日の時点ではあまり彼女と深く会話を出来なかった為に見学を行いたかった。

然しながら、今日の午前中に島村さんらに降って湧いた貴重な経験である城ヶ崎美嘉さんのソロライブのバックダンサーへの抜擢、それに向けたレッスンの都合等の時間調整があったが為にそれは実行出来なかったのだ。

 

 

「やぁ武内君、もう仕事に戻ってたのか...早いね」

 

「今西部長!すみません今お茶を...」

 

「いやいや、いいよ。自分で淹れるからそのまま仕事に取り組んでくれ」

 

 

ガチャリと音を立ててプロデューサールームの扉が開かれ、シンデレラプロジェクト以前からの上司である今西部長が何かの資料を携えて現れる。

普段から彼はニコニコと人の良さそうな笑顔を絶やさずにアイドル達や私にもアドバイスを行ってくれるのだが、今日に限って言えばその表情は少しばかり芳しくなさそうにも見えた。

 

 

「どうかされましたか?些か気分が良くなさそうに見えますが...」

 

「あぁ、いや...ちょっとね」

 

 

彼には言い難い事があったのか、緩慢な動作で備え付けの緑茶のティーバッグを湯呑みに入れてお湯を注ぎながらモゴモゴと口を動かした。

 

 

「武内君、その...シンデレラプロジェクトは順調かい?」

 

「...えぇ、特に今の所は今朝の件以外には問題は起きてません。メンバーの皆さんもトレーナーの指示の元、目標通りの練習をこなせていると連絡が来ています。」

 

 

少し様子がおかしい。今の部長はまるで幽霊か何かを見たか、或いは既存の価値観が打ち壊されたかのような心ここに在らずと言わんばかりな雰囲気を身に纏っているのだ。

今朝の件...島村さん達がバックダンサーに抜擢された件に関しても、彼女達が失敗したリスク云々について既に議論をし終え、それでも彼女らは成功すると自信を持ってお互いに納得がついていただけに今更それを蒸し返す今の姿は普段とは掛け離れていると言えた。

 

 

「今西部長、失礼を承知で申し上げますが些か体調が宜しくないのでは?持ち合わせの物でよければ幾つか市販薬がありますが...」

 

「いやいや、体調が悪い訳ではないんだ。ただ自分の中でも整理がついてない事があるだけでね...」

 

 

彼はそう言うとゆっくりと応接用のソファーに深く腰を掛け、目頭を軽く揉みつつ天を仰いだ。

整理がついてない...となると今の時期で言えばまさにシンデレラプロジェクト関係以外には有り得ない。だがそうなると一体なんの問題が発生したのだろうか?私にはまだその資料が送られていない以上、今日...いや、この数時間以内で起きた事なのだろう。

 

一旦スケジュールを纏める手を止めて、今西部長の向かい側のソファーに腰掛ける。すると彼は1口だけ熱い茶を口に含んで口を濡らし、言葉を続け始めた。

 

 

「...今朝の件の後まだ時間があったんでね、トレーニングルームに寄ってみたんだ。武内君が肝入りで推してた最後のメンバーを見たくてね」

 

「あぁ、初音さんの事ですか。もしかして何か問題が?」

 

そうなると自分自身も動かねばならない。まだ此方には連絡が届いて居ない上、今の所欠点らしい欠点が見えてない初音さんが起こした問題ならばそれ相応の重大な問題であることが伺えるからだ。

 

 

「あぁいや、広義の意味で問題がある訳じゃ無くてね...ただ単純に僕には受け入れられない『現実』をそこに見ただけなんだ」

 

「現実...ですか?」

 

「うん、もう現状把握の為のレッスンは終わっているんだけどね...これがその結果さ」

 

 

そう言うと、懐に抱えていた紙の束から1枚の資料をローテーブルの上に取り出した。

よく見てみればレッスンを行っていた初音さんの個人情報及びに、プロトレーナーさんが確認した彼女の能力を分かりやすくランク分けしたプリントだ。

そこに書かれていた文字は『規格外』を表すSの文字。確かに346プロダクション内部ではSランクアイドルとして所属する彼女達もそれらに振り分けられるVoiceやVisual、DanceのSの文字が評価表に乗せられている事がある。

然しながら、私自身も彼女がここまで完成しているとは思って無かったが『全てにおいてオールS』と言った評価は恐らくこのアイドル業界の歴史上で1人しか当てはまらないであろう文字通りの規格外を表していると言えた。

 

 

「劇物だよ、彼女は。『彼女は既に完成されている、自分の魅せ方も惹き付ける声の出し方も全て理解して既存のアイドルを超えているんだ。最早私達トレーナーが彼女に出来る仕事なんて小指の爪の先程も残っていない』...この紙を貰った時にボヤいていたよ。こんな人間を見るのは初めてだ、なんてね。」

 

「ですが彼女は...」

 

「あぁ、別に彼女を放流したい訳じゃないよ。彼女の驚異的な才能は貴重だ、けれど彼女が存在する事でこのプロジェクトの『意味』が変わってくる。それを君は理解出来ているかい?」

 

 

理解は出来る。言わば彼女が居ることで他のプロジェクトメンバーはただの『餌』へと成り下がり、1匹の飛龍を残して他は全て枯れ果てる...彼自身はその光景を夢想し、それでもなお会社を...否、このアイドル戦国時代とも称される今この時代において『第2のオーガ』を擁することが出来る、その利益を理解してそれでも良いと呑んでいるのだろう。しかし

 

 

「しかし、彼女に置いてはそういった事は有り得ません。」

 

「...ふむ、君が断言するなんて珍しいね?どうしてだい?」

 

「彼女は...」

 

 

 

 

 

 

『歌うのが、好きなんです』

 

 

『ちょっとだけ、やってみてもいいかなって』

 

 

 

 

 

 

「彼女は、元々アイドルになる気はありませんでした。それは私自身が彼女と話して確認したので間違いありません。」

 

「ですが、その後に島村さんと話した様で...再び顔を合わせた時には彼女が居るなら頑張る、頑張ってみようと言ってくれました。その時の彼女の目は覚悟と信頼で輝いていました。」

 

「なにより...彼女の歌には優しい心が現れていました。彼女はプロジェクトに必要不可欠な最後のピースなんです。間違いありません、彼女ならメンバー全員を纏め、伸ばし、共に高みを目指すことが出来ると確信しています...!」

 

 

...思わず立ち上がり熱弁していたようだ。小っ恥ずかしくなりながら、落ち着いてゆっくりと座り直す。

少し取り乱した姿が意外だったのだろうか?正面に座っていた今西部長は目を点にして此方を見ていたが、やがて両手で顔を覆うと共に喉の奥からクックッと低い笑い声を絞り出していた。

 

 

「あぁ、そうか...そうだったね。君はどうしようもなく人の輝きを信じて、強さを肯定する人間だったね。こんなつまらない事を問い掛けてた私が馬鹿だったよ、謝罪したいくらいだ。」

 

「い、いえ...それには及びません。部長も間違った事を言っている訳ではありませんので...それに私が我儘な事を言っているだけですし」

 

 

何かの琴線に触れたのだろうか?今西部長は普段はここまで開き直った様な人ではなく、むしろ本心を隠してある程度中立的な立場を取るような冷静な人物だったはずだ。

しかし目の前の人物は余程面白かったのか、ニコニコと本来の調子を取り戻したのか此方に笑いかけながら謝らなくていいと述べてきた、そして続けて

 

 

「いやいや...まぁ結論から言うとこの件に関してはもう言う事はないかな?最早口を出す必要は無いし、君の感性に関しては少しばかり興味があるからね」

 

「は、はぁ...」

 

 

 

「さて、随分長く話し込んでしまったね。そろそろ件の初音君の宣材写真を取り始める頃だろう。急ぎの仕事はもう無いんだろう?見に行ってあげるといいさ」

 

 

 




気分が乗ったので久々に投稿です


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