東方交鏡録 (シンP@ナターリア担当)
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1年の変化、姿無き変化~力を持つ者の集う世界~

 

~OUT Side~

 

 この世界……幻想郷の中には、特殊な力『~程度の能力』と呼ばれる力を持った者達がいる。それは妖怪だったり、吸血鬼だったり、妖精だったり、はたまた人間だったりと、ごく一部ではあるが、様々な種に存在している。

 そんな『力を持つ者達』を巻き込み、幻想郷を混乱させ、後一歩でパワーバランスが崩壊しかねない程の事件が起きた。だが、幻想郷に住む者達の結束により、その崩壊は食い止められた。その後、この一大事件は『交換異変』と……呼ばれることは無かった……。

 

 この事件の事を覚えている人物は、たったの3人。一人は幻想郷の統括者の一人、マヨヒガに住む境界を操る大妖怪『八雲 紫』。一人はその協力者として異変の手伝いをした鬼『伊吹 萃香』。そして最後の一人。この一人こそ、その異変を起こした張本人である異世界から来た名も無き妖怪。萃香によって『ミクス』と名付けられた者である。

 事件後、ミクスは紫の協力者として行動することを決め、自身の存在、及びその異変の記憶と痕跡を、紫と萃香以外の幻想郷の全てから消し去った。幻想郷には、今まで通りの日常が戻ったのだった。

 

 そしてその異変から一年が経過した現在。幻想郷の『何も無かった』数日間を皮切りに、定期的に幻想郷に新たな『力を持つ者』が現れ始めた。ある者は記憶を失っていたり、またある者は酷く怯えていたり、はたまたある者は内に狂気を宿していたりと、境遇は様々だが、全てに言えるのは『幻想郷の外から来た』ということだ。

 幻想郷とは本来『忘れられたモノの流れ着く場所』だが、それにしてはあまりにも力を持ちすぎた者達。住人達も不思議ではあったが、それを可能とする力を持つ存在を知っているため、深くは考えなかった。

 

 新たに増えた住人達は、それぞれに居場所を作った。ある者は吸血鬼の屋敷の従者として、ある者は薬師の見習いとして、ある者は人里の一員として、何事もなく。そう、力を持っているのにも関わらず『何事もなく』居場所を作っていった。

 何事もなく始まり、幻想郷での毎日として、何事もなく日々が過ぎていく。それは紛れも無く幸せで、これ以上望む必要も無いほどのモノだった。だが、気をつけなければならない。幸せのすぐ後ろには、それと同じだけの不幸もまた、寄り添っているのだということを……。

 

~Side Out~

 

 

~霊夢 Side~

 

「はぁ……」

 

 おかしい。最近、というかここ1年、新顔が増えすぎてるわ。勿論この近辺に越して来ただけの連中もいるけど、問題はそれ以外のべつの世界から流れ着いたやつらよ!しかもそのほとんどがなんかしら能力を持ってるし、オマケに何か問題を抱えてるなんて。もはや異変と言っても差し支えないレベルだわ。

 

「それもこれも、全部あのスキマが悪いのよ!毎度毎度『また一人送ったからよろしくね~』じゃないわよ!」

「まぁまぁ霊夢、そうカッカすんなよ~。別に悪いことってわけじゃね~だろ?」

「そうですよ。落ち着いてください。我々も迷惑かけないようにお互い気をつけてますから」

「分かってるわよ。あんたたちは概ね悪くないの。一部厄介なのもいるけどね」

「あはは……」

 

 今ここにいるのは私といつもの白黒こと魔理沙。それからもう一人。これも話に上がった新顔の一人で、名前はプール。中性的な顔立ちだけどれっきとした男で、さっきのとおり真面目で人当たりのいい性格をしてる。新顔組の中でも早めに来ただけあって周りに馴染んでいて、何か起きた時も対処を手伝ってくれたりもする。今は魔理沙の家に居候してるらしいけど、本人的には早く一人でなんとかしたいところを、魔理沙が最初に助けた恩を盾にして魔法の研究の手伝いをさせてるとか。

 

「にしても、相変わらず誰もこねぇなぁこの神社は」

「うっさいわね。あんたこそ来たんならお賽銭の一つでも入れていきなさいよ」

「別におまいりに来たわけじゃないんだぜ~。それに、神様なんて碌なもんじゃないって知ってるしな」

「なんて罰当たりなのかしら」

「でも、確かにこの世界には神様もいらっしゃいますからね。ありがたみが薄いというか、なんというか……」

「本人が聞いたら怒るわよ?」

「あわわ!な、内緒にしててくださいよ!?お賽銭もちゃんと入れていきますから!」

「いいわよ~。素直な信者には優しいから」

「あくどい商売だぜ」

 

 人聞きが悪いわね。こっちは善意で人助けをしたってのに。ちなみにプールの能力は『物を引き寄せる程度の能力』。引き寄せられる物の条件は、①重さ100kg以内であること。②直径3立方メートル以内であること。③自分から半径20m以内で、視認できる物であること。④同時に引き寄せられるのは5つの物まで。この4つ。生きてる物でも引き寄せられるから、実験に使いたい虫やら動物なんかを集めるのに使い勝手が良いって魔理沙が自慢してたわ。

 

「さて、プール、これから紅魔館まで行くぞ」

「また何か盗むつもりですか?ダメですよ?」

「あれは盗んでるんじゃなくて死ぬまで借りてるだけって言ってるだろ?それに今日はフランと弾幕ゴッコする約束があるんだよ」

「もう……分かりました。それじゃあ霊夢さん、これで失礼します」

「はいはい。さっさと帰った帰った。これでようやく掃除が出来るわよ」

「どうせ誰もこねーけどな」

「よーし良い度胸ね。フランとやる前に私と弾幕ゴッコをしていくかしら?」

「遠慮しとくんだぜ~。ほら、プール逃げるぞ!」

「えぇ!?ちょ、うわ!?」

 

 そう言いながら魔理沙はプールを箒の後ろに無理やり乗せて飛び去って行った。危うく落ちそうになってたプールもなんとかしがみついて少し飛んだ先で魔理沙を怒ってるみたいね。ざまぁみろだわ。

 にしても、最近は萃香も静かだし、うちには新顔は居付かないから本当に暇ね。異変でも起きてくれたら、解決してまたお賽銭貰うチャンスなのに……。

 

「はぁ……考えてても仕方ないわね。さっさと掃除すましちゃいましょ」

 

~Side Out~

 

 

~魔理沙 Side~

 

「ひゃ~おっかねぇおっかねぇ。霊夢ってばほんと怒りっぽいよな~」

「どう考えてもさっきのは魔理沙さんが悪いんですけどね」

「お?怒りっぽいのは否定しないんだな?」

「そうやって揚げ足取るのやめてくださいよ」

「お前が固すぎるのが悪いんだぜ」

 

 今はプールと二人で優雅な空の旅を満喫中だ。って言ってもものの数分くらいで着くんだけどな。最近は妖精たちも新しい遊び相手を見つけたとかって絡んでくることも減ったし、気楽でいいぜ。

 

「にしてもプール。お前もずいぶんと慣れてきたよな」

「この世界に、ですか?」

「あぁ。私なんて自分が他の世界に行ったらなんて考えられないぜ」

「まぁ、確かにそうですね……でも、向こうの世界よりも、今はこっちの世界の方が好きですよ」

「可愛い子がいっぱいいるもんな~」

「ちょっ!そういうのじゃ無いですから!!」

「そ~んな顔真っ赤にして否定しても説得力ないんだぜ~」

「違いますってば~~!!」

 

 ほ~んとこいつは、こうやってからかうとす~ぐ面白い反応くれるから面白いな。でも、こういう時に普通は肩を揺するとかで無理やり止めようとしたりするもんだけど、こいつはそれも無いからなぁ。こんな顔つきしてるくせに、女に対する免疫が無さすぎるよな。

 

「ま~だ女が苦手なの治ってないのか?」

「いやだから、苦手ってわけじゃないですから」

「なら、無理やりにでも止めたらいいんじゃないか?」

「む、無理やりって……そんな風にすると失礼ですし、何より今の状況でそんなのすると落ちちゃいますからね?」

「ほんっとお前は固すぎるんだぜ」

「固くて結構です。ほら、もう着きますからそろそろスピード落としてくださいよ」

 

 くだらない話をしてる内に紅魔館が見えてくる。いつもなら適当な窓から入るんだけど、今日は約束があって来たから玄関に向かうとしよう。プールからの視線もきついし。

 門の前に下りると、いつもは寝てるはずの門番、美鈴が珍しく、本当に珍しく起きて筋トレをしていた。今日はこっから雨でも降んのか?

 

「499、500…っと。ん?おや、魔理沙さん。それにプールさんも。話はお嬢様から聞いてますので、ちょっと待っててくださいね」

「はい」

「別にフランのとこへの行き方なら覚えてるんだぜ?」

「勝手に入れるなって咲夜さんから言われてるんですよ。もうすぐ来られると思うので」

「もういますよ」

「うわぁっ!?」

「ふふっ、毎度いい反応をありがとうございます」

「お、脅かさないでくださいよ~……」

「な~にやってんだか。それよりほら、さっさと行こうぜ」

「失礼。妹様もお待ちですし、行きましょうか。美鈴、予定してたお客を通し終わったからって、サボって寝たりしないようにね」

「そ、そんなことしませんってば!」

「出てくるときには寝てるのにここの本5冊かける」

「それ魔理沙さん外しても被害ないじゃないですか」

「寝ませんってば!!」

 

 後ろから聞こえる叫び声を無視して、案内にやって来た咲夜に連れられて建物の中を歩くことこれまた数分。地下にあるフランの部屋まで到着した。やっぱり目立ちたがりってのは無駄に家がでかくて面倒なんだぜ。そんな風に考えながら扉を開けると、待ちかねたかのようにフランが飛び込んで来る。

 

「も~!魔理沙遅いよ~!」

「悪い悪い。ちょっと霊夢んとこに寄り道してたら遅くなっちまったんだぜ。でも、その分相手はた~っぷりしてやるから、安心しろよな!」

「わ~い!あ、プール!」

「こんにちは、フランさん、元気そうで安心しました」

「えへへ~フランはいつも元気だよ!ねぇねぇ!今日はプールも相手してくれるの?」

「いや~フランさんの相手できるほどじゃないですから。魔理沙さんの付き添いで来ただけですよ」

「ちぇ~っ、つまんないの~。ま、いいや!ほら魔理沙、隣の部屋いこ!」

「おう!そんじゃプール、よ~く見とけよな!」

「はいはい。あ、咲夜さん、もし良かったら、後でレミリアさんとパチュリーさんにもご挨拶をしたいのですけど、大丈夫ですかね?」

「かしこまりました。お二人にもお伝えしておきますね。多分、彼もゆっくり話したいでしょうし」

「はい、お願いします」

「プール~!まだ~!?」

「もう始めちまうぞ~?」

「はいは~い!すぐ行きますよ!」

 

 ったく、隙あらば誰かと長話してんだからな~あいつ。せっかくまだ弾幕ゴッコに慣れてないあいつのためにお手本を見してやろうと思ってんのによ。ま、フランが相手だったらあんまり参考になんないかもしんねぇけどな。

 

「よし!じゃあ始めるか!」

「うん!今日はどのスペカ使おっかな~」

「二人とも頑張ってくださいね~」

 

~Side Out~

 



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天と地の絆~その答えは誰の心に?~

~さとり Side~

 

「はぁ、最近退屈ねぇ」

「いいじゃないですか。平和は素敵なことですよ」

「そりゃそうだけど、これじゃ上にいる時と何にも変わんないわね」

「それでも定期的に遊びに来るんだものな」

「物好きなやつよねほんと」

「いや、あんた達もお邪魔してる側だからね?」

「固いこと言うなよ~。アタシたちの仲だろ?」

 

 今日も地底は賑やかですね。今は地霊殿の応接間に集まり、皆で団欒中です。いるのは私とお燐、この1年で仲良くなった天子さんに、彼女が来たのを聞きつけて来た勇儀とパルスィ、そしてもう一人。3ヶ月前に異世界から来て、今はうちで一緒に過ごしている……

 

「そうそう。それとも、お燐は嫌だったりするわけ?」

「あっ!ちょ、それずるい!」

「な~んだ。やっぱり嫌じゃないんじゃんか~。むしろ嬉しいくらいなんて、ツンデレなんだから~」

「お~?なんだなんだ~?来て欲しいなら言ってくれたらいいのによ。なぁ?」

「ほんと、あんたのその能力も酷いわよね……」

「褒め言葉と思っとくぜ~」

「ふふ、アンスさん、あんまりお燐をからかったら、後が怖いですよ?」

「おっと、気をつけますよ~」

 

 彼の名前はアンスさん。少しお調子者な性格で、どことなく遊び人なイメージのある男性です。彼も特殊な能力を持っており、この世界の言い方で言えば『答えを知る程度の能力』だそうです。内容としてはさっきの通り、誰かに何かを問いかけると、その答えが分かるという能力。私の悟り妖怪としての能力と少し似ているので、ここに来てもらったというわけです。

 

「私が言うのもなんだけど、あんたもここに馴染んできたもんね」

「そりゃあ3ヶ月も住んでるんだもの。それに、ここだとこういう能力もそこまで珍しくないから、何か言われたりもしないしな」

「そうですね。どちらかと言えば、私の能力の方が他人からすれば嫌な分類でしょうし」

「あんたはまたそうやって……」

「あら、そんな能力なのに仲良くしてくれる人がいて嬉しいって言いたいんですよ?」

「なっ!?」

「ハハッ!こりゃあ一本取られたなぁ天子!」

「ほんと、あんたらのその仲の良さ、妬ましいわね」

 

 ……アンスさんのせいで、ちょっと私もイジワルになってしまったのかもしれませんね?アンスさんの能力の詳細としては、いくつか条件があります。①質問を口に出す必要があること。②相手がその質問を聞き取り、意味を理解する必要があること。③複数人に質問する場合、はいかいいえで答えられる質問しか意味を成さないこと。④答えは「相手の声」で脳内に直接解答されるので、一度でも声を聞いたことが無いと解答が聞こえないこと。⑤相手が記憶していないことは分からない。(認識できないことへの解答は出来ない)この5つです。ただ、1日に3回だけ、本気で能力を使用すると、これ以上のことが出来るんだとか。まだそんなに使ってないようですけど。

 

「まぁでも、天子が言うように暇なのも事実なんだよな。ここだと客も全然来ないし」

「まぁ、地の底、地獄の入り口のような場所ですからね」

「よっぽどの物好き以外来やしないよ」

「で、その一人がこいつってわけね」

「パルスィ、あんたケンカ売ってるわけ?」

「お?ケンカならアタシも混ぜろよな!」

「まーた始まったよ。いいんですか?さとりさん」

「答え、聞こえました?」

「へいへい。こういうのは俺の仕事ですもんね~。はいはいお三方ストップストップ。ドンパチならお外でお願いしますよ~」

「誰がこんなやつとやりあうもんですか!」

「一回くらい良いじゃねぇかよ~。減るもんじゃなし」

「「減るわよ!」」

「わーお仲良し」

 

 心を読む系統の能力を自分も持ってるだけあって、お互いにある程度言わなくても察して動けるのは楽でいいですね。アンスさんも、渋々みたいな言い方でしたけど、最初から分かってらっしゃいましたし。おちゃらけた雰囲気のせいで軽い人に見えるけど、根は凄くしっかりした人なんですよね。お酒が入るとちょっとあれな所が出ちゃうみたいですけど……。

 

「そうだ。せっかくですから、暇だと言うお二人に、少しお使いをおねがいしてもいいですか?」

「いやいや、アンスは分かるけど、私客なんだけど?」

「人の家に来て暇だ暇だと言われるの、あんまり嬉しくありませんよ?」

「同感だね。ちょうどいい暇つぶしじゃないか」

「うっ……仕方ないわね。いいわよ」

「で、お使いって言うとどこに行けばいいんですかね?」

「……」

「永遠亭にお薬のストックを貰いに、ですね」

「ほんと便利なもんよね。私の能力と交換しない?」

「そんな便利な能力、あるんですか?」

「無いに決まってんでしょ。ほら、ボサッとしてないで行くわよ」

「自分から言い出しといて~。そんじゃさとりさん、ちょっと行ってきますね」

「はい。お願いしますね」

「じゃ、アタシらもそろそろお暇するか」

「そうね。ここにいたら仲良しグループに当てられて妬ましいったらないもの」

「その仲良しグループの一人に入ってるって……」

「その質問をしたら妬み殺すわよ!」

「ひゃー怖い。それが答えだって教えてくれたから質問する手間が省けたんで、さっさと行きますね~」

「……殺すーー!!!」

「アッハハハハ!ほんと、あいつがいると飽きないなぁ!」

「こんな騒がしい毎日も、良いものですね」

「だな。少し前じゃあ考えられないくらいだ。世の中ってのは、何があるか分かったもんじゃないな」

「そうですね……」

 

 そう、少し前……天子さんと仲良くなり始めた頃、ちょうど1年前くらいから、何かが変わり始めた気がする。天子さんと仲良くなったのも、宴会の時がきっかけで、何もおかしなことなんて無い。それなのに、何故かどうしても、違和感のようなものを感じてしまう……。その頃から気になることと言えば、萃香さんの心の中に、何かもやのようなものがかかって、一部心を読めない部分があること……。もしかしたら、何か関係があるのかもしれないけど……。

 

「さとり様?」

「ごめんなさい、少し考え事をしてただけよ。さぁ、仕事に戻りましょう」

「じゃ、アタシもあいつらに追いつかないとな!じゃあな二人とも!」

「はい。またいつでも来てくださいね」

「今度はなんかお土産の一つでもよろしく頼むよ~」

「おーう!任しとけ!」

 

 少し、変に考えすぎたかもしれませんね。家族に心配をかけるなんて、私もまだまだです。さぁ、今日も仕事が山積みですし、順番に終わらせていきませんとね。

 

「あの二人、大丈夫ですかね?」

「大丈夫ですよ。私の信頼してる二人なんですから」

 

~Side Out~

 

 

~アンス Side~

 

「っひゃ~怖い怖い。ほんとに橋の近くまで追いかけて来るんだもんな」

「どう考えたってあんたが悪いでしょ」

「そうか~?今回のは自爆だと思うんだけどなぁ」

「そうなるように誘導しといてよく言うわよ」

「でも最終的に自爆したのは向こうだもんな~」

「はいはい。その通りね~」

「うっわ、雑な返事。俺泣いちゃいそう」

「うっさいわね。いいからさっさと行くわよ」

 

 パルスィに追われること数分、しまいには弾幕まで撃たれながらもなんとか逃げて、今は天子と二人で地上に出て永遠亭に行くために竹林を目指している。んだけど、こうやって話を振ってもすーぐぶった切られちゃう。悲しいったらないぜ。まぁ半分はこっちが原因なのは分かってるんだけども。そんなこんなで天子特製要石でふわふわ旅することこれまた数分、竹林が見えてきた。

 

「いや~相変わらずうっそうとしてるな~。絶対方向わかんなくなる自信があるわ」

「同感ね。まぁ、最悪の場合大地を操って無理やり道を敷いてもいいんだけど」

「勝手にやっちゃうと怒られるかもしれないしな」

「いえ、私の労力を他のやつがただで利用するのが気に食わない」

「あぁそういう」

「当然よ。まぁ最後に元に戻せば大丈夫かしら?」

「んなことしなくたってちゃんと案内してやっから止めろっての」

「あら、不死人じゃない。助かるわ」

「おっす妹紅。頼んだ~」

「人に物を頼む態度かよそれが」

「「オネガイシマース」」

「言った私が悪かったよ」

 

 入り口で漫才をしながら待ってると、竹林の案内人こと妹紅が来てくれた。というかよく見ると端の方に掘っ立て小屋みたいなのが見えるから、あそこで入る人の確認と案内なんかをしてるんだろう。普段から特にやること無いなら、往復の案内と安全保障としてお金貰って商売にすりゃあいいのに。と、いうことを本人に一度聞いた所、『そういうのに興味ない自給自足の生活をしてる方が性に合ってるし、そんなことしなくても本当に感謝の気持ちを持つ奴は遅れてだろうとお礼をしてくれる』とのことだ。なんともまぁカッコイイ性格ですこと。

 

「で、永遠亭までで良かったか?」

「そそ、あ、出来れば帰りもお願いね~。すぐに済むだろうし」

「ねぇ、あんた毎回道案内とかするくらいなら、目印でも付けて一人でも行けるようにするとか考えないの?」

「考えないと思うか?どんな目印付けて分かりやすくしても、あっちのイタズラ兎がその目印をめちゃくちゃにしやがるんだよ」

「あぁ~。そういうことだったのか」

「迷惑なもんね」

「……」

「何よ?」

「いや、ずいぶん丸くなったもんだなって思ってな」

「はぁ?」

「傍若無人、唯我独尊、自分こそが全て。1年前のお前はそんなやつだったと覚えてるけど、今は他人の心配ときた。1年でここまで変わるもんかって驚いてんだよ」

「うっさいわね!なんか悪いの!?それに、今でも私が一番であることは何も変わってないわよ!」

「そういうことにしといてやるよ。さ、そろそろ行かねぇと日が暮れちまうぞ」

「はいは~い、案内よろしく~。ほ~ら天子も、いつまでもむくれてないで行くぞ~」

「あんたら後で覚えてなさいよ」

 

 俺はこんな風になってからの天子しか知らないけど、ここまで言われるってことは本当に相当だったんだろうな。ちょっと見てみたい気もするけど、多分こうなれてるのはさとりさん達のおかげなんだと思うと、見れて無くてもいいかなとも思える。一度宴会の時に、皆の仲良くなった時の事を教えてもらおうと思ったんだけど、皆そん時の記憶があいまいで、しっかり聞けなかったんだよな。今度また教えてもらお。どうしても話してもらえないなら、許可取って能力使うのも考えるか……。

 なんて考えてる内にドンドン進んで行き、雑談もしながら歩くこと(天子はまだ要石に乗ってるけど)数分、パッと見だと何も変わらない景色に見えていたものの、しっかりと道はあっていたようで、今俺達の目の前には大きな旅館風の屋敷、永遠亭がある。最初見た時は、なんで病院のはずなのに旅館なんだよとか思ったけど、後々理由を聞いたらすごく納得したって話は割愛。

 

「いや~何度見ても豪華な建物ですこと」

「ほんと、無駄以外のなんでもないな。こんな無駄な建築をするなんて、考えた奴の顔が見てみたい……いや、もはや見たくもないな」

「天界でもここまで大きいのはそんなに見ないわね。まぁ、うちの方が大きいんだけど」

「変なとこで張り合わない。妹紅もそんなん言ってるとまた絡まれるぞ?」

「いいんだよ。絡んできたって返り討ちにしてやんだから」

「神宝『プリリアントドラゴンバレッタ』」

「ちょ、いきなりかよ!天子、たすけ」

「頑張って避けなさいよ~」

「あんのやろ!一人だけ要石で逃げやがった!」

「余所見してていいのか?」

「良くないな!妹紅!このスペカの避け方は!?」

「なるほど、そんな使い方も出来るのか」

「そういうこと!ってか余裕ありすぎだろ!」

「何百回これ見て来たと思ってんだ。目ぇ瞑ったって避けれるっての」

「ひゃ~カッコイイ」

 

 突如として飛んできた弾幕を、なんとかかんとかかわしきり、収まった所で弾幕の飛んできた方向を見ると、黒髪ロングに着物を着た和風美人……の皮を被ったニートがそこにいた。

 

「あんた今絶対失礼なこと考えたでしょ」

「いやいやまさかそんな」

「別にいいぞ。私が許す」

「ニートがいるな~って」

「はったおすわよ」

「うわ怖い」

「だからあんたが悪いんだっての」

「え?それ本気で言ってる?うわ、本気なんだ」

「本気に決まってるでしょ」

「で、何しに来たわけ?あとそっちのは案内終わったんなら帰りなさい。今すぐ」

「帰りも案内任されてんだよ。お前みたいに暇じゃねぇんだ」

「ケンカ売ってるのね。よし、買ったわ。裏に来なさい」

「いいぜ。今日こそぶっ殺してやるよ」

「あ~あいっちゃった」

「いいんじゃない?これで静かになるでしょ。ほら、さっさと行くわよ」

 

 ニートこと輝夜と妹紅のバトルは放っておくとして、こちらはこちらの用事を片付けないとな。永琳さんには一度助けてもらってるから改めてお礼もしたかったし、あいつもまだここにいるだろうから色々近況話したりもしたいしな。

 

「ごめんくださ~い」

「は~い、今でまーす!ってキャア!!」

「やーい引っかかった~!」

「こら、てゐ!!あんたってばまた!!」

「引っかかる方が悪いんだよ~!」

「あ、待ちなさいっての!」

「これ、どのくらい待たされると思う?」

「5……いや、10分ね」

 

~Side Out~

 



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神をも恐れぬ粗暴なる者~人を嫌うヒトの子~

 

~諏訪子 Side~

 

「早苗~。お茶まだ~?」

「はいは~い。今お持ちしますよ~」

「早苗~。お煎餅切れちゃった~」

「一緒にもって行きますね~」

「早苗~。そろそろ傷薬用意してあげて~」

「もう用意してあります」

「うわっ、なんかここだけ急に態度が変わったんだけど」

「気のせいですよ~」

 

 今は家の縁側でゆっくりお茶とお煎餅をいただきながら、神奈子ともう一人、半年ほど前から我が家に来た居候君の修行を眺めてる。とは言っても、彼の能力の関係上、あんまり修行にもならないって気もするんだけどねぇ。ちなみに早苗はさっきから薬箱持ってスタンバイしてる。よっぽど気に入ったんだなぁとか思ってる内に、どうやら一区切り付きそうだ。

 

「はっ!」

「ちっ……せぇい!」

「そんなんじゃ甘い……よっ!」

「うがっ!!」

「ふぅ……よし、今日はここまでにしとこうか」

「ここまでにしとこうか……じゃねぇよ!!ちったぁ加減しやがれ!」

「稽古つけてやってんだ。こんくらい我慢しな」

「おめぇらみてぇな人外と一緒にすんじゃねぇ!!大体!こっちのルールは弾幕ゴッコってやつじゃねぇのかよ!」

「基本はそうだが、そんなのお構いなしの奴らだっているさ。そんなやつから身を守るには、ちゃんと強くないとだろ?」

「だとしても、だ!俺の能力なら組み手を自分でするより、外から見てる方が効率がいいんだよ!なんで俺が実際にやらされてんだ!!」

「こういうのは実際に動いてなんぼだよ。いざって時動けませんなんて言われたって困るしな」

「納っっっ得いかねぇ!!ぜってぇおめぇのウサ晴らしだろうが!!」

「そう思いたきゃ思ってな。早苗~あたしの分のお茶~」

「そこにありますからご自由にどうぞ。ミディットさん、大丈夫ですか?今お薬つけますから」

「あぁ、わりぃな。ったく、ここの神様ってのは、人間を大事にしねぇんだな。嬢ちゃんばっかり働かせてよぉ」

「それが私のお仕事ですから。神様にお仕えさせていただける。これはとても素晴らしいことです」

「その分返してもらえる恩恵ってのがあってこそ、だろ?あの二人が何か返してるのなんざ見たことねぇぞ?」

「ちゃ、ちゃんとやる時はやってくれますから!多分……」

「早苗~聞こえてるよ~」

「ひゃっ!ご、ごめんなさい!」

「いいんだよ。事実なんだから」

 

 ったく、信仰心も何もあったもんじゃないんだから。あの口が悪いのがさっき言ってた居候のミディット。高めの身長に口の悪さも合間ってかなり年を食ってるように見えるけど、あれで20代前半だって言うんだからわかんない。そんなあいつの能力は『真似る程度の能力』。文字通り、誰かの真似をする能力だ。だから見てる方がいいってのは確かなんだけど、神奈子がどうしても直接やるって言ってね。

 

「あんたはもう少し神様を敬うってことが出来ないかねぇ。この家の家主でもあるんだよ?」

「それなら敬われるようなことをやってから言え。家主っつっても名義だけみたいなもんじゃねぇか。大体のことやってるの嬢ちゃんだろ」

「その早苗があたし達に従ってるなら、それは疑うべくもなく家主と名乗っていいわけだろう?」

「かっ!年を食ってるだけあって発想が豊富だなぁ。はいはい、そういうことにしといてやりますよ。か・み・さ・ま」

「よぉし表に出な。その曲がった根性たたきなおしてやる」

「お生憎、元から根性の入ってないやつに治せるほど俺の根性は軟じゃないんでね。真っ直ぐ一本根性入れてから言ってくれや」

「あ~りゃりゃ、言われちゃったね~神奈子」

「神様に根性を説くたぁ、本当にいい神経してるよあんたは。お陰でもう怒る気も失せたよ」

「そりゃ結構。んで、嬢ちゃんはこの後また人里に出て信仰集めだっけか?」

「はい。少しでも信仰を集めておかないと。いざという時大変ですからね」

「大変だな。こんなのの信仰を集めないとだなんて。ほんとよく頑張ってるよ」

「やっぱりケンカ売りたいんだね?そうならそうと言っておくれよ」

「はいはい。神奈子どうどう」

 

 なーんでこんなすぐに険悪になっちゃうかな~ここ二人は。多分同属嫌悪に近いものだと思うけどさ。そういえば、ミディットの能力について少し補足すると、①実際に見た動きしか真似できない。②弾幕やスペカ、能力なんかは真似出来ない。③自分の身体能力を超える動きは真似出来ない。④記憶することを意識していないと能力として記憶されない。⑤一度記憶された動きは、能力開放中は本人の意思に関係なく適材適所で勝手に動く。とのことらしい。要は覚えようとして実際に見たやれる範囲での動きを、能力を使う事を意識してたら勝手に動く。そんな感じ。出来る範囲は決まってるとはいえ、一度動きを覚えちゃったら勝手に動くってのはすごいよね。

 

「っし、俺も久々に里に下りてみるか」

「え?一緒に来られるんですか?」

「なんだ?嫌か?」

「い、いえ!そういうわけじゃないんですけど、なんというか、意外だなぁと」

「確かに、ミディットってあんまり人のいるとことか行ったりしないもんね」

「まぁ、そうだな」

「なんだい?対人恐怖症かなんかかい?」

「そんなんじゃねぇよ。ただ、俺はおめぇらみてぇな人外は好きじゃねぇけど、それ以上に人間ってやつが嫌い、ってだけだ」

「で、でも、それじゃあやっぱり……」

「うっせぇな。嫌いなやつがいるところに行っちゃいけねぇルールでもあんのか!?ねぇだろ!だったらうだうだ言ってんじゃねぇ!」

「ちょ、ちょっと!早苗はミディットのこと心配して言ってるんだよ!?そういう言い方は無いんじゃない?」

「いらねぇお世話ってやつだよ。おら、さっさと準備しろよ。別におめぇが来なくても俺は一人で行くからな」

「あ、ま、待ってください!すぐ行きますから!」

 

 そう言っていそいそと準備を始める早苗。そしてイライラとしながらも律儀に待ってるミディット。半年一緒にいるとはいえ、まだよく分かってないけど、悪い奴じゃないことは確かだ。それに、紫が言ってた『こっちに来た理由』ってのもまだ分かってないし……。まぁ、さっきの反応を見れば十中八九人間が関係してるんだろうけど……。こればっかりは、もっと心を開いてくれてから、だよね。

 

「すみません!お待たせしました!」

「いいよ。そんじゃ行くか」

「あんた。早苗を危険な目にあわせたら承知しないからね」

「俺が合わせるつもりがなくても、嬢ちゃんが勝手に合ったらそれは知らねぇからな」

「屁理屈言ってないで男ならビシっと守りな!!それでも腰に物は付いてんのかい!!」

「か、神奈子様!あ、あんまりそういう言葉は……その……」

「いいんだよ!こういうやつにはこのくらい言ったって!」

「なぁ、神様ってのはみんなこうなのか?」

「神奈子がぶっ飛んでるだけだよ」

「だろうな。じゃなきゃ信仰なんざ集まるわきゃねぇよな」

「み、ミディットさん!そ、そろそろ行きましょう!?ね?」

「そうだな。どっかの誰かさんのせいで余計な時間を食っちまったし、帰りは夜になっちまいそうだな」

「朝帰りとかしちゃダメだからね~?」

「へ?そりゃあお金勿体ないですし、野宿も危険ですから帰りますけど……」

「……お前ら、そういう教育くらいはちゃんとしとけよ」

「あ~……あたしらもここまでとは思ってなかったな……」

「うん。帰ったらちゃんと教えるよ……」

「え?な、なんですか!?教えてくださいよ!」

「いいから、さっさと行くぞ」

「あ、ミディットさん!?神奈子様、諏訪子様、行って来ます!ちょ、待ってくださいよ~!」

 

「「じゃんけん、ぽん!」」

「よっし!じゃあ任せたよ、神奈子」

「言い出したのはそっちの癖に……」

 

~Side Out~

 

 

~ミディット Side~

 

「おっせーぞ。早くしろ」

「ま、待ってくださいよ!この服、動き辛いんですって」

「ったく、本当に日が暮れちまうんじゃねぇのか?」

「だ、大丈夫ですって。普段から何度も往復してますから、どのくらいかかるか分かってますから」

「どうだかな」

 

 今は嬢ちゃんを連れて山を下りてる所だが、いかんせんこの嬢ちゃんの足が遅い。信仰を集めるのが目的とはいえ、巫女の服ってのは明らかに山の移動には向いてないのなんざ分かるだろうに。そもそも普段から往復してるってんなら、向こうも顔を覚えてるだろうし、服装だってなんでも良いだろ。ま、この方が信仰が集めやすいってんならしらねぇけどな。……ん?

 

「風……」

「ふぅ……どうしました?」

「あの一箇所だけ不自然に木々が揺れた。風が吹いた気配もほとんど無い。ってことは、だ」

「……?」

「おい。そこにいんのは天狗だな。さっさと出て来い」

「あややや。ばれてしまいましたか。気配には気を付けていたつもりなんですがね」

「文さん。こんにちは」

「はい。こんにちはです」

「で、天狗が何の用だ。こっちは用事は無いから何も無いならどっか行きな」

「そんなつれないこと言わないでくださいよ~。美男美女のカップルが歩いてるから、写真を1枚いただこうとしただけじゃないですか~」

「か、カップル!?」

「結構だ。そもそもそういうのは本当のカップルに失礼だ」

「そ、そうですよね……」

「それに、明らかに似合ってないだろうが。適当なこと言って盗撮してる暇があったら里の人間事情でもパパラッチしてろ」

「あ、あのー……その辺にしときましょう?横の早苗さんが今にも泣きそうですよ……?」

 

 何にショックを受けてるのか知らんが、俺みたいな人種と嬢ちゃんみたいなのが似合うわけねぇだろうが。神に仕える人間で、自分も半分神様みたいなもんで、人間で言えばまだ二十歳にすらなってない。それに比べて俺は、ただの人間であり、化け物だ……。ちっ、いらねぇこと思い出しちまった。

 

「知らん。事実を言ったまでだ。それより本当に何も無いならもう行くぞ」

「あああ待ってください!実は今、別の世界から幻想郷に来た方に話を聞いて回ってるんです!」

「今さらか?まぁいい。話すだけなら歩きながらでも出来るだろ。おい、いつまで泣きそうになってんだ。さっさと行くぞ」

「うぅ……はい……」

「鬼ですかあなたは」

「鬼はこんな角も何もねえ姿してんのか?」

「いやそうではなくて……ってそんなことは良いんですよ。聞きたいのは、この世界に来る前後の事です」

「……ちっ、さっさとしろ」

「最後にこの幻想郷に外の世界から人が来たのは約1ヶ月ほど前です。で、その人とつい最近話をしてきたんですけど、ここで少し気になる話を聞いたんです」

「気になる話、ですか?」

「はい。なんでも、この世界に送られる直前、何やら男性の声を聞いたと」

「あ?男の声だと?あのスキマ妖怪の声を聞き間違えたにしちゃあ、ずいぶんじゃねぇか?」

「いえ、紫さんの声はその後聞いて、明らかに違う声だとすぐに気付いたそうです。そして、男性でそんな能力を持ってる人は、今の幻想郷にはいないはずなんですよ」

「空耳だったんじゃねぇか?」

「まさか!世界を渡るなんていう一大事の時に、大事な情報である音を聞き間違えるなんて、普通は無いですよ!」

「じゃあそいつが普通じゃ無かったんだろ。俺はあのスキマ妖怪の声しか聞いてねぇし、こっちに来てからもそんな男の声は聞いちゃいねぇ」

「むむ……そうですか……」

「それにしても、本当に外の世界から来られる方が増えましたよね」

「はい。今までは数年に一回程度で流れ着く人がいて、それも何の力も無い人でしたが、ここ1年で一気に増え、その全員が何かしらの能力を持っています。これは何か大きな事件の前触れかもしれませんよ」

「はっ、ご苦労なこったな。こっちに連れて来られた当人は何も聞かされちゃいねぇ事件の解決、頑張ってくれや。じゃあな」

「あ、はい、それでは~。って待ってください!」

「んだよ。まだ何かあんのか?」

「大アリです!!是非ともお二人が山中デートをしている経緯を……」

 

 ちゃんと聞こうとしてやった人の親切を踏みにじりやがったバカは置いてさっさと行くか。横では嬢ちゃんがまだ何か言ってるが、もうあのバカ天狗に構ってるのはこっちがバカみてぇだ。後ろから何か声が聞こえるがもう知らん。ったく、なんでこの世界の人外どもはこんなんばっかりなんだ。それともこの山の中だけか?……いや、そんなこともねぇな。

 

「あ、あの、いいんですか?文さん怒っちゃいますよ?」

「良いんだよ。こんな程度で怒るようなやつが新聞作ろうなんてのがおかしな話だ。当たって砕けて、数撃って当たったら儲けもん程度にしか考えちゃいねぇよ」

「そ、そういうものですかねぇ……」

「そんなに気になるなら嬢ちゃんが話してきてやったらどうだ?」

「む、無理ですよ!!そ、そんな、デート……なんて……」

「だったら余計な事は言わないこったな。くだらねぇ天狗の与太話に付き合って、時間も余計に食っちまったんだ。さっさと行くぞ」

「だ、だから歩くの早いですって!」

「そっちが遅いんだっての」

 

 本当にとろいったらねぇな。仕事自体はテキパキとこなしてるが、あの服だとどうにも動きがおせぇ。やっぱり里でなんか新しい服を買えば……って思ったが、そもそもこっちの世界じゃあ動きやすい服なんてのがねぇのか。忘れられたモノが流れ着く世界。動きやすい服なんてのは早々流れ着かねぇよな。男も女も皆着物みてぇな服着てやがる。まぁ何人か例外はいるようだが。あのチビ神とかバカ天狗はスカートだし。ただ、この嬢ちゃんじゃスカートは無理だな。それこそ周りの目が気になって動けなくなるのが目に見えやがる。

 

「ズボンでもこの世界に流れてくりゃ、動きやすいだろうにな」

「あぁ~確かに思いますね。機能性ありますし、何より暖かいですし」

「ん……?そうか、そういや嬢ちゃん達もそういう世界からこっちに流れ着いたんだっけか」

「はい。元いた世界でお二人への信仰心が足りず、やむを得ずこちらの世界へと来ました。なので、こちらではそんなことが無いよう、こうして信仰を得るためにですね……」

「正しく信仰されてるかは別の話だがな」

「だ、大丈夫ですって!」

「そんなことより、嬢ちゃんがズボンを知ってるなら、自分で作ってみりゃあいいんじゃねぇか?」

「い、いえ。お裁縫は苦手というわけではないですけど、衣服となるとさすがに……」

「そうだな。それ着て外歩いてる最中にほどけて下着姿に、なんて起きたら、恥ずかしすぎて嬢ちゃんが死んじまいかねねぇ」

「うわ……想像しただけで寒気が……」

「だったら、確か人形使いの魔女あたりがそういうの得意だろうし、言ってみたらどうだ。こんなんだって口と絵で説明すりゃあ出来んだろ」

「そうですね。確かにアリスさんなら出来るかもしれません……今度言ってみようかな……」

 

 たしかあの魔女は人形の服まで自分で作ってるって話だし、そのくらいなら訳無いだろうしな。それの見本を里の裁縫屋にでも渡して流通させりゃあ、利益の何割かをもらって、そのいくらかを魔女に礼として渡せばいい商売になるし、便利なもんを布教させたっつって信仰も得られるんだろうが……まぁ、この嬢ちゃんがそこまで考え付くわきゃねぇわな。善人過ぎるっつーのも考えもんだな。

 

「あ、あれ」

「あ?なんだ?里のガキかなんかか?」

「はい。何度か見た覚えが」

 

 里の近く、山の入り口まで下りてきた所で二人組のガキを見つけた。俺達が通ってきた神社への山道とは別の、完全に森の中を見ながらどうしようかと顔を見合わせてやがる。大方、度胸試しでどっちが森の奥まで行けるかとでもやりたいんだろう。

 

「こら、あなた達。森に入っちゃいけませんよ?」

「あ、お姉ちゃん!で、でも、このくらい出来なきゃ男じゃないってコイツが!」

「あ!ずりぃぞ!お前だって立派な猟師になるなら山の中くらい分からなきゃ、なんて言ってたくせに!」

「こらこら、ケンカしちゃだめですよ。とにかく、森の中は危ないんですから、入っちゃだめです」

「で、でも……」

「いいじゃねぇか。やりたいようにやらしてやりゃあよ」

「み、ミディットさん!それでこの子達に何かあったら……」

「そりゃあこいつらの責任だ。いいか、ガキ共。度胸試し大いに結構。立派な大人になるために先に見とくのも大事なことだ。やりたいってんなら止めやしねぇ」

「ほ、ほんとに!?」

「あぁ、男に二言はねぇよ」

「よ、よーし……!」

「ただ」

「「?」」

「さっきちょうど下りてくる時に、この山の中に天狗を見かけたっけか」

「て、天狗!?」

「確か天狗は、山に勝手に入った子供をひっ捕まえて連れ去って、そいつを鍋で煮込んで食っちまうって噂だなぁ」

「な、鍋で煮て……」

「食われる……」

「それに、さっきから奥の方でガサガサと音がするし、狼かなんかの妖怪もいるかもしれねぇな。あいつらは大の男でも一発で噛み殺して、そのまま骨も残さずに食っちまうんだったか」

「ひっ……!」

「それに、この山は神の土地だからな。神を信仰してない奴が入っちまうと、出口を隠して二度と出れなくなる。ちゃんと信仰してりゃ、妖怪たちにも出くわさず、無事に帰してもらえるかもしれねぇって話だ」

「か、神様……」

「ま、おめぇらが信じるかどうかは好きにしろ、それでも入りたいってんなら止めやしねぇよ。ほら、どうすんだ?」

「や、止めておきます……」

「ちゃ、ちゃんと神様を信仰して、大人になってから来ます……」

「そうだ。しっかりと自分に出来ることを分かってるやつが、一番男らしいんだよ。分かったらさっさと里に帰れ。両親を悲しませるようなやつが、立派な大人になれると思うんじゃねぇぞ」

「「は、はい!」」

 

 そう言ってガキ共は里に向けて走っていった。ったく、これだから何もしらねぇガキってのはめんどくせぇ。……。

 

「おい。何笑ってやがる」

「い~え。ミディットさん、子供に対しては優しいんですね」

「そんなんじゃねぇ!あれで死なれちゃ寝覚めがわりぃんだよ!」

「ふふふっ……それに、うちの神様の信仰も一緒に集めてくださいましたもんね?」

「はっ!それこそ知らねぇな!ガキ共を丸め込む口実に使っただけだ。どうせガキなんざ三日もありゃあ忘れるだろうよ」

「そういうことにしておいてあげますね~」

「……あんまり調子に乗ってっと引っ叩くぞ」

「ご、ごめんなさい!」

 

 ちっ、やっぱり放っとくんだったか……まぁ、過ぎたことはもういい。ガキ共がいたってことは、里からはそう離れてねぇだろうし、さっさと行くか。里にはあのヤローがいたはずだし、宴会の一つでもやるようにそそのかすか。

 

「~~♪」

「なんだ」

「嬉しいことがあったら、鼻歌とか口ずさみたくなりません?」

「……」

「いった!なんで叩くんですか!」

「なんとなくムカついた」

「なんですかなんとなくって!」

「うっせぇ。もうすぐそこなんだからさっさと行くぞ」

「あ、だから早いですってばぁ!」

「知るか」

 

~Side Out~

 



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人を癒すは漢女(オトメ)道~宝塔探して何千里?~

 

~白蓮 Side~

 

「はい。それでは本日の修行はここまでと致しましょう」

「ふは~、疲れた~……」

「こーら村紗、だらしないですよ?」

「だってさ~一輪、流石に座禅で瞑想を1時間はきついって~」

「あはは。確かに結構疲れましたね」

「ご主人様は全然そんな風に見えませんがね」

「そんな事ありませんよ。いつつ……よいしょ……立つのだってそこそこ大変なんですから」

「なっさけね~な~。それでもこの寺の代表の一人かっての」

「ぬ~え~?あなたはやりもしないでそんな事を言うんじゃありません。大変なんですからね?」

「あたしはやらなくたって強いからいいんだよ~だ」

「ふふふ、皆仲が良くていいですね。素晴らしいことです」

「ご主人様も大概だけど、こっちもこっちで大概だな」

 

 命蓮寺の大講堂、御仏様の前での座禅修行が終わり、皆思い思いに疲れを取っていますね。今日は前半の修行も厳しかったのもありますし、仕方ないかもしれません。明日はもう少し軽めにしましょうかしら?そんな風に考えている内に、講堂の入り口の扉が開かれる。

 

「はぁ~い、皆お疲れ様~。村紗ちゃんと一輪ちゃんは、お風呂用意してあるから先に汗を流してらっしゃい?星ちゃんと白蓮ちゃんは、慣れてるでしょうからお先にご飯いただいちゃってね。腕によりをかけて作っちゃったんだから」

「ありがとうございます、フィルさん」

「や~んもう。フィリーって呼んでって、いっつも言ってるじゃないの~」

「わ~いおっふろ~。ありがとね~フィリー!」

「う~ん、村紗ちゃんは素直でいい子ね~。後でいっぱい撫でてあげちゃうわ」

「相変わらず濃いな、君は」

「あ~らやだ、そんなにお化粧濃かったかしら?気をつけなきゃ!ありがとね、ナズちゃん」

「いや、絶対そこじゃないだろ。分かってて言ってるだろ」

「ん~?そ~んないけずな事言っちゃう口はこの口かしら~?あ~んまり酷いと、あたしの口で塞いじゃうわよ~?」

「ヒッ!」

「わぁっ!っとと……大丈夫ですよ、ぬえ。フィリーさんは本気で嫌がることをしたりしない人ですから、ね?」

「きゃ~!さっすが星ちゃん!あたしのこと分かってるじゃないの~。お礼におかず、皆よりちょっと多くしてあげちゃうわ」

「相変わらず、お強い御仁じゃのう」

「雲山。それ本人からしたら褒め言葉じゃ無いと思うわ」

 

 今入って来られたのは、2ヶ月前から命蓮寺に住み込みで働いてくださってるフィルさん。とても独特な喋り方をされていますが、性別はれっきとした男性で、対格は地底の星熊勇儀さんより二周りほど大きく、とてもガッシリとした方です。2ヶ月前に別の世界からこちらに来られたそうで、その体格と性格で元いた世界では受け入れられず、紫さんの計らいでここ、幻想郷に来られたとのことです。

 

「うふふ、ここの皆はいい子ばっかりで、あたしも頑張りがいがあるわ~」

「いつも本当に助かってます。特に修行終わりなんかだと、皆へとへとですからね」

「あはは、本当はこれくらいで疲れてちゃあダメって笑われちゃいそうですけどね」

「そんなことないわよぉ。あたしからしたら、頑張ってる子たちはみ~んな素敵で、カッコイイのよ」

「ほ~ん。こんなののどこがかっこいいんだか。ま~だ弾幕ゴッコやってる時の方がマシでしょうに」

「あ~ら、お嬢ちゃんにはまだわかんないかしら?でもいいのよ。そういう我関せずな我が侭な所もかわいいんだから」

「要は君はなんでもいいというわけだ」

「そ~んなことないわよぉ。例えば、そうねぇ、ど~んなに綺麗だったりかっこよくても、人の悲しむことしか出来ないやつは、大っ嫌いよ」

「大体の人がそうだと思うけどね」

「村紗、揚げ足取りは感心しませんよ?」

「んふ、いいのよ。そういう素直な所だって良さの一つだもの。さ、ゆっくりしてるとお風呂もご飯も冷めちゃうわ。ほ~ら動いて動いて!」

「そうだお風呂!おっさき~!」

「こら村紗!廊下を走ってはいけませんよ!」

「ふふ、では、私達は先にご飯をいただきましょうか」

「はい。ナズーリンとぬえも一緒に来ますよね?」

「僕は別に修行したわけでもおなか空いてるわけでも無いからどっちでもいいんだけど」

「私はあるなら食べるぞ」

「だ~いじょうぶよぉ!皆が3回くらいおかわりしたって食べきれないくらい作ってあるんだから。遠慮せず食べなさい」

「そ、それは多すぎるんじゃないか?」

「楽しみですね。さ、行きましょう」

 

 村紗と一輪はお風呂に向かい、残りの5人は食事場へと向かいます。こんな風によくしてくださるフィルさんですが、これにはしっかり理由があって、フィルさんの能力に関係してるんです。フィルさんの能力は「癒す程度の能力」。フィルさんは、誰かを癒すという事において、誰よりもすごい力を持ってらっしゃるんです。

 

「はぁ~い、4名様ご案内よ~」

「おおお、これまた凄い量ですね。食べ応えがあります」

「確かに、この量はここの者だけだと多すぎるな」

「そうよ。だから安心してナズちゃんやぬえちゃんも食べてちょうだい」

「ま、あたしは最初からそのつもりだけどな」

「ふふ、それじゃあ皆でいただきましょうか。せーの」

「「「「いただきます」」」」

「はい、召し上がれ」

 

 うん。やっぱりフィルさんのお料理は美味しいですね。さっきまでの疲れも飛んで行ってしまいそう。というのも、これもフィルさんの能力の一端なんです。フィルさんの能力を細かく説明すると、①フィルさん本人が取った行動で、相手が癒されたと感じた時、その効果がより強く発揮され、心身の回復作用が発生する。②魔法等と違い、直接的な癒し(傷口を即時治療する、病気を即座に治すなど)は普通では使えない。③回復作用は受け取る人によって優先度や回復の勢いが変わり、同じを癒しを受けた者でも、回復作用は異なる。④この能力は、フィルさん本人が『癒したい』という意志を持っての行動にしか反映されないが、識別は出来ないので関係ない者が回復作用の恩恵を受けることもある。となっており、簡単にまとめると、フィルさんが我々を癒したいと思って用意してくださったお風呂やご飯をいただくと、自分や他の人が用意した時以上に披露などが回復するということですね。本当に、とても優しい、フィルさんらしい能力です。

 

「あ、そういえば星ちゃん、この間探してたあれ、見つかったのかしら?」

「うっ……えぇっと……実はまだ……」

「今回はその報告も兼ねてご主人様のとこに来たんだけど、これが全然なんだよね」

「あらそうなの。大変ねぇ~。あたしでよかったら、探すの手伝うわよ?」

「い、いえ!!ここまでよくしていただいてるのに、探し物の手伝いまでなんて!!」

「探してるのは僕なんですけどね」

「いいじゃありませんか星。せっかくこうおっしゃってくれてるんですから、お言葉に甘えてみては?」

「白蓮まで……うぅ……」

「だ~いじょうぶよぉ!別に何か危ないことするわけじゃないし、いざとなったら、ナズちゃんが守ってくれるんでしょ?」

「まぁ、探し物してる最中に襲われたことなんか……うん。あれは状況が状況だったからな。うん。1回くらいしかないから大丈夫だよ」

「ほらぁ、ナズちゃんもこう言ってくれてるし、あたしにも手伝わせてちょうだいよ」

「うぅ……分かりました。それじゃあ、お願いします」

「んふ、素直なのは良い事よ。それじゃ、ご飯食べて少しゆっくりしてから行きましょうか」

「ぬえも一緒に行ってみてはいかがですか?」

「ん~。面白そうかもだけど、今回はパスかな~。ゆっくりしてたい気分だ」

「あ~ら残念。せっかくぬえちゃんと仲良くできると思ってたのに~」

「うん、行かなくてよかった」

「ふぃ~、いいお湯だった~。あ、ご飯私も食べる~!」

「ありがとうございました、フィルさん」

「やぁねぇ、いいのよぉ。それより、フィリーって呼んでって言ってるじゃないの」

「一輪はこれでもわしに似て頑固じゃからのぉ。恩義を感じとる相手をそんな気さくには呼べんのじゃろう」

「雲山ちゃんがそう言うなら仕方ないわねぇ。でも、いつか呼んでくれるの待ってるわよ?」

 

 最近ではこんなやり取りもいつもの光景になってきましたね。最初の頃は、皆どこかぎこちなくて、フィルさんも頑張って歩み寄ってくれてたけど、やっぱり距離があった。そんな中で最初にそれを変えてくれたのはナズーリンで、彼女の何に気兼ねること無い態度と行動が、私達の中にあったぎこちなさを緩めてくれて、気付けば今みたいに、フィルさんをすんなり受け止めて、フィルさんからの好意に甘えるようになった。自分勝手なようでいて、いつもしっかり気にかけてくれてるナズーリンらしいですね。そんな風に思い出している間にも時は過ぎ、どうやらそろそろナズーリンとフィルさんの二人は出かけるようですね。

 

「ん~、どこに行こうかしら?」

「ご主人様、大体どの辺りに行ってたとかって無いんですか?」

「心当たりのありそうな場所はすでに自分でも回ってみましたので、特には…もしかしたら、誰かが拾ったりしてる可能性もありますし」

「そうなって来るとめんどくさいですね……ダウジングしても何かの影響か上手くいきませんし……」

「まぁ、そういう時もあるわよね。それなら仕方ないわ。まだ行ってない場所で、拾って帰ったりしてる可能性がありそうな場所から順番に回ってみましょ?」

「例えば?」

「そうねぇ。あ、ほら、幽々子ちゃんの所の庭師の妖夢ちゃん!あの子だったら持って帰ったりしてもおかしくないんじゃない?」

「あぁ~……確かにどことなく天然っぽいところもあるし、無くはないかもしれない……」

「よし!決まりね!まずは幽々子ちゃんのところに行ってみましょ!違ったらまたその時に考えればいいんですものね」

「結構遠いけど大丈夫?船だそうか?」

「もぉ~そのくらい平気よ~。でも、ありがとね。お礼にお土産買ってきてあげちゃう」

「もう、フィルさん、あんまり村紗を甘やかしたら駄目ですよ?」

「そうだぞ~お土産はこっちにもくれ~」

「ぬえ?」

「いいのいいの。ちゃ~んと皆にお土産用意しちゃうから。さ、ナズちゃん。そろそろ行きましょ」

「はいはい。それじゃあご主人様、行ってきます。まぁ期待せずに待っててください」

「行ってらっしゃい。気をつけてくださいね」

 

 行ってしまいました。白玉楼までは少し遠いかもしれませんけど、ナズーリンもいますし、大丈夫でしょうね。それにしても……

 

「星?また失くしてたんですか?」

「あはは……気をつけてるはずなんですけどね……」

「まぁ、今に始まったことじゃないからね」

「言われて治るなら、ナズーリンはいらない、ですね」

「散々な言われようじゃが、仕方ないのぉ」

「やーいドジ」

「うぐ……」

 

 まぁ、なくても困らないと言えば困らないですけど、何かに悪用されても困りますからね。さて、後の時間は掃除や命蓮寺の布教のために回らないと。いろんな方に教えを広めないといけませんからね。

 

~Side Out~

 

 

~フィル Side~

 

「ん~。やっぱりこの辺にはないみたいねぇ」

「一応僕もそれなりには探したからね。そんなあっさり見つけられたら僕の立つ瀬がなくなっちゃう」

「大丈夫よぉ。ナズちゃんはいてくれるだけであたしのこと癒してくれてるんだからぁ」

「いや、君の役に立ってもだな……」

「なぁにぃ?あたしじゃ不満かしら?」

「不満というわけではないが……まぁ、見つからないのに見つかった時の話をするというのも不毛だね」

「そんなつれないこと言わないでよぉ~」

「はいはい。ごめんごめん。ただ、今から能力を使うから集中したいんだ。ま、最近はなぜか上手く機能してくれないんだけどね」

「そうよねぇ。それが上手くいってたら、そもそも探すなんて必要がないんですものねぇ」

「……嫌味かい?」

「んも~違うわよぉ~!こうやってナズちゃんと仲良くできて喜んでるんだからぁ!」

「そうかい。それはありがとう」

 

 ナズちゃんってば、あたしがそんなに嫌味なこと言っちゃう人に見えたのかしら?失礼しちゃうわねぇ。でも、あたしが命蓮寺の皆と打ち解けられたのも、ナズちゃんがいつもどおりに接してくれたからなんですもの。そういうところも含めてナズちゃんのこと大好きなのよねぇ。でも、『探し物を探し当てる程度の能力』なんていう便利な能力のはずなのに、なんでか今はそれが上手く機能してないみたいなのよね。他の探し物でも上手くいってないみたいだし、何か原因があると思うけど……。白蓮ちゃんや星ちゃんも分からないみたいだし、もしかしたら紫ちゃんなら分かるかもって思って、紫ちゃんと仲良しの幽々子ちゃんのとこに行くようにしてみたけど、どうなのかしら……

 

「う~ん……ダメだね。やっぱり反応が出ない。これはもう足を使って探すしかないみたいだ」

「仕方ないわねぇ。でも、これでナズちゃんといっぱいお散歩できるし、あたしは嬉しいわよ?」

「僕は困ってるんだけどね。まぁいいか、君にはご主人様もお世話になってるし、今日は僕もご飯をいただいちゃったんだし。このくらいで喜んでもらえるなら、使えないのもたまにはいいかもね」

「やぁ~ん!そんな風に言ってくれるナズちゃん、ほんっとに大好きよぉ~。今度特製のチーズ作ってあげちゃう!」

「いや、ネズミだけどチーズが好物ってわけではないから。まぁ、もらうには貰うけど……」

「素直じゃないんだからぁ~。さ、そろそろ進みましょ。ゆっくりしてたらお夕飯までに帰れないわ」

「そうだね。確かこっちだったかな」

 

 一応道みたいなものもあるみたいだけど、舗装もされてないし、通るのには不便なのよねぇ。妖怪の子たちは皆空を飛べるから関係ないみたいだし。あたしもなんとか飛べるようになったりしないかしら?にとりちゃん辺りに頼んで、何か作ってもらうのも面白そうねぇ。あ、でもあの子の所にも別の世界から来た子がいたし、あんまりお邪魔しちゃうのも良くないかしら?それにあの子、すっごく好みの顔なんだけど、あんまり喋らないクールな子だから、どうしたらいいのか分からないのよねぇ……。あの子と一緒にいるにとりちゃんって、実はすっごい精神力なんじゃないかしら?

 

「あっれ~?こんな所にめっずらしい人が!」

「あらほんと、どうしたの?こんな所まで」

「それに、そっちは確か人間でしょ?よくこんな所に来たね」

「おや、騒霊三姉妹じゃないか。そういえばこの変をよくうろついてるんだったね」

「あら~ルナサちゃん!覚えててくれたの~?あたしも嬉しいわ~!」

「宴会であれだけ目立てばね……」

「リリカちゃんにメルランちゃんも久しぶりね~!元気にしてたかしら~?」

「もっちろん!演奏さえ出来てれば、いつでも元気だよ!」

「ふふふ。ハッピーな音色を出せば、気分もハッピーですからね~」

「あ、ちょっと聞いておきたいんだけど、白玉楼の庭師が里から帰るとき、買い物袋とか以外で何か持ってるのを見たりしなかったかい?」

「妖夢?いや、特にそういうのは見た記憶はないけど……」

「何々?なんかあったの?面白い話?」

「こっちからしたら面倒な話なんだがね。実はうちのご主人様の落し物を探しててね、思い当たる場所は探したんだけど見当たらなくて、もしかしたら誰かが持って帰ったのかも、ってね」

「なるほどね。一応私たちも毎日ここにいるわけじゃないけど、私たちが見た限りでは何か変なもの持ってたりはしなかったわねぇ」

「う~ん。見当違いだったかしら?」

「ま、とりあえず行ってみれば分かるさ。ありがとう」

「どういたしまして」

「あ!また宴会とかあったら声かけてね~!いっぱい演奏しちゃうから!」

「いいわねぇ~期待してるわよ~?」

「任せてね~」

 

 やっぱりここの子たちは皆可愛い子ばっかりね~。素直でいい子が多いし、何よりこういう話し方でも嫌ったりしてこないんですもの。あたしからしたらここは天国ね。だからこそ、いっぱい癒してあげなくっちゃ。あっちで出来なかった分までね。あぁ~んもう!頭の中で暗い話考えるのはもうおしまい!せっかく大好きなナズちゃんとお散歩してるのに、暗いこと考えてちゃ勿体無いじゃない!

 

「ふぅ……普段は空を飛んでるから、こうして歩いているといかに普段体力作りなんかをしていないかが露見されてしまうな」

「疲れたかしら?それなら軽くマッサージでもしてあげるわよ?」

「いや、そこまでじゃないから大丈夫だよ。でも、そうだね……帰ったら、デザートの一つでもお願いできると嬉しいかな」

「もっちろんよ!任せてちょうだい!腕によりをかけて、ほっぺたが落ちちゃうくらいのを作ってあげちゃうわぁ~!」

「うん、それは楽しみだ。そんな楽しみが出来たんなら、がんばらないわけにはいかないね」

「うふふ。そうね。それで、後どのくらいなのかしら?」

「さっき騒霊三姉妹と出くわしたってことは、もうそろそろ階段が見えてきてもいい頃だけど……」

「あら?言ってる間に見えてきたあれかしら?」

「だね。相変わらず、見てるだけで疲れてきそうな階段だよ」

「ほんとねぇ。いったい何段あるのかしら?」

「前に聞いたら、200から先は数えてないんだってさ」

「だったらこの際、数えてあげてもいいかもしれないわねぇ」

「やめといた方がいいと思うよ。無駄に疲れるだけだろうし」

「んも~冗談よぉ~。そんなことするよりも、ナズちゃんとお話してる方が何十倍も楽しいんだからぁ~」

「それは光栄だね。さ、面倒ではあるけど上ろうか」

「そうね。待ってても何も起こらないでしょうし」

 

 そう言って並んで階段を上り始める。ほんと、先を見れば見るほどびっくりしちゃう長さの階段だけど、綺麗に作られてるし、周りの景色も綺麗で飽きないように作られてるのよねぇ。素敵だわぁ~。そ・れ・に、あたしが1段飛ばしくらいで歩いてるのを、ナズちゃんが1段ずつでちょこちょこ追いついてるのがすっごく可愛いのよ!これを見れただけでもう来たかいが有ったわぁ~!普段は私が癒す側だけど、こういうの見てると私も癒されちゃうし、いくらでも頑張れちゃうわ~!

 

「ふぅ……5分近く上ってるのにまだ着きそうにない。これは君を抱えてでも飛んだ方が良かったかもしれないね」

「やぁだぁ!あたし重いの気にしてるんだから、そんな恥ずかしいこと出来ないわよぉ!」

「これでもこっちは妖怪なんだから、そのくらいわけないんだよ?まぁ本人が嫌だって言うことを無理してやろうとは思わないけど」

「むしろ疲れたのなら、あたしがおぶってあげるわよ?これでも体力には自信あるんだから」

「いや、妖怪が人間に体力で助けられるなんて、それこそ恥ずかしいって。まだまだ大丈夫だよ」

「あらそ~う?残念ねぇ……」

 

 せっかくおんぶできると思ったのにぃ……まぁいいわ。これでまた可愛いナズちゃんが見られるんですもの。そのまま他愛ない話をしながら階段を上がること数分。付近の景色は少しずつ変わっていって、今は桜の花がチラチラと降ってくる桜並木みたいになって、本当に素敵ねぇ。で、今目の前にはとっても大きな門があって、どうやら階段も終わりみたいね。少し疲れちゃったけど、その分ナズちゃんで疲労回復できたし、いい運動になったわぁ~。

 

「お~い、誰か~!」

「は~い!今まいりま~す!」

「よし。それにしても、本当に長かったね。頭の中で数えてたけど、500を越えたらもうどうでもよくなっちゃったよ」

「ナズちゃん本当に数えてたの?話しながらでもそんなこと出来ちゃうなんて、凄いわねぇ~」

「ま、まぁ。このくらいならね。っと、もうそろそろかな?」

「お待たせしました!あ、ナズーリンさん。それにフィルさんも。お久しぶりです」

「久しぶりだね」

「久しぶり~妖夢ちゃん。相変わらずちっちゃくて可愛いわ~!で~も、あたしのことはフィリーって呼んでって言ったでしょ?」

「いや、その……まだ、男性の方をそんな風にあだ名で呼ぶのはどうにも恥ずかしくて……」

「んも~可愛いんだから~!いいわ、許しちゃう!でも、今よりも~っと仲良くなったら、ちゃ~んとフィリーって呼んでね?」

「は、はい!それで、ここに来られるのはずいぶん珍しいですけど、今日はどういったご用件でしたか?」

「おっと、忘れる所だった。実はうちのご主人が落し物をしてしまったんだけど、それらしい場所を探し回ったけど見つからなくてね。もしかしたら、誰かが持って帰ってしまったかもしれないから、順番に訪ねてるんだよ」

「なるほど……それで、探し物ってなんなんですか?」

「あぁ、宝塔って言って、まぁ簡単に言えば、手のひらに乗るくらいのランタンみたいな物だと思ってくれればいいよ」

「えっと……それって真ん中が丸くて中に青い光があって、上にお寺の屋根みたいなのが付いてるやつ、ですか?」

「そうだね。そんな感じの……って、もしかして」

「……ごめんなさい!!それ、今うちにあります!!」

「あらやだ!本当に当たっちゃったじゃない!」

「はぁ……いや、ここは拾ってくれていたお礼を言うべき所だろうね。悪用とかがされない場所でよかった」

「あわわ……そ、そんな大事なものだと知らずに……ほ、本当にごめんなさい!すぐお返しとお礼をしますので、どうぞ上がってゆっくりしていってください!」

「あら、それならお言葉に甘えちゃおうかしら?」

「まぁ、見つかったのなら急いで帰る理由も無いからね。上がらせてもらおうか」

「はい!こちらへどうぞ!」

 

 嘘から出た、とは言わないけど、まさか本当に妖夢ちゃんが持って帰っちゃってるなんて驚いたわねぇ。でも、見つかったのなら良かったし、そんな妖夢ちゃんのドジっ子な所も見れて嬉しいし、いい事尽くめね。ナズちゃんは疲れた顔だけど、どこか安心したようにも見えるし、やっぱり星ちゃんのこと大好きなのねぇ……本当に良かったわぁ~。

 

「それでは、しばらくお待ちください!すぐにお持ちしますから!」

「ゆっくりでいいわよぉ~」

「少し休ませてもらうからね」

「あら?フィリーちゃんじゃない。久しぶりね~」

「あ~ら幽々子ちゃん!久しぶり~元気してた~?」

「えぇ、楽しく毎日過ごしてるわよ~」

「一気に会話のペースが遅くなった気がするな」

「んふふ、ナズーリンちゃんも久しぶりね。うちの妖夢が迷惑かけちゃったみたいで、ごめんなさいね?」

「い、いや!別に大丈夫だよ」

「ありがとね~。あ、そうそう。ちょうど良かったわ~。1週間後に、また新しい子の紹介のための宴会をするらしいから、近い所に声をかけておいてほしいのよ~」

「あ、それって1ヶ月前に来たって子かしら?」

「そうなのよ~。まだ色々と慣れてなかったから、あんまり人前には出たくなかったけど、もう大丈夫だろうって」

「分かった。命蓮寺の皆と騒霊三姉妹には伝えておこう」

「里の方にも伝えた方が良かった?」

「そっちは妖夢がこの間買い物に行ったときに伝えてあるから大丈夫よ~」

「あらそうなの?なら安心ね」

「お、お待たせしました!こ、これですよね?」

「あぁ、間違いない。うちのご主人様の宝塔だ」

「本当にごめんなさい!!うちの見た目に合いそうだったから、つい……」

「いや、いいんだよ。元はといえば、そんな大事なものを落としたうちのご主人様のほうが問題だ」

「……お互い、大変ですねぇ……」

「あぁ、まったくだね……」

「妖夢~?聞こえてるわよ~?」

「ひゃい!」

「んっふふ。可愛いんだから~」

 

 それにしても、宴会ってなったらまた皆集まるのよね~。それなら何か用意しておこうかしら?軽くつまめる物とか、酔い覚ましにスッキリするものも用意しておいた方がいいかもしれないわねぇ……。ここの世界の子たちは皆可愛いけど、あたしと同じように別の世界から来た子たちも、可愛かったりかっこよかったりで、より取り見取りなのよねぇ~。今から楽しみだわぁ~。

 

「ふふ、楽しそうね、フィリーちゃん」

「分かっちゃう?と~っても楽しいわよぉ~」

 

~Side Out~

 



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消せない過ちと前を向く強さと~執事と司書とお嬢様~

 

~プール Side~

 

「あ~んもう!もうちょっとだったのに~!」

「っへへ!やっぱり弾幕はパワーだぜ!」

「お二人とも流石ですね。僕なんて途中で目で追いかけるのがやっとでしたよ」

「おいおい、そんなんで大丈夫か?」

「えっへへ~次はプールも一緒にやろうね!」

「それじゃあ、頑張って強くならなくちゃですね」

「プールさん、妹様のお相手をするのは相当大変ですので、それなりの覚悟をなさってくださいね?」

「あはは……分かってますよ」

 

 魔理沙さんとフランさんの弾幕ゴッコが終わり、今は咲夜さんに案内されて紅魔館の中を歩いている。ちなみに先ほどの会話の通り、軍配は魔理沙さんに上がった。弾幕ゴッコ用とはいえ、室内であれだけ自由に動き回るなんて、やっぱり凄いなぁ……。僕も少しは動けるようにはなって来たとはいえ、まだまだ勝てそうにないや。

 

「で、運動の後はディナーでもご馳走してくれんのか?」

「ディナーには少し早いので、ティータイムですがね」

「ねぇ咲夜!今日のお菓子はなぁに?」

「本日は紅茶と、妹様の好きなチョコレートクッキーとなっております」

「ほんと!?やった!」

「僕たちまでご一緒してしまいましてすみません」

「良いんですよ。妹様と仲良くしてくださっている方に何もせず帰らせrほど、お嬢様は無礼ではありません」

「あたしだけの時はむしろ追い返されるぜ?」

「魔理沙さんの場合、放っておくと被害が大きくなっちゃうからじゃないですか?」

「おっしゃる通りです。魔理沙も、図書館の本を借りてるだけと言うのなら、たまには返しなさい。パチュリー様も困っておられます」

「善処するぜ」

「はぁ……」

「ご、ごめんなさい。今度僕が何冊か返しに来ますから」

「いえ、大丈夫ですよ。持って行かれてる分を抜いても、まだまだ本はあります」

「ならもう少し持っていっても大丈夫ってことだな!」

「魔理沙さん?」

「はいはい。ほどほどにしとくんだぜ~」

「あはは!魔理沙とプール、すっごい仲良しなんだね!」

「そ、そそそんなことないですよ!!」

「プール顔真っ赤~!」

「ったく、フランにまでからかわれてやんの」

「本当に純な方ですね」

「ありゃあへたれって言うんだぜ」

「プールってへたれなの?」

「あはは……どうなんですかね……」

「妹様に変な言葉を教えないでください」

「プールがへたれなのが悪いんだぜ~」

 

 さっきから言いたい放題言われてるけど言い返せない……。へたれではない、とは思うんだけども、実際こんな風に少し言われただけで顔が赤くなっちゃうんじゃ、そう思われても仕方ないのかもしれないなぁ……。でも、別に全員に対してそうなわけじゃないし、僕だってやる時はやるんだけど……って、頭の中で誰に言い訳してるのやら……。そんな風にからかわれながら歩くこと数分、今は大きな両開きの扉の前にいる。何度か来たことがあるけど、相変わらず凄いなぁ。なんて考えていると、咲夜さんがその部屋をノックする。

 

「お嬢様、魔理沙とプールさん、妹様の3名をお連れしました」

「入ってちょうだい」

「かしこまりました。では、皆様どうぞ」

「ありがとうございます」

「おう、サンキューな」

「えっへへ~おやつおやつ~」

「ご苦労様、咲夜。早速で悪いけど、3人の分の準備もお願いできるかしら?」

「はい。ただちに」

「よく来たわね、二人とも。フランの相手をしてもらって感謝するわ」

「お礼は今から貰うから気にしなくてもいいんだぜ」

「もう……。レミリアさん、パチュリーさん、お久しぶりです。今日はお招きいただいて、ありがとうございます」

「えぇ、久しぶり。元気そうで安心したわ」

「魔理沙の実験につき合わされてるんですもの、普通の人間じゃあ身が持たないものね」

「そんなことありませんよ。魔理沙さんも、ちゃんと僕のことを気遣って害の少ない実験を選んでくれてますから」

「あら、意外ね?てっきり助けたのを笠に着て好き放題やってるものと思ったけど」

「別に選んでそういう実験してるわけじゃねぇんだけどな。というか、結果として害が無かっただけで、どれも失敗したらただじゃすまねぇって話なんだぜ」

「ははは、魔理沙さんってば冗談が上手いんですから」

「プール、魔理沙の目をよく見なさい。あれは本気で言ってる目よ」

「はは……じょ、冗談ですよ……ね?」

「あ、魔理沙が目逸らした」

「あはは……は……」

「まぁその、なんだ……いつも助かってるぜ」

「な、なな、なんでそんな大事なことちゃんと教えてくれなかったんですか!実験の時は失敗したら少し後遺症が出るくらいで、9割成功するとか言ってたのに」

「でも、事実成功してるんだぜ?」

「そうじゃなくって!失敗した時のリスクの方ですよ!そんな危ない実験だったら、もう実験台とかなりませんからね!」

「まぁ、ご愁傷様ね」

 

 まさかこんな所でそんな衝撃の真実を聞かされると思わなかった……。今までいろんな実験やってて、失敗しても少し痺れたり、急激に眠くなったりするくらいだったから大丈夫だと思ってたのに……。というか、パチュリーさんはパチュリーさんで魔理沙さんに実験結果聞いて参考にしようとしてるし……。そろそろ本当にどこか別の場所に住むのも考えないとな……。

 

「お待たせしました。紅茶とクッキーです」

「ご苦労様」

「サンキューだぜ」

「あ、あぁ……ありがとうございます」

「ずいぶんと凹んでますね」

「あ、ルドアさん。お久しぶりです」

「お、お前もまだいたんだな」

「えぇ、お嬢様から追い出されない限りは、ここにいさせていただこうと思っておりますよ」

「相変わらず堅っ苦しい喋り方してんな」

「癖ですので」

「ルドアは咲夜の次に優秀な使用人だもの。よっぽどの事がない限り、こちらから手放すなんて無いわね」

「勿体無いお言葉、ありがとうございます。ですが、私などまだまだ未熟。これからも精進を重ねる次第にこざいます」

「ルドア~、言葉難しくてよくわかんな~い」

「咲夜さんのような立派な人になれるように、もっと頑張りたい。という意味ですよ。フラン様」

「それなら分かる!だって、咲夜!」

「ん、んんっ!ルドア、あまりそういう言い方をしないでください」

「失礼しました」

「ルドアが来てから、咲夜もずいぶん楽そうだものね。私も本の整理を手伝ってもらってるし」

「そういえば本で思い出しましたが、魔理沙さんが持っていった本がこの間でとうとう3桁の大台に乗りましたが……」

「お!このクッキー美味いなぁ!」

「いいのよルドア。言って返って来るなら3桁になんかならないんだから」

「分かってるなら話は早いんだぜ」

「それは魔理沙さんが言う台詞じゃないですからね?」

 

 魔理沙さんってば……。それはそうと、今来たこの男性はルドアさん。僕と同じくこの世界の外から来た人で、いろいろあって今はここ、紅魔館にお世話になってらっしゃいます。凄く綺麗な顔立ちでそ、身長も180cmに少し届かない程度の高身長。紅魔館に住むようになってからは、使用人として執事服を着てらっしゃいますけど、スタイルも良くてとても似合っててかっこいいです。僕もあれくらいかっこよくなれたらいいんだけどな……。っと、そう言えば一応聞いておかないと。

 

「それで、記憶の方は、どうですか……?」

「いえ、何も思い出せていませんね」

「そうですか……」

「ですが、私は特段不便はしていませんし、何より今こうして皆さんといる時間も大切ですから。思い出せなくても苦ではありません」

「強いですね。ルドアさんは」

「辛い過去があっても、それでも前を向いて生きることの方が難しい。と、私は思います。私からすれば、プールさんの方が強いですよ」

「どうでしょう……僕には、今本当に前を向いているのか、分からないです……」

 

 この世界に来る前。子供の頃から、僕にはこの『物を引き寄せる』という能力があった。最初は、周りの人たちからも凄い凄いともてはやされた。だからなんだろう……幼い僕は、調子に乗りすぎた。この力がどれだけ凄くなるのか、などと考えてしまった。もっと遠くの物を、もっと重たい物を、もっとたくさんの物を引き寄せられれば、周りの人はもっと凄いと言ってくれる。そんな甘い考えで、力を使ってしまった……。

 

 力の暴走……。発動した力は、僕の望んだとおり、より遠くの物を、より重たい物を、よりたくさんの物を引き寄せた。僕の、望まなかった物まで……。

 半径数百メートルにある、ありとあらゆるものを引き寄せた。始めは小石や枯れ枝。ゴミや小さな虫だった。それが時間が経つに連れ、人や動物を巻き込んだ、何十、何百という人が僕を中心に引き寄せられ、お互いにぶつかり合い、もみくちゃになりながら、無理やり集合していく。力を止めようと願ったけど、止まらなかった。そして最後に、生えていた木や、街灯、建物に付いた看板、乗り物。たくさんのものが、僕と、周りにいる数百人もの人を中心に、引き寄せられた……。

 

 目を覚ました時、そこはまるで地獄だった。巻き込まれた大半の人が死に、生き残った人も、助かったのが奇跡とも言える重傷。そして、その恨みの声は、全て僕のもとに集まった……。当然だ。その惨状を引き起こしたのは、紛れも無く僕なのだから。

 生き残った人たちから、無くなった人の関係者から、最後に家族から……僕はありとあらゆる人から身体的にも、精神的にも、ボロボロに追いやられた……。だけど、今でも、それで良かったんだと思ってる。もしもそれを許されてしまったら、僕はきっと、今ヒトでいられなかったはずだから……。

 

 それから数年にわたり、僕は迫害を受け続けた。実の家族には捨てられ、どこに行っても化け物と追い立てられ、どこにも居場所は無かった。それでも、死ぬわけにはいかなかった。簡単に死んでしまっては、僕が巻き込んでしまった人に、償いが出来ないのだから、辛ければ辛いほど、苦しければ苦しいほど、悲しければ悲しいほどいいのだろう。

 人は、それを自己満足だと笑うかもしれない。罪は消えないし、死んだ人は生き返らない。でも、それでも僕は、そうすることしか出来なかった。生きて、生きて、生き続けて、生きれなかった人の分まで苦しんで生きることが償いになると、信じることしか出来なかった。

 

 そして10ヶ月前、僕はこの世界に来た。僕の命を狙う人に追いかけられ、捕まりそうになった瞬間、謎の隙間に引き込まれ、気づけばこの世界にいた。ここが違う世界だと気づいたのは、魔理沙さんに会ってすぐだった。僕のいた世界で、僕のことを知らない人はいなかった。それだけ危険な化け物として、世界中で知られていたからだ。だけど、魔理沙さんは知らなかった。それどころか、妖怪に襲われていた僕を助けてくれた。

 誰かに助けてもらうのも、誰かに罵声を浴びせる以外の言葉をかけられるのも、誰かに、優しくされたのも、久しぶりだった……。

 だけど、僕はそれを受け取れなかった。僕は幸せになっちゃいけないから、僕は、僕が殺してしまった人の分まで、生き抜かないといけないから。そんな風に言った僕に、魔理沙さんはあっけらかんとした声でこう返した。

 

『何が幸せで何が不幸せかなんて、死んだ後にしかわからないぜ。だったら、少しでも楽に生きたらいいんじゃねぇか?』

 

 あぁ、僕はなんて馬鹿な事を考えてたんだろう……そう思ってしまった。彼女の言うとおり、一時が幸せに感じても、それが原因で不幸になることもある。逆に、不幸が続いたとしても、それを乗り越えた先で幸せが訪れることもきっとある。人生が終わるその時まで、それが本当に不幸かどうかなんて分からないんだから。

 幸せになってはいけないと選んできた道が、最後に幸せに繋がってしまっては、きっとそれらは全部無駄になってしまう。それではなんの意味もないのだから。それならいっそ、その人たちの分まで、精一杯ありのままで生きることこそ、償いなのかもしれない。そんな風に思った瞬間、涙が止まらなかった。魔理沙さんは、優しく抱きしめてくれた。人のぬくもりを感じたのは、あの事件以来だった……。

 

 そして今、僕はこうしてありのままで生きている。だけど、それでも時々ふと思ってしまう。この選択が、本当に正しかったのか、と。その影がちらつく限り、僕はきっと、前には進めていないのだと思う。本当の本当に自分の生き方を信じられた時が、ようやく僕の最初の一歩なのかもしれない、そんな風に思えてしまう。

 

「あーあーもう!何辛気臭い話してんだよ!せっかくのクッキーが不味くなちまうぜ!」

「あ、ご、ごめんなさい!つい……」

「いいのよ。大変な過去の一つや二つ、誰だってあるもの。それを忘れるのも、乗り越えるのも、そこで止まり続けるのも、本人次第よ」

「お嬢様のおっしゃる通りです。そうして悩むのが、プールさんらしいのかもしれませんね」

「あはは……もっとしっかりしなきゃ、ですね」

「ほら、そういう暗いのは終わり終わり!っと、そういえば霊夢が、1週間後に宴会するから準備しとけってさ」

「宴会!?お姉様!私も行っていい!?」

「えぇ、もちろんよ。それにしても、ここ1年ほどは定期的に宴会が起きてるわね」

「僕やルドアさんみたいに、外から来た人の歓迎会も兼ねてるみたいですから。今回も同じようなものらしいですし」

「どうせまーた変な能力持ってるやつが来るんだろ>」

「へ、変なって……」

「だってそうだろ?プールのだっておかしなもんだし、ルドアに関しては、自分だけじゃなくて他人にまで直接影響するんだしな」

「言われてみれば、自分でもおかしなものだとは思いますね」

「でも、ルドアの能力って人の役に立ついい能力だもんね!」

「えぇ、私もたびたび助けられていますから」

「ありがとうございます。そう言っていただけて何よりです」

 

 今話しに上がったルドアさんの能力は、この世界風に言えば『力を増幅する程度の能力』。残念ながら他の人の能力にまでは干渉できないみたいですけど、それ以外の力……筋力や瞬発力、能力を使わずに出したものであれば、火力や風力、その他様々な力を増幅させることができる。その分制約もあるそうで、①増幅させられる対象は一つ、又は一人まで。②増幅できるのは増幅前の5割増まで(無限に増幅できるわけではない)。③増幅できる時間は一度に10分までで、それ以上になると対象とルドアさんに負荷がかかる(人の場合は増幅した箇所が痛む、自然現象等の場合は不安定になる等)。④一度解除してから次に使うまでに5分のインターバルが必要。とのこと。強い力の反面、どうしても扱いは難しいみたいです。

 

「ま、弾幕ゴッコできるやつが増えるなら、それはそれでいいんだけどな」

「魔理沙さん、そればっかりですね」

「だっていっつも退屈なんだぜ。最近じゃ霊夢んとこ行ってもなんにもおきねぇし」

「そんな言い方してるとまた怒られますよ?」

「誰かが言わなきゃばれないんだぜ~」

「ほんとにもう……」

「ふふっ……」

「ルドアさん?」

「いえ、失礼。とてもお似合いだなと」

「お、お似合いって!」

「そうね。猪突猛進な魔理沙と、それを上手くコントロールするプール。悪くないんじゃないかしら?」

「うん!さっきも言ったけど、プールと魔理沙、すっごい仲良しだもんね!」

「ここで違う意見言っても良いのだけど、面白そうだから私もお似合いの方に票を入れておこうかしら・」

「そ、そそそんなこと!!あぁいや!決して魔理沙さんが悪いとかじゃなくて!むしろ僕としては嫌じゃないというか!魔理沙さんに申し訳ないというか!あれ!?僕今何言おうとしてるの!?」

「……少々、やりすぎましたかね」

「あはは!プール壊れちゃったみた~い!」

「相変わらず、こういうのに免疫は無いのね」

「だーめだこりゃ」

 

~Side Out~

 



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記憶を辿る白き者~心の内を知る者達~

 

~アンス Side~

 

「てゐ?うどんげ?何か言い残すことはあるかしら?」

「「本当にすみませんでした!!」」

「まぁ、客人を10分近くほったらかしてどったんばったん走り回ってたらこうもなるよね」

「ほったらかされた当人は私たちでしょうが」

「ほんとごめんなさいね。このバカ二人は後できつくお仕置きしておくから」

「別にいいわよ。用事が早く終わっても、もう一組のどたばたが終わらない限り帰れないんだから」

「あの二人もよく飽きないもんね~。俺だったら途中でだれちゃう自信があるわ」

「あなたのその気楽さを分けてあげてほしいものね」

「こいつは気楽っていうより能天気って言うのよ」

「わ~ひっどい。さとりさんに告げ口してやろ」

「はいはい痴話喧嘩は後で」

「誰がこんなやつと!」

「や~ん恥ずかしい。ご近所さんに噂されちゃうわ~」

「あんたもあんたで変な乗り方しない!」

「で、結局今回の目的はなんなわけ?」

「地霊殿のお薬のストックを貰いに来ました~」

「分かったわ。じゃあ用意するから少し待っててちょうだい」

「はいは~い」

 

 先ほどの入り口のどたばたから数分。予想通りというかなんというか、そこそこ待たされた俺たちは二人は結局永琳さんに出迎えられ、現在に至るというわけだ。ちなみに現在そのどたばたを起こしたウサギ2名は泣きそうな顔で正座している。まぁこのくらいは自業自得ということで甘んじて受けていただきましょうかね。

 

「あぁ、なんだ……騒がしいと思ったら、ずいぶん珍しいのが来てたみたいだな」

「その言い方失礼だって思わない?うわ、思ってないんだ」

「まぁあんただもの、仕方ないわね。久しぶりね、ローディ」

「本当に久しぶりだ。前回の宴会以来だからな……まぁ、こちらとしてはそれくらいの方がちょうどいい。静かな方が身体に良い」

「相変わらずお身体はよろしくないのね~。大変ですこと」

「そういうのと無縁のあんたが言うと一層憎たらしいわね」

「永琳さ~ん。ついでに天子の性格が丸くなる薬って無いですか~?」

「無いに決まってんでしょ!ケンカ売ってるわけ!?」

「あぁもうやかましい……待ってる間くらい静かに出来ないのか……」

「ほ~ら怒られたぞ天子。静かにしないとダメだろ?」

「~~っ!……ふぅ……後でさとりに報告しとくわよ」

「そんなことしたら俺が怒られちゃうかもしれないじゃ~ん」

「そのために決まってるでしょ」

「まったく……こっちは昨日の今日で疲れてるってんだ、静かにしておいてくれ……」

「ん?もしかしてまたローディが必要な事件でもあったの?」

「そこの正座ウサギ2号がまたやらかしてくれたからな」

「なるほど。こういういたずらするのがいると大変ですなぁ」

「その言葉ソックリそのままあんたに返ってるの分かってて言ってるのよね?」

 

 天子から言われたひっどい言葉はさておき、今話に入って来たのはローディ。俺みたいに別の世界から来た人間で、かなり細身……というか、もはや栄養失調を疑うくらいだけど、本人としてもこれ以上は体質で太ったり出来ないので悩んでいるそうだ。その虚弱性もあり、いつでも対応できるようにと永琳さんの計らいでここに住んでるらしい。まぁ、もう一つの理由として、ローディの能力も関係してるわけだけど。

 

「にしても、記憶を読み込むだなんて、改めて考えるととんでもない能力よねぇ。相変わらず恐ろしい」

「お前が言うな」

「どっちもどっちでしょうが」

「あ、あのー……そろそろ足が限界なんですけど……」

「く、崩しちゃダメかな~、なんて……」

「まぁ、反省もしてるみたいだしこの辺でいいかな。ただ、俺たちは許しても永琳さんからのお仕置きは覚悟しておいた方がいいよとだけ」

「はい……あの、本当にすみませんでした……」

「鈴仙が悪いんだからねー。あんな風にはしゃぎ回るから~」

「はいはいそうね。私が悪かったわよ」

「ここで言い返して、もっと騒いで怒られた前の教訓を生かしてるみたいだな」

「からかわれて急いで否定してどツボにはまるどこかの橋姫みたいね」

「素直になれば皆ハッピーなのにな~」

「お前は素直すぎる。もう少し言動を考えろ」

「最近俺皆から酷い言われ方してない?」

「「自業自得だ(よ)」」

「悲しくなっちゃう」

 

 なんだいなんだい。皆して酷い言い方してくれちゃってさぁ。そりゃまぁ確かに思ったこと口から出してるってのは否定しないけどもさ……。まぁそんな脳内反省会は後にして、ローディの能力だけど、こっちの世界風に言えばさっきの通り『記憶を読み込む程度の能力』。ザックリ言うと、相手の記憶を見ることが出来る。条件を指定すればその期間の記憶を見られるし、指定しなければ新しい所から順に早戻しのように記憶を遡っていく。本人が忘れたことでも見ることが出来るある種とんでも能力だ。いくつか制限があって、①相手に直接触れる必要がある。②集中が必要なので能力発動中は無防備になる。③能力を使うととんでもなく疲労が溜まる。④見られるのは1日日合計で1時間まで。翌日への持ち越しなども出来ず、連続した日で使うと疲労はさらに増える。⑤何らかの力で記憶に介入があった場合、内容は分からないが『介入があった』という事実は認識できる。とのことだ。俺の能力と比べると取り回しが難しい代わりに、確実性は大幅に上がってるから、てゐみたいなイタズラが好きなのからしたら天敵のような存在なわけだ。ちなみに俺も一度それでイタズラがばれた。

 

「あ、そうそう。やっぱりさとりさんの記憶を見てもらうのはダメなわけ?」

「出来ることなら俺もあまり使いたくは無い……。プライバシーにかかわる部分が大きいし、何より疲れる……」

「前もそんな風に言ってたけど、具体的にどんくらい疲れんの?」

「そうだな……5分見たらマラソンを1時間ぶっ通しでやったくらいか……」

「うっわ、きつい。確かにそりゃあやりたくないわな~。でも、そこをなんとか頼めない?」

「あんたがそこまで言うなんて珍しいわね。まぁでも、私としてもさとりが悩んでるのは嬉しくないし、見てもらいたいところではあるのよね」

「まぁ、そこまで言うのなら一応考えておこう。今度の宴会の時にでもな」

「お、サンキュー!」

「ただし、当人がそれを望んだ場合の話だ。そこまでして思い出す事も無いと考えているのなら、俺は何もしない。いいな」

「オッケーオッケー!いや~、やっぱりローディは話が分かるね~」

「っていうか、次の宴会っていつなのよ」

「1週間後よ。今紫の所で新しい子を預かってこの世界の事をいろいろ教えてるらしいわ。はい、これ薬ね」

「ありがとうございま~す。にしても1週間後か~。思ったよりも早いし、帰ったらすぐさとりさんに言っとかないとな」

「どんどん増えてくわね。紫んとこにいるって事はまた変な能力持ってるんでしょうし」

「だろうな……っと、外の音も収まったようだし、そろそろ帰れるんじゃないか?というか帰ってくれ。もう疲れた・・・」

「客に対して帰れなんて、なんて酷い先生なんでしょ!失礼しちゃうわ!!」

「あはは……てゐのせいで今日は疲れちゃってるだけですから。ね、ローディさん?」

「いや、それと別でこいつらは俺と相性が悪い……」

「こいつと一緒にされるのは私としては非常に腹立たしいのだけど?」

「やーい同類~」

「うっさいわね!」

「そういうところよ、天子」

「ほら、分かったらさっさと帰れ。帰らなくても俺はもう寝る」

「はいはい。帰りますよ~だ。あ、さとりさんの件、もしかしたら頼むかもだから、そん時はよろしくな~!」

「まぁ、善処はする」

 

 そんな風にだるそうにしながらローディは奥へと消えていく。ほんっともやしというかなんというか……。永琳先生も大変だろうなぁとか思うけど、なんだかんだ気に入ってるみたいだし。それに、一度かまかけてみたら、ローディはなんとも無かったけど、鈴仙の方はちょっと反応ありって感じだったんだよなぁ~。これは今後に期待だ。そんな風に思いながらも皆さんに挨拶しながら外に出ると、そこには若干だけ服がボロっとした妹紅がいた。別に鼻の下伸ばしたりしてるわけじゃないけど天子から睨まれた。お前は俺の彼女か。

 

「わりぃな。あのバカが突っかかってきたせいでちょっと遅くなっちまった」

「それに乗るアンタも同類でしょうが」

「こら。機嫌損ねたら案内してもらえないぞ?そういうのは出口まで案内してもらってから言うんだ」

「案内しなくて良いんだな?じゃ、あたしはこれでな」

「冗談だってば妹紅さ~ん。ね?ごめんなさい!このとーり!」

「よくもまぁそこまで白々しく出来るわね」

「はいはい。んな平謝りは良いから、帰るならさっさと行くぞ。また絡まれるとめんどくさいしな」

「わ~い。妹紅のそういう雑ながらも構ってくれるとこだ~い好き」

「ありがとさん」

「良かったわね。眼中に無いらしいわよ」

「そこで良かったわねって言われる俺は一体何を望んでると思われてるのか」

「聞いてみたら?」

「何を望んでると思ってるの?ちょ、一人で寂しい生活なんて望んでないから!!むしろ真逆だから!!」

「ほんと騒がしいなお前らは」

「騒がしいのはこいつだけよ」

「それに雑ながら構ってるお前も大概だってことだよ」

「天子はツンデレだからな~」

「違うし例えそうだったとしてもアンタにデレの部分を見せることは無いから」

「ほんとに~?うわほんとだ。酷い」

「なんで嘘言う必要があんのよ」

「照れ隠しとか?」

「はんっ」

「鼻で笑われた……」

「飽きねぇなお前ら……」

 

 妹紅が少し……いやかなり呆れた目をこちらに向けて来るけど、そんなことじゃあへこたれない。というかそのくらいで済むんだから驚きだ。普通さ、もっと距離取ろうとしたり、嫌がったりするもんじゃない?ここの人間……いやまぁ人間じゃない方が多いけど、ここに住んでるのって、その辺の感覚がずれてるというか……。嫌ではない、むしろ嬉しいくらいだけど、こんな得体の知れない相手とよくもまぁ普通に接せられるもんだよ。まぁ、だからこそこっちの世界に送られたのかも知れないけども。そんな風に考えながらグダグダと話してる内に、気付けば入り口に到着していた。

 

「はい、到着と」

「いや~ありがとう妹紅!このお礼は今度の宴会で返すから」

「ま~たそういう考え無しの発言して」

「別にいいよ。前にも言ったとおり、感謝の言葉一つだけで十分だ。まぁ、何かくれるってんならありがたくもらうけどな」

「きゃ~カッコいい。俺が女の子ならファンになってた」

「あんたが女になったら……いや、ダメね。多分イライラが増すわ」

「ひっど~い。失礼しちゃうわね!」

「止めてくれ、命蓮寺のあいつを思い出す」

「そういえばあんた気に入られてたっけね。まぁ……あれはそうね」

「フィリーちゃんも能力とか性格とかめちゃくちゃ良いんだけどなぁ~。あの体格と喋り方で絶対損してる」

「それはそうなんでしょうけど、インパクトの強さは絶大よね」

「お前らは良いよな。割と普通の側だしな」

「妹紅はモテモテだからな~。羨ましい限りだよ」

「よーしそこ動くな?弾幕10発で勘弁してやる」

「天子さんヘールプ」

「自業自得よ」

 

 その後なんやかんや3発で事なきを得た後、直撃した腕の痛みで泣きそうになりながら妹紅とお別れをして地底への帰路に着く。地底の入り口で天子も今日は帰ると言って帰って行った。というか元々帰る予定ならわざわざ入り口まで来なくても良かったんじゃ?と思った所で、これが天子のツンデレのデレの部分か!!と一人で結論付けて少し気分回復しながら地霊殿へと向かう。途中でキスメちゃんやらヤマメさん、パルスィに変な目で見られたけど俺はくじけない。

 次の宴会で、出来ることならさとりさんの記憶回復の糸口になればって思うけども、はてさて……。まぁ、本当にもしもの時には……うん、その時考えよう。

 

~Side Out~

 



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暖かくも隠された心~傍にあると決めた者~

 

~ミディット Side~

 

「おう早苗ちゃん!今日はいい野菜採れてるよ!」

「うわぁ!後で買いに行きますね!」

「お姉ちゃん!見て!こないだのテスト100点だった!」

「凄いですねぇ!頑張って偉い大人になりましょうね」

「早苗様、これは今回のお布施でございます」

「いつもありがとうございます。ですが、私に様は不要ですよ」

「ありゃ、早苗ちゃん今日はデートかい?妬けちゃうねぇ!」

「そ、そんなんじゃ無いですってば!」

 

 やかましい……わかっちゃいたが、どうしてこうもヒトってやつはやかましいんだ。こいつだって定期的に里に下りてるんだから珍しくも無いだろうに、どいつもこいつもこぞって話しかけにきやがる。そんで5人に一人はデートかと聞いていきやがる。その度に焦って返すこいつのせいで疑惑は晴れないままだ。ちなみに最初は俺にも話しかけてきてやがったが、何も答えずに睨みつけるのを繰り返したら誰も話しかけて来なくなった。楽でいい。

 

「ところでミディットさん、本当に用事とか無いんですか?私はこれから広場で布教活動をするんですが……」

「無いつもりだったが気が変わった。少し離れる」

「あ、はい。分かりました。私はずっと広場にいますので、終わったら戻ってきてくださいね」

「あぁ。精々頑張りな」

「ありがとうございます!それじゃあ、また後で!」

 

 嫌味の通じねぇ奴だ……。まぁいい。あいつは確か今は里の東の方に住んでるって言ってやがったな。自分から行くのも面倒だが、他にやることも無い。寺子屋やら本屋なんぞにも興味無ければ、万屋にも寺にも興味はねぇ。それに、俺の格好はずいぶんと目に付くからか、周りを行くやつらがジロジロと見てきやがって気に食わねぇ。ほんとに、自分でもなんで来ようと思ったか分からねぇ。

 

「にしても、ほんとに平和ボケしてやがんな、ここのやつらは。ついさっきガキ共が消えかけたっつうのに」

 

 そんな風に言ってみたものの、答えが返ってくるはずもない。というより、そんなことこいつらは知らないだろう。文字通り、平和ボケしているだろうからな。何故かイラついたので周りで見てくる奴らを睨みつけてからあいつの家へと向かう歩を少しだけ早める。と言っても対した距離でもない以上すぐに着く。10分もしないうちに目的の場所の目の前となった。

 

「おいクソヤロー。10秒以内に出てこねぇと家燃やすぞ。さっさとしろ」

 

 返事がねぇ。あの野郎の分際で俺を待たすとはいい度胸だ。

 

「10、9、面倒だ。1、0。出てこねぇな。燃やすか」

「待て待て待て待て!!少しくらい待てっちゅーに!!俺とお前の仲だろうがよー!」

「さっさと出てこないお前が悪い」

「いや、呼ばれてからすっごい速さで準備したけど!?そもそも間に合わせた俺は褒められていいからね!?」

「うるさい。少し黙れビリー」

「酷いってレベルじゃねぇ!」

「黙れって言ったろ」

「ぶへっ!」

 

 いきなりアホみたいなテンションで出て来たこのアホは、残念なことに俺の知り合いだ。本当に残念なことにな。名前はビドリーズ。長いからビリーと呼んでる。というよりあいつがそう呼ぶように言ってやがる。あいつの分際でお願いをするとは舐めてやがる。俺と同じ世界、同じタイミングでこいつもこの世界に来やがった。二人同時は珍しかったのか散々色々と言われたが、こいつと一緒に扱われるのが嫌過ぎてすぐに今住んでいる山に移り住んだ。迷惑なやつだ。

 

「いってて……ちったぁ加減してくれよ……俺はお前と違って肉体派じゃねぇんだから」

「少しは鍛えろ」

「へいへい。で、わざわざ来たって事はなんか用事なわけ?」

「そうだがお前の態度が気に食わないから一発殴らせろ。話はそれからだ」

「やーめいっちゅうに!話が進まんだろうが!」

「ちっ。少しイラつく事があった。酒が飲みてぇから近いうちに場を作れ」

「あぁ、そういうことね。でもそれならいらん心配だわ」

「あ?どういうことだ」

「さっき萃香ちゃんから連絡が来て、1週間後にまた宴会があるんだってさ。新しい人の紹介も兼ねてって」

「また増えやがるのか。まぁいい。それならお前に用はねぇな」

「言い方が酷いっての」

 

 ちっ、足運んで損したな。まぁ酒が飲めるならそれで構わん。なんでこいつにこんな事を頼んだかと言えば、こいつの能力が『輪を取り持つ程度の能力』だからだ。簡単に言やぁ、あいつの定めた範囲の中なら、誰もが仲良くなる能力、って所か。別に洗脳なんて大それたものでもなく、ちょっとやそっとじゃ怒りにくくなる。人を怒らせるような言動を控えるようになる。くらいのもんだ。勿論例外はあるが、な。条件として、①範囲は最大で半径1kmまで②能力の持続時間は6時間まで③仲が悪すぎる相手には効果が出ない④複数回能力を受けた場合、徐々に効果が薄れる⑤使用者本人には効果が無いので自力で合わせることが必要。と、使い勝手が良いようでそうでもない能力だ。ちなみに俺は既にこいつの能力は受けないレベルにまでなっている。

 

「で、お前は未だに何もせずにだらだらしてやがるのか」

「うっせ!お前だって似たようなもんだろうが!」

「俺はあそこのバカ神1号に毎日組み手やらされてんだよ。んな状態でなんか出来るわけねぇだろ」

「俺は俺でケンカの仲裁やらなんやらで忙しいの!特に寺子屋からは毎週3回は呼ばれるんだぜ?」

「そんなに忙しいなら代わってやろうか?」

「いやいい。神奈子さんと組み手とか命がいくつあっても足らん。というかお前にケンカの仲裁ができると思えん」

「ケンカしてるやつら両方とも黙らせりゃいいんだろ?簡単じゃねぇか」

「お前はいつからそんな脳筋野郎になっちまったんだ!」

「冗談に決まってんだろ。そもそもお前が代わりたいなんて言うはず無いのくらい分かってんだよ」

「うっせ。どーせへたれですよーだ」

「おーいビリー。少しいいか。おや?客人か?」

「あぁ、慧音先生。大丈夫ですよ」

「ん?よく見たらミディットじゃないか。久しいな」

「ハクタクか。どうやら俺はお呼びじゃないようだし、先に帰らせてもらう」

 

 今来たこいつは、確か上白沢慧音。種族はワーハクタクだったか。寺子屋で教師をしているそうで、多分こいつの所に来たのもそれ関連だろう。さっき話してたケンカの仲裁か、はたまた単に暇してるこいつを教材のために使うかって感じか。どちらにせよ、俺は関係ないからさっさと帰るとしよう。そう思いその場を離れようとしたが、その肩をハクタクが掴んできた。

 

「なんのつもりだ。俺に用は無いはずだろう」

「まぁ待て、お前はどうにも我々を避けているようだからな。たまには付き合ってもらおう」

「避けてるのを分かった上で付き合えとはずいぶんだな」

「大人たちは難しいかもしれないが、子供相手なら少しは大丈夫だろう?それとも、子供すら怖いか?」

「そんな煽りは効かねぇよ。用があるのはそのアホにだろう。さっさと連れてけ」

「いやぁ、俺からも頼むよ。能力で多少はなんとか出来ても、子供の相手って大変なんだよ」

「知らん。やり始めたのはお前なんだから責任を持て」

「そこをなんとか!な?この一回だけ!手伝ってくれたら今度の宴会で秘蔵の酒持ってくから!このとーり!」

「しつけぇぞ。煽ってくるは物で釣るわ、くだらねぇにも程がある。俺みたいなやつがガキにいい影響があるとでも思ってんのか?」

「あぁ、思ってるさ」

「あ?」

「いい影響を与えない者は、そもそもそんなことを気にしないからな。気にしてるってことは、それだけ相手を考えてるってことだ」

「な~んだ。ミディットってばやっぱりちゃんと考えてんじゃんか~。このこの~」

「……」

「ちょ、やめっ。無言で蹴らないで。思ったよりつよっ、いっ!!」

「はぁ……酒の約束、忘れんなよ。それとハクタク。ガキにむかついたらどうなるか責任は取らねぇぞ」

「何かあれば、私が責任を持って止めると約束しよう」

「ちっ……さっさと済ませるぞ」

「あぁ、行くとしようか」

「待って、さっきの蹴りが結構足に来てるから!ちょっと!」

 

 こんなやつらに言いくるめられたように思えるのも癪だが、このままだと埒が明きそうにない。さっさと終わらせる方が早いだろう。というより、このハクタクはわざわざこいつを呼びに来たってことは何かあったんだろうに。何をのんきに説得してやがる。ひょっとしてこいつもアホなのか?そもそも、ほんとに何かあったんなら責任者が場を離れていいのか?

 

「で、結局何があったんです?」

「いや、なんでも二人の子が神様をしっかり信仰しないと立派な大人になれないと言ったらしくてな。それを馬鹿げてると別の子が笑い、ちょっとした言い合いになっててな」

「……気が変わった。帰る」

「ここまで来て、はいそうですかと帰らせるわけが無いだろう」

「急にどうしたんだ?ミディット」

「うるせぇ。気が変わったって言ったろ」

「そんな急に子供みたいに」

「せんせぇ~!」

「どうした?何かあったか?」

「ケンカしてた二人が取っ組み合いになっちゃって」

「む、それはいけないな。よし、すぐに」

「待て」

「なんだ?子供とはいえ手が出てしまっては……」

「俺が行く」

「え?」

「ちょ、どういう風の吹き回しよミディット!さっきからなんか変だぞ?」

「今回の件、どうやら俺が原因らしい」

「はぁ!?どういうことだよ!」

「行けば分かる。さっさと終わらせるぞ」

「あ、あぁ」

 

 ったく……なんでさっきの今で恩を仇で返されなきゃなんねぇんだ。やっぱりほったらかしとくんだったか。まぁ、過ぎたことは仕方ねぇ。とにかく今はそれが原因でケンカだなんてわけわかんねぇ事になってんだ。さっさと止めねぇとな。で、寺子屋の中に入ったわけだが、案の定ケンカしてやがった片方はさっき助けたガキ共だった。これだからガキってやつは……。

 

「神様がいるからって、信仰しなくっても平気に決まってんだろ!」

「いーや!しっかり信仰しないと安全に山の中に入れないんだ!山にも入れない大人なんて立派でもなんでもないよ!」

「それがわけわかんねぇんだよ!俺は大人になったって山になんて入るつもりはねぇしな!」

「何を~!」

「なんだよ~!」

「そこまでだガキ共」

「え?お、お兄さん、誰?」

「あ!さっきのお兄ちゃん!ねぇ聞いてよ!こいつらが……」

「少し静かにしろ。まずそっちのガキ。こいつにさっきの話をしてやったのは俺だ。そして、こいつは少しだけ勘違いして覚えて帰りやがったみたいだ」

「そ、そうなの?」

「勘違い?」

「あぁ。こいつらは勝手に山に入ろうとして、そのまま入ったら妖怪達に食われちまうだろうからな。それを止めてやった。その時にあの山は神様の土地で、しっかり信仰しないと酷い目に会うと教えてやったんだ」

「そ、そうなんだ」

「ほら!だからしっかり信仰しないと」

「だが、俺が教えたことはそれだけじゃない。むしろそんなもんはどうだっていい。大事なのは、親を悲しませるやつは立派な大人になんてなれないって所だ」

「あ……」

「分かったか?大人になって、山に入る仕事をする奴は、山の神を信仰するのは大事だろう。だが、そうじゃないやつだっている。今お前達に勉強を教えているあいつだって、立派な大人だ」

「せ、先生……」

「うむ」

「何が大事で、どうなりたいかなんてのは人によって違うんだ。お前は狩りで生計を立てる道。こいつはそうじゃない道。それぞれの道で大事にするものがある。相手のことを考えずに自分の思うことが正しいと思い込んで相手にぶつけるようなやつが、立派な大人になんてなれると思うか?俺の言ってること、難しいか?」

「わ、分かります……」

「ご、ごめんなさい……」

「謝る相手が違うだろ?」

「さ、さっきはごめん。お前、学者さんになるのが夢だもんな。何にも考えてなかった」

「お、俺の方こそ。お前は山で狩りして食っていくっていっつも言ってるもんな。そりゃあ神様は大事だよ。ごめんな」

「よし。これでこのケンカはしまいだ。次同じようなことでケンカしやがったら今度は口じゃすまさねぇから覚悟しとけよ」

「「はい!」」

 

 ったく。くっだらねぇことでケンカなんざしやがって。この年のガキじゃわかんねぇのも無理はねぇが、その発端が俺だったって思ったら気持ち悪くて仕方ねぇ。というかそもそもだ。そういうことは本来教師であるあのハクタクが教えるか、親が教えとくもんだろ。人は人、自分は自分とか、いくらでも教え方なんざあるだろうが。そう思ってハクタクのほうを見ると、これでもかというくらいに笑顔でこっちを見てやがった。その後ろでビリーのやつもさらに腹立つ顔で見てきやがる。なんなんだこいつらは。

 

「嫌がってた割には、しっかりと対応してくれたじゃないか」

「うるせぇ。原因が俺だったからやっただけだ。後は知らん」

「素直じゃないな~ミディットちゃ~ん。子供にはこ~んなに優しくでき、いだっ!ちょ、脛!脛は止めて!わ、悪かったか、らぁ!」

「次は顔にやる。覚えとけくそ野郎。お前らも、俺はこの通り善人でも立派な大人でもねぇ。周りに余計なこと言いやがったら調べ上げてぶん殴る。分かったな」

「「ひっ……!」」

「こら!子供たちを怖がらせるんじゃない!」

「知らん。何かありそうなら止めるのはお前の仕事なんだろう?そんなことが起きないよう、お前の口からもしっかり釘を刺しとくんだな。言っとくが、俺はやると言えばやる。聞かないやつが悪い」

「まったく……お前達、安心しなさい。こんな風に言ってるがこいつは根っからの悪者じゃないんだ」

「うん!お兄ちゃんはいい人だよ!」

「……ちっ。気分が悪い。もう帰るぞ」

「照れているのか?」

「それ以上言えばこいつが大変な目に合うぞ」

「え?なんで俺?」

「別に構わない。と、言いたい所だが、ビリーには何度も助けられているからな。ここら辺にしておこうか」

「あれ?何気に扱い酷くね?」

「ふん。行くぞ、くそ野郎」

「い、いだだだ!み、耳!ち、千切れるから!」

「お兄ちゃ~ん!またね~!」

 

 この気持ち悪い空気に耐えかねて寺子屋を後にする。あのガキはニコニコと笑いながら手を振ってやがったが、あそこまで脅してこれだともはやあいつはただのアホだな。ここにはアホが多すぎる。そしてそれはこのアホ1号も同じだ。ここに来る前。何度も何度も俺は離れるように言った。一人の方が楽でいい。だが、こいつはそれを意に介さず何度でも何度でも近づいてきやがった。その結果あいつの周りか人が離れようと、あいつはそれを気にしなかった。本当に、こいつはアホだ……。

 

「で、これからどうするんだ?」

「どうするも何も、あの嬢ちゃんを拾って山に帰るんだよ」

「違う違う。この世界で、これからどうしていくのかって話だよ」

「それこそどうするもねぇ。このまま山に住んで、死ぬまであのアホ神共に付き合わされるか、追い出されて山の中で野垂れ死ぬかのどっちかだろうよ」

「それならよ、うちにこねぇか?」

「前にも言ったろ。俺は里なんぞに住む気はねぇ」

「大丈夫だって!さっきの見てる限りじゃ全然……」

「それはあいつらが何も知らねぇガキだからだ。知ればあいつらでも俺を恐れるだろうよ。ヒトなんてのは、そんなもんだ」

「こっちの世界だったらもっと変なやつだって大勢いるさ!妖怪なんてのもいるくらいなんだ!絶対に……」

「くどい。誰もがお前みたいなやつばかりじゃない。そんなこと、お前だってよく分かってんだろ」

「だけど!」

「この話はもう終わりだ。酒の件忘れんじゃねぇぞ」

「ちっ……分かったよ」

 

 そう。ヒトなんてのは異端を恐れる。異能を怖れる。自分達と違うものを、恐れ、離れ、排除する。だから俺は、最初からヒトなんてものを信じない。信じてしまえば、裏切られるのを分かっているから。裏切られると知っているから。何もかも、失うと覚えているから。

 

 ビリーのやつと別れ広場に戻ると、言ってた通り嬢ちゃんはまだ勧誘活動をしてやがった。聞いてるのはよっぽどの物好きか、すでに信者になってるやつくらい。ほとんどの奴は通り過ぎていく。嬢ちゃん自体は好きでも、神を信仰するってほどじゃない。そんなところだろう。そういうやつに限って、いざとなれば神頼みをするんだろうな。勝手なもんだ。そんな風に思っていると、周りを見回していた嬢ちゃんと目が合った。嬢ちゃんは『今日はここまでにしておきますね』と言いながら俺のほうへと向かってくる。ちっ、目立ちたくねぇってのに……。

 

「お帰りなさい、ミディットさん!用事はもう終わったんですか?」

「終わってなきゃ戻ってねぇだろうが」

「あはは。そうですよね。それでは、そろそろ帰りますか?」

「そっちは良いのか?まだ終わってないなら待つぞ」

「いえ!お買い物もして行きたいですから!それに……」

「ん?」

「い、いえ!何でもありません!そ、それじゃ、行きましょう!」

「おい、帰りはあっちだろ」

「ちょ、ちょっと遠くのお店も見て行きたいんです!」

「ちっ。仕方ねぇ。付き合ってやる。さっさと回るぞ」

「はい!」

 

 本当に、どいつもこいつも……アホばっかりだ。

 

~Side Out~

 



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今宵は月が丸いから~集まって、輪になって~

~プール Side~

 

「霊夢さーん。この机はどっちですかー?」

「それはあっちの端の方にお願い。それと、それ終わったらその近くの落ち葉とかちゃちゃっと集めちゃって」

「はーい」

「おい霊夢。うちのプールをあんまりこき使うなよなー。あれじゃあすぐへばっちゃうぜ」

「平気よ。最近体力作りもしてるって言ってたし。っていうか、あんたも早くに来てるんだったら準備手伝いなさいよ」

「私はプールがどうしてもって言うから連れて来てやっただけなんだぜ~」

「ったく。あ、こら萃香!なんでもう飲んでるのよ!」

「いいじゃんかちょっとくらいさ~。ほら、分身たちはちゃんと動かしてるから」

「それとこれとは話が別でしょ!っとにもう!」

「あはは……」

 

 この間の魔理沙さんとフランさんの弾幕ゴッコから一週間。今日は予定してた通り、新しくこちらに来られた人の紹介も兼ねての宴会なので、今はその準備の真っ最中です。と言ってもそれももう終わりが近づいてて、後は机を用意して料理を準備したら出来上がりですね。魔理沙さんも、最初はちゃんと手伝ってくれてたんですけど、途中でサボり始めちゃったし、萃香さんも小さい分身に任せて本人はお酒飲み始めちゃってるしで、霊夢さんももはや呆れてます。まぁ、それもいつもの風景の一つ、って感じなんでしょうけどね。

 

「にしてもプールも物好きだよな~。わざわざ自分から手伝いたいだなんてよー」

「いつも場所や準備、片付けまでお世話になってますからね。このくらいしないと失礼ですから」

「そうよ。むしろこいつが普通なんであっ、あんたらや他のやつらがほとんど手伝わないのがおかしいの!」

「あら?私達はその分料理やワインを差し入れてるのだけど?」

「レミリアさん。それにフランさんに咲夜さん、美鈴さんにパチュリーさん、ルドアさんも。こんばんは」

「ご丁寧にありがとうございます、プールさん」

「ヤッホー!プールも魔理沙も一週間ぶり~!」

「霊夢さん、お手伝いに間に合わず申し訳ありません。今から出来ることでしたら、なんなりと申し付けてください」

「あぁ、別に大丈夫よ。準備はもう大体終わってるから。それより、出来ることなら片付けの時に手伝って欲しいわね」

「レミィやフランが早くに寝なければ、大丈夫でしょうね」

「何言ってるのよパチェ。夜こそ吸血鬼の本領だもの。むしろ元気になっていくくらいだわ」

「最近えっと……けんこーてきな生活ってのを試してるんだー!ね。ルドアー?」

「はい。遅くまで起きるのは身体によくありませんからね」

「こりゃ期待できそうにないんだぜ」

「プールさん。この間教えたトレーニング、実践されてるみたいですね」

「え?分かるんですか?」

「はい。筋肉の付き方や、身体を動かす時の感じが前よりもずっと良くなってます。この調子で頑張っていきましょうね!」

「は、はい!ありがとうございます!」

「いつの間にか門番とも仲良くなってんだなー」

「仲良くというか、身体を鍛えるためのアドバイスをもらってるんですよ。トレーニングの方法とか、どういう食べ物が良いかとか」

「ふーん。ま、好きにしたら良いと思うんだぜー」

「あ、ちょ、魔理沙さん!まだ準備終わってないですから!」

「霊夢ももうすぐ終わるって言ってたし知らねぇな~。私はちょっと散歩してくるぜー」

「もう……」

「ふふっ、言わなくていいんですか?」

「ぜ、絶対に言いません!!」

「なになにー?内緒話~?」

「な、なんでもないですから!」

「え~?うっそだ~!」

 

 紅魔館の皆さんが来られて、少しにぎやかになったと思ったら、入れ違いで魔理沙さんがどこかに行っちゃいました。ほんとはこの身体を鍛えてるっていうのも、少しでも魔理沙さんの役に立ちたいから、って事なんだけど……やっぱりまだ恥ずかしくて面と向かっては言えないな……。っと、沈んでる場合じゃないや。早く残りの準備もしないと。

 

「おや~?あれに見えるはプール君にレミリア様ご一行じゃあございませんか。一番乗りは失敗したか~」

「狙ってもないこと言ってんじゃないわよ」

「お、なんだよ萃香~、もう飲んでんのか?あたしも混ぜろよ~」

「そっちももう飲んでんじゃんか~」

「はぁ、やっと酔っ払いから解放されたわ……」

「ご苦労様だねぇ……」

「でもパルスィ、あんまり嫌そうに見えなかったよ~?」

「んな!?そんなわけないでしょ!あんた!質問したらぶん殴るからね!」

「やぁん。お兄さんこわ~い。助けてプールきゅーん」

「こっちを巻き込まないでくださいよ……」

「パルスィもアンスさんも、あんまり羽目を外しすぎちゃダメですよ?」

「分かってるわよ」

「ほんとに~~?」

「そう。そんなに殴って欲しかったのなら言ってくれたらよかったのに。今すぐ殴ってあげるわよ?」

「手伝うわよパルスィ。今のは私もむかついたわ」

「うにゅ?鬼ごっこ?私もやる~!」

「お?ケンカか?混ぜろ混ぜろ~!」

「うっるさ~~~い!!あんた達ちょっとは静かに出来ないわけ!?」

「ほ~ら怒られた。お姉さんたち大人なのにダメだね~フランちゃん」

「ね~」

「アンス。あんたは酒運ぶの手伝いなさい。騒ぐ原因だった罰よ」

「あぁんひど~い。俺は静かにしてたのにな~」

「僕も手伝いますから、早くやりましょう?」

「ひゅ~!プール君ってばやっさし~い!こりゃあ女の子達からの好感度急上昇間違いなしですなぁ~」

「あんたは常に下がりっぱなしだけどね」

「いいのいいの。俺はここぞってとこで決めて一気に掻っ攫っていくタイプだから。今はあえて落としてるのだよ」

「だから口より先に手を動かしなさいっての」

「うぃっす」

 

 地霊殿の皆さん……というか主にアンスさんが来たことでさっきの数倍にぎやかになってきた。毎度思うけど、なんでアンスさんはこんなにも馴染むのが早いんだろう……。やっぱりコミュニケーション能力の差なのかな。僕ももっとアンスさんみたいに……いや、アンスさんみたいにじゃダメだ。とりあえず、今よりはもう少し積極的に話していけるようにならないと。

 

「あやややや?もう既にかなり人数が集まってるようですねぇ」

「ほらもう!神奈子様と諏訪子様がゆっくりしすぎるからですよ!」

「いいじゃないか。神様ってのは重役出勤上等だよ」

「文字通り身体が重いんだろ。言ってやるな」

「よーしそこの広場に出な。さっきの修行じゃまだ足りてなさそうじゃないか」

「はーい、どうどう。霊夢がすっごい睨んでるからこの辺でね」

「皆さんお久しぶりです。今日は妖怪の山の警護も無しだからゆっくりしますよ~」

「椛、明日朝からだったと思いますけど、飲みすぎると後が怖いですよ?」

「大丈夫ですよ文様。今日はゆっくり飲む予定ですから」

「ほほう。そうかいそうかい。それじゃ、ゆっくり飲もうか?あたし達と」

「おーう、いいな。久々にお前達とも飲みたいと思ってたんだ。烏天狗の方も来な。飲み比べだ」

「あ、文様……」

「諦めましょう。このお二人から逃げることなんて無理です」

「妖怪の山の皆さん、お久しぶりです」

「ちっ、プールか。それに吸血鬼どもに地底の連中だな。やりにくいやつらばっかだ。あのバカはまだか」

「あら、ずいぶんな言い草ね?私は構わないけど、うちの従者達が殺気立っちゃうから、あまり強い言葉は言わないことをオススメするけど?」

「はっ、主の命もなく知人に危害を加えるようじゃ従者として失格だろ。それを主が許可するというなら、主の人格に問題ありだ。その両方がありえないなら、お前らは俺に攻撃しない。そんくらい分かってんだよ」

「これは信頼されてる、と思っていいのかしら?」

「はい。ここの人たちは少なくとも平気だと思ってらっしゃいます」

「さとり妖怪。それ以上言うようなら俺はもう帰る。気分を害される相手と酒を飲むほど俺は心は広くない」

「ごめんなさい。あなたが帰ってしまうとアンスさんも悲しみますからね」

「ミディットさん、うちのお嬢様は寛大で、私も咲夜さんもこの程度で心を乱されるほどではありません。ですが、あまり過激な言動をされますとフラン様が触発されかねません。お気を付けを」

「そもそもこんなとこでドンパチやるつもりはねぇよ。あの赤巫女が睨み利かせてやがるからな。そんなことも分からずやろうとするなんざ、うちのバカ神1号だけで十分だ」

「離しな諏訪子」

「やーめーなーって!」

「もう!神奈子様!いい加減になさってください!」

 

 なんというか、こっちはこっちで大変な……ミディットさんも相変わらず言動は棘っぽいですけど、少しずつここの皆さんのこと信頼されてるんだと思います。最初は本当に、誰も寄せ付けないほどでしたし。多分、相当な過去をもってらっしゃるんでしょうけど……。さて、後来てらっしゃらないのは……っ!!な、なんか寒気が……

 

「あらぁ。もう皆集まっちゃってるじゃなぁ~い。持ち込みの料理作ってたら遅くなっちゃったわ~」

「ふふっ。でも、まだ始まってないようですし、良いじゃないですか」

「ふぅ……やっぱりここまでは中々距離がありますね」

「ご主人様、ちょっと修行が足りないのでは?」

「そうだぞ~。なっさけないな~」

「あ、ぬえちゃ~ん!」

「こっちこっち~!」

「お、フランにこいしか!お前らも来てたんだな」

「あ~らら、行っちゃった。友達と遊ぶ子供だね~あれじゃ」

「いいではないですか。あの子にとって数少ない理解者なんです」

「ワシらよりも、あの子らの方が気が合うじゃろうからのう」

「聖さん、お久しぶりです。うちのこいしがたまにお世話になってるそうで」

「うちのフランもお世話になってるそうね。感謝してるわ」

「さとりさんにレミリアさん。良いんですよ。ぬえと仲良くしてくださってますから」

「そうよぉ~。それに、あの子たちすっごくおいしそうにご飯食べてくれるんですもの。腕の振るいがいがあるわ~」

「プール?あんた何あたしの後ろに隠れてんのよ」

「ちょ、霊夢さん!言わないで!」

「あら~!!プールちゃんじゃないの~!!そ~んなとこにいたのねぇ~」

「ふぃ、フィリーさん、お、お久しぶりです……」

「やぁん!ちゃ~んとフィリーって呼んでくれるなんて、お姉さん嬉しいわぁ~!お返しに、とびっきり美味しいご馳走、期待しててねぇ~」

「は、はい……ありがとうございます」

「ありゃりゃ~。プール君ってば、まーだフィリーちゃんに慣れてないのね~。た~いへん」

「あんたは口より手を動かしなさいよ」

「そんな風に言いながらも手伝ってくれる天子ちゃんマジ天使。名前が天子じゃなくて見た目が今と違って性格も今と違ってたら愛してる」

「それただの別人でしょ。いいからさっさとやるわよ」

「へーい」

「アンスちゃんってば、いっつもあんな調子ね~。でも、あぁいう自由奔放なところもいいわ~」

「結局誰でもいいんじゃねぇか」

「あらぁ、そんなこと無いわよ~?で~も、ミディットちゃんのことは、ちゃ~んと好きだから、安心してね?」

「とりあえずそれ以上近寄るな」

「ざ~んねん。まぁ良いわ。霊夢ちゃん、ちょっとお台所借りてもいいかしら?まだ少しだけ仕上げが残ってるの」

「えぇ。良いわよ。今日も期待してるからね」

「まっかせてん。それじゃプールちゃん、あとでね」

 

 身体中に寒気が走ったけど、なんとか表に出さずに笑顔で見送ることに成功した。うん……フィルさん、悪い人ではない……むしろすごく良い人なんだけど、やっぱり慣れない……気に入ってもらえるのは嬉しいんだけど、距離感って大事だなぁ……。

 

「あら、うちが最後かしら?」

「姫様がいつまでもゲームしてるからですよ」

「良いじゃないの。どうせ早く行ったって手伝わされるだけだもの」

「威張って言うことじゃないような……」

「さってと~、今日は誰にイタズラしよっかな~」

「俺は別に止めんが、永琳にどれだけ怒られようと知らんぞ」

「な~んちゃって~!今日はお酒の席だもんね~。楽しくやらないとな~~!」

「扱いに慣れてきましたね」

「犯人探しをさせられるのはごめんだからな……ただでさえ、今日は仕事しないといけないかもしれないんだ」

「ローディさん。お久しぶりです」

「プールか。お前は元気そうで何よりだな。他の連中も……まぁ大丈夫だろう」

「ローディさんは大丈夫ですか?また顔色が優れませんけど」

「大丈夫かといわれれば大丈夫だが……帰って良いと言われれば帰りたいというくらいにはだるいな」

「あはは……」

「お身体が優れないようでしたら、マッサージなどでも致しましょうか?少しは心得はありますが」

「いやいい。人に身体を触られるのは苦手だ」

「あんたも医者に近いし、能力のためには相手に触る必要もあるのに人に触られるの苦手って、変なもんよね」

「変なのって概念が服着て歩いてるやつが人に変だなんて言ってやがる。珍しいこともあるもんだな」

「あら、竹林から半径100メートルから外に出てるのを見られる方が珍しいくらいの珍獣がいるわ。捕まえて剥製にでもしてやろうかしら」

「引きこもりが剥製作って誰に自慢するんだ?自己満足しかできねぇのに見られねぇ見栄なんて張らなくていいぞ?」

「そこの広場に出なさい。今すぐぶっ殺してやるわ」

「上等だ」

「止めなさいって姫様」

「妹紅もだ。これ以上やると霊夢が怒るぞ」

「仕方ないわね」

「仕方ねぇな」

「おいクソ野郎。能力はどうした」

「仲が悪すぎる相手にはききませ~ん」

「やっぱお前は使えねぇな」

「来て早々酷くない?」

「ビリーさんもお久しぶりです」

「おお、プール君!久しぶりー。どうだい?魔理沙とは進展あったりしたのかい?」

「な、なななな!なんにもないですってば!!というか、ぼ、僕はそういうつもりじゃなくって!!」

「あっははは!可愛い反応だなぁ!」

「ビリーの分際で年下からかって大人ぶってんじゃねぇ」

「いでっ、ちょ、悪かったから、かかとを地味に踏むなって、それいた、いぃっ!!」

「み、ミディットさん!僕なら大丈夫ですから!」

「お前のためじゃねぇ。俺がイライラしたからだ」

「はぁ……頼むから少しくらい静かにしてくれ……」

 

 そこから30秒くらいずっとミディットさんはビリーさんのかかとを踏み続けてましたけど、とりあえず主要メンバーは揃いましたかね?あの人は……妖精の子たちの所にいるだろうから来ないでしょうし。後は紫さんたちの所と、幽々子さんの所ですけど……多分一緒に来られますよね?

 

「霊夢さんや~い。こっちは準備終わりましたよ~っと」

「霊夢ちゃん。こっちの準備もオッケーよ」

「ご苦労様。さて、後は今日の主役が来たら良いわけだけど、紫のやつから連絡が無いのよね。ったく、何やってんだか」

「呼んだかしら?」

「遅いのよアンタは」

「ごめんなさいね。幽々子たちと、近くにいた騒霊の子たちを回収してたのよ」

「はぁ~い。お待たせしちゃったかしら~?」

「すみません。幽々子様が少しだけおなかに入れてからが良いっておっしゃられたので遅くなりました」

「おお~!すっごい人数!こんな中で演奏するのたっのしみ~!」

「うん。これは腕が鳴るね」

「ふふっ、楽しみね~」

「紫様、幽々子様たちだけのせいにしちゃダメですよ。起きたのつい5分前ですのに」

「おや、橙ちゃんもいるのかい?珍しいねぇ」

「あ、お燐さん!藍様、行って来てもいいですか?」

「あぁ、行っておいで。迷惑をかけないようにね」

「はい!お燐さんお久しぶりです。お空さんも」

「久しぶり~!」

「で、こんだけ集めた原因はどこよ」

「そんな言い方しないの。ほら、出てらっしゃい」

「あ、はい」

「あら、今度のはまた随分細いわね」

「はいは~い。今いる皆注目~」

 

 スキマから現れた紫さんとその他大勢を見ている間に、いつの間にかもう一人、見慣れない人がいた。多分、あの人が今回新しく来た人だと思う。なんというか……第一印象はすごく細い?というか、幸が薄そうに見えるというか。そしていつの間にか魔理沙さんが横にいてすっごいビックリしたのは内緒。

 

「今日集まってもらったのは新しい仲間の紹介のためよ。はい、挨拶してちょうだい」

「あぁ……。俺はうた……違った。俺はレイン。レイン・アディース。とりあえず今は紫さんのとことで世話になってる。まぁ、よろしく」

「てなわけで、レインよ。彼も能力持ちで、彼の能力は『感情を制御する程度の能力』。誰か一人の昂ぶってしまった何かの感情を、普通の状態に戻せるって能力よ」

「一応捕捉すると、同時には一人にしか使えない。俺の視界に入ってる相手か俺自身が対象になる。一回使ったら5分は使えない。大体の感情は抑えられるけど、涙を流す感情……感動とか、悲しみとか、そういうのは止められない。うん、そんな感じ」

「それってなんかに使えるわけ?」

「ケンカしそうになってる所を片方だけでも止めたり、嬉しさとかで興奮してる人を止めたり、とか?」

「まぁ、便利っちゃあ便利ね」

「無理にフォローしなくてもいい。元々こんな力持ってなかったから、いざって時に使えるかわかんないし」

「ん?そうなのか?今までのやつらって大体元々変な能力持ってたんだぜ?」

「へ、変なって……」

「俺は、ちょっと特殊だったからかな。本当なら死んでたはずだし」

「ちょ、それどういうことよ!」

「本当ならっていうか、実際死んだはずなんだ。でも、死んだはずの世界で、永遠に苦しんでる状態が続いてた。そしたらなんか声が聞こえてさ。前の世界と違う世界になる。それでもここから助かりたいか?って、少し悩んだけど、俺はこっちを選んだ」

「それが、紫だったってわけ?」

「いや、違う。間違いなく声が男の声だった。紫さんにも聞いたけど、それは知らないと言われた」

「そうなの?」

「えぇ。私が見たのは彼が今にも死にそうな状態で倒れ伏してる所から。普通なら放っておいた所だけど、面白そうな力を持ってたから、つい連れてきちゃった」

「あんたねぇ……まぁいいわ。あんたも大変だったみたいだし、命拾ったんなら喜んどきなさい」

「うん。十分喜んでるよ」

 

 レインさん……一度死んでから蘇るなんて、普通だと有り得ないけど……この世界だと、そういう力もあるのかな……?でも、霊夢さんのあの驚き様からしたら、多分無い、よね。もしかして、まだ僕達の知らない何か、誰かがいるとか?でも、だとしたら何を考えて……

 

「……ル。おい、プール!」

「え?ま、魔理沙さ、っ!!か、顔!顔が近いです!」

「お前が返事しないからだっての。ほら、他のやつらも集まってんだ。外から来たもん同士、挨拶でもしときな」

「あ、は、はい!」

「ったく。まーた辛気臭い顔しやがって……」

「あんたも大変ね」

「そのとーりなんだぜー」

 

~Side Out~

 



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記憶の先のあの人へ~鍵を握るは異形の少女~

 

~さとり Side~

 

「俺はアンス。よっろしく~」

「ミディットだ」

「フィルよ。良かったらフィリーちゃんって呼んでちょうだいね」

「初めまして。ルドアと申します。以後お見知りおきを」

「ローディだ。まぁ、よろしく頼む」

「俺はビドリーズ!なげぇからビリーって呼んでくれ」

「僕はプールって言います。よろしくお願いします。レインさん」

「この子達皆、貴方と同じく別の世界から来た子達よ。まぁ、ほとんどバラバラの世界からなんだけどね」

「あぁ、そういう……えっと、改めてレインだ。よろしく」

「そうそう!そういえばさっきさ、名前言う時になんか一瞬止まってたじゃん?あれってなんだったんだ?」

「ん~……別に隠すほどでもないけど、言うほどでも無いし……」

「なるほどね。元の名前が雨滝 涼で、間違えてそれを良いかけたと」

「っ!?ど、どうして!?」

「アンスさんの能力ですよ。この人の能力は、答えを知る程度の能力。簡単に言えば、誰かに質問したら、その人が答えなくてもその答えを知ることが出来るって感じです」

「説明ありがとプールちゃん。そんなわけだから、俺が君に、根掘り葉掘りいろいろ聞いちゃったら、君はあっという間に丸裸というわけだ」

「会って早々くだらねぇことやってんじゃねぇ。顔合わせも終わったし俺は飲むぞ」

「おいおい、つれないこと言うなよな~ミディット。あ、俺とミディットは同じ世界から来てて、こっちに来る前から仲良しなんだよ」

「仲良しにまでなったつもりはない。さっさとその手を離せクソ野郎」

「いだだだ!ゆ、指をつねるな!!」

「えっと……あれは放っておいていいの?」

「気にするな。いつものことだ。俺は今はこの世界の医者の所に住まわせてもらっている。何かあれば訪ねて来るといい。まぁ、出来ることなら平穏でありたいのだがな」

「私はレミリアお嬢様……あちらの蝙蝠の羽を生やした女性のお屋敷、紅魔館で執事として住まわせていただいています。いつでもお越しください。歓迎しますよ」

「紫さんに聞いてたけど、この世界は元の世界では有り得ないと思ったものが当たり前にある……あいつらが見たらなんて言うだろ……」

「元の世界が恋しいか?」

「……少し。でも、俺はもうあの世界では死んだ人間。だったら、ここでこれからの事を考えるよ」

「大切な人が、いたんですね」

「うん。本当になんとなく……だけど、プール君に似てる」

「ぼ、僕に、ですか?」

「見た目とかじゃなくてね、なんというか……放っておけない、世話をしてあげたいっていう雰囲気、かな?」

「分かるわぁ~ん。プールちゃんって本当に守ってあげたくなっちゃうくらい可愛いのよね~」

「あ、あはは……」

 

 どうやら、皆さん仲良く話せてらっしゃるみたいですね。ここ1年間でたくさん増えた外からの人たちですが、皆さん思い思いの物を胸に秘めておられます。レインさんにも、早く気の置ける人が見つかると良いんですがね。おや?アンスさんが私に用事?

 

「どうされましたか?アンスさん」

「?アンス、この人を呼んだのか?でも、何も言ってなかったし、目線とかも全然……」

「ふふっ、私の能力は、心を読む程度の能力なんです。アンスさんが、心の中で私を呼んでらっしゃったんですよ。レインさん」

「……なんというか、本当にとんでもない人ばかりだ」

「私は人じゃなくて、妖怪なんですけどね。さとり妖怪という心を読む一族です。私の名前は古明地さとりです。よろしくお願いしますね」

「妖怪……まぁでもあの辺の神話生物よりは全然普通か」

「ところで、アンスさんは何の用事でしたか?」

「そうそう。こないだ言ってた記憶の事、ローディもいるからちょうどいいし、どうかなって思ってさ」

「そのこと、でしたか……」

 

 天子さんと仲良くなった時の記憶……。私の中で曖昧になっている記憶。そして、何か大切なものが、ポッカリと抜けてしまったような記憶……。知れることなら知りたい。だけど……

 

「ローディさんにも、ご迷惑でしょう?」

「俺の事は気にするな。元より今日は能力を使っても良いようにこの三日間は能力を使ってない。やると言うのなら、酔いが回って判断の鈍る今の間に頼む」

「ローディさんが酔ってるとこ、見たことないような……」

「ある程度自制しているだけだ、酔う時は酔う。それで、どうするんだ?」

「わ、私は……」

 

 ローディさんはこうおっしゃってくれてる。後は、私の気持ち次第……。でも、やっぱり知るのが怖いっていう気持ちもある。忘れてしまったというなら、忘れるほどの何か……それか、忘れてしまいたいような何かがあったのかもしれない。私は……。

 

「さとり」

「て、天子さん!」

「別に無理しなくて良いのよ。前にも言ったけど、あたしとあんたが友達だっていう事に嘘は無いんですもの。私は、それで十分だと思ってる」

「……」

「勿論、分かるのならそれに越したことも無いはずよ。でも、あんたがそこまで悩むほどなら、今じゃなくったって良いじゃない」

「はい……」

「……はぁ……。ローディ、あたしからもお願いするわ」

「天子さん?」

「この1年間、どれだけ長くあんたといたと思ってるのよ。顔を見たら分かるわよ」

「……っふふ。そうですね」

「決まったみたいだな。先に言っておくが、必ず全てが分かるわけじゃない。記憶に何者かの介入があった場合、その介入があったという事実しか分からない。それでもいいな?」

「はい。お願いします」

「分かった。そこに座ってくれ。頭を触るが、大丈夫だな?」

「はい」

 

 椅子に座った私の後ろから、ローディさんがそっと頭に手を乗せる。周りでは、アンスさんと天子さんが心配そうに見てくれてます。心を読むのも必要ないくらいに……それだけ私のことを大事に思ってくれる二人だからこそ。私のためにと動いてくれたアンスさんの気持ちを裏切りたくない。私のためにと話してくれた天子さんのこと、もっと大切に思いたい。だから、私は……。

 

「……っふぅ……」

「ど、どうだったんだ!?」

「残念ながら、予想的中だな」

「っていうことは」

「あぁ、さとりの……いや、きっとこの場にいるこの世界の住人達全員の記憶は、何者かに書き換えられている」

「そう、でしたか」

「となるとこれってかなりの大事よね。紫や霊夢に言っといた方がいいかしら?」

「そうだな。既に終わったことではあるだろうが、知っておいてもらって損はないだろう」

「なら、早速」

「それには及ばないわ。ちゃんと聞いてましたもの」

「わーお。ゆかりんってばお空から聞き耳なんておっしゃれ~」

「ありがと。それで、その記憶に関してだけど、私もされてるっていうのなら間違いなく私以上の力を持っているはずだけど、そんな痕跡も残ってないんですもの。無害な物、と思えないかしら?」

「それはまぁ……そうよね」

「これ以上詮索したって答えは分からないんだし、もうそっとしておいたらどうかしら?」

「そうですね。仕方ない、ですね」

 

 紫さんの言う通り、こんな大規模な事をやってのけるくらいの何者かがいたとしたら、それこそもっと大きな変化が起きているはずなのに、それらしい事は何もないですし。だったら、この何者かは、私達に対して悪意の無い存在だったと思うのが良さそうですね。

 

「さぁ、この話は終わりにして皆も飲みなさい。せっかくの宴会なんですもの」

「あぁ、そうさせてもらう」

「ローディさん、ありがとうございました」

「あんがとな~ローディ、やっぱ持つべきものは友達だよ。美しきかな……」

「あんたはほんとに一言多いのよバカ」

「一言で済むなら良くない?」

「余計なことは言わなくていいって言ってんのよ」

「痴話ケンカなら他所でやってくれ……」

「そんなんじゃ無いわよ!」

「いやぁ~照れちゃうな~」

「あ~~ん~~た~~は~~……」

「あ、これやっば~い。さとりさん、また後で~」

「待ちなさいこのバカ!!」

「ちょっ!剣振り回すのは無しだって!周りが危ないから!」

「あんたが潔く斬られれば問題ないのよ!」

「ふふっ。ケンカするほど、ですかね?」

「だと良いんだがな。さて、俺も別の所を回るとしよう」

「はい。それではまた」

「あぁ」

 

 ローディさんと分かれて数分。今はまた地底の皆のところに戻りましたが、こいしはフランさん、ぬえさんと一緒に遊んでて、お燐とお空は橙さんと話してますね。一緒に飲んでいた天狗のお二人がダウンしたのか、勇儀は萃香さんとゆっくり飲んでますので、私はパルスィと最近のことを話しています。キスメやヤマメも来たら良かったのになぁ……。

 

「ほんっとに。勇儀には付き合いきれないっての」

「でも、そんな風に言いながらも仲良しじゃないですか?」

「べ、別に仲良しなんかじゃないわよ!」

「ふふっ。そういうことにしておきますね」

「なんか最近あんたあいつに似てきたわね」

「自分でも少しそんな気がしてます。良いことかどうかは別として、ですが」

「周りからしたら全く良くないわよ」

「えぇ~ひっどい言い方しないでよ~パルスィちゃ~ん。アンスさん泣いちゃうよ~?」

「黙って隅で泣いてなさい」

「まぁ酷い!あなたをそんな子に育てた覚えはありませんよ!?」

「あんたに育てられた覚えがないわよ!」

「天子さんはどうしたんですか?」

「暴れすぎたから白蓮さんにお説教されてる」

「あらあら」

「とんだとばっちりね」

「こいしちゃん達も怒られてたっけ」

「ちょっと行ってきますね」

「過保護か!止めなさいってみっともない!」

「冗談ですよ。悪いことをしたら叱られる。当然です」

「一瞬目がマジだったわよ」

 

 冗談だからこそ全力でやるのが良いんですから。周りを見回してみると、プールさんは相変わらず魔理沙さんに飲まされそうになるのを必死で断ってますね。プールさんの世界だとまだ未成年としてお酒が飲めない年齢なんだとか。ミディットさんはビリーさんや守矢神社の皆さんと飲んでらっしゃいます。時折神奈子さんの喧騒が聞こえますが、多分大丈夫です……よね?ローディさんはさっきの疲れを癒すべく椅子に座って休んでらっしゃいます。一応永琳さんにも診ていただいてたみたいですけど、能力の反動はやはり大変なんでしょうね……。主役のレインさんはいろんな箇所に挨拶周りをしていて、今は紅魔館の皆さんの所にいらっしゃいますね。ルドアさんのような冷静な方と波長が合うのか、先ほどまでよりは少し楽しそうに談笑してるのが見受けられます。多分、アンスさんとは相性が悪いでしょうね。

 

「さってと~ようやくゆっくり酒が飲めるってもんだ」

「あんたはあんまり飲みすぎるんじゃないわよ」

「良いじゃん良いじゃんたまの宴会くらいでさ~」

「そんなこと言いながら前々回の宴会で面倒なことしてくれたのはどこのどいつよ!」

「アンスさん、私からもあまり飲みすぎ無いようにとだけ」

「さとりさんまで~。俺だってその時ので少しは反省してますから。大丈夫ですってば」

「ビックリするほど信用できないわね」

「でも本心から言ってるんですよね、これ」

 

 まぁ、当人が気をつけると言ってる以上はこちらはもう止めることな出来ないですし、信じるしかありませんね。出来ることなら、穏便に終わってくれればいいのですが……。

 

 そんな風に思っていた頃から今は1時間が経過し、先ほどの私の願いは儚く打ち砕かれていました。

 

「あっははははは!いや~気分さいっこう!!」

「おうおう!いいぞいいぞ!もっと飲め飲め~!」

「お~い!こっちに酒足りてないよ~!」

「だから言ったのに」

「あんのバカ……」

「ねぇレイン。あんたの能力であいつのあれなんとか出来ない?」

「試してはみた……けど、ダメみたい。意識が半分飛んでるような状況だから、うまく能力が働かないみたいだ。役に立てなくてごめん」

「別に良いわよ。出来ればくらいにしか思ってないし、今の所鬼2匹と飲みまくってるだけだから実害は無いんだもの」

「パルスィ。そういうのは口にすると……」

「おっしゃ~!今ここにいるやつ全員ちゅ~も~~く!!」

「ほら」

「わ、私のせいじゃないわよ!」

 

 パルスィが何か言っていますが今はそれよりもアンスさんですね。見ての通り、彼は酔っ払うと性格がさらにひょうきんになります。というより、テンションがおかしくなる。とでも言いましょうか。とにかく今みたく何か突拍子もないことをやろうとしかねないので、飲みすぎないようには見ていたつもりなんですがね……。さて、今度は何をしようと……。あぁ~、これならまぁ、いいですかね。

 

「お?なんだなんだ?」

「うるせぇぞ。少しは静かに飲ませろ」

「あ~。アンスまた酔っ払ってる~」

「ったく、これで片付け要員はさらに減ったわね」

「へっへっへ~。こんだけ人数がいりゃ、質問のしがいがあるってもんだ」

「今回はなんなんですか?」

「今あなたは~!恋愛感情を抱いている異性がいますか~~!?」

「「「っ!!」」」

「ちょっ!あんた!!」

「んんん~~~~??ほうほうほう。これはこれは。面白い結果が出たな~~」

「あんた、それ以上は言わない方が身のためかもしれないわよ?」

「平気平気!いや~~まさかこの中に、そういう感情を持ってるやつが何人もいるなんてな~~~!!」

「なんだいなんだい恋バナかい?良いじゃないか!酒の肴に聞かせておくれよ」

「まぁまぁそう慌てなさんなって。さ~て、誰から聞いていこうかな~っと」

「こ~ら。ダメよ~?アンスちゃん。そういうのデリカシーがない男の子は嫌われちゃうわよ~?」

「ま、あんまり分かりやすい所を聞いたって仕方ないものな。それよか、すっごく意外な人がYESって答えてビックリしちゃったぜ。なぁ、萃香さん?」

「っ!」

「お?そうなのか?萃香!なんだよ水くせぇな~!ほら、アタシに話してみろって」

 

 驚きましたね……。この質問をすることは分かってましたけど、まさかあの萃香さんに想い人がいらっしゃったなんて。でも、何故でしょうか……いつもならそれで想い人のこと考えるから私にも心が読めるはずなのに、何故か読めない……。それに、萃香さんの今の感情。羞恥や驚愕ならまだしも、一番大きいのが、焦り……この気持ちを知られたくないというのならその中に羞恥も大きく入るはずですが、これはそういうのじゃなくて、もっと別な……。この事を、どうしても知られるわけにはいかないというくらいの……。

 

「べ、別にあたしにそういう相手がいたって構わないだろう。ほら、みせもんじゃないよ!それ以上勘繰るのはやめな!それともケンカの相手でもしてくれんのかい!?」

「おっとと。それは簡便。鬼と戦って無事なわけないんだから。でもさ~、やっぱり気になっちゃうじゃん?その相手の名前って、ぐがっ!?」

「聞こえなかったかい?勘繰るのをやめなって言ってんだ」

「おいおい萃香よ~。何もぶっ叩いてやるこたぁねぇだろうに。あご外れちまったんじゃねぇか?」

「それくらいがいいお灸だよ。ったく、お陰で酔いがさめちまった。飲みなおしだ」

「お?アタシも付き合うよ。実は地底でこないだ出たいい酒が入ってな」

「良いじゃないか!そういうのを待ってたんだよ!」

「あんたもバカねぇ。鬼相手に何やってんのよ」

「あががが……んぎっ!っと。ふぃ~いてて……ほんとに半分外れちゃってたじゃんかよ。萃香ちゃんめ~」

「どう考えてもアンタが悪いでしょうが」

「アンスさん。なんでそんな無茶なことをされたんですか?」

「ん~?まぁ興味本位ってのが一番かな」

「そんなに萃香のことが気になるわけ?」

「ま、気になると言えば気になるけど、萃香ちゃんが、というよりも、そのお相手がね」

「何か心当たりでもあるんですか?」

「いや、俺が見聞きした限りではそういう相手は見てないし知らない。さっきの萃香ちゃんの名前挙げた時のよく知ってるであろうメンバーの顔を見ても、驚いてるやつらばっかりだった」

「じゃあなんで……」

「だからこそ、だよ」

「「え?」」

 

 だからこそ……そう言われて少しハッとする。確かに、あの萃香さんにそういう相手がいるというのは聞いたことも無かった。それも、よく知ってる人ですら知らないであろう相手。そして萃香さんのあの様子から考えられる答えは……。

 

「さとりさんはもう分かると思うけど、萃香は、何かを隠してる」

「そう、判断するしかありませんね」

「ちょ、どういうことなのよ!説明しなさいって!」

「わーってるよ。さっきも言ったとおり、萃香の周りでそういう相手の話は聞かない。なのに、俺の質問にはいると答えたわけだ」

「そ、それが何なのよ」

「それともう一つの情報。ずっと前にさとりさんから聞いたんだが、萃香の心を読もうとすると、何故か定期的にもやというか、読めない部分が出てくるそうだ」

「それは私も聞いた。でもそれとこれと、なんの関係があんのよ」

「こう考えられないか?『皆の知っていた誰かの事を、今でも覚えていて、その人物のことが好きである』って」

「知っていた……って、もしかして!」

「あぁ、俺はそうじゃないかと思ってる」

「私も同じ考えですね。思えば初めて萃香さんの思考にもやが入ったのも、ちょうど1年前の頃……私達の記憶が何者かに改竄された頃でした」

「多分、さとりさんや地底の皆と、天子が仲良くなれたきっかけも、今こうしていろんな力を持った人間が集まってるのも、彼女は全部の答えを知ってると思う。だけど、それを話そうとはしない」

「隠してるのにも、事情があるってことね。ったく、なんでここの連中はめんどくさいこととかを全部背負い込もうとするのよ」

「皆、優しいからですよ。天子さんみたいに」

「な、なんでそこで急にあたしの名前が出てくんのよ!」

「さぁ?なんででしょうね~」

「ちょっと!アンタのせいでさとりまでこんなんになっちゃったじゃないの!どうしてくれんのよ!」

「酷い責任転嫁を見た。これは酷い」

「どう考えたってアンタのせいでしょうが!」

「怒るな怒るな小さきものよ。カルシウムが足りておらんぞ。ほれ牛乳」

「いらないわよ!」

 

 ふふっ。気付けばまたいつも通り、ですね。真剣な話で場が重くなっても、すぐにそれを和ませてくれる。アンスさんにはそういう才能があるんですよね。本当に助かります。

 

 それにしても、もしアンスさんの考えが本当なんだとしたら、その人はまだ生きている可能性が高い……。そして、その人のお陰で、今の私達地底の者と、天子さんの仲があるんだとしたら、私は、やっぱりどうしても、その人のことが知りたい……。なんとかして思い出したい……きっと、誰よりも優しいであろうその人の事を。

 

~Side Out~



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鏡よ鏡、映るものはなぁに?~異変は唐突に~

 

~大妖精 Side~

 

「ねぇねぇミルラ~。今日こそ能力見せてよ~!」

「だからダメなんだって。紫さんに使うなって言われてるんだから」

「いいじゃんか~!ケチ~!」

「ち、チルノちゃん。わがまま言っちゃだめだよ……」

「でもさ、他の人たちは皆使ってるんでしょ?」

「実は本当は能力なんて持ってなかったりして」

「そうなのかー?」

「ちゃんと持ってるよ。こっちに来る前は何回も使ってたし」

「じゃあ見せてくれても良いじゃん!」

「だから紫さんが……はぁ、このやり取り何回目だ?」

「ごめんなさい……」

「いや、大ちゃんは悪くないよ」

 

 今はいつもの皆と、最近外から幻想郷に来られたというミルラさんと、リグルちゃんの家の横で遊んでます。ただ、弾幕ゴッコにも飽きたのか、最近はずっとミルラさんの能力を見せてとせがんでばかりです。ミルラさんが言うには、紫さんから能力を使わないように言われてるみたいなんですけど、どうしてなんでしょう?チルノちゃんをはじめ、リグルちゃんやミスティアさん、ルーミアちゃんも、あの手この手で使わせようとしてます。実は、私も少しだけ気になってたり……。

 

「俺だって気に入ってた能力だったのに、急に使っちゃダメって言われて悲しいんだよ。あの人の能力だと、ばれずに~なんて出来ないしな」

「ん~!」

「一瞬だけ~とかも出来ないの?」

「紫さんがなんで使うなって言ってるのかも分かんないしな」

「そうなのかー」

「『鏡の中に入る程度の能力』だもんね。何かあるのかな?」

「イタズラされたら困るから……とか?」

「大ちゃん、俺のことチルノや皆と同じくらいに思ってない?」

「そ、そんなこと無いです!!」

「む~!見たい見たい見た~~い!」

「なんとか出来ないかな……」

 

 ミルラさんの能力は、さっきリグルちゃんが言ってた通り、『鏡の中に入る程度の能力』。言葉通りの意味ですけど、具体的にはミルラさん本人が鏡の中に入れて、鏡の中は現実の世界の本当に反対になるみたいです。動いてる人も現実の世界に合わせて動くけど、ミルラさんが鏡の中で何かをしたら、現実の世界にも影響が出るんだそうです。例えば、お花を抜いたら現実の同じ花が抜けたり、誰かの突いたら、その人が何もないのに突かれたように感じたりするって。それで、出る時はまたどこかの鏡に入れば、現実の世界に出られるんだそうです。

 ただ、使うのにもいくつか覚えておかないといけないことがあるみたいで、要点だけ教えてもらいました。①ガラスとかの『鏡みたいに姿が映るもの』じゃなくて『鏡』じゃないと行き来できない。②鏡の中でも人や物に触れるから、事故とかに巻き込まれると大変。③鏡の大きさは自分の身体が通れるくらいじゃないとダメ。この3つが大事らしいです。人が通れる大きさの鏡だと、姿見くらいじゃないと難しいかな……。

 

「紫さんにかけあってみるか?」

「多分無理じゃないかな?あの人一度言ったら聞かないだろうし」

「そうなのかー」

「そうだ!ばれなかったらいいんでしょ?」

「何か思いついたのか?」

「ふっふ~ん。ここにいるルーミアの能力を使えば、ばれないんじゃない?」

「そっか!周りを真っ暗にしちゃえば使ったのかどうかなんて見えないもんね!」

「で、でも、この話も聞かれちゃってたら意味無いんじゃ……」

「だーいじょうぶ!ミルラが『結局やりませんでしたー』って言えばいいんだから!」

「まぁ見えないんならやったかどうかは分からないしな……」

「大丈夫なんですか……?」

「なんでダメなのか分かんないし、教えなかった方が悪いんだよ」

「そうなのかー?」

「そうと決まれば、リグル、鏡貸してもらっていい?」

「うん。いいよ。持って来るねー」

「まぁ……少しくらい、いいよな?」

 

 リグルちゃんが鏡を持ってきて、いよいよミルラさんが能力を使うみたいです。ルーミアちゃんが能力で周りを暗くして、全員がミルラさんと鏡の周りに集まります。でも、なんでだろう……すごく嫌な予感……胸騒ぎがする……。

 

「ね、ねぇミルラさん、やっぱり……」

「ねぇねぇ!早く使ってよ~!」

「鏡の中に入ったら、皆の肩を一回ずつ叩くんだよね」

「どんな感じになるのかな~」

「楽しみなのだー」

「大ちゃん、心配してくれてありがとう。でも、何回もやってるんだし、死ぬわけじゃないから大丈夫だよ」

「は、はい……」

 

 ミルラさんは、そう言って微笑んで、鏡に手を当てると、その手はそのまま鏡の中に吸い込まれて、ドンドンと鏡の中に入っていきます。そして、あっという間に鏡の中に全身が入ってしまいました。鏡の中のミルラさんはこっちに向かって手を振ってから、鏡の中にいる私の肩をトンと叩きます。

 

「ヒャッ!」

「だ、大ちゃん!?」

「ほ、本当に触った感触あったの?」

「は、はい。ビックリしちゃいました」

「すごいのだー!」

「ねぇねぇミルラ!次あたいー!」

「その次ボクね!」

「あ、ずるい!」

 

 皆が私も私もと言って、ミルラさんも順番に肩を叩いていきます。その度に皆で大騒ぎして、すっごく楽しくって。でも良かった……何もなくて……あれ?鏡の中の私達の後ろに誰か……。

 

「誰……?え?」

「ん?どうしたの?大ちゃん」

「鏡の中にいる私達の後ろに誰かいたんだけど、後ろに誰もいなくって……」

「え?どこ?」

「あれ……?いない……」

「ミルラに聞いてみればわかるんじゃない?」

「そうだね。あれ?ミルラは?」

「え?」

「どこなのだー?」

「おーい!ミルラー!」

 

 さっき鏡の中で見た人も、ミルラさんの姿も、どこにも見当たりません。どこか違う鏡から出たのかとも思いましたけど、そんなイタズラする人じゃないですし……。それに、さっき映ってた人……顔は凄く笑顔だったのに、なんだろう……ものすごく……怖かった。あんなに冷たい笑顔、見たこと無い……。

 

~Side Out~

 

 

~紫 Side~ ※10分前

 

「はぁ~、暇ねぇ~」

「紫様、だらしないですよ。最近そうやってだらけてばっかりじゃないですか」

「良いじゃないの~。どうせやることだって無いんだから~」

「そんなこと無いですよ。ほら、また外の世界の能力持ちの人間の資料、届いてますよ」

「もう?ほ~んと、彼ってば仕事が早いのね~」

「紫様も少しは見習ってください」

「いいのよ私は、このくらいがちょうどいいんだから」

「いい加減にしないと、橙にも笑われちゃいますよ?」

「あの子はそんな子じゃありませ~ん」

「ほんとに……あぁ言えばこう言うんですから……」

 

 もう。藍ってばうるさいんだから。私の式ならそれらしく敬いなさいよね。それにしても、彼の仕事っぷりにも惚れ惚れするというか、頭が下がるというか。いつ休んでるのかしら?ちなみに、彼のことは藍には話してある。流石にずっと一緒にいるのに説明しないわけにもいかないものね。知ってるのは今の所私と藍、萃香と、映姫の4人。あいつは自分が他の閻魔に連絡を入れた記録を残してて、そこから浄玻璃の鏡を使って確認したみたいね。しっかり私にまで聞きにきたし。ほんと、閻魔様だけあってなんでもハッキリさせなきゃ気がすまないんだから。

 

「それに、私はこっちの世界に来た子達を管理するっていう仕事だってあるんだから」

「それならその仕事くらいちゃんとやってくださいよ」

「後5分したらね~」

「そう言いながらカップ麺作ろうとしないでください。まーた外の世界から持って来たんですね?」

「いいじゃない。一個くらいばれないわよ」

「ばれるばれないじゃないですから」

「もう、ケチ~」

「いい年して膨れっ面とかしないでくださいよ」

「ら~ん~?」

「あ、いや。今のは言葉のあやというか……って、そんなんじゃ誤魔化されませんからね!」

「ちぇっ、ばれたか」

 

 いつからこの子はこんな生真面目な性格になっちゃったのかしら……最初の頃は、紫様~って犬みたいに懐いてたのに……。まぁいいわ、そろそろどこか見ておこうと思ってた所だし。えっと手始めにプールのところでも……え?

 

「っ!?」

「ゆ、紫様?」

「藍!急いでここを出るわよ!」

「な、何を……」

「残念ながら、もう遅いな」

「がっ……!」

「藍!」

「手荒な真似はしたくなかったが、何分まだ余裕が無くてね。まずは、二番目に厄介なお前から止めに来たってわけだ」

「その姿、声……ミルラったら能力を使ったのね!」

「お陰で俺はこうしていられる。感謝しているよ」

「何をするつもりか知らないけど、私がそう安々と好きにさせると思うかしら?それに、彼だっているんだもの」

「勿論、1番厄介なあいつは、真っ先に対策を打ったさ。そして、お前にもな」

 

 これは……かなりヤバイわね。この事態が起きないように使わないように言っておいたのに。せめてここで、刺し違えてでも止めないと……幻想郷は、今度こそ崩壊する。

 

「いいわ。たまには全力で戦うのも、悪くないわね」

「お相手しようとしてくれるのは嬉しいが、残念ながら先約があってね、お前の相手は、こちらのレディがしてくれるようだ。衣装が少し被ってしまったが、ちょうどいいお相手だろう?」

「まぁ、そう来るわよね。待ってなさい。こいつを倒したら、すぐにでも貴方を止めてさしあげるわ」

「あぁ、是非とも頑張ってくれ。俺を楽しませるために、な」

 

 消えた……。多分、どちらかに向かったんだと思うけど、性格を考えれば多分妖怪側……。時間をかけてる余裕は無いわね。邪魔はしないでもらおうかしら?鏡の中の『私』!

 

~Side Out~

 

 

~魔理沙 Side~

 

「ん~~~……っと。ようやくひと段落なんだぜ」

 

 机の上に散乱してるいろんな道具はひとまず置いといて、部屋の端にあるベッドに思いっきり飛び込む。やっぱり自分のベッドは最高なんだぜ。あの宴から一週間経ったけど、やっぱり最近はなんにもなくて暇な毎日だし、プールはプールで鍛えるとかなんとか言って、森の中をランニングしたり、門番のとこ行って稽古つけてもらったりしてるし。……なんか思い出したらイライラしてきた。

 

「よし、なんかあいつに嫌がらせする用の道具でも作るか」

 

 思い立ったが吉日ってな。早速棚やら机の上から必要なものを出して……

 

「ってうぉっ!?」

「何してるんですか、魔理沙さん」

「ぷ、プール!いつの間に入って来たんだよ!っていうか、ノックくらいしろって」

「しましたって。魔理沙さんが気付いてなかっただけですよ」

「気付かなかったらノックした内に入らないんだぜ」

「ほんとにもう」

 

 あぁ~ビックリした。ほんといつの間に入ってたんだよ。扉が開いた音すらしなかったぞ?まぁいいや、プールも帰って来たことだし、そろそろ飯にするかな。どうせこいつの事だからもう飯が出来たって呼びに来たんだろうし。

 

「なぁプール、飯は……えっ?」

「……」

「な、何してんだ?プール。急に押し倒したりなんかして」

「魔理沙さん」

「な、なんだよ……じょ、冗談にしたって、げ、限度ってもんがあるぞ?」

「……」

「お、おい!」

 

「魔理沙さ~ん。ただいま帰りました~」

 

 プールの声が聞こえた。『下の階から』

 

「おう、プール。帰ってきたんだな。もう腹ペコなんだぜ」

「帰ってすぐそれですか?ほんとにもう」

 

 『私』とプールの会話が聞こえる。目の前にいるプールは口を開いてない。となるとこれは……。

 

「おー……っ!」

 

「ん?魔理沙さん、今何か上から声がしませんでした?」

「あぁ、音を記録して再生する道具をこーりんのとこから借りてきたんだぜ。あれが結構面白くてな」

「なるほど。僕も後で見ていいですか?」

「おう!」

 

「むぐ!むーー!」

「静かにしてくださいね?魔理沙さん?」

 

 口元を手で押さえられて、馬乗りになった『プールみたいなやつ』が笑う。さっきまでのにこやかな笑顔なのに、何故か分からないけど、一気に恐怖がこみ上げてくる。くそっ!こうなったらマスパで……。

 

「お、おい!プール!どこに……」

「勿論!本物の魔理沙さんの所ですよ!」

「ちっ、待て!」

 

 声と一緒にドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえる。そしてほんの数秒後、今目の前にいる顔とソックリの、本物のプールが姿を見せた。

 

「魔理沙さん!」

「失敗か、あいつは何をやってやがった」

「魔理沙さんから……どけぇぇぇ!!」

「ぐっ!」

 

 突然口元を抑えていた手が離れ、そのまま乗っていた身体も私から離れていく。どうやらプールが能力で引き寄せたみたいなんだぜ。でもこれでようやく動ける。こうなったら反撃で……。

 

「魔理沙さん!まずは逃げますよ!」

「ちょっ!プール!こいつらのこと……」

「それは後です!ここで戦うのは不利ですから!」

「あっ!お、おい!」

 

 反撃に出ようとした矢先に、プールに手を引っ張られて窓から飛び出す。プールが箒を一緒に持ってきてたからなんとか飛び乗れたけど、無茶しすぎなんだぜ。それにしても……。

 

「あいつらは一体なんなんだぜ?」

「僕も詳しくは分かりません。ただ」

「ただ?」

「その秘密はきっと、ミルラさんが知ってます。ひとまず、博麗神社に行きましょう」

「ミルラって……まぁいいや。思いっきり飛ばすぞ!」

「はい!」

 

 そのまま猛スピードで森の上を突っ切る。後ろから追いかけてくる気配は無いけど、やっぱり気味が悪いんだぜ……。それにしても、ミルラってどいつだっけか?

 

~Side Out~

 



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