数の暴力で神殺し (十六夜やと)
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そして物語は動き出す

この作品には以下の内容が含まれております。

・昔の作者の妄想から生まれた作品
・痛々しいまでの中二病表現
・拙い文章力
・リソースは原作とwiki
・絶対コイツは何も考えてない(確信)

以上の要素が苦手な方はブラウザバックすることをお勧めします。
それでもよろしければ、ゆっくり楽しんで逝ってくださいm(__)m


【二十一世紀初頭、新たなカンピオーネとして確認された日本人についての報告書より抜粋】

 

 

 北欧神話において神フレイヤは様々な属性を有する神です。

 北欧神話における女神の1柱。ヴァン神族出身で、ニョルズの娘、フレイの双子の妹とされ、『ヴァンたちの女神』を意味するヴァナディースとも呼ばれます。生と死、愛情と戦い、豊饒とセイズを司り、美の神としてギリシャ神話のアフロディーテと同一視される神であり、オーディンやニョルズとは対概念的な存在として崇拝されました。

 その役割の一つとして、死者を迎える女神としての一面を持ちます。

 『古エッダ』や『ギュルヴィたぶらかし』では、戦場で死んだ勇敢な戦士を彼女が選び取り、オーディンと分け合うという記述があります。

 櫻木桜華(さくらぎおうか)は、この豊饒の神を殺害し、カンピオーネとなった少年であると推測されます。

 

 

 

 

 

 

 

【グリニッジの賢人議会により作成された、櫻木桜華についての調査書より抜粋】

 

 

 前述した通り、櫻木桜華の所有する権能には不可解な点が多い。

 現段階で賢人議会で把握されている権能は、フレイヤより簒奪した、数百のワルキューレを召喚する『黄昏の主(load of Valkyrie)』。時間の神クロノスより簒奪した、周囲の時間を止める『時間神殿(Chronus)』二つである。

 しかし、彼の所有する権能は、我々でも把握していないものが存在すると推測する。

 彼の権能を全て把握しているのが欧州の狼王だけであり、彼の御仁と敵対以外の関係を築いていることから、彼のカンピオーネとしての能力はヴォバン侯爵と盟友に値する実力を持つとされている。

 尚、櫻木桜華は当時も今も魔術/呪術の知識を持たない。これは魔術師とカンピオーネが異なる存在であることの証明にも──

 

 

 

 

 

 

 

【正史編纂委員会より作成された、櫻木桜華に関する資料】

 

 

 彼が所有する権能の第一権能とされている『黄昏の主(load of Valkyrie)』は、他の王が持つ第一権能と比較し、応用の効かない権能とされています。

 

 神フレイヤが死者となる英雄をワルキューレに運ばせる逸話が由来とされる権能は、自身の配下たる戦乙女を使役する能力を持っております。数百のワルキューレそれぞれに独自の意思を持ち、まつろわぬ神や他の王を殺傷しゆる武具を所持することで、後のまつろわぬ神を殺害したとされています。彼の権能はワルキューレの限定的な召喚が可能で、王の伝令役としての側面を持つと推測されます。 

 

 そして、櫻木桜華は他の王とは違い、まつろわぬ神以外への周囲の破壊を行わない王です。彼の第二の権能『時間神殿(Chronus)』の特性ゆえの副産物だとは考えられますが、彼の性格上温厚で友好的な王であることは、カンピオーネの中で唯一誰とも敵対しないカンピオーネという事実から明確なものであるとされています。しかし、忘れてはならない。彼もまた神を殺害した王であることを。まつろわぬ神を数の暴力を以て弑逆する姿は、冷徹かつ知的な将を彷彿とされ、私達はこれを──

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 俺は読んでいた資料から目を離す。

 そして、資料を読み始める前に取ってきたドリンクバーのコーラで喉を潤し、もう一度読もうとしたが、なんか面倒になって諦める。ここのファミレスはチーズハンバーグが至高であり、よく同年代の馬鹿共と飯食いに来るときに頼むのだが、今回は友達というにはよそよそし過ぎる人間が合席しているため、至高の一品を口に入れることを断念する。

 人によっては喉から手が出る程欲する資料で、俺にとっては路傍の石程に価値のない資料を、前に座って居るサラリーマン風の男性に返した。

 

 どうでしたか?と、男性は微笑む。

 分かっているくせにとは思わなくもないが、ここで怒鳴り返す理由もない。俺は皮肉半分で肩を落とす。

 

「もしかして他のカンピオーネに関する報告書もこんな感じなん? これ教主とか伯爵のじーさんが目にしたら、魔術結社そのものが終わるんじゃないかな。文字通りに」

 

「確かに信憑性という点であれば、貴方の報告書と古参のカンピオーネのそれは、似たような出来栄えではありますね。逆に正しい情報を寄越せと口にできるような相手ではありませんし、少しぐらいは目を瞑って頂けないでしょうか? 完全無欠な報告書が出来上がるのならば、我々も協力は惜しみませんが……」

 

「……いや、まぁ、それもそっか。俺だって教主とはできれば二度と会いたくないし、夫人探しの旅とか二度と御免だぜ」

 

「おや、全員のカンピオーネと友好関係を築く櫻木さんらしくない発言ですね」

 

「俺だってカンピオーネの中には苦手な相手もいるさ。全員が全員の手て繋いで仲良くしようとか出来るんなら、そもそも神様なんざ殺してないよ。特に他称・永遠の美少女のせいで、俺は教主関連がこじれたんだぞ? やっぱ神殺しってクソだわ」

 

 数世紀前から分かり切っていたことを改めて認識する俺に、男性──甘粕さんは苦笑いを浮かべる。盛大かつ特大なブーメラン芸を見たからだろう。

 だが、全てのカンピオーネと出会い語り合い殺し合った俺は断言できる。やっぱ気の合わない同胞は存在するし、苦手な相手もやはり存在する。そんな目を血走らせるレベルで嫌な相手ではなかったものの、俺自身が神殺しの本質とは噛合わない性格をしているため、外面上の友好関係を築くにとどまっている。

 なら会わなきゃいいじゃん……とはいかないのが悲しいところ。

 歩く厄災同士は惹かれあうのだ。

 

 げんなりとした表情をしているであろう俺に、正史編纂委員会のエージェントをしている男性は、俺がうっかり零した発言を目ざとく拾ったようだ。

 さすが人類史最大の化物と会う人である。素人同然のカンピオーネとじゃ経験が違う。

 

「その中国の教祖様との話は興味がありますね」

 

「俺は絶対に言わないからな? 絶対だぞ? そんなに聞きたいなら二番目の王様から情報を搾り取れ。協力はしないけど、応援はする」

 

「できれば苦労はしませんよ」

 

 せやな、と俺は相槌をうつ。

 あの絶世の美女から情報を絞り出すぐらいなら、まつろわぬ神を相手した方がずっと楽だ。人間側からしてみれば難易度は団栗の背比べだろうけど。

 

「この報告書も矛盾してるよなぁ。カンピオーネとの対立を防ぐために存在する機関が、俺のことを『温厚』と言い切るのはおかしくないか? そりゃ、伯爵のじーさんと比べたら生易しいかもしれないが」

 

「賢人議会は魔王の脅威を正確に伝えるための存在なので問題ないんでしょう。第一、貴方のように神との戦闘で周囲を極力破壊しない、まつろわぬ神の討伐に協力的で、意思疎通が容易かつ比較的常識を持ち合わせているカンピオーネは貴重なんですよ。それに関係者が資料を読めば、『時間神殿』の権能を知るだけで軽率な真似はしません」

 

「……あの権能、俺が持ってる権能の一部と相性が悪いんだよな」

 

「……櫻木さんの権能って『黄昏の主』と『時間神殿』だけって設定じゃありませんでしたっけ?」

 

「おっと口が滑った」

 

 わざとらしい俺の誤魔化しに甘粕さんは特に追及はしなかった。王相手に大きく出られない背景もあるだろう。まぁ、資料の出来栄えが中途半端な理由の大部分が、俺の黙秘にあることは周知の事実なのだから。

 というか()()()()()()()()()()()()()()()し。

 現在俺の所有している権能は合計五つなのだが、世界に公開していない三つの権能には個人的な事情がある。一つはアメリカのカンピオーネの『超変身』のように、能力が複雑かつ制限が多く、二つ目はフレイヤのアレと似たような性質を持っている。どうせ知られていないのなら教えなくても良くね?と思っているので言っていないだけだ。それに第一権能は純粋に隠しておきたい類なので言ってない。

 

「んなことはどうでもいい。ぶっちゃけ俺が聞きたいのは日本から生まれた噂の八人目のこと。ドニさんから聞いた感じマジっぽいからさ、少し知っておきたくて九州最南端から東京に来たんだよ」

 

「やっぱり同じ出身地のカンピオーネは気になります?」

 

「良くも悪くも『知る』ってことは大切だからね」

 

 甘粕さんは納得した様に、鞄から新しい資料を取りだす。

 俺はそれを受け取り、たぶん大事な資料だから持って帰れないことを考慮して、なおかつ甘粕さんが退屈しないように質問を交えながら速読する。

 

「ほうほう、草薙護堂くん……16歳で神様殺したの!? こりゃまた随分と若いカンピオーネが生まれたもんだ。そんで転生した後に神様と戦闘……うわ、早々にドニさんに目つけられとるやんけ。しかもコロッセオで赤銅黒十字の騎士と決闘? 運がないなぁ。波乱万丈にもほどがあるでしょ。そんで殺した神様は……ウルスラグナ? え、誰それ」

 

「古代ペルシアの十の化身を持つ軍神です。西洋ではビックネームですよ? ゾロアスター教の神で、主神ミスラに仕える中級神(ヤザタ)だと言われていますね。勝利を神格化した存在であり、有名どころだとギリシャ神話のヘラクレスと習合してます」

 

「へぇ、そんな神様もいるんだ。勝利を具現化した十の化身を持つ軍神とか、俺なら絶対に戦いたくないわ。良く殺そうって思ったな。神殺しとか殺そうって思ってできるもんじゃないけどさ……って、へ? 愛人?」

 

 後輩のカンピオーネである草薙護堂くんの経歴を読み進めると、目を疑うよな報告が目に入った。最初は古戦場17時間コースした後だから疲れているのかと思ったが、付属されている金髪美女の履歴書もあるため、間違いではないと現実を見せられる。

 しかもコロッセオで戦ったのはこの少女とらしい。

 

「う、うわー……最近の高校男児って進んでんのねー。え、もしかして20歳で童貞してる俺って相当やばいんじゃねぇの……?」

 

 新たなカンピオーネとの圧倒的な差というものを資料だけで見せられ、神殺しはやっぱり常識で測れるような存在ではないことを再度認識する。同時に、イタリアの魔術師が草薙護堂の庇護を受けようとしていることも、何となくではあるが理解する。

 確かにイタリア周辺を行動範囲とするカンピオーネがドニさんなら、他のカンピオーネとも繋がりを持ちたいと考えるのは当然の流れだろう。あの人自由奔放すぎるし、お隣のイギリスに本拠地を持つ黒王子は文字通り腹黒い。伯爵のじーさんは論外。なら経歴的に普通であり、新米であるがゆえに女で懐柔しやすい草薙護堂くんを狙うのは賢い選択だ。

 ……どうして俺にはそんな話がなかったんだろう。

 

「こちらの事情も察していただけたら嬉しいです。確かに最初は櫻木さんを篭絡するために、各地の候補を集めようと計画していました。何せ日本人に生まれた初めての神殺しですからね。皆必死でしたよ。……まさかイギリスの黒王子に匹敵するレベルで底の知れない人間だと知るまでは」

 

「遠回しに腹黒言ったな、オイ。つかアレクさんに失礼だろ。前に会話する機会があったけど、あの人の腹黒さは筋金入りだぞ? 成人したばっかのガキと比較するような人じゃないって」

 

 もし俺の言葉をイギリスのカンピオーネが聞いたのなら、「戦闘中の貴様ほど腹黒くはない」と遺憾の意砲を発射してくるだろう。当の本人が居ないので好き放題である。

 いい人だってのは知ってるけどね。

 

「その話は一旦置いておこう。つまり八人目のカンピオーネは本物であり、日本人に見られる年相応の男の子だと。好戦的ではないが、飛んできた火の粉は払うタイプ。んで、赤銅の連中が繋がりを持とうと考える一方、色仕掛け云々が効くかもしれないと判断されている。ここから推測するに、もしかして日本側の長老たちは彼を日本の王として担ぎ上げるつもりか?」

 

「えぇ……その通りですね。そのような動きであることは否定できません。ただ、西日本側の勢力は、新米の魔王より貴方を仰ぐべき王として考えているようですが」

 

「たかだか二年そこらの経験がものを言うとでも思ってのか? 魔王が経験則や実績で語れるような埒外の存在だって、そろそろ老害の方々には気づいてほしいんだけどなぁ。俺の活動圏が九州中心だから、西日本側の勢力が言いたいことも理解できるけどね」

 

 草薙くんのことも確かに知りたかったが、わざわざド田舎から都心まで北上してきた最大の理由は、新たに生まれたカンピオーネが俺との殺し合いを求めているのかという点と、日本の魔術結社が俺と草薙くんのどちらを主として認識するのか。その二つである。

 そのために来たのだ。秋葉原に寄るついでとか考えてない。

 

 新たな魔王が俺との死闘を望んでいるのならば、俺も先達者として相手をすることも考慮する。そういう関係が今後あるかもしれないと、前から諦観していたし、伯爵との関係と大して変わらんからな。だが、幸いにも八人目は形だけの常識を弁えているようにも思える。とりあえず口では死闘そのものに否定的だし、見方によっては彼の戦闘全てが専守防衛であるとも捉えられる。実際に会ってみないと分かんないけど。

 俺が他のカンピオーネと友好関係を築こうと努力するのは、単純に神と戦ってる最中に後ろから刺されるのが嫌だからだ。味方の中にも敵がいるとか、考えただけで最悪のシナリオじゃないか?

 自分自身ですら当てにならないのに。

 

 それに比べたら後者の目的はそこまで重要じゃないが。

 ただ、いきなり出現した八人目と俺、国の連中がトップとしてどっちを仰ぐのかを知りたかった。主君面してお偉いさん方に会いに行って「お前俺等の王じゃねぇから」とか吐き捨てられたら涙モノである。正直言えば彼が日本の魔王として君臨するなら別にいい。神殺しに共通して王としての素質があるのは、他の先輩方を見てきて体感したし、俺はどちらかというと上に立つような人間じゃない。そもそも俺は人間じゃない。

 今まで俺が日本の魔王として働いてきたわけじゃないしね。

 

「何なら新しく現れた草薙くんを日本代表にして、俺がその傘下に出も入ってみようか? さすがに、トップが二人いる状況は、内部分裂を引き起こす要因にもなりかねないし。暴君や暗君じゃなきゃ何でもいいわ」

 

「え? 櫻木さんはそれでいいんですか?」

 

「俺に神殺す以外の王様は務まらないよ。第一、俺が楽でいい」

 

 聞きたいことは聞けたので、俺は立ち上がって背伸びをする。

 ただでさえ『まつろわぬ神をシバき倒す』という、重要で重大で難解で困難な仕事を請け負っているのだ。それに日本のお偉いさんをまとめ上げたり、裏での根回しなど、誰がするかって話だ。

 まったく、神殺しになんてなるんじゃなかった。

 

「まずは赤銅の天才から主導権を握り返すことが先決だね。というか日本に彼女以上に有能な美少女がいるとは到底思えないんだけど……そこんところ大丈夫なの?」

 

「候補はいくつか挙がってますが、恐らくは大丈夫かと」

 

「へぇ、羨ましい限りだ。端から見てる分には」

 

 ハーレムって響きは素敵だよね、うん。

 この前ハーレムルートありのエロゲやってて思ったことは、自分だったら絶対に無理だって現実だったのは、記憶に新しい。それに近い受難が待ち受けているであろう後輩に同情する。

 

「まぁ、そこら辺の話は今度当事者を交えた上で行おう。本人の居ないところで話が進むのは、いくら何でも可哀想だからさ。近いうちに草薙くんには会いに行くわ」

 

「できればその前に連絡を一報頂けると幸いです」

 

「そりゃ、当たり前よ。そっから大乱闘スマッシュブラザーズになるかは彼次第だけど」

 

 でも彼とは一度戦ってみるべきだろうか?

 好戦的な洗礼はドニさんが既に行っているし、そこら辺は微妙なところだ。

 

「そんじゃ、また来るわ。生きてたらな」

 

 神殺し特有のブラックジョークを交えつつ、俺は店を離れて聖地(秋葉原)へと旅立つのだった。

 

 

 

 




【主人公紹介(wiki風)】

櫻木 桜華(さくらぎ おうか)

 この二次創作の主人公。七人目のカンピオーネ。基本的に温厚で面倒臭がりの黒髪の青年。鹿児島出身の20歳。現段階で5柱の神を弑逆しており、経歴だけ見れば原作主人公の先輩。
 特出した能力や経歴は持っておらず、最初はカンピオーネの中で最も『普通』と評価されていた。しかし、彼が全世界に『七人目』として周知される、ヴォバン侯爵との戦闘において、尋常ならざる戦術眼を全魔術師に知らしめる。そのため、最古参のヴォバンからは「闘争本能を満足させてくれる青二才」と認識され、似たような戦闘スタイルの黒王子からは「あれとの戦闘は泥沼化する。先に罠にはめたほうが勝つ上に、逃げ足だけは一級品」と評される程。カンピオーネと敵対行動を取らない唯一のカンピオーネと資料に記されているが、本人はまつろわぬ神との戦闘で背後を刺されないためのものなので、戦闘狂な他のカンピオーネとの決闘は受けることが多い。特に、ヴォバン侯爵に定期的に会いに行っては、彼の闘争心を満足させるための戦いを行っている(プリンセス・アリスはこれを「老介護」と呼んでいる)。
 他のカンピオーネが『絶対的一による無双』を旨とする戦い方に対し、『数の暴力』を最大限に利用した戦闘を好む。彼の所有する《黄昏の主》で無数の戦乙女を召喚し、《時間神殿》でフィールドを固定したゲリラ戦を得意とする。事前の準備を念入りに行い、常に自分の優位な状況下で戦闘を行うことから、『司令官』の通称で知られており、同じような戦闘スタイルを持つヴォバン侯爵から目をつけられている。すっごい簡単に言うと、『集団戦に特化したカンピオーネ』。環境破壊を極力行わないため『最善の神殺し』と呼ばれる。これは《時間神殿》の『一定範囲内の物質の時間を止め、あらゆる外部的要因から干渉させない』能力で守られているだけであり、必要であれば他のカンピオーネにも引けを取らない災害を引き起こす。
 性格は温厚にして友好的だが、戦闘では狡猾で冷徹な判断で敵を追いつめる。他の同胞とは違ってカンピオーネの闘争本能を理性で押さえこんで物事を考えるタイプ。集団戦に特化した権能を持ち、本能でなく理性で戦うことから、神殺しらしくない一面を持つ一方、使えるものは何でも使う神殺し特有の思考を誰よりも活用するため、ある意味『カンピオーネらしいカンピオーネ』とも言える。なので、神殺しというものの異常性を最も理解している一方、自分もその一人だという自覚を持っている。しかし、基本的に面倒臭がり屋で『楽をして勝ちたい』の本音を持ち、自分の心情と戦闘スタイルの矛盾に悩むこともしばしば。
 所有している権能は《初原の英雄》《黄昏の主》《時間神殿》《見張りの者たち》《千差万別の武具》の5つ。他のカンピオーネが持つ『身体強化』の権能を一切持っていない。
 このキャラのコンセプトは『カンピオーネらしくはないけど、ある意味カンピオーネらしいカンピオーネ』。どちらかと言えば人間らしい神殺しを目標としている。モチーフは『銀河英雄伝説』のヤン・ウェンリーだが、あの知将と比較したら、この主人公が下位互換にしかならなさそう。


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裏の邂逅、魔王の日常

 死にたくなってきた。
 今回出したオリキャラ以外は、基本的に名前付きのオリキャラは出しません。


 ちょっと現在進行形で時間押してるから簡単に説明する。

 神話という名のレールから脱線したような行動をとり、存在するだけで災悪を起こす傍迷惑な高次元の存在の総称として『まつろわぬ神』と言われる。指鳴らせば人間を塵に変えるような化物共なので、普通の人間には太刀打ちできないのだが、例外というものが存在する。そのような、神様に対して下克上を成功させた愚か者共を、神殺し(カンピオーネ)と呼ばれる。

 神殺しは文字通り『神を殺した者』で、その神様殺して能力を奪う連中のことだ。

 

 俺が何を言いたいのかというと、神殺しの身体機能は都合のいいようにできている。

 伊達に『堕天使』や『悪魔』、『魔王』と呼ばれている存在ではないらしく、なぜか闘争心に比例して勘や反射神経といった集中力とコンディションが最良に近づくため、一度戦闘に入れば潜在能力が完全に発揮される。つまり戦闘の前段階でも相当な恩恵が受けられるわけだ。

 心臓の鼓動が早くなり、口元が自然と緩む。

 内包する権能全てが、我が敵を討ち滅ぼせと叫ぶ

 身体が闘争を求め、アーマドコアの新作が出る。

 

 もう準備おっけーな状況なのだ。

 そりゃ目の前に──まつろわぬ神がいれば当然か。

 

「………」

 

 東京でやりたいことを一通り達成し、いざ故郷へ帰ろうと考えていた矢先、それは現れた。

 コツコツと近づく音だけで警告してくるのだ。自身の肉体の反応なのに驚く。

 目の前の存在は、一見すると海外から来た少女にも見える。白銀に煌めく肩まで伸びた髪は研ぎ澄まされた鋼の如く、純白の肌は何も穢れを知らぬであろうと邪推してしまうほど美しい。暗闇の瞳はフクロウを彷彿とさせ、全てを見透かしていると言われても納得してしまいそうだ。

 描写した通り完璧な美少女だ。それ以外の言葉など飾りにもならん。

 故に──不自然なまでの美が、俺の闘争心に火をつける。

 

 つまりは……そういうことなのだろう。

 内に燃え上がる闘争を理性で押さえこみつつ、俺は会話というものを試みてみた。

 

「……えっと、珍しいお客さんだな。最近は海外からの観光客が増えてるって聞くけど、いつから日本は厄災に入国許可を出すようになったんだろうね? 俺は君との縁なんて結んだ覚えはないけど、どういった御用で?」

 

「妾とあなたの縁など敵対以外の何物でもない。ただ神と神殺しが存在する。それだけで相対する理由になると思うが?」

 

「そりゃそうなんだけど……」

 

 神からしたら同族殺しの仇のようなものなんだろうけど、基本的に彼等に『仇討ち』の概念は存在しない。しかし、古い因縁か何かは定かではないが、カンピオーネとまつろわぬ神は本能的に互いを『敵』と認識しており、出会って五秒で殺し合いなんて珍しくない。

 つまり現在進行形で会話している俺は稀なのである。

 できれば稀な関係を維持したいのだが。

 

 なんて考えていると、意外にも目前の少女は停戦に近い何かを持ちだしてきた。今までの相手が相手なだけに、一瞬だが彼女が何を言っているのか理解できなかった。

 

「この国に妾の蛇を持つ神殺し以外にも居たとは」

 

「俺だって自分の家帰る前に女神様に会うとは思わなかったよ」

 

「……さて、どうする? 妾には、蛇を奪い返すという目的がある。故に、あなたと戦う必然性を感じないが……戦うのであれば全力で応戦しよう。武力と勝利は常に妾のしもべなれば」

 

「うっわ、闘神かよ。おっかねぇ。……俺は君と戦う意思はないよ。できれば戦いたくはないし」

 

 彼女の小さい口から発せられる『蛇』や『武力』、『勝利』という言葉だけで嫌な予感しかしない。

 幸いにも俺を追いかけて遥々異国から「来ちゃった☆」ってわけじゃなさそうだし、彼女の戦意は原因であろう八人目のカンピオーネ君に任せるとしよう。

 

「諒解した。妾は疾く去るとしよう。だが神殺しよ、あなたは嘘をついている」

 

「はい?」

 

 背を向けて放たれた言葉に疑問形を返す。

 どういうことなのだろうか?

 

「妾との戦いを楽しまぬものが神殺しになるわけがない。あなたは嘘つきだ」

 

「──それはどうだろう?」

 

「……?」

 

「神殺しってのは、要するに天文学的確率で神様を殺した人間だ。確かに本能的には神様との殺し合いを望んでいるんだろうけど、はたして全員が戦いを楽しむ戦闘狂(バトルジャンキー)だけなのかね? 例外ってのも存在するんじゃないかな? それこそ──俺が神を殺したように」

 

 果たして神殺し全員が闘争を求めているのだろうか?

 カンピオーネなんざ愚か者共の総称だ。神様への勝ち方を知っているだけの化物であり、彼らそのものが『人間は神を殺せない』という摂理に反した異端者。神を殺そうなんて考えた酔狂な人間もどきが、全員が()()()()()()()()()()()()()()()()()? もしかしたら、神殺しの常識にも当てはまらない奴がいるかもしれん。

 

 じゃあ、なぜ言い切れる?

 『神殺しは皆が戦闘狂』であると。

 

 俺の持論を述べた後、闘争の女神は興味深そうに笑う。

 自分の言い分は正しいと信じ込んでいるが、このアホの考えも一理ある──そう言いたげな表情だった。

 

「……神殺しの分際で、存外学者のような考えをする。なるほど、神を殺す者が、神殺しの枠に当てはまるとは限らないと」

 

「さぁ? そもそも俺達がイレギュラーな存在だ。検証してないんだから、言い切ることはできないだろう?って思っただけだ。別に女神様の持論にケチ付けたわけじゃない」

 

「興味深かった。だが、一つ問う。あなたにとって『神との戦い』は何だ?」

 

「んなの決まってるだろ?」

 

 俺は女神様に背を向ける。

 ()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()。ここに長居する意味はない。去り際に白銀の少女の問いに、手を振ってこたえるのだった。

 

「──ただの作業だよ」

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 秋葉原から帰って来て数日後、東京都で大規模な破壊活動が行われたらしい。簡単に説明すると、高速道路や公園などが事故で大変な有様になったとか。世間一般では『事故』と処理されているが、どう考えても八人目の新人がやらかしたのだろう。

 とりあえずニュースとして報道されてはいるが、他にも様々な地形破壊が起こったに違いない。都心から限りなく離れた地方に住んでいるため、この程度の情報しか回ってこなかった可能性もあるが。田舎に住んでいるために、最新情報に置いていかれる魔王とか何の冗談だ?

 

 朝というには遅い時間帯に、一放送局のニュースを歯磨きをしながら眺めていた。

 魔術に対する絶対的な耐性がある俺だが、身体を自動的にクリーンな状態にする昨日は備わっていない。本当に神様と戦うことに特化してるので、これが日常生活に役立つ機会は少ない。病院に行く可能性が減るくらいだろうか。

 

「しっかし、随分と派手にやったもんだなぁ。今回の後輩君は」

 

 もしかしなくても、戦ったのは俺が出会った女神様なのは容易に想像できる。

 俺の場合は初めての神殺しが成立してから、地形破壊を防ぐ第三の権能獲得までに時間がかからなかった。故に、他の魔王と比較して、魔術結社が事後処理で悲鳴を上げるような大規模破壊活動を極力行っていない。伊達に『最善の神殺し』とは呼ばれていないのだよ。

 

 なんて素晴らしい博愛主義。

 これはノーベル平和賞モノではないだろうか?

 

「──でも、ハナ君って神様殺してるじゃん。博愛主義を名乗るには、物騒なことに首を突っ込みすぎじゃない?」

 

「……どうしよう。反論が思いつかねぇ」

 

 テレビの近くに配置している俺のベッドの上から、からかうような声が響いた。俺の発言そのものが本心で言ったものではないとはいえ、論破するには十分すぎる指摘だっただろう。

 

 俺はベッドの上で悪戯っぽく笑う少女──堀之北(ほりのきた)(なずな)に視線を移す。

 鮮やかな茶髪をサイドテールにまとめた少女は、ゴロゴロと転がりながら言い足りないと言わんばかりに言葉を重ねた。着崩れるぞと行動を嗜めようとしたが、薄着だろうが厚着だろうが関係なしに強調される、張りと形の良い双丘に視線を逸らす。

 元々プロポーションが良いのは、小さい頃からの馴染で知っていたが、コイツまたデカくなってないか? どことは言わんが。

 

「少しは心配するコッチの身も考えて欲しいよ。いつもいつも危ないことに首を突っ込んでさ。せっかく新しい魔王様が日本に生まれたんだし、その人に厄介事押し付けられないの?」

 

「そうしたいのは山々なんだが、こちらが望んでなくても勝手に向こうから土足で踏み込んでくるんだよ。……来週実施される、お前の実力模試みたいに、な。」

 

「うっ……」

 

 現役女子高校生の薺はうめき声を上げる。

 テスト直前に俺の家へ遊びに来るとか、コイツ暇人かよ。

 

 そもそも未成年の女の子が、成人したばっかの男性の家に転がり込んでくること自体が問題なのだが、こればかりは親公認なので口を挟めない。

 俺と薺の両親は昔から繋がりが深く、薺の親御さんには前から世話になっている。海外に仕事に行っている俺の両親の代わりを、この幼馴染の両親が行っている。ある意味、俺がちゃんと生活出来ているのかの監視も含めて薺が来ている。

 だから俺は薺が合鍵を持っている事実に違和感を抱かないし、俺のタンスの下段にコイツの服が入っている事実に何も感じない。

 

 この状況が世間一般で「おかしい」と発覚したのが高校時代。

 俺は彼女の親御さんに確認を取ってみたのだが、

 

 

 

『桜華ちゃんなら、その辺しっかりしてるから大丈夫よ。薺も自分から進んでやってることだし、何も問題がないじゃない』

 

『え、でも間違いが起こったりしたら大変じゃないですか?』

 

『むしろ早く間違い起こしてくれないかしら?』

 

『ゑ?』

 

 

 

 補足であるが、当時の俺は高校二年生であり、薺は中学一年生である。

 天然を通り越した彼女の母親はそう言っているけど、問題ありまくりだろうが。

 ちなみにだが、彼女の父親兼、俺が『オ』のつく自由人になる諸悪の根源は、「エロゲ展開は男の夢だろうが。つか、ウチの娘がいるのに童貞とか恥ずかしくないの?」と俺を煽る。

 良くも悪くも堀之北家は自由奔放らしい。

 

 彼女が俺の枕を抱きかかえて唸っていると、キッチンからリビングに足音を響かせる存在が登場する。

 

「──心配ありません。桜華には私達がついてますから」

 

「──ふん、貴様等がそれほど頼りになるとは思えんが?」

 

 追加で入ってくる人影。

 それは一組の男女だった。

 

 最初に入ってきた長身の女性は、俺が人生で出会った中で二番目に美しかった。

 きめ細かな群青色の髪を靡かせ、『美女』という単語を容易に使わせない雰囲気を醸し出す、それこそ『美』を体現したような存在。下品な言い回しになるかもしれないが、薺よりも女性として成熟した肉体は、男を喜ばすためだけに生まれたといっても過言ではない。近所で適当に購入したユ〇クロの服を着用していても、その感想が出るのだから、傾国の美女って言葉がこれほど似合う女性も珍しいだろう。

 十人の男性のうち八人が「今世紀最高の美女」と称賛し、残りの二名が間髪入れず告白するレベルの美女は、リビングに入ってきたもう一人を睨む。

 

 もう一方の長身の男性も、妖艶な美女に引けを取らない美形だった。

 日本人には珍しい白銀の髪すら彼のステータスの一部でしかなく、整った顔立ちは同性の俺ですら見惚れる。どちらかというと「少女漫画に出てくる、ちょいキツめの性格をした、主人公が通う学校のイケメン」を具現化した美青年で、着用している眼鏡を外す姿で死人が出ると巷で噂される。

 十人の女性のうち八人が「今世紀最高のイケメン」と称賛し、残りの二名が間髪入れず告白するレベルの美青年は、美女の睨む姿を鼻で笑う。

 

 彼女等は俺の家にホームステイしている留学生である。

 ……はい、嘘です。俺の権能その二と、その四です。

 

「言葉を慎みなさい。私達は貴方よりも先輩なのですよ? 桜華と共に神と対峙したことのない未熟者は、未熟者らしい態度を心がけなさい」

 

「神殺しの強さが経験に左右されると本気で思っている馬鹿が、人間以外にも存在したとは驚きだ。元娼婦の配下たる女共よりも、我々の方が役に立つのは明白だろう」

 

「……その言葉、私達への宣戦布告と受け取っても?」

 

「事実を述べただけだ。他意はない」

 

 御覧の通り、仲はクソ悪い。

 死を迎える女神の配下と、かつて天に反逆した主の配下は、神話の垣根を超えて互いに火花を散らす。

 

 先日世界に公開するために作った『第二の権能と第四の権能は俺の代名詞にふさわしい』という旨のレポートを、割と本気で改変しようと考える俺だった。ドニさんとの戦闘で使用した際には「めっちゃ凄いやん。これで戦術の幅が広がる!」と考えていたが、いざ日常になると組織レベルで仲が悪くなる。

 権能同士がいがみ合っている魔王など、世界広しといえども俺だけだろう。

 俺が世界に第四の権能を公開したくない理由の一つである。誰が身内の恥を好き好んで晒す?

 

「ヴァルさん、グレさん。ここで喧嘩しちゃダメだよ? 家壊れちゃうから」

 

「「……はい」」

 

 そんで、どうして幼馴染の言うことを素直に聞いてるの? 今の主は一応俺だからね?

 薺の言っている『ヴァルさん、グレさん』は、二つの権能に正式な名称がないために、彼女が独断でつけた名前である。

 

 俺は溜息をつきながら、人間の少女に注意されて項垂れる配下二人をフォローする。血気盛んなのは大変喜ばしいところだが、できれば魔王の権能らしくTPOを弁えて欲しい。

 彼女等には彼女等にふさわしい舞台があるのだから。

 

「その敵意は今度欧州に行くときに発揮してくれ。あっちの魔術結社の人に頼まれたから、そう遠くないうちに最古の魔王様の接待をしなきゃいけないんだ」

 

「え、それ大丈夫なの?」

 

 ここで言う『接待』とは『殺し合い』と同義である。あちらはゲーム感覚で対応しているだけなのだろうが、俺からしてみればガチで殺しに行かないと死んでしまう相手である。

 ヴォバン侯爵のことは薺に言っている。だから『最古の魔王』の単語を耳にして、表情を一転させて曇らせる。

 

 大丈夫じゃないが、やるしかない。

 俺はソファーに腰を深くかけながら笑みを返す。

 

「お前が気にすることじゃねぇさ。いつものように適当に相手して、適当に帰ってくるだけだ。つか、そう遠くない俺の海外旅行より、お前のテストの方が大切だろ。ほら、勉強道具持って来い」

 

「うぅ……ハナ君がイジメる……」

 

「この程度がいじめだと感じない程度には学力つけてくれ……」

 

 薺はふてくされながら、重い足取りで部屋を出ていく。

 その様子を眺めている傍ら、権能二人が何か言葉を交わしていた。

 

「……あぁ、やはり桜華×薺は素晴らしい。貴方もそう思いませんか?」

 

「不本意ながら同感だが、先日の薺に告白しようとしている男の件はどうなった?」

 

「問題ありません。私の配下が秘密裏に処理しました」

 

「上出来だ」

 

「お前等何の話してんの?」

 

「「何も」」

 

 時折見せる、お前等の一体感は何だ?

 

 

 

 




登場人物紹介

・櫻木桜華
 今作の主人公。知らない人は前回を見てね。

・堀之北薺。
 今作のヒロインであり、主人公の幼馴染。現在高校一年生であり、主人公の正体を知っている数少ない一般人。身長は149cm、体重は44kg、スリーサイズはB87/W58/H88。明るい性格に、クラスでも人気のある美少女という、『なろう系』のヒロインのテンプレを具現化したような少女。もちろん、テンプレにふさわしく主人公ラブ勢。まぁ、ヒロインはこの娘だけなんですけどね。
 モデルは『トリノライン』の宮風夕梨というキャラ。可愛いから検索してみて。エロゲだから18歳未満は検索しちゃ駄目だけど。

・ヴァルさん
 主人公の第二の権能《黄昏の主》を総括する戦乙女。
 フレイヤを殺害して得た権能から生み出される配下のため、絶世の美女設定にしている。主人公の言う「一番の美女」はフレイヤである。
 桜華×薺を至上としており、彼女等の恋路を邪魔する輩は成敗する。
 ちなみに本編で「秘密裏に処理した」は「配下を使って、告白しようとした男子生徒を篭絡した」の意である。

・グレさん
 主人公の第四の権能《見張りの者たち》を総括する奴。
 今のところは詳細を語れないが、権能の名前見れば殺した神様の名前は分かるやろ。
 桜華×薺に目覚める。


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彼の魔王は

 今回は原作主人公視点の、今作主人公の評価回。
 あんまりお気に入り登録増えないなー。エタりてぇ。


「なぁ、万理谷。日本にいるもう一人の魔王って……どんな人なんだ?」

 

 私立城楠学院の屋上。

 日本に生まれし()()()()()()()()()()──草薙護堂の言葉に、一緒に朝食を取ろうとしていた少女──万理谷祐里は訝しげな表情を表に出す。

 それは、彼の横にいた金髪の少女──エリカ・ブランデッリも同じだった。

 

「……護堂、急にどうしたのかしら? まさか、『自分の国に同格の魔王は二人も要らない!』って、喧嘩を売りに行くつもり?」

 

「そんなこと誰がするか! いや、サルバトーレ・ドニの野郎のことは(嫌というほど)知ってるのに、その人のことは何も知らないからさ。いつか会った時の為に、色々と知っておきたいんだ」

 

 そういうことでしたら……と、彼の唐突な要求に、祐里は応える。

 護堂はサルバトーレ・ドニの一件から、どうあがいてもまつろわぬ神や同胞の神殺しの縁からは逃れられないと学んだ。ましてや同じ国に住むのだから。

 

「エリカも何か知ってることがあるんなら教えてくれ」

 

「それは別に構わないのだけど……」

 

 せっかくの楽しい昼食なのに、話題にするのは自分ではなく、他の魔王の素性。表面上は絶対に顔には出さないが、エリカは胸の内に少なからず不満を募らせる。

 しかし、理性では「彼のことは知っておくべきだ」と囁いている。

 本心を胸に仕舞ったエリカは、自分が知っている限りの情報を護堂に伝えた。

 

「私も何度か会ったことがあるけど、護堂とは似ているようで全く違うベクトルのカンピオーネね。名前は櫻木桜華。鹿児島を本拠地として、九州圏内を中心に活動する、○○大学の大学二年生。二年前に豊穣を司る女神・フレイヤを弑逆し、神殺しになったと言われている方よ」

 

「……なったと言われてる?」

 

 エリカの説明に違和感を覚える護堂。

 その違和感を払拭したのは、日本の媛巫女だった。

 

「櫻木さんの権能に関しましては、近代に生まれた神殺しなんですが、謎に包まれている部分が非常に多いんです。二年前に侯爵と対峙する際に最初に使用した権能が、豊穣の女神の権能だったため、現在ではそれが彼の第一権能として認識されてるんですが……」

 

「そうなのか……でも、俺達の権能は『賢人議会』ってところが管理してるんだろ? その人たちですら分からないのか?」

 

「旧世代のカンピオーネの権能は未知の部分が多いし、アストラル界で神殺しを成したサルバトーレ卿の例があるから、賢人議会も全てを把握しているとは限らないわ。サルバトーレ卿は幸いにも……幸いにも? 権能を知る機会があったのだけれど、彼は巧妙に隠しているせいで、旧世代のカンピオーネ並に得体の知れない人物とされてるのよ」

 

 サルバトーレ・ドニのように考えなしのカンピオーネだったら、賢人議会も苦労することはなかっただろう。しかし、七人目のカンピオーネは『権能の情報』という分野では、頑ななまでに明かそうとしない御仁だった。

 その実情の全てを把握しているのは欧州の魔王のみ。

 ましてや、賢人議会に残っている記録の中で、彼がまつろわぬ神と戦闘した記録は()()()()()しかない。

 

 その情報の秘匿の徹底ぶりに、さすがの護堂も引きつった笑みを浮かべる。

 何をそんなに隠そうとするのだ。

 

「私の推測では、櫻木桜華の所有する権能は、護堂のそれに近いもの。つまり、発動条件が厄介かつ複雑であり、対策を講じることのできる類の権能ね」

 

「確かにウルスラグナの権能は、良く言えば何でもできるけど、面倒な制約が多いもんなぁ」

 

 護堂は感慨深く納得し、そしてふと気づく。

 あれ? もしかして俺の権能って、賢人議会に知られてるってことは、対策も密かに講じられているのでは? だから七人目の先輩は隠し通しているのでは?

 八人目の魔王は己の権能事情を危惧する。

 

「現段階で確認されている彼の権能は二つ。さっき言ったフレイヤの『黄昏の主(load of Valkyrie)』と、時間の神クロノスから簒奪した『時間神殿(Chronus)』。数百の戦乙女(Valkyrie)を配下とする能力と、物質や空間の時間を止める能力よ」

 

「なんか数百とか景気良過ぎないか? まぁ、時間を操るって権能は厄介だって俺でもわかるけど」

 

「『黄昏の主』も十分厄介よ。かつて英雄が死者になった際に、フレイヤの元へ運んだワルキューレは、賢人議会の報告書だと『神祖以上、まつろわぬ神未満』と記されているわ。私ですら多対一だと逃げの一手しか取れない相手が、数百単位で殺しに来るのよ? 貴方の戦ったサルバトーレ卿とはわけが違うの」

 

 もちろん護堂の危惧通り、クロノスの権能も侮れないとエリカは語る。

 ある程度呪術や魔術の心得を持つ者ならば、時間停止から逃れることはできる。しかし、一般人は『物質』と認定され、建造物と同じように内外の時間が止まる。やろうと思えばエリカですら時間停止の対象にすることも可能らしいが、膨大な魔力を消費すると本人は語った。

 ある一定の範囲内で空間の時間を止める権能は、他の権能から止めた物の干渉すらも拒むと言われている。この権能の最大の特徴は、時間や場所などに干渉したり、それを条件に発動する魔術や権能の使用が一切できない点にある。草薙護堂の権能に当てはめると、空気に干渉する『強風』や、大地の魔力を吸い上げる『雄牛』などが対象になるだろう。

 

 護堂にとって『強風』や『雄牛』は、なくてはならない手札。

 最年少のカンピオーネは思わず背筋が凍った。

 

「ですが、櫻木さんの二番目の権能は、他の権能から干渉されない特性のため、周囲に甚大な被害を及ぼさない傾向にあります。……草薙さんのように、公園を抉ったり道路を融解したりする心配がないということです」

 

「うっ……それは反論要素が一切思いつかないんだが。そっか、その櫻木桜華って人は割と平和主義で、ドニの野郎みたいに馬鹿な事を平気でするカンピオーネじゃないんだな? 俺とも気が合いそうだ」

 

「……貴方と気が合うかは別として、彼もそれなりに甚大な被害を出しているのよ?」

 

「「……え?」」

 

 媛巫女のどこか責めるような視線が痛い護堂だったが、エリカの発言に二人は疑問符を重ねた。

 

「公式で記録されている、彼の魔王が戦った地を調べた結果、『時間神殿』で停止した場所や建造物の時間が、彼が止めた時間だけ他とずれていることが分かったらしいの。要するに、経年劣化がそこだけ少なかったってこと」

 

「……それって、人や物を長期間そのままにしておける、と?」

 

「えぇ。二、三時間だったら問題はないわ。でも、一年や二年も時間を止められるならば──」

 

 まだ破壊されるほうがマシではないか?

 エリカの口には出さなかった部分を想像して、祐里は衝撃の事実に青ざめた。

 正史編纂委員会や四家などは、櫻木桜華に害となる神獣の討伐依頼を任せていた。もちろん、被害が出ないように『時間神殿』を使ってもらって、だ。しかし、自分達が魔王に強要していたことは、時間を歪めることと同義であったことに、生真面目な祐里は己の見通しの甘さを悔いる。

 

 これでは、自分達は草薙護堂の環境破壊を責める資格はない。

 『時間神殿』のデメリットを公開していない櫻木桜華や、ついコロッセオを倒壊させた草薙護堂と違い、彼の権能の使用に一切かかわってない彼女を責めるものは誰一人としていないのだが、内心のことだけにツッコむ者はいなかった。

 

「肝心の護堂が一番気にしていること──彼の性格は、温厚で社交的、少なくとも出会った瞬間に刃を向けてくるような、非常識な方ではないことは確かよ。私も一年前位にお会いしたけど、良くも悪くも普通の日本人らしい性格だったわ」

 

 聡明な彼女も、さすがに出会い頭の挨拶が「どうも、日本で魔王を務めている櫻木桜華という者です。以後お見知り置きを。あ、これ名刺です」と、日本のサラリーマンさながらの対応をされるとは思わなかった。

 魔王は共通して非常識な存在だが、彼は『魔王として』非常識な存在だった。

 彼女としては強固なパイプが出来たので、それがマイナスだとは全然思わないが。彼女の仕事用のスマホには、魔王と交換した電話番号が登録されている。

 

「祐里もそんな感じじゃない?」

 

「……櫻木さんは、悪い人ではないのは確かですね。他の魔王の方々とは違って、決して自分の立場を利用して、悪行を強いる人ではありませんし」

 

「……含みのある言い方だな」

 

 祐里が目を逸らしながら言葉を濁す。

 それはエリカも同じだった。

 

 カンピオーネとは常識の範囲外に生きる化物。

 草薙護堂のように口では平和主義を掲げていたとしても、櫻木桜華のように初対面の相手にも礼節を重んじる性格だったとしても、彼等は確かに神を弑逆した戦士なのだ。

 正の面が目立つ七人目のカンピオーネの、全世界の魔術師を悩ませる面を語る。

 

「彼が所有する『黄昏の主』は、護堂が持つウルスラグナの権能と比較して、複数の効力がある権能ではないわ。けれども、多様性がないからといって、融通が利かないわけじゃない。数百の戦乙女を従える彼の魔王は、私たちの間で『司令官』や『不敗の奇術師』、『詐欺師』と称される」

 

「今まで私達は、悪鬼羅刹の魔王の共通点として、『まつろわぬ神と一対一で戦う存在』と考えていました。数多の権能を持つウォバン侯爵も、自信を強化することで敵を屠ることが多かったと言われています。まつろわぬ神には生半可な攻撃は通用しないんです」

 

「その常識を覆し、数の暴力で神殺しを成す魔王。それが櫻木桜華よ」

 

 彼の戦法は単純で怪奇とされる。

 まつろわぬ神に会っても即時撤退。後日、自分に有利な戦場を『時間神殿』で固定し、『黄昏の主』で戦乙女による軍事行動。

 簡単に説明すれば誰でも考えるような、魔王らしからぬ戦い方だろう。しかし、意思を持つ戦乙女を支配する魔王が、全世界の魔術師から畏怖と畏敬を抱かせる理由は、数百の手駒を使った奇策を用いるゲリラ戦だった。

 

「彼曰く、『神であろうと、神殺しであろうと、自我を持つ時点で大して変わらない。彼等だって大きな過ちを犯すし、罠にだってハマる時はハマる』と」

 

「確かに、まつろわぬ神も人を舐めた態度を取ることがあるよなー。ウルスラグナもアテナも、最初から全力を出す奴って見たことないぞ。……あぁ、そこを突いて戦ってる人なのか」

 

 というか、魔王という生き物は、勝つためならば手段を選ばない生き物だ。

 なんだ、自分だけが勝利に貪欲じゃなかったのか。護堂は内心で胸をなでおろすが、その考え方に行きつく時点で厄災の同類だと気づかない。

 

「自分の土俵内で、相手の弱点を突いて戦う──その点では、護堂も似たようなものね。貴方の言霊の剣も、まつろわぬ神の過去を抉るようなものだし」

 

「………」

 

「あ、あの。その話は止めよう。エリカ、な?」

 

 おそらく祐里は『戦士』を使うときの、エリカとの()()を思いだしたのだろう。

 隣に座る媛巫女の顔が険しくなったのを察知して、不敗の軍神を討った神殺しは慌てる。魔王にもどうにもならないことはある。

 

「問題は、櫻木桜華という魔王は、『過ちを犯す』を故意に起こし、無理矢理弱点を引き出す点。そのせいで、アメリカの守護者や、イギリスの黒王子が『二度と殺し合いたくない』と酷評してるわ」

 

「もしかしてドニも? それ難しくないか?」

 

 言霊の剣を使った時、アテナは確かに激高したが、すぐに落ち着きを取り戻した。ましてやドニだって、適当でアホで考えなしのカンピオーネだが、こと決闘になると冴えるタイプの化物だ。

 そんな連中を故意に事故らせる?

 どうやったらそんな芸当が出来るんだ?

 

 実は祐里もその点には疑問を持っていた。

 資料では『温厚で友好的だが、こと戦闘という分野に切り替わると、カンピオーネの中で一番人が悪くなる』と書いていたが、彼女は櫻木桜華がまつろわぬ神や他の神殺しと直に殺し合う場面に遭遇したことがない。

 ただ『魔王は理不尽』という常識を信じていたので、彼女は「なぜ不敗の魔王が悪く言われるのか」を知りたいと思った。もしかしたら草薙護堂のように、頑張って平和主義を掲げていたが、まつろわぬ神のせいで不可能だケースなのではないか?と疑う。

 

 結果としては「議論の余地もなく、彼の魔王はマジで人が悪かった」なのだが。

 

「まず戦う相手の情報を集める。集めに集めて集めて、そこから分析して使えるものは戦術に組み込む。その徹底具合は、私の叔父ですら顔をしかめたレベルよ」

 

「例えば?」

 

「神話におけるトラウマを再現して、わざと理性を失わせる。逆に再現することで、同じ轍を踏まないように思考誘導させ、別の罠に引っ掛ける。戦乙女による絶え間ないhit and away(ヒットアンドアウェイ)で思考を掻き乱す。籠城戦を仕掛けて痺れを切らせる。相手の手札を無駄に切らせ、徐々に選択肢を無くしていく」

 

「「………」」

 

「特にアレクサンドル・ガスコインとの戦闘……通称『魔の一週間』は酷かったわよ。黒王子の罠をわざと踏み抜いて自分の罠に引きずり込んだり、彼が時間をかけて構築した舞台を逆に利用したり、舞台そのものを変えたり、撤退戦で黒王子に重傷を負わせたり。彼の情報を全て洗いざらい分析し、彼の特徴や戦闘スタイルを逆手に取った戦術は、彼を曲がりなりにもカンピオーネだと世界に宣伝した戦いね」

 

「「………」」

 

 先輩であるはずの腹黒男に、同じ土俵で新たなトラウマを植え付けるレベルに暴れる。ましてやこれが、プリンセス・アリスとの「アレクが勝手に私の寝室に上がってくるの。何とかならないかしら?」「任せてー」という軽い会話から生まれた惨劇なだけに、噂に拍車をかけて『カンピオーネ一人が悪い』の評価を裏付ける材料となった。

 そのような背景があり、櫻木桜華の権能は賢人議会が詳しく調べられていない要因にもなっている。誰が好き好んでトラウマ製造機に聞き出す?

 

「だから、彼の愛読する小説の名将の異名を冠して『不敗の奇術師』。まつろわぬ神やカンピオーネとの全戦闘において、一度として決定的な敗北をしなかった戦術の天才。特に『撤退するときの櫻木桜華を追撃するべからず』と最古の魔王に言わしめた王よ」

 

「……なんか……こう、敵対したくないって言う理由が分かったよ」

 

「護堂も彼と戦うときは十分に準備するのよ? 既に西日本の王は、護堂の情報を掻き集めて、権能の対策を講じているだろうけど。応援はしてるわ」

 

「誰がそんなことするかっ!」

 

 他の魔王に浮気した小さな仕返しとして、エリカは護堂を煽るのだった。

 

 

 

 




次回、ドニと通話。時間系列的に二巻途中。


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