ホムンクルスの少女と死者の王 (ノーネーム)
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オリ主設定

名前:イリヤ

レベル;100

属性:中立(カルマ値:-18)

種族:ホムンクルス

職業レベル:錬金術師、魔術師、幻術師など、魔法系を可能な限り最大レベルで取得済。廃課金により、ほぼ全ての位階魔法を行使可能。

 

 

 転生者であり、前世では生まれた時から重病を患い、病院の外に出た経験は皆無。幸いにも、両親が優しかったお陰で不自由はしていなかったものの、『ある時』まで趣味と呼べるものの無い空虚な日々を送っていた。

 『ある時』というのは、前世の親に買い与えられたタブレット端末でアニメ、『Fate/StayNight』のUBWのPVを目にした時であり、その時を境に両親からの小遣いをフル活用してFateシリーズにのめり込んだ。Fate/Grand Orderでは、開始初日のチュートリアルガチャでバーサーカー、ヘラクレスを引き、以来全てのパーティーで殿をしている。

 Fateシリーズに触れて以来、多くの登場人物に好意と敬意を抱いており、特にイリヤスフィール・フォン・アインツベルンへは、その境遇から強い憧れを抱いている。ユグドラシルにおいて、彼女の容姿を真似た理由は、彼女への憧れから。

 

 転生後のリアルは超絶ブラック企業勤務で、外見は誰も性欲の対象として見ないレベルでやつれており、セクハラこそ無いもののパワハラは日常茶飯事だった。小学校に通う前に両親が死に、六歳から延々働き詰め。自炊能力皆無で、基本総菜類を買い漁る生活だったものの、ある時を境にサプリ頼みに変わっている。

 

 プレイヤーキャラクターの外見はFateシリーズのイリヤそのもの。MP、魔法攻撃、魔法防御に特化しており、本体は兎に角打たれ弱い。が、反面火力でならウルベルトにも肉薄し、彼とは継戦能力で差別化されている。本気装備は『天の衣』を模したドレス。

 最後までユグドラシルに残ったプレイヤーの一人であり、多くのメンバーが姿を消してから、残りリソースを使い多くのNPCを作成していた。が、イリヤの姿を用いながらも、『イリヤスフィールではない』という事を忘れない為、Fateのイリヤの周辺人物はバーサーカー以外なるべく再現していない。

 

 『ユグドラシル』を拠り所とするモモンガとは似た者同士であるが、ある意味では彼以上に執着が強い。それこそ、不当な解雇という不運が重なったとはいえ、自殺を決意する程。そんな彼女を『アインズ・ウール・ゴウン』の前身となった『ナインズ・オウン・ゴール』に誘ったのはモモンガである。

 

対人関係

・モモンガ   ←親友。付き合うなら彼しか考えられない。

        →最後まで残ってくれた掛け替えのない仲間。

・たっち・みー →何か抱えていそう。放っておけない。

・ウルベルト  →何か抱えていそう。放っておけない。

・タブラ    ←神話について詳しく教えてくれる人。

・るし★ふぁー ←無差別決戦兵器の計画立案者。あの時は愉しかった。

・その他メンバー→妹分兼マスコット。

 

作成NPC

 

・バーサーカー       Lv.100(ヒルジャイアント)

・キングハサン       Lv.100(リビング・アーマー)

・スカディ         Lv.100(スノー・フェアリー)

・ジャガ村タイガー     Lv.90(ウェアジャガー)

・シグルド         LV.85(竜人)

・ブリュンヒルデ      Lv.84(天使 大天使)

・ヒナ           Lv.80(ドライアード)

・スルーズ         Lv.80(天使 大天使)

・ヒルド          Lv.75(天使 大天使)

・エリザベート・サカーニィ Lv.72(竜人)

・オルトリンデ       Lv.70(天使 大天使)

・会稽零式         Lv.67(オートマトン)

・メドゥーサ        Lv.66(ナーガ)

・アリス          Lv.54(ドッペルゲンガー)

・ロボ・ホロウ       魔獣ロボLv.90 NPCホロウLv.49(デュラハン)

・ジャック・ザ・リッパー  Lv.44(ハイ・レイス)



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虚構の終わり

「………今日で、お別れだね」

 

 筋骨隆々の巨漢の肩に乗る幼い少女が寂しげに呟く。赤と金の瞳を持つ厳つい風貌の巨漢は、何も言わず少女の言葉に耳を傾ける。いや、そう見えるだけだ。巨漢はNPC………少女に作られただけの存在なのだから。

 

「本当に、楽しかったな………」

 

 赤い目を寂しそうに細め、ホムンクルスの少女は口を開く。

 

「この世界に生まれ変わって、『あの子』みたいに振舞って………とっても楽しかった。あなたを作ってまで振舞うのはロールプレイのつもりだったのに、いつの間にかのめり込んで………」

 

 声が震えはじめる。

 

「私ね、お仕事クビになっちゃったんだ。お金も尽きて、野垂れ死に確定」

 

 NPCである巨漢には知る由も無い事だが、彼女のリアルは未だ十五にも満たない少女だ。それでいて、既に両親は亡く、小学校に通う歳から、社会人として日々必死に働いていた………が、世の中そう上手くもいかないものだ。

 

「笑えるでしょ?上司のミスを押し付けられてクビなんて」

 

 憤怒以上の、諦観があった。

 

「けど、悪くないかもしれないわ。だって、皆との楽しい思い出を最後に、人生に幕を閉じれるんだもの」

 

 彼女のリアルには、既に包丁が用意してある。現実に未練も何もない彼女は、サービス終了による強制ログアウトの後、自ら喉を裂き死ぬつもりなのだ。

 

「………あの、えっと………」

「あ………」

 

 そこに申し訳なさそうに声をかけたのは、荘厳な衣装に身を包んだ骸骨。彼女と同じ、この世界………DMMORPG『ユグドラシル』のギルド『アインズ・ウール・ゴウン』に身を置く仲間、オーバーロードのモモンガだ。

 

「その、盗み聞くつもりは、無かったんですが………」

「ううん、気にしないで。ただの独り言だから」

 

 深刻極まりない言葉を聞いてしまったモモンガは、どうしようかと困りながらも、平静を務め、口を開いた。

 

「と、とりあえず、一緒に広間に行きませんか?もしかしたら、誰か来るかもしれませんし!」

「………そうね。そうしましょうか」

 

 少女が手を振ると、続くように二つの影が出現し、少女に追従する。片や幽鬼の如き巨躯の騎士、片や四本の腕を持つ半人半馬。趣味で選ばれ、作られた彼らは、筋骨隆々の巨漢の肩に乗ったままの少女とモモンガに従い、円卓のある広間へと踏み込み、席に着いた少女の背後に控える。

 

「………相変わらず、イリヤさん作のNPCは物々しいですね………バーサーカー、キングハサン、会稽零式、でしたっけ?」

「うん!」

 

 イリヤと呼ばれた少女の席がある場所には、バーサーカーと呼ばれた巨漢が跪いている。彼の肩に乗るイリヤは、現実では終ぞ見せる事の無かった可憐な笑みを浮かべ、身振り手振りでその威容を自慢しようとする。

 

「あはは………お邪魔、しちゃいました?」

「ヘロヘロさん!」

「ヘロヘロ!久し振りー!」

 

 二人が顔を向けた先に現れていたのは、黒い粘液の塊。エルダー・ブラック・ウーズのプレイヤー、ヘロヘロの登場に、二人は喜びを隠さず叫んだ。

 

「二年ぶりくらい?元気………じゃなさそうだね」

「ええ、はい………残業ばかりでボロボロですよ」

 

 軽く会話に花を咲かせると、ヘロヘロはそのままログアウトした。二人は無念を胸に、少なくない時間、口を噤む。

 

「………そうだ!折角ですし、玉座の間に行きませんか?」

「………そうね。最後まで残るんだもの、それくらいしてもいいわよね」

 

 モモンガが金色の杖、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手にする。それと共に、イリヤは紫のワンピースから、戦闘装束である白を基調とした荘厳な衣装へと着替え、三人のNPCを引き連れ玉座の間へと踏み入れる。

 

「………懐かしいね。皆が飽きちゃった後、必死に残りの五体を作ったっけ」

 

 七二柱の悪魔をモチーフにした超希少金属のゴーレムを見上げ、イリヤは感嘆の息を漏らす。かつての努力の結晶を前に、この世界が終わるという事実を一瞬とはいえ忘れられた。

 やがて、モモンガがNPCであるセバス・チャンと戦闘メイド集団、プレアデスを伴い現れ、玉座へと座る。

 

「………この後、どうするんですか?」

「死ぬわ。喉を切るなり、心臓を刺すなりして」

 

 偶然の転生者であるとはいえ、イリヤは既に生への未練はない。否、そもそも彼女を生に縛り付けていたのは、このナザリックでのバーサーカーたちとの交流だ。それが消えてしまえば、彼女を生に縛り付けるものは存在しなくなる。

 

「………そんな」

「どっちにせよ、クビになった時点で死ぬのは確定だもの。だったらせめて、楽しい思い出を最後に、死にたいから」

 

 そう笑い、イリヤはバーサーカーの肩を飛び降りる。華麗に着地した彼女は、モモンガの隣に立ち、跪く玉座の間のNPC、アルベドを筆頭とする面々を見渡し、誇らしげに、そして少し寂し気に笑う。傍らで何かしているモモンガに構うことなく、イリヤは玉座のひじ掛けに座り、呟いた。

 

「この世界が、永遠に続けばいいのに」

 

 ―――その言葉が、神とでも形容すべき存在に届いたわけでもあるまいが。

 午前零時を過ぎても、世界は暗転することなく。それどころか、よりリアリティを増して、二人を包み込んだ。




名前 イリヤ(Illya)

種族 異形種

異名 可憐で冷酷な白き錬金妖精

役職 至高の四十二人

住居 ナザリック地下大墳墓第九階層にある自室

属性 中立(カルマ値:-18)

種族レベル ホムンクルスLv.1

職業レベル 錬金術師、魔術師、幻術師など、魔法系を可能な限り最大レベルで取得済

・外見はFateシリーズのイリヤそのもの。MP、魔法攻撃、魔法防御に特化しており、本体は兎に角打たれ弱い。が、彼女に攻撃させないだけの実力者が揃っていれば、恐ろしく強い。


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現実の始まり

言う程始まらなかったり………


「………あれ?」

 

 訪れる事の無い終わりに、イリヤが疑問の声を漏らす。それと共に、モモンガが無言で指先を動かす。当然のように、システムコンソール等は出現しない。

 

「どういうことだ?」

 

 困惑する二人に、追い打ちをかけるかのような衝撃。

 

「どうかなさいましたか?モモンガ様、イリヤ様」

「………へ?」

「如何なさいましたか、モモンガ様、イリヤ様。何か、問題がございましたか?」

 

 アルベドだ。純白の装束に身を包む淫魔が、自らの意志で動き、言葉を発しているのだ。詰め寄ったアルベドの一部に、モモンガが年頃の青年らしい反応を示す中、イリヤは完全に疑問符で埋め尽くされていた。

 

「へ?え?えええええええ!?どうなってるの!?」

「落ち着け」

「ひぇっ」

 

 幽鬼の如き、地の底から響くような声。骸骨を思わせる面の奥に蒼白い炎を灯すリビング・アーマーが、身の丈ほどの剣の柄尻に手を置き、冷静に告げる。その迫力たるや、モモンガですら声を漏らすほど。

 

「え、あ、ああ………GMコールがきかないようだ」

「………お許しを。じーえむこーる、というものに関して、お答えすることが出来ません。この失態を払拭する機会を与えていただけるのであれば、それに勝る喜びはございません」

 

 NPCと思っていた存在が、口を動かし、自らの意志で動いている。その事実に、二人はただただ驚き、そして困惑する。試しとばかりにモモンガがセバスやプレアデスに指示を出すと、コマンドを介さない言葉であったにもかかわらず彼らは行動を起こした。

 

「えっと………会稽!セバスと一緒に、周りを見てきて」

「承知した」

 

 おどろおどろしい見た目に合わぬいい声で承ると、半人半馬に四本腕の異形の自動人形は、巨躯に似合わぬ軽快さで駆け出し、数秒とせず玉座の間から消えた。

 

「………ごめん、宝物殿に放り込んでたNPCを見てくる!」

「ああ、気を付けて」

 

 モモンガが止めないのは、彼女もまた宝物殿に黒歴史を放り込んだ存在だからだ。母の温もりを求めてNPCを作ったなど、恥ずかしすぎて他者に打ち明ける事は出来まい。

 宝物殿、第一の部屋に入ると共に襲い掛かる猛毒も、『天の衣』によるデバフ、状態異常無効により遮断される。そのまま進み、扉を開ける。第二の部屋を進み、最後に行き着く談話室めいた部屋。鎧の白騎士の対面に腰掛ける紫髪に同じ色のドレスを纏う色白の女性を前に、イリヤは呆然と呟いた。

 

「スカ、ディ………?」

「うむ。久しいな、我が主よ」

 

 メンバーの殆どが消えてから、残ったリソースを使いイリヤが作成したスノー・フェアリーの女性。イリヤと同じ魔法特化のビルドながら、イリヤ以上に支援に重きを置いた、宝物殿の守護者『パンドラズ・アクター』のサポーター。

 彼女が求めた『母性』を強く設定されたNPC、スカディが自らの意志で動いていた。

 

『イリヤさん。第六階層の闘技場に、全階層守護者を呼びました』

「わかった、そっちに行くね」

「おや、もう行かれてしまうのですか?イリヤお嬢様」

「ごめんね、モモンガが呼んでるから」

「ふむ………残念ではあるが、仕方あるまい」

 

 名残惜しそうにスカディがカップに口をつけ、寂し気に笑う。その姿に胸を締め付けられたイリヤは、モモンガへと手短にメッセージを送り、彼女の元へと飛び込んだ。

 

「む?よいのか?呼び出されているそうだが………」

「いいの!交流も大切だもん」

「ふふ、困った主だ」

 

 優しくイリヤの髪を撫で、スカディが笑う。母子の戯れにも似たその場面を、パンドラズ・アクターは何も言わず眺めていた。

 当然のように、モモンガのもとに集まった階層守護者たちは狼狽えたものの、モモンガが何とか言いくるめて事なきを得たのは、余談である。

 

-----

 

『ふーん………』

『いや、『ふーん』って………無茶苦茶高評価なんですよ!?もう少しこう、狼狽えるとか………』

『別に?それで、ハサンと会稽はどうだったの?』

『あー………他の面々に比べると、そこまで過剰な評価とは感じませんでしたね』

『そっか』

 

 自室でスカディに膝枕されながら、イリヤはメッセージでモモンガとの会話を行う。ベッドの周りには、自室の守護者としてメンバーの殆どが消えた頃に設定した比較的低レベルのNPCが三人、無言で控える。

 

「ねえ、スカディ」

「何だ?」

「わたしのこと、どう思ってる?」

「ふむ………愛い娘、というのはどうかな?」

「揶揄わないでよ」

「ははは」

 

 スカディは、冗談とは言わない。設定とはいえ、実際にイリヤを主以前に庇護すべきものとして見ているのだから、当然と言えた。そして、早くに肉親の温もりを喪った彼女に、スカディの言葉は効き過ぎた。

 

「………スカディ様」

「え?え?わ、私が悪いのか?その、揶揄った訳ではないのだが………」

「違う………そうじゃないの………!」

 

 黒歴史だと断じ、宝物殿へと放り込んだことを、イリヤは悔いた。そして同時に、モモンガの物と違う優しさに触れ、耐えきれなくなったのだ。

 長い間腐り切った世の中に浸った少女の心に、設定で形作られたとはいえ、スカディという母の温もりは、刺激が強すぎたのだ。




イリヤの製作NPC

・バーサーカー(種族:ヒルジャイアント)
モチーフ:Fate/StayNightのヘラクレス
役職:イリヤの護衛

・キングハサン(種族:リビングアーマー)
モチーフ:Fate/Grand Orderの『山の翁』
役職:イリヤの護衛

・会稽零式(オートマトン)
モチーフ:Fate/Grand Orderの項羽
役職:イリヤの護衛

・スカディ(スノー・フェアリー)
モチーフ:Fate/Grand Orderのスカサハ・スカディ
役職:宝物殿守護者補佐

・オルトリンデ、ヒルド、スルーズ(天使 大天使)
モチーフ:Fate/Grand Orderのワルキューレ
役職:イリヤの私室の守護

数が多いのは、皆が消えてから余ったリソースを好きに使っていた為と、本人が仮初だろうと他者の温もりを求めていた為。


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幽谷の剣士と巨躯の大英雄

1/26 イリヤらの転移描写を修正いたしました。


 翌朝、イリヤはモモンガの隣で『ミラー・オブ・リモートビューイング』の操作を行っていた。その背後には、セバスとバーサーカー、そしてキングハサンが控えている。

 

「えーっと………ん?人?」

 

 イリヤが鏡に映る景色を凝視し、その光景をよりズームして映す。その先では、鎧の騎士による虐殺が行われていた。その光景に、バーサーカーが顔を顰め、奥歯を噛み締めるのを、イリヤは逃さなかった。

 それと同時に、何かを乞う様に村人の口が動く。より広範囲を見渡すと、森の中を逃げる姉妹らしき少女の姿もあった。死んだ村人の言葉は解らなかったが、イリヤにとっても、バーサーカーにとっても見逃せない事に変わりはなかった。

 

「そうだよね………行こ、バーサーカー。ハサン、村の方をお願い」

「承知した」

「行くのか?」

「うん。大丈夫、だって―――」

 

 イリヤを肩に乗せた巨人が、口の端を吊り上げ笑う。言語能力は設定により消えているが、それだけで意思疎通は十分だった。

 

「―――私のバーサーカーは、最強なんだから!ゲート!」

 

 その一言で、靄のようなゲートが現れる。二人がその身を靄に包まれてから、キングハサンが唸るような声で呟く。

 

「テレポーテーション」

 

 その姿を見届けたモモンガは、かつて自分がたっち・みーに助けられた時のことを思い出し、腰を上げながら呟いた。

 

「………あんなのが突然現れたら、絶対ビビるわ」

 

 そんな彼の呟きを表すように、鏡に映る村の惨劇はぴたりと止まった。

 彼の出現と共に鳴り響いた鐘の音が、そうさせたのだ。

 

「我が主の命により、暗き死を馳走しに参った―――山の翁、ハサン・サッバーハである」

 

 設定により与えられた名乗り口上は、おどろおどろしい低い声と相まって、暴虐を尽くしていた鎧の騎士たちを恐怖させた。生を諦めさせた。そして何より、ここで死ぬべき運命(さだめ)なのだ、と納得させてしまった。

 

「悪逆を良しとする者たちよ―――首を出せ」

 

 剣を握っていた騎士が、剣を投げ捨て跪く。次の瞬間、キングハサンの大剣の切先が土を貫き―――騎士の首が、落ちた。

 

-----

 

「ルルルルル………!」

 

 獣のような唸り声を上げるバーサーカーが、三人の少女を庇う様に立つ。背中に傷を負った少女に手をかざし、イリヤが魔法を唱える。

 

「ミドル・キュアウーンズ」

 

 少女の背中の傷が癒えると共に、バーサーカーが息を吸う。そして、吼える。イリヤが彼を制作する際に集め、湯水のごとく使ったレアアイテムにより獲得した、絶望のオーラⅢを迸らせる。

 

「………やりすぎだ」

「ごめんごめん」

 

 現れたモモンガに窘められ、イリヤは舌を出してウィンクする。それに従うかのように絶望のオーラが消えるも、二人の騎士は混乱したままだ。

 

「それじゃあ………殺して」

 

 澄んだ鈴のような綺麗な声で、無慈悲な死を告げる。バーサーカーが吼え、大地を大きく抉り走り出す。その拳の一撃で鎧ごと中身が潰れ、その余波に巻き込まれた騎士は木に叩きつけられ、そのまま絶命した。

 

「ねえ、お姉さんたちの村に案内してくれない?」

 

 そして、イリヤはその光景に目もくれず、二人の少女へとにこやかに問い掛けた。

 そしてモモンガは、目の前で形作られた惨劇を前に、改めてバーサーカーのステータスの高さを思い知った。

 

-----

 

「待ち侘びたぞ、我が主よ」

「ごめんね、ちょっと色々あって」

 

 少女を伴い村に到着するや否や、キングハサンがイリヤを迎える。それにより、彼の主であると知った村人たちは好意的に彼らを迎えた。

 

「おお、貴女様が………」

「え?ええ、まあ………」

 

 イリヤは、リアルでの境遇上、他人からの好意に弱い。しどろもどろになった彼女が使い物にならないと判断したモモンガは、彼女に代わり老人の対面に出た。

 

「連れが、どうかなさいましたかな?」

「ええ、ええ!彼女の従者だというそこの騎士様のお陰で、我々はこうして助かったのです!」

 

 異形の死神は、彼らの目には無名の騎士と映ったらしい。

 

「成程」

「だって………」

「いや、責めている訳じゃない。寧ろ、よくやってくれた」

 

 モモンガは、これを口実に村長だという人物と上手く交渉し、遠方の者だと口実を見つけ出し、情報を引き出すべく村長の家へと向かう。その間、イリヤは見た目が幼い事もあり、バーサーカー、キングハサンと共に村の広場で待機していた。

 

「なあなあ、このでっかい人は?」

「わ・た・し・の!自慢の護衛よ」

「すっげぇ!」

「ねえねえ、俺も肩に乗ってみたい!」

 

 バーサーカーは大人気だった。恐ろし気な風貌と裏腹に、弔いの手伝いを行うなど、積極的に村人の手助けをしていたお陰でもあるだろう。

 

「だーめ!バーサーカーの肩は私の特等席なんだから!」

 

 そして、イリヤは年不相応に、それでいて外見年齢相応に大人げなかった。

 

-----

 

 夕方。馬に乗った戦士の一団が現れ、イリヤたちと対面する。

 

「私はリ・エスティーゼ王国王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士たちを討伐する為、王のご命令を受け、村々を回っている者である」

 

 ガゼフと名乗った男へと、モモンガが踏み出す。そして、村長宅で改めて使った名を名乗る。

 

「初めまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。こちらが、この村を救った連れの」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。アインズさん共々、流浪のマジックキャスターをしている者です」

「―――」

 

 きっちりと姿勢を正し、紳士的に礼をするバーサーカー。その唸り声に首を傾げていた彼らに、イリヤは苦笑交じりに声をかける。

 

「彼は、私の護衛のバーサーカー。呪いで言葉を発することが出来ないんです」

「山の翁、ハサン・サッバーハである。我が主の命により、悪漢どもに死を馳走致した」

 

 おどろおどろしい声と、アンデッドとしか見えない風貌に怯える者もいた。だが、それは練度の低い者であり、戦士としての経験が長いものは、彼が極めて強力な存在であると否応なしに理解させられた。

 ガゼフは馬を降り、彼らに頭を下げる。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉も無い」

 

 その言葉から間を置かず、一人の兵が彼に声をかける。

 

「戦士長!」

 

 その声の切羽詰まった様子から、二人は何かがあったことを察した。




名前 バーサーカー(Berserker)

種族 異形種

異名 巨躯の守護者

役職 イリヤの護衛

住居 無し(イリヤの存在する場所こそ、彼の居場所である)

属性 極善(カルマ値:500)

種族レベル ヒルジャイアントLv.1

職業レベル 戦士系クラスの多くをLv.10で保有。その他、あれば便利程度のものが幾つか

・イリヤが持てる全てを使い、生活できるギリギリまで給与をつぎ込んで産み出した『わたしがかんがえたさいきょうのばーさーかー』。上位物理無効Ⅲ、上位魔法無効Ⅲに、絶望のオーラⅢを始め様々なスキルを付加されている上、各種状態異常耐性も滅法高く、原作再現の為12回分の蘇生アイテムを持たされている。また、ステータスも課金アイテムフル投入で強化されており、その上あらゆる武器を使えるため、アインズ・ウール・ゴウンのプレイヤー、NPC含め勝てるのは片手で数える程度。
 人格面はセバスに似て紳士的。設定の影響で言語機能を喪失しているものの、敵対以外の形で交流さえ出来れば大抵の人間は気を許せるようになる。欠点があるとすれば、ジャイアントにしては大分小柄に作られているとはいえ、服がイチイチオーダーメイドとなってしまう点か。


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格の違い

「すれいんほーこく?」

「この国と敵対している国だ」

 

 ガゼフとアインズの会話に首を傾げるイリヤに、ガゼフが優しい声色で告げる。

 

「ふーん………じゃあ、殺していいの?」

「いや、だがしかし………」

「お礼はいいわ。だって、私が個人的に許せないだけですもの」

 

 その言葉で、ガゼフはイリヤの綺麗な瞳に渦巻く炎に気が付いた。

 

「私ね、パパもママもいないの。もっと小さかったころに、死んじゃった」

 

 憤怒の炎を滾らせ、イリヤは語る。鈴のようにきれいな声に、隠しきれぬ激情を滲ませながら。

 

「だからね。子供たちから親を奪った奴らを、許すなんて出来ない」

 

 バーサーカーが、同意を示すように頷く。

 

「そうか………」

「行きましょう、バーサーカー」

「―――」

 

 窓から跳びだし、外で待機していたバーサーカーの肩に乗る。

 

「さ、行きましょう―――突撃(Los)!」

 

 数歩、彼らが身を潜める家屋から離れたバーサーカーは、そこから一瞬でトップスピードへと加速。大きく地面を抉り、十秒とせず天使を従えた術者の元へと辿り着き、その剛腕でアークエンジェル・フレイムを殴り潰し、一撃で仕留める。

 

「■■■■■―――ッ!!!」

 

 咆哮を轟かせ、バーサーカーが駆ける。その肩に乗るイリヤは、心底楽しそうに笑いながら、無邪気に言葉を続ける。敵対者に絶望を齎す、最悪の言葉を。

 

突撃(Los)突撃(Los)突撃(Los)突撃(Los)!!!」

 

 あらゆるアイテムで極めて高水準に纏められたバーサーカーの速度は、アインズ・ウール・ゴウンでも上位に入る。それこそ、馬如きでは手も足も出ない程に。

 

「■■■■■―――ッ!!!」

 

 迫る天使を殴り潰し、放たれる魔法攻撃には構わず術者を踏み殺し、狂戦士の名を冠する従者は駆ける。上位魔法無効化Ⅲの効果で中位位階以下の魔法攻撃は通じず、更には上位物理無効化Ⅲにより直接攻撃も殆どが意味を成さない。

 

「ひっ、ひいいいいいっ!?」

「あはは、逃げても無駄よ!」

 

 彼女もまた、精神が変質しており、殺人への忌避感は消えている。それでも、虐殺を見過ごせるほどの変質はしておらず、それを行った者への怒りはあった。

 

「さぁ、さぁさぁ!もっとよ、もっと無様に悲鳴を上げなさい!跪いても許してあげないわ、だから死ぬ気で逃げなさい!全ての抵抗が無意味だって受け入れないで、無駄な抵抗をして惨たらしく死になさい!」

 

 イリヤの怒りの原因は単純明快。子供たちから父と母を奪った悪漢どもへの怒りだ。その怒りを首謀者へと叩きつけ、彼女の怒りに呼応するようにバーサーカーが吼え叫ぶ。

 その身から迸る絶望のオーラⅢを前に、術者たちは混乱し、逃げ惑う。その光景は、遠くにいた彼らのリーダーにも見えていた。

 

「な、なんだあの化物は!?」

 

 狼狽える『陽光聖典』隊長、ニグン・グリッド・ルーイン。その背後には、既に死神が控えていた。

 

「っ!?」

 

 パーフェクト・アンノウアブルの効果が切れたことで、ニグンは背後に迫る死神に気付いた。が、それでは遅かった。彼に付き従っていた部下たちは全て首を喪い、倒れ伏せる。

 

「ひっ、ひぃぃっ!?」

「恐れるな。何れ来る運命が今日であったというだけのことだ」

 

 空を一閃した幽鬼の騎士は冷たく、ニグンに死を告げる。彼の部下は片っ端から潰されており、既に生存者の数は片手で数えられるほどまで減っていた。

 

「どっ、ドミニオン・オーソリティ!」

 

 咄嗟に魔封じの水晶で発動したのは、サモン・エンジェル・7th。現れた天使を見上げ、キングハサンは蒼白い炎の如き双眸を細める。

 

「ほぅ、天使か」

「そ、その通り!これは」

「フンッ!」

 

 一閃。ただそれだけで、ドミニオン・オーソリティは両断され、消滅した。

 

「なぁ………!?」

「その様な玩具に頼らねば、信仰すら示せぬか―――首を出せ」

 

 その言葉が、ニグンが最期に聞いた音だった。

 振り抜かれた大剣、アズライールは、血で濡れるより早くニグンの命を絶った。絶望に満ちた表情を貼り付けた首が地面を転がり、遅れて体が倒れ伏す。

 通常攻撃に即死効果を付与する剣を地に着き立て、キングハサンは空を見上げる。

 

「………」

 

 その先に何があるのか、知る者はない。

 

-----

 

「まずは、我々が勝手に動いたことを詫びよう」

「………」

 

 むすっと拗ねたイリヤが玉座に寄り掛かる中、アインズは言葉を続ける。

 

「何があったかは、キングハサンに聞くといい。そして、ただひとつだけ、至急伝えるべきことがある。グレーター・ブレイク・アイテム」

 

 旗を焼き払い、言葉を続ける。

 

「私は名を変えた。これより、私を呼ぶときは」

 

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで床を叩き、アインズが立ち上がる。

 

「アインズ・ウール・ゴウン!アインズと呼ぶがよい!異論がある者は、立ってそれを示せ!」

「あ、はい!はーい!」

 

 真剣に、オーバーロードらしい発言を続けていたアインズに、イリヤが手を上げて立ち上がり、異論を述べる。

 

「モモンガがギルドネーム全部持っていくのは不公平だと思いまーす!せめて『ウール』は私に頂戴よ!」

「え、えぇ………じゃあ、私がアインズ・ゴウンで、イリヤがウール・ゴウン?」

「んー………イリヤスフィール・ウール・ゴウン!」

「長っ!?」

「えぇー………じゃあ、ウール?けどそれだと羊毛だし………」

 

 ブツブツ悩むイリヤに出鼻をくじかれ、アインズが額に手を置く。その光景を、バーサーカーが微笑みと共に優しく見守っていた。




名前 キングハサン(King Hassan)

種族 異形種

異名 死を告げる幽鬼の騎士

役職 イリヤの護衛

住居 第四階層・地底湖外縁部の霊廟

属性 極善(カルマ値:444)

種族レベル リビング・アーマーLv.10

職業レベル アサシン、ソードマスター、クレリック、ハイ・クレリック、etc………をハイレベルで取得済。

・『山の翁』をモチーフに作られたNPC。元のキャラを考慮し、信仰系の職も多く得ている為、第九位階までは使用可能。また、戦闘時はパーフェクト・ウォーリアーを用いて剣を振う。ステータスは平均程度のHPに高めのMP、高い物理攻撃力と物理、魔法防御力、耐性を有する。パーフェクト・ウォーリアー非使用時は剣を『持ち歩く』のみとなる。また、おどろおどろしい外見に反して治癒や蘇生もこなせる。
 性格は原典に近づけようとイリヤが試行錯誤を重ねたもので、主への忠義はあれど、他の者たち程過度ではない。極善ではあれど、殺しに長けた己を悪と定義しており、殺すことを躊躇いはしない。しかし、原典と違い天命に従い殺すということはせず、主を判断基準とする。
 ちなみに、イリヤはリッチとリビング・アーマーで迷った末、リビング・アーマーにした。


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黒鎧の騎士と褐色の少女

「ふぅん、冒険者ねぇー………」

「イリヤさんには、あのカルネ村の方を」

「や!」

「お願いした………え?」

「モモンガだけズルい!私も冒険者になりたい!」

「いや、イリヤさんはカルネ村とここナザリックの管理を………」

「行きたい行きたい行きたーいー!私も思いっ切り走り回りたい!色々な場所を旅したーい!」

 

 駄々っ子のようにイリヤが喚くが、かつての世界の荒廃ぶりを知るアインズは、その願いを一蹴できずにいた。彼女の願いに、少なくない共感を覚えていたからだ。

 

「んー………でもなぁ………」

「パーフェクト・ウォーリアーならあるよ?」

「いえ、見た目の問題です」

「あ、それなら簡単ね」

「へ?」

「えっと………あ、あった!」

 

 唖然とするアインズの前で、イリヤは取り出した赤い外套を身に纏う。すると、銀髪に赤みが差し、肌は活発さを感じさせる褐色に、ルビーのようだった瞳はパールを思わせる色彩へと変わる。

 

「え?」

「コスプレアイテムよ、コ・ス・プ・レ。見ての通り、見た目を変化させる装備。魔法での看破が無理な代わりに、見た目が変わる以上の効果は無いわ」

「そ、そんなものが………」

「課金ガチャのちょっとレアな外れ枠だけどね」

 

 紫のワンピースの上から羽織っていた赤い外套を脱ぐと、元の姿に戻る。アインズは観念したように頭を抱え、息を吐く。

 

「はぁ………まあ、いいだろう」

 

 ナザリックは大丈夫かどうか、と頭を抱えたアインズだが、嬉しそうにはしゃぐイリヤを見て、何も言えなくなってしまった。

 

-----

 

 漆黒のフルプレートアーマーを纏った人物が、二人の女性とある建物に踏み入る。黒髪に白い肌を持つ、クールという形容がよく似合う女性と、やや露出が多い幼い褐色少女。当然、下卑た視線もあるが、少女はあまり気にしない。

 

「んー………あんまり歯ごたえのありそうな依頼は無いわね」

 

 赤い外套の少女がボヤく中、黒鎧の男が一枚の依頼書を手に取り、受付に持っていく。何やら問答を交わす中、褐色少女―――イリヤ改めクロエは、理解できない文字列を前に、楽しんでいた。気分は、前世で外国人のツイートを眺めている時のそれに近い。

 

「~♪」

「イ………クロエ、行きますよ」

「?行くって?」

「聞いてなかったのか………彼らが、一緒に仕事をしないかと誘ってくれてな。顔合わせだ」

 

 黒鎧の騎士、アインズこと冒険者モモンの指し示す四人組と共に、上の階へと向かい、窓際の席で対面する。

 

「では、改めまして。私が『漆黒の剣』のリーダー、ぺテル・モークです。それであちらが、チームの目と耳となるレンジャーのルクルット・ボルブ。そして、治癒魔法や自然を操る魔法を使う、ドルイドのダイン・ウッドワンダー」

「よろしくお願いする」

「あ、こちらこそよろしく~。あたしはクロエ。クロでいいわ」

 

 クロエが軽い挨拶を返し、序でに名前を告げる。平時と大きく異なる振る舞いに笑いそうになるモモンを置き去りに、ペテルの名乗った青年が最後の一人を紹介する。

 

「それでこちらが、チームの頭脳のニニャ・ザ・スペルキャスター」

「よ、よろしく………しかしペテル、その恥ずかしい二つ名やめません?」

「え、いいじゃないですか」

 

 苦笑気味のニニャの姿を見て、クロエが横目でモモンを見上げる。そうしていると、ルクルットが口を開く。

 

「コイツ、タレント持ちなんだ」

「ほぅ、タレント………」

「へぇ………」

 

 この世界の人間が持つ特殊能力。ペテルの言葉通りであれば、『魔法適正』らしく、クロエが興味深そうに目を細める。桃色に近づいた銀髪に真珠のような目、褐色の肌と合わさり、どことなく彼女の外見から漂わせてはいけない雰囲気を醸し出す。

 その雰囲気がもたらす背徳的な魅力に惹かれそうになる中、モモンの咳払いが響く。

 

「んっ、んん!!えー、こちらはナーベ、私はモモンといいます。よろしくお願いします」

 

 モモンが慌て気味に頭を下げ、ナーベが驚く中、続きを促す。すると、この街に他のタレント持ちがいることを暗示するような情報を得ることができ、それについて深く追求するまでもなく、ニニャより有名なタレント持ちについての情報が手に入った。

 

「その、バレアレという方は、どのようなタレントを持っているのでしょうか?」

 

 勝手に相手が遠方の人間であると納得してくれ、ご丁寧に話しを始めてくれた。ンフィーレア・バレアレなる『あらゆるマジックアイテムを使用可能なタレント』の持ち主を知ることが出来た。

 ナーベとモモンが警戒心を抱く中、クロエは純粋な興味を抱き、唇を軽く舐め回す。

 

「へぇ………面白そう」

 

 その妖艶さに空気が凍るも、ニニャの軽い肘打ちとモモンの咳払いで氷解し、依頼の話に移る。内容は街周辺のモンスターを倒すという、至極簡単な物。

 依頼の話を終え、移動を始めようとする一行に、受付嬢が声をかけた。

 

「モモンさん、ご指名の依頼が入っております」

「え?何、アンタ、恨みでも買った?」

「その様な………あ、あったな、そういえば」

 

 クロエの冗談交じりの揶揄いに、しかしモモンは心当たりがあった為、真剣に考え込んでしまう。そのせいでナーベが警戒心を露わにする中、髪で目元が隠れた青年が彼らの前に現れた。




イリヤ(冒険者モード)
………まあ、まんまクロエですね、はい。


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凛々しい少女と心配症

「スー………」

「やれやれ………」

 

 馬車の上で、クロエが眠る。至高の御方の頭を預かるのは、ナーベラル・ガンマことナーベ。様々な感情のごっちゃ混ぜでフリーズする彼女の傍らで、モモンは肩を竦めた。

 

「なんつーか………無防備ですね」

「我々がいるからと、安心しているんでしょう」

 

 この場で気付いているのは、睡眠中のクロエを除くとモモンだけだったが、遠方からキングハサンがしっかり見守っていた。不埒な真似をすれば、一瞬で首が離れる事となるだろう。

 

「えっと、その、も、ももも、モモンさ………ん」

「とりあえず、クロエが転げ落ちないよう気を付けておいてくれ」

「は、はい!」

 

 パニック手前のナーベを宥め、モモンは兜の下で微笑んだ。

 

(ホント、こういうところは見た目相応なんだよなぁ………)

「―――動いた」

 

 ルクルットの言葉は、決して大きなものではなかった。だが、クロエはしっかりと目を覚まし、素早く立ち上がった。名残惜しそうなナーベは険しい顔でルクルットを睨み、それに構わずクロエとモモンは臨戦態勢になる。

 

『凄いですね………起きてたんですか?』

『居眠りは社畜の心得よ』

 

 メッセージ機能で二人だけの会話を交わし、森の奥から迫るゴブリンとオーガを鋭く一瞥する。

 モモンは身の丈ほどの大剣を二振り、クロエは白黒一対の剣を引き抜き、臨戦態勢に入る。

 

「奴らを容易く屠るところを、見ていただきましょう」

「とっておき、見せてあげるわ!」

 

 漆黒の剣の面々が動くと同時に、クロエとモモンも走り出す。MPの二割を敏捷に置き換える、という『魔捷変換の指輪』を装備しているクロエは、元のMPがアインズを上回っていることもあり、かなりの恩恵を受けていた。

 

「そぉ、れぇっ!」

 

 パワーはないものの、鋭く小ぶりな剣で繰り出す連撃は、三体のオーガを瞬く間に仕留めた。ちなみに、バーサーカーを突撃させた場合、森林の面積が大きく減る事になるだろう。

 

「す、すげぇ………」

「ミスリルどころかオリハルコン………いや、まさかアダマンタイト!?」

 

 驚く漆黒の剣の面々に構うことなく、モモン、クロエ、ナーベの殺戮は続いた。

 

-----

 

 ナザリック地下大墳墓第五階層『氷河』エリアの隅。そこにある城は………一言でいうなら、混沌を極めていた。

 洋式の城の上に逆さのピラミッドが突き立ち、更にその上に日本式の城が立つ。イリヤと同じ前世を持つ人間がいれば、口を揃えてその魔城をこう呼ぶだろう。

 

―――チェイテピラミッド姫路城、と。

 

 イリヤにとって黒歴史であるこの城の玉座で、数名のNPCが鏡を覗き込んでいた。

 

「やれやれ、肝が冷える………我が主は生粋のマジックキャスター故、もう少し何というかだな………」

 

 ミラー・オブ・リモートビューイングでクロエことイリヤを監視していたスカディが、知らず知らずのうちに胸を撫で下ろす。基本、度が過ぎる程寛容な彼女は、このような場であろうと冷静だった。

 

「もー、スカディ様ってば心配症だよー。私たちの創造主だよ?それに、万一に備えてキングハサン様が控えてるんだしさ」

「むぅ………しかし、だな………」

 

 我が子を慮る母親のようなスカディに、可愛らしく尻尾を揺らす少女が背後から声をかける。

 

「大丈夫よ!だって、あの子リスよ?何かあっても、最悪になる前にバーサーカーがすっ飛んでいくもの!」

 

 彼女の名はエリザベート・サカーニィ。かつてイリヤがある仲間と共に製作し………そのプレイヤーが引退してから、イリヤが辛い事を思い出したくない、と封印したNPCだ。なお、手料理と歌唱力恐ろしく酷いという設定だが………イリヤ自身が存在を忘れていた為、今後大惨事になる可能性がある。

 というより、この城のピラミッドエリアはそういったNPCの保管場所に近い。イリヤがNPC制作に飽きて以来、そもそも訪問すらしなくなった為、ここのNPCの大半が忘れられているのだ。興味が移りやすい、子供らしい残酷さと言える。

 

「むぅ………だがなぁ………」

 

 凛々しい顔を歪め、スカディは困ったように唸る。イリヤ作のNPCの中で、最もレベルが高い部類に入る彼女だが、能力は完全支援特化。更に言えば、ナザリックでやって行けるのかどうか不安な程に甘く、そして優しい。

 

「あの子の決定に口を挟むべきでないことは理解しているとも。だが、やはり気が気でないのだ。無論、そのような事にならないのは百も承知だが………」

 

 過保護な母親のような姿。イリヤが求めた存在そのものなスカディは、わんぱくな娘を心配し、その一挙手一投足にハラハラさせられていた。

 そんな彼女の姿に苦笑しながら、ヒルドが口を開く。

 

「心配なら、見に行けば?」

「うむむ………」

「イリヤ様たち、カルネ村に寄るらしいよ」

「よしっ!行くぞ、急ぎ支度せい!」

「あの、スカディ様………移動速度から見て、到着は明日です」

 

 オルトリンデの冷静な呟きは、気合満点で部屋を出たスカディには届かず、玉座の間に揃った皆で顔を見合わせた。




・チェイテピラミッド姫路城(擬き)

 イリヤがおぼろげな記憶を頼りに、第五階層の片隅に立てた城。ちなみに、素材云々は自腹。これまで一年近く使われていなかった場所で、イリヤ自身もそこに封じたNPC含めほぼ完全に忘れていた。現在は、全員スカディにより解放されている。
 ちなみに、この城を知るプレイヤーはおらず、アインズもまだ知らない。


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村での休息

「■■■■■―――!」

「な、なんじゃありゃ?!」

 

 ンフィーレアが、見覚えの無い柵と、隙間から覗くゴブリンたちに困惑していると、突如として巨人が降り立ち、大地を揺らす。その咆哮は、絶望のオーラを伴わぬというのにモモンまでもが竦んでしまう程。

 

(こっわ!?初心者時代に対峙した高レベルモンスターみたいだぞ!?………懐かしいなあ、本当に………)

 

 驚き、そして懐かしさ。バーサーカーから迸る圧は、『冒険者モモン』という制限を受けるアインズにとっては、低ステータスに低レベルの武器、魔法しか使えなかった初心者時代に遭遇した数々の、当時の彼基準で強力なモンスターを思い出していた。

 

「ば、バーサーカーさ………ンフィーレア!?」

「え、エンリ!?え、その怪物、知合いなの!?」

「―――」

 

 相手が村人の知り合いであると気付くと、彼、そして至高の四十二人に対し敵意を以て吼え叫んだことを詫びるように、頭を下げる。その姿にモモンが兜の下で苦笑する中、クロエはバーサーカーに飛びつきたいのを必死で堪えていた。

 

「ふむ、お主の知り合いか?」

「す、スカディさん。はい、私の友人の、ンフィーレア・バレアレです」

「そうか………よい友を持っているな。大切にするのだぞ」

 

 慈愛に満ちた笑みを浮かべ、スカディはエンリを撫でる。そして、警戒していたゴブリンたちに向き直り、告げる。

 

「かの者たちに敵意は無い。安心して門を開けよ!」

 

 人一人通れる程度の隙間だった門が開き、馬車と共に冒険者たちが村へと入る。すると、エンリの妹らしき少女が首を傾げながら問い掛ける。

 

「………イリヤさん?」

「い、イリヤ?私はクロエよ」

 

 全力で狼狽えるクロエをフォローするように、バーサーカーが動き、ンフィーレアの肩を叩き、エンリを指し示しながら身振り手振りで再会を喜ぶよう伝える。それを何とか理解したンフィーレアは、周囲の注意を引きながらエンリと共に移動することで、クロエの追及は免れた。

 

「すっげぇ………あのデカい人、化物っぽい見た目の癖に気遣いがすげぇ」

「男として、見習いたいものである」

 

 バーサーカーがサムズアップと共にンフィーレアを見送るのを見つめ、ルクルットとダインが憧れの視線を向ける。面積の少ない鎧や鎖で覆われながらも一目でわかる筋骨隆々な肉体と、風貌に合わぬ穏やかな立ち振る舞い。彼らが視線を奪われている間にも、バーサーカーは村人の頼みを受け、その人物と共に仕事に向かった。

 

「はい、彼のような立派な人間になりたいものです」

 

 ペテルの言葉は、彼ら一行の心情をこれ以上ないくらい雄弁に語っていた。

 

「はっはっは。そう言われるとは、あ奴も主に自慢したいだろうな」

「主、ですか?」

「うむ。この村に攻め入った蛮族たちを討滅するよう命じたマジックキャスターだ」

「マジックキャスター!?」

「ああ。更に言えば、我らの主でもある」

 

 優しく微笑むスカディに詰め寄ったのは、スペルキャスターであるニニャ。同じく魔法を使うものとして、興味があるようだ。

 

「ど、どんな方なんですか?」

「それを我が口から告げる事は出来ぬな。ああ、この村に滞在している旅の者の知り合いらしいから、聞いてみてはどうかな?」

 

 スカディが示す先には、村の男衆に剣技を教える眼鏡の美丈夫の姿。その姿をうっとりと眺めながらも小さな子供たちの遊び相手をする美女と共に、この村のものとは思えない装いだった。

 

「あちらの方々は?」

「昨日、村に来た旅人さんだよー」

 

 エンリの妹、ネムが無邪気に笑いながらペテルに教え、補足するようにスカディが語る。

 

「シグルド殿と、ブリュンヒルデ殿だそうだ。どちらも強いぞ」

 

 シグルド、ブリュンヒルデ。ヴォルスンガ・サガに語られる大英雄とその伴侶の名を持つNPCは、イリヤが製作した後封印したNPCでもある。製作理由は、生前の病床で遊んでいたゲームで見た二人のイチャラブを間近で見てストレス発散をしようとして………所詮NPCでしかなかったせいで、それが叶わなかった悔しさから、城に放り込まれた存在だ。

 現在は、下手にナザリックで活動させてはアルベドの精神衛生的に不味いとすら思える程人目を憚らずイチャついている為、やむを得ず旅人という形で放浪、情報を収集して貰おうとスカディが外に出している。

 

「………なあ、クロエ」

「………何?」

「あの二人、離れているよな?」

「離れてるねー」

 

 そして、村人たちの墓場がある小高い丘。モモンとクロエは、何とも言えない敗北感と共に村を見下ろしていた。

 

「なのに、何故あんなに甘い空気が流れているのだ?」

「………私が、あの二人がああ振舞う様に設定したからです」

「………口の中が甘いのだが、どうすればいい?」

「我慢して?」

 

 兜の下で、モモンはさぞげっそりとしているだろう。他ならぬイリヤ自身、予想を遥かに上回る甘い空気に辟易としているのだ。文字で見るのと、実際に空気を味わうのとでは、大きく違った。剣の鍛錬をしている男衆が木剣を振る力がやたら強いのは、その欝憤を叩きつけているからと言われても納得できる。

 

「モモンさ―――ん!!!」

 

 そんな二人は、背後から駆け寄る影に気付かなかった。荒い息を吐くンフィーレアに向き直ると、彼は堂々と爆弾発言をした。

 

「モモンさんとクロエさんは、アインズ様とイリヤ様なのでしょうか!?」




シグルド&ブリュンヒルデ(竜人&天使・大天使)

 生前のイリヤが、記憶を頼りに創り出したNPC。封印理由は、生粋のNPCであったせいでイチャラブが見れなかった為。なお、転移後の世界では仲良くイチャついている模様。その様子たるや、スカディがアルベドに気付かれる前に外に放り出すという苦渋の決断を下すほど。
 ステータスとしては、物理のシグルド、魔法のブリュンヒルデで分けられている。また、レベルがスカディ、キングハサン、ヘラクレスより低い。


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マッチポンプ

「ありがとうございました、ゴウンさん、イリヤさん。この村を、救ってくださって」

 

 モモンとクロエに頭を下げたンフィーレアの言葉は、純粋な感謝だった。

 

「え、いや、あの………」

「………違う。私は」

「あ、はい。名前を隠されているのには、何か理由があるんだとわかっています。それでも、この村を………エンリを助けてくれたことに、お礼を言いたかったんです………僕の、好きな人を助けてくれて、ありがとうございました」

 

 再び頭を下げ、感謝の言葉を続ける。その頬には、微かな赤みが見て取れる。

 

「頭をあげたまえ」

「はい、ゴウンさん………それと、実は隠していたことがあるんです」

 

 恥じ入る様に、ンフィーレアが告白する。彼がとある冒険者の弁償代わりに渡した赤いポーションが、非常に希少であること。それを持つ人物がどのような人なのか、そしてあわよくば、その製法を知ろうとしていたのだという。

 

『私がいない間に何してんのよ』

『いや、だってあの時お金ありませんでしたし………』

「申し訳ありません!」

「いいわよ、悪気無かったんでしょ?それに、凄いお薬なら作り方が知りたい、ってのも納得だし?………この事、他の誰にも言ってないわよね?」

「あ、はい!もちろんです!」

「ならよし!いい?私たちは冒険者モモンと、その連れのクロエ。それ以上でも以下でもないの」

 

 暗に他言無用と釘を刺し、クロエが引き下がる。再度ンフィーレアはお礼の言葉を残し、元来た道を戻る。

 

「はぁー………もうちょっと派手にイメチェンできるアイテムがあればな~」

「具体的には?」

「影を感じさせる小柄な後輩系ボインちゃん」

「なにいってるんですかあなたは」

 

 思わず素に戻ってクロエに問い返してしまうモモン。幸いなことに、村の片隅に、外出しているナザリックの面々に色々聞きに行っていたナーベに聞かれることは無かった。

 

-----

 

 鬱蒼とした森の手前で、ンフィーレアが一行へと告げる。

 

「では、ここから森に入りますので、警護をお願いします」

「はいはーい」

 

 軽い様子で告げるクロエに、漆黒の剣の面々が笑みを零す。

 その様子を、森の奥から魔法で監視する者があった。

 

「お嬢様、来たね」

「ええ。オルトリンデ、偵察結果は?」

「極めて低脅威。私でも滅殺可能でしょう」

「了解。では、アウラ様にご報告を」

「大丈夫、話は聞いてたから」

 

 三人の会話に割り込むのは、男物の服に身を包むダークエルフの少女、アウラ・ベラ・フィオーラ。純白の衣装に身を包む三人の天使は、木々の上で彼女に跪き、首を垂れる。

 

「アウラ様」

「もう直ぐアインズ様が来るから、リンデは一緒に報告するよ。スルーズ、ヒルドは『森の賢王』の監視と、周囲の警戒をお願いね」

「ハッ!」

「わかった」

 

 金髪の天使と桃色の髪の天使が飛び立ち、黒髪の天使、オルトリンデがアウラと共に移動を開始。程なくして、森の程々に深いエリアで立ち止まったアインズことモモンが声を上げた。

 

「さあ、私の名を高める為の打ち合わせといこうじゃないか」

「うっわー、ひっどいマッチポンプ」

 

 わざとらしいリアクションをするクロエに構わず、木の上から二つの声。

 

「はーい!という事で私たちが来ました」

「オルトリンデ、ここに」

 

 アウラが木の上から声をかけ、オルトリンデが地に降り、跪く。警戒を露わにしていたナーベが脱力し、驚き混じりに声を上げる。

 

「アウラ様、リンデ………驚かさないでください」

「ごめんねー」

「申し訳ございません」

 

 あまり悪びれないアウラと違い、オルトリンデは深々と頭を下げる。

 

「気にすることは無い」

「そうそう。それで、森の賢王はどうだった?」

「弱い………ですが、イリヤ様方以外では、勝てる人間など一握りでしょう」

「ほほう?」

「非常に愛くるしい外見ながら、力と叡智に溢れた獣です。いっそ、従えてみてはいかがでしょうか?」

「ふむ………従えるか否かは、クロエに任せよう」

 

 興味津々なイリヤに賢王の処遇を一任する事を決め、モモンが話を切り上げる。つまり、作戦開始だ。

 

「畏まりました………あの、出来ればでよろしいのですが」

「わかってるって。任せて」

 

 何処か不安そうなオルトリンデは、その一言で表情を晴れさせ、一礼してから飛び立つ。アウラも木から木へと飛び移り移動を始める中で、魔法による通信を行う。

 

「作戦、開始です」

『はーい』

『了解しました』

 

 予め、森の賢王であろう森の中では最強格のモンスターの寝床で待機していたヒルドとスルーズは、既に相手に敵であろう存在の逃げ道と錯覚させるための仕掛けを終えていた。

 

「さ、起こそっか!」

「待ちなさい。まだ会談を終えてあまり経っていないでしょう?せめて、クロエ様たちが合流してからにするべきです」

 

 遠視の魔法で漆黒の剣の一行を監視するスルーズがヒルドを制止し、小石を掴み上げる。

 

「ふむ………合流なさいましたね」

「あれ?スルーズ、まだやってなかったの?」

 

 スルーズが軽く石を投げようとすると、背後から到着していたアウラが声をかける。それに対し、腕を下ろしたスルーズが丁寧に応答する。

 

「はい、クロエ様たちが合流してからの方がよろしいかと思いまして」

「あー、アインズ様の名声の為だしね」

「では、いきますよ」

 

 軽く石をぶつけ、四人が一斉に退避する。雄叫びと共に起床した魔獣、森の賢王は寝床である洞穴を抜け、スルーズらの目論見通り、モモンら冒険者のいる方へと駆け出した。




オルトリンデ ヒルド スルーズ(天使・大天使)

 イリヤ作のNPC姉妹。スルーズが最高の80、ヒルドが75、オルトリンデが70とイリヤ作のNPCでは中堅の強さ。魔法攻撃に特化しており、特に対アンデットに極めて高い実力を発揮。しかし、当然攻撃以外も出来る為、偵察等もこなせる。


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マジックキャスター・イリヤ

「~♪」

 

 巨大なジャンガリアンハムスターの背で、クロエが鼻歌を漏らす。街中で、露出過多の少女が乗っているという事もあり、当然そういった視線が集まってしまう………それを行動に起こせる馬鹿は、まず居ないが。

 薬草集めのついでで下し、眷属とした『森の賢王』ことハムスケ(命名:アインズ)は、大抵の冒険者ではまず手も足も出ない怪物なのだが、それを遥かに上回る存在感を、彼女の上で器用に仁王立ちするエキゾチックな美貌の少女は有していた。

 

「………クロエよ」

「ん?なーに?」

 

 そんな目を向けられていることに構わぬクロエに、モモンが遠慮がちに声をかける。

 

「その、何だ………ああ、そうだ!ンフィーレアたちの方に、行ったらどうだ?お前に、色々聞きたがっていたからな!」

 

 半分出まかせだ。が、居眠りしていた時間が長いクロエはそれを信じ、アイテムで強化されたスピードで夜の街の細道へと消えた。

 なお、原因はクロエに向けられる性欲剥き出しの視線を警戒してのことだが、イリヤはリアルでもそういった視線に晒されることが少なく無かったお陰で耐性が出来ており、平然とスルーしていた。

 

「っと、あれ?どうし―――」

 

 数分とかけず、ンフィーレアに聞いていた店の場所に到着したクロエは、扉が開いているのに明かりが微かな事が気になり、素早く駆け込んだ。

 それに気付いたペテルとルクルットが、振り向きざまに叫ぶ。

 

「っ、クロエさん!?」

「丁度良かった、クロエちゃん!ンフィーレアさんを連れて逃げて」

「脇に避けなさい!」

 

 咄嗟にペテルとダインが皆を壁際に突き飛ばした直後、そこをクロエが駆け抜ける。

 そして、轟音。恐るべき速度で回り込んだクロエが、奥に居たマントの人影を蹴り飛ばしたのだ。扉どころか壁まで破壊し、マントの人影が外に放り出される。苦悶の声と共にマントを剥ぎ棄て、女が叫ぶ。

 

「何だよ、お前………!」

「しがない冒険者よ」

 

 ウィンクと共に齎された答えは、彼女にとって満足のいくものではなかった。だが、そんなことはどうでもよかった。

 

「へぇぇぇ………それじゃーあー、遊ぼっか!」

 

 スティレットを携えた女、クレマンティーヌが駆ける。その鋭い一線を紙一重で弾き、面積の少ない鎧で守られていない腹部へと刃を振う。が、技術ではなくステータスで振う刃である上、体格差もありあっさりと躱される。だが、小柄であるというのは攻撃が当てにくい代わり、当たりにくくもある。

 

「チッ、ちょこまかウザったいなぁ………!」

「それはこっちの台詞よ」

 

 クリエイト・グレーター・アイテムで作られた剣は頑丈だ。が、防具面積の少ない上ホムンクルスであるクロエに、長期戦は不利でしかない。

 

「何かと思えば、小娘一人に何を手間取っている」

「あら、マジ………っ?」

 

 そこに、第二の敵が現れる。アンデッド染みた風貌の男の名はカジット。クレマンティーヌの仲間であることは、発言一つでも理解できた。

 

「私がアイツを抑えるから、その隙に逃げなさい」

「ですがっ」

「アンタたちより!私の方が強いでしょ!?………安心なさい」

 

 背を向け、静かに言葉を紡ぐ。

 

「時間を稼ぐだけ、よ!」

 

 素早く駆け出し、クレマンティーヌの刺突を躱して腕を掴み、カジットへと投げ飛ばす。空中で体勢を整えるより早く、二本の剣を投げつけ、それを妨害。そのまま渾身の蹴りを叩き込み、二人を吹き飛ばす。

 

「はやく!」

「っ、行くである!」

 

 ダインが叫び、皆と共に走る。その姿が消える前にクレマンティーヌが飛び出すも、小柄さを活かした時間稼ぎを前に、クレマンティーヌは決定打を出せない。

 

「ッチ、流水加速、疾風走破、能力向上、能力超向上!」

 

 恐ろしいまでに速い攻撃。だが、彼らの姿が完全に消えた今、それは意味を成さない。

 

「―――グレーター・テレポーテーション」

 

 一瞬で景色が変わり、目の前からクロエの姿が消える。エ・ランテル西部の巨大な共同墓地の中央エリアで、二人は必死に周囲を探す。

 

「どういうこと?まさか、逃げられた?」

「いいえ、いいえ。逃げる訳ないじゃない」

 

 愉しそうに弾んだ、クロエと違う冷たい声。快活な少女のものから、冷徹な妖精のモノへと変わった声に、二人は警戒を露わにした。

 二人の視線の先に居るのは、雪原の如き純白の髪を持つ少女。ルビーにも似た高貴な輝きを持つ目に冷たさを湛え、紫のワンピースの少女が降り立つ。

 

「………誰?ま、いっか。どーせ死ぬんだからさぁっ!」

「ふふふ」

 

 クレマンティーヌが踏み出す。次の瞬間、彼女は駆け出し―――

 

「ゲート」

 

 突如目の前に現れた靄に突っ込んだ結果、その速度のまま地面へと叩きつけられる。

 

「がはっ!?」

 

 その無様に目もくれず、イリヤが可憐な声を響かせる。

 

「さあ、始めましょう」

 

 彼女を包み込んだのは、巨大な魔法陣。その手にあるのは、小さな砂時計。

 

「ふふ、ふふふ………!いいわ、あなたたちを最初の遊び相手にしてあげる!」

 

 スケリトル・ドラゴンが崩れ落ちると共に、イリヤが砂時計を握り潰す。その顔に純真な笑みを湛え、鈴の如き可憐な声で叫ぶ。

 

天軍降臨(パンテオン)!さあ、遊んであげなさい、ケルビム・ゲートキーパー!」

 

 魔法陣が一際強く輝き、天からの光が地を満たす。その光が消えた時、そこには八体の獅子の顔を持つ天使が君臨していた。

 

「な、うそ………なによ、それ………」

 

 狂気すら消え果て、クレマンティーヌが後退る。未知の魔法のみならず、一目で勝てないとわかる存在が八体も居るのだ。

 

「あら?こっちのほうが良かったかしら?トリプレット・マジック、 サモン・エンジェル・7th!」

 

 更に三体、翼の集合の異形の天使が、笏を手に現れる。かつてスレイン法国に所属していた彼女は、その異形の天使の名を知っていた。知っていたからこそ、折れてしまった。

 

「ドミニオン・オーソリティ………」

「ふふふ、どうしてあげようかしら?」

 

 無邪気に酷薄に、少女は嗤う。四方八方を大天使に囲まれた彼女らに、抵抗の手段は無かった。




エリザベート・サカーニィ(竜人)

 イリヤ作唯一の合作NPC。製作協力に設定魔のタブラ・スマラグディナ。その甲斐あって設定だけは恐ろしく濃い。レベルは72。
 色々細かく書かれてはいるが、基本はエリちゃん。拷問大好き、アイドルに憧れる○○歳の可憐な処女。歌唱力最悪、手料理最悪もしっかり再現されていると共に、主の為に歌う際の歌唱の素晴らしさもしっかり再現されている。さすタブ。
 デバフ系、創造系に特化した魔法型ビルドであり、攻撃力の代わりにタフネスが追及されている。また、専用の槍とマイクを合わせたような杖『監獄城チェイテ』による補正で、創造系の継続MP消費がいくらか軽減されている。ちなみに、しっかりマイクとしても機能する。




 全くの余談だが、転移後の彼女の手料理は第九位階魔法『トゥルー・デス』をも凌駕する即死確率を持ち、歌に至っては『絶望のオーラⅤ』以上の前方広範囲に即死効果を撒き散らす。


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今後の方針

ア「………この城って何です?」
イ「チェイテピラミッド姫路城Ver雪国よ」
ア「え?」
イ「だから、チェイテピラミッド姫路城Ver雪国」
ア「………この意味不明な構造の理由がわかりました」


「ふふん!」

「はぁ………この国に火葬の習慣が無かったのは幸いですね」

 

 宿からナザリック第五階層の城の一室へと転移した二人は、それぞれ最も落ち着く普段の姿に戻り、情報を交換していた。傍らのテーブルには、ミスリルのプレートが置かれている。

 

「冒険者殺しと、ズーラーノーンなる秘密結社の首魁の殺害………けど、超位魔法を使う意味、ありました?」

「しっかりあったわ。コレ、ちゃんとこの世界でも機能してた」

 

 イリヤが掲げるのは、砂時計型の課金アイテム。超位魔法発動までの時間をゼロにするこのアイテムが効果を発揮していると判り、アインズは感嘆混じりに頷いた。

 

「おお!凄いじゃないですか!」

「あと、ケルビム・ゲートキーパークラスは知られてないみたいね。私とバーサーカー、キングハサンで殺した連中と同じ国の人間らしいけど、お陰でサモン・エンジェル・7th………大体、第七位階で呼べるモンスターが、行使可能な上限ってわかったもの」

 

 クレマンティーヌとカジットは、生きてナザリックに収容されている。死体は、墓場の比較的新しいものを弄り回して作った『それっぽい』偽装品だ。ご丁寧に、一度トゥルー・リザレクションで蘇生してから記憶を弄り回し、別人に仕立て上げた上でデスで再度殺し、蘇生させてからも記憶改変が生きているのを確認してから、またトゥルー・デスで殺すという念の入り様。

 これは、完全に折れたクレマンティーヌから聞き出した結果、彼女がお尋ね者の部類であると知り、その実力も含め死体も狙われる可能性を考慮してのものだ。

 

「それで、そっちに心酔してくれたあのおハゲさんは?」

「おハ………カジットなら、情報提供の礼に図書館で魔法についての本を適当に漁って、与えてある。今頃、第五階層の監獄で読み漁っているだろう」

 

 実のところ、今回拘束した二人のお陰で、イリヤとアインズは政治的な情報を多く得ることが出来た。他にも、二人と直接対面したクレマンティーヌのお陰で、警戒すべき存在も把握できた。

 

「漆黒聖典、その第一席次と番外席次………そして極めて強力という道具の数々か」

「ワールドアイテムでない事を祈りたいけど………ケイ・セイ・コゥだっけ?」

「ケイ・セケ・コゥク、ですね………似た名前のがありましたよね」

 

 二人が頷き、顔を突き合わせる。そして、息を吸い共にその名を口にした。

 

「「傾城傾国」」

 

 精神状態異常無効を無効化し、精神状態異常を付加するワールドアイテム。解除するとなれば、同じワールドアイテムクラスのものが必要となる。アインズ・ウール・ゴウンというギルドとして所持するワールドアイテムでそれが可能なのは、消費型のものが一つのみ。

 万一の可能性を想像し、二人は背筋に冷たいものを感じる。バーサーカーがそれを受けた場合を考えると、背筋が凍る。特にイリヤの場合、彼の為だけに、実装と同時にあらゆる手段を駆使して入手したワールドアイテム―――アインズ・ウール・ゴウン攻略隊を正史の千五百から、倍の三千にした原因でもある―――を有していなかった場合を思うと、震えが止まらなくなる。

 

「………うん、彼女には最大級の温情を与えましょう」

「そうね。バーサーカーが敵に回るとか、想像もしたくないわ」

 

 二人は揃って首を縦に振り、モモンガノートに『最優先で警戒するのはスレイン法国の漆黒聖典』と記載。一息吐き、思考をリセットして目を合わせる。アルベドがいれば、嫉妬しそうな光景だ。

 

「とりあえず、当面は我々以外動かさぬ方がいいだろうな。カルネ村のバーサーカーにも、絶界堅護・神の御手(プロテクション・ゴッドハンド)を装備させるべきだろう」

「そうね。丁度緊急事態ってことで呼び戻してあるし、それでいいと思うわ」

 

 プロテクション・ゴッドハンド。イリヤ個人が有する、バーサーカー専用として与えたアイテムだ。かつて大討伐隊を相手にした際、モモンガ玉に並ぶ大虐殺を可能とした代物の真価は、あらゆる状態異常の完全無効と各種防御耐性系スキルの超絶強化―――具体的には、全防御スキルの超強化により、バフ無しではダメージが二桁しか通らなくなる――を有する首飾りである。廃課金で入手した数々のアイテムで異常なまでの防御耐性を与えられたバーサーカーを不沈艦へと変える上、彼自身に与えられた十二回分の蘇生アイテムが不沈艦から不死身の怪物へとランクアップさせるのだ。

 

「………漆黒聖典には、同情したくなりますね」

「そう?敵対するなら死ぬのは当たり前じゃない」

「いや、まあ、そうなんですけど………」

 

 モモンガが思い出すのは、かつての虐殺劇。ギルドメンバーに混じり、最前線で暴れ狂う、あらゆる攻撃を無力化するバーサーカーの姿。この世界の人間の弱さを思うと、人間味を失ったはずの心が同情を訴えるのだ。

 

「ゲート!来て、バーサーカー!」

 

 イリヤがゲートを開くと、少ししてバーサーカーが現れる。

 

「バーサーカー、ちょっとしゃがんで貰えないかしら?」

 

 イリヤがお願いすると、バーサーカーは無言で跪く。散りばめられた装飾により、雪の結晶を思わせる美しさを発揮する首輪を厳重にロックされた箱から取り出し、バーサーカーの首にかける。それにより崩れた髪形を整え、ゲートから武器を引っ張り出して、イリヤが胸を張って笑う。

 

「うん、完成!バーサーカー、パーフェクトフォーム!」

 

 身の丈に迫る巨大な剣に、筋骨隆々の体を縛る様に保護する鎖。その上に固定されている鎧は、ユグドラシル一の強度を誇る素材をふんだんに使ったものだ。

 

「まあ、四六時中この姿っていうのも、どうかと思うがな」

 

 アインズの言葉にバーサーカーは微かに苦笑を浮かべた。




・チェイテピラミッド姫路城

大まかな内部構造

上:姫路城(居住スペース)
中:ピラミッド(保管スペース)
下:チェイテ城(娯楽スペース)

現城主はスカディ。階層守護者でもないのに玉座を持つことについては、城を訪れた段階でアインズが許可した。


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幹部会議

「うむ、よい腕だ」

 

 肩で息をし、闘技場の地面に乙女がしてはいけないような体勢で倒れるクレマンティーヌに、相対していた会稽が腕を組み笑う。

 

「それ、嫌味?私より強いの、法国に行けば二人はいるけど?」

「なんと………しかし、嫌味の類ではない。貴殿のブギ、とやらだが、我々にはない技術だ。非常に良い刺激となった」

「………あっそ」

 

 カルマ値のプラスが大きい会稽は、しっかりとした礼節を以てクレマンティーヌに一礼する。その二人の様子を観客席から眺めるのは、デミウルゴスとコキュートスだ。

 

「ふむ………興味深いですね」

「ウム。アレヲ使エルヨウニナレバ、更ナル戦力増強ニ繋ガロウ」

「きっとイリヤ様は、それを見越して彼女を生け捕りにしたのでしょう。流石は至高の御方だ」

 

 デミウルゴスがクレマンティーヌをナザリックの戦力増強にどう活用するか思考を巡らせ始める中、彼らの主の声が、玉座の間への招集の旨を告げた。

 

-----

 

「―――という事だ。今後、カルネ村や都市の外部での人間との接触は控えるように」

「そうですね………耐性無視の精神支配となれば、対抗可能なのはお一人ですもの」

 

 階層守護者より更に上。主人たるイリヤの護衛の地位を有するバーサーカーへと、視線が集まる。それを確認したアインズは頷き、続きを口にする。

 

「そうだ。バーサーカー、お前には引き続きカルネ村への常駐、警護を頼みたい。イリヤの警護は、キングハサンに任せる事となるが、構わないか?」

「―――」

 

 静かに首肯し、跪くバーサーカー。アインズが確認の意を込めて首を縦に振り、顔を上げる。それを確認したイリヤが、手を叩き注目を集め、口を開く。

 

「それで、名声を得る手段だけど………ジャック!」

「「「はーい」」」

 

 奇妙に反響する、あどけない声。イリヤ作の封印NPCの一人である彼女はハイ・レイスの不定形な霧のような姿から固まり、幼い少女の姿になった。

 

「「「あのハムスターさんみたいなのが、森にあと二人残ってたんだ」」」

「「蛇さんは賢そうだけど、トロールは馬鹿そう」」」」

「「「「アイツらなら、適当にけしかければいい名声稼ぎになるよ」」」」」

 

 一人の体から、幾重にも反響した声が響く。彼女の名はジャック・ザ・リッパー。中位アンデット作成スキルで製作可能なアンデットと同名の、隠密、暗殺特化のNPC。その声の反響は、複数の死霊の融合であるハイ・レイスの性質をFateシリーズにおける彼女の存在に落とし込んだ為に生じるものだ。

 

「ふむ、トロールか………強さはどの程度だ?」

「「「「「「ハムスターと同じくらい。パワーだけなら、あっちの方が上」」」」

「「「「けど、あの子は魔法が使えるけど、あれは使えない」」」

「「あと、あたま悪いからたぶん楽勝」」」」

 

 一人が喋っているようで、実際は一つの人格を形成する無数の死霊が勝手に喋っているに過ぎない。それでも齟齬が起きないのは、根本的な場所が一つに統合されている為、記憶や思考は統一されている為だ。

 

「成程………蛇はどうだ?」

「「「使い潰すより、支配した方がいいとおもう」」

「素晴らしい情報だ。ジャック、だったか。感謝するぞ」

「ありがとう、ご主人様(おかあさん)!」

「お、おかっ!?え、ええっ?!」

 

 アインズが酷く困惑し、混乱し、精神の沈静化が起こる。そしてすぐさまイリヤを掴み寄せ、器用に小声で怒鳴りつける。

 

「どんな設定してるんですか!?」

「い、いやーあはははは………」

「「「「どうしたの、ご主人様(おかあさん)?」」」」

「何でもないぞー、うん、何でもない。ただ、お母さん呼びはやめてくれないかな?」

「「はーい」」」

 

 素直に頷くジャックに安心し、アインズは咳払いと共に話を再開する。

 

「セバス」

「ハッ」

「これまで通り、令嬢のソリュシャンとそれに仕える執事として、情報収集にあたれ。アウラ、マーレ。時機を見てこちらから連絡するから、そうした場合、森に住むという強力なオーガたちをカルネ村まで誘導してくれ」

「は、はい!」

「了解しました!」

「デミウルゴス、蛇とやらの支配を頼む。もし従わぬようなら、好きにして構わん」

「ハッ、畏まりました」

「他の者には、適宜指示を出そう。異論がある者は、立ってそれを示せ!」

 

 その言葉に従い立ち上がったのは、五人。

 

「………ふむ、まずはスカディ。何か不備があったか?」

「いや………確か、周辺諸国の地図があったはずだ。まずはそれを見て貰いたい」

 

 スカディが地図を広げると、アインズ、イリヤの二人が視線を落とす。

 

「ふむ………続けろ」

「これを見て貰えばわかるだろうが、王都の方はスレイン法国とやらの手が伸びにくい。よって、階層守護者には劣れど、十二分な実力を有するシグルドとブリュンヒルデを、王都より北方の情報収集に送り出すのはどうだろうか?」

「ふむ………シグルドよ。お前はどう考える?」

 

 アインズの視線を受け、シグルドが起立する。

 

「ご命令とあらば………しかし、恐れ多くも一つ」

「何だ?」

「我が忠誠を捧げるのは至高の御方たるお二人ですが………我が愛を捧げる妻、ブリュンヒルデに万一の事があった場合、お二人の命を蔑ろにせぬ自信がございませぬ」

「構わぬ。そうなった場合、それはスカディの提案を了承した私の落ち度だ。存分に責めてくれて構わない」

「温情、感謝いたします」

 

 シグルドに対し、文句を言うものは一人。

 

「その………困ります………皆様の前で、こんな………」

 

 顔を真赤に悶えるブリュンヒルデのみ。

 スカディが二人の出立準備の為、二人と共に退出する。そして、残りの四人へとアインズが問い掛けた。

 

「それで、スルーズ、ヒルド、オルトリンデ………と、誰だ?」

「ジャガーの戦士、ジャガ村ティーガー、じゃなくてタイガ!」

「………え?」

「はいはーい、気にしないでー!それで!何かな!?」

 

 そういえばこんな愉快な奴いたなー、と冷や汗を流すイリヤに、ネコミミを生やし、トラの着ぐるみを着た愉快な女性が本題を告げる。

 

「ズバリ!森林の奥、湖があるんだけどさー………そこの亜人さんたち、舎弟にさせてくれない?」

「ふむ………生かしておくメリットは何だ?」

「ハッ。あの近辺のリザードマンには、魚の養殖を行うものが存在しています」

「その様な知恵者がいるのであれば、武技を始めとした様々な情報を得ることが可能かと」

 

 スルーズ、ヒルドが続け、オルトリンデが少しでも確実性を増す為、己の考えを口にする。

 

「更には、彼ら亜人を庇護することで、アインズ様の慈悲深さを広く知らしめることが可能かと。人ならざるものを迫害する法国と相対する可能性を考えるならば、捨て駒程度であろうと使える臣民は増やすべきかと愚行致します」

「ふむ………いいだろう。コキュートス!ジャガ村らと共に、湖周辺の亜人の支配を命ずる」

 

 引っ掛かる単語こそあったものの、今度の会議は、アインズにとって嬉しいコトの連続だった。




ジャガ村タイガー(ウェアジャガー)

 森林での隠密戦闘に特化したイリヤ作のNPC。言動に関しては、大体イリヤの記憶のせい。また、ギャグキャラに見えて滅茶苦茶強く、森の中では階層守護者すら手古摺るレベル。森を焼き払う、ということが出来ない敵ならばまず負けない。
 ドルイド系を収めているほか、隠密系、探知系に優れ、トラップの製作もお手の物。AI時代より凶悪さが増しているほか、ウザさも増している………が、ふざけない時はそれだけヤバい証である為、ある種の指標として使える。


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誰の為の剣か

1/28 微追記


「死を撒く剣団、か………」

「引き受けて、いただけますでしょうか?」

 

 モモン、ナーベ、クロエの三人に、縋る様に懇願するのは、冒険者組合の重役。内容は、周辺で盗賊の真似事を行う犯罪者集団の討伐だ。

 

「構いませんが、何故我々なのでしょうか?」

「彼らは、戦争を生き抜いた猛者でもあります。とてもではありませんが、この街に居る冒険者の大半では勝ち目がありません」

「成程………」

(これはチャンスか?上手くいけば、死体が手に入るぞ)

「わかりました、お引き受けしましょう」

「あ、ありがとうございます!」

 

 これにより、死を撒く剣団の末路は決定された。それを彼らが知るのは、まだ先の事だ。

 

「ふう………」

「あ、お久しぶりです、モモンさん」

「ん?ああ、久しいな、ペテル」

 

 組合の建物を出ようと進むモモンたちが遭遇したのは、漆黒の剣の面々だ。

 

「クロエさん、先日はありがとうございました」

「いいえー。そっちこそ、無事でよかったわ」

 

 頭を下げるペテルに対し、クロエは若干気まずそうだ。冒険者クロエとしてはまず勝ち目のない二人であったことも、一因だろう。

 

「これから、お仕事ですか?」

「ああ。ちょっとした盗賊の討伐だ」

 

 口数少なく、モモンたちは建物を出た。その背中を見届け、ペテルは独り呟く。

 

「流石の風格ですね………」

 

 その呟きは、建物の中の喧騒に掻き消された。

 

-----

 

「ほう、ここか」

「は、はい!その、私は先に帰らせていただいてよろしいでしょうか?」

 

 御者の男が、恐る恐るといった様子で確認する。死を撒く剣団と共謀しているのはモモンらも知っているが、それにはあえて触れない。

 

「構いません。我々とて、一人も逃がさず捕らえられる確証はありませんので」

(こう言っておけば、油断してくれるだろ。まあ、どっちでもいいけど)

 

 三人で馬車を降り、洞窟へと踏み込む。昼間とはいえ薄暗い中を進んでいくと、無数のランタンで照らされていることがわかる。

 

「コンティニュアル・ライトか………出るときにでも回収しよう。売ればそれなりの額になるだろう」

「はぁー………こっちでもお金お金って、世の中世知辛いわねー」

 

 六歳から働き詰めだったこともあり、クロエの声は本気でうんざりとしたものだった。そのあまりの声色にナーベまでもが目を剥く中、奥から一人の男が歩み寄ってきた。

 

「あんたらか?侵入者ってのは」

「何者だ?」

「ブレイン・アングラウスだ。そう言うそちらさんは?」

「モモンだ。貴様が死を撒く剣団のリーダー、か?」

「いいや、ただの用心棒だよ」

「そうか」

「モモン、先行ってて。どーせなら、サシで殺り合いたいでしょ?」

 

 クロエは、目の前の敵がクレマンティーヌ以下であると感じ、モモンたちを先に行かせることにした。ナーベが異論をはさむより早く、モモンが確認する。

 

「いいのか?」

「そっちの嬢ちゃんを殺ったら直ぐ追いかけるさ。それに、ボスを捕まえねえと、お仕事にならねえだろ?」

「違いないな。ナーベ、行くぞ」

「ハッ」

 

 二人が先に進む中、クロエは二本の剣を取り出し、構える。

 

「それじゃあ、死合うとしようか」

「お手柔らかにね、お・に・い・さ・ん」

 

 ブレインが刀を抜き、構えると共に、クロエが駆ける。

 

(秘剣、虎落笛(もがりぶえ)―――ッ!?)

 

 知覚不能な速度での斬撃―――それは、あくまで人間。それも普通の人間基準でのことであり、それを遥かに超えるレベルを有するクロエなら、防ぐことは可能だ。

 

「な………っ」

「凄い技ね。教えてくれない?」

「クッ!」

 

 鋭い斬撃の連続。だが、ワールドチャンピオンのたっち・みーのに比べると遥かに鈍い。クロエの視点では、ブレインの斬撃に対応することは難しくないのだ。

 

「化物かよ………ッ!」

「そうかしら?」

 

 双剣を軽く手の中で弄びながら、クロエが首を傾げる。

 

「それで、どうするの?」

「っ、おおおおおおおおお!!!」

 

 冷静さを欠いたブレインに、武技を使う事は出来ず。放たれるのは我武者羅な斬撃の数々。それを捌くなど、敏捷ステータスが強化されているイリヤには容易い事だった。十どころか百を超える斬撃は、しかしクロエに届かない。

 どれ程の時間が流れたか。ブレインは、背後から響く悲鳴すら意識から締め出し、ひたすらに剣を振い続けた。武技に頼らぬ、身体能力と培った技術から繰り出される斬撃の数々は、やはり全て防がれてしまう。悲鳴すら途絶えた中で、ブレインは遂に感情を抑え切れなくなり、叫ぶ。

 

「何でだよ!何で当たらない?!」

「そうやって叫んでも、何も起こらないわよ」

 

 何処までも、冷たい声だった。ただ喚くだけの姿が、職場の無能どもと重なったからか―――生前の自分と、重なったからか。苦痛に耐えるように顔を歪め、二本の剣で刀を絡め取り、地面に叩きつける。その反動でブレインは尻餅をつき、呆然と呟く。

 

「………だったら、どうしろっていうんだよ」

「出来る事をする。それだけよ」

「今までだってやって来たさ!大勢斬り殺して、それで何が足りないっていうんだ!」

「ンなモン自分で見つけなさいよ、この馬鹿!」

 

 ブレインの叫びに、クロエが逆上した。

 

「大体ねえ、こうやって好き放題出来てる時点で恵まれてるでしょうが!私なんか、病院から出られないわ!女として死ぬくらい働いてもガキだからって給料下げられるわ!挙句何!?上司がうっかり纏めた書類の提出忘れたのを私が書類提出遅れたからって責任転嫁して!怒鳴りたいのはこっちなのよ!ばーか、ばーか!」

 

 クロエの叫びの内容は、ブレインには理解できないモノだった。それでも、彼女の境遇が相当酷いものである、ということは理解できた。そんな少女を目の前に、彼は用心棒の事すら忘れ、問い掛けていた。

 

「………なら、一つだけ教えてくれ。君のその剣技は、誰に学んだんだ?」

 

 クロエ―――イリヤは、少し考え………この世界で、手を差し伸べてくれた者たちの一人と、前世で憧れ、今こうして真似ている少女の、大本たる錬鉄の英雄を浮かべ、誇らしげに笑った。

 

「―――正義の………そう、正義の味方よ。誰かの為に戦う、優しくて強くて、かっこいい人に、私は色々教えて貰ったの」

「誰かの、為………」

 

 ブレインはその部分を反芻し、立ち上がる。

 

「成程な………道理で………」

「いい刺激になったかしら?」

「ああ。お陰で、今まで見えなかったものが見えた気がするよ」

 

 ブレインの顔は、見違える程晴れやかなものだった。




ジャック・ザ・リッパー(ハイ・レイス)

 隠密と即死、継続ダメージに特化したイリヤ作のNPCの一体。幾重にも重なる声を再現する為の設定に四苦八苦し、半日もかかったものの、そのボイスを聞く機会に恵まれず、また妹のように甘えてくれるようなAIも無かった為、封印されてしまった。
 即死と状態異常耐性の弱体に特化したスキル・魔法構成であり、魔法攻撃力と敏捷に重きが置かれている。打たれ弱いものの、アストラル系モンスターである為、マジックキャスター等がいなければ逃げ延びるのは簡単である。


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リザードマンの平定

「………あの男は、逃がしたのか?」

「ええ。いい目をしてたから。そう遠くない内に強くなるわよ、彼」

「そうか………まあいい。あの男については、何も言われていないしな」

 

 モモンは、洞窟の外で一人足をぶらぶらさせて座っていたクロエに、何も言わない。

 

「戻れ。死体と、内部のコンティニュアル・ライトを回収するぞ」

「はーい」

 

 洞窟の奥で一人、作業中だろうナーベの元へと、二人が向かった。その背後には、形のはっきりと残った靴跡だけが、残されていた。

 

-----

 

 数刻前、大森林奥地の湖の一角。無数の蔦や樹木で形成された湿地の闘技場には、動かぬ三つの影と、激しく動き回る四つの影が。

 

「どっせーいっ!」

「クッ………!」

「はええな、獣人!」

 

 リザードマンの族長たちを、ジャガ村が高い敏捷ステータスで圧倒する。しかも、薙刀ですれ違い様に的確な一撃を叩き込むのだから手に負えない。既にグリーン・クロー族のシャースーリュー、ザリュースとドラゴン・タスク族のゼンベル、レッド・アイ族のクルシュ以外は膝を突き、音を上げていた。

 

「ミドル・キュアウーンズ!」

「すまない、恩に着る」

 

 ザリュースのフロスト・ペインの斬撃は、薙刀の石突で弾かれ、軌道が逸れる。それと同時に背後から迫る大剣を刃で見事に受け流し、体勢が崩れたところを蹴り飛ばす。

 

「アイアン・ナチュラル・ウェポン!」

 

 武技の発動と共に迫る拳に飛び乗り、薙刀で肩を裂きながら、漆黒のスーツ姿のジャガ村が宙を舞う。上から羽織る分厚いコートも何のそのとばかりの派手な動きに、上空に待機しているワルキューレたちは感嘆の息を漏らす。

 

「アース・バインド!」

「おっと!」

 

 魔法で形作られた土砂の縄を躱し、それを足場にクルシュへと迫る。その間に割り込み、刺突を上手く逸らしたのは、ザリュースだ。

 

「兄者!」

「おう!」

「いい隙だぜ、獣人!」

 

 左右から迫るゼンベルとシャースーリューの攻撃に対し、ジャガ村は受け流された薙刀を素早く振り抜き、刃で拳を弾き、そのまま大剣に柄を絡め、弾き飛ばした。

 

「ぬぁっ!?」

「マジかよ………!」

「合図はいいけど、バレバレ過ぎると相手にもわかっちゃうから要注意だゾ!」

 

 返す下から掬い上げるような一線で、氷の片手剣の複雑な刃に薙刀を食い込ませ、弾き飛ばす。

 

「………完敗だ」

「ああ。これ以上ない清々しい敗北だな」

「あら、もう終わりかしら?」

「だっはっは!俺とレッド・アイのメスでどうにかなる相手じゃねえな!いいぜ、ドラゴン・タスクはアンタの舎弟になってやる!」

「ほほう?」

「………レッド・アイも同じく、ジャガ村様の支配下に入ります」

「グリーン・クローも同じく………全部族に喧嘩吹っ掛けて、見事に勝つとはなぁ」

「オーケーオーケー。それじゃ、アンタらは纏めて私の舎弟って訳だ」

 

 蔦と樹木で形作られた壁に寄り掛かり、ジャガ村が笑う。お惚けの一切ない、色香を感じさせるクールな笑みだ。

 

「話ハ纏ッタヨウダナ」

「ええ」

「デハ、コレヨリ数日、部族ノ平定ニ力ヲ注ゲ。ソノ後、ジャガ村ノ臣下トシテ、アインズ様ト謁見シテモラウ」

「そういうこと。アンタらの姉貴分として、最後まで面倒見てあげるから、安心なさいな」

 

 暗に、手古摺るようなら喜んで力を貸すと伝え、ジャガ村は立ち上がる。

 

「全ては、可愛い至高の姫の為………なんちって」

 

-----

 

「はぁ………どうするかな」

 

 クロエとの問答で上に至る光明を見つけたブレインは、一人荒野で呟いた。

 

「いい年こいて、ガキに無様なとこ見せて、恥ずかしくなって飛び出して………?」

 

 アテもなく荒野を彷徨っていたブレインの耳に、馬らしき足音が届いた。

 

「おや、どうなさった?」

「えーっと………」

 

 見るからに上等な鎧を身に着けた眼鏡の美丈夫が、馬車からブレインを見下ろす。その隣には、これまた上等な装束に身を包む美女が。

 

「おっと、自己紹介がまだでしたな。私はシグルド。旅の者です」

「ブリュンヒルデと申します」

「ご丁寧にどうも………ブレイン・アングラウスです」

「して、ブレイン殿。このような場で一人とは、何かあったのですかな?」

「………道に、迷いまして」

 

 自分でも苦しいと思いながら、ブレインは嘘を吐いた。しかし、二人はそれを信じ、軽く頷いた。

 

「成程………して、どちらに?」

「そうですね………王都、リ・エスティーゼに」

「ほう、奇遇ですな。当方らも、王都へと向かっているのです」

「凄い偶然ですね」

 

 驚きに不信感が生まれるも、シグルドの笑みを見るとそんな猜疑心すらも消え失せる。そう思わせるだけの好漢を前に、ブレインは微かな敗北感を覚えた。

 

「こうして出会ったのも何かの縁。よければ、乗って行きますか?」

「………よろしいのですか?」

「何、当方も一介の剣士です故。貴殿のような才覚に溢れる人物と語らう機会を逃したくないのですよ」

 

 ブレインは、腰に下げる刀を見据えるシグルドの視線に背筋が震えた。視線一つで強者とわかる程圧倒的な相手に、気付けば頭を下げ、懇願にも似た言葉を口にしていた。

 

「どうか、剣の教授をお願いしたい」

「当方も未だ果てには至らぬ身。故に教授は叶いませぬ」

 

 申し訳なさそうに告げるシグルドが続けた言葉は、ブレインにとって有難いものだった。

 

「故に、共に腕を磨きましょう」

「っ、はい!」

 

 この日の出会いを、ブレインは忘れないだろう。




この後無茶苦茶砂糖吐いた(ブレインが)


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仕組まれた危機

1/29 あとがきの誤字を修正


 三人が宿に帰還すると、そこにはスルーズが跪いていた。

 

「………どうしたの?」

「本日の成果について、ご報告に参りました」

 

 跪く彼女に立ち上がるよう促し、二人はベッドに腰掛け、続きを促す。

 

「ふぅん………で、どんな感じ?」

「湖のリザードマンは全てジャガ村様に下り、デミウルゴス様も西の魔蛇を支配下に置きました」

「流石はデミウルゴスだ。ジャガ村も、言動とは裏腹にやるではないか」

「そのお言葉は、直接おかけになられるべきかと」

「うむ、後日一度戻ろう」

「それと、計画に修正を加えたいのですが、よろしいでしょうか?これは他の皆様も合意しておりますので、後はお二人の承認を求めるだけです」

「ふむ………申してみよ」

 

 モモンではなく、アインズとしての問い掛けに、スルーズは気圧されることなく告げた。

 

「カルネ村へと攻め込ませる予定であったオーガ………とジャックが思い込んでいたトロールらですが、このエ・ランテルに攻め込ませるべきかと」

「では、まずは理由を述べよ。その結論に至った理由を知りたい」

 

 アンデッドとして変質したアインズは、それそのものを咎めはしない。ただ、この街に居るバレアレ一家は、ユグドラシルのポーションの再現を試みている貴重な薬師だ。それを徒に危険に晒す真似は、あまりしたくなかった。

 

「まず、アインズ様の正体を知る薬師ンフィーレア・バレアレです」

「ほう?」

「あの村であれば、バーサーカー様の存在に加え、ゴブリンたちが駐留しておりますから防衛能力は高い。ですので、あちらで適度に蹂躙させ、その残りと他の魔獣やアンデットを混ぜ合わせ、この街にぶつけます」

「成程。それを利用して、アインズ様のお膝下であるカルネ村への移住を勧めるのですね」

 

 ナーベが手を叩き、アインズが頷く。イリヤが感心しながらも手で続きを促し、金髪の天使は言葉を続ける。

 

「はい。その為にも、アインズ様方には大群の分流と遭遇し、足止めを喰らうという形で遅れて街の防衛に参加していただきます。無論、御身らの敵ではないでしょうが、それなりの数となるでしょうのでご容赦を」

「いいだろう」

「そして、ギガント・バジリスクを数体紛れ込ませます。相当上位に位置するモンスターです故、いい名声稼ぎになるでしょう」

「ギガント・バジリスクでか………」

「ご不満とあらば、スケリトル・ドラゴンでも墓場から引き摺りだしますか?幸い、ズーラーノーンなる者たちはまだ残っておりますから、罪を被せることは容易いと思われますが」

「いや、構わん。素晴らしい作戦だ」

 

 冒険者モモンはエ・ランテルの英雄として名を上げ、同時にンフィーレアという優秀な人材に、カルネ村への移住を考えさせる。想い人がいるというのはただでさえ大きなプラスに働く上、バーサーカーという強力な守護者の存在が、より強大なプラスに働く………と信じている。

 

「だが、そうだな………バレアレ一家と漆黒の剣は、殺さぬようにして欲しい。漆黒の剣に関しては、最悪死ななければ構わん」

「畏まりました」

 

 薬師であるバレアレ一家は兎に角、前線で戦うだろう冒険者が無傷というのは、いらぬ疑いを生むだろう。特に、ンフィーレアは聡明だ。最悪、襲撃とモモン、ひいてはアインズが関係している可能性に辿り着く可能性を、二人はしっかり考慮していた。

 

「ただ、何度も言うけど殺すのはナシよ。最悪でも手足の一本、二本に留めてね」

「畏まりました、お嬢様」

 

 スルーズは跪き、了解の意を告げ、グレーター・テレポーテーションでその場を去る。

 そのまま森の洞窟に転移し、襲撃に備え集められた魔獣を見下ろす。その中には、精神支配を受けたトロールの長、グの姿もあった。

 

「見事ですね」

「あったりまえよ!アインズ様の為に、片っ端からかき集めたんだから」

 

 胸を張るアウラは、ビーストテイマーとしてはナザリック一だ。それ故、レベルの低いこの世界のモンスター程度であれば、従えるのは容易いのだ。

 

「これだけの数が使い捨てとは、勿体無いですね………」

「ルルルル………」

 

 洞窟の出入り口を封鎖するように座すのは、純白の天馬に跨る長身の女性と、鬼火の如き蒼白の巨大な狼。背に首無し騎士を乗せる狼の眼には鬼火が灯り、大鎌を加える口からも蒼炎が溢れ出している。

 

「ご不満ですか?」

「………」

 

 イリヤが魔獣ガチャでホワイト・カストル―――レア枠ですらない、見た目が可愛いだけのシロクマ型の魔獣。ちなみに、確率は高い筈なのに手に入らなかった―――で惨敗を喫した副産物である魔獣、エルダー・バーゲスト・リーダーをもとに作成した、二体で一体のNPC、ロボ・ホロウは沈黙を返す。同じく魔獣ガチャの産物であるペガサスの為だけに作られたNPCであるメドゥーサは、元々が寡黙だからか必要以上に喋らない。

 

「アウラ様、もう少し数を増やせますか?」

「遠出すればいけると思うけど………」

「此度は派手に演出する必要があります。アインズ様演じる英雄、モモンですら手を焼く数となると、これでは致命的に足りない」

 

 ロボ・ホロウを前線に出すのは憚られる。設定により与えられた憎悪のままに、エ・ランテルの街を滅ぼさせるわけにはいかないのだから。

 

「………デミウルゴス様に相談してきます。お任せして、よろしいですか?」

「任せておいて」

 

 テイミングスキルを持つアウラにその場を任せ、スルーズはナザリックへと転移した。




ロボ・ホロウ(エルダー・バーゲスト・リーダー&デュラハン)

 イリヤが惨敗したガチャの最高レア魔獣、エルダー・バーゲスト・リーダーをベースとしたNPCと、デュラハンのNPCの二体で一組のNPC。集団の殺戮に特化している他、高い敏捷ステータスと即死スキルの数々により現地では特に凶悪な存在となる。
 ちなみに、惨敗の恨みを込めて制作された後、その結果を思い出したくなかったが為に封印された。イリヤの恨み節をよく聞かされて育った上、設定面にもガチャ惨敗の恨みがたっぷりと滲んでいる為、ナザリックで最も人間への敵意が強く、命ぜられずとも殺戮を行う。

メドゥーサ(ナーガ)

 イリヤのガチャ惨敗の産物であるペガサスを宛がう為だけに作られたNPC。設定面には、冷静になった際の暗い雰囲気がこびりついており、性格にも大きく反映されている。その為基本的に無口で根が暗く、後ろ向き。
 それなりのテイミングスキルを持つと共に、軽快かつ俊敏な動きでの戦闘を得意とし、アサシンや忍者の職業スキルも保持する。が、レベル自体は低い為、あまり強くない。その為、基本的な役割に前線には出されない。


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マッチポンプの栄光

「壮観だな。これを遠目で見るだけならよかったのだが、な!」

 

 魔獣の群を蹴散らし、モモンが呟く。質では大したことない軍勢でも、ハンデを負った『冒険者』では大きく時間を食う。ナーベの範囲攻撃でも、魔法の位階が低いせいで数を仕留められず、クロエやモモンは一振りで一体にしても、数が多すぎて手古摺るのだ。その上、クロエの動きが若干鈍い。

 

「姫~!数が多すぎて、倒しても倒してもきりが無いでござるよ~!」

「わかってる!」

 

 ボロが出そうだから、と詳細を伏せているハムスケが泣き言を漏らす中、魔獣に混ざる低位のスケルトンらを切り伏せて行き、褐色の肌を汗で濡らし呟く。

 

「張り切り過ぎよ、アイツら………!」

 

 アンデッドと魔獣、ゴブリン、オーガ、トロールの入り混じった軍勢は、エ・ランテルへと長蛇の列を形成している。その先頭に立つのは、森の賢王と同格であった巨人、ウォー・トロールのグ。その肩には、一人のエルダー・リッチが首謀者代わりとして乗せられている。その首には、アンデス・アーミーの魔法を込められたマジックアイテムが付けられ、プリンシパリティ・オブザベイションが数体背後に従っている。

 

「とんだ皮肉ですね。天使を従える者が、死者の軍勢と共に人を襲うなど」

「………提案したデミウルゴス様が言いますか?それ」

 

 ナザリックより、それをミラー・オブ・リモートビューイングで見届けるデミウルゴスの愉快そうな発言に、ヒルドが困惑と共に声を上げる。

 

「事実、皮肉でしょう。天使を従える者が虐殺を好としていて、今では死者の軍勢を率い人類に牙を剥くのですから」

 

 鎖付きの杭にも似た武器をぶら下げ、メドゥーサが口の端を歪める。その背後ではロボ・ホロウが愉快そうに口の端を歪め、高い唸り声を漏らしている。イリヤの負の側面の集合である彼らにとって、人間の無様こそが何よりの楽しみだ。

 

「「「「あ、ハムちゃんに乗ってる」」」

「「「ご主人様(おかあさん)たち、羨ましいなー………」」

 

 ジャックが声を漏らすように、三人を背に乗せたハムスケが必死にエ・ランテルへと向け走っていた。アンデッドと魔獣の混成分隊は見事に壊滅している中、対するエ・ランテルは中々の惨事であった。

 冒険者総出で構築された防衛線は、出世欲を出した一人が突出したことで大混乱に見舞われ、死者も少なからず出てしまった上、負傷者は尚も増え続けている。ポーションも治癒魔法の使い手も、数が足りない。レベルは低いとはいえ、数が多すぎるのだ。

 

「クソッ!あのミスリルが勝手なことしなきゃ、どうにかなってたのに………!」

「ハッハッハハハハ!」

 

 マジックキャスターも、スペルキャスターも不足している。その為、リッチが慢心して魔法も天使も使わないのが唯一の救いだった。

 

「ぬおおおおおおおおっ!!!」

「ぐがっ!?」

 

 側方から猛烈な速度で飛来した銀色の影が、グの体勢を大きく崩す。それにより、指揮官であるリッチ―――人であった頃の全てを忘れ去った哀れな男、ニグン・グリッド・ルーインが無様に落下し、それと共に二つの着地音が響く。

 

「申し訳ない、別働隊と思しき連中とぶつかってしまい、遅れてしまった」

「も、モモンさん!ご無事だったんですね」

「ちょっとー?アイドルの帰還なんだから、歓声の一つでも頂戴よ」

 

 不満げに唇を尖らせるクロエだが、そんなことが出来る空気で無い事は百も承知。だが、その気の抜けた発言のお陰で、空気が多少はマシになったのも事実だ。

 

「おのれ、人間風情が………!」

「何者かは知らんが、これ以上の狼藉は控えて貰おうか!」

 

 形の崩れた顔を忌々し気に歪め、リッチが呻く。そこに、ハムスケの叫びが響く。

 

「殿、姫!東の巨人、グめは拙者が相手をするにござる!」

「ならば、リッチは私が相手をしよう。クロエ、ナーベ。他の者たちを頼むぞ!」

「はいは―――い!」

「畏まりました―――ライトニング!」

 

 素早く振り抜かれた二本の剣は、骸骨の頭、魔獣の首、ゴブリンの胴体を斬り別つ。放たれた電撃が魔獣とゴブリンを仕留め、その光景を前に冒険者たちが奮起する。

 

「俺たちも行くぞ―――!!!」

「うおっしゃあ!!!」

 

 たった三人により、形勢は逆転した。士気は跳ね上がり、厄介な魔法を使うリッチはモモンに抑え込まれている為、魔法を使える敵は消えた。魔法による支援を受けた冒険者たちは、果敢に魔物の混成軍を殲滅していく。

 

「おのれおのれおのれぇっ!何故だ、何故人を超越した私が、人間風情に―――」

「辞世の句はそれだけか?」

 

 激情のままに腐乱した皮膚を掻き毟るリッチに、モモンは無慈悲に剣を振り下ろす。その体は呆気なく真っ二つに別たれ、アンデス・アーミーの魔法を封じ込めていたマジックアイテムの首輪もまた、両断されたことで効果を失った。

 

「え、ちょ、なにこれ!?」

 

 それに伴い、アンデッドの数々が姿を失い、崩れ落ちる。敵軍の大半を構成していたアンデッドが消え、冒険者、ゴブリン双方に動揺が走る。

 

「モモンさんだ!きっと、リッチを倒したんだよ!」

「さっすが!ハムちゃんを調伏できるだけあるわね」

 

 しかし、希望の光を見た冒険者たちに訪れたのは、絶望だった。クロエたちにとってはそうでなくとも、彼らにとっては絶望でしかなかったのだ。

 

「シャアアアアアアア!!!」

「シュルルルル………!」

「フシュウウウウウウ!!!」

「ぎ、ギガント・バジリスク………!?」

 

 咆哮を上げるのは、ギガント・バジリスク。アダマンタイト級の戦士でも、補助なしに相手にするのは困難な強大な魔獣が、三体も。

 

「なら、いいわ―――とっておき、見せてあげる!」

「なっ、おい、よせ!敵う相手じゃ―――」

 

 クロエが駆け出す。当然、制止の声が響くが、クロエはそれを意に介さない。石化の視線を持つ怪物に、真正面から挑むのは愚策―――その常識は、ギガント・バジリスクの目に突き刺さった双剣が否定した。

 

「バイバイ」

 

 素早く双剣が眼窩から抜かれ、自由落下と共に交差するように振り抜かれる。一拍遅れ、鮮血と共にその首が落下し、残る二体が激昂の咆哮と共にクロエに迫る。その内一方の頭をクロエが、もう一方をモモンが叩き落した。

 

「油断し過ぎだ」

「ちぇっ………両方いっぺんに倒そうと思ったのに」

 

 その圧倒的過ぎる実力を前に、誰もが言葉を失い、呆然と立ち尽くした。




ニグンさん、リッチにされ使い潰される。哀れだが仕方なし。


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支配者の休息

「アダマンタイト、意外とあっさりでしたね」

「そりゃ、あんだけの大立ち回りをすればねー」

 

 畳の上で、オーバーロードとホムンクルスが対面する。氷河エリアに佇む和風な城の天守閣から望む銀景色を楽しみながら、イリヤは料理長の手作り羊羹を楽しんでいた。

 

「んー!美味しい!こんなの、何十年振りかしら」

 

 イリヤがまともに甘いものを食べたのは、前世くらいなものだ。それだって、末期には食事をとれる余力すら消え、点滴で命を繋いでいたのだから、味を楽しめるのは相当久し振りだ。

 

「あはは。イリヤさん、何歳ですか?」

「乙女に年齢を聞くのは、失礼な事よ?」

「おっと、失礼しました」

 

 アインズとしてではなく、モモンガとして振舞える二人きりの時間は、最高の癒しであった。これで甘味も味わえれば文句なしだったのだが、それは仕方ないと自分を納得させ、モモンガは外を見る。

 

「それにしても、いいお城ですね。イリヤさん、実は小卒ですらないって嘘じゃないんですか?」

「まっさかー!小卒だったらこんな奇天烈な城にしないわよ」

 

 洋式の城に絶妙なバランスで突き立つピラミッドの上に、挟み込む形でピラミッドを安定させる和式の城。確かに、奇天烈極まりないだろう。

 

「そうですかね?見た目は奇天烈ですけど、内部はしっかりしてるじゃないですか」

「まあ、調べる手段なら、ね」

 

 生まれてから重病で病院に籠りっきりだったイリヤは、常に暇を持て余していた。幸い、親は忙しい人ではあったものの、優しい人物であったため、欲しいものを頼めば次のお見舞いの時には持って来てくれた。タブレット端末すら、娘の頼みだからと買ってくれた上、型落ちする度に買い直してくれたほどだ。そんな環境もあり、今では朧げなものが多いとはいえ、知識は多くあった。

 

「それもそうですね」

「………本当に、ユグドラシル絡み以外でやる事なんて無かったしなー………」

「あはは………その、恋人は?」

「無理よ。リアルの私、やせ細りまくりだし、隈も酷いし。食費切り詰めてサプリ生活だったもの」

「うわ………俺が言うのもなんですけど、リアルも大切にしましょうよ………」

「そんなの、生理が止まった時点で諦めたわよ」

 

 両親が死んでから直ぐ働き始めたイリヤの置かれた環境は、劣悪そのものだった。度重なるパワハラは、上司が変われば年上の同僚からに代わり、給金は子供だからと下に見られ、否応なしに徹夜の残業をせざるを得なくなる。そんな無茶苦茶な生活を続けるうちに、子供を成す機能が死んだ。

 それが切っ掛けだったのかは、定かではない。そもそも、女性機能が死ぬのは二度目だ。ただ、それをきっかけにイリヤのリアルがより自分の体を軽視するようになったことに、違いはない。

 

「………すみませんでした」

「謝っても変わらないし、いいわよ………ああ、でも」

 

 イリヤはモモンガに詰め寄り、その顔を覗き込んだ。女性経験に乏しいモモンガが狼狽えるのと同様に、男性経験皆無のイリヤは微かに頬を染め、悪戯っぽく笑う。

 

「少し、残念ね。イリヤの方は生きてるのに、モモンガとじゃ出来ないんだもの」

「え、ええ!?」

「冗談よ!………でも、そうね。今のところ、一番好きなのはモモンガかな」

 

 彼は、良くも悪くもイリヤと同じで『ユグドラシル』に執着している仲間だ。そして、イリヤにとっては最も付き合いの長く、気を許せる異性でもある。

 

「そ、そうですか………」

「ホント、ウチの職場ロクなのいなかったからねー………モモンガのリアルと同じ職場だったらよかったのに」

「それはそれで、面白かったかもしれませんね。あ、けど今は同じ職場みたいなものですね」

「それもそうね」

 

 ひとしきり笑い、外の景色を見つめる。地上が見えないほどの高層に位置する天守から眺める銀世界は、リアルでは決してお目にかかれないものだ。その景色に見惚れながら、イリヤは白骨の体にもたれ掛かるようにして寄り掛かった。

 

「どう?私のお城は」

「素晴らしいですよ。出来るなら、皆が残ってる時に、揃ってこの景色を見たかったなぁ………」

「あはは………けど、その、恥ずかしいじゃない?」

「まあ、そうですけど」

 

 恥ずかしい、という一点に関しては、パンドラズ・アクターという前科を持つモモンガが苦笑気味に同意し、話を切り上げる。そこに、イリヤが新たな話題を投入した。

 

「ところで、さ」

「何ですか?」

「少し、旅してみない?冒険者のモモンとクロエとしてじゃなくて、モモンガとイリヤとして」

「魅力的ではありますが………多分、アルベドとかはついて来るよなぁ………」

「そこよねぇ………」

 

 二人が揃ってため息を漏らす。そこで、モモンガは名案だとばかりに手を叩く。

 

「それじゃあ、冒険者クロエは暫く休業って形にして、イリヤさんが旅をすればいいじゃないですか」

「えー?モモンガは興味無いの?外の世界の綺麗な風景とか」

「んー………興味はあるんですけど、目が離せないと言いますか」

「………異世界でくらい、中間管理職の真似事しないで済めばいいのにね」

「まあ、彼らは仲間たちの子供みたいなものですから。苦労はしますけど、悪い気はしませんよ」

 

 アンデッドとして精神が変質してこそいるものの、根はあまり変わらないのだろう。イリヤはそう結論付け、少し残念そうに笑いながら、部屋の外の手摺に肘をついた。

 

「それじゃ、行かない。一人旅は寂しいもの」

「んー………でも、それじゃあイリヤさんも退屈しません?」

「………よし!スカディに聞いてくるね!」

「あ、ちょっと!?」

 

 イリヤは駆け出し、下へと向かっていく。モモンガは溜息と共に伸ばした手を引っ込め、しかし満更でもなさそうに、空を見上げた。




イリヤのリアル

 ヘロヘロさん並のブラック勤め。体が悲鳴を上げなかったことは無く、女性機能が死んでからはサプリ頼みのせいで余計悪化している。給料も子供だからと甘く見られ安くされており、パワハラはされてもセクハラだけは絶対にされないくらい酷い見た目になってしまっている。一応、肉を着けて隈を取れば美人。
 女性機能が死んで以来、食費すらも削って生活している。給与も、長生きできる筈がないと老後の蓄えは皆無であり、生活費を除く殆どがユグドラシル用に貯蓄されている。サービス終了が発表されてからは課金ガチャ等もなくなり、解雇されても貯蓄だけで一年は生きて行けるはずだったが、イリヤ自身が完全に全てを諦めていたことで、全て手付かずとなった。


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王都にて

一気に飛びます


1/30 一部修正


「ヘンなの貰っちゃったな~」

 

 雑踏の中を歩く美少女の手の中にある物を見て、行違う通行人たちはぎょっとして足早に去る。彼女が渡された黒い粉末の正体は、ライラの粉末と呼ばれる麻薬だ。リ・エスティーゼ王国では黙認されている代物を、リピーター狙いで二回分を渡されたイリヤは、一回分を渡してきた売人に使わせ、正体を見抜き呆れていた。

 

「随分と妙なものを持っているな」

「ヘンなのに渡された」

「………そうか」

 

 豪奢な身なりに嫉妬マスクを着けたアインズと合流し、二人は王都リ・エスティーゼの雑踏へと混じる。思いっ切り浮いているが、二人にとっては望むところだ。寧ろ、それを前提にしているところがあるのだから。

 

「王都とは名ばかりの、見掛け倒しだな」

「全くね。これなら、もっと他の場所にするべきだったわ」

 

 ライラの粉末を手提げバッグに放り込み、イリヤが溜息を吐く。表通り以外を見れば、エ・ランテルの方が遥かにマシといったレベルなのだから、こうなるのも無理はあるまい。

 

「………あれ?そう言えば、ジャガ村は?」

 

 リザードマンたちの平定を終えたジャガ村は、彼らとアインズの謁見の後、二人の護衛という名目で同行していた、とイリヤは記憶している。だが、今はアインズとイリヤの二人だけだ。

 

「ああ、ジャガ村なら、子供を嬲っていた阿呆を叩きのめして、そのままどっか行ったぞ」

「………ねえ、アインズ。もし、」

 

 その言葉は、雑踏を掻き分け現れた人物を視界に収めたことで途切れた。

 

「やはり、ゴウン殿とアインツベルン殿でしたか」

「ガゼフさん」

「久しいな、ガゼフ・ストロノーフ」

 

 髭面の屈強な男、ガゼフを前に、二人は軽く応じる。ガゼフの名は知られているのか、通行人の喧騒が大きくなる中、イリヤが口を開いた。

 

「お元気そうで何よりだわ」

「そちらこそ………あれから、村はどうなられましたか?」

「積もる話はあるでしょうが、少々人目が多い。場所を移したいのですが、構いませんな?」

「でしたら、私も同席させていただいてよろしいですか?」

 

 そこに割り込んだのは、宝石の如き美しさを持つ少女だった。背後に少年を従えた彼女の名はラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。リ・エスティーゼ王国の王女その人だ。

 

「ら、ラナー様!?」

「………どちらさま、ですか?」

 

 二人は名前等の知識はあっても、顔を知らないが為に人の把握に時間がかかる。そこに、ラナーは自ら名を告げた。

 

「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフです。よろしくお願い致します」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。気軽にイリヤでいいわ」

「アインズ・ウール・ゴウンと申します。こちらのイリヤスフィールと共に旅をしている、流浪のマジックキャスターです」

(ま、マジかー………王女様なんて大物が釣れるとか………いや、ガゼフが王国戦士長なんだから、可能性としては考慮すべきだったか?)

「私も色々お聞きしたい事がございますので、私の部屋でよろしいですか?」

「いえ、ですが………」

 

 難色を示すのは、ガゼフとアインズ、そして護衛のクライムだ。声を上げたのはガゼフのみだったが、アインズの仕草からも困惑の色は滲み出ている。対して、不穏な視線を感じ取っていたイリヤは、喜んでその申し出に乗った。

 

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

「ふふふ。では、行きましょう、クライム」

「はっ、は」

 

 はい、という簡単な返事を言い切る間もなく、路地の隙間から一本のナイフが投げ放たれた。紫の液体で濡れたソレは、ラナーの体を目掛け飛翔し―――

 

「ゲート」

 

 イリヤが展開したゲートを経由し、毒ナイフは反射するように同じルートを通り、暗殺者の胸を貫いた。何が起こったのかわからないといった様子の暗殺者と違い、周囲からは悲鳴が迸った。

 

「随分と恨まれてるのね」

「奴隷制度の廃止がそんなに気に食わないのでしょうか?」

「あら。世の中、ガゼフさんみたいに立派な人間の方が少ないわよ」

 

 鈴のような可憐な笑い声を上げ、純白の妖精は微笑む。その可憐な瞳に浮かぶのは、幼さ故の残虐さ。

 そして、それを知ってか知らずか、路地裏に潜んでいた暗殺者たちは幼い少女と侮り、短剣を手に飛び出す。皆、使い捨ての粗悪な鉄砲玉とはいえ、数はそれなりだ。

 

「ラナー様、お下がりください!」

「大丈夫―――トリプレット・マジック、アイス・ピラー」

「全く………トリプレット・マジック、ショック・ウェーブ!」

 

 地面から突き出す三本の氷柱による即席防壁に頭から突っ込んだ暗殺者たちは、続けてアインズが放つ魔法により、完全に意識を刈り取られた。

 

「す、すごい………」

「バーサーカー殿も凄まじかったが、ゴウン殿たちもお強いのですな」

「買い被りは止していただきたい。我々はしがないマジックキャスター。彼には大きく敗けますよ」

 

 突如起きた騒動の中で、ラナーは二人の実力の一端から、彼らの利用価値の計算を始めた。



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王女と死の支配者の交渉

「先程は、ありがとうございました」

「いえ、我々の敵でもありましたから………それで、彼らは一体?」

 

 ラナーの部屋で、アインズ、イリヤ、ラナー、ガゼフが腰かける。特別に用意されたテーブルだが、席が二つ分ほど空いている。

 

「そのお話は、もう少しお待ちいただけないかしら?」

「別にいいけど」

「………イリヤよ、それは何処から出した?」

 

 いつの間にか、イリヤは金平糖の詰まった巾着袋を取り出しており、適当に摘まんでいた。

 

「え?バッグからだけど。食べる?」

「いや、私は別にいいのだが………」

「美味しそうね………一粒、貰ってもいいかしら?」

「一粒と言わず、好きなだけ食べていいわよ」

 

 イリヤが持つハンドバッグも、巾着袋もマジックアイテムだ。ハンドバッグは、一定サイズ以下のアイテムを自由に収納、取り出し可能な課金ガチャの激レアアイテム―――ただし、本人的にはバーサーカー制作時に使ったアイテムの一つを得る上での副産物である―――で、巾着袋は記録した料理―――サイズ上、精々スナック菓子の類が限度だ―――が無限に取り出せるものだ。これは、プロテクション・ゴッドハンド入手の際の副産物である。

 

「おいしい………!」

「それはよかったわ」

 

 二人が談笑する中、ラナーの部屋の扉が叩かれる。

 

「失礼します。アインドラ様方をお連れしました」

「ありがとう、クライム」

「久し振りね、ラナー」

 

 見事な金髪率だった。淡い赤のドレスに身を包む少女と、赤い頭巾に仮面を被った少女の二人が室内に入り、最後にクライムが扉を閉め、席に着いた。

 

「紹介します。彼女はアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のリーダー、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ」

「よろしくお願いします。こちらは、仲間のイビルアイ」

「………よろしく」

 

 テーブルに並べられた椅子が埋まったのを確認し、ラナーが口を開いた。

 

「お二人をわざわざお呼び立てした訳ですが………『八本指』の掃討に、お力をお貸し頂けませんか?」

「ラナー様、それは!?」

「失礼、我々は未だこの国に詳しくないものでして。それについてご教授願えますかな?」

 

 アインズの紳士的な頼み方のお陰、という訳でもないだろうが、ラナーはこの国の裏を牛耳り、貴族とも繋がる犯罪組織、『八本指』について、事細かく説明してくれた。

 

「成程………貴族と繋がりの薄いだろう、部外者の我々を頼った、と」

「暗殺者への対応に手を抜いていたようですが、あの場では却って好都合でした」

「………そこまで見抜いてたんだ」

 

 二人がラナーへの警戒意識を強める中、イリヤが魔法で警戒の為外部へ音が漏れないよう結界を敷き、目付きを鋭くして問う。

 

「それで?そこまでしなければいけないくらい切羽詰まってるの?」

「ええ。この国は二つの派閥に分かれ、このままでは滅びます」

「断言する程か」

「はい」

 

 アインズが唸る中、イリヤはバッグから黒い粉末を取り出した。それに、ラキュースが驚愕する。

 

「それはっ!?」

「変な人に貰ったの。その人に実演して貰ったらおかしくなっちゃったけど、これがそのライラの粉末?」

「………ええ、黒粉ね。その売人は?」

「路地裏に置いてきちゃった」

「そうですか………とはいえ、一介の売人が知る情報はそこまで重要ではありません」

 

 ラナーは一枚の地図を取り出し、広げた。そして、黒い粉と地図に描かれた三つの印を指し示し、告げる。

 

「この三カ所が、現在判明している、この黒粉の原料の栽培場所です。先ずは、これらを潰していただきたいのですが」

「ふぅん………」

 

 イリヤがゲートを開き、そこからミラー・オブ・リモートビューイングを引っ張り出す。大きな鏡に驚くアインズ以外を余所に、イリヤは皆に見えるよう角度を調節し、地図を頼りに指定された場所を映し出した。

 

「………すご」

「ストロノーフ様、彼らは一体………」

「辺境の村を襲ったスレイン法国の部隊を撃破した大物を従えたマジックキャスターだ。恐らく、彼ら自身も相当な凄腕だろう」

「ふむふむ………どうする?コレでも使う?」

 

 可愛らしく小首を傾げ、イリヤがハンドバッグから取り出したのは、無数の宝玉があしらわれた黄金の悪魔像。彼女を特にかわいがっていた反目し合う二人の一方の遺産を前に、アインズは素で驚いた。

 

「おまっ、それっ!?」

「その、恐ろしく禍々しい気配がするのだけど………」

「………簡単に言うと、悪魔の大群を召喚する魔法を込めた魔像だ。お前なあ………」

「ま、これはあんまり無駄遣いしたくないからいいんだけど」

「おい」

「殺すだけなら、簡単な子がいるのだけど?」

「………目的はあくまで畑よ。従事させられているだけの村人を巻き込む必要は無いわ」

「そうだったの。それじゃあ、そうね………まあ、焼き払う手段はたっぷりあるから、気にしないでいいわ」

 

 イリヤがアインズに目配せする。ここから先は、幼さ故交渉等に回されなかったイリヤにはない交渉術が必要となる。

 

「そうですね………では、我らに利益を示していただきたい」

 

 仮面の下で、眼窩に灯る紅い炎が一際強く燃えた。

 

「そうですね………先日の、モンスターの大襲撃はご存知ですか?」

「大襲撃?」

 

 アインズの迫真の惚けは、しっかりとラナーを騙せた。

 

「ええ。あの後、カルネ村を確認した冒険者が巨人を見たとの噂が流れておりまして」

「成程、バーサーカー殿か………己の護衛を、村人の守護者として命ずるとは、なんと慈悲深い」

 

 ガゼフが勝手に感激する中で、ラナーが続ける。

 

「その巨人がバーサーカー様とやらだとしますと、彼はカルネ村を襲った大軍を蹴散らせるだけの力がある、という事ですね」

「ま、待って!?確か、ギガント・バジリスクもいたのよね………?」

「どんな化物だよ、そのバーサーカーとやらは………」

 

 ギガント・バジリスクの脅威を知るラキュースとイビルアイの驚愕を余所に、王女が提案する。

 

「成功の暁には、お父様と交渉してカルネ村周辺を、ゴウン様の領地として与える、というのはいかがでしょうか?」

「………それは、本当に可能なのかね?」

「今回の焼き討ちは、あくまで第一歩。真の狙いは、彼らと繋がる腐敗貴族の掃討にあります。お望みとあらば、主を失った地を与えることも可能かと」

 

 魔女の顔を仮面で覆い、姫は可憐に笑った。




収納に便利なゲート入りバッグと、無現俵ならぬ無限巾着。ただし、双方とも制限あり。


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命を喰らえ、黙示の蝗

 夜の帳が降りた王女の部屋には、部屋の主とその護衛、荘厳な衣に身を包む二人のマジックキャスターと、戦闘装束の『蒼の薔薇』、王国戦士長が揃っていた。光が漏れぬようカーテンを閉めた上で幾重にも魔法による防護を行い、アインズ・ウール・ゴウンは魔法陣を展開する。

 

「これは………!?」

「第十位階魔法を越える、超位魔法だ」

「第十位階!?そんな、人間が使えるのは第五位階までのハズ!」

「だが、私はこうして使えている」

 

 砂時計を使うことなく、アインズは発動まで待ち続ける。イリヤは三つのゲートを開き、アインズの魔法発動と共に畑と作物にとって最大の災いを解き放てるよう準備している。

 

「………その仮面、外していただけますか?」

 

 恐れを感じさせるラナーの顔は、声は、果たして作り物だったのか。この聡明な王女は、既にアインズが、イリヤが人でない可能性を考慮しているだろう。であるならば、顔を明かして欲しいという言葉の持つ意味は?

 

「私に何の利益がある?」

「あら、信頼関係というのは大切ですわよ?それに、今更約束を反故する理由にはなり得ませんもの」

 

 信頼。ラナーが考え至ることは不可能とはいえ、元は一介の社会人であるアインズにとって、その単語が持つ意味は大きく、重い。ラナーにしてみれば、種族次第では上手く王を引き摺り下ろし、王族の立場を辞め、クライムと共に暮らすために利用するつもりでいたし、人間でないならば無いなりに、貴族を黙らせる材料として使えると考えていただけなのだが。

 

「ふむ、確かに信頼は大切だ。では、我が素顔を明かそう」

 

 アインズが嫉妬マスクを外し、骨剥き出しの両手と顔、胸を露わにする。ラキュースらが構える中、ガゼフは納得を示し、イリヤへと視線を移す。

 

「ゴウン殿はアンデッドであったか………強力な魔法を使えるのも納得がいく。では、アインツベルン殿は?」

「ホムンクルスよ………アインズ」

「まあ、待て。超位魔法は時間がかかる。アイテムも無限ではないんだ、偶には眺めるのも悪くない」

 

 魔法陣が光を増すのを、ラキュースらは動揺と共に、ガゼフ、ラナーは静かに見つめる。その光が最高潮に迫ると、アインズが高揚を隠せず叫ぶ。

 

「さあ、大地に芽吹く命を蹂躙せよ、黙示録の蝗害!ディザスター・オブ・アバドンズローカスト!」

 

 魔法陣の光が解き放たれ、黒き滅びの風が、吸い込まれるようにゲートに消える。その先の光景は、用意されたミラー・オブ・リモートビューイングが克明に映していた。

 蝗型の魔獣たちが津波の如く畑に押し寄せ、通過する頃には土のみが残る。イリヤが取得していないこの魔法は、ゲームが現実となったこの世界においては最悪の災いだ。作物を食い荒らし、国を飢えさせ、混乱を齎し、滅びに導く。こと対国家において、これを越える災厄は存在しない。

 

「味は覚えたな」

「ど、どういうこと?」

「蝗の群は私の魔法で呼び出した存在であり、指揮権は私にある。彼らが黒粉とやらの原材料の味を覚えたお陰で、ここからは楽だ………散れ!」

 

 アインズの指揮により、蝗の群は無数に分かれ、飛翔する。求めるのは、ライラの粉を生み出す草。それ以外に目もくれず、魔獣たちは力任せに干し草を保管する倉庫に押し入り、干し草を喰らい、夜闇に乗じて未発見の畑に来襲し、護衛の奮闘も虚しく根すら残さず食い荒らす。その光景を、三枚のミラー・オブ・リモートビューイングはしっかりと映し続けた。

 夜闇の中でも、蝗が過ぎ去った土地の状態を見れば、何が起きたかは一目瞭然。その圧倒的過ぎる光景を前に、誰もが言葉を失った。平民出身のガゼフは、このような大魔法を使える存在が敵でないことに心から安堵したと共に、絶対に敵に回してはいけないとラナーに鋭い視線を飛ばす。蒼の薔薇とクライムは驚愕のあまり言葉を失い、ラナーもまたそのように装っている。

 

「なんという………」

「案ずるな、ガゼフ・ストロノーフ。我々は徒にこの魔法は使わんし、使えんからな」

 

 本格的に国を落とすなら、もっと相応しい魔法がある。その事実を口にすることはせず、準備時間、その短縮アイテムの希少性、そしてシステムの制約が続いているこの世界で超位魔法の連続使用不可能という事実も伏せ、あくまで消耗が大きいように振舞う。

 ラナーはアインズから欠片も疲労を感じないことでその真意を見抜き、戦慄を隠せず、言葉を失った。徒に使わない、という言葉は、より手早く国を亡ぼせる魔法を有しているということ。使えない、という言葉が、その推測をより強固にする。

 

(この方は、何としてもこの国に繋ぎ止めなければなりません………最悪、この国を譲り渡してでも、敵対だけは避けなければ)

「………感謝、します。お陰で、八本指の麻薬部門に大きな打撃を与えられそうです」

「何、構わんよ………っと、おや?」

 

 蝗が一匹、妙な紙切れを咥えてゲートから現れる。そこに記された謎の記号の数々を一瞥し、戦闘装束姿のイリヤに差し出す。

 

「どう思う?」

「んー………暗号、よね。有事に備えての囮?」

「それ、お貸し頂けますか?」

 

 ラナーがイリヤから羊皮紙を受け取り、記号の数々を一瞥し、その聡明な頭脳で答えを導き出し、アインズに平伏する。

 

「ら、ラナー様!?」

「アインズ・ウール・ゴウン様。どうか、今一度その偉大なお力をお貸し頂けないでしょうか?」

 

 ラナーはその威容と、威厳に満ちた声のせいで勘違いをした。アインズは一瞥しただけで自分と同じように答えに至り、だからこそイリヤに意見を求めたのだと。

 

「ら、ラナー?どうしたの?」

「ゴウン様方のお考えの通り、これは囮でしょう。麻薬部門が狙われた際、少しでも他方に注意を逸らす狙いがあったのでしょうが………」

「さ、流石は王女殿だ。確かに我々の部下に命ずれば、八本指は容易く崩れよう」

(お考えの通りって何!?俺だってさっぱりなんだけど!?)

「確かに、アインツベルン殿の護衛だという方々は強かったが、ゴウン殿にも部下が?」

「ええ。彼らに命ずれば、如何なる組織でも容易く崩せるでしょう」

「偉大なるアインズ・ウール・ゴウン様、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン様。どうか、貴方様方の優秀な部下たちのお力を、この国の為にお使いいただけないでしょうか?」

 

 ラナーが跪き、アインズに申し出る。内心混乱していたアインズは、思わず二つ返事で了承してしまうのだが、それがラナーの勘違いを増長するのはまた別のお話。




超位魔法での畑の蹂躙。魔法の内容はオリジナルですね。


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王都に集う

宴は近い………


 一旦ナザリックに戻ったイリヤとアインズは、第九階層のアインズの私室で対面し、頭を抱えていた。

 

「想定外だ………どうしましょう?」

「とりあえず、拠点を割り出せたのはいいとして………」

 

 ラナーから受け取った、拠点と思しき場所がマークされた王都の地図を広げ、二人は深刻な顔で視線を落とす。

 

「んー………領地の件は置いておくにしても、今回はバーサーカーは無理だし………」

「あれ?アサシンの職業スキル持ってませんでしたっけ?」

「いや、そっちじゃなくて。パワーがあり過ぎる上大きいから、街に被害が出ちゃう」

「ああ、成程………流石、課金アイテムの暴力」

 

 あのたっち・みーすらも悪戦苦闘させる超防御を誇るバーサーカーは、素の物理攻撃力の時点でガルガンチュアを越え、魔法を一切使えない事を除けば、自由に動けるNPCで最強とすら言えるのだ。街中で使える訳が無い。

 

「となると、セバスとかプレアデスが適任ですかね?」

「私の方だと、ハサン、メドゥーサ、ジャックと………あれ!?ジャガ村どこいった!?」

「あ、そういえば」

 

 イリヤが自作NPCたちについて記憶を漁る中、ジャガ村の存在を揃って忘れていたことに気付き、軽く騒然となる。ソリュシャンから、ジャガ村が二人の使う屋敷に厄介になっていると連絡が来ていたと知るのは、アルベドらが帰還に気付いてからとなった。

 

-----

 

 翌日の昼頃、ラナーの部屋に転移した二人と選び抜かれた従者たちは、小太りの少年とその付き添いらしき貴族、蒼の薔薇の面々の前に立ち並んだ。

 

「昨日ぶり、ラナー様」

「様は要りませんよ。それで、そちらの方々が?」

「ええ。ガゼフ・ストロノーフ殿は存じ上げている方もいるでしょうが、今日は居られないようですし、先ずは自己紹介からでも」

 

 アインズに促され、メイド服の二人が姿勢を正し、丁寧に一礼する。

 

「戦闘メイド、プレアデスの副リーダーを務めさせていただいております、ユリ・アルファです」

「同じく戦闘メイド、プレアデスのエントマ・ヴァシリッサ・ゼータです」

 

 表情の変わらぬエントマに、ラナー以外が顔を強張らせる。そして、数が足りていないように思えた空白に、突如として鎧の騎士が現れ、低く厳かな声色で告げた。

 

「山の翁、ハサン・サッバーハである。真なる名はキングハサン故、好きに呼ぶが良い」

「ストロノーフ様が仰っていた、騎士殿ですか………」

 

 クライムが震えるのは、滲み出る威圧からか。鬼火を灯した髑髏面の騎士は、存在するだけで死を覚悟させるほどに圧倒的な重圧を放っていた。その重圧を前に、ラキュースらまでもが息を呑み、沈黙する中で、細身ながらも育った肉体を持つボディコン姿の女性と、襤褸切れを纏った幼い少女が一礼する。

 

「メドゥーサです。以後、お見知りおきを」

「「「「はじめまして」」」」

「「「わたしたちはジャック・ザ・リッパー」」」」」」

 

 見た目は一人の少女だというのに、声は歪に反響している。その真相に気付いてか、イビルアイが仮面の下で顔を引き攣らせる。

 

「そいつ、ハイ・レイスか?」

「ええ。大丈夫、私が命じなければ人に害を与えないもの」

「ああ、イリヤ様。出来れば、幾らか連れ帰ってよろしいですか?ホロウが退屈しておりまして」

「悪党なら、お好きにどうぞ。けど、偉そうなのは捕縛して連れ帰ってね?それ以外は好きにしていいから」

 

 可憐な鈴の音が、冷酷に告げる。メドゥーサは舌なめずりと共に笑い、ジャックがにこやかに笑う。ハサンは目を細め、嬉しそうにしているエントマらに呆れるように低い声で唸る。

 

「己が信念を押し付けるつもりは無いが………くれぐれも、無益な殺生は控えよ。我らが行い一つ一つが、主の品格を示すのだからな」

『はーい』

 

 主の品格、と言われてしまえば、黙らざるを得ない。従者たちが押し黙ると同時に、相手側はハサンの外観に合わぬ振る舞いに呆気にとられる。

 

「んんっ!それで、八本指とやらは、我々とアインドラ殿の共同戦線で潰すのでしたか?」

「ええ、そのつもりです」

「成程………では、誰がどの拠点に向かうか、決めるとしましょう」

 

 その軽い言葉に待ったをかけたのは、圧倒されて黙り込んでいた貴族の男だった。

 

「お、お待ちいただきたい!八本指には六腕と呼ばれる実力者がおります!如何に腕に自信があるとはいえ、流石に一カ所につき一人では………!」

「ふむ、名も知らぬ貴族殿。勘違いしておられるようですので、先に訂正させていただきましょう」

 

 アインズは大袈裟にローブを翻し、部下を、仲間の残し子たちを自慢するように腕を広げた。

 

「我が自慢の部下たちは、一人一人がガゼフ・ストロノーフ殿を越える力を有している!つかぬことをお聞きしますが、その六腕とやらはストロノーフ殿より強いのですかな?」

「い、いえ、そのような事は………」

 

 貴族ことレエブン侯の言葉の歯切れが悪かったのは、アインズの振る舞いに圧倒されたから。そして、王国戦士長を超えるという存在をこれだけ有するアインズ・ウール・ゴウンという存在に、恐怖を覚えたからだった。

 

「心配には及ばないわ。本日を以て、王国の裏の犯罪組織は潰える。首謀者たちに繋がりのある貴族の名を吐かせる序でに、その領地を王様の物として返還させちゃいましょう?」

 

 無垢で可憐な笑みの中に。ザナック第二王子は、妹とも違う何かを見出し、体を震わせる。そんな彼に気付かぬまま、イリヤは歌うように軽く、冷たい声で笑う。

 

「決行は今夜よ。各々、最低限の指示さえ守ってくれれば、好きにしていいからね」

 

 ユリとハサン以外が、嬉しそうに揺れ動く。

 殺戮は、近い。




麻薬部門:ラキュース、ティナ
奴隷部門:メドゥーサ
警備部門:イリヤ、イビルアイ
暗殺部門:ジャック・ザ・リッパー
窃盗部門:ユリ・アルファ
密輸部門:エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ
金融部門:ガガーラン、ティア
賭博部門:キングハサン

さて、どうなる?


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指折り

 じゃらら、と鎖を引き摺り、メドゥーサが進む。背後の壁と床は血で濡れ、鎖が通った場所には赤い線が残される。

 

「………?」

 

 鼻を鳴らし、空気を吸い込む。鼻腔を突く匂いに、女の血の匂いが紛れていることに気付く。目を封じ、ピット器官による探知に頼るメドゥーサは、匂いと併せ位置を特定すると、即座に扉を蹴破った。

 

「な、何だ!?誰だ、貴様は!?」

「肥えた豚と………おや」

 

 肥え太った男が事に及ぼうとしていた女性へと歩み寄り、殴られた口元から溢れる血を掬い取り、舐める。それだけで彼女を侵す病、薬物の存在を識別し、口の端を歪める。

 

「いいでしょう………貴女には、私の者になって貰います。それとも、このまま死ぬのがお望みですか?」

 

 光を失った目が、死を拒むように微かに動いた。唇は声を発しなかったものの、その動きが助けを求めているのだけはわかった。

 

「それが、貴女の選択ですか」

 

 メドゥーサにしてみれば、助けるというより美味しそうな人間を持ち帰る、程度の認識なのだが………あまり、関係は無いだろう。どちらにせよ、ここより遥かにマシだ。

 

「き、きさま、なにを」

「ゲート………これを使って逃げるのなら、殺しはしません」

 

 魔法を発動すると共に、血で濡れた杭を見せつける。すると、肥満体の男は大急ぎで魔法による黒い靄のゲートへと飛び込み、その先から悲鳴を迸らせる。

 ゲートの繋がる先は、ブラック・カプセルの上空。全裸の、脂の乗った男は直ぐにでもゴキブリの群に飲まれ、その身を残さず食らい尽くされるだろう。その無様を想起し、メドゥーサは口の端を歪め、金髪の女性を抱き上げる。

 ゲートを開くと共にメッセージのスクロールを使い、ソリュシャンへと連絡を取る。

 

「ああ、ソリュシャン。今から一人、気に入ったのを贈るので、『好物』を食べたらでいいので、スカディ様を呼んでおいてください」

『あら………ふふふ』

 

 好物を味わえると知ったソリュシャンは二つ返事で了承し、もう一枚のゲートを使った道が出来ると、自ら彼女を受け取りに来てくれた。

 

「さて、他にも美味しそうな方がいると良いのですが」

 

 出口には、闘技場直通のゲートを敷設してあるため、逃げた先でホロウとの追いかけっこが始まるのみ。人間蔑視ではなく、人間嫌悪を剥き出しにするホロウを前に、人間である限り逃げ出すのは不可能だろう。

 ナーガであるメドゥーサだが、好物は人間の、それも若い女性の生き血だ。奴隷娼館でもあるこの場所に、舌に合う血を持つ人間がいることに期待しながら、真なる姿を見せることなく、人型の蛇女は殺戮を続けた。

 

-----

 

「何の用だ?小娘」

 

 警備部門の長、『闘鬼』の異名を持つ男、ゼロが腕を組みイリヤを見下す。彼女らが現れた広場を上から覗き見る貴族の顔を頭に叩き込みながら、イリヤが微笑み、純白の神器級ドレスの端を摘まみ上げ、優雅に一礼する。その優美さに、下卑た笑みを浮かべていた貴族までもが言葉を失う中、冷たく、残忍に笑うイリヤ。

 

「なんだ。こんな立派なら、壊しても大丈夫ね」

「あらあら、おチビちゃん二人で随分と粋がるじゃない」

 

 『踊る三日月刀』エドストレームの挑発に応じることなく、空に手をかざし、謡うように魔法の名を音にする。

 

「マキシマイズ・マジック、クリスタル・ウォール」

 

 拠点である豪邸を囲うように、巨大な水晶の壁が形成される。退路を失い動揺する貴族たちとは裏腹に、イリヤは心を躍らせていた。

 

「トリプレット・マジック、サモン・エンジェル・7th。光栄に思いなさい、あなたたちは見逃してあげる」

 

 命はね、と付け加えると共に、ドミニオン・オーソリティたちが貴族らの腕を、足を圧し折り、引き千切る。イリヤがゲートを開くと共に貴族らはそこに放り込まれ、あっという間に消える。

 見るからに格が違う魔法を前に、それをあえて使わなかったイリヤへと、エルダー・リッチである『不死王』デイバーノックが問い掛ける。そこには明らかな疑念と、困惑があった。

 

「何故、あの天使どもを使わない?まさか、舐めているのか?」

「ええ、勿論―――それに、悪党には悪党に相応しい、相応の末路というものがあるでしょう?」

 

 諭すように笑いは、六腕の神経を逆撫でする。『空間斬』ペシュリアンが鞭のように細い剣を振うより先に、イリヤが高らかにゲートの魔法を唱える。上空に広がったゲートは、彼らにとって破滅の門に他ならない。

 

「な、何だ!?」

「どうなって………!?」

 

 軽やかに降り立ったのは、巨大な狼とその背に乗る首無し騎士。敵意に満ちた視線がデイバーノック以外を一瞥すると共に、喉を鳴らす。背のデュラハンは、鋭利な大鎌を両手に携え、大きく腕を広げる。

 

「なんだ、それは………っ!?」

「お前、コイツは!?」

 

 イビルアイが動揺する中、イリヤは彼女の手を取り、フローティング・ボードのスクロールを使い、二人で上空に飛び上がる。無残に崩壊した広場を睥睨し、僕への命令を、『六腕』にとっての死刑宣告を、可憐に、残酷に、慈しみに満ちた笑みと共に紡いだ。

 

「そこの素手の人以外、殺しちゃっていいから―――好きなように、楽しみなさい」

 

 虐殺が、始まる。




ロボ・ホロウ(ロボ Lv.90 ホロウ Lv.49)VS六腕(最強ゼロ 推定Lv.30以下)

ファイッ!

ホロウ不在の闘技場?どうなってるんでしょうね………


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腐敗は潰える

 体格、膂力、速度で勝るロボは、完全に六腕を弄んでいた。

 徒に破壊した豪邸の残骸を投げつけ、当てるつもりの無い突進で翻弄し、背に乗るホロウの振う大鎌が当たるギリギリの瞬間に距離を離すことで、精神的に追い詰める。

 

「クソッ!」

 

 『千殺』マルムヴィストの毒レイピアは、ロボの意思に従い自在に揺れ動く鎖に阻まれ、その鎖が広範囲を薙ぐことで『幻魔』サキュロントを幻影諸共吹き飛ばす。バーゲストの獲物を弄ぶ性質にロボの高い知性が合わさる事で、相手をじわじわと心身ともに絶望で蝕み、既に心が折れる手前まで追い込まれていた。

 

「ロボ、遊び過ぎよ」

「………あんな強い魔獣、どうやって従えたんだ?」

 

 イビルアイに興味の欠片も示さず、ロボは黄色い目を覆い隠すほどの蒼炎を迸らせた。エルダー・バーゲスト・リーダー、悪霊犬の長老は憎悪の炎を迸らせ、種族の在り方とイリヤの抱える負の思念の混合燃料を以て力を増す。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 デイバーノックは、心が震えるのを理解した。如何に魔法を連射しても圧倒的な速度で躱し続ける魔獣が、本気でこちらを滅ぼしに来ると理解した。手の打ちようがないと理解したのは、ゼロも同じ。

 しかし、ゼロとデイバーノックは運が良かった。ゼロは警備部門の長であり、デイバーノックはロボが嫌悪する人間では無くエルダー・リッチだ。彼の中での『人間』の定義には、イビルアイ共々含まれない。

 

「ルオオオオオオオッ!!!」

 

 二つの剣閃が首を飛ばし、解き放たれた鎖が高速で衝突し、残りの二人を上下に真っ二つにする。ペシュリアン、エドストレームの頭を失った死体が崩れ落ち、腹部で体を上下に別たれたマルムヴィストとサキュロントは、何が起きたか理解するより先に絶命し、落下した。

 

「あら?そちらの人は人間じゃなかったのね………まあ、いいわ。ロボ・ホロウ、手足を落としなさい。命と言語機能が残っていればそれでいいの」

 

 イリヤの言葉に呆れこそすれど、イビルアイはそれを否定はしない。相手は闘鬼の異名を持つ男であり、生半可な拘束を破られ暴れられても後が面倒だからだ。

 ホロウは異論なく、鎌の一振りで両足を奪い、ロボが右腕を食い千切る。悲鳴を迸らせるゼロの頭を潰れない程度の力加減で踏みつけると、ロボの双眸がデイバーノックを捉える。そこにあるのは、無関心。『知ったこっちゃないからどっか行け』、と視線で告げられ、デイバーノックはこれ幸いにと逃げ出そうとする彼に、イリヤは無慈悲な宣告を下す。

 

「あ、そいつは顎を飛ばして。詠唱されると面倒だから。そうしたら、二人を縛り上げてね」

 

 飛来した鎖の先端が顎を打ち抜き、下顎を吹き飛ばす。そのまま声にならない絶叫と共に悶えるデイバーノックとゼロを鎖が縛り上げ、その隙に降り立ったイリヤが傷口を焼いて出血を止め、その苦痛で気絶したのを確認してから、鎖を解かせる。

 

「さ、手伝って。早く帰りましょ」

「あ、ああ………」

「あ、そうだった。ゲート………お帰りなさい、ロボ」

 

 長い歳月で築き上げられた常識が瓦解する音を聞きながら、イビルアイはイリヤに言われるがままに二人の拘束、死体の回収を手伝った。

 それに目もくれず、ロボ・ホロウはイリヤが開いたゲートへと飛び込み、ゲームをしていた場所、第六階層の闘技場へと舞い戻る。逃げ場のない闘技場に舞い戻った魔獣を前に、一時の平穏を味わっていた者たちが騒然となる。八本指それぞれの部門の長の護衛とはいえ、ユグドラシルのレベルで見れば恐ろしく低い。最上級のレベルを有する魔獣を前には、等しく無力だ。

 

「オオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 歓喜の咆哮は、即ちヒトへの死刑宣告。ただ食い殺すのではなく、玩弄し、嬲り、躙り、殺す。バーゲストという種の性質を色濃く有する長老は決して安易な死を、救いを与えない。

 

-----

 

 動員された面々の実力もあり、八本指は恐ろしいほど呆気なく潰えた。戦慄を隠せない蒼の薔薇に対し、アインズ、イリヤとその僕たちは当然の結果であるとばかりに平然としている。異質な雰囲気を擁する者たちは、静かに宮殿を進む。玉座の間へと踏み入れば、当然のように貴族らの不躾な視線が突き刺さる。

 

「何だ?ここは下賤な異国の者が踏み入れていい場所ではないぞ」

 

 殺意を露わにする者もいる中、アインズとイリヤはそれらを無視し、奥に座す国王の前に進み、立ち止まる。

 

「其方らが、ラナーの言っていた………」

「アインズ・ウール・ゴウンと申します」

 

 その名に周囲が首を傾げる中、リ・エスティーゼ王国の国王ランポッサⅢ世はその名の持ち主を思い出し、納得するように微笑み、頷いた。

 

「そうか、其方らがガゼフの言っていた………今一度、礼を言おう。其方のお陰で、また多くの民が救われた」

「報酬を求めての行いです。礼を言われる程、立派な事でもありませんよ」

 

 アインズの謙遜に対し、レエブン侯、ぺスペア候、ウロヴァーナ辺境伯以外が口々に嫌味をぶつける。主への不敬に怒りを露わにする者が現れる前に、メドゥーサが嘲笑と共に吐き捨てる。

 

「おや、国王陛下と違い、貴族の方々は位に相応しい品格をお持ちでないのですね」

「口を慎め。この程度の低俗な言葉、流せぬようでは主の品格を疑われよう」

「て、低俗だと!?蛮族風情が、舐めた口を―――」

 

 低俗な言葉、と切り捨てたハサンの一睨みで、食って掛かろうとした貴族は腰を抜かした。殺気など向けられていない。ただ、純粋な威圧に飲まれ、その本質を理解してしまい、本能的な恐怖に飲まれたのだ。

 

「貴様、何を」

「だっ、馬鹿っ、やめろッ!」

 

 理解してしまえば、そこから先は抑止に動かざるを得ない。保身に長けた貴族だからこそ、相手が瞬きする間も与えず死を齎す化物とわかったのなら、他者の無礼を止めにかかる。そうしなければ、自らの命が危ないのだから。

 

「静かにせよ!」

 

 どよめく者たちは、アインズの圧に呑まれ、口を噤む。その機を逃さず、イリヤが視線で王に言葉を促し、その意を組んだランポッサⅢ世の目配せを受けたガゼフが書状を開き、声高らかに告げる。

 

「アインズ・ウール・ゴウン殿。この度の功績を称え、国王直轄地より、カルネ村及びその周辺地域を貴殿に与え、その統治を命ずる!」

 

 反発の声は、無かった。国王がわざわざ領地を与えた為、彼らに損害は無い。そう考えていたのだから。

 八本指の長たちが癒着、不正についてしっかりと白状していると知らない貴族たちは、弾劾の言葉が続くなど、思ってもいなかった。




エルダー・バーゲスト・リーダー(悪霊犬の長老)

 課金ガチャ限定の特別種。当然、神獣級にはステータスで大きく劣る。
 バーゲスト・リーダーより遥かに長い歳月を生きたバーゲストであり、力、知性、特殊能力共に桁違い。体格も非常に大きく、さほど成長していない角は殆ど体毛に埋もれている。
 黒ではなく蒼白の体毛を有し、全身に巻き付く鎖を完全に制御することが可能で、これ単体でも攻防一体の武器となる。また、マイナス補正で確率が落ちている即死魔法や、隠蔽率の落ちた幻惑魔法も使用可能であり、レベル次第ではそれなりに強力である。


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新たな貴族の誕生

2/02 タイトルの脱字修正


「―――以上の者たちを、爵位剥奪の後、領地没収、国外追放処分とする」

「ふ、ふざけるな!」

 

 ガゼフが続けて告げた処罰に、八本指との癒着を暴かれた者たちが声を荒げる。相手が平民であるという先入観が、理性的な反論ではなく感情的な罵声となり表れる。支離滅裂極まりない、ただ相手の全てを否定するだけの罵詈雑言は、ただただ醜悪でしかない。

 

「第一に、どこの馬の骨ともわからんマジックキャスター風情が加担している報告を信じろと?」

「まさか、アインズ様が貴様ら如きの為だけに虚偽の捏造をするとでも?」

 

 エントマが怒りに声を震わす。それを諌める者がいない事から、彼らの怒りがどれほどのものかがわかるだろう。だが、それに気付かぬ愚物は、やはり存在している。

 

「何だと………貴様、誰に向かって口をきいている!?」

「貴様こそ、誰を『風情』と呼んだかわかっているのか?偉大なる至高の御方方を貴族風情が見下すなど、到底許される事ではない!」

「貴様………!陛下、この無礼者を罰する許可を!」

「よいぞ、その無礼者を始末せよ」

「バルブロ王子!?」

 

 それに良しと答えたのは、この場に焦りと不快感を抱いていたバルブロ第一王子。自身と八本指の癒着が暴かれる前に相手の一味を殺し、激昂させ反逆者扱いした後、全てを有耶無耶に………と浅はかな考えを巡らせていたのだろう。

 

「ぎっ、あああああっ!?」

「アインズ様、コイツ殺していいですか?」

 

 殺意満点のエントマは、叩きつけられた拳に硬甲蟲を叩きつけ、骨を粉砕する。他の貴族たちが衛兵を呼ぼうと声を上げるより先に、アインズの号令が響く。

 

「静かにせよ!」

 

 死者の王、オーバーロードの有する圧は、人間の王すらも凌駕する。貴族たちの視線が集まる中、アインズは仮面を外し本来の顔を露わにする。予め娘とガゼフに知らされていたとはいえ、ランポッサⅢ世も驚き、予め知らされていない者たちは腰を抜かし、竦み上がった。

 

「え、エルダーリッチ………!?父上、このような化物が、我が国の為に動くはずがございません!かくなる上は、私がこの場で!」

「ああ、そういえばバルブロ第一王子殿とも、八本指は交流がありましたな」

「っ、黙れ!化物が!」

 

 護身用の剣を抜き、最大の隠し事を暴露したアインズへと駆ける。ランポッサⅢ世の制止より早く、彼を取り押さえる者がいた。

 

「落ち着けよ、お坊ちゃん」

「離せ、このデカ女!」

 

 足掻くバルブロを抑え込み、ガガーランは静かに目を細める。アダマンタイト級冒険者の威圧に当てられたバルブロが黙り込む中、ランポッサⅢ世は、隣に控えるガゼフを無言で見上げた。

 

「………事実です。麻薬部門との癒着が明らかになっております」

「何という事を………自分が何をしたか、わかっているのか?」

 

 答えることなく、ガガーランから逃れようともがくバルブロの姿を目にしたランポッサは額に手を当て、深い、深い溜息を吐く。そこに籠る悔恨、無念の程は、ガゼフですら量り切れなかった。

 

「………バルブロよ。お前の王位継承権を剥奪する。暫くは、監獄で頭を冷やせ」

「そんな!?」

「宜しいのですかな?」

 

 アインズの問い掛けに、ランポッサⅢ世は無言で頷いた。それに従い、イリヤは無言で第十位階の魔法を唱えた。スレイン法国ですら使わないような、

 

「―――クアドラプレット・マジック、アーマゲドン・ヴァーチュー」

 

 最終戦争・善。パンテオンの劣化とも言える大魔法の、四連行使。ラキュース、ガゼフはスレイン法国との関連を疑い、即座にその疑惑を振り払った。敵国の扱う天使に比べ、彼女の振る舞いに従う天使たちは、余りに神々しすぎた。

 

「捕えなさい。罰を下すのはまた後程ですもの。幸運を祈る事ね………応える神様なんて、いないでしょうけど」

 

 天使たちに拘束された罪人は、必死に足掻く。しかし、最低ランクがニグンの扱うプリンシパリティ・オブザベイションであり、彼らの能力では逃れるなど出来る筈がない。

 

「どちらに連行すればいいのかしら?」

「連行は不要ですよ。彼らは追放されるのですから、荒野にでも放り出して差し上げてください」

「レエブン………貴様ッ!」

「では、お言葉に甘えて………」

 

 無数のゲートを無造作に開き、天使たちに貴族を放り込ませる。この集まりと並行して各地では取り潰しが行われており、彼らに為す術はない。積む金も、脅す権力も残っていないのだ………尤も、送られた先を思えば、先ず生きて帰れないだろうが。

 

「よ、容赦の欠片もありませんね………」

「はっはっは………お陰で暫くは領地に引き籠れる………!」

 

 蝙蝠と揶揄される絶妙な舵取りに疲れていたレエブン侯は、肩の荷が下りたことに歓喜し、活き活きと笑う。長い間苦労を掛けた重鎮を責める気にもなれず、ランポッサⅢ世は微かにはにかみ、手に力を入れ、立ち上がった。

 

「アインドラ侯には、ラキュース嬢の功績を称え、主を失った近隣の地を与えよう」

「ハッ!」

「この度の取り潰しにより主を失った地は、我が直轄地とする。それに伴い、ゴウン殿にはエ・ランテルとその周辺を、そしてアインツベルン殿」

 

 名を出されるのが想定外なのか、イリヤの顔が微かに強張る。それに気付かぬまま、ランポッサⅢ世は取り潰しにあった家の支配していた幾つかの小さな土地の名を口にし、厳かに命じた。

 

「其方に、以上の地を治めて貰いたい」

「畏まりました」

 

 すかさず答えられたのは、殆ど偶然だった。

 

-----

 

 その晩、私室ではイリヤが頭を抱えてベッドで頭を抱えていた。

 

「うっそおおおおおおおっ!?何で何で何で!?何で私まで貴族扱いされてるのー!?」

「ま、まあ、落ち着いて………」

「いられるか!?………はぁ」

 

 ベッドの上で暴れていたイリヤがむくりと起き上がり、溜息を吐く。如何に小さいとはいえ、領地を与えられてしまったのだ。頭を抱えたくもなる。

 ヒルド、オルトリンデが宥める中、ジュースとパフェをトレーに載せたスルーズが扉を開け、イリヤに視線を向ける。そこには、天井を見つめ死んだ目をする主の姿。

 

「はぁー………マジでどうしよ」

 

 前世では病院に、現世では会社のデスクに囚われていた少女には、大きすぎる課題だった。




腐敗さんたちが送られた先?外見最悪or住居最悪、それか闘技場。
追放(この世から)は流石に予想して無さそう。


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異形種の貴族生活

 王都リ・エスティーゼ北西部。西方に海を望む小都市が、イリヤに与えられた領地だった。国王が、優秀かつ腐敗への抑止となり得る者を縛り付けるべく与えたこの地は、間違いなくその役割を果たせるだろう。

 

「すごい………」

 

 ―――なぜなら、イリヤという少女にとって、海というのは未知の存在だからだ。

 生前は病院を出られず、その中で生涯を終え、今生では汚れ切った世界の都市部で、自然など視る事すら出来なかった彼女に、無限に続くかのように思える大海原は、ひどく美しく、壮大なものであった。

 

「………海って、こんなに広くて、綺麗なんだね………」

「マスターの方が………と言いたいですが、美しさの方向性が違いますね」

 

 彼女を乗せるペガサスの上で、メドゥーサが笑う。眼帯による視界の封印で景色は見えないものの、彼女の感動を損ねるような発言を控えようとした結果でもあった。

 

「さ、そろそろですよ」

 

 ペガサスが高度を落とし、数秒程して着陸する。小都市の中腹だけあり、当然のように群衆の目が集まる中、白い衣を見に纏うイリヤが優美に降り立ち、一礼する。

 

「はじめまして。本日よりこの地を治めることとなりました、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します」

 

 年端もいかない少女の言葉を鵜呑みにする者は、普通はそうそういない。それを承知していたからこそ、眉を顰める衛兵らしき人物に不快感を抱くことなく、丁寧に一礼できた。

 

「早速で申し訳ないのですが、こちらの領主様のお屋敷はご存知ですか?」

「え、ええ、まあ………」

 

 侮られていることにメドゥーサが不快感を露わにするも、イリヤは構うことなく笑顔で詰め寄った。

 

「では、案内していただいてよろしいですか?」

 

-----

 

 半日の内に領地内の視察を終えたイリヤは、主を失った領地で最大の屋敷に踏み込み、軽く伸びをして息を吐いた。リアルでは新鮮な魚介を見る機会は皆無である上、彼女自身がサプリ頼みの生活と食材と無縁であったため、興奮の連続で疲労してしまったのだ。

 

「はぁー………疲れた」

「お疲れ様です」

 

 メドゥーサが労いの言葉をかける中で、荒れた屋敷の中をふらふらと千鳥足で歩き回る。この屋敷を拠点とすべく改装が必要であることを痛感すると共に、不要な屋敷の処分について悩むイリヤに、その言葉はあまり届かない。

 

「はぁー………いっそ、お城に建て直しちゃおっかな………」

「一度、ナザリックにご帰還しては?あとの視察等は、私が済ませておきますので」

「いいよ、まだ大丈夫だから」

 

 肉体的には体力が有り余っている為か、イリヤは帰還の意思を見せない。リアルでのブラック勤めのせいで、精神的な疲労を意に介さなくなっているのも原因だろう。肉体的にも、立ち眩みがしてからが本番、という社のモットーのせいでかなり鈍感になっている。これをモモンガが聞けば、イリヤをぶん殴ってでも意識を矯正しようとしたに違いない。

 

「そうですか………」

 

 強気に笑うイリヤに対し、異論を唱えず了承するメドゥーサ。残る都市、農村の主要人物との交渉を乗り切れるか、という不安を口にしないまま、彼女と共に屋敷の外に出る。

 

「クインタプレット・マジック!アーマゲドン・ヴァーチュー!………天使たち、屋敷の掃除、補修をお願いね」

 

 五連の魔法行使による無数の召喚天使に最低限の命令を下し、イリヤはペガサスの背に乗る。メドゥーサもそれに続き跨り、ペガサスを飛翔させ、午後の主目的である会談の場へと向かった。

 幸いにも、海の男たちは小細工を弄する質ではなく、寧ろ性根の腐った貴族が消えたことで清々しており、問題もなく会談を終えることが出来た。

 

-----

 

「おや、お出迎え頂けるとは………そんなに待ち遠しかったのですか?ツアレ」

 

 氷河エリアの城の上部。和風な城とピラミッドを繋ぐ扉の前でメドゥーサを待ち受けていたのは、金髪のメイドの女性だった。

 

「は、はい………ひぅっ!?」

 

 無言で歩み寄ったメドゥーサは、躊躇いなく彼女の首に歯を突き立て、微かに滲んだ血を舐めとり、妖しい笑みを浮かべた。

 

「健康そのもので何よりです。それでは、私はこれで」

「え、ええ………お、お疲れー………」

(いや、確かに記憶通りならメドゥーサってレズ寄りのバイだから、そう設定したけど………え?)

 

 顔を真赤にしたイリヤに見送られながら、メドゥーサは娼館から回収し、治療等を施した女性の一人、ツアレを連れ部屋へと戻る。その後姿を見送りながら、イリヤはぽつりと呟く。

 

「………戸締り、しっかりしとこ」

 

 そのまま向かうは最上部、天守閣。イリヤの第二の私室でもあるそこには、既に先客が居た。

 

「あ、イリヤさん」

「………よかった、モモンガか………」

「え?何かあったんですか?」

「ええ、まあ………それより!今は報告会ね」

 

 エ・ランテル一帯を領地としたアインズ・ウール・ゴウンことモモンガと、王都北西部の小都市複数を与えられたイリヤの今日の結果は、特筆すべきところの無い、非常に良好なもので終わっていた。主だった権力者、名士の類との関係は良好であり、特にイリヤの方は元が相当だったのか、妙に歓迎されている節があった。領地一帯の名を変える事に一切抵抗が無い事からも、その腐敗ぶりが察せられたほどだ。

 

「リ・アインツベルンって………もう少しこう、ネーミングセンスっていうか………」

「異形種動物園、とかつけようとしてた人に言われたくは無いわよ」

「うぐっ」

「あと、パンドラの名前だっけ?確か―――」

「わー!わー!悪かったですから!その話は止めましょう!」

 

 ひとしきり揶揄われてから、モモンガは軽く咳払いして話を元に戻した。

 

「それで、そちらも順調なんでしたっけ?」

「うん。前が酷かったのか、あっさり受け入れられちゃって」

「ふむ………俺たちなら、ゲートの魔法も使えますよね」

「何当たり前の事言ってるの?」

「いや、それを利用して、交易を活性化しようかな、と思いまして」

「―――詳しく」

 

 二人の元社会人による領地の結びつきの強化の為の談合は、夜遅くまで続いた。



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帝国の一手

「はぁー………こうして来るのも久し振りだな」

「そうねー………」

 

 エ・ランテルの冒険者組合。執務を部下に丸投げしたモモンとクロエの二人は、息抜きも兼てナーベ同行のもと、依頼に出向こうとしていた。

 

「あ、モモンさん」

「どうかなさいましたかな?」

「実は、ご指名の依頼が来ておりまして………」

 

 アダマンタイト級である彼らが受けられる依頼は、そうそう無い。下のランクの依頼を不用意に受けることは推奨されていないし、そうして他の者の食い扶持を減らす真似は控えねばならない。だからこそ、この依頼は願ったり叶ったりだった。

 

「どのような?」

「それについては、バハルス帝国の帝都アーウィンタールの方の組合で説明するとのことでして………」

「ふむ………了解しました」

 

 了承の後、手続きを済ませた一行は冒険者組合を出る。適当な馬車を使い、帝国に向かい出立すると共に顔を見合わせる。

 

「………息抜きのつもりが、とんだ事になりそうだな」

「わざわざ、会稽とスカディに色々押し付けてきたのに………」

「私もブルムラシュー候からの呼び出しがあったが、領地の平定を名目に断ったからな………」

 

 二人に両件の因果関係………ブルムラシュー候がナザリック近辺に目を向ける存在を排除し、その隙を利用して帝国による墳墓の調査を行う、ということが、ブルムラシュー候の影に潜り込んだシャドウ・デーモン、ジャックの報告により判明してから。

 その報告が二人に届いたのは、その日の晩であった。

 

「………舐められたものだな………!」

「とりあえず、どうやって血祭りにあげようかしら………?」

 

 三人だけ、かつ監視が無いのも確認済みだからこそ、二人は怒りを露わにした。仲間たちと作り上げた、彼らの家を土足で踏み荒らさんとする卑劣極まりない行いに、怒りを抱かぬものがいるだろうか。

 

「今すぐ戻って………」

「「「えー?それなら、仲間のフリして後ろからグサーッ!ってやろーよー」」」」

 

 報告に来たジャックは、不気味な反響を伴う声で中々に性格の悪い策を提示した。アンデッドという存在らしい悪辣さは、アインズらの報復の手段の一つとしてカウントされた。

 

「………いいだろう。ジャック・ザ・リッパーよ。僕たちを集めておけ。どのように裁きを下すべきか、早急に話し合う必要があるからな」

 

 幸いにも、アーウィンタールまで数日はかかる。その上、上等な幌馬車である為、一人二人残っていれば誤魔化しが効く。数時間外す程度であれば、問題は無いだろう。

 

「それと、国王への報告は処分を終えてからにしろ。報せるのはブルムラシュー候の裏切りだけでいい」

「「「「はぁーい」」」」」」

 

 ジャックが消えてもなお、三人の胸の内で燃え盛る激情の炎は衰えることが無かった。

 

-----

 

 帝都に着いたその日、モモンらが情報収集の為魔法省に向かう中、クロエはイリヤに切り替え、王都を超える見事な街を観光して回っていた。既に処分の方法が決まっていることもあり上機嫌であった彼女は、モモンの勧めもあり、存分に自由を謳歌していた。

 

「きゃっ!?」

「っと、ごめんなさい!」

 

 そんな彼女だが、魔法系極振りとはいえ十二分に高いステータスの持ち主。他人とぶつかってしまえば、体格で勝っていようと大抵は相手の方が体勢を崩してしまう。

 

「いたた………ごめんね、見えなかったわ………お姉さんも気を付け………」

「うっ………」

 

 イリヤがぶつかったのは、紫の髪の女性。耳の形からエルフ系か、とイリヤが考察する間に。

 

「うおえええええっ!!!」

「ちょっ、アルシェ!?」

 

 アルシェと呼ばれた少女が、往来の中央で盛大に嘔吐したのだ。突然の事に往来の人々が距離を置く中、イリヤはどうしたものかと首を傾げている。

 

「えーっと………香水とかは、使っていないのだけど………」

「な、何なの、その魔力!?」

「ふぇ?」

 

 呆気に取られるイリヤを余所に、声を出す余裕を取り戻したアルシェは涙目で叫ぶ。

 

「師匠とは比べ物にならない………どうやったら、そんな………うっ、うええええっ!?!」

「ちょっ、アルシェ!?」

「えーっと………ごめんなさい?その、あまりそういうのに詳しく無くて」

 

 アルシェが落ち着くのを見計らい、エルフの女性が困惑気味ながらも謝罪する。

 

「ご、ごめんなさい。アルシェにも、悪気は無いんでしょうけど………」

「構わないわ。私にも、過失はあったみたいだから………ブラックホール」

 

 吐瀉物の処理の為だけに、イリヤはスレイン法国の最上位天使、ドミニオン・オーソリティすらも屠れる魔法を使う。異臭に至るまで綺麗に消し去ってから、イリヤはアルシェを覗き込んだ。

 

「それにしても、面白い目を持ってるのね。ねえねえ、出来れば色々、聞かせて貰えないかしら?」

 

 平然と行使された魔法に戦慄するアルシェへと、無邪気に問い掛けた。

 

「ひっ………」

「一旦落ち着いて………私はイミーナよ。あなたのお名前は?」

 

 怯えるアルシェを宥め、イミーナと名乗った女性がイリヤに問う。イリヤはワンピースの裾を摘まみ上げ、優雅に一礼すると共に、名乗りを上げた。

 

「私はイリヤ。今は、それだけで勘弁してくださいな」




フォーサイト生存ルート、行けると良いなぁ………
なお、イリヤのNPCらは寛容な者もいる為、原作より難易度は落ちてる模様。
スカディ様という慈愛の存在がデカすぎる………


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ワーカーとの接触

 歌う林檎亭。汚れ仕事の多いワーカー御用達の酒場兼宿には、あまりにも場違いな少女が四人組と共にテーブル席に腰掛けていた。

 

「………へぇ、魔力が見えるんだ………」

「貴女みたいなのは初めてだけどね」

 

 半目で睨まれながらも、イリヤは一切動じない。その姿に驚いているのは、イミーナと二人の男性だ。

 

「嬢ちゃんよ………俺らがどんなのか、知ってて平然としてんのか?」

「ん?知らないわよ?」

 

 あっけらかんと告げるイリヤに、三人が揃ってずっこける。アルシェが妙に納得を示す中、イミーナが本気の呆れと共に、軽く叱るように告げる。

 

「いい?私たちはワーカーって言って、冒険者組合に属さず、犯罪の真似事とかにも手を染めるろくでなしなの。ヘッケランも私も、お金の為にやってるようなもんなんだし」

「まあ、間違っちゃねえけどよ………」

 

 ヘッケラン、と呼ばれた青年が顔を引き攣らせると共に、イリヤの視線がその隣の男へと向く。興味の対象だった彼らは、『優秀なタレント持ちを囲う一派』から『敵対し得る存在』へと変わっている。故に、情報を集める必要が強くなった。

 

「それじゃあ、おじさんもそうなの?」

「まあ、生きる上でお金は必要ですが………単に、冒険者でいるのが嫌になっただけですよ。神殿とのしがらみで救うべき人を救えないのが嫌なだけです」

「ふぅん………それじゃ、ヘッケラン、だっけ?その人も、悪党ではないのね」

「はぁ!?」

「そんな善人中の善人が組んでるんですもの。根っからの悪党なら、とっくに見捨てられてるでしょ?」

「まあ、そうですね」

「おいおい、ロバー………」

 

 照れくさそうに顔を背けるヘッケランから、アルシェへと視線が移る。言わんとしていることを察したのか、彼女は顔を強張らせ、冷たくあしらう。

 

「貴女には関係ない」

「そう?」

「そうよ」

「あら、残念。優秀な目を持ってるみたいだから、大層なものかと思ったけど………俗物的な、金銭欲からなのかしら?」

 

 冷たい言葉。ワーカーということから、ナザリックとの関係を疑っており、それ故の敵愾心からの言葉は、アルシェにとって大層不快なものだった。

 

「ふざけないで!」

「あら?なら、それ以上に高尚な理由があるのかしら?」

「………ッ」

「言葉に詰まる程度の理由にしては、顔が怖いわ………そうね」

 

 ただならぬものを感じ、ヘッケランら『フォーサイト』が身構える。イリヤは幼い顔立ちに邪悪な笑みを湛え、アルシェへと手を伸ばす。

 

「記憶を覗かれるか、自分から話すか。選ばせてあげるわ」

 

 出来る訳が無い、等とは思わない。目の前の少女の規格外さを知る女性陣二人は、最大限の警戒と共に身構えている。

 

「………出来ると思うの?」

「貴女が、一番よくわかってるんじゃないかしら?」

 

 歯噛みするアルシェは、観念したように体から力を抜いた。

 没落貴族の両親の浪費による借金返済の為であると、見るからに年下の少女に明かすのが、どれほど屈辱的だったことか。イリヤの出方次第では、感情を抑え切れない可能性すら視野に入れていた。

 

「………成程ね」

「え………?」

 

 そこにあったのは、羨望にも似た曖昧な笑みだった。その表情を消すと、イリヤは短く呟き、魔法でアルシェの手荷物を奪う。

 

「なっ!?今の、まさか」

「ふむふむ………ふふ」

 

 手荷物から抜き出した地図を見つめ、印の箇所を確認。妖しげな笑みを浮かべると、それをアルシェへと返却し、足取り軽く床へと降り立った。

 

「ありがとう。楽しかったわ………グレーター・テレポーテーション!」

 

 彼らは幸運だろう。イリヤの琴線に触れた結果、ナザリックの出方が変わったのだから。

 

-----

 

 ナザリック調査に赴くワーカーチームが集められたのは、イリヤとフォーサイトの接触の翌日早朝。そこには当然、キャンプの護衛を務める金級冒険者に交じるアダマンタイト級冒険者『漆黒』の面々も集っていた。

 

「あれが噂に名高い『漆黒』のモモ………んん!?」

 

 ヘッケランの上げた奇声に、同じくワーカーチームの長が訝し気な視線を寄こす。それに構わぬフォーサイトの面々の視線は、褐色肌に煽情的な格好をした少女に向けられていた。

 

「ねえ、アルシェ………まさか、あの子」

「いや、違うと思う。見た目が違い過ぎるし、何より魔力を全然感じない」

 

 イミーナの疑問に、アルシェはきっぱりと答えた。あれだけ途方もない魔力を欠片も残さず隠せるアイテムが存在するなど、あり得ないと考えているからだ。

 

「………『小悪魔』の二つ名に違わぬ外見だな………」

 

 ワーカーチーム『ヘビーマッシャー』のリーダー、グリンガムが呻きにも似た声を漏らし、視線を逸らす。恋人持ちのヘッケランですら目を奪われかねないその姿は、女性経験の無い人物には刺激が強すぎるようだ。

 

「ちっこいにはちっこいが………成程、風格は十分か」

 

 ワーカーチーム最年長の老人、パルパトラは、その振る舞いの中に確かな強者の風格を感じ取った。

 

「そうですか?私には、モモン程の実力者には見えませんがね」

 

 侮ったような発言をしたのは、チームとは名ばかりのワーカー『天武』のエルヤー。アダマンタイト級といえ、自分より明らかに年下の小娘であることが面白くないのか、あからさまな嘲笑を浮かべている。

 

「なら、一度手合わせして貰ったらどうだ?不安を晴らすには、一番手早いだろう」

 

 ヘッケランは言外に『そうやって言うなら直接相手してみればいい』と告げる。エルヤーは余程自信があるのか、悠然とクロエへと向かっていった。ガゼフを超えると思い込んでいるエルヤーは、尊大な態度でクロエを見下し、堂々と告げた。

 

「クロエ殿、一度手合わせ願いたい」




さて、ナザリックの打つ一手とは?
モモンの質問カットは仕様です。


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ナザリック式の歓迎(Ver.侵入者)

 エルヤーの申し込みに対し、振り返ったクロエの目は絶対零度。彼という人間から、かつて自分を虐げていた上司や年上の後輩、同僚と同じ雰囲気を感じ取ったからか、対応は恐ろしく淡々としている。

 

「何?それは、今必要な事なの?」

「おや、逃げるのですか?アダマンタイト級の、『小悪魔』ともあろう方が」

「あんた如きに構ってあげる程、暇じゃないの」

 

 自分より年下の相手に、明確に見下されたことで、内面的に未熟なエルヤーは容易く激昂した。一切の躊躇いなく刀に手をかけ、武技『縮地改』により恐るべき速度で迫り、その背に斬りかかった。

 

「………何?殺して欲しいの?」

 

 エルヤーの放った斬撃を最低限の動きで躱すと共に、振り下ろされた刀を黒い剣で抑え込み、白い剣を首筋に突き付ける。真珠の如き光沢を持つ目が敵意と殺意に満ちる中、その小さな頭に拳骨が落ちる。

 

「それくらいにしておけ」

「………フンッ」

 

 ご機嫌斜め89度なクロエは、モモンに止められるや否や、彼らが乗り込む予定の馬車に飛び込んだ。モモンはエルヤーを一顧だにせず、他の面々に軽く頭を下げる。

 

「お見苦しいものを見せてしまい、申し訳ない」

「い、いえ、こちらがけしかけたようなものですから………こちらこそ、申し訳ない」

 

 ヘッケランが素直に頭を下げると、モモンは再度軽く頭を下げ、馬車へと消えた。

 

「クソッ!クソッ、クソッ、クソッ!!!」

「………ガキだな」

「ガキであるな」

「ガキとしか言えんのぉ」

 

 八つ当たり気味に地団駄を踏むエルヤーを見る目は、何処までも冷たかった。

 

-----

 

 通常の軍馬を遥かに超える優秀な魔獣であるスレイプニールを駆り、一行がナザリックに到着する頃には既に四日もの時間が過ぎていた。モモンたちがキャンプの中で休憩に入る頃には、既にワーカーチームはナザリック調査に出向いており、金等級の冒険者たちが周囲を見張るのみになっていた。

 

「さて………っと」

「いよいよね………」

 

 二人は冒険者としての仮面を外し、ナザリックへと魔法で帰還する。それと同時に、ナザリック入口エリアに居たワーカーたちが、大規模なテレポートトラップにより、第六階層の闘技場エリアに飛ばされる。

 

「うぉっ!?………って、なんじゃこりゃ!?」

「檻………よね………?」

 

 彼らはチームごとに別けて檻に閉じ込められ、闘技場の隅に置かれていた。

 

「ようこそ、盗人諸君」

 

 厳かに告げたのは、豪奢な身なりの骸骨。その隣に佇む純白の衣の少女は、フォーサイトの既知の相手であった。

 

「イリヤ………?」

「ああ、すまない事をしたな」

 

 アインズが指を鳴らすと、四人は観客席の一角に転送された。逃げ出そうと辺りを見回すも、ゴーレムが壁を形成しており、それは不可能だと察する。

 

「………裏切ったの?」

「いえ、いいえ」

「お前たちがどう思っているかなど、知ったことではないのだがな。お前たちの在り様は、イリヤにとって素晴らしく見えたらしい。故に、今回は彼女に免じ、見逃そう」

 

 豪奢な身なりの骸骨、オーバーロードのアインズは、視線をフォーサイトから他のワーカーらへと移し、赤い目を光らせる。

 

「貴様らにはチャンスをやろう。依頼人の名を吐き、隠し持っている我が財を檻から投げ捨てろ。そうすれば、罪人として我が領地の法のもと裁いてやろう」

「ふざけるな!アンデッド風情に、屈する私ではない!」

 

 エルヤーの叫びに対し、ワーカーらの抱いた感情は『呆れ』。目の前の相手を『アンデッド』などと同列視するような阿呆に己の命運を握られてはたまらない、と叫ぼうとする。

 

「いいだろう!ならば、我が最強の僕に打ち勝ってみせるといい」

 

 アインズが指を弾くと、檻だけが消える。そして、二人の足元にある通路の奥から、首に能力激減、経験値増大の首輪を身に着けたバーサーカーが、スポイトランスと同種のデータクリスタルをふんだんに使った武骨な大剣を引き摺りながら現れる。

 

「―――――!」

 

 白い吐息を吐き出し、唸る。理性の欠片も無い怪物と侮れるエルヤーは、間違いなく幸運だろう。

 

「シャンタク」

 

 イリヤの呟きと共に、課金ガチャ惨敗の産物、無数のシャンタクが檻を持ち上げ、上空へと退避させる。エルフの奴隷たちが怯える中、エルヤーは無謀にも駆け出し、斬りかかった。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 その一閃は、バーサーカーに傷一つ負わせられない。上位物理無効化Ⅲにより、エルヤーのレベルでは彼に勝てない。

 

「最強などと嘯くだけはある………おい!強化を寄こせ!」

 

 奴隷エルフへと怒鳴るエルヤーを、バーサーカーは冷たく見下していた。

 主を害そうとした者へくれる慈悲など、欠片も無い。それ以上に、彼は弱者の守護を是とする者。耳を切り落とされた痛々しいエルフの少女らを虐げる彼に、かける慈悲などない。そのように、設定を与えられている。

 彼の本質は大英雄。イリヤの名を使い、仮想世界で生きた少女が抱く、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの最強で最高の守護者、バーサーカー、ヘラクレスへの印象そのものだ。それは、ナザリックの一員として、世界を敵に回すとしても変わらないだろう。

 最優先すべきは主。その主の命といえど、無辜の民の虐殺であるならば、命を賭して説得にかかる。そのようにデザインされた、彼女が敬愛し

、尊敬する大英雄の模造品。それが、バーサーカーという存在だ。

 

「―――」

 

 深く、息を吸う。

 主へと牙を剥いた愚物に、少女を奴隷として虐げる矮小な存在に向けた怒りを溜め込むように、深く、深く、空気を吸い込む。そして、主の望みに応えるべく、目の前の生命と見做す事すら烏滸がましい愚物を滅ぼすべく。

 

「■■■■■■■■■■―――――!!!!!!」

 

 その巨大な肺腑を満たした空気を、大地を揺るがす轟音として吐き出した。




エルヤー死亡のお知らせ。コイツはまあ、しゃーないね。


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墓荒しの末路

 砂埃を撒き上げる咆哮の直後、バーサーカーの姿がブレた。心を折られていたエルヤー含め、誰一人として明確に視認できないまま、バーサーカーの握る大剣が薙ぎ払われ、エルヤーの上半身が吹き飛ぶ。当然即死だが、それを許すほど、彼らは優しくない。

 

「トゥルー・リザレクション」

 

 凛とした声と共に、エルヤーが蘇る。彼が見上げた先の観客席には、紫髪を揺らすドレス姿の美女。その眼は何処までも冷たく、彼を見下していた。

 

「貴様らに、一つ教えておいてやろう」

「な―――」

 

 次の瞬間、彼のいた位置をバーサーカーが踏み抜いた。鮮血と臓物、肉の断片が飛び散る中、バーサーカーが足を退けると共に再度蘇生魔法が使われ、エルヤーの体が元に戻る。

 

「ナザリックにおいての救いは、基本的には死だ。其方らのような厚遇を受けられること自体が稀であり、例外中の例外だ」

 

 死ぬ、生き返る、死ぬ、生き返る、死ぬ、生き返る………真っ二つに斬られる、裂かれる、引き千切られる。握り潰される、踏み潰される、叩き潰される。あらゆる殺し方をされては強制的に蘇生させられ、エルヤーの心は折れた、折れ砕けた。

 

「た、助け………」

「ならば、死を受け入れればいい。ナザリックにおいて、死とは救いだ。何度も救いを与えられ、それでもなお意地汚く生にしがみつくから苦しむのだ」

 

 無様に這いつくばるエルヤーを、アインズは冷たく見下す。彼自身相当苛立っており、仮にクロエが傷を負う事態があれば、帝国を滅ぼしていただろうと確信を抱けるほどだ。だからこそ、彼もまた、エルヤーを生かすつもりは皆無だった。

 

「ど、どれいを………あいつらを、あげます………だから」

「いらん。ナザリックは、あの程度の者どもに頼る程逼迫などしていないのでな」

 

 エルヤーの希望は、潰えた。その頭をバーサーカーが掴み上げ、握り潰す。十七回目の死を迎えると共に不規則に体が痙攣し、バーサーカーが手を離すより先に地面に落ちるも、スカディが蘇生魔法を使えばまた蘇る。生き汚いと言えばそれまでだが、その生への執着には他のワーカー集団も呆れていた。

 

「ふむ………そろそろいいだろう」

「バーサーカー、殺さないでいいわ。ソイツは餓食狐蟲王の巣にでも放り込んできなさい」

「ひ、ひぃっ!?」

「安心なさい、死にはしないわ………死は、この場において最大の慈悲ですもの」

 

 イリヤの笑みに薄ら寒いものを覚えるも、時すでに遅し。エルヤーの体はバーサーカーから逃れることなど出来ず、そのまま引き摺られていく。

 

「お、お前ら!強化だ、強化を寄こせ!はやく、はやくっ!!!」

 

 エルヤーが手を伸ばすも、彼の奴隷だったエルフたちは嘲笑を浮かべており、助ける気など皆無なのは明らかだった。

 

「スカディ、あの子たちは任せるわ」

「うむ、心得た」

 

 スカディが転移し、奴隷エルフたちのもとへと降り立つ。彼女らと共に闘技場から消えると共に、アインズの双眸が『竜狩り』『ヘビーマッシャー』へと向き、低く、厳かな声と共に問い掛ける。

 

「では、返答を聞こう」

「………うむ、我らは汝の提案に従おう」

「儂らも異論は無い」

 

 二つの監獄から、幾らかのユグドラシル金貨、宝石が投げ捨てられる。それを確認してから、しかし用心深く、アインズは次の手を打つ。

 

「では、シャドウ・デーモン。彼らの最終チェックだ。嘘、誤魔化しを試みた者が居れば、その場で殺せ」

 

 幸いなことに、五分程かけてもそのような者は無く、平穏に取り調べも終わった。

 

「シャンタク、檻を下ろしなさい」

 

 檻が地面に着くと共に、両チームの面々が息を吐く。

 

「ご苦労。では、貴様らの処罰は追って行うとして………依頼者の名は?」

「フェメール伯爵だ」

「落ち目の貴族しゃが、カネには困っとらんようしゃ」

「ほほう?成程、スケープゴートにはうってつけか」

 

 アインズが不快感を隠さぬ中、彼の呟きに首を傾げる面々へとイリヤが声高らかに告げる。

 

「あなたたちは使い捨てなのよ。生還を期待されていない、文字通りの捨て駒」

「なんと………」

「喜びなさい!あなたたちは、アインズ・ウール・ゴウン侯の支配する地のルールに則って、罪人として裁かれる」

 

 その視線が、観客席のフォーサイトへと向く。

 

「あなたたちも、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン辺境伯たる私の名において、リ・アインツベルンでの生活を保障するわ」

「ま、待って!」

「妹さんなら、私も一緒にお迎えに行くわ。それで満足かしら?」

 

 イリヤにとって、家族を大切にするアルシェの在り方はとても羨ましく、眩しいものだ。前世では誰かの為に生きるなど出来ない重病人で、今世では身寄りもなく、自分の命を繋ぐのに精一杯。そんな彼女が、アルシェのような存在の力になりたいと考えるのは、そう不自然な事だろうか?

 

「………なんで、そこまで?」

「私とイリヤは、優秀な人材を求めている。君たちには、その手伝いをしてもらいたい」

 

 アインズの目が光る。

 

「お前たちは罪人として裁こう。だが、我が大望に手を貸すのであれば、相応の減刑を行う。さて、どうする?」

 

 王の風格を纏うアンデッドに対する忌避も、彼らからは失せていた。

 彼らが選んだ答えは、言うまでもないだろう。



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報復は相応に

「ここ」

 

 ワーカーらを懐柔したイリヤは、アルシェ同伴のもと、彼女の生家であるフルト家に踏み込んでいた。既に月も高く昇り、数少ない住人も寝静まっている。

 

「あの人たちが起きる前に………」

「あ、それなら大丈夫。ヒュプノスの眠香を焚いておいたから」

「え、何、それ?」

「睡眠への完全耐性が無ければ防げない毒」

「毒!?」

 

 ヒュプノスの眠香とは、読んで字の如くのアイテムで、睡眠への完全耐性以外に無効化の手段がない強力なアイテムの一つだ。ただし、香という性質上効果範囲が狭く、またちゃんと焚くというアクションが要求される上、敵味方の区別が無い為滅多に使われないハズレの部類なのだが。

 

「ちゃんとディレイ・マジックで無効化の準備もしてあるし………ほら、ちゃっちゃと起こしちゃって」

「い、いや、起こすのも悪いし………このまま連れてく。手伝って」

「えぇー………バーサーカー」

 

 イリヤの指示に従い、バーサーカーがクーデリカとウレイリカを優しく抱き上げる。つい先ほど、目も覆いたくなるような殺戮を演じたとは思えない優しい手つきと、厳しい顔に浮かぶ穏やかな笑みに驚いている中、バーサーカーはその大きな手と腕を使い、二人が起きないよう細心の注意と共に立ち上がる。

 

「じゃ、私は眠香回収してくるから~」

 

 香炉を回収しに向かいながらも、イリヤはしっかりと新居直通のゲートを開いている。

 

「………夢、じゃないよね………?」

 

 巨人が優しく頷くのを視界に捉えてから、恐る恐る踏み込む。その先にあるのが、ごく平凡な民家の一室である事に安堵して、アルシェは安堵と共に崩れ落ちた。

 

-----

 

「ブルムラシュー侯、何故私がわざわざ呼び立てたか、まさかわからぬとは言うまいな」

 

 モモンをパンドラに演じさせ、アインズはエ・ランテルに構えた屋敷にて、彼と対面していた。

 

「な、なんのこ」

「惚けるな。貴様がバハルス帝国と共謀し、我が城を踏み荒らさんとしたことは既に知っている」

「し、城?何を言って………」

「カルネ村付近の墳墓だ。私の城、ナザリックの盗掘だったか………全く、面白いコトをしてくれる」

 

 不快感と怒気を隠さぬアインズを前に、ブルムラシュー侯は焦りを覚える。だが、口を開くことを、アインズは許さない。

 

「ああ、言い訳は無用だ。全て知っている」

「な………」

「貴様の内通は、ザナック第二王子もレエブン侯もご存知だ。故に、私は常に貴様を監視させていたのだよ。既に陛下にもご報告済み………故に、選ばせてやろう」

 

 虚ろな眼窩に灯る紅い光が、死を予見させる。

 

「全てを失い野に放たれるか、私に殺されるか。前者は命が、後者は財産が残る形となるな」

「ふ、ふ………!」

「ふざけるな、か?それはこちらの台詞だ」

 

 激情を抑え、アインズは努めて冷静に言葉を選ぶ。

 

「私に城を留守にさせ、その隙に私の、私の仲間たちと作り上げた城を盗人どもに漁らせようとしたのだ!もはや、カネだの言葉だので解決する問題ではないのだよ!」

 

 ふとしたきっかけで殺される。そう察したブルムラシュー侯は、真っ青を通り越し白くなり震える。

 

「さあ、選ぶがいい。追放か、死刑か」

 

 二枚の書状が、そっと机に置かれる。それぞれ、財産没収、貴族位の剥奪、国外追放に同意する旨と、死刑を受け入れる旨を確約させる書類。ブルムラシュー侯がサインしたのは、前者の書状。

 

「では、さようならだ」

 

 直後、彼の背後にゲートが出現する。それにブルムラシュー侯が気付くより先に、そこから伸びた白い腕が彼の首根っこを掴み、ゲートへと引きずり込む。

 

「なっ………!?」

 

 地面に放り捨てられた彼が見たのは、上空を舞う三人の天使。

 

「こちらに関しては、そちらにお渡ししましょう。王国の安定化には、不必要ですので」

 

 金髪の天使、スルーズが冷たく吐き捨て、皇城の一室から顔を出すジルクニフ帝らを見下す。

 

「これは警告です。慈悲深き至高の御方方は、此度の一件は皇帝たる貴殿による直接の謝罪一つで水に流すと仰られた。これを受け入れぬことは即ち、国の終わりを受け入れるということです」

「な………」

 

 アインズ・ウール・ゴウンというマジックキャスターの真価を見抜けるブルムラシュー侯は、それを戯言だと思いたかった。ジルクニフもまた、規模が規模だけに、受け入れ切れずにいた。

 

「信じられぬというのなら、この場に屍山血河を築き上げましょう」

「え、マジでやるの?」

「………あの見るからに頑丈そうなのは、残しておくべきだと進言します」

「では、そうですね………」

 

 三人が槍のように携える杖を掲げ、バハルス帝国四騎士の一人『不動』のナザミ以外へと、それぞれ魔法を放つ。

 

「マキシマイズ・マジック、チェイン・ドラゴン・ライトニング」

「マキシマイズ・マジック、ヴァーミリオンノヴァ」

「トリプレット・ディレイ・マジック、エクスプロード。トリプレット・マジック、エクスプロード」

 

 不規則に放たれる魔法の数々が、ナザミを除く衛士たちへと襲い掛かる。稲妻の龍が、紅蓮の炎が人を焼き尽くし、黒髪の天使が謡うように魔法を唱える度、三人ずつ跡形も無く爆ぜ、消えて行く。

 

「な………」

「これは………あの炎は恐らく第六位階、フレイムウィングの上位!おお、なんという………!」

 

 誰もが息を呑む中、フールーダ・パラダインのみ、その魔法に魅せられていた。

 

「では、威嚇も済みましたので、我らは帰還いたします。期限は七日とし、それまでに現れぬようならば、この国を消し去りましょう」

 

 凛と告げ、スルーズがゲートを開く。

 

「じゃあね~。いいお返事、期待してるから」

「賢明な判断に、期待します」

 

 ヒルド、オルトリンデが消えてから、スルーズがゲートへと消える。

 皇城の中庭には、鮮血と焦げ跡、人間であった灰と、沈黙だけが残った。




ジルクニフ胃痛&毛根後退√………かな?


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その頃の王国サイド

 帝都からナザリックまで、スレイプニールを駆使しても片道四日もかかる。その為、モモンガ、イリヤはその間、自分たちに下ったワーカーらを上手く使うべく、モモンガの私室で会議していた。

 

「では、やっぱりマジックキャスターの育成が最優先ですかね?」

「帝都を見ればわかるでしょ?この国は魔法面で大きく遅れてるわけだから、それを補わないと」

 

 二人にとって僥倖だったのは、ワーカーチームはどちらも名の知れた大手であったことと、そのお陰でマジックキャスター等もしっかり所属していたことだ。

 

「ただ、そうなると人集めと学校経営かー………やまいこさんがいればなぁ………」

「………私、学校行ったことないから、勝手がわからないのよね」

「ウチのNCPたちで教えられそうなのは………スカディ?」

「んー………飴と鞭の加減が出来るかしら?」

「あ………」

「それに、この世界の基準的に、飛び抜けすぎてて却って………」

「あー………やっぱワーカーの人たちを上手く使うしかないのかなぁ?」

 

 小卒のモモンガと、そもそも学生だった事すらないイリヤとでは、中々に難航していた。

 

「こういうの、私たちよりデミウルゴスとかの方が向いてそうよね?」

「んんん………でも、部下に丸投げってのもなぁ………ただでさえ自己判断で色々動いてくれるせいで、声かけにくいし」

「………私も、会稽とスカディに内政丸投げしてたっけ」

 

 この二人、実のところ部下の暗躍について、あまり詳しく把握していない。先日のナザリック調査も、アインズが貴族位を与えられてからブルムラシュー侯が領内のワーカーを使いカルネ村近辺を探らせていたのを、デミウルゴスがアインズの考えを深読みしたせいで見逃した結果の事と知らないし、デミウルゴスらとは視点が致命的にズレていることにも気付いていない。

 尤も、墳墓の発見については口封じをしようがするまいが、遅かれ早かれ気付かれていただろう。それに、仮にそれが判明しても、優秀な手駒が多く増えた以上は咎める理由も失せているのだが。

 

「………ところで、そっちはどんな感じですか?」

「リザードマンの………ザリュースだっけ?それとデミウルゴスが地元の人たちとうまく協力して、魚の養殖を試してるって」

「養殖、ですか………」

「リザードマンの集落のでも、脂肪が乗ってて美味しいらしいわよ」

「わぁ………楽しみなんですけど、このナリじゃ食べれないからなぁ………」

「あ………」

 

 気まずい沈黙が、二人を沈黙。

 

「………とりあえず、任意で人間になれるアイテムでも探そうかなぁ………そうじゃないと、イリヤさん程エンジョイできませんし」

「うん、まあ………がんばっ」

「他人事ですね!?」

「いや、その、コメントし辛いし………」

「まあ、そうなんですけどね………」

 

 重苦しい溜息を吐き、二人はテーブルに突っ伏した。

 

-----

 

「まさか、ブルムラシュー侯までもが………」

「ですが、お陰でお父様の直轄地も増えました。当面は安泰でしょう?」

 

 可憐な王女の仮面をかぶり、ラナーが嘆く父を慰める。ザナックはそれに不気味さを覚えながらも、余計な茶々を入れず、父に今回の利点を告げた。

 

「それに、今回の件で直轄領となったリ・ブルムラシュールは鉱山都市。金、ミスリルの流通を握れるだけでもかなり国庫が潤うでしょう」

「うむ………お前はどう考える?」

「ブルムラシュー侯の裏切りの発覚のお陰で、貴族たちへの圧力は一層増したでしょう。ゴウン侯は陛下の味方であると仮定すれば、彼らは決して裏切らない………いえ、裏切れないでしょう」

「うむ………アンデッドとは思えぬ知性、先見性、どれを取っても素晴らしいものだ」

 

 ランポッサⅢ世が静かに頷く中、彼らの揃う部屋の戸が叩かれる。

 

「入れ」

「「「失礼しまーす」」」」

 

 扉をすり抜け現れたのは、ハイ・レイスのジャックだ。漆黒のマントを纏う彼女は、子供らしい所作で一礼すると、即座に本題に入った。

 

「「「ご主人様(おかあさん)たちが、お家を荒らそうとした帝国と事を構えるかもしれないよ」」」」

「なんと!?」

 

 ランポッサⅢ世が驚愕の声と共に立ち上がる。ガゼフも声こそないものの、驚愕と共に立ち上がり、ジャックを鋭く見つめる。

 

「詳しく、教えていただきたい」

「「「えっとね、帝国がご主人様(おかあさん)たちのお家のナザリックに、ワーカー、って奴らを送り付けたの」」

「「「「それで、報復で帝国を滅ぼしちゃうぞー、って脅し付けて、謝りに越させる予定」」」」」

「「「「「あっちが無視すれば帝国を滅ぼして、謝罪に来たら上手く王国との同盟なりなんなりをー、って言ってた」」」

「………ゴウン侯なら出来そうなのが怖いな」

 

 ガゼフが頬を引き攣らせる中、ジャックは不自然に反響する声のまま、ランポッサⅢ世に問い掛けた。

 

「「「そういう訳だから、もしもの時に備えておいてね」」」

「「「「「予め同盟を結ぶ準備をしておけば、それだけ相手を威圧できるよ」」」」」」

 

 それだけ残し、ジャックは溶けるように形を崩し、その場から去る。

 

「………ゴウン侯は、何処を目指しておるのだ………?」

(やや想定外ではあるけれど、これはいい流れね。あの方の強大さに恐れ慄き、王位を渡してくれれば万々歳。そうでなくとも、愚鈍な真似を続けていれば、きっと乗っ取られる。そうすれば、私は王女ではなくなるのだから………)

 

 情報を整理しながら、ラナーは王位を明け渡す最善手を模索した。




ナザリック調査の流れ

・ブルムラシュー侯、ワーカーを使いカルネ村近辺を捜索させる。

・ワーカー、ナザリックを発見。デミウルゴスも認識するも、アインズらが王国の貴族となった為、これも策の一環かと黙認。

・ブルムラシュー侯に謎の遺跡の情報が入る。アインズがアンデッドであることから墳墓の類と断定し、身なりからして相当な財があるだろうと目星を付ける。なお、ワーカーは口封じをされた。

・ブルムラシュー侯、帝国に情報を提供。強力なマジックキャスターとの情報にフールーダが興味を示した為、ジルクニフが適当な貴族の名を使い調査依頼を発行する。

………となります。本編でもう少し細かくやるべきだったかな………?


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死者の王と人の皇帝

 警告より五日後。バハルス帝国の者たちの接近が告げられた二人は、即座に会議を打ち切り、準備に取り掛かる。予めやり方を教えてあったプレアデスが出迎えている間に都市運営を行っていた会稽らが戻り、シグルド、ブリュンヒルデもまた、出迎えの為だけに遠方への旅から帰還した。

 

「会稽、只今」

「シグルド、只今勅命を受け、帰還致しました」

「ブリュンヒルデ、同じく」

「ええ、よく戻ってきてくれたわ。早速で悪いけれど、客人のお出迎えよ。盛大にしてあげないとね!」

 

 楽しそうに笑い、他のNPCと共に『歓迎』の準備を進めるイリヤ。

 そして帝国の使者………ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスとその腹心フールーダ・パラダイン、帝国四騎士の『雷光』バジウッド・ペシュメル、『重爆』レイナース・ロックブルズ、その他複数名と傭兵に見せかけた兵を伴い、玉座の間へと踏み込む。そして、息を呑んだ。

 

「いらっしゃい、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下」

 

 異形の従者が、怪物が立ち並ぶ中、純白の衣に身を包む少女が優雅に一礼する。見るからに上等な衣の縁を彩る赤が、点在する金の紋様が、それを身に纏う純白の少女の美貌を際立てる。

 その姿は、先程まで見たこともないような至高の芸術、美術の数々に圧倒されたジルクニフをして、格別とすら思えるほどだ。

 

「このナザリック地下大墳墓が主、アインズ・ウール・ゴウン侯がお待よ」

「………あ、ああ………」

 

 生返事になってしまうジルクニフに背を向け、イリヤが悠然と進む。両脇に控える魔獣の数々の、異形の従者たちの脅威がわからぬ訳でもない。それでも、国を思えば進まざるを得ない。

 

「よくぞ来られた、バハルス帝国皇帝よ。我が名はアインズ・ウール・ゴウン、先日侯爵位を授けられた、この地一帯を預かる者だ」

「歓迎を心より感謝する、アインズ・ウール・ゴウン侯」

 

 口を挟もうとするデミウルゴスを手で制し、イリヤが鈴の如き可憐な音を紡ぐ。

 

「では、先日の一件についてお話ししましょう………先ずは、そうね」

 

 イリヤが指を鳴らすと共に、シャンタクの一体がミラー・オブ・リモートビューイングを持ち出す。その先に映るのは、凄惨極まりない光景だった。言葉で形容するのもおぞましい中にある、正気のまま悶え苦しむ男の顔を、体を見て、バジウッド、レイナースは顔を蒼白に変え吐き気を堪え、ジルクニフもまた、叶うならば直ぐにでも視線を外してしまいたかった。

 

「この者のような無礼者を我が城に送り込んだことは不快極まりないが………他の者たちは有効活用できた。故に、先日の帝都での部下の行為を以て手打ちとしよう」

「………か、寛大な心に、感謝する………」

 

 声が震えているのも、無理の無い事だろう。人間を生かしたまま苗床とする蟲など見れば、普通はこうなるどころではない。

 

「見苦しいものを見せたな。だが、彼の行動は我らにとって不快極まりないモノだった………我が僕たちを見ればわかるだろうが、我らは異形の者だ」

「………」

 

 喉から、口の中から水分が失せる。不快な汗が滲むのを感じる中、アインズの目が光る。

 

「故に、エルフの奴隷などを堂々と虐げられるのは、不愉快極まりないのだ」

 

 バハルス帝国は、スレイン法国から流れるエルフの奴隷の売買が行われている。皆耳を半ばから落とされ、心を折られ、高値で取引されている。

 

「いいや、構わんよ。彼は我が国で名を上げただけの者。元はスレイン法国の者だ」

「ほう、スレイン法国………ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス殿」

「ジルクニフで結構だ」

「そうか。では、ジルクニフ殿。リ・エスティーゼ王国との会談に臨んでいただけないか?」

「何………?」

「我々はあくまで王国の一貴族に過ぎない。故に、我ら領地での問題は兎に角、王国との軋轢は明確なものとなり得る」

 

 事実、ブルムラシュー侯を追放した時点で、帝国との内通は判明している上、ナザリックというアインズの城は王国の領内。皇帝が自らそれを命じたとなれば、より一層の関係悪化もあり得るだろう。

 

「仮に帝国との戦争となれば、我らはその力を振わざるを得ない。そうなっては、この場での会談が茶番となってしまおう?」

「………わかった。一度、帝都に戻ろう。相応の準備の後、改めて王都を訪れる、とランポッサⅢ世に伝えて貰いたい」

「よかろう。私とて、一時の怒りに任せあのように威圧するよう命じた身だ。それくらいの嘆願はするさ」

「感謝する」

(何が一時の怒りだ………ここまで全て、掌の上だろうに………!)

 

 ジルクニフは必死にポーカーフェイスを保ち、アインズと向き合う。

 

「ふむ、しかしこれではあまりにそちらに利が無い………イリヤ」

「畏まりました。では、そちらの女騎士様」

「………私か?」

「ええ、こちらにいらして………跪いていただけるかしら?」

 

 呼ばれて身構えるのは、『重爆』のレイナース。長く伸ばされた金髪で顔の右半分を覆う女騎士は、警戒しながらもイリヤの元へと歩み寄る。困惑気味に跪くよう告げられ、その言葉に従い渋々跪くと、顔の右半分を覆い隠す髪が払い除けられた。

 

「魔法省、なんて大層な物がある癖して、この程度のすら払えないのね………」

 

 顔の右半分に手をかざし、信仰系の魔法を行使する。すると、彼女の顔を醜悪なモノに変えていた呪いが消え失せ、元の美しいものに戻る。

 

「これは………!?」

「我々からの謝礼だ。不足とあらば、他に何か用意させるが?」

「い、いや、構わない。寧ろ、過剰なくらいだ!」

「おお、おお………!!!」

 

 感激の声を漏らすフールーダとは裏腹に、ジルクニフは完全に焦っていた。相手の強大さを嫌と言う程見せつけられ、今すぐにでも帰りたいとすら思っていた。

 そんな彼の意を汲んだわけでもあるまいが、ほどなくして退出を許可された一行は、約二名を除き、重い足取りで馬車に乗り込み、帝都へと帰還した。



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ナザリックの恒例

2/05 誤字修正


「………あれで、よろしかったのでありんすえ?」

「いいのよ。格の違いを見せつけながらも慈悲を示す、アインズ様たちなりのやり方なのですから」

(………え?)

(まあ、そうなるわよねー………)

 

 ジルクニフらが去ってから、玉座でシャルティアが問う。それに、案の定アルベドが好意的な解釈を行い、アインズが驚き、イリヤが内心で苦笑する。

 

「アルベド、私たちは領地のことで会議があるから、失礼するわね?」

「………畏まりました」

 

 やや不服そうにしながらも、アルベドはイリヤたちを見送る。そして、二人の姿が消えてから、アルベドは明確な不満と不安を顔に表す。

 

「………やはり、イリヤ様もアインズ様を………?」

「お二人は我々の上に立つお方、我らが顔色を窺わぬよう、気を利かせてくださったのだろう。そのお心遣いに感謝して、この度の狙いについて諸君らに教授しようではないか!」

 

 デミウルゴスが得意げに玉座の面々に向き合う中、イリヤは私室でアインズと共に肩の力を抜いていた。

 

「ふー………」

「あ、相変わらず評価が高い………」

「ホントねー………まあ、お陰でこっちは別のことに頭を回せるんだけどさ」

「や、色々考えましょうよ………言い訳の仕方とか」

 

 モモンガに戻ったアインズは、呆れ混じりの半目でイリヤを見つめる。

 

「いいのよ、頼りになる言い訳担当がいるんだし」

「丸投げしないで下さいよ!」

「冗談よ、冗談………けど、他人と話した経験自体があんまりないから、言い訳とか苦手だし、頼りにさせてね?」

 

 クロエの姿でないというのに、小悪魔チックな笑みと共にウィンクするイリヤ。微かに残る男としての箇所にグッサリ突き刺さるも、幸いモモンガはそれを感じさせず、咳払いと共に腕を組む。

 

「………それで、今後どうなると思います?」

「うまくいけば同盟が結ばれて、戦争が終わるわね………そうなると、この辺りは帝国との交通の要所の一つになりそうね」

「ですね。北は海があるとはいえ、それ以外は山脈で隔たってますし………」

 

 その頃、玉座ではデミウルゴスが大いに盛り上がっていた。

 

「つまりだ!今回、王国との同盟を求めたという事はつまり、我らの戦力を帝国に知らしめると共に、帝国が屈する姿を見せることで、よりアインズ様の力を知らしめる目的があったのだよ!」

「更には、エ・ランテル含む一帯は帝国との交通の要の一つとなる上、南方の国家への抑止力ともなるわ」

「成程………流石ハ至高ノ御方方ノオ考エダ」

「更には、お二人は既にマジックアイテムの普及や交通手段、運送手段の整備をお考えになっておられる。黄金の姫の望みが叶うのも、そう遠くはないだろう」

 

 眼鏡の位置を直し、デミウルゴスが不敵に笑う。胸の内にあるのは、主たる二人への崇拝にも似た畏敬のみ。

 そんなことなど露知らず、二人は呑気に適当なノートを広げ、色々書き込みながら、真剣に今後の方針を考えていた。

 

「それで、明かりはどれくらい必要になりますかね?」

「街中だけでも、少なくても四桁は見積もっておくべきよね………」

「となると、それだけのランタンを集めないとなぁ………とりあえず、様子見で百個ほど作って、夜の街で試してみましょう。それで適切なライト間の間隔とかわかれば、街の規模から逆算できそうですし」

「そうねー………で、交通手段の方だけど」

「スレイプニール辺りは、数が揃えられると楽そうですよね。シャンタクは数もいるし、空輸手段として優秀なんでしょうけど、スピードが………」

「問題は山積みね………」

 

 シャンタクは、地上でのスレイプニールを軽く上回る飛行速度を有している。人間が乗ることは不可能ではないだろうが、どれくらいからスピードが落ちるのか、どの程度の高度まで人間が耐えられるのか………などなど、主眼に据えるには問題が多いのだ。

 

「人員の輸送は兎に角、空路での物資の輸送が可能になれば、かなり便利になりますよ!………天候の問題はありますけど」

「まあ、山賊の類の危険性が大きく落ちるのは無視できないわよね。シャンタク自体、低位の幻惑系魔法を使えるから逃げに徹する分には優秀だし」

 

 改めて提示される情報の数々を前に、アインズは何故そんなものを数えきれないくらい持っているのか、と呆れ、同時にその課金額を想像し、それでもなお外れ枠のはずのモンスターが入手できない悪運の凄まじさを実感してしまう。

 

「………大変だったんですね」

「え?いきなりどうしたの?」

「いえ、こっちの話です………」

 

 努めて冷静にノートを見返し、『マジックアイテムの普及』という記述について、思考を巡らす。

 

「コンティニュアル・ライトを付与したランタンで街中を照らすはいいとして、どうやってマジックアイテムをお手頃価格で普及させるか………そもそも、どういうのが良いんですかね?」

「んー………インフィニティ・ハヴァザックとか?」

「アレは優秀ではあるんですが、民間に普及させていいかって言うと………」

 

 悪用の余地を考えてしまったのか、二人は微かに顔を曇らせ、頭を振る。

 

「うーん………廉価版で、どれだけ容量が抑えられるかがカギですね」

「そうね。試す価値はあるはずよ」

 

 二人は前向きに、各々の頭から知恵を振り絞る。

 僕から二人への評価が異常なまでにぐんぐん上がっていることに、気付かぬまま。



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会談前の実験

 帝国と王国の会談は、双方の中間地点に当たる都市エ・ランテルで行われることとなった。

 そして、それが決定したその日のうちに、国王ランポッサⅢ世ら一行がエ・ランテルを訪れていた。ザナック、ラナーをそれぞれ護衛と共に急遽特別に用意させた黄金の輝き亭の部屋に通し、その一つでランポッサⅢ世、その護衛のガゼフと、アインズ、イリヤが対面する。

 

「随分とお早い到着ですな、陛下」

「長年の悩みが解決できると思うと、つい浮足立ってしまってな」

「ああ、成程。私も同じ立場であれば、陛下のようにしていたでしょうなぁ………」

「ほぅ、ゴウン侯も?」

「如何にアンデッドといえど、悩みと無縁ではありませぬからな」

 

 突然の訪問への動揺は抑制されたものの、内心の焦りは中々消えてくれない。

 

「ガゼフさん、事前に教えてくれてもよくない?」

「や、私は連絡手段を持っていないのだが………」

 

 イリヤにゲシゲシと足を踏まれながら責められ、ガゼフが狼狽える。王に助けを求める訳にもいかず狼狽するだけの彼を見かね、アインズがそっと王の視線がそちらに向くよう、何気なく顔を向ける。

 

「ストロ………っと、お取込み中だったかな?」

「い、いや、問題ない。それより、先ずは謝罪を。王の我儘を止められず、申し訳ない」

「まあ待て。貴殿を責めても仕方あるまい。伝達手段を持たぬ以上、どうあってもこうなったさ。幸い、夜の実験に支障はない。盛大な歓迎が出来ぬ以外、特に問題はない」

「ほぅ、実験とな?」

「ええ。街の治安向上の為の、ね」

 

 ランポッサⅢ世の目に、好奇の光が宿る。

 

「それはまた………どのようなものか、見学させて頂いてよろしいかな?」

「構いませぬよ。王都での実現を目指すというのなら、我らも協力を惜しまぬ所存です」

 

 ランポッサⅢ世は、夜が待ち遠しいとばかりに、天高く昇る太陽を見上げた。

 

「それで、アインツベルン殿は問題ないのか?」

「戻るのはゲート一本で簡単に行き来できますし」

「そうであったな。ははは、羨ましい限りだ」

「そうですかな?アンデッドの身としては、美味の数々を味わえる生身の体が羨ましいのですが」

「成程、そう便利な体は無いという事ですな」

 

 野郎三人が仲良く笑う。

 

「ところで、この後は?」

「そうだな………付近の村を見て回りたいところだが、そう時間が無いか………」

「歓迎が御不用でしたら、ゲートでお送り致しましょうか?」

「いや、よい。そこまで手を煩わせるわけにもいかぬしな」

 

 ランポッサⅢ世は静かに立ち上がると、静かに下の景色を眺める。

 

「それに、ゴウン侯の夜の実験を見物するのだ。老体は大人しく、体力を残しておかねばな」

 

 その笑みは王としての物ではなく、未知への期待を抱く少年のようにも見えた。

 

-----

 

 そして、夜。

 

「おーい、ご老公!どうだ!?」

「うむ、よく見えるわい。もう少し間隔を広げて………」

「ほぉ、これが………」

 

 ガゼフ、アインズ同伴の下、ランポッサⅢ世は夜の街に出ていた。彼らの視線の先では、アインズの下で罪人として労役に就いている元ワーカーたちが、コンティニュアル・ライトを付与したランタンを手に実験………夜道を隙間なく照らせるようにするのに最適なランタンの間隔を探っていた。

 

「うむ、では次は………そうだな、肩車をしてくれ」

「か、肩車ぁ!?」

「そうだ。住人を信じていないわけではないが、マジックアイテムを盗む輩が出ないとも限らん以上、高めの柱を設置し、そこから垂らす形にするのが適しているだろう」

「ご尤もしゃのぉ………仕方あるまい。若いの、頼むぞい。儂は明かりの届き方を調べるからの」

「あいわかった!行くぞ、汝ら!」

 

 グリンガムが指示を出すと、元ヘビーマッシャーの面々が二人一組で肩車をして、高所からの明かりの届き方を調べる。そうして必要な間隔を竜狩りの面々が測り、記録し、それをもとに会稽とデミウルゴス、ジャガ村がミスを防ぐ為各自で計算し、結果をもとに話し合う。

 

「成程………マジックアイテムの光で夜道を満たすとは、考えましたな」

「無論、容易い事ではありませんが………初期投資に見合う成果は出るでしょうからね」

「うむ、これは素晴らしい………が、おいそれとできる事でも無いか」

 

 ガゼフとランポッサⅢ世が共に驚く中、調整を終えたデミウルゴスがアインズの元に歩み寄り、跪く。

 

「アインズ様。この街の規模をもとにした、ランタンの必要数の逆算が終わりました」

「ご苦労だった、デミウルゴス。心身ともに、しっかりと休むがいい」

「勿体無きお言葉………!」

「会稽、ジャガ村。お前たちもだ。その頭脳をしっかり休め、我らの為に役立てよ」

「御意」

「畏まりました」

 

 会稽、ジャガ村が跪き、感謝の意を示してから夜道へと消える。その姿を見送ると共に、デミウルゴスへと視線を落とす。

 

「お前もだ、デミウルゴス。少々働き過ぎだ。疲労の蓄積は思わぬミスを招く。しっかり休んで、ナザリック最高の頭脳を損なわぬよう努めよ」

「アインズ様………ッ!なんと慈悲深きお言葉!」

 

 アインズの言わんとする意を汲み、感服したデミウルゴスが魔法でナザリックへと帰還する。それを見届けてから、アインズが杖で石畳を打ち、ゲートへと繋ぐと共にワーカーらへと告げる。

 

「よくやってくれた!労働の対価は、相応の物を用意しよう。早急に戻り、疲労を癒すがいい。まだ、やって貰う事は残っているのだからな」

 

 アインズの目が光る。元ワーカーらは互いに軽い労いを告げ合い、アインズが開いたゲートへと消えて行った。




エ・ランテルの街灯普及計画

早い話、夜道明るくして犯罪率下げようぜ!という事である。
ワーカーらの仕事は、人間基準での照明間の適正間隔の調査。
なお、後日労働力としてしっかり使われる模様。


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動き出す国々

 会談の日、エ・ランテルを訪れたジルクニフ帝一行は、アインズらが街中の広場に用意した席に着き、王国との同盟に向けての会談を行った。幸いにも、アインズとイリヤが同席したからか会談は滞りなく進み、大きな問題も起こる事無く、同盟締結まで済ませた。

 

「………全く、このような形で戦争が終ろうとはな」

「ゴウン侯には、感謝せねばな」

 

 二人の指導者の目が、アインズへと向く。

 

「いえ。それを言うならば、私めのようなものに目をかけてくださった、ラナー王女の慧眼にこそ、感謝すべきでしょう」

「はっはっは。そうであるな」

「あの王女殿か………」

 

 ジルクニフは微かに顔を顰めるも、即座に元の表情に戻り、微笑みの仮面を上から被る。締結を済ませてからは国政についての談義となり、アインズもまた意見を求められた。

 

「リ・エスティーゼ王国では既に奴隷制を廃止しているが、我が帝国はどうすべきだと考える?ゴウン侯」

「そうですな………廃止すべきだろう。必要とあらば、奴隷エルフたちは全て、我々が買い取るが」

「買い取る?」

 

 訝しむジルクニフ。アインズの真意を掴み損ねていた彼に、二十二世紀のサラリーマンは、彼らをより効率的に活用する術を告げた。

 

「ええ。耳を治し、心を癒し、解放する。何事にも、対価は必要だ。労働にせよ、正当な対価があればそれだけやる気を奮い立たせられる。奴隷として使い潰すなど、非効率の極みだ」

「成程………では、法国との奴隷交易も停止すべきかな?」

「いや、奴隷を売られているのであれば、こちらで買い取ろう。幸い、こちらでは既に三人の元奴隷エルフが心の傷を癒している。ダークエルフの僕もいる事だし、彼女らにケアを頼もう」

(とはいえ、出費が痛いなぁ………)

 

 ブルムラシュー侯の裏切りを告発した功績、この度の会談にこぎつけた功績等で相応の報奨を得ているし、領地も相応に増え、税収も見込める。それでも、法国からのエルフの奴隷供給の頻度次第では、ユグドラシル硬貨の加工、放出も視野に入れねばならない。

 

「ふむ、奴隷の件は解決か………次に、カッツェ平野だが」

「何か、問題があるのか?」

 

 アインズの問いに、ジルクニフは嫌味か、と言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「………アンデッド多発地帯だ。スケリトルドラゴン、酷い時はデスナイトまでもが現れる」

「ほぅ………両陛下、その地を頂けるかな?」

「構わぬよ。あそこを治められる者となれば、ゴウン侯くらいしかおるまい」

「私も異論は無い」

「だが、そうだな………エ・ランテル南方の山脈地帯と、その西方の山脈との間の地帯も治めて貰いたい。あの辺りはスレイン法国と面している。貴殿であれば、よい抑止力となろう」

「畏まりました」

 

 交渉で領地を獲得し、内心ホクホクのアインズ。そんな彼に、同席しているラナー王女が可愛らしく問い掛けた。

 

「ゴウン侯、先日よりこの街の末端から推し進めておられる工事ですが、王都でも行えるでしょうか?」

「うっ………魔法付与は簡単なのですが、ランタンの数を揃えるのが問題ですな………」

「ははは、そう心配なさるな。この街の取り組みは、非常に参考になるものだ。我が名のもと、最大限の支援と、相応の報酬を約束しよう」

「感謝いたします」

「ほぉ………そこまでするほど、素晴らしい政策なのですかな?」

 

 アインズが内心冷や汗だらだらで話を続ける中、イリヤは帝国四騎士の一人から向けられる熱烈な視線に引き攣りそうになる顔を、必死で取り繕っていた。

 

-----

 

 一方、スレイン法国は気が気でなかった。

 腐り果てた王国のみならず、優秀な帝国までもが異形のアンデッドの力に屈し、手を取り合ったのだ。人間至上主義を掲げる国家が、安心できるわけがない。

 

「一体何なのだ、貴族位を与えられたというアインズ・ウール・ゴウンなるアンデッドは………」

 

 神官長の一人が漏らした言葉は、彼らの総意の代弁であった。

 

「陽光聖典の壊滅も、奴の仕業か?」

「だが、彼には最高位天使を渡している。たかだかエルダーリッチ風情に後れを取るとは思えん」

「最高位天使を打倒し得る、とでも言うつもりか?」

「そう考えねば、辻褄が合わん。土の巫女姫の監視に気付き、魔法を無力化した存在のことも考えると………」

「静まれ」

 

 六人の神官長たちの論争は、最高神官長の言葉で静まる。彼の視線は、目の前に跪く漆黒聖典、第一席次へと移る。

 

「第一席次。アインズ・ウール・ゴウンなるアンデッドの周囲を探れ。カイレを連れて行き、必要とあらば支配せよ」

「ハッ」

 

 ワールドアイテム、傾城傾国の所有者の動員。火滅聖典がエルフの国との戦争に動員されているとはいえ、その上で本来破滅の竜王を相手取る為の彼ら、漆黒聖典を動員するという事実に、神官長たちの間に少なからぬ動揺が走った。

 だが、彼らは知らない。アインズ・ウール・ゴウンが、常にワールドアイテムを所持している為、傾城傾国を無効化可能であることを。そして、こと単純な魔法火力において、彼を遥かに凌駕するホムンクルスの少女の存在を。そして、そんな彼女の有する、最強の大英雄の存在を。



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とある日の出来事

 同盟締結後、アインズは一気に忙しくなり、冒険者モモンとしての活動をパンドラに一任せざるを得なくなっていた。原因は、国交正常化に伴う貿易の開始で、帝国から王都への陸路の中継点となるエ・ランテルが一気に賑わってしまったからだ。

 

「ああ、イリヤが羨ましい………!」

 

 栄えるのはいいにしても、そのせいで工事が進まないのは勘弁願いたい。予定では複数カ所で並行して行う予定が、一気に人が流れ込んだせいで交通に支障が出る可能性が濃厚になり、仕方なくポイントを絞り、かつ広い範囲で行える様、調整を要求されたのだ。

 

「失礼するよ、ゴウン侯」

「パナソレイ殿か。わざわざすまないな」

「いやいや、戦争終結の立役者殿を呼び立てる程の事でも無いからな」

 

 肥満体の男、元エ・ランテル都市長のパナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアは、そのよくいる腐敗貴族を思わせる風体からは想像も出来ない友好的な声でアインズに応じた。こういった人間性の出来具合がこの地を任されていた最大の要因なのだろう、とアインズが納得する中、彼は手にしていた資料をアインズの机に置く。

 

「これがこの街の住人からの立候補だが………」

「むぅ………流石に少ないな………まあ、好き好んで兵士になる者などこんなものか………」

「南のスレイン法国は強大だからね。危険な立場になる以上、やはり躊躇いは生まれてしまうさ」

 

 現在の会話の内容は、帝国を見習っての専業軍人の育成について。だが、やはりというかなりたいという者はあまり多くない。

 

「当面はカッツェ平野で湧いたアンデッドなり、共同墓地で出現してしまったものなりを支配して凌ぐとしよう」

「それが出来るのも貴方くらいでしょうなぁ」

「そうかね?フールーダならば可能かと思ったが」

「そりゃあ、帝国最強のマジックキャスター殿だし」

 

 他愛もない会話を交わしながら、アインズは資料に目を通す。

 

「ふむ………数は少ないが、その分集中して鍛え上げられそうだな。彼らには正当な待遇と、相応の報奨を確約しよう。無論、訓練を甘くもせんがな」

「お厳しいですな」

「目指すべきは、帝国の兵程度の実力だからな。甘やかしたせいで死なれました、等とは笑い話にも出来ん。最低でも、西の墓地のアンデッドくらいは倒せるようになって貰わねばな」

「それでは、冒険者の仕事が減るのでは?」

「そちらも、対策は考えているさ」

 

 ミラー・オブ・リモートビューイングに映る工事風景に目を移し、推移を見守る。

 

「………むぅ。流石にこのペースは不味いな………冒険者組合位に依頼を出すことも考えねば」

「ゴウン侯のアンデッドでは不味いのかな?」

「まだ私の姿を見るだけで怯える者もいるからな。無用な混乱を避ける為にも、まだ当面は控えるべきだろう」

 

 アインズがメッセージを使おうとしたその時、丁度のタイミングでドアがノックされる。

 

「入れ」

「失礼します。帝国より、ゴウン侯宛の奴隷が」

「わかった。すまない、パナソレイ殿。少々席を空けるぞ」

「ええ、お任せを」

 

 国王からの推薦で、人間としてアインズの補佐役の一人を務めるパナソレイは、執務を任せられるだけの評価を得ていた。

 彼に執務を任せ、アインズが行政用の事務所を出て東の門へと向かう。すれ違う人々から様々な視線を浴びる中、門の外に待機していた馬車に乗っている奴隷商人に代金を支払い、そのまま去って行く姿を見届けてから、ゲートの魔法を使う。

 

「さて、諸君らにはこれから我々の役に立つための下準備をして貰う」

 

 アインズに促され、みすぼらしい服装のエルフたちがゲートへと踏み込む。その先に広がるのは、ナザリック第六階層の森林。そこでは二人のダークエルフと、三人のエルフが待ち構えていた。

 

「ようこそ!アインズ様のご命令により、アンタたちをビシバシ扱いてあげるからね!」

 

 笑顔で告げるダークエルフの少年………の格好をした少女だが、悪意や害意を感じさせぬ笑顔に、奴隷エルフたちは一様に困惑する。

 

「アウラ、あまり脅してやるな。私は執務の為戻る。彼らを頼んだぞ」

 

 軽く二人の様子を見てから、アインズが元来た道を戻る。アインズへの見方を確認するこの行為は、エ・ランテルにどの程度まで異形種が入って大丈夫かを確認する一種の指標を得る為の物だ。

 

(んー………アルベドとかならセーフか?コキュートスとかは流石にまだアウトっぽいなぁ………)

「スルシャーナ様………?」

「え?………うええええ!?」

 

 アインズが間抜けな声を漏らし、声のした方へと向く。彼の知らない名を口にした青年らしき人物が胸に手を当て跪いており、アインズは顎が外れんばかりに口を開き、唖然としている。

 

「そのお姿、もしや六大神が一柱、スルシャーナ様ではございませんか!?」

「え、いや、え、あの………」

 

 動揺が沈静化されるも、時すでに遅し。周囲には人だかりができており、身動き一つとるのですら苦労しそうなほどだ。

 

「す、すまないが、一緒に来て貰うぞ!グレーター・テレポーテーション!」

 

 彼は知らない。跪いた青年こそが、スレイン法国最強の部隊、漆黒聖典が第五席次である、などと。

 そして、その現場を見ていた漆黒聖典のメンバーが他にもいたことを。



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誤解がもたらす偶然

 スレイン法国、漆黒聖典が第五席次、クアイエッセ・ハゼイア・クインティアは歓喜に包まれていた。彼が強く信仰するスルシャーナ神と瓜二つの存在が王国の腐敗を取り除き、帝国との講和を実現したという事実を、彼は神が世界を正さんと行ったのだ、と非常に好意的に解釈することとなった。

 嬉々と自分の所属、目的を語った上で謝罪までした

 

「………私は、スルシャーナ、とやらではないのだが………」

 

 アインズの困惑は消えない。そもそも、こうなった原因はスルシャーナの知名度にある。本来邪神に分類されるべき闇の神を信仰するのは、その災いを避けんとする法国を除けば、非常に少ない。

 それ故、信心深い者でなければその姿を知らないし、その姿を知る程信心深いものはその風貌を前に自ら跪く有様。スルシャーナ自体のマイナーさ、オーバーロードという種族の希少さのせいで、信奉していない者はその容貌を詳しく知らず、スパイの大雑把な説明の数々からスケルトン・リッチの類だと判断していたのも大きい。

 

「………成程。では、そのように」

(あ………コレ、NPCたちと同じで、全部好意的に解釈されるやつだ)

 

 ある種の諦念と共に内心頭を抱え、しかしそれを表面化させず、上手く取り繕う。

 

「………何度も言うが、私はアインズ・ウール・ゴウンだ。恐らく、スルシャーナとやらも、私と同じオーバーロードだったのだろう。そうなれば、姿形が似通うのも不思議ではない」

「………」

(あ、理解して貰えてないな、コレ)

 

 事実、歓喜のあまり狂信が軽く入ったクアイエッセは、今の言葉をスルシャーナが現世で活動する為の方便と超好意的に解釈していた。ありもしない胃が痛みを訴えるような錯覚を覚える中、アインズは平静を装い、必死に頭を回転させた末に、絞り出した一つの案を口にした。

 

「………クアイエッセ、だったか。お前たち、漆黒聖典の長と話がしたい。明日、この部屋に君たちの長を呼んで貰いたい。無論、部隊全員でも構わない」

「畏まりました」

「すまないが、頼む………ゲート」

 

 喜色満面の笑みと共に、クアイエッセがゲートへと消える。エ・ランテルの裏路地に続くゲートを閉じ、アインズはメッセージをイリヤに繋ぐ。

 

『何、アインズ。私、今クロエとしてモモン共々、あなたの領地の山脈の鉱脈調査やら要塞建設予定地、兵士とかの居住地の選定で忙しいんだけど?』

「漆黒聖典の一員と接触した。明日、私の執務室で対談するつもりだ」

『………バーサーカー、アルベドを付けなさい。あの二人なら、ワールドアイテムの干渉も無効化できるわ』

「相手が一人なら、そこまでせんさ。幸い、私なら如何なるワールドアイテムも効かんしな」

『それでも、よ。私も明日は同席するわ』

「………なら、宝物殿から『アレ』を持ち出せ。るし★ふぁーさんとタブラさん、ウルベルトさんとの悪ノリで、NPC制作に使おうとしたアレだ」

『あー………懐かしいなぁ………』

「懐かしい、じゃないだろう………全く」

 

 アレ、というのは、ワールドアイテムの中でもメリットよりデメリットが大きすぎるとして、全く使われない物だ。過去、イリヤ、るし★ふぁー、タブラ、挙句の果てにはウルベルトまでもが悪ノリでNPC製作に使おうとして、他のメンバー総出で、かつ武力行使してまで止めたこともあるソレを持ち出すという事は、それだけ相手を警戒しているという事………単に、他の物がNPCに割り振ってある都合、残りがソレしかないというのもあるのだが。

 

「とにかく、明日来るなら、アレを絶対装備しておくように。お前が支配されたとして、ワールドアイテムを使うのを躊躇うつもりは無いが、最悪の可能性も想定したいからな」

『ロンギヌス?まあ、あったらヤバいじゃ済まないけど………』

「プレイヤーの遺産の存在を考慮すると、あっても不思議ではない。常に警戒は最大限に、だ」

『わかった』

 

 メッセージを切り、アインズはそっと息を吐く。

 

「………戦闘にならなければいいが」

 

 アインズの言うアレ………魔獣母胎(ビースト・マトリックス)は、極めて高レベルの魔獣を、敵対状態で無尽蔵に生み出すワールドアイテムだ。コレの厄介な点は、生み出される魔獣が完全にランダムである上、レベルも高く、湧く速度も尋常ではない点だ。その物量とレベルが合わさり、獲得クエストで多くのギルドが手を焼いた程。アインズ・ウール・ゴウンでも、モモンガ玉が無ければ突破できなかったほどだ。

 そんなアイテムをこの世界で下手に使えば………どうなるか、言わずともわかるだろう。レベル30台が英雄とされるこの世界で使ってはいけないワールドアイテム、堂々の一位だろう。

 

「アウラも同席させるか………いや、一人のテイマーでどうこうできる物量じゃ無い。最悪の展開にならぬよう努めるのが最善か」

 

 溜息を零しながら、アインズは今日分の仕事を終わらせるべく、書類に向き合う。明日、万全の状態で挑むべく、今日の内に出来る事はし尽くすつもりなのだろう彼は、静かにペンを取った。




魔獣母胎(ビースト・マトリックス)

 アインズ・ウール・ゴウンが持つ非消費型のワールドアイテムの一つであり、十人中九人が口を揃えて『誰も欲しがらない』とまで言い切る代物。見た目は巨大な角付きのカチューシャ。
 レベル80~の、敵対状態の魔獣を文字通り無尽蔵に生み出す能力を持ち、一度効果を発動すると最低でも60分装備解除、攻撃、魔法発動不可となり、装備者が何も出来ない中で延々と魔獣を産み出す。この魔獣が最大の曲者であり、レベルが高い為ステータス全般が高く、またうざったい程に硬い。挙句、敵味方問わず襲い掛かる為、人数次第では逆に使用者側が壊滅する事も。
 無尽蔵に生み出すものの、全体的に即死耐性が非常に高く、イア・シュブニグラスの生贄等には全く役に立たない。テイムも不可能ではないが、元の確率が低く設定されている上、乱戦状態の中で目当てのモンスターに貼りつく難易度の高さは言わずもがな。
 その厄介さは獲得クエストにも反映されており、多くのギルドが攻略プランの練り直しをする事になった上、アインズ・ウール・ゴウンが獲得クエストに挑んだ際には、モモンガ玉を何度も使用する羽目になった程。そして、クエスト攻略に参加した面々は、揃ってこう口にした。

『二度とやりたくない』………と。

 ちなみに、入手後暫くしてから、イリヤ、ウルベルト、タブラ、るし★ふぁーの四人はコレを使い通称『無差別決戦兵器』なるNPCを作ろうとしていた事がある。当然、他のメンバーが総出で止めにかかり、四人揃って説教された。


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対面する二大勢力

 物々しい装いの一組が、エ・ランテルの執務室で対峙する。妙齢の女性が身に着ける事を前提としているのだろうチャイナ服を纏う老婆を守るように固まる十二人と、アンデッドと少女の左右に立つ美女と巨漢の四人。

 最初に口を開いたのは、アンデッドことアインズ・ウール・ゴウン。

 

「さて、ようこそと言うべきかな?漆黒聖典………スレイン法国の者たちよ」

 

 アインズの目が光る。スルシャーナと瓜二つの容貌から放たれる威光に、クアイエッセが跪き、頭を垂れる。それに構わず、他の者たちが動揺を露わにする。

 

「す、スルシャーナ、様………?」

「………私はアインズ・ウール・ゴウンだ。それを念頭に置いて、話をしようではないか」

 

 第三席次の女の漏らした言葉に、アインズは頭を抱えたくなる衝動を抑え込み、言葉を絞り出す。主を他人と間違われたことにアルベドが殺気立つと、相手方も構える。アインズが手でアルベドを制し、彼らへと顔を向ける。

 

「ああ、心配は無用だ。貴様らが直接攻撃をしなければ、こちらも攻撃はしない。それと、傾城傾国、だったか?ソレは我々には通じん。諦めろ」

「………逃げよう?」

 

 第十一席次、占星千里の異名を持つ女が、怯え交じりに呟く。相手との格の違いを『視て』しまった彼女は、完全に心が折れていた。

 

「何、先も言ったが、そちらが直接危害を加えねば我々も危害は加えん。スレイン法国の人間至上主義は不快ではあるが、今すぐ敵対する程でもない。それとも、今すぐにでも私を滅ぼせ、とでも命じられているのか?」

「………」

 

 隊長である第一席次の答えは、沈黙。殺害、ではなく支配ではあったものの、アインズ・ウール・ゴウンというアンデッドを表舞台から排除しようとしていたのは事実だからだ。

 

「沈黙は肯定と受け取ろう。だが、お前たちに出来るのか?」

「………一つ、問いたい」

 

 第一席次が口を開く。クアイエッセが微かに眉を顰め、背後のアルベドがそれ以上にきつく顔を顰める中、アインズはそれを手で制し、無言で続きを促す。

 

「貴様の望みは何だ?」

「お前たちに、何の関係がある?」

「我々、スレイン法国の目的は、人類の存続。貴様が人類と敵対するというのなら、私たちはお前を滅ぼさねばならない」

「口を慎め!」

「アルベド!」

 

 激昂したアルベドを一喝し、アインズは静かに彼らを見つめる。

 

「ふむ、人類に敵対、と言ったか?………随分と面白いコトを言うではないか」

「何?」

「そもそも、前提が逆なのだよ」

 

 漆黒聖典に、緊張が走る。

 

「私は王国の一介の貴族にすぎん。お前たちが我らに害をなさぬ限り、こちらもお前たち人間に害を与えることは無い。この国の現状を見れば明らかだろう?」

 

 アルベドと、何故かクアイエッセは得意げに頷くも、皆無視する。

 

「………そんな言葉、信じられるとでも?」

「寧ろ、我々にしてみれば、カルネ村周辺の開拓村で殺戮の限りを尽くした貴様らスレイン法国の方が信用ならんがね」

「何?」

「ニグン、だったか。ガゼフ・ストロノーフ一人の為に、幾つの村を滅ぼしたのだったか」

 

 漆黒聖典の面々が、言葉を失う。

 

「おや?まさか知らなかったとはな。それとも、人類の為の致し方ない犠牲、と切り捨てるか?」

 

 イリヤ、バーサーカーが無言で呆れる中、第一席次らは黙り込んだまま。

 

「貴様らの主に伝えるといい。気に食わぬというのなら、いつでも仕掛けて来いと。牙を剥くのであれば、王国貴族としてではなく、アインズ・ウール・ゴウン個人として、全力を以て相手をしようではないか」

「畏まりました、ゴウン様」

「ちょっ、クアイエッセ!?何言ってるの!?勝ち目ゼロだよ!?番外席次でも勝ち目ないって!リーダー、何か言ってよ!」

 

 クアイエッセが勝手に了承したことに、格の違いを嫌と言う程理解させられた第十一席次が錯乱気味に詰め寄る。勝ち目の見えない戦いに放り込まれる可能性でも見えたのか、間髪入れず第一席次へと懇願気味に叫ぶ。

 

「………そこまでですか?」

「………ゴウンは兎に角、あの筋肉がヤバい」

 

 第十一席次の目は、バーサーカーに向いている。それを確認したイリヤは、得意げに満面の笑みを浮かべ、成長の乏しい胸を張る。

 

「当然よ!私のバーサーカーは、最強なんだから!」

「最強、ですか………」

 

 ごくり、と息を呑む姿を見て、アインズが肩を竦める。

 

「敵対する前提で話が進んでいるようだが、要はそちらから我らへの干渉をやめれば平和に済む話だ。どう手を打つか、お前たち次第、とだけ言っておこうか」

「寛大な処置、感謝致します」

「勘違いしているようだが、私はリ・エスティーゼ王国の貴族の一人に過ぎん。動かせる兵の総力を挙げれば国家の一つや二つ、容易く潰せるが………」

 

 要するに、手を出せば即座に潰すという事を示唆しているのだ。これに危機感を抱かぬ愚物は、漆黒聖典にはいなかった。

 

「………時間を、頂きたい」

「何、こちらに害が及ばなければ、そちらに危害を加えもしない。結論を出したくなければ、延々と事を先延ばしにすればいい」

 

 超越者らしい余裕のもと、アインズが立ち上がる。

 

「話は以上だ。が、このまま何の成果もなく帰る訳にもいくまい。客人待遇のもと、部屋を用意させよう。面倒さえ起こさなければ、好きに街を見てくれて構わん」

 

 その言葉と共に、イリヤが一歩踏み出した。

 

「必要とあらば、ご案内致しますけれど、どうなさいますか?」



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客人との交流と

 禍々しい大角の生えたカチューシャを身に着け、それに合わせ黒を基調とした衣を纏うイリヤを先頭に、漆黒聖典の十二人とカイレが続く。道行く人々は微かな驚きを見せるも、異形種に慣れ始めているからかそのままスルーしている。

 

「………貴女は、どの種族なのですか?その角は………」

「ああ、コレ?飾りよ」

 

 軽くカチューシャを持ち上げ………そのまま、軽く震える腕で元に戻す。大口を開け驚く彼らを余所に、イリヤは悠然と進む。

 

「………異形種でないのに、アンデッドに与するのですか?」

「あら?私も立派な異形種よ?………ッ、ほら」

 

 軽く指先の皮を噛み切り、血の溢れる傷口を見せる。そこから溢れ出す血は、赤ではなく緑。一行が顔色を変え息を飲む中、イリヤは何事も無いように続ける。

 

「ホムンクルス。それが私の種族よ」

「………成程。貴女も、異形種だったのですね」

「ええ。私もアインズも、結束の硬さではこの世界で一番だと思うわ」

 

 イリヤが想起するのは、かつての出会い。同レベル帯どころか、数レベル格下からも狙われていた日々に、そっと手を差し伸べてくれた相手を想い、微かに頬を緩める。差し伸べられた冷たい骨の手に感じた、確かな温もり。彼女の心をユグドラシルに射止めた、運命の出会いを。

 

「あなた達を一方的に否定しようとは思わないわ。私たちも人間を憎んでこそいないけど、どちらかと言えば無関心だもの」

 

 人間種のプレイヤーに散々殺された身としては、複雑なものもあるのだろう。それでも怒り、憎しみに囚われないのは、『そういうものだ』と諦めているからか。

 

「わかり合うのに必要な事って、知ってる?」

 

 だからなのか、特に負の感情を見せることなく、彼らへと向き直る。

 

「互いを知ること、ですね」

「ええ。丁度、あなた達の為に確保させた宿も目の前ですし」

 

 軽く頬を吊り上げ、振り返る。彼女の背後にあるのは、現在エ・ランテル一の規模を誇る高級宿。近日改装終了予定の『黄金の輝き亭』が相手では流石に少々見劣りするものの、単純な規模でなら凌駕している、より広い層を狙った宿だ。

 

「情報交換といきましょう?あなた達が望む、人類の未来のために、ね」

 

 この場でイリヤに勝ち得るのは、第一席次のみ。そして、ビースト・マトリックスを解き放てば、イリヤ諸共彼らを全滅させることも可能だ。それを抜きにしても、今の彼らに敵意は無かった。

 

-----

 

「食人のビーストマンに、強い子を作る為なら手段を選ばないエルフの王………ごめん、これじゃあ人間至上主義にもなるわ………」

 

 漆黒聖典から得た情報に、イリヤは頭を抱えた。

 

「流石、ゴウン様の従者殿。寛大なお心ですね」

「んー………私とアインズは主従じゃなくて、親友よ?」

「これは、失礼を」

 

 クアイエッセの言葉をスルーし、イリヤは頭を上げる。

 

「………っていっても、人間も一応生物だし、そりゃ被食側になる事もあるだろうけどさぁ………国単位でそれってどうなのよ」

「………異形種側の理屈じゃな」

「それ言ったら人間至上主義だって人間側の理屈でしょ………いや、そうじゃなくて!」

 

 カイレの言葉を切り捨て、貸切られたフロアの一室でイリヤが叫ぶ。

 

「はぁ………色々な意味で運が良かったわ………」

「と、言うと?」

「アンタらが手段を選ばず私とかアルベドに攻撃してたら、法国が消えてビーストマンとやらだけじゃなくてエルフの国の王まで野放しになってたもの。これがラッキーでなくて何だっていうのよ」

 

 あまりにはっきりとした断言に、漆黒聖典の面々が一様に苦く顔を歪める。

 

「………あーあ。アインズも交えて聞けばよかった………ああ、取り敢えず聞きたい事はもう無いから、好きにしていいわ。私もそろそろ仕事しないと怒られるし」

 

 イリヤはグレーター・テレポーテーションでリ・アインツベルンの屋敷へと戻り、ラフな私服に着替える。現実でファッションを楽しむ余裕がなかった分、ユグドラシル時代から様々な服を有しており、ギルド内でよく着ていたものだ。

 

「さて、と………?」

 

 部屋を出るべく、ノブに手をかけるのとほぼ同時に、メッセージが届く。

 

「何かしら?」

『イリヤ様、突然の報告となり申し訳ありません』

「ブリュンヒルデ………構わないわ。何か、緊急事態?」

『はい………盗賊が徒党を組んで、リ・ウロヴァール辺境の村を襲撃しました。幸い、烏合の衆でしたから、シグルドとブレインさんが容易く制圧してくださいましたが………武器が、明らかに上等でした』

「どっかで聞いた名前が交じってるけど………いいわ、具体的には?」

『恐らくですが、冒険者で言うミスリル級で漸く手が届くレベルかと』

「………キナ臭いわね」

『ええ。引き取りに来たリ・ウロヴァールの兵曰く、今は亡きボウロロープ侯の私兵が交じっていた、と』

「アインズと王様には私から伝えておくわ。それと、フレスヴェルグの使用を許可するから、ゲートで取りに行って」

『フレスヴェルグ………ですか』

 

 フレスヴェルグ。イリヤの惨敗の結果の一つであり、シャンタクより遥かに少ない五体しかいないものの、飛翔能力を始め、あらゆる面でシャンタクを凌駕する激レア魔獣だ。ただし、シャンタクより大きく、その分嵩張る。

 

「ええ、そう。その方が広い範囲を見れるし、そうなれば対処も簡単でしょ?」

『成程』

「あなたたちなら、一般人が犠牲になるのを見過ごせないでしょ?」

『お心遣い、感謝いたします』

「代わりに、早急に真実を掴みなさい」

『ハッ!』

 

 メッセージを終え、イリヤが崩れ落ちる。

 

「………なんで異世界でまでブラック生活してるんだろ………」

 

 渋々純白の戦闘装束に着替え、ゲートを開くイリヤ。その胸には、『これが終わったら全力でサボってやる』という、決意が燃えていた。




フレスヴェルグ

 イリヤの有する激レア魔獣の一種。保有数は五。それだけ回しても外れ枠が引けないというある意味超がつくほどの悪運を発揮していた。FGOで例えれば、星三サーヴァント一点狙いのはずが星五、星四がわんさか出てしまった状態。
 白金色と金色の入り混じった体毛を持つ巨大な鷲の姿の魔獣であり、高いステータスを有する事からその巨大さが唯一の欠点とすら言われている。二体もいればガルガンチュアを持ち運べるほどの力を有し、その飛翔能力の高さはドラゴン系モンスターをも凌駕する。


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不始末が生む反乱

 イリヤがゲートの魔法で踏み入った頃、王宮ではメイドや衛兵が慌ただしく駆け回っていた。彼らは口々にバルブロの名を叫んでおり、イリヤの頭の中に嫌な予感が生まれる。

 まさか、と思いながら王宮内を駆け、王の部屋へと向かう。

 

「失礼します!」

 

 返事を聞かず飛び込むように入った部屋の中では、既にランポッサⅢ世とザナック、ラナーが深刻な顔を突き合わせており、王の傍に立つガゼフがイリヤに気付くと、咎めるように叱責する。

 

「アインツベルン殿!」

「申し訳ございません。ですが、お陰で事態の把握が進みそうです」

「………どういう事だ?」

 

 ザナックの目がイリヤへと向く。

 

「実は、旅をしていた配下よりウロヴァーナ辺境伯の領地にて、元ボウロロープ侯の私兵であった者の交じった盗賊一党による、村への襲撃があったとのことです。彼らの武器は、相当な上物だったとも報告を受けております」

「………まさか」

「バルブロ王子がいらっしゃらないようですが、最悪の場合………」

 

 イリヤが先を口にする前に、彼女の隣にゲートが出来る。そこから現れたのは、よく知るアンデッド。

 

「む?」

「あ、アインズ」

「非常事態か?」

「ウロヴァーナ辺境伯の領地で村を襲うレベルの数の、しかも結構イイ武具を持った盗賊の集まりが出たそうよ。ご丁寧に、元貴族の私兵まで交じってね」

「………随分とキナ臭いな。まあ、私の方も似たようなものだが」

「と、仰ると?」

 

 ランポッサⅢ世の鋭い視線を受け、アインズが鷹揚に応じる。

 

「やたら上等な装備の野盗の群と、やたら身なりのいい兵が確認された。報告の為にわざわざ文字通り飛んできてくれた『漆黒』には、後程謝礼を弾まねばな」

「なんと………」

「厄介事の香りがするわね………それで、バルブロ王子は?」

「………王宮の事態を見ればわかると思うでしょうが、バルブロ王子が失踪されたのです。気付いたのは、つい昨日で………恐らくですが、もっと前に脱走していたのでしょう」

「………イリヤ。お前の意見を聞きたい」

 

 ガゼフの説明を受け、アインズの目がイリヤへと向く。深い、深い溜息を零し、イリヤは顔を上げる。

 

「バルブロ第一王子殿が、繋がりのあった貴族の私兵らを纏め上げ、反乱を目論んでいるのではないでしょうか?」

「なんと………」

「あり得ない話ではありませんね………」

 

 信じたくない、と言わんばかりのランポッサⅢ世と反対に、ザナックが苦々しい表情を浮かべながらも可能性を肯定する。父以上に詳しく、兄の醜悪な面を知るからこその認識に、ラナーも異を唱えはしない。

 

「………何という事だ………」

「急ぎ、貴族たちに通達しましょう。でなくては、民に被害が出ます!」

「その通りですな。必要とあらば、我々が………む?失礼………私だ………」

 

 アインズが耳を指で抑えるような仕草と共に応答するのを、イリヤたちが見守る。アインズが会話を終え、向き直ると共に、深刻な一言が放たれた。

 

「フールーダ殿より、帝国でも似たような事態が発生したとのことだ。しかも、王国の元貴族の私兵が交じっていることについて、近々抗議の可能性があるとの警告も受けた」

「おぉ………なんという………」

「あの時、牢獄にでも放り込むべきでしたな」

「いや、全く。兄上がここまで無鉄砲だとは………」

 

 ランポッサⅢ世とザナックが頭を抱え、ガゼフまでもが眉間を揉む。王子の一人が盗賊を率いて反乱を企てた挙句、同盟国にまで被害を及ぼすなど、大問題もいいトコロだ。即刻同盟解除から戦争状態になってもおかしくはない。

 そうならず、現状は抗議で止まっているのは、王国がアインズという未知の戦力を抱え込んでいるからか。

 

「早急に解決せねばならんな………ゴウン侯、これは我々ヴァイセルフ王家の問題だ。この度は、他の貴族たち同様領地の防衛のみに専念していただきたい」

「………と、仰ると?」

 

 ランポッサⅢ世に代わり、ザナックが説明を始める。

 

「これは我々の不始末が齎したこと。自分たちの後始末位、我々にやらせて頂きたい」

「ゴウン侯、どうか私からも」

「ストロノーフ殿にまで頼まれては、無下にできますまい。だが、用心されよ。貴族の私兵とあれば、実力も」

「わかっているさ」

「ガゼフには、王国に伝わる五つの秘宝を持たせるつもりだ。かつての貴族らの私兵は厄介だが、それ以上ということはあるまい」

 

 我が子を手に掛けられるのか、とは問わなかった。

 

「畏まりました………イリヤ、私はエ・ランテルに戻る」

「わかったわ。それでは、私もこれで」

「うむ。色々と、手間をかけるな」

「いや、全く………宮廷お抱えのマジックキャスターでも雇っては?」

「ははは、そうだな………帝国を見習うべきやもしれんな」

 

 ランポッサⅢ世の苦笑を背に、二人がそれぞれ拠点へと戻る。

 

「………さて、周りの村に護衛を送らないと。後は商人たちの護衛依頼を冒険者組合に発注して………」

 

 財政状況を浮かべながら、頭を回転させるイリヤ。書類と向き合い、爪を噛みながら多方面へと思考を回す。

 

「ええっと、相手にはあの傷だらけのオッサンやらの私兵が交じってて………となると、銅や鉄のじゃなくて、もっと上に頼むべきね。装備もしっかりとしたのを支給した方がいいかしら?」

 

 イリヤは知らない。アインズと共にいた中で、最も弱そうだった彼女の首を狙い、バルブロ率いる本隊とも言える集団が、リ・アインツベルンを目指しているという事を。




バルブロ、謹慎命令を無視して脱走。
そして反乱。陰謀の臭いがプンプンしますねぇ………


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悪党の末路

 リ・アインツベルン近辺の村々にイリヤ作のNPCが到着した頃には、既に陽が落ちていた。夜と言えば盗賊の得意とする環境だが、戦力差を思えば大した問題にはなり得ない。

 

「え、エリザ様………大丈夫、なのでしょうか?」

「ダイジョーブよ。アタシを信じなさいな」

 

 槍型マイク風スタッフに座り、欠伸を漏らすエリザベート。他の村々にもイリヤ直轄のNPCが配備されている為、並の盗賊どころか、軍隊ですら逃げ出すほどの過剰戦力を備えている。

 特に、エリザベートの場合は『別の意味で』極めて厄介な相手となるだろう。

 

「ふぁーあ………夜更かしはお肌に悪いってのに………あら?」

 

 不快感を露わにするエリザベートの目が、村の遠方から迫る無数の光を捉える。商人とは考えられぬ光の数に、エリザベートは敵だと当たりを付け、杖を手に取る。

 

「いいわ、やってやろうじゃない………ロックにキュートに、血祭ね!」

 

 翼を広げ、一気に飛び立つ。彼女の予想通り、迫っていたのは野党と元貴族の私兵の集合。

 

「おい!テメェらが明りを使ったせいでバレたじゃねえか!」

「落ち着け。高々小娘一人、お前たちが敗ける相手じゃあるまい?」

 

 不和が広がりかけるも、相手が見るからにひ弱な小娘であったためか、不和の波紋は広がる事なく消える。一様に武器を構える中、エリザベートが杖である『監獄城チェイテ』を突き立て、高らかに叫ぶ。

 

「クリエイト・フォートレス!」

 

 彼らの道を阻むように、巨大な城壁が生まれる。そのままスタッフの上に軽やかな足取りで飛び乗り、エリザが歌う。

 

「La―――――♪」

 

 彼女が取得している、ユグドラシルで最も不人気な職業『ネガ・ディーヴァ』レベルマックスで取得の職業スキル『災厄の歌姫』の前方広範囲への即死効果が発動する。なお、即死と言っても死が確定しただけで、ゲームで言うなら強制的に解除不能な麻痺状態となった上で継続ダメージでHPがゴリゴリ削られ続ける状態である。ゲーム時代、頭の中で延々ガラスを引っ掻く音を流されるというこの上ない精神へのダイレクトアタックもあり、ネガ・ディーヴァの職業の人気はワーストトップであった。

 

「ああああああああああああ?!?!?!?!?」

「ikjlsdhvlk,fsifivx.z!?!?!?!?」

 

 絶叫と共に一人、また一人と倒れ、息絶える。異形種プレイヤーですら耳を覆う程にシステムにより改変されたデスボイスは、この世界では人間種にとって最悪の歌声へと形を変え、聞く人間へと死に至る程の苦痛を与えた。

 歌は止まない。歌唱という行為を楽しむ彼女は、一曲を歌い終えるまで歌い続ける。城塞により歌が阻まれているのが、唯一の救いだろう。

 

-----

 

 時を同じくして、アインツベルン領ではない地域の村を守るべく、シグルド、ブリュンヒルデ、そして共に旅をしていたブレインは盗賊集団を相手大立ち回りをしていた。

 

「見事だ、ブレイン殿」

 

 称賛するシグルドの先では、飛び道具を切り捨てながら明らかに身なりのいい兵を三人、纏めて一刀両断するブレインの姿。シグルドの称賛を受け、照れ臭そうに頬を掻きながらもブレインが応じる。

 

「アンタこそ、俺よりよっぽど見事だぜ?」

「謙遜は無用だ。当方から見ても見事な剣技、誇るべきだと判断する」

「そうかい。それじゃ、この戦いが終わってから、存分に自慢しようかね!」

 

 気合を入れたブレインが三人切り捨てる間に、シグルドの剛剣は十人の命を吹き散らす。数で勝ろうと、戦力の差があり過ぎた。

 相手が剣を振りかぶる頃には、既にシグルドの魔剣は鋭い突きと共に相手の胸を貫いている。背後から忍び寄った盗賊の短剣がその身を捉える前に刃を握られ、引き寄せられ体勢を崩されると共に掬い上げるように斬られ、命火を消す。

 

「フレア・アロー!」

 

 ブリュンヒルデの放つ第三位階魔法による火矢の雨が、敵兵を薙ぎ払う。魔法軽視の強い王国貴族の私兵と盗賊が組んでいる以上、魔法を使える相手がいれば一気に劣勢に陥る。

 

「クソッ!」

「おいおい、劣勢になった程度でソレか?」

 

 軽口と共に、ブレインの刃がまた一つの命を刈り取る。シグルドを相手に鍛え上げられた彼を相手に勝てる兵など、居る筈がなかった。

 

-----

 

 数多の分隊があちこちの村を襲う中、バルブロ率いる本隊は着々とリ・アインツベルンへと迫っていた。盗賊ではなく、旧八本指の生き残りを交えた旧貴族の私兵の中でもエリートを中核とした部隊は、夜の闇の中でも明りの使用を極力控え、進んでいく。その中には、バルブロのみならず、彼と懇意にしていたボウロロープ侯を始めとした、貴族派閥の嫡子らの姿もあった。

 

「他の者たちが、いい具合に気を引いてくれているでしょう。殿下が目的を果たせば、彼らの努力も報われましょう」

「ああ、そうだな」

(見ていろよ、アンデッド………あの小娘の命を私が握った時が貴様の最期だ………!)

 

 バルブロが想起するのは、気取った純白の幼い小娘。自分の顔に泥を塗ったアンデッドが引き連れた者の中で最も弱いだろう彼女であれば、この数で容易く捕らえられると共に、アインズを排除する材料に使えるだろうと判断したのだ。

 だが、彼は一つ大きすぎる誤算をしていた。イリヤの抱える戦力の恐ろしさを知らず、数ばかりの兵を集めた。バルブロを担ぎ上げた貴族派閥の嫡子らの、再び成り上がらんという目論見は、既に水の泡と消える運命が確定していたのだ。



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悪意の発露

 音はなく、静かな殺戮が繰り広げられる。

 無数の兵士が相手取るは、スレイン法国の最上位天使、ドミニオン・オーソリティー。都市一つ落とせる、人間では勝てないとまで言われる天使を相手に、勝ち目など無かった。

 

「ひっ、ひいいいいいいっ!!!た、助けてくれ!金な―――」

 

 スイングされた笏が、醜く命乞いをしていた兵の上半身を吹き飛ばす。単体で都市を滅ぼせる存在が十体もいる中、盗賊と兵の烏合の衆はあまりにも無残に、一方的に滅ぼされていく。

 

「………」

 

 それを睥睨するオルトリンデは、あくまで無表情。慈悲なく殺戮を繰り広げる天使たちを統べる大天使は、自らの手を汚すことなく愚者へと死の裁きを下す。

 ナザリックと無関係の行動だからこそ与えられる慈悲であると知らぬ者たちは、泣き叫び逃げ惑う。だが、あくまで使役されるだけの存在である天使たちは、それに構わず荒野を血で染め上げた。

 

-----

 

 数の暴力を覆す、圧倒的なまでの力。ロボ・ホロウの暴虐は、それを雄弁に物語っていた。

 

「くっ、来るな!くるなあああああああっ!!!」

 

 軍馬すら遥かに凌ぐ速度で駆ける巨大な狼は、その鋭利な爪で、身に纏う鎖で、兵士や盗賊の手足を吹き飛ばし、身動きを封じる。その背に座すデュラハンも、直接死に至らしめる傷を刻むのではなく、失血による死に至る傷を刻むのみ。その悪辣さは、バーゲスト種であることを明確に示している。

 

「ひっ!?わ、笑って―――」

 

 その先の叫びは、音となることは無かった。デュラハンの振るった鎌が喉を裂き、発声機能を殺したからだ。喉から鮮血を迸らせ、倒れ込み悶える男は、そう長くかからず死に至るだろう。それを嘲笑と共に見下し、ロボは吼える。

 獲物は逃さない。玩具は壊れるまで徹底的に使い尽くす。殺意を剥き出しに駆け、決して即死させることなく、それでいてどうあっても助からない程度の深手を負わせ、地面を鮮血で染めて行く。

 彼を突き動かすは、イリヤが失った憎しみそのもの。彼女に平穏を与える事をしなかった、世界への憎悪。人として当たり前の幸福を掴む機会すら摘み取った、人間への怒り。この世界で『イリヤ』となったことで失われた、彼女の負の情念を糧として、獣はヒトを殺す。

 

「うわああああっ!?」

「ああああっ!!!」

「かあさ―――ひぎゃっ!?」

 

 吼え叫び、駆ける。彼はヒトを逃さない。主の命であれば自粛もするが、これは主であるイリヤ直々の殺戮命令。威勢よく牙を剥く者どもの心を折り、無様に逃げ惑うさまを見下しながら踏み躙る爽快感に笑みを深めながら、蒼白の獣は夜を駆ける。

 悲鳴と断末魔の木霊する荒野に、獣の咆哮が轟いた。

 

-----

 

 イリヤの負の情念を糧とする者は、ロボ・ホロウのみではない。

 ナーガのNPC、メドゥーサもまた同じだ。ロボほど明確な物でないにせよ、彼女もまたイリヤが人間であった頃に抱いていた負の感情をよく知る存在であり、それ故に人間を嬲り殺しにすることを好む存在でもある。

 

「フフフ………このまま蹂躙も悪くは無いのですがね」

 

 鎖付きの、鉄杭染みた短剣を地面に落とす。目先から迫る存在に備え、感覚ではなく、視覚での認識に切り替える。封印も兼ねたバイザーが外れたことで、メドゥーサの姿は妖艶な美女から、妖艶さと悍ましさを兼ね備えた半人半蛇へと変わる。一回りどころではない巨大な姿を露わにした彼女は、舌を鳴らす蛇へと変じた髪を揺らし、敵の軍勢を見下す。

 

「な、なん」

 

 鋭利な爪を持つ、二の腕まで鱗で覆われた剛腕を振り下ろす。大地を粉砕する一撃は、数多の命もまたすり潰した。

 

「ば、化物ぉぉぉぉぉっ!!!」

「失礼な蟲どもだな………!」

 

 礼儀正しい口調ではなく、粗野な口調。腕を払えば、馬諸共人の命が消し飛ぶ。その眼が妖しく輝くと共に、彼女の視界に存在している人間たちがどんどん石へと変わって行く。NPC制作支援を銘打った課金ガチャのハズレ枠アイテムの余りを用いられた彼女の視線は、低位の石化効果を有している。それだけなら兎に角、それなりに高ランクの鈍足効果まで有している為、視覚を封印していたのだ………目隠しだけでどちらも封じられる辺り、やはりハズレアイテムの効果というべきか。

 しかし、低位といえど、レベルが低い相手にはそれだけで脅威となる。任意発動の石化を止めたところで、皆首から下は殆ど石になっており、常時発動の鈍足効果が意味を成さない状態だ。

 

「さて、貴様らには一つだけ聞かせて貰おう………首謀者は誰だ?」

「お、教える訳な」

 

 轟音。口答えした男の隣に、鱗で覆われた腕が突き立つ。引き抜かれると、そこには微かな肉片と鮮血、そして無数の石の残骸が。

 

「勘違いしているようだが、これは命令だ」

 

 尻尾で、蛇髪で、指先で、一つづつ命を潰す。その端正な顔を愉悦と嗜虐に歪め、主が失ってしまったヒトへの憎悪を晴らすように、少しずつ、少しずつ。

 

「あ………ああ………」

「ば、バルブロ様だ!バルブロ第一王子が、王への反乱を!」

「そうか。では、ご苦労だったな」

 

 無慈悲に振り下ろされた尻尾が、残り僅かだった命を叩き潰した。偽装同然の人間態へと戻り、バイザーを身に着けたメドゥーサは、メッセージのスクロールを取り出した。



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悪意の行く先

「………来たか」

 

 厚手のコートに身を包み、手先と頭以外殆ど肌を見せぬ少女が、ぱたりと本を閉じる。眼鏡の奥の瞳を忌々し気に細め、前方に手をかざし、静かに唱える。

 

「―――ワイデン・マキシマイズ・マジック、グレーター・ダイナマイト」

 

 ユグドラシル時代、取柄が威力と範囲だけだった無差別範囲爆破攻撃が、村に迫る盗賊らを一掃する。るし★ふぁーの案をもとに作り上げられた『自爆芸人』なる不名誉極まりないコンセプトを持つ彼女の名は『ヒナ』。FGOの虞美人をモチーフとするドライアードの爆発系魔法特化のNPCだ。第九位階までの爆破系範囲魔法を使える上、ボマー、マインレイヤーの職業スキルを最大レベルで有している為、爆弾系アイテムのみならず爆発系魔法の威力にも大幅なブーストがかかっており、文字通りの爆発一転特化になっている。

 

「はぁ………面倒臭い………」

 

 爆発を逃れた者たちが、散開したことで敷設された地雷を踏み抜き、吹き飛ぶ。爆弾系アイテムは本来微々たるダメージしか与えられないが、ボマー、マインレイヤーの職業レベルをカンストさせているとその威力も跳ね上がる。その上、一部耐性無視という破格の効果を受けられる………が、爆弾系アイテム自体が元のダメージ量に加え、敵味方の区別なくダメージ、ノックバックを与える仕様の為、不人気アイテムなのだが。

 

「チッ………この程度の相手の為に呼び出すなってのよ………」

 

 彼女、そのように設定されていたこともあり、主への忠誠心は極めて低い。彼女の優先順位は一に会稽、二に会稽。三、四、五ときて六で漸くイリヤが入る程度である。その為、彼女の指示より会稽の頼みを優先するのだ。

 

「まあ、会稽様の頼みですし………明日はどんな料理がいいかしら?」

 

 そして、何気に女子力は高い。戦闘手段が大雑把極まりない辺り、再現度は高め………なのかもしれない。なお、『ぐっちゃんはあんなヤツメウナギチックじゃないやい!』というイリヤの魂からの叫びのお陰で種族はヴァンパイアではなく、ドライアードになっている。見た目は人間そのものな為、そうは見えないが。

 

-----

 

 物理極振りのステータスを持つ異形の半人半馬が駆け抜ける。四本腕に握られた剣が命を切り捨てるより先に、その高い馬力での突進に巻き込まれたものが命を散す。大型自動車に全速力で正面衝突されたと思えば、死なない方がある意味可笑しいだろう。

 

「弱い!」

 

 異形の巨躯が吼える。剣を振うまでもなく、目先の蛮族の命火を吹き消し、その体を肉塊へと変えていく。特筆すべき攻撃もせず、ただ駆け抜けるだけで命であった肉塊を量産していくことが可能なのは、その巨躯が出すスピードが原因か。

 会稽の蹂躙劇と時を同じくして、別の村では。

 

「この程度ですか」

 

 アークエンジェル・フレイムの軍勢で、スルーズが死体の山を築き上げ。

 

「この程度で私たちに勝とうとか、馬鹿じゃないの?」

 

 ヒルドの放つヴァーミリオンノヴァの業火が、平原に炭塊を作り出す。レベル差以上に、魔法に対する対抗策を持たない者たちが高位マジックキャスターを相手にすること自体が自殺行為だったのだ。その上、二人とも天使の種族特性により魔法抜きでの飛翔が可能。飛び道具でも容易くは狙えない高高度の相手に、一方的に蹂躙される以外の道はなかった。

 

-----

 

「ぎっ!?」

 

 バルブロ一行の、比較的端に居た男が一人、ジャックに弄ばれる。夜間の隠密に特化したビルドの彼女にかかれば、明かりも使わず進む者たちの中から一人、気付かれずに連れ去るなど造作も無かった。

 

「「「しゃべる?」」」」

「だ、だれ、がっ!?」

 

 神経の集まる箇所に正確にナイフを突き立て、苦痛を与える。軽く捻りを加え、神経を抉ればそれだけで悲鳴が迸る。が、既にバルブロの一団から大きく離れている為、その悲鳴が届くことは無い。

 

「「「じゃーあー………ソーセージでもご馳走しよっか」」」」」

「「「袋はあなたの腸で、詰め物はあなたの足ね!」」」」

 

 悲鳴が迸る中、ジャック・ザ・リッパーのスプラッタークッキングが始まった。右足が細切れにされ、引き摺りだされ、斬り分けられた腸に詰められ、火傷状態を付与する程度の低位の火属性魔法で炙られる。

 目の前で人肉ソーセージを完成させ、ジャックが血塗れの小さな手でそれを握り、男の口へと押し付ける。

 

「い、いう!バルブロ王子の目的は、アインツベルンとかいう小娘の身柄だ!」

『………へぇ』

 

 ジャックを構成する死霊たちの声が、完全に重なった。その眼に明確な不快感と怒気を宿し、ジャックは男の鎧ごと胸の肉を裂き、骨を剥き出しにする。悲鳴が迸る中、ジャックは容赦なく骨を掴み、男に額を叩きつけ問う。

 

『それで、どうするつもり?』

「あ、あのアンデッドを始末する為の人質にする!その為に、王家の秘宝の『レイザー・エッジ』も持ち出した!」

『………そう』

 

 必死に知り得る限りの情報を吐いた男に、最早用はない。

 

『じゃあ、死ね』

『私たちのご主人様(おかあさん)に牙を剥いて、生きていられるわけないじゃない』

 

 胸骨を引き剥がし、心臓を引き千切る。そのまま、拷問用にとポーチに突っ込まれていた五本のユグドラシルポーションの一瓶を飲ませながら、心臓を口にし、嚥下する。

 

『これが無くなったら、殺してあげる』

『それまでは、死なないでね』

 

 自分の一部を切り離し、メッセージを使わせる。

 

「アインズ様」

『ジャックか』

「敵本隊が、ご主人様(おかあさん)を狙ってます」

『………ほぅ?』

ご主人様(おかあさん)を人質にしようとしてたみたいです」

『よかろう………街や周辺の村に害が出ない程度の位置に到達したら知らせろ』

 

 ―――私が出る。

 怒気を隠さず、アインズが答えた。




ヒナ(ドライアード)

 人間と大差ない外見のNPC。火属性に弱いのに、得意魔法は火属性を伴うものが殆どの爆発系。コンセプトはるし★ふぁー発案の『自爆芸人』で、爆発物に関する職業レベルをマックスで有する。ユグドラシル時代不人気だった無差別攻撃系アイテムを存分に駆使する辺り、実にるし★ふぁーらしい構成である。
 人格的には、戦闘は大雑把でそれ以外は意外と気が利く。女子力の高さはアルベドを上回るとか。設定により優先順位が会稽>>>>>イリヤ>アインズとなっており、会稽の意を最優先に汲む。


 ちなみに、ドライアードである理由は『ぐっちゃんはあんな不細工じゃない!』と、イリヤがヴァンパイアにすることを拒んだ為。


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逆鱗に触れた者

「おやおや、夜分遅くに急いで何処へ向かわれるのかな?」

 

 地面を抉る音と共に、光量が増す。バルブロ一行は足を止め、進路を阻むアンデッドの存在に背を震わせた。

 

「な、なん」

「惚けても無駄だ。既に貴様の部下が白状したのでな」

 

 アインズが持ち上げるのは、自分の肉で作られたソーセージを食わされた男の首。それにスキルを使用し、その場に落とすと首は溶け、鎧を纏った巨大な骸骨の騎士になる。

 

「デス・ナイトだ。見るのは初めてか?」

「クッ、化物が!」

 

 バルブロが王国の秘宝、レイザー・エッジを手に駆ける。アインズに斬りかからんとするのを、強者の余裕から悠然と腕を組み見下ろす中、二人の間に一つの影が。

 

「っ、アイ―――ッ!?」

 

 街先で突如明るい地点が現れた結果、好奇心が勝ったのだろうイリヤが転移してきたのだ。そして、その華奢な体に、翡翠色の刃が肩口から滑り込む。元のレベル差と、咄嗟にアインズがイリヤを抱き寄せたお陰で、肩部から右胸半ばまで斬られる程度で済んだ。

 種族的な防御スキルも、職業的な防御スキルもなく、その上防御に一切振っておらず、とことん脆いビルドであることが、低レベルの相手からの攻撃でダメージを貰ってしまう事に繋がったのだろう。ドレス自体のMP残量に応じての防御力強化も、レイザー・エッジの防御スキル無効化能力を前には意味が無かった。

 

「イリヤ!?」

「うぐ………っ、ぁ………」

「ああもう、迂闊過ぎだ!」

 

 何が起きたか理解できず、緑の鮮血を溢れさせるイリヤの傷に、急いでユグドラシルポーションをかけるアインズ。迂闊過ぎだ、という言葉は、果たしてどちらに向けたものか。

 傷が完全に癒えるも、イリヤに傷を負わせたことにご満悦のバルブロはそれに構わず、剣を天に掲げ、叫ぶ。

 

「は、ははは!流石我が国の秘宝だ!」

 

 俯き、肩を震わせていたアインズが、完全に激昂した。

 

「………クッ、ズどもがああああああ!!!許さん、許さんぞ!俺の、俺たちの大切な仲間を、よくも!」

 

 スキルを駆使し、デス・ナイトを十二体揃える。抑制されてもされても沸き上がり続ける憤怒のままに、アインズは一体一軍に匹敵するアンデッドらに殺戮を命じる。

 だが、彼らが動くより先に激情の発露を上回る抑制が起こり、頭の冷えたアインズは手をかざし、楽な終わりを許さぬ姿勢を見せた。

 

「いや………やめだ。そのような生温い終わり等、与えるものか」

 

 デス・ナイトたちが攻撃せんと振り上げていた腕を止め、一団を逃さぬように散開する。

 

「餓食狐蟲王の………いや、温いか。だが………」

「ぬおおおおおっ!!!」

 

 バルブロの振り抜いたレイザー・エッジが、アインズに傷を刻む。久し振りの痛みに驚きながらも、バルブロの顔を掴み、魔法を発動。

 

「タッチ・オブ・アンデス………麻痺」

 

 麻痺したバルブロを無造作に放り捨て、序でで他の者たちを範囲魔法で麻痺させ、クリエイト・フォートレスで彼らを逃がさぬよう城壁を創り出す。

 

「はぁ………大丈夫か?」

「………ごめん………」

「全くだ。相手が雑魚だからよかったものを………」

 

 アインズにとって、イリヤは唯一共に居てくれた仲間だ。無駄に強烈な崇拝染みた忠誠を向けるNPCたちとはまた違う意味での、心の拠り所である以上、無意識の内にNPCたち以上に過保護になっていたのだろう。予想以上に激昂してしまったことを反省すると共に、そんな仲間に手を出した愚か者に相応しい結末を考える。

 

「………イリヤ。シャンタクを国中に散開させろ。王を発見次第、そこに向かってくれ。コイツらは、私の方で見張っておこう」

「………そうね。早めに報告した方がいいわよね」

 

 イリヤが転移で戻る中、アインズはクリエイト・グレーター・アイテムで椅子を創り出し、腰かける。

 

「………餓食狐蟲王で生温いとなると、どうするべきだ?ニューロスト………んんんん………」

 

 イリヤを手にかけんとした愚物をどうするか、アインズはアンデッド故睡眠が不要なのを存分に活用し、考え続けた。

 

-----

 

「………なんという………!」

 

 ランポッサⅢ世の前に引っ立てられたバルブロの顔は、最早蒼白を通り越していた。周囲に集まるのは、イリヤ直轄の眷属たち。今にも飛び掛からんばかりの剣幕の面々が立ち止まっているのは、激情を抱きながらも、強い理性でそれを律するバーサーカー、キングハサン、スカディの三人と、アインズの存在あってのこと。

 

「この男は、私の大切な仲間を殺そうとした。元より死罪の身、どうか処断を私に一任していただけないだろうか?」

「………やむを得ません。構いませんね、父上」

「………そうだな」

 

 バルブロが何かを乞うより先に、喉に鉄杭染みた短剣が突き刺さり、音を殺す。

 

「では、他の者ども同様の場所でよろしいですね?」

「いや、一度ニューロストに預けておけ。追って私直々に裁こう」

「畏まりました」

 

 キングハサンが開いたゲートに皆が消え、アインズと王族、ガゼフらのみとなると共に、ランポッサⅢ世が溜息を零した。

 

「………この度の一件で、我がヴァイセルフ王家は終わりやもしれんな」

「陛下………」

「私がいる場で言うべきことですかな?」

 

 呆れ気味のアインズがその場を去ると、ランポッサⅢ世は首を鳴らし、再び溜息。

 

「………次の王の選定には、苦労しそうだな」

 

 その呟きは、誰に向けてのモノだったか。




イリヤの強さ

生身では最弱。アウラにすら殴り敗けるレベル。ただし、ナザリックの外では超人格。
防御の低さのせいで、バルブロの鈍らな腕前でもダメージを貰う羽目に。ただし、普通の剣なら天の衣は貫けない。


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その後の二人

「………アルベド」

「既に、あの男の反乱を手引きしたと思しき元貴族の一族は確保、処罰はデミウルゴスに一任してあります」

「そうか………」

 

 今回の反乱で得をしたのは誰か、アインズは思考を巡らせる。

 ジルクニフと連絡を取り合ったところ、残っていた無能貴族が関わってくれたお陰で綺麗に一掃できた、と声を弾ませていた。同時に、王国の元精鋭といえど、あちらの軍人と比べ多少質がいい程度の為、死者も出ず、負傷者も大したことは無いと。

 だが、同時に訝しんでもいた。どのような手段で、あれだけ上質な武具を入手したのか、と。裏、或いは闇ルートでは、あそこまで上等なものを元貴族風情があれだけ揃えるのは不可能だという。つまり、それなり以上にしっかりとしたルートという事だ。

 

「………まさか」

「どう、なさいました?」

 

 アインズの頭に浮かぶのは、つい先日お膝下に来た一団、漆黒聖典の所属するスレイン法国。アンデッドであるアインズと、かつて腐敗していた、そして現在アインズを擁するリ・エスティーゼ王国を敵視する存在。それが裏で手を引いているとしたら?

 

「アルベド、急ぎスレイン法国について調べろ。この度の反乱に関わっている可能性がある」

「ハッ!関与が発覚した場合は、如何様に?」

「私が指示を下すまでは待機だ。が、関わっていたら、ただではおかんさ」

 

 玉座で頬杖を突き、アインズが眼窩の光を細める。反乱の首謀者一同と生き残りは、全てデミウルゴスに処分を一任してある。アインズの『ナザリックが与え得る最大限の苦痛と屈辱を』とのオーダーは、ナザリック一の知恵者の手で完遂されているだろう。

 そして、デミウルゴスが彼らに下した処罰は………家畜化。肉を、皮を、腸を剥がれ、しかし死ぬことは許されず、延々飼われ続ける。食事はジャックお手製の肉料理のみで、聡明な者なら素材が何かは言うまでも無かろう。かつて相応に豪奢な暮らしをしていた存在が畜生にまで堕ちる屈辱は、言うに及ばずだ。

 

「さて」

 

 スイートエリアに向かい、イリヤの私室を訪ねる。罪悪感からか、ベッドの上で丸くなる彼女に、扉を閉めてから優しく語り掛ける。その肌の色は、部屋の暗さからよく見えない。

 

「大丈夫ですか?」

「………ゴメン、足手纏いになった」

「そんなことはありませんよ………お陰で、俺も気を引き締めるいい機会になりました」

「………?」

「あの武器、防御スキルを無効化する効果が付随してました………ユグドラシルに、そんな武器は無かった。俺も軽くダメージを貰いましたからね」

「ちょっ、大丈夫なの!?」

 

 血相を変え跳ね起きたイリヤに、モモンガが思わず大笑いする。

 

「笑ってる場合じゃなくて!」

「大丈夫ですよ。俺、イリヤさん程極端なステ振りじゃないんで」

 

 軽く笑うモモンガから、イリヤは拗ねた様に顔を背ける。

 

「………ホーリー・スマイト叩き込むよ?」

「それは勘弁」

 

 両手を上げ降参を示すモモンガに枕を投げつけ、イリヤがベッドに身を投げる。

 

「………防御スキル無効化、ねえ」

「はい。そういう訳ですから、イリヤさんも軽率は控えて下さいね?」

「わかった………」

 

 声に元気がない。

 

「はぁー………」

「………どうしたんですか?」

「別に………」

 

 ベッドに埋まる肌は、ほんのり赤みを帯びている。

 

「何処か、具合が悪いんですか?毒………は塗られてなかったと思いますけど………」

「………大丈夫、一通りの治癒系魔法は使ったから」

「そうですか?ならいいんですが………というか、ホムンクルスって、風邪とか引くんですかね?」

「………言われてみれば、確かに」

 

 先程までの真剣な空気が、一気に霧散する。

 

「あ、実験はしないで下さいね?こっちの世界の病気があちらと同じとも限りませんし」

「わかってるわよ!というか、こっちでくらい健康生活を謳歌したいに決まってるじゃない!」

「わわっ、すみません!」

 

 すごい剣幕で叫ぶイリヤに、モモンガが後退る。前世で重病、今世ではブラック勤務で体ボロボロ。そんな彼女が、進んで病気になろうとするはずがなかった。

 

「はーぁ………ねえ、モモンガ」

「何です?」

「………何でもない」

 

 ほんのり頬が赤いのを隠すように、毛布に顔を埋める。

 

「どーせ、何か起きて頓挫するだろうし」

「いや、そんなことないと思いますよ………多分」

 

 否定の言葉に力が無かったのは、否定しきれないからか。

 

「んー………コレ使って、面倒事よ起きるな―、って頼む?」

「ぶっ!?それ、激レアの!?え、イリヤさん、幾らつぎ込んだんですか!?」

 

 イリヤが持ち出したのは、超々レアアイテムのシューティングスター。超位魔法、ウィッシュ・アポン・ア・スターをノーリスクで三回まで行使可能な課金アイテムだ。それを曖昧極まりない頼みごとに使おうとするイリヤに、モモンガが食って掛かる。

 

「え?十連一発で出たけど………そんなレアだったの!?」

「俺がボーナス全部突っ込んで、ようやく一個ですよ………?」

「嘘、十連で五つも出たのって………」

「なんつー神引きしてるんですか………物欲センサー、恐るべし」

 

 改めて、イリヤの意味不明レベルの剛運に戦慄するモモンガ。そしてイリヤは、三つの流れ星の刻印された指輪を両手で大事そうに持ち、唖然としていた。自分の、妙な方向に発揮される運に、様々な感情をごちゃまぜにした複雑な思いを抱く彼女は、そっと指輪をモモンガに差し出す。

 

「………あげよっか?」

「いいんですか?」

「五つもあると流石にちょっとねー………二つでいい?」

「え?」

「え?」

 

 二つも貰えると思っていなかったモモンガが思わず問い返し、疑問の声を予想していなかったイリヤが呆けた声を上げた。




イリヤの珍妙な運の良さ

・魔獣ガチャで激レア枠をガンガン引くも、狙いのコモン枠は引けず
・時間ギリギリまで粘った末に余った金を間を置かず始まったガチャに十回分突っ込み、シューティングスターを五つ入手


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会議前のひと時

 約一カ月の時間が流れ、エ・ランテルからアインズの領内の各都市、農村を繋ぐ街道に至るまでが整備された。リ・アインツベルン一帯も同じであり、彼らの支援のもと革新的な貴族の多くがその政策を真似ている中で、その通達は来た。

 

「緊急会議………かー」

 

 徹底的に魔法防御が施された屋敷の一室で、書状を手にイリヤが呟く。重大な会議の為、王都に来るようとのことだ。

 

「随分といきなりねー………」

 

 特に小細工も無い為、イリヤは手紙を懐に仕舞い、出立の準備を始める。

 前世、今世共に満足に発露する事の無かった、悪戯心を総動員した笑みを浮かべながら。

 

-----

 

 王都リ・エスティーゼ。元ブルムラシュー侯の別荘、現アインツベルン辺境伯の別荘に、巨大な魔獣に引かれる馬車が辿り着いた。

 

「お疲れ様」

 

 可憐な少女が降り立つ姿を前に、驚かぬ者はどれだけいるのか。尤も、彼女をよく知る者は納得し、呆れてその場を去るだろう。そして、彼女の馬車を引いていたガチャ惨敗の結果である魔獣………バシュムを知る者であれば、その場で卒倒するに違いない。

 かつてナザリックがあった湿地帯でも、年に一度程度の頻度で出現していたこの魔獣は、レベルが高いのに加え毒無効以外では防げない超高位の毒を扱う厄介な魔獣だ。攻撃力と敏捷が高いせいで余計に面倒な魔獣だが、防御力と各種耐性、HPは低め。そこにフィールドテイムではなくガチャ入手の為ステータスにマイナス補正がかかっており、余計に脆くなっている………とはいえ、王国くらいなら壊滅どころか不毛の地に出来るのだが。

 

「んーっ、ふぅ」

「イリヤ様、我々はどうすれば?」

 

 精一杯伸びをするイリヤに、半目を向ける者たち。ナザリックの、ギルメン一人一人の専属として設定された一般メイドたちの内、イリヤ専属としてホワイトブリムに創造されたミュフィアと、その他五名の同行者だ。

 

「えーっと………それじゃあ、屋敷の方をお願い」

「畏まりました」

 

 イリヤと同年代程度の見た目に設計されたホムンクルスの黒髪少女を筆頭に、六人が屋敷へと消える。その背後で、馬車から現地人では上位格の実力者として護衛に放り込まれていたクレマンティーヌが顔を覗かせる。

 

「あの子らなら簡単に殺れそうよねー………報復が怖いからやらないけど」

「あら、今ならデミウルゴスの牧場に行けるわよ?」

「いやー、三食が自分の肉で出来たハンバーグだのソーセージだのは勘弁」

 

 七色鉱が一つ、セレスティアル・ウラニウム製のスティレットを弄びながらも、肩を竦め拒絶の意を示す。拷問をするのは好きでも、されるのは嫌らしい。

 

「あら、残念。私の可愛いジャックの手作りなのに」

「いやー、そんなの食わされるくらいなら舌噛んで死ぬね」

「安心なさい、舌は回復してから最初に抜かれるわ」

「えっぐ………」

「人間も大切な資源だから、有効活用しないとね?」

「うわ………助かってラッキー………」

 

 本気で安堵しながら、目深にローブを被りクレマンティーヌが続く。既に六人のメイドにより綺麗に清掃された屋敷の中に踏み込み、広間に踏み込み、ソファーに腰を下ろす。

 

「どうぞ」

「ありがと」

 

 ミルクティーを差し出され、イリヤは微笑と共に受け取る。わざわざ別の盆で運ばれた紅茶をクレマンティーヌが受け取ると、ミュフィアは一礼し、部屋の隅に控える。

 

「明日が会議だっけ?」

「そうよ。貴女はこの屋敷の警護をするの」

「はいはーい。ま、チンピラ程度、敵じゃないけどさ」

「ご安心を。一応、ニュークリアブラストの込められたスタッフを預かっておりますので」

「にゅ………何?」

 

 ミュフィアの掲げる杖に込められた魔法に、心当たりのないクレマンティーヌが疑問符を浮かべる。対して、イリヤは顔を真っ青にしている。

 

「………ねえ、ミユ。それがどんな魔法か、知ってる?」

「無差別超広範囲攻撃魔法、とだけ」

「うん、それは没収ね?クレマンティーヌ、くれぐれもよろしく」

「え、ええ?!」

 

 ミュフィアから杖をひったくるように奪い、クレマンティーヌにこの上なく真剣に告げる。

 

「そうですね………我々の守護の務めを果たせなかったとなれば、デミウルゴス様の牧場送りでしょうし。女性は少ないようですから、繁殖実験にでも」

「絶対守ってあげるからね!」

 

 ミュフィアが色々おっかないワードを並べる中、それを遮りクレマンティーヌが気合を入れる。その一方で、イリヤは頭を抱えながら微かな安堵を抱いた。

 

(うん、これは美遊じゃない!美遊っぽいだけの別人!)

 

 嫌がらせの如くプリズマの方のイリヤの友人そっくりのNPCであったが、性格やらが全く違うことに安堵したのだ。

 彼女は『イリヤ』の姿を使っているだけで、本人ではない。それ故、イリヤスフィールの親密な相手の再現はあまりしていないのだ。更に言えば彼女、こう見えて原作カップリング至高主義の過激派カプ厨であり、それを壊すような真似をしたくなかったというのもある。

 

「明日の会談に備えて、今日は休むわ。ミユ、悪いけど色々お世話になるわ」

「いえ、私の役目はイリヤ様のお世話。その務めを果たせることこそが至上の喜びです故、気に病まれることはありません。寧ろ、積極的に御頼りください」

 

 凄まじい勢いで跪き、猛烈な剣幕で、かつ静かに告げる。イリヤのみならず、クレマンティーヌまでもが顔を引き攣らせていたのは、その眼の輝きが余りにも強烈だったからか、はたまた………




ミュフィア(ホムンクルス 一般メイド)

 ホワイトブリム製メイドの一人。イリヤの専属として、外見年齢は同程度に設定されている。レベル1の為貧弱だが、メンタルは強い。
 イリヤに絶対の忠誠と愛を捧げている(タブラとるし★ふぁーが付け加えた設定)。



イ リ ヤ に 絶 対 の 忠 誠 と 愛 を 捧 げ て い る (強調)


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次なる国王は

「イリヤ様、朝です」

 

 ミュフィアに揺られ、イリヤが重い瞼を上げる。

 

「朝食の支度は済んでおります。こちらに持って来ましょうか?」

「ううん、いいよ………それより、早く着替えないと」

「天の衣でしたら、あちらに準備してあります。湯浴みをご所望であれば、既に準備させてあります」

 

 るし★ふぁーとタブラにより付け加えられた設定もあり、ミュフィアは常にイリヤを第一として行動する。今日もまた、イリヤの所望し得るあらゆる事態に備えての準備を全て終えてから、全てをこなしても余裕を持って会議の場であるヴァランシア宮殿に到着できるよう計算し尽くした上で起こしに来ている。

 

「そう………じゃあ、折角だし朝風呂に行かせて貰うわね」

「畏まりました」

 

 タオル類を持ち、ミュフィアがイリヤを先導する。先に用意されていたのは、超々激レアドロップ品のバシュム像による温泉。十分の入浴で十時間の間毒への完全耐性を得られるというこの温泉は、色が毒々しい事を除けば非常に有用だ。

 

「イリヤ様、先に体を洗われるべきかと」

「そうねー………ってぇ、何で居るの!?で、出てってっ!」

 

 イリヤに締め出され、ミュフィアは淡々と湯上りに備えての準備を始める。アルベドであれば裸体を見た瞬間に飛びついていただろうが、彼女は淫魔では無い。彼女に比べ、強靭な理性を有している。

 

「………」

 

 しかし、ちゃっかり右手を力強く握り締め、微笑んでいる辺り、一皮剥けば同じ………かもしれない。

 

-----

 

 そして、ヴァランシア宮殿。集まった貴族たちに向け、ランポッサⅢ世が重々しく口を開いた。

 

「察している者もおるだろうが………我は、王座を降りようと思う」

 

 動揺は、走らなかった。先月の一件以来、王家への民衆の評価は悪化の一途。何せ、イリヤたちが気付く前の段階で、幾つかの村々が滅びていたのが判明したのだ。その上、バルブロ王子を監獄ではなく、王城の私室に軟禁するに留めたせいで脱走されたことも知れ渡ってしまっており、王家の評価はストップ安だ。

 

「私も王位継承は辞退いたします」

 

 それをよくわかっているザナックは、不用意な反乱を招くとして王位継承を辞退した。優秀な人間であるからこそ、ここから評価を巻き返すより先に大規模な反乱が起こりかねないと理解していた。

 

「ぺスペア侯、貴殿を次なる王に指名したい」

「大変嬉しく思いますが、辞退させていただきたく思います」

 

 多くの貴族に支持されていたぺスペア侯は、しかし王位継承を辞退した。これには流石に動揺が生まれ、年若い貴族に皆口々に理由を問う。

 

「私の妻もまた、ヴァイセルフ王家の者です。既に心を病みかけている彼女を思えば、より大きな負担となり得る王位の継承は、申し訳ございませんが………」

「いや、よい。我としたことが、無責任であったな………我が娘を想っての決断を尊重しよう」

「寛大な処置、感謝いたします」

「レエブン侯、貴殿はどうする?」

「私も、辞退させていただきたい。代わりと言ってはなんですが、ゴウン侯を推薦したく思います」

「………え?」

「確かに、ゴウン侯は王国に数多の利益を齎しております。我らも、彼の支援により領内の犯罪率の激減を実現させている………」

 

 やや乗り気でない者もいるとはいえ、有力貴族二人が推す以上、感情的な反論は難しい。

 

「八本指壊滅と始めとする、数多の腐敗を取り除いた実績から、民の評価も悪くはない………私も、ゴウン侯を推薦しよう」

 

 旧六大貴族の全員が是とした意見に、理性的な反論が出来るものはなく。

 

「ゴウン侯、貴殿に王位を委ねよう………我が国を、どうか頼む」

「お任せを」

(………じゃねえよ!サラリーマンに社長通り越して王様になれって?!)

 

 勢いに押し切られ、断り切れなかったアインズは、晴れて王位を継承した。ラナー、デミウルゴスの情報工作が功を奏した結果だが、二人の真意を知らぬアインズは、ただただ動揺するしかなかった。

 

-----

 

 会議が終わり、レエブン侯、ランポッサⅢ世、アインズとイリヤが会議室に残る。遅れて、黒い靄上のゲートが開き、ジルクニフ帝とその護衛のフールーダが現れる。

 

「おお、素晴らしい!まさか本当にこのような魔法が………!」

「爺、落ち着いてくれ。これから始まるのは、重要な会談なのだからな」

 

 アインズに渡されたゲートの魔法を込められたスタッフを手に大はしゃぎするフールーダを宥め、真面目な話に移る。

 

「さて、王位を降りたと聞いたが………」

「先の失態、誠に申し訳ない事をした」

「確かに、少なくない被害が出てしまったが、お陰でこちらの無能どもも一掃できた………が、そちらを思えば、そうも言っていられぬか」

「うむ………だが、ゴウン侯であれば、我のような愚行は犯すまい」

「ははは、両陛下のご期待に応えるのは、骨が折れそうですな」

「アンタの骨が折れたら大惨事でしょうが」

 

 イリヤのツッコミに、軽い笑いが巻き起こる。骨しかないアインズの骨が折れたとなれば、確かに大事だ。

 

「ははは、ゴウン侯は冗談もお上手と来たか………では、真剣な話をしようか」

 

 二人の指導者と、指導者見習い、そしてその補佐たちを交えた会談が始まった。



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魔導国、建国

 王都の通りを、王家すらも凌駕する荘厳な馬車が通る。しかし、荘厳極まりない馬車を引くのは、点滅する靄を纏う馬の骨。ソウルイーターの名を持つこの馬は、三体で十万のビーストマンの都市を滅ぼしたとされる極めて危険な魔獣だ。

 そして、それを従えるのは次期国王、アインズ・ウール・ゴウンを名乗るアンデッド。ランポッサⅢ世、ジルクニフを始めとした面々との会談を経て、その胸に抱く決意を形にする為、ナザリック総出で事に当たっている。

 

「………ハハ、敵対せずに済んでよかった………」

「いや、全く。我が帝国の全軍を以てしても、一時間と待たず壊滅だろうよ」

 

 アンデッドの群を従え、その力を誇示するアインズ。その傍らに座すのは、神聖さすら感じさせる純白の少女。魔王と聖女とすら取れる並びに圧巻される住民は、異形の集まりであるその僕たちにもまた、圧巻されている。

 驚愕と困惑、畏怖をその身に受けるアインズの座す馬車が止まる。地下大墳墓の深部にある玉座より簡素とはいえ、十二分に豪華な玉座を降り、アインズが地に立つ。その手には、ある僕によるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの精巧なレプリカが。

 

「………ふむ」

 

 睥睨と共に漏れたその声で、誰もが口を噤んだ。

 

「今日この日を以て、リ・エスティーゼ王国は終焉を迎える」

 

 その言葉と共に、アインズの体を中心に光り輝く魔法陣が広がる。怯え、諦め、様々な色を覗かせる民の前で、アインズはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのレプリカの柄を持つ手でこっそり握り込んである砂時計型アイテムを砕くと共に、スタッフで地を打つ。

 

「パンテオン」

 

 ごく小さな声で呟き、六体の智天使を召喚する。そして、スタッフを掲げれば、擬態しているNPCが低位のサモン・エンジェルやサモン・エレメンタルを発動し、各種の低位元素精霊を無数に呼び出した。

 

「今日、この日よりお前たちは、我がアインズ・ウール・ゴウン魔導国の民となる!」

 

 その声を、数多の天使、元素精霊を従える威容を前に、住民たちは自ずと跪いた。

 

「喝采せよ」

 

 アインズが両手を掲げる。

 

「アインズ・ウール・ゴウンの名に、我が至高の力に、喝采せよ!」

 

 拍手喝采は、滞りなく起きた。思いの外民衆の動きが速かったことに驚きながらも、アインズのカリスマ性だと納得した僕たちも、また割れんばかりの拍手を行う。

 

「我がアインズ・ウール・ゴウンの名にかけて、諸君らの安全を保障しよう。だが、同時に苦難も背負ってもらう」

 

 喝采が止む。それを咎めることなく、アインズは支配者然とした手ぶりと共に語る。

 

「見ての通り、私はアンデッドだ。故に、我が魔導国において、ヒトならざる者もまた、民となる」

 

 僕たちと、ジャガ村に従うザリュースらリザードマンが前に出る。

 

「ヒトのみのコミュニティで生きてきたお前たちには、強大な試練だろう。だが、それを乗り越えた時、我が国はあらゆる種の強さを併せ持つ、至高の国家となろう!」

(………で、いいんですよね?イリヤさん)

 

 二人で夜なべして悩みに悩んだ末に考え出した台詞を、アドリブ交じりに口にしながらアインズは内心語り掛ける。

 

「故に、確約しよう。希望を。平穏を。そしてそれらを兼ね備えた、至高の未来を!」

 

 割れんばかりの歓声。傍聴していたジルクニフ一行やランポッサⅢ世一行も手を叩いており、掴みとしては最上の結果に終わった。

 続けて帝国との同盟調印も滞りなく終わり、今日この日を以て『リ・エスティーゼ王国』は『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』へと変わった。

 

-----

 

「お疲れ様です」

 

 滞りなくアインズらに引き渡されたロ・レンテ城の一室。イリヤに与えられた部屋には、既にミュフィアが待機していた。テーブルには、疲労しているだろうイリヤを慮ってか、巨大なプリン・ア・ラ・モードが用意されている。ちなみに、料理長作でなくミュフィアの手作りだ。

 

「ああ、ありがと!」

 

 私服に着替え、足取り軽く椅子に飛び乗る。ホムンクルス向けに作られたギガ盛りア・ラ・モードを美味しそうに頬張る姿をミュフィアが自らの脳裏に刻み込む中、双方にとっての至福の時を邪魔するようにドアがノックされる。

 

「………どちら様でしょうか?」

「私だ」

「アインズ様でしたか………イリヤ様は現在、休憩中ですが………」

「ああ、大丈夫よ。ミユ、悪いけど席を外してくれる?」

「………畏まりました」

 

 今すぐにでもるし★ふぁーに与えられたスタッフを使い、ニュークリアブラストをぶっ放したい衝動を押さえながら、不満を欠片も見せずに退出するミュフィア。ちなみに、袖口、スカートの中に仕込まれた計十二のインフィニティ・ハヴァサックの中身は、全てニュークリアブラストのスタッフである。

 そして、そんなことは露知らず、アインズからモモンガに戻ったオーバーロードは、イリヤの対面に腰を下ろした。

 

「………大きいですね」

「お皿から何までホムンクルス用だし」

「ああ、そういえば食事量増大のペナルティがありましたね………」

「一応、腕輪で空腹感とか消したり、空腹ペナルティの無効化はしてたけど………うん、今度から冒険者活動時以外は外しとこ」

 

 腕輪を外し、テーブルに置くイリヤ。それをやや羨ましそうに眺め、モモンガは視線をイリヤ本人に移す。

 

「それで、これからどうしましょうか?」

「国王になっちゃったし………あ、アインズは魔導王か。あのお爺さん考案の」

「あはは………とりあえず、コレ余計にモモンとして動き辛いですよね?」

「でしょうねー」

 

 軽く笑い合う中で、アインズが未だスタッフを握っていることに気付いた。

 

「………ねえ、ソレ」

「………あ」

「やっぱり、忘れてたのね………戻って、アリス」

 

 杖はドロドロに溶け、一人の幼い少女の形を取る。レベル54のドッペル・ゲンガー、第七位階までの魔法を使え、ワールド級を除く大抵のアイテムに化ける事が可能な性質を与えられたNPCの名はアリス。ペロロンチーノをして『あ、可愛すぎてそういう目で見れねぇ………』とまで言わしめる、可憐な少女である。

 

「ふぁぁぁ………なーに、ご主人様~………折角心地よく寝てたのに~………」

「あはは、ごめんなさい?」

(よかった、バレてない)

 

 一先ず安堵したイリヤはアリスを退出させ、モモンガと今後について議論を交わした。




アリス(ドッペルゲンガー)

 種族レベル15のドッペルゲンガー。アイテムに化けられるも、魔法等で簡単に看破可能。第七位階までの魔法を使える為、今回はスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのレプリカとして表に出た。普段は本に擬態して、図書館に隠れている。
 使用魔法はサモン系が多く、攻撃系はメジャーどころが一通り程度。何よりもMPを重視したステ振りの為、戦闘は専ら可能な限りの数を召喚し、物量ですり潰す、或いは時間を稼ぐスタイル。イリヤ作のNPCで、唯一城に封印されていなかった存在であり、スカディも存在を把握していなかった。


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国家運営は大変

日間ランキング五位………デジマ?
なんかもう、あの………ありがとうございます(語彙力喪失)


 王国から魔導国へと変わり、王となったアインズ、そして宰相としてその補助を行うこととなったイリヤがまず着手したのは、王都の整備だ。

 

「大きな通りに面したエリアは兎に角、それ以外が酷すぎるな」

「では、アインズ様が座主に相応しいよう、整備を行わせましょう」

「まあまあ、ストップストップ。建物にはなるべく手を着けず、道の整備からよ。いきなり住居にまで手を出したら、間違いなく反感を買うわよ」

「むぅ………」

 

 アルベド、デミウルゴス、ジャガ村、会稽を交え、二人が王都の地図と向き合う。

 

「んー………この辺り、空き家が集まってるのよねー」

 

 ジャガ村が指先で叩くのは、アインズにより消された元貴族たちの邸宅の集合地。

 

「帝国を真似て、闘技場でも作る?民間向けの大型宿にしては、ちょいと立地に難アリだし」

 

 高級住宅街のど真ん中の宿となれば、普通の人間は尻込みしてしまうだろう。相変わらず、真剣になった時の頭のキレ具合は素晴らしいの一言である。

 

「であれば、学び舎とするのはどうか?アインズ様の庇護下であることを示すには、またとない立地であろう」

「問題は、教師の不足ですね」

 

 会稽の提案に、デミウルゴスが問題点を提示する。が、これは悪意からというより、予ねてからの問題の再提起といった意味合いが強い。より上の立場となったからこそ、改めて挙げた形だ。

 

「ふむ………これについては、他の貴族に協力を仰ぐべきやもしれんな」

「やっぱり、レエブン侯辺りがベストじゃないかしら?」

 

 学校について、教師問題を後日貴族たちの意見も聞きながら考える事となり、次の話題に移る。

 

「次に、魔法だな。帝国魔法省と王国の魔術師組合の交流を促すべきだな」

「それと、援助もしっかりね?」

「わかっているさ。後は、そうだな………」

 

 より広い地図を広げ、カッツェ平野の南に目を向ける。

 

「スレイン法国は置いておくとして、竜王国とは国交を持ちたいところだな」

「となると、ビーストマンとやらを?」

「最悪の場合、滅ぼす必要もあろう。そうなれば、人類の味方であるとスレイン法国へのいいアピールにもなる」

「まあ、野蛮なけだものなど、こちらから願い下げですが」

『!?』

 

 立ち入り禁止を言い渡していなかったとはいえ、堂々と忍び込んでいたミュフィアに、一同が驚きと共に微かに飛び上がる。それに構わず、皆に飲み物を置き、礼儀正しく一礼して部屋を出た。

 

「………んんっ!まあ、確かに和平は無理そうだし、滅ぼすのが妥当か?」

「私は賛成いたします。ミュフィアの言う通り、野蛮なけだものに、従える価値は無いかと」

「まあ、人間をただ食らうだけの存在だ。捨て置いて問題ないでしょう」

 

 デミウルゴスの目が、魔導国南方の山岳地帯で隔てられた先を見つめる。

 

「ここ、アベリオン丘陵ですが、多種多様な亜人の紛争地となっております。あの男らの小屋がありますが………平定なさいますか?それとも、殲滅を?」

「ふむ、ローブル聖王国とやらとも国交を得る事を前提とするなら、手は打つべきだろうが………まだいい。手を広げ過ぎず、一つづつ着実に、だ」

「出過ぎた真似を、お許し頂きたい」

「構わんさ。後に回すとはいえ、考える猶予が増えるのはいいコトだ」

「そうね。先ずは国内安定、次に同盟の輪を広げる………で、いいかしら?」

「そうだな。後は、神殿勢力か。ところで、お前の領地に居るフォーサイト、とやらはどうしている?」

「ヘッケランとかは、専ら村とかの警備兵の育成に手を貸して貰ってる。アルシェは私の代わりにロバーデイク共々、辺境の村の視察とかして貰ってる。ロバーデイクの方も、ウチの領地内限定で神殿勢力と話を付けてるから、ある程度自由に動けるし」

 

 一定の基準を定め、傷病の度合いがそれ以下であればロバーデイクが、それを超えてしまっている場合、領主であるイリヤの財布から治療費を出す形で神殿で、という形で棲み分けしているのだ。あくまで患者に治療費分の貨幣をその場で支給する形である為、神殿の独立性も保たれていることもあり、領主公認のもと、ロバーデイクは貸し与えられた魔獣を使い、アルシェ共々精力的に回診を続けている。

 

「あ………」

「ど、どうかなさいましたか?」

「そうだ………そうだった………!」

 

 アインズが頭を抱える。その理由に即座に理解が行ったジャガ村が、ポンッ、と手を叩く。

 

「神殿ねー。アインズ様、アンデッドだから話すら聞こうとしないかも」

「人間の分際で、アインズ様を拒むと………ッ!?」

「落ち着きんしゃい。アンタが出しゃばって下手打つと、アインズ様の評判が悪化するでしょーが。ここはアインズ様が動くべき局面だよ」

 

 ソファにふんぞり返り、ミュフィアの淹れた紅茶を飲み干す。それを咎めず、デミウルゴスが口を開く。

 

「確かに、我らの一挙手一投足がアインズ様の名声に繋がる事を思えば、不用意な行動は慎むべきですね」

「ぐ………」

「交渉事に我らは不向き。ここは、主らに任せるしかあるまい」

 

 四本の腕を組む会稽の言葉に、アルベドは黙り込んでしまう。

 

「では、私は神殿に赴こう。アルベド、護衛を任せる」

「ッ、はい!」

 

 喜色満面の笑みと共に、アルベドが跳ねるように立ち上がる。

 

「デミウルゴス、ジャガ村は空き家の調査を。どれくらい壊すか、リフォームにどれだけかかるか、計算して貰いたい」

「承知いたしました」

「イリヤ、会稽と共に王都内の未整備の道を調査せよ。数、凡その距離を地図に書き込んでおいてくれて構わん」

「はーい」

 

 それぞれが、それぞれの役目を果たすべく動き出した。



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苦労の日々にある救い

 王都の整備の為の視察を終えた夜。

 

「神殿の方は、何とかなりました………けど、アルベドの暴走を抑えるのに疲れましたよ………」

「お疲れ………ハイ、会稽の見積もりと、王都の学校建設の見積もり費用」

「うわっ………スケルトンソルジャーで人件費節約しようかなぁ………」

「いや、ちゃんと国民の手借りましょうよ………人件費、高いけど」

 

 工事費用に目を通し、二人がげっそりとした顔になる。元がサラリーマンだけあって、巨額を動かすと思うとやはり気が滅入るのだろう。

 

「はぁー………んじゃ、ウチで独自に募集、でいいですかね?」

「いや、王都は建築組合とかいうのがあったから、話を通してからの方がいいかも」

「うわ、面倒臭っ!………けど、早めに作ろうとなると、そこに依頼するのがベストだよなぁ………」

「いっそ、学校の方は私たちでやっちゃう?ほら、リフォームです、って言い張って。それなら、建築組合は道の整備を重点的にできるし」

「その手がありましたね!それに、国の威信にかけた初の試みだから、ってことで言い訳もつく!」

 

 二人が盛り上がっていると、控えめにドアがノックされる。魔法で音漏れを防いでいたとはいえ、咄嗟にモモンガはアインズへと切り替え、厳かな声で応じる。

 

「入れ」

「失礼いたします。イリヤ様に、お飲み物をお持ち致しました」

 

 扉を開けたミュフィアは丁寧に一礼し、二人が語らうテーブルにそっとオレンジジュースの入ったピッチャーと、空のコップを置く。

 

「足りないようでしたら、お手数ですが『メッセージ』を使っていただけると幸いです」

「ありがと。今日はもう、休んでていいわよ」

「ハッ」

 

 丁寧に一礼したミュフィアが立ち去るのを確認して、イリヤは再度魔法で防音処置を施し、溜息を吐く。

 

「………こっちに連れてきてから、ずっとあんな感じなのよねー」

「そもそもイリヤさん、殆ど自作NPC連れてるばっかでメイドたち頼ってませんでしたもんね」

「えへっ」

「『えへっ』じゃないでしょ………」

 

 イリヤは平然とオレンジジュースをコップに注ぎ、そのまま軽く呷る。甘味と酸味の程良いバランスに口の端を緩めるも、直ぐに真剣な顔に戻る。

 

「で、街路の整備は建築組合、リフォームは私たち………建材やらの発注は?」

「あー………ランポッサさんなら、アテはあるかな?」

「一応、初回だからケチるのも程々にしないと、あれだけ威厳たっぷりな演説者が実は銭ゲバでしたー、なんて笑えないし」

「あー………このテの業界は印象も大事なのかー………厄介な………」

 

 頭を抱えるアインズは、、支出を補う収入をどうするかを考える。

 

「学校運営は公費から出すとして………ああ、そうそう。ペストーニャから、旧貴族の別荘を孤児院に出来ないか、って相談があったわよ」

「何で今その話題を!?って、孤児院………孤児院なぁ………うーん、出費が嵩む………」

 

 施設の運営にも、お金はかかるのだ。それが慈善事業ともなれば、尚更。

 

「んー………マジックアイテムの販売に、一枚噛む?あとは、累進課税とか」

「るいしんかぜい?」

「あ………」

 

 何気なく呟いた言葉だったが、裕福層が全てを牛耳る2138年の世界に、累進課税制度などという彼らに不都合なものはない。当然、一般人が見れる情報系サイトからは削除されており、たとえ大卒でも、その名を知る者は居ないのだ。

 転生者故の知識が、このようなトコロで牙を剥いた………とはいえ、あくまでニュースのまとめサイト等で知った単語を調べた程度の知識しかないのだが。

 

「え、えーっと………あ、アレよ!収入額が一定額を超えるごとに、所得税を割合的に増やすって制度!ホラ、革新的じゃない!?」

「そ、そうですね………」

 

 必死に言い訳するイリヤに、モモンガはやや引き気味に苦笑する。幸いにも、彼はこれを『イリヤさん、そんな制度を直ぐに思いつく当たり、相当社会に不満が溜まってたんだなー』程度の認識である。

 

「けど、絶対貴族から不満出ますよね………」

「そこよねー………いっそ、三大貴族とランポッサお爺ちゃんがオーケー出したらオーケーにしちゃう?」

「それはそれで………まあ、意見を求めるくらいはいいかもですね」

 

 一先ず話を打ち切り、一息置く。

 

「それじゃあ、遅くても来週中には工事に取り掛かれるよう、頑張って手配しましょう。とはいえ、教師の問題もある以上、早期の運営は無理でしょうが………」

「そこよねー………私たち、基本的にこっちの世界の文字読めないし」

 

 読み書きそろばん、その内読み書きができる者が、致命的に不足しているのがナザリックだ。計算であれば、イリヤもモモンガも四則演算は普通にできる。とはいえ、桁が大きくなるとモモンガの方が圧倒的に速くなるが。

 

「………とりあえず、ペストーニャ提案の孤児院を優先しましょう。そっちの方が、広く手を伸ばせますし」

「そうね………で、どの建物を使うの?」

 

 地図を広げ、旧貴族宅の中でも広めのものを幾つか見繕う。学校予定地のエリアは赤い線で区切られている為、それ以外から探すこととなる。

 

「んー………隣接するものを幾つか、まとめて改築しましょう」

「で、そのお金は?」

「………王位継承の話、断ればよかったかなぁ………」

「大丈夫よ、『モモンガ』は一人じゃないでしょ」

 

 肩を落とすモモンガを慰め、イリヤが微笑む。

 モモンガも沈む気持ちに何とか整理をつけ、骨故判らないものの、微かに笑った。たった一人、されど一人。対等な友人がいるというのは、彼にとって、極めて大きな救いであった。

 

「そうですね。それじゃあ、イリヤさん、力を貸して貰いますよ」

「ふふ、その意気よ」

 

 優しく微笑むイリヤと、モモンガはあーでもない、こーでもないと今後の方針について語り合う。その姿は一人の指導者というより、歳相応の青年、或いは少年にも見えた。



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魔導国の二つの動き

 旧貴族の別宅の数々に、アンデッド、天使、ゴーレムなどが群がっている。アンデッドは兎に角、製作に時間と手間がかかるゴーレム、召喚以外使役手段の無い天使を、それぞれ一国の大隊にも匹敵する数も土木工事に導入している現場は、見る者が見れば卒倒ものだろう。

 

「ええと………会稽様、もう少し色々大雑把で構いませんのに………」

 

 オルトリンデは、会稽に渡された図面を眺め、溜息を吐く。ミリ単位で細かく指定されている為、オルトリンデはその細かさに頭を痛めていた。使役する天使たちにそこまで精密さを求めるのは不可能である為、本当に大丈夫なのかと不安を抱きながらも、泣く泣く改築作業を続けさせる。

 

「はぁ………ヒルド姉様なら、どうしたんだろ」

 

 笑顔で大雑把な指示を出す、比較的雑な姉の姿を浮かべ、オルトリンデは役割の交代を求めようか、と本気で悩む。真面目過ぎるのも、時には問題であるということの最たる例だと言えよう。

 

-----

 

 時間にして一カ月。ナザリックの力を尽くして貴族の別宅から改装された学校、孤児院を、資金、物資等の援助を行った四貴族と、元国王が見て回る。

 

「素晴らしい出来栄えですね………」

「一カ月でここまで出来るとは………」

「何、私の僕たちの働きあってこそだ。賞賛の言葉は、私ではなく僕にかけてやってくれ」

 

 ぺスペア侯、ウロヴァーナ辺境伯の称賛に、アインズは苦笑気味に謙遜する。

 

「無駄に豪勢だっただけあって、改築の手間も少なかったでしょう。愚物の遺産は、少しはお役に立ちましたかな?」

「はっはっは。毒が強いぞ、レエブン侯。だがまあ、確かに役には立った。無駄に部屋が多かったお陰で、な」

 

 散々溜まっていただろう欝憤ごと吐き出す形で、レエブン侯が笑う。口では諌めながらも、アインズもまたあまり好印象では無かったからか、やや辛辣だ。

 

「はっはっは。しかし、学校か………」

「ランポッサ殿や皆様のご協力あってのものですよ。特に、教師のアテなど、我らにはありませんでしたからな。お陰で、学校は次の春に、孤児院の方は、直ぐにでも開けそうだ」

「お役に立てて、光栄です。民の為財を惜しまぬのも、貴族の務めですからね」

「ですな」

 

 ぺスペア侯の言葉に、レエブン侯が同意を示す。そして、二人とはまた別の笑みを浮かべ、ウロヴァーナ辺境伯も続ける。

 

「後進の育成は先達の務め。当然のコトをしたまでだ」

「言いますな。だが、そうだな………血族のみならず、民も育てられるのは、非常にいい事だろう………ところで」

 

 やや控えめに、ランポッサⅢ世が問う。

 

「これだけの数の子供を集めるのはいいが、彼らの住居は、どうするのだ?」

「………あ」

 

 アインズが大口を開けて固まる中、沈黙が降りる。少しして、皆が一斉に、控えめに噴き出した。

 

「フッ、フフッ………!」

「不謹慎ながら、、魔導王陛下も、元は我らと同じ人間なのだと実感できました」

「いや、全く。あまりにも超越者然としていたが、お陰で少しばかり親しみが持てましたな」

「ハ、ハハハ………失態だな。イリ………しまった」

 

 メッセージを繋ごうとして、今日のお披露目前に与えた役割を思い出す。

 

「アインツベルン殿が、どうか?」

「彼女には、昨日より竜王国に向かって貰っていてな………」

 

 学生寮とでも言うべき、学校の生徒たちの住居をどうするか、話せるのはもっと先になりそうだ。

 

-----

 

 同刻。高位の魔獣により竜王国に到着したイリヤとその僕、お付きのミュフィアとプレアデスが一人、シズ・デルタを連れ、女王との謁見に臨んでいた。

 

「お初にお目にかかります、ドラウディロン・オーリウクルス陛下。アインズ・ウール・ゴウン魔導国宰相、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します。こちらは、私の自慢の僕たちと、魔導王陛下より遣わされた優秀な護衛です」

「う、うむ。それで、その………本当に、可能なのか?ビーストマンの侵攻を止める、というのは………」

 

 半信半疑に、竜王国宛にアインズがクレマンティーヌに書かせた書状に目を落としながら、ドラウディロンが問う。

 

「ええ、容易く。お望みとあらば、二度と攻め入れぬよう、滅ぼすことも可能です」

 

 ドラウディロンのみならず、彼女の宰相までもが息を飲む。

 

「如何なさいますか?異形との共存を望む慈悲深き魔導王陛下より、殲滅の許可は頂いておりますが」

「………厚意を無下にするようで申し訳ないが、やはり鵜呑みには出来ぬ。が、民の為を思えば、直ぐにでも力をお借りしたいのが本音だ。故に、アインツベルン殿」

 

 幼い外見を使う指導者は、真っ直ぐイリヤを見据えた。

 

「まず、奴らに奪われた三つの都市の奪還をお願いしたい」

「畏まりました。私の自慢の僕たちであれば、容易い事でしょう」

 

 静かに、そして自信満々に頷いたイリヤの目が、ホロウを捉える。首の無い彼は、しかし肯定の意を示すように、首の無い胴体を軽く縦に振る。

 

「ああ、陛下もご覧になられますか?―――我が僕の中で、最も性格の悪い者による、蹂躙劇を」

 

 イリヤの浮かべる笑みには、見るものを虜にする可憐さと、恐怖を抱かせるおぞましさが絶妙なバランスで同居していた。




次回、都市部でロボ・ホロウが大活躍。
新宿チックな活躍を上手く描ければいいなー、と思います………


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都市奪還戦の蹂躙劇

 食人の獣人、ビーストマンが蔓延る陥落した都市。そこに満ちるのは、人間………ではなく、上位者であるはずのビーストマンの断末魔。

 人間の十倍とすら形容される程の身体能力を誇るビーストマンを屠るのは、彼らの倍近い体高を誇る巨大な狼と、その背に座すデュラハン。スレイプニールすら凌駕する機動力で数多の建物の隙間を縫うように駆け、細い路地に逃げたところで、建物の上を通り過ぎる際に伸びてきた鎖で弾き出し、その命を刈り取る。

 

「グオアアアアアアッ!?」

「な、なん………ぎぎゃっ!?」

 

 体格以上に、レベルが違い過ぎる。圧倒的な機動力を以て建物をも利用し、駆け回るロボに追いつけるビーストマンは、一人として存在しない。神人と称される領域に近い位置にいるロボに、人間より強い程度の存在が勝てる筈が無いのだ。

 力任せに牙を剥くだけの肉食獣にも似た人を意に介さず、その速度と膂力で踏み潰し、轢き飛ばし、宙を舞う者は漆黒の大鎌でその身を両断する。

 

「ルル………オオオオオオオオオオッ!!!」

 

 絶対なる力。それを誇示するように、ロボが吼える。街全体に響く咆哮は、自身のレベル半分以下のレベルの魔獣であれば即座に支配可能な一部ガチャ産モンスターの保有スキル『王者の号令』だ。そしてその咆哮は、獣人系への強烈な恐慌作用を有している。

 

「ひっ、ひいいいいっ!!!」

「にっ、にげろおおお!!!」

「うわああああああっ!!!」

 

 絶望のオーラに当てられたように、ビーストマンたちが散り散りに駆ける。しかし、エルダー・バーゲスト・リーダー………長い歳月で力と知恵を増した悪霊犬は、それすらも蹂躙に組み入れる。街の各所に仕掛けられたディレイ・マジックによる即死効果が襲い掛かる事で、恐慌は一層激しいものとなり、外部を目指していた者たちは雪崩れるように都市の中枢部に集まる。

 そこからは、蹂躙だ。パニックで逃げ道を見失った獣たちは、より上位の獣によって狩り尽くされる。鎖が、鎌が、爪牙がビーストマンの体を八つ裂きにし、魔法による幻影が彼らを惑わし、恐慌状態をより深刻なものにする。

 噛み千切る事はしても、食らうことはしない。彼にとって、獲物とは弄び、殺すだけの存在。人間ならば憎悪を込めて、それ以外ならば純粋な加虐心と共に、玩弄し、惨殺する。生きる為にではなく、娯楽の為に殺す。それが、ロボ・ホロウの殺戮遊戯。

 

「オオオオオオッ!」

 

 固有スキル『バイティング・ハート』。一定範囲内の即死耐性を下げると共に、口腔の中にその範囲内の敵の心臓を出現させ、噛み潰す即死スキル。完全耐性は下げられないものの、それ以外であればチャンスが生まれる代わり、ロボ・ホロウでも24時間に一度しか使えない超大技。

 突如崩れ落ちた同胞を前に動揺する者たちを、ホロウの大鎌が刈り取る。鮮血と屍で埋め尽くされる都市を逃げ惑うビーストマンたちを、狩人たる狼と死神は逃さない。迫り来る『死』を前に本能のままに逃げ惑う獣たちが狩り尽くされるのに、そう時間はかからなかった。

 

-----

 

「なんと………」

「ロボはバーゲストの上位種でして」

 

 その光景をミラー・オブ・リモートビューイングで眺めるドラウディロンが言葉を失う中、イリヤは微笑みながらミュフィアが淹れた紅茶を楽しむ。

 

「羨ましいですね………次は、私にお任せいただけますか?」

「構わないけど………一人じゃ駄目よ?」

 

 メドゥーサを窘めると、あからさまに不満を露わにする。

 

「だって、本気モードで『ぷちっ』ってやるつもりでしょ?」

「ええ、まあ」

「大きすぎて街が大惨事になるじゃない」

「………ちぇっ」

「可愛らしく言ってもダーメ」

 

 あくまで気軽なやり取りを終え、イリヤがドラウディロンへと顔を向ける。

 

「如何、なさいますか?」

「そ、そうね………このまま、奴らを排除できれば、民も安心するでしょう」

「では、残りの都市は………スルーズ、ヒルド」

「ハッ」

「スルーズにはこれを。ヒルドは、オルトリンデと共に都市の奪還をお願い」

 

 オルトリンデに差し出したのは、三対六枚の羽根を広げ、錫杖を掲げる鎧の天使の黄金像。その翼の数々と錫杖、胴鎧には宝石が埋め込まれている。

 

「えっと、コレは………」

「第十位階魔法、アーマゲドン・ヴァーチューの八重発動が出来るアイテムよ。ウルベルトさんに貰ったコレを真似て、作ってみちゃった♪」

 

 笑顔でイリヤが告げる内容に、ドラウディロンとその宰相が顔色を変える。第十位階など、伝説レベルの魔法だ。それを込めたマジックアイテムを軽々と作れる少女の力量に、そしてそんなものを平然と使える彼女の器量に、強烈な驚愕を覚えた。

 

「しかし………」

「宝石は取り外せるよう作ってあるから、リサイクルは簡単よ。遠慮しないで使ってちょうだい」

「………畏まりました。必ずや、ご期待にお応えいたします!」

「いいなー………お姉様」

「あら、それじゃあ第七位階のサモン・エンジェルを封じ込めた主天使Verもあるけど?」

「ホント!?」

「ドミニオン・オーソリティでも余裕でしょうし、五体も呼べれば十分でしょ?」

「やった!よーし、オルトリンデ!一緒に都市奪還、頑張るぞー!」

「おー!」

 

 盛り上がる天使三人は、これから闘いに赴くとは思えないほどに明るい声で、軽い会話を交わしていた。



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絶望へのカウントダウン

(ビーストマンの)


「………呆気ない」

 

 無数のドミニオン・オーソリティの振う笏が、アークエンジェル系モンスターの薙ぐ光の剣が、プリンシパリティ・オブザベイションが叩きつけるメイスが、肉食のビーストマンを駆逐していく。スルーズの任された都市の規模を考えても圧倒的過ぎる数の暴力を前に、駐屯していたビーストマンは為す術を持たぬまま蹂躙されていく。

 

「そこの貴様!」

「はぁ?」

 

 遥か上空を飛ぶを飛ぶスルーズを何らかの手段で発見した身なりのいいビーストマンが、喉を潰さんばかりに吼えた。不快感を露わにするスルーズに構わず、ヒグマを思わせるビーストマンが叫ぶ。

 

「貴様に一騎討ちを申し込む!この俺が―――」

「はぁ………メテオフォール」

 

 無慈悲に隕石を叩きつけ、意を決し吼え叫んだビーストマンを殺害。

 

「主命は絶対。貴様ら野蛮な獣風情が、覆せるものではないと知りなさい」

 

 天使たちの殺戮は止まらない。命令のままに殺戮を命じる彼女を相手に、一騎討ち等申し込むだけ無駄なのだ。カルマ値が極善であろうと、ナザリック所属に違いない彼女は、あくまで命令を果たすことを好とする。都市奪還を目的とする彼女の行動を阻害する要因となれば、真っ先に削除するのが当然だ。

 

「天使たちよ―――至高の御方たるイリヤ様の命を阻む者に、死の制裁を」

 

 慈悲などない。自らの庇護すべき者以外に見せる冷たさは、異教徒を躊躇いなく殺戮する聖書の天使そのものであった。

 そして、同時に進むスルーズの管轄に比べ小規模な都市での殲滅戦。そこでヒルド、オルトリンデが取った手段は、端から数の暴力でビーストマンを都市の広場まで追い立てる手法だ。プリンシパリティ系の天使を山ほど呼び出し、敵の軍勢を一点に追い立てる。

 

「集まりましたね」

「オーケー!イリヤ様お手製の天使像の力、お借りします!」

 

 サモン・エンジェル・7thの五重発動。ビーストマンを追い込んだ広場を囲う様に出現したドミニオン・オーソリティへと、ヒルドは指示を下す。

 

「撃滅せよ!」

 

 五体の天使の手の中で、笏が砕け散る。それが意味するのは、彼らの使用可能魔法の強化。カルマ値の低さに応じ威力が増加する第七位階魔法、ホーリー・スマイト。魔神を倒したとされる一撃が、五発同時に襲い掛かる。

 単純な威力だけでも相当なものが、五発も。広場には大穴が開き、当然のように生存者はいない。彼ら基準での善悪は兎に角、数多の人を殺害したことで、性質を悪に決定づけられていたのだろうビーストマンらに、悪を滅する一撃に耐えられる筈がなかったのだ。

 

「さ、後は残存兵力の警戒と掃討かな?」

「ですね。仕損じが一体でも、脆弱な人間には脅威ですから」

 

 二人が天使に指示を下し、上空から都市を睥睨する。せわしなく動き回る天使たちは、片手で数えられる程度の生き残りを確実に仕留めていった。

 

-----

 

「………という訳で、竜王国との同盟までは秒読みじゃないかしら?」

『ご苦労だった』

 

 都市の奪還作戦を終え、夜になった為高位の魔獣に南方の警備を任せたイリヤは、竜王国に用意された個室でアインズと『メッセージ』によるやり取りをしていた。

 

『それはそうと、一つ報告だ。先日の学校の件だが、子供たちの宿泊施設を用意してなくてな。件の密集地に程々に近い邸宅を幾つか改装した』

「あー………よく気付いたわね。ありがと」

『ランポッサ殿のお陰さ。貴族ではなく、私の方から直接各都市や開拓村に、希望者を募る旨の書状を届けてある。次の春には、開校する予定だ』

「ふふ、魔導国初の一大プロジェクトね。成功させたいわね」

『全くだ。ああ、そうそう………竜王国でだが、侵攻軍への示威行為は行うのか?』

「ええ。私たちの力を誇示するのと、法国への牽制の為にね」

『なら、そうだな………『彼女』を連れて行け』

「『彼女』?」

『お前とタブラさんたちが、悪ノリで作ろうとしたルベド以上にタチの悪いNPCだ。忘れたとは言わせんぞ』

「………あー………結局、ビースト・マトリックスを突っ込む前に止められたせいで完成してなかったと思ったんだけど」

『え?いや、あの後、ビースト・マトリックスを使うこと以外は許可して、タブラさんたちが完成させてから設定を書き換えて、第四階層に封印してたぞ』

「え?第四階層の何処!?」

『湖の底だ。ガルガンチュアより、更に深い場所に沈んでいる』

「………オーケー。それじゃあ、潜って持ち上げないと」

『いや、起動手順なら教わっている。私も向かうから、ビースト・マトリックスを用意しておいて欲しい』

「………わかった」

 

 急ぎゲートを使いナザリックに戻ると、イリヤはその足で宝物殿に転移し、ビースト・マトリックスを回収する。それを抱え、第四階層へと転移。湖畔を見つめアインズを探していると、すぐ隣にゲートが現れた。

 

「ッ!………はぁ、おどかさないでよ………」

「すまんな。では、それを借りるぞ」

 

 一言謝罪すると共に、アインズがビースト・マトリックスを掴む。

 

「起動方法だが………フンッ!」

「ちょぉっ!?」

 

 全力でアインズに投げられた角付きカチューシャが、湖の中央辺りに派手に水飛沫を上げて沈んでいく。イリヤが唖然と見守る中、徐々に何かが浮かび上がってくる。

 

「Aaaaaaaaaaaa!!!」

 

 派手に水を散し現れたのは、間違いなく四人が協力して作ったNPC。それぞれがその場のノリと勢いで色々突っ込み製作した結果、決戦兵器に違わぬ怪物に仕上がったレベル100キャラクター。

 

「ティアマト・ザ・ビースト………」

「………見た目だけなら、普通なのだがな」

 

 背中にまで届くほどに大きく、湾曲した角を持つ竜人の少女が、アインズらの方に湖面を滑るように接近し、細い鎖で戒められた四肢をそのままに、恭順の姿勢を示した。




ティアマト・ザ・ビースト(竜人 レベル100)

 タブラ・スマラグディナ、るし★ふぁー、ウルベルト・アレイン・オードル、そしてイリヤの合作NPC。
 無差別決戦兵器、のコンセプトで作成され、設定魔、悪戯小僧、悪大好きの趣味をこれでもかと突っ込んだキャラクターとなっている。素ステも相応に高いが、ワールドアイテムを突っ込む前にAOGの面々に武力行使込みで止められた結果、不完全(製作者一同視点)なままに完成してしまったキャラクター。
 タブラの設定により、起動にはやや面倒なプロセスを経る必要がある上、ビースト・マトリックスの装備が必須となっている。ステータスは極限までHP、各種防御に振ったぶくぶく茶釜スタイルであり、そこにNPC作成支援アイテムも加わった結果、異常なタフネスを有している。
 真の姿でビースト・マトリックスを発動しようものなら、ウルベルト曰く『怪獣映画顔負け』な光景になるだろうと言われている。


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解き放たれる災厄

 翌日、竜王国へのビーストマンの侵攻は鳴りを潜め、一時の平静が戻っていた。

 

「………猛烈に嫌な予感がするのぉ」

「でしょうね。戦力を集めて、一気に攻勢に出るのかしら?」

「成程………それを見越して、アインズ様直々にご来訪なされたのですね」

 

 ドラウディロン、イリヤ、アインズがテーブルを囲う。アインズの来訪に相槌を打つのは、スルーズ。他の者たちは南方の警戒、及び都市復興の支援の為に出張っている。

 

「それもあるが、次のビーストマンの侵攻に合わせ、人間至上主義を謳い、我らと矛を交え得るスレイン法国への牽制も行う予定だからな。最高戦力の一角を投入する以上、万一に止められる私が出向くのは当然だろう」

 

 アインズが持つロールプレイ職の極致とも言える『エクリプス』のスキルであれば、耐性貫通での即死が可能。十二秒という時間を要するとはいえ、蘇生魔法等の手段を持たないティアマトを倒す上ではこれ以上ないくらい有効な手段だ。

 そして、当のティアマトは胸の前で両手を重ね、静かに目を閉じている。俗に言う、スリープモードである。

 

「………彼女が、最高戦力………?」

「ああ。私の仲間たちが残した、切札の一つだよ」

 

 あの時の騒動を懐かしみながら、アインズが微かな笑みを零す。

 

『………何、してるんですか?』

『あ、やべ』

『るし★ふぁーさん、今『やべ』って言いましたよね?タブラさん、ウルベルトさん、目を逸らさないで。イリヤさん、正直に言ってください。何を、して、いるんですか?』

『………グレーター・テレポーテーション!』

『あ、ちょっ!?………たっちさん、緊急事態です!るし★ふぁーさんがやらかそうとしてます!よりによって、ビースト・マトリックスで!ウルベルトさんやタブラさんと一緒に!』

『皆に声を掛けたら、すぐ行きます!』

「………ああ、本当に。あの時の騒動も、今となってはいい思い出だな」

 

 アインズの手が、ティアマトの頭を優しく撫でる。くすぐったそうに笑い、目覚めた彼女はそのアメジストにも似た明るい紫の瞳を輝かせ、アインズに擦り寄った。

 小動物チックなその動きは、タブラ・スマラグディナの設定の一つ『小動物属性』によるもの。起動者に対し、人懐っこい猫のように振舞うと共に、その人物を明確な『飼い主』として認識し、従順に従う。ちなみに、ウルベルトの加えた設定により、ナザリックとその関係者以外へは無関心であり、滅ぼすことも辞さない、という設定が加わっている………のだが、タブラ・スマラグディナが何を思ったのか、『無関心』を『恐怖心』と書き換えている。

 

「お、おお!?」

(コレ、絶対タブラさんの仕業だろ!?何やってんだ、あの人!?)

 

 動揺し、沈静化されるアインズを見て、イリヤがくすくすと笑いを漏らす。

 

「イィィィィリィィィィヤァァァァ!?」

「その子についてはあまり知らないわよ~?」

 

 声を荒げるアインズと、それを笑って流すイリヤ。絶対者二人のやり取りにスルーズは慌て、ドラウディロンは感情を露わにしたアインズに対し、微かながらも警戒心を薄れさせた。

 

-----

 

 竜王国にアインズが現れた翌週。復興支援、同盟等についての取り決めの会談を終えた彼らを待ち受けたのは、南方のビーストマンの大軍勢の出現の報。竜王国お抱えのアダマンタイト級冒険者、クリスタル・ティアの面々すらも死を覚悟する程の軍勢の出現の報を受け、真っ先に動いたのはエリザ。

 クリエイト・フォートレスで侵攻を防ぐ壁を作り上げ、示威行為へと備えた。

 

「ご苦労であった、エリザベート・サカーニィ。後日、望む報酬を用意させよう」

「ありがとうございます!」

 

 全力で尻尾を揺らし、エリザが感謝の意を示す。鷹揚に頷いたアインズはフライの魔法で城壁の上へと飛ぶ。続けてイリヤがティアマトを伴い転移すると、他の者たちも思い思いの方法で城壁の上へと来る。そこには、ドラウディロンの姿も。

 

「………ふむ、随分と数を集めたものだな」

 

 その軍勢を睥睨し、アインズが漏らす。目と鼻の先に迫った大軍を前に、ドラウディロンは完全に言葉を失い、顔を蒼白にしている。これまでの侵攻軍とは比べ物にならない数だからだ。

 仮に、攻め込まれてしまえば、竜王国は一日と持たないだろうと容易く予想できる数だが、アインズらには大したことは無い。寧ろ、アインズとイリヤは興奮を覚えてすらいた。何せ、自分たちの切札の一つの真の力を見れるのだから。特に、イリヤの場合、『あの姿』も再現している為、より昂っているのだろう。

 

「ねえ、アインズ。はやく、はやく!」

「そう急かすな………ティアマトよ。お前の真の力、私に見せてはくれないか?」

「AaAaa!」

 

 ティアマトが身投げするように、城壁から落ちる。そして、数秒と経たず見あげる程に巨大な人型の異形が現れる。それこそ、彼らではその肉付きのいい臀部と硬質な外殻に覆われた尻尾、異常なまでに巨大化した角以外見えないほどだ。

 だが、それすらも未だ序の口。真なる姿へと変貌を遂げんと、ティアマトが前方に倒れ込む。人間的な細い腕は肥大し、ネコ科にも似た太く短い指と鋭利な爪を持つものへと変わる。細長かった異形の足は肥大し、変化した尻尾のように先が枝分かれした触手の塊へと半ばから変貌を遂げる。

 その肩からは、四つ這いになったその身を隠せるほどに巨大な翼を生やし、可憐な少女そのものであった顔は、喉元まで大きく裂けた口と立ち並ぶ禍々しい牙、禍々しく歪んだ双眸に、顔の端殆どを覆う黒い輝きを帯びた甲殻に覆われ、原形を残さない。

 

(………うっそぉ)

 

 僕たちすら愕然とし、アインズまでも大口を開けて固まる中、イリヤは一人歓喜に包まれていた。アニメという映像媒体で見ることが出来ぬまま死んだ彼女が求めた、静止画とはまた違った威容。使用者に合わせ巨大化したワールドアイテムにより形作られる異形のドラゴンこそ、彼女が愛するタイプムーンの世界観においても屈指の力を持つ存在。

 

「すごい………すごいわ!………これが………」

 

 ―――原罪のⅡ。回帰の獣。

 その呟きは、声とならず虚空に消える。その圧倒的過ぎる威容を前に、興奮が勝ってしまい、声にならなかったのだ。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

 巨体に、禍々しい姿に似合わぬ、可憐な声。ネガ・ディーヴァのスキルによる広範囲へのデバフを伴う威圧の声と共に、原初の海の権能の限定的な再現を可能とするワールドアイテムが、その力を発動した。




ティアマト(竜態)

 まんま七章ラストのアレ。ユグドラシル時代はそこまで大きい予定はなかったものの、イリヤの希望で設定上のサイズをワールドエネミー級に設定した結果、転移後の世界では七章の再現とばかりの巨体に。
 なお、翼で飛べる。


飛 べ る !


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大地に満ちる魔獣

 咆哮と共に、ティアマトのあらゆる動作から攻撃判定が消える。元がカチューシャとわからぬほどに巨大化したビースト・マトリックスの角から黒泥が溢れ出し、地に落ち、広がる。その液体を突き破り現れるのは、レベル80を優に超える魔獣の数々。バイコーン、フェンリル、イツァム・ナー、ヨルムンガンド、テスカトリポカ、ケルベロス、バシュム、ウガル………魔獣どころか神獣とも呼ばれる最上位のモンスターが湯水の如く溢れ出し、ティアマトであろうとビーストマンであろうとお構いなしに襲い掛かる。

 

「こ、れは………」

 

 ドラウディロン以外の者たちも、言葉を失っている。アインズですら、目の前で起きている事態に嫌な記憶………物量で勝る数多の上位ギルドが撤退を強いられた獲得クエストの時の苦労を思い出し、顔を顰めているのだ。

 そんな中、イリヤが言葉を失っているのは、感激から。ラフムでこそないものの、相手が受けている絶望感はリアルタイムでFGOの一部七章を攻略していた時以上だろう。その光景をアニメという映像媒体で視れなかった無念が、こうして直接見れる事実が、彼女の琴線に触れたのだ。

 

「AAAaaAAAaaaa―――!!!」

 

 ネガ・ディーヴァのスキルで、咆哮と共にデバフを撒き散らしながら、ティアマトの巨体が宙を浮く。過去、攻略した際に得た情報からビースト・マトリックスで召喚された魔獣の性質を熟知していたアインズは、咄嗟に叫んだ。

 

「ワイデン・マジック!フィールド・アンノウアブル!」

 

 広域への隠密魔法を行使し、姿を隠す。ビースト・マトリックスの召喚魔獣は、防御能力や特殊耐性は高いものの、索敵能力はそこまででも無い。また、防御力、HPの低い相手を優先して狙うAIが組まれていたのがここでも生きているらしく、隠密化を行えば、完全に標的がビーストマンへと向いた。

 

(………タブラさん、ウルベルトさん、るし★ふぁーさん。イリヤさん共々、なんつーもん作ってるんですか………)

 

 アインズは内心呟きながら、既に遥か遠くまで逃げ去っているビーストマンを見つめる。既に視認も難しい程に遠い彼らは、当然のようにステータスで勝る魔獣から逃げ切れず、噛み千切られ、踏み潰され、叩き潰される。

 そして、一番恐ろしいのはバシュムとヨルムンガンドだろう。毒への耐性が皆無なのだろうビーストマンは、彼らを筆頭とする一部の魔獣が撒き散らす劇毒をその身に受けると、口から、鼻から、目から血を流し、肌を腐らせ息絶える。その屍は無残に踏み散らかされ、大地にばら撒かれるのだ。

 

「AAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

 ネガ・ディーヴァのスキルは、声の届く限り何処まででも効果範囲は広がる。スキル『絶望の歌』が齎す恐慌効果がビーストマンへと波及し、獣の本能を狂わせる。恐怖に理性を砕かれ、本能による逃走ではなく狂乱に至った哀れな獣人たちは、生粋の魔獣どものいい餌だ。

 ある者は力で、ある者は毒で命を奪われ、その屍に魔獣が群がる。極めて高い毒への耐性を持つ彼らは、毒に侵された屍であろうと、遠慮なく貪り喰らい、次から次へと殺し、その胃袋へと死肉を詰め込む。

 

「そろそろか………ゲート」

 

 いつの間にか奇妙なガントレットを装備していたアインズがゲートを開くと、そこからミュフィアが現れる。

 ビースト・マトリックスの魔獣召喚効果は最低でも六十分継続される。それより早く殲滅が終わるのは想定内であるし、そこから先、彼らの牙が遠くに向き過ぎると、後々笑い話にも出来ないような大惨事として跳ね返ってくる可能性まである。

 そこで有用なのが、彼らの性質。より弱い者を狙う性質を利用すれば、こうしてこちらに目を向ける事も不可能ではない。

 

「絶望のオーラ、レベルⅠ」

 

 単純な示威行為といえど、魔獣の気を引くには十分。そして、彼らの嗅覚は、絶対者の隣にいる弱者を捉えた。

 

「ルルアアアアアアアッ!!!」

 

 大地を埋め尽くすほどに存在していたビーストマンを、血以外残さず食らい尽くした魔獣の群が、エリザの魔法で作り上げられた城壁へと迫る。幸いにも容易く崩されないよう、アインズが魔法で支援するものの、空からの襲来には対応できない。

 

「―――バーサーカー!」

「■■■■■!!!」

 

 神器級の弓、ナイン・ライブズを構え、バーサーカーが飛行型魔獣を撃墜する。高い魔獣特効効果を持つ武器が、スカディの、イリヤの魔法が魔獣を撃ち落とし、アインズ、イリヤが城壁の維持に専念する中、永遠にも思えた時間が終わりを迎える。

 60分の経過………ビースト・マトリックスの効果解除が可能となったのだ。

 

「ティアマト、ワールドアイテムの使用を停止、素早く退避せよ!イリヤ、皆を連れて退避せよ」

「りょーかい!ゲート………さ、皆さん、入った入った!」

 

 イリヤに促され、僕たちと共にドラウディロンが姿を消す。イリヤ、スカディがあらゆるバフをかけてからゲートが閉じたのを確認したアインズは、城壁が消え去った大地に一人降り立つ。防御ガン振りのティアマトに比べ脆いアインズに魔獣が殺到する中、彼は切札を切る。

 

「絶望のオーラ、レベルⅤ!」

 

 オーバーロード取得済みで、かつネクロマンサー系職業スキルを含めた合計レベルが95で取得可能な超特殊職、エクリプスの最上位スキル。絶望のオーラⅤの即死効果は、現れない。アインズの背後に現れた時計の秒針が時を刻む中、アインズに群がった魔獣が牙を突き立てんとする。幾重にも行った強化のお陰で減少量は少ないとはいえ、HPがゴリゴリ削れるのは気分のいいものではない。

 

「残念だが、お前たちの敗けだ」

 

 スキル『The goal of all life is death』の発動。

 即死耐性貫通効果をスキル、魔法に付与するスキルにより、絶望のオーラⅤがあらゆる魔獣の命を刈り取った。そして、減算されていない経験値もしっかり獲得可能で、青白い光球状のそれらは全て、彼が持ち出したワールドアイテム『強欲と無欲』へと吸い込まれ、蓄積された。



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休日だと思ったら

 竜王国との同盟締結をアインズが行うとして、半ば強制的に帰らされたイリヤは、第九階層の自室でくつろいでいた。一番疲労しているのはアインズだろうに、種族特性のお陰で無視できるから、と休暇を言い渡されているのだ。

 

「んー………街に出よ」

 

 私服に着替え、ハンドバッグ、各種保護効果を持つマジックアイテムを持ち、部屋を出る。メッセージで護衛の名目のもと、オルトリンデに声を掛けながら、そのまま広大な廊下を足取り軽く駆け、食堂の扉を開く。

 

「ミユ、いるー?」

 

 一般メイドの中で、一際小柄な為よく目立つ。ミュフィアが顔を上げる中、他のメイドから羨望の目が向けられる。

 

「っと………よし、ホワイトブリムさんに貰ったこれで決めよ」

 

 ホワイトブリムお手製ルーレット。一般メイド全員の名前が入ったルーレットで、彼がその日の気分で私室に置くメイドを決めかねた時などに使われていた代物だ。彼が引退するにあたり、イリヤに譲渡されたアイテムでもある。

 

「皆、集まってー!」

 

 一人で街に出るのは寂しいから、と同行者を募ろうと、イリヤはメイドに声をかけた。皆が集まったのを確認し、イリヤは手帳とボールペンを用意して、皆を見回す。

 

「これから外に行くんだけど、私一人じゃ寂しいから、護衛の外に三人、皆の中から来てもらおうと思います」

 

 メイドたちが、至高の御方たるイリヤと共に出歩けるという事実に歓喜を滲ませる。外界への恐怖、嫌悪はあれど、それを捨てられる程度には、彼女とのお出かけは魅力的であるのだ。

 

「で、その三人は………ホワイトブリムさんお手製ルーレットで決めたいと思いまーす!」

 

 ごくり、と生唾を飲んだのは、誰だったか。アインズが外出している今、アインズ様当番は機能していない。必然的に、全員に平等にチャンスがあるのだ。

 二回、音を立ててルーレットが回転する。誰もが息を飲み、固まる中で、イリヤが声高らかに名前を告げた。

 

「シクスス、アイネス………ミュフィア」

 

 名を呼ばれた三人が喜びを、他の三十九人が無念に歯噛みする。

 

「次は他のみんなから選ぶから、安心して」

 

 イリヤが手帳に三人の名を書き記し、ルーレットと共にハンドバッグに放り込む。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「「っ、はい!」」

「畏まりました」

 

 シクスス、アイネスの二人が満面の笑みで、ミュフィアが控えめな笑みで応じ、イリヤが生み出したゲートをくぐる。王城のふもとには、既にオルトリンデが待機している。

 

「ありがと」

「いえ………それで、本日はどちらへ?」

「んー………そうね。少し、街を見て回りましょう」

「ナザリックに遠く及ばぬ、取るに足りぬ地を、ですか………?」

 

 アイネスが顔を曇らせるのを、イリヤは優しく微笑みながら諌める。

 

「こういうのは、見て愉しむものなの。質の良し悪しなんて、些細な問題なのよ」

「そ、そうなのですか………申し訳ありません、私としたことが」

「いいのいいの。わかってくれれば、それでね」

 

 イリヤが足取り軽く踏み出し、それに護衛のオルトリンデ、一般メイド三人が続く。ラナーにも匹敵する美貌の持ち主である以前に、魔導王の側近たるイリヤの関係者ということもあり、ナンパ等を行える人間もいない。向けられるのは欲望交じりの不躾な物ではなく、畏敬を込めた視線だ。

 

「流石、至高の御方………」

 

 シクススが感激を露わにする中、イリヤは悠然と街を歩む。善政を敷き、王都の人々に数多の益を齎した、魔導王の右腕。実際は、彼が対等に話せるこの世界で唯一の存在なのだが、それを知る者はナザリックにもいない。

 

「お?アインツベルの嬢ちゃんじゃねえか!」

 

 そこに堂々と声をかけたのは、巨漢にも見える筋肉質の女性。

 

「あら、ガガーラン、だったかしら?」

「覚えていてもらえるとは嬉しいねえ。八本指の件でもロクに顔を合わせてなかったもんだから、忘れられてたらどうしようかと思ったぜ?」

 

 蒼の薔薇の一人、ガガーランと、イリヤが気安い口調で語り合う。イリヤの眷属の中でも柔軟な部類に入るオルトリンデは、主が許容しているのを確認して、夜や不快感を滲ませるメイドたちにこっそり耳打ちする。

 

「あの方に、イリヤ様は気を許されているようです。くれぐれも、不用意な発言はお控えください」

 

 オルトリンデがフォローする傍らで、イリヤとガガーランは世間話に花を咲かせる。

 

「にしても、まさか貴族になって、そこから王様にまでなっちまうとはなぁ。アインズ・ウール・ゴウンだったか、本当にすげえよな」

「でしょ?」

「ああ。おまけに孤児院、次の春には読み書きやらを教える学校まで開くと来た!アンデッドへの認識が丸っと崩れちまいそうだぜ!」

 

 そんな二人の会話に割り込むように、声が上がった。

 

「ガガーラン、こんなところで油を売ってたのか」

「んだよイビルアイ、お前さんも暇だろ?」

「………緊急だ。ティナの奴がヘンな目で孤児院を見てたとかで、警備員に取っ捕まった」

「………何やってんだ、あの馬鹿………」

(あー、孤児院の警備となると………ユリかな?)

 

 ガガーランが頭を抱えるのを尻目に、イリヤが眉間を揉む。

 

「………私も行くわ。孤児院の結界を強化しないと」

「ウチの馬鹿が申し訳ない………」

 

 イビルアイ、ガガーランの二人が本気で頭を下げるのを前に、イリヤは苦笑するしか出来なかった。




速報:蒼薔薇のショタコン、眼鏡のお姉さんに捕まる。


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支配者たちの安息

 イリヤたちが到着した頃、孤児院の一室にはご丁寧に縛り上げられたティナと、ユリ、ペストーニャに必死に頭を下げるラキュース、ユリをやや危ない目で見つめるティアと、二人を見て面白そうに笑うラナー、困惑するクライムという、混沌とした空間が出来上がっていた。

 

「あ、イリヤ様………」

「あら、イリヤさん。お邪魔していますわ」

「構わないわよ。ヴァイセルフ家は、出資者の一角ですもの」

 

 ラナーに鷹揚な笑顔で応じ、イリヤはペストーニャへと向き直る。半目でミノムシの如く縛り上げられたティナを睨みながら、問い掛ける。

 

「被害者は居ないのよね?」

「いえ、何人か恐怖を感じたとのことで………ユリ様に拘束していただきました。あ、ワン」

 

 その言葉と共に、ティナへと突き刺さる視線が険しさを増す。

 

「貴女ねえ………」

「つい、ムラムラして」

「わかる」

「わからないで!………本ッ当に、申し訳ありません!」

 

 直角に腰を折り、ラキュースが全力の謝罪をする。続けてガガーラン、イビルアイも頭を下げ、イリヤが許したことで何とかティナが解放される。

 

「とりあえず、侵入に備えて攻性防壁でも仕掛けましょう………トゥルー・デスでいいかしら?」

「とぅるー、です?」

「第九位階以上の蘇生魔法以外で蘇生不能になる即死魔法」

「物騒過ぎない!?」

 

 つまり、ラキュースの使える蘇生魔法では蘇生不可能ということだ。ハッキリ言って、オーバーキルもいいところだ。

 

「んー、けど、それなりに火力がある方がいいじゃない?」

「いや、同意を求められましても………」

 

 王族の座を退いたラナーの護衛であるクライムが、困惑気味に応じる。視線で意見を求められたラナー、軽く考え込み、可愛らしく首を傾げながら答える。

 

「もう少し致死性が低くて、かつ示威効果のある魔法がいいのではないかしら?」

「んー………ドミニオン・オーソリティでも警備につける?」

「魔神を倒した天使をここまで平然と使うって………」

 

 イビルアイが改めて相手の桁違いっぷりに愕然とする中、ラナーが静かに頭を振る。

 

「いえ、そこまでは………もう少し、小回りの利く天使を数配備する方がよろしいかと。一番厄介な侵入者が彼女でしょうから、あの巨大な天使では少々難しいかと」

「げっ」

 

 ティナが呻く中、無慈悲にイリヤは警備員として天使を運用することを決定した。

 

「となると、機動力に長けたアークエンジェル・ストームがいいかしら?あと、索敵に長けたアークエンジェル・ガイアもいいわね………」

「イリヤ様、本日はご休息の時でしょう?それは後に回しても問題ないのでは?」

 

 オルトリンデの言を受け、イリヤははっと目を見開く。傍らで控えるメイドたちに目を向け、申し訳なさそうに笑う。

 

「そうね。ごめんなさい、ユリ。そういう訳だから、」

「いえ!ご休日と知らず、お力添えを求めてしまい、誠に申し訳ございません!罰であれば」

「いいのいいの。私が勝手に首を突っ込んだだけだから………あ、じゃあ、アインズには黙ってて貰える?怒られちゃうから」

「はい!」

 

 威勢よく答えたユリに微笑みかけ、イリヤは一礼する。

 

「そういう訳だから、私たちは失礼するわ。くれぐれも、しっかり監視しておいてね!」

 

 笑顔で残し、イリヤがシクススとアイネスの手を引き、部屋を出る。ミュフィアとオルトリンデもそれに続き、部屋を退出した。

 

-----

 

 イリヤの休日は、孤児院の事態を除けばごく平穏に終わった。

 また、アインズも無事竜王国との同盟を結び、イリヤが休んでいる時間には帰って来ていた。そして、彼は精神的疲労を押して、唯一素で話せるイリヤの部屋へと向かった。

 

「イリヤ」

「入っていいわよー」

 

 促され、アインズは扉を開ける。その先には、一対の翼を持つ天使像の数々と向き合うイリヤの姿。

 

「それは?」

「ああ、蒼の薔薇の変質者を前提とした孤児院の警備システムをどうにかしようかと思って………」

「ああ、成程。その、変質者ってのは?」

「忍者」

「となると、隠密に長けてそうですね………孤児院にアンデッドは宜しくない以上、やっぱり天使ですかね?」

「後は、探知に長けた比較的小型の魔獣ねー………いたっけ?」

「んー………ウリディンム?」

「ああ、アレは大人と同程度の体高でしたか………アウラに教育させておきましょう」

「そうね。テイミングスキルの高さで言えば、アウラがトップだもの」

 

 息抜きのはずが、内政に関する話になっていることに気付き、モモンガが苦笑する。

 

「いけないいけない。お休み中でしたね」

「いいわよ。この程度なら、大して頭も使わないし」

 

 ほっ、と息を吐き、イリヤが悪戯っぽく笑う。

 

「どーせだし、リラックスしに行かない?お風呂、とか」

「お風………ぶっ!?ちょっ、何言ってるかわかってるんですか!?」

 

 盛大に狼狽えるモモンガに、楽しそうにイリヤが笑いかける。

 

「ちょーっとー。一緒に入る、とは一言も言ってないわよ?」

「え?あ、ああ、そうでし―――」

「で・も」

 

 イリヤが妖しく微笑み、顔を近づけ、耳元で艶っぽい声で囁く。

 

「モモンガが一緒に入りたいなら、いいけど?」

「いやいやいや、普通に考えて不味いでしょ!」

 

 イリヤが揶揄っていると判ってはいても、モモンガは盛大に狼狽え、気疲れしてしまう。

 イリヤ自身は、モモンガが望むのなら別に構わないと思っているのだが。

 

「けど、別々のお風呂じゃ話すのも一苦労じゃない?………なんてね。一緒にお風呂に行きましょ。壁越しでも、メッセージを使えば簡単に話せるものね」

「最初っからそう言ってくださいよ………もう」

 

 盛大に息を吐くモモンガは、微かに名残惜しそうなイリヤの顔に気付かなかった。



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アダマンタイト級への調査依頼

「………アゼルリシア山脈の調査?」

「そうだ。ジルクニフ帝によれば、かつてはドワーフとの交易があったそうなのだが、長らく途絶えているらしくてな。あちらで面白い掘り出し物がある、と誘われて見に行ったのだがな。ああ、確かに面白い掘り出し物だった」

「………ああ、コレクターの血が騒いだのね」

 

 納得を示すイリヤに、アインズは苦笑する。コレクター気質を理解するイリヤは苦言を呈することはないものの、アインズはつい、言い訳染みたことを口にしてしまう

 

「仕方ないだろう。それに、交易が途絶えた理由次第では、技術の復元も可能やもしれんからな」

「成程ねー。王様直々に出向くのかしら?」

「いや………モモンとナーベ、そしてクロエに依頼する。当面は大事も無かろうし、内政はパンドラズ・アクターにでも任せるさ」

「あら、それはそれは。有事の際は、メッセージでの情報伝達を徹底させないとね」

 

 アインズとしては久々の息抜き、イリヤにしてみれば、未知の領域への旅立ち。そして何より、未知の技術の調査。大きなメリットしかない提案を、蹴るはずがなかった。

 

「あ、折角ですし………」

 

-----

 

「入りなさい」

 

 アルベドの命に従い、八人がアインズに扮したパンドラの待つ玉座へと踏み込む。『漆黒』のモモン、『美姫』ナーベ、『小悪魔』のクロエ、そして『蒼の薔薇』の五人だ。

 

「うむ、よく来てくれた。先ずは、礼を言おう」

 

 傍らに控えるキングハサンが、静かに告げる。心臓に悪いおどろおどろしい声に蒼薔薇の面々が気圧される中、ボロを出しかねないパンドラに代わり、大剣を杖の如く床に突き立てる幽鬼は告げる。

 

「貴殿らには、アゼルリシア山脈に存在するとされるドワーフの国についての調査を頼みたい。帝国とは長らく国交が途絶えてるとのことだが、彼の国から帝国に流れていたルーン武器なる物に、魔導王陛下は興味を示された」

「つまり、技術の無事を確認した上で、彼らとの交易を可能にせよ、と?」

「否。あくまで、貴殿らに求めるのは調査だ………だが、ドワーフが危機に陥っているのであれば、敵対勢力との交戦も止むを得まい」

「承りました」

「蒼の薔薇も、その依頼を受けさせていただきたく思います」

 

 モモンが受諾の意を示すと、ラキュースも続いて依頼を受諾する。パンドラが頷くのを確認すると、キングハサンが指示を出す。

 

「外に、移動用の馬車とこちらから支給するアイテムを用意させてある。案内しよう」

 

 キングハサンに続き、八人が部屋を出る。そうして王城を出た先には、極めて希少な白いスレイプニール三頭の引く馬車が二台。

 

「荷台に、こちらから支給したアイテムを載せてある。好きに使え」

 

 それだけ告げると、その場から消えるように立ち去るキングハサン。呆気に取られるラキュースらだが、モモンらが動き出すのにつられ、そのまま馬車へと乗り込む。全員が乗り込むと共に、計六頭のスレイプニールが駆け出した。

 

-----

 

「モモン殿、提案がある」

 

 夜。山脈の麓で、馬車を降りたモモンらへとイビルアイが告げる。

 

「このスクロールには、どうやら第七位階の転移魔法が込められているらしい。そして、私はかつてドワーフの国に行ったことがある」

「………つまり?」

「コレを使い、一気に王都まで飛びたい………が、万一の可能性もある。そこで、そちらの荷物にも同じものがあるか、念のため確認しておきたいんだ」

「これの事?」

 

 クロエがイビルアイに差し出したスクロールは、彼女が持つものと同じものだ。

 

「これは………!感謝する。では明朝、私が使おう。それまで、どうか英気を養って欲しい」

 

 イビルアイが去ると共に、モモンは馬車の中に戻りアインズへと戻る。

 

「これは好都合………と言いたいが、どうなのだろうな?」

「ドワーフの国が無事なら、それでいいんじゃない?万一の場合、もう一枚で撤退して、って手もあるし」

「アインズ様」

「モモンだ」

「失礼しました、モモンさん。あのガガンボの言うままでよろしいのですか?」

「一番手早く、かつ詳細な状況を知るにも、王都がベストだろう。使えるものは、全て使うまでだ。それに、万一の備えはある」

 

 アインズが取り出したのは、支給品である500円ガチャのハズレアイテム。

 

「問題が無いなら、王都に戻って改めて王として出向けばいい。問題があるとしても、ある程度までならどうにかなる。最悪の場合、姿を現す羽目になるが………彼女らなら問題なかろう」

 

 今回出向く先は、未知の領域。気分としてはやや軽めでも、警戒はしっかりしている。

 

「ま、アインズが言うなら心配はいらないわよ。ほら、ナーベも休みなさい。休憩不足でヘマやらかしたりしないとも限らないし、ね?」

「畏まりました」

「あ、折角だし、一緒に寝ましょ?」

「そ、そんな畏れ多い真似など!?」

「じゃーあー………命令。一緒に寝るわよー!一人だけ寝るっていうのも、何か罪悪感あるし」

 

 ソファにも似た背もたれ付きの長椅子に、ナーベと共に寝っ転がるクロエ。ナーベが驚き、困惑、羞恥、そして歓喜の入り混じった何とも言えない表情を浮かべる中、クロエは彼女に構わず、眠気に身を任せた。



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その心は

 イビルアイがスクロールの魔法により転移した先は、ドワーフの王都『フェオ・ベルカナ』に存在する王城の中だった。王城に転移するとは思わなかったモモン、クロエが目を剥くも、それ以上の脅威が目前に現れたことで、驚愕する暇も無かった。

 

「ドラゴン!?」

 

 蒼白の鱗を持つ、蛇を思わせる細身のドラゴンが四頭。

 

「フロスト・ドラゴンだと………!?」

「これは、骨が折れそうだ」

「勘弁してくれない?流石にフルプレートの剣士様を運ぶのは無理よ」

 

 二人が得物を抜き、腰を落として構える。幸いにも、レベル30相当の戦士程度でしかない二人でも倒せるレベルの相手だが、イビルアイの一言が二人に緊張を齎す。

 

「これだけの数………まさか、フロスト・ドラゴン・ロードもいるとは言うまいな?」

(ドラゴン・ロード?)

(まだ上がいるのか?)

 

 つい、武器を握る手に力が入る。

 

「一度、退くか?」

「………どう思う、イビルアイ」

 

 ガガーランに意見を求められ、イビルアイが答える。

 

「コイツらだけなら、これだけいれば勝てる。だが、ロードがいた場合、ソイツ次第では―――」

「小さき者が………我が城を汚してくれるなよ、下等生物ども」

「あ"?」

 

 ナーベが青筋を浮かべ、声の方を睨む。そこにいたのは、蒼白というには白すぎる竜。それに続くように、更に三体の、やや青みが強い竜が現れた。

 それらと睨み合う中、冷静な声色でイビルアイが告げる。

 

「………一体一体は私より弱い。が、数が数だ………やや不利、か」

「ごちゃごちゃと………我が城を穢した報い、受けて貰おう、小さき者ども!」

「ごちゃごちゃと喚くなよ、ウジムシが………!」

 

 低い声で罵りながら、ナーベが激情を露わにする。その中で、クロエは一人、冷静に思考を巡らせる。

 

(単純な能力値の差で言えば問題ないでしょうけど、私は戦士職としては脆すぎる。ドラゴン種とのステータスの伸びしろの差も考えると、あまり貰い過ぎない方がよさそうね)

 

 吐き出される冷気ブレスから逃れるべく、一斉に飛び退く。そこにすかさず大口を開けて迫るドラゴンの口へと、牙を躱しながら飛び込み、ブレスを吐かれるより先に喉笛を裂き、脱出するとともに絶命させる。

 

「おのれ、よくも!」

 

 大剣でドラゴンの首を落としたモモンと、双剣で内側から首を裂いたクロエに、ドラゴンのヘイトが集中する。他の二頭を蒼の薔薇の面々が抑える中、モモンとクロエに四体のドラゴンの殺意が集中する。

 

「よくも我が子を!」

「―――ッ!」

 

 憤怒に、僅かばかりの悲しみの交じった声。悲嘆のみの嘆きでこそ無かったものの、微かな悲しみの色が、彼女の生前の最期を思い起こさせた。

 

『●●?●●!お願い、死なないで、●●!!!』

 

 両目から涙を零しながら、必死に自分の名を呼ぶ母の姿が、ドラゴンと重なってしまった。それと同時に、あの時の………体の感覚が消え、自分が消える感覚を思い出してしまい、体が強張る。それにより、回避行動に支障が出てしまった。

 

「ぐ―――ッ、がはっ!?」

 

 その尻尾が、HP、防御共にレベル100帯では最低クラスのイリヤの腹を打ち据える。派手に壁に叩きつけられ、肺の空気が全て体外へと叩き出される。必死に呼吸を整えようとする中、我が子を失った雌ドラゴンの顎がクロエへと迫る。

 防御力が低くとも、HPの量から見れば、大したダメージで無い。だが、痛みは当然ある。苦痛で動きが鈍っているクロエに、それを避ける術はない。

 

「イリ―――」

「トリプレット・マキシマイズ・マジック!」

 

 モモンが我を忘れ叫ぶ。それより早く、ナーベとしてではなく、ナーベラル・ガンマとして叫ぶ。絶対の忠誠を捧げる、かけがえのない至高の御方たるイリヤに蛮行を働く者を、捨ておくなんて出来なかった。

 

「チェイン・ドラゴン・ライトニング!!!」

 

 激情のままに最高出力で放たれる三体の龍型の雷光は、フロスト・ドラゴンへと纏わりつくと共に、数秒と経たずその身を灰燼へと変え、そのまま残り二体のドラゴンをも焼き尽くす。

 

「ナーベ!」

「申し訳ありません、モモン様………いえ、アインズ様」

 

 彼女が想起するのは、冒険者業の中で共に旅を重ねたことで深く知ったイリヤの人柄。クロエという名目で、本来の姿を見せていたイリヤと触れ合い続けたナーベラルは………自分がアインズの命令より、イリヤ個人を優先している現状に戸惑いながらも、冷静に受け入れていた。

 

「あ、アインズ!?」

「まさか、そんな………」

「罰であれば、如何なるものでもお受けしましょう。ですが、どうか」

 

 冒険者としての簡素な物から、戦闘メイド『プレアデス』の一員としての戦装束へと変わる。その装備の質を一目で見抜いた蒼薔薇の面々は絶句し、モモンことアインズは、クロエことイリヤは、彼女の行動に言葉を失っていた。

 

「下等生物風情が………!その矮躯を叩き潰し、鎧を我が財に加えてくれるわ!」

「それはこっちの台詞だ、ゴミムシ」

 

 憤怒を通り越し、憎悪を露わにフロスト・ドラゴン三体を睨み返す。

 

「我が至高の御身に傷を付けんとした報い、その命で………と言いたいところですが」

 

 自らの脇腹に剣を突き刺し、苦痛で無理矢理冷静さを取り戻すナーベラル。その身に纏う異質な圧に、誰もが沈黙する。

 

「そうですね………同じ真似をした愚者どもと同じ目に遭ってもらいましょう。生かしておくだけで不愉快極まりないが、死とはナザリックにおいて唯一の救い」

 

 テレポーテーションの魔法を使い、雌のドラゴンの背後に回る。

 

「パラライズ」

 

 麻痺への耐性が低いのだろうドラゴンが倒れ伏す中、ナーベラルは何処までも冷たく、それでいて灼熱の憎悪を滾らせ、ドラゴンを睥睨する。

 

「貴様らに、死など生温い。永遠に、虫けら以下の畜生として惨めに生き続けろ」

 

 再び、その姿が掻き消えた。



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新たな手掛かり

 力を失ったドラゴンが三体、倒れ伏す。

 それに構わず、ひどく心配な様子でクロエを慮るナーベラルの傍らで、鎧姿を解除したアインズが蒼薔薇と対峙する。

 

「………つまり、お前たちと同等クラスの力を有する仲間たちを探す為、一番手っ取り早そうだったのが冒険者だから、色々偽って冒険者になった、と?」

「まあ、そういう事だ」

(さて、信じて貰えるかどうか………)

 

 アインズが何とか絞り出したそれらしい案を口にしたものの、相手は黙ったまま。最初に口を開いたのは、イビルアイだった。

 

「その仲間たち、とやらの名前は?」

「………その前に、我々の正体について他言しない、と約束して貰えるかな?」

「………いいでしょう。多くの人を救ったのは事実ですもの」

 

 息を吐き、ラキュースが首を縦に振る。他四人も同意したことで、アインズはかつての仲間たちの名を、微かな逡巡と共に、なるべく直球で告げる。そこにあるのは、仲間に会いたい、という何処までも純粋な願いだ。

 

「………お前、まさか『ぷれいやー』か?」

「………何故、それを?」

 

 アインズのみならず、クロエ、そしてナーベラルまでもが反応を示す。

 

「十三英雄の仲間にも、そういう珍妙な名前の異形種が居たからな。異形種を理由に英雄譚にされなかったから、知らなかっ!?」

 

 気付けば、アインズはイビルアイに詰め寄っていた。その声に、支配者然とした圧は無い。

 

「本当か!?その仲間たちは、今どこに!?」

「………アイツらは、もう殆ど生き残ってない」

「そんな………」

 

 膝から崩れ落ち、地面に手を突く。その顔が髑髏でなければ、きっと涙が滴っていた事だろう。

 

「………そんなに大切な仲間なのか?」

「ああ、俺には勿体ないくらい、いい人たちだった………」

 

 深い悲しみすら沈静化され、苦しむようにアインズは頭を抱える。

 

「グッ、ウウウウ………!」

「ど、どうしたんだ?!」

「貴様、アインズ様に何を!」

「ナーベラル」

 

 苦しむアインズを前に狼狽えるイビルアイへと食って掛からんとするナーベラル。それを、イリヤはそっと止めた。

 

「この世界に来てからずっとね………アインズは、感情を抑制され続けてきたの」

「え………」

「今のアインズは、私たちみたいに悲しむことすら出来ない………それが辛くて、苦しくて、泣いてるの」

 

 アインズではなく、モモンガが真に心を許せるのは、この世界にはイリヤだけ。だからこそ、彼の人間としての苦しみを理解できるのも、彼女だけなのだ。

 そっと立ち上がったクロエは、イリヤの口調で優しく、諭すようにナーベラルに告げた。

 

「心配かけちゃってごめんなさい?けど、痛いだけで怪我とかは無いから、気にしないでいいわ」

「ですが………」

「幸い、王家から譲り受けた至宝の剣と違って、ごく弱い防御だったとはいえ、装備も機能してたしね。あー、けど剥き出しのお腹に一発は流石に痛かったわ………」

 

 クロエの姿を維持する赤い外套を脱ぎ、イリヤへと戻る。剥き出しの白い腹には、ドラゴンの尻尾が打ち据えられた箇所が赤くなっている。

 

「………やはり、殺すべきか」

 

 魔法を使おうとするナーベラルを、ようやく悲しむことすら出来ない苦しみから解放されたアインズが慌てて止める。

 

「お、落ち着け。幸いイリヤもこう言ってるし、な?」

「ですが………」

「っ、舐めた真似をしてくれたな、下等生物どもがッ!」

 

 パラライズの効果が切れたフロスト・ドラゴン・ロードが、アインズへと牙を剥く。

 

「―――グラスプ・ハート」

 

 しかし、それはイリヤの放った即死魔法により、呆気なく不発に終わる。

 心臓を握り潰され、目から光を失い崩れ落ちるドラゴンロードを前に、倒れ伏していた他のドラゴンたちが目を剥く。

 

「あら、いけないいけない―――レイズデッド」

 

 そして、何でもないかのように蘇生する。

 

「き、さま、なにを………」

「動かないでちょうだい?ま、どうせ動けないでしょうけど」

 

 ラキュースですら使用に制限がある魔法を、歌うように気軽に使ったのだ。

 

「………弱いわね。ホント、何で一発貰ったのかしら?」

 

 イリヤに前世があるという事実は、モモンガにすら伝えていない。故に、あの時動きが鈍った理由を説明できるものはイリヤ以外に居ない。

 HP的にいえば、1%より少し多いくらいのダメージでしかない。それでもナーベラルが激昂したのは、やはりそれだけイリヤに入れ込んでいるという事か。

 

「お望みとあらば、今すぐ処分致しますが」

「いいわよ。それより、どれくらい長く生きてるのかが知りたいわね」

 

 その眼が冷たく輝く。絶対者に相応しい、冷徹な眼差しを前に、ようやく格の違いを理解したドラゴン・ロードが抵抗の意志を消す。

 

「あー………ぷれいやーについてなら、ソレよりも、ツアーの方がよく知ってると思うぞ」

「ツアー?」

 

 イリヤとアインズが揃って首を傾げる。二人の頭の中で観光旅行を意味する英単語が自己主張する中、イビルアイが呆れ気味に口を開く。

 

「………ツァインドルクス=ヴァイシオン。プラチナム・ドラゴンロードとも呼ばれる、アーグランド評議国の永久評議員にして最強の竜王だ」

「ほぅ、最強………」

 

 アインズが声を上げて、そしてイリヤは無言で警戒心を抱く。

 

「ああ。何でも、スレイン法国の六大神降臨以前から生きてるとか………奴なら、何か知っていてもおかしくない」

「そう、か………ナーベラル」

「っ、はい!」

 

 如何なる処罰も受け入れる所存のナーベラルは、静かに頭を垂れる。

 

「蒼の薔薇の面々は、この度のことを黙秘すると約束してくれた。その上、私と同様の存在の情報も得ることが出来たのだ。故に、処罰も相応に見積ろう」

「………っ!?」

 

 ナーベラルは、弾かれたように頭を上げる。

 

「まずは着替えろ。フロスト・ドラゴンどもは私とイリヤで拘束しておく。そうしたら、冒険者として国に戻るぞ………全く、やる事が増え過ぎだ」

 

 そうボヤくアインズだが、言葉に反して声は明るく、弾んでいる。

 

「そうね………いつか、たっちとかウルベルトも来てくれるのかな?」

「そしたら、色々な意味で賑わいそうだな」

 

 希望が見えたからか、明るい二人の間に割って入ることが出来ない蒼の薔薇の面々は顔を見合わせ、苦笑し合った。



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罰と褒美

 報告の名目で蒼の薔薇共々王国へと帰還した後、彼女らの帰還を確認した三人は、そのままナーベラルの処遇について話し合っていた。

 

「で、だ。ナーベラル、お前は何を望む?」

「………アインズ様の命に背いた、罰を」

「あれは私のミスが原因だし、私たちに大きすぎる益もあったのに?」

 

 プレイヤーの出現に関する情報。そして、その存在を知る者の所在。更には色々使えるフロスト・ドラゴンの確保。第五階層に新たに作られた施設で、今頃デミウルゴスやニューロニストに有効活用されているだろう。

 だが、至高の御方の命令に背いてしまった事実は、彼女に重くのしかかる。

 

「………はい」

「………そう」

 

 諦めたように、イリヤが降り立つ。

 

「なら、そうね。ナーベラル・ガンマ」

 

 イリヤが、冷酷な声を上げる。

 

「貴女に、いえ………ナーベに、死を命じましょう」

 

 一瞬、ナーベラルは理解が追い付かなかった。そして、合点が行くと共に顔を上げる。

 

「しかし、それでは御身が………」

「心配でしょう?罰なのだもの、当然でしょう?」

 

 冷たく笑う姿は、悪のギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の一員に相応しい威圧を有している。

 

「これが、失態への罰。結果的に莫大な利益を得られたのだから、それに相応しい報奨もあるわよ?」

 

-----

 

 ナーベラルは、アインズとイリヤの冒険者活動への同行を禁じられた。

 当然、いきなりメンバーが一人消えればそれだけで大騒ぎであるし、アダマンタイト級ということもあり相応に目立つ。その為用意されたカバーストーリーの結果、今の彼女は………下手をすれば、冒険者業務より心休まる状況に置かれていた。

 

「スゥー………」

「………罰より、報奨の比率が大きすぎます。全く」

 

 自身の膝を枕に眠る主の髪を撫で、困ったように笑う。

 ナーベが冒険者を辞める理由として用意されたのは、モモンと出会う以前にイリヤに救われ、彼女を探していた、というそれらしい物語。そして、兼ねてからイリヤに恩義を感じており、冒険者として探す必要も消えた為、腰を落ち着け、それに伴いイリヤの臣下として『ナーベラル・ガンマ』の名を与えられた、という設定だ。

 それは即ち、彼女の行いにより得た情報の報酬として、イリヤ個人の警護を任されたことを意味している。

 

「いりや、さま………」

「………ふふっ」

 

 イリヤと同じベッドで寝息を立てるミュフィアの姿に、微笑みを零す。唯一仕えるべき主の残った専属メイドということもあり、嫉妬や羨望を浴びやすい彼女だが、そういった疲労を表に出さない理由を理解でき、ナーベラルの心に微かな嫉妬が芽生える。

 とはいえ、ミュフィアより先にイリヤに膝枕をしたりしていたこともある為、ミュフィアにとってはナーベラルこそ嫉妬の対象なのだが。

 

「っ、はい」

 

 控えめにドアがノックされ、ナーベラルがゆっくりと、二人を起こさぬように立つ。ドアを開けると、そこには主の顔が。

 

「アインズ様………」

「ふむ、イリヤは寝ているか………ナーベラル、伝言を頼む」

「ハッ。なんなりと」

「私はドワーフのもとに赴く。その関係で、暫く国政を任せる旨を伝えて欲しい」

「畏まりました」

 

 静かに頷くナーベラルの姿に、アインズが笑みを零す気配を見せる。

 

「どうやら、新たな仕事で苦労はして無さそうだな」

「………あのような失態を演じた身としては、重用していただける理由が読めないのですが………」

「いいか、ナーベラル。お前は私たちに一筋の希望を届けてくれたんだ。たとえそれが偶然の結果であったとしても、その偶然を齎したのはお前だ」

 

 仲間との再会を願うアインズにとって、転移の周期がわかっただけでも大きな成果だ。寿命の無い異形種である彼にしてみれば、年数は別として周期がわかっただけでも大きな成果なのだ。

 

「だから、これは当然の報酬だ。それが不服と思うなら、罰を定めたイリヤに談判するといい。だが、私たちが冒険者として活動する場に赴けぬことを思えば、十分過ぎる罰だと思うがな」

「うっ………」

「では、任せるぞ。ああ、私の護衛にはアウラとコキュートスがつく。心配は無用だ」

 

 アインズが立ち去るのを確認し、静かに扉を閉める。

 

「………アイツ、勝手に決めてくれちゃって………」

「っ、イリヤさ」

 

 素早く距離を詰め、静かにするよう唇の前で人差指を立てる。

 

「ミユが起きちゃうでしょ?………明日から色々手間かけちゃうだろうし、ナーベラルもしっかり休んでいいのよ?」

「しかし………」

「それじゃあ………クアドラプレット・マジック、サモン・エンジェル・7th」

 

 狭い室内に、四体のドミニオン系天使が召喚される。防御特化型が二体、探知特化型が一体、対多数魔法攻撃特化が一体だ。

 

「この子たちが護衛してくれるから、ね?」

 

 上目遣いで、可愛らしく小首を傾げるイリヤ。ナーベラルは護衛の任と、主の命令を天秤にかけ―――

 

「畏まりました」

 

 ることなく、命令に従った。言い換えれば、可愛らしさに撃沈した。

 

「それじゃ、ちゃんと休みましょ」

 

 リング・オブ・サステナンスを外されたナーベラルを、眠気が襲う。柔らかく微笑む主の姿を目前に、ナーベラルは意識を眠気に委ね、目を閉ざした。




ナーベ、冒険者やめるってよ→ナーベラル、イリヤの護衛になるってよ


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イリヤの一日

 その日、イリヤはナーベラル、ミュフィアを引き連れ、王城で仕事に勤しんでいた。

 

「んー………やっぱりいきなり軍隊を作ろうにも、志願者が少ないわよね………」

「ガガンボ風情の軍隊に、何の意味が?」

「何時までも私たちが面倒みる訳にもいかないでしょ?」

 

 可愛らしいネコミミフレームに収まったレンズを通し、この世界の文字を日本語に訳す。アインズと違い、ホムンクルスである為、眼鏡を本来の形で使えるイリヤは、アインズに比べ国の執務がやり易い。

 

「ええと、あれ?これ、ウロヴァーナさんから………」

 

 リ・ウロヴァールの領主、ウロヴァーナ辺境伯からの投書。帝国北部の最寄り都市との間の街道整備についてだ。

 

「これはジルクニフさんと協議するべきかしらね?取り敢えず、一旦保留で………」

 

 書類の数々に目を通し、捌いていく。

 

「イリヤ様、お手伝い等は………」

「大丈夫よ。コレは私がすべきことですもの………あ、ごめんなさい、飲み物をお願いできる?」

「畏まりました」

 

 ミュフィアが退出する中、イリヤは書類に目を凝らす。

 

「………」

「如何なさいましたか?」

「………大丈夫よ、ええ、大丈夫………」

 

 ヴァーミリオンノヴァで焼き尽くしたい衝動を堪え、書類を投げ捨てる。

 

「ええと………あ、よかった。マトモだ」

 

 エ・レエブル領主、レエブン侯からの提案は、開拓村を増やす際、護衛に適当な戦力となる魔獣等を貸し出せないかというものだ。治安も向上したとはいえ、それはあくまで盗賊等が動きにくくなっただけであり、魔獣等の脅威は依然残っている。

 

「んー………どういうのがいいのか、具体案が無いのはちょっと困るわね………」

 

 一時保留とは別のケースをアイテムボックスから取り出し、そちらに書類を滑り込ませる。

 

「んー、やっぱ有能無能が良く出てるわねー………ジルクニフに粛清のコツでも教えて貰おうかしら?」

 

 一通りの書類を選別し終え、一息。前向きに検討、協議待ち等の書類に比べ、論外同然の書類の比率の方が圧倒的に多い。

 

「慈悲などかけず、一気に始末すべきでは?」

「それだと、下に悪印象を持たれかねないでしょ?ただでさえ異形種って外見的ハンデを負ってるんだから、慎重に動かないと」

「やぶ蚊如き、イリヤ様たちの敵ではないと思われますが………」

「印象の問題よ」

 

 困ったように笑い、イリヤは背もたれに体重を預ける。

 

「お茶をお持ちしました」

 

 ミュフィアが二人分の飲み物を用意し、そっとテーブルに置く。

 

「ありがと」

「それと、ランポッサ殿がストロノーフ殿と共にお見えになっております」

「あら?予定は無かったと思うけど………まあ、緊急の案件も無いし、いいわ」

 

 カップの中身を飲み干してから椅子を降り、二人を引き連れ応接室へと向かう。扉を開ければ、王の頃に比べ幾らか活気が増したように見えるランポッサⅢ世の姿が。

 

「おお、すまぬな」

「お構いなく。こちらも、仕事がひと段落ついたところですので」

「ああ、国を良きものにするため、貴族たちに意見を求めておられたな」

「ええ。とはいえ、有用な意見は少ないモノでしたが」

 

 苦笑気味に笑いながら、ランポッサⅢ世の対面に座る。

 

「そうか………して、どのような政策を?」

「リ・ウロヴァールから、山脈の北部を回って帝国に行く道の整備は、あちらとの協議のため一時保留。レエブン侯からの提案である、開拓村を増やす際に護衛として魔獣等の派遣については、どのようなものがいいか具体案が無い為、後日相談に向かう予定です」

「成程………ゴウン殿は?」

「アゼルリシア山脈の、ドワーフとの国交を持つため、自ら出向きました」

「ドワーフ………!そのような者がいたとは………」

「我々も、帝国から情報を得るまでは知りませんでしたから」

 

 談笑する二人は、一見祖父と孫のようにも見える事だろう………話の内容は、政治関係だが。

 

「陛下」

「おお、すまぬな。いかんいかん、癖になってしまっておるな」

 

 ガゼフに止められ、ランポッサが苦笑する。世話話に時間を食っているランポッサにナーベラルが沸々と怒りを蓄積させていく中、ランポッサⅢ世が内密に、と前置きをした上で、話を切り出した。

 

「実は、王であった頃に出来なかったことをやりたいと思っているのだが………冒険者はガゼフに止められてしまってな。何か、無いだろうか?」

「「「………」」」

 

 イリヤは、何故わざわざ自分に聞くのか、と首を傾げ。

 ナーベラルは、そんな些事の為に主に足労願ったのか、と激怒し。

 ミュフィアはこの老人に出来る事は何か、と主の役に立つために頭を働かせる。

 

「………開拓村で、農業でもしてみては?」

「いや、陛下は膝を痛めておられる。それは少々難しいだろう………」

「成程………ナーベラル様、何か考えましたか?」

「………いえ」

 

 レベル差を感じさせぬ視線の圧力で、ナーベラルを牽制するミュフィア。それに気付かず、首を傾げるイリヤを見かね、ガゼフが事情を話し始める。

 

「実のところ、貴族にも相談はしているのですが………大半の者に止められまして」

「あー………血筋やら外聞を気にするのが多いですしね………」

「そこで、遠慮が無いだろうアインツベルン殿やゴウン殿の都合がつけば、何か意見を求められないか、と仰られてな………」

「んー………それじゃあ、こういうのはどうでしょうか?」

 

 イリヤの提案に、ランポッサⅢ世は目を輝かせる。

 

「いや、わざわざすまぬな」

「いえ。仕事のいい息抜きになりましたから。それでは、近日中に準備させますので、それまで楽しみにお待ちください」

 

 不愉快極まりない書類の存在を忘れることが出来たイリヤは、一礼の後、足取り軽く執務室へと戻る。椅子に座ると共に、ミラー・オブ・リモートビューイングでイリヤ個人の領地の海岸を映し、ランポッサの息抜きが出来る様な家屋を建てられる土地を探し始めた。




イリヤにとって不愉快極まりない書類の内容が何かは、ご想像にお任せします。


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その頃の僕たち

イリヤ'sNPCサイドです。


 暗い部屋で、二人の女性の体が重なる。

 

「健康で何よりです、ツアレ」

「い、いえ、そんな………ぁっ」

 

 柔肌に牙を突き立て、血を啜る。種族によるものではない、個人の趣向だが、ツアレは拒絶の意を見せる事なく受け入れている。

 

「やはりツアレの血は美味しいですね………精神衛生もよろしいようで何よりです」

 

 優しい微笑みを向けられ、ツアレの頬が赤くなる。

 

「恐れずとも結構です。どうして欲しいですか?」

 

 メドゥーサが囁くように問い掛けると、ツアレは羞恥に顔を染めながら、おずおずと口を開いた。

 

-----

 

「「「「ごはんだよー」」」

 

 デミウルゴスにより作られた『牧場』に、無邪気な声が響く。両手で持つ皿には、山盛りのソーセージが。

 

「っ!?」

 

 舌を抜かれ、開口具で無理矢理口を開けられているバルブロが顔を真っ青に変え、嫌々と首を振る。

 

「「「「すききらいは、だーめ」」」」」

「ぐごっ!?」

 

 自分の腸と肉で作られたソーセージを、無理矢理口に突っ込まれる。腕ごと喉奥まで詰め込まれ、胃袋に直接食事を届けられる。

 

「「「「はい、お水」」」」」

 

 口から胃袋まで管を突っ込み、無理矢理水を飲ませる。苦しむのに構わずナイフを取り出し、無邪気に笑いながら告げる。

 

「「「「それじゃあ、収穫だよ」」」」」」

 

 器用にナイフを使い、生皮を剥ぐ。腕から始め、体、足の皮を剥ぎ取り、それを終えてから首、そして顔から、綺麗に表皮だけ剥ぎ取る。痛々しい肉が剥き出しになる中、腹を切り開き、明日の食材を引き摺りだす。

 

「「「「そうそう、ご主人様(おかあさん)のお仲間たちが残した本に、面白いのが書いてあってね?」」」」」

 

 腸を引き摺りだし、切り取りながら、可憐な笑顔で告げる。臓物の中に溜まっている物を空っぽの腹の中にぶちまけながら、肉を切り離し、骨を剥き出しにしながら告げるのは、キワモノ料理の名前。

 

「「「「はぎす、っていうんだけどね?茹でた臓物を、胃袋に詰めるんだって」」」

 

 心臓を引き抜いてから、わざわざ治癒魔法を使い、全てを復活させる。真っ先にペンチで舌根ごと舌を抜き、開口具に万一のことがあっても自害できないようにしてから、優しく告げる。

 

「「「大丈夫、まだ殺さないからね」」」」」

 

 いっそ殺してくれ、と願うのは、彼だけではない。人肉を、人皮を、臓物をそれぞれ箱に選り分け、荷台を押してジャックが立ち去る。口を開けられ、舌を抜かれているが故の一部の絶叫が響くのは、一分と経たぬ内から。

 最早反抗心など折れたバルブロは、ただひたすらに、解放の時ではなく死が訪れるのを待ち続ける。蘇生魔法すら使えるナザリックの者たちが、それを許さぬことを知らぬまま。

 

-----

 

 その頃、第五階層の姫路城部分に設けられたエリザベートの個室では。

 

「ふ~ふっふふ~ん」

 

 数日に一度のみ楽しめる、ブラッドバスに浸かる彼女の姿が。例の反乱に参加していた、ごく少数の女性から絞り取った血液による湯浴みは、イリヤによって与えられた『血の伯爵夫人』としての在り方を再現する為の設定による趣味だ。

 

「んー、やっぱ質が落ち始めてるわねー………やっぱり長期的に採取するのは無理があったか………」

 

 血を掬い上げ、その色、粘度、そして匂いを嗅ぎ、顔を顰める。

 

「ま、この程度ならまだいいわね。けど、次からはノーサンキューってデミウルゴスに伝えないと」

 

 血を塗り込むように肌を撫でながら独り言ちる。

 

「でも、当面楽しめないのも困りものね………いっそ、アインズ様に許可貰って、遊ばせて貰おうかしら?」

 

 うっかり殺してしまうかどうかの線引きは、ニューロニストにでも見ててもらえばいい。

 そんな他人任せの思考のまま、エリザベートはブラッドバスから上がり、滴る血をシャワーで洗い流す。そのまま貧相なつるぺたボディを丁寧にタオルで拭き、魔法による温風を起こし、体を完璧に乾かす。

 

「早速………あいや、そういえば今日は外出中だっけ?とりあえずニューロちゃんに殺さない程度の痛めつけ方を教えて貰わないと」

 

 手早く着替え、足取り軽く部屋を出る。その尻尾は、彼女の機嫌を表すように激しく揺れ動いていた。

 

-----

 

 そして、魔導国と帝国との国境の一つ、カッツェ平野に設けられた合同訓練場では。

 

「ルオオオオオオオオオオッ!!!」

「ひっ!?く、来るなっ!来るなあああああああっ!!!」

 

 蒼白の毛並みを持つ巨狼が、帝国の兵士、元王国の貴族の私兵、現魔導国直轄の兵士たちを追い立てる。レベル差とロボ自体のステータスもあり、ダメージを与える事は出来ない………が、脅威を前に立ち向かえるか否かを見極める為のテスト要員として配置されており、殺傷行為は禁止されているものの、既に少なくない脱落者が出ている。

 

「………ゴウン殿は鬼か?」

「まあ、俺らでも勝ち目のねぇ相手に追っかけられると思うと、ゾッとしますわな」

 

 アンデッド多発地帯をすっぽり覆う大規模合同訓練場の様子を、貸与されているミラー・オブ・リモートビューイングで眺めるジルクニフと傍らで、背後に控える四騎士の一人であるバジウッドが苦笑する。

 

「とはいえ、時折見える勇敢な者は欲しいな。磨けば光るぞ、アレらは」

 

 無謀に飛び掛かり空振る者ではなく、冷静に隙を窺い剣を、槍を振う、或いはそれに対処した隙を突き弓を射る兵士を、ジルクニフは興味深く見つめる。

 

「魔導国が求めるのはああいった人材だろうが………なんとか引き抜けないものか」

「あっちのデュラハンが監督役ですかね?何か持って色々書き込んでますし」

 

 ジルクニフが目にかける人材は、魔導国にとっても有用な人材だ。

 元王国所属の兵士たちの中で、そういった優秀な者たちを、ロボの背に跨るホロウは、しっかりとリストアップしていた。



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癒しのひと時

 一週間ほどして、アインズが帰還した。

 そして真っ先に向かったのは、二人の第二の憩いの場と化している、第五階層の城の天守閣。

 

「―――とまあ、色々情報は集まりましたよ」

「アダマンタイトより上はドワーフですら知らない、ねぇ………」

 

 モモンガノートに羅列された今回の成果と併せ、話を聞いた結果を噛み砕く。

 

「ルーン武器についての問題は解決、でいいのかしら?」

「ええ。俺の個人的興味もあるんで、そっちは全部俺の方で上手くやってみたいと思います」

「オッケー。あ、これ、ホロウが纏めた有望株リストね」

 

 と、イリヤが戦果の報告を行う。それに目を通したモモンガは、イリヤの予想通りの反応を返す。

 

「少なくないか?流石に相手がロボはやり過ぎたか?」

「まあ、うん………」

「あの、黙らないでくれません?あと、許可したのは俺ですけど、提案したのはイリヤさんですよね?」

 

 あはは、と曖昧に笑い、イリヤが誤魔化す。そのまま、直ぐに話題を切り替える。

 

「それで、今後の方針は?」

「アーグランド評議国も気になりますが、急いては事を仕損じると言いますし、先ずは地盤固めですね。目下の問題はスレイン法国で、可能ならローブル聖王国辺りと同盟を結んで、連中が動き難い状況を作るべきでしょう」

「となると、問題は接触手段よね。陸路は法国を通るか、山を越えるかで………ベストは海路かしら?」

「問題は、俺のこの見た目が受け入れられるかどうか………」

「………聖、なんてついてるしねー………」

 

 溜息が重なる。

 

「………マッチポンプでも、する?」

「いや、ここまでクリーンなイメージ貫いたんですから、最後まで貫き通しましょうよ。合言葉は『骨みたいに真っ白』ってことで」

「あはは、スケルトン・メイジが率いる国らしい合言葉ね」

「それ、俺の初期種族です」

「知ってる」

 

 軽く笑い合い、空気を軽くする。

 

「ま、とりあえずは保留でいいんじゃない?直ちに敵対することはまず無いでしょうし」

「その可能性が高いのはスレイン法国ですしね」

「そ。まあ、最悪あそこの役目を引き継げばオッケーじゃない?」

「それは滅ぼした場合、ですよね?まあ、殴ってきたなら真っ向から殴り返しますけど」

「その場合、モモンガとティアマト、それかバーサーカーが前線で動くべきかしらね?」

「ですね。物量のティアマト、単独戦闘力トップのバーサーカーでかなり潰せますし………というか、それこそギルド単位でレベル100プレイヤーが居ない限り、まず負けないでしょ」

「ワールドチャンピオン勢揃い」

「………ルベドと『あれら』もフル投入でワンチャン」

「お財布すっからかんになりそうね」

 

 軽く笑い合い、そして表情を引き締める。今、百年以上後に起こり得る可能性を口にしてしまったからだ。

 

「………ああ、そうじゃないか!何も仲間たちだけが転移してくるとも限らない………対策は必須か………!」

「レベル100NPCもいるとはいえ、無策でどうこうできる相手じゃないわよね………ワールドアイテムだって、アフラマズダでも持ち出されたら洒落にならないもの」

「ウチのNPCってカルマ値低めが多いですからね………」

「時間があるのが幸いね………」

 

 二人は深刻な事態を前に、重い溜息を吐く。モモンガはロールプレイ重視のドリームビルドであり、イリヤは魔法極振り紙装甲のある意味ドリームビルドと、恐ろしく極端だ。前衛をNPCに任せざるを得ない事もあり、強豪プレイヤーを相手取るとなると不安が強く残る。

 

「………まずは地盤から固めましょう。余程の阿呆でもない限り簡単には喧嘩を売れないような、名君としての地盤を」

「となると、上手くスレイン法国を敵に仕立て上げ撃滅………いや、アーグランド評議国の最強の竜王というのも気になる。あまり過激な事をして変に敵を増やすのも不味い………」

「とりあえずは様子見かしらね。あとは、国内の支持を高める………幾つか良さげな政策が上がって来てるから、明日にでも見せるわね」

「明日、ですか?」

「あら、息抜きは大事、でしょ?」

「………ですね」

 

 イリヤの提案に従い、モモンガは肩の力を抜いた。

 

「いやぁ、僕がいると肩の力を抜けなくて………人間の姿になれれば、誤魔化せますかね?」

「どうやってなるの?」

「んー………そこですよね」

「ウィッシュ・アポン・ア・スターでも使ってみる?」

「シューティングスターのストックが九回分はありますけど、流石にちょっと………」

「じゃあ、私が………」

「いやいや、もう少し国が安定してからにしましょう?」

「ちぇっ………ま、それもそうね」

 

 左薬指のシューティングスターを外し、アイテムボックスに放り込むイリヤ。つまらなそうな顔をしたのも一瞬で、すぐさま揶揄うような笑みに代わる。

 

「けど、世継ぎを残すって意味では試しておくべきだと思うわよ?」

「ぶっ!?」

 

 盛大に噴き出し、一瞬にして沈静化が起きる。落ち着きは取り戻したものの、声は微かに上ずっている。

 

「い、いきなり何を!?」

「だって、ねえ?王様として、世継ぎは残さないと。それとも、パンドラズ・アクターを第一王子に据える?」

「う………」

 

 自分の黒歴史に『父上』『お父様』等々呼ばれることを想像した結果、沈静化が連続発生する。

 

「………いや、優秀なんだけどなぁ………」

「冗談よ。けど、あの子を裏方に徹させるつもりなら、考える価値はあると思うわよ?」

 

 一見何事も無かったかのように振舞うイリヤだが、一瞬手がコップではなく虚空を掴みかけ、大急ぎですぐ傍のコップを掴む。幸いにも、考え事に没頭するモモンガがそれに気付くことは無かった。



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皇帝と

 ゴーレムを始めとした労働力で完成した、カッツェ平野の大規模訓練場。平野の特性により出現するアンデッドをそのまま熟練兵士の訓練相手に充てる事を前提としたある意味とびっきりのブラック施設では、帝国四騎士が一人、レイナースがスケルトンの群を蹴散らしている。その動きを見下ろすのは、アインズとジルクニフ、イリヤ、その付き添いのバジウット、ナーベラル、ミュフィアの六人。

 

「んー、やっぱり大分弱くなってますな………確か、おたくの宰相様に呪いを解かれた辺りから」

「私は貴殿らを信用しているし、信頼もしている。だからこそ、原因究明に手を貸して貰いたい。無論、同盟相手の弱体化がお望みとあらば、見過ごしてくれて構わないがな」

「まさか。我々とて、大切な同盟相手以前に、個人的な親交のあるジルクニフ殿の頼みとあらば、断る訳にもいきますまい」

 

 明るく笑い、そして顎に手を当てて考え込むアインズ。

 

(しかし、呪いを解除してから………となると、カースドナイトの職業でも取得してたのか?けど、あれは条件を満たすのに60レベルは必要なはず………蒼の薔薇の忍者みたいな、条件が変わったものの一つか?)

「イリヤ、日常生活、外見、そして戦闘に支障が出ない程度の、かつ永続する呪い等はかけれるか?」

「うわ、縛り多………というか、私呪い系は不得意なんだけど」

「………呪い?」

「ああ。恐らく、呪いを力と変えるスキルを有していたのだろう。呪いを消してしまった結果、彼女の弱体化に繋がった可能性が高い」

 

 それを告げると、帝国の二人が苦い顔をする。

 

「優秀な騎士を手放すのは惜しいが、かといってまた呪われろとも言い難いな………」

「ふむ………しかし、呪いを与えられる者か………キングハサンはどうだ?」

「………あの人、どっちかって言うと呪うよりそれを解除する側のビルド」

「あ、ごめん………んんっ!しかし、そうなると難しいな………」

 

 ナザリックの僕に、呪いを得意とする者は少ない上、条件が厳しすぎる。下手に強烈なものを与える訳にもいかず、程々に軽く、それでいて解呪は難しい………という塩梅である必要があるとなると………

 

「驚いたな。ゴウン殿であれば、容易く解決できると思ったが」

「私の得意分野は死霊術でな。それ以外も一通りは出来るが、本格的な者には劣る」

 

 出現したスケルトンを始末し終え、肩で息をするレイナースを見下ろし、内心で呟く。

 

(改めて、結構レアケースだったのかも………うーん、力の差を見せつける為とは言え、結構勿体ないことしたかも)

「ふむ、いっそのこと、別の者を取り立てるというのはどうかな?先日の訓練で、有望な人間は幾らか見つかっただろう?」

「ああ、あの悪辣すぎる訓練という名の蹂躙劇か………確かに見つかったが………」

「それとも、適当な呪いをかけて苦しめる?」

 

 イリヤの発言に、帝国の二人が苦い顔になる。

 

「第一、そこまで都合がいい呪いは無いもの………呪いを解いた私が言うのもどうかと思うけど………」

 

 バツが悪そうに顔を背けるイリヤ。それを交渉に利用しようか、とジルクニフが考えた瞬間強烈な寒気を覚え、その思考を瞬時に停止する。恐る恐る顔を向けた先には、無表情で佇む幼いメイドが。

 

「いや………レイナースには悪いが、これはいい機会やもしれんな」

「と、仰ると?」

「先日の蹂躙劇の際、見どころのあった兵を集め、私直轄の騎士団としようかと考えていてな………そして、彼らの武具に、魔導国産のものを採用しようかと考えている」

「ほぅ………」

 

 つまり、魔導国の魔法武具を売って欲しい、という事だ。更に言えば、口ではこう言いながらも、レイナースの件を利用して安く仕入れようとするだろう。別に、魔化するだけであれば大した手間でない為、別にそこは問題ではない。

 

「成程、成程。それは都合がいい。我々も同じことを考えていてな。どうせ作るのであれば、ある程度纏めて作った方が手間もかからずに済む」

「そ、そうか………では、こちらで資料に纏めて、後日そちらに届けさせよう」

「助かるな………っと、もう一つ話があったな」

「ほぅ?」

「北方の街道の整備についてだ。あちらも交通の要所の一つとなり得る以上、悪い話でもあるまい」

「確かに………ドワーフの国を経由しての山脈経路があるとはいえ、あちらの都市を思えば北方の整備も重要か………」

 

 ジルクニフが思考を巡らせる中、イリヤはレイナースへと視線を落としたまま。

 

「如何なさいますか?」

 

 ミュフィアの問い掛けに、イリヤはそっと視線をジルクニフに向ける。言葉を残すより早くその意図を理解したミュフィアはそっと一礼し、ジルクニフの元へと向かう。

 

「申し訳ありません、ロックブルズ様の慰労に向かいたいのですが、よろしいですか?」

「む?ああ、構わぬ。それと、先程のゴウン殿の推論を伝えておいて欲しい」

「畏まりました。ではナーベラルさん、お願いします」

「ハッ!」

 

 威勢よく返事をするナーベラルを心配そうに見つめてから、ミュフィアは部屋を出る。

 

「………アイコンタクト一つで、意思疎通ってできるのね」

 

 そんなイリヤの呟きは、アインズとジルクニフの協議の声にかき消された。



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二人の密談

「アインズ様」

 

 ある日の昼下がり、一人で王としての職務を遂行していたアインズの元に、ミュフィアが現れる。その声には、隠しきれない怒気が滲んでいる。その凄まじさたるや、アインズですら気圧される程だ。

 

「こちらを」

「あ、ああ………」

 

 寒気がするほどに低い声で書類を差し出され、アインズは完全に押し切られていた。が、書類の文字列を眼鏡で翻訳した直後、連続して沈静化が発動する程の不快感に襲われたことで、それすらも気にならなくなる。

 

「………随分と不快な………」

「如何なさいますか?お望みとあらば、この身を使うことも吝かではありませんが」

 

 剣呑な光を宿すミュフィアの瞳を真正面から見つめながら、アインズは思考を巡らせる。大切な仲間にふざけた要求をしようとした貴族は、元貴族派閥でバルブロ支持者の中では唯一生き残った、とびっきりの無能だった。それこそ、八本指の交流が無かったのも、バルブロの反逆に加担していなかったのも、無能過ぎたからの一言で説明がつくほど。金髪をリーゼントで纏め、悪趣味な髭を生やした貴族をどう始末するのが最適か、必死に頭を回転させる。

 

「………いや、一般メイドのお前になにかあっては、ホワイトブリムさんに合わせる顔が無い。だが、そうだな………コレは、実に不愉快だ」

(が、感情だけじゃ動けない。それじゃあ、今まで作り上げたイメージが崩れる。となると………)

「チエネイコ、だったか」

 

 魔法で暗殺しようにも、使い魔でこっそり始末しようにも、できる存在を抱えているアインズが真っ先に疑われるだろう。かといって、自分では上手く始末する為に嵌める手段が思い浮かばない。守護者の手を借りたいが、私的なコトで部下を呼び出すのも躊躇われる。

 

「相手がとびっきりの愚者とあっては、アインズ様の慧眼を以てしても始末は容易でないという事ですか………」

「うん?ま、まあ、そうだな………」

(………宰相の地位に据えたのは失敗だったか?いや、けどなぁ………)

 

 アインズでは無くモモンガとして、気心知れた仲間を身近に置き、情報交換の手間を省いた上で、程よく肩の荷を下ろせる環境を作りたかった関係でイリヤを宰相という立場に置いたことを、微かに後悔した………が、結局イリヤとモモンガが近しい関係とわかればこうなる、と理解し、溜息を零す。

 

「はぁー………イリヤはどう反応していた?」

「私はその場に居りませんでしたので………ですが、欲望剥き出しの相手に好印象を抱くはずが無いかと」

「だよなぁ………どうするのが最善だと考える?」

「聖王国への使者としての勅命を与え、近道であると海路を使わせた上で、沖合で適当に沈めて消すべきかと」

(怖っ!?この子、すまし顔でなんてこと言うんだ!?)

 

 軽くとんでもないプランを提示したミュフィアに、しかしリスクを見出したアインズは待ったをかける。

 

「流石に、何の功績もないただの男爵にそんな大役を任せては、周囲から疑われよう」

「そうですか………では、近隣に適当な鉱山をでっちあげ、視察の際に落盤でも起こしますか?」

「(だから怖いって!?)………それでは被害が拡大する。死ぬのはこの男とその周囲の人間だけにしたい」

「………確かに、愚物一人の為に徒に死体を増やすのは、イリヤ様もいい顔をしませんね」

「う、うむ。だが、能無しの癖に爵位を持ち、それだけでしかないというのも中々に面倒だ」

「………では、アインズ様とイリヤ様は婚約者である、と公表しては?」

「ふむ………ん?あっ、ええ!?」

 

 提案を真面目に考えようとした直後、その内容を理解したアインズが驚愕の声を漏らす。沈静化も間に合わない中、ミュフィアがこの上なく不服である、と言わんばかりの顔で続ける。

 

「………そうすれば馬鹿どもの動きは大きく制限できます」

「いやいや、貴族というのは血統を重視する傾向があるし、第一私では子孫も残せ………いや、その前に」

 

 漸く沈静化が追い付いたアインズが、咳払いと共に続ける。

 

「イリヤがOKを出すとは思えん。大体、彼女に相応しい相手なら、私以上のがごまんと………」

「本気で仰ってます?」

「え?」

「至高の御方以外に、イリヤ様に釣り合う相手などいる筈が無いでしょう。それに、アインズ様が相手となれば、どんな大貴族でも口は挿めません。更に言えば、これはあくまで表向き。万一にもイリヤ様が見初めた方がおられれば、直ぐに解消すればいいのです」

(………それに、イリヤ様であれば、二つ返事で了承するでしょうし)

 

 イリヤをよく理解しているミュフィアは、この策が成功する可能性を、それが切っ掛けで二人の仲が進展する可能性を高いものと判断し、内心で溜息を零す。

 そしてアインズは、驚愕のあまり細かいところに考えが及んでいなかったことを理解し、偽りの婚約公表についてを咀嚼しながら思案する。欠点はイリヤとの関係悪化の可能性と無視できないが、彼女につく悪い虫を一気に排除することが可能だ。

 

「………確かに、イリヤへの干渉は減らせるが………今求めているのは、チエネイコを我々の仕業と知られぬよう始末する手段だ」

「そうでした」

(いけないいけない、ついイリヤ様の身を優先してしまった………)

「でしたら、こういうのは如何でしょうか―――」

 

 ミュフィアの提案は、守護者たちの不満を解消しつつ、持てる戦力の脆弱な男爵を上手く始末出来得るものであった。時間がかかるのはこの際仕方ないとして、アインズはその案を検討すべく、一度ナザリックに戻る旨を告げた。



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新たなる居城

「いきなりねー。城の改築なんて」

 

 イリヤが呟いている場所は、ナザリック第九階層の一角、執務室となっているスペース。

 

「何、程々に内政も落ち着いてきた頃合いだ。丁度いいと思ってな」

 

 国政を行いながらも、しっかりと傍らのミラー・オブ・リモートビューイングから、城の改築風景を見つめている。守護者たちの承認のもと、彼らに任せての改築だが、既に大分異形種への忌避感が消えているお陰で、周辺住人からの苦情の類は無い。

 

「確かに不満の声は結構あったけどさぁ………」

(………同じ社会人だけど、こんなんだから妙に保護者目線になっちゃうんだよなぁ………)

 

 幼い子供のように唇を尖らせるイリヤの姿を前に、アインズはひっそりと溜息を零す。これが、ミュフィアの提案―――王城の改築を記念したパーティーに貴族たちを呼び、その帰りに野盗、或いはモンスターに襲われた体で始末するというものだ。

 今回の改築により守護者らの求める、ナザリック地下大墳墓の主人に相応しい城が出来上がるだろうと共に、合法的に不快な男を呼び出せ、始末する機会も増やせる。何せ、相手は男爵。持てる領地も、兵も貧弱極まりないのだから。

 

「で、計画はあるの?」

「大雑把だがな」

 

 アインズは、新たな城の工事を殆ど守護者に一任している。区画を大きく九つに分け、アウラ、マーレは庭園を、コキュートスは兵の修練場………といった具合に、それぞれが自ら考え、ナザリックの力を示すべく僕たちを使い、城の区画を作り上げている。

 

「九つの区画に分かれた荘厳な城―――ナインズ・オウン・ゴールと名付けたい」

 

 仲間たちとの、最初の記憶。栄えあるアインズ・ウール・ゴウンの前身。多くの冒険を繰り広げ、モモンガに、イリヤに生きる意味を与えてくれた日々の一角で名乗っていた名。

 

「それは―――最高ね。自殺点、というのは少々気になるけど」

「不評なら、変えればいいさ。とはいえ、俺にネーミングセンスが皆無である以上、仕方あるまい」

「それもそうね」

 

 声に出して笑い、足をじたばたさせる。その姿も、実に外見相応である。

 

「じゃ、私たちは当面お役御免かしら?」

「まさか。国政の仕事があるし………そうだ、レエブン侯の案。コレについて、早急に談義する必要がある。建国からそう経たず城を建て替えているとなれば、不満が出る可能性が高い。ならば、少しでも善政に近づけるようにせねばな」

 

 改築費用の大部分がアインズのポケットマネーとはいえ、周囲にはそれがわかるとも限らない。

 

「はーい。それじゃ、私が行けばいい?」

「頼もう」

 

 イリヤがゲートでナザリックの外へ出るのを見届けてから、アインズもまた、ゲートで転移する。向かう先は第六階層、闘技場だ。

 

「クレマンティーヌはいるか?」

「こちらに」

 

 素早くアインズの元へと駆け寄り、跪く。そこに、反抗心の類は無い。

 

「ふむ、他の者は居ないか―――クレマンティーヌよ、お前に命令を下す。ただし、今すぐではない。同時に、これが最上級の極秘事項であると知れ」

「畏まりました」

 

 従順なのは、表向きだけではない。忠誠とは無縁であっても、命がかかっている以上、彼らの命令には本気で従うし、仮に逃げられる状況であっても、神人クラスがうようよいるナザリックから逃げられるとは、到底思っていない。

 

「いい返事だ。表向き死人のお前にしてやれることはあまり無いが、相応の対価は約束しよう」

 

 一息置いて、アインズは静かに、しかし異を認めぬ圧を伴い、クレマンティーヌへと命令を告げた。

 

「―――わかったな?」

「わかりました。そのチエネイコ、ってのを始末すりゃいいんでしょ?」

「そうだ。だが、先程も言った通り………」

「わかってますよ」

「ならば、任せたぞ―――クレマンティーヌよ」

 

 殺戮をこよなく愛する女は、躊躇いなく首を縦に振った。

 

-----

 

 凡そ一カ月という時間を経て、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の新たなる城、ナインズ・オウン・ゴール城が完成した。氷を切り出したかのような透明な輝きを持つ氷晶宮に、デミウルゴスにより作り上げられた、第七階層の赤熱神殿をモデルにした煉獄宮、アウラ、マーレの手で作られた見事な庭園といい、NPCたちの手で作り上げられた城は、それだけで一つの世界を思わせる見事な代物だった。

 

「―――素晴らしい」

 

 セバスら主導で作り上げられた来賓用の宮殿を歩み、アインズが感嘆の声を漏らす。そのまま、パーティー会場となる二階へと上がれば、宮殿周辺を満たす紅蓮の溶岩により幻想的な美しさを演出する煉獄宮や、対極に位置する、透明感のある水晶の如き美を持つ氷晶宮。アウラ、マーレにより作り上げられた大庭園、その反対に位置する、様々な植物で彩られた大きな池が視界に入る。

 そして、一本の道が敷かれた広大な池の奥には闘技場、その更に奥に本殿、ナインズ・オウン・ゴール城の中核を成す宮殿が。

 

「全く―――これでは、言葉が追い付かぬではないか」

 

 あまりにも素晴らしすぎて、彼らを称賛するに足る言葉が見つからない。アインズもイリヤも、元は一介の会社員。これだけの絶景を称賛するに相応しい言葉を見つけられず、ただただ感嘆の息を漏らすのみ。その様子を、至上の歓喜と共に眺めていた僕たちに、アインズはただただ、呆然と感激に身を震わせ続けた。




ナインズ・オウン・ゴール城

 ナザリック所属の者たちが、持てる全てをつぎ込み作り上げた、大きく庭園、池、五つの宮殿と闘技場、そして宝物庫の九つに分かれた城。
 城壁の内側から円を描くようにしてアウラ、マーレが主導で作り上げた大庭園が存在し、その半ばにはパーティー等の為の宮殿、その奥に本殿、アインズらの私室等を備えた宮殿が存在。間に巨大な湖を思わせる池と、中心に存在する闘技場、更に湖を挟みその左右にコキュートス、スカディ主導で造られた氷晶宮、デミウルゴス主導の煉獄宮が存在し、それぞれが言葉で言い尽くせない幻想的な美しさを有している。
 また、本殿より更に奥にある宝物庫に至るまで、ナザリックの持てる全てをつぎ込んだ至高の美を有している。セキュリティ面では、広大な庭園に魔獣を放っており、正規の道を通らぬ者には容赦なく牙を剥く。


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パーティーを目前に

 城の完成から二週間ほどして、完成記念パーティーの催しが決定した。

 

「さて………」

 

 既にクレマンティーヌや元奴隷エルフの手を借りて、各方面に招待状は配送済み。更に、デミウルゴス主導でNPCたちがナザリックの威を示すに相応しい催しを考案中で、今執務室に居るのは、モモンガと護衛のクレマンティーヌのみだ。

 

「………何してるんです?」

「シャンタクと共に向かわせたシャドウ・デーモンからの報告を纏めている。無能な貴族の中で、特に爵位が低く、持てる戦力も脆弱な者は、何れ始末したいからな」

 

 影に潜めるシャドウ・デーモンは、スパイの類としては非常に重宝する。今回も、様々な貴族の領地の内情を調査し、色々と黒いモノが見え隠れする者もいるくらいだ。

 

「ふーん………直ぐに始末しちゃわないんですか?」

「生憎、人間でないというのはそれだけで大きすぎるデメリットとなっている。鮮血帝のような大粛清を私が行ったとなれば、事前情報を持たぬ人間にはどう映る?」

「………そういうことですかー。確かにまあ、その通りですよね」

 

 慣れない敬語を使いながら、クレマンティーヌが納得したように頷く。同時に、アインズへの印象もどんどん良好な方面に傾いてく。

 

「帝国のようにしたいが、長がアンデッドであるとなれば、それだけで民が不安になるだろう?だが、かといって彼らを虐げる貴族が必要かとなれば、間違いなく否だ。民に平穏と希望を約束した手前、彼らからそれを奪う貴族は、早急にどうにかしたいところだ」

 

 これは、アインズ―――モモンガやイリヤのいた世界が、貧困層を虐げ、搾取するだけの腐り切った世界であったことも影響している。要するに、かつての自分たちのような人間ばかりの国を作りたくないのだ。

 

「………真面目ですねー」

「真面目さ。真面目に考えているからこそ、今回の改築でも、パーティーでも、魔導国の国庫には手を付けていないのだからな」

 

 城の改築に始まる一連の動きは、正直に言ってしまえばアインズの我儘―――仲間を自分の地位を上げる道具としか見ない愚物を始末する為だけに始めたことだ。そのような事に国庫から金を出すという不誠実な真似を許容できる筈もなく、アインズはナザリックの財を資金源として活用している。

 更には、城の装飾品などもナザリックにある二人が溜め込んだ資材―――仲間の残したモノに一切触れていない辺り、二人の真面目さが伺える―――からNPCたちが作成したものであり、材料費は実質タダだ。魔獣たちだって、購入したものではなく第六階層のアウラの僕、或いはイリヤの爆死の産物。草木はマーレの魔法やスキルにより種や苗木から成長させたものだし、労働力も殆どがゴーレムで賄われている。

 

「これを機に、辺境へのゴーレムの普及をさせたいが………ここで邪魔になるのが貴族、特に無能な連中だ。意味は、言わずとも分かるな?」

「自分たちの私腹を肥やす為にゴーレムを接収しかねない、ってことですよね?」

「そうだ」

 

 八本指に与していなかった貴族の多くが生き延びているが、良心から関与していなかったのではなく、単に自尊心が高い、或いは慎重であった等の理由による者も少なくない。

 彼としては直ぐ始末したい人種だが、ここでオーバーロードという種族の容貌が足かせになる。国内は兎に角、国外の、魔導国に疎い人間にしてみれば、アンデッドが貴族を粛正したと聞けば悪印象を抱かれかねない。

 今でも何処かに潜伏している可能性があるプレイヤー、またワールドアイテムを保有するスレイン法国等に攻撃の大義名分を与えない為にも、粛清は素早く、かつそうと思われぬよう穏便に行う必要がある。

 

「さて、と………では次だな」

 

 アインズが取り出したのは、日本語で筆記されたアインズ・ウール・ゴウン保有のワールドアイテムリスト。例のパーティーには、表立っての交戦はないものの、潜在的な敵であるスレイン法国の者も招いている。何人来るかは不明にしても、ワールドアイテム持ちが来る可能性を考慮し、守護者たちにワールドアイテムを持たせることを検討しているのだ。

 

「………いや、先ずは何人が矢面に立つのか、聞いてからにするべきだな」

 

 素早くリストをアイテムボックスに戻し、一息吐く。

 

「部下が有能なのはいいが、頼り過ぎるのもいかんな………さて」

 

 アインズが立ち上がると共に、クレマンティーヌが無言でマントを羽織り、深々とフードを被る。

 

「気分転換がてら、少々城を見て回るとしよう。供をせよ」

「ハッ!」

 

 城の中であれば問題ないだろうと思うのだが、ナザリックではないことを理由にアルベド、デミウルゴスを始めとした面々からは護衛を付けるよう進言されており、今日はプレアデスも会議に専念させる為、他の者は不承不承であったものの、クレマンティーヌを護衛としているのだ。

 事実、対人戦においてはガゼフ以上の実力を持つ上、ナザリックでの日々で多少レベルが上がり、装備もかなりの物になっている今のクレマンティーヌが護衛であれば、それこそ法国の中でも漆黒聖典クラスでなければ脅威になり得ないだろう。

 

「フッ、そう気負うな。私の僕たちが作り上げた城だ、鼠の一匹とて忍び込めまい」

 

 優しい声で呟くように告げ、アインズは悠然と踏み出した。



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記念パーティーの前に

無理矢理ねじ込みました………
原作未読です故、口調等に違和感があるかもですが、どうか温かい目でお願いします。


「ローブル聖王国との同盟を?そう急ぐことか?」

 

 パーティーについての案を纏め、提出に来たデミウルゴスからの提案に、二人の支配者が首を傾げる。しかし、デミウルゴスは眼鏡を光らせ提言する。

 

「ローブル聖王国とスレイン法国は、その宗教観から関係がよろしくない様子。法国の使者も招く手前、一部の亜人などと共生関係を築いている聖王国との友好関係を築くのは悪くない話かと」

「ふむ………」

「更には、あちらの国も頭の固い貴族に苦労している様子。早期に同盟を結び、聖王女と実力者をパーティーに招いた隙に反乱を起こさせ、一気に粛正することで、円滑な外交を可能にするのも悪くはないものかと」

 

 アインズとイリヤが互いに見合わせ、沈黙する。微かな思案の後、アインズは威厳に満ちた声で告げる。

 

「よかろう。段取りについては提案者であるお前に任せよう。だが」

「ええ、わかっております。早急に、ですね?」

 

 丁寧に一礼したデミウルゴスが素早く部屋を退出するのを見届け、二人は再び顔を見合わせる。そこには、でかでかと『どうしよう』と書かれている。

 お披露目パーティーまで、あと十二日。その間に上手く纏められるのか―――部下からの評価が高すぎる主二人は、強烈な不安を抱え、その顔を曇らせていた。

 

-----

 

 ローブル聖王国の首都、ホバンス。大神殿、王城の存在する地に、九人の天使が降り立った。

 

「あれは………」

 

 多くの民がその神々しい威容に感嘆の溜息を漏らす中、獅子の頭を持つ四翼の天使たちが声高らかに告げる。

 

『聞け。我らは、偉大なる御方々に仕えし者。ローブル聖王国の長に、偉大なる御方より預かりしお言葉を届けに馳せ参じた』

「偉大なる御方?どこの国のだ………?」

 

 疑問と共に顔を顰めるのは、聖王国の聖騎士団長、レメディオス・カストディオ。そんな彼女に守られるようにして踏み出すのは、彼女の妹の神官、ケラルト・カストディオと、ローブル聖王国の長、カルカ・ベサーレス。

 城から顔を出した彼女らを天使―――ケルビム・ゲートキーパーが視認すると共に、彼女らの元へと純白の衣に身を包んだ少女が降り立ち、片膝を突き、頭を下げる。

 

「お初にお目にかかります。アインズ・ウール・ゴウン魔導国より、魔導王陛下からのお言葉を預かり馳せ参じました、オルトリンデと申します」

 

 頭を下げるのは、主への不用意な悪評を付けぬための処置。単独で来ているのは、デミウルゴスによる調査で聖王国の程度を理解しているから。ゲートキーパーたちが付き添っているのは、アインズが念には念を入れた為だ。

 

「………アンデッドの国の王から、だと?」

「アインズ様は人間と亜人、異形種の共存を望む慈悲深きお方。その為、我らより古くからヒトならざる者と共存してきた先達とも言える貴国との友好関係を望んでおります。必要とあらば、貴国を脅かす『アベリオン丘陵』の平定にも、手をお貸しするとも」

 

 眉を顰め、あからさまな不審感を滲ませるレメディオスへと、オルトリンデは顔色一つ変えず告げる。これがスルーズであれば、ヒルドであれば、少なからず敵意を露わにしていただろう。ここで主の利害を鑑みて己を律せる辺り、流石は『オルトリンデ』をモチーフとしたNPCといったところか。

 

「………それは、本当ですか?」

「無論、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の民となる事を受け入れる者は見逃します。が、敵対するのであれば、当然滅します。詳細につきましては、魔導王陛下が直接言葉を交わすことを望んでおります故、二日ほどお待ち頂きたい」

「………わかりました」

「カルカ様!?」

「落ち着いてください、姉様」

 

 何かを進言しようとした姉の首根っこを掴み、ケラルトはカルカの背後に回り、そっと耳打ちする。

 

「アインズ・ウール・ゴウンと言えば、かつてのリ・エスティーゼ王国の腐敗貴族を一掃した存在です。上手く力を借りることが出来れば、カルカ様を蹴落とさんとしている貴族を一掃できる筈です」

「………ふむ?」

「それに、アベリオン丘陵の件で手を貸してもらえるというなら、悪くない話です。神に仕える身として納得がいかないのかもしれませんが、死の神、スルシャーナもアンデッドに似た外見だと言いますし、死の神の使い、とでも考えて納得してください」

「………するしゃーな?」

「あ、そこからですか?」

 

 首を傾げる姉に、微かに呆れの色を見せるケラルト。しっかりとその密談を聞き届けていたオルトリンデだが、しっかりと自制し、あくまで冷静に対応する。

 

「ご要望がおありでしたら、後日参られる魔導王陛下に直接お話しいただければ幸いです」

「ありがとうございます。それで、どのような形でこちらに?歓迎の用意をしたいのですが………」

 

 柔らかく微笑み、一切の敵意を持たないことを示すように優しく語り掛けるカルカに、オルトリンデが初めて表情を変えて、告げる。そこに浮かぶのは、呆れ混じりの苦笑だ。

 

「いえ、それには及びません。それに、恐らく兵たちが逃げてしまいますから」

「………へ?」

「では、私はこれで失礼いたします。どうか、心を強く持って、望んでいただきたく思います」

 

 そう残し、オルトリンデは光の帯にも似た翼を広げ、ケルビム・ゲートキーパー八体と共に天空へと消える。

 その翌日、西の港湾都市リムンから、巨大な何かが海岸線に沿うように沖合を進んでいる、という報告が、カルカらの元に届いたのだった。




デミえもんの「牽制も兼て法国を招くなら、宗教観的に確執のある聖王国を味方につけておいてその効果を強くするべきでは?」という提案の元、急ピッチで同盟を組むことに………

沖合を進む巨大な何か………あ(察し)


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訪問者は魔竜と共に

 アインズ・ウール・ゴウン魔導王との会談の日、ローブル聖王国の王都ホバンスの南門に集まった聖騎士団は、誰もがこの世の終わりのような表情を浮かべ、その場に膝を突き、全てを諦めていた。

 彼らの並ぶ門へと迫るのは、文字通り規格外の巨体。王城など腕の一振りで薙ぎ倒せるだろう巨体が、下手な都市の規模を超え得る巨大な翼を以て、飛来しているのだ。スレイン法国の者が知れば、彼女こそが『破滅の竜王』であると勘違いした事だろう。それほどまでに、その姿は力強く、また禍々しかった。

 

「………成程、確かにこれでは、歓迎は難しいですね」

「あは、ははははははは………」

 

 逃げ出すことすら忘れ、呆然自失となる聖騎士たちを前に、ケラルトが納得したように、恐怖で引き攣った顔を縦に振る。姉のレメディオスに至っては、聖王国最強としての高い洞察力のせいで格の違いをより鮮明に理解してしまい、完全に壊れてしまっている。カルカが掌から血が滲むほどに拳を握り締め、何とか自分を保つ中、巨大な竜が姿を変える。翼と巨体が縮んでいき、人に近い形をとると共に、触手の束のようになっていた後ろ脚が細い棒のような足に変化し、人型となった巨躯が地面に降り立つ。

 

「Aaaaaaaaaaaaaa―――」

 

 歌うように可憐な声と共に、ヒトに近い形となった絶望が王都の街並みを睥睨する。魔竜が屈み、その巨大な掌を上にして、カルカらの元へそっと差し出す。その手に沿って視線を上げた先から迫るのは―――形容するならば、死と、天使。

 漆黒のローブに身を包んだオーバーロードと、純白のドレスを身に纏うホムンクルス。絶望の腕を悠然と歩いてくる二つの影に、聖騎士たちは恐怖を、驚愕を覚え、同時に誰もが向けるべき念を理解し、その場に跪いた。二人が地面に降り立つと共に、カルカが笑顔と共に語り掛ける。

 

「お待ちしておりました、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下。私はカルカ・ベサーレス。気軽にカルカ、とでもお呼びください………そちらの方は?」

「魔導国宰相、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します………ティアマト」

 

 イリヤが指を鳴らすと共に、見あげる様な巨人はその姿を縮小し、アインズより少し背が低い程度にまで落ち着く。それでも、巨大極まりない角を有している上、四肢を自ら束縛するような姿は異質極まりないが。

 

「改めて、魔導王、アインズ・ウール・ゴウンだ。急な訪問に応じて貰えたこと、感謝する」

「それには及びません………と言いたいのですが、もう少し穏便な手段は取れなかったのでしょうか?」

 

 流石のカルカも、アインズらを連れてきた魔竜には物申したいらしい。とはいえ、マーマンなどといった海に住まう亜人などが酷く怯えていた以上、仕方のないコトだとは思う。

 

「ハハハ、申し訳ない。心配性な部下たちが、船では安全を欠くと聞かないものでして。そうなると、最も巨大で強力な彼女の手を借りざるを得なかったのですよ」

 

 ティアマトのその巨体は、それだけでこの世界の魔獣が逃げ出す程の威圧を有する。単純なステータスがアルベド以上に防御特化であることと、ワールドアイテムを装備していることでその影響を受けない、と、隠密能力を抜きに見れば、意外と悪くないのだ。万一プレイヤーとの交戦となっても、民間人への被害を抜きにすれば、足止めとしてワールドアイテムを使えるのも大きい。

 

「ということは、彼女が護衛………なのですか?」

「ええ。この姿でも、この国の全戦力を相手取る事は容易いでしょう」

 

 その言葉を否定できる者は、いなかった。姿こそ小さくなっていても、滲み出る圧を前に、敵わないことを理解したから。それはレメディオスも同様で、最早敵意を向ける気力すら湧いてこないでいた。

 

「そちらのお二人は?」

「聖王国神官団団長、ケラルト・カストディオと申します」

「せ、聖王国聖騎士団団長、レメディオス・カストディオだ」

 

 二人の名乗りを聞き終え、頷くアインズ。やや礼儀に欠くレメディオスに構うことなく、アンデッドが低い声を上げた。

 

「このまま立ち尽くしていては、民の邪魔になろう」

「そうですね。馬車の用意も検討していたのですが………」

 

 歯切れが悪いのは、あの魔竜の接近を察知してか、馬が言う事を聞かなくなっていたために馬車の用意が出来なかったからか。

 

「それには及びません―――中位アンデッド作成、ソウルイーター」

「クリエイト・グレーター・アイテム」

 

 アインズにより、靄を纏う白骨の馬、ソウルイーターが八体生み出され、イリヤの魔法により、荘厳な馬車が作成される。規格外の魔法に誰もが息を飲む中、アインズが追加で生み出したスケルトンたちが馬車とソウルイーターを繋ぐ。

 マジックキャスターであるカルカとケラルトが、余りの格の違いに息を飲む中、アインズはごく自然な所作でスケルトンに指示を出し、馬車の戸を開けさせる。忌避すべきアンデッドを平然と制御する異形の王を前に、聖騎士たちはただただ格の違いを思い知らされる。

 

「乗るのでしたら、早めに頼もう。死体を触媒とせぬアンデッドは、長時間維持できぬのでな」

「っ、申し訳ありません」

 

 アインズに促され、カルカとその護衛二人が馬車に乗り込む。その光景をただ茫然と見つめる聖騎士たちを一瞥すると、アインズはクリエイト・アンデッドの魔法でただの白骨の馬を人数分創り出し、乗るよう手で促す。多くの騎士たちが恐る恐る、スケルトン・ホースへと跨る中、恐ろしく目付きの悪い少女がアインズを見つめていた。




ティアマト(ジュラ紀の姿)に乗って現れる骸骨と幼女………
うーん、この地獄絵図………


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聖王国での会談

「「「「デミウルゴス、こいつら大穴送り~?」」」」」

「ええ。御方々自らが亜人どもの掃討に出向かれる以上、これ以上ここを維持しておくわけにはいきませんからね」

 

 最早絶叫する気力すら失せた者たちを見下し、デミウルゴスが無表情で呟く。

 

「御方々に牙を剥いた罪、死如きでは償えませんが―――餓食狐蟲王の慈悲に、感謝することですね。その体を、巣として活用していただけるのですから」

 

 デミウルゴスにしてみれば、これまでの拷問の数々では物足りない。至高の存在に牙を剥くのみならず、その身に傷を付けた―――この世のありとあらゆる苦痛を与えてもなお、足りない程に、彼は冷静に怒り狂っていた。

 

「ジャック、餓食狐蟲王に麻酔を使わぬよう依頼してください。既に痛みで死ねないよう、手は打ってありますので」

「「「「はーい」」」」」

 

 元気よく返事をして、バルブロらを引き摺りゲートへと飛び込むジャック。その後姿を見届け、デミウルゴスは空いた家畜小屋を処分するべく、魔法を行使した。

 

-----

 

「―――成程、アベリオン丘陵という脅威を排するだけでいい、と?」

「可能であれば、考えの古い頑固貴族どもを一掃していただけると有難いのですが」

「ケラルト!」

 

 王城での会談は、滞りなく終わりを迎えた。最後にケラルトが私的な要望を出したのをカルカが咎めるも、アインズは白骨の手をかざしてそれを制す。

 

「手段が無い事もないが………よいか?」

「争いの火種を摘む為です」

「ふむ………かなりあくどい手法になるが、よろしいかな?」

 

 ジルクニフはカルカを『八方美人』と称していた。綺麗ごとだけで国は回らない、と称するジルクニフからの評から、アインズは彼女がこの策に乗るかどうか、不安を抱いていたのだ。

 

「………それは、一体どういう?」

「ふむ………このことは、他言無用と誓っていただけるな?」

 

 カルカと護衛二人が首を縦に振るのを確認し、アインズがデミウルゴスのプランを告げる。

 

「まず、近い内に我が魔導国の新たなる城、ナインズ・オウン・ゴール城の完成を記念した宴を催す。その際に、貴殿と護衛二人、それと優秀な戦力を追加の護衛として、我が国に来て貰いたい」

「それでは、国の護りが!」

 

 レメディオスが怒声交じりに立ち上がり、テーブルを叩く。

 

「それが狙いだよ」

「………何?」

「ドミネート、という魔法があってな。それを使える部下を忍び込ませ、反乱を起こさせる」

「………成程、それを口実に始末するのですね」

「話が早くて助かるよ」

「それは………」

 

 カルカが美貌を曇らせ、躊躇いを見せる。だが、ケラルトはそれを意に介さない。

 

「バレる可能性は?」

「支配が解けても、それが反乱後であれば問題なかろう。それに、反乱を起こしたものが『モンスターにそそのかされた』と喚き散らしたところで、お前たちは取り合うのか?」

「確かに、その通りですね」

 

 ケラルトが浮かべる笑みは、非常に黒い。乗り気でないカルカとレメディオスを置き去りに、黒い笑みのまま口を開く。

 

「しかし、それだけではないのでしょう?」

「勿論―――ドッペルゲンガーを紛れ込ませ扇動させる、記憶の残るドミネートではなく、コントロール・アムネジアで記憶を弄り、反乱を先導させる………色々あるぞ?」

(まあ、やるとしたらデミウルゴスが裏で動くだろうけどな)

 

 部下へのある種の信頼を胸に、表向き何でもないように語る。が、その内容はあまり宜しくなかったらしく、カルカがあからさまに不快感を露わにしている。

 

「無論、そういった手段であれば、表立って不興を買うことなく始末できるというだけの話だ。嫌だというのなら、それで構わないとも………無論、争いの火種を抱え続けたいのならば、の話だが」

「………」

 

 形のいい眉を歪め、カルカは思案する。優しすぎる性格のカルカは、そのような裏工作を嫌う。しかし、貴族との対立は、ケラルトとレメディオスが睨みを利かせているから表面化していないだけで、何かきっかけがあれば簡単に表面化し、最悪国が割れる。

 

「あー………申し訳ない!話について行けない!一旦、対亜人に話を戻して貰っていいか?」

 

 沈痛な面持ちで思案するカルカを案じ、レメディオスが声を上げる。

 

「………そうですね。後のことより、先ずは目先の敵でしょう」

「そうだな。では、初めに警告から始めよう」

「警告?亜人を相手にか?」

「そうだとも」

 

 亜人に慈悲を見せる様な事を言うアインズに、レメディオスが訝し気に問う。そしてアインズは、それを肯定した。

 

「ヒトとヒトならざる者の共存を謳うのだ。慈悲を見せるのは当然だろう?」

「果たして、それに従っていただけるのでしょうか………」

 

 懸念の色の強いカルカの声に、アインズは笑い声を漏らす。

 

「ただ声をかけただけでは、反発するだろう。だが、決して敵わない、圧倒的な力を前にすればどうだ?」

「………その為の、あのドラゴンですか」

 

 アインズが連れてきたドラゴンは、丘陵と国を隔てる城壁の警備兵にも見えたという。それを亜人が見ていれば、或いは直接亜人の前に連れて行けば―――

 

「どう考えて貰っても構わんさ―――貴族の件について、アベリオン丘陵の件が済むまでに返答を頂きたい」

「………考える暇は与えない、と?」

「仕方ありません。ゴウン様の言うチャンスが近い以上、返答は早急に済ませませんと」

「………そう、ですね」

 

 暗い顔で黙り込むカルカを静かに見つめるアインズが、おもむろに席を立つ。

 

「では、私は一度失礼させて貰おう」

「え?」

「何、まだ多少の猶予はあるのでな。折角だ、この国を見せて貰うとしよう」

「姉様、ゴウン様の案内、序でに警護をお願いします」

「はぁ!?何故私が………」

 

 その声にあるのは、アンデッドへの忌避意識と………疑問。護衛が必要なのか、という至極真っ当な疑問だ。が、ケラルトは無慈悲だった。

 

「姉様に、政治駆け引きに有用な意見が出せますか?」

「………わかったよ。カルカ様の名誉の為、不服だが護衛してやる」

 

 顔に大大と『嫌だ』と書かれているレメディオスは、ともすれば国際問題になりかねない爆弾発言をする。あまりの出来事に二人が頭を抱えるも、その態度はアインズにとって愉快なものだった。

 

「ハッハッハッハッハッハ!いいぞ、面と向かって気に入らんと言われる方が気が楽だからな!面従腹背より余程マシだ」

 

 楽しそうに笑うアインズを先導するように、レメディオスが進む。不機嫌を隠さぬ彼女の後に、楽しそうに笑うアインズは付き従った。



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聖王国の行く末

「………どうすればいいの………」

 

 カルカとケラルト二人だけの部屋に、カルカの声が虚しく響く。対するケラルトは、表情を微かながらも苦々しく歪め、カルカに酷な事実を突きつける。

 

「………申し訳ありません。多分、もう手遅れです」

「え………で、でも、まだ」

「カルカ様、今のこの国で、貴女一人で同盟を決めた場合、貴族はどう動きますか?」

「あ………」

 

 貴族たちは、カルカを王位から蹴落とす機会を虎視眈々と狙っている。そんな中で、彼らに意見を求めることなく同盟に応じれば、どうなるか………それが理解できぬ程愚鈍であれば、彼女の兄カスポンドもカルカに王位を譲りはしなかっただろう。

 では、何故聡明な彼女が気付けなかったのか。これは、アインズがティアマトという一目でわかる災害を引き連れて来訪したことが大きな原因だ。貴族たちは明確な危険を前に、私兵を館の警護に回し、外に出ようとすらしなかった。

 それに対し、カルカらは混乱しながらも、ケラルトがオルトリンデの忠告と結び付けられたお陰でアインズの来訪と予測を立て、歓迎と迎撃の用意を兼て聖騎士団を動かした。が、逆を言えば混乱のあまり、それしかしていなかったのだ。

 デミウルゴスらがティアマトでの出撃を止めなかったのも、そういった強大極まりない示威効果を見越しての選出である、と信じて疑わなかった為である。またも、アインズらは無自覚の内にベストチョイスをしていたのだ。

 

「どうあっても、貴族はこれを口実にカルカ様の足を引っ張ります。それどころか、最悪国が割れます」

「そんな………い、今から動いても、無理かしら?」

「恐らく。アイツらの場合、姉様がゴウン様自身への不信感のみに留まっているのに対し、他の連中は最悪他のものにまで矛先を向けます。情報が少ない今、動かすのは得策ではありません」

 

 レメディオスを予め諌めておかなかったのは、どうせ直ぐボロを出すだろうと踏んでいたから。表面上にこやかに接しろと言っても、腹の内の不信感を隠しきれないだろうという諦念と、あくまで彼女は『国の在り方』については、特に悪い印象を持っていない、とケラルトが感じていたから。

 不興を買ったとしても、それで相手の器を測れるし、最悪姉を生贄にすれば………という、ケラルトにしては黒い打算もあったものの、どちらかと言えば姉の馬鹿正直さに対する信頼と、様々な異形との共存を掲げ、神殿勢力までも懐柔して見せた魔導王の器への信頼の方が強かった。

 そして、そんな穏やかな存在だったからこそ。貴族たちが要らん事を言って激昂させる可能性に行き着き、そうなった時点で手遅れであると理解できてしまった。

 

「………こうなれば、どれだけ功績を上げていただいても、頭の固い上プライドの高い貴族は認めないでしょう。このまま何とか返答を引き延ばして、あちらの言うパーティーギリギリのタイミングで国を発ち、反乱を誘発させ、まとめて始末するしかありません」

「そんな………」

「覚悟を決めてください、カルカ様」

 

 テーブルを叩き、ケラルトが顔を上げる。その眼で、何処までも真剣にカルカを見つめている。

 

「貴族を犠牲に民の笑顔を勝ち取るか、戦争となって一方的に消されるか」

「せ、戦争!?幾ら何でも飛躍し過ぎよ、ケラルト」

 

 冗談でないと本心では理解できていても、カルカは冗談であると必死に信じる。信じようとする。彼女の縋るような震え声に、しかしケラルトは心を鬼にして、真実を告げる。

 

「いいですか?ゴウン様の逆鱗が何処であれ、連中はほぼ確実にそれに触れます。貴族の頭は、中傷の為であれば幾らでもよく回りますから、下手をすると逆鱗に触れるどころでは済まない可能性もあります。それに、万一戦争になれば………」

 

 言われずとも、理解できてしまう。レメディオスが完全に諦める程圧倒的な魔竜が大地を、民を蹂躙する様を想像し、カルカは顔を蒼白にして震える。

 

「………仕方ありません。国の為………いいえ、民の為………ケラルト、どの貴族を残すかの判断を一任していい?」

「勿論」

 

 覚悟を決めたカルカへと、腹心にして親友であるケラルトは優しく微笑みかけた。

 

-----

 

「………うん?」

 

 ケラルトらが国の行く末を案じての相談を始める前。レメディオスに案内されながら退出した直ぐ後、ホバンスの街へと繰り出そうとしていた中で、彼の目はイリヤに何かを問いかける、やたらと特徴的な目付きの少女を捉えた。

 

「レメディオス殿、彼女は?」

 

 剣の柄に手をかけ、何やら問答しているらしい姿に、アインズは微かに警戒する。イリヤの表情が見えればまた違ったのかもしれないが、今の場所からは、イリヤの顔は見えない。

 

「ああ、私と同じ聖王国九色の一人、パベル・バラハの娘のネイア・バラハだ。聖騎士見習いだが、あのドラゴンへの警戒の為招集していた者たちの一人だな」

「ああ、ティアマトの………予め知らせておいた筈なのだが………」

「あ、あのなぁ………はい、そうですか、と信じられるわけ無いだろ」

 

 不思議そうに首を傾げるアインズに、レメディオスは疲れ果てた顔で、溜息と共に不満を零した。



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護衛と共に

「どうした?」

「あ、グッドタイミング!ほら、待ち望んでたゴウン様よ」

「え?」

 

 いきなりのご指名を受け、アインズが呆けた声を漏らす。

 

「いやね、今はティアマトの指揮権を持ってるのはアインズでしょ?」

「あ、ああ。彼女は自分を起動した者に従うからな」

 

 ビースト・マトリックスを外している状態のティアマトは、完全に機能を停止している。そして、ワールドアイテムのカチューシャを装着したプレイヤーからの指示にのみ従うのだ。この場合、イリヤの指示は受け付けず、アインズの指示にのみ従う。融通の利かないロボットのような存在だが、これはタブラ・スマラグディナがイリヤのうろ覚えのTYPE-MOON世界の女神の性質を見事に設定に落とし込んだ結果である。

 

「き、起動した者に?どういうことだ?」

「それ以上は国家機密、ということで………で、バラハ嬢、だったか」

 

 アインズの視線が、目付きの悪い少女、ネイア・バラハへと突き刺さる。

 

「彼女が、どうかしたのかね?」

「い、いえ!ただ、どうやってあんな………像で見た海竜以上に強大な力を感じさせる竜を支配したのか、気になり、まして………」

 

 歯切れ悪く、顔を赤らめて言うネイアの姿に、アインズは毒気を抜かれ、そして優しい声を上げて笑い、そっとネイアを撫でた。

 

「彼女はな、支配したんじゃないんだ。私の大切な仲間が残してくれた、言うなれば、そう………大切な、娘みたいなものだ」

 

 イリヤが恥ずかしそうに顔を背けるも、アインズの視界の外の出来事故気付かない。そもそも、仲間を褒め称える様な言葉を貰い、ご満悦の彼なら、視界に入っていても気にも留めないだろう。

 

「そ、そうなのですか………あれ程強大な竜を仲間にするとは、お仲間の方々もゴウン様のような、素晴らしいお方だったのですね」

「あっはっはっはっは!」

 

 何処までも純粋な言葉で仲間を讃えられ、アインズは声を上げて笑う。彼の視界の外で、イリヤも嬉しそうに笑う。が、アインズは直ぐに抑制されてしまい、内心の名残惜しさを隠せずにいる。

 

「ご、ご機嫌だな………」

「何、レメディオス殿もカルカ殿やケラルト殿を褒められれば嬉しかろう?それと同じさ」

 

 穏やかな声で告げられた言葉に、レメディオスは納得し、同時に心の奥底から安堵した。つまりのところ、アインズの仲間の侮辱とは即ち家族の侮辱。そして、この喜び様から、その家族を侮辱した場合を想像し、最悪の状況になる前にそれを知るきっかけをくれたネイアに、心から感謝したのだ。

 そして、人間味のある面を知った事でアインズへの認識も僅かながら変わった。アンデッドであるという先入観が薄れたのだ。

 

「確かにな。では、ホバンスの街を案内させて貰うとしよう。それで、宰相の………えーっと………」

「イリヤよ」

「ああ、失礼、イリヤ殿。ネイアに護衛を任せたいのだが、よろしいか?」

「構わないわ。よろしくね、ネイア」

「よ、よろしくお願いしま………じゃなくて!い、いいのですか?私のような、見習いが………」

 

 やはり戸惑うネイアだが、レメディオスは穏やかに笑いながら告げる。

 

「構わん。この二人の護衛なぞ、極論から言えば誰がしようが大差ない。なら、二人が好意的な評価を下したお前に任せるのが適任だろ」

 

 堂々とレメディオスが言い切り、二人は微かに苦笑を漏らす。が、実際現地人に限れば正解である為、深くは追及しない。

 

「では、バラハ嬢………いや、イリヤに倣いネイア、と呼ばせて貰っていいかな?」

「は、はい!」

「では、ネイア。私の自慢の仲間の一人を、任せたぞ」

「お、お任せください!」

(………しまった、緊張し過ぎて聞きたい事を聞けなかった………)

 

 ネイアが本当に聞きたかったのは、知りたかったのは、海路で商売に来る魔導国の商人からのみ得られる情報が、アインズが慈悲深く、聡明な王であるというのが本当なのか。

 ティアマトという巨大な災害を引き連れ現れた時の印象は、その風貌も相まって最悪の一言。だが、その後に集まった聖騎士たちが恐怖と絶望から動けなくなっていてもその非礼を咎めず、彼らの移動の為にアンデッドとはいえ、馬まで用意する慈悲深さも見せた。早い話、どちらが本質なのか、量りかねているのだ。

 だからこそ、あの竜を話題に出し、その本質をよく知るだろうイリヤと話していたのだが………気付けばアインズより、恐ろしいあの竜について深く聞いてしまっていたのだ。

 

「どうしたの?」

「い、いえ!何でもありません!」

 

 だが、今のネイアは確信を持っていた。彼らは間違いなく、聖王女にも並び得る名君だと。だからこそ、余計に知りたくなったのだ。彼らが一体、どのような正義のもと、魔導国を統治しているのかを。

 

「それでは、そうだな………ホバンスで最も多くの武具を取り揃えている店を知っていれば、案内して欲しい」

「………あー………」

「ああ、その反応を見るに、知らないんだな………ネイアはどうだ?」

「すみません、私もあまり………」

「むぅ………まあ、あちこち見て回るのも、悪くは無いか」

 

 そんなアインズは、聖王国最強と犯罪者瞳の二人、宰相の地位にある純白の少女を伴い、聖王国の首都へと繰り出した。



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亜人たちの意地

 ローブル聖王国の国境である、巨大な城壁。イリヤ直轄の僕が多く集まるその地に、カルカ、ケラルト、レメディオスに加え、多くの聖騎士や兵士が集っている。そこに、フライの魔法で宙を舞うアインズが帰還すると共に、緊張が走る。

 

「………首尾は、如何でしょうか?」

「まあ、服従を求めるだけでは当然反発する者も出よう。故に、ここからが正念場だ」

 

 集まる者たちが表情を強張らせる中、アインズは頑強な鎖で固定された鎧に身を包む巨漢へと目を向ける。凶悪な風貌の巨漢―――バーサーカーは、アインズの視線を受け、顔を彼へと向ける。

 

「カルカ殿の返答が早かったお陰で、あちらに猶予を与えることが出来た。お陰で、あちらの準備は万端なようだからな」

「猶予?」

 

 レメディオスが怪訝そうに顔を顰める中、アインズは絶対者の余裕とでも言うべきものを滲ませ、笑う。

 

「何も、平定するのに全てを滅ぼす必要は無い。圧倒的過ぎる、どうあがいても手も足も出ないような格差を見せつけてやれば、降伏か滅びか以外道は消える。そこまで来て種の滅亡を受け入れるのであれば、当然相応の処置は取るがね」

 

 アインズが目を輝かせると共に、バーサーカーが力強く頷く。

 

「うむ………そうかからず、服従を拒む亜人たちの部族の代表が現れよう。そうなった時は―――バーサーカーよ」

 

 指名された巨漢へと、視線が集まる。

 

「殺しはするな。力の差を見せつけ、降伏の余地を与えろ」

「■■■■■―――!」

「では、行け」

 

 バーサーカーが頷くと共に、アインズを中心として巨大な魔方陣が展開される。当然のように集まった者たちに動揺が走る中、辛うじて動揺を押し殺せたケラルトが問う。

 

「そ、それは一体………」

「ああ、見るのは初めてか。これは発動に時間がかかるのでな。何、彼らに与える―――最後の猶予だよ」

 

 徐々に光が強まっていく魔法陣を前に、何が起こるのかと誰もが息を飲む。そして、それが効果を発動する前に、様々な部族の代表が、本気を示す魔法武具に身を包み現れた。

 

「あれは………冗談じゃないぞ、あれだけの実力者、我々でも………」

 

 レメディオスが息を飲む中、アインズは余裕を崩さない。

 

「だからこその、超位魔法だ」

 

 超位、が意味することは解らずとも、彼が有事に備え手を打っていることはわかる。

 刻一刻と完成していく魔法陣は、部族の存亡をかけた死合開始までのカウントダウンも兼ねている。これが完成した時、この場に代表が存在しない部族は即ち魔導国に服従を誓うという事であり、代表が存在しているという事は即ち、この場限りであれど、抵抗を許されたという事だ。

 

「魔導王だか何だか知らんが、エルダー・リッチ風情に負ける訳が無かろう」

 

 そう慢心するような声を聞き流し、冷静に状況を把握するバフォルクは、城壁の上に並ぶ『災害』の数々を前に、魔導王へと反旗を翻すことを決めた己を殴ってやりたくなっていた。が、そんな無様は晒せない。

 

「………勝ち目が無いというのに、何故こうも昂るのだろうな」

 

 この場に立つ彼、『豪王』の異名を持つバザーは、アベリオン丘陵の全バルフォクの王である。勇敢で知られる王故か、それとも圧倒的な戦士としての圧に触れたからか。不思議と恐怖は消え、ただ純粋に『戦いたい』という意気が溢れていた。

 

「………なんじゃ、あれは………」

 

 そして、四本腕の亜人マーギロスの女王、『氷炎雷』のナスレネは未知の魔法に震えていた。彼女だけでなく、魔法を知る、或いは扱う者は皆、一様に未知を前に恐怖、驚愕を覚え、その身を震わせている。

 

「―――時間だ」

 

 アインズが大仰に手を広げ、叫ぶ。

 

「超位魔法、パンテオン!」

 

 魔法陣が一際強烈に輝き、閃光を撒き散らす。あまりの眩さに慣れぬ者が目を庇う中、超位魔法はその効果を十全に発揮した。

 即ち、レベル80代の智天使―――通常の第十位階魔法でも、確率故まともな召喚も困難な存在、高いタンク性能を有するケルビム・ゲートキーパーの複数召喚。この世界における英雄級がレベル30代だというのだから、その強大さは一目瞭然。

 

「服従を拒んだ、誇り高き亜人たちよ。私はお前たちに敬意を表する。故に―――」

 

 轟音。姿を覆い隠す程の土煙の中から現れるのは、ヒトの形をした災害。イリヤの手で作り上げられた、ルベドに次ぐ最強格のNPC。勇敢な者、無謀な者への最大限の敬意として、神器級の武具に加え、防御特化のワールドアイテムまで与えられた存在。

 

「さあ、バーサーカー。私の最強の護衛たるその力、見せてちょうだい!」

 

 可憐で残酷な少女の声援を背に、バーサーカーはただ無言で立ち尽くす。

 いや、そう見えるだけだ。闘いの中で力を増した亜人たちは、その所作から一切の隙が無い事を理解し、戦慄した。そして、同時に。レベル差から、皆同じくらい強大に感じられる僕の数々を前に、多くの、容易く勝てるだろう、と踏んでいた浅慮な者たちの心を打ち砕いた。

 

「ハ―――ハハハハハッ!これほどの強者と戦えるとは!」

「フン、喜び勇むのは構わんが、無様だけは晒すなよ、若造」

 

 折れなかった亜人たちは、勝ち目が無いと知りながらも挑みかかる。あくまで一介の戦士として在るバーサーカーを前に、戦士の血が刺激され、彼らの心から死の恐怖を消し去った。

 故に、彼らは挑む。死を恐れず、ただ戦士の頂点とも言える高みへと。




バーサーカーVS各亜人部族代表(服従を拒んだ者たち) ファイッ!!!


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アベリオン丘陵の平定

「■■■■■―――!!!」

 

 轟音と共に、巨躯が消え去る。それに対し、亜人の中でも特に強力な者たちは、それが転移などではなく単純な移動であると即座に理解し、戦慄と共に防御の構えを取る。

 

「ガ―――ッ!?」

 

 無様に吹き飛んだのは、猿に近い亜人種、ストーンイーターの長老。その身を、風に吹かれた塵の如く飛翔させ、盛大に土煙を上げながら墜落する。それでも生きているのは、運が良いのか、それとも………

 

「ハ、ハハハッ!素晴らしい戦士だ―――名を問いたい」

「―――」

 

 肉食獣の四足を持つ獣人の問いを受け、バーサーカーは城塞の上の主へと視線を向ける。

 

「バーサーカー。私の、最強の護衛たる彼の名よ」

「バーサーカー………バーサーカーか。感謝しよう。これほどの戦士と競い合うなど、二度と叶わぬだろうからな」

 

 両手でバトルアックスを構え、下半身の四本足を使い疾駆。バーサーカーに比べれば遥かに遅いが、彼もまた戦士。主からの命令は殺害の禁止のみである為、真正面から挑む戦士に敬意を表し、同じように真正面からぶつかり合う。

 

「ぐっ、おおおおおおおおっ!!!」

 

 大剣とバトルアックスがぶつかり合い、大斧が弾かれる。バトルアックスを弾いた大剣は、その大きさを感じさせぬ素早く巧みな剣閃により、飛来した魔力の槍を全て切り払う。が、その隙を逃さず、鋭利な爪を持つ前足を、バーサーカーの筋肉をぎっしり詰め込まれた太い足へと振り下ろす。

 

「っ、速………ッ」

(こちらにも意識を向けていた!?いや、こちらだけじゃない)

 

 爪に狙われた足を下げると共に、背後から迫っていたスネークマンの脇腹へと足を食い込ませ、そのままマーギロスへと蹴り飛ばし、叩きつける。そのまま軸足も地面から離し、空中で一回転しつつ、離れた箇所に見事に着地する。

 

「ぐ―――っ!?」

 

 着地を狙い振り抜かれたバザーの剣は、しかしバーサーカーの手により掴まれ、止められてしまう。己が大剣の柄から手を放し、刃の半ばを掴んだバーサーカーはその柄尻と刃を駆使し、他の奇襲者たちの攻撃を見事に捌き切る。

 一方的な蹂躙ではなく、あくまで対等な戦士としての戦闘。レベル、武具、スキル………あらゆるものに隔たりがあるものの、バーサーカーは油断しない。全ての攻撃を避け、受け止め、弾き飛ばし………その一切を肉体に届かせない。

 

「………羨ましい」

 

 そんな強者と戦えている亜人たちを前に、聖王国の戦士、オルランドが羨望の声を漏らす。強者との戦いを好む戦闘狂である彼は、叶う事ならば今すぐにでもあの場に飛び込みたい、と全身で表していた。

 

「………正気かよ………」

 

 そんな声を漏らしたのは、誰だったか。

 人間より遥かに優れた身体能力を持つ亜人を相手に、殺さぬよう加減した上で圧倒し続けている戦士を前に、あの場に交ざろうと思う正気の人間は、この場に居なかった。

 

-----

 

「―――我が『豪王』の名にかけて、全バルフォク、貴殿に服従することを誓おう」

 

 その日の夕方。反抗の意を見せた全ての亜人は地に伏せ、魔導王へと服従を誓った。そこにあるのは苦渋の決断ではなく、敗者として当然の行いを完遂した事、そして一介の戦士として高みに挑み、敗れたことへの、微かな爽快感。

 

「よかろう。だが、この丘陵地帯にこれだけの部族が纏まっていては窮屈だろう。必要とあらば、お前たちの住居に相応しい地を見繕うが?」

『―――!!!』

 

 その言葉に、平伏していた者たちが一斉に顔を上げる。

 

「そ、それは………しかし、我らは服従を誓った身………」

「何を気にする必要がある?お前たちは今この瞬間、我が臣民となったのだ。故に、無用な諍いを禁じると共に、その原因を取り除かんとするのは当然であろう?」

 

 死の具現たる王のその言葉は、聖王国を悩ませた侵攻のみならず、長きに渡る亜人たちの抗争に終止符を打つものであった。

 

「そ、そのような事が………?」

「魔導王たる私にかかれば、容易いコトだ」

 

 通常の転移魔法で可能なのは一人。だが、アインズらが行使するのは転移系最上位の魔法、ゲートだ。維持にかかる魔力はあれど、種族単位での移動も不可能では無かろう。

 

「では、お前たちがどのような地への移住を希望するかはまた後日聞こう。今は、その身を休め、疲れを癒すといい」

『ハッ!』

「ああ、それと―――明後日、この場に集まっている以外の部族の長を集めよ。種族など問わずだ、いいな?」

「畏まりました」

 

 服従を誓った者たちに、異を唱える愚を犯す者は居ない。

 

「では、我らは一度戻ろう―――構わないな、カルカ殿」

「え、あ、はい!問題ありません!」

 

 長い間頭を悩ませた問題をあっさりと解決させた魔導王を前に、カルカは『敵わない』という感想を抱いた。

 圧倒的な力を持つ絶対者でありながら、下の者を慮る慈悲深さを持ち、同時にカルカらの抱えるもう一つの問題である貴族との確執の解消の為の一手を、来訪したその時点で打つことを可能とする、底知れぬ知略。

 

(これで、名実ともに同盟を結ぶ準備は整った。後は、貴族たちに介入させることなく、明日を乗り切るだけ)

 

 この時点で、既に(深読みの末)アインズの策に気付いたデミウルゴスの手引きにより、アウラを始めとしたテイマー系のスキルを持つ僕の手により魔獣たちが操られ、貴族たちは領地に抑え込まれている。

 そうと知らぬカルカは、こっそりと拳を握り締め、決意を固めた。



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そうして幕は上がる

 ナインズ・オウン・ゴール城の正門に、ゲートが生まれる。

 アルベド、デミウルゴスが頭を下げると共に、他の僕たちも頭を下げる。彼らの行動が示す答えは一つ………王の、凱旋だ。

 

「ご苦労」

 

 金色のスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのレプリカを手に、アインズが現れる。その後にイリヤ、ティアマト、そして新たな同盟国からの貴賓である聖王女カルカと、その護衛のケラルト、レメディオス、そして聖騎士団の中から優秀な者を数名と、アインズらの個人的なお気に入りであるネイア。その後ろには、魔導国の民となった亜人の、各部族の長が続き、誰もが荘厳かつ美麗な城を前に、ただただ感嘆の吐息を漏らす。

 

「これは………」

 

 称賛の声をかけようにも、相応しい言葉が見つからない。

 

「現在、最初の来賓は聖王女陛下とその護衛の方々、亜人の長たちとなります」

「そうか。では、暫く好きに見て回ってくれて構わない。が、程々にな」

 

 そう残し、アインズはゲートの魔法を使い、イリヤと共に本殿まで転移する。

 

「では、皆様、これをお持ちください。場内を安全に回る為の物でございます」

 

 セバスが来訪者たちに差し出したのは、綺麗な紋様を象った、ユグドラシルにおける希少金属、スターシルバー製のブローチ。雪の結晶、錬金術の陣を組み合わせた美麗な紋様は、アインズ・ウール・ゴウンの一員としてのイリヤを示すエンブレム。

 魔導国旗にも使われているギルドとしての『アインズ・ウール・ゴウン』の紋様でないのは、イリヤが『ありきたり』と前置きした上で、『折角だし』と、私物として蓄えていたスターシルバー共々使用させたのだ。

 

「これは………銀?いえ、白金………?」

「スターシルバーと呼ばれる希少金属でございます」

 

 カルカでさえ知らぬ名の金属が、白金とも異なる輝きを放つブローチの素材だという。そして、細工もまた超一級品。カルカの知る如何なる工芸品すらも超越した逸品を、数多く用意していることに、最早戦慄を通り越し、呆れるしかない。

 

「………敵いませんね」

 

 長らく国を悩ませたアベリオン丘陵を平定できる圧倒的な戦力と、彼らを受け入れる慈悲深さ。その二つだけでも凄まじいというのに、居城から来賓の為の小道具に至るまで、カルカの知る全ての王を超越しているのだ。

 格が違い過ぎて、敗北感すら覚えない。羨望を抱くことさえ、分不相応に思えてしまう。

 

「………ふふっ」

 

 寂しそうに笑い、ブローチをドレスにつける。それと同時に身を包む力にも、驚愕を抱くことは無い。

 城内での安全を保障するマジックアイテムを身に着けたカルカは、広大な一室に用意された、これまた見事な作りの椅子に腰かけ、調度品の数々を眺め、その美しさを堪能することにした。

 

「―――え、マジか!?」

「ウム。望ムノナラバ、ココニ署名ヲ」

「やるやる!クゥ~!夜が待ち遠しいぜ!」

 

 その頃、聖王国の戦闘狂がパーティーの催しに歓喜し、大興奮していた。

 

-----

 

 日が暮れ始めた頃。貸与されたフレスヴェルグに乗る老婆が感嘆を漏らす。

 

「これは驚いた………あんな城、見たことが無い」

 

 荘厳に煌めく二つの宮殿と、その間に広がる湖。その中央には明るく照らされた闘技場が鎮座し、湖を囲うようにして溶岩に囲まれた宮殿と、淡く光る氷で形作られた宮殿。そして、それらを囲う広大な庭園には、一目で強大とわかる魔獣が徘徊している。

 

「ああ。だが、プレイヤーであるならば、何ら可笑しい事は無い」

「そうじゃな………しかし、儂まで呼ばれるとはのぉ」

「それを言うなら、私だって驚いているさ。リ・エスティーゼ王国はおろか、魔導国とも交流が無かったんだからね」

 

 老婆ことリグリットと、がらんどうの白金鎧を操作し、鎧経由で景色を見つめるツァインドルクス=ヴァイシオン。フレスヴェルグを操るイビルアイは、仮面を外した素顔で振り返る。

 

「恐らくだが、ツアーやリグリットの知ってる『ぷれいやー』についての情報が欲しいんだろうな」

「それなら、スレイン法国の方が………と、そうか」

 

 訝しげに呟くツアーだが、直ぐに納得する。そうしている内にフレスヴェルグが庭へと降り立ち、その背から降りた三人の元にセバスが赴く。

 

「お待ちしておりました、ツァインドルクス=ヴァイシオン様、リグリット・ベルスー・カウラウ様。こちらを」

「ああ、どうも………ッ」

 

 ツアーは、セバスの本質を善と感じた。同時に、彼が相当な実力者であるとも。

 

(………これは、警戒するべきかな)

 

 ツアー自身、六大神や八欲王といった、伝説となっているプレイヤーを知る存在だ。そして、六大神に従っていたNPCやモンスターが暴走した『魔神』と戦った経験もある。だからこそ、本質がどうあれ、強大な力を持つ存在として、警戒を選んだのだ。

 

「………あれは」

 

 そんなツアーは、ふとセバスの背後を通る一団に気付き、驚愕した。

 

「スレイン法国からの来賓でしょう。護衛に最高戦力を付けるとは、やはり我々を警戒されているのでしょうね」

(………知っているのか)

 

 そう。スレイン法国からの客人である六人の神官長は、六色聖典最強の存在である漆黒聖典を護衛として引き連れ、来訪していたのだ。



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記念パーティーの中での出来事

 荘厳な広間に集まるのは、魔導国の貴族とその護衛、ヴァイセルフ一家と護衛のガゼフ、クライムに、ジルクニフ帝と護衛のナザミ、レイナース、フールーダ、スレイン法国から各神に仕える神官長六人と、法国最強の漆黒聖典。更には竜王国の女王ドラウディロンと宰相、聖王国の聖王女とその両腕、そして精鋭たちに加え、最強の竜王ツアーと十三英雄の一人であるリグリットまでいるというのだから凄まじい。

 

「………この規模、まさかアインズ・ウール・ゴウンなるアンデッドの正体は………」

 

 土の神官長が漏らした言葉は、最後まで続かなかった。広間の奥にある壇上に、漆黒と純白が並んだからだ。貴族たちが、王族が身に纏う礼服が霞んで見える程に豪奢な対極の二色は、傍らに護衛の者を控えさせ、来賓らを眺める。

 

「この度、急な招待ながらもこうして馳せ参じてくれた者たちに、先ずは礼を言おう」

 

 白骨の絶対者を前に、自然と会場が静まり返る。

 

「今宵の宴、存分に楽しんで貰いたい。それと、既にセバスの動きから察している者もいるだろうが、ささやかな催しも用意してある。期待しておくといい」

 

 七匹の蛇により形作られた金色のギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手にするアインズは、これまでの中でも格段に強烈な圧を纏っている。

 そんな彼の護衛として控えるのは、二人の白。片や、純白のドレスに身を包む淫魔、アルベド。そしてもう一方は、巫女装束を思わせる紅白の装束に身を包む人間、ナザリック第八階層、桜花聖域の守護者、オーレオール・オメガだ。

 

「あの顔立ち、あの装束………ま、まさか………」

 

 闇の神官長がうわごとのように唇を震わす中、他の神官長たちも息を飲む。アインズの姿は、装いに多少の差異こそあれ、殆ど闇の神、スルシャーナと同一だったのだから。似ている、とは聞いていたものの、予想以上にそっくりだった為、神官長らは驚愕しているのだ。

 

「………間違いないだろう。恐らく、アインズ・ウール・ゴウンの正体は『ぷれいやー』だ」

「だが、どうする?国の在り方からして対極である以上、そう容易くはいくまい」

「その上、評議国の竜王まで招いている。あちらは例の件を知る以上、和平は難しいぞ」

 

 パーティーを楽しむ余裕すら失せた六人の神官長と裏腹に、漆黒聖典の者たちは物々しい装いながらも、初めて味わう極上の美味の数々に舌鼓を打っていた。

 特に第十一席次は、あちこちに控えるNPCたちとの格の違いをしっかりと把握できてしまっている為、何かあれば勝ち目無し、と諦め、最後の晩餐だとばかりに楽しんでいる。

 

「おいひ~!」

「頬張りながら喋るのは止めなさい、全く………」

 

 料理にがっつく第十一席次を窘める第一席次だが、その手の上の皿には様々な料理が山のように盛られている。何ともわかりやすいものだ。

 

「………最早、笑うことも出来んな」

 

 過去にナザリックを訪れた際、果実水とは比べ物にならない上質なジュースを飲んだ事のあるジルクニフは、言葉と裏腹に乾いた笑みを浮かべている。幸いなのは、最早張り合う気すら存在しない事か。

 

「………」

「うん?何を落ち込んで………ああ、その鎧姿では食えんからのぉ!」

 

 はっはっは、と豪快に笑うリグリットと裏腹に、鎧を遠隔で操作しているツアーの背中は哀愁に満ちている。目の前に極上の御馳走が並んでいるというのに手を付けられないのだから、仕方ない。

 そして、同じ思いをしているのはアインズも同様。その為、率先して声をかけに向かった。

 

「申し訳ない、これに関してはこちらの不手際だな。てっきり、本人が来るものかと思っていたのだが」

「ああ、君がアインズ・ウール・ゴウンか。一応、自己紹介はした方がいいかな?」

「おっと、これは失礼。イビルアイから聞いているだろうが、私の名はアインズ・ウール・ゴウン。今は、この魔導国の長を務めている」

「ああ、丁寧にどうも。ツァインドルクス=ヴァイシオンだ、よろしく、アインズ」

「リグリット・ベルスー・カウラウだよ。わざわざ招いて貰って、ありがとうね」

 

 二人が手を差し出し、アインズはその手を握り返す。

 

「構わんさ。私も色々と、興味があったのでな」

「興味、ね………私も丁度、その杖に興味があったところだよ」

 

 白金鎧の兜が、アインズの傍らに浮く杖へと向く。杖を守る様に控えるオーレオールが微かに身を強張らせる中、アインズはそれを手で制し、興味を隠さぬ声を漏らす。

 

「ほぅ………このスタッフの価値がわかるのか?」

「わかるさ。それは『ギルド武器』だろう?私が動けない理由もそれ関係でね」

「………ふむ、是非詳しく聞きたいな。後日、時間を取らせて貰って構わないかな?」

「構わないさ。私も、本体は動くことが出来ないからね」

「それは………申し訳ない事をしたな。後日、可能ならばそちらを訪問しよう。その際にでも、ナザリックの料理長たちが腕によりをかけた料理をご馳走しよう」

「ははは、よかったのうツアー。ああ、じゃがたっぷり用意してやっておくれよ?こやつの図体は大きいからの」

 

 豪快に笑うリグリットの隣で、ツアーは喜びを滲ませ、軽いガッツポーズを取る。

 そんな三人の穏やかなやり取りの一方で、イリヤは不快な視線を感じ、微かに眉を顰めながらも直ぐに取り繕い、バーサーカーとスカディを伴い、平然と会場内を歩き回る。

 

「あ、あのっ!」

 

 その声に振り向いた先には、金髪の幼い少年が立っていた。



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少年のはじめて

 レエブン侯の息子、リーリアスは、エ・レエブルの自宅から望めるアゼルリシアの銀嶺を凌駕する極上の『白』に、心を奪われていた。白く透き通った髪に、白磁の肌。静かな輝きを湛える赤い瞳が、薄紅色の唇が、その白さを一層際立たせる。化粧などというものを知らず、した事すらないイリヤだが、その美貌は、しっかりと化粧をしたどの女性よりも輝いている。

 

「あ、あのっ!」

 

 理由のわからない胸の高鳴りに戸惑いながらも、リーリアスは至高の美を持つ白―――イリヤに声をかける。幼いリーリアスは、自身へと向けられた紅い瞳の美しさに息を飲んだ。

 

「どうしたの?」

 

 幼い容姿のイリヤだが、五歳のリーリアスに比べれば十分大人びている。何より、内面的に未熟な点が多いとはいえ、前世と併せ相応の人生経験はある。その内面と外見のズレが、幼い少女ながらも大人のような雰囲気を生み、そのミスマッチがある種の魅力となり、リーリアスを虜にしているのだ。

 

「え、あ、えっと、その………」

 

 幼さ故、自身の胸の内を理解しきれないリーリアスは戸惑う。護衛のバーサーカーとスカディはそんな少年を微笑ましく見つめ、イリヤは優しい微笑みのまま、可愛らしく首を傾げる。

 何とかしよう、とこっそり(のつもりで)周囲を眺め、リーリアスはアインズが持つスタッフに目を付けた。

 

「あ、あの魔導王様の杖、すごく綺麗ですね」

 

 声をかけたはいいものの、話したい事が無かった故の話題作り。しかし、彼があの杖を素晴らしいものだと感じたのは本心からであり、包み隠さぬ本音でもある。

 

「そうでしょう!?」

 

 ―――そして、アインズ同様ギルドへの思い入れが人一倍強いイリヤは、その称賛を前に、宰相としての立ち振る舞いすら忘れ、心の奥底からの喜びを示した。

 一気に距離が縮まったことに驚くリーリアスを余所に、イリヤは感激を隠さずスタッフについて語る。

 

「あの杖の蛇の一体一体が咥える宝玉は神器級アーティファクトで、私とアインズ、それに多くの仲間たちと一緒に作り上げた物なの!その一つ一つで発動できる魔法も凄いんだけど―――」

 

 ギルド武器の破壊は、即ちギルドの崩壊を意味する。では何故、そんな重要な物を持ち出したのか。

 答えは簡単で、この城自体が第二のナザリックとも言える場所―――つまりのところ、あちこちに外敵の侵入に備えたギミックを備えているからだ。レメゲトンを守護するクリスタル型モンスターの下位互換が調度品に交じり数多く配備されている上、どれか一つが稼働した瞬間に城全域に転移魔法の阻害効果が発揮されるよう、デミウルゴスなどが手を打ってある。更には、今回のパーティーは限られた人間しか参加不可能なことに加え、閉鎖空間ということで護衛も容易い上、ナザリックの威をより分かりやすく知らしめられるから。

 ………というのが、アインズとイリヤの案を受けたアルベド、デミウルゴスが立てた推察で、実際は単に護衛が容易だからと、ユグドラシルとの関連が推察できる建造物―――具体的には、ギルド拠点を思わせるものの存在が幾らか確認できていること、そしてそれらを知り得るツアーとの接触を考慮し、彼が有する情報の程を測る意味合いもあった。

 尤も、これらも後付けで、実際は

 

『折角だし、スタッフ持ち出さない?』

 

というイリヤの提案に

 

『あー………オーレオールも桜花聖域に詰めっぱなしというのも可愛そうですし、彼女の外出の名目作りも兼て持ち出しましょうか』

 

と、モモンガが了承したことが発端である。無論、安全策も考えて常に二人の護衛を付けているのだが、二人して尤もらしい理由付けに頭を悩ませたのは言うまでもない。

 そして、イリヤはその頭を抱えた時間に価値があったと確信できる程に喜んでいた。

 

「でね、あの杖は―――」

『皆さま、お待たせいたしました。催しの準備が整いましたので、直接のご観戦をご所望の方は、間もなく係の者が向かいますので、その指示に従ってください』

 

 イリヤが嬉しそうに語る姿に見惚れていたリーリアスは、広間に響く老執事の声でイリヤが正気に戻ってしまったことに、心の奥底で無念を感じた。が、正気を取り戻したイリヤが恥ずかしそうに顔を赤らめる姿を前に、そんな感情は四散した。

 

「ちょっと熱が入り過ぎちゃったわ………忘れて」

 

 懇願の色が強いその頼みに、リーリアスは幼い少年らしい素直さで頷いた。

 

-----

 

 そして、アインズらの催し―――闘技場での試合には、このパーティーに招かれた亜人部族の長も参加しており、高い実力の持ち主たちによる戦闘は非常に白熱していた。

 

「ぬぅぅぅぅっ!」

 

 武具の性能差をゼロにする為に提供された、ごく普通の盾が大きく抉れる。盾を捨てるバザーの前に立ちはだかるのは、蒼髪の剣士、ブレイン・アングラウス。同じくごく普通の刀を構えているものの、そちらには傷も刃毀れもない。

 

「魔剣解放………かなり消耗するが、その代わりに得物を桁違いに強化する武技だ。シグルドの旦那の武器を参考にしたはいいが、編み出すのに苦労したよ」

 

 口ではそう言うブレインだが、見たところ疲労の色は一切ない。

 シグルドの武器であるグラムだが、MPを消費して威力を強化できるデータクリスタルをふんだんに使っている。その為、瞬間火力においては神器級にも届き得る。かつての反乱騒ぎの際に『キリがない』とその能力を使ったのを見たブレインが、必死に磨き上げた技。

 

「成程………ならば、その魔剣、破って見せようぞ!」

「やってみな!旦那の得物の猿真似だが、そう簡単にゃ折れねえぞ!」

 

 バルフォクの豪王と、人間の天才剣士が激突した。




3/08追記

リーリアス

 レエブン侯の息子。名前は勝手に設定。


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闘技場での催し

「面白い武技だな………随分といい拾い物をしたじゃないか、シグルド」

「称賛の言葉であれば、当方ではなくあの技を開発したブレイン殿に告げるべきかと」

 

 宮殿に展開されたミラー・オブ・リモートビューイングに映る戦闘の様子を眺め、感心したアインズからの称賛を、シグルドはブレインが受けるに相応しいと告げる。

 

「ふむ。だが、お前への報奨は必要だろう。何か、欲しいものは無いのか?」

 

 ブレインへの報奨を考える傍らで、アインズがそう問いかける。すると、シグルドは微かな逡巡の後、やや躊躇いがちに口を開いた。

 

「であれば、ナザリックの外部に邸宅を頂きたい。不満がある訳ではないのですが」

「わかっているさ。しかし住まいか………どのような場所に、と希望はあるのか?」

「我が愛………ブリュンヒルデは、綺麗な海を臨みたい、と申しておりました」

「ふむ………リ・アインツベルンの海辺に用意させよう」

「感謝いたします」

 

 深々と頭を下げたシグルドが立ち去るのを見届け、アインズは魔鏡に映る闘技場へと視線を戻す。武器破壊を得意とするバザーを相手に立ち回るブレインは、武器へと叩き込まれる攻撃を悉く武技により強化された刀で相殺し、逆にバザーの武器へとダメージを蓄積させている。天才の名に恥じぬ見事な剣技が、バザーの武器を完全に破壊するのに、そう時間はかからなかった。

 

「むぅ………未だ、武技を習得できている者が居ないのが惜しいな」

 

 ブレインが編み出した武技は、ナザリックの者たちが使えるようになれば、場合によってはギルド武器に次ぐ、極めて強力な手札となる。だからこそ、未だに武技を習得できているNPCが存在しないことが、アインズにとっては残念でならない。

 が、彼らを責める程、アインズは暗愚ではない。

 

「しかし………羨ましいな」

 

 彼の胸を焦がすのは、羨望。武技という物が、個人個人で編み出すことも可能なものであるという事もあり、アインズには色々とやってみたい事が頭に浮かんでは、マジックキャスター故どうしようもない、という現実の前に砕け散る。

 軽く気分が沈み込むも、本当に軽くであったため、醜態を晒さずに済んだ。

 

「どうしたのだ?ゴウン殿」

 

 そんな彼の隣にごく自然に並んだのは、王国戦士長時代よりやや質素な正装に身を包むガゼフ。

 

「ストロノーフか………何、少々羨ましいと思っただけだ」

「ハハハ、ゴウン殿がそのようなことを言うとはな。アングラウスの奴、きっと喜ぶでしょうな」

「知り合いか?」

「ええ、前王の御前試合にて、相対したのですが………あの時より、いい顔になった」

「ほぅ………貴殿がそこまで言うとはな」

 

 感心したような声を漏らすアインズが見つめる先で、とうとうバザーの武器を破壊したブレインが刀を掲げ、全身で勝利を示した。

 

「やるではないか」

 

 単純な肉体能力で劣りながら、武技と卓越した技でバザーお得意の武器破壊をやり返す形で勝利したブレインに、アインズは称賛の声を漏らす。ガゼフもまたどこか誇らしげに笑う中、怯え交じりの引き攣った声が響く。

 

「ん?」

「申し訳ございません、身の程を弁えぬ愚物を追い払わせて頂きました」

 

 優美に謝罪するアルベドの背後に、人陰に逃げ去る金髪リーゼントが見えた。その姿に不快感を覚えるも、アインズは長くない命である、と軽く鼻を鳴らし、アルベドに優しく告げる。

 

「構わん。どうせ、睨んだ程度であろう?それだけで逃げ出す者に、価値などあるまい」

 

 興味を失ったアインズの目が、再び魔鏡を向く。そこには、催しとしての試合の準備時間を利用した、魔導国の『人間の』精鋭兵によるスケリトル・ドラゴンとの死闘が映る。

 ロボにより選別され、コキュートスを始めとした数多の武闘派の僕たちにより鍛え上げられた精鋭中の精鋭。流石に帝国四騎士には届かぬものの、短期間で帝国の皇帝直属騎士に並び得るほどに強くなっている。

 そんな彼らは、見事な役割分担で攻め立てる事でスケリトル・ドラゴンへと着実にダメージを蓄積させている。特に、マジックキャスターの兵たちは優秀で、魔法による直接攻撃ではなく味方への支援、更にはドルイドを修める者がスケリトル・ドラゴンの足元から土の壁を作り出すことで動きを鈍らせる、或いは足が降りる地点に地割れを作るなどして、確実に攻撃の手を鈍らせている。

 

「成程………直接攻撃が無効化されるなら、間接的に妨害する、という事か………」

 

 イビルアイの呟きで合点がいったように頷くのは、戦士としてスケリトル・ドラゴンに関する知識を持つ者たち。彼らの視線はそれぞれ魔鏡に固定されており、そこでは飛行中のスケリトル・ドラゴンの背に、フローティング・ボードで浮かび上がった重装備の兵が二人飛び降りる事で重量オーバーにさせ、地面に叩きつけていた。

 背骨に当たる人骨の集合が砕け散り、その体が半分に別たれかける。それによる動きの鈍りを見逃すことなく、地上に待機していた者たちが一斉に攻撃に転じる。

 

「………連携含め、ウチ以上だな………」

 

 レメディオスが引き攣り気味の驚愕の声を漏らす中、絶命した人骨の集合たる竜が、静かに崩れ落ちた。



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『掃除』を終えて

 魔導国の、アインズ・ウール・ゴウンの力をこれでもかと誇示する結果に終わった。そんな中、その結果が面白くない者が、魔導国内に少なからず存在している。その一人であるチエネイコ男爵は、馬車の中であからさまな不快感を見せている。

 

「全く………成り上がり者の分際で………!」

 

 知己の誰もが認めるバカであるこの男、家の歴史が長い自分にはアインズも敬意を払うべき、等と思い上がっているのだ。そして、彼程でないにせよ、流浪のマジックキャスターから数多の功績を上げ貴族に、そして新たな王になったアインズに対し、表に見せないだけで不快感を持つものは少なくない。尤も、我が身可愛さからバルブロの反乱に加担しない程度の、小心者が大半だが。

 

「第一に、部下の躾がなっていないんじゃないか、全く!」

「ホントだよね~。危険を知らせる前に死んじゃうとか、護衛失格だよね~」

 

 同じ馬車に乗っていた側近が、壁越しに叩き込まれたスティレットにより後頭部から右目までを貫かれ、即死する。

 

「ひっ、ひぃぃぃぃっ!?」

「あら―、外しちゃった?けど安心してね~―――直ぐ怖くなくなるから」

 

 恐怖のあまり飛び出した男は、側方から首を一突きにされ、喉に穴が開いた状態で即死できないまま放置され、苦痛と呼吸困難で苦しむこととなった。

 

「だっ、だれだきさまは!?」

「えーっとぉ~、くふふふっ!わ・た・し、はぁ~」

 

 見るからに危険な紫色の液体で濡れたスティレットを腰から抜き、襲撃者―――クレマンティーヌが笑う。

 

「アンタに恨みを持った人間に雇われたぁ~、コ・ロ・シ・ヤ♪」

 

 逃げようとするチエネイコの肩に、投擲されたスティレットが突き刺さり、そのまま体を馬車の壁に固定する。

 

「いいいいいいっ!?ひっ、いぃぃぃっ!?」

「楽に殺すな、って依頼だからさぁ?いぃっぱい、苦しんでね~?」

 

 毒のせいで、体が動かないチエネイコ。クレマンティーヌは腰からさらに数本のスティレットを引き抜き、楽しそうに口の端を歪める。

 

「大丈夫、死ぬ前に何度も何度も治してあげるからね?」

 

 赤いポーションで満たされた小瓶を見せつけ、クレマンティーヌはこの上なく愉しそうに、嗤った。

 

-----

 

「何?」

「護衛にあまり強力な人材を用意できない男爵位の貴族たちが、あちこちで野盗に襲われたそうよ」

(それ、俺がやらせましたー!しかし、うん。カジットもやるなぁ)

 

 イリヤの報告を一見ごく普通の反応で受け流しながら、アインズはイリヤが確保した二人の優秀さに内心で喜んでいた。野盗の集団と思わせたのは、擬装用のマジックアイテムを持たせたゾンビの集団であり、それを操作していたのは、かつてクレマンティーヌと共に捕らえたネクロマンサーのカジットだ。

 アインズが作成したゾンビとはいえ、それを普通の盗賊と大差ないように見せる辺り、間違いなく優秀な人間だったのだろう。今回の働きを讃え、高位蘇生魔法のスクロールを与え解放しようかとも考えるが、他の面々に内緒の頼みごとが出来る相手故、惜しいとも考えてしまう。

 

「野盗の方は、冒険者に依頼を回そう。領主が死んだ地に関しては、継承する者の力量を測るのも兼ね、秘密裏に監視のエイトエッジ・アサシンを派遣する。ナザリックに常駐している者たちで足りないようなら、新規に召喚しよう」

(あの二人が上手く動いてくれたんだ。当初の目的通り、民衆の為にならない無能なら切り捨てるだけのことだ)

 

 当初から組み上げていた案をすらすらと告げるアインズだが、イリヤは半目で彼を見つめている。

 

「………何だ?」

「いや、余りにもすらすらと言うから………まさか、アインズが仕組んだ?」

(げ)

 

 妄信的なNPCたちであれば誤魔化せただろうが、同じプレイヤーであるイリヤの目は誤魔化せなかったらしい。焦りを胸の内に押しとどめ、アインズはシラを切るべく口を開く。

 

「何を言うかと思えば………私だって、為政者になってしまった身の上だからな。ちゃんと調べるなり何なりして、勉強してきたのだぞ?」

「………そう。まあ、いいわ。それじゃあ、急いで被害の詳細を纏めさせましょう」

 

 未だ半分疑ってこそいるものの、何とかイリヤの追及を躱す事は出来た。イリヤに内密で起こした行動である上、理由が極めて個人的なモノである為、知られるのが少々恥ずかしいのもあるのだろう。

 

「で、裏から手を回させて起こさせた聖王国の反乱は、スルーズら三人と召喚天使だけで片付きそうで、シグルド一行と会稽、ヒナのコンビがアベリオン丘陵の亜人たちの移住先の選定の為、国内を散策中。帝国の動きに問題は無くて―――」

 

 差し出された書類に、視線を落とす。そこにあるのは、城の完成パーティーに招いた国の一つ、スレイン法国からの会談の申し入れ。招いた重役より、護衛の方がパーティーを楽しんでいた一団だが、どういった心変わりだろうかと、二人は少々警戒していた。

 

「………ツアー辺りに聞いてみるか?」

「ああ、プレイヤーについて知ってるドラゴンね………いいんじゃないかしら?情報はあるに越したことは無いし」

「では、イビルアイにでも仲介を頼むとしよう。そちらの手配を頼む」

「はーい」

 

 素直に応じたイリヤが部屋を出ると、アインズは安堵から息を吐く。

 対するイリヤは、どこか拗ねた様子で扉にもたれ掛かり、溜息を吐く。

 

「………何を隠してるんだか」

 

 彼女が事の真相に辿り着くのは、野盗騒ぎによる被害が判明してから。



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平穏なひと時に

 アインズがアーグランド評議国のツアーの元を訪ねている頃、留守番を頼まれたイリヤは平穏な時間を過ごしていた。部下が有能だと、仕事が非常に楽なのだ。

 

「ええと、バルフォクの移住地周辺への説明は………あ、済んでるのね」

「皆様、優秀ですからね」

 

 ミュフィアが軽食として用意したケーキ(それでもワンホール。ホムンクルス故、イリヤもまた健啖家だからだ)を頬張りながら、殆どが解決報告である書類に目を通していく。城の完成以降、NPCたちが一層精力的に活動するようになっており、余程の事でも無ければその場で解決されてしまうのだ。

 

「んー………何というか、優秀過ぎてやる事が無いわね………」

 

 魔導国の財政管理は、基本的にアルベドがナザリックの管理の片手間にやってくれている。そのお陰で、イリヤもアインズも余計に手持ち無沙汰になっているのだが。

 

「あー………評議国だっけ?私も行けばよかったかなー………」

 

 愚痴を零すイリヤ。それを、ミュフィアが窘める。

 

「相手がどれほどの存在かもわからない以上、有事に備えイリヤ様をこちらに残すのは、正しい判断かと思われます………アインズ様より、イリヤ様の方が脆いですし」

「うっ………」

 

 忠誠心があるからこその、容赦の無い物言い。良くも悪くも、ギルドよりイリヤを優先して考えるミュフィアにしてみれば、種族的な耐性や防御スキルを持つアインズと違い、そういったものを持たない、異形種の中でも特段貧弱なホムンクルスであるイリヤは、万一同レベルの戦士とかち合ってしまえば、為す術無く敗れ、殺されるだろう。

 ミュフィアは、それを何より危惧していた。何せ、ユグドラシル時代の記憶も少なからず持つ彼女は、アインズ・ウール・ゴウンへの報復PKの餌食となる事が最も多かったのがイリヤで、よく他のメンバーが激情を露わにしていた事を、よく知っているのだ。

 

「ミュフィア」

「ナーベラル様、私は事実を告げたまでです。それとも、進言するべきことを進言せず、主に傷を負わせるのがお望みですか?」

 

 ナーベラルが顔色を変え、ミュフィアを咎めるも、彼女が告げた内容に顔色を真っ青にして震える。自分がしっかりと告げるべきことを告げずにいた結果、アインズが、或いはイリヤが怪我をして帰ってくる姿を想像してしまったのだろう。

 

「こらこら、ミユも怖がらせないの。大丈夫よ、ナーベラル。アインズは自力での情報収集も怠らないから」

 

 優しく微笑むイリヤが、ナーベラルを撫でようとする………が、身長的に彼女の頭に手が届かない。わざわざフライの魔法を使う姿が、妙に微笑ましい。

 

「い、イリヤ様………」

「さて、お仕事………って言っても、やる事も無いしなぁ………」

 

 書類に向き合うも、イリヤの言う通り殆どが解決報告。延々読み進めるだけで時間が過ぎていくせいで、イリヤは精神的に非常に疲れていた。

 

「折角だし、ちょっと見て回りましょうか」

 

 イリヤが執務室の窓へと歩み寄り、下に広がる大庭園を見下ろす。そこには、この世界における英雄級、即ちレベル30台の者たちでも、勝ち目が無い強大な魔獣が悠然と歩きまわっている。

 

「二人とも、お供してくれる?一人で出歩いてるのが見つかると、メイドたちがうるさいから」

 

 如何に第二のナザリックと呼べる程の侵入者対策が施されているとはいえ、ここがナザリックの外であることに変わりはない。ナザリックの外部を恐れるきらいのある一般メイドの中には、如何に守護者たちにより過剰なまでの防衛システムが組み込まれているナインズ・オウン・ゴール城といえど、イリヤを一人で出歩かせるのを躊躇う傾向があるのだ。

 

「畏まりました」

 

 微かに赤くなった頬を隠すように、ナーベラルが深々と頭を下げる。ミュフィアが軽く頭を下げ、部屋を出るイリヤに続く。本殿勤めの一般メイドたちと挨拶を交わしながら、城全域を囲う庭園へと降り立つ。アウラとマーレを始めとした守護者たちがあらゆる手を尽くし作り上げたその場所は、自然の中と大差ない美しさと力強さを宿している。

 

「こういう自然が目先にあるって、いいわね」

 

 リアルでも、自然という物とは無縁だったからこそ漏れたイリヤの呟き。ナーベラルとミュフィアが真意を掴み兼ねている中、彼女は本殿と来賓用の宮殿を隔てる湖を眺め、水面から見える魚影を楽しむ。それすらもした事がなかったイリヤにとっては、この上なく楽しい時間だ。

 

「………そういえば、皆へご褒美がまだだったっけ。アインズが帰ってきたら、相談しないと」

 

 澄んだ水を掬い上げ、緑に覆われた地面を見下ろし、頬を緩める。そこに、封筒を手にエイトエッジ・アサシンが一体現れる。

 

「イリヤ様。こちら、先の野盗騒ぎで死亡した者たちのリストでございます」

「ありがと。ええっと………」

 

 ナーベラル、ミュフィア、そしてエイトエッジ・アサシンは、イリヤの柔らかな微笑みが凍り付くのを目撃した。盛大な溜息を一つ零し、イリヤは額に手を当て俯く。

 

「はぁ………モモンガってば………」

 

 白い髪が重力に従い垂れさがったお陰で、彼女の口元が微かに緩み、頬が赤らんでいるのは見られずに済んだ。




な、難産だった………


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報告会

「呼び出した理由は、言わなくてもわかるわね?」

「………ハイ」

 

 凄くイイ笑顔を浮かべたイリヤの前に、モモンガが正座する。アンデッドの麻痺無効特性のお陰で足は痺れないが、ローブ姿で正座する骸骨と、それを見下ろす幼女というのは中々にインパクトのある絵面だ。

 

「で、何で黙ってたのかしら?」

「………その、極めて個人的な感情での事だったので………」

「へぇー………へぇぇぇぇ………」

「あの………あ、いえ、何でもございません」

 

 笑顔を深めるイリヤへと質問しようとしたモモンガだったが、無言の圧力を前に言葉を躊躇う。不気味なまでにイイ笑顔を浮かべる少女を前に、モモンガは内心冷や汗だらだらである。

 

「それで?どうしてそんな事をしたのかしら?」

「………そりゃあ、『一目惚れです』とかならまだしも、『俺の出世の駒になれ』って本音駄々洩れでしたし………大切な仲間がそういう目で見られて、不快じゃないわけ無いでしょう」

 

 イリヤは元々、モモンガに対し極めて好意的だ。そうなるのも当然で、腐り切った世界で生きる意味を見失っていた彼女が生きる糧を、ユグドラシルという世界に心の拠り所を得ることが出来たのは、モモンガが手を差し伸べたからなのだから。現実世界で多くの悪意に晒され、虐げられ続けた少女にとって、最初に齎された善意がどれだけ大きな価値を持つか。

 そんな彼女だからこそ、モモンガが自分へと向けられた悪意に怒りを抱いてくれたことが、たまらなく嬉しかった。色恋沙汰に関してはさっぱりな彼女は、胸の奥を温かくするモノが何かはわからない。だからこそ、大切に思われていることの嬉しさと、胸の奥を温かくする感情がわからない苛立ちで、可憐ながらも凄絶な笑みを浮かべるに至っている。

 

「まあ、いいわ。そういう事なら、今回は許してあげる」

「あ、はい」

「ただし!今後は、しっかりと相談しなさいよ?」

「わかってますよ………今回は、その、すみませんでした」

 

 完全な独断での行動であった為、モモンガは素直に頭を下げる。

 

「よろしい!………それで、どうだったのかしら?」

 

 イリヤが問うのは、評議国からの情報についてだ。

 

「色々収穫はありましたね。六大神がプレイヤーであることと、二百年前に暴れたらしい『魔神』の正体が暴走した六大神のNPCであること、それと人間至上主義政策になったのも、魔神の暴走と同時期らしいことがわかりました」

「………となると、このタイミングでの接触は、私たちをプレイヤーと断定してのものかしら?」

「そう考えるべきだ、ってのはあっちも言ってましたね。念の為、俺たちと護衛でワールドアイテムを持っておくべきでしょうね」

「護衛は、前衛として強力なアルベドとバーサーカーでいいわね?この二人なら、デフォルトでワールドアイテム持ってるし」

「それでいいですかね?あ、そうそう!忘れてた忘れてた」

 

 モモンガがアイテムボックスに手を突っ込み、一目で強大さがわかる程の力を秘めた、剣にしてはあまりに異質な武器を取り出した。一見すると、斬るという行為に向いていない形状をしたソレは、しかし秘められた力が生み出す威圧は、並の神器級武装を超える。

 

「………まさか、それって………」

「ツアーが保管していたという、八欲王のギルド武器だそうです。ウチのにも匹敵しますよ、コレ………多分、ギルドランキングでウチより上位ギルドのメンバーだったんでしょうね。そう考えると、結構なガチビルドだったと予想できます」

「………ガチの戦士ビルドだったと仮定すると、アンタと同じオーバーロードのスルシャーナが勝てないのも納得ね」

 

 モモンガの場合、エクリプスの最上位スキルという最大の初見殺しがあるとはいえ、ガチ戦士相手に一対一で十二秒耐えきるというのはほぼ不可能だろう。スルシャーナのビルドは不明とはいえ、オーバーロードである以上、取得条件的にガチ戦士ということは先ずあり得ない。

 そうなれば、相当なガチ勢であろう八欲王を相手に勝てないのは、ある意味当然と言えた。

 

「コレは、スタッフ共々オーレオールに守護させます。あそこ以上に安全な場所は無いでしょうからね」

「そうね………ところでモモンガ、一つ重大なコトを忘れて無いかしら?」

 

 少し考え込み、そしてモモンガは気付く。

 

「………ああ、皆への報奨!」

「そうよ。一応、法国との件が片付いてから纏めての方がいいでしょうけど………」

「いや、まだ時間もありますし、明日にでも守護者を集めて聞きましょう。法国の件が長引く可能性もあります」

「あー………人間至上主義の法国と、異種との共存を掲げるウチらじゃね………わかったわ」

 

 軽く頷き合い、二人は業務に関するやり取りを終える。

 

「………それで、八欲王のギルド武器はどんな効果があるのかしら?」

「あ、そういえば調べてませんでした………アプレイザル・グレーター・マジックアイテム」

 

 鑑定の魔法を使い、モモンガが八欲王の武器を調べ上げる。その効果内容に驚いたモモンガが早口で伝えたものを、一字一句逃さず聞き終えたイリヤは、苦笑気味ながらも、自信を込めて呟いた。

 

「やっぱり、ウチのスタッフがこの世界では最強ね」

「ですね」

 

 その言葉を、モモンガが否定することは無い。事実、神器級の中でも最上位クラスの効果の詰め合わせではあったものの、準ワールド級とも言えるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの方が、単純な物理攻撃力以外の面で勝っていたのだから。



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会談に向けて

 モモンガ、イリヤがげんなりした様子で顔を突き合わせる。原因は、ナザリックのNPCたちの思考回路だ。

 

「お仕えする以上の褒美は無いって………わかってはいたけど、根本から意識改革必須だなぁ………」

 

 そう。イリヤの手で恋人設定だの夫婦設定を与えられたNPC二組は兎に角として、それ以外の者の最初の回答が殆ど『お仕えする以上の褒美は無い』だったのだ。これにはホワイト企業を目指す二人も頭を抱えた。

 

「何で、悩みの種が増える結果に終わるのかしらね………」

「判明するなら、もっと早くして欲しかったですね………」

 

 揃って重い溜息を吐く二人。スレイン法国との会談を目前に、課題が一つ増えた事に、全力で頭を悩ませた。

 

-----

 

 そして、会談前日。

 

「「………」」

 

 アインズの秘書として控えるアルベドと、イリヤの従者であるナーベラルが顔を蒼くする中、アインズとイリヤが表情険しく睨み合う。

 

「もっとちゃんとした理由を言って」

「言った筈だ。明らかに桁が違う相手がいる以上、お前は別の場所から監視しておくべきだ」

「だから、その明らかに桁が違う相手について聞いてるの!」

 

 アルベドは、姉のニグレドが何者かの監視をしていたこと、そしてそんな彼女からアインズに直々の報告が行われていることを知っている。だからこそ、そこまでする事態が起きている可能性に即座に辿り着いた。

 

「………まさか、スレイン法国に未知の存在が?」

「………ああ。左右で髪と目の色が異なる奴だ。装備の格も、一人だけ桁違い。魔法を使い調べたところ、レベル100相当のステータスをしていた」

 

 イリヤが驚愕を、そして他二人が納得を顔に浮かべる。

 

「成程、貧弱なイリヤ様に標的を絞られれば、最悪の可能性もあり得ますからね………しかし、ならば全守護者を同行させればよろしいのでは?」

「………あからさまな敵対意識を見せては、そのまま戦争になりかねん。滅ぼすのは容易いが、そうする旨味が薄いからな」

 

 ワールドアイテムや複数のユグドラシル産アイテム、装備を手に入れられるにしても、一国を相手にそこまでする必要があるのか、という問題が出来る。

 

「………だから、下がってろって?」

「実際、お前は私程頑丈じゃないだろう」

「ぐっ………」

「まあ、事実ですね。イリヤ様は私たちより大分マシ程度でしかありませんし」

「がはっ………!」

 

 ミュフィアの言葉は、極限まで魔法に振ったイリヤにザックリ刺さる。そもそも、ホムンクルス自体が人間より多少強い程度のステータスしかなく、防御系のパッシブスキルもない。神器級装備である天の衣も、殆ど防御機能は無い以上、同レベルの戦士職なんかとかち合えば敗北確定なのだから。

 

「そ、それならば、我々が!」

「………しかしだな」

 

 アインズは基本、慎重だ。それ故、今回も万一の可能性を考慮してイリヤを後方に待機させようと考えたのだ。これは、イリヤの脆さ、そしてアインズ自身に万一の事があった場合にナザリックを任せる為の事でもある。

 可能性が極めて低いとしても、それが警戒しないでいい理由にはならないのだ。

 

「ならば、ヴィクティムを同行させましょう」

「むぅ………」

「いや、流石にそこまでは………」

 

 ヴィクティムのスキルである移動阻害の発動条件は、ヴィクティム自身の死。ナザリックの者の例に漏れず、主の為に死ぬことを至上の喜びとするヴィクティムだが、アインズやイリヤは当然、そうすることに抵抗がある。

 

「………仕方ないわね………」

 

 流石に、大切な仲間の命と自分の我儘とで、我儘を優先できる程、イリヤは幼稚ではない。更に言えば、ナインズ・オウン・ゴール時代から、被タゲ率トップかつ死亡回数トップのイリヤだ。アインズ程のプレイヤースキルも持たない以上、同レベルの戦士を相手になど出来ない。

 対して、アインズは情報が無ければ対策しようが無い究極の初見殺しを持つ。イリヤの場合、ガチ目なビルドながらも、ウルベルト程突出していないのが仇になった形だ。

 

「任せたぞ」

「はーい」

 

 子供のようにむくれる彼女を前に、アインズは苦笑する。前衛の召喚も可能とはいえ、対人戦においてはイリヤの方がプレイヤースキルも相まって格段に弱いのだ。最後まで一緒にナザリックを守ってくれた仲間をよく知っているからこその、今回の決定だ。

 イリヤがアインズの身を案じているのも、理解はしているのだろう。ただ、それ以上にアインズがイリヤを案じているだけで。

 

「アルベド、お前とあと一人護衛に付けようと思う。選出を任せたいのだが、構わないか?」

「っ、はい!」

「ナーベラル、イリヤを頼んだぞ」

「ハッ!」

 

 威勢よく返事をするナーベラルに頷き、アインズとイリヤが向き合う。

 

「くれぐれも、ナーベラルを困らせるなよ?」

「そっちこそ、即座に戦闘になるような真似はやめなさいよ?」

「わかってるさ」

 

 真剣な顔で向き合う二人に、アルベドとミュフィアが微かな嫉妬を漏らす。しかし、二人はそれに気付くことなく、それぞれのやるべき事に向け、準備のため動き出した。



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会談から

 スレイン法国との会談。アインズに手配された護衛と共に、ミラー・オブ・リモートビューイングで会談を眺めるイリヤは、黒と白に分れた奇妙な髪を持つオッドアイの少女へと警戒心を見せていた。

 これは、決して可愛らしい嫉妬などではなく、アインズと、あの場に居るアルベド、コキュートスと同じレベル100である存在だと、アインズがイリヤをあの場に同席させなかった理由だと気付いたから。そして、未知の要素が多いこの世界におけるレベル100が、彼女らと対等とは限らない。如何にあの二人といえど、場合によっては………と、強く危惧しているのだ。

 

(やっぱり、バーサーカーを護衛に付けさせるべきだったかなぁ………)

 

 モモンガの仲間への想いが凄まじいように、イリヤもまた、仲間への想いが凄まじい。特に、彼女の生きる活力となったナインズ・オウン・ゴールへの勧誘を行ってくれたアインズへの想いは、イレギュラーな環境下で増幅された結果、他の仲間以上に重く、大きなものとなっている。

 

「………大丈夫、だよね………」

 

 アンデッドであるアインズは、種族的に即死耐性を持つ。それを突破する方法は、彼の持つエクリプス職のスキルかワールドアイテムのみ。そして、ワールドアイテムを常に装備している彼に、ワールドアイテムは通じない。必然的に、彼を即死させる手段は一つだけになる………ユグドラシルと、同じなら。

 

「ご安心を。あの場にはアルベド様のみならず、コキュートス様もおられます」

「………そう、よね」

 

 コキュートスの創造主とナーベラルの創造主、武人武御雷と弐式炎雷の仲が良かったからか、ナーベラルがコキュートスの名を呼ぶとき、アルベドへのそれ以上の信頼を感じ取れる。それに気付いたイリヤは、険しくなっていた表情を和らげ、ソファへと背を預ける。

 

「単純な戦士としてであれば、コキュートス様であれ、アルベド様であれ、負ける事は有り得ないでしょう。が、問題は未知の武技の可能性………」

 

 ミュフィアが険しい顔をする中、会談はスムーズに進む。全力で警戒していたイリヤが、あの場に居たアインズまでもが拍子抜けするほどあっさりと会談は終わる―――かに見えた。

 

「―――ッ!?」

 

 イリヤが息を飲み、ナーベラルが、護衛のシャルティアが、バーサーカーが身構える。理由は至極単純、黒と白で綺麗に分かれた髪の少女―――番外席次が、こちらを知覚したのだ。

 偶然などではない。明確にこちらを視た上で、歪に口角を吊り上げ、笑ったのだから。

 

「ねえ、見てるんでしょ?ふふふ、そこの虫さんより強い奴の気配がする………!」

 

 狂喜に顔を歪め、番外席次が笑う。強者との間に子を生すことを望む彼女は、ある種狂的なまでの執念により、漆黒聖典の隊長らが神官長たち以外には伝えていない強者の存在を感じ取っていた。

 

「ッ!」

 

 アインズが腰を浮かせ、それを合図に守護者二人が、彼女の首へと武器を宛がう。ほんの少しでも動けば、首が斬れる程間近まで迫る刃をものともせず、少女は笑う。

 

「何、貴方たちが相手してくれるのかしら?それも悪くは無いけど―――」

 

 そう笑う彼女を前に、訪問してきた水、土、闇の神官長は胃痛を覚えていた。万一に備えてとはいえ、彼女を連れてきたのは大きな間違いだったのでは、と。

 

「………何?………番外席次、だったか」

 

 アインズの眼窩の光が、法国の最終兵器を捉える。

 

「バーサーカーが、お前との決闘を所望しているそうだ。念の為に聞くが、それがお前の本気装備か?」

「勿論」

 

 陶然とした笑みを浮かべる少女は、ごく平然と答える。アインズは静かに頷き、イリヤと繋いだメッセージで了承の意を伝えると、その場で軽く打ち合わせを行う。

 

『じゃあ、十分後に闘技場で決闘、でいいですね?』

『構わないわ。レベル的にも、本気で行かせるけど………』

『問題ないと思います。うっかり死んだとしても、こちらで蘇生させればいいですしね』

『………相手にこっちの最強戦力を見せれて、運が良ければ相手の弱体化を狙える………ええ、いいわね』

 

 冷静に相手の死をも損得勘定に入れる辺り、精神の異形化の影響はイリヤにもあるのだろう。

 

『それじゃあ、こっちもバーサーカーに準備させておくわ』

『よろしくです。あ、ワールドアイテムはどうします?』

『一応、装備させるに決まってるでしょ?』

『さいですか』

 

 ワールドアイテム保有数で言えば、アインズ・ウール・ゴウン以上のギルドは無いどころか、アインズ・ウール・ゴウンを除くと、三つが最高なのだ。これまでの転移者がどうであれ、そこまで数多くは保有していないだろう。

 そうなれば、必然的に法国が持つだろうワールドアイテムの数も一つ、あってももう一つか二つにまで限られる。無論、警戒しないでいいものなど存在しない為、バーサーカーを文字通り完全装備にするのは確定事項なのだが。

 

『じゃあ、そういう事で』

『あ、観客席はどうするの?』

『あー………どうせですし、俺たちと法国とで分けましょう。そうすれば、イリヤさんも出て来れますし』

『気が利くー!それじゃあ、急いで準備させて、闘技場に行くね!』

『はいはい、気を付けてくださいね』

 

 仲のいい会話を終え、モモンガからアインズへと切り替えると、彼は法国の面々へと告げた。

 

「これより十分後に、この城の闘技場にて番外席次とバーサーカーの決闘を行う。準備を済ませ、向かうといい」



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