アカメが斬る!帝都の繁栄と腐敗 (色々し隊)
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過ぎ去った過去

宇宙より黒く染まった場所にかつて存在した文明は跡形もなく消え繁栄していた人類も動物も植物も今は見る影もない。

そこに、存在してしまうもの、愚鈍な破壊者がそこにいる。

 

暗い……何もない…………どうすればいい?

何をすればいい?

 

怪物が思考したところで答えは出ない、誰もいないこの場所でただ立ち止まっているだけなら……もういっそのこと絶とうとさえ思った。だがかりそめの希望がそれを拒んだ。

それはいつのことだったか………ある世界での出来事、1000年間に渡る帝国の…建国と崩壊までの物語…………

 

 

次元を越えた先にある世界がある、始皇帝が国の安寧の為『超級危険種』と呼ばれる怪獣を狩り『帝具』を作っている。そして今もなお新たな帝具を作るべく危険種を狩る戦士たちの前に顕現した。

 

 

戦士

「なんだ!?」

 

 

目の前の戦士は腰に下げた剣を引き抜き両手で構え後ろで控えている馬車をかばう形で陣を作る。

 

 

???

「待ってくれ!あんたらは一体誰なんだ

よ!」

 

 

少年の様子を見て後ろの戦士が剣を担ぐ

 

 

戦士

「そりゃこっちのセリフだよ。」

 

???

「えっ、」

 

 

唖然としている少年の後ろで巨大な影が空を舞う。

 

 

戦士

「きたぞ!みんな構えろー!」

 

 

空を舞う影の主『ドラゴン』に戦士達は身構える。それぞれの得意とする武器で立ち向かおうとした。

刹那…咆哮が轟き風圧が戦士達を襲う、吹き飛ばされないよう踏ん張りドラゴンから目を離さないでいたがドラゴンから発せられる異様なプレッシャーに足をすくめる者も多く一歩後退する

 

 

???

「なん……だよ…」

 

 

轟く咆哮、地に降り立つその姿に少年は恐怖よりも先にある感情が湧いた。

 

 

???

「かっこいいー!」

 

戦士

「何言ってんだ!死にたいのかお前!」

 

 

一人が少年に駆け寄ろうと震える足を進めようとした瞬間、上空のドラゴンが戦士の前に向けてブレスを放った。

巨大が地面につき一瞬の轟音と共にドラゴンが少年へ目を向ける。そのドラゴンの名は『ヘーシュギア』〔危険種『ドラゴンロード』〕の中で最も強く、最も危険とされるモノ、その強さは逸脱しており〔超級〕を超えた〔神級〕と評される唯一の〔危険種〕だ。始皇帝の命令にこの『ヘーシュギア』の討伐は含まれてはいない。今どの戦力をもってしても討伐はできない。であるならば武器の素材を集め戦力を確固たるものにしたのち討伐する方がよいからだ。しかし今戦士達の前に〔神級〕の危険種が立つ。発せられるプレッシャーは尋常ではなく、いくつもの修羅場を切り抜けた者でさえ腰が抜けそうになるのを必死に我慢している。逃げる事はできない。ならせめて素材を乗せた馬車だけでも逃し次に備えるべきとたかをくくり覚悟した。口が開き発せられたのはブレスではなく片言の言葉だった。

 

 

ヘーシュギア

「珍しイナ、我ガ姿を見テニゲントワナ」

 

???

「逃げだすなんてそんな……」

 

 

会話する少年の後ろで戦士達はチャンスをうかがう。数々の超級危険種を討伐した彼らにとって無謀とも言える決断を下したのは手柄か正義感か

たがいが武器を構え同じ敵を警戒する、それぞれの役目を果たしていれば勝てると踏んで…だがドラゴンから発せられた言葉は予想もつかない一言だった。

 

 

ヘーシュギア

「ハッハッハッハッ!面白イコトヲユ

ウナ、人ヨ。」

 

???

「すげぇ……あんなの並のドラゴンにできる

わけない…」

 

ヘーシュギア

「トウゼンダ。ワレ程ノドラゴンロードに

ナレバタヤスキコトヨ」

 

戦士C

「君、危ないよ!すぐにこっちに…」

 

ヘーシュギア

「黙れ!」

 

 

突如放ったブレスに一人飲み込まれた。だがブレスがかかった戦士に火傷などの外傷はなく、糸の切れた人形のように地面に倒れた。通常種のドラゴンは火を吐いたりし攻撃するに対し『ヘーシュギア』の攻撃に痛みはない。あるのは〔死という生命の終着点〕のみだ。しかし他の戦士達がそれを認識できない。この世界において“一瞬で死ぬ”事は珍しくはない。戦士達が戦ってきた危険種には確かに“一瞬で殺す”ことができるものもいたがあくまでそれは外傷を与え倒すというものだった。だが『ヘーシュギア』の放ったブレスは外傷をつけずまるで人の中から攻撃したかのようだった。

 

 

ヘーシュギア

「今ワレは話しているのだ。邪魔をするな

ら……」

 

 

片言から徐々に整い、消えていたプレッシャーが再び戦士達を襲う。

 

 

ヘーシュギア

「容赦はせんぞ、人間」

 

戦士

「ひっ!」

 

 

ヘーシュギアの言葉に戦士達は構えた武器を手からしたたる水のようにおちる。恐怖にかられ、討伐した危険種の素材が乗った馬車を見捨て逃げだす。

 

 

ヘーシュギア

「さて、邪魔者も消えたことだ。お前に聞

きたいことがあるのだが…」

 

 

ヘーシュギアが少年の前で体を屈める

 

 

???

「?」

 

ヘーシュギア

「乗れ、場所を変える。」

 

 

大空を覆うように漆黒の翼が広がる。羽ばたき飛翔するその姿を表現するのなら空の支配者とも言おうか……

 

 

 

 

 

 

逃げ帰った戦士達は帝国へ戻り始皇帝に助けを求めた。3日後、帝国全土に兵士が配置され国民の多くも徴兵される。

城の上から始皇帝が演説を始める。

 

 

始皇帝

「皆、これより我々は『危険種』と決着を

つける!天変地異を起こし続けた『神

級危険種』討伐のため…皆の力を貸し

てほしい!」

 

 

演説後、始皇帝も鎧をまとい戦場へ赴く。

 

クッソ!何のために帝具を作らせたと思っておるのだ!国を盤石とするためのものを作るために国を脅かしては本末転倒、ましてや今回は相手が悪い。

 

募る不安を抑え兵士達の前へ足を運んだ。

これより起こるわ神と人の戦争、お互いの生存をかけたその名の通り〔命懸け〕の闘い。そこにいる一人の少年の物語の始まりである。



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第2話 友を斬る

 

ヘーシュギア

「はは、成る程お前は別世界から来た異端者なのか。通りで他のものと格好が違ったわけだ。」

 

???

「疑わないんだな。どこへ行っても最初は[何言ってんだこいつ]って目で見られるのに…」

 

ヘーシュギア

「そこら辺のと一緒にするな。こういうのには慣れている。

…………一つ聞く、貴様の元いた世界はどうした?」

 

 

問われた質問は少年の心の傷を抉る。少しの沈黙の後、ヘーシュギアは「すまなかった」と詮索し過ぎたことを謝罪する。

 

 

???

「いーや、元々俺の不甲斐なさが招いた結果だ…仕方ない………そうだ…仕方ないんだ……

どれだけ後悔して嘆いたところで帰っては来ない…それだけだ…」

 

 

少しの静寂の後、ヘーシュギアは怒りのこもった声を発した。

 

 

ヘーシュギア

「愚か者め、消したのならそれ以上救って見せれば良いだけのことだ。『しょうがない』などと自分を納得させるな。なに、いずれその機会はやってくる。ん?」

 

???

「どうした?」

 

ヘーシュギア

「……潮時か、」

 

 

視線の先、はるか先から有象無象の雑兵達が足並みをそろえこちらに向かってくる様子を確認する。自分にもとうとう白羽の矢が立ってしまったと心の中で思った。やがて雑兵の足は止まり全員が弓を構え発射するがそれらをたった一回の咆哮で全ての矢が空中で静止する。 

 

 

ヘーシュギア

「ここで待っていろ。」

 

 

逃げる猶予もあと僅か、軍隊は津波のように押し寄せる。少し考えヘーシュギアの心は決まった。ゆっくりと足を進める。

 

 

???

「どこ行くんだよ!?オイ!」

 

ヘーシュギア

「またいつか会えたらいいな。」

 

 

ヘーシュギアの目に映ったのは、今にも泣きそうな少年の顔だけが焼きついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵士

「前方より『神級危険種』を確認!帝具を構えろ!」

 

 

兵士たちはそれぞれの武器を構える。奇妙な形をした武器が多数見受けられるがヘーシュギアは構わない。圧倒的速度で兵士のど真ん中に着地する。雄叫びを上げ奇妙な武器を持った兵士を倒す為ブレスを放つ。

時間を止め永遠の死へと誘うその吐息は目前の全てを地へと倒れるはずだった。

 

数多もの人間が倒れる中に一人、眼前の死を物ともせず地に足をつける鎧を纏った戦士がいた。

 

『インクルシオ』超級危険種タイラントを素材とし、あらゆる環境に対応できる能力を持つ帝具。槍型の武装『ノインテーター』を複武装としている。

 

 

ヘーシュギア

「タイラント……我が一部、よもやこんな形でめぐり合うとは、」

 

 

帝具とは人智を超えた力を発揮する。例え自然界の頂点にいちするヘーシュギアさえも複数の帝具、複数の人間に敵うことなく地に伏した。持てる力を全て使い満身創痍になりながらも自分のすべきことを最後まで考えた結果なら後悔はない。

 

 

ヘーシュギア

「………ん?なんだ。世界で始めての皇帝になるという夢は叶ったようだな。キング」

 

始皇帝

「……おかげさまでな。帝国を率いるまでになったさ。今は始皇帝と呼ばれている。お前を野放しにしておけば新たな『超級危険種』が生まれてしまう。許せヘーシュギア」

 

 

久しい再会を喜ぶ余裕もなく瀕死の体に鞭打ち最後の頼みごとを皇帝に託しヘーシュギアは静かに眠りについた。

 

 

少年は茂みに隠れヘーシュギアの帰りを待っていた。

 

あの強さで負けるはずはない。

 

ガサガサっと茂みが揺れる。帰ってきた。顔を出した先にあったのは馬に乗り豪華な装飾が施された王冠をつけた見ず知らずの人だった。

 

 

始皇帝

「其方がヘーシュギアの言っていた者だな。我々と共に来い。“奴の最後の頼み”だ。」

 

 

帝国の都市の中心にいちする城へ招かれる。使用人たちが高級な食事を提供する。

長いテーブルを挟み始皇帝と少年は対峙する。

 

 

始皇帝

「やつからの頼みと言うのはそなたに居場所を与えてやってほしいとのことだった。。だが無償でというのは部下の不満を増幅させかねん。そこでだ。帝国と余を守ってもらいたい。そのための装備もある。」

 

 

使用人から授与されたのは特殊な形状をした二振りのショートソード、装飾が施され刀身にはヘーシュギアの姿が描かれている。

少年はそれを手に取り友の死を察する。

 

また失った。

 

後悔だらけの人生に嫌になっていたが、ヘーシュギアの「消したのならそれ以上救って見せれば良いだけのことだ。」と言う言葉を思い出し始皇帝を、帝国を守る『帝御国防騎士 タナトス・ドラグノフ』となる決意を少年は固めた。



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第三話 タナトスは見た!

 帝都の中央にある大きな宮殿の王室に一国を治める年齢とは思えない程幼い子供が玉座に座っていた。彼は1000年に及ぶ帝国の現皇帝。

親は両方他界し、大臣に育てられた彼は大臣の言葉を信じて疑わず政治を全て大臣の言葉一つで決めていた。

そんな中で異議を唱えるものは必ずでてくるものだ。間違えた政治を止めるため心ある武官や将軍が声を上げる。だが、そんな発言が皇帝に通るわけもなく門前払いが落ち……そう、たった一人を除いては…

その者は竜の意匠が施されたフルヘルムに複雑な装飾が施された黒いフルプレートを纏った騎士《タナトス・ドラグノフ》が皇帝に意見する。

 

 

皇帝

「して、タナトス卿よ。此度はどのような要件でここへ?」

 

タナトス

「……はい、是非とも陛下には下々の民の生活に触れて欲しくここにまいりました。」

 

 

今の帝都の現状を一言で表すのなら【地獄】だ。

 圧政に重税、自由に発言もできず、上流階級の好き放題と糞みたいな出来事を煮固めたフルコースときた。

 皇帝陛下の統治の仕方がなってないと言うのは正しい。彼自身まだ幼い。誰かが正しく導かなければならないのだが、

 

 

オネスト大臣

「卿よ、陛下はお忙しい身。帝国のため日々研鑽を重ねておられます。あなたはそんな多忙な身の陛下に一人一人の民の生活に触れろと申すとは、酷いものです。」

 

 

隣の《オネスト大臣》がそれを許すはずもない。前皇帝を暗殺し帝都を乗っ取った元凶だ。

 

 

大臣

「それにあなたは宮殿の護衛を盾に陛下にあだなす者達を倒しに行こうともせずに引き篭もっているだけ。あなたが今すべきことは反乱軍の討伐の筈では?」 

 

タナトス

「確かに直接殲滅できれば事足りることだ。が、生憎と今の俺にそこまでの力はなくてな。宮殿から離れると力が弱まってしまうのさ、」

 

 

 見え見えの嘘も俺であれば通用する。オネスト大臣は険悪な顔をした。

 無理もない。奴は帝国の中も外もほとんどを支配している。今支配し切れていない帝国の重鎮は俺を含めて数名、自分の意にそぐわない連中は何かと難癖をつけ殺しまわっているが、俺は違う。

 

 始皇帝からの特権、エスデスと同等以上の戦闘力を持つ俺はオネスト大臣でも一筋縄ではいかないだろう。多少の無理は効く、だからこそ皇帝を利用しいいように使う算段なのだろう。

 

ーーー無論、その策に乗るわけはない。ーーー

 

 

大臣

「宮殿の守りなら『ブドー大将軍』がおりましょう。あの方はあなたの信用に足る人物では?」

 

タナトス

「ブドーはダメだ。あいつは兵達の修練で忙しい。それに、ここに直接カチコミをかけるような輩が複数現れれば、いくらブドーと言えど手こずる可能性だってある。万に一つということもあるしな。それに不足の事態が起こったらあんたもただじゃ済まないだろ?」

 

 

 言いたいことだけ言って王室を立ち去ろうとした時、皇帝が口を開いた。

 

 

皇帝

「タナトスよ。また余と共に食事をしてはくれまいか?」

 

タナトス

「………考えておきます。陛下」

 

 

 皇帝はその言葉を聞くと寂しそうに「そうか…」と溢す。

 皇帝とタナトスは昔、まだ前皇帝が生きていた頃共に遊び食事を共にし、まるで友達のような関係だった。しかし大臣が皇帝の教育係となってからは大臣の策略で皇帝と離されていた。

 

 ーー大臣を潰すまで…死なないでくれーー

 

 心の中でタナトスは皇帝の身を案じる。あの大臣は自分のためなら他者を平気で殺す。皇帝も例外では無い。

 

 宮殿の中というものは案外暇するところだ。1000年もその中で仕事だけやっていると言うのも窮屈な話だ。だから頻繁に宮殿の外(帝都)へ外装を外し出向いている。

 娯楽が多いこの場所は俺にとって最高の場所だった。美味しいものを食え子供と一緒に遊ぶ。それが楽しみだった。

 だが今は帝国の警備隊が好き勝手し、かつて賑わっていた帝都の面影はなく恐怖に怯えるだけだった。

 ある程度遊び日も暮れ出した頃、街角の十字路で目の前を二人の武装した少女が横切っていった。その後を追うのは帝都警備隊の隊員が数名、その中には俺と同じ帝具と呼ばれる武器を持つ隊員の姿も確認できた。

 

 《ナイトレイド》帝国の重鎮(主に腐ったど外道ども)や将軍などの暗殺を生業とする集団。顔が割れている構成員は数少ない。それに帝具を持っているものも多い。

 

 

 一人は手配書にあった顔だった。もう一人はおそらく仲間だろう。警備隊を振り払おうと持っていた銃型の帝具《パンプキン》で警備隊を狙う。

 目眩しは隊員を足止めするには事足りたが一人帝具を持った警備隊員が追ってくる。帝具を持つ相手との戦いはどちらかが死ぬ確率が高い、

 その強大すぎる力が故にぶつかり合った場合逃げることは困難を極めるからだ。

 前を走る仲間の脚が止まった。背負った巨大なハサミの帝具《エクスタス》を構え迫る警備隊を睨む。

 帝具の数では完全に優っている、あわよくば相手の帝具を奪い帝国に反逆する革命軍の戦力を増やそうと

 やがて警備隊が追いついた。先頭にいる帝具使いは愛くるしい二足歩行の犬を従えたポニーテールの少女《セリュー・ユピキタス》

 

 

セリュー

「賊が、とうとう観念したか…

正義の名の下に貴様らに裁きを下してやる!」

 

 

 正義を信じ、帝都警備隊へ志願しオーガと呼ばれる警備隊長との修行でたとえ帝具なしでも相当の実力がある。

「コロッ!」とセリューが叫ぶ。先ほどまでかわいい外見をしていた犬は巨大化し獰猛な表情でバッキバキでムキムキになった腕を二人に振りかざす。

 

 

シェーレ

「後ろをお願いしますマイン」

 

 

 ツインテールの小柄な少女《マイン》を後ろへ下がらせチャイナ服の眼鏡っ娘《シェーレ》はエクスタスを構える。

 振りかざさせた腕をエクスタスでガードし生物帝具《ヘカトンケイル》の一撃を止めた。

 

 

タナトス

「ほぉ」

 

 

 感心しているタナトスをよそにエクスタスを持つ少女はヘカトンケイルの腕を髪を切るかの如くバサリと切断する。

 

 《万物両断 エクスタス》最高の硬さを誇りこの世のあらゆるものを切断することができる巨大なハサミ型帝具。ハサミの形をしてはいるが刃を開かずともある程度は切りつけたり突くこともできる。無論、歯を開いたときの切れ味は抜群

 

 ボトッと切断された腕は地面に落ち滴る血が地面を赤く染めるがヘカトンケイルは気にも止めず残されたもう片方の腕をエクスタスを振るう少女の頭上に振りかざす。

彼女は二つミスをした。

一つ、片腕を切ったことで次の攻撃までタイムラグがあると判断したこと

二つ目はヘカトンケイルの防御すら無視して盾ごと叩き潰すような強力なパンチ

 

驚きと油断の二段構え、ヘカトンケイルのパンチは少女を後方へとすっ飛ばしたのだ。

 壁に叩きつけられ全身を走る痛みで身動きがとれない。

 このままではシェーレは死ぬ。後衛であるはずのマインは考えるより先に足が動いていた。シェーレを守るため、最悪自分が犠牲になってでも助けるつもりだ。

 

だが

 

 

セリュー

「ーーー貴様の相手はこの私だ!」

 

 

 セリューがトンファーによる攻撃を仕掛ける。

 腐っても帝国の警備兵、その攻撃には創意工夫が練り込まれ二撃三撃と撃ち込まれる。     

 装甲強度が高く盾がわりにも利用できるパンプキンでなんとか攻撃を防ぎ続ける。

 

 

セリュー

「どうした?仲間が喰われるぞッ!反撃して見せろォ!」

 

マイン

「……舐めんじゃ、無いわよーッ!!」

 

 

 《浪漫砲台パンプキン》状況に応じてアタッチメントを付け替え様々な形態をとることができる巨大な銃の帝具。撃ち出される弾は光弾、精神エネルギーの塊だ。

所有者がピンチになればなるほどその力は増し光弾が強力になっていく、

 前述した通りアタッチメントの換装による汎用性が高く、マシンガンやキャノンなどがある。

 

セリューの煽りに乗り頭に血がのぼる。

攻撃を紙一重で交わしアタッチメントを付け替えキャノンモードで横一線、セリューの腕を撃ち斬る。

腕を斬られたにも関わらずセリューは口元は不気味に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セリュー

「正義……執行ゥ!!!」

 

 

斬られた腕は義手、断面には銃火器が内蔵されていた。

突然の事にマインは反応出来ず弾丸をモロに受けてしまう。身動きが取れず痛みでうずくまるしかない状況で、セリューは狂気に満ちた笑い声を響かせる。

その声は残酷にマインの死刑宣告を意味していた。冷たい地面に体がへばりつき帝具による応戦もできない状況下で自分にできることは何もない。シェーレもヘカトンケイルとの戦闘は長くは持たないと悟り、死にたくないと心の中で強く願った。

 

笑いながらマインの脳天に銃口を向けた。

 

 絶対正義の名の下に悪を断罪することを使命と捉えるセリューにとってこれほどの巨悪を生かしておく道理はない。

 

ーー確実に仕留めコロのエサにしてやる。ーー

 

その時だった。突然スモークグレネードが投げ込まれ視界が塞がれ動きが止まった二人に伸びた尻尾がセリューの足をひっぱたき体勢を崩させヘカトンケイルにも追撃をかけた。

 突然のことにマインとシェーレもなにが起こったのかはわからなかった。

 ただ、動きの止まった今なら撤退するチャンスがあることだけは理解していた。

 スモークから抜け全速力で戦線を離脱しようとした二人は側にいた異形の存在の気配を感じ取り走りながらチラリと顔を移した。

 

 そこにいた存在はあまりにも強大で私たちが戦ってきた誰よりも恐ろしさがあった。もしかすると帝国最強のエスデスさえ超える力を持つかもしれない。

 

 そう感じるには充分すぎる一瞬だった。

 

 

 煙が晴れ、あたりを確認するが賊の姿はない。あの隙に逃げられる事は考えられた。だからこそ悔しかった。悪を逃した自分を呪った。自分の正義は必ず正しい。もっと強ければ倒せたかもしれないのに、と。

 

 

タナトス

「随分と荒れてるな。警備隊の……え〜」

 

セリュー

「タナトス伯爵!?

……は、私は帝国警備隊のセリュー・ユピキタスです!

先程賊と交戦していたのですが、邪魔が入り逃しました。すいません……」

 

タナトス

「気にするな。チャンスはまたある。

………少し話がしたいセリュー・ユピキタス、君の掲げる『正義』とはなんだ?何をもって正しいと言い切れるのかを問いたい。」

 

セリュー

「そんなの決まってます!悪は絶対に倒すことこそ正義!!

たとえ見逃してもまた繰り返す。だから殺すんです!」

 

 

 満面の笑みで語られた正義に俺はドン引きするだけで今話しても何も変わらないことが心の奥底から分かった。

 

 

タナトス

「なるほどな。礼を言う。手間を取らせたな。」



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第4話 三獣士vs帝国の騎士

 ナイトレイドのアジトでは、撤退した二人が他の仲間に昨日おきたことを事細かに話した。

帝具使いのセリュー・ユピキタスの戦闘能力、マインの顔がバレ帝都に新たな顔の手配書が行き渡ったこと、そしてこれが最も重要な事だ。

「なるほどな」と葉巻を吸う《ナジェンダ》と言う名の女はナイトレイド内でボスと、言われている。

 

 

ナジェンダ

「二人の話はわかった。そいつについては調査隊を編成し偵察させる。北のエスデスの件もあるが、こちらも捨て置けん。」

 

義手となった左腕で頭を抱える。そう、ナイトレイドのメンバーは帝国から抜け出したものが数多くいる。帝国内では色々な噂を聞いたことがあった。

 

ーーー月に照らされた大きな羽にうねる尻尾、それに暗闇に光ったという二つの目、まさかとは思うが…ーー

 

 

ナジェンダは将軍時代に聞いた500年前の伝説を思い出した。帝都を半壊させるほどに苛烈な戦争を仕掛けた軍の大半をたった一人で殲滅したあの騎士の話を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝、帝国兵から報告があった。最近ちまたを騒がせていた《首切りザンク》なる元処刑執行人がナイトレイドのアカメに殺されたらしい。まぁ俺にはたいして関係ないが

 

そう、今のタナトスには懸念すべきことが三つほど存在した。

 

一つ、帝都警備隊隊長オーガの暗殺

二つ、エスデスの帝都帰還の可能性

そして三つ、セリュー・ユピキタスの正義

 

 

帝国兵

「……以上が、大臣が秘密裏にエスデス将軍を使い出した指示です。

………聞いてますか?伯爵?」

 

 

タナトスの前に手をかざす。帝国一般兵、名をセイギ、彼らは帝国の中でも腐っていない心を持つ兵士だ。ブドー大将軍の近衛兵並みの強さは持ち合わせてはいない。しかし、その心は帝国最強と言っていいほど素晴らしいものだ。故にタナトスは彼ら数名を側に置き情報を集めてもらっている。

 

 

タナトス

「ん?すまない。なんだって?」

 

セイギ

「はぁ〜、もう一度言いますよ。

地方に飛ばされた元官僚のチョウリという人物の暗殺にエスデスの部隊の《三獣士》が使われるんですよ。ブドー大将軍が守っているとは言っても直接ではありません。おそらく暗殺です。それもナイトレイドになりすましてやるなんて、いかにもあの狡猾デブデブ肉喰らいわがまま独裁大臣の考えそうなことですよォ!」

 

タナトス

「お前、そんなに口悪かったのか…(困惑)」

 

 

友の新たな一面に苦笑しつつもタナトスは次の行動にです為の準備を始めた。とは言っても窓を開け、背中の翼を広げ流だけだが、

 

 

タナトス

「あとは任す。頼むぞ。」

 

セイギ

「お任せあれ!」

 

 

国を護る騎士は大空へと羽ばたき正しき志を持つ者を守護せんがため剣とかした尾を振るう。その剣波は音速を超えはるか彼方の大地に到達した。そこは氷が支配する北の国、王座らしき場に座る女性のブーツをかすめ背後の建物を切り裂いた。

 

「エスデス将軍!?」と周りにいた兵士は戦慄した。突然あらぬ方向から衝撃波が飛び込んできたからだ。北の異民族を討伐し指導者《ヌマ・セイカ》の心を壊しペット…いや、下僕のように首輪をつけ足を舐めさせていたエスデスに急に、

衝撃波が過ぎ去った後には堕ちた指導者の首は弾け飛び無様極まりない姿は跡形もなかった。それがせめてもの葬い、堕ちた顔を晒すよりは幾分かマシな死に様だったと言える。

 

 

エスデス

「フッ!フハハハハ!

 

 

面白い。待っていろ……タナトス・ドラグノフ!貴様も私が蹂躙してやるッ!!」

 

 

 永久凍土の地を制覇した氷の悪魔は次の標的に牙を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、荒野の地を一個大隊の護衛を従えた馬車がいた。大臣が暗殺を命令したチョウリという官僚とその娘であるスピアという少女が乗っていた。彼らは帝国の悪政を終わらせるため大臣と戦うことを選んだ。それが大臣に潰される引き金だった。

 

一個大隊は三獣士によって全滅しチョウリは地面に転がり娘のスピアも三獣士の一人ミャウによって身体中を傷だらけにされている。

 

 男の名はリヴァ、帝国の将軍だったが大臣に逆らい死刑が確定したところをエスデスに助けられ絶対の忠誠を誓う。

 どのような命令だろうとエスデスへの忠義にかけて完璧に実行する。それが今の彼の生きる言動力

 

リヴァ

「あなたの志は私も大変、共感していましたよ。チョウリ殿。大臣の不正は許されるものではないと思っていましたので」

 

チョウリ

「では何故儂を殺す!?」

 

リヴァ

「これも我が主人の命」

 

ニャウ

「ねぇリヴァー、この子すごくいい顔する!恐怖で歪みきってるー

そのままいてね。最高の表情…たまらない…ッ!」

 

 

 ニャウが取り出したのは帝具でもなんでもないただのナイフ、スピアの顎の下に刃をつける。ピトリと冷たい刃の温度がスピアの顔を恐怖一色に染め上げる。今から何をされるのか、想像したくない。が現実は非常にもこれから起こることを認識させる。

 

 涙で前がかすみ、恐怖でパニックになりかけた。

 

 ついにナイフが顔を剥ぐ。冷たい感覚を顔に感じ、首元を血が滴る。

 

 

チョウリ

「スピアァァァァーー!」

 

 

 最愛の娘の断末魔で自分までおかしくなりそうな勢いを間近で見ていた大男《ダイダラ》はニャウに嫌悪感を向ける。

 

 

ダイダラ

「うへ〜、相変わらず気持ち悪りぃ趣味だなそりゃ」

 

ニャウ

「うるさい。僕の勝手だろ!」

 

リヴァ

「その辺にしておけ二人とも、先に仕事を片付けるぞ。お前のことはそれからだ。」

 

ニャウ

「はいはい」

 

 

 皮膚を剥がす寸前でナイフは止まる。束の間の安心がスピアに訪れたが父が死ぬまで延期されたものだと思い希望の光は闇に消えた。

 

 

リヴァ

「それでは、」

 

 

 

 

 

 

 その場に居合わせた三獣士全ては驚きを隠せなかった。殺すはずの標的が一瞬にして消えた。ニャウが押さえていたスピアも同じく、あたりを見回しても誰もいない。たった一人を除いて

 

 

 

 

 荒野に君臨したその姿は神々しく、阻む全てをなぎ倒すほどの殺気を纏いゆっくりとリヴァ達へ向かってくる。

 

 

リヴァ

「貴方は…なるほど、どこからか情報が漏れていたというわけか、

 

 

タナトス伯爵」

 

 

三人の眼前に立ちはだかる帝国最最古の騎士はマントに隠れた背部の尻尾をうねらせる。

 

 

タナトス

「賊のフリまでして殺したいか?

ハァ〜まったく大臣め、三獣士の相手はあまりしたくないかったんだが……」

 

リヴァ

「貴方のことはよく存じ上げています。

 500年前におきた戦争、帝国滅亡の危機にたった一人で敵を殲滅されたとか。」

 

 

ダイダラ

「ヘッ、最高の経験値じゃアねェかョー

 

 

いただくぜェェェェ!!」

 

 

リヴァの制止を無視しダイダラは己の帝具《二挺大斧ベルヴァーク》を中心で二つに割り片方をタナトスに向かって投擲する。

ベルヴァークが兜をかすめ火花を散らす。

 ダイダラは半分のベルヴァークを構え突進、過ぎ去ったベルヴァークはブーメランのように曲がりタナトスの後ろから迫る。

 

 挟み撃ち、ダイダラの必勝戦術だ。今までの敵でこの戦法を破ったのはエスデスしかいなかった。

 

 

タナトス

「……くだらん」

 

 

 呆れきった口調で尻尾をふるった。弧の軌道を描いた尻尾は、後ろのベルヴァークをいともたやすく弾き前方から突撃してきたダイダラの喉をかっ斬った。

 糸の切れた人形のように倒れた仲間を見てリヴァもニャウも戦慄している。

 

 勝てない、直感的にそう感じた。

 

 急いで撤退しようと後ろを振り返った先に先ほどまで目の前にいた存在がそこにいた。

 

 

タナトス

「逃げる気か?」

 

 

 タナトスの尾先はリヴァ達二人に向いている。死を覚悟し帝具を構えた。どうせ死ぬのであれば少しばかりの抵抗ぐらいはしてやると、それは二人にとって完全に意地であった。《エスデス軍の三獣士》と呼ばれ帝国軍に名を轟かせた自分たちが何もできずに死ぬなど無様すぎる。

 

 

タナトス

「そうだ。そうこなくては面白くない」

 

 

 長らく忘れていた高揚感を思い出した。

 

ーーそうこれだ。この感じ、戦場で死を覚悟した戦士と相対した時の感覚……忘れていたーー

 

 気分が有頂天になっていたが、そこにあらぬ者たちがやってきた。

 

 

 ナイトレイドだ。パンプキンを持ったマインと日本刀型の帝具《一斬必殺 村雨》を持ったアカメ、それに帝具なしの小僧が一人。

 

 

???

「どうなってんだ…文官の人は?」

 

アカメ

「………あれは、帝国の騎士だな。三獣士より先に葬る。」

 

 

 村雨を構えこちらを見据えるアカメの殺気は凄まじいものがあった。こちらでも楽しめるかと期待を混じらせ尾の先をアカメに向ける。

 アカメはやる気満々のようだ。楽しめるといいが

 

 興に浸るタナトスだったがそれを遮るかのようにマインが震えた声でアカメを止めた。

 

 

マイン

「待って!!

そいつは……ヤバイ………ッ!相手しない方がいいわよ!」

 

 

 あいつは、前にハサミのやつといた女か。まぁナイトレイドと戦うメリットもないし、ここは自重しておこうか。大人(実年齢千歳)の余裕を見せなくてはッ!

 

 

タナトス

「………だな。今俺と戦えば命がいくつあっても足りんぞ。それに、獲物にも逃げられた。逃げ足の早いことだ。

どれ、一つ取引だ。チョウリとその娘は岩場に隠してある。早急に保護してくれてかまわん。

そのかわりに俺を追ってくれるな。」

 

 

 アカメのあの顔、疑っているようだな。

 

 

タナトス

「なんなら確認が取れるまで身動きを取らないと約束しよう。」

 

アカメ

「………わかった。そうしよう。タツミ」

 

 

 タツミと呼ばれた小僧は俺が指差した岩場へチョウリ達の安否を確認する。

 

 

タツミ

「アカメ、確かに二人とも無事だ。気絶してるだけで脈もある。ただ酷い傷だ。すぐに戻って手当てしたほうがいい。」

 

マイン

「撤退するわよアカメ。」

 

タナトス

「行けよ。」

 

 

 ナイトレイドは撤退した。ではこちらも向かうとしよう。

 

 翼を広げ点高く飛び上がる。逃げた二人の位置は把握した。

猛スピードで降下する。

 

 

リヴァ

「もう追いつかれたのか!?

ニャウお前は先に行け!ここは私が引き受ける!」

 

 

 差し違えてでも止めるつもりだったリヴァはタナトスがとった行動に呆気にとられる。

 

 

タナトス

「まずはお前だ。」

 

 

 ニャウは驚愕しながらも笛型の帝具《軍楽夢想スクリーム》でタナトスの正拳突きを受け止める。空を斬る拳の勢いは超級危険種を遥かに凌ぎこの世のものとは思えないほどの轟音とともにニャウを後方へと吹き飛ばしあばらの5、6本を折る勢いだった。

 

 

リヴァ

「くッ!」

 

タナトス

「こいつの帝具、音を奏でて戦況をコントロールするやつだったよな確か?

 昔のことだからあんま覚えてないけど」

 

ニャウ

「くはッ!

 

 

 ………!?」

 

 

 吐血したニャウはその光景に驚愕した。帝具《スクリーム》が真っ二つに折れている。数々の戦場を渡り歩いた。無論その中には自分たちと同じ帝具使いも何人かは覚えている。肉弾戦を仕掛けてくるもの少なくなかった。そういった敵はスクリームを吹く暇もなかった為に笛を警棒のように使って対処するのがニャウのやり方。事実、スクリームは鈍器としても扱える強度はあった。

 

 

ニャウ

「そんな…どうして」

 

タナトス

「その帝具が弱かった。それだけだ。」

 

リヴァ 

「まずいッ!」

 

 

 急いで助けようとするが無駄に終わる。ニャウの頭へと狙いを定めた拳は無慈悲に頭蓋骨を砕き絶命させた。

 崩れるニャウに見向きもせず今度はリヴァへと顔を移す。一瞬、怯んだが最後の意地を見せ戦闘態勢をとる。

 タナトスはゆっくりと足を進ませる。それはリヴァにとって《死》以外の何者でもない。自分はもうすぐ死ぬ。だがただでは死ねない。それはエスデスに対する最大の侮辱、せめてもの抵抗はしてやる。

 寸前まで迫る。拳をタナトスの頭へと突き出そうとした瞬間にはすでに肉薄されていた。

 

 

リヴァ

「………何故、どどめを刺さん?」

 

 

 何もせずリヴァの目を見るだけのタナトスに疑問を投げかけた。自分たちなら慈悲もなく殺すであろうこの状況で殺さない。これほどの強者が何故何もしないのか?

 

 

タナトス

「知らん、ただ、お前はどこか…あの二人と違う気がするだけだ。その命今はとっておけ。せっかく拾った命だ。無駄にするな。」

 

 

 それだけ言うと跡形もなくタナトスは消えた。その後、リヴァはエスデス軍に帰還 三獣士の内二人が戦死し帝具を回収できなかったことを伝えた。

 



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第5話 氷の女帝

アカ斬るの最強格のキャラのエスデス将軍自分は大好きです。死んで欲しくはなかったけど、まぁ戦闘狂は平和な世界では生きることはできないと思うと…なんか、あれですね。
キャラがバッタバッタと死んでいく都合上、好きなキャラも死んでしまうのは心苦しかったです。
しかし!この世界では好きなキャラは死なせはせんッ!(ドズル・ザビ)

おまたせしました。第5話でーす。


 昔、とんでもない誤ちを犯した。栄えた文明は消え去り、嘆く人々の声は虚構に消えるだけでどこにも届きはしない。あるものは家族と最後を共にした。孤独に終わることを選んだ戦士もいた。それぞれがそれぞれの終わりを迎えただ一人取り残された俺はどうするべきか苦悩する。何年も何年も考え諦めかけた時、俺に一筋の光がさしたんだ。

 

 飛ばされた場所は見覚えのない森の中、新しい出会いもあった。だが、結局その友達とすら死に別れ、今に至る。

 

オネスト

「おや?

 伯爵ではありませんか。」

 

 このようなところで何を、と邪悪な笑みを浮かべながら聞いてくる。

 

 チッ、と舌打ちをしながらも聞かれたことに返答する。

 

タナトス

「ただ少し昔のことを思い出していただけだ。貴様には関係ない。」

 

 そうですかとオネストは興味なさそうに言うとそそくさとその場から消え失せた。

 

 タナトスは今後の事に頭を抱える。対エスデス軍、ナイトレイド、考えなければならないことが山積みな現状で、嫌な顔を見たら不機嫌にもなる。事実ヘルムの下で隠れていたが、今の彼は相当に苛立っている。

 

ムカつく。

イラつく。

どうにかしてやりたい。

 

抑え込んでいた気持ちが溢れ出て、今この場で暴れてやろうかとも考えたが、大臣に皇帝を人質に取られているに等しい現状でそんなことをすれば危険が及ぶことは明白。

必死に感情を抑え込み平静を装う。

 

しばらくして、パタパタと鳥の危険種が一匹、腕に乗っかり口に加えた紙を差し出した。鳥の頭を撫で礼を言うと、紙を広げる。そこに書いてある事に目を疑い、真偽を確かめるために皇帝の玉座へ足を運んだ。

王室のドアを壊す勢いで乱暴に開け、自分を見下ろすオネストに怒声を発する。

 

タナトス

「貴様、昨日村を一つ焼き払ったと知らせを受けた。一体どういう事だ?

事と次第によっては…

 

貴様を処すぞ。」

オネスト

「おやおや、お耳がお早い。流石は伯爵。

して、不思議ですな〜此度の任務は極秘に行われておりましたが…もしや内通者が!?

早急に見つけ出し処刑せねば」

 

オネストの発言に、頭がプッツンしてしまう。

タナトスには帝国の様々な部隊に知り合いが沢山いる。今回の実行部隊の焼却部隊にも彼の友人が一名、《ボルス》と言う。料理がうまく知り合って数年、タナトスは月一のペースで彼の家にお邪魔してボルスお手製の手料理を堪能させてもらっている。千年間生きて来た中で五本の指に入るほど美味であり、さらには奥さんと娘がいるという、彼女らから見たタナトスは『よく遊びに来る近所の兄ちゃん』と言ったところ。

 

 見た目は怖いが優しい人物であり今の帝国にはもったいないぐらいの人物だ。

 そんな人を利用し人を焼き殺させるなど許せるはずもない。

 

タナトス

「やってみろ。その瞬間、瞬きの間に貴様の首をはねてやる。」

 

 周りを圧倒する殺気を放ち、帝国内で広く普及している小刀をオネスト向かって投擲するが、氷の壁に阻まれる。

 

 コツ、コツと靴音が部屋に響き周りの空気が冷たくいてつき氷の女王が姿を表す。

 彼女こそ、現在帝国の最強と評される女将軍《エスデス》

 オネスト大臣が北の領土から呼び寄せた最も厄介な相手。その戦闘力は常軌を逸している。本気のタナトスと互角レベル、帝国側にも反乱軍にも彼女を倒せるものは今はまだタナトス以外存在しない。

 

エスデス

「大臣から急ぎと聞いて来てみれば、くだらん」

 

 エスデスという女は『何かを狩る』為に生きている。富、名声、権力にはこれっぽっちも興味がない。

 『強者と戦う』か『弱者を蹂躙』するかのどちらかだけ、そこには命の賭け合いがある。一度失えば戻らない唯一無二の命を何百何千と狩り尽くしてもなお、その闘争本能は収まることを知らない。

 

オネスト

「まぁまぁ、」

 

 なだめる大臣を無視しエスデスはタナトスを睨む。その鋭い眼差しは歴戦の猛者ですら腰を抜かすほどの恐ろしさを持っていたが、タナトスは屈しない。

 

 エスデスを睨み返す。タナトスは心の中で思っていた。大臣がこれ程までやりたい放題出来ているのには理由があると、皇帝を手中に収め実権を握り、好き放題、逆らう奴らの罪状などいくらでもでっちあげて処刑できる。

 

戦う力のないものはそれで良い、だが帝具使いの反乱は現行兵器では太刀打ちできない。帝具には帝具を持って対抗する他ないがブドーは宮殿防衛しかせず、タナトスは大臣の命令に従う気など毛頭なかった。故に大臣の自由に動かせる強力な《私兵》が必要となり武力で逆らうものはエスデスに始末させることでこの二つを完了させたオネスト大臣は独裁政治を完璧なものとしていた。

 

 二人の眼力による鍔迫り合いに待ったをかけた皇帝はエスデスをとく下がらせる。

 

皇帝

「タナトスよ理解してほしい。余の国に歯向かう者共は迅速に排除しなければならなかったのだ。野放しにしておけば後々面倒なことになってしまう。」

 

タナトス

「……それはお前の意思か?

自分で決めずに大臣の言葉を信用し行った事じゃないのか!」

 

タナトスは姑息な手を使う人物が昔から大嫌いだった。人は正直に生きてこそが信条ではあったが、他者を必要以上に陥れる行為は決して許される行いではないと考えている。

大臣はもとより私利私欲に走る文官たちに対しても『ゴミ』としか思っておらず、対応もそれにふさわしく冷酷極まりないものだった。

 

 皇帝に対して昔は温厚な口調で接して来たが最近は説教口調が強く出ていると自分でも自覚している。が、今は違う。悲しみを孕んだ言葉の数々、過ちを正せずにいる自分への無念。愚劣さに気付かぬ皇帝へのいきどおり。

 

 舌打ちをするタナトスに「おや」とエスデスが呟く。タナトスへの侮辱を込めて

 

エスデス

「大臣を殺すと思っていたのだがな。よもや貴様、怖気付いたとは言わせんぞ?」

 

周りにいる文官達の顔色が変わる。文官だけではない。エスデス以外の全員、大臣と皇帝も異様な気配に腰を抜かす。それは人ではない、空気がどんよりとし、今まで味わったことのない恐怖が押し寄せる。

 

エスデス

「ほう、そのような顔もできるじゃないか?今のお前となら楽しく殺し合えそうだ。」

 

獲物を前にした獣のように、その獣性はとどまることを知らない。腰に下げたレイピアを抜き切っ先を突き付ける。が、そこには何もなかった。エスデスが後ろを振り返ると硬質化した尻尾が脳天を捉えていた。

 

タナトス

「あんまりバカにするな。今の俺は機嫌が悪いんだ。」

 

エスデス

「それは好都合だ。一度本気の貴様と存分に殺し合いたいと思っていた。それに……ミャウとダイダラの仇ぐらい、とってやらなければ気が済まん」

 

タナトス

「上等だ。表へ出ろ。」

 

 ピリピリと張り詰めた空気の中、二人は宮殿の庭に足を踏み締める。エスデスは剣を取り、タナトスは尾をしならせお互いに構え敵を見据える。

 先に動いたのはエスデス、一瞬のうちに肉薄しレイピアによる刺突を行う。顔面をとらえた切っ先は命を狩る。一騎当千の実力を持つ者の攻撃は並大抵のものでは対処はできない。千年間生き、戦争で極限を超えた彼にとってエスデスの刺突程度どうということもない。自分なら余裕でかわせる。そう思い込んでいた。刺突はタナトスの予想を反して迫る。予想の上を言った攻撃はヘルムを削り、タナトスの自信にも傷が入る。

 舐めていた。エスデスという存在を、これは認識を改める必要があるようだと今の自分に言い聞かせる。手加減して勝てる相手ではない。もしもの時は『奥の手』の使用も考慮し脊椎部と一体化している尻尾を外し剣状のものへと姿を固める。

《変幻自在:スラッシュギア》それは神級危険種ヘーシュギアの尾を加工して作られた第二の帝具、その尾はどのような物体より硬く、どのような物質よりも柔らかい、変幻自在攻防一体の兵装、ヘーシュギアを神級たらしめている要因の一つ

 

 そして、タナトスと同じく、エスデスは内心己の敵に感心していた。彼女は先の一撃で決着をつけるつもりだった。それができると思っていた。帝御防国騎士タナトス、彼の実力を彼女は実際に見たことがなかった。語りたがれる伝説だけ、所詮は過去の遺物。恐るるに足りないと彼女自身は思っていた。だが実際は違っていた。もしかすると自分より上なのかも知れない。いつも皇帝の前で突っ立っているだけだったが故に実力を測る機会が無く帝具の情報もあらゆる伝を辿っても掴めず、明確な強さはますますの謎に包まれていたが、その全容が今わかった。

 今まで戦ってきたどの戦士よりも強く恐ろしい存在を前にエスデスの闘争本能は限界を超える。

 口が釣り上がりタナトスへ手を掲げる。それは彼女の攻撃の合図、無から氷を作り出す帝具『デモンズエキス』その恐ろしさをタナトスはよく知っている。

 エスデスの狂気が解き放たれようとしたその時、二人の間に雷撃が降り注ぐ。その雷撃はタナトスとエスデス、その場にいた全員が察した。2m以上の巨体をマントで覆い両手に籠手型の帝具を装着した大男『ブドー大将軍』

 

タナトス

「何のつもりだブドー」

 

ブドー

「いくら御身といえど限度というものがあります。この城を守る事こそ貴方の役目である筈」

 

 タナトスに対し慎重に言葉を選び宥めようとする。首を垂れ膝をつき、必死に懇願する。過去に帝国上層部の愚者がタナトスの逆鱗に触れ粛清された事があった。当時の大将軍であった父はその日の事をトラウマのように覚えブドーに対して「タナトス様だけは、逆鱗に触れることは許されない。国どころかこの星が壊れかねない」

 そして大将軍になった私に待ち受けていた騎士はあまりにも父の話とはかけ離れた明るい人物だった。

 「子供の頃につけた稽古では足りない」となりたての私をビシバシ鍛えてくださった。

 しかし、前皇帝が大臣に殺されてから人が変わってしまった。明るかった面影はなくなりどこか闇を感じるようになった。感情を押し殺し、宮殿に立て籠もるその姿は、過去の栄光を感じさせない程に堕落した。

 

タナトス

「んーお前がそこまで言うなら仕方ない。今回の件は無しだ。」

 

ブドー

「はっ!感謝!」

 

剣をしまい戻ろうと足を進めた。

 

エスデス

「腰抜けめ、」

 

後ろでエスデスが侮蔑の意を込めた罵倒を放つが聞かないふりをした。平常心を保ち、冷静にこの先のことを考える。

 

先の伝書鳩からのもう一つの情報、三獣士最後の生き残りリヴァの任務。恐らくこの任務は特攻まがいの作戦、ナイトレイドが守るであろう大臣に反感を持つ者たちの集会への襲撃。遊撃隊はリヴァ一人、余りにも無謀だ。が、了承したと言うことは『切り札』を隠している可能性が十二分にある。ナイトレイドのメンバーを倒されると言うことは、大臣側に利益を生む。それだけはさせまいと後ろからついてくるブドーに隠れてどう動くか思考するタナトスであった。



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第6話 進撃の三獣士

久しぶりの投稿、皆さまおひさですー
今回の話はブラートのキャラ崩壊あるかもしれないです。その時はごめんなさい ‍♂️


 数日後、豪華な客船でパーティーが行われていた。ここに出席している者達は反大臣派、いわゆる革命軍と志しを同じくする同志達。

 タナトスが聞いた情報では今日この場所にエスデス軍の三獣士最後の生き残り『リヴァ』が単身で襲撃に来る。といったものだった。恐らくは特攻、捨て身の作戦なのだろう。切り札を隠し持っている可能性も捨てきれないが…

革命軍の同志ということは『ナイトレイド』が護衛対象とするのは確実、何人かまではわからないが恐らくは手練の帝具使いが来ることだけは確かだ。

 

タナトス

「ここか…」

 

 偽装姿で見上げる先、死地になるであろう戦場を見据える。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ボスの命令で俺と兄貴は客船の護衛に来ることになった。不安を抱える俺に兄貴は豪快に笑い励ましてくれた。

 兄貴の名前は『ブラート』聞けば昔、帝国の将軍と一緒に数々の戦場を駆け抜けたそうな。付けられた異名は《百人斬りのブラート》実力もナイトレイドの中では最強だと思う。

 

ブラート

「タツミ、いつどこから敵が来るかわかんねぇから油断すんなよ!」

 

 ここに来るまで何回も稽古を積んできた。前に見た黒い騎士に少しでも近づけるように兄貴と何度も特訓した。これで俺も少しは役に立てる。そう思っていた。

 

出港して一時間が経った頃、静かに水の上を航海していた船が突然大きく揺れだす。皆それぞれ体勢を崩し、設置されたテーブルや椅子、料理全てが転がり色々な音が聞こえた。

海が荒ぶり煮えたぎる様にが弾け天高く飛び滝の様に落ちてくる。

迫る水は全てを流す。人、人、人、安全だと油断し、興にふけっていた人間は船から押し出され海に落ちた。この時点でナイトレイド側の負けだ。

 

リヴァ

「ハァ、ハァ……フッ久しいなブラート」

 

 血反吐を吐きながら俺たちの前に現れた男は息を切らしながら兄貴の名を呼ぶ。

 手負いの筈なのに気が抜けない。間違いない。兄貴と昔行くたびの戦場を駆け抜けた相棒の将軍…リヴァ!

 

ブラート

「リヴァ…?お前一人か?」

 

リヴァ

「フフ、案ずるな…

ここにお前が来ることは…想定済だ。だから一人で来た…」

 

ブラート

「そんなボロボロな姿になってまであんたは何がしたいんだ?」

 

リヴァ

「決まっている……エスデス様の最後の忠臣として…ここで貴様らを殺す……!!」

 

 バサッと服のポケットから取り出したカプセルを地面に叩きつけドロドロの物体が船上に溢れ出リヴァを飲み込む。この奇行にタツミとブラートは困惑している。かつての戦友がここまで堕ちたのかと、いや彼をここまで狂わせた《エスデス》という存在。余程恐ろしい人物なのだろう。決意と共にインクルシオの複武装『ノインテーター』を持つ手に力が入る。

 

リヴァ

「フハハハハハハハ!」

 

ブラート

「なんだよ、これ…」

 

 全身を銀色に染め上げた三獣士最後の生き残りは理性を犠牲に莫大な力を獲得し得た力に呑まれ狂笑する。

 タツミは呆気に取られブラートは哀れみを含んだ視線を送り

 

ブラート

「堕ちたな。昔のあんたならそんなことしなかったろうに…」

 

リヴァ

「御託はいいブラート。貴様らを殺しエスデス様への手向とさせてもらおう。」

 

 銀色のドロドロが形を取りタナトスに殺され死んだミャウとダイダラに姿を変える。帝具も模倣し違いといえば色だけで実力は同等かそれ以上。

 

 そんな力を含んだ銀色の液体がどこから入手したのかはわからない。

 銀色の三獣士(DG三獣士)はタツミに目もくれずブラートへと一斉攻撃を仕掛ける。

 

 神経を研ぎ澄ましノインテーターを一撃、二撃三撃と着実に攻撃を当てDGダイダラの両腕を切り飛ばしDGミャウを貫きDGリヴァの頬にかすり傷を残す。

 予想外のパワーがあったがこの調子なら少なくともDGダイダラとDGミャウは攻略できると確信した。しかしそれを嘲笑うかのように二人の体は再生した。

 

ブラート 

「何ッ!?」

 

リヴァ

「フフフ、どうした何を驚いているブラート。こいつらはあくまで模倣しただけの存在だ。」

 

 足元の不思議な感触が伝わりハッと下を見るとそこには先ほど切り落としたDGダイダラの腕が足を掴んでいた。融解しインクルシオの鎧を侵食しようとしている。ノインテーターを回転させ風圧で液体を無理やり吹き飛ばすとブラートを影が覆う。間髪入れずに仕掛けてきたDG三獣士の攻撃に大きく後方へステップでかわす。

 

 ブラートは今起こっている状況を理解できていなかった。リヴァを強化した液体は身体強化だけでなく思考も凶暴化させさらに侵食する。クローンを作り出すことも出来て疑似的な帝具すら作り出す未知に若干の焦りが見えていた。

 視界にDG三獣士を捕らえどうするかを考える。タツミだけでも逃がし玉砕覚悟で挑むか自分も一緒に逃げ切るか、おそらく後者は無理だろう。足に残った銀色の液体を見て確信した。あれだけ多機能なものならば追跡機能が付いているだろうと、逃げたところで追ってくる。最悪の場合、ナイトレイドのアジトが見つかるかもしれない。ならばとるべき行動は一つ。

 

ブラート

「タツミ、お前は逃げろ。」

 

タツミ

「何言ってんだよ兄貴!?

 いくら兄貴でもあんなおっかないの三体に一人じゃ無理だ!

 俺も一緒に…

 

 タツミの頬にブラートの拳が入る。本気のパンチに大きく飛ばされて船体に叩きつけられる。

 

ブラート

「馬鹿野郎ッ!!

 敵の力量がわからねェのか!

 相手は三人…いや人間かどうかすらわからねェ相手だ。帝具もないお前が同行できる相手ひじゃねェ

 

……俺が時間を稼ぐ。」

 

 敵わないと思いながらも弟分を守る為に全力を発揮する。

 

 命のないDG三獣士の二人がリヴァの指示でブラートに帝具を構えて猛進してくる。

 自らの命はここで潰える。ならば今できる最大限の事をするだけだ。

 DGダイダラがベルヴァークのコピーを振りかざす。脳天以外目もくれず超重量の一撃が繰り出されようとした。

 

 突然、船内から変幻自在の刃がDG三獣士全てを一閃の元に弾き飛ばした。その場にいた全員が刃の続く船内へと繋がる場所に視線が集中する。

 暗闇から現れた救世主はゆっくりと戦場へと足を進める。三獣士の内二人を倒し、死ぬはずだった生命を救った原初の生命を宿した1人の騎士『タナトス・ドラグノフ』



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第7話 異次元からの贈り物

 

 歩みを止め脊椎と一体化した尾が変形し持ち手が横へと倒れ剣を手に取る。背中の翼を畳み変形させた盾を取る。現れ立つ存在はどちらの陣営にとっても神のように見えた。

 

リヴァ

「貴様も乗っていたとはな。フン、まぁいい。まとめてエスデス様への手向けとさせて貰おう。」

 

 リヴァの言葉にタナトスは答えない。答える必要がない。堕ちた武人にかける言葉はなく、行動で示すのみ。

 接近してきたミャウとダイダラを回転切りで押し除ける。斬撃は残像とエネルギーを残しタナトスの周りを囲んだ。驚いた2人を他所に神速の足回りでダイダラの懐に飛び込み盾による打撃で怯ませたのちに鞭のようなしなやかさを持った剣によって拘束し海へと投げ飛ばした。

 標的を変えミャウに対して盾を構え突進する。スクリームの擬態を構え帝具の能力を再現しようとする。口に加え歪な音色を奏でる。それはオリジナルの奏でる美しき曲とは遠く離れたものだった。能力も精神干渉系ではなく銀色の液体が死んだ人間の体を乗っ取り立ち上がるだけだった。とは言っても“この世界”においてはナイトレイド最強のブラートですら手こずるレベルの物質、たとえ一般人程度であっても効果は絶大。しかしタナトスは軍勢の寸前で急ブレーキをかけステップで右へ大きく移動し翼が変形した盾を空へと投げ飛ばす。空中を舞った盾は甲板に対して正面を向いた瞬間、閉じていた翼を広げ球体型のエネルギーを凝縮し放つ。着弾の瞬間に分散し液体の群れを焼き殺したその場で注意が逸れた本体が剣を突き出す。最速の一突はミャウを貫きリヴァの胸すら貫いた。

 一連の行動をタツミとブラートは傍観する他なかった。異常ともいえる力を手に入れ過去の上官に不意をつかれたとはいえ侵食された箇所は徐々に体を蝕んでいる。このまま戦っていればダメージの蓄積によってやられていただろう。

 しかしあの騎士はたった数秒で最適の判断で着実に群れを消耗させ数も減らしリヴァにも致命的なダメージを与えた。

 

リヴァ

「グブッ!」

 

タナトス

「どれだけ堕ちてもお前だけは生身の人間。強化しようが関係ない。心臓は貫いた。潔く死ね。」

 

 胸に空いた穴に呼応する様に銀色の液体がピチャリと音を立てて形を崩しリヴァが全てを吸収した。

 莫大な力を取り込み狂気に苦しみ悶えて手に入れた姿に理性はなく、ハイライトが消えた冷酷な目を向ける。

 

タナトス

「巨大化ではなく収束させ小型化した。と言うわけか。なかなかどうして楽しませてくれる。」

 

 ヘルムの下で笑うタナトスはその瞬間、体を横にねじり当たるはずだった超高速の攻撃を寸前で交わす。液体が固体となりタナトスの帝具と同じ性質を得て牙を向く。

 

リヴァ

「行け」

 

 たった一言で船が揺れ変幻自在のスライムと化した液体は体から無数の触手を伸ばし標的を殺す為に襲い掛かる。

 繰り出される百烈…否、千を超えた触手から繰り出されるかわすことが不可能な攻撃にタナトスは盾を構え防御態勢を取りつつ反撃の余地を窺っている。しかし、リヴァが中指につけた指輪の帝具が本性を表した。

 海の水が水柱となって空へ上がりタナトスに急降下する。

 バシャンと船に突撃した水の水圧は凄まじい。防戦を強要し反撃の目処をとことん潰してくる。

 先行する水柱を追うように二本三本と水柱が水柱と交差し全方向からの水圧の攻撃を加える。さらにスライムが水柱を包み込み内部に触手による連撃を喰らわせた後に凝縮しハンドボールほどの大きさになった後にリヴァの元へと帰還する。

 狂い笑い勝利を噛み締める。

 

リヴァ

「次はお前らダ!」

 

 ゆらりとブラートに迫るリヴァの背後に水しぶきが一つ、派手な音とともに舞い戻った戦士は空中で大回転斬りを披露し甲板のリヴァに叩き込む。そうあの時、第1波の水柱に飲み込まれたタナトスは迫る第二と第三の水柱に対し盾を広げ羽ばたかせ人間が水の中を泳ぐのと同じ様に移動し交差点よりも少し前方へ、水中へ潜み隙を窺っていた。

 

 声にならない声で斬られ胴体と腕の接合部を必死に抑え悶える。すぐさまスライムが傷口を覆い形を変え義手になりなんとか一命は取り留めた。

 その光景を見てタナトスは自分の仮説を独り言まじりで語る。

 

タナトス

「超速再生…?いやただ失った部位をそいつで補っただけか、ならチマチマ削るか」

 

剣を軟質化、高速で振るい突風を巻き起こす。その風は不可視の刃となりスライムの体を削り力を奪っていく。

あまりの光景に狂化しているリヴァが驚きの声を上げる。

 

タナトス

「面倒だが、一旦殺すとしよう」

 

巻き起こる風は、スライムの体から少しずつ活動に必要な部位を空中に飛散させ動く力を奪い取る。

 異世界の物体は世界の守護者によって体をすり減らし死んでいく。残った少しはリヴァの体に吸収され残る力全てを集束させる。

 

 非常に不可思議だった。主人から授かった最恐の力、それを奴はこの少ない時間で8割ほど倒し切ってしまった。これが千年間国を守った者の実力だとでも言うのだろうか?

 

 イヤ、違う。チカラはこの程度デハ無い。魅せてヤレ。ノコリノスベテオマエにヤル。

 

リヴァ

「ヌゥッ!?ヌウゥゥゥアァァァァァ……!!」 

 

タツミ

「何が…起こってるんだ…?」

 

 バッとうずくまるリヴァと2人の間に移動したタナトスは若干の焦りが出始めていた。

 

 観測された事象は全て記録されている。知り得ないことはないと思っていたが、こればかりはまずいな。

 

 不安と恐怖を消し、眼前の敵を捕らえると戦闘を再開する。まずは一閃、リヴァの首を捕らえた斬撃は空を斬り空振りに終わる。

 

タナトス

「何ッ!?」

 

 タナトスの死角へ移動したリヴァはタナトスの頭を掴み全力で殴りかかる。一撃二撃三撃と同じ箇所に拳を叩きつけ投げ飛ばす。言葉を発することなくブラートとタツミに構う事もなく、倒れるタナトスへ歩みを進める。

 

タナトス

「……油断したよ。

 

 瓦礫を吹き飛ばし背に携えた翼を広げ天空を舞う戦士は天使の様に後光に照らされ、帝具以上の破壊力をもって異界のテクノロジーに侵された人間を排除する。

 放たれた光線は圧倒的な火力で目前の全てを消し飛ばす。

 

 大きく風穴が空いた船は隙間という隙間から海水が侵入して沈没寸前へ、戦う力を全てもがれたリヴァは倒れ足が侵食されたブラートは激痛に歯を食いしばりながらなんとか立ち上がり逃げようとするが激痛が阻み床に倒れる。横目にタナトスはリヴァを担ぎ上げ数キロは離れているであろう出航場へ一瞬で飛び立ち再び崩れる船へ戻ってくる。

 

ブラート

「はぁ…はぁ…殺すならさっさとしろ…どっち道助からねぇ…この傷でこのまま死ぬか、お前に殺されるかの違いだよ…タナトスの旦那……」

 

 息を荒げるブラードにゆっくりと近づくタナトス、その足音は死神の如く重く轟き死を実感させる。

 

タツミ

「待ってくれ!!」

 

 二人の間に割って入る。良くしてくれた人の死をなんとしても止めたい。この気持ちがタツミを奮い立たせた。剣を構えタナトスを睨む。

 

タナトス

「退け名も知らぬ小僧、お前に構っている猶予は無い。」

 

タツミ

「うるせぇ…!俺が道を開ければあんたは兄貴を殺すだろ?だったら引くわけにはいかねぇ!」

 

 やれやれと深いため息をついて止めた足を進める。タツミに目もくれず横を素通りしてブラートの患部に手を当て確認する。唖然とするタツミ、驚くブラート、タナトスに敵意はなかった。

 

タナトス

「このまま“こいつ”が侵食すれば、いずれ脳に達し自分ではなくなる。どうする?」

 

タツミ

「あんた!?」

 

タナトス

「言ったろ。猶予がないんだ。で、どうする?生きたいか?死にたいか?」

 

ブラート

「………俺は…

 

 

 

 

 

 

 

生きたい。」

 

タナトス

「わかった。なら少し我慢しろ。痛みは一瞬だ。」

 

 次の瞬間、ブラートの侵食された足首から下がブラートから離れる。宙を舞いかつて自分の体の一部だった物を視認する。一瞬の出来事に二人とも最初はなんの反応も示さなかった。やがて理解が追いつくとタツミが叫ぶ。

 

タツミ

「なにやってんだー!」

 

 剣を構えタナトスに斬りかかろうとするタツミをブラートが止める。不思議なことに苦悶の表情はなく真剣な眼差しを向けていた。

 

タナトス

「安心しろ、手加減はした。これで多少の不便はあっても生きられる。」

 

ブラート

「礼を言うぜ。」

 

タナトス

「じゃあ、行くぞ!」

 

 両手に二人を担いで跳躍する。同時に船が完全に形を崩し海の底へと沈んでいく、リヴァと同じ場所に降りると二人を下ろす。

 

タナトス

「ブラート、お前はもう戦場に来るな。その脚はお前への咎め……いや、素直に言おうナイトレイドの戦力を少々でも減らしておかなければ厄介なものでな。」

 

去ろうとするがナイトレイドは敵というタナトスにブラートの抱えていた疑問をぶつける。

 

ブラート

「なら何故シェーレを助けた?」

 

 ピタッと足を止めて振り返る。

 帝国警備隊との戦闘、シェーレとマインは帝具使いの一人と対峙し戦った。本来なら帝国の人間が反乱軍しかも突起戦力であるナイトレイドのメンバーを助ける事は決して無い。大臣による後の仕打ちに怯え心ある将軍でも行おうとしない。

 

タナトス

「決まってる。助けたかったから、それだけだ。」

 

 帰ってきた答えに爆笑するブラート

 

 そうだったな。アンタは昔っからなにも変わってねぇ!

 

 昔同じ様な返答をされたことを思い出し吹っ切れた表情でただ了承する。

 

タツミ

「待ってくれ!

 アンタも帝国に疑心があるなら俺たちと一緒に戦ってくれ!!アンタがきてくれたら戦争なんてすぐに…」

 

ブラート

「やめろタツミ。そいつはそんなじゃねぇよ」

 

タツミ

「なんで…」

 

タナトス

「ブラートの言う通り、俺は“陛下”を裏切るつもりはないが大臣に媚びる気もない。お前たちとも敵対するつもりはない。まぁ、命令が下れば話は別だが…

 

 あっ、そうだナジェンダに伝えておけ三十獣士陥落に伴い帝国に新しい組織ができるそうだとな。名は確か…特殊警察イェーガーズだったか?メンバーは三獣士に勝るとも劣らない凄腕ばかりだそうだ。」

 

 じゃあなと手をあげて去っていく。次に彼が目指す場所は帝国の宮殿、そこには初対面のイェーガーズのメンバー全員が集められている。



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第8話 混沌の幕開け

 久しぶりに家にあった原作を読み返してみると、ワクワクするものですね。もう観たからいいやとか思ってましたが違いましたね!


 宮殿の一室、至る所から集められた人物がいた。遠方からの海兵ウェイブ、タナトスの友人のボルス、暗殺部隊員のクロメ、帝都警備隊の少女セリュー・ユピキタス、元教師ランに科学者のDr.スタイリッシュ、彼らはエスデスより招集された手練の帝具使い。

 

 ドアの前で考える。この姿のまま入ったらマズくね?絶対バレるって!実力測りにきたはずなのに本気出させなくしてどうするの!?うーんどうするべきか…

 

 ポクポクポク…チーン

 

 あ、そっか!

 

ドアが開く、その音を聞き全員の視線が開いた先へと向くとそこにいたのは危険種だった。異常なほど膨れ上がった腕を携えてよだれを垂らし人間を喰らおうとする化け物。姿は人狼に似ていた。

 それぞれが帝具を手に取り危険種に先制攻撃を仕掛ける。クロメが帝具の力で骸を呼び起こす。その数二名、クロメの最強戦力『臣具』と呼ばれる帝具には劣る性能の武器を持った男と二丁拳銃の女、男が前衛、女が後方支援、振るった薙刀は危険種の爪に阻まれて通らず、銃弾は硬い皮膚に阻まれて意味をなさない。

 舌打ちをしたのも束の間、セリューが自身の帝具ヘカトンケイルのコロと共に背後から奇襲攻撃を仕掛けるが危険種は臣具を奪い取り応戦する。仲間の危険を察知してかウェイブは帝具グランシャリオを身につけて危険種の攻撃を代わりに受ける。幸い、鎧型の帝具であり防御力も高いためダメージは少なめに終わったが両者均衡状態になり六人は固まって危険種を警戒していた。

 

 何かが違う。目の前の“それ”は明らかに知性があるような振る舞いをしている。獰猛な外見からは想像もできない鮮やかな技で我々を翻弄する。

 

???

「こんなところか、」

 

 突然、危険種が声を発したかと思えば体の形が変形し有名な姿に戻った。

 その姿を見てセリューが驚きすぐさま足を揃えて敬礼する。何せ自分が所属する帝国に置いてオネスト大臣より位の高い存在であるからだ。

 セリュー以外は今の光景に唖然としていたが理解が追いつくとクロメが刀を鞘に戻し問い詰める。

 

クロメ

「あの姿は何?あんなものあなたの報告書に載っていない。」

 

 ああ、まぁそうだな。こいつは今まで隠してた訳じゃなかった。『擬態』この世のありとあらゆる物体に変貌出来る能力、ヘーシュギアの力の応用ってところかな。

 それにお前ら暗殺部隊に送られてくる俺の情報は多くないはずだしな。

 

 タナトスは六人を一望する。彼ら彼女らが今後ナイトレイドと衝突すると。皆実力者揃い、となると犠牲は避けられないかもしれない。当面の目的は戦力になりそうな人材の犠牲を最小限にする事、来るべき決戦まで戦力を消耗させるわけにはいかない。

 

 しかしエスデスの指揮する新部隊…統率もしっかりと取られるだろう。一筋縄ではいかないか…

 

ラン

「失礼、一つお聞きしたいのですがあなたは何故我々を攻撃したのですか?」

 

タナトス

「簡単な話さ、少し手合わせ願いたくてね。本気の君たちと。」

 

 しかし…ボルスさんはともかくとしてランとDr.スタイリッシュの手の内を把握出来なかったのは些か不満が残るが、最重要候補の二人の実力は確かめれたし良しとしよう。

 

 ちらりとDr.スタイリッシュの方を確認する。彼の噂はタナトスのよく行く駄菓子屋の店主が教えてくれた。

 合法、非合法の実験を繰り返し人道にそぐわない行為を幾多も繰り返すマッドサイエンティスト。

 

 排除対象である。

 

タナトス

「Dr.

宜しければ少し話を…」

 

エスデス

「なんだ。誰かと思えばお前か?

こんな時になんのようだ。」

 

 タナトスが振り返るとそこには変な仮面を着けているが服装でバレバレなエスデスの姿があった。

 

タナトス

「えっ?何お前も同じ考えだったのか…」

 

エスデス

「ほう、と言うことは部下が世話になったようだな。次は私とやってみるか?いつでも相手になってやろう。」

 

 神級と評されたタナトスの帝具となった竜『ヘーシュギア』その力は全ての原初、エスデスの帝具の素材となった氷を操る超級危険種ですら太刀打ちできなかっただろう。

 神級は超級のさらに上、世界に一つの称号であった。その名はタナトスに受け継がれ今もなお世界の抑止に勤しんでいる。行き過ぎた悪を、正義を絶ち、より良い世界になればと行動していた。

 

 エスデスは強い相手ほどよく燃える。強者同士の戦いを望んでいる。しかし、彼と戦うにあたって決定的に欠けているものがあった。

 それが『帝具の情報』エスデスがいくら探そうと出てくる情報は限られている。その上最近はタナトスの交戦記録が出てくる度に目新しい情報がワンサカと現れるではないか!

 

 心踊らぬエスデスではない。先日ブドーに止められ沸切らぬ思いをしていたのはお互い様の筈、今ここで前の続きをしたいと心の底から思っていたがタナトスから帰ってきた答えはあっけないものだった。

 

 一瞬笑うとその場を去ろうと出口に近づく、無論エスデスがそれを許すわけもなく腰に刺したレイピアを抜きタナトスの侵攻を阻止するが意に返すそぶりすら見せ無い。

 

タナトス

「今回の目的は達成した。

お前と戦うのはまた今度だ。

 

じゃあな!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 タナトスが去ったのち、エスデス含めたイェーガーズの面々は正装に着替え皇帝が待つ部屋へと向かう。

 皆それぞれの思想を抱えて逆賊の徒を倒す。

 

 『特殊警察イェーガーズ』の活躍は素晴らしいの一言だった。巷で話題に挙がっていた反乱軍のスパイを迅速に捉えて拷問し、得た情報をもとに鎮圧を開始、瞬く間に帝都から反乱軍の人間は消えたかに思えた。

 

 タナトスが保護した数名を除いて

 

 宮殿に備わる広大な一部屋、そこはただの罪人では無い者が収監される特殊な監獄。看守は存在しない。何せ帝具の能力により作られた場所を帝具なしで突破することは不可能なのだから、仮に可能だとしてもその者は四肢をもがれ無力化された状態で投獄されるので死を待つのみ

 

「なぜ、我々を助けた?こんな事が大臣にバレれば貴様とてただでは済むまいぞ?」

 

タナトス

「『助けた』とはとんだ勘違いをさせてしまったかな?この状況でなぜ助けたなどと?」

 

 反乱軍の者は牢屋の中で四肢を拘束されている。何故なら全員が皇拳寺出身のエリート集団である為、脱獄の可能性を潰す目的もあった。

 牢屋越しにタナトスは拘束した面々を嘲笑うかのように話す。

 

タナトス

「まさか、お前達のような輩まで…反乱軍に加入してたとはな。皇拳寺出身のエリート様達が何故降ったのか、聞かせてはくれまいか?」

 

 ドッと重い空気が張り詰める。少しでもタナトスの機嫌をそこなえば自分たちが助かる道は途絶えてしまう。力づくで拘束具を砕くことはできる。が、その先に待つことを考えればやる気も次第に失せてくる。

 

 彼の強さは伝承だけだが見なくてもわかる。到底叶う相手では無い。

 

逆らったら死ぬ

 

 約束された結論を覆そうなんて誰も思わない。唯一の救いはタナトス本人の性格だ。

 

 1000年間も生きる彼はもはや人では無いと誰しもが理解していた。それでも恐れられずうまくやってこれたのは民衆の理解者で有り無用な殺戮を犯さず、民との親交を欠かさない交流の広さに直結している。

 

 タナトス本人はする事がなく、暇を持て余しサボるついでに王都へ出向き悦に浸る日々が大好きだっただけだが…

 

 それでも側から見れば位の高いものが上下関係を気にせず自分達に良くしてくれるのは心地の良いものだった。孤児院の子供の遊び相手として、甘味処の常連として、いつしか日常に溶け込む彼の事を蔑む者は居なくなり親しまれ今に至る。

 

 反乱軍もその事は承知している。何せ反乱軍に降った元帝国の将軍の殆どがタナトスと親交が特に深かった。十人十色だが折り紙付きで帝具使いとも一応やり合える実力を秘めていた。降った将軍達は口を揃えてこう言った。

 

《タナトス様は、何故まだ帝国に従うのか?》

 

 当然の疑問だった。民の友で有り正しさを説いた彼がどうして今の腐った帝国に従っているのか、理解できるものはごく僅か。わかるはずがなかった。大臣の徹底的な裏工作で前皇帝が殺された事を知る人物は大臣と組んでいた貴族や官僚だけなのだから、さらに大臣は口封じの為エスデスと結託し関係者の殆どを皆殺しにした。罪を擦りつけたのだ。が、唯一残った証言人がいた。それがタナトス。差し向けられた刺客の尽くを返り討ちにした。彼は何度も幼き皇帝に言った。

 

《お前には荷が重いだろう》 

 

 と、無論彼が考える事は皇帝の地位などではなく現皇帝が真相を知ったらきっと立ち直れなくなると思ったからだ。かつての自分がそうであったように…年端もいかない少年に『親を殺したのは信頼していた大臣だ』なんて非常な言葉を掛けられるほどタナトスの心は冷たく無い。

 

 結果は失敗。大臣のことを全面的に信頼してしまった故にタナトスの言葉は届かない。追い討ちで大臣がタナトスの粛清を皇帝に提案したが流石にそれは回避された。

 それ以来、宮殿でも監視がつき元の姿で帝都へ出向く機会は激変した。

 

 

「くッ!

 殺すなら殺せ!

 

 命など惜しくも無い!貴様ら帝国にいいようにされるなら死んだほうがマシだ。」

 

 言い放ってしまった。この後待ち受ける拷問の数々、考えるだけで背筋が凍りつく。

 

 対するタナトスはニヤリとヘルムで隠れた口を上げ嬉々として宣言した。

 

タナトス

「ハッハッハッ!いいネ!そこまで言うのなら貴様らの覚悟はさぞ強く気高いものなのだろうなー!

 なら…望みどおりにしてやる。

 

 とでも思ったか?

 残念だな。そこまでお人好しではなくてね。」

 

 パチンと指を鳴らすと獰猛な唸り声を上げた獣達が暗闇から姿を現した。人間の様に二足歩行で鎧を纏い、個々が違う武装を装備したまさしく『軍隊』

 

 未知への驚きと死への恐怖でどうにかなりそうなのを他所にタナトスは部屋を後にする。

 

 鉄格子が壊れる音、渡る獣の声。まさしく地獄。音だけで識別できるほど凄惨だった。

 

 薄暗い一直線の道を歩くタナトスに付き従う影が増えていく。狼、蟻、熊、蜘蛛、昆虫などなどのシルエットを保った人型の生命は地下から地上へ……

 

タナトス

「さて、始めよう。俺達の革命をな。」

 

 両手を広げ高らかに宣言する。それに呼応する様に異業種は各々の武器を掲げ叫ぶ。

 

 これから始まるのは人間と異業種の戦いなのか……それとも、人間同士の醜き争いなのか…?

 それを知るものはまだこの世界には存在しない。



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第9話 マッドサイエンティストを斬ろうか?

 城壁を超えた少し外、謎の異形種とウェイブは抗戦していた。

 時は少し遡り、周辺警備へ出ていた時、泣き叫びながら助けを求める商人達がやってくるのを追って現れたのが二足歩行し武装した鳥の危険種だった。

 鳥と人間のハーフを思わせる外見はまさしく伝承に聞く『バードマン』武器のボウガンの下部に刃が備わっている。

 

 ウェイブはそこでふと疑問に思う。バードマンは明らかにこちらのことを知っている様な雰囲気でじっと見つめてくる。まるで獲物を品定めする様に、やがてボウガンに矢を当てがって突きつける。

 

バードマン

「ーーーーー」

 

 発射された矢は寸分違わず非武装状態の自分の体にかすり傷をつけた。

 ウェイブは帝具を装着しバードマンへと一気に距離を詰めた。下部に備えた刃があるといえど飛び道具しか持たないのなら懐に入ってさえ仕舞えば幾らでも勝機はある。その考えが命取りになるとも知らずに…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 お前に新しく頼みたいことがあるんだが、良いか?

 

 タナトス様の頼みを聞き入れた私は今帝都の外で変な仮面を付けあるもの達と接触する算段をつけている。横には昨日捕らえた捕虜を身動きが取れない状態で連れている。徒歩で出ていれば流石に怪しまれたがタナトス様の怪しげな術…恐らく帝具の力か何かで空間転移でこの場までやってきたが、正直、護衛も無しだと心許ないのだけれど、タナトス様は信用しろと仰っていたし大丈夫だろう。あの人は言ったことは守るタイプの人だ。きっと私に内緒で付近に護衛を配置しているのだろう。

 

 待つこと数十分、彼方から数人が歩いてくるのが見えた。隊を指揮しているであろう真ん中は体つきからして女性2、他は武装している兵士数名

 

ナジェンダ

「貴様が我々を呼びつけた人物で間違えはないな?」

 

セイギ

「いかにも。帝国兵(仮)であります。そしてこっちが約束の捕虜です。ご安心を…守備はバッチリです。記録通り彼らはすでに死んだことにされています。今更死体が消えた所で咎める者は帝国内部には存在しませんよ。」

 

 この男の言っている事に間違いはない。今更処刑した者を渡した所で非難されることはない。むしろどうやってここまできたのかがいちばんの疑問だ。一兵士如きが帝国全てを騙し我々と接触するのは無理に等しい。外部からの協力があると考えて間違いないだろう。くれぐれも警戒は怠らない様にしよう。

 

 捕らえられていた同胞の縄を解き安全を確認し早速本題へ行く事にする。

 

ナジェンダ

「一つ疑問がある。」

 

 なんです?と仮面の奥からでも余裕の表情を見せる帝国兵に違和感を抱くと横にいるシェーレが帝具をギュッと握り締めている。この時の彼女は一人だけ底知れぬ何かを感じ取っていた。

 

ナジェンダ

「今回、お前の裏にいる人物は……」

 

 問いかけようとした瞬間、己の首に鋭い何かをあてがわれた。背筋が凍る。エスデスの時以来の戦慄がナジェンダを襲う。数多もの戦場を潜り抜けそれなりの自信があったがこの感覚は久しい。再び味わう恐怖に冷や汗が頬をつたる。

 

セイギ

「やっぱり……申し訳ございません。正解が出ている質問に答える必要が有りませんので  

 大体、あなたなら検討がついているでしょう?

 もう質問が無いのなら帰らせて貰います。目的は捕虜の受領ですしお寿司、長いしすぎるとどこからか情報が漏れるかも知れません。一応、今回の設定を守っていただかないとこちらも困るので」

 

 ナジェンダの首から鋭い物が離れて帝国兵の側へ行くその瞬間に恐怖した。先程まで自分を殺そうとしていた存在に……

 

 危険種だった。所々に人外と断定できるパーツがあることは確かだ。昆虫類のカマキリの顔と足と腕、しかし人間の構造にとても近い。昆虫特有の逆関節であるが、二足歩行で動いている。

 

 やはり護衛をつけていた?しかしこの男、不思議だと確信する。殺すことが目的ならいつでも出来たはず帝具を持つシェーレがいたとしてもあの危険種さえいればどうででもなるだろう。

 

セイギ

「それでは、帰りますので。くれぐれも後をつけるなど馬鹿な真似はしない様にお願いします。では」

 

 帝国兵についていく様に危険種も去っていく。みんな恐怖で動けなかった。それはわかっている。

 あの危険種…私が伯爵の話題を持ち出そうとした瞬間に現れた。

 考え事をしていると後ろから顔が青ざめているシェーレが重い口を開いた。

 

シェーレ

「あの…すいません……私、手が震えて………ナイトレイド、失格です…」

 

 シェーレが恐る理由も痛いほどわかる。ナジェンダは喉元に突きつけられた時、エスデスと同等の恐怖に駆り立てられた。きっと後ろの護衛にも同じようにあの危険種はしたのだろう。

 しかし疑問だ。見てくれは確かに危険種そのものだったのに、まるで歴戦の戦士の様な立ち回り、獣の様に本能で暴れず冷静に目標を捉え護衛……ましてやシェーレすら黙らせるプレッシャー。あんな物はどの報告書にも記載がない。だが、あの帝国兵と行動を共にしたのなら手がかりは掴める。何より先の会話からおおよその検討は付いている。

 

ナジェンダ

「シェーレ、帰ったらナイトレイド全員を集める。お前は少し休め」

 

 

 

 

 

 

セイギ

「まさか、君が来るとは。伯爵も人が悪い。」

 

 私の友人は喋ることが出来ない。ただ私の話を聞いているだけでうなづくなどの行動をとって態度を示してくれる。

 初めて会った時は腰を抜かしたが、いざ行動を共にしてみると案外信頼がおけた。危険な任務にただの危険種として陰ながら見守ってくれるし、少し心配性な部分もあるが彼が優しい証拠でもあった。反抗意識を持つものは多い。内部から変えようとする勢力はごまんといるが何より我々の心情は大臣も分かっている。反抗意識を持つものはあの手この手で刺客を大量に送り込んで排除しようとするのだが、彼らが護ってくれる。タナトス様のご友人はみんなこれほどまでに強いのだろうか?まさかな…

 にしても、帰りは徒歩か……あの空間転移なら一瞬なのに…こんなにも遠かったのか……脚が棒になりそうだ。大体、遠すぎる。行きは気にもしなかったが崖やらなんやらが多すぎる。彼に案内されても人間の体では限度がある。

 

セイギ

「……すまない、少々疲れたのだが?

 と言うかタナトス様の技で帰れないのか?」

 

 彼は腕をクロスさせ 出来ない そう答えた。これからのことを考えると気が滅入る。項垂れていると、突然地面がポッカリと空き中から土竜の危険種がピョコっと顔を出した。

 地底を掘る事に特化したのであろう手と顔、だが同時に可愛いとさえ感じてしまう。  

 少々デカすぎるが、許されるなら飼いたい。つぶらな瞳で見つめられれば悩殺間違いなし

 

 すると彼が私の肩を叩く。振り返ると土竜の掘った穴を指さす。まさかこの穴を通って帰るのか?

 コクっとうなづいて土竜の後へついて行く。私も置いていかれたら困るので成り行きでついて行く。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3日後

 

タナトス

「さて、報告ありがとう……その、大丈夫か?」

 

 顔を青ざめさせたセイギは今にも吐きそうで口を押さえながら資料を読んでいた。

 

セイギ

「……すいません……思ったより、早くて……」 

 

 聞いた話だと、歩くのに疲れて土竜の足に二人とも捕まったらそろって振り回され日が経っても気分が良くならないらしい。

 何か、憂さ晴らしをさせた方が良さそうだな。

 

タナトス

「セイギ、マンティスと一緒にしばらく休んだ方がいいんじゃ無いか?だってほら、マンティス倒れてるしお前はその調子だろ?」

 

セイギ

「ヴォ……そうさせ……もらいます……ヴォぇ…」

 

 俺が次元断で迎えに行けばよかったのだがその日は生憎他の用があって手が回せなかった。すまないと心の中で共に詫びマンティスを次元断で森の中にある基地へ運ぶ。セイギも肩を担いで連れて行く。

 

 ついた先で出迎えてくれたのはバードマンのパルだった。300年前凌ぎを削り闘った古き友の一人。彼は異業種の中でも人間の文化に関心がある方で人語もそれなりに話すことができる。でも、時々セイギの口調を真似る為笑いを堪えるのに必死でもある。

 

パル

「お帰り。二人ともどうしたの?」

 

タナトス

「土竜に捕まって小一時間振り回されたんだとさ。3日経ってもこの様だよ。とりあえずあそこの温泉にでもつからせたいから準備お願い。」

 

パル

「オケマル」

 

 

 二人を“どんな病も即座に治す”神秘の秘湯へ投げ込んで自力で帰ってくる間に他の仲間が収集した情報を確認する会議が開かれた。

 

タナトス

「で、聞き忘れてたけどパルが戦ったウェイブの全力はどれぐらいだった?」

 

 前にイェーガーズ全員を試すという名目で戦ったが殆どのメンバーの実力を測れずにいた。だから皆んなに頼んで測ってきてもらった。無論他の事も頼んでも無いのに調べて来てくれた。最高だ。

 

パル

「そうだね。君の言った通り動きはよかった。でも状況判断が浅はかだったかな〜

 こちらの武器がこのボウガンなのをいい事に安易に接近戦に持ち込んできたからね。」

 

タナトス

「パルの本業は近接戦闘だもんな。ぶっちゃけ武器ない方が強いまである!あとその羽ずるいよな。俺にくれ!」

 

パル

「やだねー」

 

 戯れあっている二人をよそにフクロウの外見をした賢者が口を開く

 

「次にDr.スタイリッシュについてだが、マンティスの眷属によるとエスデスには内緒で秘密基地を持っているらしい。」

 

タナトス

「何それかっこいい!?」

 

「ここからが問題じゃ、どうやら非合法の実験をいっぱいしてるみたいでイェーガーズの一人、セリュー・ユピキタスもみたいなのだ。」

 

 その言葉にヘルムから覗かせるタナトスの目が歪む。場にいたものたちは理解できた。こう言ったことを嫌う彼だからこそ自分達は付いてきた。純粋に正義を信じる少女を毒牙にかけられたとあっては我慢出来るはずがない。直ぐにでも彼は動く。持ちゆる戦力全てを使い潰すだろう。皆異論はない。もし仮にこれから行うことを尋ねても皆首を縦に振るだろう。浅はかだとしても迅速に対処すれば影を残さずに完遂できる。だがタナトスから帰ってきた言葉は予想外のものだった。

 

タナトス

「んじゃそれは俺一人で行く。誰もついてくるなよ。」

 

パル

「………それはつまり、直接関与せず情報収集を目的に動けって事?」

 

 そうだと、うなづくタナトスに一同は成長したなーと親が子供に向ける感情を抱いた。

 この数年、多少の小競り合いが反乱軍と帝国の間で起こっても静観していたのに今になって積極的に行動に出ようとする。僕らとタナトスの関係をしられるわけにはいかない。  

 帝国には特にだ。

 それに、タナトスはどうも肩入れした人間には気を使う傾向がある。ボルス然り、セリューさえ、

 

パル 

「わかった。じゃあ老師に編成を決めてもらう。僕らは御留守番でいいでしょ?

 丁度、ボウガン壊されたから直して貰ってるから間近で見てくるよ。」

 

 会議が終わろうとしていた時にドタドタと走り扉を勢いよく開けてセイギがマンティスを抱えて突っ込んできた。怒りマークをつけてタナトスに怒鳴りつける。

 

セイギ

「馬鹿伯爵!!もう少しで溺れ死ぬ所だったぞ!見ろよ!?このマンティスの哀れな姿を!!」

 

パル

「タナトス、やっぱり扱いが雑だね。」

 

タナトス

「まぁ、治ったみたいだし結果オーライって事で」

 

 今日の会議という名のお喋りは終了。各員自室に戻り自由に活動する。

 ある者は地下の広大な部屋達に戻り、ある者は部屋に飾られた彫刻を弄り、人間が見たら百鬼夜行や地獄絵図と思うだろうが気にしない。何せ彼らは皆自由に生きている。利害の一致だとかではなく一緒にいて楽しいからそうしている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 私は今、帝都の見回りをしている。ここ最近近辺では様々な良からぬ噂を耳にする。新型危険種にナイトレイドの活発化、帝都の人々は恐怖に震えて怯えている。こういう時にこそ我々イェーガーズは頑張らなくてはならない。相棒のコロは今日も愛らしい。孤児院の子供達とも良くやってくれているし賊が現れた時はとても頼りになる。でも私もコロもまだまだ強くならなければならない。ナイトレイドを二人も逃した挙句危険種にも遅れをとるようではオーガ隊長に合わせる顔がない。あんなにも私によくしてくれた人を、また賊に殺された。きっとこれからも続くだろう。だから私は強くなりたい。正義を成し遂げる為の強さが…

 もうこれ以上、大切な人を失いたくない……

 

 少女の大切な人間の大多数は歪んでいた。がそれを本人が知る由もない。側から見れば凶悪極まりない土外道であっても少女にとっては大切な恩人なのだから

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

タナトス

「さて、行くか」

 

 夜、身支度を整えて目指す場所はDr.スタイリッシュがエスデスにも内緒にしているアジト。   

 非人道的な実験を沢山行い、被害にあった人間は少なくなくナイトレイドの標的に設定されている人間の一人。イェーガーズの中でも俺が最も嫌悪する醜い人間だ。

 

 穴を掘りながら地下を進むこと数分、地上で複数人の気配を感じ取る。地上に出て待ち伏せることにしたが大方の検討は着いていた。

 

タナトス

「久しいな。ナイトレイドの諸君?」

 

アカメ

「なッ!?タナトス!?」

 

 いち早く戦闘態勢に入るあたり、やはり暗殺部隊のエースだっただけはある。

 両手を上げて“今”は戦意がない事を伝える。

 

タナトス

「落ち着け、無用な争いをするつもりはないんだよ。少し話がしたくてね。

 というか、ほとんど出てきてるし拠点はいいのか?」

 

ナジェンダ

「ご心配なく、あそこには腕利きを残してきてますので。」

 

タナトス

「ほぅ、今すぐにでもエスデスに言えば飛んで行きそうだけど良いのかな?いくら帝具使いがいても、数は知れてる。精々2、3人ぐらいだろう。アイツにかかれば朝飯前だ。」

 

ナジェンダ

「その時は貴方の裏にいる危険種の事を大臣にリークするので、言うも言わないもそちらの自由です。伯爵

 あなたを消せることは革命軍にとっても大きな足掛かりとなることでしょう。」

 

タナトス

「酷いな。あっちには知り合いが結構いたと思ったのだが…薄情者だな…

 それはさて置きマンティスの奴、後で激辛ラーメン十杯の刑だな。これは」

 

 無理やり激辛を食べさせられる姿を想像すると笑えてきたが、後回しだ。今はとりあえず

 

タナトス

「此処には、スタイリッシュを殺しに来た…ようだな。」

 

ナジェンダ

「ええ、依頼があったので。貴方も邪魔をしないでいただくと助かるのですが?」

 

タナトス

「悪いな。生憎と今此処であのオカマを殺させるわけにはいかなくてな。邪魔させてもらうよ。

 

 …………ナイトレイド」

 

 剣を抜く。相対する敵は五人、殺さずに力の差を見せ撤退させる事が第一条件でどうするかな。

 深く考えても仕方ないな。とりあえずやるとするかな。

 

 タナトスは単騎でナイトレイドへと跳躍する。月光に照らされた姿に見惚れる暇などはなくアカメに斬りかかる。

 動きが止まったタナトスに獣化した女のレオーネが獣の本能で感じた恐怖をかき消しながら突進してくるが、タナトスには届かない。アカメを吹き飛ばしその余波で回し蹴りを叩き込む。

 背後からエクスタスを開き、真っ二つにするべくシェーレが攻撃を開始した。上空にはインクルシオが跳躍している。挟み撃ち。本命はエクスタスの取り柄の《万物両断》確かに斬られれば痛いのは確かだ。だが“それだけ”だ。大したことはない。

 開かれた刃にわざと入る。上のインクルシオは驚いているがシェーレはそのままエクスタスを閉じようと力を込めた。瞬間、タナトスは即座に体制を変える。のけぞって刃を避けたかと思うとそのまま手を軸に足技をシェーレへと振るう。突風を巻き起こし大きく吹き飛ばす。マントが邪魔だったので外してインクルシオへと投擲すると見事に命中し、ブーメランのように戻ってきたマントはいつの間にか形を変えていて盾となりタナトスの腕に戻っていく

 次にナイトレイドの面々は取り囲むように陣を組み最速の攻撃を仕掛ける。アカメの村雨、レオーネの拳、シェーレのエクスタス、インクルシオのノインテーター、それら全ては無駄だった。

 村雨を弾き、腕を切り落とし、エクスタスを投げ飛ばし、インクルシオを地面に叩きつける。

 

タナトス

「そういえば、インクルシオ、前に見た時とだいぶ違うが、入ってるのはブラートか……いや戦い方がまるで違うな。軽すぎる。少し観させてもらおう。」

 

 掴んだ手に神経を集中させた瞬間、タナトスのヘルムはエネルギー弾によって風穴を開けさせられた。彼方より狙い撃ったのはこの場にいなかったマインだった。

 

マイン

「よっしゃ!ぶち抜いてやったわ!!いくら強くても私のパンプキンの前では無力ね!」

 

 強敵を沈めることに成功し喜ぶマインは予期していなかった。自分が何を相手にしているのかを…

 

 伝説に曰く、ヘーシュギアと呼ばれる存在は『神級』と呼ばれてはいるがそうではない。元よりその名は人間がヘーシュギアの強さを表現する為だけにつけた名前。不老不死を体現し、この世の理を司った神の存在。世界が誕生したと同時に生まれ、世界の観測を行い、外側からの外敵を沈める。

 

 パンプキンの一撃程度で倒れるはずは無い。現にインクルシオを掴む腕の力が弱まる事がなかったのだ。だがマインは喜びで見えていなかった。数秒後、パンプキンの銃口に一発、弾丸が打ち込まれアタッチメントが爆発した。そしてタナトスと交戦していた全員が今の状況を飲み込めていなかった。

 ヘルムに先が見えるほどの大穴が開いているが何も気にすることなく、狙撃してきた方角へ腕を変質させた銃火器をぶっ放していた。

 

 生物とは急所が必ず存在する。伝承に聞く数多の英雄も人間であれば必ず弱点がある。が、タナトスにはそれが無い。有るとすればそれは、世界線の外側の力……この世の理を超える力が必要となる。ナイトレイドはそのことに気がついていない。

 

 頭を撃ち抜かれようと、体を凍らされようと、在り方をゆがめられようと魂は不滅。

 

タナトス

「……あー、そういうことな。」

 

 インクルシオから手を離すと即座にアカメとシェーレがカバーに入る。ひと時の均衡状態にタナトスが口を開く。

 

タナトス

「タツミ、あの後ブラートはどうなった?

 足を切り落としたから戦線復帰は相当無理すると思っていたが、お前がそれを託されたなんてな…因果か。」 

 

タツミ

「兄貴はアジトで俺の特訓に付き合ってもらってる。

 あんたのおかげで兄貴は死なずに済んだことは感謝してるけどさ、悪党を守るなら押し切らせてもらう!」

 

 インクルシオことタツミは地面を思いっきり蹴ってタナトスへ一直線に向かい持ち前の脚力でキックを叩き込むがタナトスは盾でガードすると即座に後退する。全力を込めたタツミの蹴りは抑えが効かず簡単に受け流された。

 

タナトス

「確かに、俺を戦うなら『その帝具』しかないな。」

 

 タツミの目の前から消えて背後に回る。

 

タナトス

「だが、それだけだ。戦うことはできても勝てはしない。」

 

インクルシオを纏い反射神経を上げていて、タツミ本人も最近のハードな特訓で将軍クラスの実力を身につけているのは確かだった。が、まるで時間が止まったと錯覚するほどに速く背後に回られた時には《死んだ》と確信してしまう。その時だった。地響きと共に静観を決め込んでいた勢力が他のナイトレイドのメンバーを襲撃した。

 



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第10話 救出と言う名の破壊

 リアルでガッタガタして投稿するのが遅れてしまいました。

 お兄さん許して


 確かに驚いた。1人でもかたがつくこの戦況でわざわざ来るとは考え難かったが、納得が行った。

 

 罪人の成れの果てだろうか?

 連中は血肉が改造されている。切ったり潰したりした瞬間に飛び散って凝固する。浴びたら動きを完全に止められる。その隙に捕獲する算段なのだろうな。

 

スタイリッシュ

「あらあら〜私のラボの前でなんの騒ぎかと思えば、ナイトレイドじゃないノ!」

 

 大勢の軍勢を引き連れDr.スタイリッシュは人心に満ちた声で豪語する。自分の研究成果に絶対的な信頼を寄せているのだろう。事実、対強敵様と言ってもいいだろう代物だ。雑魚どもに使ったら宝の持ち腐れになるだけなのだから、戦場においての数秒の拘束は十分過ぎるほど戦局を左右する。

 

 何となく察することができた。捉えて実験台にするのだろうと、ライオネルの装着者あたりはベストだろう。失敗しようと奥の手(超速再生)で時間が経てば何事もなかった様になるし、インクルシオも鎧を研究すればそれなりの事はできる。

 

スタイリッシュ

「伯爵には感謝しなきゃネー!

 こいつらをここで足止めしてくれてありがとう!」

 

タナトス

「?」

 

アカメ

「やはり貴様ら…組んでいたのか!?」

 

タナトス

「!?」

 

 ああ、そういう事かよ。組んでたことにしたいわけだ。しかし、反乱軍に肩入れしたい気持ちはあるのだが相手はDr.スタイリッシュ、ヘタを打てば大惨事になる。

 頭を抱えてため息を出し考え込むタナトスにすれ違いざまにスタイリッシュが小さな声で嘲笑う様に口を開いた。

 

スタイリッシュ

「後のことは任せなさい。」

 

タナトス

「……………………そうだな。なら先に行ってるぞ。」

 

 少し驚いた様子のスタイリッシュをよそに森の奥へとタナトスは消えていく。

 強敵は1人減ったが依然ナイトレイドの劣勢に変わりはない。

 

スタイリッシュ

「さァ、邪魔者もいなくなったことだしアタシの発明であなた達をこの子達の仲間にしてあげましょう!」

 

 豪語すると影に隠れていた危険種が大量に姿を表す。人を歪めた様な奇妙でグロテスクな外見は心理的嫌悪感を誘発しナイトレイド総員の怒りを買った。

 理由は簡単、その危険種は人の形を歪めた姿をしている。罪人や今まで拐われた民間人が非道な実験によって変えられた姿なのだから、

 ナジェンダ以外の全員がスタイリッシュに向けて走り出す。帝具を構えて標的に狙いを済ますが危険種の肉壁に阻まれて失敗に終わる。肉が裂け、血が飛び散ると付着した血は瞬く間に膨張し固まり身動きを封じる。

 

スタイリッシュ

「ふふッ、この子達は普通の人間の五倍の量の特殊血液が入ってるのよ。切ったりしたら最後、ボンッ!身動き封じてくれる私の自信作ゥ!

 元帝国将軍のナジェンダ、貴女もこの子たちに負けるわ。必ずね!!アハハハハァァ!!!!」

 

 ナイトレイドのピンチには誰も手を出さないでいる。タナトスさえも…

 

 

 一方、タナトスはナイトレイドとの戦いを静観する訳でもなく足を進めていた。向かう場所はスタイリッシュの秘密基地。

 帝具の力で地面に埋まった地下基地となっている。樹々に覆われ入口さえ定かで無いこの地でタナトスは迷わず地面に手をかける。衝撃波と共に小さな範囲が静かに砕け地下への入り口を掘り当てる。

 空間に足音が冷たく響く。耳を澄まし少し音を楽しみながら目的地へと向かう。セキュリティロックを無理やり突破してたどり着いた場所は牢獄。監視を暗殺し鍵を引き千切る。

 怯えた顔でこちらを見るのは捕獲された実験材料…もとい、民間人の女子供達。

 

「あ…彼方様は…?」

 

タナトス

「支度しろ。出るぞ。」

 

 周りは混乱している。急に現れた鎧男が監視を殺し、鍵をこじ開けたとあっては理解する方が難しい。がタナトスは意に返さず今後の計画を伝えるだけ伝える。ふとタナトスの視線が下に向く、沢山の子供がぐったりと地面に伏している。肌は変色し、湿疹が出来ている。命が長く無いことは誰の目にも明らかだった。

 

タナトス

「そこの、死にそうだな。」

 

「えッ!?」

 

 子供達の元に行き、しゃがんで死にそうな者の決断を聞く。

 

タナトス

「助けて欲しいか?」

 

「………ァハ………」

 

 無言だ。衰弱し切っている。話せる体力などあるはずも無い。彼らは懸命に生き、今も死に争っている立派な戦士。

 タナトスは子供達を抱えて立ち上がり殺した監視のそばへ置く。

 

「何をするつもりですか!?やめてください!」

 

「その子達は変な実験でおかしくなった!もう助からないわ!」

 

 大人は皆「無理だ」と言う。全身に廻った病を感知させる術など無いのだと絶望している。非常な現実を突きつけられ続けとうとう自分達の子供の命すら諦めていた。

 

 タナトスは尻尾を掲げると神速の勢いで殺した監視と子供達の部位を切り分け、正確に接合する。一瞬の出来事に誰も反応出来ずに唖然とするだけだった。次にそっと手をかざし、腹から何かを抜き出す動作をする。見えないが確かに存在するーー『災厄』手につかまれたそれは鼓動をし、躍動する。

 グシャリ、握り潰したそれは監視の死体に押し込んでタナトスは女達に振り返る。

 

タナトス

「さて、子供達は助けた。これから普通よりもちょっとばかり強い身体能力を手に入れて幸運になるだろうが、とりあえずは助かった。どうする?にげるか?」

 

「あ、彼方は一体…?」

 

 女の問いはこの場の全員が思っていたことだった。突然現れたと思えば死ぬ寸前だった我が子らの命を救い親である自分たちも救うと静かに豪語したのだ。

 

タナトス

「……そうだな、よし!

 俺は《騎士/ナイト》レイドだ。この名、忘れるなよ。」

 

 んじゃ、と剣を手に取り真空を切り裂き女子供をその中に押し込む。そして、いきに持ってきた風呂敷袋を開き中から取り出したのは帝具に匹敵する破砕力を秘めた道具のパーツだった。それらを組み立てて完成したのは特殊な形状をした銃のようなもの。

 トリガーを引くと側面のパーツが展開し基部ごと回転する。高い金属音を鳴らしながら秘密基地の壁を掘り進む。壁、柱すら削った結果がどうなったかと言うと、

 

 支えるものがなくなった→重量を支えきれずに基地は崩壊☆

 

 勿論、男達のことも忘れているわけでは無い。流石にそこまでドジでは無く、全員を集めた後、一人を代表とし秘密基地の大半を壊した道具を渡して自分は再び戦場の様子を見に行った。とは言っても大体の検討はついている。スタイリッシュの持つ籠手型帝具《パーフェクター》では《インクルシオ》を倒す事は不可能だ。

 元々パーフェクターは汎用性に富んだ品。使い手の技量次第で大体の事はできるが本人の戦闘力を上げる手段は標準装備されてはいない。つまりパーフェクターを付けただけではそこらの人間と何も変わらないと言う事。裏方にあってこそ真の力を発揮する。そんな品を前線につけてくると言う事はあの数相手に勝算があると踏み切ったことに他ならない。だが、いくらデータがあろうと無意味だった。

 インクルシオがそれを許さない。帝具のデーターが詰まった書物では 

 

【あらゆる環境に対応した超級危険種タイラントが素材となっている。その筋肉組織はまだ生きており宿主に適応した姿へと変質する】

 

 と記されている。単純な事だがどれだけ脅威な事か、氷で拘束しようが、雷撃で焼き殺そうが、変質し適応する。

 

 力による破壊

 

 それだけがインクルシオに対抗する唯一の策。が難度もとてつもなく高い。ただでさえ強力な能力に加え身体的強度も高く筋力もある。生半可な力では返り討ちに遭うだけだと言うことを。

 

 

 

 

 手札を全て潰されたスタイリッシュは基地の崩壊という絶望を知らされ四つん這いで俯いていた。竜を宿した戦士に全ての策を撃ちやぶやれ無様にやられる姿は、自身が理想とするスタイリッシュな姿とは真逆ーー

 

 地に跪き、悔しさを噛み締め、眼前の強敵に恐怖する。

 

 あってはならない。理想を求めた先が、このように無様などと。認めない…認めたら自分には一体何が残る?何も残らない。大量の実験と犠牲によって得た個人が持つには強力だった戦力も今となっては風前の灯火。残るは技術のみ、ならば今は逃げることを考える?

 

 否

 

 逃げるなど愚の骨頂。懐に忍ばせた“最終兵器”を使おうとポケットに手を突っ込んだ瞬間に何かを察したインクルシオは音速の勢いで跳躍しスタイリッシュに肉薄する。

 最終兵器が発動するのが先か、インクルシオの攻撃が先か

 

 刹那、光よりも早く二人の間に黒騎士が割って入る。

 

タナトス

「言っただろう?ここで殺されては困るとな。」

 

 スタイリッシュを庇うように立ち塞がるタナトスの手にはスモークグレネードがあった。そっと手を離しグレネードが垂直に地面に落下すると大きな煙を立てて視界を塞いだ。

 このままでは逃げられると思ってインクルシオのサブ武装である槍《ノインテーター》を煙幕へと闇雲に振るう。当たるはずなどない、煙幕で視界が封じられさらにはタナトスという最強の敵が護っているのだから。が、おとづれた結果は意外なものだった。

 煙幕から何かが斬り飛んだ。 

 空中に舞う五本の円柱のような物、それは指だった。帝具のパーフェクターの指先ごと切り飛ばされてスタイリッシュは悲鳴を上げ泣き叫んでいる。

 

タツミ

「!?」

 

タナトス

「チッ!!やられたか!?」

 

アカメ

「逃がすかァ!!」

 

 地面を蹴って最速の剣撃を振るう。煙で視界が遮られていようと声が聞こえるのならば、そこを頼りに狙いを定めれば良いだけのこと。

 一斬が振われる。それは必殺である一撃、当たれば呪詛が体を蝕んで死に追いやる呪いの刀。

 肉と骨が切れる音が聞こえる。その後にスタイリッシュの絶叫は途絶えて生死の狭間を彷徨った。煙の向こうで何が起こっているのか、認識する事はまだ出来ない。突風が吹き荒れ煙が晴れた後に残ったのは、斬り落とされた腕と指だけでスタイリッシュ本人の姿はどこにも無かった。

 

アカメ

「逃したか…」

 

ナジェンダ

「心配無いだろう。村雨で斬られたんだ。いずれ呪いで死ぬさ」

 

 皆が安堵する中でタツミだけが底知れぬ違和感を抱いている。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

タナトス

「はぁ〜

 中々どうして…」

 

 スタイリッシュを片手に頭を抱えて思った。

 

 死んではいないだろうか?此処で死なれては後が困る。急所は外した。ギリギリで死なない程度なのに、情け無い。

 生きろ!生きろ!生きろ!と心の中で呪文の如く唱えていると、神に届いたのかスタイリッシュの身体が鼓動を取り戻した。

 

 ホッと胸を撫で下ろし死なない程度にまた痛めつける。今度は脳に直接攻撃を加えることにした。頭蓋骨を高速振動させて、脳を揺らして抵抗するという考えが出来ないほどに痛めつければ後々から反乱などは出来ないだろう。

 帰り道でこの後の事を思考しながら進む足取りは物凄ーく軽いものだった。



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第11話 歯車

 えくば2にて、トラバ下方に喜んだものの、大した違いはなく覚醒技で焼かれたので家庭版に逃げます。

 鳥嫌い


 

タナトス

「頼もー!」

 

 帝都の怒真中、門番に向かって叫ぶ特級階級の騎士が1人。門番の兵達は困惑しながらも重く大きい門を開き騎士の帰還を見送った。

 

 王室へ向かう途中、警護の兵達は何事かとタナトスを凝視していた。彼が担いでいるものがそうさせる。本来腕があるはずの部位から血が滴りもう片方も指を欠っし見たもの全てが同情を向けるには事足りる。

 

セリュー

「伯爵ー!聞きました!Dr.が!?ホントなんですか??」

 

タナトス

「こいつの事か、すまないな。護り切れなくて…騎士失格だよ。俺は…」

 

セリュー

「そんな事ないです!伯爵が助けてくれなかったらDr.は賊にやられていたでしょう。ありがとうございます!Dr.を助けてくれて!」

 

 辞めろー!その憧れと尊敬の眼差しを俺に向けるなー!

 

 まるで彼女から光が溢れ出ているような。

 

 恨まれる事はあれど感謝されると罪悪感が凄い。いくら計画と言えど……イヤイヤ、此処は平常心を保ち、来たるべく時に備えよう!

 

タナトス

「悪いが先を急いでいてな。速く医務室へ運ば死ぬかもしれないのでな、失礼する。」

 

 逃げる様にその場を去って向かう先は医務室などでは無い。暗く、冷たい拷問室。

 勿論そこには専属の拷問官がいる。

 

「ん?伯爵どうしました?こんな所に?」

 

 気さくに話しかける拷問官の手をかざし言葉を紡がせる。

 

「ハッ!捕虜の拷問を?それでしたら私らが…え?一人でやりたい?ハハ、伯爵もお好きですね〜わかりましたよ。」

 

 人払は済んだ。万が一逃げられない様に牢獄の鍵を閉めてバケツに入った水をぶち撒けてスタイリッシュの目を覚まさせる。衰弱しきってゆっくりと瞼を開く当人をよそにタナトスは口を開く。

 

タナトス

「で、今回の一件でそちらの手札は尽きたと考えてよさそうだな。Dr.スタイリッシュ?」

 

スタイリッシュ

「………アタシは…?……そっか…アンタにやられたって訳ネ…不覚だわ。」

 

 両腕が使い物にもならないのにやけに高圧的な態度に警戒を強める。

 

タナトス

「アンタがした悪行の数々、償えると思うか?」

 

スタイリッシュ

「償う?馬鹿じゃないの。研究材料に何をしたってワタシの勝手でしょ?

 アナタこそ、アタシにこんな事してタダで済むと思わないことね!」

 

 あん?と首を傾げるタナトスにスタイリッシュは親切に交渉材料の事を話す。それが死よりも恐ろしい事に直結している事も知らずに

 

スタイリッシュ

「アンタがセリューのことを気にかけてるのは知ってるのヨ!!彼女にはアタシが直々に改造を加えてアゲたの!もし、アタシが死ねば…ドカン!あの子の頭につけられた最終武装が作動し……」

 

 言い終わるよりも先に、タナトスの手はスタイリッシュの頭をがっしりと掴んでいた。掴む力は凄まじく、ミキミキと音を立てて砕けそうな勢いを見せた。

 

 永遠を生きる彼が一番大切にしているものは『友』だ。不老不死とは老いず死なないという絶対的なアドバンテージを誇ってはいるが、反面、常人には耐えらることのできない孤独を味わう事になる。何せ自分一人を残して他が消えてしまうから…歳を取り肉体という枷が限界を迎え魂は空へと還る。タナトスは何度それを経験した事か、だからこそ知っている。命の大切さと言うものを。

 

 人は脆く、弱い生き物だ。

 でも、だからこそ懸命に生き、自分の信念を貫こうと奮闘する。その姿は光を持ち、タナトスに人間的な情を持たせ続けてくれている。なんと素晴らしき事か、かつては諦めた彼が再び進むことが出来たのはこの世界の住人たちのおかげでもあった。

 時が経ってもそれは変わらない。故に彼は他者を平気で殺す存在に理解を示したくなかった。特に身近でよく知っている者達を害する者あるのなら許す事は難しい。

 

タナトス

「貴様…コウイイタイ訳カ?

 

 殺されたくなければ、自分を助けろ。ナイトレイドに報復をしろ。

 

 ト?クダラナイ」

 

スタイリッシュ

「…アッ………ガッ…………!?」

 

 消えそうな意識を必死で保ちながら奥歯に仕込んだ起爆装置を押そうとヤッケになったのも束の間、突然脳内に何かの映像が映し出された。見た事もない怪物が侵軍し、街を焦土と化している光景。叩き起こされた意識は必死に抵抗しようと抗うが無駄だ。やがて怪物を統べる《竜》が降り立ち周囲一帯に死の吐息をばら撒いた。視界はぼやけ、息もできない、激しい頭痛、腹痛、吐き気、終わりの無い痛みが身体中から込み上げる。

 

 現実で、スタイリッシュは倒れ込み泡を吹いている。精神的苦痛は最高推になり抵抗する気力すら奪った先に待つのは…

 

        《絶望》

 

 

 ゆったりと立ち上がる。そこに痛みは無く、意識も無い。あるのはただの《器》Dr.スタイリッシュと言う魂を内包していた肉体という名の器だけだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

オネスト

「うーむ…」

 

皇帝

「どうした大臣?

 何か困った事でもあったのか?」

 

オネスト

「いえ、別に陛下が気に病む程の事ではありませんよ。」

 

 嘘だ。この男、顔には出さないが凄く焦っている。タナトスから「話したい事があるから覚悟しておけ」と言われ何を言われるのか冷や冷やしていた。自分以外の可能性もあるがもし自分の悪事を陛下にバラされでもすれば、信用を失いすぐに殺される。かと言って皇帝を殺してしまっては今まで通り好き勝手できなくなってしまう上に縛っていたタナトスが自由になり殺されるだろう。大臣は脳をフル回転させ考える。どうすれば自分に全く被害が無く済むのかを、しかしそのような心配は無用だった。

 

 タナトスの正面には皇帝と大臣を含めた帝国の中の権力者が集まっている。その警護としてイェーガーズの面々も帝具を携帯していた。

 

タナトス

「さて皆さん、此度は私の我儘のために多忙な中よく集まってくれました。再び感謝を」

 

 いつもとは違う丁寧な言葉遣いに周りの反応は様々、固まったり、困惑したり、笑っていたりと、がそんな時間も長くは続かない。

 直ぐに緊迫した空気が充満しオネスト大臣の額から冷や汗が落ちる。

 

タナトス

「では、今回こうやって集まってもらったのは他でもない。先日私が遭遇した変な危険種についてです。気になって辺りを探したところ妙な建物を掘り当てまして、中に入るとあら不思議、なんとそこはイェーガーズの一人『Dr.スタイリッシュ』の秘密基地だったんですよ。これがどういう事か分かりますかね?」

 

エスデス

「組織に内密に秘密基地を持ち、新型危険種の開発を行なっていた。そう言いたい訳か?」

 

タナトス

「正解。幸い現地にて囚われていた市民、罪人は遭遇したナイトレイドに保護されているでしょうし、心配は無用です。」

 

オネスト

「お待ちなさい。では何です、貴方は勝手に守るべき城を出て、あまつさえ敵であるはずのナイトレイドと協力したという訳ですか?」

 

タナトス

「状況が状況、使える駒は使わねば勿体ない。それに偶発的に起こった事にワーワー言われるのは好かんな貴様。今回はお前のためにと思ってわざわざ遠くへ反乱軍を討伐しようと出かけたのにその言い草はないでしょ?」

 

オネスト

「ぐぬぬ…どの口がッ!」

 

タナトス

「泣き言は一人の時にでもやっておけ、私は知らん。今回はあくまで偶然であるからして、

 それに帰還した市民からはナイトレイドを称賛する声も上がってるでしょう?彼等が『悪』だと決めつけるのは早計かと思いますよ。私がしたことは悪い事ではないと思いますし、これで帝国内にいる不遜分子を一掃できるかもしれないのですから…フフ」

 

 ヘルムからでもわかる。口を歪ませ静かに笑う姿。周りは戦慄し次は誰が餌食になるのかを考える。そんな中で、一人タナトスの前へ出て行く少女が一人いた。

 彼女はスタイリッシュに改造された元帝都警備隊の一人『セリュー・ユピキタス』

 

セリュー

「待ってください!Dr.がそんな事をする筈がありません!きっと何かの勘違いで……」

 

タナトス

「なら本人に聞いてみるか?」

 

 ドアの先、車椅子に乗せられた哀れな姿をした“元”イェーガーズが現れる。腕はなく、身体中傷だらけ、目に光はなく虚、俯く姿に過去の面影はない。

 

タナトス

「ではDr.、貴方はあの秘密基地で何をしていた?」

 

スタイリッシュ?

「はい、私は市民や罪人を拉致させ実験していました。貴方が遭遇した個体は私から逃げた奴等です。それ以外も沢山しました。沢山殺しました。オーガと結託してやりました。でも完成しなかったのです。最高傑作と呼べる個体が、だから作りたかった……」

 

セリュー

「そんな…」

 

タナトス

「自白も取れた事だ。此度はここまでという事でよろしいか?

 処遇は俺がつける。以上!解散ッ!」

 

 当然帰るわけもなく辺りは騒つく、突然投下された爆弾。

 

 特殊警察イェーガーズ、市民を拉致し実験行為!

 

 帝国内部にも広まったこの事件は皇帝に深い興味を与えていた。左に大臣、右にタナトスが立っている。雰囲気は最悪だが、皇帝が口を開く

 

皇帝

「なぁ大臣、世の国は何故ここまで争い事が続くのかわかった気がする。

 だから新しい事をしたいのだ。力を貸して欲しい…」

 

オネスト

「流石は陛下!この私にできる事があるなら何なりと…」

 

皇帝

「…タナトス」

 

オネスト

「は?」

 

タナトス

「へ?」

 

オネスト

「な、な、な何を仰って!?こんな奴に任せずとも私が居りましょう!?」

 

皇帝

「勿論、大臣にも働いてもらう。だが、タナトスは1000年間生きた知恵がある。世の治める国は不完全だ。だからこそ豊かな地、豊かな時間を知っているタナトスの知恵も借りたいのだ。どういう事をすれば民達が豊かになるのかを、ダメか?」

 

タナトス

「いや、ダメとかそういうわけじゃないけどさ…なんか反応に困るな〜それ」

 

 後頭部をポリポリと掻き照れている。久しぶりに彼の本音を聞けた事と、自分が頼られている事が合わさってどうしようか迷っている。喜びと不安が入り乱れ思考する。

 

 このまま彼の案を受け入れて教えるのならば、大臣の魔の手から逃れ良き統治者になれる。が、大臣が黙って無いだろう。あらゆる手を使って皇帝を殺すか洗脳しようとする。

 ならばここで遠慮して大臣に好きにやらせて確実な機会を待つ?いや、皇帝が行動に出たんだ。大臣とてわかっている。たとえ俺がこの場で引いたとしても皇帝の未来は長くないだろうから、いずれ暗殺されるのが関の山、だったら

 

タナトス

「しゃーない、いいよ。久しぶり行くか?帝都?」

 

 皇帝の手を握り牽引する。後ろでオネスト大臣が騒いでいるが皇帝の耳を塞ぎ部屋を出る。

 

 昔の事、まだ前皇帝が存命していた時はこうやって一緒に出歩いて無茶をしたものだ。その度に怒られたっけか…またこうして一緒に外歩けるなんて考えもしなかったな。

 

 自分よりも小さい彼を見おろす。かつての幼き姿よりも凛々しい目付きになった事に静かに気がついた。

 

 計画変更、これなら上手くいく!

 

 頭の中で思い描く光景にワクワクが止まらずに手でヘルムを覆い隠す。仮面越しにでもわかってしまう喜びは予想していなかったからこそ嬉しく、今は皇帝と騎士という関係ではなくただの友の様に感じる事ができた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 宮殿の花畑で一人、思い悩む少女の姿がある。信頼していた上司が二人も卑劣な行為をし自分が信じる《正義》とはかけ離れていた。

 どうすればいいのだろうか?何を信じればいいのだろう?

 疑問は止まる事を知らず少女は自分を見失いかける。

 

???

「お困り事ですか?」

 

 そんな中響いた声、聞いたことはなかったが振り返る。憐れみを宿した目でこちらに向かってくるタナトスの友人セイギだ。

 

セリュー

「いえ、何でもありません………」

 

セイギ

「そうかい?私にはとてもそうには見えないがね。困っている事があるならまずは相談しなきゃ。全部一人で抱える事が“正義の味方”じゃないよ。私で良ければ話し相手になろう。駄目かい?」

 

セリュー

「…………」

 

タナトス

「セイギ、どうした?」

 

セイギ

「伯爵ですか、タイミング良いですね。実は彼女」

 

皇帝

「貴様は確か、イェーガーズの?」

 

タナトス

「そうかい、ちょっくら寄り道してくけど良いか?」

 

皇帝

「構わぬぞ!しかし久しぶりの外出だ!手短に頼む!」

 

タナトス

「了解!」

 

 タナトスはセリューの下まで歩み、隣へ座り口を開く。

 それは彼の昔話、力を手に入れ、全てを壊し、無を味わった時のこと。何度も死のうと思った。何もなく、誰もいない場所で自分一人が生きていてもどうしようも無い。自我を失いかけたその時差し込んだ希望、再び友を得て歩き出した軌跡。

 

タナトス

「…だからあまり思い詰めるなよ。恩人が悪だろうが何だろうが、自分は自分だ。人生ってのは何があるかわからないものでさぁ、俺みたいに生き長らえて楽しい事が増えた奴だって沢山いるんだ。セリューお前はまだ若い、できる事だって沢山ある。

 まぁ、言えることは…なんだ……気負い過ぎるな。気楽に生け」

 

 腰を上げて戻るとウズウズしている皇帝がタナトスの手を引っ張って走って行く。若くして国を任せられる立場ではあるが、年相応の幼さも見える。ただ大臣に言いくるめられ皇帝らしくあろうと無理をしていた。その枷がようやく解かれた。

 

セイギ

「彼も進み出しました。貴女はどうするのです?黙って帝国に忠義を尽くしますか?

 それとも……」

 

 彼女が応えることはない。今も昔も理想は変わらない。正義に生き正義に死す。父の理想を引き継ぎ行った行為は間違えだった。ならばどうするか?決まっている。




 アカ斬るとは関係ないのですが、アルドノアゼロとフレームアームズのクロスオーバーのオリキャラ設定書いたので見てください!
 今後出すかどうかはまだ決めてないですが宜しければ!



ドゥルガー

 ヴァース帝国第一皇子ブロッキング・ヴァース・レイヴァース専用に調整されたカタフラクト?
分厚い装甲の上に更に追加装備を着せた姿は中世の甲冑を思わせる姿をしている。ヘヴンズ・フォールの惨劇の副産物、次元を超えてやってきた未知の技術《UEシステム、T結晶を用いたTCSオシレーター》を実用段階まで解析し搭載、その為機体の大部分はブラックボックスと化し技術者達も頭を抱えている。
 沢山の装備を持ち、状況に応じて換装する為汎用性は高く、後述するアルドノアの固有能力もあって『外宇宙探査隊』の中核を担う事になった。
 
 当初、機体は中破しており修復には多大な手間をかけてしまった。が、データーベースの解析が済んでからは順調に事は進みオリジナルと大差ない見た目に落ち着いた。しかし再現しきれない部分も多くUEシステムが搭載されていた骨格の一部パーツは新造、機体出力の低下を少なからず招いてしまったがアルドノアドライブが規格外の出力を発揮しドライブを胴体へ、UEシステムを四肢に付け替える事でハイブリッド化させ逆に出力向上を果たしたのであった。

 アルドノアドライブの固有能力は《テレポーテーション》当初、テレポートするには莫大なエネルギーが必要となり桁違いの出力を誇るドライブ単体でさえ精々3回が連続使用の限界だった。更に言えばテレポートに耐えれる機体構造をヴァース側は建造出来ておらず現状最高の防御力を持つ揚陸城に直付けする方針をとっていた。そんな折起こったヘヴンズ・フォールの惨劇。月面の7割が消し飛んだ後残った地に突然現れた機動兵器、未知の無限エネルギー機関を多数搭載した本機に目を付けた幼き日のブロッキングは殆どを接収、改修の末生まれた機体は予想を超えた出力を叩き出しエネルギー問題の解決と防護バリアによる機体強度の劇的強化による理論上テレポートの無限使用、重装甲、異常な機体推力を持つ最硬のカタフラクトがこの世に誕生した。


武装 

戦術駆逐刀「ベルングルスト」
 柄まで含めるとドゥルガーの身の丈を超える全長となる、巨大なベリルユニットで構成された対艦兵器。両刃の大剣状の武器で、ベリルウェポンとしても段違いの出力を誇り、突撃しただけで揚陸城を半壊させる程の圧倒的な攻撃力を誇る。
それも当然と言うべきか、下記の「ハジット」の基部に「リハルー」を二本合体させた形態であり、分割状態でも大柄なベリルウェポンのTCSオシレータ3基分を集約し高出力を実現している。
巨大さに比例して取り回しが悪く対カタフラクト戦には向いていないが、もちろん当たればただでは済まない。
ドゥルガーはこれを片手で振るう。

戦術要撃刀「リハルー」 ×2
 片刃の大剣。「ベルングルスト」の刃を分割した形態であり、ベルングルスト装備状態から即時分離して使うこともできる。
合体状態に比べて取り回しが良くなるが、それでもまだ巨大である。
 これは本来のTCSオシレーターの技術を火星側で再現した仕様であり同所属のアルギュレのプラズマフィールドを現行の技術で再現しようとしたが、安定せず妥協策として無理矢理TCSオシレーターのバリアで包むというものだ。その為、破損すればプラズマが周囲に飛び散り敵もろとも爆発し重装甲なドゥルガー以外には使用困難な欠陥武装。

戦術迫撃刀「ハジット」
「ベルングルスト」のベリルユニットを小型化した両刃の大剣。小型化されたといってもドゥルガーの携行兵器の中では大型の部類。
 リハルーを分離した後にプラズマフィールドを展開しTCSオシレーターで包み込む為敵の意表をつくことが可能。

攻性防盾システム「ヘルライネ」
 クワガタ状のクローで敵を掴む。盾であるためかTCSオシレーターⅡ型も搭載している。
 盾としても使えるほか、クローの威力も向上しているがその分重量が増している。 最も、機体パワーと推力が桁違いな本機に関しては問題にもならない。

戦術突撃槍『バトルランス』
 ブロッキングが地上での活動に製造したヴァース帝国製のオリジナルの武装。逆手持ちのグリップに槍が取り付けられている。先端部を換装できガンランスとしても使用可能であり劇中では、ホバリング能力を生かし敵に突撃しゼロ距離射撃で確実に仕留めている。
 最も、この運用方法はガンランスに搭載できる弾数が極端に少ない為にブロッキングが仕方なく行っている。地上での運用を前提としているが換装する事で宇宙でも使用可能となる。


形態

ドゥルガー(素体)
 追加装甲を一切装備していない素体。アーキテクトと呼ばれるフレームにベースとなる装甲だけを取り付けた形態。自力での推進力は持たず、武装のテスト用として主に用いられている。

ドゥルガー突撃戦仕様
 ブロッキングが地上にで使用した形態。メインスラスターを脚部に搭載しホバー移動を可能としており、それを利用したバトルランスによる突撃は強力。

ドゥルガー要撃戦仕様
 全体的なバランスが一番取れている形態。データベースに存在し、本機の修復に用いられたもう一機のNSG-ZOシリーズの装備を参照している。

ドゥルガー駆逐戦仕様『ドゥルガーⅡ』
 ドゥルガーのデータベースで確認された後継機を完全再現した姿。主に宇宙での運用を主眼にされていた為に月面での最終決戦時に運用された真の姿。装備の換装によって小回りは効かなくなったが推力を一方向に集中させた事によって、とてつもない加速力を持ち、比例して破壊力も常軌を逸している。


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第12話 皇帝の日常

今年最後の投稿!
 
来年もよろしくお願いします!


 Dr.スタイリッシュは科学者だ。幾多の実験を繰り返す彼にとって材料は必須だった。なければ何も見つける事ができないから、加えて非人道的な実験をするには裏ルートから集める必要がある。この時代は彼にはうってつけだった。

 賄賂、権力が蔓延る今の世で正義を貫く文官は数少なく容易に取引する事ができた。

 それからだ、目覚ましい結果の数々を収め帝国にすら名を轟かせた彼が行き着いた先は地獄だった。

 

 苦しみを受け、自我を奪われて、肉体もボロボロの彼に生きるという選択肢はない。用済みになったからには捨てられるのが道理、かつての自分が実験材料にして来た行為がそのまま返ってくる。

 その日、スタイリッシュは死んだ。解剖によれば、肉体の中から掻き回されて臓器や血管がミックスされていたと言う。

 

 

 

 

更衣室で庶民の格好をさせた後、タナトス自身も擬態し普通の人間になった。帝都へ行くとそこは民達が騒ぐ豊かに見える光景が広がっている。その光景を見るなり皇帝はほっと胸を撫で下ろす。

 

皇帝

「よかった。帝国内部の不遜分子がよからぬ事をしていると思ったが…心配は無用であったな。

 

タナトス

「………ん、まぁそうだな。」

 

 やっぱり、教えられないか………無常に現実を突きつけるのは流石にダメージが凄そうだしな。黙っているのが正解か?違うだろ!このまま黙ってたらそれこそ『あいつら』と変わらないだろ!

 

 街を歩く変装した皇帝の横で頭を抱えての高速思考、どうするべきか、何が正解か考えまくって答えを得た。ヨシっ言うぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇帝

「ウ〜ン!タナトス!ここの菓子は凄く美味しい〜!」

 

タナトス

「そうか!気に入ってくれて何よりだよ!お兄ちゃん嬉しい!」

 

 久しぶりだなーそんな無垢に笑う姿を見るのは…そうだよな、皇帝なんかよりそうやってただ笑っていていた方が似合う。なんてったって子供はそれが仕事だからな。ん?何か忘れてる様な…

 

「二人ともすごい食べっぷりだね!コッチとしても嬉しい限りだよ。てか、まさか旦那が人を連れて来るたァねー」

 

皇帝

「?

 菓子職人よ、此奴はいつも此処へ?」

 

「ん、知らねェのかい?旦那はウチにしょっちゅう来てる一番のお得意様よォ!今食ってる団子だってサービスだよ!普段一人の旦那が人を連れて来るんだから、珍しいこともあるもんだな!ガッハハハ!!」

 

 皇帝はタナトスを見上げる。業務を果たしていると思っていた外出がまさか娯楽の為だとは、国を預かる者として見過ごせないのは事実だが、彼は知っている。何を言っても無駄だと

 故に目で語る。冷め切った目で旨そうに団子を頬張るタナトスに語る。気にも止めずに茶を啜るタナトスに皇帝は深いため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甘味処を後にしたあと、二人は街を歩いていた。目的があるわけではない。食べた後の運動ついでに見渡しているだけだ。ずっと城の中で生活していた皇帝は目新しいものがいっぱいあるこの場所に興味津々だ。

 

タナトス

「あー美味かった!次どこ行きたい?」

 

皇帝

「ん?そうだな、喉が渇いた気がする。」

 

タナトス

「じゃ、飲みに行くか!」

 

 続いてやってきたのはダンディーな感じのバー。ドアを開けると全身を覆い隠したウェイトレスがお辞儀をしカウンターへ案内する。古来よりタナトスの席は決まっている。L字になったカウンターの端っこだ。真前には丁度従業員が作業をする為の設備がある。

 皇帝は横に座り様子を伺う。何せ初めての街巡り、右も左も分からない。今まで彼は城の中で何不自由なく日常を繰り返していた。故に知らない。一般の暮らしを、帝都の日常を、最初の甘味処も戸惑ったがそうそうにタナトスが注文したおかげで事なきを得た。次もそうするのだろうと静観を決めたが

 

タナトス

「何がいい?」

 

皇帝

「!?

 そ、そうだな……余は…このカルーアと言うやつを」

 

「悪いね。子供にはまだ早い。他のにしな。」

 

皇帝

「うぅ…すまない。」

 

 生まれて初めて公衆の面前で赤っ恥をかいた。子供には無理なことは常識だろう。現に此処には自分と同じぐらいの子供は来ていない。

 

 はかったな!タナトス!

 

タナトス

「ハハ、ごめんなマスター。こいつこう言うの初めてでさー」

 

「なら、もう少しハードルの低い店選んで下さい。酒飲むなら子供お断りしたいんですがねぇ。で、何にします?うちで出せるのって言ったらあなた直伝の飲料系しか出せませんよ?」

 

皇帝

「それでよい!一番美味しいのを頼む。」

 

タナトス

「んじゃ100%オレンジで」

 

 カウンターに置かれた二つのコップ、一つは何処にでもあるオレンジジュース、もう一つは黒い水だった。

 

皇帝

「……マスターよ。これは本当に飲めるのか?」

 

「見た目は少し酷いですが、味は保証しますよ。タナトス様が持って来たのを先祖が複製したものです。たまにしか来ない子供達へのうちの人気商品……名前は確か…コーラだっけ?」

 

タナトス

「そうそう、味は保証するぜ。」

 

 胸の鼓動が速くなる。目の前に出された物を口にしないのは皇族としてはしてはいけない行為。が目の前の“コーラ”は初めて見る飲料、

 覚悟を決め、コップを口に運んだ。喉を通るしゅわしゅわに目を見開いた。

 

皇帝

「美味しい…」

 

タナトス

「だろ。やっぱ最高!」

 

 一瞬で飲み干した光景を見てタナトスは笑う。久しぶりだな、と。

 責務から解放された姿はもう皇帝ではない。ただ一人、どこにでもいる子供となった。

 その後も店を転々とし、1日はあっという間に過ぎて夜になっていた。城へ向かって足を進める二人、

 

皇帝

「なぁタナトスよ。お前が職務を放棄していることには目を瞑ろう。だが、一つだけ聞きたいことがある。帝都は本当に栄えているのか?」

 

 突然何を言い出すのかと思えば、そっか……いつまでも子供だと思ってたけど、もう立派な王なんだな。そう言う所はやっぱり親子だな。

 

タナトス

「フッ、なんでそう思う?」

 

皇帝

「街は確かに賑わってはいる。だが見れば見るほど民たちは心の底から何かを恐れている。

 余は…怖いのだ……幼き頃に父と母が亡くなったその日から、国を担い民を導ける良き王であろうとしている!

 でも、どうすれば良いのか分からない……」

 

タナトス

「…成る程な、まぁしゃーない。

 その年でそこまで考えられるなら問題はないよ。」

 

 あるとすれば大臣ぐらいだが

 

タナトス

「何事もうまく行くことなんて稀だよ。人に頼るのもいいが、まずは自分でチャレンジしてみることが大事さ。手探りでも確実に進め、優秀な人材に頼ってたらいつまで経っても成長することなんてできやしない。」

 

皇帝

「…………」

 

タナトス

「最低限サポートはしてやるよ。何のための騎士だと思ってる。困った事があるのなら相談しに来いよ!いつでも俺は暇だからさ!」

 

皇帝

「仕事しろ!」

 

 何気もない会話を続けながら、二人は城へと戻り、明日からそれぞれの職務をまた繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数ヶ月、帝都の情勢は前に比べて著しく安定し平和の一言だった。貴族への過度な徴収は無くなり、暴虐を繰り返した一部の幹部達は死ぬまで牢屋の中へと移された。

 

 大臣とエスデスを除いては……

 

 その日、鳴りを潜めていた反乱軍が行動を開始した。任務はイェーガーズのメンバーの抹殺、及び帝具の回収だった。

 皇帝が自主的に始めた政策は市民達には好評だったが、オネスト大臣は裏で可能な限りの悪事を働いていた。悟られぬ様に、慎重に、殺人は出来なかったが、辺境の村々から多額の税を奪うことは容易い。

 帝国内部の人間は大臣を暗殺しようと試みるも壊滅、イェーガーズとエスデスによって守られている。

 馬を走らせ、入手した経路へと先回りし様子を伺う。

 

 しばらくすると集団が目視できた。イェーガーズ総出だ。新たな指導者を得て会心の活躍を見せる北の残党の排除、生半可な戦力では勝てない。だからこそイェーガーズが抜擢されている。好都合だ。此処で殺す事ができれば、大臣を守る者もいなくなる。

 

 タツミをはじめとしたメンバーが跳躍する。狙いは勿論『特殊警察イェーガーズ』



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第13話 変わりゆく帝都

300年だ…もう操作は大体大丈夫だろう?
さぁ、目覚めの時だ(上に字を置くやつ)


 


 皇帝の玉座にて、タナトスは王に膝をついている。皇帝は幼くも王らしく周りの文官の目を気にも止めず尊大な態度を崩さない。

 

 彼は変わった。周りに言われるがままに流されるだけの飾り物の王ではなくなった。自分で見て、自分で考え、最善を見つける為にあらゆる手を使う。民が、兵が、人が平和に生きられる政策を模索する。もう大臣の言葉は不要。

 

 そんな彼がタナトスを呼び出した訳は一つ。

 

皇帝

「貴様には、帝都警備隊の再編及び帝都警備隊の隊長についてもらう。」

 

タナトス

「ーーー御意。御身の御心のままに」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 突然の事だ。遠征に出ていた俺たちの前にナイトレイドが現れた。来るや否や帝具を振り回し襲いかかってきた。

 クロメが自身の帝具で呼び出した骸が応戦する暇もなく分断された。それぞれがそれぞれと闘う。エスデス隊長だけは、2対1を強いられている。迫る猛撃を軽くいなしている。さすがは隊長だ。だが油断はできない。

 目の前の敵は俺と同じ鎧の帝具を見に纏ったやつだ。実力は互角…いや、向こうのほうが一枚上手だろう。こちらの攻撃を全て受け流し確実にダメージを与えてくる。

 

 ここ数ヶ月、帝国はかつてないほどに変わった。民は上からむしり取られていた税金が嘘の様に軽くなり、悪虐を尽くした故オーガ率いる帝都警備隊や俺たちイェーガーズの代わりに帝都の周辺警戒に導入されたタナトス伯爵率いる

 

   《皇帝特務『龍焉ノ騎士団』》

 

 全員が全身鎧やローブに身を包んだ怪しげな集団だ。だが民たちから慕われ、良好な関係を気づきこれまでの圧政が嘘のように変わる。皆心の底から笑い繁栄が続いていく、俺たちイェーガーズはもう必要ないのかもしれない。Dr.スタイリッシュの犯した罪は許してはいけない。だが、それが許されていたのが今までの帝都だ。非人道を絵に描いたような国を今まで守っていたと思うと嫌になる。

 

 相手から送られてくる一撃一撃をいなしながらそんなことを考える。

 

ーー何の為に帝都に来たのか?

ーー見送ってくれた母は何というのだろうか?

ーー師匠は何というだろうか?

 

 余計なことを考えた代償か、蹴りを顔に喰らい意識が吹き飛びそうになる。必死に踏ん張って敵を見る。今度は食らわない。食らってはいけない。目の前の敵は、強い。単純な技だけじゃない。拳から伝わる熱い思い。きっと正義感が強いのだろう。帝国の圧政を良しとしない強い意志を感じる。

 もう一撃でも貰えば恐らく意識は無くなるだろう。だがそれはない。俺が倒れれば、ボルスさんやクロメのところに行くはずだ。ただでさえ数的不利があるこの状況でより悪化させるわけにはいかない。

 再び拳を握りしめて眼前の敵を睨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 流石お姉ちゃん。私の兵隊達をこんなに相手にしてるのに、動きが鈍くなるどころかどんどん洗礼されていく!

 

 

《“死者行軍”八房》

 斬った対象を屍人形として使役可能とする帝具。総制御数は7か8程度だが、帝具で斬り、命がないのなら操る事は造作ない。クロメが操るのは全て強者揃いである。

 

ーー昔の仲間

ーー北の国からのの暗殺者

ーー反乱しようとし殺された元帝国将軍

ーー特級危険種の変異体

ーー凄腕のボディガード

ーー異民族の長

ーー???

 

 

 これ程の数と質、倒しきれない訳はない。そう思っていたが結果は違った。

 

 機動力というのは大切だ。何をするにも『速度』は重要となってくる。例えば、尋常ならざる攻撃力を持った帝具があったとしよう。それは一回の使用で地形を変える破壊力を持ち、頑丈な装甲に包まれている。が機動力が無ければどうなるか?簡単な話だ。集中砲火にあい、装甲を貫かれるのが関の山、さらに言えば圧倒的な攻撃力と防御力を兼ね備えるという事は躯体が巨大になるという欠点もある。的が大きくなればそれだけ攻撃も当てやすくなる。

 

 戦場というフィールドを縦横無尽に駆け回るアカメを誰一人捉えることができないでいた。等身大の人間が神速を極めれば捉える事が出来る“人間”など存在しないのだから、その速度は屍人形の包囲を突破し、クロメ本体へと斬りかかる。

 紙一重で回避する。村雨の一斬は掠るだけで死に至る呪いを送ることができる。故に身体でそれを受け止める事は『死』を意味する。防具で防ぐか刀で受け止めるか…あるいは屍人形を囮とするか、死んでいるのならば村雨の呪いは効かない。

 クロメにとってアカメとは相性が良いはずだった。持ち前の機動力も“あれ”を使えば完封できた。ミスはたった一つ、姉の実力が予想を遥かに超えていた。

 先のタナトスとの戦闘、それがナイトレイド…いや革命軍全体の武力の向上を促した。

 

 このままの戦力であの“化け物”に勝てるわけが無い。

 

 前々からわかっていた事だが、ただでさえエスデスという難攻不落があるのだ。皆心の中で帝具の力を当てにしていた。もしかすればタナトスも倒せるのでは無いか?そんな淡い期待も絶対的な力の差を見せつけられ現実を突きつけられる。だから強くなる為にこの数ヶ月、血も滲むような訓練を繰り返した。アカメとて例外では無い。繰り返ししていたトレーニングに加え、超級認定寸前の危険種を素手で葬り去り、ブラートの姿勢を見習い全方位を組まなく観察しながら行動する方法も身につけた。他のメンバーもそれぞれが特訓し、前よりも強力になった。

 それは彼らが迎える『運命』の時の総力と同格、先に進んだ彼らにイェーガーズが勝てる訳もなく次第に押され始めている。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 イェーガーズが追い込まれ互いに背中を預け合う。周囲にはナイトレイドが包囲し、遠方から狙撃手が狙っている。

 辛うじて隊長であるエスデスが健闘しているぐらいで他は圧倒され膝をついている。

 エクスタスを持ったシェーレが突撃しようと踏み出した時、『それ』は現れた。

 

 照りつける太陽の火を阻む大きな翼の影を地に写し全員の視線が集中する。

 

 降り立ったのはブドー大将軍より一回り程小さいローブで体を隠したペストマスクの戦士だった。すこし、おかしいところがあるとすればそれは隠された胴体だ。普通の人間にしては背中が大きい。

 

 ウェイブは戦士の感故か、他のものよりも一層乱入者に警戒心を強くするのを他所にナイトレイドとイェーガーズの間で空からの使者は微動だにしないでいる。

 それは警告、両者共一歩も動くなと、動けば容赦はしない。総がかりで来ようと打ち払って見せよう。

 

アカメ

「お前は誰だ?」

 

 村雨を握る力を強くしながら問うた。敵ならば葬る。十中八九敵だが…

 

???

「隊長からの命令さ、手を引いてもらいに来た。ナイトレイドのみんな。」

 

 手にしたビラを全員に見える様に掲げる。皆「何それ?」と言った感情が表に出て首を傾げる。

 

???

「これは、昨日刊行されたモノだ。『二組共、その心に正義があるのならばここは武器を納め、帝都へと戻ってほしい』と、僕らの隊長は言っている。」

 

タツミ

「何!?」

 

 ビラを渡されたタツミは目を見開いて驚いた。デンッ!と表紙を飾っていたのは略奪の限りを尽くされボロボロになった城砦、現皇帝を支持し、未だその立場にいるオネスト大臣の落籍を狙う官僚のいた場所ーービラに映るそれは、かつて武力を保持していたのか!?と疑いたくなる程の損害が確認できる。ズタボロの写真の下には実行犯と思われる証拠映像の一部を切り抜いた写真が載っていた。これまた龍焉ノ騎士団と同じく布類で全身を隠していた。

 

???

「彼らには手を焼いていてね。僕達だけでは手に余る。なんせ危険種を使役しているんだからね。Dr.スタイリッシュの遺産ーー人体実験の残り物を使ってるせいで僕らも迂闊に手を出せない。出せば最後、帝都民ら全員奴らの餌食だろうからね。」

 

 戦闘を中断され不機嫌なエスデスが龍焉ノ騎士団の使者に問う。

 

エスデス

「何が言いたい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

「単純な事さ、ナイトレイドには彼らの暗殺を、イェーガーズには帝都民全員の護衛及び“敵性”危険種の排除を頼みたい。」

 

 その提案にその場にいた全員が唖然とした。

 

 ナイトレイドとイェーガーズは敵同士、それ即ち反乱軍と帝国軍という事。どちらか片方に提案するのならばわかる。だが、両方…どう言う事だ?

 

 全員の疑問を気にすることもなく龍焉からの使者は深々と頭を下げる。

 

???

「メンバーの情報はおおかた割れていてね。オネスト大臣の実息であるシュラを筆頭に彼が異国から連れてきた実力者ーーその数14名+敵性危険種数百体だ。僕らだけでは帝都民の防衛で手一杯だからね。この通りお願いするよ。

 それに、あそこには僕の友達もいるんだ。少しでも力を貸して欲しい。」

 

 想いに嘘偽りはない。事実、帝都には彼の行きつけの店があるのだ。そこの店主とも軽口を叩くぐらいには仲が良い。だからこそ守ってあげたいと思う。

 

 ーーーあんなに美味しい料理を出してくれる店は失うには惜しすぎる。

 ーーー飲み物も美味い。

 ーーー店主の子供と空を飛ぶのも楽しい。

 

 だから失いたくはない。天寿を全うして最後は幸せだったなと思って死なせてあげたい。それが、永久を生きると決めた自分達がしてあげられる最後の贈り物なのだから

 

エスデス

「何を馬鹿なことを言っている。私達は帝国に刃向かう異民族の迎撃に当たれと言われている。貴様ら1騎士団の判断で振り回されては困る。それにナイトレイドの手を借りるということはどういう事か分かってるのか?」

 

???

「無論、承知の上で頼みに来た。それに貴女は防衛戦は嫌いでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突風が全員を襲う。それは使者が移動した余波。エスデスに突貫し拳を叩き込んでいた。

 エスデスも愛用のレイピアで拳を受け止めるが、その重い一撃に体制を崩し後ろへと後退する。

 

???

「君の相手は僕が引き継ぐ。これで文句はないでしょ?

 氷の女帝さん?」

 

 身体を隠していた布が余波によって空へと舞い上がる。現れたる姿は人にあらず、人型危険種のソレだった。背の翼をたなびかせ屈強な肉体に力を込める。

 ウェイブにとって忘れることなんてない。前に遭遇した新型危険種、ソレが龍焉ノ騎士団にいたのだ。

 

ウェイブ

「お前はッ!?」

 

 ウェイブの問いを翼人……パルは静かに真に返す。

 

パル

「早く行きなよ。君達の仕事は蹂躙するだけじゃないでしょ?」

 

 そうだ。俺達はイェーガーズ、悪虐の徒から市民を守り平和を維持する事こそ本解。他のみんなはどうかは知らないが少なくとも自分はそうありたい。

 目の前の敵は自分に教えてくれた。他者がどうあれ自分の信念を貫けと。

 

 地面を蹴り上空へ跳躍し帝都を目指す。グランシャリオをつけているのならばそう長くはかからない。数分で帝都へと到着するだろう。

 

 

エスデス

「まさか、全員向かうとはな。困った部下達だ。」

 

パル

「その割に、嫌な顔をしていらっしゃらないようで?

 まさか貴女にもそんな人間的な面があるなんてね。」

 

 戦闘前の他愛無い雑談に耽る二人、常人が見たら腰を抜かして逃げるであろう殺気が充満する中、先に動いたのはエスデス。

 

 デモンズエキスで作り出した氷と共にバードマンであるパルに肉薄する。勝負は一瞬、パルに触れ氷漬けにして生捕りにする。

 

エスデス

「ふん、この程度か…

 拍子抜けだな。」

 

 カチコチに固まった生命を内包している氷の塊は不動を貫いている。

 あまりの呆気なさに流石のエスデスも困惑している。

 

 単に自分が強いだけなのか?それとも相手が弱すぎただけなのか?

 

 絶対零度は決して砕けることはない。念には念を入れ自分が持てる最強の氷で捉えた事を自覚している。ならば結論は一つ、自分の全力が敵を上回っただけなのに…何なのだろう?この違和感は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パキッ、パキッ、バキッ、バキッ!

 

 

 氷に亀裂が走る。異形を捉えた檻は原型を咎めないほどに粉状に砕け散りつまらなそうにしていた表情が驚愕に染まる。

 

パル

「やはり、危険な存在だ。」

 

エスデス

「…………何をした?」

 

パル

「君の氷に隙間を残しただけだよ。」

 

 後に「こんな感じでね」と周りに吹く風がその場で静止する。

 

パル

「風の壁、これが、僕がアイツから貰った力だよ。名前なんて無いけどネ!

 さぁ、本気で来なよ!」

 

 腰を落とし本格的な戦闘へ移行する。文字通り空気が変わる。全てがパルに味方する。 

 突風がパルの跳躍をブーストした。常人では視認することすら出来ない神速の領域、そこから繰り出す蹴りは速度のみで空間を歪め木々をなぎ倒し地形を変える程の一撃を次々と放つ。

 エスデスも黙ってやられているわけではない。帝具の能力で氷を作り応戦している。だが、そんなことは気にも留めないパルは拳と脚に纏った風圧を利用して着々と傷をつけさせている。

 エスデスが弱い訳はない。無限にも等しいバリエーションを生み出せる帝具と人という枠組みから外れた身体能力を持つ彼女は確かに強い。帝国最凶は伊達ではなかった。

 

パル

「へぇ、結構本気で動いてるけど…着いてこれるんだ。」

 

 だが、対峙している相手は文字通り格が違う。人から逸脱しようと悠久を生きる真の化け物にはあと一歩届かない。迫る攻撃も躱せば躱す程周りに被害が現れてしまう。エスデスとしては気にすることでは無いが、遮蔽物が無いところでアレと殺し合うのは自殺行為に等しい。

 

エスデス

「チッ、ならば!」

 

 更地一帯が氷の街に変異した。エスデス自身の渾身の力を込めて作った今持てる最大の技

 

氷柱街結界(ひょうちゅうがいけっかい)

 帝都と同じかそれ以上の規模で濁り一つない氷で形作られた無人の街は、冷気を放ち移動するパルの羽を鈍らせる。

 

 多少だった。多少速度が鈍くなる。その程度だと過信した。風は冷気に飲まれ自分のテリトリーが無くなるのを感じる。

 能力によるゴリ押しは不可能と判断し地面に降りて足で動こうと地表に降りようとした時にふと、足場となる場所に目が行った。氷柱街結界は周囲一帯を変質させた氷の街。建物も床も空気さえ

 その時、パルは恐怖した。人が持つにはあまりにもすぎた力、ソレをこの女は容易く使用し追い詰める。

 凄まじい、自分の最大の武器である《風》を封じられ鳥本来のテリトリーである空を飛ぶことすら許されない状況は正しく詰みだ。

 空気が凍り徐々に自信を侵してくる。手が悴んで感覚が薄れていく。

 

 不味い、不味い、このままでは殺される!?

 

 迫り来る氷の死の前にパルは“奥の手”の仕様も検討するのだった。




やっとです! やっと出来ました!
 昔っからやりたかったけど方法がわからなくてはや数年、解き方がわかってスッキリ!
 これからも手探りですがやっていきますのでよろしくお願いします!!


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第14話 迫撃の作戦

 ナイトレイドとイェーガーズに龍焉ノ騎士団から招集がかかった後、現地に向った実働部隊とは別にナイトレイド司令塔であるナジェンダは帝具使い数名を集めて緊急会議を開いていた。

 義手の手で頭を抱え周りにいるメンバーへの指令を考えている。あまりにもタイムリーな事態、下手を打てば龍焉ノ騎士団を敵に回すことだって有り得る。

 彼らは帝国を良くする為に動いてはいる。民が安寧に暮らせる良き世界を作ることを第一に考えている。が、そこまでだ。

 革命軍との決定的な違いは

 

    『犠牲による大小の天秤』

 

 である。革命軍の定める標的の中には少なからず龍焉ノ騎士団と交流がある者がいる。

 革命軍側からすれば大量虐殺や善良な文官の暗殺をした者など新しい世界において存在してはいけないと考える。

 では龍焉ノ騎士団はと言うと“そうではない”その行いが悪しきものであろうと境遇と人間性でもって判断する。詰まるところそうするしかなかった(気に入った)人達を守るのだ。たとえ国が相手だろうと、彼らは刃向かうだろう。ナジェンダは確信している。

 

 四肢を失った三獣士最後の生き残り、元イェーガーズ『セリュー・ユピキタス』、暗殺対象(ターゲット)ボルスと暗殺機関のメンバー

 

 これらを始末した場合、総出でナイトレイドを…いや革命軍を殲滅しにやってくるだろう。

 

ナジェンダ

「絶対に気付かれない様に殺すか…暗殺対象から外すか……」

 

 二者一択の状況、時間が刻一刻と迫る中悩めるナジェンダに通信機越しに声をかけた帝具使いが一人いた。

 

「大丈夫よ、私なら問題無いわ。でも少し計画変更ね。」

 

 少女は覚悟と共に手に持った自身の愛用道具を引っさげて目の前の孤児院に向かう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

久々でもない休暇、タナトスは人間の友人の家を宛もなく彷徨っていた。目的はなんでもよかった。情報収集でも、交流目的でも、気まぐれに行動する事はずっと前から変わらないのだから。

 まだ幼い女の子と戯れ合いながらどこか遠い空を見上げる。

 

「お爺ちゃん? どうしたの?」

 

タナトス

「ん…いやな、少し考えてたんだ。てかお爺ちゃんって言うのは辞めて欲しいんだが……一応俺、実年齢は“多分”お前のお父さんより若いぞ?」

 

「えへへ、嘘ばっかり」

 

タナトス

「嘘じゃないって! 何回も俺の顔見てるのにまだ信じないか!」

 

「タナトスさん、娘に変なことしないでくださいよ。」

 

 旦那(ボルス)が不在の中、警護も兼ねて遊んでいた。龍焉の騎士団の面々は各地に赴きそれぞれの対象を護衛する。大臣の悪あがきに結成された実の息子をリーダーとする新部隊、Dr.スタイリッシュの遺産(実験体)を強奪し、ソレを使い民を人質に取りその隙にやりたい放題する言わば行き過ぎた社会不適合者と化していた。メンバーは“一人を除いて”性格破綻者で龍焉ノ騎士団からは満場一致で《殺していい》と言われる始末、しかし危険種数百を抱える敵に対しこちら(龍焉ノ騎士団)は僅か五名。引っ張ってこようと思えば出せるが今総力を露呈させる事はしたくはなかった。

 

タナトス

「いやしないって! 俺は子ども好きだけども、決して変な意味じゃないからな!!」

 

 手首をグワングワンと左右に振る。焦る姿を見て娘のお母さんは微笑ましく笑う。

 

「ッフフ、わかってますよ。」

 

「お爺ちゃん今日は一緒にご飯作ってくれる?」

 

 笑顔で問うてくる少女に申し訳なさそうに謝るタナトス。

 行かなければいけない所があるからと、しょんぼりとする頭を撫でて優しく言う。

 

タナトス

「どうせまたすぐ来るさ、そん時にお前のお父さんも舌を巻くとびっきりの食材持ってきてやる!」

 

 自信満々に言ったものの、高級品とかでボルスに『美味い』と言わせる自信はない。元より家事スキルが高いボルスに食材で勝負するつもりなど毛頭ない。少し高めの食材と自分の娘が丹精込めて作った料理ならきっと美味しいに決まってる。

 

 できた奥さんに可愛い愛娘。ボルスさん、あんた幸せ者だよ。

 

 僅かに笑った。仲睦まじい家族はタナトスにとっても得難かった。記憶は掠れ記録しか残っていないが、それでも心の底からわかることがある。

  

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 エスデス除くイェーガーズが帝都へ急行している。龍焉ノ騎士団から聞いた知らせ、危機が迫る中で全力で走っている。

ーー少しでも早く、民の危機を救わなければ

ーー仲間が餌食になるよりも先に殺す

 

ーー愛する家族を守る。

 

 疾走する中で捉えた光景、たくさんの子供たちが泣いている。その顔はおぼろげだが記憶にあった。

 数ヶ月ほど前、龍焉ノ騎士団が創設される少し前にタナトスがまた宮殿を抜け出し皇帝から緊急の回収命令がイェーガーズに下された時

 タナトスは前までのオネスト大臣一強時の政策によって死んだり育てるお金を無くした親から捨てられた子供がいる孤児院に顔を出していた。マントを引っ張られ、たくさんの子供たちがタナトスの至る所にぶら下がったり乗っかったりしていた。

 子供達の遊具と化しているタナトスに戸惑いを隠しきれないイェーガーズは最初こそ戸惑っていたが十分たったあたりから遊具(タナトス)と普通の会話が成立していた。

 

 目の前の子供はその時にいた顔とよく似ている。

 放っておくことなどできない。自分たちは帝都()を守ると今さっき再び教えられてきた。

 

クロメとて例外ではない。彼女は暗殺部隊に入る前までは普通の女の子だった。姉と親と共に暮らしていた時は貧しくても幸せだったと感じている。だからこそ目の前の泣いている子供達を放っておく事は、かつての自分達姉妹を見捨てた忌まわしき大人達と同じになってしまうのだから

 助けたい気持ちが現実に妨げられる。ここで足を止め帝都の被害が拡大すればそれこそ取り返しがつかなくなる。

 

ボルス

「みんな、先に行って」

 

ボルスの言葉に真っ先に反論したのはウェイブだった。ボルスには何よりも大切な家族がいる。帝都に住んでいるとなると今回の件での危険度は高い。家族に迫る危機はイェーガーズのメンバーは痛いほど理解していた。

 

ボルス

「良いんだよウェイブ君。誰かがこの子達を守ってあげなきゃ、危険種に襲われでもしたら大変だからね。ここは僕一人で十分だよ。先に行って」

 

ウェイブ

「……わかりました。

 

 奥さんと娘さんの事は絶対に俺たちが守ります!

 行くぞ二人とも!!」

 

 グランシャリオの脚力で地面を蹴る。クロメとランが追い付けるはずもなく出せる全力でその場を後にした。

 

 一人その場に残ったボルス、後ろには大人とはぐれたたくさんの子供たち、帝都まで案内しようとも危険が跋扈する現在では自分一人では危険な賭けだ。

 兎にも角にも涙を浮かべる目の前の子達を宥めなくてはならないと、一児の親として脳をフル回転させた。

 

ボルス

「よ〜し、皆んな今からおじさんが皆んなを家まで案内するよ! 安心して着いてきて!」

 

 元気よく不安を跳ね除けるテンションで言ったはいいものの子供たちの顔は晴れない。

 そんな中で一人の男の子がボルスの前に出てくる。

 

「……おじさんは誰ですか?」

 

 恐る恐る爆弾でも取り扱う様に慎重に、ボルス自身気づいていないが顔を隠す独特のガスマスクのせいで恐怖感を掻き立てている。

 

ボルス

「僕は帝国の特殊警察の一人だよ。」

 

 自分が子供たちの保護のために残った事を説明した。ようやく和らいだのか子供達の顔にも安心の色が少し出てきた。しかしまだ完全に不安が取れてはいない。

 

ボルス

「もしかしてこのマスクかい?」

 

 自分の顔を指さした。子供たちは皆首を縦に振る。無垢な子からしたら…というか初対面なら間違いなくシリアルキラーだと思うこと間違いない外見は幼い子達からしたら恐怖の対象でしかない。

 タナトスも最初は外見の恐ろしさに警戒していた。

 

ボルス

「……そうだ! タナトスさんから貰った“アレ”があった!」

 

 昔、仕事が休みで家族皆んなで王族主催の祭りに参加した事がった。

 王族が取り仕切る祭りはお堅いものでは無く、どちらかと言うと庶民よりになっている。

 そんな中で立ち寄った一台のやたい、タナトスとの出会いはそこだった。

 

 

タナトス

(いらっしゃい! お面、お菓子、景品盛りだくさんの射的場へようこそ!)

 

 帝国の特級騎士が祭りに参加しているなど予想出来ようか、しかも客で無く店主、ボルスが初めて抱いた感情はそんな所だ。

 話には聞いていたがどこかおかしな人である事は事実の様だった。

 

 業務など気にせず自由に行動する問題児…児というにはいささか年月が天元突破していたが気にしてはいけない。

 

ボルス

(3回分…お願いします。)

 

 仕事上、トップレベルが相手となると態度も固まりがちになるだろう。娘と妻の前で格好の悪いところを見せられない。すぐに仕事人モードになって規律正しく振る舞った。

 

タナトス

(えッ…はいよ。)

 

 何やら戸惑いつつ差し出されたモノ(射的用の銃)は見た目が完全にモノホンだった。

 

ボルス

(……ッて! これ本物じゃないんですか!?)

 

 結局、娘に手渡した銃はモデルガンで大量の景品をゲットしタナトスもケラケラと笑いオマケと言ってさらにお菓子を振る舞ってくれた。

 

タナトス

(そうだ、あんた帝国部隊の人間だろ? そんな厳つい見た目してたらわかるさ、娘もいるのにそれじゃダメだと俺思うし

 

 これやるYO!)

 

 

ボルス

「全く…こんなところで役に立つなんてね。」

 

 顔を覆う布を取り代わりに付けた祭りのお品(のお面)

 

ボルス

「これなら怖くないでしょ?」

 

 決めポーズを決めた子供達は微妙そうな顔を崩さない。しかし子供達を救おうとあの手この手で不安を取り除こうとするボルスの事を信じ始めていた。

 半ば諦めモードで男の子が言う

 

「もう良いよ。おじさんが良い人なのはわかったからこれ以上無理しないで」

 

後ろの子達も皆首を縦に振っている。ボルスは一瞬凹んだ後に気を取り直し当初の目的(子供達の保護)を遂行する。

 

 お面をつけたままで、学校の先生譲りの統率力、親としての勘、それらを兼ね備えた彼に不可能はない。

 二列に整列させて自分の後ろを歩かせる。何か異常があればすぐにでも報告できる様に警戒心を最大にして森の中を突き進む。

 ウェイブ達が向かった方角、帝都へと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

「ヘッヘッヘ、ボス! いやがったぜ。」

 

 男は異民族と呼ばれる集団に所属していた。

 

ボス

「ハッ、情報通りだな。そこのガキを連れて来い。お前らたんまり金が入るぞー!」

 

 ボスと呼ばれた巨漢は数日前に提供された帝都の特殊警察がこの辺りを通る。反乱軍に恩を売るチャンス。そして自分達はそいつらから身包みを剥がす。メリットしかない。

 その為に帝具使いも二名ほどスカウトした。今回の作戦が上手くいけば自分達は里に帰る事だってできる。《ならず物》などと不名誉な名で呼ぶアイツらだって見返すことができるのだから

 捉えた女に目を移し歪んだ笑みを浮かべる。



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第15話 過去を斬る

 更新遅れてごめんね!


 森の移動は予想よりも緩やかに進んだ。危険種に合うわけでも無く、遠足の如くノホホンとした雰囲気に包まれていた。

 子供達もボルスとの会話を楽しむ余裕すら浮かべている。

 話の話題はタナトスだ。

 能天気に訪れて子供達と一緒に遊んだり、遊具がわりで体によじ登ったり、絵本を読み聞かせ良いところでパッと本を閉じ帰ろうとする事を嬉しそうに話す。

 

 それを聞いたボルスも嬉しそうに相槌をうつ。帝都は変わってもあの人(タナトス)は何も変わらないのだと、わがままで気まぐれと言って仕舞えばそれまでだが彼の欲は圧倒的なまでに小さい、精々子供と同レベル、他者と笑って、美味しい物を食べ、楽しい事をする。正義感などと言う言葉とは無縁な我儘騎士は己の価値観を明確に持ち生を謳歌している。

 付き合わされる側も悪い気はしない。ボルスの中で映し出される光景。

 

 娘と一緒に料理を作るヘルムを取った優しい異形(タナトス)の姿

 取り繕った様子など無く娘とハイタッチでニカっと笑っている。たとえその顔が偽物であったとしても表情は本物だろう。

 沢山の人々と共に歩む()の騎士に姿形など関係ない。どんな生命だろうと純粋で素直なら受け入れる。それこそが彼の胸にある矜持

 

 足並みを進めている。子供達も疲れた様子はない。ちょっとした遠足気分になっている。そこまで浮かれて良いのかといえば、良くない。しかしボルスがタナトスの“友達”だという事実が何よりも大きかった。

 タナトスは強い。タナトスの友達も強い。

 子供の思考回路は単純で明快。自分達は足手まといかもしれない。でも……と、

 

 危険種の咆哮が森の中に響く。

 一匹や二匹などではない、姿を表した危険種の背に人が乗っている。帝都で見かける様な格好とは違う。

 寒さを凌ぐ為の厚着の格好に特殊なゴーグルをかけている。

 

ボルス

「これは、北の異民族……」

 

異民族…というのは聞いたことがある。授業で先生が言っていた帝都に属さない周辺国家の事だろう。と

 自身の帝具《ルビガンテ》を構え警戒体制をとる。火炎放射器の帝具は森との相性がすこぶる悪いが今ある武器はこれしかない。

 

目の前の異民族の集団はボルス達を囲むための陣形をとっている。逃れる術は力尽くで突破するしか無い。

 せめて子供達だけでも逃がせる様に時間は稼ぐつもりでいる。包囲されているという最悪のケースは考えず希望的観測にすがる他ない。

 ルビガンテの銃口が火を噴く、帝具は人智を超えた力を有する。火炎放射器のルビガンテも例外ではない。舞い上がった炎は消える事なく、対象を完全焼却するまで燃え尽きることはない。一度触れてしまえば終わり。しかしその力が今マイナスの方向に作用してしまっている。周りは木々が生い茂り火が移ればたちまち大火災を引き起こす。自分一人ならば防火装備を付けているため問題はないが後ろの子供達はどうだろう? 火の餌食になるに決まってる。

 

 そんな光景は見たくない。仕事ならば割り切る事が出来た。過去、反乱軍に協力していた村を丸々一つ焼き払った事があった。あの時の事は目に焼き付いている。いや今まで焼き払ってきた人々の苦痛に歪む顔を忘れることはできない。仕事と割り切っていても罪のない筈の人を殺したのだから、

 

 地に横凪で放たれたルビガンテの炎、異民族の集団とボルス達を区切り通ることの出来ない壁と化す。

 

ボルス

「今のうちに逃げるよ! 早くッ!」

 

 ボルスが指さした方角、帝都へと一斉に走り出した。囲まれてさえいなければ逃げる時間ぐらいは稼げる筈、出力を弱め森へと被害を最小限にとどめつつ足止めもする作戦は見事に上手く行っていた。このまま森を抜け帝都付近まで行けばウェイブかランが気付き助けに来てくれる可能性が生まれる。今自分に出来ることはできる限り時間を稼ぎ距離を取りつつ帝都付近へ辿り着くこと、しかし現実は甘くはない。

 辺境の地で鍛えられた彼らはあらゆる手を尽くし主君の仇を撃つため機会を作り待っていたのだ。故に対策は盤石であった。“雇い入れた帝具使い”の実力者、地形を利用した殲滅戦、イェーガーズメンバーの帝具特性と弱点、以上をもって練りに練り上げた作戦だ。

 ボルスを囲む様に配置された陣形でそれぞれの武器を構える。狙うは子供、標的の心を追い込みその果てに殺してやる。憎しみを胸に復讐に囚われた愚かしい人間は年端もいかない子供達に牙を剥く。

 助走をつけた走り、辺境の地で鍛えられた脚力で接近し刃物を振りかざす。

 恐怖で足が動かない一人の女の子、迫る刃から目を背けるしか出来ない。ザクリと人体に刃が食い込む音が森に木霊する。血が滴り落ちる、ポタポタと地面が赤く染まる。

 舌打ちをする異民族の一人に立ち塞がるのはボルスだ。ルビガンテが使えない今、自分の体で幼い女の子を守ったのだ。

 他の敵も武器を構え突撃する。亡き主人の仇を取るために、最大限の絶望を与えて殺す為に、

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 目の前の光景にただ言葉を失う。自分達を帝都まで送ると言った大人の姿は記憶にこびりついて離れない過去のトラウマと重なった。

 突然、村に火の粉が舞い人が焼け家が燃える。落ちてくる瓦礫を燃やす炎がさらに被害を拡大させ死が直前まで迫った。両親は必死に守ってくれた、燃え移っていない道を進み逃げようと全力を尽くしてくれた。だが現実は甘くなく絶えず燃える炎は二人に牙を剥き体を消し炭にするまで燃え続けた。

 死への恐怖や両親の死を間近で見てしまい目からは大量の涙が抱いた感情を押し流すように止まらない。

 焼け焦げるかつて家だった場所、両親と呼び慕っていた塵芥を、冷徹に処理する恐怖を凝縮した様な巨漢の数々。

 自身を絶望のどん底へ追いやった姿と目の前で自分の代わりに傷つき守ろうとする姿は同じようでまるで違う。

 

 

 ボルスは苦痛に漏れようとする声を抑える。歯を食いしばり眼前の敵を威圧する。帝具を使えば被害は大きくなりもしかしたら子供たちにも当たるかもしれない。

 ルビガンテは性質上一度燃え移れば完全焼却するまで消えることはない。

 だからこうするしかない。決して折られてはならない不屈の心で皆を守る。だが現実とは常に理不尽と不条理の連続だ。攻撃は苛烈になり刺突や斬撃、殴打が繰り出され続ける。それでもボルスは倒れない。子持ちの彼にとっては娘と重なる存在を殺させる事など容認出来るわけなかった。溢れ出る血、抉られる肉、砕ける骨、全身がズタボロになっても心だけは折れない。かけがえのない友達(タナトス)との約束

 

     『自分らしくあれ』

 

 (たとえ世界が変わって悪が善と言われようとも自分が信じる道を進む、そうやって守り抜きた先で笑い合うのを見るのが好きだから…)

 

 そうだ……こんな所で膝を屈し好き勝手にされてたまるか。

 

 覚悟という名の焔は焼却しきれぬエネルギーとなってボルスの全身を駆け巡る。限界を超え悲鳴を上げる体を奮い立たせる。

 

「こいつ、まだ立つのかよ!?」

 

「構わん、どうせこの数だ。ガキ共も()れ。だが“アレ”が来た時のために少しは残しておけよ。女1人だけじゃ多分止まらんからな。」

 

人質は1人でも多い方が都合がいい。いくら最強と謳われる化け物でもこの数だ。救出するにはそれなりの手間をかける筈…

 そう言って後ろの部下が捕らえている女を見る。

 ここに来るまでに“協力者”から送られた手見上げ、本来なら彼女を使ってボルスから子供達を取り上げていたぶる予定だったが、まぁいい。と心の中で邪悪に笑った。その姿は世界を良くしようとした指導者について行った気高き精神は欠片ほども残されてはいない。

 

 猛攻は止むことがなかった。庇った子達は抵抗しても大人に勝てるわけもなく囚われて刃や銃を突きつけられて絶句する。

 

 心の中が《絶望》でいっぱいになりそうな時、一陣の風が吹いた。そこにはさっきまでいなかった帝国最強の騎士(タナトス)が圧倒的なプレッシャーを放ち佇んでいた。

 

 

タナトス

「……」

 

周辺を見渡す。傷だらけのボルスと捕らえられ怯える子供達、北の異民族の集団。危険種を飼いならしているところから見て長い間山賊まがいのことをしてきたことは想像に固くない。

 

「き、き、貴様は!?」

 

目の前のボスらしき男は震える体で指を指す。

 

「そこの女がどうなってもイイのか!?」

 

手下は女の首に剣を向ける。

 

 恐怖に震える“演技”はお上手だな。

あぁ成る程、人質…というわけか。くだらない。これ程の集団ですることが小さい。利用されてるとも知らずに、バカな奴らだ。

 

 …とは言っても子供達もいるんだ。過度な流血を加えると怖がるだろうからね。

 

(スラッシュギア)を手に取り横一線。体が斬られたことすら気付かずに倒れこんで行く。一人、また一人確実に一瞬で宿る生命(いのち)を葬る。

 捕らえた子供達を引き離し一人一人集めつつ行動を遂行する。

 

敵は防御陣形を取りながら弓に矢をたがえる。空中から放物線を描き雨の如く降り注ぐ鉄製の矢。

背の翼を外し盾として降り注ぐ矢を防ぐ。そのまま敵陣に突貫、速度を維持したまま中央を無理やりこじ開ける。

予想外の行動に戸惑いを隠しきれていない光景は間抜けの一言に尽きる。どうせ直後にはただの肉塊にしかならないと言うのに…

盾で殴る、剣を軟質化させ絡め取る。文字通りギッタンバッタンに始末し尽くし残る雑兵はわずか数十人。

 始末のための一歩、敵の中から突撃する一つの影。

 振り下ろした物は予想よりも重く盾で受け止め拮抗する。

 

タナトス

「貴様…」

 

???

「帝国最強の力…見せてもらうぜ!」

 

 加わる力は強くタナトスが押し返せない程に重い。戦斧を持ちタナトスと対峙する大男、白を基調とし赤いラインが入った服、ブラート以上の巨漢に物珍しそうに観察する。

 

 

超重圧過(ちょうじゅうあっか)/バルハード》

 全長三メートル程のハルバードの帝具。力押しを極限まで高めた一品であり、単純な破壊力ならば『至高の帝具』にすら無視できないほどの傷をつける。

 刃に刻まれた熊の模様はこの帝具の元となった危険種の姿であり『奥の手』の証…

 

 

 力では互角、いやこちらの方が上か? ならばとタナトスは剣にかける力を抜いて拮抗していた状況から抜け出した。対抗する力を無くしたバルハードはそのまま地面に食い込んで隙を生む。

 

タナトス

「チェック」

 

 その隙を見逃すほど甘くはない。剣の一突、男の胴を捕らえた一撃はあらぬ方向からの妨害で遮られる。

 タナトスへ肉薄した小さな影、両手に持ったケーブルで繋がれた銃型の武器を胴へ突きつけ引き金を引いた。刹那、とてつもない衝撃が鎧越しから伝わり吹き飛ばされる。

 折り倒された木々の中から起き上がったタナトスが見た姿、男と同じく白を基調とし赤のラインが入った服を着た幼い少女が武器をクルクルと回している。

 

???

「テルロス、私も援護する。アレはあなた一人でどうにか出来る相手じゃない」

 

 テルロスと呼ばれた巨大な戦斧(バルハード)を構える男は軽々と肩に担ぎ不適な笑みを浮かべながら隣の少女を褒めた。

 

テルロス

「ナイス援護だったぜアリアよ。」

 

アリア

「油断しすぎ」

 

 お互いに軽口を叩き合っているが表情は崩さない。最大限の警戒をとるべき相手に『油断』の二文字など存在しない。彼らが潜り抜けた戦場は生半可な物ではないのだから

 タナトスはそんな二人を観察して彼ら二人とボルスの間まで移動し剣と盾を持ったままの拍手で口を開く。

 

タナトス

「まさか二人も帝具使いがいたなんてな予想よりもだいぶ酷い状況の様だ…」

 

 怒りで声が震える。己が予想していたよりも酷な現状、予想ができなかった(予知をしなかった)自分に対する怒りを胸に秘め握っていた剣を脊髄部へ、盾を背中へ戻すと、両手を広げ鎮まった声で宣言する。

 

タナトス

「来ると良い。ただしここから先には通さんが……ね。」

 

 後ろにいるのは傷つき満身創痍のボルスと震え怯える子供達。誰もかれもが友達ならば守り切らなければならない。それこそが“贖罪”であり自身を形作る上で最も大切で重要な部分なのだから

 

テルロス

「ハッ、なら遠慮なく」

 

 タナトスへ跳躍しバルハードを振りかざす。

 テルロスにとって周りの被害など気にする必要はない。この状況こそが今の優位を築いてくれているのだから、

 タナトスは周りを気にしながら戦わざるを得ない。守るべき対象が近くにいるうちは全力など出せるはずもない。全力を出そうものなら周囲に被害をもたらす程の圧を含んだ攻撃を通常攻撃で繰り出してくる。勝ち目など無くなってしまう。

 躱され地面を抉るバルハード、衝撃波が巻き起こり風圧が砂塵を巻き起こし視界を遮る。アリアがその隙をついてバッと駆け出しタナトスへ急接近する。

 

《触爆重撃(しょくばくじゅうげき)ハックラング》

 二丁の拳銃がコードで繋がれた帝具。

 元来弾を打つ性質上、銃というものは遠距離においてこそ機能する。剣よりも優れる射程を持ち、相手に気づかれるよりも先に撃ち抜くことすらできる。しかしこの帝具は『真逆』を征く。敵との距離が近ければ近いほどにその威力を増し殺傷力を高める。

 本来ならタナトスにとって銃撃など取るに足らない攻撃もこうして吹き飛ばすほどの威力を見せる。流石に殺すまでは行かずともノックバックさせる性能は戦況を有利に進める上で大切なピースとなった。

 

 回避を選択すれば衝撃が後ろの守るべき対象(ボルスと子供達)に当たり、防御すれば吹き飛ばされ隙を晒す。どちらでも構わない。倒せるのならばと

 銃口がタナトスへ触れるまで後数ミリのところでガシッと銃口を左手で塞ぐタナトス、一瞬驚いたアリアはすぐさま思考を巡らせ引き金を引いた。

 凄まじい衝撃と共に放たれたエネルギーの塊、まばゆき光と共に鎧の破片が宙を舞う。

 片腕を吹き飛ばされ無事なわけがない。勝利を確信し光によってぼやける視界が戻るよりも前にガシッと頭を掴まれ驚愕した。

 

 腕は確かに吹き飛ばした。鎧の破片がその証拠、本来なら存在しない左手は確かにアリアの頭を掴んで離さない。

 自然と漏れる声は目の前の化身に向かっての畏怖、双眼が光輝き“変形”していた左手

 

タナトス

「理解したか? その程度の攻撃は腐る程喰らってきた。対策ぐらい五万とある。」

 

 より一層手に力が増す。頭蓋骨をクッキーの様に砕ける事が容易な握力にアリアはただ抵抗する。

 

 こんな所で死ぬわけにはいかない。自分には為さねばならない事がある。帝国を撃ち倒し、革命を成功させる。現政策の税の過負荷によって死んだ両親の敵を撃つ。今死ねば、無念が晴らされる時は永遠に来ない。

 

テルロス

「ドッリィァ!」

 

 振り下ろすバルハードの刃、アリアを掴む腕目掛けて下された一撃はバルハードの力(奥の手)もありタナトスの腕を切り落とすことに成功した。少しの驚きでよろけたタナトスに手からバルハードを放し拳を握りしめ顔面目掛けて全力のパンチを繰り出す。拳はタナトスの顎部に命中したが渾身の力を込めたにも関わらずタナトスは踏ん張った。

 

 ダメージを知覚する暇などない。意に返したところで何も無いのだから

 

 顔に止まった拳を残っている方の腕で捉える。

 

 ふと気付く、拳から伝わるテルロスの想い、真っ直ぐで愚直な願い。同情する余地はある…が、結局は敵だ。敵でしかない

 

 溢れ出す殺意を抑え込み一瞬の内に思考する。殺すべきか、生かすべきか

 手を振り解こうと抵抗を見せるテルロス、ダメージで動けないアリアを片目に冷徹さを捨てきれない“人間”の情が湧いて出てしまう。

 

タナトス

「あーもう…

 思考を読めるのも考えものだな…」

 

 独白の末に今まで放っていた圧倒的な殺気がほんの少し弱まった。

 掴む腕を離し、反撃しようとバルハードを持ったテルロスの目の前にストップと手を突き出した。

 

タナトス

「質問だ傭兵ども(革命軍の戦士)

 貴様ら、暗殺対象(ターゲット)を殺すためなら見ず知らずの子供の命すら利用するのか?」

 

 投げかけられた問いに俯き無言で返す二人。弁解がないと言うことは“そう言うことだろう”

 

タナトス

 「仕方ない…か? 馬鹿らしい。非道の末の勝利などゴミ屑同然。貴様らはそこまで地に堕ちたか、何のための革命だ。誰のための平和だ。

 お前たちの願い(革命)はそこまで醜いものか? もしそうなら、俺達は全力で破砕する。一兵残らず殺し尽くす。」

 

 嘘偽りのない宣言に二人の頬を冷や汗が唾たる。虚言だと笑えない。彼には自身の信念を貫けるだけの強さがある。

 

 どれだけ周りから“人”がいなくなり一人になったとしても己が思う最善を繰り返し続け、他者から理解などされずとも我欲を押し通し、友を守るためなら全てを敵に回すほどの覚悟を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クッソァァ!」

 

 破滅は明確に、タナトスが来た時点で決まっていた。火器の引き金を引こうと指に力を込める。誰にあたろうが関係ない。一人でも多く討ち倒し、かつて“凌辱され死んでいった主人”の敵討ちを……

 

タナトス

「没収」

 

 出血すらせずに腕の中だけを斬られ奪われた最後の武器、込み上げる痛みに絶叫する間もなく手で喉を潰され地面に転がる。

 

タナトス

「五月蝿くされると困るんだよ。みんなが怖がるだろ?」

 

 一瞬の事にテルロスとアリアは絶句するほかなかった。次は自分達だろうか、その次は……と、

 

 生きていると錯覚させるほど綺麗な身体、だがたしかに死んでいた。脳神経は停止し、心臓も鼓動を止め生きるという選択肢を完全に放棄している。

 停止した生命を置き去りにテルロスへ目だけを向ける。

 

タナトス

「さて、ここまでやったんだ。せめて動機ぐらいは知っておきたいからな? 是が非でも答えてもらおう。

 何故、何の罪もない子供を利用した? え? ボルスさんだけならまだわかる。理解したくないが仕方ない。仕事柄恨みを買われてもおかしくないし。だが、今のお前達がやっている行為はオネストがしている事と何ら変わらん。

 人質という盾を枷とし、気に入らない奴を殺す。発生する犠牲は平和(自らの利益)の為の足掛かりだ。関係ないと?

 そんなものだったか、お前達が掲げ目指している正義ってのは? 」

 

 くッ! どこから発生したか、アリアかテルロスかあるいは両者が言葉に出来ない言葉を無意識に出していた。

 

 タナトスがその気になれば『革命軍』など一瞬のうちに壊滅させる事ができる。単騎で国を相手どるエスデス以上の彼にとっては本当に容易いのだ。しかし当のタナトスは革命軍の殲滅を放棄していた。オネスト大臣経由とはいえ皇帝から直々に命令を受けたにも関わらず、彼は一言

 

     めんどくさいからヤダ

 

 とだけで一蹴りした。

 タナトスからして見れば嬉しい行いをしているであろう革命軍を殲滅するなど自分の流儀に反する。

 民の為の革命、自由を勝ち取るべく立ち上がった勇姿、彼もできる事なら手を貸し共に戦いたかったがただ一つの“相容れない点”が共闘の案を破棄するほかなくなってしまった。

 

 視線だけの威圧に身体中が震える。細胞の一つひとつが本能的恐怖を感じ取り『逃げろ』と警告を放つ。 

 武器を捨て、闘う意思すら投げ捨て一目散に安全な場所へ行けと、だがアリアは闘わなくてはならない。この恐怖を無視し帝国側の戦力を少しでも減らさなければ、来るべき決戦の障害となり、仇の帝国を討ち取れなくなるかもしれない。

 瞬間的にハックラングの銃口をボルスに向ける。距離はあれど通常の銃並みの威力は発揮される。アリアが出した結論は簡単だった。

 

         殺す。

 

 大きなため息が聞こえたかと思うと、標的を捕らえた視覚が凄まじい衝撃と痛みでブラックアウトする。

 引き金を引くより早くタナトスの裏拳がアリアの腹部を捕らていた。体の芯まで伝わる衝撃に呼吸困難を起こし朦朧とする意識を必死に保とうとした。

 

タナトス

「ハハ、結論は決まったらしい。」

 

 とても残念そうに、一歩ずつ迫ってくるタナトスの姿があった。

 

タナトス

「やつぱり、ヒトは復讐に取り憑かれた生き物か……虚しいな。」

 

 倒れた胴を足で踏み抑え(スラッシュギア)を逆手に持ち上げ、眼前の少女を刺し殺そうとした。

 タナトスの目に優しさはなく、冷徹さ全開の眼差しをアリアにむける。見逃すチャンスを与えた上での選択、容赦はないと、

 

???

「お待ちを!!」

 

 凛とした声が戦場(殺戮現場)に響いた。



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第16話 仇を切り裂く

 ウヮーン!就職活動が、終わらネェ!!


 一人、前に出て現れたのは北の異民族に人質として捉えられていた女性だった。孤児院の職員の一人でタナトスとも顔見知りの一人にも関わらず、アリアの寸前でピタリと止まった切先をそのままに顔だけを向けるタナトス、普段の彼なら武器を納め、明るく話すであろう相手に冷徹に、隠しきれない怒りを表しながら言葉を紡ぐ

 

タナトス

「なんの様だ、お前に話すことは何もない。とっとと失せろ“偽物”が」

 

???

「やはり、あなたの眼は誤魔化せませんか…」

 

 サァと女性の姿が煙に巻かれ後に残ったのは大きなボックスを手に持つ少女だった。 

 

 名をチェルシー、革命軍に所属する帝具使いの一人。

 

チェルシー

「今回の一件を計画したのは他でもない革命軍です。しかし貴方の部隊の出現に応じ大幅に計画を変更し子供を人質にしたイェーガーズの暗殺は私が立案したものです。処罰なら私が受けます。ですのでどうかそこのアリアには慈悲を…」

 

 頭を垂れ懇願するしかない。下手に逃げるなどしてしまえば地の果てまで追いかけられ殺される。今タナトスが目の前の人間に抱く感情は“呆れ”や“憐れみ”などと言ったものしかないのだ。殺しても構わないと思う程に価値がなかった。

 だから頼むしかなかった。潔く正体と目的を話した上で見逃してもらえる事に賭けた。

 

 対するタナトスの声に優しさや暖かみは一切無くただただ敵であると認識している様子だ。

 

タナトス

「慈悲ならくれてやった。その上で己の意を貫いたのなら此方も相応で答えるまでのことさ、ましてやこんな雑な作戦を革命軍が立案していたとしたら俺は我慢ならなかったろうし…」

 

 後ろに行くにつれ言葉が聞こえづらくなる。革命軍が『こんな』作戦を立てていなかった安堵があり、幻滅せずに済んだことを嬉しく思った。同時に作戦を立案した目の前のチェルシーには良い感情を抱くことはできなかった。いくら帝都()を救う為ためとはいえかけがえのない()を犠牲にするなど目的と手段が乖離し理解には程遠い。

 

タナトス

「聞いてやろう。話せよ。」

 

 チェルシーは語る。かつて 帝国の焼却部隊 に所属していたボルスは様々な人から恨み辛みを買い暗殺依頼が入っているのだと、自身も昔世話になった村が焼却部隊によって焼き払われ沢山の命が失われた事を……

 

タナトス

「………成る程な。理由としては充分…なのか、」

 

 私情に囚われた理由、タナトスの立場が逆だとしたら納得できた。大切な人が勝手に殺され溜まる憎しみは理解できる。が、ボルスは友達なのだ。家族に優しく、子供に優しい世話焼きないい人だと知っている。殺されそうになる中でただ黙って「はいどうぞ」なんて言えはしない。

そして何より彼の娘と同じぐらいの年齢で自分も大好きな子達を巻き込んだ復讐劇など、くだらない。

 

タナトス

「悪いがさせんよ。どうしてもと言うなら力づくでやってみせろ、その場合足元のこの子も道連れだろうがな。」

 

 視線を下に向けると地に伏したアリアの姿がある。息も切れ切れで後一つ何か加えれば死ぬかもしれないと見るだけでわかった。

 

タナトス

「どうする? (帝具使い)を犠牲に(標的)を仕留めるか“ここで手を引く(誰も殺さない)”か…好きな方を選べ」

 

 タナトスの提案はごくごく単純な物だ。犠牲をだすか、犠牲を出さないか、それに尽きる。

 帝国側の戦力を減らす事は革命軍側にとっても大きなメリットとなる。

 

 ボルスは人を殺した罪人、色んな人から恨みを買い狙われている。

殺されるリスクを顧みず家族を守る為に行動する男を仕留める。

 

 だがその場合革命軍側の戦力もタナトスによって減らされる。大義など関係なく、ただ個人の感情での粛清が待っている。

 逆に今ここで手を引くならば帝国側も革命軍側も犠牲は出ない。

 

アリア

「ふざけないで…! チェルシー! テルロス! 私に構わな…ッ!?」

 

タナトス

「うるさい。怪我人は黙ってろ。それともここで果てるか?」

 

 踏みつけられた胴により一層の衝撃が伝わる。骨が軋み痛覚が鋭敏になって声を上げる。タナトスは静かに苦しむアリアに目を向けていた。

 中から燃え上がる復讐という名の焔、決して消えないであろう傷痕を残した仇を許すわけなどない。

 必死に考えるチェルシーなど気にせずに妙な動きを見せれば即刻殺す覚悟も出来ていた。

 しばらくの静寂の後、突っ立っていたテルロスがタナトスの目の前まで歩み出る。

 ん?と首を傾げた。交渉役はあくまでチェルシーであり『奥の手』を使ったテルロスは完全に蚊帳の外だった。

 

テルロス

「タナトス様、貴方の提案に乗らせていただきます。我々はこの任務を放棄し離脱します。

 つきましてはそちらからの追手は出さず、一切の干渉をなしということで宜しいですか?」

 

タナトス

「構わん。だが約束を破った場合は…わかってるな?」

 

 貫かれるほどの眼光に臆する事なく答える。

 

テルロス

「はい。」

 

 返答を聞き武器をおろし、足を退けアリアを解放するタナトス。

アリアを優しく抱えその場を去っていく。当のアリアにはまだ戦う意思が残っている様だがテルロスが手刀で黙らせ担いでその場を後にする。

 

 1人左腕を切られた事も気にせず森に君臨するタナトスは後ろを振り返り、静かに舌打ちをした。

 ズタボロのボルスに恐怖を顔に出した子供達、笑顔など無く不安だけがあった。

 

 タナトスはボルスに向かって歩く。鎧が掠れ金属音が静かな守りに木霊する。子供達は分かってはいても怯えてしまう、金属の音はさっきまでの狂気を思い出させるから…

 怯える姿を見て直ぐに姿を変える。人間へと変わりゆっくりと近づいてボルスに手を当ててより一層表情が怒りを露わにした。

 

「お爺ちゃん、おじさんが…僕らを……」

 

タナトス

「言わなくていい。わかってる。お前らもケガは無いよな?」

 

 問いにそっと首を縦に動かした。皆怪我は無い。元の標的がボルス一人であった事、そして彼が身を挺して子供達を守った事で大方の被害は彼一人だけに収まった。とは言っても一人が負う傷にしては多く、行きがある事自体が奇跡に等しかった。家族の元へと帰るという純粋な願いがボルスを今現世にとどめてくれていたのだ。

 

 タナトスが手を翳す。優しい光が森に広がっていく、その光景はどこか神秘的で子供達の目にはおとぎ話の一説にも見える。あり得ないと否定などはしない。

 ボルスの傷が塞がっていく、飛び散った血液や肉片も元の場所へと戻っていく。

 閉じられた瞼が静かに開いて意識を取り戻す。

 

ボルス

「………ここは…」

 

タナトス

「おつかれ、ボルス“さん”。」

 

ボルス

「そっか、また君に助けられたんだね。」

 

 タナトスが差し出した手を取って立ち上がると残った手をアピールしながら『ハイタッチ!』と急かす。一途きの静寂、仮初(偽り)の平和の中でも個人が得られるものはある。傷つき倒れたとしても必ず帰り家族の笑顔を見たい。

パチンとハイタッチの良い音が森に響いた。

 

タナトス

「全く無茶しちゃってさー 俺が来なかったらどうなってた事かわかってる?」

 

ボルス

「ハハハ、面目ないな〜」

 

タナトス

「まぁいいさ、助かったんならそれで一安心。

おーい皆んな! 今から俺はちょっと用事があるからみんなちゃんと街まで帰れるな?」

 

 帰ってくる返答など聞かなくてもわかっている。だとしても、すこしでも自分を誤魔化していたかった。

 

彼なら大丈夫と、行き過ぎた信用(期待)をして現実に潰される。

何度目だろうか、この人なら大丈夫。任せようとしても結局は悲劇ばかり。

“信用”と“心配”は少し間違えればどちらかを損なう。信用し過ぎては過信して、心配を通り越せば可能性を潰してしまう。“変えられるとしても”信じる気持ちを大切にしたい。

俺は『守護者』じゃなければ『管理者』でもない。今この星を生きる生命体の一人だ。普通に笑って共に過ごす日々は無色になった俺の心に再び色をつけてくれた。

たとえ歩みの途中に力尽きたとしても、託し、後を継いでくれる者がいる。隣を歩き一緒に経験する“友達”がいる。それだけは絶対に護らないと……

顎に手を当て考えていると、擬態したズボンを引っ張る感触が伝わった。顔を下げると子供達が見上げていた。

 

「お爺ちゃん、どこに行くの?」

 

タナトス

「ああ、ちょっと用事があるんだよ。ここを通りかかったのも偶々。この先でなにやらやんちゃしでかしたやつがいるらしい。『どうにかしてくれー!』って頼まれてな。だから来た。」

 

嘘は言っていない。この先には絶対零度と暴風を超えた風によってあたり一帯は跡形もなくなっている。加えて二つあった巨大な生命反応の内、一つが消失した。

 

皆んなで笑った束の間にタナトスは護衛用の即席自律機動器(オートマタ)を作った。木で出来た歪な人形はその見た目の通り『木人』と言って良いものだ。

 驚き好奇心に任せて木人に触れ合う子供達を後にタナトスとはその場を後にする。

 

場所は森の中心…だった場所、白い冷気やなぎ倒されたり砕けた木々が残るだけの更地。激しい戦闘があった事は誰でもわかる光景にタナトスは何食わぬ顔で空を眺める。

ヒラヒラとタナトスの元へと飛来する光の塊、ソレは意思を持ち風を纏ったパル。

 

タナトス

「負けたんだな。エスデスに?」

 

光の球体を握り潰し、更地のど真ん中で両手を天に掲げる。

一瞬のうちに更地が元の緑を取り戻した。

 

タナトス

「これで良いだろ、元どおりに戻したし“記録”も消した。」

 

一つの木に手をついて、語りかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友達に……

 

木々がバサバサと風もないのになびく、まるで“意思”があるように



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第17話 横暴を斬る

 感想にて初めて前までの書き方が『台本形式』という事を知ったので、今回は少し変えて投稿しました。

 知らない事をもっと教えてもらえると嬉しいです!

 感想ありがとうございました‼︎


 無事帝都まで帰還したボルス一行、途中様々な妨害があったがなんとか乗り越えこうして“比較的”安全な帝都へと帰ってくることができた。

 しかし、目に写った光景は現実と信じたくないほどに悲惨なものだった。

 メラメラと孤児院だった建物を燃やす炎、周りには誰もいない、広がる炎を鎮火しようと出来る状態ではなかったのだ。

 この中で帝国の軍に所属するボルスだけが知っている、《秘密警察ワイルドハント》多数の危険種を引き連れ帝都や他の村を土足で踏み躙る皇帝特務と対をなす『大臣直轄』の私設部隊。

 街を荒らし世紀末のような光景を生み出してなお、暴走は止まることはない。

 再び大切なものを奪われて逆らうことは叶わず、指を加えてみているだけしか無かった。

 子供達は家を失い悲しみにくれ、ボルスはただ妻子の無事を仲間に託す他ない。

 

 龍焉ノ騎士団は動かず人々をワイルドハントの取り立てと言うなの《拷問》から守るだけでそれ以上の干渉はしない。時代は再びすこし前に戻ってしまう。普通に生き、搾取され、誰も何も言えない暗黒時代(独裁政治)

 民達は怯え暮らす生活に戻るのだろうかと不安が蔓延するのに時間は必要ない。

 ボルスは一心に妻子の無事を確認しなければならないと思った。ウェイブやクロメがいたとしても“絶対的”な安全は保証されるわけではない。

 もしも、もしも妻子の身に危機が迫れば……

 不安で胸が張り裂けそうな時、上空から純白の羽で空を支配するイェーガーズのメンバーである ラン が降りてきた。

 

 

「ボルスさん、良いところに

 今ウェイブ君たちがワイルドハントと遭遇し交戦中です。それも市民を守りながらなのですぐに来てください!」

 

 

 突然の援護要請にボルスはルビガンテを構え向かおうとするが立ち止まる。

 今自分がいなくなれば、誰がこの子達を守ってあげる事ができる? 

 誰もいない。

 

 

「ごめん、僕はここを離れることは出来ない。」

 

 

 予想外の申し出にランは驚愕の表情を浮かべ論ずる。任務を差し置いて優先するものがあるのかと、質問に対して迷うことなくマスク越しに真っ直ぐな目で言った。

 

 

「あるよ。僕はこの子達を守るってウェイブ君たちを先に行かせた。なら約束は守らなきゃ」

   

 

 後ろにいる守るべき存在を見返して微笑んだ。

 

 

「………わかりました。なら絶対その子達は守ると、重ねて僕とも“約束”してください。」

 

「わかった。」

 

 

 そう言ったランの目はどこか哀しげな雰囲気を感じたが追求する気にはなれなかった。

 ランは背の“帝具である羽”を広げ羽ばたく直前に思い出した様にボルスに振り向いた。

 

 

「ウェイブ君から伝言です。

 娘さん達は無事確保した。そっちも頑張って、と」

 

 

 言い終わると羽を広げ今度こそ空へ羽ばたき戦場のど真ん中に戻っていく、

 

 

 

 

 三週間後、帝都は変わった。変わってしまった。

 賑やかしかった繁華街は廃れ、汚れや凹みが目立ち商品だった食料が散乱し動物が食い荒らしている。

 もうこの場所に人は数える程しかいない。龍焉ノ騎士団によって帝都の人々は何処かへ連れて行かれ残っているのはこの地を離れようとしない人と、汚職に手を染めた『大臣派』の人間だけだった。

 

 そんな街をズカズカと歩く青年がいた。彼こそ一連の主犯格、名を『シュラ』

 オネスト大臣の実の息子、白髪で顔に大きなバツの傷を持つ。父親譲りの性格で『大臣の息子』という立場を利用して暴虐の限りを尽くしている。

 しかし、最近はソレ(愉悦のための殺人)が出来ていない。微々たる獲物(人質)は自身の快楽の為すぐに事切れ消えて行く、何のリアクションもない人間()を痛ぶっても意味がない。

イキのいい獲物を求め今日も街を歩く、故郷を捨てたくないからと残った人々を探して、

 

 

「チッ! 何にもねぇな…帝都に帰ってきたらもっと暴れるかと思ったのに、つまんねぇな。」

 

 

 道端に落ちていた瓦礫を蹴飛ばし不貞腐れながら帝都全域を調べている。

 

 

「ッたく! 龍焉ノ騎士団だかなんだか知らねぇが余計な真似しやがって………

 親父も大したことねぇな、タナトスとか言う特級階級一つ御しきれないなんてな。」

 

 

 一人でいることをいいことに言いたい事が口から漏れ続けている。大臣である父が聞けばいくら息子といえどタダでは済まないだろう。

 大臣は巧妙な策を浪費し皇帝に嘘を教え隠し続けてきたが最近はタナトスの 気まぐれ によって自分で策を出す事が多くなり傀儡から抜け出している。

 少し前まで現皇帝から絶大な信頼を勝ち取り、政策から何までもを大臣頼りにしていた時代とは違う。皇帝に現在の独裁体制が気づかれれば立場が危うい。大臣も身動きが制限されている。

 しかし、そんな事は異国から帰ってきたばかりのシュラにわかるはずがない。

 

 

「っだぁ! 何もねぇ!! こんなんだったら旅してた方がまだマシだ!」

 

 

 悪態を吐きながら歩いていると一軒の店が目に入る。帝都から人がいなくなったのにも関わらず店の看板は〔オープン〕と書かれていた。

 シュラの口元がニィと歪む、ようやく見つかった人間(オモチャ)だ。じっくりと痛ぶって苦しむさまを眺めてやろう。決めた。

 勢いよくドアを開けた。

 店内は薄く電気が付いており柔らかな雰囲気を出している。ただ一部、異様な気配を振りまく存在を除いて

 

 

「な、何だよコレ」

 

 

 ソコにいたのは文字通りの“化け物”、従業員様のスーツを着ていても足元からこぼれ落ちる物体が人であることを否定している。

 スーツ全体の隙間という隙間から落ちている。アレは『蟻』だ。

 ただの蟻とは違う潜在的恐怖を掻き立てる ソレ は旅で磨き築き上げだ実力が全く通じないほどに高いと直感的に感じた。

 資料で見た事がある。帝都には昔、西の国から流れ着いた蟻の超級危険種がいたという。名を

 

          国喰い(グラトアント)

 

 暴食(グラトニー)の名を冠し、大量の群れと人間並の知能を持ち、当時の帝国が5師団級の犠牲とタナトスの追力により辛くも討伐できた存在だ。

 人以上の知能を持ち、体長は有に10mを軽く超える。知能の高さ故“意思疎通”も可能であったと聞くが討伐された後での真偽は不明

 目の前の“ソレ”は何食わぬ顔?で入ってきたシュラに向く、何気ない仕草をしたつもりでもシュラは戦慄を覚える。

 けっして除いてはいけない深淵を見た様な気がした。全身から血の気が引き、久しく味わっていなかった感情が全身を支配する。

 冷や汗が漏れ、本能が 逃げろ と警告を告げる。

 すぐさまドアを閉め店から脱出する。

 

 店内に残されたマスターとスーツをきた異形はただ静かに先程の客ならざる愚か者について会話するのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 大臣の朝は早い、とてつもなく早い。寝る暇がない程に

 タナトスの妨害(気まぐれ)でいつ皇帝に自分の悪事が露呈するかわからない。おちおち眠ってなどいられない。

 バレないため工作を部下に命じるのが精一杯、心的余裕は徐々に無くなっていく。

 一度に食べる食事の量も減り、健康状態はみるみる悪くなる。

 

 元の生活に戻るために打てる手は全て打つ、息子のシュラを帝都へと戻したのもその為だ。

 放浪で付けた腕力、スカウトした精鋭の帝具使い達、Dr.スタイリッシュの残した実験体を振るい国内を混乱させる事で大臣が今まで行ってきた悪政の露呈を遅らせ、証拠となる人や物を徹底的に隠蔽する。

 机に並べられらた贅沢の限りの食事を素手で口に運ぶが満足感がない。いつもなら食欲を満たせたことに対する悦びが湧くはずなのに、額を冷や汗がつたるだけだった。

 

「………ッく!」

 

「おやおや、これまた随分と余裕のない顔をしておる。聞いていた話とちと違う様じゃなぁ。」

 

 テーブルの先、入室用のドアから大臣に声をかけた少女。帝国の実質的なトップに対する物言いとは言えない。もし衛兵がいれば処刑では済まないであろうことでも彼女であれば許される。

 秘密警察ワイルドハントのメンバーにしてオネスト大臣が最も重要と考える人物

 

名を『ドロテア』

 錬金術を納めし東の地から襲来したシュラからの手土産

 

 

「何のようです? まだ貴女が出るには早すぎますが?」

 

「ちと気になってな。巷を騒がす龍焉ノ騎士団…じゃったか? 其奴らの血を欲しくなった。」

 

 

 見た目にそぐわぬ老人の口調で嬉々として話すドロテアをオネストは食事を楽しみながら適当に止めた。

 

 

「辞めておきなさい。今は我慢の時、私の息子が盤面を荒らしている間に事態の隠蔽をする。その為にアイツ(シュラ)を戻したのです。いくら貴女からの頼みでも全てを台無しにすることは出来ません」

 

「なんじゃなんじゃ、此処にこれば好きなだけ実験できると聞いてきてみれば! 窮屈で仕方ない。話の合いそうな輩は死んでいるし街には人が殆どいないときた。」

 

 

 ドロテアは語る。元いた東の国で実験を繰り返し指名手配までされていた頃にシュラに勧誘され帝都でならどれだけ非道でも好きなだけ実験が出来ると、ドロテア自身の目的の為にシュラに同行することを決めたのだ。

 だが実際は龍焉ノ騎士団という抑止力と思いの外対応の早かったら現皇帝によって市民は帝都から離れ残っている人間もわずかだけだ。

 シュラの話に嘘は無かった。事実彼が出立するまでの状態なら、やりたい放題出来ていただろう。子供を痛ぶり、女を犯し、男を殺す。その中の項目に一つ増えるだけだ。大したことはない。しかし、皇帝が大臣の傀儡から抜け出し自分の目で世界を見渡すことになり、たとえ大臣の肉親であっても横暴が許されることがなくなっていた。

 たとえエスデスを使い武力で押し通そうとしてもタナトスが許さず、政治面から押そうとも最高決定権を持つ皇帝陛下が正しい判断を下し止められる。

 故に今は大人しくしている時期なのだ。悟られずに策を浪費し、逆転のチャンスを作るのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ほとんど人のいない街でただ一人、路地を歩くローブを被った存在。足跡は焦げ、周囲の温度が著しく上昇している。

 彼は龍焉ノ騎士団の一人、彼を知る者からは『灼熱』という二つ名で呼ばれている。理由は簡単だ。

 

 背後の物陰からバッと数台の危険種が襲いかかる。指に備えた爪を光らせ獲物を仕留めようと接近する。刹那、彼を中心に小規模な爆発が起こった。周りに被害が及ばず周囲だけで起こる爆発

 空中故に逃げ場はなく火力に任せて上に吹っ飛び落下する。

 地面に激突し四肢が焼け焦げ脆くなったことで分離しゴミのように転がった。メラメラと周囲を燃やす炎の残滓、発生源は彼だ。ローブが焼け全身が露わになるとそこに居たのは人ではない。

 魔神のような躯体に恐竜のような頭部を持った超級危険種。

 

           灼熱のレックス

 

 怒りに燃える彼が去った後に残るのはただ一つ、焦げた燃え滓のみ




レックスに関してはダンボール戦機のイフリートのイメージで他作品の影響をモロに受ける作者をお許しください。

SAOの映画面白かった…


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第18話 沈黙を斬る

 皆さんお久しぶりです、気づけばめっちゃ時間経っててビックリ!


遠い昔、帝国の建国と同時に産まれた。暗い暗い森の中で親も仲間もいない。

 

 周囲は知らない。###は複数を指す言葉であると同時に単一を指す名でもあることを

 生物は番を見つけ繁殖する、その常識が###には無い。正体は微小な端末の集合体。小型の危険種が集まり巨大に見えているだけだ。

 一年に数回、脱皮をする過程で抜け殻が意思を持ち共に行動する。やがて数が増え超級危険種にまでなった。

 

 そんなある日、増えすぎた仲間(自分)に食料が足りなくなった。普段なら森が分けてくれる果物や野菜を分けて食べていたがその年は大寒波が続き作物がまともに取れず空腹を満たす為に旅に出た、幸いにも付近に人工培養が成功し寒波をまのがれた人間の集落を見つけた。

 

 

東の王国、当時建国当初の帝国よりも力を持っていた最強の国に食料を分けてもらうよう交渉に出ようと城壁にいた兵士に声をかけようとした。

結果は異形に驚いた衛兵が騒ぎ王国軍が防衛の為攻撃を開始した、降り注ぐ矢はさほど問題ではない。人が繰り出す攻撃も(身体)が小さく命中せずにいる。

 

 

###は交渉の為に集合形態をとっていた。意思疎通を図る上で戦意がないことを示す事と、相手側に認識させる為だ。だが事情を知らない王国は危険種が攻め込んできたと思い込んだ。

振るう武器はすり抜け、危険種がただウロウロとしている光景は兵士達に恐怖を植え付けた。

 

自分達など視野に無く、いつでも殺すことができるのかと、勝利を焦った王国は禁忌とされていた武具を戦線に投入し###を捕縛しようと画策した。

 帝国が『帝具』と呼ばれる超兵器を開発しているという情報を得た王国は空から降り注いだ禁忌の兵器(レールガン)を元に未知の物体(ケース)を使用し、改良を加えた。完成した兵器は電磁加速による圧倒的速度と次元を混濁させいずれ破壊する力を持ち、撃てば勝利を約束される矛

 

 

      ダインスレイヴ

 

 

      

 

 

 当初、巨大であった砲塔の操作性を技術革新にて解決した王国は使用を即決。###に対し攻撃を加えようと発射ボタンに指を添えた。しかし結果は失敗、全くの偶然(奇跡)が起こる。

 ###のうち一体が内部に侵入し装置を破壊したのだ。

 

 世界を守るべき管理者であるヘーシュギアが討伐され、世界一つを破壊できる存在を察知できる者はいなかった。妨害など無く発射されていれば国どころか、一つの世界丸々消え去っていた事だろう。

 

 切り札を失った王国は捨て身の特攻をかけるも###には敵わず、少数の生き残り以外は全滅した。

 

 そうして彼は“国喰い”と呼ばれた。結果的に当時最強の王国を滅ぼし、一国を堕とした彼に相応しい名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…コット……スコット‼︎」

 

 

 ビクッと体を跳ね、彼は振り返る。

 

 

「全く、なに考えごとしてるんだ珍しい。お前さん、さっきの客に何かあるのか?」

 

 

 グラスを拭きながら聞いてくる店主にゆっくりと首を振り否定の意を示す。

 

 彼にはわかる。客などではない騒動の元凶(ワイルドハント)、帝都を荒らし回る気に食わない連中。

 排除しようと思考する。分裂し身体の外中関係なく這い回りグチャグチャにかき回してやろうか、と。

 

 

「お前さん、なんか物騒な事考えてるだろ?

 辞めとけよ。」

 

 

 仕草から思考を読み取ったマスターは緩く止めた。

 

 

「お前が強いことはここに居るみんなが知ってる。1人だけなんて余裕だろうよ。だがな、テメェの手をあんなゲス野郎の血で汚されると思うと俺ァいい気がしねぇ。その怒り…まだとっときな。

 今日は俺のスペシャルカクテルをくれてやるからよ」

 

 

 遥かより人間とは違う価値観を持つ生物は、少しでも誤れば爆発する爆弾のようなモノだ。自己の安寧の為、邪魔する存在は排除する。

 タナトスについて行った者たちは皆、確固たる意思を持ち行動している。

 スコットも同じだった。

 

 バーの裏口から聞き慣れた老人の声が聞こえる。

 姿を表した杖をつく老婆。

 

 

「スコットや…タンスの隙間に鍵を落としたんじゃ…

 取っておくれ〜」

 

 

 やれやれ とスコットの足元から黒い物体が数匹落ちる。一列に綺麗に並び老婆に向かって歩き出す。

 老婆が手を床に差し出すとちょこんと跳び乗り老婆と共に店の奥へと消えていく。

 

 そうさ、今の生活は悪くない。だからもし、この生活を脅かす脅威が現れたのなら容赦なく排除すると“国喰い”は心の底から誓う。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

革命軍ナイトレイド

 

 

 いつも以上に慌ただしいアジト、ドタドタと足音に目が覚め部屋を出る。

 

 

「兄貴! 何かあったのか?」

 

「何かあったじゃねぇぞタツミ、帝都から人が消えた。緊急会議だとよ。」

 

 

 報告を聞いて慌てていつもの服とインクルシオの鍵(帝具の剣)を持って会議室へ向かう。

 ドアを開けるとタツミ以外の全員が集まり、報告書やらを広げている。皆真剣な眼差しを向け、事態の深刻さを物語っている。

 

 タツミの入室に気がついたナジェンダが顎でソファを指し 座れ と一言。

 

 

 「よし、タツミも来たことだ。今帝都で起こっている事態をもう一度説明する。

 現在、帝国は革命軍の処遇に対し二分されている。

 

 革命軍を敵とみなす《大臣派》と現皇帝を支持し我々と志を共にする《改革派》

 

 伯爵(タナトス)を初めとした面々が本格的に行動を開始した影響で改革派は一気に力をつけた。不正を働く商人や文官を摘発し今や領土の殆どが不正や汚職のない民に優しい世界に生まれ変わろうとしている。だがそれを許す大臣でもない。

 大臣が切ったカードは悪虐非道が最も似合う集団だ。密偵からの情報によると戦力はイェーガーズの約二倍、保有している危険種を含めれば不明だそうだ。」

 

「不明…」

 

「どうすんのよ。戦力差が明確じゃない。オマケにエスデスやイェーガーズまでいるんでしょ?」

 

「そうなった場合、革命軍だけで対処しなきゃなんないのか〜 

 うわ〜めんどくさそー」

 

 

 メンバー全員が報告の内容に今後の不満を覚えた。表には出さないようにしているが戦力数が“不明”ともなれば仕方のない事。

 

 一騎当千の力を持つ帝具使いが最低でも14人。

 それに加えイェーガーズやエスデス、近衛兵にブドーまで加えるとナイトレイドと革命軍だけでは単純な帝具使いの数と人員の両方が足りない。

 単純な数と質、今の革命軍に足りない最大の物。

 

 

「………これはあくまで賭けだが…戦局を覆す手段があるとすれば…やはり改革派だろう。」

 

「ボスは本当に助けてくれると信じているのか?」

 

「さぁな。目的は同じだろうが、伴う犠牲者は違うだろ。先のボルスの件もある。改革派はタナトス伯爵に絶大な信頼を寄せている。実質的なリーダーと考えてもいい。衝突は避けられないと考えるのが妥当だろ。」

 

 

 会話が進むにつれて場の空気が重くなる。現状の革命軍は確かに戦力、物資に困ることは無かった。それは様々な場から援助があったからに他ならない。

 

 悪しき国を打倒するという目的が民草と一致していたからだ。

 

 だが今はどうだろう。国は少しずつ確実に変わって来ている。

 傀儡から抜けた皇帝、龍焉ノ騎士団の結成。大臣の力は弱まり押し黙らされていた善良な幹部達も表立って行動を開始した。

 今の帝国に不満を持つ者がいなくなったわけではない。しかし希望を抱く者は増えた。

 

 もしかすると変わるかもしれない。大臣が失脚し理不尽な行いをする者が減るかもしれない。事実、龍焉ノ騎士団が警備隊の代わりをするようになってからの帝都の評判は好調であり、下手に悪さをすれば直ぐに捕え宮殿での苛烈な極刑が待っていた。

 文官や貴族の横暴が減った現在、不満を漏らす民は減り今の生活に満足している。強いて言えば大臣の失脚を望む声のみ止むことはないが、龍焉ノ騎士団は解答を濁し先送りにしている。

 最も、時が来れば大臣とて長くはないだろう。

 

 

「俺たちナイトレイドと革命軍側に帝具使いが6人と少し、奪取した帝具も合わせれば……いけるか…」

 

「その内2名もタナトスとの戦闘で負傷、付け加えれば帝具も一つ失ったようなモノだ。」

 

 あの斧か? とブラートが効くと首を縦に振り答える。

 

 

「バルハード、手痛いな。」

 

 

 バルハードの“奥の手”が有ればエスデスを倒すことは出来なくても深傷を負わせることは出来ただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンコン

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 アジト中に響き渡ったノック音、全員が身構える。己の武器(帝具)を手に添えいつでも攻撃出来るように準備を固める。

 

 

「なぁラバ、この辺りはクロステール張ってるんだよな?」

 

 

 インクルシオンの()を構えながら冷や汗を流すラバックを凝視するタツミ。

 

 

「あ、あぁ。アジトの周りは俺の帝具で結界を作ってるってのに、ヘッどこの誰かしらねぇがマナーがよくて助かったぜ。」

 

 

 ラバックの帝具(クロステール)はナイトレイドのメンバーから一目置かれる程に汎用性に富んでいる。

 “超級危険種の体毛から作られた糸”は生半可な攻撃では斬れず、その細さから視認性も悪く罠にも使え、不可視の攻撃手段として相手の意表もつける。

 

 アジトの周りの木々に仕込んだワイヤートラップを一つも作動させずに接近し律儀にノックまでする。

 

 

「私が行く。」

 

 

 意を決してナジェンダが重い腰を上げる。会議室から入り口までの道のりは途方も長く感じるほどの緊張と、明けた瞬間にいるであろう敵に対する不安がナジェンダを支配する。

 タツミを始めとした帝具使いは物陰に隠れいつでも応戦できる様に準備をしている。

 恐る恐るドアを開けるとそこにいたのは

 

 

「ヨッ!」

 

 

 紙袋片手に気安く手を上げ話しかける最強(バカ)がいた。

 

 

 




一応、次の話などもほとんど完成してるから調整してから投稿しようと思います。


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第19話 交渉を斬る

 ふと、サブタイは本編に沿った方がいいな〜なんて考えてます


 帝都で避難勧告が出された同時刻、革命軍の各司令官を集めた緊急会議が開かれていた。

 議題は勿論、ワイルドハントの暴走と皇帝陛下が迅速に龍焉ノ騎士団を中心に信頼できる文官に指示した避難勧告についてだった。

 皆それぞれ口を開き考えられる事を精査し先を予測しようとヤッケになっている。

 

 逃げた市民がどこへ行ったのか

 ワイルドハントに対する陛下の対応の甘さ

 個人主義者の集まりである龍焉ノ騎士団がやけに大人しかったり

 

 現場を生で見たわけではない為に深まる謎は多く、このまま革命軍としての活動を続けるべきか否かすら不明、混乱に乗じてオネスト大臣を暗殺しようにも彼の周りは固く近衛兵やエスデス将軍がいる以上返り討ちに遭うだけ

 誰かがエスデスを止めなければならないがそれ程の戦力を現状の革命軍は持ってはいない。

 近衛兵だけならば可能だろう。しかしエスデスが最大の障壁。この1000年の間、彼女を超える“人間”はほとんどいなかった。危険種の本能(帝具)を抑え全てを手中に収めるなど並の人間に出来はしない。

 だが、革命軍の司令官達は勝機を見出せないわけではなかった。

 

 この戦争最大のジョーカー

 

 味方となればエスデスさえも倒せる“最強”の一手。

 きっとあの人は味方してくれるだろうと希望的観測を願う者は多かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ナイトレイドのアジトに突然押し入ったタナトス。お土産に帝都で名物の菓子を持って参上した、ナジェンダを始めとした面々は驚愕し特に防衛の為に周辺に張り巡らせた帝具の使い手である『ラバック』は自分に対しての自信を失いかけていたが、ナジェンダの一言によって半ば諦め気味に調子を取り戻し、目の前で慌てふためくナイトレイドをよそにタナトスはマイペースに話を持ち出した。

 

 

「なぁ、家入っても良い〜?」

 

「はぁ!? あんた状況わかってんのかよ!?」

 

 

 突拍子もない発言にレオーネが突っ込むが もういい と諦めたナジェンダがタナトスを通す許可を出した。

 お土産げを預け、部屋に通されてソファに腰をかける。向かいにはナジェンダが座り周りをアカメをはじめとした歴戦の手練れが囲んでいる。

 

 

「……敵陣に単身で突っ込んで話をさせろとは失礼ですがバカですか貴方は。」

 

 

 糸型の帝具(クロステール)の結界をすり抜け崖という険しい場所を削りつくられたアジトにお隣感覚で襲来した割にナジェンダの表情は何処か穏やかだった。

 

 

「ハハハ、安心しろ大臣に報告なんて絶対無い。俺にとっての敵はあくまでも大臣とその仲間だ。余計なことをしない限り敵対することはねぇよ。」

 

 

 先日のボルスを討伐するための作戦を思い出す。

 洗練さのカケラもなく、異民族の残党を使った復讐劇。思い出すだけでも嫌悪感が襲う。

 頭を切り替えてナジェンダを見ると、頭を下げてきた。周りのメンバーはひどく驚き、反乱軍の精鋭チームのリーダーが他者にしかも帝国の最高格の人物に頭をさげる。この事実は他の革命軍メンバーに見せても同じだろう。

 

 

「昨日の児童を巻き込んだ作戦に関し、謝罪させてもらいます。つきましては私の方から今後一切この様な作戦は決行させません。」

 

「ありがとう。その言葉信じるよ。

 ただ今回は別件で来た。」

 

「おおよそはわかります。陛下が権限で避難させた住民の保護を革命軍側でして欲しい……といったところですか?」

 

「御明察! 流石“元”帝国軍師ナジェンダさん! 俺の考えなんてお見通しってか。」

 

 

 タナトスが嬉しそうにナジェンダを褒めたが直ぐに いえいえ と言った声がナジェンダから出された。

 

 

「普段が私欲まみれで読めない分、こういう時はわかりやすいので助かります。しかし、こちらにも条件があります。」

 

「ほう?」

 

 

 ナジェンダの発言に半ばタナトスは自分がこういう時に読まれやすい事実に息を漏らしながら革命軍(ナジェンダ)の条件を聞く。

 

 

「簡単な事です。タナトス様、革命軍に加わっていただきたい。」

 

 

 その場の全員がタナトスを含め凍りついた。

 文字通りの『帝国最強』を引き込むことができればメリットが非常に大きい。

 まず、タナトスが革命軍に加わるということは現状最も難航している圧倒的な戦力差を覆すことが出来る。

 イェーガーズとエスデス将軍、帝国近衛部隊とブドー大将軍、龍焉ノ騎士団と団長のタナトス。三つの中で未だ多くのメンバーの底が見えない彼らが味方してくれるのなら勝機が大いに生まれる。それだけ龍焉ノ騎士団は革命軍側に脅威と認知されている。

 それと同時に龍焉ノ騎士団はそれといった悪行をしてあるわけではない。ただ日常を共に楽しむ “隣人” として帝都を護っている。革命軍でもタナトスの友人の将校が多いこともあり支持が多くあった。

 ナジェンダからの条件にタナトスはしばらく沈黙を貫く。文字通り頭を抱えたり、落ち着きなく無駄に周囲を歩いては戻りを繰り返す。

 龍焉ノ騎士団とタナトスが革命軍側に加わる事で革命軍の被害は著しく減るだろう。だがそうなった場合、苦渋の決断で帝都に残った者はどうなる? 

 帝国側の手が足りない。皇帝陛下が無意識とは言えオネスト大臣と水面下で睨み合いを続けているうちにワイルドハントが被害をさらに増やすかもしれない。

 逆に条件を断れば帝都民の保護は難しくなり行き場を失ってしまう。候補がないと言えば嘘になるが、危険がない分驚愕と恐怖が襲うこと間違いなしなため却下だ。

 取れる策は……

 

 

「ナジェンダよ、お前の提案は俺としちゃ受けたいと思う。」

 

 

 その言葉を皮切りにナジェンダの表情が和らぎ、まわりのメンバーも緊張の空気を崩した。

 

 

「だが、あともう少し待ってほしい。」 

 

「何故…と理由を聞いてもよろしいですか?」

 

「やり残したことを片付けたい。無論その分のリターンは約束しよう。俺たち『龍焉ノ騎士団』以上の…それこそ帝国での汚名を挽回出来るぐらいスゴイ“ヤツ”を…」

 

 

 含みを込めた発言をナジェンダは深入りするつもりはなかった。こういう時、彼が言う自分以上というのは数少ない。過度に期待しても損はなく、候補はおのずと割れる。

 

 

「フッ!」

  

 

 ナジェンダは小さく笑った顔を抑え隠す。

 指と指の隙間から覗く目は鋭くタナトスを捉える。

 

 

「まさか今まで貴方がこちら(革命軍)側に来なかったのは…成る程

 全く、どこまで行っても変わりませんね。」

 

「当たり前さ! 人じゃない分、心ぐらいは人らしくないとな。」

 

「わかりました。では民達の保護はお任せください。私達ナイトレイドの名にかけて、必ずお守りしましょう。」

 

「ありがとう。

 ヨシ! 要件はコレで終わりだからブラートや旧友の様子でも見に行くか!」

 

 

 立ち上がり部屋を出ようと脚を進めると、ナジェンダが見事なスライディングでドアの前に転がり込みタナトスの行手を阻む。

 

 

「頼むからそれだけは辞めてくれ。私が連絡するまで待って欲しい。」

 

 

 ナジェンダの必死の懇願は叶う事はなく、しばらくナイトレイド対タナトスの部屋を脱出する下らない読み合いが発生した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 タナトスとの交渉が終わり、彼が勝ち部屋を飛び出しアジトを出た後に残されたナイトレイドの面々は床に突っ伏したり壁にもたれている。

 理由は簡単で話の後の奇天烈なタナトスの行動に振り回されていた為だ。革命軍の本拠地をなぜか知っていて『挨拶』だと言って突撃しようとしたり、部屋の備品を触って遊んだり、兎に角自由気ままに動き回る事で帝国最強と対峙する緊張も重なり休む暇がなかった。

 床に仰向けになりながらダベるのはレオーネ、彼女は今まで『タナトス・ドラグノフ』について深く知ろうとしなかった。知ったところで“敵”である事は変わらない。いずれ敵対するであろう存在に対する印象は悪い方が良かった。どれだけ革命軍の将校が惜しんでも、平民出身のレオーネには関係ない。ただ殺す相手とだけ認識していればいいだけの事

 しかし、今こうしてタナトスに翻弄され、先の戦闘の時は違う感情が湧いている。

 

 

「つかれたー ッたくなんなんだよアイツー」

 

  

 滅茶苦茶だ。アレが本当に今の帝国にいていいのか…いやああいう性格だからこうして革命軍にも支持されているのだろうか…

 

 無用に暴れ回り「触るな」と言った途端に備品を壊し、まるで子供だ。倫理観や周りの目など気にせずに反射的に動いている。

 ポゲーと時計を眺めては当たりを見回し眼を光らせ、紙袋からお菓子を取り出したかと思えばアカメと鬼ごっこを開始し、ブラートとは筋トレとよくわからない会話に火がつき、ラバックに至っては赤面して怒っていた。

 タナトスに何か言われたのだろうか?

 

 思考を深く堂々巡りさせるレオーネを見て疲れ切ったナジェンダが口を開いた。

 

 

「あの人の行動理由を考えない方がいいぞレオーネ。割り切った方が疲れなくて済む」

 

 

 慣れているのか諦めているのか、どちらとも取れる声のトーンでナジェンダは力なく語る。

 タナトスの全貌を知らず、まだ彼の実力に疑問を感じていた頃に開かれた交流会という名の地獄を



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第20話 闘争を斬る

「フンフン〜

 あー楽しかった!」

 

 

 軽い足取りで敵地のド真ん中をスキップする。

 アカメと対決し、ブラートと語り合い、ラバックは冷やかした。

 

 これで概ね興味のある相手との会話は済んだな。そろそろ帰るか…ん?

 アイツは

 

 

「おーい! タツミー!」

 

「って、アンタは!?」

 

 

 俺を見るなり180度回転して駆け出そうとしたが逃がさん! 

 瞬発力舐めんな、一瞬で近づいて肩に手を置いた。

 

 

「なんで逃げんだよタツミクン?」

 

「イ、イヤ……勘弁してくれよ…」

 

 

 側から見ればチンピラに絡まれたと勘違いされそうだが知った事じゃない。

 

 最も、全身鎧が少年に絡みに行っている時点で異常なのだがタナトスが知る由もない。

 

 

「ちょっとぐらいいいだろ? ツラかせよ。な!」

 

 

 困惑するタツミに構わずに手を引っ張り森を一望できる場所に連れ出した。小鳥の(さえず)りや樹々の音が心地よく気持ちを明るくさせる。だがタツミの心は晴れない。色んな意味で一番面倒な輩に絡まれ、これからどんな事をされるのか内心ヒヤヒヤしていた。

 そんな心配もタナトスの声で霧散する。

 

 

「なぁ、その剣…インクルシオだろ? ブラートの」

 

 

 ベランダの手すりに体を預け、持って来た駄菓子を頬張りながらだったが口調は真剣そのものだった。てっきりどうでもいい世間話をするだけだと思っていたタツミは意表を突かれたがすぐに答えた。

 

 

「あぁ、アンタが兄貴を助けてくれたおかげで毎日特訓してもらって前より強くなって帝具も使いこなせる様になって来たんだ。」

 

「フッ、そっか、それは……良かったな〜」

 

 

 空を見つめて静かに噛み締めるように目の前の怪物(タナトス)は口を開いた。

 タツミはこれでタナトスと会うのは4回目になる。最初は得体の知れなさと三獣士を瞬殺した事もあって『倒す事が想像できない難敵』としか感じなかった。

 だが、ブラートとの任務の折にタナトスの人格を少しだけ見た。

 闘いを好み、全力でぶつかって尚、敵である筈の者を助け、“救いたい”命は見捨てない。

 善悪など関係なく、ただ己の心に従って生きる。それがタツミから見た《帝国の騎士》に対する今の感想だった。

 

 

「アンタはこれからどうするんだ? 帝国を裏切るって……信じていいのかよ。」

 

「モチ! ちょっと違う部分あるけど大まかには信じていいぜ!

 …にしてもお前がインクルシオを受け継ぐなんて、ちょっとだけ意外だったよ。」

 

「なんでだ?」

 

「なんて言えばいいかな…アレ(インクルシオ)の素材になった危険種はそこら辺の《超級》とは訳が違う。扱うには強靭な精神と肉体、両方が必要になる。

 タツミ、俺から改めて聞くぞ。

 

 もし、何を犠牲にしてでも救いたいモノがあったら…お前はどうする?」

 

 

 ヘルムのスリットから見える赤い両眼が全てを語っていた。

 

 きっとインクルシオをつけ続ける事は良くないのだろうと、

 それが何なのかは今はまだわからない。だが答える、世界最強の怪物の眼から逃げずに真っ直ぐに笑った。

 

 

「俺はサヨとイエヤスを助けられなかった。でも今は違う。後悔したくねぇんだ、この力で守れる人達は守りたい。」

 

「成る程ねぇ、なら俺から一つアドバイスをやる。先輩からの有り難〜い言葉だぞ。

 

 どれだけ辛い目に遭っても“自分だけは見失うな”

 

 それさえ憶えてれば大抵どうにかなる。」

 

 

 タナトスの言葉は今のタツミには分からないだろう。インクルシオ…いや素材となった超級危険種(タイラント)の恐ろしさは素材として使われて尚健在だ。いずれエスデスやブドーと戦う日が来る、あの二人はタナトスを除けば別格の強さを誇り、勝つ為ならタツミはインクルシオに無理を言うだろう。

 

 自分の身体はどうなってもいい!! だから力を寄越せ

 

 と。それは悪魔との契約に等しい。

 

 タナトスは知っている。彼も1000年前に殺された“友達”を身に纏って生活しているから、肉体は朽ち、精神だけであったとしても、あの時の思い出は昨日のことのように憶えている。

 共存が叶わぬ程に獰猛ならばいずれ身体も意識も持っていかれ自分ではなくなってしまう。そこに居るのは《かつて人間だった獣》

 人を喰らい、国を荒らし、食物連鎖のサイクルを繰り返す。

 

 だから彼はタツミに忠告した。自分を忘れるなと

 強靭な自我さえあればどうにかなる。自分だって“あの壮絶な体験”を乗り越える事が出来たのだ。恐れることは何もない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「んじゃ、またな!」

 

 

 元気よく手をブンブンと振りアジトを後にする。行きに持って来た大荷物は無く両手は自由になっていた。

 背の翼を広げ空を舞い、音速を超える勢いで生き地獄と化した帝都へと帰還する。

 イェーガーズが護り、ワイルドハントが壊す。このサイクルが繰り返される限り程度に安寧は無く、少ない人の悲鳴が木霊するだろう。

 

 させはしない。全能にも等しい力があるんだ。こういう時にこそ使うべきだろう。

 

 タナトスは帝都上空に滞空しながら己の内に語りかける。脳内の真っ暗な視界が眩しい光に包まれ視界が開けた。

 帝都は燃え、()が積まれ、人々の悲鳴がそこら中から聴こえる。

 事態の真ん中にいるのはシュラを含めたワイルドハント。男も女も子供も老人も良いように弄ばれ苦痛の末に殺されている。

 

 タナトスは“成る程”とまるで他人事のように一人呟いた。事実、辿り着く未来であっても『改変できる段階』なのだ。どうとでもなる。

 翼を閉じ重力に従って下へと落下して行く、そこは王宮殿の庭。砂塵が舞い衝撃で周りに施された豪華な装飾が砕ける。

 

 

「さて、始めるか…」

 

 

 顔を上げた怪物に先までの陽気さは無く、冷酷にただ己の愉悦を邪魔する障害を排除せんがために動き出す。

 宮殿の廊下を歩く足取りは速く、だが頭の中は冷静にするべき事を導き出した。

 

 そうだ。来い。

 

 首筋に感じる冷たい感触。理解していたが、いざ来られると速度、気配、どれも高水準で感服するほかない。だがまだ“足りない”

 

 

「久しぶり〜、エスデス」

 

「クク、随分と楽しんできたらしい。タナトス

 次は私を楽しませてもらおう。」

 

 

 タナトスの後ろには口角を上げて不敵な表情の女帝がいた。

 タナトスは振り返らずに会話を続ける、闘いを求める狂人をまるで気にも止めずに平然とエスデスなど脅威ではないと言わんばかりに軽口を叩く

 

 

「エスデスよ、お前とのお遊びはまた今度だ…なんて言って先送りにしてたけど、そろそろやるか」

 

 

 一瞬の突風、エスデスは後退しタナトスの姿を見失った。キョロキョロと周りを確認するが姿はどこにも無く、どこから来るかわからない“ワクワク”が心を支配した。

 無駄な動きをやめその場で静かに立ち尽くす。神経を極限まで研ぎ澄まし、心眼で敵を捉える。

 レイピアに氷を纏わせて突き上げる。

 

 

 ガキンッとぶつかる音が耳に入る。纏わせた氷は木っ端微塵に吹き飛んだが、レイピアに亀裂は見られない。氷がすべての衝撃を受け止めてくれたのだ。

 当たったが致命傷ではない。次はどのような手で来るのだろう? 対応してみせる。最強を捻じ伏せるのも心が躍る!

 

 

 嫌な風が宮殿を吹き抜ける。『最強』と『最狂』がぶつかり合う中、1000年の節目を迎える王宮はただ静観する。誰も止められない、止めることなど叶いはしない。互いが闘争を望みぶつかる限り、轟音が鳴り止むことは無い。

 エスデスは狂気の笑いを隠す事なく、タナトスも楽しそうに笑っていた。お互いの武器(尾と剣)がぶつかり、余波で宮殿の柱を破壊する。

 タナトスの攻撃は今までのどの様な生物も繰り出したことがない奇怪な戦い方だった。尾による斬撃の中に徒手空拳による横断や薙ぎ払いを加え、どこの武術とも違う独特の戦法をとっていた。

 

 残像を残した斬撃を繰り出しながらも、両者はなんとも楽しそうに殺し合う。

 

 

「ハハハハハ! やはり面白い!!久しいぞ!これ程潰し甲斐がある獲物は!」

 

「ありがとうよ! 俺も大いに楽しませてもらってるぜ!! 久しぶりに本気を出せそうだから、な!!」

 

 

 尻尾は変幻自在にエスデスの攻撃を弾きながら隙有れば切り裂こうと速度を上げた。

 

 これより上があるのか…面白い!

 

 後方にステップし、力を込めたタナトスの踏み込みは音速を超えた。正面突破の刺突が襲い来る。

 

 螺旋状に巻いた尾で下半身を覆ったドリルキック。

 エスデスは氷の壁を何層も出し防御を試みる。

 衝突、激しい音と共に砕け散る氷の壁。一枚二枚三枚……と、ほんの数秒にも満たないうちに破壊されていく。だがこれはエスデスの作戦だった。氷の壁は単なる時間稼ぎ、力を貯めて最硬の盾を錬成する。前までのタナトスの力の一端しか知らないエスデスなら絶対に行わなかった行動、防御を捨て攻撃に出るはずだった彼女を変えたのは龍焉ノ騎士団の団員との戦闘にあった。

 あの危険種(パル)との戦いでタナトスが口だけの穀潰しでないことを理解した。

 風を自在に操り、エスデス以上の速度を持つ規格外の化け物を部下としている。この事実だけで高揚感で身が震える。

 あの時は相手の油断からのギリギリの勝利だったが今のエスデスに慢心はない。故に敵の力量を見誤る事もない。

 

 

「ハァァァァ!」

 

 

 ガキガキと無から氷を生み出し作り出したのは巨大な柱だった。側面に大量の棘を生やしたミキサー

 氷の壁によって威力を落としたタナトスの蹴りと氷柱が再び衝突しあまりの摩擦に火花を散らす。

 お互い一歩の譲らない衝撃が宮殿へと響き拮抗するが結末はすぐにやってくる。

 身体ごと回転し破砕力をさらに加えたタナトスによって氷は砕ける。バラバラに砕けた氷は次の段階へ移り、一つ一つが意思を持ちタナトスに向く。砂塵の如く舞った氷の破片に四方を囲まれ防ぐ手立ては限られたがタナトスには関係の無い事。

 ドリルキックがエスデスの足元に着弾した瞬間に突き刺さった尾を軸に身体はあり得ない軌道を描く、第三の足とも言わんばかりにタナトスを支える。そのまま横凪の蹴りを喰らわせようと肉薄する。多少の被弾は“どうでもいい”。どうせ牽制用の攻撃、意識を割けば続く攻撃に対処できなくなる可能性が出てくる。

 『予知』ではない『予測』は見事に当たっていた。

 エスデスの気合いの声はただの ブラフ で本命は後にあった。氷の破片によって周囲の温度を下げ、空間一帯を凍らせようと画策していた。

 一応言っておくと、ドリルキック後の変則的な攻撃はタナトスの気まぐれだった。

 

(突き刺さった後の動きどうしよ〜 せや!)

 

 程度のノリで次の手を考える。ふざけている様に見えるが事実この戦法が強者には一番効果があった。

 

 戦術を組む上で、相手(タナトス)の行動が読めず、後手に回ることを余儀なくされる。戦が上手ければ上手いほどに底なし沼の様に引き摺り込まれ対処が不可能となる。故にタナトスと戦う際に最も大切な事は《考えるな、感じろ》これに尽きる。手札を切られる前に切る。先行を引けない時点で勝率は大きく下がる。

 

 エスデスは溜めていた力を奇天烈な攻撃の防御に割く他無くなった。

 

 

「ぐあァァ!?」

 

 

 それでも完全に受け止めるわけにはいかずに、後方に吹き飛ばされ石壁が受け止める。

 

 

「ふぅ、やるね〜 今の…かなり力を入れたつもりだが」

 

「……よく言う…死にかけたぞ。」

 

 

 血反吐を吐きながら、なお戦う姿勢を崩さない姿は最早人では無く“同類”に感じる。

 エスデスを受け止めた石壁は彼女の跳躍と共に崩れ跡形も無くなる、一瞬で距離を詰め、ひび割れた氷のサーベルとレイピアの二刀流でタナトスに迫る。

 振り下ろしたサーベルは拳に砕かれ、レイピアによる刺突は尾によって一発も当たる事なく弾かれた。

 

 

「クソ、やはり化け物か貴様」

 

「いやいや、ここまで俺に着いてくるお前も大概人間辞めてると思うぞ。エスデス」

 

 

 まだまだ余裕なタナトスは素直な感想を述べる。

 今までここまで自分と真っ向から戦い食い下がった人間は知らない。大抵は一撃か、戦う前から戦意を失う輩が殆どの中、エスデスは違った。

 如何にねじ伏せようと、闘争心は止まるところを知らず高揚が支配する。今の彼女に見えている景色はきっと圧倒的強者を捩じ伏せる光景ただ一つだろう。

 

 

「ッククク……ッハハハハハ! 面白いッ! 

なんだこの気持ちは…ヤミツキになりそうだ!!」

 

 

 格上との戦闘(殺し合い)は彼女を更なる境地へと誘う。生きる事を二の次に『楽しむ』事を第一とする。身体が壊れても、心が消えようと、この気持ちだけは消せはしない。消えない。

 

 今までエスデスと同等の強者はいなかった。当たり前だ。危険種の…それも《超級》の生き血(帝具)を“全て”喰らい自我を勝ち取った文字通りの化け物と対等の存在などいて言い訳がない。世界の理が許すはずがなかったーーそう無かったのだ。が、世の理は可能性を愛し、適当で、気晴らし程度で摂理を変える。

 故に化け物は量産された。バカ(神級)と闘い、認められた者達は力を託され強くなった。それこそヒト(彼女)以上に……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ドッと場の空気が変わる。周りの植物達に許しを得て、俺はギアを一つ上げる。両手から生み出した光球をジャグリングしながら肉薄する。純粋なエネルギーの塊は押し付けるだけで武器になる。なんせ、高速で移動する磁場を無理矢理封じているんだからな。

 

 エスデスは直感で理解したのか警戒している。斬撃の切り傷が身体中に現れたが、動きが鈍る事がない。むしろ精度が上がっている。ダメージが大きい攻撃をしっかり理解している。

 ここまで食らいつくか! 面白い!

 

 タナトスは心の中で昂る気持ちを隠そうともせずに器用に操る光球を空中に投げ捨てた。注意が光球に向かった瞬間、狂気的な笑みをヘルム越しに表して拳を叩きつける。

 2度3度ではない。何百何千と、一瞬の内に叩き込む。

 強力すぎる衝撃が視界を遮る。周囲を胎動させ、余波が空に登る。だが、コレでもエスデスを殺すには至らない。そう、何より

 

      “死なれたら嫌だ”

 

 

「その程度か……」

 

 

 咄嗟に氷の壁を作り難を逃れたエスデスだったがダメージは確かにあった。滅多な事では疲労する事のない彼女が息を荒げ呼吸を整えようと心臓が激しく鼓動する。

 心は闘う意思を崩さずとも身体が持たない。悲鳴を隠し、誤魔化すしかない。

 彼女が《人というカテゴリー》に位置する限り逃れる事ができない定め。意志の力だけではどうすることもできない限界

 

 こういう時、何も気にせずまだまだ楽しむ余裕があるタナトスに人生で初めて『羨ましい』と感じた。

 生まれてこの方、人を羨んだことなどなかった。彼女は元から歪みを抱え、持てる強さを使い生を謳歌し、己の心に従い殺し続けた弱者を切り捨てる強者だ。

 弱肉強食を貫いてきた信念。だが己が弱者であると思った事は一度もなかった。身体は軋み、意識が朦朧とする。限界などもう目と鼻の先

 

それが…目の前の怪物はどうだろう……どれほど楽しもうと消えることのない意思と体力。我を通す絶対的な力、自分を隠さず真っ直ぐに生き、弱肉強食などクソくらえと言わんばかりに一部の弱者を救う絶対的強者。

 

 弱者を殺した(エスデス)、弱者を救った怪物(タナトス)、真逆でありながら自分と何処か似ている。

 自由に生きてとことん楽しむ。阻む障害は蹴散らし蹂躙する。

 

 二人が違う所があるとすればそれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第21話 最強を斬る

新年明けましておめでとうございます(激遅)


 長い歴史、繁栄の象徴たる国の中心である王宮は見る影もない。

 爆音が聞こえ向かってみれば、瓦礫の山が目の前に飛び込んだ。

 

 ブドー大将軍は概ね理解した。タナトスが珍しく“お遊び”を“殺し合い”に変えている事に

 

 彼が本気を出すとなると都市全体どころか、下手をすれば大陸全てに被害が及ぶ。しかしこれといった被害が報告されるわけでもない。

 ならば、と、大将軍は空を見上げる。己では挑んだとしても叩き落とされる領域。天を舞い、駆け巡る戦神。その被害が国に及ばない様に祈るばかりだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

帝都上空

 

 

 

 氷の女帝(エスデス)帝国騎士(タナトス)が対峙していた。

 

 

「凄いな。まさか空まで飛べるとは……」

 

「ハッ、貴様が言うと嫌味にしか聞こえんな。」

 

 

制空権を取って仕留めるつもりだったが……と心の中で毒を吐く

 

 今のエスデスは氷で出来た鎧を身に纏っていた。タナトスの様な龍の意匠が入った重装備ではなく、所々彼女の元の服や肌が露出している。攻撃を受けるであろう部分に防御重点を置いた軽装備だった。

 彼女の帝具『魔神顕現 デモンズエキス』は文字通り【氷を自在に操る】帝具……帝具と言うには些か疑問が残る。何せ“危険種の血”なのだから、

 無から氷を生み出し使役する。そこに制限は無い。

 いかに強力か、解釈の仕方次第で可能性は無限に広がる。現に氷の鎧を作り出し、その氷を操作し空を飛翔すると言う離れ技までやってのけたのだ。

 

お互い距離を取り見合いながら一歩も動かない。否、動けなかった。視線による鍔迫り合い、常人ならば耐える事すら億劫であろう殺気の押し付け合い。そして均衡を崩して狂気と狂気(我儘)が衝突する。

 

 

 

 

 はじめに動いたのはタナトスだった。しなやかにうねる刀身の剣圧が彼を覆う様に球体状となり、空気中に漂う冷気を弾き飛ばす。

 

 少しでも気温を上げ安定させなければエスデスの帝具によっていつ足元をすくわれるかわからない。

その予測は外れる事はなかった。

 タナトスは自身の手を見る。握ったり開いたりする度にバキバキと音が鳴る。空気が冷気に耐えられず凍っているのだ。剣圧の中にこいたとしても空気はどこからか侵入する。

 

 知ったことか!

 

 タナトスの動きが変わる。力強く、確実に関節を振るいまとわりつく氷を振り払う。並の危険種を片手で持ち上げる腕力と、踏み込むと地面にクレーターが出来るほどの脚力。双方を併せ持つ彼が力を込め動けば身体に付着する氷など如何ということはない。

 

 

 剣圧の結界から飛び出して繰り出した足技にエスデスは腕を使ってガードする。

 

 

「くッ!?」

 

 

 思わず苦悶の声を漏らしてもこの攻撃だけは受け止める。でなければタナトスには勝てない。勝てるはずが無い。彼の一撃は全てが確殺の威力、人外の脚力に氷の鎧は砕け散る。バリバリと音を鳴らしながら放たれた攻撃は僅かにエスデスの結界で弱くなっていたが、それでも強力なことに変わり無かった。

 

 続けて防御の体制が崩れたエスデスにタナトスは、体制を即座に整えて次の攻撃の準備に…下段から拳を振り上げた。腹部に当たった拳、鈍い音を放つはずだった一撃。

 

この一瞬で防御する箇所に氷を作り、鎧がーー彼女の帝具が致命傷を防いだのだ。

 

 少し驚いたタナトスを置いて氷は徐々に拳を伝い広がる。やがて全身を覆い尽くした氷の中でタナトスは眼のみをギョロリと動かして状況を確認する。

目の前の空で舞う氷の綺麗な光景が視界に入る。

息を整えてサーベルを構えるエスデス。

 

 

 

 

 エスデスはタナトスの実力を高く評価している。パルとの戦闘で己の十八番を突破され辛くも勝利を納めた彼女、故に出し惜しみは出来ず、先の戦いで全力では足らないと実感し、全力を超える力を常時引き出し食らいつく為に己に想像を絶する負荷を掛けていた。

 氷の結界の上から更に全、七層にも及ぶ氷の檻が完成した。ハエ一匹抜け出す隙間なく、灼熱すら捩じ伏せる冷気を纏い。まさに絶対。最強を捉え越える為に作り出された氷の牢獄

 

 

 エスデスが氷の檻に手を翳し握ると、牢獄は鈍い音と共に圧縮され中は跡形もなく潰された。

 静寂が空を支配しても彼女は警戒を解くことはなかった。

 瞬間、エスデスに迫る極小の殺気。すかさず鎧を纏った腕をクロスさせ防御する。その小さな体積からあり得んばかりの衝撃が伝わる。骨を振動させ意識を飛ばされそうになる。攻撃の正体を確かめようと目を細めた先

、余りの常識外れな相手に、「貴様」と、小さく紡がれた言葉に喜びの色が混じっていた。

 

 

「もっと見せろ。貴様の持てる全ての手を尽くし私を楽しませろ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 目の前のヒトはどこまで喰らい付いて来るのか、普段持てる力を人間の範疇でしか繰り出していなかったこの頃。漸く喰らい甲斐がある敵が現れてくれた。だが既に俺は“アイツの助けが無ければ”彼女に2回は負けている。認めよう。強い。

 事人の範疇でアレに勝てるのはいないだろうと言える程に

 

 極小から元のサイズに戻る。

 

 

「……良くやる。」

 

 

 ただ一言、胸の中にある言葉を吐き出す。戦術、帝具の使い方、どれもが高水準に収まっていた。唯一、圧倒的に優っていると言える剣技も、帝具の予測不能な攻撃に決定打に欠ける。使える武器は愛用の形見(ユニット)のみ、要するにエスデスはタナトスに迫っているということだ。空という場所も条件が悪い。ノリで空から攻撃しようと考えて行動したが、まさか飛べるなんて思わないじゃん……

 

この戦場(フィールド)は手頃に扱える障害物(オモチャ)も無く、遮蔽物もない。氷を意のままに操るエスデスの帝具(デモンズエキス)に全方位の警戒を強いられる。さらに氷の結界による動きの阻害、俺自ら首を絞めたって事だ。

 

 周りから氷槍が来ないか警戒し、結界の効力をいちいち解きながら駆け巡り交戦する。

 氷を振り払い、わざと斬撃の嵐に穴を作り攻撃を誘導してカウンターを叩き込む。エスデスも対応してくる中で100以上の戦術を組み合わせて応戦する。

 

 昔の彼には決して抗うことが出来なかった攻防

 

 

 ーーーーーだからこそ……面白い!ーーーー

 

 

 どうやって戦うか、純粋な『勝つ』為の戦術。加減を気にすることもない。普段使わない頭を回転させる。

 

ならば“あの力”を使ってもいいのではないだろうか?…辞めておこう。

 『俺の』帝具はこの姿そのものだ。第一対等で無くなる。一方的な闘いは偶にすれば良い。

 

 タナトスの頭にあったのは蹂躙による無双では無く、決闘による純粋な競い合いの絵であった。

 

 一瞬の内にエスデスの間合いへ潜り剣を取る。脊椎部から引き抜いた剣の柄を横凪に振るう。

 剣先が僅かにエスデスの皮膚を斬る、続けて空いているもう片方の腕でエスデスの片腕を掴む。この行動にエスデスは驚きを隠せなかった。

 

 

「貴様、私に触れているのがどういう事か分かっているのか?」

 

「あぁ、百も承知さ」

 

 

 この瞬間、エスデスは正気を疑った。

 

私の力(デモンズエキス)は直接触れていなくても氷を作り出すことができる。ましてや直触りならその効果は絶大、一瞬のうちに命を凍結出来るというのに…

 

余りにも大胆で無謀な動きに一瞬たじろいだ。

 

 

「……正常だよ。お前も全力で来いよ!」

 

 

 この後起こる事を分かった上で言っているのか?

 

 得体の知れない感覚に気圧されながらエスデスは能力で自分もろとも氷漬けにする。

 

お互い逃げ場など無く身動きもとれない。続く攻撃で完全に殺す。氷の無限地獄が始まる……筈だった。

 

 突然氷が割れた。驚きの後に感じた殺気、意識を向けた先には剣を振り上げたタナトスの姿があった。エスデスはサーベルで受け止めようと腕を動かしたが間に合わず、右の利き腕に擦り傷を負う。幸いダメージは低く、すぐに反撃に移った。氷の弾丸が空中で生成され放たれる。何十発と鎧に着弾するが強固な守りを破る事叶わず

 タナトスは構うことなく氷の弾丸の中を突撃しエスデスに迫る。

 

 わかっていた事実を受け入れて、次の攻撃を脳内で構築し身体に伝える。一瞬でも遅れれば勝利はなく、選択を誤れば拮抗した戦況が覆る。

 目にも止まらない“人外”同士の攻防は残像を残し、まるで舞踏会の様に煌びやかで美しい。お互いの武器である氷と“外装”が太陽光を反射し輝きを撒き散らす。

 光の反射で視界が定まらない。だが、二人には関係のない事、ただ迫る殺気と己の勘によって互いの攻撃を受け流し反撃を繰り返す。

 

 この世界においてタナトスの力は絶対であった。元となった危険種(ヘーシュギア)の絶対性もあるが、タナトス本人の力量もまた人外の領域に……否、神をも殺せる領域に達していた。

 何億何兆年と鍛錬の末の闘い方、同じ過ちを繰り返さないようにと、ただ強さを求めた。

 失わないように、壊さないようにと、護る者が無くなったとしてもきっと何処かでやり直せると信じて……そして、憎き化け物(神々)を殺せるようにと…

 

 執念の化身と化し身につけた彼の長年の技術に食らいつくエスデスもまた同じく闘争という執念に身を委ねていた。

 

 スラッシュギアとサーベルの鍔迫り合い。タナトスは筋力で、エスデスは帝具の能力を利用し、タナトスを押し返す。エスデスが見下ろす形となり、タナトスが賞賛の声をあげた。

 

 

「やっぱ…当たりだ。お前は強い!」

 

「まさか、貴様の力はこんなものか? 

隠してないで見せてみろ。」

 

 

 エスデスの挑発に視線を落とし考え込む。

 

 

「………んじゃ、少しだけ見せてやるさ、“俺達”の力ってやつをな!」

 

 

 タナトスのヘルム下部にヒビが入る。綺麗に避けた顎はゆっくりと周囲の空気を吸い込んで、そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーーーーーーーーーヴァァァァァ!!ーーーーーーーーーー

 

 

 氷界の舞踏会が一匹の咆哮によって終わりを告げた。

 

 空は震え、空気が凶器となって全方位に飛散する。

 たった一回、()の龍が咆哮を上げただけでこの世界は震え上がり恐怖した。たとえソレが自分達に向けられていないと分かっていても……

 

 

「ぐッ!? なんだ……コレは……!!」

 

 

 戦う余裕すら無く、両手で耳を塞ぎ鼓膜を守る。エスデスが作り出していた氷は粉々に砕け、戦場の支配者が切り替わる。

 なんとかタナトスに視線を合わせサーベルを体の前に出して反射的に防御する。

 先ほどよりも強力な力で後方に強く押され風圧がエスデスの背を襲う。

 

 

「正直…驚いたさ、だが‼︎ この高揚……ッ!」

 

 

 受け止めていたサーベルが悲鳴を上げる。

 

 

 顎から紅い息が漏れる。変形した鎧は刺々しく元の姿で見られた龍の意匠は消えていた。がその頭部は紛れもなく龍そのものだ。

 

 

 久しく味わえなかった感覚、相手側からの許可は得たのだ。変異(フェーズ2)位は使ってもバチは当たらないだろ?

 

 

「最高だ!」

 

 

 龍を象った姿で荘厳さを感じていた先程までとは違い、より源である龍種の形に近づいた身体で剣を振り回す姿は最早、一国に仕える“騎士”などではない。

 

 表現出来ない。人でも危険種でもない。もっと違うナニカだった。

 

 タナトスの剣撃は、徐々に苛烈になっていく。今までギリギリで捌いていた攻撃に空の左手も使いだし、足技まで多用し始めた。

 片手だけでも精一杯の攻防に介入した左腕はおよそ人が反応できる速度で対応など叶うはずもなかった。剣を弾き火花散る中で獲物を食らう蛇の様に鮮やかに迫った腕はエスデスの首に食らいついた。

 苦悶の声を漏らし、必死に掴む腕を引き剥がそうと、能力の解放で氷槍を周囲に展開しタナトスに矛先を向けたが……

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 訪れる静寂。エスデスの呻き声以外何も聞こえない。

 

 自身の帝具による攻撃が発動しない。空の色は抜けモノクロになり、漂う氷槍が空中で静止していた。まるで“時間でも止められた様に”

 その瞬間、エスデスは自身の敗北を痛感した。

 

 勝てる筈が無い…と

 

 

「お前は強い。だがそれだけだ。この世界に“奇跡”は存在するが、今のままじゃ“可能性を超えること”なんて出来やしない。

お前の欲望…そんなもんか?」

 

「…………ぐッ、無茶を…言うな………

私の力など……所詮こんな物だ。弱肉強食は自然の…………摂理だ…殺せ。」

 

 

 加える力を弱めたお陰で開いた心から聞けた声にタナトスは心底残念そうなため息を漏らし、首を横に振る。

彼は、弱者も助ければ強者も助ける。詰まる所我儘なのだ。気に入った相手には中途半端に死なれて欲しくない。満足できる最期を迎えさせあげたかった。龍焉ノ騎士団は皆そうなのだ。

 だからなのだろう、今まで以上に命の篭った声でエスデスに語りかける。

 

 

「違う。お前は強い。望むままに生きて手に入れた力だ。その力を振るうことはあれど振るわれることはなかっただろ。あの危険種(デモンズエキス)に囁かれようと、貴様は己を貫いたろう?

 そんな奴が弱者であるもんかよ。」

  

 

 もうタナトスの手に『殺す』という感情は篭っていなかった。今はただ地に落ちないように首を掴んでいる。

 語る相手に殺気を向けているようでは、いつまで経っても未熟なままなのだから……友に呆れられないように彼は己の信念を貫く。

 

 

「……フン、私も買い被られたものだな。まさか貴様に気づかさせるとは……」

 

 

 サーベルがタナトスの左腕を切り落とした。のけぞったタナトスは変異している口で不敵に笑っていた。エスデスも同じ様に先程まで死にかけていたとは思えない程に獰猛な笑みを浮かべ、サーベルを振るう。

 

 

「訂正しよう。私は強い。あまねく全てを蹂躙する! 貴様も私の足元に跪け!」

 

 

サーベルを振り広げ空中を跳躍する。対するタナトスは左腕を切り落とされても、いつもと同じ何処か楽しそうにしながらエスデスの宣言に受けて立った。

 

この勝負はタナトスの負けだ。だが負け戦なら負け戦で楽しめばいい。どうせ次もある。その次だって“きっと”ある。

 

 スラッシュギアを脊椎に戻し、空の右手でサーベルの連撃を弾き続ける。

 攻防は側からみれば“異常”の一言に尽きた。幾ら鎧で身を守っているとは言え、あのエスデス将軍の振るう斬撃を身体でモロに受け止める帝国の騎士、どちらも戦闘のプロである事に変わりはない。無いのだが二人の攻防は常軌を脱していた。視覚で捉える事は叶わず、音すらも置き去りにし、その光景は戦争というカテゴリーに収まる様な生半可な光景では無かった。

しかし、事の中心である二人は何処までも楽しそうに笑っていた。

 




みて気づいたけど、13話が二つもあった。


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第22話 常世を斬る。

お久しぶりです。
こちらもぼちぼち


 

その日、空が荒れた。光が屈折し氷や雨が降り突風が帝都に吹く。既に人がいないがらんどうの帝都の中、建物の一つが吹き飛んだ。もしここに人がいたのなら怪我人や腰を抜かして泣きわめく子供がいたかも知れない。

瓦礫を押しのけて異形の影が飛び出し、続いて追いかけるようにして氷が這い出る。蛇のようにしなやかに対象に追従する。

 

影の主、タナトスは異常な軌道で接近し、速度を保ったまま手刀を振るう。

 対するエスデスも己がサーベルで受け止め、動きが止まったタナトス目掛けて地面からの氷の棘と生成した追尾槍で貫こうとした。

 

 両者人外、極限を超えた競い合い。

 

 棘はタナトスの脚部目掛けて進むが、咄嗟に足を折り寸前で交わした。そのまま延伸力を利用して停滞した空中で回転し動きを惑わした後に尾を利用してつづく攻撃を仕掛ける。

 

 

 弧の軌跡を描いた尾による斬撃、だが通常の一撃と違った。

 金属の擦れる音がエスデスの耳に入る。

 直感で感じた予感に身体を動かす。

 

 キュイィィン と一段と音が速く細かくなった瞬間、エスデスのサーベルが斬り裂かれた。

 

 エスデスの視界に迫る尾が映る。その一瞬、光る尾による目眩し。

 だが軌道は見た。ならば全力で後方へ逃げる。この一瞬を逃せば未知の斬撃がエスデスを襲う。

 

 ソレは『決着』の合図。

 ソレは“敗北”の予兆。

 

 ダメだ。負けられない。喰らいつく。

 逃げるのは辞めだ。空いていた左腕に力を込める。氷によって形作られた棒、防ぐ事など叶いはしないひ弱な武装。

 エスデスは尾と自身の間に大量に生成した。制度など度外視し、とにかく視界一杯に展開した。

 抵抗もなく、氷の棒は裂かれていく。エスデスの胴に迫る一斬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!??」

 

 

 氷の鎧。八層重ねて生み出した防御は寸前でタナトスの一斬を受け止めた。

 

 

「捉えたぞ。」

 

 

 生まれた一瞬、刹那に生まれた驚愕をエスデスは見逃さない。砕けた氷は近辺の周囲に溶け込み隙間という隙間に入り込む。無論…鎧の隙間にも……

 ガッチリと固まった。身体中を固定され身動きが取れなくなった。

 

 

「もらった!」

 

 

 歓喜に満ちた。最強を堕とす事ができる。これ以上の事が起こってたまるものかと、半ば憶測に過ぎない判断であったが、己が想像できる全てでタナトスは反撃の術を持たないはず

 

 氷の武器を周囲に展開する。無数に生み出した一撃の数々、身動きが止まったタナトスにせまる。周囲の攻撃はタナトスの注意を引くための囮、本命の一撃はエスデス本人が決める。自らの手で打ち取る事にこそ価値があると考える彼女の考え方

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

「やるな」

 

 

ザクッとタナトスが分離させた己の腕で氷の刃を受け止めた。本人の躯体から外れ盾がわりに使ったのだ。そして、タナトスの声もいつもと同じ声色だった。

 

 気味が悪い。エスデスから生まれた感情は嫌悪と困惑だった。

 

防御方法もさる事ながらその精神性に畏怖を覚えた。

 彼女が殺した人間は皆、悲しみや悔しさと言った感情があった。

 偶に悔いが無く死を受け入れようとする武人もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、目の前の怪物にはそのどれもがなかった。

 相手に賛美を贈って尚、死ぬ事を何を恐れていない。ただそうである様に受け止め『次』の機会を窺っていた。

 恐怖も無く、覚悟も無い。死に対しての『無』……ありえない。

 

 

    何なのだ?何なんだ貴様は?

 

 

 

 動きの止まったエスデス相手に、体を動かさずただ体勢を変え蹴りを入れた。まるで躯体そのものが武器であるかのように、関節を一切動かさずに回転して攻撃した。

 無論、極低温の中では少しの衝撃ですら致命傷になり得る。事実、エスデスに当てた左足は砕けていた。

 

 もう立つことも難しい。腕は外れ、足は砕けた。残った片方で地に足をつけていた。

 原初の力を宿した帝具は久方ぶりに現れた強者によってその全容を暴かれる。

 

 何者にも穢されず、誰からも畏れられた。結果…殺された・失った

 

 だから次は間違えない。その為の力。全てをねじ伏せ屈服させる力。

 不条理だろうが摂理だろうが、“彼ら”の前では障害にすらならない。

 

 

「ここからは……第二ラウンドといこう。」

 

 

 地が、空が震える。管理者の気配が世を支配する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、タナトスの姿が消えた。そして徐々に近づいてくる金切り音に嫌な予感を覚えるエスデス。

 咄嗟に氷の防壁を生み出しての警戒体勢、予測は当たっていた。

 防壁は崩れ、突撃する塊。防御は不可、交わすほかない。

 直撃を寸前で避けたがあまりの速度に突風が突き抜ける。ソニックブームだ。

 続けて多方向からの連撃が襲う。一瞬で立て続けに迫る不可視の刺突、速度のみで立て続けに起こす。

まるで多人数戦の様に、しかしタナトスは一人。

ただ速度を上げているだけなのだ。純粋なスピード、突き詰めれば時間を支配する“ソレ”を身体能力のみで引き出している。彼が唯一、友の助力なしに辿り着いた極地。

 さらにスラッシュギアによるフレキシブルな攻撃はそれ自体が意思を持つ軟体動物の様に迫る。

 

 

 原初であるが故に全てを持つ神級危険種を素材とした帝具の中の規格外…タナトス

森羅万象に介入し、意のままに作り変え、ルールを司る運営。

 

 

 漸く視界に捉えた最強は身体のいたる箇所が欠損し、生きているとは思えなかった。

 

 なのに、動いている。

 

 受け止める。破損した最強の拳を氷の盾で

 

 力負けし押される、死の結界に、背後に見えた躍動する青白い刀身。

 エスデスは瞬間的に理解した。スラッシュギアによって編まれた刀身の結界に無理矢理押し込もうというのだ。

 

 さて、“結界”と表現したこの状況。常識的におよそ技能だけで行える行為ではない。

 

 帝国大将軍ブドーの帝具も“至高の帝具”も面制圧に特化している。言わば『軍団』に適した帝具。故に範囲攻撃を第一とし、一網打尽にするための攻撃手段に困る事はない。逆に対人戦に置いては無用の長物となってしまう。なので効果を絞り対応させている。

 

 だが、タナトスは違う。

 “今”の力は対人戦に特化している。人間と危険種を想定した徒手空拳に剣技を混ぜた唯の技。言わば瞬間的な『線・点』による攻撃。

 軍団を想定した技など無く、ましてや範囲技など想定できるはずがない。周囲を包み込む斬撃の結界など……

 無限に伸びる尾だろうが、音速越えの拳だろうが、結界の様に取り囲む事など出来はしないのだから……

 

だが事実スラッシュギアの刀身は、編み物の様に絡み合い巨大な結界を形成していた。しかも動いている。今もなお刀身はタナトスから伸びている。

 点も線も世界が認識を超える速度で出せば良いのだ。1秒の間に1億の線を配置すれば逃げ道などなくなる。1秒の間に5千の点を叩き込めばいい。

 そうすれば全くの同時に同じ攻撃が存在できる。正しく神技と言うほかない。

 

 

「ぐゥゥゥッ!」

 

 

 踏ん張る。背後には防御不能の触れれば切断される確殺の刃。

 正しく力押しの極み。凍らせるならそれ以上の速度と力で摩擦熱を出し、防がれるのであれば当たるまで無限に切断する。

 タナトスが長年かけて辿り着いた結論はシンプルな方法だった。

 

 無限を生き、持つ彼だからこそ至った極地。究極の解決策、即ち筋力!速力!(パワーとスピード)

 そこに技を添えて彼のスタイルは完成している。

 故に介在する余地は無く。迫る攻撃を受けるしかない。超スピードと超パワーに裏付けされた確かな《死》は漠然とエスデスを待ち受ける。

 

 諦めるわけにいかない。

 折角帝国最強に認められ“楽しくなってきた”と言うのに、ここで死ぬのは“勿体無い”

 

 だから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

摩訶鉢特摩(まかはどま)

 

 

 瞬間、あらゆる全てが停止した。雲も、砂塵も、空気も、そして……最強(タナトス)すらも

 



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