もう二度と勘違いしない (ホモ・サピエンス)
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勘違いしないでよね、自分のためにな!










 

 

 

 

 

 

「あなたのことが好きです!!!どうか俺と付き合って下さい!!!」

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

 

 

 

 

 

 

俺はその“最悪”の日まで夢を見ていたのだ。

 

 

 

 

 

 

そうあれはたしか今から二週間前、高校の入学式の日の朝のこと。

 

 

まさに春麗らか。

 

 

鳥がさえずり、桜が舞い散り、太陽がさんさんと降り注ぐそんな良い日の事だった。

 

 

俺は一人の女性に告白をした。

 

 

長年の自身の想いを生涯最大級の勇気と共に彼女にぶつけたのだ。

 

 

彼女は時に優しくて、時には厳しい、そして常に真面目、そんな人だった。

 

 

俺の“好み”と言うより、男の“理想(好み)”のような人だった。

 

 

そんな人に惹かれるなんて当たり前、至極当然のことだ。

 

 

 

きっと彼女も俺のことを好きなんだと思っていた。

 

きっと俺のこの想いに応えてくれるとそう思っていた。

 

 

 

 

そう、思っていた。

 

 

 

 

思って・・・・・・・・・・・・・・・・・・いたのだ。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、私はあなたを異性として意識したことなんて一度もないわ。それに今の私にはそんなことをしている暇なんてないの、だからごめんなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

俺の積年の想いは、無残にも散った。

 

 

まるで空に舞う桜の花弁のように。

 

 

無残に、残酷に、無情に、散った。

 

 

 

そのまま彼女は颯爽と歩いて行く、その姿もとても綺麗でいたのもよく覚えている。

 

 

 

対して俺はその場に崩れ落ちるように地面に手をついて泣きそうになっていた。

 

 

頭の中では、「なんでだ!」とか「どうして!」とか色々都合の悪いことを考えた。

 

 

 

理由など今さっき彼女が言ってくれたばかりなのに、

 

 

 

 

その時は本当にうさぎのように穴を掘ってひきこもりたかった。

 

 

真っ直ぐ家に帰って部屋に戻り、涙で枕を濡らしたかった。

 

 

一瞬だけ首を縄でくくってしまおうと思った。

 

 

だけどその日は高校の入学式。

 

 

さすがに初日から遅刻するわけもいかない、

 

 

 

ショックでどうにかなりそうな頭を無理矢理に活動させ、千鳥足で登校。

 

 

 

体育館で先生がたのありがたい言葉を右耳から入れて左耳を通して外に流す。

 

 

自己紹介ではしっかりと自分の名前を言えたも分からず、昔なじみに無理矢理に部活に入部させられてもろくに抵抗せずにしっかりと入部してしまう。

 

 

 

放課後に残ったクラスメートらしき集団が楽しそうに談笑している姿を見ては呪いの言葉を心の中で唱える。

 

 

 

 

 

その日、学校で行う全ての事柄を終えてクラスメートたちが帰ったあと、俺は教室でひとり今日という“最悪”の日をこう締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・もう二度と絶対に勘違いなんてしない!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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妄想力!それは自分を傷つける刃なり!!

「・・・・・・・・・・・・・・・くん」

 

 

 

 

随分イヤな夢を見たなぁ、まああれからまだ二週間しかたってないんだから当たり前といえば当たり前なんだけど。

 

 

「お・・・・・・てよ・・ホク・・・くん」

 

 

 

はあなんて言うか、俺ってイタイやつだったんだなぁ。あろう事か自分が好きな人が当然のように自分のことも好きでいるなんて馬鹿みたいなことを考えていたんだから。

 

 

 

「起きて!ホクサイくん!!」

 

 

耳元で大きい音が聞こえた。いや聞こえたって言うか聞かされたってのが一番適切な表現だけど、

 

 

「はっ!な、なに!」

 

 

その声に驚いていきなり立ち上がってしまう。

 

目に広がったのは最近来るようになった部活の部室、机の上には教科書と落書きのようなミミズが書かれているノートと俺の筆記用具

 

 

そして普段俺以外誰もいない部室にいた一人の女の子

 

 

大きくてクリクリとした茶色の瞳に同じ色の髪を肩にかからない程度の長さで切りそろえた女の子。

 

なんかリスっぽい。

 

 

確か同じクラスの・・・・・・

 

 

「良かったー起きてくれて。大丈夫?随分うなされてたよ。」

 

 

 

「あ、ああ大丈夫。ちょっと夢見てただけだから気にしないで!」

 

 

名前を思い出す前に話しかけられてしまった。えっとえっとなんて名前だったかな?

 

 

は・・・・・・はね?・・・・・・・・・いや?

 

はぐき?だっけ?・・・・・・・・・

 

 

いや違うだろ!なんで歯茎(はぐき)なんだよ!

 

 

「そうなんだ。でも起きていきなりで悪いんだけどそろ そろ下校完了時刻だからそろそろ校門に行かないと。」

 

 

ああそっか。

 

やっと頭が回転してきた。そうだ俺は放課後になって強制に入部させられた(なお入った当時の記憶はない)部活に参加してたんだ。って!!

 

 

「げ、下校時刻!うそぉ?!!」

 

 

壁にかけられた時計を見ると確かに下校時刻になりかけていた。

 

いつから寝てたんだ俺、まったく記憶にない。

 

 

 

「職員室の先生達がね、ここの電気がいつまでも消えないから気にしてたんだよ。」

 

 

 

「そ、そうなのか。いやごめんなさい、何だか手間を取らせたみたいで。」

 

 

「ううん!大丈夫だよ。これもお仕事だから!」

 

 

他称歯茎(はぐき)さんは手を振りながら微笑んで気にしないでと言ってくれた。

 

 

「ん?お仕事?」

 

 

「うん!私これでも生徒会に入ってるんだよ。知らなかった?」

 

 

うん!ごめん全然知らない。

 

 

てかまだ名前すらも思い出せていない。

 

 

えっと、頭文字が『は』なんだよ!そこまでは思い出せてるだけど!ここまで出かかっているだよ!ああ寝起きで頭が動かない〜確か・・・・・・

 

 

 

「え、えっと起こしてくれてありがと。『羽川(はねかわ)さん』!!」

 

 

 

「えっ?」

 

 

「いや、本当に助かったよ『羽川さん』!もうすぐで先生達に怒られる所だったよ〜!あはははは!」

 

 

 

「えっと、えっとね。」

 

 

 

「いやー何?ちょっと勉強しようとしたら眠たくなっちゃってさ。休憩してたらこんな時間になってたよ〜!」

 

 

「あ、あのね!」

 

 

「いやーありがとうございます!『羽川さん』!!あっははははは!!!」

 

 

「あの、私の名前『羽沢(はざわ)』なんだけど・・・・・・・・・」

 

 

 

「あはははは〜っは?・・・・・・・・・」

 

 

「いやだから私の名前は『羽沢つぐみ』って言うんだけど・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

空気が凍りついた。

 

 

てかこの部屋の時が止まった。

 

 

うわぁースゲー承太〇はきっとこんな気持ちになったに違いない。

 

動きたいのに動けないってスゲー怖いなぁ

 

 

 

 

目の前の『羽沢さん』はアハハと苦笑いを浮かべる。

 

 

 

俺も苦笑いを浮かべる。きっと目の前の彼女よりもひどい顔なのは間違いないな、やばい体は全然暑くないのに背中と手から酷い量の汗が流れてきてる。

 

 

「えっ、えっと大丈夫だよ!気にしてないから!そうなんだ私って結構地味でよく名前間違えられることあるから!だから・・・・・・」

 

 

羽沢さんは名前を間違えた俺の事をフォローしようとしてくれてる。なんていい子なんだ!!

 

 

ああ、もう死にたい。こんないい子の名前すらも覚えていない俺なんて、いいんじゃない?もう死んでもいいんじゃない?ねえ!ごーとうへーるしちゃってもいいんじゃない?!

 

 

 

 

「あの!聞いてる?!大丈夫?本当に気にしてないよ!大丈夫だから!ねぇ!聞いてる?あのー?・・・・・・」

 

 

 

そうか今思い知ったよ。俺は勘違い野郎と言うだけでなく、人の名前も覚えない馬鹿野郎でもあったのだ。

 

 

 

 

はあ、これじゃ“あの人”にフラれるのも当然だなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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真面目と天然は紙一重(偽天然は許さない絶対にだ!)

 

 

 

 

 

吾輩はホクサイである。名前はまだ無い。

 

 

「ホクサイくん、もう私本当に気にしてないから!だからそろそろ立って欲しいんだけど」

 

 

「・・・・・・・・・ごめんなさい」

 

 

俺は今、羽丘学園の部活棟の廊下で土下座をしている。

 

 

 

「あのね何度も言ってるけどそろそろ下校完了時刻だから急いで欲しくて、・・・・・・その私もそろそろ帰りたいし、」

 

 

「・・・・・・・・・・すみませんでした」

 

 

目の前のリスのような女の子、羽沢つぐみさんが俺に何か話しかけているようだけど全然聞こえない。

 

 

それは今真面目に、真剣に、熱烈に、土下座の最中だからだ。そう土下座、☆DOGEZA☆である。

 

 

土下座とは相手に恭順(きょうじゅん)の意を示すため、地上に(ひざまず)いて礼をすることだ。

 

こと日本に置いては最強の謝罪の仕方である。※(俺調べによるものなので間違っている可能性は大きい)

 

 

「本当に申し訳ありませんでしたあぁぁ!!!」

 

 

「あ、あのねそんなに謝らなくてもいいんだよ!ほんとに気にしてないからそんなことよりそろそろ本当に時間が・・・・・・・・・」

 

 

「すみませんでしたああぁ!!!」

 

 

 

 

この繰り返しを数回行ってのち、様子を見に来た先生が止めに来てやっと俺達は下校を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

 

気温が下がり少し肌寒いが星空が美しく煌めくこの時間。俺は可愛らしい女の子と共に肩を並べて歩いていた。

 

 

 

外から見れば俺達は仲良さげの恋人同士に見えることだろう。

 

 

 

同じ制服を着た男女が仲睦まじく帰路につく、これぞ思春期男子なら一度は考える(妄想する)絶好のシチュエーション!

 

 

 

テンショが上がって、ウキウキワクワク!そして緊張でドキドキするこの状況!

 

 

 

最高だぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っと以前の俺ならこんな馬鹿な事を考えただろう。ただ今の状況は酷く悪い。

 

 

一つ、俺は二週間前にフラれてる。そんなに直ぐに他の誰かなんて考えられない。

 

 

 

二つ、俺は先程から隣の娘に凄い迷惑をかけたばかりなので別の意味でドキドキしてる。

 

 

 

 

てか何!このすごく気まずい状況!さっきから羽沢さん一言も喋ってないんだけど!!

 

 

俺の愚行を止めてくれた先生に「今日はもう遅いから迷惑をかけたお礼に途中まで一緒に帰ってあげなさい!」と言われしぶしぶ一緒に帰ってる訳だがとてもとても気まずい。

 

 

まあ嬉しかったけども!そうだけども!こんなふうになるに決まってるだろ!!空気呼んでくれよ!!でもありがとぉう先生!!

 

 

 

 

ああ隣の娘も俺のことを迷惑に感じてるに違いない、ああごめんね俺で!ほんとにすんません!

 

 

 

「あ、あのホクサイくん。」

 

「は、はい!なんでせうか!」

 

 

「ん?・・・・・・・・・せうか?」

 

 

「あっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

か、か、噛んだ!なんだよ「せうか!」って!は、恥ずかしいいい!!埋まりたいいいい!!!うさぎになりたいいいい!!!

 

 

 

「ぷっあははははっ!!面白いねホクサイくん!教室にいる時とは全然違うよ!」

 

羽沢さんは口元に手を当ててくすくすと上品に笑った。良かった!笑い話になってくれて!マジ感謝だぜ羽沢さん!!

 

 

「あはははーそ、そう? それで一体どうしたの?」

 

 

「ああ、うん。私この道を右に曲がって真っ直ぐなんだけどホクサイくんは?」

 

 

あれ?いつの間にかこんな所まで来てたのか、もう家まで五分もかからない距離だな。ちょうど横断歩道が赤になって二人で立ち止まる。

 

 

 

「えっと俺はこのまま真っ直ぐ行くけど。」

 

 

ここから右に行くと確か商店街に入るんだったな。商店街、最後に行ったのはいくつの時だったかな?昔“あの人”達と一緒に行ったことがあったっけ?

 

 

「そっか!じゃあここでお別れだね。また明日ね!」

 

 

 

「えっ!ああ!ちょっとまって!・・・・・・・・・・・・・・って」

 

 

 

「えっ」

 

 

って何やってんだあああ!!!ちょっと待つのはお前のほうだろおおぉボケぇぇええ!!!

 

 

「え?えっと何かな?」

 

 

 

 

羽沢さんは小首を傾げて俺の方を見る。

 

 

 

 

うん、なんか言葉に出来ないけどこうゆうの可愛いな!

 

 

 

じゃなくて!困ってるよ!羽沢さん困ってる!何がしたかったんだ俺は!!引き止めて本当に一体何がしたかったんだ!!えっとえっと!!あああぁぁ!!パッニックだ!パニクって何も考えられないいい!!!ああぁぁぁぁー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よく聞いて下さい(いつき)くん。斎くんは慌てると頭が真っ白になってしまいますね?そういう時は手に人という字を書いて飲み込むか、ゆっくりと深呼吸をして心を落ち着かせましょう。大丈夫です、あなたはやればできる子なんですから。』

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。

 

 

思い出した、商店街で“あの人に”言われた言葉。そう俺は慌てるとろくなことにならないんだ。

 

 

 

だから・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「スーーハーースーーハーー」

 

 

 

羽沢さんは信号が変わっても相変わらず俺のことを真っ直ぐ見つめて待っていてくれる。いきなり目の前で深呼吸し始めたら普通「何してるんだろ?この人変だな〜」とか思って逃げても誰も責めないのに。やっぱりいい人だなぁ。

 

 

よし、落ち着いた。

 

 

 

「あ、あのホクサイくん?」

 

 

「羽沢さん」

 

 

「は、はい!」

 

 

俺はゆっくりと頭を下げる、今度は土下座じゃなくて普通に“礼”をするように。

 

 

「今日は沢山迷惑を掛けて本当にごめん。名前を間違えただけでも十分失礼なのに、それに加えて廊下であんなことまでして、本当にすみませんでした。」

 

 

頭を下げ続ける。羽沢さんはどんな顔をしているのだろう。呆れているのか、冷めてるのか、それとも攻めてるのか、ここからだと見えない。

 

 

 

「顔を上げて、ホクサイくん。」

 

 

「は、はい!」

 

 

許しが出たので俺はゆっくりと頭を上げる。

 

 

目に入ったのはこれ以上ないほどの穏やかな顔持ちの羽沢さんだった。

 

 

 

白い光を出す街灯に満点とは言いづらいけどそれでも綺麗な星空をバックに羽沢つぐみさんは穏やかな顔で笑っていた。

 

 

 

なんつうかスゲー神秘的な絵だ、写真に撮って収めたいくらいに。

 

 

 

「大丈夫だよ。さっきも沢山謝ってくれたからもう反省してるって分かってるし、それに教室とは違うホクサイくんが見れて少し嬉しかったんだ、今までは何だか距離がある感じがしたから。」

 

 

「そ、そうかな?俺そんな感じだった?」

 

 

「うん、いつも同じ人としか喋らないから近づきずらくて、」

 

 

まあ、初日から周りの人間に無差別に呪いの言葉をつむいでいたなんて言えるわけないんですけどね!

 

 

 

「だからこれからもっと仲良くしてね。それじゃあまた明日ね。」

 

 

最後に彼女はこっちを向いて笑ってくれた、そして信号を走って渡りそのまま静かに歩いて商店街に入っていった。

 

 

 

 

 

 

逆に俺はその場で叫びたくなった。

 

 

 

ああああー!!!もっと仲良くしてねってなんだよあれぇぇええ!!!勘違いしちゃうだろおお!!

 

くっそーありもしない裏の言葉を探しちゃうだろおおおぉぉ!!

 

 

ああああああああぁぁぁ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

はあぁぁぁ 羽沢さんって天然なのかな?

 

 

 

 

 

 

 



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イケメンは罪である! 罰を受けるべし!!

 

 

 

『私はあなたのことを異性として意識したことなんて一度もないわ』

 

 

 

まただ。またあの時のことを思い出した。

 

 

()()を思い出すたび忘れたいこのイヤな感覚が体の奥底から湧き出てくる。

 

 

いつまでもなれないこの感覚、胸の中になんでも吸い込む穴が空いている感覚。俺の興味も、こだわりも、熱意も全てを飲み込んで、どんなことにも意識を向けられなくなるこのイヤな感覚。

 

 

 

はぁあ朝から強烈な騒音で目を覚ましたみたいな憂鬱な気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を取って身支度を整えるそれから遅刻をしないギリギリを狙って家から出て道路を歩く。

 

 

 

少し風が強いけど暖かくていい天気だ。朝の不快感もこれで少しは楽になったな、いやー良かった良かった!流石にあんな気分で一日は乗り切れないからなぁ〜

 

 

ちょうど人も少ない時間帯だし、今日はこのまま不快感少なく行きたいもんだぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおぉいいい!!!ホオォォクゥゥゥサアアアイイイイ!!!!」

 

 

 

うるさい。

 

 

 

「よっ!おはよう!!ホクサイ!どうした?なんでそんなに朝から元気ないんだよ!ほらほらほらほら!!もっと元気出して行こうぜ!」

 

 

 

うるさい。

 

 

「なぁホクサイ!今日の五限までの英語の課題やったか?!やってたら見してくんない?今日提出するアレだよ俺まったく手をつけてなくてさぁ!ピンチなんだよ助けてくれ!」

 

 

 

うるさい。

 

 

 

「おい!さっきからなんで無視すんだよ!ホクサイ!ホクサーイ!ホークーサーイー!!!」

 

 

 

「うるさいなぁ!静かにしろよ!お前は朝から声がデカいんだよ!ハジメ!!あと、俺のことを大声でホクサイと呼ぶのをやめろ!俺の名前はホクサイじゃない!」

 

 

「お前の声も十分デカいと思うぜホクサイ!」

 

 

やかましい!って言おうと思ったけどやめておこう。(断じてこいつに言われたからじゃない)

 

 

 

 

 

こいつは辻 一(つじ はじめ)

 

 

小学校高学年からの知り合いで今では俺が教室で会話をする唯一の友達だ。

 

 

見たらわかるほどの熱血野郎で運動馬鹿だが、この目鼻立ちが整った顔とその裏表のない性格から誰とでも仲良くなれるコミ力高い系男子であり

 

 

そして男子の少ない部活だがバドミントン部のレギュラー入りをしてもう次期部長に任命されそうな運動神経高い系男子でもある。

 

 

 

「つってもホクサイ、もうお前のことはみんな“ホクサイ”で認識してるんだし別に良くね?俺も今更呼び方変えられねぇよ!」

 

 

 

「良くないわ!そのあだ名のせいで俺の本名知らない奴が沢山いるんだぞ!担任の先生すら俺のことをホクサイって呼び出したんだからな!」

 

 

 

そう!俺の名前は“ホクサイ”では無い。本名は全くの別物だ。まあ確かに名前から一文字取れば北斎(ホクサイ)になるからあだ名としてはいいんだけど、それをどうも勘違いして名前だと思ってる奴がいる。

 

 

 

「まあそんなことより!「そんなこと!」英語の課題だよ、やったか?やったよな!お前ならやってると俺は信じてるぜ!」

 

 

 

「イヤな信用の仕方だな。英語の課題ね、確か昨日の放課後に部室で終わらせ・・・・・・・・・あっ」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

 

「終わってない。」

 

 

 

「ウソだろ・・・・・・マジかよ??!お前が!!いつも暇して勉強しかしてないのに!何があったんだよ!」

 

 

「うるさい!いつも暇とか言うな!昨日は・・・・・・その色々あったんだよ」

 

 

「色々ってなんだ?」

 

 

「まあ、その・・・・・・・・・土下座とか?」

 

 

「土下座?!」

 

 

まあ、隣で頭を抱えながら「ああどうしよう!!」とつぶやいてるコイツのことはいいや。途中まで終わらせてあるから昼休みを使えば何とか終わるだろう。

 

 

 

真っ直ぐにハジメと歩いていくと学校が見えてくる。

 

 

 

 

“羽丘学園”

 

 

俺達が通ってる学校はここの高等部だ。ここは数年前までは女子高だったんだけど最近の少子化にともなって共学化した学校で全校生徒の約八割が女子生徒という少し特殊な学校だ。

 

 

「ってかハジメ、今日はバド部の朝練は休みなのか?」

 

 

「ん?ああ珍しく休みだ!だから今日は家でるギリギリまで寝てたぜ!今日は授業中に眠らなくてすみそうだぁ!」

 

 

 

気持ちが悪くなるほどいい笑顔でハジメは自分のズボラさを見せつけてきた。

 

 

やめろ、ニカ!って笑うな!マンガだとキラリ!って効果音が着きそうなその笑顔を引っ込めろ!思わずお前の顔と俺の握りしめた手でグータッチしたくなるから、マジで!

 

 

そんなアホすぎるやり取りを続けて俺達は教室に着いてドアをガラッと開ける。すると・・・・・

 

 

「あっ!ハジメくん!おっはよう!」「おっはー!待ってたよ辻!」

「おはよう、ハジメ。今日もいい天気ね。」

「お、お、お、おはようございます!辻くん!」

 

 

「ああ!みんなおはよう!」

 

 

 

()()なる。

 

 

 

コイツは勉強は出来ないんだが、それでもイケメンで運動もできる。そしてその底抜けの明るさと、誰にでも平等に接するその優しさのせいですごく女子にモテる。高校入学二週間で“これ”はもう一種の特殊能力だ。

 

 

そのモテっぷりは中学の時のバレンタインであいつの下駄箱とカバンに入り切らないほどのチョコレートを貰っていたのを隣で眺めるしか出来なかった俺がよく知っている。(少なくとも同学年の女子の四分の一から貰っていた)

 

 

まあそれだけなら別にいい、ただモテるだけな。

 

 

ただあいつは・・・・・・・・・めちゃくちゃ鈍い!!とにかく鈍い!!

 

 

あいつは人の好意ってものをまるで理解してない。

 

 

なんなんだこいつはどこの鈍感系主人公だよ!って感じだ。お前はキ●トかよ!それともあれか?●条●麻?!

 

 

ってツッコミを入れなかった俺は偉いと思う。あいつにとってはさっきの挨拶をした女子もアピールではなく本当にただの挨拶にしかとらないだろう。

 

 

頭が痛くなってきた、もうダメじゃん。全然不快感ゼロじゃないじゃん!

 

 

「はぁぁぁあ、じゃあなハジメ。」

 

 

「ん!おお!また昼休みにな!」

 

 

そう言ってあいつはあの女子共(みんな可愛い)に半分引っ張られながら連れていかれた。

 

 

 

 

さてと俺もさっさと席に着いて課題を・・・

 

 

 

 

 

そこで気づいた。俺の席の隣にいる人物。ノートと教科書を机に広げて姿勢正しく勉強をしている女の子。

 

 

 

 

肩ぐらいまで伸ばした茶色の髪を耳に掛け直して、一見したらリスのような印象の娘は、

 

 

 

「は、は、羽沢・・・さん?」

 

 

「え?ああ、ホクサイくん。珍しいね朝から声を掛けて来るなんて。おはよう!」

 

 

「あ、ああ・・・・・・お、おはよう。」

 

 

 

太陽と見間違えるような爽やかな笑顔で羽沢さんは俺に挨拶をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、と、と、隣の席だったのかああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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可愛いに罪はない、なぜなら可愛いは正義なのだから!

 

 

 

 

ワイシャツにネクタイを付けてその上にジャージを一枚はおった、中年の先生が黒板にチョークで数式を書いては読み上げる。

 

 

「なので、ここのxにαを代入すると・・・・・・」

 

 

 

四限の今の授業は数学だ。この授業が終われば学生達が待ちに待った昼休み。

 

 

得意とは言わないが嫌いな科目では無いこの授業、いつもなら集中して先生の話を聞いて板書をノートに写すのだが、今日に限って言えば全然話が聞けていない。

 

 

 

原因は分かってる。

 

 

何とか気を持ち直そうとしてハジメの席を見てみるが、アイツはノートの上にシャーペンを置かないで代わりに自分の頭を乗せて目をつぶりながら規則正しい呼吸を繰り返している。

 

 

 

つか、アイツ!今日は授業中に眠らないって言ってたじゃねえか!はぁぁ。もういい、あの頭の悪いイケメンは放っておこう。

 

 

 

 

隣ではカリカリと板書をとる音がする。一旦音が止まって、またカリカリ。

 

 

 

俺が授業に集中してない原因が板書をノートにとっている。先生が言葉で説明を付け加えると時折、「あ、そうなんだぁ」と小声で感心する声が聞こえ、またノートにカリカリ。

 

 

 

どうしても隣の席の人、羽沢さんが気になってしまう。いや!恋愛的な事ではなく、ただ純粋に昨日のことをどう思っているのか気になっている。

 

 

 

 

てか俺は今までは学校で何を見てきたんだよ!!

 

 

隣の席なんだぞ!隣の席!教室の中で一番近くにいてそして一番長い時間一緒にいるのになんで気が付かないんだよ!

 

 

 

ああくっそ!俺はなんて馬鹿野郎なんだ!

 

 

 

いくら他人に興味がなくても、いくら真面目に授業を聞いて休み時間はハジメと話してたからって普通隣の人の顔ぐらい覚えてるだろ!

 

 

 

なんで昨日は“同じクラス”ってことしか分からなかったんだよ!

 

 

 

アホか俺はぁぁああああああ!!(はい、アホです)

 

 

 

キーーンコーーーンカーーンコーーン

 

 

 

終業のチャイムが鳴る。先生がチョークを持つ手を止めて、

 

 

 

「それじゃあ、ここの途中の問題を次の授業までにやって来ること。それでは」

 

 

と言って簡単な宿題を出して先生は扉から廊下に出る。

 

 

 

クラスメイト達は先程の静寂から途端にガヤガヤと騒ぎ立てる。学食や購買部に走りに行くもの、机を動かして仲の良い友達とお弁当を広げるもの、仲良く談笑するもの、様々だ。

 

 

 

さて俺もハジメを起こして、メシを食べよう。

 

 

 

「つーぐー、ごはんたべよー」

 

 

急に前からのほほんとした声が聞こえてきた。つい目が向いてしまい見てみるとそこには、両手いっぱいの紙袋を持った灰色の髪の女の子がいて羽沢さんに声をかけていた。

 

 

「つぐー!!お昼食べよ!」

 

 

次は後ろから元気ハツラツな声が聞こえてきた。その音源はそのまま羽沢さんの隣まで来て羽沢さんを見下ろしている。いかにもJKをしていますって感じのピンク髪の女の子だ。

 

 

なんというか不自然な組み合わせだ。

 

 

 

「うん!一緒に食べよ!モカちゃん、ひまりちゃん!」

 

 

「どこでたべるー?学食かなー?それとも屋上行くー?」

 

 

「ああ、どうしよっか?どこかすいてる所があればいいんだけど。」

 

 

「それは巴ちゃんと蘭ちゃんが来てからでもいいんじゃないかな?」

 

 

「そうだねーそれにしてもふたりともおそいよーこのままじゃモカちゃんのお腹と背中がくっついちゃうよー」

 

 

 

お前の体内には内臓がないのか!!

 

 

 

って何言ってんだ、隣の会話が面白くてついツッコミを入れちゃったのか?早くハジメを起こして、学食に行かないと椅子がうまってメシが食えなくなる。

 

 

 

「おおーい!みんな!昼飯食おうぜぇ!」

 

 

 

今度は教室の扉から男らしくて大きい声が響いてきた。これもまた女の子だがさっきの二人とは違ってスラッと背が高く赤色が入った髪を背中まで伸ばしたかっこいい系のの女の子だ。

 

 

 

 

 

「おお、巴!待ってたよー!ってあれ?蘭は?一緒じゃないの?」

 

 

 

「実は、蘭のやつ前の授業の世界史のプリントやり忘れたみたいで昼休み終わる前までに終わらせてこいって怒られてた、 まったく言ってくれたら見せてやったのに。」

 

 

「あはは、そこで頼らないのが蘭ちゃんらしいよね。」

 

 

「じゃあ今日は蘭いないのかーちょっと寂しいね。」

 

 

「ねぇえ、はやくパンたべよう。お昼終わっちゃうよー」

 

 

「それもそうだな、早く食べようぜ。どこ行く?」

 

 

 

おっと!そうだ。俺も早く・・・・・・

 

 

 

「ホクサイ!メシ食おうぜ!」

 

 

「お、ああハジメか。睡眠学習はもういいのか?」

 

 

「おうよ!バッチグーだぜ!」

 

 

「何も良くないだろ、てかまずは眠ったことを否定しろよ。それじゃ、学食行くか。」

 

 

カバンから弁当を取り出して、席を立とうとするが。

 

 

「はぁ?なんで?」

 

 

またハジメが意味の分からないことを言い出したな。

 

 

「そりゃ飯食うためだろ。」

 

 

「今日はここで食うだろ?」

 

 

「え?なんで」

 

 

「英語の課題、終わってないんじゃないのか?俺も早く写したいからここで食うぜ。」

 

 

あ、そうか!そう言えばまだ終わってなかったな。それじゃここで「え、英語の課題??!」

 

 

うわ!ビックリした!なんだ?

 

 

 

近くから急に大声が聞こえた。隣を見るとさっきのJKさんが驚きの表情を浮かべていた。

 

 

「今日、英語に課題なんて出てたっけ?!うそぉぉー!」

 

 

 

「ひ、ひまりちゃん?一昨日の授業で先生が話してたよ?聞いてなかったの?」

 

 

 

「ええ!!全然知らなかった!モカは!知ってた?」

 

 

 

「もっちろーん、ワタシはもう終わってるよー」

 

 

「モ、モカが?つ、つぐは終わってる?」

 

 

 

「わ、私も終わってるよ。ひまりちゃん。」

 

 

 

「えー!!どうしよう!とーもーえー!!」

 

 

 

「いやいや、私は違うクラスだぞ。ひまり。」

 

 

 

うお、スゲー表情が次々変わっていくなぁ。なんというか感情と表情が直結してるって感じだ。

 

 

周りはそんなJKさんを見て、アハハと笑っている。

 

 

じゃあ俺は手早く課題を終わらせてゆっくりと弁当を食べよう。今日のおかずはなんだろ?コロッケか?それとも鮭の塩焼きか?・・・・・・

 

 

「んじゃあ!俺たちと一緒に課題やらないか?一緒にやればその分教え合えるしさ!」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っは!!??

 

 

 

 

 

な、な、な、何言ってんだこのイケメンは!!!

 

 

 

「コイツさぁ!こんな感じで人当たり悪そうだけど頭はいいんだよ!だからわからない所は教えてくれるぜ!なっ!ホクサイ!」

 

 

「なっ!」じゃねえよ!アホ!

 

 

そしてお前さりげなく人当たり悪そうとかいいやがったな!ってそうじゃない!

 

 

 

「お、おい!ハジメ!いきなり何言ってんだ、お前!」

 

 

「はぁ?なにか変なこと言ったか俺?俺も困ってる、あの子も困ってる、なら同時に解決した方が手っ取り早いだろ。」

 

 

 

ああぁぁぁ!そうだコイツはいつもこんなんだった!

 

 

あのですね!俺はいつもの様に静かに昼飯を食いたいんだよ!静かに、穏やかに、いつも通りに!

 

 

 

いや、まだだ!まだ一緒に食べるとは決まってない!羽沢さん達が断ればそれで・・・

 

 

「いいの!ありがとう!みんなも今日はここでもいい?」

 

 

「いいよーモカちゃんはパンを食べれればそれで良いのだー」

 

 

「あたしも大丈夫だ。つぐはどうする?」

 

 

「私も平気だよ!みんなでお昼、嬉しいな!」

 

 

ああくっそーオワター俺の平穏な昼休みが終了したー

 

 

「おお!てなワケでよろしく頼むぜ!ホクサイ!」

 

 

やめろ、その満面の笑みを浮かべるのを今すぐやめろ。

 

 

つい衝動的にお前の腹と俺の全力で握りしめた拳でグータッチしたくなるから、本気(マジ)で!!

 

 

ちくしょう!俺の高校生活・・・・・・幸先が悪すぎませんかねぇ?!!

 

 

 

 

 

 



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優しい幼なじみが欲しい人生でした。




今回は少し長めです




 

 

 

えーと次の問題は、「下線部のitの意味を日本語で説明しなさい。」っか、このitは前の文章のことを指しているから・・・・・・

 

 

「ええー!!ハジメ君って、本当にバドミントン部の先輩全員に勝っちゃったの?!」

 

 

「いやいや!全員じゃないよ。部長には勝てなかったんだ。いやーあの人マジで上手いんだよ!」

 

 

 

「それでも一年生で先輩に勝てるってのがもうスゲーよな!ウチのバドミントン部、特別に弱いわけじゃないだろ。」

 

 

「カレーパンおいしい〜」

 

 

 

良し、次の問題は文章の和訳問題か。まずは主語と動詞を見つけて・・・・・・

 

 

 

「へえーテニスだとそういうふうにやるのか。やっぱバドとは違うな!勉強になるよありがとう!!」

 

 

 

「えへへーそう?ハジメ君にそう言って貰えると嬉しいな!」

 

 

 

「二人の話を聞いてたら私もなにかスポーツ初めてみたくなってきたなぁ」

 

 

 

「メロンパンおいしい〜」

 

 

 

ん?この問題、どう訳せばいいんだ?うーん?

 

 

 

「ホクサイくん、その問題はkeepを“保つ”じゃなくて“持つ”にして訳すとキレイな日本語に出来るよ。」

 

 

 

「え?あ、本当だ。ありがとう羽沢さん。」

 

 

 

「ううん、気にしないで。私もそこの問題難しいって思ってたから。」

 

 

 

さすが羽沢さん、優しいなぁ。それにしても意外に早く課題が片付いたな。よしよし、さて弁当を食うか。

 

 

 

 

「・・・・・・ってそしたらひまりがさぁ!」

 

 

 

「きゃぁぁぁ!!やめてやめて!巴ストップ!ストーップ!!」

 

 

 

「あははははは!!」

 

 

 

「チョココロネおいしい〜」

 

 

 

「んー?この問題どうすればいいんだろう?」

 

 

 

隣で羽沢さんがシャーペンでノートをつつきながら、数学の教科書を(せわ)しなくめくっていた。

 

 

 

あの問題はたしかもう予習してあったな。小さい引っ掛け問題だけど言われないと気づかないんだよな。

 

 

 

「羽沢さん、その問題は2でくくらないで先にxでくくった方がやりやすいよ。少し手順が増えるけどその方がいいと思う。」

 

 

 

「えっ?・・・ああ!本当だ!ありがとう!ホクサイくんって頭いいんだね!」

 

 

「いやいや、さっきのお礼みたいなもんだから気にしないで。」

 

 

 

「サンドイッチおいしい〜」

 

 

 

さてさて、お弁当の具材はなんだろうな〜と・・・おお!ミニハンバーグ!珍しいなウチのオカンに何かいい事でもあったのか?

 

 

 

じゃあ早速このハンバーグを「おい!ホクサイ!!」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チッ

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ、なんかようか?ハジメ」

 

 

 

「なんでお前は話に混ざらないで勉強してんだよ!」

 

 

 

こいつは一体何を言っているのだろう?

 

 

 

勉強する理由を数分前に自分で言っていた気がするんだけど

 

 

 

「つぐもそうだよ!なんでご飯食べてないの?!」

 

 

 

「え?で、でもひまりちゃん?さっき・・・」

 

 

 

「モカも話に混ざってよ〜!私たちだけで話しててなんだかやりずらいよ〜!」

 

 

 

「ひーちゃんあたし喋ってたよ?」

 

 

 

「パンおいしいしか言ってないじゃん!」

 

 

 

「ざーんねーん。チョココロネとサンドイッチにはパンって文字は入ってないんだよ〜」

 

 

 

「でもパンじゃん!巴もなにか二人に言ってよー!」

 

 

 

JKさんが赤毛の女の子の肩を掴んで体を揺らしているが、赤毛の女の子はアハハーと笑って誤魔化している。灰色の娘は袋から出したドーナツを食べてご満悦のようだ(一体いくつ食べる気なんだろう?)

 

 

 

先程自己紹介してもらったので全員名前は知っている。

 

 

JKさん改め、上原ひまりさん。良く会話を回してくれて、表情がコロコロ変わる人だ。何となく子犬みたいな感じがする。なんだっけアレ?ポメラニアン?みたいなそんな感じだ。(ハジメと気が合いそう)

 

 

赤髪のかっこいい系の女の子は宇田川巴さん、見た目通りの男勝りな性格なのに良く周りの人を見てる。なんか同い年に見えない。この人は鷲かな?スラッとしてて、でも弱々しいわけじゃない。引き締まってるって言うのかな?

 

 

 

最後にパンを食べ続ける灰色の娘は青葉モカさん、ゆっくりとマイペース。自分の歩幅をずらさないって感じの人だ。この娘はパンダだな。うん、パンを食べる姿とパンダがササを食べる姿がそっくりだ。

 

 

 

さっきの三人と羽沢さんそれからもう一人いるらしいが全員幼なじみでずっと仲良くしてきたらしい。

 

 

 

いいなぁ、俺もこんな優しそうな人達が幼なじみだったら良かったのに・・・・・・・・・・・・嫌なこと思い出した。

 

 

 

それはともかく、ハジメのヤツ大丈夫なのか?もうそろそろ始めないと間に合わないと思うんだけど。

 

 

 

「なぁハジメ、そろそろ昼休みが・・」「あ、そうそう!私、聞きたかった事があるんだ!」

 

 

上原さんの言葉が俺の言葉を断ち切る。なんだろう?

 

 

「ホクサイくんってどうして『北斎(ホクサイ)』って呼ばれてるの?」

 

 

 

おお!上原さんはこのあだ名を本名と勘違いしてない!いやー嬉しいね!ふむふむ気になるなるほど!だけど本当の理由は恥ずかしいので単純に名前の省略だと言っておこう。

 

 

「えっとそれは・・・」「ああ!それな、理由がちょっと面白いんだよ!」

 

 

 

ハジメは黙ってろ!

 

 

ちくしょう、なんで上原さんに話を止められても腹が立たないのにハジメに止められるとこんなに腹がたつのだろう?

 

 

てかやめろ!絶対に、確実に、100%気まづくなっちゃうから!

 

 

 

「いやー実はハジメには幼なじみがいるらしくて子供の頃、その人と一緒に絵を描いてたんだって、そしたらその幼なじみの人がホクサイの描いた絵を『北斎(ホクサイ)の絵みたい!』って言ってくれたんだって。それでコイツ嬉しくなっちゃって次の日に学校で自分の絵を自慢して回ったんだよ!その時は北斎の絵がどんなもんなのか見たこともないのにさぁー!!あっははははは!」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと、」

 

 

 

 

「へ、へぇー」

 

「そ、それは〜」

 

「チョコドーナツおいしいー」

 

 

 

 

本当によく回る口だな!もうほんとに黙っててくれよ!いや、黙っててください!ほら見ろ!あまりの馬鹿っぷりにみんなが黙っちゃったじゃないか!どうすんだよ!おい!ハジメ!気づけ!笑ってるのお前だけだぞ!

 

 

 

「ホ、ホクサイみたいな絵って凄いね!ホクサイくんは絵も上手なの?」

 

 

 

あまりの気まづい感覚に耐えかねた羽沢さんが俺に話しかけてきた。本当にこの娘は人のフォローが上手いな、でも今だけはやめて欲しかった、すごく泣きたくなる。

 

 

 

「アハハ、いや、別に絵は上手くないよ。その人がテレビで見た北斎の絵と印象が似てただけで絵自体は下手くそだったよ。まあ、あの人の感性も少しおかしいんだけど

 

 

 

ああもうダメだ心に傷が出来た。泣きたい、ウミガメのように泣きたい。

 

 

 

 

「そう言えばさぁ〜ひーちゃんとハジーくんは英語の課題はいいの?」

 

 

 

ずっと「パン美味し(うまし)」しか言ってなかった青葉さんがここに来て初めて会話を切り出した。ハジーくんってハジメのことか?

 

 

そして上原さんがカチンと動きを止めて、机の上に置いてある、真っ白いノートを見る。

 

 

 

昼休み終了まで約10分、普通にやったらまず間に合わない。

 

 

 

「つ、つぐーー!!助けてぇぇーー!!」

 

 

「ダメだよ、ひまりちゃん!自分でやらないと意味ないんだから!」

 

 

 

「そんなぁー!ひどいよつぐー!」

 

 

「ほら、手伝うから一緒に頑張ろ?」

 

 

羽沢さん厳しい!てっきり、見してあげるのかと思った。

 

 

「ホクサイ見して!」

 

 

「断る」

 

 

「なんで?!!」

 

 

 

どうしてこの流れで見してやると思ったのかが疑問だ。人のことをベラベラ喋りやがって。

 

 

俺がどれだけ心の傷をおったと思ってんだ。見せてやらねぇ!

 

 

 

あ、このハンバーグうまいな!少し気分が良くなった。おい!ハジメ!いくらこっちを見ても課題は見せないしこのハンバーグもやらないぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局上原さんは羽沢さんの決死の努力によってギリギリ提出に間に合ったのだがハジメは早急に諦めて放課後に教室に居残った。(ハジメハーレムのメンバーも居残った。)

 

 

 

 

 

 

 



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上は洪水、下は大火事これなーんだ。答え大災害!

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・むっ・・・・・・朝か」

 

 

 

カーテンから日差しが入りこんでくる。外からはスズメのさえずり聞こえ、家の中からは水が流れる音や食器が動く音が聞こえる。

 

 

目を動かして壁にかかってる時計を見る、現在の時刻AM8:30

 

 

 

思ってたより早く起きた、まあもう一回寝ればいいか。なんてったって今日は土曜日だ。いくら寝ても誰にも怒られない!控えめに言って最高だ!!

 

 

はぁー今日は10時まで寝たらその後少し勉強して、昼飯を食べてそしてまた、勉強しよう。そのあとは〜部屋で〜ゴロゴロ〜する〜

 

 

 

 

 

 

誰にも邪魔の入らないこの感覚、はぁぁぁ至福だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っドバン!!!!

 

 

「どっかああああああああん!!!!」

 

 

「うわあああああああああ!!!!な、なに!!?」

 

 

強烈な勢いで開いたトビラから一人の女の子が俺の部屋にやって来た。な、なんでよりにもよってこの幸せな日にこの人が来るんだ!!この人が来るならハジメが来た方がまだマシだ!

 

 

 

「アッハハハハハハハハ!!おはよう!ホクサイ!」

 

 

ヤツは腹を抱えながら俺の事を笑って、笑いすぎて目尻に涙を浮かべている。

 

 

 

薄青の髪をショートカットにしているその人は俺の知りうる限り最強の天才(天災)氷川日菜だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷川日菜は俺の一つ年上の幼なじみというやつだ。

 

 

彼女とは小さい頃から良く遊ばれた。というのも、ウチの両親が出張が多かったため小さかった俺は良くお隣の氷川家に預けられる事が多かった事が理由だ。

 

 

 

俺はそこで様々なトラウマを受け取った。

 

 

 

例えば一つ絵を描けば不名誉なあだ名を付けられ、またはおままごとで泥団子を本当に口に突っ込まれたり、さらには三輪車で引かれる。などなど正直もう散々である。

 

 

 

それでもそんな奇行は小学校までで中学に入ったら随分穏やかになり、俺もある程度のことを自分でやれるようになったから氷川家にお邪魔することも無くなったのだが・・・・・・

 

 

 

 

「はあぁー面白かった!すっごいるん!ってしたよ!さすがホクサイだね!」

 

 

 

「それ褒めてるんですか?氷川先輩?」

 

 

 

「むうううーー!その『氷川先輩』ってのはダメ!全然るん!ってしないもん!」

 

 

どうやら気に入らないらしい、でも実際高校の先輩だし なぁ。

 

 

 

「昔みたいに『日菜ちゃん』って呼んでよ!」

 

 

 

「嫌だよ!恥ずかしい!」

 

 

 

この人はいきなりなんてこと言い出すんだ!やめろ、そんな目で見るな!ブーたれても絶対に呼ばないからな!

 

 

 

「それで氷川先輩」

 

 

「日菜ちゃんって呼んで!」

 

 

「氷川先輩」

 

 

「日菜ちゃん!」

 

 

「氷川先輩!」

 

 

「ひーなーちゃーんー!!!」

 

や、やめろ!腕をバタバタ動かすな!なんなんだよー!呼び方なんてなんでもいいだろ!なんで気に入らないんだ?あぁじゃあ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ひ、日菜先輩?」

 

 

 

「うーーん、る〜んって感じだけどまぁ今はそれでいいや」

 

 

どうやら悪くないけどもう一歩って感じらしい。

 

 

「それで日菜先輩、何か用があったんじゃないの?」

 

 

 

「ああ!そうそう!ホクサイ今日はどこ行く?」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

待て、まぁ待て。落ち着け俺、そうだ素数でも数えるか。えーと2、3、5、7、11、13、17、・・・

 

 

 

「ねぇねぇホクサイ無視しないでよ。あ、どこ行くのか考えてるの?」

 

 

 

「考えてねぇよ!!いきなり何言ってんだアンタ!今日はどこにも行かねぇよ!」

 

 

 

「えええ!!なんでなんで?!おかしいよ!」

 

 

 

おかしいのはアンタの頭だよ!なんでだ?なんで今日はこの人と出かけることになってんだ?そんな予定入れたか?いや、絶対に入れてない!俺はこの一週間で最強のこの日には絶対に外に出かける予定を入れたりしない!

 

 

 

「なんで俺が出かけなきゃ行けないんだよ!そんなこと一体誰が決めたんだ!」

 

 

 

「え?私だけど?」

 

 

 

「帰れ、俺は寝る。」

 

 

 

布団に入って目を閉じる、耳栓もしたいところだけど今はないものねだりしてもしょうがない。

 

 

 

「ええーー!なんでなんで?お出かけしようよーー!!ねえねえ!」

 

 

 

俺の肩を掴んで揺らして来るけど無視だ無視。流石のこの人でも諦めるだろう。

 

 

 

「ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

「ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

「ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在の時刻PM1:00

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなったのか?

 

 

 

 

 

 

俺は今街にある大きめのデパートに来ていた。もちろん隣には天災(氷川日菜)がいて、俺の手を握りしめてあっちに行ったりこっちに行ったりと、俺を振り回している。

 

 

 

 

なんのつもりなんだ?買い物ぐらい独りで行けばいいのに、なんで「こっちの服とこっちの服どっちの方がるんってする?」っていちいち聞いてくるんだ?

 

 

 

あ、また服屋入るのか、これで三件目だよ。

 

 

 

 

「ねえホクサイ!この右の服と左の服どっちの方がるんってする?あたし的には右の方が好きなんだけどホクサイはどっち?」

 

 

 

日菜先輩の両手にはそれぞれ別の服が握られている。右が暗いクールな印象の青いチェック柄の服、左は清潔感のある白地に小さい花の刺繍が入ったの服

 

 

 

「いちいち俺に聞かないで自分の好きな方を買えばいいじゃん。別にどっちでもいいよ」

 

 

 

「ええーホクサイが選んでよー」

 

 

 

「なんで?」

 

 

 

 

「・・・・・・ホクサイに選んで欲しいの」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

その真剣な顔はやめて欲しい。どうしたって似ているから、“あの人”に。どうしてもあの時を思い出してしまうから。

 

 

 

 

「・・・・・・はぁどちらかって言えば左かな?左の方が日菜先輩に合ってると思う。」

 

 

 

俺がそう言うと日菜先輩はもう一度服を見直して、

 

 

 

「そっかぁーホクサイはこっちなんだ。うん!やっぱり面白いね!じゃあコレ買ってくるね!」

 

 

 

「ええ!本当に適当に選んだだけなんだけど?!いいの!!」

 

 

 

「いいよ!だってホクサイが選んでくれたんだもん!」

 

 

 

日菜先輩は右手の服を元に戻してスキップしながら白い服を握りしめてレジに向かった。

 

 

 

 

ふむ、やっぱり分からない。

 

 

 

 

まぁあの人は天才(氷川日菜)だからな俺達には想像も出来ない思考をしているんだろう。考えるだけ無駄だな。

 

 

 

 

 

 

デパートの帰り道、俺は日菜先輩が買った物を持って歩道を歩いている。

 

 

 

先程とはうってかわり、日菜先輩はうつむいて黙って歩いている。時折視線を感じるから何か話しかけようとしているんだと思うんだけど、一向に話しかけて来ない。

 

 

 

なんなんだ?いつもならもっとストレートに聞いてくるのに。

 

 

 

 

「ホ、ホクサイ。」

 

 

 

「んーなんすか?日菜先輩」

 

 

 

「そ、そのこの前のお弁当、」

 

 

 

べ、弁当?なんの事だ?

 

 

 

「弁当がどうかしたんですか?」

 

 

 

「あ、いや、その、あの」

 

 

うーとかあーとか言って全然会話になってない。

なんだろう、煮え切らないこの感じ。イライラしてきた。

 

 

 

「なんなんだよ、ハッキリ言ってくださいよ!」

 

 

 

少し強い口調で喋ってしまう。それでも日菜先輩はうつむいたままだ。

 

 

 

「・・・・・・・・・ハンバーグ

 

 

 

 

「何?聞こえない?」

 

 

 

「だから!ハンバーグ!入ってたでしょ!!」

 

 

 

「え、ええまあ入ってましたけど」

 

 

なんでこの人は俺のうちのお弁当事情知ってるんだ?

 

 

 

「ど、どうだった?美味しかった?」

 

 

 

「え?はい美味かったですけど」

 

 

 

ガバッ!

 

 

 

 

急に日菜先輩がうつむいていた顔を見上げてこっちを見つめてきた。な、何?怖い

 

 

 

 

「本当に?嘘じゃない?本当の本当に?」

 

 

なんだ?なんでそんなに気にしてるんだ?

 

 

「ええ、まあお弁当なんで冷めてましたけど十分に美味かったですよ。」

 

 

 

「そっか、そっか、そっかぁー!!美味しかったんだぁー頑張って良かったぁ

 

 

 

んー?なんか機嫌が良さそうだな。なんだ?ウチのハンバーグが美味しいと日菜先輩になにかいいことがあるのか?はっ!なるほどねぇ・・・・・・

 

 

 

「そんなに食べたいなら今度ウチのオカンに頼んで作って貰うよ。」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っは?」

 

 

 

「いや、だからそんなに食べたいなら頼んでおくって言ってる・・・・・・」

 

 

 

なんだ?日菜先輩の機嫌が急降下したみたいだ、さっきまで機嫌良かったのになんで?!

 

 

 

 

「ホクサイの・・・」

 

 

 

「ん?なに?」

 

 

 

「ホクサイのバカアアアァァァー!!!!!」

 

 

えぇぇ??

 

 

顔を赤くして日菜先輩が荷物をそのままに走って帰ってしまった。

 

 

 

 

訳が分からん。(いつもの事)

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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あなたが読んでる小説は全年齢対象です(前編)



長くなってしまったので前半後半に分けました


 

 

 

 

 

 

 

 

確か、(かみなり)の語源って神鳴り(かみなり)から来てるんだよなぁー

 

 

 

どうしていきなりこんなこと考えてるのかというと今のこの状況を考えないようにするための現実逃避だったりする。

 

 

 

この状況、つまり

 

 

 

なぜか放課後のとある教室に俺と羽沢さんの二人でいるというこの状況。

 

 

 

羽沢さんは俺の背中に顔をうずめて、両腕を俺のお腹に巻き付けるこの状況。

 

 

 

さっきから学校の廊下なのに周りの人の気配を感じないこの状況。

 

 

 

 

そして・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

ゴロゴロゴロゴロ・・・・・・・・・ドォーン!ドォーン!ドゴォーン!!

 

 

 

 

 

「きゃああああ!!!」

 

 

「おぉ、これはまた近いなー」

 

 

 

窓の外では建物も丸ごと吹き飛ばしてしまいそうな雷鳴と、滝のように豪雨が降るこの状況。

 

 

 

 

「ホ、ホクサイくんゴメンね私のせいで・・・グスっ」

 

 

 

少し泣いているのか、羽沢さんは鼻を鳴らしながら俺に話しかけてくる

 

 

 

「は、羽沢さん。今は何も喋らないでくれ、頼むから!」

 

 

 

え?っという声が聞こえるがなんの反応も出来ない。羽沢さんの涙ぐんだ声を聞く度に理性が消し飛びそうになる。

 

 

 

我慢だ我慢!我慢しろ!俺!落ち着け、冷静に、穏やかに、無心になれ、無我の境地だ!

 

 

 

 

はあぁぁぁぁどうしてこんなこと(状況)に。

 

 

 

 

 

●●●●●

 

 

 

 

 

 

「今日は朝から雨が降ってて気温が低いから風邪をひかないように気をつけてねーそれじゃ日直さーん」

 

 

「きりーつ」

 

 

担任の先生からありがたい言葉を頭半分で聴きながら立ち上がる。

 

 

 

「れーい」

 

 

「「「あっザーしたー」」」

 

 

 

クラスメイト全員で気の抜けた挨拶をするが担任も慣れたのか気に止めることなく教室から出ていく。

 

 

 

さてさて俺も雨が強くなる前に帰るか。

 

 

 

「おーい!ホクサイ!お前に客だぞー」

 

 

ハジメの大きな声が教室に入ってくる、俺に客?誰だろう。このクラス以外に知り合いなんてこの前知り合った宇田川さんぐらいだぞ。

 

 

 

「うーい、今行くー」

 

 

 

 

ハジメはそのまま走って部活に行ってしまう。

 

 

どうでもいい事だが男子バドミントン部は顔と性格と運動神経のいいハジメを目の敵にして「絶対にヤツを倒して、ダサい所を見せつけてやる!」と一致団結して練習に励むようになったそうだ。

 

 

 

頑張ってくれよバドミントン部!俺もあいつが恥をかく姿が見たいからな!

 

 

 

 

ハジメが出ていった扉から廊下に出ると以外な人がいた。

 

 

 

なんと天災(日菜先輩)の降臨である。

 

 

 

 

思わず手から荷物が落ちそうになった。

 

 

この人、二年生だよな?なんでこんな所にいるんだ?ヒマなのか?あ、なんかニヤニヤしてる。これは何かたくらんでる時の顔だ、なんだろう嫌だなぁ怖いなぁ

 

 

 

「ど、ど、どうしたんですか?日菜先輩?俺に何か用ですか?」

 

 

 

日菜先輩はニヤニヤした顔で体を軽く左右に揺らしながらその小さい口を開いて、

 

 

 

 

 

「えへへへへーえっとね、・・・・・・来ちゃーった☆」

 

 

 

 

 

 

日菜先輩は自分の両手の手首を顎まで持ってきて可愛くウインクしながらそんな恥ずかしいセリフを読み上げた。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、ソウスカ。」

 

 

 

「えぇぇ!!なんでそんなに冷めた反応なの?!!」

 

 

 

何言ってんだこの人は?それに質問の回答になってないだろ。なんでって聞いてるのに来ちゃいましたって返答はおかしい。そりゃ来てるだろ。だからこっちは質問してんだろ。

 

 

 

「ねぇあれ、氷川先輩じゃない?」

 

「あ、本当だ!あの天才少女の氷川日菜さんだよ!」

 

「うわーすごーい!綺麗な人ー!」

 

「テストで毎回100点とるんだって!」

 

「そうそう先輩から聞いたんだけど美術部でもないのに風景画で賞を受賞したんだって!」

 

「うわーさすが天才さんだね!」

 

 

 

おうおう、すごいすごい。廊下の人間の目線を全て集めてる。本当に流石天才(氷川日菜)様だよ。

 

 

 

氷川日菜は紛うことなき天才だ。

 

 

 

俺は、いや“俺達は”それをよく知っている。

 

 

一度見たものはすぐに記憶し、理解し、学習する。

 

 

大抵のことなら一度見ればすぐに再現し、二度目にはそれすらも乗り越える、それを全て理屈ではなく感覚で行っているのだ。はっきり言って普通じゃない。

 

 

 

まぁ本人には本人なりの悩みがあるそうなのだが、それはいいや。

 

 

 

 

「んで、なんかようすか?」

 

 

 

これならイチコロって言ったのに、リサちーのバカ!もういいやーホクサイ部活一緒に行こ?」

 

 

 

「え?・・・・・・・・・・・・それだけ?」

 

 

 

「え、そうだよ?」

 

 

 

その為だけにここまで来たのか?やっぱりこの人は暇なんじゃないか?

 

 

 

「へいへいじゃあ行きましょうかー」

 

 

 

「うん!一緒に行こう!」

 

 

 

まるで花が咲くかのような笑顔を日菜先輩は向けてくれた。

 

 

 

 

さっきのよりこっちの方が可愛いな、調子に乗るから絶対に本人には言わないけど(恥ずかしいからでは無い)

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は部活棟の『天文部』の部室に来ていた。今では二人しかいないこの部活だが昔はそれなりの活動をしてたらしい。らしいって言うのは、まぁ部屋に置かれた部日誌見ただけなんだけど。

 

 

 

部屋は小さい。

 

中央にあるのは一つの長机に壁に立てかけられた折りたたみ式の椅子。本棚には星について書かれた本や、写真集それから先代が残した部日誌のノート。

 

 

 

日菜先輩は立てかけられた椅子を一つ出して机の傍に座る。

 

 

 

「ところで日菜先輩は今日は用事がないんですか?」

 

 

 

そうこの人は俺を入部させたあと、バイトか何かを始めたらしくて部活に来ていなかったのだ。だから俺は一人でこの部室で勉強してただけで部活動なんて一切やってない。

 

 

 

 

「ううんあるよーもうあと10分もしたら行かなきゃ行けないだーはーめんどくさいよー」

 

 

 

「だったらもうその用事ってやつに行けばいいじゃん」

 

 

 

「それはダメだよ、ここじゃないと二人になれないんだもん」

 

 

 

この人は二人になって一体何をするつもりなのだろう。新手の嫌がらせか?それとも別のイタズラか?流石にカツアゲはないと思うけど、ついつい顔をしかめてしまう。

 

 

 

「その顔ひどいよー別になにかしたりしないって。ただ一緒にいてくれればそれでいいの。・・・・・・・・・それだけでいいの。」

 

 

 

俺も日菜先輩に習って椅子を出して机を挟んで日菜先輩の前に座る。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・それだけでいいなら。」

 

 

 

 

 

 

 

この人は変わったな。小さい頃は俺を振り回していおもちゃみたいにしてたのに今ではそれもしない。

 

動物園にいるじゃれてる子供のライオンが野生のライオンになったみたいだ。

 

 

調子が狂うけど俺の平穏が保たれるなら別にそれでいいか。

 

 

 

まあその後は何も無く10分が過ぎた。日菜先輩は「じゃーねーまた明日ー」と言って部室から出ていき、部室では俺だけとなった。

 

 

 

今日はここに寄らないでそのまま帰るつもりだったんだけどここに来ちゃったからなぁ勉強でもしてから帰るか。

 

 

 

ここで勉強するのは凄くはかどるから好きだ。狭い空間に一人、吹奏楽部の練習がいいBGMになってよく集中出来る。

 

 

 

さてさて今日は数学と化学の授業が難しかったからそれから復習するかーよし!やるぞ!

 

 

 

 

ふむふむ、pH(ペーハー)って言うのは酸性とアルカリ性の度合いをしめす言葉なのか、なるほど、よしよし

 

 

 

 

「・・・・・・・・・ホ・・・くん」

 

 

 

 

中性が7でそれ以上だとアルカリ性、それ以下だと酸性か

 

 

 

 

「ホクサイくん?」

 

 

 

 

単純な電池の構造はこうなのか。なるほど

 

 

 

「ホクサイくん!」

 

 

 

「うわああ!な、何?!!」

 

 

 

俺のすぐ横に立っていたのは俺の教室では隣の席の羽沢さんだった。

 

 

は?な、なんで羽沢さんがここに?!え!まさかまた下校時刻になっているのか?!や、ヤバい!また迷惑をかける!

 

 

 

急いで壁についてる時計を見ても来てから一時間しか立っていない、時間にはまだ余裕があった。

 

 

 

あ、あれ?じゃあほんとになんで?

 

 

 

「ごめんね勉強してる最中なのに、あの氷川先輩って今部活に参加してるかな?」

 

 

「え?日菜先輩に用事?」

 

 

 

「う、うんそうなんだ。実は部費の決算報告が提出されてなくて、会計さんに様子を見てきてくれって頼まれて」

 

 

 

「えぇー何やってんだよあの人は」

 

 

 

少し大人しくなったと思って関心してたのに後悔してきた。

 

やっぱりこの自由奔放な所は何も変わってない。

 

 

「ご、ごめん、実は日菜先輩用事があるらしくてもう帰っちゃったんだよ」

 

 

「そ、そうなんだ。こっちこそ邪魔してごめんね。会計さんも優しいから言えば待ってくれると思うから大丈夫だよ」

 

 

「ほんとにウチの部長がすみません」

 

 

 

俺が椅子から立ち上がって羽沢さんに軽く頭を下げる。羽沢さんは気にしないでと笑ってくれた、

 

 

「もしかしたら探せばその提出物が見つかるかもしれないなぁ」

 

 

俺はそう言ってさして広くない部室の奥の方に進む。

 

 

 

 

その時、

 

 

 

 

窓の外で雷が鳴り出した。

 

 

 

 

「きゃああああ!!」

 

 

 

うわ!ビックリした!雷よりもその悲鳴に驚いた。

 

 

 

「は、羽沢さん?大丈夫?」

 

 

傍に近寄って見ると羽沢さんはその場に座り込んで両手で耳を塞いでいたちからいっぱい目をつぶっていた

 

 

うむ、やはりリスだな

 

 

「ご、ごめんねぇ私、雷だけは本当にダメでぇ」

 

 

 

本当にダメらしい、その声はいつもより弱々しく、瞳は潤んでいた。

 

 

 

 

うむ、可愛い。

 

 

 

 

じゃなくて!

 

 

 

 

何とかしたいけど、流石に天気はどうにも出来ないからなぁ。俺はウェザー・リ●ートじゃないからなぁ

 

 

 

と変なことを考えているとまたさっきよりも大きい雷がなって、

 

 

 

「きゃああああああ!!!」

 

 

 

プツンと言って部屋の電気が消えた。停電した!

 

 

流石にこれはまずいな、先生を呼んで復旧してもらおう。

 

 

そう思って部室を出ようとしたら、

 

 

 

トンと、背中に何か当たって来た

 

 

 

「ど、ど、どこ行くの?・・・・・・行かないでぇ独りにしないでぇ」

 

 

 

と羽沢さんが俺にしがみつきながらそう話しかけてきた。

 

 

 

 

 

 

ええええええええええええぇぇぇ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









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あなたが読んでる小説は全年齢対象です(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で俺達は地べたに座りながら耐久レースをしていた。

 

 

 

 

羽沢さんは雷の恐怖に耐えること、俺は理性で本能を押さえつけることに。

 

 

 

先程から電気の復旧が進まず廊下の蛍光灯もつかずこの教室も暗いまま、数分が過ぎた。

 

 

 

羽沢さんは携帯電話でご両親に連絡を入れて、迎えに来てもらうそうだ。

 

 

俺はそれまで待っていればいいらしい。

 

 

 

「ホクサイくぅん、本当にゴメンねぇ・・・ぅぅ」

 

 

だから喋らないで!マジでヤバいんだよ!この状況!女の子に抱きつかれるなんて初めてだ!ヤバい!心臓がとんでもないスピードで拍動してる!背中と手に滝のように汗が流れてる気がする!

 

 

羽沢さんの両手は相変わらず俺の胴を掴んで離さない。つかドンドン強くなってる気がする!

 

 

あああぁぁ削れる!俺の理性が削れていくぅぅ!!

 

 

 

こんなことになるなら勉強なんてしないで早く帰れば良かった!チックショウ!俺の高校生活はなんでこんなにハードモードなんだ!!

 

 

 

 

ああ、いかんいかん。やっぱり何か喋って気をまぎらわせる方がいいのかな?そうすれば雷の事も考えなくて良いし。

 

 

 

何か話題あるかな?・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんもない!!

 

 

 

本当に何も無い!くっそ頭が働かない!ああこうゆうときにハジメがいてくれたら自然と会話が始まるのに!

 

 

 

 

 

「そ、そのホクサイくん」

 

 

羽沢さんが声を掛けてくれた!よっしナイス!ありがとう!

 

 

「な、何?羽沢さん!」

 

 

「ホクサイくんは星が好きなの?」

 

 

え?いきなりなんで星?

 

 

 

「いや、別にそんなことないけど?なんでそう思うの?」

 

 

 

「え?だってここ天文部だよね?」

 

 

そう言えば俺は天文部員でしたね

 

 

「あ、ああそうだけど、別に星が好きだから入った訳じゃないんだよ。ここに入ってる日菜先輩とは昔からの知り合いで一人しかいなかったから部費増量のために俺を入れたみたいなんだよ」

 

 

 

「そ、そうなんだ。昔からの知り合いって辻くんが言ってた『ホクサイ』ってあだ名をつけた人が?」

 

 

 

「うん、そうそう日菜先輩だよ」

 

 

 

「そうなんだぁ氷川先輩が」

 

 

 

「うん、そうなんだぁ」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

会話が止まったァァー!!!

 

 

 

おい!さっきはいい感じに会話が流れてたじゃねぇか!もっと気を使って会話をのばしてやれよ!

 

 

 

あああぁぁどうしよう!どうする!何する!何がどうしてこうなったのか?!

 

 

 

「・・・・・・天才か・・・・・・・・・」

 

 

羽沢さんが、何か小声で呟いたけど雨音のせいで上手く聞こえない

 

 

「あ、いやその氷川先輩って有名だよね!生徒会でもたまに噂になるんだよ!」

 

 

 

「まぁだろうな、俺にはあの人が噂にならない事の方が信じられないよ。昔から()()だったから」

 

 

 

「・・・・・・そうなんだ。そのホクサイくんは氷川先輩のことが苦手なの?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「あ、あれ?!なんで?!ご、ごめんなさい!私いきなり何言ってんだろ?!アハハー」

 

 

 

笑って誤魔化しているけど俺は確かに聞いた。日菜先輩が苦手なのかと、普段の羽沢さんからはまず聞かない言葉だ。

 

 

 

でも一度聞かれたら考えずにはいられない

 

 

日菜先輩のことか・・・・・・「苦手なのか」か、そうだな。

 

 

 

「・・・・・・別に苦手じゃないかな、嫌いでもない。それは確かだ。そもそも嫌いだったら普通この部活に入ってないだろ」

 

 

 

「そ、それもそうだね!ゴメンねいきなり変なこと聞いて!」

 

 

 

羽沢さんはまたアハハと笑っている。

 

 

 

確かに苦手でも嫌いでも無い。けれど・・・・・・

 

 

 

 

 

「でも、たまに。本当にたまにだけど『かわいそう』と思ったことがある」

 

 

「え?かわいそう?ど、どうして?天才でなんでも出来るのにどうしてかわいそうなの?」

 

 

 

そうだよな、普通そう思うよな。これは優しい“あの人”も同意してくれなかった

 

 

 

「日菜先輩はね、天才だよ。万人に聞いたらほとんどの人があの人を天才だと言うよ、だからなのかあの人はいつも『独りきり』なんだ」

 

 

「・・・・・・・・・『独りきり』?」

 

 

 

「うん。誰にでも憧れる存在って言うのは誰も対等な人がいないって事なんだよ」

 

 

それに常に羨まれる訳じゃない、妬ましいと言われることも嫌なヤツだとも言われることも聞いたことがある。

 

 

「う、うん、確かにその通りだと思う」

 

 

 

「本人はその事を実感するたびに自分と他人が違うことを見せつけられるからとても寂しくなるんだって」

 

 

「・・・・・・そうなんだ、でも私には分からない・・・かな?」

 

 

 

「そうだよな。俺も日菜先輩から聞いただけで本当に理解はしてないんだと思う」

 

 

 

 

 

 

でもそうなのだ。

 

 

 

氷川日菜と俺とでは見ている世界が違う。これは比喩ではないと思う。

 

 

 

ビデオカメラで撮影している時に日菜先輩には赤いフィルムをレンズの前に付けているようなものだ。

 

 

 

同じ物を写しても(見ても)、同じようには撮影(認識)しない。

 

 

 

同じものを見ていても()()()()()()()()()()()、同じものを聞いても()()()()()()()()()()()

 

 

 

だがら認識している世界が俺たちと日菜先輩では違うのだ。

 

 

 

 

 

「それでもやっぱり才能があるのは羨ましいよね、俺みたいに毎日勉強しなくてもテストで満点とるんだからさ」

 

 

 

「そうだよね、やっぱり才能がある方がいいよね。努力するって大変で辛いもんね」

 

 

 

羽沢さんの声音が落ちていくだんだん落ち込んでいくのが分かる。

 

 

努力は辛い。それはその通りだと思う。辛くない努力は無く、辛いからこその努力なんだとも思う。

 

 

でもいくら努力しても天才(氷川日菜)には届かない。俺がこの短い人生の中で学んだ一つのことにそれが含まれている。

 

 

絶対に勝てないのだ、魚が陸で生きていけないのと同じように、どんな分野でも彼女にはかなわない。だけど、

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

また会話が止まる。さっきまでのとは違って気まずさは感じない。

 

 

気がつけば雷の音はもう止んで、雨音も弱まっている。

 

羽沢さんはもう俺の胴に腕を回していない、さっきまでの抱きしめているという体制から寄りかかっているという形に変わっていた。

 

 

 

 

「ホクサイくんは『才能』ってあると思う?」

 

 

 

「あると思う」

 

 

 

ほとんど間を取らずに答えた。

 

 

 

「物心着いた時から日菜先輩を見ているからどうしても感じてるな、生まれ持った才能ってヤツを」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・そっかやっぱり努力しても意味なんてないのかな?

 

 

 

「でもさ・・・・・・」

 

 

 

パチン!

 

 

 

一瞬で目に大量の光が飛び込んできた、目が痛い

 

 

どうやら停電が復旧したらしい、学校に光が戻ってきた。

 

 

俺達はすぐにお互いの状態を理解して離れる。

 

 

雨の音は聞こえているけどさっきとは違ってとても弱々しく、穏やかな音だ。

 

 

ブブブーー!!!

 

 

羽沢さんの制服から振動音がする、携帯のバイブレーションだ。

 

 

「あ、お父さん学校に着いたみたい、ホクサイくん今日はゴメンね、本当にありがとう」

 

 

羽沢さんは俺に向かって頭を下げてからゆっくりと上げる。その顔は笑ってはいたけどでもどこか辛そうな顔だった。

 

 

 

それじゃ、と言って彼女は部室の扉に手をかけた、ドアノブを回す。ガチャと言って扉は開いてさっきまで暗かった廊下に出る。

 

 

 

咄嗟にこのままじゃあダメだと思った、このまま彼女を帰したら後悔するとそう誰かが俺に告げていた。

 

 

 

 

「は、羽沢さん!!!」

 

 

 

思わず大声で彼女の名前を叫んでしまう。

 

 

 

羽沢さんはピタリと動きを止めてゆっくりとこちらを振り返った。

 

 

 

「どうかしたの、ホクサイくん?」

 

 

 

やっぱり笑っているけど辛そうな顔だ、今にも泣きそうなそんな顔。

 

 

 

何を言えばいいのかまるで分からないけどでもとりあえずさっき言いかけた言葉を言っておきたかった。

 

 

 

「羽沢さん、確かにどんなに努力しても本物の天才には勝てないのかもしれない。けど!・・・」

 

 

だけど!

 

 

 

そうどんなに頑張っても頑張ってもそれを軽々と乗り越える天才が傍にいたとしても!

 

 

 

生涯ある時間を使っても本物の考えを一遍も理解出来ないとしても!!

 

 

 

 

「それでも!!」

 

 

 

 

 

そう、それでも俺達(凡才)が・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・俺達が努力を辞める理由にはならないと思う。」

 

 

 

「・・・・・・・・・っ!!!」

 

 

 

 

羽沢さんは泣きそうなその顔から一変して驚きの表情を見せた。まるで分からない問題を解いたかのような、迷路を攻略した探検家のような、そんな顔。

 

 

 

 

良かった、少なくとも悲しいって感じからは抜け出せたみたいだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

うわわわわわわわわわああああああああぁぁぁ!!!!!!

 

 

 

 

 

俺は一体なんてことを言ってるんだあああぁぁ!!!!

 

 

 

恥ずかしいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

 

 

 

イタイイタイイタイイタイ!!もういっそ誰か殺してくれぇぇ!!ああああああああぁぁぁ!!!!!!

 

 

 

 

「あ、あ、あの?羽沢さん!その、つまりこれは!!」

 

 

 

「ホクサイくん!」

 

 

 

「は、はい!!なんでしょうか!」

 

 

 

思わず敬礼しちゃいそうになった。(なんでだよ)

 

 

 

「ありがとうね!少しスッキリしたよ、そうだよね!うん!うん!これからも頑張ろう!」

 

 

 

「お、おーう?」

 

 

 

「じゃあお父さん待ってるから私行くね!また明日ね!」

 

 

 

俺が返事をする前に羽沢さんは扉を勢いよく飛び出して走って帰ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・はぁ恥ずかし、帰って寝るか

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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話せば少しは楽になるよ!(楽になるだけで解決するとは言ってない)



つぐみ視点です










 

 

 

 

 

初めまして、私の名前は羽沢つぐみと言います

 

 

羽丘学園の一年生でこれでも生徒会に所属しています

 

 

好きなものはお母さんが焼いてくれたケーキ、苦手なものはブラックコーヒー

 

 

 

実家は街の商店街にある喫茶店で、放課後になると私も父と母と一緒にお店のお手伝いをしています

 

 

 

 

実は私は『Afterglow』という五人組バンドを組んでいて、私はキーボードを担当しています

 

 

 

メンバーは

 

一見冷たそうだけど仲間思いの美竹蘭ちゃん

 

大人っぽくてカッコイイ宇田川巴ちゃん

 

いつもゆったりマイペースの青葉モカちゃん

 

そして私たちの頼りになるリーダー上原ひまりちゃんです

 

 

 

みんな本当に上手で私は追いつくのが大変だけど毎日粉骨砕身して頑張って過ごしています!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな周りの友達に恵まれた私ですが最近一つ悩み事が出来ました

 

 

 

 

私の学校には『氷川日菜』という一つ年上の先輩がいます

 

 

 

氷川先輩はいわゆる『天才』と呼ばれる人なのだそうです

 

 

 

テストではいつも満点、運動神経も抜群で、学校は氷川先輩に賞状をいくつも手渡したそうです

 

 

私も氷川先輩に会ったことがあるのですが(会ったと言ってもこっちが勝手に見かけただけ)とても綺麗な人だと思ったのが第一印象でした

 

 

綺麗な薄青の髪、小さく整った顔立ち、背も高過ぎず低過ぎずスタイルの良い人

 

 

まるで神様から色々なもの(才能)を受け取ったような人、恵まれた人、私とは真逆の人

 

 

 

私は勝手に氷川先輩に苦手意識を持ってしまいました、

 

 

 

こればっかりは自分で自分のことを責めました、ただ才能がある

 

それだけなのに自分を見下されていると勝手に感じている自分に嫌気がさしました

 

 

 

 

 

 

 

逆に自分に凄く似ていると思う人もいました

 

 

それは同じクラスの隣の席の男の子、確か『ホクサイ』と呼ばれていてその時は葛飾北斎の事なのかと思いましたが名前を見ればただのあだ名なのだと気づきました

 

 

ホクサイくんはいつも休み時間になるとノートを広げて前の授業の復習をしていました、

 

 

 

隣になってからもそれは変わらず挨拶をしてみようとしても彼はいつも勉強していて、友達との会話からでも遊びに行ったりすることもないと言っていました

 

 

 

とても努力している人なのだと思い、私は勝手にホクサイくんを私と似ている人だと決めつけました

 

 

 

そしてひょんなことから話すようになり、一度お昼ご飯も一緒に食べました

 

 

私と彼は言葉数が少なくて基本的に聞き役に徹している所も自分と似ていると思いました

 

 

 

益々彼とは仲良くなれると思ってしまいました

 

 

 

 

ある雨の日、私は生徒会の仕事で部費の決算報告をまとめている最中に『天文部』の報告書がないことに気がつきました

 

 

 

確かに今日までの提出ではなかったのですが会長さんが回収に行ってほしいと言うので私は素直に天文部に向かいました

 

 

 

部室の扉をコンコンとノックしても返事がなく、今日は活動していないのかと思い引き返そうとしたところ、内側から何やらブツブツと声が聞こえてきたので中に入って見ることにしました

 

 

 

やっぱりそこにはホクサイくんが教科書を広げてノートに書き込みをしていました

 

 

 

反射的に頑張っているなぁと思いました

 

 

 

けど私が入ってきたことに気がついていないとも思ったので声を掛けてみました

 

 

 

彼は驚いて立ち上がると目線を忙しなくあっちこっちに動かして明らかに動揺しているようでした

 

 

 

事情を話すと彼は落ち着いて、提出物を探そうとしました

 

 

 

その時、窓の外で一際大きい音がしました

 

 

 

 

雷です

 

 

 

 

先程は言わなかったのですが私は雷が大の苦手です、そこが建物の中でも雷がなるとすくんで動けなくなってしまいます(恥ずかしいので他の人には言わないでください)

 

 

 

ホクサイくんは私がしゃがんでしまったのを見て慌てて駆け寄って来てくれました

 

 

 

とても嬉しかったです

 

 

 

 

その後また大きい雷鳴が轟いて学校全体が停電してしまいました

 

 

私は本当に参ってしまってホクサイくんの背中に抱きついてしまいました(後になって気がつきましたがとても恥ずかしかったです)

 

 

 

私は携帯電話でお父さんに連絡を入れ、迎えに来て貰いました

 

 

 

ホクサイくんは何も言いません、

 

 

恐らく私に抱きしめられて迷惑を感じているのだと思います

 

 

あまりの気まずさに私は声を掛けてしまいました

 

 

 

「ホクサイくんは星が好きなの?」

 

 

彼が天文部に所属しているから星が好きなのだと思いその話題をふってみましたが・・・

 

 

「別に星が好きだから入った訳じゃないんだよ。ここに入ってる日菜先輩とは昔からの知り合いで一人しかいなかったから部費増量のために俺を入れたみたいなんだよ」

 

 

 

どうやら星が好きなのではなかったようでした

 

 

 

そしてもう一つ気になることが・・・

 

 

 

 

 

彼は今、『日菜先輩』と言った

 

 

 

日菜先輩とはつまり『天才』の氷川先輩の事だ、昔からの知り合いとも言っていた

 

 

 

ただそれだけ、昔から仲が良かっただけなのに何だか凄く裏切られたような気分になりました

 

 

 

私と同じような人だから彼も『天才』の彼女が苦手なのだと思っていたのです

 

 

 

本当に勝手な思いで私は勝手に不機嫌になっていたのです

 

 

 

自分が最低な人間だと思いました

 

 

 

そんなぐちゃぐちゃの頭のままなのか私はさらに酷いことを彼に聞いてしまいました

 

 

 

「ホクサイくんは氷川先輩のことが苦手なの?」

 

 

 

一瞬自分が何を言っているのか分からなかったけれどもう口から出てしまったものはもうどうにも出来ません

 

 

 

私は慌てて彼に考えるのを辞めて貰おうと思いましたが彼はもう黙って考え始めていました

 

 

 

私は本当に酷い人です、こんなことに今まで思ったことがないのに

 

 

 

それでもホクサイくんはこんな私のトンチンカンな質問にも真面目に答えてくれました

 

 

 

彼は氷川先輩がかわいそうだと言いました

 

 

 

天才であるあの人はその才能ゆえ一人きりで誰にも理解されないのだと彼は言いました

 

 

それでも私には理解出来ないことでした、私は自分が独りになる経験がほとんどなかったからです

 

 

 

 

私はさらに彼に問います、この世に才能はあるのかと

 

 

 

彼は答えます、あると

 

 

 

ほとんど間を取らずに答えます

 

 

天才(氷川先輩)とずっと一緒にいた人ならではの回答だったと思います

 

 

 

 

 

 

 

 

とても前置きが長くなりましたが、私の悩みは『努力に意味はあるのか?』ということです

 

 

 

私は今まで努力すればきっと結果は着いてくると思っていました、事実努力したぶん結果は良いものになっていましたし、みんなもそんな私を褒めてくれました

 

 

 

それでも最近思うのです

 

 

 

私がたくさんのものを積み上げて初めてだ乗り越えられる壁を天才が簡単に乗り越える

 

 

 

しれじゃあ私の努力(積み上げたもの)には意味なんてないんじゃないか?

 

 

 

 

そう思えて仕方ないのです

 

 

 

 

 

電気は復旧し、部屋にあかりが戻ります

 

 

 

 

携帯が制服の中で震えて、お父さんのメッセージをその画面に表示していました

 

 

 

「あ、お父さん学校に着いたみたい、ホクサイくん今日はゴメンね、本当にありがとう」

 

 

 

 

私はもう色々な感情で頭が混乱してとても笑って居られる状況ではありませんでした

 

 

 

悲しくなって、裏切られた気分になって、独りで勝手に落ち込んで、もう散々な日になりました

 

 

 

その時、涙を流さなかったのは奇跡だと思います

 

 

「は、羽沢さん!!!」

 

 

 

彼が私の名前を呼びました心臓が飛び出してしまうのではないかと錯覚しました

 

 

「どうかしたの、ホクサイくん?」

 

 

 

できるだけ自然に返答します

 

 

彼は真剣な眼差しでこちらを見つめてゆっくり口を開けて、

 

 

 

「羽沢さん、確かにどんなに努力しても本物の天才には勝てないのかもしれない。けど!それが俺達が努力を辞める理由にはならないと思う」

 

 

 

っと彼はそういった、

 

 

 

勝てなくても、誰かが簡単に乗り越えても、何度も自分を嫌になっても、

 

 

 

それでも!

 

 

 

努力を辞める理由にはならないのだと彼はそう言いました

 

 

 

 

私の悩みはそんなふうに解決されました。と言っても悩みと言うのもおこがましいと思いますが

 

 

 

 

その時はきっと分からない問題を解いたかのような顔をしていたと思います、もしくは道に迷ったけど帰り道が分かった瞬間のような顔

 

 

 

私は何だか今までの重たく苦しい気分が嘘のように軽く爽やかなものに変わり、廊下を走ってお父さんのところへ行きました

 

 

 

 

その時、お父さんが私に「笑っているけど何かいい事でもあったのかい?」と聞いてきました

 

 

 

もちろんそれは秘密です

 

 

 

 

私の耳には今でも彼の言葉が残り何度も何度も繰り返して聞こえました

 

 

 

そんな言葉を言える彼のことを私は少し『カッコイイな』と思いました

 

 

 

 

 

 



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勘違いしないでよね!いや、本当にしないでください

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・んぐァ」

 

 

 

 

 

目を覚ます

 

 

 

酷く悪い気分での起床だ

 

 

 

なぜかというと俺は昨日羽沢さんに思いっきり恥ずかしいことを言ってしまってそれを思い出す度に羞恥に震えていたからだ

 

 

 

浅い睡眠を何度も繰り返したせいで頭が上手く回らない

 

 

 

「ははァァ、早いけどもう起きて支度するか」

 

 

 

寝癖の着いた頭をガシガシかきながら階段を降りてリビングに行く、すると

 

 

 

「あら、今日は早いのね。おはよう」

 

 

俺と同じ黒髪を背中まで真っ直ぐ伸ばした女性が椅子に座っていた

 

 

 

「あんた、ひどい顔よ。さっさと顔洗ってきな」

 

 

 

「自分の息子にひどい顔とか言わないでくんない?」

 

 

 

俺のオカンだ

 

 

俺が小さい頃の母親は世界を飛び回るジャーナリストだったらしい、異国の文化や宗教を取材して記事にまとめる仕事をしていたが今では完全に専業主婦になってそんな片鱗を一切見せなくなった

 

 

「うるさいわね、私の息子ならもっとマシな顔で起きなさいよ」

 

 

間違えた。俺のオカンじゃあなくてだだのひでえ人だ

 

 

オカンに言われた通りに洗面所で顔を洗ってついでに寝癖も直してまた戻ってくる、テレビの時刻表にはいつもより一時間ほど早い時間を示していた

 

 

「朝ごはん出来てるわよ」

 

 

「アザース、いただきます」

 

 

しっかりと両手を合わしいつもの挨拶をする

 

 

テレビでは朝のニュース番組が放送されていて俺はぼーっとしながら眺めていた

 

 

濃いめに入っていたコーヒーとトーストを目玉焼きと一緒に食べる

 

 

コーヒーのおかげで頭が活性化してきた

 

 

「ごちそうさま、オカン!弁当はぁ?」

 

 

「昨日の夕食をつめた箱なら冷蔵庫に入れてあるわ」

 

 

弁当を夕食をつめた箱って言うのをやめろ

 

 

いったん部屋に戻って制服に着替える、カバンに教科書とノートを詰めてまた部屋を出る

 

 

冷蔵庫にある箱を手に取ってカバンにしまって家を出ようとするすると、

 

 

 

「ねぇ!(いつき)!」

 

 

オカンが俺の名前を読んだ

 

 

「んー?なーにー?」

 

 

オカンは玄関まで来て俺に聞いた

 

 

「この前のお弁当どうだった?」

 

 

「この前っていつの事いってんの?」

 

 

「小さいハンバーグが入ってたときのことよ。どう?美味しかった?」

 

 

オカンはニヤニヤと気持ちの悪い顔で聞いてきた。なんなんだろう正直に嫌な感じしかしない

 

 

「ああ、美味かったけど。それが何?」

 

少しぶっきらぼうに答えるがオカンは不機嫌になりもせずむしろ驚いた表情を浮かべた

 

 

「あんた、聞いてないの?」

 

 

「何を?」

 

 

「はああーこの様子じゃあ日菜ちゃんちゃんと伝えて無いなぁ、せっかく頑張って作ってたのに

 

 

オカンは深い深いため息をついて何やらブツブツと言い出した

 

 

「なんだよ、それがどうかした?」

 

 

「いや、なんでもないわ。車に気を付けて行きなさいよ」

 

 

「良くわかんねぇな。分かったよ行ってきます」

 

 

ガチャといって扉が開く

 

 

俺はそのまま歩いて学校に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもなら人を避けるように歩くのだが朝早くに学校の通学路を歩くの人は居ないからこの道を占領している気分になるなぁ

 

 

そんな気分のまま真っ直ぐ学校に向かう

 

 

やはりいつも騒々しい学校の廊下も静かだった

 

 

朝の憂鬱も少しマシになった、たまには早起きするのもいいもんだ

 

 

 

 

ガララと音を立てて扉を開く

 

 

 

 

そこにも人はいなかった、特にやることも思いつかずに教室に入ったが何をしよう?

 

 

 

でもそこには一人の女の子が教科書とノートを広げて勉強していた

 

 

 

 

羽沢さんだ

 

 

 

 

先程の気分からまた打って変わって憂鬱に戻る

 

 

 

「あれ?ホクサイくんおはよう!今日は早いんだね!」

 

 

俺に気がついた羽沢さんが声を掛けてくれた

 

 

「お、お、おはよう」

 

 

 

どうすること出来ないのでとりあえず席に着く

 

 

 

あああぁぁぁー羽沢さん昨日の事どう思ってんだろ?

 

 

イタイ奴だって思ったかなぁ?思ったよなぁ絶対にそうだよなぁああどうしよう?

 

 

 

き、聞いてみるか?やっぱりやめとく?どうする?自分で傷を作りに行くか、傷を付けられるのを待つか?

 

 

 

究極の二択だ!!

 

 

 

 

俺がドキドキしていると、羽沢さんがこっちをじーっと見つめているのに気づいた

 

 

「な、な、何かな?」

 

 

 

「ああ、ゴメンね。この時間に人がいるのが珍しくて」

 

 

 

「へぇーそうなのか、皆来るのが遅いんだな」

 

 

 

ちょっと待て、今この人変なこと言わなかったか?

 

 

「も、もしかして羽沢さん毎朝この時間に来てるの?」

 

 

「え?そうだよ。いつもその日の授業の予習をしたいからこの時間に来てるよ」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・嘘だろ

 

 

 

まだ出席確認まで一時間以上あるんだぞ

 

 

 

それを毎朝、スゴすぎる。こんなに努力するなんてまるで“あの人”みたいだ

 

 

 

「ホクサイくんはどうして今日はこんなに早いの?いつもギリギリに来るよね」

 

 

「え?ああそれは・・・・・・・・・ちょっと早起きしたからかな?」

 

 

決して!そう決して!自身の黒歴史に悶えていた訳ではない!

 

 

羽沢さんは「そうなんだ!」と嬉しそうな顔で笑っていた

 

 

 

何だか強い罪悪感が込み上げる。うん、なんというかごめんなさい

 

 

 

いや!もしやこれはチャンスなんじゃないか?!ちょうど誰も居ないし昨日のことをどう思っているのか、聞いてみよう!

 

 

 

 

「羽沢さん!」

 

 

俺は立ち上がって力を込めて名前を呼ぶ

 

 

「は、はい!な、な、何かな?」

 

 

 

 

「羽沢さん昨日の事「おっはよぉぉぉー!!!!」

 

 

 

なんなんだよ!!だれた!邪魔しやがったのは!

 

 

扉を勢いよく開いた人はポメラニアンな人の上原ひまりさんだ

 

 

 

「おはようひまりちゃん!今日は早いね!」

 

 

「おはようつぐ!まぁね!今日はテニス部の朝練が急にやすみに・・・・・・・・・」

 

 

「どうしたの?ひまりちゃん?」

 

 

 

上原さんは口をポカンと開けて俺たちを見つめている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて今の上原さんのように客観的に俺達の状況を見てみよう

 

 

 

 

 

 

 

 

一、学校の教室に男女の二人っきり

 

 

 

二、男の俺が立ち上がって何かを告げようとしている

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、おわかりいただけただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!あ!いや、その!ご、ごめんなさい!わ、私全然気づかなくて!ああいやそうじゃなくてその!ゴメンね!タイミング悪かったよね!そのすぐに出るから!その本当にごめんなさい!」

 

 

 

上原さんは顔を赤く染めて慌てて色々言ってから走って教室から出ていってしまった

 

 

 

って!ちょっと待て!ほんとに待って!

 

 

 

「上原さん!!誤解だ!違うんだ!ちょっと話を聞いてくれ!!」

 

 

俺も廊下を走って追いかける

 

 

上原さん足速い!!もしかしなくても運動部?!

 

 

 

おいおいおい!!勘弁してくれ!変な勘違いのまま走っていくな!!

 

 

 

ちっくしょう!!また高校生活がハードモードに突入しやがった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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小型犬のしつけは意外と大変なもの

 

 

 

 

 

「・・・・・・つまり、ここの『私』の心情はね・・・・・・」

 

 

「はぁ」

 

 

 

今日の四限は現国だ

 

 

女性用の紺色のスーツを着たセミロングの先生は優しくて生徒から評判の良い先生。だけど俺はまた先生の授業を聞かず、先程の上原さんとのやり取りを思い出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

【ねぇ!いつから?いつからつぐのことが好きだったの?!】

 

 

【違うから!そんなんじゃないから!】

 

 

【つぐの一体どんなところが好きなの?!ねぇねぇ教えてよ〜!】

 

 

【だから本当に違うんだ!お願いなんで話を聞いて!】

 

 

【そうだよねぇつぐ可愛いもんねぇ!真面目で静かで努力家で!ああ!つぐはあたし達を置いて先に大人になるんだねぇ】

 

 

【上原さん!話聞いて!ちょっともしもし!もしもーし!!・・・・】

 

 

 

 

上原さんはその後も俺の話をろくに聞かず自分の世界に没頭していた

 

 

 

 

「はあぁ」

 

 

 

()()隣からため息が聞こえる

 

 

羽沢さんだ、いつもは授業中ため息なんてつかないで集中しているのに珍しい

 

 

 

コツン!

 

 

 

と羽沢さんのことを横目で見ていたら俺の側頭部に折りたたまれた小さいメモ用紙が飛んできた

 

 

何だか文字が書いてあったので紙を切れないように気をつけながら元に戻すそうすると、

 

 

 

《今日のお昼一緒に学食に行こうね!もちろんつぐもいっしょだよ♪

 

P.S授業は集中しなよ!嫌われちゃうからね☆》

 

 

 

クシャっ!!

 

 

 

読んだ瞬間に手に力がこもった俺はきっと悪くない

 

 

 

誰だ?なんて考えるまでもない上原さんだろう

 

 

 

どうやら本当に俺が羽沢さんのことを好きになったと勘違いしているらしい

 

 

 

はぁどうやって勘違いをとけばいいんだろう?

 

 

 

 

そんなこんなで現国の授業が終わった

 

 

 

授業終了のチャイムが絶望の音に聞こえる

 

 

 

上原さんには悪いが俺は別のところで食べよう、そうだな屋上とか行ってみるか

 

 

 

「つーぐー!!お昼たーべーよ!!」

 

 

「うん!一緒に食べよっかひまりちゃん!」

 

 

 

上原さん!行動早すぎ!

 

 

 

急いで立ち上がって行かないと!

 

 

 

「っあ!ホクサイくん!一緒に食べようって言ったじゃん!どこ行くの?!」

 

 

「え?そうなのひまりちゃん?」

 

 

 

不味い!捕まった!ど、ど、どうする?俺には何ができる??!

 

 

 

 

「ホォォクゥゥサァァイィィ!!!飯食おうぜぇ!!」

 

 

 

 

おお神よ!!

 

 

 

間違えたハジメありがとう!どうか俺をこの魔窟(まくつ)から救ってくれ!

 

 

 

初めてお前がいてくれて良かったと思ったぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ!ハジメくんも一緒に学食行こ!」

 

 

 

「おお!いいぜ!」

 

 

 

 

 

こんのクソッタレがああぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羽丘学園の食堂ではいつものように賑やかな生徒がいてみんなが楽しそうに食事をして、会話を弾ませていた

 

 

 

そんな中・・・・・・

 

 

 

 

 

俺達は今四人がけのテーブルにいる

 

 

俺の隣はハジメ、目の前にいるのが羽沢さん、羽沢さんの隣が上原さんだ

 

 

ハジメはさっき注文したカレーライスがいつ出来るのか楽しみにしていて、羽沢さんは上原さんに話しかけていた、俺は・・・・・・

 

 

 

「カレーはまだかなぁ?ここのカレー上手いんだよ!な!ホクサイ!」

 

 

 

「ひまりちゃん、どうして今日はこの四人なの?みんなは?」

 

 

 

「ええ?まぁ〜その〜そ、そう!たまたま今日はこの四人で食べたい気分だったの!」

 

 

 

「そうなんだ!・・・・・・それで、ホクサイくんはどうしたの?その、悲しそうな顔をしてるけど」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・聞かないでくれ」

 

 

 

俺は弁当も広げずに『どうやったら過去に帰れるか』という現実逃避に没頭していた

 

 

 

「まぁまぁつぐ、きっとホクサイくんは緊張してるんだよ!ね!」

 

 

 

上原さんは可愛くウインクしてこっちに話しかけてきた

 

 

 

 

ヤバい、家族以外の女の人を殴りたいと思ったのはこれが初めてだ

 

 

 

日菜先輩にだってこんなことに思ったことないのに

 

 

 

「「はあぁ」」

 

 

 

ため息が重なる

 

 

 

ひとつは俺だがもうひとつは・・・・・・

 

 

 

「つぐ大丈夫?今日は何だか疲れてるの?最近はいっつも練習頑張ってるからそれで」

 

 

「ええ?そんなことないよ!ひまりちゃん大丈夫!私は元気だよ!」

 

 

羽沢さんだ

 

 

さっきの現国の授業だけでも二回はため息を着いていた言われてみればいつもより元気がない気がする

 

 

 

少し心配だ

 

 

 

「なぁなぁ!『練習』ってなんの練習なんだ?羽沢さんも何かスポーツやってるの?」

 

 

「え?ううん違くて、その私たちは・・・」

 

 

「あたし達!バンド組んでるの!」

 

 

「バンド?!へぇぇ!凄いじゃん!」

 

 

「えへへーでしょ!あたしがベースでつぐがキーボードこの前一緒にお昼食べたモカと巴もメンバーなんだー!」

 

 

 

 

少し意外だ、羽沢さんがもし趣味があるならもっと大人しめのものかと思っていたから(読書とか?)

 

 

 

「あたし達今度ね『ガルジャム』って言う大きいライブに出るんだ!」

 

 

 

「そう、だから私達は毎日練習頑張ってるんだ!」

 

 

 

 

そうなのか、まあ頑張ってください

 

 

 

 

いや、俺に言われるでもなく、羽沢さんはきっと頑張るだろう

 

 

 

 

まあ現実逃避はこれぐらいにして弁当食べるか

 

 

あ、豚のしょうが焼きだ。美味そう

 

 

 

「11番のお客様〜!!」

 

 

「あ!カレー出来たみたいだ!取ってくるから先に食べててくれ!」

 

 

ハジメはそのまま番号札を持ってカレーを取りに行った。つかあいつはもう弁当を食べたのか?

 

 

「あ!あたしも少しお手洗いに〜」

 

 

上原さんはそう言って席を立ってそそくさと行ってしまった

 

 

 

テーブルには俺と羽沢さんの二人きりだ

 

 

 

 

上原さんはきっと今頃『あたしいい事してる!』的なことを考えているだろう

 

 

 

ヤバい!凄く胃がキリキリいって飯を食べる気分にはなれない!なんなのこの状況!なんだか知らないけど緊張してきた!なんでだ!あのポメラニアンめぇ!!

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・ホクサイくん」

 

 

羽沢さんが俺の名前を呼んできた

 

 

 

「な、な、何?」

 

 

 

「昨日の事なんだけど・・・・・・」

 

 

 

ま、ま、ま、不味い!!!昨日の事ってあのことだよな!ヤバいヤバいヤバい!どうする!このまま進めて傷を作るか!会話を取り止めて羽沢さんに嫌われてしまうか!どっちがマシだ??!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どっちもマシじゃねぇよ!どっちも絶望的にダメじゃねえか!!

 

 

羽沢さんはゆっくりと口を開いていく!来る!鋭い口撃が来る!!

 

 

 

 

 

 

 

「昨日は本当にごめんなさいそして本当にありがとうございました!!」

 

 

 

羽沢さんは座ったまま頭を下げてこういった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

 

 

 

俺は今なんて言われた?「アリガトウゴザイマシタ」?

 

 

ん?どんな意味だったけ?どんな罵声だっけ?ん?

 

 

 

「・・・・・・・・・えっと?・・・・・・」

 

 

 

「昨日のとても迷惑をかけたし、それに凄く失礼な質問をしたから。だから今日はずっとお礼が言いたかったの!」

 

 

 

ん?

 

 

 

待て待て、頭が追いついてない。

 

 

とりあえず罵声じゃないな、それは間違いない

 

 

 

それでえっとお礼?なんの事だ?それに失礼な質問って一体?・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!日菜先輩のことか!」

 

 

 

「そ、そう!そのこと」

 

 

 

なるほどやっと話が繋がった

 

 

 

「ずっと気にしてたの?」

 

 

 

「う、うん」

 

 

 

うつむきながら羽沢さんはそう言った

 

 

 

「大丈夫だよ、別に気にしてないそれに迷惑をかけたって言うなら俺の方が先に羽沢さんに迷惑をかけてるだろならこれでチャラってことにしない?」

 

 

 

「いいの?本当に?」

 

 

 

「ああ、だから気にしてないって」

 

 

「そっかぁー良かったぁー」

 

 

本当だ気にしてない。()()()の質問は慣れている

 

 

 

 

そのあとはハジメと上原さんが戻ってきて二人きりは終わり、少し落ち着いた俺はゆっくりと昼飯を食べたのだった(しょうが焼きは美味かった)

 

 

 

 

食堂を出た後ポメラニアンに質問攻めにされたのはまた別の話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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物語が始まる時はいつも突然

 

 

 

 

 

おかしい

 

 

「・・・・・・この時、カエサルが始めた・・・・・・」

 

 

 

今朝からずっと変だとは思っていたがどうもおかしい

 

 

 

 

「・・・・・・んでそのあとすぐに・・・・・・・・・」

 

 

 

羽沢さんの様子がおかしい、一日中何だかぼーっとして授業に集中してないみたいだ

 

 

 

うん、おかしい

 

 

 

 

キーーンコーーンカーーンコーーン

 

 

 

本日最後のチャイムが鳴って世界史の先生が適当に話をしてから教室を出る

 

 

 

うーんどうする?話を聞いてみるか?いやでも俺は関係ないしな〜

 

 

 

クラスメイトは席について帰りの支度や部活の準備をし始める

 

 

 

クラスの担任が教室に戻ってきて軽い雑談と学校からの報告をする

 

 

 

「んじゃあ!みんなーまた明日ー!」

 

 

 

「「「あざーしたー」」」

 

 

 

うーんやっぱり羽沢さんの様子が気になるなぁ席を立つ時もフラフラしてたし熱でもあるのかもしれない

 

 

 

「つぐ、顔色悪いぞ?大丈夫か?」

 

 

 

後ろから声を掛けてきたのは宇田川さんだ

 

 

 

「あ、巴ちゃん・・・大丈夫、大丈夫だよ」

 

 

 

「・・・っと!大丈夫か?!フラフラして、もしかして熱でも・・・」

 

 

「・・・えへへ、ゴメンね。そうだ今日は生徒会があるから練習、遅れていくねじゃあ、私職員室行くから!」

 

 

 

「おい!つぐ!・・・・・・」

 

 

 

 

宇田川さんは納得していない顔のまま教室を歩いて出ていき、羽沢さんも軽くフラフラしながら廊下に歩いていった

 

 

 

どうやら羽沢さんには心配してくれる人がいるなら俺がこれ以上なにかするのはお節介だな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、部室に行って勉強するか!日菜先輩がいないからゆっくり勉強出来るな!よしよし!

 

 

 

 

 

ムカムカムカムカ

 

 

 

 

 

今日は世界史が面白かったから世界史をやろうかな

 

 

 

 

 

ムカムカムカムカムカムカ

 

 

 

 

 

いやー狭い部屋で静かに勉強!最高だな!何者にも勝るね!

 

 

 

 

 

 

 

ムカムカムカムカムカムカムカムカ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はああぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言えば、俺も生徒会室に行かなきゃ行けないんだったー

 

 

 

 

そうそう確か生徒会に部費の決算報告書を提出したか確認する義務があるよな!日菜先輩のことだからきっと忘れているに違いない、まあ俺も腐っても天文部だから部活のことには真剣にならざるを得ない訳で、決して羽沢さんが心配だから生徒会室に行く訳ではないけれどまあしょうがないよね!そうしょうがない!しょうがないったらしょうがない!

 

 

 

 

 

 

 

本当にしょうがねぇな!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室に行く途中、廊下には既に上原さんと宇田川さんがいて雑談しながら歩いていた

 

 

 

「あれ?お前は確かつぐの隣の席のホク・・・ホク・・・」

 

 

 

「ホクサイくんだよ!巴!」

 

 

 

「ああ!そうだそうだ思い出した!それでどうかしたのか?この先は生徒会室だぞ?」

 

 

 

いや、決して俺の名前はホクサイではないんだけどねまぁいいや、今はそれどころじゃないしな

 

 

 

「・・・・・・あ、いやちょっと生徒会室に用「もしかして!つぐが心配で見に来たの?!」

 

 

 

あんたは本当に俺の会話を切るのが好きだな!!ってちげえよ!そんなんじゃねぇよ!

 

 

 

「いや!違う!そんなんじゃない!」

 

 

 

「またまた〜そんなこと言っちゃって〜」

 

 

 

やめろ、そのニヤニヤ顔を今すぐ引っ込めてくれ!その中身がお花でいっぱいであろう頭部にチョップを入れたくなるから、マジで!

 

 

 

「こら!ひまり!そんなことで人をからかうのはやめろ」

 

 

 

「ええ〜〜ゴメンね、ホクサイくん」

 

 

 

「え?ああ、うん」

 

 

 

まさか宇田川さんはかなり話が分かる人なのかもしれない!やったぜこの人は一味違うな!

 

 

 

「そうゆうのは黙って見守るのがいい友達だぞ!」

 

 

 

「そうだね!さすが巴!」

 

 

 

やっぱりそっちかーい!!

 

 

 

「まあとりあえず目的地が一緒なら早速行こう」

 

 

「そうだね一緒に行こう!ホクサイくん!」

 

 

 

「あ、ああ」

 

 

 

トモエ&ヒマリパーティー二、ホクサイガナカマニナッタ!!

 

 

 

なんかそんな文字列が浮かびそうな絵面だ

 

 

そんなこんなで俺達は生徒会室に到着した

 

 

 

ドアについてる小窓から中を覗いてみると生徒会長らしき人と羽沢さんが一緒にいて何か話し合いをしていた一見したらなんにも問題は無さそうだ、安心した

 

 

 

 

その時だった

 

 

 

 

 

羽沢さんが立ち上がった拍子にそのまま全身から同時に力が抜けて行くようにして肩から地面に倒れてしまった

 

 

 

 

俺と宇田川さんの行動は同じだった

 

 

 

 

「つぐ!!!」「羽沢さん!!!」

 

 

 

 

「つぐ!つぐ!つぐみ!」

 

 

 

不味い!宇田川さんの声にも返事がない!気を失っているのか?

 

 

 

「宇田川さん!救急車に連絡して!」

 

 

 

「え?!」

 

 

 

「早く!」

 

 

「お、おう!」

 

 

宇田川さんは一瞬戸惑った顔をしたけどポケットから携帯を取り出してすぐに電話を掛けてくれた

 

 

 

「上原さん!」

 

 

「・・・・・・・・・・・・つぐ?」

 

 

 

「上原さん!上原さん!おい!ぼさっとすんな!!」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

「上原さんは教室から羽沢さんの荷物を取ってきて!それから出来たら羽沢さんの御両親に電話!」

 

 

 

「は、は、はい!」

 

 

 

上原さんもぼーっとしていたけどすぐに走って行った

 

 

 

「ホクサーイ!!救急車すぐに来るって!」

 

 

 

「分かったありがとう!ついでに宇田川さん!羽沢さんを運ぶのを手伝ってくれ」

 

 

 

確かこう時は出来るだけ頭を動かさないようにして運ぶんだよな!

 

 

 

「分かった!どうすればいい?」

 

 

 

「宇田川さんは羽沢さんの膝裏を両手でしっかりと支えてくれ!俺の合図を一緒にゆっくりと体を持ち上げていこう!」

 

 

「分かった、こっちはいいぞ!」

 

 

 

「よし!それじゃあいっせーのーで!」

 

 

 

羽沢さん軽!!

 

 

 

ってそんなことはどうでもいい!とりあえず校門まで運ぼう!

 

 

 

羽沢さん!どうか急に居なくならないでくれよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 



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親切とお節介は紙一重








 

 

 

羽沢さんと一緒に救急車で近くの総合病院に着いた俺達は受付の前のベンチに座って医師の先生が来るのを待っていた

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

三人とも誰も喋らない。うつむいて黙ったまま先生を待った

 

 

 

ガラっ

 

 

 

扉が開く音がする

 

 

「・・・っ!」

 

 

「・・・つぐ」

 

 

「先生!つぐは!」

 

 

 

宇田川さんが立ち上がって白衣を着た人に声を掛ける

 

 

 

「大丈夫ですよ、恐らく過労からくる発熱ですね。念の為二、三日様子は見ますが大したことはないと思われます」

 

 

「「「・・・・・・・・・はああああ」」」

 

 

 

三人同時に口からため息が漏れる

 

 

 

過労からの発熱かぁ〜良かったあぁ〜

 

 

 

「あ、ありがとうございました」

 

 

「はい、それでは私はこれで」

 

 

先生はそのまま病院の奥に歩いていった

 

 

俺は椅子の背もたれに上体を乗りかける、力が抜ける

 

 

「あぁぁ良かったあぁ」

 

 

「つぐが倒れた時はどうなるかと思ったけどほんとに大したことなくて良かったよ」

 

 

俺と宇田川さんは顔を見合わせて頷いた

 

 

「・・・・・・うん」

 

けど上原さんはまだうつむいたままだ、どうかしたのか?

 

 

「ひまり?」

 

 

「あたし、つぐが倒れた時頭が真っ白になっちゃって・・・・・・ホクサイくんに声かけられてやっとハッとしたの。・・・・・・ダメだねしっかりしなきゃ。つぐ最近見るからに疲れてたしもっとしっかり休むように言えばよかった・・・」

 

 

「・・・・・・上原さん」

 

 

ど、ど、どうする?上原さんが落ち込んでいる!ここは何とか元気出してほしい!えっとえっと!どうすればいいんだ?何をどうしてどうすれば!あああわからん!なんて声をかけるのが正解なんだぁぁ!!誰か教えてくれぇぇぇ!!

 

 

 

「あたしはあの時ひまりが隣にいてくれて良かったと思ってるよ」

 

 

う、宇田川さん?

 

 

「一人じゃ不安でなにも出来なかったと思う、けどひまりとホクサイがいたからああやって対処出来たんだ」

 

 

 

宇田川さん!すげぇー!!

 

 

 

「ひまりはよーく、知ってると思うけど。あたしだってそんなに強くないんだぜ。だからひまりだけ自分を責めないでくれ。・・・・・・ほら!笑顔笑顔!」

 

 

宇田川さんはそう言って上原さんのほっぺをつまんでいきなり伸ばし始めた

 

 

「ひゃ、ひゃう〜〜巴ぇぇ〜〜ほっぺひっぱるのやめてぇぇ〜〜〜」

 

 

 

うわ、可愛い!俺もやっていいですか?ダメですね!事案ですネ!!

 

 

 

「あはは、悪い悪い。でもひまりには落ち込んだ顔して欲しくないんだよ」

 

 

「怒った顔はいいわけ〜〜!!」

 

 

「怒った顔はまあ面白いしいいかなって」

 

 

「も〜〜〜〜巴ぇぇ〜〜!!」

 

 

 

うわっ!誰だよ!このイケメン!ハジメなんかよりも全然カッコイイは!もし俺と宇田川さんの性別が逆だったら間違いなく惚れてたね!惚れて告ってフラれてたね!フラれちゃうのかよ!

 

 

 

「ホクサイもありがとな!」

 

 

「はっ?!俺?」

 

 

「おう!あの時救急車!ってあたしに言ってくれたろ。あれだけ冷静に指示を出せるなんて凄いよ」

 

 

「そうだよ!ホクサイくん!凄いかっこよかったよ!」

 

 

「い、いや!あれは映画の真似しただけだから!そんなにたいしたことじゃないよ」

 

 

「そんな謙遜すんなよ!あたし達は本当にスゲェって思ってるんだからさ」

 

 

「そうそう!!」

 

 

何だか背中が痒くなる!やめて!やめて!そんなに尊敬の眼差しでこっちを見るのをやめて!恥ずかしいから!!背中から変な汗出るから!!

 

 

「巴ちゃん!!ひまりちゃん!!」

 

 

病院の入口から大学生ぐらいの女性が走って入ってきた、二人の知り合いか?

 

 

「あっ!つぐのお母さんだぁー!」

 

 

「こっちです、すいませんお店もあったのに」

 

 

「いいのよ、それでつぐみは?どうなったの?」

 

 

「先生は過労から来る発熱って言ってました。念の為二、三日様子を見るって」

 

 

「はぁぁぁそうなの・・・・・・良かったわぁぁ」

 

 

羽沢さんのお母さんは力が抜けたようですぐ近くの椅子に、つまり俺の隣に座ってきた

 

 

 

・・・・・・って!!っはあぁ!!若すぎだろ!!本当に『お母さん』!!?う、嘘だろ!一体いくつなんだこの人!『お姉さん』の間違いだろ!!

 

 

「あら?君は?羽丘の制服を来てるけど」

 

 

まぁそりゃ声を掛けてきますよね、

 

 

「えっと俺は北「ホクサイくんだよ!つぐのお母さん!」

 

 

・・・・・・・・・・・・もう慣れたからツッコミを入れないからな!!

 

 

 

「ホクサイくん?」

 

 

「あ、いえ。ホクサイって言うのは俺のあだ名で本名は」

 

 

「ああ!ホクサイくんね!!」

 

 

お願いなんで自己紹介くらいはしっかりさせてくれません?!別に俺の名前ホクサイじゃあないんですけど!!

 

 

「つぐみから話は聞いています。毎日勉強してる凄い人なんでしょう?でもあなたはどうしてここに?」

 

 

「ホクサイが救急車を呼ぶようにあたしに言ったんだ。それに校門までつぐを運んでくれたんだぜ」

 

 

宇田川さんが話を続ける、羽沢さんのお母さんは驚きの表情を浮かべて

 

 

「・・・・・・そうなの?」

 

 

「ああいや、そうですけど俺がしたことはそんなに大したことではないので・・・」

 

 

ガシッ!!

 

 

羽沢さんのお母さんが俺の手を両手でしっかりと掴んだ。な、何?!何?怖い怖い!!

 

 

「ありがとうございます!つぐみを助けてくれて本当にありがとう!!」

 

 

 

随分、感極まった感じで少し涙声だ

 

 

 

「い、いえ本当に大したことは・・・」

 

 

 

「いいのよ!それでも本当にありがとうございます」

 

 

 

「は、はあ」

 

 

 

驚きのあまりなにも言えなかった

 

 

 

その時、看護師の方がこっちに来て

 

 

 

「えっと、羽沢さん、羽沢つぐみさんの関係者ですか?先生がお呼びしていますのでこちらにお願いします」

 

 

 

「ええ、分かりましたすぐに向かいます。それじゃあホクサイくん本当にありがとう、今度ゆっくりお礼がしたいわ」

 

 

 

そのまま羽沢さんのお母さんは看護師さんのあとを歩いていった

 

 

呆然とする俺の肩をポンッと宇田川さんが叩いた

 

 

「っな?お前のしたことは当事者にしてみれば大したことだったんだよ。お前はつぐを助けたんだ」

 

 

 

宇田川さんはそう俺に声をかける、上原さんもうんうんと頷いて強い肯定の意を示した

 

 

 

そうなのか、なら少しほんの少しだけ自分の行動(お節介やき)を誇って見ようと思った

 

 

 

 

 

 

 









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基本ノックは三回!これは世界の常識







 

 

 

俺の目の前には黄色い引き戸の扉がある

 

 

 

 

羽沢さんが病院に搬送されてから約一日、俺は羽沢さんが入院している病室の前に来ていた

 

 

 

昨日が金曜日で助かった、おかげで今日ここに来ることが出来たから

 

 

 

女の子に会うのだからそれなりの格好をして、一応デパートで適当なものを見繕ってきたが本当にこれでいいのかな?羽沢さんの嫌いなものじゃなければいいけど

 

 

 

 

だけど、それより

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そもそも俺が来て良かったの?

 

 

 

 

もう、本当にそれだけだなんだよ!俺が来ても良かったの?俺と羽沢さんはもう本当になんでもないじゃん!クラスメイトなだけじゃん!席が隣なだけじゃん!

来てよかったのか?!ダメじゃね?もう俺は回れ右して帰った方が良くね?でもお土産をもう買っちゃったからなぁ、これ結構高くて良い奴なんだよなぁこれで俺が帰ったらこれどうすんの?俺が食べるの?オカンは食べるかもしれないけど絶対に「どうしたのこれ?」って聞いてきたら俺はどう答えるの?どうしよう?どうしよう?どっちに転んでもなにも言えない気がする!もうなんで俺はお見舞い来ようなんて考えたんだ?もうそっからだよ!昨日の勢いのままここに来てるけど後悔し始めた、

ああああああああもう嫌だああああああああぁぁぁ!!!!どうしたらいいんだああああぁぁ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ちくしょう!もういい!!覚悟をきめろ!!行ってやる!行ってやるぞ!

 

 

 

 

いざ!南無三!!

 

 

 

 

ガラッ!!

 

 

 

 

 

その時俺は頭がとんでもない回転をしていたにも関わらず常識的なマナー、『ノックをする』ということを忘れてしまったのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」「あら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり目に入ったのは白い肌

 

 

 

 

 

 

羽沢さんはシミのない綺麗な肌色の背中を外にさらして羽沢さんのお母さんに背中を拭いてもらっている最中だった

 

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 

つい目を見開いてそれを眺める

 

 

 

こっちを振り返った羽沢さんは俺の顔を見て一瞬キョトン?とした表情を浮かべたあと、どんどん顔を赤くしていって・・・

 

 

 

 

 

「・・・・・・す、す、すみませんでした!!!」

 

 

 

 

 

バタン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし、腹を切るか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラッ

 

 

 

目の前の黄色い扉から羽沢さんのお母さんが出てきた

 

 

 

 

「あ、あの、すみませんでした!!!」

 

 

 

「いや、私に謝られても。それに背中見たぐらい気にしない気にしない!」

 

 

 

そんなざっくりでいいのか?!!

 

 

 

「その紙袋はつぐみに?」

 

 

 

羽沢さんのお母さんは俺の手持っている袋を指さして聞いてきた

 

 

「ああ、はい一応お見舞いの品のつもりで」

 

 

 

「そう、ありがとうホクサイくん。私は飲み物を買って来るから先に中に入っててくれる?」

 

 

 

「ええ?!入ってもいいんですか?」

 

 

 

「入らないと謝れないわよ」

 

 

 

ぐうの音も出ない程の正論であった

 

 

 

それじゃっと言ってどこかに行ってしまった

 

 

 

 

ぐああああああああぁぁぁ行きたくない行きたくない行きたくない行きたくないよー!!!!ああああああああぁぁぁ嫌だあああああああ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ははぁぁぁぁ

 

 

 

 

コンコンコン

 

 

 

「は、はい!ど、どうぞ!」

 

 

 

今度はしっかりとノックをしたら中から返事が返ってきた

 

 

 

ガララッ

 

 

 

ベットにいる羽沢さんはしっかりと服を着て、顔を赤くして座っていた

 

 

俺はベットの傍にある椅子についた

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

二人とも無言で俯いている

 

 

 

「・・・・・・・・・その、」

 

 

 

「は、はい!何?羽沢さん」

 

 

 

 

「その・・・・・・見えた・・・・・・かな?」

 

 

 

 

「い、いやむしろタオルでなにも見えなかった!ほんとほんと全然だよ!!」

 

 

 

 

「そっかぁ良かったぁーそれなら安心だね!」

 

 

 

羽沢さんは赤くした顔を平常に戻してあはははーと笑った

 

 

 

 

 

 

 

嘘です

 

 

 

しっかりと羽沢さんの綺麗な背中をこの目に焼き付けました

 

 

 

ご、ごめん羽沢さん!!本当にすみません!!

 

 

 

このままじゃあダメだな!とりあえず渡したいものを渡してすぐに帰ろう

 

 

 

「これお見舞いに持ってきたから良かったら食べて!」

 

 

 

「あ、ありがとう!ホクサイくん!これはチョコレート?」

 

 

 

「あ、ああそんな大したものじゃないけど」

 

 

 

「ううん!ありがとう!私甘いもの好きなんだ!」

 

 

 

良かった気に入ってもらえたみたいで、

 

 

それじゃあミッションコンプリートだ

 

 

 

「それじゃあ、俺はもう帰るよ」

 

 

 

俺は椅子から立ち上がる

 

 

 

「っえ!もう?!」

 

 

 

「ああ、羽沢さんも病み上がりだし、あんまり無理させるのも悪いし」

 

 

 

「え?でも・・あの・・・」

 

 

 

「おーい!ホクサイくーん両手が塞がってて扉が開けられないんだけど開けてくれなーい?」

 

 

羽沢さんはなにか言いかけるけどその時扉の奥から羽沢さんのお母さんの声が聞こえた

 

 

「は、はい!」

 

 

 

扉を開けたら羽沢さんのお母さんが両手でコーヒーを持っていた

 

 

 

「ゴメンねあ、これも持って?そうだつぐみ!」

 

 

 

それでそのまま俺にコーヒーを持たせてきて、

 

 

 

「何、お母さん?」

 

 

 

「さっきお父さんから電話があってお店を手伝ってくれって言われたから戻るね?」

 

 

 

「ううん!大丈夫だよ!お父さんによろしくね」

 

 

 

「はいはーい!それじゃあホクサイくん!つぐみのことよろしくね!」

 

 

「は?・・・・・っえ?なんで?」

 

 

 

でわでわ〜っと言って行ってしまった

 

 

 

ええぇぇ!!!!

 

 

 

行動が唐突すぎる!あんたは日菜先輩か!

 

 

 

いや!でも羽沢さんはもう寝ないとダメだろ!

羽沢さんもニヤニヤしないで早く寝なさいよ!なんでそんなに嬉しそうな顔してんだよ!

 

 

はぁぁぁ

 

 

 

「さ!ホクサイくん!座って座って!」

 

 

 

そう言って羽沢さんは椅子をポンポン叩いて俺に座るように促す

 

 

 

俺はまた椅子に座って羽沢さんにコーヒーを手渡す

 

 

 

「はい羽沢さん。それで俺は何をすればいいの?」

 

 

 

「ありがとう、うーん何しよっか?」

 

 

 

あはははと羽沢さんは笑ってる

 

 

 

いや、俺が聞きたいんだけどね!まぁ背中を見てしまったこともあるから出来ることはするけどさぁ

 

 

 

たださっきから羽沢さんの笑い方が不自然だとは思っていた。教室とは違ってぎこちない

 

 

 

「羽沢さん、大丈夫か?」

 

 

 

「あ・・・・・・・えっとね・・・・・・」

 

 

 

羽沢さんは笑顔をすぐにしまって、落ち込んでしまった羽沢さんのお母さんはこれを見越していたのかもしれない

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

病室の窓からは綺麗な空が見えていて雨なんか降りそうにない

 

 

 

「私ね、ホクサイくんに言われて頑張ったの。みんなに勝てなくても自分が上手くなるために頑張ったの」

 

 

 

「うん」

 

 

 

「でも無駄にしちゃった、私は私の頑張りを無駄にしちゃったよホクサイくん」

 

 

ベットの白いシーツにいくつかシミが出来ては薄れて消える

 

 

羽沢さんは両手で包むように持ったコーヒーを震わせていた

 

 

やっぱり羽沢さんは()()()()()()()()()

 

 

 

「羽沢さんってリスだよね・・・北海道のエゾリス」

 

 

 

「えっ?リス?」

 

 

羽沢さんはキョトンとした表情を浮かべた

 

 

 

「知ってる?エゾリスは秋になると地面にドングリを植えて、そしてそれを掘り返して冬を凌ぐんだ」

 

 

 

「う、うん知ってるけどなんでそんな話を今するの?」

 

 

 

羽沢さんの疑問の声はあえて無視する

 

 

 

「でもその植えたドングリは何個かはそのまま忘れられて埋まったまま食べられないんだ」

 

 

 

「・・・そっか、なら確かに私はリスなのかもね。努力してドングリを植えたのにそれが結果にならない」

 

 

 

羽沢さんは流石に頭がいい、その通り。でもあと一歩足りない

 

 

 

「でもその植えたドングリはいつか芽吹くんだ」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「当たり前だろ?ドングリって要は種なんだから地面に植えたら必ず芽吹くんだ」

 

 

 

「・・・・・・そっか」

 

 

 

「その努力はいつか大きな木になってまた沢山のドングリをつけるんだ。そう努力は絶対に無駄になんてならない」

 

 

 

 

 

 

 

そう確かに今回はダメだったかもしれない

 

 

だけど

 

 

 

「羽沢さん、失敗してもずっと()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

リスが植えたドングリは掘りだせなかったとしてもそれでもドングリは木になる

 

 

失敗は失敗であり続けない

 

 

 

失敗(掘り出せない)はいつか成功(巨木)になる

 

 

「羽沢さんは自分の努力を誇っていい。自分で自分を褒めていいんだ」

 

 

「・・・・・・そっか私頑張って良かったんだ・・・・・・」

 

 

 

羽沢さんはゆっくりと自身に言い聞かせるように呟いた

 

 

その綺麗な茶色の瞳から一筋頬に伝っていくものがあった

 

 

「あぁそっか、ぞっうなんだぁ、ううぅぅぅグスっ」

 

 

ちょ!ちょっと!ちょっと待って!!

 

 

 

「ご、ごめん!俺そんなつもりじゃなくて!」

 

 

 

「ご、ごめんなざい、ちがくでそうじゃなくて」

 

 

「羽沢さんご、ごめん!本当にごめんなさい!」

 

 

 

「ちっちがくでそうじゃなくてずっと誰かにそう言って欲しかったの」

 

 

 

羽沢さんはボロボロと涙を流しながら両手で顔を覆いながら声を出して泣いてしまった

 

 

 

どうしよう?どうしよう?本当にどうしよう?なにしてどうする?

 

 

 

ええいままよ!!

 

 

 

俺は羽沢さんの頭に手を伸ばしてそのまま頭を撫でた

 

 

 

ヨシヨシ

 

 

 

「・・・・・・え」

 

 

 

ヨシヨシヨシヨシ

 

 

 

って俺は何してんの?!?!

 

 

 

確かに羽沢さんは驚きのあまり涙は止まったけど!これってもしかしなくてもセクハラなんじゃ??!

 

 

 

「こ、ご、ごめん!!」

 

 

手をはなそうとしたら羽沢さんの手に捕まる

 

 

え!?な、なに?は、はなして欲しいです!

 

 

 

「・・・・・・・・・して」

 

 

 

「え?なに?」

 

 

 

「・・・・・・・・・もう一回して?」

 

 

 

羽沢さんは涙の溜まった瞳のまま上目遣いで俺に頼んできた

 

 

 

 

 

それを振り払って帰るなんて俺には到底出来ない事だった

 

 

 

 

 

 

かわああああああああああああああいいいいいいいいいいい!!!!

 

 

 

 

 

 









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言い訳とは醜いもの


前回が長かったので今回は短めで








 

 

 

その後しばらくの間俺は羽沢さんの頭を撫で続け、お見舞いに来た宇田川さんと上原さんとばったり遭遇(エンカウント)し宇田川さんが

 

 

 

「あたし達の大事なつぐに何してんだああ!!!」

 

 

 

と一発お見舞いされ、上原さんと羽沢さんの決死の説得により宇田川さんは落ち着いたあと

 

 

 

バンドの今後を決める大事な話し合いがあるとの事だったので俺はそうそうに引き上げた

 

 

 

それから週明けの日

 

 

 

隣の席には羽沢さんが無事に来ていた

 

 

良かったもう大丈夫見たいだ

 

 

 

「おはよう羽沢さん。もう大丈夫なの?」

 

 

 

「う、うんごめん私ひまりちゃんに用があるから!」

 

 

 

そう言って羽沢さんは上原さんの所に走って行った

 

 

 

まあ、バンドのことで話があったらしいしその事だろう

 

 

 

と、思っていがその後何度か話しかけようとしたら

 

 

 

 

 

「羽沢さん、あの「モカちゃん!ちょっといい?」

 

 

 

「羽沢さ「巴ちゃーん!お願いがあるんだけど?」

 

 

「はざ「ひまりちゃん!一緒に行こう!!」

 

 

 

 

 

 

 

と明らかに俺の事を避けていた

 

 

 

あんなに露骨に避けられるとやっぱり傷つくなぁ俺なにか羽沢さんに嫌われることしたかなぁ?

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・うん、結構してたわ

 

 

 

つまりこれはあれか

 

 

 

「もうあんたとは顔も見たくない」ってことなのか?!

 

 

 

いやいや羽沢さんに限ってそんなこと・・・・・・って俺は羽沢さんの何を知ってるって言うんだよ!なんにも知らねぇわ!

 

 

 

まあしょうがないんだろうそれだけのことをしていたんだろう

 

 

 

俺もまたハジメと一緒にバカ騒ぎをする生活に戻るんだなぁ少し寂しいが気持ちは楽になる

 

 

 

放課後になるまで俺は羽沢さんと会話どころか目も合わせてくれないままだった、俺も無理に話しかけたりせずそのまま過ごした

 

 

 

ホームルームが終わったあと俺は席を立って天文部の部室に行く

 

 

きっと羽沢さんはバンドの練習だろう、あれだけ羽沢さんに頑張れって言ったんだから俺も頑張らないとな!

 

 

 

今日は何をやろうかな?数学?世界史?それともたまには生物でもやるか?

 

 

 

どうしよっかなぁ?

 

 

 

 

「・・・・・・サ・・・くん」

 

 

 

「ど〜しよう♪ど〜しよう♪な〜にしようかな〜♪」

 

 

 

「ホ・・・イくん!」

 

 

 

「なんで俺はリズミカルに歌ってんだ?あははは疲れてるのかな?」

 

 

 

「ホクサイくん!!」

 

 

 

「は、はい!って何?誰?ってかどこから?」

 

 

 

「こっちだよホクサイくん」

 

 

 

後ろを振り返るとそこには今日は散々俺を避けてきた羽沢さんが両手の指を合わせながらそこにいた

 

 

 

「は、は、羽沢さん?ど、ど、どうかしたの?」

 

 

 

「えっと実はこれを渡したくて・・・貰ってくれる?」

 

 

 

そう言って羽沢さんはカバンから一枚の封筒を取り出して来た

 

 

ちょうど便箋一枚入りそうなそれぐらいの大きさの封筒を

 

 

 

 

って!こ、こ、これはまさか!!現代では既に絶滅したと言われている!ラ、ラ、ラララララブレター??!!

 

 

 

いや待て!落ち着け!俺に限ってそんなことはない!勘違いするな!勘違いして、傷が付くのは他ならぬ自分なんだぞ!!やめておけ!期待なんてするな!そうだ!これはなんかあれだ!なんかよくわからないけどラブレターとかじゃない!そうだ!きっとそう!そうに決まってる!

 

 

 

期待するな期待するな期待するな期待するな期待するな!!!!ああああああああぁぁぁ!!

 

 

 

 

「ホクサイくん?受け取ってくれないの?」

 

 

 

上目遣いやめて!可愛いから!

 

 

俺は震える手を出していく。凄い量の手汗をかきながら羽沢さんの手にある封筒を受け取ろうとする

 

 

「ホ、ホクサイくん?ど、どうしてそんなに腕を震えさせてるの?」

 

 

 

ガタガタガタガタと腕を震わせ、ついでに膝も笑いだした

 

 

 

息遣いもだんだん荒くなっていき、俺はやっと羽沢さんから封筒を受け取った

 

 

 

「こ、これ、これは、これは一体?」

 

 

やっとの思いで俺は口を動かして羽沢さんに問いかけるすると羽沢さんは少し頬を朱に染めながらえへへと笑って、

 

 

 

「そこに今後の私達の事について入ってるの。ぜひホクサイくんに見て欲しいな、実は今日はずっとこれを渡したくてでも緊張しちゃってなかなか渡せなかったんだ」

 

 

 

 

今後の俺達?ホクサイくんに見て欲しい?!緊張しちゃって?!!う、うう、うそだ違う違う!!きっと違う!嫌でも?もしかしたら本当に?ラブレター?!!いやでも?待って?!そんな俺そんな急に言われても!?!

 

 

 

ペリっと音を立ててゆっくりと封筒を開ける・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガールズバンドジャムVol.12!!』

 

 

 

 

黄色いポップなイラストに中央にデカデカとその文字が書いてあった

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと」

 

 

 

 

「それ、今度私たちが出るライブイベントのチケット都合が良かったら見に来てね!」

 

 

 

羽沢さんは顔を赤くしながら俺に封筒の中身を説明してくれた

 

 

 

ラ、ラ、ライブのチケット?

 

 

 

「あ、ああ見に行くよ。スゲーウレシイナー」

 

 

 

「そっか!良かったぁごめんね私もう練習行かないと!ホクサイくん良かったら感想聞かせてね!」

 

 

 

羽沢さんは手を振りながら走っていって練習に向かって行った

 

 

 

 

 

 

 

い、い、い、いや!し、し、知ってたし!!ラ、ラ、ラ、ラブレターなんて本当に期待してなかったし!!全然本当に!だから大丈夫!ショックなんて受けてないし!!うわぁーライブイベントのチケットだ!ライブなんて初めて行くよぉ!!嬉しそうなぁ!!いや本当に嬉しそうな!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ははぁぁぁぁ目から汗が出てきそうだ

 

 

 

 

 

 

 

本当に期待なんてしてないから(泣)!!!

 

 

 

 

 












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ステージに立つと人は変わる







目の前のステージからカラフルな光と大量の振動が来る

 

 

 

 

俺も周りの人も全員がその音を通してこの場所でひとつになる

 

 

 

羽沢さんからラブレターではなくライブイベントのチケットを受け取った俺はライブ当日にライブハウスに来てイベントを楽しんでいた

 

 

 

 

「Glitter*Greenでしたー!!みんなー!今日はありがとう!!楽しかったよー!!」

 

 

 

「「「「イエエェェーーーーェエエエイ!!」」」」

 

 

 

ステージではいまさっきまで歌っていたバンドが退場していく

 

 

周りからは「グリグリよかったねぇ!」「最後の新曲かな?」「次どこのバンドだっけ?」などなど同世代の女の子の会話が聞こえる

 

 

 

当然、俺は一人だ。ちょうど俺の周りだけ人が集まらず真上から見たら人間のミステリーサークルみたいに見えそうだ

 

 

 

一人には慣れているけど正直帰りたいがけどまだ目的のグループを見ていない

 

 

 

「続いてのグループはAfterglowです」

 

 

会場のアナウンスから声が聞こえる

 

 

 

来た!ついに来た!

 

 

 

羽沢さん達のグループだ!やっと来た!

 

 

おお!本当に羽沢さんが・・・・・・ん?

 

 

 

・・・・・・あれは羽沢さんなのか?

 

 

 

ステージに立った羽沢さんはいつもとは全然違って見える

 

 

当然いつもの服装じゃなくて衣装に着替えてるけど

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・だけどそれだけじゃなくて・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

羽沢さんを見てるけど顔が似てる別の人を見てる気分だ

 

 

 

ステージに立っている羽沢さんは何処か遠くの人になったようですごくカッコ良く見える

 

 

 

マイクの傍に立っている黒髪に赤いメッシュをいれた人が一言挨拶をする

 

 

 

「今からここの熱を全部あたし達のものにする。みんな遅れないで着いてきて!」

 

 

 

ハキハキと喋るつり目の彼女は狼のような印象を与える人でその声もすごく力強いものだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のことはよく覚えていない

 

 

 

ひたすら「うおぉ!」とか「スゲー!」とか叫んだ気がするけどそれも結構曖昧だ

 

 

 

アフターグロウの演奏の後もいくつか見てから帰った

 

 

 

外の空気で少し頭が冷めてきたけどまだまだ興奮は収まらない

 

 

 

誰かにこの感想を伝えたい!

 

 

 

そうだ!羽沢さんにお礼とお疲れ様を言わないと!

 

 

スマホ、スマホ、あった!

 

 

 

じゃあ早速!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・羽沢さんのアドレス知らねぇわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああああああぁぁ無理じゃん!!俺の馬鹿野郎ぉ!!!

くそおおおおお!!がああああぁぁ!!

 

 

 

 

出来れば今日中に感想を言っておきたかったんだけどまぁこれじゃあ無理か、学校でそれとなく伝えよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁぁぁぁぁぁ帰ろうかな?

 

 

 

 

でもせっかくだしこのまま帰るのは勿体ない気がする

 

 

 

どこかで暇を潰したい気分だ

 

 

 

どこに行こう?ライブハウスが思ってたよりも学校の近場だったからあんまり家からも離れてないしうーん?

 

 

 

デパートは最近行ったばかりだし、たまには商店街にでも行ってみるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺はテクテクと商店街の中に入っていった

 

 

久しぶりに入ってみると色々と思い出す事がある

 

 

あそこの肉屋でコロッケ食ったなぁとか、あのパン屋美味かったなぁとか

 

 

 

まぁそれに伴ってトラウマもチラホラと!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・これはいい、要らない記憶だな、しまっておこう

 

 

 

さっき買ったコロッケを片手に散歩していると『珈琲店』の文字が目に入る

 

 

 

喫茶店ってやつ?あんまり入ったことないけど、今日ぐらい行ってみよう

 

 

 

そう思ってドアノブに手をかけようとすると、二つの手が同時にドアノブに触れる

 

 

 

「「え?」」

 

 

 

つい隣を見る

 

 

 

背中にギターケースらしきものを背負った黒髪に赤いメッシュをいれたつり目の人・・・

 

 

 

 

 

あ、あれ?この人どこかで見たことあるぞ?

 

 

 

 

 

 

見間違いじゃなければこの人、Afterglowのボーカルじゃないか?

 

 

 

「ねぇ?先にいい?」

 

 

 

俺が固まってその人の顔を見つめていると声をかけてきた

 

 

 

「あ、ああどうぞ」

 

 

 

特に急いでいたわけではないので先に譲る

 

 

 

ボーカルさんはそのまま俺に目もくれず店内に入っていった

 

 

カランカラン

 

 

 

ドアに着いていたカウベルのようなものが鳴る

 

 

 

「蘭おそーい!もうみんな始めちゃうよ?」

 

 

「ごめんひまり、片付けにちょっと時間かかって」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、あ、あれ〜〜おかしいな〜〜なにか聞いたことがある人の声がするゾー

 

 

 

そう例えばポメラニアンのような雰囲気をまとう少女

 

 

 

ドアについてる小窓から店内を見てみると・・・

 

 

 

やっぱりいる上原さん(ポメラニアン)がいる

 

 

青葉さん(パンダ)宇田川さん(ワシ)もいる

 

 

 

なんなんだ?ここは?もしかしてAfterglowの巣なのか?

 

 

もう一度店名を見てみると『羽沢珈琲店』とやっぱり珈琲店と書いてある・・・・・・・・・羽沢?

 

 

 

えっ〜と?ハザワ?はざわ?羽沢?

 

 

 

 

羽沢さん?

 

 

 

いやいやいや待て待て待て俺!そうとは限らないだろ!『羽沢』なんてよくある名字じゃないか?そうだそうだここの羽沢が俺の知ってる羽沢さんなわけないじゃなないか!

 

 

 

カランカラン

 

 

 

またベルの音がする

 

 

 

「ねえあんた、入るなら早く入りなよ。そこに立たれるとお店にも迷惑じゃん」

 

 

 

黒赤(黒髪赤いメッシュ)さんがもう一度扉を開いて俺に話しかける

 

当然、扉で遮られていた中の様子が見れる

 

 

逆に言えば中からも俺の姿が見える

 

 

すると

 

 

「なぁひまり?あいつホクサイじゃないか?」

 

 

 

「ああ!本当だ!ホクサイくんだ!」

 

 

 

「おお〜ホクちんだ〜これはびっくりですな〜」

 

 

 

Afterglowのメンバー(子犬、パンダ、ワシ)が俺の事に気がついた

 

 

 

「あれ?ホクサイくん?いらっしゃい!()()に来たの初めてだね!」

 

 

 

驚くというかやはりというかやっぱりそこには羽沢さん(リス)もいて

 

 

 

「え?みんな知り合いなの?」

 

 

 

独り取り残された黒赤さんはいつまでもマヌケにドアの前につったっている俺を見上げる

 

 

 

後で知ったことだけどここ羽沢珈琲店は羽沢さんの実家でありアフターグロウの昔からのたまり場なんだそうです

 

 

 

 

やっぱり『巣』だったか!

 

 

 

 

 

 

 








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トラウマを掘り返すのはやめましょう。ひどく傷つきます









吾輩はホクサイである、名前はまだ無い

 

 

「へぇつぐみ達と同じクラスなんだ。ふーん」

 

 

「らーん!どうしてそんなに固いの?知らない人いて緊張してる?」

 

 

「き、緊張なんてしてないし」

 

 

「蘭は人見知りだからね〜」

 

 

「そっか!ホクサイは今日のイベント来てくれたんだな!嬉しそうよ!」

 

 

「勝手なことばっか言わないでよ!モカ!」

 

 

「確か会場でやけに空いてる場所があったよね、あれがホクサイくんだったのかな?」

 

 

「ステージから見たらミステリーサークルみたいだったよね!」

 

 

「いやいや〜蘭は私達とばっかり喋るからモカちゃんはいつも心配してるんだよ〜」

 

 

「そんなことないし!私は無駄な話をしないだけだから」

 

 

「ああ!やたら不自然に空いてたな!あははは!」

 

 

「あははは!」

 

 

俺は絶賛ひとりきりでカウンター席について後ろで仲良くテーブル席での会話を聞かされている

 

 

いや、確かにいつも独りなんだけど今回はレベルが違うただ独りでいるのは苦痛じゃないけど周りが友達同士で俺だけ違うと思うと結構きついものがある

 

 

 

黒髪に赤いメッシュの人は美竹蘭さん

 

 

俺の知らなかったアフターグロウの最後の一人

 

 

つり目と周りの人を近づけさせない雰囲気を持つどこか狼のような人だ

 

 

なんというかちょっと怖い、いや何もされてないんだけどね

 

 

「そっか、つぐみを助けてくれた人ってあんたなんだ」

 

 

美竹さんが席を立って俺の隣まで来る

 

 

「えっと、あの、その、つぐみを助けてくれてありがとう」

 

 

美竹さんはそう言って俺にお礼を言ってくれた

 

 

「いや、別に俺がした事なんて大したことじゃないから」

 

 

「それでも助けてくれた事には変わりないし、もしつぐみが大変な事になってたらやっぱり嫌だし、だからありがとう」

 

 

美竹さんは少し照れながら、言葉をかけてきた

 

 

 

そっかこの人は・・・・・・

 

 

 

「そこまで言うならどういたしまして」

 

 

 

「うん、本当にありがとう」

 

 

 

そうだ。やっぱり、この人は

 

 

 

「その美竹さんはアフターグロウのメンバーがスゴく好きなんだな」

 

 

 

俺の何気ない一言にボンっ!と音がなりそうになるほど美竹さんは顔を真っ赤に染めた

 

 

 

「は、は、はぁ?!な、あ、い、いや!そうゆうのじゃないから!確かにつぐみは大事だし!いなくなったら嫌だけど!す、す、好きとかじゃないし!ふふ、ふ、普通だよ!」

 

 

 

手を激しく動かしなから俺の言葉を否定するけど顔を赤くしている時点で既に説得力が無い

 

 

そっかやっぱりこの人は・・・・・・ツンデレだ!!

 

 

後ろで俺達の会話を聞いていた四人はニヤニヤと笑いながらこっちを見ていた

 

 

 

「らーん!!!」

 

 

 

「ちょっとひまり!くっつかないでよ!」

 

 

 

上原さんが美竹さんに突撃して抱きしめている

 

 

うわぁー女の子だから許させる行動ですねぇ男同士なら目も向けられない状況だ

 

 

もしハジメが「ホクサーイ!」って突っ込んで来たら俺は余裕でその顔に膝蹴りをかませられる

 

 

 

「らーん!らーん!らーん!」

 

 

「ひまりー!離してっててば!」

 

 

「モカちゃんも蘭にとつげき〜」

 

 

「あははは!あたしも!つぐも来い!」

 

 

「え?!私も?え、え、ごめん蘭ちゃん!」

 

 

真ん中に美竹さんその両側を青葉さんと上原さん前後を羽沢さんと宇田川さんで囲んで美竹さんを抱きしめていた

 

 

「ち、ちょっとみんな!暑苦しいよ!もう!」

 

 

「ホクサイくん!これで写真撮って!」

 

 

「えっ」

 

 

上原さんはポケットから携帯を取り出して俺に急に話しかけてきた

 

 

俺は携帯を受け取ってカメラをそのよく分からない団体に向ける

 

 

 

「はい、じゃあ撮りまーす!はいチーズ!」

 

 

シャッターボタンを押すとフラッシュがたかれる

 

 

携帯の画面には五人の笑顔が綺麗に映されていた

 

 

こうゆうのなんかいいな

 

 

「はい、上原さん」

 

 

「ありがとうホクサイくん!わあ!これ見てみんな!」

 

 

「おお〜いいねぇ〜」

 

 

「ああ!よく撮れてるよ」

 

 

「ひまりちゃん私にもその写真送ってくれる?」

 

 

「いいよ!みんなに送るね!」

 

 

おお、みんなキャッキャウフフとテンション高いなぁ

 

 

 

楽しそうだなぁ

 

 

 

いや、仲間はずれにされて寂しいとかじゃないからそんなんじゃないから!

 

 

 

はぁぁぁ

 

 

 

「ホクサイくん」

 

 

俺がため息をついていると後ろから声をかけられる

 

 

振り向いて見るとそこには羽沢さん(母)がいて、その手にはケーキとマグカップがあった

 

 

「これ食べてホクサイくん。この前病院で言ったお礼よ」

 

 

「え?いいんですか?」

 

 

「いいのいいの!ホクサイくんのために作ったんだから君が食べないならこれは廃棄になっちゃうよ」

 

 

羽沢さん(母)は強引に俺の前にケーキとカップを置く

 

 

「・・・・・・まあそう言うことならいただきます」

 

 

俺はカウンター席に座ってフォークをとってケーキを食べようとしたら羽沢さん(母)が俺の耳もとに近づいて

 

 

「つぐみの事が好きなんだって?」

 

 

と小声で俺に話しかけてきた

 

 

って!はああぁ?!

 

 

「ひまりちゃんに聞いたわよ〜まあホクサイくんみたいないい子だったら私も心配要らないけどあの子が嫌がったら素直に身を引いてね」

 

 

またあの子犬か!いい加減にしろ!

 

 

「ち、違いますよ!そんなんじゃないです!」

 

 

「違うの?なんだぁガッカリだわ」

 

 

なんでだよ!

 

 

「でもどうして?親の贔屓目なしにしてもつぐみはいい子よ。確かにひまりちゃんや巴ちゃんみたいなスタイルじゃないけどあの子もそれなりに()()のよ」

 

 

なんの話しだ!

 

 

「それにつぐみは真面目だし努力家で真面目よ」

 

 

「は、はぁ」

 

 

俺はケーキを食べながらテキトウな返事をする、ケーキ上手い

 

 

 

「どうしてかしらーう〜ん?あっ!もしかして他に好きな子がいるの?」

 

 

「っぐが!!」

 

 

やばっ!

 

 

慌てて手で口を抑えるけどもう遅い、羽沢さん(母)はニヤニヤと嫌な笑を浮かべてきた

 

 

「そっかぁ好きな子がいるのかぁそれは残念ねぇ!」

 

 

おい!今わざと大きな声で言ってるだろ!周りに聞こえちゃうだろ!

 

 

「「えっ!ホクサイくん好きな子いるの?!」」

 

 

ほら見ろ!やっぱり食いついたじゃないか!

 

 

また振り向いて見るとわちゃわちゃしてた上原さんが嬉しそうな顔をして何故か羽沢さんが驚きの表情を浮かべ、

 

 

「そ、そそ、そっかホクサイくんすすすすす、す、す、好きな人がいるんだ」

 

 

羽沢さんが壊れたラジオみたいな喋り方してる大丈夫か?

 

 

「そうなんだ!誰?どんな人?私たちの学校の人?」

 

 

上原さんはいつも元気だなぁ関心するよ

 

 

てか来るなよジリジリよってくるな、アフターグロウ全員で俺を取り囲むのをやめろ

 

 

「ホクサイくん!逃げられないわよ!」

 

 

後ろで羽沢さん(母)が俺の両肩に手を置いた

 

 

四面楚歌ってこの事か!

 

 

「はぁぁぁ、確かにいましたよ。そ、その憧れの人は昔から知ってる人です」

 

 

 

「そ、そうなんだ、えっとどんな人なの?やっぱり日菜先輩かな?

 

 

 

「えぇ?えっと努力する人で自分に妥協を許さない人かな?」

 

 

本当につぐみじゃないんだぁそれでどうしたの?告白した?!」

 

 

上原さんは元気いいなぁ何かいいことでもあったのか?

 

 

「どうなのホクサイくん?もしかしてその人と付き合ってるの?」

 

 

なんで羽沢さんは泣きそうな顔してんの?

 

 

 

「・・・・・・いや・・・・・・ずっと片思いだったけどフラれたし」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

さっきまで明るかったバンドのメンバーが静まり返った

 

 

 

「そ、そのホクサイくん!元気出してきっといい事あるよ!」

 

 

「そうだって!これからだよホクサイ!」

 

「パンを食べれば幸せになれるよ〜」

 

 

「ど、どんまい」

 

 

なぐさめんの下手くそすぎだろお前ら!

 

 

「そっかぁ!ホクサイくん付き合ってないんだぁ!」

 

 

なんで羽沢さんはさっきとは違って嬉しそうなんだ!

 

 

「大丈夫よホクサイくん」

 

 

後ろで羽沢さん(母)が真剣な表情で俺に話しかけた

 

 

 

「男の子はフラれてカッコ良くなるのよ!」

 

 

 

もういいわ!!

 

 

 

 

トラウマ掘り返したせいでせっかくのライブの気分が台無しになったじゃねえか!

 

 

ちっくしょう!

 

 

 









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山の天気は変わりやすい









 

 

 

 

ガルジャムが終わった後のとある休日の朝

 

 

俺が冷蔵庫から何か適当なものを探している時にうちのオカンが

 

 

 

「ねえ(いつき)、私お父さんに言われてちょっとフランスに行ってくるから一週間くらい家を空けるわね」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」

 

 

 

一瞬なんの冗談かと思ったがオカンはそう言ってキャリーバッグに荷物を詰め込んで颯爽と家を出ていった

 

 

 

ガッチャン、扉の閉まる音がする

 

 

 

「・・・・・・は?・・・・・・えっ!もう行くの?!飯は?洗濯は?その他家事は?」

 

 

 

ピロリン!

 

 

 

俺が困惑していると携帯から電子音が鳴る、メールが来た

 

 

 

『キッチンの戸棚にお金をしまってある。何か困ったら氷川さんを頼りなさい』

 

 

 

「マジかよ」

 

 

 

というわけで俺の一人暮らし(仮)が本当に唐突にスタートした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どうしたものか

 

 

 

キッチンに置いてあったお金の金額は一週間を過ごすには十分なものだったから食事なんかの問題はない

 

 

 

けどそれ以外の掃除や洗濯は全くと言っていいほど経験がない

 

 

 

う〜んどうしたもんか?困ったら氷川家を頼れと言われたが高校生にもなってお隣さんを頼るのもなんだか恥ずかしいし

 

 

 

まあ、オヤジが急にわけの分からないことを言って俺たちを引っ掻き回すのはよくあったことだしなんとかなるだろ

 

 

まあ、一人暮らし(仮)でちょっとテンション上がるな

 

 

 

 

 

ピーンポーン!!

 

 

 

 

ん?

 

 

誰か来たな、誰だろう?何か郵便か?新聞屋かな?

 

 

 

少し考えながら玄関の扉を開けるとそこには

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「やっほー!ホクサイ!手伝いに来たよ!」

 

 

 

薄青の色の髪をショートカットにした、小さい花の刺繍の服に黒いミニスカを合わせた美少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッチャン!!!ガチャ

 

 

 

 

扉が悲鳴をあげるのではと思うくらい勢いよく閉めた。ついでに鍵もかけた

 

 

 

な、な、な、なんで天災(氷川日菜)がここにいるんだ!!

 

 

 

「ちょっと!開けてよ!ホクサイ!ねえ!」

 

 

 

ま、不味い!何が不味いか具体的には分からないけどとにかくヤバい事が起こる予感がある!

 

 

 

つかあの人今なんてった?“手伝いに来た”とか言ってたな、ダメだダメだ!あの人をこの家に入れちゃいけない!あの人が手伝ったら最悪この家が丸ごと吹っ飛ぶ可能性すらあるぞ!

 

 

 

 

ガチャガチャガチャ!

 

 

 

 

我が家の扉が「入れてなるものか!」とあの天災を食い止めている

 

 

 

ガチャガチャガチャガチャ!

 

 

 

「ホクサイ!鍵を開けてよ!変な事は何もしないってば!本当に手伝いに来ただけなの!ねえ!開けてよ!」

 

 

 

何やら扉の向こう側で伝えているがそんなものは関係ない!あの人の行動は読めないからな!

 

 

 

つか今まで変なことしてた自覚はあったんだ

 

 

 

 

ガンガンガン!!

 

 

 

 

コラコラ扉を蹴るな

 

 

 

「もういいよ!ホクサイのバカ!もう帰る!」

 

 

 

はあぁぁぁぁぁ

 

 

よし勝った!天災は去った!我が家に平和が訪れた!我慢して待って良かった!ハッハッハ!今回は俺の勝ちだな!やったぜぇぇええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えええ!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぇえっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじゃましまーーす!!」

 

 

 

「はあああ!!帰ったじゃないの?!てかどうやって入った?!魔法でも使ったのか!」

 

 

 

鍵はしてたよな!どうやって?

 

 

 

「どうやってって?合鍵で」

 

 

 

「その合鍵はどこで手に入れた?!」

 

 

 

「あははははっ!それはまあいいとして!」

 

 

 

「笑って誤魔化すな!良くねぇよ!一番良くねぇよ!どこで手に入れた!もしかして作ったのか?!」

 

 

 

「ホクサイ!手伝いに来たよ!」

 

 

 

 

おう、来るなよ

 

 

 

 

俺の唐突な一人暮らし(仮)はここに唐突に崩れ去った

 

 

 

 

「で?」

 

 

 

「で?って何が?」

 

 

 

「だからどうやって家に入った、まずなんでウチのオカンが海外に行くなんてどうやって知ったんだ?」

 

 

 

「昨日、ホクサイのお母さんに聞いたんだよ」

 

 

 

「なんで?普通まず実の息子に伝えるだろ!なんでお隣さんに先に伝えるんだよ!つか昨日?!俺いまさっき聞いたんだけど!!」

 

 

 

「さあ?あ、鍵はその時預かったんだ!」

 

 

 

「・・・・はぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・ソウスカ」

 

 

 

オカンの頭は大丈夫なのだろうか?本気で心配になるわ

 

 

 

 

 

 

ぐうぅぅ

 

 

 

 

 

 

空腹のためかお腹が自己主張してきた

 

 

 

俺じゃなくて俺の目の前の天才(美少女)

 

 

 

おいおいそんなに顔を赤くするなら飯を食べてこいよ

 

 

 

「・・・・・・・・・えっと・・・急いで来たから・・・朝ごはん食べられなくて・・・・・・」

 

 

急いでうちに来る意味がわからん、隣だろ

 

 

 

少し早いけど昼飯を食べてもいい時間帯だ

 

 

 

「どっか食べに行きます?」

 

 

 

「うん!!行こ!ホクサイ!!」

 

 

 

そんなに嬉しそうな顔すんなよ

 

 

 

 

次から断りずらくなるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達はウチから少し歩いた所にあるファミレス(サ○ゼ)に来ていた

 

 

 

「ホクサイ!何食べる?」

 

 

 

「ドリア」

 

 

 

「またぁ?たまには別のものにしたら?う〜んあ!このハンバーグ美味しそう!」

 

 

 

あんたも似たようなものしか食わないじゃん前来た時はその隣のステーキ食ってたぞ

 

 

 

店員にドリンクバーとさっきの注文して飲み物を取りに行ってきた

 

 

 

俺はアイスコーヒー日菜先輩はまたよく分からないドリンクを開発してした

 

 

 

まあそれが毎回めちゃくちゃ美味いんだよな商品にしたらいいのにってぐらい、さすが天才

 

 

 

 

「あれ?ホクサイはコーヒー飲むの?」

 

 

 

「え?まあ最近飲み始めたんですよ」

 

 

 

「ふーんそう、ねえ!ホクサイ!」

 

 

 

「なんすか?」

 

 

 

「今日の私、何か気づかない!」

 

 

 

「はあぁ?」

 

 

 

何か気づかないってなんだ?何か変わったのか?全く分からない・・・・・・・・・

 

 

 

あ!なるほど!

 

 

 

 

「それぐらい分かりますよ」

 

 

 

「ほんと!」

 

 

 

「ええ、髪切ったんですよね」

 

 

 

「切ってない!」

 

 

 

「え?じゃあ髪留め変えました?」

 

 

 

「変えてない!」

 

 

 

ええ!自信あったのに

 

 

 

「むー!わかんないならもういい!」

 

 

 

自分から聞いといて勝手に怒るなよ本当に気分屋だな。でもこのまま不機嫌が続くとそれはそれでコッチに八つ当たりが来るからな何とかして当てないと

 

 

 

「んーと、・・・・・・」

 

 

 

「だから分からないならいいって!」

 

 

 

まあ分からないんだよなこの人の考えてることなんて一度も、全く、これっぽっちも理解出来たことが無い

 

 

 

なんてたって俺は天才じゃない

 

 

 

自分に才能を感じた瞬間がないから

 

 

 

それでもまあ考えるんだけどな

 

 

 

「・・・・・・・・・ぁ!服?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「もしかしてそれこの前買った服?」

 

 

“それ”と俺が指刺したのは小さい花の刺繍が入った長袖の服

 

 

 

日菜先輩はポカンとした顔をしてそれから心の底から嬉しそうに、

 

 

 

「うふふふふ!わかってたなら最初から言ってよ!!!」

 

 

 

ニヤニヤ笑いながらそう言ってストローをくわえて新作ジュースを飲んだ

 

 

 

「失礼します!こちらドリアとハンバーグです!ごゆっくりどうぞ!」

 

 

 

先程の店員が商品を運んで来た

 

 

 

 

「わあぁ!美味しそうだよ!ホクサイ!」

 

 

 

いただきまーす!と両手を合わせて挨拶をすると大口開けてハンバーグを食べだした

 

 

 

「美味しいぃ!!!」

 

 

 

さっきとは違って口にソースを付けながらもご満悦である

 

 

 

 

 

やっぱり天災(氷川日菜)の事は全く分からない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










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江戸っ子は熱いお風呂が好き











 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「ふんふん♪」

 

 

 

カリカリ

 

 

 

「ふんふんふん♪」

 

 

 

グリグリ、カリカリ

 

 

 

「ふふんふふんふーふーん♪」

 

 

 

後ろのベットで寝転がる大型ネコ科動物が鳴いてるけど俺はあえて無視して机についてノートと教科書を見つめて勉強している

 

 

 

この勉強はもう習慣だ

 

 

 

小さい頃から“あの人”に憧れて俺もその人の真似をしていたらいつの間にかその習慣から抜け出せなくなっていた

 

 

 

一定の時間以上勉強しないと気が済まない、日菜先輩もその事をわかっているから勉強の邪魔はしてこないけどいい加減にうるさい

 

 

 

てかなんであの人は自分の部屋に帰らないのだろう?ここにいても面白い事は何も無いのに

 

 

“退屈”ってのはこの人が一番嫌いなことだろう

 

 

まあいいや、んーこの問題難しいなどうすればいいんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえホクサイ」

 

 

と余計な事を考えていたからか

 

 

 

突然耳もとで綺麗な声とくすぐったい息遣いが来た

 

 

 

日菜先輩の顔がすぐ側にある、それこそ頬と頬が接しそうなほど近くに

 

 

 

吸い込まれそうなほど碧くて大きいその瞳には俺が写っていてどこか水晶玉のように見えた

 

 

 

「う、う、うわあああ!!な、なんだよ!」

 

 

 

俺は上体を横に逸らして日菜先輩と距離をとる

 

 

 

「ん?さっきからずっと止まってたみたいだから教えてあげようかなって思って」

 

 

 

あ、ああ。なるほどそれは有難いけどとても心臓に悪い

 

 

 

もっと普通に声をかけてくれ

 

 

 

耳にさっきの声と息の感覚が残ってかゆい

 

 

 

神経が敏感になってる

 

 

 

 

 

 

近いんだよ!なんだよこの人!少しは恥ずかしがれよ!

 

 

 

「それで?どこが分からないの?」

 

 

 

「え?あ、ああえっとここの数学の問題なんだけど」

 

 

 

んーどれどれと言って日菜先輩は問題を見る

 

 

 

軽く唇を動てブツブツ呟いて、

 

 

 

「るんっ!うん解けたよ!これはねぇまずこれをガシャンとして小さく可愛くするの!さらにパコっとすると一番小さいのが見えて来るからそれが答えだよ!」

 

 

 

 

うん、なるほど文字に置き換え(ガシャン)てから平方完成(パコっ)してグラフを描けるからそれで最小値を求めるのか

 

 

 

よしよし分かってきた

 

 

 

最初は何言ってるのか分からなかったけど長年の経験からこの意味不明な擬音も分かるようになってきた

 

 

 

確かに言ってる事は分かりずらいけどよく聞けば理にかなった事を言ってる

 

 

 

アドバイス通りにやってみたら問題は直ぐに解けた

 

 

 

「出来た?」

 

 

 

「ん、出来たありがとう日菜先輩」

 

 

 

「いいよ、それでまだ勉強する?」

 

 

 

壁の時計を見ていたら結構時間が立っていて夕方を過ぎそうになっていた

 

 

 

「ああ、今日はもういいよ」

 

 

 

日菜先輩にはかなりの時間を暇させたみたいだ

 

 

 

「そっか!それじゃどうする?」

 

 

 

「何がですか?」

 

 

 

「夜ご飯はどうするの?また外に食べに行くの?あ!その前にお風呂かな?」

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

「ん?どうしたのホクサイ」

 

 

 

お前がどうした?なんで夕食まであんたと一緒なんだよアンタの家にも夕食出るだろてかいい加減帰れよなんでまだうちにいるんだ合鍵を返して早くうちに帰れそして俺に安心をくれ

 

 

 

「ねえ?ホクサイ?夜ご飯どうするの?」

 

 

 

「あの〜日菜先輩」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「帰らないの?」

 

 

 

「どうして帰るの?」

 

 

 

???

 

 

 

わけが分からなくて俺はつい首を傾げてしまう

 

 

 

どうにも会話が成立してない

 

 

 

「いや、だからいつまでここにいるの?」

 

 

 

「今日はお泊まりでしょ?」

 

 

 

!!!

 

 

 

今度は驚きで目を見開いた

 

 

 

 

やっぱり会話が成り立ってない!!

 

 

 

 

「泊まり?!はぁ!誰がそんなこと言ったんだよ!!」

 

 

 

「私?」

 

 

 

「帰れよ!!絶対に泊まんな!」

 

 

 

「なんでなんでおかしいよ!昔はよくお泊まりしたじゃん!」

 

 

 

「おかしいのはアンタの頭だ!」

 

 

 

 

なんだ!どうしてだ!俺がおかしいのか?なんで泊まるのが前提で話が進んでいるんだ!絶対にダメに決まってるだろ!

 

 

 

「ダメだ!絶対に泊めせないぞ!」

 

 

 

「なーんーでー!!!いいじゃんいいじゃん!どうしてダメなの?!」

 

 

 

「言わなきゃわからんのか!!」

 

 

 

「わかんないー!!」

 

 

 

分かってるだろ!天才!やめろ!手をブンブン振るな!ただこねても絶対にダメだ!

 

 

 

「もう!ホクサイのバカ!もう知らない!」

 

 

 

日菜先輩は部屋の扉を出てドンドン音を鳴らしながら階段を降りて行った

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

肺の中にある空気全部を吐き出したかのような深いため息が出てきた

 

 

 

 

 

 

 

タラララ〜♪タラララ〜♪タラララッタラ〜♪

 

 

 

 

あ、風呂が入った

 

 

 

 

入るには少し早いけどまあいっか、熱いお湯に浸かろう

 

 

 

俺は風呂が好きだ、少し熱いお風呂に入ると身がほぐれる気がしてとても気持ちいい

 

 

 

少しウキウキしながらタンスから寝間着と下着を取り出して脱衣所に向かう

 

 

 

けどその途中で日菜先輩に遭遇した。この人まだ帰ってなかったのか

 

 

 

「ホクサイ、お風呂入るの?」

 

 

 

「え、ええそのつもりですけど」

 

 

 

さっきの怒った感じとは違って至って冷静に日菜先輩は俺に質問してきた

 

 

もう怒ってないのか?

 

 

 

「そっか!」

 

 

 

なんか笑顔で返事をしてきた

 

 

 

やだなぁこんな顔する時は何か嫌なことを思いついた時だよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脱衣所に向かう俺

 

 

 

 

その後ろに日菜先輩

 

 

 

 

ガラッ

 

 

 

 

脱衣所の扉を開ける俺

 

 

 

 

その後ろに日菜先輩

 

 

 

 

 

脱衣所に入る俺

 

 

 

 

その後ろに日菜先輩

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅぅぅー

 

 

 

「あの日菜先輩」

 

 

 

「どうしたのホクサイ?」

 

 

 

「日菜先輩は風呂に入りたいんですか?」

 

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

 

なぁんだ!良かった良かった!日菜先輩もお風呂に入りたいのか!あははは!

 

 

 

 

「それじゃあごゆっくり俺は部屋で待ってますので」

 

 

 

脱衣所を出る俺

 

 

 

その後ろに何故か日菜先輩

 

 

 

????

 

 

 

 

振り返る俺

 

 

 

俺と目を合わせる日菜先輩

 

 

 

 

「日菜先輩」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「風呂に入るのでは?」

 

 

 

「ホクサイが入るんじゃないの?」

 

 

 

「え?日菜先輩は風呂に入りたいのでは?」

 

 

 

「そうだけどホクサイが入るんじゃないの?」

 

 

 

「俺が入っていいんですか?」

 

 

 

「いいよ!」

 

 

 

 

そうなのか?さっきの口ぶりだとてっきり日菜先輩が先に入るのだと思ってたけど、なぁんだ先に入って良かったのか!

 

 

 

再び脱衣所に入る俺

 

 

 

後ろに再び何故か日菜先輩

 

 

 

「どうしたのホクサイ?お風呂入っていいよ」

 

 

 

 

ふぅぅ

 

 

 

 

まあ待て待て落ち着け俺そうだ慌ててもいいことないぞそうだ心を穏やかにして冷静になるんだ

 

 

 

「日菜先輩。俺は風呂に入っていいんですよね」

 

 

 

「うん!そうだよ!」

 

 

 

「じゃあなんでここにいるんだよ」

 

 

 

「一緒に入るためだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっといけないあまりのバカ発言に思考が吹っ飛んだ

 

 

 

違う違う俺の想像とは全く違うことを言っているんだよきっとそうだ何かの聞き間違いだそうそうまさか高校生にもなって一緒にお風呂に入るなんてそんなバカなことが・・・

 

 

 

 

 

「よいしょ」

 

 

 

 

「ってなにやってんだああぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

そうやって思考に没頭していたら日菜先輩がシャツの裾を捲し上げてきた

 

 

シャツの中から見えたのは綺麗にくびれた白いお腹

 

 

ついでに上の方に青い布のようなものが見えたが無理やり顔を両手で目を遮る

 

 

 

 

「え?お風呂に入るんだから服を脱ぐんだよ?」

 

 

 

「やめろ!直ぐに手を離して服を元通りにしろ!お腹!お腹が見えてる!見えてる!早くしまえ!」

 

 

 

日菜先輩が服から手を離すとシャツの裾が元に戻ってお腹を隠す

 

 

 

 

はぁはぁはぁ

 

 

 

いきなり叫んだせいで息が荒くなった

 

 

 

「どうしたのホクサイ?そんなにはぁはぁ言って?」

 

 

 

「アンタのせいだわ!何考えてんだよ!一緒に風呂?!入るわけねぇだろ!馬鹿か!一人で勝手に入れよ!!」

 

 

 

「なんでなんでおかしいよ!昔はよく一緒にお風呂入ったじゃん!」

 

 

 

「いつの話をしてんだ!!それ幼稚園児の時だろ!!」

 

 

 

「なーんーでー!!!たまには一緒に入ろうよー!ほら!私が背中を流してあげるよ!!」

 

 

 

「いらねぇよ!そんなサービス!!どこの痴女だアンタ!!」

 

 

 

 

絶対にダメだ!こればっかりは絶対にダメだ!!泊まるのは百歩譲っていいとしてもこれは断固拒否だ!

 

 

 

 

 

 

その後もアホすぎる討論を三十分ほど繰り返し、俺はやっと日菜先輩を脱衣所から追い出すことが出来た

 

 

 

 

 

 

 

 

 













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月が綺麗ですね










 

 

 

 

 

風呂から上がった俺達は(一緒にではなく別々に)ついでにということで夕飯も一緒に食べることになった

 

 

 

と言っても俺も日菜先輩も料理が得意って訳じゃないから炊飯器でお米を炊いてレトルトカレーを温めているだけだけど

 

 

 

俺はジャージ姿でキッチンに立ってカレー茹でて、日菜先輩は俺のTシャツと半ズボンを着てソファに寝転がりながらソファでテレビのチャンネルを動かしている

 

 

 

「うーん?」

 

 

 

リモコンをカチカチ操作して番組を切り替えてる

 

 

 

ピーピーピー

 

 

 

 

キッチンタイマーが鳴って時間を教えてくれる

 

 

 

お湯からカレーを取り出して袋を開ける

 

 

 

「あつ!あつ!あっつい!」

 

 

 

適当な二つの皿にご飯を盛って、その上にカレーをかける

 

 

 

夕食の完成だ

 

 

 

 

いやー素晴らしいね!温めるだけで絶品料理を楽しめるなんて便利だなぁ!

 

 

 

「日菜先輩!ご飯出来たよ!」

 

 

 

カレーとスプーンを両手に持ってテーブルに運ぶ、それからキッチンに戻って二つのグラスとやかんをまたテーブルに持っていく

 

 

 

「おお!今晩はカレーなんだ!」

 

 

 

日菜先輩はソファから立ち上がってテーブルに着く俺もならってその目の前に座る

 

 

 

サラダも福神漬けもない、完璧にカレーライスオンリーだ

 

 

 

俺達は同時に両手を合わせて、

 

 

 

「「いただきます」」

 

 

 

カチャ、パク、モグモグ、カチャ、パク、モグモグ

 

 

 

モグモグモグモグ

 

 

 

モグモグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

き、気まずい!

 

 

 

昔はよく一緒に食べたんだけど中学に上がってからはお互い接点なくなったからなぁ

 

 

 

マジで気まずい、何か喋ってくれ!

 

 

 

 

 

『さあ!今日も始まりました!ミュージックナイト!本日のテーマは・・・』

 

 

 

やけに大きい音で聞こえたテレビからは音楽番組が放送されていた

 

 

 

「あ!やっと始まった!」

 

 

 

日菜先輩が口を開いてテレビの方を向く

 

 

 

音楽番組なんて見るような人だったか?あんまり覚えてないけど、まあ好きな歌手でも出るのかな

 

 

 

俺もカレーを食べながら日菜先輩につられてテレビの方を向いてしまう

 

 

 

モグモグ

 

 

 

画面にはスーツ姿に蝶ネクタイの男がマイクを握って番組に出演する歌手を紹介していた

 

 

 

特に音楽マニアって訳でもない俺でも知っているような大物歌手が出ている

 

 

 

『さて!本日の一番バッター!新進気鋭で実力派のアイドルバンド!Pastel*Palettes(パステルパレット)でーす!!』

 

 

 

へえアイドルバンド!ふーん

 

 

 

頭半分でテレビを見ていると一人一人画面に顔がアップして映し出される

 

 

 

『みなさーん!こんにちはー!まん丸お山に彩りを!パステルパレットのボーカル丸山彩でーす!』

 

 

 

『みなさんこんばんは。パステルパレットのベース担当白鷺千聖です。今日は精一杯頑張らせていただきます』

 

 

 

「ん、あれ?白鷺千聖だ。この人女優じゃなかったか?」

 

 

 

「あれ?ホクサイ千聖ちゃん知ってるの?」

 

 

 

「そりゃまあドラマ出たりとかして有名人だし」

 

 

 

千聖ちゃん?随分親しげに呼ぶな?もしかしてファンなのか?

 

 

 

『押忍!私はパステルパレットのキーボード担当!若宮イヴです!今宵はよろしくお願いします!』

 

 

 

『ふへへ、おっと。みなさんこんばんはえーと自分はドラム担当の大和麻弥です!よろしくっす!』

 

 

 

ふーんさっきのキーボード担当の人はもしかしてハーフかな?日本語に少しなまりがある、逆にドラム担当の人はすごく日本人ぽい

 

 

 

 

 

 

 

その後もカメラが動いて画面が切り替わる

 

 

 

そこに映っていたのはよく見た事ある薄青の髪をショートカットにした美少女

 

 

 

「あ?」

 

 

 

それこそ今日、朝から今現時刻まで迷惑をかけられ、今そこでカレー食ってる人にすごく似ている

 

 

 

『やっほーみんな!氷川日菜ちゃんでーす!よろしくねー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

コツン

 

 

 

 

 

手で持っていたスプーンが落ちてカレーの上に着地する

 

 

 

 

 

 

その音がやけにゆっくりと聞こえた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「うわ!何?!びっくりした!」

 

 

 

「こっちのセリフだ!はあ?!ちょっ!こ、こここ!これこれこれ!!」

 

 

 

「あはははホクサイおもしろーい!!こここってニワトリ見たーい!」

 

 

 

やかましいわ!

 

 

 

 

は!は!はあ!待て待て待て!状況が分からない!なんでこの人が今テレビに映っているんだ?!

 

 

 

 

『それでは早速歌って頂きましょう!パステルパレットでしゅわりん どりーみん!』

 

 

 

 

ポップな感じの曲が流れていくが残念なことに俺の耳には届かない

 

 

 

 

この目の前に起きている現象が信じられない

 

 

 

 

ま、ま、まままま、まさか!

 

 

 

 

「ああ〜やっぱり千聖ちゃんここ間違えてた〜今度教えてあげよ〜」

 

 

 

こいつ本物の芸能人になったのか?!!

 

 

 

 

 

「い、いい、いつからだ?いつからこのグループで活動してたんだ?!」

 

 

 

「え?えーと確か半年ぐらい前かなぁ?色々あって一回解散仕掛けたんだけどね〜」

 

 

 

今は全然大丈夫だよ!と日菜先輩は続けて言っている

 

 

 

だけど俺の頭の中は結構混乱気味だ

 

 

 

「も、もしかして部活に参加していないのは?・・・」

 

 

 

「うん、そうだよ!パスパレのレッスンに行ってるからなんだ〜練習は楽しいんだけどめんどくさいよね〜」

 

 

 

 

オーマイガー!!(なんて事だ!)

 

 

 

俺のお隣さんがいつの間にかアイドルに変身していたなんて!!

 

 

 

おう、頭痛がしてきた。まあ俺からしても確かに見てくれは美人と言っても差し支えないほど整っているけど性格に難アリって言うかむしろ性格以外完璧の癖にその欠点で全てを台無しにしかねない人だぞ。大丈夫なのだろうか?

 

 

 

「あははは〜彩ちゃん緊張して、声がツーンって感じだよ〜!あははは!」

 

 

 

こいつは人の気も知らないで同じメンバーの歌う姿をみて爆笑している

 

 

 

ヒデェ奴だ

 

 

 

 

 

 

ピーンポーン!!

 

 

 

ん?誰か来た?誰だ?もしかしてオカンか?旅行が中止になって帰って来たのか?

 

 

 

日菜先輩はテレビに夢中になっていて出てくれそうにない

 

 

いや、まあ自分の家だから当たり前なんだけどね

 

 

 

リビングから廊下に、そして玄関についてドアを開ける

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに居たのはうちのオカンでも郵便局の人でも新聞屋の人でもなく全く想像もしなかった人物

 

 

 

 

 

薄青の髪を背中まで伸ばして、どこか張り詰めた糸のように背筋を正した人

 

 

 

 

目に見えて真面目、清楚、厳格、そんな言葉を体現する

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

そうそうして

 

 

 

 

氷川日菜の双子の姉で俺の初恋で俺の一番の憧れの“あの人”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷川紗夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な、なんで、紗夜さんがここに

 

 

 

ドキドキドキドキ!!

 

 

 

やばい

 

 

 

 

さっきの事もあって頭が回らない

 

 

 

 

 

胸の中で動悸が治まらない

 

 

 

 

心臓がうるさい

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです斎くん元気にしていましたか?」

 

 

 

紗夜さんが俺に話しかけてる、不味い呼吸が荒くなる

 

 

 

上手く言葉が出ない

 

 

 

「斎くん?大丈夫ですかもしかして体調が優れないとか?」

 

 

 

心配そうな顔をしてくれている紗夜さんの綺麗な顔が少し近付いてくる

 

 

 

「た、た、だだ大丈夫大丈夫!!な、ななな、なんでもないよお!!」

 

 

 

やばいやばいやばい!!久しぶりの再開で頭が沸騰しそうな程熱くなってる!呂律が回らない!考えがまとまらない!!変なことは考えるな!やっぱり綺麗な顔だな、とか少しいい匂いがするな、とかそんなこと考えるな!!

 

 

 

 

「そうですか、それなら良かった」

 

 

 

「う、うん大丈夫です!あははは〜!」

 

 

 

それで一体紗夜さんはどんな用事でうちに来たのだろう?もしかして俺に用事?!用事はなくてもただ寄ってきたとか!!無性に家に帰りたく無くなったとか!!そういうのってアレだよな!ドラマとかでよくある家出みたいな!!そういうヤツかな!!

 

 

 

 

「それでは斎くん、ここに日菜はいるかしら?」

 

 

 

・・・・・・え?日菜先輩?

 

 

 

「え?い、いますけど」

 

 

 

「そうですか、なら呼んできて貰えませんか?そろそろ夕食が出来るので連れて来るように言われたので」

 

 

な、なるほど日菜先輩ならまずウチに来てると思ったのか。さすが紗夜さん頭がいいナア、アハハハハー

 

 

 

「は、はい分かりました呼んできます」

 

 

 

またリビングに戻ると日菜先輩はカレーを片手にテレビに夢中になって自分のお姉さんが来ていることに気がついてない

 

 

 

「日菜先輩!紗夜さんが来ましたよ!」

 

 

 

「ん?お姉ちゃん?どうして!」

 

 

 

「そりゃあ迎えに来てくれたんでしょ?」

 

 

 

「ああ!それじゃあホクサイ!ご馳走様!!」

 

 

 

カレーをペロリと完食してから日菜先輩は走って玄関に行った

 

 

 

 

「おねええちゃあああん!!!」

 

 

 

「日菜!飛びついて来ないでっていつも言ってるでしょ!」

 

 

 

日菜先輩が紗夜さんを抱きしめてクルクルと回ってる

 

 

 

 

「はあ、斎くん。お騒がせしました。お母様がいなくて大変でしょうけど困ったことがあればいつでもウチを頼って下さい。それではおやすみなさい」

 

 

 

「じゃあねぇ!ホクサイ!また明日ね!」

 

 

 

「あ、はい。おやすみなさい」

 

 

 

バッタン

 

 

 

 

扉が閉まる

 

 

 

 

ドキドキドキドキドキドキ

 

 

 

 

 

ここにもう紗夜さんは居ないのに胸の動悸はまだ治まらない

 

 

 

 

やっぱり好きだ

 

 

 

 

 

 

会った瞬間驚いて(ドキッとして)

 

 

 

 

話しかけられて緊張して(ドキッとして)

 

 

 

 

やっぱり思い出して悲しくなって(ドキッとして)

 

 

 

 

やっぱり最後に笑いかけられて好きになる(ドキドキする)

 

 

 

 

 

 

 

はぁぁぁぁぁぁ

 

 

 

 

やっぱりまだ俺は懲りてないのかな?淡い期待をして紗夜さんが俺に会いに来たなんてそんなことあるわけないのに

 

 

 

 

 

胸の動悸は治まってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど今夜は少し寝不足になりそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












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プロフィール

自分で主人公が分からなくなりそうになったので決め付けちゃいます!!

読んでくれたら幸いです



 

ホクサイ(男)

 

 

 

羽丘学園の一年生

 

 

身長175cm・体重65kg

 

 

好きな物・熱い風呂もしくは温泉

 

嫌いな物・自分を振り回す人(氷川日菜、辻一)

 

 

クセのない黒髪で耳にかかるくらいに伸ばしている

 

 

容姿は整っている方ではあるが勉強のし過ぎで周りからお堅い人間だと嫌煙され続けている

 

 

体格は普通、太りすぎてもいないし痩せすぎてもいない。強いて言うなら運動が得意ではなさそうな印象を受ける

 

 

性格は真面目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは程遠く思い込みが激しく単純、一度勘違いをするとそのまま突き進んでしまう、脳内うるさい系男子

 

 

幼少期に氷川家にあずけられていた(五歳から十歳ほどまで)ほぼ毎日氷川姉妹と過ごし日菜から様々なトラウマを受けていった

 

 

逆に紗夜から助けられていたため彼女の事をヒーローのように思い、憧れの対象になりやがて恋愛対象になって行く

 

 

毎日の勉強はその憧れの氷川紗夜の真似で毎日サボらず勉強し、テストで良い点を取ると紗夜に褒めて貰えたためやっていたこと要するにホクサイなりのアピール

 

 

紗夜からしたら根が真面目で日菜とは違って努力家の正しく良い弟、よって家族の範疇で異性として意識したことは本当に一度もない

 

 

日菜は小さい頃に言われた一言をもう一度聞きたくてホクサイに色々なアピールを繰り返しているが一向に気付かない

 

 

と言うのもホクサイの中で氷川日菜は自分とは全く違う才能溢れる天才児なので「天才の考える事は自分には全く分からない」と一種の諦めによって日菜の事を考えるのを途中でやめてしまう

 

 

クラスメイトからの印象は「顔はいいけどね、話しても面白くなさそう」と言った感じ

 

 

努力と才能の塊のような人たちを見て育って来たためその二つに関してはホクサイなりの価値観がある

 

 

紗夜のように努力こそが成功への一番の近道と思う訳でも日菜のように才能に頼り成功する訳でもなくただ自分を今よりもさらに一歩良い自分に変えるために努力している

 

 

結果よりも過程を重要視している

 

 

 

今は十年越しの片想いに敗れ、もう二度と勘違いしないと心に固く誓っている

 

 

恋愛は良い物だと思っていても「もう懲り懲りです」と言った感じで積極的にはならない

 

 

高校では教室で浮いている、中学校ではそれなりに友人がいたのだが現在はハジメしか友人がいない

 

 

自分から話をふるタイプではなくもっぱら聞くタイプ。そのせいで他人の会話に頭の中で勝手にツッコミを入れてしまう

 

 

動物好きのため他人を見た時その人の印象を動物に例えるクセがある

 

 

 

 

氷川日菜・・・ライオン

 

氷川紗夜・・・馬(サラブレッド)

 

羽沢つぐみ・・・エゾリス

 

美竹蘭・・・オオカミ

 

上原ひまり・・・子犬(ポメラニアン)

 

宇田川巴・・・ワシ

 

青葉モカ・・・ジャイヤントパンダ

 

辻一・・・ジャガー

 

 

 

 

ちなみに自分はビーバー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 













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勉強する前に部屋の掃除をしてしまう


ランキングが11位になっていました!!


これも皆様のおかげです!ありがとうございます!

これからも頑張りますのでよろしくお願いします!




教卓には我らの愛しい担任が立っていてホームルームを行っていた

 

 

 

「そろそろテストが始まるからね〜みんな準備を怠らないように頑張ってね〜それじゃ日直さーん」

 

 

 

「きりーつれー」

 

 

 

「「「「あーしたーー」」」」

 

 

 

ガヤガヤ言いながらクラスメイト達は直ぐに立ち上がって教室から出ていく

 

 

 

 

 

テスト

 

 

 

 

 

そっかぁそろそろ高校初のテストか、この学校中高一貫だから進みが早くて大変なんだよな

 

 

 

まあ適当に頑張ろう

 

 

 

毎日の勉強のおかげでそれなりにいい点数を取れると思うしな

 

 

 

よっぽどのことがなければ大丈夫だろう

 

 

 

 

タタタタタタ!!

 

 

 

後ろから誰かが走ってこっちに来る音がする

 

 

 

「つーぐー!!どうしよう?!あたし全然勉強してないよぉ!!助けてー!」

 

 

 

「ひ、ひまりちゃん!?ちょっとは、離れてよ〜!」

 

 

 

上原さんが隣の羽沢さんに泣きついた

 

 

 

なるほど上原さんは勉強が苦手みたいだな

 

 

 

うん何となく予想どう・・・ゲフンゲフン!!なんでもないです!

 

 

 

羽沢さんに抱きついた上原さんは半泣きになりながらどうしようと呟いていた

 

 

 

「うぅぅぅどうしよう〜」

 

 

 

「い、一緒に頑張ろうひまりちゃん!私も出来るだけ手伝うから!」

 

 

 

「ありがとう〜!つぐー!!大好きぃー!!」

 

 

 

上原さんは泣き顔から笑顔になってもう一度羽沢さんに抱きついた

 

 

美しい友情だな

 

 

 

良いもの見た気がする

 

 

 

羽沢さんは天使の生まれ変わりと言われても信じてしまいそう

 

 

 

さて俺はこのまま部活に行こう。テストも近いみたいだし今日は少し気合い入れていこう

 

 

 

ドタドタドタ!!!!

 

 

 

「ホォォォクゥゥゥサァァァイィィィ!!!」

 

 

 

後ろから走ってモンスター(ハージメ)が現れた!!どうする?

 

 

①殴る

②殴る

③殴る

 

 

ホクサイは渾身の右ストレートをハージメに放った

 

 

 

 

「うおおっと!!危ねぇえ!!ホクサイ何すんだよ!!」

 

 

ハジメは生まれつきの運動神経で俺の右拳を避ける。

 

 

 

 

チッ!

 

 

 

「お前がいきなり何すんだよ、なんなの?タックルの練習?」

 

 

 

「ちげぇよ!助けてくれ!」

 

 

 

「断る」

 

 

 

「実は俺は高校に入ってから全く勉強していないんだ!だから頼む!助けてくれ!」

 

 

 

ハジメはその場に膝を付けて綺麗な土下座をして見せた

 

 

 

同い年の男が土下座する姿

 

 

 

控えめに言ってもキモイ

 

 

 

「人の話聞けよ、断るって言っただろうが」

 

 

 

「頼りになるのはお前だけなんだ!俺にはお前しか居ないんだ!頼む心の友よ!!」

 

 

 

この状況で一番聞きたくないセリフだな

 

 

 

さっき綺麗なものを見たせいで余計に嫌なものに見えてしまう

 

 

 

俺はハジメを置いて部室に向かう

 

 

 

構ってられん、俺も自分の勉強に忙しいからな

 

 

 

ガシッ

 

 

 

えぇぇなんで〜?足が重たくて動かないな。なんで?

 

 

 

「ホォクゥサァイィ!助けてくれえぇぇ!」

 

 

 

ハジメのやつが土下座の体制から足を伸ばして俺の足首を掴んできた

 

 

 

つまりうつ伏せに寝そべりながら掴んでいる

 

 

 

うわああああ!!キモイキモイキモイキモイ!!

 

 

 

「何すんだよてめぇ!!離せぇ!」

 

 

 

「お前が勉強を教えると言うまで絶対に離さないぞぉぉ!!」

 

 

 

マジで気持ち悪い!!なんなんだよ!

 

 

 

モンスターじゃなくてゾンビだったのか!!誰か助けてえぇぇ!!

 

 

 

 

「つ、辻くん?そのホクサイくんが困ってるよ?」

 

 

 

隣で馬鹿騒ぎしていたからか上原さんに抱きつかれたままの羽沢さんが困った顔をして声を掛けてきた

 

 

 

おお!天使(つぐめえる)ゾンビ(ハージメ)を撃退してくれるのか?!

 

 

 

「でもさぁ羽沢さん!コイツ頭いいのに勉強教えてくれねぇんだよ?酷くない?!」

 

 

 

「ふざけんな!お前が勉強しないのが悪いんだろ!」

 

 

 

「でもよおぉぉ!」

 

 

 

「でももへちまもないわ!」

 

 

 

ハジメは俺の足首を折るんじゃないかと思うくらい力を込めて来た

 

 

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!離せえぇぇ!!」

 

 

 

マジで痛い!!くっそ離せ!!

 

 

 

羽沢さんはオロオロと俺たちを見てとても困っているしかしそれを見ていた上原さんが、

 

 

 

「あたしいい事思いついた!そうだよ皆で勉強会をしよう!」

 

 

 

上原さんはポンっ!と手を叩いて俺達に提案してきた

 

 

 

「「え?」」

 

 

 

俺と羽沢さんが疑問の声をあげる

 

 

 

「なるほど!名案だな!ひまりちゃん!」

 

 

 

ハジメの奴が急に立ち上がって食いついた

 

 

 

「そうだよね!あたしもつぐに教えて貰うしハジメくんもホクサイくんに教えて貰えばいいよ!」

 

 

 

やばいなぁこの二人が意気投合してる時点で嫌な予感しかしない

 

 

 

「で、でもひまりちゃんそんなに急だとみんな困っちゃうんじゃないかな?」

 

 

 

さすが羽沢さん!そうそういきなり勉強会なんて言われてもそんなこと無理に決まってる

 

 

 

「えぇぇ!もしかしてつぐは予定あるの?ハジメ君も?」

 

 

 

「え?私はないけど」

 

 

 

「俺も部活休みだ!ホクサイもどうせ暇だろ?」

 

 

 

本気で殴るぞハジメ。いや、予定はないんだけど

 

 

 

それに

 

 

 

「勉強会なんてどこでやるんだよハジメ。どこかアテがあんの?」

 

 

 

「あぁそっか、教室は吹奏楽部が使うよなそれに自習室や図書館なんかも喋れない、しかと言ってウチも弟達がいるから騒がしいし」

 

 

 

「あたしの部屋もそこまで広くないからなぁ。つぐは?」

 

 

 

「ううん、私の家もお店で忙しいしから」

 

 

 

「な、勉強会なんて無理なんだよ。大人しく自分たち「ホクサイの家が近いしいいんじゃね?!」

 

 

 

人の話は最後まで聞きなさいハジメ君!!

 

 

 

って俺の家?!ダメだダメだ!!何言ってんだ!

 

 

 

「え?ホクサイくんお家?」

 

 

 

「ええ!いいの!ホクサイくん!」

 

 

 

「いや、ダメ「こいつの両親今海外に旅行中だから大丈夫なんだよ!!」

 

 

 

人の家庭状況を勝手に話すのをやめろハジメ!!

 

 

 

「いやいや!ハジメ勝手なことを言うな!確かに家なら出来るかもしれないけど皆も嫌がるって。男の家に女の子が上がるなんて抵抗あるだろ?近所にうるさい人がいるし集中出来ないって!あと俺の家散らかってて汚いしさ!な!な!」

 

 

 

こうやって言えば行きずらくなるだろ!頼む!俺のオアシスだけは奪わないでくれ!(天災に荒らされた事は既に気にしなくなった)

 

 

 

と期待していたが

 

 

 

「勉強の為だもん!あたしは大丈夫!つぐは?」

 

 

 

「私も大丈夫だよひまりちゃん。私、ホクサイくんの家に行きたいなぁ。き、興味があるかも」

 

 

 

羽沢さんはモジモジしながらそういった

 

 

 

何故だ?俺の私生活なんて気にならないだろ

 

 

 

「いやいやさっきも言ったけど今すごく散らかってるんだけど」

 

 

 

「なら片付けるのを手伝ってあげるよ。大丈夫お店の手伝いで掃除は得意なんだ!」

 

 

 

「い、いや嬉しいけど流石にそんなことしてもらう訳にはいかないし」

 

 

 

「御両親が旅行に行っちゃって大変だと思うからお手伝いするよ。最近のお昼ご飯がコンビニのパンばっかりで私ホクサイくんのこと心配してたんだ」

 

 

 

「いや、でも」

 

 

 

そう言ってまた言い訳を探そうとした時に羽沢さんに上目遣いで見つめられて

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ダメ・・・・・・かな?」

 

 

 

 

 

だからその可愛い上目遣いはズルいと思うんですよ

 

 

 

 

 

そんなのを断れるのは何も考えないゾンビかただの悪魔かどっちかだよ

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、わかりましたよ」

 

 

 

 

 

 

羽沢さんが頼み込んだ時点で俺の選択肢はひとつしか残らなかった

 

 

 

 

 

 

 

 













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勉強会という名の遊び


遅くなって申し訳ありませんm(_ _)m








 

 

 

放課後

 

 

 

学生達が部活や習い事、友達との思い出作りに力を入れるこの時間に俺達は大きいテーブルの上にノートと教科書を広げている

 

 

 

 

そんなこんなで俺、ハジメ、上原さん、羽沢さんの四人は我が家のリビングにあるテーブルに付いていた

 

 

 

「いやーホクサイの家久しぶりだなぁ!中一の時以来かな!」

 

 

 

「よーし!今日は勉強頑張ろう!」

 

 

 

こ、ここがホクサイくんのお家!緊張する!

 

 

 

「はぁぁぁ、じゃ始めますか」

 

 

 

やべースゲー憂鬱だ

 

 

 

自分の家に可愛い女の子が二人も来ているのに全然テンションが上がらないわ

 

 

 

今日の勉強会は俺と羽沢さんが上原さんとハジメに教えるっと言った感じで進めることに決めた

 

 

 

「まず、ハジメは苦手な教科から行くか。何が苦手だ?」

 

 

 

「全部」

 

 

 

「帰れ」

 

 

 

ハジメのアホすぎる言動に俺は速攻で返答し、ヤツの首根っこを掴もうとする

 

 

 

もう無理だろお前、このままここから出ていってくれ

 

 

 

「待て待て待て!冗談だ!あ〜〜え、英語!英語はすごい苦手だ!」

 

 

 

「はぁ〜お前次やったら窓から捨てるからな」

 

 

 

「あはは悪い悪い!・・・・・・・・・・・・え?捨てる?」

 

 

 

ハジメが疑問の声を上げるのを無視して上原さんに声をかける

 

 

 

「上原さんは何が苦手?」

 

 

 

「私は数学かな?特に数Aだよ!最近の授業はもう何言ってるか分からないんだよね〜」

 

 

 

なるほどハジメは英語、上原さんは数学か

 

 

 

「羽沢さんは数学と英語どっちが得意?」

 

 

 

「え? 私は〜どっちかって言えば英語かな?」

 

 

 

良し、なら丁度いい

 

 

 

「なら、俺が上原さんに数学を教えるから羽沢さんはハジメの奴を頼んでもいいかな?」

 

 

 

羽沢さんは一瞬驚いた顔をしたけど、

 

 

 

「うん、大丈夫だよ!そう言えば私もホクサイくんに数学教えて貰ったことがあったよね」

 

 

 

確か、初めて羽沢さん達と一緒に昼飯を食べた時だな。羽沢さんは随分前の事をよく覚えているなぁ

 

 

 

「さわりだけだけど、よく覚えてるな」

 

 

 

「うん、嬉しかったから」

 

 

 

羽沢さんはそう言ってからハジメに向かって英語の教科書を持って説明を始めた

 

 

 

俺も気合いを入れてやろう、人に教えるなんて初めてだけど大丈夫だろうか?

 

 

 

「それじゃあよろしくね!ホクサイくん!」

 

 

 

「おう、始めようか」

 

 

 

 

その後は淡々と勉強を進める

 

 

 

と言っても二人とも勉強苦手だと言っている割にサクサクと進んだ、

 

 

まあまだ高校の最初のテストだから簡単だしな

 

 

 

上原さんは単純に『数学』と言う言葉に苦手意識を持っているだけで理解力は十分にあった

 

 

あとは繰り返して練習問題を解いていけばテストなら十分に間に合う

 

 

 

ハジメも暗記は苦手だがわかりやすい羽沢さんの説明とバドミントンで鍛えた集中力で勉強を進めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み初めて空の色が青から赤に変わりだす

 

 

 

だいたい三時間近く勉強していたと思う

 

 

 

「よし、今日はここまでにしておこう。上原さんお疲れ様」

 

 

 

「あぁぁー疲れたぁぁ〜」

 

 

 

「じゃあハジメくんもここまでにしておこうか!」

 

 

 

「俺もぉぉ〜あー腹減ったあぁ!」

 

 

 

二人は同時に机に突っ伏して体から力を抜いていた

 

 

 

確かにハジメの言う通り腹が減ってる

 

 

 

壁の時計を見ると夕食を食べても問題なさそうな時間になってきた

 

 

 

「なぁホクサイ。お前さぁお母さん居ないのに弁当とか飯とかどうしてんの?お前不器用だし料理とか出来ねぇだろ」

 

 

 

ハジメが頭だけでこっちを見て話しかけてきた

 

 

 

何気なく失礼かますな!このイケメンは俺を怒らせる天才なのか?

 

 

 

「うっさい。別に料理できなくても飯は食える。出前取ったりファミレス行ったりすればいいだろ」

 

 

 

そっかぁそれなら・・・

 

 

 

「ふ〜んなるほどねぇ・・・・・・あ!ヤバッ!!」

 

 

 

羽沢さんが何か小声で呟いていたいるけどその時に丁度ハジメが急に立ち上がる

 

 

 

どうかしたのかコイツ?

 

 

 

「あ、いや!今日保健委員と一緒に飯食う約束してたんだ!」

 

 

 

ああぁ、ウチの保健委員は可愛いよね〜ハイハイいつものね〜

 

 

 

それじゃ!と言ってハジメはリュックに勉強道具を詰め込んで慌てて外に出ていく

 

 

 

本当にいつも落ち着きのないやつだな

 

 

 

「ハジメくんってモテるんだね〜やっぱりカッコイイもんね〜ねぇつぐ」

 

 

 

「え?う、うんそうだねひまりちゃん」

 

 

 

二人も遅くなる前に帰ったほうがいいよな、暗いと危ないし

 

 

 

「二人も帰ったほうがいいんじゃない?夕飯の時間になるんじゃないか?」

 

 

 

「それもそうだね!つぐ帰ろ〜」

 

 

 

「え!あ、あぁ。そっかそうだよね」

 

 

 

羽沢さん意外そうに声をあげる

 

 

 

そりゃあそうでしょう。やることやったら帰らないと、それに恐らくだけど怒った羽沢さんのお母さんはきっと怖い

 

 

いつの間にか身支度を終えた上原さんが立ち上がって、羽沢さんの手を掴む

 

 

 

一応上原さんと羽沢さんを玄関まで送ってみる

 

 

 

まあ、一応礼儀としてね

 

 

 

二人は靴を履いて扉に手をかける

 

 

 

「それじゃホクサイくん!勉強教えてくれてありがとう!また明日学校でね!」

 

 

「えっと、ま、またねホクサイくん」

 

 

 

上原さんが笑顔で俺に手を振って挨拶をしてくるが逆に羽沢さんは何故か少し困り顔だ

 

 

 

「うん、また明日教室で」

 

 

 

うんうんこうやって挨拶するのがやっぱり正しいよな!

 

 

 

日菜先輩はいつも唐突に突撃してくるからなぁそれに出ていく時も音しないだよ。どこの忍者?って感じだ

 

 

 

ガチャア

 

 

 

扉が開いて赤い光が玄関の中に満ちる

 

 

 

二人はそのまま外に向かって歩き出した。俺はそれを見て心の中でお疲れ様と労いの言葉をかけて置いてリビングに戻ろうとする

 

 

 

ガッチャン

 

 

 

扉が閉まる音がする

 

 

 

「ホ、ホクサイくん!!」

 

 

 

声が聞こえた

 

 

 

驚いて振り返ったらそこにはまだ羽沢さんが立ったままそこにいた

 

 

 

この人は一体何をしてんの?

 

 

 

「な、何かな羽沢さん?もしかして忘れ物?」

 

 

 

「え、えっとそのち、違くて。わ、忘れ物じゃなくて・・・」

 

 

 

羽沢さんは顔を赤くしながら両手で持ったカバンの取っ手を強く握ってローファーの先でコツコツと地面を叩きながら何かを告げようとしている

 

 

 

なんだろう?何を言いたいんだ?ここまでもったいぶるのはきっと言いづらいことだからかな?う〜ん分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ!いや、わかった!

 

 

 

「羽沢さん」

 

 

 

「は、はははい!」

 

 

 

「え、なんでそんなに『は』を連呼してんの?」

 

 

 

「な、なんでもないからそれで何かな?ホクサイくん」

 

 

 

「ああ、うん。確かに女の子には言いずらいと思うからこの場で俺から言うよ」

 

 

 

一瞬ポカンとした表情を浮かべる羽沢さんはその後にすぐ、

 

 

 

 

「・・・・・・え!えぇぇ!!・・・その待って!ち、違うの!そう言うことじゃなくて!確かにホクサイくんはいい人だし嬉しいけどそういうのはもっとお互いを良く知ってからのほうがいいと思うから・・・・・・でも私が嬉しいならそれは・・・・・・って!私何言ってるの?!違うよそうじゃないよ!」

 

 

 

さらに顔を赤くしてきた羽沢さんはよく分からないことを早口に呟きながら顔を横にブンブンと振る

 

 

 

何を慌てているんだこの人は?そんなに()()か?

 

 

 

「えっと羽沢さん?大丈夫?」

 

 

 

「だ、だだだ、だだだだだいだいだい大丈夫だよ!!!」

 

 

 

うむ、大丈夫じゃなさそうだ。それなら手っ取り早くすませよう

 

 

 

「羽沢さん」

 

 

 

「は、はは、はい!!」

 

 

 

羽沢さんはとても緊張した面持ちで俺を真っ直ぐに見つめ返す

 

 

 

「ここの廊下を突き当たりを右に曲がって最初の扉だよ」

 

 

 

「はい喜ん!・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

 

 

羽沢さんの顔は赤から急に平常の顔色に戻る

 

 

 

何をそんなに戸惑っているんだ?いや、だからさ

 

 

 

「ここの廊下を突き当たりを右に曲がって最初の扉だよ」

 

 

 

「え、えっと何が?」

 

 

 

「え?だからトイレ」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「いや、トイレを借りたいから戻って来たんじゃないの?」

 

 

 

まあそれを女の子から言わせるのは恥ずかしいと思うから俺から言ったのに

 

 

 

「ち、違うよ!御手洗借りたいわけじゃないから!」

 

 

 

「違うの!!」

 

 

 

絶対に当たっていると思ったのに!

 

 

 

「じゃあ羽沢さんは一体どうしてここに?」

 

 

 

うん、そうじゃないなら一体どうして?忘れ物なし。トイレを借りる訳でもないならここに残る理由はもうないよな

 

 

 

「いや、ホクサイくんはこれからどうするのかな?」

 

 

 

「どうするって何が?」

 

 

 

「だからそのご飯とかどうするの?」

 

 

 

「え?まあコンビニ行くかファミレス行くかかな?」

 

 

 

まあ、あと二日か三日もすればそれも終わるんだけどな

 

 

 

「それじゃホクサイくん良かったら今晩はウチで食べない?」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

思わず聞き返してしまった。なんてったこの人?

 

 

 

「いや、だからウチで。ほら今日の勉強会でお家お借りしたからそのお礼に!」

 

 

 

これは一体どういう事?!どうして羽沢さんにディナーのお誘いされてんの?!!

 

 

 

それも羽沢さんのお家で!!

 

 

 

待て待て待て落ち着け!あの時を思い出せ!あの『ラブレターかと思ったら残念チケットでしたぁぁ!』事件を!あの時の絶望感を思い出せ!これは何かの罠だ!トラップだ!絶対に引っかかるな!ダメだダメだ!!

 

 

 

「そうだよね急にそんなこと言われても困るよねごめんねホクサイくん」

 

 

 

「是非行かせてください」

 

 

 

 

即答する

 

 

 

断れるわけが無い。やめてそんな悲しそうな顔してから急に嬉しそうな顔しないで!

 

 

 

 

 

何かハプニングを期待しちゃうから!

 

 

 

 

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この人は天使じゃなくて天然悪魔なんじゃないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 













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ホラー映画は苦手、どうして見てしまうから











 

 

 

 

 

 

ガチャア

 

 

 

 

扉を開けて外に出てみると真っ赤な夕日が目に入ってきて眩しい

 

 

 

「あ!つぐとホクサイくん!」

 

 

 

玄関の前には上原さんが携帯を操作しながら俺たちを待っていた

 

 

 

「待たせてゴメンねひまりちゃん」

 

 

 

「ううん、大丈夫だよ。でもどうしてホクサイくんも?」

 

 

 

「うん、ホクサイくんご両親が旅行中だからうちの店でご飯食べたらと思って」

 

 

 

あ!そっか羽沢さんの家って珈琲店だ

 

 

 

なんか勝手に想像していた俺が恥ずかしい

 

 

 

「なるほどね〜流石、つぐってるね!」

 

 

 

「え?え?そ、そうかな?つぐってるかな?」

 

 

 

『つぐってる』とはなんぞや?初めて聞いた言葉だ

 

 

女子高生はよく分からない造語で喋るらしいしそれかな?何かの省略かもしれない

 

 

 

「ひまりちゃんもウチの店で食べる?」

 

 

 

「あぁー嬉しいんだけどアタシお母さんに買い物頼まれちゃって〜今回はやめとくね」

 

 

 

「え!あ、そ、そっかおつかいならしょうがないね」

 

 

 

羽沢さんは少し驚きの声を上げる

 

 

 

そうこうしているうちに上原さんは軽く駆け足になりながら「じゃーねー!」と走って行ってしまった

 

 

 

 

 

 

我が家の前で二人きりになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤバい

 

 

 

 

一回意識したら止まらない

 

 

 

 

 

 

 

あの時を思い出す

 

 

 

 

あの最悪の春の日を

 

 

 

 

氷川紗夜にフラれたあの日を思い出す

 

 

 

 

ドッドッドッ!!と鼓動が不自然に早くなって呼吸がやりずらくなる、苦しい思いが込み上げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ホクサイくん?」

 

 

 

「え?あ!ああ大丈夫」

 

 

 

危なかった!一瞬目の前が真っ白になったわ

 

 

 

「それじゃあ行こうか!」

 

 

 

「ああ、うん」

 

 

 

やっぱり天使(つぐみえる)は俺の心を癒すね、天然悪魔なんかじゃなかった

 

 

 

 

確信したぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方の商店街は俺に盛大な賑わいを見せてきた

 

 

 

「あ!奥さん!今日は夕食はハンバーグにしない?!今日はひき肉が安いよ!」「食パン焼きたてでーす!いかかですかぁ!」「けいちゃーんそろそろ帰るよー!」「はーい!」

 

 

 

 

 

う、うわぁ

 

 

 

圧倒される。前来た時はここまですごくなかったけど平日だとすげぇな

 

 

 

それに

 

 

 

「あ!つぐみちゃんおかえり!」「おかえりなさいつぐみちゃん」「今日もべっぴんさんだね!つぐみちゃん!」

 

 

 

「あはは、ただいまです」

 

 

 

羽沢さんの人気が凄い!

 

 

 

道行く人全員に声をかけられては挨拶を交わしている

 

 

 

もしかしたら俺が今日挨拶した人よりも羽沢さんが今ここで挨拶した人の方が多いかもしれない

 

 

 

うん、やめよう!こういうネガティブ思考は良くないものを呼んでくるからな!

 

 

 

そう例えばお化けとか!(俺は霊感とかないけど)

 

 

 

 

「どうかしたホクサイくん?」

 

 

 

「いや、なんでもない。少し圧倒されただけ」

 

 

 

「やっぱり初めて見た人はだいたいそんな感じになるみたい。私はもう慣れちゃったけど」

 

 

 

「うん、確かに驚いたけどでも・・・なんかいいな」

 

 

 

言葉に出来ないし、何となくだけど、居心地良い場所だ

 

 

 

「そう?なんか、私の事じゃないけど嬉しいな!」

 

 

 

この人は本当に嬉しそうに笑う人だな

 

 

 

素直で、優しいくて、正しい人だ

 

 

 

 

 

 

やっぱり紗夜さんとは違うな

 

 

 

あの人は

 

 

 

努力家で、真面目で、人にも自分にも厳しい人だ

 

 

 

 

 

あぁあぁあぁー女々しいな俺は

 

 

 

まだ未練たらしく紗夜さんを見ているな、もう辞めた方がいいよな

 

 

 

自分にも紗夜さんにも

 

 

 

 

 

 

「ホクサイくん大丈夫?今日はなんだがずっとぼーっとしているね。もう家に着いたよ」

 

 

 

羽沢さんが俯いて下を向いている俺の顔を覗き込んで見てきた

 

 

 

その声を聞いて顔を元に戻す。すると看板には『羽沢珈琲店』とデカデカと書かれていた

 

 

 

「ご、ごめん。大丈夫ありがとう羽沢さん。これで来るのは二度目だな」

 

 

 

ここも雰囲気とか、かかってる音楽とかがすごく好みでずっといてしまいたいと思うぐらいのお店だ

 

 

 

ハッキリ言って最高の憩いの場だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

ウキウキしながら扉を開ける

 

 

 

 

 

するとそこには!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「店員さーん!注文いいですかー?!」

 

 

 

「あまり大きい声を出してはダメよ日菜、周りの人の迷惑になるわ」

 

 

 

「あ、ゴメンねお姉ちゃん 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタン!

 

 

 

 

そして扉を閉める

 

 

 

 

 

 

 

はぁぁぁぁぁぁ

 

 

 

 

 

 

ああああーこれはダメだわ〜立ち直れないわ〜せっかくの癒しの空間になるはずの場所にトラウマの原因と黒歴史の原因がいるなんていくらなんでも立ち直れないわ〜

 

 

 

「ホクサイくん?入らないの?」

 

 

 

羽沢さんが不思議がって俺に質問してくる

 

 

 

ごめん羽沢さんちょっと待って

 

 

 

 

時間をくれ

 

 

 

 

どうやったらあの人たちにバレないで店内に入るか考えているから

 

 

 

 

 

 

ポクポクポクポクポクポクポクポクポクポクポク

 

 

 

 

 

チーン

 

 

 

 

 

 

 

 

うむ、無理だな

 

 

 

逃げよう

 

 

 

「羽沢さん、悪いんだけど俺ちょっと急用を思い出したよ。帰るね!」

 

 

 

「え?!ホクサイくん!!」

 

 

 

羽沢さんの声を振り切って俺はその場で回れ右して立ち去ろうとしたその時!

 

 

 

 

ガシ!!

 

 

 

 

あれれれ〜?おかしいぞ〜?どうして俺の右手がこんなに力強く握られて動けないようになっているんだぁ??

 

 

 

 

考えたくないなぁ〜後ろを振り向きたくないなぁ〜

 

 

 

よくあるよね〜ホラー映画ってさ、映画館では見ないけど地上波とかに少し興味本位で見ちゃって後悔しちゃうパターン

 

 

 

 

嫌なら見なきゃいいのについつい見ちゃう

 

 

 

 

 

そう()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホォォクゥゥサァァイィィ〜」

 

 

 

 

 

お化け(氷川日菜)が恐ろしいほど美しい笑顔で扉を開けてその両手で俺の右手をガッシリと握っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直に言うなら本気でチビりそうになりました

 

 

 

 

 

 

 













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三十六計逃げるにしかず











 

 

 

 

 

 

かっえりた〜い♪かっえりた〜い♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなに我が家が恋しくなったのは生まれて初めてだ

 

 

 

 

 

 

 

「まさかホクサイとつぐみちゃんが同じクラスだったなんて意外だったなぁ教えてくれれば良かったのに!」

 

 

 

「ゴメンネ」

 

 

 

(いつき)くん、大丈夫ですか?なんだか沢山の汗をかいているし、体も震えていますよ?風邪でもひいているのですか?」

 

 

 

「ダイジョウブデス」

 

 

 

いやいや全然大丈夫なんかじゃない、むしろ風邪をひくよりも悪いことが起きてる

 

 

 

俺達は今、木製で正方形のテーブルについている。元々二人がけのものに椅子を無理矢理追加した感じだ

 

 

 

羽沢さんはキッチンに向かって行き、俺は美人の双子に挟まれる

 

 

 

「ホクサイ大丈夫?元気ない?」

 

 

 

日菜先輩に話しかけられるのは問題はないんだ、部室でいつも喋るから慣れているけど

 

 

 

「あまり慣れない生活で体調を崩したのかしら?心配ね」

 

 

 

紗夜さんはまずい!緊張して思考が定まらないだよ!さっき「もう意識するのはやめよ」って考えたばかりなのに意味ねぇじゃねえか!!無理だよ!すぐ側にいんだもん!考えるなってのがそもそも不可能!うわあヤバい綺麗!美人!その髪型も似合ってるし、まつ毛も長いし、落ち着きのあるその雰囲気!あんたは女神か!!

 

 

 

 

 

ああああぁぁぁ!!!!羽沢さぁぁぁん早く戻って来てええ!俺を救ってえぇ!助けてぇーつぐえもーん!!

 

 

 

「斎くん」

 

 

 

「は、はい!なんでせうか!」

 

 

 

「ん?・・・・・・『せうか』?」

 

 

 

紗夜さんの頭にはてなマークが浮かんだ(ように見える)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おいおい俺よ、何度目だこの言い間違いは

 

 

 

これで二回目か、うん、でもさ

 

 

 

恥ずかしいぃぃぃい!!!やべええええええ!!!埋まりたいいいい!!!消え去りたいいい!!

 

 

 

「あははは!ホクサイ『せうか』ってなにぃ?!あはははは!」

 

 

 

この人はいつか絶対に泣かしたる!

 

 

 

「さっきも言ったけど日菜、あまりうるさくしないで。迷惑よ」

 

 

 

「むー、ごめんなさ〜い」

 

 

 

相変わらず日菜先輩は紗夜さんの言うことだけは素直に聞くよな

 

 

 

「それで斎くん、高校生活はどうですか?」

 

 

 

なんか先生との二者面談みたいだ

 

 

 

「・・・・・・うん、楽しいです。慣れないことも沢山あるけど」

 

 

 

「それはよかった。日菜と同じ学校に行ったと聞いたので昔のように迷惑を掛けているのではと心配していたのです」

 

 

 

「いくら私でもそんなことしないよ〜お姉ちゃん」

 

 

 

確かにな、学校では迷惑掛けないよな!()()ではな!!

 

 

 

「みなさんお待たせしました」

 

 

 

俺が注文したナポリタンスパゲティ、氷川姉妹にはお代わりのコーヒー、それから小さいサンドイッチとバスケットにフライドポテト

 

 

 

それらを器用に一枚のお盆に乗せて羽沢さんがこっちにやってきた

 

 

 

「ありがとう羽沢さん!」

 

 

 

「ええ?ど、どういたしまして?」

 

 

 

本当にありがとう!俺をこの地獄のような状況から救ってくれて!

 

 

 

「つぐみちゃ〜んありがとうね〜」

 

 

 

「は、はい。こちら注文の品です。えっと・・・」

 

 

 

羽沢さんがテーブルに料理を置きながら日菜先輩と紗夜さんの方を向いている。そっか・・・

 

 

 

「羽沢さん、こちら日菜先輩の双子の姉、氷川紗夜さん」

 

 

 

「こ、こんばんは!ホクサイくんと同じクラスの羽沢つぐみです!」

 

 

 

料理を置き終わった羽沢さんが礼儀正しくお辞儀をした

 

 

 

そして紗夜さんもガタッと立ち上がって頭を下げる

 

 

 

「こんばんは羽沢さん。私は氷川紗夜と言います、何度かライブハウスであったことがありますね。よろしくお願いします」

 

 

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

 

 

ああ、ライブハウスか!なるほどお互い同じような活動していたら会うこともあるのか

 

 

 

羽沢さんが恥ずかしそうにうつむきながら

 

 

 

「あ、あの!私もご一緒してもいいですか?母に聞いたらもう休んでいいと言われて!」

 

 

 

と言ってきた、もちろん!むしろ俺と羽沢さんの立場を取り替えたいぐらいだぜ!!

 

 

 

「いいよ!」

 

 

 

「私も構いません」

 

 

 

「俺も大丈夫」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

羽沢さんは側にある空いている椅子を持ってきて俺の反対側に座る

 

 

 

羽沢さんは小さいサンドイッチを自身の前に置く、俺もフォークを持ってパスタをクルクルと巻いて口に運ぶ

 

 

 

お、美味い

 

 

 

「凄い偶然だよねホクサイ!またホクサイとご飯食べれて嬉しい!」

 

 

 

「え?()()?」

 

 

 

日菜先輩がとても嬉しそうに笑いながら俺に話しかけてきた

 

 

 

けどやめて欲しい、いや辞めてください!ずっと片思いしてきた相手がいる前でそんなこと言わないで!!空気が重たくなるんだよ!!

 

 

 

「楽しかったなぁ!またご飯一緒に行こうよ!」

 

 

 

しかし日菜先輩には俺の気持ちは届かずしゃべるのをやめない

 

 

 

それにしても紗夜さんは落ち着いてるわ〜コーヒー飲んでポテト食べてるわ〜(味が合うのか分からないけど)少しぐらい反応してくれないとショックだ、あれ?俺はこの人に告白したよね?夢だったのか?

 

 

 

「わ、私もホクサイくんと一緒にご飯食べたことあるよね!ね!」

 

 

 

すると羽沢さんも反応して俺に話しかけてくる

 

 

 

「え?ああ、そうだな」

 

 

 

教室と学食でな

 

 

 

「また一緒に食べようよ!ホクサイくんと一緒だとみんなも嬉しいと思うし!」

 

 

 

「お、おう」

 

 

 

あまりの迫力につい返事をしてしまった。なんか羽沢さんに必死さを感じる、怖いよ

 

 

 

それに俺は昼食はハジメと食べるからなぁ。きっとその『みんな』ってのはハジメを待っているんだろう

 

 

 

「むー!この前二人で!二人だけで!デパートで買い物も行ったことあるよね!ホクサイ!!」

 

 

 

日菜先輩もどうした?圧があるぞ!なに?怒っているの?

 

 

 

「それならホクサイくんは私が入院してる時お見舞いに来てくれたよね!!その時二人だけだったよね!!」

 

 

 

羽沢さんもどうした?何を張り合ってる?

 

 

 

日菜先輩と羽沢さんは顔を見合わせて周りの人に強烈なプレッシャーをかける

 

 

 

紗夜さんはクールだなぁそんなプレッシャーものともしない。そのコーヒーを飲む仕草がテレビCMみたいだ。是非ともカメラに収めたい

 

 

 

なんか自分が変態みたいだ

 

 

 

 

 

「むむー!!私はホクサイと一緒にお風呂入ったことあるもん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日菜先輩のその発言によってこのテーブルの時が止まった気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・え?日菜先輩何言ってんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「斎くん?」

 

 

 

初めて紗夜さんが会話に参加した、俺に非難の目線を向けて

 

 

 

「何言ってんだアンタ!紗夜さん違います!幼稚園児の時ですよ!知ってるでしょ!」

 

 

 

「あぁそうですよね。すみません少し驚いてしまって」

 

 

 

あああーびっくりした!良かった!紗夜さんの誤解は解けたみたいで

 

 

 

「わ、私だってホクサイくんに頭を撫でられたことあります!」

 

 

 

「羽沢さん?!!どうした!何言ってんだ!」

 

 

 

やめてやめて!紗夜さんがいる前でそんなこと言わないでくれぇ!

 

 

 

「斎くん!」

 

 

 

紗夜さんが驚きの声を上げる

 

 

 

「ち、違います!その時は羽沢さんが落ち込んでいたからで!慰めるつもりだったんです!」

 

 

 

「そ、そうなんですか。すみません斎くんのことを誤解しそうになりました」

 

 

 

ああ良かった!紗夜さんに女たらしのレッテルを貼られたら俺はもう生きていけないかもしれない

 

 

バン!!!

 

 

日菜先輩が机を叩いてそれから立ち上がる

 

 

 

「むむむー!私はついこの間ホクサイにお腹見られたんだよ!」

 

 

 

「おい!アンタ何口走ってんだああぁ!!」

 

 

 

こればっかりは口を出さずにはいられない

 

 

 

「斎くん?」

 

 

 

不味い!!紗夜さんの視線が氷点下を下回った!

 

 

 

「紗夜さん違いますよ!俺が風呂に入ろうとしたら日菜先輩が急に服を脱ぎ出したんです!断じて俺が脱がせたりしてません!!」

 

 

 

紗夜さんは未だにジーっと見つめる

 

 

 

そしたら

 

 

 

バン!!!

 

 

 

今度は羽沢さんが立ち上がって

 

 

 

「私だってホクサイくんには背中を見られました!!」

 

 

 

「羽沢さんまで何言ってんのぉぉ!!」

 

 

 

お腹に対抗して背中って何それ?意味不明なやり取りをくり広げないで!

 

 

 

 

「斎くん」

 

 

 

不味い!!紗夜さんの視線が絶対零度にさしかかった!目線だけで凍りつきそう!

 

 

 

「紗夜さん違います!見てないです!見えそうになりましたけど見てないんです!!」

 

 

 

いや、見たんですけどね、嘘でも見てないと言うべきだろう!俺の(社会的)命に関わる!

 

 

 

白熱した二人は周りを置いていって討論?のようなものを繰り返す

 

 

 

「こーら!つぐみもアナタもお店の中なんだから静かにしなさい。他のお客様の迷惑になるわ」

 

 

 

不毛すぎるやり取りを止めたのは意外にも羽沢さんのお母さんだった

 

 

 

 

ありがてええぇ!!

 

 

 

「「ご、ごめんなさい」」

 

 

 

二人は素直に謝って、会話もここで終了した

 

 

 

はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ良かったぁ嵐は去って行ったみたいだ

 

 

 

「ホクサイくんと隣にいる綺麗なお姉さん。うちの店そろそろ閉店時間なの」

 

 

 

羽沢さん(母)が俺と紗夜さんに声をかける

 

 

 

俺達は顔を見合わせて頷き、

 

 

 

「分かりました、お店で騒いですみませんでした」

 

 

 

「この度は申し訳ございませんでした」

 

 

 

二人で謝って、荷物を持って出ていこうとすると

 

 

 

ガシッ

 

 

 

と羽沢さんのお母さんが俺の肩を掴んでくる

 

 

 

 

なんだろう?すごく嫌な予感がする、ヤバい帰りたい!今すぐに立ち去りたい!

 

 

 

「いやーいいのよ〜ただちょっとそこにいる顔のそっくりな美人さんのお話を聞きたいからホクサイくんは残ってくれない?」

 

 

 

その質問は俺にとって死刑宣告だった。何としても回避したい!!

 

 

 

「・・・・・・・・・えぇ?いや〜それは」

 

 

 

 

「いいわよね?」

 

 

 

 

 

 

『はい』と言わなければ殺すと目で訴えてきた

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいわよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は疑問系がなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その目からは『次は無いぞ』と言っている

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホクサイはその後に考えるのをやめた

 

 

 

 

 

 

 

 













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ハジメての恋を略して初恋(前編)











 

 

 

 

辻一(つじ はじめ)とは小学校五年生からの友人だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がアイツに対しての第一印象は『うるさそうで馬鹿そう』だ

 

 

 

 

 

 

 

 

それ自体は間違いじゃないが当然それだけでも無い

 

 

 

 

 

 

 

 

小五の時、俺は放課後だけでなく休み時間も紗夜さんに褒められるために勉強していて日菜先輩と紗夜さん以外の人間とろくに会話していなかった

 

 

 

 

 

 

 

いじめはなかったがやっぱりどこか寂しい思いがあって当時の担任も俺に誰かと遊ぶように声をかけてくれたが意地になってシカトした

 

 

 

 

 

 

 

結果俺は孤立した、今風に言えばボッチだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺に声をかけてくれたのがハジメだった

 

 

 

 

 

その時はきっと俺が可愛そうとか寂しそうとか色々思ってくれたんだと思う

 

 

 

 

けどハジメが俺に向けての第一声が面白くていつも思い出し笑いをしてしまう

 

 

 

 

 

アイツは顔に泥を付けてサッカーボールを抱えながら俺に()()言った

 

 

 

 

 

 

【オイお前!勉強ばかりしているとバカになるぞ!】

 

 

 

 

 

 

その発言自体がバカだなと思った、言わないでおいたけど

 

 

 

 

 

 

 

それが俺とハジメが会話を始めたきっかけだ

 

 

 

 

 

 

 

俺は孤立しなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

というかしたくても出来なくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

さすがに気持ちが悪いから言わないが俺はハジメのその優しい一言にとても感謝しているんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

とても嬉しかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●●●●●

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁぁーやっとテスト全部終わったぁー!手応えとしてはまあまあってところだろう、いやーもう今日は勉強しないで遊ぼう!

 

 

 

今日は早終わりでショートホームルームもないしすぐに帰ろう、この後は何しようかなぁ?そういえば明日の夜にはオカンとオヤジが帰ってくるのか

 

 

 

なら今日で一人暮らし(仮)は終了だな、大変だったけどまぁいい経験だったかな?お土産はなんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

ズカズカズカズカ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

派手な足音が聞こえる、何度も聞いた事のあるアイツのヤツだ

 

 

 

なんだろう?当たり前だが嫌な予感がするな

 

 

 

「ホクサイ!どうか俺の相談に乗ってくれ!」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・じゃあなーまた明日ー」

 

 

 

いつともように俺はハジメの一言目をシカトする

 

 

 

 

「・・・・・・待ってくれ、真剣な話なんだ」

 

 

 

 

ハジメは頭を下げたまま俺に話し続ける。まるで俺が立ち止まるのを分かっていたみたいに

 

 

 

教室のみんなはザワザワと言いながら俺たちを見ている

 

 

 

 

 

 

はぁぁぁぁ

 

 

 

 

 

多分だけど本気の相談事だな、いつもふざけている奴だが真剣とこいつが言えば真剣な話をするんだろう

 

 

 

「話を聞くだけなら別にいいけど」

 

 

 

「悪い、助かる」

 

 

 

悪いと思うなら俺に相談すんなよ

 

 

 

そのまま黙って俺とハジメは俺の家近くのファミレスに入って店員にドリンクバーを注文する

 

 

 

ハジメはコーラ、俺はコーヒーを机に置く

 

 

 

その時もハジメは気難しい顔をしている、そんな顔されるとこっちも緊張しちゃうだろ

 

 

 

「それで相談ってのはなんだ?」

 

 

 

「あぁ、実はな」

 

 

 

シュワシュワとコーラの炭酸が弾ける音がして、ドアが開いて店員の明るい挨拶が聞こえる

 

 

 

意を決した用にゆっくりとハジメはその重たい口を開いて

 

 

 

「実は好きな人が出来たんだ!」

 

 

 

なんて事を言ってきた

 

 

 

 

 

 

ふむふむなるほど

 

 

 

 

好きな人ね

 

 

 

 

ふーん

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「って!はあああああああああああ!!!!」

 

 

 

思わず大声を出したせいで周りのお客や店員がこちらを振り向いてきた

 

 

 

「ホクサイ!声でかい!」

 

 

 

「わ、悪い。けどえ?お、お、おま!お前本気(マジ)か?!」

 

 

 

「ああ本気(マジ)だ!」

 

 

 

うわぁ本気だよ、この男!本気で俺に恋愛相談しようとしてやがる!

 

 

 

「ハジメがそんなこと言ってくるなんて信じられない。今までそんなこと言ったことなかったじゃねぇか!」

 

 

 

周りから()()()()()()は聞かれたことはあるが

 

 

 

「ああ、俺も初めての事で戸惑っているんだ。だから頼む!」

 

 

 

全然戸惑ってるように見えない

 

 

 

バン!と手と頭を机にぶつける、お辞儀のつもりなのか?

 

 

 

ハジメはモテる

 

 

 

顔良し、性格良し、運動神経良し、と三拍子そろったイケメンだ

 

 

 

だけど女子からの人気が高い割に本人の恋愛への興味のなさと鈍い勘から数々の好意を無下にしてきた男だ

 

 

 

そんなコイツに「好きな人」なんて驚いた!

 

 

 

で、でも俺に恋愛相談なんて・・・・・・悪いが俺はハジメの力になれそうにないな

 

 

 

ここは断って・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ!それほんと?!」

 

 

 

いきなり後ろのテーブルからこの場に似合わない可愛らしい声が聞こえた

 

 

 

 

「ハジメくんに好きな子が出来たってほんと?!」

 

 

 

なぜここにいる?!!上原ひまり(ポメラニアン)!!

 

 

 

「うお!ひまりちゃん!どうして!」

 

 

 

「えへへーバンドの練習まで時間あるからここで巴とご飯食べようと思ってね、入ったらホクサイくんが大きな声出てたからさぁ〜気になっちゃって!」

 

 

 

後頭部を手でかきながら笑う上原さん

 

 

 

うわ、マジか!俺のせいだ!ゴメンハジメ!

 

 

「それでハジメくんに好きな人がいるって本当?!」

 

 

 

うわー嬉しそうな顔でこっちを見るなぁー楽しそうーしかも一言目からガツガツくるなぁー

 

 

 

流石のハジメもこれは嫌がるだろう

 

 

 

「ああ!ただいま絶賛初恋中だ!!」

 

 

 

「きゃあああ!そうなの?!すごーい!!」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・お前には羞恥心ってものがないのか?俺の心配を返せ

 

 

 

上原さんも嬉しそうに手をぱちぱちと叩くのはやめようよ、おもちゃのお猿さんみたいだぞ

 

 

 

「そういう事なら私もハジメくんを応援するよ!」

 

 

 

「おお!本当か!実は女の子の意見も聞きたいと思っていたんだ!助かるよ!」

 

 

 

確かにな、俺以外に相談相手がいるのはいい事だ。でもなぁ〜嫌な予感がするんだよなぁ〜なんというかどうしようもない罠に自分からかかりに行っているみたいな気分だ。

 

 

 

「それでそれで!ハジメくんの好きな子の名前はなんて言うの?」

 

 

 

当然のように上原さんが隣に座ってきてハジメに向かい合う

 

 

 

そういえば宇田川さんはどこに言ったんだろう?早く戻って来て欲しい、俺ではハジメの相手は出来ても上原さんの制御出来ない(リードは繋げられない)

 

 

 

ハジメは「うっ」と少し息に詰まりながら先ほどよりも低い声でボソッと、

 

 

 

 

み・・・んさんだ

 

 

 

「ん?誰?」

 

 

 

「聞こえないぞハジメ」

 

 

 

あまりにも小さい声だったから聞き取れない

 

 

 

しかしハジメは意を決したようにカッ!と目を見開いて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は美竹蘭さんが好きなんだ!!」

 

 

 

 

 

 

「うえ?」「は?」

 

 

 

 

 

ハジメは顔を赤くして俯いてしまった

 

 

 

 

けど俺と上原さんにはそんなアイツのフォローをする余裕がない

 

 

 

 

上原さんは驚きのあまりワナワナと口を動かして信じられない顔をしている

 

 

 

きっと俺も同じような顔をしているだろう

 

 

 

 

 

 

とりあえずこの後俺達が何を言うのかは予想が着くだろう、先ほどよりも大きい声で!

 

 

 

 

 

 

 

「「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 













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ハジメての恋を略して初恋(中編)











 

 

 

 

 

「どうしたんだホクサイ?死にそうな顔してるぞ?」

 

 

 

トイレから戻ってきた宇田川さんが心配そうに俺に向かって声を掛けてくる

 

 

 

でも正直それに反応する力すら俺には残っていない

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでもない」

 

 

 

「なにかあったようにしか見えないんだけど。ひまりもハジメの隣でニヤニヤしているし、何があったんだ?」

 

 

 

宇田川さんがやれやれっと言った感じで上原さんに質問する、ちなみにハジメの顔は至極真面目な表情だ

 

 

 

「えぇ?巴それきいちゃう?聞いちゃうの?ええ?どうしょっかなぁ?言っちゃっおうかなぁ?」

 

 

 

上原さんがニヤニヤをニヨニヨに変えていく

 

 

 

端的に言ってウザイ

 

 

 

「なんだよひまり?早く教えてくれ」

 

 

 

「えへへ、実はね・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜説明中〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・なるほど!ハジメが蘭のことを!」

 

 

 

「ねー!凄いよね!いいなぁ!これぞ青春!って感じで!」

 

 

 

二人とも元気いいなぁ女の子は恋バナに飢えているのかな?

 

 

 

「うん、そうなんだ!だから三人とも協力してくれ!」

 

 

 

「ああ!もちろんだ!」

 

 

 

「うんうん!協力するよ!」

 

 

 

自然と俺も頭数に入った、まあいいんですけど

 

 

 

「とりあえず、何をしたら美竹さんとお付き合い出来る?」

 

 

 

きっとこいつの辞書には羞恥心なんて言葉は存在しないんだろうな

 

 

 

顔色一つ変えないでそんなこと言えるのはこいつくらいだ

 

 

 

「それはズバリ・・・・・・デートだよ!」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 

宇田川さんの疑問の声はよく分かる

 

 

 

上原さんも初手から二段も三段も飛ばして行くなぁ

 

 

 

 

 

「なるほど!わかった!」

 

 

 

わかるな!なんで理解出来るんだ!アホすぎるわ!

 

 

 

もう無理だよ、追いつけないよ、止められないよ、もうお腹いっぱいだよ

 

 

 

「いやいや待て待て!ハジメと蘭はもう知り合いなのかまだ分からないだろ!」

 

 

 

「あっ、そっか!」

 

 

 

「あ、いや一応美竹さんとは知り合いではあるんだ」

 

 

 

へーそうなのか?あんまり接点があるようには見ないけど、それにしても宇田川さんナイスプレーだ!話の軌道修正はお手の物だな!

 

 

 

「まぁ今はどうでもいいんだ、とりあえずデートだな!」

 

 

 

違う!そうじゃない!一旦そこから離れよう!

 

 

 

「おいおい、落ち着けよハジメ。・・・・・・・・・・・・・・・そうだなぁこんなのはどうだ?」

 

 

 

宇田川さんの真面目な提案は()()だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼休み前

 

 

 

授業中なのにハジメはソワソワと頭を右左に動かして忙しない

 

 

 

かく言う俺もそんなに落ち着いてない

 

 

 

何故か先程からチラチラとこちらを見ている羽沢さんも無視して授業に集中する振りをする

 

 

 

宇田川さんの提案は上原さんのよりはマシだったけどそれでもあまりいいものとは言えないんだよなぁ

 

 

 

簡単に言っちゃえばご飯を一緒に食べて親睦を深めようっという感じだ

 

 

 

手順としては

 

 

 

 

 

①宇田川さんが美竹さんを昼食に誘う

 

 

②俺とハジメが偶然を装い二人の前にでる

 

 

③上原さんがこのグループを仲立ちになって一緒に昼食にいく

 

 

 

 

 

というイメージ

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど上手くいくか微妙だな

 

 

 

この計画自体上手く行ったとしてもそのあとはハジメの頑張り次第だ

 

 

 

こいつの事だ、のっけからとんでも無いことを言ってもおかしくない

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン!!

 

 

 

 

 

 

き、き、来た!授業終了の時間(勝負のとき)が来た!!!自分の事でも無いのに緊張してる!!!

 

 

 

「ホクサイ!行くぞ!」

 

 

 

ハジメが弁当を持って椅子から立って大声で俺を呼ぶ、準備万端か!!授業はちゃんと受けなさい!(自分の事は全力で棚上げ)

 

 

 

「わかったわかった。ハジメ、少し落ち着けよ」

 

 

 

「わかった!落ち着く!」

 

 

 

「分かってねぇよ」

 

 

 

本当に分かってない

 

 

 

俺がカバンからコンビニのおにぎりを取り出してる間に高速で深呼吸を繰り返して(深呼吸する意味が無くなってる)、右手と右足が同時に出てロボットみたいになってる

 

 

 

普段なら絶対に見ない光景だな。カメラで撮ってそして男バドのメンバーに配りたい

 

 

 

もしかしなくてもすげぇ緊張してるなぁ

 

 

 

今までバド部の大会に出場した時はそんなことなかっただろ

 

 

 

「ホ、ホクサイくん!」

 

 

 

ん?後ろから話しかけられた。羽沢さんだな、なんだろう?

 

 

 

「どうかしたの羽沢さん?」

 

 

 

「え、えっとその・・・ホクサイくんは今日のお昼はどうするの?」

 

 

 

「え?あぁ。ハジメと宇田川さん達と食べるよ」

 

 

 

「そ、そっか!それなら私も一緒してもいいかな!」

 

 

 

「え?!」

 

 

 

ま、不味い!これはヤバい!問題発生だ!いきなり計画に無いことが起きたぞ!この計画は最終的にはハジメと美竹さんの親睦を深めるためのもの!その為には出来るだけ二人だけにする必要がある!

 

 

 

いや、羽沢さんになら説明すればこっちに協力してくれるかもしれない!・・・あ、待った昨日この人色々変なことを言ったせいで周りの人から変な目で見られた前科があるな

 

 

 

今回も同じことが起こるかは分からないけどリスクは少ない方がいいだろう

 

 

 

なら!

 

 

 

「ご、ごめん。今日はちょっと・・・・・・俺、美竹さんと宇田川さんに用があるから」

 

 

 

「え?・・・・・・・・・蘭ちゃんと巴ちゃんに?・・・」

 

 

 

良し!羽沢さんがぼーっとしている、ここしかない!

 

 

 

「お、俺たち急ぐから!それじゃ!」

 

 

 

理屈ぜめされる前に戦線離脱だ!ごめん羽沢さん

 

 

 

さっきからハジメが左手に『人』って字を書いては飲み込んでいる、何人食べる気だよ?!

 

 

 

もう百人ぐらい飲み込んでる

 

 

 

いやいや切り替えろ!きっと宇田川さんは美竹さんを昼食に誘ってるだろう

 

 

 

ガラッと教室の扉を開けて廊下に出ようとする

 

 

 

「やっほー!ホクサイ!ご飯食べよう!私ね、今日はホクサイのためにお・・・」

 

 

 

なんでココにいやがる!天才(氷川日菜)!!

 

 

 

なんなの!暇なの?!そっちは暇でもこっちは暇じゃないんだよ!友達の恋がかかってんの!!

 

 

 

「俺達急ぐから!じゃあな!」

 

 

 

「・・・弁当をってええ!ちょっと、ホクサイ!」

 

 

 

即答する、慈悲はない

 

 

 

「ちょっと!ねぇ!ホクサイ!」

 

 

 

「ひ、ひ、日菜先輩じゃないですか!奇遇ですねぇ!どうしたんですか?」

 

 

 

ナイスだ上原さん!そのまま日菜先輩を抑えててくれ!

 

 

 

それじゃ!と言って俺とハジメは隣の教室に行く

 

 

 

ハジメの動きがトロい、錆び付いたロボットみたいな動きしてる

 

 

 

廊下には既に宇田川さんと美竹さんが立って俺たちを待っている

 

 

 

どうでもいいけどこの二人が並ぶと目立つなぁ

 

 

 

宇田川さんと目が合う、俺達はお互いにコクリと頷き合う

 

 

 

「や、や、やあ!宇田川さんと美竹さん!偶然だな」

 

 

 

やべぇ!どこか芝居っぽい!ゴメン宇田川さんフォローして!

 

 

 

「ほ、ほ、ほ、本当だぁ!ホクサイ!なんて偶然なんだろう!!」

 

 

 

アンタもかい!

 

 

 

初手からミスった!どうする?美竹さんが凄い疑いの顔して宇田川さんを見ている

 

 

 

つか!計画だと上原さんが俺達を繋ぐ役割だったろ!あの人どこいった!

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・あ

 

 

 

 

日菜先輩を捕まえてた!

 

 

 

やべぇやべぇ!どうしよう!計画のかなめが消えた!宇田川さんも困り顔だ!

 

 

 

「みみ、み、みみみ、み、美竹さん!!!」

 

 

 

ハ、ハジメ?!どうした?なにする気だ?!

 

 

 

「え、なに?えっと確かアンタは・・・・・・」

 

 

 

美竹さんがハッとした表情でハジメを見ている

 

 

 

「お、お、お、俺とデートしてください!!」

 

 

 

 

「え?嫌です」

 

 

 

 

 

 

 

 

バタン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハ、ハ、ハジメが死んだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 














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ハジメての恋を略して初恋(後編)











羽丘学園、学食

 

 

 

 

昼休みである今、沢山の生徒や教師が集まり明るく楽しく談笑しながら昼食を取るこの場所に一際暗い二人組が一つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というか俺たちだ

 

 

 

体に力が入らないで顔をうつ向けちゃう、今朝コンビニで買った昼飯を食べる気すら起きない

 

 

 

なんでか知らないけど俺もハジメがフラれたことがショックだ

 

 

 

まさかイケメンの体現者なコイツに限ってフラれるなんて思いもしなかったからかな?

 

 

 

まぁ確かに美竹さんの好みのタイプとか知らないし、知っている事と言えばツンデレってことだけだしなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁぁぁぁぁ」

 

 

 

 

 

 

目の前で顔を机に押し付けているゾンビ(ハージメ)がやっとの思いでため息だけを吐いたみたいだ

 

 

 

こればっかりは同情出来る、俺も入学式で似たような経験をしているからな

 

 

 

辛いよなぁその気持ちは凄く分かる、死にたくなるよな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、そういえば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁハジメ」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・なんだ?

 

 

 

めちゃくちゃ小声で聞こえずらいけど何とか聞こえた、いつものバカ騒ぎは出来ないみたいだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハジメはどうして美竹さんなんだ?」

 

 

 

 

 

 

()()をまだ聞いていなかった

 

 

 

 

 

 

そもそもどうしてコイツは美竹さんが好きなんだ?

 

 

 

 

 

ハジメはさっきみたいにため息をつく訳でもなく、相変わらず死にそうな雰囲気の中

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・なぁホクサイ。お前は三日前に俺が校門で出待ちされてたの知ってるか?」

 

 

 

「いや、知らない。テスト期間は速攻で帰ってるから」

 

 

 

「ははは、確かにお前はいつもそうだったな。なんかウチの生徒だけじゃなくて他の女子高の人まで沢山いて驚いた」

 

 

 

何コイツ?自慢話しているの?テスト期間に何してんの?しかもいつの間に他校にファンを作ったの?その話長くなる?慰めるのやめようかな?

 

 

 

「それで校門から歩道まで人が溢れて周りの人に迷惑をかけててさ、なんとか帰って貰おうと思ったんだけど収拾がつかなくて困ってた」

 

 

 

「ふぅん、それで?」

 

 

 

「その時、美竹さんが『あんた達邪魔だよ、そこにいると他の人の迷惑になるじゃん』って言って来たんだよ」

 

 

 

うわ、言いそう!美竹さんならすげぇ言いそうだなぁ!

 

 

 

「その誰の前でも物怖じしない姿が凄くカッコよくてさ、思わず見とれた。それだけ」

 

 

 

 

本当にそれだけだと

 

 

 

 

ハジメはいつものように淀みなく冷静に恥ずかしい事を告げる

 

 

 

「・・・・・・・・・その後も美竹さんの事がずっと頭から離れなくて、この感情が『好き』って事を自覚してからどうすればいいのか分からなくて。でもどうにかして美竹さんと仲良くしたくてさ」

 

 

 

「それで告白しようとしたのか?」

 

 

 

「そうだ」

 

 

 

即答しやがった

 

 

 

ハジメは目が死んだままカバンから弁当を取り出して食べる

 

 

 

いつもとは違ってゆっくりと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだか調子くるうな

 

 

 

 

 

俺はハジメの事をどこか日菜先輩と似た人だと思っていた

 

 

 

 

あの人のような万能ではないけれど自分を信じて疑わなくていつもいつも誰かを振り回していく

 

 

 

 

自分が楽しければそれでいいんだとそういう奴だと思っていた

 

 

 

 

でもそれは誤解だったみたいだ

 

 

 

 

なんというかコイツも普通に傷つくんだな

 

 

 

 

「あれあれ〜ハジーくんとホクちんの二人だけでお昼ですかぁ?」

 

 

 

ふと俺達のテーブルに近づく人影

 

 

 

灰色のような髪に寝ぼけたような目つきに多量の菓子パンを抱えた人

 

 

 

青葉さんだ

 

 

 

「そ、そうだけど、青葉さんはどうしてここに?」

 

 

 

慌てて返事をする、今のこの状況だとあんまり他の人と会話したくないなぁ

 

 

 

ハジメはモソモソと弁当を食べる、大丈夫か?青葉さんが見えてないのか?

 

 

 

「えーっとねーお昼のパンを朝のうちに食べちゃったからここで買いに来たんだー」

 

 

 

「ふーん、それじゃ青葉さんは今朝は朝ごはんは食べれなかったんだ、寝坊でもしたの?」

 

 

 

「えー?普通に食べたよー」

 

 

 

「え?」

 

 

「んー?」

 

 

 

俺の当然の疑問は何故か伝わらないでどこかに行った

 

 

 

「そういえば蘭とトモちんが二人の事でお話してたよ」

 

 

 

「それは本当か!」

 

 

 

うわ!ビックリした!急に覚醒するなよハジメ!怖いわ!

 

 

 

「ほんとー、遠くだったからよく聞こえなかったけどハジーくんの事を喋ってた気がするなー」

 

 

 

「良し!だったらまだチャンスがあるな!」

 

 

 

うおー!と言いながら飯をかっ込むハジメ

 

 

 

急に元気になったな、本当に単純なやつだ

 

 

 

羨ましい

 

 

 

「んー?どいうこと?」

 

 

 

「え?まあ簡単に言えばハジメが美竹さんをデートに誘って断られたって話だよ」

 

 

 

「おおーこれはビックリですなー」

 

 

 

だったらもう少し驚いた反応をして欲しい、表情が変わってないよ

 

 

 

「でもいきなりデートに誘うのはやめたほうがいいよー蘭は意外と人見知りだからね」

 

 

 

「えぇぇ!!そ、そうなのか!!あの態度だからてっきり・・・」

 

 

 

ハジメは箸を動かすのを辞めて頭に手を当てる

 

 

 

てか、そうなのか

 

 

 

あんなふうにハキハキしゃべる人だから知らない人でもハッキリ意見を言う人だと思っていた

 

 

 

「そうそうーだからまずはみんなと一緒におしゃべりしたりとかからがいいんだよー」

 

 

 

おお、流石幼馴染だな

 

 

 

相手の気持ちは直ぐに分かるって感じなんだ!

 

 

 

俺にもいるけど絶対にこの人みたいにはならないと思う

 

 

 

 

 

 

 

「な、なあハジメ。とりあえず遊びに誘わないで自己紹介みたいなのをしてこいよ。さっきの話だと美竹さんはまだお前の名前すら知らないんじゃないか?」

 

 

 

「そういえばそうかもしれない、けどそれでいいのか?さっきみたいにキツイ言葉を食らったら死ぬぞ俺」

 

 

 

「わかんないけど、でも同じことしてもしょうがないだろ。別の方から近づいて見たらどうだ?」

 

 

 

ハジメは腕を組んで唸りながら「わかった」と言って

 

 

 

「それじゃあ行ってくる!後で弁当を持ってきてくれ!」

 

 

 

走って学食を出て行った

 

 

 

 

相変わらず決めた時から行動が始まる奴だ、忙しなくて切り替えが早い

 

 

 

俺もいい加減紗夜さんとの区切りを付けるべきだしな

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえばねーつぐがなんでかお弁当を二つ持って来てたんだよねーどうしてかなー?」

 

 

 

青葉さんはさっきまでハジメが座っていた椅子に座って菓子パンを食べながらニヤニヤと俺に質問してきた

 

 

「え?いや、わかんないけど」

 

 

 

 

ん?なぞなぞか?お弁当が二つ?普通に考えたら自分で食べるんだよな

 

 

 

 

いや、羽沢さんはそんなに食べる人には見えないし。前に宇田川さんと一緒に羽沢さんを抱えて見たけど凄い軽かったよな

 

 

 

 

なんでだろう?

 

 

 

 

「分からないのー?つぐは苦労しそうですなー

 

 

 

「え、何が?」

 

 

 

「なんでもないよー」

 

 

 

羽沢さんが苦労する?お弁当二つ持ってきたから?

 

 

 

 

 

「そろそろ休み時間終わっちゃうよ、私は先に戻るねー」

 

 

 

「え?あぁ!本当だ!」

 

 

 

ヤバイヤバイ!急いで食べないと!

 

 

 

それにしてもコンビニのお弁当って美味しいけどなんか味に飽きて来るなぁー

 

 

 

まぁ今日の夜にはオカンも親父も帰って来るからいいんだけどさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は教室でハジメを見ると満面の笑みを浮かべていたからきっと仲良くはなれたんだろう

 

 

 

 

こっから先の事はコイツで何とかするだろう

 

 

 

 

もし本当に美竹さんと付き合ったら・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁその時ぐらいは何か適当にお祝いのものを送ってやろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














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女の子の料理はそれだけで特別である










 

 

 

 

 

 

ハジメ告白事件が終わった翌日は幸運にも俺史上最強の曜日の土曜日だった

 

 

 

 

 

やることと言えばもちろん惰眠

 

 

 

 

ココ最近勉強以外にもやることがあったから疲れてる

 

 

 

 

 

昔ハジメにその事を話したら「お前それ楽しいか?」と言われたのを覚えている(余計なお世話だ!超楽しいよ!)

 

 

 

 

 

 

 

眠るってすごくいいリフレッシュだよ

 

 

 

 

 

テスト明けで疲れた脳みそを休めるのには睡眠が一番だってことにアイツは気づくべきだ

 

 

 

 

 

いや、アイツはテストで疲れないからいいのか

 

 

 

 

ハジメと言えばあの日の放課後に美竹さんと二人きりではないけど一緒に帰れたみたいなんだよなぁ

 

 

 

 

 

なんというかあの鈍感野郎に恋人が出来るのかと思うと感慨深いものがある、二人が上手く行くようにここから祈っておこう

 

 

 

 

 

布団の中でハジメの事を考えているけどもう無理だな

 

 

 

 

 

 

二度寝だ、セカンドスリープだ、いやこの英語が合ってるか知らないけど

 

 

 

 

 

勉強?するわけないやん!

 

 

 

 

 

 

それでは夢の世界へさぁ行こう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐーーぐーー

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

 

「い・・・くん」

 

 

 

 

 

zzzz

 

 

 

 

 

 

 

「いつ・・・くん?・・・ていま・・・か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか声が聞こえる?

 

 

 

 

 

 

 

 

「しょうが・・・もう・・・時を過ぎ・・・ます。む・・・でも・・・きてもらい・・・しょう」

 

 

 

 

 

 

うぅん、なんだろう?でも落ち着く声だなぁ余計に眠れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きてください(いつき)君。もう朝ですよ」

 

 

 

 

 

「へぇぇ?」

 

 

 

 

耳元で天使のように優しい声が聞こえて肩を揺らされた。なんだ?てか誰だ?

 

 

 

「睡眠をとることは大事ですがそれでも生活リズムを乱してはいけません。朝はしっかりと起きなくてはダメですよ、早く起きて朝食を食べましょう」

 

 

 

「は、はい。分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

起きていきなり美少女に説教された

 

 

 

 

 

 

ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、紗夜さん?」

 

 

 

 

 

 

「はい、その通りですよ」

 

 

 

 

 

 

なぁんだ紗夜さんかぁ!!ビックリしたよ、目を開けたらいきなり美人さんがいるんだもん!俺の部屋に女神降臨したのかと思ったぜ!でも紗夜さんか!ならその綺麗な髪もいい匂いも納得だ!!いやービックリビックリ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あははは!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってはあああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在時刻AM9:00

 

 

 

俺は今自分の置かれている状況を理解できないでいた

 

 

 

キッチンからはオカンが朝食の準備を進めていて久しぶりに我が家には料理の音が響いている

 

 

 

 

テーブルには俺

 

 

 

 

隣には何故か紗夜さん

 

 

 

 

 

 

 

本当になんでだ?!なんでウチに紗夜さんがいるんだ!!日菜先輩が部屋に入る(侵略する)のはよくあるけど紗夜さんがウチに来るなんて小学校以来だ!これはアレか?!今日は紗夜さんと一日過ごせるボーナスデェイなのか?!だったらわたくしテストの疲れも関係なく勉強に一日費やしても構いませんことよ!!

 

 

 

 

ダメだな起き抜けで頭が変な方向に行っちゃってる。自重しよう

 

 

 

 

それにしてもどうして紗夜さんがいるんだ?本当に分からないぞ?今日の日付が特別ってわけではないし、何か予定があった訳でもない

 

 

 

 

さっぱりだ

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねーちゃーん!ホクサイ起きたぁ?」

 

 

 

 

ん?

 

 

 

 

「ええ、起きたわ」

 

 

 

「お姉ちゃんありがとう!今ちょうど手が離せなくてさぁ!」

 

 

 

キッチンからどこかで聞いた事のある声が聞こえた

 

 

 

幸せの気持ちいっぱいの俺を一気に不安に落としそうなこの感覚

 

 

 

やめて欲しい

 

 

 

久しぶりのオカンの手料理だと思ったらキッチンにいたのは別人でしたーってオチはやめて欲しい

 

 

 

「ホクサイおはよう!今日もいい天気だね!」

 

 

 

キッチンからひょこっと顔だけ出して太陽のように笑う天才が一人

 

 

 

ああぁぁぁダメだわー!!受け止められないぃぃ!!

 

 

 

「はい!出来たよ朝ごはん!」

 

 

 

なんでいるのー日菜先輩?

 

 

 

いや、紗夜さんがいる時点でこの人がいてもおかしくないのか

 

 

 

トホホ、今の今まで「ラッキー!」って思っていた自分を殴りたい

 

 

 

テーブルに運ばれたのはトーストにベーコンエッグ、それから簡単なサラダ

 

 

 

 

見た目は綺麗な朝食だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()』はだ

 

 

 

俺は既にこのパターンを知っている

 

 

 

このベーコンの焦げ目もサラダの水滴も全て紙粘土と絵の具で描かれているのだろう

 

 

 

天才(氷川日菜)ならこのぐらい平然とやってくる、小さい頃の俺は何も知らずに口に入れて思っいっきり飲み込んでしまったことがある

 

 

 

 

同じ轍は踏まない、俺は学習する男なのだ

 

 

 

 

「さあ、どうぞ!召し上がれ!」

 

 

 

分かっているぞ日菜先輩!その満面の笑みの下にどんな顔が隠れているのかを俺はよく知っている!目の前に座るアンタの椅子の後ろにはドッキリ成功の看板があるのだろう!!

 

 

 

 

残念だったな!俺は食べない!引っかからないぞ!

 

 

 

 

「いただきます」パク

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

「美味しいわ日菜」

 

 

 

 

え?!!

 

 

 

 

「えへへーでしょう!ホクサイも早く食べて!」

 

 

 

えぇ!!

 

 

 

え?マジなのこれ?本物の卵とベーコンとトマトとレタスときゅうりと食パンなの?

 

 

 

本物(モノホン)

 

 

 

 

 

 

 

日菜先輩と紗夜さんが不思議の目線を俺に送ってくる

 

 

 

 

 

やめて!そんな顔までそっくりに似せないで!

 

 

 

 

 

お、おお、おお、お、お、落ち着けぇぇ

 

 

 

 

 

く、口に入れる前に確認出来ることはし、しておこう!

 

 

 

 

ま、まずはトーストを触ってみるか

 

 

 

焦げ目がついたトーストは触ると一瞬サクッとした音がしてから指先に少し熱を送ってくる

 

 

 

 

ほ、本物?!

 

 

 

 

まだだ!次はベーコンエッグの匂いを確認しよう!

 

 

 

 

皿を持ち上げて匂いを嗅ぐ

 

 

 

 

本物だ

 

 

 

 

隣を見てみると紗夜さんが疑心暗鬼な俺を置いていってパクパクと食事を進めている

 

 

 

 

え?いけるの?マジで?!俺のだけ偽物の食品サンプルとかではない??

 

 

 

 

 

カタカタカタカタカタカタカタカタカタ

 

 

 

 

 

トーストを持った腕が緊張で震える

 

 

 

 

 

なんで飯を食べるのにこんなに緊張しなくちゃいけないんだ!俺の日常を返して欲しい!

 

 

 

 

 

 

目の前を見ると日菜先輩がキラキラした期待のひとみで俺を見る

 

 

 

 

日菜先輩も凝視しているし紗夜さんも食べているし問題ないのか?ここまで確認してからでもどんでん返しが来る可能性は否定出来ないけど

 

 

 

 

 

 

よ、よよよよ、よひ!食べよう!

 

 

 

 

 

「い、いい、いいいい、いたいた、いただきます!!そして南無三!!」

 

 

 

 

 

 

 

パク!

 

 

 

 

 

モグモグモグモグモグ

 

 

 

 

 

 

ゴクン

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、食べ物・・・だと!!!」

 

 

 

 

「当たり前だよ!!!」

 

 

 

 

我が家のリビングに日菜先輩の謎の悲鳴が響いた

 

 

 

 

俺の平和な日常が始まった

 

 

 

 

 

 













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時差ボケはなかなかなおらない










 

 

 

 

 

テーブルに置いてある朝食は三人分だけだった

 

 

 

俺、日菜先輩、紗夜さんの三人は仲良く?食事を進める

 

 

 

 

「それで」

 

 

 

「「それで?」」

 

 

 

顔と声を合わせるな、ムカッとするわ!

 

 

 

「どうして二人がウチにいるんですか?何かようなんですか?そしてなんで三人分だけ?」

 

 

 

昨日の帰りに玄関に両親の靴、そしてリビングに大きいキャリーバッグがあるのは確認した

 

 

 

もしかしてまた急に出かけたのか?

 

 

 

(いつき)くんのご両親はまだ眠っています。海外に滞在していたこともありまだ眠いんだと思いますよ」

 

 

 

なるほど時差ボケってやつか

 

 

 

というかサラッと心を読まないでよ紗夜さん

 

 

 

「だから昨日ホクサイのお母さんにメールで頼まれてご飯を作りにきたんだ!」

 

 

 

そうですかーそれはそれはありがたいーなんでウチの母親は俺に相談する前に日菜先輩に相談するの?俺の信用なさすぎじゃない?むしろそういうことは紗夜さんに報告するべきだろ

 

 

 

「私ね、ついこの間からホクサイのお母さんに料理を教わってるの!やってみると楽しいよね!」

 

 

 

へぇー教わってる

 

 

 

なるほどそれが日菜先輩の料理が食べられる理由か!

 

 

 

謎は全て解けた!

 

 

 

でもむしろ俺は紗夜さんの料理を食べたいかぁ食べたことなんだよね、まあ口には出さないけど

 

 

 

「ん?てかなんで今更、料理?別に興味なかったよな」

 

 

 

「え!!そ、それはホクサイに褒めて・・・

 

 

 

ごにょごにょ言ってて全然聞こえない、なんて?

 

 

 

「生活に必要だからです」

 

 

 

紗夜さん?!な、なんて?

 

 

 

「せ、生活?」

 

 

 

「ええ、料理は生活する上で大事なこと。けどこの娘ったら全部適当に済ませるから料理するたびキッチンが酷いことになるのよ。だから私がホクサイのお母様に頼んだの」

 

 

 

「そ、そうなんだよホクサイ!あはははは!」

 

 

 

まるで台本を読むような口調で紗夜さんが話してくる、つか日菜先輩!笑うような所はひとつもないと思うけど?

 

 

 

それよりも紗夜さんが言う「お母様」っていい響きだなぁ

 

 

 

いやいやいや!何考えてる俺!ニヤニヤするな!

 

 

 

「キッチンが酷い事にか。なるほど、日菜先輩なら有り得るな」

 

 

 

「ええ、それはもう台風が通り過ぎたかのようになっているの」

 

 

 

「そ、そこまで酷くないよ!」

 

 

 

()()()()はか」

 

 

 

「確かに()()()()はないですね」

 

 

 

「お姉さんもホクサイも酷いよ!本当にちょっとだけなんだから!」

 

 

 

信用出来ねぇ!絶対に大惨事になっていただろう

 

 

 

つかこの二人いつの間にこんなに仲良くなったんだ?

 

 

 

日菜先輩はいつもどうりなんだけど紗夜さんはかなり変わった。普段ならこんなに朝食を遅くしないし、それ以上に食べる暇が会ったら努力するような人じゃん。どうしたんだろう?

 

 

 

氷川姉妹の仲が悪くなった事をオカンから聞いた時は驚いたけど同時に納得してしまった

 

 

 

紗夜さんは耐えられなくなったんだと

 

 

 

でもこの二人の様子を見ているとそんなこともなかったみたいに思える

 

 

 

どうでもいいか仲が悪いより仲が良い方がいいに決まってるんだから

 

 

 

「ねぇねぇホクサイ!この後どうする?」

 

 

 

「え?どうするって?」

 

 

 

「何して遊ぶ?」

 

 

 

「寝る」

 

 

 

「えい♪」 ドス!

 

 

 

「いったい!!」

 

 

 

なんだ?足踏まれた?!目の前の天才に足踏まれた!

 

 

 

ニコニコすんな!

 

 

 

「ねぇホクサイは私と何したい?」

 

 

 

「だから俺は寝・・・痛い!」

 

 

 

「何するの?」

 

 

 

お前が俺に何してんだよ!踏むんじゃない!羽沢さん(母)みたいなこと言いやがって!

 

 

 

しかしまだまだだな日菜先輩!羽沢さん(母)に比べたら威圧感が足りないぞ!痛いだけで怖くは無いこれなら余裕で耐えられる!

 

 

 

嫌だぞ!俺は絶対に家から出ない!たとえこの脚ミンチになろうとも俺は絶対に寝る!

 

 

 

「いけませんよ斎くん。先程も言いましたが生活リズムを崩すのは良くありませんし、怠惰な生活も頂けません」

 

 

 

「ったくしょうがないなあ!今日は日菜先輩に付き合ってやるよ!」

 

 

 

「わーい!やったー!」

 

 

 

紗夜さんに言われてはしょうがない、手のひら返し?知らない言葉ですね!

 

 

 

 

 

 

 

俺達は朝食を食べ終わるとそれぞれ部屋に戻って出かける準備を始めた

 

 

 

急な話だけど三人で出かけるのか

 

 

 

少しだけ意識した格好をしてみるか

 

 

 

黒のスキニに薄青のポロシャツに灰色のパーカーを着て洗面所の鏡で髪を整える

 

 

 

玄関から出ると既に日菜先輩と紗夜さんが待っていた

 

 

 

あれ?

 

 

 

「紗夜さん?その背中にあるのは?」

 

 

 

「ギターですが?」

 

 

 

「ぎたー?」

 

 

 

「はい、これからバンドのメンバーと練習なので」

 

 

 

「頑張ってね!お姉ちゃん!」

 

 

 

ええ、と言って紗夜さんはそのまま俺たちに黒いケースを背負った姿のまま颯爽と歩いていった

 

 

 

 

俺達を置いていって

 

 

 

 

 

えええ!!!紗夜さん行っちゃうの?!!嘘でしょ日菜先輩だけ!!

 

 

 

 

「約束したもんね!今日はよろしくホクサイ!」

 

 

 

ニコニコすんな!

 

 

 

確かにさ日菜先輩に付き合うとは言いましたけどね、俺はてっきり紗夜さんもついてくると思っていたんですよねぇ

 

 

 

ふぅ、回れ右して帰るか

 

 

 

 

 

 

ガシ!!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

「どうしたのホクサイ?」

 

 

 

「どうしたのじゃない、あんたがどうした?」

 

 

 

「何が?」

 

 

 

「何がじゃなくてどうして俺の左肘に関節技かけてる?」

 

 

 

日菜先輩は俺を逃がさないようにするためか両手で上手いことやって肘をキメにきている

 

 

 

「関節技じゃないよ、腕を組んでるの!」

 

 

 

確かに組んでるけどね

 

 

 

さっきから肘がギリギリって鳴って不穏な音鳴らしてるんだけど?

 

 

 

流石天才(氷川日菜)、格闘技の経験なくても感覚で技を真似したのか?!

 

 

 

「ホクサイこそどうして玄関に戻ろうとしているの?」

 

 

 

「わ、忘れ物」

 

 

 

「嘘だね」

 

 

 

バ、バレた!速攻でバレた!

 

 

 

 

「さぁ行こう!とりあえず映画館に!」

 

 

 

 

ゴーゴー!と日菜先輩は俺の腕をキメながらこの街にある映画館に向かって歩いて行くのだった

 

 

 

 

 

 













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デートに怪我は付き物である











 

 

 

 

 

ぐおおお!めっさ腕痛い!まだビリビリいってる

 

 

 

 

いつの間に日菜先輩は格闘技の達人になってたんだ?

 

 

 

さっきまでいた映画館の中でも肘をギリギリとキメに来て最終的に腕全体が痺れてきたし、しかも逃げようとすると的確に足を踏んずけてくるんだもん(しかもヒール)

 

 

 

空手家みたいだった。いや関節技だから柔道家?

 

 

 

「楽しかったねぇホクサイ!」

 

 

 

「そうですね。任侠映画なんて俺初めて見ましたよ」

 

 

 

日菜先輩が「このタイトルにるんってきたよ!」って決めたやつだったけど思わず見入っちゃったな、ちょっと目を背けたくなる描写があったけど

 

 

 

今では関節技から解放されて映画館があるショッピングモールを二人で歩いている

 

 

 

「るーるーるるん♪」

 

 

 

オリジナルハナウタを奏でながら歩く日菜先輩

 

 

 

「ご機嫌ですね日菜先輩。そんな面白かったんですか?」

 

 

 

「ん?別に面白くないよ?」

 

 

 

「え、そうなの!じゃあなんで?」

 

 

 

面白いって思っちゃったよ

 

 

 

「・・・ホクサイと一緒だから?」

 

 

 

一瞬の間を置いて日菜先輩はぎこちない笑顔を見せる

 

 

 

あ、そう。なるほどね「ホクサイ(玩具)と一緒だから」か。よく分かったよ

 

 

 

ひでぇ人もいたもんだ

 

 

 

 

日菜先輩は俺の隣を歩く

 

 

 

俺と日菜先輩では歩幅が違うから一歩の大きい俺が合わせて歩く

 

 

 

昔はこの人が俺の手を握って連れ回していたのに今では逆だ。何だか違和感を覚えるよ

 

 

 

「ねぇホクサイ。次はどこに行こうか?」

 

 

 

「俺の意見は受け付けられるんですか?」

 

 

 

家に行きたいって言ったらどうなるかな?空手、柔道と来たから今度はレスリング技のタックルが来るかもしれない?

 

 

 

と言うより

 

 

 

「日菜先輩はどこか行きたい場所はないんですか」

 

 

 

「んー?特にないかな。それに今家にいるのちょっとね・・・」

 

 

 

えへへと日菜先輩はまたどこかぎこちない笑顔を見せる

 

 

 

この人が言い淀むなんて珍しいこともあるもんだ

 

 

 

「ホクサイの家は居心地いいよね」

 

 

 

「え?なんすかいきなり」

 

 

 

「ううん、なんでもない」

 

 

 

 

 

・・・またその顔か

 

 

 

 

 

それはもう何かあったって言っているものだろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ日菜先輩何かあ「あれ?りさちー?」

 

 

 

日菜先輩が目の前の雑貨屋を目を見開いて見つめる

 

 

 

「おーい!りさちー!」

 

 

 

「え、あれ?日菜じゃん奇遇だねぇ!」

 

 

 

そこには服装も髪型も身につけるアクセサリーまでも派手な格好をしているとても大人っぽい人がいた

 

 

 

 

うん、誰?

 

 

 

 

「それにしても意外!日菜がこういう店に来るの見たことないし、どうしたの・・・・・・ってあぁなるほどデートだなぁ!このこの!」

 

 

 

日菜先輩いわくその「りさちー」さんは俺の方と日菜先輩を交互に見て、その顔をニヤニヤと怪しい笑顔に変えて行った

 

 

 

でぇぃと?

 

 

 

あぁなるほど察したわ

 

 

 

 

この人は恐らく日菜先輩と俺が付き合ってると勘違いしているんだろう

 

 

 

まぁ確かに休日に男女の二人でショッピングモールに出かけているのを見たら誰でもそう思う、俺もそう思う

 

 

 

まぁそんな質問にももう慣れた。

 

 

 

小学校の頃は周りの男子からは毎日「お前、あの人の事好きなんだろ!」と言われ続けていたんだ。今更こんなことでうろたえない。どうせなら紗夜さんとの噂を流して欲しかったんだけど日菜先輩のせいでそれは一向に叶わなかった

 

 

 

ちなみにその男子達は俺が日菜先輩に無理矢理連れられているのを見てから、ポンと軽く肩を叩いて「お前大変だったんだな」と言ってくれた。元気かなぁあいつら

 

 

 

「デートだなデートだな!日菜も意外と隅に置けないねぇ!」

 

 

 

この「りさちー」さんは日菜先輩に向かって話しかける

 

 

 

日菜先輩も俺と同じように慣れてるだろう。きっと冷静な対応をしてくれるはずだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、で、ででで、でで、で、で!デートなんかじゃないよ!や、やややや、やだなぁりさちー!!ホホ、ホ、ホ、ホ、ホホクサイとはそんな関係じゃないから!!」

 

 

 

 

 

「え、日菜大丈夫?」

 

 

 

 

「だだ、だいだい大丈夫だよ!!大丈夫に決まってるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

冷静な対応を・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

あれ?「れいせい」ってどんな意味だっけ?

 

 

 

 

日菜先輩は顔をリンゴのように赤くして胸の前で手をぶんぶん振る

 

 

 

パチッと目があったのは「りさちー」さん

 

 

 

なぜだか初対面のはずなのにここにいる「りさちー」さんとは目が合っただけでこの話題はもうやめようと意思疎通が出来た

 

 

 

 

これが空気を読むのにたけた民族、日本人の実力だ!

 

 

 

日本人で良かった

 

 

 

「え、えっと日菜先輩、こちらの方は?」

 

 

 

「あ、ああ!そうだよね、ホクサイ知らないよね。こちら私と同じクラスのりさちーだよ」

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 

俺と「りさちー」さんは驚きのあまり目を見開いてしまった

 

 

 

 

それで人の紹介をしているのつもりならこの人は病院に行くべきだ

 

 

 

「日菜、それだと分からないよ。初めまして私の名前は今井リサって言うんだ!よろしくねホクサイくん!」

 

 

 

「は、はじめまして!」

 

 

 

派手な格好とは裏腹にとても綺麗な姿勢と言葉遣いで挨拶をしてくれた今井さん

 

 

 

てか日菜先輩と同級生なんだ。てっきり大学生かと思った

 

 

 

「ふむふむなるほど君が噂のホクサイくんねぇ」

 

 

 

今井さんはジロジロと俺を観察する

 

 

 

なんだかムズ痒い

 

 

 

「ねぇねぇ知ってる?日菜ってね教室だとホクサイくんの話ばかりするんだよ」

 

 

 

「は?」

 

 

 

いきなり今井さんが俺に向かってよく分からない事を言ってきた

 

 

 

日菜先輩が俺の話ばかりする?なんで?

 

 

 

「あの、日菜先「きゃああああああああああ!!!!」

 

 

 

ズドンッ!!

 

 

 

 

俺が話を聞く前に日菜先輩が俺に向かって突っ張りを繰り出してきた

 

 

 

一瞬胸から心臓がそのまま飛び出るのかと錯覚するほどの衝撃が日菜先輩からきた

 

 

 

ま、ま、まさかレスリング技ではなく相撲だとわ!流石天才(氷川日菜)!意外性に事欠かないな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな事ばかりしていたをしていた昔の頃を思い出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまで考えて俺の意識は途切れてなくなった

 

 

 

 

 












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デジャブって基本的には気の所為で生じるんだよ!











「・・・ングぁ?」

 

 

 

 

 

目が覚めた

 

 

 

 

 

「あ!ホクサイ起きた?!良かったぁー」

 

 

 

 

「え?あ、ああ起きましたよ?・・・ん?」

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

 

 

目が覚めた?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで、寝てたのか?いつ寝たんだ?てかここどこ?

 

 

 

 

 

 

なんだろう?胸のあたりがズキズキするな?

 

 

 

 

 

 

「ホクサイ大丈夫?」

 

 

 

「え?は、はい。大丈夫で」

 

 

 

 

何度かまばたきをしてから落ち着いて目を開いて見ると目の前にあったのは薄青の綺麗な瞳に整った容姿を持った天才(氷川日菜)

 

 

 

 

昔は似たような景色をよく見ていた

 

 

 

 

 

ってぇぇ!!

 

 

 

 

「ひ、ひ、日菜先輩!!」

 

 

 

 

ガツ!!ぽふっ

 

 

 

 

勢い良く上体を起こそうとしたら俺のおでこと日菜先輩のおでこがぶつかってまた寝そべり状態に戻った

 

 

 

 

おでこめっさ痛えぇ!でも後頭部は優しい感触

 

 

 

「ああ〜いったい〜」

 

 

 

 

ちょっと待て!ちょっと待て!なになになになに?!なんだこの状況?!今俺どんな体制?

 

 

 

 

「ホクサイいきなり何するのー」

 

 

 

 

うるさい、後だ

 

 

 

目をつぶって熟考しろ!

 

 

 

 

落ち着いて、冷静になれ

 

 

 

紗夜さんに言われた通り落ち着けばなんとかなる

 

 

 

 

 

その一、俺は今仰向けで寝そべってる

 

 

その二、日菜先輩の声がすぐ近くにある

 

 

その三、後頭部のこの柔らかい感触

 

 

 

 

 

 

以上の点から導かれる答えは!!

 

 

 

 

 

 

「日菜先輩」

 

 

 

「なぁに?」

 

 

 

少し涙声の日菜先輩

 

 

 

「あの・・・・・・・・・いま何してるんですか?」

 

 

 

 

「え?膝枕だけど?」

 

 

 

何を当たり前の事を、と言いたげな声音で日菜先輩は答える

 

 

 

・・・・・・・・・?

 

 

 

 

 

ひざまくら?

 

 

 

 

HIZAMAKURA?

 

 

 

 

 

あ!膝枕ね!

 

 

 

 

 

「・・・ち、ちょっと日菜先輩何してるんですか!!」

 

 

 

「ん?膝枕って言ってるじゃん」

 

 

 

そうじゃねぇよ!!そういうこと言ってるんじゃねぇよ!どうして膝枕してんのか聞いてんだよ!!なんでそんなに冷静な対応してくるんだよ!恥ずかしい恥ずかしいめっちゃくちゃ恥ずかしいわ!!まるでところ構わずイチャつくバカップルみたいだ!!

 

 

 

俺は日菜先輩から転がるように脱出もとい落下する。もう一度改めて目の前の日菜先輩を見てみると、あたりが広く薄暗い空間にあるベンチに座っていた

 

 

 

なんなんだよここ。映画館?

 

 

 

 

あれ?映画館?ここはもう出たんじゃないか?

 

 

 

「あ、あの日菜先輩?」

 

 

 

「あれ、どうしたのホクサイ?映画つまんなくて寝ちゃってからずっと夢見てたの?」

 

 

 

ゆ、夢?俺夢なんて見てたか?

 

 

 

あ、あれ?確かに家から出て、映画館に入ってからの記憶が曖昧だな、どうしたんだろう?

 

 

 

「面白かったよね恋愛映画!!」

 

 

 

れ、恋愛映画?!そんなの見てたっけ?確か日菜先輩がタイトルで選んだ任侠映画を・・・

 

 

 

「そうだよねホクサイ!!ワタシタチレンアイエイガミタヨネ!」

 

 

 

・・・・・・?レンアイエイガミタ?ミタヨネ?ミタナ、ミタネ!

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・ソ、ソウデスネ。オモシロカッタデスネ」

 

 

 

 

ウンウン、ヒナセンパイガニンキョウエイガナンテミルワケナイナイ

 

 

 

良かったぁ。それにしても催眠術って結構簡単だね、ネットで見ただけで出来ちゃったよ

 

 

 

何やら日菜先輩がブツブツと呟いている。なんだあれ?ガッツポーズ?

 

 

 

なんか怖いな、何か大事な事を失ってるきがしてならない

 

 

 

「あ、あ、あれ〜?日菜じゃんどうしたの〜?」

 

 

 

日菜先輩に声をかけようとしたら後ろからどこか聞いた事のある声が聞こえてきた

 

 

 

本当に最近、数時間前に聞いたぐらいの感覚だ

 

 

 

「り、り、りさちー!奇遇だねぇ!」

 

 

 

日菜先輩の知り合いなのか。そこには服装も髪型も身につけるアクセサリーまでも派手な格好をしているとても大人っぽい人がいた

 

 

 

「もしかしてデートだった?邪魔してごめんねぇ」

 

 

 

「ち、違うよーそんなんじゃないよ〜」

 

 

 

まるで台本を読み合わせたかのように二人は言葉を交わし、あはははと苦笑いを浮かべている

 

 

 

あれ?この光景どこかで見たことあるな?デジャブってやつ?あれ?胸の痛みが強まったよ?危険信号を放っているみたいだ、なんでか足が震えてくるな?なんでだろう?別に怖い思いをする必要なんて全くないのに

 

 

 

 

あれ?俺ここにいない方がいい気がしてきたよ?

 

 

 

じっとしていたら突っ張りが飛んできそうな感覚が俺の身を襲って来る

 

 

「あ、ホクサイ紹介するね!この娘は私と同じクラスの今井リサ。私はりさちーって呼んでるんだ!」

 

 

 

「は、はじめまして〜!今井リサです!」

 

 

 

「は、はぁ?はじめまして?」

 

 

 

あ〜れ〜?やっぱりおかしい。今井リサって聞いた事ある名前だぞ?

 

 

 

「それでりさちー!こっちはホクサイ!小さい頃から仲のいいんだ!」

 

 

 

「ど、どうもよろしくお願いします」

 

 

 

仲のいい?いやいや冗談でしょ?小さい頃はおもちゃでしたよ

 

 

 

まぁ細かいこと気にしても意味ないか

 

 

 

今日は今朝から紗夜さんに起こされたり、日菜先輩の料理に不安を覚えたり、日菜先輩に関節技かけられたり、日菜先輩に膝枕されたりしたからなぁ

 

 

 

黙って見過ごすのも処世術だな

 

 

 

 

そう言えば日菜先輩、何か悩んでいたんじゃないかな?家に帰りたくないみたいなこと言ってた気がする

 

 

 

「そう言えばりさちー、今日はどうしてここに居るの?」

 

 

 

日菜先輩が無理矢理話題を変えて今井さんに声をかける。まるでこれ以上この話を続けたくないみたいだ

 

 

 

「え?大した理由なんてないよ、せっかく休みなんだしどこか出かけようかなって」

 

 

 

うわぉ凄いな、休日に出かけるなんて俺からしたら活動的すぎるよ。今日とか普通に惰眠して過ごす予定だったし、全然そうはならなかったけどさ

 

 

 

「ロゼリアの練習は?スタジオで音合わせしないの?」

 

 

 

日菜先輩がニコニコしながら聞いたこともない単語を使って今井さんにさらに質問する

 

 

 

「今日は個人連でスタジオに集まる予定はないけど、なんで?」

 

 

 

今井さんが首を傾げて日菜先輩に答える

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうなんだ」

 

 

 

すると日菜先輩は一瞬泣きそうな顔をしてから俯いてそしてポツリと呟いた

 

 

 

なんだ?いきなり元気を無くして、声が小さい。今朝の意気揚々としたものから一変してテンションが酷く沈んでいる

 

 

 

この人がこんなふうになるのは恐らく・・・・・・

 

 

 

 

「あの今井さん、『ロゼリア』って言うのは?」

 

 

 

「あたしが所属しているバンドの名前なんだ、知ってる?」

 

 

 

し、知らない。身近にバンドをしている人がいるけど俺自身そこまで詳しいわけじゃないんだ

 

 

 

「い、今井さんバンドしてるんですね。いったいなんの楽器を弾いているんですか?」

 

 

 

「あははーその感じじゃ知らないなぁ〜よしこれからも頑張ろう!あ、あたしはねベースを担当してるよ!」

 

 

 

俺の胸を罪悪感が襲ってくるのですみませんと心の中で謝っておく

 

 

 

「えっとベースってギターに似ているあれ?」

 

 

 

「そうそう知ってるじゃん!ドラムと一緒にリズムを奏でてみんなの演奏全体を支えているんだよ!」

 

 

 

おお!よく分からないけど凄そうだ!本当によく分からない。確か上原さんもベースってやつだったかな?

 

 

 

「あ、ギターと言えば紗夜もメンバーなんだよ。これは知ってたかな?」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、本当ですか?」

 

 

 

 

し、知らない。紗夜さんが別のバンドに入ったなんて全然知らなかった

 

 

 

 

また辞めたのか。いや()()()()()()()のか

 

 

 

 

さっきから日菜先輩は俯いたまま黙っている。この人が大人しいと不安になると同時に心配になるんだよな

 

 

 

 

 

 

 

「え、なになに?」

 

 

 

 

 

 

今井さんはイマイチ理解していないようだけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度も言うが氷川日菜は天才だ

 

 

 

学習能力に関して言えば今更だけどその推理力もずば抜けている。必要最低限の情報で極めて真実に近い回答を出す。いやこの場合は出してしまうと言うべきだろう

 

 

 

日菜先輩に比べれば俺は凡庸の塊だがそんな俺でもこの双子に関わればわかる事がある

 

 

 

 

俺の記憶が正しければ紗夜さんは家を出る時、『バンドの練習』と言っていた

 

 

 

 

けどここに紗夜さんと同じバンドメンバーがいて集まりはないという

 

 

 

 

 

 

 

 

これはつまり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の尊敬する人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷川紗夜は嘘をついたんだ

 

 

 













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女の涙に男は弱い










 

 

 

 

氷川紗夜と氷川日菜の関係を説明する事は簡単じゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人のことを何も知らない人は名字から双子とか姉妹とか言うことが出来るかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに出来る、事実双子の姉妹だからね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この二人の事を少しでも知っている人ならただの双子と言うことはまずない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜならこの二人は対称的、いや対称的すぎるからだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双子の癖してお互い全く似ていない

 

 

 

 

 

 

 

俺もその『ただの双子』と言えない人のひとり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは小学校の体育祭

 

 

 

 

 

当時では運動会と呼んでいたけど

 

 

 

 

 

その日の最終種目にクラスリレーで

 

 

 

 

 

日菜先輩と紗夜さんは毎年アンカーだった

 

 

 

 

 

トラックのスタートライン上に並んで立ち、二人はクラスメイトが走ってくるのを待つ

 

 

 

 

 

 

走り出すのは多少の差ではあるが紗夜さんの方が早い

 

 

 

 

 

 

 

それはそうだろう

 

 

 

 

 

 

紗夜さんは運動会の一週間前から毎日放課後にクラスリレーのバトンパスの練習を強いていたんだから

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも紗夜さんは

 

 

 

 

 

 

 

一度も

 

 

 

 

 

 

 

本当に一度も

 

 

 

 

 

 

 

 

六年間のあいだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷川日菜(天才)に勝つことはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴールの手前で日菜先輩は紗夜さんの横から颯爽と走り抜けテープを切る

 

 

 

 

 

 

 

 

毎年

 

 

 

 

 

 

 

 

毎年

 

 

 

 

 

 

 

 

毎年だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴールすぎでクラスメイトと笑っているのは日菜先輩で紗夜さんはいつも下を向く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜さんは一緒に走った仲間に謝り、今日一日頑張ったクラスメイトを慰め、俺の方を向いて優しく微笑むんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はそれをみているだけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその後誰もいない体育館の影で誰にも気づかれないようにすすり泣く

 

 

 

 

 

 

 

また俺はそれを後ろから聞いてるだけ

 

 

 

 

 

 

 

 

毎年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毎年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毎年だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは俺が中三、氷川姉妹が高校一年生の夏

 

 

 

高校受験が本格化した時いつもの様に部屋で勉強していたら隣の家から初めて聞くような音が聞こえた

 

 

 

知識はなかったけど直感的に楽器の音、恐らくはギターの音だと悟った

 

 

 

その音はお世辞にもいい音とは呼べないようなものだった。だからこの音を鳴らしているのは紗夜さんだと思った

 

 

 

 

日菜先輩なら初めからこっちからもっと聞きたいと思うような音を鳴らすからだ

 

 

 

 

紗夜さんのギターはその後も毎日聞こえてきて、着実に上手くなっているのに気がついたのは正月が過ぎた頃だった

 

 

 

 

うちのオカンからの話を聞いて、バンドを組んだりしているのを聞くがあまり長続きはしてないみたいだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然の事だと俺は思っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷川紗夜は氷川日菜とは全く反対方向に異常だったからだ

 

 

 

 

 

氷川紗夜は俺の『ただ前向きに頑張る(好きな人に振り向いて貰う)』とは根本的に異なっていて『一位になるための努力(勝ち続けること)』をする人なのだ

 

 

 

 

リレーだったら一位になるために走りそして学ぶ

 

 

 

 

 

テストなら一位になるために計画を立てて実行する

 

 

 

 

 

その計画がどんなに無謀なものでもそれをやってのけるのが氷川紗夜(努力家)だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど

 

 

 

 

 

 

 

 

自分に出来ることを全て出し尽くして、文字通り粉骨砕身する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷川日菜(天才)にはかなわなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば簡単な話なんだ。『一位になるための努力』では『天才』には勝てないだけだった

 

 

 

 

『天才』に勝つには『天才になるための努力』が必要なだけだった

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれが出来るなら人類みんな困ってない

 

 

 

 

生きてきて遅かれ早かれ、俺を含めて凡人は諦めるのだ

 

 

 

 

「俺は天才じゃない」って言って

 

 

 

 

 

見て見ぬフリをして過ごすのだ

 

 

 

 

 

氷川紗夜はそれに気がついても努力を辞めないから異常なんだ

 

 

 

 

何度負けても、何度理解出来なくても、何度後ろから追い越されても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だとしても

 

 

 

 

 

 

何度現実に打ちひしがれても、何度高い壁を簡単に通り抜ける様を見せつけられても

 

 

 

 

 

 

氷川紗夜は努力を辞めなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

挫けずに追いかけるその姿に俺は惚れたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

そして見たかった

 

 

 

 

 

 

いつか、遠い日に

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでもいいから

 

 

 

 

 

 

 

氷川紗夜(努力)氷川日菜(才能)に勝つ様を

 

 

 

 

 

 

 

その努力が無駄にならない、努力が才能に勝つ瞬間を

 

 

 

 

 

 

 

紗夜さんが笑顔でゴールテープを切る瞬間を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この目で見届けたいとそう強く思っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けどこの瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の理想の人がいなくなる錯覚をした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタートラインに並んでいたのは日菜先輩だけだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?!それ本当!!」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・はい」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

今井さんの驚く声が映画館に響いて、周りの人から注目を浴びたしかしそれは全然気にならない。これ以上ない虚無感と裏切られた気分でいっぱいだった

 

 

 

 

日菜先輩はベンチの上で体育座りをして顔を隠している

 

 

 

 

「そんな紗夜が・・・」

 

 

 

今井さんにも日菜先輩の質問の意味と落ち込んでいるワケを言葉を濁しながらも説明した

 

 

 

 

今井さんはその見た目通り友人が多く、空気を読む能力に長けていたので最後まで説明しなくても察してくれた

 

 

 

 

まぁ、これだけ情報があれば嫌でも気がつくものだけどさ。気が付かないのはよっぽどの鈍感(ハジメ)ぐらいだ

 

 

 

 

 

 

 

紗夜さんは嘘をついたんだ

 

 

 

 

 

 

 

簡単に言えば紗夜さんは日菜先輩から逃げたのだ

 

 

 

 

 

 

 

一緒にいたくないとそう思った

 

 

 

 

 

 

今朝の我が家のテーブルでのやり取りはまやかしだったという事だ

 

 

 

 

昔のように三人笑って過ごしていたわけではなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・グスッ」

 

 

 

 

「・・・日菜」

 

 

 

 

今井さんは日菜先輩の隣に座って肩をさすって落ち着かせようとしている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は日菜先輩に何もできない

 

 

 

 

 

紗夜さんが何を考えて何を思ったのかは分からない

 

 

 

 

自分の中で途方もない葛藤があったんだと思う

 

 

 

自分が拒否すれば日菜先輩が傷つくとしっかり理解していただろう

 

 

 

その上で拒否したんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり分からない

 

 

 

 

 

 

俺には紗夜さんが考えていることも

 

 

 

 

 

日菜先輩に何を伝えればいいのかも

 

 

 

 

どうすれば二人が笑っていてくれるのかも

 

 

 

 

どうして()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

なんにも分からない

 

 

 

 

全く・・・・・・・・・・・・・・・・・・分からない

 

 

 

 

「ホクサイくん」

 

 

 

「な、なんですか今井さん?」

 

 

 

「紗夜が今どこにいるか分かる?」

 

 

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 

 

「連れてきて欲しいの」

 

 

 

今井さんは硬い意思をその目に宿して俺を見つめていた

 

 

 

「む、無理ですよ!紗夜さんの場所なんて聞いてないし。見つかるわけないですよ!」

 

 

 

「それでも連れてきて欲しい。二人は話し合うべきだよ、ホクサイくんの方が良く分かるでしょ!」

 

 

 

「い、いやそうかもしれないですけど・・・でも帰ってからでも」

 

 

 

住んでる家が同じなんだからわざわざ今、連れてきる意味は無い

 

 

 

 

 

「ううんそれはダメ。それで解決するなら日菜はとっくにやっているもの」

 

 

 

 

 

「・・・ぁ」

 

 

 

 

 

 

今井さんの言う通りだ。この人が目の前の解決出来る問題をほっとくわけない

 

 

 

 

 

 

 

 

けどどこにいるかなんて分かるわけない。俺はなんでも分かる氷川日菜(天才)でも分かるまで考える氷川紗夜(努力家)でもない

 

 

 

俺は分からないんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホクサイ」

 

 

 

 

 

 

俺の名前が聞こえる・・・・・・しかも涙声で

 

 

 

 

 

 

 

元気な時とは程遠いけどよく聞いていた声

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・俺には無理だよ」

 

 

 

そうだ、わかるわけが無い

 

 

 

この街にどれだけ広くてどれだけ人がいると思っているんだよ

 

 

 

その中で特定のたった一人を探し出すなんて名探偵でもない限り不可能だ

 

 

 

「ホクサイなら大丈夫」

 

 

 

日菜先輩のその言葉に俺は頭に血が登った

 

 

 

本気で何を言っているんだ!

 

 

 

 

「何を根拠に言ってんだよ!無理だよ!無理に決まってる!!俺はあんた(天才)じゃない!俺はただの凡人なんだよ!!」

 

 

 

そう、ただの人だ。変に期待しても意味なんてない。俺は何も分からないんだ

 

 

 

「大丈夫」

 

 

 

「ふざけんな、いい加減にしろ!!何を根拠に言ってんだよ!!」

 

 

 

俺は声を荒らげて日菜先輩に突っかかる

 

 

 

日菜先輩は俯いた顔を上げてその水晶の瞳に涙をためながら

 

 

 

「その方が『るんっ』てするから」

 

 

 

 

ゆっくり笑ってそう言った

 

 

 

 

 

 

久しぶりに聞いたその言葉

 

 

 

 

「私のホクサイならきっと大丈夫だよ」

 

 

 

日菜先輩は大丈夫ともう一度言ってきやがった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まったく

 

 

 

 

 

 

いつから俺がアンタのものになったんだよ

 

 

 

 

 

 

 

ふざけんなちくしょうめ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁこれでも天文部の部長からの命令だからな。これを断ったら後が怖いし!またおもちゃにされるかもしれない。なかなか見れない幼なじみの泣き顔を見てしまったしな、それにいい加減周りの人からの視線が痛いし!

 

 

 

 

 

 

 

あとはまぁ・・・・・・・・・日菜先輩(天才)の勘は信用出来るからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当にしょうがねぇなぁ!頑張ってやるよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












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灯台もと暗し











 

 

 

走った

 

 

 

 

 

紗夜さんを見つけるために、日菜先輩が泣かないようにするために

 

 

 

 

 

 

何をすればいいのかまるで分からないけどとりあえず走った

 

 

 

 

 

 

 

 

走っているんだけど・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗夜さんがどこにいるかなんて分かるわけないだろおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

ちっくしょうぉ!!くそったれがああぁぁぁ!!!!

 

 

 

 

 

日菜先輩にあんなふうにカッコつけて出てきてやることがただ突っ走るだけなんて馬鹿か俺は!!はい、俺は馬鹿野郎です!!

 

 

 

 

 

分かるわけあるか!名案なんて一個もない!!こっちは名探偵(シャーロック・●ームズ)じゃないんだよ!!

 

 

 

 

 

 

久しぶりの長距離全力疾走で心臓と肺がめっちゃ痛い!こんなことになるならハジメと一緒にバド部入れば良かったぁ!!

 

 

 

 

ショッピングモールを出て街の中を走り回る

 

 

 

 

 

実際は自分の知っている場所を虱潰しに行っているだけなんだけど

 

 

 

 

 

とりあえず商店街とライブハウスにはいなかった

 

 

 

 

 

これだけ走ってそれしか分からないけどさ!

 

 

 

 

くそぉ!もう無理走れない!いや、まだだ!まだいける!!でも足が動かないぞ!

 

 

 

 

 

ぜぇはぁぜぇはぁぜぇはぁ・・・

 

 

 

 

 

落ち着け、落ち着いて考えればきっと分かる!落ち着い・・・・・・

 

 

 

 

 

落ち着けない!呼吸が荒いし拍動の音がうるさい!

 

 

 

 

どうしよう!休むか?歩くか?

 

 

 

 

どうしよう日菜先輩が待っているのに!やばいもしかしたら反対方向に行ってるかもしれない、直ぐに引き返すか?いや待てまずはこの先に続く道を探してからでも・・・そうだ!今、ライブハウスに入ったかも!ならやっぱり戻って行くべきか?でもやっぱり!

 

 

 

 

良し!まずは走れ!

 

 

 

力を込めて勢いよく足を踏み出してみたら、足音もせずにスっと横から人影が現れた

 

 

 

 

 

 

「ぇ?」

 

 

 

 

 

ドン!

 

 

 

「きゃっ」

 

 

 

危ないと気がついても直ぐに避けるなんて高度な運動神経は持っていないので普通にぶつかる

 

 

 

幸いなことに疲れ切った俺の力では対した威力は出ないからぶつかっても二人とも倒れなかった

 

 

 

ぶつかってしまった人は黒い髪を背中まで伸ばして同じ色のロングスカートに白いシャツを着た大人っぽい女性だった。多分だけど年上、日菜先輩よりも断然大人っぽい

 

 

 

「す、すみません!大丈夫ですか?!」

 

 

 

え・・・えっと・・・その・・・あ

 

 

 

目が右往左往し、明らかにオドオドした表情している。大人っぽいと言うか大人しい人のようだ

 

 

 

口が動いているのが見えるけど何を言っているか全然分からない

 

 

 

「大丈夫ですか?その、怪我とかしてませんか?」

 

 

 

あ・・・はい・・・その・・・け、けい・・・

 

 

 

なんだろう?何言ってんのか全然わからん

 

 

 

ここに日菜先輩がいたらきっと読唇術とかで通訳してくれるんだけどな

 

 

 

この人には悪いけど急いでいるんで!

 

 

 

「すいません、俺先を急ぐので!」

 

 

 

「ぁ!」

 

 

 

時間が勿体ないのでその人を置いて先に進む

 

 

 

ごめんなさい!でも走る!

 

 

 

 

 

 

うおおおおぉ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無理な気がする

 

 

 

 

デパートからでてかれこれ二時間ほど経過した今、空は燃えるように真っ赤に染まっていて、カラスかがカーカー鳴いている

 

 

 

俺は一人公園のベンチに座って現実に打ちのめされていた

 

 

 

無理だよもーあの後紗夜さんが通ってる学校と楽器屋とファーストフード店にも行って、もう一度ライブハウスと商店街見て回ったけど全然見かけなかったわー

 

 

 

 

走る体力は一切残っていないし、肺と心臓は死ぬほど痛い

 

 

 

唯一活動しているのは脳みそだけど俺の脳みそは天才(日菜先輩)とは違って普通(ノーマル)なため基本役にたたない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうやめてしまおうか

 

 

 

そもそもなんで俺がこんなにしんどい思いしなくちゃいけないんだよ

 

 

 

意味不明だ!実際問題、無茶無謀だったしあきらめても良くね?

 

 

 

 

 

日菜先輩には悪いけど紗夜さんは見つからなかったと言って・・・・・・

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

この場合日菜先輩はどうなるんだろう?

 

 

 

 

 

ショックを受けるのかな?絶望するのか?

 

 

 

 

 

 

もしかしてまた()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間ズキッと胸の奥が痛んだ

 

 

 

 

 

鋭く、重く、鈍い、

 

 

 

 

 

今まで経験した事の無いそんな痛みだった

 

 

 

 

どうしてか、日菜先輩を()()()()()()()と、あの光景を繰り返したくないとそう強く思った

 

 

 

どうしてだ?なんで日菜先輩の泣き顔が見たくないんだ?小学校の時、紗夜さんには一度もそんなこと思ったことないのに、どうして?

 

 

 

 

 

いや、今は置いておこう。今はもっと重要なことがある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えよう

 

 

 

 

 

 

それだけだ

 

 

 

 

 

 

俺に出来るのは考えるだけだ

 

 

 

 

 

 

そうだよ、何自信を無くしてんだ!思い出せよ!今まで俺は何年間氷川紗夜の事を考えて来たと思っているんだ!・・・・・・・・・なんかストーカーしてる人みたいだ

 

 

 

 

 

氷川紗夜、真面目で努力かの権化のような人で天才の姉。フライドポテトが好きで人参が苦手

 

 

 

負けず嫌い、自分にも他人にも厳しい

 

 

 

 

なかなか出さないけどたまに見せる笑顔が素敵な人

 

 

 

 

高校では弓道していて、精神統一が得意技

 

 

 

それからギターを初めていてバンドを組んでいる

 

 

 

 

ギター?

 

 

 

 

ちょっと待て・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言えば家を出る時、紗夜さんギターケースを持ってなかったか?

 

 

 

 

持ったことないけどギターって結構重たいんじゃなかったか?(青葉さんが教室で愚痴ってた)

 

 

 

そんな荷物を持ちながら長い距離を移動するとは思えない

 

 

 

なら家からそう離れた場所にはいないはずだ

 

 

 

そして相手は紗夜さんだ、時間を無駄にすることは一番嫌う、同じバンドの今井さんの言葉を信じるなら自主練を予定している

 

 

 

 

つまり家からそんな離れていないかつギターの練習が出来る場所

 

 

 

 

そこに紗夜さんはきっといる!

 

 

 

でも俺にそんな場所に心当たりはないんですよねぇ!!

 

 

 

どこだよ!そこ!ちょっと探偵みたいに推理出来た気がしたのに!

 

 

 

家から近くて、ギターが引けて、そして知り合いに会わない

 

 

 

そんな都合のいい所が存在する訳・・・・・・・・・あ、あった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緊張してきた

 

 

 

 

 

目の前に広がるのはいつも通りの道

 

 

 

 

 

毎日毎日見ている景色

 

 

 

 

 

このブロック塀もカーブミラーも信号も標識もいつもの様に見ていた景色なのに特別に感じてしまう

 

 

 

 

 

いつもの様に扉を開けて廊下に入る

 

 

 

 

階段を上がってまた扉の前に立つ

 

 

 

 

俺の考えが正しければここにいるはずだ

 

 

 

って言うか多分いる

 

 

 

外にいる時から音が聞こえてきたから

 

 

 

 

 

コンコンコンとノックをする

 

 

 

なんとも不思議な感覚だ

 

 

 

「・・・・・・・・・はい」

 

 

 

 

扉の中から返事が帰ってくる

 

 

 

 

 

(いつき)です、入りますね」

 

 

 

 

ガチャと音を立てて扉を開けるとベットに腰掛けた紗夜さんがいる

 

 

 

「お邪魔します紗夜さん」

 

 

 

「その挨拶は私がするべきだと思うけど」

 

 

 

「そうですね」

 

 

 

冗談を言うがお互い目は一切笑ってない

 

 

 

 

 

 

「お邪魔しましています、斎くん」

 

 

 

 

「いらっしゃい紗夜さん」

 

 

 

いつも通りの景色にひとつの大きな違和感

 

 

 

いつもと同じベットに本棚、勉強机にプラス紗夜さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは俺の部屋だ

 

 

 

 

 

 

 

 












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夜空を駆ける馬のように

お久しぶりです。ずっとずっと話を考えられなくて更新が止まってしまいました。これを読んでくれる人がいてくれることを祈って更新します。


「何故紗夜さんの場所が分かったの?」って、それはさっき気づいた条件に当てはまるのが俺の部屋以外にないと思ったからだ

 

 

 

 

 

俺の家は氷川家の隣だし、防音設備がある訳じゃないけど紗夜さんが毎日部屋で練習するみたいなことは出来る。しかも俺の両親とも仲が良いから部屋に入るのも簡単

 

 

でもぶっちゃければ本当にいるとは思わなかった。一応候補にあがったから来てみただけで確実な保証があった訳じゃない。半分以上は勘だ

 

 

それでも、見つかって良かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうこれ以上日菜先輩の泣く姿を想像しなくてすむから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本気であの娘を騙せると思っていたわけじゃないけど、やっぱりバレたのね。」

 

 

「ええ、日菜先輩が気が付いたみたいです」

 

 

「斎くんも気づいたんでしょう」

 

 

「俺がしたことなんて大したことではないですよ。ほとんど日菜先輩のおかげです」

 

 

そんなことないわと紗夜さんは俺に労いの言葉をくれる

 

 

「斎くんが来ている時点で何となく分かっていたのだけど、どうやってバレたのかしら?」

 

 

「偶然、デパートで今井さんにあって、今日はバンドの練習がないと聞きました」

 

 

「そう、後で今井さんに謝って置かないと。なんの事か分からなかったでしょうし」

 

 

 

 

紗夜さんは窓の向こうにある沈み掛けの太陽を見ながらため息をつく

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・紗夜さん、どうして日菜先輩に嘘をついたんですか?なんで日菜先輩を避けようとしたんですか?」

 

 

一言目から確信をつく。この人相手に前座なんて要らない

 

 

赤い夕日をバックに反対色の髪の毛を揺らしながら紗夜さんは少し悲しげな顔を俺に抜ける。そしてうっすらと笑いながらゆっくりと口を開く

 

 

「・・・・・・どうして?・・・・・・あなたなら分かると思うけど」

 

 

そうだ、分かっている。紗夜さんが日菜先輩から逃げる理由なんてとっくに理解している

 

 

「ずっと私たちの傍にいたあなたなら分かるでしょう」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「私はもう日菜に追い抜かれるのは嫌なの。耐えられないのよ。」

 

 

わかっている。ずっと昔から見てきたんだ。この二人のことならこんな俺でもわかることがある。

 

 

「日菜がギターを始めたのに気付いてから不安にならない日はなかったわ。日菜にとってギターは遊びでも私にとって“これ”はもう最後の頼みだったから」

 

 

紗夜さんは目頭に力を込めながらギターを握りしめ、自身の底にあるもの全てを吐き出す

 

 

「はぁ・・・でももう無理ね、日菜はもう私を追い抜いている。自分で聴き比べても分かってしまう程に演奏に差があるの」

 

 

窓の外は赤から黒に変わり部屋の電灯の白色光が目立ってくる。

 

 

「笑ってしまうわよね。あれほど悔しい思いをして、あれほど悲しいと感じて、あれほど勝ちたいと願ったのにそれでも天才(あの娘)には勝てないのよ。私は一度も勝てないのよ」

 

 

紗夜さんの目尻から頬にかけて一筋の光が流れ落ちる

 

 

「どうしてかしらね。いつになったら私は日菜に勝てるのかしらね。」

 

 

紗夜さんは自虐的に笑ってこちらを見る

 

 

紗夜さんはずっと日菜先輩に勝ちたかったんだ。今までの努力はそのためにあったんだ。俺はまた勘違いをしていたんだ。紗夜さんは一番になるための努力じゃなくて、日菜先輩に勝つための努力をし続けていたんだ。

 

 

でも、勝てたことが無い

 

 

「私はずっとそのために努力をしてきた。日菜に勝つために、いつもいつも遊んでるあの娘じゃなくて頑張っている私が正しいんだと。それを確かめたくて、証明したかった。私が今まで積み上げたものを無駄にしたくなかった。だって馬鹿らしいじゃない。私が必死になっている事があの娘にとってはただのお遊びになるのよ。そんなの信じたくないじゃない。認めたくないじゃない・・・」

 

 

紗夜さんのその翡翠のような目にはさっきとは比べるまでもなく大量の涙が溜まっていた。

 

 

窓の外はもう暗く、夜空には星と月が見えた

 

 

「だから私は日菜から逃げたの。天才(あの娘)のそばに居ると()()()()()()()()()()

 

 

グズグズと鼻を鳴らしながら紗夜さんは言葉を紡いだ

 

 

紗夜さんの気持ちはわかる気がするんだ。自分が汗水垂らして頑張っているそばで笑いながら通り過ぎる姿を

16年も隣で見続けたら嫌にもなるんだろう。そしてそれを追いかけ続けるのも苦しいし、辛いんだと思う。日菜先輩と知り合ってから俺は早々に自分の可能性を見限ってしまった。天才(日菜先輩)のそばにいて自身の才能を信じられなくなってしまった。だから俺は日菜先輩に対して紗夜さんのような気持ちがない。あの人と俺は絶対に分かり合えないと思っているし、自分がこの人に勝てる瞬間なんてありえないと思っているからだ。

 

 

 

でも

 

 

 

でも

 

 

 

「・・・・・・でも紗夜さんは違うじゃないか」

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

「紗夜さんは俺とは違ったじゃないか!紗夜さんは自分を信じられなくなった俺とは違って、自分を信じて貫いたじゃないか!」

 

 

そうだ。この人は常に頑張っていた。俺に努力をし続ける価値を教えてくれたのはこの人だ。

 

 

「俺は紗夜さんが努力を続ける所に憧れた!いつもいつも頑張って、本番に備えて、当日に最高のものを引き出す。でも日菜先輩には勝てなくて!体育館の裏で泣いて落ち込んでうずくまって!それでもまた立って努力を続けた紗夜さんの姿に俺は憧れたんだ!」

 

 

俺は自分の可能性なんて信じられない。どんなに頑張ってもどうせ本物には到底叶わないと自分自身を見限った。何をしても何を積み重ねても決して本物(天才)になんてなれないんだと分かっていたから

 

 

けど

 

 

「でも紗夜さんは違う!紗夜さんは自分を信じて、信じ続けたじゃないか!!自分には可能性があるんだと、いつか必ず日菜先輩に勝つんだとそう言い続けて来たじゃないか!」

 

 

「斎くん・・・でも私はもう・・・日菜には・・・」

 

 

もう自分で何を言っているか分からないほど俺は叫んだ。紗夜さんの気持ちも日菜先輩のことも何も考えずただひたすら叫んだ

 

 

「紗夜さんが努力を否定するなよ!」

 

 

これが俺の本音だ。ただこれだけ。

 

 

紗夜さんだけには努力をやめて欲しくない。これは100%俺のエゴだ。分かってるさ。でもその事を自覚していても紗夜さんにはやめて欲しくない。だって、

 

 

「だって・・・紗夜さんが今、努力をやめたら・・・今まで努力してきた紗夜さんが可哀想じゃないか!!」

 

 

「っ!・・・・・・」

 

 

今は絶望しているかもしれない。絶対に追い抜くことはないと絶望しているかもしれない。けど確かにあの頃は日菜先輩に勝とうと頑張っていた時はあるんだ。その頃の自分の為に今ここで辞めてはいけない!

 

 

紗夜さんはだまって、俺の話を聞いてくれた。その顔には涙は止まっていてこちらを真っ直ぐに見つめているのが分かった。

 

 

「紗夜さんがさっき言った通りだよ。俺は紗夜さんも日菜先輩もずっと見てきました。紗夜さんが頑張ってるのも知ってます。だから今ここで諦めて欲しくない!ここでやめたら今までの努力が無駄になってしまうから」

 

 

俺は気がつけば目が熱くなって、一息吸うたび喉がいたんできて、自身の頬が濡れているのに気が付いた。

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・グスッ」

 

 

一気に喋りすぎたせいで息が苦しいし、喉が痛い。涙が流れて止まらない

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・っくそ、カッコ悪い」

 

 

思い切って叫んだと思ったのに自分が泣くとかほんとにカッコ悪すぎる。

 

 

「そんなことないわ」

 

「斎くん。ありがとう。君がそんなふうに言ってくれるなんて思わなかったわ。本当にありがとう。」

 

 

紗夜さんは俺の方を見て柔らかく微笑んでくれた。その姿は、いつも見ている自分の部屋が一面草原に見えるほど綺麗な笑みだった。

 

 

「・・・・・・」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「え?!・・・あ、いや!・・・その!・・・」

 

 

「・・・どうかしたの?」

 

 

「あ、・・・その。・・・・・・紗夜さんがびっくりするぐらい綺麗だったから」

 

 

「本当に?・・・ありがとう。」

 

 

紗夜さんはその笑みのまま平然と返事をくれた

 

 

紗夜さん、もう少しぐらい照れたりしてくれてもいいと思うんだけど?これは俺は全く男として意識されてないって事なのかな?また泣いちゃいそうだよ

 

 

やっと、あの娘が好きになった理由が分かった気がするわ

 

 

「え?何か言いましたか」

 

 

「いいえ、なんでもないわ」

 

 

紗夜さんはその笑みを引っ込めて、真剣な顔を俺に向けてきた

 

 

「斎くん、私はまだ日菜の事を認める事が出来ないわ」

 

 

「そ、そうですか。」

 

 

「えぇ。ごめんなさい。けど、日菜の事を認める努力をしてみようと思うわ。あなたに言われた通りね」

 

 

「・・・・・・・・・え?紗夜さん、それは本当ですか?」

 

 

「えぇ、私も頑張るから」

 

 

「はい!・・・って()()?俺も何かやるんですか?」

 

 

「あなたに言ったわけじゃないわ」

 

 

紗夜さんはその後クスクスと笑うだけで何も言ってくれなかった。俺は日菜先輩に電話をかけて家に帰るように伝え、紗夜さんは家に帰って行った。そのあとのことは俺は分からない。やっぱり俺には分からないことだらけなんだ。分かるまで考えようとしたけど結局時間切れで、問題自身が問題を解決してしまった。それで良かったのかはやっぱり俺には分からない。

 

 

 

 

分からない、分からないけど。その日の晩に隣の家の天才(天災)から爆発するほどの歓喜の声が聞こえたのはきっと間違いじゃないと思うよ

 

 

 

 













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いつも通りでもいいじゃないか










「ひゃあぁぁ疲れたぁ。みんなぁ今日はもう帰ろうよー」

 

 

薄暗いスタジオの中で、練習に一区切り付けたひまりちゃんがくたびれた声を出して項垂れる。その声がマイクを通して部屋全体に響いてきた。

 

 

「そうだな、あんまり根を詰め過ぎて倒れたりしたら大変だしな!」

 

 

ドラムスティックを指で器用に回しながら私を見て返事をする巴ちゃん。

 

 

もう!私だってもう倒れたりしないよ。・・・たぶん

 

 

「はあーお腹空いたぁぁーパン食べたーい」

 

 

「モカはさっきの休憩で食べたばっかりじゃん」

 

 

「いくらでも食べていたいんだようーわかってないなぁ蘭はー」

 

 

モカちゃんと蘭ちゃんがギターを片付けながらそんなたわいもない会話をしている

 

 

みんなすごく楽しそうです!

 

 

そのまま受付をすませてスタジオを出る。私たちの目には真っ赤に染まった夕日の光が入ってきます。

 

 

すこし眩しいけど、安心する。そんな光景が目に入ります。

 

 

「すごーい夕日キレー!」

 

 

「練習あとはいつも見るけどすごいよなぁ」

 

 

そしていつものように綺麗な夕日を目指すように私たちは商店街の方向に歩いて帰路につく

 

 

これが私の楽しい日常です!()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきの箱のようにせまいスタジオとは違って、広い空間に並んだテーブルと椅子、そして最近で有名になったミュージシャンの人気曲が流れます。それと同時に美味しそうな匂いが漂っている店内にみんなで集まります。

 

 

練習が終わった私たちの習慣。みんなの帰り道にあるファミレスで今日の練習の反省会をすることです。

 

 

「今日は巴、少し走り気味だったよ。気をつけてね」

 

 

「え、マジか!ごめん蘭」

 

 

「あははー巴が蘭に怒られてるー」

 

 

「ひーちゃんだって最初、間違えてたくせに〜」

 

 

「ば、ばれてる!上手く誤魔化せてると思ったのに!」

 

 

「モカはお腹鳴らしすぎ」

 

 

「それはモカちゃんには直せませ〜ん」

 

 

「「「あははははは」」」

 

 

と言っても軽くおしゃべりしながらご飯を食べるだけなんですけどね

 

 

みんなすごく楽しそう!

 

 

「つぐ、どうしたの?」

 

 

「え?な、何が?」

 

 

「こっち見てニヤニヤしてるから、どうしかしたのかと思って」

 

 

「え、私笑ってた?」

 

 

「うん、すごい嬉しそうだった」

 

 

うわあぁすごい恥ずかしい!!

 

 

「それで、どうしたの?」

 

 

「ううん、なんでもないよ。ただみんなが楽しそうなのを見てたから私も嬉しくなっちゃっただけ。あはは」

 

 

笑って誤魔化したけど、う〜やっぱり恥ずかしいよ〜

 

 

「何それ、つぐみらしいね」

 

 

「確かにつぐらしいな」

 

 

蘭ちゃんと巴ちゃんが微笑みながら私を見てそう言います

 

 

「そ、そうかな?」

 

 

「私らしい」のかな?自分だとよくわからないなぁ。でもなんだろう、みんなにそう言われると何だか嬉しいかも

 

 

「えぇーそうだったのー私てっきりホクサイくんのこと考えてたのかと思ったよー」

 

 

と、巴ちゃんの隣にいたひまりちゃんが私に向かって話しかけてきました。って、えぇ!!

 

 

「な、なんでホクサイくんが出てくるの?!」

 

 

本当になんで?どうして?!

 

 

「え?なんでってつぐはホクサイくんのことが好きなんでしょ?見てたら分かるよー」

 

 

「えぇ?!!」

 

 

SUKI?  すき?  好き?

 

 

私が・・・ホクサイくんを・・・好き?

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「・・・・・ほっひゃあああぁぁぁぁ!!!」

 

 

いきなり私の体の奥底から溢れる何かよく分からない感情が火山みたいに吹き出してきて、途端に心臓が激しく拍動して全身が熱くなってることが分かりました

 

 

「あ、やっぱり気づいてなかったんだ」

 

 

「予想どうりだったなーひまり」

 

 

「ひーちゃーん。なんで今言っちゃうのー」

 

 

「ホクサイ?あぁ。つぐを助けてくれたアイツか。」

 

 

ひまりちゃんと巴ちゃんはお互い顔を合わせてうんうんと頷きあって、モカちゃんはサラダとコーンスープとハンバーグとフランスパンを食べながらひまりちゃんに返事を返してます。蘭ちゃんは完全にホクサイくんのことを忘れてしまったという感じです。と言うかみんな冷静すぎだよ!

 

 

「いやいやいや違う違う違うよ!!私ホクサイくんのことなんて別に・・・」

 

 

別に・・・なんとも・・・思って・・・

 

 

あれ?どうして??あとの言葉が続かないよあれ?

 

 

あれ?あれぇぇぇぇぇぇぇ!!!???

 

 

!!!!!!!?????????!!!!!!!!!

 

 

ドキドキしてる?あれ何だか顔が熱いかも?ぼーっとしてきちゃった

 

 

 

 

 

ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

 

 

 

 

「ぷぅぅーすぅぅー」

 

 

「う、うわああぁぁーつ、つぐが!!」

 

 

「こら、ひまり!つぐの頭がショートしてるぞ!!」

 

 

「つぐ顔真っ赤ー」

 

 

「モカ、適当すぎ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気温が下がり少し肌寒いが星空が美しく煌めくこの時間。火照った頭と体を冷やすにもちょうどいい気温になってきました

 

 

私達はうるさいとアルバイトの店員さんに怒られてファミレスから追い出されちゃったので歩いて家に帰っている最中です

 

 

「怒られちゃったね〜」

 

 

「みんなが騒がしくするからだよ。特にひまり」

 

 

「みんなごめーん!」

 

 

「あっはははは!!」

 

 

Afterglow(アフターグロウ)のみんなはさっきと同じように楽しげに会話を弾ませていますが、私にはそんな余裕がありません。

 

 

端的に言ってものすごく恥ずかしい!さっき蘭ちゃんに笑ってたと言われた時よりものすごく恥ずかしい。

 

 

「つぐもごめんねー、まさかあんな事になるとは思わなくてー!」

 

 

「う、うん。もう大丈夫だから。ひまりちゃんも気にしないで」

 

 

私も驚いちゃった。どうしてあんなことになったんだろう

 

 

「それで〜つぐはホクチンの事が好きなの〜?」

 

 

「ブフッ!」

 

 

私の隣を歩いていたモカちゃんが私の顔を覗きながらそうたずねてきます

 

 

も、もう流されたと思ったのに!流石モカちゃん。抜け目がない

 

 

「そうだよ、つぐ!正直に言っちゃいないよー!どうなのどうなの!?つぐはホクサイくんのことが好きなの?!」

 

 

「べ、べべ、べ、べべべべ、べ、べ、べ、べ、別に!!そのなことなな、な、な、なな、ないようおおお!!」

 

 

なんだか壊れたラジオみたいになっちゃった。最近ずっとこんな感じになってる気がする!

 

 

「え、大丈夫つぐ?」

 

 

「こわれ〜かけの〜つぐみ〜♪」

 

 

「モカ、ふざけないで」

 

 

モカちゃんが今の私で有名曲をアレンジソングにして歌ってくれました。語感があってて面白ちょっとおもしろいかも

 

 

「それでどうなのつぐみ?」

 

 

「べ、べつ、べべ、別にす、す、す、好きとかそんなのじゃなくて」

 

 

「じゃあホクサイくんのこと嫌いなの?」

 

 

「き、嫌いじゃない!・・・・・・けど」

 

 

「じゃあ好きなの?」

 

 

「ぅぅぅぅ〜・・・!!」

 

 

その二択はずるいよぉ〜ひまりちゃん

 

 

「ひまりもいい加減にしたら?つぐにはつぐのペースがあるんだし。」

 

 

「そうだぞひまり!あんまり周りが引っ掻き回してもいいことないぞ!私たちがそうだったみたいにな!」

 

 

反対側にいた蘭ちゃんとやけに力を込めて語ってくる巴ちゃんが声をかけてくれました。ちょっと安心したような残念なような少し複雑な気分です。

 

 

「でもさーホクチンは私たちとちょっと距離があるよねー」

 

 

そこでふとモカちゃんがポツリとみんなに聞こえるか聞こえないかぐらいの声量でつぶやきます。

 

 

「あぁー!それは私も思ったよ!なんかまだ打ち解けてないよねーなんでだろう?」

 

 

「なんと言うか一枚壁がある感じがするよな。いつも敬語が抜けないし」

 

 

そのことは私も実感していて、その態度がホクサイくんの素の顔だと思っていたけどそうではないみたいなんだよね

 

 

だってこの間ホクサイくんがうちでごはんを食べにきたときに偶然、日菜先輩と紗夜さんと同じテーブルで食事をする時の会話は私たちとは違っていて印象深くて覚えてしまった。そしてその瞬間私の胸の奥で鋭い痛みがきたことも。

 

 

 

「よし!これからホクサイくんと友達になれるように頑張ろう!!」

 

 

私が落ち込んでいる時、いきなりひまりちゃんが意気揚々とその右手を夜空に向かって掲げました。

 

 

「なんで?」

 

 

すぐさま蘭ちゃんがひまりちゃんに質問します

 

 

 

「そこに突っ込むの!別にいいじゃん!」

 

 

「私もひーちゃんにさんせーい」

 

 

「あたしもべつにいいな。せっかく知り合ったんだし、もっと仲良くしてもいいじゃん」

 

 

「別に私も嫌じゃないけど」

 

 

私を置いてみんながどんどん話を進めていきます。

 

 

「で、つぐは・・・どうするの?」

 

 

「わ、私?!・・・私は・・・」

 

 

私は・・・どうしよう・・・ホクサイくんとどうなりたいんだろう?・・・わからない・・・わからないけど・・・わからないなりに自分で考えないと!・・・ホクサイくんに言われた通り!ホクサイくんみたいに努力しないと!

 

 

「私ももっとホクサイくんと仲良くなりたい!」

 

 

「よーし!それじゃあみんなでー」

 

 

この瞬間ひまりちゃん以外の私たちは自然と目があって意思の疎通ができました

 

 

「えいえいおー!」

 

 

またひまりちゃんは意気揚々と右手を突き出しましたが、だれも同調したりしませんでした。

 

 

「えええぇぇぇー!!!なんでみんなやってくれないのぉー!!」

 

 

「「「「あっはははははは!!!!」」」」

 

 

この満点の星空の下ひまりちゃん以外の私たちの笑い声が響いていきました

 

 

これも私の楽しい日常です!()()()()()()()()()()!!

 

 

 












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モテたい?なら早くその気持ちを捨てることだ!!


















 

 

「・・・・・・・・・はぁ、結婚したい」

 

 

放課後に入ったと同時に唐突に俺たち生徒に呟かれたその発言に驚きと疑問を感じないなんてことはきっと無理だと思う

 

 

教壇の上に立つ我らが愛しき担任である大谷(おおたに)先生は見るからに落ち込んだ様子でホームルームを仕切り始めた

 

 

「結婚したい」

 

 

また同じセリフだ。つか聞いてないし

 

 

大谷先生は俺達の学校の美術教師でこの学校では比較的若い女性教諭だ。去年から日菜先輩に美術を教えていて、この人の指導の下、日菜先輩は美術部を押しのけて絵で賞を受賞したらしい。そして今の発言からわかる通り独身である。

 

 

「い、いきなりどうしたんですか先生?何かあったんですか?」

 

 

紺色のロングスカートにワイシャツ姿のさわやかさ満点の姿とは反対に物悲しげな雰囲気を纏う先生に俺の隣の羽沢さんが心配そうに声をかけた

 

 

「はぁ・・・実はね、先生この間お友達の結婚式に行ってきたの。その新郎新婦は昔からよく知っててね。久しぶりに懐かしい人に沢山会って、ご飯も美味しくてね。式では先生も軽くスピーチをさせてくれて、本当に楽しかったわ。けどね、その後独りで家に帰ると部屋がとても冷たくて寂しいの。パーティーがあったからかもしれないけど本当に寂しくて、すごく独りが怖くなったのよ。だからその時思ったの。結婚したいって!」

 

 

大谷先生は沈んでたオーラを吹き飛ばし俺たちに自分の気持ちをこれでもかと力説する

 

 

ぶっちゃけどうでもいいんだが。そもそも高校生に結婚の話題とかわかるわけないだろ!

 

 

「でね、先生は知り合いに連絡して素敵な殿方を紹介してもらおうとしたのよ。それでね気付いたの。私の知り合いほとんどが結婚してたってことに」

 

 

また不穏な雰囲気が漂ってきたぞ。もう聞きたくない。あ、ハジメのやつ寝てる。青葉さんも寝てるわ。俺も寝ようかな?

 

 

「私はいつの間にか結婚の話題で気を使われる人になってたみたい。先生のお姉ちゃんなんて高校生になる子供ほっといて旦那さんと海外旅行にいちゃったのよ。それにこの間なんて現国の田中先生は街でナンパされたって自慢されたし。なんでかな?なんで私にはそんな花のある話が出来ないのかしら?自慢じゃないけど先生これでも学生時代はモテたのよ。今でもスキンケアや髪のお手入れには気を使うし、毎日じゃないけどジムで運動だってしてるのよ。なのになんで私には結婚相手が見つからないのかしら?お付き合いしたらその人を永く愛する自身もあるのよ。なのに何でだろう?」

 

 

話が長いよ。早く帰らせてくれよ。先生がモテたかどうかなんて知りたくないし、それに教壇の上でいい歳した女性が泣きそうな声出してるのもちょっとどうかと思う。控えめに言って気まずい

 

 

「センセー!例えばどんなことを彼氏にしてあげるんですかぁー?」

 

 

上原さんが興味津々な顔を隠さずに挙手して先生に質問していく。周りの女子生徒もその声に同調し、先生の話を催促する。やっぱり女子高生としては恋バナには興味津々みたいだな。

 

 

「そうね、例えば・・・彼のために毎日お弁当を作るのは当たり前。事前に彼の好きなものを知っておくとメニューに困らないわね。それから休み時間は常に彼の事を見守ると同時に彼が普段どんなことをしているのかを調べるの。あとその人に気がありそうなライバルを見つけたりとか。あとは毎週必ずデートに行くとか!デートの時は相手にコースを調べて貰うのよ。だってデートの時は彼にエスコートして欲しいじゃない!その代わり私はめいいっぱいのオシャレをするの!そして待ち合わせ場所には二時間前から張り込むのよ。待ってちゃダメ!そこで彼が何分前から待ってくれて、そして何分まで待ってくれるのか見ておくの!そうするとその人がどれだけ優しい人か分かるのよ!それから・・・・・・」

 

 

うわぉ!めっちゃ喋るわこの人!つか怖い!そしてめっちゃ重い!めっちゃ怖い!質問した上原さんも困り顔だし。生徒の半分以上が引いてる。つかもう分かったじゃん。この人が結婚出来ない理由が分かったよ。怖い。ただそれだけじゃん!付き合ってた男たちに同情できる。

 

 

「きーつけーれーい」

 

 

「「「「「あざーしたー」」」」」

 

 

俺たちの願望を感じ取ったのか本日の日直が空気を読んで勝手に号令をかけて勝手にホームルームを終わらせてしまう。(先生は気が付いていない)

 

 

「ねえ。ホクサイくん」

 

 

「え?」

 

 

周りがガヤガヤと騒がしくなって俺が腰を上げて椅子から立ち上がろうとした時、隣の羽沢さんが話しかけてくる。

 

 

「な、何?羽沢さん」

 

 

「そ、そのホクサイくんは今日もこの後は部活に行くのかな?」

 

 

羽沢さんは俯きながら俺に聞いてきた。なんだか少し緊張している感じだ。

 

 

「あ、いや今日は部室に行かないよ。なんか最近日菜先輩が忙しいみたいで。なら俺も行かなくていいかなって思って」

 

 

日菜先輩は有名になってきたのかパスパレの仕事で放課後どころか学校にも来れる日が少ない。新しい番組がどうとか言ってた気がするけど詳しいことは分からない。よって俺の放課後は安寧を取り戻し平和になっているわけさ!

 

 

「おーい、つぐー帰ろうー!」

 

 

さっきまでの憂鬱そうな雰囲気が消えている上原さんと眠そうな瞳をこすりながら青葉さんがこちらの方に歩いてきた。

 

 

「ひ、ひまりちゃん!?ちょ、ちょっと待って!」

 

 

「えーモカちゃんお腹すいたよーどうしたのつぐー?」

 

 

「そっか、ならそのちょっとお願いと言うか、その・・・」

 

 

チラチラとこちらを見てくる羽沢さん。それを見て赤面しながら瞳で「キャー!!」と叫んでいる上原さん。そして半分寝てる青葉さん。

 

 

「えっと何かな?」

 

 

何だろう?なんかすごいことを要求されそうな気がしてならない。早く帰りたい。オカンから買い物頼まれてるんだよなぁ。

 

 

「あ、あの!ホ、ホクサイくん!」

 

 

「な、何かな?!」

 

 

「れ、れ、れ、・・・」

 

 

顔を真っ赤に変えた羽沢さんが何か告げようと口を金魚のようにパクパクしている。けど一向に何も言おうとしないな。

 

 

つぐ頑張れ!!

 

 

「れ、れん、れ、れ、・・・れぇぇぇぇ!!!あぁぁぁぁ私今日お店の手伝いがあるんだった!!!ごめんね、ひまりちゃんモカちゃん私先に帰るね!!」

 

 

そう早口に喋ってぴゅーっと急ぎ足で廊下に出て、帰ってしまった。急いでも決して走らないのが羽沢さんらしい。

 

 

え、え?な、何?どうかしたの羽沢さん?俺に何か用があったんじゃないの!?

 

 

「あぁあぁ。つぐ帰っちゃったーもうちょっとだったのに!」

 

 

「まあまあひーちゃん。つぐも頑張ったと思うよー」

 

 

「ふ、二人は羽沢さんが何を言うかわかってたの?」

 

 

「ふふーんまあねー!」

 

 

上原さんのドヤ顔だ。自分から聞いといて何だがイラっとするな。

 

 

「あ、そうだ!ホクサイくん携帯持ってる?貸して!」

 

 

「え、まあありますけど?どうして?」

 

 

「うんっとねつぐの連絡先を教えてあげようかなっておもって!」

 

 

「なんで?」

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 

時間が止まったかのような雰囲気がここら周辺に漂ってくる。あれ、何だろう?上原さんと青葉さんが信じられないものを見るような目を向けてきたぞ?!

 

 

「え、つぐの連絡先いらないの!!?」

 

 

「いらないって言うか。別に知ってても意味ないと思うし。毎日学校で会ってるわけだし聞きたいこととか話したいことは直接聞けばいいんじゃない?」

 

 

「そうだけど!ホクサイくんだって夜にメッセージのやりとりとかしたいっておもうでしょ!」

 

 

「いや、別に。思わないですけど。」

 

 

つか「()()()」てなんだ!

 

 

「どうして!!」

 

 

「どうしてって言われてもな。そもそも携帯でメッセージのやり取りをするって言うのがよく分からないんですよ。俺、アドレスとか誰とも交換したことないからそんなこと一度もしたことないですし」

 

 

よく女子の会話である「なんで昨日返信しなっかたの?」とか「メッセがきたらすぐに返信しないと!」みたいな感覚が俺にはさっぱりわからない。中学の時でもそれなりに友人がメッセでやりとりをしていたのは知ってるけどわざわざ混ざろうとは思わなかった。言いたいことがあるなら直接会って話せばいいじゃないか。簡単に会えないならまだしも毎日学校で会っているんだから関係ないだろう。

 

 

「ホクちんがそうでもさーつぐは連絡先交換したいって思ってるかもよーちなみにモカちゃんはホクちんの連絡先ほしいでーす」

 

 

眠そうだった顔からいつもの真剣なのかふざけているのか判断がつかない顔でこちらを見つめてくる青葉さん

 

 

「はいはい!私も欲しいです!」

 

 

そして今だに元気な上原さんがピンク色のスマホを挙手してアピールしてくる

 

 

「あ、なんでは禁止ね。こういうのは理屈じゃなくて気持ちの問題だから!」

 

 

へえ、そうなのか。そういうもんなのか。

 

 

「わかった。別に連絡先がいらないわけじゃなくて、急な話だったから驚いただけだったんですよ。いまスマホ出すんでちょっと待ってください」

 

 

 

俺はカバンの口を開けてスマホを探す。その傍らで「やったね!」とか「いえーい」という声が聞こえるがあえて無視する。俺自身もクラスメイトの女の子との連絡先交換に少しテンションが上がっている。

 

 

てか、あれ?

 

 

 

あれあれあれあれあれ?

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・・スマホがない」

 

 

「「え?」」

 

 

また俺たちの間に微妙な空気がなだれ込んだ。教壇の前の先生の自慢話がやけに響いて聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




















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タイトル『俺の人生』


















 

 

あああ〜気持ちが重いー。先生の独り言(主にフラれた男の悪口)のせいで気持ちがブルーだよ!!まじで嫌になるんだけどあの担任!なんで俺が「青春謳歌してるんじゃないわよ!爆ぜろ!」なんて言われなくちゃいけないんだよ。それは俺じゃなくてハジメに言えよ!俺もハジメに言いたい!鈍いくせに鈍いくせに!

 

 

でも彼女が欲しいわけじゃないんだよなぁ。紗夜さんにフラれてから恋愛はあんまり積極的になれないし。ハジメが美竹さんと付き合いみたいなんだが俺は全然あんな風になりたいとは思わないんだよな。勝手にやってくれって感じだ。

 

 

紗夜さんといえば最近は紗夜さんとも普通に話せるようになった。紗夜さんも日菜先輩とも会話が増えてきたみたいだ。これもいい傾向だよな。あの二人の仲が悪いわけないんだよ。お互いがお互いを思っているけど、空回りしていただけなんだから。それが解消したら仲良くなるに決まってる。

 

 

しかしこの両手にかかる重量は絶対に一人で持っていい量じゃないと思うんですけど!ホントにうちのオカンはひとづかい荒いなぁ!えっとなに?食パン?てかまだあんのかよ!もう無理だよ!持てねぇよ!

 

 

携帯をなくした俺を心配してくれた上原さんと青葉さんを置いて先に下校し、オカンに頼まれていた買い物をしに商店街に来ていた。相も変わらず商店街は買い物客で賑わいを魅せる。しかし騒々しいわけではなく、穏やかなだけだ。ここにはなんのトラブルもないんじゃないかと錯覚しそうになる。

 

 

やがてこの手にかかるビニール袋と紙袋が俺の体を襲ってくる。俺ってこんなに体力なかったか?

 

 

なかったんだろうなぁ。この前、意味の無い街中ランニングをした時も酷い有様だったし

 

 

昔から根っからのインドア系だったからな。放課後や休み時間、クラスメイトが外に遊んでいるのに俺だけは教室で勉強してたもんな。なんなら休日も家で勉強してたまである。そのせいでゲームとか特撮の話とか全くわからなかったぁー。今思えばなかなかに寂しかった。それでも紗夜さんに褒められたくて必死に勉強してたからなぁ。しょうがないといえばしょうがないのかな。

 

 

とそんなことを考えながら俺は(物理的にも精神的にも)重い体を引きずりながら歩いて行くと、目の前に異様な人物が見えてきた。

 

 

まず目に付いたのはその背中まで延びる綺麗な黒い長髪。そして同じ色のロングスカートに白い長袖のシャツ。そして服の上からでも分かる女性的で豊かさのある身体。たいへん大人の魅力がある美人が俺の目の前にいた。

 

 

誰もが振り返りそうな、そんな人が俺の目の前にいた。

 

 

目の前にいて。

 

 

そして・・・

 

 

「きゃっ!・・・じ、自動販売機が・・・しゃ、喋るなんて・・・こ、怖い」

 

 

 

自動販売機にビビっていた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

なんだろう。この裏切られた感

 

 

いや、別にいいんですけどね。自分が自分らしくいるなんて全然構わないんだけど。なんだろうやるせない感じ

 

 

こんな大人っぽいひとなら「今の自動販売機は喋るのね・・・」みたいなクールな反応をしてきそうなのに。

 

 

大人の人って言うより大人しい人なんだろうな。あれ?これ前にも思ったことあるな。似たようなことを考えた気がする。

 

 

目の前の人物をもう一度よく見てみる。オドオドして何かに怯えている。なんだかハリネズミのような人だ。

 

 

誰だろう?全く思い出せない。

 

 

その時パチッとハリネズミ女子と目が合う。その時ハリネズミ女子は目を見開いて俺の事を見てくる

 

 

あ!あ、あ、あ、

 

 

ハリネズミ女子はいきなり俺をみるなり指差して驚きの表情を浮かべている。

 

 

え?何?なんだなんだ?

 

 

何か言っているのか?口がパクパク動いているから喋ろうとしているのは分かるんだけど何言ってんだ?

 

 

「あ、あのなにかご用ですか?」

 

 

何はともあれ俺に話しかけていることは間違いなさそうだし、一応話しかけておこう

 

 

「ひっ!」

 

 

ものすごい勢いで驚かれた。さっきの自動販売機以上にびびっているような感じだな。

 

 

普通にショックなんだけど。俺ってそんなに怖い顔しているかな?

 

 

「あ、あのなにかご用ですか?」

 

 

え、ええ、えっと。あのけ、けい。うぅぅ

 

 

もう一度声をかけてみるけどやっぱり声が小さくて聞き取れない。

 

 

「あ、あの大丈夫ですか?」

 

 

流石に心配なので話を聞くためにも少し近づいてみる。すると

 

 

「う、うう、ううぅぅぅぅぅ」

 

 

ハリネズミ女子はポロポロと泣き出してしまった。

 

 

ちょっちょっと!!

 

 

「ちょっとまって?!ご、ごめんなさい!!え、え、えっと俺何かしましたか?!」

 

 

まずいまずい!!こんなところだれかにみられたら!!でもなんだろう最近女子の泣き顔をよく見ている気がしてならない。日菜先輩や羽沢さん、それから紗夜さんだったり。なんでだろう?

 

 

「うううぅぅぅぅー!」

 

 

でも結局ハリネズミ女子は泣きやまない。手で顔を覆ってその場に座り込んでしまっている。

 

 

ざわざわと商店街からは騒ぎを聞いた人が俺たちを見ていて注目を集めている。

 

 

まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!!!!!!誰かに見られたら社会的に死んでまう!!!!

 

 

 

「斎くん?」

 

 

 

 

ビッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

この時に絶対聞こえてはいけない人の声がした。

 

 

 

「斎くん」

 

 

 

やばいなーこれはやばい。きっと怒られるじゃあ済まないだろうなー

 

 

 

「斎くん」

 

 

いやーもう無理だなー絶対逃げられないよねー死んだかな?一体どんな罵詈雑言が飛んでくるんだろうねータノシミダー

 

 

もう隣で泣いているハリネズミも俺達を見に集まっている買い物客も何も気にならない。それほど穏やかで落ち着いた気持ちになれた。

 

 

ぽんぽんと優しく肩を叩かれたのでゆっくり振り返るとやっぱりそこには幼馴染の薄青の美少女がそこにいた。改めて言うまでもないけど無論、目は笑っていない。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

で、このホラー映画のタイトルってなんだったかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




















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