英雄譚、逆襲劇 (おうどん食べたい)
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英雄譚、逆襲劇
こういう事があってもおかしくないんじゃないか、と考えて執筆しました。
七星剣王が決定し、熱狂している会場に冷水をかけるが如く現れたのは優勝者と同じ制服を身に纏う男の生徒。
これだけならまだ良かった。いや、良くはないが唯の厳重注意で終わるはずだった。問題なのは彼が手に持っているもの……正確に言えば、それを作るためにした事だ。
彼の手にはバスケットボールほどの大きさの物が1つ。それが生首だと気づいた瞬間、黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンはいつでも戦闘を開始できるよう
2人とも疲労や消耗が激しいが、99.9%勝てると思っていた。何故ならば彼の能力は戦闘に向かない。その上、彼の伐刀者ランクはE。額面上の値を盲信する2人ではないが、恐らく勝てるであろうと推測していた。
そんなことを考えながら一輝はふと首に目を移す。良く観察すると、傷口が焼け爛れている。切断ならまだいい。彼の
そんな時だった。彼が口を開いたのは。
「なぁ、アンタらは人工
やけに冷たい風が3人に絡みつく。当てられる殺気は尋常ではない。果たしてこの世界に何人このレベルの殺気を放てるだろうか。どれだけ多くても片手の指は超えないだろう。
「人工
うわ言のようにステラが呟く。文字通りに受け取れば
「ああ、そうだ。そもそも疑問に思ったことはないのか? なぜ伐刀者が国防において極めて重要な位置にいるのか」
軍隊とは、国防とは何か。それを突き詰めれば突き詰める程、この世界の国防形態は歪だ。
「いや、正確に言えば、先天的な才能が強弱の大部分を占める上に、出生率が決して高いとは言えない伐刀者をなぜ国防の要としているのか」
当然すぎるが故に誰も気がつかなかった点を彼は指摘する。なぜ忘れているのか。なぜ覚えていないのか。戦争の基本とは何か。
「所謂ダイスのようなものだ。千人に一人しか生まれない確率。スペックは生まれてからのお楽しみ。一騎当千の猛者もいれば役立たずもいる。おかしいだろう? そんな奴等に国にとっての最重要事項を運に任せるなんて」
偶々役立たずしか生まれなかったらどうなる? その国家は"国を守る"という最低限の事すら果たせなくなる。通常兵器は伐刀者に通用しない。標準的な伐刀者を中隊規模で揃えてやれば瞬く間に国が消えるだろう。
「生まれる可能性が低く、質は運任せ」
「国を滅ぼす事など造作もない怪物もいれば、戦闘面では役に立たない雑魚もいる」
「兵器とは、誰が使っても一定の戦果を挙げれる物を指す」
扱う人間によって性能が可変する兵器は兵器足り得ない。必ずカタログスペックだけ発揮しなければならない。
「兵士の数は一定以上でなければならない。増加する分には構わないが、減少すれば国防力の低下を他国に示す事となる」
戦争の基本は数だ。無敵の石ころでは津波は防げない。それはステラ・ヴァーミリオンですら例外ではない。彼女がいくら強くても守れないものは守れない。その守るべきものが大きければ大きいほど、守るのは困難になり、取り零す規模もまた大きくなる。
「条件は全て揃っていた」
そう。悲劇が幕を開ける条件は全て整っていた。
「
どう考えても猟奇的だった。狂信的だった。黒鉄龍馬なんていう
「そんな事は不可能だ、って顔してるけどあんまり人間の科学技術の進歩を舐めない方がいい。終戦から、黒鉄龍馬の出現からもう数十年経っている。それだけの期間があれば
第一次はデータ収集、第二次は同調性やメリットデメリットの調査、第三次は人工
「俺たちは第三次の被験者だ。
「人のため、国のため、世界のため、愛のため、平和のため。あぁ、美しいな。心の底から称賛するよ。彼らの心にあったのは紛れもない善意であり、明日をより良く生きようとする熱意だ」
俺達という生贄を祭壇に捧げ、人間の未来を照らす。そうなった原因は偶々俺達が困窮した家に生まれ、親に売られただけ。突き詰めていけば結局、運が悪かったの一言で片付けられる事。
「それは尊敬の念を抱くべき人類愛であり、未来を信じていた証左に他ならない」
研究者は人類を愛していたんだろう。可能性を信じていたんだろう。人間は、何処へだって飛べると思っていたんだろう。
「で?だから?」
その美しさでこの穢れが消せると思っているのか。
その尊さでこの下劣が無くせると思っているのか。
その善意でこの悪意を救えると思ったのか。
もしそうだとしたら──────
あぁ、なんて愚かなんだろうか。
「それで俺たちが納得するとでも? 巨大な愛に踏み潰されたちっぽけな愛には価値がないと? 全体を存続させる為の致し方ない犠牲だから諦めろと? 運命を甘んじて受け入れろと?」
俺たちの痛みは人類を存続させるための必要悪だと?
「どうして俺たちが、そんなに安易に納得しなければならない!」
認めないし認められない。その救世に轢殺された我らが認めると思っていたのか。あぁ、嫌だ。たとえ神が認めようと、我らが拒否しよう。我らは、そうやって嚇怒の炎を燃やしながら生きてきた。
「これは証明だ!俺たちが!決して伐刀者に劣ってない事の!」
だからこそ受け入れた。この忌まわしき力を。伐刀者を殺せるならば、俺達はどんな事だろうがやった。我らの研鑽の全てはこの為に。黒鉄龍馬なんていう
「俺たちの涙が!痛みが!後悔が!絶望が!過去が!未来が!命が!決して無駄ではなかった事の!」
これが、俺達の存在証明。
「加害者は忘れても被害者は決して忘れない!反逆の時を、復讐の時を、逆襲の時を虎視眈々と狙っている!精々上手く踊れよ? 血を流す覚悟も武器を取る意思すらない雑魚ども。お前たちが忘れ去った過去が、お前たちを殺しに来たぞ!」
雄々しく謳い上げるは
「そんなの、ただの八つ当たりじゃない!」
ステラ・ヴァーミリオンが彼を糾弾する。正論で殴りつける。彼女も学友がこんな風に変貌するなんて思わなかったのだろう。悲痛に響く声は確かに彼の鼓膜を震わせた。
それでも。
「あぁそうさ!これはただの八つ当たり!変えれるはずのない過去!意味のないif!」
そんな事は既に分かっているさ。こんな事をしても、何も変えれないって。何も戻らないって。
「それでもこの現実よりは価値があるだろう!?何もかも奪われたこの現実よりは!殺されたんだぞ!? 終わったんだぞ!? なら過去にすがるしかないだろ!?」
だが、引き下がるわけにはいかない。俺達はこの道を選んだ。なら、往くしかない。正論で全部を救えるほど、この世界は優しくできてないんだよ。
「お前達さえいなければ俺たちは生きれたかもしれないのに!」
「さあ、奈落の底から絶叫を上げろ、
「この世界に生きている伐刀者全ての断末魔を以って、我らの逆襲は完遂する!」
手に持っていた生首を投げ捨て、両手を広げる。その表情は歓喜に歪んでいた。
「刮目せよ。これが、俺たちの歩んできた
彼の背後から小さな十字架が現れる。
これが、彼らの墓標。 人の手で持てそうなほどに少ない十字架が、彼らが確かに存在したことの証明。世界に敗北した証。生を蹂躙され、死を陵辱された彼らには遺体なんてない。代わりにあるのは、彼が受け継いだ遺品だけ。
「
その十字架が溶け、混ざり、固まり、1つの形を取る。
それは剣。彼らの憎悪が結晶化したもの。内部に渦巻くエネルギーは核弾頭すら可愛く見える領域。
「死ね…!薄汚れた伐刀者…!」
これこそが彼らの真実。愛を奪われ、絶望を与えられた敗北者の悲鳴。その蓄積された負のエネルギーを激痛を代償に解放する。掠めただけでも死を誘う常闇の悪意が、この世界に決してあってはならない汚泥が流れ出る。
どの能力も天然物の
だが、それでもこれは破格だ。たった4割の出力低下で、
泥が。悪意が。痛みが。憎しみが。悲しみが。終わりが。血が。肉が。骨が。臓器が。人間が。命が。命が。命が。命が。命が。命が。
終焉へ誘う光へ変換される。
「
「……俺もまだまだだな。情が移ったのか?」
あれほどの攻撃を受けたのに、一輝とステラは無事だった。無論傷はあるが、どれもかすり傷のようなものだ。彼が意識的か無意識的かはさておき、手加減した事は紛れもなく真実だ。それに対して彼は自嘲的な笑みを浮かべるが、直ぐに無表情になる。
「結合解除。
軍刀の様な形状の
一輝は即座に体勢を立て直し、加速。コンマ一秒以下でトップスピードに入り、彼の懐に易々と飛び込む。刃が閃くその瞬間、彼は
「
彼の左脇腹から右肩にかけて切り裂くはずだったその刃はするりと受け流された。
「なっ……!」
驚愕する時間は1秒未満。即座に体勢を整え、次の攻撃に移ろうとするが、その1秒未満は致命的だった。目前に迫る彼の魔手に一輝の危機察知センサーは過剰な反応を示していた。回避しようにもあちらの方が早い。ならば防御をと思うが、この体勢からでは即座に移れない。
一輝は知る由もないが、
そう、
「
戦線に参加したステラから放たれる自動追尾炎。その攻撃を脅威と判断し、振りかざした魔手を下げる。その直後大きくバックステップ。着弾までの時間が僅かに伸びただけだが、その僅かな時間が必要だった。
そう、
「
彼を追尾していた炎が一瞬にして氷漬けになり、撒き散らされた冷気が温度を下げる。だが、追撃の手は緩まない。彼が一輝の元から離れた事により、ステラは味方を気にせずその火力を発揮できる。
「
無数の火球による絨毯爆撃。過剰な火力と広範囲の攻撃故、通常なら逃れる術はない。しかし、それらは一定の距離になった瞬間に凍らされる。
だが、それは陽動。本命は炎を纏わせた
故に、対魔力、対
「喰いちぎれッ!
昨年の七星剣王である諸星雄大が参戦し、即座に
瞬間、粉砕される絶対零度の結界。それと同時に更に加速。
だが……
「なるほど。
そこには、ステラの刺突を素手で受け止めている彼の姿があった。無論、力では圧倒的にステラが上だ。それなのに拮抗していると言う事はつまり
その答えは彼らの足元にあった。散らばったフィールドの破片。それらは莫大な熱量を浴びた様に表面が溶解している。
やった事は至極単純、ある程度の大きさのフィールドの破片をステラの刺突コースに割り込ませ、即席の壁にした。たったそれだけのこと。
無論破片に攻撃を防いでくれる壁としての性能を期待したわけではない。狙いは時間稼ぎ。破片を砕かせ、刺突の速度を落とし、
当然、ノーダメージではない。摂氏3000度の熱量を間近で浴びたのだ。全身に火傷を負っており、溶けた服が皮膚に張り付いている。
だが、たったそれだけのダメージで危機を打開した。目の前にいるのは決定的チャンスを逃し、硬直している
ステラ以外ならば
ならば再生できない傷を、『死』以外の結末を与えない能力をぶつければいい。その思考の元、顕現させたのは
「ステラッ!避けろォォォォォォォ!!」
一輝の絶叫がフィールド全体に響き渡る。それを聞いて回避行動を取ろうとするが、もう遅い。分子を破壊する悪魔の如き一撃は目前だ。
「死ね……チッ」
その瞬間、ステラからターゲットを変更。何処からともなく襲来した銃弾、黒刀を迎撃する。
「次から次へと……それにしても意外だな。アンタらも参戦するなんて」
「素行不良の生徒を制裁するんだ。そりゃウチも参戦するさ」
現KOK世界ランキング第3位、西京寧音。
「全くだ。仕事を増やしてくれるな、貴様」
元KOK世界ランキング第3位、神宮寺黒乃。
そして彼はざっと周りを見渡す。
「……あぁ、いいさ。全員纏めてかかってこい。潰してやるよ」
「全ての
核融合による出力無限上昇の
磁力による不可視の支配領域を作り出す
無数の機械蜂を使役する
分子間結合を破壊する
核分裂・放射能光発射能力である
衝撃を自在に操作する
あらゆるものを凍結させる
反粒子を生成する
体から莫大な魔力が消費されるが、
「さぁ、続きを始めようか」
幾多もの規格外
続きません。
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