東雲友奈は勇者である (うみうどん)
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東雲友奈の章
『狭間』


勇者御記

 ーーーーーー

 

 僕は何か勘違いしていたのかもしれません。

 最初は、◼️◼️◼️の裏切り者か、◼️◼️◼️の裏切り者かそのどっちかが、敵なのだろうと思っていました。

 残っていた本から察するに、そうなのだろうと。

 でも、それは違った。

 まさか、◼️◼️が生み出した◼️だったなんて。

 

 ーーーーーー

大赦書史部・巫女様

検閲済

 

 

 神世紀400年ーー。

 それは、人間と神が力を合わせ、異形の者と戦う年代。

 その異形の者はバーテックスという天津神の力を模倣し、人類に仇なすもの。

 それを見た天津神は激怒し異形の者を国津神と追い返す。

 

 しかし、完全なる消滅を願う天津神の力により、勇者システムが大赦により復活。

 またもや、何も罪もない無垢なる少女達が選ばれていった。

 

 そして神世紀800年ーー。

 そこに、神の力を宿した例外が現れる。

 

「三連撃ィ…勇者ァ…パアァァァァァァンチ!!」

 

 男の声が白山に響き渡る。

 相対するサジタリウス・バーテックス、キャンサー・バーテックス、スコーピオン・バーテックスの体が砕け散り、消滅する。

 男は消滅するバーテックスを見やり、白装束を着直す。

 

「次は恐山だっけ…」

 

 男は地図を出し、次の目的地を見る。

 

「うん、これで最後か」

 

 

大赦の従業員のお話

 

 ーーー

 

 とにかく、東雲友奈はモテる。

 私がそう感想を抱いたのは、東雲友奈に会ってから然程時間はかからなかった。

 

「大丈夫?僕が代わりに持ってあげる」

「あっ、そんな勇者様が」

「いいって」

 

 よろける程、大きな荷物を持っていた私は階段に差し掛かった時、東雲友奈にこう話しかけられた。

 東雲友奈はひょいと軽く荷物を持ち上げると、スタスタと階段を降りていく。

 やはり、男の人は力持ちだなと私は陳腐な感想を抱いた。

 

 その次の日、上司が女に重い荷物を持たせないよう徹底するようにと言っていた。

 

 次に東雲友奈を見かけると、今度は喧嘩の仲裁をしていた。

 大赦内にいる小さな女の子達だ。

 見ていると、たちまち子供達は喧嘩をやめ、笑顔になっていった。

 そして子供達と遊び始める。

 彼自身、御役目の疲れがあるだろうに。

 

 次に見かけたときは、同い年と思われる女の子に迫られていた。

 

「もー!友奈!いつになったら私と付き合ってくれるのよ!」

 

 私は条件反射で壁に急いで隠れる。

 まさか、彼にそんな人がいるとは夢にも思わなかった。

 しかし、東雲友奈は。

 

「またお買い物?次はどこ行こっか!」

「っ!あんた…はあ…今日は勘弁しといてあげる」

 

 東雲友奈は少し頭が弱いのだろうか。

 あんな迫られ方して付き合うとなったら、男女の交際しかないだろう。

 

 次も、そしてそのまた次も。

 

 私は行く先々で、東雲友奈を見かけてはため息が出るような行動を見た。

 

「あれ?あの時の」

「あ、こんにちは」

 

 私は遂に東雲友奈と真正面から鉢合わせてしまった。

 一応挨拶だけでもと思って、頭を下げる。

 相手は勇者だ、本来ならお話しすることも許されない存在である。

 

「もう重い荷物は持たされてないようだね」

「ええ、何故か女性に重い荷物は持たせないようにと上司が仰ってました」

「そっか!良かったね!じゃあ」

「はい、失礼致します」

 

 東雲友奈はにこやかに私の元を去る。

 私は思った、彼はいつも笑顔だが疲れないのだろうかと。

 

 私は、お昼休憩を取るために休憩室に入ろうとしたら噂話が聞こえてきた。

 

『ねえ、知ってる?女に重い荷物を持たせないようにって大赦全員にお達しがあったこと』

『ええ、知ってる。勇者様が上層部へ言いに行ったのよね』

『こんな小さな事に気づくなんて、流石勇者様よね』

 

 何だろうか、ちょっとだけ東雲友奈がモテる理由が分かった気がする。



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『狭間』(2)

少し気持ち悪い描写があります。


勇者御記

ーーーーーー

 

 壁の向こうからバーテックスの叫びが聞こえました。

 本来バーテックスという化け物は鳴かないはずです。

 声帯も持っていない事も確認済みだと分かっています。

 でも、これは一体何?

 僕は壁の向こうに行きました、勇者だし、みんなを怖がらせた奴を退治しに行こうと思ったのです。

 

 でも、壁の向こうは地獄でした。

 訳の分からない◼️◼️◼️がうようよと蠢いていました。

 何?アレは。

 全身が震えて、僕はその場でしゃがみこんでしまい、吐いてしまいました。

 

 あの時の事を思い出すと、今でも体が震えるくらいにもなりました。

 でも僕はたった一人の勇者です。

 怖いのはみんなも一緒だし、頑張らなきゃ。

 

ーーーーーー

大赦書史部・巫女様

検閲済

 

 ☆

 

『オオオオオオオオオオオ!!!!!」』

 

 

 壁の向こうから謎の生物の叫び声が聞こえる、早急に勇者を送るべし。と、富山県の隣の石川県大赦金沢支部、長野県大赦大町支部から香川讃州市大赦本部に連絡が来た。

 

 神世紀400年頃、バーテックスが襲来した時、霊場に止まってくれるのなら好都合とばかりに神たちは富山県立山、岐阜、石川県白山、青森県恐山に壁を神世紀300年頃と同じように作った。

 

 特にバーテックスの進行が酷かった富山と青森は県ごと封鎖されることになり。

 今では県境に壁が置かれている。

 これにより、新たなバーテックス達も手出しが出来ずにいた。

 

 岐阜、石川県の境にある白山では東雲友奈が既に攻略しており、跡形もなくバーテックス達は消え去っていたのだ。

 

 富山と青森の壁の向こうで地獄が広がっているとも知らずに。

 

 大赦の上の人間は『富山で?そんなバカな』と一蹴する。

 それもそのはず、富山は既に神世紀400年の勇者達が攻略したはずなのだから。

 

 しかし、攻略したにも関わらず、壁が一向に消えない事も気がかりだった大赦は東雲友奈を派遣する。

 因みに攻略したら壁が消える事は東雲友奈が証明している。

 

「あーあー、聞こえる?こちら東雲友奈、石川の壁に着きました。今は上です」

『そこから先ーーー気をつけてくださーーー…ゆうなさーー何故ーーザザッーーーか通信ーーー繋がりザザッーーー』

「うん、こっちでも確認してるよ、かなりノイズが酷いや。多分壁の向こうに入ったら聞こえなくなるかも」

『分かーーザザッーーーーーーゆうなさんーーーーーザザッーーーぜったい帰ってきて』

「うん、待っててね篠目ちゃん」

 

 東雲はインカムを一旦外す。

 これでは使い物にならなく、耳を塞いでいる状態なので逆に危険なのだ。

 

 そして、東雲は壁の向こうに入る。

 ヌルッとした謎の感触に身を包まれながら進むと、壁の向こうについた。

 

 ーーなにかがおかしい。

 ツンと鼻に付く腐敗臭。

 なにか、生肉ーーいや卵が腐った臭いが鼻に付く。

 臭い。

 これでは富山での復興は難しいだろうと東雲は思った。

 

 壁の向こうを目を凝らしてみる。

 すると、壁の下の方で謎の生物がもぞもぞと蠢いていた。

 

「…バーテックス?」

 

 確かにバーテックスはバーテックスだろう。

 しかし、ソレはーーー。

 

「うわああああああ!!」

 

 東雲友奈は思わず叫ぶ。

 

 東雲が見たのは、『肉塊』だった。

 醜悪な赤々しい肉に臓物を地面に擦りながら歩く、まるで生物という物を冒涜しているような肉塊だった。

 

「うっ」

 

 東雲は思わず吐く、そしてこの場に長く居てはいけないと東雲の中で警鐘を鳴らしていた。

 ソレはすぐ近くにやってくる。

 

「あっ」

 

 よだれを垂らし顔の大部分を大きな歯で剥き出しにして、腐敗臭を待ちきらしながらニチャニチャと動いていた。

 東雲がこれまで見た、バーテックスとは全く違うもの。

 異形の者。

 ソレを見た人間の精神を削り取る者。

 

 そして、神を冒涜する者。

 

 これまで勇者達がやってきた事は無意味だったのか、なんて訳の分からない考えが頭に浮かぶ。

 

 東雲は半泣きになりながら、足を引きずりながらもその場から脱出しようとする。

 追ってくる。

 巨大な肉の塊が追ってくる。

 臓物を撒き散らしながら追ってくる。

 

「ギシャアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオ!!!」

 

 肉の塊が吠えた。

 怖いーー怖いーー。

 東雲は必死に逃げた。

 壁の向こうへ行こう、行こうとする。

 

 ーーそして、何とか壁の向こう、石川に逃げれたのである。

 

「はーーーっ!はーーーっ」

 

 半ば過呼吸のごとく、東雲は肺に酸素を送り込む。

 しかしうまく酸素を送り込めない。

 呼吸が出来なくて苦しい。

 

 そこで東雲の意識は途絶えた。




東雲友奈の章は花結いの章がひと段落ついたら第1話から書き始めます。
東雲友奈の章はゆゆゆベースのオリジナル色が強いですね。

誤字とかありましたら教えてくれると嬉しいです。
感想もお待ちしてます。


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『狭間』(3)

巫女御記

ーーーーーー

 

 ◼️◼️を変えてしまうという、いぎょうをなし遂げた友奈さんは、大きなだいしょうを負ってしまいました。

 どうにか友奈さんを救いたいと思った私は、私についている◼️◼️さんにお話をきくと、それは無理な話だ、と言われてしまいました。

 神さま、これを見ているなら、私のお話を聞いてください。

 私は友奈さんを救いたい。

 

ーーーーーー

大赦書史部・巫女様

検閲済

 

 

 彼岸花が生い茂る地に、一人の小柄な少女と、彼岸花の地のど真ん中に大きな墓があった。

 普通墓というのは、その人の名字や名前を掘るものだ。

 しかし、その墓は何も書かれていなかった。

 いや、消されたと言った方が正しいのだろう。

 機械か何かで石を削った後が見える。

 

 目を凝らすと何か見えそうな気もしたが、やはり解読は不可能だった。

 

 そして、その前にいる小柄な少女。

 髪は綺麗な黒…いや、純黒と表したいほどに美しい。

 その純黒の髪を横で長めに桃色のリボンで結んでいる。

 顔立ちはまだ幼く、小学低学年の顔つきだ。

 目は、少し茶色がかった黒色、色素が少し薄いせいで目の色がたまに茶色に見える時がある。

 肌は透き通るように白く、まるで天使だと言われてもおかしくはないだろう。

 

 そんな少女が何故、彼岸花の生い茂るような土地で一人でいるのかと思っていたが、一人ではなかったようだ。

 

「こんにちは、【千景】さん、今日も会いにきました」

『はいこんにちは、灯さん』

 

 灯と呼ばれた少女の前に、一人の中学生くらいの少女が浮遊する。

 その姿は紛れもなく、西暦時代、活躍した勇者の一人郡千景だった。

 

「もー千景さん、私のことは篠目でいいってなんかいも」

『…ごめんなさい、あまり慣れてなくてね』

 

 二人の出会いは篠目が東雲友奈に出会う前の数ヶ月前に遡る。

 この閉鎖された空間に、篠目が迷い混んできたのだ。

 

 元々巫女として優秀であり、灯という家系は代々霊能力者としても知られていた。

 見えてはいけないものが度々見えてしまう篠目はそれで少し精神を病んでいた。

 そんな時に、ここに迷い込んでしまって、幽霊の千景と出会った。

 

 二人は話していくうちにだんだんと趣味が合うようになり、度々、篠目はここに訪れては自分に憑かせてゲームをさせる。

 

 そんな生活を続けていくうちに篠目の精神は大分安定した。

 そしてそれは、東雲との出会いでかなり精神が強化されていく。

 

「でね、ゆうなさんがーーー」

『ええ、この時代の友奈という名前の人も優しい人なのね』

 

 千景は目を細め、篠目を慈しむかのように話す。

 千景は長い年月を幽霊として過ごしていく中で、かなり丸くなったなと、自分で思った。

 800年ーー。

 長い時を幽霊として過ごしたなと感慨に耽ける。

 

 篠目には千景の生い立ちについて話していない。

 彼女が無理に知ることはないと、千景が思ったからだ。

 ただ、幽霊として現世に留まっているのは心残りのことがあるから、それは篠目は分かっていた。

 千景は篠目にはかつて非業の死を遂げてしまい、未練がましく現世に残っている女と話している。

 

「篠目ちゃん、またここにいたんだ」

「あ、ゆうなさん!」

 

 東雲は篠目をさがし、彼岸花畑に足を踏み入れた。

 篠目は東雲の元へ駆け寄る。

 その光景を見て、千景は思った。

 まるで高嶋さんと私だと。

 

 千景は東雲友奈と初めて会った時、何か妙な親近感というか既視感をおぼえた。

 東雲が高嶋の生まれ変わりだと思った事もある。

 しかし、違ったようで、なにか別の人物の生まれ変わりだと分かった。

 とても、『友奈』によく似たような。

 

「また、千景さん?」

「はい!おはなししてました!」

『ふふ、そうね』

 

 東雲には千景の姿や声は聞こえない。

 ただ、篠目がよく話す、幽霊の子だと認識しているだけだ。

 故に東雲は千景の事を知らない。

 しかし、篠目がこんなに楽しそうにしているのだから、悪霊の類ではない事を東雲は分かっていた。

 

「…千景さん、今日も篠目ちゃんがお世話になっております」

 

 墓の前で静かに手を合わせる。

 そして、その後にはお供え物を差し出した。

 

『…ええ、こちらこそありがとう。お陰で退屈しない日々が続いてるわ』

「よかったですね、千景さん」

 

 こうして、勇者、巫女、幽霊という不思議な組み合わせの優しい歓談が始まった。




よし、書き溜め分の狭間編と日常編は終わりましたー!
また花結いの章(ゆゆゆい)14話、15話、16話分と進めていきたいと思います!
そして評価してくださった方、誠にありがとうございます!

誤字とかありましたら教えてくれると嬉しいです。
感想もお待ちしてます。




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花結いの章
プロローグ


神世紀800年ーー。

一人の人間が、白装束のような衣を身にまとい、道路を歩いていた。

道端に転がる白く巨大で醜悪な体をした通称『星屑』の死骸を見ながら歩を進める。

 

「もうそろそろ…」

 

人間は独り言を呟いて、空を見上げた。

どこまでも綺麗な青い空が見える。

 

「うん、ここの空も綺麗だ…まるで四国のような気候だね」

 

首をコキリと鳴らしまた歩く。

目的地は青森県・恐山ーー。

そこに、この馬鹿げた戦いの最期の舞台が幕を開ける。

 

 

次に人間が目を覚ましたのは樹海だった。

樹海は人類の敵バーテックスから神樹を守る、神樹自身が作り出した勇者の為の空間。

人間は目元まで深くかぶった和装束の帽子を脱ぐ。

 

(…ここは、何処?)

 

そもそも、人間の領地を取り戻す為、霊的存在が力を増すという日本三大霊地の一つ、恐山に向かっていた筈だ。

そこに日本最期の領地、青森がある。

 

 

新世紀300年、人間は辛うじて神樹と共に天津神である天照大神を一時撤退にまで追い込んだ。

その後の資料などはないものの、人間たちはそれ以来、平和な世界を取り戻し、四国から九州、そして沖縄に行き次に本州まで復興を成し遂げた。一つ分かっていることは、その復興に最も尽力したのは千景殿防人部隊という少女たちだったという。

 

しかし、長野県の復興に差し掛かった瞬間のことである。

神世紀400年頃、突如としてバーテックスが長野に襲来、復興作業にあたっていた人員に多大な被害を負わせることになった。

 

そしてバーテックスたちはそれ以上の進行はして来ず、日本三大霊地である、青森・恐山、石川、岐阜・白山、富山・立山。

それぞれの場所に留まった。

 

奇襲により、日本の四県を取られたのは人間側にとって痛かったが、こうなることを予想しなかった人間達ではない。

古くから続く大赦と呼ばれる組織が瞬く間に新たな勇者システムを完成させ、また新たな勇者達が誕生した。

 

しかし、一つだけ人間側の想定外だった事が起こった。

なんと、国津神である大國主と天津神である天照大神が手を組んだと言う事だった。

 

 

見慣れない場所に大いに驚いている人間。

赤色の髪を短く切り揃え、顔立ちは女顔ではあるが、キリッとした目はまさしく男の目。

 

白装束を脱ぐと、その下には淡いピンク色のマフラーに、赤々とした戦闘衣。

両手には鉄製のピンクの籠手、その手の甲の部分に桜の紋章が施されている。

 

「勇者システムは未だ健在……でも、少し性能が落ちた?」

「あーうん、それは過去の勇者システムに合わせてるからだよ」

 

いきなり声が背後から聞こえ、男はすぐさま飛び去り、戦闘態勢に入る。

 

(……僕の後ろを取るなんて)

「まーまー、そんな殺気立たなくても」

 

まるで気配を全く感じなかった、目の前の女。

その風貌を見て男は驚愕する。

 

「そんな…女の子になった…僕…?」

「あー…そういう反応なっちゃうか」

 

目の前の男によく似た女。

赤い髪を後ろで束ね、黒白赤と彩られた戦闘衣、そして男と同じような籠手。

 

「初めまして、私は赤嶺友奈。そしてようこそ東雲友奈くん、歓迎するよ」

 

☆………




見てくださり誠にありがとうございます。
この二次創作に出てくる具体的な神の名前は、全部私の考察から来ているものです。


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一話『火色』

 神世紀300年ーー、樹海。

 東雲友奈は、戦闘態勢を解き赤嶺友奈と名乗った女と向き合う。

 

(赤嶺って……あの赤嶺だよね)

「へー、東雲くんって結構顔に出やすいんだね、そうだよ、私があの赤嶺だよ」

 

 東雲は心を読まれ、少し不服そうな表情をするが、東雲自体感情が表に出やすいと思っているので、何も言わない事にした。

 

(でも、赤嶺友奈か…)

 

 東雲は赤嶺友奈の名前を知っていた。

 神世紀72年、天津神の圧倒的に力に魅せられた人間達によって大規模なテロが発生した、その時に四国を救ったのは赤嶺家と、弥勒家である。

 

 弥勒家の方は長い間没落していたが、徐々に名家としての地位を獲得し、神世紀800年頃には大赦の最高地位に最も近い家だという。

 そして赤嶺家の方は盟友、弥勒家と共に最高地位に最も近い家になった。

 

 しかし、赤嶺家の特筆する部分は対人に特化した御役目をこなす…。

 言わば、暗殺者である。

 

 そして、赤嶺友奈という名前ともなると。

 テロから四国を守った勇者の一人だ。

 

「はいはい、品定めするような目はやめてくれるかな?」

「あっ、ごめんなさい」

「さて、そろそろ東雲くんのお話も聞いておこうかな、これから一緒に戦う勇者だし」

「一緒に戦う…勇者…?」

「あ、そっか…そういえば何も聞かされてなかったんだっけ」

「…はい」

「うーん、説明は下手だからうまく伝わらないかもだけど、そこは勘弁してね」

 

 そして赤嶺は語り出す。

 

 ☆

 

 ここは神世紀300年に人間たちと一緒に戦った神樹の中だと言うこと、その神樹の集

 合した国津神たちの中に一人、人間に味方する天津神がいること。

 その天津神は、今はまだ言えないが端的に言うと国津神と神樹内部で喧嘩したこと。

 そして、東雲と赤嶺は天津神側の勇者としての呼び出されたこと。

 そして、神樹側の勇者と戦うということ。

 

「今は、造反神と呼ばれているけどね」

「へぇーそうなんだ」

「そうなんだって…髄分とお気楽な…いや『友奈』だからか」

 

 赤嶺は困ったような顔を浮かべて東雲を見る。

 

(やっぱり男でも友奈は友奈か)

 

 今はすっかり警戒も解き、赤嶺に柔和は笑顔を浮かべて話をする東雲。

 そこには彼の人柄の良さがあふれ出ていた。

 

「そして、ここが一番重要だからね…『火色舞うよーー』」

 

 赤嶺は目を閉じ、一拍置いてからまた話し出す。

 

「これから私たちは造反神に味方して、勇者達を守らなきゃいけない」

「守る?」

「そこはまだ言えないかも…ごめんね」

「そっか、いいよ」

「とにかく、この世界は平和なんだ、神樹の中で暮らし、造反神をやられないようにして生きていくのが私たちの御役目」

 

 東雲は頭の中で、一種の答えを出したような気がした。

 もしや、この世界が終われば、その勇者たちはまた過酷な現実に戻ってしまうのではないかと。

 あるものは重傷を負い、またあるものは死ぬ。

 それは神世紀800年からやってきた東雲には信じられない事だった。

 

 神世紀800年では、犠牲者は出さないという方針で生きている。それは神世紀300年頃から続く、一種の確約みたいなものだ。

 犠牲者出さず、全員生きて帰る。

 日本の復興に携わっていた者たちは全員その心で作業をしていた。

 

 現に、長野での襲撃時でも犠牲者は0人だった。

 これは奇跡と言っていい。

 

 とにかく東雲友奈には、年端もいかない女の子達が死ぬ事はありえない事だった。

 

「どう?やってくれるかな?」

「…うん、いいよ」

「よっし、ありがとう東雲くん!」

「よろしく、赤嶺ちゃん」

「こちらこそ、東雲くん。さて、東雲くんの時代はどんな感じなの?未来は興味あるから知りたいな」

「うん、いいよ。僕もそこまで説明は上手くないけどお話しするね」

 

☆………




今日の文化祭行けれません( ; ; )


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二話『悪役』

 神世紀800年、それは赤嶺にとっては遥か未来の話、赤嶺はちゃんと付いていけるかどうかは分からなかったが、それも杞憂に終わった。

 

「そしたらバーテックスが急にバーン!と現れて、ババーンとみんなが作った建物をガガーンって倒しちゃったんだ!そしたら大國主様と天照大神様が力を合わせてバーテックスをドッカーンって一時的に追い返しちゃったんだけど」

「待って待って待ってストップストップ」

 

 赤嶺は頭を抑える。

 

(確かに、私も擬音を使う事もあるけどここまで酷くないよ!?…よね?)

「どうしたの?赤嶺ちゃん?」

 

 心配そうに東雲は赤嶺の顔を覗き込むが、赤嶺は苦笑いをしてまた東雲に向き合う。

 

「まあ、神世紀800年に至るまでの話は置いといて、なぜ私達が『友奈』って名前を付けられたか分かる?」

「うん、逆手を打って生まれてきたら友奈って名前が付けられるんだよね」

「そこは分かってるかー」

 

 東雲友奈は喋り方はバカっぽいが、全然賢い方だ。

 なので、神世紀800年で色々と勉強してきた。

 大赦による検閲も昔よりかは緩和になっており、それで神の事も大赦の事も東雲の頭の中には叩き込んである。

 

「じゃあ、話もそこそこにして、東雲くんに私たちの仲間を紹介しようか」

「仲間?他にも勇者がいるの?」

「ううん、勇者じゃないよ。もしかしたら…東雲くんの敵かもしれない」

 

 赤嶺は立ち上がり、樹海の中を歩いていく。

 東雲もそれに追従する形で、付いていった。

 

「もしかして、天津神側だからバーテックスが仲間ですとか…」

「あはは、結構頭いいよね東雲くんって。そうだよ私たちの仲間…バーテックスなんだ」

 

 やはりか、東雲は頭の中でそう思う。

 まあ、東雲の頭では幾ばくか予想をしていたので大体覚悟は出来ていたが、それでも衝撃は大きい。

 神世紀時代に戦っていた敵と仲間としてのやっていけるのか。

 それが東雲の唯一懸念していた事だった。

 

 ☆

 

 先に結果を言おう。

 

「あはは!慣れるとなんだか可愛いや!」

 

 東雲友奈はバーテックスとも仲良くなれていた。

 星屑が撫でて欲しそうに東雲の周りを浮遊する。

 赤嶺はその光景を見て唖然としていた。

 

(あそこまで仲良くなってしまうなんて…)

 

 赤嶺は考える、さっき東雲が言っていたセリフ。

 

『大國主様と天照大神様が力を合わせて』

 

 もしかしたら東雲の勇者服には天津神の力が宿っているのかもしれない。

 その天津神の力が作用し、東雲の事を仲間だと思っているのかもしれないのだ。

 バーテックスや星屑達は赤嶺の言う事は聞く事は実験済みだ、恐らく造反神が用意した勇者服のお陰だろう。

 しかし、東雲みたいに星屑が懐いてくる事は無かったのだ。

 

「お魚さんみたいなのもいるね」

 

 バーテックスがフヨフヨと東雲の周りを凄いスピードで浮遊する。

 凄い懐かれようだ。

 赤嶺は苦笑いするしかなかった。

 

(未来凄いなぁ)

 

 ☆

 

「さて、勇者達の様子でも見に行こうか」

 

 赤嶺は星屑に群がられている東雲を引っ張り出す。

 まるで、星屑に食われているのを助けているみたいだ。

 

「勇者の様子?」

「うん、まだ樹海化が解けてないようだから、苦戦してるのかなって」

「うん、分かった行こうか」

 

 二人は樹海を素早く走り抜ける。

 赤嶺は木から木へ飛ぶように走り、東雲は地面を走る。

 しばらく走っていると戦いの音が聞こえてきた。

 

「…」

「…」

 

 二人は気配が察知されないように、遠くから見る程度にする。

 すると、16名の女の子達が星屑やバーテックスの討伐に当たっていた。

 

「僕が女の子になったのが二人…?」

「ああ、あれは結城友奈ちゃんと高嶋友奈ちゃんだよ」

「っ!結城!?」

 

 東雲は結城友奈の事を知っていた。

 何せ、神世紀300年頃に一時的な平和とはいえ、灼熱の大地から世界を天津神から取り返した張本人だ。

 その伝説は神世紀800年になっても衰えない。

 

 東雲は友奈という名前になれた事自体とても誇り高い事だと思ったがその伝説を作った本人に会えるとは思えなかった。

 

「あれ、勝てるの?」

「……限りなく低いだろうね」

 

 バーテックスは次々に殲滅されていく。

 この戦いの勝敗はもう決してしまったようなものだ。

 

「さ、戻ろうか。時期に樹海も解けるでしょ」

「そういえば、彼女達の目的は聞いてなかったね、どうして戦っているの?」

「造反神を鎮め無ければ四国は消えるんだ」

「え!?」

「待って、最後まで話を聞いて」

 

 東雲は一瞬、四国が消えるのはいけないと思った。

 しかし、赤嶺はまだ何か言いそうなので東雲は口をつぐむ。

 

「私たちは造反神の味方には変わりない。それは四国を消そうとしてると思われても仕方ない事だよ。」

「…」

「でもね、そんな事をしなければならない理由がある。大事な私達の御役目が」

「それは?」

「それは……ごめん…まだ言えない」

 

 東雲は不服だ。それは赤嶺がきちんとした理由を提示しないからだろう。

 しかし、東雲は赤嶺の目を見る。

 それは嘘は付いていない目だった。

 東雲は目を瞑り、自分の考えをまとめ始める。

 

 ーーそして出した答えは。

 

「分かった、今は協力するよ」

「…!」

「なんだか赤嶺ちゃん…ほっとけないもん」

 

 東雲には赤嶺の悲しそうな目が気がかりだった。

 理由はそれだけで十分だ、と東雲は自分に言い聞かせる。

 

「じゃ!東雲友奈!悪役になーる!」

「…はは、悪役か…うん、そうだね」

 

 こうして、二人の友奈の悪役になる物語が始まる。




今これ思いましたけど、ゆゆゆい28話以降どうしよう…
29話実装するまで頑張ります…。


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三話『観察』

 勇者達がバーテックスを倒し、樹海化が解け、街の全容が明らかになる。

 

「ここは?」

「愛媛だよ、これから彼女達はここを奪いに来るんだ」

 

 今の造反神の解放地域は三県、愛媛、徳島、高知。

 これから二人はバーテックスを駆使して攻め入ったり、防衛しなければならない。

 しかし、東雲が思うに勝てる見込みは限りなく薄かった。

 

「あれ?」

「どうしたの?」

「いや、あそこ…」

 

 東雲が指を指す方向には、五人の勇者の姿があった。

 赤嶺は勇者達を見て答える。

 

「あれは西暦からやってきた勇者達だよ」

「旧世紀の…勇者」

 

 そこには先ほど見たもう一人の友奈がいた。

 

「高嶋友奈…彼女が居なければ私…いや、私たちは生まれなかった」

「そっか…大先輩だね」

 

 友奈という名前の起源を見つめながら、五人の様子を伺う。

 全員楽しそうに笑っていたり照れたりしていた。

 

「あの子達とこれから戦うのかー」

「うん、そうだね」

 

 東雲はやりにくいだろうと赤嶺は思う。

 彼は別段、対人戦を得意としている訳でもない。

 それに相手は女の子だ、女の子は戦う上で東雲にとって一番苦手な部類に入る。

 

「!」

 

 すると突然、五人の中の一人がこちらを向いた。

 赤嶺と東雲は条件反射で建物の陰に隠れる。

 

「あっぶなー」

「あはは、まさか気配を察知されるなんてね」

 

 ☆

 

 東雲は端末を操作して、勇者服から私服に着替える。

 変身前の東雲は髪は薄い桃色で、シンプルなパーカーにジーンズだ。

 赤嶺はそれを見て、何か驚いた表情をする。

 

「え?着替えれるの?」

「え?着替えちゃダメだった?」

「いや…ダメって事はないけど、私はその端末貰ってないからさ」

「あ、だから勇者服のままなんだ」

 

 うーんと東雲は考える。

 勇者服で街中を歩けば目立つ、それに赤嶺の勇者服はかなり目立つ色をしている。

 いくら赤嶺は隠密行動が得意だからと言ってこのままではマズイだろう。

 

「一か八か…僕の端末でやってみる?」

「……できるの?」

「…一応、天津神の力も宿ってるから…なんとなく?」

「…しょうがないなぁ、やってみよっか」

 

 赤嶺は東雲の端末に触れる。

 すると、赤嶺の服が変化して東雲と似たような服になる。

 ホットパンツに胸が強調されたパーカーだ。

 

「わーかわいいね、赤嶺ちゃん!」

「へぇ、やってみるもんだね」

 

 赤嶺は自分の好みの服を着れて嬉しそうな表情を浮かべる。

 ここに来て以来勇者服で生活していたので赤嶺は有難いと同時に思った。

 

 ☆

 

「…!樹海化来るよ」

「攻め込むの?」

「…いやぁ、今日も様子見だけにしようか」

 

 東雲がこの世界に来て、1日目が経とうとしていた矢先の事だった。

 赤嶺は樹海化を感じ取れる力が備わっており、いち早く準備に移る。

 ちなみに、東雲の端末は樹海化警報は装備されていない。

 理由は神世紀800年では、樹海化はしないからだ。

 

 東雲は手早く、赤嶺の前に端末を差し出す。

 赤嶺は端末に触れ、勇者に変身した。

 

「よーし、僕も勇者になーる!」

 

 東雲も端末に触れる。

 薄い桃色だった髪は赤々しく燃えるような髪色になり、筋肉質な体に勇者服を纏っていく。

 最後に白装束を腰に巻き、東雲も勇者になった。

 

 二人は変身した直後、素早く戦闘区域へ急ぐ。

 そして前回みたいに遠くから観察するように見ることにした。

 

 今回の戦いは愛媛防衛戦。神樹側は愛媛奪還作戦だ。

 造反神はバーテックスを配置して、勇者達に攻め込んだ。

 

 ☆

 

「はぁん、全部見ーちゃった。なるほどねー。香川を解放したのはまぐれじゃないね」

 

 結果は造反神側の惨敗。

 新型のバーテックスで虚を突いたのは良かったが、有能な指揮官がいるようで、すぐに対策を練られ、たちまちバーテックス達を撃滅していった。

 

 最後の切り札である、巨大なバーテックスもたちまち勇者達はやっつけてしまった。

 

「うん、凄いや。これが前の時代の勇者」

「……。次は私たちが相手をしよ…あはは。胸が高鳴るなぁ」

「……」

 

 東雲も密かに高揚感を覚える。

 それは伝説に会えた嬉しさだろうか、強敵と戦える喜びだろうか。

 戦いは始まったばっかりだ。




早く東雲くんと高嶋ちゃんか結城ちゃん戦わせたいです。(戦闘狂)


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四話『接敵』

例外が現れた。

東雲友奈という例外。

彼は遥か未来の神世紀800年からやってきた勇者だという。

私を呼んだ造反神がそう言っていた。

 

造反神はなぜ彼を呼んだのか。

それは教えてくれなかったけど、大体分かってしまった。

 

◼️◼️◼️◼️は試練を彼女達に与えるために彼を呼んだのだ。

◼️◼️◼️◼️…それを阻止するために……。

 

 

誰もいないアパートの一室、そこに赤嶺と東雲の姿があった。

二人とも時が止まったかのようにビクともせず、ただひたすらじっとテーブルを見つめる。

そして、二人の時は動き出し…。

 

「「はあああああああ!!!」」

 

一つ残った唐揚げの取り合いをしていた。

箸で箸を防御する攻防戦。

唐揚げが宙に浮き、それを二人は空中で箸の攻防戦を繰り広げる。

 

「僕が作ったものだから、僕が食べる権利がある!」

「私が材料を買ってきたのだから、私が食べる権利があるよぉ!」

 

本来二人はこういうのが一つ残ったら他人に譲る性格をしている。

しかし、妙に気の合ってしまった二人は訓練と称してこのような行儀の悪い事をしているのだ。

 

唐揚げが箸での攻防戦に嫌気が指したのか、ぴゅーんと畳の上に落ちてしまった。

 

「「あ」」

 

畳の上に落ちた唐揚げはどこからともなく現れた小さなピンク色の猫に取られてしまう。

東雲に使える精霊だ。

 

美味しそうにはぐはぐと唐揚げを食べ、ご満悦な表情を浮かべる。

 

「…うん、仕方ないかー」

「そうだね、引き分けという事で」

 

こんな感じで東雲と赤嶺は同居している。

住む場所、お金も全て造反神が用意したもので、生活には困りはしない。

弊害があるとしたら男女だという事だろうか。

しかし、東雲は思春期特有の男子みたいに赤嶺の豊満な胸には興味ないようだ。

 

こうして次の戦いに備えて英気を養っている。

 

次は造反神側の勇者が神樹側の勇者に接触する番。

東雲は少し緊張していた。

それは、英霊に会えるという事。

 

神世紀800年では神世紀300年の勇者が神格化されている部分もある。

名前は知らなくても、存在自体は知っており毎朝、神棚ならぬ勇者棚に手を合わせる家庭も少なくない。

 

「そういえば、東雲くんって彼女とかいるの?」

 

赤嶺がご飯を食べ終わり、食器を東雲と一緒に洗っている。

何も話もせずに黙々と食器を洗うのは無理な話なので無難な質問を東雲に投げかけた。

 

「ううん、いないよー」

「そうなんだ、結構モテそうなんだけどね」

「そんな事ないよー、周りからはしっかりしろっていつも怒られてるし」

「誰に?」

「巫女さんかなー」

 

神世紀800年は勇者は枯渇している。

そのかわり、神の声を聞ける素養を持った女性が増えた。

その理由は未だ解明されてはいない。

 

(もしかして本人が気づいてないだけで結構モテたりして)

 

「あ、でも」

「うん?」

「守りたい…大切な人はいるかなぁ」

 

東雲はニコリと皿を見つめながら、懐かしむかのように洗う。

 

「…ここ最近会ってなくてね、御役目途中でここに呼び出されちゃったから、いつ会いに行けるか分からないんだ」

「…へえ、そうなんだー」

「一度でいいから、また会いたいなぁ」

 

東雲は何かしら覚悟を決めた目をしている。

相当な事情があるのだろうと、赤嶺は思った。

そして、赤嶺もまた思う、自分にも弥勒蓮華がいたな…と。

 

 

場所は変わり、樹海。

突然樹海化が始まり、辺り一面が木に覆われた。

 

しかし、赤嶺と東雲は突然のことにも対して驚きはせず戦いの準備に入る。

 

「じゃ、アタッカ君はこっちで」

 

赤嶺はテキパキとバーテックスに指示を送り、勇者達へ向かわせる。

それも、終わったところで前線で指示を送るため二人は神樹側の勇者がいる場所へ向かった。

 

バーテックスはよく言うことを聞くようで、赤嶺が指定した勇者を集中的に狙う。

それは神樹側の移動手段を削ぐため。

負け戦ではあるが、もし倒せればラッキー、程度に攻撃をしていた。

 

そして、二人は神樹側の勇者に近づく。

 

「東雲くんは上でこちらを見下ろしてて、自己紹介も厳格っぽく」

「え?なんで?」

「その方が悪役っぽいでしょ」

 

赤嶺はふふっと笑い、それぞれ配置に着く。

そして、神樹側の勇者に赤嶺が接触した。

 

 

「私たちの移動手段カガミブネの要である、巫女が居なくなれば、戦術上圧倒的に有利ですから」

「でも、なぜ急にそんな、人間が考えるような戦い方をするように?」

 

淡い金髪の勇者、伊予島杏が考えを述べ、黒髪を後ろの束ねた青い勇者、鷲尾須美が疑問を覚える。

それに答えるかのように赤嶺は背後から言葉を投げかけた。

 

「それはね、私が命令しているからだよ」

「今の声…友奈さん…?って、ええ!?」

 

緑色の勇者服を纏った、犬吠埼樹が赤嶺の姿を見て驚愕する。

その横にいた、朱殷色の勇者服を着た郡千景も驚く。

 

「ばぁーん、皆、初めましてだね」

 

にっこりと赤嶺は勇者達に手を振る。

 

「「3人目!?」」

 

結城友奈、そして高嶋友奈が声を揃え驚く。

 

「どうだろうねぇ?」

「…!う、上…」

「う、嘘…」

 

郡千景、そして青い勇者服を纏った東郷美森が、気配を察知したようで上の木に勇者達を見下ろしている人影が見えた。

それは赤嶺が現れた衝撃よりも遥かに大きいものとなった。

 

「…」

「「……男の子になった私…?」」

 

結城と高嶋が目を見開き、東雲を凝視する。

勇者達も、衝撃が隠せないようで各々驚いている。

 

「…ま、また友奈が増えたって感じ?でも、なんか…」

「ふふっ」

「…」

 

衝撃から抜け出せた、黒い勇者服を着た秋原雪花が冷静に東雲と赤嶺を交互に見る。

 

「ああいう笑みと目はねぇ、やばいんだよねぇ。敵だからこそ笑っているパターン、あるよ」

 

雪花が頬に冷や汗を浮かべたのを確認して、赤嶺は言う。

 

「…じゃ、後よろしく」

 

その合図と共に、赤嶺は瞬間的に移動してバーテックス達を引き寄せる。

東雲もそれを見てマフラーを翻し勇者達に背を向けた時だった。

 

「あ、あの!」

 

東雲は顔だけを向ける。

すると結城がこちらを真っ直ぐに見ていた。

 

「あ、あなたは?」

 

東雲は自己紹介だけはしてもいいかと思い、口を開く。

そして赤嶺の言っていたことを守ろうと思い、厳格な口調になるように努めた。

 

「東雲…友奈」

 

そして、東雲は去っていく。

その姿を結城友奈は見つめ、その場で動けないでいた。

 

「どうしたの!?友奈ちゃん!?」

「……あ、東郷さん」

「あの男に何かされたの!?」

「…ううん、なんだかあの人…他人じゃないような気がして…」

 

結城友奈は首を傾げる。

何かしら既視感を覚えているように感じた。

 

「まあ、それはこれが終わった後に考えるのよ!!」

 

黄色い勇者服を着た犬吠埼風が友奈に向かって言う。

 

「まずはこのバーテックスを倒すのが先よ!そして、さっきの友奈モドキ達を探す!」

 

友奈はコクリと風に頷いて、東郷と一緒にバーテックスを倒しに向かった。




2月になりました。
まだまだ寒いですね、読者の皆様も是非ともお体に気をつけてください。

ちなみに私は香川県にいるのですが、こういう寒い日は釜玉うどんがすごく美味しいです。
皆様も是非一度香川においでください。

誤字とか見つかりましたら教えてくれると幸いです。感想もお待ちしております。



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五話『挨拶』

 東雲達は遠くから勇者達の行動を見る。

 赤嶺が用意した大量のバーテックス達も瞬く間に殲滅されていく。

 やはり、バーテックスでは戦力不足かと東雲は思う。

 

 勇者達はこちらに気づき、急いだ様子で向かってきた。

 そして、赤嶺と東雲に対峙する。

 

「すごいね、やっぱり簡単には無理か」

「…さっきのバーテックス群れ、アンタの指示に従ったように見えた…アンタ達一体何なのよ」

 

 赤い勇者服の三好夏凛が赤嶺に問う。

 

「あ、そうだった、自己紹介だね。私の名前は…赤嶺友奈だよ」

「アカミネ…?んん?アカミネ…赤い山の嶺で赤嶺家?」

「そうだよ、大赦ではそこそこ有名な家だよね。そこの赤嶺さん家の友奈だよ」

 

 夏凛は驚いた表情をする。

 赤嶺ともなると、そこそこ有名どころの話ではない。

 かなりの上位の家柄だ、それも上里、乃木という有名どころに連なっている。

 

「友奈だけど、友奈ちゃんじゃない」

「似ているけど、高嶋さんとは別人だわ…。そして」

 

 東郷と千景が東雲の方に向く。

 腕を組み、こちらを見下ろしている男。

 

 燃え盛るような赤い髪に、淡い桃色のマフラー、鉄製でできた桃色の籠手。

 腰には白装束を巻いている。そして全体的に赤ピンク色の勇者服。

 

「んー、そうだね。東雲くん自己紹介お願い」

 

 赤嶺が東雲を見る。

 その目は(厳格な感じでお願い)という意思を感じられた。

 それに答えるかのように東雲は口を開く。

 

「東雲友奈」

 

 限界まで低くした声は、聞く者を緊張させる。

 数々の修羅場をくぐってきたような目、その目を見た結城友奈が喉を鳴らす。

 神樹側の勇者達は全員同じ感想を抱いただろう。

 

 ーーーー魔王、だと。

 

 ☆

 

(すごいね、東雲くん…。あの変わり様…。もしかして役者の才能あるんじゃない?)

 

 実際、赤嶺も想像以上だった。

 味方であるこちら側まで萎縮してしまう程に。

 

「…!こ、こんにちは、結城友奈です」

 

 この空気を切り抜けるために、結城は話しかける。

 東雲は喋ったらボロが出そうなので、赤嶺が急いで結城に言葉を返した。

 

「うん、ある意味私の後輩だねー、よろしく結城ちゃん」

「コーハイ?」

「私はさ、神世紀序盤の時代から召喚されたから」

 

 結城に赤嶺はにっこりと笑いかける。

 それはとても不気味な感じだった。

 

「こんにちは、高嶋…友奈です」

 

 高嶋も結城に続き、東雲をちらりと見ながら赤嶺に話しかける。

 

「高嶋さん、貴方は先輩。貴方が居なければ、私は…いや私達は居なかった。会えて嬉しいな」

「え、そ、それってどういう事…?子孫…とか?」

 

 高嶋は赤嶺と東雲の両方を交互に見る。

 容姿だけで言えば、東雲は高嶋とかなり近い風貌をしていた。

 

「子孫じゃあないよ、でも同じ友奈。逆手を打って生まれたからね。そういう名前になるんだ」

「ちょっとちょっと、分かるように説明しなさいよ!」

 

 夏凛がこの状況にかなり混乱してきた様で、すかさずツッコミを入れる。

 周りの勇者達も、夏凛と同意見だ。

 後ろに控えている、紫色の勇者服を着た乃木園子はコクリと頭を揺らしていた。

 

「うーん、説明はあまり得意じゃないんだよね。擬音が入りそうで、どーんときてばーんとか」

「…もしかして、あそこにいる友奈も?」

「うん、わりかしそうかも」

「くっ、別人だと言われているのに、この共通点…」

 

 夏凛は思わず苦笑いをする。

 後ろで乃木園子と赤色の勇者服を着た、三ノ輪銀が喋っていると、秋原雪花が赤嶺に言葉を発した。

 

「ズバリで聞くけどさ、赤嶺さん家の友奈さんと東雲さん家の友奈さん。貴方達、味方か敵かどっちよ」

「ちょ」

 

 風が雪花の発言に少しどきりとする。

 しかし、雪花は口角を上げてこう答えた。

 

「私、なんとなく分かっちゃうんだよね、攻撃してくる意思みたいな物が」

「アタシは分からないけど」

「貴方達は分からなくていい。で、敵なの味方なの」

 

 赤嶺は一拍おいて答える。

 

「敵だね、私達は造反神側の勇者だから」

「!?造反神も勇者を呼べるの…?」

「そうみたいだねー、さて、自己紹介は終わり、戦闘再開で」

 

 そういうと赤嶺がまた風に乗り瞬間移動をした。

 それに呼応するかの様にまた大量のバーテックスが勇者達に襲いかかる。

 

 それを上から東雲は見ていた。

 

(……あの、黒髪の子)

 

 郡千景を見ながら頷く。

 

(やっぱり、あの子に似てるや)

 

 ☆

 

 神世紀800年ーー。

 勇者である東雲は大赦内を自主的にパトロールしている時のことであった。

 

「…」

「…?」

 

 小さな女の子が東雲の後ろをずっとついてきているのだ。

 とてとてと小さな歩幅で一生懸命東雲に着いて行く。

 

 その子は綺麗な黒髪をしており、髪を横で結んでいる。

 巫女服を着ているので、巫女なのだろうと東雲は思い話しかけた。

 

「どうしたの?」

「……」

 

 東雲に話しかけられても、うんともすんとも言わない。

 東雲は頭を掻きながら、同じ目線になるためにしゃがんだ。

 

「どうしたの?」

 

 にっこりと東雲は微笑んで、優しく手を取る。

 女の子は自分の手を見ながら、少し俯いた。

 

「迷子?」

 

 女の子は首を振り、違うと否定する。

 ともなれば、東雲に何かしら目的があって近づいたというわけだ。

 

「………わたしは、みこ……だから」

「もしかして挨拶に来てくれたの?」

 

 女の子はコクリと頷く。

 

「あはは、そうなんだ!ありがとう」

「…!」

 

 東雲の弾ける様な笑顔に女の子は顔を赤くして俯いた。

 そして、東雲の手をぎゅっと握りしめて女の子は言う。

 

「灯…篠目…10さい…」

「うん、篠目ちゃんって言うんだね」

「ゆうなさんの……みこになりにきました…」

 

 ☆

 

(うん、篠目ちゃんにやっぱり似てるや)

 

 あれ以来、篠目という少女と出会い、色々接していく中で、東雲の中で何か変わった様な気もする。

 東雲にとって、篠目という少女は心に拠り所であり、絶対に帰るべき場所だ。

 あの子を置いて戦死するという選択肢は東雲にはなかった。

 

 そして、その少女に似ている郡千景の存在。

 それは東雲の心を大いにざわめつかせた。

 

 赤嶺は話が終わった様で、最後に一言言っている。

 

「それじゃあ、またね。後輩に先輩…そして、あは。お姉様」

 

 お姉様とは一体誰なのか、東雲は一瞬思ったが、赤嶺が去った今、ここには用はない。

 最後に、東雲も勇者達の元に降り立つ。

 

 さっきまで、木の上でこちらを見下ろしてきた男がこちらに接近してくる。

 後ろに大量のバーテックスを率いて。

 勇者達は冷や汗をかきながら、各自戦闘態勢に入る。

 しかし、東雲はそれを無視して郡千景に近づいた。

 

「なっ」

 

 一瞬のうちに懐に入った東雲に驚く千景は、思わず武器を落としてしまう。

 そして、東雲はそのまま千景の手を両手で握り、ニッコリと顔の近くでこう言い放つのだった。

 

「じゃあね」

「ーーっ!」

 

 友奈の顔で、そして友奈の笑顔で千景に微笑んだ東雲。

 その東雲も、気がつけば千景の目の前から消えていた。




フラグ?恋愛?そんなもん無いよ。ややこしくなっちゃう。

誤字とかありましたら是非教えてください。
感想もお待ちしてます。


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六話『日常』

 千景は手を見ながら考える。

 

『じゃあね』

 

 友奈によく似た、男から手を握られて友奈の顔で友奈の笑顔を見せた…あの男。

 最初は怖い感じがした、なのに何故か今ではそんな感じも無い。

 本当に千景に会えて嬉しそうな顔をしていたのだ。

 

 ☆

 

 東雲は今、讃州中学屋上に来ている。

 それは、赤嶺が勇者部の面々と接触すると言うことで、東雲は赤嶺が帰ってくるまで待機しているのだ。

 

 そして、一陣の突風が屋上に吹いたと思ったら、赤嶺が目の前に立っていた。

 

「ただいまぁ」

「おかえり!」

 

 そして二人はそのまま帰ることにする。

 

「そういえば、勇者部で何を話してたの?」

「うーん、宣戦布告とお姉様の顔を見にかなぁ」

「…お姉様って?」

「勇者、古波蔵棗…」

 

 そして赤嶺は語り出した。

 赤嶺の先祖は、もともと沖縄に住んでいた。

 しかし、バーテックスが攻めてきて赤嶺家や他の家も四国に逃げなければならない状況に陥った。

 そして、その時、海を渡る際に赤嶺の先祖を助けてくれたのが、古波蔵棗という勇者だったと言う。

 

「そこで、尊敬の意を込めてお姉様って呼んでるの」

「へぇ、すごい人なんだねぇ」

「まあ、西暦の勇者は全員すごいけどねぇ」

 

 そんな感じで話していたら、二人が住む家に帰ってきた。

 次の戦いは二日後を予定している。

 それまでに神樹側の勇者が攻めてくるかどうかは分からない。

 一応準備だけしておくに越したことはないだろうと、赤嶺は作戦を練り出した。

 

 そして東雲は夕飯の買い出しに出かける。

 作戦云々は、赤嶺に任せきりだ。

 東雲は戦術の勉強などはしておらず、赤嶺ほどの作戦は練れない。

 それは持ち前の優しさからくるものだろう。

 

 東雲は今日の分の買い出しを終え、帰路につく。

 造反神が占領している地域でもライフラインは充実している。

 それは造反神が神樹の代わりをしているからだ。

 なので、人々は変わらず生活を続けることができるのだ。

 ちなみに領域に勇者や巫女が入ってくると戦闘とみなし樹海化もせずに襲いかかることができるのであった。

 

「そういえば、あの子の名前聞いてないや」

 

 東雲は今日あった千景の事を考える。

 

(やっぱり似てるんだよなぁ、目元とか)

 

 それは、東雲の一番守りたい人、篠目と比べてのことだった。

 性格は違うが、容姿だけで言うとかなり似ている。

 その為、東雲は別人であろうが、久し振りに会うあの子に挨拶だけしておいた。

 

(でも敵かぁ…あまりあの子とは戦いたく無いなぁ)

 

 それは篠目と戦っているようで、あまり気乗りしないと言うことだった。

 しかし、こうなってしまった以上、東雲も全力で頑張るしか無いと思う。

 覚悟を決めなければならない。

 

「あ、大判焼き」

 

 生地のいい匂いが屋台から漂ってきて、東雲はそのままふらっと立ち寄り思わず二個買ってしまった。

 片方がクリームに片方があんこだ。

 クリームは東雲用、あんこは赤嶺用に買う。

 

(なんでか、いっつもクリームを買っちゃうんだよねぇ)

 

 こうして、緩やかな時間は過ぎていく。

 

 ☆

 

 大判焼きを赤嶺に渡したら「あ、あんこ饅頭だぁ」と呼び、大判焼きの呼び方論争が始まってしまった次の日。

 

 何もすることが無くなってしまったので、東雲と赤嶺は自主的に鍛錬を行なっていた。

 今、やっているのは組手であり、二人とも使う技が違うので、異種格闘技戦みたいな組手になる。

 

「ふっ」

「くっ」

 

 東雲は腰を落とし、手を上下に構える。

 これは東雲家に代々伝わる構えで、バーテックス戦の時も防御と攻撃が両立できるので助かった覚えがある。

 

 そこから貫手で赤嶺を攻撃する。

 なぜ貫手なのかと言うと、バーテックスを破壊するときは拳、牽制するときは貫手と技を使い分けているからだ。

 

「はあ!」

「…!」

 

 赤嶺は鋭い蹴りを東雲にお見舞いした。

 東雲は上の方の手を、蹴りに合わせ受け流す。

 そこから、赤嶺の裏拳が流れる様に飛んできたので、下の手で上に払う様に受け流した。

 同じような動作を流れるように何回も二人は行う。

 

 そして一時間後。

 

「つはぁ!今日はここまでにしよっか」

「そうだね、明日に響くし」

 

 明日はいよいよ襲撃の日。

 この日のために赤嶺は作戦を練った。東雲に見せたら、『うわぁ、本当に悪いこと考えるねぇ』と若干引かれてしまったような気もするが、この作戦に赤嶺は自信を持っている。

 

「はい、飲み物」

 

 東雲がスポーツ飲料を赤嶺に渡す。

 

「昨日といい本当に気がきくよね、東雲くんは」

「えへへ、それほどでも」

 

 すっかり仲良しになってしまった二人、二人して笑い合う姿は、まるで兄妹のようだった。

 

 明日は襲撃日、東雲は気合が入るよう、自分の頰を二回叩く。

 乾いたパァンと言う音がアパートの庭に響いたのだった。

 

 ☆

 

 千景が何やら元気がなさそうな雰囲気を醸し出している。

 高嶋友奈はゲームをしている千景の横顔を見ている。

 

 これは、何かから逃避している顔だと、高嶋は悟った。

 となれば、早速行動に移す高嶋。

 千景がゲームをクリアした頃を見計らって、後ろから抱きつく。

 

「どうしたの?ぐんちゃん」

「あ、高嶋さん」

 

 さっきまで険しい顔をしていた千景は高嶋が抱きついた事によって、すぐに優しい表情に戻る。

 そして、己の心境を今ポツリと高嶋に明かした。

 

「あの、東雲友奈って人」

「うん、東雲くんがどうしたの?」

「何処かで会ったような気がして…」

「え?」

「でも、会った記憶がないのよ。…それになんだか手を握られて安心してしまったというか」

 

 それは、高嶋に抱きつかれているのと同じ感情だと千景は思った。

 初めて会った男に手を繋がれて、安心してしまうだなんて、自分が軽い女になってしまったみたいだと思った千景。

 

(私には、高嶋さんがいるのに)

 

 そんな不安を、包み込むかのように高嶋の抱擁が強くなる。

 

「大丈夫だよ、ぐんちゃん」

「え?」

「私も同じこと思ってたんだ」

 

 高嶋もあの時、東雲に会い、何故だか他人ではないような気がした。

 結城友奈も同じ感想を抱いたと高嶋は聞いた。

 

「でもね、ぐんちゃんがそう思ったなら、東雲くんは優しい人なんじゃないかな?」

「…そうかしら」

「きっとそうだよ!だって同じ友奈なんだもん」

 

 高嶋は千景にニッコリと微笑みかける。

 それと同時に東雲の顔もフラッシュバックする。

 

(ううん、違う。高嶋さんは高嶋さんーー)

 

 千景は安心しきったかのように高嶋に体重をかける。

 それと同時に、高嶋もギュッと千景の手を握り、一緒に横になった。




突如として舞い込んだ、イラスト。
それを見てしまった私は驚愕する。
「うめぇ……」

というわけでステキなイラストを匿名希望様から頂きました。
本当にありがとうございます。
掲載許可はとっております。

びっくりしたよね。

さて昨日はぐんちゃんとしずくちゃんとシズクちゃんの誕生日でした。
その日のうちにポイント全部溜めちゃった。
ちなみに私の好きな勇者はぐんちゃんと友奈,sとくめゆ組のみんなです。

誤字とかございましたら教えてくれると嬉しいです。
感想もお待ちしてます。


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七話『決戦』

 そして決戦の日。

 

「さて、東雲くんは昨日言った通り、勇者達の陽動をお願いねぇ」

「うん!わかった!」

 

 樹海の中で、作戦を構築させていく準備に入る二人。

 今回は巫女達を捕獲するべく、赤嶺が讃州中学の本拠地、勇者部に攻め込むというものだった。

 巫女が居なくなれば、相手の移動手段であるカガミブネは使えなくなる。

 そして、その作戦は東雲の方にも通づるものがあった。

 

 東雲の目的は陽動+東郷三森の戦闘不能、こうすれば赤嶺の作戦同様、カガミブネを封じることができる。

 

 そして、万が一陽動がバレた場合にも東雲は東郷を抑える役目だ。

 

「それじゃあ行ってくるね、お互いの作戦の成功を祈ろー」

「…赤嶺ちゃん、気をつけてね」

「うん、まっかせて」

 

 そして、一陣の風が吹き赤嶺の姿が居なくなった。

 これから東雲は16名の勇者を抑えなければならない。

 

(出来るかなぁ)

 

 数の不利はバーテックスで埋めると赤嶺は言っていたが、そう簡単に行けるだろうか。

 そこが、東雲の気になるところであった。

 

 ☆

 

(来たか)

 

 木の上で、勇者達の姿を確認する。

 ここは様子見で、まずは第一陣のバーテックス部隊を送る手はずだ。

 

「よし、みんな頑張って行ってきてね」

 

 バーテックスは心なしか凛々しい顔立ちをして、東雲に頷いたように見える。

 そして、東雲の号令がかけられた。

 

「天津華撃団!出撃せよ!」

 

 神世紀でも、こうやって好きなように部隊名をつけて遊んでいたなと東雲の思い出が頭をよぎる。

 今回は篠目がやっていた旧世紀時代の古いゲームの部隊名を参考にさせてもらった。

 

 右手を前に突き上げ、バーテックスを前進させる。

 こうして、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 ☆

 

 次から次へと送られてくるバーテックスに勇者達も困惑する。

 バーテックス一つ一つが人の意思で動いているので手強いのだ。

 勇者二人でバーテックス三体を倒すのが精一杯なこの状況。

 しかも相手は前回同様東郷を執拗に狙っている。

 

 なにかがおかしいと思っていた伊予島杏が戦いの場を整理し、とある一つの考えにたどり着いた。

 

「消耗以外の作戦……ああ…!まさか!」

「どうしたんですか!?」

 

 近くにいた鷲尾須美が杏に話しかける。

 

「もしかしたら敵は本拠地である、勇者部に奇襲をしているのかも…!」

 

 そして、勇者達の行動が変わる。

 東郷を執拗に狙っていたバーテックス達を押しのけ、そののまま東郷を中心に密集の陣形をを取り始める。

 それを見ていた東雲は、異変に気付く。

 

(まさか、陽動がバレた…?この短時間で)

 

 いま、勇者達を取り逃がしたら、赤嶺の負担が大きくなる。

 東雲は急いで、勇者達の足止めに向かった。

 

「っ!東雲…友奈!」

 

 青い勇者服を着、刀を持った勇者、乃木若葉が東雲の存在にいち早く気づいた。

 

「天津華撃団、全軍前へ」

 

 東雲が手を上にあげ、バーテックス達に合図をする。

 それは決して、この場から誰一人逃がさないという意思を感じられた。

 

 勇者のうち誰かをここに残して東雲の相手をすれば退けれるという考えが勇者達の頭に浮かぶ。

 しかし、実力も未知数の東雲を相手、それにバーテックスの大群に何人ほど残せば足りるのかという疑問が頭に浮かんだ。

 

「…私が行くわ」

「ぐんちゃん!」

 

 郡千景が東雲の前に出る。

 こういう役は千景はあまり趣味ではない。

 しかし、ここで東雲の真意を確かめたいという気持ちもあった。

 

「…じゃあ!アタシも残ります!」

 

 三ノ輪銀も千景の横に並び、前に出る。

 

「さっき、銀影隊を作ったばっかりですからね!」

「…ええ、そうね」

「銀が残るならタマも残るぞ!遠くの敵はタマにお任せだ!」

「私も…銀が心配なので残ります」

「園子も残るんよ〜」

 

 そして遠距離担当の土居珠子、鷲尾須美、中距離の乃木園子(小)もここに残ることが決定した。

 

「「じゃあ!私も残る!」」

 

 それを見た高嶋友奈と結城友奈も一緒に声を上げる。

 二人の友奈も東雲の真意を確かめたいと思ったと同時に、この不思議な感じはなんだと知りたいのだ。

 

「友奈ちゃんが残るのなら私も残る必要があるわね」

「東郷ー、アンタ、カガミブネ使うって役目があるの忘れないでね」

「そんなっ!」

 

 東郷も残ろうとしたがそれは風によって阻止される。

 

「しょうがないわね、友奈だけじゃ心配だから私も行くわよ!雑魚処理は任せなさい!」

 

 それならばと、三好夏凛が二刀を構えて前に出た。

 

 こうして、東雲友奈足止め部隊が完成したのであった。

 

 ☆

 

「…半分ぐらい逃げられたか」

 

 東雲は止められなかったことを悔いる。

 これでかなり赤嶺の負担が大きくなるはずだ。

 そして、東雲を足止めするために用意された勇者達、千景、銀、須美、園子、高嶋、結城、珠子、夏凛。

 

 東雲を相手するのは、千景、高嶋、結城、銀の四人になり、大量のバーテックスは残りに任せることになった。

 

(僕を足止めする勇者は四人か…大丈夫かな)

 

 東雲も対人戦をやったことがなく、赤嶺と昨日練習したと言っても、それにも限界はある。

 そして、今回の戦いは東雲は少し分が悪い。

 篠目によく似た少女、千景を相手にすることになるからだ。

 

 そして、相手に結城友奈がいるということも大きかった。

 伝説の勇者にどれだけ奮闘できるか。

 それが疑問だった。

 

 そして、高嶋と銀。

 高嶋の方も同じ友奈だということで結城と同じような警戒をしているが、銀の方は未知数であり、その大きな二つの斧みたいな武器で何をするのか分からないところが大きい。

 

 しかし、見ればわかる。

 かなり強いことは。

 

「やあああ!」

 

 銀が東雲に突進し、その合図で残りの3人も走り出す。

 銀の持つ双斧が東雲に向けて振り下ろされる。

 しかし、東雲にあたることはなく、地面を抉る。

 

 東雲は銀の攻撃を後ろに避けていた。

 そして追撃が来る。

 

 友奈達が東雲を挟み込んでいたからだ。

 

「勇者!」

「パーーンチ!」

 

 東雲は左右からくるパンチを上に避ける。

 しかしこれは失策だった。

 

「!」

「はああ!」

 

 千景が、上で待機していたのだ。

 そのまま大葉刈の峰打ちを横腹にくらう。

 

「ぐは!」

 

 そのままゴロゴロと地面を転がったが、すぐさま起き上がり構える東雲。

 相手の力量を見誤ってしまったことを反省して、次はこちらが仕掛ける。

 

 同じように、銀が東雲に向かっていくのを確認し、またもや後ろに避ける。

 そして、両方からの友奈達が放ったパンチを両手で受け止める。

 

「その技は…さっき見たよ!」

「きゃあ!」

「うわ!」

 

 高嶋と結城の拳を掴み、前に叩くように押し出す。

 そこには銀もおり、友奈に挟まれる形で銀も攻撃を食らった。

 

「高嶋さん!結城さん!三ノ輪さん!」

「はああ!」

「くっ」

 

 東雲の貫手を辛うじて躱す、千景。

 千景も応戦するが、力量が違うのか東雲に押し切られてしまい、そのまま。

 

「二連撃ィ!勇者ァ!パアアアアアンチ!!」

 

 高速で二回の打撃を放つ。

 それを辛うじて大葉刈で受け止めたが、かなりのダメージが千景を襲う。

 

「きゃああ!」

「ぐんちゃん!」

 

 高嶋が東雲に向かって走りだし、そのままパンチを繰り出す。

 

「勇者パーンチ!」

 

 その技は東雲に見切られ受け流されてしまうが、その反動で高嶋は千景の元へ駆け寄れた。

 

「大丈夫!?ぐんちゃん!」

「…っ!なんとか…高嶋さんこそ…」

「私は大丈夫だよ!…それより」

「ええ…」

 

 二人は東雲の方を見る。

 こちらを見てそのまま動かない。

 まるで立つのを待っているかのようだ。

 

「いてて…大丈夫?銀ちゃん?」

「はい!三ノ輪銀、怪我はありません!…でも」

「うん…強いね…これまでの相手とは比べ物にならないかも…」

 

 これまでにない脅威が四人を襲う。

 

 ☆

 

(…流石に強いなぁ、ひやっとしたよ…)

 

 しかしまだ油断は禁物だと東雲は気を引き締める。

 東雲は倒れている相手に追撃するほど卑劣にはなれない。

 なので、相手が立ち上がるまで待とうと思ったのだ。

 

「よし、友奈さん私が引き付けるんで高嶋さんと千景さんで作戦を練ってください」

「銀ちゃん…!」

 

 銀は腰を低くし、また東雲に攻撃を仕掛ける。

 東雲は真っ向から迎え撃とうと、貫手で斧を受け止めた。

 

「うおおおおお!」

「!」

 

 そこから銀が連打で畳み掛ける。

 東雲も負けじと、応戦して、連打の応酬になる。

 そして徐々に二入はスピードアップしていき、遂には肉眼で捉えられるかどうかのスピードになっていた。

 二人の精霊が前に出ており、それらが守っているお陰で肉体には傷はつかない。

 

「す、すごい…」

「感心してる場合じゃないわ結城さん、何とかしてあの男を止めないと」

「…でもどうすればいいんだろう?」

 

 3人で唸る。

 かなり身体能力が高い東雲に対し、どう立ち振る舞うか分からないのだ。

 しかし、あることを千景が思いついた。

 

「…東雲友奈がパンチを放つ時、若干のタメがあるのだけれど、そこの隙を突けれないかしら」

「…うん、ぐんちゃんがそう言うなら!」

「結城友奈も大丈夫ですっ!」

 

 勇者パンチを引き出す役は千景が担当して、その隙をW友奈が突くという作戦だ。

 千景が東雲に向かって走り出す。

 

「……!待ってました!」

「三ノ輪さんも攻撃の手を緩めないで!」

「…りょーかいっ!」

 

 そして二人で東雲に攻撃を与える。

 

(くっ…!直撃したら…危ない、一気に行くしか…)

 

 そう思った東雲は二人の武器を手のひらで受け止め、そのまま掴む。

 そして、前へ押しのけ、無理矢理隙を作る。

 

「二連撃ィ!勇者ァ!」

「今よ!」

「「勇者!パーーンチ!!」」

「しまっ」

 

 タメにより隙を作ってしまった東雲は二人のパンチで弾き飛ばされる。

 

「ぐああああ!」

 

 直撃したら腹がズキズキと痛む。

 しかし、こんな所で立ち止まってはいられない。

 

「!まだ立てれるの!?」

「直撃したのに…」

 

 東雲友奈は咆哮する。

 それと同時に結城友奈も前に出た。

 

「うおおお!」

「やあああ!」

 

 二人とも走り、己の拳がぶつかり合う寸前。

 

 ーー樹海が解けた。

 

「よぉし!全部倒したぁ!」

 

 三好夏凛が吠える。

 それはバーテックスを殲滅したということ。

 これにより、東雲側の敗北が決定した。




華撃団…うん…あのゲームから持ってきました。ごめんさい
走れー高速のー勇者華撃団ー
唸れー衝撃のー天津華撃団ー

誤字とかありましたら教えてくれると嬉しいです。
感想もお待ちしてます。


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八話『敗北』

 樹海が解けたことにより、赤嶺、東雲双方の造反神側の勇者は敗北した。

 敗北者に待っているのは、尋問である。

 東雲は後ろで手を夏凛に締められたので、一応神妙にしている空気を出す。

 

「さあ、造反神側の勇者……貴方は一体何なのか教えてもらうわ」

 

 千景が東雲の首元に大葉刈の先端を突きつける。

 それを冷静に見下ろし、これは逃げられないと悟った東雲は喋り出した。

 

「僕の名前は東雲友奈…造反神側の勇者だよ」

 

 いつもの口調、声質で喋り出す東雲。

 男にしては高い声の持ち主で、喋り方は友奈にそっくりの喋り方だ。

 

「それは分かってんのよ!アンタはいつの時代の勇者って聞いてんの!」

 

 夏凛が東雲に怒鳴る。

 取り敢えず喋っておかないと、この場から離れなさそうだし大人しく答えることにした。

 

「最初に言うけど驚かないでね、神世紀800年だよ」

「「ええええええ!?」」

「「未来!?」」

「いつも思ってたけど、何でアンタ達はそんなにハモるのよ…」

 

 珠子と銀と高嶋と結城が声を揃えて驚く。

 そこにすかさず夏凛がツッコミを入れた。

 そして、東雲は『驚かないでって言ったのに』と少し不満を漏らした。

 そしてまたある者は…。

 

「すぴーすぴー」

「ああ、そのっちが眠っちゃったわ」

「おーい起きろー園子ー」

「ふあっ〜、あまりの衝撃に頭がふわーってなってたんよ〜」

「それただ眠たかっただけなんじゃ…」

 

 小学生組が漫才を繰り広げているのを、千景が横目で見て、少しため息をついた。

 

 東雲の方に視線を戻す。

 神世紀800年…未来から来た友奈の話を信じるかは難しいが、まっすぐ千景の目を見ている東雲の顔を見ると、どうしても高嶋がフラッシュバックする。

 

 途端に、仮にでも友奈である存在に刃を向けるのはどうかと思い、大葉刈を千景は下げた。

 

「…まあ、その話は置いておきましょう。さて、単刀直入に聞くわ」

「なに?」

「貴方達、造反神側の狙いは何?そして造反神というのは?それを教えてくれる」

 

 東雲は一旦目を瞑る。

 そして、ゆっくりと目を開けた。

 それは、千景の顔をまたよく見るためだ。

 そして、千景の質問には出来る限り答えてあげたいが、この質問に東雲は答えられるはずがない。

 

 だって東雲は。

 

「うーん、知らない…かも…」

 

 何も聞かされていないのだから。

 

「…っ!ふざけているの!?」

 

 千景はまた大葉刈を東雲の首元に置く。

 この男はふざけてこんな答えをした、友奈の顔をしてそんなことをするのは許せないと思ったからだ。

 

 しかし真剣な顔で東雲は千景の言葉に答える。

 

「本当だよ、何も知らないんだ」

「アンタ…!適当な返事してると承知しないわよ!」

「いてて、ちょっと腕締めすぎだよ…」

 

 夏凛は条件反射的に締め上げてしまった腕を少し緩める。

 どうも、友奈によく似ている相手だと調子が狂うようだ。

 

「…嘘よ」

「…信じなくたっていいけど…僕からは何も情報は出せない」

「吐かせるわ」

「知らないものを?どうやってするの…」

 

 目に見えて東雲が落ち込んできた。

 仕方ない、ここまで勇者に囲まれて、知らないものを吐けと強要されているのだから。

 

「ねえ、ぐんちゃん…」

「うん、東雲くん嘘…言ってないよ…私たちには分かるんだ…」

 

 いたたまれなくなったのか、友奈達が千景を止める。

 そして、東雲の目を見て高嶋と結城は確信していた。

 確実に嘘は言ってないと。

 

「そうですね…千景さん…」

「そうだぞ千景…少し手加減してやろう」

 

 銀や珠子も止めに入る。

 いつもなら、千景はここで意固地になっていただろう。

 しかし、今は小学生も見ているし、何より高嶋と結城が止めている。

 ここは信じてみるのもアリかもしれないと千景は思い大葉刈を下ろす。

 

「そうね…少し熱くなってたわ」

「その熱を冷ますために、水垢離でも明日からしますか?」

「鷲尾さん…遠慮するわ」

「あらら〜わっしー振られちゃったね〜」

 

 毎朝水垢離は流石に体力が持たないと思い、すぐに断る千景。

 断られたショックで暗くなる須美を慰める園子であった。

 

「…仕方ないわね、私も一旦…って、ああ!」

 

 夏凛の拘束が緩まった瞬間だった。

 逃げれるタイミングはここしかないと思い、東雲は体をひねって拘束を無理矢理解除させる。

 びっくりした勇者達は一歩反応が遅れ、その合間の時間で、東雲は建物の屋上へ飛び移る。

 

「ごめんね!赤嶺ちゃんから逃げれるときは逃げろって言われてるから!」

「ちょっと!待ちなさい!」

「あはは!それはちょっと無理かも!じゃあね!また会お、ぐんちゃん!」

「っ!」

 

 ぐぬぬと唇を噛む夏凛、そしてその次は肩を落とした。

 

「ごめん…みんな」

「気にしないで夏凛ちゃん!失敗は誰にもあるある!」

「そうだよ!それにまた直ぐに会えるよ!

「…バーテックスを連れてくるのであれば、直ぐには会いたくないわね…」

 

 こうして、東雲足止め部隊の戦いは終わったのであった。

 

 ☆

 

「…確かこの辺り…」

「あ、東雲くん!おーい」

 

 決戦の前、作戦が終わったら集合すると言い、集合場所を決めていた。

 そして、その集合場所に行ったら赤嶺が手を振って待っていた。

 

「どうだった?そっちは」

「うーん、負けちゃった」

「うん僕も」

 

 そして、二人はそのまま反省会を始める。

 最大の敗因は優秀な指揮官が向こうにいたことによる時間稼ぎの失敗。

 そして、切り札の存在をすっかり忘れていたことである。

 

 赤嶺はまさかあのタイミングで変身されるとは思ってもなかったので、意表をつかれそのままズルズルと負けてしまった。

 

「あの後援軍が来てねぇ」

「…ごめんなさい」

「ま、東雲くんが悪いわけじゃないしいいよ、今回はちょっと下調べがうまく行ってなかっただけで次は勝てる」

 

 そして、二人の状況報告。

 二人とも負け、赤嶺は少しの情報を神樹側に開示したようだ。

 東雲は何も聞かされてなかったので、情報提供する事はなかった。

 

 そして、収穫もある。

 それは篠目に似ている女の子の名前が判明したのだ。

 

「…ぐんちゃんか、いい名前だね」

 

 こうして初の戦闘は苦い結果で終わったのであった。




とゆうわけで、ようやくゆゆゆい13話分まで終わりました。
これから軽く日常編と東雲友奈の章『閑話』を投稿してゆゆゆい14話分の準備に入ろうと思います。
さっくりと進めたいけど今の技量では無理かも…。

ぐんちゃん、しずくちゃん、シズクちゃんガチャ爆死した。

誤字とか見つけたら教えてくれると嬉しいです。
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九話『日常』(2)

今日は二本です。


 アパートの一室に、ちゃぶ台の前で行儀よくご飯を待っている赤嶺友奈の姿があった。

 

「はーい、ご飯できたよ赤嶺ちゃん」

「やったー」

 

 今日の二人の夕飯は麺つゆで作った炊き込みご飯に天ぷらの盛り合わせだ。

 この世界に来る前に東雲は自炊をしていたのでこれくらいは朝飯前である。

 

「本当に美味しいよねぇ、東雲くんのご飯は」

「褒めても何も出ないよー」

 

 東雲は若干照れながらも、お茶碗にご飯をよそっていく。

 キノコやタケノコ、そして魚のいい匂いが鼻腔をくすぐり、お腹を空かせる。

 

「いただきまーす」

「おあがりなさい」

 

 この世界にきて、二人で寝食を共にする中で、かなり仲良しになってしまった。

 側から見ると本当に中の良い兄妹みたいだ。

 まあ、二人とも同じ友奈でかなり容姿も似ているので仕方ない事なのだが。

 

「おかわり、お願いしよっかなぁ」

「はーい」

 

 そして赤嶺はご飯を掻き込み、おかわりを要求する。

 東雲はおこげの部分を少し多めによそい、赤嶺に渡す。

 

「はい」

「ありがと、うーんおいしいー!」

 

 赤嶺は目を細めながら、心底幸せそうな顔をする。

 ここに来て一人で居た時は、こんなに美味しいご飯にありつけなかったから感動も二倍になっているのだろう。

 しかし、東雲は少し気がかりなことがあった。

 

「そういえば、もうそろそろ学校では身体測定の時期だね」

「うーん、そうかな?」

 

 そして、東雲は横に置いてあるものを赤嶺に見せる。

 

「じゃーん、僕たちは学校に行けてない分、体重だけでも測っておいた方が良いと思って用意しましたー!」

 

 それは体重計。

 乙女にとって最大の敵、脅威とも言える敵がそこに居た。

 

「……まあ、私は大丈夫…?だし」

「赤嶺ちゃん、結構ご飯食べるから、ちょっと心配なんだ。僕には教えてくれなくても良いから、後で乗ってみたら?」

「……ま、まあ、東雲くんがそういうなら…」

 

 そして二人ともご飯を食べ終わり、東雲が食器の片付けをしている頃、自分で掃除したお風呂にお湯を張り、一番風呂を堪能している赤嶺がそこに居た。

 

「…またおっきくなっちゃったかな?」

 

 豊満な胸がお湯に浮いてくる。

 赤嶺が前に見た時と、少しサイズが違うような気がしたため、今度測りに行こうと思った。

 そして、計るといえば。

 

 体重…思春期の乙女の心を絶望に染め上げる、人類最悪の敵。

 

 赤嶺は少し、察していた。

 そして頭の中で言い訳を始める。

 だって、東雲くんの作るご飯が美味しすぎるもん。

 だって、おやつが美味しすぎるもん。

 

 その他諸々、頭の中で勝手に言い訳を行う。

 

 そして、少しお湯に長いこと入っていたので、のぼせそうになり一旦お風呂から出た。

 

 タオルを体に巻き、体重計の前に立つ。

 そしてそーっと、赤嶺は体重計に乗った。

 

 結果は目を瞑っていてまだ見えない。

 しかし、このままではダメだと思い、恐る恐る目を開ける。

 

 そして、赤嶺は。

 

「きゃあああああ!!」

 

 絶叫した。

 

「ど、ど、どうしたの!?赤嶺ちゃん!」

 

 女子がお風呂場にいるので、無理な突撃もせず、中に入ることもできず、扉の前でモタモタする東雲。

 すると、か細い声で扉の向こうから声が聞こえた。

 

「ーーてた」

「え?」

 

 声がか細すぎて、東雲の耳には入ってこない。

 扉に耳を押し付けて、もう一回聞く。

 

「な、なんて?聞こえないよ!」

「増えてた…」

 

 ピシリと東雲の体が硬直する。

 そして、恐る恐る東雲は口を開いた。

 

「な、何キロ?」

「ーーキロ」

 

 今度ははっきり聞こえ、東雲の脳内に届く。

 そして、東雲がすぐに最良の方法を導き出し、赤嶺に提示する。

 

「赤嶺ちゃん…明日から練習量、増やそう」

「はい…」

 

 こうして、ドタバタ友奈ハウスでの一日が過ぎていく。




赤嶺ちゃん、オムネオオキイ(思考停止)


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十話『日常』(3)

『園子の夢(出張版)』

 

 園子たちがいつものように、部室に入ると、そこはまるで違う世界だった。

 

「来たな、園子」

 

 薄い金色の髪をして、丁寧に切り揃えられている長身の男が園子たちの目の前にいる。

 どうやら今はその人物しか部室にいないようだ。

 

「うーん、どこかで見たことあるー?」

「あ〜もしかしてご先祖様?」

「おいおい、まだ寝ぼけているのか?」

 

 どこからどう見てもイケメンにしか見えないこの人物こそ、乃木若葉本人であった。

 自分が男になっていることにもさして驚いてない様子から園子は夢だと悟る。

 

「あれ?若葉くん早いですね」

「ああ、ひなたか」

 

 少し長い黒髪をかきあげるように、男用のカチューシャをつけた謎の色気を醸し出す、長身のイケメンが部室に入ってくる、それは上里ひなた本人だった。

 

「あわわーイケメンさんが増えたよ〜」

「うんすごいね〜イケメンさんだね〜」

 

 園子たちは夢だと分かってしまったのでこの状況を楽しむべく、マジマジと二人を見る。

 そして部室が空いて、残りの西暦組も入ってきた。

 

「あれ?今日はタマたちだけか?」

 

 小柄の幼い印象を受ける、可愛らしい男の子、土居珠子…いや今は土居珠緒とでも呼ぼうかと園子たちは思った。

 

「そう見たいですね、タマっち先輩」

 

 長髪の金髪を揺らしながら入ってくる長身の、ゆったりとした印象の男の子、伊予島杏。

 

「何をやっているんだ、君たちは」

 

 黒い綺麗な髪をしており、おかっぱ頭にスタイリッシュな眼鏡をかけたイケメンの男の子、郡千景。

 

「楽しいことやってるの?みんな」

 

 短く切り揃えられた、赤っぽいピンク色の髪に花の髪飾りをつけた男の子高嶋友奈。

 

「うわ〜イケメンさんが増えたね〜」

「そうだね〜イケメンさんでいっぱいだね〜」

 

 二人して体を揺らし、この状況を楽しむ園子たち。

 すると突然、部室の窓が空いた。

 

「やあ、お邪魔するよ」

 

 褐色の肌に友奈とよく似た顔、短く切り揃えられた髪、赤いリボンをチョーカーのようにつけたイケメン、赤嶺友奈まで現れた。

 

「「もしかして〜?」」

 

 園子たちは期待を胸に寄せる。

 それはここまで部室にイケメンがいる、そして赤嶺が来るとなれば次は絶対に女体化した東雲だろう。

 

「待って!赤嶺ちゃん!これ何!?このひらひらしたスカート!?え?なんで胸があるの?え?」

 

 まんま高嶋や、結城と同じような女の子が基本的なセーラ服に身を包んで窓から入ってきた。

 入ってくるときにちらりと可愛らしいピンク色の下着が見えた。

 

「「「「「「「!!!???」」」」」」」」

 

 さすが多感な時期の中学生。

 ちらりと見えた下着を見てしまったことにより、各々顔を赤らめる。

 

「し、東雲ちゃん…入ってくるときはスカート気にしようか…」

「…そ、そうだぞ!君は敵とは言え、女の子なんだからな」

「!?なんでこの人たちも男の子になってるの!?」

 

 赤嶺が注意した後、若葉も注意する。

 しかし、それどころではない東雲は遠慮なしに赤嶺にその豊満な胸をぶるんぶるんさせながら、赤嶺に詰め寄る。

 

「あわあああああ!」

 

 赤嶺が酷く狼狽して、窓から自主的に出て行った。

 

「待ってよ!これ説明してよー!」

 

 東雲が赤嶺を追いかけて行った所で、園子は夢から覚めたと、イネスのジェラートコーナーで小学生組で歓談していた。

 

「女の子になった東雲友奈…」

「うーん…ロック…?」

 

 ☆

 

「なんか悪夢を見たような気がするよ…」

「僕も…」

 

 友奈ハウスでは何故か、園子の夢と連動してしまった東雲が無意識のうちに赤嶺にまで連動してしまったようで、二人して悪夢を見たとため息を吐いた。




最終回の構想とか全部思いついてるんだけど、その間のお話を考えるのしんどい。
東雲友奈の章はぼんやりと出来てはいるけど、長引きそう。

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十一話『質疑』

 勇者部の部室に、緊急として東雲友奈と戦った勇者たちが集合した。

 議題は『本当に東雲友奈は敵なのか?』である。

 あの時に戦った勇者たちはある疑問を抱いていた。

 

 まず一つ。

 造反神側の勇者でありながら、造反神側と赤嶺友奈の目的を一切知らない事。

 そして二つ。

 態度が急変した事。

 

 一つ目は置いておいて、問題は二つ目だ。

 勇者たちに最初にコンタクトを取った、東雲友奈はとてつもなく冷ややかな目をしており、聞く声は怖気が全身を襲うような感覚。

 

 しかし、捕まえてみれば、友奈のような表情に友奈のような性格。

 まるで、敵とは思えない。

 

「どっちにしろ…東雲友奈は放っておくわけにはいかないな…」

 

 横で聞いていた乃木若葉がこの先どうするかを述べる。

 東雲友奈が味方であろうと、敵であろうと、この先嫌でも戦っていくことになる。

 その時にいずれ、答えは出るだろう。

 

 そう勇者たちは結論づけた。

 

 ☆

 

「さて、次の戦いまで私は準備に取り掛かるよ」

「準備?なにするの?」

 

 赤嶺が戦いに備えて準備する。

 その言葉を聞いて、東雲はまた悪いこと考えているんだろうなと思った。

 そして、作戦の内容を赤嶺に聞く。

 その作戦内容を聞き、東雲は軽く顔をしかめた。

 

「うひゃ〜…ほんと悪いこと考えるよねぇ…」

「ん?今回はドン引きされたような気がするよ?」

 

 ここ数日で赤嶺は東雲の顔を見て、見たこんな事を考えているなという事まで分かるようになった。

 ちなみに今回は本当にドン引きしている顔だ。

 しかし、東雲は誰も傷つかないのならそれもまたアリかと思ってしまう。

 

 そうして、赤嶺は作戦の準備に入った。

 東雲は取り敢えず、勇者たちが攻め込んだ時に迎撃する、バーテックスの指示を担当することになった。

 しかし、たった一人で勇者たちに立ち向かうのは無謀すぎるので、赤嶺が準備を終えるまでは戦闘には参加しない手はずだ。

 

 そのおかげで、かなりの愛媛の領土は取られて、遂に半分まで取られてしまう結果になってしまった。

 

「うわぁ…赤嶺ちゃん怒るかなぁ?」

 

 東雲は基本指揮というのに慣れてはいない。

 それは神世紀800年で一人で戦っていた弊害だろう。

 なので作戦を練り、相手を罠に嵌めるというのが得意ではないのだ。

 

「そっかー大分取られちゃったんだね。まあ予想通りだしいいか」

「うう…ごめんなさい」

「そんな謝らなくていいよ、東雲くんはよくやった方だって。勝たれると少し困るしね」

 

 アパートに戻った東雲はここ最近集中して、ご飯とお風呂以外準備を進めていた赤嶺に誤る東雲。

 しかし、赤嶺は怒るどころか褒めてくれた。

 この行動に少し疑問を抱く。

 赤嶺は勝たれると少し困ると言っていたが、領土が取られても良いのだろうかと東雲は思った。

 

 東雲は思う。

 赤嶺はまるで、彼女たち勇者を、何か試そうとしているみたいだと。

 

 東雲はこれまで、赤嶺の言う事を聞いてただ命令を実行してきたわけでは無かった。

 暇があれば、造反神側の勇者の目的というのを東雲は一人で探っていた。

 しかし、手がかりとなるものは、なに一つ無かったのだ。

 

 東雲には勇者の適性は非常に高いが、神の声を聞く能力、巫覡の適性は皆無であり、造反神にはコンタクトは取れなかった。

 

 赤嶺には、造反神側用意した勇者服があるのでそれで信託を受け取ることが可能だと東雲は考えた。

 

 そして作戦決行日前日。

 

「ねえ、東雲くん。ちょっと実験しても良いかな」

「実験?」

「うーん、試用って言うのかな?最終調整に入りたいし」

「ああ、あの作戦に使う精霊のこと?」

「うん、で?どうかな?」

「……それ僕に使っても大丈夫なの?」

「どうやら、造反神の加護に入ってる勇者はどうやら、質問に答えられなくてもその後の影響は無いんだって」

「そうなんだ、じゃあ良いよ」

 

 実験に快く引き受ける、東雲。

 赤嶺は本当に人がいいなと思ってしまった。

 こんな怪しい実験を引き受ける東雲は少し危機感を持った方がいいと同時に思う。

 しかし、それはそれ、赤嶺は戦闘不能効果があったとしても東雲は絶対に帰ってくると確信していた。

 

 そして、東雲はいつのまにか前にいた自分の分身と向き合う。

 

『ふふ、こんな状況になってもあまり驚かないんだね』

「まあ、前に話は聞いてるしね」

 

 自分の分身とにこやかに話し始める東雲に対し赤嶺は流石だなと苦笑いを浮かべる。

 

『じゃあ、そろそろ始めるよ。ドーーン』

 

 そして東雲の目が虚ろになる。

 精神世界に入るのは成功したみたいだと赤嶺は確認した。

 

 ☆

 

「ん、どうやら成功したみたいだね」

『うん、結構すんなり入り込めたよ』

 

 東雲はいつのまにか白い箱のような空間に閉じ込められたことに対してそれほど驚きもせず、自分の分身に向き合った。

 

『さて…最初の質問だけど…君は戦うのは怖い?』

「うん、怖いよ」

『即答だね、さて次は…』

 

 こうして何気ない質疑応答が繰り返される。

 分身が喋る質問の内容は、東雲にとってはたわいもない事であって、効く人には効く質問も織り交ぜられている。

 しかし、東雲はその質問に対して即答で答えていった。

 

『うん、なんだかただのカウンセラーの真似事みたいな感じになってきちゃったね…さて本番行くよ』

 

 本番とは一体何かと思った東雲は、次の質問で少し間が空いてしまうことになる。

 

『君は、篠目ちゃんの事、どう思っているのかな?それは……恋愛的な意味での好きでいいのかな?』




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十二話『応答』

あなたのためにぐんちゃん一向に出る気配ないです。うみうどんの来世にご期待ください。


 東雲は声が詰まる。

 まさかその質問がされるとは思ってなかったのだ。

 分身は対象者の記憶を除き、その人間の弱いところをついてくる。

 そして、その質問は東雲には効果覿面だったらしく、珍しく困ったような表情を浮かべる。

 

『…時間経過は少し危険だよ、たとえ天津神の力を持ってしてもここに長時間止まるとなると、どうなるか分からないよ』

 

 早く答えなければならないのに、うまく言葉に出来ないもどかしさ。

 確かに篠目のことは好きだ、しかしそれは友人としての好きであって、恋愛的な意味での好きではないと脳をフル回転させる。

 しかし、恋愛的な意味での好きも思い当たる節があった。

 

 ☆

 

 それは神世紀800年8月ーー。

 東雲の一室に東雲と篠目の姿があった。

 

「さあ、篠目ちゃん!火を消して!」

「はい!…ふー!」

 

 この日は篠目の11歳の誕生日だったことを東雲は鮮明に覚えている。

 二人だけの小さな誕生日会だったが、篠目はすごく喜んでいたのだ。

 篠目がケーキを口いっぱいに頬張り、頰にクリームが付いてしまうほど夢中に食べている。

 

「篠目ちゃん、口」

「え?」

 

 東雲は頰の付いたクリームを人差し指ですくい、舐めとる。

 いくら優秀な巫女であろうと、まだまだ子供だなと思ってしまった。

 しかし、東雲の行動は少しデリカシーがなかったと言える。

 顔を真っ赤にしてしまった篠目が、俯いてしまう。

 

 しまった、やってしまったと思ってしまった。

 いくら子供でも、女の子だ。そんな女の子の肌を無断で触ってしまうなど、配慮に欠けていたと東雲は思う。

 

「あ…篠目ちゃん?」

「……ゆうなさんはずるいです…。私の気も知らないで…」

 

 やはり相当傷つけてしまったようだ。

 東雲は猛省する。せっかくの誕生日なのにこんなことになってしまったなんて。

 

「だから…これはお返しです…」

 

 篠目は東雲に近づく。

 そして、東雲の頰に篠目がキスをした。

 

「…え?」

「ゆうなさんはこうやって行動で表さないと…わかってもらえないから…」

 

 そして、篠目は部屋からケーキを持って飛び出してしまった。

 東雲は自分の頰に手を当てる、柔らかい唇の感触がいまだに残っていた。

 これは子供のしたことだ…。しかし、そう割り切ろうとしても割り切れない自分がいる。

 

 結局この件は後で東雲に御役目の出動要請がかかり、あやふやになってしまった。

 そして、この世界に連れて来られた後でも、今だに自分の答えが出せずにいる。

 

 ☆

 

『さ、答えは出せたかな?随分考え込んでたようだけど』

 

 東雲はゆっくりと目を開ける。

 考えがまとまった、顔つきに見える。

 より一層凛々しい顔になったと分身は思った。

 

「…今はまだわからない」

『分からない?そんなはずは』

 

 東雲は分身の言葉を遮るように、喋る。

 自分の思い。

 そして決意を。

 

「だけど、僕は篠目ちゃんのことを本気で守りたいと思っている」

『…!』

「一緒にいると、心がぽわぽわしてくる。そんな篠目ちゃんの隣に居続けたい。だから守る!だって僕は……勇者だから!」

(……ふふ、それが恋という感情じゃなかったらなんだっていうのかな)

 

 分身は何か諦めた表情をする。

 これは自分が教えることではない。東雲自身が答えを出さないといけない問題だと思ったからだ。

 

『うん、いい回答だね。負けたよ…。さあ、一緒に神樹側の勇者たちに勝とうか!』

「うん!」

 

 こうして精神世界は溶けていく。

 

 ☆

 

「…おかえり」

 

 東雲は目を覚ますと、目の前に親指をぐっと立てた赤嶺がいた。

 

「ナイスファイト」

「うん」

 

 精神の部屋に閉じ込められた時より、現実の世界は少し時間は経っていた。

 それほど、東雲は考え込んだというわけだろう。

 

「東雲くんの事だから一瞬で帰って来れると思ったけど」

「ちょっと、大事な事考えてたんだ」

 

 赤嶺が何かニヤついた顔で東雲に近づく。

 

「何考えてたの?」

「…内緒!」

 

 赤嶺は思った、前より少し顔がスッキリしていると。

 何か憑き物が落ちたような感じだ。

 そして赤嶺は思う、計画通りだと。

 

「ふーん、まあいいけど…。さて問題はなかった?」

「うん、問題はなかったよ。でも、これは失敗した時、相手の士気が高まるやつだね」

「それは唯一の欠点だね」

 

 二人して笑い合う。

 こうして夜も更けていき、次の日に備える。

 

 夜空を見ながら東雲は思う。

 

(待っててね、篠目ちゃん。必ず帰るから)

 

 遠い時代にいる、篠目に想いが届くように東雲は祈った。

 そしてこの想いが伝わったかどうかは、また別の話だ。




『はあああ!?キス!?灯さん、東雲さんにキスしたの!?』
「う、うん…」
『は、犯罪が密室で横行されたわ……つ、通報…』
「ふえ!?つ、通報!?」

こんな会話が繰り広げられたとかなかったとか。

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十三話『精神』

 樹海、そこに神樹側の勇者たちと造反神側の勇者達が対峙していた。

 東雲の態度が180度変わっており、赤嶺は諦めた様子だった。

 そして、黄色と緑の色を織り交ぜた勇者服を着ている、白鳥歌野が話しかける。

 

「取り敢えず、挨拶して置こうかしら?ハロー!」

「こんにちは」

「こーんにーちはー!」

「こんにちは!挨拶はきちんと!」

 

 東雲が大きく手をにこやかな顔で降り、それに答えるかのように結城も手振り返す。

 それを見た前回東雲と対峙した勇者たち以外が、驚いた顔をする。

 

「おう……一気に友奈らしくなったわね…」

「ははは…みんな元気そうで何よりだねー、私はちょっと低血圧気味だよ」

 

 風と赤嶺が同じタイミングで苦笑いをする。

 もう取り繕っても仕方ないと赤嶺は思った。

 

「え!?赤嶺ちゃん低血圧なの?チョコあるよ!」

「…うん、ありがとう。でも少し静かにしててね」

「はい」

 

 東雲が赤嶺にチョコを渡す。

 なぜチョコを持っているかという疑問は置いておいて、一欠片口に含んで赤嶺は勇者たちに振り返った。

 この時の様子を勇者たちはこう思う。

 そこはかとなく、不気味だと。

 敵である、東雲と赤嶺がこっちと同じような行動をしているのが、親近感を覚えてしまう。まだ、得体の知れない敵がこんな行動を取っていたら、不気味か微笑ましいかの半々に意見が分かれるだろう。

 

「前は一本取られたから、色々と準備してきたよ。今回は、精霊を使うんだ。私が持ってきた精霊は、造反神が作ったオリジナルでね」

 

 因みに東雲が使役している精霊も造反神のオリジナルである。

 神世紀800年には精霊システムは採用されていなく、東雲はバリアなしの状態で戦っている。

 

 赤嶺は手を横にやり、精霊の姿を顕現させる。

 

「人の姿に変身するんだ、こーんな風に。ばぁーん」

 

 横に突如現れたのは鷲尾須美と瓜二つの分身。

 勇者たちは目を見開く。

 そして、今回の戦いの趣旨を赤嶺が勇者たちに伝える。

 

 東雲はそんな様子を観察しながら千景の方に目線を動かした。

 どうやら千景も東雲の事を見ていたようで目線が合う。

 東雲はにこやかに軽く手を振ると、千景はふいと顔を横にした。

 その様子を見て少なからずショックを受ける東雲。

 

(うーん、もうちょっと仲良くしたいけど、やっぱり無理かなー?)

 

 東雲は思う。なぜか漠然とした理由だが千景とは仲良くしたいと。

 しかし、東雲自身なぜ、仲良くしたいか分からなかった。

 篠目とよく似ているから?違う。もっと別の理由だ。

 

 そういえば、前に戦っていた時の事を思い出す。

 東雲が捕まった時に、珠子と銀が千景の名前を言っていたが、東雲はどうやって逃げるかという事を考え、脳を動かしていたので詳しくは覚えていない。

 

(ぐんちゃんの名前……うーん、まいっか)

 

 ぐんちゃんはぐんちゃんで可愛い名前だしね、と東雲は結論づけた。

 

「まあ、良しとしちゃおう。さぁ、説明と警告はきちんとしたからね。そろそろ始めようか」

 

 赤嶺の話が終わったようで東雲は一旦考えるのをやめる。

 時期に思い出すだろうと思ったからだ。

 

「その前に君らを倒してしまえばいいんでない!?ほいや!」

 

 雪花が槍を赤嶺に向かって投げる。

 赤嶺は咄嗟のことに反応が遅れたが、それを東雲は掴んで、赤嶺に槍が届くのを防いだ。

 

「ええ…あれ掴んじゃうの…?」

 

 雪花が少し苦笑して悔しげな表情を浮かべる。

 

「おっと!ありがとう東雲くん」

「ううん、気にしないで」

 

 赤嶺は勇者たちに振り返り、こう言う。

 

「勇者なら、この攻撃は正攻法で破ってくれると嬉しいな」

 

 ☆

 

 結論から先に言う、鷲尾須美は赤嶺の精神攻撃を打ち破った。

 

 鷲尾須美に精神攻撃を仕掛けたものの数分で解除され、赤嶺は内心喜びを感じていた。

 それは試練に打ち勝ったと言うことであり、この調子でいけば、他の勇者たちも鷲尾須美と同様、精神攻撃を打ち破ってくれるだろうと言う期待。

 東雲はそんな赤嶺の少し変化した表情を感じ取る。

 

(笑ってる?)

 

 それはよく目を凝らさねければ、分からない程度に赤嶺は苦笑していた。

 東雲は、そんな表情の少しの変化を見逃しはしなかった。

 

 まだ分からないことだらけの、味方。

 東雲はこのまま背中を預けていいものかと少し疑問に思う。

 しかし、赤嶺のちょっとした表情の変化は気掛かりだ。

 それに、今は赤嶺に着いていかないと、東雲には今の時代はよく分からない。

 

 そして赤嶺は勇者たちに、もう一つ、この精神攻撃のことについて、説明があった。

 それは、この世界で精霊に取り憑かれると再起不能だが、元の世界に戻れば精霊の影響は消え去ると言うものだった。

 

 そして赤嶺は分身をまた用意する。

 事前に全員分の用意をしてきて、この精神攻撃が効きそうな。いわば、精神が不安定な物がこの攻撃に選ばれる。

 その中には千景の姿もあった。

 

 千景は東雲の方を睨みつける。

 東雲はにこやかな顔で言ってらっしゃいと言わんばかりに口を開けた。

 

「じゃあ、レクイエムさんに乗ってここから離れようかな、このままじゃ攻撃されちゃうかもだから」

 

 赤嶺は用意していた大型のバーテックスを出現させる。

 すると同時に鷲尾須美が矢を放ってきた。

 それをまたもや、東雲が掴む。

 しかし、急に花の文様が出てきて、東雲はすぐに矢を放った。

 下の方で爆発したのを確認し、東雲は少し汗をかいた。

 

「あぶなー」

「間一髪だったねぇ」

 

 そして、この戦いは熾烈を極めることとなる。




ゆゆゆいのストーリで出た会話とか、説明とかは結構省いています。

今、のわゆの方のストーリーを書きたいなぁと思ってます。
西暦時代の防人のお話を書きたいですね、西暦は防人=自衛隊ですが、そういうのではなく、神世紀の防人みたいな。
主人公はオネェの防人なんですけ(

遅れた理由は今季の積みアニメ一気に見てたからです(´・ω・`)(わたてんすこ)

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