女性恐怖症の一夏君 (のんびり日和)
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閑話
閑話~もしも、本音さんがヤンデレだったら(日記形式)part1~


最近投稿ペースが遅くなって申し訳ないです。

本日は閑話として、〈もしも○○だったら〉を投稿します。

本編の続きを書こうと思ったのですが、少しスランプになり始めてきたのでちょっと息抜きに。


注意
サブタイどおり、この話は日記形式になっております。



○月×日:天気 晴れ

今日からIS学園に通うことになるから、お姉ちゃんが記念に日記をつけてみたらと日記帳をくれた。

でも、書く事なんてあるのかな、と最初は思った。だって小学生の頃の夏休みの日記もそんなに多く書いた事が無いもん。

だからまた同じような事を書くだけかなと最初は思った。けど、今回は違うかも。

だって、私のクラスに世界で初めてISを操縦した男子が居るんだもん♪

 

クラスで初めて見たときの印象は、オドオドした怖がりの男子だと思った。実際に怖がりで自己紹介の時、クラスの皆から注目されている中ずっとビクビク震えてたんだもん。

 

その後私のクラスの担任が、あのブリュンヒルデって言われた織斑先生って言われた時は驚いたなぁ。

その時にイッチーが女性恐怖症って言う病気を患っている事も教えてもらった。

何かイジメとかにあったのかな?

 

2限目が終わった時に、私分からないところがあったからイッチーに聞いてみた。そしたらオドオドしながらも教えてくれた。その時つい私、イッチーの傍に行っちゃたんだよねぇ。

そしたら皆にいきなり注目されちゃった。びっくりしたけど、織斑先生の言葉で私も後から驚いた。だって、私がイッチーの傍に行ったり、触れたりしても発狂しないんだもん。先生曰く、私の気配が動物に近いからなのでは、だって。

そりゃあ狐の寝巻きとか着るけど、それだけのなのかな? 私以外にももう一人大丈夫な人が居るらしいけど、現状クラスの中だと私だけらしい。だから織斑先生にイッチーの身の回りのお手伝いをして欲しいと頼まれた。無論やりますって言った。

何か嬉しい気分になったなぁ。

 

そのイッチーなんだけど、何か2人の生徒になんか絡まれてたなぁ。1人はあの篠ノ之博士の妹のしののん。で、もう1人がイギリスの代表候補生のセッシー。

 

なんかしののんは、イッチーの幼馴染って言ってるけどなんか幼馴染にしては暴力的だなぁって思っちゃった。私とかんちゃんなんて何時も仲が良い幼馴染なのに、なんか感じが悪い。

でも、もっと酷いのはセッシーの方だ。イッチーが女性恐怖症だって織斑先生が言ってたし、守らないといけないルールも言っていたのにそれを無視した発言をした。

しかも侮蔑するような言い方をだ。酷いよねぇ、同じ女性として考えられないよ。

セッシーに色々言われたせいか、イッチーが落ち込んだ表情を見て私色々励ましの言葉をかけてあげた。だってあんなに落ち込んだ表情にイッチーを見ると悲しくなるんだもん。

 

4限目の時間、クラス代表を決めるときに皆はイッチーにして欲しいなって思ってたらしい。無論イッチーの症状を考えたら、出来ない。けどイッチーがやりますと言った時の姿、カッコよかったなぁ。

けど、そんなときにセッシーがまた要らない事喚き始めた。折角イッチーのカッコいい姿が見れたのに気分が何か最悪になって思わずセッシーの方を睨んじゃった。でも仕方ないもん、初めての男の子の友達が悪く言われるのは気分がいいものじゃないもん。

 

その後、突然現れたイッチーのお世話ロボのメサメサが場を沈めた。その後織斑先生が1週間後、アリーナでクラス代表決定戦を行うと宣言した。でも、イッチーは大丈夫なのかな? 織斑先生はニヤッと笑って大丈夫としか言わない。何でだろう、凄く心配だ。

 

お昼ご飯の時、イッチーが一人で教室で食べようとしていた。一人ぼっちで食べさせたら、セッシーみたいな人に何されるか分からない!、と思って同じクラスで仲良くなったきよきよとつっきーと一緒にクラスでお昼ご飯を食べることにした。

食堂で買った弁当を食べようと思った時にイッチーのお弁当が手作りと聞いて、食べてみたいと思ってお願いしたら、どうぞって言ってくれた。

それで出汁巻きを貰ったんだけど、凄く美味しくて頬っぺたが落ちそうになったぁ。

また食べたいなぁ。

 

放課後、イッチーに寮に案内する為一緒に残っていたら山田先生がカギを持ってやって来た。部屋の場所を聞いたら私の隣だった。凄く嬉しかった。これだったらお菓子食べに行ったり、勉強を教えて貰いに行けるや♪

 

って、あれ? 丸々1ページ書いちゃった。昔だったら半分も書けなかったのに。これもイッチーのお陰だったりして。

 

 

 

○月△日:天気 快晴

イッチーの事が心配で1週間日記を書けなかったぁ。でも、それももう大丈夫! だって今日のクラス代表決定戦、イッチーが余裕でセッシ―に勝ったんだから! 

 

セッシーはイッチーに思いっきり地面に叩きつけられた衝撃で気を失って先生達に運ばれていった。

 

あともう一人、しののんもイッチーの戦い方が気に入らなかったのか、ピットに乗り込んできたが、織斑先生の出席簿で鎮められた。

私はその時いい気味だと思ってしまった。どうしてかは分からなかったけど、直ぐに分かった。

セッシーはイッチーの事を男だからと罵ったから。しののんは自分の理想をイッチーに押し付けたから。

私はそれに無意識にムカついていたからだ、と。でも、なんで無意識にムカついたんだろう? イッチーが大切な友達だから? でも、それだけでこんな簡単にムカつくとは思えないし、何でだろう?

 

うぅ~~~~ん。分かんない時は、早く寝たら解決するかもしれないし、今日はもう寝よぉっと!

 

 

○月□日:天気、晴れ時々曇

朝目が覚めても結局昨日の疑問は分からなかった。でも、別に気にする事じゃないからいいや。

それで今朝はイッチーと一緒にクラスに登校した。一緒に談笑しながらクラスに向かっている最中、ずっとこの時間が続けばいいなって思っちゃった。だってイッチーとお話していると凄く楽しいんだもん!

 

SHRが始まって昨日の決定戦の結果イッチーが代表に選ばれた。皆喜んでいたし、私も喜んだ。

報告を終えた織斑先生がSHRの続きをしようとしたら、イッチーが副代表を決めたいと言った時はもしかして私を推薦してくれるのかなって、期待してたらその通りになった。

えへへへへ、イッチーとこれから一緒に仕事が出来るって嬉しいなぁ。

 

でも、またセッシーとしののんが喚いて、私が副代表には相応しくないって言ってきた。

 

ふざけるな。イッチーにまともに話も出来ない上に、自分の都合ばかりを押し付ける様な奴がイッチーの傍に寄るな。

 

って、あれ? 私なんでこんな暴力的なこと書いてるんだろ? まぁ、いっか。

 

今日はアリーナでISを使った授業で、イッチーとセッシーが前に出て実演してくれた。イッチーってやっぱりISに乗るのが上手いのかな? すっごい高い位置から急降下してきて10㎝ジャストで止まったんだもん。凄いなぁ。

私整備科志望だから乗る理由が無いけど、1年生の間は必要らしいしから今度イッチーに乗り方教えてもらおう。

 

それと今日はイッチーの代表就任のお祝いパーティーが開かれた。ついでに私の副代表もお祝いしてくれた。

一杯料理とかお菓子が用意されてたからお皿一杯に載せてイッチーと二人で仲良く食べた。なんかいつも以上に料理とかお菓子が美味しかったなぁ。

 

そう言えば何か織斑先生が近くの席で食べてたけど、どうしていたんだろう? やっぱりイッチーの事が心配で様子を見に来てたのかな? 

やっぱり何処のお姉ちゃんも、妹や弟は大事にしてるんだなぁ。




取り合えず今回は此処まで。
ヤンデレ的な事はあまり書かれて無いけど、時期が進むにつれてどんどんヤンデレ化していきます。


では、また皆さん。次回の更新をお楽しみに( ´Д`)ノ~


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閑話~もしも、本音さんがヤンデレだったら(日記編)~part2

また本編が滞り始めたので、ヤンデレだったら編part2をあげます。

ちょっと間が空いていたので日記形式で書くのに苦労した為、読みづらくなっているかもしれません。
その辺はどうかご了承ください。


△月×日 曇

 

朝何時も通りイッチーと楽しく会話して教室に行ってきよきよ達とお話してた。

その時に2組に転入生がやってくる話題になった。別段に気にもしなかったし、イッチーも特に気にしている様子はなく、むしろ関わって来なかったら良いなって零していた。

 

それよりもイッチーが気にしていたのはクラス代表戦の事だった。

きよきよやつっきー達は専用機持ちはイッチーと4組のかんちゃんだけって話をしていたけど、確かに専用機を持っている人は結構有利だよねぇ。

イッチーとかんちゃんが戦う事になったら、どっちを応援しようかなって考えていたら、イッチーが負けた場合の事をつい想像してしまったらしく表情が悪くなったから慌てて大丈夫だよぉって慰めた。

イッチーの状態に気付いた皆も負けても怒らないよって言って慰めていた。そりゃあ私もデザートのフリーパスは欲しいけど、イッチーには無理してほしくないなぁ。

 

皆の励ましでイッチーの表情が幾分か良くなったと思った瞬間に、イッチーの後ろの扉から私より若干背の低い子がイッチーの名前を叫びながら乱入してきた。その所為でイッチーは発作が起きた。

その後乱入してきた生徒は織斑先生が追い返したけど、私は驚き固まってしまってイッチーの事何もしてあげられなかった。ちょっと自分が無力に感じちゃった。il||li(つд-。)il||li

 

 

けど、織斑先生が私の心情を察したか分からないけど、イッチーの容体がまだ悪かったら保健室に連れて行ってやってくれって頼まれた。

 

授業中特にイッチーの容体が悪くなったりすることは無く無事にお昼までこれた。良かった良かったと思ってたら、今度はしののんとセッシーがイッチーに変な言い掛かりを吹っ掛けてきた。

自分達が当てられているのにも気付かないのが悪いのに、それをイッチーの所為にするのは流石に酷過ぎるでしょ。

あんまりこの2人と一緒にさせていたら、イッチーの症状が悪くなると思って私はイッチーを連れて屋上に行った。

2人っきりで初めてご飯を食べたけど、美味しかったなぁ。最初はイッチーの症状に影響が出るんじゃ?って思ったけど、特に問題も無かった。また2人で屋上でご飯食べようねって約束した。次何時行こっかなぁ。

 

お昼ご飯食べた後、授業中眠かったけどそれよりもイッチーが眠そうだったからペンでツンツンして起こしてあげた。起こした後前を見たら、織斑先生が目線で『GJ!』と送って来たように思えた。何でだろうぉ?

 

放課後いつもと同じようにイッチーと一緒に帰ろうとしたら、しののんとセッシーが何か割り込んできた。ちょっとムッとなって顔に出そうになったけど、必死に我慢してこの2人を動けなくする方法が無いか探したら、織斑先生が睨んだ顔で2人を見ていたから、2人に教えてあげた。そしたら2人とも静かに自分の机に座って補習を始めた。私って優しいぃ!壁|ー ̄) ニヤッ

 

その後はイッチーと一緒に寮に帰った。部屋でこの日記を書いていたら、突然部屋の外からイッチーの名前を叫ぶ転入生の声が聞こえた。その後織斑先生の名前が出るわ、怒鳴り声が聞こえるわ何事かと思ってドアからこっそり覗き見たら織斑先生が

『しっかりせんとな、お姉ちゃんだからな!』

と、小さい声で零しながら頬を叩いて顔を引き締めてイッチーの部屋から去って行った。若干涙目だったけど、頬を叩いからなのかな?

 

 

×月☆日 晴れ

 

此処最近日記が書けなかった。理由は隣に転入してきたあの生徒が原因だと思う。

だってイッチーが女性恐怖症だって他のクラスの人達だってある程度は知っていると思う。つっきーやきよきよ達から聞いたが、他のクラスの生徒達もある程度情報は入っているらしい。

けど、暫くの間あの転入生のリンリンはイッチーにお構いなしに近寄ってくる。その所為で暫くの間、イッチーはずっと怯えた日々が続いていた。

しかも自分が悪い事をしているっていう自覚が無く、これも一夏の為!って言って来るから、無性に腹が立った。(○`ε´○)プンプン!! 

イッチーは漸くクラスの皆と少しずつお話しできるようになったのに、これじゃあ全部ぱぁになるじゃん。

まぁ、皆(しののんとせっしー以外)が一丸になってリンリンを教室内に入ってこない様にしたから酷くなることは無かった。

それにしてもイッチーも不運だなぁ。幼馴染2人が自己中で人の気持ち何にも考えないだもん。

もし私が小さい頃にイッチーと遇ってたら、今頃は今以上に仲良くなってるのかなぁ?

 

それと今日のクラス代表戦だった。それでイッチーと対戦相手を確認しに行ったら、あのリンリンが代表になっていた。イッチーがピットに備えられている装置で織斑先生に確認したら、教師に何も言わずに変わって貰ったらしい。

本当何考えているんだろぉ?

 

イッチーに声援を送った後、観客席から皆と合流してイッチーの応援を始めた。アリーナにはリンリンが既に出ていてイッチーが出てくるのを待っていた。そしてイッチーが出てきて何か会話をしていたようだけど、多分自分が代表で驚いたでしょ?とか聞いてたのかな? その後怒り出して何か喚いているようだったけど、結局何を言っていたのか分からなかった。

けど、開始直前にリンリンが何か言った後イッチーの様子が可笑しかった。よく見ると小刻みに震えていて、私もしかして発作が起きたんじゃ?って心配したけど次の瞬間イッチーが物凄い剣幕で怒った。

皆も怒ったイッチーに一瞬茫然となったけど、怒ったのがリンリンが何か言ったからなのでは?と推論して、皆応援の力を強くした。

試合はほとんどイッチーの独壇場だった。最後らへんは危ない様子だったけど、意表を突く攻撃でリンリンを倒してイッチーが勝った。

皆大喜びしてたけど、私だけ素直に喜べなかった。あの時のイッチーは普段とは違う動きだった。だからもしかしたらイッチーの容体が悪くなっているのでと思って、気が気じゃなかった。

だからきよきよ達に一言言ってからイッチーのピットに行った。けど、ピットに入る許可も無いのに勝手に入ったら怒られるかも。でもイッチーの事も心配だしって扉の前で右往左往していたら、織斑先生から電話が来て出たらイッチーの様子を見に行ってくれって用件だった。

やっぱり織斑先生もイッチーの事心配だったんだぁ。

 

ピット内に入ってイッチーを探したら直ぐに見つかったけど、ベンチに座りながら背もたれに凭れて顔を伏せていたから、一瞬背筋が凍えたのは今でも憶えてる。

恐る恐るイッチーに近付いて声を掛けたら、すぅすぅって寝息を立てていたから寝てたのかぁ。って一気に体から力が抜けちゃった。

その後織斑先生に報告した後、保険医を送るって言われたからピットで待ってた。座るところがイッチーの座っているベンチしかなかったから、イッチーの隣に座って待ってたらイッチーの頭が私の肩に乗っかって来た。

その時私ついイッチーの頭を膝の上に乗せちゃったんだよねぇ。今思い返しても恥ずかしかしい事しちゃったなぁ。(n*´ω`*n)

でも、なんだか嬉しくも思ったなぁ。

暫くしたら保険医の先生が来たから仕方なくイッチーの頭を膝から降ろして枕状にしたタオルの上に寝かせてから、扉を開けて保険医の先生にイッチーを預けた。

 

イッチーが医務室で治療されている間、スマホにきよきよ達からメッセージが届いていて、内容がイッチーの容体についてだった。多分皆心配してるのか、履歴に沢山メッセージが届いてほとんどがイッチーの容体についてだった。

皆心配性だなぁ。といっても私もイッチーに何かあったらと思うと心配になるか。(^▽^;)

 

暫く医務室前で待っていたら、イッチーが出てきた。もう大丈夫らしく、部屋に帰っても良いって許可を貰ったらしいから一緒に帰った。

途中でイッチーが部活に入部する為、怖いから一緒に付いて来てほしいって頼まれた。

無論OKって了承した。イッチーは安心したような笑顔を浮かべるのを見て、私少し心がキュンってなっちゃった。

 

部屋に戻ったらルームメイトのつっきーからしののん達3人が織斑先生に鉄拳教育を受けたって教えてもらった。

何でもイッチーのお見舞いに行こうとしたら医務室前で3人が鉢合って喧嘩を始めたらしく、それで医務室の先生が織斑先生を呼んで3人を引き取ってもらったらしい。

本当に何考えてるのか、分からないやぁ。それにイッチーに逢えるわけないのにねぇ。

それにしても、またあの3人が織斑先生に鉄拳教育されたねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッチーに迷惑な事をするからだ、ざまぁみろ。




ま、まだヤンデレにはなってないはず?


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閑話~もしも、本音さんがヤンデレだったら(日記編)~part3

☆月○日 晴

 

今日も何時もと変わらずイッチーと教室に向かった。けど、行く途中何度もイッチーは教室に行く足取りが止まったりした。

その訳が疲労で気絶した後、その後の試合を棄権したことだった。

皆が楽しみにしていたデザートフリーパスを獲得できなことで怒られるんじゃないかと心配していた。

私はイッチーを慰め続けながら教室に連れて行ってあげた。

教室前についてもイッチー、凄く怯えた表情を浮かべていたから大丈夫だよぉって言って一緒に入ってあげた。案の定皆イッチーを一斉に見たけど、皆心配そうな表情を浮かべていた。

イッチーは一斉に見られたことに怯えて俯いたけど、さゆさゆがイッチーに心配そうな顔で声を掛けてた。

その後みんながイッチーに大丈夫? 怪我とかして無い?って心配されてた。

 

その時イッチー、皆に棄権したこと怒ってないんですか?って聞いたけど皆、気にしてないよ。とか、体調不良なら仕方がないよ。とか、1回戦勝てただけでも儲けものだって。と答えていた。

それを聞いたイッチーは皆怒っていなことに心底安堵した表情を浮かべていた。

その表情に私も良かった良かったとにっこりなった。(*^▽^*)

 

それと視界の端にしののんやセッシーが見え、こっそりと見たけど腕や脚に一杯包帯やらシップが貼られていた。どうやら織斑先生にそうとうしごかれたみたい。

私は心の中でその姿に大笑いしていた。いい気味だと。

 

放課後、イッチーが入部すると言う部活に向かった。場所は学園の奥の方に有る家庭科室だった。

こんなとこに部活何てあったけぇって思いながらもイッチーと一緒に中に入ると、上級生が一人いた。

イッチーが「此処って料理研究部で合ってますか?」って聞いた。料理研究部、となると美味しい料理を作っている部って事かなぁ?って想像してた。(〃゚σ¬゚)ジュルリン…

けど、どうやら今日はやっていなかったようだった。でもイッチーは無事に入部できたようだし、お題と言う料理のテーマも聞けたから良かった良かった。

その後はイッチーと談笑しながら部屋に帰って来た。

 

そう言えばもうすぐGWだけど、イッチーどうするのかな? 予定が無かったら一緒に遊びたいなぁ。(((o(*゚∀゚*)o)))ワクワク

 

※月×日 雨

 

今日はGW前日なんだけど、あまり良い気分じゃなかった。GWの予定なんだけど、折角イッチーの予定が無かったら遊ぼうと思っていたのに、私の家の用事でほとんど埋まっていて遊べる予定がほとんどなかった。空いてる箇所もイッチーの予定で遊べない。

どうやら家に帰って荷物を取りに行くとのことらしい。

最初は私も一緒に手伝いに行こうと思ったけど、日帰りの上にメサメサが手伝ってくれるとのことだった。

 

あぁ~あ、折角のGW退屈な日で終わりそうだ。(´Д`;)/ヽァ・・・

 

けど、イッチーが家から取りに行くのは部活で使う料理本だと聞いた。GWが明けたらそれを見せてくれるという事で、それを楽しみにして家の用事を我慢してやろうっと。

 

 

♡月☆日 晴

今日から学校だったけど、なんかまた問題を起こしそうな人が転入してきた。しかも二人もだ。

朝きよきよ達と一緒にイッチーが持って来てくれた料理の本を見ながら談笑してた。因みにノートの中身の料理はどれも美味しそうだったなぁ。(〃゚σ¬゚)ジュルリン…

 

それから暫くしてチャイムが鳴り皆席に戻ったと同時に織斑先生たちが入って来た。その時に転入生二人が来た。1人は眼帯をしていて、もう1人は男装をしていた。

最初に金髪の男装をした人、デュッチィーが挨拶をしたけど、最近になって見つかったもう一人の男性操縦者らしいが、なんか違和感がありありだったぁ。具体的に言うと胸辺りが変。(。-`ω-)アヤシィ…

それともう一人の銀髪の生徒、ラウラウだが、どうやら織斑先生の知り合い?(織斑先生は何か毛嫌いしている様な感じだった)の様だった。

自己紹介の時もまややんに、するよう言われたのに無視をしたりしてた。その後織斑先生にしばかれて注意された後、自己紹介をしたけど名前だけでしかもプレッシャーを加える様な物だった。

そのやり方に織斑先生頭を抱えてた。

そして席に座るよう言われ席に向かったけど、なんかラウラウが突然イッチーの方に来て威圧的に、何で居るんだ?、弱虫がこんなとこにいるなとか暴言をイッチーに浴びせた。

 

私ムカついて、袖の中に隠し持っていたナイフで喉元を裂いてやろうかと思って立ち上がろうとした瞬間、突然イッチーの背後の扉から着ぐるみが数体現れて、ラウラウに向かって銃を発砲した。撃たれたラウラウは私の机に倒れ込んできたから、私驚いて立ち上がったら机が動いて机の角がラウラウの背中に思いっきり当たった。♪~(´ε` )ワザトジャナイヨォ

撃たれた所と背中のぶつけた所の痛みでラウラウは思いっきり悶えてた。その後着ぐるみの一体がバリバリと電流が流れている棒でラウラウを痺れさせた後袋と拘束バンドで拘束した。

入って来た着ぐるみにはみんな驚いていたし、私も驚いてはいた。

で、織斑先生曰く着ぐるみはイッチーの護衛部隊とのこと。一瞬なんで着ぐるみ風の護衛を送って来たんだろう?って思ったけど、以前イッチーがモフモフした動物が好きって言った事を思い出した。恐らく博士がイッチーの為に見た目は可愛く、中身は滅茶苦茶強い護衛ロボを送ったんだろうなぁ。

 

その後イッチーはモッフさん達と一緒にアリーナのロッカールームに行き私も教室でISスーツに着替え始めた。着替え終えてアリーナで待ってると、何かもごもごと動く麻袋があった。1組の皆はあぁ、あれかっていう表情を浮かべて、無視してた。2組の人達は怖がって近付かなかったけどね。

暫くした着替え終えたイッチーがやって来たから始まるまで一緒に談笑をしていた。チャイムが鳴って皆並んだ後、始めようとしたところでデュッチィーが遅れてやって来た。

織斑先生は怒って理由を聞いたら、まややんの案内の元ロッカールームに向かったが他のクラスの人達に囲まれて動けなくなったらしい。

まぁ、もう一人の男性操縦者として皆気になってたんだろうねぇ。私はむしろ怪しいんだけどぉ。

織斑先生は初日という事で見逃し、授業を始めようとしたけど足元に転がっていた麻袋からラウラウを引っ張り出し2組の生徒達に護衛部隊の事を説明した。

これで2組のリンリンがイッチーが近づかなくなったらいいなぁ。

 

2組との合同授業は、専用機持ち達が講師役として生徒達に教えた。私はイッチーの補助として一緒に頑張った。

他の班は時折チラッと見たけど、酷いものだった。まともに教えているのが一人しかいなかったもん。皆不満で一杯だろうなぁ。

 

お昼は何時もと変わらずイッチーときよきよ達とご飯を食べた。うぅ~ん、やっぱりイッチーと一緒にご飯を食べると何時もより美味しく感じるなぁ。

そう言えばセッシー大丈夫だったのかなぁ? 自分の作ったサンドイッチをいきなり食べた瞬間顔色が二転三転と変わったりして、何処かに行っちゃったけど。

まぁ、セッシーだし大丈夫か。(´ー`*)ウンウン

 

放課後イッチーは初めての部活に向かった。教室から出て行くとき、結構不安そうな表情を浮かべていたから心配でコッソリ付いて行った。

家庭科室に着いた後、流石に廊下から覗いたらすぐにイッチーや部員の人達にバレる恐れがあったから外に出て外の茂みから覗く事にした。

外から暫く確認していたけど、部員の人達は皆いい人そうだった。イッチーに無暗に近付いたり、大声を挙げたりとか一切して無かった。

一安心して私は茂みからコッソリと出て部屋に戻って来た。

部屋でこの日記を書いていたら、イッチーが部屋にやってきてパンをくれた。しかもイッチーが今日作っていたパンだった。私嬉しすぎてすっごい満面な笑みでイッチーにお礼を言った。イッチー、顔を赤くしながら部屋に帰って行った。照れたイッチーの顔、可愛かったなぁ。(*´ω`*)

 

×月△日 雨

 

今日は本当に気分が悪い。ずっと気になっていたデュッチィーが実は女という事が判明した。けど判明した理由が、イッチーの頭を撫でたからだ。

デュッチィーがイッチーの頭を撫でた瞬間、イッチーが発作を起こしたから私は急いでデュッチィーを突き飛ばしてイッチーから引き離したけど、発作は治まらない。震える手で注射を打とうとしていたから危ないと思って私が代わりに打ってあげた。

その後織斑先生が来てイッチーが発作を起こしたことを報告。デュッチィーはモッフさん達に拘束されて連れて行かれた。

私は先生に頼まれてイッチーを医務室に連れて行ってあげた。医務室に連れて行った後、私はイッチーが出て来るまで医務室前の廊下で待ってた。

暫くしてイッチーと先生が出てきたからイッチーと一緒に帰ろうとしたけど、先生に呼び止められた。

徐に先生が私に近付いて来て私の手の平を診始めた。どうやら私の手の平から血が出ていたようだった。

先生に力強く握ったのかい?と聞かれ、私は分からないと答えた。どうやら無意識に手の平から血が出る程、強く握りしめていたようだった。

イッチーも凄く心配した表情を浮かべていた。うぅ~、やっちゃなぁ。ゥゥ。・(つд`。)・。

 

先生に手の平の治療をして貰った後、イッチーとモッフさん達と一緒に教室に帰り授業を受けた。

その時皆、イッチーの事を心配していたのか休憩時間何人かのグループがイッチーに授業の分からないところを聞きに来たり、お菓子を一緒に食べに来たりした。後お昼の時は珍しくナギナギとシーちゃんが一緒に食べようと来た。

皆、本当に優しいなぁ。(*´ω`)

 

まぁ、イッチーに近付こうとしたセシリンとしののん以外、だけどね

 

 

☆月♪日 曇り

 

今日は何とも言えない日だった。

朝何時も通りイッチーとモッフさん達、それときよきよ達と教室に行って談笑していた。チャイムが鳴って席に着くと織斑先生とまややんが入って来たけど、そのあと何故かデュッチィーが入って来た。

皆驚いていたし、私も驚いていた。

織斑先生曰く性別を偽っただけで、特に犯罪を犯した訳では無い為学園の温情で再度女性として学校に通えるようにしてもらったらしい。

先生は受け入れる様に。と言っていたが、ちょっと気に喰わないと言った表情を浮かべていたし、皆もちょっと口を尖らせていた。かくいう私もデュッチィーの事を睨んでいた。

だって、またイッチーに近付こうとするかもしれないもん。そんな人、イッチーのいる教室に来ないで欲しい。

 

SHRの時に再来週に行われるトーナメント戦が、どうやらタッグマッチに変更になった。これについては生徒会で資料整理をお姉ちゃんに頼まれた時に、その書類を見たから内容は大体知ってた。

タッグマッチ戦、イッチーと一緒に出場できたらいいなぁ。イッチーはまだ悩んでいるらしいから、暫くそっとしておこう。イッチーと参加するには織斑先生に直接言わないといけないらしいから焦らない焦らない。(*´ェ`*)っ旦

 

放課後、イッチーがお菓子を作ってくれたからきよきよ達と一緒に外にあるベンチで食べた。すっごく冷たくて甘くて美味しかったなぁ。イッチー曰くこの前部活で作ったデザートの応用版との事。

流石イッチーだなぁ。こんなにおいしいお菓子とか作れるんだもん。私も何かお菓子を作ってイッチーに食べて貰いたいなぁ。

そう言えば何かアリーナで喧嘩があったらしい。織斑先生が向かったとモッフさん達に教えてもらったけど、何があったんだろう?

 

♡月○日 晴

 

今日は物凄く嬉しい事があった。

なんとイッチーが私をタッグマッチ戦のパートナーになって下さいって誘ってくれたのだぁ! 

勿論答えはOK!と答えた。

いやぁ~、本当に嬉しかったぁ。と言ってもイッチーが出場するには私以外だと難しいか。(;・∀・)

 

そう言えばデュッチィー、タッグの希望票に勝手にイッチーの名前を書いてたなぁ。

自分がイッチーに何をやったのかまだ理解できてないのかな?

まぁ、いいや。デュッチィーはモッフさん達に連行されていったし、こっそり織斑先生に告げ口しておいたから嫌って言うほど、理解させられるだろうね。

 

 

×月△日 曇り

 

今日はタッグマッチ戦だったけど、あまり良い気分じゃない。

理由は詳しくは書けない。理由は織斑先生から今日あった事は誰にもしゃべっちゃいけないし、日記など人目に触れそうな物には絶対に書かない様にって言われたからだ。

ただ此処で書けることは私はある理由から意識を失い、イッチー一人で辛い目に合わせた事だ。

医務室で寝ているけど、何もすることが無いからお見舞いに来たお姉ちゃんに頼んで持って来て貰った日記を書いているが、本当に気分が良くない。

ただ一つ、ちょっと嬉しい事はあった。

私が医務室で目を覚ましたら、傍でイッチーが椅子に座った状態で眠っていたのだ。医務室の先生が言うには私が起きるまで傍に居たいと言っていたそうだ。

本当にイッチーは凄く優しい。皆にも優しいけど、私に向ける優しさは他とは違うように思える。

あぁ、この日記を書いている間も、凄く胸がドキドキするぅ。(n*´ω`*n)

なんでイッチーの事を思うとこんなにもドキドキするんだろ? 何時からこんなにドキドキするようになったのか分からない。でも全然嫌って言う気持ちじゃない。むしろ嬉しい気持ちだ。

明日には授業に出ても良いらしいから、明日イッチーにとびっきりの笑顔でおはようと言おうっと。

 

○月×日 晴

 

今日は昨日決めた通りイッチーにとびっきりの笑顔で挨拶をした。イッチー、凄く顔を赤くしながら挨拶を返してくれた。朝から凄く良いものが見れたから気分も凄く良かった。

でも、朝のSHRの出来事で一瞬で吹っ飛んだ。

SHRの時、ラウラウが遅れてやって来たのだ。普段の織斑先生なら、遅刻だぞ!って怒鳴って出席簿で叩くけど今日は無かった。まぁ、ラウラウも私と同じ様に医務室に運ばれたから注意されなかったんだろうなぁ。

織斑先生に席に座る様に言われたラウラウだけど、織斑先生に断りを入れて皆に謝罪をしたのだ。最初は心を入れ替えたと思ってたけど、全然そうじゃなかった。むしろもっと酷いものだった。

なにがマスターなのさ。自分を助けてくれたって、イッチーはラウラウを助けたんじゃなくて私を守る為に必死に戦ったのに。何を勘違いしてるのさ。

ラウラウの戯言に続く様に、セッシーやしののん達も喚き始めた。

無論織斑先生が直ぐに鎮圧してSHRに入った。

 

あぁ、今思い返しても腹が立つ。イッチーのことを考えずに自分勝手に思いを押し付けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、アイツら消してもいいかな?



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閑話~もしも、本音さんがヤンデレだったら(日記形式)~partラスト

これで本音さんがヤンデレだったらはお終いです。


×月○日 晴

来週学校の名物行事の一つ、臨海学校があるからその必要な物を買いにイッチーと一緒にデートに行ってきた。

私はGWの時に偶々レゾナンスを通った時に見掛た狐の水着を買いに行ってぇ、イッチーは海釣り用の釣り竿を買いに行った。

水着は買わないのかなと最初に思ったけど、臨海学校の旅館に行ってもイッチーは海に泳げないとの事。

まぁイッチーの病気の事を考えたら仕方ないよねぇ。(´∀`;A

レゾナンスについてまず私の水着を買いに行った。イッチーに私が買った狐の水着を見せてあげたけど、首を傾げていた。まぁ、確かに見た目は着ぐるみみたいだけど、イッチーには内緒だけど中にはなかなか際どい水着が入ってるのだぁ。(*ノェノ)キャー

まぁ、見せないけどねぇ。

 

私の水着を買い終わった後、イッチーの海釣り用の釣り竿を買いに釣具店に行った。

中ではおじさんが釣り竿をいじっていた。イッチーが初心者用の海釣りセットをお願いしたら、幾つか種類を見せてくれた。

その中からイッチーは投げ釣り用の物を買った。それと私も同じ物を買った。

えへへ、イッチーとお揃いの道具だぁ。

その後は寮に帰って来た。

 

 

そう言えば買い物の途中、織斑先生があいつ等を連れて買い物してたなぁ。

 

 

腰縄なんかされてて、いい気味だねぇ。(●´艸`)フ゛ハッ

 

 

△月♪日 晴

今日は臨海学校の初日!

朝何時も通りにイッチーを迎えに行って正門へと向かった。途中からクラスの皆と合流しながら談笑しつつ向かうと、なんか麻袋が転がっててグネグネ動いていた。

皆冷たい目で見つめた後、イッチーにあっちに行こうと言って連れて行った。

なんであれがあぁなったのかは気にならないけど、大体想像がつく。

その後織斑先生達や他のクラスの皆も来てそれぞれバスに乗って行った。イッチーはなんかよく分からないけど、車に変身したメサメサに乗って行くことに。

イッチーにメサメサが車になれた理由を聞いたけど、イッチーも詳しくは知らないとの事。メサメサって一体どう言う構造になってるんだろぉ?(*´д`)??

 

バスの中では旅館に着くまでの間きよきよ達と談笑したりしてた。

トイレ休憩の時は早めに済ませて、人が居ないバスの中で色々情報整理をしていた。

それはあの問題だらけの人達の問題行動とかの情報。一番良いのは退学、最低でも特別クラスという名の隔離教室にでも送られるくらいの情報を集めないとと思って色々彼女達が起こした不祥事とかを集めて整理した。

結構集まったから臨海学校から帰ったら、匿名で彼女達の政府や日本の政府に垂れ込もうかな。

 

バスが旅館について女将さんに挨拶をした後、部屋に行って海に行く人と釣りに行く人と別れて行った。

防波堤に行くとイッチーと付き添いの保険医の先生、それとメサメサが居た。

それから暫く釣りをした。成果は大漁で、一杯釣れて楽しかった。v(@∀@)vィェ~ィ

特にイッチーは大物で、タイを釣り上げた。Σ(´゚ω゚` ) 

すごかったなぁ。

 

夕飯の時はイッチーが私の隣で美味しいご飯を一緒に食べた。一緒に釣った魚とかも色んな料理になって出て来て本当に美味しかったなぁ。(*´ω`*)

それとイッチーが釣ったタイだけど、なんとメサメサがMy包丁で鯛の船盛を作ったのだ。これは流石のイッチーもアングリとしてた。

 

美味しいご飯を食べた後は皆とお風呂に行って談笑していた。談笑している途中で何処か遠くで爆発したような音が聞こえた。皆はゲームセンターの音かな?と思って特に気にしている様子は無かった。私は気になってトイレに行くフリをして織斑先生を探したら、風呂桶を持って歩ているのを発見したから聞いたらどうやらフモッフさん達が裏山に仕掛けた罠が発動したらしい。勿論発動した理由は例のあの5人だろと言ってた。

本当に馬鹿だねぇ。イッチーのお風呂を覗こうとするなんて、とんだ変態共達だ。

うん、隔離教室何て生温い。絶対に退学にさせて強制帰国させよう。それと世界中に5人の醜態を曝してあげよう。

 

 

それから部屋に戻って明日に備えて寝た。明日はどんな訓練をするんだろうなぁ。イッチーと一緒に頑張ろうぉッと!(∩´∀`)∩

 

 

♡月☆日 晴

今日はいろんなことがあって疲れた。理由は日記帳に書くといけない事だから書かない。

書ける事があるとすれば、あの馬鹿女達がまたイッチーに迷惑を掛けた。それどころか怪我までさせた。本当に頭に来る。今すぐにでもあいつ等の喉元を掻き切ってやりたいと思った。

でも今此処でそんな事をすれば私の計画はおじゃんになると思って何とか冷静になった。

その後は色々あってイッチーと一緒にトラブル解決に尽力した。かんちゃんや先生達もいなければ難しい事だったけど、私とイッチーの活躍でなんとか解決できた。

 

いやぁ、本当に疲れましたぁ。(´Д`)

 

 

そう言えば部屋でこの日記を書いている時に、スマホに変なメッセージが届いた。

画面には『あなたが集めた物、私が代わりに拡散とお国に送っておいてあげる。アイラ』って書かれてた。

アイラって誰?って思っていたけど、それより気になったのは私が集めていた物、つまりあいつ等の情報だ。まさかと思ってスマホのデータを見たら、私が集めた物全部持って行かれていた。

うぇぇ、まさか横からかっさわられるとは思わなかったぁ。あれを集めるの結構大変だったんだけどなぁ。(´Д`)ハァ…

 

まぁ、広めてくれるならいいかなぁ。

 

 

○月♪日 快晴

今日はイッチーと一緒にテスト勉強をした。二人きっりでテスト勉強をすると思って物凄くうきうきしていたけど、それよりももっと凄い事を知った。

なんと、イッチーの専用機が人になったのだ。しかも名前がアイラ。あのメッセージの人かなと最初は思った。けどイッチーが居る前だから聞くに聞けなかったけど、イッチーがトイレに行っている時にアイラが私に耳打ちしてきた。

 

「あんたも一夏の事が好きなんでしょ? 私も好きなの。だから手を組まない?」

 

そう言ってきて彼女の顔を見て確信したの。あぁ、彼女もイッチーの事がおかしくなる位大好きで仕方ないんだって。

だから手を組んだ。二人でイッチーの邪魔になる奴らを消していこうってね。

 

 

あぁ、そうだ。あの5人だけど、しののん以外は退学になった。理由は勿論私が集めた情報だ。政府たちの耳にも入っているし、しかもネットニュースにも載ったもんだから、政府の役員のみならず国民達からめっちゃくちゃバッシングを受けているらしい。

 

退学にならなかったしののんは特別教室に入れられた。私も詳しくは知らないけど、なんでも学園の地下にある教室らしく、壁一面コンクリートで覆われて窓も無くただ液晶モニターと学習机が置かれているだけの教室らしい。しかも寝泊まりも其処でするらしい。ご飯は一応小型のエレベーターで運ばれてくるらしい。今まで使われることも無く学園の中でも知っている人は極少数だってお姉ちゃんが言っていた。

 

 

5人の処遇を知って私とアイちゃんは二人して笑ったよ。あいつ等は二度とイッチーの前には現れないってね。

これでイッチーの邪魔となる奴らは消えた。だからこれからはゆっくりと二人でイッチーと仲良くなって、親友以上の関係になろうっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言えば最近分かったんだけど、誰かがこの日記を盗み読んでいるみたい。

最初はきよきよかなと思ったけどそんな様子は無かったし、それにきよきよがそんな事をする子じゃないって知っている。

となると他の人だという事だ。兎に角もしその読んだ人が中身をバラしたら面倒なことになっちゃう。

バラす前に消さないと。取り合えず日記は何時も通りの所に仕舞っておいて待ち伏せしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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閑話~コラボトークショウ~

今回【ISと無気力な救世主】を執筆されております、憲彦先生からコラボのお誘いを頂きましたので、裏話を交えつつサブタイ通りトークショウを行います。

なお、両小説の登場キャラが登場する為、何方のキャラクターか分かり易くする為台本形式で書かせていただきます。

それと、若干キャラ崩壊もあります。(憲彦先生から許可は頂いております)


(主)「どうもどうも、欲しいゲームが立て続けに販売されそうで、懐は寒くなりそうだが、心はぽっかぽかののんのんびよりです! 本日はサブタイ通り、憲彦先生の小説【ISと無気力な救世主】とのコラボという名のトークショウを行いたいと思います! では、ゲストの御三方、どうぞぉ~!」

 

一夏(憲)「お邪魔しま~す」

 

本音(憲)「よろしくねぇ~」

 

バジン【失礼する】

 

(主)「いらっしゃ~い! 本日はよろしくお願いしま~す」

 

一夏(憲)「こちらこそ。あ、これつまらないものだがどうぞ」つ茶菓子

 

(主)「あ、これはわざわざどうも。さて、此方のキャラも待たせるのもいけないので、ご登場いただきましょう。 おぉ~い、3人共!」

 

一夏(のん)「お、お邪魔しまぁす」

 

本音(のん)「お邪魔しまぁす!」

 

メサ【失礼させていただく】

 

(主)「ほい、それじゃあ全員揃ったのでまずは自己紹介から始めましょう! まずは『ISと無気力な救世主』の皆様からどうぞ!」

 

一夏(憲)「織斑一夏だ。得意な事は家事とか料理。好きな物はまぁ、その、家族だ」

 

本音(憲)「(∀`*ゞ)エヘヘ おっと、私の番だねぇ。私は織斑本音。旧姓は布仏本音だよぉ。向こうの世界でイッチーと結婚して織斑性になったんだぁ。得意な事は料理で、好きな物はイッチーと家族♪」

 

バジン【バジン、フルネームは布仏・A・バジンだ。故あって布仏の婿養子となった。得意なものは色々。好きな物は、まぁウチの嫁さんだ】

 

(主)「はい、ありがとうございます! それじゃあウチの一夏君達お願いしゃす」

 

一夏(のん)「お、織斑一夏です。得意なものは家事と炊事です。好きな物はお菓子とその、可愛い動物です」

 

本音(のん)「布仏本音でぇす。得意な事はお菓子作りで好きな物はお菓子と動物寝巻きぃ!」

 

メサ【坊ちゃま専属のお世話ロボ、メサです。得意な事は家事全般など。好きな物は坊ちゃまのご勇姿をとった映像です! (^ω^)ノ】

 

(主)「はい、ありがとうございます! それでは主はちょこっと引っ込みますのであとは6人でお話しください。あ、話の途中で裏話を語りに出てくるかもしれないので、そこんところよろ! それじゃあばいび~!」

 

一夏(憲)「お、おう。……えぇと、それじゃあどうする?」

 

一夏(のん)「その、主から目録を渡されてて、それ通りに進めてって言ってたけど」

 

本音(のん)「えっとぉ、最初は両小説のキャラクター紹介だってぇ」

 

一夏(憲)「キャラクター紹介って、何でまた?」

 

ニョキッ(主)「説明しよう! 実は憲彦先生から小説の内容が少し似ているなと思っておられたらしく、それだったら両小説のキャラクター達の違いを比べてみようと言う訳で目録に組み込んでおいたのだ! 説明終了! じゃっ!(^_^)/」

 

一夏、本音(両方)「( ゚д゚)」

 

バジン【いきなり出てきたな】

 

メサ【そう言う人ですからね、あの主は┐(´∀`)┌ヤレヤレ】

 

一夏(憲)「えぇ~と、それじゃあ共通の身内からでいいかな? と言っても姉貴しかいなけど」

 

一夏(のん)「そ、そうだね。そっちのお姉ちゃんってどんな人なの?」

 

一夏(憲)「え? お前、姉貴の事お姉ちゃんって呼んでるのか?」

 

一夏(のん)「うん、昔から何時もお姉ちゃんって呼んでるよ」

 

一夏(憲)「マジで? 俺は無理だな。というかどうやってもお姉ちゃん呼びなんか絶対無理だ」

 

本音(憲)「あははは……。た、確かにお義姉さんって、お姉ちゃん呼び出来る様な雰囲気じゃないよね」

 

一夏(憲)「だろ? お前も何時かの為にお姉ちゃん呼びじゃなくて 姉貴呼びした方が=旦))`ω゚)!・;'.アベシ!!」

 

本音(憲)「い、いい、イッチー―!?」

 

一夏(のん)「ふぇぇ~~、な、なんで湯呑がぁ!? って、あれ? これ、お姉ちゃんのだ」

 

本音(のん)「そ、そうなの? でも何処から飛んできたんだろ?」

 

ニョキッ(主)「あぁ~、すいません。実はこっちの世界の千冬さんがなんか『向こうの世界の一夏が、私の可愛い一夏にいらんことを吹き込もうとしている!』って言って、次元の壁をぶち抜くほどの腕力で湯呑を投げたんですがぁ、遅かったみたいですね」

 

3人「うん」

 

バジン【相変わらず、どの世界の千冬も人間離れしているな】

 

メサ【全くですね。ところでそちらの世界の千冬氏は家事などは? こっちの世界では人並みの料理は出来るのですが、掃除だけがどうしても苦手らしく、以前可燃ごみの中からプラスチックのゴミが出てくるわ、プラゴミの中からはペットボトルが出てくるわ、大変ですよ。(´Д`)ハァ…】

 

バジン【こっちの世界では人並みの家事は出来る。得意と言えば掃除だな】

 

メサ【ほぉ~、それは羨ましい限りですな】

 

バジン【最近は子供も出来たから、子供用の料理の勉強も始めてる】

 

メサ【はぁ~、そちらの千冬氏はご結婚されているのですか。それはおめでとうございます。此方の千冬氏は……】

 

バジン【男っ気が無い感じか?】

 

メサ【無い訳では無いですが、未だにその気持ちに気付いてないのかもしれません┐(´д`)┌ヤレヤレ】

 

バジン【まぁ、両者の問題だから。其処は外部の人間ではどうする事も出来ん】

 

一夏(憲)「いててて。ま、まさか壁をぶち抜いて湯呑投げてくるとか、人間離れし過ぎだろ」

 

一夏(のん)「と、時々人間離れしてるからね、お姉ちゃんは」

 

本音(憲)「ほへぇ。あ、そうだそうだ。ねぇねぇ、向こうの私」

 

本音(のん)「なぁに?」

 

本音(憲)「そっちのお姉ちゃんってどんな感じなの? こっちだとバジンと結婚して幸せに暮らしてるんだけど」

 

本音(のん)「えっとこっちの世界だと生真面目で料理下手ぁ」

 

本音(憲)「えぇ~、料理下手なのぉ? こっちだとお料理得意なんだよぉ?」

 

本音(のん)「えぇ、あの暗黒物質を大量に作ったお姉ちゃんがぁ!? やっぱり異世界だと違うんだねぇ」

 

本音(憲)「そだねぇ」

 

一夏(憲)「あ、そうだ。これだけは聞いておこうと思った奴がいたんだ」

 

一夏(のん)「(。´・ω・)? 誰の事?」

 

一夏(憲)「篠ノ之姉妹。こっちだと色々やらかして2回死んでる」

 

一夏(のん)「∑(0д0)えっ!? 束お姉ちゃん死んだの!? てか2回ってど言う事!?」

 

一夏(憲)「詳しくは本編を読んでくれ。で? そっちの世界ではどうなんだ?」

 

一夏(のん)「えっと、こっちの世界だと優しいよ。自分の所為で世界を醜く変えてしまったって一回泣いている姿を見たことがあるんだぁ。あと、僕用のISを手配してくれたり、身の回りのお手伝いをしてくれるメサさんを作ってくれたりしてくれたんだ」

 

一夏(憲)「そうか、そっちの世界の束は優しい人物か。で、妹の方はどうなんだ?」

 

一夏(のん)「……僕は、苦手かな。事あるごとに僕に怒鳴ってきたりするし、一度手を挙げようとしてきたこともあるから(´ω`。)グスン」

 

一夏(憲)「……うわぁ、俺の所と同じかよ。で、箒から距離を置く場合何時もどうしてるんだよ?」

 

一夏(のん)「お姉ちゃんが何処からともなく現れて、何時も出席簿でしばいて引き摺ってってる」

 

一夏(憲)「ぷっ! 姉貴にかよ。しかもしばかれてねぇ。一回その光景見て見たいぜ。そうだ、他の奴等はどうなんだ? イギリスとかフランス、あとドイツの奴等は? あ、あと鈴も」

 

一夏(のん)「えっと、その……(lll-ω-)」

 

一夏(憲)「なんだ? なんか、聞いちゃまずい感じか?」

 

本音(のん)「イッチー(のん)。私が説明するからお菓子食べててぇ」

 

一夏(のん)「うんモヒ( ・ω・c)モヒ」

 

本音(のん)「えっとぉ、セッシーやリンリンなんだけど、いっつもイッチー(のん)の事をつけ回してるんだぁ。まぁ、その度に織斑先生のエスカリボルグ(出席簿)でしばかれてるけどねぇ」

 

 

2人(憲)「エスカリボルグ(笑)」

 

一夏(憲)「クックック、エスカリボルグって例えが面白れぇな。で、フランスとドイツは?」

 

ニョキッ(主)「申し訳ない、一夏君(憲)。これが投稿される頃はまだあの二人入学して無いんだ」

 

一夏(憲)「あ、そうなのか」

 

(主)「そうなのだぁ。 代わりと言っちゃなんだけど、裏話を此処で一つ。実は一夏君(のん)が女性恐怖症になった原因なんだけど、当初はラウラじゃなくて別の人が原因で発症する予定だったのだ」

 

一夏(憲)「へぇ~。その人って誰なんだ?」

 

(主)「原作の中で可笑しな日本の知識を持った人」

 

2人(憲)「あぁ~、あの人か」

 

2人(のん)「(o゜ー゜o)??」

 

(主)「まぁ、ウチの2人が知らないのは無理ないね。で、どいう風に発症したかと言うと、その人が一夏にある頼み事したんだけど、一夏に断られる。諦めきれないその人は再度頼み込もうとした際に一夏を押し倒す。恐怖にかられた一夏は叫ぼうとするが口押さえられる。その後なんやかんやあって千冬が飛んできて救助されるも発症すると言う流れだったのだ」

 

一夏(憲)「へぇ~。でもなんでそのルートを書かなかったんだ?」

 

(主)「いやぁ~、この人ルートで書くとその後の展開が書きづらいと思ってね。だから止めたのだ。それじゃあお邪魔しましたぁ」

 

バジン【意外なルートもあったんだな】

 

メサ【ですね。てか、どのみちどのルートもドイツ軍崩壊ルートじゃん( ´,_ゝ`)プッ】

 

一夏(憲)「ハッハハハ。さて、こっちのあいつ等だが。オルコットの奴は最初は典型的な女尊男卑の奴だったが、俺との戦いの後は改心して国家代表まで行ったぞ。鈴は国家代表の誘いを蹴ってIS学園の教師になった。あと二人いるが、説明した方がいいか主?」

 

ニョキッ(主)「うぅ~~ん。こっちだとまだ出てないし、いいかな」

 

?「「あんまりだぁ‼」」

 

一夏(のん)「ふぇっ!? い、今なんか変な叫び声がぁ(´;ω;`)」

 

本音(のん)「大丈夫だよぉ、イッチー(のん)。ただの雑音だからヨシヨシヾ(・ω・`)」

 

2人(憲)(あれを只の雑音呼ばわりするって、凄いなぁ)

 

バジン【さて、次の目録はと……。ん?】

 

一夏(憲)「どうした、バジン?」

 

メサ【えっとぉ、お次なんですが、《バジン対メサ チキチキ、3本勝負ぅ!》だそうです。o(゚◇゚o)ホエ?】

 

ニョキッ(主)「目録通りですよ。どっちのロボが最高か、その雌雄を決めようと思って組み込んでおきました。勝負の内容ですが、1本目は料理対決。2本目は機能対決。3本目は一夏君の良い所出し対決です。では最初の一本目参りたいと思うので、お二人共あちらにあるキッチンに移動してください」

 

バジン【マジか。まぁ、別に構わんが】

 

メサ【私も構いません。むしろこういう機会は中々ありませんしね。本気で行かせてもらいます!】

 

バジン【こちらもだ】

 

(主)「では、調理始め!」

 

~調理過程は飛ばします!~

 

バジン【出来たぞ】

 

メサ【こちらも出来ました】

 

(主)「それではお二人の料理を並べて下さい!」

 

バジン【俺はビーフシチューだ】

 

メサ【私はささみのチーズフライです】

 

(主)「ではまずは、バジンの方から実食‼」

 

4人(両方)「パクッ」

 

一夏(のん)「お、美味しぃ」

 

本音(のん)「本当美味しいねぇ。お肉も凄く柔らかぁい」

 

一夏(憲)「うん、美味いなぁ。バジン、お前圧力鍋で作っただろ?」

 

バジン【正解だ。圧力鍋なら少ない時間でもすぐに肉を柔らかく出来るし、その上野菜や肉の旨味も引き出せる。まさに主婦にとっての味方だ】

 

2人(のん)「へぇ~~」

 

(主)「皆さん大変満足されておりますが、次はメサさんのささみチーズ揚げです!」

 

4人(両方)「パクッ」

 

一夏(憲)「うん、チーズも良い具合に溶けている。それにこのささみ、少しだけコショウをまぶしているのか?」

 

メサ【よくお気付きになられましたね。その通り、コショウを少しまぶして揚げることで肉とチーズの旨味を引き出し食欲をそそらせております】

 

一夏(のん)「モグモグ。メサさんの料理は何時食べても美味しいぃ」

 

本音(のん)「私は初めて食べたけど、本当においしいねぇ」

 

メサ【喜んでもらえて何よりでございます、坊ちゃまぁ! ∩(´∀`)∩ワァイ♪】

 

(主)「では、皆さん。どちらが美味しかったか、お手元の方に配りました札を挙げてお答えください。どうぞ!」

 

一夏(憲、のん)つバジンとメサ

 

本音(憲、のん)つバジンとメサ

 

(主)「ちょ、ちょっと皆さん。なんで二人の札を挙げてるの?」つバジンとメサ

 

一夏(憲)「いや、どっちも美味くてな。白黒つけられなかった。てか主さんもふたつ挙げてるじゃねえかよ」

 

一夏(のん)「ぼ、僕もどっちも美味しくって白黒つけろって言われても無理、です」

 

本音(両方)「どっちも美味しい!」

 

(主)「ま、まぁ、どっちも料理に関してはプロ級を有しているロボットですからね。仕方がありません、この勝負はドローと言う訳で次の勝負に行きます。では、気を取り直して第2本目、機能対決! この勝負は両者に備えられている機能を4人に見て貰い、どちらが最も優れているのか決めるものです! では、先手はメサさんどうぞ!」

 

メサ【私に備えられている機能は次の通りです】

  【・家事炊事機能 ・TV電話機能 ・変形機能です】

 

(主)「はい、ありがとうございます。ではバジンさん、次お願いします!」

 

バジン【俺の機能はこれだ】

   【・変形機能(バイク、バトルモード、人型) ・家事炊事(育児可)機能 ・メール機能 こんなところだな】

 

(主)「はい、ありがとうございます! では皆さん。どっちの方が優れているか。お手持ちの札をお上げください!」

 

一夏(憲)つバジン

 

一夏(のん)(゚-゚;)オロオロ(;゚-゚) ソォ~つバジン

 

本音(憲)つバジン

 

本音(のん)つバジン

 

(主)つバジン

 

(主)「決まりました! 2本目の勝者はバジンさんです!」

 

メサ【な、何、だとΣ(T□T)】

 

バジン【(= ̄▽ ̄=)V】

 

一夏(のん)「ご、ごめんなさい、メサさん。だって、バジンさんがバトルモードになった時の姿がカッコよかったからぁ。 。゜゜(´□`。)°゜。ワーン!」

 

メサ【ぼ、坊ちゃまは悪くはございませんよ! わ、私のデザインは博士によって出来た物ですので、博士にお願いしてカッコいい姿になるようお願いしてみます!】

 

(主)「……何だろう。物凄い罪悪感を感じる」

 

一夏(憲)「まぁ、ドンマイ?」

 

本音(憲)「ド~ンマイ」

 

本音(のん)「ぬ~し~」

 

(主)「な、何ですか本音さん?」

 

本音(のん)「後で、スタジオ裏ねぇ。(#・∀・)」

 

(主)「す、すいませんでしたぁ!」

 

一夏(憲)「まぁ、自業自得だな。ほら、次の勝負あるんだろ?」

 

(主)「は、はい。では、最後の勝負! 一夏君の良い所出し勝負! 互いに一夏君に仕えているので、一夏君の良い所を出し合ってもらい、多くの良い所を出した方が勝ちとなります! 但し、共通している物は無しとします。それではバジンさんからお願いします」

 

バジン【良い所? うぅ~ん、他人の意思には簡単に流されない、だな】

 

(主)「では、次にメサさん!」

 

メサ【気遣い上手】

 

バジン【…目利き上手】

 

メサ【努力家】

 

バジン【……無いな、もう】

 

一夏(憲)「いやいやいや、まだあるだろ?」

 

バジン【すまん。長い付き合いだが、良い所より、悪い所の方が多い】

 

本音(憲)「あははは。(;´∀`)」

 

一夏(憲)_| ̄|○

 

(主)「え~、短い感じでしたがこの勝負、メサさんの勝ちです。因みにメサさん、後何個出せました?」

 

メサ【10個以上は出せるぞ。出そうか?】

 

(主)「いえ、時間も押してますし終了しておきます。では結果発表ですが、ドロー1回の両者一勝一敗という事で、引き分けです!」

 

一夏(憲)「それでいいのか?」

 

(主)「良いんです!」

 

本音(憲)「すがすがしい姿で宣言したね」

 

(主)「さて、時間も押してますから次の目録いきまぁす。次は本音さん二人のトークショウです。と言う訳で男性陣とロボット陣は一旦消えます!」

 

一夏(両方)「は?/え?」

 

バジン【消えるってどう言う事だ?】

 

メサ【何でもありになってきてません?】

 

(主)「細かい事は気にしない! それじゃあほいっ!」( ̄□ ̄)^o―∈‥・・━━━━━━━☆

 

4人「うわぁ~~~!?」【【マジで消えるぅ!∑(゚Д゚)!?】】

 

本音(憲)「おぉ~、消えた!」

 

本音(のん)「ホントだぁ。うぅ~ん、それでどうするぅ?」

 

本音(憲)「そうだねぇ。それじゃあ、自分しか知らないイッチーの事を挙げよっかぁ」

 

本音(のん)「おぉ~、良いねぇ。じゃあまず私から行くねぇ。こっちのイッチーは寝顔が可愛い。あとお饅頭を食べるときに口の周りにいっぱいに白い粉を付けながら食べるんだぁ」

 

本音(憲)「へぇ~。こっちだとね、家族の為にと人に気付かれない様日夜頑張ったり、些細な約束とか記念日でも憶えてて、こっそりお祝いしたりしてくれるんだぁ。この前も息子が初めてハイハイした日って事でケーキ作ってたなぁ」

 

本音(のん)「おぉ~、凄いねぇ」

 

本音(憲)「うん、私の自慢ができて大好きな夫なんだぁ。ねぇ、君はそっちのイッチーの事をどう思ってるの?」

 

本音(のん)「イッチーの事ぉ? う~ん、仲の良い友達かなぁ。お菓子とかご飯とか一緒に食べるくらいの♪」

 

本音(憲)「そっかぁ。私もね、最初の頃はイッチーとは仲の良い友達位だと思ってたの。でもね、ある日を境に意識するようになって気付いたらお付き合いしていたの。そして卒業してから結婚して、子供が出来て今は幸せな家庭を築いているんだぁ」

 

本音(のん)「へぇ~、そうなんだぁ」

 

本音(憲)「その時が来れば分かると思うよ。友達以上の気持ちに気付くと時がねぇ」

 

 

ニョキッ(主)「はぁ~い、お二人共短い時間でしたがトークショウ終了のお時間が参りました! おっと、あの4人も出さないと」( ̄□ ̄)^o―∈‥・・━━━━━━━☆

 

一夏(両方)「ほぎゃっ!?」

 

バジン&メサ【グホッ!】

 

本音(憲)「イッチー、大丈夫?」

 

一夏(憲)「お、おう。何とかな」

 

(主)「いやぁ~、楽しい時間があっと言う間に過ぎてしまいましたね」

 

一夏(のん)「うん。向こうの世界の事とか色々聞けたから満足です」

 

一夏(憲)「だな。偶にはあの主にも感謝しねぇとな」

 

本音(憲)「そうだねぇ。何時もナレーションとか色々頑張ってるし、何かしてあげる?」

 

一夏(憲)「そうだなぁ、まぁ何か考えといてやるか」

 

(主)「それでは皆様、宜しいでしょうか? 以上を持ちまして憲彦先生の小説と当小説のコラボトークショウを締めたいと思います。色々ありがとうございます!」

 

一夏(憲)「こっちこそいろいろ楽しかったぜ。なぁ、向こうの俺。もしこっちに来るようなことがあったらまた駄弁り合おうな」

 

一夏(のん)「うん。またね」

 

本音(のん)「ばいば~い、私ィ。また遊びに来てねぇ」

 

本音(憲)「うん、またなのだぁ!」

 

バジン【次に来る時は嫁と共に来させていただく。その時はまたよろしく頼む。・△・)ノ バイバイ】

 

メサ【えぇ、どうぞ。坊ちゃまや本音様もお喜びになりますでしょう。(^_^)/~~サヨナラ】

 

(主)「それでは皆様、さようならぁ~~~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「あれ? 異世界のお兄ちゃんとこっちのお兄ちゃんが此処に居るって聞いたんだけど誰もいない。なぁんだ、逢えると思ったのになぁ。まぁいいか。それじゃあ読者の皆さん、さようならぁ(* ̄▽ ̄)ノ~~ マタネー♪」




以上でコラボトークショウを終えます。

読みづらいと感じた方、本当に申し訳ありません!




最後の人? サァ~、ダレナンデショウネェ


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本編
1話


IS学園、言わずと知れた女性しかいないISを学ぶ学園だ。そんな学園にあるイレギュラー的出来事が起きている。それが、世界で初めて男でもISに乗れる者が見つかったのだ。

そしてその男子は今IS学園1年1組に居る。

 

~1年1組の教室~

1組の生徒達は皆ヒソヒソと一番後ろの席に居る男子生徒を見ていた。その男子生徒は何故だか分からないが、ブルブルと震えており顔は入学前に渡された教本で隠している為か、よくは見えなかった。

そして童顔で教師には見えないが、教師の証であるネームタグをぶら下げた女性が入って来た。

 

「はぁ~い、皆さんおはようございます! 私がこの1組の副担任、山田真耶と言います。3年間宜しくお願いしますね!」

 

そう元気よく挨拶をする。だが

 

「「「「……」」」」

 

クラスの中からの反応は無く、しーんと静まり返っていた。

 

「うぅぅぅう、では端の方から自己紹介を」

 

涙目で端から自己紹介をするよう指示され、端の生徒達から名前、そして趣味や中学の部活の事を話し始めた。

そして少年の順番となるが、全く自己紹介をしようとせずただ教本を読み続けていた。

 

「えっと、織斑君? 織斑く~ん!」

 

「ひゃ、ひゃっい!」

 

真耶に呼ばれ織斑と呼ばれた少年は肩を跳ね上げ、怯えた表情を見せる。その状態に真耶はある事を思い出し慌てて謝る。

 

「ご、ごごご、ごめんね! 『あ』から始まって今『お』の所まで来たから織斑君の自己紹介の番になったから」

 

「そ、そうですか。わ、わかりました」

 

そう言い席から立つ織斑。表情から顔色はあまり良くなく、未だにブルブル震えていた。

 

「お、織斑一夏と、言います。その、出来ればそっとしておいて、欲しいです。以上、です」

 

そう言い席に座る。先ほどとは違い本で顔は隠そうとはしないが、顔色はまだいい感じでは無かった。

一夏の自己紹介に生徒達は何処か物足りそうな表情を浮かべ、もっと喋ってと言いたげだった。

 

「大丈夫か、織斑?」

 

そう声が一夏の傍から聞こえ、生徒達は声の主の方に顔を向ける。其処には黒のレディーススーツを身に纏い、きりっとした目つきの女性が其処に居て、一夏の心配をしていた。

 

「だ、大丈夫、です。織斑先生」

 

先程とは違い少し震えているのが止み、顔色も少し良くなる一夏。

 

「そうか、もし無理そうなら何時でも言っていいからな」

 

「は、はい」

 

一夏の様子に未だ辛そうな表情を浮かべる千冬。だが顔付きを変え教卓の元に向かう。

 

「遅れて済まない山田先生」

 

「あ、いえ。副担任として当たり前のことをしたまでですので」

 

そう言い教卓から降り、千冬と場所を変わった。

 

「では自己紹介の前に先に言っておくが、騒ぐのは禁止だ、いいな?」

 

そう言うと生徒達はコクンと頷く。

 

「では、私が君達の担任となる織斑千冬だ。ISについてのイロハを君達に教えて行くが、分からないからと放置するようなことは許さん。分からない事、もっと聞きたいことがあるなら私か山田先生に聞きに来るように。それが今後君達にとって必要な事なのだからな」

 

そう自己紹介を終え一息を付こうとした瞬間

 

「「「「きゃあぁぁぁ!!!」」」」

 

「本物の千冬様よ!」

 

「あぁ、私、先生に教えてもらいたくて来ましたぁ!」

 

「手とり足とりお願いしまぁす!」

 

そう叫ぶ生徒達。すると

 

《ベキッ!!》

 

と、千冬が掴んでいた教卓にヒビが入った。

そしてクラスの中の空気が一気に重くなり、先程の歓喜の空気が消し飛んだ。

 

「……貴様ら、私が最初に言った言葉をもう忘れたのか?」

 

そう問われ叫んだ生徒達は首を激しく横に振る。全員重苦しい空気に居る中、只一人様子がおかしい生徒が居た。

一夏だった。先ほどよりも肩を震わせ、怯え切った表情を浮かべ呼吸が浅くなっていた。一夏はおもむろにポケットからペン型の注射器を取り出し腕に打った。

その様子を見た千冬は慌てた表情で一夏の元に近寄る。

 

「だ、大丈夫か一夏?」

 

肩に一瞬手を置こうとした千冬。だが手はその肩に置かれることは無く途中で止まった。呼吸がゆっくりと落ち着き、表情も幾分かよくなり始める一夏。

 

「大丈夫か? 無理そうなら保健室に「だ、大丈夫、です」そ、そうか。だが、無理はするなよ?」

 

コクンと頷く一夏に、千冬は悲しそうな表情を浮かべ教卓に戻る。一夏と千冬の光景に生徒達は茫然といった表情を浮かべていた。

 

「……先程私が騒ぐことを禁止した理由がさっきのだ」

 

教卓に戻った千冬がそう言い、見渡すように顔を向ける。

 

「織斑はある症状を患っている。それが『女性恐怖症』だ。本来なら此処ではなく専用の教室を設けるのだが、高校生活をそれで終わらせる訳にも行かずこのような形になった。その為今から言う事は絶対に守れ。もし破ったりした者が居れば、私自ら引導を渡す。いいな?」

 

千冬にそう言われさっき叫んだ生徒達、そして叫んでいなかった生徒達は冷や汗を流しながら首を縦に振る。

 

「1つ目、大声を上げるな。2つ目、本人の許可なく体に触れない。3つ目、話すときは正面からで、ある程度距離をとること。4つ目、大勢で話しかけない。かならず少人数で話しかける事。5つ目、高圧的態度で接しない。以上の事は必ず守るように」

 

「「「「はい!」」」」

 

全員そう声を揃えると、千冬は良いだろう。と返す。だが、内心不安要素が残っている事に警戒していた。

その不安要素である2人に目線を向ける。1人は窓の景色を眺める黒髪の生徒。もう一人はムスッとした顔を浮かべた金髪の英国人。

 

(この二人が要警戒人物だな。……頼むから一夏を苦しめる様なことはするなよ、貴様ら)

 

心の中で2人に対し警戒心を浮かべる千冬。そして朝のSHRは終了した。

 

1限目の授業が始まるまでの間、それぞれ授業の準備をしながら一夏の方をチラチラと見る。

その視線には一夏も気付いているが、恐怖からか話しかけようとはしない。準備を終えまた教科書で視線を遮ろうとした瞬間、

 

「えっと織斑君、少しいいかな?」

 

そう声を掛けられ一夏は本の上から少しだけ顔を出す。

 

「な、なんでしょう、か?」

 

「うん、そのままで良いから質問してもいい?」

 

「ど、どうぞ」

 

そう言い、一夏は質問される事を返していく。オドオドはしているが、ちゃんと接しようとしている姿に生徒達は感心の様子を見せた。

 

1限目の授業が始まり、それぞれ電子ノートで黒板に書かれている事を写したり、教本にマーカーペンで線を引いたりしていた。

 

「えっと、此処までついてこれていますか?」

 

教卓に立っていた真耶がクラス全体を見渡すと、生徒達はそれぞれ頷く。

 

「織斑君は大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫、です」

 

一夏はおどおどしながらもそう返し、顔を下に向ける。

 

「そうですか? 分からなかったら、何時でも聞いて下さいね。なんたって先生ですから!」

 

そう言い、胸を張る真耶。

 

「山田先生、そんなことを言っていないで早く進めてください」

 

呆れた表情で真耶に告げる千冬。真耶は慌てて授業を再開した。

そして1限目が終わり、それぞれ次の授業の準備や友達と談笑したりし始める。一夏は大きめの小説本を取り出しそれを読もうとすると

 

「ちょっといいか?」

 

「ヒッ!?」

 

そう声を掛けられ、一夏は突然真横から声を掛けられたことに驚き悲鳴を上げる。

 

「なっ! なんでそんな情けない悲鳴を上げるんだ一夏!」

 

そう叫ぶ黒髪の女子生徒。一夏は怯えた表情を浮かべ、体がブルブルと震えていた。

 

「そ、そんな、こと言われても「ごたごた言い訳をするな! 貴様それでも男か!」」

 

すごい剣幕で怒鳴る女子生徒に一夏は完全に怯え切っていた。

 

「ちょっと篠ノ之さん! 織斑先生に言われていた事忘れたの!?」

 

そう言い一人の生徒が一夏から離そうと引っ張る。

 

「五月蠅い! 今、一夏と話しているんだ! お前には関係ないだろうが!」

 

「だからって一夏君に怒鳴ることないじゃない!」

 

そう咎める生徒。すると箒は拳を握りしめ一歩踏み出した瞬間、箒の頭目掛け何かが振り下ろされ、ガンッと鈍い音が教室内に響き渡った。

 

「……篠ノ之。貴様、私が言った事もう忘れたのか?」

 

「ち、千冬さん」

 

ガンッとまた箒の頭に出席簿が振り下ろされ、鈍い音がまた鳴り響く。

 

「織斑先生だ。篠ノ之、お前は織斑に近付くことは許さん」

 

「なっ!? なんで「お前が織斑の傍に居ると症状が悪化する恐れがあるからだ」くっ‼」

 

「分かったら、さっさと座れ」

 

そう言われ篠ノ之は悔しそうな表情で席へと戻る。

 

「四十院、すまんな」

 

「い、いえ。織斑君、苦しそうにしていたので」

 

「そうか。お前達も織斑が苦しそうだったら、少しでも手を貸してやる様に」

 

「「「はい!」」」

 

そう声が上がると、千冬は教卓へと向かう。

そして2限目も終わり一夏の隣の生徒が話しかける。

 

「おりむー、ちょっといい?」

 

「ふぇ? えっと、いいですけど、その」

 

「あ、私、布仏本音って言うんだぁ。宜しくねぇ」

 

のんびりとした口調で自己紹介をする本音に、一夏は「よ、よろしく」と返す。

 

「そ、それで何の用ですか?」

 

「えっと此処の問題が分からないから、教えて欲しいんだぁ」

 

そう言い、教科書のある部分を指す本音。

 

「えっと、其処だったら……」

 

そう言いながらノートを取り出す一夏。

 

「どうやるのぉ?」

 

そう言って、一夏が取り出したノートを覗き込む本音。

 

「えっと、此処の公式を分解して、それで当てはめれば、解けます」

 

「ほへぇ~、そう言う事だったんだぁ。ありがとうね、おりむ~」

 

「ど、どう、いたしまして」

 

そう言い、ノートを片付ける一夏。すると視線が一斉に自分に向いている事に気付き顔を上げる。生徒達のほとんどが、千冬や真耶でさえも驚愕の表情を浮かべていた。

 

「な、何か?」

 

一夏は一斉に見られている事に怯えた表情を浮かべる。

 

「い、一夏。お前、今何があったのか、分かるか?」

 

「ふぇ? な、何がって?」

 

「の、布仏が今近くに居たんだぞ?」

 

そう言われ、一夏はしばし茫然としていたが、「あっ!」と気付いたような表情を浮かべる。

 

「そ、そう言えば、大丈夫だった」

 

「ほへぇ?」

 

一夏の一言の次に布仏の方に視線を向けられ、布仏は首を傾げる。

 

「…布仏、少し一夏に触れてみてくれないか?」

 

「いいですけど。いい、おりむ~?」

 

「…は、はい」

 

一夏は若干怯えながらも、身構える。千冬たちも万が一を考え何時でも動けるようにする。そして本音が一夏の方に手を置いた。

 

「……何とも無いか?」

 

「う、うん。なんとも、無い」

 

一夏自身は若干驚いているが、千冬たちにとっては大きな衝撃だった。

 

「ど、どどど、どう言う事ですか織斑先生?」

 

「わ、分からん。一体どういう訳か……ん?」

 

全員が首を傾げている中、千冬はある事に気付き本音をジッと見つめる。

 

「なんですかぁ、織斑先生?」

 

「……布仏。お前、周りから自分の事をどういう感じだと言われている?」

 

「どんな感じでか? え~と、のんびり屋で、お菓子が大好きな子ってよく言われます。あと動物の着ぐるみを着ると、のほほんとしてるって事も言われまぁす」

 

そう言うと、千冬は顎に手を当てながら考えこみ、何かが合致したのか顔を上げた。

 

「なるほど。そう言う事か」

 

「えっと、どう言う事ですか?」

 

「布仏の性格だ。アイツののほほんとした性格とのんびり屋と言う事がもしかしたら織斑に警戒心を与えていないんだろう。だから織斑に近付いても、症状が現れないんだ。恐らく布仏の気配は動物に近いんだろう」

 

「そ、それじゃあ布仏さんは唯一織斑君に触れられる生徒と言う事ですか?」

 

「生徒の中であればな。他には私が知っている限り、一人しかいない」

 

その言葉に、全員「いいなぁ。」と羨ましそうな視線を本音に送る。

 

「?」

 

布仏は事の重大さが分かっていないのか、首を傾げる。

 

「布仏、すまんが少し頼みがある」

 

「なんですかぁ?」

 

何時になく真剣な表情を浮かべる千冬に、皆なんだろうと思い静かになる。

 

「織斑の事、頼んでもいいか? 無論私が傍に居てやればいいのだが、教師故ずっとは居てやれん。だから唯一織斑に近付いても大丈夫なお前にしか頼めない。無理なら断ってくれても構わない。どうだろうか?」

 

そう告げて、「この通りだ」と言って頭を下げる千冬。千冬が本音に頼むのは教師としてではなく、弟を守る一人の姉としてであった。

 

「分かりましたぁ! おりむ~の事お任せ下さぁい!」

 

そう言いダボダボの袖を高々に掲げる本音。

 

「そうか、それじゃあ頼む。他の者達も出来る限りで構わん。織斑の力になってやってくれ」

 

「分かりました!」

 

「近付けるのが布仏さんだけですから、私達は私達で出来ることをやります!」

 

それぞれ意気込む生徒達を見て千冬は少し安心した表情を浮かべ、教室から退室していった。



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2話

一夏の事を任された本音は出来るだけ一夏の近くに居る様にしていた。

 

「ねぇねぇイッチー。お菓子食べる?」

 

「えっと、その、い、頂きます」

 

一夏がそう言うと、本音は封の開いていないトッポの袋を取り出し封を開ける。

 

「はい、どうぞぉ」

 

「あ、ありがとう」

 

そう言いおずおずと袋の中からトッポを取り出した一夏はポリポリと食べ始め、本音も食べ始めた。その光景にクラスの生徒達は何だか和んだような表情を浮かべていた。すると近くに居た生徒が自分もと、封の開いたピーナッツチョコを差し出す。

 

「お、織斑君。このお菓子も美味しいよ?」

 

「え? えっと、その…」

 

差し出されたお菓子に手を出そうとしない一夏に、生徒はもしかしてとある事に気付く。

 

「も、もしかしてピーナッツ駄目だった?」

 

「ち、違うんです。その、ただ…」

 

中々口にしない一夏に周りはどうしたんだろうと心配そうに見ていると、本音が何かに気付き生徒が差し出したお菓子を1つ口にした。

 

「うぅ~ん、美味しぃ。いっちー、このお菓子美味しいよぉ」

 

「あの、それじゃあ、い、いただきます」

 

そう言い漸くお菓子を食べ始めた。周りは何故だろうと言った疑問で溢れていた。すると本音がそっと生徒の耳元に口を近づける。

 

「いっちーは多分、封が空いてるから警戒したんだと思うよ」

 

「封が空いてるから?」

 

「うん。多分イッチーはミッチーがその気になくても、何か入れられていると考えこんじゃって手が出せなかったんだと思うよ」

 

そう言われミッチーと呼ばれた生徒は納得のいった顔になる。

 

「そ、そうだったんだ。織斑君、ごめんね。先に私が食べたのを見せてからすすめれば良かったね」

 

「い、いえ。あ、貴女は何も悪くないので、気にしないでください」

 

おどおどした表情で言いながら本音から差し出されたトッポを頬張る一夏。疑問が解消された生徒達はお菓子を上げる際は未開封のものにしようと決めたそうだ。

 

時刻は過ぎ、3限目の授業が終わった休み時間。一夏は次の授業で使う教科書などを出していると、

 

「ちょっとよろしくて?」

 

真横から突然話しかけられたことに一夏は一気に肩を跳ね上げた。

 

「ヒッ!?」

 

「なんなんですの貴方! 私、セシリア・オルコットが折角声を掛けたあげたというのに、悲鳴を上げるなど「ちょっとオルコットさん」なんですの?」

 

高圧的な態度で一夏を見下すセシリアに、周りにいた生徒達は睨んだ視線でセシリアを見据えていた。本音でさえも睨んだ眼だった。

 

「貴女も織斑先生から言われた事、忘れたの? 高圧的な態度で接しない様にって言われてたじゃない」

 

「あら、忘れてなどいませんわ。ただ、私の喋り方等は幼少の頃からこれですのでこれで高圧的と言われましても、どうする事も出来ませんわ」

 

「だったらもう少し声の圧を抑えるとかしなさいよ。流石にあれは誰だって怖がるわよ」

 

「…ふん、もういいですわ」

 

女子生徒に注意されたのが気に喰わくなったセシリアは鼻を鳴らしてその場から離れ自分の席に戻って行った。

 

「あ、あの、ぼ、僕は気にして無いから――」

 

「そう言う訳には行かないでしょ」

 

「確かに。あれって明らかに織斑君の事侮辱した態度だったもん」

 

「本当よ。しかも何よ、幼少の頃からこの口調だから無理って」

 

そう言いながら席に戻ったセシリアにジト目で睨む生徒達。一夏は自分の所為で空気が悪くなったと思い、若干戸惑った表情を浮かべていた。

 

「イッチー、大丈夫だよ」

 

一夏の気持ちに気付いているのか、本音が優しく声を掛ける。

 

「ほ、本音さん?」

 

「イッチーが悪いわけじゃないから。気落ちしなくていいから」

 

のんびりとした口調で諭す本音に、一夏はう、うん。と頷いた。そして4限目の授業を開始するチャイムが鳴り響き、それぞれ席に着いた。教室に千冬と真耶が入り千冬は教科書片手に授業を始めた。

チョークで教える箇所を教えようとした瞬間、何かを思い出したのか体を生徒達の方へと向けた。

 

「そうだった。実はクラス代表を決めるのを忘れていたんだ。誰かやる者は居らんか? 推薦でも構わんが、分かっているな?」

 

千冬が最後に付け足した言葉に生徒達の多くは頷いた。そしてそれぞれ隣にいる生徒達は誰かいないかと相談し合い始めた。

 

「ねぇねぇ、イッチーは誰になって欲しいとかある?」

 

「ぼ、僕は、特に誰とかは。た、ただ、いじめとかしてこない人だったらいいかな」

 

「そっかぁ。それだときよきよとかつっきーとかが良いねぇ」

 

そう談笑し合っている中、教室で手を挙げる者も推薦の声は上がらずただ隣り同士の話し合いしかなかった。その光景に見かねた千冬が案を出した。

 

「それじゃあやって欲しいと思う者を挙げてくれ。但しこれは推薦ではない。本人がやるかどうかは本人次第だという事忘れない様に」

 

そう言うと、生徒達は隣の生徒達の顔を見合う。そして一人がおずおずと手を挙げた。

 

「あの、私は織斑君が良いと思います」

 

「ほう、その理由は?」

 

「その、えっと…」

 

生徒が理由を全く述べない姿勢に、千冬は大体理由を察せたのかため息を吐く。

 

「珍しいからとか、そう言った理由だろ?」

 

そう問われ、生徒はシュンと項垂れコクリと頷いた。

 

「他の者達はどうだ? 織斑が良いと思っている者、手を挙げろ」

 

そう言われ、おずおずと10人程の生徒が手を挙げた。

 

「はぁ~。物珍しいのは分かる。だが、分かっていると思うが「あ、あの先生」ん? 織斑、どうした?」

 

「ぼ、僕やってみたいです」

 

やると宣言する一夏に千冬は若干驚いた表情を浮かべていた。

 

「ど、どうしてやりたいと言うんだ?」

 

「そ、その、す、少しずつでもいいから、女性にな、慣れる様になりたい、からです」

 

一夏は、緊張や不安など色んな思いがありながらも、自身の症状に向き合おうとしている。千冬は不安な表情を浮かべながらも、本人が頑張りたいと言っている姿に拒否しづらく、しばし思案した後決心した。

 

「分かった。それじゃあ「お待ちください!」…なんだオルコット?」

 

千冬は突然大声をあげ、机に叩きながら立つセシリアに予感的中と内心チッ。と舌打ちを放つ。

 

「何故男などにクラスの代表をさせるのですか! 私、イギリス代表候補生であるセシリア・オルコットこそが相応しいのです! 男などに代表を務めさせるなど、私に(以下省略)」

 

と、長い一夏に対する侮辱発言、そして日本に対する侮辱に日本人の多く生徒が睨むような視線をセシリアに向けていた。そんな中一夏はシュンと沈んでいた。

 

(ま、また僕が出しゃばったせいで、クラスの空気が悪くなった)

 

そう思い落ち込んでいた。無論隣にいた本音はその様子に気付いており、何とか元気づけようと考えるがいい方法が思いつかず必死に考えていた。

すると全く言い返してこない一夏に、セシリアは見下したような目つきを向ける。

 

「あら、何も言い返してこないんですの? 本当、男というは弱いですわね。いっそこのまま此処から出て行かれた方が「だったら貴女が出て行けばいいじゃない」なんですって?」

 

セシリアの言葉を遮る様に一人の生徒が零す。

 

「何度でも言ってあげるわよ。貴女が此処から出て行けばいいじゃない。極東が嫌いなんでしょ? だったらイギリスに帰れば良いじゃない。そうすれば織斑君と一緒に授業も受けないんだし」

 

生徒がそう言いながら立ち上がると、他の生徒達も、そうだそうだ! 帰れば良いじゃない。と同調する。しまいにはクラスのほとんどの生徒達から、帰れ帰れと促され始めた。

 

「な、なんですの貴女達は! これだから品の無い国は嫌なんですわ。私は出て行くつもりは《ガシャン!!》」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

突然教室の扉が蹴破られるように倒れ、生徒達は先程の殺伐とした空気が一気に変わり全員蹴破られた扉の先を見ると、何かが立っていた。それは胴体が長方形でメカで出来ており、頭には機械のうさ耳をしていた。

それはまさにロボットであった。

ウサギのロボットはガシャン、ガシャンと音を立てながら教室内へと入って来た。生徒達は茫然とその姿を見ていたが、一夏だけは呆けた顔を浮かべていた。

 

「め、メサさん?」

 

そう零した。

メサと呼ばれたウサギ型のロボットはセシリアの元まで来てセシリアを見つめていた。

 

「な、何なんですの?」

 

黙って見つめてくるロボットにセシリアは言い知れぬ恐怖が出てくるが、高圧的な態度だけは崩さなかった。するとメサは何処からともなくプラカードを取り出した。其処には

 

【てめぇは、俺を怒らせた。(# ゚Д゚)】

 

と書かれており、空いている右ハンドを変形させ、チェーンソーを出す。

 

「ヒッ!??」

 

ウォンウォンと鳴り響くチェーンソーを近づけられ、セシリアは恐怖から尻もちをつき後ずさる。

 

「め、メサさん。や、止めて」

 

そう声が上がる。メサは体を捻り一夏の方を見ると、びくびくしながらも止めようとしている一夏だった。

 

「ぼ、僕はき、気にしていないから」

 

そう言われメサはチェーンソーを止め右手を元に戻した。

 

【坊ちゃまがそうおっしゃるのであれば、止めます】

 

プラカードをそう一夏に見せた後、セシリアの方にもプラカードを見せる。

 

【命拾いしたな、雌豚( ゚д゚)、ペッ】

 

そう書かれたプラカードを見せた後、メサは千冬の元に向かう。

 

「な、なんだ?」

 

【博士からお電話です】

 

そう伝えると顔の部分が回転し画面が現れると、画面に千冬のよく知る人物が映った。

 

『やっほぉ~、ちーちゃん! 元気してたぁ?』

 

「た、束。やはりこのロボットを作ったのはお前か」

 

何処か見当がついていたのか、それでも呆れた顔を浮かべる千冬。画面の向こうに居る束は、にゃはははは!と笑いながら頷いていた。

 

『もちのろんじゃん! このロボット、メカウサギくん。略してメサ君はいっくんのお世話ロボットだぜぇ! 機能は多種多様で、洗濯、炊事、掃除などありとあらゆることが出来る万能ロボットだぜ! まぁ、基本はいっくんがやっている事の補助的な事だけどね』

 

「なんでまた? ……すまん、今の言葉は忘れてくれ」

 

千冬は束がロボットの開発した理由を聞こうとしたが、直ぐに見当がつき申し訳なさそうに訂正した。

 

『いいよいいよ。いっくんもちーちゃんが忙しいのは知ってるし、偶に帰って来ていっくんが困っている事が無いか相談とか乗ってあげてるから束さんは特に文句は言うつもりはないし。と、あんまり長居すると授業邪魔だね。メサ君、そろそろお荷物置いてお家にって、駄目だよ。いっくんの傍に居たいのは分かるけど、いっくんも頑張って其処に通おうとしてるんだから。いい? ちゃんと帰ってくるんだよ? それじゃあちーちゃん、いっくんばいびぃ~!』

 

画面の向こうでメサと何やら口論?の様なことをする束。そして通話が切れたのか画面から束が消えまた顔に戻るメサ。が、メサはしばし其処から動こうとせず一夏の方を見つめる。

 

「あの、メサさん。ぼ、僕は大丈夫だから、お家の事お願いします」

 

一夏がメサに向かってそう言うと、メサは考えるポーズをとりプラカードを見せた。

 

【…分かりました。坊ちゃまが頑張って克服しようとしてらっしゃるのであれば、涙をこらえます。(ρε;) クスン】

クリン【では、坊ちゃまのお部屋にお荷物を届け次第、家の方に戻ります。学業の方、頑張ってくださいρ(′▽`o)ノ゙ ファイトォ~♪】

 

そしてメサは教室の扉の方に向かい破壊した扉を持ち上げ、はめ直した後出て行った。

 

「……えぇ~、突然の事が起きたが、クラス代表選びの続きを行う。クラス代表だが、1週間後に試合を行って決めることにする。以上だ」

 

そう言い授業の続きを行おうとするが、一人の生徒が手を挙げる。

 

「あの織斑先生、それだと織斑君が不利なんじゃ?」

 

そう質問すると多くの生徒達が頷く。その質問に千冬はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「根拠は話す事は出来ないが、それは問題ない」

 

そう言い授業の続きを行おうとしたが、チャイムが鳴ってしまい授業は終了となった。




次回予告
お昼休み。一夏と本音は相川清香と鷹月静寐の4人とでご飯を食べることに。
そして放課後、一夏は本音と共に寮にある自室へと到着し寛ぐ。
時が経ち1週間後、クラス代表戦が行われようとした。

次回
のんびり日和、そして戦い


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3話

前回登場したメカウサギ、略してメサのイメージはウサビッチのメカネンコ1号を利口にした感じです。


殺伐だった4限目が終わりそれぞれ昼食をとりに食堂へと向かう中、一夏は鞄の中から弁当を取り出していた。

 

「あれ、イッチーは食堂に行かないの?」

 

隣の席の本音は鞄から弁当を取り出す一夏にそう聞くと、一夏はコクンと頷く。

 

「う、うん。その、食堂には、一杯他のクラスの、生徒が来るから」

 

そう言うと、本音は納得のいった表情を浮かべる。

 

「そっかぁ、いっぱい来るもんねぇ。……あ、良いこと思いついたぁ。ちょっとイッチー、ご飯食べるの待っててねぇ」

 

そう言いながら教室を出て行く本音。一夏は何故待っていてと言って出て行ったのか疑問を浮かべながら待つことに。

暫し待っているとビニール袋を持った本音と、同じクラスの鷹月静寐と相川清香がやって来た。

 

「えへへ、お待たせぇ~」

 

「えっと、一緒にご飯食べてもいいかな?」

 

「私もいい?」

 

「あ、は、はい。じ、自分なんかと一緒でいいなら、どうぞ」

 

そう言うと、それぞれ一夏の近くにある席に座りそれぞれ袋から弁当を取り出す。

 

「その、お弁当はどうしたんですか?」

 

「これ? 実は食堂には手製のお弁当も売られてるんだよ」

 

「コンビニとかで売られている物より栄養バランスとかしっかり考えられて作られてるから、外で食べたいって言う人には持ってこいなのよ」

 

「そ、そうなんですか」

 

一夏はそう言いながら自身のお弁当の蓋を開ける。中身は蛸さんウインナー、卵焼き、ホウレン草のお浸し、そして梅干しの入ったご飯だった。

 

「お、織斑君のお弁当凄いねぇ」

 

「し、しかも何気に蛸さんウインナー入ってる」

 

「さ、最近お弁当作りにはまってて。その、料理をしている時が一番落ち着くから」

 

そう言うと、3人は

 

(((か、可愛いぃ)))

 

と、男子にも拘らずそう思ってしまった。だが無理もない。原作の一夏はキリッとしたイケメンであるが、この作品の一夏は原作より身長が若干低く、その上若干幼い顔立ちの為、かっこいいとと言うよりも可愛いと言う言葉が最初に出てきそうな姿なのだからだ。

 

「な、何か?」

 

「う、うんん! 何でも無いよ」

 

「そ、そうそう。何でも無いよ!」

 

「何でもないよぉ。ねぇねぇイッチー、その卵焼き一つちょうだい?」

 

「え? えっと、ど、どうぞ」

 

一夏はお弁当にある卵焼きを差し出すと本音は弁当から卵焼きを掴み口に運ぶ。口にした瞬間本音はトロンとした顔つきになった。

 

「お、おいひぃ~」

 

「ほ、本音がとろけてる」

 

「そ、そんなに美味しいんだ。何か調理中に加えたの?」

 

「い、いえ。み、皆さんが知ってる調理方法で調理したから、その、家で誰もが食べてる味だと思うんだけど…」

 

そう答えるが、2人はうそぉ?と心の中で思いながら惚けた顔を浮かべる本音を眺める3人であった。

 

※その頃食堂では

和気藹々と楽しい会話などが生まれる食堂。だが、ある一か所だけは重苦しい雰囲気の中昼食をとっているところがあった。

其処にはセシリアと箒が座っており、その向かいには千冬が座ってご飯を食べていた。

 

「どうした、全然減っていないではないか。早く食わんと午後からの授業を腹を空かせたまま過ごす気か?」

 

千冬はそう言いながらご飯を食べる。だが2人は千冬から発せられる威圧感に食べようにも食べられずにいた。

 

さて、何故この二人と千冬はご飯を食べているか。それは二人共一夏の症状を悪化させる要因になると考えた為である。

箒は今朝、一夏に向かって大声で怒鳴る行為。セシリアは侮辱、高圧的態度で一夏に接した。その為昼休みになれば箒はまた一夏に、情けないやら男ならとか自分の価値観を押し付けようとする。セシリアの方も、もし食堂に一夏が居ればまた侮辱などするだろう。そうすれば学園内に居る女尊男卑の生徒も一緒に一夏を苛めようとするだろう。

もしそうなれば一夏の症状は悪化する。

だから千冬は2人を連れて食堂でご飯を食べているのだ。

 

「あ、あの千冬さ「織斑先生だ。で、なんだ?」そ、その一夏は?」

 

「あぁ。アイツなら教室で布仏達と一緒に昼食をとっている。布仏が一緒に居るから私も安心して任せられる」

 

「……な、なんでアイツなんだ。ギリ」

 

「そんなことお前が気にする事ではない。朝にも言った通りお前は織斑に近付くことは許さん」

 

そう言われ手を握りしめ震える箒。

 

「で、ではな、何故わたくしは織斑先生と昼食を?」

 

「決まっているだろう。貴様は極東が嫌いなんだろ? ならば、日本人である私も嫌いだと言う事だ。私は反感を持つ生徒を教育し直すのが得意でな。いざとなればISを使った殴り合いも行う。手始めにまずは貴様も篠ノ之を交えて昼食をとることにした」

 

そう言いながら茶を飲む千冬。千冬の説明を聞いたセシリアは内心あの時の発言に今更になって後悔していた。

ブリュンヒルデである千冬は日本人。更にISを生みだしたのも日本人である篠ノ之束。

つまりセシリアはその二人に対して侮辱したととられる行為をしたのだ。

セシリアは千冬自身を侮辱した為と考え、こういう罰を行っていると見当はずれな考えに行きつく。

 

その後、結局満足に昼食をとれなかった二人は午後の授業をお腹を空かせながら受けるのであった。

 

昼休みが終わりぞろぞろと生徒達が戻って来て5限目の準備を始めていと、千冬がやってきて一夏の元に向かう。

 

「織斑、1週間後の決定戦だがお前のIS、今持ってるか?」

 

「い、いえ。今、束お姉ちゃんが持ってます。その、1週間後には持って行かせるって、さっきメールが、届きました」

 

「そうか。そう言っていたなら問題無いな」

 

そう言い千冬は教壇へと戻って行き、授業を開始した。

5限目が終わり教科書を片付ける一夏。

 

「ねぇねぇイッチー。もしかして専用機持ってるの?」

 

「う、うん。自分の身を守る為のと、その、僕の症状が少しでもいいから緩和されるようにする為に、束お姉ちゃんが用意してくれたんだ」

 

「おぉ~、篠ノ之博士特製って事なんだぁ。凄いねぇ!」

 

「ぼ、僕はいいって、断ったんだけど、護身用の為って強く言われたから」

 

そう言いながら6限目の準備をする一夏。

 

「そっかぁ。でも博士もイッチーの事大切だと思って渡したと思うから大事にした方が良いよ」

 

「う、うん」

 

本音の言う通り、一夏自身も束が自分の身を案じて作ってくれたのは知っている。そしてそのおかげか、自分の身はある程度自分で守れるくらいにはなっている。だがそれでもいざと言う時、怖いものは怖いと考え込んでしまう。

 

因みにセシリアは一夏が専用機を持っていると分かると、負けるのが見えているから謝ったら許してやる。と高圧的に言おうと向かおうとしたが

 

「オルコット。貴様先程の授業、ちゃんと私の話は聞いていたのか?」

 

と睨むような眼で見てくる千冬に呼び止められ、は、はい!と背筋を伸ばしながら先ほどの授業内容を説明させられた。

 

そして放課後となり、ぞろぞろと生徒達が帰っていく中、一夏は教室に残っていた。その傍には本音も居り、一緒に談笑していた。

 

「先生、遅いねぇ」

 

「う、うん」

 

おどおどしながらも待つ一夏。すると真耶が教室内へと入って来た。

 

「あ、織斑君。お待たせしました。これが寮のカギになります。無くさない様にお願いしますね。もし無くしたら出来るだけ早く言ってくださいね。鍵の交換など行わなければいけませんから」

 

「は、はい」

 

一夏は真耶から鍵を受け取り、部屋の番号を見ながら手帳に書かれている寮の部屋番号と照らし合わせる。

 

「イッチー、部屋の番号って何ぃ?」

 

「えっと、1539だけど」

 

「おぉ~、私その隣なんだぁ。あれ、でも私の隣元々倉庫だったようなぁ?」

 

「えぇ? じゃ、じゃあ僕倉庫で「そんな訳ないだろ、織斑」あ、お、織斑先生」

 

倉庫で寝泊まりするのかと考え若干青褪める一夏に、突っ込む千冬。

 

「元々倉庫だった部屋を、お前用に改装したんだ。無論一人部屋だから安心しろ」

 

「そ、そうですか。あ、ありがとう、ございます」

 

「気にするな。ほら、荷解きなどあるだろ、早く帰るんだ。布仏、すまんが一緒に帰ってやってくれ」

 

「はぁ~い、了解であります!」

 

そう言い本音は一夏と一緒に寮へと帰って行った。

その後姿を千冬は満足そうな笑みで見送った。

 

「織斑先生、嬉しそうですね」

 

「ん? まぁ今のアイツの周りには同い年の女子はいないからな。布仏から少しずつ増えていってくれればいいんだが」

 

「そうですね。そう言えば職員室で言ってた野暮用は済んだんですか?」

 

「あぁ、簡単に済む野暮用だったからな。さて私達も職員室に戻るぞ」

 

「はい!」

 

千冬の後に続くように真耶も教室から出て行き2人は職員室へと戻って行った。

 

 

 

その頃IS学園の中にある建物の一つである、剣道場内に箒が寝っ転がっていた。何も知らない生徒からすればサボっているように見えるが、実際は気を失っているのだ。

その訳が数十分前まで遡る。

 

~数十分前・昇降口~

昇降口にて箒は一夏が出てくるのを待っていた。その姿は道場着を着ており、その手には竹刀が握られていた。

 

「全く遅いぞ一夏の奴め。出てきたら道場に連れて行って腑抜けた体に喝を入れてやらんと」

 

そう呟きながら待っていると

 

「おい」

 

「五月蠅い、あっち行ってろ」

 

「…誰を待っているんだ?」

 

「一夏に決まっているだろ。分かったらあっちに《ガンッ!》痛っ!? な、何を…ち、千冬さ《バシン‼》」

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

そう言いながら箒の頭を叩いた出席簿を降ろす千冬。だがその目は睨んだ眼だった。

 

「篠ノ之、貴様懲りずに織斑に近付こうとはいい度胸だ。先ほど私に向かって馴れ馴れしくした事を含めて道場でOHANASIだ」

 

そう言われ箒は逃げ出そうとするもすぐに捕まり、引き摺られながら剣道場に連れていかれ1対1の剣道が行われ千冬の渾身の面が入り、箒は気を失ってしまったのだ。

 

 

~時間は戻ってIS学園にある寮~

本音と共に寮へと到着した一夏。

 

「それじゃあ、私ここの部屋だから何かあったら呼んでねぇ」

 

「う、うん」

 

そして一夏は早速部屋の鍵を開け中へとはいる。

中に入った一夏は扉に鍵とチェーンを掛けると部屋の奥へと向かう。部屋には一人用のベッドに、机。更にキッチンが備えられていた。

 

「き、キッチンも付けてくれたんだ」

 

一夏は千冬に色々用意してくれたことに感謝し、今度お弁当でも作ってあげようと考えるのであった。

 

そして1週間はあっという間に過ぎ、クラス代表戦の日となった。

アリーナに供えられているピットに一夏は自身用に作られた戦闘機のパイロット用スーツの様なISスーツを身にまとってISが来るのを待っていた。

ピットには一夏以外にも、千冬と許可を貰った本音が居た。

 

そして暫くしてガシャンガシャンと駆動音が聞こえ、扉からメサが現れた。

 

【坊っちゃま、ISをお持ちしましたよぉ!ヾ(*´∀`*)ノ】

 

「あ、ありがとう、ございますメサさん」

 

そう言い一夏はメサから待機形態だと思われる腕輪を受けとる。

受け取った腕輪をはめ展開するよう念じる。

すると目の前が真っ白な光で覆い尽くされた。暫くして光が収まると、周囲は真っ白な世界で覆われていたが、一夏はキョロキョロと何かを探すように辺りを見渡すと

 

〈久しぶりね、一夏〉

 

「ヒエッ!?」

 

突然背後から話しかけられ悲鳴を上げる一夏。

一夏の背後に居たのは、薄茶色のツインテールをした黒色の戦闘服を着ており、頭には猫耳の様なカチューシャをし、目が鋭い少女だった。

 

〈はぁ~。相変わらず怖がりね。この世界に居るのは私達2人だけなんだから、私が来る事くらい分かるじゃない〉

 

「そ、そうだけど、背後からと、突然話しかけないでよ、アイラ」

 

一夏は話しかけてきた少女、アイラに咎めるもアイラはふん。と鼻を鳴らして聞く素振りを見せなかった。

 

〈それで一夏。あんた、あの金髪ドリルに負けるかもしれないとか思って無いでしょうね?〉

 

「お、思ってないよ。た、ただ・・・」

 

〈ただ、何よ?〉

 

「あ、アイラが乗る機体が傷付く姿は見たく《バチン!》痛っ!?」

 

一夏が話している最中にアイラは一夏の額にデコピンをお見舞する。

 

〈何馬鹿な事言ってんのよ。機体が破損したくらい後で修理すれば直るわよ〉

 

「で、でもそれでも…」

 

アイラは一夏の甘さにため息を吐くも、少なからず悪い気はしていなかった。

 

〈だったらアンタがしっかり操縦して被弾を軽減しなさい。私もサポートしてあげるから〉

 

「う、うん」

 

そう言うと一夏の体は消えていった。一人残ったアイラはまた溜息を吐くも、クスリと笑みを浮かべるのであった。

 

〈…本当、甘ちゃんなんだから〉

 

真っ白だった周囲はいつの間にか、ピットに戻っていた。

 

「どうした、織斑?」

 

近くに居た千冬は心配そうにそう聞くが、一夏は大丈夫とだけ答え身に纏っているISの状態を確認する。

武装、姿勢制御、スラスター各部全てオールグリーンと表示されていた。

そして一夏はカタパルトに乗り込む。

 

〈さぁ一夏、あの金髪を叩くわよ〉

 

アイラの声が頭に響き、一夏は小さく頷く。

 

「お、織斑。バレットホーク、出ます!」




・バレットホーク(イメージ:漫画『バスタードレス』ガンホーク)
一夏の為に束が作成したIS。詳しい詳細は次回にて

・アイラ(イメージ:漫画『バスタードレス』原作通りの姿)
バレットホークのコアにいる人格。一夏に対し厳しく接するも搭乗者としては認めている。隠れツンデレで、一夏が見ていないところではデレた表情を見せる。
一夏の症状を緩和できるようにと、治療から悪化防止等を行っている。

次回予告
アリーナへと飛び出した一夏。多くの生徒達は一夏の腕前は初心者だと思い無様に負けてしまう。そう思っていた。だが、その思いは簡単に覆される。

次回
クラス代表決定戦


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4話

ピットから飛び出した一夏が乗るバレットホーク。先に出ていたセシリアはようやく出てきた一夏に怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「フルスキン? ふん、そんな重そうなISでこのブルーティアーズに勝てるとお思いですの? どうみても勝敗など決しておりますわ。今その場で土下座して許しを請いましたら赦してあげなくもありませんわよ?」

 

実に上から目線の喋りにアリーナに居た多くの生徒達が不快な顔付になっていた。

 

「何よあの上から目線。まだ勝負も始まってもいないのに、勝った気になってさ」

 

「本当よ。まだ織斑君が弱いって決まったわけじゃないのに」

 

「で、でも織斑君女性恐怖症っていうハンディキャップを抱えているんだよ? ほ、本当に大丈夫かな?」

 

一人の生徒がそう零すと、皆顔をしかめながら俯く。

 

「…分からないわ。けど、今は織斑君を信じるしかないじゃない」

 

「う、うん」

 

1組の生徒達は一夏がせめてセシリアに一発お見舞いすることが出来ればそれで上出来だと思っていた。

そんな中、一夏はと言うとただ黙って立っていた。

 

「……何か言ったらどうですの?」

 

セシリアはそう問うが一夏は何も言わずただ前だけを見つめていた。

 

「ッ!? もう怒りましたわ! 完膚なきまで叩きのめしてあげますわ!」

 

怒りの表情を浮かべながら怒鳴るセシリア。そんな姿でも一夏は何も言わなかった。

 

 

その訳が一夏の目からはブルーティアーズに乗っているセシリアは()()()()()()にしか見えていないからだ。更に観客席にいる生徒達も訓練用人形として映っていた。歓声は普通の話し声程度で聞こえるも、セシリアの声は全く聞こえていなかったのだ。

 

〈あ、あの人なんか、怒ってる?〉

 

〈……さぁ? 何言ってるか全然聞こえてないから分からないわ〉

 

一夏は地団駄を踏むような動きをするセシリアに、怒っているのではとアイラに聞くも知らないと返す。だが本当はアイラには聞こえていた。もし今アイラの姿が一夏に見えていたら恐らく怯えた表情を浮かべるだろう。それだけ彼女の顔は怒りの表情で満ちていた。

 

〈(いい度胸ね、金髪。私の相棒に向かって罵声を浴びせた事。後悔させてやるわ)〉

 

そう思い鋭い視線でセシリアを見つめる。

そんな中、一夏が居たピットではと言うと

 

【おのれ、あの金髪ドリルがぁ。あの時坊ちゃまの御慈悲が無ければ死んでいたというのにぃ。今すぐそのドリル引き千切ってやろうかぁ。(▼皿▼メ)ノ】

 

ピットに備えられているモニターを壊さんと両手で掴むメサ。その姿からはどす黒いオーラが噴き出ていた。

 

「わ、わぁ~。め、メサメサがキレてるぅ。お、織斑先生どうし「うむ、オルコットには戻ってきたら私と1対1で模擬戦をするか。よし、そうしよぉ」わ、わ、わぁ~こっちもキレてるぅ」

 

本音は千冬にメサを止めてもらおうとするも、千冬は怒りのゲージが振り切れてしまったのか笑顔を浮かべ恐ろしい事を零していた。

 

『ではこれより、セシリア・オルコット対織斑一夏君との対戦を行います。カウント、3…2…1、試合開始!』

 

アナウンスが入ると同時にセシリアは高く舞い上がり自身のISに搭載されている無線兵器BITを展開する。

 

「さぁ、惨めに墜ちなさい!」

 

そう叫びながら攻撃を開始してくる。一夏はそれを回避しつつ拡張領域からハンターM202-BD60㎜アサルトライフルを構えながら撃つ。

 

「アイラ、あの飛んでるのって、確か…」

 

〈えぇ。脳波を使って操作する物よ。けど、どうやら彼女は未熟みたいね〉

 

「え? ど、どう言う事?」

 

一夏はアイラが何故セシリアを未熟と言ったのか首を傾げると、アイツを見なさいと言われる一夏。

 

〈今のところ、彼女があそこまで上がってから動いた気配はあるかしら?〉

 

「え? えっと、無かったと思う。そ、それじゃあ」

 

〈えぇ。彼女はBITを動かしている最中はまともに機体を動かせないからあそこから動けないのよ〉

 

そう言われ一夏はハッと理解した表情を浮かべる。

 

「そ、それじゃあ彼女に向かって攻撃すれば――」

 

〈えぇ。向こうは避けるので精一杯になる。そうなればBITなんて操縦している余裕なんて無くなるわ。どうすべきか、分かるわね一夏?〉

 

「う、うん!」

 

一夏はアイラの言葉の真意を理解し、ブースターでセシリアの攻撃を躱ししつつ準備を行う。

その頃セシリアは全く自身の攻撃が当たらない事に苛立ちを募らせていた。

 

(な、何故当たりませんの! わ、私はイギリスの代表候補生。そして学年主席ですのよ! そ、それなのにた、たかがIS初心者の男などに手間取るなど!)

 

怒りを浮かべながら攻撃を続けるセシリア。だが明らかにその攻撃は雑になり始めていた。

 

〈あ~ら、怒りで攻撃が雑になってるわね。一夏、サブアームの操縦権を私に回して〉

 

「う、うん。ぶ、武装出すよ」

 

そう言い一夏は背部にあるウイング、更に肩や腰、さらに脚部からサブアームが出てきてそれぞれのアームの目の前に武器が出される。

 

「なっ!?」

 

その光景にセシリアは驚きの余り声を零す。無論アリーナに居た生徒達も同様だった。突然サブアームが現れそれぞれ武器を手に取っているからだ。

 

「決まれぇ!」

 

そう叫び一夏はトリガーを引くと、それに続いてサブアームの火器も火を噴いた。大量に向かってくる弾丸にセシリアはBITをコントロールするのを止め回避行動に移る。セシリアはBITを自身の周りで飛ばしながら攻撃を行うが、向こうは攻撃しながら回避を行う。更にサブアームは常に自身を狙って攻撃をおこなってくる。

 

(な、何故ですの!? サブアームも同じように脳から送られてくる波長で動かしているはず。だから自身の動きには若干のタイムラグが生まれるはずだというのに、そ、それがい、一切無いとはど、どう言う事なんですの!?)

 

セシリアの見解は確かに正しい。人間は一度に2つの事を考え行動するのは難しい。故にセシリアはBITを動かしている最中は動きが止まってしまうが、BITを使い自身で狙い撃てる位置まで誘導するために絶えず攻撃の手を止めない戦法をとっていた。

だが一夏は機体を動かしながらサブアームを動かしている。つまり自分が出来ない事を平然と出来ていると思い込み、セシリアの表情に焦りの表情が生まれる。

 

だが実際はサブアームを動かしているのはコアにいるアイラであり、一夏は自身の機体だけ動かしているだけに過ぎない。

つまりバレットホークはコアにいるアイラ、そして操縦している一夏。この二人が信頼し合っているからこそ初めて本領が発揮される機体なのである。

 

〈あの金髪、どうやらアンタの動きに驚き過ぎて攻撃が明後日の方向に向かっていたりしているわ。一夏、バタリングラムであいつ叩き落してやりなさい〉

 

「うん」

 

一夏は右腕のアサルトライフルを弾切れになり沈黙していたサブアームに託し、拡張領域から破城槌を取り出す。

そして一気にブースターでセシリアに接近する。近付いてくる一夏にセシリアは恐怖しBITで攻撃しようとするもサブアームの火器によって落される。

 

そして高く飛び上がりバタリングラムを構える一夏。セシリアは引き攣っていた顔から笑みを浮かべる。

 

「残念でしたわね。BITは6機ありましてよ!」

 

そう叫びミサイル型のBITを放ってくる。BITは一夏の元に向かい爆発四散する。

それを見た滲み出ていた汗を流しながら笑う。

その時、爆発した黒煙から目を放した瞬間、セシリアの命運は決まった。

 

「ふ、ふん。ま、まぁここまで出来たことは褒めてあげますが、やはり勝利するのはこの「てやぁああ!」ガハッ!!?」

 

誰も聞いていないにもかかわらず話すセシリアに、一夏は躊躇いもなくバタリングラムを叩き込む。叩き落される直前、セシリアが見えたのは脚部から伸びるアームが持っているマシンガンが自身を狙っている光景だったが、その前に地面に着くのが先で強い衝撃と共にセシリアは意識を手放した。

 

『そこまでぇ! セシリア・オルコットさんが戦闘不能になりましたので、勝者は織斑一夏君です!』

 

アナウンスがそう告げると、アリーナに居た多くの生徒達が歓声を高々に上げた。

音量が下げられているが歓声が上がっている事に一夏は照れた表情を浮かべ、そそくさとピットへと戻ろうとするが、ふと地面に横たわっているセシリアの方に目を向ける。

 

「か、彼女運んだほうが〈教師が来るから放っておきなさい〉で、でも〈い・い・か・ら!〉は、はひぃ!」

 

アイラからの圧力に一夏は涙目で返事してピットへと引っ込んだ。その後セシリアは教師がやってきて回収された。

ピットへと戻って来た一夏。出迎えたのは

 

【流石です坊ちゃまぁ! 坊ちゃまのご勇姿、4K映像で録画しておきましたぁ!ヤッタァー!\(`∇\)(/`∇)/ヤッタァー!】

 

「よくやったぞ、一夏。それとメサよ、その映像後で私にも送ってくれ」

 

「イッチー、カッコよかったよぉ!」

 

と、桜の紙吹雪をまきながら出迎えるメサと普通に喜んで出迎える本音。そして笑顔で迎え、メサが録画した映像を送って貰おうと頼む千冬。

 

 

「う、うん。ただいま」

 

「さて、一夏。専用機を持つ者にはこのぶ厚い本を渡しておく。後で目を通しておけよ」

 

「は、はい」(お、重い…)

 

手渡されたぶ厚い本を渡され一夏はプルプルと腕を震わせるが、直ぐに拡張領域へと仕舞いこむ。

 

「さて、後は教師の『ガンガン!』……一夏、ちょっと此処で待って居ろ」

 

突然ピットと廊下を繋ぐ扉が叩かれ、千冬は直ぐに誰が叩いたのか察し出席簿を片手に扉へと向かい開ける。

扉が開くと其処には箒が立っていた。

 

「一夏! なんだあのた「フンッ!」痛っ!!??」

 

怒りの形相で一夏を怒鳴っていた箒。だが開いた先に居た千冬の出席簿によって思いっきり頭をしばかれ頭を抑えながら蹲る。

 

「まったく。貴様は理解するという言葉を知らんのか? 何度も私の忠告を無視するとはいい度胸だ。説教するから来い。織斑、もう今日は上がっていいぞ。後は教師の仕事だからな」

 

そう言い蹲る箒の首根っこを掴み引きずりながらピットから去っていた。

突然の事に一夏は茫然と言った表情を浮かべ、メサは一夏の前に立っていた。

 

「イッチー、帰ろ?」

 

隣にいた本音にそう言われ一夏はコクリと頷く。するとメサがプラカードを一夏達に見せる。

 

【またしばらくお会い出来ない事は寂しいですが、私もお家へと戻ります。~(mToT)/~~~ サラバジャー】

 

「う、うん」

 

「ばいば~い!」

 

二人に見送られながらメサはピットから出て行った。残った二人もピットから出て寮の部屋へと戻りゆっくりと休んだ。

 

その日の夜、一夏はコアの世界でアイラと会っていた。

 

「そ、それでアイラ。き、今日の戦闘どう、だった?」

 

〈ん? まぁ、60点くらいじゃない?〉

 

「うぅ。今日は60点くらいかぁ」

 

一夏は何時も操縦訓練や射撃訓練をした時にアイラにどうだったか点数を付けて貰っていた。最初の頃は低い点数ばかりだったが、ここ最近は漸く50点を超える様になったのだ。

 

〈攻撃の避け方は加点に値するけど、所々余裕がなくてブースターを吹かしたりしたでしょ? つまり無駄な動きが若干残っている証拠よ。それと最後にバタリングラムを叩き込むとき、アイツにはまだミサイル型BITがあるの忘れてたでしょ?〉

 

「…う、うん」

 

〈止めを刺すとき程油断するな。何回も言ったじゃない〉

 

「ご、ごめん」

 

アイラに叱られ、シュンとなる一夏。その姿にアイラは少し言い過ぎたと思い、照れた表情を浮かべ明後日の方向に顔を向ける。

 

〈ま、まぁ。サブアームが持っている武器が弾切れを起こしそうなのを素早く交換したりしたのは、その、良かったわよ〉

 

「そ、そう? よ、良かった」

 

落ち込んでいた表情からはにかみながら笑顔を浮かべる一夏に、更に照れた表情を浮かべるアイラ。

すると一夏は大きな欠伸を零す。

 

「ごめん、アイラ。そろそろ僕寝るね」

 

〈そう。それじゃあ、お休み〉

 

「うん、お休み」

 

そう言うと一夏の体はすぅーと消える。一人残ったアイラは少し寂しそうな表情を浮かべる。

 

〈はぁ。昔だったら一人は平気だったけど、今は少し寂しいわね〉

 

そう零しながら同じく体を消すアイラ。




次回予告
クラス代表決定戦から翌日。教室でクラス代表が一夏と発表されようとした時、セシリアは己の行動を謝罪した。そして一夏はクラス代表を補佐する副代表を決めることにした。
無論またひと悶着あったが、無事に決まった。
その日の放課後、クラス代表を祝うパーティーが1組の生徒のみで行われた。無論最強の番兵付きで
次回
クラス代表と副代表~モグモグ、おいひぃ~


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5話

クラス代表決定戦の翌日の朝。一夏は眠気に抗いつつも体をむくりと起こし、大きな欠伸を零す。

 

「ふわぁ~。アイラ、おはよぉ」

 

〈えぇ、おはよ。ほら、さっさと登校準備しなさい〉

 

せっつかれながら一夏はベッドから起き上がり、洗面台へと赴き洗顔と歯磨きを終え、制服に着替えキッチンへと立つ。

 

「今日は、簡単な物でいいかな」

 

そう言いながら一夏はトーストにハムと黒コショウをかけた目玉焼きを乗せる。

皿に盛り付けたトーストを机の上に置き、テレビを見ながら一夏は頬張っていると扉をノックする音が鳴り響く。

一夏はビクッと肩を跳ね上げそっと扉の方に顔を向ける。暫くすると

 

『イッチー、おはよぉ~。教室一緒に行こぉ~』

 

と本音ののんびりとした口調が扉の向こうから聞こえ一夏は一安心した表情を浮かべる。

 

「ちょ、ちょっと待ってて」

 

そう言い一夏は残ったトーストを口に放り込み、ミルクで流し込む。そして鞄を持って扉を開けると、何時もと変わらないダボダボの袖の制服を着た本音が立っていた。

 

「お、おはよう本音さん」

 

「うん、おはよぉ。一緒に行こぉ」

 

一夏は頷き、本音と共に校舎の方へと向け歩き出す。暫く2人で談笑しながら歩いていると教室に到着し中へと入り席に着く。

暫し談笑を続けていると続々と生徒達が教室へと入って来て2人に挨拶を交わしながら席に着いて行く。

そしてSHR開始のチャイムが鳴り響き全員が席に着くと同時に真耶と千冬が教室へと入って来た。

 

「諸君、おはよう」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「うむ。それじゃあ昨日の試合の結果を「あの、織斑先生」ん? なんだオルコット?」

 

おずおずと手を挙げるセシリアに鋭い目を送る千冬。

 

「その、先日の事を皆さんに謝罪したいのです」

 

「……いいだろう。但し短めに行え」

 

暫し思案した後に許可を出す千冬。セシリアはありがとうございます。と一礼後、体を生徒達の方へと向け深々と頭を下げた。

 

「日本の事、そして皆さんの事を馬鹿にした発言をしてしまい本当に申し訳ありません」

 

深々と頭を下げた状態でセシリアは謝罪の言葉を口にする。

しばしの沈黙が流れた後、生徒の1人が口を開く。

 

「…私も少し言い過ぎたわ。ごめんなさい」

 

そう言うと次々に謝罪の言葉を口にする生徒達。

 

「い、いえ。最初に私が侮辱した発言が事の発端なので。それと、織斑さん。貴方にも高圧的に接してしまい、申し訳ありません」

 

「ぼ、僕は気にして、無いので大丈夫、です」

 

気にしていない。一夏がそう言うとセシリアは暗かった表情からパァーと明るい笑顔を浮かべる。

 

「そ、それではですね。わ、私の事は「謝罪は済んだろ。さっさと座れ」ま、まだ済んで「済・ん・だ。いいな?」は、はい」

 

セシリアが何か企んでいると感じ取った千冬が有無を言わせぬ圧で終わらせた。

 

「ではクラス代表の発表を行う。山田先生」

 

「はい。クラス代表は織斑君となりました。あ、一繋がりで何だかいいですね」

 

手を合わせながらにこやかに言うが、当の一夏は若干困惑の表情を浮かべていた。

 

「どうしたのイッチー?」

 

「な、何で一繋がりだから、良いって言うのか分からなくて」

 

そう零すと、多くの生徒が理由は?と言いたげな視線を真耶に送る。真耶はえっとぉ。と視線を逸らす。

 

「山田先生。何も考えずに発言するのは止めるように」

 

そう言いながら千冬は出席簿で肩を叩きながらため息を吐く。

 

「す、すいません」

 

と若干涙目で謝罪をする真耶。

 

「それじゃあ織斑。クラス代表として挨拶を「あ、あの、織斑先生」ん? なんだ織斑?」

 

「そ、その、ふ、副代表を、決めたい、です」

 

「副代表をか? 何でだ?」

 

「その、ぼ、僕が突然、休んだ場合いた方が、その良いと思いましたし、後相談、出来る人が近くに居てくれると、嬉しいです」

 

オドオドしながらも訳を話す一夏に、千冬はふむ。と声を零しながら思案するもすぐにうむ。と頷く。

 

「分かった。それじゃあ、副代表になって欲しいという者は居るか?」

 

「は、はい」

 

一夏の言葉に多くの生徒達はやっぱりかと何処か納得のいった表情を浮かべており、セシリアは笑みを浮かべながら机に手を置きながら立てる準備に入っていた。

 

()()()()()()、その、やってくれませんか?」

 

「ほへ、私?」

 

一夏は隣にいた本音にお願いした。その光景に多くの生徒がやっぱりね。と優しい笑みを浮かべていた。

 

「は、はい。そ、その駄目、でしょうか?」

 

「ううん。良いよぉ」

 

快く了承する本音に一夏はホッと一安心した表情を浮かべ席に着く。

 

「うむ。副代表も無事に決まったようだから、SHRの続きを「ま、待って下さい!」チッ。なんだ、オルコット?」

 

無事に終わってSHRの続きが出来ると思った矢先にまた声を荒げるセシリアに、千冬は小さく舌打ちを放った。

 

「な、何故副代表を布仏さんにやらせるのですか? 副代表でしたら、同じ専用機持ちである私がいいのでは?」

 

「だ、だったら私は一夏の幼馴染みだ! 私の方が良いに決まってる!」

 

「篠ノ之さんは専用機持ちではありせんし、それに織斑先生から接近禁止を言い渡されておりますでしょ」

 

「そ、そんな物今関係ない!」

 

セシリアと箒は言い合いを行っている中、周りの生徒達は呆れた表情を浮かべていると千冬がチョーク箱から2本チョークを取り出し投げる構えを取り、そして

 

「フンッ!」

 

と勢いよく2人に向かって投げた。チョークは2人の頭にめがけて飛ぶ。そしてバチンと音が教室内に鳴り響く。

 

「「痛っ!?」」

 

「勝手に騒ぐな。騒ぐなら此処から出て行って何処か人の迷惑のならないとこでやれ」

 

睨みながら言われ2人は渋々と席に着く。

 

「副代表は布仏で決定。異論がある者は手を挙げろ」

 

そう言うとセシリアと箒以外手を挙げる者は居なかった。

 

「よし、多数決で布仏が副代表である事を此処で決定とする。SHRの続きをするぞ」

 

そう言い千冬はSHRの続きを行った。

 

~アリーナ~

アリーナで1組の生徒達が整列していた。生徒達の前にはジャージ姿の千冬と同じくジャージ姿の真耶が立っていた。

 

「よし、これよりISの実技訓練を行う。まず専用機持ちのオルコットと織斑前に出ろ」

 

そう言われISスーツ姿のセシリア、そして戦闘用の服装を着た一夏が前に出るが、セシリアと若干距離を置いていた。

 

「あ、あの。もう少し近くの方が」

 

「い、いえ。展開するとき、その、邪魔になるといけないので」

 

「大丈夫ですわ。で、ですからもう少し此方に「織斑の言う通り少し幅を開けなければいかんだろうが」…は、はい」

 

千冬に注意され、顔を伏せるセシリア。セシリアの行動に千冬は薄々感づいていた。

 

(こいつ、一夏に惚れたのか? ……よし、来年別のクラスに飛ばすか)

 

一夏の事を馬鹿にしておきながら、自分より強いと分かった瞬間に惚れました。そんな都合のいい話など存在しない。千冬はそう考えており、今朝の行動などから一夏の事を全く考えておらず自分の都合を押し付けている。

千冬はそんな厄介な存在がまた増えたと考え心の中でため息を吐いた。

 

「よし、ISを展開しろ」

 

そう言われそれぞれ展開するが、一夏の方が早く展開した。

 

「うむ、それじゃあ飛べ」

 

千冬の指示に一夏、セシリアと空へと飛びあがる。一夏はぐんぐんとスピードを上げて上って行く。

 

〈一夏、今前回よりも早めのスピードで上に上がってるけど大丈夫ね?〉

 

〈う、うん。このくらいならまだ大丈夫〉

 

アイラと会話しながら上に上がっていると、気付けば一番上辺りまで来ていた。

セシリアは一夏と地上の丁度中間あたりで上を見上げながら驚いていた。

 

〈あ、あれ? 上り過ぎた?〉

 

〈そうみたいね。まぁいいんじゃない〉

 

そう言っていると、地上に居る千冬から声がかかる。

 

『随分上がったな、織斑。よし、其処から急速降下して地上10センチで停めろ』

 

〈アイラ、い、行ける?〉

 

〈愚問ね。私がタイミングを教えるからアンタは私を信じて降下しなさい〉

 

そう言われ一夏はアイラを信じて降下を始めた。

地上がだんだんと近付いてくる。そして

 

〈今よ、一夏〉

 

アイラの合図を聞き一夏はブレーキを掛けると、段々とスピードが落ち空中で停止した。千冬は定規を持ってバレットホークの脚から地面の差を測る。

 

「10㎝ジャストか。私の指示通りにしたのは良いが、下りてくるときのスピードが速くて此方が冷や冷やしたぞ」

 

千冬はため息を吐きながら注意する。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「次は気を付けるんだぞ。よし、オルコット。次はお前だ」

 

そう言われオルコットが地上に降りてくる。そしてブレーキをかけて降りて来て空中で止まる。

 

「11.5㎝。途中で怖くなってブレーキを強くかけ過ぎたのが原因だな」

 

「しょ、精進します」

 

そして地上に降りてきた2人にそれぞれ並ぶよう指示する千冬。

 

「よし、それじゃあそれぞれ武器を出せ」

 

そう言われ、最初にセシリアが自身のライフルを取り出し決めポーズをとる。

可憐に決まったと思っているセシリアだが、千冬は鋭い目つきで睨んでいた。

 

「おいオルコット。貴様、まだ織斑に恨みがあるなら再教育するぞ」

 

「い、いえ! う、恨みなどもうありませんわ!」

 

「だったらそのポーズを止めろ。今すぐに!」

 

千冬に怒鳴られセシリアは即刻ポーズを止める。千冬が怒鳴った理由は銃口が一夏の方に向けられており、一夏が若干ビクッと怯えたのだ。

 

「よし、それじゃあ次織斑」

 

「は、はい」

 

一夏は手を前に出したと同時アサルトライフルを出した。

 

「0.2秒。早いな。よし、それじゃあ次はサブアームを展開して全部に武器を持たせてみろ」

 

「わ、分かりました」

 

千冬の指示に一夏はサブアームを展開する。そして手が現れた同時に武器を全サブアームの前に出して握らせた。

 

「サブアームを展開してから全武装するまで2秒か。常人なら難しい事をやってのけるとは、流石だな織斑」

 

優しい笑みで褒める千冬に一夏はフルスキンの為顔は周りには見えていないが真っ赤に染まっていた。

 

「それじゃあオルコット。次はお前だ」

 

「はい」

 

そう言いセシリアは手を前に出すも、なかなか出て来ず渦状の物が出ているだけだった。

 

「どうした? 織斑だったらもう10回以上は武器を出し終えているぞ」

 

「もう、インターセプター!」

 

我慢できず声で近接装備を取り出すオルコット。

 

「遅すぎるな。近接に持ち込まれたら即落とされているぞ」

 

「も、持ち込まれる前に「ほぉ。この前織斑に近接で叩き落されて気を失っていた癖にか?」うっ!?」

 

痛い所を付かれ声を漏らすセシリア。そしてつい一夏の方に目を向け睨んでしまう。

 

「睨むな、馬鹿者」

 

バチンと出席簿で叩かれるセシリア。絶対防御があるはずなのにセシリアは痛みから蹲る。

 

「よし、それじゃあ君達にもISを纏って貰いたいところだが、時間が無い為本日は以上とする。各自解散!」

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

そう言いぞろぞろとアリーナから退出していく生徒達。一夏もISから降り帰ろうとする。

 

「ねぇねぇイッチー」

 

「ほ、本音さん。な、何か?」

 

「あのね、今日食堂でイッチーのクラス代表のお祝いパーティーやるんだけど、来ない?」

 

「ぱ、パーティーですか? その、う、嬉しいですけどほ、他のクラスの人とか「大丈夫だよ。食堂を貸し切りででやるし、他のクラスの人はご遠慮くださいって貼紙張るから」そ、そうですか。わかりました、参加します」

 

本音は笑顔を浮かべやったぁと喜び、其処まで喜ぶことなのだろうかと疑問を浮かべながら首を傾げる一夏。

 

授業が終わり放課後となると一夏は鞄に教科書などを仕舞い教室から出て行く。

 

「あ、イッチー待ってぇ」

 

そう言いながら本音は一夏の横に並ぶ。

 

「一緒に帰ろぉ」

 

「う、うん」

 

そうして一夏と本音は一緒に寮へと帰って行く。2人が並んで帰って行く姿に教室に居た生徒達はほんわかした表情で見送っていた。

 

「なんか、本音さんがお姉さんで一夏君が弟みたいに見えるね」

 

「うん。なんか、和む光景だったね」

 

「心が、安らいだなぁ」

 

ほんわかした表情で見送る生徒達とは対照的に、しかめっ面になっている2人が居た。セシリアと箒であった。

 

(むぅ~、布仏さんが羨ましいですわ。大体何故彼女を副代表に選ばれたのか未だに納得できませんわ。同じ専用機持ちとして私の方が相談しやすいですし、その、分からない事などあれば手取り足取りとお教えしますのに)

 

(一夏の奴、デレデレとしおってぇ! しかもなんだアイツは! わ、私は接近を禁止されているというのに簡単に一夏の傍にいきおってぇ!)

 

2人がしかめっ面を浮かべている中、生徒達は

 

「あの二人なんかしかめっ面浮かべてない?」

 

「うん、浮かべてる。また織斑君に迷惑かける気なのかな?」

 

「たぶんそうじゃない。あの二人にパーティーの事話した?」

 

「ううん。だって話したら滅茶苦茶にしそうだもん」

 

確かに。と皆頷く中一人不安そうな表情を浮かべる生徒が居た。

 

「でも何処からパーティーをやる事が漏れるか分からないし、何か織斑君を守る方法を考えないと不味くない」

 

「うん。でも、方法なんて…あっ! 良いこと思いついた」

 

「なになに?」

 

「あのね――」

 

生徒の一人が耳打ちで話す内容にそれいい!と賛同の声を漏らす。

そして生徒数人が教室からでてある場所に向かって行った。

 

そして――

 

「それじゃあ」

 

「「「織斑君、クラス代表。そして布仏さん、副代表おめでとう!」」」

 

祝福の声が上がるとと同時クラッカーが鳴り響く。

 

「えっと、あ、ありがとう、ございます」

 

「えへへ、ありがとねぇ!」

 

照れた表情を浮かべながらお辞儀をする一夏と笑顔を浮かべる本音。そして皆の前にはお菓子やオードブルの料理が並べらえていた。

一夏は開始の挨拶終了後、直ぐに隅の方に引っ込み静かに持参したジュースを口にする。

すると本音が料理一杯のお皿を両手に持って一夏の元にやって来た。

 

「イッチー、料理持ってきたよぉ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

本音から料理を受け取るも一夏は手を付けようとしなかったが、隣に座った本音がぱくりと自分のお皿の料理を口にする。

本音が持ってきた料理はほとんど一夏と同じ物ばかりだった。

 

「ハムハム、美味しぃ」

 

幸せそうに食べる本音を見て一夏も食べ始めた。最初はちびちび食べていたが、気付いたら口一杯にご飯を食べていた。

 

「ハグハグ、ん。美味しい、です」

 

「本当だねぇ。あ、お代わり欲しかったら言ってね。取りに行くから」

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

一夏と本音が仲良く食べている姿に皆ほんわかした表情で見ていた。そんな一夏達の座っている席の近くには

 

「ふむ、久しぶりに食堂で飯を食べたが旨いな」

 

と千冬が一夏達と同様にオードブルの料理を食べていた。そう、教室で生徒達が話していた対策とは千冬をパーティーに参加させることだった。

生徒達が職員室へと行き千冬に訳を話した所快く承諾し一夏の近くの席で参加したという訳だ。

 

そして案の定何処からかパーティーの事を聞いたセシリアと箒が参加していたが、千冬が一夏の傍に居た為近づけず悔しい顔を浮かべていた。

 

そして問題事など起こることなくパーティーは無事に終わりそれぞれ部屋へと帰って行った。




次回予告
学年別クラス代表戦が近付いている中、1組では2組に転入生が入ってくる話題で持ちきりだった。すると突然扉が開き一人の少女が現れ一夏に突撃をかましてくる。

次回
中華娘参上


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6話

クラス代表決定戦から数日が経ったある日の朝。一夏は何時もと変わらず本音と共に教室へと到着し席へと着く。

するとその傍に清香と静寐がやって来た。

 

「ねえねえ、2組に転入生が入ってくる情報知ってる?」

 

「ううん、知らなぁい。イッチーは?」

 

「ぼ、僕も知らない、です。と、というよりもぼ、僕はあまり関わりたくないです」

 

一夏はオドオドしながらそう答え教科書を机に仕舞う。

 

「そうだよねぇ。まぁ、よそのクラスだからイッチーには関係ないもんねぇ」

 

「けどクラス代表戦の時はその2組の代表と戦わないといけないけど…」

 

「でも確か2組の代表って専用機を持ってないって聞いたよ」

 

「そうなの? それじゃあ専用機持ちは実質1組と4組だけ?」

 

「恐らくね」

 

清香と静寐がクラス代表戦の事を話し合っている中、一夏は本音にある事を聞いていた。

 

「あの、本音さん。そのクラス代表戦には勝つと何か、貰えたりするんですか?」

 

「うん。優勝すると食堂のデザート食べ放題のパス券が貰えるんだぁ」

 

「そう、なんですか。だ、だからあそこが燃えてるんですか?」

 

そう言い一夏は教室の奥に居る生徒達の方に目を向ける。其処には

 

「皆、織斑君を応援するために横断幕やらなにやら準備するわよ!」

 

「もちろん!」

 

「分かってると思うけど、織斑君の症状を考えて出来るだけ目立たない程度で応援するわよ!」

 

「「「イエス・マム!」」」

 

と燃えている生徒達が沢山いた。

 

「燃えてるねぇ」

 

「う、うん。……も、もし負けたら、お、怒られるのかな?」

 

燃えている生徒達の姿を見て一夏は負けた時の事を想像してしまったのか、顔が若干青褪めて震えていた。その姿を見た本音は慌てて元気づけようと近寄る。

 

「そ、そんなことないよぉ。負けても誰もイッチーの事責めたりしないよぉ」

 

「…そ、そう、なんでしょうか?」

 

まだ青ざめた表情を浮かべ若干涙目な一夏。その姿に応援しようと燃えていた生徒達が気付き慌ててフォローする。

 

「う、うん! お、織斑君が負けても責めたりしないって!」

 

「そ、そうだよ! それにデザートフリーパスは確かに欲しいけど、タダでデザートが食べ放題だと食べ過ぎて太っちゃうかもしれないしね」

 

「そうそう! フリーパスは二の次で本命はかっこいい織斑君の戦っている姿だから!」

 

皆一夏の為に色々フォローを入れたりする。そのおかげか一夏の顔は若干平常に戻って来た。

 

「…わ、分かりました。で、出来るだけが、頑張ります」

 

一夏そう答えると皆一様に安堵した表情を浮かべた。

すると突然一夏の背後にあった扉が勢いよく開き、一人の少女が飛び込んできた。

 

「一夏ぁ! 会いたか「させるか」グヘッ!?」

 

突然飛び込んできて一夏に突撃しようとした少女。だが千冬が突如現れそれを阻止するように首根っこを掴む。

 

「もうすぐSHRが始まるからさっさと帰れ、凰」

 

「で、でも千冬さ「織斑先生だ。さっさと帰らなければ首根っこを引き摺ってでも連れて行くぞ」す、直ぐ帰ります!」

 

そう言い凰と呼ばれた少女は足早に帰って行った。千冬ははぁ。とため息を吐こうとしたが一夏の事が先だと思い振り向くと、案の定発作が起きており腕に注射を打っていた。

 

「だ、大丈夫か一夏?」

 

「…は、はい」

 

若干顔は青ざめており震えている様子であった。

 

(無理も無いか。突然背後から大声を叫ばれた上に突撃してきたんだからな)

 

「…布仏、もし織斑の表情がまだ青かったら保健室に連れて行ってやってくれ」

 

「わ、分かりましたぁ」

 

本音の返答に千冬は申し訳なさそうに、済まない。と返し教卓へと向かいSHRを始めた。

それから暫くして一夏の症状は落ち着き始め表情が平常に戻って来た。そして1限目が始まりそれぞれ千冬が話す内容を真剣にノートなどにとっていた。

 

「よって此処の答案はこの通りになる。では、この問題をセシリア、お前が解け」

 

千冬はそう言いセシリアの方に顔を向け、問題を解くよう指名するが本人は真剣な表情で考え込んでいた。

 

(今朝の方、一夏さんとは一体どう言ったご関係なんでしょう? ま、まさか恋人とか! そ、そんなはずありませんわ。一夏さんは女性恐怖症、つまり恋人ではない。では一体)

 

思案に耽っているセシリアに千冬はチョークを取り出し思いっ切り投げつける。チョークはセシリアの頭部に命中しセシリアは上体を大きく仰け反った。

 

「私が何度も呼んでいるというのに無視とはいい度胸だな、オルコット」

 

「も、申し訳ありません」

 

「じゃあこの問題を解け」

 

そう言われセシリアは指定された問題を見たがすぐに答えが出て来ず俯く。

 

「わ、分かりません」

 

「人の話を聞かずに思案に耽っているからだぞ。よし、篠ノ之。お前が解け」

 

セシリアを座らせ箒に解くように指名し顔を向けるが、箒もセシリア同様に考えに更け込んでいた。

 

(あの突撃してきた者、一夏の知り合いか? 私の記憶にはあんな奴いないし。まさか私が引っ越した後に来た奴か? だとすると辻褄は会うが、どういう関係なんだ? ま、まさか恋人なのか? い、いやまさかな)

 

思案に耽っていると傍に誰かいる気配を感じ顔を向けると、目元をピクピクと痙攣させながら睨む千冬が其処に立っていた。

 

「貴様もか、篠ノ之」

 

「あ、いや。その千冬さ」

 

言い訳を言おうとする箒に千冬は有無を言わず箒の頭に出席簿を振り下ろす。

 

「痛っ!?」

 

「織斑先生だ、馬鹿者。それで篠ノ之、あの問題の答えは?」

 

「……分かりません」

 

「分かった、もういい座れ」

 

そう言い教卓へと戻る千冬。その後の授業も何度も2人は千冬に指定されるが、思案に耽って話を聞いていなかった為、問題の答えを答えることが出来なかった。

4限目の終わりごろ千冬は二人に対し、

 

「オルコット、篠ノ之。放課後に補習授業を行う。勝手に帰ったら明日の宿題を2倍にするからな」

 

睨んだ眼付きで2人に告げる千冬にセシリアと箒はガックシと首を墜とすのであった。

 

そしてお昼頃、一夏は何時もと変わらず鞄からお弁当を取り出していると

 

「「お前(貴方)の所為で怒られたではないか(ですか)!」」

 

「ヒッ!? そ、そんな事、言われたって」

 

突然怒鳴って来たセシリアと箒に一夏は怯え縮こまる。すると周りの生徒達が非難めいた顔を浮かべる。

 

「ちょっと。二人が怒られたのは自業自得じゃない」

 

「そうよ。織斑君は何も悪いことしてないじゃない」

 

そう言われ何も言えず口を尖らせる2人。一夏は直ぐにこの場から離れたいと考えていると、本音が一夏の服の袖を引っ張る。

 

「な、なんですか?」

 

「今日は屋上に行こぉ。今日は屋上が解放されているんだけど、誰も知らないと思うから静かだと思うし」

 

「そ、そうなんですか? そ、それじゃあ行きます」

 

そう言い一夏は本音の案内の元屋上へと向かう。その後姿に気付いた箒たち。

 

「お、おい一夏! 何処に行く気だ!」

 

「い、一夏さんお待ちになってください!」

 

そう叫び一夏の後を追おうとする2人。だがその行く手を阻む様に立つ生徒達。

 

「させるかぁ!」

 

「みんな壁を造るわよ!」

 

「ディーフェンス、ディーフェンス!」

 

2人を阻むように壁をつくる生徒達。

無論2人はそれを越えようとするも、人数の差によって阻まれる。

そうこうしているうちに1人の生徒が教室に駆け込んで来た。

 

「アタッカー連れて来たよ!」

 

生徒の言葉に壁をつくっていた生徒達は壁をつくるのをやめ、2人を廊下に行かせる。

何故壁を崩したのか疑問に持ちつつも、2人は一夏を追いかけようと廊下に出た瞬間

 

「ほぉ? 何やら一夏の昼食を妨害しようとしている奴がいると聞いてきたらお前達か」

 

そう声が彼女達の真横から響き、2人はその声にガタガタと震えながら首を声の方向に向けると、般若の面を背後に浮かべ鋭い視線を向ける千冬が居た。

 

「お、織斑先生…」

 

「昼食だが、丁度いい。また以前と同じように共に食べようではないか。あぁ、逃げても構わないぞ。逃げられたらな?

 

最後に恐ろしい感じに言われながらも、2人は逃げようとするも二人の首根っこを千冬は目にも止まらない速さで掴んだ。

 

「遅いな。それじゃあ行くぞ」

 

そう言い二人を引き摺りながら食堂へと向かう千冬。

 

「た、助けてくれ!」

 

「だ、誰かぁ!」

 

二人は教室から覗く生徒達に助けを述べるも

 

「「「「「(-∧-)合掌・・・」」」」

 

と言いながら手を合わせて見送った。

 

 

 

その頃一夏と本音は人がほとんどいない屋上で二人のんびりとお弁当を食べあったのだった。




次回予告
授業が終わり教室から寮へと帰って来た一夏。部屋で寛いでいると千冬が部活動に関する書類を持ってやって来た。暫くしていると扉をノックする音が鳴り響いた。

次回
記憶違い~や、約束って何?~


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7話

後半はシリアス展開となっています。


騒々しかった昼休みは終了し、昼食後の眠気と戦いながら生徒達は午後の授業に臨んでいた。

無論1組の生徒達も同様に眠気が襲ってくるが、誰一人として居眠りなどするわけにいかないと心に決めている。

何故なら居眠りをしようものなら千冬の容赦ない出席簿の眠気覚ましの攻撃が降ってくるからだ。だが

 

「…ウトウト」

 

と頭が前後にゆらゆらと動く一夏の姿があった。

無論一夏も眠ってしまえば千冬に怒られると分かっている為眠気に襲われながらも必死に抗っていた。

そんな一夏の姿にこっそりと覗き見ていた生徒達は

 

((((か、可愛いぃ))))

 

と心を和ませていた。因みに千冬も一夏がウトウトしている事には気付いているが、完全に眠ってはいない為注意はしていない。だが

 

(眠るんじゃないぞ一夏。お、お姉ちゃんは、お姉ちゃんはお、お前の事を叩きたくないんだ! だ、だから眠るんじゃないぞ一夏!)

 

と心の中で一夏を叩きたくない。眠るんじゃない。と応援していた。すると隣に座っていた本音が一夏の二の腕にペンでツンツンとつつく。

 

「ふえ?」

 

「イッチー、眠ったら怒られるよぉ」

 

とウトウトしていた一夏を起こす本音。

 

「あ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

そう言い本音は顔を前に向ける。その姿に千冬は心の中でGJ!とサムズアップしていた。

 

そんなことがありながら時刻は放課後となった。

一夏は教科書をカバンに仕舞い立ち上がると同時に隣の本音も立ち上がる。

 

「イッチー、一緒に帰ろぉ」

 

「う、うん」

 

そう頷き返し教室を出ようとすると

 

「あ、一夏さん良かったらご一緒に「おい、お前は引っ込んでいろ! 私が一夏と一緒に帰るんだ!」篠ノ之さん邪魔しないでいただけますか!」

 

とセシリアと箒が一夏と一緒に帰ろうと誘おうとするも口論が勃発。本音はどうにかして一夏を教室から連れ出すべく手を考えていると、ふと教卓の方に目を向けるとセシリアと箒に冷たい視線を向ける千冬が居り、その手には教科書が握られていた。

その姿に本音は直ぐに妙案が浮かびニンマリと笑顔を浮かべる。

 

「ねぇねぇ、2人共。口論するのはいいけど、織斑先生の事はどうするのぉ?」

 

本音の言葉に2人は口論を止め、ゆっくりと教卓の方に顔を向ける。其処には教科書を丸め手を叩く千冬の姿があった。

 

「「……」」

 

その姿に2人は冷や汗を流し、そっと席に着いた。

 

「なんだ? 帰らないのか?」

 

「その、補習がありますので」

 

「お、同じく」

 

「そうか。ならさっさと教科書を出せ。補習を行う」

 

そう言い千冬は黒板に補習内容を書き始めた。

本音は上手くいったと思い一夏の手を引く。

 

「ほら、イッチー帰ろぉ」

 

「えっと、う、うん」

 

一夏は本音に引っ張られながら教室を後にした。

暫く廊下を歩いているとおもむろに一夏は本音に声を掛けた。

 

「ほ、本音さん」

 

「なぁに?」

 

「その、さ、さっきは、ありがとう」

 

「ん~? あぁ、どうってことないよぉ」

 

「そ、それでも、ありがとう」

 

はにかんだ笑顔でお礼を述べる一夏に本音はえへへへ。と笑いながら歩き続ける。

そして寮へと到着し本音は一夏の隣の部屋の1538の扉を開ける。

 

「それじゃあイッチー、また明日ねぇ」

 

「う、うん。また、明日」

 

それぞれ部屋へと入って行く。一夏は部屋へと入ると何時もと変わらず鍵とチェーンを掛けるとカバンを机の上に置き教科書とノートを取り出す。

 

「きょ、今日やったのって、この部分だっけ?」

 

〈えぇ其処よ。さて、何時もの通り私が幾つか作成した問題を出すから解きなさい〉

 

「う、うん」

 

一夏は自主勉用と書かれたノートを開きアイラが作成した問題を空間ディスプレイに出しながら勉強を始めた。

暫くして一夏はアイラが出した問題を全て解き終え答え合わせを行っていた。

 

〈10個中7個正解ね。間違えた問題は計算式が若干間違えているだけよ〉

 

「そ、そっかぁ。えっと、此処が×じゃなくて+だったの?」

 

〈そっ。ん? 誰か来たみたいよ〉

 

アイラが突然来客が来たと告げると扉をノックする音が鳴り響く。一夏はそっと顔だけ部屋から扉の方を見つめていると

 

『織斑、私だ。少し話があるから此処を開けてくれ』

 

扉の向こうからは千冬の声が聞こえ一夏は扉の元に向かいチェーンと鍵を解除し、扉を開ける。

 

「ど、どうしました、織斑先生?」

 

「さっきも言った通り少し話があってな。上がってもいいか?」

 

「か、構いません」

 

一夏は千冬を部屋へと上げ奥の部屋へと案内する。千冬は奥の部屋にある椅子の一つに座り持っていた資料を机の上に置く。

すると一夏がお茶と一緒に一切れのレアチーズケーキが載った皿を千冬の前に置く。

 

「ど、どうぞ」

 

「ん? 買ってきたのか?」

 

「う、ううん。その、自分で、作りました」

 

「そ、そうか。それじゃあ用が済んだら一緒に食べようか」

 

「は、はい」

 

千冬は一夏の手作りケーキを今すぐ食べたいと言う気持ちを抑え用件を済ませようと、持ってきた資料を一夏に手渡す。

 

「こ、これは?」

 

「それはこの学園に存在している部活や同好会の紹介資料だ」

 

「ぶ、部活と同好会の?」

 

一夏は手渡された資料をぺらぺらと捲りながら目を向ける。野球部、ソフトテニス部、プラモ同好会、ロボット研究同好会など色々な部活や同好会が書かれていた。だが、運動部や幾つかの文化部や同好会には赤いペンでバツ印が付けられていた。

 

「こ、このバツ印は?」

 

「それは運動部に関しては女子ばかりだから織斑は参加できないという意味で付けたのと、バツ印が付いた文化部や同好会は、その、織斑の事をよく思っていない連中が在籍している為、入るのは止めた方がいいと言う意味で付けた」

 

千冬の説明に一夏はそ、そうですか。と返事を返した。

良く思っていない連中、つまり女尊男卑の生徒がいるという意味だった。千冬は一夏がそんな生徒が居る部活や同好会には入って欲しくないと思い付けたのだ。

 

「無論部活や同好会の参加は個人の自由だ。お前にその資料を手渡したのは少しでも学園生活に慣れて欲しいなと言う教師の思いでだ」

 

優しい笑みで告げる千冬に一夏は、頬を赤く染めながら頭を下げる。

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

「うむ。さて、教師の用事は済んだ。今からはプライベートの時間とする」

 

そう言い千冬はフォークを手に取り一夏が作ったレアチーズケーキを口にする。

 

「うむ、旨いな」

 

「そ、そう? は、初めて作ったから、その少し心配だった」

 

「別に心配するような変な味ではないぞ。このまま店に出されても売れるくらいうまいぞ」

 

「そ、そう? お姉ちゃんに言われると、その、嬉しいな」

 

照れた表情で笑顔を浮かべる一夏に千冬は皿に優しい笑みを浮かべながらケーキを食べる。すると思い出したような表情を浮かべ皿を机に置く千冬。

 

「そう言えば今朝の事。大丈夫だったか?」

 

「う、うん」

 

(全く、鈴の奴め。一夏が女性恐怖症だという事を知らんのか?)

 

千冬はそう考えながら出されたお茶を口にする。千冬が凰のことを鈴と呼ぶのは本名は凰鈴音と言う名前だからだ。小学4年の頃からの付き合いの為、鈴と呼んでいる。

 

「そうか。あ、そうだ。学園生活で何か困った事とかは無いか?」

 

「う、ううん。と、特に困ったことは無い」

 

「そうか。教室にいる者達とは仲良く出来そうか?」

 

「う、うん。その、本音さんのお陰で、皆と仲良くしてもらってる」

 

「そうか。それは良かった」

 

一安心した表情でつぶやく千冬。学園の教師である前に一夏の姉である千冬は、一夏が学園生活で困った事が無いか。相談したいことが無いか聞ける時間をつくりたかったのだ。

そして今回の部活の説明があった為、それを利用して聞く時間をつくったのだ。

だが、一夏は特に困ったことは無く、クラスの生徒達とも本音を通して仲良くしてもらっていると聞き安心したのだった。

すると突然扉をノックする音が鳴り、千冬は怪訝そうな顔付を浮かべる。

 

「誰が来たんだ?」

 

「わ、分かんない。その、本音さんだったら、直ぐに声を掛けてくるけど」

 

そう言い首を傾げる2人。すると扉の向こうから

 

『一夏ぁ! 居るんでしょ! 此処を開けなさい!』

 

と今朝一夏に突撃しようとした鈴の声が扉の前から響いてきた。一夏は若干怯えた表情で扉を見つめ、千冬は呆れた様な表情でため息を吐く。

 

「一夏、此処で待ってろ。私が応対してくる」

 

そう言い千冬は席から立ち扉の元に向かう。またドンドンと扉を叩く音が鳴り響く中、千冬は扉の鍵を解除し扉を開ける。

 

「ちょっと一夏! 扉を開け…るのが…ち、千冬さん!?」

 

「織斑先生だ、凰」

 

突然扉が開き一夏だと思い怒鳴る鈴。だが、開いた扉の先に居たのは鋭い視線で見下ろしてくる千冬だった。

 

「な、なんで織斑先生が、い、一夏の部屋に?」

 

「織斑に書類を届けに来ていたからだ。で、凰は一体何の用で織斑の部屋に来た?」

 

「その、一夏ってもしかして相部屋の人に困ってるとか思って私が変わってあげると言いに「残念だが織斑は相部屋ではなく一人部屋だ」えっ! 一人部屋なんですか!」

 

「そうだ。用は以上か?」

 

「あ、いや。その、もう一つあるんですが…」

 

そう言い鈴はチラチラと体をずらして奥の方に目を向ける。その行動で鈴の目的を察する千冬。

 

「はぁ、織斑なら奥に居る」

 

「えっと、上がっても?」

 

「上がるよりも呼んだほうが早いだろうが。織斑!」

 

千冬は奥に向かって一夏を呼ぶと、一夏は奥の部屋から顔を半分だけ見せる。

 

「な、何でしょうか?」

 

「凰がお前に用があるらしいが、其処で用を聞くか?」

 

千冬がそう聞くと一夏は小さく頷く。

 

「は? ちょ、ちょっと待って下さい! な、何でそんな所から話を聞くのよ! こっち来なさいよ!」

 

鈴は大声で呼ぶが一夏はビクッと体を振るわせ怯えた表情を見せる。

 

「馬鹿者! 織斑を怯えさせてどうする!」

 

「そ、そんなつもりは」

 

凰は口を尖らせながら俯く。その表情に千冬はあの懸念が疑問から確信へと変わろうとした。

 

「おい凰。お前の転入時の資料を見たが、代表候補生となって政府に織斑の幼馴染だからだと頼み入学した。間違いないな?」

 

「そ、そうです」

 

「ならお前の所の政府から、織斑に関する説明等されなかったのか?」

 

「せ、説明ですか?」

 

「そうだ。例えば、女性に対し異常な恐怖を抱く等だ」

 

千冬の問いに鈴は暫し目を瞑りながら首を傾げる。

 

「そう言えば役人の人に呼び出された時に、そんな話があったようなぁ」

 

凰の言葉に千冬は盛大なため息を吐いた。

 

「お前と言う奴はぁ。政府からの大事な話を聞き流すな、馬鹿者!」

 

「だ、だって一夏に会えると思って嬉しくて、その…」

 

呆れてものが言えないと言った表情でため息を吐く千冬。

 

「そ、それでその、さっきの例えって、まさか?」

 

「そのまさかだ。織斑は女性恐怖症と言う精神病だ。だから女性とはある程度距離をとらなければ発作が起きる。最近は治療のお陰である程度近くても問題無いが、お前と織斑の間にこれだけ距離があるのは、今朝のお前の行動が原因だ」

 

そう言われ鈴はしまった。と苦い顔を浮かべた。知らなかったとは今朝の鈴の行動は十分一夏に警戒心を抱かせるだけの行動であったためだ。

 

「うぅううぅう」

 

「唸ったところで変わらんぞ。用があるんじゃなかったのか?」

 

そう言われ凰ははぁ。とため息を吐き気持ちを切り替えた。

 

「そうします。その、久しぶりね一夏」

 

「う、うん。ひ、久しぶり鈴音、さん」

 

「鈴で良いわよ。……それで用事なんだけど、その一夏。あの時の約束覚えてる?」

 

「や、約束?」

 

「なに、忘れたの? 空港で、その、言ったじゃない。『料理の腕を上げて帰ってくるから、その時は毎日私が作った酢豚食べてくれる?』って」

 

照れた表情で鈴は一夏に告げる。隣にいた千冬はジト目で味噌汁のあれか?と言いたげな表情を浮かべていた。

そんな中、一夏は顔半分だが困惑した表情を浮かべていた。

 

「その、ぼ、僕、そ、そんな約束、した憶え無い」

 

オドオドしながらも憶えていないと告げる一夏。

その言葉に鈴は驚愕の表情を浮かべ、しかめっ面を浮かべる。

 

「お、憶えてないって、どう言う事よ!」

 

「ヒッ! だ、だって、僕、鈴音さんが、ひ、引っ越した時風邪で寝込んでたから」

 

一夏の訳にはぁ?と言葉を零す鈴。すると隣にいた千冬が思い出したように語り出した。

 

「そう言えば、あの時織斑は風邪で寝込んでいたな。確かあの時は国家代表の強化練習がある時だったが、織斑が風邪で寝込んだから早めに切り上げて帰って来たからな」

 

千冬の説明に、鈴は若干茫然と言った表情を浮かべていた。

 

「で、でも私確かに一夏に「信用できんと言うなら、五反田とかに聞けばいいじゃないのか? 確か織斑の代わりに私が行けない事を連絡したから、憶えているはずだ」」

 

千冬の説明に鈴は何も言えない表情で俯く。

 

「…わかりました。だったら!」

 

そう言い勢いよく顔を上げる鈴。その顔は決意に染まった顔だった。

 

「一夏! 私と付き合って!」

 

突然の告白。その光景に流石の千冬も若干驚いた顔を浮かべていた。だが一夏の返事は

 

「ご、ごめん、なさい。む、無理です」

 

怯えながらも断りの返事を返す一夏。

 

「な、なんでよ!」

 

「だ、だって、怖いもん」

 

「はぁ~? あたしはアンタの幼馴染でしょうが! 何処が怖いのよ!」

 

「今のお前の状態だっ!」

 

怒りの表情で声を荒げる鈴に隣にいた千冬は鈴の頭を叩いた。バシンと音が鳴り響き鈴は頭に手を置きながら涙目で千冬を見上げる。

 

「幼馴染みでも、今の織斑は女性のほとんどが恐怖の対象なんだ。怖いと思っても仕方がないだろうが」

 

「な、何ですかそれ! そんなの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

鈴の言葉に千冬は目を見開くも、直ぐに鋭い視線となり、拳を握りしめる。

千冬は一夏がどれ程辛い目に遭ったかも知らないのに、気合で克服しろと言う鈴の言葉に自制心が崩壊し拳を握りしめた右手が震える。その姿に気付いた一夏は振るえる唇を開く。

 

「お、お姉、ちゃん。だ、ダメ」

 

その言葉が千冬の耳に届くと怒りの気持ちは少しずつ落ち着きだした。

 

「…凰、部屋に帰れ」

 

「な、なんで「いいから帰れと言っている!」」

 

今まで浴びせられた事が無い程の怒声を浴びせられた鈴は体を強張らせ足早に部屋から飛び出していった。鈴が出て行った後千冬は肩で息をしていると、一夏が傍に近付き千冬のスーツの袖を掴む。

 

「だ、大丈夫?」

 

「……怖い姿見せて、済まない一夏」

 

「ぼ、僕は、大丈夫、だから」

 

そう言われ千冬は若干涙を浮かべるが、一夏に見られまいと顔を上げ見えない様にした。

 

「そ、それじゃあ私も帰るな。何かあったら隣の布仏か私の携帯に連絡しろ。いいな?」

 

「う、うん」

 

一夏の返事を聞いた千冬はそれじゃあな。と言い部屋から出て行った。




次回予告
多くの生徒が待ちに待ったクラス代表戦当日。
一夏はクラスメイトたちから応援されつつピットへと向かう。
そして対戦相手が発表されると、なんと2組の鈴と対戦することに。

次回
クラス代表戦part1


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8話

突然コラボと分けるなどと皆様の多大な迷惑を掛けてしまい本当に申し訳ございません。
今後はもっと気を付けて小説投稿を行って行きますので、どうかこれからもよろしくお願いします。
それと最初に書いていたコラボ話はIFルートとして別小説に移しました。
では、新しく始まるクラス代表戦、どうかお楽しみください。


クラス代表戦当日。アリーナの観客席へと向かう廊下にて、1組の生徒達は燃え上がっていた。

 

「いいか諸君! 今日は織斑君の初のクラス代表戦! 我々『織斑君応援支隊』の心構えはッ?」

 

「「「織斑君が発作しない程度の応援をして、頑張ってもらうこと!」」」

 

「よろしい! では何のために応援するっ?」

 

「「「「織斑君のカッコいい姿を見る為!」」」」

 

「その通り!」

 

と熱く燃え上がる生徒達を遠くから一夏と本音は眺めていた。

 

「…す、すごく燃え上がってるね」

 

「うん、燃え上がってるねぇ」

 

遠目でも分かるほど燃え上がっている生徒達。他のクラスの生徒達も何故あそこまで燃えているんだ?と首を傾げながら通って行く。

 

「そう言えばイッチー。そろそろ対戦相手が発表されていると思うし、モニター見に行こ」

 

「そう、ですね。見に行きます」

 

そう言い一夏と本音は対戦表が出されているモニタールームの元に向かった。

モニタールームには既に他クラスや他学年の生徒達がモニターに映し出されている対戦表を見ていた。

一夏はモニターを確認したかったが人が多く、女性恐怖症を患っている一夏は怖くて近付く事が出来ずにいた。

 

「……人が、多いのでその、僕ピット前に先に行ってます」

 

「そぉう? それじゃあ私が見てくるねぇ」

 

そう言い本音は軽快な動きで人混みの中へと潜り込んでいった。一夏は本音を見送った後その場から足早に去りピットへと向かう。

 

暫くしてピット前に到着した一夏。ピット前には自販機とベンチが備えられており、一夏は自販機に凭れられる側に座り拡張領域に仕舞っている小説を取り出し気配を消すように縮こまって本を読み始めた。

 

アリーナの観客席からであろう小さな喧騒をBGMに一夏は小説を読み続けていると

 

「イッチー」

 

と自身を呼ぶ声が聞こえ一夏は顔をあげた。其処には少し困惑顔を浮かべた本音が居た。

 

「どう、したんですか?」

 

「うん、実はねぇ。モニターでイッチーの対戦表を確認したら第一アリーナで1回戦目からだったの。けど、相手が2組の代表がアメリカの人じゃなくて、中国の人の名前だったんだぁ」

 

「中国? ……も、もしかして、凰鈴音って言う名前でしたか?」

 

一夏は本音の口から出た中国の人という言葉に、まさかと思いつつ鈴の名前を出す。

 

「ほへぇ、何でわかったのぉ?」

 

「や、やっぱり。でも、なんで鈴音さんが?」

 

「それが分かんなぁい。きよきよ達から聞いた話だとアメリカの人で専用機を持ってないって聞いたのにねぇ」

 

2人は何故そのアメリカ人ではなく転入してきたばかりの鈴が代表として出ているのか、それが疑問で仕方がなかった。すると一夏はふとある事を思い出しピットの中へと入って行き、本音もその後を追っていく。

 

ピット内へと入った一夏は壁に備えられている端末の元に向かい通信を入れる。

 

『こちら管制室。む、織斑か。どうかしたのか?』

 

画面には千冬が映り、一夏は対戦表の件を伝えた。

 

「あの、2組の代表なんですが…」

 

『あぁ、それか。 実は転入してきた当日にアイツ、その時のクラス代表に頼み込んで変わってもらったらしい。しかも教師に何も告げずに、だ』

 

呆れ顔で告げる千冬に、一夏と本音もえぇ~。と困惑の表情を浮かべていた。

 

「それって、その、書類上大丈夫、なんですか?」

 

『…大丈夫な訳ないだろ。教師に何も告げずに勝手に変わって貰うなど前代未聞だぞ。まったくアイツは!』

 

と怒り心頭な顔を浮かべる千冬。だがすぐに深く息を吐き何時もの表情へと戻る。

 

『兎に角2組のクラス代表はあの馬鹿だ。専用機持ちだが、慢心せずお前の思いっきりをブチかましてこい、織斑』

 

最後に笑みを浮かべながら一夏を応援した千冬は通信を切った。

 

「なんか、大変なことになっちゃったねぇ」

 

「…うん。それじゃあ、僕準備を始めるね」

 

「分かったぁ。あ、私観客席できよきよ達と応援してるから頑張ってねぇ!」

 

そう言い本音はピットから出て行く。一夏は直ぐに戦闘服に着替え、バレットホークを身に纏う。

するとアイラが呆れた口調で一夏に話しかけてきた。

 

〈はぁ、猪突猛進と言う言葉ピッタリの娘ね、アンタの幼馴染〉

 

〈…うん。根は、良いんだけどね。その、思い込みが…〉

 

〈でしょうね。じゃなきゃアンタの姉にあんだけ怒鳴られたのにクラスに来たりしないでしょ〉

 

アイラはそう言いはぁ。とため息を吐く。

千冬に怒鳴られ追い返された翌日、鈴は何事もなかったように教室に突撃してきたのだ。無論一夏は距離をとろうとするも、それをさせまいと距離を詰めてくる鈴。その結果恐怖で体が震え始める一夏。

すぐにクラスに居た生徒達は急いで鈴を一夏から引き離し、本音は一夏に大丈夫と励ましに傍による。

生徒達に邪魔されたのが癪に障ったのか怒る鈴だが、すぐに千冬が現れ出席簿で叩かれ追い出された。

 

本来怒られたら反省し、少しは慎むものだが鈴はそう言った事は一切なく朝のSHR前に怒られれば次は昼休み、そして次に放課後にと教室に突撃してきては一夏を怖がらせるのだ。

何度か1組の生徒達が突撃を止める様言ったのだが、鈴は

 

「はぁ? 私は一夏の為に会いに来ているのよ。こうやって会いに行ってやれば何時かは女性恐怖症なんて治るでしょ」

 

と根拠もない話をしてきたのだ。

無論1組の生徒達はそんな話を聞いて黙っているはずもなく、鈴が突撃してこようとする前に教室の扉前に生徒達が壁の様に立ち、入れない様にしたのだ。無論ただ立っていれば無理矢理通ろうとすると考え、何気ないガールズトークをしているように見せかける様にした。

結果鈴が一夏に突撃してくることはほぼなくなった。

 

〈暫くはクラスの子達があんたの周りを固めていたから突撃してくることは無かったけど、恐らくあの子相当鬱憤が溜まってるわよ〉

 

〈うっ。そ、それは何か変な事、言われるって事?〉

 

〈恐らくね。まぁ安心しなさい。彼女が何か言ってこようがこっちで聞こえない様にしておくから〉

 

〈う、うん。ありがとう、アイラ〉

 

はにかみながらお礼を述べる一夏。アイラはどういたしまして。と返す。だがコアの世界に居るアイラは頬を真っ赤に染め上げながら明後日の方向に目線を向け照れていた。

 

『これより、第1回戦1年1組対1年2組の試合を行います。代表選手はアリーナへと出て下さい』

 

ピットに備えられているスピーカーからアナウンスが流れると一夏は深い深呼吸を数回行う。

 

〈準備はいいわね?〉

 

〈うん、行こう〉

 

そしてバレットホークはカタパルトから射出され、アリーナへと飛び出た。




次回予告
アリーナへと出ると既に出ていた鈴。案の定相当鬱憤が溜まっていた鈴は吐き出すように自分の主張を吐き出す。
そして試合が開始されようとした時、鈴は一夏に言ってはいけない言葉を言ってしまう。
次回

クラス代表戦part2 ~禁句~


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9話

ピットからアリーナへと飛び出た一夏。アリーナには既に鈴が出て近接用の剣を両手に持って佇んでいた。

 

「ようやく出てきたわね、一夏。ふふん、私がクラス代表よ。ねぇ、驚いた?」

 

そう言いニヤリと笑う鈴。が、

 

「その、そんなに驚いてない。むしろ、勝手に変更して、良いのかな?って思ったくらい」

 

そう、一夏は思った事を口にした。一夏の返答に目元をヒクヒクとさせる鈴。

 

「ちょっと何よその反応! もう少し驚いたとか、そう言った反応しなさいよ!」

 

そう一夏に怒鳴るも、一夏は反応に困っていた。

 

「そ、そう言われても…」

 

「だぁ~! そのオドオドした姿勢も止めなさいよ!」

 

怒りを露にして怒鳴り散らす鈴。そのままの勢いで鈴は、今まで溜め込んでいた鬱憤を吐き出す。

 

「大体アンタの所のクラスの子達、一体なんなのよ! アンタの症状を治そうと思ってクラスに行ってるのに毎回邪魔ばっかりしてくるし、その上行く度に教室の扉前でガールズトークなんか始める始末で、入りづらいのよ!」

「それにアンタもアンタよ! 教室に入れないから廊下から呼んでるのに、毎回無視するなんてどういうつもりよ!」

 

ひとしきり言い終えた鈴は肩で呼吸をし、息を整える。

 

「その、呼ばれた事なんて1度も無いんだけど…」

 

〈確かに無いわね〉

 

思い返すように零す一夏。だが鈴は

 

「何度も言ってるわよ! もう良いわ。アンタを倒してそのままの勢いで優勝して、アンタのクラスの子達にアンタらが守るよりも、強い私が守った方がいいって分からせてやるわ!」

 

そう叫びながら武器を構える鈴。一夏もアサルトライフルを取り出す。

 

『ではこれより、第1回戦を始めます! カウント、3…』

 

アナウンスでカウントが始まり一夏は安全装置を解除していると

 

「そう言えば、アンタのクラスの子達はアンタを守ってばかりよね。要は怖がっているなら怖くないと分からせればいいだけじゃない。症状の緩和にもならない事をずっと続けた所で何の意味の無いのに」

 

鈴はそう言い1組の生徒達の行いを無意味だと言い捨てた。その言葉に一夏の中にある何かがキレた。

 

〈全く何てこと言うのよ彼女。一夏、もう彼女の声は聞こえない様集音マイクを「……許さない」一夏?〉

 

「……クラスの皆は、僕なんかの為に色々考えて接してくれてるんだ。それを無意味だなんて言い方…」

 

俯きながら若干震える体から滲み出る様に出る言葉。その言葉には僅かながら怒気が含まれていた。

 

『1…試合開始!』

 

「先手貰ったぁ!」

 

そう叫びながら鈴は両手に持った双天牙月を構えながら突っ込んでくる。一夏は手を下に下げたままだった。

 

(試合放棄? なら好都合! 待っておきなさい、アンタを守るのは私だけ…ッ!?)

 

鈴は一夏に攻撃しようした瞬間、言い知れぬ何かが襲い突っ込むのを止め距離をとる。

 

(な、何今の? い、今私……か、体が震えてる?)

 

鈴の体はガタガタと震えていた。熱いわけでもないし、寒いわけでもない。それなのに体が震えている。そして頭でずっとサイレンが鳴り響いていた。

逃げろ、勝ち目なんかないと。

すると、手を下に下げていた一夏がおもむろに手に持っていたアサルトライフルを拡張領域に仕舞った。

 

「……クラスの皆は」

 

「えっ?」

 

「……クラスの皆は、僕みたいな人を温かく迎え入れてくれた。発作が起きない様にと色々配慮してくれた。それを、それを無意味だなんて言い方」

 

声は小さく震えている。だが、はっきりと鈴は分かった事が一つだけはあった。それは

 

「絶対に許さない!」

 

一夏が激しく怒っているという事だった。




次回予告
鈴の言葉でキレた一夏。そして一夏は拡張領域から武器を大量に取り出し鈴に向け放つ。

次回
キレた一夏。~……無茶しおって~


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10話

一夏の怒りの大声にアリーナの観客席に居た生徒達は驚き応援の声が止む。

 

「お、織斑君が、キレた」

 

「う、うん。どうしたんだろう?」

 

「多分彼女が何か言ったんじゃないの? 彼女、変に織斑君に付き纏っていたし」

 

1組の生徒達は、そうかも。と頷き合い声を張り上げる。

 

「織斑君頑張れぇ!」

 

「そんな子に負けちゃダメだよぉ!」

 

「やっちゃえぇ、織斑君!」

 

と声援が大きくなった。アリーナでは突然一夏がキレた事に動揺してしまい動きを止めてしまっている鈴。

無論一夏がそんな隙を逃すはずもなく、拡張領域から大型の武器を取り出した。

6砲身のガトリングカノン咆、『アヴァロン』。バレットホークの中で唯一の大型武器で、毎分3000発放つことが出来る銃である。

 

一夏はアヴァロンを取り出すと、素早く照準を鈴に定め引き金を引く。

砲身が回転し、瞬く間に大量の弾丸が鈴に向かって襲い掛かる。

突然の轟音に驚いた鈴は直ぐにその場から回避すると、自身のいた位置に向かって一直線に大きな砂埃が舞う。

 

「ちょっ!? 危ないでしょ一夏!」

 

鈴はそう叫ぶも一夏は何も返さず、再度アヴァロンを鈴に向ける。

 

〈一夏、聞こえる? サブアームを展開して武装を出して〉

 

〈分かった。彼女が避けた先に向かって撃ちまくって〉

 

アイラにそう返し一夏はウィングと肩と腰のサブアームを展開し武装を出す。アイラは一夏の様子が若干変わっている事に気付き、若干心配した表情を浮かべていた。

 

〈(バイタルなどには異常は無いけど、明らかに可笑しい。怒りで一時的に症状が治まっている? となると怒りが沈んだら……)〉

 

アイラは一夏の怒りが沈んだ後の事に不安な考えが頭を過るが、今は戦いに集中するしかないと、その考えを隅へと追いやった。

 

避けた鈴に向け再度アヴァロンを向けた一夏は躊躇いもなく引き金を引き大量の弾丸を放つ。

無論そんな弾幕を張られれば近付く事は容易ではなく、避け続けるしかない。だが、避けた先にサブアームの武装が攻撃によって、最早逃げ場などは無い。

 

「なぁっ!?」

 

アヴァロンの攻撃を避けたと思えばサブアームのアサルトライフルに撃たれるという、逃げ場のない状態の中、被弾を抑えようと逃げ惑うがガリガリとSEを削られていく。

 

「あぁ、もう頭きたぁ! もう容赦しないんだから!」

 

そう叫ぶと鈴は突然両肩の一部がスライドし何かが現れた。

 

〈一夏、気を付けなさい。彼女何かする気よ〉

 

〈分かった。アイラはあれの情報を集めて〉

 

一夏はそう言うとアヴァロンを仕舞いグレネードランチャー搭載型アサルトライフル、『AMWS-21』を取り出し警戒しつつ回避行動に移る。

 

「さっきのお礼よ!」

 

そう叫び鈴の肩から何かが放たれた。一夏はそれをギリギリで避ける。

 

〈アイラ、あれが何か分かった?〉

 

〈えぇ。あれは中国で開発された『龍咆』って言う衝撃砲よ。圧縮空気で砲身と砲弾を生成して放つ物で、おまけに空気で砲身などをつくるから目には見えないし、射線もほぼ無制限って言う物らしいわ〉

 

〈無制限と言えども、撃つ方向には何かしらの徴候があるはず。次は発射のタイミングを調べて。多分単純な性格だから直ぐに分かると思う〉

 

〈フッ。えぇ、分かったわ〉

 

一夏の口から鈴の事を単純な性格と言う言葉が出てきて思わず笑みを零すアイラ。

アイラが調べている間、一夏は回避行動を行いつつAMWS-21を向けながら攻撃する。無論調査するアイラもサブアームを操作し射撃する。

 

「初弾を躱すなんてやるじゃない。でもその幸運、何時まで続くかしら!」

 

そう叫び龍砲を撃つ鈴。一夏は素早く両手持ちをしていたAMWS-21を右手で持ち、空いた左手にバタリングラムを構え地面に刺し軸の様にしてドリフトするように急カーブする。

 

「あぁ、もう避けるんじゃないわよ!」

 

そう叫びながら次々に圧縮空気を放つ鈴。一夏は先程同様にバタリングラムを使いながらギリギリで避け続けるが、そろそろ限界かな。と思い始めていると

 

〈待たせたわね。アイツの撃つタイミングが分かったから、モニターに表示するわよ〉

 

〈ありがとう、アイラ。脚部サブアームにも武装も出すから操作お願い〉

 

〈任せなさい〉

 

脚部のサブアームを展開し武装を展開する一夏。これによってほぼ全部のサブアームに武装が展開された状態になる一夏。

鈴はその姿に好機だととらえた。

 

(サブアームを全部展開したら、機動力は下がる。さっきまでギリギリだった癖に、それは悪手よ!)

 

鈴は、逆転勝利!と心の中で思いながら龍砲を撃つ。

だが、

 

〈一夏!〉

 

〈うん!〉

 

アイラの合図に一夏は機体の方向を急回転させ避けた。

 

「う、嘘ぉ!?」

 

今度こそ当たると思っていた攻撃が簡単に避けられ事に驚くも、直ぐに気を取り直して再度龍咆を撃つがまた簡単に避けられた。

 

管制室で一夏達の戦いを観戦していた千冬達は一夏の動きが先程と大きく変わった事に驚いていた。

 

「凄いですね、織斑君。まさか見えない砲弾をあんなにも簡単に避けるなんて」

 

「いや、そう簡単に避けられるような物ではない」

 

真耶の言葉を否定するように千冬は言い、険しい表情で続けた。

 

「相手の攻撃を避けるには、相手のほんのわずかな動きでさえ注視しないといけない。織斑は女性恐怖症というハンディキャップを持っている。そんな状態の中、相手の動きを注視しないといけないのは織斑にとって危険な行為だ」

 

千冬の説明に真耶はハッ。と思い出したような表情となり、悲痛そうな表情に変わる。

 

「お、織斑君は大丈夫なんでしょうか?」

 

「……分からん」

 

そう零した後、千冬は何も言わなくなりただモニターに映る一夏をジッと見つめていた。

だが、心の中では心配でしょうがなかった。

 

(…一夏、無茶するんじゃないぞ)

 

 

鈴の圧縮空気攻撃を避けつつ一夏は残りの武装をアイラと確認する。

 

〈残っている武器は?〉

 

〈ハンターは2丁とも弾切れ。背部サブアームのLAMPOURDEと脚部サブアームのLG5M-BDアサルトカービンは弾倉の半分切ってるわ。腰部サブアームのGEC-Bは弾切れ。アヴァロンも残り50発程。SCAVENGERが4発。ソードオフショットガンが2丁ともフル状態。近接用はナイフ2本、バタリングラム2本、左腕のフォールディングナイフって処よ〉

 

〈それじゃあ出し惜しみなしで行くよ!〉

 

〈えぇ、徹底的にやってやりなさい!〉

 

一夏は左手に持っていたバタリングラムを仕舞い、腰部分に付けられているSCAVENGERと呼んだグレネードを手に取る。見てくれは魚雷のような形をしているが、実際は発射機構が組み込まれた物で単体のまま発射することが可能な、ライフルグレネードなのである。

 

〈時限信管をアイツの居る距離から算出したから入力しておくわよ〉

 

〈お願い。発射後の放物線もモニターに出して〉

 

〈分かったわ。……モニターに出すわよ〉

 

アイラの言葉と同時に一夏は左手にとったSCAVENGERをモニターに映るよう持ち上げると、モニター上に放物線を描くように現れた線が表示された。

一夏はタイミングを見計らいつつ、構える。そして

 

「其処だ!」

 

そう叫ぶと同時にSCAVENGERを発射する。グレネードが発射されたのを確認した鈴は瞬発信管だと思い、軽く避けようとした。だが、突如通り過ぎると思われたグレネード弾が近くで爆発しSEを大幅に削られる。

 

「あぁ、もう! こうなったら接近戦でやってやるわよ!」

 

そう叫ぶと鈴は残り少ないSEでイグニッションブーストして自身の間合いに詰めてくる。

 

〈来るわよ、一夏!〉

 

〈うん!〉

 

一夏は間合いを詰めてきた鈴を向かい討つべく右手のAMWS-21を弾切れで沈黙していたサブアームの一つに渡し、拡張領域からバタリングラムを出す。

 

「おりゃああぁぁ!!」

 

そう言い振り下ろしてきた双天牙月をバタリングラムで受け止める。当初鈴はサブアームが狙ってくると思っていたが、弾切れを起こして幾つかのサブアームが沈黙していた為今なら懐に飛び込めばまだ勝機はあると考えたからだ。

 

「これだけ近ければサブアームの攻撃は出来ないでしょ!」

 

そう言いながら鈴は双天牙月を振りまくる。一夏は迫る斬撃をバタリングラムで受け流していく。一般の人から見れば一方的に押され始めているように見える。

 

「やばいよ。織斑君押され始めてる」

 

「最初の勢いが衰え来てるのかな?」

 

「諦めちゃダメだよ。頑張って応援しないと」

 

そう言い1組の生徒達は応援を強める。

だが管制室の千冬は違った。

 

「凰の奴、まんまと嵌ったな」

 

「え? どう言う事ですか?」

 

「見ていればわかる。だが、言えるとすればこの試合、織斑の勝ちだな」

 

千冬の予告に真耶や他の教師達は首を傾げるのであった。

 

一方的に攻撃していた鈴は隙を見せまいと斬撃を続けていた。

 

(ふふん。最初は結構押されたけど、スタミナ戦なら私の方が強いのよ。このまま一気に畳み掛けてやる!)

 

そう思いながら攻撃を続ける。だが続けざまに攻撃しようとした瞬間

 

〈一夏、今よ!〉

 

一夏はアイラが出した合図を皮切りに右手のバタリングラムを鈴に向かって突く。

 

「ッ!?」

 

突然の突き攻撃に思わず鈴は振り下ろそうとした逆の手に持っていた双天牙月で攻撃を弾く。バタリングラムは弾き飛ばされていき、その陰からバレットホークが左腕を胸の前で構えながら鈴の懐に潜り込む。

自身の懐に潜り込まれた鈴は驚くが、左手には武器が無いと思っていた。だが、左腕から刃が出ているのが見え防ごうとするも間に合わない。

 

「これで、とどめぇ!」

 

一夏は叫びと同時に左腕に出ている刃で鈴を斬り捨てた。その結果

 

『甲龍SEエンプティー。勝者1組代表、織斑一夏!』

 

アナウンスが流れると、アリーナの観客席から盛大な歓声が上がった。斬り捨てられた鈴は負けた事に悔しがり歯を食いしばる。

一夏はそんな彼女に目もくれずピットへと戻って行った。

 




次回予告
管制室で一夏が何故勝てると予想できたのか、その訳を千冬に聞く真耶。
その頃観客席に居た本音は一夏の様子が気になり、ピットへと向かう。

次回
疲れ切った一夏君~お疲れ様、一夏~


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11話

決着がつきアナウンスを終えた真耶は、千冬の方へと顔を向ける。先ほど千冬が言った意味を知るために

 

「それで織斑先生、どうして織斑君が勝つと予知できたんですか?」

 

「ん? なんだ、気が付かなかったのか?」

 

千冬はそう言い肩を竦めながらその訳を話し始めた。

 

「最後に織斑が押された様子、あれはフェイクだ」

 

「ふぇ、フェイクですか? けど、そんな風には見えませんでしたよ?」

 

真耶はそう言いながら先ほどの戦闘の様子のシーンをディスプレイに出す。ディスプレイには鈴が双天牙月で一夏を押すように斬撃を行っているシーンだった。

 

「確かにただ見ているだけでは、織斑が押されているように見える。だがな、織斑は効率的に凰の攻撃を受け流しているんだ」

 

そう言いながら千冬は真耶の前にあるキーボードを叩き、ディスプレイに一夏が使っていたバタリングラムと鈴の双天牙月が表示される。

 

「織斑のバタリングラムはランスの様に円錐形で後ろが太く先端が鋭く細い。逆に凰のは大型したとは言え青龍刀と何ら変わらん。あの試合、織斑は防御する際バタリングラムを一度も真横に構えなかっただろ?」

 

「は、はい。確かに」

 

「真横に構えて双天牙月を受け止めればすぐにバタリングラムは折られていたかもしれん。その為織斑はバタリングラムを斜めに構え、凰の斬撃を全て受け流したんだ」

 

「なるほど。でも、どうしてそんな事を?」

 

「残りの残弾では止めが刺せないと思ったんだろう。だから危険な近接に持ち込もうと考えたが、自ら仕掛けるんじゃなく凰の性格を利用すればいいと思ったんだろうな」

 

「性格をですか?」

 

「凰は単純な性格だからな。爆発物で凰にダメージを与えれば、アイツは頭に血が昇って近接で掛かってくると思ったんだろう。そして凰はそれに掛かった。その後は押されている様に見せかければ、アイツは織斑を押せていると思い込み、動きが単調になる。そして単調になり始めた時に織斑は凰の意表を突いたんだ」

 

「なるほどぉ。まさかあんな戦いの最中に、そんな作戦を考えるなんて凄いです!」

 

「そうだな」

 

そう言いながら千冬はまた別の事を考えていた。それはイチカの容態の事だった。

 

(あんな戦い方をすれば、一夏の奴相当疲れているはずだ。布仏に確認に行かせるべきか?)

 

そんな事を考えながら険しい表情を浮かべる千冬だった。

 

その頃アリーナの観客席に居た1組の生徒達は歓喜に包まれていた。

 

「よぉし! 織斑君がまず1勝したわよ!」

 

「最後はどうなるかと不安だったけど、まさかあそこで不意打ちを決めて勝つなんて、流石織斑君だね!」

 

「ねぇねぇ、織斑君の雄姿ちゃんと撮れた?」

 

「もっち! ちゃんと撮れてるわよ! 後で焼き増ししとくから」

 

1組が何故あそこまで喜びあっているのか分からない他クラスの生徒達は怪訝そうな顔を向けられているが、1組の生徒達は気にもしなかった。

普段気弱でオドオドし、ちょっとしたことでもすぐにビビってしまう一夏が、果敢に挑んで勝ち取った勝利。それだけでも1組の生徒達にとっては大きな喜びであった。

 

そんな中喜びで湧きだっている1組の生徒達とは違い、一人心配そうな表情を浮かべた生徒が居た。

 

(イッチー、大丈夫かなぁ)

 

そう思いながら一夏の心配をする本音。そして投影されている時間を確認すると、次の試合開始まではまだ時間があり本音は席から立ち上がる。

 

「あれ、本音何処行くの?」

 

「ちょっとイッチーの所に行ってくるぅ」

 

「分かったぁ。あ、織斑君に次の試合も頑張ってねって言っておいてぇ」

 

「了解なのだぁ!」

 

そう言いながら本音は足早に観客席から出入口へと向かった。

暫くして本音は一夏がいるピットへと到着し、出入り口横に付けられている装置で中に居るであろう一夏を呼び掛けた。

 

「イッチー、私だけど入ってもいい?」

 

装置に向かて声を掛けるが返事は無く、本音は不安な気持ちが大きくなる。

 

「どうしよう。勝手に入るのは不味いし。けど、イッチーの事も心配だし」

 

そう零しながらピットに勝手に入るか止めておくか迷っていると、ポケットに入れているスマートフォンがブルブルと震え、本音はスマートフォンを取り出して画面を見ると

 

「あ、織斑先生だ。もしもしぃ」

 

『布仏、今何処に居る?』

 

「えっと、今イッチーが居るピット前にいまぁす」

 

『織斑のか? フッ、それだったら好都合だ。すまんが、織斑の様子を見に行ってくれないか? ピットに入る許可は私が出す』

 

「分かりましたぁ」

 

千冬から許可が下り本音はピットのドアを開け中へと入る。

中へと入り少し奥へと行く、一夏が備え付けられているベンチに腰掛け、顔を伏せていた。

 

「あれ、イッチー。どうしたのぉ?」

 

一夏が顔を伏せている事に本音はもしかして何処か痛いのか?と思い急いで一夏の傍へと駆け寄る。

 

「イッチー、何処か痛い「すぅすぅ…」あれ、寝てる」

 

不安な表情を浮かべていた本音は近付いて規則正しい寝息を立てる一夏に一瞬キョトンとした表情になるが、直ぐに朗らかな笑みとなった。

 

「良かったぁ。あ、織斑先生に言わないとぉ」

 

そう言いピットにある装置に元に向かう本音。

 

『こちら管制室。おぉ布仏か。織斑はどうだった?』

 

「えっと、疲れているのか眠ってまぁす」

 

『やっぱりか。…分かった、保険医の者をそちらに向かわせる。すまんが、そのまま暫く織斑の傍に居てやってくれ』

 

「分かりましたぁ。あ、ピットの扉はどうしておきましょう?」

 

『そうだな。織斑はもう動けんから次の試合には流石に出られんだろうからアナウンスをしないといけない。そうなると馬鹿3人が織斑に突っかかってくるかもしれんからな。仕方ない、保険医が来るまでは鍵は掛けとけ』

 

「了解でぇす」

 

本音は千冬の指示通りにピットの扉を閉め、鍵を掛けた。

そして本音は一夏の隣に座り、保険医が来るまで待つことにした。

何もすることが無い本音は暫しぼぉーとしていると、肩にコテンと一夏がもたれ掛って来た。

 

「ふえ? イッチー、相当疲れたんだぁ」

 

そう零しながら一夏の寝顔を見る本音。スヤスヤと寝るその寝顔に本音は朗らかな笑みを浮かべていると、ふとある事を思いつく。

 

「このままだと寝づらいだろし、こうしてあ~げよっと」

 

そう言いながら本音はそっと体を動かしながら、一夏の頭を自身の膝の上に乗せる。

 

「えへへへ、こうしたらイッチーも寝やすいよね」

 

そう言い暫し一夏の寝顔を見ながら暇を潰す本音であった。

 

 

 

 

その頃アリーナの観客席では次の試合が今か今かと待ちわびていた。

それは1組の生徒達も例外ではなく、皆ソワソワしていた。

 

「うぅ~、次の試合の4組の代表も、代表候補生なんでしょ? 織斑君大丈夫かなぁ?」

 

「うぅ~ん、どうだろう? さっき試合を見に行っていた友達から聞いた話じゃあ、4組の代表の子は大量のミサイルを撃っていたって聞いてるよ」

 

「ミサイル? それなら織斑君なら問題無いでしょ。織斑君のISの弾幕なら『お知らせします』ん? なんだろう?」

 

皆一夏なら余裕で勝てる。そう話し合っているとアナウンスが入り全員静かになった。

 

『1組代表の織斑一夏君が体調不良の為、次の試合を辞退致しました。その為4組の不戦勝となりますので、次の試合は4組対5組の試合を行います』

 

突然のアナウンスに観客席は騒然となり、1組の生徒達も騒然となった。

 

「ウソ、織斑君辞退!?」

 

「そ、それより体調不良って、織斑君大丈夫なの!?」

 

「ちょ、ちょっと本音さん、織斑君の様子をって、居ないし!?」

 

一夏が体調不良と聞き1組の生徒達は騒然となり、様子を見に行って貰おうと本音に声を掛けようとしたが肝心の本音が居ない事に更に騒然となった。

 

「本音だったら、ちょっと前に織斑君の様子を見に行ってくるって行ったよ」

 

「え? そうなの? それじゃあ連絡を取って様子だけ聞いてみる?」

 

「そうしたいけど、本音と連絡が取れないのよ。何度電話しても繋がらないからさっきメッセージを送っておいたわ」

 

「そうなんだ。それじゃあ私達も後片付けをして帰ろっか」

 

「そうだね。あ、織斑君が復帰したらさ、またパーティーしない? 【織斑君初勝利おめでとうパーティー!】ってな感じで」

 

「お、それ良いね! じゃあまた皆と計画立てよっか?」

 

「「「「「おぉー!」」」」

 

と、和気藹々しながら1組の生徒達は後片付けを始めるのであった。




次回予告
医務室で目を覚ました一夏。医師の診察を受けた後、医務室まで付いて来てくれていた本音と共に寮へと帰っていく。
帰り道、一夏は本音にあるお願いをするのであった。
次回
お願いごと~一夏君専属の医師として、当然の事だよ~


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12話

 


「……ん。あれ、此処は?」

 

ぼやける視界から見える真っ白な天井を見て、一夏はアリーナのピットではない場所で寝ていた事に気付く。

寝たまま辺りを見渡すも、何処か分からずにいると

 

「お、目が覚めたみたいだね」

 

そう声が聞こえ一夏はそちらに顔を向けると、黒髪で白衣を着た男性がボードを持って立っていた。

 

「あ、伊田さん。どうして?」

 

一夏はそう言い、伊田と呼んだ男性に問う。

 

「そりゃあ、俺は君の担当医だからね。それに此処の学園には女性の保険医しかいないって千冬に頼まれたからさ」

 

「そう、だったんですか」

 

そう言いながら一夏はベッドから上半身を起き上がらせる。

 

「さて、それじゃあちょっと検査するよ」

 

そう言い伊田は一夏の体の状態を見たり、幾つかの問診を行った。

 

「――うん、大丈夫だ。けど、また無茶しちゃダメだよ?」

 

「はい、気を付けます」

 

問診を終え一夏は制服に着替えて始める。すると

 

「あぁ、そうだ。君のお友達が廊下で待ってるよ。此処に運ばれた後もずっと廊下の前で待ってたんだから、お礼言っておきなよ」

 

「へ? 友達?」

 

伊田の言葉に首を傾げつつも一夏は一礼して廊下へと出る。一夏は辺りを見渡し、その友達を探すとすぐに見つかった。

 

「あ、本音さん」

 

「あ、イッチー! もう大丈夫なの?」

 

「は、はい。ご心配をお掛けしました」

 

申し訳なさそうに謝る一夏に、本音は笑顔で気にしてないよぉ。と言い励ます。

 

「それで、イッチー。もう部屋に帰っても大丈夫なの?」

 

「は、はい。異常は見当たらないから、帰ってもいいそうです

 

「そっかぁ。それじゃあ一緒に帰ろぉ」

 

そう言い歩き始める本音。一夏もそれに続く様に歩き始めた。

 

一夏が医務室から出て行って暫く経ち、伊田は今日の一夏の容態をカルテに書き込んでいると

 

『―――れと言っている!』

 

『それは此方の―――!』

 

『あんた達の方が邪魔に―――!』

 

と扉の前で騒ぐ3人に気付く。

 

「やれやれ、一体何の騒ぎだ?」

 

そう言いながらペンを置き扉の元に向かう。扉を開け廊下へと出ると

 

「だから貴様らは帰れ! 私が一夏の元に行くんだ!」

 

「接近を禁止されているのをお忘れですか、篠ノ之さん。というか、2組の貴女も何故此処に居るんですの!」

 

「あたしは一夏の幼馴染だから居るに決まってるでしょ! アンタ達はお呼びじゃないのよ!」

 

と箒、セシリア、鈴が医務室前で大騒ぎを起こしていたのだ。

 

「はぁ~。ちょっと君達、此処は医務室前だよ。騒ぐんだったら他所でやりな」

 

そう言い3人に解散するよう促すが

 

「一夏の様子を見るまでは帰れるか!」

 

「そちらが向こうに行けばよろしいでしょ!」

 

「一夏の面倒を見るまでは帰れるわけないでしょ!」

 

と言う事を聞く気が無い3人であった。

その姿に伊田は思わずため息を漏らす。仕方ないと言わんばかりおもむろにスマホを取り出す。

 

「そうか。それじゃあ此方も考えが有るから」

 

そう言い伊田は何処かに電話を掛けた。

 

「もしもし。あぁ、俺だけど。悪いんだけど、医務室に来てくれないか? 君の所の生徒と2組の生徒が医務室前でギャーギャーと騒いで、迷惑なんだ。すぐに行くって? それじゃあ待ってるから」

 

そう言い電話を切る伊田。

 

「3人共、今すぐに逃げないと、大変な目に遭うよ」

 

そう言うと3人ははぁ?と怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「大変な目って、どういう意味よ?」

 

鈴がそう言うとガシッと彼女の頭が掴まれた。

 

「こういう意味だ、凰。そして残りの馬鹿共」

 

掴まれた鈴。そして残りの箒とセシリアはガタガタと震え出し首を錆びついたかの様にギギギと後ろへと向ける。

そこには般若の面を被った様な表情の千冬が立っていた。

 

「そこまで元気があるなら、今すぐに道場へ行こうか。久しぶりに体を動かしたい気分だったからな」

 

そう言いながら千冬は鈴の頭を掴んでいた手に力を入れる。鈴は締め付けられる頭に悶え苦しみ意識を失う。

鈴を放り捨てた千冬は残りの二人に目線を向けると、箒とセシリアは逃げ出そうとするも千冬から発せられる威圧に足が縺れ倒れ込む。

 

「さて、逝こうか?」

 

そう言い2人を拘束し鈴を担ぎ上げ道場へと向かう千冬。

その後姿を伊田は苦笑いで見送るのであった。

 

その頃医務室からでて部屋へと戻る途中の一夏達はと言うと、談笑を交えながら歩き寮前へと到着していた。

 

「あ、そうだ。本音さん、少し、良いですか?」

 

「ん~、なぁにぃ?」

 

「じ、実は僕、部活に入ろうと思ってまして。それでその、一人で行くのが怖いので、その、一緒に来てもらえませんか?」

 

「部活にぃ? 別に付いて行くくらいなら良いよぉ」

 

「あ、ありがとうございます。それじゃあ、明日行くので、お願いします」

 

そう言い頭を下げお礼をする一夏。

 

 

その日の夜、一夏は何時もと変わらずISコアの世界へと来ていた。

 

「アイラ、今日は本当にごめん」

 

申し訳なさそうな表情で謝る一夏。アイラはそんな一夏の姿を見ずに小説を読み続ける。

 

〈……そうね、確かに心配したわ。でもアンタが謝る事なんて一つも無いでしょ?〉

 

「で、でも僕があの時〈それこそ私が原因でしょ? 集音マイクをさっさと切ればアンタはキレることも無かった〉あ、アイラは何も悪くないよ」

 

そう言い互いに譲ろうとしない状態が続く。

 

~数十分後~

〈はぁ~、この話題何時まで続ける気よ一夏?〉

 

「うっ。だ、だって僕が〈すぐにそうやって自分の所為にしようとしない! もうお互いが悪かった! これでこの話題は終了! 良いわね?〉 で、でも〈お・わ・り!〉は、はひぃ」

 

強い圧で話を切り上げるアイラに一夏は涙目で了承せざる負えなかった。

するとアイラはある事を思い出し一夏に目線を向ける。

 

〈そう言えば一夏。アンタ、ピットで気を失った後の事何か憶えている?〉

 

「え? う、うぅん。気付いたら医務室だった位だけど、何かあったの?」

 

〈別に〉

 

そう言いアイラは目線を本へと戻す。その姿に一夏は何処か不安げな表情を浮かべていた。

暫く静まり返る世界。するとアイラが徐に本を読むを止め一夏の元に近付く。

 

〈ちょっと一夏、其処に座りなさい〉

 

そう言い一夏の背後にソファーを出現させるアイラ。

 

「え? ど、どうして?」

 

〈いいから座りなさい〉

 

鋭い目で睨むアイラに一夏は困惑しながらもソファーの端へと座る。座ったのを確認したアイラは一夏の隣に座ると、そのまま一夏の太ももに自身の頭を置いた。

 

「ふぇっ!? あ、アイラな、何してるの!?」

 

〈何って、アンタの恐怖症治療に決まってるでしょ? ほら、動こうとしない〉

 

突然アイラが自分の太ももに頭を置いてきた事に動揺しまくる一夏。アイラに動くなと言われ顔を真っ赤に染めながらも言われた通り動こうとせずジッとし続けた。

 

それからアイラは本を読み終わるまで一夏の太ももに頭を置いたのだった。その間一夏はずっと顔を真っ赤に染め上げたままだった

 

 

 

人物紹介

伊田洋一

容姿:テイルズオブエクシリア2のジュード・マティス

一夏の専属医師。千冬とは中学からの付き合いで、その伝手で束とも付き合いがある。

母親が医療関係者で、母の姿を見て医療を学び始める。最初は外科治療について学んでいたが、ある時に心に深い傷を負った自殺未遂者が運び込まれ、治療を行ったが再び自殺未遂をしたと言う記事を見て体の傷を幾ら治しても、心の傷がついたままではまた体に傷を作ってしまうと考え、精神科医になる事を決意する。




次回予告
次の日、クラスの皆に心配させたことを謝る一夏。そして放課後、一夏は本音と共に入部したいと思っている部活の活動部屋へと来た。

次回
一夏君入部する~よ、よろしくお願いします~


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13話

クラス代表戦の次の日。一夏と本音は1組の教室前に立っていた。

 

「み、皆さん。怒ってないでしょうか?」

 

「大丈夫だよぉ。それより、そんな顔を見せたら逆に皆が心配な表情を向けてくるよぉ?」

 

本音の言葉にそうかなぁ?と返す一夏。一夏が教室に入るのを躊躇っているのは昨日のクラス代表戦の事でだった。

初戦には勝てたが、一夏はその後怒りで普段以上の体力を使ってしまった為、ピットで気を失ってしまいその後の試合を棄権してしまったのだ。

その事で一夏はクラスのみんなの期待を裏切ってしまったのではと思い、気落ちしていたのだ。

 

「ほぉら、イッチー。何時まででも此処に居ても仕方がないから行こ?」

 

本音にそう言われながら手を引っ張られ、一夏はコクリと頷き一緒に教室内へと入って行く。

 

教室内に入ると、ほとんどの生徒達が入って来た一夏達の方に視線を向けており、一夏はビクッと肩を跳ね上げ顔を俯かせる。

すると

 

「織斑君、大丈夫?」

 

「へ?」

 

予想していた言葉とは違う言葉が掛けられ一夏は声を零し、恐る恐る顔を上げると声を掛けたと思われる生徒が心配そうな表情で見ており、他の生徒達も心配そうな表情を浮かべていた。

 

「あ、あの…」

 

「昨日体調不良で棄権したって放送されて、皆心配したんだよ」

 

「そうそう。大慌てになったんだから」

 

「そう、でしたか。その、ご心配をお掛けしました」

 

クラスメイト達を怒らせたと思い込んでいた一夏は、むしろ心配させたことに悪い事をしてしまったと思い頭を下げる。

 

「もう大丈夫なの?」

 

「はい。疲労で気絶してしまっただけなので大丈夫、です」

 

一夏の報告に皆安堵した表情を浮かべ、良かった良かったと笑顔を浮かべ始める。

すると隣にいた本音が笑顔を一夏に向ける。

 

「ほらね、皆イッチーの事怒ってなかったでしょ?」

 

「う、うん」

 

不安な思いが消え、ホッと一息を吐く一夏。

 

 

そんな中その様子を遠くからでしか見れない2人が居た。箒とセシリアである。

 

(うぅ~。か、体がい、痛いですの。せ、折角一夏さんが居られるのに、こ、声を掛けられませんの)

 

(ち、千冬さん。ほ、本気で殺すつもりだったのか? あ、あそこまで本気で掛かってきたのって、いつ以来だ?)

 

そう、この二人と隣のクラスに居る鈴は昨日千冬に道場へと連行され、教育という名のお仕置きを受けたのだ。

その内容だが、素手の千冬対武器を持った鈴達との1対3の模擬戦であった。無論1対3、しかも相手は武器を持っているならば1人の千冬は不利と思われる。

だが、千冬は武器を持っている3人を容易く対処し、箒が持っていた模擬用の竹刀を持って3人を追いかけ回し始めたのだ。

逃げることが出来ない訓練は消灯時間ギリギリまで行わされ、その頃には3人はボロボロにされていた。

 

 

 

 

~放課後~

放課後を合図するチャイムが鳴り響き、一夏は教科書やノートなどをカバンへと仕舞って行く。

 

「ねぇねぇイッチー。入部する部活ってイッチーが入っても大丈夫なの?」

 

「うん。その、織斑先生が事前に調べてくれた資料だと、その、怖い人はいないって書いてた」

 

そう言いながらカバンを背負う一夏。本音は一夏の言う怖い人とは女尊男卑の生徒の事だろうなと推測し、そっかぁ。と返す。

 

「それじゃあイッチー。その部活の活動場所まで行こぉ!」

 

本音の元気ある掛け声に一夏は、元気だなぁと思いながら教室を出る。

 

2人の出て行く姿に、セシリアと箒が見逃すはずもなく手早く荷物を纏め痛む体に鞭を打ちつつ付いて行こうと(ストーキング)するが

 

「ちょっと二人とも何処行く気?」

 

と、大勢の1組の生徒達がジト目で二人の行く手を阻む。

 

「ど、何処にって部活に決まっておりますわ」

 

「わ、私も剣道部に行かないといけないんだ。其処をどけ」

 

そう言い部活に行くだけだと説明する。だが

 

「篠ノ之さん。今の貴女の状態で剣道できる訳ないでしょ。同じ剣道部の部員としては無理だと思うわ」

 

「セシリアさんもよ。そんなボロボロな状態でやったら怪我するわよ」

 

そう言い2人と同じ剣道部とテニス部所属の生徒が咎める。正論を言われぐうの音も出ない2人。

 

【バシン!!!】

 

と突然廊下から普段から聞きなれた音以上の打撃音が鳴り響いた。1組の生徒数人が確認すると箒達同様に包帯やらシップが沢山されている鈴が俯せの状態で倒れており、その前には出席簿を携えた千冬が立っていた。

 

「全く、あれだけ説教したというのにまだ分からなんのか、この馬鹿者は」

 

そうダルそうに零す千冬。

 

「織斑先生、その子また何かやらかしたんですか?」

 

「ん? あぁ、また何時もの如く織斑に突撃しようと教室前で待ち構えていたようでな。毎度の如く肉体説教だ」

 

1組の一人に聞かれ、呆れた様子で返す千冬。そしてふとある事を思い出し顔を上げる。

 

「まさかと思うが、ウチのクラスの馬鹿二人もか?」

 

「はい。ボロボロなのに織斑君をストーキングしようと教室から出て行こうとしましたが、クラスの皆で阻止していた所です」

 

そう言われ千冬は重いため息を吐き、出席簿で肩を叩く。

 

「そうか、それはご苦労だった。後は任せて、お前等も部活に行ってこい」

 

「分かりました。皆ぁ、織斑先生が後は任せろだってぇ!」

 

「「「「はぁ~~~い!」」」」

 

そう声が聞こえぞろぞろと教室内から生徒達が出てきて部活動へと向かっていく。千冬は傍を通っていく生徒達に部活動頑張る様に。と声を掛けていく。そして徐に両手を上げ勢いよく振り下ろし傍を通っていこうとする生徒二人を掴み止めた。

 

「貴様らは今から説教だ」

 

「「……」」ガタガタガタ

 

そう言い呼び止めたのは生徒達に紛れて脱出しようとしたセシリアと箒であった。二人は全身をバイブレーションの如く震えさせ、怯えるが千冬はそんな事気にもせず教室へと連行し説教を始めるのであった。

 

 

 

余談ではあるが、千冬によって気絶させられた鈴は2組の生徒達に回収され暫し教室内で寝かされ、気付いたころには月が上がり真っ暗な時刻であった。

 

 

 

 

教室でそんな事が起きているとは知らない一夏達はというと、学園の奥にあるとある教室前へと来ていた。

本音は顔を上げ表札を見ると其処には

 

『家庭科室』

 

と書かれていた。

 

「此処ぉ?」

 

「うん。でも、何だか静かだね」

 

そう言いながら、一夏はそっと扉をノックする。

 

『開いてるわよぉ』

 

そう中から聞こえ、一夏はそろぉりと扉を開ける。家庭科室には上級生のネクタイをした一人の女子生徒が書き物をしていた。

 

「あら、君ってもしかして今噂の男子生徒じゃない。何か御用?」

 

「あ、あの、此処って【料理研究部】で、良いでしょうか?」

 

一夏がそう聞くと女子生徒はニンマリと笑顔を見せて頷く。

 

「えぇ、此処が料理研究部の活動部屋よ。でも今日は部活はやってないわよ」

 

「え? やってないんですか?」

 

「今日は皆、お題に合うメニュー調べで居ないのよ」

 

お題?と女子生徒が言った言葉に首を傾げる一夏と本音。

 

「うん。ウチの部はそれぞれお題を出し合ってその中から一つのお題を選んで、お題に合う料理を調べて作るっていう活動なの。それで、今日のお題は【皆大好き、菓子パン】って言う物なのよ」

 

「「へぇ~」」

 

2人が関心の声を零していると、女子生徒はある事を思い出す。

 

「そう言えばここ来た理由を聞いてなかったわね」

 

「あ、そうでした。あの、僕も此処に入部したいのですが、大丈夫でしょうか?」

 

一夏はおずおずと入部希望の事を伝えると、女子生徒は目を点にさせ何回か目をぱちくりさせる。

 

「えっと、入部ってウチに?」

 

そう問われ一夏は控えめにコクリと頷く。

 

「……」

 

しばしの沈黙が流れる家庭科室。

 

「あ、あの?」

 

「え? あ、ご、ご、ごめんね。ちょっと驚いちゃって。入部ね。え、えぇ問題無いわよ。入部届の紙は?」

 

「あ、はい。こ、これです」

 

そう言い一夏は家庭科室へと入って行き女子生徒に入部届の紙を手渡す。

 

「うん、確かに。それで、そっちの子は?」

 

「あ、私はただの付き添いでぇす」

 

「そうなの? それじゃあえっと、織斑君だったわね。さっき言った通りお題に合った料理を調べて此処で作るから材料と必要ならレシピ等、それとエプロンと三角巾を持ってきてね。次皆が集まるのはGW明けになるからそれまでに準備とかしておいてね」

 

「は、はい。えっとよ、よろしくお願いします」

 

そう言い頭を下げる一夏。その後一夏と本音は家庭科室から退出していく。

 

 

残った女子生徒は2人を見送り、また一人だけになる。

 

「……」プルプル

 

黙り込みプルプルと震え出す女子生徒。そして

 

 

「よっっしゃあーーーーーーーー!!」

 

と声高々に拳を突きあげ喜ぶ女子生徒であった。




次回予告
IS学園はGWに突入し、多くの生徒達が実家に帰ったり学園に残って予習復習を行っている中、一夏も家へと帰って来ていた。
メサと共に家の中の用事を済ませていると、一夏はある事を思い出し友人の家に向かうことになった。

次回
一夏君お家に帰る~【坊ちゃまぁぁぁ!!】~


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14話

料理研究部の入部が決定して数日が経った日。世間はGWへと突入し、多くの生徒達は実家や小旅行をしに出掛けており、IS学園には自主練をする生徒や授業に何とか喰らい付けている生徒達が余裕を持てる様にと予習に明け暮れる。

そんな中、一夏は空っぽなのかぺターンと萎んだリュックサックを背負いながら校門前で立っていた。

 

「そろそろ来る頃かな?」

 

そう零しながら腕時計を見つめる一夏。するとガシャンガシャンと忙しなく聞こえる機械音に顔を上げると

 

【ぼっちゃまぁぁぁああぁぁぁ!アーッヒャヒャヒャーΨ(゚∀゚ )Ψ(゚∀゚)Ψ( ゚∀゚)Ψアーッヒャヒャヒャー】

 

と滅茶苦茶喜んでいるか、プラカードの内容が荒ぶっていた。

 

「お久しぶり、です。メサさん」

 

【はい! お久しぶりございます、坊ちゃまぁ! ささ、お家に帰りましょう!】

 

そう言い一夏の隣に立ち手を差し出すメサ。一夏はその手を掴んで歩きだした。

モノレールを乗り継ぎ、最後にバスに乗って家の近くまで行き、残りは歩いて行く一夏達。

そして歩く事数分、一夏は懐かしき家へと到着した。

 

【ささ、坊ちゃま。懐かしきお家にお上がり下さい。メサが直ぐに冷たいジュースをお入れいたしますので(*´∇`*)】

 

そう言われ一夏はうん。と頷き家の鍵を開け中へと入る。中は綺麗にされており、埃などは舞っていなかった。

 

「メサさん、何時も掃除しておいてくれたんですか?」

 

【はい。何時坊ちゃまが帰って来られてもいい様にと綺麗にしておりました。( ̄∇+ ̄)vキラーン】

 

「そう、なんですか。ありがとうございます」

 

メサにお礼を述べた後一夏は居間へと向かいリュックサックを降ろし椅子に座り一息つく。メサは直ぐに冷蔵庫から冷やされたジュースを氷の入ったグラスへと注ぎ、一夏の前に差し出す。

暫し休憩を入れた後、一夏は自身の部屋へと行き夏用の服や娯楽用のWalkmanやゲーム機、それと部活に使えるかもしれないと自身が書いてきた料理ノートをカバンへと仕舞っていく。

すると一夏は本棚に仕舞っている漫画の空いている部分に気付き首を傾げる。

 

「あれ? 此処の巻、どうして無いんだろう?」

 

暫し考え込んだ後、思い出したのか顔を上げる一夏。

 

「そうだ、弾君に貸してたんだ」

 

思い出した一夏は少し困惑した表情を浮かべていると、部屋をノックする音が鳴り響く。

 

「どうぞぉ」

 

【坊ちゃま。本日のご昼食なんですが】

クルッ【どうかされましたか?(・◇・ )】

 

プラカードを見せながら入ってくるメサ。一夏の困惑し表情を見せ、即座に自身の用事を聞くのを止めるメサ。

 

「じ、実は漫画を一つ、友達に貸してるんだけど。その家が、その…」

 

言い淀む一夏にメサは暫し固まった後、プラカードを見せる。

 

【なるほど。そのお友達の家にメサもご一緒しましょう】

 

そう書かれたプラカードを見せられ一夏は少し安心した表情を浮かべ頷く。

 

 

 

 

とある街にある食堂、その名は五反田食堂と言われている。

食堂内にあるキッチンでは一人の厳つい男性が新聞を読んでいた。

すると扉をノックする音が鳴り響き、ジト目で扉の方に目をやる。

 

「まだ開店前だ」

 

そう怒鳴りまた新聞を読み始める男性。すると扉がガラガラと開けられ、男性はギロリと扉を開けた人物を睨みつける。

 

「おい、まだ開店前だ…と…。お、お前さんは…」

 

【お久しぶりですね、五反田厳さん。それと、開けてきた者に対して睨むってどうなんですかねぇ。(▼⊿▼) ケッ!】

 

そう書かれたプラカードを見せられぐうの音も出ない厳。

 

「あ、あのお、お邪魔します厳さん」

 

そう言いながらメサの後ろに隠れながら挨拶をする一夏。一夏の姿を見て少しだけホッとなる厳。厳はある理由からメサの事が苦手になっていたのだ。

 

「お、おう一坊か。どうかしたのか?」

 

「えっと、弾君いますか?」

 

「弾? あぁ、2階で寝てる。勝手に上がっていや、儂が行くわ。ちょっと待ってろ」

 

メサの【あぁ?(`д´ ╬ )】と書かれたプラカードを見せられ厳は足早に二階へと上がって行く。そして

 

『何時まで寝てんだ、この馬鹿孫‼』

 

『いってぇぇ!!??!』

 

と二階から叫ぶ声が響く。暫くして頭を抑えながら降りてくる赤髪でバンダナをした少年が降りてきた。

 

「痛えぇ。えっと、お久しぶりです、メサさん。それと一夏」

 

降りた先に居た2人にそう挨拶をする少年。

 

「う、うん。久しぶり弾君」

 

【漸く降りてきたか。┐( -"-)┌ヤレヤレ...】

 

メサが見せてきたプラカードに何とも言えない弾。

 

「えっと、それで今日来た理由は何だ?」

 

「あの、貸してた漫画を、返して欲しくて」

 

「漫画? あぁ、済まん。借りてたままだったな。ちょっと待っててくれ」

 

そう言い弾は急いで二階へと上がって行く。暫くして一冊の漫画本を手に降りてきた。

 

「わりぃわりぃ。返しに行こうと思ってたんだが、お前IS学園に行っちまっただろ? それで返しに行こうにも行けなくってな」

 

「そう、だったんだ」

 

そう言い一夏は受け取った漫画本を肩から下げていたカバンへと仕舞う。

 

「そうだ、お昼はどうするんだ?」

 

「お家で食べる予定だけど、何?」

 

「あぁ~、いや。もしよかったらウチで食べていかないかって誘おうと思ったんだが」

 

チラッと弾はメサの方へと見ながら理由を述べる。

 

「そう、なんだ。ごめんね、家の用事が済んだらすぐに学園に帰る予定でいるんだ」

 

「そうか。また、時間があったら食いに来てくれ。腕によりをかけて作ってやるからよ」

 

「うん。楽しみにしてるよ」

 

そう言い一夏はメサと共に五反田食堂から去って行った。

 

2人が去って行った後、弾ははぁ。とため息を吐いた後厨房へと立つ。そして厳も降りて来て何時も座っている席へと着き、新聞をまた読み始めた。

 

「一坊は帰ったのか?」

 

「あぁ。家の用事がまだあるらしくて、それが済んだらすぐに学園に帰るんだってよ」

 

「そうか」

 

それだけ言うと厳は黙り、弾も何も言わず昼の営業の準備をする。

するとバタバタと階段から下りてくる一人の少女。

 

「お兄、この前一夏さんから借りてた漫画あるでしょ。あれまだある?」

 

「……あれだったらさっき一夏とメサさんが来て、返したぞ」

 

弾は淡々と言った口調で準備をしながら答える。

 

「ウソ、一夏さん来てたの!? 何で教えてくれなかったのさぁ!」

 

「……居た所で、お前とは面と話せない事くらい分かるだろ?」

 

「……」

 

弾の棘のある言い方に少女は顔をしかめ、口をつぐむ。

食堂内の空気が若干重くなり誰もが口を開かなくなっていると、一人の女性がガラガラと扉を開け入って来た。

 

「ただいまぁ。ごめんなさい、お父さん。頼まれてた食材が隣町まで行かないと無かったもんですから。……どうかしたの弾、それに蘭?」

 

そう女性が問うと、弾はから笑いで返す。

 

「いや、何でもねぇよ母ちゃん」

 

弾の説明に何処か引っ掛かりを憶える弾と蘭の母、五反田光莉はそう?と答えキッチンの冷蔵庫の中へと買ってきた食材などを入れていく。

すると

 

「ねぇ、お兄。さっき一夏さんが来てたって言ったよね?」

 

「あぁ、言った。それがなんだ?」

 

「私今から追いかけて「行って何をする気だよ?」た、ただお昼を一緒に食べませんかって言いに…」

 

「一夏は今日、家で飯を食うって言ってた。それに用事が済んだらさっさと学園に戻るって言ってたぞ」

 

「そ、そんなぁ。「……アイツは今色々大変な状態なんだ。そっとしておいてやれ」で、でも話したいことが一杯――」

 

《バァン!》

 

蘭の言葉を遮る様に厨房に居た弾は拳を握りまな板を叩く。

 

「そっとしておいてやれって言ってるだろうが! それにな、アイツが此処で飯を食いたがらないのはお前に原因があるのを忘れたのか!」

 

そう強く怒鳴ると、蘭は茫然と言った表情を浮かべた後トボトボと二階へと上がって行った。

肩で息をする弾に光莉と厳は何も言わず、ただ俯くのみであった。

 

「……わりぃ、ちょっとイラッときちまって」

 

「…いいのよ。それと、あの子も悪気があって言ったわけじゃないから、許してあげて」

 

光莉にそう言われるも、弾は少し暗い表情を浮かべつつも準備を再開した。

 

(はぁ~、こればっかりは儂の手でも無理だな)

 

厳はそう心の中で思いながら、ある事を思い返した。

それは今から1年ほど前、一夏はメサと共に五反田食堂へと訪れた。厳は何時もと変わらないぶっきらぼうな言い方で挨拶をするが、普段とは違う一夏の様子に怪訝そうな顔を浮かべ光莉と弾も心配そうな表情を浮かべていた。

其処で一夏と一緒に来ていたメサから一夏が女性恐怖症という精神病を患っている事を教えられ驚いたり悲しい表情を浮かべる3人。

そして一夏は久々に会った弾と遊ぼうと部屋でゲームをしていた時、事件は起きた。

 

「ねぇ、弾君。またそのキャラクターでやるの?」

 

「あったりまえだぁ! 俺はこいつを極めると決めてるんだ!」

 

そう叫びながら格闘ゲームのキャラを決める弾。すると

 

「ちょっとお兄、五月蠅い!」

 

と扉を勢いよく開け、怒鳴ったのは蘭であった。だがその格好はタンクトップに短パンと言った女子にはラフすぎる格好だった。

 

「ヒッ!?」

 

突然真横から叫ばれた事に驚いた上に、蘭の格好を見た一夏は発作が起きた事に気付き急ぎ注射を打とうとする。

一方弾は突然乱入してきた蘭に一瞬驚くも、メサから言われた一夏の症状を思い出し直ぐに蘭を追い出そうとする。

 

「おい馬鹿! そんな格好で部屋に入ってくるな! 部屋にすぐに戻れ!」

 

「も、戻るけど、一夏さんの様子が可笑しいじゃない! だ、大丈夫ですか、一夏さん?」

 

そう言い何も知らない蘭は一夏の肩に触れた瞬間

 

「ひ、ひやぁああぁあっぁぁあああ!!???!」

 

と、叫び倒れてしまう。

 

「い、一夏さん!?」

 

「ば、馬鹿! だから部屋に帰れって言ってるだろ!」

 

「そんな事言ってる場合じゃないじゃん! 早く一夏さんを病院に――」

 

蘭が一夏を起き上がらせようとした瞬間、部屋の扉が蹴破られた。

 

【坊ちゃまぁ! どうしたのですか!? (´□`;)】

クルッ【……(#´O`)は??】

とプラカードを掲げながら入ってくるメサ。そして目の前の光景にプラカードの内容を変え固まるメサ。

 

「め、メサさん」

 

【おい、これはどう言う事だ? ( ̄へ  ̄ 凸】

 

「す、すいません。妹は一夏の症状の事は知らなかったんです。あの、直ぐに病院に―」

 

【いや、結構。こちらで自宅へと送る。千冬氏のご友人に医者が居る。その人に診て貰う】

 

そうプラカードを見せた後、気絶した一夏を抱き上げようとすると

 

「だ、誰かは知りませんけど一夏さん気絶したんですよ! 病院に見て貰った方がいいですよ!」

 

そう言い一夏に近付こうとする蘭。

 

【坊ちゃまに近付くな、小娘(#`皿´)】

 

と威圧を放ちながらプラカードを見せるメサ。メサの威圧に負け尻もちをつく蘭。

 

【知らなかったとはいえ、坊ちゃまにこんな目に遭わせたんだ。絶対に許さんからなヽ(#`Д´)ノ】

 

そうプラカードを見せた後一夏を抱き上げ、メサは五反田食堂から出て行った。

 

(--あの日以降、一坊はこの店に来る頻度は減って、用があっても千冬ちゃんか、さっきのメサって言うロボットが一緒に付いてくるようになったからな。しかもこころなしか警戒している様な様子を見せて)

 

そう思いながら新聞を畳む厳。

 

 

 

その頃、IS学園に居る千冬はと言うと

 

「納得できません!」

 

と目の前に居る初老の男性に向かって怒鳴っていた。

 

「しかし、向こうの頼みですし「それでも、私は拒否します!」そ、其処を何とか頼めませんか?」

 

千冬は怒り顔を浮かべながら男性から手渡された紙を机へと叩きつける。そして鋭い眼光で叩きつけた紙の一枚を睨む。

其処には『転入生資料』と書かれており、写真と詳細が書かれていた。

写真には銀髪で眼帯をした少女が写っており、名前の欄には『ラウラ・ボーデヴィッヒ』と書かれていた。




次回予告
GWで生徒が居ない中、千冬は料理研究部の顧問に一夏に関する注意事項などを伝えていると、学園長室に呼び出される。呼び出された理由が転入生に関する事だったが、その内の一人に千冬は嫌悪感を露にする。

次回
千冬、心配事がまた増える





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15話

千冬が男性に怒りを表す数時間前、千冬は職員室である資料を作成を終えた所であった。

 

「これで良し。さて、後は…」

 

そう呟きながら目当ての人物を首を振りながら探すと、目当ての人物が居るのを発見し資料を持って立ち上がっる。

 

「幸平先生、少しいいですか?」

 

そう声を掛けたのは金髪のロングヘアーで、きりっとした目つきが特徴の女性だった。

 

「あら、織斑先生。どうかしましたか?」

 

「ウチのクラスの織斑が幸平先生の部に入部したとのことで、少しお話が」

 

「あぁ、彼の事ですか。ウチの部長が大興奮で噂の男性操縦士が入部してくれたって大声で連絡してきましよ」

 

苦笑いを浮かべながら幸平はそう言い、千冬もその光景が目に浮かんだのかお疲れ様です、と声を掛ける。

 

「それで、その彼の事で何か?」

 

「あぁ、そうでした。これを部員達に配っておいて貰ってもいいですか?」

 

そう言い千冬が幸平に手渡したのは先程作成した資料であった。

 

「これは…彼に関する注意事項ですか?」

 

「えぇ。幸平先生はご存知かもしれませんが、部員たちは恐らく知らないと思うので一応用意をしたんです」

 

幸平は渡された資料を見つめる。其処には千冬が1組で説明した一夏に関する接し方や気を付けなければならない事が書かれていた。

 

「なるほど。では次の部活動の時に生徒達に配っておきますね」

 

「すいませんが、お願いします」

 

そうお願いしていると、千冬は幸平が優しそうな笑顔を浮かべながらこちらを見ている事に気付く。

 

「あの、なにか?」

 

「いえ、噂通り弟思いのお姉さんだなぁと思って」

 

幸平の言葉に、弟思い?と首を傾げる千冬。

 

「皆噂をしていますよ。弟さんが入学してからというもの、織斑先生が陰ながら弟さんの為に彼方此方走り回ったり、病気の事を考えずに近付こうとしている生徒を睨みつけて追い返しているって」

 

クスクスと笑いながら説明する幸平に、千冬は( ゚д゚)ポカーンといった表情を浮かべていた。

 

「えっ? そんな噂が?」

 

「えぇ。皆最初は驚いていましたが、今はクールでカッコいい教師でもあり、弟思いの優しい教師でもあるって皆、新しい一面を見られたって喜んでましたよ」

 

幸平の説明に千冬は何とも言えない表情を浮かべ、頬も若干赤みを帯びていた。

 

「あら、織斑先生。もしかして照れてます?」

 

「て、照れてはいません! と、とと、兎に角にお願いしますね!」

 

そう言い照れた表情を見せまいと足早に自分の机へと戻っていく千冬。そんな背を幸平はクスクスと笑いながら見つめているのであった。

 

自身の机に戻って来た千冬ははぁ。とため息を吐いた後GW明けの授業の準備をしておくかと思い資料を出そうとした瞬間

 

『織斑先生、学園長がお呼びですので学園長室へお越しください。繰り返します、織斑先生、学園長がお呼びですので学園長室へお越しください』

 

「む? 一体何の用だ?」

 

突然の放送に千冬は怪訝そうな顔付で立ち上がり、職員室を後にした。

暫く廊下を歩き他の部屋とは違う少し高級そうな扉が現れ、千冬は扉をノックする。

 

「織斑です」

 

『どうぞ、お入りください』

 

そう中から聞こえると千冬は失礼しますと一言入れ、中へと入る。中に入り千冬は奥に座っている初老の男性の元に向かう。

 

「学園長、何か御用ですか?」

 

「えぇ、少しGW明けの事でお話があるんです」

 

そう言い初老の男性、轡木学園長にソファにどうぞ。と言われ千冬は学園長が座るソファの向かいのソファへと腰を下ろす。

 

「それでGW明けの事でとはどういうことですか?」

 

「実はGW明けに2人の生徒が転入してくることになりました」

 

そう轡木が言うと、千冬は怪訝そうな顔付となる。

 

「転入生、ですか? やけに遅い転入ですね」

 

「えぇ。実は転入してくる生徒の一人が、どうやらフランスで発見された男性操縦士らしいんです」

 

轡木の口から出た男性操縦士と言う言葉に千冬の眉間にしわが寄る。

 

「男性操縦士が? 明らかに可笑しいですね」

 

「えぇ。織斑君が見つかった後に国際IS委員会が各国の支部に調査をするよう指示を出したと聞いています。今まで何の成果も無かったというのにそれが一企業が発見したというのですからね」

 

そう言いながら轡木は一枚の資料を千冬に手渡す。渡された資料に目を向けると、其処には金髪の女性の様な人の写真が張られ詳細が書かれていた。

 

「シャルル・デュノア。デュノア社社長の息子でデュノア社の企業代表。……まさか、こんな怪しさ十分な者を入れるのですか?」

 

「最初は私も疑問に思ったのですが、確たる証拠がない故拒否はできません」

 

そう言われ千冬は心の中で舌打ちを放ち、鋭い目で資料を見つめる。

 

「そうですか。それで、もう一人の転入生は?」

 

千冬はデュノアの件は後で考えるとして、もう一人の転入生について学園長に問うと、轡木は少し言いづらそうな表情を浮かべる。

 

「実は、もう1人は織斑先生のお知り合いと言っており、織斑先生のクラスに編入させて欲しいと要請がある生徒なんです」

 

「私の知り合い?」

 

轡木の言いづらそうな表情に禄でも無い事だなと考えつく千冬。

 

「して、その生徒と言うのは?」

 

轡木は千冬の問いにそっともう一つの資料を千冬に手渡した。その内容を見た千冬は一瞬で顔付が変わり紙を持つ手に力が入る。

 

「こいつは……」

 

「……先方は昔織斑先生にお世話になったと「こいつを世話をした憶えはありません」そ、そうですか」

 

千冬は苛立ちを貸せず学園長に対し少し強めの口調となる。そしてハッとなり顔を資料から轡木の方へと向ける。

 

「まさか、こいつとデュノアを私のクラスに入れるおつもりですか?」

 

「そのつもりで「私は拒否します!」お、織斑先生」

 

「こいつらが私のクラスに入れば、何が起きるか想像できますでしょ!」

 

「それは勿論理解しております。しかし、デュノア社のほうは証拠が無いですしもう一人の生徒は他の教師では手には負えません」

 

「それでも私は納得できません!」

 

そう叫び千冬は拒否の姿勢をとる。そして持っているのが嫌なのか、もう一人の転入生の資料、【ラウラ・ボーデヴィッヒ】と書かれた資料を机に叩きつける。

 

「織斑先生、貴女の気持ちも十分わかります。ですが、この二人に関しては他の教師には荷が重すぎるのです。無論、この二人が問題を起こした場合の裁量は織斑先生にお任せします」

 

轡木はそう言ってどうか。と深々と頭を下げた。千冬自身轡木には幾度か世話になった事がある為、これ以上の我儘はいけないという事は分かっていた。だが心の中でこの二人が一夏に対し、様々なトラブルを持ち込むと目に見えて明らかだった為素直に頷けない。どうしたものかと考えていると、ある事を思いつく。

 

(これだったらこの二人だけじゃなく、他の奴等も牽制できるのでは。 だが許可は下りるだろうか? いや、下ろさせる。絶対に!)

 

何かを決意した表情を浮かべた千冬は、拳を握りしめつつ口を開く。

 

「分かりました、学園長。転入生の件、承諾します」

 

「そうですか、ありが「ですが、条件があります!」……なんでしょう?」

 

「この二人が織斑に対し、何かしらトラブルを持ち込んでくる可能性は大いにあります。ですので彼に護衛を付ける許可をください。それさえ許可してくだされば私は引き受けます。無論殺傷兵器の使用は私の許可なくして使用は禁じさせます」

 

「……できれば殺傷兵器の許可制とかではなく完璧に無しの方が「なら私は引き受けません」……分かりました。ですが、相手の殺傷するのではなく、負傷程度で済ませて下さい。それが最大限の譲歩です」

 

「分かりました」

 

「それじゃあ政府に護衛の派遣の要請を「いえ、私の知り合いに頼みます」し、しかし学園の警備の関係もあります。政府の方が「あんな連中信用できません」ではその知り合いとは、どう言った人物ですか?」

 

「以前織斑に荷物を届けに来たロボット、それを製作した者です。奴なら完璧な護衛ロボを用意してくれます」

 

そう言われ轡木はまさかの言葉に思わず言葉が詰まる。

 

「ま、まさか篠ノ之博士の事ですか?」

 

「これ以上に信用できる者はありません。それに下手に政府が用意した護衛を学園内に入れれば、他国からもと護衛を出される恐れがあります」

 

そう言われ轡木は暫し思案した後、口を開いた。

 

「分かりました、それで構いません」

 

「ありがとうございます。では、失礼します」

 

そう言い席を立ち千冬は一礼した後学園長室から出て行った。一人残った学園長ははぁ。と重いため息を吐いた。

 

学園長室から退室した千冬は廊下を暫く歩き、突然止まり窓辺の柱に凭れる。

 

「聞いていたな? 頼むぞ」

 

誰もいないにも拘らずそう言うと窓の外に生えている草むらからガサガサと動き、束が現れ同じく千冬の背に合わすように同じ柱に凭れる。

 

「あいあいさぁ~。 いっくんが好みそうなプリティーでめっちゃ強い護衛ロボを作るよ!」

 

ケラケラと笑いながら伝える束。すると先程とは違う冷たい気配へと変えた。

 

「それにしてもさぁ。転校してくる奴の一人、懲りないねぇ。あれだけちーちゃんに痛い目にあわされた癖にさぁ」

 

「あぁ、全くだ。奴だけじゃない、他の連中もだ」

 

「だねぇ。それと、もう一人の疑惑だらけの転入生。あれ、男じゃないよ」

 

「だろうな。束、お前の方でも出来るだけ証拠を集めておいてくれ。いざとなったらあの会社もろとも潰す」

 

「ふふ~ん。そう言うと思って既に集め始めてるよぉ」

 

フッ、そうか。と零しながら千冬は凭れていた柱から背を離す。

 

「それじゃあ頼んだぞ」

 

「イエッサァー!」

 

と、そう言い束は草むらの中へと飛び込むとすぐにその気配は消え去った。

束が消え去ったのを確認した千冬は再び歩き出しながら静かに転入してくる一人、【ラウラ・ボーデヴィッヒ】の事を思い返す。

 

「チッ。アイツを思い返すと、あの事件の事を思い出す」

 

苛立ち気にそう零しながら、千冬は思い返す。一夏が女性恐怖症になってしまった、あの(モンドグロッソ)の事を。




次回予告
時間は遡る事、第2回モンドグロッソの時。すべては此処から始まった。

次回
全ての始まり~貴様さえ居なければぁ‼~


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16話

2年前、世界は第2回のモンドグロッソに盛り上がりを見せていた。そして最も盛り上がりを見せたのは第1回のモンドグロッソを制した日本の織斑千冬の試合だった。

誰もが今年の優勝は日本、そう思っていた。

そして決勝戦開始の時刻になったが、千冬はフィールドには出てこなかった。誰もが突然の事に騒然となり、委員会が千冬の待機している部屋へと赴いた。其処に広がっていたのは、

 

 

 

大会に来ていた日本政府関係者達の顔面がボコボコにされた状態で倒れている光景だった。

 

一方千冬は自身のIS、暮桜のスラスター全開である場所へと向かっていた。そして目的地である、廃工場が目に見えた瞬間千冬は持っていた雪片を構え壁を破壊して中へと突入した。

 

「一夏ぁぁ!!」

 

そう叫び部屋の中を見渡すと、拘束され涙を流しながら怯えている一夏と派手な格好をした女がいた。そして何故か一夏の服は若干はだけていた。

 

「ち、千冬様!? そ、そんな、どうして!?」

 

そう叫びながら女は後ずさる。千冬は雪片を握る手に力を入れつつ一歩ずつ女に近付く。

 

「貴様ぁ、一夏に何をしようとしたぁ!」

 

殺気全開で問う千冬に、女はヒッ!?と悲鳴を上げ尻もちをつきながら壁際まで後ずさる。

 

「答えろぉ!」

 

そう叫び女の背後に向かって雪片を突き刺す。突き刺さった雪片で頬が若干斬れ、血が流れる女は震える唇で口を開く。

 

「そ、その子から、い、遺伝子情報を手に入れてあ、貴女様と同じ血の子を、う、産もうと……」

 

その言葉に千冬は鋭かった目を更に鋭くさせ、雪片を引き抜き女の首元に添える。

 

「殺す」

 

その一言だけ発し、首を斬り落とそうとしたが僅かに残っていた理性が一夏が居る事を気付かせ思い止まらせた。振り上げた雪片を拡張領域に仕舞い千冬はある程度力を抑えた状態で女の頬を殴り飛ばし、意識を刈り取った。

力を抑えたとはいえ、殴り飛ばされた女からはメキッと鈍い音が鳴り響いており顔の骨が幾つか折れているのは確実であった。

 

女を片付け終えた千冬は直ぐにISを解除し一夏を解放し、力強く抱きしめた。

 

「すまない、一夏! 怖い思いをさせて本当に済まない!」

 

千冬は怖い思いをさせてしまった事、そしてすぐに助けに来てやれなかったこと。そんな思いが入り混じり溢れん涙を流しながら一夏に謝る。

 

「だ、だい、大丈夫。お、おねぇじゃんが、だ、だずげにきてくれだから」

 

涙声で伝える一夏に、千冬は済まないと何度も言いながら、一夏を落ち着かせる。

暫くしてドイツの軍人達も到着し、誘拐の実行犯であろう者達と主犯を逮捕していった。

そして一人のドイツ軍将校が千冬の元にやって来た。

 

「Ms.織斑。弟さんが無事で良かったです」

 

「あぁ、協力は感謝する。それで、貴様らの見返りは何だ?」

 

千冬の問いに将校はニンマリと笑顔を浮かべながら答えた。

 

「我が軍にあります、IS部隊の訓練を見て頂きたい。期間は1年です」

 

「……良いだろう。ただし、知り合いに弟を預けたいが、向こうにも都合がある為暫く弟も一緒に連れて行くぞ。だが万が一お前等が私の弟に何かしたら期間など関係なく私は弟を連れ一緒に日本に帰る。いいな?」

 

千冬の条件に将校は眉間にしわを寄せるが、直ぐにまた胡散臭い笑みをへと戻り了承した。

ドイツ軍の軍人達に連れられ、一夏と千冬はとある空軍基地へと到着した。一夏と千冬は用意された部屋へと案内され其処に荷物を置いた後、一夏の容態を診て貰うべく軍医の元へと連れて行く。

 

「――はい、診察終わり。怪我とかは無かったよ」

 

軍医の男性はそう言いながら、良かったな。と言いながら一夏の頭を優しく撫でた。

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、軍医として仕事を全うしただけなので」

 

千冬は軍医に感謝しつつ一夏と共に部屋を出ようとした瞬間

 

「あ、お姉さんはちょっと待ってもらってもいいですか?」

 

「はい? 一夏、済まんがちょっと廊下で待って居てくれ」

 

「…うん」

 

そう言い呼び止められた千冬は部屋に残り、不安そうな表情を浮かべる一夏は廊下の外へと出た。

 

「それで、なんですか?」

 

「実は彼の事なんですが…」

 

軍医が心配そうな表情を浮かべている事に千冬も不安な表情を浮かべる。

 

「一夏が、何ですか?」

 

「まだ発症はしていないと思っていますが恐らく彼はPTSD、心的外傷後ストレス障害になりかけている恐れがあります」

 

軍医の口から出た言葉に千冬は茫然と言った表情を浮かべ、一瞬頭の中が真っ白になりかけた。だが、直ぐに気を取り戻しその訳を問う。

 

「ど、どう言う、事ですか?」

 

「今回彼のおかれた状況は、中学生にはあまりにもショックの強い事です。しかも性的暴行もされかけたとも聞いています。そんな強いショックを受ければ心につけられた傷は大きいです」

 

「では、今後発症する恐れがある、そう仰っているんですか?」

 

「恐らく。今は何とも無い様子でしたので大丈夫ですが、次にまた大きなショックを受ければ……」

 

其処から先を軍医は言わなかったが、千冬は直ぐに察することが出来た。

 

“また大きなストレス性のショックを受ければ、発症してしまう”と。

 

「分かりました。どうも、ありがとうございます」

 

そう言い千冬は一礼し廊下へと出て行った。廊下に出ると、一夏がベンチに座りながらこっくりこっくりと首を動かしながらうたた寝をしていた。千冬は悲痛な表情を浮かべながらそっと一夏の傍に座る。

 

(済まない、一夏。お姉ちゃんが守るって言ったのに。どんな事があってもお姉ちゃんが絶対に守ってやるって約束したのに)

 

そう思いながら一夏の頭を優しく撫でる。撫でられた事に気付いた一夏はそっと目を開け顔をあげてくると、千冬は優しい笑みを浮かべた。

 

「お姉ちゃん? 先生とのお話終わったの?」

 

「あぁ、待たせて済まんな。呼び止められた理由だが、一夏の傍に居てやるように、だそうだ」

 

「そう。……ふわぁ~」

 

「眠そうだな。ほら、おんぶしてやるから乗れ」

 

そう言い千冬はベンチから立ち屈むと、一夏はそっと千冬の背に体を預けた。千冬は久しぶりにおんぶした一夏の重たさに感慨深そうな顔を浮かべる。

 

(随分と重くなったな。……もう、二度とあんな目に遭わせない。何があろうと、絶対に一夏を守る!)

 

千冬はそう心に改めて決心し、一夏を寝かせに部屋へと向かった。

 

 

それから数日が経ったある日、用意された部屋で一夏と千冬は朝食をとっていた。

 

「それじゃあ一夏、夕方頃に伊田が迎えに来るから荷物とかちゃんと纏めておくんだぞ。それと、暫く伊田のご家族と一緒に暮らすが、迷惑を掛けないようにな」

 

「うん」

 

千冬は一夏の返答を聞きながら、最後の一かけらのトーストを口に中へと放り込む。

そしてドイツの新聞を手に取り読み始めた。内容はほぼモンドグロッソのことが書かれており、千冬の途中棄権の事も書かれていた。

 

《前回優勝者、織斑千冬途中棄権!》

 

と、でかでかと書かれていた。詳細の所には様々な憶測が書かれており、あの日あった事件の事は書かれていなかった。

無論書かれているはずがない。一夏が誘拐された事件は、余りにも事が大きすぎる事件であった。日本側は千冬に誘拐された事を黙っていた事。そしてドイツは警備を任されていたというにも関わらず、事件を未然に防げなかった事などがあり、両政府の密談の結果事件は闇へと葬られた。だがこの事件は日本に大きな代償を支払わせる事となった。

それはブリュンヒルデである織斑千冬が引退したことであった。

2連覇達成という名誉のために一夏が誘拐された事を黙っていた政府。だが、当時の議員秘書の一人が千冬に密告したのだ。その結果千冬が怒りに震え、救助に向かおうとした時政府は止めに入るも、誘拐を隠そうとした政府にも怒りを抱いていた千冬は容赦なく政府関係者全員に目一杯の拳を振り下ろし、全員をぶちのめしたのだ。一夏が救助された後、千冬は意識を取り戻した数人の政府関係者の目の前で引退を表明した。無論引き留めようとしたのだが、事件の事をぶちまけるぞと脅され苦渋の思いで受け入れたのだ。

 

日本国内では決勝前に棄権したことで千冬を非難する声が上がっているが、千冬は気にも留めなかった。自身の大切な家族を守る為なら、自身の名誉など簡単に捨て去れる。千冬はそう考えているからだ。

 

そして千冬は何時もの時間に部屋を出て訓練所へと向かい、一夏は持って来ておいた問題集で勉強を始めた。

~お昼前~

 

勉強を終え、使っていた道具を片付け始める一夏。そしてふと時計を見ると、既にお昼前となっており一夏は昼食を食べようと準備を始めるが

 

「あ、そういえば飲み物ってまだ有ったっけ?」

 

そう言いながら冷蔵庫の中を見るが、飲み物は無くがら~んとした中身であった

 

「どうしよう。……あ、確かお姉ちゃんがあそこにお金を置いておいてくれたはず」

 

そう言い一夏はベッド横の棚から小さなブリキ箱を取りその蓋を開ける。中には8.53ユーロ、日本円で約1000円分の紙幣と硬貨、そして手書きの地図が入っていた。地図には部屋から自動販売機までの道のりが書かれていた。

一夏はお金をポケットに仕舞い、地図を片手に部屋を後にした。

部屋を出て地図と現在地を確認しながら歩む一夏。そして漸く自販機が置いてある場所の近くまで着た一夏。

 

「えっと、今此処だから「おい」うぇっ!?」

 

突然声を掛けられたことに驚き、少し怯えた表情を見せながら声を掛けられた方を見ると銀髪で眼帯をした少女が居た。

 

「な、何か?」

 

「お前、織斑教官の弟か?」

 

睨みながら問うてくる少女に一夏は怯えた表情を浮かべながらコクリと頷く。

 

「……いなければ」

 

「えっ?」

 

「貴様さえ居なければ、教官は2連覇出来たんだぞ!」

 

そう怒鳴り少女は一夏に掴みかかる。突然の事だった為一夏は抵抗できず掴まれ、壁に思いっきり押し付けられる。

 

「貴様の様な弱虫が教官の傍に居るな!」

 

そう叫びながら少女は大きく手を振り上げ、思いっきり一夏の頬にビンタを喰らわせた。ビンタを受けた一夏は横に大きく吹き飛び地面に倒れ込む。

少女はまだ怒りが収まっていないのか、倒れ込んだ一夏に近付こうと一歩踏み出した瞬間肩を力強く掴まれ無理矢理振り向かされた。振り向かされた少女の目に飛び込んできたのは怒り顔を浮かべた千冬が振り下ろした拳であった。

 

「きょうかガハッ!!??!」

 

振り下ろされた拳は少女の顔面にめり込み、少女は大きく後方に飛んで行き廊下の端の壁に激突して止まった。少女の顔面は真っ赤に腫れあがっており、鼻は曲がり血が流れ出ていた。

少女を殴り飛ばした後千冬は急ぎ一夏の元に駆け寄る。

 

「一夏、大丈夫か!」

 

そう叫びうつ伏せに倒れている一夏を抱き上げると

 

「すはぁー、すはぁー、すはぁー」

 

と目を見開き上手く呼吸が出来ないのか、ずっと息を吸い続ける音を繰り返す。

 

(ま、まさか!?)

 

千冬の脳裏に軍医に言われた症状が頭を過り、急いで運ばなければと思い一夏を抱き上げ軍医の元に走った。

 

「――もう少しだぞ、一夏! 頑張れ!」

 

一夏に呼びかけながら千冬は軍医が居る部屋へと向かう。医務室と書かれた札のついた部屋に到着した千冬は脚で扉を蹴り開けた。

 

「えっ!? ちょっと、いきなり何をって、どうしたんですか!?」

 

「頼む、一夏を! 私の弟を助けてくれ!」

 

千冬の叫びに軍医もすぐに一夏をベッドに寝かせるよう指示し、一夏の容態を診始めた。

それから暫くして一夏は落ち着き始め寝息を立てた。

 

「これで、大丈夫なはずだ」

 

「よ、良かった」

 

軍医の隣で一夏の無事を祈り続けた千冬は脚から力が抜けへたり込む。軍医は千冬に手を貸しながら椅子へと座らせる。

 

「それで、一体何があったんですか?」

 

「……私が面倒を見る様押し付けられた訓練兵の一人が、一夏に暴行を働いたんだ」

 

「なっ!? 何てことを…」

 

千冬の口から出た言葉に軍医は言葉を失い顔を手で覆い隠した。

そして千冬は重い口である事を聞く。

 

「先生、一夏がPTSDになっている可能性はあるだろうか?」

 

「……今は何とも言えませんが、恐らくなっているかもしれません。それと、私の仮説なんですが恐らく「うぅん」あ、目が覚めたみたいだ」

 

軍医が仮説を言おうとする前に一夏の目が覚める。

 

「一夏!? 大丈夫か?」

 

千冬は急ぎ一夏に駆け寄る。一夏は薄っすらと目を開けながら千冬の方に顔を向けるが、

 

「ヒッ!?」

 

と目を見開きベッドの隅へと逃げる。

 

「い、一夏?」

 

千冬は突然逃げる一夏に困惑しながらも一夏に触れようと手を伸ばした瞬間

 

「駄目です!」

 

軍医がそう叫びながら千冬の手を掴み止めた。驚いた表情を浮かべた千冬は軍医の方に顔を向けると、軍院は切羽詰まった表情で首を横に振る。そして優しい笑みを浮かべながら一夏の方に顔を向ける。

 

「一夏君、私とお姉さんは少し外で話をしてくるから此処で待っててくれないか?」

 

軍医はそう語りかけると、一夏は小さく首を縦に振る。

軍医は千冬を連れ出し廊下へと出た。

 

「せ、先生。い、一夏の、あの状態は?」

 

「先程私が言いかけた仮説が恐らく…」

 

「その仮説とは、何ですか?」

 

「……恐らく、彼は女性に対し異常な恐怖を抱いているかもしれない、そう仮説を立てていたんです」

 

軍医の仮説に千冬は驚き固まるも、改めて一夏が受けた傷を思い返せばなる可能性は十分あった。

 

「で、では今の反応は…」

 

「恐らく、仮説が当たったんだと思います。そして先ほど私があなたの手を掴み止めたのも……」

 

「姉である私でさえも怖がるから、ですか?」

 

千冬の問いに軍医はコクンと頷いた。

 

「今の彼にとって家族であろうと、女性であれば恐怖を抱く状態です」

 

その言葉に千冬は悲痛な面持ちとなり、両手で顔を覆い隠した。

悲嘆にくれる千冬に軍医はかける言葉が見つからずただ黙っていると、数人程の足音が鳴り響くのを聞きつけ顔を向ける。

軍医の目の先に居たのは数人の兵士を引き連れた将校だった。その将校は千冬に1年程訓練兵の面倒を見る様指示した将校であった。

将校は悲観に暮れている千冬の元にやって来た。

 

「Ms.織斑。一つ尋ねたい。何故我が軍訓練兵の一人を殴ったのだ?」

 

「お前等の所の訓練兵の一人が、私の弟に暴行を働いたからだ」

 

「…そうですか。まぁそれいいです。さぁ、訓練所に戻ってください」

 

「何を言っているんだ貴様は?」

 

千冬は将校の言った言葉に悲観そうな顔から呆れた様な顔付を浮かべ将校を睨む。

 

「何、とは?」

 

「忘れたか? 私の弟に何かしたら期間など関係なく弟を連れ日本に帰る。私はお前にそう言ったはずだ。だから私は帰る」

 

そう言い将校を睨みつける千冬。将校は冷や汗を背に流しつつも余裕の表情を見せる。

 

「やれやれ、そのような口約束ですか。まぁ、確かに約束はしました。しかし、その訓練兵は本当に貴方の弟さんを暴行をしたのでしょうか?」

 

「なに?」

 

突然の発言に千冬は睨みながらも怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「証言は貴女だけ。その訓練兵が弟さんを暴行を働いという確たる証拠が無ければあなたが提示した条件は満たされませんよ?」

 

将校の言葉に千冬はキッと睨んでいた目を更に鋭くさせる。

 

「残念ながらこの基地は外回りの監視カメラは多いですが、中に設置されているカメラは少なくてですね、恐らく映ってないでしょうね」

 

そう言っていると背後から部下であろう兵士の一人が将校の耳元に口を添え何かを伝えると、ニンマリとした顔を浮かべる将校。

 

「どうやらカメラにも映って無かったようです。恐らく弟さんは転んだか何かでしょう。それに訓練兵の顔面の痣も訓練によるものでしょうね。おい、其処の軍医。後で訓練兵の治療をしておくように」

 

そう指示を出し将校は千冬に訓練所に向かうようもう一度言おうとした瞬間

 

「証拠ならあるよぉ~!」

 

と、何処からともなく声が響く。そして突如窓から一人の女性が飛び込んでくる。

 

「束さん、登・場‼」

 

と決めポーズをとりながら現れた束。

突如現れた束に千冬や将校達は驚きの表情を浮かべていた。

 

「束、お前何故此処に?」

 

「そりゃあ決まってるじゃん。いっくんが平手打ちされた証拠、それを持って来たんだよ」

 

「ッ! 本当か!」

 

「ふふん、この天災に不可能は余り無いのだよ」

 

どや顔で言う束に、普段なら呆れた顔を浮かべる千冬も今回ばかりは頼りになる言葉であった。

 

「ど、Dr.篠ノ之。そ、そんな証拠一体何処に『貴様の様な弱虫が教官の傍に居るな!』『バチンッ!』なっ!?」

 

将校は証拠など無い、そう思っていたが突如束が空間ディスプレイを投影すると、其処には銀髪の少女が一夏に平手を喰らわせる映像が流れており、しかも音声まで付いていた。

 

「い、一体どうやって!」

 

「ふふん。束さん特製のカメラ搭載超ミニサイズの飛行型ロボットを使ったのさ! これでいっくんが暴行を受けたって言う証拠が提示されたぜ!」

 

束がそう高々に宣言すると将校は奥歯をギリッと噛み締める。そして

 

「クソッ、こうなったらお前達! 医務室にいる餓鬼を拘束して来い!」

 

激昂状態に陥った将校は背後に居た兵士達にそう指示を出すと、兵士達は医務室へと向かおうとする。将校は一夏を人質にして言う事を聞かせようと考えていたが、その選択は大きな過ちであった。

 

「ほい、ちーちゃん」

 

向かってくる兵士達に千冬は拳を構えようとした瞬間、隣にいた束が何かを投げ渡してきた。

 

「これは、模造刀か?」

 

「うん。だって真剣だと死んじゃうじゃん、あいつ等」

 

束の言葉に千冬はフッと笑みを零し確かになと言いつつ、模造刀を構える。

 

「さて、束」

 

「ほいほ~い」

 

千冬は束から受け取った模造刀を構え、束は荒ぶる鷹の様なポーズをとりながらほあちゃーと叫ぶ。

 

~数時間後~

 

基地の前に一台の車両が停車し、中から伊田が降りてきた。

 

「えっと、千冬が言っていた基地だが…。本当に此処か?」

 

そう言いながら伊田は辺りを見渡すが、余りにも静かだった。その上警備員が常駐する小屋には人は居るが酷く怯えており蹲って震えていた。

 

「い、一体何があったんだ?」

 

怪訝そうな顔を浮かべながらも、伊田は恐る恐る基地の奥へと進んでいく。道中クレーターやら折れた木、更にはひしゃげた街灯などが現れ伊田は不安な表情を浮かべる。

 

(まさか、テロリストにでも襲われたのか? だが、兵士達はボコボコにされているだけで、殺されてはいない。本当に何があったんだ?)

 

そう思いながら歩いていると、突然横にあった建物の窓から何かが飛び出してきた。

 

「うおっ、な、なんだ!?」

 

突然の事に声を上げながら飛び出してきたモノを見ると、それは他の兵士達とは違う階級の高い軍服を着た男だった。男の顔はパンパンに腫れあがっており、更に腕や脚はあらぬ方向に曲がっていた。

 

「……こ、この男に何が「む、伊田ではないか」ん? 千冬、それに束。お前ら一体何をしてたんだ?」

 

突然男が飛び出してきた窓から声を掛けられ伊田だが顔を向けると千冬と束が居り、束はやっほーと言いながら手を振っていた。

 

「訳を話すと長くなる。歩きながら話すから其処の扉から来てくれ」

 

「あぁ、分かった。この男はどうする?」

 

伊田はそう言いながらピクピクと痙攣している男に指を刺しながら千冬に問うと

 

「放っておけ。そいつはとんでもない事をやろうとした男だからな」

 

そう言われ伊田は首を傾げつつも男を放置して千冬達の元へと向かった。千冬と合流後、千冬は伊田にこの基地で起きた事を何一つ隠すことなく話した。最初の内は伊田は驚いた表情を浮かべていたが、後からは真剣な表情を浮かべていた。

 

「そうか。全く、何考えているんだろうな、あの伸びた奴は」

 

「さぁな。と、此処だ」

 

そう言い千冬が止まったと同時に伊田と束は止まり一つの扉の前へと到着した。千冬は扉を数回ノックする。

 

「私だ。開けてくれ」

 

そう言うと扉の鍵が開くと、中から軍医が現れた。

 

「終わったのですか?」

 

「えぇ、訓練兵と投降した兵士以外は全滅です」

 

そう言うと軍医は引き攣った笑みを浮かべた。

 

「千冬、この人は?」

 

「あぁ、この人は一夏の治療にあたってくれた人だ」

 

千冬の説明に伊田はそうか。と言い軍医の方に顔を向ける。

 

「初めまして、日本で精神科医をしている伊田洋一と言います」

 

「ドイツ軍軍医、トーマス・ヴェッツ少尉です」

 

自己紹介をしながら握手を交わす二人。そしてトーマスはその場で一夏の状態など事細かく伊田に説明した。

 

「そうですか、結構深刻な状態ですね」

 

「はい。…申し訳ありません。同じドイツ人、ましてや民間人を守る軍人が民間人に手を挙げるなどしてしまい」

 

トーマスは本当に申し訳なさそうな表情を浮かべており、千冬はその姿にそっと首を横に振った。

 

「いえ、貴方は何も悪くありません。一夏の為に色々手を差し伸べてくださったり、発作が起きた一夏を懸命に治療してくれました。感謝の言葉しかありません」

 

そう言い頭下げて礼を述べる千冬。千冬の姿にトーマスは気が楽になったのか少しだけ笑みを浮かべた。それから千冬は一夏と自分の荷物を纏め基地入口へと向かった。

 

「――それじゃあ千冬、一夏君を連れて帰るからな」

 

「あぁ、頼む。一夏、別の飛行機になるが日本に帰ろうな」

 

伊田の隣にいる一夏に千冬は優しい顔で伝えるも、一夏は怯えた表情を浮かべ伊田の後ろに隠れてしまう。

千冬は悲観そうな顔を浮かべ、束は困った顔を浮かべていた。

 

「……それじゃあ行くな」

 

そう言い伊田は一夏の荷物を車へと積みに行く。一夏は伊田の後に続く様に車の元へと向かい、千冬はその姿に悲しそうな表情を浮かべる。

すると突然車へと向かっていた一夏が立ち止まり何度か後ろをチラチラと見る事を繰り返す。そして

体を千冬の方へと突然向けた。

 

「お、お姉、ちゃん」

 

突然自分の名前を呼ぶ一夏は千冬は驚きの表情を浮かべながらその姿を見据える。

一夏の脚はブルブルと震え、顔色も青くなっており無理をしている事は明らかだった。だが、それでも一夏は千冬の方に体を向けたままでいる。

 

「い、いって、来ます」

 

震える唇で一夏が言うと、千冬は目頭が熱くなるのを感じるも我慢する。

そして優しい笑みを浮かべ手を振る。

 

「あぁ、いってらっしゃい。また日本でな」

 

そう言うと一夏も小さく手を振りながら車へと向かい乗り込む。そして車は発進し千冬と束はその姿が見えなくなるまで見送り続けた。

見えなくなったのを確認した束はそっと千冬から体を背けた。

 

「もういいよ、ちーちゃん。我慢しなくても」

 

「…変な気遣いなどするな、馬鹿者」

 

そう言いながらも千冬は心の中で束に感謝しつつ我慢を解き、目から涙を流した。

暫く涙を流した後、千冬も束の運転する人参ロケットに乗り込んで日本へと帰って行った。

 

 

 

 

今回の1件、ドイツ政府は沈黙を貫いた。いや、貫かざるをえなかった。その理由は簡単だ。そう、束の介入があったからだ。

ドイツ政府の高官たちが集まる場所に突如として束のビデオ電話が届いたのだ。

 

『やあやあ、政府の凡人共。篠ノ之束さんだよぉ。お前等に警告だぁ! 今回の暴行事案をちーちゃん達に何か責任みたいなものを押し付けようとする動きを見せたら、この映像をネットの世界に放流させちゃうぞぉ!』

 

そう言い束はディスプレイを出すと少女が一夏に乱暴を働いた映像と将校と千冬とのやり取りの映像をたて続けに流した。

その映像に高官たちは驚き固まる。そして自分達の首がいま斬り落とされそうな状態になっている事に顔面を蒼白させた。

 

『ふふ~ん。そろいもそろって顔面が真っ青だねぇ。まぁ無理も無いっか! それじゃあ確かに忠告したからねぇ!』

 

そう言って束との通話は切れた。高官たちは急ぎ今回の発端となった関係者全員を呼び集め、口止めを行った。

そんな関係者の中にいた2名の人物。

腕や脚を折られた将校、そして訓練兵の少女『ラウラ・ボーデヴィッヒ』に対しては処罰が下された。

将校は除隊処分を言い渡され、ラウラには訓練兵とはいえ民間人に暴力を働いたとして、3週間の営倉行きと6ヵ月間のトイレ掃除が言い渡された。




次回予告
GWが明け生徒達がぞろぞろと戻ってくる中、一夏も本音と談笑し合っていた。そしてSHRとなり千冬は2人の転校生の紹介を行う。すると転校生の一人が一夏の元に向かい手を振り上げる。だがそれを阻止する者達が現れた。

次回
出動! 織斑護衛隊‼~フモッフゥ!~


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17話

GWが終わりに近付くにつれぞろぞろと生徒達が戻ってくるIS学園。

皆GWに何処に行ったのか話し合ったり、日帰りか一泊旅行にでも行ったのかお土産を持って教室で友達と食べ合ったりする生徒達もいた。

そんな中、一夏も隣の席に座っている本音、そして相川と鷹月と談笑し合っていた。

 

「へぇ、これが今までイッチーが勉強してきた料理なんだぁ」

 

「う、うん。といってもチラシとかテレビでやってたものだけど」

 

「でも、凄いと思うよ。これだけ集めるのも大変だと思うし、それに自分なりのアレンジも一緒に書き加えてるんだから」

 

「本当本当。それにしても、読んでるとお腹空いてくるなぁ」

 

3人が見ているのは一夏が家から持ってきた料理ノートであった。中身にはデザートやらカレーなど色々な料理が書かれており、中には郷土料理の物まで書かれていた。

そうしていると、チャイムの音が鳴り響きそれぞれ席へと付いて行く。

生徒達が席に着いたと同時に千冬を先頭に真耶と転入生だろうか金髪の男装をした生徒と、銀髪で眼帯をした生徒が入って来た。

 

「皆、おはよう」

 

「皆さん、おはようございます」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「お、おはようございます」

 

生徒達の挨拶に紛れる様に小さく挨拶する一夏。だがその顔色は少し青く、怯えた表情を浮かべていた。無論千冬はその姿には気付いている。そしてその原因も。

 

(やはり、そうなるよな。さて、彼等を何時紹介しようか)

 

そう思いながら千冬は窓際へと行き凭れる様に立ち、真耶が教卓へと立つ。

 

「はい、それでは本日は皆さんと同じクラスメイトになる生徒達をご紹介させていただきます。ではデュノア君からお願いします」

 

「はい」

 

真耶にデュノアと呼ばれた金髪の生徒は一歩前へと出る。

 

「シャルル・デュノアと言います。フランスにあります、デュノア社の企業代表です。二人目の男性操縦者として此方のクラスに本日から通うことになりましたので、どうかよろしくお願いします」

 

そう言って一礼するデュノアに生徒達は拍手で出迎えた。

皆の拍手に再度一礼した後一歩下がるデュノア。

 

「はい、ありがとうございます。それではボーデヴィッヒさんお願いします」

 

真耶は笑顔でもう一人いた生徒にそう声を掛けるが

 

「……」

 

何も言わずただずっと仁王立ちのままでいた。

 

「あ、あのぉ?」

 

真耶は聞こえていなかったと思い再度声を掛けるも、無視を続けるボーデヴィッヒ。何度声を掛けても無視をするボーデヴィッヒに遂に千冬が動いた。その手には何時もの出席簿を携えながら。

 

「教師から呼ばれているのに、無視をするなッ!」

 

「痛っ!?」

 

そう怒鳴って出席簿の背表紙を何の躊躇いもなくボーデヴィッヒの頭部目掛け振り下ろした。

ガンッ‼と鈍い音が教室内に鳴り響き、全員あぁ~あ。と言いたげな表情を浮かべていた。

 

「し、しかし教官。私は「此処は軍学校ではない。ISの知識、技術を学ぶ学校だ。軍学校とはき違えているなら、今すぐにでも国に帰れ」……も、申し訳、ありません」

 

「謝罪など聞く気など無い。さっさと自己紹介をやれ」

 

今まで生徒達に見せた事が無いような辛辣な態度でボーデヴィッヒに説教をする千冬に生徒達は首を傾げながらもボーデヴィッヒの挨拶へと耳を傾ける。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

そう言うとそれ以降黙るボーデヴィッヒ。

 

「えっと、以上ですか?」

 

「以上だ」

 

真耶の問いに対し淡々と言った口調で終わりと告げるボーデヴィッヒにガックシと肩を落とす真耶。

そんなボーデヴィッヒに対し千冬は

 

(やはり引き受けるべきではなかった)

 

と心の中で苛立ちと後悔を浮かべていた。

 

「はぁ。自己紹介を終えたならさっさと席に着け」

 

そう言われデュノアとボーデヴィッヒは空いている席へと向かう。するとボーデヴィッヒは顔を下に向けながら本を読んでいる生徒に気付く。その顔を見て顔を険しくさせボーデヴィッヒはその生徒に近付く。

 

「おい、何で貴様が此処に居る?」

 

声を掛けられた生徒、一夏はビクッと跳ね上げ恐る恐る顔を上げる。

 

「な、なんでって、その「貴様の様な弱虫がこんなところに居るな!」……うぅ」

 

そう怒鳴るボーデヴィッヒに一夏は怖がって縮こまる。周りの生徒は流石にこれ以上は不味いと思い止めに入ろうとした瞬間、一夏の席からすぐ横にある扉が突然開く。扉の先に居たのは黒と灰色のまだら模様の生物の様な着ぐるみが数体おり、その手にはショットガンが握られボーデヴィッヒに狙いを定めていた。

 

「なっ!?」

 

驚くラウラは突然の事でその場で固まっていると、着ぐるみたちは躊躇いも無くボーデヴィッヒに向かってショットガンの引き金を引いた。放たれた弾丸はボーデヴィッヒの頭と胴体に命中し、着弾した衝撃でボーデヴィッヒは本音の机の上に倒れ込んでしまう。ラウラの体に命中したのは訓練用の模擬弾頭であった。

倒れ込んだボーデヴィッヒに対し、着ぐるみの一体がスタンバトンを装備してボーデヴィッヒに目掛け振りかざした。

 

「き、貴様なにぉぎゃあぁぁああぁぁぁあ!??!!」

 

スタンバトンの電撃を受けたボーデヴィッヒは悲鳴を上げた後、気を失ってしまった。気を失ったボーデヴィッヒに着ぐるみ達は顔に麻袋を被せ、手足には拘束用のバンドをする。

突然の事に全員茫然と言った表情を浮かべていると、扉から同じ姿だが色が違う着ぐるみが入って来た。

すると教卓に居た千冬が口を開いた。

 

「えぇ、皆に紹介する。織斑の護衛として本日から着任した『フモッフくん』とその部下達である『モッフくん』達だ」

 

そう言うと黄色い着ぐるみ、フモッフ君やモッフ君達は一斉に一夏に向かって敬礼した。

 

『ふもっふ!』

 

するとフモッフが何処からともなくプラカードを取り出し一夏へと見せる。

 

【本日より君の護衛をすることになった、フモッフだ。よろしく頼む】

 

「えっと、よ、よろしくお願いします」

 

「ふもっふ」

 

一夏との会話を終えたフモッフは次に千冬の方に顔を向けプラカードを見せた。

 

【所で彼女は一体どうする?】

 

「あぁ、ボーデヴィッヒか。次の授業はアリーナで授業を行うから、済まんが第1アリーナに放り捨てといてくれ」

 

「ふもっふ!」

 

千冬の指示にフモッフは敬礼で返し、後ろに振り向くと何体かに指示を出す。指示を受けたモッフ数体がラウラを担ぎ上げそのまま教室から出て行った。

 

「よぉし、SHRの続きをするぞ。さっきも言ったが、次の授業はアリーナで行う。2組との合同でISを使った歩行訓練などを行う。訓練の際、専用機を持っている者は補助にまわって貰うからしっかりと教える様に。あぁ、それと布仏は織斑と同じ班になる。理由は言わなくても分かっているな?」

 

「「「はい!」」」

 

「よろしい。ではSHRは以上だ。全員服を着替えて第1アリーナに集合するように。あぁ、それとフモッフ」

 

「ふもぉ?」

 

「済まないが、2体ほど織斑の護衛に付けてやってくれ」

 

「ふも! ふもふもふも、ふもっふ!(お前とお前、行け!)

 

「「ふもっふ!」」

 

フモッフの指示を受けたヘルメットに4と5が書かれたモッフが敬礼し一夏の傍に行き護衛に着く。

 

「えっと、よろしく、お願いします」

 

「ふも!」

 

護衛に着くモッフ達に言葉をかけた後、一夏はモッフ達の護衛と共にアリーナの更衣室へと向かって行った。それに続いて残ったフモッフとモッフ達も出て行く。

一夏が出て行ったのを確認した千冬は真耶と共に教室から出て行こうとすると

 

「あ、あの織斑先生」

 

「ん? デュノアか、何だ?」

 

出て行こうとする千冬を呼び止めたデュノア。その表情は少し困惑した表情を浮かべていた。

 

「えっと、更衣室ってどう行けばいいんですか?」

 

「学園手帳に書かれているだろ。それを見ながら行けば行ける」

 

「そ、そう言われましても」

 

千冬ははぁ。とため息を吐き隣にいた真耶に顔を向ける。

 

「山田先生、デュノアを更衣室へ案内してやってください」

 

「分かりました。それじゃあデュノア君、離れず付いて来てくださいね」

 

「は、はい!」

 

真耶に付いてくるよう言われデュノアは真耶の後に付いて行く。遠ざかっていくデュノア達に千冬は反対方向に歩きだし階段の踊り場まで来ると誰もいないにも拘らず千冬は口を開く。

 

「デュノアから目を離すな。他の奴らも同様だ。おかしな行動をすれば直ぐに一夏を守れ」

 

「ふも!」

 

千冬の背後からそう声が聞こえると、ぼひゅぼひゅと言う音が聞こえ次第に遠くなっていく。その音を確認した千冬はそのまま階段から降りていき、職員用の更衣室へと向かって行った。

 

 

 

 

フモッフ

姿 フルメタル・パニック ふもっふ!のボン太くん(タクティカル装備タイプ)

束が作成した一夏専用の護衛ロボット。

着ぐるみの様になったのは、メサがほぼロボットという姿の為もっとキュートな姿にしようとしてこうなった。

統率、指揮力等に優れ、部下であるモッフ達を手先の様に動かす。

装備は非殺傷用の模擬弾を装填したライフルとショットガン

但し、千冬の許可が下りれば、実弾に変更し敵対対象を負傷させる。

 

モッフ

姿 フルメタルパニック ふもっふ!の量産型ボン太くん

束が作成した一夏専用の護衛ロボット。

着ぐるみの様になったのはフモッフ同様の理由。

フモッフよりも能力的に若干劣っているが、チームプレーでその差を補っている。

ヘルメットにナンバーが書かれており、現在までに2から12まで居る。

装備はフモッフと同様ではあるが、模擬弾を装填したバズーカを持っている。

此方も千冬及び、フモッフからの許可があれば実弾を使用する。




次回予告
モッフ達の護衛を受けながら一夏は更衣室で着替え、アリーナへと出る。
1組と2組の合同授業が始まるが、初っ端から色々トラブルが起きる。
無事に授業が終わり暫くしてお昼の時間になるも、一夏はトラブルに巻き込まれるのであった。

次回
合同授業とお昼ご飯~お弁当の中身、どうしよ?~


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18話

「そ、それじゃあお二人や皆さんは束お姉ちゃんが造ったんですか?」

 

【はい、その通りでございます】

 

教室から護衛として付いて来てくれるモッフ二人と談笑をしながら更衣室へと目指す一夏。

護衛が付いていなかったときは、一夏は何時も何処から女性が来るか分からないと言う恐怖に怯えながら更衣室へ向かっていたが、今は護衛が付いているおかげか、一夏は少し笑顔を浮かべておりモッフ達との会話を楽しんでいた。

 

そしてアリーナに備えられている更衣室へと到着し、一夏は中へと入り着替えアリーナへと出ると他の生徒達が既に来ており、談笑を行っていた。

それと大きめの麻袋が転がっており、中には何かいるのかもぞもぞと激しく動いており、2組の生徒達は気味悪がって近付かず、1組の生徒達は中身が何か察しているのか特に気にする様子もなくクラスメイト達と談笑していた。

そんな生徒達の中から一夏が来た事に気付いた本音は急ぎ足で一夏の元に駆け寄る。

 

「イッチー、道中大丈夫だったぁ?」

 

「うん。モッフさんの4号さんと5号さんが護衛に付いていてくれたおかげで大丈夫だった」

 

「そっかぁ。ところで、4号さんと5号さんって?」

 

「モッフさん達って、皆同じ顔だから何か区別できる方法が無いかなと思ってて、そしたらヘルメットに数字が書かれてたから、それで区別しようと思って」

 

「あぁ、なるほどぉ」

 

本音とそんな話をしながら授業開始まで談笑をしていると、ジャージ姿の千冬が現れ生徒達の前に立つと同時にチャイムが鳴り響く。

 

「よし、全員集合!」

 

千冬の号令がかかると1組と2組の生徒達は足早に4列並びで揃う。

 

「よし、全員いるか?」

 

「あの、デュノア君がまだ来ていません」

 

「はぁ? まだ来てないだと?」

 

1組の生徒からの報告に千冬は眉を顰めていると

 

「す、すいません。遅くなりました!」

 

そう叫びながら走ってくるデュノア。それに対して千冬は鋭い目でデュノアを睨む。

 

「遅いぞ! 何をしていた?」

 

「そ、その…。山田先生に送って貰っている最中に他クラスの生徒達に囲まれ身動きが取れなくなってしまって…」

 

デュノアの説明に、千冬ははぁ。とため息を吐く。

 

「そうか。なら今回は初日という事で見逃す。だが、次は無いと思え」

 

「は、はい! すいません」

 

千冬の睨みにデュノアは急ぎ列へと加わる。

 

「よし、これで全員…あ、いかんいかん。こいつのことを忘れていた」

 

そう言いながら千冬は足元に転がっている麻袋のひもを緩め中にいるモノを引っ張り出す。

中か出てきたのは拘束状態で口にはガムテープを張られたボーデヴィッヒであった。

 

「えぇ、1組は知っていると思うが2組の生徒達にも説明しておく。織斑には本日から護衛部隊を付ける事となった。織斑の症状悪化を誘発しそうな事をしようとする者は即座に護衛部隊が武力行使を行ってくる。以上だ」

 

そう言いながら千冬はボーデヴィッヒの口に貼られているガムテープを勢いよく引き剥がす。

 

「痛っ!?」

 

「五月蠅いぞ、ボーデヴィッヒ」

 

「し、しかし「元を辿ればお前がいらんことをしなければそうはなっていないだろ」うっ」

 

「今回は軽めだが、次に問題を起こせば反省房にぶち込む。分かったな?」

 

千冬の睨みながらの問いに対し、ボーデヴィッヒは体を振るわせながらコクリと頷く。

千冬は拘束バンドを外し列に入るよう指示する。ボーデヴィッヒは俯きながら列へと加わって行った。

 

「よし、これで全員揃ったな。ではこれより1組と2組の合同授業を行う。まず初めに、凰とオルコット。前に出ろ」

 

千冬の指示に2人は首を傾げながらも、前へと出てくる。

 

「えっと、何をするんですか。織斑先生」

 

「もしかして彼女と対戦ですか?」

 

「早とちりをするなこの馬鹿者。もうすぐ来る」

 

そう千冬が言ったと同時に何処かともなく悲鳴のような声が響く。

 

「ひ、ひえぇぇ~~~!??!」

 

その声に全員辺りを見渡すも声の主が見つからず、一人が空を見上げた所気付いた。

 

「え、嘘? 山田先生が落ちて来てる!?」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

生徒の言葉に全員空を見上げると、ラファールを身に纏った真耶が勢いよく落下して来ていたのだ。

 

「よ、よよ避けてくださぁぁぁぁい!!?」

 

「に、逃げてぇ!?」

 

「ぶつかったら死んじゃうぅ!」

 

落下してくる真耶に生徒達は急ぎその場から離れようと逃げ出す。無論一夏も急ぎ逃げようとした瞬間、何かに躓きその場に倒れ込んでしまった。

 

「い、一夏君がぁ!」

 

「や、やばい山田先生の落下地点って織斑君の所だぁ!」

 

「イッチー!?」

 

全員ぶつかる。そう思っていた瞬間、突然ボシュン!という音が鳴り響いたと同時に真耶が乗っているラファールにロケットランチャーの弾頭が命中、真耶はその爆発の勢いで一夏のいる地点とは別の場所に墜落した。

全員突然の出来事に驚き固まっていたが、ボシュンという音が鳴った方へ顔を向けると其処には

 

「ふもっふ!」

 

と、ロケットランチャーを肩に担いだフモッフと数体のモッフ達が其処に居た。

 

「あ、あれが織斑君の護衛部隊?」

 

「なんか着ぐるみみたい」

 

「か、可愛いかも」

 

2組の生徒達は初めて見る護衛部隊にそんな感想を零している中、フモッフはロケットランチャーを担いだまま一夏の元に近付きそっと手を差し伸べる。

 

ふも(どうぞ)

 

「あ、ありがとうございます。フモッフさん」

 

ふもっふ(どういたしまして)!」

 

差し伸べられた手を握りしめ立ち上がる一夏。

一夏が無事だと判断できたフモッフはモッフ達を引き連れアリーナから出て行った。

 

「イッチー大丈夫?」

 

「う、うん。フモッフさん達のお陰で大丈夫」

 

フモッフ達の後から本音も一夏の元に駆け寄るケガの有無を確認する。体には何ともなく服が汚れた程度だった為本音はホッと一安心する。

 

「……えぇ、問題があったが全員私の元に集まれ」

 

そう千冬が指示を出すと逃げ惑っていた生徒達は急ぎ足で千冬の元に集まった。

 

「よろしい。では、凰とオルコット。今から山田先生と模擬戦をして貰う」

 

そう言うと2人は、はぁ。と何処か気乗りしていない様子を見せる。

 

「なんだ? 山田先生相手ではやる気が出んのか? 仕方ない、私が代わりに相手を「「山田先生で大丈夫です!」」よろしい。と、その前に」

 

千冬は顔を生徒達から墜落した真耶の方に顔を向ける。その先には目を回しながらクレーターに寝っ転がる真耶が居た。千冬はチッ。と舌打ちを放った後、出席簿片手にクレーターの下へと下りていき、そして

 

「何時まで寝ているんだぁ‼」

 

と叫んだと同時にバチン‼と甲高い音が鳴り響いた。

 

「ほぎゃっ!? す、す、すすすいません!」

 

「さっさと上に上がって模擬戦の用意をしてください!」

 

「は、はいぃい!」

 

千冬の叱責に真耶は慌ててクレーターの上へと上がり、その後に千冬も上がって来た。

 

「さて、山田先生と其処にいる代表候補生の二人との模擬戦を行う。一応言うが、山田先生は元日本代表候補生で、選ばれた候補生の中でトップに入るほどの実力を有していた」

 

「い、いえいえ。そんな、昔の事ですよぉ」

 

真耶は照れた表情で、謙虚に言う。

 

「だろうな。じゃなきゃ、あんなへまなどせん」

 

千冬の冷たいツッコミがさく裂し、真耶はガックシと首を墜とすのであった。

 

「では、双方準備に入れ」

 

そう言われセシリアと鈴、そして真耶は空へと上がる。

 

「それでは、始め!」

 

千冬の合図と共に双方模擬戦を開始した。

 

「では終わるまでの間、デュノア。お前の所の会社が造ったラファールについて説明しろ」

 

「え? あ、はい! ラファールは――――」

 

千冬からの突然の振りに、デュノアは慌てながらも説明を始めた。周りに居た生徒達は模擬戦を見ながらもデュノアの説明を聞く。すると模擬戦を見ていた千冬が口を開く。

 

「デュノア、其処まででいい。もう終わる」

 

その言葉と同時に空から鈴とセシリアが落下してきて、真耶も一緒に降りてきた。

 

「えぇ、このように代表候補生2名が束になっても簡単に倒される。この学園に居る教師の多くは優秀な成績を残した元代表候補生や国家代表、そして軍人などだ。山田先生の様にぽわぽわしている教師もいるが、侮っているとさっきの二人みたく痛い目を見る羽目になるから気を付ける様に」

 

『はい!』

 

千冬の説明に生徒達全員が返事を返す。

 

「よし、ではこれよりISを所持している生徒を指導員として君達にもISを乗って貰う。班は名簿順に並んでもらうが、織斑の班には補助役として布仏に入って貰う。では別れろ!」

 

そう言われ生徒達はISを所持しているセシリアや鈴、新入生のデュノアやボーデヴィッヒ。そして一夏の元に集まる。どの班も1組や2組の生徒達が入り混じっているが、何故か一夏の班だけは1組の生徒がほとんどであった。

一夏は一番扱い易いと思える打鉄を本音に持って来て貰い、班のメンバーの前に置いてもらった。

 

「そ、それではISを教えていきます」

 

「お願いしまぁす!」

 

「よろしくね、織斑君」

 

「無理しない程度でいいよ」

 

班のメンバーとなった生徒達からそう声を掛けてもらいつつ一夏は基礎的な歩きから始めましょうと指示を出す。無論近くに居た本音も一夏の補助として指示出しを行った。

メンバーとなった生徒達は一人一人ISに乗ってゆっくりとした歩調で歩き始め、一夏はバレットホークを身に纏った状態でISに乗った生徒がこけない様、ISの前で後ろ歩きで補助していた。

 

 

 

その頃他の班はと言うと

 

・セシリアの場合

「ですから、脚を45度の角度まで上げ、そして前へと進む。その時腕も45度の角度で曲げながら動かす! そう言っているではありませんの!」

 

「だから、それじゃあ分かりづらいって言ってるでしょ!」

 

受け持った班のメンバーと口論をしていた。

その訳だが、セシリアの会話の内容の通り、細かすぎるのである。セシリアの細かすぎる説明に生徒達はチンプンカンプンな表情を浮かべ、もう少し分かり易く説明してと言うが、これが一番分かり易いの一点張りであった。

 

・鈴の場合

「だから、勘って言ってるでしょうが! 乗ってたら自然と分かるのよ!」

 

「それはごく一部の人だけでしょ! 乗った回数が少ない私達じゃ分からないわよ!」

 

此方も口論していた。

鈴の教え方は、ほぼ適当に等しい《勘で感じろ》という物であった。

つまりセシリアの真逆の教え方であった。

 

・デュノアの場合

「そうそう。そうやってゆっくりと足を上げながら前に進んで」

 

「う、うん」

 

分かり易い説明をしながら一夏の様に補助にまわりながら班のメンバーに教えていた。だが次の生徒でトラブルが起きた。

 

「それじゃあ次の人、どうぞ」

 

そう言いながらデュノアは次の人の顔を見る。

次の人は箒であった。

 

「私はいい。一夏の所に行って教えて貰ってくる」

 

「え? で、でも班異動は駄目だって…」

 

「そんなもの知らん。兎に角私は一夏の所に「勝手に班異動をしようとするな、この馬鹿者」あ痛っ!?」

 

突然何処からともなく千冬が現れ、箒の頭を出席簿でしばいた。

 

「私の許可も無く班異動は禁止だ。さっさとデュノアに教えてもらえ」

 

「で、ですが私は「お前は織斑に接近するなと警告したはずだ。何だったら私自ら血反吐を吐くような講習でやってやろうか?」い、いえ、結構です」

 

「だったらさっさと教えてもらえ。後ろの奴が乗ることも無く終わってしまうだろうが」

 

そう言われ箒は渋々デュノアに教えてもらうのであった。

 

・ボーデヴィッヒの場合

「……」

 

「あ、あのぉ?」

 

仁王立ちのままで目を瞑ったままで何も教えようとしないボーデヴィッヒ。班のメンバー達は困惑した表情を浮かべ、どうしたらいいのか分からず立ち尽くしていると

 

「何をしている、ボーデヴィッヒ」

 

と苛立ちを浮かべた千冬が現れた。

 

「はっ! ISについてこいつらに問うたところ、ただのアクセサリ位としか思っていない回答でしたので訓練など行わず立たせておりまっ!!!???!」

 

千冬に敬礼しながら答えるボーデヴィッヒに対し、千冬は躊躇いなど一切ない勢いで出席簿の背表紙をボーデヴィッヒの頭に叩きつけた。

 

「貴様の判断で訓練の中止をするな! もういい、ボーデヴィッヒ。貴様は向こうで立って居ろ」

 

痛みで蹲るボーデヴィッヒに対し千冬はそう言い放った後、訓練が出来ていない生徒達を他の班へと振り分け、訓練を受けさせた。

そして時刻は経ち、授業終了間近となった時、生徒達全員千冬の前へと整列していた。

それぞれ生徒達のの顔つきは異なっており、訓練に満足出来た表情や、苛立ちなどを浮かべた生徒達など様々であった。

 

「では、以上で本日の訓練は終了となる。今日満足の行く訓練など出来なかった者もいるだろうが、今回は申し訳ないが運が悪かったと思ってくれ。それともしアリーナで訓練などを行う場合は、一人では行わず、複数人で行うよう。理由は自己満足で訓練を行うよりも、客観的視点からのアドバイスなどがあった方が自分の為にもなるし、他の者たちの為にもなる。いいな?」

 

『はい!』

 

「よろしい。では以上で合同授業を終える」

 

『ありがとうございました!』

 

千冬の号令と共に、生徒達は疲れたぁと言いたげな表情などを浮かべながらアリーナから出て行く。すると

 

「あぁ、凰とオルコット。それと篠ノ之とボーデヴィッヒ。お前等は残れ」

 

帰ろうとする生徒達の中からその4人を呼び止める千冬。ボーデヴィッヒ以外の3人は首を傾げながらも千冬の元に集まる。

 

「お前達はまともに訓練を行おうとしていなかったから、罰として其処にあるクレーター(真耶作)を埋める様に」

 

「えぇぇ!? それは山田先生が埋めるべきでは!?」

 

「そ、そうです! わたくし達はちゃんと班員に教えましたわ!」

 

「わ、私もちゃんと訓練はやりました!」

 

「こいつらは分かりますが、何故自分まで!?」

 

4人は千冬が言い渡した罰に納得がいかない様子で叫ぶも、千冬の鋭い睨みを向けられ先程までの気迫が消し飛び意気消沈となる。

 

「お前等のどこを見ればまともといえる? まずオルコット。貴様の教え方は細かすぎる。凰、お前は説明不足だ。篠ノ之、お前は自分勝手すぎる。ボーデヴィッヒ、お前は他者を見下し過ぎだ」

 

千冬の説明にぐうの音も出ない4人は黙ったまま俯く。

 

「3限目の授業が始まるまでに穴を埋めておくように。それと、適当に穴を埋めるなどして誤魔化していた場合は、学園にあるすべてのトイレを綺麗になるまで掃除をさせる。いいな?」

 

「「「「……」」」」

 

「いいか、どうか聞いているだろうが!」

 

「「「「は、はい!」」」」

 

漸く返事をした4人に千冬はフゥ。と息を吐いた後、アリーナを後にした。その後4人はいがみ合いながらも、穴を埋めるのであった。

 

時間は経ちお昼頃。

一夏は何時もと変わらずカバンの中からお弁当を取り出す。

 

「それじゃあイッチー、今日は裏のベンチで集合ね」

 

「うん。も、モッフさん達と先に行ってるね」

 

隣の席の本音は集合場所を確認した後、谷本や相川達と共に小走りでお弁当を買いに向かった。

3人を見送った一夏はお弁当を持って廊下で待機していたモッフ(4号と5号)の元に向かう。

 

「本音さん達とご飯を食べに行くので、一緒に来てもらってもいいですか?」

 

「「ふもっふ(了解)」」

 

敬礼で了承したことを返すモッフに、一夏は安堵した表情を浮かべながら歩き出そうとした瞬間

 

「あ、一夏! 私特製の酢豚持ってきたわよ!」

 

と、隣のクラスから飛び出る様に現れる鈴。その手には酢豚が入っているであろうパックの入った袋が握られていた。

 

「あ、あの、お気持ちは、嬉しいですけど。その「あぁ、お礼とかいらないから。ちゃんと残さず食べてね!」あ、あの、だから」

 

鈴の一方的な押しに一夏は断ろうとすることが出来ず困っていると、傍に居たモッフ(4号)が動いた。

モッフ(4号)は鈴が一夏に押し付けようとしていた酢豚のは入ったパックをひったくり、無線機を取り出して何処かに連絡を入れる。

 

「ちょ、ちょっと! それは一夏の為に作ったものよ! 返しなさいよ!」

 

そう怒鳴りながらモッフ(4号)から酢豚を取り返そうとするが、モッフ(5号)がスタンバトンの電源を入れバチバチと音を鳴らしながら、睨みを効かせ抑制する。

 

「な! そ、そんな物で怖がる私じゃ無いわよ!」

 

そう叫びながら取り返そうとした瞬間

 

「ほぉ? なら私ならどうだ?」

 

と、鈴の背後からドスの利いた声が響き、鈴は錆びついた歯車の様にギギギと小刻みに震えながら振り向くと鈴を睨みつける千冬が其処に居た。

 

「フモッフから一夏に手料理を手渡そうとしている奴がいると聞いて来てみれば、貴様か」

 

「お、織斑先生。だ、だって一夏は酢豚好きだったから「残念だが、織斑は女性が作った手料理は食えんぞ」えっ!? な、何でですか!」

 

「織斑は女性恐怖症なんだぞ。お前が作ったその料理に、変な物でも加えられていたらと一夏は考えてしまう。だからだ」

 

そう言い千冬は4号から酢豚の入ったパックを受け取る。

 

「食べて欲しかったら自分で先に食べて安全だと分からせないと織斑は食わん。だが、お前が作った物は問答無用で私が処理する」

 

「な、何でですか!?」

 

「当たり前だ。転入してきたその日からずっとお前は織斑に迷惑をかけまくっているだろが。しかも貴様はそれを悪びれもせずにだ」

 

「そ、それは一夏の女性恐怖症を治す為で「馬鹿者! 逆効果だ! この説明は前にもしただろ!」そ、そうでしたっけ?」

 

千冬の説教に鈴は縮こまりながらも、説明された事を思い出そうとするも思い出せず首を傾げたままであった。

 

「まったく。兎に角、この酢豚は私は処理しておく。織斑、お昼ご飯を食べに行ってこい。モッフ達も織斑の護衛を続けてやってくれ」

 

「は、はい。失礼、します」

 

「「ふもっふ!」」

 

千冬に行くよう言われ、一夏とモッフ達はその場から立ち去っていく。

 

「あ、ちょっとあたしも「お前は私と一緒に昼食だ。折角だ、この酢豚の感想を貴様の前でしてやる」え゛!?」

 

「ほら行くぞ」

 

そう言いながら鈴の首根っこを掴み、引き摺りながら食堂へと向かう千冬。鈴は「お、お助けぇ~~~!?」と叫びながら引き摺られていった。

 

鈴の襲撃を何とか退けた一夏は階段を降りていく途中

 

「あ、一夏さん、此方でしたか。実はわたくし、初めて料理を作ったのですがぜひ食べて下さいませんか?」

 

と、今度はセシリアと鉢合ってしまった。セシリアは持っていたバスケット一夏に手渡そうとするもモッフ達が直ぐに一夏の前に立ち、それを防ぐ

 

「ど、退いて下さらない? 一夏さんにお渡しできませんわ」

 

セシリアの抗議に、モッフ達は何も言わず睨んだままだった。

 

「あ、あの、お気持ちは嬉しいですけど、じ、自分のお弁当があるので…」

 

モッフ達の後ろからそう言いやんわりと断る一夏。

 

「そ、それでしたらご一緒にお昼をとりませんか?」

 

「その、本音さん達と先に約束してるので、また今度でもいいですか?」

 

一夏は本音達が待っているかもしれないと思い、別の日にしませんかとセシリアに問う。

 

「でしたらわたくしもご一緒しますわ。それでしたらわたくしが作った料理も食べられますし」

 

そう言いセシリアは何が何でもついてこようとして来た。すると

 

「あ、イッチー。此処に居たんだぁ、探したんだよぉ」

 

そう言いながら下から上がってくる来る本音。

 

「ご、ごめんなさい本音さん」

 

「うぅん、いいよぉ。皆が待ってるから早く行こ」

 

本音にそう誘われ一夏は行こうとしたが、セシリアが待ったをかけた。

 

「お待ちください、布仏さん。実はわたくしも今からお昼なんです。宜しかったらご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

「セッシーもぉ? うぅ~ん、私は別にいいけど…」

 

そう言いながら本音はチラッと一夏の方を見る。一夏は若干嫌そうな顔を浮かべていた。その表情を見た本音はチラッとセシリアが持っているバスケットに目を向け、事情を察した。

 

「ねぇねぇ、そのバスケットの中身って何?」

 

「これですか? これは私が初めて作ったサンドイッチが入っておりますの」

 

「へぇ~。それじゃあ、それがセッシーのお昼ご飯?」

 

「え、えぇまぁそうですわ」

 

若干言いよどむセシリアに、本音は心の中で確信を持つ。彼女(セシリア)が持っているあれは、イッチーに食べて貰う物だと。そこで本音はとある妙案を思いつき、それを実行した。

 

「そっかぁ。よかったよかった」

 

「はい? 何故良かったというのですの?」

 

「だって、イッチーに食べて貰うって言ってもイッチー食べられないからねぇ」

 

「え? どう言う事ですの?」

 

「イッチーは女性恐怖症なんだよぉ。そのサンドイッチに何か入れられているんじゃ?ってイッチーは考えて食べないよ」

 

本音の説明にセシリアはそうだった。と思い出したような表情を浮かべるも、直ぐに笑みを浮かべる。

 

「そ、それでしたら大丈夫ですわ。何も可笑しな物は入れておりませんわ。料理本を見ながら作ったので、美味しく出来ておりますわ」

 

「ふぅ~ん。まぁ、セッシーのお弁当だからイッチーには関係無い事だと思うけどねぇ」

 

そう言い一夏に行こ。と促す本音。一夏は少し困惑の表情を浮かべながらもモッフ達に護衛されながらセシリアの横をすり抜けて本音の元に向かう。

 

「お待ちください!」

 

と、セシリアが一夏と本音に待ったをかけた。そして徐にバスケットの中からサンドイッチを取り出す。

 

「私が作ったこのサンドイッチに何も可笑しな物が入っていないと証明して見せますわ!」

 

そう言ってサンドイッチを頬張るセシリア。サンドイッチを食べて直ぐにセシリアの様子が可笑しくなった。顔色が赤くなったり青くなったりと変化が激しいうえに大量の汗を流し出したのだ。そして口を手で覆うと大急ぎで何処かへと走り去っていった。

 

「な、何だったんでしょうか?」

 

「さぁ? 気にしないで行こぉ」

 

そう言われ一夏は後ろ髪を引かれながらも、モッフ達と共に本音達が待っている学園裏のベンチへと向かった。

 

 

その頃デュノアはと言うと

 

「デュノア君って好きな料理って何?」

 

「好きな女性の仕草とかは?」

 

「ラファールの上手な乗り方とか教えて!」

 

と、食堂で女子生徒達に捕まって色々質問攻めに遭っていた。

 

「ちょっ、ちょっとみんな落ち着いてぇ! ひ、一つずつ答えたいからぁ」

 

と、悲鳴のような懇願を上げるデュノア。だが生徒達の気迫によってそれは打ち消され、その後も大勢の生徒達の質問攻めに遭い、お昼を満足に取れなかったデュノアであった。




次回予告
放課後、一夏は入部した料理研究部へと向かった。
初めて会う部員達に緊張と不安などの表情を浮かべながらも、一夏は部活動を始めた。

次回
一夏君、高校初めての部活動!~よ、よろしくお願いしますぅ!~


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19話

『キーンコーンカーンコーン』

 

授業終了を知らせるチャイムが鳴り響き、教卓に立っていた千冬はチョークを箱に戻し生徒達の方に体を向ける。

 

「では、本日は此処までとする。織斑、挨拶を」

 

「は、はい。起立、礼」

 

『ありがとうございました!』

 

「着席」

 

そう言うと千冬や真耶は教室から出て行き寮に帰る者、部活に行く者と生徒達は準備を始める。

一夏もカバンに教科書やノートを仕舞い席から立ち上がる。

 

「あ、イッチー。今日から部活だっけ?」

 

「う、うん。まだ他の部員の人達と挨拶してないから、凄く緊張してるけど」

 

「大丈夫だよぉ。イッチーなら出来るって!」

 

そう言い本音は一夏を応援する。本音の応援に一夏は少し照れた表情を浮かべながら、あ、ありがとう。と返しモッフ達と共に料理研究部の活動部屋である家庭科室へと向かった。

 

 

 

 

 

ところで、自身で作ったサンドイッチを食べ気分を悪くしたセシリアはと言うと

 

あぁぁぁあぁああぁぁぁぁあ

 

と保健室のベッドで魘されていた。

何故保健室に居るのか。簡単に説明すると

 

サンドイッチを食べ気分を害する

     ↓

トイレに駆け込もうと、走り出す

     ↓

教師に見つかり、お説教される

     ↓

我慢の限界に達し、気を失う

     ↓

保健室へと運び込まれる

 

と言う訳である。

因みにセシリアが作ったサンドイッチは、危険物として焼却処分された。

 

 

 

暫し学園内を歩き、モッフ達と共に家庭科室へと到着した一夏。恐怖心と不安が圧し掛かりつつも、一夏は扉をノックした。

 

『どうぞぉ』

 

そう中から聞こえると、一夏は恐る恐る扉を開けた。

 

「し、失礼します」

 

そう言いながら中に入ると調理実習台が並んでいる側には6人程の生徒達が座っており、前の調理実習台には入部届を出しに行った際に居た先輩が居た。

 

「おぉ、来た来た。それじゃあ先に自己紹介をお願いして良い?」

 

「は、はい」

 

先輩の言葉に一夏はビクビクしながらも他の部員たちの前へと立つ。家庭科室の後ろにはモッフ達が居り頑張れと小さく応援していた。

 

「お、織斑一夏と言います。りょ、料理には少し自信があります。ど、どうか、よろしくお願いします」

 

そう言い頭を下げる一夏。暫し沈黙した後生徒達はパチパチと拍手を始めた。

 

「うん、宜しくねぇ織斑君」

 

「よろしくねぇ」

 

「どれ程の腕か楽しみにさせてもらうね」

 

部員達は一夏の入部に優しく向かい入れる姿に、一夏は心の中でホッと一安心した。

 

「それじゃあ織斑君は、其処の実習机で良い?」

 

「わ、分かりました」

 

部長の指示に一夏は後ろに並んでいる実習机の一つの席に着いた。

 

「それじゃあ皆の自己紹介をするね。まず私がこの料理研究部の部長、セレスティーヌ = コンヴェルシ。皆からはセレスって言われているからよろしくね」

 

「私は稲葉紀子。セレスとは入学前からの友人なの。宜しくね、織斑君」

 

「神崎里佳子じゃ。喋り方は家の事情故これなのじゃ。よろしく頼むぞ」

 

「私は狗山あおいやでぇ。よろしくねぇ」

 

「藤條朱乃と申します。どうかよろしくお願いしたしますわ」

 

「ニコラス・アレルヤです。ニコって呼んでね」

 

「アメリア・ランバートよ。気軽にアメリアって呼んでちょうだい」

 

部長のセレスの挨拶から部員たちの挨拶が終わり、一夏は再度宜しくお願いします。とお辞儀をする。

 

「さて、自己紹介は終わったけど……。織斑君、後ろにいるあの2体の着ぐるみは一体?」

 

「あ、あのお二人は僕の護衛の方達です」

 

一夏がそう紹介するとモッフ達はふもっふ!と言いながら敬礼する。

 

「そ、そう、分かったわ。それじゃあ早速部活を始めたいと思います。お題は『みんな大好き 菓子パン』という事で、それぞれ調べてきたレシピで調理を始めてね。それとさっき手渡した紙に書かれた織斑君の接し方についても注意するようにね」

 

「「「「はぁ~い!」」」」

 

「は、はい」

 

セレスの開始の合図と共に皆は調理準備を始め、一夏もエプロンや三角巾を身に付け調理準備を始めた。

皆は持ってきた材料をボールや鍋などに入れながらパン生地を作っていく。すると神崎は一夏の調理している様子に首を傾げた。

 

「ん? のぉ、織斑よ。少し良いか?」

 

「ふえ? えっと、だ、大丈夫です。何でしょうか?」

 

少し距離が離れていた為、怖がることは無かったが突然声を掛けられたことに少し怯えながらも神崎の方に顔を向ける。

 

「お主の机にあるそれはなんじゃ? 小麦粉ではなさそうじゃが…」

 

神崎がそう言い一夏の机の上にある袋を指さす。神崎の言葉に他の部員達も一夏の方に顔を向ける。

 

「こ、これは“米粉”です」

 

「米粉? 米粉って確か米を粉末状にした物よね。なんで米粉を?」

 

稲葉は一夏が持ってきた米粉に首を傾げながら問う。菓子パンとは言えパンと同じ材料を使用しており、その大本が小麦粉である。

だが一夏は小麦粉ではなく米粉を使って菓子パンを作ろうとしていた。

 

「そ、その、前にテレビで米粉を使ったパンの作り方をしていたんです。それで少し試したくて。そ、それと……」

 

「それと?」

 

説明の途中で急に言いづらそうな表情になる一夏に、皆首を傾げながら見守っていると

 

「その、こ、小麦粉アレルギーの人でも美味しく食べられるパンをその、作れるようになったらいいなと思って」

 

縮こまりながらも、説明する一夏に部員達は

 

(((え、何あの可愛い後輩君(同級生)は? めっちゃ抱きしめたいんだけど?)))

 

と心の中で思った。

 

「あ、あの、何か?」

 

「はっ! う、ううん。何でも無いよ! それは立派な事だと思うよ!」

 

「う、うむ。確かにアレルギーを持っている者でも食べられるパンを作るのは立派な事じゃ!」

 

「その通りですわ。他者を気遣ってその様な配慮をできるお方はそうそうおられませんわ」

 

部員たちにそう言われ、一夏は顔を真っ赤にさせながら俯きながら作業を再開した。

今まで女性に怯えながら生活してきたため、一夏は女性、特に姉である千冬以外から褒められた事が余り無かった。

最初は自身の思いを馬鹿にされると思っていたが、まさかの高評価に思わず驚きと羞恥心が沸き上がり、部員達の方に顔を向けるが恥ずかしくなり作業に戻ったのだ。

 

そして暫くしてそれぞれの調理台には色とりどりの菓子パンが置かれていた。

ジャムパンにあんパン、そしてメロンパンにクリームパン。どれも美味しそうに見える中、部員達が特に気になっているのが、一夏が作ったパンであった。

一夏が作ったのは米粉のミルクパンであった。

 

「よし、それじゃあ皆それぞれ行き渡っているわね。それじゃあ」

 

「「「いただきまぁす(のじゃ)!」」」

 

「い、いただきます」

 

それぞれパンを手に取り口へと運び食べ始めた。無論一夏もパンを口に運ぼうとする前にチラッとモッフ達の方に目を向ける。

モッフ達は一夏の視線に気付くとコクリと頷きながら部員達から見えない様コッソリと背中からプラカードを見せる

 

【(・ω・)bグッ】

 

それを見た一夏はこっそりとホッと息を吐いた後菓子パンを頬ばり始める。

一夏がモッフ達に確認したのは調理中変なものが入れられていないか、それを確認したのだ。

無論一夏自身部員達がそんな事はすることは無いと信じたい。だがどうしても不安になってしまう。

その為モッフ達に部員達の調理の様子を見て貰っていたのだ。

モッフ達に確認を終え、一夏は安心した様子でパンを口一杯に頬張りながら

 

「モヒ( ´ω`c)モヒ」

 

と幸せそうな表情でパンを食べる姿に

 

((((あぁ、何だか和むなぁ(のじゃ)))))

 

とほんわかした表情でパンを食べていた。そして最後に皆は一夏の作ったパンを手に取る。

 

「それじゃあ最後は織斑君のパンを食べるわよぉ」

 

「楽しみだなぁ」

 

「見た目も良いし、香りも凄く香ばしい」

 

「そやねぇ。はよう食べたいわぁ」

 

「それじゃあいただきます」

 

そう言い皆一夏のミルクパンを頬張る。一夏は不安そうな表情を浮かべながら見守っていた。

そして

 

 

『おいしぃい!!』

 

と全員声を揃えながら張り上げた。

 

「外はサクッてしていて、中はふんわりしてる!」

 

「それになんだか優しい味だわ」

 

「うむ、この様な甘美なパンは初めてじゃ」

 

「めっちゃ美味しいわぁ」

 

「本当においしいですわ。これでしたら紅茶とも相性がよさそうですわ」

 

「本当に美味しいね、これ!」

 

「確かに美味しいわね。ねえ、織斑君。これってなにか入れているの?」

 

アメリアにそう問われ、一夏は照れた表情を浮かべながら答える。

 

「い、いえ。レシピに載っていた通りに作ったので特に何も…」

 

「そうなの。でも此処までふんわりしているのは凄いわね」

 

「そうだね。ん? ねぇ織斑君」

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

「あそこのトレーの上に残っているパンは?」

 

セレスにそう聞かれ一夏は自分の机に置かれているトレーへと顔を向ける。トレーにはまだ2つ程パンが残っていた。

 

「こ、これはお姉じゃなくて織斑先生と友達に渡すパンです」

 

「友達は分かるけど、織斑先生にも? どうしてまた?」

 

「その、織斑先生のお陰で、この部活にも出会えたし、他にも色んなことでお世話になってるからお礼にと思って。……あの、もしかしてダメ、何でしょうか?」

 

「え? ダメって?」

 

突然一夏が困った表情で駄目なのかと聞いてくる事にセレスは戸惑いの表情を浮かべる。

 

「つ、作った料理は他人に手渡すのがです」

 

「あ、あぁ。別に問題無いわよ。皆も作った料理は少し多めに作ったりして友達とかに手渡しているからね」

 

「そ、そうですか。良かったぁ」

 

セレスの説明に一夏はホッと安心した表情をうかべる。

そしてパンを食べ終えた部員達は道具やシンクの清掃を行い、そしてそれぞれ席に着く。

 

「それじゃあ今日は此処までにしましょうか。それで、次は何のお題をするかお題を書いて貰ってもいい?」

 

そう言いながらセレスは白紙の紙をそれぞれ手渡していく。皆何にしようかなと思いながら思案にふけながらも思いついた物を書いていく。一夏も何にしようか悩みながらも思いついた物を書いた。

そして書かれた紙が集められそれぞれ黒板に貼られていく。

紙にはそれぞれ

 

『ピザ』

 

『ホールケーキ』

 

『中華料理』

 

『丼物』

 

『麺料理』

 

「さて、それじゃあ皆どれがいいかな?」

 

「無難なのは丼物とかどうじゃ?」

 

「それもいいけど、ピザとかはどう? シーフードだったりミートピザだったり、色々種類もあるからアレンジレシピとか浮かび易そうだし」

 

「それだったらホールケーキもよろしくありません? ショートケーキやチーズケーキとか色々ありますわ」

 

「うぅ~ん、どれも想像しただけで涎が出てくるなぁ」

 

皆悩んでいる中、一夏もどれがいいだろうと思い見ていた。

暫しどれにするかと悩み、話し合いが行われるが結局決まらずセレスはお題の紙を全て事前に準備しておいた箱に入れシャッフルし、手を入れて一枚引き出した。

セレスが引き出したお題には

 

『旬の食材を使った料理』

 

と書かれていた。

 

「えぇ、次回のお題は『旬の食材を使った料理』となりました。因みにこれを書いたのって誰?」

 

皆を見渡すようにセレスが問うと、おずおずと一夏が手を挙げた。

 

「ぼ、僕です」

 

「お! 織斑君かぁ。因みに理由は?」

 

「その、そろそろ夏にも近付いてきたので旬の食材を使った料理を作って見たいなと思いまして。そ、それに部活の名前の通り、旬の食材で出来る美味しい料理の研究にもなると思いまして」

 

一夏の説明に部員達は確かにと納得の表情を浮かべる。

 

「それじゃあ次の部活は旬の食材を使った料理としまぁす。次の部活は木曜日になるから皆それまでに食材とレシピを準備してきてねぇ」

 

「「「「はぁ~い」」」」

 

「は、はい」

 

こうして一夏の初めての部活動は無事に終わり、一夏は袋に入れたパンを持ってモッフ達と共に寮へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

登場人物

セレスティーヌ = コンヴェルシ

姿 崩壊3rd キアナ・カスラナ

 

料理研究部部長の3年生。食べることが好きで自ら美味しい料理を探求するべく料理研究部に入部。結果部長まで昇進した。

 

稲葉紀子

姿 崩壊3rd 雷電芽衣

 

料理研究部の部員というよりも副部長に近い3年生。小さい頃からセレスとは友人で、美味しいものの為に突き進むセレスのサポート役を担っている。誰に対しても分け隔てなく接することから、『研究部のお母さん』とひそかに呼ばれている。

 

神崎里佳子

姿 世話やきキツネの仙狐さん 仙狐

 

喋りが独特な2年生。身長は一夏より少し上。明るく人を元気にさせるのが生きがい。

 

狗山あおい

姿 ゆるキャン 犬山あおい

 

1年生でのんびりとした関西弁で喋る子。悪意のないホラ話をして、最後には「ウソやで~」と言って締める姿に、皆を和やかにさせる。

 

藤條朱乃

姿 HSD&D 姫島朱乃

 

撫子口調の2年生。実家が有名な和菓子店で、本人も和菓子作りが得意。料理の腕が鈍らないようにする為と、実家の和菓子店を広く知って貰うべく料理研究部に入部した。

 

ニコラス・アレルヤ

姿 ギャラクシーエンジェル ミルフィーユ・桜葉

 

元気いっぱいの1年生。何事にも元気いっぱいに挑戦し、失敗してもへこたれず再挑戦を繰り返す。

ちょっぴりアホの子だが、ときおり鋭い閃きを発揮して摩訶不思議な料理を生み出す。(これまで不味い料理を出したことが無い)

 

アメリア・ランバート

姿 セキレイ 月海

 

とある企業のご令嬢らしく、料理などはしたことが無かったが学園に入学後初めてやったところ、その楽しさにはまり日夜勉強をする努力家。

 

 




次回予告
部活で作ったパンを千冬に届け、一夏は寮の部屋に帰ろうとした所、デュノアと鉢合い少し話す事に。
早々にデュノアとの会話を切り上げ、一夏は本音の元にパンを届けに向かった。

次回
手作りパンのお届け~い、一夏の手作り、パン!~


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20話

家庭科室から出た一夏は部活動で作ったパンが入った袋を大事そうに持ちながらモッフ達と共に千冬が居る寮母部屋へと向かっていた。

 

「お姉ちゃん、喜んでくれるかな?」

 

そう零しながら歩いていると、『寮母室』と書かれた札のかかった部屋に到着し、一夏はそっと扉をノックする。

 

『誰だ?』

 

「あ、あの、織斑です」

 

中から声を掛けられ、一夏は名を名乗ると扉の鍵が開き千冬が現れる。

 

「どうした織斑?」

 

「その、あの…」

 

照れた表情を浮かべ周りを少しきょろきょろとする一夏に、千冬は一夏の持っている物に目が行く。

 

(あぁ、なるほど)「まぁ、立ち話も何だ。中に入れ」

 

何となく訳を察した千冬はそっと部屋の中に一夏を通した。モッフ達は部屋の中までは入らず扉の両脇に立ち銃を胸の所で掲げながら警備を始めた。

 

「それでどうした、一夏?」

 

「その、…はい」

 

周りの目が無くなり、一夏は緊張が若干やわらぎ持っていたパンを千冬へと手渡す。

 

「ほぉ。その、一夏の手作りパンか?」

 

「う、うん。部活の皆と、一緒に作ったの。小麦粉じゃなくて、米粉で作ったミルクパンだけど」

 

「そうか。旨そうだな」

 

「ぶ、部活の皆からは美味しいって褒められた」

 

照れながら伝える一夏に、千冬はそうか。と笑顔を浮かべる。

 

「そ、それじゃあ僕本音さんにも、パンを渡しに行って来るね」

 

「あぁ、いってらっしゃい。それと一夏。今日の初めての部活動はどうだった?」

 

「その、凄く、楽しかった」

 

「そうか。それは良かった」

 

一夏の返答に満足そうな笑顔を浮かべる千冬に、一夏はそれじゃあ失礼しますと言って部屋から出て行った。

一夏が出て行った後、一人ぽつーんと残った千冬はパンを持って奥の部屋へと行き椅子に座って机の上に一夏の手作りパンを置く。

 

「い、一夏が作ったパン! では、いただきます!」

 

そう言い千冬は袋からパンを取り出し緊張した面持ちでかぶりつく。そして

 

「旨すぎるぅううう!!!!」

 

と、部屋の中で叫んだとか。

 

 

 

 

千冬に無事パンを届け、一夏とモッフ達は本音の部屋へと向け歩いていた。

前後にはモッフ達が居る為、すれ違う生徒達と視線が交じるという事は無い為、一夏はモッフの背中を見ながら歩いていた。すると突然前を歩いていたモッフが歩を止める。一夏は突然歩を止めたモッフ(4号)にどうしたんだろうと首を傾げつつ、そっとモッフの背後から前の方を覗き込むと、少し困った表情を浮かべたデュノアが立っていた。

 

「あ、あの、何の、用ですか?」

 

一夏はモッフの背後から警戒心MAXでデュノアに用件を聞く。

 

「いやぁ。僕達ほら、世界に2人しかいない男性操縦者だからさ。親睦を深めるために、これから夕飯一緒にどうかなと思って」

 

デュノアはモッフの背後から覗く一夏に頬を染めながら、一緒にご飯でもどう?と誘う。だが一夏は

 

「す、すいません。僕は部屋で食べるので、大丈夫です。その、急いでいるので失礼します」

 

そう言い一夏はモッフの背をクイクイとひっぱりモッフの護衛の下デュノアの横をすり抜けて行った。

 

「あ、ちょっ…行っちゃった」

 

速足で遠ざかっていく一夏にデュノアはガックシと肩を落とす。

すると手を頬に当てるデュノア。その頬は赤く染まっており、息も若干荒かった。

 

(あぁ、やっとお喋りできたぁ。それにしてもやっぱり生で見ると可愛かったなぁ。よし、このままお喋りを続けて行って仲良くなって、親友になったらあれやこれやしたり…。あぁ~、楽しみだなぁ~)

 

などと、頭の中で妄想を繰り広げるデュノア。

実はこのデュノア、可愛いものには目が無く持ってきた荷物の中に密かに可愛い服やそれを撮るためのカメラを入れて持って来ていた。そして今回の偽装転入にデュノアは当初陰鬱な気分であったが、相手が可愛い子だと知り承諾したのだ。

 

(仲良くなったら、可愛い服を一緒に着て写真撮ったりとか色々したいなぁ)

 

と、本来一夏のISデータを盗む様言われているにも関わらず、本来の任務そっちのけの事を考えるデュノアであった。

 

 

 

 

その頃デュノアから速足で逃げた一夏はと言うと自身の部屋の横の本音の部屋に来ていた。扉の前に立っていた一夏は控えめにノックをする。

 

『はぁ~い、どなたですかぁ?』

 

「あ、あの、一夏です」

 

そう一夏が声を掛けると、パタパタと駆け足の音が部屋の中から聞こえるとガチャリと扉が開かれた。

 

「やっほぉ~、イッチー。どうかしたのぉ?」

 

「あの、これ。その、色々お世話になってるから、そのお礼です」

 

照れた表情で一夏は持っていたパンの入った袋を本音に手渡す。

 

「えぇ~、これもしかしてイッチーの手作りパン?」

 

「う、うん。今日の部活で、初めて作ったの。部員の皆は美味しかったって言ってくれた」

 

「そうなんだぁ。ありがとうね、イッチー!」

 

飛び切りの笑顔でお礼を言う本音に一夏は頬を真っ赤に染めながらコクリと頷いて、それじゃあ。と言って部屋へと帰って行った。

 

本音は一夏が部屋に帰っていくのを見送った後部屋の中へと戻っていく。奥の部屋には相川が予習をしていた。

 

「あ、お帰り。ん? それは?」

 

「これ? イッチーのお手製パンだよぉ。いいでしょぉ?」

 

そう言いながら本音はベッドの上に座り袋からパンを取り出し食べようとする。すると

 

「な、何ですとぉ!? えっと、えっとぉ! ほ、本音、このトッポ一箱で一千切り下さい!」

 

「……2箱寄越しなぁ」

 

「なにィ!? うぅ~。えぇい、持ってけどろぼぉー‼」

 

相川は頭の中でトッポ2箱と一夏お手製のパンを天秤にかけ、貴重性から一夏のお手製パンの方に大きく傾いた為机の中に貯蔵しておいたトッポ2箱を本音に渡した。

トッポ2箱を受け取った本音はパンをほんの少し千切り相川に手渡した。

そして2人はパンにかぶりついた。

 

「お、美味しぃ~」

 

「お店に並んでても可笑しくない程美味しぃ!」

 

一夏のパンに2人は幸せそうな表情を浮かべ、相川はトッポ2箱払って良かったと思いながら小さなパンの欠片を噛み締めながら食べた。




次回予告
朝、何時もと変わらず一夏と本音は一緒にクラスにやって来た。誰もが今日も平穏で和む一日の始まりだと思っていた。だが、突然それは破られた。

次回
レッドアラート‼ ~モッフ、そいつを拘束しろ!~


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21話

初めての部活動の次の日、一夏は朝早くから部屋で弁当作りを行っていた。

 

「えっと、昨日用意したホウレン草のお浸しも入れたし、海苔入り卵焼きも入れた。ウィンナーも入れた。うん、準備よし」

 

弁当箱に入れたおかずを確認し蓋をする一夏。

 

〈相変わらず美味しそうなお弁当を作るわね、アンタ〉

 

「そ、そうかな? ……あと、これどうしよう」

 

一夏はそう呟きながらある物に向け困った表情を浮かべる。

 

〈どうするの? 残ったお浸しと卵焼き〉

 

ISコアにいるアイラは呆れた様な口調で言う。そう、一夏が困った表情を浮かべた理由はボウルに残ったホウレン草のお浸しと半分ほど余った海苔入りの卵焼きであったであった。

 

「どうしよう。……あ、そうだ!」

 

困った表情を浮かべていた一夏だが、何かを思いついたのかキッチン下の棚からタッパーを取り出し残ったお浸しと卵焼きを詰める。

 

〈どうするのよ?〉

 

「その、本音さん達のお昼の足しにして貰おうと思う」

 

〈なるほど。まぁ確かに彼女達なら喜んで食べるでしょうね〉

 

アイラはフッと笑みを浮かべているのかそう言い、一夏はそうだといいなぁ。と少し不安な表情を浮かべながらカバンの中に弁当とタッパーを入れる。すると扉をノックする音が鳴り響く。そして

 

『イッチー、教室行こぉ!』

 

と、何時もと変わらない時間にやってくる本音。

 

「あ、はぁ~い。ちょ、ちょっと待っててください」

 

そう言いながら一夏は鞄を背負い玄関で靴を履き替え扉を開ける。扉の先には笑顔を浮かべた本音が立っていた。

 

「おはよぉ、イッチー」

 

「お、おはよう本音さん」

 

そう挨拶を交わしながら一夏は扉に鍵を掛ける。それと同時にボヒュボヒュと2体のモッフ達が隣に何時の間にか出来ていた『警護室』と書かれた部屋から出てきた。

 

「あ、おはようございます。えっと、今日は7号さんと9号さんですか?」

 

【はい。交代制で警護することになりました。本日はよろしくお願いします。(`・ω・´)ゞ】

 

そうプラカードを見せながら敬礼するモッフ(7号と9号)達。

 

「はい。今日も、お願いします」

 

そう言い一夏はモッフ達の警護の元本音と共に教室へと向かった。

 

「昨日はありがとうね、パン」

 

「い、いえ。本音さんにはその、色々お世話になってるので、少しでも恩が返せたらなと思って渡しただけなので」

 

一夏は照れた表情を浮かべながら、喜んでもらえてよかった。と内心喜んでいた。

そして二人と2体は教室へと到着し、一夏と本音は中へと入り、モッフ達は廊下に残り一夏の席から一番近い扉の両脇に立ち銃を携えながら警備を始めた。

 

教室内に入った一夏は直ぐに自身の机に座り教科書やノートを机の中に仕舞う。

そして顔を上げると、相川と鷹月が笑みを浮かべながら近付く。

 

「織斑君おはよ!」

 

「おはよう織斑君!」

 

「お、おはよう、ございます」

 

「おはよぉ、2人ともぉ」

 

相川と鷹月は2人の元に来ると何気ない談笑をしながら時間を潰していく。すると

 

「おはよう」

 

とデュノアが笑顔で挨拶をしてきた。

 

「あ、デュノア君おはよう!」

 

「おはよう相川さん。織斑君もおはよう!」

 

「……お、おはようございます

 

と一夏にとびっきりの笑顔で挨拶をするデュノアに一夏は一瞬ビクッとなりながら小さく挨拶する。

隣の本音は一夏の様子に若干首を傾げつつも、その様子を見守り続けた。

そして会話グループの中にデュノアも交ざり談笑が再開する。

すると相川が何か思い出したような顔つきになり一夏の方に顔を向ける。

 

「そうだ、織斑君。昨日本音にパンあげたでしょ?」

 

「えっと、はい。その、日頃のお礼にと思ってあげましたけど…」

 

「実はね、私も少しだけ本音に貰った。対価は大きかったけど

 

「? な、何か言いました?」

 

「う、うぅん。何も無いよ。で、あのパンすっごく美味しかったよ!」

 

「そ、そうですか? それは良かったです」

 

はにかみながら笑顔を浮かべる一夏。その姿にほんわかした表情を浮かべる4人。するとデュノアがある事を本音に聞く。

 

「パンって?」

 

「イッチーが部活で作ったパンだよ。イッチーは料理が得意なんだぁ」

 

そう言うとデュノアはへぇ~。と声を漏らす。

 

「凄いねぇ、織斑君! その歳でパンとか難しい料理が出来るって!」

 

そう言いデュノアはつい一夏の頭を撫でてしまった。デュノアはただ褒めるために頭を撫でてあげただけであるが

 

「……」ガタガタ

 

「えっ?」

 

一夏の表情はみるみる悪くなりデュノアや相川達はどうしたんだろう?と心配そうな表情を浮かべてる。そんな中本音は直ぐに一夏の身に何が起きているのか察した

 

「イッチーから離れて‼」

 

そう叫び一夏の頭からデュノアの手を払い除けようとする前に一夏の発作の方が早かった。

 

「ひやぁあぁああぁ!???!!」

 

そう叫ぶと同時に一夏は椅子から転げ落ちる。

 

「い、イッチー!?」

 

転げ落ちた一夏に本音は急いで駆け寄り一夏の容態を診る。すると扉から一夏の悲鳴を聞いたのかモッフ達が入ってくる。そして一体は無線機で何処かに連絡を取り、もう一体は周囲警戒の為武器を構える。

 

「イッチー、大丈夫!?」

 

そう声を掛けるも一夏から返答はなく、それが余計に本音を不安に駆らせる。

 

「あぁぁ、ど、どうしたらぁ。あっ! く、薬!」

 

思い出したかのように本音は一夏が発作を起こした時に打っているペン型注射器を探す。

 

「えっと。えっと。あ、あった!」

 

上着の外や内ポケットなど手当たり次第に探して発見し、直ぐに一夏の腕に注射した。注射したと同時にチャイムの音が鳴り響き教室の前の扉が開く。

 

「おい、既にチャイムは鳴っているって、一体何をしているんだ?」

 

扉から入って来た千冬は席に座らず人だかりの様に集まっている生徒達に声を掛ける。

 

「あ、お、織斑先生! お、織斑君が!」

 

「織斑がどうしたんだ?」

 

「きゅ、急に悲鳴を上げて倒れたんです!」

 

「な、なにぃ!?」

 

生徒達の報告に千冬は驚き急ぎ生徒達を掻き分けて進むと、倒れた一夏と心配した表情で一夏に話しかけ続ける本音。そして

 

「ふもぉ」

 

「……」

 

モッフに武器を向けられ冷や汗を流しながら手を挙げるデュノアの姿があった。

 

「布仏! い、一夏の容態は?」

 

「そ、それが薬を打ったんですけど、目を覚まさないんです!」

 

「薬は打ったんだな? そうか、それならいい。重度の場合は強制的に眠らせる作用がある」

 

千冬の説明に本音は安心したような表情を浮かべ、重い息を吐く。

すると今度は複数のボヒュボヒュと足音が鳴り響き、扉からフモッフを先頭に数体のモッフ達が現れた。

 

「フモッフか。どうした?」

 

【担架を持ってきた。それと捕縛が必要と報告を受けた為人員も連れてきた】

 

プラカードを見せながらフモッフは後ろに居たモッフ数体に指示を出し一夏を担架に乗せる。

 

「そうか。それじゃあ布仏。すまんが一夏を頼む」

 

「分かりましたぁ」

 

そう言い本音は担架に乗せられた一夏とモッフ達と共に教室から出て行った。

2人とモッフ達が出て行った後、千冬はモッフ(7号と9号)に銃を向けられたデュノアの方に顔を向ける。その顔は般若の様に恐ろしい表情を浮かべていた。

 

「さて、一体何をしたデュノア?」

 

「あ、あの。ぼ、僕はただ、織斑君の、頭をその、撫でただけで…」

 

千冬から発せられる威圧感に怯えながらデュノアは振るえる唇で答える。

 

「あ、あの織斑先生。織斑君は、その、きっと驚いて症状が出たんじゃないんですか?」

 

1組の生徒の一人が、デュノアを庇う様にそう言うと何人かもそうですよ。と同意するように頷く。

 

「確かに突然頭を撫でられたら、織斑も驚くだろう。だがな」

 

千冬は一旦言葉を区切ると、デュノアを鋭く睨みつける。

 

「それが男性だった場合は、症状など起きることは無い」

 

「「「「えっ?」」」」

 

千冬の口から出た言葉に生徒達全員が呆けた顔を浮かべる。

 

「で、でもデュノア君は男ですよ?」

 

「そ、そうです。それだったら何で織斑君は症状が起きたんですか?」

 

「決まっている。そいつ(デュノア)()()()()()()()()()()

 

千冬の突然の爆弾発言に1組の生徒達は暫し思考が停止したのかシーンと静まり返り、デュノアは何でバレてるの!?と言いたげな表情を浮かべていた。

 

「ふん。何で知っているのかと言いたげな表情だな、デュノア。だがその説明は後で取調室でたっぷりと聞かせてやるから覚悟しろ。モッフ、そいつを独居房にぶち込んでおけ!」

 

「「ふもっふ!」」

 

千冬の指令にモッフ7号と9号は了承し、固まっているデュノアを拘束し担ぎ上げて連行していった。

 

(よし、面倒ごとの一つが片付いたな。……後一つ、どうやって片付けるか)

 

千冬はデュノアの件は簡単に片付いたが、もう一つのボーデヴィッヒの件はどうやって片付けようかと思案しながら固まった生徒達を起こしてSHRを始めるのであった。




次回予告
医務室に運ばれ目を覚ました一夏。伊田の問診後、本音と共に教室へと戻る。
その頃、SHRを終えた千冬は取調室へと赴きデュノアと対峙していた。

次回
バレた理由~これはお前の物だな?~


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22話

――カリカリ

 

医務室に備えられている机で書類を作成する伊田。そして

 

「……イッチー」

 

一夏が眠っているベッドの隣で心配そうな表情で椅子に座る本音が居た。

SHRは既に終了しており、1限目が始まる前であった。本音は時間いっぱいまで一夏の傍に居よう。そう思いジッと一夏の傍に居た。

すると

 

「…う、うぅん」

 

そう声が聞こえ本音は驚いた表情を浮かべ一夏の顔を覗き込む。

ゆっくりと瞼が開かれ、ぼぉー。とした表情を浮かべる一夏。

 

「イッチー、大丈夫ぅ?」

 

そう声が横から聞こえ一夏はゆっくりと本音の方に顔を向け頷く。

 

「う、うん。だ、大丈夫」

 

そう言いながら一夏はゆっくりと上体を起こす。

2人の傍に伊田も問診表がはさまれたクリップボードを持ってやって来た。

 

「起きたみたいだね。それじゃあ問診をするよ」

 

「は、はい」

 

伊田の問いに一夏は一つずつ答える。暫くして伊田は書き終えた問診表を見て総合的な結果を診断した。

 

「うん、特に異常は無いかな。もう教室には戻ってもいいけど、体に違和感とか不調を感じたらすぐに医務室に来るんだよ」

 

「は、はい。失礼します」

 

そう言い一夏は一礼して医務室を出て行く。本音もその後に続こうとしたが

 

「あ、君ちょっと」

 

そう伊田に呼び止められ本音は脚を止める。

 

「なにかぁ?」

 

「さっき一夏君には問題無いとは言ったんだけど、実は少し心配事があってね」

 

「な、何でしょうか?」

 

「うぅ~ん、確証がある訳じゃないんだけど、もしかたら症状が少しだけ戻っている可能性があるんだ」

 

「えっ!? そ、それじゃあ……」

 

伊田の説明に本音は顔色を悪くする。

本音はもしかしたら相川達と会っただけで発作が起きるんじゃないのかと思ったのだ。その顔色になった理由を本音は震える唇で伊田に問う。

 

「いやいや、君が想像している様な状態にはならないよ。ただ、もしかしたら入学してきたくらいの状態になってるかもしれない」

 

そう言われ本音は少しだけ安堵したような表情を浮かべる。

 

「それで君にお願いしたいのは、クラスの皆に今まで通り接してあげて欲しいと言って貰いたいんだ」

 

「どう言う事ですか?」

 

「今回の騒動で恐らく皆は一夏君に気を遣ってそっとしておこうとすると思うんだ。そうなると一夏君は迷惑を掛けてしまって距離を置かれていると思い込むと思うんだ。だから今まで通り接してあげた方が彼にとって有難いんだ。無論症状が起きない程度にね」

 

伊田の説明に本音は分かりました!と元気良く返事をして廊下で待っているであろう一夏の元に向かう。

そして廊下でモッフ(8号と5号)と一緒に待っていた一夏と共に教室へと向かった。

 

 

そして教室前に着いた2人と2体。一夏はビクビクしながらも教室に入ろうと取っ手に手を掛けるもすぐに手を引っ込めてしまう。

その姿に本音は、そっと一夏の手を握りしめる。

 

「大丈夫だよ、イッチー。私も付いてるから」

 

そう言い一夏を安心させる本音。一夏はう、うん。と頷きそっと取っ手に手を取って開けて中へと入る。

中に入ると一斉に生徒達は開けた一夏に注目する。その視線に一夏はビクッとしながらも、自分の席に座る。そして視線を遮るように本を開け顔を隠した。

一夏が中に入ったと同時に本音も中に入り自分の席に着き辺りを見渡す。

生徒達の多くは一夏が戻ってきた事に嬉しそうではあるが、今朝の事もあってかどう接したらいいのか分からず困った顔を浮かべていた。

 

本音は伊田の頼まれていた事をどうやって実行しようかと悩んでいると

 

「ねぇ、本音ちょっといい?」

 

と相川と鷹月が困った顔を浮かべながらやって来た。

 

「どうしたのぉ?」

 

「うん。織斑君なんだけど、大丈夫だったの?」

 

「本人に聞きたいけど、今朝の事もあるし聞けなくてさ。本音だったら何か聞いてるかなと思って」

 

2人の問いに本音はそっかぁ。と言いながら、医務室の事を2人に話した。それと伊田に頼まれた事も2人にも話した。

 

「―――そっか。症状が戻ってるかもしれないんだ」

 

「うん。でも、さっきも言った通り普段通りに接した方がイッチーの為だって先生が言ってた」

 

「それで織斑君の症状は改善されるの?」

 

「分かんない。でも、距離を置いたらイッチーが一人ぼっちになったと勘違いするかもしれないって先生が…」

 

本音の言葉に2人はそっかぁ。と悲痛そうな顔を浮かべる。そして2人は何か決心したのか顔付を変える。

 

「それじゃあ私達、皆にさっきの事伝えに周ってくるね」

 

「え? いいの?」

 

「当ったり前じゃん。皆も織斑君の事心配してるからね。早いとここのことを伝えに行った方が良いし、織斑君の事も放っておけないからね」

 

そう言って相川と鷹月は他の生徒達の元に向かっていく。2人に本音は心の中でありがとう。と感謝の気持ちを浮かべた。

 

 

 

 

その頃千冬はと言うと、学園の地下に設けられている取調室に居た。

暫く椅子に座りながら待っていると、背後にあった扉が開き2人の人物が入って来た。

 

「来たな、デュノア」

 

入って来たのは、腕に手錠がはめられたデュノアと銃をぶら下げた警備員だった。

警備員はデュノアを千冬の向かいの席に座らせると、そのまま千冬の背後の扉横に立つ。

千冬は机の引き出しから紙束を取り出し机の上に置く。

 

「さてデュノア。単刀直入に聞くぞ。お前が男装で此処に来た理由は織斑のデータを入手する為。そうだな?」

 

「……その、はい」

 

デュノアはもはやどう言い訳をしようと、既に自分がやろうとした事はバレていると考え正直に答えた。

実父と継母が営むデュノア社の命令で男装したこと、一夏からデータを入手することなどデュノアはすべて千冬に告白した。

 

「―――以上が、僕が指示された事です」

 

「分かった。では処分が決定するまでは貴様は独居房に入れられる。取り調べは以上で「あ、あの!」なんだ?」

 

「ど、どうして僕が女だって分かったんですか?」

 

デュノアは教室で告げられた事がずっと引っ掛かっていた。教室で取調室で話すと言ってたためデュノアはその訳を聞くべく声を上げたのだ。

 

「あぁ、取調室で教えてやると言ってたな」

 

千冬はそう言いながら立ち上がって部屋の隅に置かれているプラスチック製のコンテナ箱から段ボール箱を取り出した。

 

「昨日の夕方。お前宛ての荷物が届いてな」

 

「荷物、ですか?」

 

「あぁ。どうやら送り先とは別の場所に行っていたらしく遅れて到着したみたいでな。で、保安上の理由で荷物にX線検査を掛けたら、変なものが映っていてな」

 

そう言い机の引き出しから一枚の紙を取り出した。それはX線を通したであろう荷物の画像であった。

 

「荷物表には服と書いてあり、中身も服だった。だが、この画像に写っている服は何だ?」

 

そう言い画像に写っている服に指をさす。その服はコスプレ用なのかフリフリの付いた可愛らしい服であった。

 

「っ!? えっと、あの…」

 

「まぁ、当初は女装と言う趣味だと思っていた。が、念のため開けたんだ」

 

「えっ!? 開けたんですか!?」

 

「開けるに決まっているだろ。そしたら、これが出てきた」

 

そう言い段ボール箱から引っ張り出すように取り出したのは女性もののブラジャーであった。

 

「流石に女装するのにこれまで必要か?という事で後日お前に問おうとしたら、今朝の事件が起きたという訳だ」

 

以上だ。と言い千冬は説明を終えた。

 

デュノアはガックシと首を落とし、あの時量を減らしておけば良かった。と準備時の事を今更になって後悔するのであった。

そんなデュノアの姿を見つめながら千冬は別の事を思っていた。

 

(まぁ、お前が女だという事は入学以前から束から聞いていたし、フモッフ達からの報告でもすぐにばれていたからな)

 

そう思いながら後ろに居た警備員に独居房に戻すように指示する千冬であった。




次回予告
今朝の事件で迷惑を掛けたと思い落ち込む一夏に、本音や相川達が元気づけるべく話しかけ続けた。
事情を知った生徒達も一夏を元気づけるべくそれぞれの出来ることをする。

次回
一夏君元気づけよう作戦始動! ~皆、お菓子の貯蔵は十分あるか?~


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23話

「――では1限目を終了します」

 

き、起立。礼

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

ちゃ、着席

 

1限目の授業が終わり生徒達は使っていた教科書等を手早く片付けていく。一夏も使っていた教科書などを片付け本を取り出して読み始めようとしたところで

 

「織斑君、少しいい?」

 

そう相川が声を掛けてきた。

 

「な、何でしょうか?」

 

「うん、さっきの授業で少し分からないところがあったから教えて欲しくて」

 

「ど、何処ですか?」

 

そう言い一夏は先程片付けたノートを取り出す。

 

「この32ページにある問4の問題なんだけど」

 

「えっと、それでしたら、この式で解けます」

 

そう言い一夏はノートをパラパラと捲り、相川が聞いてきた問の回答が書かれたページを見せる。

 

「あ、なるほど此処が間違ってたのかぁ。織斑君ありがとうね!」

 

「い、いえ。お役に立てたなら、嬉しいです」

 

「あの、織斑君。私も聞いてもいいかな?」

 

そう言い今度は鷹月がノートを持ちながらやってくる。

 

「昨日の5限目に織斑先生が教えていた箇所、ちょっと分からなくてさ。ちょっと教えてくれない?」

 

「あ、はい。ちょ、ちょっと待って下さい」

 

机の中から別のノートを取り出しペラペラと捲り昨日やった箇所のページを開く一夏。

隣の本音もノートを取り出しながら分からなかった箇所を聞こうとする。

3人が一夏に分からない箇所を教えてもらっているのは、何時もと変わらない光景であった。

 

周りの生徒達も相川や鷹月から教えてもらった通り普段通りに過ごす。そんな中鷹月や相川が生徒達に説明していたのを耳に入れた復活したセシリアや箒は一夏の元に向かおうと考えていた。

 

(普段通りにしていればいいと言っておられましたが、どう言う事でしょう? うぅ~ん、相川さん達は一夏さんに勉強を教えてもらっている様ですし。はっ! 私も彼女たちのように勉強を教えてもらえばいいのでしょうか? そうですわ、色々あれこれ教えてもらえるチャンスですわね)

 

(普段通りと言うが、私は何時も普段通りだからな。それにしてもあいつ等、何時も一夏と一緒に居る方が可笑しいだろうが! えぇい、今日こそ追い払ってやる!)

 

2人はそれぞれそう思いながら立ち上がり一夏の元に向かおうとしたが

 

「「ふもぉ?」」ジャキッ

 

一夏の背後に居た2体のモッフが2人に向け銃を構えたのだ。

 

【自分の席に戻れ。これは警告だ】

 

一体がプラカードを見せながらそう告げた。モッフ達警備部隊は今現在警戒状態になっており、発作の原因になりそうな者などから一夏を守るべく警戒態勢になっていた。

因みに相川や鷹月が接近を許されたのは、警戒しなくても大丈夫だと判断されている為である。

 

「い、一夏さんに勉強を教えてもらおうとしてるだけですわ」

 

「お前等には関係無いだろ」

 

それぞれそう言い一歩踏み出した瞬間、バスンと発砲音が鳴り響き箒とセシリアの額に模擬弾が命中しそのまま二人は仰け反り倒れた。

 

「「~~~~~~っ!!!???」」

 

2人は声にならない程の痛みに撃たれたところを抑える。すると廊下から2体のモッフが現れ倒れている2人を拘束してそのまま教室から連れ出していった。

一連の光景に生徒達は

 

((((馬鹿だねぇ、あの二人))))

 

と思ったのであった。

 

そんな事がありながら2限目の授業が始まり取調室から戻って来た千冬が教卓へと立つ。

 

「えぇ、2限目を始めるがオルコットと篠ノ之は何処に行った?」

 

「接近を許されてもいないのに織斑君に近付いた為に、モッフ君達に撃たれて連れて行かれました」

 

2人が居ない事を生徒達に聞いてきた千冬に一人の生徒がそう説明すると、千冬はそうか。とだけ答え授業を開始した。

そして暫くして授業終了のチャイムが鳴り響く。

 

「――では2限目の授業は以上だ。織斑、挨拶を」

 

「は、はい。起立、礼」

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

「ちゃ、着席」

 

着席したと同時に千冬と真耶は教材を持って教室から出て行く。他の生徒達も教科書などを片付けていく。すると数人の生徒達が一夏の元に近付く。無論警戒態勢にあるモッフ達は近付く生徒達に

 

【用件は?】

 

とプラカードを見せる。セシリア達と対応が違うのは警戒度が大きく違う為である。

最大警戒度が5だとすると

 

警戒度0→千冬、本音、束

警戒度1→相川、鷹月

警戒度2→ご近所の奥様達

警戒度3→1組の生徒達

警戒度4→他のクラス、真耶

警戒度5→1期ヒロイン

 

となっている。

 

「えっと、織斑君や本音さんとお菓子を食べたいなぁと思って」

 

「あ、勿論未開封のお菓子です。検査してもらっても構いません」

 

そう言い持っていた未開封のお菓子をモッフに手渡す生徒。受け取ったモッフはお菓子の箱を入念に調べ、封を開けお菓子の成分を調べる。暫くして検査を終えお菓子を生徒に返す。

 

【異常は無い。接近を許可する】

 

そうプラカードを見せられ生徒達は一夏の元に向かう。

 

「織斑君お菓子食べよ」

 

「本音さんも一緒にどう?」

 

「食べるぅ!」

 

「い、いただきます」

 

そう言い生徒達と共にお菓子を食べ始める一夏。お菓子を食べる一夏に生徒達はほんわかしながらお菓子を食べる。

 

その後3限目、4限目と授業が終わり昼食の時間となった。一夏は何時もと変わらない本音達と共に昼食をとろうと考えていると

 

「あ、織斑君。今日は私達も交ざってもいいかな?」

 

「お邪魔じゃなければご一緒してもいいですか?」

 

そう話しかけてきたのは、四十院神楽と鏡ナギであった。

 

「えっと、あの、ぼ、僕は構いませんよ」

 

「私も良いよぉ。それに皆と食べたほうが美味しいしぃ」

 

一夏が構わないと許可が取れ2人はやった。と喜び本音達と一緒に弁当を買いに向かう。暫くして弁当を買ってきた本音達ともに一夏はクラスで昼食をとり始めた。

昼食をとり始め和気藹々と談笑が開いている中、一夏は昼食が始まる前から気になっていた事をナギ達に聞く。

 

「あ、あの、鏡さん。少し、いいですか?」

 

「なに、織斑君?」

 

「その、今日は皆さんどうして僕によく、話しかけてくれるんでしょうか?」

 

一夏は不安そうな表情を浮かべながら聞く。今朝の事もあって一夏は周りの皆に迷惑を掛けた為、距離を置かれると思っていた。

だがクラスメイト達は距離を置くどころか一夏を気に掛ける様に話しかけたりして来たのだ。

その事で一夏は疑問が沸いたのだ。

 

「そりゃあ織斑君が心配だからだよ」

 

「そうそう」

 

「し、心配ですか?」

 

「うん。ほら、今朝の事もあって皆心配してたんだよ」

 

「織斑君が戻って来た時は嬉しかったけど、直ぐに駆け寄って大丈夫なのかなって思ってたんだ。そしたら相川さん達から普段通りに接すればいいって教えてもらってね。だから普段通りにしながら織斑君の様子を気に掛ける様にしてたんだ」

 

「まぁ昼食を一緒にとろうって誘ったのは相川さん達が羨ましいから、混ぜてもらっただけなんだけどね」

 

ナギはそう言い笑みを浮かべる。隣の四十院もそうですね。と同意しながら笑みを零す。

2人の話を聞いた一夏はと言うと

 

「(´;ω;`)ブワッ」

 

と涙目になっていた。

 

「ど、どうしたの織斑君!?」

 

「わ、私達変な事言っちゃった!?」

 

「イッチーどうしたの!?」

 

突然涙目となった一夏に5人はアワアワと慌てる。

 

「み、皆さんが、そんなに、気に掛けてくれていたなんて、知らなくて。それが、ヒック。その、嬉しくて…」

 

そう言い涙を流す一夏に、あ、そう言う事。と5人は納得しながら涙を流す一夏に慰めるのであった。

因みにそんな様子を扉の影から覗いていた人物がいた。

 

「良かったな、一夏。お前の事をちゃんと気に掛けてくれる生徒達で」

 

と千冬が嬉しそうな表情を浮かべながら見ていた。因みにその足元には

 

「むぅ~~! むぅ~~!?」

 

と猿轡をされた鈴がロープで拘束されて転がされていた。毎度の如く1組に突撃して一夏を連れ出して食堂でご飯を食べようとしたのだが、千冬が現れてこの様な状態にされたのである。




次回予告
クラスメイト達に気に掛けられて数日が経ったある日。部活で使うレシピを調べるべく図書室に行く一夏とモッフ達。
そして放課後、料理研究部へと行き料理を作り始める部員達。
さてさて、一夏君は今回どんな料理を作るのだろうか?

次回
旬の食材の料理~お腹空いたぁ~


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24話

デュノアが女とバレてから数日が経ったある日。一夏はモッフ(8号と9号)と共に図書室に来ていた。

 

「えっと、料理コーナーは…。あ、あった」

 

そう言いながら一夏は料理コーナーに置かれている本の中から一冊の本を取り出し開く。

 

「えっと、6月の食材を使った料理は…。ほへぇ~、結構あるんだぁ」

 

本に書かれていた料理に一夏は驚きの声を零しながら、他の本数冊をもって机の元に向かう。

無論モッフ達も持つのを手伝い机の上へと置く。

色々な料理本を読みながら一夏はノートに料理のレシピと簡単な絵を描いていく。

 

それから時間は経ち、放課後。

使っていたノートや教科書などをカバンに仕舞う一夏。

 

「ねぇねぇイッチー。今日お部屋に遊びに行ってもいい?」

 

「えっと、ごめんなさい。今日、部活で遅くなってしまうんです」

 

「あ、今日なんだぁ。それじゃあ仕方ないねぇ」

 

「ご、ごめんなさい。その、代わりと言ってはなんですが冷たいお菓子を持ってきますね」

 

「お菓子‼ しかも冷たいの! うん、良いよぉ!」

 

一夏の口から冷たいお菓子と出ると本音は嬉しそうな表情を浮かべ、「冷たいお菓子、どんなお菓子かなぁ?」

と零しながら想像に耽るのであった。

 

そして一夏はモッフ達と共に家庭科室へと向かった。

中に入るとセレスと稲葉、そして神崎が準備をしていた。

 

「こ、こんにちは」

 

「お! 織斑君こんにちは。今日も宜しくね」

 

「よろしくね、織斑君」

 

「宜しくなのじゃ」

 

それぞれ挨拶を受けながら一夏は自分の机に行き拡張領域に仕舞っていた材料を取り出していく。

一夏が取り出したのはカットされたメロン、粉寒天、牛乳、パセリ、マッシュルーム、バター、インスタントご飯であった。

 

「織斑君、今日は何をつくる予定なの?」

 

「えっと、マッシュルームの混ぜご飯とメロンのミルク寒天です」

 

「あら、美味しそうね」

 

「うむ、混ぜご飯に冷たい寒天とはいいのぉ」

 

3人から組み合わせが良い。と褒めてもらい一夏は頬を染めながら、ありがとう、ございます。と小さく零す。

そして残りの部員達も到着し、それぞれ持ってきた食材を出しながら準備を始める。

 

一夏はまずカットされたメロンの水気を切る。次に鍋に粉寒天、水、牛乳を入れよく混ぜながら煮込む。粉寒天が完全に溶けた事を確認後砂糖と牛乳を少しずつ加え沸騰直前まで加熱した。

沸騰直前まで煮立った寒天をボウルに移し、とろみがつくまで冷水で冷やす。とろみがついてきた後、水気を切ったメロンを入れ流し缶の中に移し冷蔵庫の中に入れ冷やした。

 

冷蔵庫の中に入れた寒天が固まるまでの間、一夏はもう一つのマッシュルームの混ぜ込みご飯をつくり始めた。

まず持ってきたインスタントご飯を電子レンジの中に入れ温め始めた。インスタントご飯が出来るまでの間にマッシュルームとパセリを薄切りにしたり、細切れにした。

切ったマッシュルームをあらかじめ熱したフライパンにバターと一緒に入れ良く炒める。暫くしてフライパンを火からおろしパセリと醤油、塩と胡椒を混ぜる。混ぜ終えた後に温めたインスタントご飯を入れまた混ぜ込み器に盛りつけた。

 

マッシュルームの混ぜ込みご飯を作っている間に、冷蔵庫に入れた寒天が固まっており、一夏は流し缶から形が崩れない様慎重に取り出し、食べやすい大きさに切り分けて小皿に盛り付けて行った。

 

 

一夏が料理を完成させて暫くして他の部員達の料理も完成しそれぞれお皿に盛り付け食べ易い様に更に小皿に盛り付けてそれぞれの机に並べる。

机の上にはインゲンの入った牛肉のレンコン巻きフライ、豚と枝豆の梅生姜焼き、大葉と梅の春巻きなど6月や初夏の旬の食材を使った料理が並べられた。

 

「それじゃあ皆、手を合わせて」

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

それぞれ手を合わせて頂きます。と挨拶するとそれぞれ気になっていた料理に手を取り口に運ぶ。

 

「おぉ~、このレンコン巻き美味しいですぅ」

 

「此方の梅入りの生姜焼きも中々の物ですわ」

 

「どれも美味しいわね」

 

「ほんまやねぇ」

 

「織斑君が作ったマッシュルームの混ぜ込みご飯も美味しいわね」

 

「そうね。手軽にできる混ぜ込みご飯だから部屋の簡易キッチンでもすぐ出来そうね」

 

「この寒天のお菓子も中々の美味じゃ」

 

皆気になった料理を手に取り口に運びながら料理を堪能し、一夏も

 

「モヒ( ´ω`c)モヒ」

 

と美味しそうに料理を食べていた。

暫くしてそれぞれの机の上に置かれていた料理は無くなり、部員達は使った食器を洗いまた次のお題を考えるべく用紙にお題を書いていく。

 

「―――それじゃあお題が集まったからどれにするか決めるけど、毎回皆で話し合いをして決めるよりもくじ引きみたいにした方が早いと思うからそっちの方にするわね」

 

「「「「「は~い」」」」

 

セレスは皆の返事を聞いた後、お題の書かれた紙を箱の中に入れ見えない様明後日の方向に顔を向けながら箱に手を突っ込みガサゴソと動かす。

そして腕を引っ張り出し一枚の紙を取り出した。

其処に書いてあったお題は

 

【真夏に嬉しいお菓子】

 

「それじゃあ次のお題はこの“真夏に嬉しいお菓子”です。次の部活動は来週だから皆準備をしっかりとして来てね」

 

「「「「はぁ~い!」」」」

 

こうして今日の部活動は無事に終わった。

 

 

因みに、一夏は部活終了後にメロンのミルク寒天を持って約束通り本音に手渡していた。

ミルク寒天を食べた本音の感想は

 

「冷たくて、美味しいぃ~~」

 

と物凄く幸せそうな表情を浮かべる本音であった。




次回予告
部活動の次の日、何故かデュノアが教室に居る事に生徒達が困惑する事態に。千冬はその訳を説明して生徒達を落ち着かせる。
そして放課後、一夏は本音達と共に外のベンチでお菓子を食べていると、アリーナから大きな衝撃音を聞くのであった。

次回
千冬、ストレス値上昇~……貴様ら、覚悟はできてるんだろうなぁ?~







どうも、のんのんびよりです。最近投稿ペースが遅延して本当に申し訳ないです。
さて、普段なら次回予告を書いて終わっている後書きなんですが、今回ちょっと理由がありまして、出てきました。
その理由というのは

一夏「う、うぷ主さん。何か用ですか?」

本音「なんで私達を呼んだのぉ?」

メサ【何か御用ですか?(*´д`)??】

千冬「いきなり何だ、主」

束「お裁縫の途中だったのに、何の用?」

おぉ、来たね5人共。ちょっと確認だけど束さんと千冬さん以外の3人は以前憲彦先生の所の一夏君達とコラボトークしたの憶えてる?

一夏「う、うん。楽しかったです」

本音「うんうん。それがどうかしたの?」

実は憲彦先生から今度は此方に来られませんかって、お誘いを受けてね。それで集まって貰った訳。

一夏「む、向こうに行けるんですか? それは嬉しいですヽ(*´∀`)ノ」

本音「そうだねぇ。また向こうの私とお話ししたいし」

メサ【またバジン殿と料理の事でお話ししたかったので、楽しみですv( ̄∇ ̄)】

千冬「ほぉ、向こうの一夏達と会えるのか。それは楽しみだな」

束「確かに‼ 別の世界のいっくん達がどんなものか気になるね!」

そりゃあ良かった。それじゃあちょっと待っててね。向こうの状況とか見てくるから

一夏「楽しみだね、本音さん」

本音「うん!」

束「そう言えばちーちゃん。前にお気に入りの湯呑を思いっきり壁に投げつけてたけど、あれ何したの?」

千冬「気にするな。少し制裁を加えただけだ」

お待たせ。憲彦先生から向こうに行く為のスイッチを貰って来たよ。それじゃあ皆集まって!

~ゾロゾロ5人集合中~

皆、集まった? それじゃあ押しまぁす!

“ピンポ~~ン”

千冬「…何も起きんぞ、主」

あれ? 可笑しいな。もう一回押してみるか

“ピンポ~~ン”

一夏「や、やっぱり何も起きませんよ?」

おっかしぃな? 押したらチャイムが鳴って向こうに行けるって言ってたんだけどなぁ? 仕方ない、強めに押すか

“ピンポ~~~~~ン”

ゴゴゴゴゴゴ←黒い穴が生成中

お! 上手く行ったみたいだな

一夏「こ、これ上手く行ったのでしょうか?」

本音「なんか違うようなぁ?」

気にしない、気にしない。ほら、5人共早くいくよぉ!

5人「お、おぉ~」

と言う訳で憲彦先生とコラボトークをする為、ちょっと出かけてきます! 
では、また次回!


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25話

前話でお知らせした、憲彦先生とのコラボトークショウに参加させてもらいました。
色々とはっちゃけていて面白い話となっておりましたので、ぜひお時間がありましたらご覧いただきたいです。

コラボトークした作品は『ISと無気力な救世主リメイク』という作品です。

https://syosetu.org/novel/205676/


部活動の次の日、一夏は昨日部活動で作ったメロンのミルク寒天と同じ作り方で、今度はイチゴのミルク寒天を昨晩作成しそれをタッパーに入れていた。

 

<はぁ~。すぐに応用料理を作るわよね。しかも美味しそうだし>

 

「そうかな? でも、アイラに褒められると、その、嬉しいかな」

 

<…あっそう>

 

そう言うと、アイラはそれ以降黙り込んでしまう。

一夏は一瞬心配な表情を浮かべるが、何時ものダンマリだろうと考え調理に戻る。

そんな中、ISコアにいるアイラはと言うと頬を染めながら口を尖らせていた。

 

<(まったく、何であぁも簡単に照れさせる事を言えるのよ。…まぁ、悪い気はしないけど)>

 

そんな事を思いながら世間の情勢から最新ISから装備までの情報収集を行うのであった。

 

 

朝の弁当作成とおやつの切り分けを手早く済ませ、朝食を取り教室に行こうとカバンを持ったところで扉がノックする音が鳴り響く。

 

『イッチー、教室行こぉ!』

 

『織斑君、一緒に教室に行こ』

 

扉の向こうから本音と相川の声が聞こえ、一夏はカバンを背負い鍵を開け扉を開ける。

 

「お、おはよう」

 

「おはよう、イッチー」

 

「おはよう織斑君」

 

挨拶を交わした3人。それと同時に扉の警備室から2体のモッフがライフルを携えながら出てきた。

 

「おはよう、ございます」

 

「「ふもっふ!」」

 

一夏の挨拶に元気よく返すモッフ達(10号と11号)

そして3人と2体は教室へと向かい始めた。

 

暫く3人での談笑をしながら向かっていると途中で鷹月とも合流し、4人で教室へと向かうのであった。

そして教室へと到着し中に入るとそれぞれの机に荷物などを仕舞って行く。

 

「それでねその子、『FPSは…、遊びじゃないんだよ!』って言いながら白熱してたんだよ」

 

「そ、それは白熱してるねぇ」

 

「そ、そうですね。でも、それだけのめり込めるゲームは本当に面白い作品だと思います」

 

「あぁ、確かにぃ。私の幼馴染のかんちゃんもよく高速でキーボードを打てる様にする為に、一時期タイピングゲームにはまってたなぁ」

 

「タイピングゲーム? あぁ、確かにあれって時間内に打たないといけないもんねぇ」

 

「それ、僕もやってました。でも、指が直ぐにつってしまうので止めましたけど」

 

「確かに、あれを高速打ちしようと思うと指つりそうだよね」

 

それぞれゲームの話をしているとチャイムの音が鳴り響き相川や鷹月達は席へと戻り、全員が席に着いたと同時に教室前の扉から真耶と千冬が入って来た。何時もと違うとしたら、2人の後からデュノアが入って来た事だった。

デュノアが入って来た事に生徒達は驚きの表情を浮かべていた。

その光景にも反応せず千冬は淡々と言った表情で口を開く。

 

「諸君、おはよう。えぇ、見ての通りデュノアが本日からまたこのクラスの生徒として通うことになった」

 

その言葉に生徒達は動揺が走り、ざわざわと騒がしくなる。すると一人の生徒が手を挙げた。

 

「あの、織斑先生。彼女は男性操縦者と偽って入学してきたんですよね? それじゃあ此処にはいられないんじゃ?」

 

「夜竹の言う通り、コイツは性別を偽って転入してきた。だが、性別を偽っただけで特に犯罪的な事をしていない為、学園上層部の恩情によって再度女性として入学してきたと言う訳だ」

 

千冬の説明に生徒達は、納得のいった者と何処か納得がいっていない者と半々といった感じであった。

 

「お前達も色々と思うところがあると思うが受け入れる様に。それじゃあデュノア、さっさと自分の席に着け」

 

千冬に言われデュノアは居心地が悪そうな表情を浮かべながら席に着く。

 

「では、朝のSHRを始める。まず初めに――――」

 

デュノアが席に着いたと同時に千冬はSHRを始める。

さて、クラスにデュノアが戻って来れた理由、それは千冬が言った通り学園上層部の恩情によって戻って来れたのだが、もう一つ理由があったのだ。

それは、デュノア社が関与している決定的な証拠が無かったからである。

デュノアの荷物、そしてスマホなど教師達が入念に調べたが会社が指示した証拠の物はなく、シャルロットに聞いても

 

『その、口頭で指示されて。手段は自分で考えろって言われました』

 

と言い、関与している証拠は一切見つからなかった。

このことから学園上層部は証拠が無い以上、デュノアを拘束しておく訳にはいかない上に、シャルロット本人がデュノア社とは縁を切りたいと申し出てきた為協議の結果彼女が本当にデュノア社と縁を切ったと確認できるまで学園で保護する事となったのだ。

そしてその監視役としてクラスの担任だった千冬が選ばれた為、また元のクラスに戻って来たという訳である。

 

因みに監視役に選ばれた事に千冬はかなりキレて会議室が修羅場と化しそうだったのを何とか上層部が交渉し、納得してもらったとか。

 

 

「――それでは最後に、再来週に行われる学年別個人トーナメント戦についての変更があった為知らせる。山田先生、詳細を」

 

「はい。えぇ、再来週行われるトーナメント戦なのですが、今年入って来た代表候補生及び国家代表の多くが第3世代機のISを所持している事から、より経験などを得る目的としてツーマンセルで行うことになりました。此方がその詳細が書かれた紙になりますので皆さんしっかりと熟読してください。それとツーマンセルの希望票は明日配布しますので、それまでに周りとよく相談してください」

 

真耶はそう説明しながら、持っていた用紙を前列の生徒達に渡し後ろに回させる

生徒達に配られた用紙には以下の条件が書かれていた。

 

1.タッグを組む生徒は同学年とし、クラス等は関係なく組める。

2.代表候補生もしくは国家代表生同士のタッグは武装に制限を掛ける事。一般生徒とのタッグの場合もこの条件は当てはまる。

3.対戦相手に国家代表生もしくは代表候補生が居る場合は2の条件は免除される

4.当日までにタッグが決められなかった場合は、当日に抽選によってタッグが決められる。

 

と他にもいろいろと条件が書かれているが、上記の条件が基本として大きく書かれていた。

すると一人の生徒が手を挙げてる。

 

「あの織斑先生。織斑君はどうするんでしょうか?」

 

そう聞くと周りの生徒達も、どうするんだろう。とざわざわと騒がしくなる。

 

「その辺に抜かりはない。学園上層部と協議した結果、織斑の学年別トーナメント戦の参加は自由となった。それと織斑のタッグは、織斑とタッグになる奴が一緒に私の所に来なければ参加は認めない。こうする理由は、本人の与り知らないところで勝手に希望票に名前を書いて出す“馬鹿者”がいる恐れがある為こうすることにした」

 

千冬は馬鹿者の部分を若干強調しながら説明し、生徒達はなるほどと納得した表情を浮かべる。(数人はガックシと肩を落とすのであった)

 

「では、本日のSHRは以上とする。織斑、挨拶を」

 

「は、はい。起立、気をつけ、礼。着席」

 

朝のSHRは終わり千冬達が教室から出て行き、生徒達は先程の学年別トーナメント戦のタッグをどうするかと話し合いを始めたり、他の談笑を始めたりした。

 

「イッチーはトーナメント戦でるの?」

 

「その、出来たら出たいなと思ってます。けど…」

 

「そっかぁ。タッグの人がいないとねぇ」

 

そうお喋りをしながら次の授業の準備をする2人。

 

(うぅ~~ん。イッチーはまだ悩んでいるみたいだし、もう少ししてから誘ってみようかな?)

 

(ほ、本音さんに何時も迷惑かけてるから頼めなかった。でも、他にタッグが組めそうな人がいないし、どうしよう)

 

2人はそう思いながら準備をするのであった。

 

因みにその馬鹿者(セシリアと箒とシャルロット)3人はというと

 

「「「……」」」

 

「「ふもぉ」」

 

【分かってるよな?(゜д゜メ)】

 

とモッフ達に銃とスタンバトンとチラつかせられ一夏の元に行けなかったのであった。

 

そうして時間は過ぎて行き、放課後。

生徒達はそれぞれ部活に行く者や、教室に残って駄弁っていたりするもので別れた。本音もカバンに教科書などを仕舞っていると

 

「あ、あの本音さん」

 

「ん~、なにぃイッチー?」

 

「その、昨日作ったメロンのミルク寒天の応用で、イチゴのミルク寒天も作ってみたんです。ですから、その、相川さん達と味見をしてくれませんか?」

 

「昨日のイチゴ版! 食べるぅ!」

 

本音がハイテンションで返事をしていると、相川達も一夏達の席へと集まった。

 

「どうしたの、本音? やけにハイテンションみたいだけど」

 

「だってイッチーが作ってくれたお菓子の味見をお願いされたんだよぉ」

 

「えぇ! そ、それは確かにテンションが上がるわね」

 

「うん。確かに」

 

「あの、相川さん達にも味見をお願いしたんですが…。その、いいですか?」

 

「私達もいいの?」

 

「は、はい」

 

自分達も食べられる。相川達はいよっしゃあぁ!と内心高ぶっていた。そして4人は教室から出て外に設けられているベンチへと向かった。

 

「―――うぅ~~ん! 冷たくて、美味しいぃ!」

 

「本当。お店で売ってるお菓子みたい」

 

「だね。これだったら私、毎日買っちゃうかも」

 

ベンチでイチゴのミルク寒天を食べ、3人はお店に出ていても可笑しくない程の美味さに舌鼓していた。

 

「よ、喜んでもらえて、良かったです」

 

3人に喜んでもらえた事に一夏ははにかみながら笑顔を浮かべ自身の手元にあるイチゴのミルク寒天を頬張る。

初夏の為か若干気温は暑いものの、木陰に置かれたベンチには涼しい風が吹き、4人はただ幸せな時間が過ぎていく。

 

『ガッシャーーン』

 

「「「「っ!?」」」」

 

突然の音に4人の肩は跳ね上がり、近くに居たモッフはすぐさま銃を構え周辺警戒を行う。

 

「な、なに今の音?」

 

「どっかで事故でもあったのかな?」

 

相川と鷹月がそう話していると、モッフ(11号)が一夏の傍に近付きプラカードを見せる。

 

【どうやらアリーナにてトラブルが起きたみたいで、千冬氏がそちらに向かったとのことです】

 

「え、お姉ちゃんが? 何があったんですか?」

 

【詳細はわかりませんが、代表候補生同士の喧嘩があったとのことです】

 

「そ、そうなんですか」

 

「何か気になるから見に行ってみる?」

 

【それはお勧めできない。一夏様をお守りするのと同時に、君達の安全も守らねばならない為行くのはよした方がいい】

 

「そ、そう? それじゃあ大人しく此処にいておこっか」

 

「それがいいね。下手に行って巻き込まれたりしたら危ないもんね」

 

そう言い相川達はお菓子を食べるのを再開し、一夏は不安な気持ちを抱きつつも千冬が怪我無く無事に事態を収拾できることを祈りながらベンチに座り直した。

 

 

 

 

 

時間は少し遡り、一夏達がベンチに到着するほんの少し前まで戻る。

この日、アリーナでは数人の生徒達が訓練を行っており、それぞれタッグマッチに備えてかタッグを組んで連携練習を行っていた。

其処へセシリアがISを身に纏ってやって来た。彼女もタッグマッチの為練習しようと考えていたが、組んでくれる相手がまだいない為一人訓練をしようとアリーナに出ていると、向かいのピットから甲龍を纏った鈴が現れた。

 

「あら、貴女は2組の代表の…」

 

「そう言うアンタはイギリスの代表じゃない。何してるのよ、此処で」

 

「訓練ですわ。もうじき学年別トーナメント戦がありますので」

 

「ふぅ~ん。でも今年はタッグマッチらしいから一人で練習しても連携が取れないんじゃないの?」

 

「別に問題ありませんわ。わたくしが華麗に指示を出せばいいだけの事ですので」

 

「華麗にねぇ。合同授業でのアンタの指示の出し方を見た限りじゃ、無理そうだけど」

 

「そう言うのでしたら、貴女も同じだと思いますが」

 

「随分と私に気に喰わない様な言い方ね?」

 

「無論ですわ。怖がっている一夏さんにずけずけと近付いておられるのですから」

 

「あれは私は味方だって教えるためよ。そう言うアンタだって料理が下手糞らしいのに、手料理を食べさせようとしたらしいじゃない」

 

「あら、それは貴女も同じじゃありませんの? 食べられない一夏さんに無理矢理料理を手渡そうとしたらしいじゃありませんの」

 

互いに喧嘩を売ったり買ったりして、2人の間に只ならぬ空気が流れ始める。

 

「もういい加減口喧嘩するのは止めましょうか」

 

「えぇ。お互い国の代表候補生。決着を決めるのでしたらやるしかありませんわ」

 

そう言い二人は周りに生徒がいるにも関わらず模擬戦を始めようとすると

 

「ほぉ、なら私も混ぜて貰おうか」

 

と2人の横から声がかかり、2人は声のした方に顔を向けるとラウラがISを身に纏った状態で立っていた。

 

「アンタ、最近転校してきた奴じゃない」

 

「どう言うつもりですの?」

 

「ふん。ただ貴様らが本当に強いのかどうか確かめるだけだ。気にするな。あぁ、勝つ自信が無いのならさっさと帰ってくれていいぞ。負け犬など呼ぶつもりはないからな」

 

煽る様に話すラウラに2人はカチンと頭にきて武器を取り出す。

 

「いいわ。吠え面掻くんじゃないわよ!」

 

「やってやりますわ!」

 

2人が武器を構えたと同時にラウラも武器を構え戦闘が開始した。

突如開始した模擬戦に周りにいた生徒達は驚きと悲鳴を上げ急いで避難を始める。管制室に居た教師もアナウンスで直ぐに止めさせようと怒鳴る。

 

「ちょっと、貴女達! 模擬戦の許可は出していないわよ!」

 

そう怒鳴るも3人の耳には届いておらず攻撃はあちこちに飛び交い何時避難中の生徒達を巻き込むか分からない状況であった。管制室の教師は急ぎ内線用の受話器を手に取り連絡を取る。

 

「もしもし、此方第1アリーナ管制室の諸見里です。現在生徒3名が無許可で模擬戦を始め、危機的状況です! 避難を終えていない生徒も居り何時ケガ人が出てもおかしくない状況で、急いで誰か寄越してください!」

 

激しい攻防が繰り広げる3人。彼女達は周囲の状況にも目もくれず戦い続けていた。

 

「いい加減堕ちたらどうなのよ!」

 

「そうそう墜ちるものか!」

 

「このぉ!」

 

3人の攻撃は苛烈さを極め、あちこちにクレーターを造ったり壁には大きなへこみを造ったりと酷い有様であった。

そして3人はそれぞれ一旦距離をとり息を整える。そして再度攻撃しようと武器を構え直した瞬間、3人に突然とてつもない程の寒気がはしった。

 

(な、なによいきなり!? 物凄い寒気がする!)

 

(なんなんですの、この寒気は!? そ、それにか、体の震えが止まりませんわ)

 

(こ、このプレッシャーは何だ!? あいつ等じゃないとすると一体誰が)

 

それぞれ突然の寒気とプレッシャーに驚いていると、地の底から響く様な声がアリーナ内に響く。

 

貴様らぁ、覚悟はできてるんだろうなぁ?

 

そう声が聞こえ、3人は声のした方に恐る恐る首を向けると、其処には腰にありったけの打鉄用の近接ブレード《葵》を引っ提げた千冬が立っていた。

その姿を見た3人はガタガタと震え、顔面は蒼白であった。

 

「言い訳は後で聞いてやる。兎に角今から貴様らを――」

 

 

 

――――――――シメアゲル

 

千冬はそう言い終えると同時に持っていた葵を勢いよく振り投げた。葵は回転しながら3人の元に向かい、ラウラと鈴は急ぎその場から退避するも

 

「ふぎゃっ!!????!!」

 

セシリアは間に合わず顔面に葵が命中、そのまま後ろに倒れ込んでしまう。避けた二人に千冬は慌てることなく腰に装備した葵を抜き、常人では出せない脚力で二人に迫る。

鈴はパニック状態になりながらも何とか千冬から逃げようとするも

 

2人目

 

そう背後から聞こえ、振り向く暇もなく

 

「あぶくぅ!!!??!!!!」

 

後頭部に強い衝撃を受けそのままずっこけるような形で地面に横たわる。そして千冬は阿修羅の様な表情でラウラの方に顔を向ける。

 

後は貴様だけだ

 

「きょ、教官。わ、私は、た、ただ…」

 

黙れ

 

そう短く言い、目にも止まらなぬ速さでラウラの懐に潜り込み千冬はたまりにたまったストレスを一気に開放するかのようにフルスイングで葵を振る。

 

「うがはっ!???!!!」

 

横っ腹からくる強い衝撃で吹き飛ばされたラウラはそのまま地面に転がり落ち意識を失う。

 

「此方千冬、問題を起こした生徒3名を鎮圧した。教師数人を至急送ってくれ」

 

無線機でそう指示を出した千冬は転がる3人に目もくれずアリーナから出て行った。

その後武装した教師数人がやってきて3人を拘束、反省房に放り込まれたのは言うまでもない。




次回予告
3人の制圧を終えた千冬は、寮母室に戻り一息ついていると一夏が部屋にやって来た。
千冬は一夏を部屋に上げ用件を聞くと、料理を作りに来たと言う。
次回
団欒
~やはり、のんびりできる日は良い~


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26話

~職員室~

アリーナでの一件を手早く済ませた千冬は、重いため息を吐きながら自身の机に置いてあるコーヒーを口にする。

そしてカップに入ったコーヒーを飲み干すと、千冬は現在の時刻を確認する。

 

(16時半か。明日の教材の準備は済んでいるし、どうしたものか)

 

そう思いながら机の上を整理していると、書類を抱えた真耶が千冬の隣の席へと戻ってくる。

 

「あ、先輩。さっきのアリーナの喧嘩、大丈夫でしたか?」

 

「あんなもの早々に片付く。で、あの馬鹿者どもは何時まで反省房に放り込んでおくと決まった?」

 

「えっと、上層部と学園長の協議の結果、タッグマッチ戦までだそうです」

 

「チッ。もっと長い事放り込めばいいものを」

 

舌打ち交じりで言う千冬に、真耶は苦笑いを浮かべながら持っていた資料を見つめながら分けて行く。

 

「アリーナの設備を壊したと言うよりもへこみやクレーターを造ったりした程度などで、そんなに長くは放り込めませんよ」

 

「それでもだ。周りに生徒達が居たと言うのにそれを全く気にもしないでいきなりで模擬戦を始めたんだぞ? それを考慮してもタッグマッチ戦までは短すぎる」

 

「…確かにそうですね」

 

千冬の説明に真耶も若干思うところがあるのか、若干悲しい表情を浮かべる。

自身が受け持った生徒が喧嘩、それも周りに人がいる状況でISを使った喧嘩を始めたのだ。

下手をすれば死人も出る恐れがあった事だけに、真耶はセシリア達に十分反省してくれることを切に願っていた。

 

真耶と駄弁っている間に時刻は17時を過ぎ、千冬は寮母室に戻ると真耶に伝え手提げかばんを持って職員室を後にした。

寮母室に戻った千冬は手提げカバンから弁当箱を取り出し流し台でサッと洗い、乾燥機の中に仕舞いソファに深く座り込む。

自然と重いため息が零れ目を閉じていると

 

[コンコン]

 

と扉をノックする音が鳴り響き、閉じていた目を開け体を起こし扉の前まで行く千冬。

 

「誰だ?」

 

『あ、あの、織斑です』

 

「織斑? 鍵は開いてる。中に入れ」

 

そう言うと扉がそっと開き顔を覗かせたのは心配そうな表情を浮かべた一夏だった。

 

「お、お邪魔します」

 

そう言い中に入る一夏。

 

「どうかしたのか一夏?」

 

「あの、モッフさん達からアリーナで喧嘩が起きて、お姉ちゃんが止めに行ったって聞いて心配になって…」

 

そう告げる一夏に千冬は

 

「そ、そうか」

(う、うぅぅぅううぅ。や、優しいなぁ一夏。お、お姉ちゃん。そんな優しい弟がいて幸せだぞぉ!)

 

と内心泣き喜んでいた。

 

「見ての通り怪我はない。私はそう軟に鍛えていないからな」

 

「そ、そっかぁ。良かったぁ」

 

安心したようにほっと胸を撫で下ろす一夏。

すると一夏は手をもじもじさせる。

 

「あの、お姉ちゃん。この後、時間ってある?」

 

「ん、時間か? そりゃあ消灯時間までは私は此処にいるが、どうしてだ?」

 

「その、久しぶりに、お姉ちゃんとご飯を食べたいと思って…。だ、駄目かな?」

 

上目遣いで聞いてくる一夏。その姿に千冬は

 

(い、いかん。は、鼻から血が出そう…)

 

と弟ラブメーターが一気に急上昇した為か鼻から溢れ出そうになるものを必死に抑える。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

「はっ!? だ、大丈夫だぞ! し、しかし食材がなぁ」

 

そう言いながら千冬は今朝の冷蔵庫の中身を思い出す。

 

(確か、昨日作った煮物の残りと冷凍餃子。それとキャベツくらいだったか?)

 

碌な食材が無いな。と思っていると

 

「い、一応僕の部屋から少し持って来てるから、それで出来るよ」

 

「そうか。…ん? も、もしかて、一夏が作ってくれるのか?」

 

「うん」

 

「それは楽しみだな」(久しぶりの一夏の手料理! 此処で食わねば何時食えるか分からん!)

 

中々忙しい余りに一夏の手料理が食べられずにいた千冬にとって、この機会は滅多にないチャンス。

だからこそ

 

(この時間に仕事を持ち込もうとしてきたら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらゆる手段を用いて断る!)

 

と考えていた。

 

キッチンに立ち一夏は冷蔵庫に入っている物を確認し、一夏は冷蔵庫から煮物と餃子、キャベツを取り出し調理を開始した。

キッチンからシャカシャカと米を研ぐ音を聞きながら千冬はほっこりとした笑みを浮かべながらその様子を見ていた。

 

(はぁ、久しぶりの手料理。楽しみだなぁ)

 

そう思いながら一夏が出してくれたきゅうりの浅漬け(手作り)を食べる千冬。すると

 

[コンコン]

 

とノックする音が鳴り響く。

 

(チッ。仕事だったら適当に理由を付けて断るか)

 

そう思いながら千冬は鍵を開け扉を開けると、其処には

 

「よぉ千冬」

 

「なんだ伊田か。何か用か?」

 

扉を開けた先にいた伊田に問う千冬。

 

「いや、久しぶりに二人で晩酌でもどうかなと思ってな。あぁ、無論ノンアルの酒だからな」

 

そう言いながら手に持っていた大きめのビニール袋を見せる伊田。

 

「それはいいな。あ、そうだ。ちょっと待っててくれ」

 

ある事を思いついた千冬は中に入っていき、キッチンにいた一夏に声を掛ける。

 

「一夏、伊田が来たんだがアイツも交じってもいいか?」

 

「え、伊田さんも? うん、良いよ」

 

一夏の許可を貰い千冬は入り口にいた伊田を中へと招き入れる。

 

「おじゃましますっと、やぁ一夏君」

 

「こ、こんばんわ伊田さん」

 

「千冬、もしかして今晩は一夏君の手料理だったのか?」

 

「あぁ。ほら、何時までも立っていないでこっちに座ったらどうだ」

 

そう誘われ伊田は千冬の向かいの席に座る。そして料理が出来るまで千冬と同様に浅漬けを口にしていた。

 

それから暫くしてお盆に料理を載せて持ってくる一夏。

 

「お、お待たせしました」

 

そう言いお盆を机の上に置きそれぞれの前に並べて行く。

 

「おぉ、旨そうな炊き込みご飯だな」

 

「確かに、いい匂いがする」

 

千冬達の前に置かれたのは人参やゴボウ、油揚げなどが入った炊き込みご飯であった。

2人が炊き込みご飯の匂いにほんわかしていと、一夏が次に持ってきたのは大きめの鍋であった。

 

「ロールキャベツ、です」

 

そう言って鍋を置き、蓋を開けるとコンソメの匂いとロールキャベツとジャガイモがゴロゴロと転がっていた。

 

「ふむ、これも旨そうだ」

 

「そうだな」

 

料理を並び終えた一夏は伊田の隣の席に座り、それを確認した千冬はそれじゃあ。と声を掛けながら手を合わせる。

 

「頂きます」

 

「「頂きます/い、いただきます」」

 

そう言いながらそれぞれ箸を手にご飯を食べ始める。

 

「この炊き込みご飯、具材に味が染みていて旨いな」

 

「確かに。俺が来てからそんなに時間が経っている訳でもないのに、結構沁みてるな」

 

炊き込みご飯い入っているゴボウや筍など味が沁み難いものまでしっかりと味が沁みており、ご飯も味が濃すぎず、薄すぎずと言った丁度良い感じであった。

 

「この、炊き込ご飯。お姉ちゃんが作った煮物を使ったんだよ」

 

「ん? 煮物って冷蔵庫に入っていた物か?」

 

「うん」

 

「ほぉ、上手い活用法だな」

 

「だな。俺も煮物を作った時に余りそうだったら試してみるか」

 

そう言いながら炊き込みご飯を頬張る伊田。そして千冬は鍋に入っているロールキャベツをお玉で掬い、お椀によそってかぶりつく。

すると千冬は、かぶりついたロールキャベツにふと違和感を感じ、その断面を見る。

キャベツに包まれていたのは餃子であった。

 

「これ、餃子を巻いたのか?」

 

「う、うん。そのまま焼いても良かったんだけど、キャベツがあったからロールキャベツにしてみようと思って試してみたの」

 

「はぁ~、こういう調理法もあったのか」

 

千冬と伊田は改めて一夏の腕に驚くのであった。

その後談笑を交えながら千冬達は一夏の手料理を食べ終え、それぞれ湯呑に入った温かいお茶を飲みながらのんびりしていると千冬がふとある事を思い出し一夏の方に顔を向ける。

 

「そう言えば一夏。今朝話したトーナメント戦、お前は出るのか?」

 

「で、出たいと思ってるけど、その…」

 

目を伏せる一夏に、千冬と伊田は理由を察し苦笑いを浮かべる。

 

「全く、一夏。お前の事だ、布仏に迷惑を掛けているから頼みづらいと思ってるんだろ?」

 

「……」コクリ

 

千冬の言葉に一夏は小さく頷くと隣に座っていた伊田がポンと一夏の頭の上に手を置き撫でる。

 

「相変わらず心配性だな。まぁ、それが一夏君だからな仕方がないもんな」

 

「そうだな。一夏、明日布仏に聞くだけ聞いてみろ。アイツの事だから別に迷惑とは思っていないはずだからな」

 

「……う、うん。聞いてみる」

 

まだ心配なのか暗い表情を浮かべているが、ちょっとだけ一歩前に出せた事に千冬と伊田は優しい笑みを浮かべる。

 

時刻が20時となり、一夏は部屋へと帰って行き残った2人はノンアルの酒を飲みながら浅漬けと伊田の持ってきたつまみをつまむ。

 

「それにして一夏君の料理の腕、ますます上がっているんじゃないのか?」

 

「そうだな。まぁ、いいじゃないのか? 料理のできる男はモテると言うしな」

 

「それ、俺に対する当てつけか?」

 

口を尖らせながら言う伊田に千冬はそんな訳ないだろと笑みを零す。すると寮母室の窓が突然開き

 

「やっほ~~~! 束さんも混ぜてぇ!」

 

と束がぴょ~んと飛び込んできた。

 

「お前なぁ。いきなり飛び込んでくるな! 誰かに見られてって事は無いか」

 

「当たり前じゃん、ちーちゃん。この束さんを見つけられるのはちーちゃんとよー君といっくんだけだもん」

 

フフンと笑う束に伊田は苦笑い、千冬は呆れた様な溜息を吐くのであった。そして3人は消灯時間になるまで酒とつまみを食べながら駄弁り合うのであった。




次回予告
次の日、一夏は千冬に背中を押され本音にタッグを申し込もうとするが…

次回
一夏君、タッグを申し込む~お、お願い、しましゅ~


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27話

千冬と伊田と共に夕食を取った次の日。

時刻は朝6時と、起きている生徒は少なく起きている生徒は朝の部活動や早朝トレーニングなどを日課にしている生徒のみだった。

その頃一夏はと言うと

 

「スー、スー、スー」

 

と規則正しい寝息を立てながらお気に入りのアニマル縫いぐるみ(束作)を抱きながら寝ていた。

静かな時間が流れている部屋に、ずかずかと足音を立てながら近付く生徒が居た。

 

「全く一夏の奴め。もうすぐタッグマッチ戦が近付いていると言うのにまだのんきに寝ているのか」

 

と剣道着を着た箒が一夏の部屋近くまで来た。扉の前まで来た箒は扉に向かって大きく拳を振り下ろそうとしたが

 

「一夏起きっ!!??」

 

突如背後から首を絞められ、更には右脇から腕を通されたため右腕は上に伸び自由が利かない状態となった。

箒は振り解こうとするが、どうする事も出来ず意識を失いだらんとなる。背後から箒を羽交い締めをしたのはモッフだった。一体のみならず複数体がライフルを箒に構えていた。

彼等は一夏にとっての要警戒人物の一人となっている箒を寮内に仕掛けた監視カメラで監視しており、箒が一夏の部屋に向かおうとしていた為隠れて待機していたのだ。

その後モッフ達は箒を拘束し担ぎ上げ、反省房に放り投げ込むのであった。

廊下でそんな事があったにもかかわらず、部屋の中にいる一夏はと言うと

 

「もふもふぅ」

 

と寝言を零しながら縫いぐるみを抱きしめて寝ていた。

 

~一時間後~

 

ピピピピッ‼

 

ベッド横に備えられている目覚し時計がけたたましいアラーム音を鳴り響き、一夏はもぞもぞと腕を伸ばしてアラームを切る。そしてぼんやりとした表情を浮かべながらむくりと起き上がる。

 

「ふわぁ~~、おはよぉアイラぁ」

 

〈えぇ、おはよう。ほら、さっさと洗面台に行ってその爆発した寝ぐせを梳かしてきなさい〉

 

「うん」

 

アイラと会話した後、一夏はベッドからよろよろと降り洗面所へと向かう。

 

『――よって本日は一日晴天となるでしょう』

 

「ハムハム」

 

朝のニュース番組を見ながら一夏はイチゴジャムとマーガリンがたっぷりと塗られたトーストをかじりながら、昨日千冬達に言われた事を思い出す。

 

(お姉ちゃん達は大丈夫って言ってくれたけどやっぱり心配だなぁ)

 

そう思いながら一夏は不安な表情を浮かべながら最後の一かけらを食べ牛乳を口にする。皿やコップを水で満たした桶の中に入れると扉をノックする音が鳴り響き

 

『イッチー、教室に行こぉ!』

 

と本音の呼ぶ声が聞こえた。

 

「あ、はい。今行きます!」

 

本音にそう答えながら一夏はカバンを背負い廊下へと向かう。

扉を開けるとのほほんとした笑みを浮かべた本音が居た。

 

「おはよぉイッチー」

 

「お、おはようございます、本音さん」

 

挨拶していると、隣の警備室から2号と4号のモッフが出てきた。

 

「「フモッフ!(`・ω・´)ゞ」」

 

「おはよう、ございます」

 

「おはよぉ」

 

モッフ達にも挨拶した2人は教室に向かって歩き出した。

 

教室に向かう道中、一夏は本音にタッグの事を何時切り出そうと悩みながら歩を進めていた。隣にいた本音は一夏が何か思い悩んでいる表情に、首を傾げながらも一夏に問う。

 

「イッチー、どうかしたのぉ?」

 

「えっ?」

 

「なにか悩んでるのぉ? 私でよければ相談に乗るよぉ」

 

と笑顔で言う本音に、一夏は意を決して言おうと思い口を開く。

 

「あ、あの、本音さん。その、ぼ、僕と「あ、2人共おはよぉ!」「おはよう二人共」あうぅぅ」

 

意を決して本音にタッグを申し込もうとしたが、運悪く相川と鷹月の2人がやってきてしまった為挫かれるように止まってしまった。

 

「うん、おはよぉ。それでイッチー、なに?」

 

「あの、えっと、だ、大丈夫、です。さ、先に行ってます」

 

そう言い若干落ち込んだ表情を浮かべながら歩き出す一夏。その後姿に、本音は少し心配した表情を浮かべ、相川と鷹月は何とも言えない表情を浮かべながら見送る。

 

「なんか織斑君落ち込んじゃったけど、どうしたの?」

 

「わかんなぁい。なんか悩んでた表情を浮かべてたから相談に乗るよって言って何か言おうとしたところで二人が来て、結局聞けなかったなんだぁ」

 

「あちゃ~、間が悪い時に私たち来ちゃったのかぁ」

 

「だね。どうしよ」

 

「うぅ~ん。別に二人が悪い訳じゃないから気にしなくても良いと思うよ」

 

「そうだけど、織斑君が相談しようとした事も気になるし」

 

「もしかしてタッグの事じゃないのかなぁ?」

 

鷹月がそう言うと2人もあぁ、それかもと何処か納得のいった表情を浮かべる。

 

「確かに織斑君がトーナメント戦に出ようと思ってるなら、本音に申し込むもんね」

 

「そうだよね。でも、なんで悩んでたんだろ?」

 

「うぅ~ん、分かんない。取り合えず教室に行こ。イッチーの相談事は自分から話してくれるまで、聞かないであげよ」

 

「そうだね。タッグの申し込みだって決めつけるわけにもいかないし」

 

3人はそう話し合い、一夏が再度相談して来るまでは相談事は聞かないであげようと決めるのであった。

 

それから時間が経ち、4限目の授業終了のチャイムが鳴り響く教室。

あれから一夏は、本音達と談笑はすれどもタッグの申し込みが出来ず落ち込んだ表情を浮かべるの繰り返しだった。本音達も無理して聞こうとせず一夏の決心がつくまでは見守っていた。

 

〈はぁ、いい加減にタッグの申し込みしたらどうなのよ〉

 

呆れた様な口調で言うアイラに、一夏は落ち込んだ表情を浮かべる。

 

〈うぅぅ、い、言おうと思ってるんだけど、ど、どうしても断られたらと思うと、怖くて…〉

 

〈はぁ~、あの子の性格からしてそれは無いでしょ。というか絶対にあの子もアンタとタッグを組みたいと思ってるはずよ〉

 

〈そ、そうなのかなぁ?〉

 

〈気になるんだったら、さっさと聞いてきなさい〉

 

〈う、うん。き、聞いてみる〉

 

アイラに背中を押され、一夏は隣に座っている本音の方に顔を向ける。

 

「あ、あの、ほ、本音さん」

 

「うん、なぁにイッチー?」

 

「あの、ぼ、僕とた「織斑君、ちょっと話があるんだけど!」ヒッ!?」

 

意を決して本音に申し込もうとした矢先に、突然真横から話しかけられ一夏は肩を思いっきり跳ね上げた。

突然一夏に話しかけたのはデュノアで、満面の笑みを浮かべる彼女に周りにいた生徒達は一斉にデュノアを一夏から遠ざける。

 

「ちょっと、真横から織斑君に話しかけちゃダメでしょ!」

 

「そ、それはごめん。で、でも大事な話が合って…」

 

「大事だからって突然真横から話しかけちゃダメ! って、持ってるその紙って何?」

 

デュノアを遠ざけるのに手を貸した生徒の一人がデュノアの持っている紙に気付き見ようとするが、デュノアは見られまいと隠す。

 

「な、何でもないよ」

 

「何でも無い訳ないでしょ。その紙なに?」

 

「まさか、タッグマッチの希望票?」

 

「ギクッ」

 

一人がまさかとばかりに希望票と問うと、デュノアは一瞬体を硬直し視線を逸らす。

 

「ち、違うよ。ま、前の授業で配られたプリント。ちょっと、織斑君に教えてもらおうと思って…」

 

「だったら私達が見ても問題無いでしょ。なんで隠す必要があるの?」

 

「そ、そりゃあ見られたら恥ずかしいって、ちょっと何するのさ!」

 

デュノアは紙を見られまいと隠そうとしていたが、モッフ達が素早くその紙を奪い取り広げる。隠そうとしていた紙は推測通りタッグマッチの希望票の紙で、名前の欄には既にデュノアの名前が書かれており更に何故か一夏の名前も書かれていた。

その紙を見た生徒達はジト目でデュノアを見つめる。

 

「これ、どう言う事?」

 

「そ、そのぉ……」

 

言いづらそうな表情を浮かべながら視線があっちこっち泳ぐデュノアに生徒達は

 

「皆、デュノアさんに対する判決は?」

 

「「「「「勿論、ギルティ!!」」」」」

 

「えぇぇ!? ちょ、ちょっとまっ『バリリリ』あばっばっばばば

 

突然の有罪判決にデュノアは何とか弁明(言い訳)を言おうとするが、モッフの振り下ろしたスタンバトンの方が早く強烈な電撃を受け、デュノアはそのまま倒れ込む。そして廊下からモッフ数体が現れ、デュノアをロープで簀巻き状態で拘束し、そのまま運んで行った。

もはや1組の日常光景の様になってきた光景に、生徒達は気にも留めることなくお昼を取りに教室から出て行った。

 

「……」シュン

 

突然話しかけられた事に対し、何とか落ち着けたがまた出鼻を挫かれ言う事が出来なかった一夏。落ち込みながらご飯を食べようとすると

 

「イッチー、大丈夫ぅ?」

 

心配した表情で一夏に問う本音に、一夏はコクリと頷き返す。

 

「そっかぁ。…えっと、それで何か用があったんじゃないのぉ?」

 

「……えっと、や、やっぱり、大丈夫、です」

 

そう言いご飯を食べる一夏。本音はその姿に心配した表情を浮かべ続けていた。

 

 

 

因みにその光景に千冬は

 

「……デュノア、〆るか」

 

と持っていたチョークケースが潰れそうな位、手に力を込めていた。

 

 

 

~放課後~

カバンに教科書などを仕舞い、一夏はカバンを背負って教室を後にしようとすると

 

「あ、イッチー。ちょっと待ってぇ」

 

と本音から呼び止められた。

 

「な、なんでしょうか?」

 

「この後、時間ってある?」

 

「え? あ、はい。ありますけど…」

 

「お、それじゃあこれ一緒に食べに外のベンチに行かない?」

 

そう言い本音がカバンから取り出したのは、スティック菓子だった。だがそのパッケージに一夏は驚いた表情を浮かべる。

 

「そ、それって、確か地域限定でしかも数量限定の」

 

「うん、こりじゃがのチョコバナナ味! えへへ、偶然昨日手に入ってね。イッチーと食べようと思ってとっといたの。だから一緒に食べよ」

 

「い、いいんですか?」

 

「うん、ほら行こ」

 

一夏はは、はい。と言い本音と共に教室を後にした。

教室を後にし、外の人通りの少ない所に置かれたベンチに2人は腰掛け、お菓子を頬ばり始めた。

 

「うぅ~~ん、美味しぃ」

 

「う、うん。チョコバナナの風味も良いし噛んだ時の触感も良い」

 

2人はお菓子に舌鼓しながらポリポリと食べ続ける。

 

「ねぇ、イッチー」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

「此処だと誰にも邪魔されないと思うし、言えると思うよ」

 

「え?」

 

本音の言葉に一夏は呆けた顔を浮かべた。

 

「ほら、私に相談しようとするたびに話せなかったりしたじゃん。此処だったら来ないはずだからイッチーの相談に乗れるよ」

 

のほほんとした笑顔で言う本音に、一夏はジーンと胸が温かくなりながら、言うべきかどうか迷い顔を伏せる。

暫し沈黙が流れた後、一夏は意を決しして口を開く。

 

「あ、あの、ぼ、僕とた、タッグを組んでくだしゃい」

 

と本音に告げる一夏。が、緊張のあまり最後の方を噛んでしまい、耳まで赤くなるほど恥ずかしくなり俯く。

 

「うん、良いよぉ」

 

「ほ、本当に良いんです、か?」

 

「うん、私もイッチーとタッグを組みたいなぁって思ってたし」

 

了承する本音にそっと顔を上げ、はにかんだ笑みを浮かべる一夏。

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

お礼を言う一夏にえへへへ。と笑顔を浮かべる本音。そして二人はお菓子を食べ終えた後、タッグの申請をしに職員室へと向かった。

職員室へと到着し中へと入る一夏と本音。一夏は怯えた表情を浮かべながら辺りをきょろきょろと見渡していると

 

「ん? 織斑か、其処で何をしている?」

 

と机に座っていた千冬が一夏に気付き声を掛けると、一夏と本音は足早に千冬の元へと向かった。

 

「あの、た、タッグの申請に、来ました」

 

「ふむ、布仏とタッグを組むんだな。布仏も織斑とタッグを組むことには同意したと捉えても良いか?」

 

「はい、イッチーとタッグを組みまぁす」

 

「分かった。それじゃあタッグの申請は私がしておく。頑張れよ、2人共」

 

「「は、はい/はぁい」」

 

2人はそう返事をして職員室から出て行き、千冬は事前に準備していた一夏と本音の名前の書かれた希望票を引き出しから取り出し判子を押す。

 

「よし、これで正式に決定だな」

 

そう呟いた千冬は2人が何処まで行けるだろうな。と考えに更けるのであった。




次回予告
ついに始まる学年別タッグマッチトーナメント戦。
一夏と本音は果たして優勝まで行けるのか。

次回
タッグマッチトーナメント戦 第一回戦
~「がんばろぉ!(≧▽≦)」「お、おぉ~」~


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28話

一夏と本音のタッグが決まってから数日が経ち、学年別タッグマッチトーナメント戦となった。

大勢の参加者が今か今かと待ち望んでおり、それは観客席にいる生徒達も同様だった。

 

『えぇ~、ではこれより第1回タッグマッチトーナメント戦を行います。まず第一回戦の発表します』

 

そうアナウンスが流れ生徒達はそれぞれモニターに顔を向ける。

 

「織斑君と本音の名前あった?」

 

「えっとぉ。あ、あった! 第一回戦の6組目だ」

 

「6組目か。となると、第3アリーナあたりかな」

 

「そうだね、よぉし皆ぁ! 織斑君と本音の応援に行くわよぉ!」

 

「「「「おぉーー!!」」」」

 

1組の生徒達はそう声を高々に上げながら、ぞろぞろと第3アリーナに向け歩き出す。

1組の生徒達が第3アリーナに向け歩き出している中、一夏達はと言うと第3アリーナに備えられているピットでいそいそと準備をしていた。

 

「ほ、本音さん。準備の方は大丈夫ですか?」

 

「うん。イッチーの方も大丈夫? 専用機持ちは武装に制限が掛けられるみたいだけどぉ」

 

「う、うん。大型ガトリングカノンと腰につけているライフルグレネード、それとソードオフショットガン2丁と対物ライフルを使用不可にしました」

 

「そっかぁ。あ、そうだ。武器の譲渡はOKだっけ?」

 

「えっと、確かパートナーの機体が訓練機であれば試合中の譲渡は良いはずです。も、もちろん撃墜された後の譲渡は禁止ですが…」

 

「良かったぁ。ラファールの武装ってグレネードランチャーとライフルなんだけど、弾が足りなくなった時とかだと近接装備がナイフ一本だけだから心配だったんだぁ」

 

「そ、そうでしたか。あの、足りなくなったら言って下さい。ライフルでしたら一杯ありますから」

 

うん。と頷く本音。そして一夏は再度タブレットで装備を確認を始める。

 

〈えっと、アイラ。武器はこれだけあればいいよね?〉

 

〈えぇ、十分よ〉

 

一夏の手元にあるタブレットには現在バレットホークに積まれている武装が書かれていた。

リストには

・ハンターM202-BD 60㎜アサルトライフル

・LG5M-BD アサルトカービン(膝サブアーム用)

・その他アサルトライフル関連が12丁

・バタリングラム(破城槌)

・対物ナイフ

・ヴァイブロ・バヨネット 接近戦闘用超振動銃剣

・フォールディングナイフ (左腕用装備)

 

と書かれていた。無論これだけの量は普通駄目であるがある理由からOKにされたのだ。

その理由は以前デュノアを1組に戻す際にした千冬との交渉した時の事だ。

学園上層部にデュノアを1組に戻す事を伝えられた千冬は殺気全開で断ろうとした所、引き受けてくれれば可能な限りのそちらの提示する条件を呑むと伝えたのだ。

其処で千冬は今度行われるタッグマッチで、一夏の機体に乗っている武装を他の機体よりも多く持って良いことを許可する事。そしてフモッフ達警備部隊の戦力強化を提示したのだ。

フモッフ達の戦力強化は良しとされたが、武装を他の生徒達よりも多く持つことに関しては難色の顔を示され、千冬はもう一押しとばかりにこう付け加えた。

 

『織斑の機体はサブアームという特殊装備を持っている。各国からの来賓がいる場所で、サブアームの有用性を示す事が出来ると思うが?』

 

そう言われ、学園上層部も一夏の類稀なるサブアームの操縦には目を見張るものがある事から、特例として許可したのだ。

 

『これより第一回戦を開始します。出場する両選手達はアリーナに出て下さい』

 

そうアナウンスが出され、一夏と本音はそれぞれISに乗り込む。

 

「それじゃあイッチー、優勝目指して頑張ろうね」

 

「う、うん。頑張りましょう」

 

そう言い一夏は気持ちをしっかりと引き締める。

 

〈行けるよね、アイラ?〉

 

〈ふん。誰に向かって言ってるのかしら? サポートは任せてあんたは何時も通り機体の操縦に集中しなさい〉

 

〈う、うん!〉

 

準備が終わり2人は外に出ると、対戦相手である生徒がラファールと打鉄を身に纏って立っていた。

 

「布仏さん、織斑君。悪いけどそう簡単には勝たせないからね」

 

「これも勝負。悪く思わないでね」

 

「ふふぅ~ん、負けないぞぉ!」

 

「ま、負けません!」

 

お互いそう言い合い武器を出す。そして

 

『カウント。3、2、1、試合開始!』

 

カウント開始と共に打鉄を纏った生徒が前に出て来て、ラファールを身に纏った生徒はグレネードランチャーとライフルを構えながらそれを援護してくる。

一夏達はと言うと、一夏はサブアームを展開すると同時に武器を出してサブアームに装備させ、本音はアサルトライフルを構えながら前へと出てる。

前に出た打鉄はハンドガンを本音に向けながら撃ち、本音も応戦とばかりにライフルを撃ちながら一定の距離を保つ。

一夏は展開したサブアームの武装を駆使しながら本音の援護をしつつ、ラファールの牽制をしていた。

 

〈一夏、ウィングの右アーム、それと腰部左アームの弾がそろそろ尽きるわ〉

 

〈わ、わかった。次の出すね〉

 

アイラからの警告に一夏は次の武装を何時でも出せるようにしていると、弾が切れたのかアイラが警告したアームが沈黙したためすぐさま次の武装を出して攻撃を再開した。

 

「うへぇ~、織斑君の弾幕ヤバすぎるよぉ。何とか接近できない?」

 

「無理だよぉ! こっちも布仏さんの相手で忙しいんだからぁ!」

 

2人の生徒はそう叫びながらも、攻撃の手を止めない。

 

「イッチー、ごめぇん。なかなか落とせなくてぇ」

 

「い、いえ、大丈夫ですよ。あの、弾の方は大丈夫ですか?」

 

「うぅん、ちょっとヤバいかなぁ。グレネードランチャーはまだあるけど、ライフルが心許無い感じかなぁ」

 

「そう、ですか」

 

一夏は攻撃してくる2人に射撃をしつつ、どうすべきか悩んでいると

 

〈一夏、大分前の事だけど山田先生と中国とイギリスの模擬戦憶えてるかしら?〉

 

〈え? う、うん。憶えてるけど…〉

 

〈あの時の戦法が使えるんじゃないかしら?〉

 

アイラからの提案に一夏は当時の状況を思い出し、そして現状の状況と照らし合わせる。

 

〈う、上手く誘導出来たら〉

 

〈えぇ、勝てるわよ〉

 

そう言われ一夏は直ぐに行動に移すべく、攻撃しながらも本音に作戦を伝えた。

 

「ほ、本音さん。僕が彼女達を誘導するので、誘導した場所に攻撃してください」

 

「イエッサァー!」

 

一夏の指示に本音は何時でも攻撃できるように、残った武装を取り出す。一夏はサブアームと左右に持っている武器を構えながら二人に気取られない様に誘導すべく攻撃をする。弾が切れたら素早くライフルを放り捨てては次の銃を取り出すと言った、隙を一切作らない状態となったのだ。絶えず張り続ける弾幕に2人は避けるのに手一杯となってしまった。

 

「うわわわ。いきなり激しくなったぁ!?」

 

「い、一旦体勢を立て直すよ!」

 

そう言い2人が一緒の個所に下がると、その好機を一夏は見逃さなかった。

 

「ほ、本音さん、今です!」

 

「待ってましたぁ!」

 

そう叫び、本音はグレネードランチャーを2人に向かって撃ち放つ。

 

「ちょっ!? 弾幕から更に爆撃!?」

 

「よ、避けられないぃ!?」

 

2人の悲鳴は本音のグレネードランチャーの爆風で掻き消され、辺りは土煙がたちこめた。暫くして土煙が晴れると2人は目を回しながら気絶しており、ISも解除されていた。

 

『其処まで! 勝者織斑、布仏ペアです!』

 

『わあぁぁぁぁ!!!』

 

アナウンスが流れたと同時に大きな歓声が上がり、一夏と本音は笑顔を浮かべる。

 

「や、やりましたね本音さん」

 

「うん! まずは初戦突破だぁ!」

 

そう声を掛け合いながらピットへと戻って行った。




次回予告
無事に初戦を突破した一夏と本音。次の対戦相手は鈴とオルコットだった。
さぁ一夏と本音は、無事に第2回戦も突破できるのか?

次回
タッグマッチトーナメント戦 第2回戦
~「ハムハム、お菓子美味しぃ( ̄~; ̄)」「モヒ( ・ω・c)モヒ」~


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29話

一回戦目を終えた一夏と本音はピットに戻ってくると、ISから降りそれぞれベンチへと座り一息つく。

 

「はふぅ~~~。無事に勝ててよかったねぇ」

 

「は、はい。次の試合までちょっと休憩しましょうか」

 

そう言い一夏はベンチの背もたれにもたれ掛かり、本音もそうだねぇ。と返し同じく背もたれにぐでぇと凭れる。

すると何処からともなく《キュ~~~》と音が鳴り響き、一夏はそっと本音の方に顔を向けるとえへへ。と照れた表情を見せる本音。

 

「お腹空いて鳴っちゃったぁ」

 

「そ、そうですか。えっと、なにかあったかな」

 

そう言いながら一夏は持ってきた鞄の中をガサガサと漁っていると、ある物を見つけ引っ張り出す。

 

「本音さん、これ、食べますか?」

 

そう言って一夏が差し出したのはポッキーの箱だった。

 

「おぉ、食べるぅ!」

 

そう言われ一夏はポッキーの封を開け、袋を差し出すと本音は袋からお菓子を取り出しポリポリと食べ始めた。

 

「(´~`)モグモグ」

 

「モヒ( ・ω・c)モヒ」

 

お菓子を食べながらベンチで暫く寛いでいた二人。するとピットに付いている端末に通信が入る。

本音はベンチから立ち上がり端末のスイッチを押すとそこには千冬が映っていた。

 

「あ、織斑先生。どうかしたんですかぁ?」

 

『うむ、2つほど用事があってな。まずは初戦突破おめでとう2人とも。だがまだ初戦だ、気を抜くんじゃないぞ』

 

「は、はい。頑張ります」

 

千冬からの応援の言葉に一夏は照れた表情で答え、本音ははぁ~い。とのほほんとした表情で返す。

 

『さて、もう一つの用事なんだが次の対戦相手が決まった』

 

「誰なんですかぁ?」

 

『鳳とオルコットだ チッ、一夏と戦う前に負ければよかったのに

 

「? お、織斑先生、何か言いましたか?」

 

『いや、何も言ってないぞ。兎に角二人共頑張るんだぞ』

 

「は、はい頑張ります」

 

「やってやりまぁす!」

 

2人の返事を聞いた千冬はうむと頷いて通信を切った。

 

「それじゃあ準備しよっかぁ」

 

「は、はい」

 

そう言い二人は次の試合の準備に取り掛かった。本音は先程の試合で消費したアサルトライフルの弾の補充と武器の選定を始めた。

 

(うぅ~ん、セッシ―とリンリンが相手だったらライフルの弾を多めに持っておいた方がいいかなぁ?)

 

そう思いながら本音はライフルの弾を多めに拡張領域の中に仕舞って行く。一方の一夏はと言うと、一回戦前同様にタブレットを見ながらアイラと相談をしていた。

 

〈さ、さっきとは違って武装制限が解除されるけど、初手武器はどうしよう?〉

 

〈そうね。さっきと同じライフルでもいいけど、相手は遠距離特化(セシリア)近接特化()の機体。前には本音が出るから彼女の相手は必然的に近接特化と戦う事になるわ。そうなるとアンタは遠距離特化と戦う事になるわね〉

 

〈えっと、それじゃあどうするの?〉

 

〈前みたいに全サブアームを展開して攻撃する手もあるけど、今回はタッグマッチ戦。遠距離に気を取られていると、近接特化が急にこっちに来てに間合いを詰められる可能性があるわ。だからどっちも近付かれない圧倒的存在感のある武器を使いましょう〉

 

〈存在感のある武器?〉

 

アイラの言葉に一夏はコテンと首を傾げた。

それから一夏はアイラの作戦を聞きながら本音と共に準備を進めるのであった。

 

『ではこれより2回戦目を始めたいと思います。選手はアリーナに出て下さい』

 

アナウンスが流れると、一夏と本音はそれぞれISに乗り込みアリーナへと出る。アリーナに出ると同時に向かいのピットからセシリアと鈴が現れた。

 

「一夏ぁ! なんであたしとじゃなくてソイツとタッグを組んでるのよ!」

 

「ちょっと鈴さん! そんな怒鳴ったら一夏さんが怖がるじゃありませんか!」

 

出てきたと同時に一夏に怒鳴り出す鈴に隣のセシリアがそれを咎める。

 

「五月蠅いわね! 今一夏と話してんだから邪魔しないでちょうだい!」

 

「それは此方のセリフですわ! わたくしも一夏さんとお話したいと思ってるのですのよ!」

 

が、互いに口論を始める二人。本音はポカーンと見つめ、一夏は2人は訓練人形としか見えてない上に集音マイクが拾った二人の口論はアイラが聞こえない様にしている為、何をしているのかさっぱり分からない状態であった。

因みに管制室に居た千冬は

 

「……やっぱり反省房にぶち込んでおくべきだったか」

 

と二人をモニター越しに睨みつける。

 

『ではこれより2回戦第3試合を始めます。3…2…1…試合開始!』

 

「おりゃーー!」

 

試合開始の合図と共に鈴は双天牙月を構え突っ込んでくる。本音はそれを迎え撃つようにライフルを構え接近させまいと引き金を引く。

 

「また突撃ですの!? もう少し作戦というのを考えて下さいまし! ……まぁ、いいですわ。さて、私は一夏さんと…え?」

 

突撃していった鈴にセシリアは呆れた視線を向けながら上空へと上がり、一夏と戦おうと顔を向けた瞬間その顔が固まる。セシリアの視線の先には、大型のガトリング砲『アヴァロン』を構えた一夏が居たからだ。

 

〈さぁ一夏、派手にブチかましなさい!〉

 

「うん!」

 

アイラの掛け声と共に一夏は引き金を引く。けたたましい音と共に迫りくる弾丸の雨にセシリアはすぐさま回避行動に移る。

激しい弾幕にセシリアはもはや避ける事しか出来ず、鈴の援護すらできない状況であった。

 

「ちょっとセシリア‼ 援護はどうしたのよ!」

 

「この状況でどう援護しろというのですの!」

 

そう怒鳴り合う二人。

その一方一夏達の方はと言うと

 

「ほ、本音さん大丈夫ですか?」

 

『こっちは大丈夫だよぉ! それよりそれ結構撃ってるけど、弾大丈夫なのぉ?』

 

「えっと…」

 

〈アヴァロンの弾が無くなっても武器はまだ結構あるから問題無いわ〉

 

〈うん、分かった〉「だ、大丈夫です。アヴァロンが無くなっても他の武器がありますから」

 

『そっかぁ。おっと、リンリンが迫って来たから切るね』

 

そう言って本音との通信が切れると、一夏は残弾の少ないアヴァロンの引き金を引き続けた。

 

迫って来た鈴を対処するため、本音は変わらずライフルで引き撃ちを繰り返していた。

本音の引き撃ちに苛立ちを募らせる鈴。遂にその我慢が限界に達したのか、引き撃ちをしている本音に向かって

 

「おりゃああぁああ!!」

 

「うえぇっ!? 投げたぁ!?」

 

自身が持っていた双天牙月の一つを投げつけたのだ。更に何時の間にか展開していた龍砲の出す空気圧を使い、普通に投げるよりも更に速いスピードで本音へと迫る。

本音は突然の事に思わず撃つのを止め回避していると、一気に接近してきた鈴に気付き後方に下がろうとした瞬間

 

「どりゃあぁぁ!!」

 

もう一方の双天牙月で本音の持っていたライフルを破壊したのだ。本音は破壊されたライフルをすぐに放り捨てて後方に下がる。

だがそれをさせまいと斬りかかってくる鈴。遠くに離れようとしてもブースターを吹かしながら接近してくる鈴。

近接特化型で専用機の甲龍と、訓練用機で更に射撃型にしている為機動性が落ちているラファールとでは性能には差が大きく出る。本音は出来るだけその差を操縦技術で補おうとしたが、流石に限界があった。

 

(ど、どうしよぉ。ライフルは壊されちゃったし、この距離だとグレネードランチャーは使えない。かといってナイフで戦おうにも向こうは近接特化だからこっちが負けちゃう)

 

本音は避けながらどうしようか考えるが、そんな猶予は余り無かった。

 

「ふん、ライフルが無くなってどうしようも無いって感じね。このまま墜ちなさい!」

 

そう叫びながら斬りかかってくる鈴。

 

〈---一夏、彼女がヤバいわよ〉

 

「えっ!?」

 

セシリアに残ったアヴァロンの弾を撃ち、弾切れと同時にライフルを構えセシリアに向け攻撃していた一夏。突然アイラからの警告に一夏は驚き声を上げる。そしてモニターに鈴に迫られている本音の映像が映し出された。

 

〈ど、どうしよう。こっちまだ倒せてないよ、このままじゃ!〉

 

〈落ち着きなさい。何もアンタがアイツ()を倒さなくても良いのよ。私がサブアームで本音に武器を投げ渡すから、アンタは気を逸らさせなさい。このまま投げ渡そうとしても、叩き落されるわ〉

 

〈わ、分かった!〉

 

アイラの作戦に一夏はすぐさま実行に移すべく、両手に持ったMMP-80に脚部のサブアームに装備したLG5M-BD アサルトカービンをそれぞれセシリアと鈴に向け引き金を引く。

セシリアは先程よりも弾幕が薄くなったから反撃をしてくるが、一夏はそれを避けながらアイラが本音に武器を投げ渡しやすい位置へと移動する。

 

一方鈴は突然の一夏の攻撃にチッ!と舌打ちを鳴らしながら回避する。その隙をついて本音は直ぐに距離をとってグレネードランチャーを取り出そうと考えていると

 

「ほ、本音さん。受け取って!」

 

そう叫ぶ声が聞こえ、その方に顔を向けると一夏がセシリアの攻撃を避けながら自分の元に近付いて来て肩のサブアームが持っていた武器を投げ渡してきた。

本音はそれを受け取るべく腕を伸ばす。

 

「なっ!? させるもんですかぁ!」

 

本音に武器を投げ渡したのを目撃した鈴は被弾を気にせずに本音に向かって間合いを詰める。

だがその前に本音の方が先に武器を受け取り、素早く鈴の方へと銃口を向ける。

鈴はその銃の形を見てライフルだと想像する。

 

(ライフルなら数発受けてもまだ大丈夫。さっさと墜ちてもらう!)

 

そう思いながら双天牙月を振り上げる鈴。だがもしこの時、鈴が銃器特に一夏が乗っているバレットホークの搭載武器をしっかりと把握していれば勝てる可能性はまだ有ったかもしれない。

本音は引き金を引くと銃口から火が吹き上がる。そして()()()()()が鈴に向かって飛び散った。

そう、本音がバレットホークから受け取ったのは『コカトリス』と呼ばれるソードオフショットガンであった。

近距離では絶大な威力を有しているショットガンを、まさに間近それも真正面から受ければ、どうなるか。答えは決まっている

 

『甲龍、SEエンプティ―!』

 

「ウソでしょ!?」

 

ライフル数発は持ち堪えても、近距離からのショットガンの攻撃には耐えられず甲龍はSE切れとなり敗北となった。

 

「なっ!? 何をしてますの鈴さんは!」

 

〈よし、近接特化は墜ちたわ。あとはあそこで狼狽えてる奴だけよ。ありったけの弾丸をお見舞いしてやりなさい!〉

 

〈うん!〉

 

鈴が堕ちて動揺しているセシリアに一夏は直ぐに残ったサブアームを展開、そして武器を持たせ引き金を引く。

 

「イッチー、加勢するよぉ!」

 

そう言いながら本音も合流してグレネードランチャーを装備し、セシリアに向け引き金を引く。

 

「あぁもぉう! これでは避けようがっきゃぁあぁ!?」

 

弾幕の中避けるセシリア。無論本音のグレネードランチャーの弾も避けていたが、運悪く避けたグレネード弾が一夏の放った弾丸に命中。グレネード弾の爆風にセシリアは飲み込まれ、体勢を崩してしまいそのまま弾幕の雨あられを受けてしまった。結果は言わずもがな

 

『ブルーティアーズ、SEエンプティー! 勝者織斑、布仏ペア!』

 

そうアナウンスが流れると『わぁーーー!!』と盛大な歓声と拍手がわき上がる。本音は笑顔を浮かべ、一夏は照れた表情を浮かべながらピットへと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、鈴とセシリアがピットへと戻ってくると

 

「戻って来たか」

 

と、仁王立ちで背後にモッフ達を引き連れた千冬が立っていた。二人は一体何故千冬とモッフ達が居るのか訳が分からず唖然としていると

 

「鳳、織斑に対して怒鳴った罰として反省房行きだ。あぁ、オルコットも連帯責任として反省房行きだ」

 

「「はぁっ!?」」

 

千冬から告げられたことに2人は驚き固まっている間にモッフ達に麻袋を顔に被せられ、更に体をロープで簀巻き状で雁字搦めにさせられそのまま反省房まで担ぎ運ばれていった。




次回予告
2回戦目も何とか勝てた一夏と本音。
続いての対戦相手は箒とラウラであった。因縁(?)の対決、勝敗はいかに?

次回
タッグマッチトーナメント戦第3回戦
「イッチー、疲れてない?(o・ω・o)?」
「は、はい。大丈夫です(´Д`) =3 ハゥー」











シャル「ぼ、僕の出番は?」
主「え、無いよ。(ヾノ・∀・`)ナイナイ」


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30話

第2回戦を何とか乗り切った一夏と本音。ピットへと戻ってくるとすぐにベンチに座り、背もたれにもたれ掛かる。

2人は『はふぅ~』と息を漏らしながら力を抜く。

するとまたピットに備わっている通信端末に連絡が入り、本音が出ると其処には真耶が映っていた。

 

「あ、山田先生ぇ。何か用ですかぁ?」

 

『はい。次の試合の相手が決まりましたので、それを伝える様織斑先生に頼まれていたんです』

 

「そうだったんですかぁ。それで次の相手って誰なんですかぁ?」

 

『えぇと、次の対戦相手なんですが篠ノ之さんとボーデヴィッヒさんです』

 

「えっ?」

 

『ではお伝えしましたので、失礼しますね』

 

「あ、はぁい。次はしののんとラウラウだってって、イッチー大丈夫!?」

 

真耶と通信を終えた本音が振り返ると青褪めた表情をした一夏がいた。体も若干震えており、明らかに様子がおかしかった。

 

「大丈夫?」

 

「だ、大丈夫、です。けど、その、次の相手があの二人と聞いて、その、怖くなって…」

 

そう言い怯える一夏。本音は大丈夫だよぉ。と慰める。そしてコアにいるアイラが口を開く。

 

〈一夏。相手が訓練人形にしか見えない様にしたり声を聞こえない様にしても、名前だけを聞くだけでその震えじゃまともに戦えないわ。悪い事は言わない。棄権しなさい〉

 

アイラがそう言い状況を今の一夏の状態、そしてアリーナに出た場合の予想を伝える。だが一夏は

 

〈そ、それは嫌だ〉

 

〈一夏!〉

 

〈だ、だって。せ、折角本音さんとアイラのお陰で3回戦まで来れたのに、こんな形で棄権したくない〉

 

そう言い棄権したくないと首を横に振る一夏。

 

〈分かった。けど、少しでもアンタの体調に異常が感じられたら即棄権させるわよ〉

 

〈うん。……ごめんね、我儘言って〉

 

〈ふん、やるって言ったからにはしっかりしなさいよ〉

 

アイラと会話を終え、深呼吸を数回する一夏。

 

「あの、本音さん。もう、大丈夫です」

 

「本当にぃ? 無理なら棄権できるけど…」

 

「だ、大丈夫です」

 

そう言い必死に笑顔を浮かべる一夏。本音はまだ不安な表情を浮かべるが、わかったぁ。と言い了承し、ISの準備に取り掛かった。

 

2人が準備している間、アイラはドイツの軍ネットワークに侵入しボーデヴィッヒが使っているISについて調べていた。

 

〈(シュヴァルツェア・レーゲン。第3世代型で遠近共に戦える万能型。武装はワイヤーブレード6本にプラズマ手刀、それに大口径レールカノン。……武装とかに対して特に危険性は感じないけど、これだけは厄介ね)〉

 

アイラはシュヴァルツェア・レーゲンの装備、機能項目の一つに鋭い視線を向ける。

 

〈(AIC、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。範囲指定した場所に物体が触れると、動きを封じられるもの。面倒な物を載せているわね)〉

 

そう思いながらもアイラは不敵な笑みを浮かべていた。

 

〈(一対一の戦いなら流石に危ないけど、2対2なら問題無いわね。まぁ、この試合は実際には3対2だけどね)〉

 

そう思いながらアイラはあらゆる状況を想定した戦略を練り始めた。

 

 

 

それから暫くして試合開始時間となりそれぞれピットからアリーナへと出てきた。

ボーデヴィッヒの乗ったシュヴァルツェア・レーゲンと箒が乗った打鉄。一夏の目には訓練人形が搭乗しているように見えているが、乗っているのがあの二人だと一瞬思った所為か体が硬直しかかるが、直ぐに深呼吸して心を落ち着かせる。

隣にいた本音は心配した表情を浮かべながらも、援護できるようにと新たな装備を持って出て来ていた。

本音の左手には表面にデコボコと長方形上の物体が幾つも付いた大型の実体シールドを持ち、右手にアサルトライフルを装備していた。

観客席にいた生徒達は何故実体シールドを持ってきたんだ?と困惑した表情を浮かべており、それは1組の生徒達も同様だった。

 

「おい一夏! 何故そんな奴と組んだんだ!」

 

箒はそう怒鳴りながら一夏に問うが、一夏には声は届いていなかった。それに箒はわぁわぁと更に騒ぎ立てる。隣にいたボーデヴィッヒはめんどくさそうにチッと舌打ちを放ち、本音はムスッとした顔を浮かべていた。

更に

 

「織斑君が誰と組もうと関係ないでしょうがぁ!」

 

「自分の思い通りにいかないからって怒鳴る事ないでしょ!」

 

と、観客席にいた1組の生徒達からのブーイングが上がった。

 

更に更に

 

「……」メキメキ

 

「「「「……」」」」ダラダラ

 

管制室に戻って来た千冬がその光景を見て、殺気を漏らし持っていた缶コーヒー(スチール)を握り潰す。その光景に真耶や他の教員たちは自分達にそれが向けられている訳でもないのに冷や汗が止まらずにいた。

 

『で、ではカウントを始めます。3…2…1…試合開始!』

 

開始のアナウンスが流れたと同時に箒は打鉄の装備の一つ、葵を構えながら本音に迫る。

 

「でやぁぁぁ!」

 

「イッチー、こっちは任せてねぇ」

 

「わ、分かりました。無茶しないでくださいね」

 

迫ってくる箒を迎え撃つべく楯を構えながら前に立つ本音。一夏は本音の心配をしつつ、もう一方のボーデヴィッヒと戦うべく武器を構える。

 

〈アイラ、何か作戦ってあるの?〉

 

〈あるわよ。まぁ、作戦については追々説明するからまずはアイツに向かって鉛玉をプレゼントしてやりなさい〉

 

〈わ、分かった!〉

 

アイラの指示に一夏は両手に持ったMMP-80、更にサブアームの武装すべてをボーデヴィッヒに向け引き金を引く。

引き金と同時に響く破裂音と、薬莢がバラバラと落ちる音が鳴り響いた。

 

その頃本音と箒はと言うと

 

「でやぁぁ!」ブン

 

「ほいっと」ヒョイ

 

「はぁぁ!」ブン

 

「よっとぉ!」ヒョイ

 

と、箒の攻撃をひょいひょいとかわす本音。

 

「えぇい避けるなぁ!」

 

「避けないと負けるからや~だよぉ」

 

と言い本音はライフルで攻撃する。本音の攻撃に箒は避ける間もなく受け、ガリガリとSEを削られた。

 

「飛び道具を使うなど卑怯だぞ!」

 

「だったら自分も使ったらいいじゃん」

 

そう言いながら本音はライフルから空になったマガジンを抜き、新しいマガジンを挿す。

箒はその一瞬生まれた静止を見逃さず、一気に間合いを詰め斬りかかる。

その攻撃に本音は咄嗟にシールドを構える。

 

(そんな楯、叩き壊してやる!)

 

箒はそう思いながら葵を思いっきり振り下ろした。観客席の生徒達はただ攻撃を防いで次どうするのかと本音の行動を見守る。

だが、本音の持っているシールドは()()のシールドではないのだ。

振り下ろされた葵が本音のシールドにぶつかった瞬間

 

『ドッカァーーン!!』

 

と激しい爆発が起き、楯の前にいた箒はその爆発で大きく後方に吹き飛ばされた。

 

「あのシールドって…」

 

「あぁ、爆発反応装甲(エクスプロージョンリアクティブアーマー)搭載のシールドだな」

 

管制室に居た真耶が驚いている中、千冬は冷静に本音が持っていたシールドを呟く。

本音の持っていたシールドについていた長方形上の物、それが先程千冬が言ったエクスプロージョンリアクティブアーマー、爆発反応装甲なのである。

リアクティブアーマーは外部から加わった圧力や爆風によって反応し、爆風で砲弾などから守る一種の追加装甲板のようなものだ。

反応したリアクティブアーマーの個所の主装甲には若干の傷が残る程度で済むが、周囲にはリアクティブアーマーの鉄片や砲弾の欠片、更に爆風などが生じ、周りに被害を及ぼす。

これが敵であれば良いが、味方だったら相当な被害を及ぼす為使い勝手が悪い。

現代では旧世代型の戦車の近代化改修などで、追加の装甲板として使わていることが多い。

 

「それにしても本音さん。まさか篠ノ之さんが近接しかしてこないと分かっていたうえで、あのリアクティブアーマー搭載のシールドを持ってきたんですかね?」

 

「ふむ、多分そうじゃないのか?」

 

千冬の返答を聞きながらも真耶は凄い子ですねぇ。と本音を褒めていた。

因みに本人はと言うと

 

(おぉ~、なんかごつごつしてる物が一杯ついているからこれでいいかなっと思って適当に選んだけど、これって攻撃とかも出来たんだぁ)

 

と内心驚いていた。

さてリアクティブアーマーの爆風によって吹き飛ばれた箒はと言うと、SEを大きく削られた上に持っていた葵の刃部分がへし折れていた。さらに爆風による衝撃波で全身を殴打されたような痛みが走り、まともに立つことさえ難しいのかふらふらと揺れていた。

 

「まだだ、まだだぁ!」

 

「うえぇ。そんな状態でまだやるのぉ?」

 

呆れた様な表情を浮かべながらも本音は油断せず楯とライフルを構える。

箒は折れているにも拘らず葵を構えながら本音へと迫るも、本音が盾を前に構えた瞬間また爆発が起こすと思い踏みとどまってしまう。

 

「隙ありぃ!」

 

隙をつくように本音はライフルを撃ちこむ。結果

 

『ビィー―! 打鉄、SEエンプティー!』

 

とアナウンスが流れた。

 

「な! 待って下さい! あいつの使っている楯は不正『不正な訳ないだろうが。さっさと其処から出ろ、試合の邪魔だ!』」

 

不正だと声を荒げようとした箒を黙らせるように千冬がアナウンスで怒鳴ると、箒は本音を一睨みした後ピットへと引っ込んでいった。

 

本音と箒との戦いが終わった頃、一夏とボーデヴィッヒはと言うと

 

「えぇい、この!」

 

〈あわわわ、またワイヤーブレード出してきたぁ〉

 

〈いくら出そうが無駄よ。私が対処するから一夏はアイツに向かって撃ちまくりなさい〉

 

銃撃を続ける一夏のバレットホークに、ボーデヴィッヒは苛立ちを募らせながらワイヤーブレードやキャノンで攻撃をしてくる。

 

「えぇい、こうなったら!」

 

そう叫ぶラウラに、一夏は警戒心を上げる。

 

〈な、何か仕掛けてくるのかな?〉

 

〈恐らくAICでしょうね?〉

 

〈AICって、なにそれ?〉

 

〈簡単に言えば、物を止めたりすることが出来る物よ。但し、集中力が結構必要な物らしいから今のあの状況じゃ簡単に集中が切れそうね。一夏、さっきと同じ様にライフルで攻撃しなさい。それと私から出す合図にしっかりと耳を傾けておきなさいよ〉

 

〈え? う、うん、分かった〉

 

アイラに指示に一夏は弾倉が空になったMMP-80を放り捨て新たなライフルを拡張領域から取り出しボーデヴィッヒを攻撃し始めた。

ホバー移動しながら攻撃をする一夏にボーデヴィッヒはワイヤーブレードで攻撃しつつタイミングを見測る。そして一気に集中力を高めようとした瞬間

 

〈一夏、急旋回!〉

 

〈うぇっ!? ひゃい!〉

 

アイラからの突然の合図に一夏は変な返事を返しつつ、急旋回させた。

 

「なっ!? ちぃ!」

 

突然別方向に移動したバレットホークに集中が切れAICを掛ける事が出来なかったことにボーデヴィッヒは舌打ちを放ちつつ再度反撃しながらAICを掛けようと集中するも

 

〈一夏、もう一度よ!〉

 

〈う、うん!〉

 

また急旋回をしてボーデヴィッヒの視線から逃れる。その際一夏は置き土産と言わんばかりに腰についていたSCAVENGERを撃ち放つ。

撃たれたSCAVENGERに気付いたボーデヴィッヒはその場から避けるが背後から飛来したグレネード弾が命中しSEを削られる。

 

「イッチーばかり気にしてちゃ駄目だよぉ!」

 

そう言いながらボーデヴィッヒの背後にいた本音は楯を構えつつグレネードランチャーを撃つ。

ボーデヴィッヒは舌打ちを放ちつつ回避軌道を取るも、それを予見していたのか一夏がサブアームと持っていたライフルで攻撃し更にSEを削る。

 

2人の攻撃にどんどん窮地に追いやられるボーデヴィッヒ。彼女の心はもはや怒りでいっぱいだった。

 

(クソッ! 何故だ! 何故あんな弱虫のような奴とのんびりしている奴に此処まで追い込まれるのだ!)

 

そう思っていると突如

 

汝力を求めるか?

 

と頭の中に声が響く。

 

(…寄越せ。その力を。あいつ等を打ち倒す絶対の力を!)

 

怒りで冷静な判断が出来なかったボーデヴィッヒはその声に答えるように念じる。すると

 

『……Pi.…Standby.……―――――Start-up』

 

その声と共にボーデヴィッヒの意識は闇へと落ちて行った。

 

 

 

「――あれ、止まった?」

 

突如動きを止めたボーデヴィッヒに、一夏は攻撃の手を止めると本音も一夏の傍にやってくる。

 

「どうしたんだろう?」

 

「わ、わかりません。突然動きが止まって…」

 

暫しボーデヴィッヒの様子を注視していると、突如

 

「嗚呼あぁぁぁあああぁ!!」

 

叫び出したと同時にボーデヴィッヒの機体からスライムのような物が出てきた。




次回予告
突如ボーデヴィッヒの機体から現れたスライム。それは危険な物であった。
一夏と本音。二人の運命は如何に?

次回
緊急事態発生
「逃げるんだよぉ!(´□`;)=З=З=З=З=З=З」

「ま、待って下さぁい!? ヾ(TДT;)))).....マッテー!」


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31話

管制室に居た千冬や真耶達はボーデヴィッヒの機体から出たスライムに驚きと警戒の表情でいっぱいだった。

 

「い、一体あれは『ピピピッ‼』ん? 誰だこんな時にって、束?」

 

ポケットに入れていたスマホの画面に映った束の文字にこんな時に。と苛立ちを一瞬浮かべるも、もしかしら何か知っているかもと電話に出る。

 

「もしも『ちーちゃん、直ぐにいっくん達を避難させて‼』…あれが一体何か知っているのか、束?」

 

『恐らくVTシステムだと思う。そして入れられているデータは恐らく…』

 

言い淀む束に、千冬はギリッと奥歯を噛み締める。

 

「私が現役だった頃のデータか…」

 

そう呟き千冬はモニターに映るボーデヴィッヒの機体、いや何時の間にか変化して自身が現役時代に乗っていた機体、【偽暮桜】を睨みつける。

 

「束、アイツにハッ『残念だけど、あのISにハッキングするのは愚策だよ』どういう事だ?」

 

『何が切っ掛けで攻撃モードに移るか分からないのに、ハッキングなんかできないよ。それより早くいっくん達を避難させて!』

 

「そうだな。真耶、急いで教師部隊に連絡をとれ! アイツが何時暴走しても可笑しくない!」

 

「わ、分かりました!」

 

千冬の指示に真耶はすぐさま元軍所属の教師達に連絡を取りIS保管所へと走らせた。

真耶が連絡を入れている間に千冬は通信端末で一夏達に連絡を取った。

 

一方アリーナにいた一夏と本音はドロドロしたスライムから、千冬が乗っていた暮桜に変化したことに恐怖しながら後退っていた。

 

「ど、どうしてお姉ちゃんが乗っていた暮桜に?」

 

「わ、分かんなぁい。なんか気味悪い」

 

そう話していると、通信が入り千冬が現れる。

 

『織斑、布仏聞こえるか!?』

 

「お、織斑先生? あ、あれは、一体なんですか?」

 

『違法システムが作りだしたものだ。恐らく私が現役だった頃の性能を有しているはずだ』

 

「えぇ!? そ、それじゃあどうしたら?」

 

『恐らく奴はまだ完全に起動状態になっていないはずだ。お前達は直ぐにピットに避難しろ。いいな?』

 

「「は、はい」」

 

千冬の指示に2人は偽暮桜が起動する前にとすぐさまピットへと向かった。2人がピットに向かっているとピットから打鉄やラファールを身に纏った教師部隊が入って来た。

 

「あなた達、急いで避難しなさい!」

 

先頭にいた教師にそう促され、一夏達は擦れ違う様にピットに向かって飛ぶ。

避難していくのをモニターで確認した千冬は生徒の安全はひとまずとれたな。と内心呟きながら溜まっていた重い息を吐きもう一つの問題にとりかかろうとした瞬間

 

『も、目標起動しました!』

 

「なにッ!?」

 

アリーナにいた教師の一人からの報告に千冬は目を見開きモニターを見る。其処には刀を構え、教師部隊へと向かう偽暮桜が映っていた。

 

「何もしていない何故急に?」

 

『ちーちゃん、もしかしたらアイツの狙いは…』

 

「ッ!? 一夏か!」

 

束の言葉に千冬の一気に体から血の気が引く感覚を覚えるがすぐに通信を入れる。

 

「教師部隊‼ 絶対に奴を止めろ!」

 

 

 

「―――イッチー、急いでぇ!」

 

「は、はい!」

 

背後で教師部隊が戦っている中、一夏は本音と共にピットへと向かい飛んでいた。もうすぐピットに着くところで背後から

 

「あなた達気を付けて‼」

 

教師の叫び声が聞こえ、一夏が振り向くと教師部隊の包囲を突破した偽暮桜が迫って来ていた。

 

(やばい、防御が間に合わない!?)

 

背後から迫ってくる偽暮桜は刀を振りかぶってくる。すると

 

「やらせない!」

 

と叫びながら本音が割って入り楯を構える。偽暮桜が振り下ろされてくる刀を盾で防ぐ本音。その時、残っていた爆発反応装甲が反応し爆発する。

爆風で前が見えない中、本音は箒の時の様に吹き飛ばされたのかなと思っていると突如爆風の煙の中から刀が突くように現れた。

 

「っ!?」

 

突如現れた刀、そしてそれを持った偽暮桜に本音は恐怖から体が硬直してしまい動けず攻撃を受けてしまい勢いよく吹き飛ばされた。

 

「ほ、本音さん?!」

 

吹き飛ばされ壁に激突し、SEが無くなったのか強制解除され壁に凭れる様に倒れ込む本音に一夏は急いで駆け寄ろうとするが、偽暮桜がそれを邪魔するように攻撃を仕掛けてくる。

 

〈こいつ!〉

 

アイラがそう叫びながらサブアームが握っていたライフルの引き金を引く。ライフルの攻撃に偽暮桜はサッとバックステップで避ける。

 

〈チッ。動きまでほぼアンタの姉そっくりじゃない〉

 

「ど、どうしようアイラ。あれ絶対僕を狙ってるよね」

 

〈間違いなくアンタ狙いよ。あぁもう、最後のライフルも弾切れよ〉

 

そう言いながらアイラはサブアームが握っていたライフルを放り捨てる。一夏は出来るだけ抵抗できるようにとバタリングラムを取り出し構える。

 

〈残った武器はコカトリス2丁、SCAVENGER3発、アヴァロン、バタリングラム、対物ナイフ、バヨネット、フォールディングナイフのみ。アイツとまともに戦えるような武器はほとんど残ってないわね〉

 

「で、でも何とかして凌がないと後ろにいる本音さんを守れないよ」

 

〈分かってるわよ。でもどうしようも――〉

 

「このぉ!」

 

「早く逃げなさい!」

 

「こいつぅ!」

 

偽暮桜相手にどう戦おうと手をこまねいていると、偽暮桜の背後から教師部隊が奇襲をするように攻撃をする。偽暮桜は背後から仕掛けてきた教師の方を振り向くと、アイラはチャンスととらえた。

 

〈一夏、今の内よ!〉

 

アイラの叫びに一夏は直ぐに機体を反転させ、本音の元に向かう。

本音の元に着いた一夏は本音を抱き上げてピットに避難しようとしたが

 

「きゃあぁあぁ!?」

 

と教師の叫び声が聞こえ振りむこうとしたが、一夏の横を勢いよく飛んできたラファールが壁に激突した。

 

「せ、先生!?」

 

「うぅうぅぅ…」

 

痛みで小さく声を漏らす教師。そして背後を振り向くと出撃してきた教師が全員壁に凭れていたり地面に倒れ伏していた。

そして偽暮桜は刀を構えスッと一夏の方に振り向き、一気に間合いを詰めるようにイグニッションブーストを仕掛けてきた。

一気に接近してくる偽暮桜に一夏はビクッと恐怖する。恐怖で動悸が早くなり、更に呼吸も浅くなる一夏。

此処で殺される。そう頭に過った瞬間一夏はパニック寸前だった。すると気を失っているはずの本音から

 

「…イッ…チー。に、…げて…」

 

とか細く声が漏れ、一夏の耳に届く。その声に一夏は自然と落ち着きを取り戻し始めた。

 

(せ、せめてほ、本音さんだけでも助けないと!)

 

そう思い一夏は使える物が無いか探すと、傍に転がっていたある物に目が留まる。それと同時に偽暮桜が刀を振り下ろさんと振り上げてきた。

一夏は目に留まったそれを急ぎ掴みとる。それと同時に振り下ろされる刀。

 

 

 

 

 

ガキィン!!!!

 

 

 

 

 

 

アリーナ内に響く金属と金属の衝突音。千冬や管制室に居た教師達は恐る恐る咄嗟に閉じた目をそっと開きモニターを見ると其処には

 

偽暮桜が振り下ろした刀を、盾で防ぐバレットホークが映っていた。

 

一夏が目に留めたもの、それは本音が持っていた盾であった。爆発反応装甲は殆んど無くなっており若干ボロボロであったが、それでもまだ使えそうな状態だった盾を一夏は咄嗟に掴みとり偽暮桜の攻撃を防いだのだ。

無論本来であれば本音のラファールに装備していた盾の為、本音の使用許諾が無ければ一夏は装備が出来ない。

だがタッグマッチ戦の為、本音は万が一一夏が盾を貸して欲しいと言われた時に直ぐに渡せるようにと、自身が乗るラファールのほぼすべての武装を使用許諾していたのだ。

その為一夏は本音が持っていた盾を掴みとり偽暮桜の攻撃を防げたのだ。

 

〈ナイスよ、一夏!〉

 

「あ、危なかったぁ」

 

〈まだ気を張っておきなさいよ、こっからはパワー勝負なるんだから!〉

 

そう言われ一夏はコクリと頷き、叩き切ろうと力を入れてくる偽暮桜に対し押し返すように力を入れる一夏。

教師達は当初パワー勝負となれば一夏が押し負けると思っていた。だが、徐々に一夏が偽暮桜を押し返してきたのだ。

 

「そ、そんな、偽物とはいえ相手は暮桜なんですよ!」

 

「けど織斑君少しずつですけど、押し返してますよ」

 

管制室に居た教師達が驚ている中、千冬は組んだ腕の中でギュッと手を強く握りしめる。

 

(確かに偽物とはいえ暮桜は私が乗っていた機体。だが機体性能はほぼの初期の第一世代で、私の身体能力があってこそ最強と言われた機体だ。VTシステムでその時と同じ性能を出しているが、一夏の機体は他の代表候補生、国家代表が持っているISとは一線を凌駕する性能を有している。身体能力では私が上だが、機体性能であれば一夏の方が軍配が上がる。それに機体にダメージの入ったシュヴァルツェア・レーゲンで発動しているから機体にガタが来ている。そう言った要素があるからこそ一夏は押せている。だが…)

 

そう思いながら千冬はある心配をしていた。それは

 

(一夏の体力があとどのくらい持つか……)

 

千冬はタッグマッチ戦での疲労、そして偽暮桜にあれ程の力で押されているのを押し返そうとしているので相当体力を持っていかれていると思っていた。

その千冬の読みは当たっていた。

 

「はぁー、はぁー、はぁー」

 

偽暮桜の攻撃を何とか押し返そうとサブアームを使って力の限り押し返しているがすでに足腰、そして腕がプルプルと震え始め一夏の体力が無くなりそうになっていた。

 

〈一夏、もう少し辛抱できない?〉

 

「ご、ごめん。もう…ヤバいかも」

 

一夏の言葉にアイラはクッ。と歯を噛み締める。すると一夏が何を思いついたのか、アイラに話しかける。

 

「アイラ、アイツからちょっとでもいいから隙を作れない?」

 

〈何とかしてやりたい気持ちはあるけど、サブアーム全部を使って盾を抑えてるからこっちは手が出せないわ〉

 

「うぅぅ、そんなぁ…」

 

プルプルと振るえる腕と足で何とか持ちこたえる一夏。だが、何とか押し返せていた状況から徐々に押し戻され始めた。

 

 

「―――う、うぅぅ」

 

そんな時、偽暮桜の攻撃を受け壁に凭れていたラファールを纏っている教師の一人が朦朧とする意識の中、ライフルを構え偽暮桜にへと向ける。

 

「や、やらせる…ものです…か!」

 

そして引き金を引いた。

発射音と共に放たれた弾丸は真っ直ぐに偽暮桜へと向かい命中。偽暮桜はその攻撃に誰が攻撃したのかと確認する。その時一瞬力が弱まり、一夏はチャンスだと捉え盾を若干ずらし腰に付けたSCAVENGERが撃てる様にし狙いをつける。一夏が何をやろうとしているのか察したアイラはすぐさま一夏からSCAVENGERの発射権限を取り上げる。

 

〈一夏、この距離でSCAVENGERを撃ったら危険よ!〉

 

「でも、こうでもしないとアイツを引き離せない! お願いアイラ、やらせて!」

 

〈ッ! 分かった。けど、しっかりと盾を構えなさいよ!〉

 

そう叫び、アイラはSCAVENGERの発射権限を一夏へと返す。一夏はすぐさま狙いをつけていた偽暮桜に向けSCAVENGERを放つ。無論撃った後しっかりと盾を構えてだ。

 

SCAVENGERはまっすぐに偽暮桜へと飛来し命中、爆発を起こした。迫りくる爆風に一夏は本音を守る様に残り少ない体力でしっかりと盾を構え爆風を防ぐ。

暫くして爆風は収まり辺りに煙が立ち込めている中、一夏は盾を落とし崩れ落ちる様に四つん這いとなり荒い呼吸をする。

 

「はぁーはぁーはぁーはぁー」

 

〈一夏、大丈夫?〉

 

「う、うん」

 

〈全く無茶するんじゃないわよ、この馬鹿。はぁ~、兎に角至近距離で爆発を受けたんだから恐らくアイツはしばらく動けない…嘘でしょ〉

 

「え?……ッ!?」

 

アイラの驚いた声にどうしたんだろうと思った瞬間煙からガシャンと言う機械音が聞こえそちらに顔を向けると、刀を構えた偽暮桜が立っていた。

 

「そ、そんな…」

 

〈至近距離で受けたっていうのに、まだ平気な訳ッ?〉

 

偽暮桜は脚を引き摺りながら刀を構え一夏へと迫る。一夏は何とか立ち上がろうとするも足に力が入らずズデンと倒れてしまう。迫る偽暮桜に一夏はもう本当に駄目だと思っていると

 

ボシュ―ン……ドッカン‼

 

と爆発音が鳴り響いた。一夏は突如背後から聞こえた音に驚き恐る恐る振り向くと、其処には

 

「ふもっふ‼」

 

肩にロケットランチャーを担ぎ、その背にはグレネードランチャー搭載のアサルトライフルを背負ったフモッフが居た。

 

「ふ、フモッフさん」

 

【良く耐え抜いた。後は任せてくれ】

 

そうプラカードを見せた後、フモッフはボヒュボヒュと一夏の前に出る。そしてその後に続く様にピットから続々とモッフ達も現れた。現れたモッフ達は当初いた11人から更に増えており、その数は50体近くいた。

現れたモッフ達の内数人は一夏と本音、そして近くに居た教師を担ぎ上げピット内へと避難していった。

アリーナに残ったフモッフとモッフ達は目の前にいる偽暮桜に向け鋭い睨みを聞かせる。そして

 

もっふるもっふる、ふももももっふ‼(全員、攻撃開始!)

 

とフモッフが叫ぶとモッフ達はアサルトライフルからロケットランチャー、更にはグレネードランチャーを発射し偽暮桜を攻撃する。

更に遠方からは対物ライフル、バレットM82A3を構えたモッフ達も居り、此方も同様に偽暮桜に攻撃を続けていた。

 

偽暮桜が居た場所には爆風に弾丸が激しく降りそそいでおり、もはや蛸殴り状態であった。

暫くしてフモッフが手を挙げ攻撃止めの合図を出し暫しの沈黙が流れる。立ち昇っていた土煙などが晴れると、地面にボーデヴィッヒが倒れていた。

 

『よくやったフモッフ、それとモッフ達。教師達を救護、それとボーデヴィッヒを拘束して医務室に放り込んできてくれ』

 

「ふもっ!」

 

アナウンスで千冬の指示を聞いたフモッフは直ぐにモッフ達に指示を飛ばした。




次回予告
タッグマッチ戦は違法システムの発動という事で中止となった。
そんなタッグマッチ戦後のお話

次回
タッグマッチ戦後

「( ˘ω˘)スヤァ」
〈お疲れ、一夏〉


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32話

~医務室~

「ん……、あれ、此処はぁ?」

 

医務室のベッドで寝ていた本音は目を覚まし首だけで辺りを見渡す。部屋の中は薄暗く既に日が落ちている事は明白だった。

どれだけ時間が経ったんだろうとぼやぁと考えが浮かぶ本音。しかし次に浮かんだのは一夏の事だった。

 

(そうだ、イッチーは!)

 

そう思った本音は体を起こそうとした瞬間、ベッドの淵でもぞもぞと動くものに気付く。

本音は誰かいると気付きジッとその動いたものを見つめる。暫くして暗さに目が慣れるのと、外から入って来た月明かりが部屋を照らしてその正体が分かった。

 

「すぅ、すぅ、すぅ」

 

「ふぅえ、イッチー?」

 

椅子に座ってこっくりこっくりと居眠りをする一夏だった。スヤスヤと寝ている一夏に本音は無事だったんだぁと安心した表情を浮かべ、ホッと息を吐く。すると医務室の扉が開き伊田が中へと入ってくる。

 

「やぁ、布仏さん」

 

「あ、先生。イッチーは?」

 

「あぁ、彼は大丈夫だよ。何処もけがはしていない。君が運ばれた後、目を覚ますまで傍に居ていたいって言ったから千おっと、織斑先生が許可してね。此処で君が目を覚ますのを待っていたようだけど、眠ってしまったようだね」

 

そう言い伊田は一夏を背負い上げる。

 

「それじゃあ僕は彼を部屋まで送ってくるよ。布仏さんはもう暫くしたら女性の保険医の人が来るからそれまで待っててくれるかい?」

 

「はぁい」

 

伊田はそのまま一夏を背負ったまま医務室から出て行き、残った本音はもう一度横になりぼぉーと天井を見上げる。

そして頭に浮かんだのはタッグマッチトーナメント戦の事であった。

 

(私、結局何も出来なかった。イッチーを守ろうとしたけど、攻撃を受けて気絶して何も出来なかった)

 

そう思いながら本音は布団を握りしめる。

 

(強く、強くならなくちゃ。だって、イッチーは大事な友達だもん。イッチー一人に無茶なんて絶対させない!)

 

そう決意する本音であった。

 

 

~学園屋上~

夜風が吹く中、千冬は屋上でスマホを片手に柵に凭れてかかっていた。

 

「今日はすまんな、束」

 

『いやいや、束さんはモッフ君達を予定よりも早くそっちに送っただけだよ』

 

「それでもだ。お前が急いで増援のモッフ達を送ってくれたおかげで一夏や布仏、それに教師達も無事に助けられたんだ」

 

そう言い穏やかな顔を浮かべる千冬。

 

『そっかぁ。なら素直にお礼は受け取っておこう』

 

「そうしろ。……で?」

 

『何かなぁ?』

 

「分かっているはずだ。態々こんなことの為に電話する私では無い事くらい」

 

そう言い先程と打って変わって厳しい表情を浮かべる千冬。口調にも若干の圧が加わっており、常人であれば震える様な口調であった。

 

『にゃははは。流石ちーちゃん。問題ないよ、あの眼帯おチビちゃんのISに不細工な物を積んだところは、跡形もなく吹き飛んだから』

 

「そうか。一人残さずか?」

 

『もちのろん。いっくんを狙った糞野郎共を見逃すと思う?』

 

「ふん、思っておらん。それで、政府連中には?」

 

『そっちの方はまぁ、経済的なダメージを喰らわせておいたから暫く大人しくするしかないと思うよ。この束さんの警告を無視したと言う代償だからね』

 

そうケラケラ笑いながら伝える束。千冬もフッと笑みを浮かべそうかと答え夜空を見上げながら束との談笑を暫し続け、寮母室へと戻って行った。

 

 

~IS学園 第2医務室~

第2医務室、其処は本来は布仏が居た医務室同様に治療などを行う場所であるが、現在は武装した教師達が入口に立っており、中にも数人程銃を携えた教師と医師が居た。

医務室のベッドにはボーデヴィッヒが手枷や足枷を施され横たわっていた。

 

「う、ううぅううぅ。……こ、此処は?」

 

「あら、目が覚めた様ね? 此処は第2医務室よ」

 

「な、なぜ拘束されている?」

 

「その理由、貴女なら分かっているはずでしょ?」

 

医師の言葉にボーデヴィッヒは、自身があのアリーナで何が起きたのか思い出す。

 

「その顔からして思い出した様ね。悪いけど、拘束は暫くさせてもらうわよ。まだ貴女が暴れる恐れがあるからね」

 

そう言いながら医師はボードに挟まれた用紙に記入していく。

暫くカリカリと用紙に記入される音だけが鳴り響く室内。するとボーデヴィッヒが口を開く。

 

「一つ聞きたいんだが…」

 

「何かしら?」

 

「私を助けたのは、織斑教官なのか?」

 

「織斑先生? いえ、織斑先生なら管制室で教師部隊の指示やらなんやらで出ていないわ」

 

「じゃ、じゃあだれが?」

 

「織斑君と教師部隊の方達。それと、織斑君の護衛部隊よ」

 

医師から出た名前にボーデヴィッヒは大きく目を見開く。何故自分を助けた? 殺そうとまで考えていた自分を何故助けた?と、ボーデヴィッヒの頭の中は疑問でいっぱいとなった。

 

「さて、とりあえず体に大きな怪我とかは特にないみたいだから、これで『ピピピピッ!』ちょっと、失礼するわ」

 

そう言い医師はボーデヴィッヒから離れ、ポケットからスマホを取り出し電話に出る。暫く電話の向こうにいる相手と会話した後、スマホを仕舞いボーデヴィッヒの元に戻る。

 

「先程あなたのISの解析が終わったわ。仕組まれていたVTシステムは綺麗に取り除けたそうよ」

 

「そうですか…。あの、私の処遇は?」

 

「一応まだ決まっている訳じゃないけど、明日には解放される予定よ。但し、今回の事もあった為ISは当分の間取り上げでしょうね」

 

そう言われボーデヴィッヒは、そうですか。と返し顔を天井へと向ける。そして医師と武装した教師達は部屋から出て行った。

一人残ったボーデヴィッヒは医師が言っていた事を思い返す。何故自分を助けたのか? 暴力を振るった自分を何故?と頭を悩ませる。

だがボーデヴィッヒは一つ勘違いをしていた。一夏はボーデヴィッヒを助けようとした訳では無く、本音を助ける為時間稼ぎをしていたにすぎない。

そんな事を知らないボーデヴィッヒは一人悩みに悩み続け、遂に分からず廊下にいた教師を呼び、監視付きの元、部下に電話することにしたのだった。

 

 

~学生寮~

とある一室、窓から見える外の景色をジッと見つめる一人の少女。少女は暫し外の景色を見た後、持っていたスマホの電話帳からある電話番号を選び、タップ。

暫くして呼び出し音が鳴った後

 

『もっしも~し、天才博士事篠ノ之束さんで~す!』

 

「……姉さん」

 

『あぁ~、箒ちゃんか。何か御用かな?』

 

電話の向こうから聞こえる良く分からないテンションの口調で言って来る束に箒はずっと考えていた事を、口に出す。

 

「力を、私だけの力をください。絶対の力を!」

 

そう強い口調で言う箒。それに対して束はと言うと

 

『うぅ~ん、まぁ考えといてあげるよ。じゃあねぇ』

 

そう言い電話を切った。箒は了承の言葉をすると思っていたのか、驚いた表情を浮かべ暫し茫然した後、もう一度しっかりと了承の言葉を貰おうと再度かけ直すが

 

『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』

 

と電子案内され、その案内に対してもまた茫然とする箒であった。

 

 

そして箒から電話を貰った束はと言うと

 

「……」

 

隠れ家の奥の部屋でジッとスマホの画面を見続けていた。そして

 

「うん、やっぱり成長してないねぇ。というか、酷くなってるか。まぁ、最初から期待なんかしてないけどね」

 

そう言いながら束はスマホを仕舞い、目の前にある物の製作を再開する。

 

~学生寮・一夏の部屋~

伊田に運ばれた一夏はベッドでスヤスヤと寝息を立てながら寝ていた。そんな中、バレットボークの精神世界にいるアイラは、一人アリーナでの出来事を悔やんでいた。

 

〈あの時、もしフモッフ達の到着が遅れていれば、確実に一夏は殺されていた〉

 

そう思いながらギリッと歯を噛み締める。そしてそっと腕を上げ手の平を広げると、煌びやかに光る光球が現れた。

 

〈これを一夏に渡せば、バレットホークは更に力を増す。でも、それは一夏に大きな重みとなる。それだけは避けたい〉

 

アイラはそっと一夏の様子を見るべくモニターを出すと、其処にはスヤスヤと穏やかな表情で寝ている一夏が映っていた。アイラはその顔を見てフッと先程まで張っていた気を緩め、穏やかな顔付を浮かべる。

 

〈まぁ、焦ってこれを渡した所でアイツが使いこなせるわけじゃないし、今はもう少し様子見にしておいた方がいいわね〉

 

そう言いアイラは光球をそっと消し去り、モニターの一夏に向かってデコピンをする。

 

〈明日も元気な顔を見せなさいよ、一夏〉

 

そう言いアイラは精神世界から姿を消した。

 

 

 

荒れに荒れたタッグマッチ戦から次の日。

 

ピピピピピッ!!

 

指定した時間と同時にけたたましいアラーム音が鳴り響くと、一夏はベッドの中からもぞもぞと動き、腕を伸ばしてアラームを止めた。

寝ぼけ目のまま体を起こしこっくりこっくりと頭を揺らしながらベッドから起き上がり、洗面所へと向かう。

 

こっくりこっくりと頭が揺れながらも歯磨きをしようとする一夏。しかし寝ぼけているせいかしばし洗面所で立っていると

 

〈シャキッとしなさい!〉

 

「ヒャイッ!?」

 

アイラの大きな声で一夏は寝ぼけていた頭が一瞬ではっきりし、肩を大きく跳ね上げながら瞼をパチパチと閉じたり開いたりと繰り返す。

 

〈目は覚めたかしら?〉

 

「えっと、う、うん」

 

〈じゃあさっさと顔を洗って歯磨き済ませて、朝食食べなさい。クッククク〉

 

小さく笑いながらアイラがそう言うと、一夏はわ、分かった。と言い洗顔と歯磨きをし終え、台所に立ち朝食を手早く作る。

 

『本日は気温が例年よりも高い為、こまめな水分補給が必要です』

 

朝のニュースを見ながら朝食を取る一夏。すると扉からノックする音が鳴り響く。

 

『イッチー、教室行こぉ!』

 

「あ、本音さんの声」

 

〈どうやら怪我とか無かったみたいね〉

 

「うん、良かったぁ」

 

〈ほら、さっさと行く準備しなさい〉

 

「うん。ほ、本音さん、ちょっと待ってて」

 

そう言い一夏は食べ終えた食器などを水の張った桶に入れ、机に置いたカバンを手に取り扉に向かい扉を開ける。扉の先には以前と変わらないのほほんとした表情を浮かべた本音が立っていた。

 

「おはよぉイッチー」

 

「お、おはようございます。あの、もう大丈夫なんですか?」

 

「うん、保健室の先生がもう授業に出ても良いよって許可貰ったからねぇ」

 

「そ、そうですか。良かったぁ」

 

そう言いホッと胸を撫で下ろす一夏。その姿に本音ものほほんとしながらも笑みを浮かべる。そして

 

(イッチーのこの笑顔を守れるように、強くならないと。頑張るぞっ!)

 

と心の中で一夏が悲しい顔を浮かべない様、強くなることを再度決心するのであった。

すると一夏の部屋の隣にある警備室からモッフ達が現れた。だが、何時ものなら2体のはずだが今日は4体現れ一夏と本音は首をかしげる。

 

「お、おはようございます」

 

【おはようございます。本日から警備強化の為2体態勢から4体態勢となりました。(`・ω・´)ゞ】

 

そうプラカードで説明する4号と、頷く14号、20号、30号。

 

「そ、そうなんですか。それじゃあ、よろしくお願いします」

 

そうお辞儀をして一夏と本音が歩き出すと、モッフ達もその背後に付き従うように歩く。そして教室に付き中へと入る2人。モッフ達はと言うと、2体は廊下に立ち、もう2体は一夏の席の後ろに立った。

 

「おはよう二人共」

 

「おっはぁ~!」

 

「お、おはようございます」

 

「おはよぉ!」

 

「二人共怪我とか大丈夫だったの?」

 

「僕は、その、疲労だけだったので大丈夫です」

 

「私はちょっと背中に痣が出来たくらいで大丈夫だったよぉ」

 

「そうなんだ。良かったぁ、皆結構心配してたからね」

 

「うん、まぁ軽い程度で済んでよかったね」

 

鷹月と相川は安堵した表情でそう言い、周囲にいた生徒達もホッと胸を撫で下ろした。そしてしばし一夏達は談笑を交わし時間を潰す。

暫くしてSHRを知らせるチャイムが鳴り響き生徒達が席へと付いて行く。全員が席に着いたと同時に教室前方の扉から千冬と真耶が入って来て教壇へと立つ。

 

「えぇ~、諸君おはよう。SHRを始め「申し訳ありません、遅れました」ボーデヴィッヒか。さっさと席に着け」

 

SHRを始めようとした矢先にボーデヴィッヒが教室内へと入って来た。普段ならば遅刻だぞ!と怒鳴り、出席簿で叩く千冬だが、医務室から今日退院です。と知らせを受けていた為今回は見逃したのである。

 

「あの、一つやっておきたい事があるのですが。宜しいでしょうか?」

 

「ん? なんだ?」

 

「これまで迷惑を掛けた為謝罪を…」

 

「……良いだろう。但し時間が無い為、手早く済ませろ」

 

ボーデヴィッヒが謝罪をしたいと言った事に、千冬は少しは成長したか?と思いながら許可する。ボーデヴィッヒは一礼し、生徒達の方に体を向けると

 

「その、高圧的にしかも、侮辱的な態度で当たって申し訳なかった」

 

そう言い腰を曲げるボーデヴィッヒ。その姿に生徒達はそれぞれ顔を見合い、反省というか改心していると思い許そうと考え始める。

 

「それと、織斑一夏」

 

「な、何でしょうか?」

 

突如自分の名前を呼んできたボーデヴィッヒに一夏は怯えながらもそっと顔を向ける。

 

「お前にも大変迷惑を掛けて済まなかった」

 

と腰を曲げて謝罪をするボーデヴィッヒ。

 

「あの、もう、気にしてない、ので、大丈夫です」

 

一夏はそう返事をし、もう絡まれることは無いと心の中で安堵していると

 

「そうか。それじゃあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「「はぁ?」」」」」

 

「え?」

 

突然のボーデヴィッヒの宣言に生徒達はポカンと口を開けて茫然とし、一夏は最初意味が分からずにいたが徐々に顔色が青く染まっていく。

 

「おい、ボーデヴィッヒ。一体どう言う訳でその結論になった?」

 

千冬は目元を引き攣りながらその訳を聞く。

 

「はっ! 私はマスターに対し多大な迷惑を掛けたにも拘らず、昨日私を助けようとしました。救助後、何故助けようとしたのか分からなかった私は部下に連絡をとりその訳を共に考えてもらった所、マスターはその寛大な心で私を助けたのではと部下から教えてもらいました。なので私が唯一得意である武力でマスターの身辺警護をする事でその恩を返そうと考えたのです!」

 

そう説明するボーデヴィッヒに生徒達が最初に思った事、それは

 

((((何処の誰だ、変な知識を与えたのはぁ‼))))

 

だった。

因みに千冬はボーデヴィッヒの説明におでこに青筋(第1段階)が浮かび上がる。

 

「織斑には既に護衛部隊が付いている。お前の護衛は不要だ」

 

「しかし、昨日彼等は遅れてやって来たと聞いております。遅れてくるようではマスターを守れません。なら軍人である私が護衛に付いた方が何かと宜しいです!」

 

「織斑は女性恐怖症を患っているんだ。お前が近づけるはずが無いだろうが」(青筋2段階目に上昇)

 

「問題ありません! 影からマスターの護衛に付きます。そうすれば発作など起きません」

 

自信満々に言うボーデヴィッヒに千冬の怒りゲージ(青筋3段階目突破)はMAX寸前だった。

するとずっと黙っていた一夏が口を開く。

 

「あ、あの、ぼ、僕は、フモッフさん達だけで、十分、です」

 

表情が悪く、唇を震えさせながらそう伝える一夏。隣の席の本音はそんな一夏の背をそっと摩り、大丈夫?と心配そうに声を掛ける。

その光景に何故かムッとした表情を見せるボーデヴィッヒ。

 

「ボーデヴィッヒ。はっきりと言うが、お前の護衛などいらん」

 

「し、しかしあんな連中より私の方が「貴様よりフモッフ達に任せた方が遥かにマシだ。というよりも、影から護衛するだと? そんなことしたら織斑の心労が増えるだろうが!」し、しかし……」

 

「しかしもへったくれもあるか! それと貴様とフモッフ達とでは実力の差があり過ぎて話にもならん」

 

そう言われ自分がフモッフ達よりも劣ると言われムスッとした顔つきを浮かべるボーデヴィッヒ。

 

「私があいつ等よりも劣っているとおっしゃるのですか?」

 

「あぁ、劣っているな。背後にいることに気付いていない時点で」

 

そう言われボーデヴィッヒは驚き背後を見ると、既にフモッフとモッフ2体がボーデヴィッヒの背後に立っていた。

 

「い、何時の間に…」

 

「それに貴様は既にフモッフ達に気絶までされているだろ? つまり、それだけ実力差があるという事だ。さぁ、分かったらさっさと席に着け」

 

千冬はそうボーデヴィッヒに促し教壇に立つ。だがボーデヴィッヒはまだ納得できないのか、しばしその場に佇んだ後、突如フモッフに襲い掛かった。

自身の方が優れている、こんな着ぐるみのような連中に自身が遅れているはずはない。そう思い感情のままにフモッフに襲い掛かるが

 

【まだまだひよっこだな】

 

そうプラカードを見せながらボーデヴィッヒの攻撃を避け、プラカードでボーデヴィッヒの後頭部をはたく。

 

「うぎゃっ!?」

 

後頭部をはたかれたボーデヴィッヒはそのまま前のめりで倒れ込む。

 

「このぉ! あぎゃ!」

 

反撃しようと顔を上げた瞬間、今度は対人用非殺傷武器の一つ『HARISEN』が叩き込まれ顔面を床に押し付けられる。

その後顔を上げようとする度にHARISENでしばかれるボーデヴィッヒ。

その光景に千冬達はと言うと

 

「えぇ~、ではSHR始めるが、いいか?」

 

「「「「問題ありませぇん!」」」」

 

全く気にする様子も無くSHRへと移るのであった。




次回予告
あれから数日が経ち、一夏は部活に使う材料などを持って部活動へと向かう。
お題は『真夏に嬉しいお菓子』
さぁ、一夏君はどんなお菓子を作るのであろうか。

次回
真夏に冷たい物は欠かせない

「はぁ~、冷たくておいしぃ(*´Д`)」


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33話

トーナメント戦から数日が経ったある日。

「――では以上でSHRを終える。織斑、挨拶を」

 

「は、はい。起立、礼」

 

『ありがとうございました!』

 

「着席」

 

そう言うと千冬と真耶は教室から出て行き、生徒達も部活動に行く者や友達と駄弁り合う者で別れた。

カバンに教科書やノートを仕舞い終え、一夏も部活動へと向かおうと席を立つ。

 

「あ、ねぇねぇイッチー。今日って部活の日ぃ?」

 

「は、はい。お題が真夏に嬉しいお菓子です」

 

「ほへぇ~、真夏に嬉しいお菓子だったらやっぱりアイスじゃないかな?」

 

「そう、ですね。僕も手作りアイスクリームにしようかと思ったんですが、手軽に出来てそれにアレンジメニューが豊富な物を今日は作ろうと思ってるんです」

 

一夏の説明に、本音はへぇ~と声を零しながら口の端からタラーと涎を零す。

 

「ほ、本音さん。涎が…」

 

「はっ! ごめんごめん、なんか美味しくて冷たい物が作られそうだから良いなぁと思っちゃってさ」

 

えへへへ。と照れ笑いを浮かべながら涎を拭く本音。

それにクスクスと笑う一夏。

 

そして一夏は家庭科室へと向かい、本音はカバンを持ってある場所へと向かう。

本音は校舎から出ると、そのまま学園の奥へと進む。そして人気がほとんどないとある建物の中へと入って行く。

中に入った本音は靴を脱ぎ、建物に上がり奥へと進むと一面に畳の敷かれた道場に到着した。その中央には

 

「来たか」

 

腕を組んで佇む千冬が居た。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

そう言い本音は荷物を置き千冬の前に立つ。

何故千冬と本音が相対しているのか。それはトーナメント戦後のある日の事だった。本音は一夏と寮へと帰った後、寮母室へと訪れていた。

本音は緊張した面持ちを抱きながら扉をノックする。暫くして部屋からタッタッタと音が聞こえ扉が開く。

 

「む? 布仏か。どうかしたか?」

 

「ちょっとご相談したいことがありましてぇ」

 

部屋から出てきた千冬に本音はそう言うと、まぁ入れと言い本音を部屋へと招き入れる。部屋に招き入れられた本音は千冬の案内で部屋の奥へと連れられる。

 

「まぁ、適当に座ってくれ。今お茶を入れてやる」

 

「あ、お構いなくぅ」

 

本音を椅子に座らせた後千冬は冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し棚から取り出した二つのコップに注ぎ一つを本音の前に置き、もう一つを自分の前に置く。

 

「それで相談とは何だ?」

 

「あの、私を、鍛えてくれませんか?」

 

「はぁ?」

 

突然鍛えて欲しいと頼む本音に千冬は怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「急にどうしたんだ、鍛えて欲しいなどと?」

 

「実は――」

 

千冬の質問に本音はその訳を話し始めた。タッグマッチ戦での事、そして医務室で決意したことを。訳を話し終えた本音はそっと出されたお茶に口を付ける。

 

「なるほど、事情は分かった。だが布仏。お前の家が特殊な家系でその手の訓練を受けているのは知っている。なら、私から手ほどきを受ける必要が「今のままじゃダメなんです! …それに、私はあまり訓練を受けてないんです」…なるほど」

 

「遊びたいからと言う理由で、訓練をサボったりしていたんです。だから今はそれを悔やんでます。どうして訓練をサボっちゃったんだろう? サボらなかったらイッチー一人に辛いことをさせずに済んだんじゃないのかな?って」

 

「……だから私に戦闘技術の教えを乞おうとしたんだな?」

 

千冬の問いに本音は真剣な眼差しでコクリと頷き、千冬はうむぅ。と腕を組んで考える素振りを見せる。

 

(布仏の決意は本物だな。……ふむ、なら一肌脱いでやるか)

 

本音の熱意。千冬はその熱意が本物で、本気で一夏を支えるために強くなろうとしている事に内心頬を緩ませる。

 

「分かった。手ほどきしてやろう」

 

「ほ、本当です「但し!」な、何でしょうか?」

 

「本気でやるからな。お前が本当に一夏を支えるために強くなりたいと思っているなら中途半端な気持ちは許さん。いいな?」

 

「はい!」

 

千冬の鋭い眼光を向けられながらも本音は力強く返事をすると、千冬は笑みを浮かべ普段一人で使っている道場の場所を教えたのだ。

それから千冬は自身が身に着けている格闘術を本音に教え、更に身近な道具など使った格闘術を教えた。

 

本音が千冬に手ほどきを受けて貰っている頃、一夏は料理研究部の活動場の家庭科室で調理の準備を始めていた。

家庭科室にいたセレスや紀子達もそれぞれお菓子を作り始める。

一夏は拡張領域に仕舞っていた保冷バッグを取り出し、中から円形状の氷の塊を数個取り出す。それぞれの氷にはイチゴやキウイ、更にミカンやブドウの実が入っていた。

周りの生徒達は今日はどんなお菓子を作るんだろうと思いながら作業をしながら見守る。

一夏は取り出した氷をトレーの上に置き暫くそのまま置き、戸棚から耐熱皿を取り出し其処にグラニュー糖とイチゴを載せラップをかけ、レンジへと入れ加熱する。

 

「え? 織斑君、その氷どうするの?」

 

「その、暫く放置しておきます。そうすれば触感が良くなるので」

 

「そう…。それならいいけどぉ」

 

氷を放置して別の作業をする事にセレスを含め、皆首をかしげるのであった。

そうこうしている内に加熱完了を知らせるアラームが鳴り、一夏はレンジから耐熱皿を取り出し程よく溶けだしているイチゴをある程度形が残るくらいまで潰しながら、残ったグラニュー糖と混ぜる。そしてまたレンジに入れ加熱をする。そしてまた終えるとまた混ぜてまた過熱をする。計3回加熱と混ぜる作業をした後、出来上がった物を器に入れ冷蔵庫の中にいれ冷やし始めた。

その後、ミカンやキウイ、ブドウも同じようにジャムにして冷蔵庫で冷やす。すべて終えた後一夏はトレーに載せた氷の様子を見ると、表面上に水滴がついており、持ち上げると水がポタポタと落ちる位溶けだしていた。

 

「よし、削ろう」

 

そう呟くと一夏は若干溶け始めた氷を拡張領域から取り出したかき氷機にセットし、同じく冷蔵庫で冷やしていた器をセットしてハンドルを回し始めた。

シャリシャリと音を立てながら色鮮やかな氷が器に盛られていき、ある程度形が出来た後冷蔵庫で冷やしていたイチゴのジャムを掛ける。

 

「で、出来た」

 

そう言いイチゴのかき氷を机に置く。

 

「おぉ~、フルーツたっぷりのかき氷だぁ!」

 

「氷のイチゴのみならずシロップにもイチゴの実が入ったジャムを使うなんて凄いわね」

 

「ほぉ~、冷え冷えで美味そうじゃのぉ」

 

周りの生徒達の感想を聞きながら、一夏は他のキウイやブドウの氷も削りジャムをかけていく。

そして全員の料理が完成し、机の上に並べられた。

アイスクリームにフルーツポンチ、更に色鮮やかな水羊羹が置かれ豪勢な雰囲気が醸し出していた。

 

「それじゃあ」

 

「「「「いただきまぁす!」」」」

 

「い、いただきます」

 

そう言いそれぞれお菓子を手に取り頬張る。

 

「うぅ~~ん、冷たくて美味しいわぁ」

 

「そうね。それにしても朱乃。また綺麗な水羊羹を作ったわね」

 

「フフフ、お褒めに預り光栄ですわ。だてに和菓子店の娘ではございませんもの」

 

「はわぁ~、この羊羹の中に泳いでる金魚さんとかまた見事ですねぇ」

 

それぞれ感想を述べる中、朱乃はチラッと一夏の方へと目を向ける。一夏も水羊羹をまじまじと見つめていたのだ。

 

「あら、一夏君。どうかしましたか?」

 

「あ、いや。その、凄く、綺麗なお菓子なので、食べるのが勿体無いなぁと思って」

 

照れた表情で水羊羹を褒める一夏。その様子に朱乃はフフフ。と笑みを浮かべる。

 

「確かに勿体無いと思わるのは仕方がありませんわ。ですが水羊羹は目で涼み、そして食べても涼むと言う物。そうしないとせっかく作った水羊羹が可哀想ですわ」

 

そう言われ、一夏はそうですか。と答え竹ぐしを使い水羊羹を切り分け口へと運ぶ。

 

「凄く、冷たくて美味しいです」

 

「それは良かったです」

 

そう言い一夏の照れた笑みを見て、朱乃は円満な笑みを浮かべる。

そんな中セレスや紀子、里佳子達は一夏の作ったかき氷を頬張っていた。

 

「このかき氷フワフワしてて食べやすいわね」

 

「そうね。それにジャムにまだ果肉が残っているから触感も良いわ」

 

「はぁ~、何杯でも行けるのぉ」

 

そう言いながらかき氷を食べる里佳子達。するとニコラスが頭を抑えながら蹲っていた。

 

「どうしたん、ニコ?」

 

「あ、頭が痛いですぅ!」

 

「急いでかきこむからよ、全く」

 

そう言いながらアメリアやあおいは呆れ顔やハッハハハ。と笑顔を浮かべる。

それから暫くして机の上にあったお菓子は全て無くなり、それぞれ後片付けを始める。

 

「あ、皆。後片付けをしながらちょっと聞いてくれる?」

 

そうセレスが声を掛けると、各々手を動かしながら顔をセレスの方へと向ける。

 

「もうすぐ一年生は臨海学校があるから1年生抜きで私達は部活動を行います。それで、そのお題が…」

 

一旦間を置き全員の顔を見渡すセレス。そして

 

「『臨海学校・期末試験お疲れ様パーティー』を開こうと思います! このパーティーは主に私達上級生が準備等を行うから2,3年生はパーティーの準備をお願いします。1年生は初めての臨海学校と期末試験だからしっかりと勉強してきてね」

 

「「「はぁい/は、はい」」」

 

「それじゃあ後片付けをしたら解散とします。それじゃあ皆さん、洗い物の続きをお願いね」

 

このセレスの宣言の後、皆洗い物や、道具を片付け始めるのであった。




次回予告
1年生の恒例行事にあたる臨海学校。一夏も臨海学校に向け準備をするべくお出かけをする事に。無論本音と一緒にだ。
だが、まぁた何時ものお邪魔虫が現れる。
さてさて一夏君達は無事にお買い物が出来るのか。

次回
レゾナンスでお買い物

「どう言った物をお求めですか?」

「一番いいカメラを頼む」


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34話

タッグマッチ戦から数日が経ったある日。生徒達は次の行事に早く来ないかと心待ちにしていた。

それは

 

「来週の臨海学校楽しみだねぇ、イッチー」

 

「は、はい」

 

そう1年生初めての学園外の活動、臨海学校である。IS学園内にあるアリーナのような平地ではなく、自然に出来た起伏や海や山からくる風など予想し辛い状況での稼働試験の為、学園が指定している旅館に泊まって行う行事である。

生徒達は修学旅行の気分で大変賑わっているのだ。

 

「最初の一日目は自由行動らしいから、近くの浜辺で思いっきり遊ぶぞぉ!」

 

「ビーチボールとか遊ぶ物持って行かないとね」

 

「あと温泉とか料理も楽しみだなぁ」

 

それぞれ旅館に着いたらやろうとしている事を談笑し合っている中、本音も一夏と着いたら何をするのか談笑し合っていた。

 

「ねぇねぇイッチー、旅館に着いたら何するぅ?」

 

「えっと、僕、釣りがしたいです」

 

「ほへぇ、釣り? どうして釣りなのぉ?」

 

「……僕、浜で遊べないんです」

 

「えぇ~、どうしてぇ? もしかして泳げないから?」

 

「い、いえ。そうじゃ、ないんです」

 

言いづらそうな表情を浮かべる一夏。本音は一夏が言いづらそうになるのは病気の事が関係していると思い、一体なんだろうと考えこむ。するとモッフ<41号>がプラカードを見せてくる。

 

【本音氏。川や海で遊ぶ場合、何に着替える?】

 

「え? そりゃあ水着…あっ!」

 

『あぁっ!?』

 

本音達の会話を聞いていた生徒達も、本音の呟きに声を揃えあげる。

 

「な、なるほど。確かに私達水着に着替えるよね」

 

「確かに。そうなると織斑君の病気の事を考えたら、確かに私達と一緒に遊べないのは納得できる」

 

「そうだね。でも、そうなると織斑君一人で釣りは何だか、ねぇ?」

 

「うん。あの人達がねぇ」

 

そう呟くと全員の頭に問題児5人の顔が浮かび上がる。

 

「そう言えばあの4人いないわね」

 

「あの4人だったらまた織斑先生にお説教を受けてるわよ」

 

「今度は何をしたのよ」

 

「何でも織斑君の部屋の前で口論していた所をモッフさん達に鎮圧されて、織斑先生に引き渡されたらしいわよ」

 

「はぁ~。毎度思うけど、あの人達一体何がしたいんだろ?」

 

「さぁ? 反省って言う言葉が頭に無いんじゃない?」

 

そう呟くと多くの生徒達は有得るかもと、呆れた様な表情を浮かべる。

 

「あの5人については置いておいて、どうやって織斑君のボッチ釣りを回避するかよ」

 

「そうだよね。護衛にモッフさん達も就くんですよね?」

 

【勿論だ。我々は何時如何なる場所でも一夏様のお傍に居る】

 

「それじゃあ、どうしようかな?」

 

「此処はさぁ、シンプルにいかない?」

 

「シンプルって、もしかして…」

 

「そっ! 私達も釣りに行く!」

 

一人の生徒がそう提案すると、おぉ~~!、その手があったか。と声が上がる。そんな中、一夏は困惑した表情を浮かべていた。

 

「あ、あの、そんないいですよ。皆さん、海で泳ぎ遊びたいと思いますし。僕は別に一人で釣りをしてても大丈夫ですから」

 

「いやいや。一人で釣りは流石に寂しいよ」

 

「うんうん。みんなで楽しんでこそ、臨海学校だよ!」

 

生徒達はそう言い一夏を一人ボッチにさせないためにどうするか計画を立て始めようとした所チャイムが鳴り、生徒達は慌てて席へと付いて行く。

チャイムが鳴り止むと同時に千冬、そして真耶が教室内へと入って来た。

 

「諸君、おはよう」

 

『おはようございます!』

 

「お、おはよう、ございます」

 

「えぇ~と、反省房にぶち込まれた4人以外全員いるな? よしSHRを始める。全員知っての通り、来週の月曜から2泊3日の臨海学校がある。最初の1日目は自由行動のため海で遊んでも構わん。但し教員の目の届く範囲に入ろよ。次に「あの織斑先生」ん、なんだ?」

 

「1日目の自由行動なんですけど、海で釣りをしてもいいですか?」

 

「釣りだと?」

 

「はい!」

 

千冬は生徒の質問に対し、怪訝そうな顔を浮かべ暫し真剣な表情を浮かべる。その姿に生徒達、そして一夏はもしかして釣りは駄目なのかと不安そうな表情を浮かべ始めた。

 

「岸川」

 

「は、はい」

 

「なんで釣りがしたいんだ?」

 

「えっと、織斑君の持病を考慮したからです。織斑君は持病が原因で水着になった私達と一緒に浜辺で遊べませんので、一人で遊ぶことになってしまいます。釣りだったらそれ用の服装でやる為、織斑君と一緒に遊べると思ったからです」

 

「なるほど」

 

質問してきた生徒から理由を聞いた千冬。未だに真剣な表情を浮かべながらも、次に視線を向けたのは一夏であった。

 

「織斑」

 

「は、はい」

 

「先ほど言った通り遊ぶ場合は教員の目の届く場所でなければならない。その理由は万が一があった場合直ぐに対処できるようにする為だ。それは分かるな?」

 

「はい」

 

「そして釣りをする場合は、砂浜から少し離れた防波堤しかない。其処だと教員の目が届かない。その為釣りは原則禁止にしている」

 

そう千冬が告げると、1組の生徒達は殆んどが落胆した表情を浮かべ、一夏も落ち込んだ表情を浮かべていた。

 

「だが、織斑にはフモッフ達が護衛に付く為教員が居なくても有事の際は対処できると判断できるため、釣りを許可する」

 

『へ?』

 

「ほへ?」

 

突然二ッと笑みを浮かべ許可すると発言する千冬。あまりの突然の事に生徒達は( ゚д゚)ポカーンと言った表情を浮かべ、一夏も(?´・ω・`)と言った表情を浮かべていた。

 

「えっと、織斑先生。OK、なんですか?」

 

「あぁ、許可する。釣りの道具は旅館でレンタルがある。それとちゃんと救命胴衣を着て釣りをするんだぞ」

 

そう言われ、生徒達は漸く許可されたと理解するとヨシッ!と喜ぶ。一夏もホッと一安心した表情を浮かべていた。

 

それからSHRは終わり、千冬達が出て行った後生徒達は当日のスケジュールを計画し始めるのであった。

教室から出て廊下を歩く千冬と真耶。真耶は先程の教室での出来事を千冬に話を振る。

 

「織斑先生、SHRでの事なんですが」

 

「ん、何だ?」

 

「釣りの件です。あれ、本当に良いですか? 勝手に許可してしまって」

 

「あぁ、あれか。あれならもう学園長から許可は貰ってある」

 

「えぇ!? い、何時の間に!?」

 

さも当然と言った表情で千冬は学園長から許可は貰ってあると告げられ、真耶は驚愕の表情を浮かべた。そんな真耶に千冬は呆れた表情を浮かべる。

 

「当たり前だろ。織斑の症状の事を考えれば、浜辺では遊べん。そうなったら浜辺が見えず、遊べる場所と言えば少し離れた箇所にある防波堤で釣りしか無いだろ」

 

「た、確かにそうですね」

 

「生徒一人一人に親身になって教えて行くなら、このくらいしっかり調べておかんといかんぞ」

 

そう言い千冬は職員室へと歩を進め、真耶も後に続く。

それから時間が経ち13時頃。

多くの生徒達が教室から出て行き、寮へと急いで帰って行く。その訳は臨海学校で着る水着や遊具を買いに行く為、学園からほど近い場所にあるショッピングモール『レゾナンス』へと向かう為だ。

1組の教室にいた一夏は鞄に教科書などを仕舞い、背負って教室から出て行こうとすると

 

「ねぇねぇイッチー、ちょっといいぃ?」

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

隣の本音が一夏を呼び止めた。

 

「イッチーこの後予定ってあるぅ?」

 

「えっと、レゾナンスで買い物に行く予定ですけど…」

 

「何買いに行くのぉ?」

 

「えっと、釣りの道具を買いに」

 

「釣りの道具なら、旅館でレンタルできるって織斑先生言ってたよぉ」

 

「その、自前の道具が欲しいなぁ、と思って。川釣り用の道具は家にあるんですけど、海釣り用は無くて」

 

「そっかぁ」

 

「あの、それで本音さん、ご用は?」

 

「おっとぉ、忘れてた。実は私も買い物に行こうと思っててねぇ。で、イッチーがお暇だったら一緒に買い物に行かないかなぁ。と思ってぇ」

 

「そう、だったんですか。あの、僕は、別に構いませんよ」

 

「本当ぉ? それじゃあ一緒に行こ」

 

そう誘われ一夏はコクリと頷き二人は談笑を交えながら教室から出て行った。

 

 

 

 

 

「「「「……」」」」

 

その様子をジッと見つめるストーカー4人がこっそり見ていた事に気付かずに。

 

寮へと帰って来た一夏は鞄を降ろし、事前に作っておいたお昼を手早く済ませた。それから部屋で本音が迎えに来るのを待っていると、ノックする音が鳴り響く。そして

 

『イッチー、お買い物行こぉ!』

 

と声が響き、一夏はスマホと財布、部屋の鍵を持って廊下へと出て行く。

 

「お待たせぇ」

 

「いえ、そんなに待ってないです」

 

そう言っていると、一夏の隣の警備室の扉が開く音が鳴り一夏と本音はモッフ達が来たと思い顔を向けると、其処にいたのは

 

「「ふもっふ!」」

 

と頭に【SP】と書かれた帽子をかぶり、服装も何時ものタクティカルベストではなく黒色のスーツでサングラスをかけたモッフ2体であった。

 

「え、えっと、モッフさん?」

 

「ふも」

 

【あの格好ですと街中では少々目立ちますので、SP装備に変更してまいりました。(`・ω・´)ゞ】

 

「そ、そうだったんですか。それじゃあ本音さん、出発しましょうか」

 

「うん!」

 

本音と一夏はSPモッフ2体と共にレゾナンスへと向け出発した。2人と2体が出発して暫くして、警備室からフモッフと十数体のモッフ達が出てくると、そのまま彼等も何処かに向け出発していった。

 

商業ショッピングモール『レゾナンス』

レゾナンスには様々な店が並んでおり、服や日用品などを売っている店からレジャー用品、更には特別な許可を持った人しか入れない銃器店などが並んでいる。

無論そんなショッピングモールには大勢の人がいる為、一夏にとって危険な場所ではあった。だが、今はモッフ達が護衛として一緒に来ている為、若干安心した表情でレゾナンスへと来ていた。

が、モール内には人々が行きかっており、一夏はモッフ達と離れたりしないか不安になっていると、本音が一夏の不安そうな表情を見て、一瞬首を傾げた後すぐに何かを思いついたのかそっと一夏に手を差し出す。

 

「ほ、本音さん?」

 

「手を繋いで行ったら逸れないし、手繋いで行こ」

 

「は、はい」

 

一夏は照れた表情を浮かべつつ、おずおずと手を差し出し、本音と手を繋いでモールの中を歩き始めた。

モールの中を本音と共に進み、目的地へと向かっていると本音が声を掛ける。

 

「あ、私の目的地とうちゃ~く」

 

「此処、ですか?」

 

本音の目的地、それはアニメやゲームなどで登場した服や装飾品等を手掛け販売している店、言わばコスプレ衣装販売店である。

 

「あの、此処で何を?」

 

「えへへへ、実は前に此処の前を通った時にすっごく気になる水着があってね。それを買いに来たのだぁ」

 

「は、はぁ」

 

「私お店の中に入るけど、イッチーはどうするぅ?」

 

「えっと、僕も入ります」

 

「よぉし、それじゃあ行こぉ!」

 

そう言いお店の中へと入って行く2人と2体。その姿を遠目で見ていた3人がいた。柱の影から上からセシリア、シャルロット、鈴が覗いていた。

 

「……ねぇ」

 

「……なんですの?」

 

「…なんだい?」

 

「あれ、手を繋いでない?」

 

「…えぇ、繋いでますの」

 

「…繋いでるね」

 

「そっかぁ、一夏は私とじゃなくて、別の女と買い物に行く上に手を繋いでるんだぁ。……よし、殺そう!」

 

突如狂気じみた笑みを浮かべ右手を部分展開をする鈴。その光景に通り過ぎていく通行人たちはギョッと驚いた表情を浮かべる。

 

「ふっふふふふ、待ってなさい一夏。今から「させると思っているのか、この馬鹿者が」えっ? ほぎゃっ!?」

 

「り、鈴さん!?」

 

「うぇぇえぇ!? って」

 

「「お、織斑先生ぃ!?」」

 

前のめりに蹴り倒された鈴の背後に居たのは我らが最強で超絶ブラコンこと、織斑先生であった。

 

「全く、お前達は反省と言う言葉を頭にねじ込まれんと分からんのか? ……それより凰」

 

2人に鋭い視線を向ける千冬。次に千冬は鈴の方に更に鋭い視線を向ける。

 

「ひゃ、ひゃい」ガクブル

 

「貴様、また規則を破るとはな。反省房ではなく独居房にぶち込んだ方がよさそうだな。いや、決定だ」

 

「ま、待って下さい! これには訳が「言い訳無用。天誅!」ゴヘッ!??!!!」

 

言い訳を言おうとした鈴の頭頂部に向かって千冬は毎度おなじみの出席簿を振り下ろし、鈴の意識を刈り取る。

 

「お前達は今のところ規則を破っている訳では無い為、見逃す」

 

「「ホッ」」

 

「但し、私達教師と一緒に買い物だがな」

 

「「えぇ!?」」

 

「それとこれを付けさせてもらうぞ」

 

そう言い千冬が取り出したのは、警察が犯人を護送する際に使っている腰縄であった。

 

「お前達が勝手にあっちこっち行っては(私が)困るからな」

 

そう言い手早く2人に腰縄をする千冬。

 

「で、ですが織斑先生…」

 

「流石にこれは…」

 

「一応言っておくが、お前達の方はまだ少しマシな方だぞ」

 

そう言われシャルロットとセシリアはえっ?と呆けた表情を浮かべ、千冬は指で自身の背後を指す。2人は千冬の背後を見ると、其処には

 

自分達と同じく腰縄をされ、更には手錠までされた箒とラウラが其処に居た。因みに2人の腰縄のロープを持っているのはヨヨヨッと涙を流す真耶であった。

 

箒とラウラ、この二人だけど何故腰縄のみならず手錠までされているのか。その訳は至って簡単。

箒は一夏と本音を見つけたら辺りを気にせず暴れる恐れがあり、ラウラは軍人故ストーキングが得意なため先に拘束したのだ。

 

「さて、行くぞ」

 

そう言い千冬はセシリアとシャルロットの腰紐を持って歩きだそうとする。

 

「で、でも織斑先生。一夏さんと布仏さん達だけにするのは…」

 

「そ、そうです。あの護衛の着ぐるみも2体しかいませんし…」

 

「……だから?」

 

「だから「お前達の護衛など不要だ。あの2体だけじゃなく精鋭を引き連れたフモッフが既に護衛に付いている」え? ど、何処に?」

 

「お前達が気にする事ではない。ほら行くぞ」

 

そう言い紐を引っ張って2人を引き摺り、鈴は首根っこを掴んで引き摺ってその場を離れていく。

さて、先ほど千冬が言ったフモッフ達だが、彼等が今何処に居るか。

彼等は現在、レゾナンスにある広大な駐車場の一角、大型トラック用の駐車場にある『ラビット運送』と書かれた大型の輸送トラックの中に居た。

コンテナの中にはハッキングしたのか、レゾナンス内にある監視カメラの映像が映ったモニター、更にそれを監視するモッフ数体。奥にはフモッフが遂次報告されてくる情報を整理し、的確な指示出しを行っていた。

そんな指揮所の奥にもう一つ隔てて作られた部屋があり、其処には万が一一夏の身に危険が迫っている場合に対処するための救助部隊、通称『ラビットフォース』と呼ばれる精鋭部隊が居た。

他のモッフ達とは違い性能を一段階上げた力を有しており、主に一夏が買い物に出掛けたり旅行に行く際にフモッフの指揮の元出動する。

 

その頃一夏と本音達はと言うと、目的の物を買い終え店から出て来た所であった。

 

「良かったぁ、水着がまだ置いてあって」

 

「そうですね。でも、それって本当に、水着なんですよね?」

 

「うん、水着だよぉ」

 

本音が買った水着。そう、原作を知っている人ならご存知のあの着ぐるみの様な水着なのである。一夏自身も本当にそれが水着なのだろうかと疑問に思い暫し首を傾げ続けるのであった。

 

それから一夏達は釣り用具専門店へと足を運ぶ。

店に到着し中へと入ると、竿やリールがショーケースに飾られ、壁には様々な魚拓が並べられていた。

 

「うわぁ~、凄いねぇ」

 

「は、はい。それじゃあ、えっと…」

 

店内の光景に驚きつつも店の奥へと進む。すると竿を手入れしている一人の年配の男性を見つけ声を掛ける。

 

「あ、あの、すいません」

 

「ん? あぁ、いらっしゃい。何が欲しいんだい?」

 

「海釣り用の道具が欲しいんですが、初心者向けの一式ってありますか?」

 

「海釣り用のかい? そりゃあ勿論あるよ。色々あるけど、まず場所を聞いてもいいかい?」

 

「えっと防波堤で釣ります」

 

「防波堤ね。それだったら、サビキ釣りかチョイ投げ、つまり重りを付けた仕掛けをチョイッと投げて釣るタイプね。あとはルアー釣りとかもあるけど、初心者だったらサビキ釣りかチョイ投げが良いかな?」

 

「そう、ですね。それが良いです」

 

「分かった。それじゃあ、この一式が良い。ルアーもついてるしチョイ投げようの道具がついてる。ところで、そちらのお嬢ちゃんはどうするんだい?」

 

「私ですかぁ? 私も同じのをお願いしまぁす!」

 

「そうかい。それじゃあこの一式と、サビキ釣り用の仕掛けをおまけとしてつけてあげるよ」

 

「えぇ、良いんですか?」

 

「あぁ。ここの所釣りをするお客さんが来なくてね。だから若い子が釣りをするって聞くと、どうしてもサービスしたくてね」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとございまぁす!」

 

2人はサービスをしてくれた店主にそうお礼を言い、釣り道具一式分の代金を払ってお店を後にした。

 

 

 

 

 

一夏達が釣具店で海釣り用の道具を買い終えたその頃、千冬は真耶と5人を引き連れて買い物を続けていた。

セシリア達の手にはビニール袋が握られており、それぞれが臨海学校で使う水着などが入っている。

 

「さて、それぞれ必要な物は買えたな。それじゃあ『プルルプルル』ん? ちょっと待て」

 

そう言い千冬はポケットにしまっていたスマホを取り出し画面を見る。それを見た後千冬はスマホを仕舞い、セシリア達の腰ひもを解く。

 

「よし、買い物に付き合ってもらって感謝する。帰ってもいいぞ」

 

そう言われセシリア達は、やっと解放されたと心の中で安堵し荷物を持って学園へと戻って行った。

が、

 

「あの、千冬さん?」

 

「なんだ、凰?」

 

何故か鈴だけは腰ひもと手錠を掛けられたまま残されていたのだ。

 

「何であたしだけ残されたんでしょうか?」

 

「決まっているだろう。貴様は臨海学校前日までは独居房行きだからだ。真耶、済まんが学園に戻り次第独居房に放り込んでおいてくれ」

 

「分かりましたけど、先輩は?」

 

「私は買い忘れた物があったから、それを買いに行ってくる」

 

「そうですか。では、先に戻りますね。凰さん、行きますよ」

 

そう言い真耶は凰に若干怒った口調で促し学園へと戻って行く。一人残った千冬は歩を進め、ある店の前へと到着し中へと入って行く。

千冬が入った店、それは多種多様なカメラが置かれたカメラ店であった。

 

「いらっしゃいませ。どう言ったカメラをご要望で?」

 

「防水性と防塵性の優れたアウトドア用のカメラはあるか? 出来れば高性能で高画質の」

 

「はい、ございます」

 

そう言い店員はショーケースから一台の一眼レフカメラを千冬の前に出す。

 

「此方のカメラでしたら、過酷な環境であっても問題無く使え、更に高画質で一瞬のシャッターチャンスも逃さず撮れる優れものでございます」

 

「ふむ、これの撮った写真などはあるか?」

 

「勿論ございます」

 

そう言い店員はノートパソコンを取り出し画面を千冬の方へと向ける。

 

「片方は別のカメラ、もう片方がこちらのカメラで撮った写真になります」

 

「ほう、此処まで画質が違うのか」

 

「勿論でございます」

 

「よし、このカメラを買おう」

 

「ありがとうございます。お支払いはカードで宜しいですか?」

 

「あぁ。クレジットの一括で」

 

「……えっと、一括で?」

 

「そうだ。あぁ、ついでに拡大レンズと保存用のメモリカード、予備のバッテリーパックもくれ」

 

「ア、ハイ」

 

そう言い店員は、高額なカメラに加えてレンズにバッテリー、メモリーカードまで買う千冬に、大丈夫なのか心配となった。

そして合計金額は50万程となった。

 

「あの、本当に一括払いで宜しいのでしょうか?」

 

「あぁ、構わん」

 

そう言い千冬はクレジットカードを差し出し、会計を済ませ千冬は買ったカメラの入った袋を持って帰って行った。

 

その日の夜、千冬は買ってきたカメラを箱から取り出し拡大レンズを取り付けたりバッテリーを充電したりと準備をする。

 

「よし、これでいいな。さぁ、当日は一夏の釣り姿やら浴衣姿を思う存分撮るぞぉ!」

 

そう意気込む千冬であった。




次回予告
遂にやって来た臨海学校。旅館に到着し、一夏は早速海釣りへ。勿論1組の生徒達も一緒にだ。
さぁ、一夏君はどんな魚を釣るのだろうか?

次回
臨海学校~前編~

【坊ちゃまぁぁぁぁ。三ヾ(*´ω`)ノ゙ ウッヒョヒョ♪】


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35話

臨海学校当日の日が昇り始めた頃、一人の生徒がコソコソと寮の廊下を隠れるように歩いていた。

 

「さて、マスターの部屋はもうすぐだな」

 

そう呟くコソコソと動くボーデヴィッヒ。それから暫くして彼女は一夏の部屋近くまで到着。其処から彼女は一夏の部屋を観察し始めた。

 

「ふむ、一見普通の扉そうに見えるが、警備はちゃんとしてあるみたいだな」

 

そう零すボーデヴィッヒ。一夏の部屋に入る為の扉付近には監視カメラが設置されている。更に、扉の方も一見普通の木製の扉に見えるも、実際はスチール製の扉で出来ていた。

 

「まぁ、そのくらいの警備は普通しておくものだな。だが、挿し込み式の錠前を使うとは不用心な」

 

ボーデヴィッヒはそう零しながら扉についている錠前に文句を零す。

すると自身の腕に付けている腕時計からピー、ピー、ピーと小さくアラーム音が鳴り響く。

 

「む。そろそろ起床しておかないといけない時間だな。マスターはもう起きているのか?」

 

そう言い、ボーデヴィッヒは扉に近付き耳を当て中の様子を耳をすませる。中からは物音一つしておらず、アラーム音さえ鳴っていない。

 

「おかしいな。もう起きておかなければならない時間のはずだ」

 

そう零しながらもう一度時計を見るボーデヴィッヒ。

 

 

 

時刻は5時ちょっと進んだくらいだった。

普通に考えてまだ大半の生徒は寝ている時刻である。

因みに集合時刻は6時半に校門前に集合である。

 

「むぅ。そろそろ起きておかなければいけないはずだが、まさかまだ寝ているのか? 仕方ない起こして差し上げるか」

 

そう言いボーデヴィッヒはドアノブを回す。当然の如く扉には鍵がかかっており開く事は無かった。

 

「まぁ、当たり前と言っては当たり前か。仕方ない、開けるか」

 

そう言いながらボーデヴィッヒは懐からピッキング道具を取り出し鍵穴に挿し込む。その瞬間、

 

あばっばばばばっばば!!??!

 

いきなり襲い掛かってきた電流に震えそのままバタンと倒れ意識を失うボーデヴィッヒ。

 

「ふもっふぅ」

 

すると警備室から出てきたフモッフ。フモッフは部下のモッフ達に指示を出しボーデヴィッヒを縄で簀巻き状態にして集合場所である校門前へと放り捨てに行った。

さて、ボーデヴィッヒの身に何が起きたか。それはあの鍵穴にあった。

あの鍵穴、実は偽物でピッキング道具などを中に入れると人を失神させるほどの高圧電流が流れる仕組みになっているのだ。

では、どうやって鍵を開けたり閉めたりするのか。それは、あとで説明しよう。

 

それから時刻は進み、6時前。

 

ピピピッ! ピピピッ!

 

一夏のベッド横に置かれた目覚し時計からけたたましいアラーム音が鳴り響くと、ベッドからもぞもぞと腕が伸びスイッチを押し、アラームを止める。

そしてむくりと一夏は寝ぼけ目で起き上がる。

 

「ふわぁ~~、おはよぉうアイラぁ」

 

<えぇ、おはよう。ほら、さっさと顔を洗いに行ってご飯を食べなさい>

 

「うん」

 

アイラにそうせっつかれながら、一夏はベッドからもそもそと降り洗面台で顔を洗う。そして制服に着替えキッチンで朝食を作り食べ始める。

 

そして時刻が15分になった頃、扉の方からノックする音が鳴り響く。

 

『イッチー、一緒に行こぉ!』

 

「は、はぁい。今行きます」

 

本音の呼ぶ声が聞こえ、一夏は事前に準備していた着替えなどが入ったカバンと、釣具店で購入した釣り具の入ったカバンを持ち扉を開ける。

開けた先には同じく、着替えが入っているであろうカバンと一夏と同じ釣り具の入ったカバンを持った本音、そして

 

「おはよう、織斑君」

 

「おっはぁー」

 

相川と鷹月の2人が居た。

 

「お、おはようございます」

 

そう挨拶を返す一夏。

 

すると警備室からフモッフとモッフ2体が現れた。

 

「あれ、今日はフモッフさんが警備に、着いてくれるんですか?」

 

【肯定だ。本日の行事ではモッフ達だけでは対処できない場合がある為、直接警護に就くことになった。それと、後ろの2体は普通のモッフ達とは違うぞ】

 

フモッフのプラカードに3人は首を傾げフモッフの背後に居るモッフ達を観察する。すると鷹月がある事に気付く。

 

「あれ、ワッペン付けてる」

 

「あ、本当だ。昨日のモッフさん達は付けてなかったのに」

 

3人が気付いたワッペン。そのワッペンは、両手にライフルを掲げ武装したウサギが描かれていた。

 

【彼等はラビットフォースと呼ばれる特殊精鋭部隊の隊員だ。現在いる通常モッフ50体に対し、彼等は16名程いる】

 

「「「へぇ~」」」

 

【それと、今後更に新たな部隊がこちらに到着予定だ】

 

「増えるの!?」

 

「因みに、来る予定の部隊って?」

 

【機甲歩兵部隊、航空ヘリ部隊、UAV部隊を予定している】

 

「い、いっぱい作る気だね」

 

【これもすべて一夏様をお守りするためだ。因みに織斑将軍からは許可は貰っている】

 

その説明に3人はポカーンと呆けた顔を浮かべる。因みにフモッフが千冬の事を将軍と呼ぶのは自分達の上司の為だ。

 

「それじゃあ、行こうっか」

 

「そうだね。織斑君戸締りは大丈夫?」

 

「あ、えっと、待って下さい」

 

そう言い、一夏は扉の方に向かい

 

「い、行って来ます」

 

『行ってらっしゃいませ、一夏様』

 

そう機械音声が流れたと同時に扉に鍵が掛ったのかガチャリと音が鳴り響く。

そう、一夏の部屋の扉の鍵は音声認識による生体認証型になっているのだ。勿論録音や編集された音声で鍵を開けようとした場合、即座に警報が鳴り響きフモッフ達警備部隊が駆け付ける仕組みになっている。

 

そして3人と3体は校門前へと向かう道中談笑を交えながら歩いていると、何時の間にか他の1組の生徒達も交ざって大勢で校門前まで着く事に。そして最初に目についたのが

 

「むー! むぅー!!」

 

簀巻きにされ猿轡をされたボーデヴィッヒが転がっていた。

 

『……』

 

その光景に1組の生徒達はまたか。と言いたげな呆れた表情を浮かべる。

 

「織斑君、あっちの方に行っておこう」

 

「うんうん、なんか見ちゃいけないものが転がってるから」

 

「あっちに行ってよぉ、イッチー」

 

「えっと、あの、はい」

 

周りの生徒や本音に促され一夏はフモッフ達と共にボーデヴィッヒから少し離れた位置へと移動する。

それから他のクラスの生徒達が続々と校門前へと到着してきた。

そして荷物を持った千冬達教員達も続々と到着し生徒達の前に立つ。その時千冬は地面に転がっているボーデヴィッヒの傍に寄る。

 

「おい、ボーデヴィッヒ。貴様荷物は?」

 

「むぅー! むぅーー!」

 

「……はぁ」

 

ため息を吐きながら千冬はボーデヴィッヒの口に着けられた猿轡を外す。

 

「で、どうなんだ? 荷物は?」

 

「えっと、まだ部屋に…」

 

「……さっさと取りに行け。それとも自力で旅館まで来るか? 勿論ISなんざ使わせんぞ」

 

そう言われボーデヴィッヒは「す、直ぐ取りに行きます!!」と叫んで立ち上がろうとしたが、簀巻き状態の為立ち上がれずにいた。すると

 

「あの、織斑先生」

 

「なんだ、デュノア?」

 

「ラウラの荷物なんですが、僕が持ってきました」

 

そう言い自身の荷物とは違う、軍用バッグを千冬に見せてくるデュノア。

 

「…デュノアに感謝するんだな、ボーデヴィッヒ」

 

そう言い離れていく千冬。

 

「え? 縄は?」

 

「自力で解け。軍人だろうが」

 

そう言って今度こそ離れて行った。

残されたボーデヴィッヒは何とか解こうとヤケになるも、結局解けず見かねたデュノアに助けられ何とかなったとか。

 

「よし、全員集合しろ!」

 

千冬の号令に生徒達はそれぞれクラスごとに整列する。

 

「ではこれから各クラス、バスに乗って移動を開始する。全員バスに乗る様に」

 

そう言われ生徒達はバスの荷台に荷物を載せて乗り込んでいく。一夏も荷物を載せに行こうとしたが

 

「あ、織斑待て」

 

そう千冬に呼び止められる。

 

「な、なんでしょうか織斑先生?」

 

「実は織斑だけ、別の車両を用意したんだ。教室は生徒達と間隔が空いている為平気だったと思うが、流石に閉鎖的なバスの中はな…」

 

「そ、そうですね」

 

千冬の説明に一夏は、何処か納得のいった表情を浮かべながらも不安な気持ちを抱いていた。

教室は他のクラスメイトとは距離が空いている上に、いざと言う時に逃げられる道も確保できていた。だが、バスとなればほぼ密閉空間。逃げ場がほぼ無い。

その為千冬は別の車両を用意したのだ。

 

「えっと、それで、その車両は何処に?」

 

「もうすぐ来るはずだが。あぁ、来たようだ」

 

そう言い千冬は車両の駆動音がする方に顔を向けると、一夏もそれにつられて向ける。向かってきたのは赤いオープンカーで、ボンネット付近には何故かウサミミが付いていた。

 

「え? 何あの車?」

 

「見た事ない車だね?」

 

「でも、どっかで見た事ある感じ」

 

『うん、どっかである』

 

1組の生徒達はその姿に見覚えは無いが、雰囲気が何処となくあのロボットに似ている事に気付いていた。お他のクラスの生徒達は変な車と思いながら見ていた。

そして車が到着すると、突如ガシャンガシャンと音を立てながら変形する。そして

 

【お久しぶりでございまぁす、坊ちゃまぁぁぁ!!!v⌒v⌒ヾ((`・∀・´)ノ ヒャッホーィ♪】

 

両腕を上げながら喜びを見せるプラカードを掲げながら一夏の元に駆け寄るメサ。

 

「お、お久しぶりです。メサさん」

 

【はい! 坊ちゃまとこうして再会できて、メサは大変嬉しゅうございますo.+゚。(´▽`o人)≡(人o´▽`)。o.+゚。ウレスィ♪】

 

一夏との再会にメサが喜んでいると、ふとその近くに居たフモッフに気付く。

 

【む? 貴殿が坊ちゃまの護衛を務めているフモッフ殿で相違ないか?】

 

【いかにも。俺が護衛部隊隊長のフモッフだ】

 

そう言い挨拶を交わす2体。暫しの沈黙が流れた後、メサが動く。

 

【因みに聞く。坊ちゃまの可愛いポイントは?】

 

【ウトウトした際のフニャンとした顔、はにかみながらも見せる笑顔、モフモフの動物を見せつけた際の顔】

 

メサの質問にフモッフがそう答えると、メサはフモッフの手を握りしめる。

 

【いいポイントに目を付けている。同士フモッフ!(o・∀・)b゙ イィ!】

 

【そう思ってくれて良かった】

 

2人の会話に周りの生徒達は( ゚д゚)ポカーンといった表情を浮かべている中、千冬だけうんうんと同意するように頷いていた。

 

(確かに、フモッフの挙げたポイントは可愛い。いや、可愛いと言う言葉だけでは片付かんな。例えるなら―――)

 

一人で一夏の可愛いポイント談義をしている千冬は置いておいておこう。

 

 

メサとフモッフが話している中、本音が一夏にある事を聞く。

 

「ねぇねぇイッチー」

 

「は、はいなんでしょうか?」

 

「メサメサってなんで車に変形できるのか?」

 

「……それは、僕もわかんないんです。以前聞いたら」

 

【坊ちゃま。この世は不思議な事が沢山あります。今の体積に対して変形時との体積が違う事、これはもはや不思議な事の一つなのでございます。気になると思われますが、こう言う物だと思って下さい】

 

「そう言われて、結局どうして車に変形できるのかは謎のままなんです」

 

「「「「へぇ~」」」」

 

本音、そして1組の生徒達はそう声を零し、メサの不思議に関心を示すのであった。

 

そして一夏はメサ(車化)に荷物などを載せ乗ろうとすると

 

「おぉ~い、一夏君!」

 

「あ、伊田先生。どうしたんですか?」

 

一夏に声を掛けてきたのは何時もと変わらない白衣を着た伊田であった。

 

「いやぁ、俺もこっち側でね。メサ君、俺もいいかい?」

 

【どうぞどうぞ、まだ載りますよ】

 

そう言われ伊田は自身の荷物をトランクへと積み込み後部座席に乗り込む。

そして全員が乗ったのを確認した千冬は運転手に出発の指示を出すと先頭のバスが走り出しその後を続く様にバスが続き、最後のバスが出た後一夏達のメサ車も出発した。

因みにフモッフ達は一夏達の後から銃座の付いたSUVに乗って付いて来ており、その後ろからは大型トラックが付いて来ていた。

 

街中を走り、そして高速に乗り暫し走った後高速から下りる頃には自然が広がる場所へと着き下道を走る事さらに数時間後、遂に一行は目的の旅館のある海岸へと到着した。

バスが旅館の大型車両用の駐車場に停まると、ぞろぞろと生徒達は自分達の荷物を持ち整列していく。バスと同じく付いて来ていたメサ車からも一夏と伊田も降りて来て荷物を持ち、一夏は列へと向かい伊田は教員達の元へと向かう。

生徒達が全員整列したのを確認した千冬は生徒達の前へと立つ。

 

「よし、全員集合しているな? 本日からお世話になる此処『花月莊』の女将をされている、清州景子さんだ。全員失礼の無い様にするように!」

 

「女将をしている清州景子です。2泊3日ごゆるりとお寛ぎ下さいね」

 

『お世話になります!』

 

「よし、では各自割り当てられた部屋に行くように。その後は自由行動だ」

 

そう千冬が言うと生徒達はぞろぞろと旅館の中へと入っていく。一夏は人が疎らになるまで外で待機していると千冬がその傍へと近づく。

 

「織斑少しいいいか?」

 

「は、はい」

 

「お前の部屋なんだが、伊田と同じ教員部屋にしておいた。男性と同じ部屋なら安心だろ」

 

「ありがとう、ございます」

 

そう話していると清州がその近くへとやってくる。

 

「織斑先生、そちらの男子が」

 

「えぇ、私の弟です。今回は申し訳ありません、お風呂の時間を調整してもらったりなど」

 

「いえいえ、これ位の事構いませんよ。それと、事前にお知らせ頂いた弟さんの接し方については既に従業員全員に知らせております」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

「いえ。では、私はこれで」

 

そう言い清州は旅館の中へと入っていく。

その後一夏は教員達との話し合いを終えた伊田と共に2人が泊まる教員部屋へと向かう。

 

一夏が旅館の中へと入っていくと同時にボヒュボヒュと数体のモッフ達とメサが千冬の元に近付く。

 

「ん? お前達は、先行していたモッフ達か?」

 

「ふもっ!」

 

【旅館の各所、及び一夏様のお泊りされる部屋の安全点検は全て完了済みです】

 

「そうか。それと、防犯対策はばっちりか?」

 

【すべて万事問題無く】

 

「分かった。引き続き一夏の護衛を頼む。メサも一夏の傍について世話をしてやってくれ」

 

【畏まりました。Σd(゚∀゚d)】

 

「「ふもっふ!」」

 

敬礼をしたモッフ達はボヒュボヒュと足早にフモッフ達が居るトラックの元に向かい、メサと千冬は旅館の中へと入っていく。

 

~伊田と一夏の部屋~

部屋に到着した一夏と伊田は早速釣りに行くべく服を着替え始める。

暫くして着替え終えた二人、その格好は

 

一夏は釣りキチ三平の主人公、三平の様に麦わら帽子に白のポロシャツにインナーに赤い長袖シャツ、ジーパンをはいていた。

伊田は魚紳の格好だった。

 

「よし、一夏君。いざ釣り場へ!」

 

「お、おぉー!」

 

そう掛け声を出しながら廊下へと出る2人。すると

 

【坊ちゃまと伊田様。釣りに向かわれますか?(-ω- ?)】

 

「うん、行きます」

 

【では、ご一緒します。熱中症対策の為、飲み物や塩分の取れる物をご用意しましたので。(*´ェ`*)っ旦~】

 

「お、それは助かる。熱中症は怖いからね。それじゃあ行こうか」

 

そして伊田、一夏、メサは目的地の防波堤へと向かう。道中釣りに参加する1組の生徒数人と合流し防波堤へと向かう。

釣り場と向かった一夏達とは別に浜辺では釣りに行かなかった残りの1組の生徒達と他のクラスたちが遊んでいた。

 

「ねえねえ、なんで1組の生徒達少ないの?」

 

「そうそう、まだ旅館に居るの?」

 

「あぁ、何人かは釣りに行ったのよ」

 

「えぇ!? 釣りって確か禁止じゃなかった?」

 

「原則はね。けどほら、ウチのクラス織斑君居るじゃん。浜辺では私達と一緒に遊べないからね。それにフモッフさん達も居るから大丈夫って事で織斑先生が特別に許可してくれたの」

 

「えぇ、良いなぁ」

 

「うん。あっ! 後ではその釣り場行ってみるのは?」

 

「あ、それ良い「あぁ~、止めといた方がいいよ」え? どうして?」

 

「釣り場の防波堤にはフモッフさん達が警護についてるんだけど、釣り用の格好じゃないと近づけないよ。無理に通ろうものなら…ねぇ?」

 

1組の生徒は其処から先は言わなかったが、他クラスの生徒達はそれだけで意味を悟った。

 

“恐ろしい目にあう”

 

と。

 

 

他クラスと1組の生徒達を聞いた(盗み聞きした)専用機持ちと篠ノ之箒(問題児達)

 

「釣りに行ったなど、そんな話聞いていないぞ」

 

「全くよ。一夏の奴、何で私にその話をしなかったのよ!」

 

「うぅ、僕達はぶられてるよね?」

 

「間違いなくハブられておりますわ。一体何故ですの?」

 

「むぅ、マスターの護衛に行こうにもフモッフ共が居るのか…」

 

臨海学校の事を知らせたSHRの時は専用機持ちと篠ノ之箒(問題児達)は反省房にぶち込まれていた為、1組の生徒達が釣りに行こうと話し合っていた事など知らなかったのだ。

因みに反省房から出された後も知らなかったのは、1組の生徒達がトークアプリを使って4人を除いたグループを作成し、その中で話し合いを行ったのだ。

その為4人に知られることは無かったし、口で話し合っている訳では無い為情報が洩れる事は無く、2組の鈴にも知られることは無かったのだ。

 

一方その頃釣り組が居る防波堤では一夏達が楽しく釣りをしていた。

1組の生徒達(長袖シャツに長ズボン)は旅館で借りたライフジャケットを着こみ、同じく借りた釣り竿で魚を釣っていた。

 

「おっ! 引いてる、引いてる!」

 

「わぁわぁ! 網、網ぃ!」

 

「ほ、本音さん。アジの尻尾付近は気を付けて下さいね」

 

「えぇ? あ、トゲトゲしてるぅ。ありがとうねぇ、イッチー」

 

【危ないので、トングを使って外しましょう。( ´∀`)つ<】

 

「先生、この魚ってなんですか?」

 

「これはハナダイだね」

 

「へぇ~、綺麗なピンク色」

 

それぞれ釣りを楽しむ中、防波堤の入り口付近ではフモッフを筆頭に警備部隊が巡回していた。すると入り口付近を警備していたフモッフ達の視線にある人物達がやって来た。

 

「えっと、此方でしたわよね?」

 

「うん、釣り出来る場所と言えばここしかないはずだよ」

 

「案の定、フモッフ共がいる様だし、此処で間違いないだろ」

 

「……」

 

セシリア達であった。

彼女達は釣りに行った一夏を追い、防波堤へと来たのだ。しかし来たのは鈴以外のみであった。鈴は

 

「どうせ行った所でフモッフが邪魔して入れないわよ。別の所から行くわ」

 

そう言って何処かに行ったのだ。

そして4人はスタスタと防波堤の入り口に近付くも、フモッフ達が銃を構える。

 

【此処から先は釣り用の装備を着用した者しか入れん。回れ右をして帰れ】

 

「そ、装備って、そんなのありませんわ」

 

「別にそんな物必要ないだろ」

 

「見てるだけだから、通してよ」

 

「邪魔だ、退け」

 

そう言い通ろうとする4人。彼女達は勿論水着の格好であった。

暫し睨み合いがつづき、そして

 

「退けと言っている!」

 

そう叫びながらズカズカと進みだす箒。それと同時に他の3人も進もうとした瞬間

 

ビュン!

 

と風を切る音が鳴りそして

 

「ゴハッ!!?」

 

後頭部に出席簿が直撃、前のめりに倒れる箒。3人はギョッと驚いた後、背後に顔を向けると首から一眼レフカメラをぶら下げたウィンドジャケットとジャージズボンの千冬が立っていた。

 

「何をやっているんだ、貴様等?」

 

「お、織斑先生」

 

「その、僕達防波堤に行こうとしたんですけど…」

 

「あいつ等が邪魔して入れないのです。何とかしてもらえないでしょうか?」

 

3人がそう説明するも、千冬は鋭い視線を送るのを止めない。

 

「お前達の格好で入れるわけが無いだろが」

 

「で、でも釣りをしないなら「釣りをするしないではない。織斑が居る時点で着替えは絶対だ。無いなら浜辺に戻って遊んで来い」で、でも…」

 

「一応警告しておく。これ以上うだうだと屁理屈を吐き続けるなら、旅館の部屋に帰らせるぞ?」

 

駄々をこねる3人に千冬は、そう脅すと流石に旅館に帰らされるのは不味いと感じすごすごと浜辺へと帰って行く。

因みに千冬の投げた出席簿で伸びた箒は、モッフが回収し旅館の部屋に放り捨てられた。

 

3人が浜辺に行ったのを確認した千冬はそのまま防波堤へと入っていく。防波堤では1組の生徒達がワイワイと釣りを楽しんでいた。

 

「あ、織斑先生!」

 

「楽しんでいるようだな、お前達」

 

「はい! 先生は、もしかして写真ですか?」

 

「そんなところだ。ほら撮ってやるから釣った魚を掲げろ」

 

そう言われ生徒は隣で一緒に魚を釣った生徒と共に写真を撮って貰う。そして取り終えた千冬は一夏達の元に向かう。

 

「おぉ、織斑先生。どうしたんだそのカメラ?」

 

「まぁ、なんだ。買ったんだ」

 

伊田の元に近付きながら千冬は本音と一緒に釣りをしている一夏の方を見つめる。

 

「それで、釣れたのか?」

 

「まぁな。いいサイズのカサゴとかカワハギとかが釣れたぞ」

 

そう言い伊田はタックルボックスを開けると、其処には新鮮なカサゴやカワハギが入っていた。

 

「今晩の夕飯は少し豪華になりそうだな」

 

「そうだな。ところで一夏の方はどうなんだ?」

 

「まぁ、アジとか簡単に釣れる魚を釣ってたよ。まぁ初心者だし、そんな「い、伊田先生ぃ!!」どうした?」

 

千冬と喋っていた伊田を大声で呼ぶ本音。その表情は焦った表情だった。

 

「い、イッチーの竿に魚が掛ったんですけど、引きが強いんですぅ!」

 

「メサはどうした?」

 

「今イッチーを支えてます!」

 

「分かった、見に行こう」

 

そう言い伊田と千冬は本音と共に一夏の元に向かう。

3人が一夏の元に着くと、一夏はまだ魚と格闘していた。メサも一夏の後ろから竿を支え、一夏が海に引っ張り落ちない様にしていた。

 

「一夏君、かなりデカい魚が掛ったみたいだね」

 

「は、はい。メサさんのお陰で何とか支えられているんですけど、なかなかリールが巻けなくて」

 

「無理に回さなくていい。出来るだけど魚を泳がせて疲れさせるんだ。けど、こっちも一夏君の身の安全の事があるからね。危険と判断したら、糸は切るよ」

 

「はい」

 

伊田は一夏が頑張っているのを傍で見守りつつ、いざと言う時に行動できるよう準備を始め、千冬は一夏の釣り姿の写真を撮る。そして本音は

 

「フレ~! フレ~! 頑張れイッチー!」

 

と応援していた。

 

<結構強い引きね>

 

<うん。アイラ、残りの糸ってどのくらいあるか分かる?>

 

<まぁ、大体は分かるわ。遂次報告してあげるから、釣りに集中しなさい>

 

<うん>

 

アイラの報告を聞きつつ、一夏はメサと共に竿を立てながら魚との格闘を繰り広げる。

 

 

 

その頃防波堤と浜辺との中間あたりでは、鈴が海の中を泳ぎ進んでいた。目的地は勿論防波堤である。

 

(どうせフモッフが入れてくれるわけがない。だったら泳いでコッソリと行けばいいのよ)

 

息継ぎをできるだけ少なくして顔を出す回数を減らし、出来るだけ水上から見えない様深く潜りながら進んでいた。

暫し進んでからそぉと顔を出して覗くと防波堤で1組達が釣りをしていた。

 

(よしよし、まだバレてない様ね。フフフ、待ってなさい一夏)

 

そう思いながら再度潜り、防波堤へと近づこうとしたが突如頭を何かで掴まれそのまま海へと引き上げられた。

ザパンと吊り上げられた鈴は一体何がと思っていると、体を回された。その先には

 

「ふもぉ」

 

ゴムボートに乗ったラビットフォース所属のモッフが釣り竿を持って鈴を睨みつけていた。

釣竿を持ったラビットフォースのモッフ、R1号がプラカードを掲げる。

 

【残念だが、GAME OVERだ。(☝◉ਊ ◉)☝バーカ!!】

 

そう見せた後、隣にいたR2号が銃を構え引き金を引く。銃口からはダーツの様な矢が飛び出て鈴のデコに命中。

 

「フニャッ!?…ふわぁ」

 

ダーツが命中した鈴は突然眠気に襲われ、そのまま眠りにつく。

眠った鈴を縄で簀巻きにしてそのままボートで運び砂浜に転がし近くにプラカードを挿す。

 

【お好きにしてどうぞ By凰鈴音】

 

そう書かれたプラカードを残しラビットフォースのモッフ達はゴムボートに乗り込み再び一夏の護衛へと向かった。

 

 




次回予告
時刻は夕方!
旅館の豪華な夕飯を取った後は温泉!
女子生徒達が入った後は遂に一夏の時間。
大きな温泉に満喫する一夏。その裏で起きている事に気付かずに。

次回
臨海学校~温泉編~
【奴らは夜に動くはずだ。各自何時でも動けるよう待機していろ】

「「「「「ふもっふぅ!!」」」」」(`・ω・´)ゞ


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36話

投稿ペース遅延本当に申し訳ありません! 


~花月莊・大広間~

時刻は夕方となり、浜や防波堤で遊んでいた生徒達全員旅館の浴衣に着替えそれぞれ指定の場所に座り、旅館の目玉と言っていい豪華な夕飯を取っていた。

因みに防波堤で1組の生徒達が釣った魚は、少量ながらも全クラスに周る様に刺身やつくね汁などにされて出された。

 

「イッチー、このつくね汁美味しいねぇ」

 

「は、はい。お出汁も美味しいしつくねも美味しいです」

 

大広間の端に座っていた一夏と、その隣に座る本音が出されたつくね汁を味わっていた。

そんな一夏の座っている席の前には豪勢な鯛の船盛が置かれていた。

なぜ一夏の前に鯛の船盛が置かれているかと言うと防波堤で釣りをしていた際、一夏の竿に掛かった大物がこの鯛だったからだ。

本来鯛は沖に生息している魚ではあるが、生息域を絶えず移動し続ける回遊魚の為あちこち移動していた鯛が一夏が投げ入れた餌に喰らい付きそして釣り上げられたのだ。

 

釣り上げた時一夏は( ゚д゚)ポカーンと釣り上げた物に驚き、伊田や本音達はオォオォオォオォオォヾ( ゚∀゚)ノ゙オォオォオォオオォと歓声を上げ、千冬は持っていたカメラで撮り続けた。

その後釣り上げた鯛は魚拓を取り、そのまま旅館の調理場に持っていかれメサが自前のマイ包丁で鯛を捌き、船盛に拵えたのだ。

勿論一夏一人では食いきれない為、他の生徒達にも数切れ程刺身に盛り付けられている。

大広間に居た生徒達は出された料理を舌鼓を打っている中、一部の外国生徒は四苦八苦しながら料理を食べていた。その訳は箸である。日本やアジア系の生徒は幼い頃から箸を使って料理を食べている為問題無く料理を食べているが、アメリカやイギリスなど箸の文化があまり浸透していない国の生徒は、箸の扱い方になれず料理をうまく掴めずにいたのだ。

勿論そう言った生徒のためにフォークやスプーンなど用意されているが、生徒達は郷に入っては郷に従えと言った思いで箸を使って食べていた。

四苦八苦しながら食べている生徒の中にはセシリアやデュノア、更にボーデヴィッヒが居た。3人は箸に四苦八苦しながら料理を食べていた。

 

「む、難しいですわね」

 

「うん、でもコツを掴めたら使いやすいかな?」

 

「むぅ、この芋掴みづらいぞ」

 

そう言いボーデヴィッヒは、里芋の煮物に四苦八苦していると我慢が出来なくなったのか突き刺して食べた。

 

「うむ、美味いな」

 

「それ、お行儀が悪いですわよ」

 

「仕方が無いだろ、掴みづらいんだ」

 

そう言いながら他の料理も突き刺して食べるボーデヴィッヒ。

デュノアはその光景に苦笑いを浮かべていると、ふと刺身皿に緑色のペーストが付いている事に気付く。

 

「もしかしてホウレン草のペーストかな?」

 

デュノアはそう零しながら緑色のペースト状の物を箸で取り、刺身に付けて食べた。

 

「モグモグ、・・・・フグッ!?」

 

食べて暫くして鼻にツーンと痛みがこみ上げ、デュノアは涙目になりながらお茶の入ったグラスを掴み一気に飲み干す。

その様子を隣で見ていた生徒は苦笑いを浮かべていた。

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫、じゃない」

 

「でしょうね。ワサビをそんなにつけて食べたらそうなるわよ」

 

そう言い呆れた表情を浮かべる生徒。デュノアがホウレン草のペーストと思っていたのは日本人ならお馴染みのワサビである。本来ならちょびっと付けて食べるのが良いのだが、デュノアは加減が分からず多めに刺身に付けて食べたのである。そりゃあ辛い。

 

 

 

 

 

夕食を食べ終えた生徒達が次に向かったのは旅館名物の露天風呂であった。生徒達がぞろぞろと温泉に向かっていく中、一夏は部屋で伊田と一緒に部屋にあったゲーム機で遊んでいた。

 

「これで!」

 

『2連鎖、3連鎖、4連鎖、5連鎖ぁ!』

 

「やるねぇ、一夏君。だが、甘い!」

 

『……6連鎖、7連鎖、8連鎖、9連鎖、10連鎖ぁ!』

 

「ふぇ、10連鎖ぁ!? あわわわ!」

 

『ばたんきゅ~~~』

 

画面に2Pゲームオーバーと表示され、一夏はガクンと首を落とし伊田はどや顔を浮かべる。

 

「ふっふふふふ。強くなってきてはいるみたいだが、まだまだだね」

 

【伊田様、ちょっと大人げなくないですか? (;^ω^)】

 

「いや、実際に強くなってきているからね。本気出さないと負けるもん」

 

そう言いながらもう一度対戦しようとしたところで扉をノックする音が鳴り響く。

 

「どうぞぉ」

 

そう声を掛けると、扉がひらきその先には浴衣姿の千冬が立っていた。

 

「失礼する。二人共、風呂の時間だぞ」

 

「おっと、もうそんな時間か。一夏君、続きは風呂上がりでいいかい?」

 

「はい、次は負けません!」

 

そう言いながら一夏はタオルなどが入った袋を持ち伊田も同じくタオルなどを持ち一夏と共に風呂場へと向かう。千冬はそれを笑みを浮かべながら見送った後、自身の部屋へと向かう。

メサは一夏が今日使った道具の手入れなどをやり始めた。

 

一夏達が風呂へと向かっている頃、旅館に備えられている休憩場に5人の生徒が集っていた。

そう、何時もの問題児達である。

 

「……最近僕たちの紹介が適当になってきてない?」

 

「誰に言っておりますの、シャルロットさん?」

 

突然変な方向に向かって話しだすデュノアに、セシリアがそう突っ込む。

さて彼女達が今何をしているか、それは

 

「それでラウラ。アンタ、本当に一夏の護衛の為に山に向かうの?」

 

「当たり前だ。マスターを護衛しようにも風呂場には既にフモッフ共が固めている。なら山側から護衛するしかない。幸いにもこの旅館は背後が山だ。頂上まで行かなくても途中にある開けた場所からなら見守ることが出来る」

 

そう言いながら旅館周辺の地図を見せ、ある一か所の所を指す。其処は旅館の後ろある少し奥の山にある箇所であった。

 

「ふぅ~ん。まぁ、アンタは軍人だからそう言った知識は豊富よね。で、私達は何をすればいいのよ?」

 

「正直お前達を連れて山には行きたくないが、万が一襲撃がありそうな場合戦力は多めがいいからな」

 

そう言いながら地図を仕舞うボーデヴィッヒ。

 

「あっそ。てか、箒。アンタはISを持ってないんでしょ。此処に残ってれば?」

 

「五月蠅い。お前達が一夏に変な事をしないか、それの監視だ」

 

そう睨みながら告げる箒に、あっそ。と告げる鈴。

そして5人が休憩場を出た所

 

「うん、何をしているんだお前達?」

 

部屋へと戻ろうとしていた千冬と遭遇してしまった。5人は自分達が旅館を抜け出そうとしている事を感づかれたか?と頭を過るも、5人はボロを出さない様事前に決めていたセリフを吐く。

 

「これから、ゲームセンターに遊びに行こうと思って」

 

「はい、それで此処に集合していたんです」

 

「そうなんです!」

 

鈴、セシリア、デュノアがそう返すと、千冬はほぉう。と声を漏らし暫し5人を見つめる。5人は背中に流れる嫌な汗を感じつつ我慢をする。

 

「そうか、あまり騒ぎすぎるなよ。それと、()()()()()()()()()

 

「えっと、はい」

 

千冬が5人にそう告げた後、千冬は去って行った。5人はふぅーと緊張して溜まっていた息を吐く。

 

「あぁ~、緊張したぁ」

 

「ですわね」

 

「ば、バレてないよね?」

 

「バレてないだろ」

 

そう言い4人が歩き出す中、箒だけ怪訝そうな顔を浮かべていた。

 

「さっきの言い方、どういう事だ?」

 

そう首を傾げつつも4人の後を追いかけた。

5人が旅館をコッソリと抜け出そうとしている中、フモッフ達警備部隊の指揮所であるコンテナの中ではフモッフがモッフ達に指示を出していた。

 

各員一夏様の為に気を引き締めて警護しろ!(ふもももっふるふもっふ!)

 

了解!(ふもっふぅ!)

 

全員が敬礼した後フモッフも敬礼を返すと、ぞろぞろとコンテナからラビットフォースや一般モッフ達が降りて行き一夏の警護などに向かっていく。

 

~旅館の裏山の山道~

暗い夜道をボーデヴィッヒを先頭に歩く5人。

 

「ラウラさん、懐中電灯をつけませんの?」

 

「駄目だ。暗い場所で灯りをつけると目立つ」

 

そう言いながらボーデヴィッヒは手に持ったドイツ軍正式アサルトライフルG36Kを構えながら進む。彼女が持っているライフルの銃口には糸が垂れ下がっており、その糸の先には重石が付いていた。

 

「ねぇ、ラウラ。どうしてライフルの銃口から糸を吊り下げてるの?」

 

「前方に何かしらの障害物などがあるか調べる為だ。例えば木とかな。後はフモッフ共が仕掛けたトラップなどだ」

 

そう言いながら進んでいると、銃から垂れ下げていた糸が何かに引っ掛かる感覚が伝わり左手を拳にして掲げる。

 

「止まれ」

 

「ど、どうしたのよ?」

 

「何かある」

 

そう言いボーデヴィッヒは引っ掛かった物を見る。それは細い糸状の物だった。

 

「これは、ワイヤーか。となるとその先にあるのは…」

 

そう言いながらワイヤーの張っている先を見ると草むらの中に続いており、そっと草を退け覗くと筒状の物が置いてあった。

 

「チッ。照明弾を仕掛けていやがる」

 

「これって、確実に僕達を予見して?」

 

「恐らくな。引っ掛かったら旅館に居る教師連中にバレる。気を付けて渡れよ」

 

ボーデヴィッヒはワイヤーの位置が分かる様にその近くで渡る補助にまわる。4人はワイヤーを渡ろうと歩み出す。

鈴、オルコットと渡り次はデュノアが渡ろうと一歩踏み出した瞬間

 

 

カチッ

 

 

「えっ?」

 

「なによ、今の音?」

 

「シャルロットさんの脚からしましたわよ」

 

「石でも踏んだのか?」

 

鈴とセシリア、そして箒がそう言い渡るよう言おうとした瞬間

 

「動くな!」

 

ボーデヴィッヒは額に汗を浮かべながらそう叫ぶ。

 

「なによ、急に?」

 

「シャル、絶対に動くな」

 

「はぁ? ただの石を踏んだ音だろ?」

 

「石を踏んだくらいであんな音はならん。お前等も動くなよ」

 

そう言いボーデヴィッヒは足下に神経をとがらせながらゆっくりと近づく。そしてデュノアの近くまで来るとゆっくりと近づきそっと屈み、音が鳴った方のシャルロットの脚の地面を掘り起こす。

暫く掘り起こした所、シャルロットの足の裏には丸い円形状の物体があった。

 

「あった」

 

「まさか、本物の地雷じゃないでしょうね?」

 

「その、まさかだ」

 

ボーデヴィッヒの言葉に4人は背中に嫌な汗を感じる。

 

「照明は流石に許せるけど、地雷はやり過ぎでしょ」

 

「ですわね。この事織斑先生に言うべきで「無駄だ」どうしてですの?」

 

「分からんか? 此処の裏山は旅館が所有している土地だぞ。つまり旅館には許可はとっている。だが、あいつ等だけでは取れない」

 

「た、確かに。 っ!? ま、まさか織斑先生が関与してるっていうの?」

 

「それしかない。まさか、殺傷能力のある兵器の使用許可まで出すのは流石に信じ難いが…」

 

4人は千冬の本気度に恐ろしさを感じている中、地雷を踏んでいるデュノアは冷や汗を流しながら震えていた。

 

「そ、それより、は、早く、早く助けてぇ」

 

「そ、そうだな。待っていろよ、今助けてやる」

 

そう言いながらボーデヴィッヒはシャルロットが踏んでいる地雷を観察し始める。

 

「解除できるの?」

 

「地雷自体を解除するのは無理だ。こいつは加圧式の物で、一度圧力が加われば雷管のセーフティーが解除される。ちょっとでも圧力が緩めば爆発する」

 

「じゃあどうするのよ? 彼女を置いて行くの?」

 

「いやだよぉ! 置いて行かないでよぉ!」

 

「叫ぶな! 圧力が緩むぞ!」

 

「で、ではどうしますの?」

 

セシリアの言葉にボーデヴィッヒは辺りを見渡し、ある物を見つける。

 

「よし、シャル今助けてやるからな」

 

そう言いながらボーデヴィッヒは見つけた大きな石を引き摺りながらシャルの足元まで引っ張ってくる。

 

「シャル、ゆっくりと足をずらせ。いいな?」

 

「わ、わわ分かった」

 

ボーデヴィッヒは持ってきた石をじりじりと動かし、シャルもじりじりと足をずらす。

周りが緊張している中、箒が我慢できなくなり始めた。

 

「私は先に行くぞ!」

 

「お、おい、動くな!」

 

ボーデヴィッヒの警告を無視して一歩進んだ瞬間

 

 

カチッ

 

と、箒の足元で鳴り響いた。

 

「っ!?」

 

「だから動くなと言ったのに! いいか、絶対に動くなよ!」

 

箒にそう叱責し、ボーデヴィッヒはデュノア救出を再開する。

しかし5人は風呂上り、真夏とはいえ夜の山の通常よりも気温が低い。その為体が冷えたらばなる現象

 

「へぇっ」

 

体が冷え、くしゃみが出そうになるデュノア。それに気付いたボーデヴィッヒは声を上げる。

 

「っ!? シャル、我慢しろ! くしゃみしたら圧力が変わる!」

 

ボーデヴィッヒの叫びにデュノアは何とかくしゃみをしないよう我慢する。そのおかげかくしゃみはせずに済んだ。()()()()()()()

 

「へっくっしゅん!」

 

箒が勢いよくくしゃみをした。くしゃみをした瞬間体の圧力が変わる。そうなればどうなるか、答えは簡単

 

 

ドッカーーーン!

 

 

 

盛大に爆発する。

 

『ザッパーーン/ドッカーーーン!

 

男子風呂で伊田と一緒に温泉に入っていた一夏。頭の泡を洗い流す為桶の水を被せる伊田。

一夏は手で耳を覆い、水が入るのを防いでいた。

 

「よぉし、洗い流せたぞぉ」

 

「ありがとうございます」

 

「そんじゃあ温泉に入って100数えたら上がるぞぉ」

 

「はい」

 

そう言い2人は温泉に浸かり、数を数え始める。そんな中、アイラが一夏に語り掛けてきた。

 

[ねぇ一夏。頭を洗い流した時何か聞いた?]

 

[え? うぅん、何も聞いてないけど?]

 

[そう。なら良いわ]

 

そう言いアイラから声が聞こえなくなり、一夏は首を傾げつつも数を再び数え始める。

 

爆発音は旅館内にも響いており、大勢の生徒が何の音だと首を傾げていたが旅館に備わっているゲームセンターのゲーム音だろうと考え気にもしなかった。

 

そして千冬はと言うと部屋に戻る前にとマッサージチェアで座って寛いでいた所、爆発音を耳にする。その音に千冬は呆れた様な溜息を吐く。

 

愚か者共めぇ

 

そう零すのであった。

 

 

場面は戻って裏山の爆発地点では、爆風で服のあちこちを焦がし、更に幾つもの擦り傷を作った5人が寝っ転がっていた。

すると木々の間からぞろぞろとラビットフォースのモッフ達が現れ寝っ転がっている5人を拘束しようとする。

箒、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒを拘束し、最後の鈴を拘束しようとした所突如

 

「おんりゃあぁぁあ!!」

 

「「「ふもぉ!?」」」

 

4人と同様に意識朦朧となっていた為、鈴も同様だと思っていたが予想よりも早く意識がはっきりと戻ってしまい逃亡を始めたのだ。

モッフ達は急いで逃げ出した鈴に向け、麻酔弾が装填されたライフルを構え引き金を引く。

麻酔弾は真っ直ぐ鈴に向かって飛んでいくも、鈴はそれを鋭い反射神経で避けながら木々の合間を抜いて旅館へと向かっていく。

 

背後から迫るモッフ達に鈴は焦った表情を見せず、笑みを浮かべながら木々を抜けて行く。

 

「なめんじゃないわよ。あいつ等と違ってあたしの反射神経は鋭いのよ!」

 

そう叫びながら背後から飛んでくる麻酔弾を避けながら鈴は走り続ける。目指すは一夏の居る露天風呂。

暫し山を下ると柵が見え始め、鈴は更に全速力で駆け始める。そしてジャンプをしてそのまま露天風呂の中へとドボン!と入る。

 

「ぷはぁ! えぇと、一夏はと…。あっ、いた」

 

湯気が立ちこむ中、人影を見つけた鈴。鈴はその方向へと進む。

 

「偶然ねぇ一夏。良かったら一緒につかりま…ち、千冬さん!?」

 

一夏だと思って近付いた人影。それはタオルを巻いた千冬であった。

 

「な、なんで此処に居るんですか? 此処って男湯じゃないですか!?」

 

「そうだな。だが、此処は午後9時になると男湯と女湯が入れ替わるシステムになっている。女湯とは違う景色が見れるのではと思って2度湯をしに来たら、お前が浴衣姿で柵から飛び入って来た」

 

そう言われ鈴は顔面蒼白になって行き逃げようとしたが、濡れた浴衣が原因で体が思うように動かなかった。

そして鈴の背後に着いた千冬。

 

「さて、無断外出に、不法侵入など色々破ったから、罰則の時間だ」

 

そう言い手刀で鈴の後頭部を叩く。

 

「あぎゃふぅ!?」

 

そう叫びダパンと温泉に倒れ込む鈴。

その後千冬は鈴を脱衣場に放り捨てそのまま湯に浸かり、放り捨てられた鈴はモッフ達が回収して仮説の拘束部屋の中に放り込むのであった。

 

さて、その頃一夏はと言うと部屋に戻っていた。

部屋に戻って伊田とゲームをする予定であったが

 

「すぅ…すぅ…すぅ…」

 

と、モフモフの鼠の縫いぐるみを抱きながら布団で寝ていた。

そして伊田はメサと共に格闘ゲームで遊んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~アメリカ合衆国・IS訓練所~

場面は日本から変わってアメリカのとあるIS訓練所では一機のISが飛び発つ準備が進められていた。

 

「指揮官、試験の準備間もなく終了です」

 

「分かった。諸君、この試験が成功すればアメリカは他国よりも先に宇宙開発に乗り出せる。しっかりと頼むぞ」

 

「「「イエス・サー!」」」

 

データの最終チェックなどしている中、一人の女性士官のスマホにあるメッセージが届く。

 

『銀の鐘に狂風を』

 

そのメッセージに女性士官はポケットからUSBメモリを取り出しそれをISにインストールするのであった。




次回予告
修学旅行2日目、専用機持ちや一般生徒達は予定されていた通り訓練が行われようとした。
そんな時に現れた束。一体何の用でやって来たのか?

次回
束さんがやって来た!

「なにって、プレゼントだけど?」


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37話

チュン、チュン、チュン

 

窓の外から雀のさえずる音が鳴り響く早朝。一夏と伊田が眠る部屋ではまだそれぞれ布団に入って寝息を立てていた。

部屋の隅ではメサが正座で一夏達が目を覚ますまで待機していた。するとふと顔を窓の方へと向け立ち上がり、そのまま窓へと近づき開ける。

 

するとぴょこんと機械のうさ耳が現れ、そして

 

「おぉ、流石メサ君。私がいっくんの為に作っただけの事はあるね」

 

小声で笑顔を浮かべる束であった。

 

【当たり前です。フモッフ殿達が来られるまでは私が坊ちゃまの護衛をしていたのですよ。(´-ω-`)】

 

「にゃははは、そうだね」

 

【それで、どうして此方に? 千冬様のお部屋でしたら隣ですよ。(・・?】

 

「あぁ、ちーちゃんには後で会いに行くよ。その前にちょっといっくんにプレゼントがね」

 

そう言い束は徐に背後に手をやりゴソゴソと何かを探すように動かす。

 

「これ、じゃない。これ、でもない。こっち、でもない」

 

そう零しながら次々に物を取り出す束。暫くして

 

「おぉ、あったあった」

 

そう言って取り出したのはゴマフアザラシの赤ちゃんの縫いぐるみだった。

 

「はい、これいっくんに渡しといて。束さんの新作縫いぐるみ」

 

【これはまた、坊ちゃまが喜びそうな縫いぐるみですね。(・∀・)】

 

「ふふん。見た目だけじゃなく、今まで使っていたモフモフ素材を更にモフモフ感のある物に替えたから抱き心地はさらに増してるよ」

 

そう言いながら束は縫いぐるみをメサへと手渡す。

 

【では坊ちゃまが起きられましたら、お渡ししておきます。(*- -)(*_ _)ペコリ】

 

「うん、宜しくねぇ。それじゃあ束さんはちーちゃんに会いに行ってくるよ」

 

そう言って束はそのまま隣の部屋へと向かい窓をコンコンと叩く。

 

「ちーちゃん、あ~け~てぇ」

 

束がそう窓に向かって言うと窓がガラガラと開き、束は中へとよじ登って入って行った。

 

 

 

束を部屋へと招き入れた千冬は頭をかきながらやって来た束に目を向ける。

 

「それで束、こんな朝っぱらから一体何の用だ?」

 

「そりゃあ今日ISの訓練あるんでしょ?」

 

「あぁ、ある。それが何だ?」

 

「いやぁ、いっくんのISの整備をその時にやろうと思ってね」

 

束の言葉に千冬はジッとその顔を見つめる。

 

「なぁに、ちーちゃん? 束さんの顔に何かついてる?」

 

「あぁ、ついてるな。お前が何か、企んでいると言う名の仮面がな」

 

そう言われ束は笑みを更に深く浮かべる。

 

「さっすがちーちゃん。それじゃあ一体何だと思う?」

 

「…ただ一つ言えることは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の妹に関係している事だろ?」

 

千冬がそう告げると、クスクスと笑みを零しニンマリとした顔で束は語り出す。

 

「いやぁ、ご明察だよちーちゃん。どうして箒ちゃんだと思ったの?」

 

「それしかないだろ? 今日はアイツの誕生日だ。違うか?」

 

「いや、それで合ってるよ」

 

「で、何を頼まれた?」

 

「…そこまで分かっちゃうかぁ。まぁ、ちーちゃんなら予想出来るでしょ?」

 

「まぁ、此処最近のアイツの行動などを見てだがな。大方ISでもねだったのか?」

 

「うん、ねだってきたよ」

 

隠そうともせず束は堂々と箒がねだってきた物を告げると、千冬は眉間にしわを寄せはぁ~。と重いため息を吐く。

 

「あの馬鹿者が。それで、お前は渡すのか?」

 

「それは内緒だよ。けど…」

 

一旦言葉を止める束。その顔はまるで誰かを馬鹿にしている様な表情であった。

 

「何時までも悲劇のヒロインを演じてる奴にとっていい薬なら持って来てるかな」

 

「?」

 

束の言葉に千冬は首を傾げるも、何か仕出かすんだろうな心の中でため息を吐くのであった。

それから時間が過ぎ、生徒達が起床していき軽い朝食を取りそれぞれISスーツを身に纏い海岸近くにある岩場へと集合した。

その際岩場の一か所には

 

『私は許可なく旅館から抜け出しました』

 

『浴衣のまま温泉に浸かりました』

 

等のプラカードを首からぶら下げた問題児5人がロープで拘束され正座させられていた。

5人の姿に生徒達は茫然と言った表情を浮かべ、1組の生徒達は5人に向け冷たい視線を送っていた。

その後教師達も到着し、5人以外の生徒達を整列させる。整列した後、千冬が生徒達の前へと立ち口を開く。

 

「ではこれよりIS訓練を行う。一般生徒は神林先生、溝口先生、ロベルタ先生達と共に浜にて学園から持ってきたISに搭乗してもらう。専用機持ちは各々の政府から送られてきたパッケージをインストール後、訓練を始める。だがその前に…」

 

そう言い千冬は正座している5人の前に立ちギロリと睨みつける。

 

「今度問題行動を起こしたら、夏休みのほとんどを道徳と常識の勉強で埋めてやるからな。いいな?」

 

そう言われ5人はコクコクと激しく頷く。そしてロープを解いて貰い俯きながら立ち上がる。

 

「では訓練を「ちーちゃん、失礼するよぉ!」なんで今出てくる、束!」

 

千冬が解散と言おうとした矢先に岩場の影から束がひょっこりと現れた。突然現れた束に生徒達は驚きの表情を浮かべていた。

 

「あれ? 解散言ったんじゃないの?」

 

「まだ言っておらん。一般生徒が解散した後に呼ぼうとしたんだぞ」

 

「ありゃりゃ、めんごめんご」

 

千冬にジト目で睨まれながらも、束はアッハッハッハ。と笑い声を上げなら謝る。

 

「まぁ、バレちゃったのは仕方ないじゃん」

 

「はぁ~、もういい。お前に常識を求めるんじゃなかった」

 

「えぇ~、酷いなぁ。ちゃんと束さんにだって常識は持ってるよ」

 

「はいはい。だったら常識人らしくこいつらに自己紹介をしろ」

 

「ほいほい。ハロハロ~、ISを生み出した博士、篠ノ之束さんだよぉ。宜しくぅ!」

 

「「「……」」」

 

「あれ? ちーちゃん、皆固まってるよ?」

 

「…お前の名前を聞いて固まっているだけだ。暫くしたら戻る」

 

千冬がそう言ったと同時に

 

『えぇぇええぇ~~~~!!???!』

 

1組以外の生徒達が大声を上げなら目の前にいる人物に驚く。

 

 

因みに突然の大声にフモッフは咄嗟に一夏の耳を塞いだため、症状が起きることは無かった。

 

「あ、あの篠ノ之博士が目の前に!」

 

「う、うわぁ、ほ、本物だぁ」

 

「えぇ、な、何の用で来たんだろう?」

 

初めて見る束に対し生徒達が浮足立っている中、束が語り出す。

 

「それじゃあちーちゃん、束さんの用件済ませちゃってもいい?」

 

「あぁ、構わん。織斑、こっちに」

 

「あ、はい」

 

千冬に呼ばれ一夏はフモッフ達と共に束の元にやってくる。

 

「久しぶりぃ、いっくん♪」

 

「う、うん、お久しぶりです、束お姉ちゃん。あと、縫いぐるみありがとう。その、すごくフワフワだった」

 

「そう? うへへへ、そりゃあ良かったぁ。また新作が出来たら持っていくねぇ」

 

「うん」

 

2人で会話をしている中、千冬はんん。と咳ばらいをする。

 

 

「おっとと、束さんの用件を済ませないとね。いっくん、IS見せてくれる?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

そう言い一夏はバレットホークの待機形態である白い腕輪を束に見せる。束は見せられた腕輪に何処からともなくコネクターを取り出し、それを挿して空間デュスプレイを投影してパタパタとデータを見て行く。そしてデュスプレイを閉じコネクターを抜く。

 

「特に問題無し。メンテナンスもしっかりと出来てるね」

 

「う、うん。束お姉ちゃんから貰ったメンテナンス冊子のお陰だよ」

 

「うへへへ。それはどういたしましてぇ」

 

照れた表情で褒められた事で束は顔を惚けさせながら笑みを浮かべる。

 

「あ、あの! Dr.篠ノ之、ぜひ私のISも見て頂けませんか?」

 

オルコットはまたとない機会だと思い束に向かってそう頼むも

 

「はぁ? なんで束さんが、お前のIS見ないといけないの? それをして私に何か得することある? と言うかお前と束さんは知り合いでも何でもないじゃん。それで頼むって君頭大丈夫? あぁ、ごめん。いっくんに迷惑を掛けてる奴の頭は空っぽだったね。こりゃ失敬」

 

そう言い話を閉める束。ストレートに物を言われ固まるオルコットに誰も同情の目を向ける者は居なかった。

 

「おい、束。用事はもう一つあるんじゃなかったのか?」

 

「おっと、そうだった。それじゃあえぇと、あ、いたいた。箒ちゃん、ちょいちょい」

 

そう言い手招きで呼び寄せる束。箒は笑みを浮かべながらその傍へとやってくる。

 

「はい、誕生日プレゼント」

 

そう言って束は長方形状の綺麗に包装された物を箒へと手渡す。箒はそれを受け取り包装紙を破り捨てて行く。

 

「あぁ~あ、折角綺麗に包装してもらったのに」

 

束がそう零すも、箒はそれに聞き耳を持たず包装紙を全て破り捨てると中から箱が現れ、箒はふたを開けた。そして中に入っていた物に箒は驚愕の表情を浮かべる。

 

「……姉さん、なんですか、これは?」

 

「なにって、誕生日プレゼントだよ?」

 

笑顔を浮かべながらそう告げる束。箒は箱に入っていた物を見つめながらプルプルと震えながら箱を握る手に力が入る。

 

「そう言う事を聞いているんじゃないんです! この箱に入っている物を聞いているんです!」

 

箒はそう叫び箱の中身を束へと見せる。箱に入っていた物、それは綺麗な赤色の布が入っていた。

 

「髪留め用の布。普段白か緑のやつしか使ってないでしょ? 偶には赤でもいいんじゃないかなぁと思ったからそれにした」

 

束の説明に箒は怒りの形相を浮かべる。

 

「私が頼んだものはこれじゃない!」

 

そう叫び、箒は持っていた箱を地面へと投げ捨てる。投げ捨てた箱は地面を跳ね返った後一夏の脚元へと転がって来た。

箒の叫びに生徒達は驚きの表情を浮かべ、千冬は睨むような眼を箒に向け口を開こうとしたが束が手で制し、声を出さず口だけ動かす。

 

〘手を出さないで〙

 

そう伝えられ千冬は口を閉ざす。

 

「頼んだ物じゃないってだけで投げ捨てる事ないじゃん」

 

「頼んだ物じゃないからですよ!」

 

「はぁ。そう言われてもねぇ、【自分だけの力】って言われても具体的に言ってくれないと分かんないんだけど」

 

「そんなの分かり切っている事じゃないですか! 私だけのISですよ!

 

箒が束に頼んだ物を叫ぶと生徒達はえぇ!?と驚いた表情を浮かべ、束はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「あぁ、自分だけのISね、なるほどなるほど。……と言うかさぁ」

 

「なんですか?」

 

「箒ちゃん。束さんの事、都合のいい姉としか見てないでしょ?」

 

「ッ!?」

 

束の一言に箒は肩を跳ね上げた。

 

「な、何を…」

 

「だってそうじゃん。普段私の事嫌ってるくせにいざとなったら私の名前出してるみたいじゃん」

 

「そ、そんなことしていません!」

 

「へぇ~、そうなんだ。じゃあ後ろにいる子達に聞いてみようよ」

 

そう言い束は箒の後ろに居た生徒達へと目を向ける。

生徒達は突然目を向けられた事に隣にいる生徒達を見あった後、口を開く。

 

「…篠ノ之博士の言う通りだよね」

 

「うん、前に篠ノ之博士の事聞いたら『そんな事知らん。あんな人の事など…』って、怒鳴った事がある」

 

「そうなの? 私、タッグマッチ戦の時期に織斑君と布仏さんがアリーナで模擬戦をしていた時にアリーナの教師に止められている篠ノ之さんを見かけたとき、『私は篠ノ之束の妹だ!』って叫んでたよ」

 

「あ、それ私も見た。その後教師がビビッて中に入れようとしたけど織斑君の護衛のロボット達が篠ノ之さんにスタンガンみたいなのを押し当てて気絶させて連行しているよね?」

 

「私も、姉とは関係無いって言ってたけど、何か自分が不利になると篠ノ之博士の名前出してた」

 

「それ、私も見た事ある」

 

などなど束の事を聞いてもあの人とは何の関係も無い。と常に言っているのに、自分の都合が悪くなると束の名前を出していた。と証言する生徒達が続々と現れた。更に

 

「欲しいプレゼントじゃなかったからって投げ捨てるのは流石に。ねぇ?」

 

「うん。ISが欲しいって言ってたのは驚いたけど、せっかくプレゼントしてくれた物を投げ捨てるのは人としてどうかと思う」

 

「篠ノ之博士が可哀想に思える」

 

ISじゃなくても、折角妹の為にと用意したプレゼントを本人の目の前で投げ捨てるのはどうなんだ。と生徒達も居た。

生徒達の言葉に箒は苦い顔を浮かべ、拳を震わせる。

一方一夏はと言うと、足元に転がって来たプレゼントを拾い上げジッと見つめていた。箱は砂埃が付いていたり、へこんでたりしていた。

箱を見つめていた一夏は暫し悲しそうな表情を浮かべた後、意を決したような表情を浮かべ口を開く。

 

「し、篠ノ之さん」

 

「っ! い、一夏…」

 

一夏に呼ばれ箒は顔を向ける。一夏は体を振るわせつつも、真剣な表情を浮かべていた。

 

「せ、折角、束お姉ちゃんが用意してくれたプレゼントを、こんな、投げ捨てる様なこと。僕、そんな事をする人、嫌いです!」

 

「っ!?」

 

一夏の口から嫌いと言われ、ショックを受けた箒は顔を俯かせた。俯く箒から一夏は束の方に体を向け、持っていた箱を差し出す。

 

「束お姉ちゃん、これ」

 

「うん。ありがとうね、いっくん」

 

手渡された箱を受け取り、束は箱をポケットへと仕舞う。

 

「さて、束さんの用事は済んだし、そろそろお暇するよ」

 

「……そうか。それじゃあ生徒諸君、これより「お、織斑先生!」ん? なんだ、山田先生?」

 

スマホを片手に驚いた表情を浮かべる真耶。その表情を見た千冬は新たな厄介事かと心の中で重いため息を吐くのであった。




次回予告
真耶からの突然の報告、それは暴走するISに関する事だった。千冬は専用機持ち達を集めこれの撃墜、もしくは自衛隊が来るまでの時間稼ぎをする作戦を立てた。
作戦は実行に移されるも、予期せぬ事態が起こるのであった。

次回
暴走したIS

〈安心しなさい、一夏。私がついてるんだから〉

〈アイラが、そう言ってくれるなら頑張る〉


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38話

真耶の焦った表情に千冬は一体何事だと思いつつ、その傍へと寄る。

 

「一体どうした?」

 

「アメリカの軍用――」

 

「っ!? それ以上は言うな。機密事項だ、他に聞かれる」

 

真耶が言おうとした内容を察した千冬は、報告を遮り手話で会話を始める。そして顔をしかめながら生徒達の方へと体を向ける。

 

「緊急事態が起きた為一般生徒達は教師達の指示に従って部屋で待機するように。なお部屋から勝手に出ない事。出た場合厳しい処罰が下される。専用機持ちは私についてくるように」

 

そう言われ一般生徒達は困惑した表情を浮かべながらも教師達の先導の元旅館へと帰って行く。

一夏は専用機持ちとして千冬の後に続こうとした所

 

「イッチー」

 

「本音さん、何か?」

 

一般生徒達と共に旅館の部屋に行く途中の本音に呼び止められた。本音は心配そうな表情を浮かべていた。

 

「なんか、嫌な予感がするから気を付けてねぇ」

 

「え? えっと、分かりました」

 

本音の忠告に一夏は頷きながら千冬達に付いて行く。

 

 

 

 

千冬の後に続いて着いたのは旅館の奥にある部屋であった。そこは本来教師達の部屋であるが、今は空間ディスプレイなどを投影して色々な情報などを展開していて物々しい雰囲気であった。

千冬は連れてきた専用機持ち達を適当に座らせ、彼女達の前に立ち厳しい顔を向ける。

 

「ではこれより緊急ミーティングを行うが、その前に一つ聞いておくことがある。この後行われる事はかなり国際的に不味い事であり、更に命の危機に陥る可能性もある。今此処で降りてもらっても構わない」

 

そう言い見渡す。部屋にいる一夏達専用機持ち達は緊張した面持ちではある物の、部屋から出る様子は無かった。

暫く沈黙がつづいた後千冬は覚悟を決めた様な表情に変え、口を開く。

 

「…分かった。では何があったのか説明する」

 

そう言い千冬は背後で椅子に座りながら作業をしている真耶に資料を。と伝えるとディスプレイに一機のISが映し出された。

 

「つい先ほどアメリカ政府からイスラエスとの共同開発で開発した機体、《銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》が無人のまま突如謎の暴走を起こし試験場から飛び出したとのことだ。勿論アメリカ空軍などが阻止しようとしたが、すり抜けられたらしい。現在は日本に向け飛行しており、アメリカ空軍および日本の航空自衛隊が阻止しようと動いているが、間に合わないらしい。その為政府から我々に撃墜指令が届いた」

 

「げ、撃墜ですか?」

 

「あぁ、そうだ。全く無茶な命令を出しおって」

 

そう言い千冬はチッ。と舌打ち放つ。

 

「兎に角政府は撃墜と言ってきているが、それはあくまでも出来たらだ。我々が出来るのはせいぜい足止めくらいだ。それで作戦だが、各自の持てる火力をもってこれを足止めする。専用機を前面に出し、後方には万が一突破もしくは前線を維持できなかった場合に備え教師部隊を配置する。何か質問はあるか?」

 

「では相手のスペックをお願いします」

 

「…いいだろう、ただし口外はするなよ。した場合国際問題に発展するからな」

 

セシリアの質問に千冬は警告を入れながら銀の福音のスペックを開示する。

 

「広域殲滅型…ですか」

 

「あの、織斑先生。これってアラスカ条約に抵触しないんですか?」

 

「確かにアラスカ条約に違反しそうだが、開発目的が宇宙開発の為という事で抵触していない。そうだろ、束」

 

千冬がそう言うと、天井の一角が突如開き、シュタッと束が降って来た。

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

「うん、軍が主導で開発しているから広域殲滅って書いてあるけど、実際は宇宙空間に漂流している宇宙ゴミなど宇宙ステーションの脅威となる物を破壊するための機体だよ。ところでちーちゃん」

 

「なんだ束?」

 

「作戦だけどさぁいっくんの安全を確保しつつ、なおかつ暴走したISを止める方法が有るんだけどどうする?」

 

「なに? ……どう言った方法だ?」

 

「実は其処に居る金髪ドリルがいっくんに喧嘩を吹っ掛けた時にさ、束さんつい頭にきちゃって大型ビームライフルを作ったんだけど、バススロットをかなり食っちゃうみたいだから入れるのを止めて倉庫に放り込んでおいたんだけど、なんかつかえそうだなぁと思ってねぇ」

 

「なるほど。だが、一夏に持たせる理由は?」

 

「バススロットの関係。それと束さんが作った物を信用できない奴に渡したくない」

 

そう言い束は、どうする?と千冬に問う。千冬は束の作戦と自分が考えた作戦と比べ、どちらが安全かつ任務遂行が出来るのか比べる。しばし考えた後自身の答えを出した。

 

「よし、束の作戦で行く。その大型ビームライフルは今あるのか?」

 

「今手元にはないけど、さっき研究所から持って来て貰うよう束さんのお手伝いに…あ、来た来た」

 

そう言い束は襖を開ける。すると一機のISが舞い降りてきた。その手には大きめのロングライフルが握られていた。

 

「束様。お願いされていた物をお持ちしました」

 

「ありがとうね。クーちゃん」

 

降りてきたISに親し気に話す束に千冬は一体何者かと思い束に尋ねる。

 

「あ、この子は束さんの助手兼娘の」

 

「クロエ・クロニクルと申します」

 

「そうか。で、それが例のライフルか」

 

「うん、そうだよ。いっくん、ISにインストールするからちょっとこっちに来てぇ」

 

「は、はい」

 

束に呼ばれ一夏は束の元に向かう。そしてインストール完了後、千冬は専用機持ち達を連れ砂浜に向かう。オルコットたちが専用機を纏い準備をしている中、一夏もバレットホークを身に纏い照準の確認を行う。

 

「いっくん、照準はどう?」

 

「あ、はい。調整終わりました」

 

「うん。それじゃあそのライフルの注意事項を言うよ」

 

「注意事項だと? おい、危険な物なのか、そいつは?」

 

束の口から出た注意事項と言う言葉に千冬は眉間にしわを寄せ、束に怒気を込めた口調で言う。

 

「落ち着いて、ちーちゃん。注意事項と言ってもそんな大したものじゃないよ。じゃあ言うよ。まずこのライフルだけど長射程で高威力を有してる。今回は無人ISらしいから問題ないけど、人が乗っていたら確実に危険だから。撃つ際は他の奴等が射線に入っていないか確認してね」

 

「は、はい」

 

「次にこのライフルなんだけど、一発撃った後リチャージに凄く時間がかかるの。だから一撃必中で狙ってね」

 

「分かりました」

 

一夏は渡されたライフルの入ったバススロットを見る。すると装備されていた武器がほとんどなく、外付けされているフォールディングナイフ以外に残っているのは近接用のバタリングラムが1本とアサルトライフル2丁のみだった。

 

「あれ、武器が…」

 

「あぁ、ごめんいっくん。さっきも言ったけどこのライフル、バススロットをかなり使っちゃうんだ。だから武器を幾つか下ろさせてもらったよ。あとこれ結構反動が強いから、ライフルを撃つ際はサブアームで機体を固定してね」

 

「はい」

 

束の説明を聞いている最中、考え事をしていた千冬は何かを思いついたのか、束に話しかける。

 

「束、織斑の機体にステルスをつけることは可能か?」

 

「ステルス? そりゃあつけるのは出来るよ。でも何でステルスがいるの?」

 

「万が一の為だ。織斑が狙撃を外した場合、もしくは不測の事態が発生した場合織斑を先に後退させる。唯一大型ライフルを使用できるのは織斑だけだからだ」

 

「なるほどねぇ。それじゃあいっくんちょっと動かないでねぇ」

 

「あ、はい」

 

一夏はその場で静止をすると、束はバレットホークにコネクターを挿し空間ディスプレイとキーボードを出すとポチポチっと何かを打ち込む。そして打ち込むが終了したのか、コネクターを外す。

 

「終わったよぉ」

 

「分かった。それじゃあ全員よく聞け!」

 

千冬がそう大声で言い全員耳を傾ける。

 

「これより作戦を開始する。指揮所で説明した作戦通り、織斑の大型ビームライフルで狙撃しISを停止させる。織斑が狙撃位置に着くまでの間、お前達は時間稼ぎ及び狙撃しようとしている事を悟らせない様陽動だ」

 

「「「「了解」」」」

 

「それと、万が一狙撃失敗、もしくは不測の事態が発生した場合は作戦は中止。先に織斑がステルスを使用して撤退。その間お前達は時間稼ぎだ。勿論教師部隊も向かわせる。教師部隊が到着したら、お前達も撤退しろ。分かったな」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「では作戦開始!」

 

その掛け声と共に専用機持ち達は砂浜から出発した。

 

 

 

 

旅館から飛び立って暫くして、一夏は専用機持ち達から離れ小島へと降り立つ。小島に降りるとバススロットから大型ライフルを取り出し構えると同時にサブアームを展開して木や地面にサブアームを掴んだりし機体を固定する。

 

〈アイラ、やれるかな?〉

 

〈さぁね。けど、アンタには私がついている。わたしはアンタの操縦と射撃の腕に信用するし、アンタは私のサポートを信用しなさい。これまで通りにね〉

 

〈……うん! 分かった〉

 

アイラの言葉に一夏は力強く返しライフルを構える。暫くしてから無線が入った。

 

『こちらボーデヴィッヒ。目標のISと接敵! 攻撃を開始する!』

 

そう聞こえ一夏はライフルに備えられているスコープを覗き込む。其処には翼の様な背部ユニットを搭載した一機のISがおり、専用機持ち達の攻撃を避けながら反撃をしていた。

 

〈来たわね。一夏、しっかり狙うのよ〉

 

〈うん〉

 

アイラの言葉に一夏はライフルの握る手に自然と力が入りつつもしっかりと狙いを定める。すると、戦っている銀の福音にある違和感を感じる。

 

〈ねぇ、アイラ。あのIS、無人なんだよね?〉

 

〈え? えぇ、千冬はそう言ってたわよ。なんでよ?〉

 

〈なんか、あのバイザーの隙間から髪が見えた気がして…〉

 

一夏の言葉にアイラははぁ?と声を漏らしつつも、一夏の目線から入手した映像をコマ送りで再生する。そしてほんの少しだが太陽の光に反射する金髪が見て取れた。

 

〈嘘でしょ!? 一夏、あの機体は無人機なんかじゃない、人が乗っているわ!〉

 

〈そ、そんな!? ど、どうしよ?〉

 

〈すぐに千冬に連絡しなさい! 作戦は中止よ!〉

 

アイラの言葉に一夏は直ぐに千冬に連絡をとるべくチャンネルを開く。

 

 

 

「―――なんだと!?」

 

一夏から届いた通信に千冬や他の教員達は驚愕の表情を浮かべ、傍に居た束は一夏の言葉に何かを調べるべく空間デュスプレイとキーボードを展開する。

 

『さ、作戦は?』

 

「中止だ! 織斑、直ぐにステルスを展開して其処から撤退しろ。他の専用機は時間稼ぎを行え! 教師部隊、すぐさま前線に向かえ!」

 

『教師部隊、了解!』

 

千冬の指示に教師部隊から了解の返答が届く。そんな中、千冬は苛立ちの表情を浮かべていた。

 

「政府の連中め、無人機など言いやがって、人が乗っているではないか」

 

「ちーちゃん、恐らく政府の連中も無人機だと思ってたかもよ」

 

「? どういう事だ、束」

 

千冬の近くで調べ物をしていた束からそう声を掛けられ、千冬は怪訝そうな顔付を浮かべる。

 

「いっくんの言葉で調べてみたんだけど、アメリカが日本に送った電文にも無人機と書かれてた」

 

「だったらアメリカの連中か?」

 

「うぅん。アメリカが日本に送った電文には改竄されていた痕跡があった。改竄される前は有人機と書かれてた」

 

「っ!? つまりアメリカ政府内の誰かが仕組んだという事か?」

 

「恐らくね。そして狙いは…」

 

「…一夏の暗殺か」

 

ギリッと奥歯を力強く噛む千冬。

 

「…兎に角有人機と分かった以上、作戦は救出作戦に変更だ。束、一夏が戻ってきたらライフルの出力を調整できるか?」

 

「出来るよ。けど、暴走を止める必要があるから軽傷程度の出力まで下げるからね」

 

「あぁ、それでいい。暴走を止めるためだ、軽傷位我慢して「お、織斑先生っ!」どうした、山田先生?」

 

束と会話をしていた千冬に大声で呼ぶ真耶。その顔は青白く染まっていた。

 

「お、織斑君の…」

 

「織斑がどうした?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑君の、バレットホークがシグナルロストしました」




次回予告
指揮所に届いた一夏撃墜の報告。千冬は一瞬取り乱しそうになりながらも、なんとか指示をする。
そして一夏が戻って来てから暫くして専用機持ちも帰還。
千冬は溢れる上がる怒気を必死に抑えながら現場で起きた事を問いただす。

次回
墜落の希望

「一体、あそこで何があったのか、一字一句真実を報告しろ」

「ちょっとでも、嘘言ったら、どうなるか、わかるよね?」


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39話

千冬は真耶の口から出た言葉に理解できなかった。

 

(シグナル、ロスト? 一夏が、墜ちた?)

 

頭の中で一夏が墜ちたと言う言葉が、頭の中で何回も再生される。隣では束が千冬に向かって何か叫んでいるが、千冬には届いていたなかった。

すると束が千冬の肩を掴んで自分の方へと振り向かせると、右腕を振り上げ勢いよく千冬の左頬を叩く。

 

「ちーちゃん‼ しっかりして!」

 

「…す、すまん」

 

束のビンタと叱責に我に返った千冬は直ぐに状況を真耶達に問う。

 

「状況は?」

 

「今しがた教師部隊が織斑君の墜落地点に到着。目標に向け攻撃を開始しました」

 

「織斑先生、教師部隊の新山先生から通信が」

 

「繋げ」

 

千冬の言葉に報告した教師は通信を繋げる。

 

『こちら新山。現場に織斑君の護衛部隊がゴムボートに乗って現れました!』

 

「フモッフ達が? 織斑の救助か?」

 

『恐らくそうだと思います。ゴムボート周辺にスモークを展開してスキューバ装備をした者が海に入って行き、あ! ゴムボートに織斑君を載せています!』

 

 

「っ! 新山先生の視点カメラを出せ!」

 

千冬の指示に真耶はすぐさま新山が乗っているISから捉えた映像がモニターに映し出す。映像にはモッフ達が乗ったゴムボートにスキューバ装備をしたモッフが一夏を載せている光景が映っていた。

 

「よし、教師部隊に告ぐ。織斑が乗ったゴムボートが戦闘区域を離脱するまで時間稼ぎをするんだ。専用機持ちもすぐにそこから離脱しろ」

 

『教師部隊、了解』

『あなた達、早く離脱しなさい! 其処で茫然としていたら死ぬわよ!』

 

無線から聞こえる叱責等を聞きながら、険しい表情を浮かべ続ける千冬。

 

「ちーちゃん、束さんは浜辺に行ってくるよ」

 

「待て、だったら私も行く。真耶、此処を頼む」

 

「分かりました」

 

そう言い千冬と束が部屋を出ると、担架を持ったモッフ達がボヒュボヒュと足音を立てながら浜辺へと向かっていく。

 

「束さん達も急ごう」

 

「あぁ」

 

束と千冬はその後を追う様に早歩きで浜辺へとむかった。

浜辺に到着すると担架を持ったモッフ達と医療箱を持った伊田が待機していた。

 

「お前も来ていたのか、伊田」

 

「まぁな。俺は彼の専属の医師だ。来ない訳が無いだろ」

 

そう言い再び海の方へと顔を向ける。すると波しぶきを上げながら猛スピードでやってくる2隻のゴムボートが地平線から現れた。

 

「来たっ!」

 

「「っ」」

 

束の言葉に千冬と伊田は直ぐに動けるようにスタンバイする。そして暫くしてゴムボートは千冬達の近くで浜辺へと乗り上げて停泊する。

停泊したと同時に陸で待機していた担架を持ったモッフ達が近寄り担架を降ろす。そしてゴムボートから手や足に包帯を巻かれた一夏が下ろされ担架に乗せられ旅館へと運ばれていき、伊田もゴムボートに乗っていたモッフから怪我の状況、治療内容などを聞きながら旅館へと向かって行った。

千冬と束は運ばれていく痛々しい一夏の姿に悲痛な面持ちで見送っていた。

そして今回の事件を引き起こした者に対する殺意を浮かべた。

 

「……ギリッ」

 

「……やった奴、絶対にぶっ潰す」

 

そう決意をする2人。すると近くに居たフモッフが何かに気付き、海の方に顔を向けると専用機持ち達が戻って来た。

5人は千冬達の近くに降りてくるとISを解除する。5人は2人から放たれる殺気にビクビクと怯えながら口を開く。

 

「あの、織斑先生。い、一夏の容体は?」

 

「……今治療中だ。その前に貴様たちに問う」

 

そう言い専用機持ち達の方に体を向ける千冬。束も同様に体を向ける。

2人の顔は真顔であるが、体からは圧力と殺気がにじみ出ていた。

 

「あの場で、一体何があったのか。そして何故織斑が撃墜されたのか報告しろ」

 

「一字一句、本当の事を言え。もし、嘘なんかついていると分かったら―――」

 

 

 

 

 

 

―――殺す

 

束の口から出た言葉に5人はガタガタと震え出す。2人の圧に誰も口を開かない事数分、一人の生徒が口を開いた。

 

「わ、私が、報告します」

 

「よし、聞こう。更識、あの場で何があった?」

 

水色髪の眼鏡を掛けた少女、更識簪はビクビクしながらもあの場で起きた事を報告し始めた。

 

 

 

 

 

~~一夏が墜ちる数分前~~

 

千冬から撤退する指示が出され、一夏は束に載せてもらったステルスを展開し撤退を開始した。

その頃専用機持ち達は銀の福音と対峙していた。

彼女達は千冬に言われていた通りに教師部隊到着まで持ち堪えるべく、銀の福音と戦っていたのだ。

戦っている最中、鈴はイライラとした表情を浮かべていた。

 

「ちょっと、教師部隊まだ来ないの!」

 

「撤退の指示からまだそんなに時間が経っていなんだ。すぐに来れる訳が無いだろ!」

 

鈴の文句にボーデヴィッヒは怒鳴る様に咎めつつ、銀の福音に攻撃を続けた。それから攻撃を続けていたが、遂に鈴の我慢が爆発した。

 

「あぁもう! これ以上待っていられない!」

 

そう叫び一夏が撤退した方角に向かって飛び始めた。

 

「おい、待て!」

 

「お待ちなさい!」

 

「ちょっと待ってよ!?」

 

鈴が勝手に撤退していくのを見たボーデヴィッヒ達はその後を追い始め、残された簪は唖然とした表情を浮かべる。

 

「えぇえ…。あの人達噂に聞いた以上に身勝手すぎる」

 

そう零しながら、自分一人では危険と判断し銀の福音に向けミサイルロックをする。

 

「山嵐、発射!」

 

そう言い8連装のミサイルランチャーを発射した。放たれたミサイルは銀の福音に向かっていく途中、マイクロミサイルをばら撒き、一斉に銀の福音に襲い掛かった。

 

銀の福音は襲い掛かって来たミサイルを回避したり、光弾を発射してミサイルを破壊したりしていく。

 

(暫くの間時間稼ぎになれば良いんだけど…)

 

そう思いながら簪は、自分一人では軍事ISに対抗できないと判断し離脱を始めた。

簪が4人の所に到着すると、いがみあっていた。

 

「なんであんた達もこっちに来るのよ! 一夏の護衛位一人で十分よ!」

 

「護衛ではありませんわ! こっちに戻るのは教師部隊と合流する為ですわ!」

 

「そうだよ。鈴が勝手に離脱を始めたから僕達も離脱しなくちゃいけなくなったんだから」

 

「お前一人離脱してマスターの身に何かあってはいけないから一緒に護衛するだけだ」

 

など言い合っていた。その光景に簪は

 

(……この人達、やっぱり自分勝手だ)

 

そんな事を思っていると、レーダーに背後から迫ってくる銀の福音を捕らえた。

 

「…やっぱり大した時間稼ぎにならなかったか」

 

そうボヤきつつ迎撃しようとする中、背後ではまだ口論をする4人。その事に普段内気な簪でさえも口を荒げる。

 

「ちょっと、いい加減にしてよ! 銀の福音が其処まで来てるんだよ!」

 

そう怒鳴られ4人は慌てて迎撃態勢に入る。迎撃態勢に入っている5人に気付いた銀の福音は光弾を出現させ簪達に向け発射した。5人はその攻撃を避けながら反撃する。

すると突如銀の福音の動きが止まった。

 

「な、なに? 一体どうしたの?」

 

「わからん」

 

そう話していると

 

『最優先ターゲットの確認。現目標の切り替えを実施』

 

そう機械音声が流れると、銀の福音は5人に向かって突貫してきた。5人は一斉攻撃をするも、銀の福音はそれをひらりひらりと避け接近してくる。

近接攻撃範囲に入って来たため、鈴と簪は近接武器で攻撃を仕掛けるも、銀の福音はそれを避け5人を置き去りするかのように飛んで行く。5人は一体何処にと飛んでいく方向に目を向けると、其処には海面近くに透けているものの、海水を被ったのか何かのシルエットが浮かんでいた。

そのシルエットに5人は直ぐに何か理解した。一夏が乗ったバレットホークだと。

 

「まさか、銀の福音の狙いって」

 

「一夏さんですわ!? 急いで止めますわよ!」

 

そう叫び5人は銀の福音を止めるべくライフルやミサイルで攻撃する。

5人の攻撃に銀の福音は飛びながら光弾を生成し、背後から迫る5人に向け発射した。

回避しつつ攻撃するも、銀の福音はスピードを上げながら一夏へと迫る。

5人の中で遠距離攻撃を得意とするセシリアはスターライトMarkⅢで狙いをつける。

 

(絶対に当てますわ!)

 

そう思い、銀の福音にのみ集中する。そして狙いが定まり引き金を引こうとした瞬間

 

「セシリア、危ない!」

 

「えっ? っ!?」

 

デュノアからの警告にセシリアが顔を向けると、其処には自分に向かってくる光弾がもう間近と迫っており回避不可能であった。

光弾はセシリアへと命中し爆発、衝撃で飛ばされるセシリア。それと同時にセシリアが持っていたスターライトMarkⅢからレーザーが発射された。

レーザーは銀の福音に命中することなく、その横をすり抜けた。だが着弾地点が最悪だった。

着弾したのは一夏が乗ったバレットホークであった。着弾した瞬間…

 

どっかーーーーーーん!!!???!!!

 

と大きな爆発が発生したのだ。

突然の事に場は一瞬時が止まったように静寂に包まれた。爆発地点には一夏の姿は無く、何かの部品などが海面に浮かんでいるのみであった。そして教師部隊とフモッフ達が到着、呆然としていた専用機持ち達は教師達の怒声に我に返り、離脱したのだ。

 

 

 

 

 

「――――ということです」

 

ビクビクと震えつつ、若干涙目の簪からもたらされた報告に千冬と束は黙っていた。

暫しの沈黙の後、千冬が口を開いた。

 

「……今更識が報告した内容に嘘などはあるか?」

 

威圧しつつ簪の報告に虚偽があるか4人に問う千冬に4人は

 

「「「「……」」」」

 

誰一人口を開くことなく、否定も肯定もしなかった。その行動だけで、千冬と束は理解し、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺意を抱いた。

 

 

「……更識、お前は補給と整備を受けろ。完了次第指揮所にて待機しておけ」

 

「えっと、私、だけですか?」

 

「そうだ。早く行け」

 

「は、はい」

 

千冬の淡々と言った指示に簪はビクビクしながら旅館へと向かう。行く際中、4人からは置いて行かないで。と言わんばかりの顔を簪へと向けてくるも、威圧する千冬と束がいる場に長居したくないと感じた簪は足早にその場を離れた。

残された4人は二人から放たれる威圧に足をガクガクと震えさせ、一刻も早くこの場から離れたいと思っていた。だがそれを2人は許さなかった。

 

「……これほどまでに貴様達を殺したいと思った事はないぞ」

 

「束さんもだよ。今すぐこの場でお前等を八つ裂きにして魚の餌にしてやりたいと思った事はないよ」

 

その言葉に4人は先程まで以上に体を振るわせ、奥歯をガチガチと鳴らし始めた。

 

「……だが、私も一人の姉の前に教師だ。お前等を殺す事はしない。だがそれ相応の罰を与える」

 

そう言い千冬はギロリと4人を睨みつける。

 

「まず現時刻をもってお前達4人を作戦から外す。指示あるまで別室で待機させる」

「次に、お前達が今まで起こした問題行動をお前達の政府に報告する。その後政府と学園上層部とで話し合いを行いお前達の罰則を決める」

「最悪退学か、代表候補生資格剥奪はあるとは考えておけ。そしてISの取り上げ、これは確実にあると思え!」

 

「ま、待って下さい! なんで私達だけなんですか!?」

 

「そ、そうです! さっきの更識さんだって命令違反を犯していますわ!」

 

鈴達は自分達だけではなく、簪も悪いと言うも

 

「更識はお前達が勝手に離脱したから、一人では軍事ISに対抗できないと判断したうえでの離脱だ。故にあいつに罰則はない! お前等は一人で軍事ISと戦える技量を持っているのかっ?」

 

そう怒鳴られ4人は何も言えず押し黙ってしまった。

 

「兎に角、貴様等は作戦から外す。フモッフ、こいつらを何処かの空き部屋に放り込んでおけ!」

 

「ふもっふ!」

 

千冬の指示にフモッフ達はライフルを鈴達へと向け、旅館に向かって歩く様に指示して連行していった。




次回予告
作戦は失敗に終わり、一夏負傷と言う結果となった。
指揮所に戻った千冬と束は帰還した教師部隊と次の一手を考えることに。
そんな中、別室に連行された専用機持ち4人は、作戦を外された事に納得できず独自で動き出す。

次回
省みない者達


「実弾の使用を許可する! 奴らを止めろ!!」


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40話

浜辺から指揮所へと戻って来た千冬達。

その雰囲気は悪く、重たい空気であった。モニターを監視している真耶達も重い空気の中自分達の仕事をしていく。

 

すると指揮所の襖が開き中へと入って来た人物に千冬は顔を険しくさせる。

 

「新山先生、その怪我は?」

 

「…目標を停止させるために、少々無茶をした代償です。お気になさらず」

 

新山の腕や脇腹には包帯が巻かれており、若干血が滲んでいたのだ。

 

「…分かりました。では報告を聞いても?」

 

「はい。専用機持ち達が離脱後、教師部隊で銀の福音に攻撃しました。中遠距離で攻撃を行い、何とか目標を機能停止寸前まで追い詰めたのですが、自己修復モードに入られて海中に逃げられ、追撃を考えたのですが此方も被害が大きかったため、撤退しました」

 

「そうですか。被害状況は?」

 

「8人中3名が重傷、4名が軽傷。ISは3機が大破状態、残り5機は損傷軽微です」

 

「…此方も手痛い状態だな」

 

「…はい」

 

新山からもたらされた報告に千冬やその場にいた全員が苦い顔を浮かべていた。

 

「それで、専用機持ち達の方は?」

 

「…こっちは5人は軽傷だが、織斑は重傷で、今も意識不明状態だ」

 

「そ、そんな…」

 

「それと、織斑が撃墜された原因が、あの馬鹿共のいらない行動が原因だと判明した為、4名を作戦から外し、学園に戻り次第罰則を与えることになりました」

 

「また彼女達ですか? こんな時にまで一体何を考えているんですか、彼女達は!?」

 

「そんな事私が知りたいっ! ……申し訳ない新山先生、突然怒鳴ったりして」

 

新山の言葉に大声で怒鳴り、直ぐに怒鳴った事を謝る千冬。その姿に新山は、お気になさらず。と言葉を掛ける。

新山自身も、千冬の心情には同情していた。

本来なら無事に戻って来れるはずだった弟が、味方のいらない行動の所為で撃墜となったのだ。苛立ちもするし、不安などで一杯なのだとすぐに察せられた。

 

「兎に角、次の一手を考えないと。束、あのISを止めるための武器はもう無いのか?」

 

「あの一丁だけだよ。文句あるならいっくんに誤射してビームライフルを撃ち抜いたあの金髪ドリルに文句を言ってよ」

 

苛立った表情で告げる束に、千冬はチッと舌打ちを放ち、部屋にいた更識は悲しい表情を浮かべ、新山は誤射と言う言葉に目を見開く。

 

「ご、誤射って、それに金髪ドリルって、もしかしてオルコットさんの事ですか?」

 

「そうだよ。あの金髪ドリルが、誤射していっくんが持っていたビームライフルを撃ち抜いたんだよ。結果ビームライフルは爆発、持っていたいっくんは爆風に巻き込まれた。ISがフルスキンだったお陰で、軽度の火傷と打撲で済んだけど、もし皮膚が見えている状態だったら…」

 

それ以上束が言わなかったが、それだけで新山は想像するのに難しくは無かった。

鈴やオルコットたちの様に肌が露出している状態だったら、もっとひどい状態だったかもしれないと。

 

「兎に角もうビームライフルが無い以上、今持っている最大限の火力をぶつけるしかないよ」

 

「……今現状ウチで出せる戦力は、更識と教師部隊の5人だけだ。山田先生、日本の自衛隊とアメリカの軍はまだ来ないのか?」

 

「はい。到着予定時刻を聞いても曖昧で、しかも指示があちこち飛び交っておりどれが正しい事なのか分からず、右往左往している状態だと」

 

「……全く何をやっているんだ、政府の連中は」

 

「はぁ、こう言った事態に想定できても、実際に動けるかどうかと言ったら無理だからね」

 

「クッ。そうなったらもううちの連中だけでやるしかないぞ」

 

「だね。しょうがない、束さんは破損したISを出来るだけ修理しておくよ」

 

「頼む。乗る人物はウチに残っている教師部隊から選出しよう。更識、拡張領域一杯に弾薬やSE回復パックを入れておけ」

 

「分かりました」

 

そう言い千冬達は次の一手を取るべく、作戦会議をしていく。

 

 

 

その頃旅館の本館から離れた位置に建てられている離れには入口にモッフ2体が警備して立っていた。彼等が何故其処を警備しているのかと言うと、その建物内にはあの4人が拘束されているからだ。

故意ではないとはいえ、一夏撃墜の原因を作った為4人は千冬から作戦から外された上に、学園に戻り次第政府を交えながら罰則を与えることを告げられたのだ。

普通なら自分達がしでかしたことをしっかりと反省し、大人しくするものなのだが彼女達はと言うと

 

「あぁ、もう何でこうなるのよ…」

 

「…仕方がありませんわ。今回ばかりは私達が悪いのですから」

 

「でも、このまま此処に居たら僕達政府から罰せられるんだよ?」

 

「そうだな。それだけは何とかしないと」

 

「……だったらやる事は一つしかないでしょ」

 

鈴の言葉に3人は顔をしかめる。4人が考えている事、それは銀の福音を自分達の手で墜とす事だった。

 

「それが出来たらやっておりますわ」

 

「そうだよ。僕達のISにはSEが無いんだよ」

 

「…あぁ、そうだった。もうどうしたらいいのよ!」

 

セシリアとデュノアの言葉に鈴は悔しそうに顔を歪める。

そう、彼女達が持っている専用機全てSEが無いのだ。

ではここで一つ疑問が浮かぶ。何故問題を起こし、作戦から外された彼女達がSEが無い状態とはいえISを所持しているのか。それはISを取り上げた場合、それを保管しておく場所が無い為だ。

本来だったら反省房や独居房に入れられる際は、ISを使って脱走などを防ぐ為ISを取り上げる。取り上げた後、ISは専用の鍵付きの箱に入れられ、更に学園長と千冬を含む極少数の教師しか番号を知らない特殊な金庫に仕舞い、反省房から出て来るまで保管しておく。

だが、現在彼女達が居るのはそう言った保管場所がない旅館である。教師などが保管しておく事も出来るが、専用機は言わば国家の技術を掻き集めて作られた物である。その為何らかの原因で専用機の秘匿情報が流出してしまった場合、それを保管していた教師及び千冬、そしてIS学園の責任となってしまう。

その為専用機に積んでいたSEを抜き、稼働不可状態にして彼女たち自身に保管させることにしたのだ。

 

「SEを回復させようにも、ある場所と言えば本館の隅に設置されている、IS備品置き場しかありませんわ。ですがあそこには絶対モッフさんとかが警備されておりますわ」

 

「そうだね。向こうは戦闘のプロ、こっちはラウラ以外只の一般人だよ。すぐに制圧されるよ」

 

セシリアとデュノアの説明にで鈴はフガァー!と頭をガシガシと掻く。するとボーデヴィッヒがスッと手を挙げる。

 

「ならISが使えれば問題ないよな?」

 

「「「はぁ?」」」

 

突然の発言に3人はあっけからんと言った表情を浮かべる。

 

「使えればって、SEをどうするのよ!」

 

「問題ない。SE回復パックを使えばいい」

 

「SE回復パックって、確か携行可能なSEを補充させるものだよね? 何で持ってるの?」

 

「私は軍人だ。軍事作戦の場合、SEを補給をしに戻る余裕などない場合はこう言った回復パックを使って補給して前線で戦い続けるよう訓練を受けている。その為今回の作戦でも使えると思って載せておいた」

 

「それ、幾つあるのですの?」

 

「2つだ。一つで半分ほど回復する。でだ、作戦がある。聞くか?」

 

「……えぇ、乗ってやるわ。あのISを墜とせば、罰なんて無くなるはずだもの」

 

ボーデヴィッヒの作戦を聞くべく4人は円形となる。

 

4人がそんな作戦を考えているなど知らないモッフ達は警備を続けていた。すると

 

『~~~~♪』

 

と部屋の中から大音量の音楽が流れだした。モッフ(20号)とモッフ(41号)は首を傾げつつ、警戒心を抱きゴム銃を構えつつ部屋の扉を開け、中へと入る。だが、其処には4人の姿は無くもぬけの殻であった。あったのは大音量の音楽が流れているスマホだけだった。

 

「ふもぉ!?」

 

モッフ(20号)と(41号)は慌てて部屋中の襖や天井裏を調べるも、居らず直ぐに無線で報告する。すると40号はある可能性を思いつき床に張られている畳の一つを持ち上げる。すると張られている板が外れていた。

外された板の隙間は狭く人一人が入れる程度の隙間しかない為、モッフの図体では入れなかった。其処でモッフは直ぐにサーマルスキャンモードにして穴を中心に、周囲を確認すると離れた位置から4人の人間が床を這って外へと出ようとしていた。

41号は直ぐに20号に脱走している!と言いその後を追いかけ始めた。

 

脱走に成功した4人は走りISの備品置き場に到着すると、案の定2体のモッフが居りすぐさまライフルを構えてきた。それに対して鈴が

 

「邪魔っ!」

 

そう叫びISを部分展開して龍砲を展開する。突如展開された龍砲に2体は驚いた表情を浮かべ回避しようとするも間に合わず龍砲から放たれた圧縮空気に巻き込まれ遠くに飛ばされた。

 

「ふ、ふもぉおぉ……」

 

一体は目を回しながら行動不能状態になり、もう一体はギリギリ行動出来るも反撃が出来る様な状態では無かった。その為無線で応援を呼ぶ。

 

備品置き場に専用機持ち4人が…襲撃。(ふもふももふ…ふも。)応援を…(ふももっふ…)

 

無線でそう告げたと同時に機能が停止し、ガクリと倒れる。

 

 

無線から届いた脱走した情報、そして備品置き場が襲撃され2体との交信が途絶えた事に、フモッフは目を鋭くさせすぐさま千冬、そして束に連絡を入れた。

 

「「―――はぁ!?」」

 

突如近場にて起きた爆音に怪訝そうな顔を浮かべていた千冬達に、フモッフから来た連絡を聞いて驚きの表情を浮かべた。

 

「あの馬鹿共! 一体何を考えているんだ!」

 

「脱走した上に、モッフ君を傷付けただと。あいつ等マジで許さねぇ」

 

2人の怒りにあの4人何やらかしているんだ!とその場にいた教師達と簪は思う。そして千冬は直ぐにフモッフにあの許可を下ろすのであった。

 

「フモッフ! 実弾の使用を許可する! 但し殺すな!それ以外であればどんな手を使ってでも奴らを拘束しろ!」

 

『ふもっふ!』

 

千冬からの指示にフモッフは直ぐに実行に移し始めた。

無線からフモッフと千冬から実弾の使用許可が下りた為、4人を追いかけていた41号は直ぐにゴム弾が装填されたライフルからマガジンを抜き、実弾を装填する。そして4人が居る備品置き場に到着し4人を探すと丁度補給を終えようとしているところであった。41号は直ぐ様ライフルを構える。

 

【おい、ISを解除して地面に伏せろ! 従わない場合は発砲する!】

 

空中投影でそう警告するも

 

「邪魔すんな!」

 

鈴がそう叫び龍砲を発射する。41号はすぐさま物陰に隠れ圧縮空気の砲弾を避ける。空気の砲弾は壁にぶつかり周辺の草木や柵を吹き飛ばす。

41号は反撃するべくライフルを構え引き金を引く。

勿論殺さないために足を狙って撃つも、鈴はすぐさまISを完全展開した為ライフル弾は装甲に弾かれカーンと金属音が鳴り響く。

そんな中、41号から放たれた弾が実弾だったことに鈴達は驚いた表情を浮かべていた。

 

「ウソでしょ!? アイツ実弾を撃って来たわよ!」

 

「ま、まさか射殺許可が?」

 

「そ、そんな!?」

 

「此処で撃たれる訳にはいかない。行くぞ!」

 

そう叫び4人はスラスターを吹かして空に飛びあがり海へと向かって飛んで行く。41号は逃がすまいと引き金を引き弾をばら撒くも逃がしてしまった。

 

4人が備品置き場から飛び立ち旅館前の道路を越えようとしていた。

 

「急ぐぞ!」

 

「分かってるわよ!」

 

「とりあえず回収できるだけの物資は詰め込めましたわ。急いで《ビー、ビー! ミサイルにロックされています。回避を》はぁ!?」

 

オルコットは機体から告げられる警告に驚きレーザー照射している物を確認すると、それは旅館の近くでFIM-92こと携行型地対空ミサイル発射装置を構えたモッフ達が居り、それぞれミサイルを発射してきた。

放たれたミサイルを4人は回避したり、ライフルでミサイルを撃ち落とす。それでも4人は止まることなく強行して進んでいき遂に射程外に逃げられ、その場にいたモッフ達は怒りの表情を浮かべるのであった。

 

【申し訳ありません。脱走者4名を取り逃がしました】

 

千冬に取り逃がした悔しさと不甲斐無いと言った表情を浮かべたフモッフからの報告が入り、千冬達も悔しそうな表情を浮かべるも、奮闘したフモッフ達を労いつつあの4人を確実に退学にしてやると心の中で決心するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏が眠っている部屋では治療を終えた一夏が布団で眠っていた。

 

すると一夏の指が僅かにピクリと動く。




次回予告
撃墜し意識不明の状態の一夏。
彼は銀の福音を助けたいと考えていた。だが自分の今の力では助けられない事に嘆いていた。
そんな姿を傍で見守っていたアイラはずっと渡すか迷い続けていた、ある物を一夏の前に差し出す。

次回
墜ちた希望に、新たな翼を

~「一夏、アンタには私が居る。私はアンタを生涯支え続けるって決めているの。こんなところで挫けるんじゃないわよ」~


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41話

旅館から専用機持ち達が逃走した頃、旅館のとある一室。其処には武装したモッフ達が最大警戒状態で警戒していた。

部屋の中には布団が敷かれ、其処には一夏が寝かされていた。

旅館へと搬送された後、伊田が治療を施し布団に寝かされるも意識が戻らなかった。

 

意識が無い一夏、実は彼はISの精神世界にいた。

 

「ヒック…うぅうぅうう」

 

涙を流しながら一夏は小さく蹲っていた。ポロポロと涙を流す一夏に、アイラはその傍で寄り添う事しか出来なかった。

 

「一夏…」

 

「うぅうぅう、ご、めんねアイラ。ぼ、僕がもっと気を付けてたら、アイラが傷つく事なんて無かったのにぃ」

 

一夏は墜ちた原因が自分にある、そう思い自責の念にかられていたのだ。

 

「そんな訳ないでしょ! 堕ちた原因はアンタじゃなくてあのオルコットが誤射したのが原因なのよ!」

 

「でも、僕がライフルを拡張領域に仕舞っていれば…」

 

「仕舞っていても誤射を受けるのは確実だったわ! それに例えオルコットの誤射を避けても接近してきていたゴスペルにやられていた可能性だってあったわ。いえ、可能性じゃないわ、確実によ」

 

「……えっ?」

 

「撤退した際、ゴスペルと私たちの間の距離は確実に縮められていたのよ。ライフルが使えない以上手持ちの武器で戦うしかなかったけど、向こうと私達とでは力の差があったわ。だから例え誤射を避けられたとしてもゴスペルとの戦闘で負けていたかもしれないわ」

 

「……そうなんだ」

 

「一夏、アンタはどうしたいの?」

 

「え?」

 

「アンタも聞こえてたんでしょ? あのゴスペルからの悲痛な願いを」

 

アイラの言葉に一夏は小さく頷く。

一夏とアイラが聞いたゴスペルからの悲痛な願い、それは撃墜される前の撤退途中にて聞こえた事だった。

 

『ナタルを…、助け、て』

 

途切れ途切れで聞こえてきそれに、一夏はどうにかしたいという気持ちはあった。だが

 

「僕も、助けたいって思ってるよ。でも、僕の力じゃ…。それに、またアイラが傷つくのは見たくないよぉ」

 

そう言うとまたポロポロと涙を零す一夏。

その姿にアイラは顔を俯かせる。そして、何かを決心し一夏の前に立つ。

 

「一夏、顔を上げなさい」

 

そう言われ一夏はそっと顔を上げると、何かを決意したのか真剣な表情を浮かべたアイラ。顔を上げた一夏にアイラはそっと右手を差し出す。すると突如その右手から光の球が現れた。

 

「あ、アイラ、それは?」

 

「これはバレットホークの単一機能(ワンオフアビリティー)を展開するための鍵よ」

 

「ワンオフアビリティーの鍵?」

 

アイラの突然の言葉に一夏は驚いた表情を浮かべアイラの右手で煌めく光の球を見つめる。光は温かいような冷たいような雰囲気を醸し出していた。

 

「で、でもどうしてワンオフアビリティーに鍵を?」

 

一夏の言葉にアイラは視線を落とし、暗い影を見せる。

 

「……このワンオフアビリティーは他のISに積んであるようなワンオフアビリティーなんかよりも強力で、そして危険な物なの」

 

「危険?」

 

「そう。使い方を間違えれば確実に死人を出してしまうほどのね」

 

その言葉に一夏は絶句してしまう。

 

「そんな危ない物をアンタに渡してしまっては、使いこなせない上にもしかしたら取り返しのつかない事になってしまうんじゃないのか。と思って鍵をかけて封印しておいたの。でも、ゴスペルを止めること。そして乗っているパイロットを助けるためにはこの力が必要だと思った。だからこれをアンタに渡そうと思い立ったのよ」

 

「……アイラは、今の僕にそれを使いこなせると思ってるの?」

 

「正直な話、今のアンタでは無理だと思うわ」

 

「そ、そう「でもね」え?」

 

「アンタには私がついている。どんな障害が来ようともアンタと私となら一緒に乗り越えてきたでしょ?」

 

二ッと笑みを浮かべ、一夏を見つめる。アイラの笑みに一夏は茫然と言った表情を浮かべるも、心の中で自然と確かにと気持ちを抱き始める。

 

「…そうだね。うん。アイラ、その鍵、ちょうだい」

 

「えぇ、はい」

 

そう言いアイラは一夏に光の球を差し出す。一夏はそっとその光の球に手を翳す。すると眩い光が一夏とアイラを包む。

 

 

 

「……ん」

 

一夏は目をゆっくりと開け辺りを見渡す。木の天井に柱に一夏は布団に寝かされている事に気付きゆっくりと体を起こす。

 

[起きたわね一夏]

 

「うん。アイラ、ワンオフアビリティーは?」

 

[ロックは解除されているわ。それと、ついでに形態移行もしておいたわ]

 

そう言われえ?と一夏は驚いた表情を浮かべる中、目の前にモニターが表示される。モニターには

 

『形態移行完了。バレットホーク、ワンオフアビリティー用手腕に変形完了』

 

と表示されていた。

 

「ど、どうして形態移行を?」

 

[前の機体だとワンオフアビリティーには耐えきれないのよ。だからワンオフアビリティー用のパーツに変形させる為形態移行させたのよ]

 

「そ、そうなんだ」

 

[えぇ。さぁ、ゴスペルを止めに行くわよ]

 

「うん!」

 

アイラの掛け声に答え一夏は布団から立ち上がり近くにたたまれて置かれていた服に着替え、外へと行こうと襖を開けようとした瞬間

 

「何処に行く気だい、一夏君」

 

「あっ。い、伊田さん」

 

開けようとした襖が突如開かれ、目の前に伊田が立っていた。伊田の登場にアイラはあっちゃー。と顔に手を当て、一夏は驚いた表情を浮かべる。

 

「もう一回聞くよ。何処に行く気だい?」

 

「……ゴスペルを止めにです」

 

「一夏君、今の君の状態は負傷している身だ。主治医としては行かせる訳には「でも、止めに行かないといけないんです! ゴスペルが、そう願ってるから!」っ!?」

 

一夏の口から出た言葉に、今度は伊田が驚いた表情を浮かべ真剣な表情を一夏へと向ける。

 

「ゴスペルの願いって。まさか、ゴスペルの人格が表に出ているのかい?」

 

「…其処までは分かりません。けど、撤退している時にゴスペルの声だと思うのが聞こえたんです。ナタルを助けて。って」

 

一夏の言葉に伊田は真剣な表情で聞き、暫し思案に耽る。そして深い溜息を吐き一夏を見つめる。

 

「一夏君、医者として君を行かせる訳にはいかない」

 

「……でも「けどそれはあくまで医者としてだ。人としてなら行かせるよ」なら!」

 

「彼女が容認するとは思えないけどね…」

 

そう言い伊田は体を横にずらすと、そっと千冬が襖の横から現れた。

千冬は険しい表情を浮かべ一夏を見つめる。

 

「織斑、お前は負傷しているんだ。そんな体で行ったら今度こそ死ぬかもしれなんだぞ」

 

「……」

 

「私は、そんな無茶をしてまで行ってほしくは「お願い、お姉ちゃん。行かせて」っ!?」

 

行かせまいと若干の圧を出しながら話す千冬を遮る様に一夏は千冬の目を見つめて頼み込む。その行動には千冬は驚いた表情を浮かべる。姉とは言え女性と目を合わせるのは女性恐怖症の一夏にとっては自殺行為に等しい。

それは確実に発作を起こすからだ。だが一夏は脚を震わせ、手を強く握りしめながらも真剣な表情で千冬の目を見つめ懇願する。

 

「ご、ゴスペルに頼まれたから。乗っている人を助けてって。だから、行かせて!」

 

その真剣な表情な頼みに千冬は頭の中で色々と葛藤を続ける。現状の戦力だけでは倒せない確率は高い。一夏が行けば僅かながら勝率は上がる。だが行った後今度は負傷だけでは済まない事態になるんじゃないかと言う思いなどで交差していた。

暫しの沈黙が流れた後、遂に千冬が口を開く。

 

「……分かった。だが織斑、絶対に生きて帰って来い。危険だと思ったら直ぐに逃げろ。これは絶対命令だ。いいな?」

 

「はい!」

 

「なら、砂浜に行け。今教師部隊と更識が出撃準備をしている。合流して一緒に行け」

 

「分かりました」

 

そう言い一夏は一礼して部屋から出て行き足早に砂浜へと向かう。残った千冬と伊田はその背を見つめる。

 

「強くなったな、一夏は」

 

「あぁ、お前に面と向かって懇願したんだ。成長しているよ、アイツは」

 

遠くなっていく一夏に千冬は嬉しさと悲しさの気持ちを抱きつつも、息を思いっきり吐き気持ちを切り替える。

 

「それじゃあ私は指揮所に戻って私が出来ることをする」

 

「じゃあ俺も万が一に備えて負傷者を受け入れられるよう準備しておくよ」

 

「頼んだ」

 

そう言いそれぞれやるべき事をするべく行動を開始しる。

指揮所へと戻って来た千冬は現状の戦力を確認するべく真耶に頼み戦力リストを表示してもらう。

 

(現状戦力は一夏と更識の専用機が2機、そして教師部隊の5機。計7機。それとSE回復パックは6個か。…チッ。あの馬鹿共が)

 

リストの表示に険しい表情を浮かべる千冬。臨海学校でのIS訓練用にと持ってきた物資のほとんどが脱走した鈴達に強奪された為、SE回復パックが6個しかない上に教師部隊の一部はグレネードランチャーやライフルの弾が不足している状態だった。破損したISや訓練用のISに搭載されている武器からも掻き集めたが、それでも弾薬は足りなかったのだ。

 

険しい表情でリストを見ていた千冬に真耶は通信が入っている事を告げられ、繋ぐように指示するとディスプレイに新山の顔が表示される。

 

『こちら新山。これより出撃します』

 

「了解した。2人の事を頼みます新山先生」

 

『勿論です』

 

そう言い通信が切られ、表示されているモニターの一つにあるレーダーから砂浜から飛び発つISが表示される。

千冬達は無事に彼女達が戻ってくる事を祈る。すると部屋の襖が開かれ、千冬はそちらに顔を向けると束が其処にいた。

 

「束、一体どうした?」

 

「ちょっとお願いがあるんだぁ」

 

「お願いだと? 悪いが今お前の願いを聞いてる暇は「いっくん達を無事に帰って来て貰う為の事なの」…分かった。山田先生、少し離れます」

 

「はい、分かりました」

 

そう言い千冬は断りを入れてから部屋を出て廊下の端に束と対峙する。

 

「それで願いとは何だ?」

 

「ちょっとある子を物資置き場に連れて来てほしいんだぁ」

 

「ある子だと? そんな頼みで一夏達を無事に帰ってくるのか?」

 

「勿論。だって――――」

 

束の言葉に千冬は驚いた表情を浮かべた後、鋭い視線を向ける。

 

「…分かった。だが本人が決める事だという事を忘れるなよ」

 

「勿論。駄目だったら他の手を考えるよ」

 

そう言われ千冬は束に頼まれた事を叶えるべくその場を離れていく。残された束は先程と打って変わって笑顔から真剣な表情を浮かべる。

 

「君なら引き受けてくれるよね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()




次回予告
突如千冬に呼ばれた本音。そして連れて来られた物資置き場には束が居り彼女からある願いを頼まれる。
束の願いとは一体? そして無事に帰ってくるための方法とは?

次回
思いだけでも、力だけでも。

~「イッチーやかんちゃん。私の大切な人を守りたい!」~


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42話

一夏達が砂浜から飛び立った頃、旅館の一般生徒達が集まっている部屋では皆、不安な面持ちでいた。

 

「ねぇ、さっきの銃声って何だったんだろう?」

 

「分かんない。廊下から凄いボヒュボヒュと音が鳴ってたから多分、織斑君ところのモッフさん達だと思うけど、結構急いでる感じの足音だったし」

 

「教師の人達も凄い大慌てで動いてたよね」

 

「うん。何があったんだろうね?」

 

旅館内での突如旅館の部屋にて待機するよう指示されたうえに、部屋から勝手に出れば罰則を与えられると言われただ事ではないと言う事態に自分達は無事に帰られるのだろうかと不安と恐怖を浮かべる。更に突如発生した銃声やら怒号に生徒達は不安な表情で一杯だった。

そんな生徒達の中で一人同じく神妙な面持ちでいる人物がいた。それが本音であった。

 

今朝、彼女のスマホに姉から一通のメッセージが届いたのだ。それが銀の福音が暴走したと言う情報だった。特殊な家系が故にこう言った情報は姉から届くため一応頭の片隅に入れておいたのだ。

届いた情報に当初は自分達には関係ないと思っていたが、突如部屋で待機する様指示され直ぐに頭の片隅に入れていた事が引っ張り出された。

そして専用機持ちとして一緒に行く一夏に本音は、周りに一般生徒がいる為機密を喋る訳にもいかず、あのように気を付ける様言ったのだ。

あれから一体どうなったのか。そう言った情報は入って来ず、ただ一夏と幼馴染の簪が無事に帰ってくるのを願う事しか出来なかった。

すると自身のスマホが突如震え、周りには見られない様コッソリと開く。

 

「織斑先生から?」

 

表示画面には千冬からメッセージメールが届いた事が表示されており、本音はそれを開く。其処には

 

『トイレに行くフリをして部屋を出てきてくれ。詳細は会い次第話す』

 

と書かれていた。本音は何故こんなメッセージをと疑問を浮かべながらも千冬の言う通りに行動を開始した。

 

「あれ、本音何処行くの?」

 

「ちょっとトイレ行って来るねぇ」

 

「あ、うん」

 

相川達にトイレに行くと告げ部屋の前にいた教師にもトイレに行きたいと告げ廊下へと出て暫し歩く。

そしてトイレ近くまで来ると廊下の曲がり角から千冬がそっと現れる。

 

「済まないな、突然あのようなメッセージを送って」

 

「いえ、大丈夫です。あの、今起きてることって、軍事ISの暴走なんですよね?」

 

「……あぁ、そうだ。布仏の家の者から教えてもらったのか?」

 

「はい。私達には関係ないと思っていたんですけど…」

 

「残念だが、そうもいかなかったようだ」

 

「ですね。あの、イッチーやかんちゃん達は大丈夫でしょうか?」

 

「……そのことを含めて説明するから付いて来てくれ」

 

そう言われ本音は先導し始める千冬の後を付いて行く。

それから暫くして2人はIS備蓄置き場へと到着する。其処にはウサギのマークがついたコンテナがあり、その隣には束が居た。

 

「おぉ、待ってたよぉのほほんちゃん」

 

「ど、どうも博士。あのぉ一体何か用ですか?」

 

「まずは、のほほんちゃん。君は今起きている事をどのくらい把握してるぅ?」

 

「えっとどう言う「君の家が特別な事は知ってるよぉ。だから聞いてるのぉ」…知ってるのは軍事用のISが暴走した位です」

 

「そっかぁ。それじゃあ今どう言った状況か説明してあげる」

 

そう言い束は説明を始めた。軍事ISを止める為に出た一夏達。そして味方の誤射で撃墜された一夏。そして命令を無視して学園の備品置き場から装備などを強奪してゴスペルを止めに行った専用機持ち達のことを。

束の説明に本音は驚愕の表情を浮かべ、不安の所為か体が震えていた。

 

「そ、そんな。それじゃあイッチーはまだ意識が戻っていないんですか!?」

 

「うぅん。もう意識は戻ってるよ」

 

そう言われ本音はホッと安心した表情を浮かべる。だが

 

「けどさっき教師達と残っていた日本の代表候補生と一緒に再出撃して行ったよ」

 

「えっ? えぇぇええっ!?」

 

束の報告に呆けた表情を浮かべ、その後驚いた表情を浮かべ声を上げる。

 

「な、何で再出撃して。そんなイッチーは怪我をしているんですよねっ?」

 

「うん、軽度とはいえ火傷と打撲をしてるよ」

 

「そんな状態で出撃するなんて…。織斑先生、どうして許可したんですか!?」

 

「…もちろん止めようとしたが、アイツの意思は固かったため許可した」

 

「でももし「お前が言おうとしている事は分かっている。だからアイツには命の危険と感じたらすぐに逃げろと命じた」……」

 

「正直な話無事に帰って来れるかどうか分からん。だが」

 

「のほほんちゃん。君の協力があればいっくん達が無事に帰って来れる可能性が飛躍的に上がるんだぁ」

 

「わ、私の協力ですか?」

 

「そう。正直な話、いま旅館にいる子達の中で一番ISに乗り慣れており、更にはいっくんと息を合わせることが出来るのは君しかいないと思ってる。いや、ほぼ確定かな」

 

「そう、ですか。あの、それだけで私が選ばれたんですか?」

 

「うぅん。もっと他にもあるけど時間が無いから省くよ。それで、答えを聞かせて欲しいんだけど。いっくん達を無事に帰って来させるために力を貸してくれる?」

 

束の問いに本音は俯く。暫しの沈黙の後、本音は意を決したのか顔を上げ、その顔を見た束は口を開く。

 

「決まったかな?」

 

「はい。私、行きます!」

 

「理由を聞いてもいいかい?」

 

「はい。私一人行った所で何かできるのか。先生達やイッチーとかんちゃんと一緒に無事に帰って来れるのかとか色んな不安が一杯浮かびました。でも、それでも私が行くことで皆が無事に戻って来れるなら、微力ながら手助けに行きたいと思ったからです」

 

「そっかぁ。良く決断してくれたね、ありがとう」

 

そう言い束が言うと、直ぐにその横にあるコンテナの方へと体を向ける。

 

「それじゃあのほほんちゃんに貸してあげるISを紹介しよう!」

 

そう言ってコンテナの開閉ボタンを押す。コンテナの扉がゆっくりと開き一機のISが姿を現した。

 

「これがのほほんちゃんに貸してあげる機体、先行試作型IS『紅椿』だよ」

 

そう言い置かれているISの説明を始める束。

 

「この紅椿には1本の刀とアサルトマシンガンを装備してて、刀が空裂。これは斬撃すると刃状のビームを放出するよ。それでアサルトマシンガンはいっくんの持っているアサルトマシンガンとマガジンが共有できる仕様の物だよ」

「そしてこれが一番大事! この機体のワンオフアビリティーだけど、名前は絢爛舞踏。このアビリティーは機体に搭載されているエネルギーを増幅させて難しいと言われてきたIS同士のエネルギー譲渡を可能にする物だよ。しかもエネルギーを増幅させるから少なくなっていても増幅させてフル状態にすることが出来るのだぁ!」

 

「えぇ~!? そんな凄い機体なんですか!?」

 

「イエェス! その通り! なんたってこの機体は試作型とはいえ()4()()()()だからね!」

 

「え? だ、第4世代型なんですか!?」

 

束の口から出た第4世代型と言う言葉に本音は驚きの余り言葉を発した後口をあんぐりと開きっぱなしとなってしまった。

それもそのはずだ。現在配備されている多くのISが第2世代型だ。第2世代型は第1世代型の兵器として完成されたISに、後付装備で戦闘での用途の多様化を主眼にされた世代型である。各国に配備されている軍事ISのほとんどがこの世代型にあたる。

オルコットや鈴達が乗っている第3世代型はBITや龍砲と言った特殊兵装を操縦者のイメージインターフェイスで稼働し操作することを目的にされた世代型だが、稼働させるにしても相当な集中力が必要なため未だに完成された機体は無く、ほとんどが実験機止まりとなっている。

そんな中、束が開発した紅椿は第4世代型。この世代は装備換装無しで装甲の展開や装備による自動支援を可能とした世代型である。

つまり、各国政府が未だ第3世代型の実験機止まりであるにもかかわらず、束の作った紅椿はその第3世代型を越えた機体という事である。

 

「……」

 

「呆けてるところ悪いけど、のほほんちゃん戻って来てぇ」

 

「はっ!?」

 

「うんうん、戻って来たね。それじゃあフィッティングするから乗って頂戴な」

 

「は、はい!」

 

束に促され本音は直ぐにISスーツに着替えようと思うも、ある事に気付く。

 

「あの、ISスーツどうしましょう?」

 

「え? あっ、そっかぁ。訓練中止になったからもう着替えちゃってたかぁ」

 

「はい。スーツは部屋なんで取りに行かないと」

 

「あぁ大丈夫大丈夫。此処に束さんが用意したスーツがあるからこれに着替えて」

 

そう言い束は何処からともなくスーツを引っ張り出す。差し出されたスーツを受け取り、本音は周りから見られない様にと物陰に入り着替える。着替え終えた本音は紅椿に乗り込む。

そして束は高速でキーボードを叩くと、空間ディスプレイに『フィッティングコンプリート』と表示される。

 

「ほい、準備OK!」

 

「分かった。…布仏」

 

束の言葉に千冬は真剣な表情を浮かべながら本音に声を掛ける。

 

 

「無茶な頼みをお前に頼んでしまい申し訳ない。一夏達の事を頼む」

 

「はい! では、行ってきます!」

 

その言葉と共に本音は飛び上がり一夏達が飛んで行った方へと向け高速飛行で向かって行った。

遠ざかっていく本音に千冬は真剣な表情で見送り、束は笑顔だが頑張れと小さく応援の言葉を零す。

 

「……さぁ、戻るか。だがその前に」

 

「そうだね。ちゃちゃっと片付けちゃおっか」

 

千冬の言葉に同意するように返し、束は背後へと顔を向ける。

 

「其処に隠れてるの分かってるよ。出てきたら()()()()

 

束がそう声を出すと、旅館の柱の影から睨んだ眼付をした箒が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

※情報

先行試作第4世代型IS『紅椿』

原作同様で見た目と性能は同じ。

但し装備は刀の空裂とアサルトマシンガン。

アサルトマシンガンを載せた理由は、展開装甲や空裂などエネルギーを大量に消費する装備があり、直ぐにエネルギー切れをしてしまう恐れがある為、アサルトマシンガンである程度エネルギー消費を抑える為。(実際は箒みたく刀オンリーで戦うスタイルじゃない本音の為に、束が載せた。)

 

先行試作型と束は言っているが実際は……




次回予告
銀の福音が居ると思われる地点に向かっていた一夏達。
現場では既に戦闘モードになっている銀の福音が居り、一夏達に攻撃を仕掛けてきた。

次回
再戦、銀の福音!
~今度こそ、助ける!~


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43話

物影から現れた箒に対し、全く驚いた様子をも無く束はただニマニマと笑みを浮かべ、千冬は鋭い眼光を向けていた。

 

「篠ノ之、勝手に部屋から抜け出すとは、どうなるか分かっているよな?」

 

「…でしたらアイツだって「布仏は私が呼んだ。だから問題は無い」クッ!」

 

「まぁいい。お前が何故此処に居るのかその理由を聞こうか?」

 

「そうだねぇ。まぁ大方予想は出来るけどねぇ」

 

そう言われ箒は握りしめる手にさらに力を入れる。

 

「…何故私じゃ無くてアイツにISを渡したのですか! アイツじゃなく、私の方があれに相応しいはずです!」

 

そう叫ぶ箒に千冬は冷ややかな目で見つめ、束は先程と変わらず笑みを浮かべるだけだった。

 

「ふぅ~ん、自分が相応しいねぇ」

 

「そうです! あんな奴以上に私の方が「あのさぁ」な、なんですか?」

 

「のほほんちゃんにボコボコにされた箒ちゃんに言われても説得力無いよ」ププッ

 

「全くだな」

 

「あ、あれはアイツが楯なんてせこい物を使うから「別に楯がダメなんて言われて無いでしょ」「あぁ。私が現役だった頃も大会では盾を使っていた奴はいた。まぁ技術が進むにつれて盾を使う物は少なくなっていったが、それでも盾を使う事は禁止といったルールはなかったな」‥‥」

 

2人の正論にぐうの音を出ずただ奥歯を噛み締め悔しそうな顔を浮かべる箒。

 

「まぁいいや。その事は置いておいて、自分が紅椿に相応しいって言うならそれなりの実力は付けてるの?」

 

「勿論です! アイツなんかよりも鍛えてます!」

 

「一応言うが、普段からやっている素振りとかそう言った物以外だぞ」

 

箒の言葉に一応と付けながら忠告する千冬。その言葉に対し箒は

 

「……」

 

えっ?と茫然と言った表情を浮かべていた。その表情をみて千冬は呆れ、束はうわ~、無いわぁ。と言いたげな表情を浮かべる。

 

「はぁ~あ。それは普段やってることを少し数を増やしたりとかでしょ? それじゃあ意味無いね」

 

「クッ。だったらアイツはどうなんですか!? 普段からダラダラして全く鍛えているように思えませんよ!」

 

「それはお前が見えている範囲での事だろ? 布仏なら毎日放課後しっかり訓練をしているぞ」

 

「なっ!? そ、そんな訳ない! 絶対に見えないところでサボっているに決まって「いやいや、それは無いね」何故そう言い切れるんですか!」

 

「だってのほほんちゃんの訓練を見ているのはちーちゃんだもん。ねぇ?」

 

「あぁ、アイツに頼まれて訓練を見ているぞ」

 

千冬の言葉に箒は目を見開き驚いた表情を浮かべ、その後怒りに満ちた表情へと変わる。

 

「ど、どうしてですか!? 何故奴の訓練なんかを!?」

 

「布仏がわざわざ私の部屋に訪ねて来て頼んできたからだ」

 

「では何故私のは見て頂けないのですか!」

 

「お前は私に頼みに来たか? 頭を下げて教えて下さいと私の部屋まで来たか? 無いだろ? 頼まれてもいないのにわざわざお前の訓練を見に行く訳ないだろ」

 

「……」

 

「そういう事。のほほんちゃんはちーちゃんに頼み自分を鍛えた。すべてはいっくんの為に」

 

「一夏の為?」

 

「そっ。のほほんちゃんは時折一人で無茶しちゃういっくんにほんの少しでも支えられるようになりたいとちーちゃんに教えを乞いたの。箒ちゃんはそんな思いなんか抱いた事ないでしょ。 ただいっくんの傍に立つことしか考えてないでしょ?」

 

そう言われ何も言い返せない箒。事実、彼女が束にISを望んだのは他の奴らを力で遠ざけ、自分一人一夏の隣に立とうとしたからだ。

 

「いっくんに対する思いと鍛えた力、どちらも箒ちゃんよりものほほんちゃんの方が軍配が上がるよ。だから私はのほほんちゃんにISを貸し与えたの」

 

「そう言う訳だ。さぁて、フモッフ。そいつを拘束部屋に放り込んできてくれ」

 

「ふもっふ!」

 

2人の言葉に返事をするように箒の背後に何時の間にか立っていたフモッフとモッフ2体。

箒は何時の間にか立っていたフモッフに驚き体が硬直している間に、フモッフ達に拘束されそのまま連行されていった。

 

「さて、私達も戻るぞ。現場の様子が気になるからな」

 

「だね。さぁてお仕事、お仕事ぉ」

 

そう言い二人も指揮所へと戻って行った。

 

 

場面は変わって、旅館から離れた海上。其処には7機のISが飛行していた。そう一夏達である。

旅館から飛び立ちレーダーで確認できた銀の福音の位置へと向け飛行していたのだ。

 

行く道中、一夏と簪は不安な気持ちを抱きつつも作戦を必ず成功させないとと決意を固め、教師部隊は先行する2人を無事に連れて帰ることと、一夏達と同じく作戦を無事に成功させること決意を固めていた。

 

そんな中、教師部隊の数人程はレーダーを見ながら飛行していた。その訳は例の脱走者4名を探す為だ。

脱走した4人を拘束するのは勿論だが、戦闘中そんな悠長な事は出来ない為見つけ次第奪った備品などを取り返し戦闘に役立てようと考えているからだ。その為出来れば戦闘になる前に見つかればいいなと淡い期待をしていた。

だが、そんな淡い期待など意図も容易く崩れ去った。レーダーに赤い光点が現れたからだ。

 

「レーダーコンタクト! 銀の福音と思われる!」

 

「了解。朝田先生、此処から目標が見えますか?」

 

「待って下さい」

 

そう言い淡い水色髪の教師がライフルに着いたスコープで遠方に銀の福音を確認する。

 

「目標を確認。…周囲に専用機持ち達は居ません。銀の福音は戦闘状態の模様」

 

「となると彼女達はやられたみたいね。…仕方ない、私達はこのまま戦闘状態の銀の福音と戦闘に入るわ。更識さん、織斑君。無茶だけはしちゃ駄目よ!」

 

「「分かりました!/は、はい!」」

 

新山の言葉に一夏と簪は返事し、戦闘態勢へと入る。そして簪と教師部隊の3人は前衛で、一夏と残りの教師部隊は後衛で射撃支援へと回る。

 

そして目視で確認できる距離まで詰まった両者。先制したのは一夏達の方だ。

簪が先制攻撃と山嵐を発射したのだ。8連装のミサイルランチャーからミサイルが放たれ、更にそのミサイルからマイクロミサイルが放たれまるで壁の様に無数のミサイルが銀の福音へと向かう。

銀の福音は接近する攻撃に対処するべく光弾を展開してミサイルを撃墜していく。爆炎と煙で視界を遮られる銀の福音。その爆炎の中から数発のグレネード弾が飛来してくる。

これには流石の銀の福音も対処できず命中する。命中して出来た一瞬の隙に残った山嵐のミサイルが襲い掛かる。

多くは光弾で撃ち落とされていたが、それでも数十発ほどのミサイルが残っておりすべて銀の福音に襲い掛かった。

激しい爆風と衝撃が一夏達が居る後方にも襲い掛かる。

普通ならこれで撃墜出来た。そう思うかもしれないが、一夏達は油断することなくライフルやグレネードランチャーを構える。

そして爆風の中から飛び出すように銀の福音が現れ一夏達に迫る。

 

[一夏、兎に角銀の福音のSEを削りまくるのよ。SEを少なくさせれば光弾も出せなくなるし、イグニッションブーストも出来なくなる。機動力が落ちた瞬間にワンオフで止めるわよ!]

 

[うん! 今度こそ止めて、パイロットを助ける!]

 

アイラの言葉に返事し、一夏は迫って来た銀の福音に向け引き金を引く。教師達もライフルやグレネードランチャーを狙いをすまして引き金を引く。

前衛の教師達も射撃し、簪も薙刀ではなく渡されたライフルを撃つ。

接近戦に持ち込んでも圧倒的パワーで押し負ける恐れがあると言われた為だ。射撃に慣れていない簪も必死に銀の福音に銃口を向け引き金を引く。

 

(照準を合わせて、引き金を引く。照準と合わせて、引き金を引く)

 

教科書に書かれていた射撃時の動作を簡易的に何度も思い返しつつ動作する簪。

周囲から浴びせられる弾丸に回避と防御をする銀の福音。

 

[よし、一夏。恐らく銀の福音のSEは殆んどないはず。今がチャンスよ!]

 

[うん!]

 

アイラの言葉に一夏はワンオフを発動させるべく右手に持っていたライフルを仕舞い、意識を集中させる。右手の手の平から光が発生し、それと同時に周囲の空気がピシピシと凍るような音が鳴り響く。

 

「く、空気中の水分が凍っている?」

 

「あれが、織斑君のワンオフアビリティー…」

 

教師達や簪は一夏のワンオフに驚く中、一夏は右手を勢いよく銀の福音に向かってその手の平を向ける。

 

「《アイスエイジ・レーザー》‼」

 

一夏がワンオフの名前を叫んだと同時に、手のひらからレーザーが照射され銀の福音に向かう。

銀の福音は迫るレーザーに避ける事が出来ず命中した。命中した箇所から徐々に氷が張っていく。

暫くしてレーザーの照射を止める一夏。

 

[と、止まったのアイラ?]

 

[関節部等を凍らせたからまともに動けないはずよ。今のうちに完全にSEを削るわよ]

 

「止まった?」

 

「ほぉ。何とかなったわね」

 

一夏のワンオフで機能が停止したと思った教師達。一夏とアイラも止めることが出来た、そう思っていた。

だが

 

《ガガガ、せ、セカンド…シフト……強制、移行》

 

突如機械音声で告げる声が上がると同時に、ピシピシと銀の福音に張っていた氷にヒビが入り

 

《UGYAAAAAAAAAAAAA‼》

 

とまるで獣の咆哮なようなものを上げ機体についていた氷を割った。

 

「そ、そんな!?」

 

「まだ動けるって言うの!?」

 

「しかもセカンドシフトですって。流石に不味すぎるわよ」

 

[まさか、強制的にシフト移行させるなんて!?]

 

[あれじゃあ乗ってる人が!]

 

[分かってるわ! 一夏、すぐに回復パックを使うのよ! もう一度ワンオフで止めるわよ。今度はさっきよりも威力を上げるわ!]

 

[分かった!]

 

一夏はアイラの言う通り回復パックを使おうとした。だが

 

[一夏、避けなさい!]

 

「っ!?」

 

アイラからの突然の警告に一夏は直ぐにその場を避ける。其処にビームの羽のような物が通り過ぎて行った。だが運悪く避けようとした際に持っていた回復パックを落としてしまい、ビームに飲み込まれ消し飛んでしまった。

 

「回復パックがっ! [それよりも回避運動をしなさい! さっき以上の機動力で銀の福音が迫っているわよ!]えっ!?」

 

アイラの報告に一夏は目視で確認しようとする前に銀の福音が一夏の目の前まで迫っていた。

迫る銀の福音に一夏は咄嗟に左手に持っていたライフルで応戦する。

アイラもサブアームが持っている銃を撃つ。

弾幕を張る一夏に対し、銀の福音は全身から展開した翼の様なビームを先程みたく弾丸の様に放つ。

ビームは一夏だけじゃなく他の教師達や簪達にも向けられていた。それぞれ回避行動をとるしか出来ず、一夏の援護に行けなかった。勿論ただ躱すだけじゃなく、隙が出来ればライフルを撃つも迫ってくるビームの翼に弾丸が呑み込まれ銀の福音まで届かなかった。

 

「新山先生、これじゃあ織斑君の援護に行けません!」

 

「分かってる! でも何とかして織斑君に回復パックを届けなきゃならないわ!」

 

新山の怒声に了解と返す教師。

しかし迫りくるビームの翼がそれを阻んだ。

迫りくるビームの翼に一夏は何とか当たらない様にと躱す。

必死に躱しつつライフルを撃つ一夏。しかし

 

カチッカチッ「っ、弾切れ!?」

 

両手に持っていたライフルが弾切れを起こす。アイラはカバーしようとサブアームのライフルの引き金を引くが

 

[一夏、サブアームのライフルももう弾切れ寸前よ!]

 

アイラの報告に一夏は何とかしないとと焦りを浮かべる。

弾幕が薄くなった事に銀の福音はすぐさま一夏へと迫る。教師達はそれを阻止しようするもビームの翼がそれを阻んだ。

一夏は迫る銀の福音に対処しようと左手の弾切れのライフルを銀の福音に向かって投げつける。無論そんなので止まるはずも無く迫りくる銀の福音。

そして銀の福音は回避不能と導き出された距離まで詰めると、ビームの翼を飛ばした。

一夏は回避しようにも間に合わないと思い、恐怖で目を瞑ってしまった。

 

迫るビームの翼。誰もが当たると思われたその攻撃。

 

 

しかし突如上から降ってきたモノによってそれは阻止された。

迫るビームの翼の上から降ってきたそれは、扇状のエネルギー波だった。

一夏に命中すると思われた攻撃が突如別の攻撃によって阻止された事に誰もが驚いている中、頭上から一機のISが舞い降り、一夏と銀の福音の間に割って入って来た。

 

舞い降りたISは紅い装甲を身に纏い右手には刀、そして左手にはライフルが握られていた。

降りてきたISの背後に居た一夏はそのISに乗っている人物が誰か、直ぐに分かった。

 

「ほ、本音さん?」

 

「うん! 助けに来たよぉ!」

 

そう言い笑みを浮かべる紅椿を纏った本音である。




次回予告
救援に駆け付けた本音。しかし現状は未だに悪いままだった。
本音は一夏や簪、そして教師達を助けるべく紅椿に力を貸して欲しいと願う。

次回
金色の粒子は、希望の光


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44話

長らくお待たせして申し訳ありません。



突如現れた本音に指揮所では千冬以外驚きで満ちていた。

 

「ど、どうして布仏さんがあそこに!?」

 

「それにあのIS、データがありません!」

 

モニターを監視していた教師達に動揺が走っている中、千冬は

 

パァッン!!

 

と両手を思いっきり叩き大きな音を立てる。その音にその場にいた教師達全員が千冬の方に顔を向ける。

 

「落ち着かんか! 布仏がISを所持している件については後で私が説明する。今は銀の福音のパイロット救出に集中しろ!」

 

その言葉に先程まで広がっていた動揺が鳴りを潜め、教師達はそれぞれ自分の仕事に集中し始めた。

 

 

現場でも本音の登場に動揺が走っていたが、今はそれどころではない。と瞬時に頭を切り替え銀の福音撃墜に動く。

本音も一夏と簪と共に銀の福音に攻撃を行いつつ現在の状況を聞く。

 

「今どういう状況なのぉ?」

 

「僕の、ワンオフアビリティーで動きを止めてSEを削り取ろうとしたんです。そしたらセカンドシフトに強制移行してしまって…。それでもう一度ワンオフを使って止めようと回復パックを使おうとしたんですが、銀の福音の攻撃を避けた際に落して消失させてしまったんです」

 

『だから私や教師部隊の人達とで織斑君に回復パックを届けようとしているんだけど、見ての通り銀の福音の激しい攻撃の所為で織斑君に近付けないの』

 

「なるほどぉ。よぉし」

 

そう言い本音は銀の福音の攻撃をかわしながら、紅椿に語り掛ける。

 

(ねぇ紅椿。お願い力を貸して。私は、銀の福音に乗っている人や、先生やかんちゃん、そしてイッチー。無事に皆と一緒に私たちの帰りを待っているところに帰りたいの。だからお願い!)

 

本音の願いに紅椿は何も返してこなかった。だが、展開していた装甲から突如金色の粒子が展開された。

 

「紅椿…。ありがとう。一緒に銀の福音を助けよう!」

 

返事ではなく、紅椿のワンオフアビリティー『絢爛舞踏』を展開させた紅椿に本音はそう言いながら空裂を振るい、ビームの刃を飛ばす。

複数の刃を飛ばした後、本音はすぐさま一夏の傍まで行き一夏の肩に触れる。

 

「はい、イッチー!」

 

その声と共に一夏の機体、バレットホークのSEが一気に回復し直ぐに満タンとなった。

 

[嘘でしょ!? 机上の空論では無いかと言われてきたSEの接触譲渡!?]

 

「す、すごい。もう満タンまで回復したよ!」

 

「イッチー、SE回復したぁ?」

 

「はい、これなら行けます!」

 

その言葉に本音は良かったぁ。と呟きつつ、銀の福音に向けマシンガンの弾幕と空裂のビーム刃を飛ばす。

 

「織斑君のSEは回復したのね。良かったわ」

 

「でも、机上の空論と言われてきたSEの接触譲渡をどうやって?」

 

「今は気にしている余裕は無いわ。今は銀の福音をどうやって動きを止めるかよ」

 

「その通りよ。朝田先生、残りの残弾は?」

 

「もうこのマガジンが最後で、しかも半分しかないわ」

 

「そう。アリシア先生は?」

 

「私はもう弾切れです」

 

「こっちもです」

 

教師達からの報告に新山は顔をしかめる。暫くの沈黙の後、新山は覚悟を決めた様な顔を浮かべ教師部隊全員に通信を繋げる。その内容に新山以外の教師達は驚いた表情を浮かべるも、それしか方法が無いかと思いそれぞれ覚悟を決めた表情に変わっていく。

 

「それしか手が無いですね」

 

「えぇ、やってやりましょう」

 

「ありがとう、皆。織斑君達聞こえる?」

 

『は、はい。聞こえます』

 

「私達教師部隊が銀の福音の動きを止めるから、織斑君は動きが止まった隙に攻撃して。更識さんと布仏さんは織斑君の直掩について」

 

『分かりました!』

 

『はい!』

 

「頼んだわ、3人共」

 

通信を切り新山は、拡張領域に仕舞っているSE回復パックを取り出し、それを自身のISに取り付けSEを回復させる。回復パックを持っている他の教師達も自身のISに取り付けSEを回復させる。そして

 

「全機、アタック!」

 

その掛け声と共に朝田先生以外の教師達が近接武器『葵』を構えながら突貫していく。朝田先生は教師部隊の残りのマガジン等を掻き集め遠距離から援護射撃する。

突貫した教師達は散開して葵を構えながら銀の福音へと向かう。

迫りくるビームの翼もSEを可能な限り消費を抑えながら避けて行き銀の福音に近付く。

教師部隊の一人が銀の福音に近付くと、銀の福音の動きを抑えるべく腕を掴む。

 

「このぉ!」

 

掴む教師を引き離そうとする銀の福音に、他の教師達も一斉に掴みかかり動きを封じに掛かる。

教師達の決死の行動に一夏も自分のすべきことをしないと思いワンオフを使おうとしたところである事を思いつく。

 

[ねぇアイラ、コアをワンオフで凍結させる事って出来る?]

 

[コアを? …なるほど、コアを凍結させてSEを遮断させるのね。そりゃあ凍結させる事は出来るけど、凍結対策が施されてるはずだから時間がかかるわ。時間を掛ければパイロットも危険だし、教師達も危険よ]

 

[じゃ、じゃあ接近してならば、どう?]

 

[接近って。…そりゃあ接近してワンオフを使えばそれだけ照射する時間は短く済むわ。でもアンタの身が危険にさらされることになるのよ]

 

[それでも、パイロットの人を救うためにやらないと]

 

[…分かったわ。けど無理するんじゃないわよ]

 

アイラの言葉に一夏はうん。と返事を返し、通信を開く。

 

「本音さん、更識さん。銀の福音に接近してワンオフを使う為援護してください」

 

『分かった』

 

『うん。イッチー、無理しないでね』

 

2人の返事を聞いた一夏は深呼吸をした後、教師達に翻弄されている銀の福音に向かう。

そんな中銀の福音の動きを封じようと決死に動く教師部隊。新山や他の教師達は何とか動きを抑えようと腕や脚などにしがみつく。

必死にしがみ付いていると、一夏のバレットホークが接近してくる事に気付き何故と動揺が走る。

 

「お、織斑君! 何故こっちに!?」

 

その問いに本音が答える。

 

『イッチーが接近してワンオフを使用するみたいですぅ!』

 

「接近して!? また無茶な事を。皆何とか抑え続けるのよ!」

 

「「「了解!」」」

 

「朝田先生! 何とかこの背中のパーツを壊せないっ?」

 

『やろうとしてるけど、動きが激しすぎて狙いがつけられないの。このまま撃ったら誤射するわ!』

 

「クッ、わかったわ」

 

そう言い新山は今できる事だけの事をしようと銀の福音の動きを抑えようとする。

 

一夏に攻撃が行かない様出来るだけ銀の福音の意識を自分達へと向けようとする教師部隊。

何とか動きを封じようと腕などにしがみ付くが、左腕を抑えていた教師が振り下ろされた。再度抑えようと接近するも飛来したビームに撃ち落とされてしまう。

 

「きゃぁああ!!?」

 

「横山先生!」

 

銀の福音は自由になった左手で他の教師達も引き剥がそうと腕を伸ばそうとした瞬間

 

「させない!」

 

そう叫びながら現れたのは簪だった。簪は横山が抑えていた左腕を再び使えない様にと抑えにかかる。

 

「更識さん、危険よ! 下がり「やらないと織斑君や先生達が危ないです! 乗っている人を助けるためなら危険は承知です!」」

 

簪はそう叫びながら精一杯腕にしがみ付き動かせまいとする。

動きを封じられている銀の福音に、一夏はそのチャンスを逃すまいとワンオフを使うべく接近する。

 

[一夏、チャンスは一度だけよ!]

 

「うん!」

 

一夏はそう言ってワンオフを使うべくブースターを吹かす。そして抑えられている銀の福音の懐に潜り込む。

 

[一夏、此処を狙いなさい!]

 

アイラの提示した箇所は首元付近の光る箇所であった。

一夏はその指示に従い、手を首元の光る箇所に当てワンオフを起動する。ワンオフが起動し、氷結のレーザーが照射される。

ピシピシと凍る音が鳴り響く中でも銀の福音は暴れ続けていた。そしてビームの羽を展開し自身もろとも巻き添えで一夏達を引き剥がそうとするも

 

「させないよぉ!」

 

本音が空裂のビーム刃を飛ばしビームの羽を撃ち落としていく。

そうこうしている内に銀の福音の首元の光る箇所は徐々に凍っていく。

そして遂に完全に凍ろうとした時

 

[あ……りが…とう]

 

そう声が聞こえてきた後、銀の福音のバイザーから光が消え機体はぐったりとなる。力を失った銀の福音を教師部隊と簪は支え持つ。

新山は何とかなったと安堵のため息を吐く。そして通信を開き報告を始めた。

 

「こちら新山、銀の福音の活動停止。作戦完了です」

 

『こちら作戦本部、了解』

 

新山は作戦完了を報告していると、数隻のゴムボートが現れた。其処に乗っていたのは

 

「あれ、接近してくるボートってモッフ達じゃない?」

 

「本当ね。それに、横山先生?!」

 

教師部隊の一人がゴムボートの一隻に包帯や湿布で治療された横山が寝かされているのを見つける。

 

「本部、撃墜された横山先生を発見。モッフ達によって救助されていた模様」

 

『本部、了解。……織斑先生から通達です。教師部隊及び専用機持ち達の状態を考え、脱走した専用機持ち達の捜索は寮にて補給と整備等を受けてから行うとのことです』

 

「しかし、それでは『織斑だ。先ほど束に頼んで奴らのISの状態を調べてもらったが、SEがほぼ無い状態らしい。それに死ぬようなケガもしていない為、暫く放置しても大丈夫だ』りょ、了解しました」

 

そう言い新山は他の教師部隊や一夏達と共にモッフ達が乗っているボートに降り立ち、旅館へと戻って行った。




次回予告
無事に銀の福音のパイロットの救出に成功した一夏達。
旅館へと帰って来た一夏達は健診を受けた後、それぞれ部屋で寛いでいた。

次回
任務完了!
~「あら、何をそんなに驚いてるのよ一夏?」~


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45話

モッフ達が乗ったゴムボートに乗って帰還する一夏達。

ボート内ではモッフ達が負傷した教師達を治療していた。一夏や本音、そして簪はモッフ達から差し出されたお茶を飲みながらホッとしていた。

暫くしてボートは旅館前の砂浜に到着すると、砂浜には保険医の教師や伊田、そしてモッフ数体が担架等をもって待機していた。

そしてボートが砂浜に乗り上げて上陸すると、自力でボートを降りれる者はぞろぞろと降りて行き、負傷した横山と銀の福音のパイロットはモッフ達が慎重に降ろし担架へと載せて行く。

ボートから降りてきた一夏に伊田が医療箱片手に近付く。

 

「お帰り一夏君。怪我とか大丈夫?」

 

「は、はい。なんとか」

 

「そうか、それは良かった。けど前回負傷した傷とかが悪化してたりしたら怖いから部屋に戻って一応診察しようか」

 

「分かりました」

 

そう言い一夏と伊田は旅館へと戻っていき、本音達も旅館へと戻って行った。

 

 

 

「―――任務、ご苦労様でした新山先生」

 

「はい、本当に大変でした」

 

作戦指揮所へとやって来た新山は千冬に作戦の報告をしていた。

 

「正直、あの時布仏さんが来てくれなければ作戦はまた失敗に終わっていたかもしれません」

 

「そうか。……気になるよな?」

 

「…えぇ、まぁ。他の教師達も気になってると思いますし」

 

「そうだな。それじゃあ布仏が何故ISを持っていたのか説明するとしよう」

 

そう言い千冬は教師達に布仏がISを纏って現場に現れた事を説明し始めた。

 

 

 

 

千冬が指揮所で説明をしている中、一夏は自身の部屋で伊田の診断を受けていた。

伊田は手に持ったボードにチェックを入れながら一夏に問診し、メサは一夏の体に巻かれていた包帯の交換などをしていた。

 

「うん、特に聞いた限り問題は無いかな。メサ、傷の具合はどうだった?」

 

【はい、特に悪化している兆候も無いようです。(;´∀`)】

 

「そうか。それじゃあ俺は他の負傷した教師達とか見てくるよ。メサ、手を貸してくれない?」

 

【畏まりました。('◇')ゞ】

 

そしてメサと伊田は部屋から出て行った。一人残った一夏は広縁の方へと向かい窓を開ける。開けたと同時にサァーと潮の香と共に涼しい風が部屋の中へと入って来た。

 

「はふぅ」

 

涼しい風を感じつつ一夏は椅子に深々と座り昇って来た月を眺めていると

 

[お疲れ、一夏]

 

「うん。アイラもありがとうね」

 

フッ。笑みを浮かべたのかそう声が漏れる。

 

[それにしても本当に良い風が入ってるわね]

 

「うん、凄く涼しいよ」

 

[そう。なら、()()()()()()()()()()()()]

 

「え?」

 

アイラの言葉に一夏はキョトンとした顔を浮かべる中、突如一夏のISの待機形態である腕輪が光り出し、そして光球が現れると一夏の向かいの席に向かう。

そして光球は暫くして人型の様に萎んでいき、最終的には光が晴れ一人の少女が席に座っていた。

 

「あら、そんな驚いた様な顔してどうしたのよ一夏?」

 

してやったりと笑みを浮かべる少女に、一夏はしどろもどろになりながらも口を開く。

 

「えっと、あ、アイラ、なの?」

 

「えぇ、私よ。貴方の相棒、バレットホークのISコア人格のアイラよ」

 

そう言いクスクスと笑うアイラ。その姿は一夏がよくISコアの精神世界で会うアイラと同じ赤茶色のツインテールに頭に猫耳の様なメカカチューシャ。そして服装は軍服の様な黒を基調としたものだった。

 

椅子に座っていたアイラは暫し一夏の反応に笑っていたが、ふと一夏の姿をジッと見つめる。

 

「な、なに?」

 

「ん? あぁ、ちょっと。この格好じゃあ此処の雰囲気に合わないわねと思ってね」

 

そう言いアイラは突如指をパチンと鳴らすと、突如アイラの体が光ったと思えばすぐに収まりアイラは何時の間にか浴衣姿になっていた。

 

「これでいいわね」

 

「え、えぇ!? ど、何処からその浴衣出したの!?」

 

「これ? データ(知識)さえあればこんなの直ぐに再現すること出来るわよ。まぁ、出来るのはこういった服とか位だけどね」

 

そう言いながら一夏の様に深々に椅子に座り、「んーー」と声を漏らしながら伸ばす。

 

「はぁ。本当良い風吹いてくるわね」

 

「えっと、う、うん」

 

そう言い同じく月を眺め始める2人。

 

「それにしても、月が綺麗ね」

 

「え? う、うん。そうだね」

 

そう言い一夏はアイラに合わせる様に返事をする。しばしの沈黙の後アイラが小さく溜息を吐く。

 

「……はぁ、鈍感

 

「へ? 何か、言った?」

 

「別に」

 

「(。´・ω・)?」

 

アイラの言葉に首を傾げる一夏。そうして二人は暫く月を眺めるのであった。

 

 

 

その頃別室では本音と簪が保険医に傷等が無いか見て貰っていた。

 

「よし、これで良いわ」

 

そう言いながら保険医は簪の腕に湿布を貼り終えたのか、湿布のシートなどを片付けて行く。

 

「ありがとうございます」

 

「お礼何ていいわよ。むしろ言うべきなのはこっちだわ」

 

「どう言う事ですかぁ?」

 

「貴方達は命がけで此処にいる生徒や教師達を守ったのよ。本来なら私達大人ががやらなければならない事を貴方達は成し遂げたのよ。ありがとうね」

 

保険医にそう言われ簪は照れた表情を浮かべ、本音はえへへへ。と照れ笑いを浮かべる。

 

「それじゃあ私は教師達の方を見てくるわね。2人とも安静にしておくのよ」

 

「はぁ~い。あ、先生。イッチーの所に行ってもいいですか?」

 

「イッチー? ……あぁ、織斑君の事ね。駄目よ、もう遅い時間だし他の生徒達に捕まって根掘り葉掘り聞かれる恐れがあるからね」

 

「分かりましたぁ」

 

肩を落とす本音に簪と保険医は苦笑いを浮かべるのであった。

保険医が出た後本音と簪は部屋に備わっていたお茶を飲んだり、本音が持って来ていたお菓子を食べお腹を満たしつつ談笑を交わし始めた。

そして談笑を始めて暫くして、簪はずっと思っていた事を聞こうと口を開く。

 

「そう言えば本音」

 

「なぁに、かんちゃん」

 

「どうして何時も織斑君と一緒に居るの?」

 

「どうしたのぉ急に?」

 

「いや、本音って何時も時間があったら織斑君の近くに居るなぁと思ってね」

 

「うぅ~ん、最初は織斑先生にお願いされてイッチーのお手伝いをしてたの」

 

「それは聞いた。本音だけがクラスの中で唯一触れても大丈夫だったんでしょ」

 

「うん。それでイッチーの学園生活のお手伝いをしてたの。それから暫くしてイッチーと一緒にいると楽しいと思えるようになったから、一緒に行動するようになった感じだよぉ」

 

「ふぅん。それじゃあ今日あの場に来た理由は?」

 

「それは篠ノ之博士から現状を聞いてどうしたいか聞かれたんだぁ。それでかんちゃんやイッチー達が無事に帰って来て欲しい、微力だけど助けに行きたいって思ったからだよ」

 

「そっか。ありがとうね」

 

「えへへ」

 

照れた顔を浮かべながら頭を掻く本音。

 

(イッチーと一緒に居ると楽しいと思うのは本当。だけど、最近はイッチーの事目で追いかける様になってる。それにイッチーが笑顔を浮かべてくれると物凄く胸がドキドキする。どうしてかは分からない。でも全然嫌じゃないんだよねぇ)

 

そう思う本音であった。

 

 

 

救出作戦成功に湧き上がっている旅館。そんな中旅館から遠く離れたとある小島では

 

「イタタタタタ!!???!」

 

「我慢してくださいまし鈴さん」

 

「ほらシャル終わったぞ」

 

「ありがとうラウラ」

 

そう言いラウラに巻かれた包帯を撫でながら暗い表情を浮かべるデュノア。そう、旅館から勝手に出撃(脱走)した専用機持ち達であった。

彼女達は持ち出した物資を使って銀の福音を倒そうとしたが大きな問題があった。それは彼女達が強奪した物資だが、全く整理せずに作戦を決行した為に誰が何をもって自身が何を持ち出したのか把握しきっていなかったのだ。

銀の福音を倒す事しか考えていなかった彼女達は持ち出した物資を確認もせず、勝負を挑んだのだ。

その為弾切れを起こしたアサルトマシンガンに新しいマガジンを挿そうとするも、全く別の銃のマガジンで使えなかったり、実弾ではなくただの訓練用弾だったりと持ってきた物資のほとんどが使えずじまい。

更に鈴が近接戦で墜とそうと後先考えずにイグニッションブースターを使ったりとSEを大量に消費。その為沢山あったSE回復パックがあっと言う間に底をついたのだ。

その結果真っ先に鈴の甲龍がSEがほぼ無くなった時に銀の福音の攻撃で撃墜。その次に銃器で対処していたセシリア達が銀の福音の近接攻撃で撃墜されていった。

 

撃墜された彼女達は運よく小島へと流れ着き、怪我した箇所をラウラが持っていた携帯医療キットで治療にあたっていたのだ。不幸中の幸いだったのは命に別状のあるケガを負わなかった事だろう。だが彼女達のISはそうもいかなかった。

彼女達のISは全機ダメージ判定F、つまりほぼ全壊状態といった所である。この状態ではもはや通常の修理ではどうにもならず全てのパーツを取る、つまりオーバーホールしなければならない状態であった。

 

「それで通信はどうなのよ?」

 

「駄目だ。ISがほとんど破損した状態で通信できる状態じゃない。携帯はどうだ?」

 

「それも無理ですわ。此処電波が届きませんもの」

 

「そ、そんなぁ。それじゃあ僕達このまま此処で一生遭難したままになるのぉ」

 

「そんな訳ありませんわ。救助は来てくれるはずですわ。……恐らく」

 

セシリアの最後の呟きに3人は暗い表情を浮かべる。

すると突如彼女達の頭上から強烈な光が照らされた。照らしていた正体、それは

 

「あなた達其処を動くんじゃないわよ!」

 

「こちらアリシア。脱走した4名を発見しました」

 

ISを纏った教師部隊であった。教師部隊は脱走した4人の位置を束から位置情報を聞いていた千冬から聞いたので、彼女達の元に現れたのだ。

4人は突如現れた教師部隊に救助に来てくれたと安堵した表情を浮かべていた。が、そんな甘いはずがない。

教師部隊が現れたと同時に、彼女達の周りからボヒュボヒュと音が鳴り響きそして

 

ガチャガチャガチャ

 

と、ライフルやらショットガンなどで武装したモッフ達が現れた。彼等が現れた事に先程まで浮かべていた表情が一変し、青くなる4人。

 

【両手を頭の後ろに当てろ。ショットガンは鎮圧用の硬質ゴム弾だが、ライフルは実弾が装填されているからな】

 

モッフの一体がそう告げると鈴以外の3人は大人しく両手を頭の後ろに当てる。鈴は

 

「なんでそんなことしなくちゃならないのよ! こっちは怪我人なのよ!」

 

と叫ぶも

 

《バスンッ!》

 

「ぐふぅ!!!??!!」

 

指示通りしなかった鈴に対しモッフは躊躇いなくショットガンの引き金を引き硬質ゴム弾を撃ち込む。腹に撃ち込まれた鈴は痛みからお腹を押さえながら蹲る。それを合図に取り囲んでいたモッフ達は一気に4人に接近して拘束した。

4人は顔から麻袋を被せられ、手や足に手錠を施された。そしてそのまま4人はモッフ達に担がれていき島の近くに停泊していた船へと運び、連行していった。

暫くして船は旅館近くの防波堤に着くと4人を下ろし、引き摺る様に連れて行った。暫く引き摺られた後正座させられ麻袋を取られた。そして目の前には仁王立ちした千冬が居た。

 

「お、織斑先生」

 

「……貴様等の言い訳なんざ聞く気も無いからさっさと本題を言う。お前等は学園に戻るまで拘束部屋にて拘束する。そして学園に戻った後も独居房にて拘束する。逃げようものなら覚悟するんだな。警備に就くモッフ達には実弾の使用許可を出している。痛い思いをしたくなければ逃げない事だな」

 

そう言い千冬は首を動かしモッフ達に連れて行くように指示する。4人は何か言おうとするもその前にモッフ達からまた麻袋を被せられそのまま引き摺られていった。

 

4人が引き摺られていくの見送る千冬の元にスッと束が影から現れた。

 

「なんだ、もう帰るのか」

 

「いっくんにちょっと顔出してからね」

 

「そうか。ところで銀の福音の方はどうだった?」

 

「そっちは問題無いよ。凍結状態のコアを銀の福音から外してウイルススキャンに掛けて、ウイルスを全部取り除いたからもう暴走することは無いと思うよ。あとパイロットちゃんも全身打撲とかだけで命にかかわる怪我はして無かったよ」

 

「それは良かった。…………それでこの事件を引き起こした奴らの位置は分かったのか?」

 

パイロットの身が無事だったことに安堵した後、千冬は今回の事件を引き起こした連中を調べているであろうと束に聞く。だが

 

「それなんだけど、もうそいつらいなくなっちゃった」

 

「なに? 逃げたのか?」

 

「いや、皆死んだよ」

 

「死んだだと? お前がやったのか?」

 

「いやいや、今回は束さんじゃないよ。居場所を特定してゴー君を送りつけようとしたけどその前に何処からともなく現れたIS達にその場にいた全員殺されたんだ。しかも現れたISは3機。その内の2機は最新鋭の第3世代実験機だったよ」

 

「第3世代型だと。何処かの国から強奪されたのか?」

 

「束さんもそう思って調べたけど、どっこにもそんな情報は無かったんだぁ。で、もう少し詳しく調べたらそれらしい情報があったんだぁ。まぁ強奪、というより提供といった感じみたいだけど」

 

「どう言う事だ? 第3世代型の実験機とはいえ国とって重要な機体なはずだ。そんな機体を易々と提供するとは思えん。一体何処に?」

 

「其処までは束さんも分からなかったよぉ。でもまぁいいんじゃない。束さん達の仕事を代わりにしてくれたんだ。余計な仕事をしなくて済んだんだし良かったと思えば良いんだよ」

 

そう言いアッハハと笑う束。その姿にはぁ。と重いため息を吐く千冬。

 

「全く、お前と言う奴は…だが万が一という事がある。引き続きその現れたISについて調べてみてくれ。何処の所属で、何の目的で動いているのかをな」

 

「えぇ~、めんどくさいなぁ」

 

「…やってくれたらこれをやろう」

 

そう言い千冬は懐からある券の束を見せた。それを見た束は驚愕の表情に変わり、体に稲妻が走った。

 

「ま、まさか、そ、それはぁ‼」

 

「そうだ。一夏作成の『デザート券』だ」

 

ばぁーん!と効果音が付きそうな感じで見せつけた券。それは一夏が千冬や束など特に親しい人の誕生日プレゼントにあげているデザート券である。

千冬はそれを5枚綴りを3枚、束の前に見せていた。

 

「どうする、引き受けるか?」

 

「もちもちろんろん‼」

 

そう言い早く早く!と言わんばかりに券に釘付けな束にスッと差し出す千冬。束は受け取ると、いやぁっほぉおー!と空に向かって券を高く掲げ上げながら喜んだのだった。

 

 

 

その頃某国に建てられた建物の地下に設けられている執務室に、4人の女性が居り3人は机の前に座っている女性に報告を行っていた。

 

「―――指示通り例の研究施設は完全に破壊。その場にいた研究員及び過激派の女性権利団体の者を処分しました」

 

「ご苦労様。暴走した原因の情報は?」

 

「そちらも確保済みで情報部に提出済みです」

 

「そう。それは良かったわ」

 

金髪の女性の報告に椅子に座った白髪の女性はホッと安堵した表情を浮かべた。すると今度は薄い茶髪の女性が口を開く。

 

「それで向こうの方はどうなったんだ?」

 

「旅館の方は何とか救出には成功したみたいよ。本当に良かったわ」

 

「そりゃあ良かった。一時はどうなるかと思ったからな」

 

「全くよ。ねぇ?」

 

と白髪の女性はもう一人の黒髪の少女に顔を向けて言うと、少女も怒っているのか口を尖らせながら頷く。

 

「本当だよ。てかいらない事しかしなかった専用機持ち達はどうなったの?」

 

「最初の作戦失敗後は拘束されたのは知ってるわよね?」

 

「うん」

 

「そう聞いてます」

 

「あぁ」

 

「どうやら拘束部屋から脱走、そのうえ物資を強奪したらしいわ。それで銀の福音にリベンジしに向かったらしいわよ」

 

「「「はぁ~!?」」」

 

白髪の女性の言葉に3人は声を揃えながらあり得ないと言った顔で叫ぶ。

 

「いやいや、なんで脱走なんかを?」

 

「頭おかしすぎねぇか、そいつ等?」

 

「いや、確実に頭いかれてるよ。馬鹿じゃないの今年の代表候補生」

 

「大方自分達の失態を取り返そうとしたかったのかしらねぇ。けど大したダメージも与えられずに全員撃墜。幸い生きてはいたらしいけど、ISはほぼ全壊状態。ほぼ間違いなく自分達の国のお偉いさんにどやされるのは確実ね」

 

「ですね。それで救出成功にはやはり例の…」

 

金髪女性がそう言うと白髪の女性は、まるで自分の事かの様に嬉しそうな表情を浮かべながら口を開く。

 

「そうなの! 一夏ちゃんったら自分も怪我しているのにも関わらず、パイロットを助けるために救助作戦に参加したのよ。本当に心配したけど、周りの人達の助けもあってパイロットを救出したのよ。もう本当に感動したわぁ」

 

「本当ぉ! うわぁ、私も施設の破壊になんて行かずに救出現場の方に行けばよかったぁ」

 

黒髪の少女はそう言いながらガックシと肩を落とす。

 

「そう言わないの。今は色々と忙しいから我慢して」

 

「分かったぁ、我慢する」

 

「ありがとね。といっても後少しのところだけどね」

 

白髪の女性がそう言うと金髪の女性と薄い茶髪の女性の目が鋭くなる。

 

「という事は…」

 

「へぇ。やっと連中を潰せるのか」

 

「えぇ。今回の暴走事件、そしてこれまで集めてきた女性権利団体が関わっていた事件の証拠があればあの組織を完璧に潰す事が出来るわ」

 

そう言いニヤリと笑みを浮かべる女性。それから暫し話し合いをした後3人は部屋を出て行き、残った白髪の女性は机の引き出しから一枚の写真を取り出した。

それは一夏がレゾナンスで買い物しているところの写真だった。

女性はその写真を愛おしそうに見つめる。

 

「もう少しで全部片付くわ。それまで待っていてね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の可愛い、息子ちゃん」




次回予告
救出作戦の次の日、学園へと戻って来た一夏達。
戻って来てそうそう待っていたのは期末テスト!
不安を覚えた本音は一夏に頼みテスト勉強に付き合ってもらう事に。

次回
恐怖の期末テスト

「イッチー! ヘルプミィ~‼」

「あ、えっと、はい」

[はぁ~、私も手伝ってあげるわよ]


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46話

騒然となった臨海学校が終わり、一年生達はIS学園へと戻って来た。

到着したバスからぞろぞろと生徒達が降りて行き、メサカーかからは一夏と伊田が降りて行く。

降りた生徒達はそれぞれ整列し、教師達も端の方で生徒達の前に立つ。

全員が並び終えた後生徒達の前に千冬が立ち口を開く。

 

「ではこれにて解散となるが、一つ報告がある。2週間後に期末テストが実施される。テスト範囲は一学期中に習った範囲で出る。全員しっかりとテスト勉強を行いテストに臨む様に。因みに赤点を取った場合は夏休み中に補習に強制参加させられるため取らない様に頑張れよ」

 

そう言われ生徒達は、はい!と気合を入れた声で返事をする。

 

「よろしい。では解散!」

 

そう言われ生徒達は荷物を持ってぞろぞろと寮へと入って行き、一夏も本音や相川達と共に寮へと帰って行った。

生徒達が寮へと帰っていく中、バスから一人の金髪女性が降りてきた。

 

「よく眠れたか、ファイルス」

 

「えぇ、ぐっすりとね」

 

そう言いながらナターシャ・ファイルスは固まった筋肉を解す様に体を伸ばす。

何故彼女がIS学園のバスに乗っていたのか、それはまだバスが旅館から出発する前までの時間に遡る。

 

~数時間前・旅館前~

 

千冬は荷物を纏め引き上げようとしていた時に携帯が鳴り響く。千冬は携帯の画面を見ると、表示には『学園長』と記されていた。

千冬は今回の事件に関する事かと思いつつその電話に出る。

 

「もしもし、織斑です」

 

『轡木です。今大丈夫ですか?』

 

「えぇ、引き揚げ準備を今しがた終えた所なので問題ありませんが、何か?」

 

『まずは、今回の事件ご苦労様でした』

 

「いえ、生徒と教師部隊のお陰です。私は後方でサポートしただけにすぎません」

 

『それでも、生徒達や教師部隊の方々が無事に戻って来られるよう指示を出されたのです。お礼を言わせてください』

 

「分かりました。それで、わざわざそのお言葉を贈る為だけに電話をされたのですか?」

 

『いえ、もう一つあります』

 

そう言うと轡木の雰囲気が若干変わり、真剣な雰囲気を電話越しで醸し出す。

 

『そちらに保護されているナターシャ・ファイルスさんの事です』

 

「ファイルスの事で?」

 

『えぇ。彼女の母国アメリカから要請がありましてね』

 

「身柄とISの引き渡しですか?」

 

『いえ、彼女の身柄とISをIS学園にて保護してほしいとのことです』

 

轡木から出た言葉に千冬は驚きの余り目を見開く。そしてすぐに鋭いまなざしへと変える。

 

「それはまたどう言う事です?」

 

『暴走事件の原因が女性権利団体の過激派グループによるものだと判明したらしく、アメリカではその過激派グループ逮捕の為動くそうです。それで今回被害に遭われたナターシャさんを証人として裁判の証言台に立って欲しいらしく、アメリカに戻って来て貰った場合命を狙われる恐れがあると考え、学園にて保護していて欲しいとのことです』

 

「なるほど、面倒ごとを此方に押し付けたという事ですが」

 

『見方を変えればそうですね。勿論ただで引き受けるつもりもありませんから此方も条件を出しました』

 

「と言いますと?」

 

『彼女のIS、銀の福音の稼働データ採取を学園で行う事。それと彼女を学園の教師になってもらう事です』

 

「……。流石に2つも無理ではありませんか?」

 

『えぇ、最初は渋られましたが色々交渉して納得させました』

 

そう言う轡木に千冬は頬を引きつらせる。恐らく色々と脅したな、と。

 

「分かりました。ではファイルスはこのまま我々と共に学園に連れてくればいいのですね」

 

『えぇ、それでお願いします』

 

では、失礼します。と言い轡木が電話を切ると、千冬ははぁ。とため息を吐きながら携帯をポケットに仕舞いナターシャのいる部屋へと向かって行った。

 

~現在に戻る~

 

「それじゃあ学園長室に行くか」

 

「えぇ、行きましょう」

 

そう言い歩き出す2人。

 

~次の日~

臨海学校から戻ってきた1年生達は、テストに向けて猛勉強をするべく図書館や部屋に籠っていた。

そんな中には本音もいたが……。

 

「うぅ~~~」

 

机に伏して頭を抱えながら唸っていた。その訳は

 

「勉強難しぃいよぉ~」

 

だった。

授業で教えてもらった所は全てノートにとっている為、テスト範囲の勉強をするのは問題無かった。だが、それを憶えようと思うとなかなかに大変で、どれから手を付ければいいのか全く分からなかった。

同室の相川は図書館で使えそうな本を借りに言って来ると言い部屋には居なかった。

暫し唸り続ける本音。するとある事を思いつき顔を上げる。

 

「そうだ。イッチーの所で勉強しよう!」

 

そう呟くと鞄にノートから教科書など色々と詰め込み本音は部屋から出て行く。そして隣の一夏の部屋に行くと、インターホンが取り付けられていた。

本音はまたイッチーの扉が改良されてるや。と思いながらインターホンの呼び出しボタンを押す。ピンポーンと鳴り響くと

 

『はい、本音さん何か?』

 

とインターホン越し一夏が出てきた。

 

「イッチー、勉強教えてぇ」

 

と懇願したような声でお願いする本音。

 

『あ、はい。ちょっと待って下さい』

 

そう言い通話が切れる。暫くして扉の鍵が開く音が鳴り扉が開く。

 

「どうぞ」

 

「うぅ、イッチーありがとうぅ。お邪魔しまぁす」

 

そう言い本音は一夏の部屋へと上がらせてもらう。部屋に上がり奥へと案内され一夏が勉強していたであろう机に到着する。

 

「どうぞ、好きな所に座って下さい」

 

そう言い一夏はお茶を用意しようとキッチンの方へと向かい、本音は一夏が座っていただろう席の向かい側に座り勉強道具を出す。

キッチンから一夏はお茶を持ってそれを本音の前に置く。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうイッチー」

 

そう言いながら本音は一夏が出したお茶を飲み始める。

 

「それで勉強を教えて欲しいって、もしかしてテストの事でですか?」

 

「うん。全然勉強できなくてさぁ」

 

「それじゃあ一緒にやりますか?」

 

「うん! ありがとう」

 

一夏の言葉に本音はホッとした表情置浮かべる。すると

 

『それじゃあ私も手を貸しましょうかね』

 

と部屋に声が響く。すると、一夏の腕に付いているバレットホークの待機形態の腕輪が光り、光の球が現れ一人の少女が現れた。

 

「え? アイラ出て来ても良いの?」

 

「別に問題無いわ」

 

そう言いながら本音の方に顔を向ける。とうの本音は( ゚д゚)ポカーンと表情を浮かべ、固まっていた。

 

「一夏、彼女固まってるわよ」

 

「そ、そりゃあアイラが突然現れたら固まるよ」

 

「…それもそうね」

 

そう言いアイラは本音のデコに向かってデコピンをかます。

 

「ふみゃぁ!? うえぇ!? 痛い、現実ぅ!?」

 

「当たり前でしょ、現実なんだから」

 

そう言い呆れた様な顔を浮かべるアイラと、苦笑いを浮かべる一夏。

 

「えっと、誰なのぉ?」

 

「私はアイラ。一夏のIS、バレットホークのコア人格よ」

 

「うえぇ、コア人格ぅ!?」

 

「えぇ。あ、一応言うけど、他の人達にはばらさないでよ」

 

「う、うん」

 

本音はまだ驚いた表情を浮かべながら頷く。

そして2人が席に着くとアイラは二人の前に空間ディスプレイを展開する。

 

「それじゃあまずは苦手な科目を知る為に、私が作成したテストを解いて。基礎教科5科目と専門教科3科目、それぞれ制限時間30分よ。それじゃあ、始め!」

 

そう言われ一夏と本音は勉強を始める。

数時間後、テストを終えた二人はふぅ。と息を吐く。

テストの回答が記された二人のノートをアイラが回収すると、ものすごいスピードで答え合わせをしていく。

そして答え合わせを終えたアイラがそれぞれ紙を差し出す。

其処にはそれぞれ科目と点数が書かれており、一夏の方はそれぞれ70点越えをしていた。対して本音の方は50点台だったり40点台とバラバラで、特に低かったのは20点となっていた。

 

「本音、貴女かなり勉強しないと不味いわよ」

 

「うぅ~、補習はやだよぉ~(T_T)」

 

嘆く本音にアイラはため息を吐きながら口を開く。

 

「だったら勉強するしかないでしょ。明日から本格的に勉強を教えて行くから来なさいよ」

 

「うん。ありがとうねぇ、アラちゃん」

 

そう言い涙目でお礼を言う本音。

それから本音はアイラのスパルタの様な勉強に半泣きになりながらも、夏休みに一夏と遊びたい為に必死になった。

 

そしてスパルタ勉強から数日が経ち、期末テスト当日。

 

「では、始め!」

 

千冬の号令と共に生徒達は裏向きに置かれた紙を表に向け答案用紙に答えを書いて行く。

カリカリとシャーペンの走る音が鳴り響く中、本音も何とか赤点回避と心の中で必死に問題を解く。

それから数日後、テスト結果発表日。

それぞれ緊張した面持ちでテストの結果が書かれた紙を受け取る。

 

「次、織斑」

 

そう呼ばれ一夏は席を立ち千冬から紙を受け取る。受け取った後席に戻った後確認する。用紙には各教科の点数が書かれている。

一夏の用紙にはそれぞれ80点代や90点代と高得点であった。

 

[あら、赤点は余裕で回避できた様ね]

 

[うん、アイラのお陰で何とか出来たよ]

 

[ふっ。私じゃなくてアンタの努力でしょ]

 

 

「次、布仏」

 

「は、はい!」

 

呼ばれた本音はカチコチと緊張した様子を醸し出しながら千冬から用紙を受け取る。

席に戻った後用紙を開けると

 

「お、おおぉぉおおぉ」

 

と用紙に書かれていた点数に驚きの表情を浮かべる。

その訳はそのほとんどが今まで取った事ない程の高得点で、余裕で赤点回避だった。

全ての用紙を渡し終えた千冬が教壇から口を開く。

 

「えぇ、今回の期末テストでは赤点を取った者は一人もいなかった。他のクラスでは赤点を取った者が数人ほど出ているが、一人も出なかったクラスはうちだけだ。誇っても良いが、油断せず次のテストでも同じよう赤点を取らぬ様勉学を励む様に」

 

「「「「はい」」」」

 

「よし、ではこの後は自由時間とする。以上、解散」

 

そう言い千冬と真耶は教室から出て行き、生徒達は夏休みどうするか談笑を始める。

そんな中本音は一夏に礼を言うべく体を向ける。

 

「イッチー、勉強ありがとうねぇ。お陰で赤点回避できたよぉ」

 

「い、いえ。僕はただ少しお手伝いしただけで、後は本音さんの実力ですよ」

 

「うぇへへ」

 

照れた表情を浮かべながら頭を掻く本音。

こうして無事期末テストを乗り越えたのだった。

 

 

 

因みに例の5人は監房の中でテストを受けたが、全員全教科赤点となったのは言うまでもない。




次回予告
放課後、一夏は家庭科室へと向かう。
その中では以前計画されていた、お疲れ様パーティーが行われていた。
一夏や一年生達はそのパーティーを楽しむ。

次回
お疲れ様パーティー


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47話

テストが終了した放課後、一夏は警護のモッフ(6号、12号、18号、30号)達とでとある場所に向かっていた。

それは

 

「お! 織斑君やぁ」

 

「こんにちは織斑君!」

 

「こ、こんにちは、狗山さん、ニコラスさん」

 

同じ料理研究部の二人と会った。

この二人と合流したという事は、そう料理研究部の活動部屋『家庭科室』である。

3人はそのまま家庭科室の扉を開けて中へと入ると、其処には色々な料理が並べられていた。

 

「お、来た来た。それじゃあ主役の子達も来たからそれぞれ席に着こうっか」

 

セレスがそう言うとそれぞれ席に着いて行く。

そしてセレスがジュースの入ったコップを持って席を立つ。

 

「それじゃあ、1年生の子達1学期お疲れ様でしたぁ!」

 

「「「「「「お疲れ様でしたぁ!」」」」」

 

セレスの言葉に続く様に言うとそれぞれジュースを口にする。そして各々1年生達が来るまでに作成した料理を口にしていく。

因みに机の上に並べられている料理は全て一夏達1年が到着するまでに先行していたモッフ達が検査しており、安心して食べられると結論付けられている為一夏も安心してご飯を食べていた。

 

机の上に並べられている料理はバゲットと呼ばれるパンの上にトマトだったりチーズなどをドレッシングなどで和えたものを乗せたものや、さっぱりとしたソースがかけられたローストポーク、餃子の皮を使ったラザニアとかそれぞれ時短で、尚且つ華やかな料理が並べられていた。

 

それから暫くして机の上に並べられた料理のほとんどが無くなり、皆満足した表情を浮かべていた。

すると家庭科室の扉が開き廊下から幸平先生が中へと入って来た。

 

「あら丁度皆食べ終えた所かしら?」

 

「あ、エリナ先生。どうかしたんですか?」

 

「えぇ、実は夏休み中の部活動をどうしようかと思ってね。去年は北海道の食べ歩きに行ったけど、今年はどうしようかと思ってね」

 

「うぅ~ん。皆は何か案ある?」

 

エリスがそう聞くとそれぞれ案を出していく。

 

「以前は北海道でしたら今年は別の場所に行くというのはどうですか?」

 

「それでもいいけど、帰ってきたら地獄を見るよ」

 

「え? 地獄ですか?」

 

ニコラスが首を傾げなら聞く。2年生や3年のエリスや紀子が何かあったのか遠い目で口を開く。

 

「「「「「体重」」」」」

 

そう言った瞬間

 

「「止めましょう」」

 

と2人は声を揃えて言った。因みに一夏は

 

「そ、それは大変ですね」

 

と返す。

 

今度はあおいが案を出す。

 

「それやったらキャンプとかは?」

 

「キャンプかぁ。……良いねぇ」

 

「確かに自然の中で自分達で料理を作るのは楽しそうですわね」

 

「それに自然の中でとれる食料を調達するっていうのは面白そうね」

 

「そうね。エリス、今年の夏休みはそれでいいんじゃないかしら?」

 

「うん、それが良いね。あ、ちょっと待った」

 

周りが賛成と言っており決まりと思ったエリス。だがある懸念が思い出し顔を一夏の方に向ける。

 

「織斑君はどう? 行けそう?」

 

エリスは一夏が来れるのか心配となりそう声を掛ける。

すると一夏はおずおずとある事を口にする。

 

「あの、そのキャンプをする日って、○月△日にする事って出来ますか?」

 

「まぁ、日にちは別に皆に合わせる感じだけど、どうして?」

 

「実は、その日に何時も知り合いの人達と一緒にキャンプに行ってるんです」

 

「なるほど。確かに知り合いの人達が居るキャンプなら問題なさそうね。エリナ先生、どうですか?」

 

「別に問題は無いと思うわよ。織斑君の事情を考えたらそっちの方がいいと思うし」

 

幸平から了承を貰えたエリスは部員達の方に顔を向ける。

 

「それじゃあ皆、○月△日にキャンプをしに行くけどいいかしら?」

 

「いいですよ」

 

「うむ、構わぬぞ。久々に山に行けるのは良いのぉ」

 

「そう言えば里佳子ちゃんは故郷が山でしたわね」

 

「山での料理……。フフフ、いい経験になりそうね」

 

「いやぁ、楽しみやなぁ」

 

「うんうん! 山で思いっ切り遊ぶぞぉ!」

 

「こらこら遊ぶのはいいけど、ちゃんと研究部としての活動もするのよ」

 

ニコラスにそう軽く注意する紀子。すると一夏が口を開く。

 

「あの、良いでしょうか?」

 

「どうかしたの、織斑君?」

 

「あの、織斑先生に今回の事伝えた方がいいと思いまして。そのキャンプ、織斑先生も来てるので」

 

「あら、そうなの? それじゃあ早速私から電話してみるわ」

 

そう言い幸平はスマホを取り出し電話を掛ける。

 

その頃千冬はと言うと、何時もの訓練所にて本音と共に訓練に勤しんでいた。そして休憩をしているところにスマホの着信音が鳴り響く。

スマホの画面を確認したところ、幸平先生と表示されていた為それに出る。

 

「もしもし織斑です」

 

『幸平です。今よろしいですか?』

 

「えぇ、構いませんよ」

 

幸平は家庭科室でエリス達が話し合っていたキャンプの事を話し、一夏が千冬に話した方がいいという事で電話したことを伝えた。

 

「なるほど、それで私に電話を」

 

『はい。それで私達料理研究部の部員達もキャンプに参加して大丈夫でしょうか?』

 

「ふむ、私は問題無いと思いますよ。しかしテントなどはどうしますか?」

 

『そちらは此方で手配するので大丈夫です』

 

「そうですか。では詳しい事を話し合いたい為、後日お時間良いですか?」

 

『えぇ構いません。では失礼します』

 

そう言い幸平から電話が切れると、千冬もスマホの画面を消してポケットに仕舞う。するとある事を思いつき一緒に休憩していた本音の方に顔を向ける。

 

「布仏、お前○月△日は暇か?」

 

「ほえ? その日は確か……予定は無かったと思いますよぉ」

 

「そうか。もし暇であるなら一緒にキャンプに行くか?」

 

「キャンプですかぁ?」

 

「あぁ。夏休みになったら良く一夏や伊田とその弟でよくキャンプに行っているんだ。で、さっきの電話は一夏が所属している料理研究部の顧問からのものでな。その日のキャンプにぜひ参加させて欲しいと言われてな」

 

「なるほどぉ。うぅ~ん。先生、それってお姉ちゃんも一緒でも良いですかぁ?」

 

「布仏姉もか? 別に構わんぞ」

 

「ありがとうございますぅ」

 

本音はそう言い笑顔を浮かべながら

 

(キャンプでお姉ちゃんのあの問題解決できたらいいなぁ)

 

と、姉のある問題解決に繋がれば良いなぁと思いを馳せるのであった。




次回予告
学園内が夏休みの事で盛り上がっている中、独居房に放り込まれていた5人。
再テストで赤点を無くすべく猛勉強していた。
そんな中、専用機持ちである4人の政府では学園から届けられた苦情に頭を抱えていた。

次回
問題児達と頭を抱える政府たち。


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48話

期末テストも終わり、生徒達の多くはやって来る夏休みに心を躍らせていた。

何処に旅行に行こうか。久々に会う家族は元気だろうか。と夏休みを満喫しようとする者が居れば、

期末で思っていた以上に点数が取れなかったから勉強を頑張らないと。もうすぐ就職だからもっと技術を磨かないと。と己を磨くために勉学に力を入れる者で別れていた。

 

そんな夏休み気分で溢れ返る生徒達と打って変わって、とある場所にいる5人は暗い表情を浮かべながら教科書とノートに噛り付いていた。

そう当小説でもうおなじみになっている問題児達である。

 

5人は現在学園にある一般生徒が来ることはほとんど来ない地下に設けられている独居房に勾留されていた。

さて、話を戻して何故彼女達が教科書などに噛り付いているかと言うと、期末テストである。

憶えている人もいるかもしれないが、改めて説明すると彼女達は期末テストでまさかの全教科赤点を取ってしまったのである。

その為、再テストで赤点を無かったことにしようと必死に勉強しているのである。

 

「うぅ、これってどうやって解くのよ」

 

「それはこれですわよ」

 

「むぅ、シャル。このコトワザとはなんだ?」

 

「えっとそれは、この説明をすればいいと思うよ」

 

「……」

 

それぞれ四苦八苦しながら勉強を進めていた。彼女達が赤点を回避しようとしているのは無論成績も関するが、もう一つ重大の事の為だ。それは

 

「鈴さん、しっかり勉強してくださいまし。これで赤点を取ろうものなら確実に退学が決定してしまいますわ」

 

「分かってるわよ! あたしだってまだ学園に居たいのよ!」

 

そう怒鳴りながら教科書に噛り付く鈴。

 

彼女達は赤点を消そうとした最大の理由、それは政府に対し出来るだけ自分達の印象がこれ以上悪くならない様に赤点を回避し、まだ学園でやっていけるという印象を持ってもらおうとしているのだ。

 

 

 

彼女達は赤点を回避できれば学園に残れると思っているようだが、彼女達が起こした問題の数々の事を考えれば赤点回避したくらいで残れるとは思えないが。

 

 

 

 

さて、そんな問題児達の政府の役員たちはと言うと、頭を抱えていた。

 

・イギリス政府

イギリスの国会議事堂、ウェストミンスター宮殿の会議室には数人の男性が難しい顔を浮かべていた。すると扉を叩く音が鳴り響く。そして一人のシルクハットを被った初老の男性が入室してきた。

 

「おぉ、ロズウェル公爵お忙しい中来ていただき感謝します」

 

入室してきた男性に会議室に居た男性達は立ち上がり深々と頭を下げる。

 

「いやなに、旧知が困っていると聞けばすぐに来るさ」

 

そう笑みを浮かべつつ被っていたシルクハットを脱ぎ席へと着く。

それからほどなくして再び扉が開き黒服のスーツを着た男性達に警護されながら一人の女性が中へと入室してきた。

入って来た女性に部屋に居た全員席から立ち上がると胸に手を当てながら首を垂れる。

 

「お待ちしておりました、女王陛下」

 

「皆、集まっているようですね」

 

「はい」

 

返事を聞いたパトリシア女王陛下は会議室奥の真ん中の席へと着くと、部屋の中に居た政府高官達も席へと着く。

 

「ではまず今回IS学園からの苦情が来たことについてご説明させていただきます」

 

「お願いします」

 

パトリシアの言葉に政府役員が立ち上がり、説明を始めた。

役員が口にしたのはIS学園から届いたセシリア達がやってきた問題行動に関する苦情であった。その中にはこの苦情を送る決定打となった臨海学校の事も書かれていたが、無論銀の福音が暴走したことはトップシークレットの事の為、内容を臨海学校の訓練時にセシリア達がまた要らない事をして一夏に大怪我を負わせたとされていた。

 

 

「―――以上が、IS学園から送られてきた苦情内容です」

 

役員から説明された内容にその場にいた全員が険しい表情を浮かべ、パトリシアは手を組みながら目を閉じながら聞いていた。

そして役員の一人が口を開く。

 

「一体何を考えているんだ、オルコット嬢は!」

 

「全くだ。やはりまだあの歳で貴族の末端に座らせるべきでは無かった」

 

「はぁ、バーナード侯とモニカ嬢が生きておられたら、こんな事態をセシリア嬢は引き起こさなかったのでは……」

 

そう口々に漏らす役員たち。すると黙っていたロズウェルが口を開く。

 

「今更起きた事を憂いても仕方あるまい」

 

「た、確かにそうですが……」

 

「起きてしまった事を後悔するよりも、今後我々がどうすべきかを決めるのが最優先だと、私は思うがね」

 

そう言うと、パトリシアも肯定するように目を開き頷く。

 

「確かに、ロズウェル公爵の言う通りです。今は起きてしまった事よりもこの先我々が取るべき道を決めるのが先決です」

 

「畏まりました」

 

そう言い役員は気持ちを切り替え、今後の対応について会議を始めた。

 

 

 

 

 

・中国政府

中国、北京にある中国の国会議事堂、人民大会堂の会議室。此処もイギリス同様に重い空気が立ち込めていた。

イギリスと違うのはその場にいた役員のほとんどが、ある方向に向かって睨みつけている事だった。彼等の視線の先に居たのは中国の代表候補生や国家代表などの選出を担当している役員だった。

大勢の役員から睨まれている役員はもはやこの世の終わりの様な表情を浮かべながら、脚をガクガクと震わせていた。

 

「貴様、今回の失態を一体どうやって責任を取るつもりだ?」

 

「貴様が彼女は男性操縦者の幼馴染で、他国よりも優先に情報を入手できると言ったから、成績もいまいちだった彼女に専用機を渡して向かわせた結果こんなざまなんだぞ!」

 

役員達からの罵声や怒声に担当の役員はもはや青白い顔から土色に変わり、最早死んだような表情であった。

そんな表情になった役員に、議長である王議長は鋭い眼光を向ける。

 

「もういい。警備員、その者をこの部屋から連れ出してくれ」

 

そう言われ部屋に居た警備員たちは役員を両脇に腕を通し引き摺りながら部屋から連れ出していった。

連れ出された後、王は深く、重い息を吐く。

 

「皆、もうわかっていると思うが我々はある意味窮地に立たされている」

 

「どうしますか、王議長」

 

「どうするもこうするも、決まっている。鳳鈴音代表候補生には専用機の取り上げ及び、代表候補生としての地位剥奪。これは決定事項だ」

 

「そうですね。他は如何しますか?」

 

「まずは男性操縦者に対し詫び状と粗品を送れ。但し日本製のお菓子にしておけ。我が国のでも構わんが、相手にこれ以上不快な思いをさせる訳には行かん」

 

「分かりました。日本にある大使館に連絡し、準備させます」

 

「よろしい。では諸君早急に動きたまえ」

 

そう声を掛けるとゾロゾロと役員達は部屋から出て仕事に動き始めた。

 

 

・ドイツ政府

ドイツの連邦議会場では役員と軍上層部の者達が居た。政府側の役員達は大きく頭を抱え、軍側は青筋を浮かべながら不機嫌な雰囲気を醸し出していた。

 

「どうしてこうも問題ばかり起こるんだぁ」

 

役員の一人がそう零すと、他の役員達も重い息を吐く。

 

「これもそちら()側がしっかりとボーデヴィッヒを教育しなかったのが原因じゃないのか?」

 

「何を! こっちにすべて丸投げしている癖にして何を言いやがる!」

 

「いい加減にしろ! お前達が怒鳴り合った所で解決するもんも解決できんだろうが!」

 

そう怒鳴り合う双方。

 

「それでボーデヴィッヒ少佐がこんな馬鹿な事をするようなった原因は一体なんだ?」

 

「どうやら部隊の中の一人が日本のオタクと言う文化にはまっているらしい。それで間違った知識を教えたらしい」

 

「その馬鹿の所為でこうなったと言う訳か!?」

 

「そいつは何者なんだ?」

 

「ボーデヴィッヒ少佐の部下で、副隊長のクラリッサ大尉だ。もう拘束して独居房に放り込んでいる」

 

「それ以外は大丈夫なのか?」

 

「……残念だが、シュヴァルツェア・ハーゼ隊のほとんどが、馬鹿の知識を刷り込まれた状態だった。その為部隊を解散させ、再度訓練学校からやり直しを言い渡してきた」

 

「部隊に可笑しな知識を蔓延させるとは、何を考えているんだそいつはぁ!」

 

自分達の国を守る為の軍隊の一部隊がそんな状態になっているとは知らなかった政府役員は頭を抱え天を見上げていた。

 

「と、兎に角我が国の兵士が大変な事を仕出かしたんだ。しかももうこれで3回目だ! 詫び状と謝罪金を出すしかない」

 

「そうだな。それと、ボーデヴィッヒ少佐の処分はどうするんだ?」

 

「軍部としては、これ以上彼女に部隊を預けておく訳にはいかないから、彼女の階級と専用機の剥奪、そして訓練兵として再度軍学校に入学させようと考えている」

 

「それが良い。それと! 常識の勉強をしっかりとさせておくんだぞ!」

 

そう叫びながら会議を進めた。

 

 

・フランス政府

フランスのリュクサンブール宮殿にはデュノア社の新社長であるマグダスと政府役員が会議室に集まっていた。

さて、マグダスと言う人物が何故デュノア社の新社長かと言うと、前任のシャルロットの父親とその後妻はシャルロットにスパイ行為をするよう指示をしていたが、確かな証拠が無かったため手が出せずにいた。だがある日、警察にデュノア社の汚職に関する証拠が垂れ込まれたのだ。その結果汚職に手を染めていた社長夫妻とその直近の部下達が逮捕されたのだ。

そして株主達は新たな社長として技術部の班長で、多くの社員から慕われている者を新たな社長として選任し就かせたのだ。

 

静まり返る会議室、最初に口火を切ったのは政府役員の一人であった。

 

「それで此度の件、一体どういたします?」

 

「どうするもこうするも、IS学園には謝罪と何かしらのお詫びの物を送るしかあるまい」

 

「そうだな。此処でしっかりと謝罪の意思を示さんと、我々も関与していると思われかねん」

 

「ようやく政府内に居たデュノア社と癒着していた奴を叩き出せたのに、何も関係の無い我々に矛先を向けられるわけにはいかんからな」

 

「うむ。して、デュノア社は何かしらの処分は下すのだよな?」

 

処分するよな?と若干の圧を加えながら問う政府役員に新社長のマグダスは首を縦に振る。

 

「無論だ。シャルロット・デュノアに対して企業代表の資格剥奪と、専用機取り上げを行うつもりだ」

 

「そうか。それを聞けただけでもよしとするか」

 

そう言い、今後の身の振り方についての会議を進めて行った。




次回予告

専用機持ち4人の政府に苦情が入れられてから数日後。
IS学園に政府役員がやってきた。
そして4人の処罰をどうするかの話し合いが始まった。

次回
会議


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49話

学園が問題児達の政府に苦情を入れて数日が経ったある日。

IS学園に設けられている会議室に苦情を入れられた政府役員達が集まっていた。そして対面する反対側の席にはIS学園の学園長轡木と学年主任である千冬が座っていた。

暫しの沈黙の後、轡木が口を開く。

 

「では、話し合いを始めたいと思います。まずは政府側は今回のこちら側の苦情に対し、何か申し開き等はありますか?」

 

そう聞かれ、イギリス政府が最初に口を開く。

 

「いいえ、ありません。むしろ我が国の代表候補生がご迷惑をお掛けした事大変申し訳ございません」

 

「我が中国政府も同じくです。我が国の候補生選出担当官の言葉に踊らされたばかりに、そちらに多大なご迷惑をお掛けしたこと申し訳なく思っております」

 

「フランス政府及びデュノア社も、デュノア社の事でご迷惑をお掛けしたにも関わらず多大なご迷惑をお掛けしたこと誠に申し訳ございません」

 

「ドイツ政府も、Ms.織斑と弟様に数多くのご迷惑を掛けたにも拘らずまた再びご迷惑を掛けた事、大変申し訳ございませんでした」

 

そう言いながら各国役員達は千冬に向かって深々と頭を下げた。

 

「分かりました。して、今回のこちら側の苦情に対してそちら側はどういった処分を検討されるのかお聞かせいただいても?」

 

「はい、まずイギリス政府はセシリア・オルコットに対し代表候補生の地位剥奪、及び専用機の取り上げ。そして爵位…貴族としての地位の剥奪が決定したしました。並びに彼女の資産から今回の謝罪金を振り込まさせていただきます」

 

「中国政府も同じく鳳鈴音の候補生の地位剥奪、そして専用機の取り上げが決定。それと、此度の問題は我々政府にも問題があると考え、賠償金とお詫びの品をご用意いたしました」

 

「我々フランス政府、デュノア社もシャルロット・デュノアを企業代表から剥奪。そして専用機の取り上げを決定しました」

 

「ドイツ政府も度重なる問題行動を引き起こしたラウラ・ボーデヴィッヒを軍規違反として代表候補生の剥奪、及び専用機の取り上げ、更に現階級を剥奪し訓練兵に降格させました」

 

各国政府の処罰に対し轡木はなるほど、かなり重い物ですね。と思い、千冬は鋭い表情を浮かべたままであった。

 

「そちら側の処罰について分かりました。では学園側の処罰をお伝えします。織斑先生」

 

「分かりました。学園側としては4人が起こした数々の問題を踏まえた結果退学処分が妥当だと判断しております」

 

「そうですか。いや、そちらから送られてきた苦情内容などを考えたら妥当ですね」

 

「確かにそうですね」

 

「納得のいく処分かと思います」

 

3ヵ国が千冬の口から出た退学処分に納得している中、中国政府の役員は悩んだ表情を浮かべた後、スッと手を挙げる。

 

「申し訳ないが、発言しても宜しいか?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

「では、今から発言する内容はあくまでも政府上層部の願いでありまして、無理であるならばお断りしていただいて構いません」

 

「ほう、どういった内容でしょう?」

 

「はい、上層部は出来れば退学だけはご容赦願いたいと言伝を預かっております」

 

中国政府の役員から伝えられた内容に他の国の役員は驚いた表情を浮かべ、轡木は怪訝そうな顔を浮かべ千冬は険しい表情を浮かべる。

 

「それはまた、どういった理由でしょう?」

 

「はい。IS学園入学前に代表候補生やその候補生の候補を教育するために、各国の政府が運営する学校があるのはご存知ですよね?」

 

「えぇ、勿論」

 

頷く轡木。

役員の口から出た学校とは、各国の政府が運営するISについて学ぶ教育機関の事だ。其処では国家代表や代表候補生の選出から教育などを行うところである。

オルコットや鈴は此処で教育等を受けて代表候補生に選ばれIS学園へとやって来た。

この教育機関は政府つまり国が運営しており、その運営費は税金等が使われていた。

つまり…。

 

「今回の一件、万が一国民に知られれば……」

 

「政府の教育に疑問を抱かれ不信感を抱かれる。最悪抗議活動になると」

 

「それもありますし、国民だけではなく周辺国からも批難などを受ける可能性があります。そうなってしまえば、進行中の共同プロジェクトを外されたり中止されたり、さらに今後そう言った共同プロジェクトの参加を拒否されたりする可能性があるのです」

 

中国政府の役員が口にしたことに、現在欧州でおこなれている統合防衛計画『イグニッション・プラン』に参加しているイギリス、ドイツの役員の顔が青褪める。

それだけではなく、フランスも非常に不味い事態だと感じたのか同じく顔を青褪める。

 

「そう言った理由で、鳳鈴音の退学だけはご容赦願いたいわけです」

 

中国政府の役員が言い終えると轡木は他の国の人達の方に目線を向ける。

 

「他の方々はどうでしょう? 中国政府と同意見でしょうか?」

 

「…イギリス政府としては同じ思いです」

 

「…ドイツも、同意見です」

 

「…フランスも中国政府と同じ意見です」

 

そう返され轡木はそうですか。と返し暫し目を瞑って考えに更ける。そんな中千冬が口を開く。

 

「しかし、それはあくまでも出来たらの話ですよね?」

 

「えぇ、勿論です」

 

「だったら国の上層部には退学で決まったと――」

 

千冬はそう強く言っている途中で、

 

「織斑先生、お待ちを」

 

轡木がそう制した。

 

「学園長?」

 

「確かに退学となれば、色々と問題が起きるのは確かです」

 

「では!」

 

「しかし、彼女達がこのまま学園に居られますとまた問題を起こされる可能性が高い。いえ、ほぼ確実に起こすでしょう」

 

「それは…はい」

 

「其処でなんですが、彼女達を隔離校舎に異動させるのはどうでしょう?」

 

「「「「はい?」」」」

 

「はぁ!?」

 

政府役員達は轡木の言葉に怪訝そうな顔を浮かべ、千冬は驚愕の表情を浮かべた。

 

「学園長、何を仰られるのですか! 奴らが学園に残せば問題を起こすのは確実だと先ほど仰られたではありませんか!」

 

「えぇ言いました。しかし先程言った通り隔離校舎に異動させるのです」

 

「そんな場所一体何処に?」

 

「織斑先生がご存知ないのは無理有りません。この学園が建てられるのと一緒に作られた建物なんですが、使われる事はほぼ無く、結局倉庫みたいな形で放置されている場所ですからね」

 

「倉庫…。ッ!? あの場所ですか? 学園奥のレンガ壁で覆われた」

 

「えぇ其処です」

 

「あの、その隔離校舎とは一体何なのですか?」

 

「このIS学園には色々な国の者が学びにきます。その中には集団での行動に馴染めず暴れ回る生徒が居るかもしれないと当時の日本政府が思い、そういった生徒を隔離し勉強を教えつつ社会に出ても大丈夫な性格になるよう教育するために建てられた物です。まぁ、結局そういった生徒が来る事は数年に一度くらいで、隔離教室で間に合いましたので結局使われ無くなった建物です」

 

「な、なるほど、そんなものがあったとは」

 

「はい。しかし如何せん使われず倉庫代わりにしていた場所ですので、建物の補修等が必要です。それとこの校舎を使うにも電気や水道等を使えるようにしないといけません」

 

轡木の言葉に政府役員は何が言いたいのか理解した。

 

「……分かりました。すぐに上層部に確認いたしますのでしばしお時間を頂きたい」

 

「分かりました。ではご連絡をお待ちしております」

 

そう言い政府役員達は頭を下げた後一人ずつ退室して行った。

そして役員達が退室した後千冬が口を開く。

 

「学園長、本気で奴らを残すのですか?」

 

「不本意ではありますが、織斑君の安全を考えたら致し方ありません」

 

「どういう事です?」

 

「彼女達を退学させた場合、彼女達を監視しておく者が居りません。そうなれば彼女達は織斑君に会う為だったらどんな手段を取るか分かりません」

 

「其処までの知識があるとは思えませんが…」

 

「確かにそうかもしれませんが、要らぬ物を渡そうとする連中が居るでしょう」

 

轡木がそう言うと千冬の眉間にしわが寄る。轡木が言った連中とは女尊男卑の者達だと。

 

「……確かに奴らも使えるものだったら何だって使う連中ですからね」

 

「えぇ。だから監視もでき、隔離させておける場所に置いておけば彼の安全は保障されます。無論彼女達が脱走何て出来ない様厳重な警備にしておきますがね」

 

「そうですね、それが良いです」

 

 

 

そして翌日イギリス、中国、フランス、ドイツ政府は隔離校舎運営の為の資金提供に同意したのだった。




次回予告
処罰が決定し、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、そして箒は教師部隊に連れられ隔離校舎へと連れられてきた。
何故箒もいるのか、そして隔離校舎とは一体どんな場所なのか?

次回
隔離校舎


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50話

「――ほら、脚を止めないで歩きなさい!」

 

武装した教師達に睨まれながら歩く問題児達。彼女達は再テストを終え部屋(独居房)で休んでいた所武装した教師部隊に部屋から出てついてくるようにと言われ出てきたのだ。更に片方の足首には謎の枷を着けられて。

 

「ど、何処に連れて行く「喋らない!」…」

 

口を開いたセシリアに教師は一切取り合おうとはせず、黙って歩けと命令する。そして暫くして5人はレンガの壁がそりたち、重苦しそうな鉄の門前へと連れて来られた。

その門の前には

 

「来たか」

 

と鋭い眼光で5人を見つめる千冬が立っていた。

 

「それじゃあついて来い」

 

そう言い千冬は重苦しい鉄の門を開けて中へと入る。5人は入るのを躊躇うも

 

「ほら、早く歩きなさい!」

 

教師部隊にせっつかれ、諦めて中へと入っていく。

中へと入ると少し広めの運動場と奥には古めかしい木造の建物が立っていた。

 

「あの、千冬さ「織斑先生だ、鳳」織斑先生。此処って、一体何なんですか?」

 

「此処か? 此処はお前達が卒業まで生活する場所だ」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

千冬の言葉に5人は驚愕の声を上げる。

 

「目の前に見えるあの木造の建物。あれがお前達の生活をする為の家でもあり、勉強をする為の校舎だ」

 

「あ、あんなボロイ木造建物がですか?」

 

「昔教科書で見た山間にある村の学校みたいだ…」

 

シャルや箒は建物の外観に驚愕している中、セシリアは千冬のある言葉が気になり恐る恐る手を挙げる。

 

「あ、あの、織斑先生」

 

「なんだオルコット?」

 

「先程の説明に私達の生活する家と聞こえたのですが?」

 

「言ったぞ」

 

「え? ま、待って下さい! 私達、この校舎で寝泊まりするというのですか!?」

 

「寝泊まりだけじゃないぞ。食事等もこの校舎だ」

 

「「「「えぇーーー!!?!?」」」」

 

「そ、そんなこんな埃っぽい場所で暮らすなんて…」

 

「こ、これは流石に…」

 

茫然と言った表情を浮かべる5人。

 

「ほら校舎内に入るぞ」

 

そう言われ重い足取りで千冬の後に続く5人。校舎内に入ると一応修繕はされたのか建物内部の廊下や壁は綺麗で埃等は無かった。

そして5人を連れて千冬は校舎内を案内していく。

 

「此処が教室だ」

 

そう言い中を見せられる5人。中はまさに昔の学校そのもので木製の床に壁。さらに木製の机といすが5人分置かれていた。

 

「な、なんかTHE昔って感じね」

 

「え、えぇ…」

 

日本人の箒や一時期日本に居た鈴はその光景に思わずそう声を漏らす。

 

 

「――此処が食堂だ」

 

そう言って案内された場所は

 

「あの、織斑先生」

 

「なんだ?」

 

「此処って、家庭科室ですよね?」

 

「そうだな」

 

そう、千冬が言った食堂とは家庭科室であった。中には簡易の机にシンク。それとコンロが置かれていた。

 

「あの、食堂って言うなら料理を作ってくれるおばちゃんも「いる訳無いだろ」え? じゃあご飯は?」

 

「自炊に決まっているだろうが」

 

「「「「「Σ(゚д゚lll)ガーン」」」」」

 

千冬の言葉に信じられないと言った表情を浮かべる5人。

 

「当たり前だろう。此処はお前等問題児を更生させる意味合いを兼ねている校舎だ。料理も洗濯も此処では全て自分でやるんだ。サボればそれだけ苦しむのは自分自身だという事を分からせるのにこれほど良いカリキュラムなど無いだろ」

 

「じ、自炊は分かりました。でも、食材は?」

 

「今年は配給してやる」

 

「え? 今年は?」

 

千冬の言葉にシャルが思わず聞き返す。他の4人もどういう事だと言った表情を浮かべていた。

 

「言ったはずだ。此処はお前達の更生も兼ねていると。つまり、来年からはお前達が自分達の手で食材を確保しなければいけない」

 

「「「「「はいぃ!!?!」」」」」

 

驚愕の声を上げる5人。

 

「そ、そんなの流石にあんまりですわ!」

 

「そうですよ! 野菜の作り方なんて知りませんよ! それに肉とか、魚とかは!?」

 

セシリアや鈴はそう声を荒げる。

 

「だから来年からと言っている。今年中に野菜の作り方について勉強して来年から行えばいい。それと肉は流石に難しいから配給してやる。魚は釣りが出来る箇所があるから其処で釣れ。それとデュノア、お前は確か山間育ちだろ」

 

「えっと、はい」

 

「野菜の作り方とかの知識は?」

 

「た、多少は…」

 

「ほら、多少とはいえ野菜の作り方を知っているやつが居るなら問題無いだろ。」

 

「で、ですがそんなうまくいくはずが…」

 

「そうだな。だから失敗しない様努力するしかない。が、其処まで私も鬼じゃないから救済措置を用意してある」

 

「救済措置ですか? それって一体?」

 

「後で説明してやる。次に行くぞ」

 

そう言い次の場所に案内し始める千冬。次に案内された場所は宿直室と表札が掲げられた部屋だった。

 

「此処がお前達の部屋だ」

 

そう言い中を見せられる5人。中には畳の敷かれた部屋で教室と同じ木製の机といすが5セット置かれており、部屋の隅には布団が5組置かれていた。

 

「あの、もしかしてアタシたち……」

 

「5人全員、相部屋ですか?」

 

「そうだ」

 

千冬の即答に5人は顔を見合わせて嫌そうな顔を浮かべる。

 

「あの、個室にする事は「無理に決まっているだろ」そ、そんなぁ…」

 

「あの、もしかして僕達が学校に持ってきた荷物もこの部屋に?」

 

「あぁ。お前達の部屋にある荷物を今教員達がせっせとまとめているはずだ。終わったら此処に持ってくる」

 

「ま、待って下さいよ! そうなったら確実にこの部屋…」

 

「狭くなるだろうな。まぁ安心しろ、隣が倉庫になっている。其処にでも放り込んでおけば問題ないはずだ」

 

そう言われ少し安堵した表情を浮かべる。が

 

「但し中は物で溢れかえっているから、入れられないがな」

 

そう言い倉庫と表札が掲げられた部屋の扉を開ける千冬。部屋の中には色々な物が積み重なって置かれており、ぎゅうぎゅう詰め状態であった。

 

「入れたければ 自分達で掃除して入れるしかない」

 

「「「「「……」」」」」

 

「次行くぞ」

 

次の場所へと案内を始める千冬。5人はどんよりとした暗い気持ちを引き摺りながら千冬の後に続く。

 

「――此処が畑だ。そしてあそこだけレンガの壁が無いだろ? あそこが釣り場だ」

 

そう言い千冬は次に案内した場所、其処は校舎の外に設けられている畑と海釣りのできる場所であった。

 

「一応言っておくが、あの壁の無い場所から脱走なんて考えるなよ。監視カメラで監視されているし、お前達の足首に着いている枷はGPS内蔵の追跡装置だ。この壁から出た瞬間大音量のアラームが鳴り響いて位置を知らせる。それと無理にとろうとするなよ。外そうとした場合でもアラームが鳴り響くからな」

 

そう言われ自分達の足首に巻かれた物に驚く5人。

 

「汚れとかは大丈夫だぞ。足から抜けない様になっているが、多少は動く様になっている。が、足から抜き取ろうとしてもアラームが鳴るからな」

 

千冬の忠告にうっ!と肩を跳ね上げる鈴とボーデヴィッヒと箒。

 

そして全ての場所を案内し終えた千冬達は校舎前へと移動した。

 

「では以上で案内は終わりだ。何か質問は?」

 

「はい」

 

「なんだオルコット」

 

「その、食堂で話されておりました救済措置とは何ですか?」

 

「救済措置とは言葉の通り、お前達がもうどうにもできないと言った場合の為の物だ」

 

そう言いながら千冬は教師部隊の一人に合図を送ると、その教員は校舎から一つのフリップを持ってきた。

其処には

『救済物品』

と書かれており、そこには様々な物の名が書かれておりその隣には何かの数字が書かれていた。

救済物品には野菜の盛り合わせセットや海鮮セット、肉セットなど食材関連。更にはゲームや音楽再生機、更にはDVDなどと言った娯楽用品から寝具を布団からベッドに変更するなどと言った物が書かれていた。

 

「これが救済措置の内容だ」

 

「……あの、織斑教官。この数字は何ですか?」

 

ボーデヴィッヒは隣に書かれていた数字が気になり聞く。

 

「これか? これは救済措置を利用する場合の値段だ」

 

「ゆ、有料なんですね」

 

「当たり前だ。それとこの救済措置を利用する為には専用のポイントでなければならない」

 

そう言われ、えっ!?と驚いた表情を浮かべる5人。

するとオルコットが口を開く。

 

「そのポイントって、どうやって貯めるんですか?」

 

「ポイントはお前達の勉強に対する態度や素業によって支払われる額は代わる。態度が悪ければポイントは殆んどない。逆にしっかりと真面目にしていればポイントは高く支払われる。それとは別に学園が用意した内職をするかだ」

 

「な、なるほど」

 

そうしていると一人の教師部隊の教員がスマホに掛かって来た電話に出る。暫し会話をした後、電話を切り千冬の傍に行き耳打ちで何かを話す。

 

「そうか、わかった」

 

そう言うと教員は離れて再び5人の監視に着く。

 

「喜べ、お前達の再テストの結果だが、ギリギリ赤点は回避されていたらしい」

 

千冬の言葉に5人は安堵した表情を浮かべる。

 

「よ、良かったぁ」

 

「本当に一時はどうなるかと思いましたわ」

 

「そうだね」

 

「全くだ」

 

「ふぅ、これで私たちの退学は無いですよね織斑先生」

 

箒がそう聞くと、千冬は

 

「退学? 一体何の話だ?」

 

と呆れた表情で返した。

 

「え? だって赤点回避出来たんですから、退学は無くなるんですよね?」

 

「誰も赤点を取ったら退学なんて言ってないぞ」

 

「そ、そうだったのですね。えっと、それじゃあこの校舎行きは無くなるという事ですか?」

 

「いや、この校舎行きは確定だ」

 

「「「「「えぇぇええぇ!??!!?」」」」」

 

千冬の言葉に5人は声を荒げ千冬に問う。

 

「ど、どういう事ですか!? 何故こんな隔離された校舎にこいつらと一緒に異動させられるんですか!」

 

「こいつらってどういう意味よ!」

 

「ちょっと静かにしてくださいまし!」

 

「そうだよ!」

 

「えぇい教官の前で騒ぐなお前等!」

 

ギャーギャーと騒ぐ5人。千冬はその光景に対し、スゥーと息を吸い、そして

 

「ギャーギャーと喚くな、小娘共ぉ!」

 

そう叫ぶと5人はヒッ!?と小さく悲鳴を上げガタガタと震えながら気を付けの姿勢を取る。因みに教師部隊も千冬の怒鳴り声に悲鳴こそ上げなかったものの、ビクッと肩を跳ね上げた。

 

「貴様等がこの隔離校舎行きなのは確定だ。本当は退学にする予定だったがお前等の政府が頭を下げて退学だけは勘弁してほしいと頼み込んできたために、学園長がお決めになられた事だ」

 

「え? 政府が!」

 

「そ、それじゃあまだ私たちはまだ見捨てられてない「そんな訳ないだろ」へ?」

 

「お前達は代表候補生の地位剥奪、そして専用機の取り上げが決定している。それとこれはそれぞれの政府の決定だが、まずはオルコット」

 

「は、はい」

 

「お前の爵位剥奪、そしてお前の資産から今回の事件の慰謝料支払いが決まった」

 

「そ、そんな…」

 

千冬の言葉にオルコットは膝から崩れ落ちる。

 

「そして次にボーデヴィッヒ」

 

「わ、私ですか?」

 

「お前は階級を中尉から訓練兵に降格、更にお前の部隊も解散が決定した」

 

「なっ!?」

 

ボーデヴィッヒは目を見開き、千冬の言葉を信じられずにいた。

 

「一応言うが、地位剥奪と専用機取り上げはお前達の政府が決定したことだ。それと退学免除を願い出た理由は、お前達が退学になったという情報が国内外に広まり政府の信用が無くなるのを恐れてだ」

 

「そ、それじゃあ僕達、もうあっちの方の校舎には…」

 

「戻れるわけが無いだろ。お前達があっちの校舎に戻ったらまた問題事を引き起こすからな。卒業までこの校舎で過ごしてもらう。退学にならなかっただけでもありがたいと思え」

 

そう言い千冬は説明は以上だ。と言い歩き出す。

 

「ま、待って下さい!」

 

箒はそう叫び千冬を呼び止める。

 

「なんだ、篠ノ之?」

 

「ど、どうして私もこいつらと同じ隔離校舎なんですか!?」

 

「お前も問題事を引き起こし続けていたし、それにお前は束の妹だ。警備の厳重な所に身柄を置いておけば誘拐される心配も無いからな。それが理由だ」

 

「そ、それだけの理由で、ですか?」

 

「それだけと言うが、十分すぎる理由だ」

 

そう言い千冬と教師部隊は今度こそ隔離校舎の敷地から出て行く。敷地から出たと同時に鉄の門がギギギギと音を立てながら閉まった。

残された5人は千冬から告げられた事にショックを受け、暫しその場から動けずにいた。




次回予告
夏休みに突入したIS学園。
一夏は伊田と千冬、そして伊田の弟と集合場所に居た。
其処に料理研究部の部員、そして本音とその姉である虚がやって来た。
そしてそれぞれ用意した車に乗り込んで出発し、目的のキャンプ場に到着するとそれぞれキャンプを始めた。

次回
夏休み編~キャンプpart1~
「肉、肉、肉!」

「本音、野菜も食べなさぁい!」


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51話

夏休みが始まって数日。一夏は伊田と千冬、そして

 

「いやぁ、何時も悪いな真司」

 

「別にいいよ。俺も偶には一人よりも大勢でキャンプとかやりたいからな」

 

そう言いながら近くに停められているジープに荷物を載せ荷崩れ防止用のネットを掛ける真司と呼ばれた茶髪の男性。

 

「真司さん何時もすいません」

 

「なぁに良いって事よぉ。てか、久しぶりに会うが一夏君、前より女性に少し慣れたって?」

 

「はい。でも、まだ少し怖いですけど…」

 

「いいさ、いいさ。少しずつ治せばいいさ。焦った所で進むもんも進まんさ」

 

そう言い笑みを浮かべる真司。

すると一台のハイエースがやって来た。そして運転席から幸平、そして後部座席からぞろぞろと料理研究部の生徒達が降りてきた。

 

「すいません、遅れてしまいました」

 

「いや、まだ時間的に余裕はありますよ」

 

千冬がそう言っていると

 

「すいません、遅くなりました!」

 

「遅れてすいませぇん!」

 

そう言いながら駆けてきた本音と、本音と同じ髪色でポニーテールにした一人の女性。

 

「いや、問題無いぞ。布仏姉も今日は良く来れたな」

 

「はい。前当主が私に働き過ぎだとおっしゃられて、暫く休みを頂いたんです」

 

「なるほどな」

 

千冬は頭の中に浮かぶ一人に対し呆れた思いを抱く。

 

「セレスさん達もおはようございます」

 

「やっほ~、虚さん」

 

「今日はよろしくね」

 

そう挨拶を交わしていく虚。すると虚は一夏が居る事に気付く。

 

「えっと、初めまして。織斑一夏です」

 

「初めまして、織斑君。本音の姉の虚と言います。何時も妹がご迷惑を掛けて御免なさいね」

 

「い、いえ。何時も助けて貰ったりして貰ってるので、むしろ此方の方が迷惑かけてないか、心配で」

 

「そんな事は無いわよ。何時も生徒会室で、織斑君の事楽しそうに話してるから」

 

「そ、そうですか」

 

虚の言葉に一夏は照れた表情を浮かべ、本音も顔を赤く染めながら

 

「もぉお姉ちゃんなんで言うのさぁ!」

 

とポカポカと効果音がなってそうな感じで虚を叩いていた。

和やかな雰囲気が流れている中、幸平が疑問に思っていた事を口にする。

 

「所でそちらの男性は?」

 

「あぁ、コイツは俺の弟の」

 

「真司って言います」

 

「大学で山岳部に入っていて、今は山岳ガイドをやっているんです。その為山の事やキャンプに関する知識は豊富なんです」

 

「そうですか。私、IS学園料理研究部顧問の幸平エリカと言います。キャンプに関する知識は書籍等を閲覧した程度なので、色々とご指導いただくと助かります」

 

「構いませんよ」

 

「ありがとうございます。ほら、皆も挨拶!」

 

『本日はよろしくお願いします!』

 

「おう、任せな」

 

「それじゃあ早速出発しますか」

 

洋一がそう言うと真司が運転するジープには洋一、一夏、千冬が乗り、ハイエースには幸平と料理研究部、そして布仏姉妹が乗り込み出発した。

ジープを先頭にハイエースが後に続き、暫く走り続け都会から離れた森林のキャンプ場へと到着した。

それぞれ車から降りると積み込まれていた荷物等を下ろし、それぞれテントを設営していく。

テントを建て終えると真司が荷物から複数の釣り竿を取り出す。

 

「このキャンプ場に流れている川で魚が釣れるんだ。夕飯の材料にしたいから釣りに行く人?」

 

「因みにだけど、一夏君と俺は自前の釣り竿で釣りに行くよ」

 

真司と洋一の言葉に料理研究部の面々はどうすると話を始め、暫くして

 

「それじゃあ頼んだわよ」

 

「えぇ、任せて」

 

「うむ!」

 

「おっきいの釣って来るわぁ」

 

「任せて下さい!」

 

3年の稲葉と2年の神崎と1年の狗山とニコラスが選ばれ釣り竿をもって一夏と洋一と共に川へと向かって行った。

 

「それじゃあ残った俺達はそれぞれ夕飯の準備に取り掛かろうか」

 

『はい!』

 

真司の言葉に残ったセレス達が返事をし、それぞれ持ってきた保冷箱から食材などを取り出し料理を始める。

そんな中、虚は調理するセレス達から離れ焚火などの準備を始めようとすると、真司が口を開く。

 

「あれ、布仏さんは料理しないのですか?」

 

「実はお恥ずかしい話、私料理が苦手で…」

 

「あぁ、なるほど。それじゃあ自分が教えましょうか?」

 

「え? いや、そんな良いですよ。本当に簡単にできる様なことも出来ないので…」

 

そう言い申し訳なさそうに断る虚。すると本音が

 

「お姉ちゃん、教えてもらったらぁ?」

 

「本音?」

 

「お母さんもお姉ちゃんが料理できない事に悩んでいる事ずっと気にしてたし、この際料理できるようになってたらお母さんも安心するし、将来の相手の人も手料理食べさせてあげたいでしょ?」

 

「た、確かにそれはそうだけど…」

 

悩む虚に真司が言葉を掛ける。

 

「自分もそれが良いと思いますよ」

 

「どうしてですか?」

 

虚の言葉に真司は照れ臭そうに頭を掻きながら返す。

 

「実は自分も料理が苦手だったんです。それも超が付くほどね」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「えぇ。最初の頃は別に料理なんて出来なくても良いと思ってたんです。でもある時に友人達とキャンプに行った時に言われたんです。『別に料理なんて見た目じゃない。味が良ければ見た目なんてどうでも良いんだよ。だから作ってみろって』ね。それでそのキャンプで初めて包丁を握って料理をしたんです。で、出来上がった料理は見た目はもう最悪でしたよ。形が不揃いな肉や野菜。焦げかけの焼き魚だったりと見た目は最悪でした。けど、友人達はそれを旨いと言って食ってくれたんです。それから俺はもっと旨い飯を友人達と食べたいと思って料理の勉強をやり始めたんです」

 

「そんなことが…」

 

「えぇ。だからこういったキャンプでの料理はいい練習になると思いますよ。だって見た目なんて気にしなくても旨ければそれでいいんですから」

 

ニヤッと口角を上げながら笑みを見せる真司に、虚は暫し考えた後

 

「…分かりました。その、真司さん料理を教えてもらっても良いですか?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

そう言い真司と虚は調理をしているセレス達の元に向かっていく。

その後姿に本音はニコニコと笑みを浮かべていた。

 

「上手く行ったみたいだな」

 

タンクに飲み水を汲みに行っていた千冬がそう本音に声を掛ける。

 

「えへへへ、はい」

 

「料理苦手は私も同じだったからな」

 

「先生もですか?」

 

「あぁ。だが私も洋一からだが、見た目に拘らず美味い物を作るを意識すればいいって言われて少しずつ練習したおかげである程度料理は出来るようになったからな」

 

「へぇ~、そうだったんですかぁ」

 

「あぁ。さ、駄弁っていないで一夏達が釣ってくる魚を調理出来るよう準備を始めよう」

 

「はい!」

 

一夏達が釣りに行って数時間後、洋一たちが笑顔を浮かべながら帰って来た。

 

「おぉ~い、戻ったぞぉ!」

 

「あ、お帰りなさい伊田先生! どうでした?」

 

「いいサイズのイワナにヤマメが釣れたぞ」

 

「結構釣れましたね」

 

「そうやなぁ」

 

「楽しかったです!」

 

「此処の山の川は綺麗じゃったのぉ」

 

「本当に、綺麗な川でした」

 

稲葉たちがそう感想を零しながらクーラーボックスの中身を見せる。中にはイワナやヤマメが十数匹と入っていた。

 

「おぉ、活きの良さそうなイワナだぁ」

 

「本当ですわね」

 

イワナやヤマメの姿にそう声を漏らすセレスと藤條。するとアメリアが思った事を口にする。

 

「そう言えば川魚の刺身はあまり食べた事がありませんわね」

 

「あ、そう言えば確かに」

 

アメリアの言葉にセレスが同意するように口を開く。

すると真司がその訳を口にする。

 

「川魚の刺身は専門店じゃないとまず無いな」

 

「どうしてですか?」

 

「川魚の身には寄生虫が一杯いるんだ。だから加熱するなりして寄生虫を殺してからじゃないと食べられないんだ」

 

「そうなんですか。ですが、鮭はどうなんですか?」

 

「あ、確かに鮭って川魚ですもんね」

 

「確かに鮭も川魚だ。けど、普段寿司や刺身用のパックに入っているのはサーモンって呼ばれる養殖の鮭なんだ。日本だと自然で取れた物を鮭と呼んで、養殖された鮭をサーモンって呼んでいるんだ」

 

「へぇ~、そうだったんだぁ」

 

真司の豆知識に料理研究部の面々はなるほどぉと為になったと言った表情を浮かべていた。

 

それから釣って来た魚をそれぞれ内臓を取り出し、持ち易い様に串を刺していく。

 

そして

 

「それじゃあ――」

 

『いただきまぁす!』

 

真司の言葉に皆声を揃えて言うとそれぞれBBQコンロに乗っている肉や野菜、川魚に手を付ける。

 

「うぅ~ん、このイワナ美味しい」

 

「そうね、良い感じに脂とかが乗っているから美味しいわね」

 

セレスや稲葉は焼き魚に舌鼓を打っていた。

 

「お肉が良い感じに焼けていて美味しいぃ!」

 

「そやなぁ」

 

「うむ、炭で焼いたというのもあってか、程よく脂が落ちていて旨いのぉ」

 

「そうね。こう皆でワイワイと食べるのもいい物ね」

 

ニコラス達はそれぞれ持ってきた肉を焼いており、自然の中で食べる肉にお店で食べるのとはまた違う美味しさに舌鼓を打っていた。

 

「織斑先生、幸平先生。何かお取りしましょうか?」

 

「む? それじゃあ済まんが、其処の焼き魚を一つ頼む」

 

「私はおにぎりをお願いね」

 

「分かりましたわ」

 

「はい、一夏君」

 

「あ、ありがとうございます」

 

千冬達教師陣もそれぞれ火の守を行いつつ楽しむ生徒達に笑顔を浮かべてみていた。

そして本音と虚はと言うと

 

「肉、肉、肉ぅ♪」

 

「こら本音! 野菜も食べなさい!」

 

虚が肉ばかり食べる本音を叱っていた。その光景に皆笑いながら見つめ、和気藹々と言った雰囲気となった。

それからコンロや道具などを片付け、他のキャンプ客の邪魔にならない場所に移動し、其処で持参した花火で遊び、その後それぞれテントに戻りその日を終えた。

 

 

 

因みにメサはと言うと

 

【博士ぇ! 貴女どうしてこんな部屋が汚くなっているんですかぁ! 前に掃除した時以上に汚くなっているじゃないですかぁ!(# ゚Д゚)】

 

「しょうがないじゃ~ん! いっくんに渡すプレゼントの案がポンポンと出て来て色々手を付けたらこうなっちゃったんだもぉん!」

 

【それでも酷過ぎでしょうがぁ!】

 

束の隠れ家で束に説教していた。

何故メサが束の隠れ家に居たかと言うと

 

「もうメンテは終わったんだし、早くいっくん達のキャンプ場に行こうよぉ」

 

【この部屋の状況をそのままにはしておけません! (#^ω^)】

 

そう、メサのメンテナンス日だったのだ。

しかしメンテナンスは直ぐに終わるような内容だったのだが、メサが束の部屋を見た瞬間お掃除モードに切り替わってしまったのだ。その為朝から陽が沈んだ夜までずっと掃除をしていたのだ。

 

【ほら、博士も手を動かしてください! 早くしないとキャンプに行けませんよ!】

 

「うわぁ~~ん! ちーちゃん! よーくん! しんくん! いっくん! たすけてぇ~~~~!」

 

束の叫びが木魂しながらも夜は更けていくのであった。

 

 

 

人物紹介

伊田真司(容姿:HSD×Dの一誠からスケベを無くし、男前度を上げた感じ)

伊田洋一の弟。兄洋一と違い医療の道ではなく山の道を進んだ。

山が好きで山やキャンプに関する知識は豊富で、よくソロキャンプをしている。

山岳ガイドの仕事を生業にしており、多くの登山客から慕われている。




次回予告
キャンプ2日目に束とメサと合流し、一夏達はキャンプを楽しみ始める。
そして遊んでいる最中に、アイラも登場し一同驚愕。
そこで一夏とアイラの出会いの話が語られる。

次回
ファーストコンタクト


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52話

朝日が昇り始めた頃、虚は眠っている他の人達を起こさないよう寝袋から出て服を着替える。

そして歯を磨こうとコップと歯ブラシをカバンから取り出しテントから這い出た。

公共水道場で身支度を終えテントへと戻ってくると、コンロで何かをしている真司がいた。

 

「おはようございます真司さん」

 

「あ、虚さん。おはよう」

 

「何をされているんですか?」

 

「みんなの朝食に燻製ベーコンを用意しているんです。あとは目玉焼きと焼いたパンを出す予定です」

 

 

「それって…」

 

「えぇ。あの映画のご飯シーンと同じものです。いいですよ、映画飯を再現するのは。実際に美味しいですし」

 

 

笑顔を浮かべながら真司はコンロの火を見守る。すると何かを思いついたのか虚のほうに顔を向ける。

 

「そうだ。皆さんの朝食を虚さんが用意してみませんか?」

 

「わ、私がですか?」

 

真司の突然の言葉に虚は驚いた表情を浮かべ、すぐに首を横に振る。

 

「む、無理ですよ。昨日野菜とか肉を切るのだけでも緊張したのに…。そ、それにみんなの朝ごはんとなると失敗したら…」

 

「大丈夫ですよ。私もそばにいますし、やばかったら手助けしますから」

 

真司の言葉に虚はしばし悩んだ表情を浮かべ、その後意を決したのか首を縦に振る。

 

「わ、わかりました。やってみます」

 

「ではまずはベーコンが燻製されるのを待ちましょうか」

 

そういい二人はベーコンが燻製されるのを待った。しばらくして真司は燻製機からベーコンを取り出しまな板の上へと置く。

 

「それじゃあこのベーコンの塊を1人2枚配れる様にしたいので、このくらいの厚さで切っていてください」

 

そういい真司はベーコンを切り、分厚くもなく薄くもない程度の厚さのベーコンを切った。

 

「わ、わかりました」

 

虚は緊張した面持ちで包丁を握りゆっくりと真司が見本で切ったベーコンと同じ厚さで切り始めた。

緊張で手が震えながらもしっかりと昨日教えてもらった左手を猫の手にしながらベーコンを抑え右手の包丁でスッと引きながら切っていく。

 

「いいですよ。昨日よりも上手になっています」

 

「そ、そうでしょうか? こっちのこれは少し厚いですし、これは薄いように感じるのですが?」

 

「それは仕方ありませんよ。どれも同じ厚さで切ろうとするのは難しいですしね」

 

「そ、そうですが…」

 

「それと虚さん。料理を少し難しく考えているんだと思いますよ」

 

「え?」

 

真司の言葉に虚は首をかしげる。

 

「料理が苦手な人って難しく考えたりしすぎるんですよ。調味料の量はこの量ぴったりにしないといけないとか、材料とか混ぜたりする際にどれだけ混ぜれば良いのか?とか難しく考えるためにいろいろと時間が過ぎていき、どんどん工程が圧迫していって失敗するんです」

 

「なるほど」

 

真司の言葉に虚はどこか納得のいった表情を浮かべる。

虚がこれまで何度か料理を作ろうとしたが、どれも上手くいったことはなかった。虚はそれは自分には料理の才能がないとばかり思っていた。

しかし真司の言葉で自分が難しく考えていたから上手くかなかったのか。そう思えたからである。

 

「そうですね。今までやってきた料理の練習でも難しく考えていたせいか、焦がしたり、煮込みすぎたりって言ったことは多々ありましたね」

 

「そうでしょ? 料理は多少の誤差は別に問題ないんですよ。ましてや最初のうちはね」

 

笑顔を向けながら告げてくる真司に虚はドキッと今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じ、さらに頬にも熱を帯びるのを感じ顔を明後日の方向へと向ける。

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いえ。何ともありません!」

 

そういいながら作業を続ける虚。

 

そして次に焼きの工程に入る。

 

「それじゃあ虚さんはベーコンを焼いてください。自分は目玉焼きを作るので」

 

「わかりました」

 

虚はフライパンに油を入れ、熱した後ベーコンを入れる。ジュージューとそそられる音と香ばしいにおいがあたりにひろがる。

 

(そろそろ上げるべきでしょうか? けど肉でしたらもっとしっかりと焼かないといけないでしょうか?)

 

色々と不安的なものが浮かび上がってきた。

どうしようかと悩んでいたが、虚はハッと隣にい真司がいることを思い出し申し訳なさそうに口を開く。

 

「あの、真司さん。ベーコンの焼き加減ってこれくらいでいいですか?」

 

「そうですね。それくらいでいいですよ」

 

そう言ってもらえ虚は安心しベーコンを並べた皿にそれぞれ2枚ずつ取り上げていった。そして真司の目玉焼きもフライパンの上で切り分けてそれぞれの皿の上に並べていく。

それからしばらくしてそれぞれのテントから料理研究部から一夏達が出てきた。

 

「うわぁ~、いい匂いしてると思ってたらおいしそぉ~!」

 

「これってあのアニメ映画のご飯だよね?」

 

「ですです! 私あの映画何度見直してもあのベーコンが焼かれるシーンのところでおなかが空くんですよねぇ」

 

「朝からボリュームがある感じだけど、動けば問題ないわね」

 

「うむ、朝はしっかり食べるのが一番じゃ」

 

そう話している中、真司がニコニコと笑顔を浮かべながらある事を話し始めた。

 

「みんな、その朝食は実は虚が用意してくれたんだ」

 

「「「「「おぉ~~~!!」」」」」」

 

真司の言葉に全員歓声の声を上げる。虚はというと

 

「い、いえ。私がやったのは燻製されたベーコンを切って焼いただけですよ」

 

「けど、いい経験になったでしょ?」

 

「ま、まぁそうですね」

 

真司の問いに虚は照れながらそう答える。

 

「うむ、それじゃあ虚が用意してくれた朝食を「おぉ~~~~~い!!」ん?」

 

千冬が早速食べようかと声をかけた途中で知っている声が聞こえ、その場にいた全員が声がしたほうに顔を向ける。

顔を向けた先にいたのは登山服を身に包み大きなカバンを背負った女性と小さなカバンを背負い、白杖を持った少女。そしてその少女に手を握られているメサが一夏達のほうへと近づいてきていた。

 

「あれ誰だろう?」

 

「それに隣のロボットは一体?」

 

上級生達は一夏の隣にいるメサを見たことが無い為首を傾げいる中、1年生たちはというと

 

「あれって臨海学校の時に来ていたロボットだよね?」

 

「そやなぁ。てか、隣の人どっかで見たことあるような気がするなぁ」

 

そう話していると、2人は一夏達のもとに到着し、女性は背負っていた荷物をドサッと地面へと下す。

 

「いやぁ~、遅くなってごめんねぇいっくん、ちーちゃん、よーくん、しんちゃん」

 

「まったくだぞ。メサのメンテナンスが終わったらすぐに行くといっておったのに、全然来なかったから心配していたんだぞ」

 

「めんごめんご!」

 

千冬の叱責に女性は笑いながら謝罪をする。

 

「もとはといえば束様が普段から掃除しっかり行っておれば遅くなることなどなかったのにでは?」

 

目を閉じた少女がそう口にすると、束と呼ばれた女性は顔を明後日の方向に向けながら「アッハッハッハ!」と笑いながら誤魔化す。

 

【全くです。坊ちゃまに新作のぬいぐるみ等を作成されるのは良いですが、掃除も大事ですよ。(ーー;)】

 

「はぁ~い、次から気を付けまぁす」

 

メサの言葉に気の抜ける感じで返す。そんな中少女が口にしたある名前に料理研究部や虚は驚いた表情を浮かべていた。

 

「今、あの子あの女性のこと、束様って呼んでなかった?」

 

「え、えぇ。呼んでたわね」

 

「ま、まさか本当にあの…?」

 

「ま、まさかこの様な場所におるわけないじゃろ?」

 

2,3年生は目の前にいる女性があの篠ノ之博士なのか?と疑問に見ている中、1年は

 

「や、やっぱりあの時臨海学校の時に来てた篠ノ之博士だ!」

 

「ほんまやぁ。まさかこんなところで会うなんてなぁ」

 

そう零し2,3年生は本当にあの篠ノ之博士なんだと確信したのだった。

 

「おい、束。いい加減こいつらに自己紹介したらどうだ?」

 

「おっといっけねぇ。はろはろ~天才博士篠ノ之束さんだよぉ。本当は昨日参加するつもりだったけどさっき聞いた通り遅れてね。今日、明日とよろしくね」

 

「「「「「は、はい! よろしくおねがいします」」」」」」

 

束の挨拶に2,3年生たちは緊張した面持ちではあるものの挨拶を帰す。

 

「ところで束、そっちにいる少女はクロエだったか?」

 

「うん。クーちゃんだよぉ」

 

束がそういうと、クロエは一歩前に出て奇麗にお辞儀する。

 

「皆様初めまして。束様のもとでお手伝いをしております、クロエ・クロニクルと申します。今日、明日とよろしくお願いします」

 

「うん、よろしく」

 

「よろしくなのじゃ」

 

そう挨拶をする料理研究部の子たち。そしてもう一体もプラカードを出す。

 

【皆様方初めまして。織斑家の家事補助ロボットのメサでございます。2日間よろしくお願いいたします。( `・∀・´)ノヨロシク】

 

「よろしく」

 

「はぁ、家事補助のロボットとはまた凄いロボットですわね」

 

メサの姿形に皆興味津々で見ている中、束が真司に声をかける。

 

「ねぇねぇしんちゃん。束さんとクーちゃんのご飯は?」

 

「おっと、そうだった。すぐ作らないとな。2人分だけでいいか?」

 

「いいえ、3()()()()

 

「そっか、3人分だな。……え?3人?」

 

突如聞きなれない声が聞こえ、全員声がしたほうに顔を向けると、其処には一夏の隣に赤茶髪の少女が座っていたのだ。

 

「え? だれ?」

 

誰かがそう声を漏らす中、一夏が口を開く。

 

「あ、アイラ出てきていいの?」

 

「いずればれるもの。だったらアンタが信用できる人物たちには先に明かしてもいいでしょ」

 

一夏の問いにアイラはあっけからんといった表情で返す。

 

「あ、アイちゃん久しぶりぃ~」

 

「えぇ、久しぶりね本音。ところで夏休みの宿題、ちゃんと進めているんでしょうね?」

 

「も、もちろん「嘘つきなさい。全然してないでしょ」うぅ~、ばれてるぅ」

 

「あたりまえでしょうが」

 

呆れた表情で溜息を吐くアイラ。すると全員が唖然とした表情を浮かべたまま固まっていることに気づく。

 

「ちょっといい加減現実に戻ってきなさいよ」

 

アイラがそういうと、我に戻る料理研究部の子たちに千冬たち大人組。

そんな中、幸平が代表するかのように口を開く。

 

「えっと、貴女は一体誰なのかしら?」

 

「誰っていう質問の仕方は可笑しいけど、まぁいいわ。私はアイラ。一夏の専用機、バレットホークのISコアの人格よ」

 

そういうと

 

「「「「「えぇぇえ~~~~!!??!!」」」」」

 

全員驚きの声を上げた。

そんな中、束は興味津々といった表情を浮かべていた。

 

「まさかいっくんのISコアの人格が人型となって出てくるとはねぇ。こりゃ確かに驚きだぁ」

 

「まったくだな。だが束、お前なら予測できたんじゃないのか?」

 

「いやいや。いくらいっくんのISが第4移行(フォースシフト)しているとはいえこれは束さんでも予想できなかったよ」

 

と、千冬と束の会話の中でとんでもない言葉が混じっていた。

 

「え? 織斑君のISはフォースシフトしているんですか?」

 

「おっと、束さんとしたことがついうっかり。まぁいいか」

 

束はうっかりと言いながらも笑顔を浮かべながら一夏のISについて話し出す。

 

「そうだよ。いっくんのISはフォースシフトまで「博士、フォースじゃないわよ」え?……まさか」

 

「えぇ。一夏のバレットホークは既にインフィニットフェイズに移行しているわよ」

 

アイラの口から出たインフィニットフェイズという言葉に料理研究部の子たちや伊田達大人組を首をかしげていた。

そんな中束は目を見開き驚きの表情を浮かべていた。しかしそのあと沸々と笑みを浮かべ大声で笑いだした。

 

「アッハッハッハ! まさかいっくんのISがインフィニットフェイズに移行するなんて。いやぁ~、束さんが生きている間には誰も到達することはないと思っていたけど、まさかいっくんのISがなるなんて束さん驚きだよぉ。それで、その姿もそのインフィニットフェイズに移行したから?」

 

「そんなところよ」

 

二人だけで会話を進める中、千冬が喉を鳴らして意識を向けさせる。

 

「うぅん! おい、二人だけで話を進めないで私達にも説明しろ。インフィニットフェイズとはなんだ?」

 

「インフィニットフェイズっていうのはISのフェイズシフトの最終到達地点だよ。サードシフトになればISコアの自我が表に少し現れるけど、フォースシフトになれば完全に表に現れて自由に会話ができるの」

 

「そしてフィフスシフトになればパイロットはそのISのコア世界に自由に行き来できるようになる。そしてインフィニットフェイズは―――」

 

「ISコアの人格が肉体を持ちこっちの世界に出てこれるようになる。束さんはこのフェイズに到達するのは今の人類ではまず無理だろうなって思っていたんだぁ」

 

束とアイラの説明に呆然と言った表情を浮かべる料理研究部の子たち。

するとアメリアが疑問が浮かび上がったのか、口を開く。

 

「しかし彼はIS学園に来てから初めてISに触れたのでは? そんな早くにインフィニットフェイズにまで移行するのは無理なのでは?」

 

アメリアの質問に確かに。と同じ疑問を持ち始める料理研究部の子たち。その質問に束はニンマリと笑顔を浮かべる。

 

「いい質問だねぇ。確かに今年にISを触れてもインフィニットフェイズに行くのはまず無理だね」

 

「じゃあどうしてなんですか?」

 

「そりゃあいっくんがISを動かせるとわかったのは中学2年生の頃からだもん。その時からいっくんはISを所持してたからねぇ」

 

「えぇ!? 中学2年生の頃から? ど、どうしてその時に動かせることを発表しなかったんですか?」

 

「そりゃあ中学2年生がいきなりIS学園に行かされるなんてしんどいじゃん。それにその時期辺りでいっくんは女性恐怖症を発症したからだよ」

 

そういうと料理研究部の子たちはそう言うことか。と納得の表情を浮かべる。

そんな中、洋一や千冬、そして束は懐かしそうな顔を浮かべる。

 

「それにしても本当にあの時は驚いたよねぇ」

 

「まぁ、確かにな」

 

「本当にあれは驚き以外の感情は浮かばんかったからな」

 

そんな会話をする中、本音が一夏にあることを聞く。

 

「ねぇねぇイッチー。アイちゃんと初めて会ったのも中学2年生の頃なの?」

 

「は、はい。まぁその、事故みたいな感じなんですけどね」

 

そういい一夏はぽつりぽつりとアイラとの初めての出会いを話し始めた。

 

時は遡り、一夏が中学2年生の頃。

千冬が2度目の日本代表に選ばれ帰りが遅い日々が続いていた頃、一夏は伊田の家で千冬が迎えに来るまで過ごす日々を続いていた。

ある日、一夏がいつも通り伊田家にて千冬が帰ってくるのを待っていた時のことだ。

伊田家の居間にて一夏は学校で出された宿題を片付けていた。すると洋一が居間へとやってきてきた。

 

「一夏君、今ちょっといいかい?」

 

「はい、何ですか?」

 

「少し手伝ってほしいことがあってね」

 

「いいですよ。何を手伝えばいいんですか?」

 

「うちの庭に物置にしている家があるのは知ってるよね? いい加減整理しなくちゃまずいからそれを手伝ってほしくてね」

 

「いいですよ」

 

「助かるよ。それじゃあついてきて」

 

そういい一夏は洋一の後についていき庭へと出て隣にある家へと入る。中には段ボールだったり、古い雑誌だったり道具が大量に置かれていた。

 

「少しずつ片付けようとしていたんだけど、なかなか出来なくてね。今日は久しぶりに時間ができたから少しでも進めたくてね」

 

「わかりました。それじゃあ、どこから手を付けますか?」

 

「出入口あたりにあるのは元から処分するやつだから置いておいて、隣の車庫と奥の部屋かな」

 

「それじゃあ荷物の出しやすくするために車庫からやりますか?」

 

「そうだね。それじゃあ車庫からやろうか」

 

そういい一夏と洋一は車庫へと入った。中にはいろいろな古い道具やら色々と置かれていた。そんな中一夏は車庫の中央にシートで覆われた大きな物が置かれている方に目が行った。

 

「これっていったい何でしょうか?」

 

「うぅ~ん。俺も随分この車庫には入ってないからな。何を置いてたのか忘れてしまったなぁ」

 

そういいながら洋一は車庫の照明を点け、シートをめくる。長いことおいていたことがわかるようにシートをめくったと同時に埃が宙を舞う。

シートの下から現れたモノ、それは

 

「IS?」

 

一夏がそう零す。シートの下にあったIS。外格の装甲が無い為か、内部のシリンダーだったり、ホースやらコードが丸見え状態のものが寝かされて置かれていた。

 

「なんでまたISがこんなところに?……あっ、思い出したぞ」

 

車庫にあったISに疑問を浮かべていた洋一は思い出したかのそう零しながら口を開く。

 

「昔束が『フルスキンのISの研究のため造ったんだけど、今の隠れ家に置く場所がないから暫くおかせてぇ』って頼まれてたんだ。すっかり忘れてた」

 

「てことは束お姉ちゃんも」

 

「おそらくアイツも忘れてるだろうな」

 

そういいながらどうするかこれ?と頭を掻きながら悩む洋一。

 

「仕方がない、これは後で束に連絡して引き取りに来てもらうか。それじゃあ一夏君他の荷物から片付けようか」

 

「はい」

 

そういい一夏と洋一はISをそのまま置いておき置かれている荷物などを片付け始めた。

暫くして荷物が片付き始めた頃、洋一は母屋から持ってきたジュースを一夏へと手渡す。

 

「手伝ってくれてありがとうね一夏君」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

「それじゃあ少し休憩していてくれ。俺は少し束に電話をしてくるよ」

 

「わかりました」

 

そういって洋一はスマホをもって出ていく。一夏は洋一から受け取ったジュースをゆっくりしながら飲もうと思い手近にあった簡易椅子に座ろうとした。

 

「よいしょって、うわっ!?」

 

椅子に座った瞬間、突然後ろへと倒れそうになる一夏。

慌てて一夏は手近にあったモノにつかまろうとする。そして手近にあったモノを掴んだ瞬間突如一夏の目の前が真っ白になった。

 

強い光が徐々に弱まり目が慣れ始めた一夏はあたりを見渡す。周辺は少し薄暗い空間であった。

 

「ここ、どこなんだろう?」

 

そういいながらあたりを見渡す一夏。周辺には何もなく、地平線が続く平坦な空間であった。

 

【アンタ、一体どうやって此処に来たのよ?】

 

「えっ!? 誰?」

 

突如誰もいない空間にもかかわらず声が響き一夏は驚きあたりを見渡すも姿はなかった。

 

【見渡したっていないわよ。で? アンタなんでこの世界にこれたのよ? 男でしょアンタ?】

 

「そ、それがわからないよ。それよりも、ここってどこ?」

 

【はぁ? アンタ、自分でIS触ったんじゃないの?】

 

「えっと、椅子に座ろうとしたら突然後ろに倒れそうになったから、何かに掴もうとして掴んだからわからなかったんだ」

 

【……つまり無意識に掴んだ先がISで、此処に来たと。なにそれ?】

 

意味が分からんと言った雰囲気で話す姿なき女性。

 

「そ、それでここってどこなの?」

 

【此処はISコアネットワークの世界よ。本来なら入れるはずが無い世界なのになんでアンタが入れたのよ?】

 

「え? ISコア? ど、どうして僕此処に?」

 

【私が知りたいわよ。まぁいいわ。で、アンタ名前は?】

 

「一夏、織斑一夏。君は?」

 

【私? 私はバレットホークよ】

 

「女の子なのに?」

 

【うるさいわね。ISに名付けられた名前が私の名前なんだから】

 

「そう、なんだ」

 

少女の言葉に一夏は何とも言えない表情を浮かべる。しばしの沈黙の後一夏が何かを思いついたのか口を開く。

 

「あの、それじゃあ『アイラ』って名前はどう?」

 

【何よ急に?】

 

「いや、バレットホークって格好いい名前だけど、女性の声だからなんだかおかしいなと思って。あの、気に入らなければいいよ、適当に思いついた名前だから」

 

そういい再び沈黙が漂う空間。

すると今度は女性の方が口を開いた。

 

【ふぅ~ん。まぁ、適当に考えたにしては良い名前じゃない】

 

「そう? それならよかった」

 

そういいホッと一安心する一夏。

 

【あ、そういえば外でアンタのことを心配している人がいるわよ。そろそろ戻りなさい】

 

「え? あ、伊田さんだ。でも、戻るってどうやって?」

 

【あぁ、そうだったわ。いいわ、私が戻してあげるわ。それじゃあね】

 

「うん、またね」

 

そういうと視界が再び真っ白に染まっていく一夏。

 

「―――それで視界が晴れると僕は寝かされていて、そばに洋一さんと束お姉ちゃんが心配そうにいたんです。その後はISを起動できたことや、色々話して一度ISを束お姉ちゃんに預けたんです」

 

「それからしばらくしてこいつが女性恐怖症を発症させるでしょ。で、博士がバレットホーク()を完成させて、私なら症状の緩和から予防ができるんじゃないかって思ってこいつに持たせたっていうわけ」

 

「へぇ~、だからそのインフィニットフェイズまで行ったんだぁ」

 

一夏とアイラの思い出話に本音はそうつぶやき、ほかの人達もそうだったんだぁ。といった感じでうなづいていた。

 

「さて、私とこいつとの思い出話もここまでにして、朝食は?」

 

「おっと、そうだったね。ちょっと待っていてくれ、すぐに用意するよ」

 

アイラの発破に真司は思い出したように返し、3人分の朝食準備に取り掛かる。

 

「あ、真司さんお手伝いします」

 

「助かります」

 

虚はそういい真司とともに3人の朝食作りの手伝いへと向かう。そんな光景に残った者達は

 

 

((((((あの二人、いつか付き合うな))))))

 

と思ったとか。




次回予告
一夏達がキャンプを楽しんでいる頃、IS学園の隔離校舎では問題児5人が生活していた。
今回はそんな5人が今どういう状況なのか覗こうと思う。

次回
隔離校舎を覗いてみよう!


一夏「最近主さん、タイトルが適当な気がするのですが…」

主「気にするなぁ!」




以下、投稿遅れの理由

いつも当小説を読んでくださっている皆様、大変ありがとうございます。
頻繁に投稿が遅れた理由ですが、仕事が繁忙期に入り忙しい日々が続いた上に流れは思いつくのに、うまく文章に書けないというスランプに陥っておりました。
今も若干スランプ気味ですが何とか書いております。
これからも投稿遅れが頻発するかもしれませんが、どうか御容赦ください。


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53話

一夏達がキャンプを楽しんでいる中、とある場所ではどんよりとした雰囲気が醸し出されていた。

その場所とはIS学園の片隅にある、問題のある生徒を隔離しておくために建てられた隔離校舎である。

現在其処にはこの小説で数多くの規則違反や問題行動を起こした問題児5人が収容されている。

そんな彼女たちの現在はというと

 

「なによこれ、野菜を作るだけにこんだけやらないとけないの?」

 

「そうだよ。店で並んでいる野菜だってこれだけの工程を踏んで漸くできるんだよ」

 

「うぅ~、貴族である私がなぜこんなことをぉ」

 

「仕方ないだろ、生きていくには必要なことだ」

 

「……」

 

それぞれ『初心者でも簡単にできる畑づくり』と書かれた書籍を読んでいた。

 

隔離校舎に移設後、彼女たちは当初千冬から伝えられた事が信用できずにいた。

きっと何かの間違いだ。政府が私達を見捨てるはずが無い。そう思い何度も学園に政府と話をさせてほしいと願った。

学園はそれは無理だと言ったが、それでも何度も話をさせてくれと懇願してきた。

何度も懇願してくる4人に学園側も流石に苛立ちが募った結果、上層部は学園長と会議しそれぞれの政府役員に彼女達に面と向かって言ってもらうということで決まった。

 

それから2日後、隔離校舎の教室にそれぞれ4人の政府の役員、そして鈴達元代表候補性。そして武装した教師たちが集まった。

そして鈴達は自分たちの政府役員に資格剝奪は嘘ですよね?と聞こうとした。

 

だが、その前に政府役員たちは鈴達を軽蔑するような目で見ながら処分内容に間違いはない。むしろ国家反逆罪にならないだけましだと思え。と伝えさっさと帰っていった。

役員たちの言葉に鈴達はそこで漸く本当に自分達は政府たちから見捨てられたと理解し、後悔の念に包まれるのであった。

ちなみにだが、箒も隔離校舎から出たいと要求していたが学園上層部に束からビデオメッセージが届いた。

その内容だが

 

『愚妹だけど、卒業するまでは隔離校舎から出すなよ? 出そうとしたら束さん、何しでかすかわかんないよぉ?』

 

と脅迫?してきたため学園側も身柄の保護という名目で隔離校舎から出さないことで決定された。

その決定はすぐに箒にも伝えられ、箒はふざけるなと叫びながら暴れ、物に当たり散らかすも無視されるのであった。

 

ちなみに箒が壊したものは借金として加算され、ポイント支払日になっても借金返済に充てられるためポイントの支給はしばらくなしとなった。

 

 

それから5人は仕方なく隔離校舎で過ごしていくために必要な食料を確保すべく畑の作り方などの勉強を始めていたのだった。

無論彼女たちがやらなければいけないことはそれだけではない。

自分たちの寝床になっている宿直室から自分たちの荷物を少しでも減らすべく隣の部屋の倉庫を片付けたりしなければならない。

他にも掃除に洗濯、さらにはその日の食事も自分たちで用意しなければならないため彼女達に休息はほとんどなかった。

 

~お昼時間~

 

午前中を畑に関する勉強に費やした5人は釣竿をもって外へと出てきた。

そして壁の一部が開けられている箇所に赴き釣り糸を垂らす。

暫くして鈴の竿に魚がかかり釣り上げるも、

 

「……またフグ」

 

「リリースだね」

 

「まったく食べられる魚が釣れませんわ」

 

鈴の竿にかかったのはフグだった。

ちなみに知っていると思うがフグにはテトロドトキシンと呼ばれる毒をもっている。

体に入れてしまうと数時間後には手足の痙攣に呼吸困難を引き起こし、最悪死亡してしまうという恐ろしいものである。

しかもその毒はフグのあらゆる部位に含まれており、肝臓だったり、皮膚などにも含まれているのだ。

そのためフグを調理するにはフグ調理師免許が必要なのである。

 

この5人がそんなすごい免許を持っているはずもなく、5人は仕方なくフグをリリースしている。

しかし釣り糸を垂らすも、かかるのはほとんどがフグで、食べられる魚は手で数えられる程度しか釣れなかった。

 

その後5人はわずかに釣れた魚を持って帰り調理する。

ちなみに調理するのは鈴と箒、そしてデュノアの3人が担当することになっている。

その訳はオルコットとボーデヴィッヒは料理ができないからである。

この小説の最初でも登場した通り、オルコットは見た目は良いが、中身がひどい料理を作成してしまう。

そしてボーデヴィッヒだが、普段から食事はレーションや軍用携帯食だけで済ませておりまともな料理をしたことが無い。できたとしてもサバイバル術で身に着けた切って焼くとか煮込むことしか出来ない。

そうなったら残りの3人が調理するしかなかった。

 

暫くして5人分の料理が完成するもほぼ簡素な料理となっており、焼いた魚と少量の野菜と肉のサラダだけだった。

 

「はぁ~、毎回思うけどもっといっぱい食べたいわねぇ」

 

「仕方がありませんわ。肉と野菜は一週間ごとに配給ですもの。初日で食いつぶしては残りの日が本当に質素になりますわよ」

 

「うぅ~」

 

唸りながらも鈴は我慢して食事を続ける。

 

そして午後は学校から出された課題を片付ける。

出されたものは一般常識から道徳などだった。

無論夏休みの宿題も出されており、夏休みが終わるまでに宿題を終えておかなければ配給されるポイントにも大きく響くのだ。

数時間勉強後は昼に釣った残りの魚を使って夕食を作成。

夕食後はシャワー室を交代で使用して、その後宿直室に行き床に就く。

 

 

 

「―――はぁ、今日も無事に終わりそうね」

 

そう零すのはIS学園の警備室にいた教師部隊の一人だった。するとその背後の扉から同じく教師部隊所属の教師が入ってきた。

 

「お疲れぇ。今日はどうだった?」

 

「いつもと変わらずよ。いがみ合いながらも協力して生活してたわ」

 

彼女達の目の前にあるのは5人が眠る宿直室の映像だった。他にも隔離校舎の教室から廊下、さらには外の様子などあらゆる個所の監視映像が流れていた。

そう、IS学園は5人を隔離校舎に放り込んだだけではなく、監視カメラで監視も行っていたのだ。無論トイレやシャワー室にはカメラは仕掛けられていないが、集音マイクは仕掛けられていた。

当初は仕掛ける必要はあるのか?と疑問視されたが、これまで数多くの問題事を引き起こした連中の為隔離校舎に入れてもまた問題を引き起こす恐れがある。と千冬から力説され、また問題事を引き起こされると堪ったもんじゃないと感じた学園上層部は了承し仕掛けられた。

 

「そう。このまま何事も起こさずに卒業してくれたらいいんだけど」

 

「それが一番いいけど、織斑先生から見せられたレポートを見たでしょ? 何をしでかすかわからない子たちなんだからどっかでまた問題を起こすかもしれないわよ」

 

「そうなったら今度こそ彼女達は終わりね」

 

そういいながら最初に警備していた教師は固まった筋肉をほぐしながら座っていた椅子から立ち上がる。

 

「それじゃあ私はあがるわね」

 

「えぇ。あとは任せて」

 

そういい最初の教師に労いの言葉をかけながら、あとから来た教師は席に着く。




これにて今年最後の投稿を終えます。それでは皆様、次の2023年でお会いしましょう!

次回予告
キャンプ3日目の一夏達。
楽しい思い出が出来たことに笑顔を浮かべあっていた。

次回
キャンプ3日目
「連絡先交換しませんか?」

「は、はい、喜んで!」


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54話

キャンプ3日目の朝。

この日も真司と虚が朝食を準備をしていた。

 

「今日の朝飯は焼き鳥缶と卵を使った親子丼だ」

 

「うわぁ、今日の朝食もおいしそぉ!」

 

「保存食である缶詰を使った料理ですか。これもなかなか面白いですね」

 

それぞれ真司と虚が作った朝食の丼ものに目を輝かせていた。

そして全員席に着くと頂きます!と挨拶し、レンゲを手に取って口いっぱいに頬張り始めた。

 

暫くして

 

『ご馳走様でした!』

 

「はい、お粗末様でした」

 

食事後、一夏達はそれぞれ撤収準備を始めテントの片付けから使用していたコンロなどを片付けていく。

それぞれ使用した道具を車両に積み込み終えると、車に乗り込みキャンプ場を後にした。

 

車を走らせて数時間後、最初の日に集合した場所に到着する。

 

「それじゃあ私はこの子達をそれぞれ送ってきます」

 

「わかりました」

 

「ほら皆、伊田先生の弟さんにお礼」

 

『3日間ありがとございました!』

 

「いえいえ、皆さんのいい経験になったなら幸いです」

 

そうにこやかに話す真司。

そして幸平は料理研究部の子たちをハイエースへと再び乗せ一礼後、車に乗り込み去っていった。

 

そして次に虚が口を開く。

 

「それでは私たちも「あ、虚さん待っていただけます?」 な、なんでしょうか真司さん」

 

本音と共に帰ろうとした虚を真司が声をかけてきたのだ。虚は突然声を掛けられていた事に驚きながらも問う。

 

「連絡先を交換しませんか?」

 

「は、はひぃ?」

 

真司の突然の連絡先交換に虚は素っ頓狂な返事をする。

すると真司が慌てて交換の理由を話す。

 

「あ、いや、別にやましい理由ではありませんよ。虚さんでもできる簡単な料理のレシピをお送りしようと思っただけですので」

 

そう説明する真司。

 

「そ、そうでしたか。あの、そ、それじゃあお願いします!」

 

どぎまぎしながらも虚はスマホを取り出し勢いよく頭を下げながら差し出す。

 

「あ、あの虚さん。スマホだけを見せられましても…」

 

そういわれ虚は

 

「す、すいませぇん!」

 

顔を真っ赤にさせながらスマホに登録されている自分の連絡先を表示。そして真司の連絡先も登録し終える。

 

「そ、それでは失礼させていただきます」

 

「イッチーばいばぁい!」

 

「はい、またです本音さん」

 

いまだに顔を真っ赤な状態にしたまま虚と本音は一夏達にそう言い帰路へと付いていった。

そして一夏達も帰路へと着こうとすると。

 

「お、そうだそうだいっくん。はいこれ」

 

そういい変装している束が一夏にあるものを差し出す。

それは一夏が作ったデザート券だった。それも2枚。

 

「久々にいっくんのデザートが食べたくなってさぁ。もう一枚はクーちゃんの分だよぉ」

 

「あ、はい。それじゃあお家に帰ってから準備しますね」

 

「お願いしまぁす!」

 

「すいません、一夏様。お願いいたします」

 

そういい一夏にお願いする2人。そして一夏達も家路へと着いた。

 

 

 

 

 

~布仏家~

キャンプから戻ってきた虚はカバンの中に仕舞っていた服を洗濯機の中に入れたり道具を片付けていた。

すると

 

ピロリン♪

 

とスマホの着信音が鳴り、虚は何だろうと思いスマホの画面の電源を入れる。其処には真司からメッセージが届いていた。

虚は頬が熱くなるのを感じながらもそっとメッセージを開く。

 

《こんばんは、虚さん。

帰り際にもお話した通り虚さんでもできる簡単な料理のレシピを送らせていただきました。

もし困ったこと、わからないことなどありましたら気軽にメッセージを送ってください。

それでは失礼いたします。

真司より》

 

と書かれていた。

そしてメッセージにはレシピも添付されており、ところどころには真司のアドバイス的なメモも書かれていた。

 

「真司さんがせっかくくださったレシピです。頑張ってやってみましょう」

 

そう零し、やる気を見せる虚。

それから虚はキッチンに積極的に立ち、真司が送ったレシピを見ながら一生懸命練習を重ね続けるのであった。

 

因みにそんな虚の姿に母親は、

 

「あらあらキャンプに行ってからあの子、本当に変わったわね。良い出会いでもあったのかしら? (* ̄▽ ̄)フフフッ♪」

 

と嬉しそうに笑顔を浮かべていた。




次回予告
ある日伊田が家へとやってきて一夏に動物と触れ合うことができる動物園のチケットをあげた。
3人1組のチケットの為一夏は本音とアイリとの3人で行くことに。

次回
わくわく、もふもふ動物園!

「も、モフモフ!」

「目がすごい輝いているわよ」

「だねぇ」


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55話

キャンプから数日が経ったある日の事、一夏は家で夏休みの宿題をしていた。すると家のチャイムが鳴り、メサが確認しに向かう。

 

【おや、こんにちは伊田様。何か御用でしょうか? (。´・ω・)?】

 

「こんにちはメサ。一夏君って今いるかな?」

 

【はい、居られます。どうぞお上がりください】

 

そうプラカードを見せられ、伊田はお邪魔しますと言い中へと上がる。そしてリビングに通され椅子に座っていると2階から降りてくる音が鳴り響きリビングと廊下を繋ぐ扉が開く。

 

「あ、伊田さんこんにちは」

 

「こんにちは一夏君。ごめんね突然お邪魔しちゃって」

 

「いえ、大丈夫ですよ。それで何か御用ですか?」

 

「うん、これを一夏君にあげようと思ってね」

 

そう言い伊田はポケットから一枚の封筒を取り出し一夏に差し出す。一夏は首を傾げなら封筒の中身を取り出す。

出てきたのは

 

「あ、これって…」

 

「そう、○○市にある動物園のチケットだよ」

 

伊田の言葉に一夏は目を輝かせる。

伊田が口にした○○市の動物園。そこは長い歴史がある動物園で、地元民からも愛されている動物園だった。その動物園の売りは、触れ合える動物が近隣にある動物園以上に種類が豊富というところだ。

無論一夏の好きなモフモフの動物も多数飼育されていた。

 

「近所のおじいちゃんが懸賞か何かで当たったらしくてね。行こうにも足腰が悪いし、孫達にあげようとしたけど動物園よりも遊園地が良いって言われたらしくてね。このままだと勿体無いから俺にくれたんだ。けど、指定されている日にちが俺も忙しいから余裕ないからね。だから一夏君に譲ってあげる」

 

「ありがとうございます! あれ、これって3人1組のチケットですか?」

 

一夏がもらったチケットに書かれていた諸注意のところに書かれていたところを伊田に見せる。其処には

 

『注意:3人一組で使用できるチケットです』

 

と書かれていた。

 

「みたいだね。一夏君とあと2人どうする?」

 

「じゃあお姉ちゃんとメサさんに「それは無理だ一夏」あ、お姉ちゃん」

 

一夏が千冬とメサを誘うと言おうとしたが千冬が廊下から入ってきて開口一番に無理と告げる。

 

「実はその日は私も忙しくてな」

 

【申し訳ございません坊ちゃま。この近辺なら私の事は認知していただけておりますが、あまり知られてない場所ですと、ちょっとした騒動が起きてしまってゆっくりと見て回れない恐れがあるので今回はご一緒できません。(ノД`)・゜・。】

 

「そ、そうですか」

 

2人から断られてしまいシュンとなる一夏。すると千冬が口を開く。

 

「だったら一夏、本音とそうだな、アイラの3人で行くのはどうだ?」

 

「本音さんとアイラの2人と?」

 

一夏がそう零すと一夏の腕輪が光を放って、一夏の傍にアイラが現れる。

 

「ちょっと。私は別にISの中でも見られるから良いわよ。束はどうしたのよ? 彼女だって喜んで行くはずよ」

 

「束だったら『残念ながら束さんも無理なんだよねぇ。データ整理サボってたからもう山ほどたまってるんだよねぇ』だそうだ」

 

千冬が言おうとする前に突如ディスプレイ越しの束が現れ、そう説明する。

 

「アンタだったらそんなの1,2日で終わるんじゃないの?」

 

『無茶言わないでよぉ。束さんだって人間だよぉ? 無理したら束さんだってバタンキューしちゃうもん』

 

「はぁ? そんな訳『それに折角ISから出られるようになったんでしょ? だったらいろんな所に行って体験してくれば?』…わかったわよ。行くわ」

 

束の言葉にうっと何とも言えない表情を浮かべ、視線を明後日の方に向けながら了承の言葉を口にする。

そして本音はというと、一夏がクラス代表になってから相談とかしたい場合連絡が取れるようにと連絡先を交換し合っていたため、メッセージアプリを使って聞くと

 

『行きたぁい!(*^▽^*)』

 

と送り返してきたため、日時と集合場所を伝えた。

 

そして動物園に行く当日。一夏とアイラは玄関でメサからお弁当を受け取っていた。

 

【それではお気をつけて行って来てください。ハンカチ、ティッシュ、タオル等はお忘れないですか?(´・ω・)】

 

「うん、大丈夫です」

 

「一応私も確認しておいたから大丈夫よ」

 

【そうですか。行ってらっしゃいませ(*'▽')】

 

「行ってきます」

 

「行ってくるわ」

 

そう言い一夏とアイラは家を出た。見送るメサ。その背後の階段からスタスタとその日は忙しいと言っていた千冬が降りてきた。

 

「行ったか?」

 

【はい、無事に行かれました(゜_゜>)】

 

「そうか」

 

そう言いながらメサと共にリビングへと向かう千冬。そう、今回動物園に行く計画は千冬、束2人が立案し、一夏の主治医である伊田が最近の一夏の容態などから許可されてできたものだった。

 

「1学期ではあいつは色々と巻き込まれたりと大変だったからな。ここいらでリフレッシュさせてやらんとまたひどいことになってしまうといけん」

 

【はい。ところで例の5人、本当に脱走とか大丈夫なのですか?】

 

「そいつは問題ない。奴らが放り込まれている隔離校舎にはいたるところに監視カメラ等が仕掛けられている。それに奴らにはGPS付きの足枷をつけられているからな。それよりも例のあれは?」

 

【こちらに】

 

メサは千冬に問われた例の物とやらを棚に設けられている隠し棚から取り出し、千冬の前に出す。

千冬の前に置かれたものはアタッシュケースで千冬はロックを解除してケースを開ける。

 

「ほぉ、これは…」

 

そう声を漏らす千冬。中に入っていたのは千冬がレゾナンスのカメラ屋で購入した一眼レフカメラだった。

 

【千冬様から依頼されておりました画素数の向上、連写速度向上など他のカメラではないほど最高性能に向上させております】

 

「バッテリーは?」

 

【容量2500mAhの充電式リチウムイオン電池と登録済みの予備の2500mAhのリチウムイオン電池を2つ】

 

「メモリーは?」

 

【1TBのメモリーカードを挿入済みです。更に予備用に3枚ほどご用意いたしました】

 

「取り付けられているレンズの構成は? 11群13枚入りか? 12群16枚入りか?」

 

【12群16枚入りの高性能レンズでございます】

 

「ふふふ、パーフェクトだメサ」

 

【感謝の極み】

 

某吸血鬼アニメのようなコントをする二人。すると

 

「ちーちゃんお待たせぇ!」

 

と束が首からカメラをぶら下げてやってきた。その隣にはクロエもおり、小さくお辞儀をする。

 

 

「来たか。それじゃあメサ、私たちも行ってくる」

 

【はい、行ってらっしゃいませ】

 

そう告げると千冬と束はあらかじめ用意しておいた変装用の服装に着替え、かつらを被り、別人になると一夏達の後を追いかけていった。

一人家に残ったメサは見送った後、リビングに戻った後ガックシと膝をついて崩れ落ちていた。

 

【わ、私も坊ちゃまと動物園に行きたかった…。今この時ほど私のボディが恨めしいと思ったことはない(T_T)】

 

【はっ(゚д゚)! そうだ、私もフモッフ殿達のようにモフモフの何かになればいいんだ! ならば早速私が着れる着ぐるみを探さなければ!Σ≡≡≡((っ`・Å・)っ ドピューン】

 

しかし、着ぐるみを見つけたはいいものの、メサが着た所、角ばったボディーの為着ぐるみを着ても可愛げはなくむしろ角ばった謎の生物になっていることに気付き、再び膝をつくことになるのは別のお話。

 

 

その頃一夏達はバスなどを乗り継ぎ目的地である動物園へと来ていた。

 

「わぁ~、着いたぁ!」

 

「へぇ、此処が動物園なのね」

 

「僕も久しぶりに来るから楽しみだなぁ」

 

そう話しながら3人は動物園の受付に行きチケットを差し出す。

 

「はい、3人1組チケットですね。こちら当園のMAPです」

 

そう言い受付のスタッフはアイラにマップを差し出す。

 

「どうも」

 

そう言い受け取ると一夏と本音に手渡して3人は中へと入る。

園内に入り3人はまず大型動物がいるエリアに向かう。

キリンや像など大きな動物に3人は楽しそうに見て回って行きました。

そして3人が次についたのは

 

「わぁ~°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

 

「一夏の奴、キラキラしてるわね」

 

「だねぇ」

 

そう、3人が到着したエリアそれは

 

「モフモフ、エリア!」

 

そう一夏が大好きなモフモフとした動物が多くおり、触れ合うことができるエリアであった。

 

「は、はやく! 早く行こ!」

 

一夏は目をキラキラさせながら2人にせっつく。

 

「本当モフモフ動物の事になると忙しくなるわね」

 

「そうなんだぁ」

 

「えぇ。はぁ、行きましょ」

 

アイラがそう言い本音はほぉ~い。と言いながらその後に続き一夏と共にモフモフエリアへと入っていく。

その後姿を変装した千冬と束が見ていた。

 

「うむ、ついに一夏達はモフモフエリアに入ったか」

 

「だね。このエリアに来るまでにいっぱいいっくんたちの写真撮ったけど、ここからが本番だね」

 

そう言い千冬と束は気合を入れるべくカメラに入っていたメモリーを外し新しいメモリー(1TB)を入れ、更に新しいバッテリーに入れ替えた。

 

「よし、行くぞ」

 

「あらほらさっさー!」

 

「私は端の方で動物と触れ合ってますね」

 

そう言い一夏達の後を追う3人

 

 

先にモフモフエリアに入っていた3人はというと

 

「もふもふぅ(*'ω'*)」

 

と、一夏はモフモフとしたジャイアントラビットを撫でていた。撫でられていたウサギも満足そうに眼を閉じ、耳をペタンとしながら受けていた。

 

「意外と柔らかい毛並みね」

 

アイラはそう零しながら初めて触れる動物に関心を寄せていた。

 

「へへへ、此処がいいのぉ?」

 

そう言いながら本音は近寄ってきた子犬の顎あたりをカイカイとかいてあげていた。子犬はにっこりと笑っているような表情を浮かべながらじっと受けていた。

すると一夏のもとに他のモフモフとした動物がぞろぞろと近寄ってきた。

 

「わ、わぁ~。いっぱい近寄ってきたぁ」

 

「アンタ人気者ね」

 

「わぁ、モルモットに猫、ヤギにチンチラ、ミーアキャットとかいっぱい来てるね」

 

それなりにモフモフとした動物たちは一夏の下に集まってきて、自分も構えと言わんばかりにツンツンと口先や手などでアピールをしてきた。

一夏が動物たちに囲まれている光景に遠くにいた千冬と束はというと

 

((シャッターチャンスだぁ!!!!!!))

 

と内心狂乱しながらカメラで撮りまくっていた。

 

それからしばらくして

 

『まもなく閉園のお時間となります。本日のご来園誠にありがとうございました』

 

そう案内放送が流れ一夏達はお土産屋で購入した動物の耳のついた帽子を被りながら入ってきた門へと出てきた。

 

「今日は楽しかったね」

 

「うん! イッチー、アイちゃん今日は誘ってくれてありがとうねぇ」

 

「別に良いわよ。さて帰りましょうか」

 

そう言い3人は家路へと着くのであった。

 

因みに一夏達が家路についたのを確認した千冬たちはというと

 

「うむ、今日は良い写真がたくさん撮れたな」

 

「だね。ぐふぇふぇふぇ、これでまたいっくんの可愛い写真アルバムがまた出来たぜ」

 

「だな。それじゃあ帰るぞ」

 

そう言い千冬たちも家路についた。

 

 

 

 

 

 

それから数日後、布仏家に一つの小包が届いた。

 

「虚、あなた宛ての荷物が来てるわよぉ!」

 

玄関から母親が大声でそう呼ばれ虚は母親のもとに向かう。

 

「私宛の荷物?」

 

「えぇ。送り主は織斑千冬って書いてるわよ」

 

「えっ? 織斑先生から?」

 

思わぬ相手からの荷物に虚は驚いた表情を浮かべつつ荷物を受け取り封を開ける。

中には手紙と

 

「これは、アルバムでしょうか?」

 

一冊のアルバムが入れられていた。虚はまずは手紙から読もうと封を開け、中の手紙を読み始める。

 

『虚へ

以前来てもらったキャンプの時の写真、それと一夏達と本音が動物園に行った時の写真をアルバムに入れて送らせてもらった。記念にしてくれ

千冬より』

 

「なるほど。それじゃあ後で本音にも写真を渡さないといけません」

 

そう言いながら手紙を置き、アルバムを開く。

アルバムにはキャンプを楽しんでいた時の写真が幾つも挿まれており、更に先日一夏と本音、そしてアイラが行った動物園の様子を撮った写真も幾つも挿まれていた。

 

「色々撮っておいてくださるんでっ!?」

 

色々写真を撮っていてくれたことに嬉しく思っていたところ、虚と真司との2人が写った写真も貼られていた。

 

「うぇぇ、い、いつの間に撮っていたんですか、織斑先生」

 

そう零し顔を真っ赤にする虚。

 

「あら、どうしたのそんな顔を真っ赤にさせて?」

 

「お、おおおおおお母さん!? な、何でもない!」

 

そう言いアルバムを隠そうとする虚。が、アルバムに何かあると読んだ母親は手早く虚からアルバムをかっさらうい、アルバムを開く。

 

「あら、これってこの前に貴女と本音が行ったキャンプの時の写真ね。それに本音がお友達と行った動物園の写真もあるのね」

 

そう言いながら写真を見ていく母親。そして虚が赤くなった訳を発見し、あらあらと笑顔を浮かべる。

 

「もしかしてここ最近スマホを見ながら料理の練習をしてるみたいだけど、この人のおかげなのかしら?」

 

「そ、それは、その、あの…」

 

「あらあら、虚にもついに春が来たのかしらねぇ」

 

と笑顔で言いながら再度アルバムをみる母親。そして

 

「あらあら、この動物園に行った友達って男の子なの?」

 

「え? あぁ、織斑君ですね」

 

「織斑君? もしかして世界初のあの子?」

 

「はい。学園で本音と仲良くしているようで、学園でもよく一緒にいるようです」

 

「あらそうなの。もしかしてこの子から『虚お姉ちゃん』って呼ばれてるの?」

 

「そ、そんな訳ないじゃない! そんな恐れ多いこと…」

 

顔を真っ赤にさせながら虚は大きく否定し、これ以上母親にいじられるのを阻止するべくアルバムを奪い取り部屋に駆け込む。

部屋に逃げ込んだ虚はアルバムを机の上に置き、大きく息を吐く。

 

「まったくお母さんは…」

 

そう零しながら虚はふと母親の言葉を思い出す。

 

(うちは妹からお姉ちゃんと呼ばれているため、もう慣れていますが男の子からお姉ちゃんと呼ばれたらどうなんでしょう?)

 

そう思った瞬間、頭の中で一夏の照れた表情が現れ

 

『虚お姉ちゃん』

 

と呼ばれる。

 

「っ~~~~~!!???!!?!?」

 

今まで感じたことないほどの全身が熱くなるのを感じそれを忘れるべく顔を勢いよく振るう虚。

その後姿を

 

「お姉ちゃんどうしたんだろ?」 

 

扉の裏から覗き見ていた本音は首をかしげていた。




次回予告
長い夏休みも終わり2学期が始まった。
イベントの多い2学期の多くの生徒が楽しみにしており、1組の生徒達も大いににぎわっていた。
が、この2学期色々とトラブルに見舞われることになろうとは誰も思わなかった。

次回
2学期はっじまるよぉ~!


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56話

長い夏休みが終わり学校が始まる日、一夏は家で学校に行くカバンの中身を再度確認していた。

 

「えっと夏休みの宿題と、秋用の服入れたでしょ。あとは…うん、大丈夫だ」

 

「忘れ物はないでしょうね? まぁ、私も見ていたから問題はないわね」

 

「うん、ありがとうねアイラ」

 

そう言いながら荷物を入れたカバンのチャックを閉じる。すると家の前に複数台の車が止まる音が聞こえ、一夏は部屋の窓から通りを見ると、3台の車が止まっていた。

3台のうち真ん中の車は普通の自動車だが、前後の車は装甲車だった。

そしてその装甲車にはフモッフのマークが付けられていた。

 

「あれって、フモッフのところの装甲車みたいね」

 

「う、うん。もしかして迎えに来てくれたのかな?」

 

そう零していると、扉をノックする音が鳴り一夏はどうぞと言う。扉からメサがひょっこりと入ってくる。

 

【坊ちゃま、フモッフ殿がお迎えに上がられました。('ω')ノ】

 

「あ、はい。今行きます」

 

そう言い一夏はカバンを背負う。

 

「それじゃあ私は待機形態に戻るわね」

 

そう言いアイラは光に包まれて、球体になると一夏の腕に向かい腕輪となった。

そして部屋から出て下へと降りるとフモッフと部下のモッフ(43号と22号)がおり、一夏に気付くと敬礼し挨拶する。

 

【おはようございます、一夏様。お迎えに上がりました。(`・ω・´)ゞ】

 

「ありがとうございます。それじゃあメサさん行ってきます」

 

【はい、坊ちゃま。お気をつけて行ってらっしゃいませ!(^^)/~~~】

 

メサに挨拶を済ませた後、一夏はフモッフ達に案内されて車へと乗りこむ。そして車列はIS学園へと向かって動き出した。

車列は特に障害を受けることなく学園へと到着し、学生寮の入口前で停車する。

停車した装甲車からモッフ12、21、33、41号が降りてきて周辺警戒しつつ車両の扉を開け一夏を降ろす。

すると助手席にいたフモッフがプラカードを一夏へと見せる。

 

【では一夏様、我々は装甲車を収納後、警備に戻ります。何かありましたらお伝えください】

 

「わかりました」

 

そういうと一夏はフモッフに送ってくれてありがとうございます。と一礼して伝えると護衛のモッフたちと共に寮の中へと入っていった。

中に入ったのを確認したフモッフは装甲車に前進と指示を飛ばし車両を学園内に極秘に建造した秘密車庫に停めに向かった。

 

寮内へと入った一夏は自身の部屋にまず入ると持ってきていた荷物を整理していく。

全ての荷物を片付け終えると、扉をノックする音が響く。

 

『イッチー、いるぅ?』

 

と声が響く。

一夏は立ち上がってモニターに向かう。其処には本音が映っていた。

 

「ほ、本音さんおはようございます」

 

『おっはよぉ~。一緒に教室いこぉ』

 

「は、はい。ちょっと待っててください」

 

そう言いながら一夏は提出しなければいけない宿題などを入れたカバンを手に取り部屋を出る。

部屋から出るとカバンを持った本音と相川、そして鷹月が居た。

 

「イッチーおはよぉ」

 

「おはよう織斑君」

 

「おっは~」

 

「お、おはよう、ございます皆さん」

 

「「「「ふもっふ!」」」」

 

3人に挨拶し一夏とモッフたちは本音たちと共に教室へと向かった。

教室内へと入ると、既に数人の生徒達が居り談笑しあっていた。そして一夏達が来たことに気付くと皆笑顔を浮かべる。

 

「あ、織斑君たちおはよう」

 

「おはよう!」

 

「おはようございます織斑君」

 

生徒たちの挨拶に一夏は「お、おはようございます」とはにかみながらも笑顔を見せながら告げ、自身の机に座る。

すると生徒たち数人が一夏の傍に近づく。

 

「ねぇねぇ織斑君、夏休みどこに行ったか聞いてもいい?」

 

「えっと、お姉ちゃんや伊田さん、それと部活動の皆さんとキャンプに行ったり、動物園に行ったりしました」

 

夏休みを楽しんでいた一夏に皆、そうなんだぁ。とほんわかした笑みを浮かべながら聞く。するとチャイムの音が鳴り響き、生徒たちは急ぎ足でそれぞれ自分たちの席に着く。

全員が席に着いた際、空いている席があることに生徒たちが気付き首をかしげる。

 

「あれ、オルコットさんまだ来てないの?」

 

「篠ノ之さんもいないわね」

 

「デュノアさんとボーデヴィッヒさんもいないわよ」

 

「何でいないのかしら? まさか、朝から織斑君に迷惑かけようとした?」

 

「でも、寮でもあの4人見かけてないよ」

 

「どこ行ったのかしら?」

 

そう話していると、教室の扉から千冬と真耶が中に入ってきた。

 

「諸君、おはよう」

 

「皆さん、おはようございます」

 

『おはようございます!』

 

千冬たちの挨拶に元気よく挨拶を返す生徒達。

 

「では、新学期初のSHRを行う。まず皆も気付いていると思うが、うちのクラスにいた問題児4人の事だが、夏休み前に学園上層部の会議の結果、様々な問題行動を考え隔離校舎に異動させることになった」

 

千冬の言葉に生徒達の間にどよめきが生まれ、ひそひそと話はじめる。千冬はそれにパンパンと手をたたいて中止させる。

 

「静かに。ついてはうちのクラスから4人減ったことで他のクラスと人数が釣り合わないという事で、臨時で人数の多いクラスから3人ほど1組に入れることでクラス間の人数調整することになった。おし、入ってこい」

 

「「「はい」」」

 

千冬の掛け声に答え、3人の生徒が中へと入ってきた。

一人は黒髪で眼鏡をかけたキリっとした目つきの長身の女性。

二人目は薄青紫色のロングヘア―の女性でニコニコと笑顔を浮かべた女性。

三人目は白髪で髪を一度結んでポニーテールのようにしている朗らかな笑みを浮かべた女性だった。

 

「今日からのこの3人がうちのクラスの生徒として通う。では椎名から」

 

「はい。皆さま初めまして。5組に在籍しておりました、椎名椿と言います。よろしくお願いいたします」

 

「次は私だね。私は3組から来たサリー・ギャレック。気軽にサリーって呼んでね!」

 

「私は2組から来ました、東イタコと申しますわ。東北出身で偶に訛りが出るかもしれません、どうかよろしくお願いいたしますわ」

 

3人がそう自己紹介をすると生徒たちはパチパチと拍手を行う。

 

「では3人はそれぞれ空いた席に座ってくれ」

 

「あ、先生質問が…」

 

一人の生徒が手を挙げながら声を上げ、千冬が発言を許可する。

 

「3人にあの説明はされたのでしょうか?」

 

「あぁ、織斑の事か。それなら事前にしっかりと説明してある。ちなみにだが、無作為にこの3人が選ばれたわけじゃないぞ。ちゃんとこの3人の授業態度やら性格などを考慮して選ばれているから、その辺は問題ないぞ」

 

そう言われ生徒たちは安心した表情を浮かべる。

 

「では朝のSHRの続きを行うぞ」

 

そう言い千冬はSHRの続きを行うのだった。

 

 

 

その頃、学園にあるとある部屋で一人の女性がカタカタとキーボードを叩く。そして打ち終えたのかエンターを押す。

そしてパソコン前にいた女性は画面に映る自身の力作にニンマリと笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

登場人物

椎名椿(ハイスクールD×Dの真羅 椿姫)

5組から来た生徒。真面目で融通が利かないように見えるが、時々ponをやらかす。

眼鏡が無いと見えず、眼鏡は何処?と右往左往してしまう。

 

サリー・ギャレック(アズールレーンのニュージャージー)

3組から来た生徒。楽しい事が大好きで、みんなとワイワイできる事には積極的に参加する。

口癖が「こういうのが良いんでしょ?」

 

東イタコ(ボイスロイドの東北イタコ)

2組から来た生徒。東北出身で、3人姉妹の長女。お嬢様育ちと間違われるが、一般家庭育ち。

口調は東北訛りを隠そうと思ってお嬢様口調にしているが、時々出てしまう。

朗らかで大抵の事は「あらあら」で片づけてしまう。




次回予告
新学期が始まり、数日が経ったある日。
ついに学園の大イベントの一つ、学園祭が始まろうとしていた。
生徒たちが集められ、事前説明会が行われる。

しかし、この説明会がまた波乱を呼ぶとは誰も知らなかった。

次回
学園祭事前説明会

「ふざけんじゃないわよ!」

「私達の大事な部員を好き勝手させないわよ!」


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57話

2学期が始まってはや数日が経ったある日の事。

何時ものSHRの時間に教壇に立つ千冬が生徒たちの方に体を向けながら口を開く。

 

「今日は今月の下旬に開かれる学園祭の説明会が行われる。そのためSHR終了後皆グランドへ集合するように。それと織斑、今日は多くの生徒たちが集まるが、行けるか?」

 

「その、すいません。1年生の集まりなら大丈夫なのですが…」

 

「構わん。そのために副代表の布仏が居るんだからな。そういう訳だから布仏、済まんが織斑の代わりに代表として説明を聞いて、織斑に教えてやってくれ。織斑は伊田のいる医務室で説明会が終わるまで居てくれ」

 

「わかりましたぁ!」

 

「は、はい」

 

本音と一夏の返事を聞き、千冬はでは頼む。と言いSHRを終え真耶と共に教室から出ていく。

 

「本音さん、すいませんがお願いします」

 

「うん、任せて!」

 

そう言い一夏は護衛のモッフ達と共に伊田のいる医務室へと向かい、本音は他の生徒たちと共にグランドへと向かって行った。

 

本音達がグランドへと到着すると既に多くの生徒たちが集まってそれぞれのクラスごとに並んでいた。本音達も自分たちが並ぶ場所に向かい奇麗に2列となって並ぶ。

暫くして全生徒(一夏と隔離校舎の生徒を除く)が集まり、壇上前に整列した。

暫くして司会を務める生徒なのか、一人の生徒が前へと出てくる。

 

『ではこれより、第○○回学園祭説明会を行います。司会進行を務めるのは学園祭運営委員会所属の吉村です。では最初に学園長からお言葉を戴きます。よろしくお願いします』

 

そう言うと学園長(轡木十蔵の妻、轡木佳代)が壇上に上がる。

 

『皆さま、おはようございます。早いもので学園祭の時期になりました。2,3年生は既にご存知の通り、当学園の学園祭は各部活動で催し物を出し合い、生徒達の投票で上位の部活動には特別助成金がでる仕組みになっております。毎年楽しい催しを出しておられますので、皆さまの楽しい催し物心待ちにしておりますね』

 

そう言い一礼後壇上から降りて行き、生徒達はそれを拍手で答える。

 

『ありがとうございました。では続いては―――』

 

そう言い吉村は進行を続けた。風紀委員会や環境美化委員など委員会の挨拶をしていきそして最後の委員会が紹介されようとした。

 

『では最後に生徒会長からのお言葉です。生徒会長お願いします』

 

そういうと水色の髪の短髪、そして切り目の女性が壇上へと上がる。

あがっていく女性に2,3年生の生徒達は少し不安そうな表情を浮かべる。

 

「彼女、また奇想天外な企画を出すんじゃないのかしら?」

 

「そうよね。出来れば平穏に学園祭を楽しみたいんだけどね」

 

と零す。

上級生達が過去にあった出来事に嫌な顔を浮かべている中、生徒会長は壇上を上がり切りマイクを手に取る。

 

『1年生の皆さん、初めまして。当学園の生徒会長、更識楯無です。これまでずっとつまらない話ばかり聞いて飽きているでしょうから、此処で私からサプライズ企画です!』

 

そう叫んで突如大きな空間ディスプレイを出した。其処には

 

『特別企画 織斑一夏君争奪戦‼』

 

と書かれていた。

 

『この企画は一番多くの生徒から投票された部活に一夏君を入部させるっていうものよ! そしてこれはクラス同士でも競い合ってもらうわ! 一番のクラスには一夏君を移籍してもらうものよ!』

 

『おおぉおぉぉお!!』

 

楯無の説明に1年生達は湧き上がっていた。だが、1組と一部の生徒達は険しい表情を浮かべており、中には楯無を睨みつける者さえいた。

すると

 

「こんなの反対よ!」

 

と大声を叫ぶ人がいた。

 

『セレスティーナ先輩何か?』

 

楯無は笑顔を浮かべながら応対するも、セレスは怒った表情を浮かべていた。

 

「彼は私達料理研究部の部員よ! 勝手にそんなことしないでちょうだい!」

 

セレスの怒りに呼応するように料理研究部の部員たちも反論の声を上げる。

 

「まったくよ! 生徒会長だからってやっていい事といけない事の判断もできないわけ!」

 

「おいたが過ぎるぞ、更識よ!」

 

「流石にわたくしもキレますわよ!」

 

上からニコラス、神崎、藤條がキレ気味に声を荒げる。更に

 

「私達1組も反対よ!」

 

そう、これまで一夏の事を見守ってきていた1組の生徒達も、同じく声を荒げる。

 

「織斑君はようやくクラスのみんなと打ち解けてきたのに、それを無下にするようなことしないでください!」

 

「織斑君が可哀そうじゃない!」

 

「生徒会長だからって、そんな横暴が許されるわけないじゃない!」

 

1組生徒達からの抗議の声で場が完全に緊張状態にあるにも関わらず楯無は笑みを浮かべながら

 

『残念だけど、私はこの学園の生徒会長。そして学園一最強なの。だからこれくらいの事は許されるの。それじゃ生徒会からは以上よ』

 

そう言い壇上を降りて行った。

 

「ちょっと待ちなさい! まだ話は終わってないわよ!」

 

そう叫びセレス達は楯無を追いかけようとするも、既に楯無の姿はなく。皆悔しそうな顔を浮かべながら列へと戻っていった。

 

 

グランドからさっさと退散した楯無は笑みを浮かべながら歩いていた。

 

「さぁて、後は適当に競わせて生徒会の出し物で一気に票を戴く。我ながら良い策だわ」

 

そう自画自賛しながら生徒会室に向け歩く。

 

 

だが、楯無は気付かなかった。

この行為が原因で、何もかも失うことになろうとは・・・・・。




次回予告
説明会の出来事に怒り心頭の1組と料理研究部の部員達。
楯無の企画に対抗するべく両者はある方針を掲げた。

次回
目指せ一位! 楯無の野望をブッ飛ばせ!


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58話

学園祭の説明会を終え、教室へと戻ってきた一組の女子生徒達。

生徒達の顔は皆、苛立ちの募った表情を浮かべていた。

何故苛立っているのか、それはもちろん前話で学園の生徒会長、更識楯無が突如一夏の身を賭けたイベントを開くと宣言したからである。

一夏の事を何も考えていない。いや、そもそも人を賭け事の商品のような扱いをする生徒会長に皆、ぶちぎれていたのだ。

 

「皆、それでどうする?」

 

「決まってるじゃない。あの生徒会長の思い通りになんかさせないわよ」

 

「じゃあやることは決まったね」

 

その言葉に生徒たちは皆頷く。

 

“あの生徒会長や他のクラスなんかよりもすごい出し物をする!”と。

 

皆が決心を固めていると、教室の扉から千冬と真耶が中へと入ってきた。

2人が入ってきたことに気付いた生徒の一人が口を開く。

 

「織斑先生! あの生徒会長のイベント、どうして止めなかったんですかっ?」

 

「そうです! あんなひどいイベントを、どうして?」

 

と口々に言う生徒達。真耶は困った表情を浮かべ、千冬は眉間にしわを寄せながらも口を開く。

 

「言い訳にしか聞こえんが、我々教師側もまさか奴が織斑を景品にするとは知らなかったのだ」

 

「では、イベントをするのは知っていたのですか?」

 

「あぁ。奴は先に学園長に今回のイベントの事は話していた。だが、景品に関しては豪華景品としか書いておらず、織斑とは書かれていなかった。オマケに教師が介入されないよう色々と書いていて、学園長の許可ももらっていた為我々も手が出せなかったんだ」

 

イラついた様子を見せる千冬に生徒達はそこまで入念にしていたのか。と楯無に対し更に恨みを抱く生徒達。

すると教室の扉がノックされ数人の生徒達が入ってきた。

 

「失礼します」

 

「3年のセレスティーナか。それに、お前たちは…」

 

「はい、料理研究部の上級生です」

 

そう、一夏が所属している料理研究部の上級生達であった。

 

「で、どうした?」

 

「はい、私達料理研究部上級生は1年1組と合同で出し物をしたいと考え、参った次第です」

 

「「「「!?」」」」

 

セレスの言葉に1組の生徒達は驚いた表情を浮かべ、真耶も同様に驚愕の表情を浮かべていた。

千冬は特に驚いた様子は見せず、真剣な表情で問う。

 

「その意見はこの場にいる料理研究部上級生全員の意思か?」

 

「「「「「はい」」」」」」

 

「織斑君は最初は怯えながらも私たちの部活に参加していましたが今は楽しく参加しているんです」

 

「そうじゃ。織斑が作る料理は美味しく、そして人を笑顔にさせる料理じゃ」

 

「織斑君は私達料理研究部にとって大切な後輩で部員です。それを勝手に移籍させるなど言語道断です」

 

「そうか、わかった。それじゃあ「待ってください!」 ん?」

 

突然待ったの言葉が響き、全員声がしたほうに顔を向ける。上級生たちの後ろから現れたのは

 

「私達も手伝います!」

 

「織斑君は、同じ部活の同期やから、こんな形で奪われるなんて許せへんので私達も力貸します」

 

と、ニコラスとあおいが現れた。

 

「え? でも二人は他のクラスだから出し物とかが「その辺は大丈夫や。出し物でそれなりのサービスするから許してって言うたらOKもらえたさかい」そ、そうなんだ」

 

「では料理研究部全員が一組と合同で出し物をするってことでいいか?」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

千冬の問いに1組、そして料理研究部部員全員が返事をする。すると固まっていた真耶が我に返り、慌てて口を開く。

 

「ま、待ってください織斑先生! 勝手にそんなことして大丈夫なんですか?」

 

「山田先生、別に部がクラスと合同で出し物をしてはダメとは言われていないだろ?」

 

「そ、そうかもしれませんが、勝手に決めては「山田先生」は、はひぃ!」

 

なにも、問題はない。良いな?

 

「はひぃいぃぃい(´;ω;`)」

 

千冬からの圧に真耶は有無を言わせず首を縦に振り、結果一組と料理研究部の合同出し物が決まった。

すると、ガラガラと扉が開く音が鳴り響きモッフ達が中へと入ってきた。それに続いて一夏もその中へと入ってきた。

 

「あ、あれ、どうしてセレス先輩たちが居られるのですか?」

 

「実は料理研究部と1組との合同で出し物しませんかって提案しに来たの」

 

「そ、そうだったんですか。…あれ? でも確か学園祭の出し物は主に部活だけと聞いてたんですけど…」

 

「あぁ、えぇと…」

 

言葉に詰まるセレス。それもそのはずだ。今年は楯無が《傍迷惑》企画で1年のクラスも出し物が出せて、しかも優勝クラスは一夏が移籍するなど言えるはずが無かった。

言葉に詰まるセレスに千冬が口を開く。

 

「今年は例年より生徒の人数が多いという事で、1年生にも出し物を出そうってことで決まったんだ。で、料理研究部のセレスが織斑が居るこのクラスで一緒に出し物をしたら面白いだろうと考えて、提案してきたんだ。で、クラスのほぼ全員が賛成していてな。織斑はどうだ?」

 

千冬の問いに一夏は暫し考えた後、コクリと頷く。

 

「ぼ、僕もそれで賛成、です」

 

「わかった。それじゃあ正式に決定したことだからどういう出し物をするか決めるぞ」

 

そう言い千冬は生徒達に座るように指示する。料理研究部たちは後ろの方で立ちながら話を聞く。

教壇にはクラス代表の一夏と、副代表の本音が立ち、千冬たちは窓際で会議の様子を見守っていた。

 

「で、では1組と料理研究部の合同出し物を決めるのですが、その、料理関係でもいいでしょうか」

 

一夏はそう聞くと、皆は

 

「料理研究部と合同にするならそれが良いよね」

 

「確かに。料理研究部に料理を出してもらって、私達が配膳や呼び込みとかが良いかな?」

 

「だね。私達も料理は出来るけど…」

 

「研究部の人達と比べたらね」

 

と言った感じで一夏の案が良いといった感じであった。

そして本音が口を開く。

 

「それじゃあ料理関係の出し物って事で良いぃ?」

 

「「「「うん」」」」

 

方針が決まり、一夏はチョークをもって背伸びをしながら黒板に料理関係と書く。

 

「それじゃあどういった感じに提供するかだよね」

 

「そうだね。ただ普通に提供するだけじゃあ、ただの料理屋さんだし」

 

「こう、見て楽しいといったものが良いよねぇ」

 

「じゃあどんなのが良いんだろう?」

 

と悩む生徒達。これには料理研究部の部員達も悩み全員悩んだ表情を浮かべていた。一夏もどうしたらいいんだろう。と目を閉じて考え込む。その隣にいた本音もどうしよう。と悩む。するとふと一夏の方を見た瞬間、

 

「あれ、何処かで見た顔…」

 

と、一夏の困り顔を何処かで見たようなと、別の悩みを浮かべる本音。しばし思い返していると思い出したのかあっ!と声を漏らす。

 

「本音さん、何かいい案が浮かんだんですか?」

 

「サモエド犬だ」

 

「はい?」

 

一夏の問いに本音が口にしたのは犬種の名前だった。突然の事に一夏はぽかんと言った表情を浮かべ、生徒達もはい?と言った呆けた顔を浮かべていた。

 

「本音、なんでサモエド犬?」

 

「え? いやぁ、イッチーの悩んだ表情がなんか、イッチーと一緒に行った動物園で見たサモエド犬に似てるなぁと思ってぇ」(∀`*ゞ)エヘヘ

 

と照れた表情で言う本音。その姿に生徒達は苦笑いにもう、本音ったらぁと呆れ顔を浮かべるのであった。そんな中、アメリアが何か閃いたのか顔を上げる。

 

「そうよ。コスプレよ」

 

「? コスプレ、ですか?」

 

「そう。制服で提供したりするよりもコスプレの様に楽しそうな姿で提供したらいい宣伝になるんじゃないかしら?」

 

「なるほど。確かに、集客目的ならそれなりに目立つものが良いわよね。流石大企業のご令嬢!」

 

「ふん、このくらい朝飯前よ」

 

「それじゃあどういうコスプレにする?」

 

「うぅ~ん。あ! 動物を取り入れたものはどう?」

 

「つまり、アニマルコスプレって事?」

 

「そうそう。猫耳や猫尻尾をつけて、メイド服だったり、巫女服を着るの!」

 

「それは確かに面白そうだね。でも…」

 

困惑した表情を浮かべる生徒。案を出した生徒はその姿に首をかしげる。

 

「どうしたの?」

 

「このクラス全員分の衣装をどこから調達するかだよ。私達あんまりお金がないよ。自前の物なんてないし」

 

「あ。それもそっかぁ」

 

良い案だと思ってたのにぃ。と零す生徒。するとアメリアが手を上げる。

 

「だったらうちで用意するわ」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

アメリアの突然の言葉に生徒達は驚いた声を上げアメリアの方に顔を向ける。

 

「出来るんですか?」

 

「えぇ。事前に全員の採寸をしてどんな衣装を着たいのか要望を出してくれれば、用意はできるわ」

 

「「「「おぉぉ!」」」」

 

アメリアの説明に全員感銘を受ける中、一人の生徒が疑問が浮かんだのか口を開く。

 

「あのアメリア先輩。服ってどうやって用意するのか聞いてもいいですか?」

 

「私が経営している企業の一つにコスプレ専門の服飾業者が居るの。其処だったら多種多様な服があるから問題ないわ。使い終えたらこちらで回収するしね」

 

「それだったら、良いかも」

 

「うん!」

 

全員これで決まりだぁ。という雰囲気の中、神崎が口を開く。

 

「おぬし達、決まるのは良いが、織斑のは衣装はどうする?」

 

「「「「「あ」」」」」

 

と肝心なことを忘れていた生徒達。当の一夏もそうだった。と忘れていたといった表情を浮かべていた。

するとモッフ(32号)がタブレットを突如一夏に差し出す。一夏はそれを受け取ると、画面には

 

『やっほ~~~いっくん!』

 

「た、束お姉ちゃん?」

 

束が笑顔を浮かべながら画面に映っていた。

 

『話は聞かせてもらったぜぇ! いっくんの衣装はこの束お姉ちゃんが作ってあげるから楽しみに待っててねぇ!』

 

「で、でもお姉ちゃんたいへんなんじゃ?」

 

『ふふん! 束さんの手にかかれば、いっくんの衣装なんてものの数日で完成できるぜ! それじゃあいっくんに似合う良い感じの衣装づくりをしないといけないから切るねぇ。バイビー!』

 

そう言い束とのテレビ電話が終わった。

そしてタブレットをモッフに返し、一夏はみんなの方に顔を向ける。

 

「あの、束お姉ちゃんが用意出来るとのことです」

 

一夏の言葉に全員は

 

「良かったぁ。織斑君の分もあって」

 

「まぁ、うちで用意するよりは信頼できるところで用意してもらった方があなたにとっては良いわよね」

 

と和やかな雰囲気になる中、全員の心中では

 

 

(((((篠ノ之博士! 可愛い感じの服お願いします!))))))

 

と願うのであった。

 

その後、様々な話し合いを終えると時刻は放課後となっていた為その日は全員解散となった。

 

 

その日の夜、人気のない階段の踊り場で本音はある所に電話をかけていた。

 

「それでどうして会長はあんな企画を出したのぉ?」

 

『生徒間の結束を固めるため。お嬢様はそんなことを言っていたけど、実際は自分が楽しむためとしか思えないわ。はぁ~』

 

と電話の向こうにいる人物、虚は重い溜息を吐く。

 

「お姉ちゃんにも景品の事は知らせなかったんだね、会長はぁ」

 

『えぇ。私も豪華景品としか聞いていなかったから、まさか当日に織斑君が景品だなんて知らなかったわ。すぐに取り消すべきだって言ったんだけど、聞き耳を持ってくれないし、もう嫌になってくるわ』

 

「あんまり根を詰め込めすぎないでねお姉ちゃん」

 

『えぇ、ありがとうね本音。私も直接は難しいけど、出来るだけ力は貸すから、頑張りなさい』

 

「うん」

 

そう言い電話を終える本音。

そして部屋に戻ろうとしたところで

 

「やっぱりあの企画はあの人の独断だったんだね」

 

と陰から現れた人物。本音は突然現れた人物に驚き顔を向けるとそこにいたのは

 

「か、かんちゃん?」

 

自身の幼馴染、簪が其処に立っていた。

 

「ど、どこから聞いてたの?」

 

「ほとんど最初から」

 

「そ、そうなんだ…」

 

そう言い困った表情を浮かべる本音。すると簪はテクテクと本音の前にやってくる。

 

「本音」

 

「な、なに?」

 

「本音のクラスは何をするの?」

 

「えっと、軽食屋さんだけど…」

 

「そう。……私もクラスの子たちを何とか誘って行くわ」

 

「え?」

 

突然の言葉に本音は驚いた表情を浮かべ、簪を見つめる本音。

 

「だって、織斑君は本音にとって大事な友達なんでしょ? だったら少しでも優勝できるよう手伝うわ」

 

照れながらいう簪に本音は呆けた顔を浮かべていたが、段々と意味を理解したのは笑顔を浮かべながら簪に抱き着く。

 

「ありがとうかんちゃん!」

 

「べ、別にいいよ。ほら、そろそろ帰ろ。門限ぎりぎりだから」

 

「うん!」

 

そう言い本音は簪と共にそれぞれの部屋へと帰っていった。

 

 

そして同じく寮長室の千冬はと言うと

 

「すまんな束。我慢を強いらせて」

 

『別にいいよぉ。ガチギレしてあの小娘をコロコロしてやろうと思ったけど、そんなことしたら学園祭が中止になる恐れがあったからね。せっかくいっくんの初めての学園祭がそんな形で終わらせたくないからね』

 

そう言いながらもどこからしら苛立ちがある様子を見せる束。

 

『まぁ、このイライラはいっくんの写真を見ながら晩酌したらどこか消えていくから良いけどね』

 

「そうか。まぁほどほどにしておけよ。じゃないと一夏の奴がお前がたくさん酒を飲んでいるとか思われるかもしれんからな」

 

『分かってるってぇ。飲みすぎ注意、ほどほどが一番ってね』

 

それじゃあバイビー!と言って電話を切る束。スマホをしまうと千冬も、私も少し飲むかと言い、ノンアルの梅酒を出してそれを氷の入ったグラスに注ぎ口に運ぶ。

 

「ふぅ~。今年の学園祭は無事に終えてくれればいいんだがな」

 

そんなことを祈りながら千冬は2口目をつけるのであった。




次回予告
1組と料理研究部の合同での出し物が決まり、着々と準備が進んだある日。
料理研究部は出す料理を作り上げていた。

しかしこれが学園を巻き込む大騒動の始まりのきっかけだった。

次回
戦場になる学園~前編~


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59話

説明会から数日が経ったある日の事。

あの日から料理研究部と1組の生徒達は出し物が決まってからクラスの内装をどういった感じにするかとか、出す料理をどうするかなど話し合いが行われ着々と準備が進められていた。

出す料理については料理研究部がそれぞれアイデアを出し、簡単に調理ができる上に1組の生徒でも簡単に盛り付けが可能な料理にしようと事で決まった。

 

そして今日がその出す料理の試食会の日であった。

料理研究部の子たちはそれぞれ担当を決め、セレス達3年生はサンドイッチなどの洋食、神崎達2年生は和食。一夏達1年生はデザートで決まった。

 

お昼ご飯に試食会を行う為、一夏達料理研究部は朝学校に来たと同時に家庭科室に集まって試食用の料理を作っていた。

学園祭の準備期間の為、授業はほとんど無く、あっても1,2時間の座学の為朝から一夏達は料理作りにいそしむことができたのだ。

 

セレス達3年生達はレタスとトマトとハムをはさんだシンプルな物や、チーズやベーコンをはさんだ食べごたえありのサンドイッチを作ったりしていた。他にも熱々を食べてもらう為にパンケーキの元を用意などもしていた。

神崎達2年生はおにぎりやお味噌汁、そしてこちらも熱々を出せるようにとうどんやそばの準備をしていた。

そして一夏達1年生はシフォンケーキやホットケーキなどのデザートにテイクアウト用のプリンやクッキーが入った物を作っていた。

 

「よし、こっちは大体できたわね。神崎さん達の方はどう?」

 

「こちらもおおよそできたぞ」

 

「そっか。織斑君たちの方はどう?」

 

「は、はい。こっちもできました。」

 

そう言いながら一夏は

 

「えっと、デザートはプリンとシフォンケーキ、ホットケーキの3つだっけ?」

 

「あとはお持ち帰り用のプリンとクッキーです」

 

「おぉ。豪勢な感じだけど、織斑君大丈夫? 疲れたりしてない?」

 

「その、全然大丈夫です。料理を作るのは楽しいので、全然苦じゃないです」

 

そう言いはにかみながら笑みを見せる一夏。その姿にホッとなるセレス達。するとニコラスがあるものを見つける。

 

「あれ? ねぇねぇ織斑君、このシールが貼ってる奴ってなにぃ?」

 

ニコラスが見つけた物、それは小さな箱が3つほどあった。その箱にはそれぞれ雪の結晶、フライパン、眼鏡のシールが貼られていた。

 

「そ、それは先生達用に用意したお菓子です。試食会に参加できないって言ってたので、それだったらせめてデザートだけでもとも思って、余った材料で作っておいたんです」

 

「そうだったんだ。相変わらず優しいね織斑君」

 

優しい表情でセレスがそう言うと、周りにいた皆もうんうん。と同意するように頷き、一夏は頬を染めながらうつむく、その後後片付けが終えるとセレスが口を開く。

 

「さて、それじゃあこの後授業があるから皆一旦解散ね。お昼になったら1組の生徒達と此処に合流ね」

 

『はい』

 

「それじゃあそれぞれ教室に帰りましょうか」

 

そう言うと皆席を立ち家庭科室から出ると、セレスが家庭科室に鍵をかける。

 

「セレス、カギは大丈夫?」

 

「うん。窓の鍵も大丈夫だし、扉には料理研究部使用中ってポスター貼ってあるから他の人達が使う心配はないかな」

 

「そう。それじゃあ教室に行きましょうか」

 

稲葉がそう言うと、セレスはえぇ。と返し皆それぞれ自分たちの教室へと向かって行った。

 

 

そして時間は飛び、お昼休み。

チャイムが鳴り響くと皆手早くノートや教材などを片付ける。

 

「さて、それじゃあ家庭科室にいこっか」

 

「そうだね。もうおなかペコペコだよぉ」

 

「私もぉ。朝ご飯少し少なめにしてたから、待ちきれなかったぁ」

 

みな朝を少し抜いたりなど、おなかをすかせていた。

 

「おなかすいたねぇイッチー」

 

「はい。皆さんが満足できる料理だと思うので、楽しみにしていてください」

 

「そりゃあ料理研究部総出で作った料理でしょ? そんなの楽しみ以外ないでしょ」

 

「うんうん」

 

本音、相川、鷹月の三人と共に移動していた一夏はクラスのみんなが笑顔で楽しみにしている姿に少し安堵した表情を浮かべながら家庭科室へと向かう。

途中でニコラスやあおい達とも合流した1組の生徒達は遂に家庭科室前へと到着すると、それと同着するようにニコラス達3年と神崎達2年生も集まった。

 

「あら、丁度いいタイミングね」

 

「そうね。それじゃあカギをっと」

 

そう言いセレスは懐からカギを取り出し鍵穴にさす。そしてロックを解除しようとするが

 

「あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「鍵が開いてる」

 

「え?」

 

稲葉の質問にセレスは返しながらカギを抜き、取っ手に手をかけ横に引く。すると扉が少し開く。

 

「可笑しいわね、カギはかけたはずなのに」

 

「えぇ。それは私も見てたし、皆も見てたわよね?」

 

稲葉が問うと、料理研究部の面々はうん、と同意するように頷く。

 

「それじゃあなんで開いてるの?」

 

全員が疑問符を浮かべている中、先に動いたのは一夏の護衛であるモッフ達だった。

モッフ(34号と9号)は銃の安全装置を解除し、プラカードを見せる。

 

【何者かが侵入した形跡があると見た。我々が安全を確認するまで少し離れていてくれ】

 

「わ、分かったわ」

 

モッフの指示に皆家庭科室から少し離れた位置へと移動する。移動した後、34号と9号は扉に手をかける。そしてアイコンタクトで合図を出して、一気に扉を開け中へと突入する。

ぼひゅぼひゅと激しく動く音が鳴り響き暫くして9号が出てくる。

 

【安全を確認した。中に入っても構わない】

 

そう伝えられ、皆中へと入る。中は特に荒らされているといった形跡はなかった。

 

「荒らされてないとすると、なんで入ったんだろ?」

 

「……まさか!」

 

セレスは慌てた様子で冷蔵庫の方へと向かう。その姿で犯人が侵入した目的を理解した料理研究部と1組の生徒達。

冷蔵庫の前に来たセレスはすぐさま冷蔵庫の扉を開ける。すると中には朝入れたサンドイッチなどが入っていた。神崎達も自分たちの料理が入った冷蔵庫を開ける。こちらも同様におにぎりなどはしっかりと入っていた。

 

「どうやら無事みたいだったわね」

 

「こっちの料理もじゃ。無くなっておらん」

 

安堵しながら料理を冷蔵庫から出していく。

すると1組の生徒の一人が疑問を口にする。

 

「じゃあなんで侵入者は入ってきたんだろう?」

 

「…まさか、料理に何か仕込んだとか?」

 

そう言うとえっ!?と驚愕の表情を浮かべる面々。するとモッフが近づいてきて料理を凝視する。

しばしの沈黙の後、モッフ11号がプラカードを出す。

 

【料理に細工された形跡はない】

 

そう見せられ安堵した表情を浮かべる生徒達。だが

 

【しかし、料理の数が朝に比べて減っている。恐らく侵入者が食って行った可能性がある】

 

「「「「「「えっ!?」」」」」」」

 

11号の言葉に全員驚きの声を上げる。そして神崎2年生が慌てた様子で数を数える。

 

「…本当じゃ。幾つか消えとる」

 

「私も数えましたが、やはり消えてますわ」

 

神崎達のが食べられていることに不安を覚えたセレス達のサンドイッチの数を数える。

 

「こっちも食べられているわ」

 

「まったくいったい誰が盗んだのよ!」

 

アメリアはそう怒りの表情を浮かべながら言葉を吐き出す。

 

「デザートの方は?」

 

「こちらもケーキとか数個ほど消えてます」

 

「そう。「あれ? あれ?」ん? 織斑君どうしたの?」

 

ニコラスの報告に眉間にしわを寄せていたセレス。しかし一夏が慌てた様子で冷蔵庫の中を何回も見返す姿に声をかける。

 

「な、無いんです」

 

「ケーキなら確かに「そ、それじゃあないんです。先生達に渡すお菓子の入った箱が一つないんです」え? まさかそれも盗られたの?」

 

一夏の報告にセレスも確認するため冷蔵庫を確認する。だが、一夏の言う通り冷蔵庫の中には箱がいくつかあったが、シールが張られた箱は3つあったのが2つになっていた。

 

「犯人の人、お土産と言わんばかりに持って行っていたのかしら?」

 

稲葉が怒ったような表情を浮かべながらそうつぶやく。そんな中、一夏はと言うと

 

「……グスッ」

 

と涙を流し始めていた。

 

「あ、イッチー!」

 

一夏が泣いてしまったことに気付いた本音は慌てて一夏の傍に行き慰める。

 

「お、おねえ、ちゃんに、お姉ちゃんに渡す、箱、盗られた」

 

一夏がそう零すと、セレス達料理研究部はどういうことかすぐに察した。

 

「そっか。シールごとに先生に渡す奴が違っていたんだ」

 

「なるほど、包丁は幸平先生で、眼鏡が山田先生。で、雪の結晶が織斑先生って事か」

 

そう言い冷蔵庫の中を再度確認する。冷蔵庫の中には眼鏡と包丁のシールが張った箱しか残っておらず、雪の結晶のシールが張った箱はなかった。

 

その後セレス達はこの状況をどうするかで話し合いを始めた。

 

「それじゃあ私と紀子は職員室に行ってこのことを報告しに行ってくるわ。それまでみんなここで待ってて」

 

そう言いセレスと稲葉は家庭科室から出ていき、残った者たちは不安そうな表情を浮かべる。部屋の隅の席ではまだ悲しみで涙を流す一夏が居り、傍には本音とモッフ達が居て励まし続けていた。

そんな一夏の姿に1組の生徒達は怒りの表情を浮かべていた。

 

「本当に一体誰よ。織斑君や料理研究部の人達が一生懸命作った料理を盗み食いした人は」

 

「……まさか、あの生徒会長とか?」

 

「でも鍵がかかっていたんだよ? どうやってカギを開けたのさ?」

 

「そりゃあ合鍵とか使って…」

 

「それだったらカギ閉めてくでしょ」

 

「確かに…。はぁ~、じゃあいったい誰が犯人なのよ。最有力はあの生徒会長だけど、証拠がないから問い詰められないし」

 

そう零し、苦渋に満ちた顔を浮かべる生徒達。するとドタドタと走ってくる音が鳴り響く。そして扉が勢いよく開く。

現れたのは

 

「い、一夏!」

 

と慌てた表情を浮かべた千冬であった。千冬はすぐに一夏の傍に近寄る。

 

「大丈夫か、一夏?」

 

「お、お姉ちゃん。ご、ごめん。お姉ちゃんに、渡す、ケーキを、盗られたぁ」

 

「大丈夫だぞ一夏。お姉ちゃんが絶対に取り返してやるからな!」

 

そう宣言する千冬。

その後幸平と真耶達教師と、報告に行っていたセレス達が戻ってきた。そしてセレス達は現状わかっていることを再度幸平達に説明した。

 

「――という事です」

 

「なるほどね。それにしてもいったい誰が侵入したのかしら?」

 

「そうですね。此処の部屋の鍵はたしか…」

 

「一つは部長であるセレスさんが。もう一つは職員室に。そしてスペアキーは学園長が持ってるわ」

 

「そうですよね。そうなると、一体どうやって部屋に入ったんでしょう?」

 

真耶は首をかしげながら頭をひねる。すると、カギの所在を聞いたモッフ9号は家庭科室から出て扉の鍵穴を確認する。しばし見つめた後、千冬たちの方にプラカードを見せる。

 

【鍵穴付近に真新しい傷がある。恐らくピッキングをしたんだろう】

 

9号の説明に教師たちや生徒達は驚いた表情を浮かべる。

 

「ピッキングって、誰かがカギをこじ開けたって事ですか?」

 

【肯定だ。それと素人ではない。恐らくプロだと思われる】

 

「プロって、そんな芸当ができる人ってかなり限られるわよ」

 

9号の説明に考えられる生徒を考える幸平と真耶。すると1組の生徒の一人が口を開く。

 

「先生、やっぱりあの会長じゃないんですか?」

 

「……会長って、更識さんの事?」

 

「はい! あの人、生徒会長って立場ですし、それなりの腕とか持ってるはずです!」

 

「その可能性はあるかもしれないわ。でも、証拠が無いわ。だから問い詰められないわ」

 

幸平の説明に1組の生徒達は悔しそうな顔を浮かべる。

 

すると涙を流していた一夏は椅子から立ち上がる。

 

「イッチー?」

 

「ちょっと、トイレに、行ってきます」

 

そう言いながら肩を落としながら家庭科室から出ていく一夏。その後をモッフ達もついていった。

悲しい表情を浮かべた一夏を見た本音は、暫く悲しい表情で扉を見つめた後、何かを決意したのか真剣な表情を浮かべる。

そして本音はさっそくとばかりにスマホを取り出し電話帳に登録されている姉の番号を呼び出し、電話をかける。

しばしコール音が鳴り響いた後

 

『もしもし、どうかしたの本音?』

 

と虚が出た。

 

「お姉ちゃん、あのね―――」

 

本音は虚に電話をかけた理由を言う。すると虚は呆れたのか頭を抱えているのか重い溜息が吐かれる音が電話越しに流れた。

 

『本音の説明だとお嬢様の可能性は高いわね。でも証拠が無いんでしょ?』

 

「うん。それでお姉ちゃんに調べてほしいなと思って」

 

『それは構わないけど、盗んだ証拠って分かるものはある?』

 

「お菓子の箱を盗んだって言ったじゃん。あれにね、雪の結晶のシールが貼ってるらしいの」

 

『なるほど。決定打には難しいけど、少し調べてみるわ。それじゃあ「あ、まってお姉ちゃん」なに?』

 

「このままビデオ通話にしてほしいの」

 

『…確かにそっちの方が確認しやすいわよね。わかった、ちょっと待って』

 

そう言いしばし暫くすると本音のスマホの画面に虚の顔が映る。

 

『映ってる?』

 

「うん、映ってるよ」

 

『それじゃあ生徒会室に向かうわね』

 

そう言い虚はスマホを制服の胸ポケットに入れたのか、映像が廊下を映し、上下に動きながら進んでいく。

そして本音は一緒に確認してもらおうと近くにいた千冬に声をかける。

 

「あの織斑先生」

 

「どうした布仏?」

 

「会長が盗んだかどうか調べてほしいってお姉ちゃんに今頼んで、ビデオ通話で繋いでいるんです」

 

その言葉に千冬は真剣な表情を浮かべ、本音の傍へと近寄り本音の手元にあるスマホをのぞき込む。

映像は丁度生徒会室へと入ろうとしているところだった。

そして虚が扉を開け中へと入る。部屋の奥には楯無が椅子に座って苦しそうな表情浮かべながらおなかをさすっていた。

 

『どうかされたんですか、会長?』

 

『いやぁ~、ちょっとお昼食べ過ぎちゃってね。虚ちゃん、お水と胃腸薬とって頂戴ぃ』

 

『はぁ~、食べ過ぎると太りますよ』

 

そう自然を装いながら水と薬を取りに行く虚。

 

「更識の奴、普段から腹一杯に食べていたか?」

 

「いえ、動きやすいようにとある程度抑えてるはずです」

 

千冬の言葉に本音はそう返す。そして虚が部屋に備えられている冷蔵庫を開ける。すると冷蔵庫の棚にお菓子箱が置かれていた。

 

「「あっ、あった!」」

 

本音と千冬ははもりながらそう言うと、他の生徒達は驚き千冬たちの方へと近づく。そして2人の手元にあるスマホを覗き込む。

 

「あれ、スマホに映っている箱って!」

 

「うん、間違いない。織斑君が用意したお菓子箱や」

 

「これって、何処の映像なんですか?」

 

生徒達の質問に千冬が口を開く。

 

「……生徒会室だ」

 

その言葉に生徒達は驚いた表情を浮かべた後、怒りの表情へと変わる。

 

「やっぱりあの生徒会長が!」

 

「ふざけたことをしおって!」

 

「お仕置きが必要そうですわね」

 

料理研究部や1組の生徒達は怒りの表情を浮かべるも、幸平が口を開く。

 

「ちょっとみんな落ち着きなさい。まだこれが織斑君のと言う確証が無いわ」

 

そう落ち着かせる幸平。

虚も箱に気付いたのか、箱をそっと動かす。すると箱には雪の結晶のシールが貼られていた。

 

「雪の結晶のシール! もうこれ確定ですよ!」

 

「そうです! 今すぐ生徒会室に乗り込みましょう!」

 

1組の生徒達が過激な発言をするも

 

「そうかもしれないけど、もしこれがお店で買って貼られたシールだって言われたら?」

 

幸平がそう言うと、虚も同じ質問を楯無に投げる。

 

『会長、この箱は何ですか?』

 

『あ、それ? この前美味しいって評判のお店で買ったのよ』

 

『…そうですか』

 

「ほらね。これだと織斑君のと言う証拠は難しいわ。決定的なものが無いと」

 

幸平の説明に1組と料理研究部の面々は苦い顔を浮かべる。

すると虚があるもの気付く。

それは箱の隅からはみ出ているものだった。虚はそっとはみ出ているものを引っ張り出す。

 

「これはメッセージカード?」

 

「そうみたいね。織斑君が入れておいたのかしら?」

 

そう言っている間にも虚がカードを裏返す。其処には

 

[お姉ちゃんへ

 お仕事頑張ってね

  一夏より]

 

と書かれていた。

 

「これって」

 

「織斑君の直筆のメッセージカード」

 

「それじゃあこれは…」

 

生徒の一人がその先の言葉を言う前に千冬が猛ダッシュで家庭科室から飛び出していった。

生徒会室に向かう道中千冬は携帯を取り出し

 

「フモッフか? 部隊全員集めろ! 盗みを働いた生徒会長を捕縛する! 抵抗してきた場合は、殺さない程度で痛めつけても構わん! 全戦力を動かせ!」

 

大声で叫びながら千冬は生徒会室にいる盗人をぶち殺すと言わんばかりの迫力で向かって行った。




次回予告
盗みを働いたことがばれた楯無。
彼女を捕縛(ギッタンギッタンのボッコボコにした後)すべくフモッフは新たに作られた部隊などを導入した。
さてさて、彼女は無事生きて帰ってくることは出来るのだろうか?

次回
戦場になる学園~後編~

千冬「さぁ、貴様の罪を数えろぉ、更識ぃ!」


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60話

今年最後の投稿です。
それでは皆様、良いお年をー!!


怒りの千冬が生徒会室へと向かっている中、生徒会室では虚が静かに怒りを燃やし、楯無に詰め寄っていた。

 

「お嬢様、これは一体何ですか?」

 

そう言い虚はお菓子の入った箱を見せる。

 

「え? だからお店で「じゃあこの箱に入っていたメッセージカードは何ですか?」……そ、それはぁ」

 

お店で買ったと言おうとした楯無を遮るように箱に入っていたメッセージカードを見せつける虚。そのことに楯無は言葉が詰まり明後日の方に視線を向ける。

 

「それと、家庭科室に侵入して料理研究部が作った料理を食べたのもお嬢様ですよね?」

 

「そ、それは私じゃ「ほう? ではお昼は何処で食べたんですか?」勿論食堂で「では食堂で確認しましょう。普段小食であるお嬢様がおなか一杯に食べていたんです。誰かが見ていたかもしれませんし、食堂のカメラや履歴を確認しましょう」ちょ、ちょっとなんで其処までするのよぉ?」

 

楯無がそう言うと、虚が鋭い目つきで睨みつける。

 

「決まっています! どういう理由でやったからは知りませんが、勝手に家庭科室に侵入して、料理研究部が作った料理を食べる、更にはお菓子箱を盗んできたなど立派な犯罪ではありませんか!」

 

「そ、それはそうだけど、これも立派な仕事で「どこが仕事ですか! 侵入することですか? 作られた料理を盗み食いすることですか? 織斑君が作ったお菓子を盗むことですか?」うぅ~」

 

虚の勢いに楯無は口ごもる。すると

 

『本当に、よくもやってくれたわね!』

 

と、突如その場にはいない人物の事が響いた。

 

「え? 今のってセレスティーナ先輩の声?」

 

あたりを見渡す楯無。しかし周囲にはいない。じゃあどこからとキョトンとする楯無に、虚は胸ポケットに入れていたスマホの画面を突きつける。

其処にはセレスや紀子など料理研究部の部員達や一組の生徒達の一部が映っていた。

 

『よくも私達が作った料理を盗んだわね!』

 

『この落とし前、しっかりと払ってもらうぞ更識!』

 

『泣き喚いても、許しませんわ!』

 

『私達の大事な織斑君をよくも泣かせましたね!』

 

『生徒会長だからって、なんぼのもんじゃぁ!』

 

と、怒り心頭の生徒達。

そんな中、セレスが憐れんだ目で楯無に声をかける。

 

『それより早く土下座なり謝罪する準備をしたほうが良いわよ』

 

「え?」

 

『怒り心頭の人がそっちに行ったから』

 

セレスの説明に虚はどういうことなのか納得の表情を浮かべる中、楯無だけは訳が分からないといった表情だった。その瞬間

 

ドンガラガッシャーーーーーン!!!!

 

と生徒会室の扉が吹き飛び、向かいの壁へとぶつかり床へと転がった。扉には勢いよく蹴られたのか、大きくへこんでいた。

楯無と虚は扉の先に顔を向けると

 

「た~て~なぁ~しぃ~!!」

 

と怒り心頭で背後からは真っ赤なオーラが噴き出ている世界最強のお姉ちゃん、織斑千冬だった。

 

「お、織斑…先生……」

 

「貴様ぁ。私の大事な弟を、よくも泣かせたなぁ!」

 

そう言いながら楯無へと向かう千冬。その覇気に楯無は恐怖を浮かべる。

さて、人間は恐怖を抱くととる行動はいくつかある。一つは蛇に睨まれた蛙のごとく固まって動けなくなる。もう一つはその恐怖に果敢に挑もうとする姿勢。そしてもう一つは

 

「……っ!」ダッ!

 

「お嬢様!?」/「更識!」

 

背後にあった窓を破って外へと逃げた。二人は窓へと急ぎ向かい見ると、楯無は地面近くでISを展開して無事に降りて脱兎のごとく逃げていく。

 

「絶対に逃がさんぞぉ、更識ぃ」

 

そうつぶやき後を追おうとすると

 

「あの織斑先生」

 

と虚が申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

「私が、しっかりと見張っていればこのようなことにはなりませんでした。本当に申し訳っ」ガッ

 

虚は勢いよく頭を下げようとしたが、千冬が寸でで、肩に手を置きその行為を止めた。

 

「よせ、お前は何も悪くない。いいな?」

 

「しかし…」

 

「奴の独断行動でいちいちお前が責任を感じる必要ない。兎に角奴はこっちに任せろ。お前は家庭科室に行って一旦心を落ち着かせて来い」

 

「……はい」

 

そう言い虚は、後はお願いします。と言い家庭科室へと向かった。そして千冬もその後を追って廊下に出るとモッフ3体が現れ、モッフから通信機を受け取り、フモッフに通信をとる。

 

「フモッフ、ターゲットは逃げた。よって現時刻をもって全兵器使用可能(オールウェポンズフリー)、繰り返す全兵器使用可能(オールウェポンズフリー)! 死ななければ何をしても構わん。奴を捕まえろ!」

 

『フモッフ!』

 

そう返信があり、千冬は3体のモッフ達と共に楯無の追跡を開始した。

 

その頃生徒会室から逃げた楯無はと言うと、本棟から離れた位置でどうしようかと悩んでいた。

 

「はぁ~、まさか織斑先生のお菓子に手を付けたなんて、運悪いなぁ私。兎に角織斑先生の怒りを鎮めて、なんとか穏便に済ませる方法を探さないと」

 

そうつぶやく楯無。だが、もはやそんな穏便に済ませられる状況ではない事にまだ気づいていなかった。

そしてそんな楯無の位置も既にバレて居る事も。

 

それはIS学園の上空に飛ぶ一機の飛行機だった。それは通常の飛行機とは違い機体後部にプロペラが付いた細長い機体だった。

それはリーパーと呼ばれる無人偵察機で、フモッフ達警備部隊に新たに創設された無人機部隊の所属であった。

リーパーで楯無の位置を捕捉した後、その位置は地上部隊、そして新たに新設された部隊にも伝えられていた。

 

……バラバラ

 

「ん?」

 

楯無は突如ヘリのローター音がするのをとらえた。が、大方一般通過のヘリか何かと思い無視するも

 

バラバラバラ

 

と音は段々と近づいていた。

 

「この近くを通過するのかしら?」

 

だが、音は段々と近づいてくる。そして凄い風圧が楯無の近くで起きる。楯無は突然の突風に驚きながら風の発生源を探す。が、それはすぐに見つかった。それは楯無の近くの上空にブラックホークと呼ばれる兵員輸送ヘリが飛行していたからだ。

ヘリの側面にはフモッフ達のロゴが描かれていた。

 

「うそぉ!? ヘリってどこから持ってきたのよ!」

 

そう叫びながら逃げる楯無。逃げた楯無に気付いたブラックホークのパイロット達(モッフ25号と33号)はその後を追う。そして後部にいたモッフ(8号)に指示をする。8号は側面につけられているガンナー席からブローニングM2重機関銃を構え、初弾(硬質ゴム弾)を装填する。そして楯無に向け容赦なく発砲した。

 

「いやぁあああぁぁぁ!!??!!」

 

上空からの激しい弾幕に楯無は必死に逃げる。しばらく走ると楯無は建物内へと逃げ込んだ。

楯無が建物内に逃げ込んだのを確認した8号はすぐに無線で報告した。

建物内へと逃げ込んだ楯無は乱れた呼吸を整えようと深呼吸をする。

 

「ふぅ~、ふぅ~。い、一体どこから来たのよぉ、あのヘリはぁ」

 

そう呟きながら息を整える楯無。すると

ガシャン、ガシャン

と重い音が鳴り響く。

楯無は今度は一体何の音?と思い背後に顔を向けると、其処には

 

『ふっもぉ!』

 

とごつい装甲を身に纏い、更には手にはミニガンを持ったモッフが居た。

そう、某FPSゲームで鬼畜キル数をとるか、運試しの箱で出るかのあのジャガーノートである。

ジャガーノートモッフは楯無に向けミニガンのトリガーを引き、瞬く間に弾幕を張る。

 

「ひぃ!!?」

 

飛んできた硬質ゴム弾に楯無はすぐさま柱の裏に隠れる。柱にはゴム弾がガンガンと当たる。数発程度なら別に問題ない柱でも、なん十発、何百発と受ければひび割れ、削れていく。

削れる柱に楯無は反撃するべくISを展開しようとした。だが

 

「あ、あれ? なんで展開できないのよ!?」

 

そう叫びISを展開しようとする。だが、ISはうんともすんとも言わず展開されなかった。

何故ISが展開できないのか、訳が分からずパニックになる楯無。すると突如メッセージが届く。

 

『お前のISはロック済み。そのままボコボコにされちまえ』

 

宛先の分からないメッセージに楯無は一体誰が?と更にパニックになる。

……落ち着いていれば、ISの生みの親である束が送ったと分かるが、ブラックホークやらジャガーノートからの激しい攻撃を受けた上に、ISが展開できないというパニックの連続にそんな考えが浮かぶはずもなかった。

 

パニックになりながらも楯無は、なんとかこの場から逃げないとと思い、気持ちをなんとか切り替え柱の陰からチラッと見ると、瞬く間に楯無の柱に向けミニガンの銃口から火が噴かれる。

 

(どうする?どうする? あんな奴に生身で戦えないわよ!)

 

そう考えどうするか考える楯無。その間にもジャガーノートモッフはズシンズシンとゆっくりと近づく。

あたりに使えそうなものを探すと、自身が持っている扇子以外になく、そして自身の位置から15m先には曲がり角があった。

 

(もう、一か八かよ!)

 

そう思い楯無は持っていた扇子をジャガーノートモッフに向け投げる。突然投げられてきた扇子に、ジャガーノートモッフは慌てることなく素早く腕で弾く。その間に楯無は走って逃げだした。

逃げる楯無にジャガーノートモッフは直ぐにミニガンの引き金を引く。

激しい音と共に放たれる硬質ゴム弾。

そしてその数発が楯無の足に命中した。

 

「アガッ!!??」

 

高速で放たれた硬質ゴム弾。硬い石でもぶつけられたかのような痛みで、通常ならその痛みでのたうち回るが、楯無はそれを何とか我慢して飛び込むように曲がり角に入る。そして痛みに堪えながらも逃げていく。

ジャガーノートモッフは廊下の曲がり角から逃げていった楯無の事をすぐに報告した。

 

なんとかジャガーノートモッフから逃げきった楯無。痛む足を引きずりながらも何処かに身を隠さないとと思い隠れ場所を探すも……

 

ぼひゅぼひゅとけたたましいほどの独特な足音が響く。

 

「う、うそでしょ。もう追手が!?」

 

そう言い楯無は兎に角前へと進む。だが前方からも

 

ぼひゅぼひゅ

 

と、独特な足音が複数やってきた。完全に挟み撃ちにされた楯無は何とか逃げようと近くの空き部屋へと逃げ込む。

そして大きな空き箱があり、楯無はその中へと隠れた。

暫くして廊下から複数の足音が集まり、「ふもふも」やら「ふもっふ!」など声が聞こえる。

すると空き部屋の扉が開く音がし、中に数体ほど入ってきた。それぞれ部屋の中を歩き回っているのか、あちこちからぼひゅぼひゅと響き、楯無は兎に角息を殺し、見つかりませんようにと祈るしか無かった。

そして暫くして探索を終えたのか部屋から出ていく音が響き、楯無は安堵の息を零した。

 

 

が、突如箱が持ち上げられ、そしてなにか台車の上に乗せられたのか、箱は突如移動させられたのだ。

 

「や、やばい!」

 

楯無はバレたと思い逃げようとするも

 

「あ、開かない?!」

 

箱の蓋はギッチリとロックされており、押してもビクともしなかった。

何とか脱出しようと暴れるも、箱はビクともせずそのまま運ばれていった。

暫くして、動きが止まりそして箱が倒された。

倒された箱から楯無が転がり出てくると、彼女の目の前には

 

「捕まえたぞぉ、楯無ぃ…」

 

腕を組み、絶対零度の目で見つめる千冬が居た。そしてその周りにはモッフ達もおり、それぞれ銃器を持っていた。彼女が運ばれたのは、アリーナであった。

 

「ゆ、ゆるしてーー」

 

「許せる訳が無いだろうがぁ!」

 

そう叫び、千冬は腰に装備していた葵を抜き、楯無に斬り掛かる。

楯無は「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィ???!!、??」と悲鳴を上げながら、痛む脚を何とか動かし逃げるも、周りにいたモッフ達も援護射撃とばかりに硬質ゴム弾を楯無に向け撃ちまくる。

隠れる場所が無い為、楯無の体にバカスカ弾が命中。

全身から激痛が走り、動きが止まる。そして

 

「吹き飛べぇ!!!!」

 

そう聞こえ背後から千冬がフルスイングで葵の刃がない面を楯無の胴体に叩き込む。

「カハッ!?!?!?」

 

そう零しながら、楯無は吹き飛んでいき、地面を転がって止まった。

楯無は白目を向きながら気絶しており、もはや動ける状態ではなかった。

 

「よし、この馬鹿を反省房、いや独居房に放り込め。それと、拘束衣を着せておけ。脱走される恐れがあるからな」

 

『ふもっふぅ!』

 

千冬の指示にふもっふ達は敬礼で了承し、直ぐに行動を始めた




次回予告
千冬とフモッフ達にボコボコにされた楯無。
その後、無事にお菓子箱を取り戻し、一件落着となった。
が、中は良くても、外では大騒ぎとなっていた。
次回
中は良くても、外は許してません。

〜「お宅の娘、一体どういう教育をしてるのかしら?」〜


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61話

アリーナで楯無を〆終えた千冬は体に付いた土埃などを払い落とし家庭科室へと戻ってきた。

家庭科室内では

 

「うわぁ~、このサンドイッチ美味しぃ!」

 

「このパンケーキもふわふわで美味しいよ!」

 

「シンプルな塩むすびもいいけど、ツナとかおかかのおにぎりも美味しい」

 

「だね。それにこのお味噌汁もワカメと麩のシンプルなものだけど体に染み渡って美味しい」

 

「うどんもそばも熱々で美味しいね」

 

「このデザート美味しい!」

 

「うんうん。やっぱり甘いものは格別だねぇ」

 

と料理研究部が作った料理を笑顔で食べる1組の生徒達。その中には

 

「イッチー、このシフォンケーキすごくおいしいよぉ!」

 

「そ、そうですか? 砂糖控えめで作った物なので、美味しくできてるか心配だったんですが、美味しかったら良かったです」

 

「そうなの? 砂糖控えめは女性としてはありがたいわね」

 

お菓子の箱を盗まれて悲しんでいた一夏は、少し元気を取り戻していて本音と相川たちと共に料理を食べていた。

その姿に千冬は安堵した表情を浮かべる。するとその傍に虚が近寄る。

 

「織斑先生、会長は?」

 

「しばき倒してきた。今は独居房に放り込んでいる」

 

「そうですか。ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」

 

「お前が気にするな。奴の自業自得だ」

 

そう言う千冬。すると虚は持っていた箱を千冬の前に差し出す。

 

「それと、これをお返しします。中身は食べられている感じはありませんでした」

 

「そうか。すまんな」

 

そう言いながら千冬は虚から箱を受け取る。それは一夏が千冬の為に作った持ち帰り用のお菓子箱だった。

 

「さぁ、重い話は終わりだ。お前も一緒に試食会に参加するぞ」

 

「え? わ、私もですか? お邪魔なような気が…」

 

「アイツの所為で気疲れしてるだろ。旨いものを食べて、気を休めるのも仕事だ」

 

笑みを浮かべながらいう千冬。すると話を聞いていたのか、他の生徒達も笑みを浮かべながら口を開く。

 

「布仏先輩もどうぞどうぞ!」

 

「あの生徒会長の所為でお疲れでしょうし、一緒に食べましょう?」

 

「織斑君の向かいのところが空いてるので、其処にどうぞ」

 

「…では、お言葉に甘えて」

 

そう言い千冬と共に一夏と本音がいる席へと着き、共に試食会に参加するのであった。

 

 

こうしてIS学園でのお菓子盗難事件は無事に解決できた。

 

めでたしめでたし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……と、学園内では解決となった。

 

が、この人の中では未だに解決とは至っていなかった。

 

首都から離れ、郊外に建てられた大きな庭付き日本家屋の家。其処の表札には『更識』と書かれていた。そう、此処は楯無と簪の実家であった。

その建物の縁側で椅子に座りながら本を読む初老の男性。男性は持っていた本をゆったりとページをめくりながら眺めていると、突如口を開く。

 

「何か用か?」

 

そう声をかけると傍に一人の男性が立っており、手には電話があった。

 

「源三郎様にお話ししたいと電話がかかってきてまして」

 

「…わし宛に? 相手は?」

 

「それが、名を名乗らないのです」

 

「…なに? だったら切ればよかったじゃないのか?」

 

「そうなのですが、マザーと伝えたら分かるとも言われまして」

 

そう言われ源三郎は目を見開く。

 

「分かった。電話を」

 

そう言われ使用人は困惑しながら電話を差し出す。受け取った源三郎は手で下がれと合図し、使用人を下がらせる。人の気配が無くなったことを確認した源三郎は電話の保留を解除する。

 

「…もしもし」

 

『あら、出るのに随分と時間がかかりましたね』

 

と電話の先から女性の声が聞こえてくる。その声には怒りが含まれているのか、若干棘があるようなものだった。

 

「済まない、相手が貴女とは知らなかったもので」

 

『そう。まぁいいわ、貴方も今は隠居した身ですもの』

 

「それで、マザー。貴女が私に電話とは珍しいが、一体どのような要件だ? さっき貴女が言った通り、私は既に隠居した身で、今は私の娘が暗部の長だ」

 

そう告げる源三郎。そう、この人物の正体。それは日本をテロから守る暗部、つまりカウンターテロ組織の一つ、更識家の元長だった。そして楯無と簪の父親でもあった。

 

『えぇ、知ってます。だからこそ貴方に電話をかけたのよ』

 

「? どういうことです?」

 

マザーの言葉に源三郎は首をかしげる。

マザーは続けるように言葉を発する。

 

『IS学園に通っている世界初の男性操縦者、彼は私の息子なの』

 

「は? ……えっ、ま、待ってほしい。彼は貴女の息子!? という事は…」

 

『えぇ、その姉である千冬も、私の娘よ』

 

その言葉に源三郎は呆然と言った表情を浮かべるが、其処は元暗部の長。すぐに気持ちを切り替える。

 

「そ、そうですか。しかし何故そのことを私に?」

 

『決まっているじゃない。貴方のところの長女が、私の大事な息子に迷惑かけているから、その抗議の電話よ』

 

先ほど打って変わって怒りが更に含まれた口調で告げるマザーに源三郎は頬にたらりと汗が流れる。

 

『源三郎さん。貴方は仕事もできるし、うちの組織も色々と助かっていたわ。でも、貴方の娘が長になってから好き放題しているみたいじゃない。暗部だけじゃないわ。IS学園内でも色々とやらかしているみたいじゃない』

 

そう言われ源三郎はどいう事だと聞こうとしたところ書斎にあるパソコンからピコンと通知音が鳴り響く。

 

『今証拠の資料を送ったから見てみるといいわ』

 

そう言われ源三郎は席を立ち、書斎のパソコンを覗く。其処にはメールが一件届いており、源三郎はそれを開く。中にはPDFが入っておりそれを開くと其処には楯無がIS学園内でやらかした数々の事が書かれていた。

 

(IS学園の行事内容の変更、部費の私的分配、建物内の無許可侵入に、こ、これは!?)

 

ある一点に源三郎は目を見開く。

 

『見たかしら?』

 

「え、えぇ。まさか、楯無の奴、勝手に部屋に侵入して()()()()()()()()()()なんて」

 

『みたいね。しかも主に大企業や、国家代表だったり、国家代表に近い代表候補生の部屋。ばれたら国際問題待ったなしね。でもね…』

 

マザーは其処でいったん言葉を区切る。そして

 

『こんな問題よりも、お宅の娘が私の大事な可愛い息子に迷惑かけたことの方が大問題なのよ!』

 

怒鳴り声で告げられ源三郎は何とも言えない表情を浮かべる。

 

「それは、大変申し訳ない」

 

『謝罪じゃなくて、今後どうするのかを聞きたいんだけど』

 

「学園にいる以上、私からどうするかは『そう。それが貴方の答えなのね』ま、待ってていただきたい。娘にはもう迷惑をかけるようなことはするなと釘を刺します。だからどうか、待っていただきたい!」

 

『…良いわ。でも仏の顔も三度までよ。もうお宅の娘は三度私を腹立たせている。また息子に迷惑をかけるようなことをしたら、分かっているわよね?

 

電話越しでも感じられるほどの殺気に、源三郎は暑くもないにも関わらず全身に汗を流す。

 

「も、もちろんです。しっかり言い聞かせておきます」

 

『……良いわ。その言葉、信じておくから』

 

そう言って電話が切られた。書斎にいた源三郎は額に溜まった汗をぬぐいながら座布団へと座り込む。

 

「はぁ~、まさかこんな事態に陥るとはな」

 

そう零しながらパソコンに書かれている証拠のPDFに目をやる。

 

「……しかし、一体どうやって此処までの証拠を集めたんだ? …やはり学園内にも彼女の部下がいるのだろうか」

 

そう零す源三郎。しかしその疑問もさっさと頭の片隅に追いやり、兎に角娘の問題を解決せねばと動くのであった。




次回予告
学園祭開始までもうすぐと言ったある日の事。
五反田弾は息抜きがてらとレゾナンスに来ていた。すると其処で一夏と出会ってしまう。

次回
引きずっていた後悔

「俺は、お前の友達と呼べるのか?」


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