偽ブロリー《新》となって異世界に渡りました (ゴールデン)
しおりを挟む

さらば日本!!こんにちは異世界!!

 平成が終わって数百年がたった現在。

 DMMO‐RPGという仮想現実にダイブする体感型RPGゲームが流行していた。

 

 簡単に説明するとゲームの世界に実際に入り込んだかのように遊べるゲームの事だ。

 

 数多開発されたゲームの中で良くも悪くも非常に知名度の高い、一つのタイトルがある。

 

 《ドラゴンボールクラフト・ザ・ワールドウォーズ》

 

 百年以上前ファミコンゲームから始まり、現代まで愛されるドラゴンボールシリーズの最新作である。

 

 タイトルの発表から現在まで人気が持続しているのは、プレイヤー達に与えられた《自由度》だ。

 

 自身のワールドで建造物や芸術作品を作るクリエイティブモード

 

 アバターに付与できる種族、数千を超えるスキルにLVという概念が追加された体力と空腹ゲージが存在する、ドラゴンボールを探す冒険を主体としたサバイバルモード

 

 他プレイヤーが制作したワールドを冒険し、PVPを行う為のアドベンチャーモード

 

 そして、今回実装された自分のワールドと相手のワールドをワープゲートで繋げて戦争を行うウォーモード

 

 自身が育てたアバターとアイテムを与える事で成長するNPCを使った世界VS世界の総力戦。

 科学兵器・超人となんでもありの大乱闘。

 

 ゲームシステムだけでも子供から大人まで熱くさせるこのゲームだったが、特に大人たちの心を掴んで離さないのがキャラクターの外見や種族が関係する《スキン》と《ボディ》だ。

 種族はスタンダードである人間をはじめとする人種や魔族に動物型の姿をした亜人種、さらにはサイヤ人にフロスト一族が含まれる宇宙人種族。

 

 大人も子供も関係なく、世界の人々の心に火を付けた。

 

 しかし、負の面も確実に存在していた。

 戦争に敗北したプレイヤーに対して行われる必要以上のワールド破壊。

 PVPを利用した虐めや、世界の小・中・高の学校で多発する課金アイテムのカツアゲ。

 

 そんな、様々な問題も孕みつつ、《ドラゴンボール・ザ・ワールドウォーズ》は世界で最も人気のあるゲームとして評価を得ていた。

 

 ★

 

 キングキャッスルと城門に書かれた城の前で、二人のプレイヤーが談笑していた。

 一人は黒を基準とした戦闘服と緑の毛皮の腰巻に紫のズボンをした、筋肉質の男。

 スカウターと呼ばれるアイテムを右耳に取り付け、黒い髪と黒い瞳にサルを彷彿とさせる茶色い毛の尻尾を生やしている。

 

 もう一人は、特にこれと言った装備をしておらず、頭部と肩の紫色と白い肌が目立つ爬虫類の様な尻尾が生えている不気味な姿をしていた。

 

 前者は宇宙の戦闘民族サイヤ人、瀕死の状態で敵を倒す事で多くの経験値を取得できる事が特徴の《サイヤ人》。

 その中でも課金ガチャでしか入手出来ない、上位種である《エリートのサイヤ人》を超えて伝説の超サイヤ人に変身する事の出来る《伝説のサイヤ人》だ。

 

 後者は53万の戦闘力で有名な《フロスト一族》。

 彼も、課金ガチャによって入手したゴールデンに至る事の出来る《修行するフロスト一族》である。

 

 

 二人は自分たちのアバターの出典である《ドラゴンボール》の愛好家。

 その熱は凄まじく、幾千の課金アイテムを買い漁り、どうしても欲しいLR種族の出るガチャを引きまくる。

 生粋の廃課金プレイヤーである。

 

 そんな二人の内、《伝説のサイヤ人》が口を開く。

 

 「フリーザさん。俺達もそろそろドラゴンボールごっこの為のPVPをするだけでなく、アドベンチャーモードで冒険に出かけませんか?

 このままだと、俺達はずっとレベル1の戦闘力1500のままですよ」

 

 「あー、そうですね。私もそろそろ頃合いだと思ってました。

 では、ラディッツを超える為に初心者用のマップに行きますか?ブロリーさん」

 

 最上位種の二人だが、種族が変更したことにより新しい《ボディ》となった二人の経験値はゼロ。

 レベルも最低であり、ドラゴンボールごっこしかしてこなかった二人はステータスも初期スペックのまま。

 ちなみに戦闘力はレベルとステータスの数値を課金アイテムであるスカウターが計測してくれるのだが、出てくる数値は大まかなものであり、課金アイテムの存在を考慮すると数値の高さ(イコール)正確な強さとは限らないのである。

 

 レベル上げをする事に決めた二人はコンソール画面を呼び出し、アドベンチャーモードのマップに行くためのゲートを目の前に出現させる。

 

 「じゃあ、行きましょうか」

 

 「そうですね」

 

 こうして二人は仲良く初心者用のマップへと移動をしたのだが……。

 

 「あれ?ブロリーさん??」

 

 初心者マップにはフリーザが一人だけで立っており、彼と一緒にいたはずのブロリーの姿は何処にもなかった。

 

 ★

 

 フリーザーが初心者マップでブロリーを探している頃。

 ブロリーは誰も居ない丘の上に立っていた。

 

 「ん?フリーザさん?」

 

 彼もまた、フリーザが居ないことに気が付いて辺りを見渡していた。

 

 「もしかして……移動するマップの座標を間違えたか?」

 

 戦闘力を計測するだけでなく通信機としての機能を持つスカウターを操作して、フリーザと連絡を取ろうとするブロリー。

 しかし、彼のスカウターから聞こえるのはテレビで流れる砂嵐の様な雑音のみ。

 

 「通じないな……。とりあえず、ログアウトしてみよう」 

 

 ログアウトしてからスマホなどを利用してフリーザに連絡をしようと考えたブロリーはコンソール画面を開く為に腕を動かすが……。

 

 「出ない……」

 

 彼の腕は空を切っただけで、目の前には何も表示されない。

 

 「おいおい、ふざけんなよ!!」

 

 コンソールを呼び出す為に設定した腕の動きを何度やっても、彼が知っているコンソール画面が表示される事はなかった。

 

 「ちくしょう!!どうしてこうなった!?」

 

 無数の疑問が浮かび、不安と焦りがにじり寄って来る。

 

 「とりあえず、プレイヤーだ!!俺以外のプレイヤーを探すぞ!!」

 

 この状況は、自分一人では耐えられない。

 そう思ったブロリーはいつもの感覚で数メートルほど上空へと浮かんでスカウターを起動させる。

 

 「何処だ!?どこに居る!?」

 

 ピピピピピッと電子音を響かせながら、自分以外のプレイヤーを探す。

 

 「くそっ!表示されても戦闘力が低すぎるっ!!」

 

 プレイヤーでは絶対にあり得ないレベルの低い数字に、苛立ちを覚えるブロリー。

 だが、ここで彼には一つの疑問があった。

 

 「何故……まばらではなく集団で居るんだ?」

 

 アドベンチャーモード用のマップならNPCなどが集団で存在する場合はプレイヤーが、街や国を制作していなければあり得ない現象だ。

 つまり、この戦闘力の持ち主であるNPC達を管理しているプレイヤーが居るが、今は離れているのではないか?と、想像できる。

 

 「よしっ!!」

 

 彼は一番多く戦闘力のある場所へと向かって、空を高速で駆け抜ける。

 

 ★

 

 野を超え山を越え、小さな集落をの様な物を無視して一番、多くの戦闘力が集まる大きな都市にやって来たブロリーだったが……。

 

 「なんだよ……これ?」

 

 彼は上空から唖然とした表情で、巨大な都市を見ていた。

 街並みは酷く汚く、道を歩いている人間や亜人種も小汚い。

 路地裏には死体が転がっている始末だ。

 

 死体が無造作に放り捨てられている状況に険悪感を抱くブロリー。

 

 「……死体を街に置くなんて、ここを制作した奴は何を考えて居るんだ?

 こんな事が運営にばれたら、警告なしでアカウントを削除されるぞ」

 

 犯罪都市と言わんばかりの光景に頭を痛めていたブロリーだが、ふと視線の端に二人の男女が揉めている光景が目に入る。

 

 「今度はなんだよ……」

 

 げんなりとした表情で見ていると、次の瞬間には背中に翼の生えた色っぽい服を着た女性が男に押し倒された。

 

 「おいおいおいっ!!マジかよ!?」

 

 彼女の服が剥かれ、背中の翼から羽が舞上がると同時に豊満な胸がこぼれる。

 まさかの展開にショックを受けて、頭を抱えるブロリー。

 この街を見た時から彼の奥底に芽生えた荒唐無稽の考えが、浮上する。

 

 これは現実である。

 

 現実だからプレイヤーは居ない。

 

 現実だからR18に触れる死体や犯罪が目の前で行われている。

 

 「クソがっ!!」

 

 ストレスがピークに達したブロリーは悪態をつきながら、ズボンを下ろして大きく反りあがった逸物を晒す男の元へと急降下した。

 勿論、ブロリーのこの行動は男から女性を救う為や物陰から女性の痴態を見る為ではなく、正当な理由でストレスを発散できるサンドバック()を見つけたからだ。

 

 「この……ボケがっ!!」

 

 今まで心にたまった物を発散するような大きな罵声に合わせ、男の顔面にブロリーの蹴りが突き刺さる。

 

 襲う者から嬲られる者へと反転。

 

 ブロリーの八つ当たりによる懇親の一撃を受けた街のチンピラであるビルはブロリーの蹴りが触れた瞬間に鼻が折れ、勢いをそのままに前頭骨を粉砕。

 最終的には顔面にブロリー足が埋没、地面に勢いよく投げ捨てられた果実の様に顔面をパァン!!と大きな音を立てて破裂させ、頭を失った体は後方にあった石造りの壁に激突し、グシャ!!と音を立て、ただの肉塊へと成り果てた。

 

 人間同士のケンカではあり得ないような現象だったが、これは当然の事だった。

 

 ブロリーのレベルは1ではあるが初期ステータスの戦闘力は1500。

 

 戦闘力が低い者が集まる、この都市の住民では彼の攻撃を避けるどころか目で捉える事も出来ない。

 蹴られた男はズボンを下ろした状態で、何も理解する事無く死んだのだ。

 

 「っち、靴が汚れちまった」

 

 人を殺した気持ち悪さと、靴に着いた血液の汚れにイライラするブロリー。

 

 だが、これで彼は確信した。

 

 頭が無くなり、血を今も流し続ける男だったモノ。

 

 ここはゲームマップではなく、現実であるのだと。

 しかし、彼は気づかなかった。

 

 人を殺した事で若干の険悪感を抱くが、それ以上の感情が薄くなっている事に……。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地上げはサイヤ人の基本だよね!!

 

 帝都、南東門界隈。

 帝都の中で、一番低い場所にあるこの地区は貧民街となっており、帝都の一般市民は誰も近付かない。

 

 あまりの惨状に《悪所》と呼ばれ暴力と犯罪が日常的に起こる地獄に最も近い場所。

 

 そうブロリーは強姦魔のチンピラから間一髪の所で助けた翼人種の女性、ミザリィに教えてもらっていた。

 

 「なるほどな……」

 

 ミザリィとの会話で落ち着きを取り戻したブロリーは、娼婦である彼女が生活している部屋の真ん中にあるみすぼらしい机の前に置いてある椅子に腰を下ろして周りを観察する。

 壁に窓のようなものはあるが、窓ガラスはなく、木製の扉が設置されており、簡素な木製ベットの近くには部屋に明かりをともす為のランプがあるのみ。

 本もなければ、女性らしい趣味の装飾品もない。

 

 まさに貧乏という言葉が相応しい。

 

 「……ちょっと、女の部屋をジロジロと見るもんじゃないよ」

 

 「ああ、すまんな」

 

 まったく、言いながら胸を強調するように下乳と呼ばれる部分で腕を組むミザリィ

 

 「まぁ、いいさね。で?アンタは一体どこから流れて来たんだい?」

 

 「ほう……どうしてそう思う?」

 

 「アンタね……。帝都(・・)の事を知らないなんて田舎者か、訳アリの流れ者って相場は決まってるんだよ」

 

 呆れた表情を見せるミザリィ。

 彼女の話によるとこの帝国と呼ばれるこの国はブロリーの中の人が住む、日本の同盟国であるアメリカの様な立ち位置にあるのだと推測する。

 

 「なるほど……概ねは理解した」

 

 「そうかい……で?アンタはその腕っぷしで、何をするつもりなんだい?」

 

 帝国の事をそれなりに理解したブロリーに疑わしいと言わんばかりの視線を向けるミザリィ。

 彼女は数日前に娼婦の代表としての地位を先代の代表である娼婦から受け継いだ。

 故に彼女は娼婦仲間を守る為に、人間の頭部を蹴りで爆散させるとんでもない身体能力を持つブロリーの動向については、もしもの時の為にそれなりに知っておく必要があるのだ

 

 勿論、場合によってはブロリーの情報を悪所の顔役に売る事もするだろう。

 

 「予定は……宿探しかな?」

 

 「じゃあ、この街の顔役には気を付けな。

 特にベッサーラには不用意に近づかないこったね、私に襲い掛かった部下のアホたれを殺したんだ。

 もしかしたら狙われるかもしれないよ」

 

 ミザリィの忠告を受け取ったブロリーは彼女の借りている部屋を出た。

 

 ★

 

 ブロリーがフラりと街を歩き出した頃。

 件のベッサーラ家支配する土地の隅に存在するベッサーラの屋敷では大きな騒ぎが起こっていた。

 

 「おい、ビルのクソ野郎は何処に消えた!?」

 

 「すみません!!街中を捜索しているんですが、まだ見つかりませんっ!!」

 

 「あのポンチキ!!今月の上納金を持って、とんずらしやがってぇ!!」

 

 屋敷の中では部下の所業に怒りが収まらないベッサーラと、中間報告と金と共に消えたビルに悪態をつく部下達の姿があった。

 驚くべきことに、ブロリーに殺されたビルという男はベッサーラ家の部下でありながら、ベッサーラ家の縄張りで商売している商人たちから受け取った上納金を持って逃走したのだ。

 

 彼が逃走してから既に数時間が経過し、何時までも裏切り者を発見できないでいる無能な部下達に、ベッサーラの怒りが爆発する寸前まで到達した。

 ベッサーラは部下たちの気を引き締める為に、目の前に居る部下を見せしめに斬り殺そうと、腰に差している剣の柄に手を掛けようとした、まさにその時である。

 

 「ボス!!ビルと一緒に居た女の情報を手に入れました!!」 

 

 褐色の肌で四本の腕を持つ亜人の男が、ベッサーラの部屋へと転がり込むように入室し、ビルの行方に関係するであろう女の情報を報告した。

 

 「おおッ、でかした!」 

 

 「その女は、何処にいる!?」

 

 これでボスであるベッサーラの怒りも収まると、喜色満面の笑みで報告に来た亜人を囲う部下達。

 

 「へい!つい、最近に娼婦共の纏め役になった女で、名前は確か……」

 

 「ああ、そいつなら知ってるぜ!!ビルがお熱になっていた娼婦のミザリィだ!!」

 

 「よし!テメェ等、さっさとその女を俺の前に連れてこい!!」

 

 部下達の言葉に悪魔の様な笑みを浮かべるベッサーラ。

 その表情は情欲に塗れており、彼の頭の中では金のおまけで付いてくる女にどんな事をしてやろうかという妄想と共に股間を膨らませていた。

 

 ★

 

 ベッサーラの命令を受けたチンピラ達が、娼婦の集まる地区へと向かっている頃。

 ブロリーは今晩の宿を探しており、未だにミザリィの家の近所に居た。

 

 それもそのはず、日本人でありそれなりの生活をしていたブロリーにとってこの街は不潔すぎる上に貧しい。

 宿もそうだが、まともな食事がここで食べられるのかすら、彼には分からない。

 

 (って、そもそも俺は金を持っていないじゃん!!

 どうすればいいんだ!?)

 

 追いつめられたブロリーが頭を悩ませて居ると、街を歩く目の前の人々がモーゼの割った海の如く、左右に離れていく。

 

 何かあったのだろうか?

 

 状況を理解していないブロリーは、近くに居た街の住民に倣う様に道を空けた。

 すると、住民達が退いた道の真ん中を偉そうに闊歩する男達の姿が目に入った。

 

 この光景を見たブロリーは随分前に見た古い仁侠映画を思い出し、彼らがこの町のマフィア的な存在であると悟った。

 

 ブロリーはわざわざ火中の栗を拾う必要はないと考え、でかい図体を少しでも隠すように腰を低くしながら大人しく住民の後ろに隠れた。

 ゲームの中で人気の戦闘民族であるサイヤ人の最高位ランクとは思えない情けない姿である。

 友人であるフリーザが見たら爆笑物だな……と考えて居ると近くまでやって来た彼らの会話が聞こえてくる。

 

 「なぁ、ボスに渡す前に俺達で味見するのはダメなのかな?」

 

 「駄目に決まっているだろうが、つまみ食いなんてしたら殺されるぞ」

 

 「でも、兄貴……そのミザリィって女がビルの隠した金の場所を知らなかったらどうするんですかい?」

 

 「なぁに、そん時はもう一度、上納金を収めさせればいいのさ。

 ここらへんでベッサーラ家に逆らうバカは居ねぇよ」

 

 チンピラの一人である男の口から漏れた、ミザリィの名前を聞いた瞬間。

 ブロリーは金を手に入れる名案を思い付いた。

 

 (悪い奴等(ベッサーラ)から住んでいる場所ごと、募金をしてもらえばいいんじゃね?)

 

 法治国家に住んでいる人はその行為を強盗と言うのだが、幸いにしてここは世界の中でも一等に危険な不法地帯。

 この悪所では彼のサイヤ人的な弱肉強食の思考こそが、絶対の正義なのである。

 

 そうと決めたブロリーの行動が早かった。

 

 「なあ、お前たち…ちょっと話をしようじゃないか」

 

 「あん?」

 

 「何なんだ?てめぇは?」

 

 「俺達をベッサーラ家の身内だぞ、気安く声を掛けんじゃ……」

 

 ブロリーが声を掛けられた6人の内、3人の男が反応してブロリーに詰め寄った。

 そして、三人目の男がブロリー顔を睨み付けながら、ヤンキーが凄む為に自身の顔を近づけた瞬間。

 

 「臭ぇ!?」

 

 真正面に居た男のキツイ口臭に驚いたブロリーは、反射的に力の入ったビンタが男の左頬に炸裂。

 哀れ、男の顎は頬骨と共に首の骨ごと粉砕されて、勢いをそのままに民家の壁へと頭から突っ込んで、そのまま動かなくなった

 上半身は家の中で下半身は外にあるという、なんとも間抜けな格好で動かなくなった男を無言で見つめるチンピラと街の住民達。

 

 「あー……次は誰だ?」

 

 身体能力のコントロールに未だ不慣れなブロリーは何とも言えない表情で時が止まったかの様に動かない男達に声を掛けるのだった。

 

 「なんつー、馬鹿力してんだよお前……」

 

 「蛮族みたいな恰好をしているが……もしかして、トロールとの混血か?」

 

 「自分が何をしたか、分かっているのか?」

 

 「おいおい、これ以上の問題はヤバすぎるぞ」

 

 「……ダジョ」

 

 男達はブロリーの実力に驚いたり、正体を考察したりと反応は様々だ。

 そんな中で一人、プロレスラーの様な体格をした強面の男が、動かなくなった仲間の名前を呟いた後、助走をつけて拳を構えた。

 狙いはブロリーの顔面。

 

 「よくも、俺のハニーを殺したな!?」

 

 《俺のハニーっ!?》

 

 体格の良い男と口臭がキツイ男の知りたくもない関係が赤裸々となり、ブロリーのみならず男以外の全ての人間に激しい動揺が走る。

 もし、これが彼がブロリーの動きを一瞬でも封じる作戦であったのなら大したものだ。

 

 男の愛と体重が籠った熱い拳がブロリーの鼻に叩き込まれ、バキっという破砕音が鳴り響く。

 周囲の人間はこの破砕音で正気に戻り、音の感じからブロリーの鼻がへし折れたと思った。

 

 しかし、殴られてから痛がる様子を見せないブロリーに、チンピラや周囲の住民達が疑問に思っていると、殴られたブロリーではなく殴った方の体格の良いチンピラが殴った手を抱えてうずくまった。

 

 「お、おい、どうしたんだよ?」

 

 うずくまった男の顔を横から見れば、激痛に顔を歪ませて脂汗と涙で顔を汚していた。

 

 「お、折れた……」

 

 どうやら、彼がブロリーを殴った右手はへし折れてしまったらしい。

 これにはブロリーを含む、全員が驚いた。

 

 (まさか、何もしていなくても相手がケガをするとは思わなかった……。

 激しいパワーインフレのせいで、戦闘力1500は弱いイメージが強かったけど、意外と凄いんだな……原作では噛ませ犬だったけど、ラディッツさんは強かったんだ)

 

 ドラゴンボールZにあった【史上最強の戦士は悟空の兄だった】というタイトルは伊達や酔狂ではなかったのだと、ブロリーはラディッツを含む噛ませ犬となったキャラたちの評価を改めた。

 そして、殴られた事による動揺や、ダメージを一切見せないブロリーにどんな体の構造をしているんだと言わんばかりの目で見てくるチンピラ達に、彼はコキコキと指の骨を鳴らして近づいて行く。

 

 「ベッサーラの住む屋敷は何処にある?」

 

 元々薄かったチンピラ達の警戒が全くなくなったブロリーはニヤリと笑いながら、問いただした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お家…ゲットだぜ!!

 街の真ん中で、手足があらぬ方向へと曲がった男達から情報を収集したブロリーは、貧民街とは似合わない豪華な屋敷の前にたどり着いた。

 

 「ここがベッサーラの屋敷か……」

 

 屋敷の前でスカウター使って、スキャンする範囲を屋敷とその周辺に設定して、実行ボタンを押すブロリー。

 そして独自の機械音が終わり計測結果を表示するディスプレイを見てみると、屋敷に居るのは13人程であり少なかった。

 

 (戦闘力の平均は5~6。

 戦闘力もそうだが、悪所を代表する悪党の自宅にしては、やけに数が少ない。

 もしかして、入れ違いにでもなったか?)

 

 少し物足りないと感じたブロリーだったが、拠点にするつもりである屋敷の汚れが最小限になると思って自身を納得させる。

 そして、彼は態と屋敷の門を大きな音を立てて粉砕し、中へと侵入する。

 勿論、屋敷の中での戦闘を可能な限り少なくし、屋敷を無傷に近い状態で手に入れる為だ。

 

 「さて、どれだけの人数が引っ張り出せるかな?」

 

 屋敷にある中庭の中心で腕を組んで、中で怒鳴り声を上げて騒ぎ始めているチンピラ達が慌てて屋敷の玄関から飛び出してきた。

 表に出てきたのは亜人を含む武装をした男達が9人。

 4人以外のチンピラは全員表に出てきたようだ。

 

 「てめぇ!!どこの縄張りのモンだ!!」

 

 「俺ら、ベッサーラ家の人間だと知っての暴挙か!?」

 

 「勿論、知っていたとしてもぶっ殺すがな!!」

 

 「生きてここから帰れると思うなよっ!!」

 

 「ぷっ、くくくっ!!」

 

 剣や斧を片手に自身を凄んでくる男達に対して、笑いがこみ上げてくるブロリー。

 話をしている最中に何故か(・・・)腕や足が、あり得ない方向に折れ曲がる事になった男達と別れた後、ここまで来るのに何人ものチンピラに絡まれてワンパンで沈めて来た彼。

 

 戦闘民族であるサイヤ人の種族的な能力か?それとも、元々自身に備わっていた能力なのか?

 

 おそらく前者だと思われるが、ほんの少しの戦いで自身の力を把握を成し遂げてしまった彼にとっては、目の前の男達は小さなアリにしか見えず、『殺すっ!!』と粋がっている姿はあまりにも滑稽で笑えて来てしまうのだ。

 

 「何を笑っているんだクソボケぇ!!」

 

 「殺す!!殺した後、全裸で晒してやるっ!!!」

 

 「いや、手足を切り落として変態に売ってやらぁ!!!」

 

 男達の中で最も若い3人が、瞳を血走らせて斧と剣を振り上げ、ブロリーに殺到する。

 左右と正面から襲い掛かる3人の男達。

 左は茶色い毛皮をモフモフさせ、剣を持った狼の獣人、正面は斧を持った筋肉質の人間、右は赤い肌で剛腕を震わせて、殴りかかって来る鬼人。

 ここに来る前に相手をした男達よりかは連携を取れており、面白そうだ。

 

 笑うのを止めたブロリーは上空に飛び、3人の男達による同時攻撃を避ける。

 すると先ほどまでブロリーが居た場所では、獣人は鬼人に顔面を殴られ、鬼人は獣人に腹を剣で刺されていた。

 

 最後の人種の男は振り下ろした斧を止めようとするもが、振り下ろされた力に逆らう事が出来ずにお互いに伸びている腕を肘から綺麗に切断した。

 獣人と鬼人の腕は傷口から流れ出る血液と共に地面へと落ちた。

 

 「ぎゃあ゛あ゛ぁあぁあああっ!!?」

 

 「腕がっ!!俺様の腕がっ!?」

 

 脈が動くたびに断面からピュッピュと血が流れ出る光景に、悲鳴を上げながら泣き崩れる。

 仲間の腕を斬り落としてしまった男は、呆然とその光景を見ていた。

 

 男達の隙だらけな姿に、ブロリーは戸惑いも、躊躇もなく、次の攻撃に移る為に右の(てのひら)にエネルギーを集中させる。

 

 (わかるっ!わかるぞっ!!)

 

 戦っていて感じ取れる自身の奥底にある大きなエネルギーの塊。

 ブロリーはそれを右の手のひらにボールの形をした緑のエネルギー弾を生成する。

 

 ゲームで言うなら《気弾》《エネルギー弾》と呼ばれる気を消費して使用される基本技だ。

 

 自らが作ったエネルギー弾を、未だに隙を晒すチンピラ達3人へと躊躇する事なく投げつけた。

 

 投げられたエネルギー弾は真っすぐ、男達に着弾すると大きな爆発が発生。

 3人の男達を呆然と見ていたチンピラ達は爆発によって発生した爆風によって一斉に、尻もちを付くと、彼らの目の前でモクモクと黒煙が立ち上る。

 

 「ハハハハハッ!アハハハハハハッ!!!」

 

 (すごい!!すごすぎる!!こんなことが現実で出来るなんて夢のようだ!!!)

 

 日本で生きる本当の自分ではありえない力に高揚するブロリー。

 ある時代から日本は徹底された管理社会となり、そんな社会は様々な理不尽や不満を人々に抱かせていた。

 

 当然、ブロリーもその中の一人であり、ゲームに没頭したのもドラゴンボールが好きと言うだけでなく唯一、仮想現実とはいえ、一定の自由が与えられる場所であったからかもしれない。

 

 そんな彼が、管理社会から解き放たれた上に圧倒的な力を手にして、理不尽を他者に振りまいている強い立場の人間を蹂躙する。

 

 ブロリーは感じた事のない解放感と、快感を同時に味わっていた。

 

 (決めたっ!決めたぞっ!!俺は何物にも縛られない史上最強のサイヤ人になってやるっ!!)

 

 高揚感に身を委ね、笑い続けるブロリー。

 そんな彼を、下で尻もちを付いたままの状態のチンピラ達は震えながら見上げていた。

 

 「ま、魔導士……なのか?」

 

 「ば、化け物だ……」

 

 「や、やってらんねぇ!!俺は逃げるぞっ!!」

 

 男達は這いつくばるようにして屋敷を逃げ出した。

 高揚感に浸っていたブロリーは逃げた男達の事は気にする事なく、ゆっくりと自身が粉砕して創り出したクレーターの中心に舞い降りた。

 

 爆心地に居た男達が居た痕跡は何もなく、3人は塵となって消えたようだ。

 

 「さて……本命のベッサーラは何処かな?」

 

 スカウターを操作し、屋敷の中を再スキャンする。

 しかし、戦闘力とその数は表示される事はなかった。

 

 「逃げたのか?それとも地下室の様な物があって隠れているのか?」

 

 ブロリーはスカウターを常時検索の自動モードに切り替え、屋敷の中へと探索に乗り出した。

 しかし、肝心のベッサーラは、既に家族と共に逃亡。

 帝都の外へと向かって、必死の形相で逃げていた。

 

 ★

 

 ブロリーが屋敷の中でベッサーラ探しに勤しんでいる頃。

 生き残った男達が騒ぎを聞きつけた周辺住民につかまり、日頃の恨みを晴らすついでに事の顛末を拷問と言う手段を用いて聞き出して、大きな騒ぎになっていた。

 

 「おいおい、そんなバケモンが本当に居るのかよ?」 

 

 「確かに嘘みたいな話だけどよ、ベッサーラの屋敷から大きな音がしたのを聞いたろ。

 それに、”変態拷問師”のディッキーが拷問したんだ、情報は間違いないと思うぜ」

 

 「俺は逃げるぜ、得体の知らない野郎の縄張りになるかも知れない地区は離れるに限る」

 

 「そうだな、ベッサーラみたいになりたくないからな……」

 

 「そうなると、奴隷商人のザーブルは最悪だな。

 商品である奴隷を置いて逃げるか、ここに残ってバケモノのご機嫌取りか……」

 

 殺人等の犯罪が日常化している弱肉強食の悪所では、勘が悪い奴と情報に疎い奴は早々に死ぬ。

 悪所においては確かな情報を見極める耳と生きる為に培ってきた勘が何よりも大事にされているのだ。

 

 地区に住む住民達は正体不明の怪物から逃げる為に地区を離れる事を決断。

 

 数時間後にはベッサーラの管理する地区からは住民の半数以上が大事な荷物を持って移動を開始した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

娼婦も恋がしたい!!

 ブロリーがベッサーラの縄張りを奪った、その夜。

 ベッサーラ家が消滅という大事件で客が取れなくなった、娼婦達は不満顔で娼婦専用の集会所として使われている小屋に集まっていた。

 掘っ立て小屋の様にボロく、壁の所々に穴が空いており、中へ隙間風が入って来るのだが、そんな事は知らんとばかりに中はヒートアップしていた。

 

 「まったく!!ベッサーラを消した奴のせいで、碌に外にも出られなくなるし客も減って最悪だよ!!」

 

 「せめてもの救いが、消えたのは顔役の中でも最悪のベッサーラだったってことだよねぇ」

 

 「何言ってんだい、収入がないんだよ!!明日からどうすればいいのさ!!」

 

 「あんたら落ち着きなっ!!」

 

 顔役が一人、消えると言う大事件は娼婦達の営業に多大なる打撃を与えた事によって、臨時に開かれたこの集会。

 始めた時から今の今まで怒りの怒号が飛び交うだけの会場であったが、我慢の限界を迎えた姐と呼ばれる代表娼婦ミザリィが一喝する。

 

 しかし、口では他の娼婦に落ち着けと言う彼女だったが、内心は激しく動揺していた。

 街中で話題沸騰中のベッサーラ家を壊滅させた、鎧と緑の毛皮の腰巻をした男の正体を彼女は知っているのだ。

 

 勿論、彼女とブロリーとの間に特別な関係や娼婦と客としての肉体関係はない。

 ただ、命を救われた対価に田舎者へ誰でも手に入る情報を渡してやっただけだ。

 

 それ以上でも、それ以下でもない。

 

 しかし、周りはそうは見ないだろう。

 悪所とは能天気な一般の帝都市民と違って、親や恋人であろうとも平気で疑い、自身がのし上がる為ならどんなことでもする人間が非常に多い。

 自身の経験上ブロリーの利用、もしくは殺害に自分が何かをされる可能性は非常に高い。

 

 急遽開いたこの集会も、自身の後継と自分との関りはない事を明日から周囲に示す為に娼婦達に口裏合わせをさせる為だ。

 

 様々な感情を押し殺した彼女の怒鳴り声で、時が止まったかの様に静かになる集会所。

 そんな中で一人のハーピィの少女が、恐る恐るカギ爪の手をした翼の様な右腕を上げた。

 

 「どうしたんだい、テュワル?」

 

 落ち着きを取り戻した一同を見て、ミザリィがハーピィーの少女に質問をする。

 

 「あたい……客を探しに街を歩いていた時に見たんだ。

 ミザリィ姐さんの客が、ベッサーラ家の人間やゴロツキ共を一撃で沈めた所を……」

 

 緊張気味の彼女の発言によって空気が凍る集会所。

 ミザリィに集まる娼婦たちの目。

 

 (まさか、見られていたなんて……。

 まあ、話を切り出しやすくなったし、ティワルには感謝かね?)

 

 意を決して、正直に娼婦たちに話をしようとするミザリィだったが……。

 

 「え?じゃあ、ミザリィ姐さんの良い人(・・・)がベッサーラを消したの?」

 

 「うん。ベッサーラのゴロツキ達がミザリィ姐さんを探している様な事を口にしたら、鎧の男が出てきて、あっという間に倒したんだよ!!」

 

 「愛する女の為に戦う、強くて逞しい男……まるで御伽噺の英雄様だね。

 一度でいいからそんな男に抱かれたいにゃあ」

 

 「駄目だよ、姐さんの良い人(・・・)なんだから!

 ちゃんと姐さんの許可を取ってからにしな!!」

 

 「姐さんの良い人(・・・)なら、あたい達の味方って事だよね?

 もしかして、あたい達の生活が楽になるんじゃない?」

 

 衝撃を与えた空気から一転、自分たちが慕う姐の様な人の恋バナと自分たちに訪れるかも知れない未来の話に花を咲かせる娼婦たち。

 ブロリーが居た日本であろうと、異世界であろうとも、女性が恋の話が好きと言うのは万国共通の様だ。

 

 「あ、あんた等いい加減にしな!!そんなわけないだろう!!」

 

 「で、でも、あたいは見たんだよ?姐さんの部屋から男が出てくるのを……。

 顔は良かったけど……見た感じ田舎者っぽかったし、あの人は客には見えなかったよ?」

 

 テュワルの言葉に頭を痛めるミザリィ。

 

 「あの男は私が襲われそうになった所を助けてくれたお人好しで、それ以上でもそれ以下でもないんだよ!!」

 

 「いやいやいや、姐さん。それって十分に脈ありだからっ!!

 助けておいて、金の請求や体の要求がない男なんていないから!!」

 

 「そいつ絶対に姐さんの事を狙っているにゃあ!!」

 

 猫獣人の娼婦の言葉にウンウンと頷く他の娼婦達。

 治安が最底辺である悪所ではあるが、悪所以外でも暴力や理不尽は星の数ほどに溢れている弱肉強食の世の中だ。

 

 そんな世界で人を助けるには、悪意や善意といった理由が必ず存在する。

 

 現にミザリィも助けられた当初は、ブロリーの事を体目当てのクソ野郎と思っていたのだが、そこいらに住んでいる子供でも手に入れる事の出来る情報を聞くだけで何もしなかった。

 

 だから、ミザリィはブロリーの事を何か恐ろしい事を考えて居る怪物から、話をするうちに田舎者のフニャチン男か、没落した貴族で軍人のお坊ちゃんと考え、ベッサーラの人間に近づかないように忠告をしたのだ。

 

 それに、悪所の様な場所でそれなりに生きて来て、冷めた考えを持つミザリィには他の娼婦達がはやし立てるような、愛や恋などの発想は皆無だった。

 

 「きっと、恋した姐さんを養う為にベッサーラ家を潰したのにゃ~」

 

 「ベッサーラは集めた金を街に落とさないケチ野郎として有名だからね。

 顔役の中でも資産だけ(・・)は一番だって言われていたし……」

 

 「だから、そんな事はないって!!きっと、金欲しさにベッサーラを狙ったんだよ!!」

 

 妄想の止まらない娼婦たちに、現実的な発言をするミザリィ。

 実際に彼女の言っている事の方が、正解だ。

 しかし、娯楽の乏しくて環境も最悪な悪所に生きる彼女達にとってはそんな事はどうでもよかった。

 

 「じゃあ、姐さん!今から会いに行こう!!」

 

 「はぁ!?いきなり、何言ってんだい!?」

 

 「そうだよ、行って確かめればいい!!

 間違いでも、そいつはお人好しなんだろ?

 居なくなった客について、あたい達のヤリ方で責任を取って守って(・・・)もらえばいいさ!!」

 

 「アンタ達ね……」

 

 娼婦達の言葉に頭を抱えるミザリィ。

 どうやら、娼婦達は自分達なりに妄想を楽しみつつ、現実的な事を考えて居たようだ。

 

 「姐さん、ここはその娘達の言う通り、今から男の元に行こう。

 4勢力の力関係が崩れた今、ここに居たら力のない私たち娼婦が犠牲になる可能性が高い」

 

 「そうだよ。もしかしたら男の弱点になると思い込んだ奴らが、姐さんを狙ってこっちに向かっているかもしれないよ?」

 

 「行こうよ、ミザリィ姐さん」

 

 ミザリィの手を引く娼婦たち。

 彼女達はミザリィが思う以上に彼女の事を大切に思っていたのかもしれない。

 勘違いや思い違いかもしれないが、ぎゅっと繋がれた彼女達の暖かな手からは、そんな思いがあふれている様な気がした。

 

 「……まったく、しょうがないねぇ」

 

 こうして、娼婦達は元ベッサーラ家の縄張りから逃げる為に移動する住民達に紛れ、ブロリーの居ると噂のベッサーラの屋敷へと向かったのだった。 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日本人の心とサイヤ人の心

 

 娼婦達がブロリーが奪った屋敷に向かっている頃。

 戦闘時に溢れていた野心や欲望は何へやら、ブロリーは豪華なソファーに寝転がりながら、暇を持て余していた。

 

 この世界で欲望の赴くままに生きる事を決めた彼だったが、この先の明確なビジョンが浮かばないでいた。

 どうやら、戦闘が終わるとブロリーの中のサイヤ人としての本能は弱くなり、日本人として培った感性が強まるようで、彼がアバター制作の元にした《(新)ブロリー》と似ているかもしてない。

 

 日本人の感性が強まって、暴力的な発想が出てこないブロリーは考えても分からないと、気分転換に屋敷の外へと繰り出し、周囲を散歩する事にした。

 

 もしかしたら、散歩している内に良いアイディアが浮かぶかもしれないからだ。

 

 しかし……。

 

 屋敷を出たブロリーの視界には誰も映らなかった。

 家からは生活で使用するであろう光はなく、誰かが住んでいるであろう生活音すら聞こえない。

 

 まるで、ホラー映画で登場するゴーストタウンの様だと、不気味に思った。

 

 「おいおい、一体どうしたんだ?」

 

 ブロリーは背筋に薄ら寒いモノを感じ、おもむろにスカウターを起動させる。

 ピピピピピピッ!!と誰も居ない道でスカウターの電子音だけが辺りを響かせた。

 電子音が止み、スカウターのスキャンが終了すると、周囲には人は居ないが、ここから離れた場所に戦闘力が3や2と言った複数の反応を捉えた。

 

 人は居るようだが、近くの家には誰も居ない。

 本当にホラー映画の登場人物の様な気分になったブロリーは顔を若干引き攣らせながらも、複数の戦闘力が集まる場所へと空を飛んで向かった。

 

 ★

 

 ブロリーがたどり着いた場所は奴隷市場だった。

 様々な種族が商品とされており、見世物小屋の様な所に首輪で繋がれている女や子供に檻に入れられている男の姿が目に入る。

 どうやら、ベッサーラの縄張りの中で最も金が集まるこの場所を顔役達が狙うかも知れないと判断した奴隷商人達が、上玉の商品と財産だけを持ち出して逃げ出したようだ。

 

 奴隷商人に捨てられた奴隷達は種族・年齢・性別がバラバラであり、その中で唯一、彼等が共通しているのは痩せ細っている体と全員の目が死んでいる事ぐらいだろう。

 そんな、死んだ目をした奴隷達を見たブロリーは懐かしさを覚えた。

 

 (まるで、日本に居た頃の俺だな……)

 

 そう、出勤前に洗面所の鏡でよく見た自分の瞳。

 ゲーム以外に生きがいを感じる事が無く、理不尽に(まみ)れた社会生活を送る日々。 

 

 ブロリーは頭に浮かんだ日本での生活をかき消し、奴隷たちの元へと歩を進めた。

 

 彼は、首輪で繋がれた全裸の女の前に立ったが、女は特に反応を示さない。

 ただ、ブロリーの顔を見ているだけ。

 

 「チッ」

 

 死ぬことを悟った家畜並みの薄い反応に、ブロリーは苛立ちを隠す事なく舌打ちをすると、女の首につながった首輪と首の間に下から指を通して、引きちぎった。 

 

 「……後は、好きにしろ」

 

 ブロリーの行動に目を見開いたまま、呆然とする女を一瞥すると、ブロリーは他の奴隷の元へと移動する。

 

 首輪を引き千切り、檻を破壊して、彼らに自由を与えていく。

 

 (身も心もサイヤ人になったと思ったのに、俺は一体……何をやってんだろうな)

 

 心に残る日本人だった頃の感覚がそうさせるのか?

 

 ブロリーは言葉に言い表せないような思いを抱きながら、次々と奴隷を解放していった。 

 

 (本当に……何をやってるんだか)

 

 自分に呆れ、ため息を吐いたブロリーは屋敷へと戻ろうとその場を去ろうとする。

 

 すると……一人の子供がブロリーの腰巻の毛皮を掴んだ。

 

 掴んでいる手の力は非常に弱い。

 ブロリーがその気になれば手を簡単にへし折る事が出来る。

 

 「手を……放してくれないか?」

 

 視線を下ろすと、そこには金色の髪をした一人の少年が居た。

 ブロリーの言葉には答えはしなかったが、彼の視線はブロリーの目を捉えていた。

 

 そんな少年を見て、ブロリーの心は揺れる。

 少年を助けるべきだと思う日本人の自分と、サイヤ人らしくするのであれば見捨てればいいのでは?と思う自分。

 

 自分はどうしたいのか?どうすればいいのか?

 

 ブロリーは悩んだ末に、これからどうすればいいのかが分からないで居る奴隷たちを見て口を開いた。

 

 「ついて来たい奴は、ついてこい。

 ただし、俺の為に働いてもらう」

 

 ボソリと言った言葉であったが、不思議と彼等全員の耳にブロリーの言葉は届いた。

 幸い、屋敷は大きくて空いている部屋はいくつもあった、最悪の場合は誰も居ない近所の家を使えばいいだろう。

 

 (そうさ、サイヤ人として生きるなら、こいつ等を俺の部下にして働かせればいいんだ。

そして、知識のある奴を傍に置いて色々と教えてもらえばいい)

 

 心の中にあったモヤモヤがスッキリしたブロリーは意気揚々と元奴隷達を連れて、屋敷へと連れ帰った。

 彼等を連れ歩く道中に、空き家となった家中から服を強奪して奴隷たちに与えていたが……今さらだろう。

 

 ★

 

 ベッサーラ家が滅びた事で、均衡を保っていた顔役達の力関係のバランスが崩れ、彼らは悪所の街の真ん中に建設された屋敷にて顔を突き合わせていた。。

 円卓の椅子に座るゴンゾーリ家・メデュサ家・バラマウンテ家の顔役達。

 彼らの表情は苛立ちに満ちていた。

 

 「ベッサーラを滅ぼしたクソ野郎……完全に儂達を無視しとる」

 

 飲んでいた酒の入った杯をテーブルに叩きつける様において、静かに唸るスキンヘッドの男。

 ゴンゾーリ。

 

 「ベッサーラの子飼いだった奴らの話だと、近接戦闘が出来る上にとんでもない魔法を使う魔導士らしい」

 

 吸血種であり、顔役の一人であるメデュサ

 

 「目障りな野郎だ……」

 

 そして、バリバリと骨を噛み砕きながら喋る右目に眼帯を付けた虎獣人のバラマウンテ。

 

 「奴の情報は何も出ねぇのか!?」 

 

 「うるせぇぞ、ハゲ野郎!!

 ベッサーラの部下は容姿や魔法のことぐらいしか知らなかったんだよ!!」

 

 「そうすんだ!?このままだと、ベッサーラのカス野郎のせいで俺達まで軽く見られるぞ!!」

 

 噛み砕いた骨を吐き捨て、ゴンゾーリに食って掛かるゴンゾーリと部下の下剋上を恐れるメデュサ。

 怒鳴り合う三者であったが、心は冷静であり、どうやってこの二人をベッサーラを潰した男にぶつけようかと思案していた。

 

 勿論、弱った勢力を潰して悪所の王に成り上がる為である。

 

 この話し合いは深夜まで続くのだが、最終的には三勢力が均等に兵隊を出してブロリーを殺した後で、均等にベッサーラの縄張りを手に入れる事で話は纏まった。

 

 三人は増えるであろう縄張りと上納金に胸を膨らませながら、それぞれの拠点へと帰って行った。

 

 勿論、それぞれが他二人を出し抜いて、部下達を元ベッサーラ家の縄張りへと向かわせて全てを奪う為だ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おにぎりと栄養ドリンクの奇跡

 大きな騒動が起ろうとしている元ベッサーラ家の縄張り。

 ブロリーは捨てられた奴隷達を部下として雇う事を決めて、彼らを屋敷へと招き入れたのだった。

 

 数は大体30人で子供や男の割合が大きく、大人の女は5人程度。

 屋敷の広々とした居間にある、お気に入りのソファーに座ったブロリーは全員を一度に見渡しながら、口を開いた。

 

 「この中で知識に自信がある奴は居るか?」

 

 ブロリーの質問に答える者は居なかった。

 当然だ。知識ある奴隷には価値があり、貴族向けの奴隷として扱われている。

 価値があるが故に、昼間に彼等を拾った奴隷市に商品として出されて居と思われる知識奴隷は全て商人と共に姿を消してしまったのだ。

 

 黙ったままの彼らの反応に頭を痛めたブロリーは、この世界の知識を学ぶのはひとまずは諦め、拠点となった屋敷での生活向上を図る事にした。

 彼等の痩せ細った体でも、簡単な仕事は出来るはずだ。

 

 「じゃあ……お前達に仕事を与えるから自分に出来る事をお前から順番に言え」

 

 ブロリーは一番左に立っている男を指さして、順番に得意な事を言う様に命じた。

 

 「俺は……掃除と畑仕事ができます」

 

 「僕は、掃除と洗濯です」

 

 「私は、炊事洗濯が……」 

 

 一人、また一人と自分達の出来る事をブロリーに話す、元奴隷たち。

 計算が出来る者が居なかったのは残念だったが、自分の身の回りの世話ぐらいは出来そうだと安堵した。

 

 「じゃあ、子供は掃除と洗濯。

 女は炊事と子供のサポートをしろ、男は畑仕事だ」

 

 「さ、さぽーと??」

 

 ブロリーの言葉に疑問を抱いて、首を傾げる元奴隷達。

 どうやら、ブロリーの言ったサポートと言う単語が通じていないようだ。

 

 (ん?日本語は何故か通じているのに、サポートが分からないのか?)

 

 言葉の壁はないものとして認識していたブロリーだったが、どうやら彼に備わった翻訳能力にも限界があるようだ。

 

 「サポートとは、補助の事だ。

 俺はたまにこの言葉を使うから覚えておけ」

 

 「は、はいっ!!」

 

 言葉の意味を教えた、ブロリーは増えていく新たな課題に頭を悩ませる。

 

 (いずれはスムーズな情報伝達の為に、調べておく必要があるな……。

 くそっ、どんどんやる事が増えて来るぞ……)

 

 課題のせいで気分が落ち込んでしまったブロリーは、自身が空腹である事に気が付いた。

 どうやら、濃厚な一日を過ごしたせいで自分が空腹の状態にある事に気が付かなかったようだ。

 

 (さっそく、女達に飯を作らせ……無理だ。

 我慢が出来ない……)

 

 ブロリーが手早く何かを食べたいと思った瞬間、彼はアイテムボックスの存在を思い出す。

 彼は根っからの廃課金プレイヤー。

 アイテムボックスは無駄に拡張され、彼がガチャで引いた回復アイテムなどの消費アイテムから貴重なアイテムの全てが内包されている。

 このボックスからアイテムを取り出せば料理の百や二百は問題ではない。

 

 アイテムボックスのアイテムを思い浮かべると右手首から先が消失し、頭の中にアイテムボックスの表示が浮かび上がる。

 どうやら、空中に投影されるディスプレイが脳内に表示されるようだ。

 

 試しに毎日ログインすると必ず引ける無料ガチャのゴミアイテム《おにぎり》を取り出そうとしてみる。

 目的の《おにぎり》を掴み、消失した右手を引っ張り出すように動かすと右手には《おにぎり》があった。

 

 出て来た《おにぎり》を恐る恐る口へと運ぶ。

 

 ガブリと《おにぎり》に噛り付くと、海苔のパリパリとした触感から始まり、米の独特なモチモチした歯ごたえと中に入っていたであろう昆布の味が口の中に染みわたる。

 

 「うまい!」

 

 一人暮らしの強い味方であるコンビニの《おにぎり》を超える味に感動するブロリー。

 

 (海苔のパリパリ感に米の味!!サイヤ人になっても米が好きって言うのは意外と中身は日本人のままなのかもしれないな……)

 

 そんな事を思いながら、一心不乱に《おにぎり》を食べ続けるブロリー。

 しかし、ここで彼は自分に突き刺さる視線に気が付く。

 

 (おう、めちゃくちゃ見られてる……)

 

 視線に気になって顔を上げて見ると、そこには物欲しそうな顔をした元奴隷たちの姿が……。

 ここで、ようやくブロリーは空腹な彼等の前で一人だけ美味い飯を食べるという下衆な行為をしていた事に気が付いた。

 さすがに罪悪感を覚えたブロリーは急いで机の上に、《おにぎり》と無料ガチャで引ける最下級の異常状態回復アイテム《栄養ドリンク》を大量に取り出して、並べていく。

 

 並べ終えて、全員に行き渡っても余る程の量を確認したブロリーは、さっきに醜態を誤魔化すようにそっぽを向いて……。

 

 「好きに食って、好きな部屋で寝ろ」

 

 何処かのツンデレな《サイヤ人の王子》のような事を言って、彼は一番豪華な部屋へと向かって部屋の中に置いてある巨大ベットにダイブするのだが……。

 

 「くせぇ!?」

 

 ベットの感触はそこそこなのだが、シーツや枕は非常に臭かった。

 だが、それは当然だ。

 そのベットはベッサーラが長年愛用してきた至高のキングサイズのベットだ、シーツ・枕・布団を含めたすべてに彼の熟成された加齢臭と言う名の体臭が染みついている。

 

 鼻が曲がりそうな程に匂う加齢臭を至近距離で嗅いでしまった、ブロリーは慌ててベットから飛び出して、鼻を抑えて転げまわった。

 

 サイヤ人となって異世界に来た彼に、人類が大ダメージを与えた瞬間だった。

 

 ★

 

 一方その頃、奴隷たちは未知の味がする食べ物と飲み物に興奮していた。

 

 「すごく美味しいぞ!」

 

 「これ、なんて食べ物なんだろ!?」

 

 最初は遠慮がちの様子だった、元奴隷達。

 空腹に耐えきれなかった一人の男から始まり、最終的には全員が瞳を輝かせて夢中にブロリーの出した食料を飲み食いしている。

 

 「……これってなんて書いてあるんだ?」

 

 「さぁ……あの人の国の文字なんじゃないか?」

 

 「黒髪に黒い瞳……帝国周辺の国でも聞いたことがないぞ」

 

 「おいおい、お前は農家の出だろ。

 文字の違いなんて分かるのかよ?」

 

 「か、形が違うことぐらいは分かるぞ!!」

 

 久しぶりに食べたまともな食事で腹を膨らませた元奴隷の中には、日本語で《ビタンD》と書かれたラベルの付いた瓶を見てブロリーが何者かを探ろうとしてる者達が居たが、知識のない彼等には自分達とは違うとしか分からなかった。

 そもそも、異世界という概念がなければどんな知恵者でもブロリーの正体にはたどり着けないだろう。

 

 「おい……アレを見ろよ」

 

 「おぉう……」

 

 「……俺は夢でも見ているのか?」

 

 あーでもない、こーでもないと答えが絶対に出ない話題に興じる男達の中で狼の毛皮を持つ獣人が仲間達に声を掛け、唖然とした表情で指を刺す。

 獣人の態度が気になった男達は議論を辞めて、指先の方向へと指をさした。

 

 彼が指さす方向には数少ない女性の集団と子供たちの健康的(・・・)な姿があった。

 特に驚くこともない光景なのであるが、彼等は非常に驚いた。

 彼等が奴隷として販売されてから今日まで見て来た、彼女達は痩せていて非常に弱弱しい存在であった。

 

 それなのに、今は顔色が非常によくて、痩せていた体は少しふっくらしており、男達の距離からでも女達は女性らしい体つきをしている事が良く分かる。

 もし、商人が逃げる際に彼女たちが今の状態であったのならば、商人は捨てるか連れていくかで非常に頭を悩ませていただろう。

 もしかしたら、連れて行った何人かの女たちは彼女たちと立場が逆転していたかもしれない。

 

 子供達も棒の様に細かった腕が年相応に太くなっており、ブロリーが与えた《おにぎり》を元気よく食べている。

 

 彼女達も腹が膨れて、冷静になれば自分達の変化に気が付いて驚く事だろう。

 

 そして、男達は恐る恐る自分達の腕や、誰も居ない家からブロリーが盗んで与えられた服を捲って腹を見る。

 すると、自身の腕や肋骨がうっすら浮かび上がっていた腹は見る影もなく、健康な姿となってそこにはあった。

 

 「も、もしかしてこれって……ま、魔法の秘薬か?」

 

 「き……奇跡だ」

 

 「こんな事、聞いたこともねぇよ」

 

 「ああ、もしかしたらあの人は……」

 

 ゆっくりと自分達の変化に気づき騒がしくなる大広間で、男達は自分達の常識で唯一、ブロリーと共通するかも知れない見当違いな存在であると口にした。

 

 「間違いない、あの人は《亜神》だっ!!」

 

 彼らが口にしたのは、この世界に存在する神の使徒《亜神》。

 ブロリーが聞けば鼻で嗤うような事だが、この世界では神は実在しており、《亜神》は神に選ばれた元人間で不老不死となった上位存在だ。

 

 そして、男達の言葉は自身の変化に驚く他の元奴隷たちに浸透していき、僅かな時間で彼ら全員がブロリーは《亜神》であると思い込んでしまったのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。