小話置き場 (白千ロク / 玄川ロク)
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[2017バレンタイン]チョコレート・ラプソディー(勇者の隣の式神~)

【 まえがき 】

■『勇者の隣の式神さん』のバレンタイン小話となります

少しでも楽しんでいただけたら幸いです

2017.02.18


 どうやらこの世界にも“バレンタインデー”があるらしい。あ、いや、オレがバレンタインデーと言っているだけで、バレンタインデーという呼び方ではないのだけれど。

 この世界においてバレンタインデーにあたる日は、“ショコラ・デュ・ショコラ”という呼び方らしい。チョコレートが大好きなショコラ公爵が考案したという。暇をもて余した公爵様――肖像画を見させてもらった分には、犬井と同じくらいにかっこよかったです。ムカつくぐらいに――が、この日に自分にチョコレートを配るよう街の人に周知しろやとお菓子屋さんに言いつけたことから始まる。なぜ買いつけなかったのかといえば、貰う方が百倍うまいということだ。そりゃあ、あんなにかっこいい人がチョコレート欲しがったら送るよね。送ってしまうよね。いやはや、どの世界でもチョコレートは人気だなあ。なんていったってうまいもんなー。

 そんな“ショコラ・デュ・ショコラ”の前々日からは慌ただしいと魔王様に聞いていたとおり、二十人前後のメイドさんが集まった食堂――オレたちが使う食堂の方ではなく、使用人さんたちが使う広い方である――では端から端までお菓子屋さんから買いつけた箱が積まれ、並べられたテーブルのいくつかにはチョコレートが広がっている。要は、バラエティーパッケージをばらしてラッピングする義理チョコを作っている最中なのだった。ほのかに甘い匂いが食堂に広がっているのはそういうことである。

 まあ、どのみちオレは外野側ですけども。しかも、相変わらず犬井に抱きしめられていたりもするのですよー。テーブルの端の方に座って、というか、座らされて、きれいにラッピングし終えたものが増えるのを眺めるだけである。狐ちゃんたちはちゃんと手伝っているというのに、オレが傍観者のままでは変だろう。ついでに言えば、狐ちゃんたちはやる気に満ちた顔でしっぽをふりふりさせながら、余ったリボンをちょん切っていたりしますよー。

 

「そろそろオレも参加したいんですがー」

「ダメだ」

 

 「犬井、犬井」と袖を引っ張って見上げた先のひとことに返るのは、全然変わることのない言葉であった。お伺いを立ててもずっとこれだよ。いい加減聞き飽きたっつの。

 

「義理チョコ作るぐらいいいだろうが。義理なんだしさあ」

「義理だろうがなんだろうが関係ないと何度言ったら解るんだよ」

 

 むすっとした声のあとに、オレの方も機嫌が悪そうに「解んねーよ、犬井の嫉妬魔神っ」と返す。犬井さん曰く、『悠希が作ったものがほかの人間に渡るなんて考えるだけで気分が悪くなる』ようだが、お前の心は狭すぎると思うんだ。オレはちゃんと犬井と一緒にいるんだし、もう少し寛容でもいいだろうに。

 「ユウは俺のものだからな」とわしゃわしゃ頭を撫でてくる手――最後にネコミミの付け根部分を揉んできやがった――を「うるせー」と払い落とし、向かい合わせに座り直して犬井の胸倉を引き寄せる。もはやオレには最終手段(あれ)しか残されていないのでね。

 なにか言いたげな唇に自身のそれを押し当てたあと、今度は首に手を回して「犬井、お願い」と囁く。そうすれば、犬井は顔――顰めっ面――を逸らしつつも、口元に手を添えた。考えを吐き出すように動かしたであろうあとにそれを外し、首に回した腕に指先を絡めてくる。

 

「……手袋をするなら許可をしないこともない」

「手袋ってゴム手袋か?」

「いや、布手袋の方だな。ゴムは手作業には向かないだろ。まあ、とにかく、手袋をしなさいってことだ」

「はーい。ほかには?」

「俺から離れるな」

「はいはい。ほかはもうない?」

「いまはな」

 

 「おう、解った」と返して、「リリネルさんのところにいくぞ」と犬井の両肩を叩く。一度口づけられたあと、「はいはい」と抱き上げられた。苦笑しつつも。

 

 

    □

 

 

 様子を眺めていたであろうリリネルさん――ものすごい満面の笑みだったよ――から「では、猫さんと勇者様は使い魔さんと一緒にお願いします」と言われたとおり、狐ちゃんたち――天ちゃんと空ちゃんは向かい合わせに座っている――の隣に腰を下ろした。オレが空ちゃん側で、天ちゃん側は犬井だ。いやほら、抱きしめられたままではやりにくいし。渋面を見るに、犬井は納得していないんだろうけどね。我慢させた分の想像はしないでおくのが吉だろう。

 座ってすぐに「悠希」と投げ寄越された綿の手袋をはめたあと、握って開いてを数回繰り返して手に馴染ませ、ようやく作業に取りかかる。「ユウキ、どうぞー」と空ちゃんに渡されたラッピングの材料と一口サイズのチョコレートを見よう見まねで袋に詰めた。最後に袋の口を青い――深い夜の色のリボンで留める。ちなみに、チョコレートは六個、いや、六粒の方が正しいのかね? まあ、とにかく、六つでひとまとめらしい。

 

「よしっ、できたぞっ」

 

 出来上がった義理チョコを眺めて言えば、「それはよかったな」と犬井の手が伸びてきた。ふたたびわしゃわしゃ頭を撫でられるなか、「おう」と答えてやる。

 自分で言うのもなんだが、なかなかいい出来映えではないかと思うんだよねー。完成品に積んでも、狐ちゃんたちの分と見劣りしないし。

 ラッピングって、簡単に見えて意外に難しいしね。皺が寄ったりとか、ずれたりとかさ。

 よし、遅れを取り戻すために頑張らないと!

 いまだに頭を撫でる犬井の手をやんわりと外して作業に集中していれば、今日の分は終えたようだ。積まれた完成品は箱に戻され、「明日もよろしくお願いします」との挨拶とともに解散になる。

 すぐさま犬井が「ユウ」と抱きしめてくるが、今回は突き放すことなく「はいはい」と受け止めておいた。狐ちゃんと一緒に顔を緩ませては、逆らえまいて。

 

 

    □

 

 

 そして“ショコラ・デュ・ショコラ”の前日。今日は手作りとラッピング班に別れるという。どうやら一部の人――それなりの地位にいる人には手作りを渡すことが恒例となっているらしい。美人さん方に手作りチョコを貰えるとか羨ましい限りだ。オレなんて……、いや、なにも言うまい。たとえ家族以外からは貰えなくとも、貰えるだけ十分なのだから。

 ラッピング班たるオレたちは、昨日と同様に義理チョコを作り続けていく。違うところと言えば、数個床に落としてしまったことだろうか。休憩時間にエプロンのポケットに入れて避けておいたものを報告すれば、リリネルさんから「そちらは食べても大丈夫ですよ」とお墨つきを貰ってしまった。「ありがとうございます!」という期待に満ちた声とともに一礼したあとは急いで席に戻り、オレと狐ちゃんと犬井――は「いらん」と言ったが、まあ、一応ね――とで別けて食べたのだけれど、口に入れた瞬間から溶ける上品な甘さがなんとも言えず、幸せな気分になりましたよ。メイドさんたちの顔がこちらに集中するなか、「ほら」と犬井の分が口に放り込まれる。人前で抱きしめられるのはなんとか慣れたけれど、食べさせられるのはまだちょっと恥ずかしい。しかし、うまいものには勝てませんて。“羞恥がなんだ!”という気持ちになってしまうんだから。

 

「ん~! うまー」

「残りの時間も頑張れるな?」

 

 チョコレートを味わうオレを抱き直した犬井は、ネコミミに頬を寄せるとそう囁いた。嫌だと言いながらも、なんだかんだで責任感を持っている奴だからかな、最後までやり通せるか気になるんだろう。

 

「頑張れるよ」

 

 ――犬井が折れてくれた分は。そう滲ませた声は重なった唇に溶かされるが、チョコレート効果で羞恥もない。かと思いきや、それとこれとでは話が違うようで、やっぱりちょっと恥ずかしくなってきてしまうんだから解らない。いやもう本当に。

 「ううー」と唸るオレは熱くなった頬を撫でられるままであったが、「狐も!」「狐も!」とやたらとしっぽを揺らす狐ちゃんたちに意識を集中させた。頬が熱いからなんだというんだと考えを改めながら、差し出された頭頂部を撫でてやれば「へへ~」と嬉しそうに笑う。狐ちゃんに癒されたオレには怖いものなどなにもないぜ。さて、残りも頑張らないとな!

 

 

    □

 

 

 リボンの余りを切ったハサミを置いて形を整えた刹那、「お疲れ様でした」とのリリネルさんの声が間近で聞こえてきた。よほど集中していたためか、近くにいるなんてまったく解らなかったようだ。

 

「あ……、リリネルさん、お疲れ様です」

「こちらはお力添えに対するお礼となります。どうぞお受け取りください」

「え、いや、いいんですか……?」

 

 やりたかったからやっただけだというのに。困惑ぎみにそう言えば、リリネルさんは「問題はありません」と笑みを浮かべた。ああ、かわいらしいなあ。

 

「では、お言葉に甘えることにします」

 

 差し出されたままの封筒――どうやらポチ袋の大きさである――を「ありがとうございます」と受け取れば、感極まった――というよりかは、我慢が切れたであろうリリネルさんに抱きしめられてしまう。ちゃんと数秒後に離されたけど。

 

「片づけなどはこちらでしておきますので、どうぞお休みください」

 

 「ちなみに、時間の変更はありませんのでご安心くださいね」と続けられるが、要は“解散”だということか。ふたたび「お疲れ様でした」と紡いだオレは背後に佇んでいた犬井に軽々と抱き上げられ、寝室へと運ばれていく。狐ちゃんたちは犬井の肩からぶら下がりながら、「狐は今日も頑張った~」とやりきった顔をしていた。洗濯係は明日まで免除されているので、手伝いを終えたあとは時間が余っているわけだ。しかし、あの犬井がなにをするでもなく、昼寝を決め込んだのには驚いたさ。いや、なにも手を出せと言っているわけじゃないぞ、オレは。許すわけじゃないからね、いくら力で負けていても嫌なものは嫌ですから。しかーし、あとでなにがくるのか解らないから怖いんですって! びくびくしながらも、結局眠気には勝てないんだけどね!

 布手袋とポチ袋のふたつを犬井に預けて、みんなで横になる。集中したあとに背中を撫でられながらでは、眠気が襲うのも近い。解ってやっているんだから、犬井啓という人間は本当に頭がいいと思いますまる

 夢に旅立つ間際、犬井の唇が「愛してる」と動いたような気がした――。

 

 

    □

 

 

 とうとうやってきた“バレンタインデー”ならぬ“ショコラ・デュ・ショコラ”の当日。オレたちは幻想的なものを目の当たりにした。縦二列横三列に並べられた、総計六つの箱に魔王様が魔法――どういう系統の魔法かはオレにはさっぱり解らないが――をかけた瞬間、チョコレートたちが動き出したのだ。洞窟を飛び出すコウモリのように。龍といえばいいのか、すぐに一列に並んだチョコレートたちは、開けられた窓から飛び立っていく。

 

「おおおー!」

 

 「すげえ!」「すげえ!」と興奮ぎみに繰り返すオレとともに、狐ちゃんたちも「すごーい!」と両手を広げてはしゃいでいる。だが、犬井だけは「ふぅん。転移魔法の応用か」と冷静に分析していた。雰囲気が悪くなるからやめれ!

 

「犬井は楽しむ姿勢が足りない! ぜんっぜん足りない!」

「そうは言ってもな、ポルターガイストの類いは見慣れてるんだよ」

「うわあああああ! 黙れええええ! 魔法であってポルターガイしゅトじゃねーだろうがああああ!」

 

 詰め寄ったオレに対して犬井が変なことを言うもんだから、動揺しずきて噛んでしまったじゃないか。この世界に幽霊なんていないんだからな! 見えないんだから解らない! そう、いないんだ!

 心が落ち着くまでの間、オレが苦手な心霊関係を平然と――それはそれは普通に――宣った犬井の肩を揺すってやっていたが、ダメージはないだろう。「悠希」といつもの調子で手を伸ばして、抱きしめてくるのだから。

 

「幽霊関係は禁止だからな。本当の本当に禁止だからなぁっ」

 

 胸板に頭を押しつけたオレは、宥めるように背中を撫でられる。と同時に「承知しました」と囁かれるが、次はないと思えよ。本気で。とは思っても、犬井のことだからまたからかってくるんだろうけどさ。そのときは動揺せずに大人の対応だと決め込んだ瞬間、足元にいる狐ちゃんたちが「ユウキ、ユウキ!」とスカートの裾を引っ張った。「チョコレートが来る!」と。

 

「んん?」

 

 なにを言っているのかと犬井の胸板越しに顔を出せば、四つの箱が目の前に浮いていた。ふわりふわり上下するそれは手作りの証であり、既製品のようにきれいにラッピングをされている。

 

「えっと……?」

 

 どういうことだと首を傾げるオレの横から、魔王様の声が届いた。「ご苦労であったな」という労りの言葉が。

 

「それは感謝の意だ」

「あ、ありがとうございます。けど、オレたちも受け取っていいんですかね?」

 

 狐ちゃんたちは当然として、オレと犬井は半日はなんにもしてないというのに。困惑していたオレに魔王様は「無論だ」と頷いた。

 

「メイドたちを癒したのは猫にほかならないだろう?」

「癒したかどうかは解りませんが、ありがたくちょうだいします」

 

 はにかんだその言葉に、四つのうちの二つの箱が狐ちゃんたちに向かう。蝶々が飛ぶように緩やかに上下しながら。

 

「わあー!! ありがとうございます!」

 

 キラキラ輝く瞳でしっぽを振りまくる狐ちゃんたちは、きちんと一礼してから箱へと手を伸ばした。小さな躯で嬉しそうに箱を抱きしめる姿は言葉にできないかわいさだ。

 オレの方はといえば、犬井から「ユウ」と手渡された箱を大事に抱きしめていた。手作りに加えて、初めて家族以外から貰った大事な大事なチョコレートだし! 自然と頬が緩んでしまうが、気を引きしめ直して犬井に視線をやる。まさかチョコレートに嫉妬なんてしてないよな? それを確認するために。

 見上げた犬井は無言で頬をむにむにしてくるが、数秒後に「いくぞ」と抱き上げてくる。これは大丈夫か、な……? ほっと胸を撫で下ろしたあと、首に腕を回す。もちろん箱を離さずに。

 いやー、やっぱり犬井さんでも“物”に嫉妬はしないかー。

 ――その認識が間違っていたと解ったのは、六粒入りの生チョコをみんなで仲良く食べたあとである。犬井の分は二粒ほど食わせてやって狐ちゃんと別けたのだけれど、その前から嫉妬の炎が燃えていたらしい。おそらくは、オレが手伝いたいと言ったそのときから嫉妬が渦巻いていたんだろう。

 日付が変わる直前にベッドに押し倒した男は、それはそれはきれいに笑っていたのだから。

 たとえ“バレンタインデー”でも――いや“バレンタインデー”だからこそ、犬井はやっぱり犬井なのだと、その身を持って知ったわけである。

 「愛してる」という囁きとともに。

 

 

 

 

(了)

2017.02.18




【 あとがき 】

14日に間に合うように6日から書き始めましたが、全然間に合いませんでした。(白目)
4日遅れのバレンタインデー小話です!
ホワイトデー小話があるのかどうかは私にも解りません。

2017.02.18

◆ 執筆時期 ◆
執筆開始 : 2017/02/06 - 執筆終了 : 2017/02/18


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[2017猫の日]にゃーにゃーにゃー!(勇者の隣の式神~)

【 まえがき 】

■『勇者の隣の式神さん』の猫の日小話となります
2月22日は“猫の日”だったり、“忍者の日”だったりしますが、“猫の日”の小話ですー

■勢いだけで書いたのでやおい(やまなしおちなしいみなし)文ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです

2017.02.22


 走り込みのあと、ジャージから部屋着へと着替え終わった犬井が「ああ……」と神妙な顔で呟く。隣に立つオレからは横顔しか解らないが、いったいなんなんだろうか。疑問を表すように首を傾げる間、犬井は脱いだジャージ一式を洗濯籠に投げて、「悠希」とオレに向き直った。

 

「今日はなんの日か知ってるか?」

「オレが知るわけないだろ。なんか特別な日だったりするのか?」

「今日は猫の日だ。二月二十二日」

「へぇー。んん? ……なんつった? なんでそんなこと解るんだよ!?」

「まあ、『力』があるしな」

「……そうでしたねー」

 

 そのお蔭でなんでもできますものねー。

 人型の狐ちゃんと一緒にメイド服に袖を通しつつ答えれば、犬井は「悠希」とオレの腕を引いた。そうして正面からぎゅっと抱きしめられる。

 

「拗ねるな」

「拗ねてねーし。でもそうか、“猫の日”かー。つまり、“猫”塚という名字のオレのためにある――」

 

 『わけだ』とこぼれる前に、犬井の手がネコミミにいく。あ、こら! 説明途中にネコミミに触れるでない! そもそも、オレはぶうたれてないから!

 

「犬井っ!」

「そうだな。ユウのためにあるわけだ。今日はユウの言うことを聞いてやろう」

 

 にやりと笑った犬井はネコミミの付け根を揉む。魔法を解除したと解ったのは、快感が躯を駆け巡ったお蔭だ。

 

「っ……、こらっ、変なこと、するなよっ」

「ほら、ユウ、俺になにをしてほしい?」

 

 にやにや笑う犬井に対し、懸命に声を上げる。快感に負けてはならないと――。

 

「み、みんなでハンバーグとプリン食いたい!!」

 

 吐き出した分息を吸い込んでいると手を離したのか、今度は頭を撫でてきた。

 「了解」という言葉に浮かんだ涙を拭えば、「いじめすぎたな」と小さな声が届いた。うるせーよ。お前いつも意地悪してるだろうが。……どこでとは言わないけど。

 

「ユウキ、狐も構って~」

「おー」

 

 ベッドの上で両手を伸ばす狐ちゃんたち――はベッドの上で着替えている――の頭を撫でてやれば、その手に頬を擦り寄せる。

 当然のように背後から抱きしめられるオレは、「犬井、犬井。突然でっかいの食いたくなったからよろしく」と付け加えた。いわば、嫉妬した罰である。まあ、いくら罰だといっても、犬井には痛くも痒くもないんだけどね。オレが得をするだけで。

 直後に、やはりと言うべきか、魔法が解けたままのネコミミに「はいはい」と呆れ混じりの声が届いた。

 ハンバーグとプリンは最強ですから!

 

 

 

(了)

2017.02.22




【 あとがき 】

『にゃーにゃーにゃー』と言わせるのを忘れてしもうた…と書き上げてから気がつきました
まあ、いつもにゃんにゃん吠えて(主に犬井に向けて)いるからいいか!

2017.02.22

◆ 執筆時期 ◆
執筆開始 : 2017/02/22 - 執筆終了 : 2017/02/22


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[2019クリスマス]ハッピーハッピークリスマス(勇者の隣の式神~)

【 まえがき 】

■『勇者の隣の式神さん』のクリスマス小話となります

少しでも楽しんでいただけたら幸いです

2019.12.25


 犬井曰く、今日はクリスマスらしい。それは解ったんだけどさ、言うのが遅いんじゃないですかね? 時間ならあったはずだよね? もう夜だよ! あとは寝るだけだよ!

 

 実際問題、犬井はベッドの縁に座っていて、オレはベッドの上でゴロゴロしていますからね!

 

 「言うのが遅いわ!」という叫びとともに半眼で犬井を眺めると、「あんまり興味がないから忘れていた」とあっさりと言った。ここまで軽く言えるのかと感心するほどに本当にあっさりと。

 

「犬井はサンタさんからのプレゼントにも興味がないのか?」

「プレゼントなら早い段階でもう貰っているからな。それ以降はあんまりないな。それよりも、ユウはいまだにそういうことを信じているのか?」

「いやいや、さすがのオレもプレゼントをくれるサンタさんが本物のサンタさんでないのは解っているからな? ロマンの問題だから、ロマンの」

「本当にロマンが好きだな……」

「うるせーよ。狐ちゃんたちはなにかプレゼントはもらえたか?」

 

 うるさい犬井から顔を逸らして一生懸命髪にキスをする狐ちゃんたちに聞いてみると、犬井の手も髪を触り始めた。犬井の方こそ、本当にオレに触れるのが好きだよな……。ネコミミよりはマシだから、そのままにさせてやるけれども。

 

「狐はきたよ!」

「狐もきたよ!」

「なにをもらったんだ?」

 

 管狐姿の狐ちゃんたちはゆらゆら揺れながら「揚げ出し豆腐!」と元気よく答えた。「おいしかった~」と満足げに語る狐ちゃんたちに対し、当たりしかないプレゼントだよな、その選択と冷静に分析しながら「そっか~」と返して気がつく。オレにはプレゼントなどなにもなかったことに。どういうことなんだ、これは。

 

 そりゃあ、狐ちゃんたちはかわいいから、ほいほいプレゼントをあげたくなる気持ちも解るが、オレだってプレゼントがほしいんだぞ。仲間外れなんてひどくね?

 

「犬井さん、オレにはなにもないんですが、どういうことでしょうか?」

 

 顔を戻して犬井サンタさんに問うと、爽やかな笑顔が返ってくる。

 

「ユウには俺がいるだろ?」

「まあそうですが」

「最高のプレゼントだろ。俺にもユウがいるしな」

「そっち方面にいくのはやめろや!」

「無理だな」

 

 クリスマスだからよけいにそういうのが有り余っているんですかそうですか。

 

 のしかかってくる犬井に抵抗しつつも、「メリークリスマス!」と叫んでやる。だってクリスマスですしね。うん。

 

 まあ、抵抗を封じる犬井は「はいはい」といつもと変わらなかったのだが。

 

 

 

 

(おわり)

 




【 あとがき 】

思いついてぱぱぱっと書いたので荒いかもしれません。甘さもそんなにないと思います……(白目)
でもなんとかクリスマスに上げたかったのでご容赦願います!
あと久々に書いたので、キャラクター像がぶれていたら申し訳ないです。

2019.12.25

◆ 執筆時期 ◆
執筆開始 : 2019/12/25 - 執筆終了 : 2019/12/25


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[2020バレンタイン]管狐のお願い!(勇者の隣の式神~)

【 まえがき 】

■『勇者の隣の式神さん』のバレンタイン小話となります

少しでも楽しんでいただけたら幸いです

2020.02.14


「あのねユウキ。狐たちはユウキにお願いがあるの~」

「お願い?」

 

 いつものようにベッドの上でゴロゴロ寛いでいる最中、唐突に狐ちゃんが言った。天ちゃんの方が。オレの躯に凭れていた狐ちゃんたちだが、急に起き上がって身を乗り出したのだ。なんだと思った矢先のお願いである。

 

 狐ちゃんたちなら犬井のように変なことは言わないだろうという確信があるが、いったいどんな内容なんだろうか。ついでに言うと、犬井に凭れてつつ背後からがっちり抱きしめられているのがオレだったりしますよ。

 

 「言ってみ?」と先を促すと、狐ちゃんたちは「あのね!」「あのね!」とはしゃぎだした。しっぽがパタタタと左右に揺れる。はあー、かわいい。

 

『狐たちはユウキの手作りチョコがほしいの!』

 

 重なる声に、思わず「んあ? チョコレート?」と呆けた声が出てしまったが、しかたがないだろう。意味がよく解らなかったのだから。チョコレートがほしいとはどういうことだ? ――あ? 冬でチョコレートがほしいっていうのは――……。ああ! もしかしなくともバレンタインデーか!

 

 どこかの誰かさんのせいで今年の手伝いは早々に断念せざるを得なかったからか、すっかり忘れていたよ。道理で城の中のどこもかしこも甘い匂いがするはずだわ。はー、犬井の嫉妬はどうにかならないものかね。

 

「管狐、もう一度言え」

「狐はユウキの手作りチョコがほしいの!」

「狐もユウキの手作りチョコがほしいの!」

「却下だ」

 

 犬井の即答に対し、狐ちゃんたちはショックを受けた顔をしたが、眉をつり上げるのが早かった。「主様の横暴ー!」「主様の意地悪ー!」と犬井の腕をぺちぺち叩き始める。

 

「狐ちゃんいじめんなよー。うぶぉっ!?」

「あのな、ユウの手作りチョコレートなんて俺でも食ったことがないんだぞ」

 

 頬をむにむにされたあと、「そりゃあまあ」とひとり納得する。

 

「バレンタインなんてオレは食う側だしな。犬井が手作りした分をくれるからいい気分だぞ~」

 

 もらえないと悲しまなくてもいいのはとてもよいぞよ!

 

 毎年小さめのホールのガトーショコラとチョコレートブラウニーのふたつをいただいていたが、召喚されてからというものなくなってしまったのが痛い。あ、もちろん家族みんなで別けてたぞ? 独り占めはしないからな、オレだって。食べ物の恨みは恐ろしいとちゃんと解っているし!

 

 犬井が腕を払ったことで叩くことをやめた狐ちゃんたちだったが、それでもぶうううと頬を膨らませている。よほど不満らしい。

 

「ほら狐ちゃん機嫌直せなー」

 

 おーよしよしと頭を撫でると、狐ちゃんたちは管狐姿に戻って頭の上に乗ってきた。『狐たちはユウキのチョコがほしいの~』と呟いて。

 

「犬井犬井」

「却下。簡単に絆されるのな、悠希くんは」

「いや、オレひとりで作るんじゃなくて、犬井と一緒に作るんだよ」

「一緒、か」

 

 眉間に皺を寄せる犬井に言えば、すぐさま天を仰ぐ。断るなら喉元に噛みついてやるぞ、覚悟しておけよ!

 

「――解った。さっさと作りにいくぞ」

「え……、いいのか!?」

「その代わりに、食わせろよ」

「食わせろって……、あーんしろってことか?」

 

 そうだと頷く犬井に「そんなのいくらでもしてやるよ! ありがとな!」と飛びつくが、すぐさま引き剥がされてしまった。頬が赤いのは見なかったことにする。

 

「いくぞ」

「おう!」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 交渉の上、作ったチョコレートを献上することになったが、なんとか厨房の一部を借りられることとなった。犬井は交渉事がうまいよなあ。

 

 細かく刻んだミルクチョコレートを湯煎で溶かし、スライスアーモンド――正確にはアーモンドに似た木の実――を混ぜて、スプーンで掬う。ちなみに、細かく刻むのは犬井の仕事だった。手伝おうかと申し出ても却下されたので応援だけは頑張りましたよー。

 

 クッキングペーパー――に似た薄い耐熱紙を敷いたパッドに並べていく。が。何個か形が崩れ、スプーンの裏側で直す作業に入る。

 

「あ、指についたっ!」

 

 声を出せば犬井に腕を取られ、ペロリと舐められてしまった。少女漫画を実現するんじゃないわい!

 

「少女漫画やめろおおおお!」

「意味が解らん。ユウが舐める前に舐めただけだろ」

「オレは舐めるなって言ってんの! つか、作業中についたからといってほいほい舐めないからな!?」

「はいはい」

「はいは一回でいいんだよっ」

「はいはい」

 

 くそ、ネコミミを撫でるのやめろや! 頭を振りたいがしかし、狐ちゃんたちが頭の上にいるので出来ずじまいだ。「ユウキのチョコレート」「ユウキのチョコレート」と鼻唄を奏でている。ああ、癒されますわあ。

 

「もうちょっと待ってろよー」

「狐は待ってる~」

「狐も待ってる~」

 

 うん。上機嫌だな。

 

 作業に戻り、チョコレートをすべて並べ終えると犬井に任せることにした。魔法でばばーんと冷やしてもらうのだよ。

 

「犬井頑張れー」

「はいはい、頑張る頑張る」

 

 軽い口調で言うがまま、魔法が行使されていく。オレだって使いたいのに、全然使えないのはなぜなんだ。いや、特訓あるのみだけれども。

 

「ほらユウ、味見しろ」

 

 早くも固まったチョコレートをひとつ取れば、唇の前に差し出される。甘い匂いに釣られて口に含むと、チョコレートとアーモンドの絶妙な味が広がった。

 

「うまい!」

「それはよかったな。箱詰めして終わるぞ」

「はーい」

 

 完成したチョコレートを小さな箱に六枚セットで詰めていく。細長く切ったクッキングペーパーもどきの緩衝材の上に乗るアーモンドチョコレートは輝かしい。魔王様たちに差し上げる分と狐ちゃんたちにあげる分を詰め終えると、犬井にあげる分もせっせと作った。

 

「よし、完成! ――はい、どうぞー」

 

 いつの間にか人型になっていた狐ちゃんそれぞれに渡すと、「ユウキ大好き~」と抱きついてきた。すぐさま犬井に引き剥がされたが。

 

「わがままを聞いた分、ユウに触れるのは禁止だ」

「主様の意地悪ー!」

「もう一度言ってみろ」

「狐ちゃんにキレるなっての! ほら犬井戻ろうぜ」

 

 キレそうな犬井の手を引いて、なんとか無事に部屋に戻ってこれましたよ。メイドさんたちが後片付けを名乗り出てくれたので任せたが、彼女たちは本当に働き者である。感謝せざるを得ない。

 

「犬井、あ~ん」

「スライスアーモンドも合うな」

「オレもそう思う!」

 

 「なるほど、チョコレートブラウニーだけではなく、そのまま使っても大丈夫なわけか」と続けられる言葉は料理好きの性というやつだろう。

 

 犬井の機嫌も戻ったようだし、狐ちゃんは狐ちゃんでチョコレートを大事そうに食べ始めたし、めでたしめでたしだな。

 

「おい犬井、腰を撫でてくんな」

「はいはい」

 

 これはアレだ。終わりは遠くなるってか?

 

「あ~んしただろ!」

「足りるわけないだろ」

 

 そう言われると返す言葉がありませんわ。犬井は我慢してくれたし、オレも頑張るしかないよな?

 

「朝までは無理だからな」

「一応頭に入れとくわ」

 

 極上の笑みが返ってきたあとは、そういうことですよ。ロマンスしちゃいました、というね。

 

 ほら、バレンタインデーなので。

 

 

 

 

(終わり)

 




【 あとがき 】

今年はなんとかバレンタインデー(14日)に公開出来ました!私はやり遂げましたよ!!!

ホワイトデー小話があるのかどうかは私にも解りません。

2020.02.14

◆ 執筆時期 ◆
執筆開始 : 2020/02/11 - 執筆終了 : 2020/02/14


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[2021猫の日]管狐、猫になるっ!(勇者の隣の式神~)

【 まえがき 】

■『勇者の隣の式神さん』の猫の日小話となります

■勢いだけで書いたのでやおい(やまなしおちなしいみなし)文ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです

2021.02.22


 とある日の昼下がり。お昼休憩中のオレたちは部屋でぐうたらしていたが、突如として犬井と狐ちゃんたちがどこかに行ってしまった。かと思えば、すぐに部屋へと戻ってくる。

 

 一体なにをしているのかと聞こうとすれば、いつものとおりに犬井に背後から抱きしめられ、狐ちゃんたちは狐ちゃんたちで「ユウキユウキ見てて~! 狐はいまから猫になるの~」と、メイド服のままふんふんやる気をみなぎらせながら言う。

 

「おおう……?」

 

 猫になるとはどういう意味かとベッドの上で首を傾げれば、狐ちゃんたちは「いくよ~」と両手を前に出した。手を軽く握る仕草をすると、「にゃ~」と発する。

 

「にゃあっ、にゃ~!!」

「にゃ~にゃ~っ!」

「ふぉおぉあぉああああっ!?」

 

 なんだこの破壊力は!? かわいすぎるだろ!

 

 にゃあにゃあ鳴く狐ちゃんたちのミミとしっぽは楽しげに揺れに揺れ、「ユウキとおんなじなの~」とご機嫌だ。

 

 ここで「いや、オレはにゃあにゃあなんて鳴いてないからな」なんて言うのはいけないことだ。話の腰を折るなんて真似などできやしない。

 

「悠希もできるだろう?」

「はあ? いきなりなんの話だよ?」

 

 背後から降ってきた声に振り返ると、頬をむにむに弄られてしまう。

 

「管狐と同じことをだよ」

「あんなに楽しそうにはできませんよ!?」

「悠希はやればできる子だろう?」

 

 にゃあにゃあ続けられていく猫真似のなか、爽やかに笑う犬井から察したのは、オレもやれやという圧だ。凄まじい圧。というか、初めから仕組んでいたのはコイツしかいない。そんなにオレに猫真似をさせたいのかよ、この男はよお。そもそも、オレは名字からして猫なんですがね! ――と言っても無駄なのは解っている。解っているからどうにかしなければならない。

 

 解決方法はひとつだけなんだよなあ、この場合は。本当に面倒くさい男だよ。

 

「………………………………にゃあ。ほら言ったぞ!」

 

 どうだと羞恥により熱くなった顔を向けるとネコミミを食まれてしまい、挙げ句には押し倒されてしまう。

 

 そりゃあ犬井だし、最終的にはそういうことになるんだろうとは思っていたが、たったひとことでいいなんてチョロいな。いやまあ、そのひとことに撃沈したんだけれども! 大撃沈だけれども!

 

 破壊力でいえばどっちもどっちってか! あ、いまいいこと言ったなあ、オレ。

 

 犬井の首に腕を回しながら、いつの間にやら管狐に戻った狐ちゃんたちに向かって労りの笑みを浮かべた。

 

 お疲れ様、狐ちゃん。あとオレもお疲れ様。

 

 

 

 

(おわり)




【 あとがき 】

にゃあと鳴かせてやったぜ!


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[2022猫の日]スーパー猫の日(勇者の隣の式神~)

【 まえがき 】

■『勇者の隣の式神さん』の小話となります
2022年02月22日という2が6つ並ぶスーパー猫の日となる小話です
まあ、ただいちゃいちゃしているだけ(?)なんですが

■勢いだけで書いたので乱雑ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです

2022.02.22


 なに言ってんだコイツというのが第一の感想だ。その前に力説された、「悠希、今日は二が六つ並ぶスーパー猫の日だ。つまり、悠希というかわいいかわいい猫を六回哭かせる必要がある」という言葉に対してである。

 

 いや、二が六つ並ぶのはすごいことなのだが、そのあとの言葉が解らなすぎるのだ。はあ? と呆れたようになるのも当然だろう。

 

 そりゃあまあ、背後から片腕でもがっちり抱きしめられている現状では逃げられやしないが、六回もする必要はないではないか。どこにそんな要素があると言うんだ。意味が解らないにもほどがある。オレを殺す気かね。あとオレはかわいくないんだから黙れや。

 

 いやそれよりもな。

 

「なんでそうそっち方面にいくわけ?」

「悠希が足りないからに決まっているだろう」

「一昨日もしただろうが! いい加減にオレの体力を基準にしろよ!」

「ユウの体力を基準にするのはいいけどな、そうすると最低三日の休息が必要だろう。俺が待てない」

「そうか。休息が必要なことをちゃんと解ってて押し倒そうとしてるのか」

 

 まあなと機嫌よろしく顎を撫でてくる手を払い落として睨みつけてやると、犬井は目を細める。この愉快そうな笑みがなんと腹立たしいことか!

 

 オレの寝巻きのボタンを指先で弄びながら「ユーウ」「悠希」と囁いてくるが、それも愉しげなのだからイライラが増す。腕を外そうとするも、巧くいかないのだからさらに腹が立つ。力を込めるな抜けと噛みつくが、犬井ははいはいとあしらった。

 

 くっそムカつくうううう!

 

 攻防の末に片腕がっちりが両腕がっちりになると、ネコミミに息を吹きかけられる。優しく、だが、確実に狙って。

 

「ひぅっ!? てめっ、なにしやがるっ」

「ユウが俺から逃げようとするからだろ」

「当たり前だろうが! 犬井がわけの解らないことを言うからだろぉ! 六回もする気満々の奴の近くにいるなんて、自殺行為でしかないんだからなっ」

「わけの解らないことを言った覚えは一度もないが」

 

 嘘をつくな! と声を上げたいが、いまはそれどころではない。引き剥がさなければマズイのだから。

 

「いま絶賛言ってるからな! こらっ、しないったらしない」

「ユーウ」

「オレはしないからなぁーーーーっ!」

 

 今度は肘鉄を食らわせているが、前のめりになってくる男には効いていないようだ。頼みの狐ちゃんたちはいま現在も眠っているので助けは来ない。詰んでいる。これは詰んでいる。

 

「抵抗するならするで構わないけどな、どうなるのかは俺にも解らないぞ?」

「にゃー!!?」

 

 なんて奴だ。そんなことを言われれば、言われてしまえば、おとなしくなるしかないだろうが。

 

「ぐぅぅっ……、この脅迫者がぁっ」

「はいはい。あとで買い置きのチョコレートをやろうな」

「え、マジで? お高いうまいやつ?」

「ああ」

「なんだよ早く言えよなぁ。頑張らないけど早く言えよ」

 

 仕方がないなあと顔を向けると、ものすごく苦い顔した犬井がいた。それでもイケメンなのだから羨ましい。

 

「どうしたよ?」

「なあ悠希、俺はチョコレートよりは上だよな?」

「なんでチョコレートと比べる必要があるんだよ? 犬井は犬井だろ?」

「…………そうだな」

 

 チョコレートに負けるはずがないなと呟いた犬井は一度オレの頭頂部に唇を落としてから、「チョコレートのことは忘れさせてやるからな」と笑みを浮かべた。

 

 その極上の笑みが悪魔の微笑みだなんて、オレしか知り得ないことだろう。

 

 頑張りたくはないけれども、頑張らなければ死ぬかもしれん。

 

 ひょぇっと情けない声と魂が口から出たのは、犬井が犬井だからだろう。

 

 なんでチョコレートと比べるんだよおおおお! 食い物だよ、解る? 消耗品だろうがああああ!

 

 そんな心の底からの叫びはしかし声に出せないまま、柔らかな枕に沈ませていく重さに溶けていく。

 

 向かい合わせの鼻先にあるのは、蕩けるような笑みである。この顔に躯が固まってしまう――なんだか巧く動かなくって、最終的には抵抗出来なくなる――んだから、やっぱりオレはどうあっても犬井には勝てないようだ。

 

 

 

 

(おわり)

 




【 あとがき 】

今年もにゃあと鳴かせてやったぜ!
あとバレンタインデーがあったので、チョコレートという単語もぶちこんでおきました


◆ 執筆時期 ◆
執筆開始 : 2022.02.21(月) - 執筆終了 : 2022.02.21(月)
改稿 : 2022.02.22(火)


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