闇の魔王様と魔法少女達 (龍牙)
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プロローグ

 

世界は幾つも存在している。

 

彼等の在るそれは、ある可能性の持つ世界の一つ…。

 

其処は、かつて破壊者ディケイド達が旅をして廻った仮面ライダー達の世界の一つ、『キバの世界』と呼ばれている世界に酷似した世界の物語。

 

「ハァ!」

「ハッ!」

 

拳をぶつけ合う金と赤の二つの影。ぶつかり合う二人の仮面の皇帝、黄金のキバ『仮面ライダーキバ・エンペラーフォーム』と闇のキバ『仮面ライダーダークキバ』。

 

何度も交差する度に傷ついていく二人のキバ。

 

何度目かの交差の末にダークキバのパンチがキバ(エンペラー)の胸へと突き刺さる。

 

「クッ!」

 

苦痛の声を上げて後に後退するキバ(エンペラー)との距離を詰めたダークキバのラッシュがキバ(エンペラー)の全身に叩きつけられる。

 

更にダークキバはベルトのフエッスロットから外した『ウェイクアップフエッスル』を腰のバックル部分に止まっているキバット族『キバットバットⅡ世』の口に咥えさせ、それを吹かせる。

 

「ウェイクアップ1!」

 

「ハァァァァァァァァァアア!!!」

 

鳴り響くフエッスルの音色と共に周囲が夜の闇に包まれると、ダークキバは空高く跳び、遥か上空からキバEへとストレートパンチを放つ。それこそがダークキバの必殺技の一つ『ダークネスヘルクラッシュ』だ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

キバEの体が吹き飛ばされ、そのまま地面を転がりながら倒れる。ダークキバはそんなキバEにゆっくりと近づきながら、片膝を着いて倒れるキバEへと話しかける。

 

「もう止めろ、ワタル。これ以上、兄弟同士で戦う意味なんて無いだろう?」

 

「に…兄さん。」

 

「ファンガイアのハーフとは言えお前にはオレと同じ父の…先代キングの血が流れている。お前はオレの大事な弟だろ? 父も…母も…居なくなって、残されたたった二人の肉親同士が戦う必要なんて…無い。」

 

そう言ってダークキバは倒れるキバEへと手を差し伸べる。

 

「兄さん…。」

 

「オレ達『闇の一族』が人を支配し、争いも無く平和に治めていく。ワタル、オレの右腕として、共に覇道を歩こう。」

 

ダークキバの口から語られる言葉…

 

「そ、そんな事、させる訳には行かない!!!」

 

拒絶の言葉と共に差し伸べられたダークキバの手を振り払ってキバEは立ち上がり、マントを翻しながらファイティングポーズを取る。

 

「人は愚かだ…。同族同士で無意味に争い、己の欲望の為に他の命を奪い、未知のものを恐れ排除しようとし、人間の技術の発達の先に滅びしか齎さない。だからこそ、オレ達が支配する。」

 

「そんな事ない! 人間はそこまで愚かじゃない!!!」

 

「そうだな、それは認めよう。だが…世の中には愚かな人間の方が何倍も存在している。共存していけると思うか…? オレ達ファンガイアと…魔族と…人間が!?」

 

「そんな事はない、必ず共存できる! 昔の人達だってできた事が……今のぼく達に出来ないはずが無い!!!」

 

キバEの言葉をダークキバは鼻で笑い飛ばす。

 

「理想論だな。平和とは絶対の力の元に成り立つ物だ。絶対的な力によって守られる物だ。お前にもその力が有る。オレとお前、オレ達兄弟ならそれが出来る。最後通告だ…ワタル…オレと共にオレの覇道を歩め。」

 

「断る。」

 

はっきりと聞こえてくるキバEの拒絶の言葉にダークキバはその仮面の奥で嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「(…それで良い…。)残念だ…お前を…たった一人の弟を…オレの手で殺す事になるなんてな…。(ごめん、Ⅱ世…こんな事につき合わせてさ。)」

 

「(フッ、気にするな。)光栄に思え、絶滅タイムだ。」

 

心の中で互いにそんな言葉を交わし、ベルトのフエッスロットから外したウェイクアップフエッスルをキバットⅡ世に咥えさせる。

 

鳴り響くフエッスルの音色は二回。

ダークキバは三種類の必殺技をフェッスルを吹く回数で別種のより強力な必殺技を使うことが出来る。

本来、自爆技である『ウェイクアップ3』の『キングスワールドエンド』はその危険性から禁じ手として、二回フエッスルを吹かせるこの必殺技は事実上のダークキバの最強の技。

 

「ウェイクアップ2!」

 

再び周囲が夜の闇に包まれ、その場に君臨する支配者、闇の魔王『仮面ライダーダークキバ』。

 

そして、ダークキバは遥か上空へと跳躍し、キバEへと向けて最強の飛び蹴り『キングスバーストエンド』を放つ。

 

「ウェイクアップ・フィーバー!!!」

 

「ハァァァァァァァァァァアア!!!」

 

そんなダークキバを迎撃すべく、キバEは必殺技『エンペラームーンブレイク』を放つ。

 

遥か上空からキバEへと向かって放たれたキングスバーストエンドと、地上からそんなダークキバを迎撃すべく放たれたエンペラームーンブレイク。闇と黄金のキバの必殺技がその中間点でぶつかり合う……

 

「それでいいさ…ワタル。」

 

……はずだった。

 

優しげに呟きながら飛び蹴りの体勢を崩し、両腕を大きく広げてキバEのエンペラームーンブレイクの前に無防備な体を曝す。

 

「っ!? 兄さん!!!」

 

無防備なダークキバの胸に突き刺さるキバEの必殺の飛び蹴り、エンペラームーンブレイク。そして、ダークキバを中心に上空に浮かび上がる『キバの紋』。

その中心から彼の全身を包む闇のキバの鎧に皹が広がっていき、そのまま、彼は人と魔族の共存を目指す己の弟に仮面の奥で優しく微笑みを向けながら自身の死を受け入れる。

 

「兄さん…。トウヤ兄さん!!! どうして!?」

 

浮かび上がるキバの紋と共に爆散するダークキバとキバットバットⅡ世。そんな兄の名を叫びながら、キバEは勝利したのだ。……一族の王を決める戦いに……。

 

 

彼の中に人間を支配する意思等、何一つ存在していなかった。

弟へと語ったほど人間を見下してはいなかった。

寧ろ、彼の心の中に有ったのは、純潔のファンガイアで有りながら人と魔族が仲良く手を取り合う共存の未来。

弟と同じ道だ。

だが、それにはどうしても倒すべき存在が必要なのだ。

それは黄金のキバを中心として集まった『共存派』に対する、人間を家畜のように見下し支配する事を考えている『過激派』。

だから、純潔のファンガイアであり、王の鎧『ダークキバ』の後継者である自分がそんな過激派の代表となり、敗北させる必要が有ったのだ。

そして、最終的に人を力で支配する事を考えた過激派の代表である自分を共存派の代表である弟に倒させ、その上で戦いを完全に終わらせる事。それが彼の望みだった。

 

自分の死で全ての戦いは終わる。だから、それまでは自分は覇道を歩む闇の魔王を演じ続け、弟に討たれる必要が有った。

 

自分につき合わせてしまったキバットバットⅡ世には申し訳なく感じているが…それでも、自分にはこれ以外の方法は思いつかなかった。

 

心残りが在るとすれば…

 

 

 

 

 

『…それにしても…なんでオレは小学生の年齢でそんな事を考えて苦労しなきゃならないんだよ!?』

 

『ト、トウヤ!?』

 

『最後だから言わせて貰うけどな…オレだって、普通に恋したり、楽しく遊んだりしたかったのに…なんでこんなに苦労しなきゃならないんだよ!!! あー…これも全部…あの過激派のバカ共のせいだろう!!!』

 

『…思った所でこれで終わりだ…。残念だが諦めろ。』

 

『そうだな…。クソォー!!! 来世じゃ絶対に自由に、楽しく生きてやるからな!!!』

 

絶対に弟には聞かせられない絶叫が彼の心の中で響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…現在…

 

 

「…なあ、Ⅱ世…。」

 

「何も言うな…。」

 

机に突っ伏しながら告げる彼に同情100%の声をかけるキバットバットⅡ世。

前世の死で心の中で絶叫した。二度目の人生…彼は再びファンガイアの王に…他の魔族を束ねる王の家系に生まれていたのだ。

 

「…神様殺したい…オレはファンガイアでも他の種族でも良いから…楽しく平和に生きたかったのに…。せめて、前世の記憶なんてない方が良かったのに…。」

 

何故か前世の記憶を持って転生してしまった彼は机に突っ伏しながら涙目で神様へと恨み言を呟き続けていた。

 

「神様のバカヤロォー!!! 大体、なんでまた小学生で王にならなきゃならないんだよ!!!」

 

「前世で弟に後始末を押し付けた罪なんじゃないのか?」

 

そうかもしれないと思っても納得したら負けそうな言葉を呟いてくれる相棒のキバットバットⅡ世。

 

「そうだよな…。」

 

付け加えておくとこっちにはトウヤの弟であるワタルは居ないし、Ⅱ世の息子のキバットバットⅢ世も娘のキバーラも居ない。

 

「…あー!!! クソ、絶対に今度は楽しく生きてやる!!! そして…止めてやる…何時か絶対に王なんて止めてやる!!!」

 

「…あー…応援しているから、頑張れよ。」

 

彼、再びファンガイアの最年少の王の位に就いた少年『トウヤ・F・クリムゾン』、偽名『紅 トウヤ』の二度目の人生は常に絶叫と神への文句と共に始まるのだった。

 

 

二度目の人生で再び王となったファンガイアの王『トウヤ』…これは彼の楽しい日々を送る為に苦労する物語である。

 

 

 

 

 

さて、ついでに完全に余談だが、二度目の人生が始まった時、キバットバットⅡ世と共に彼の元に有った白いUSBメモリらしき物と赤いL字の機械については彼自身使い方も分からないので放置状態にある事を此処に付け加えておく。

それが何であるか分かる人にはわかる事だろうが…それが何故彼の元に有るのかは…彼に対して神様が同情したからなのだろうか?



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第一話『平和って何処に有るんだろうな? by.トウヤ/諦めろ by.キバットバットⅡ世』

 

「Ⅱ世…」

 

「何も言うな…」

 

思わずトウヤは震えながらキバットバットⅡ世へと、そう呟く。

 

「なんで…オレ達は…」

 

「ああ、オレ達は、なんで…」

 

この世界では幸運にもチェックメイト・フォーのビショップさえも仲良く暮らそうと言う考え方を持っている事だけでなく、ファンガイアに代表される魔族の九割が人間との共存を望んでいる。

 

悪い事は一つ…魔族の中に最強種と名乗る『レジェンドルガ族』がやはり存在し、かつてのダークキバと他の魔族の代表となった戦士達の協力によってレジェンドルガ族を宝玉に封印し、長い時間を掛ける事になるが、魂さえも完全に消滅させる手段をとった事でレジェンドルガは完全に滅ぼしたとされているはずなのだ。

だが、何故か封印されていた場所に封印の宝玉が無くなって、探索中なのは別に良いとして…トウヤ自身がそれほど苦労する事ではないし…精々倒すのはトウヤが中心となる程度の事と割り切っている。戦うだけなら楽でいいらしい。

文献によれば、置いて有る場所から動かしてしまうと一日程度で封印が解け始めるそうで、存在その物を消滅させるレジェンドルガ族への裁きの手段は残酷すぎるという話から、既に方法は失われ、一度封印が解かれてしまえば全てのレジェンドルガを物理的に倒し尽くすしかないと在る。

だが、当のレジェンドルガ達は動き出している様子が無いのだ。

 

「平和とかけ離れた人生送る破目になるんだろうな」

 

「…諦めろ、そう言う星の元に生まれたんだろう…」

 

本気で泣きたくなるトウヤだった。小学生なのにここまで苦労してしまう現状に本当に心から泣きたくなる。

 

「…本気で王なんて辞めたい…。…学校に居るファンガイア族の教師には《様》付けで呼ばれそうになるし…学校のファンガイア族の生徒は普通に敬語で話してくるし…。それが原因で何も知らないみんなには避けられるし…」

 

一番哀れなのは人間として自分の種族の王の先生とクラスメイトになってしまったそのファンガイア族の人だろう。はっきり言って、ストレス溜まりすぎるだろう。

 

「だが、良かったじゃないか。学校では可愛い女の子達とは仲良くなれたんだろう?」

 

「偶然通りかかった所で、喧嘩を止める様に頼まれたのが切欠でな…。初めて…同年代の女の子と仲良くなれた」

 

「…言ってて悲しくならないのか…それ?」

 

「…オレの過去の人生…ってか前世じゃ、馬鹿共のお蔭で寂しい人生だったよ…。これで、王なんて立場じゃなかったら…何倍良いか…」

 

「それもそうだが、今は『キング』としての仕事だ」

 

キバットバットⅡ世の言葉にフルフルと下を向きながら怒りに震えている顔を前に上げて、目の前に在る異形の影を睨みつける。

 

サメの印象を異形の怪物…シャークファンガイアの足元に落ちる数人の人間の物と思われる衣服…目の前のファンガイアの犠牲となった人達だろう。

 

本来、ファンガイアを初めとする魔族がライフエナジーを奪う際に掟の中で許されているのは『正当防衛』のみ。魔族だけでなく武装したり魔族を害せる能力を持った人間も含まれるが、今シャークファンガイアに襲われた人々はその例外ではない。

 

「貴様…掟を忘れたのか?」

 

今までの砕けた態度は一切想像させない…見る者に威圧感を与える視線と口調でシャークファンガイアを詰問する。

 

「掟だと? 小僧、貴様も誇りを忘れたファンガイアか、あんな腑抜けた奴等と「黙れ、もう良い」な!?」

 

トウヤの背後に浮かび上がる異形の影…その影が発する威圧感に圧倒され後ずさるシャークファンガイア。

 

「お前に王の判決をくれてやる。」

 

「ガブリ。」

 

「変身!!!」

 

トウヤの手にキバットバットⅡ世が噛み付くとそこから浮かび上がるステンドグラスの様な模様。トウヤの腰に現れたバックルにキバットバットⅡ世が止まると、異形のオーラが重なり、今までの子供の姿はなくそこには闇の魔王『仮面ライダーダークキバ』の姿が有った。

 

「死刑だ。現行犯だ…弁護も無い」

 

「その通りだ。光栄に思え、絶滅タイムだ」

 

そこに自分達が生きた最後の証を残すように残る衣服。男物のスーツと女物の洋服…そして、兄弟なのだろう…子供服が二種類にシャークファンガイアに踏み潰されたであろう未開封の玩具の箱が落ち居ている。

 

「そ、その姿は…闇のキバ…。まさか…キング…ま、待って下さい!」

 

許しを請うシャークファンガイアの腹部へとパンチを打ち込む、ダークキバ。地面に転がると更に追撃とばかりに真上に飛び上がりそのまま飛び蹴りを放つ。

 

掟を破った物に慈悲を与える気は無い。ライフエナジーに変わるエネルギーの開発にも成功し、それを摂取し、魔族で有る事を捨て正体を隠し、人の中で生きていく。それが、この世界でのファンガイアを含む魔族の掟だ。

 

誰もがそれを望んだ訳ではないが、多くの物がそれを望んだ。だが、ファンガイアの一部の者達がそれに異を唱えた。

だから、同じファンガイア族として、共存する事を望む同属達の為に、平和に生きる人々を守る為に、トウヤは闇の王としてこの町の闇を守る。

 

何よりも目の前の相手は特に許すことは出来ない。

 

前世の自分が得られなかった。今世でも永遠に得られる事が無い…父が居て…母が居て…弟が居る…そんな光景。それを目の前の相手は奪った。ファンガイアの王の使命を抜きとしても許せる相手ではない。

 

「ウェイクアップ1!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

鳴り響くフエッスルの音色。上空に飛び上がったダークキバが放つ必殺のストレートパンチ『ダークネスヘルクラッシュ』がシャークファンガイアを打ち抜き、地面にキバの紋が浮かび上がり、爆散する。

 

「…なあ…Ⅱ世…」

 

「何も言うな。結局、オレ達のやり方では全てを守る事など出来ないのだから。」

 

全てのファンガイアが人を襲うわけではない。どうしてもこう言う場合は後手に廻ってしまうのだ。だから、被害者出る。そして、その被害者は自分達ファンガイアの存在を隠す為に行方不明とされて処理される。

 

今回出た被害者達の家族は…肉親は…生きている事を信じて待ち続ける。帰る事のない人々を…。

 

「無力だよな、オレ達…」

 

「その通りだ。そして、お前の…『王』の存在は抑止力になっている。だから、王を辞める等と言う物ではない」

 

「残念ながら、オレは何時かは絶対に王を辞めてやる。オレの…キバの力なんて必要としない世の中にしてな…」

 

トウヤの呟きが夜の闇に響く。

 

「…流れ星…流星群なんて有ったか? いや、流星群って言うには少ないか…」

 

「そうだな。21の流れ星か…確かに珍しいな。」

 

ふと見上げた夜空から落ちる流星を見上げながら呟くトウヤとキバットバットⅡ世。トウヤは知らない。それが、トウヤの運命を変える始まりの夜とは…。

 

「…彼女欲しい、彼女欲しい、彼女欲しい、平和欲しい、平和欲しい、平和欲しい!」

 

「行き成り願い事か!? って、しかも、消える前に二つも言い切った!?」

 

「ふっふっふっ…。二度目の人生でも今の現状…今度こそ平和を手に入れて楽しく生きる為に、星にでも何でも願ってやるよ!!!」

 

「…自慢することか…?」

 

少なくとも最初の願い事くらいは叶うだろう。彼の望んでいる平和は多分そう簡単には来ないだろうし。

 

「良いだろう…前世の経験のせいで早口言葉(こんな物)が特技になったんだから(泣) 所で、あの妙なUSBメモリの事は何か分かったのか?」

 

「ああ。どうやら、あれは魔皇力等とは違う未知の力を持っている事と…名前が解った様子だ」

 

「へー…。」

 

「ああ、何でも『シャイニングメモリ』と言う名前らしい。」

 

「『シャイニング』ね。」

 

そう言われて思わずあのメモリの事を思い出す。透き通るほど白い本体に光をイメージさせる『S』の文字。確かに『光輝シャイニング』と言う名前に似合っていると思うが。

 

「オレには似合わない代物だな。」

 

思わずそう呟いてしまう。闇の魔王である自分に『光』等は似合わない。

 

「…必死になって日頃から『彼女欲しい』とか、『平和欲しい』とか叫んでる奴が言うセリフか?」

 

「ほっとけ!!!」

 

「いや、『あれさえなければいい王なのにな』と嘆かれてるぞ…一族の全員から。」

 

呆れた様に呟くキバットに対してそう叫ぶトウヤ。やっぱりシリアスな空気が似合わないトウヤ君でした。

 

 

 

 

 

 

 

次の日…

 

 

(ん?)

 

放課後、頭の中に何かが聞こえる。

 

(声…気のせい…イヤ…罠か?)

 

助けを求める様な声が聞こえたのだが、完璧に無視する事に決めたトウヤだった。第一何処に助けに行けば良いのかも解らないのだから。第一…変な事に巻き込まれたら、トウヤの望む平和が更に全力疾走で遠ざかって行く。

 

「紅くん、一緒に帰ろう。」

 

そう思いながら帰ろうとした時、喧嘩を止めた時に仲良くなった女の子『高町 なのは』がそう話しかける。

 

「うん、高町さ…っ!?」

 

「? どうしたの?」

 

彼女の友人の『アリサ・バニングス』と妙に自分達に近い物を感じてしまう少女『月村 すずか』と一緒に帰ろうと誘うなのはに返事をしようとした時、思わず驚愕を浮かべてしまうトウヤ。そんなトウヤを不思議そうに聞くなのはだが、教える訳には行かない。だって…

 

(に、Ⅱ世ィ!?)「な、なんでも無いよ、高町さん。ごめん、今日は用事が有って急いでるんだ!」

 

窓の外に自分を呼ぶキバットバットⅡ世の姿が有ったのだから。なのはにそう言って急いで教室を走り去っていくトウヤ。何故だろう、その表情は物凄く悔しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トウヤが下駄箱を出るとそれを待っていたキバットバットⅡ世を掴み取り、人気の無い所まで走って行く。

 

「はー…はー…。何のようだ、Ⅱ世?」

 

「すまない、トウヤ。お前の癒しの一時を邪魔したようでな。」

 

「…そう思うなら、さっさと本題に入ってくれ。」

 

トウヤの言葉に(見ても解らないが)表情を引き締めると、キバットバットⅡ世は、

 

「ああ。それが…『サバト』が現れた。」

 

「なっ!? 嘘だろう!?」

 

キバットバットⅡ世の言葉にトウヤは思わず驚愕を露にする。

 

それもそのはず、サバトとは、死んだファンガイアのライフエナジーを集合させる事で誕生する、巨大なオーラ集合体。個別によって体色が違い、元になったファンガイア同様、ステンドグラス状の組織で覆われている。

 

「どう言う事だ? ライフエナジーを残して死んだ者が出たのか?」

 

「解らん。だが、ビショップ達が言うには、戦闘があった形跡は無いそうだ」

 

「どう言う事だ? まあいい、急ぐぞⅡ世!」

 

「ああ!」

 

トウヤを先導して飛ぶキバットバットⅡ世を追いかけてトウヤは表情を変えて走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身!!!」

 

キバットに案内された場所…幸いにも人気がない森の中で暴れまわっているサバトと対峙しながら、トウヤはダークキバへと変身する。

 

「くっ!」

 

ダークキバが接近しようにも、体から発する光弾と振り回す触手によって、阻まれて邯鄲には近づけない。

 

「どうする、トウヤ。」

 

「決まっている。絶対に此処で倒す。こんな物が町に出てみろ、被害は洒落にならないぞ!」

 

「その通りだ。ビショップ達が目撃されない様にしていてくれてはいるが、ルーク達が援軍に来るのは時間が掛かる。」

 

キバットバットⅡ世の言葉に仮面の奥で笑みを浮かべながら、トウヤはベルトから『ドランフエッスル』を取り出す。

 

「大物には大物で対抗だ。」

 

「ああ! キャッスルドラン!!!」

 

キバットバットⅡ世の吹き鳴らすフエッスルの音色に呼ばれ城にドラゴンの頭と四肢を持った巨大な城が現れる。

 

「来たか、シューちゃん。」

 

そして、咆哮するキャッスルドランに呼ばれる様にキャッスルドランよりも小型のドラゴンが現れ、キャッスルドランの背中へと止まる。それによって、キャッスルドランは今まで抑制されていた凶暴性が開放される。

 

「行くぞ、トウヤ!」

 

「ああ!」

 

そう叫びダークキバはキャッスルドランの頭の上へと飛び乗る。

 

光弾を放ちながらキャッスルドランへと近づこうとするサバトに対してキャッスルドランは口からの光弾と城の左右からミサイルを放ち応戦する。

 

「…妙だな…。」

 

「どうした?」

 

頭の上でサバトとキャッスルドランの怪獣大戦争を眺めながらトドメとなる一撃を放つタイミングを計っていた時、ダークキバへとそう話しかける。

 

「…あのサバトからは妙な魔力を感じる…。」

 

「『妙な魔力』? それがどうしたんだ?」

 

「…解らんが…あのサバトは妙な魔力が作り出している様だ。」

 

「…なるほど、下手をしたらこのまま倒すことは出来ないと言う訳か? シールフエッスルで封印できるか?」

 

「それは解らんが…やってみよう。だが、ある程度のダメージを与えて正確に妙な魔力の出所を確認する必要が有る。」

 

「了解だ。」

 

キバットバットⅡ世の言葉に仮面の奥で笑みを浮かべながら答えるダークキバ、ベルトから外すウェイクアップフエッスル。

 

「行くぞ!」

 

「ウェイクアップ2!」

 

鳴り響くフエッスルの音色によって夕方の風景は月の昇る夜へと変わる。

ダークキバは空高く舞い上がりそのまま飛び蹴りを放つ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!! キングスバーストエンド!!!」

 

放たれたダークキバの必殺技『キングスバーストエンド』、それによってサバトの体表にキバの紋が浮かび上がり、その部分が一瞬だけ霧散する。

 

「今だ!」

 

「ああ! …よく解らんが、封印だ!!!」

 

飛び蹴りを放ち離れながらシールフエッスルを咥えさせ、吹かせるダークキバ。その音色によって、サバトの姿は消えてサバトが存在していた場所にはシマウマを連想させるファンガイアが倒れていた。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

ダークキバは慌てて倒れているファンガイアに駆け寄り声をかける。

 

「あ、あなたは、キング!? オ、オレは何を…これは一体何が…。」

 

「覚えてないのか? それなら良い。(サバトと化して暴走していたが教えない方が良さそうだな。)」

 

周囲を見回して驚愕を露にするファンガイアにそう問い掛けると、暫く考え込み…。

 

「それが…あの宝石を拾ってから…。」

 

「宝石?」

 

そう言ってファンガイアの指差した場所へと視線を向けると、そこには一つの宝石らしき石が落ちている。よく見てみると何か数字も書かれていた。

 

「トウヤ、どうやら、それが妙な魔力の出所のようだ」

 

「っ!?」

 

Ⅱ世の言葉にトウヤは伸ばしていた手を慌てて引く。迂闊に触れて自分が暴走してしまったら、その被害は想像を絶する物になる事は容易く予想できる。

 

「心配ない、シールフエッスルによる封印は上手く行った様だ。だが、何時解けるか分からない。隔離しておく必要が有りそうだな。」

 

「そうだな。それに…番号が書いてある上にそれは『0』でも『1』でも無い…」

 

キバットバットⅡ世の言葉に答え、ダークキバは落ちていた宝石に視線を向ける。

 

「最低でもこの番号の数だけ…この危険物が町中にばら撒かれた可能性がある」

 

「ああ。ビショップ達を通じて一族の者にこれに迂闊に触れない様に至急連絡だ。…町に下手な被害が出る前に全て回収するぞ。」

 

「良いのか、ファンガイア族のキングの仕事ではないぞ。」

 

キバットバットⅡ世の言葉にダークキバは周囲の焼け跡に視線を移しながら、

 

「関係ないな。この石がたった一つでこの惨状だ。二つ以上同時に…しかも、町中で発動されたら、あの町に暮らしている人達が…。」

 

トウヤ自身、自分達の暮らしている町は大好きな場所だった。正体を隠しながらとは言え、人と魔族が仲良く暮らしている場所。そして、二度の人生で初めて仲良くなった友達も居る。そして、何より…

 

「全てはオレの平和な人生の為に!!!」

 

「って、結局それか、トウヤ!?」

 

高らかと叫ぶトウヤに対して思わず突っ込みを入れるキバットバットⅡ世。…結局、シリアスな空気は長続きしない二人だった。

 

「それ以外に何が有る。(…犠牲になんてさせないよ…。ファンガイアも…人も…な。)」

 

胸の奥に宿した決意を隠しながら、トウヤは戦いの場所へと赴いていく。

 

「…それは良いとして…。トウヤ、まさか、昨日の流星がそれと言う事は?」

 

「…まさか…。…だとしたら、全部で21個か…これ?」

 

「…考えていた方が良いだろうな。最悪は、最低でもあと二十個は存在していると前提で動いた方が良さそうだ。」

 

「そうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜…

 

「リリカルマジカル、ジュエルシードシリアル21封印!!」

 

トウヤの知らぬ所で、トウヤもよく知る一人の少女『高町 なのは』が一匹のフェレットと出会い魔法の力を手にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、闇の魔王トウヤと三人の魔法少女達の物語が交わる瞬間…その全ての始まりの時だった。

 

取り合えず…これから先、王様は辞められないし、平和とは程遠い人生を送る事となるが、少なくとも、恋人くらいは出来るので頑張ってくれ…トウヤくん

 

 

 

 



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第二話『えーと…キバって行くぜ! …でいいのか? by.トウヤ/いや、それは息子のセリフだろう? by.キバットバットⅡ世

 

魔力を持った危険な宝石がばら撒かれた事を一族全体に伝えた後日…トウヤは執事服の男性、チェックメイト・フォーの一人、ビショップから渡された報告書へと目を落としていた。

 

「動物病院で何者かに破壊された跡か…しかも、周囲の電柱が倒れ、コンクリートが砕けた…。随分と酷い被害だな。これはまさか…」

 

 

「ああ、警察に居る一族の者からの情報では周囲に例の宝石は無かったようだ。どうやら、何者かに持ち去られたんだろう」

 

 

キバットバットⅡ世の言葉にトウヤは考え込む。

件の宝石は、見た目は普通の宝石だ。知らずに触れてしまって街中でサバトが出現する危険が有るのだ。罪もない人々を何も知らない危険な宝石を拾ってしまった一族の者が傷つける。有ってはならないことだ。

運が良い事に、前回の暴走時の時に回収した代物は…人が居ない森で散歩をしていた一族の者が偶然にも落し物として拾ったらしい。警察に届け様として暴走してしまったのだから、はっきり言って哀れとしか言い様がない。

だが、この報告にはサバトが現れたと言う報告はない。そして、それを持ち去ったと言う何者かの存在。

 

 

「…なるほど…ファンガイア族以外にも、あの宝石は人間や動植物…最悪は単独でも何らかの力が発動し、周囲を危険に晒す可能性が有ると言うことか?」

 

 

「ああ。一族の者には極力触れずに見つけたら、連絡をする様に言ってはいるが…」

 

 

「それでも、間違いなく被害は出るか。あの宝石…『魔石』と命名して伝えてはいるが、魔石を持ち去った何者かには封印の手段と、隔離の方法が有ると言う事になるな」

 

 

「だが、そいつ等が魔石をこの街に撒いた張本人と言う可能性もある」

 

 

「試験的に暴走させ、結果に満足…または何らかの目的を終えたから回収した。…そう言う可能性も有るか」

 

 

「その通りだ。だが、回収者が善意で回収していた可能性がある。どちらにしても、この回収者には一度接触する価値は十分に有る」

 

 

「そうだな」

 

 

キバットバットⅡ世の言葉に頷きながら、トウヤは答える。

 

 

「まったく…何者があんな物をばら撒いてくれたんだか…?」

 

 

「だが、一般のファンガイアでさえ、サバトとなりオレ達が苦戦するほど力を発揮していた。下手な者の手に渡ったら危険だ」

 

 

「そうだな。前世の様に表立って動いていないが…オレに対して良い感情を持っていない奴等は多いか。さっさと回収して処分したいな。…ザンバットソードを持ち出せば、破壊できるか?」

 

 

「それは分からんが、あの宝石は火薬の代わりに魔力で出来た爆弾のような物だ。爆発すると危険だから止めておいた方が良いだろう」

 

 

思わず溜息を吐いてしまうトウヤ。

 

 

「取り合えず…回収者に接触、回収者に悪意が無ければ、回収の協力を行い、早めに全てを終わらせるか?」

 

 

「その通りだ。ファンガイア一族の情報網が有れば最低でも街中に落ちた物くらいは回収できるだろう」

 

 

「そうか。はぁ…取り合えず…早めに全部回収するか、オレの癒しの時間に連絡が入らない事を祈るか」

 

 

真面目にそんな発言をしてくれるトウヤに思わず頭を抱えてしまうキバットバットⅡ世。

 

 

「お前は、何、真面目にバカな発言をしている!?」

 

 

「バカとは何だ!? オレはいたって真面目だ! 高町さん達と一緒に帰ったりとか、癒しの一時は大事だろう!!! どれだけ、オレが王として苦労してるか分かってるだろう!?」

 

 

「分かっているが、少しは自重しろ!」

 

 

先ほどまでの真面目な空気は何処へ行ったのか…漫才の様な遣り取りを繰り返すトウヤとキバットバットⅡ世だった。

 

 

 

余談だが、ファンガイア一族の者達からの報告でジュエルシードは二つほど回収できた事を追記しておく。

 

 

 

「はぁ…はぁ…兎も角、今日は何事も無ければ良いな…」

 

 

「何か有るのか?」

 

 

「高町さん達に高町さんのお父さんが監督をしているサッカーチームの試合の観戦に誘われたから見に行くんだ」

 

 

心底嬉しそうな顔で答えるトウヤに思わず呆れた目を向けてしまうキバットバットⅡ世。だが、

 

 

「…はぁ…。随分と歳相応の顔をする様になったな。…今のお前を見ていると喜ぶべきか、悲しむべきか悩むぞ」

 

 

「まあ、良い事だと取ってくれ」

 

 

そう言ってキバットバットⅡ世へと手を振りながらトウヤは部屋を出て行く。

 

 

「まあ、あいつが歳相応の表情を見せているのは良い事なのだろうな」

 

 

そんなトウヤの背中を見送りながら、キバットバットⅡ世はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

なのは達と彼女の父親である『高町 士郎』が監督をしている翠屋JFCの試合の応援に来たトウヤだが、なのは達と仲良くしているトウヤには男子からの殺気の篭った視線を向けられているが、当のトウヤは一切気にしていない。

 

 

「高町さん、元気無いけど、どうかしたの?」

 

 

妙になのはに元気が無い事に気が付いてそう声をかける。

 

 

「え、ええ、大丈夫だよ!」

 

 

「…なら、いいんだけど、無理はしない方が良いよ」

 

 

「なのは、あんた、本当に大丈夫なの?」

 

 

「具合が悪いなら、帰った方が良いよ」

 

 

慌てて否定するなのはとの会話をそう言って切り止めるが、彼女の友人のアリサとすずかの二人も心配してそう言う。トウヤとしては本人が言うほど大丈夫には見えなったのでもう少し聞きたかったのだが、試合開始のホイッスルが鳴った事で出来なくなった。

 

 

試合中、なのはが連れている、なのはが飼う事となった『ユーノ』と名付けられたフェレットと目が合う。

 

 

(…気のせいだとは思うが、妙なフェレットだな…)

 

 

疑ってしまえば何処までも疑える。聞いた話では、トウヤがジュエルシードで誕生したサバトと戦った日に拾ったらしいのだが、妙な偶然だと考えてしまう。なのは達に気付かれない様に、僅かに殺気を込めて睨み付けると、ユーノは隠れてしまう。

 

 

(…ただのフェレットだったか…悪い事したな)

 

 

流石にあんな危険物をばら撒いて回収している者と関係があるとすれば、その程度の殺気に怯えはしないだろうと判断し、そんなユーノの姿に罪悪感を感じてしまう。

 

 

『な、なのは、彼は一体何者なの!?』

 

 

『え!? トウヤくんの事?』

 

 

念話でそんな会話がなされている中、トウヤは気付かれないように横目でなのはとユーノの方へと視線を向ける。

 

 

(…気のせいだな…)

 

 

その後、無事試合は終わり結果は2対0で翠屋JFCの勝利で終わった。勝利のお祝いの為に食事会となったが、それに誘われたトウヤは、また何か起こってキバットバットⅡ世がトウヤを呼びに来る時の事を考えて、涙を呑んでそれを断って帰路についてたのだが、彼の予想通りまた街にばら撒かれた危険物が原因の事件が起こったらしく、キバットバットⅡ世が呼びに来たのだった。

 

 

「Ⅱ世、これは!?」

 

 

「ああ、ファンガイア族が媒体になった訳ではない様だが、あの宝石が引き起こした事態の様だ」

 

 

街中に何本もの樹の根が生え、そこから更に伸びた枝がビルを侵食し、大惨事となっていた。

 

 

「まったく…折角の休日くらいは平和に過ごしたかったって言うのに」

 

 

「諦めろ。それに、こんな事態を想定して打ち上げには不参加だったのだろう?」

 

 

目の前の光景に溜息を吐きながらそんな会話を交わす。溜息を吐くと幸せが逃げるというが、それが本当だとしたらトウヤの場合は完全に悪循環となっている事だろう。

 

 

目の前に広がる街中を覆うほどに成長した巨大な樹木。媒介になっているのがファンガイアの一族の者では無いとは言え、こんな状況を放って置ける訳が無い。

 

 

「行くぞ、Ⅱ世!」

 

 

「ああ。ガブリ」

 

 

「変身!」

 

トウヤの手を噛み付くキバットバットⅡ世。そして、変身の叫びと共に出現したベルトのバックル部分にキバットバットⅡ世が座すると、トウヤのダークキバへと変身する。

 

 

「はぁ!!!」

 

 

変身が完了したダークキバへと向かって来る樹木の枝を己の四肢を振るいながら粉砕していく。

 

 

「Ⅱ世、例の宝石の位置は分かるか?」

 

 

「ああ、中心の大樹…その頂上付近だ。だが、迂闊に攻撃は出来ないぞ」

 

 

「どう言う…。チッ! 意味だ?」

 

 

キバットバットⅡ世と会話をしながら戦っているダークキバへと向かって来る枝を空中に出現した赤いキバの紋がそれを防ぐ。

 

 

「ああ、例の宝石の媒介になったのだろう、人間が二人存在している。下手に必殺技を使っては、そこにいる人間達まで傷付けてしまうぞ」

 

 

「チッ! 状況は本格的に最悪って訳か!?」

 

 

排除すべき異変の中心を確認した物の、下手に手出しは出来ない状況である事を理解する。下手に中心部に攻撃してはそこに居る人達まで傷つけてしまう事になる。強力なダークキバの力が完全に仇となった結果と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

その頃、あるマンションの屋上に息を切らせている一人の少女…なのはの姿があった。そして、首から提げているペンダントから赤い宝石を外し、空へと放り投げる。

 

 

「レイジングハート、お願い!!!」

 

 

《スタンバイ・レディ、セットアップ》

 

 

なのはの投げた宝石は赤く輝き、彼女の姿を今までの物とは違う彼女の通う学校の制服に似た服装へと変化する。赤い宝石は魔法の杖とでも呼ぶべきかと言う形の杖へと変化した。それが、魔導師となった彼女の姿である。そして、彼女は目の前に広がる大樹を見つめていた。

 

 

「酷い…」

 

 

「多分、人間が発動してしまったんだ。強い思いを持った者が願いを込めて発動させた時、ジュエルシードは一番強く発動するから…」

 

 

トウヤがその場に居れば本格的に問い詰めたであろう、フェレット…ユーノが人間の言葉を喋るという光景。そのユーノが大樹の出現の原因がジュエルシードに有ると話す。

なのははサッカーチームのメンバーが自分の親が経営している店『翠屋』で昼食を取り、解散したメンバーの中にいたキーパーの少年がジュエルシードを持っている気配を薄らと感じていた事を思い出した。

 

 

その場にキバットバットⅡ世が居れば気が付いてトウヤが回収していただろう。だが、不運にもトウヤはキバットバットⅡ世を連れていなかった。

 

 

(やっぱり、あの時の子が持ってたんだ…)

 

 

気配を感じていたはずなのに、それを見逃してしまったなのはは、酷く後悔していた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ!!!」

 

 

枝に絡まっている人達を救助しながら進むダークキバの歩みは当然ながら遅い。だが、下手に中心となっているジュエルシードを封印する事で樹木が消えた時の事を考えると救出しない訳にはいかない。

 

 

「クッ! このままでは、被害は広がるだけだぞ」

 

 

「分かっている。だけど!!!」

 

 

ダークキバがどうすべきかと悩んでいると彼の真上をピンク色の光が一直線に飛び、中心部分を打ち抜いた。

 

 

 

 

 

「リリカルマジカル、ジュエルシード…シリアルⅩ…封印!!!」

 

 

なのはが叫んだ瞬間、レイジングハートから巨大なピンク色のビームの様な物が発射され、ジュエルシードのある場所に直撃すると、街を飲み込むように眩い光が周囲を飲み込み、

 

 

 

 

 

「大樹が消えていく?」

 

 

「どうやら、オレ達とは違う回収者が封印した様だ」

 

 

大樹が消滅していくのに気が付く。幸いにもゆっくりと地面に下ろされている様で枝に捕獲されていた人々は無事解放された。

 

 

「そうだな。取り合えず一安心だが…な!」

 

 

足元にキバの紋を出現させ、それを足場にジャンプし、なのは達の下へと飛び去ろうとしたジュエルシードを受け止める。

 

 

「敵か味方かわからない相手に渡したくは無いからな。悪いけど頂いて行く」

 

 

「ああ。それにしても…ナンバーはⅩ。どうやら、『最低数』が一気に10に増えたな」

 

 

「いや、オレ達の他の回収者を考えるとそれ以上…21と言う説は完全に当っているな」

 

 

「そうだな。さて、早く帰ってそれを隔離しよう」

 

 

「ああ」

 

 

ダークキバの姿から変身を解除すると、トウヤとキバットバットⅡ世はその場を立ち去っていく。

 

 

 

 

 

「おかしいな、ジュエルシードが来ないよ、ユーノ君?」

 

 

「確かに変だ…今までならシーリングしたら、レイジングハートの所に来るはずなのに」

 

 

トウヤ達が回収した事でジュエルシードが現れない事を不思議に思っているなのはとユーノの姿があった。

 

 

レイジングハートが警告を発するが、既に遅くトウヤが人気の無い場所でシールフエッスルによる封印を行った事で、反応を見失ってしまった様子である。

 

 

 

 

 

 

後日…

 

 

「…またサバトか…。注意は促したはずだろう!?」

 

 

ダークキバの姿でトウヤはサバトの現れた場所に向かっていた。

 

 

「いや、どうやら、今回はお前に対抗する為のカードとして入手した者達が結果的に暴走したらしい」

 

 

「うわ~…それって、オレのせいか?」

 

 

「いや、お前に責任はないだろう。まあ、特別気にせずに戦えると考えればいいだろう」

 

 

「それもそうだな。授業の途中で抜け出してきたんだ、早く倒して戻るぞ!」

 

 

「分かっている」

 

 

そんな会話を交わしながらサバトの姿を見つけると、目の前の光景に思わず足を止めてしまう。

 

 

「…昨日会った回収者とは別人…接近戦型か」

 

 

「その様だな」

 

 

サバトと戦う黒いマントを纏い、金色の刃を持った鎌を持ってサバトと戦う金色の髪の少女の姿が有った。

 

 

「どうする、トウヤ?」

 

 

「決まっているだろう…助けに入るだけだ!!! よりにもよってオレに反抗するファンガイア族が媒介な以上、危険だ!」

 

 

そう叫びながら、ダークキバはサバトと戦う金色の少女に加勢すべくその戦いへと介入する。

 

 

 

 

これが、トウヤと二人の魔導師としての…『高町なのは』、『フェイト・テスタロッサ』との出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三話『ああ、少しは運が向いてきたかな、オレ? by.トウヤ/…命を賭けてまでする事か? by.キバットバットⅡ世』

「少し待て、トウヤ。」

 

「? どうしたんだよ、Ⅱ世?」

 

魔石によって誕生したサバトと戦っている金色の髪の少女に加勢しようとしたトウヤをキバットバットⅡ世が呼び止める。

 

「いや、この状況では加勢するのは良いんだが、先日のピンク色の光線の主には存在を教えただけなのに…良いのか?」

 

「ああ、構わない。」

 

そもそも、先日の大樹の時の一件で姿を見せなかったのは、準備無く接触してしまい、外見で敵と間違われて、あんな物ディバインバスターを撃たれて直撃していれば、ダークキバの鎧の上からでもダメージは大きく危険だと考えた結果だ。何気にダークキバのデザインは気に入っているが、下手な行動は悪人と誤解されても仕方ないと考えている。(でも、オレはダークキバは好き。 by.作者)

だが、今回は事態が違う。相手は間違いなく悪人に分類できるファンガイア族、そんな相手に対して、トウヤの対応は一つ…『王の判決を言い渡す』だけである。

それに、金色の髪の少女が封印する術を持っていたとして、封印した後の魔石ジュエルシードを狙ってサバトになっている者や、その仲間達さえも現れる可能性がある。

奴等も封印を解く方法は分からないだろうが、まだ扱い易くなったと考えるだろう。キングであり、ダークキバの鎧を纏うトウヤを倒す為の切り札でありながら、何時爆発するか分からない爆弾に有る程度任意で爆発できるリモコンを付けた様な物なのだから。

 

「…あの…バカ親父…。」

 

何故小学生の自分が此処まで苦労しなければならないのだろうかと考えると、思わず自分にキングの地位を譲り、サガの鎧を持ち世界を飛び回っている父に対して悪態を吐いてしまう。

曰く、世界中の魔族と人間の間を取り持つ為だそうだ。日本ならば人を襲うファンガイア族の方が少ないのだが、海外規模では先代や現キングである父や自分の目が届かない海外のファンガイア族の中にもそう言う考えの者が居るのは良いのだが、人を支配すべきと考える一族は多く、裁く者が不在の為に人と魔族の共存に対する弊害と成っている。

その為に父はトウヤにダークキバの鎧を譲り海外で動く為にキバの試作の鎧のサガを持ちキングの座を譲り、動いている訳である。

 

ビショップ達曰く先代のキングは『良き王だけど、ダメな所が多い王だ。』とコメントしている。………付け加えると、トウヤの父の名は『オトヤ・F・クリムゾン』と言う。

まあ、別な方向でダメな所が在るトウヤの事を考えると…ビショップやキバットバットⅡ世達は、はっきり言って苦労しすぎだと思う…。

注)この作品のビショップ達は原典のキバとも、DCD版のキバとも“一切”関係有りません。

 

それになにより、『美少女』が戦っているのを手助けしないという選択肢がトウヤの中にある訳がないのだから。

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

さて、そんな形で無駄話を切り止めたトウヤダークキバは金色の髪の少女と戦うサバトへと殴りかかる。

それによって、僅かにサバトの体は揺らぐが、決定打は与えられない。寧ろ、サバトになったファンガイア族の意思が残っているのか、本能的な部分で金色の髪の少女よりもダークキバの方が脅威と認識したのかは不明だが、触手を使いダークキバへと襲い掛かる。

だが、それで良い。それこそがトウヤの狙いなのだ。

 

「やれやれ、人気者は辛いな。」

 

「同感だ!」

 

一撃でも受ければダークキバであっても死に繋がるような攻撃の中、ダークキバとキバットバットⅡ世は軽口を交わしながら、空中に出現させたキバの紋を足場にサバトの振り下ろす触手を避けながら打撃を加えていく。

ダークキバのそれはその力の使い方としては間違っているかもしれないが、正しい使い方をしたとしても効果が薄そうな現状では飛行能力の無いダークキバの空中戦での足場として使った方が良いと判断した結果だ。

 

そして、キバの紋を連続で出現させながらサバトを翻弄し、上空へと飛び上がると自身の脚力と落下速度を利用した飛び蹴りをサバトへと放ち、そのまま大地へと叩きつける。

 

「…前に戦った奴より打たれ強いな。」

 

「必殺技ではないから当然だろうが、やはり、一般のファンガイアとお前を倒そうと考える程度の力を持った者では下地が違うか。」

 

ダークキバの呟きをキバットバットⅡ世が補足してくれる。仮面の奥で、そんな自身の相棒パートナーに対して『頼りになるな』と言う考えと共に笑みを浮かべる。

 

「そうだな。…奴の仲間は…。」

 

「あ、あの…。」

 

サバトが倒れている間に何処かに隠れている可能性の有る他の過激派達の居場所を探ろうとしていたダークキバへと金色の髪の少女が話しかけてくる。

 

「あなたは何者ですか…?」

 

そう問い掛けてくるが金色の髪の少女の瞳には怯えの色が見える。ダークキバは自分の姿と自分が行った行動を考えてみると…当然としか思えない。

 

(…まあ、あの光景を見たらな…。)「あー、いや、特に怪しい者じゃ無いけど…。」

 

「そんな格好をしている貴方が怪しくない訳無いじゃないですか。」

 

「…それに関してはお互い様な気もするけど…納得しておくか。」

 

「まあ、事実だからな。」

 

金色の髪の少女の言葉に弁解するが、そう返されてしまい納得してしまうダークキバに対してキバットバットⅡ世は溜息を吐きながらそう答える。

そして、それ以上にどうしてもダークキバに対する少女の怯えが消えないのはダークキバ(トウヤ)本人としては何よりも気になる…と言うよりも悲しい。そもそも、トウヤの性格上、可愛い女の子に怯えられて嬉しい訳が無いのだし。

 

「まあ、お互いが何者かよりも、今はサバト…奴を何とかした方が良さそうだ。」

 

気を取り直してサバトへと視線を向けると既にダークキバの一撃により地面に叩きつけられていたサバトはそのまま起き上がり体勢を立て直していた。

 

「は、はい!」

 

ダークキバの言葉に金色の髪の少女が頷き、二人がその場から離れるとサバトの触手が地面へと叩きつけられる。

 

本能か本人の意思かは疑問だが、ターゲットの優先順位がダークキバに変わった事で攻撃が彼に集中し、無視される形となった金色の髪の少女が死角に回り込み一撃を加えるが、サバトはダメージを受けた様子も無く、ダークキバへと光弾を交えた攻撃を放っている。

 

本来ならキャッスルドランを召喚したい所だが、信用を得ていない少女が居る現状でキャッスルドランの召喚は彼女が危険と却下している。流石に怪獣大戦争の真っ只中に放り込む訳には行かないのだ。信用されていないダークキバが安全だと言ってもキャッスルドランに避難はしてくれないだろうし。

 

キバの紋を足場にしながら振られた触手へと飛び乗り、ダークキバはそのままサバトへと肉薄し、ラッシュを叩き込む。それによって僅かに揺らぐがサバトは尚もダークキバへと襲い掛かる。

 

「やれやれ、お前の攻撃は少しは効いているが、あの少女の攻撃は効いていない様だな。彼女はスピード主体、一撃の攻撃力が低くてはサバトの相手には向いていないな。」

 

「ああ。無視されているのは、幸いか。」

 

「…サバトの攻撃が相手では、お前も彼女の防御も大差ないだろうがな。寧ろ、スピード主体ではないお前の方が危険だと言う事を忘れるな。何より、奴からはお前の方が狙われている。」

 

「上等。女の子を守って危険な思いをするのは、男の役目だろ?」

 

サバトの攻撃を避けながらダークキバはキバットバットⅡ世の言葉に答える。危険は最初から承知の上、そう簡単に大振りな攻撃に当ってやる心算もダークキバには無い。恐れる理由も、下がる理由も、今の彼には存在しない。

 

「はぁ…はぁ…。」

 

完全に無視される形となっている金色の髪の少女にも疲労と焦りの色が浮かんでいる。意を決して、上空へと飛び上がり、魔法陣を発生させる。

 

「サンダー………。」

 

金色の刃の消えた杖らしき物を振り上げる金色の髪の少女。その様子から推測するに、大技を使おうとしている様子。だが…不幸にも、脅威度がダークキバを上回ってしまった事は災いしてしまった。

 

「危ない!」

 

「レイッ…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」

 

「くっ!」

 

警告の叫び声を放ち上空へと跳ぶダークキバ。上空に居る少女へと向けて光弾を放つサバト。そして、サバトからの反撃に叫び声を上げてしまい、目を閉じる少女。

 

「え?」

 

何時までも痛みが無い事を疑問に思い目を開けると、そこには自分の盾となっているダークキバの姿があった。

 

「トウヤ、無茶をするな!?」

 

キバットバットⅡ世からの叫び声を聞きながら、気を抜けば意識を手放しそうになる全身の痛みに耐え辛うじて意識を保ちながら、足元に出現させたキバの紋を足場に体勢を保っていた。

 

金色の髪の少女の前に飛び込んだダークキバは正面に出現させたキバの紋と自分の体を盾にして少女をサバトの放った光弾から庇った訳である。その結果、ダークキバの鎧は黒く焼けた部分も有り、結果トウヤの体にもダメージが残ってしまった訳である。

 

「あ、あの…。」

 

「気にするな。それより…奴の動きはオレがもう一度止める…。封印は出来るか?」

 

「う、うん!」

 

反射的にダークキバの問いに頷く少女の言葉に満足気に頷き、ウェイックアップフエッスルを抜き、キバットバットⅡ世に咥えさせる。

 

「その体で無茶をする…仕方ない、一撃で決めるぞ。ウェイクアップ2!」

 

キバットバットⅡ世の言葉と共に鳴り響くウェイクアップフエッスルの音色。世界を支配する物がダークキバへと変わった瞬間、ダークキバは舞い上がり、そのまま飛び蹴りを放つ。

 

「キングスバーストエンド!!!」

 

全身のダメージを抑えながら放った手加減無しの必殺の飛び蹴りキングスバーストエンドがサバトへと直撃し、キバの紋を刻む。それによってキバの紋が刻まれた周囲が霧散するサバト。そして、

 

「サンダー…レイジィィイ!!!」

 

ダークキバの離脱と共に金色の髪の少女の放った稲妻がサバトへと直撃し、

 

「ジュエルシード! 封印!!!」

 

そのまま魔石ジュエルシードを封印する。その後に残ったのは、魔石ジュエルシードとそれに取り込まれていた蜂をイメージさせるファンガイア態のファンガイア。

 

「あっ! それを…。」

 

「ほら。」

 

逸早く地面に降りていたダークキバが蜂のファンガイア…ワプスファンガイアの傍らに落ちている魔石ジュエルシードを拾い上げ少女へと投げ渡す。それを慌てて受け取ると少女はそれを持っていた杖の様な武器の中に収納する。

 

「トウヤ、どうやら確かにあれの隔離方法は持っていた様だな。」

 

「…ああ…。…あとは…信用できるか否かを見極めるだけか…。」

 

実際立っているのも辛いダークキバだが、膝を折らずに立ち続けながらキバットバットⅡ世の言葉に答えているのは、キングであるプライド故か。ダークキバの姿で膝を折るのは彼のキングとしてのプライドが許さないのだろう。

 

地面に降りた金色の髪の少女はダークキバへと近づいてくる。

 

「あ、あの…さっきはありがとうございました。私は『フェイト・テスタロッサ』です。あなたは?」

 

「オレは…「貴様、キング!!!」チッ、もう目を覚ましたか。」

 

聞こえてきた言葉にダークキバが振り返ると、レイピアを取り出したワプスファンガイアがダークキバへと向けてそう叫んでいた。

 

「やれやれ、オレに武器を向けると言う事がどう言う事か…分かっているのか?」

 

「ふん、貴様の様な腑抜けたキングなど、我等ファンガイアには必要ない!!! どうやら、あの石のお蔭で倒せないまでもダメージは有ったようだな。今のお前なら…。」

 

フェイトと名乗った少女を背後に庇いながら、相手の言葉を鼻で笑い飛ばしながら痛みを隠し王としての口調でワプスファンガイアへと言い放つ。

 

「確かに傷は負ったが、貴様程度に負ける程ではない。王への反逆の罪…王の判決を言い渡す…死だ!!!」

 

「ああ、光栄に思え、絶滅タイムだ!」

 

ダークキバとキバットバットⅡ世の言葉が響き渡るが、ワプスファンガイアはその表情に笑いを浮かべる。

 

「ふん、誰が一人だと言った。」

 

ワプスファンガイアの合図と共に林の中から数人のスーツ姿の男達が現れる。

纏っている空気は間違いなくダークキバだけでなくフェイトへと向けられた殺気。そして、人間の姿こそしているが頬に浮かぶステンドグラス状の模様は男達が人ではなく、ファンガイアである事を告げていた。

 

「覚悟は良いか、腑抜けのキング、これだけの人数が居れば今の貴様など。」

 

「チッ! まったく、オレみたいなガキを相手にいい大人が何をやってるんだか? フェイトと言ったな? すまない、どうやらオレ達一族の問題に巻き込んでしまった様だ。時間は稼ぐ…直に此処から逃げろ。」

 

「え? あっ、でも!」

 

そう言ってダークキバはフェイトに逃げる様に促す。流石に防御したとは言えサバトの攻撃を受けたダメージは大きく、フェイトを庇いながらこの数のファンガイアと戦うのはきつい。彼女が戦力になるか否かは兎も角、人を殺す事に躊躇が無いファンガイア達と戦わせたくは無い。

トウヤが魔石と命名した石-フェイトの言葉から考えて本来の名は『ジュエルシード』と言うらしい-を奴等はダークキバであるトウヤを倒す為の切り札に使いたかった様で、図らずもフェイトを庇った事である程度は思い通りになったらしい。

推測の域を出ていないが、彼女も集めている以上、ジュエルシードは今回手に入れた一つだけではないのだろう。万が一、フェイトからそれを奪われたら…下手をすれば数体のサバトを同時に相手にする事になる。それだけは勘弁して欲しい。

感情と打算、その両方の面からトウヤはフェイトを逃がす事に決めたのである。

 

だが、当のフェイトは金色の刃が出現し鎌状になった杖を握り、逃げてくれる様子は無い。

 

「助けてくれた人を置いていくなんて出来ません。」

 

きっぱりと否定してくれた。思わずキバットバットⅡ世と揃って仮面の奥で溜息を吐いてしまうが、逆に彼女自身は信用に足る人物である事は理解できた。

 

「…仕方ない…。Ⅱ世、援軍は来そうか?」

 

「多少時間は掛かるが、後始末にルーク達が向かってきてくれている。それまでは持ち堪えろ。」

 

「…多少か…。それで、そっちは援軍は来るのか?」

 

「はい。アルフ…私の使い魔が来てくれるはずです。」

 

フェイトへと視線を向けながら、そう問い掛けるとそんな答えが返ってくる。…現状でその答えはそれ程良くは無かった。自分の主の危機に駆けつけない従者等居るはずは無い。同時に彼女の目には信頼の色が浮かんでいる。…それほど信頼されているアルフと言うらしい使い魔がサバトと戦っている時に現れないと言う事から導き出される答えは…。

 

(…奴等に捕まっているか、奴等の仲間と絶賛戦闘中と言った所か?)

 

思わず最悪の状況を思い浮かべてしまう。大技で纏めて吹き飛ばそうにも相手はそれを警戒してか周囲に分散して包囲しているし、この状態で二度目の必殺技の発動は正直勘弁して欲しい。

 

(このまま戦うのは不利だな。近場に指揮官が居る事だし…奴を最優先で潰しておくか。)

 

最優先での狙いをリーダー各のワプスファンガイアに絞り、一気に仕留め様と決めると、拳を握る。

 

「おっと、その前にあれを見ていただこうか、キング。」

 

「…狼…?」

 

「アルフ!?」

 

ワプスファンガイアへと注意を向けつつ相手に指し示された方向へと視線を向けると、象をイメージさせる大柄のファンガイア族『エレファントファンガイア』と、シュモクザメをイメージさせるファンガイア『ハンマーヘッドファンガイア』が傷だらけになった額に宝石のような物を付けたオレンジ色の狼を連れていた。

 

フェイトの言葉からそれが彼女の言う使い魔なのだろう。

 

(…探索者を捕まえてオレを倒す為の切り札を確保しようとした訳か…。)

 

アルフと言うらしい使い魔にも実力は有るのだろうが、相手は一応は自分ダークキバを倒す事を考える《過激派》のファンガイア族。流石に二対一はきつかったと言う訳だろう。

向こうもファンガイアの姿に戻っている事から殺してでも奪い取る様子で、倒した相手が魔石ジュエルシードを持って居ない事と、本来の探索者とターゲットの存在を確認して連れて来たと推測できる。

こうして見ているだけでも確かにチェックメイト・フォークラスには及ばないが、それなりに実力は有る様子だ。

 

「なるほど、彼女の方の援軍は期待出来ないという訳か。」

 

「あの石さえ有れば、チェックメイト・フォーもキバの力も怖くはない。さあ、そこの小娘、あの石を渡して貰おうか。」

 

「っ!?」

 

完全に力にのまれていると言う様子でダークキバを無視しつつ、ダークキバの背後に庇う形になっているフェイトへとレイピアを向けてそう告げる。ワプスファンガイアの言葉にフェイトは鎌状の杖を握り締めながら俯いている。

 

(…さて…どうする…?)

 

相手の人(?)質はダークキバにではなく、フェイトに対してのもの。それもジュエルシードを手に入れてサバト化して暴走する事を前提で動いている様子だ。はっきり言って厄介この上ない。

………どうでも良いが、トウヤとしてはそんな物の力を借りて暴走して…理性を失っているか、理性を残しているのかは分からないが…そんな状態で勝とうとする事の方がプライドが無いとしか思えない。

 

彼女の反応を見ていると迷っている様子だが、使い魔の事が大事なのだろう、向こうが後一押し…『渡さなければ殺す』とでも言えば直に一つくらいは渡してしまいそうだ。

 

(…サバト相手の連戦は勘弁して欲しいな…。ん?)

 

ふと視線を向けると、敵のファンガイア族の中に異質な影が混じっているのに気が着く。影の数は四つ…。

 

(やれやれ…予想以上に早かったな、Ⅱ世。)「待て。Ⅱ世。」

 

(ああ。)「分かった。」

 

「え?」

「なに?」

 

ダークキバとキバットバットⅡ世の行動にフェイトとワプスファンガイアの言葉が重なる。キバットバットⅡ世がベルトから外れた事で、ダークキバの鎧が消え、変身が解除されトウヤの姿に戻る。

 

「武装は解除した。これであの石に頼る必要も無いだろう?」

 

ワプスファンガイアを嘲笑う様に告げられるトウヤの言葉。トウヤのそんな態度にワプスファンガイアは怒りを覚えるが、自身の圧倒的優位の立場に気がつき、直にその頭は冷える。

 

「ふ、ふふふ…流石は腑抜けのキングだな。あんな獣一匹の為に自らの命を差し出すとはな!」

 

「そ、そんな!」

 

「まあ、彼女にとっては大切な存在みたいだしな。それで、これであの石を求める必要はなくなっただろう? 彼女達は無事逃がしてもらえるか?」

 

「ふん、誰がそんな事を言った?」

 

トウヤ達へとレイピアを向けながらワプスファンガイアが部下達に指示を出そうとした瞬間、

 

「や「ギャァァァァァァァァァアア!!!」なに!?」

 

ファンガイア達に突然の悲鳴が上がる。

 

「残念ながら、王の判決は…。」

 

「絶対だ。」

 

「な、なにが!?」

 

慌てるワプスファンガイアとフェイトに対してトウヤとキバットバットⅡ世は笑みを浮かべながら告げる。

 

周囲を取り囲んでいたファンガイア達を倒しているのは、四種の異形の影。

 

白い獅子とステンドグラスをイメージさせるファンガイア族最強の四人、チェックメイト・フォーの一人、ルーク・『ライオンファンガイア』。

 

ファンガイア族と友好関係にある13の魔族の一つウルフェン族の戦士青い人狼『ガルル』。

 

そして、13の魔族の碧の半漁人マーマン族の『バッシャー』と、紫の巨人フランケン族の『ドッガ』。

 

彼等こそが13の魔族の代表たるファンガイア族の王キングであるトウヤに使える円卓の騎士達の一角なのだ。

 

「き、貴様、初めからこれを…。」

 

「そうだな。お前達を油断させる意味も込めて、変身を解除させて貰った。流石に最高の餌を目の前にしては、他は目に入らなくなると予想させて貰ったからな。それに、オレに注意が向けば、彼女の使い魔からも注意が外れるだろう。」

 

そう、トウヤの言葉通りアルフと呼ばれたフェイトの使い魔を捕らえていた二体のファンガイアはトウヤに気を取られている間に早々にルークが倒した。

 

「第一…己に仕える従者を信じないほどオレは愚かな王じゃない。…腑抜けだけどな。」

 

己に忠義を尽くし使える者達の忠義には己の命を掛けて応える。それがトウヤの過去の経験が与えてくれた王としての姿勢。

 

「くっ…せめてお前だけでも!!!」

 

自棄になってトウヤに向かっていくワプスファンガイアだが、横から叩きつけられたドッガの拳に吹き飛ばされ、ルークにトドメを刺される。

 

「キング、ご無事ですか?」

「トウヤ、無事か?」

 

そう言ってトウヤに対して方膝を着いて問い掛けてくるのはルークで、何処か気安い態度で問い掛けるのはウルフェン族のガルルである。

 

「ああ、二人とも、心配を掛けたようだな。それより、彼女の使い魔の方は大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫だよ。」

 

「心配、ない。でも、治療は、必要。」

 

トウヤの問いに答えるのはマーマン族のバッシャーと、アルフを抱えているフランケン族のドッガ。

 

「そうか、城キャッスルドランに運んで治療をする必要が有るな。そちらのお嬢さん、フェイトとか言いましたね、それで構いませんか?」

 

ドッガ達の言葉に答えながら指示を出し、改めてフェイトへと向き直るとそう問い掛ける。

 

「は、はい。あ、あの…アルフを助けてくれてありがとうございました。でも…貴方は何者なんですか?」

 

大人の体型で異形の姿をしていたと思えば自分と変わらない少年の姿になり、異形の者達を従えている姿。彼女でなくとも…いや…彼女はまだ冷静といえるだろう。普通ならばもっと取り乱していても無理はない。

 

「これは失礼。フェイトさん。オレは『紅 トウヤ』、本来の名は『トウヤ・F・クリムゾン』。彼等を束ねる王の家系の現在のキングだ。」

 

その場に現れた龍と一体化した城『キャッスルドラン』を背景に優雅に一礼しながらフェイトの疑問にそう答えるのだった。

 

「それより、フェイトさん、君にはあの石を隔離する方法が有るみたいだな。」

 

「う、うん。」

 

トウヤの問いに杖を握り締めながら頷くフェイト。そんなフェイトの問いにトウヤはルーク達へと振り返り、

 

「よし、あの石の隔離方法が見つかったぞ!!!」

 

「それは良かった!」

 

「あー…あれの見張りって結構大変なんだよね。」

 

「一つの石を置いておくのに一部屋潰れるからな。」

 

「見張り、で、寝ぶ、そく。」

 

トウヤの言葉に嬉しそうに叫ぶルーク達と、外見からは想像出来ない妙な雰囲気に着いていけないといった様子のフェイト。そんなフェイトへと振り返ると、トウヤは。

 

「頼むから、オレ達が回収したあれを持っていってくれ!!!」

 

ガシっと手を握りながらそう頼み込む。同様にルーク達にも『お願いします』と頭を下げられてしまう。

 

「え? あ、あの…貰っても、良いの?」

 

「ああ。あんな危険物…寧ろ、君に押し付けるのが申し訳ない位だ。」

 

戸惑うフェイトに対してそう応えるトウヤ。後では、ルーク達が『うんうん』と頷いている。それがジュエルシードに対する彼女とトウヤ達の温度差を物語っていたのだった。

 

「あー、今日から枕を高くして眠れるぞ!!!(可愛い女の子に危険物を押し付けるのは申し訳ないけどな。)」

 

「「「「オー!!!」」」」

 

やっぱりシリアスな空気は長続きしないトウヤと、そんなトウヤに染められた様子の一同だった。

 

 



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第四話『トラブルはトラブルを呼ぶ…か? by.トウヤ/あー、まあ、頑張れ。by.キバットバットⅡ世』

「え…ええと…。」

 

「ん? 紅茶は好みじゃなかった? それとも、お茶菓子が好みじゃないなら別の物を持ってこさせるけど…。」

 

「そ、そう言う訳じゃ…。」

 

城キャッスルドランの一室、食堂でトウヤの正面の席に座って完全に戸惑っているフェイトさんでした。

 

キャッスルドランの中に案内された後、ルーク達に城キャッスルドランの空き部屋に隔離してある魔石改め『ジュエルシード』を持ってこさせて彼女の持っていた杖デバイスの中に隔離してもらった後、治療しているアルフが目を覚ますまで、こうしてお茶を出している訳だ。

 

言葉を交わした感じでは、ジュエルシードを集めている理由こそ分からないが、少なくとも悪用する様な人間でない事は理解できる。…………はっきり言って彼女が悪人だったら、暫く人間不信に陥りそうなレベルである。

 

「これで二度目だけど、あの石…ジュエルシードだったか? それはオレ達にとっては早急に処分したい危険物だ。寧ろ感謝するのはこっちの方だ。」

 

「き、危険物って。」

 

「…あれで出た被害を考えるとそう言うしかないからな…。」

 

ファンガイア一族のサバト化、巨大な樹木の発生等など、出た被害は知っているだけでも大きい物ばかりではっきり言ってトウヤとしては、それはさっさと処分してしまいたい危険物だ。

 

「君が何の目的で集めているにしても、この世界に影響が無い限りは危険物を回収してくれている恩人だ。」

 

トウヤとしては、それは嘘偽り無い本音である。ジュエルシードがどれほどの価値については“何一つ”興味ないし、単なる危険な物であり、それを回収してくれているフェイトに対しては感謝こそしても、咎める必要など無い。

 

ゆっくりと紅茶のカップに口を付けながら、微笑を浮かべる。

 

「寧ろ、オレの方から今後も君に回収を続けて欲くれって頼みたいくらいだ。勿論、その事に対する報酬や協力は惜しまない。」

 

「ほ、報酬なんて、私はジュエルシードを渡してもらえるだけで十分だから!」

 

「そうなのか?」

 

慌てた様子で断るフェイトを眺めながらトウヤは逆に戸惑いを覚えてしまう。

 

「まあ、協力を受けるか受けないかについては、君の従者が目を覚ましてからで良いだろう。」

 

「う、うん。あ、あの、それでアルフは大丈夫なんですか!?」

 

「ああ。大丈夫、ビショップに治療の手配はさせた。」

 

ビショップには一族の獣医を呼ばせている。それでも、目を覚ますまでは時間が掛かるだろう。と、そんな事を思っていたら、

 

「フェイト!」

 

食堂のドアが勢い良く開き、赤毛の女性が飛び込んできて、フェイトを抱きしめる。

 

「誰?」

 

「アルフ!」

 

初対面の女性に対して戸惑いを覚えてしまうが、フェイトはその女性の事を自分の使い魔と同じ名前で呼ぶ。乾いた音を立てた様子で続いて部屋に入ってきたウルフェン族の戦士である人間の姿のガルルへと視線を向けて、

 

「……えーと、あー…次狼さん…同族でしたか?」

 

アルフと呼ばれた女性を指差しながら、思わずそう問い掛けてしまう。

 

「いや、確かに狼から人の姿に変わったが、オレの同族じゃない。第一、ウルフェン族とは似て無いだろう。」

 

「あー…確かに、完全な狼から人ですから、伝承に出てくる『ワーウルフ』その物って感じですね。」

 

「確かにな。」

 

トウヤの言葉に同意しながら、何処からか飛んできたキバットバットⅡ世が彼の肩にとまる。

 

「あー…そう言えば、フェイトさんだったか? 君の従者には自己紹介が遅れたな。」

 

無粋と思いながらも互いの無事を喜んでいる主従の会話を一度切り止めさせて自分へと注意を向けさせる。

 

「オレはこの城の主で、この世界に住まう闇の一族の代表…ファンガイア族の王と言う事になっている、『紅 トウマ』、本名『トウヤ・F・クリムゾン』、そちらの主君フェイトさんには先に挨拶をさせて頂いたが、どうぞよろしく。」

 

椅子から立ち上がり名を名乗ると一礼すると、

 

「こっちはオレの相棒パートナーのキバットバットⅡ世。」

 

「ああ、光栄に思え、よろしく頼む。」

 

「そっちは魔族の一族の一つであるウルフェン族の代表である『次狼』さんだ。」

 

「ああ、よろしくな。」

 

トウヤの紹介に答えるように思い思いの返事を返し、一礼するキバットバットⅡ世とガルル。

 

「あっ、私は『フェイト・テスタロッサ』と言います、この子は私の使い魔の『アルフ』です。助けていただいてどうも、ありがとうございました。」

 

慌てて頭を下げるフェイトとアルフに対してトウヤは、

 

「いや、今回の事はオレの一族の連中の暴走だ。寧ろ、こっちから謝罪したいくらいだ。それで、こちらからの依頼についての返事はもらえる?」

 

「あ、うん。」

 

「依頼? なんの事だい?」

 

先ほどまでの話を知らなかったアルフが疑問の声を上げる。

 

「簡単な話だ。君の主には今後もあのジュエルシードを回収して貰いたい、その為の協力と報酬は約束する。と言う話だ。…信用できないって顔だな。」

 

「そ、そんな言葉信用できる訳無いだろう、助けてくれた事には感謝するけど、「自分達にメリットが有り過ぎるか?」……。」

 

アルフの言葉を遮ってトウヤが言葉を続けると、それは正しかったのだろう、彼女は黙りこむ。

 

「確かにアルフの言うとおりです。私やアルフを助けてくれた事や、ジュエルシードをくれた事には感謝します。けど…。」

 

続けて告げられたフェイトの言葉にトウヤは『確かに』と頷く。

 

「こちらにとってのメリット、あの石の存在はオレ達闇の一族にとって害悪でしかないからだ。」

 

「害悪?」

 

「君が戦っていた過激派のファンガイア族の姿、あれはオレ達の一族では不遇な死を遂げた一族の者が変化する『サバト』と呼ばれている存在だ。その戦闘力は強大だが、過去に数えるほどしかサバトは発生していない。だが、その石に影響された者は意思を失ってサバトとなって暴走する事件が、君が戦った物を含めて既に二件発生している。」

 

そこまで言いきった後、トウマは紅茶が注がれているカップに口をつけて喉を潤す。

 

「幸いにも二件とも人気の無い場所で起こってるが、街中で発生した場合の被害は……想像したくない。」

 

「っ!?」

 

フェイトもその場合を想像してしまったのだろう。サバトが街中で発生した場合の被害は大き過ぎる。

 

「一族の者の為にも、この街に住む人々の為にもあの石は早めに回収して、隔離してしまいたい。この街と一族の者の安全、それがオレ達にとってのメリットであり、それを行ってくれている君達には感謝こそしても、害意を持ってはいない。」

 

そう言って微笑みを浮かべると改めて頭を下げる。

 

「改めてテスタロッサさん、君の行動には感謝する。ありがとう。」

 

トウヤの言葉にフェイトがキョトンとしていると、トウヤは改めて椅子に座る。

 

「確かに貴方の言う事は分かりました。その…協力してください。」

 

「ありがとう。」

 

「それで、協力ってそっちは何をしてくれるんだい?」

 

アルフの言葉にトウヤは指を三本立てる。

 

「協力の内容は、戦力の提供とジュエルシードの探索の協力、そちらが望めば、衣・食・住の提供も行う。以上の三つだけど。」

 

トウヤの言葉に合わせてビショップが海鳴市周辺の地図を持ってくる。地図には幾つかの円と点が書かれ、番号が書かれた点が貼られていた。

 

「オレも一族の者に言ってジュエルシードの探索を行わせて居た。これはその結果だ。円は一族の者に探させた範囲で、書かれている点はジュエルシードが起こしたらしき事故、そして、番号の書かれた点はオレが回収したジュエシードと番号だ。」

 

そう言ってフェイト達へと視線を向けると、

 

「オレの事が信用できたならで良いから、君達の回収したジュエルシードの数と場所、操作した範囲を教えてもらえれば、ありがたい。それと。」

 

そう言って住所と電話番号が書かれた紙を手渡す。

 

「これが、オレが普段、自宅として住んでいるマンションの場所と電話番号だ。」

 

「うん。あの…私達が見つけたジュエルシードは協力して貰った者が二つ目です…。」

 

フェイトが頷いてそれを受け取って、告げられる言葉。それと共にしょぼんとした様子でフェイト達は落ち込む。寧ろ、彼女の持っているジュエルシードの大部分はトウヤが渡してくれた物なのだから。

 

「(捨てられた子犬みたいだな。)まあ、気にしなくても良いよ。探索の方法を知っているなら、その方法で探してくれればそれで良い。そっちの魔法での探索を含めて行えば、早く見つかるだろう。それと、回収の時はサバトが出た時はオレに連絡をする事を約束してくれれば何も問題ないさ。」

 

「は、はい、約束します。」

 

頷くフェイトを眺めながら、『可愛いな~』等と思ったのは、トウヤだけの秘密だ。そして、彼女の言葉を聞くとビショップへと視線を向ける。

 

「さて、もう遅い事だし、良ければ夕飯でも食べて泊まって行ってくれ。」

 

「あ、あの、泊まって行くって、ここにですか?」

 

「ここが嫌なら、オレが城に泊まるから、キャッスルドランの中に門ゲートを繋いで有るから、オレのマンションの方に泊まれば良いとは思うけど。どっちが良い?」

 

そんな形でフェイトとの契約は終わった。付け加えておくと、フェイトから教えられてトウヤは初めて『念話』と言う連絡手段の事を知ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…

 

「…折角誘われたのに…。」orz

 

「あー…まあ、早めに問題を全て片付ければ、心置きなく誘いに応じる事ができる。」

 

本日はなのはから月村すずかの家でのお茶会に誘われたのだが、トウヤがジュエルシード探索を優先した為に涙を呑んで断るしかなくて落ち込んでいるトウヤと、彼を励ましてくれるキバットバットⅡ世。

 

「ふ…ふっふっふっ…そうだな…。」

 

「だが、もう一人の探索者の事も気になるな。」

 

「ああ。テスタロッサさんが信用できる相手と判断したから、そっちに接触する前に協力はつけたが、一度接触した方が良いだろう。」

 

流石に敵と間違われて行き成り吹き飛ばされたくないので、接触の際の方法は考えるがフェイトに協力して回収する事に決めた。

 

「それに、オレは彼女があの危険物を集める理由は知らない。まあ、それは向こうの信頼を勝ち取ってから聞けばいいだろう。」

 

「そうだな。あまり直に聞いても信用されていなければ答えてもくれないだろう。……だが、トウヤ、お前、相手が可愛いと言う理由だけで信用している訳じゃないだろうな。」

 

呆れたような視線を向けてくるキバットバットⅡ世に対してトウマは、

 

「まあ、それも有るが、「有るのか!?」話した結果「無視か!?」、彼女は信用できる人間だと判断しただけだ。」

 

「やれやれ…どんな理由が有るにしても、オレはお前の判断に従う。それだけだ。」

 

「サンキュウ、相棒。」

 

キバットバットⅡ世と話しながら歩いていると、視界の中に止まっている車椅子が映った。

 

「う~~~。」

 

そこで立ち止まるとトウヤと同じくらいの年齢の茶色の髪の女の子が困った様子で唸っていた。

 

「…………。」

 

視線を向けてみると車椅子の車輪が溝に嵌っていて、それを外そうと頑張っている様子だった。それに気が付くとトウヤは彼女に近づき、

 

「わ。」

 

「これで大丈夫だろ?」

 

後から持ち上げて車輪を溝から外してあげる。トウヤが彼女に近づいた時、キバットバットⅡ世はポケットの中に隠れた。

 

「あっ、おうきに。えっと…。」

 

「オレは紅トウヤ、トウヤでいい。」

 

「うん、トウヤくんやね。うちは『八神 はやて』ゆいます。」

 

「ああ。それで、八神さんは何処に? 良ければ送っていくけど。」

 

「はやてでええよ。それに一人で大丈夫や。」

 

トウヤの言葉を断るはやてに苦笑を浮かべながら、

 

「さっきみたいに車輪を挟ませたら、困るだろ?」

 

「何時もはそんなヘマせーへん! さっきのは偶々や!」

 

そう言って頬を膨らませるはやてに対してトウヤは苦笑を浮かべ、

 

「それなら良いけどさ、はやてさん。」

 

「呼び捨てでええのに。」

 

「オレの友人が言っていた名前で呼んだら、もう友達だってさ。だから、友達の好意は素直に受ける物だろ?」

 

「友達…。」

 

「そう言う事だ。付け加えると拒否は無しだ。」

 

「う、うん、そう言う事なら、よろしゅうお願いしてもええ?」

 

「ああ。」

 

そう言ってはやての車椅子を押していくトウヤ。

過激派に命を狙われるキングの立場のトウヤとしては、危険に晒さない為にも、自分の一族の問題に巻き込まない為にも、あまり友達とは言わないのだが、今回は仕方ないとばかりにそんな言葉を出した。

 

付け加えると、なのはと友達になったのは、彼女に押し切られた結果である。(本人としては危険に巻き込むという理由以外は拒否する理由など無かったのだし。)

結果的にファンガイア族の過激派からなのはも狙われる危険が着いて回る事になってしまったのだが、今の所、そんな自体には陥っていない。それはトウヤが普段から容赦の無い冷酷な王として過激派に知れ渡っている結果であり、人質など意味は無いと思われている為に人質は取るだけ無駄と思われている結果である事は本人は知らない事だ。

 

話しながら彼女の家に行くと、彼女の両親が既に亡くなっている事を聞き、片親だけとは言え自分も親を失っていて、残った父親も海外に居て今は一人である事を話したり、キバットバットⅡ世が見られた時は、人形と言って誤魔化した。

 

その結果、時々遊びに来たり、泊まっていく事を約束したのだった。

 

「それじゃあ、またな、トウヤくん。」

 

「ああ、またね、はやてさん。」

 

そう言って分かれると、今まで隠れていたキバットバットⅡ世がポケットの中から飛び出していく。

 

「やれやれ、良かったのか、あんな約束をしてしまって?」

 

「そうだな。一人暮らしでオレの関係者…過激派の連中に狙われる危険が有る。ビショップに言って遠くから護衛を付けさせるか?」

 

「…まあ、それも有るが、かなり意味は違うんじゃないのか?」

 

「…ふふ…そうか? 二度の人生で出来た二人目の友達…しかも、可愛い女の子…。今日のオレは誰にでも優しくなれそうだ。」

 

「……そうか……。それはそれで別の意味で哀れな連中が出る気がするんだが…もう、何も言わん。」

 

…そう、こうなっている状況の彼の罪人のファンガイア族に対して死刑を言い渡した後は『一撃で即死させる』と言う嫌な慈悲…と言うか嫌な優しさを下すのが今の彼の『罪人』へと優しさなのだ。

最悪と言っていい優しさだろう…罪人には。

 

「…だが、運が良かったな…。気付いているだろう、トウヤ?」

 

「ああ。さっさと出て来い。」

 

自分達以外に人間の気配が無い隔離された世界、別の場所へと視線を向け敵に向けている本気の殺気を叩きつけられながら、そう宣言すると、仮面をつけた青年と思われるものが現れる。

 

「(…ファンガイア族とは違う…。)何者だ?」

 

「警告する、八神はやてに近づくな。」

 

「どう言う意味だ?」

 

「貴様には関係無い事だ。嫌だというのなら、死んでもらう。」

 

「(…はやてさんに? オレが狙いじゃないのか?)どう言う理由かは知らないし、お前が何者なのかも知らない…。だが、告げてやろう…Ⅱ世。」

 

「ああ! カブリ。」

 

「変身!!!」

 

トウヤの腕に広がるステンドグラス状の模様、そして、腰に出現するベルトのバックル部分にキバットバットⅡ世が座し、闇の魔王・仮面ライダーダークキバへと変身する。

 

「な!? なんだ、その姿は!?」

 

トウヤの変身と全身から放たれる圧倒的な魔力、魔皇力に驚愕する仮面の男の言葉を無視し、ゆっくりと仮面の男を指差す。仮面の男の言葉から、感じ取ったのだろう。

 

「お前達に王の判決を告げてやる。」

 

「光栄に思え。」

 

トウヤの中にある“最も重い罪”、『友人を傷付けた』、『友人を侮辱した』と言う罪を犯した罪人“達”へと、魔王の断罪の始まりを宣言する。

 

「「絶滅タイムだ!!!」」

 

重なり合い響くはトウヤとキバットバットⅡ世の宣言。それは、

 

罪人達への絶対的なる王の判決、魔王の断罪の始まり、そして、傲慢なる法へと告げられる闇の魔王からの宣戦の布告の瞬間だった。

 

 



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第五話『さあ、絶滅タイムだ!!! by.トウヤ&キバットバットⅡ世』

闇のキバの鎧、仮面ライダーダークキバ。それは、ファンガイア族が所持する最強の鎧にしてファンガイアの王キングの証たる鎧。それに対抗できるのは、同等の力を持ったもう一つのキバの鎧…『黄金のキバの鎧』だけだろう。

 

今は王キングの地位と共に心優しき魔皇の手の中に有るそれは味方する者達には心強さを与え、敵対する者には『恐怖』の感情を与える。そして、その怒りをぶつけられた者は…『死』さえも覚悟する事だろう。…敵対する過激派のファンガイア族などがいい例だ。

 

 

ゆっくりと近づくダークキバに対して仮面の男はその分だけ下がる。本能が警鐘を鳴らしているのだろう…『奴には勝てない、今すぐ逃げろ』 と。だが、

 

 

「そ、その力…やはりお前は危険だ。我々の計画にイレギュラーは要らない!!!」

 

 

本能に逆らう様に叫びながら殴りかかる仮面の男の拳を避ける。仮面の男の体術のレベルは元々は高い域にあるのだろうが、ダークキバの放つ圧力に圧されている今の攻撃はダークキバにとって避け易い。

 

 

「っ!?」

 

 

合わせて相手の攻撃を避けた瞬間、纏ったマントで仮面の男の視界を塞ぎ、脇腹に回し蹴りを打ち込む。

 

 

「ガァッ!!!」

 

 

それによって仮面の男は地面を跳ねながら、近くのビルの壁まで弾き飛ばされる。ダークキバはその場で一回転する様にマントを翻しながら、体制を立て直し、仮面の男へと片手を向ける。

 

 

「立て。」

 

 

命令する様にダークキバがそう呟いた瞬間、仮面の男が倒れる地面に赤いキバの紋が浮かび上がり、拘束した仮面の男を無理矢理立ち上がらせる。

 

 

「お前の言う計画が何か等興味は無い。」

 

 

拘束を解こうともがき続ける仮面の男がダークキバへと向かってキバの紋から弾かれる。その瞬間、ダークキバの放ったストレートパンチが仮面の男に叩き込まれる。

 

 

「ガァッ!」

 

 

「…貴様にはオレが此処で貴様の罪に相応しい『滅び』を与えてやろう。」

 

 

罪人である一族の者ファンガイアを裁く時にさえ、トウヤの中では怒り以上に『悲しみ』の感情が強い為に今まで向けられた者の居ない、純然たる怒りの感情。それによって仮面の男を襲うのは『闇の魔皇』の名に相応しい圧力。

 

 

「こ、この、化け物め…。」

 

 

「それがどうかしたのか?」

 

 

憎々しげに睨み付けて言い放たれた言葉を鼻で笑い飛ばしながら、ダークキバは倒れている仮面の男を見下ろしながら、

 

 

「立たないのか? その程度は待ってやるぞ、それとも…もう一度立たせて貰いたいのか? それと…。」

 

 

地面に倒れ付す仮面の男を一瞥しながら、ダークキバは無造作に右腕を振る。

 

 

「ガァッ!!!」

 

 

振るわれた右手が裏拳の形となり、裏拳が突き刺さり弾かれたのは後ろから不意打ちを仕掛けようとしていたダークキバの前に立つ相手と同じ姿の『もう一人の仮面の男』。

 

 

「言わなかったか? オレは『貴様等』と言ったんだ。」

 

 

二人の男は仮面こそつけているが双子と言われても納得するほど良く似ていた。そして、ダークキバは絶対的な余裕でも見せ付ける様に、そんな地面に倒れる仮面の男達を見下ろしながら、倒れる相手に追撃を加える様子も無く王者の如く君臨する。

 

 

そして、ダークキバは倒れる仮面の男達を一瞥しながら、ウェイクアップフエッスルを取り出し、それを使おうとした瞬間、思い留まる。

 

 

(…待てよ…。こいつ等は確か『計画』とか言ってたよな…。だとしたら、計画に参加しているのが、二人だけとは考え難い。)

 

 

「Ⅱ世、この結界の破壊は…出来そうか?」

 

 

「ふっ、それなら十分に可能だ。ウェイクアップ2なら十分に破壊できるだろう。だが、それが如何したんだ?」

 

 

「…倒すのは後回しだ…。コイツ等の言っていた計画と言っていた言葉が気になる。…計画と言う以上協力者が居ないとは考え難い。他に協力者が居ないか、捕縛して吐かせる必要が有るだろう。」

 

 

「なるほど。確かに彼女を何かの計画に利用しようとしている以上、情報も聞かずにトドメを刺すのは拙いな。」

 

 

ダークキバの言葉にキバットバットⅡ世もダークキバの言葉に同意の意思を示す。ウェイクアップフエッスルを戻し、先ずは正体を確かめ様と倒れている仮面の男達の内の一人に近づいていく。

 

 

「き、貴様…。」

 

 

表情こそ仮面に阻まれて知る事は出来ないが、その声からだけでも表情は憎しみに歪んでいるであろう事は理解できる。

 

 

仮面の男の真下にキバの紋が現れ、拘束、強制的に立ち上がらせるとダークキバはゆっくりと仮面へと手を添える。

 

 

「な! 止めろ!!!」

 

 

正体を知られる事への危機感からか声を荒げる仮面の男だが、それを気にするダークキバではない。

 

 

ダークキバが仮面の男の着けている仮面に手を掛けた瞬間、二人目の仮面の男とは違う位置から砲撃魔法が向かって来る。

 

 

「っ!? 三人目だと!」

 

 

地面を蹴って距離を取る事でそれを回避するが、地面を打ち抜いた砲撃は爆煙となって仮面の男の存在を隠す。…瞬間、

 

 

「…女…?」

 

 

一瞬だけだったが、ダークキバの目撃したのは、キバの紋に拘束されていた、先ほどの仮面の男ではなく女にしか見えない別の人間。

 

 

次に見えたのは一瞬の発光と魔法陣らしき物、そして、爆煙が晴れた時、そこには戦闘の痕こそ残していたが、肝心の二人の仮面の男(?)達の姿は無かった。

 

 

「逃げられたか…。」

 

 

周囲に気配は無いが、三人目の相手の出現を考えると油断は出来ない。だが、それが無用の心配だと結界が消えて元の空間に戻ろうとしている事が証明していた。恐らくは術者が逃げた事で結界が維持出来なくなったのだろう。

 

 

それを確認し、キバットバットⅡ世がベルトから離れるとダークキバへの変身が解除される。

 

 

「やれやれ、厄介な事になったな。」

 

 

「…確かにな。ジュエルシードやレジェンドルガ達の封印の事だけでも頭が痛いって言うのに…。」

 

 

キバットバットⅡ世の言葉にトウヤは同意する。どんどんとトウヤの求めている『平和な日々』から遠ざかって行っている様子に思わず溜息を吐きたくなる。

 

 

付け加えて補足すると、既に活動している事を考えてジュエルシードの探索に参加していない者達にはレジェンドルガ達を封印した時代の文献を漁って貰いレジェンドルガへの対策を練っているが、それも成果は上がっていない。

唯一の救いは未だに復活しているはずのレジェンドルガ達の動きが無い事だろう。もっとも、……それが不気味と言えば不気味だが。

そして、過去の情報から分かった事は、『魔族達の中から選ばれた決死隊と言うべき精鋭部隊と当代のキングが命を賭して封印した』、『レジェンドルガには『アーク』と呼ばれる王ロードが存在している』と言う程度の事であり、ロードであるアークを倒す為に使ったのはダークキバの第三の禁断の技である事程度だ。

 

 

現在進行形の問題ジュエルシードと未だに動きを見せない問題レジェンドルガとトウヤの苦労する問題が次々と増えている現状には、心から勘弁して欲しいと願うトウヤだった。…どう考えても、小学生のする苦労ではないだろう…。

 

 

「しかし、彼女…『八神 はやて』と言ったか。今になって考えてみれば彼女の身の回りには不自然さが有った。……保護者としては論外な所が多い父親が“一応”居て、ビショップ達が保護者として居るお前と違い、彼女の周りには保護者になるべき大人が誰も居なかった。」

 

 

「確かに。言われてから気付いたオレもオレだけど、オレ位の子供が一人暮らししているのは不自然だな。」

 

 

微妙に実父の評価が悪いのは当のトウヤも納得しているので同意しつつ、ビショップ達、保護者代行が居る自分とは違う彼女の周りに保護者となるべき大人が誰も居らず一人暮らししているのは確かに気になる。

 

 

「…暫く手の空いている部下にはやてに警護を付けさせるか…。オレの友人言う時点で過激派に狙われる危険も、オレを襲った仮面の奴等も彼女の近くに現れる可能性も有るしな。」

 

 

「…だが、今回の事件が片付くまではそれも無理だろう。」

 

 

キバットバットⅡ世の言葉にトウヤは無言で頷く。現状で最優先すべきは直接的に被害が出る危険の有るジュエルシードの方だろう。何より、事件が片付けば今は総出でジュエルシードを探させている一族の者達の手も空くだろう。

 

 

そんな事を思いながら、トウヤは完全に空間が戻った事を確認し、その場を後にしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな事が有ってから数日後…仮面の男達の事や、動きが見えなくなった過激派の一族ファンガイア達の動きを気にしながら、フェイト達主従とキャッスルドランの中で彼女達と情報交換しているトウヤ。その後には二人の前に紅茶を出したチェックメイトフォーの一人であるビショップが待機している。

 

 

…どうでも良いが最近はトウヤの自宅をすっかり自分の家の様に利用しているフェイトさん達だした…。…トウヤに文句はないし、チェックメイトフォー以下のトウヤの部下達にも文句はない。

 

 

「…白い魔導士とその使い魔らしいフェレットか…。」

 

 

「うん。」

 

妙に知り合いの姿と符合してしまう“もう一人の探索者”、“白い魔導士”のフェイトから告げられた特徴。そして、それと同時にジュエルシードの探索に当っている探索者、白い魔導士の事を伝え、探索時に注意する事を通達する等の手段を考える。

 

 

それから思い浮かぶ…最大の問題と言えば、その白い魔導士の正体が己の考える相手…『高町 なのは』だった場合。それを考えると、彼女の安全を考える必要も有るだろう。

………主にジュエルシードを探す上での最大限の危険…ダークキバを倒す為に力ジュエルシードを狙う過激派からの………。

 

 

戦闘力なら、過激派のファンガイア族は結局の所、ダークキバであるトウヤは愚か、チェックメイトフォーや次狼ガルル達より遥かに劣るレベルの者達が殆どである。

だが、ジュエルシードを探索しているフェイトや白い魔導士と比べれば…相手によっては間違いなく命の危険が有るレベルの者も存在しているのが現実だ。

なにより、フェイトは優しすぎる。…トウヤと違い、敵を躊躇無く殺す事が出来ない。他の場合ならばそれは良いのだが、相手は人間を殺す事に対して一切の躊躇が無いファンガイア族の過激派。殺す気で戦わなければ殺されるのは彼女の方だ。

 

 

(…高町さんだった場合は…連中にしてみれば…ある意味格好の獲物だろうな…。)

 

 

ダークキバと言う(連中の立場にしてみれば)恐ろしい護衛が無い白い魔導士は過激派からしてみれば、ダークキバに対抗する為に使える力ジュエルシードを持っている正に格好の獲物だ。

 

 

「それで、ジュエルシードが見つかった場所がここだったんだけど…。」

 

 

「な、なにぃ!?」

 

 

手に入れたジュエルシードの位置を確認する為に地図を指差された事でトドメとばかりに、思いっきり驚きを露にしてしまうトウヤだった。…思いっきりクラスメイトの家の近くだ…。

 

 

「如何した、トウヤ!? な、なるほど…ここは…?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「…ここはオレのクラスメイトの家の近くだ…。」

 

 

「ええ!」

 

 

大慌てでフェイトから被害状況を確認すると、現場の近くに有った『月村 すずか』の家に特に被害が出ていない事に安堵する。

…もっとも、ジュエルシードが触媒としたのが、月村家の飼い猫の中の一匹の子猫だったので、被害など出ていないのだが…。

 

 

(…それにしても…。)

 

 

トウヤの一族の者達の協力による人海戦術とフェイトの魔力を用いての探索が終わり、黒く塗られた部分が多く有る海鳴市の地図へと視線を落とす。

 

 

(…まだまだ未回収の物が残っている様子だな…。陸地の探索がある程度片付いたら、可能性として教えておくか…。)

 

 

何気に既に陸地に落ちた分の…“本来の歴史”で、なのはが時空管理局と協力した後に手に入れた物の大部分も入手している。

 

 

落下したと考えれば、落ちた場所として間違いなく海も含まれている。フェイト達に結界を張って貰った上でキャッスルドランを持ち出した上でのトウヤに使える戦力の総力を上げての大掛かりな封印作業になる事は間違いないだろう。

 

 

それを考えた上で、目撃情報から当っている可能性の高いジュエルシードの落下予想地点の一つへと視線を落とすと、

 

 

(…近場は温泉か…。探索と休憩も兼ねて行って貰うとするか…。)

 

 

そうでなければ無理矢理にでもフェイトを休ませようと、休んでいる様子の無い彼女に対して妙に危険な方向に考えが向かってしまっている。

 

 

「見つかる数も少なくなってきているな。」

 

 

「ご…ごめんなさい…。」

 

 

「い、いや! オレ達が集めた分や、もう一人の回収者の存在を考えると仕方ない話だから、気にするな。」

 

 

ふと自然に口から出た言葉に子犬のように落ち込むフェイトに慌ててフォローを入れる。元々広い範囲に散った石が21個…寧ろ、今までの方がペースが良すぎると言った方が良いだろう。

 

 

だが、回収するべき数が少なくなって来ているのはトウヤにしてみれば良い事だ。ファンガイア族へのサバト化の被害や、暴走による被害を考えずに済み、問題も好転するのだから。

 

 

「…まあ、向こうの持っている数が分かれば、オレの目的は達成されるし、君に必要な数が足りていないのなら、最悪は向こうから譲って貰えばいい…アフターフォローだ、それにはオレも協力する。」

 

 

彼女から聞いた白い魔導士との実力差を考えれば必要ないだろうが、トウヤが協力した方が安全かつ確実に手に入れることが出来る。…過激派の存在を考えると下手に持たせておく方が本人にも此方にも危険なのだろうし。

 

 

「…それにしても…『時空管理局』か…。」

 

 

フェイトから聞いた彼女達の世界にある組織の名を誰にも聞こえない様に呟く。…動きが無いレジェンドルガの存在を考えると、彼女達の様にこの世界に来た他の世界の人間が持ち出した可能性も浮んでくる。相手が一種の軍隊の役割も持った警察組織に近い物と言うなら、事情を話して警戒の一つでも促すべきかとも考える。

 

 

冷たい言い方だが、この世界に影響が無い限り、この世界の外でレジェンドルガがどう動こうが知ったことではない。気にするのもジュエルシードの回収の協力者であるフェイト達の安全だ。

キングとして、仮面ライダーダークキバとして、守るべき世界はどれだけ範囲を広げた所で『地球』までだ。ダークキバの力が以下に強大だとしても、守れる範囲は、手が届く範囲は限られる。そして、キングとして守るべき物も分かっている。

他の世界にレジェンドルガを倒す為に出張して、守るべき世界が危機に曝されては意味が無い。

 

 

最悪はレジェンドルガの他の世界での対応は、時空管理局と言う組織に全て任せてしまえば良い。

 

 

レジェンドルガを封印した宝玉を盗んだ者には直々に死と言う名の裁きを与えたい所だが、魔族では無い者へのそんな裁きを与えるのには気が引ける。何より、既に封印が解けたレジェンドルガの最初の餌食になっているのだから、良くて命は無く、悪ければレジェンドルガの仲間入りだろう。

 

 

フェイトから与えられた情報から『時空管理局』と言う組織への対応を考え続けているトウヤだったが、その考えが無駄に終わると言う事実に直面するのは………そう長い時間は必要ない事を付け加えておく。

 

 

……今日も年齢に似合わない雪達磨式に増えていく苦労をしているトウヤ君でした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ジュエルシード…願いを叶えるって言うならオレに平和をよこせ…。」

 

 

「…可愛い友人は増えたんじゃないのか…?」

 

 

「それは嬉しいけど…………。…………あー、トラブルの原因にトラブルの解決願ったオレがバカだった!!!」

 

 

「いや、アレだけ距離が有ったら向こうもお前の願いなど聞いて無いだろう…。」

 

 

「あの仮面の連中と言い…オレの癒しを…オレの平和な日々を返せ!!! 潰す…連中の計画等知らないけどな…完膚なきまでに潰してやる!!!」

 

 

「ちょっと待て、それは完璧に八つ当たりだろう!!! …まあ、被害が出るのはどうせ敵なのだろうから、別に問題は無いが…。」

 

 

その日の夜のキバットバットⅡ世との会話より抜粋。やっぱり、シリアスは最後まで続かない魔皇少年のトウヤ君でした。

 

 

そんな魔皇様少年に明確な敵として認識されてしまった為に八つ当たりの対象にされてしまった不幸な人達…先にケンカを売ったのが向こうなので、同情は出来ないだろうが…。

 

 

 

そんなノリで彼等の夜は過ぎ去っていくのでした。

 

 

 

 

 

 

 



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第六話『○×△□!!!!(大慌てで混乱中) by.トウヤ/…気持ちは分かるが少しは落ち着け。あー、今回は小休止なエピソードだ by.キバットバットⅡ世』

さて、トウヤはダークキバの仮面の奥で………現在進行形で心の底から動揺していた。その動揺を感じ取っているのは、キバットバットⅡ世だけだろう。

 

その原因はダークキバとフェイト、アルフの前に居る『高町 なのは』の存在だろう。

………とりあえず、なのはの使い魔らしきフェレット…ユーノに関しては、戦闘力は無いだろうと除外しているので実質…三対一と言う状況でどう対応するか心の底から困っていた。

 

「君が私達とは違う探索者か?」

 

必死に同様を押さえながらなるべくクラスメイトである彼女に気付かれないように冷たい口調で問い掛ける。

 

「…な、何なんだ…あいつは…。」

 

なのは達がダークキバの全身から発せられる魔皇力に圧されている中、ユーノが口を開く。

 

「これは失礼した。オレの名はダークキバ。あれの探索者として今後も会う事も有るだろう、よろしく。」

 

「何故、君たちはジュエルシードを集めるんだ!? あれが危険な物だって分かるはずだ! ジュエルシードを集めて……どうするつもりなんだ!?」

 

「君達に話す義務は無いと思うが?」

 

「トウ…ダークキバの言う通りだよ。それにさぁー、アタシ、親切に言ったよね? 良い子でいないと、ガブッと行くって…。」

 

ダークキバはマントを翻しながら右腕を伸ばすだけで飛びかかろうとするアルフを制し、なのはの肩に乗るユーノへと向き直る。

 

「確かにあれは危険だ。」

 

「だったら!」

 

「だからこそ、オレは彼女に協力して、一刻も早くこの世界から排除する為に行動している。それがオレの目的だ。…これで十分かな…?」

 

「じゃあ、なんで彼女に協力しているんだ!?」

 

「…答える義務も無いが…。単純な話だ。あれを誰がどう使おうと、この世界に影響さえなければ、オレにとっては関係ない話だ。そして…此処からは忠告だが、あの石の危険性は今、君達の想像以上に増している。」

 

「どう言う…。」

 

「それ以上は答える必要は無いな。奪われる心配の少ない強者の手の中に有った方がオレは安心できる。」

 

ユーノの言葉にそう答え、ダークキバは封印が施されたジュエルシードを護る様に前に立つ。

 

そして、ダークキバは横目でなのはとユーノに視線を向けながら、

 

「戦って勝ちとる、話し合いで手に入れる。どちらにしても、オレは手を出さない事を約束しよう。」

 

フェイトから聞いた最初に出会った時のなのはとフェイトの戦力の差、そして、少なくともなのはの人格を知っているから、安心してフェイトと戦って勝ち取るならば過激派からは先ず自分が助けに入るくらいは時間を稼げるだろうし、クラスメイトな分だけ日常での安全の為の警護もし易い。

 

「戦力の提供と言っておいて申し訳ないと思うが、白い少女の相手は任せたい。残念ながら…オレの力では彼女に大怪我をさせずに勝つ自信は無い。」

 

「勝つ事は前提なんだね。まあ、任せときなって!」

 

そう言って自分達よりも年上の女性の姿から、オレンジの体毛を持った狼に変貌するアルフの姿を一瞥し、腕を組んで木に背中を預けながらジュエルシードを護る様に前に立つ。

 

「すまない。力が強すぎるのも困り物なんでな。彼女の相手は任せる。」

 

申し訳無さそうな声で頭を下げてフェイトへとそう告げる。今までの相手は遠慮なく力を振るえる敵ばかりだったが、流石に手加減して戦う事は得意ではない。何より、クラスメイトへと拳を向ける事はトウヤには出来ないのだ。

 

「うん、任せて。」

 

ダークキバの言葉にそう答え、封印されたジュエルシードへと視線を向ける。

 

(…目的か…。確かに彼女の目的は聞いていなかったな…。)「Ⅱ世…彼女達がジュエルシードを集める目的…なんだと思う?」

 

「さあな。だが、この世界にさえ影響が無ければ、どう使おうが関係ないんじゃないのか?」

 

「…そうだな…。一度、彼女に集めさせている人間に会う必要があるな。…あれをどう使うにしても、せめてこの世界に影響が無い範囲で言っておかなければな…。」

 

「その通りだな。まあ、この調子なら、高町なのはと言ったか、お前と親しいクラスメイト…彼女の方が負けるな。」

 

「確かに、実力はフェイト嬢の方が上、戦い方も相性の差って奴で不利だろうな。それにしても…最近、高町さんに疲労の色が見えていたけど、これが原因か…。まったく。」

 

最近のなのはの様子を思い出してみると、思わず頭を抱えずには居られないダークキバだった。

 

「徹底的にオレの平穏を侵食してくれるな…この魔石は。」

 

なのはとフェイトの差とその勝敗を言い切りながら、平穏を侵食してくれている魔石ジュエルシードの存在に溜息を吐くダークキバとキバットバットⅡ世。

 

ダークキバとキバットバットⅡ世の視線の先には空を飛び回りながら戦っているなのはとフェイトの二人の姿があった。

 

「…一撃一撃は高町さんの方に部があるが、残念ながら決定的に経験不足だな。」

 

確かになのはの砲撃は強力だが、フェイトはスピードを活かした高機動型。スピードを活かして遠近で戦うタイプ、言って見ればオールラウンダー、万能型だ。

 

「…万能とは弱さであると同時に強さだ。何より、高町さんはフェイト嬢のスピードに反応できていない。」

 

「確かにお前なら攻撃のタイミングに合わせてカウンターが出来るだろうが…彼女には無理だろうな。ん? 撃ち合いには勝った様子だぞ。」

 

「フェイトも律儀だな。だけど、それまでだ。反応が遅い。」

 

視線の先では砲撃の撃ち合いに勝利したなのはが次への行動が遅れた事で、フェイトに鎌を首筋に寸止めされていた。

 

なのはの杖、レイジングハートからジュエルシードが排出されて、フェイトの手の中に納まる。

 

「…ジュエルシードを賭けていたのか…。」

 

「これで彼女は今回は二つも手に入れる事が出来たと言う訳か。」

 

ダークキバの仮面で隠れていて良く分からないだろうが、遠い目をしながら明後日の方向へと視線を向ける。

 

「なあ、Ⅱ世…高町さん達が泊まっている旅館って…。」

 

「この辺だと…一箇所しか無いだろうな。オレ達が止まっている旅館だ。」

 

「あー…お前が彼女を休ませる為に予約させた旅館もそこだったな…。」

 

「…高町さん達と会わなかったオレも…運が良かったんだな…。」

 

「ああ、確かに。」

 

ダークキバの言葉に頷くキバットバットⅡ世。降りて来たフェイトに対して『おめでとう』と言ってジュエルシードを渡すと、周囲に視線を向けて、此方の様子を伺っている気配を感じる。

 

「すまないが、先に戻っていてくれ。」

 

「え? あなたは…。」

 

「なに、ちょっとした夜の散歩を楽しみながら帰る事にするよ。」

 

フェイトの言葉に微笑を浮かべながらそう答える。だが、声の質は真剣その物だった。

 

「あいつらかい?」

 

「………ああ………。まったく、オレが至らなくて申し訳ない限りだ。」

 

周囲から此方の様子を伺っている過激派のファンガイア族達の気配に気が付いたのだろう。アルフが警戒心を全開にしてそう問い掛ける。

 

「それでは、少し掃除してから帰る事にするから、先に戻っていてくれ。」

 

「うん、あなたも気を付けて。」

 

そう言って飛び去っていくフェイト達を見送りながら、ダークキバの仮面の奥でトウヤは森の奥の闇へと視線を向ける。

 

「待って!」

 

森の奥に入って行こうとするダークキバをなのはが呼び止める。

 

「あの子がなんでジュエルシードを集めるか知っているなら聞かせて欲しい。」

 

「残念ながら、オレ達にそれを告げる資格は無い。」

 

ダークキバのベルトからキバットバットⅡ世が外れ、ダークキバの肩に留まりながらそう告げる。

 

「それを言って良いのは彼女だけだ。知っていたとしても、オレ達がそれを告げることは出来ない。」

 

「あの蝙蝠、彼の使い魔なのか?」

 

「失礼なイタチだな。オレは使い魔等ではない。」

 

ユーノの言葉に反応しそう答えるキバットバットⅡ世。

 

「…喋りすぎだぞ…。だが…Ⅱ世の言う通りだ…。この世界からのジュエルシードの排除と言う目的に反しない限りは誰の手に有っても、オレには関係の無い話だ。」

 

「だったら、私達にも力を貸して欲しい! 私がジュエルシードを集めるのはそれがユーノ君の探し物だから……ジュエルシードを見つけたのがユーノ君で、ユーノ君がそれを元どうりに集め直さないといけないから…。」

 

「…立派な事だな…。だが、そのユーノと言う奴に言っておけ…。法を無視する力を持った者…極端な話だが、あれほど危険な品だ…その力を狙って不正な方法で奪おうとする者も居る。」

 

そう言ってなのは達に向けていた視線を前方へと向けなおす。

 

「相手を討つだけの力が無かったとしても、守る事、持って逃げる事程度の行動は出来ただろう。『何もしなかった』、『何も出来なかった』は結果は変わらないし、同じだ。」

 

ゆっくりと右腕を横へと伸ばし手を開いていく。

 

「この世に無力な物等存在しない。己自身が出来る事、するべき行動を選び、己にとっての最善を選び、自分自身にできる事を後悔無く行動しろ。ってな。」

 

そこまで言った後、思わず苦笑を浮かべてしまう。トウヤ自身、自分自身の過去の行動を後悔しない日は無いのだから。

 

「…まあ、最善と思っていても、他に選択肢が有れば後悔するかもしれないがな…。後悔したのなら、それを次に繋げば良い。…少なくとも…オレはユーノと言う奴にはあの石は任せて置けない。」

 

そう言ってダークキバはなのは達を残して森の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あっ。」」

 

宿の前、過激派のファンガイア族を倒したトウヤと暗い表情のなのはと会った二人がばったりと出会ってしまった。

 

「ふえ? トウヤ君も来てたの?」

 

「え、えーと…。ああ、オレはバカ親の友人に連れて来て貰ってな。」

 

「う~、トウヤくん、お父さんの事をそんな風に言うのは良くないの!」

 

「確かに。バカな所は多いけど、父さんには尊敬できる部分は多いからな。」

 

なのはの抗議の言葉に苦笑を浮かべながらそう答える。

 

本人に対しては絶対に口が裂けても言えない事だが、トウヤは心から今と以前の父の事を尊敬している。まあ、それと同時に前世の父も、今世の父もダメな所の多い親だと思って居のだが。

 

「高町さんも夜の散歩? 女の子が危ないよ。」

 

「えっと、こ、これはね。」

 

どうやって誤魔化そうかと必死になっているなのはを微笑ましく思いながら、宿を指差す。

 

「外は寒いから、風邪引くから部屋に戻る前に温泉に入って温まっていった方がいい。露天風呂ならまだ開いているだろうしね。脱衣所の前で少し待っていてくれればオレの部屋からタオルを取ってくるけど…。」

 

「う、うん。」

 

「両親に聞かれたら、眠れないから露天風呂に入っていったとでも言えばいい。その帰りに偶然にクラスメイトのオレに会って話していたら、遅くなった。言い訳になるだろ?」

 

そう言って黙って歩き出す。

トウヤには彼女に何も聞く気はなかった。

 

 

 

だが、彼女達には後悔するなと言ったが、トウヤは常に後悔し続けているのだ。己の選択の結果を…。

自分の選んだ選択が最善であったとしても、弟ワタルに自分を殺させずに済む道は有ったのではなかったのかと。

そして…。

 

 

 

 

(…奴等の相手で少し汗かいたな…。オレも汗を流すか…。)

 

心の中で溜息を吐き、そう思いながら、トウヤも部屋に戻っていく。

 

 

 

だが、一つだけ大事な事を忘れているだろう…。

 

 

 

主に、この時間帯の露天風呂は『混浴』であると言う事を。

 

 

 

 

 

 



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第七話『平和が欲しい…。by.トウヤ/…珍しくシリアスが多いな…。by.キバットバットⅡ世』

さて、『王キング』と言う立場はトウヤ本人が『面倒』と言っている部分が有るのも事実だが、同時に彼自身、活用している部分はしっかりと活用しているのも事実だ。

 

今更では有るが今回のジュエルシード探索についても、ファンガイア族を初めとした魔族にとって危険な代物である以上、それを探索する為に一族の総力を上げるのもキングの立場を使えば簡単だった。

…実を言ってしまうと、ジュエルシードの力に過激派が気付いてしまったのには、それが原因とも言えるのだが。そのリスクを支払ってでも、早急にジュエルシードを回収する必要があると考えた結果だ。

…何事にも『リスク』と『リターン』が存在しているものと言えるだろう。

 

フェイトやユーノの世界の魔法に精通していない為にそちらの方面での探索は無理だろうが、ファンガイア族のキングの立場を利用した一族を動員しての大勢の人数による物理的探索…それは、当然の事ながら個人への負担は少なくなっていた。

 

…負担が軽い事が利点ならば…今のトウヤにはその利点はリスクとなっていたと言えるだろう…。なぜなら、

 

「いい加減にしなさいよ!」

 

彼女、『アリサ・バニングス』の怒声と机を叩く音が教室の中に響き渡る。

『いっその事、暫く休むべきだっただろうか?』と考えながら声に驚いて目を向けてしまった先の光景を見ながら、引きつった表情を浮かべてしまうトウヤだった。

 

「こないだっから、何話しても上の空でボーっとして!」

 

「あ…ごめんね、アリサちゃん…。」

 

なのはの声は明らかに沈んでいる。先日のフェイトへの敗北からなのはは落ち込んでいるのだろう。

トウヤから見たら二人の経験の差が圧倒的な実力の差として現れているのだろうと言う事は直に理解できる。

彼自身知らない事で予想でしか無い事だが、なのはが魔法に関わったのはつい最近…それもジュエルシードが振ってきた時であろう事は推測できる。だが、落ち込んでいる原因はそれだけでは無いだろう。

 

(…オレが言った事も原因なんだろうな…。)

 

そう思うとトウヤ自身責任を感じずには居られない。

結果的になのはを落ち込ませている原因も、目の前の光景の原因も自分が関係している可能性が有る。そう考えてしまうと、責任を感じずには居られない。

 

「ごめんじゃない! 私達と話してるのがそんなに退屈なら、一人で幾らでもボーっとしてなさいよ!!! 行くよ、すずか!」

 

なのはに向かってそう言った後、すずかの方を向いて早口にそう言うと、一人で歩いていってしまった。

 

…その光景を見ながら思わず視線を逸らして、

 

「アリサちゃん…。なのはちゃん…。」

 

「大丈夫だよ、すずかちゃん。今のは、なのはが悪かったから…。」

 

辛そうに落ち込んだ声ですずかにそう言うなのはに対して、

 

(…スミマセン、ゴメンナサイ、スミマセン、ゴメンナサイ、スミマセン、ゴメンナサイ、スミマセン、ゴメンナサイ、スミマセン、ゴメンナサイ、スミマセン、ゴメンナサイ、スミマセン、ゴメンナサイ、スミマセン、ゴメンナサイ…。)

 

心の中で謝罪の言葉を連呼するトウヤだった。

 

「…ごめんね。…怒らせちゃったな。ごめんね、アリサちゃん。」

 

(…心からゴメンナサイ…高町さん…。)

 

俯いて一人呟くなのはを見ていると本気で居た堪れなくなるトウヤだった。

なのはへの申し訳無さ等々の感情で机に突っ伏している闇の魔皇のその姿は、前世の弟が見たら何と思う事だろうか…?

 

心の中で深く溜息を吐きながら、意を決して立ち上がると、

 

「あー…高町さん。何か悩んでるよね?」

 

なのはへと近づきそう話しかける。

 

「にゃ!? ど、どうしてわかるの!?」

 

「いや、そりゃ…この間、温泉の前であった時からそんな様子だからね。」

 

トウヤの言葉に俯いてしまうなのはに心の中で土下座して謝りながら、

 

「まあ、相談できない事なら、オレも深くは聞かないけどさ。きっと、バニングスさんは…“高町さんの力になれない自分”に一番頭に来ているんだろうからさ。」

 

「え?」

 

「だから、解決してからでも、相談できるようになってからでも良いから、打ち上げれば…いや、何時もの高町さんに戻っただけでも、仲直りは出来ると思うよ…。」

 

そう、どれだけ親しくても打ち上げられない事がある。前世も今もそれを打ち明けられる相棒が居るトウヤとは違う。自分が関わっている危険に友達を巻き込みたくないであろう事は容易く想像できる。

 

だからこそ、ダークキバの事を隠している自分に言えるのはその言葉のみ。

 

(…希望的な観測でしかないけどな…。)

 

それでも、それほど間違っていないと言う評価だとは思っているが。だから、部外者であるトウヤに出来るのは…ジュエルシードのこの世界からの排除だ。

 

(…ジュエルシードの問題が片付けば…少しはプラスに傾いてくれるだろう…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな決意を浮かべていたトウヤだったが………現在進行形でダークキバの姿で挫けそうになっていた。

 

「…何と言うか…重ね重ね、オレの力不足で申し訳ない…。」

 

「き、気にするな…お前のせいじゃない。」

 

「そ、そうだよ。」

 

「ほ、ほら、悪いのはあの連中なんだし。」

 

ジュエルシードが発動したビル街で落ち込んでいるダークキバとそれを必死に励ましているキバットバットⅡ世、フェイト、アルフと言う構図。

………そして、その原因となっているジュエルシードを取り込んだらしい、サバトの姿。付け加えると、他の一族の者が発見したそれを過激派の連中が奪って行ったらしい。

 

あとは簡単だ。他の過激派のファンガイア族の手で何時もの様にジュエルシードの暴走。

 

自分の事ながら、こうも反逆する者が多いのはどうにかならないかと考えてしまうが、トウヤが最年少でキングの地位に着いた事によって反逆を考えていた者達が表立って動き出した事が原因だろう。

 

簡単な話だ。子供のトウヤがキングの地位に着き、先代キングである父が居ない今、反逆を企んでいた者達にとっては最高の時期タイミングと考えたのだろう。

まあ、結果的に動き出したのは良いが想像していたよりも強大な力を持つトウヤの手によって潰されているのだから、笑ってしまう結果だろう。………相手にしてみれば引きつった笑いだが。

 

「…奴に王の判決を言い渡す…。」

 

「…その言葉は正気に戻してから言った方が良いんじゃないか?」

 

「それもそうだ…な!」

 

足元にキバの紋を出現させてそれを足場にして跳びながらサバトへとパンチを打ち込む。だが、それを目の前のサバトは障壁バリアらしき壁によって阻んでいた。

 

「生意気にバリアまではるのかい!」

 

「チッ。こいつ…。」

 

「お前の攻撃を防ぐとは、それなりに強い様だな。」

 

攻撃を阻まれながら空中で体制を立て直しながらキックを打ち込み、その反動でサバトから離れる。

 

サバトから繰り出される反撃を避けながらフェイト達に向かわない様に空中に出現させたキバの紋を足場にサバトを翻弄する。

 

『フェイトさん、オレが引き付けるから、その間に封印を。』

 

『うん、分かった。』

 

念話によって会話を交わし、サバトの相手を再開する。大振りな攻撃がそう簡単に当る訳も無く、ダークキバ自身攻撃を捨てて回避に徹し、囮になっているのだから、そんな攻撃が当る訳も無い。

精々自分ではなくフェイト達の方を狙おうとした時に自分の方に注意を向けるために攻撃を仕掛けるだけ。最悪は必殺技を使えば向こうもイヤでも注意せずには要られないだろう。

だが、

 

「にゃぁぁぁぁぁあ!!! 何あれ!?」

 

「っ!? 高町さん!」

 

「…時間を掛けすぎたか、向こうも優秀らしいな…戦闘経験以外では。」

 

突然の第三者の…聞き覚えのある声に驚いてそちらの方へと視線を向ける。位置はダークキバの丁度真後ろ、そこには予想通りなのはの姿が有った。悪い事にサバトの狙いがなのは達の方へと向いてしまった。

 

それをチャンスと思ったのだろう、ダークキバへと向かって光弾を放つ。位置的に既に回避は出来ない。ウェイクアップ2やウェイクアップ1による相殺には時間が無い。同様にフエッスルによるアームズモンスターの召喚も無理。自分が盾になって防ぐ事も可能だが、今はそれを洗濯するべきでは無いと判断。

 

(仕方ないか。)「ザンバット!」

 

結果、他に手段がないと判断し、奥の手の中の奥の手を切る事を決意し、その名を呼ぶ。

 

ダークキバの叫びと共に出現したのはダークキバ自身にも負けない魔力を持った一振りの剣。ダークキバは自身へと迫る光弾へと向かってゆっくりと魔剣を振り上げ、

 

「はぁっ!」

 

叫び声と共に振り下ろすとダークキバへと迫っていた光弾毎、サバトの張っていたバリアを切り裂き、本体にもダメージを与える。

 

その剣こそ、ファンガイア族のキングの手に有るダークキバの鎧と並ぶもう一つの王の証たる最強の魔剣にして、ダークキバの鎧と並ぶファンガイア族の至宝。その名を『ザンバットソード』。

 

キングとして、この剣の使い手として認められているのだが、トウヤ自身ザンバットソードを使う事は今まで意図的に避けてきた。ダークキバの鎧を纏い、その剣の持つ事で得られる、加減の一切効かない闇の魔皇としての圧倒的な力…。その力に溺れる事を避ける為に今まで召喚しようとは思っていなかった。

 

 

だが、今はトウヤはその力を使うべき時だと判断を下した。

 

 

「まったく…お前は本当に自分の評価を低く見ているな。」

 

「…妥当な評価と思うがな…。…仕方ないか…。奴はオレが抑える。邪魔はさせないから、早く封印を。」

 

「は、はい!」

 

「うん!」

 

二人の返事を聞き、ダークキバがザンバットソードの刀身を撫でる。ダークキバの魔力を吸収するようにザンバットソードの刃が紅く染まる。そして、

 

「はぁ!!!」

 

ダークキバの振るうザンバットソードの斬撃がサバトに叩きつけられる。本体ではなく、光弾を優先して攻撃しているが、サバトへの攻撃の数の方が多いのはダークキバとの間にある圧倒的な力の差故だろう。

 

「ディバイン!」

 

「貫け、轟雷!」

 

二人の砲撃の準備が整った瞬間、ザンバットソードの鍔の部分を顔の前に持って行き、鍔の真上に掌を翳すと、ザンバットソードの鍔から金色のフエッスルが出現する。

 

「おまけだ…。お前に王の判決を告げる!」

「ウェイクアップ!」

 

「『絶滅タイムだ!』」

 

出現したフエッスルをキバットバットⅡ世に咥えさせると鳴り響くフエッスルの音色、

 

『バスター』

『サンダースマッシャー!』

 

「ファイナル、ザンバット! 斬!!!」

 

二人の砲撃とダークキバの斬撃がサバトに直撃し、ジュエルシードを封印、そして核となっていた過激派のファンガイア族はそのままステンドグラスの欠片となって砕け散っていく。

 

「さて、これでオレ達の役割は終わったな。」

 

「あとのジュエルシードの争奪戦は、オレ達は手を出せないが…。」

 

キバットバットⅡ世の言葉に頷くダークキバ。ダークキバの力が二人との間で隔絶しすぎていて、手を出さないのではない、手を出せないのだ。

 

少なくとも命の危険は無いだろうと、僅かながらダークキバは油断していた。争奪戦の結末を見届けようとした時、二人の杖デバイスがジュエルシードに当る。

 

その瞬間、二人の杖デバイス…バルディッシュとレイジングハートに皹が入り、ジュエルシードが再び暴走する。

 

フェイトはそれを素手で封印しようとしているが、負担が大きい様子だ。

 

「拙い!」

 

ザンバットソードをビルの屋上へと突き刺し、キバの紋を使いジュエルシードを押さえているフェイトへと近づき、

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

キバの紋を使いながらジュエルシードを押さえ込みながら、両腕をフェイトの手とジュエルシードの間に割り込ませ、鷲掴みにすると両腕に激痛が走り、闇のキバの鎧にさえ皹が入っていく。

 

「…無茶をする…。闇のキバの鎧を纏ったトウヤでさえ、こうなると言うのに!」

 

キバットバットⅡ世はフェイトの無茶を叱りながら、一度ベルトから外れシールフエッスルを取り外して咥えると再びダークキバのベルトに戻る。

 

「ジュエルシード、封印だ!!!」

 

フエッスルの音色が響き渡り、最初にジュエルシードを封印した時の様にジュエルシードを封印する。

 

それによってただの青い宝石に戻ったジュエルシードはダークキバの手に収まる。シールフエッスルを使っての封印では、まだ完全ではないが、それでも一時的に抑えることはできるだろう。

 

「……ありが…とう………。」

 

辛うじて礼を言いながら意識を失うフェイトを受け止め、ダークキバはゆっくりと着地する。

 

「…まったく…何の為にここまで無理をするんだ…。」

 

直接的に触れたとは言えダークキバの鎧に皹が入るほどの力を素手で押さえ込んだのだから、手がボロボロになっているのは当然だろう。意識を失ったフェイトを抱き抱えながら、後に立っているなのは達にジュエルシードを見せ、

 

「そ、それを渡して下さい!」

 

「…それは出来ない…。」

 

なのはの肩に乗るフェレット…ユーノの言葉をダークキバはそう切り捨てる。

 

「彼女がこれほど必死に頑張った以上…悪いが、君達には渡す訳には行かない。」

 

そう告げると駆け寄ってきたアルフへとジュエルシードを渡してザンバットソードを回収する。

 

「でも!」

 

「私からもお願い! ユーノ君、今回はダークキバさんの言う通りにしてあげて。」

 

納得していない様子のユーノに対してなのはがそう言う事で引き下がってくれた。

 

「…ありがとう…。」

 

仮面の奥で微笑みながらそう告げてダークキバはその場を立ち去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???SIDE

 

「艦長、ロストロギアによる次元震を補足しました!」

 

「次元震?」

 

「はい、小規模ですが…。」

 

「場所は?」

 

「第97管理外世界『地球』です。」

 

「分かりました。これより私達は、その次元震の元のロストロギアを回収しに『地球』に向かいます! 『クロノ執務官』、『ダイル隊長』も準備を。」

 

「はい!」

 

「了解した。(…まさか、我等の聖地とはな…。)」

 

ダイルと呼ばれた男は部屋から出ると一人の男が話しかける。

 

「なー、隊長さん、次は久しぶりの里帰りなんだろ?」

 

「…余計な事を喋るな、私達は一応管理世界出身と言う事になっている。」

 

「ったく、面倒だな。ここの連中全部支配下に置いときゃ、良いじゃないんですか?」

 

「…残念ながら、焦って我等の事を知られるのは得策ではない。下手な行動は…『ロード』にご迷惑をかける事になる。」

 

「はいはい、分かりましたよ。でもさ…次の次元世界で食って良いでしょう…久しぶりの故郷の味を…。」

 

男の姿が二つの首を持った狼の様な異形の姿へと変わる。それは伝説の中に存在する双頭の魔犬『オルトロス』の様だった。

 

「…ダメだ…。…他の世界なら許可してやりたい所だが、地球で下手に事を起こしたら、魔族に我等の事が知られるだろう…。」

 

「オレはいい加減、我慢の限界なんだよ!!! 計画なんざ知らねぇから食いたいんだよ!!!」

 

ダイルと呼ばれた男の手の中に出現したオルトロスの怪物の首に突きつけられる。

 

「…我等の全てはロードの…レジェンドルガの『計画』の為…。我等の我慢を貴様如きの為に無駄にする訳にはいかん。命令を聞かないのなら…この場で始末する。」

 

「…分かったよ…。くそ、あの黒いのは兎も角美味そうな奴等が居るのに…。」

 

「…本局への帰路に付くまでの辛抱だ…。執務官と艦長とブリッジクルーの幾人かは支配下に置くようにと命令されている。」

 

「おー…いいね。」

 

「…それから…戦力になりそうな者を見つけたらだが…。」

 

「食っても良いんですか?」

 

「質にもよるな。良質なライフエナジーはロードへの捧げ物だ。」

 

「はいはい。」

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 



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第八話『トラブル増加か…。by.トウヤ/既に許容レベルを越えているぞ。by.キバットバットⅡ世』

「…『レジェンドルガ』…」

 

目の前に在る“被害者”を一瞥しながらトウヤはそう呟く。目の前に在るフェイトに似た金色の髪の少女の貌は蛇を思わせる物。

それはレジェンドルガによる同族化の影響。文献にある記録によれば、レジェンドルガにライフエナジーを奪われた者は全てこうなってしまう。例えそれが人間であっても、ファンガイアで有っても…。

だが、聞いた話では目の前の彼女は死んでいたと言う。…人の物では無い、愛らしかったであろうかつての面影さえも感じられない貌へと変わって化物レジェンドルガとして蘇った、彼女の母親にしてみれば、最低最悪の幸運。最愛の娘が人ではない最悪の化け物へと変わって蘇った姿は…神の与えた罰とでも思っているのだろうか…。だが、それは神の怒りではなく、悪魔の嘲笑。

 

 

目的は分からない。だが、これだけは言える。“レジェンドルガが彼女を同族として蘇らせた”と言う事は間違いない、と。

 

 

今の彼の現状を説明する為に時間は僅かに遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトにはデバイスの修復が終わるまでは休息する様に言っているが、彼女の事を考えると直に無茶をするだろう事は想像するのは容易い。

 

 

その間に一族の者達によるジュエルシードの探索を続けているが、それに準じて優先するべき事を片付けていた。

 

 

「…幸いだな…ここまで情報が手に入ったのは…」

 

 

「ああ」

 

 

レジェンドルガの情報や君主ロードとしての情報は多く残されているが、魔族の記録からも『無かった事』にする様にレジェンドルガのロード、『アーク』の情報は消されていた。

 

 

トウヤの元に届けられた資料は数少ない古文書の中の情報を断片的に繋ぎ合わせた、現時点でのアークについての情報だ。相手の情報を知らずに戦うよりも知って戦った方が遥かに戦い易い。禁断の力ウェイクアップ3を使わずに勝つ為にも、アークについての情報は一つでも多い方が良い。

 

 

「…『レジェンドルガのロード、アーク。それは初代より変わらずに存在していた。』…キバの鎧みたいに鎧を纏った姿…ファンガイア族のキングの様な物か?」

 

 

「確かに、そう考えるなら変わらずに存在している事にも頷けるな」

 

 

「『レジェンドルガの君主ロードアークとは不死の存在である。その肉体が滅んでも、アークの意思は鎧に宿り再び蘇る。アークを滅ぼすには『魂』そのものを消し去るしかない』…だと」

 

 

書かれていた文章を読んだ時驚愕が浮ぶ。これが真実だとすれば、事実上アークを倒す方法は封印以外に無い事になる。

 

 

だからこそ、宝玉にアークと共にレジェンドルガ族を封印した当時のキングは、封印の宝玉を『消滅』の魔法陣に置き、長い時間を掛けてアークの魂を消滅させようとした。

だが、その魔法陣から宝玉を何者かが奪い去り、今は何処とも知れない場所で復活していると言う訳だ。

 

 

「最悪だな。その手段は最悪の手段として、他の者に使われない様に完全に消失している。…術者と自身の命までも断ってまでな」

 

 

「時間こそ掛かるが、最悪の処刑手段だからな。『レジェンドルガと戦ったのは当時のキングと魔族の中から選ばれた騎士達と…当時のキングの友であった『人間』の『王』と王に従った『騎士』達。多くの者が犠牲になるなか、王がアークより力を奪い、力を奪われたアークはキングの手によって封印された』か…」

 

 

「…レジェンドルガ族と戦ったのは父の代だったが、まさか、人間の協力者が居たとは知らなかったな。」

 

 

感心した様に呟くキバットバットⅡ世の言葉にトウヤは賛同する様に頷く。

 

 

「『王の元にある『力』が戻らない限り、ロードは完全に復活する事は無い。そして、王が奪った限り、永遠にロードの元に力が戻る事は無い。』か。王についても調べる必要があるな。名前は…無かったか」

 

 

「レジェンドルガから隠す為か、完全に名前さえも削られていたそうだ。辛うじて分かったのは、騎士の一人の容姿だけらしい」

 

 

「…それが分かった所で意味は無いな…」

 

 

「そうだな」

 

 

溜息と共に資料を閉じ、天井を見上げる。騎士の一人の容姿が何らかの手掛かりになるかもしれないが、それで知る事が出来るのは精々騎士の子孫くらいだろう。その騎士も生き残っていたかは分からないから、子孫が居るとも限らない。寧ろ、命を落とした者達の中に居たと考えた方が建設的だろう。

 

 

「幸い、今アークは弱体化しているから、倒すのは簡単なのが救いか…」

 

 

「色々と気になる部分も有るがな…」

 

 

そう、資料の中にあるアークの力を奪ったという『人間の王』の存在と、それについての記述。

 

 

浮んでくる疑問が頭の中をグルグルと廻っている状況に溜息を吐き、そのまま机に突っ伏すと携帯電話が視界の中に入る。

 

 

「…そう言えば…はやてさんから夕食に誘われたんだっけ…気分転換に行って来る」

 

 

「そうだな。少し精神的に癒されて来い」

 

 

「そうだな…高町さんが落ち込んでいるから、学校でも疲れるんだよな…」

 

 

「…お前には珍しく真面目な姿が長続きしたからな。……ビショップ達が心配してたぞ……」

 

 

「って、心配されるのか!?」

 

 

「…普段の自分の姿を考え見ろ…」

 

 

悲しい事に相棒、キバットバットⅡ世のその言葉に心から納得して言い返せなくなるトウヤだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、その翌日だが、母親の元に報告に行くと言う連絡がフェイトから有った為にそれに同行する事になった。危険物ジュエルシードの回収をしてくれているのだから、彼女にそれを指示した相手に対して礼を言いに行くのも悪くないだろう。

 

 

(トウヤ、少し良いかい?)

 

 

(アルフさん?)

 

 

アルフから念話が聞こえてきた事に気付き、アルフへと視線を向ける事で『構わない』と言う意思を示す。

 

 

(実はフェイトのお母さんの事でね)

 

 

そして、アルフから彼女の母親の事を聞かされた。

 

 

(そんな相手に会うのに怯えもしないなんて…な)

 

 

母親の元に戻る嬉しそうな彼女の姿にそんな疑問が沸き上がる。純粋に母を慕う彼女の姿からはそんなネガティブな家庭事情等感じる事は出来ない。

 

 

(…なんで虐待している親に会うのに、そこまで嬉しそうなんだ…)

 

 

他人の家庭事情の事など、彼女の母親の事や彼女のことを何も知らない他人でしかない自分が口を出せる事ではない。トウヤに何とかして欲しいと思っているであろうアルフには悪いが、事情を知らない限りは精々現場を見て止める事くらいだろう。

第一、彼女達の世界の法等はトウヤの知識にはなく、自分の世界の法しか知らない。他所の世界に自分達の世界の法ルールを持ち込むなど、“無粋の上に無礼”だと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「トウヤ、着いたよ」

 

 

「カルチャーギャップだな」

 

 

「…彼女達の世界の魔術…いや、魔法だったか…。便利なものだな」

 

 

『時の庭園』と言う名前らしい彼女達の母親の居る家に案内されたトウヤとキバットバットⅡ世の第一声がそれだった。

 

 

どうでも良い事だが、封印されているとは言え自分の家に『タイムマシンモドキ』な扉や、キャッスルドランの中に自宅と言う事になっているマンションと繋いだゲートが有るトウヤとキバットバットⅡ世に言える事ではないと思う。

 

 

「それにしても…立派な城だな」

 

 

「ああ、中々良い家だな」

 

 

「えへへ、そう」

 

 

城を見てそう褒める魔皇様とその相棒の言葉に嬉しそうに答えるフェイト。そして、フェイトに案内され、彼女の母親の部屋の前に来たのだが…

 

 

「ここが母さんの部屋だよ」

 

 

「そうなんだ」

 

 

フェイトの言葉へとそう返し、扉へと視線を向けるとそこから向こう側から感じられる『絶望』の感情。

 

 

「母さん、私です、フェイト・テスタロッサです」

 

 

嬉しそうに言いながらゆっくりとフェイトが扉を開ける。

 

 

「ッ!?」

 

 

部屋が空けられた瞬間、トウヤは妙な物を感じ取る。それは人間の物では無く、微細な…弱い物だが、自分達魔族の物に近い魔力。

 

 

「その子は?」

 

 

何かに疲れ切った様子…あらゆる希望が失われた人間が浮かべる表情の代表的な例と言えるほどの暗い表情を浮かべている女性、『プレシア・テスタロッサ』がトウヤ達を一瞥していた。

 

 

「自己紹介が遅れました。私は『トウヤ・F・クリムゾン』と申します。この度は貴女の娘さんのお蔭で我々の世界に落ちた危険物の対処が出来た事に対する感謝を伝えに来ました。聞けば、貴女に言われて回収したそうでしたので、彼女に頼みこうして貴女と一度面会の機会を作っていただきました」

 

 

一例と共にその言葉を告げる。一族の王としてジュエルシードの事に対する一族に及ぼす危険を押さえられているのは事実なのだから。トウヤの挨拶とフェイトの協力に対する感謝を告げると、フェイトが成果を報告していたのだが、

 

 

「たったこれだけ…。…もういいわ、行きなさい」

 

 

「母さん?」

 

 

フェイトとアルフの様子を盗み見るが、明らかに戸惑いが浮んでいる。…彼女達の知っているプレシアと目の前に居るプレシアが当てはまらないのだろう。

 

 

「…すまない、フェイトさん、少しオレも君のお母さんに話が有るから、席を外してもらえるかな?」

 

 

「う、うん」

 

 

トウヤの言葉にフェイトとアルフの二人が部屋を出て行くとトウヤはプレシアに向き直る。

 

 

「…それで、話ってなにかしら?」

 

 

「単刀直入に言おう…。その絶望の根源は…貴女の後に有るのか?」

 

 

「ッ!? そうよ…フ…フフフ…天罰が下ったのかしら…もう、こんな物が幾ら有っても!?」

 

 

トウヤの言葉に崩れ落ちながらジュエルシードをゴミの様に投げ捨てる。

 

 

「っ!? 危険物を投げるな! 第一、何が有ったって言うんだ!?」

 

 

「…そうね、見たいのなら、見せてあげるわ。私の愚かさが招いた結果を…」

 

 

そう言ってトウヤとキバットバットⅡ世がプレシアに連れられるままに言った先に置いて、冒頭に繋がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「生き返ってくれたのよ…アリシアが…。私の事をお母さんって呼んでくれたけど…直にこんな姿に変わってしまって…」

 

 

崩れ落ちて泣き崩れるプレシアを一瞥すると、トウヤは彼女の娘…『アリシア』と呼ばれた同族化された被害者を一瞥する。拘束されているが、それにも構わずライフエナジーを求めて動き出している。

 

 

「これは…「神様の裁きなんていう慈悲深い物じゃない」…どう言う意味なの?」

 

 

彼女の独白を遮るように言葉を綴る。トウヤの言葉によって微かにプレシアの声音に意思が篭る。

 

 

「…これは…レジェンドルガによる同族化だ。情報源が古い文献にしかないが…。詳しいことを話す代わりに…話してもらおうか、貴女の言う自分の罪と言うのを…」

 

 

そう告げて、泣き崩れていたプレシアに向き直ると、

 

 

「改めて自己紹介と行こう。オレの名はトウヤ・F・クリムゾン。人と共存する事を選んだ闇に生きる魔族を統べるファンガイア族の…王キングだ」

 

 

己の地位と立場を告げ、ダークキバの姿さえも見せると、レジェンドルガについて説明を施す。

 

 

「…貴女の罪は何なのかは知らない…だが、少なくとも…これは神様が与えた罰なんかじゃ…ない」

 

 

親しくなった少女に連れられた家で見つけたのは…追っていたレジェンドルガの存在の尻尾。

 

 

「ああ、少なくとも、状況証拠だけならば…これはレジェンドルガによる同族化だ」

 

 

 

 

告げられるのは救いの一言なのか…

 

 

 

 

「じゃあ、アリシアを元に戻す方法は…」

 

 

「一つだけ。レジェンドルガの君主ロード、アークを倒すことだ」

 

 

 

 

彼女に与えられた救いは、何処にいるかも分からない相手に対して、レジェンドルガと戦った代々のキングでさえ不可能だった偉業を成す事。

 

 

 

「…それじゃあ、話していただこう…。貴女の罪を」

 

 

 

 

本当の断罰は此処から。優しい魔皇による罪の裁きの時。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第九話『ダメ警官…ダメ執務官か? by.トウヤ/…良くて外道、悪くて無能か。 by.キバットバットⅡ世』

「愚かな話だな…色んな意味で」

 

プリシアの罪の告白をトウヤはそう簡潔に切り捨てる。

 

 

「『プロジェクトF』だったか、100%失敗するに決まっているだろう」

 

 

「100%って…どうしてそこまで「…命をバカにするな、『記憶』如きで死者蘇生できるほど人間は安くない」…………」

 

 

その一言で切り捨て押し黙るプレシアを一瞥すると、トウヤは指を一本上げる。

 

 

「それが第一の失敗…考え違いだ。クローン等下手な言い方をすれば『歳の離れた一卵双生児』だ。双子の兄弟が互いの存在を知らずに似た家庭に引き取られたとすれば、似た人生を歩むかもしれないが、それは“似ているだけの別人”だ」

 

 

そして、二本目の指を上げる。

 

 

「第二に魔力を持たせた時点で決定的な別人になる。差異を大きくした以上、元となった『アリシア・テスタロッサ』から離れるのは当然だ」

 

 

三本目の指を上げ、

 

 

「他にも色々と細かい理由が有るが…『人格』は『記憶』が構成するだろうが、記憶だけで作れるほど簡単じゃないだろう。一つの人格が作り上げられるのは、奇跡とも言って良い確率の上に有る。………記憶と言う一部だけで同じ人間になるか…。せめて記憶以外に思考パターンを使えば、99%程度のアリシア・テスタロッサの偽者にはなっただろうがな」

 

 

そして、レジェンドルガによって変えられたアリシアだった者へと向き直り、

 

 

「どちらにしても、貴女にクローンを作り上げたと言う記憶がある時点で、…思考パターンを似せたとしても、貴女にしてみれば…気持ちの悪いアリシア・テスタロッサの偽者にしかならないだろうがな…」

 

 

既に泣く事も止めて崩れ落ちている最後の裁きを言い放つ。

 

 

「…まあ、その紛い物も寂しさを紛らわすだけの現実逃避の為の人形にはなるだろうがな」

 

 

「…じゃあ…私はどうすれば良かったって言うの…。」

 

 

「…偽者の記憶を与えなければ、“アリシアに似ている義理の娘”として見る事は出来ただろう。クローンとして生み出したとしても、アリシアの妹としては見えただろう…。いや、クローンだから、下手をすればアリシアの娘と取る事も出来るか…? 母の子供への気持ちは男のオレには永遠に分からないがな」

 

 

肩に降りるⅡ世へと視線を向け、

 

 

「そうだな。オレにも息子と娘を持った経験は有るが…父親と母親では子供への想いも違うだろう」

 

 

「フェイトがアリシアの妹だとすれば…オレに妹を持った姉の気持ちは分からないが、弟を持った兄の気持ちは良く分かる。…弟を虐待した母を…オレは絶対に母等と思わない、母とは思ったとしても愛し等はしない。弟を傷付けた敵としてしか見れない。憎しみしか向けないだろうな。さて…彼女の存在を知ったら…元に戻ったとして、アリシアは…妹を傷付けた母に対して…以前のように接してくれるか…?」

 

 

「…あっ…うっ…」

 

 

トウヤの言葉に何も言い返せない。肯定してしまえば元に戻った娘に憎まれ拒絶される未来を肯定する。否定すれば…

 

 

「優しければ優しいほど…貴女を許せないだろう。同時に原因となった自分自身も…。さて…アリシア・テスタロッサは…優しい子だったのか? それとも、妹を虐待して喜ぶような…酷い人間だったのか?」

 

 

自分の最愛の娘が優しい子だと言う事を自ら否定する事になる。

 

 

「あの子は……優しい子…よ…」

 

 

だから、プレシアは自ら拒絶されるifの未来を受け入れるしかない。

 

 

「神の裁きは下っている。既にオレが何かを言える立場じゃない…。彼女にとって大切な『優しい母』の記憶だろうが…それを与えてしまったが為に…貴女は彼女を…母で有るが故に愛する事はできない」

 

 

後悔した所で既に『愛する事ができない』。それが、

 

 

「それが貴女への…裁きだ」

 

 

彼女へと与えられた神の裁きなのだから。だが、トウヤは神でも天使でも無く魔王だ。魔王は常に神とは敵対する運命にあると考えている。

だからこそ…

 

 

「だけど、彼女は、フェイトは貴女に育てられた娘だ。貴女は彼女の母だろう。真実を知った上で…なおも母として愛してくれるなら…『その程度』の事は乗り越えられる。『親子三人』で暮していける…。アークさえ倒せば…アリシア・テスタロッサも生き返る可能性がある」

 

 

神が裁きを下したのなら、魔王としてのトウヤが行うのは魔王の救済。幸いと言っては何だが…レジェンドルガとして再生しているなら、逆に言えばアークを倒せば元に…生きた人間に戻る可能性もある。

 

 

既にトウヤの中でアークを自らの手で倒す事は決定事項だ。既に消滅させる方法は失われているし、相手も一度行われた封印に対して対策を持っているだろう。ならば取るべき手段は、結果を先に送る為の封印では無く…『倒す』以外に道は無いのだから。

 

 

「…もっとも、貴女の体を治療する必要が有るだろうけどな…」

 

 

「気付いてたの?」

 

 

「オレ達ファンガイア族を初めとする魔族は他者のライフエナジー…一種の生命エネルギーを吸収する能力を持っている。だから、それだけ弱っていればイヤでも気付くさ。…付け加えると、何年持つか分からない。乗り越える前に…アークを倒す前に、貴女が死んでしまったら意味は無いだろう?」

 

 

トウヤの言葉に『ええ』と頷くプレシアを一瞥しつつ、ビショップに検査と治療の準備を頼もうと考える。彼女にキャッスルドランに来て貰うか、ビショップを連れて此方に来るかは未定だが…。

 

 

だが、問題が一つ出て来た。自分が知った真実を何処までフェイトに伝えるかと言う事だ。

 

 

『自分は本当の娘ではなく本当の娘のクローンで、しかも、その母は余命幾許も無い』…はっきり言ってフェイトに伝えるべきか悩んでしまうほどにハード過ぎる。

今まで関わった印象では有るが、どう考えてもこれを全て受け止められる程精神的な面では強いとは言えないだろう。

 

 

心底悩みながら、プレシアへと視線を向けると、

 

 

「…取り合えず、貴女の検査が終わるまではフェイトさんには黙っていた方が良いな」

 

 

「賢明な判断だな」

 

 

「それが良いわね」

 

 

トウヤの言葉に揃って時期を待って話すと言う方向で同意する二名だった。

 

 

尚、レジェンドルガの同族化されたアリシアに着いてはプレシアの魔法で拘束しているが、『一時的な封印の方法が有るがどうする?』と聞いたら封印を施す様に頼まれた。

仮にも最愛の娘が化物レジェンドルガになった姿をこのまま見続けたくは無かったのだろう。

 

 

シールフエッスルの力で彫像状態にする事で一時的な封印は完了した。改めて封印した姿はレジェンドルガではなく人の物…その容姿はやはりフェイトと良く似ていた。

 

 

(…ジュエルシード…願いを叶える石か…。死者蘇生は無理でも、上手く扱う為の魔術的な処置を施せばプレシアさんの治療くらいには使えるか…)

 

 

そんな方向で思考を動かした結果、一度は考えるべきかと言う結論に至る。

 

人間の物よりも高いファンガイア族の医療技術や魔術的な処置でも治せない病は当然ながら存在する。彼女達の世界の科学技術から考えて医療技術も高いはずだ。それで、治せないと言うのなら…自分達の技術でも完治や延命は不可能だろう。

 

最後の手段として、危険物に縋るしかないと言う最後にして最悪の手段…。

 

 

そんな方法しか思いつかない自分がイヤになるが、それは飽く迄最終手段として割り切っておく。少なくとも残りの石を過激派の手に渡る前に回収する事…。

 

 

(…陸地は良いとして、問題は海…海中に落ちたと思われる魔石ジュエルシードか…)

 

 

念の為に海岸を中心に捜索させているが一つも見つかっていない。海に一つも落ちていない等と言う希望的観測を信じる事は出来ない。

 

幸いな事に海中にあるなら、ファンガイア族にも回収の手段は限られる。だが、水生生物を模した『アクアクラス』のファンガイアが居ないと判断する事は出来ない。その上、海と言う場所が問題だ。

 

 

(…連中の手に落ちないとしても…万が一の発動で町を津波が襲うなんて起こったら拙いからな…)

 

 

そう考えると背筋が寒くなり顔色が悪くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、トウヤ、母さんと何のお話してたの?」

 

 

「危険物ジュエルシード回収のお礼と、後はフェイトを頼むだってさ」

 

 

実際、部屋を出る時に『フェイトの事をお願いしてもいいかしら』と言われたのは本当の事だ。

 

 

(トウヤ)

 

 

(…アルフ?)

 

 

ふと、トウヤの頭にアルフからの念話が響く。

 

 

(あの鬼婆がフェイトの心配なんかするもんか。一体どんな話を話したんだい!? 今日はなんだか、様子も可笑しかったし!?)

 

 

(…普段彼女がどんな態度を取っているか、よーく分かる一言だな; …確かに話した事はそれだけじゃない。だけど…フェイトの事を頼むと言われたのだけは本当だ)

 

 

そう言った後一呼吸置き、

 

 

(…何れ時期を見て話す…。…今はまだフェイトさんに話す時じゃないんだ…)

 

 

(…そうかい、あんたがそう言うなら信じるよ)

 

 

(…良いのか、仮にもオレは“魔王”だぞ。もしかしたら、ジュエルシードを封印するためにフェイトさんを利用しているのかも知れないぞ)

 

 

(それでも、あんたを信じるよ。それに利用する様な奴が自分を盾にしてフェイトを守る訳無いからね)

 

 

そう、サバトの光弾から自分を盾にして庇ったり、ジュエルシードの発動を抑えるのに両腕にダメージを負ったりと…。加減の効かない自分がなのはとは戦えないと言う点を除いては、どう考えても利用する人間の行動には見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

時の庭園から地球に戻った後、トウヤは今後のジュエルシード回収についての予定をフェイトとアルフ、キバットバットⅡ世と簡単に話した。

 

 

幾つかは海に落ちている可能性が高い事。ある程度陸地の探索が終わった後は十分に準備を整えてから海の探索に入る事。特に海の捜査の前には危険と準備を考えてフェイトには十二分に休息を取る様に言っておいた。

 

 

そして、トウヤが帰宅しようとした時、新たなジュエルシードの発動を確認して発動した場所で有る公園でなのは達と合流、共同しての封印作業になったのだが…。

 

 

「生意気にバリアまで張ってたんだよ…ねぇ?」

 

 

ジュエルシードを取り込んだ“はずの”巨大な大木の怪物のバリアを紙の様に切り裂いてダークキバのザンバットソードが剪定している姿を呆然と眺めているなのは&フェイト主従。

 

 

「今までよりも強いはずなんだよね」

 

 

「私達の出番…」

 

 

「無いよね」

 

 

色々と考える事、悩む事が多かった結果、なのはとの争奪戦を全面的にフェイトに任せていたお返しとストレス解消も兼ねて大木の化け物との戦いを引く受けた訳だが、サバトを除けば今までよりも強かったのだが、全然余裕と言った様子でザンバットソードを使い、根を切り裂き、枝を切り裂き、淡々と無力化していく姿に見ている方は呆然としてしまう。

 

 

「終わりだ。無力化したから封印を頼む」

 

 

根と枝を完全に奪い、相手に同情したくなるレベルでダークキバの手によってボロボロにされた大木の化け物を放置して、なのはとフェイトへと向き直りそう告げる。

 

 

その後、なのはのディバインバスターとフェイトのサンダースマッシャーによって速やかに封印された。二人の顔には同情の意思が浮かんでいた。

 

そして、前回に続いてのなのはとフェイトによるジュエルシードの争奪戦が開始になる訳である。

 

 

ダークキバは当然ながら戦闘には参加できず、二人の戦いを観戦している訳である。

 

 

「ジュエルシードには衝撃を与えたらいけないみたいだ」

 

 

「うん、前みたいな事になったら…私のレイジングハートもフェイトちゃんのバルディッシュも可哀相だもんね」

 

 

「だけど、譲れないから」

 

 

「私はフェイトちゃんと話がしたいだけなんだけど」

 

 

 

 

 

「…だったら単純に武器を向けなければ良いんじゃないのか…?」

 

 

「まあ、戦って意思をぶつけ合う事も分かりあう事に繋がるはずだろ? だからこそ、オレもそれには苦労した」

 

 

「確かにな。お前は弟ワタルに何も伝えずに戦っていたからな…。拳を交える時も…偽りの意思を伝えなければならなかった…か?」

 

 

「ああ。最後はああするしかなかったけどな。」

 

 

ザンバットソードを腰に携え、適当な木に背中を預けながらダークキバとキバットバットⅡ世は前世の事を思い出しながらそんな会話を交わす

 

意思をぶつけずに全力では無く何処か手を抜いて戦い、己の意思を伝えずに敗北する為に戦った。…中途半端な…最後の兄弟喧嘩かいわ。

 

 

 

「私が勝ったら…ただの甘ったれた子じゃないって分かって貰えたら………お話、聞いてくれる?」

 

 

 

なのはの言葉が聞こえてくる。

 

 

「…そう言えば高町さん…」

 

 

「どうした?」

 

「いや、昔一度だけ…泣いているのを見た事が有ったなって思ったな。確か、家族の中で孤立してたとか何とか…」

 

 

「…トウヤ、それは流石に略しすぎじゃないのか?」

 

 

「…確かお父さんが入院したとか、お母さんやお姉さんが忙しかったとか………兄さんが怖いとか…。まあ、一日一緒に遊んで入学するまで会わなかったからな」

 

 

「それなりに辛い思いしている訳だな、彼女も。」

 

 

「どうしてこう、オレも高町さんも、フェイトさんも、十歳にも満たない間に重い人生を送ってるんだか…」

 

 

「…力を持った代償は、当たり前の幸福…と言う訳か」

 

 

そんな会話を交わしていると、上空で二人が駆け出す。その瞬間だった、

 

 

 

 

 

 

 

『ストップだ!!! ここでの戦闘は危険すぎる!』

 

 

制服を着た二人の大人を引き連れて現れた少年が右手の黒い杖でフェイトのバルディッシュを、左手でなのはのレイジングハートを受け止める。行き成りの状況に驚きを隠せない二人だが。

 

 

「時空管理局執務官、『クロノ・ハラオウン』だ。詳しい事情を聞かせてもらおうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「時空管理局…ね」

 

 

「…出てくるのは良いが、偶然にしては随分と狙った様なタイミングだな。」

 

 

「都合の良い偶然と考えるには…ちょっとタイミングが良すぎるな。…何故あの化け物と戦っている間に出てこなかった、何故二人の戦闘中に出てこなかった、とかな。だとすれば…」

 

 

「何らかの理由で此方の戦いを覗っていて、出てくるタイミングを計っていた。と考えられるな。」

 

 

「理由か…考えられるとすれば、二人やオレの戦力の確認…? もしくは、未確認の相手への警戒か? …Ⅱ世…時空管理局…信用するに値すると思うか…?」

 

 

「結論を出すには早いだろう…。だが、その行動は警察組織の一種にしては…どうかと思うがな。何処の世界に市民の危険を眺めてタイミングを待つ警察組織がある。まあ、弁護するならば戦闘中への介入は危険と…危険だったか? いや、それ以前に、あれは戦闘と呼べる物だったのか?」

 

 

今更ながら、自分達が本当に戦闘していたのか疑問に思うキバットバットⅡ世だった。はっきり言って一方的な剪定としか言えなかったのだし。

 

 

「………。どっちにしてもダメだろう。」

 

 

何気にダークキバとキバットバットⅡ世、二人の中で時空管理局の信用が絶賛低下中でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十話『身分証明はちゃんとしよう。 by.トウヤ/全くだな。 by.キバットバットⅡ世』

「ストップだ!!! ここでの戦闘は危険すぎる! 時空管理局執務官、『クロノ・ハラオウン』だ。詳しい事情を聞かせてもらおうか?」

 

クロノと名乗った少年の後に居る大人二人…特に落ち着きの無い方の人物を一瞥しつつ、ダークキバ…トウヤは、

 

 

「妙な感覚だな…」

 

 

そんな感想を覚えてしまう。人の物ではない存在感、魔力の質、異世界の人間だからなのかとも思えるが、他の男とクロノと名乗った少年、フェイトから感じられるそれは違う。…寧ろ、後ろの男のそれは自分達魔族の物に近い。

 

 

ユーノとアルフがそれぞれの反応を見せているが、ダークキバの位置からでは詳しい事はわからない。

 

 

「このまま戦闘行為を続けるなら…」

 

 

「っち! フェイト、ダークキバ、引くよっ!」

 

 

「すまないが、オレはそう言う訳には行かない。(悪い様にはしないが、良い機会だ、連中に接触していく)」

 

 

(危険じゃ…)

 

 

(いや、逃げようと思えば逃げられる。寧ろ、殺さない方が心配だ。第一…気になる相手が居る。だから、先に逃げていてくれ)

 

 

「うん!」

 

 

アルフがクロノ達へ魔力弾を放った後で念話でそんな会話を交わすと、なのはとフェイトの戦闘の影響が無いように守っていたジュエルシードを手に取り、フェイトの方に投げ渡す。

 

 

「くっ!」

 

 

「っ!?」

 

 

フェイトへと青い魔力弾を放つのを目撃すると、素早くフェイトとクロノを繋ぐ斜線上に割り込むと、ザンバットソードの一閃で魔力弾を霧散させる。

 

 

「今のうちに」

 

 

「ありがとう…」

 

 

頭を下げて撤退していくフェイトとアルフの二人を見送ると、ザンバットソードを構えながらクロノ達へと視線を向ける。

 

 

「貴様! 何故邪魔をした!?」

 

 

「邪魔? 何の事だ…正体不明の不審者」

 

 

「正体不明だと、僕は時空管理局の執務官だ! 彼女達は僕に攻撃を加えた! この時点で公務執行妨害が適用された!」

 

 

ダークキバはパチパチと乾いた拍手を送りながら、

 

 

「…怒鳴っていると喉が枯れるぞ。第一…公務と言っているが…何処の国の組織なんだ? 少なくとも、それは日本にある組織じゃないな」

 

 

「なにを…。」

 

 

「まあ、“仮に”お前が公務を言える組織の人間と“仮定”すれば、牽制や威嚇も攻撃を仕掛けたとなるが…」

 

 

「だったら…」

 

 

「…お前は口頭で名乗っただけだ。口先だけ服装だけなら、幾らでも偽証は可能だ。そう言った組織の人間が最初にするべき事は己の身分証明じゃないのか? それとも…年齢からも考えて『執務官』と言うのは組織の中での見習いの事なのか? 監督している大人の付き添いも居ることだしな」

 

 

最後に『だとしたら、減点だな』と付け加え、『オレが言うのもなんだけど、大して歳の変わらない子供を前に出すなよ』と言う態度で問い掛ける。

 

 

付け加えると、ファンガイア族の中での身分証明は…トウヤの場合はキングの証であるダークキバへの変身、他のチェックメイトフォーならばチェスピースを模した紋章を相手に見せる事に当る。

 

 

「お、お前…」

 

 

「クロノ執務官、落ち着いてください」

 

 

デバイスらしき杖を握り締めながら、一番落ち着いた印象がある男が前に出る。

 

 

「確かにそちらの言う通りだ。君達がその魔法技術を持っている事、または関係者として判断した上で、此方の事を知っていると言う前提で話させて頂こう」

 

 

ダイルと呼ばれていた男はそう言いながらなのはの持つレイジングハートを指差す。

 

 

「何か質問が有ったら、質問してもらっても結構だ」

 

 

「…分かった…。そちらのお嬢さんもそれで?」

 

 

「え、あっ、はい!」

 

 

ダークキバに話を振られて慌てて返事をする。

 

ダイルの態度に微かに警戒を緩めながら、なのはとクロノ達の間に入るダークキバは自分へと向けられている殺気を感じ取る。

 

 

「先ずは駆けつけるのが遅れてすまなかった。先ほどの回収作業は確認していたのだが、この世界は本来、『管理外世界』、我々の組織が知る上で魔法技術の無い世界。其処にいる魔法技術を持った者が四人と使い魔が一匹…警戒して居た事と、封印作業中に突然入り込んでも互いに危険と考えたので、封印作業が終わる頃を見計らっていた」

 

 

(四人?)

 

 

「あの、一応、戦闘だったんですけど」

 

 

ふと、ダークキバがダイルの言葉に疑問を覚える中、ユーノの呟きが響くが…どう考えても、先ほどのそれは戦闘では無くダークキバの手によって施された“作業”にしか見えなかっただろう。

 

 

「…ん、エイミィ、なんだ。…分かった。其処のお前、直にその剣と鎧を此方に渡せ、ロストロギアの反応が確認された。」

 

 

デバイスを突きつけながらそう宣言してくれるクロノに、

 

 

「「はぁ」」

 

 

話に割り込んできてくれたクロノへのダークキバとダイルの溜息が重なった。

 

 

「ザンバットソードと闇のキバの鎧を渡せとはな…。それは出来ない。この剣も鎧も一族に伝わる至宝なんでな。武器である以上傷つく事は問題ないが、資格を持たない他人への譲渡ができる訳が無い」

 

 

「ロストロギアの不法所持の容疑が出ているんだぞ!」

 

 

「不法所持? 此方の世界での許可は持っているが」

 

 

「管理局法では違反になる! それは僕達時空管理局で管理されなければならない!」

 

 

「…無粋な事だ。他国、イヤ…そちらの立場なら異世界か…。どっちにしても、条約の一つも結んでいない異世界で自分達の世界の法を振りかざすとは…」

 

 

そう言いながらダークキバが掌を翳すと、出現したキバの紋がクロノの放った魔力弾を受け止める。

 

 

「お前を拘束する」

 

 

「はぁ…。一つ良い事を教えてやろう…」

 

 

そう言いながら、クロノの真上にキバの紋を出現させる。

 

 

「何がだ?」

 

 

「格上の相手への態度と言う奴だ。…先ずは、跪け」

 

 

「ぐぁ!!!」

 

 

キバの紋に引き寄せられる様に拘束されるとそのまま地面に叩きつけられる。ダークキバの言葉どおり、跪かされている様な形となる。

 

 

「き、貴様…公務執行妨害も追加されたぞ!」

 

 

「無粋に無粋で対応するのも気が進まないが…そっちがそのつもりなら、此方にも考えがある。Ⅱ世?」

 

 

クロノの言葉を無視しながら、ダークキバはベルトに留まっているⅡ世へとそう話しかける。

 

 

「なんだ?」

 

 

「…王キングへの攻撃…敵意ありと判断された場合は…我等一族の法では、こいつへの裁きはどうなる?」

 

 

「…状況が状況だからな。この場合、こいつはまだ自分の身分も証明せずに一族の至宝を奪おうとした。尚且つ、キングへの攻撃…一般のファンガイア族と人間の間でも、殺してしまっても正当防衛として一年程度の罰則で済まされるケースだ。お前の考えている事で間違いないぞ。此方の事を知らなかったとしても…下手をすれば、最悪の事態に陥る危険がある。極刑に処さなければならないだろうな」

 

 

そう言い切った後、二世は…

 

 

「お前自体への攻撃なら、お前の意志一つでどうにもなるが…闇のキバの鎧とザンバットソードを奪おうとした事、他の一族の者達にとって許せる事では無いだろう」

 

 

「分かった。…仕方ないな…。喜べ、初めて人間が…いや、異世界人か。どっちにしても、初めてファンガイア族の掟で裁かれるんだからな」

 

 

冷たい口調で倒れているクロノを見下ろしながら、ダークキバはそう宣言する。

 

 

「ふざけるな! お前に何の権限があると言うんだ!?」

 

「権限なら有るぞ。自己紹介が遅れて申し訳ない、オレはファンガイア族の王キング、この世界に住まう全ての魔族を纏める者。さて、先ほど読み上げた罪状を魔族の掟に照らし、お前自身の無知を持って減刑を加え…」

 

 

ダークキバはそう名乗り一礼すると、ザンバットソードを振り上げ、

 

 

「クロノ・ハラオウン、貴様に王の判決を下す………『死』だ!」

 

 

「な!? ふざけるな、なんだ、それは!?」

 

 

「そちらも適応されない、『管理外世界』で自分達の法を持ち出した。だから、こっちもお前の行動をオレ達ファンガイアの法である『掟』で裁いた。どうだ、少しは自分の行動の過ちを理解したか?」

 

 

「光栄に思え、普通ならあそこまで丁寧には行われない。刑罰だけ告げられるだけだ。……大抵は現行犯だがな」

 

 

そう言いながら、立ち上がるクロノにザンバットソードを向ける。

 

 

現在ファンガイア族を初めとする魔族には人間との共存を望んでいる者達が各種族の代表やチェックメイトフォーを含めて戦力・数共に最大勢力として存在している。だが、そんな者達の中でも…知らない事とは言え、闇のキバの鎧とザンバットソードを奪おうとしたクロノの行動は許せない事だ。最悪の場合は…クロノが原因で人と魔族が完全な敵対状態に陥る可能性もある。

 

 

ならば、

 

 

「さあ、覚悟は良いな?」

 

 

ゆっくりと全身からクロノを威圧する様に魔皇力を開放しながら、ダークキバはザンバットソードをクロノへと突きつける。先ほどの大木の怪物との戦いでも並みのバリアではザンバットソードの前には無意味だろう。

 

 

「うっ…あっ…。」

 

 

ダークキバから放たれる魔皇力に威圧されているクロノに切りかかろうとするダークキバだが、

 

 

「ダ、ダメ! そんな事しちゃ、ダメ!!!」

 

 

「っ!?」

 

 

そんな、ダークキバを止める様にクロノとダークキバの間になのはが立ちふさがる。

 

 

「邪魔を『待ってください!』っ!? 今度はなんだ?」

 

 

なのはの前でザンバットソードを止めると、空中にモニターが現われ、緑色の髪の女性が映し出される。

 

 

『時空管理局提督『リンディ・ハラオウン』です。その子の母でもあります。こちらに敵意はありません。どうか…これ以上は止めてくれませんか?』

 

 

「ダメだ。」

 

 

リンディと名乗った女性の言葉をそう一言で切り捨てる。

 

 

「そんな!?」

 

 

『私達は、そちらの事は何も知らなかったんです! こちらの不手際は謝罪します! その子を殺すのだけは…止めてください! お願いします!』

 

 

「…既に判決は下した。後は判決に従って裁きを下すだけ…これに例外は無い。…有ってはならない事だ」

 

 

『そ、そんな!』

 

 

「で、でも、だからってそんな事しちゃ、ダメだと思うの!」

 

 

なのははダークキバに抱きついて必死に止めようとしている。…ダークキバ…トウヤ自身、友人であるなのはに手荒なマネをする事は出来ない為に自分を止め様としているなのはを振り払う事はできない。

 

 

「(…仕方ない…。)Ⅱ世…」

 

 

「分かっている。お前達が異世界の人間で有る事に加え、事情を知らなかったと言う事を考慮して、今は見逃そう。だが、そいつに下した判決はまだ生きている。必要以上にこの世界に居るのなら、命は保障しない。それで良いか?」

 

 

「…異存は無い。貴女と君もそれで…。」

 

 

「は、はい!」

 

 

『か、感謝します…』

 

 

暫定的な裁きの見送り。幸いにもこの場に居るのはトウヤ達だけ、人と魔の戦争に繋がる危険の有る行動を起こしてくれたクロノへの裁きは永久的に先送りにしてしまえば問題ない。…第一…此処に居るのはトウヤ達を除けば真実を話した所で不利益になる者達だけ、向こうも好き好んで、『死の判決を言い渡されました』等と言う訳が無い。

 

相手はフェイト達からの話と、向こうの言葉を信じるのなら、別の世界の公務員…今回の事件が終われば二度と会う事も無いだろうと予想できる。

 

 

 

『グルゥ…。』

 

 

 

何処からか誰にも聞こえないほど小さい獣の呻き声が響く。

 

 

「ふざけるな、犯罪者が!」

 

 

一人だけまだ抵抗する気で居るクロノだが、

 

 

『クロノ、少し黙りなさい』

 

 

「しかし、艦長…」

 

 

『クロノ・ハラオウン執務官! 命令です。少し静かに』

 

 

「………了解です」

 

 

艦長命令を出され引き下がる。

 

 

 

 

「向こうがこれ以上手を出さないなら、今は見逃す…。だから、そろそろ離れてくれないか?」

 

 

「あっ! は、はい!」

 

 

ダークキバの言葉に自分の行動を思い出し、慌ててダークキバから離れようとするなのは、

 

 

だが、

 

 

『ダァークキバァ!!!』

 

 

「っ!? 高町さん、離れて!!!」

 

 

「え? 高町さんって…」

 

 

突然の咆哮と共に襲い掛かってくる一番落ち着きの無かった男が、爪型のデバイスを起動させダークキバへと襲い掛かって来る。突然の行動からなのはを庇う為に正体を隠す演技も忘れて突き飛ばす。

 

 

「くっ! 行き成り何を!?」

 

 

ザンバットソードを盾に男の爪型デバイスを受け止めると、

 

 

「もう我慢できねぇ!!! ダークキバ!!! アニキの仇だァ!!! ウオォォォォォォォォォォォォォオン!!!」

 

 

「なに!?」

 

 

二つの咆哮が重なって響くと男の姿が異形の物へと変わる。灰色の体色、頭部には二つの狼を思わせる顔…何処かウルフェン族に似ているが、此処までの異形は13の魔族の中で唯一…一種族だけしか確認されていない。

 

 

「まさか…」

 

 

 

 

 

『あれは…獣化の希少技能レアスキル? はっ、ダイル隊長、彼は貴方の部下でしょう、早く止めてください!』

 

 

「すみません、突然だったもので。(馬鹿者が、…封印された代が兄の仇とは言え、勝てる訳の無い、闇のキバに向かっていくとは…我慢させすぎたか)」

 

 

 

 

 

「あっ…あ…」

 

 

「なんだ…あれは…」

 

 

ダークキバへの憎悪と共に感じられるのは餌を与えられなかった獣の放つ食欲からなる殺気…。近くに居る者達の中で耐性の無いなのはとユーノの二人は直接的にぶつけられるそれに恐怖を感じる。

 

 

「…その姿…貴様…まさか」

 

 

ダークキバは異形の姿になった男の体を蹴り上げ、男だった者を突き飛ばすと、なのはとの間にマントを翻しながら彼女達を守るように立つ。

 

 

そして、茶色の体とウルフェン族をイメージさせる双頭を持ち、両腕には爪型のデバイスを装備した異形の怪物へと、確信を持って言い放つ。

 

 

 

双頭の魔犬…ギリシャ神話における地獄の番人ケルベロスを兄に持つ双頭の犬、『オルトロス』の伝承の元となりし、伝説種レジェンドルガ

 

 

 

 

「…レジェンドルガ!?」

 

 

 

 

『オルトロスレジェンドルガ』

 

 

 

 

 

 



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第十一話『兄より優れた弟など存在しない…なんて言うのは、戯言だな。by.トウヤ/…まったくだ。by.キバットバットⅡ世』

「…その姿…貴様…まさか。…レジェンドルガ!?」

 

姿を変えて咆哮する男…『オルトロスレジェンドルガ』を見てダークキバは思わずそう叫んでしまう。既に封印から開放されている以上、何時かは出て来るであろうと考えていたが、これは予想外の遭遇としか言えない。

 

 

(…プレシアさんの一件から、レジェンドルガが次元世界と言う範囲で生きているとは予想できていたが…時空管理局と言う組織の中に入り込んでいると言うのは…最悪の事態としか言えないな)

 

 

最大規模の権力と武力を有した警察兼軍隊と言える巨大な公的機関の中にレジェンドルガが紛れ込んでいる。それは、次元世界…否、『管理世界』では住人達の知らぬ間にレジェンドルガ達に支配されていると言う最悪にも繋がる可能性がある。

 

 

一つの世界その物がレジェンドルガの為のライフエナジー牧場でも有り、人の悲鳴や絶望を至上の音楽として好むその性質から超巨大なコンサートホールでも有り、人を狩る為の運動場でもある。…考えれば考えるほど最悪としか言えないだろう。

 

 

…だが、冷たい言い方だがトウヤにすれば、その最悪は別に地球に被害が無い限りは別に困らない。トウヤはセイギノミカタではなく魔王キングなのだから、守るべき範囲と其処にいるべき守るべき人達だけ守れれば十分…言ってみれば、『無価値か無関係の九を切り捨て、守りたい一は命を賭して救う』、それがキングであるトウヤの考え方だ。

 

 

文献から見つけられるレジェンドルガについての手掛かりと管理局と言う組織についての情報から纏めると、そんな最悪な状況に陥っている世界が幾つも有る事に繋がってしまう危険もある。

 

トウヤの考える最悪は…地球を除く世界の全てがレジェンドルガに支配される事、他の世界の人間が逃げ場として自分の守る地球に入り込まれる事である。

 

 

それが、トウヤの考えていた最悪の中の“最悪”の事態。技術力・戦力に差がある相手がこの世界に入り込む事と、“食事”と“娯楽”を求め、レジェンドルガが地球に戻ろうとする事。

 

 

後者は考えるまでも無い。かつて、他の魔族と一部の人間達が協力して行ったレジェンドルガとの戦争が再び起こる事に繋がる。

 

…一種の魔族が一つの伝承の元になったのに対して、単独で一つの伝承の元になるほどの個々の戦闘力と凶悪さ、他の種族を仲間に変える特異な増殖性、他の種族との間にある意識の違いに至っては絶望的…。共存の為の努力の果てに多くの者が命を賭し、当代のキングが命と引き換えに消滅へと繋がる封印を施した種族との。

 

 

前者は何が起こっても不思議ではなく、中には侵略行為を行おうとする者も出るかもしれない。その時、自分が取るべき選択は…今のトウヤには何も見えてこない。

 

 

「死ねェ!!!」

 

 

「くっ!」

 

 

ダークキバはオルトロスレジェンドルガの振り下ろした爪型デバイスをザンバットソードを使って防ぐ。

 

 

ザンバットソードの刃の位置を相手に向ける様に回転させ、爪型デバイス毎オルトロスレジェンドルガを切り裂こうとするが、

 

 

「チッ!」

 

 

それよりも早くオルトロスレジェンドルガが跳んでその場から離れた事でザンバットソードの軌跡は虚しく空を切る。

 

 

「これならどうだ!!!」

 

 

そう叫ぶと同時にオルトロスレジェンドルガの周囲に無数の魔力弾が現われ、一斉にダークキバへと殺到する。

 

 

「その程度か?」

 

 

それを余裕と言った態度でザンバットソードを振り、時にはキバの紋を盾にして防ぐ事で自分へと殺到する魔力弾を捌く。

 

 

「温い攻撃だな。多数を相手にしている訳じゃない。一人を相手に攻撃は、最強の一撃、それだけ有れば…」

 

 

ゆっくりとザンバットソードの刀身を指先で撫でると、刀身が赤く染まる。そして、踏み砕くほどの踏み込みと共にオルトロスレジェンドルガへと切りかかる。

 

 

「ギャァ!!!」

 

 

「十分だ!」

 

 

バリアを張りながら後に跳んで避けようとするが、それよりも早くダークキバの振り下ろしたザンバットソードは、オルトロスレジェンドルガのバリアに何の抵抗も許さずに切り裂き、オルトロスレジェンドルガの体を浅くだが切り裂く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロノSIDE

 

 

 

「す…凄い…」

 

 

ダークキバとオルトロスレジェンドルガの戦いを見ながらクロノは呆然と呟く。

 

そして、

 

 

「…あいつ…僕には手を抜いていたのか…?」

 

 

オルトロスレジェンドルガの先ほどの攻撃はクロノにも同じ事は出来るだろうが…それでも、あそこまで簡単には出来ないだろう。そして、それを無傷で防いで見せたダークキバには自分の魔法がどれだけ通用したのか…と考えずには居られない。

 

 

オルトロスレジェンドルガに向かって振られた一閃を避ける事が…浅い切り傷程度で済んだだろうかと考えずには居られない。

 

 

「…無理だ…」

 

 

自分の立場を先ほどのオルトロスレジェンドルガに置き換えれば…結果は、避けきれずに真っ二つにされる未来しか想像出来ない。

 

 

(…バリアを切り裂いたのもあの剣のロストロギアの…あの身体能力も鎧のロストロギアの…力なのか…?)

 

 

身に着けているロストロギアの膨大な魔力で本人の魔力は推定できないが、艦からの報告ではそれだけでも最低でもSクラスの魔力を軽く凌駕しているそうだ。

 

 

(…あれはやはり僕達の…管理局の元にあるべきだ。あれがあれば…あれを管理局が自由に使えれば…)

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、答えてもらおう…。お前はオレの事を『仇』と言っていたな? 悪いがオレがレジェンドルガと戦うのはお前が初めてだ。お前は『宝玉』に封印されていた…アークと共に封印されたレジェンドルガなのか?」

 

 

「ケッ! そうだよ! あの忌々しい封印のな!!! あの戦いでアニキを殺したのも…その鎧を着ていた…ファンガイアのキングだ!!!」

 

 

(…やっぱりな…。なんだ?)

 

 

「ウォォォォォォォォォォオオオオオオ!!!」

 

 

咆哮と共にオルトロスレジェンドルガの爪型デバイスから薬莢の様な物が排出された。それを疑問に思っていると、再び魔力弾を無数に出現させる。

 

 

「なに!?」

 

 

「奴の魔力が上がっただと?」

 

 

突然の力の上昇に疑問を感じながらも、ダークキバはザンバットソードでの迎撃とキバの紋による防御にフットワークを利用した回避を加えてオルトロスレジェンドルガの攻撃を捌いていく。

 

 

「だが、防げないほどじゃないな」

 

 

最後の一つの魔力弾を握り潰しながらそう宣言する。

 

 

「テメェ!!! ヘッヘッヘッ…コイツならどうだ!?」

 

 

「…見ていなかったのか…無駄に数を揃えた所でオレには効かな…チッ!」

 

 

再び魔力弾を出現させるが、それでは先ほどの事と変わらない。そのはずだ。

 

だが、それではオルトロスレジェンドルガの顔に浮んだ笑みの意味が分からない。

 

その笑みの意味に気が付いた瞬間、なのはの元へと走る。

 

 

「ふぇ!?」

 

 

「貴様!!!」

 

 

「オラァ!!! しっかりと庇えよな!!!」

 

 

オルトロスレジェンドルガの放った魔力弾は一斉に殺到する…それも、ダークキバにではなく、なのはへと向かって。

 

 

数もスピードも二撃目のそれに匹敵する為、ザンバットソードとキバの紋だけでは防ぎきれない。

 

 

「き…きゃあ!!!」

 

 

「くっ!」

 

 

全てがダークキバへと向かっているのなら、まだ何とかなるが、その全てはなのはへと向かって行っている。全てを防ぎ切る事は出来ないので、防ぎきれない物は全てダークキバが盾となって防ぐしか無い。

 

 

一撃一撃は軽い物だが、衝撃までは完全に殺しきれない。

 

 

「これは殺傷設定に…管理局員がどうして?」

 

 

「…まったく、人間どころか、他の種族を見下しているレジェンドルガが下についているとは…どれだけ人望がある奴が上に居るんだ?」

 

 

「Ⅱ世、こんな時に面白くない冗談は止めてくれ」

 

 

ダークキバはキバットバットⅡ世の言葉にそんな言葉を返す。

 

レジェンドルガは時空管理局と言う組織を利用して何かを企んでいる。レジェンドルガの能力を考えれば、既に多くの人間の知らない内に、完全に上層部はレジェンドルガに支配されている可能性さえもあるのだ。

 

 

なのはへの攻撃を防ぐ為に盾となっている状況ではウェイクアップフエッスルは使えない。

 

 

「さっきは最強の一撃で十分とか言ってたよなぁ? …だったら、この手で殺してやる!!! 死ねぇ!!!」

 

 

両腕の爪型デバイスから薬莢が飛び出し、両腕の爪から魔力で構成された刃が伸び、一直線にダークキバへと向かう。

 

 

「ウェイクアップ1!」

 

 

最後の魔力弾をザンバットソードを投げる事で迎撃すると、僅かに魔力弾での攻撃が止んだ瞬間を逃さずにキバットバットⅡ世にウェイクアップフエッスルを吹かせる。

 

 

自身へと向かってくるオルトロスレジェンドルガの両腕の爪に有る十の魔力刃を掻い潜り、オルトロスレジェンドルガの体に必殺のストレートパンチ、ダークネスヘルクラッシュを打ち込む。

 

 

「ガァァァァァァァァァアア!!!」

 

 

ダークネスヘルクラッシュの直撃により、全身に皹が入るが、それでもまだ倒す事には至っていない。全身に皹が入りながらも、オルトロスレジェンドルガは爪型デバイスから伸びる十本の魔力刃をダークキバへと振り下ろす。

 

 

「くっ!」

 

 

とっさに左手を盾にして防ぐとダークネスヘルクラッシュを打ち込んだ部分を蹴り、距離を取ると地面に突き刺したザンバットソードを回収する。

 

 

「二度のウェイクアップか、無茶をする」

 

 

「ファンガイア族の…魔族を統べる王として…レジェンドルガ…貴様に王の判決を言い渡す」

 

 

「ウェイクアップ!!!」

 

 

鳴り響く二度目のウェイクアップの音色、鳴り響くのはザンバットソードの鍔から出現させた金色のフエッスルの音色、

 

 

「『死だ!!!』」

 

 

『ファイナル、ザンバット!!! 斬!!!』

 

 

「ガァァァァァァァァァァァァアアアア!!!」

 

 

ダークキバとキバットバットⅡ世の裁きの声が重なり、ザンバットソードの斬撃がオルトロスレジェンドルガを切り裂き、憎悪の篭った視線を最後の瞬間までダークキバに向けながら爆散し、砕け散る。

 

 

「ハァ…ハァ…。」

 

 

『必殺技』はその文字の如く“必”ず相手を“殺”す“技”。だが、それ程の破壊力を持った技を使った使用者への反動は当然だが有る。

 

ファンガイア族に伝わる“三つ”のキバの鎧、その中でも黄金のキバの鎧と対となり、力を制限されていない最強の闇のキバの鎧。それの持つ三つの必殺技の内の一つと、ザンバットソードの持つ必殺技。そんな技を短時間で二度も…大人ならば兎も角、幾ら才能が有るとは言え小学生と言う年齢の体で使ったのだから、トウヤ自身へのダメージは…。

 

 

「ぐ…。」

 

 

「トウヤ!!!」

 

 

装着者の限界を感じ取り、これ以上のダークキバへの変身は危険と判断したキバットバットⅡ世は、慌ててダークキバより離脱する事で変身を解除する。それと同時に限界を迎えていたトウヤの体がゆっくりと崩れ落ちる。

 

 

「ふぇ!? トウヤ君!?」

 

 

「彼は、あの時の!?」

 

 

変身が解除されたトウヤの姿を見てなのはとユーノの二人は驚愕を露にする。なのはは倒れたトウヤに駆け寄る。

 

 

 

『クロノ、ダイル隊長、彼をアースラに!』

 

 

 

「は、はい!」

 

 

「了解しました」

 

 

今までダークキバとオルトロスレジェンドルガの戦いを魅入っていたクロノと、敢えて手を出さなかったダイルが倒れたトウヤへと彼に駆け寄っているなのはとキバットバットⅡ世に近づいていく。

 

 

 

『悪いが、ちょっと待って貰おうか?』

 

 

 

「ふぇ?」

 

 

「お前は…」

 

 

そんな時に響く第三者の声。

 

 

現われるのは白いチェスピースのキングを思わせる一人の騎士。

 

 

「ここには結界が張られていたはずなのに…」

 

 

「おぉ~、あの結界はそこの少年が張ったのか? お蔭でここに入るのには結構苦労したぞ」

 

 

白い騎士はなのはの肩に乗るユーノに向き直り、感心した様にそう告げる。

 

 

『貴方は何者ですか?』

 

 

「おお、美しいお嬢さん、オレが何者かって聞かれたら、こう答えるしかないだろうな。こいつの父親だ。」

 

 

倒れるトウヤ達に近づきながら映像の中に映るリンディへとそう告げ、白い騎士『仮面ライダーサガ』…トウヤの父にして先代のキング…『オトヤ・F・クリムゾン』は、クロノとダイルへと向き直る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十二話『トラブルはトラブルを呼ぶ…な。by.トウヤ/二度目だな、その台詞は。by.キバットバットⅡ世』

「ここは…? キャッスルドランの自室…なのか…?」

 

トウヤはゆっくりと瞼を開けて体を起こすと周囲を見回す。二度のウェイクアップの反動は思った以上にトウヤの体に負担が有ったのだろう…強制的に変身解除させられた事だけは覚えているが…。

 

 

「おお、目を覚ました様だな~」

 

 

「何時帰ってきたんだ…父さん…」

 

 

部屋の中にいる人物達の中の一人の声に対してトウヤは絶対零度の響きを持って答える。

 

 

トウヤ自身父親の偉大さを知っては居るのだが、どうしても、性格的に素直に尊敬できない相手だ。…トウヤ自身シリアスが長続きしない性格とは言え…。

 

 

…それでも、互いを十分に信頼している為にこの二人の親子の仲は悪くない。

 

 

ビショップ曰く、『似て無い様で似ている親子』らしい。

 

 

「久しぶりに会う父親に対してそんな言葉を…父さんは悲しいぞ~」

 

 

「…少なくとも…何年も子供を放っておいて家を空けているんだ…。この程度で許しているんだから感謝しろ」

 

 

「む~…トウヤ君、久しぶりに会ったお父さんにそう言う態度は良くないの!」

 

 

「お父さん、お帰りなさい。久しぶりに会えて嬉しいよ」

 

 

一緒に部屋に居たなのはの抗議に従って棒読み気味でそんな対応を返すトウヤだった。

 

 

「あー…そんな、棒読みで感情の篭ってない態度より、オレとしては今までの態度の方が良いと思うぞ、トウヤ」

 

 

「…言っといてなんだが、オレもそう思った。…まあ、それは兎も角…お帰り、父さん。それと、高町さん、怪我が無い様でなによりだね」

 

 

今までの冷たい口調は嘘の様に消え去り、気安い笑顔を浮かべながらトウヤはそう前半の言葉をオトヤへと、後半の言葉をなのはへと告げる。

 

 

「そう言うお前は随分と無茶をしたな。ダメージではなく、技の反動で変身解除など…そうそう有る事じゃないぞ」

 

 

そう言ってトウヤの肩に降りるのはキバットバットⅡ世。

 

 

「まったくだ。お前に王位を譲ったオレが言える立場じゃないが…才能は兎も角、その体は未熟な子供なんだ。無茶をしたら必ず取り返しのつかない事になる」

 

 

「…ごめんなさい…。だけど、あの時は…無茶をするしかなかったんだ…」

 

 

「それでもだ。大体お前は自分の事を粗末に扱い過ぎる」

 

 

「まあ、その無茶で女の子を庇っていた所は良くやったと言えるがな」

 

 

説教に対して素直に謝るトウヤを褒めながら頭を撫でるオトヤ。

 

 

「…えっと…。それで、父さんはどうしてこっちに…? 海外の方はまだ…」

 

 

「それでも、ビショップからの報告だと、お前一人だと無茶をしそうだったからな。暫くはお前の仕事を代行する為に帰って来たと言う訳だ」

 

 

オトヤの言葉に申し訳なさで一杯になる。

 

王族が直接統治している日本に比べて海外では魔族と人間の間にある溝は大きい。それを解決する為に小学生と言う年齢だが才能有るトウヤに王位を譲り、トウヤの補佐をキバットバットⅡ世にオトヤは任せて旅立った。

 

本来なら、まだ世界中を飛び回っているはずなのに、今回の事件が原因でオトヤは予定を切り上げて帰るしかなかったのだ。

 

 

「そう言う訳だ。トウヤ、お前は暫くの間事件解決に専念しろ。どうせ、止めても無駄なんだろうからな」

 

 

「…はい…」

 

 

「それじゃあ、お前も目を覚ました事だ。後で詳しい話を聞かせて貰おうか? …奴等レジェンドルガの影を掴んだって言う話はオレも気になる事だしな」

 

 

「ええ。その事について…ビショップやルーク、次狼さん達にも聞いておいて貰うべき事が新たに判明しました」

 

 

「っ!? なるほどな、お前がそう言うなら相当重要な事なんだろうな」

 

 

オトヤはそう言って頷くと、『集めておくから、彼女と話してから来い』となのはを指差しながら言ってトウヤの部屋を後にするオトヤ。

 

 

「そうそう、そこの少年も…そろそろ元の姿に戻った方が良いんじゃないのか?」

 

 

出て行く寸前になのはの肩に居たフェレット…ユーノだけに聞こえる様にそう言って立ち去っていく。

 

 

「…あー…出来れば、オレとしては高町さんには此処から先には関わって貰いたく無いんだけど…」

 

 

彼女とは(トウヤの持っている感覚で)それ程親しい訳ではないが、それでも『高町なのは』と言う少女の性格はある程度理解している。だからこそ返って来る返事は…

 

 

「いや!」

 

 

彼の予想通り『NO』だった。

 

 

「…はぁ…そう言うと思ってはいたけど…」

 

 

「…事態を考えるとかなり危険と言う訳か…テスタロッサ嬢もそうだが」

 

 

思わず溜息が重なってしまうトウヤとキバットバットⅡ世。タダでさえ、自分を倒す為の兵器としてジュエルシードを狙っているファンガイア族の過激派に加えて、姿を現した伝説にのみ語られながら、その力と存在は確かなものとされている最強種レジェンドルガ。

 

 

「高町さんは…フェイトさんに…何をしたい…?」

 

 

殺気こそ込めていないが、鋭さを増した視線をなのはへと向ける。飽く迄トウヤが聞きたいのは純粋になのはの言葉での答え。故に彼女の肩に乗っているユーノには『黙っていくれ』と言う視線を向けている。

 

 

「私は…お話をしたい…」

 

 

「…何を話すんだ…? 高町さん…君は…彼女と話してどうしたい?」

 

 

「…私はフェイトちゃんと…友達になりたいの!」

 

 

彼女から返って来た返事も予想通りの物だった。

 

 

「友達になる方法は魔法と言う事に関わるだけが方法じゃない…。これ以上此方側に関わらない事を約束するなら…オレから高町さんと話す様に頼んでも良い」

 

 

「でも!」

 

 

「これ以上関わり続けると…君が思っている以上に…いや、確実に君が考えているものよりも遥かに危険だ」

 

 

「でも、トウヤ君。私は…どうしてフェイトちゃんがあんなに悲しそうな目をしているのか、どうしてジャエルシードを集めているのか知りたいの! だから…」

 

 

「仕方ないか…」

 

 

其処まで彼女の言葉を聞き、トウヤはベッドから降りると服装を確認する。ダークキバに変身している時に来ていた物に間違いない。

 

 

そして、次に時計を確認すると、時間は既に六時を過ぎている。…流石にトウヤと同じ歳の女の子が家に帰らないのは拙い時間帯だろう…。

 

 

「はぁ…。高町さん、家に連絡をして今日は此処に止まっていくと良い。話は長くなりそうだし、これからも『魔法』と言う物に関わるなら、此処から先の話を聞いておいた方が良い。そっちのフェレットはジュエルシードの事は詳しいんだろう?」

 

 

「は、はい」

 

 

「あっ、家にはトウヤ君のお父さんが連絡してくれたから、大丈夫なの」

 

 

「…………」(父さん…さすがに、手際が良すぎるだろう?)

 

 

なのはの言葉に思わずそんな事を思ってしまう。

 

 

「それと…先に教えておくけど、オレは彼女がどうしてジュエルシードを集めているのか、知っている」

 

 

「だったら、それを「悪いけど、オレは教えられない…。」どうして教えてくれないの?」

 

 

「友達になりたいなら、彼女の口から直接聞く方が良いし、オレから聞いた所で“オレが裏切った”事にはなっても、“君が友達になった”訳じゃない」

 

 

だからこそ、トウヤがそれを知っていると言う事を教えた事が彼女をトウヤが信用しているから教えた結果だ。

 

 

そして、トウヤが彼女に着いて来いと促して部屋を出て行く。そんなトウヤを追いかけてなのはが部屋を出ようとした時、机の上に置かれていた『シャイニング』のメモリが彼女の元に行こうとする様に床に落ちた。

 

 

彼女達…なのはとユーノはそれに気付かずに部屋を出て行く。それを悲しむ様にシャイニングのメモリは輝いた。

 

 

 

 

 

 

キャッスルドランの中の大会議室…

 

 

円卓を囲む様に一番奥にある豪華な装飾が施されたイスが一つ有り、その隣に誰も座っていないイスが二つほど置かれている。そして、奥に置かれたイスの隣にオトヤが座している。その奥にビショップとルーク、次狼、ラモン、力と言ったファンガイア族の重鎮二人と各種族の代表三人が座している。

 

 

トウヤはゆっくりと奥に置かれた豪華な装飾が施されたイスに座ると…。

 

 

「…父さん…オレの隣の席が高町さんなのは予想できるけど…何故間に二つも?」

 

 

奴等レジェンドルガの事を話す以上は自分達ファンガイアの事を話す必要が有るのは理解しているが、それほど離す必要があるのも当然なのかと思わず考えてしまう。

 

 

「それじゃあ高町さん、改めて自己紹介させて貰う。オレの本名はトウヤ・F・クリムゾン。そこに居る父さんから王位を受け継いだ…闇の一族…魔族の王だ。」

 

 

「ふぇ? ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

なのはとユーノが驚くのも無理も無いだろう。…なのはにしてみれば、行き成りクラスメイトが『王様』だと言われたら流石に驚くしかない。

 

 

「あー…驚くのも無理も無いけど、取り合えず説明だけはさせてもらえるかな?」

 

 

「う、うん。」

 

 

簡単にトウヤ達の一族の事を説明する。…流石に吸血鬼ならぬ『吸命鬼』と言う部分の説明の時は本気で怯えられたが…。

 

 

そして、管理局員として存在していた男が封印されていたはずの種族、レジェンドルガで有ったと言う事も…。

 

 

「ま、まあ、怖かったら今からでも家に送るけど…。」

 

 

トウヤの言葉になのはは慌てて首を横に振る。少なくとも、それほど怖がられては居ないのには安心したが…。

 

 

「そうか、それは良かった。それじゃあ、お嬢さんはトウヤの隣に座ってくれ。知っている相手の隣の方が安心できるだろう? それと…そっちの少年はそろそろ“元の姿”に戻ってくれないか?」

 

 

「何時から気付いていたんですか?」

 

 

「…まあ、こう見えても先代のキングなんでな、その程度の事は出来ないとな。少年の生命力のそれは人間のそれに近かったからな」

 

 

「それじゃあ……」

 

 

ユーノとオトヤの会話に『?』マークを浮かべるトウヤとなのはの二人。そして、ユーノが人間の姿になった。…オトヤとの会話が正しければそれが本来の姿なのだろう。

 

 

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

「な、なのは!?」

 

 

「た、高町さん…知らなかったのか…?」

 

 

そう呟いた後、ふとユーノへと視線を向ける。

 

 

「…聞きたい事が有るが…その前に温泉の一件の時には居ない物と思ってそっちの事情も聞かずに好き勝手言ってしまってすまなかった」

 

 

そう言って頭を下げた。

 

 

「え!? そ、それは…ぼくも言われても仕方ない事だと思っているし…」

 

 

「…そうか…。それと…こっちは聞きたいことだけど…ユーノ…だったか? フェレットの姿の時…もしかして…高町さんの部屋で…」

 

 

「う、うん」

 

 

「…同じ事が二度もあっても困るだろうけど…参考までに聞いておいてくれ…。真っ先にそう言う場合の協力者が女性だった時には自分が人間だと話した方が良い」

 

 

「え、えーと…」

 

 

「今のオレ達の年齢なら問題も有るだろうけど…流石に同じ歳の女の子の部屋に居たというのは…一歩間違えれば変態扱いされる危険がある」

 

 

「う、うん」

 

 

淡々と告げられるトウヤの忠告に思わず頷いてしまう。

 

 

付け加えると、何を思い出しているのか激しく疑問だが…顔を真っ赤にしているなのはが絶叫している。

 

 

 

さて、会議が開始されたのはなのはが落ち着いてからだった。空席が多い為に着席する者が居ないイスは片付けられた円卓にトウヤを上座にして座る一堂。

 

 

先ずはなのはが『魔法少女』になる切欠となった事故についてユーノから説明がされた。

 

 

「なるほど、あれが撒かれたのにはそんな事情が有ったのか」

 

 

「はい…それで僕が回収しようと」

 

 

「行動は立派だが、無謀だな、少年」

 

 

「ですが、彼が動いてくれなければ、被害は間違いなく大きくなっていたはずです」

 

 

ユーノの言葉に向けたオトヤの感想にビショップがフォローする。

 

 

「そうだね。彼が動いてくれなかったら、キングも苦労した筈だよ」

 

 

「そ、う」

 

 

続いてビショップの言葉に賛同するのはラモンと力の二人。

 

 

「だが、結果的にそいつは一つを封印するだけで力を使い果たした。運が悪ければ、そこで命を落としていたかもしれない。自分の限界ちからを正しく評価できるのも大事だぞ」

 

 

「だが、中々見所があるな」

 

 

感心しながらもユーノの無茶を嗜める次狼と、感心するルークの二人。この場に居る中でトップクラスの戦士と言える二人からはユーノは中々気に入られている様子だ。

 

 

「所で、時空管理局…レジェンドルガが入り込んでいると思われる組織は…?」

 

 

「それなら、三日後に改めて話し合いをする事になった。そう言う訳だ、オレも付き合うぞ」

 

 

ふと気になった自分が倒れた後の事を聞くとオトヤはそう答える。なのは達に確認の為に視線を向けると、『そうだ』と肯定してくれる。

 

 

「まあ、向こうとの話は良いとして…フェイトさんの事は…」

 

 

「彼女は我々の恩人です。キングに牙を向けた者達の所に等、しかも、レジェンドルガの近くになど渡す訳には行きません」

 

 

そう言ってくれるのはビショップ…。プレシアの行動次第だが、これでフェイト達を自分達の下で保護することは出来る。

 

 

「あとは…レジェンドルガか…」

 

 

「まさか、時空管理局の中にそんな奴等が入り込んでいたなんて…」

 

 

「…能力から考えてネズミ算式に組織を乗っ取れるからな…。クロノとか言った執務官とか言う役職の奴の反応から考えて、まだ完全に全員がレジェンドルガと言う訳じゃ無さそうだ」

 

 

「ですが、それも時間の問題でしょう。一歩間違えれば…我々の世界の外は既にレジェンドルガに影ながら支配されていても不思議ではありません」

 

 

「そんな!」

 

 

思わずビショップの言葉に反応するのは次元世界出身のユーノだった。自分の部族の仲間達がそんな危険な状況にあるのだから、その反応も当然の事だろう。

 

 

「可能性としては有りえるな…」

 

 

「ですが、まだ表向きは正常に組織が動いている様にしているのでしょう…。奴等としては次元世界と言う外の世界は…トウヤ様やオトヤ様の様な天敵ライダーの居ない新天地フロンティアと言えるでしょうから」

 

 

「開拓の為の人材が何も知らない局員と言う訳か…」

 

 

「優秀な人材は正に良い『働き蟻』と言った所でしょうね。文字通り…自分達の開拓した土地を管理する為の」

 

 

「やれやれ、封印されている間に奴等も知恵を付けたかもしれないって言う訳か?」

 

 

「厄介な話だな。あー…高町さん、着いて来れてる?」

 

 

「う、うん」

 

 

一人話しに参加できていないなのはに休憩も兼ねてトウヤは簡単に説明する。ある程度なのはに理解をしてもらった所で再び会議は再開される。

 

 

 

 

 

 

 

 

会議終了後…

 

 

「トウヤ様、高町様、スクライア様、お食事をご用意いたしました」

 

 

「「うわぁー」」

 

 

トウヤに案内されて食堂に通されると並べられた豪華な料理に思わず歓声を上げる。

 

 

「今日は珍しく豪華だな」

 

 

「お客様を歓迎する意味を込めて用意させていただきました。それでは、ごゆっくり」

 

 

そう言って食堂を出るビショップを見送って夕食を食べ始めるトウヤ達だったが…。

 

 

「えっと…トウヤ君…?」

 

 

「どうしたの、高町さん?」

 

 

「何でデザートから食べ始めてるの?」

 

 

「…フルーツのサラダだから問題ないよ…」

 

 

「でも…真っ先にイチゴから食べ始めるのは…」

 

 

「好きなだけだ。イチゴの味が…数少ない母さんとの思い出だからな」

 

 

「トウヤ君…」

 

 

ファンガイア族のキング…トウヤ・F・クリムゾン…。

 

 

「…母さんが生きていた頃…作ってくれたイチゴミルクの味がな…」

 

 

僅かに残る二度目の人生での母の面影を…。一度目の人生の中で見えなかったそれを…。

 

 

「そうなんだ。ごめんね…」

 

 

「謝る必要は無いよ、高町さん」

 

 

微かな記憶の中から見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十三話『交渉開始とラストミッションへの道! by.トウヤ/ああ、光栄に思え。 by.キバットバットⅡ世』

王(キング)の立場と言うのはリスクも有るが同時に便利でもある。

 

結界の一つも張ればいいのだろうが、念の為にトウヤのキングの権力を最大限に利用して人払いもしている。

 

 

公園を選んだのはレジェンドルガの存在を考えて戦闘になった時の事を考えての事だ。冷静な者が一人でも居れば、サガであるオトヤとダークキバであるトウヤの二人に対して態々仕掛けてくるとは思えないが。

 

 

トウヤが時計で時間を確認するともう直約束の時間だ。そんな事を考えていると転送魔法によって三人の人物が現われる。翠色の髪の女性『リンディ・ハラオウン』と、クロノ・ハラオウンともう一人の女性が現われた。だが、その中にダイルの姿は無い。

 

 

「初めまして、時空管理局提督、アースラ艦長の『リンディ・ハラオウン』です」

 

 

「通信担当の『エイミィ・リミエッタ』です」

 

 

「…クロノ・ハラオウンだ」

 

 

そう挨拶する三人。

 

 

「この地に存在する魔族の王…トウヤ・F・クリムゾンだ」

 

 

「オレはこいつの父親で先代の王、オトヤ・F・クリムゾンだ」

 

 

トウヤとオトヤの二人が名乗るとキバットバットⅡ世がゆっくりとトウヤの肩に降りる。

 

 

「それでこっちはオレの相棒の…」

 

 

「オレはキバットバットⅡ世。今はトウヤに使える立場にある魔族の一派、キバット族の名門・キバットバット家の二代目頭首だ」

 

 

トウヤの言葉に促されてキバットバットⅡ世はそう自己紹介する。キバットバットⅡ世の事を見せたのは、態と自分達の存在を明らかにした上でその証拠を見せて相手の反応を見る事に有るが、相手の反応から考えると…

 

 

(…オレ達魔族の事は本当に知らなかった様子だな…)

 

 

推測でしかないが、相手側の反応から推測してそう考える。

 

 

「それでこっちは…」

 

 

「わ、私は高町なのはです!」

 

 

「ぼくは、ユーノ・スクライアです」

 

 

「彼が今回この町にばら撒かれた石…ジュエルシードの持ち主で、彼女はその現地での協力者だ」

 

 

そう言って、トウヤが隣に立っているなのはと人間の姿のユーノを紹介すると、二人が名乗る。

 

 

「まず初めに、此方の非礼については深く謝罪します。ですから、息子への判決は…取り消して頂けませんか」

 

 

「………………。すみませんでした……」

 

 

リンディに促されてクロノは頭を下げる。特に彼女達にしてみれば、先日はトウヤ自身が不問にした所で、ダイルの部下になっているオルトロスレジェンドルガの暴走で折角の交渉の結果が無駄になったと考えるべきだ。

 

 

先日のオルトロスレジェンドルガとダークキバの戦いを目撃した結果だろう。トウヤの力を目の当たりにしている上に、それと同等以上の力を持っているであろう彼の父のオトヤの存在、何より今まで時空管理局でも確認できなかった未知の魔法技術を有する者達の存在を知ってしまった。

 

その魔族の王の下した判決の意味を先日オトヤの口から説明されている以上、下手に判決が下されたまま、保留にされたままでは、地球に居る限りは少なくともクロノの命はトウヤの気紛れ次第で奪われる事になる。

 

ジュエルシードの探索と言う組織の仕事の下で、地球で活動しなければならない以上、トウヤと遭遇する危険が有り、判決を下されたままではクロは危険で探索など出来ない。

 

 

「条件次第だ」

 

 

「…ありがとうございます…」

 

 

条件こそ言われていないが、少なくとも交渉の余地がある事に安堵する。

 

 

「ですが…彼等は局員を殺害「…随分と懐が広い組織なんだな。奴はレジェンドルガ族、オレ達魔族の一派だ。」レジェンドルガ?」

 

 

「あの、彼は管理世界の出身ですよ、それは何かの間違いでは?」

 

 

トウヤの言葉にクロノとリンディの二人が反応する。

 

 

「いや、あの姿、そして、あの魔力は間違いなくレジェンドルガ族だ。…何より、奴はトウヤの事を、ダークキバの事を知った上で、兄の仇と言っていた」

 

 

「情報を誤魔化す方法は幾らでもあるな。奴等レジェンドルガの能力を考えればそれも簡単だ」

 

 

キバットバットⅡ世とオトヤのリンディ達は言葉に黙り込む。自分達の調査に間違いは無いと言いたいが、それでも、ファンガイア族を初めとする魔族の存在を知らなかった事で何も言えなくなったのだろう。

 

 

「まあ、条件についての交渉は後にして、重要事項は他にあるはずだろ? 少なくとも、この話し合いの場では、そちらが手を出さない限りはクロノ・ハラオウンへの判決は凍結する事を、キングの称号に誓って約束しよう」

 

 

そう、トウヤとしては飽く迄教える為に告げたクロノへの判決についてはどうでも良い事だ。寧ろ、優先すべき事はこっちだ。

 

 

「はい、私達は…」

 

 

そう話を切り出してリンディはトウヤ達に時空管理局、ロストロギアについて説明していく。前もってユーノから話を聞いていた事から嘘は無い事は分かる。

 

 

そして、話し合いの場にたったユーノは今回の事件、ジュエルシードの一件についての経緯を話す。

 

 

「それで、ぼくが回収しようと…」

 

 

「立派ね」

 

 

「だが、同時に無謀でもある」

 

 

リンディがユーノの行動を褒め、それにクロノが付け加える形で口を挟む。

 

 

オトヤはそんなトウヤ達の話を黙って聞いていた。飽く迄今回の事件はトウヤが主体となって解決するべきとなっているので、オトヤはサポートに廻る事に決まっている。

 

 

「無謀である事は同意できる。だが、結果的にユーノの行動で此方の被害は抑えられた。自分達の行動の遅さを反省すれば、そっちは感謝するべき立場じゃないのか?」

 

 

「こっちは他の事件を「人手不足を言い訳にするな。お前達にとっては幾つも有る仕事の中の一つなんだろうが、こっちの立場にしてみれば、確実な被害が出る所だった。どんな理由があれ、警察組織がして良い事じゃないだろう? 寧ろ、他の事件で疎かになった等恥ずべき事だ。遅れた事を謝罪したとしてもな」…くっ」

 

 

トウヤの言葉に切り捨てられ、クロノは思わず唇を噛む。そして、一呼吸置くと、

 

 

「だが、つい数日前にジュエルシードによって発生した次元震が確認されている。これ以上素人の手には任せては置けない」

 

 

「…それについては同意しておこう」

 

 

「そうね、クロノの言う通りだわ。これより、ロストロギア『ジュエルシード』の回収については時空管理局が全権を持ちます」

 

 

取り方によっては命令にも取れる発言にトウヤ、なのは、ユーノの三人はそれぞれ違った反応を見せる。なのはは戸惑い、ユーノは申し訳なさ、トウヤは…

 

 

「これは次元干渉に関わる事件だ。一般市民が介入して良いレベルじゃない。キミ達は今回の事は忘れて、それぞれの世界に戻って元道りの生活に戻ると良い」

 

 

「待って「ストップ」」

 

 

食い下がろうとするなのはの口を塞ぐ形でトウヤがそれを留める。

 

 

「確かにそちらの言う通りだ。オレ達は元の生活に戻るとしよう」

 

 

「でも、彼女は急に言われても気持ちの整理も出来ないみたいよ? 一度家に帰って、今晩ゆっくり話し合うといいわ。この事はその上で、改めてお話しましょう」

 

 

リンディの言葉にトウヤは冷たい笑みを浮かべる。

 

 

「いや、その必要は無い。折角心配してくれているんだ、貴女の心遣いを無には出来ない」

 

 

そう言ってトウヤはリンディ達に背中を向けて、

 

 

「これまで通り、オレは『魔族に対して危険な代物である魔石の回収』と、『王の仕事』を続けさせてもらおう」

 

 

そう告げる。オトヤやキバットバットⅡ世のように事情に通じている者達は『なるほど』と言う表情を浮かべているが、なのは達には事情が分かっていない様子だ。

 

 

簡単な話だ。トウヤにとって元の生活の中にはそれを含まれている。

 

 

「魔石は下手に拾った者が出ると危険な上に、王に反逆する者達にはこの上ない兵器だ。…当然、仕事の一環として回収しなければならないな。高町さん、それからユーノ…魔石『ジュエルシード』の封印を手伝ってもらえないか?」

 

 

「ふぇ?」

 

 

「ええ!?」

 

 

「キミは…話を聞いてなかったのか!?」

 

 

なのは、ユーノ、クロノの順番に反応を見せる。

 

 

「それはこっちの台詞だ。王の役割を果たす過程でジュエルシードの処理をしなければならない。その協力者として…“地球”の“魔族の王キング”として、魔族の存在を知っている彼女達に協力を要請しただけだ」

 

 

「ジュエルシードは時空管理局が回収すると…」

 

 

「ああ、手に入れた物は近くに居るようならそちらに渡す。数が集まったら、連絡するから取りに来てくれ。執務官以外に」

 

 

そう言った後、トウヤはなのはへと向き直る。

 

 

「そう言う訳で高町さん、オレはフェイトさんと協力関係にある。少なくとも…敵対せずに話をする事は出来るけど…高町さんもオレに協力してくれないかな?」

 

 

「え? わ、私は…」

 

 

「いや、返事は直じゃなくて良い。寧ろ、今すぐの返事はやめてもらいたい」

 

 

「ど、どうして!?」

 

 

「危険な事に巻き込む以上はご家族に相談して、お願いしないと。だから、高町さんの返事を聞くのは、士郎さん達に話してからだよ」

 

 

「うん」

 

 

少しだけなのはの表情が暗くなったのは気になるが、それでも、トウヤとしてはこれだけは譲れない。

 

 

「そう言う訳だ。高町さんの返事にもよるけど、少なくとも、オレは協力はしない」

 

 

「そ、それじゃあ、あの子はどうするの?」

 

 

「既にオレは彼女と協力関係にある。それに…彼女がそちらの世界の住人なら、行動も変わるだろう」

 

 

言外に『もうキャッスルドランには来ないだろう』と言う意思を込めて呟く。なら、現場で接触するしかないし、次の探索場所は管理局が現われる前に伝えてあるので、可能性の高い所にこっちから向かえばそれでフェイトとの接触はどうにでもなる。

 

 

「そう…ならこの話はここまでにはます。ユーノ君、貴方はどうするの?」

 

 

「ジュエルシードが回収し終わるまで、なのは達と一緒に行動してます」

 

 

「そう…終わったら、連絡するわね」

 

 

「此方も、終わり次第ユーノを通じて連絡します」

 

 

それで交渉は終わりと話を切りやめようとした時、

 

 

「待って頂戴。トウヤ君、貴方にはもう一つ聞きたい事が有るわ」

 

 

「聞きたい事?」

 

 

「貴方の所有するロストロギアについてよ」

 

 

リンディの言葉に思わず顔をしかめてしまう。

 

 

「…闇のキバの鎧とザンバットソードの事か?」

 

 

「ロストロギアは所持しているだけで罪になる」

 

 

「だから、鎧と剣を渡せと?」

 

 

「そうだ!」

 

 

クロノの言葉に思わず溜息を吐く。

 

 

「…では聞こうか…? 何故、お前達はレジェンドルガと同じ組織に居る?」

 

 

「何を…」

 

 

「レジェンドルガと言う脅威を有するお前達に、レジェンドルガに対する最大の対抗手段でもある一族の至宝を渡す訳が無いだろう」

 

 

冷たい目でクロノ達を見据えながらも、殺気はクロノ達だけに向けて、器用にもなのはとユーノ…主になのはには感じさせずに向け続けている。付け加えるならば、しっかりとオトヤが彼女達とトウヤの間に立ってトウヤの殺気を防いでいる。

 

 

「もし、闇のキバの鎧を奪おうと言うのなら…オレを含む…レジェンドルガを除く13の魔族全てを敵に廻すと言う事を覚えておけ」

 

 

殺気にこそ圧倒されているが、何処か余裕の表情が見える。魔族には次元世界に向かう方法は無いのだと。

 

 

「…ところで…忠告も兼ねて一つ良い事を教えておこう。レジェンドルガは他の種族を同族に変える事が出来る。それが、自ら『最強種』を名乗っている奴等を、他の種族がそれを認めて脅威としている由縁だ」

 

 

「それが…」

 

 

「例外は無い。人間も他の種族の中に含まれる。…さて…お前達の組織の中に…人間と断言できる奴がどれだけ残っているかな?」

 

 

トウヤの言葉を聞きリンディ達の顔が真っ青になった。理解してしまったのだろう…内部にレジェンドルガが居た自分達の艦がどれだけ危険なのかを。

 

 

「それでは…失礼する。行こうか、高町さん」

 

 

「う、うん」

 

 

トウヤはなのはを促して立ち去っていく。後に残されたリンディ達管理局勢は…

 

 

「か、艦長…」

 

 

話を聞いていたエイミィが震えながら口を開く。

 

 

「ええ…分かっているわ…」

 

 

どうすれば安心できるのか、トウヤからは何も聞いていない。寧ろ、トウヤから聞かされた事実は不安だけが煽られてしまう。間違いなく、其処まで計算した上でそう伝えたのだろう。リンディ達にとって今から戻る艦は既に人間が自分達だけかも知れないと言う恐怖心を隠すことは出来ない。だが、艦を預かる者の責任から彼女に戻らないという選択は出来ないのだ。

 

 

「…やっぱり…奴等は危険だ」

 

 

一人立ち去って言ったトウヤの背中を姿が見えなくなっても睨み続けているクロノはそう呟く。

 

 

「…トウヤ・F・クリムゾン…」

 

 

そして、唇を噛みながらトウヤの名を呼ぶクロノの声に込められた意志は…憎悪の感情。

 

 

 

 

 

様々な思惑を持って、第一の物語は終幕へと収束していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十四話『ファーストステージ、ラストに突入! by.トウヤ/長い様で短かったな。by.キバットバットⅡ世』

???SIDE

 

 

「先ずはこんな所か?」

 

 

ダイルは自分の前に立つ局員達を一瞥しつつそんな事を呟く。丁度そこに集まっているのはアースラの中でのクロノを除く戦闘を担当する武装局員達だ。何処か彼等の目には正気の色が無く、操られていると言う印象が与えられる。

 

ダイルを除けば最強戦力で有るのはクロノだろうが、アースラに居る全ての武装局員を相手にして勝ち目があるかと問われれば不可能と答える以外は無いだろう。

 

 

(私に与えられた役目はこの艦の人間達の同族化…。だが…)

 

 

簡単な任務だ。ただこの世界、レジェンドルガ達にとっての故郷である地球から離れるまで何もしなければ良いのだから。だが、

 

 

(既にファンガイア族に我々レジェンドルガの復活が伝わってしまった。取り返しの着かない失敗だ)

 

 

無言のままデバイスを起動させると、それは何処かザンバットソードに似たデザインの剣型のデバイスがダイルの手の中に現われる。

 

 

「我等レジェンドルガが偉大なる君主ロードアーク。憎き怨敵…ファンガイア族の王キングダークキバの首、我が失敗の償いとして、何より貴方への忠義の証として、供物として見せましょう」

 

 

剣型デバイスを構えながらダイルはそう宣言し、レジェンドルガとしてのその姿を曝す。

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、管理局との接触後から数日、更に付け加えて言えばなのはの家族に魔法の事を話してから数日後と言った所だろうか。

 

 

あれから幸か不幸か、ジュエルシードの発動も無く、キャッスルドランにフェイト達が現われる様子も無い。

 

 

「これだけ探してもまだ六つも見つかってないなんて…」

 

 

「既にこの町の全体を探し終えた…はずだよな?」

 

 

そんな言葉をフェレット状態のユーノとトウヤが零す。

 

 

なのは達との情報交換で彼女達が見つけた数と場所をジュエルシード捜索の為に用意した海鳴市の地図に書き込んでいくと、残りのジュエルシードの数は僅か六つ、そして…捜索範囲は既に町全体を終えていた。

 

 

ここ数日は何時でも動ける様に学校の無い時はなのはもキャッスルドランの中でトウヤと一緒に待機する事になっている…。

 

既に町全体は探索を終えているのに残りの六つのジュエルシードについては完全に行方知れずになっている。

 

 

「こうなると…最悪の事態を想定した方が良いな。」

 

 

「「最悪の事態?」」

 

 

トウヤの呟きになのはとユーノが聞き返す。

 

 

「ああ。オレ達はまだ一番広い範囲を探してない。そして…前に広い範囲を多少無理矢理だけど一気に探索する方法を彼女フェイトさん達に提案しておいた」

 

 

そう言ってトウヤは張られている地図の外…海に当たる場所を指差す。

 

 

「ああ、範囲から考えて全部が陸地に落ちているなんて言う都合の良い考えはしないで、ジュエルシードの幾つかは海に落ちたと推測した。まさか六つも落ちていたって言うのは想定の外だけどな」

 

 

そう前置きし、以前フェイトに相談した海と言う広い範囲を捜索する方法をなのは達にも話す。

 

 

「…と言う方法を提案した」

 

 

「そんな。そんなの危ないの!?」

 

 

トウヤの言った言葉になのはが反応する。トウヤ自身も考えていたものの危険と判断していた為に十分に準備を整えてから行動に移すつもりだった。

 

 

トウヤがフェイト達に提案した作戦、それは簡単な事だ。向こうから出てきて貰う為に海に魔力を流して海に落ちたジュエルシードを無理矢理発動させる事。それがトウヤが考えていた最終手段だ。

 

 

流石に潜水艦を使ったとしても、海に落ちた宝石を探索するのは不可能に近いだろう。ダークキバに変身したトウヤでもだ。元々そんな海中での行動等は前提で作られていないのだし。そして、ジュエルシードは海に沈んでいるのに放置するには危険すぎる爆弾だ。

 

 

寧ろ、この場合は“それ以外に方法が無かった”と言うべきだろう。同時に町への影響を考えれば、行動に移す場合は絶対に失敗が許されない。

 

 

だから、フェイトの体調を万全にした上でビショップやルーク達チェックメイト・フォーと次狼達他の種族の代表の戦士達と言った、トウヤの使える戦力を総動員した上で成功率を一割でも高くした上で行う予定だった。

 

 

だが、当のフェイトが居ない事にはその策は実行できない。最悪の場合ジュエルシードの六つ同時発動と言う危険性が有る以上、危険なのでより実行にはより慎重になる必要も有るが。

 

 

「寧ろ危険なのはフェイトさんがこれを実行してしまう…と言う可能性か。」

 

 

だから、配下のファンガイア族を使った人海戦術でジュエルシードを探す傍ら、こっちからは動かずに彼女達が行動する時に備えて城キャッスルドランの中に待機していると言う訳である。

 

 

ふと、そんな数日前に交わした会話を思い出していると、

 

 

「トウヤ、なのは!」

 

 

「っ!? ここからでも感じ取れる。同時発動か…まさかとは思うけど、発動させたのか!?」

 

 

「急ごう!」

 

 

「高町さん、準備は良い!? ビショップ、最悪に備えて少しでも力は温存したい、シュードランを使う!」

 

 

「かしこまりました」

 

 

「うん!」

 

 

準備を整えたトウヤ、なのは、ユーノの三人がキャッスルドランの外に出るとキャッスルドランが咆哮を上げる。

 

 

「キャ!」

 

 

「な、なに?」

 

 

キャッスルドランの咆哮に思わず驚いてしまうなのはとユーノの二人に構わず、トウヤは三人の前に現れた城の天守閣部分に赤いドラゴンの翼と頭、手足が伸びた幼生獣のドラゴンの様なモンスター『シュードラン』に近づいていく。

 

 

「良く来てくれた、シュードラン。二人とも、乗れ!」

 

 

「う、うん!」

 

 

「わ、分かった」

 

 

トウヤの姿を目撃して甘える様にしてくるシュードランの頭を撫でながら二人に指示を出す。

 

 

「えっと、よろしくね、シューちゃん?」

 

 

「カゥ~♪」

 

 

ふと、なのはがそんな声をかけるとシュードランも嬉しそうに声を上げる。

 

 

そして、三人がシュードランに乗るとキャッスルドランからキバットバットⅡ世が現われ、トウヤ達に声をかける。

 

 

「場所は分かった。急ぐぞ、トウヤ」

 

 

「ああ」

 

 

トウヤの肩にキバットバットⅡ世が座すると、シュードランは翼を広げて飛翔する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねえ、トウヤ…君の住んでいるお城とか、このドラゴンとかって…一体…。地球には龍まで生息してるの?」

 

 

「ああ、オレ達十三の魔族の中の一種族、『ドラン族』だ。もっとも、昔に僅か三匹まで数が減ってしまったけどな」

 

 

そう言ってトウヤは足元を指差す。

 

 

「ドラン族の生き残りは幼生の者を改造したシュードランと最大の『グレートワイバーン』を改造したキャッスルドラン、ドラン族の生き残り達には改造による延命処置を施してオレ達ファンガイア族と共生の関係にあるんだ。」

 

 

「あ、あははは…;」

 

 

「まあ、シュードランはちょっと臆病で人見知りするところがあって、普段は親であるキャッスルドランの近くに隠れているけどな…」

 

 

『だから、有って直ぐのなのはに懐くのは珍しい』と付け加えると、トウヤの説明に汗を流しながら苦笑するユーノだった。

 

 

「地球って…魔法文明は無いと思われてたけど…。」

 

 

「地球の魔法それは厳重に秘匿されていたからな…。それより、そろそろ準備をしておいた方が良い」

 

 

そう告げたトウヤの手の中にキバットバットⅡ世が座し、掴み取るとそれを空いている手に近づける。

 

 

「変身!」

 

 

「ガブリ。」

 

 

ダークキバに変身するトウヤとレイジングハートをセットアップするなのは。

 

 

 

『キャゥ~!』

 

 

 

二人が準備を終えるとシュードランが悲鳴を上げて揺れ始めた。

 

 

「くっ、なんだこれは!?」

 

 

到着していた海上では幾つもの竜巻と雷が起こっていた。

 

 

飛ばされそうになるなのはの手を取って助け取ると、ダークキバは海上に起こっている竜巻に視線を向ける。

 

 

「大丈夫、なのは?」

 

 

「う、うん」

 

 

起こっている竜巻は六つ、それは丁度ジュエルシードの残りの数と合致している。

 

 

「高町さん、あれを」

 

 

「フェイトちゃん!?」

 

 

ダークキバが指差した方向を見ると、そこにはフェイトとアルフが竜巻と雷を避けながらジュエルシードを封印しようとしていた。

 

 

「…せめて、一言相談しに来てくれればこっちは幾らでも手を貸したというのに」

 

 

フェイト達はダークキバ達の協力無しで海の探索を行ってしまったのだろう。そう考えると思わず頭を抱えてしまう。

 

 

「いくらなんでも、あれは無茶だ!」

 

 

「まったくだ。Ⅱ世、ザンバットソードを」

 

 

「ああ」

 

 

召喚されたザンバットソードを手に取りシュードランをフェイト達の所に向かわせようとした時、

 

 

 

『その必要は無い。』

 

 

 

ダークキバ達の前にモニターが現れ、クロノがそんな言葉を告げた。

 

 

「それはどう言う意味ですか?」

 

 

「なるほどな、そう言う事か?」

 

 

『君は理解した様だな。それにしても…そんな龍まで使役していたとは…』

 

 

モニターに映るクロノをダークキバの仮面の奥から睨みながらダークキバはクロノに無言で『早く本題に入れ』と態度で告げていた。

 

 

『彼女の逮捕は僕達の仕事だ。君達は下がっていてもらおうか』

 

 

「でも、このままじゃ、あの子が死んじゃいますよ!!!」

 

 

『僕達は常に最善の方法を取らないといけないんだ』

 

 

「そんな!」

 

 

「確かに組織としては正しい判断だな」

 

 

絶対零度の冷たさが感じられるダークキバの言葉がユーノの言葉に答えたクロノへと向けられる。

 

 

『その通りだ。放っておけば、彼女は自滅する。仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たした所を叩けば良い』

 

 

クロノの言葉を聞きながらトウヤは仮面の奥で笑みを浮かべる。

 

 

「確かに『最善』を選ぶ必要が有るな。仮にも王を名乗っている身だ、その程度を理解できる」

 

 

「そんな、トウヤ君!?」

 

 

ダークキバの答えになのはがそんな声を上げるが。

 

 

「だから、オレ達は最善の方法として彼女を助けに行く」

 

 

『な!?』

 

 

「え?」

 

 

「彼女が倒れた場合、この世界に出る影響はどうする気だ? 仮にも一つでとてつもない危険性を持っている物が六つも暴走している。それを確実に封印する為には彼女に協力する事が最善だ」

 

 

そう言ってダークキバはシュードランにフェイト達の元に急ぐ様に指示を出す。怯えながらも向かってくれるシュードランに感謝しながら、その頭を撫でる。

 

 

『さっきの話を理解したんじゃなかったのか!?』

 

 

「ああ。その上でオレ達の立場として最善の方法を選んだ」

 

 

そう言ってダークキバはザンバットソードをモニターへと突きつけながら、

 

 

「貴様等にとってこの世界はどうでも良い…いや、レジェンドルガと手を組んでいるお前達にとっては寧ろ、この世界が壊れてくれた方が好都合か?」

 

 

挑発する様にそんな言葉を告げると、なのはとユーノのクロノを見る視線も何処か険しいものとなる。

 

 

「ユーノ、ジュエルシードが暴走したらどうなるんだった?」

 

 

「そ、それは次元震が発生して…あっ!?」

 

 

ダークキバの言葉に答えていると何かに気が付いたユーノが声を上げる。

 

 

「そう言う事だ。彼女が倒れられたら最悪は町単位ではなく地球が危険にさらされる。確かに最善だろうな…“レジェンドルガにとって”」

 

 

ダークキバの言葉を聞き初めて事態と自分の失言に気付いたのだろうクロノの顔が青ざめている。恐らくだが、事態を認識したであろうアースラの乗員達も顔が青ざめているだろう。

 

 

「お前達の最善はオレ達にとっての最悪で有り、彼女に協力するのは、オレにとってレジェンドルガを内部に持っているお前達組織よりも、彼女の方が信頼に足る人物と言うだけだ」

 

 

「ごめんなさい、あなた達の遣り方が正しいと思えない!」

 

 

「ぼくも同じ気持ちです!」

 

 

「二人も協力してくれるか…。それと、なにより…」

 

 

そう言った後、ザンバットソードをモニターに向かって一閃させる。

 

 

「…女の子一人助けられないで…何が王キングだ」

 

 

モニターが消えるとダークキバは再びシュードランへと急ぐ様に指示を出す。

 

 

「急ごう、無駄話に時間を掛けすぎた!」

 

 

「「うん!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

力尽きたフェイトに竜巻の一つが迫ってくる。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

「いや、謝るくらいなら、もう少しこっちを頼って欲しかったな…。フッ!」

 

 

キバの紋を足場にしてフェイトを受け止めつつザンバットソードを一閃し、一時的に竜巻を消し去る事に成功したのだが、直に再生する。

 

 

「チッ! やっぱり、封印しなければ無理か…」

 

 

思わず舌打ちするが、手の中にあるザンバットソードを持ち直し、それを振り上げ、何度か一閃する事で一時的に竜巻を消し去る。

 

 

「ト、トウヤ!?」

 

 

「フェイトさん…これは危険だから必ずオレ達に一言言ってから実行するようにと言った筈だけど…?」

 

 

微かに咎める様な響きだが、その言葉の中には何処か優しさが篭っている。

 

 

「フェイトー!!!」

 

 

「フェイトちゃん!!!」

 

 

丁度アルフとなのは達もダークキバとフェイトに合流する。

 

 

「先ずはジュエルシードを停止させないと拙い事になる! だから、今は封印のサポートを!!!」

 

 

「ダメージを与えるのはオレに任せろ。一撃で吹き飛ばす」

 

 

ユーノがチェーンバインドで幾つもの竜巻を押さえ込み、ダークキバがザンバットソードから金色のフエッスルを出現させる。

 

 

「フェイトちゃん、手伝ってジュエルシードを止めよう!」

 

 

「ジュエルシードは六つ…取り合えず取り分は互いに三個と言う事で納得しておいてくれ。詳しい事は後で話す」

 

 

「う、うん!」

 

 

なのはとダークキバの言葉にフェイトが頷き、バルディッシュを握る。

 

 

 

「ウェイクアップ!」

 

 

「ファイナル、ザンバット…」

 

 

「ディバイン…」

 

 

「サンダー…」

 

 

そして、響き渡るフエッスルの音色を合図に、

 

 

「斬!!!」

「バスター!!!」

「レイジ!!!」

 

 

ブラッディーレッドの斬撃が金色の砲撃と桜色の砲撃を導く様に、竜巻と雷を切り裂きながら、竜巻の中にあるジュエルシードを剥き出しにし、ジュエルシードに二つの砲撃を導く。

 

 

それによって封印された事で周囲を廻りながら落ちてきた六つのジュエルシードをダークキバが受け止めると、なのはとフェイトの前で手を開いて、

 

 

「きっちりと半分に分ける。それで良いよね、高町さん、フェイトさん?」

 

 

三つずつ渡す。

 

 

「あの…」

 

 

「ん?」

 

 

「ありが、とう」

 

 

フェイトが控えめにダークキバとなのはにお礼を言う。

 

 

それに嬉しそうに微笑むなのはとダークキバ。

 

 

「お礼なんて良いさ。元々君に力を貸すのはオレとの契約だろ? それと…」

 

 

仮面の奥で笑みを浮かべながら…

 

 

「今回の事は町にも地球にも被害が出そうだったんだ…それについては…よーく注意しておかないとな…」

 

 

そう言って溜息を吐く。注意すると言ったがそれほど強い事は言えない。

 

 

「まあ、こんな所で浮んでいると、オレは兎も角二人は体が冷えるだろ? シュードラン」

 

 

「カゥ!」

 

 

ダークキバの呼びかけにジュエルシードの暴走時の魔力怖がって離れていたシュードランがダークキバ達の前に出現する。寧ろ、臆病なシュードランが単体で此処まで運んでくれただけでも勇気を振り絞った物だったのだろう。そんなシュードランを一瞥しながら『頑張ったな』と呟く。

 

 

「フェイトさん達も高町さん達もビショップに暖かい物を用意させるから…フェイトさん達には…今回の事に対する注意も有るから、“是非”参加してもらいたいんだけど。」

 

 

優しい口調だが、どう考えても拒否は許さないという意思が込められている。

 

 

「うん、そうしようよ!」

 

 

「でも…」

 

 

「こいつ等と一緒に居るって事は管理局に着いたんじゃないのかい?」

 

 

アルフには管理局に着いていると思われている様子だが。

 

 

「いや、その事についても説明する。少なくとも…オレ達は管理局と言う組織と協力する気は無い」

 

 

ダークキバはフェイト達に今の自分となのはの立場が管理局と協力していないと言う立場を告げる。

 

 

 



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第十五話『息抜きは大事だよな。by.トウヤ/特にお前の場合はな。by.キバットバットⅡ世』

「それで…?」

 

優しく微笑みながら明らかな怒りのオーラを纏ったトウヤがテーブルを挟んでお茶を飲んでいるフェイトに向かってそう話しかける。

 

 

「…ごめんなさい…」

 

 

「まあ、オレ達に迷惑を掛けたくないと言う君の意志は理解したけどな…」

 

 

『しゅん』となって謝るフェイトの姿を見ていると毒気を抜かれてしまい、寧ろトウヤの方に罪悪感が浮んでくる光景だ。

 

 

「で、でも、管理局の仲間になったんじゃ…」

 

 

「…いや、管理局だったか…。オレは積極的には動いてないが…なんと言うか…その組織の執務官とか名乗った黒いのは…何時の間にか、“既に”全魔族の間で“危険人物”として“指名手配”されているぞ」

 

 

そう言って見せるのは…何時の間にかオトヤ達が『レジェンドルガの仲間になっている危険人物』として指名手配したクロノの写真が貼られた魔族向けのポスターだった。

 

 

「「「「え、ええぇっー!!!」」」」

 

 

「…オレも驚いた…。父さん…キングの代理として復帰して真っ先にやった事がこれか…」

 

 

声を揃えて驚くなのは達とフェイト主従と、頭を抱えて手際の良過ぎる父親達の行動に対して溜息を吐くトウヤ。

 

 

この世界では魔族と人間は仲良く平和に共存している。付け加えると、警察組織などの公的機関の上層部は魔族の存在を知って協力関係になっている。これは主に魔族の過激派等の人間では対処できない犯罪者に対する対策としてだ。

 

さて、これを照らし合わせてみると…。

 

 

将来的にクロノ・ハラオウンは地球では………レジェンドルガに協力する事は伏せられるだろうが、“間違いなく”“危険人物”として“国際指名手配”になるだろう。まあ、それに関してトウヤは全面的に関わっていないし、“どうでも良い”と放置しているが。二度とクロノが地球に寄り付かなければ良いだけの話だ。誰も態々クロノを他の世界まで追いかけて捕まえる気は無いのだし。

 

 

「あー…フェイトさん達は状況が理解できていないだろうから…管理局と接触した時、あの後何が有ったか話しておこう」

 

 

そう言ってあの時に起こった出来事を話し始める。

 

 

管理局の中には魔族の中で最強種と呼ばれる一派『レジェンドルガ』が入り込んでいる事。

 

局員として入り込んでいたレジェンドルガ…オルトロスレジェンドルガをトウヤが倒した事。

 

トウヤの…否、ファンガイア族の至宝である闇のキバの鎧とザンバットソードがロストロギアとされた事。

 

 

「…まあ、闇のキバの鎧は最高傑作だが、製造方法などは残っているから、劣化品は量産できるけどな」

 

 

「誤解を招くような事を言うな。劣化品の量産と言ってもその場合でも一つ一つがハンドメイドだ。劣化の度合いも最高級品が高級品になる程度だ」

 

 

キバの鎧の製造方法は今も残されている。主に対レジェンドルガ等の大規模な戦闘が起こった時の自己修復が追いつかない時の修理の為にだ。同時にそれが有ればキバの鎧のある程度の量産は可能だろうが、それでもそれによって完成した代物は並の魔族では扱えない物になるのは間違いない。

 

 

「…“キバーラの鎧”の様にか」

 

 

「そうだな」

 

 

トウヤが思い出すのは闇のキバの鎧を含めて存在する鎧の一つ、『白いキバの鎧』…キバーラの鎧。

 

当作品における設定では、闇と黄金の二つのキバの鎧の機能を落し…鎖カテナによる封印を施された黄金のキバの鎧をベースにして安全性を高めた簡易型。人間やキングの資格者以外の魔族でも問題なく扱える代物となっている。

 

最も外見が女性的な為に男が使うには色々とプライドを捨てる必要がある。…主に『女装趣味』の疑惑とか、『変態』のレッテルとか、『オカマ野郎』と言う汚名とかを背負う覚悟とか…。

 

だが、それもその筈、キバーラの鎧はキングの婚約者となるクィーンの護衛の為の鎧で、その為に制御するキバット族も常にクィーンと同性である女性に限定される事になっている。

 

だが、現在キバットバット家には女性のキバット族が居ない為にキバーラの鎧は使えない代物ではあるが。

 

 

以上が本作におけるキバーラの鎧の設定である。

 

 

 

閑話休題それはさておき

 

 

 

そんな事を考えていると言葉を交わしているなのはとフェイトの方へと視線を向ける。なのははなのはで話したい事が有ったのだろうからと口を挟まなかったが、

 

 

「ねえ」

 

 

「あのさ」

 

 

「「彼女達(こいつ等)とはどう言う関係なの(なんだい)?」」

 

 

二人の会話から外れていたユーノとアルフに問い掛けられた。

 

 

「あー、高町さんはオレの友人クラスメイトだ。それで、フェイトさんはジュエルシードが原因で知り合った協力者だ」

 

 

「以前、彼女との戦いに手を出す事を控えたのは、前に言ったとおり彼女との実力の差も有るが、トウヤは敵でも無い平気で知り合いに力を向けられる様な性格はしていないからな」

 

 

トウヤは前者の言葉をアルフへと、後者の言葉をユーノへと告げる。

 

 

そして、トウヤの言葉に言葉を付け加えるのは、テーブルの上に着地してユーノとアルフへとそう告げるのはキバットバットⅡ世。

 

 

彼の言葉どおり、トウヤは知り合いの女の子に力を向けられる様な性格をしていない事に加えて、今のなのはとダークキバに変身済みのトウヤの実力差は明らかだ。どう考えてもトウヤが負ける姿が想像できない。

 

 

ゆっくりと紅茶を口に運びながら、面と向かって話していてもどうしても妥協点に行き着かないなのはとフェイトの二人に視線を向けてると、軽く溜息を吐く。

 

 

ユーノとアルフの方へと視線を向けると、『何とかして』と言う意志が視線から伝わってくる。

 

 

その視線を受けて『仕方ない』と、そう思いながら一度自分に注目を集める為に両手を『パン!』と叩き、二人の意識を己へと向けさせる。

 

 

「二人とも、自分の意思を向け合うのは良い事だと思うけど」

 

 

「トウヤ…」

 

 

「トウヤ君…」

 

 

そう言って二人へと視線を向けると、二人は彼の方を向いて名前を呼ぶ。

 

 

「言葉だけでダメなら、意思をぶつけ合えば良い」

 

 

以前前世の弟ワタルと一切の意思を伝える事の無い様に戦った時の自分トウヤとは違う。

 

 

「幸いにも、二人のデバイスは『非殺傷設定』と言う便利な機能もある様子だしな」

 

 

互いの武器には必要以上に傷付けない為のシステムが搭載されている。ならば、全力で思いと共にぶつかり合えば良い。

 

 

…このまま言葉だけでは話は進まないだろうし…。

 

 

「…権力を活用して、人払いくらいはするし…ユーノ達なら隔離する為の方法は知ってるだろ?」

 

 

「う、うん、結界魔法にそう言うのは有るけど…」

 

 

トウヤに話を降られるとユーノは慌ててそう答える。ユーノの答えを聞いて丁度良い場所を考えながら、

 

 

「なら、話は簡単だ。高町さんが負けたら、高町さんの持っている残りの魔石ジュエルシードをフェイトさんに渡す。フェイトさんが負けたら、高町さんが聞きたい事を答える」

 

 

全力でぶつかり合えば分かり合える事も有る。内心では、『もう向こうも必要は無いだろうけど』と心の中で呟いているのはトウヤだけの秘密だ。

 

 

「一対一の決闘かいわだ。オレもこの二人にも手出しはしない」

 

 

結局の所、トウヤもフェイトがジュエルシードを求めている理由は知っている。同様に既にジュエルシードがプレシアにとって無価値な物に成り下がったと言う事も知っている。

 

フェイトに自分が知った残酷すぎる真実を話すタイミングが掴めずに、こうして彼女を危険に晒している。ジュエルシードの暴走によって発生した相手に限定されるが、危険は全面的にトウヤの手で排除しているのだが。

 

 

二人に勧めた決闘かいわは二人が互いを分かり合う為の切欠として、攻撃と共に互いの意思をぶつけ合えれば良いと考えた結果だ。それ以上でもそれ以下でも無い。

 

 

なのはが負けたとしてもトウヤ自身が許可を貰って話せば良い。フェイトが負けたとしても決意が必要だがトウヤが真実を話してしまえば良い。

 

 

「で、でも…」

 

 

「お互いの意思を理解する方法は言葉を交わすだけじゃない。戦う事で分かり合える部分も有る。それに…負けたとしても、フェイトさんに認めてもらえれば話してもらえるかもしれないだろ、高町さん?」

 

 

気乗りしない様子のなのはにトウヤはそう告げる。フェイトの方は特に異論は無い様子だ。

 

 

「じゃあ、お互いくれぐれも怪我だけはしない様に気を付けて。オレは二人と打ち合わせをしてくるから」

 

 

そう言ってトウヤとキバットバットⅡ世はユーノとアルフを半ば無理矢理連れて部屋を出て別の部屋の中に入る。

 

 

「…さて…改めて二人には話しておきたい事が有る」

 

 

…主に隠し事をしていると言う負い目を軽くする為の共犯者を増やす為に…。

 

 

「話したい事って?」

 

 

「…フェイトさんの母親、彼女にジュエルシードを集めさせている人間…プレシア・テスタロッサについてだ」

 

 

「あの鬼婆かい!?」

 

 

「あの子の母親だって!?」

 

 

「そうだな。全ては以前、彼女と一緒に彼女の家に行った時の事だ」

 

 

レジェンドルガの事を前提として話してあるので、時の庭園で自分が知った事を一つ一つ話していく。フェイトやプリシア…そして、アリシアの現状も。

 

 

「それじゃあ、あんたは無駄だって分かっていてフェイトに集めさせていたのかい!?」

 

 

怒りを露にして殴りかかってくるアルフの拳を避ける素振りも見せずにトウヤは黙って受ける。

 

 

「すまない。…流石に真実が重過ぎて話せなかった…」

 

 

それもそうだろう。トウヤが知ってしまったのはタイミングが悪ければ間違いなくショックのあまり精神崩壊しかねない程の重すぎる真実だ。

 

 

「それに、無意味と言うのは否定するべきだろうな」

 

 

「どう言う…」

 

 

そう言ってトウヤは部屋の中に有る机の上に置いてあるカルテを取り上げる。

 

 

「…あの後、医療系の魔術や技術に特化した者を送って診察させたんだが…。はっきり言って、既にプレシア・テスタロッサは何時亡くなっても不思議じゃない。時間が無さ過ぎる為にプレシア・テスタロッサの治療は通常法の方法では無理だろうな」

 

 

「通常って事は…他の方法が有るように聞こえるんだけど」

 

 

「…ああ…。一時的に人間をオレ達ファンガイア族に変える禁忌の技術が有る。同時にファンガイア族は不完全とは言え、大量のライフエナジーが有れば死んだとしても蘇生できる。そして、大量のライフエナジーも…魔力を変換する事で生成すると言う廃案された技術が残っている」

 

 

簡単な話だ。人間で治療が不可能なら、一時的に生命力の高いファンガイア族に変える事で延命、魔力を変換した純度の低いライフエナジーとは言え大量ならば生きている状態の延命には十分だろう。

 

 

「まさか…君達の言うライフエナジーに変える魔力の出所を…」

 

 

「ああ、ジュエルシードの魔力をライフエナジーに変換させる」

 

 

ファンガイア族として蘇生させた上で完治させ、その上で人間に戻す。過去に封印された禁忌の技術だが、人の命を救う為ならば躊躇する理由は無い。

 

 

「安心しろ…禁忌の技術を使った代償は、最悪はプレシア・テスタロッサの治療が終わった後で、オレが裁かれればそれで全て解決する」

 

 

その前に何処かに居るアークを討てばアリシア・テスタロッサも元に戻る。自分一人の犠牲で救える命があるなら、それを躊躇する理由はトウヤには存在しない。

 

 

「あんた…フェイトの為に其処まで…」

 

 

「何かを得るには代償を払う必要が有る。今回の代償はオレのキングとしての地位か…オレ自身の命か…。どっちにしても、アークを倒すまでは生き延びる心算だ」

 

 

…間違いなく、オトヤ達もトウヤがそんな事を考えているのは知っているだろから、そう考えのとおりには行かないだろうが…。

 

 

「まあ、ファンガイア族になってもレジェンドルガの同族化とは違うから、自我が消える事もないし、ファンガイア態と言う姿を持つ以外には人間と変わりないから、吸命衝動以外は特に問題ない」

 

 

最後に『上手く行けばな』と付け加えて会話を終える。それでも、少しでも早く準備と治療のシミュレーションを終える必要が有る。

 

 

「…問題は管理局側に居る…奴等レジェンドルガか…」

 

 

最後に残された問題を呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十六話『王の裁き…今此処に言い渡す!!! by.トウヤ/…珍しくタイトルもシリアスだな、本当に。by.キバットバットⅡ世』

「…なあ、Ⅱ世…オレは何てコメントするべきだと思う…?」

 

「…オレに聞くな…。頼むから」

 

 

アルフとユーノと共になのはとフェイトの一騎打ちを見学しているトウヤとキバットバットⅡ世が引きつった笑顔を浮かべながら声を揃えてそうコメントする。

 

 

フェイトの拘束バインドからの大技に耐えたなのはが今度は同じ様にバインドでフェイトを捕らえ………見た限り本当に非殺傷なのか疑問に思える大技を使おうとしていた。

 

 

 

 

「受けてみて! ディバインバスターのバリエーション!」

 

 

彼女のデバイス、レイジングハートに集う光は桜色だけではなく所々フェイトの金色のそれも見える。

 

 

「『スターライトブレイカー』!!!」

 

 

 

 

 

「…お前も人の事は言えないが…何と言うか、容赦ないな」

 

 

「それは自覚してる。だけど…フェイトさんの大技に耐えた高町さんの頑丈さには感心するが、あれは良い戦い方とは言えないな」

 

 

ふと、彼女達の決闘を眺めながらトウヤはそう呟く。

 

 

トウヤは戦闘時にはダークキバの鎧と言う高い防御力を持っている鎧を纏っていても攻撃を受けるのは常に最小限に留めている。

 

 

防御に自身があったとしても回避するに越した事は無いのだし、ゲームの様に一晩休んで完全回復とは行かない以上ダメージは戦う度に蓄積されていく、相手の攻撃力が自分の防御力を上回ったら危険だし、何らかの理由で防御が低下してしまったら、自分の防御を過信している状態で受けたとして…その結果は考えたくも無い。

 

少なくとも、ダークキバになったトウヤならザンバットソードを使わなくても、確実に先ほどのなのはの防御を貫ける自信がある。トウヤに匹敵する力を持った者を相手にした場合…彼女の戦い方は間違いなく危険だ。

 

 

付け加えるなら、トウヤの場合はキバの紋を使って拘束後連続攻撃を無防備な相手に叩き込むと言う戦い方はするが必殺技ウェイクアップフエッスルを使う時には拘束はしない。

 

 

(…これ以上彼女が関わらないなら良いが…まだ続けるなら、戦闘での回避の重要性を教えよう)

 

 

クラスメイトにこれ以上危険な事に関わってもらいたくは無いが、関わる気が満々である彼女を説得するのは無理だと諦めている魔王様トウヤでした。

 

 

「…ところで一つ良いか…?」

 

 

「どうした?」

 

 

「救助用に待機させていたシュードランだが…彼女達の魔力に怯えている様子だぞ」

 

 

「拙い!?」

 

 

「まあ、心配ないだろう。シュードランはお前よりも彼女達に懐いていたから…」

 

 

キバットバットⅡ世の羽が指す先では、海へと落下していくフェイトを海から飛び出してきたシュードランが受け止めていた。最近、自分よりもなのはとフェイトの二人に懐いているシュードランの事を思うと妙に悲しくなるのは何故だろう。

 

 

「…二人とも、オレは何時フェイトさんに真実を話すべきだと思う…?」

 

 

「ぼ、ぼくに聞かないでよ…」

 

 

「アタシに言われても…ねぇ」

 

 

決着の光景を眺めながら、確実にフェイトの精神に大ダメージを与えてくれそうな真実だけにどう話すべきかと悩むトウヤだった。ユーノとアルフに相談してみても明後日の方向に顔を逸らしてそう言われてしまう。

 

 

「兎も角、一度プレシアさんの所に行って治療の準備だな」

 

 

「一時的とは言え人間の魔族化か…人助けとは言え、禁忌の技術に手を出す事になるとはな…」

 

 

「裁きは受ける…全てが終わった後にな」

 

 

…実際、その裁きが『王なんて辞めてやる!!!』と常に叫んでいるトウヤにとっては別の意味で最悪な物になるのだが…それはそれ、もう少しだけ先のお話となる。ただこれだけは言える…何処まで行ってもトウヤは王様キングと言う立場からは絶対に逃げられないのだろう。………地位が上がる事はあっても。

 

 

「でも、こんな結界まで張って時空管理局は…」

 

 

「外に最強戦力ルーク達を待機させてあるからな…全員が戦い方によってはオレでも負ける人達だからな…」

 

 

「えーと、それって…」

 

 

何事も無い様に答えたトウヤの言葉にその状況を想像すると…他人事ながら顔色が悪くなるユーノだった。

 

 

「とは言え、敵にレジェンドルガが居る以上は警戒してし過ぎるって事は無いな」

 

 

クロノレベルの相手ならばルークやビショップ達ならば…“当然”ながら敵では無い。だが、相手がレジェンドルガとなると話は別だ。…以前倒したオルトロスレジェンドルガは戦った印象から明らかに下っ端…小物だった事が分かる。ならば、推測の段階だがアースラの中には最低でも一人、もっと強い力を持ったレジェンドルガが必ず居ると考えて間違いないだろう。

 

 

態々今回の決闘の際に周囲に最強クラスの戦力を動かしてまで注意していた理由はそれへの対策が有る。

 

 

「それに、ビショップからの連絡によると、向こうもオレ達の事を監視していた様だ」

 

 

彼等の使う魔法技術は未知の物だが、ファンガイア族を初めとする魔族は何気に魔術的な技術以外にも、科学技術の面でも高い技術力を持っている。

 

 

付け加えると現在進行形で次元世界やデバイスについても研究中である。ビショップが言うにはオルトロスレジェンドルガが使っていたデバイスを回収したらしい。

 

 

そんな会話を交わし、トウヤとキバットバットⅡ世、ユーノ、アルフ達はシュードランに救助されたなのは達に合流する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、フェイトちゃん」

 

 

「なに?」

 

 

トウヤ達が合流した時、なのはは先ほどまで決闘していたとは思えない穏やかな口調でシュードランの上でフェイトに問い掛けていた。

 

 

「フェイトちゃんは何で、ジュエルシードを集めてたの?」

 

 

「母さんに集めるように言われたんだ」

 

 

「お母さんに? あんな危険な物何に使うの?」

 

 

「分からない…。…でも「あー…言い難いが…オレは知ってるぞ」え!?」

 

 

フェイトの言葉を遮る様にトウヤがそう告げる。

 

 

「トウヤ、知ってるなら「…本人なら兎も角、オレが言うべきかは分からないから全てを言う訳にはいかない。それで良いなら…」…それでもいいから…知ってるなら教えて! 私は…母さんの役にたちたいから…」

 

 

「私からもお願い、知ってるなら教えて!」

 

 

「あー…」

 

 

フェイトに縋りつかれ、なのはに頼まれて嫌と言えるトウヤでは無いが…内容が内容だけに何処まで話すべきかと悩んでキバットバットⅡ世へと助けを求める様に視線を向けるが、キバットバットⅡ世からは『仕方ないから話してやれ』と視線だけで伝えてくる。

 

 

「先ず最初に言っておくが…フェイトさん、君にジュエルシードを集めさせていた理由だけど…それはつい先日無くなった。正しくは変わったと言うべきか」

 

 

「「え?」」

 

 

二人はトウヤの言葉に揃ってそんな言葉を上げる。

 

 

「あー…それで、その本来の目的については本人から聞いてくれ。だけど、ジュエルシードを集める必要はある」

 

 

「どう言う…」

 

 

「君の母さん…プレシア・テスタロッサはあとどれだけ生きられるかは完全に未知数…精々あと一年生きれば『長生き』と言うレベルだな」

 

 

「え?」

 

 

トウヤの言葉にフェイトの表情が完全に凍り付いてしまう。

 

 

「オレ達ファンガイア族は『吸命鬼』と呼ぶべき一族だ。生命エネルギー…それの減少なら他人の事でも気付ける。寧ろ…そこまで弱っていれば気付くのも簡単だ、会っただけで気付ける」

 

 

そう言って二人の持っているデバイスを指差すと、

 

 

「その治療の方法として、ジュエルシードを利用しようと思ったと言う訳だ…」

 

 

結果的に二人のデバイスのダメージは有るが、それでも決闘を通じて意思をぶつけ合う事は出来た。

 

心配事としてはレジェンドルガと時空管理局だが、そちらに関しては戦力としては自分達ダークキバと魔族だけで対処するべきだと考えている。

 

 

「それじゃあ…」

 

 

「ああ、今すぐにでも治療に…っ!? Ⅱ世!!!」

 

 

「ああ、ガブリ!」

 

 

「変身!」

 

 

“それ”に気が付き素早くダークキバに変身すると、周囲に魔法陣が出現する。

 

 

「チッ、少し過小評価し過ぎていたか」

 

 

ダークキバ達を取り囲むのは武装した管理局員達。だが、その武装局員達から感じられるのは…人間の気配ではなく、

 

 

「これは…」

 

 

「…ああ、全員同族化済みか…」

 

 

魔族の物に近く、その顔は西洋の鎧の様に変わっている者も居れば、イヌ科の動物を思わせる顔に変わっている者も居る。どう見ても同族化によってレジェンドルガに変えられている。

 

 

『トウヤ様!』

 

 

そんな時、ビショップからの念話が届く。確か先に時の庭園に向かわせて治療の準備を整えさせていたはずだが…

 

 

『どうした?』

 

 

『時空管理局と言う組織に此方の場所が特定されてしまった様です。此方に武装隊を送り込まれてしまいました。そして、私も封印されたアリシア嬢と一緒にミセス・テスタロッサに転送され…』

 

 

事実上時の庭園にはプレシア一人と言う事になる。…ビショップと一緒に救うべき娘を転送させたと言う事は…。

 

 

『そっちもか。こっちにも送られてきた…しかも、ご丁寧に同族化済みだ。此方を片付け次第、プレシアさんを助けに向かう』

 

 

『分かりました』

 

 

余命幾許も無い自分を犠牲にしてフェイト達を助けようとしたのだろう。アークを倒せば救われるアリシアをトウヤ達に託して。

 

 

「ザンバット!」

 

 

ザンバットソードを呼び出してそれを一閃、ザンバットソードから放った衝撃波でレジェンドルガ化した局員達を後退させると、

 

 

「…こんな時に何だが…フェイトさん。君に話さなければならない事が有る」

 

 

「え?」

 

 

レジェンドルガ化した局員達に対する牽制を続けながらダークキバはプレシアに会った時に知った真実を話す。

 

 

トウヤを除いた全員の表情は暗く沈み、特にフェイトの表情は酷く沈んでおり、アルフだけは怒りを浮かべていた。

 

 

「どうしてこんな時に!!!」

 

 

「時の庭園にも送り込まれた」

 

 

ダークキバの言葉にフェイトが微かに反応する。

 

 

「ここを終わらせたら、オレはそっちに向かう。…フェイトさん、君はどうする? 母に会いに行くか、それとも…逃げるか」

 

 

「でも、私は…」

 

 

「…伝えたい思いはあるはずだ。君の気持ちを、思いを、大好きな母親に伝えなくていいのか?」

 

 

自分自身大切な弟に何も伝えずに終わってしまったのだから、何よりも何も出来ずに終わってしまう苦しみは理解できる。

 

 

「い……いやだ…。こんな形で母さんとお別れなんて嫌だ!」

 

 

「フェイト……」

 

 

「フェイトちゃん……」

 

 

フェイトはバルディッシュを握り締めて立ち上がる。

 

 

「作られた存在でも、こんな形で終わりなんて嫌だ!」

 

 

「なら…オレも力を貸そう。ここから始めれば良い…。プレシア・テスタロッサの娘でアリシア・テスタロッサの妹の…『フェイト・テスタロッサ』としての君の生き方を」

 

 

「うん! 私まだ始まってもいなかったんだね」

 

 

「それで…高町さん達はどうする?」

 

 

「フェイトが行くならアタシも行くよ!」

 

 

「アルフ…」

 

 

アルフがそう反応する。ある意味分かりきっていた答えだ。

 

 

「私も…私も行く!」

 

 

「ぼくも行きます!」

 

 

ある意味これからの問題については関係ないと言えるなのはとユーノの二人の言葉にダークキバは、

 

 

「ああ!」

 

 

そう簡潔に答え、レジェンドルガ化した局員達に向き直り、

 

 

「フェイトさん、君は一人じゃない…オレも高町さんも、アルフも、ユーノも居る。「オレも忘れるな」…そうだったな、Ⅱ世も居るんだ。一人じゃない」

 

 

フェイトへとそう告げる。

 

 

「うん!」

 

 

「ねえ、トウヤ君…」

 

 

「何、高町さん?」

 

 

「私の事も名前で呼んで欲しいの!」

 

 

内心『こんな時に言う事か?』とも思ってしまうが、逆に『こんな時だからこそ』なのかもしれないと思い直す。

 

 

「分かった、なのはさん」

 

 

 

『そうか。なら、ここはオレ達に任せてもらおうか』

 

 

 

高らかに鳴り響く音と共に海中から上昇してくるキャッスルドラン。キャッスルドランの出現に気付いたシュードランがダークキバ達を乗せたまま一体化するとキャッスルドランが生来の攻撃性を取り戻し、咆哮を上げる。

 

 

「父さん!?」

 

 

「ああ、露払いは父に任せておけ」

 

 

父であるオトヤの変身したサガがキャッスルドランの頭の上でトウヤへとそう告げる。

 

 

「…じゃあ、ここは任せた」

 

 

父への信頼からか、あっさりとその言葉を受け入れると、フェイトに向き直り、

 

 

「フェイトさん、転送を!」

 

 

「うん!」

 

 

「そうそう、トウヤ! これを持って行け!」

 

 

そう言ってサガはダークキバへと“それ”を投げ渡す。

 

 

「っ!? これは!?」

 

 

時の庭園へと転送される直前に受け取ったそれを見て思わず疑問の声を上げる。

 

 

そう、ダークキバへと…トウヤへと渡された物は…シャイニングメモリとロストドライバーだった。

 

 

 

 

 



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第十七話『ラストバトル開幕 by.トウヤ/…何故だ、タイトルがまともだと違和感が有るのは? by.キバットバットⅡ世』

海上に現われたレジェンドルガに同族化された武装局員達をオトヤ達に任せ、トウヤ達は時の庭園へと転送して来た訳だが…。

 

「チッ!」

 

 

舌打ちしながらダークキバはシャイニングメモリとロストドライバーを仕舞いながら、襲い掛かってくるイヌ科の動物を思わせる貌に変わった武装局員を殴り飛ばす。

 

 

予想通り此方に送られた武装局員達も全員がレジェンドルガの同属と化していた。

 

イヌ科の動物を思わせるその顔は、トウヤが倒したオルトロスレジェンドルガによって同族化された者だとは理解できる。同時に騎士甲冑を思わせる貌に変わっている者達の存在は、トウヤの推測していたもう一体のレジェンドルガの存在を完全に裏づけていた。

 

 

「やれやれ、不法侵入に対する警備装置の作動は良いとして…。随分と物騒な警備装置だな、これは」

 

 

そう、トウヤ達は現在レジェンドルガ化した局員達と大量の機械兵達の戦いに完全に巻き込まれた形となっている。

 

 

「お前達は!?」

 

 

「お前は…クロノ・ハラオウンだったか? …お前は“まだ”まともな人間なのか?」

 

 

その中にダークキバトウヤ達の姿を見つけたクロノに対して挑発気味にそんな声をかける。

 

 

「くっ! これは…」

 

 

「どこからどう見ても、レジェンドルガによる“同族化”だ。既に“人”から“レジェンドルガ”と言う別の存在に変えられた。お前はそんな相手に向かってなんと言う気だ? まあ、こっちにはお前の言い訳を聞いている暇も興味も無いがな」

 

 

そう言い放つとザンバットソードの一閃で機械兵を数体纏めて真っ二つに切り裂き、周囲にいる局員達の貌を確認する。だが、その中にダークキバの探している相手の顔は無かった。

 

 

(…ダイルとか名乗っていた男が居ない…。…雑魚に構っている暇は無いか)

 

 

それ以上何かを言おうとしているクロノを黙殺しつつ、ダークキバの後ろで非殺傷設定の魔法で機械兵と戦っているなのはとフェイトやレジェンドルガに変えられた局員達と戦っているアルフとユーノへと視線を向ける。

 

 

「フェイトさん、この先…ミス・テスタロッサの居る場所への行き方は知ってる?」

 

 

「う、うん、知ってるけど…」

 

 

「雑魚に構っている暇は無い。一気にミス・テスタロッサを助けて此処から逃げる」

 

 

「ト、トウヤ君、どうするの?」

 

 

「フェイトさんに案内して貰って最短ルートでミス・テスタロッサを救出。それで此処から脱出する。流石にこの数の差じゃこっちが不利だ」

 

 

レジェンドルガ化した局員達を元に戻す方法は現時点ではレジェンドルガの君主ロードを倒す以外に方法は無い。幸いにも局員達はユーノの拘束魔法バインドで身動きが出来ない様にしているが。

 

 

(地球に戻れば父さん達が居る)

 

 

サガやルークやビショップ、次狼達魔騎士と言った実力者達の加勢が有れば、簡単ではないが数の差は覆せるだろう。少なくとも、最低限の戦力しかない現在の三つ巴の状況よりは何倍も楽になる。

 

 

(…ユーノが居てくれて助かったな…)

 

 

そう思わずにはいられない。もし、この場にユーノが居なかったらダークキバにはトドメを刺す以外の選択肢は与えられなかったのだから。

 

 

「待て、彼女達は…!?」

 

 

「ここはお前達の法が適応されるべきだろうが…。残念ながら、オレ達の世界とお前達の世界には犯罪者の引き渡しに関する条約は無いぞ」

 

 

「貴様…」

 

 

「文句があるなら…いや、そっちからオレ達の方に犯罪者を引き渡されても、それは迷惑なだけだな。“お前も含めて”な」

 

 

「ぐっ…」

 

 

ダークキバの言葉に思わず黙ってしまう。…そう、既にクロノはクロノ達の言う所の第97管理外世界『地球』では犯罪者とされているのだ。

 

 

付け加えるのならダークキバ(トウヤ)が『お前も“含めて”』と言ったのには他にも理由がある。

 

真っ先にレジェンドルガの仲間入りを果たしているであろう“この状況”を作り上げた、そもそもの原因となった者、または者達の事も含めての言葉。もっとも、ダークキバ(トウヤ)としても、そんな連中を引き渡されても扱いに困るだけだが。

 

 

「Ⅱ世、大技で行くぞ」

 

 

「ああ、ウェイクアップ!」

 

 

ザンバットソードから出現した金色のフエッスルをキバットバットⅡ世に吹かせ、刀身が魔皇力で真紅に染まったザンバットソードを横凪に振るう。

 

 

「ファイナル、ザンバット、斬!!!」

 

 

ザンバットソードの前に存在していたレジェンドルガ化した局員、機械兵と区別無く真紅の斬撃が薙ぎ払い、進むべく道を空ける。

 

 

「す…凄い…。って、幾らなんでも遣り過ぎだよ、これは!?」

 

 

「まあ、レジェンドルガ化した連中については…死んで無いだろう。…多分」

 

 

「一応温存の為に最低限に力は抑えたからな…」

 

 

ユーノのそう答えるダークキバとキバットバットⅡ世。流石にレジェンドルガ化しているとは言え、無闇に人の命を奪うのには躊躇がある。そう言う事には慣れて居ない女の子を二人も連れているこの状況では特にだ。

 

 

彼の罪人以外には甘い所は、レジェンドルガを相手にするには弱点としか言い様が無いだろう。レジェンドルガの個々の戦闘力以外に脅威になる無限に近い圧倒的な『物量』。

 

それの元になっているのは彼等にライフエナジーを捕食された、一応とは言え救う方法も有る犠牲者達なのだから。

 

 

必殺技で無理矢理開いた道をなのは達を先に進ませて殿しんがりをダークキバが務めながら先に進む。後ろで尚も喚いているクロノに関しては全面的に無視している。

 

………明らかにレジェンドルガ勢力から攻撃受けていない時点で、どう考えてもレジェンドルガ達から『味方』と認識されてる訳だし。

 

 

(…それにしても…何で奴らは此処を襲撃したんだ?)

 

 

先に進みながらダークキバ(トウヤ)はそんな疑問を思う。

 

 

明らかにレジェンドルガの動きは『時空管理局』と言う隠れ蓑を完全に脱ぎ捨てて行動している。この一点から考えても、時の庭園への襲撃には『時空管理局』の『犯罪者の確保』や『ロストロギアの確保』と言う表向きの理由以上に、『レジェンドルガ』としての真の理由が存在している可能性が高い。

 

 

(…ジュエルシードが目的と言うのは…理由としては弱い。だとしたら、何が目的だ? それ以外に奴らにとって魅力的な何かが此処に存在しているのか?)

 

 

そう、ジュエルシードが目的とするとそれは表向きの理由に合致する為、態々レジェンドルガとしての正体を露にした上で地球にまで送り込むと言うのが、ダークキバ(トウヤ)にはどうしても納得出来ない。既に存在を知られているとは言え、態々こうして向こうから確信を与える必要は無いだろう。

 

 

次に思い付くのは、レジェンドルガに同族化されてトウヤの手で封印されたアリシア・テスタロッサの存在だが、此方はジュエルシード以上に弱い。態々同族化した兵隊一人を確保する戦力としては被害が大きすぎる。連中レジェンドルガの考え方は理解できないが、それは単純な引き算だ。

 

 

三番目は、純粋にトウヤ達魔族に対する宣戦布告。これも一番有り得るが理由としては弱い気がする。それだとすれば戦力を送り込むのは地球だけで十分な筈だし、投入されている敵戦力から考えて明らかに本命の目的は此処にある。

 

 

四番目は、単なる開き直り。既に自分達の存在が明らかになっているので、存在を隠す事を辞めた。これは一番有り得ないと即座に考えの中から切り捨てた。流石にトウヤもレジェンドルガの事をそんなバカとは思っていない。寧ろ、逆の印象……非常に狡猾と考えている。

 

 

(…何だ…? 奴らの“本来の目的”…それを知らないとこの先恐ろしい事が起こる。そんな予感がする)

 

 

『本来の目的』、そこへと考えに至った瞬間、巨大な影に心臓を鷲掴みにされる様な嫌な予感を感じる。そして、その予感が示す相手はこの先の未来で間違いなくトウヤを待ち受けていると確信できる。

 

 

(…今は考えていても仕方ないか…)

 

 

それは今考えるべきではないと判断し、ダークキバ(トウヤ)は目の前の目的に集中する事に決める。先頭は目的ではなく、最重要の目的はプレシア・テスタロッサの保護と戦場からの離脱。

 

 

これから始まるのは過去以上の規模となってしまうであろう、レジェンドルガとの新たな戦争。その前哨戦…それに敗北する訳には行かない。ファンガイアの王ダークキバとしても、トウヤ個人としても。

 

 

(まったく、何処まで行っても平穏な暮らしとは縁の無い奴だな)

 

 

ベルトに座しながらキバットバットⅡ世は前世からの相棒にして父でもあり兄でもあるそんな関係の少年に対してそんな事を思う。だが、それでも…

 

 

(ふっ、オレはお前に最後まで付き合う。前世まえからの約束だからな)

 

 

彼は何処までもトウヤの決めた道に付き合う。それはあの時に既に決めていた事だ、今更迷う必要は無い。

 

 

そう考えながらこの三つ巴の戦場から真っ先に抜け出していくのは、最も数の上で最小の勢力だったダークキバ達だった。

 

 

「待て!」

 

 

取り残されたクロノが彼等を追おうとするが、ダークキバの一撃が切り開いた道は直ぐに機械兵達によって埋められてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

 

「好都合ですね、エウリュアレイ様」

 

 

ダイルが一人の女を前に肩膝を着きながら言う。女の服装は一般的な管理局の制服だが、彼女の纏っている空気は普通の人間の物ではない。

 

更にダイルのとっている態度が彼女との地位の差を顕著に表している。明らかに上位者に居るのは彼女であり、ダイルは彼女よりも下に位置していると。

 

 

「ええ、彼らの案内に従えば、大魔導師プレシア・テスタロッサの居場所まで迷わずに行けそうね」

 

 

「はっ!」

 

 

「それと…彼が『候補者』の一人ですか」

 

 

ゆっくりとクロノへと視線を向けながらエウリュアレイと呼ばれた女は呟く。

 

 

「ええ、検査に於いてはシステムと一番の適合率を出しました。何より……強く『時空管理局』と言う組織を信じております」

 

 

「クスッ。なら、彼は一番の候補者ね…。私は賛成しておくわね、ダイル…いえ、『 』」

 

 

微かに呟いた名が戦闘音で掻き消えたその言葉と共に女の姿が蛇の下半身と背中に翼を持った異形の姿へと変わる。それこそが、彼女の本来の姿、

 

 

 

 

 

それはギリシャ神話に於けるゴーゴン三姉妹の一人、メデューサの姉の一人である『エウリュアレイ』の伝承の元となりし伝説種レジェンドルガ『エウリュアレイレジェンドルガ』

 

 

 

 

 

「ダイル、貴方はダークキバの足止めを」

 

 

「はっ!」

 

 

ダイルの言葉に満足げに頷きながら、エウリュアレイレジェンドルガはゆっくりと背中の翼を広げ、ダイルは己のデバイスを起動させ、レジェンドルガ化した管理局員達の側からダークキバ達の後を追う。

 

 

エウリュアレイレジェンドルガが今まで姿を見せなかったのは、ダークキバ(トウヤ)が気付きかけていた直接その目的を果たす為。

 

その範囲にレジェンドルガの故郷である地球が存在していると知った時から、万が一他の魔族に存在を気取られない様に特に細心の注意を払って己の存在を隠蔽していた。

 

 

「『プロジェクトF』…あの計画は私達レジェンドルガにとって何より重要なのですから」

 

 

「はっ! 全ては我らが君主(アーク)様の為」

 

 

その為に念には念を入れて部下として乗り込んだ二人と違い、飢えに耐えながらもライフエナジーを吸収する事はしなかった。

 

現にレジェンドルガの宿敵とも言える当代のキバと出会った以上、飢えに耐えながらも己の存在を隠しておいたのは幸いだった。そう思わずには居られない。

 

 

(…当代のキバ…。先の大戦で死んだ姉さんの仇も有りますが、優先すべきは親衛隊の一人としての任務。ダークキバを八つ裂きにするのはその後です)

 

 

心の中で静かに、だが大きく強くダークキバへの憎悪を燃え上がらせながらエウリュアレイレジェンドルガは心の中で静かにそう呟く。

 

 

 

《全ては我らが君主(アーク)様の為》

 

 

 

静かに今まで影で蠢いていた伝説種(レジェンドルガ)達は自らが崇める君主(ロード)へと、絶対の忠誠の意思を込めて心の中でそう宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 



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