俺が美優にプロポーズするまで ((TADA))
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俺が美優にプロポーズするまで
1話


美優さんとイチャイチャしたかった……そんな小説です。以下注意事項


キャラ同士の呼び方の間違い多し・居酒屋『しんでれら』にオリ店主・料理描写絶無・『愉悦部周子』


以上が大丈夫な方はスクロールをどうぞ


居酒屋『しんでれら』。346プロダクション近くにある小さな居酒屋は料理が美味しいと評判である。その美味しさは居酒屋であるのに売り上げの八割をランチタイムでとってしまい、本業である夜の居酒屋では閑古鳥が鳴いている有様である。その状況に料理を作っている店主は頭を抱え、店主の妹は指をさして嘲笑った。

しかし、その状況が好ましく感じる人々もいる。346プロに所属する成人(飲酒)アイドルの面々である。彼女達は料理が美味しくお酒の種類も地味に豊富な居酒屋『しんでれら』を行きつけのお店として頻繁に通うのであった。

 

 

 

 「兄ちゃんはいつ美優さんにプロポーズするん?」

妹の唐突な問いに俺は手元が狂って自分の手を切りそうになる。

 「と、突然何を言い出すんだ、周子」

京都の実家から追い出されてアイドルになった妹に俺は問ひ返す。妹は定位置である俺の正面のカウンターに座り、俺に命令して特別に作らされた『ジャンボエビフライトンカツ定食(大盛り)』という「お前、アイドルの自覚ある?」と質問したくなるような代物を食べながら再び口を開く。

 「せやからプロポーズやで、プロポーズ。兄ちゃん達は中学2年の時から付き合っとるやん。美優さんのお父さんが転勤族で引っ越し多くても遠距離恋愛続けて、兄ちゃんが東京の料理専門学校に進学して、美優さんが東京の大学に入学した時は半同棲状態やったやん。むしろなんでまだなん?」

 「いや、周子。それには深い理由があってだな……」

周子は皆まで言うなとばかりに俺の発言を止めると、再び口を開く。

 「兄ちゃんがヘタレなのは妹である周子ちゃんが一番よく知っとる」

 「おい」

 「そんなヘタレでチキンで超ネガティブな兄ちゃんが美優さんから仕事を辞める相談を受けた時にプロポーズしようとしたことも知っとる」

 「待て、何故知っている」

あれは誰にも相談していなかったはずだぞ。俺の発言を華麗に無視して愚妹は言葉を続ける。

 「その直後に兄ちゃんが当時勤めていた二つ星レストランのシェフと喧嘩してクビになったと聞いた時の美優さんの心境はわかるか、兄ちゃん」

 「いや、あれは俺も申し訳なかったなぁ……と」

俺の発言にやれやれだぜと首を振る周子。

 「これだから兄ちゃんは兄ちゃんなんや」

 「お前いい加減ぶっ飛ばすぞ!?」

 「どうせできないことを言うのは辞めた方がええで、兄ちゃん」

世の中の妹はこんな風に流れるように兄を罵倒してくるものなのだろうか。生まれてこのかた周子しか妹がいない俺にはわからん。

そこにクスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 「あ、すいません川島さん。うるさかったですね」

 「全然いいわよ。むしろ楽しませてもらってるわ」

最近になってうちの店の常連になった周子と同じ346プロに所属する川島瑞樹さんである。

 「面白し生物やもんなぁ、兄ちゃんは」

 「お前は何を他人面してるの? 川島さんはお前のことも笑ってるから」

 「嘲笑(わら)われることは兄ちゃん慣れてるやろ?」

 「お前今、嘲笑されることに慣れてるって言わなかったか?」

 「事実を述べただけやで?」

 「お前本当に失礼だな!!」

とりあえず報復に用意していた特製タルタルソースは没収である。

最初は文句を言っていた周子だったが、すぐに話を元に戻す。

 「それで、や。シェフと喧嘩して仕事を失った兄ちゃんは『こうなったら店持ってやるわボケェ!!』って感じでお店の開店準備を始めて、美優さんもそれに気を使った結果、結婚話は話題になることもなくお流れ」

 「コフ」

美優に気を使われた事実ももちろんだし、何より話していなかったはずの妹がそれを知っている事実にダメージがでかい。

 「んでんで、今度は兄ちゃんのお店の方が軌道に乗ったから改めてプロポーズの機会を待っていたら美優さんまさかのアイドルデビュー。今度は兄ちゃんがスキャンダルを気にして連絡が取りにくくなっとる状況やもんね」

 「全部知っているなぁ!! 周子ちゃんは!!」

 「全部は知らんよ。兄ちゃんの弱みになりそうなことだけや」

 「最悪すぎるわ!!」

世の中の兄とはこうも妹に虐げられる存在なのだろうか。

 「そこで瑞樹さんに質問や。今の美優さんの気持ちはわかりますか?」

 「………わかるわ!!」

 「わかっちゃいますかぁ」

周子の問いに力強く答える川島さん。俺も連絡を取りたいのは当然なんだが、デビューしたばっかりの人間にスキャンダルが起きたら問題だろうと思って連絡できていないのだ。

 (スキャンダル起きたら『責任をとるから俺と結婚してくれ』で済む話なんやけどなぁ)

 「なんだよ周子。その可哀想な物を見るような眼は?」

 「兄ちゃんは良い人やけど残念な人やねぇ……」

 「お前は兄に対する敬意とかないの?」

この妹にそれを期待するだけ無駄だとわかっているけども。

 「あら?」

そんな兄妹の心暖まる会話をしていると何かに気づいた川島さんが店の入り口に向かう。そして扉のところに誰かいたのか外にいる人物に話しかけていた。

 「外から高垣さんの声がすると思ったら! 美優ちゃんも一緒なのね!」

 「ゴホッ!!」

川島さんの言葉に俺は飲んでいた水でむせ、周子は嫌な笑みを浮かべた。

 「ほらほら、寒いんだから早く入って入って!!」

そう言いながら川島さんは外にいた人たちを招き入れる。

入店して来たのはここの常連アイドルの一人である高垣楓と、困った笑顔を浮かべた俺の恋人である三船美優であった。

 「え、と。まだお客さんがいないんですね……」

 「いや!! 違うんだ美優!! 売り上げの八割はランチタイムで稼ぎ終わっていて、夜の居酒屋はいつもこんな感じなんだ!! 売り上げは大丈夫だから安心してくれ!!」

 「兄ちゃん焦りすぎで超笑える」

 「ウルセェぞ周子!!」

心配した表情をしていた美優を安心させるつもりが周子に笑われてしまった。

 「まぁ、こんな状況だから私たちアイドルも変装しないですむしね」

 「店長さんも趣味でやっているかもしれませんね」

 「趣味じゃないですけど!?」

 「あはは。やたらお酒も充実しているしね」

 「お客さんのニーズに応えようと思った結果ですが!?」

常連からの酷い言葉である。

 「高垣さんと美優も座ってくれ。今、おしぼり出すから」

そう言ってカウンターから一旦離れる。周子は高垣さんと美優に挨拶をすると俺のところにニマニマしながら近寄ってくる。

 「兄ちゃん! 今がチャンスやで!!」

 「女心がわからない俺でもここじゃないってわかるぞ」

とりあえず注文された料理とお酒を出して俺は調理に戻る。しばらくすると美優が眠そうに船を漕ぎ始めた。

 「美優はそんなにお酒強くないからもう回ったのか」

 「疲れているのに空きっ腹にお酒入れちゃったからかしらね」

俺が用意したタオルケットを美優に被せる川島さん。その時に寝ぼけながら美優が口を開く。

 「お二人ともすごいです……プロ意識が高くて……私、アイドルに向いていないんでしょうか……」

アイドルに向いている向いていないで悩んでいる、か。

 「とりあえず二階の住居スペースで寝かせて来ます」

 「送り狼になったらあかんよ」

 「付き合ってるのに駄目なのか……?」

周子の言葉に首を傾げながら、俺は普段の住居に使用している二階の部屋に入る。そしてベッドに美優を寝かせる。

昔は可愛らしいと言った感じだったが、大人になった今は美しいと感じる女性になっている。

 「うん……周介さん……」

 「ああ、ここにいるよ」

寝ぼけて俺の名前を呼んだ美優の手を優しく握る。しかし、俺は別のことで頭がいっぱいだった。

 (ヌヲォォォォォ!! ますますプロポーズしづらくなったぁぁぁぁ!!!!)

 

 

 

 「あら? 周子ちゃんはここの店長さんの妹さんと聞いてましたけど、美優さんもお知り合いなんですか?」

 「兄ちゃんと美優さんは10年以上お付き合いしている恋人同士ですわ」

 「ここはアイドルだけじゃなく、二人の仲も応援したくなっちゃうわね!!」

 




塩見周介
居酒屋『しんでれら』店長。ランチタイムは激混みだが夜は閑古鳥が鳴く居酒屋店長。塩見周子の兄。恋人である三船美優とは15年近い関係。ヘタレ

三船美優
本作のメインヒロイン。なんか結婚していないのに未亡人の雰囲気を醸し出す美人女性。恋人のお店の状況を見て結婚話を切り出せないでいる。

高垣楓 川島瑞樹
オリ主の経営する居酒屋の常連客。

塩見周子
作者のアイマス小説に周子ちゃんが出ないなんて福神漬けのないカレーみたいなものだ! という作者の独断と偏見によって出演。最初からエンジンを吹かして兄を煽ってくれました。



美優さんとのイチャイチャ話を書きたいという欲望を具現化するために書き始めました。結果的に全くイチャイチャできていませんが。
ちなみに終わるのは周介くんが美優さんにプロポーズできたら。つまり次回で終わる可能性もありますし、こち亀並みの長期連載になる可能性も含んでます。

投稿するタイミングは毎月最終週のどこかの予定。来月は美優さんの誕生日だからチャンスだぞ、周介くん!!


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決戦は誕生日

ゴールキーパーと一対一……!! これは決めるしかないぞ周介くん!!


そして誕生日おめでとう美優さん!!


 「今日の店は貸切! 料理の準備は万全! ケーキも知り合いの腕の良いパティシエに頼んで作ってもらった! そして切札の指輪も用意は完了している……!! 妹よ!! 兄ちゃんは今日決めるぞ……!!」

 「うん。誕生日当日にプロポーズは女性的にいいと思うけど」

そこまで言って周子は呆れたように俺を見てくる。

 「『予定時間まで緊張でどうにかしそうだから話し相手になってくれ!!』ってなんなん? 兄ちゃんはどこまでヘタレなん?」

妹の切れ味の良い言葉に俺の心が切り裂かれる。だが、その言葉の暴力も今は夜に控えている本番の緊張をほぐすのに丁度良い。

今日は2月25日。俺の恋人である三船美優の26歳の誕生日だ。俺はこの日に結婚を申し込もうと思って全ての準備を整えた。美優は昼間に仕事があるが、夜に俺の店に来てくれる予定になっている。

そう! 今日こそ決めるのだ!!

 「というか呼んどいてなんだが、周子は仕事大丈夫なのか?」

 「今日はオフやったから大丈夫やで。まぁ、タダ飯食わせてくれるならいつでも呼んでくれてええで」

 「お前は俺の店で金を払ったことあったか?」

 「兄ちゃんは可愛い妹から金をとるつもりなん?」

 「どこまで図々しいんだうちの妹は……」

昔からそうだがこいつはどこまでも図太い。小心者の俺とは大違いだ

 「というか兄ちゃん。いくら料理しか能がないとは言え」

 「お前はなんでそう辛辣なの?」

 「あ、ちょっと言い方悪かったな。変えるわ。いくら料理以外に能がないとは言え」

 「悪化してるじゃねぇか!!」

俺の言葉にカラカラと笑う周子。こいつの失礼さは誰に似たのだろうか。

 「まぁ、話続けるけど、兄ちゃん。作りすぎ」

周子のマジ視線の先にはお座敷の机を覆い尽くす料理の山が!!

これには俺もちょっと焦る。何せ自覚があるから。

 「いや、これには富士山より高い理由があるんだ」

 「どうせ『あ、そう言えば美優はこれも好きだったな』とか思い出しながら作った結果なんやろ?」

 「周子はエスパーだったのか」

 「兄ちゃんの理由が砂場の山より低いだけや」

そんなこと言われても勝負の日だから腕によりをかけた結果なんだ。だって『あの料理がなかったからちょっと……』と断られたら俺は店を畳んで宇治川に飛び込みたくなる。

余り物で作った料理を食べながら周子が問いかけてくる。

 「それで? そろそろ待ち合わせの時間じゃないんか? それだったら私はクールに去るで?」

 「周子はスピードワゴンだったか……っと、うん? 美優から電話?」

 「なんや兄ちゃん。会う前からイチャつく気かいな」

 「大丈夫、大丈夫。周子にもいずれいい人が見つかるさ」

笑顔で中指を立ててくる周子を尻目に俺は電話に出る。

 「美優か。どうかしたか? え? 仕事現場のプロデューサーが美優の誕生日会を企画してくれていた? こ、断れそうにないか。いやいや!! 仕事の付き合いも大事だからな!! ああ、大丈夫!! なに!! 俺はまた今度でもいいさ!! ああ。それじゃあな」

俺と美優の会話が聞こえていたのかかなり沈痛そうな表情を浮かべて俺を見てくる周子を無視して、俺は隠し戸棚からスピリタスを取り出し、グラス一杯を一気飲みしてから口を開く。

 「笑えよ、ベジータ」

 「いや、流石の周子ちゃんもこれは笑えへん」

 「笑ってくれよ!! せめていつも通りにバカにしてくれよ!!」

俺の渾身の叫びである。

 「あぁぁぁ!! なんで俺はこうなるかなぁ!!! 昔っから張り切ると大抵のことは空回る!!」

 「まあまあ、落ち着け兄ちゃん」

 「俺は落ち着いている!! 落ち着いているからこの世界に絶望している!!」

 「落ち着け糸色先生!!」

周子にコップから水をぶっかけられてとりあえず落ち着く。

 「あ〜、今回も駄目だったじゃんよぉ。これマジでプロポーズできないんじゃねぇの?」

 「なら諦めるん? 美優さんなら新しい人見つけられるだろうけど、兄ちゃんは美優さん逃したら一生独身やで?」

 「周子の毒舌で正気に戻ったわ。いや、俺だって美優と別れるなんて考えられへんけどな、こうもタイミングが悪いと呪われてると思ってまうねん」

 「兄ちゃん、訛っとるで」

 「おっと、酒が入ったからな。気をつけよう」

美優は転勤族の親だったので、一時期いろんな訛りが混じって大変なことになっていたから、訛りに良い印象を持っていないのだ。だから俺も常に標準語を話すようにしている。

周子? こいつに何を言っても無駄である。

 「は〜、嫌になる。本当に嫌になる。誕生日逃すとか次はいつだよ」

 「クリスマスとかどうや?」

 「十ヶ月先かぁ」

コップに注ぐのが面倒になったので瓶ごとスピリタスをラッパ飲みする。

 「そういや、兄ちゃんなんでそんなに焦っとるん?」

 「いや、俺たちも今年で26だろ?」

 「兄ちゃんは7月生まれだから27になるやん」

 「細かいことはいいんだよ。ほら、女性の初出産は30までにした方がいいってよく聞くからさ。デキ婚はアイドル的にどうかと思うとギリギリだろ。今年か来年くらいが」

 「プロポーズもできてへんのに子種仕込む事も考えているとかキモ!!」

 「やかましい」

こいつは本当に妹なのだろうか。少しは兄に対する優しさを見せるべきだろう。

 「そう言えば兄ちゃん」

 「なんだよ」

三本目のスピリタスを空っぽにしながら周子に問い直す。

 「美優さんのどこが好きなん?」

 「お、それを聞きたいか? 聞きたいんだな。よし教えてやる」

 「あ、やっぱええわ」

 「ウルセェ! 聞け!!」

四本目のスピリタスを一気に飲み干しながら口を開く。

 「昔からだったがどこか憂いを帯びていて儚げで結婚していないのに未亡人の雰囲気を醸し出しているところは当然だが、流されやすい性格でNOと言えない庇護欲をかき立てさせられるところはもちろん、最近では子供にたいして母性溢れる包容力もある女性になった。そして、一番なのは天然なところが」

 「もういい……!! もう黙ってくれ……!!」

俺がマシンガンのように言葉を並び立てていると途中で周子に無理やり止められてしまった。まだまだ語れるのだが。

 「まぁまぁ、兄ちゃん。ほれ、これも飲んでみ」

周子に差し出された水を飲んだ瞬間に俺の意識は飛ぶのであった

 

 

 

 「兄ちゃんは酒飲むとめんどくさくなるからなぁ。さっさと落ちてもらうに限るわ」

周子は一緒にユニットを組んでいる天才に作ってもらった睡眠薬『安らかに眠るンデス』の瓶を軽く振りながら呟く。

このまま兄を店舗スペースに放置して帰ることも考えたが、いつもお世話になっているのでたまには『良い妹ムーブ』をするために兄を引きずって二階の住居スペースに運ぶ。途中の階段で引きずっている兄からいい音が鳴っていた気がするが周子ちゃんは華麗にスルー。そのままベッドに放り込んで任務完了。

一階の店舗スペースで残っている料理でも片付けるかぁ、と思って一階に戻って箸を掴むと突然お店の入り口が開かれる。

 「あ、あれ? 周子ちゃんだけですか? 周介さんは……?」

 「Oh……美優さんやないですか」

兄の恋人である三船美優が綺麗な格好をして立っていた。このカップルはなんでこうタイミングが悪いんだろうか。

 「美優さん、仕事先の人とパーティだったんやないんですか?」

 「あ、それが瑞樹さんが『恋人のところに行ってきなさい。ここは私がなんとかしておくから』と言ってくださって」

 「瑞樹さんと一緒の仕事やったかぁ……!!」

この店の常連である川島瑞樹が最高のアシストをしたようだが、残念ながら恋人はすでに夢の中である。

 「すいません、美優さん。兄ちゃんはすでに寝てもうたわ」

 「……やっぱり怒ってらっしゃいましたよね」

 「ちゃうちゃう。自分の運の悪さとタイミングのなさに嫌気がさしてスピリタス四本を空っぽにして潰れただけや」

 「あの……スピリタスって確かアルコール度数が……」

 「綺麗な火がつくやつやね」

酒はこれくらい強くないとだめとか言っている兄の正気を疑う、周子ちゃん。薬で兄を落としたことは遠い棚に放り投げておく。

 「ま、美優さんもせっかくだから兄が『美優さんのために』作った料理でも食べましょ」

周子がわざと『美優のために』を強調していうと顔を真っ赤にして照れる美優。それを見て内心で「付き合いたての中学生か!」とツッコミを入れるが口には出さない。口に出すとますます中学生的反応をされるのは経験で知っている。

 「それじゃあ美優さんはそっち座って。箸も今とってきますから」

 「ありがとうございます、周子ちゃん。あ、私の好きな料理ばかり」

顔を真っ赤にしながら呟いた美優の一言があれば兄は十年は戦えるだろう。

それからしばらくは和やかな食事が続く。周子が兄と美優の仲をからかうのは昔からなので美優も慣れたものだ。なにせ昔は顔を真っ赤にして俯いて何も喋れなくなっていたのに、今は顔を真っ赤にして喋ることは可能になっている。

 「そういや美優さんはあのヘタレのどこが好きなん? こう言っちゃなんやけど顔は平均値で性格もヘタレやで? 美優さんならもっといい物件を探せると思うで?」

 「そんなことないです!! 周介さんはとても優しいですし面倒見も良いですそれにたまに見せる少年のような笑い方も素敵ですしお料理をしているときの真剣な表情は見惚れるほどです」

 (あ、地雷踏んでもうた)

周子の一言に人が変わったように兄の美点を言い続ける美優。始まって2秒で聞くことを辞めた周子はこのスイッチが入った兄嫁(仮)をどうしようか考えるが、自分のポケットに天才が作った睡眠薬が入っていることを思い出す。

やるべきことが決まったら即実行が周子ちゃんのポリシー。兄嫁(仮)の言葉に適当に相槌を打ちながら水の中で睡眠薬を一滴垂らして準備完了。

 「まぁまぁ、美優さんとりあえず落ち着く意味で水でも飲んで」

 「あ、はい。ありがとうございます」

そして美優が水を一口のむとコテンと横になって静かな寝息を立て始めた。

 「ふぅ、胸焼けするところやった」

兄嫁(仮)から兄の惚気を聞かされるとかどんな拷問だ。つまり周子ちゃんは悪くない。

実兄は乱雑に扱ってもなんの問題もないが、流石に兄嫁(仮)を乱雑に扱うわけにはいかないので、周子は美優を背負って兄の眠るベッドまで運ぶ。

そして兄の隣に寝かせると周子の悪戯心に火がついた。

 (これ、美優さんを下着姿で寝かせておいたらおもろいことになるんとちゃうか)

やることが決まったら即実行である。周子は丁寧に美優の服を脱がせ、ついでにメイクも落としておく。そして二人を抱き合わせる形を整えて布団を被せる。

 「それじゃあお二人さん、良い夢を〜」

それだけ告げて周子は部屋から出る。そして一階の店舗スペースの戸締りをして裏の勝手口から外に出て(勝手に作ったスペアの)鍵で締める。

 「塩見周子はクールに去るで」

そして帰った。

 

 

 

 

 『周子ぉぉぉぉ!! お前!! やっていい悪戯と悪い悪戯があるだろ!?』

 「何をいうとるの兄ちゃん、超今更やんか。ところで今朝事務所にやってきた美優さんの肌が妙にツヤツヤしてて腰をちょっとさすってたんやけど、まさか朝っぱらから下着姿の美優さんを見て襲ったなんてことないよな、兄ちゃん」

 『……合意の上だからセーフ』

 「セウトや」

 




塩見周介
完全にゴールを決めるつもりが見事に空ぶったタイミングが悪いオリ主。

三船美優
朝からは恥ずかしかったけどちょっと嬉しかったりもする複雑な心境

川島瑞樹
完璧なアシストが無駄に終わった

塩見周子
フリーダム妹。同じユニットを組んでいる天才の作った薬品を兄で頻繁に実験する。



ゴールキーパーと一対一かと思いきやまさかのオフサイドでノーゴール……!! このタイミングで外すとかどうするんだ周介くん!!

美優さんとのイチャイチャを書きたかったはずなのに書きあがったものが塩見兄妹による漫才に。頭のおかしいキャラしか書けない作者にはイチャイチャは書けないということか。だが、諦めんぞ、次回こそは…!! 次回こそは美優さんとイチャイチャさせたい……!!

ところで素朴な疑問なんですがイチャイチャってどうやったら書けますか?


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花見の準備

おかしい……美優さんとのイチャイチャを書くつもりが塩見兄妹による漫才になってしまう。


それでも今までよりはイチャイチャしているはず……!!


 「焼き加減はこれくらいで大丈夫ですか?」

 「うん? あぁ、それくらいで問題ないよ。美優は料理上手いな」

俺の言葉に美優は少し照れた表情をする。

現在、俺と美優は二人で料理をしている最中である。場所は俺の店の厨房。それというのも美優がうちの常連アイドルの皆さんとお花見をすることになったらしく、その料理を作りたいというのだ。美優にいいところを見せたい俺はうちの厨房を貸し出し、当然のように材料も俺が出した。美優も最初は遠慮していたが、俺が決して折れないことを感じ取ったのか、申し訳なさそうにお礼を言ってくれた。この言葉で俺は10年は戦える。

え? お店? 臨時休業に決まってるだろ。言わせんなよ、恥ずかしい。

 (しかし、こうして二人で並んで料理をしていると……)

 「まさか並んで料理をしていて新婚夫婦の妄想なんて童貞中学生みたいな発想はしてへんよな、兄ちゃん!!」

 「Heyシスター! 唐突に入ってきて失礼な宣言するのやめようぜ!!」

店の入り口をスパーンと開いて失礼なことをほざいてきた周子に返す。

ど、童貞ちゃうし!! 美優とシたから童貞ちゃうし!!

 「んでんで、どないして美優さんが兄ちゃんのお店で料理しとるん? ついにうちのヘタレがプロポーズしたんか?」

 「お前がそう煽るからプロポーズし辛くなってることにそろそろ気づいてくれない?」

 「自分のヘタレを可愛い妹のせいにするのはどうなん?」

 「可愛い妹? どこにいるんだ?」

周子が笑顔で自分を指差しているが、俺はそれを華麗にスルー。俺には面倒で厄介な妹はいるが、可愛い妹はいないはずである。

 「それで? 周子と一緒に来たのは誰だ? 周子とユニット組んでる子じゃないよな」

 「いえ、その前に346プロダクションの子じゃないですよ」

美優の言葉に俺は周子を見る。

 「どこから誘拐してきた」

 「兄ちゃんは妹をどういう眼でみとるの?」

 「いつか犯罪を起こしそうで心配な妹だな」

 「大丈夫や。その場合は兄ちゃんに前科がつくだけやから。美優さん、前科がついた兄ちゃんでも愛してくれますか?」

 「お前は何を言っているんだ」

 「だ、大丈夫です!! どんな周介さんでも私は愛してみせます!!」

 「美優も俺が前科者になること前提で話すのは辞めようぜ!!」

周子は冗談で言っているが、美優はガチ発言なので複雑な彼氏心だ。

そんな心温まる漫才を見ていた周子の連れの子がクスクスと笑っている。

 「失礼した。私は今日の仕事を周子さんと一緒になって仲良くなった白瀬咲耶だ。周子さんが美味しいランチを出してくれるお店を知っているというから来たんだけど、取り込み中だったかな?」

爽やかな笑顔と王子成分を振りまくスタイルの良い女子高生。

俺は真顔になって咲耶ちゃんに告げる。

 「咲耶ちゃん、友達は選んだ方がいい。周子と一緒にいたらその爽やかな笑顔が胡散臭い笑顔に変わってしまうぞ」

 「兄ちゃん兄ちゃん!! 兄ちゃんも人のこと言えへんで!!」

周子のツッコミを俺は華麗にスルー。確かに俺の友人には鬼畜と外道を煮詰めたクソみたいな性格の連中が多いが、俺は普通なのだ。

 「ふふ、周子さんは現場でもみんなを楽しませてくれるけど、それはお兄さんとの会話で鍛えられたトーク術なんだね」

 「俺と周子の会話のドッジボールを楽しい会話と申したか」

 「どうや兄ちゃん。こんなええ子に飯を食わせずに外に放り出せるんか?」

 「仕方ない。ほれ、カウンターに座れ」

俺の言葉に元気よく返事をする周子とお礼を言ってくる咲耶ちゃん。正反対のようで仲良くて結構である。

そしてそんな俺を見て美優が優しく微笑んでいる。

 「ん? どうかしたか?」

 「いえ。私はなんだかんだ言いながら周子ちゃんに優しいところも好きですよ」

美優の言葉に真っ赤になる俺。そして割と恥ずかしい発言をした自覚をしたのか、自爆して顔を真っ赤にする美優。

 「Hey! そこの中学生カップル!! 今回は何で自爆したのか知らんけどランチはよ!!」

 「本当に空気を読まない妹だなぁ……!!」

俺の言葉に周子はやれやれと言った感じで首を振る。

 「ええか兄ちゃん。川島さんとか見たいに最近になって兄ちゃんと美優さんの関係を見始めた人達からしたら、兄ちゃん達は微笑ましいで済むんやけどな、私みたいに子供の時から見せつけられたら『お前ら早く籍入れろよ』って気分になるんやで?」

 「やかましい!!」

俺がプロポーズのタイミングを失っているのは周子のこの煽り芸も大きい。何せ普段から『さっさとプロポーズしろ(意訳)』と本人を前に言われていたら、誰だって難しいはずだ。

俺はそう自己正当化してから周子達から料理の注文を受けていなかったことを思い出した。

 「周子に咲耶ちゃん、何を食べるんだ?」

 「ヤサイマシマシカラメマシアブラスクナメニンニク」

 「ここはラーメン屋じゃない」

 「しゃーないなぁ、それじゃあベンティノンティーマンゴーパッションフランペチーノアドホワイトモカシロップアドホイップクリームで」

 「ボケの重ねがけをするな周子。もう周子はめんどくさいからいつものな。咲耶ちゃんはどうする?」

 「あ、それじゃあ周子さんと一緒のをお願いするよ」

 「あいよ」

周子のボケの連発に面倒になったので軽く流し、俺は調理を始める。

 「そういや、美優さんはなんで料理しとんの? 花嫁修行?」

周子の失礼な問いにも美優は優しく微笑みながら答える。

 「そのつもりがないと言ったら嘘になりますけど、今日は川島さん達とお花見をするんです。それで料理を持っていくので、周介さんに習っていたんです」

 「兄ちゃん!! 花嫁修行のつもりもあったってさ!! 美優さんは誰の花嫁になるんやろなぁ!! 少なくともまだプロポーズできていないヘタレではないよなぁ!!」

 「ここぞとばかりに煽ってくるなよこの愚妹がぁ!!」

周子のこの煽りスキルは誰に鍛えられたものなのだろうか。俺みたいな優しい性格の人からでないのは確かだが。

 「それにしても花見ねぇ。私も行きたいわ」

 「あ、それだったら周子ちゃんも一緒に行きますか? きっと川島さん達も喜んでくれますよ」

 「……ちなみに美優さん。メンツはいつもこのお店で飲んでいるお姉様方ですか?」

 「はい、そうです」

 「自分から地獄の宴に突っ込む趣味はないんで遠慮しときます」

 「お前の川島さん達に対する印象はどうなっているんだ」

周子のガチトーンでのお断りの発言に思わず俺が突っ込んでしまう。

 「いやいや、兄ちゃん。私も頻繁にこのお店であの人達の飲んでいる姿みとるけど、あの飲み方についていけるのは常人には無理やで? その証拠に美優さんの最近のお泊まり率、上がっとるやろ?」

周子の問いに俺はあえて無言で返す。美優があの肝臓の強さがおかしい人達のペースで飲まされて、潰されて、俺の部屋に泊まる回数が増えているのは事実だからだ。

 「でも周子ちゃんだったら普通に飲めそうですよね。周介さんの妹さんですし」

 「スピリタスを水代わりに飲む変態と一緒にせんでください」

 「周子、軽くウォッカをストレートでいっとくか?」

 「未成年に飲ませるのは犯罪やで、兄ちゃん」

 「高校時代」

 「過去は振り返らないもの」

俺のツッコミに周子は平然と返す。こいつは高校時代に東京に住む俺の家に来て平然とウォッカを空にしたことをなかったことにしたいらしい。

 「それより美優。そろそろ時間じゃないのか?」

 「え? あ!!」

俺と周子の会話を微笑ましそうに聞いていた美優に声をかけると焦った様子になった。

 「片付けは俺がやっとくから、行ってきな」

 「す、すいません周介さん」

 「いいっていいって。どうせ俺の厨房だ。俺が片付けとくよ」

 「すいません。それじゃあ行ってきます」

美優は着ていたエプロンを脱ぎ、最後に俺達に頭を下げると、作った料理が入ったバスケットを持って外に出て行く。

 「私は一緒に仕事をしたことないけど、優しそうな人だね」

 「そうやろ、咲耶ちゃん。うちの兄ちゃんには勿体無い人や」

 「聞こえてるぞ、周子」

咲耶ちゃんの言葉に茶々を入れる周子。何故、周子は俺を小馬鹿にしないと会話できないのだろうか。

 「ほれ、それよりできたぞ。『ジャンボエビフライトンカツ定食(大盛り)』だ」

出された料理に喜ぶ周子と、真顔で固まる咲耶ちゃんの対比がちょっと面白かったのは俺の心の中に留めて置くとしよう。

 

 

 「ヤッホ〜!! 店長、お店やってる?」

 「あれ? 片桐さん? 今日はお花見だったはずじゃあ?」

 「お花見だったわよ!! 次は打ち上げ!!」

 「打ち上げ? お花見の打ち上げ? ああ、川島さんと高垣さんと柊さんまで……って!? 美優!! 大丈夫か!?」

 「おかしいれす。お花見の打ち上げなんて絶対におかしいれす……」

 




塩見周介
嫁(予定)と一緒に台所に並んで立つ新婚夫婦の妄想をしてちょっと嬉しかった。

三船美優
厨房で恋人と一緒にご飯を仕度ができて幸せ。でもお花見の後の打ち上げはおかしいと思う

塩見周子
今回も元気に兄を煽っていくスタイル

白瀬咲耶
作者がシャニマスを始めたので無理矢理出演させる暴挙。口調などが間違っているのはお許しください。何せ作者はW.I.N.Gに勝てない雑魚Pなので。ちなみに料理は食べきれなかった。



そんな感じで第三回です。今までで一番イチャイチャできたのではないかと作者は思っています。相変わらず好き勝手している妹がいますが。

困ったことにネタが既に尽きかけている問題。でも周介くんがプロポーズする姿が想像できない問題。今後はどうするかなぁ……


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映画デート

GW回です。なのにいつもより短め。

いつも短い? そんなぁ……


ゴールデンウィークである。これが世の中のカップルやご家族だったら連休を使ってどこか遠くに旅行に行ったりするのだろう。

ところが俺は小さいとは言え店の店主。そして恋人の美優はアイドル。導き出される答えはほとんど連休の休みが被らないである。

まぁ連休期間中は俺の家で生活するらしいので、一緒にいることは可能だ。いや、待て。連休中にほとんど一緒に過ごすということはほぼ同棲していると言ってもいいのでわ。そして同棲しているということは結果的に俺と美優は結婚していた……?

 「周子、俺は重大なことに気がついた」

 「なんや? 自分がヘタレのことか?」

 「バカかお前は。そんなことは高校時代から気づいている」

 「自信を持っていることとちゃうで、兄ちゃん」

いつも通りに飯をタカリに来ていた周子と駄弁る。時間は夜。常連さんの高垣さん達も来ていないので今日は本当に閑古鳥が鳴いている状態である。

 「いいか、周子。もうすぐ始まるゴールデンウィーク。美優と俺は半同棲状態になる。それ即ち結婚していると同じじゃないか?」

俺の理路整然とした発言に慈愛の笑みを浮かべる周子。

 「兄ちゃん、疲れとるんやな」

 「そうかもしれん」

周子の言葉に神妙に頷く俺。割と疲れている自覚はあるのだ。

すると周子は持っていたバッグをガサガサとあさり始める。

 「どうした? ついに俺の店でお金を払う気になったか?」

 「あ、それだけはないから安心してや」

 「ちょっとは払う気見せろよ」

俺の言葉に笑顔で否定する周子。こいつに出している料理の材料費も無料ではないのにこの態度。

 「ほい、これあげるわ」

 「? なんだ、これ」

俺の言葉にニンマリと笑う周子。

 「カップルにオススメの映画や。最近見に行けてないやろ? どうせやったら美優さんとデートに行ってきや」

 「……とりあえず映画の題名を聞いておこうか」

 「それは行ってからのお楽しみや」

 

 

 

周子からチケットをもらった数日後、俺と美優は映画館に来ていた。

 「周介さんと映画なんて久しぶりですね」

 「だな。最後が美優の大学四年の時だから……うん、年数なんてどうでもいいよな。今でも二人で居られることが大切なんだ」

俺の言葉に美優は顔を真っ赤にし、俺も恥ずかしいことを言った自覚が出てきて顔が真っ赤になる。

 「そ、それで周子ちゃんは何の映画のチケットをくれたんですか?」

 「そ、そうだな。確認してみるか!!」

美優の話の転換に内心でありがとうと言いながら、封筒に『当日まで秘密♡』と書かれた開封し、中のチケットを確認する。出て来た映画のタイトルは

 『魔の巣』

一度チケットを封筒の中に戻し、一度目をこすってからもう一度取り出す。そうだよ、いくら周子でもあんなクソ映画をデートに勧めたりなんか。

 『魔の巣』

現実は非情だった。

俺は一度だけ大きく深呼吸する。

 「クソ映画じゃねぇか!!」

 「え!? どうしたんですか周介さん!?」

俺がゴミ(チケット)をゴミ箱にダンクしたことに驚く美優。

 「悪い、美優。また周子の嫌がらせだ。映画は今から見られる映画を選んでみよう」

 「そ、それはいいですけど……何の映画だったんですか?」

 「知らない方がいい」

知ったら未来の義姉妹関係にヒビが入りそうだ。

 「え〜と、それだったら今からすぐに見られる映画ですと……」

美優の言葉に俺も一緒に映画館の上映リストを見る

 『魔の巣』『デビルマン(実写版)』『ロボット・モンスター』『ナチスゾンビ/吸血機甲師団』

羅列された映画のラインナップを見て俺は大きく息を吸い込む。

 「クソ映画しかねぇじゃねぇか!!」

 「お、落ち着いてください周介さん!!」

道理で休日なのに人がいないハズだよ!! こんなクソ映画を並べて誰が来るんだ!!

 「あ、で、でも2時間後にバーフバリがありますよ」

 「バーフバリは名作だな。……あれ? 美優ってバーフバリ見たことあるっけ?」

 「周介さんの部屋でBlu-rayでだったら……」

 「それだったらバーフバリにするか。あ、しかもこれマサラ上映じゃねぇか」

 「マサラ上映ですか?」

不思議そうな表情になる美優。

 「美優は知らないか、マサラ上映」

 「恥ずかしいことに……」

 「いや、別に恥ずかしいことじゃないさ。あ〜、簡単に言うと応援上映や絶叫上映の上位互換だな」

 「上位互換……声出し以外に一体何が……?」

 「一緒に踊ったりとかかな」

 「あ、なるほど一緒に踊り……踊り!?」

驚愕表情の美優。まぁ、わからなくもない。普通は静かに見るべきものを声を出すどころか踊りを踊るとか意味がわからん。

 「まぁ、日本のマサラ上映でそこまではやらないだろうけど、基本的には声出しのほかにはクラッカーを鳴らしたり、紙吹雪をまいたりとかだな」

 「……それって本当に映画を観れているんでしょうか」

 「まぁ、楽しんだもん勝ちみたいなもんだ。時間あるしチケット買ってどっかで昼飯食べてくるか」

 「そうですね。あ、そうだ周介さん」

 「うん? なんだ?」

真面目な表情の美優に俺も真剣な表情になる。

 「いくらマサラ上映とは言え、学生の時みたいな超巨大クラッカーを使ってはいけませんよ」

 「美優に俺の行動が先読みされている……」

 

 

 

バーフバリを見終わったあと。外は見事に暗くなっていた。映画では特に面白いことは起こっていない。美優の存在に気づいたお客さん達が『踊るよね? 踊らないわけないよね?』という視線に美優が負けて、俺と二人でパーフェクトダンスをしただけである。そしてエンドロールでは全員で『バーフバリ!』コール。俺はノリノリだったが美優は恥ずかしそうだった。アイドルになっても目立つことは苦手なようである。まぁ、そこも可愛いんだが。

そして二人で今は夜景を眺めている。綺麗な夜景だ。

 「綺麗ですね……」

 「あぁ」

美優の言葉に俺は頷く。美優のこの顔を見れただけで車でちょっと遠出をした甲斐があったものだ。

 (いや、ちょっと待て。これいい雰囲気じゃね? 100万ドルとまではいかないが綺麗な夜景を見ながらプロポーズ。おぉ! いい感じ!! いい感じですよ!!)

そこまで考えて俺はポケットに入っている指輪を取り出す。指輪を……取り……出す……。取り……

 「ぬわぁ!? 持ってくるのを忘れたぁ!!」

 「え!? きゅ、急にどうしたんですか周介さん?」

 「なんでもない! なんでもないぞ、美優!!」

ここに来てまたも俺の凡ミスでプロポーズ失敗。今回はめっちゃいい空気だったのに……

 「周介さん」

 「なんだ?」

あれか? 俺の気配りのなさについに美優も愛想を尽かしたか? やめてくれ。俺を捨てないでくれ。

 「夏休み。一緒におやすみを取れたら旅行に行きましょうか」

 「……ああ。そうだな。どこに行こうか」

俺の小さな悩みは美優の笑顔に吹っ飛ぶのであった。

 




塩見周介
映画鑑賞が地味に趣味な居酒屋店主。好きな映画はアクション映画。プロポーズのチャンスを指輪を忘れるという凡ミスで逃す。

三船美優
周介の影響で色々な映画を見る。好きな映画はホームドラマ的なもの。プロポーズされていないことを特に気にしていない。早くしてくれたら嬉しいな、くらいの考え。

塩見周子
兄のデートにクソ映画を勧める最悪の存在。『魔の巣』を勧めるとか正気じゃないぞ。

クソ映画
参考文献:シネマこんぷれっくす

バーフバリ
名作。『インド映画ってちょっと……』って思っている人にも是非見てもらいたい。色々な意味で面白いから。


こんな感じでGW(直前)回でした。デートってどこ行きゃわからんからとりあえず映画に行かせてみました。やだ! 作者の恋愛偏差値の低さが露呈しちゃう!!

ちなみに作中にあるクソ映画の大半は作者は見ていません。見たくもありませんしね!!


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ウェディングドレス

美優さんのウェディングドレスを見たいだけの人生だった……


 「兄ちゃん、兄ちゃん。耳寄りの情報があるねんけど」

いつものように周子がお昼時から少し外して店に襲来し、いつも通りにアイドルが食べてはいけないであろう量を食べ終わった時、周子がイイ笑顔を浮かべながら仕込み中の俺に話しかけてくる。

 「なんだ? お前がその笑顔の時はろくなことじゃない時の方が多いが」

 「いやいや、きっと兄ちゃんも気になることやでなんせ美優さん「よし、話を聞かせろ」食いつきが良すぎやで兄ちゃん」

 「俺が美優の話に食いつきがよくなるなんて今更だろう」

周子の呆れた視線をものともせずに堂々とする俺。恋人のことを知りたいと思うことは至極当然だろう。

そして周子は嫌な感じな笑みを浮かべる。

 「美優さんウェディングドレス着るってさ」

周子の言葉は俺の耳を通って脳に到達するが、理解を拒否する。

え? 美優がウェディングドレスを着る? それって結婚するってこと? いやでも俺まだプロポーズできてないしまさか向こうのご両親の『孫まだ』コールに負けて実はお見合いをしていて相手が悪い人じゃなかったから結婚を決めたってこと? 俺にだけまだ伝わってない感じ? それって俺捨てられたってこと? それってつまり俺と美優の仲も終わりってことか?

 「お〜、凄まじいまでの絶望の表情やな」

 「周子……」

 「なんや兄ちゃん」

 「俺、ちょっと奥で首吊ってくるわ。レンネンカンプ上級大将みたいに」

 「銀英伝ネタを挟んでくるあたりに余裕があるように見せかけているけど、全く余裕がないな、兄ちゃん」

とりあえず周子にぶっかけられたお冷で頭は物理的にも冷える。

 「それで? どういうことだ?」

 「兄ちゃん、眼怖いで」

 「怖くもなるだろう。場合によっては封印してある愛車を出して夜の首都高を190kmで突っ走らないといけなくなる」

 「あのモンスターマシン、まだとってあるんか……」

周子のどこか戦慄した表情を無視しながら俺は先を促す。

 「そんな難しい話やあらへんよ。ただ単にブライダルのお仕事が入ってそれでウェディングドレスを着るだけや」

 「仕事でか。ビビらせんな」

俺の言葉にイヤーな笑みを浮かべる周子。

 「兄ちゃん、そんなに落ち着いていられるんか? 仕事とは言え美優さんがウェディングドレスを着るんやで? しかも隣には兄ちゃんとは比べものにならないくらいのイケメンモデルさんが立っとるんや。そしてそんな美優さんの表情は満面の笑み」

 「aaqs.;;:aef,;r:ea:awkfewjfporejgopsp;kekwwjioeuifnfkasndarlkn!!!!」

 「あかん、兄ちゃんがバグった」

許せん、許せんぞイケメンめ!! 他のアイドルなら許すが美優を侍らせるだと。そんな不届き千万な者は俺の包丁で速やかに刺殺せねばなるまい。

 「周子」

 「なんや」

 「相手のモデルを教えろ。いますぐに棺桶に突っ込んでやらねばならない」

 「う〜ん、なんで兄ちゃんは美優さんに関することだとこう、ヤンデレチックになるんやろな。過激派やで」

 「それが愛だからさ」

 「愛、怖いわぁ」

カラカラと笑う周子だったが、すぐに楽しそうな笑みになる。

 「兄ちゃん、モデルやらへん?」

 「は?」

周子の言葉に俺は呆気に取られた言葉を返すことしかできなかった。

 

 

 

 

 「ここでいいのか……?」

あのあと当然のように周子に無理だと言ったのだが、周子の「美優さんのウェディングドレス姿見たくはないんか? これは貴方にとって悪い取引ではないと思いますが?」という言葉によって陥落した俺は指定された日に式場にやってきた。

今回の仕事は式場のPRらしく、その宣伝写真の撮影らしい。そこにクソ素人な俺を放り込んでどうすんだと思うが、周子に「美優さんの隣で立っとるだけでええから」という説明になっていない説明で俺はここまでやってきてしまった。

いや、俺も素人が突然モデルの仕事をするのはどうかと思うんだが、周子が「ウェディングドレス姿の美優さんと一緒になれるチャンスやで? もしかしたらプロポーズもできるかもしれへん」という言葉に拒否する術はなかった。

今回はキチンと指輪も持ってきている。いつチャンスがあっても大丈夫!!

 「え? しゅ、周介さん?」

 「お〜っす兄ちゃん、速いやん」

俺が覚悟完了していると後ろに停まった車から降りて来たのは美優と周子。なぜか美優が驚いた表情になっている。

 「な、なんで周介さんがここに?」

 「え? 周子に美優の相手役をやれって言われたからだけど?」

 「え?」

 「え?」

俺と美優がお互いにクエスチョンマークを飛ばしながら首を傾げる。

 「は〜い!! 兄ちゃんと未来の義姉さんに対する周子ちゃんのサプライズです!! 今回の男性モデルは兄ちゃんにやってもらいます!!」

 「え? で、でもプロデューサーさんとかから了承もらっているんですか?」

 「もらっとるよ。ちなみにモデル部門のプロデューサーは昔、兄ちゃんをスカウトして見事に玉砕食らったって言っとたな。そんなことあったん?」

周子の問いに俺も首を傾げて昔を思い出す。すると一件だけ心当たりがある。

 「あれか? ひょっとして専門時代に『モデルに興味はありませんか?』って来た人か? そん時は危ない仕事だろうと思って断ったけど」

 「その人ってサングラスかけて見た目は完全にヤクザな人やった?」

 「そうだったな」

 「うん、その人やな」

どうやら当時そっち系の人だと思った人は本物であったらしい。

 「ま、それじゃあ仕事のメンツも集まったことやし、行こか」

 「あれ? 周子も着るのか?」

 「私も着るで。どうや、兄ちゃん。おとんより先に妹の晴れ姿が見れるで?」

 「相手がいるんだったらキチンと俺に紹介するように」

 「なんだかんだで周介さんも周子ちゃんのこと大好きですよね」

美優の苦笑しながらの言葉がとても印象的だった。

 

 

 

 

 「お〜、素人さんとは思えないくらいビシッっと決まってますね。流石は塩見周子ちゃんのお兄さんですね」

 「はぁ、どうも」

とりあえず撮影用のタキシードに着替えたらスタッフさんに言われた一言である。褒められても俺はどこに出しても恥ずかしくないちょっと料理が上手いだけの素人だ。

 「お〜、兄ちゃん、なかなか決まっとるやん」

 「周子もな」

 「今回は兄ちゃんと美優さんはペアで撮影されるけど、私とも撮ってもらおか」

 「いいな。それでおとんに『俺たち結婚しました』ってメール出すか」

 「おとんだったら『うちに挨拶来てないぞ!! どうなってるんだ!!』って怒りそうやな」

怒るポイントはそこではないと思うが、残念ながら塩見家は普通ではないのできっと周子の言っている方で怒るのだろう。

俺と周子の漫才のような会話(しかし格好はタキシードとウェディングドレスである)を聞いて笑っているスタッフ達。

 「あ、あのお待たせしました……」

 「!?」

 「兄ちゃん、超反応すぎるで」

美優の声が聞こえた瞬間に俺は超反応で美優の方を見る。周子のツッコミは無視一択である。

そこにはいたのは純白のAラインで肩がむき出しのベアトップ。まさしくウェディングドレスの正統派と言ったドレスを身に纏った美優。

 「ど、どうでしょうか?」

美優の恥ずかしそうな言葉に俺は何も言えない。言えるわけがない。これはたとえ万の言葉を並べても美優の美しさを表現するに値しない。

だから、俺は絞り出すように口を開く。

 「とても……とても綺麗だ……」

俺の言葉に恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑う美優。

あれ? これチャンスじゃね? 二人とも結婚式の格好をしているという点だけ除けばプロポーズのチャンスじゃね。

止めてくれるなよ、咲良!! と内心で叫びながらポケットに入っている指輪を取り出す。

取り出す……

取り……

 (ふわァァァァァァぁ!!!! 着替える前のジャケットのポケットだったぁァァァァァァ!!!!!)

 「あ、あれ? どうしました周介さん!?」

 「気にしなくてええよ、美優さん。どうせまたチャンスをフイにしただけやから」

ちなみにその後の撮影は順調に行き、美優のウェディングドレス姿の写真を俺はもらうことに成功した。

 

ちなみにおとんに周子と『俺たち結婚しました』メールを送ったところ『初孫の名前は考えておく』という返信をもらった。そうじゃねぇだろ。

 




塩見周介
周子ちゃんの兄だから地味にイケメン。言動で三枚目。昔はよくモデルやアイドルにスカウトされていたそうである。今回もアタックチャンスをミスる周介くん。お前はいつプロポーズしてくれるんだ。

三船美優
恋人と一緒にブライダルの仕事ができて幸せ。当然のように飲み仲間にその情報を知られて盛大にからかわれて顔を真っ赤にする。

塩見周子
珍しく兄に完全アシスト決めたつもりが、まさかの兄空振りで本気で呆れる。

190kmでるモンスターマシン
周介くんの愛車。昔はよくこの車で助手席に美優さんを乗せて湾岸ミッドナイトをしていたらしい。

塩見家
きっと普通じゃない。




そんな感じでウェディングドレス回でした。なぜウェディングドレス回かと言いますと、『5月何もネタねぇよ。どうすんべぇ』を作者が悩んでいたら、作者がやっているソシャゲで花嫁ガチャが来たためです。だから美優さんのドレスも適当。ドレスの種類なんか知らんぜよ……

あ、周介くんの愛車はワイルドスピードに影響を受けてます。きっとニトロとか詰んでる。


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美優と映画をみる日

イベントがないので完全に日常回です

そして全力で趣味に走ってます。


いつもの俺の店でいつもの風景。美優がカウンター席に座りながら俺と話をする至福のひと時。

 「そういえば今日は他の飲兵衛集団はどうしたんだ?」

 「瑞樹さんは番組の地方ロケ。早苗さんと志乃さんはドラマの撮影です」

 「高垣さんは?」

 「ラジオ番組に出演してくるそうです」

美優の言葉に感慨深げに頷く俺。

 「よく考えてみたら売れっ子のアイドル達の行きつけの店なんだよな。俺の店」

 「楓さん達が『サインしましょうか?』って言葉を『価値がわからんからいらない』って断ったの周介さんですよね」

 「いや、俺実際にどれくらいすごい人達なのか理解できてないんだよな。俺にとってはただの美人の常連さんってだけで」

俺の言葉に美優は苦笑する。

 「みなさん大人気のアイドルですよ」

 「それがわからん」

俺が本気で首を傾げていると美優は少し呆れたようだった。

 「あの……ところで周介さん……」

 「いい。放っておけ」

 「でも……2時間はあの状態ですよ……?」

美優の心配そうな視線の先にはいつものカウンター席に突っ伏している周子がいる。いつも通りの量の晩御飯を食ってからカウンターに突っ伏した。

俺は関わると面倒になると踏んだのでとりあえず無視していたのだが、心優しい美優は無視できなかったようだ。

 「あの……周子ちゃん、大丈夫ですか?」

美優の言葉に死にそうな表情を浮かべながら顔を上げる。

 「美優さん。私はもう駄目ですわ……」

 「何があったんですか……?」

 「どうせ大したことじゃないから放っておけ」

 「大問題やで!!」

バシバシとカウンターを叩きながら怒鳴る周子。

 「で? 何が大問題なんだ?」

 「気づいとるか兄ちゃん」

俺の言葉にマジ表情を浮かべながら口を開く

 「6月に祝日はないんやで」

 「月末になって何を言ってんだお前は」

こいつは何を言ってるんだろうか。

 「それにアイドルなんて超不定休な仕事してるんだから関係ないだろ」

 「わかってへんなぁ、兄ちゃん」

やれやれと首を振る周子。

 「カレンダーに休日が多い方がテンション上がるやろ?」

 「小学生かお前は」

 「はい!! そんなわけで明日は周子ちゃん完全OFFなんやけど、周子ちゃんと同じく完全OFFの美優さんと兄ちゃんはどこに行くん?」

 「一応夢の国に行く予定だが?」

 「ええなぁ。私も久しぶりに行きたいと思っとったんよ」

 「待て待て。ついて来る気か?」

 「え? 駄目なん?」

心底キョトン顔を浮かべた周子に俺は何も言えなくなる。断られると思っていない表情だ。

俺は困ったように美優を見ると優しそうに微笑んだ。

 「私は良いですよ」

 「さっすが義姉さん!! 話がわかる!!」

 「まぁ、美優がいいならいいけどな」

 

 

 

 

そんな約束を周子とした翌日。

 「嵐だなぁ」

 「嵐ですねぇ」

俺と美優(泊まった)は窓に激しく叩きつけられる雨を見ながら呟く。

 「どうする? 行くか?」

 「危ないですからやめときましょう」

俺の言葉に美優が残念そう言う。やっぱり楽しみにはしていたらしい。

 「仕方ないな、周子には俺が連絡しとくか」

 「はい。その間に私は朝御飯の準備をしときますね」

二階の住居スペースに調理スペースはないので美優は一階に降りていく。俺はスマホを取り出す。

 「うん? 周子から通知が来てる?」

内容を確認すると『嵐が来てテンション上がったから兄ちゃん家に遊びに行くわ』と言う内容。

 「……あいつ。この嵐の中を来る気か?」

 『周子ちゃん!?』

 『お〜っす、美優さん。おはようさん』

 『ずぶ濡れじゃないですか!?』

 『嵐になるとテンション上がるやん? そのノリでショーシャンクの空にのアンディのシーンごっこしたらずぶ濡れになってもうた』

 『それはなりますよ!! もう、周介さん!!』

 「お〜、聞こえてるよ美優。うちの愚妹がまた愚かなことやったみたいだな。とりあえず風呂に入れ周子」

 『は〜い!!』

意気揚々と会談を昇ってくる周子にタオルを投げつけ、俺は下に降りる。

そこには呆れた様子の美優が立っていた。

 「やっぱり兄妹ですね。周介さんも中学時代にやりましたよね。ショーシャンクの空ごっこ」

 「流石にもうやらないぞ?」

 「当たり前です!!」

美優に怒られてしまった。おのれ周子。

 

 

風呂から上がった周子も交えて一階の店舗スペースで朝食を食べる。

 「さて、兄ちゃん家に来たのはええけど何しよか」

 「ノープランかよ」

 「ノープランや」

俺の言葉に自信満々に言い放つ周子。こいつは駄目かもわからんね。

 「映画でも見ますか?」

 「映画かぁ。ちなみに兄ちゃん、オススメは何かある?」

 「銀河英雄伝説なんてどうだ」

 「それアニメやし本編だけで110話あるしでどう考えても今日中に見終わらんやろ」

俺の軽いジャブにすぐさま反応する周子。

 「だったらBAND OF BROTHERS」

 「話が重いうえに長い」

俺の提案をことごとく却下する周子。

 「だったら周子は何かあるか?」

 「ホームアローン」

 「クリスマスまでだいぶあるな。ちなみにケビン役のマコーレー・カルキンはマイケル・ジャクソンの娘であるパリス・ジャクソンとは今でも親交があるそうだ」

 「どうでもいい情報やな。どうせだったら頭を空っぽにして観れる作品にしようや」

 「だったら特攻野郎A チームだな。素敵に頭が悪いぞ」

 「それ美優さん観れるんか?」

周子の言葉に俺と周子は美優を見る。そんな塩見兄妹を見て美優は苦笑する。

 「大丈夫ですよ。周介さんと一緒にワイルドスピードシリーズも見てますから」

 「美優はワシが育てた」

 「そのドヤ顔やめぇや」

その言葉と共にお茶の水滴が俺の眼に着弾する。

 「あァァァ!!!! 眼がァァァァ!!!!」

 「しゅ、周介さん!?」

 「あ、美優さん。大丈夫やで。兄ちゃんはそれだけオーバーリアクションできてるってことはまだ余裕やってこと知っとるやろ?」

 「いえ、それでも心配しますよ!!」

 「「なんだ女神か」」

 「二人揃って……辞めてください……!!」

顔を真っ赤にして恥ずかしがる美優。その顔だけでご飯三杯はいけるが話が進まないので流しておく。

 「そ、そういえばお二人は恋愛映画や恋愛ドラマは見ないですよね。何故ですか?」

顔を赤くしながらの美優の疑問に、俺と周子は顔を見合わせると力強く頷く。

 「「そういうの反吐が出るほど嫌いだから」」

 「周介さんはともかく周子ちゃんはドラマに出る機会あるんだからそういうの辞めましょう!?」

周子が恋愛ドラマに出るとか……はは、想像しただけで(爆笑

 「だったらジャパニーズドラマにしようや兄ちゃん。アマプラ観れるやろ?」

 「観れるぞ。問題は何を見るかだ」

 「う〜ん……美優さんは何か観たいドラマとかあります?」

周子の問いに少し考える美優。

 「それでしたらアクションシーンの勉強も少ししたいので」

 「「あぶない刑事だな」」

 「え!? はや!! 即決ですか!?

 「いいか、美優。あぶない刑事は義務教育だ」

 「そうやで美優さん。私達は美優さんに教育を施すだけや」

そんな感じで朝御飯を終えた俺たちは二階の住居スペースに昇ってあぶない刑事シリーズを見るのであった。

 




塩見周介
中学時代にショーシャンクの空にごっこをしたことがある心は今でも中学生。

三船美優
周介のショーシャンクの空にごっこの時に一緒にいて恥ずかしい思いをした。

塩見周子
雨の日はテンション上がって映画やドラマの名場面シーンごっこを兄とする。

銀河英雄伝説
言わずと知れたSFアニメの巨塔。別名『銀河声優伝説』。旧版は作者は大好き。なんだかんだでリメイク版も楽しみにしてます。

BAND OF BROTHERS
プライベートライアンと並ぶ戦争映画(ドラマ)の個人的傑作。ぜひ見て欲しい。

ホームアローン
クリスマス近くになるとこれか天使にラブソングをのどちらかがやる

特攻野郎Aチーム
頭を空っぽにして見れる素敵な映画。楽しいよ。

ワイルドスピードシリーズ
作者もまだ3までしか見てないけど楽しい。

あぶない刑事
舘ひろしと柴田恭平がかっこいい




はい、そんな感じで完全に趣味に走った日常回でした。だって六月ってイベントないんだもの。プロポーズチャンスもあらへんわ。

次回は7月末なので浴衣か花火回になると思います。


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周介くんの誕生日

前回のあとがきの花火回ではなく、急遽周介くんの誕生日回です


三船美優は困っていた。

恋人である塩見周介の仲? いやいや、周介の妹である周子ちゃんが砂糖を吐きそうなほど二人はラブラブだ。

だったら周介がプロポーズをしてくれないこと? いやいや、人の良い美優は「周介さんのタイミングがありますから」と微笑んで余裕の構えだ。

だったら何故困っているか。

 「周介さんの誕生日プレゼントはどうしましょう……」

そう、恋人の誕生日プレゼントである。未だに周介くんがヘタレてプロポーズはされていないが、二人の付き合いは中学生時代からだ。それだけ長く付き合っていると流石に誕生日プレゼントのネタもなくなってくる

 「あら、美優ちゃんじゃない」

 「美優さんも休憩ですか?」

 「あ、瑞樹さんに楓さん」

そこにやって来たのは周介のお店の常連客であり、大人気アイドルの川島瑞樹と高垣楓の二人組だった。

二人は美優と同じベンチに座って世間話の態勢になる。だが、三人の会話は自然と周介のお店のことになる。

 「それで美優さん。店長さんのメンチカツが食べたいんですけど、次にメニューに乗るのはいつになるんですか?」

 「楓ちゃん、前から言ってるわよね。店長のメンチカツは絶品だって。そんなに美味しいの?」

瑞樹の問いに楓は力強く頷く。

 「とっても美味しいです。瑞樹さんも一度は食べてみるべきですよ」

 「楓ちゃんがそこまで言うのは珍しいわね」

 「本当に美味しんですよ。一緒に日本酒も飲んだら幸せになれます」

 「そこまでなの……どうなの美優ちゃん。店長がメンチカツを作る日とかわからない?」

瑞樹の言葉に美優は苦笑する。

 「メンチカツは周介さんのお店でも人気メニューですから。だいたいお昼で売り切れちゃうんです。食べたいのならランチタイムに行くか、売れ残るのを願うしかないです」

 「またまたぁ、美優ちゃんが頼めばあの店長だったら残しておいてくれるんじゃないの?」

 「それがですなぁ、瑞樹さん」

 「「「キャア!!!」」」

瑞樹の言葉割り込んできたのは気配もなく三人の座るベンチの後ろから現れた周子であった。

 「しゅ、周子ちゃん。驚かせないで!!」

 「すみませんねぇ」

瑞樹の言葉にイイ笑顔を浮かべて謝罪する周子。その笑顔には謝る気など1ミクロンも存在していない笑みであった。

 「ちなみに料理の取り置きとかは兄ちゃんやってくれませんよ。『他の常連のお客さんに悪いから』って言うのが理由です。一人を贔屓にしちゃうと他のお客さんに示しがつきませんからね。こればっかりは美優さんの頼みでも血涙を流しながら断るかと」

 「血の涙を流すのね……」

 「流しますね」

瑞樹の軽くドン引きした言葉に周子は力強く頷く。美優も苦笑しながら否定しない。実際に美優のデビューステージを見にこれなかった時に血の涙を流して悔しがったからだ。

 「そ・れ・よ・り」

周子が目をキュピーンと光らせながら視線が美優をロックオンする。この視線で美優はある意味諦めた。周子のあの視線は美優と周介の仲を茶化してくる時の視線だ。

 「美優さんは兄ちゃんへの誕生日プレゼント決まりました?」

 「え、と。まだですけど……」

 「あら、店長さん誕生日だったんですね」

 「私達も何かあげましょうか」

最初は事務所にいる時とキャラが違う周子に面食らっていた楓と瑞樹であったが、何度も周介と周子の兄妹漫才に、美優に対する周介弄りを見慣れてしまったので普通に対応できる。

美優の返答を満足そうに頷く周子。

 「チキンでヘタレで料理しか才能のない兄ちゃんの恋人である美優さんに、未来の義妹である周子ちゃんが兄ちゃんへの誕生日プレゼントのアドバイスをしてあげようと思って来ました!! はい、拍手!!」

周子が美優と周介弄りモードになったら話しを聞かなくなることを知っている三人は黙って拍手をする。瑞樹と楓は楽しそうだが、美優は困っている。高確率で恥ずかしい提案をされるからだ。

 「ちなみに周子ちゃんはお兄さんに何をあげるんですか?」

 「サメ映画ブルーレイ10本セットや。特にシャークプリズン鮫地獄女囚大脱獄なんか一押しやで。兄ちゃんはサメ映画をあんまり見ないからな!! 妹である周子ちゃんが一肌脱いでやろうと思ってな!!」

 「……周介さんが言ってましたけど、サメ映画は地雷が多いからでは?」

美優の言葉に真剣な表情になる周子。

 「ええですか美優さ…いや、義姉さん。サメ映画を見るのは日本人の責務や」

 「その発想はおかしくないですか?」

美優のツッコミも周子は当然のようにスルー。すぐに笑顔になった。

 「だったら義姉さんも兄ちゃんと一緒に見てや。きっとサメ映画の虜になるはずや」

 「は、はぁ」

押しの弱い美優は周子の言葉を受け入れてしまう。ここに周介がいたら笑顔で受け取り拒否する代物を見せられる美優さんの未来に合掌。

 「それじゃあ、本題に入りましょうか」

 「あ、忘れてくれなかったんですね」

 「ははは、話しを逸らして本題を忘れさせようなんて甘いですよ、美優さん」

笑顔で美優の退路を断つ周子。これで美優は逃げ道を失った。ちなみに瑞樹と楓は楽しそうに二人のやりとりを見ている。

 「まず、美優さんには服を脱いでもらいます」

 「「「待って」」」

 「も〜、何ですか。まだ周子ちゃんのターンは始まったばっかりですよ」

思わず突っ込んでしまった三人の言葉に周子ちゃんは不満そうだ。だが仕方ない。正気を疑うような発言を周子ちゃんがかましたのだから。

美優は疲れたように目頭を押さえながら口を開く。

 「あの、周子ちゃん。信じられない発言が聞こえた気がするんですが……」

 「嫌やなぁ、美優さん。私が信じられない発言するわけないやないですか

兄ちゃんじゃあるまいし」

遠回しに兄をディスる周子ちゃん。長い付き合いである美優からしてみても塩見兄妹の会話は異次元になることが多い。

 「ええですか、美優さん。まず美優さんには服を脱いでもらいま…おおっと!! 待ってや美優さん、とりあえず私の提案は最後まで聞いてや」

逃げ出そうとした美優の肩をガッチリと掴む周子。瑞樹と楓は完全に対岸の火事なので笑いながら二人のやりとりを見ている。

 「服を脱いだ後に美優さんにはリボンで裸体をラッピングします。ちなみにリボンはまゆちゃんに頼んだら協力してくれることになりました」

 「まゆちゃん……!!」

何故か美優の脳裏には「まゆは恋する乙女の味方なんです」とハイライトの消えた瞳で呟く佐久間まゆを幻視した。

 「そして美優さんには次に巨大な箱に入ってもらい。その箱を私と瑞樹さんと楓さんで運搬します。そして兄ちゃんがその箱を開けたら美優さんは一言『プレゼントはワ・タ・シ♡』。これぞパーフェクトプランですよ!!」

 「いえ、やりませんよ」

 「「「え?」」」

 「なんで周子ちゃんだけじゃなくて瑞樹さんと楓さんも信じられない目で私を見るんですか!?」

まさかの二人の裏切りに驚愕する美優。

 「でもこれはある意味お決まりよね」

 「そうですね。誕生日に『プレゼントは私』ってよくあるじゃないですか」

 「瑞樹さんと楓さんは話が早い!! そんなわけで美優さん。これぞ完璧な兄ちゃんへの誕生日プレゼントですよ」

周子の言葉に頭の片隅で「え? そうなのかな」と考え始めてしまう美優。いい人すぎて将来詐欺に合わないか心配である。

 「ん? どうしますか? 美優さん。このプレゼントだったら100%兄ちゃんは喜んでくれますよ? それに美優さんだってどうせあげるんだったら兄ちゃんに喜んでほしいやろ? これは貴女にとっても悪い取引ではないと思いますが?」

完全に口調が詐欺師のようになる周子。

そして『周介が喜ぶ』という美優特攻の言葉でついつい頷いてしまう美優。

その頷きを見て愉悦の笑顔を浮かべる周子。

 「それじゃあ、早速準備に行きましょか!!」

そして周子は楽しそうに美優を連行していくのであった。

 

 

 「兄ちゃん兄ちゃん!! 昨晩はお楽しみでしたね」

 「周子。お前はまた美優を騙しやがって。可哀想だと思わないのか」

 「バッチリ美優さんを美味しくいただいた人のセリフじゃないな。嫌だったん?」

 「周子、これから一週間は食事した後にデザートをつけてやる」

 「やっぱり嬉しかったんやん」

 




三船美優
恋人の誕生日プレゼントで悩んでいた結果、周子に見事に騙される。

川島瑞樹 高垣楓
周介くんのお店の常連。今回のプレゼントに一役買ったことでメンチカツを食べることができた模様。

塩見周介
最初はびっくりしたけど、そこは塩見の血。速攻で正気に戻って普通に襲った。

塩見周子
純粋な兄嫁(仮)を騙すことに喜びを見出し始めた。



こんな感じで花火回だったのを急遽変更して周介くんの誕生日回でした。
それと言うのもどっかの話で周介くんの誕生日を7月に設定していたのを思い出し、美優さんに『プレゼントは私』をやってほしいと言う作者の欲望のため。ある意味で作者の欲望に忠実に従ってくれる周子ちゃん。
と言うか普通に周子ちゃんがレギュラーになってることに驚愕を隠しきれない作者です。


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花火大会

今回は花火大会編!!

プロポーズチャンスだぞ周介くん!!


 「相変わらず兄ちゃんの店は閑古鳥やなぁ」

 「お前は俺のことをディスらないと喋れないのか?」

八月も末になったある日の夜。今日も仕事終わりの周子が俺の店でタダ飯を食らった後の俺の店ディスりである。

 「お前はもうちょっと兄に対しての敬意とか持ったほうがいい」

 「ふぅぅ、アホやなぁ兄ちゃんは」

 「なんだと?」

心底俺のことをバカにした目つきで見ながらの発言に流石の俺もイラっとする。

 「例えば、や。兄ちゃん。私が急に兄ちゃんに対して『流石ですお兄様!』とか言い出したらどないする?」

 「頭の病気だから病院に連れて行くな」

 「そう言うことや」

なんと言う説得力。完全論破されてしまった。

 「でも今日の花火大会もこのお店から見えるやないか。もうちょっと商売っ気出したらええやん」

 「忙しいのは昼だけで充分。夜はゆっくりやらせてくれ」

 「本当に兄ちゃんは料理の腕前だけで他は残念やねぇ」

 「本当になんなのお前!?」

世の中の兄という生き物はこうも妹に虐げられる存在なのであろうか。

 「こんばんは〜。店長、やってる〜?」

 「こんばんは」

 「おや、川島さんに高垣さん。いらっしゃいませ」

そこにやって来たのは浴衣姿の川島さんと高垣さん。

 「今日は浴衣姿なんですね」

 「そうなのよ。仕事で着る機会があってね〜。この格好で事務所に戻ったらテンション上がっちゃったから二人にも着せちゃった」

テンション高めの川島さん。だが、はて。二人とは?

 「お一人は高垣さんでしょうけど、もう一人の方は?」

 「え? あ!! もうなんで扉に隠れているのよ!! どうせ浴衣姿なんて何度も見せているんでしょ!!」

 「い、いえ。それはそうなんですけど。恥ずかしいことに変わりはないといいますか……」

こ、この話の流れはまさか……!!

 「兄ちゃん兄ちゃん!! この話の流れはひょっとするとひょっとするかもしれんで!!」

 「待て慌てるな。これは周子の罠だ」

 「横山司馬懿ネタやめい」

周子に頭をバシっと叩かれるが、俺の視線は美優(の声がする方向)から離れない。

川島さんに引っ張られるのを必死になって抵抗する美優。川島さんだけに集中しているせいで伏兵には気づいていないようである。

 「えい」

 「楓さん!?」

そう高垣さんの存在である。後ろに回り込んだ高垣さんによって強制的に美優はお店の中に入ってくる。

そして俺は絶句した。

美優の雰囲気に似合った黒を基調とした浴衣。髪の毛も浴衣に合わせるようにあげて結われている。

 「どうかしら店長。見惚れちゃった?」

 「お」

 「「「お?」」」

 「おォォォォォォォォォォ!!!!!」

 「「「五体投地!?」」」

美優を見た俺の体は自然と五体投地をしていた。美優と川島さんと高垣さんが焦った声を出している気がするが俺の耳には入らない。

 「女神はここにいた……!!」

 「あの周介さん、恥ずかしいのでやめてください……!!」

美優の言葉にとりあえず五体投地をやめて立ち上がる。

 「それで店長。美優ちゃんに浴衣を着せた私に何かご褒美はないの?」

 「みなさん今日は俺の奢りです」

 「「ゴチになりま〜す!!」」

川島さんの言葉に俺が言い放つと楽しそうに返してくる川島さんと高垣さん。すると美優がそろそろと近づいてくる。

 「あの……本当に大丈夫ですか?」

 「大丈夫だよ。それに久しぶりに美優の綺麗な浴衣姿が見れたんだ。それに比べたら安いもんだよ」

俺の発言に真っ赤になる美優。そして割と恥ずかしいことを言ったことを自覚した俺も真っ赤になる。

 「Hey!! そこの中学生カップル!! 自爆しとらんで注文はよ!!」

 「周子は本当に空気を読まないなぁ……!!」

とりあえず周子に煽られたので大人しく注文を取りに行く。

 「それじゃあ私は獺祭で」

 「私はレミー・マルタン」

 「高垣さんも川島さんもここぞとばかりに高い酒を要求しましたね」

 「周介さん、本当に大丈夫ですか?」

 「おうとも……美優のためだったら喜んで自腹切ってやるよ……!!」

そう、全ては愛だから

とりあえず俺は注文されたお酒を用意して、おつまみの作成に入る。すでに川島さん達は出来上がりつつあった。

俺の立つ厨房のカウンター席にはニヤニヤと笑っている周子。

 「……なんだ?」

 「いや、兄ちゃんは今日こそプロポーズせぇへんのかなって思ってな」

 「有りだと思うか?」

 「今日は花火大会やからな。花火をバックに指輪をプレゼントして結婚してください。有りやないか?」

 「すまん、周子。俺、ちょっと二階に行ってくる」

 「行ってらっさ〜い」

ヒラヒラと手のひらを振ってくる周子を尻目に俺は二階の自室に入る。

そして机の上に置いてある指輪の入ったケースをポケットに入れる。

 「今日こそ……決める……!!」

そう、これは覚悟。決して引かないという覚悟だ。

俺は下に戻っておつまみの準備をしたり、周子と漫才をしているうちに花火の打ち上がる音が聞こえる。

 「あら、花火大会だったのね」

 「川島さん、実はこのお店の前から見えるんですよ」

 「あらそうなの。じゃあせっかくだから見に行きましょうよ」

お酒を置いて外に出て行く川島さんと高垣さんと周子。周子は一瞬だけ俺を見てウィンクをしてきたところを見るとアシストのつもりらしい。

くそ!! こういう時だけいい妹ムーヴしやがって!! 明日はお前の好物をいっぱい作ってやるからな!!

 「それじゃあ美優も行くか」

 「あ、はい」

俺が出した手を自然と握ってくれる美優。そのまま二人でお店の外に出る。ビルとビルの間から大きな花火が上がっている。

 「綺麗ですね……」

 「あ、ああ」

正直美優の横顔に見惚れて花火どころではなかったのだが、必死に冷静になりながらポケットに入っている指輪を握る。

そして意を決して美優に声をかけようと思った時に視界に入る物がある。

どこか期待した眼差しの川島さん。ワクワクした表情を隠そうともしない高垣さん。そしてスマホでカメラを回している周子。

 「……できるかぁ!!」

 「え!? どうしたんですか!?」

 「ああ!! いや、違うんだ!! 気にしないでくれ、美優!!」

思わず怒鳴ってしまい、慌てる美優を宥める。すると周子と視線が合う。

 『今がその時だ』

 『絶対に違う』

以上が兄と妹の心温まるアイコンタクトである。

この後、片桐さんと柊さんも合流したことで益々プロポーズできなくなるのであった。

 




塩見周介
人前ではプロポーズはできない系

三船美優
恋人と一緒に花火が見れて幸せ。さらに浴衣も似合っていると言ってくれたので幸せ倍増

川島瑞樹 高垣楓
アシストをしたつもりが完全にお邪魔プヨ

塩見周子
両親から言われて兄のプロポーズの決定的瞬間をカメラに捉えようとする。自分の趣味でもある。




こんな感じで花火大会編でした。今までの中でもトップクラスに出来が悪い気がします。まぁ、最初から出来が悪いから気にするのはやめましょう!!

困ったことに今回もプロポーズを空ぶってくれた周介くん。本当にいつになったらお前はプロポーズしてくれるんだ。


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温泉旅行

周介くんと美優さんの温泉旅情編です。


 「いいところですね」

 「そうだなぁ」

美優の言葉に俺は頷く。

現在、俺と美優はとある温泉街に来ていた。いつか約束していた旅行である。そうは言っても俺は個人営業とは言え飲食店の店長、美優は最近売れ始めたアイドルである。休みが被ることは全くない。

いや、個人的には美優のためならいくらでも店は臨時休業にする覚悟なのだが、その話を美優にしたらマジトーンで「絶対にダメです」と怒られたのだ。

なのでようやく休みが重なった今回、温泉にやってきたのだ。今は無料で入れる足湯に二人で浸かりながらのんびりと行き交う人々を眺めていた。

俺は微笑みながら温泉街の風景を眺めている美優をみる。優しげな瞳に、優しい雰囲気。変装のつもりなのかメガネをかけている。

そんな美優が俺の視線は気づいたのか俺を見上げてきた。

 「どうかしましたか?」

 「いや、変装するんだったら電車じゃなくて俺の車で来ればよかったんじゃないか?」

俺の言葉に美優は優しげな表情からしっかりとした表情になった。

 「いいですか、周介さん。アクセルを思いっきり踏み込んだら200kmを超える上に、ニトロを使ったら300kmを叩き出すロードスターを公道で走らせたらいけないんです」

 「そんな馬鹿な」

俺の愛車は公道で走らせてはいけない代物だったのか。

 「けど学生時代に美優も愛車の助手席に座っていたじゃないか」

俺の言葉に美優は困ったような表情になった。

 「私の両親が車にあまり乗らなかったのもあって、私の車のイメージは周介さんの車なんです。ですから社会人になってから仕事などで乗った車に驚きましたよ。すごい遅いんですから」

 「やっぱり車は200km超えないと駄目だよな」

 「周介さんは道交法を学びましょう」

 「失礼な。免許を取ったんだからしっかりと学んでいるさ」

 「それじゃあきちんとそれを生かしてください」

美優の言葉にぐうの音もでない。自分でも道交法をぶっちぎっている自覚はあるのだ。でも俺は改めない。捕まっていないしな!

 「そろそろ宿に戻るか」

 「あ、その前にお土産を見てもいいですか」

 「構わないとも」

美優のお願いを断るという個人的憤死案件なので、美優のお願いは即座に肯定する。

持ってきていたタオルで足を拭き、靴を履いて二人で手を繋いで歩き出す。最初はメガネだけの変装で大丈夫なのかと思ったが、周囲の観光客も美優のことをアイドル・三船美優だと気づいた様子はない。

待て、それは美優の美しさが一般に周知されていないということでは? 美優の恋人としてそれは許されるであろうか? いや許されない。

 「? 周介さん? どうかしましたか?」

 「……美優」

 「はい、なんですか?」

美優のとても綺麗な微笑み。これを知らない即ち世界の損失である。

 「とりあえず美優の美しさを群衆に知らしめるにはどうしたらいい?」

 「あの……どういう発想でその考えになったかわかりませんけど、私は周介さんが知ってくれていたらそれでいいですよ?」

美優の『貴方だけでいい』発言に顔が真っ赤になる俺。美優も自分が言ったことを自覚したのか顔を真っ赤にしていた。

 「……お土産買うか」

 「そ、そうですね」

二人して顔を赤くしながらお土産物屋に入る。普段だったら空気を破壊してくる周子もここには不在。周子や高垣さん、川島さん達にも頻繁に言われるが、俺と美優が醸し出す付き合いたての中学生カップルみたいな空気はなんなんだろうか。いや、付き合い始めたのは中学生からだから成長していないと言えばいいのだろうか。

顔を赤くしたカップルという不審者を暖かく迎えいれてくれた店主に感謝しつつ、俺と美優はお土産を物色する。

 「う〜ん、瑞樹さんには温泉成分が入ったコスメとかですかね。早苗さんと楓さんは地酒でしょうか……志乃さんと礼子さんはどうしましょうか……」

 「なぁ、美優」

 「周介さん、誰に対してのお土産かわかりませんけど、木刀は相手に迷惑なだけだから辞めましょう」

 「いや、柄の部分に『ラスベガス』って掘って周子へのお土産にしようかと思ったんだが」

 「どういうことですか……!?」

美優の驚愕顔が印象的だった。

 

 

 

宿に戻り、晩御飯を食べて部屋に備え付けの家族風呂に二人で入る。

 「綺麗な夜空ですね」

 「ああ、そうだな。来てよかった」

俺の言葉に美優は微笑みながら手を握ってくる。

それから俺たちの間には沈黙が流れる。沈黙が苦痛になるほど浅い付き合いではない。

 「……いつもありがとうございます、周介さん」

 「うん? 何の話だ?」

俺は本気で何に感謝されたのか理解できなかったのだが、美優は微笑みながら言葉を続ける。

 「いつも私のワガママを聞いてくれて、です。今回の旅行だって私のワガママですから」

 「何を言ってるんだ。俺だって美優と一緒に旅行に行きたかったからな。全然ワガママなんかじゃないさ」

俺の言葉に美優は俺の肩に頭を預けてくる。俺は美優の頭を撫でながら口を開く。

 「それに俺は美優の言うことをワガママだと思ったことはないよ。美優が楽しくなってくれたら俺も楽しい。美優が嬉しいなら俺も嬉しいからな」

俺の言葉に美優はクスクスと笑う。

 「周介さんは本当に変わりませんね。昔から優しい周介さんのままです」

 「周子からは『体は大人、頭脳は子供の逆コナンくん』って馬鹿にされるけどな」

俺の言葉に美優は少し表情を曇らせる。

 「私、昔は周子ちゃんに嫉妬していたんです」

 「それまたなぜだ?」

美優は俺の肩に頭を乗せながら言葉を続ける。

 「私は父親の仕事の都合で転校ばっかりでした。せっかくできた友達ともすぐにお別れで、周介さんとお付き合いするまで本当に仲の良い人なんてできなかったんです。だから周介さんから告白された時は嬉しかったですけど、すぐにお別れしちゃうだろうなと思ったんです」

 「残念だったな。俺は遠距離くらいで別れる出来た人間じゃなくて」

俺の言葉にクスクスと美優は笑う。

 「嬉しかったですよ、毎日周介さんとお電話するの。高校生の夏休みに自転車で北海道まで会いに来てくれたのは嬉しいを通り越して驚きましたけど」

 「あの旅はなぁ。行きはよかったんだよ、美優に会えるってだけでテンション高かったから。けど帰りがしんどかったなぁ。また美優に会えない日々が始まるのと自転車で京都まで帰らなくちゃいけないって言う憂鬱感で」

あの旅は本当に辛かったなぁ。主に帰り。途中で嫌になっておとんに「俺、北海道に移住するわ」って言ったらガチギレされたんだよなぁ。

 「周介さんとの毎日の電話が私の楽しみでした。でも周介さんとの電話で必ず話題になるのが周子ちゃんでした」

美優の言葉を俺は黙って聞く。

 「もちろん、年は離れていましたけど、周子ちゃんとも大事なお友達だと思っていました。でも恋人の口から妹とは言え別の女の子の話をされるのはいい気分ではなかったです」

だから嫉妬しちゃっていました、そう美優は最後に苦笑しながら言った。

 「なぁ、美優。美優に周子ってどんな奴に見える?」

 「? 人当たりが良くて、気配りができるいい子だと思います。人のことを揶揄いますけど、人の本当に嫌がることはしませんし」

 「あの性格な。全部自分で作っているんだよ、本性じゃない」

 「え!?」

驚いたような表情の美優に、俺は苦笑しながら続ける。

 「あいつガキの頃から妙に達観してやがってさぁ。心の底から人を信用することはまずないし、あの外面の性格の良さも全部自分が生きやすくするため。小学生に上がってもそれ変わんなくて、信用している人は家族だけって状態だったんだ」

そこまで言って俺は美優を見つめる。

 「でもさ、俺が初めて美優を周子に紹介した時、あいつ一発で美優に懐いたんだよ。あの『人に懐くことなんかするかボケェ』と言わんばかりだった周子がさ。だから『周子という他人不信症候群』が懐くくらいだからこの人は絶対に手放しちゃいけないって思ったのは」

俺の言葉に美優は黙って体を寄せてくる。俺も美優を抱き寄せるようにした。

 「だからさ美優。俺は決してお前から離れないよ。いや、流石にお前から別れてくれって言われたら死ぬほど泣きながら別れるけどさ」

と言うか美優に別れ話をされたら自殺する気もする。

 「……周介さん」

 「うん?」

 「キス、してもらえますか」

 「ああ」

俺たちの口づけを見ていたのは空に輝く星々だけであった。

 

 

 

 

 

 「とまぁ、だいたいそんな感じの旅行だったよ。あ、これ周子へのお土産な」

 「等身大の木彫り周子ちゃん像とか一周まわって狂気すら感じるお土産は置いとくとして」

 「物理的にも置いているな」

 「それはええねん。なぁ、兄ちゃん」

 「なんだ?」

 「なんか聞いた限りやとアタックチャンスあったみたいなんやけど、プロポーズはしたん?」

 「………あ!?」

 「駄目だこいつ、早くなんとかしないと……」

 




塩見周介
今回の大きなチャンスも棒に振るうヘタレの極致。

三船美優
恋人の妹に対して嫉妬していたと言う黒歴史を暴露したと思ったら、その妹が想像以上に病んでいたことに驚いた。

塩見周子
周介くん曰く『仮面が分厚い。防弾ガラスくらいある』とのこと。今回の兄の惨状を見て暗躍を決意した模様

周介くんの愛車
日本の公道で走らせたらやばい




そんな感じで今回のお話でした。今まで出張り続けてきた周子ちゃんを意識的に抜いて見たらオリジナル設定の嵐と軽いシリアスが入って作者もビックリ。二次創作でシリアスの話とか書いても楽しくないので次回はまたいつも通りになるでしょう。ちなみに周介くんの愛車は作者のザクルー2での愛車です。ニトロ使って300超えるロードスターとか素敵やん?

それとデレステでようやく周子ちゃんのSSレア『羽衣小町』が当たりました。周子ちゃん出演の二次創作書いていてようやくかい、って感じです。嘘です、スッゲェ嬉しかったです。


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居酒屋『しんでれら』テレビ放送

テレビで紹介されることになった周介くんのお店


しかし、当然のように普通に済むはずがなく。


 「うちの店を紹介したい?」

いつもの夜。いつもの飲兵衛集団が俺の店でドンチャン騒ぎをしている光景を「ああ、この人達がこの国でトップクラスのアイドル達なのか。日本終わったな」と考えていたら美優にそんな相談をされた。

 「はい。実は楓さんがラジオで頻繁にこのお店のことをお話しているみたいで、そうしたら美波ちゃんの番組で紹介したいというお話らしいです」

 「テレビ番組の取材申し込みだったら何度もあったけど、なんで美優からなんだ」

 「番組ディレクターが頼んだら『これ以上忙しくできるか、バァァァカ!!』と言われて電話を切られたとおっしゃってましたよ?」

そんなこともあったかもしれない。

 「う〜ん、テレビかぁ。いや、美優の頼みだったら全部叶えてあげたいんだが、テレビ番組で報道されてこれ以上忙しくなるのはなぁ……美優には悪いが断るよ」

 「兄ちゃん!! この頼みを受け入れてくれたら美優さんが次の時に色々奮発してくれるらしいで!!」

 (ガタッ!)

 「周子ちゃん!? いえ!! 言ってませんよ!?」

 「ふ、奮発ってなんだ、周子」

 「そりゃあAVでしか見られないようなことやろ。いよ!! 美優さんのムッツリ!!」

 「わ、私は何をすることになるんですか!!」

美優とめくるめくピンク劇場……だと……!?

 「美優、テレビ報道を断ると言ったな」

 「え、あ、はい」

 「あれは嘘だ」

 「周介さん!?」

 「兄ちゃん、どう考えても下半身で決めたやろ」

 

 

 

 

 

新田美波は自身のテレビ番組のロケで居酒屋『しんでれら』の前にやってきていた。

 「みなさん、こんばんは。今日は346プロ所属アイドル高垣楓さんのラジオ番組でも度々紹介される居酒屋『しんでれら』に来ています」

テレビ番組らしくお店の紹介を始める美波。

 「このお店、とても美味しい料理を出してくれることで有名で、346プロ所属のアイドルにもたくさんの常連さんがいらっしゃるようです」

そこまで説明して美波は残念そうな表情になる。

 「ですが店長からのお願いでお店の外観と周囲にはモザイクをかけてくれということでした。でも頑固店主がやっているお店って感じでちょっとかっこいいですよね」

美波の発言に男性スタッフから感嘆の声が溢れる。未成年なのに溢れ出る謎の色気はなんだ的な意味で。

 「それでは早速入ってみましょう。失礼しま……え?」

美波は硬直してしまった。それはそうだろう。何故か狼の被り物をした二人組(一人はカウンター内の厨房、もう一人はカウンターに座りながら)が「For the king for the land For the mountains For the green valleys where dragons fry For the glory the power to win the black lord I will search for the emerald sword」と熱唱している。狼の被り物だけでも美波の思考を停止させる威力があるのに、さらにはその狼達がムカつくほどうまく歌を歌っていることに驚きを隠せない。

そして曲が終わるとお座敷から歓声がでる。

 「店長、歌上手いじゃない!!」

 「あの人が店長さんなんですか!?」

お酒を飲んで完全に出来上がっている346プロ所属アイドルの片桐早苗の言葉に美波の中にあった頑固親父の店主イメージが崩れ去った。

 「あら、美波ちゃん、ようやく来たのね。遅いから先に始めちゃったわ」

 「いえ、瑞樹さん。ロケ時間通りなんですが……」

川島瑞樹(当然のように出来上がっている)の言葉に美波はちょっと引きながら告げる。だが、当然のように酔っ払い達にそんな声は届かない。

 「さあさあ、美波ちゃんもこっちに来てください。お猪口にちょこっとでいいので一緒に飲みましょう」

 「楓さん、私は未成年ですよ!?」

 「そんなこと言ってぇ!! どうせ大学では飲んでるんでしょ!! 今時未成年だからって酒を飲まない大学生の方が貴重よ!!」

 「早苗さん、元婦警さんが言ってはいけないことですよね!?」

入店してからツッコミしかしていない美波。しかし今日はまだ柊志乃や高橋礼子がいないだけマシなのだ。彼女達がいるとさらに酷くなる。

 「あの、美波ちゃん」

 「あ、美優さん」

そしてようやく案内人役の美優がやってきた。

 「え〜と、本日のお店を紹介してくださる三船美優さんです」

 「よろしくお願いします」

美優はそう言ってカメラに向かって深々と頭を下げる。

 「とりえずこちらのカウンター席へどうぞ。撮影用に確保していますので」

 「あの、早苗さん達は?」

 「みなさんはただ飲みたいだけの方々なので放って置いて大丈夫ですよ」

美優の微笑みながらの言葉。そこには飲兵衛達に振り回され続けた歴戦の猛者の凄みがあった。

ただ毎回潰されているだけとも言う。

美優に案内される形でカウンター席に座る美波。すると正面にいた狼が両手を振り上げて叫んだ。

 「よく来たな新田美波!! 歓迎しよう!! 盛大にな!!」

 「え、え〜と……ありがとうございます?」

つい語尾が疑問形になってしまった美波。仕方ない。食事の美味しいお店だと聞いていたのに居たのが狼の被り物をすたキチガイだもの。

しかし、そのキチガイはもう一匹の狼に小声で話しかけ始めた。

 「おいおい、見事にドン引きされているんだが、どう言うことだ?」

 「兄ちゃん、やっぱり狼の被り物をするんやったらFLY AGAINの方が良かったんやないか」

 「いえ、そう言う問題じゃないです……というかその声はひょっとして周子ちゃん?」

全く見当違いの答えを出している狼達の片割れの声に同僚的な意味で聞き覚えがあったので美波が問いかけると、狼の片割れがカウンターの椅子に立ちながら宣言する。

 「346プロダクション所属アイドル塩見周子です!! 趣味は献血、特技は他人をイラッとさせることです。『青の一番星』買ってね!!」

 「どうした周子。標準語なんて使って」

 「キャラ作りやで兄ちゃん」

 「いや、それだったら普通逆にしない?」

 「甘いぞ、美波ちゃん!! 京都出身アイドルが京都弁を使うなんて普通すぎるでしょ!! 京都出身にも関わらず標準語!! これが新世代ですよ!!」

 「とりあえず周子ちゃん。椅子に立つのはやめましょう」

 「はい」

美優の言葉に素直に椅子から降りる周子。

 「え〜と、周子ちゃんもこのお店の常連なんですか?」

 「お金は払ったことないけどね!!」

 「……んん?」

周子の突飛な発言に頭の上にクエスチョンマークが飛び散る美波。そこに美優が苦笑しながらフォローした。

 「周子ちゃんはこのお店の店長さんの妹さんなんです」

 「だから何食べてもお金はかからないゾ!!」

 「俺は金払えって言ってるよな」

 「知らんな」

そして始まる塩見漫才。いつもと違うところは狼の被り物を被っているのでシュールさが増していることだろうか。

 「美波ちゃんは何か飲みますか?」

 「え? あの二人は放っておいていいんですか?」

 「常連さんにはいつものことですから」

確かに塩見兄妹の漫才などこの店の常連だったら必ず一回は見る光景だ。特に夜の常連の場合は初日からみることも珍しくない。

 「お料理の方は私のオススメを用意していただいているんで、先に何か飲み物から」

 「あ、はい。それじゃあ烏龍茶を」

美波の言葉に周子(しかし、狼ヘッドである)は再び椅子から立ち上がり指を鳴らしながら宣言する。

 「Hey マスター!! お客様に『特製』烏龍茶を!!」

 「ヨロコンデ!!」

周子の言葉に元気よく答える店長(当然のように狼ヘッド)。そして店長が取り出したのはウォッカとウィスキーの瓶。

この時点で美波の嫌な予感は高まる。

そして嫌な予感が当たるかのようにジョッキにウォッカが9、ウィスキーが1の割合で入れられる。

 「はい、烏龍茶」

 「これは私が知っている烏龍茶じゃありません!!」

当然のように出された烏龍茶(という名前を借りたモンスター)を見ながら叫ぶ美波。

 「何を言ってるんだ、美波ちゃん。ちゃんと烏龍茶の色してるんじゃん」

 「そうだぞお客さん、しかも色だけじゃなく」

周子の言葉に続くように口を開いた店長はチャッカマンの火を烏龍茶に近づける。すると烏龍茶に火がついた。

 「火までつく」

 「火がつく時点で大部分がアルコールですよね!?」

さらに突っ込む美波ちゃん。このままでは美波ちゃんの常識がやばい。

 「それじゃあお水ください」

 「わかった、水だな」

美波の注文変更に素直に応じる店長。そしてジョッキに透明の液体が入った飲み物が美波の前に置かれた。ジョッキで出てきたことに驚いた美波であったが、大人しくそれを飲もうとしたところを美優に止められる。

 「美優さん?」

 「ちょっと待ってくださいね、美波ちゃん」

そういって美優はチャッカマンを透明の液体に近づける。

すると透明な液体に火がついた。

 「…………………え?」

 「もう!! 店長!!」

 「色は水だからいいだろ」

 「よくないです!!」

呆気にとられる美波。怒る美優。悪びれない店長。煽る周子。お酒の追加を頼む飲兵衛集団。この時点でテレビスタッフはこの回は大きな放送事故回になることを覚悟した。

これが塩見兄妹を同時にテレビに出すことだ。

そこからも美波のsan値がピンチな進行が続いたが、美優の懸命なフォローでなんとか番組進行していく。特に店長の料理を食べた時の美波の表情は新田美波ファン垂涎の代物になるのであった。

 「え〜と、それじゃあ最後に周子ちゃんからお知らせです」

 「はいは〜い!!」

美波のパスを笑いながら受ける周子(しかし狼ヘッドである)。

 「美優さんとうち兄ちゃん中学時代からお付き合いしてるから」

 「周子ちゃん、それは言わないって約束しましたよね!?」

 「というか最後くらいは真面目に締めてください!!」

全国放送で爆弾を投下された美優は顔を真っ赤にして、美波はついに怒鳴ってしまうのであった。

 

 

 「さてさて、今回のテレビで美優さんと兄ちゃんは付き合っていることを全国区にすることはできたわけやな」

収録後に美優と美波のダブル説教を受けたにも関わらず全く答えた様子のない周子ちゃん。

 「覚悟しろや、兄ちゃん、美優さん。必ず年内にはプロポーズしてもらうで」

周子ちゃんプロデュースの『ヘタレな兄プロポーズ大作戦』が始まる。

 




塩見周介
番組の収録は最初から最後まで狼の被り物を被っていた。

三船美優
まさかの周子の裏切りで公然の秘密(三船美優には恋人がいる)が暴露され赤面。

塩見周子
兄と義姉のために暗躍を始める周子ちゃん。

新田美波
完全に巻き込まれ事故。

飲兵衛集団
最終的にみんな潰れた。





そんな感じで10月編でした。ハロウィン回にするつもりが完全なカオスに。そして暗躍を始める周子ちゃん。周子ちゃんが目指すのは年内のプロポーズ。大丈夫? 相手は周介くんだよ?

本文中の英語歌詞はとある洋楽の歌詞です。最近ガイドラインが変更され歌詞を使っても良いようになったので使ってみました。
え? だったらアイマスの曲を使え? ちょっと何を言っているかわかりませんね。


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美優さんがいない周介くん

イベントがない月でとっても困る


とりあえず独自設定があります。


いつものお店、いつもの客が周子しかいない俺のお店収入0タイム。

そんないつもの雰囲気の中、俺は死んでいた。

 「お〜い、兄ちゃん。生きとるか?」

俺が用意した晩飯(トンカツ、カキフライ、エビフライのミックス定食)を食い終わった周子が俺に話しかけてくる。

俺のいる場所もいつものカウンター内ではなく、カウンターである。

俺はカウンターに潰れながら周子を見る。

 「周子、俺はもう駄目だ」

 「うん、そりゃ見ればわかるわ。何かあったん?」

 「あったさ!!」

周子の言葉に俺は力強く机を叩く。そしてスピリタスの瓶を握りしめながら言い放った。

 「美優が長期ロケに行ってしまった」

 「解散」

 「まぁ、ちょっと待て」

聞いて損したといわんばかりに席かた立ち上がろうとした周子を俺は止める。

 「というか兄ちゃん。長期ロケって言ったって半年とか行く奴やないやろ?」

 「バッカ!! お前バッカじゃねぇの!!」

 「Oh、バカにバカって言われるのはこんなに腹たつものなんやな」

周子の超絶失礼発言は俺の都合の良い耳はシャットダウン。

 「いいか、周子。美優が行ったのは一ヶ月近くの長期ロケだ。それ即ち次に会えるのはクリスマス……!! 俺はクリスマスに美優とデートをして、そこでプロポーズを決めようと思っていたんだ……!!」

俺の言葉にとても可哀想なものを見るような目になる周子。なんだ? 何かあるのか?

 「兄ちゃん、実はその日な」

 「ああ」

 「346プロの特別ライブの日や」

 「なん……だと……」

マジ驚愕顔になる俺。

 「いやいやいやいや、待て待て待て待て。実はそこには美優は呼ばれていないっていう周介くんハイパーヴィクトリーな展開が……」

 「美優さんLast Kissと命燃やして恋せよ乙女、エチュードは1曲だけを歌う予定やで」

 「現実は非情であった」

絶望……圧倒的絶望……!! またもプロポーズ空振り……!!

 「周子」

 「なんや」

 「奧でちょっと自殺してくるわ。ルビンスキーみたいに」

 「火祭りは禁止や!!」

とりあえず持っていたスピリタスを頭からかけられて物理的に頭を冷やされる。

 「と、言うか兄ちゃんライブの情報、美優さんから聞いてなかったんか」

 「美優の奴今でも俺がライブ見に行くの恥ずかしがるんだよなぁ」

 「そりゃあ最前列でガッチガチの美優さん応援セット装備してコールまで完璧な彼氏に来られるのは嫌やろ」

 「なんだと」

衝撃の真実である。これでも美優の出るライブにはできる限り行って最強装備で完璧な応援をしていたのは逆効果だったのか。

 「まぁ、それで346プロだけじゃなくてファンの間でも兄ちゃんは『やばいくらいの三船美優ファン』って認識されとるけどな」

 「ファンクラブ会員一番も狙ったんだけどなぁ。アイドルオタの美城とかいう奴に一番取られたんだよなぁ」

なんかあいつ他のアイドルのファンクラブでも会員番号一番らしいので不正を疑っている。

 「ヤッホー♩ 久しぶりに遊びに来てやったぞ☆」

 「「佐藤」」

 「しゅがーはぁとって呼べよ☆」

店の入り口を開いてやってきたのは美優の大学時代からの友人であり、現在は一緒にアイドルをやっている佐藤心であった。

美優の友人は大体俺とも面識あるために、たまにこうやって晩飯をタカリに来るのである。

 「お♩ 塩見はどうした? なんで濡れてるんだ?」

 「ちょっとスピリタスを頭からかぶってな」

 「いつも通りに頭がおかしくて安心したぞ☆」

なんとも失礼な奴である。

とりあえず佐藤をカウンターに座らせ、俺はカウンター内に戻る。

 「う〜ん、とりあえず今日のオススメを頼むぞ☆」

 「わかった」

 「いや、わかってねぇだろ。なんで目の前にウィスキーのボトルが置かれるんだ」

 「佐藤!! 口調口調!!」

 「おっと♩ も〜、周子ちゃんも私のことはしゅがーはぁとって呼べよな☆」

 「ああ、お通しが必要だったな」

 「どこの世界にスピリタスをお通しで出す店があるんだ」

とりあえず佐藤が来た時は強い酒を出すと言う暗黙協定があるので出したのだが、佐藤はこの扱いが酷く不満らしい。

 「で・も♩ 出されたものは飲まなきゃ勿体無いから飲むぞ☆」

 「「ヒュ〜!! しゅがはさんかっこいい!!」」

 「しゅがはさんはかっこいいんじゃなくて可愛いんだぞ☆」

いや、ウィスキーのボトルとスピリタスを一気飲みする奴を可愛いと形容することはできない。

 「それで♩ 塩見はいったいどうしたんだぞ☆」

 「聞いてくれ佐藤!! 周子の奴が周介くんハイパーヴィクトリー展開はないって言うんだ!!」

 「割と大学時代から美優ちゃんに対してヘタれてた奴のヴィクトリー展開なんてないんだぞ☆」

付き合いが長いのでこいつも割と辛辣である。

 「佐藤、兄ちゃん346のクリスマスライブのこと美優さんから聞いてなかったらしいんよ」

 「おっと♩ そいつは朗報だ☆ こいつのウザいヲタ芸を見なくて済むな☆」

 「ぶっ飛ばすぞ佐藤」

 「しゅがーはぁとって呼べよ☆」

 「「ハート様」」

 「誰がひでぶだぶっ殺すぞ」

佐藤は俺たち兄妹を前にするとキャラ設定を度々忘れることがあるから困る。

 「でもでも☆ 優しいしゅがーはぁとはそんな塩見にこれをプレゼントだぞ」

 「? なんだこれ」

佐藤が取り出したのは一枚の紙切れ。

 「今はもうプレミアがついている346プロのクリスマスライブチケットだZO」

 「全くこの程度のもので俺が買収されとでも思ったのか食事は何を用意したらいい今日は俺が奢ってやろう」

 「めっちゃ普通に買収されとる件について」

 「知らんな」

周子のツッコミは華麗にスルーする俺。そして佐藤から受けた注文を作るために俺は厨房へ行くのであった。

 

 

 「こんな感じで大丈夫だったか☆」

 「完璧ですわ、佐藤」

 「しゅがーはぁとって呼べよ☆ でもチケットだったら周子ちゃんから渡せばよかったんじゃないの☆」

 「兄ちゃんは私からのプレゼントだと警戒しますからね。佐藤くらいからの付き合いの人からだったら大丈夫のはずです」

 「う〜ん♩ 周子ちゃんの悪い顔☆ まぁ、私も一枚噛んでるから何も言わないけどね☆」

 




塩見周介
三船美優のファンの間でも知られるくらいの『美優さんファンのヤベー奴』

三船美優
長期ロケのため不在

佐藤心
美優さんとは大学時代からの友人。その繋がりで周介くんとも友人

塩見周子
着実に何やら暗躍している模様。

アイドルオタの美城
とある芸能プロダクションの常務と言う噂もあるが果たして……



そんな感じで美優さん不在回です。美優さんの昔からの友人としてしゅがはさんを出したけど、こいつ口調が超めんどくさいぞ☆

ちなみにアイドルオタの美城の設定は朝霞リョウマさんの『アイドルの世界に転生したようです』のミッシーが好きだったので無断でパクリました。朝霞さん許して。


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346プロ特別ライブ

クリスマス特別ライブ編です

周子ちゃんがおとなしくしているわけもなく……


346プロ特別ライブ。俺は佐藤からもらったチケットで入場し、顔見知りの美優ファン(何故か親衛隊長と呼ばれる)や他のアイドルのファンと交流しながら大いに盛り上がっていた。

美優のLast Kissの時に美優と目が合い(佐藤がくれたチケットは最前列だった)少し照れていた美優を見た時は萌え死にかけたがなんとか持ちこたえ、今はアイドル達によるレクリエーション中である。

ステージ上には妹の周子。口癖は可愛い僕であり何故か投擲したくなるアイドル輿水幸子ちゃん。太眉が印象的な神谷奈緒ちゃん。そして周子とユニットを組んで活動している小早川紗枝ちゃんであった。

 『今回の題目は周子はんが用意したって聞いとるけど』

 『そうだよん。私が知恵を絞って用意したのをみんな楽しんでくれよな!!』

周子の言葉に客席からは歓声が出る。兄としては周子が用意した時点で地雷臭がひどく感じるのだが。

 『まぁ、なんだったとしても可愛い僕の勝利は揺らぎないですけどね!!』

 『う〜ん、その幸子ちゃんの最高の小物臭がたまらんな!!』

 『小物臭ってなんですか小物臭って!!』

 『幸子ちゃんは可愛いってことや』

 『ふふ〜ん!! そうでしょう!! 僕は可愛いですからね!!』

 『なんで今ので納得できるんだ』

奈緒ちゃんの言葉に同感である。周子の今の説明にはなんの説得力もない。

 『それで? 何をしはるん……って聞こうと思っとったけど』

 『まぁ、クイズセットが出てる時点で答えだよな』

紗枝ちゃんの言葉に奈緒ちゃんはボタンを押しながら答える。そこに周子はノリノリでマイクを持って説明を始めた。

 『はいは〜い!! 今回、私が用意したのはこちら!! みんな大好きクイズ問題!! しかも普通のクイズ問題やないで、ちょっとマニアックなカルトクイズや!! 回答者は私、幸子ちゃん、奈緒ちゃんの三人!! 紗枝はんには問題を読んでもらいます!! トップにはこの後の時間を好きにしていい権利!!』

 『ちなみに僕がトップになったら可愛い僕とステージ上で写真を撮れる権利をかけた抽選ですよ!!』

 『私が勝った時にはトライアドプリムスの曲を披露するぞ!!』

 『奈緒ちゃんが普通すぎて周子ちゃんはつまらん』

 『うっさい!!』

周子の茶々に顔を真っ赤にして怒鳴る奈緒ちゃん。隣の熱烈な奈緒ちゃんファンはその顔をみてホクホクだ。

 『台本では周子はんが勝った時だけ『ひ・み・つ』ってなっとったんやけど』

 『大丈夫大丈夫、美城常務には許可もらっとるから』

 『周子はんの大丈夫ほど信用できないものもないんやけど』

 『う〜ん、この紗枝はんからの信頼のなさ。どう思う奈緒ちゃん』

 『自業自得じゃない?』

 『辛辣!!』

カラカラと笑う周子。そしてそのまま説明を続ける。

 『当然のように勝者には栄光があるように敗者には惨めな末路が待っております!!』

 『待ってください!! 僕はそれ聞いてませんよ!!』

 『幸子ちゃんには言ってへんからな』

 『ムキー!! なんでですか!!』

 『だって幸子ちゃん前もって知ってたら逃げるやん』

 『そんなに過酷な罰ゲームなんですか!?』

 『せやなぁ、あえて言うなら……』

そこまで言ってから周子はとびきりイイ笑顔を浮かべる。

 『Lipps特性罰ゲームってことかな!!』

 『考える限りで最悪な選択だ!!』

幸子ちゃんの絶望の表情と奈緒ちゃんと紗枝ちゃんの引きつった笑顔が印象的である。

 『それじゃあ時間もないことやしカルトクイズ、行ってみよぉ!!』

周子の言葉に歓声で答える客席。幸子ちゃんが小さくつぶやいていた「最下位じゃなければいんです……最下位じゃなければ……!!」と言う呟きは完全に敗北フラグであったが、突っ込む人物はいない。

誰しも見えている地獄に入りたくはないのだ。

 「しかし、周子がクイズねぇ」

どう考えても普通のクイズなはずがない気がする。

そして紗枝ちゃんが1枚目の問題を読み上げる。

 『え〜と、それじゃあ第一問。銀河英雄伝説外伝螺旋迷宮に出てくる730年マフィアの名前を全員(ピンポン!!)え、と、周子はん』

 『ブルース・アッシュビー。アルフレッド・ローザス。ヴィットリオ・ディ・ベルティーニ。ファン・チューリン。フレデリック・ジャスパー。ジョン・ドリンカー・コープ。ウォリス・ウォーリック』

 『え〜と、正解です』

やはり普通ではなかった。

 『ブルース・アッシュビーを中心に活躍した士官学校の同期生達。もし第二次ティアマト会戦でアッシュビーが死なずにいたらどうなっていたかは銀英伝ファンなら誰しも妄想するよな!!』

そしてどうでもいいことを解説する周子。そんな周子に幸子ちゃんが引きつった笑いを浮かべながら問いかける。

 『しゅ、周子さん? この問題は?』

そんな幸子ちゃんに不適な笑みを浮かべる周子。

 『一つ言い忘れとったな。このクイズはただのクイズやない』

そして周子は腕を組んでから言い放った。

 『銀河英雄伝説カルトクイズや!!』

 『な、なんだってぇぇぇ!!!!』

 『安心してや、問題はネッ友に作ってもらったから私も知らん』

 『いえ、そう言う問題じゃないんですけど!? 可愛い僕が銀河英雄伝説なんてを知っているわけないじゃないですか!?』

 『それなら黙って罰ゲームを受けるんやな!! 紗枝はん!! 次の問題や!!』

騒ぎ立てる幸子ちゃんを無視して先を促す周子。やっていることは完全に悪党である。

 『それじゃあ第二問。アニメオリジナルエピソード「辺境の解放」で登場したアニメオリジナルキャラクターであるフランツ・ヴァーリモント少尉が所属していたのは第何艦隊(ピンポーン)』

 『ふ、簡単すぎて欠伸が出るで』

 『ま、待ってください周子はん!! 解答権は奈緒はんです!!』

 『……え?』

確かに解答権のランプがついているのは奈緒ちゃん。奈緒ちゃんは特に表情を変えることなく口を開く。

 『ホーウッド提督の第七艦隊』

 『せ、正解です!!』

 『何ぃ!?』

奈緒ちゃんの正解に客席からもどよめきが出る。そして周子は焦ったような表情になった。

 『ば、ばかな!? 奈緒ちゃんは新しいアニメにしか興味がないはずでは!?』

 『いや、そんなことないぞ? 銀河英雄伝説は抑えているし、ガンダムシリーズは基礎教養だからちゃんと抑えてる』

 『ちなみに私はハゲの作品だったらブレンパワードが好きなんやけど』

 『あ〜、わかる。あんまり主要人物死なないし、いい作品だよなぁ』

そして完全にオタ会話をする周子と奈緒ちゃん。

 『と言うか周子ちゃんがアニメ見てる方が私としては意外なんだけど。奏ちゃんと映画談義しているのは何回も見てるから映画好きなのは知ってるけど』

 『映画見るのもアニメ見るのも兄ちゃんの影響や』

 『それだったらSHIROBAKOの劇場版公開されたら一緒に見に行かないか? 一人だとちょっと恥ずかしくてさ』

 『ええで』

 『ちょっと待ってください!! この状況だと僕に勝ち目ないんですけど!?』

幸子ちゃんの言葉に周子はイイ笑顔を浮かべ、奈緒ちゃんは「可哀想だけど明日にはお肉になっちゃうのね」と言う視線を幸子ちゃんに向ける。

 『それじゃあ次に行こか』

 『待ってくださいィィィィ!!!!』

幸子ちゃんの叫びも虚しくクイズは続く。周子の圧勝かと思った銀河英雄伝説カルトクイズだったが、奈緒ちゃんもかなりの重度らしく、いい勝負になっている。

そしてクイズ勝負の結果は……

 『なんとか終わった。もう一度やれと言われてもできない』

 『ク、イゼルローンを陥落させた時のヤンの言葉だな』

冷や汗を拭いている周子と、周子のセリフの解説をしながら悔しそうな奈緒ちゃん。

ギリギリの勝負になったが結果は周子の勝利であった。

 『それじゃあ優勝は周子はんやけど……何やるん?』

 『ちょっと準備があるから待ってな。佐藤!! 美優さんよろしく!!』

ステージ上でそれを告げると周子はステージから降りる。

 「……え?」

 「まあまあまま」

そして笑いながら俺の手を引いてステージの上まで引っ張っていく。

え? なに? なんなの? 客席からも『美優さんファンのヤベェ奴だ』って言われているんだけど。と言うか他のファンからも俺の認識ってそう言う認識のことにちょっとショックだ。

 「あ、あの心さん?」

 「いいからいいから☆」

そしてステージ脇からは佐藤に押し出される形で美優が出てくる。

そしてステージ中央でお見合いする俺と美優。

そして周子はマイクを使ってイイ笑顔で口を開いた。

 『美優さんに恋人である兄ちゃんから大切な話があるってさ!!』

………

 「「周子!?/周子ちゃん!?」」

思わずハモる俺と美優。それはそうだろう。突然ステージに引っ張り出されたら妹(妹分)からそんなことを言われるのだ。

そしてイイ笑顔を浮かべたまま周子は俺にマイクを渡してくる。そしてマイクに拾われない声量で俺に伝えてくる。

 「男を見せる時やで」

………

 (え? お前まさかここでプロポーズしろってか!?)

慌てて美優を見ると、佐藤に何か言われたのか顔を真っ赤にして俯いている美優がいる。そして佐藤と周子は俺に向かってサムズアップ!!

 (バカかテメェらは!?)

ライブの最中にプロポーズとか許されると思ってるのか!? お偉いさんに怒られ……そういえばさっき常務には許可もらっているって言ってましたね!!

 (どうする……!? 今度デートしてくださいで誤魔化すか……!? そうだな!! それしかない!!)

 『美優!!』

 『は、はい』

きちんとマイクを使って応答する俺と美優。そうだ、ここはデートしてくださいで逃げておくんだ……逃げて……

本当にそれでいいのか?

周子はキチガイだが、俺や美優のことを本気で思ってくれているのは知っている。そして炎上を覚悟で兄である俺にこんな舞台を用意してくれた。そのチャンスから逃げるのか?

覚悟を決めろ周介……!!

 『俺と結婚してください!!』

俺が頭を下げ、手を差し出しながら大きく叫ぶ。ライブ会場は静まりかえっている。

永遠に続くかと思われた沈黙は俺の手を握った美優によって破られる。

 『こちらこそ、よろしくお願いします』

その瞬間にライブ会場から大歓声が溢れるのであった。

 

 

 

 「エンダァァァァ!!」

 「周子!! その歌はやたら恋愛成就のシーンで流れてるけど、歌詞も映画も超男女が別れてるから!!」

 「な、なんやて!? それやとあと私のレパートリーじゃあ嗚呼!逆転王!と戦国武将のララバイしかないで!?」

 「青の一番星はどうした!!」

 




塩見周介
俺たち

三船美優
結婚します

塩見周子
うまくいってご満悦

神谷奈緒
目の前でプロポーズを見てしまい顔真っ赤

輿水幸子
後日バッチリ罰ゲームをやらされた。




やったぁぁぁぁぁぁ!!! ついに周介くんがプロポーズしてくれた!! 勝ち確定なのにへたれてプロポーズしてくれなかった周介くんが!! 公衆の面前で!! 公開プロポーズ!!
これ書いた後に思いましたけど、ネットがめっちゃ荒れるやつですよね。
まぁ、ここは優しい世界ってことで一つ許してもらいましょう。

次回からは式を挙げるまで編が始まるかもしれませんし、始まらないかもしれません。


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俺と美優が結婚式をするまで
346どうでしょう


年末特別編です


How do you like 346プロダクション?

 

 

 「はい、そんな感じで突然常務から『紅白と笑っちゃいけないと格闘技に負けない番組を作れ。しかし、低予算で』という無茶ぶりをされたみんなのアイドル塩見周子こと周子ちゃんです」

 「ちょっと待て周子」

俺の言葉を無視してカメラに向かって会話を続ける周子。

 「相手はもはや国民的番組とも言える相手。しかしこっちは低予算、低姿勢、低カロリーの3低でやれという話。低予算のためにスタジオとかも借りられないので私の兄ちゃんの店で収録です」

 「俺の店で突然撮影を始めた理由はわかった。だがな、周子」

 「なんや兄ちゃん」

今度は素直に質問に答えてくれるんだな。

 「素人である俺がガッツリ出ているがいいのか」

 「兄ちゃんは出演者や」

 「そんな馬鹿な」

素人である俺を出演者にしてどうする。

 「ディレクターは佐藤、カメラマンは美優なのもどういうことだ?」

 「低予算って言ったやん? だから私が個人的に仲が良い人に声かけた」

 「演者とカメラマンとかが逆だろう」

俺の質問に答えたのは周子ではなく佐藤であった。

 「まぁ落ち着けよヘタレ☆」

 「はぁ!? ヘタレちゃうし!! プロポーズしたからヘタレちゃうし!!」

 「決定的場面でプロポーズを決められなかった回数☆」

 「ちょっと何を言っているかわかりませんね」

最終的に決めれたからセーフ。その証拠にカメラを回している美優も苦笑だけで何も言ってこない。

 「というかディレクターなのに普通に会話に混ざっていいのか?」

 「お前と周子ちゃんだけに話をさせたら永遠に本題に入らないから仕方ないんだぞ☆」

 「「なんだと糖分」」

 「砂糖じゃねぇよ。そしてボケもわかりづれぇよ」

 「心さん、口調が」

 「おっと☆ も〜、これだから塩見兄妹の相手をするのは嫌なんだぞ☆」

 「カメラに映ってないからわからんかもしれないけど、こいつスピリタスの瓶片手にやってるからな」

 「バラすな!!」

ははは、バラすに決まっているだろう。

周子は俺が作った天ぷらを食べながら口を開く。

 「それで兄ちゃん。何やったらええと思う?」

 「それは普通企画会議でやらないか?」

 「常務から年末に向けて一本撮れって言われとるんよ」

 「だから企画会議の風景を撮っちゃうって寸法よ☆」

 「初回にも関わらずこの地雷臭。やばい番組だな」

佐藤の言葉に普通に戦慄する。

 「ちなみにパクリ元は北海道のローカル番組であった水曜どうでしょうから」

 「言われなくてもわかる」

周子の言葉を最後まで聞かずに俺は話をぶった切る。

 「だが、パクリ元を考えるとやることは旅番組だろ? 俺はまだ店を休みにすればいいけど」

 「周介さん、駄目ですよ」

 「悪いな周子。やっぱり素人の俺がテレビに出るのは無理だ」

 「美優さんのいいなりやなぁ!! このヘタレ兄貴!!」

馬鹿野郎。せっかく婚約したのに破棄されたら首を吊る自信があるぞ。

俺の質問に答えたのはスピリタス片手にディレクターをやっている佐藤であった。

 「安心しろよ☆ 私達もアイドルの仕事があるからロケは長くても3日間だぞ☆」

 「結構長い件について」

 「常務の力って偉大やね」

 「上からの圧力……!!」

それでも長くても三日間か。そうなると……

 「海外ロケは無理だな」

 「アメリカ大陸を三日で横断なんてどうや?」

 「最初から低予算に喧嘩を売っていくスタイル……嫌いじゃないわ!!」

俺と周子が期待した眼差しで佐藤を見ると笑顔で言い放たれた。

 「駄目に決まってるだろ☆ バカじゃないのか☆」

 「「なんだとハート様」」

 「だからひでぶにすんなって言ってんだろぶっ殺すぞ」

 「視聴者のみんなぁ!! これが佐藤の本当の姿だぞぉ!!」

 「痛いキャラやと思ってるみんなぁ!! こいつ中身は私らと変わらんでぇ!!」

 「お前らみたいなキチガイと一緒にすんなよ☆」

酷い言い草である。

 「あの……企画会議を……」

 「なんだよぉ☆ 美優ちゃんばっかりいい子ぶるなよな☆」

 「は? 美優は超絶優しい女神だから。お前と一緒にすんなよ佐藤」

 「は?」

 「は?」

俺はカメラに映る位置で、佐藤はカメラ外で俺とメンチを切り合う。

 「場外乱闘を始めた二人は放っておいて話を進めるけど、やるんだったら国内やなぁ」

 「原付日本列島制覇とかですかね」

俺と佐藤を綺麗にシカトしながら進行を続ける周子と美優。

 「というかこの四人だと撮影と言うより学生の悪ふざけに近くなる気がするが」

 「それな☆」

俺の言葉に力強く頷く佐藤。

 「これも全て塩見周介って奴の仕業なんや!!」

 「俺のせいにするな」

周子の言葉に突っ込みを入れる俺。

 「低予算、低姿勢、低カロリーねぇ……は!? そうか!! いいことを思いついたぞ!!」

 「そうや!! 兄ちゃんと美優さんの結婚式とかどうや!!」

 「お前はなんでそうやってネット民にガソリンをぶちまけるネタを思いつくの?」

 「兄ちゃんと美優さんの結婚については美優さんスレで『じゃあ、美優さんファンのヤベェ奴以上の美優さんファンっているの?』ってコメがついた時点で受け入れられたやん」

 「あの『美優さんファンのヤベェ奴だったら仕方ないな』ってコメはどういう意味なんだ」

 「兄ちゃんの美優さんへの愛が深いって意味や」

 「美優ちゃん☆ 顔真っ赤だぞ☆」

 「心さん、こっちに振らないでください……!!」

顔を真っ赤にしながらもカメラの撮影はやめない美優。

 「そんな美優さんを見て兄ちゃん一言」

 「可愛い人だろ? この人は俺のお嫁さんなんだぜ?」

 「「うざぁぁぁぁい!!!」」

周子のフリに乗ってやったのにこの仕打ち。後で覚えてろよ。

 「とりあえず兄ちゃん達の結婚式の時は撮影決定として」

 「マジで言ってんの?」

俺の言葉に周子と佐藤は笑顔でサムズアップ。こいつら死ねばいいのに。

 「まずは何か企画考えないとなぁ」

 「サイコロでもやるか? 目的地は346プロで」

 「それや!!」

俺の言葉に机を叩きながら立ち上がる周子。

 「水曜どうでしょうといえばサイコロが始まり!! 私らもそれにあやかろうや!!」

 「正気の沙汰とは思えないな」

 「狂気の沙汰ほど面白い……!!」

 「ザワ……!! ザワ……!!」

そして周子は美優が持っているカメラに向かってイイ笑顔を浮かべる。

 「そんなわけで記念すべき第一回はサイコロや!! みんな楽しみにしててや!!」

 「第一回から超きついじゃん」

 「死ねば諸共や」

 「あ、店長!! 撮影終わったらお酒の追加よろしく!!」

 「まいどぉ!!」

 「ちなみにこれの撮影中346が誇るのんベェお姉様方もいらっしゃったで」

 「出て貰えば良かったな☆」

 「これ以上の混沌はやめてください……」

 




塩見周介
しがない居酒屋の店長がネット配信だが番組出演へ!!

塩見周子
ライブで好き勝手した結果、常務から無茶振りされた。

三船美優
周介くんと婚約した矢先に不穏な番組のカメラマンへ。

佐藤心
周子と一緒に悪乗りした結果ディレクター的立ち位置へ。

のんベェ集団
カメラが回っている最中も普通に騒いでた。

346どうでしょう班
周介くん、周子ちゃん、美優さん、佐藤の四人組。




そんな感じで新章開幕に向けての年末特別編です。え? 年末関係ない? 何を言ってるのやらさっぱりですね。

今後の展開ですが、周介くんと美優さんの結婚式までの過程を書くついでに346どうでしょうの話を書けたらいいなと思っています。

年末なので書きましたが、基本的に更新速度は変わらず月一更新です。ご了承ください。


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サイコロの旅

美優さんとイチャイチャどころか全く別企画が始まるこの作品

タイトル詐欺にもほどがある


How do you like 346プロダクション?

 

 

 

 「前回の放送で軽い気持ちでサイコロの旅をすることにした我々346どうでしょう班」

 「周子、見な、あんな雲になりてぇんだ」

 「しかし、我々の気持ちとは裏腹にサイコロは容赦のない洗礼を我々に浴びせます」

 「やっぱり真面目にね、こつこつこつやっていきゃ、いつか芽が出るんだから」

 「思い通りにならないサイコロ。そして本家ではラスボスとして登場した奴も登場します」

 「しゅうこぉぉ!!」

 「……兄ちゃん。なんで寅さんの格好してるん?」

 「いや、美優と一緒に見に行った男はつらいよ おかえり寅さんが普通にいい作品だったからな」

 「……とりあえず本編をどうぞ!!」

 「俺には難しいことはよくわからんけどね、あんた幸せになってくれりゃいいと思ってるよ」

 「寅さんはもうええから」

 

 

 

 

1月某日 新宿駅

 「おはようございます。346どうでしょう班です」

カメラに向かって挨拶をする周子ちゃん。隣にはすごい嫌そうな表情を浮かべた周介くんがいる。

 「記念すべき第一回はここ新宿駅からスタートだぞ☆」

 「なぁ、佐藤。お前本当にアホだろ。新宿駅とかどこに向かうかわからんことになるぞ」

 「うるさいぞ鈴虫☆」

 「誰が鈴虫だ。第一俺はやりたくないんだぞ? せっかく美優と婚約したのにこの企画のせいで一緒にいる時間が減らされているじゃねぇか」

 「ザマァ☆」

 「貴様ぁぁ!!」

 「はい、本家でもよくあるディレクターによる演者虐めをやっているところ申し訳ないけど目的地のフリップ出すでぇ」

そう言って周子ちゃんは美優さんから受け取った目的地フリップを出す。

1 とりあえず様子見 東京駅

2 まさかのゴール!? 346本社ビル

3 そうだ小田原に行こう 小田原

4 餃子食べに行こう 宇都宮

5 飛んで埼玉 大宮

6 いきなりラスボス 高速バス はかた号

 「おい酒豪」

 「お前が言うな☆」

 「なんでいきなりラスボス入ってんの? バカなの?」

 「視聴者的に美味しいだろ☆」

 「こっちに死傷者が出るわ!!」

 「まぁまぁ、兄ちゃん。6を出さなきゃええんやから」

 「いや、この流れだと絶対に出る流れだろ」

 「このヘタレは☆ 確率は6分の1だぞ? 簡単に出ないって☆」

 「誰がヘタレだぶち殺すぞ体重増加女」

 「それ言ったらマジで戦争案件だからな?」

カメラの外と内側でメンチを切り合う周介くんと佐藤。

 「まぁ、とりあえずサイコロふろうか。なんか注目集めとるし」

 「そりゃ現役アイドル三人がハンディカム片手に何かやってたら注目集めるだろ」

 「まぁまぁ、それじゃあ行くで兄ちゃん」

 「「なにが出るかな、なにが出るかな」」

そして二人でその場をぐるぐる回り始める周子ちゃんと周介くん。

そしてサイコロを天高く放り投げた!!

地面に落ちたサイコロに駆け寄る周子ちゃんと周介くん。そして美優さんがカメラに映った出た目は……

 「「ウソダドンドコドーン!!」」

 「お前らマジで何してくれてんの!?」

地面でうちひしがれる塩見兄妹にマジ切れする佐藤。

 「え? 佐藤さん。まさか本当にあれ乗るんですか?」

 「残念ながら乗るよ、美優ちゃん。覚悟はできたか……? 私はできてない……!!」

 「佐藤!! 口調口調!!」

 「おっと☆」

周子ちゃんのツッコミに慌てて口調を変える佐藤。だがすでに手遅れな感は否めない。

 「でもこれ出発夜だぞ?」

 「待ちます」

 「……マジで言ってるのか周子」

 「ところがどっこいマジなんです……!!」

 「いやだぁぁぁ!! 行きたくなぁぁい!!」

 「はい、兄ちゃんの魂の咆哮は無視して一回カメラ止めますねぇ。みなさん、次会うのはラスボスに挑む直前の私達になります」

 

 

 

1月某日 新宿駅 高速バス乗り場 夜

 「はい、そんなわけで私達はこれからラスボスに挑むわけですが」

 「周介、いい加減に諦めろ☆ 往生際が悪いぞ☆」

 「往生際の問題じゃねぇから。俺は最初からこの企画嫌だったんだぞ? それなのにお前らが勝手に決めたことに無理矢理出された上にこんな苦行だぞ?」

 「諦めろや、兄ちゃん。すでに美優さんがチケットを4人分購入しとる」

 「美優……!!」

 「すいません、周介さん。これも仕事なんです」

 「美優……強くなったな……」

 「はい、兄ちゃんが納得したところで」

 「いや、納得はしてないけどな」

 「やかましい、私達は覚悟を決めたで」

 「俺はまだ決めてない」

 「別に求めてへん」

 「最悪だ……!!」

 「とりあえず次にみなさんにお会いするのは途中のPAの予定です。きっと憔悴しきってる私達をお楽しみに!!」

 

 

 

1月某日 はかた号途中のPA

 「はい、そんなわけではかた号に乗って途中のPAまで乗ってきたわけですが。これやばいですわ。夜行バス舐めてました。カメラに映ってないけど佐藤と美優さんも死にそうです。ちなみにうちの兄ちゃんはあちら」

周子ちゃんの言葉に美優がカメラを向けると、車止めに座り込んでいる周介くんがいた。

 「はい、一般人で過酷なロケに挑んだことのない兄ちゃんは完全に死んでいます。一応、カメラ回すから来いって言ったら『無理、死ぬ』とだけ返事をしました。何が辛いってまだ半分くらいなんですよねぇ。正直乗りたくないけど行くしかないので行きましょう。みなさんと次にお会いするのは博多です」

 

 

 

1月某日 博多

 「はい、そんなわけで無事に到着したわけですが、到着した時は見事に全員死んでいたので、近くのネカフェで二時間くらい仮眠とりました」

 「それでもまだ死にそうだけどな」

 「これも全部お前らのせいだぞ☆」

 「いえ、選択肢に入れた佐藤さんも同罪だと思います」

罪をなすりつけ会う醜い演者とプロデューサーにツッコミを入れるカメラマン。

 「はいはい、誰が一番戦犯かはずっと決まらないので次のサイコロに行きましょう」

 「周子、観光とかは」

 「本家でやっとったか?」

 「そこまで忠実にパクるのか……」

戦慄している周介くんを他所に佐藤からフリップを受け取る周子ちゃん。

 「はい、次の目的地はこちら」

1 そうだ、京都へ行こう 新幹線で京都

2 こうなったらさらに南下 電車で鹿児島

3 逆に考えるんだ、国境に行こう フェリーで対馬

4 結婚の挨拶に行かなきゃ 飛行機で岩手

5 フグ食べに行こう 電車で下関

6 夜行バスリターンズ 夜行バスで東京

 「佐藤お前バカじゃないのか」

 「ヘタレに言われたくないぞ☆ どこが問題なんだ☆」

 「また夜行バスで東京行ったら間違いなく死ぬぞ」

 「視聴者はそれを期待しとるよなぁ……」

 「やめろ周子!! それだと出る気がする!!」

 「とりあえず昨日は私が投げたんで、今度は兄ちゃんが投げてや」

 「マジかぁ……」

嫌そうにサイコロを受け取る周介くん。

 「「なにが出るかな、なにが出るかな」」

その場でグルグル回り始める塩見兄妹。そして周介くんの手からサイコロが天高く放り投げられた。駆け寄る塩見兄妹。カメラに映ったのは……!!

 「「セーフ」」

 「セーフじゃねぇから。ゴールからどんどん遠ざかってるからな」

 「佐藤さん、口調」

セーフのジェスチャーをする塩見兄妹にキレ気味で口を挟む佐藤。そしてそれを嗜める美優さん。

 「こうなると次はフェリー乗り場やね。みなさん、しばしお待ちを」

 

 

 

1月某日 対馬行きフェリー乗り場

 「はい、そんなわけでこれからフェリーに乗り込んで対馬に行きます」

 「すげぇ、こんな安心して乗り物って乗れるんだな」

 「いややな、兄ちゃん。まだ夜行バスの恐怖は残っとるで」

 「嫌すぎる」

 

 

 

1月某日 対馬行きフェリー内

 「船酔いした、死にそう」

 「兄ちゃん、なんでカメラ回す時死んどるの」

 

 

 

1月某日 対馬

 「はい、そんなわけで対馬に着きました」

 「すげぇな、ハングルがいっぱいだ」

 「韓国からの観光客多いらしいからなぁ。まぁ、観光とか私らに関係ないんで次のサイコロ行こか」

佐藤からフリップを受け取る周子ちゃん

1〜5 とりあえず九州に帰る

6 こうなったらヤケだ!! フェリーで韓国

 「お、ボーナスステージ」

 「対馬から出ないとどこにも行けないから仕方ないんだぞ☆」

 「それじゃあ今度は私が投げよか」

そう言いながらサイコロを受け取る周子。そしてぐるぐると回り始める塩見兄妹。

 「「なにが出るかな、なにが出るかな」」

そして天高く放り投げられるサイコロ。地面に落ちたサイコロに駆け寄る塩見兄妹。出た目は……

 「マジかぁぁぁぁぁ!!!!!」

 「お前マジで何してくれてんの!?」

叫び声をあげる周子ちゃん。周子ちゃんの肩をガタガタ揺する周介くん。

 「はい、そんな二人に報告だぞ☆」

 「「なんだ佐藤」」

 「今回は私達はパスポートを用意していません☆ だから韓国には行けないぞ☆」

佐藤の言葉にセーフのジェスチャーをする塩見兄妹。

 「だから次回に持ち越しな☆」

 「「マジで言ってるの?」」

 

 

 

 

 「346どうでしょう班によるサイコロの旅はどうだったでしょうか。ちなみに常務に『次のロケは韓国です』と言ったところ却下されたので海外編はありません」

 「泣きな。いくらでも気の済むまで泣いたらいいんだよ」

 「嬉し泣きですね、わかります。ちなみに常務にガチで叱られたので次回があるのかすら未定です。みなさんぜひともご希望のお便りをくださいね!!」

 「寂しさなんてのはなぁ、歩いているうちに風が吹き飛ばしてくれらぁ」

 「そしてエンディングテーマも本家をパクろうかと思いましたが、常務に思いっきり叱られたの兄ちゃんによる男はつらいよです」

 「わたくし生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は塩見、名を周介。人呼んでフーテンの周と申します」

 「あんたは生まれも育ちも京都や」




塩見周介
二度とやりたくない

三船美優
できることならやりたくない

佐藤心
絶対にやりたくない

塩見周子
チャンスがあれば再びやる気十分

周介くんによるエンディングテーマ
まさかの男はつらいよ




婚約が決まっても妹に振り回される兄夫婦(仮)。再びの機会を伺う周子ちゃん。常務、絶対に止めてくれ。

ちなみに今回こんなに男はつらいよがプッシュされたのは作者が実際に男はつらいよ おかえり寅さんを見にったため。他の作品を一切見てなかったけどなかなか楽しかったです。

そして使用楽曲情報に『男はつらいよ』がないというね


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婚姻届

誕生日に婚姻届提出ってお決まりですよね!

そんなわけで美優さん誕生日おめでとう!(なお、出演


『いつも応援してくださるファンの皆様、関係者の皆様へ

 私事で大変恐縮でございますが、私、三船美優はかねてよりお付き合いをしておりました一般男性の方と入籍させていただいたことをご報告させていただきます。

 これからの人生、夫婦で協力しあいながら、私達らしい家庭を築いていきたいと思っております。仕事も今まで以上に努力を重ね精進して参りますので、今後も暖かく見守っていただけたら幸いです。

                          三船 美優』

 

 

 

 「聞いてないでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 「おう、遅かったな周子」

2月25日。俺と美優は役所に婚姻届を提出することにした。それに伴って美優が関係各位に書面を送ったのだが、それがニュースや新聞で取り上げられることになった。

店の扉をババーンと開いた周子は勢いそのままにカウンター内にいる俺に掴みかかってくる。

 「どういうことや兄ちゃん!! 婚姻届を出しに行くっていう一大イベントにこの周子ちゃんを連れていかないなんて!! 私も頬を赤らめて恥ずかしがりながら『あ、あのよろしくお願いします』って書類を提出する美優さんが見たかった!!」

 「周子、本音、本音漏れてる」

まぁ、美優は周子のいう通りの反応をしたわけだが。

 「ついでにカメラを回しといてその映像を結婚式で流したかった!!」

 「そういうことやるからお前には言わずに提出しに行くことになったんだぞ?」

地面を叩きながら『世界はこんなはずじゃなかったことばかりだ!』と叫んでいる周子。

 「とりあえず、周子。他にお客さんいるからな」

 「なんやと。夜は閑古鳥の兄ちゃんの店にやってくる奇特な人が知り合い以外にもおるなんて」

メンチを切り合う俺と周子。

 「ふふふ」

そしてそんな俺達のやりとりを見て微笑みを浮かべるお客さん。周子がその声の方を向いてその人物を確認して驚いた表情になった。

 「詩音さんやぁ!!」

 「きゃあ!?」

そして俺の友人である双海詩音に飛びつく周子。双海も驚きながらもキャッチしたが、勢い余って床に倒れ込んだ。

 「なんや! なんで詩音さんがおるんや!! 兄ちゃんには元SASのサバイバル教官やった後に大学教師やりながら保険調査員やってるって聞いとったけど!!」

 「周子、それは双海やない。平賀=キートン・太一や」

 「いえ、確かに私は日英クォーターで父は考古学者ですけど。私は普通にイギリスで司書の仕事をしていますよ?」

 「なんや、詩音さんマスターキートンネタ通じるんか」

周子の言葉に亜麻色の髪を持つ美女は懐かしそうな表情になる。

 「懐かしいですね。私が初めて日本で住んだ時に、小学校で言われた第一声が周介さんの『日英クォーターで父親が考古学者ってリアルマスターキートンやないか!』でした」

 「兄ちゃん」

周子のジト目に俺はまぁ落ち着けというジェスチャーする。

 「いいかよく聞け周子。当時は純粋無垢な小学生だ。そんなところに突然イギリスから片親で父親は考古学者。本人はハーフじゃないけど日英クォーターだぞ? お前だったらどんな印象を受ける?」

 「リアルマスターキートン……!!」

 「そういうことだ」

 「いえ、その発想はおかしいです」

双海のツッコミはどこ吹く風でハイタッチを決める俺と周子。

落ち着いたのか周子はカウンターに座り、俺は周子の料理の準備を始める。

 「詩音さんはいつこっちに帰ってきたんや?」

 「いえ、今回はたまたま高校時代の友人に会いに来ていたところに、塩見くんと美優さんの結婚報道があったのでお祝いをしに」

 「……あれ? 詩音さん高校時代こっちにおったん? 小学校で海外に行ってからも兄ちゃんと手紙のやりとりとかをしていたのは知ってるけど」

二人の会話に俺は口を挟む。

 「周子は覚えてないか? ほら、双海が高校の修学旅行で京都来るって聞いて、周子連れて当時のクラスメイト全員で襲撃かけに行ったら、全裸が全裸で会いに行って警察と追いかけっこになったやつ」

 「あ〜、その後全裸さんが『俺は何もやましいことはしていない! 全裸の何がいけないんだ!』って叫んで警察にガチ厄介になったやつか」

 「いえ、当時普通だと思い込んだ私も悪いですけど、あの小学校変人ばっかりですよ」

双海のガチトーンの言葉に俺と周子は首を傾げる。あそこで生まれ育った俺と周子には別に全裸が全裸でいることは普通だし、なんだったら『全裸亀甲縛り公園』に全裸の犯罪者が張り付けにされることも珍しいことではない。

 「どうした双海!! そんな普通になっちまって!! 『闇の福音(ダーク・シオン)』って自称していた厨二病真っ盛りだった小学生時代はどうした!!」

 「違います!! それも厨二作家さんに影響された結果です!! 私は普通です!!」

双海が必死に否定してくるので、用意しておいた小学生時代のアルバムから双海の写真を取り出すと、双海は『アー、アー!! 見えません!!』アピールをしていた。

 「それにしても美優さんの26歳の誕生日に結婚なんて、兄ちゃんも洒落たことやるんやな」

 「? 美優は27になったぞ?」

俺の言葉に急にシリアス顔になる周子。

 「私達が年をとる……? 十年以上年は変わらなかったはずなのに年をとる……? どういうことや……? いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん!」

 「塩見くん、周子ちゃんがクトゥルフを讃え始めましたよ?」

 「マジかよ。ルルイエが浮上したかな」

壊れた周子を慣れた様子で対処する双海。双海も小学生の頃に俺達の故郷で鍛えられ、その後も手紙や電話で頻繁にやりとりをしていたので俺達の掛け合いにも慣れたものだ。

 「まぁ、真面目な話、美優に『どうせ結婚記念日を作っても周介さんは覚えられませんから私の誕生日と一緒にしておきましょう』と言われてな」

 「美優さんが兄ちゃんの生態お見通しすぎて笑える」

 「こやつめ、ハハハ」

まぁ美優のいう通り結婚記念日を覚えられる気はしないわけだが。

 「そういえば今日は美優さん遅いんですか? 久しぶりにご挨拶したいんですが」

 「あ〜、今日は遅いって言ってたな」

双海の言葉に俺は美優の仕事の予定を思い出しながら告げる。なんか誕生日イベントの日に結婚報告をしたら仕事場が大騒ぎになって収録がかなり押しているらしい。

 「っと、噂をすれば美優から電話だ。ちょっと電話してくるわ」

 「どうぞごゆっくり」

 「兄ちゃん! 私の飯をはよ!!」

周子には中指を立てて美優からの電話を出に行くのであった。

 

 

 

 

 (一瞬だけの切なそうな表情。私じゃなかったら見逃しちゃうね)

周子は兄である周介を切なそうに見送る詩音を見逃さない。少しだけ周子は迷ったが、大人しく声をかけることにする。

 「詩音さんは素直に祝福してくれます?」

周子の言葉に詩音は少し驚いた表情したが、すぐに苦笑した。

 「お祝いしますよ。大切なお友達である塩見くんの結婚ですから」

そこまで言って詩音は『でも』と言葉を区切る。

 「やっぱりちょっと悲しいですね。好きな人が自分以外の人と結婚するというのは。それが昔からわかっているとは言え……」

詩音が周介に惚れているのは周介の友人達全員が知っている話だ。その友人達は『三船が勝つか双海が奪い返すか』で賭けをしていたのを周子は知っている。そして大いに稼がせてもらったのは完全に余談である。

さて、周子は美優にとてつもなく懐いているが、同じくらい詩音にも懐いている。周子的に周介×美優がジャスティスだが、周介×詩音も同じくらい好きだ。どのくらい好きかというと兄の友人の同人作家に頼んで書いてもらうくらい好きだ(なお、その同人作家は美優×詩音も書いた)

だから周子ちゃん的に詩音も幸せになって欲しい。

 「詩音さん」

 「? なんでしょう?」

周子は詩音にニマーっとした表情を浮かべる。

 「店子に興味はありませんか?」

 「はい? 店子?」

 




塩見周介
俺達

三船美優
結婚しました。

双海詩音
メモオフのヒロインの一人。原作では小学生時代に『外国人』扱いされて日本が嫌いになったようだが、こちらの世界では周介くんなどの変人が集まる小学校に転校してしまい、日本の常識がクラッシュされた模様。

塩見周子
周介×美優がジャスティスだけど周介×詩音も好き

周介くんの友人達
梅組的なノリ

塩見兄妹の故郷
京都であって京都じゃない魔都KYOUTO。参考は作者の別作品である『塩見周子の幼馴染』にあります。

大家と店子
ようは正妻と側室




ついに周介くんと美優さんが結婚!(婚姻届を提出しただけ
でも美優さんの出演なし!! 完全にタイトル詐欺です本当にありがとうございました。
そして作者の趣味で二次元ヒロインでもトップクラスに好きなメモオフの双海詩音を放り込む所業。クロスオーバータグつけたのでこの後のネタになりそうなものはガンガン放り込むわよぉ!


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式の準備

サブタイトル通り結婚式までの過程も書かないといけませんよね!(なお、前に進んでいない


 「おいす〜」

 「おう周子か」

 「いらっしゃい周子ちゃん」

店の扉を開いてやってきた周子に俺と結婚して時間限定女将として働き始めた美優は声をかける。

だが周子は店の扉を閉めるとすぐに椅子に座らずじっくりと上から下までじっくりと見た後力強く頷いた。

 「兄ちゃん、美優さんが着物姿なのはわかっとるやないか」

周子の言葉に俺はサムズアップすると、周子も親指を立ててくる。ちなみに美優は照れて顔を真っ赤にしている。

周子は席に座りながら注文してくる。当然のように周子特別メニューだ。

 「お前は食事制限とかしなくていいのか?」

 「私は食べても太らんから」

 「周子ちゃん、それ事務所で言って盛大にヘイトを集めたばっかりですよね」

 「美優さん、過去は忘れるもんやで」

周子はキメ顔でそう言った。

 「そういや兄ちゃん」

 「なんだ」

俺が調理していると周子が話しかけてくる。調理中に喋るとか料理人的にアウトな気もするが、まぁ、周子だからいいか。

 「美優さんのフィギュア出るらしいで」

 「いつ発売だ。俺も予約しよう」

 「あ、私も予約しとるで」

俺と周子は硬い握手をしてドヤ顔を美優に向けると、美優は恥ずかしそうに手で顔を覆っていた。

 「あ、でも兄ちゃん、美優さんフィギュアのパンツ覗いちゃダメやで」

 「俺の奥さんなのにダメなのか……?」

 「ダメや」

 「あの……周介さん。私の洗濯物とかで毎日見てますよね……?」

ふ〜、やれやれだ。美優はわかっちゃいない。

 「いいか美優。本物のパンツとフィギュアのパンツは別物だ」

 「何を言ってるんですか……!?」

 「それも理解できないなんて、美優さんはもうちょっと塩見の名前を名乗る重みを知った方がいいで」

 「どういうことですか……!?」

俺と周子の言葉にマジ驚愕顔を浮かべる。だが美優も塩見を名乗ることになるのだからこれくらいは理解して欲しい。

 「そういや兄ちゃん、結婚式はどうするん?」

 「ああ、それな。美優とも話をしていたんだけど10月くらいに挙げるつもりだよ」

 「あれ?残り七ヶ月しかないけど大丈夫なん?」

 「安心しろ。社長が『お前たちが結婚式をしたという広告はかなり強い。うちを使え』って直接言ってきた」

 「それって益々大丈夫なん? 社長さんだったら容赦なくぼってくると思うけど」

 「通常より30割増しで要求してきたな」

 「社長さん……!!」

 「美優の説得により通常料金になった。舌打ちが秒速3000回飛んできたが」

 「フゥゥ!! 流石は美優さんだぜ!!」

 「周子ちゃん……!! 辞めてください……!!」

いや、マジで俺の友人達の美優に対する甘さはなんなのだろうか。

 「それで美優ともちょっと相談していたんだけどな」

 「なんや」

 「例えば周子。何も知らない状態で俺の友人達を見たらお前ならどうする?」

 「ポリス案件やな」

周子は言ってから妙に納得する。

 「なるほど。新郎側の友人がちょっと初心者にはきつい人ばっかりなわけやな」

 「マトモなの双海くらいなんだよなぁ」

こればっかりは本当に困った。美優が結婚式に同僚アイドルならまだしも未成年アイドルも呼ぼうとしているのでこの問題が発覚した。

 「特に美優は可愛がってる市原仁奈ちゃんを呼ぼうとしてるからなぁ」

 「あぁ。ちょっと子供には兄ちゃんの友達は完全にアウトやな」

そこで周子はいいことを思いついた表情になった。

 「呼ばなければいいやん」

 「それは俺も思った。でもなぁ、はい美優」

 「お世話になってるんですから呼ばないと失礼ですよ」

 「美優さんは女神すぎて目が潰れそう」

 「周子!! 気付け薬よ!!」

俺がカウンターに叩きつけたスピリタスの瓶を一気に飲み干す周子。

 「それやったら全裸さんに服を着せるところからやな」

 「それなだがあいつが服着たらどう思う?」

 「頭がおかしくなったと思う」

それは一周して普通になったということだろうか。

 「だがあのバカのやることはこっちに予想ができない」

 「呼ばなければいいやん」

 「あいつから『俺を呼ばなかったら全裸で勝手に乱入するからな!! ンンン!! ネクストニューチャレンジャァァァァァァ!!!!』って連絡がきた」

 「相変わらず平常運転で安心したわ」

俺の友人にマトモなのはいないのか。

 「座席配置にも気をつけないといけませんね」

 「? なんでだ美優」

俺の言葉にすごく言いづらそうに口を開く美優。

 「いえ……あの……ロリコンさんが」

 「あ〜、あいつだったらアイドルやってる小学生見たら発狂するよな」

 「あの人去勢されたんやないの?」

 「やつ曰く『心のオニンニンがボッキーするんだよ!!』って言ってたな」

俺と周子の会話を聞いて顔を真っ赤にして恥ずかしがる美優。俺はそんな美優を見ながらしみじみ頷く。

 「見てくれこの可愛い人。俺の奥さんなんだぜ?」

 「惚気を聞かされる。妹ポイントマイナス1。罰としてカルーア一気飲みやな」

周子の言葉に俺は店に用意してあるカルーアを1瓶一気飲みする。

 「っぷはぁ!!」

 「普通牛乳で割らん?」

 「めんどくさかった」

いちいち牛乳で割る作業が面倒すぎる。だから一気に飲んだ。

 「周介さん、お店のお酒を飲んじゃダメですよ」

 「いや、美優。カルーアなんて軽いお酒をうちで飲む奴いないぞ?」

 「それでもです」

とりあえず怒られたので大人しく周子の料理に移る。

 「でもうちらの出身地に来て美優さんと詩音さんみたいに普通になるのは奇跡やな」

周子の言葉に美優は苦笑する。

 「私も詩音さんも期間が短かったですから」

 「兄ちゃん、曽成さんって何日で馴染んだっけ?」

 「一時間」

曽成というのは指揮者をやっている友人である。どこにいるか? 世界のどっかにいるだろう。あいつは心配するだけ無駄だ。

 「俺はこれから結婚式までの期間にあいつらを普通にしなきゃいけないのか……」

 「応援だけはしとるで」

 「手伝ってくれ」

 「それは断る」

 




塩見周介
自分の友人を考えて頭痛がひどくなる

塩見美優
旧姓三船。結婚生活は順調な模様。しかし結婚式が不穏である

塩見周子
兄の悩む姿が見れてメシが美味い

社長、全裸、ロリコン
周介くんの友人達の一部

曽成
周介くんの友人。一応クロスキャラ。主演原作は『天にひびき』



そんな感じで結婚式の準備編です。友人を呼ぶという普通の行為がポリス案件に直結してしまうのが周介くんの交友関係。クロスタグ入れたから作者が好きな漫画のキャラ入れましたけど。『天にひびき』を知ってる人はいるのだろうか

ちなみに美優さんの方にはアイドルがいっぱい参列する。参列するアイドルにトラウマを植え付けないか心配である。


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外出自粛

新型コロナに負けず、今日も塩見家は愉快です。


さて、俺の店『しんでれら』は飲食店である。飲食店であるということは新型コロナウィルスの影響ででた緊急事態宣言によって休業要請を食らった。

するとどうなるか?

 「くそ、また5Vか」

当然のように俺の店は営業自粛である。

 「たっだいまぁ!」

 「ただいま戻りました」

 「お〜、おかえり」

そして密を避けながらの仕事があると言って出かけていた俺の妹(周子)と嫁(美優)が帰ってきた。

リビングの扉を開けながら周子はつけていたマスクを投げ捨てる。

 「兄ちゃん! 飯!」

 「待て、周子。お前はドリフの加藤茶の教えを忘れたか?」

俺の言葉にハッした表情になる周子。

 「「顔洗えよ、手洗えよ、うがいしたか?」」

俺のサムズアップに周子も笑顔でサムズアップ。そしてそのまま洗面台に向かった。

俺と周子が漫才をしている間に手洗い、うがい、顔も洗った美優が苦笑しながらリビングに入ってくる。

 「たまに思うんですけど、絶対に周介さんと周子ちゃんって年齢詐称してますよね」

 「失礼だな美優。俺と周子は346プロの某アイドルみたいに永遠の17歳なんかじゃないぞ」

ちなみにその永遠の17歳は高垣さんや片桐さんに連行されてこのお店に来るようになり、焼き鳥片手にビールをかっ食らう姿がみれるようになった。

 「兄ちゃん! 加藤ちゃんの教えはちゃんとやってきたで! メシ!!」

 「はいよ」

周子の言葉に俺はやっていたポケモンを放置して台所へと向かう。もう準備はしてあるのであとは温めるだけだ。

すると周子がニンテンドースイッチのコントローラーを持って操作始めた。

 「なんや、兄ちゃん。ヒトモシの厳選中かいな」

 「オンライン対戦メンバー作成中だ」

 「美優さんはやっとらんの?」

 「え、と」

周子の言葉にものすごく困った表情をする美優。美優が言いにくいなら代わりに答えてやるのがいい夫ってものだろう。

 「美優がポケモンやったらすごいぞ」

 「ほう、詳しく聞こう」

 「まず草むらを一歩歩くたびにポケモンが出てくる。そしてモンスターボールを投げると捕まえられる確率は100%だ。システム上捕まえられないはずのザシアンやザマゼンタも捕まえられた」

 「流石は美優さん。天然の甘い香りやな」

 「やめてください! 私も不思議なんです!」

最初はバグかと思ったが、俺がコントローラーを持つとなくなり、美優が持つと始まるので、完全に美優の特性であろう。

 「ほれ、晩飯できたぞ」

 「わぁい!」

 「いつもありがとうございます」

俺の言葉に子供のように机に来る周子と、申し訳なさそうな表情を隠さない美優。夫婦になっても相手のことを思いやる気持ちを忘れない。

 「俺の美優が優しすぎて尊い……」

 「急になんですか!?」

 「いつもの発作やろ」

なんとも失礼なことを言われている気がしたが確かにいつものことである。

 「そういや、兄ちゃん、ニュースで個人営業の飲食店がやばいって言っとったけど、兄ちゃんの店は大丈夫なん?」

おかずを食べながら問いかけてきた周子に、俺はフッ笑う。

 「大丈夫じゃない、問題だ」

 「ダメやん」

 「いや、マジでやばくてな。お昼は弁当を販売してなんとか収益出しているけど、それでもやっぱりお店をやれない影響でかくてな。ぶっちゃけ経営の危機」

 「Oh……」

割と死活問題なのだ。

 「で、店の今後について美優と相談しててな、それを美優がうち常連の飲兵衛お姉様集団に相談したらしいんだよ」

 「お、なんか解決策が出たんか?」

周子の言葉に俺は力強く頷く。

 「お金を寄付された」

 「お店を宣伝するとかじゃなくてまさかの現生投入ということに流石の周子ちゃんもドン引きです」

美優もお店の宣伝してもらうために相談したら、まさかの予想斜め上の解決方法をされて唖然としていた。

 「まぁ、そのせいであの人達には一生半額で食事提供ってことになったけどな」

 「酒じゃないん?」

 「あの、周子ちゃん……楓さん達のお酒を半額にしたらお店が潰れちゃいます……」

美優の言葉に納得する表情を見せる周子。あの飲兵衛集団に対してお酒を半額にしたら店が潰されてしまう。

 「そういや、兄ちゃん。今日の撮影で美優さんのええ写真が撮れたんやけど」

 「周子ちゃん!?」

 「詳しく聞こうか」

 「周介さん!?」

驚愕している美優をよそにゲンドウポーズをとって真剣な表情を浮かべる俺と周子。そして周子がゆっくりと口を開いた。

 「美優さんのギャル姿や」

 「その時俺に電流走る……!」

周子の言葉に愕然としてしまう。

 「そんな……! 学生時代も制服を着崩すことのなかった美優のギャル姿だって……!!」

 「そうや」

なんということだ。俺はその事実に机を力強く叩いた。

 「俺も見たかった!! 『机に座ったのはいいけど普段座ったことがないから落ち着かずに足をプラプラさせている』美優の姿が見たかった!!」

 「周介さん、なんで決めつけるんですか!!」

 「美優さん、否定できるんか?」

周子の言葉に顔を真っ赤にして俯いてしまう美優。そんな可愛らしい美優の姿を見て力強く握手をする俺と周子。

 「それで周子。写真は?」

俺の言葉に無言でスマホを操作する周子。すると俺のスマホに着信を知らせる音がなる。

それを開くと恥ずかしそうにギャルの格好をした美優の姿が!!

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 「周介さん!?」

 「わかるで兄ちゃん……!! 最初は私も『ギャル船美優は解釈違いや』って思ったけど、想像以上に可愛らしくて発狂してもうたんや……!!」

 「ギャル船美優ってなんですか……!?」

驚愕している美優を他所に、俺はとりあえず友人達のグループラインに『こいつを見てくれ。この可愛い人俺の奥さんなんだぜ?』という言葉と一緒に送っておく。

 「さぁ、周子。何が食いたい? 特別にお兄様が作ってやろう」

 「食後のデザートやな」

 「よしきた」

 「それより周介さん、何を送ったんですか!? 同人作家さんから『ギャルをやるならもっと胸元を開いていくべき。できればブラがチラっと見えるくらいで。ネタにするから写真を送りなさい』って来たんですけど……!!」

 「「それだ!!」」

 「それじゃないです……!!」

新型コロナで外出自粛でも愉快な塩見家になっております。

 




塩見周介
新型コロナの影響で店の危機になったが常連達の暖かい支援(現金)によって解決された。

塩見美優
芸名:三船美優。仕事でまさかのギャルの格好をさせられた。

塩見周子
外出自粛なので兄夫婦の家に転がり込んだ。玩具な兄と大好きな義姉との生活を楽しんでいる。




そんな感じで新型コロナのお話でした。コロナなど関係なく愉快な塩見一家。

そういえば作者はほとんどの作品で周子ちゃんのお世話になっているので、周子ちゃんヒロインの小説でも書こうと思ったんですよ。そうしたら問題が発生しました。

うちの周子ちゃんが恋愛している姿が浮かばない……!!

どうしてこうなった。


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周子ちゃんの恋

大丈夫周子ちゃん? 恋だよ? 故意じゃないよ?


コロナは弱まってきたが、念のために俺の店は営業を自粛している。妻(重要、俺の妻!!)である美優も家からのリモート出演をすることがあり、カメラのギリギリ映るラインで周子と一緒に『無言で映画の名シーン再現』をやっていたらテレビ局の人と美優にガチ怒られをしたのは完全に余談である。

ちなみに今日は美優はオフ。周子はメインMCを務めるラジオ番組『周子ちゃんネル』の収録のために出かけている。

 「そういえば……」

美優と一緒にコーヒーを飲みながら映画(僕のワンダフル・ライフ)を見ていたら、美優が何か思い出したかのように口を開く。

 「周子ちゃんって恋したことあるんでしょうか?」

 「周子が恋ねぇ」

美優の言葉に俺は考える。

昔から俺と美優を見て育った周子である。恋に恋するなんてスイーツなことはないだろうが、普通に好きな人くらいだったらいてもおかしくない気もする。

 「私達のことをあれだけ応援してくれたんですから、私も応援してあげたいです」

 「おう…えん?」

 「応援だと思いましょう!!」

美優の力強い言葉に俺は頷いておく。周子の昔の所業を応援と言える美優は女神かな? ああ女神か。

 「まぁ、そうしたら俺が聞き出してみるか」

 「……さりげなくですよ?」

 「わかってる、俺を信用してくれ!!」

 「信用しているから信用できない気持ちはどうすれば……!!」

美優も着実に塩見の血に染まってきていて嬉しいものである。

 「ただいま」

 「おう、おかえり」

 「おかえりなさい」

そして妙に真剣な表情をして周子が帰ってきた。俺と美優の言葉に返事をすることなく、流れているBlu-rayを止めるとゲンドウポーズをしながら座る。

それに俺もゲンドウポーズをしながら座り、美優も戸惑いながらゲンドウポーズをしながら座った。

 「兄ちゃん」

 「なんだ」

 「相談があるんや」

 「言ってみろ」

周子は真剣な表情を浮かべながら口を開く。

 「私と美優さんのデュエット企画があるんやけど、曲が決まらんのや」

 「なんだそんなことか」

俺の隣で「あ、あの企画のことですね」と呟いている美優を脳内メモリに保存しながら俺は周子に告げる。

 「いいか、周子。お前と美優は義理の姉妹だ。つまり美優はお姉様だ」

 「その時私に電流走る……!!」

 「いえいえ!! 全く理解できませんけど!?」

俺と周子が硬い握手を交わしている横で美優が焦った声をあげている。

 「え? マジ? 美優は今のでわからない?」

 「普通はわからないですよ」

 「マジかぁ。美優さんもだいぶ塩見に染まったと思っとったけど、まだまだやなぁ」

 「うぅ……」

周子の言葉に少しショックを受けている美優。だが俺はあることに気づく。

 「待て、周子。美優が塩見に染まるってことはキチガイになるってことじゃないか? 俺はそんな美優も普通に愛せるけど、ファン的にはアウトではなかろうか」

 「遠回りな惚気はスルーするけど、確かに美優さんがキチったら美優さんファンブチ切れ案件かもしれんな」

 「もう二人とも!!」

美優に叱られたが、俺達にとってそれはご褒美みたいなものである。

一息ついて美優が口を開く。

 「それで? 何の曲にするんですか?」

美優の言葉に俺と周子は視線だけで会話。そして立ち上がりながら叫ぶ。

 「チキチキ!!」

 「名言クイーズ!!」

俺と周子の言葉に美優はどこか呆れたようにため息を吐いた。

 「それじゃあまず俺からな」

 「周介さん、わかりやすいのにしてくださいね」

ネタの時は全力でやるのが塩見なのでそれについてはなんとも言えない。

 「『そうだ! 敵の数が多すぎて宇宙が黒く見えない!! 敵が7分で黒が3分! いいか!? 敵が7分に黒が3分だ!!』」

 「この後の絶望の戦いが待っていることがハッキリわかるええセリフだよねぇ」

俺の言葉に周子がわかるわかると頷いている。だが美優は首を傾げていた。

 「じゃあ次は周子な」

 「よっしゃ」

そして周子は真剣な表情で叫ぶ。

 「『どんな犠牲を払ってもかまわん!! 本体を死守しろ!! あと22分だ!!』」

 「その後の戦いも含めて最高のシーンだよなぁ」

俺は周子の言葉にわかると頷く。だが美優はまだわからないようであった。

 「美優はまだわからないか」

 「いえ、二人ともわざと難しいセリフを選びましたよね」

 「兄ちゃんはそう言われても仕方ないチョイスやね」

 「好きなんだがなぁ」

個人的に作中でもトップクラスに好きなセリフなんだが。

 「もっとわかりやすいセリフをください」

美優の言葉に周子と視線を合わせ、力強く頷く。

この作品の代表的なセリフと言ったらこれしかあるまい……!!

 「『お前とアマノは一人一人では単なる火だが』」

 「『二人合わせれば炎となる』」

俺の言葉の後に続く周子。そして二人でガイナ立ちを決めながら叫ぶ。

 「「『炎となったガンバスターは、無敵だ!!』」」

 「あ!! トップをねらえ!ですね」

美優もコーチの名言は知っていたらしい。やはりトップは偉大である。

 「そういえば兄ちゃん。奈緒ちゃんがトップは2しか見たことないって言うとったで」

 「それはトップファンとして放っておけない。Blu-rayBoxを貸してあげるんだ」

 「よしきた」

俺の映画やアニメが大量に入っている棚からトップをねらえ!のBlu-rayBoxを楽しそうに抜き出す周子。

 「周介さん」

そして小声で美優が声をかけてくる。

 「さっきのことをさりげなく聞いてください」

美優の言葉にそういえば周子に恋愛のことを聞くことになっていたことを思い出す。

美優がちょっとジト目になる。

 「忘れてましたね?」

 「覚えていたよ。ちょっと脳内から消えていただけで」

 「それを忘れていたって言うんですよ?」

都合のいい俺の耳は美優の言葉をシャットアウト。そしてトップ以外にもBlu-ray(DVDも含む)を漁っている周子に声をかける。

 「周子、お前好きな奴いないの?」

 「さりげなくは……!?」

美優がマジ驚愕顔を浮かべているが、周子に回りくどいことをしても無駄なのは兄である俺がよく知っている。

振り向いた周子も驚いた表情を浮かべていた。

 「なんや兄ちゃん。突然、家にママと名乗る教師がやってきたみたいに唐突やな」

 「三世院の悪口はよせ!!」

 「やよいさんは何をしているんですか……!?」

美優が周子の発言に驚愕顔をしている。三世院やよいというのは俺の同級生の一人で、大学病院に勤務していたが幽霊が『視えすぎる』ために高校の保険医になったというアルティメットな経歴の持ち主の本業・巫女である。それだけでも十分に濃いのにこいつは『キツすぎてドン引きな不吉な相の持ち主』の男子生徒の運命を変えるために押しかけママになるというアルティメットな奴である。友人一同の総意として『幽霊を視すぎて頭がおかしくなった』と結論した。

昔馴染みの凶行に割と本気で戦慄している美優は置いておいて、話を進める。

 「いや、お前は昔から俺と美優のラブラブチュッチュを見せつけられてきたわけだろ」

 「理解しているなら自重しろや」

 「断る」

とりあえず俺の発言で顔を真っ赤にしている美優をみて周子と力強い握手をしてから話を進める。

 「お前にも一人や二人くらい好きな相手いるんじゃないかと思ってな」

俺の言葉に難しい表情をする周子。そして首を捻った。

 「なぁ、兄ちゃん」

 「なんだ」

 「『好き』ってどういうことや?」

 「お前はいつまで中学生の気分でいるんだ」

 「いや、真面目な話で。シューコちゃん、そのあたりの感情よくわからん」

 「マジで言っているのか、お前」

 「マジや」

驚愕の真実である。昔から俺と美優の仲を茶化してきたくせに、まさかの……

 「お前、恋愛処女かよ……」

 「周介さん!! 言い方!!」

 「甘いで兄ちゃん!! 私は唇もヴァージンやで!!」

 「周子ちゃんも!! 言い方!!」

会話している俺達より顔を真っ赤にしている美優に兄妹でほっこりしながら考える。

 「あ〜、周子。好きってあれだ。具体的に言うとGガンの最終回」

 「いえ、それじゃあ理解できないと思います」

 「あ〜、そういうことかぁ」

 「理解できてる……!?」

はて、美優は何を不思議そうにしているのだろうか。好きと愛を理解するならGガンか08MS小隊を見れば恋愛クソ雑魚でもわかるだろうに。

 「う〜ん、そうなるとあいつ……かなぁ?」

真剣な表情で考えながら誰か思い浮かべたのか首を傾げつつも、納得した表情を見せる周子。

 「お、誰だ」

 「ヒント:不幸」

 「オーケー、理解した」

 「いえ!? 私はさっぱりですけど!?」

美優が理解していなかったので、名前を言うと納得した表情を見せた。

 「彼と周子ちゃん、昔から仲よかったですからね」

 「今年のプロ野球開幕遅れはあいつの本領発揮やね!!」

 「前、連絡したら『こうなったら新人賞をとるしかない……!!』って燃えていたな」

彼と言うのは俺と周子の幼馴染の少年である。年齢は周子の一つ下で、ずっと野球をやっていてプロにもスカウトされた少年である。

だが特筆すべきはその不幸っぷりである。小さい頃に両親が離婚。学校が学校だったので虐められることはなかったが、大会では毎回いいところまでいくが、肝心のところで勝てなかった。

だが、実力はあったのでプロにスカウトされたのである。

 「あいつも兄ちゃんの友達の鍼師さんに感謝しとったで。『あの人のおかげで俺は野球を続けられる』って喜んどった」

 「あいつも謎だよなぁ。『元気になれぇぇぇぇぇ!!!』って叫びながら鍼うつと彼の肩も彼の母親の癌も治るって」

 「改めて考えると何者なんでしょう?」

三人で俺の友人の鍼師について考える。ちなみに鍼師本人は『世界中の病原菌を駆逐する!』と叫んで世界治療旅の真っ最中である。

腕を組みながらどこか納得した表情を見せる周子。

 「そうかぁ、私はあいつが好きだったんか」

 (ニヤァァァ)

 「あの、周介さん? 笑顔が邪悪ですよ?」

美優の言葉を流して俺はスマホで彼に向かってメッセージを飛ばす。そして飛ばしたメッセージを周子に見せる。

そこには『コロナ騒動が落ち着いたら周子とデートしてくれない?』と書いておいた。

 「きさまぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 「ハハハ、照れるな照れるな!! ナイスアシストを決めたお兄様を崇め奉るといい!!」

顔を赤くしながら俺をガクンガクン揺らす周子。高笑いをする俺。

そんな俺達を見ながら美優は呆れたようにため息を吐くのであった。

 




塩見周介
妹の恋路にアシストを決めたつもり

塩見美優
後日、周子ちゃんのガチ恋愛相談に乗ってあげた

塩見周子
初めての恋心に戸惑い


作者の別作品である『救われなかった少年』の彼の別次元存在。こちらでは頭のおかしい周介くんの友人のおかげで救いがあった模様

愛や恋を知れるアニメ
Gガンダム、08MS小隊ですかね

周子ちゃんと美優さんのデュエットソング
トップをねらえ!〜Fly High〜



趣味の趣味に走った回でした。トップをねらえクイズと三世院やよいネタは書いていて楽しかったです。ちなみに三世院やよいさんはHAPPY LESSONというアニメのキャラです。知っている人は作者と同年代。

そして周子ちゃんが恋するキャラは作者の過去作品からリサイクル。彼くん(本編でも名前は出ていない)は作者の別作品である『救われなかった少年』の主人公です。作者のコメディネタが好きな方にはあまりオススメできませんが、シリアスな周子ちゃんは見られます。ちなみに読んだ後の苦情は受け付けておりません。

あの作品に救いなんてねぇから!!

書き終わってからシンデレラガールの順位ネタを入れ忘れることに気づきました。とりあえず美優さん34位おめでとう!! そして周子ちゃん50位圏外というネタ提供ありがとう!! ネタにできなくてごめん!!


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続・周子ちゃんの恋

周子ちゃん恋模様編です

ちなみにこれを書いている時に作者が聞いていたのは『がんばれドカベン』です


六月も末になり、営業自粛が解除され俺の店も営業再開である。すると美優の友人である飲兵衛お姉様軍団が毎日のようにやってきて酒盛りをしている。

客として来てくれるのはとてもありがたいのだが、毎日のように美優を潰すのは勘弁して欲しい。ベロベロに酔った美優もとても可愛い(綺麗じゃないところがポイント)のだが、翌日に美優が羞恥心で顔を真っ赤にしてとても可愛いのだ。

 「あれ? 美優が可愛いんだったら別に構わないのでは?」

 「突然、どうした兄ちゃん」

『周子ちゃん特別セット』(現役アイドルが食べていいカロリー量ではない)を食べながら周子が俺を見てくる。

 「いや、毎日飲兵衛お姉様軍団に酔いつぶされる美優が可愛いと思ったんだが、翌日に羞恥心で顔を真っ赤にしている美優も可愛いと思ってな」

 「酔った美優さんは可愛い。そこに議論の余地はあらへんよ」

俺と周子は固く握手する。だから美優からの助けを無視するのは当然の帰結である。

 『ちょっと美優ちゃん!! グラスが空っぽよ!!』

 『さ、早苗さん! 私はもういいです!!』

 『待ってください早苗さん』

 『楓さん……!!』

 『美優さんは次は日本酒を飲む約束をしていたんです!!』

 『楓さん!?』

 『あら、私達のワインに付き合ってくれるんじゃないのかしら?』

 『やめてください礼子さん!! もう私のグラスにはビールと日本酒が……ああ!?』

結果的にチャンポンになった美優の酒は俺が一気飲みした。飲兵衛お姉様軍団から二杯目を注がれそうになったが一人で対岸の火事で笑っていた川島さんを生贄に捧げておいた。

とりあえずカウンターの中に戻って周子と兄妹のダベリを開始する。

 「プロ野球もようやく開幕したな。あいつも開幕一軍とはやるじゃないか」

 「努力しとったからな」

俺の言葉に何故か自慢そうにする周子。こいつも幼馴染で好きな相手が開幕一軍になったんだから素直に喜べばいいのに『キャラじゃない』とか言って捻くれている。全くそんなんだから

 「せっかくあいつとデートしてもヘタれて告白できないんだよ。誰だっけ? 『周子ちゃんは兄ちゃんと違うからデート一回目で告白してくるわ』って言ってたやつ。確か名字が塩見で名前が周子。職業はアイドルだったはずなんだけど」

俺の言葉に周子はカウンターに沈んだ。

こいつは意気揚々とデートに行ったはいいが見事にヘタれて告白できなかったのだ。相談に乗っていた美優が微笑みながら「やっぱり周子ちゃんは周介さんの妹ですね」と言っていたのが印象的である。

 「まぁ、今日の試合の先発はあいつだからな。しっかりテレビの前で応援しようぜ」

 「はぁ……せやな。そういや兄ちゃん」

 「なんだ?」

 「いつ野球専門チャンネルなんか契約したん?」

周子の言葉の通り、店に備え付けられたテレビには試合前の野球の映像が流れている。

 「いいか周子」

 「なんや」

 「プロ野球に東京スーパースターズと四国アイアンドッグスという球団が生まれた。さらに東京スーパースターズには土井垣将を監督として山田太郎、岩鬼正美、里中悟、殿馬一人、微笑三太郎の明訓五人衆が揃い踏みしていて、しかもチームメイトには明訓五人衆と戦った経験のある緒方勉、国定忠治、隼走、木下次郎、賀間剛介、星王光、ハリー・フォアマン、足利速太なども入団している。四国アイアンドッグスはもっと豪華だ。犬飼小次郎を監督にして犬飼武蔵、犬飼知三郎の犬飼三兄弟を筆頭に不知火守、中二美夫、影丸隼人、土門剛介、犬神了、坂田三吉とプロでも山田と鎬を削ったライバルが勢ぞろいだ。お前、こんなメンバー並べられたら応援するしかないだろ。同年代で野球をやっていた人間として」

 「にいちゃん地味に明訓五人衆がいた時に甲子園で明訓高校との試合に出場しとるもんな」

 「これでも紫義塾の正二塁手だぞ」

局長を筆頭にチームメイトはみんなどっかおかしいが。というか剣道部では敵がいないとか言って野球部に剣道部全員が鞍替えしてきた時はドン引きした。しかもそれで甲子園の決勝まで進んだのにはさらにドン引きした。

 「兄ちゃんはプロになろうと思わなかったん?」

 「俺レベルじゃ無理」

むしろうちの高校でプロで通用しそうなのは局長と壬生くらいだろうか。ひょっとすると鹿馬も通用するかもしれないが。

 「しかし、土井垣監督と犬飼監督はエンタメをわかってる」

 「それな。土井垣監督があいつを先発で投げさせようとしたら犬飼監督は当然のようにあいつのライバルを投げさせるんやから」

俺の言葉に力強く頷く周子。俺と周子の幼馴染である仲野光輝は東京スーパースターズに入団し開幕一軍、そして今日は土井垣監督の采配で先発を投げることになった。そして甲子園時代に光輝と球史の残る熱闘を演じた不知火為朝は四国アイアンドッグスに入団。こちらは当然のように開幕一軍となり、東京スーパースターズの先発が仲野だということを知ると犬飼監督に志願して仲野とプロの舞台で初対決となった。

 「しかし、私や兄ちゃんと一緒に野球をやっとった光輝がプロ野球選手なぁ」

 「うん? なんだ周子『私の光輝が遠くに行っちゃった』とでも思っているのか?」

 「兄ちゃん!! スピリタスよ!!」

 「あぁぁぁぁぁぁ!!!!! 目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

周子の奴照れ隠しに俺の目にスピリタスを注ぎ込みやがった!! 信じられん!! 一歩間違えたら失明するぞ!!

慌ててこちらにやってきた美優からタオルを受け取り、必死に目を洗う。

俺の目が無事なことを確認すると美優はカウンターに座る。

 「でも、光輝くんがプロになれて良かったですね」

 「あいつも喜んどったなぁ。『これで母ちゃんを楽させてあげれるわ』って」

 「いい子だよなぁ。それの幼馴染がこんなキチガイなんて可哀想だ」

 「自分のことを卑下する必要ないで、兄ちゃん」

 「お前のことだ」

 「なんやと」

驚愕顔をする周子だが、残念ながらお前は塩見の血族だ。

そして東京スーパースターズと四国アイアンドッグスの試合が開始される。軟投派ピッチャーとして着実に相手バッターを打ち取る光輝と、まさかの三振の山を築く不知火くんとの投手戦になっている。

 「光輝も元々良かったコントロールがさらに上がってるな」

 「なんでも自粛期間中に里中さんに練習法とか教わったらしいで」

 「そっか、里中っていう偉大な軟投派の先達がいたな。そこに山田の配球が加わればこうなるのか」

 「その里中と山田の黄金バッテリーから全打席ヒットを打ったにも関わらず居酒屋の店長をやっているキチガイがこの世にはいるらしいで」

 「俺のことだな」

というかあれはあの試合だけ妙に当たっただけだ。なにせ決勝までの安打数は1だからな。

試合は完全な投手戦になっている。光輝は岩鬼の失策でノーヒットノーラン、不知火に至っては完全試合のペースだ。

 「岩鬼のやつ死ねばいいのに」

 「周子、目がやばい。それにノーヒットノーランでも十分に大記録だからな」

7回のトップバッターは岩鬼。それを見る周子の目がやばい。好きな相手の大記録にケチをつけられたと思っている。

 「だが、ここで岩鬼の一発が出れば勝ちの可能性は高いぞ」

 「悪球打ちとか意味不明すぎるわ」

 「ですが、岩鬼さんはここぞという時に打ちますから」

 「兄ちゃんも美優さんも岩鬼に優しいんやな」

完全に不貞腐れている周子に苦笑する俺と美優。普段は飄々としていてもこういう子供っぽいところがあるのが周子という人間だ。

その子供っぽい一面を出すのも限られた相手だけっていうのも周子だが。

そして岩鬼に対しる配球は決まっている。ど真ん中に投げておけば何かやらない限り岩鬼は安全パイだ。

 「ほれみぃ。もうツーストライクや」

 「周子、顔! 顔! アイドルがしちゃいけない表情になってる!!」

スタジアムで選手に向かって悪態をつくおっさんの表情をしている周子。そして静かに逃亡がバレた飲兵衛お姉様集団に美優は連行されていった。

そして追い込まれた第三球。

 「お!!」

 「これは!!」

すっぽ抜けたのか不知火の球がストライクゾーンから大きく外れる。これを逃す岩鬼ではない。加えていた草に花が咲いたと思ったらそのクソボールをジャストミートしてバックスクリーンに叩き込む。

 「いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉし!!!!!!!」

カウンターの椅子から立ち上がってガッツポーズを決める周子。

そしてその後の7回8回9回は山田の配球と光輝のコントロールで三者凡退に抑えて東京スーパースターズが勝利する。

 「やったで、兄ちゃん!! 光輝のやつが初先発で初勝利!! しかもノーヒットノーランや!!」

 「おう、そうだな。俺、ちょっと奥でおばさんにメールしてくるわ」

 「あ、私も送っとかなきゃ」

嬉しそうにスマホを取り出して光輝のお母さんにメールを送っている周子。俺はそれを見ながらある人物に電話をする。試合直後だが、今日のことを知っているので多分出てくれるはずだ。

 『殿馬ズラ』

 「おっす、殿馬。塩見だ」

そう!! 電話の相手は東京スーパースターズの殿馬一人二塁手である!! 甲子園時代に試合後になんとなく仲良くなって今でも連絡をとっている相手で、俺の友人の曽成が殿馬のチャリティピアノコンサートでオーケストラの指揮をとる時に仲介したりして仲が良いのだ。

電話の向こうで殿馬が呆れた様子である。

 『仲野のやつマジでやるつもりズラか?』

 「あいつは昔からやると言ったらやる頑固者だよ」

 『後で土井垣から怒られるズラよ』

 「あ、それは俺の知ったこっちゃないんで」

電話の向こうで殿馬が思っ切りため息をついた気がするが無視する。

そしてテレビではヒーローインタビューが行われている。今日のヒーローは当然のようにノーヒットノーランを達成した光輝だ。その様子を嬉しそうに見ている周子。そして爆弾が投下される。落とすのは光輝だ。

 『アイドルで自分の幼馴染の塩見周子さん!! 結婚を前提にお付き合いをしてください!!』

テレビからの声に店内が静かになる。言われた周子本人は唖然とした表情でテレビを見ているし、飲兵衛お姉様集団は完全に視線が面白いターゲットを見つけた視線になっている。

そして俺はカウンターに戻る。唖然とした表情のまま俺を見てくる周子。

 「に、兄ちゃん……」

 「何も言うな周子。この電話の相手に素直な気持ちをぶつけるんだ」

そう言って俺は周子に俺の携帯を渡す。テレビでは殿馬が携帯を光輝に渡していた。

通話先が誰か気づいたのか周子の笑顔が引きつる。俺はそれに力強くサムズアップ!!

 『「も、もしもし」』

緊張した様子で電話する周子。するとテレビの中からも周子の声が聞こえる。テレビ局ナイス。

光輝も緊張した様子で電話を持っている。

 『俺の気持ちは言った通りや。答えをもらってええか?』

その言葉に固唾を呑んで見守る飲兵衛お姉様集団。そして周子はちらりと横目で俺を見てきた。俺はそれに力強く頷く。

すると周子は覚悟を決めた表情で口を開いた。

 『「よ、よろしくお願いします」』

その瞬間に爆発したような歓声が店内を包むのであった。

 

 

 

 

 『土井垣にガチ説教を食らったズラよ』

 「悪い悪い。今度店に来てくれ。タダで美味い飯食わせてやるから」

 『行けたら行くズラよ』

 「おう待ってるわ」

 




塩見周介
妹に完璧なアシストを決めたつもりの兄。元高校球児で甲子園出場経験あり。

塩見美優
実はこれの発案は美優さんだったりする(善意100%)

塩見周子
この後に飲兵衛お姉様集団に盛大に揶揄われる。さらに新聞で知った他のアイドルからも盛大に揶揄われる。

仲野光輝
ついに名前がついた『彼』くんです!! 幼馴染でもある周介くんとその奥さんである美優さんの発案で『ヒーローインタビューで公開告白』をやってのけた。この作品では不幸成分が大幅に薄まっている模様




そんな感じで周子ちゃん初恋模様完結編でした。無駄に引き伸ばしても仕方ないので光輝くんから告ってもらってすっぱり解決!!
ちなみに『彼』くん改め仲野光輝くんの名前は作者が書いている『綺麗な君に恋をした』の方で周子ちゃんと光輝くんの子供がクロス作品で出てきたので、自動的に名字が決まり、名前は適当に考えました。
ちなみに『綺麗な君に恋をした』の主人公は周介くんと美優さんの息子くんが主人公。塩見の血族を見せつけています。綺麗なだけじゃない式守さんが原作になっておりますのでもしよかったらご一読ください。

それと東京スーパースターズと四国アイアンドッグスは『ドカベン』と言う野球漫画の架空チームです。
ドカベンは野球漫画の最高峰。異論は認める。


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続 周介くんの誕生日

また周介くんの誕生日の季節がやってきました


完全に趣味に走っている内容です


 「どうしよう……」

塩見美優(芸名:三船美優)はスマホを見ながらため息をついた。

現在、美優は新型コロナで撮影がストップしていた346プロ特別ドラマ『シンデレラ・スピード』の撮影に来ていた。その撮影の合間を縫って美優はとあるものを探していた。

 「美優ちゃん、どうかしたの?」

 「浮かない顔ですが」

そこにやって来たのは美優の夫である周介の店の常連であり、美優とも仲が良いアイドルの川島瑞樹と高垣楓であった。

346プロに所属する成年アイドルを全員出演させている『シンデレラ・スピード』なので瑞樹と楓も当然撮影現場に来ていた。

 「あら、美味しそうなお弁当」

 「あ、良かったらどうぞ。周介さんも皆さんにってことでいっぱい作ったどうなので」

瑞樹の言葉に美優は広げていたお弁当を二人に差し出す。それを二人は嬉しそうに食べ始めた。

 「美優さんはスマホで何か見ていたみたいですけど、何かありましたか?」

唐揚げを食べながらの楓の問いに美優は少し迷ったが、二人に相談することにする。

 「実は周介さんの誕生日プレゼントのことなです」

 「楓ちゃん、私たち、確か去年も似たようなこと聞かなかったかしら?」

 「あの時は周子ちゃんがどこからともなく現れて解決してくれましたね」

楓の言葉に三人の視線がとある場所に集中する。

そこには城ヶ崎美嘉の制止を振り切って高笑いしながら撮影用の車(GT-R)でドーナツターンを決める周子がいた。

満場一致で見なかったことにしてか会話を続ける。

 「でも店長のことだから欲しいものはいっぱいあるかと思ったわ」

瑞樹の言葉に美優は困ったような表情を浮かべる。

 「確かに普段から『あれも欲しい、これも欲しい、もっと欲しい、もっともっと欲しい』ってTHE BLUE HEARTSの歌詞みたいなこと言っていますけど、実際にはあまり物を欲しがらないんです」

 「瑞樹さん、なんか最近美優さんの口ぶりが店長や周子ちゃんに似て来たと思いませんか?」

 「わかるわ。確実に悪影響を与えているわね」

楓と瑞樹の言いがかりにワタワタと美優は慌てる。

 「そんな! 周介さんと周子ちゃんだったらここから脱線に脱線を重ねて最終的に映画のワンシーンを再現して終わりますよ!」

 「「やっぱりあの二人はおかしい」」

美優的に二人をフォローしたつもりだったのだが、完全に逆効果な現実にあれ? と首を傾げる。

そして瑞樹が一度咳払いをしてから話を変えるように口を開いた。

 「周子ちゃんにも聞いてみたら? 店長と周子ちゃん仲良いから普通に誕生日プレゼントあげ合うイメージがあるけど」

確かに兄妹仲が良く、頻繁に共食いしたりもするがお互いの誕生日にはプレゼントをあげあっている。なので美優も周子に聞いてみた。

 「周子ちゃんはMG ディープストライカーをあげるって言っていたんですよね……」

 「待って、それはなに」

 「最近、周介さんは三国創傑伝を全種類買って積みプラしているんでこれ以上増やさないで欲しいんですけど……」

 「……美優ちゃん、やっぱり塩見家に染まっているのね」

 「何故ですかね、瑞樹さん。美優さんが上手くいっていて嬉しい気持ちは当然あるんですけど、元の純朴な美優さんを返してって気持ちが湧くんですけど」

 「わかるわ」

どこか遠い目をしながら会話する瑞樹と楓に再び美優はあれ? と首を傾げる。

そして一度咳払いをしてから今度は楓が口を開いた。

 「それだったら周子ちゃんの恋人の仲野選手に聞いてみたらどうですか? 同性ですし、昔から仲が良いんですよね?」

 「あ、はい。なんでも年内に周子ちゃんと入籍するらしく、その報告に来た時に相談してみたんですけど」

 「「ちょっと待って」」

 「はい?」

美優の言葉に瑞樹と楓は頭痛を抑えるように美優の言葉を止める。それに美優は不思議そうに首を傾げる。

 「待って、これって私達が聞いていい情報かしら」

 「少なくともまだ公表されていませんよね」

そして小声でボソボソと会話する瑞樹と楓。そして話が纏まったのか瑞樹か真剣な表情で口を開いた。

 「周子ちゃんが入籍する話しを私達にしちゃって良かったの?」

 「………?」

瑞樹の言葉に美優は不思議そうに首を傾げる。

 「……あ!」

そして思い出したように声をあげた。そして美優は焦ったように二人に話しかける。

 「あ、あの今の話は」

 「わかってるわ」

 「秘密、ですね」

 「はい、まだプロデューサーにも報告していないらしいので……」

美優の言葉に瑞樹と楓は呆れたように空を見上げる。果たしてその呆れは秘密を秘密にできない美優に対してか、それとも入籍というアイドルにとってある意味で致命的な出来事をプロデューサーに言う前に兄夫婦に報告してしまう周子に対してか。

とりあえず気を取り直して瑞樹と楓は美優に向き直る。

 「それで? 仲野選手は何を送るって話だったの?」

 「あ、はい。なんでも山田太郎選手のバットに東京スーパースターズと四国アイアンドッグスの代表選手達のサインを入れてもらうそうです」

 「「ものすごく高値がつきそう……!!」」

思わず瑞樹と楓の声がハモる。あまり野球に詳しくない二人がそう思うのだ、野球アイドルとして有名な姫川家のゆっきが聞いたら『ころしてでも うばいとる』案件になってしまうだろう。

そしてひときわ大きな破裂音が聞こえたので、三人がそちらを見るとドーナツターンを決めていた二台の車(GT-Rとスカイライン)のうちGT-Rのタイヤがバーストして大変なことになっている。

だが、ドライバーの腕が良かったのか大きな事故にならずにすむ。それぞれに乗っていた周子と原田美世はハイタッチを決めてから、美世は再び車(スカイライン)に乗り込んでドーナツターンを決め始めた。

そして周子は陽気な表情で三人のところにやってきた。

 「いやぁ、久しぶりにドーナツターン決めましたけど、腕は鈍ってませんでした!!」

 「その前に周子ちゃん、撮影用の車のタイヤをバーストさせちゃダメじゃないですか」

お説教態勢に入ろうとした美優であったが、のらりくらりとかわされて流されてしまう。

 「美世ちゃんは車好きで有名ですけど、周子ちゃんはどこで運転を習ったんですか? だいぶうまかったですけど」

 「わかるわ。撮影の時もスタント不要だったの美世ちゃんと周子ちゃんだけだったわよね」

楓の問いに瑞樹も続ける。確かに周子のドライビングテクニックはスタントが不要なレベルだった。具体的に言うと200km近いカーチェイスを余裕でこなしていた。

席に座って美優が持ってきていた弁当をつまみつつ口を開いた周子。

 「まぁ、車の運転は中坊の頃に兄ちゃんに仕込まれたからなぁ」

 「「……中学生?」」

 「おおっと、なんでもありませんよ」

どう考えても法的にアウトな発言をした周子だが100%(胡散臭い)笑みで誤魔化す。

 「んでんで、美優さんは今年も兄ちゃんの誕生日プレゼントで悩み中ですか」

 「うぅ……義妹に完全に読まれています……」

美優の悩みはわかりやすいと言う言葉を瑞樹と楓は飲み込んだ。

そして周子はイイ表情を浮かべて口を開く。

 「私にいい考えがある」

 「それダメな時のセリフですよね」

 「楓ちゃん、今のネタわかった?」

 「私にはさっぱりです」

着実に塩見の血に染まりつつある美優を憐れみながら瑞樹と楓は義姉妹のやりとりを見守る。

 「いいですか美優さん、いや義姉さん。兄ちゃんは昔から中国の歴史書を読んでいます。正史三国志は当然として楊家将演義や水滸伝などを読んでいる兄ちゃんがまだ持っていない史書があります」

 「そ、それは……!!」

美優の言葉に周子はベンベンと机を叩きながら口を開いた。

 「司馬遷の史記……!! これが兄ちゃんへのプレゼントのパーフェクトアンサー……!!」

 「美優ちゃん的にあり?」

 「積みプラが増えるよりかはスペース取らないので有りですかね」

 

 

ちなみに美優のプレゼントは結局「包丁 三徳 170mm 越前打刃物 伝統工芸士 黒崎優」になった

 




塩見美優
旦那の誕生日プレゼントに毎年悩む。今年は結局高級包丁になった。連邦派

塩見周子
中坊時代に兄から運転技術は仕込まれた。ジオン派

塩見周介
出てこない主人公。連邦派

シンデレラ・スピード
346プロの特別ドラマ。カーアクションメインで爆発、暴力、友情があるアクション遊園地。当然元ネタはワイルド・スピードである。

積みプラ
別名・罪プラ。作者はMG EX-Sガンダム買ったらプレバンからR-ジャジャ(Twilight AXIS ver)とリーオー(フルウェポンセット)が着弾しました。



そんな感じで今年もやってきた周介くんの誕生日プレゼント回。周介くんがもらうプレゼントは作者が欲しいプレゼントと読み替えても大丈夫です。MG ディープストライカー欲しいわ。それとガンダム・センチネルのアニメ化はよ!! ちなみに作者はジオン派です

そして塩見の血に染まりつつある美優さん。その道はキチの道だぞ美優さん!!(塩見の沼に蹴落としながら

それと年内に周子ちゃんもスピード入籍します。本当はこの回で入籍させちゃおうかと思いましたが、ネタはとっておきましょう。


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周子ちゃんの入籍

ついに周子ちゃんも入籍します

そして話にだけ出てくる新キャラ。フルネームは出してないからわかるかなぁ! アイマスキャラなんだけどなぁ!


 「う〜っす、兄ちゃんと美優さんおる?」

珍しく飲兵衛お姉様方がいないので本格的に閑古鳥な俺の店に疲れ切った表情を浮かべた周子がやってきた。

女将の格好をした美優は慌てた様子で周子を出迎える。

 「しゅ、周子ちゃん! この記事!!」

美優が掲げて見せたスマホの記事には速報で『仲野光輝と塩見周子! 電撃入籍!』とあった。

それを確認すると周子は疲れ切った表情を見せる。

 「それなぁ、今日の朝一で役所に届けだしに行ってツイートしたらめっちゃバズったんよ」

 「いや、それはそうだろ」

こいつは芸能人の意識がないのだろうか。

美優は嬉しそうな表情をしながら周子の手をブンブンと振る。

 「周子ちゃん! おめでとうございます!!」

 「あかん……嬉しそうな美優さんかわいい。兄ちゃん、光輝とトレードせん?」

 「え!?」

 「周子、結婚一日も経たずに離婚ってどうなんだ」

 「それもそうや」

俺の言葉に納得した表情を見せるといつものようにカウンターに座る周子。

そしてそのまま突っ伏した。

 「つ〜か〜れ〜た〜!!!」

 「そりゃそうだろ」

 「どこに行っても『おめでとうおめでとうおめでとう』と!! この世界はいつからエヴァの最終話になったんや!!」

 「お前は結婚した時にどんな反応を期待していたんだ」

 「記者の人達も一人くらい『え? 結婚ですか!? それは人生の墓場ですね!! ザマアミロ!!』くらい言ってくれてもええやん!!」

 「いえ、それは流石にないと思います」

 「え? でも私の友達は大なり小なりこっちの反応やったで」

 「周介さんも周子ちゃんもなんでそんな特殊な友達ばっかりなんですか……!!」

美優の嘆きに俺と周子は首を傾げることしかできない。自分達の友人が世間一般的にキチガイと分類される人種だというのは理解しているが、どうしてそれが集まってしまったのか謎である。

 「そういや、お前なんでそんな疲れ切ってんの? 取材だけのせいじゃないだろ」

 「お、兄ちゃん鋭いやん」

そう言うと周子は真面目な表情で口を開いた。

 「プロデューサーと美城常務にガチ叱られした」

 「お前なにやってんの?」

 「と言うか常務にも直接怒られたんですか!?」

周子が叱られるとかもはや普通すぎるのだが、その怒ってくる相手が常務とかマジでなにをやらかしたんだ。あの美人だけとキツめの常務は346どうでしょうで色々やらかしても顔を顰めながら許してくれる人だろ。

 「いやいや、私はなにもしてへん」

 「いえ、周介さんと周子ちゃんのなにもしていないは信用できません」

 「周子のせいで流れ弾をもらったんだが」

 「割と自業自得だよね、兄ちゃん」

美優の俺と周子に対する信頼は厚い。

 「いや、でも本当になにもしてへんのやで?」

 「本当ですか?」

 「本当やって。だって私はプロデューサーが『いいか? まだ絶対に届けは出すなよ? まだだからな!!』ってフリに全力で答えるために婚姻届を出しただけやで」

 「なるほど、それは仕方ないな」

 「周介さんも周子ちゃんもそう言うところですよ!!」

俺と周子は黙って床に正座して美優のお説教を受ける。頑張ってお説教をする美優を見て感じることは一つ。

 「「頑張って説教している(美優/美優さん)可愛い」」

声がハモった俺と周子はがっちりと固い握手を交わす。それを見て美優は顔を真っ赤にして机に突っ伏してしまった。

とりあえずお説教は終わったと判断した俺と周子はいつもの位置に戻る。

 「そういや兄ちゃん、友達の話で思い出した……と言うか今回連絡来たんやけど、三峰ェ!って覚えとる?」

 「ああ、覚えてる覚えてる。あの小学生のときお前と仲良かった三峰ェ!だよな。あの頃から素養があったけどバッチリアイドルクソオタクになったって周子が言ってたよな」

 「そうそう。その三峰ェ!な、普通なら事務所から喜ばれる追っかけのはずなのにマジでどこまでも追っかけてアイドルにガチで怯えられて出禁になったんよ」

 「マジかよ、やるなぁ三峰ェ!」

流石はあの土地の出身者である。やることが一味違う。

 「んでんで三峰ェ!も『どうやったら合法的にアイドルを追っかけできるか』って悩んだ末に」

そこまで言って周子は真剣な表情で口を開いた。

 「『そうだ! 私がアイドルになればいいんだ!』って結論出したらしいで」

 「そう言う発想嫌いじゃない」

 「私もや」

頷きあう俺と周子。そこに美優がおずおずと手を挙げてきた。

 「あの、お二人の言う三峰さんて「「違う!!」」え?」

俺と周子は頷きあうと美優に言い聞かせるように話しかける。

 「いいか、美優、三峰ェ!は三峰ェ!だ」

 「せやで美優さん。三峰ェ!は三峰ェ!や」

 「どういうことですか……!?」

マジ驚愕顔を浮かべる美優。まだこの辺りは塩見の血に染まっていないらしい。

気を取り直して一度軽く咳払いをすると美優は口を開く。

 「その三峰ぇ!さんって283プロダクションの三峰さんですか?」

美優の言葉に俺が周子を見ると周子は難しい表情を浮かべていた。

 「三峰ェ!の分際で私には『所属プロ? 秘密だよ!』とかほざいたんよなぁ。イラッとしたからBL画像を大量に送りつけてやったら向こうから百合画像が大量に飛んでくる反撃にあってなぁ」

 「なにをしているんですか……!?」

 「最終的にお互いの所属しているプロダクションの一番の巨乳を送りあって決着することになったんやけど、あいつはドンピシャで当てたのにこっちは不明のままや」

 「いや本当になにをやってるんですか周子ちゃん……!?」

義妹の奇行にガクンガクンと周子の肩を揺する美優。

 「まぁ、その283プロの三峰ェ!は何か特徴あったりしますか?」

 「あ、はい。髪型はツインテールでメガネをかけています」

 「周子、判定は?」

 「あいつコロコロ髪型とか変えるからなんとも言えへんね」

判定はグレーである。

 「あ、あと本人がドン引きするくらいアイドルの情報に詳しいです」

 「三峰ェ!やな」

 「え!? いえ、言った私が言うのもどうかと思いますけど今ので断定していいんですか!?」

 「ストーカーレベルの追っかけ……!! 三峰ェ!以外にありえへん……!!」

そう言うと周子はスマホでなにやら連絡を取り始めた。

 「なにしてんだ?」

 「いや、三峰ェ!に試しに283プロのアイドル情報聞いたらスリーサイズは当然として通っている学校や元職業。好きな色からほくろの数、果ては風呂でどこから洗うかから誰を使ってオナニーをするかの情報まで飛んできたんやけど」

 「相変わらずだな」

 「いえ、普通に気持ち悪いですよ!?」

俺と周子にとっては通常運行の三峰ェ!だったのだが、一般人的感性を持つ美優には気持ち悪かったらしい。

 「ちなみにオナニーで大人気なのはプロデューサーらしいで。三峰ェ!曰く『P氏はきっとエロゲーの主人公』と言い切っている」

 「その情報いりません……!!」

これに関しては美優に同意である。俺達にその情報を渡してどうするつもりなだろうかあのクソオタク。

 「そう、三峰ェ!の話で思い出したんやけど」

 「どうした?」

俺の言葉に周子は真剣な表情で口を開く。

 「例えばや兄ちゃん。何も知らない状態で私の友人’sを見たら兄ちゃんはどうする?」

 「ポリス案件だな」

そう言いながら俺は納得する。

 「なるほど、お前も結婚式の招待客に困る口か」

 「そうなんよぉ!!」

周子は頭を抱えながら机に突っ伏す。

 「いや、悪い奴……いや基本的に悪い奴ばっかりなんやけど悪人ではないん連中ばっかりなんやけど、ちょっと本能に忠実な奴が揃っているから危険なんよ」

義妹の悩んでいる姿に美優は苦笑しながら口を開く。

 「周子ちゃんが周介さんと全く同じ悩みを抱えているんですね」

 「いや、私の友人’sは法律を守っている……うん、守っているから。法律ぶっちぎっている兄ちゃんの友人’sとは違うから」

 「いや、俺の友人達も法律はギリギリ守っているぞ。常にグレーゾーンを突っ走っているだけで」

 「いえ、私からしてみたらお二人の友人達は多分アウトです」

 「「なんだって」」

おかしい。少なくとも捕まるようなことをしている奴は……あ、ダメだ、結構いる。

横目で周子を見ると周子も同じ結論に至ったらしい。

なので話を変えることにする。

 「そこで兄ちゃんと美優さんに提案です!!」

 「聞こうか」

 「一緒に結婚式と披露宴しようぜ!!」

俺と美優は顔を見合わせる。美優の表情に拒否が浮かんでいなかったので周子に話を続けさせる。

 「今回のコロナ騒動で兄ちゃんと美優さんの式が延期になったな。そこで妹夫婦も一緒に式を挙げることで塩見家と仲野家はめっちゃ仲が良いと世間にアピール!! 私と美優さん二人での仕事にも繋がる!!」

 「なるほどなるほど」

 「一緒に式を挙げるのは楽しいかもしれませんね」

美優が楽しそうに頷くのを確認してから俺は口を開く。

 「それで本音は?」

 「兄ちゃんのキチガイ達に私のキチガイ達をぶつけて普通にしようぜ!!」

 「それ絶対に大事故になる奴です……!!」

 




塩見周介
飲兵衛お姉様方がいないとお店は閑古鳥

塩見美優
最近は女将の格好も慣れてきた

仲野周子
プロデューサーのフリを受けて電撃入籍した塩見さん家の周子ちゃん。当然のようにプロデューサーと美城常務からガチ説教を食らった

三峰ェ!
周子ちゃんの友達で283プロダクションでアイドルをやっている模様




そんな感じで八月編、ついに周子ちゃんも入籍です。
ですが結婚式はコロナ騒動があるので延期中。そして動き出す塩見の悪癖。キチガイにキチガイをぶつけて普通にするという発想。

その所業がもはやキチガイ。

そして三峰ェ!はアイマスキャラです。シンデレラガールズじゃないけどわかる人いるかなぁ! いやぁ、難しいかなぁ!!


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346どうでしょう~346アイドル紹介編~

おいおい書きたいこと書いていたらクッソ長くなったぜ!! これも全てとあるアイドルオタクのせい

そして他の作者さんの主人公が登場します(なお、扱い

そして銀河級アイドル爆誕


How do you like 346プロダクション?

 

 「さて、前回までの私と兄ちゃんのドーバー海峡リレー横断はおかげさまで大好評。ですが海外デンジャラスネタを連発して常務にガチ叱られしてしまいました」

 「ここは居酒屋しんでれらです」

 「それによって我ら346どうでしょう班が予定していた『リアル桃太郎電鉄~飛翔世界編~』は中止に追い込まれていまいました」

 「ここは居酒屋しんでれらです」

 「そこで我々346どうでしょう班は緊急会議を行い次なる企画を検討しました」

 「ここは居酒屋しんでれらです」

 「最初は『原付日本列島ガチで縦断~北海道から沖縄まで地獄の旅~』を行おうとしましたが、この企画も常務によって却下されてしまいました」

 「ここは居酒屋しんでれらです」

 「そして常務が代替案として出してきたのか346プロダクションに所属するアイドルを紹介する動画を作ってはどうかということでした」

 「ここは居酒屋しんでれらです」

 「しかし、常務はわかっていなかったのです……我々346どうでしょう班に紹介を任せるとどういうことになるかを……」

 「ここは居酒屋しんでれらです」

 「……さっきから突っ込みたかったんやけど、今回の兄ちゃんのキャラなんなん?」

 「いや、美優と映画見に行ったら予告編でやってたフリー・ガイが楽しそうでな。俺も同じセリフしか言わないモブキャラになってみた」

 「……とりあえず映像をどうぞ!」

 「ここは居酒屋しんでれらです

 

 

 

 

九月初頭 346プロダクション

 「はい、そんなわけでこの番組ではゴール地点でお馴染みの346プロダクションにやってきました」

 「お馴染みとか言ってもあんまりゴールしたことないよな。日本国内ネタのはずなのに海外に行くし」

 「それはお前らの悪乗りのせいだぞ☆」

 「いえ、その悪乗りに乗っかる佐藤さんも同罪だと思います」

開幕しょぱなから罪の擦り付け合いが発生しているがおおむねいつも通りである。

 「で、周子。今回の企画は?」

 「はい! 今回はこちら!!」

周介の言葉に持っていたフリップを見せる周子。そこには『346プロダクションアイドル紹介編!!』と書かれていた。

拍手する佐藤と美優。だが、周介は不思議そうに首を傾げた。

 「なんでこんな普通のことやるんだ?」

 「常務にガチ叱られしたからや」

 「なんてこった。おそらく周子が勝手に入籍したことに怒っているんだな。あ!! 佐藤!! 編集でここに『塩見周子は先月末に入籍』ってテロップ入れろよ!!」

 「あれ何故か私も怒られたんだよな☆ 超☆理☆不☆尽☆!!」

 「「佐藤だからな」」

 「ぶっとばすぞ」

演者二人とガンのくれあいをするディレクターがいるがこれもいつもの風景である。

 「で、今回は私らで346プロダクションアイドルの紹介なんやけど……」

塩見兄妹が判目になりながらとある方向を見る。美優がそこにカメラを向けると眼鏡をかけてツインテールをした周子と同い年くらいの少女が立っていた。

 「くっくっくっく」

眼鏡を光らせながら不適な笑みを浮かべる少女。

 「カメラの前にみなさんは不思議でしょう!! 突如カメラに入ってきたこの眼鏡美少女は誰かと!!」

 「「なんのようだ三峰ェ!!」」

 「正体晴らしがはやぁぁぁぁぁい!!! でもその急展開にもついていく眼鏡美少女ことこの私は283プロダクション所属アイドルの三峰結華ちゃんだぁぁぁ!! L’Anticaってグループでデビューしているからよろしくね!!」

 「審議!!」

三峰の言葉に塩見兄妹が審議をする。

 「ギルティ。出身地が俺たちと一緒なのに福島県と偽っていること」

 「へいへい!! それは違うぜしおみんのお兄さん!! この三峰が生まれたのは確かに塩見兄妹と一緒だけど、引っ越しして福島に行ったから間違ってはいないさ!!」

塩見兄妹のブーイングに中指を立てて返す三峰。

 「というか呼んでへんのになんで来るん?」

 「それだ」

周子の言葉に真剣な表情をして眼鏡をくいっとあげる。

 「しおみん、私は悲しい。何が悲しいって朝から『あ、今日私346プロのアイドルにいっぱい会えるんやで!! ええやろ!!』ってクソ煽りしてくるメールはまぁ挨拶としても……」

そして眼鏡をきらりと光らせる。

 「なんで三峰を誘ってくれない……!!」

 「三峰ェ!は所属プロ違うやん」

 「でもしおみんは三峰が熱心なアイドルファンだって知ってるじゃん!!」

 「あんたのその熱量が各アイドルプロダクションから出禁になるレベルだからや」

 「で、出禁になってないよ!! 何故かお金を渡されて『これ以上うちのアイドルを追っかけないでくれ』って言われただけだよ!! 三峰はまっとうな追っかけだよ!!」

 「あんたが手に入れた一番のアイドルグッズは?」

周子の言葉に三峰は眼鏡を光らせて口を開く。

 「使用済みティッシュ」

 「この通りこの三峰ェ!は手遅れレベルのアイドルオタクです。追っかけになるのは否定しないけど、素直に別の子を応援したほうがいいと周子ちゃんは思います!!」

 「咲耶ちゃんとかいい子だよな」

 「ああ、そういえばさくやんはしおみんのお兄さんの常連だったよね」

 「「なんで知ってるの……こわ」」

 「へいへ~い!! これくらアイドルオタクなら基礎知識!! 必修科目!! だってしおみんのお兄さんのお店はアイドルの常連が多いから!!」

 「ちなみに私の旦那の同僚も常連なんやけど」

 「あ、そっちは三峰の守備範囲外です」

 「「こいつ死ねばいいのに」」

塩見兄妹の白目に笑顔を浮かべて受け流す三峰。

 「あの、みなさん……そろそろ行かないとこれだけで初回が終わっちゃいます」

 「ふぅぅぅぅぅぅぅ!!! 全国の三船美優さんファンみたぁぁぁぁぁぁぁ!! 今、三峰はあの三船美優さんに注意されちゃいましたぁぁぁぁぁ!!!! ご褒美ありがとうございまぁぁぁぁぁぁぁぁす!!!!!」

 「「「「うわ、キモ」」」」

 「へいへい!! しおみんとしおみんのお兄さんはまだしもしゅがはさんと美優さんにも素でキモがられちゃいました!!」

 「残当」

 「しおみんはしゃらっぷ!! さぁさぁ!! いざめくるめくアイドルの世界に行きましょう!!」

 「三峰の言うことは聞きたくないけど、実際に尺がないからもう行くぞ☆」

佐藤の言葉に心底嫌そうな表情を浮かべる塩見兄妹。三峰はそれはもういい笑顔で二人を無視して346プロダクションに連行する。

とりあえずビルに入っていく346どうでしょう班+α。

 「お!! 第一アイドル発見!!」

三峰の言葉にカメラがそっちを向くと、唖然とした表情を浮かべた輿水幸子がいた。一歩進む塩見兄妹、一歩下がる幸子。二歩進む塩見兄妹、二歩下がる幸子。

 「「「……」」」

 「この状況はなぜなんですか?」

 「幸子ちゃんは頻繁に拉致って連れていくから警戒されているんだぞ☆」

 「何故か幸子ちゃんのプロデューサーもノリノリですからね」

三峰と佐藤と美優。

 こしみず さちこ の にげる!!

 しかし しおみ きょうだい に よって まわりこまれた!!

 「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!!! この人達に捕まりたくなぁぁぁぁぁぁい!!!」

 「おいおい幸子ちゃん!! 一緒に北極点を目指した仲だろ!! 仲良くしようぜ!!」

 「ボクを気絶させての連行だったじゃないですか!! 気が付いたら流氷の上だった人の気持ちを考えたことあるんですか!?」

 「私の友人直伝の気絶法があんなに有効だとは思わんかったよなぁ」

 「絶対に途中で気が付くと思っていたから『お薬』とかも用意しておいたんだけどな」

 「もういやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

世界を呪うとばかりに絶叫をあげる幸子。しかしキチガイに気に入られるとは苦難の道である。

 「いやぁ、最初から可愛いで有名な輿水幸子ちゃんに会えるなんて運がいいなぁ」

 「え? そ、そうですか? ふふ~ん!! ボクが可愛いのは当然ですね!!」

そして幸子の手を握った瞬間に気持ち悪い表情を浮かべる三峰

 「いやぁ~~~~~~~~、さすがに実物の幸子氏は写真で見るのとは解像度が違いますなぁ~、フヒヒ。あ! 幸子ちゃんが一番頑張ってるって三峰だけはわかっているからね……あ、それとこの手はもう洗わないからね……」

 「なんか握手会でたまに出る人みたいなこと言いだしましたよこの人!!」

 「フヒヒ……幸子氏の手はたまりませんなぁ……!!」

必死に逃げようともがく幸子をがっちり捕まえている三峰。とりあえず話が進まないので幸子から三峰を剥がす塩見兄妹。

 「ほれ、三峰ェ!は幸子ちゃんの紹介せぇよ」

 「う~ん、もうちょっと幸子ちゃんの柔肌を堪能したかったんだけどなぁ」

そして眼鏡を光らせてくいっと眼鏡を持ち上げる三峰。

 「輿水幸子。山梨県出身で誕生日は11月25日の射手座のB型。趣味は勉強ノートの清書と勉強熱心な一面も。利き腕は左でスリーサイズは現在も成長中。がんばって豊胸体操している姿はファン垂涎ですよ」

 「なんでボクが豊胸体操しているって知ってるんですか!?」

三峰の言葉に愕然とした表情をしている幸子。その視線を受けてさらに三峰は言葉を続ける。

 「(放送禁止だよ!!)で(放送できないよ!!)さらに(だから放送できないよ!!)そして(だから放送できないって!!)はもう最高の一言ですよ、フヒヒ」

 「いやぁ!! この人気持ち悪い!! なんですかこの人!!」

 「周子の友人だ」

 「あ、納得です。キチガイなんですね」

 「「なんてことだ」」

周介の発言に真顔で納得する幸子。そしてその発言も不満そうな表情を隠さない周子と三峰。しかしはたからみたら同類である。

 「とりあえず幸子ちゃんはこのあたりでええやろ。幸子ちゃんもう行っていいで」

 「なんですか!! なんなんですか!! ボクの扱いが雑じゃないですか!?」

 「安心しろ幸子ちゃん。次回の『目指すのは南極点~極寒南極の旅~』には連れていくから」

 「絶対に行きませんからねぇぇぇぇ!!!!」

周介の言葉に幸子がもうダッシュで逃げていくが、すでに佐藤は幸子のプロデューサーとは話をつけている。

幸子に逃げ道はない。

そしてカメラをもってプロダクション内を歩いていく。

 「でもあんまりアイドルいないな。いつもこんな感じか?」

 「いや、最近はコロナの影響であんまりプロダクションに来ないように通達出とるんよ」

周介と周子の会話に突如三峰は悔しそうに地面を叩く。

 「クソ!! なんでだよ!! なんで三峰のアイドルとの触れ合い機会が減らされるんだよ!!」

 「「当然すぎて草」」

塩見兄妹の嘲笑にガチで悔しがる三峰。だが、そこで三峰はある人物に気づく。

 「あ、あの人」

 「うん? 誰だあのイケメン?」

 「兄ちゃんは本当に芸能人知らないんやな。あの人はうちのプロダクションでも有名な俳優やで」

廊下を歩いていたのは一人のイケメン。それを指さしながら周介は口を開く。

 「三峰ェ!あのイケメンがどうかしたか?」

 「アイドル関連にネットとかSNSで大炎上する案件があります」

 「行くぞ、周子!!」

 「合点承知!!」

そっからは素早かった。塩見兄妹はダッシュでイケメンを確保。焦っているイケメンを無理矢理引きずってくる。

 「え? なになに!? 346どうでしょうがとうとう俺にも手を出してきたの!?」

 「いや、面白いネタがあるってことでな」

 「どういうことだ!?」

周介の言葉に愕然とした表情を浮かべるイケメン。そして全く気にしない周子と三峰。

 「三峰ェ!とりあえずこの人の説明」

 「はいは~い!! この人は神谷旭!! 演技派俳優として有名で同じプロダクションに所属するアイドル神谷奈緒ちゃんの実兄!! 特別ドラマにも出演し、十時愛梨ちゃんを振る役で全国のとときんファンのヘイトを買ったのを覚えている方もいるでしょう!!」

 「思い出させるな!!」

旭の言うことを無視して眼鏡を光らせながら持ち上げる三峰。

 「ですがこやつの罪はその程度ではなかったのです」

 「暴れるな!! 逃げようとしても無駄だぞ!!」

 「そやで!! 全部暴露して楽になろうや!!」

 「やめろ!! 俺をお前らキチガイと一緒にするな!!」

 「なんて失礼な発言だ」

 「三峰ェ!やれ」

 「合点」

 「やめろぉ!! やめろぉ!! というか佐藤も笑ってんじゃねぇ!!」

 「旭のやつがガチ焦りでマジ受ける☆」

周介と周子に間接を決められて地面に押さえつけられる旭。

そして三峰はニチャァァァァぁぁっと笑った。

 「神谷旭さん、貴方はトップアイドルである高垣楓さんとお付き合いをしていますね?」

三峰の言葉に表情を青くする旭。面白いものをみつけた表情になる塩見兄妹。愉悦の表情を浮かべる佐藤。苦笑する美優。

 「はぁぁぁぁぁん!!」

 「へぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 愛梨ちゃんや奏ちゃん、加蓮ちゃんに靡かないと思ったらもう素敵な人がいたんやね!!」

 「な、なんのことだ?」

 「おやおやおやおやおやおやぁぁぁぁぁぁぁ? まだとぼけますかぁぁぁぁぁぁぁ!? それじゃあこの写真を公開するしかないですねぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

そういいながら三峰は懐から取り出した一枚の写真を旭に見せる。その写真を見た瞬間に顔色がやばいことになる旭。

そして絞り出すように言葉を吐いた。

 「お慈悲を……」

 「だが断る。アイドルに手を出した者は等しく死すがよい。というわけで秘密の写真をだ~いこ~うか~い!!!」

 「「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 「誰だか知らないけど最悪すぎるぞこの娘!!」

そして三峰が公開した写真には部屋のソファーで仲睦まじそうにイチャイチャしている旭と楓の写真が!!

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! これは言い逃れできませんねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 「最高にイチャラブやなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

塩見兄妹の死体蹴りに地面に伏してビクンビクンしている旭。

最後に三峰がなにやら紙を旭において346どうでしょう班はそこから離れた。

 「最後に何渡したん?」

 「楓さんの指輪サイズ。これで楓さんと旭さんのビックカップルにもゴールインしてもらおうとって寸法よ!!」

 「旭の逃げ道塞いでいる時点でアシストじゃないからな」

用事があってプロダクションを訪れていた旭くんに黙祷。

それからしばらくは塩見兄妹と三峰の漫才が続くがアイドルに出くわさない。

 「コロナの影響がもろに出てるな……って、どうした周子、三峰ェ!」

何故か愕然とした表情を浮かべながら立ち止まっている周子と三峰。

 「そうか……兄ちゃんはアイドルやないから感じへんのか……この圧倒的なアイドル力を……!!」

 「この圧倒的なアイドル力は間違いなく奴……!!」

 「アイドル力ってなんだよ?」

 「高まるとアイドルロードが開かれるんや……!!」

 「それ行き先はバイストン・ウェルじゃないだろ。芸能界だろ」

 「そこにいるのはわかっとる!! 大人しく出てきぃ!!」

周介の突っ込みを無視して曲がり角に声をかける周子。

 「私のレベルは世界を超越した銀河級アイドル……そう!! 私の名は!!」

曲がり角から出てきて人差し指を天高く掲げ決めポーズをとる一人の女性アイドル……彼女こそ地球が誇るアイドルクイーン……!!

 『ヘレン!!』

何もないはずなのに爆発エフェクトとコールが入る銀河級アイドルヘレン。

 「へへへへへへへ……ヘレンだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 「あかん!! 突然の超大物の登場に三峰ェ!が正気を保ててへん!!」

 「そう、キチガイすらも正気を保てないほどの魅力を放つのがこの私……」

そして再び決めポーズをとると……

 『ヘレン!!』

再び爆発エフェクトとコールが起こった。

 「……(スゥ)」

 「あかん!! 三峰ェ!が安らかな死に顔で逝きおった!!」

 「三峰ェ!の生死はどうでもいいが、あの爆発エフェクトとコールが起こるのはどうなっているんだ?」

 「不可能も可能にする……それこそが私」

周介の質問に答えているようでまったく答えていないまま決めポーズをとると

 『ヘレン!!』

 「いや、意味がわからない」

 「そう、貴方には私が理解できないのね……」

周介の言葉にどこからかヘレンはマイクを取り出す。

 「だったら私の歌を聞きなさい!! ダンスを見なさい!! それで貴方も理解できるわ!!」

そして決めポーズをとる。

 「このヘレンを!!」

 『ヘレン!!』

 「本当にどういう意味だ!?」

 

 

 

 

 「はい、そんな感じでアイドル紹介編第一弾でした」

 「なんか最後の最後にすべてをもっていった銀河級アイドルがいたが?」

 「それがヘレンさんや。ちなみにヘレンさんが行ったゲリラライブの映像はこの番組のDVDの特典映像になる予定です!!」

 「この番組をDVD化するとか正気か?」

 「正気やから今のところ発売予定はないで」

 「346プロが最後の最後で正気で安心した」

 「せやろ。さて、今回のエンディングはいつものThe Shiomeeではなく、346どうでしょう班と三峰ェ!が所属するL’Anticaによる『未来への咆哮』です」

 「なぜGONGじゃない」

 「未来への咆哮で我慢せい」




346どうでしょう班
主に周子が好き勝手していた結果常務に怒られた。

三峰結華
283プロダクションに所属するアイドルオタクのアイドル。そのオタクぶりは一種のストーカー

神谷旭
高垣楓というトップアイドルを恋人にした完全勝ち組俳優。妹は神谷奈緒

ヘレン
世界? 私はそんな小さな枠組みじゃないわ……私は宇宙よ!! な世界を代表するトップアイドル。決めポーズをとると爆発とコールが起こる。原理は不明。なぜならヘレンだからだ

The Shiomee
346どうでしょうのエンディングを歌うThe ALFEEのコピーバンド。メンバーは周介、周子、美優さん。メインで歌っているのは何故か周介。たかみーポジションは周子



色々詰込みすぎた九月編です。

もはやキャラの原型をとどめていない三峰ェ!。でも塩見にがっつりかかわっていたらここまでのキャラ崩壊は仕方ないと思います。

ちなみに楓さんの恋人役で出演の神谷旭くんは朝霞リョウマさんの『かえでさんといっしょ』の主人公。楓さんのハートを射止めるだけでなく、ほかの未成年アイドルにも好意を持たれるといううらやまけしからん真似をしたからにはキチガイたちの被害にあってもらいます。ちなみに朝霞リョウマさんからは『愉快にやってくだせぇ!』と言われたので本当に愉快(愉悦)なことにしました。容赦などない。

そしてこの作品独自設定のヘレンさん。この作品ではヘレンさんは世界トップアイドルを超える銀河級アイドル。そして決めポーズをとると爆発エフェクトとコールが起こる。
何故かって? ヘレンだからさ。

幸子ちゃん? 作者の作品ではだいたいこんな扱いです。


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色々な意味での家問題

最後にちょっとシリアス風味です


さて、いつもの夜。いつもの店。そしていつも通りに閑古鳥が鳴いている。

普段であればアイドル飲兵衛お姉さま集団が集う我が店も、お姉さま集団が軒並み仕事が入っているせいで本当に人がいない。

 「あの周介さん……楓さんから『店長のおつまみで獺祭が呑みたいです』ってメールが来たんですけど……」

 「どれどれ」

美優が見せてきたメールを確認すると明らかに酔い潰された旭(なんだかんだで仲良くなった)を膝枕している高垣さんの写真が入っていた。

美優にとりあえず写真を転送してもらい、その写真を『スクープ! 大人気アイドルに膝枕されるうらやまけしからん男・神谷旭!!』とコメントをつけてtweetしておく。

即座に大炎上したようだが俺の知ったことではない。

俺が何をしたのか気づいたのか美優は苦笑いである。

 「周介さん、あまりやりすぎては駄目ですよ?」

 「全てはイケメンなのが悪い」

 「自分がフツメンだからってイケメンへの嫉妬は見苦しいで、兄ちゃん!!」

 「突然やってきて失礼なこと言うのはやめようNA!!」

店の扉をスパーンと開いて超絶失礼なことを突っ込んでくる周子。

 「あれ? 周子ちゃん、今日は収録が遅くなるんじゃ?」

 「ああ、それな」

美優の言葉に頷きながら口を開く周子。

 「一緒の収録に『注目の若手アイドル!!』ってメンバーの中に三峰ェ!が所属してるグループおってな。つい三峰ェ!といつものノリでやったら『頼むから帰ってくれ』って懇願されて帰された」

 「それは仕方ないな」

 「いえ、全然ダメですよ!!」

俺の言葉に即座に否定して周子に対してお説教を開始する美優。だが『美優さん大好きクラブ』の俺たち塩見兄妹にとっては美優のお説教とかご褒美でしかない。

 「頑張ってお説教する美優さんマジ天使……」

 「周子、心の声が漏れ出ちゃってる」

 「おぉっと」

周子の言葉に顔を真っ赤にしてカウンターにうつ伏せになる美優。俺たちとの付き合いがクッソ長いにも関わらずこの初心な反応をしてくれる美優はマジ女神。

お説教が終わってしまったことに名残惜しそうにしながらも周子はカウンターに座ると、そこに広げられていた資料を手に取った。

 「お、兄ちゃん、家買うん?」

そう、俺と美優が相談していたのはマイホームの購入であった。

最近は売り上げが伸びて貯蓄に余裕が出来始めた俺、そして大人気アイドルの美優の収入を合わせると一軒家は普通に買える蓄えになっていた。(なお、ほとんど美優の収入である

 「いや、最初は都内のマンションでも買おうかって美優と相談していたんだよ」

 「? でもここにある資料は全部一軒家やで?」

周子の問いに苦笑しながら美優が口を開く。

 「私が事務所でマンションの資料を見ていたら楓さんがやってきて『美優さん、買うんだったら一軒家にしましょう。そしてリビングでパーティしましょう』って言ってきまして」

 「なんでや」

 「そしたら瑞樹さんもやってきて『そうしたら美優ちゃん、私達が泊まる部屋も必要よ』ってなりまして」

 「なんでや」

 「さらに志乃さんも『お酒も豊富に置いておく必要がると思うわ』って」

 「なんでや」

 「それで礼子さんが『店長用に大きめのキッチンも必要でしょう』となって」

 「なんでや」

 「最後に早苗さんが『じゃあもう一軒家にしましょう!! 大丈夫!! 私達もお金出すから!!』ってことになりまして」

 「兄ちゃんと美優さんの家が完全に飲み会会場になる件について」

 「周子、それは言ってはいけないことだ」

何が怖いってあの人たちガチで言っているし、具体的に出せる金額まで俺たちに言ってきたことだ。

つまり俺たち夫婦に拒否権はなかった。

 「でも、お家でみなさんとパーティも楽しいと思いますから」

 「あかん……美優さんが天使すぎて辛い……」

 「美優天使説とか俺の友人一同の総意だから」

美優女神説と接戦だけれども。

とりあえず周子とガッチリ握手してから再び資料に目を戻す。

 「なんかこの際土地買って家建てたほうがええんやないの?」

 「それ楓さんも言ってました」

 「そうしたら他の皆さんの出せる金額が上がったな」

 「草不可避」

あの人たちの中では俺たちの家=飲み会場となっている。

 「周子はどうするんだ? 光輝も今年は寮だけど、来年からは一緒に暮らせるだろ?」

 「ああ、それな」

光輝はプロ野球選手、周子は売れっ子アイドルのために収入だったらうちより多い。住もうと思えばいい家に住めるだろう。

そして真剣な表情で口を開いた。

 「うちは公営団地に住もうと思ってる」

 「なんでだ」

 「いややなぁ、兄ちゃん。私らはプロ野球選手とアイドルっていう来年にはどうなっているかわからない仕事やで? 節約できるところは節約せな」

 「夢を目指している子供たちに現実を突きつけるな」

プロ野球選手とアイドルなんて男の子と女の子の将来の夢ランキングで上位にくる奴だろう。

 「あと子供がいっぱい欲しいからできるだけ節約したいってのもある」

 「現実的ですねぇ」

周子の言葉に美優が苦笑しながら言う。

 「兄ちゃんのところは子供計画とかしてへんの?」

 「あ~」

周子の問いがまったく悪気がないのはわかっているのだが、あまり触れて欲しい話題ではなかった。

 「周子、同人作家が美優本の新作描いたんだけど興味ないか?」

 「ある!!」

 「同人作家さんはまだ描いていたんですか……!?」

周子の即答に戦慄する美優。あいつには何を言っても無駄である。何せ友人一同絶対に一度はネタにされている。

そして美優は苦笑しながら口を開いた。

 「周介さん、私なら大丈夫ですから」

 「……そうか?」

 「?」

美優の言葉に俺は心配になる。そんな夫婦のやり取りを不思議そうに見る周子。

そして美優は覚悟を決めた表情で口を開く。

 「実は私が不妊症のようで……」

 「……oh」

美優の言葉に流石にやっちまった表情になる周子。他人の地雷を笑顔で踏みぬく周子であるが、美優と双海の地雷には細心の注意を払うのが周子である。

 「ご本家様はなんて言うとるの?」

ご本家様と言うのは我が塩見家の本家である。実は我が塩見家、家系図を辿れば鎌倉時代から続く武士の一族である。何故か途中で神聖ローマ帝国に行ったりしているがまぁ、それはそれ。

うちの家は一応分家の嫡流であり、俺は長男なので名目上家を継ぐ必要もある。その後継者が生まれないというのは問題ではないか、と周子は言っているのである。

だが、侮ってはいけない塩見の血。それは当然のように本家にも及ぶ。

 「ご当主からは『どれくらいのタイミングで養子が欲しい?』って連絡来たな」

 「ふぅ!! 流石はご当主様だぜ!!」

いや割とマジである。しかも美優に対して『病気なら仕方ない。うちの分家をよろしくな……!!』と平然と言えちゃうあたりがすごい。

 「よっしゃ!! 兄ちゃんと美優さんのために周子ちゃんも一肌脱ぎます!!」

 「具体的には?」

俺の言葉に100%笑顔で周子が口を開く。

 「私が産んだ最初の子供あげるわ!!」

 「そんな犬猫じゃないんですから」

そう突っ込む美優の浮かべた笑顔には嬉しさが混ざっているのであった。




塩見周介
お店は今日も閑古鳥

塩見美優
女将スタイルにも慣れた。実は不妊症でガチで悩んで離婚覚悟で周介くんに打ち明けたところ平然と受け入れられた模様

塩見周子
子供はいっぱい欲しい。そして最初の子供を兄夫婦にあげるつもりなのはガチ。後日、旦那にも相談して本決まりした模様

塩見家
鎌倉時代から続く由緒正しい武士の一族。途中で神聖ローマ帝国に飛び出したりしているのはご愛敬




そんな感じで10月編です

家庭を持ったことで家の購入を考えた塩見夫婦。当然のように飲兵衛お姉さま集団の横槍が入り当初予定していたマンションではなく一軒家になった模様。

そして突発的に入ってきた美優さん不妊症設定。これは割と最初から決めていました。そして不妊症では周介くんの美優さんに対する(重たい)愛は揺るぎません。
作者的にそういう障害も乗り越えて二人には幸せになってもらいたい。

そして周子ちゃんの『子供あげるよ!!』宣言。つまり別作品(綺麗な君に恋をした)で周介くんと美優さんの子供である周くんは実は周子ちゃんの実子。赤ちゃんの頃に兄夫婦に養子に出されたという設定です。


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346どうでしょう in しゅがはドライブ

公式かどうか知りませんがツイッターで『しゅがはドライブ』なるものを見つけてしまい「佐藤……!! お前……!! 佐藤……!!」ってなったので346どうでしょうを突っ込みました

やったね地上波初進出!!(346どうでしょうはネット専用配信設定)


 「さて、今回の346どうでしょうはついに地上波に初進出です」

 「進出というか侵略だよな」

 「うるさいで兄ちゃん、地上波に初めて出れたんやから初進出や」

 「私は今でも恨んでいるからな☆」

 「「ちょっと何を言っているかわかりませんね」」

 「こいつら本当に死ねばいいのに☆」

 「さて、何故佐藤Dは怒っているのか。その真相はこの後すぐ!!」

 「美優ちゃんもグルだとは思わなかったぞ☆」

 「すいません、周介さんと周子ちゃんに『秘密厳守』と言われていたので……」

 

 

 

 

11月某日。高速道路のとあるパーキングエリア

 「うぇ~い!! 美優ちゃんうぇ~い!!」

 「し、心さん!!」

美優にテンション高めに抱き着いているのは自分の番組『しゅがはドライブ』でテンション高めの佐藤心。

 「いやぁ、美優ちゃんは二回目か!! この番組に出たアイドルは二回目以降拒否るから複数回登場は貴重なんだぞ☆」

 「それ全部心さんの自業自得ですよね」

 「ちょっと何言ったいるかわからないぞ☆」

美優の突っ込みを華麗にスルーする心。その姿に美優は塩見兄妹を幻視した。

 「それじゃあ今日は美優ちゃんと一緒に高速道路をローリングするって感じだな☆」

 「あ、佐藤さん。ちょっと待ってください」

 「お☆ なんだ☆」

いつもなら漫才を繰り広げるしゅがはドライブのスタッフもこの後の惨劇を想像して心を痛ましそうな表情でみる。

 「おい、なんだその顔。嫌な予感がすごいするぞ」

 「なかなかいい予想ですね。今回のゲストは三船美優さんだけではないです」

スタッフの言葉にものすごく味わい深い表情をする心。

 「あれだな、楓ちゃんとかの飲兵衛お姉さま仲間とかだよな☆」

 「違います」

 「だったらあれだな、美優ちゃんと仲のいい仁奈ちゃんだよな☆」

 「仁奈ちゃんはもうテレビに出る時間じゃないですよ」

美優の言葉に心は目頭を揉んでから星空を見上げる。

 「スタッフ、私はしゅがはドライブのスタッフは頭がおかしいけど常識の範囲内だと思っているからあいつらじゃないと信じているぞ☆」

 「私達も佐藤さんと違って常識人だと思っているので、出したくなかったんですがね」

 「なら何故出した!!」

心、渾身の叫びであったが、スタッフの表情には諦観があった。

 「ええ、何故かあの二人に番組の存続にかかわる情報を握られていまして」

 「クソが!!」

思わず叫びながら両手で地面を叩く心。苦笑している美優。

そこにバカでかいエンジン音を響かせたロードスターが超速でパーキングエリアに侵入してくる。

 「あああああああ!!! やばい来た来た来た!! 美優ちゃん早く乗って逃げよう!!」

 「無理だと思いますよ」

 「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

美優の言葉の通り、爆走してきたロードスターはドリフトしながら番組用車両の前に止まる。

そして扉が開いて降りてきたのはサングラスをかけた二人組。

 「「待たせたな」」

 「帰ってくれ」

 「おいおい、そりゃないぜ佐藤!! 大学時代に一緒になって峠を攻めた仲だろ!!」

 「あれは美優ちゃんに『一緒にドライブに行きませんか?』って誘われたからだぞ!! 一人だったら行くか!!」

周介の言葉にぶち切れながら叫ぶ心。それを見て笑いながら周子は美優にカメラを渡す。

 「はい!! そんなわけで今回の346どうでしょうは出張版!! ついに346どうでしょうが地上波登場ですよ!!」

 「いや、これは『しゅがはドライブ』だからな!?」

 「そういう細かいことを気にするからお前はいまだに恋人からプロポーズされないんだからな」

アイドル生命を殺すような発言をした周介を締め上げる心。

 「お前な、アイドルが恋愛御法度なのわかってる?」

 「僕素人だからわかんなぁぁい!!」

 「うぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 「あ、スタッフさん。ここでテロップに『実は佐藤心には付き合って10年になる恋人がいる』っていれといてや」

 「貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

塩見兄妹のダブル攻撃に心の血管がピンチ。美優はカメラを回しながら苦笑いである。

 「俺達の言い分を言うのは女々しか?」

 「誤チェストになるでごわすか?」

 「佐藤次第でごわす」

 「何故急に薩摩弁に……?」

美優の突っ込みに少し頭が冷えたので心は周介の言い分を聞く態勢になる。そして周介は真剣な表情で口を開いた。

 「いいか、佐藤。美優の結婚に始まり、周子の電撃婚、楓さんと旭のお付き合い暴露でアイドルにも恋愛を許す風潮が出てきた」

 「後者二つは完全に塩見家によるテロだったが?」

 「そこで俺と周子は考えた」

 「塩見家の考えはテロにつながるからやめとけ、な?」

心の言葉に周介は満面の笑みを浮かべる。

 「『塩見家によるアイドル結婚プロジェクト』!! コードネームはCAP!!」

 「私らが愛のキューピットになるんやで!!」

 「完全に事故案件じゃねぇか……!!」

心の言葉にちっちっちと指を振る塩見兄妹。そして両手を広げてたからかに宣言した。

 「「今のところ成功確率100%だ!!」」

 「そりゃ勝てる戦いしかしてないからなぁ……!!」

再び心が周介を締め上げるが、そこでしゅがはドライブのスタッフからフリップが出る。

 「お、早く出発しろやって。ほら、はよ行くで、佐藤」

 「マジでか? マジでこいつら地上波に放つのか? あとで常務から怒られない?」

 「あとでディレクターが土下座祭りすればいいだろ」

 「お前らが自重すればいいんだよ……!!」

心の言葉も塩見兄妹は完全無視。

 「誰が運転するんだ? 俺か周子?」

 「この番組は誰の番組か思い出してみ?」

 「でも佐藤はポリスから逃げ切れるんか?」

 「なんで警察に追われること前提なんだよ……!!」

そう言いながらも運転席に乗り込む心。心の訴えによって助手席は美優。塩見兄妹は後部座席に封印である。

 「あれ? おい佐藤、速度メーターは弄ってねぇの? 150までしかねえじゃん」

 「普通はエンジン積み替えないんだよ……!!」

 「大変や、兄ちゃん!! この車ニトロも積んでへんで!?」

 「普通は積まないんだよ……!!!」

そんな塩見兄妹とキチった会話をしながら車を出発させる心。

 「あ~、と。本来ならここからトークが始まるんだぞ☆」

 「「必死になっていつものペースに戻そうとする佐藤がマジうける」」

 「お前ら……!!」

塩見兄妹の即煽りに切れそうになる心。

とりあえず美優が間に入ることで気分を落ち着けることに成功した佐藤はトークを開始する。

 「そういや、お前らの家はどうなりそうなんだ? 周子ちゃんも旦那のシーズン終わって会議本格化って言ってたろ☆」

 「ああ、それな」

心の言葉に周子は言葉を続ける。

 「私ら夫婦が団地に住もうか考えているって話はしたやん?」

 「聞いたぞ☆ そして防犯も考えろってお説教もしたな☆」

 「そう、流石の私も生まれてくる子供たちの防犯のためをと思って友人の不動産屋に相談しました」

 「周介もそうだが、周子ちゃんの友人関係も割とすごいよな☆」

 「違法ギリギリだけどな」

 「法律ぶっちぎっている友人の多い兄ちゃんには言われたくない」

 「どちらの友人も強烈ですよ」

美優の言葉にどちらが悪いが罵り合う塩見兄妹。

 「で☆ その不動産屋の友人からいい物件を紹介されたのか☆」

 「ああ、兄ちゃんの友人の社長さんと組んで防犯完璧な団地を建設することになった」

 「その展開はおかしい」

 「さらにそれを聞いた故郷の市長が『そこを我らの飛び地とする!!』って宣言してな。大規模な土地買収が行われて東京都の中に京都府ができあがった」

 「どういうことだ……!?」

マジ驚愕顔を浮かべる心。だが周子の説明が全てだ。

周子が友人の不動産屋に相談する→防犯完璧な団地建設が始まる→東京都の中に京都府ができる。

この超速展開が一か月の出来事である。

 「その団地に俺の友人とか周子の友人が多数集まることになってなぁ」

 「キチガイの巣窟じゃねぇか」

 「ちなみに私の友人で引っ越してくる有名人は三峰ェ!な。生意気にあいつも有名人になってきたから防犯のいいところに引っ越したいらしい」

 「キチガイの巣窟じゃねぇか」

素の反応をしてしまった心に美優は苦笑いである。

 「そうそう、周子と三峰ェ!で面白いネタがあるんだが」

 「お☆ 聞きたいけどそれ地上波に流して大丈夫な奴か☆」

 「大丈夫だ」

 「私と三峰ェ!のネタで地上波に流して大丈夫なネタ……?」

 「そこで周子ちゃんが不思議そうな表情をしないでくれ」

本気で心当たりがないという表情を浮かべる周子に不安になる心だが、最悪後で編集カットを入れればいいと思い、話を促す。

 「共演NGってあるだろ」

 「ああ☆ ちなみに私の共演NGは塩見兄妹だぞ☆」

 「「大丈夫、珍しくないから」」

 「ちょっとは気にしろ」

本当にまったく気にしていない二人に突っ込む心。

 「で、その共演NGがどうかしたか☆」

 「ああ、周子と三峰ェ!な。テレビ局側から『同時に使うな』っていう特殊な共演NGをくらった」

 「ブフゥ!!」

心も思わず吹き出してしまう。演者側からの共演NGは聞いたことあるが、テレビ局側から同時に使うなという共演NGを食らうだなんて聞いたことがない。

 「まったく失礼な話やで。私と三峰ェ!でちょっと放送できないレベルのことやったぐらいで」

 「こいつまったく懲りてないぞ☆」

何をしでかしたのか興味はあるが、下手につつくとしゅがはドライブでやられかねないので突っ込むのをやめる。

塩見兄妹が深いこと聞いてこいとカモーンポーズをとっているが心は無視である。

 「お、兄ちゃん。覆面パトや」

 「よっしゃ、箱乗り煽りしようぜ!!」

 「やめろぉ!! やめろぉ!!」

 

 

 

 「そんなわけで346どうでしょう出張版でした」

 「ちなみにこいつらマジで箱乗り煽りして警察のお世話になったからな☆」

 「警察から逃げ切れない車にのるなよ」

 「普通は警察とカーチェイスなんてやらないんだぞ☆」

 「ちなみに今回のしゅがはドライブの放送は再来週の予定です。今回放送できなかった映像もあるからお楽しみに!!」

 「私としゅがはドライブディレクターの土下座行脚もあるぞ☆」




佐藤心
自分の冠番組にキチガイが侵略してきた。

三船美優
ゲストに呼ばれた。

塩見周介&塩見周子
ゲストとして乗り込んだ

しゅがはドライブ
佐藤の冠番組。ゲストと一緒にトークしたりしながらドライブする番組。

東京都の中の京都府
キチガイたちの街




そんな感じで346どうでしょう in しゅがはドライブ編でした。

ツイッターで公式がどうか知りませんが『しゅがはドライブ』なるアカウントを見つけてしまい、「佐藤……!! お前……!! そんな周介くんと周子ちゃんに乗り込まれるような番組……!!」と思っていたので塩見兄妹に乗り込ませました。
きっと放送事故になるでしょう。

それと感想のほうで『防犯皆無な団地に住むなんてとんでもない!!』と言われたので周介くんの友人&周子ちゃんの友人がタッグを組んで防犯完璧な団地を建設!!
さらにそこに住むのは周介くんと周子ちゃんの友人(キチガイ)達!! これで防犯は完璧!!

その過程で東京都内に京都府が出来上がったようですが些細なことですよね。


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クリスマス特別ライブ~346どうでしょう襲撃編~

去年もやったクリスマス特別ライブネタ。そして当然のように引き起こされる塩見兄妹テロ。

標的は奴だ!!(祝、再度の特別出演)


 「はい! アイドルオタクのみんなぁ! 346プロダクションクリスマス特別ライブは楽しんでくれているかなぁ!」

 「副音声では346どうでしょう班によるライブとまったく関係ない会話をしているぞ! ちなみにさっきまで周子と二人で獣ゆく細道を熱唱していたら常務にガチ目に怒られた!」

 「その怒られている風景まで含めての副音声です! さてさて、我ら346どうでしょう班が本放送のほうに進出してきた理由ですが……ははは、本放送ジャックじゃありませんよ! それをやろうとしたら武内Pがブロックしてきたので!」

 「俺達塩見兄妹の進撃を止めるとは……あのプロデューサーの正体は何者だ!?」

 「プロデューサーや! あ、ガチのディレクターから巻いてくれって指示が出ているのでさっさと行きますよぉ!」

 「ガチのディレクターとか佐藤の存在価値がなくなったな」

周介くんの発言に遠くにいた佐藤から罵倒が飛んできて煽り合いが始まる。346どうでしょう的にいつもの風景なので周子はフリップを取り出す。

 「はい! 今回もやってきたのはアイドル達によるレクリエーションタイム!! 今回は346どうでしょうが主催させていただきます!」

 「おっとコメント欄に怒涛のテロコメント!! 被害者は誰だってよ、周子!!」

 「大丈夫!! テロであることは否定せんけど、被害はアイドルやない!!」

 「アイドルじゃないってよ!! 良かったな!! 推しは無事だぞ!!」

周介がそこまで言うと周介と周子は二人でにまーっと笑う。

 「「ただし貴様らファンが無事に済むとは限らんがなぁ!!」」

 「おおっと、コメントで怒涛の『このクソ外道が!』コメント!!」

 「大丈夫や兄ちゃん!! 同じくらい『覚悟完了』コメントもある!!」

 「よっしゃ!! 覚悟のススメをしたところでレクリエーション発表」

 「よしきた!!」

その言葉に周子はフリップをひっくり返す。

 「「はい!! 今年のレクリエーションは『アイドルの主張』!!」」

その言葉にカメラが客席を映すと、客席には多数の346プロ所属アイドルが座っていた。

 「アイドルは発言にも気をつけなきゃいけない……そういうストレスのたまるお仕事です!!」

 「お前、好き勝手してない?」

 「これでも自重しとるんや……!! 私が本気だしたらすごいで……!!」

 「はい、周子の担当Pから『そのやる気は一生しまっておいてくれ』という哀願のカンペが出たところで話を続けると、今回の企画は『アイドルという立場故に普段いえないこと』を『ライブというお祭りで言っちゃおうZE!!』って企画です!!」

 「ははは、こらこらこれは塩見家のテロではない」

そして周子は最高に悪そうな表情を浮かべる。

 「なにせこれは事務所側から許可出とるからなぁ!!」

 「これまでに出したアイディアの数は聞いちゃいけないぞ!!」

 「提案する私らと必死に却下する事務所側の攻防は346どうでしょうのほうで放送予定やからお楽しみに!!」

 「そうこう言っている間にレクリエーションの時間がどんどん削られていっている」

 「こうしうちゃいられねぇぜ!! よっしゃあ一人目カモン!!」

周子の言葉に一人のアイドルがカメラに入ってくる。

 「え? 本当にやらされるの? ボクみたいなクソザコナメクジアイドルがトップバッター?」

 「はぁぁい!! 一人目は炎上アイドルとして不動の地位を気づいた夢見りあむちゃんです!!」

 「うぇぇぇぇい!! りあむちゃん!! うぇぇぇぇぇい!!」

 「え? え? え? なんか周子ちゃんが典型的なパリピキャラになってる!! やめてよ!! 落ち着いてよ!! ボクそのテンション苦手だよ!!」

 「「わかった、じゃあ落ち着く」」

 「わぁぁぁぁぁぁぁ!? 怖い!!!! 周子ちゃんとそのお兄さんが落ち着くと逆に怖い!! なに!? ボクなにされるの!?」

 「やるのはお前や」

 「ほれ、さっさとステージに行け」

 「扱いが酷い!!」

嘆きながらもステージの中央に向かうりあむ。周介と周子はそれを映像で見ており、客席にはアイドル達がいっぱいいる。

 『え? あ、ここで言うの? え? マジで? ある意味公開処刑じゃない?』

 「バカめ、今更気づいたか」

 「りあむちゃんも何回も拉致ってどうでしょうロケに連れてったけど、毎回ええ反応くれるからなぁ。幸子ちゃんとリアクション対決させたい」

 「よし、今度それやるか」

周介と周子の容赦のない会話。それにコメント欄にりあむの冥福を祈るコメントが大量に流れる。

そして覚悟を決めたのかりあむは口を開く。

 『ボクは346どうでしょう班に言いたいことがある!!』

 『な~に~!!』

りあむの言葉にパーフェクトな返しをするアイドル達。年代的に元ネタを知らない世代もいるだろうが、きっとお姉さまアイドル達に教えられたのだろう。

一瞬面食らったりあむだったがすぐに思い直して口を開く。

 『ボクは確かに余計なことを言ったり、逆に言葉足らずで頻繁にネットで炎上する!! 周子ちゃんから『炎上系アイドル』って名付けられたりもしている!! でも』

そしてりあむは真剣な表情で口を開いた。

 『ボクの炎上はネットの炎上であって物理的な炎上じゃないんだ!! だからこれ以上346どうでしょうで手筒花火とか護摩行とか火渡りとか物理的な炎上ロケに連れて行かないでください!! お願いします!!』

アイドル達爆笑。周介と周子も爆笑である。

 「わかった!! りあむちゃんの意志を尊重しよう!!」

 「せやな!! 次は極寒の地で滝行をやるで!!」

 『鎮火してくれって意味でもないんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

りあむ最後の嘆きに客席のアイドル達爆笑。コメント欄にも大草原ができている。

 「いやぁ、いいトップバッターだった」

 「最初でなかなかハードルがあがったで」

 「次のアイドルの娘がちょっと大変かもな。次は誰だ?」

 「はい、それじゃあ次の人ぉ!!」

周子の言葉に入ってくる一人のアイドル。

 「お、新田さん家の美波ちゃんか。久しぶりだな」

 「え?」

 「どうしよう周子。ガチで困惑されたんだけど」

 「いや、当然やろ兄ちゃん。美波ちゃんが店来た時は最後まで狼の被り物しとったやん」

周子の言葉に納得の表情を見せる周介。そして美波は驚いた表情をした。

 「あ!! あの時の狼の被り物をしていた店長さん!!」

 「イエース!! ドウモ=ニッタサン。シオミシュウスケデス」

 「え? え? え?」

 「あかんで美波ちゃん、きちんと挨拶せな。挨拶は大事って古事記にも書いてある」

周子の言葉にどこか納得した様子を見せる美波。

 「あ、古事記にもそう書かれているんですね。私もお勉強不足ですね」

 「あかん、ボケ殺しや……まぁ、いいや!! それじゃあ美波ちゃん、行ってみよう!!」

 「はい。美波、頑張ります」

そう言ってからステージの中央に向かう美波。そしてステージの中央に立つと一度深呼吸をして口を開いた。

 『私は弟くんに言いたいことがあります!!』

 『な~に~!!』

完全に対岸の火事なのでこのレクリエーションを楽しんでいるアイドル達。

 『最近、弟くんはお姉ちゃんに冷たいと思います!!』

 「この流れはまさか……!!」

 「天然による外道行為の気配……!!」

周介と周子の友人は様々な外道がいる。その中には天然で外道行為をする一番性質が悪い奴も当然いる!! 二人の外道センサーが美波からそれを感じ取ったのだ……!!

 『昔は私のグラビアとか新曲を送ったらちゃんと褒めてくれていたのに、最近は『もう送らなくていいから』ってコメントばっかり……お姉ちゃんは怒ってます……!!』

 「「来るぞ来るぞ来るぞ……!!!」」

美波とは別の意味でボルテージが上がる塩見兄妹。

そして美波は弟に対して言葉のギロチンを落とす……!!

 『そんな冷たい反応をしても中学生になるまで一緒にお風呂に入っていた事実は消えないんだからぁぁ!!』

 「きたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 「天然による外道行為!! そして内容は完全に弟くんに対する死刑判決!! こりゃあ学校が楽しみだな弟くん!!」

思わずガッツポーズを決めて立ち上がる周子と、興奮しながらも実況をやめない周介。

そして二人はお互いでハイタッチを決めると席に着く。

 「いやぁ、そっかぁ!! 美波ちゃんの弟くんは中学生まで一緒にお風呂入っていたかぁ!!」

 「入らなくなった理由はなんや? 年々色っぽくなるお姉ちゃんの魅力に思春期のリビドー耐えれんくなったか?」

二人の言葉にコメント欄に美波の弟に対する怨嗟のコメントで埋まる。

 「ちなみに私と兄ちゃんは今でも一緒にお風呂に入ることがあります」

 「二人で入ると美優が微笑ましい表情を浮かべながら着替えを用意してくれるんだよな」

 「美優さんマジ女神」

周子と周介ががっちり握手するのと客席にいた美優が羞恥心で顔を真っ赤にするのは同時であった。

 「おいおい、コメント欄にてっきり怨嗟の声が入ると思ったら『ですよね』ってコメントばっかりなんだが」

 「なんてことや……周子ちゃんファンはいない……え? 周子ちゃんファンも納得やて? なんでや!?」

完全に当然のことを突っ込む塩見兄妹。

 「あ、もう時間ない? それじゃあ次で最後だな」

 「よっしゃ、それじゃあ最後の一人いらっしゃ~い!!」

周子の合図で最後の一人が入ってくる。

 「ふふふ、よろしくね」

 「お~、高垣さんか」

 「飲兵衛お姉さま集団からの刺客……兄ちゃん、酒の貯蔵は充分か?」

 「残念ながらうちのお店は改装中だよ」

 「店長さんにそのことも聞きたかったんですけど、今回は別のことなんです」

楓の言葉に真剣な表情を浮かべる周子と周介。

 「兄ちゃん」

 「なんだ」

 「愉悦の気配がする」

 「奇遇だな。俺もだ」

塩見兄妹はがっちり握手をしてから楓を送り出す。

ステージに現れる楓。

 「あかん、兄ちゃん。興奮してドキがムネムネしてきた……!!」

 「落ち着け周子……!! まだだ……!! まだ愉悦が決まったわけではない……!!」

そんな会話を尻目に楓はステージの中央で口を開く。

 『私は恋人である旭くんに言いたいことがあります!!』

 『おぉぉぉぉ』

楓の言葉に盛り上がる客席。ガッツポーズを決める塩見兄妹。

そして楓は真剣な表情で口を開いた。

 『いつになったらプロポーズしてくれるんですかぁぁぁ!!』

 「「よしきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

楓の言葉に塩見兄妹はマイクを持ってダッシュ。ステージまで行って周子は楓に抱き着き、周介はカメラを指さす。

 「おい!! 旭見てるな!! っていうか大好きな恋人が出てるんだから絶対見てるよな!! よぉし!! これからお前に電話をかける!! そして出たら楓さんに一言だ!! いいか!? 一言だぞ!! 日和ったら許さんからな!!」

 「そうやで!! 女にここまで言わせたんやから言う言葉は決まっとるよな!!」

 「あ、あの!!」

周介と周子が盛り上がっているとスマホを片手に持った神谷旭の妹である奈緒が手をあげている。

 「兄貴の奴が電話にでないんだけど!!」

その言葉にオーディエンスのアイドルからブーイング。しかし、塩見兄妹は狼狽えない。

 「そうか、そういう手段をとるか旭……」

 「残念やな……あぁ、本当に残念や……」

そう言いながら塩見兄妹の顔は満面の笑みであった。

 「「電話に出なければ貴様の芸能生活が死ぬ情報をネットの海に流す」」

 「あ、兄貴!? あ、出た!!」

塩見兄妹による完全な脅しに奈緒が恐怖しながら必死に電話に語りかけると通じたらしい。そのままマイクを会場に繋ぐ。

 「やっほ~、旭くんげんき~?」

 『その場にいたら周介の顔面殴れたのになぁ……!!!』

 「ははは、ヤのつく自営業の方々の事務所に殴り込んことがない旭が俺を殴れるわけがない」

 『むしろ殴り込んだことがあるのか……!?』

残念ながら塩見兄妹が生まれ育った町ではカチコミは必修科目である。

 「兄ちゃん、そんなことはどうでもいいねん」

 「おっと、そうだった」

そして周介と周子は満面の笑みで大きく口を開く。

 「「神谷旭くんから最愛の恋人である高垣楓さんに言いたいことがあるってさ」」

 『貴様らぁぁぁぁ!!!!!!!』

旭くんの怒声が聞こえるが塩見兄妹はサムズアップして楓を前に押し出す。

そして楓の顔は期待に満ちていた。

 『う、え、あ、う……」

完全に語彙力が死んだ旭。そして楓の裏で『早く』のカンペをあげる塩見兄妹。

そして旭は覚悟を決めたのは通話越しに真剣な雰囲気を出す。

 『高垣楓さん!!』

 「はい」

 『俺と結婚してくだしゃい!!』

空気が死んだ。なにせ俳優としてはベテランの枠に入る人間が大事な場面でやらかしたのだ。塩見兄妹は楓の後ろで腹抱えてステージ叩いている。

そして客席にいた最年少の市原仁奈ちゃんが不思議そうに首を傾げた。

 「旭おに~さん、噛んだでごぜ~ますか?」

 『いっそ殺してくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!』

旭の嘆きに塩見兄妹の笑いが深くなる。それに釣られるようにアイドル達にも笑いが出た。

 「はいはいはい!! 肝心なところで噛んだけど旭は言い切りました!!」

 「さぁ!! 楓さん!! 返答をお願いします!!」

周介と周子の言葉に楓は微笑んで口を開く。

 「こちらこそよろしくお願いしましゅ」

 「「あまぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!!!!」」

楓の言葉に叫ぶ塩見兄妹、歓声をあげるアイドル達。

 「とりあえずこのライブ終わったら速達で楓さん届けるからな!! 旭、ちゃんと準備しとけよ!!」

 『ゆ、指輪か? それならもう用意してある』

 「穴の開いたゴムもや!!」

 『それ意味ないだろ!!』




塩見兄妹
特別ライブがネット配信なので副音声でライブと全く関係ないことを話したり歌ったりしていた。そしてやっぱり発生する塩見テロ

夢見りあむ
塩見兄妹の玩具二号(一号は幸子ちゃん)。後日、東北に連れていかれて滝行をさせられた模様。

新田美波
重度のブラコン。最近の悩みは弟が冷たいこと

高垣楓
恋人の仲が公表されて二か月たってもアクションを起こしてくれないので自分から動いた。相手がプロポーズを噛んだことに対して噛んで返答をするという熱愛ぶりを見せつけた。

神谷旭
テロの被害者。ライブ後にきちんとプロポーズをした模様。

アイドルの主張
作者の年齢がバレそうなネタ。元ネタは当然某ジャニーズグループの番組の1コーナーであるあれです




そんな感じでクリスマス特別ライブ編です。
ネット配信なのをいいことに好き勝手テロっている塩見兄妹。そして明かされる塩見兄妹の新しい玩具(りあむ)
りあむには炎上(物理)してもらわないとね!!

そして再び登場の朝霞リョウマさんのかえでさんといっしょの主人公の神谷旭くん!! 朝霞さんからも許可はいただいております(なお、扱い
かえでさんといっしょの旭くんがプロポーズで噛んだのを見て、噛んで返答した楓さんが好きだったのでそれも使わせてもらいました(なお、無許可

そして地味に手遅れ感がある美波ちゃん。色々設定見たけど作者の中ではもうブラコンで固定されているよ。

そして今更気づく美優さん不在の事実。周子ちゃんのキャラが動かしやすくてつい頼ってしまうところは治したいところ


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新田美波の弟の受難

クリスマスで中学まで一緒にお風呂入っていたと暴露した美波!!

今回は哀れな被害者である美波ちゃんの弟の短編です。

美波ちゃんのキャラ崩壊があります。


新田は友人である和久井と一緒に呉の大和ミュージアムに来ていた。二人で大和ミュージアムを堪能し、ついでに鉄のクジラ館を見た二人は大和ミュージアムの隣にある喫茶店で『護衛艦の味再現カレー』を食べていた。

 「実は和久井に相談がある」

 「断る」

新田が開いた言葉に対して和久井の拒否は早かった。もう何を言われるのかわかっているレベルで早かった。

 「まぁ、そういうなよ。アイドルを姉に持つ仲間じゃないか」

 「貴様のその考えのせいで余計なことに巻き込まれたことが片手じゃ数えられないんだが?」

 「和久井のおかげで今年も生き残れました」

 「瀬戸内海に沈められればいいのに」

半眼で見てきた和久井を新田は華麗にスルー。これくらいのことを気にしていたら新田美波の弟はやれない。

 「実はクリスマスライブの時のバカ姉貴の発言なんだが」

 「一人で勝手に死ね」

 「ははは、死ぬ時は思いっきり巻き込んでやるからな」

新田と和久井のガンのくれあいが発生したがおおむねいつも通りである。

和久井はため息を吐きながら水と一緒に氷をかみ砕く。

 「で?」

 「どうやったら姉貴のファンの同級生から殺されずに卒業できると思う?」

 「諦めたら?」

 「なんかいいアイディアを頼むよ! 今回はマジでやばいんだ!!」

 「やばいのはお前だよ。なんで中学生まで姉と一緒に風呂入っているんだ」

和久井の言葉に新田はゲンドウポーズをとる。

 「いいか? 姉貴は俺が小さい頃から超絶ブラコンだった。俺が物心つく前から『姉と弟がお風呂に入るのは当然』とか『夜一緒に眠るのも姉と弟だったら当然』とか『姉を持つ弟は初体験の相手は姉』という教育を俺に施してきた」

 「待て、美波さんってそこまで末期なのか?」

新田の言葉にすかさず和久井が突っ込む。当然であろう。新田家の美波ちゃんと言えば品行方正で美人、まさしく優等生を絵に描いたような女性だったからだ。

そして新田は頷く。

 「中学に入るまでその教育が真実だと思っていた俺も悪かったが、姉貴の俺に対する愛は異常だ。塩見兄妹が正しい仲良し兄妹だとしたらうちは姉の愛が重いおかしな姉弟だ。姉貴は俺の交友関係まで縛ろうとするからな」

 「悪い、ちょっと用事を思い出したから先に帰る」

 「悪いが姉貴に『今日は和久井と一緒に出掛けてくる』ってlineしといたから逃げられないぞ」

 「貴様ぁぁぁぁ!!!!」

 「ははは!! 一緒に悩んでくれ!!!」

和久井が新田の胸倉を掴んで持ち上げるが、週5で大和ミュージアムに通う二人と顔見知りの店員が笑顔でメニューを振りかぶっているのを見て大人しく座る。

 「で? 今のところの問題は?」

 「学校にある『女神・新田美波を崇拝する会』からの殺害予告が酷い」

 「殺されたら?」

和久井の言葉に新田は笑顔で胸倉を掴む。その瞬間に店員からメニューが飛んできて机に刺さったので大人しく座りなおす。

 「いや、マジでなんかいいアイディアくれ。今回ばかりはマジでやばいんだ」

 「そりゃあ中学生まで一緒に風呂入ってたってばらされたからな。過激派で有名な『女神・新田美波を崇拝する会』だったら命で済めば安いもんだろ」

 「……ちなみにお前が推しアイドルの高垣楓さんと結婚することになった神谷旭に対して何をしたい?」

新田の言葉に和久井はとても爽やかな笑顔で答える。

 「とりあえず痛覚を持って産まれたことを後悔させる」

 「お前が姉貴のファンじゃなくて良かったって心の底から思うわ」

和久井の爽やか笑顔から放たれた殺意に新田は心の底からドン引きした。

友人であろうが殺る時は殺る。長い付き合いで新田は和久井のことを理解していた。

和久井が机を指で軽く叩いている。これが和久井の考えている時の癖だと知っている新田は黙って水を飲む。

そして和久井が口を開いた。

 「新田、お前クリスマスに美波さんからサンタコスの写真とか送られていないか?」

 「妙に谷間が強調されたサンタコスの写真なら送られてきた」

 「それだ」

和久井の言葉に新田は首を傾げる。クリスマスやハロウィンなどの仕事で着たコスプレ写真が美波から新田に送られてくるのは毎回のことだ。当然のように今回も送られてきた。

 「そいつを『女神・新田美波を崇拝する会』の一人……いいか、一人だけに送るんだ。その後に俺が『女神・新田美波を崇拝する会の中にサンタコスの女神の写真をもらった不届き者がいる』という噂を流す。後はあの過激派のことだ。勝手に自滅するだろう」

 「その時、俺に電流走る……!!」

新田は即座に写真を過激派に所属する友人の一人に送り付ける。そして和久井も即学校の専用掲示板に噂を流した。

 「うお、速攻で燃えた」

 「流石は美波さんファンだな」

効き目は一発だった。即座に学校の専用掲示板は燃え上がり、不届き者を炙り出そうとしている。

 「でも和久井、これ写真が共有されたら終わりじゃないか?」

 「ふぅ、いいか新田。お前がもしアーニャちゃんの似たような写真をもらったらどうする?」

 「自分だけのものにする」

自分で言ってから新田は納得したように頷いた。

 「なるほど、ファンの独占欲をつくわけだ」

 「その通り」

そして新田と和久井はがっちり握手。

命の危険が去ったので後は世間話だ。

 「和久井は寮に入るのいつ?」

 「三月からかな」

実はこの和久井少年、今年のドラフトで東京スーパースターズから指名を受けプロ野球選手になることになっていた。そのために来年から上京し寮に入るのだ。

 「いいなぁ……なぁ、和久井、俺と和久井って親友だよな?」

 「親友? 誰が?」

 「おいおい惚けるなって。一緒に死線を潜り抜けた仲じゃないか……!!」

 「100%貴様の巻き添えだ……!!」

再び胸倉の掴み合いが発生したが店員が今度は包丁を取り出したので大人しく座る。

 「で? なんだよ」

 「仲井選手から塩見周子ちゃんと三船美優さんのサインもらってくれない?」

 「お前は初手からなんで難易度を上げてくるんだ……!!」

 「いいじゃんいいじゃん!! 来年からチームメイトになる人の嫁さんとお義姉さんのサインもらってきてくれよ!!」

 「断る。それこそお前が姉に頼めばいいだろう」

和久井の言葉に新田は真剣な表情を浮かべる。

 「あの人が別の女性のサインをもらうことを許してくれると思うか?」

 「……すまん」

 「謝らないでくれ」

 「いや、マジですまん。仲井選手には頼んでみるよ」

 「サインの件は嬉しいけど、なんで涙が出てくるんだろうな」

その涙はきっとブラコンの姉から逃げられない弟が流す涙だろうということは和久井は突っ込まなかった。

和久井にだって優しさはあるのだ。

 「新田は第一志望は東京の大学だっけ? 合格したら一人暮らしか?」

 「いや、姉貴の家に居候させてもらうことになってる」

 「え?」

 「え?」

和久井の『マジかこいつ』的な表情に新田は不思議そうに首を傾げる。

そして和久井は新田に言い聞かせるように口を開く。

 「ブラコンの姉、愛する弟、二人っきりの一つ屋根の下、何も起きないわけもなく」

 「俺の貞操がピンチ……!!!!」

和久井に言われて新田もその危険性に気づいた。猛獣のいる檻の中に自分から入っていくところだったのだ。

 「え、ちょっと待って、マジでどうしよう。両親は完全に姉貴のところに居候させる気だし、姉貴に至ってはわざわざ大きい部屋に引っ越したんだけど」

 「初めての相手が姉とか犯罪臭がするな」

 「それがマジになりそうなんだよ……!!!」

本気で頭を抱える新田。哀れな子羊を見るような目で見る和久井。

 「安心しろ、たとえ新田が美波さんに貞操を奪われても俺は友達でいてやるから」

 「やめろぉ!! やめろぉ!!」

上京したら新田の運命は完全に決まっていただろう。だが、しかしまだ上京前である。

 「和久井くん、僕は相談があるんだけど」

 「コンビニか薬局でゴムは買っとけよ」

 「そうじゃねぇんだよ!! その未来を回避する方法を教えてくれ!!」

 「お前にとっては究極の選択だ」

和久井の真剣な言葉に新田も真剣な表情になる。

 「自分の貞操を守るか横須賀の三笠に通う機会を逃すかだ」

 「クソ!! 三笠はみたい!! でも貞操も守りたい!!」

今更だが二人は軍艦オタクだ。だから週5のペースで呉まで来て大和ミュージアムを見学したり呉に入っている護衛艦を見たりして楽しんでいる。

その二人が上京する理由。それは横須賀にある三笠を見たいからだ。あと機会があれば米軍の軍艦とかもみたいからだ。

 「どうしようわくえもん!!」

 「諦めたら?」

 「他人事!!」

完全に追い詰められた新田。しかし、人間とは追い詰められた時に覚醒する人もいるのだ!!

 「閃いた!!」

 「自分の貞操どうやって姉に捧げるかをか?」

 「違う!! まず第一志望はわざと落ちる」

 「となると三笠を諦めるのか。安心しろよ、写真は送ってやる」

和久井の言葉に新田はにやぁぁぁと笑う。

 「俺は第二志望に静岡の伊豆大学機械工学科にしてある。静岡なら一人暮らしでも不思議じゃないし、三笠にも行ける距離だ……!!」

 「……おお、ギリギリのところで禁断の扉を閉じたな」

こうして姉の企みをギリギリのところで回避することに成功した新田弟。しかし、彼は知らなかったのである。伊豆大学に潜む悪魔の集団を……

 「とりあえず護衛艦みにいくか」

 「いまだったらかがいるんじゃないか?」

新田が全裸でいることが普通になるまであと少し……




新田
新田美波弟。軍艦オタクで姉の重すぎる愛をうける哀れな生贄。今回はギリギリのところで姉の企みを回避した。

和久井
和久井留美弟。小さい頃から姉に連れられてバッティングセンターに通い、プロ野球にスカウトされるレベル。新田の親友というより相方。学校では新田と和久井のBL本が腐女子の間で回し読みされている。

女神・新田美波を崇拝する会
地元広島でも有名な新田美波ファンクラブ(過激派)。最優先抹殺対象は新田くん。クリスマスライブでの出来事からその殺意は天井突破。新田くんが地元に残った場合、たぶんこの団体に殺される。

伊豆大学
漫画ぐらんぶるの舞台。新田くんは襲い掛かるPuBの魔の手から逃げ切ることができるのか……




そんな感じで新田美波弟の特別短編です。

クリスマスライブでぶちまけられた真実。当然美波ファンが黙ってないよね! ってことで弟くんはる~みんの弟くんと命を残すために頑張るお話でした。そして姉の魔の手から逃げても全裸の魔の手から逃げ切れるかはわからない弟くん。超頑張れ

今後はこの二人を出すから未定です。たぶん本編には出ずにこういう突発的な短編で出番があるかもしれません。

それもみなさんの反応次第ですね(訳:感想プリーズ


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楽しい塩見一家

愉快な塩見一家に新しい家族が仲間入りです


さて、緊急事態宣言再びである。世の中の飲食店が生き残りがやばい中、俺はお店を移転、改装中なのでそこまでダメージはない。

そして今は新居のキッチンで料理を作っている最中である。

俺の収入+美優の収入+美優の友人である飲兵衛お姉さま集団のカンパによって我が家はとても大きいものになっている。

するとどうなるか?

 「兄ちゃん、飯はよ!!」

 「お前もちょっとは料理しろよ」

リビングから飯の催促をしてきた周子に俺は突っ込む。すると周子の相手をしてくれていた美優がとても申し訳なさそうな表情になる。

 「周介さん、いつもすいません……」

 「美優はいいんだ、女神だから」

 「どういう意味ですか……!?」

俺の言葉に驚愕顔を浮かべる美優であったが、理解している周子は俺と一緒にサムズアップ。

そして苦笑しながら俺達のやり取りを見ている新しい家族が一人。

 「周介さんと周子ちゃんは相変わらずですね」

 「いやいや、詩音さんも塩見家に入るからには塩見菌に染まってもらわないといけませんぜ」

 「塩見菌とは」

 「最近芸能界で囁かれているキチガイの元凶と言われる病原菌だ」

 「ある意味でパンデミック……!!」

詩音も短いとは言え同じ故郷で育った身である。俺達の会話にも軽快に返してくる。

そして詩音は申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 「しかし、いいんですか? 新婚なのに私が一緒に住んでしまって」

 「みろ周子。これが日本の伝統の遠慮ってやつだ。団地の建設が伸びたからって勝手に転がり込んできたどっかの愚妹にも見習ってほしいものだ」

 「兄ちゃん、逆に聞くけど私が遠慮したらどう思う?」

 「脳の病気を疑う」

 「つまりそういうことや」

そういうことらしい。

さて、俺達塩見夫婦と昔からの友人である双海詩音が我が家で同居することになったのには理由がある。

イギリスにいた詩音は日本に帰ってくることになったのだが、父親も海外を飛び回っている関係で日本に滞在できる家がなかったのだ。

相談された俺は美優と相談し、クソほど部屋が余っている我が家で一緒に住むことを提案した。

だが、常識人である詩音は当然のように遠慮した。しかし、遠慮がないのは俺の友人達である。その情報を手に入れたキチガイ達は詩音の荷物を勝手に俺の家に送り、なおかつ空港で詩音を拉致って俺の家まで連行してきた。

最初は二週間の自主隔離期間が終わったら出ていくと行っていた詩音であったが、美優の「ぜひいてください」という善意1000%の言葉で出ていくことができず、我が塩見家の家族となることになった。

俺は作った料理を持ちながらリビングに向かう。

すでに空になったスピリタスの瓶が一本転がっていた。

 「周子、お前またスピリタス飲んだのか」

 「なんで私を疑うんや!! 美優さんか詩音さんかもしれんやろ!!」

 「美優はスピリタス飲めないし、詩音はワイン派だ」

美優がスピリタスなんか飲んだらべろべろんに酔っぱらってふにゃふにゃになってとても可愛いことになる……ちょっと久しぶりにその姿見たいな。

 「……美優、お水飲みたくないか?」

 「火の点かないお水をください」

完全に先読みされたので黙って普通の水を出す。

その光景を見てクスクスと笑う詩音。

 「相変わらず微笑ましいですね」

 「そう言っててもお前の後ろに転がっているワインボトル三本は消えないからな」

そっぽを向きながら口笛を吹く詩音。その手のワイングラスにはすでに四本目が空になるワインが注がれていた。

 「というかそれ柊さんが持ち込んでた奴だよな」

 「あ、志乃さんに連絡したらフランスの知り合いに樽で頼むって言ってました」

 「あの人この家を店だと勘違いしてないか」

美優の言葉に軽く戦慄する。だが、飲兵衛お姉さま集団はこの家ができて引っ越してきた初日に大量の酒と共に襲来し、俺につまみを作らせて徹夜で飲み明かしていた。

高垣さんは旭に迎えに来させたが、ほかの面々は当然のように家に泊まり、なんなら自分達の部屋割まで決めていた。

 「申し訳ないんですけど、周介さんと美優さんにご相談があるんです」

 「詩音さん、私には?」

 「周子ちゃん、これは真面目は話だから」

 「どういう意味や」

そのままの意味だろう。

真剣な表情のまま詩音は口を開く。

 「何かお仕事を紹介してくれませんか」

 「「あ~」」

割と切実な悩みであった。

 「安心しろ詩音。俺にいい考えがある」

 「……ダメです周介さん。前科が多すぎて全面的に信用することができません」

 「流石に草」

詩音の言葉に周子が指差し嘲笑いをしてきたので軽く罵り合ったあと、真剣な表情で俺も口を開く。

 「ハッカーの奴が詩音のパソコンにハッキングしかけたら面白いデータを見つけてな」

 「ちょっと待ってください」

俺の言葉に目頭を軽く揉む詩音。

 「私のパソコンにハッキング?」

 「ああ」

 「……なぜ?」

 「ハッカーのバカに理由を求めるのか?」

俺の言葉に黙り込む詩音。あのバカのことだからきっと誰かの弱みを握るためにハッキングを仕掛けたのだろう。暇つぶしと称してFBIの最重要データを盗み出してくるバカだ。

 「とりあえず犯罪行為を友人にされていたのは珍しくないからスルーするとしまして」

 「あ、そのあたりに慣れているのはあの町出身って感じですね」

 「やめてください美優さん!! その言われようは一緒にされているようで不本意です!!」

 「兄ちゃん、私らの出身地がボロカスのような扱いやで」

 「日本政府が『あそこは治外法権の土地』って明言している時点でアウトなんだろうなぁ」

住所上は日本の京都だというのに失礼な話である。

 「それで? ハッカーさんは私のパソコンから何を盗み出したんですか?」

 「うむ、自作小説だ」

 「ふぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

俺の発言に顔を真っ赤にして奇声を上げる詩音。

 「ちなみに友人一同で回し読みした」

 「鬼ですか!!」

 「ちなみに私と美優さんも読ませてもらったで!!」

周子の追撃に机に沈む詩音。どうやら本人的には秘密にしておきたい趣味であったらしい。

 「で、それの出来が良かったから勝手に新人賞に応募してみた」

 「何をしてくれているんですか!?」

速攻で俺の胸倉を掴む詩音。その顔は真っ赤だ。

俺はその反応を無視してイイ笑顔で言葉を続ける。

 「出版社から連絡があって書籍化したいってよ!! やったな!!」

奇声をあげることもできずに顔を真っ赤にして前衛芸術のような姿勢になる詩音。

 「そんなわけで俺が提案するのは小説家ルートだ」

 「み、美優さんは何かいい案はありませんか?」

俺の言葉に返答せずに詩音は美優に救いを求める。美優は少し考えていたが、何か思いついたのか嬉しそうな笑顔で口を開く。

 「一緒にアイドルをやりましょう」

 「……what?」

詩音の言葉に美優は言葉を続ける。

 「武内さんが新しいアイドルを探していましたので、勝手ながら詩音さんを提案してみたんです。そうしたら武内さんが会ってみたいとおっしゃっていました」

 「やったぜ詩音さん!! 私らと一緒にアイドルルートや!!」

 「周子、お前がこの話を逃しているはずがないよな」

俺の言葉に周子は不適な笑みを浮かべる。

 「当然や。詩音さんの大量の写真を提供したのは何を隠そう私や」

 「周子ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

まぁ、予想できていたことである。

 「さぁ!! 選ぶがいい詩音!! 俺の提案する小説家ルートか!!」

 「それとも私と美優さんが提案するアイドルルートかを!!」

 「詩音さんと一緒にアイドルやれたら楽しそうです」

無自覚に嬉しそうに詩音の退路をたつ美優。そんな美優も素敵である。

しばらく苦悶の表情を浮かべていた詩音だったが、絞り出すように口を開く。

 「しょ、小説家ルートで」

 「了解、出版社に連絡しとく」

詩音の言葉に俺が答える。

そしてどこかしょぼんとした表情をしながら美優が口を開く。

 「残念です」

 「大丈夫や美優さん。すでに詩音さんは346どうでしょうに出演決まっているから、そこからなし崩し的にアイドルにすればええんや」

 「聞こえてますよ周子ちゃん!! やりません!! 絶対にやりませんからね!!」

 

 

 「そういえば周子ちゃんの住む団地が建設伸びたのは何故ですか?」

 「ああ、それは設計に噛んでいた博士の奴が地下のMS工廠を勝手に作っていてな。それの撤去で建設が伸びたんだ」

 「博士さんにも困ったものやな」

 「それだったら仕方ないですね」

 「いえ!? 周介さんも周子ちゃんも詩音さんも納得してますけど、突っ込みどころしかありませんよ!?」




塩見周介
ついにマイホームを手に入れた居酒屋店主(尚、店は移転改装中

塩見美優
新婚なのに他の女性を同居することを許す女神。本人的に家族が増えて嬉しい模様

双海詩音
友人達の陰謀で塩見家に住むことになった

仲野周子
引っ越し予定の団地に兵器工場がみつかり、入居が伸びたために兄の家に転がりこんだ

周介くんの友人達
キチガイばかり




そんな感じで新年一発目は一年ぶり二度目の登場の双海詩音さんが塩見家に仲間入りしました。
周介くんと美優さんは知らないけど、裏では周子ちゃんが動いて正妻・美優さん、側室・詩音さん計画を実施した模様。そして見事に成功

そして明かされる塩見兄妹の故郷の真実!! なんと政府から治外法権扱いされていた!!

どんな町だ


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新田弟のバレンタイン

バレンタイン特別編です


新田は電話をかけながら「早くでろ…!早く出ろ…!」と必死に願う。

電話の相手が忙しいのは知っている。テレビでもやっているし、日々のlineでもやりとりしている。

そして新田の願いが叶う。

 『……なんだ』

 「助けてわくえもん!!』

新田の叫びに電話相手である和久井は即座に電話を切った。

当然のように新田はそういう仕打ちをされるのはわかっている。むしろ素直に助けてくれたら偽物を疑う。

即座に電話をかけ直し、98回目のコールで再びつながった。

 『今はキャンプで忙しい。つまりお前に関わっている時間はない。じゅあな』

 「電話を切ったら貴様が姉貴からチョコをもらったというデマを過激派に流す」

 『きさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 「ははははははは!! 新人プロ野球選手とアイドルだったらリアルにあり得そうだからなぁ!!」

しばらくお互いに罵詈雑言を飛ばし合っていたが、電話相手の和久井はため息を吐きながら話題を始める。

 『それで? 美波さんからチョコでももらったか?』

 「ああ、うん。それなんだけどさ。とりあえずこの写真みてくれる?」

そう言ってから新田はスマホに撮っておいた姉から送られてきたものを和久井に送る。

そして和久井はそれを見たのか絶句していた。

 「これ姉貴から送らてきたチョコなんだけどどう思う?」

 『やばいな、ガッチガチの本命中のド本命のチョコだ』

和久井の言う通り、姉から送らてきたチョコはどう考えても、ラノベの主人公が持っている鈍感スキルを持ってしても絶対に気づくであろう本命チョコであった。

 「しかもまだ続きがあってさ」

 『嫌だ、聞きたくない』

 「とりあえずチョコを割ってみたら中から指輪が出てきたんだよ」

和久井の反応を無視して新田は告げる。新田の言葉に和久井も絶句だ。

 「和久井、助けて」

 『無理だ』

 「そこをなんとか!! いつもみたいに何かいいアイディア頂戴!!」

 『無理だ……あ、山田さん。お疲れ様です』

和久井が電話の向こうで誰かに挨拶をしている。それが終わるのを待ってから新田は尋ねる。

 「山田太郎選手?」

 『そうだよ。今キャンプ中って言ったろ』

 「知ってる知ってる。スポーツニュースでもやってるし」

ルーキーイヤーである和久井は入団した東京スーパースターズの春季キャンプに参加していたのである。

 「どう? 開幕一軍でスタメンいけそう?」

 『お前は岩鬼さんのポジションがそんな簡単に奪えると思う?』

 「思わない」

 『その通り』

高校時代は三塁手だった和久井は内野手として東京スーパースターズに入団していた。

 「どんな感じ?」

 『監督から打撃センスはいいって言われたな』

 「流石」

高校時代から打撃センスがずば抜けていた和久井である。それはプロになっても通用するらしい。

 『守備面の強化が指定されてな。あとはコンバートされた』

 「へえ、どこ? セカンド?」

 『どんだけ練習しても殿間さんの守備を超えれる気がしない。ショートだよ』

それは新田も初耳情報である。なにせテレビでは打撃練習のシーンしか映らない。

 「練習は順調?」

 『順調……いや、確かに順調なんだが……』

和久井にしては珍しく歯切れが悪い。

 「何か問題でもあったの?」

 『いや、新田は346どうでしょうに出てる塩見周介さんって知ってるか?』

 「お~、知ってる知ってる。346どうでしょう俺大好き。その塩見周介さんがどうかしたの?」

 『その人が守備の臨時コーチでキャンプに来てる』

 「……んん?」

思わず新田も疑問の声をあげる。

 「塩見周介さんってあの塩見周介さんだよな?」

 『ああ、キチガイ行動で芸能界を混沌に叩きこんでいる塩見兄妹のお兄さんだ』

 「……素人さんだよな?」

 『いや、それがな』

新田の当然の疑問に和久井が説明を始める。

 『まず塩見周介さんの守備の上手さが尋常じゃない。それこそ普通にプロレベル』

 「素人とは」

 『で、岩鬼さんが里中さんと山田さんのバッテリーに『おう! 甲子園での借り返してやれや!』ってことで四打席勝負することになった』

 「塩見周介さんって甲子園出て明訓と戦ってたんだ」

 『明訓五人衆の3年の時の甲子園は名試合が多いから見たほうがいい』

 「悪いけどそこまで野球に入れ込めない」

新田の言葉に電話先で和久井は笑った。

 「で、勝負の結果は? やっぱり明訓の黄金バッテリーの勝ち?」

 『塩見周介さんがサイクルヒット決めた』

 「……」

 『……』

 「……素人?」

 『本人曰く『山田の配球とは相性がいい』ってさ』

 「相性だけであの山田太郎と里中悟からサイクルヒット打てないだろ」

 『だけど打ってんだよなぁ』

なんというか普通に説明できないのが塩見の血である。

 『悪いがもう今日は寝るな』

 「あ、悪い。それじゃあ頑張ってな」

それだけ言って新田は電話を切る。

そして自分の要件が終わってないことに気づいて再び電話をかける。

189回コールしてからようやく出た。

 『……ち』

 「危うく俺の要件を忘れるところだった」

開口一番に舌打ちされたが、新田はへこたれない。

 「どう? このチョコをどう処分するか思いついた?」

 『食べたら?』

 「切った断面から髪の毛が入っているのが確認できましたが?」

 『oh……』

和久井も思わずアメリカンになる。

それはそうだろう。弟のチョコにド本命でチョコの中に指輪と髪の毛をいれる姉。どう考えても駄目である。

 「お願い……何かいいアイディアをください……」

 『とうとう哀願になったな』

 「そこまで追い込まれているんだよ……!!」

新田の心の叫びである。

しばらく無言の空間が広がる。新田の想像でしかないが、和久井がいつも考えているポーズをしている。

 『はっきりいってこの方法は新田のお姉さんにとって厳しいぞ?』

 「この際、姉貴には厳しいくらいがちょうどいい」

 『父親に食わせろ。そのうえで美波さんには『あ、お父さんが間違って食べちゃった』って伝えろ』

 「ナイスアイディア!!」

和久井の言葉に新田は笑顔になる。そして即座に姉に向けて『ごめん、姉貴のチョコ、親父宛てだと思って親父が食べちゃった』と連絡する。即座に既読がつき『そっかぁ、じゃあ今度の旅行を楽しみにしてるね』と帰ってきた。

それを見てさらなる爆弾が埋まっていたのを思い出す。

 「ねぇ、わくえもん」

 『聞きたくない』

 「姉貴から大学受験失敗の慰安旅行に行くことになってるんだけど」

 『家族で?』

 「二人っきりで」

そして電話を切られる。即座に電話をかけなおすが300コールしても今度は出てくれなかった。

新田はスマホを放り投げて大きく叫ぶ。

 「万策尽きたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




新田(弟)
姉からガチガッチ本命のチョコを送られて困っていたらさらなる地獄(二人っきり旅行)が待っていた

和久井(弟)
自分はプロ野球選手としての第一歩、そして姉が婚約発表でいい感じだったのが新田の相談で最悪になった。

塩見周介くん
守備はプロでも通用する居酒屋店主

新田姉弟のラブラブ旅行(美波視点)
コロナのせいで流れることになった



そんな感じでバレンタイン特別編です。
弟にガチガッチのド本命チョコを送るむぃなみぃ、そして受験失敗の慰め旅行という二段構えの装備で弟にリーチをかける。

ギリギリのところでそれを避けることに成功した新田くん。

彼は無事に大学に入学することができるのか……!?


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みゆさんのおたんじょうび

相変わらず独自設定を多くぶちこむ作者です

美優さんには作者の趣味に染まってもらう(悪党


 「「「誕生日おめでとう!」」」

 「あ、ありがとうございます」

少し照れている美優にこっちが幸せになってしまう。

さて、今日は美優の誕生日。そんなわけで我が塩見家(俺、美優、詩音)に周子も我が家にやってきて誕生日パーティである。

 「まぁ、これも毎年言うとるんやけど」

そう前提がついたと思ったら周子が俺をジト目で見てくる。

 「兄ちゃん、作りすぎ」

 「大丈夫だ。今月は詩音の誕生日も美優と一緒に盛大に祝ったからな」

 「理由になっとらん」

自分で言っておいて自覚した。

そんな兄妹のやり取りを見ながら詩音が口を挟んでくる。

 「でも、これだけ料理が多いと貴音ちゃんも呼んであげればよかったんじゃないですか?」

 「あ~、確かに。あいつもよく食うからな」

 「? 貴音ちゃんって765プロの四条貴音ちゃんですか? 周介さん、知り合いなんですか?」

美優の言葉に周子と詩音が信じられないような視線で俺を見てくる。

それに俺も焦った。

 「あれ? 美優にはいったことなかったか?」

 「何がでしょう?」

 「俺と貴音と周子。実の兄妹」

しばらく唖然とした表情を浮かべていた美優だったが、すぐに驚愕の声をあげる。

 「えぇぇぇぇぇぇぇ!!! そうだったんですか!?」

 「兄ちゃん、説明してなかったんか」

 「あれぇ? でももう一人養子に行った妹がいるって話は付き合ってすぐくらいの時にしなかったか?」

 「そ、それは聞いていましたけど……貴音ちゃんだとは聞いていませんでした」

詩音と周子からのジト目がつらい。

全面的に俺が悪いので素直に土下座する。

 「申し訳ございませんでしたぁぁ!!!!」

 「ど、土下座はいいですから……!!」

速攻で土下座を解除させてくれるとか美優は女神かな? ああ、女神か。

起き上がった俺を見て美優はため息を一つ。

 「どうりで貴音ちゃんと仕事が一緒になった時に距離が近いと思ったんです」

 「兄ちゃん、姉ちゃんに連絡したら『仕方ないので兄のら~めんで手を打ちましょう』だってさ」

 「とんこつベースと煮干しベースのどっちがいいか聞いとけ」

貴音はとりあえずラーメンを食わせておけば問題ない部分もある。

そして何かに気づいたのかのように美優が口を開く。

 「そ、それじゃあ今度のプロダクションの垣根をこえてユニット組むことになって、私と周子ちゃんが貴音ちゃんと一緒になったのって」

その言葉に周子が笑顔でサムズアップ!

 「もちろん私の陰謀や!! 名付けて『Shiomee』!! 芸能界を混沌の世界に叩き込こもうZE!!」

 「周子ちゃんと貴音ちゃんだとそれできちゃうやつです……!!」

 「美優さん、芸能界の平和は美優さんにかかってますよ」

 「詩音さん、他人事だと思ってぇ!!」

半泣きになっている美優も可愛いなぁ。

 「そういや兄ちゃん」

 「ん? どうした?」

 「私ら兄妹の中で姉ちゃんだけまだ独身なわけやけど」

 「オーケー、把握した」

 「それきっと把握しちゃダメな奴です!!」

美優の突っ込みに心底心外な表情を浮かべる俺と周子。

 「そんな!! 俺達はただ和久井さんの時みたいに男の逃げ道をなくして結婚という選択肢を強制的に選ばせるだけなのに!!」

 「そうやで!! 和久井さんは幸せ、私らもその光景を見て幸せ……みんな幸せになれる優しい世界やないか!!」

 「そのやり方が問題なんです!!」

はて、何が問題だったのだろうか。俺達は単に和久井さんにアプローチをかけていた輩の逃げ道という逃げ道を全て塞ぎ、強制的に婚約させただけだというのに。

そして周子は何かに気づいたかのように手を叩く。

 「安心してや美優さん!! もしあの男が留美さんと別れるって言いだしたら社会的に抹殺する手筈は整えてあるで!!」

 「なるほど、それが心配だったのか」

 「二人とも!! 本当にそういうところですよ!!」

怒られてしまった。

今度はそれまで笑いながら俺達のやりとりを見ていた詩音が口を挟む。

 「そういえば周介さんは東京スーパースターズの春季キャンプに呼ばれていましたけど、何故ですか?」

 「そういえば突然『東京スーパースターズに呼ばれたから行ってくる』って沖縄にいきましたね」

 「ああ、それは山田から『今、収入なくて大変じゃないかい? もしよかったらうちのキャンプで食事を作ってくれないかな?』って言われてさ。お金も出してくれるらしいから行ってきた」

俺の言葉に納得の表情を見せる美優と詩音。

しかし、今度は周子が首を傾げながら口を開いた。

 「でも、光輝が言うには兄ちゃん臨時守備コーチやっとったって」

 「「え?」」

周子の言葉に疑問の声がはもる美優と詩音。

その言葉に俺は頷く。

 「土井垣監督から『守備力はプロレベル』というお墨付きをもらった」

 「いや、何しにいっとんねん」

 「シェフ兼臨時守備コーチだ。そういえば和久井さんの弟にも指導したぞ。めっちゃ『なんでこいつプロじゃねぇの』的な視線で見られたけど」

 「なんで兄ちゃんプロ野球選手じゃねぇの?」

 「山田世代が稀にみる当たり年だから俺みたいな守備だけ選手はドラフトに引っかからなかったZO!!」

 「魔境世代……!!」

いや、マジで山田と同世代で高校野球をやれたのは幸せだったと思っているが、プロは自分には無理だなと痛感させられる世代だから。

 「はいはい!! とりあえず脱線はここまで!! さぁ、こっからは楽しいプレゼントの時間だ!!」

俺の言葉に美優は苦笑し、周子は不適な笑みを浮かべる。

 「兄ちゃん、今年こそ勝たせてもらうで」

 「お前が美優のことで俺に勝つ? 絶対にありえないということを今年も教えてやろう」

二人で荒ぶる鷹のポーズをしている横で詩音が美優に質問している。

 「美優さん、どういうことです?」

 「あはは、周介さんと周子ちゃんは毎年『どっちのプレゼントが私が喜ぶか』で勝負をしていまして……」

 「……愛されてますねぇ」

 「あ!! 来年からは詩音さんの時も同じことやるで!!」

詩音の呟きに周子が笑顔で突っ込むと、詩音は顔を真っ赤にして俯いた。

しかし、顔をもにもにしながら詩音は美優に向き直る。

 「そうなると何が出てくるのかまったく予想ができないので、私から先にプレゼントを渡しますね」

 「あ、すいません。ありがとうございます」

そう言って詩音からプレゼントを受け取る美優。

 「ちなみに詩音、中身は?」

俺の言葉に詩音は不適な笑みを浮かべる。

 「美優さんにはシンプルな腕時計がよく似合う……!! つまり私のプレゼントは『ボーム&メルシエのプロメス』……!!」

 「「ぐっはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」

詩音の言葉に吹き飛ぶ俺と周子。

 「し、詩音、やるじゃねぇか……!!」

 「まさかこの短期間でここまでで『美優さん大好きレベル』をあげとるとは……!!」

 「ふ、伊達に一緒に暮らしていませんよ」

同性からも愛される存在。それが美優である。

 「だがしかぁし!! 私のプレゼントには勝てない!! 私のターンや!!」

そう言って持ってきた大きな荷物を開く周子。

その中身を見て美優の顔が輝いた。

 「わぁ!!」

 「そう!! 実は艦船好きな美優さんには日本人ならみんな大好き戦艦大和!! その『1/144 超精密巨大迫真模型 戦艦大和』や!!」

 「な、なんですって!? まさか美優さんはミリタリーも行ける口……!?」

 「ちなみに詩音、美優は戦車だったらイギリス戦車が好きだぞ」

 「覚えておきましょう」

俺の言葉に即答する詩音。こいつも着実に『美優さん大好きクラブ』に染まりつつあって結構である。

子供みたいな歓声をあげて2メートル近い模型をしげしげと眺めている美優。

それを見て周子は俺の対して不適な笑みを浮かべた。

 「どうやら兄ちゃん。今年こそは私の勝ちのようやな」

 「ふ」

周子の言葉を俺は鼻で笑う。

 「周子、お前の着目点は良かった。実は艦船好きな美優の好みのいいチョイスだ。だが……!!」

俺はそう言って隠しておいたプレゼントを取り出す!!

 「実は美優が一番好きな戦艦は横須賀にある三笠!! そんなわけで俺のプレゼントは『1/350 日本海軍 戦艦 三笠”進水120周年記念”』!! そしてこれには俺の技術だけでなく、友人のプロモデラーの技術も詰め込んだ一級品……!!」

 「わぁ!! わぁ!! 周介さん!! これって確かZ旗のバンダナもついていたんじゃ!?」

 「ああ、これだ」

 「わぁ!! わぁ!! わぁ!!」

圧倒的に俺のプレゼントのほうが喜んでいる。

俺は勝ち誇った表情で周子を見る。周子はとても悔しそうな表情を浮かべていた。

 「く!! まさか美優さんが好きな艦船が三笠だったとは……!!」

 「ちなみに美優は大和型だったら武蔵が好きだ」

 「二重に不覚……!!」

がっくり肩を落とす周子。

 「それじゃあ俺の」

 「ちょぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁ!!!!」

俺の勝利宣言を潰してきたのは部屋に急いで戻っていった詩音であった。

そして詩音はずびしと俺を指さしてくる。

 「勝利宣言にはまだ早いですよ!!」

 「ほう!! 俺の三笠を越えることができるというのか!!」

俺の言葉に詩音は持ってきた品物を取り出す。

 「これが私の最後のターンです!! いざ!! 『イギリスのテムズ川に浮かぶ本物の巡洋艦ベルファストの生写真』!!」

 「「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」」

 「わぁ! わぁ! わぁ! わぁ!」

驚愕する俺と周子。めっちゃテンションあがる美優。何枚かあるのか熱心に写真を見始める美優。その顔は興奮と喜びに満ちていた。

 「ば、バカな……!!」

 「私らが負けたやと……!!」

崩れ落ちた俺と周子に詩音はずびしと指をつきつける。

 「あなたたちの敗因はイギリスにいた私に軍艦勝負を挑んだことです!! 日本でも確かに見れる。しかし!! イギリスのベルファストのほうが日本人的にレアリティは高い!!」

 「「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」

 

 

ちなみに正気に戻った美優は顔を真っ赤にして恥ずかしがって俺達を悶えさえたのは言うまでもない。




塩見周介
野球の守備レベルプロ級な居酒屋店主

塩見美優
実はミリタリー好き

仲野周子
旦那ほったらかしで兄の家に入り浸る

双海詩音
すごい勢いで『美優さん大好きレベル』を上げる同居人

美優さんへのプレゼントの模型とか写真
全て無駄に広いリビングに飾られることに。Z旗バンダナは美優さんがバッグにワンポイントでつけた

四条貴音
幼い頃に親戚の四条家の養子にいった塩見家長女



そんな感じで美優さん誕生日編でした。
なんか話の流れでミリタリー好き設定が盛られた美優さん。きっと大和軍曹と仲が良い。
そして美優さん大好きレベルもすさまじい勢いであげる詩音さん。美優さんの人たらしレベルカンスト中

そして独自設定をさらにいれました。765のおひめちんを塩見家にスカウト。これの理由は作者がポプマスでおひめちんを最初に選んだだめ。
周子ちゃんはよ(美優さん、おひめちん、アーニャ選択。周子ちゃんが実装された場合はアーニャんが周子ちゃんに変わります

そのうちおひめちんも出したいなぁ、と思っています


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大丈夫?塩見の一族だよ?

サブタイトル通り今回は塩見の一族しかでません

主に765プロに対してのテロ予告が行われているくらいなので大きな問題はありませんね!!


 「お~い、美優、そろそろ元気だせって」

 「駄目です、周介さん……このショックはしばらくひきずりそうです……」

緊急事態宣言があけて新装開店した我が店。だが、相変わらずの夜は閑古鳥であった。

いつもやってきてどんちゃん騒ぎする飲兵衛お姉さま集団もみんな仕事らしく、お店は本当に空っぽです。

 「ほれ、高橋さんと柊さんのラジオがお酒入っていい具合に何言っているかわからなくなってきたから」

 「うぅ……」

俺の言葉にも女将姿でカウンターに突っ伏す我が妻である美優。その姿もとても愛らしいのだが、ショックを受けている内容が内容なのでなんとも言えない。

 「まいど~」

 「お~、周子……って、貴音も一緒か。久しぶりだな」

 「ええ、今日は周子と仕事が一緒だったので」

 「貴音と周子が一緒とかその仕事大丈夫かよ」

 「ええ、律子が吐血しましたがたいした問題ではないでしょう」

養子にいった我が妹も相変わらずいい性格をしている。

 「お、兄ちゃん。美優さんが超へこんでいて可愛いんやけど、なにかあったん?」

 「聞いてください周子ちゃん!!」

周子の言葉に美優はがばりと起き上がって周子にすがりつく。その姿を隠し撮りしながら周子は優しい笑顔を浮かべる。

 「どうしたんや義姉さん」

 「我が妹ながら何故笑顔があんなに胡散臭いのでしょう」

 「それな」

 「シャラップ、兄ちゃん、姉ちゃん」

貴音の言葉に俺が力強く頷くと周子が黙るように言ってきた。

そして美優が先ほどまでへこんでいた理由を絞り出すように口を開く。

 「戦艦・土佐ガチャが終わってしまったんです……!!」

 「……んん? アズレン?」

 「何を言っているんですか、周子ちゃん。アズレンはちゃんと全員コンプしていますし衣装も全部買っています!!」

 「兄よ、義姉がアズレンの廃課金者だと知った義妹はどういう反応をとれば正解でしょう?」

 「お前も廃課金者だからな」

 「何故FGOには天井がない……!!」

俺の返しに貴音は悔しそうにカウンター席を叩く。

そして美優と周子の会話が続く。

 「蒼焔の艦隊に決まってるじゃないですか」

 「あかん、聞いたことないソシャゲが出てきた。兄ちゃん、説明」

 「擬人化していないガチの戦艦ソシャゲ」

 「把握」

周子の言葉に美優の嘆きが終わらない。

 「うぅ……お仕事が忙しくて引くのをすっかり忘れていました……」

そして床に潰れて嗚咽する美優。

その姿を見て納得した様子を見せる貴音。

 「なるほど。塩見に相応しい奥方ですね」

 「まだまだ塩見レベル低いけどな」

 「だが、それがいい」

貴音の言葉にまったく同意見だったので貴音とガッチリ硬い握手。そして美優も周子に起こされてカウンターへと戻ってきた。

周子もカウンターに座ったので『塩見家専用大盛りメニュー』を作り始める。カロリーを無視したカロリーの暴力。これを平然と平らげるあたりに我が妹’sのアイドル意識の低さが垣間見れる。

 「そういえば、兄ちゃん」

 「なんだ」

 「346どうでしょうで各方面の調整とか無視してやりたくてやった『うまぴょい伝説』の動画なんやけど」

 「ああ、センターに美優にその両側に周子と貴音。ほかのダンサーも飲兵衛お姉さま集団とか三峰ェ!のグループとか使ったやつか?」

 「それや」

つい先日リリースされた競走馬を擬人化したソシャゲ『ウマ娘』。当然のように流行はとりあえずやってみる我ら塩見三兄妹。配信初日に手を出した。

そして貴音が見てしまった『うまぴょい伝説』

そっからは早かった。速攻で会場とダンサーのアイドルを集めると俺の友人達にも手伝わせて『うまぴょい伝説(アイドルversion)』を撮影、公開した。

 「いやぁ、反応がやばすぎて良くてなぁ。他のアイドルのチュー顔がみたいっていう問い合わせがやばくて346プロの問い合わせフォームがパンクしたんよ」

 「それはやばいな」

だが気持ちがわかる。美優のチュー顔を見て慣れているはずの俺も思わず発狂して一緒にいた友人にフランケンシュタイナーで正気に戻されたのだ。

 「美優が少し顔を赤らめているのもポイント高い」

 「「わかりみが深い」」

まったく同意の妹’s。そしてその会話を聞いて思い出したのか再び顔を赤らめる美優。

俺は黙って三膳の白飯を用意して周子と貴音の前に置く。わかっているのか周子と貴音も白飯を持つ。

 「「「(美優/義姉/美優さん)のテレ顔で飯がうまい!!」」」

 「三人とも!!!」

怒られたがある意味本望である。

とりあえず美優のテレ顔で白飯を食べ終わってから会話を進める。

 「だけどあれやったあとめっちゃ怒られたじゃん。いや、283プロのPだけは『次は本能スピードとかどうだろう』って乗り気だったけどさ」

 「うちの律子なんて『勝手に動画にでるな!』とつまらないことで怒り狂ったというのに……」

 「いえ、加担した私が言えたことじゃないですけど、プロダクションに無断で勝手に他所の動画……しかも番組に出るのはまずいと思います」

 「「ははは、面白いことを」」

 「まったく気にしていませんね……!?」

周子と貴音の言葉に驚愕顔を浮かべる美優。

そして貴音は何か思い出したように口を開く。

 「そういえばうちのPからの依頼で346どうでしょうで765プロを出させてくれないかと言っていましたね」

 「「ほう」」

ギュピーンと光る俺と周子の眼。

 「貴音」

 「この日だったら律子も含めて全員が油断しているでしょう」

 「ふぅ!! 流石は姉ちゃん!! 話が速い!!」

俺の言葉に速攻で『765プロ所属アイドルがなるべく集まっていて且油断している日付』を教えてくれる貴音。

 「問題は何をやるかだな」

 「とりあえず襲撃であとは流れに身を任せてもいいのでは?」

 「もしもの時のために幸子ちゃん……あ、ダメや。その日は幸子ちゃんアラスカに熊と戦いにいっとる。しゃ~ない、りあむちゃん拉致るか」

速攻で組み立てられる犯行計画。それを苦笑しながら見ている美優。

 「みなさん、やりすぎないようにしてくださいね?」

 「塩見家的にやりすぎないから大丈夫」

 「四条家的にもセーフだから問題ありませんね」

 「つまり私らのやることは全面オッケーってことやな……!!」

 「三人とも!! そういうところですよ!!」

美優に怒られてしまったが、我々にとって美優のお説教はご褒美(貴音も速攻で懐いた)のでなんの問題もないな!!

とりあえず346どうでしょうによる765プロ襲撃計画(内通者あり)をたててから会話を戻す。

 「それで? うまぴょい伝説動画だったか?」

 「そうやねん。『推しアイドルでやってくれ』って要望がめっちゃきててなぁ。あと何故か美波ちゃんもやってみたいって言っていてなぁ」

 「それどう考えても弟くんに送るだろ」

 「何か問題あるか?」

 「俺達に被害がない時点で何の問題もないな」

 「二人とも!!」

俺と周子のハイタッチに美優が怒鳴ってくるが我々にとってry

そして貴音がおもむろに口を開く。

 「作麼生」

 「「説破」」

 「そもそも『うまぴょい伝説』は何の時に歌われるか?」

 「「その時衝撃走る……!!」」

貴音の言葉はもっともである。

 「つまり中山競馬場で『アイドルレース!!』を開催してその優勝者が歌うってことだな!!」

 「ええ、それだったら他のプロダクションも巻き込めるし、ファンも納得するでしょう」

 「最高のアイディアやないか!! 流石は姉ちゃん!!」

 「あの……ちょっといいですか……?」

いかれた会話を止めるのはこの中で唯一正気の美優。

 「そもそも中山競馬場が借りられるとか、ライブ会場はどうするんだって話が……」

 「兄ちゃん」

 「安心しろ、すでに社長に話は通した。絶対に金になるからヤツは乗ってくる」

 「社長さん……!!」

美優の心配など社長の財力を使えば簡単に解決できるのだ!! やっぱり友人って大事だな!! 何故か基本的に鬼畜かクソか外道みたいなキチガイしかいないけど!!

 「そういえば周子。美優と相談したんだけどさ」

 「兄、食料はやく」

話の腰を速攻で折ってきた貴音に特別メニューを出しつつ会話を続ける。

 「これ以上伸ばしても仕方ないから結婚式を12月に挙げようと相談していたんだけど」

そう、相談内容は結婚式である。コロナのせいでずっと伸ばしていたが、俺の友人の博士が『コロナ絶対破壊する空気清浄機』を開発したので、12月にあげようと思ったのだ。それで、前から『一緒に結婚式やろうぜ!!』と言っていた周子にも声をかけたのである。

 「兄、周子。少しいいですか?」

 「? どうした貴音」

そして手をあがて意見を求めてくる貴音。

 「その時期だったら私も許嫁と籍を入れている予定なので一緒にいいですか?」

 「ええで!!」

 「お、ようやくお前も結婚か。だいぶ遅かったな」

 「いえいえ!!! 爆弾発言ですからね!!」




塩見周介
初うまぴょいがアグネスタキオンで複雑な気分になった

塩見美優
引きたかったガチャを仕事で忙しくて忘れるという大ミス。ちなみに艦これもやっている

仲野周子
新婚生活を楽しんでいるし芸能生活も多いに楽しんでいる

四条貴音
765プロ所属のアイドルで周介くんの実妹で周子ちゃんの実姉。当然のように普通じゃない。許嫁の存在もプロデューサーにはいっていない。
つまりテロ婚

うまぴょい伝説(アイドルversion)
作者がみたいんだよ!! やってくれ公式!!



そんな感じで更新です。

今回から実妹が発覚した貴音ちゃんも本格参戦。そしてプロデューサーに無断で速攻で結婚宣言をするあたり完全に塩見の血族。これには律子さんもぶち切れ案件。

そして12月に結婚式をやることにしました。結婚式が最終回なので終わりのカウントダウンが入ります。

残り短い間ですがよろしくお願いいたします。


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346どうでしょう主催第一回G1アイドル杯

今回は作者の都合で短い上にできが悪いです

ご容赦ください(土下座


How do you like 346プロダクション?

 

 「おかげさまで三週に渡ってお送りしている『346どうでしょう主催第一回G1アイドル杯も残すところ最後の1レースになりました」

 「短距離で中距離でなかなか盛り上がったから最後の長距離にも期待していいぞ」

 「ちなみに最後の長距離も当然のように他のプロダクションから参戦しとるで!」

 「俺達が勝手に決めたにも関わらず参加してくれたアイドルには感謝しているぞ」

 「765の秋月さんはぶちぎれていたけどね!」

 「765に関しては全部貴音のせいだからな!」

 「とりあえずレースをどうぞ!」

 

 

 

4月某日

 「さぁ! 中山競馬場を貸し切って行われている346どうでしょう主催G1アイドル杯も最後の1レースやで!」

中山競馬場実況席。ここでは周子と周介が実況席でレースの実況と解説をおこなっていた。

 「最後の長距離。前の2レースと一緒で馬の距離を人間でやったら普通に死ぬので人間用の距離だぞ」

 「短くしたと言っても長距離! その距離は1000mや!」

 「割と体力がないと走り切るのも無理だからな。長距離には体力自慢のアイドルを並べたで!!」

そしてカメラがスターティングゲートに映る。そして周子が走者の説明に入る。

 「1番。765プロダクション所属菊地真」

 「元祖体力アイドルだな。ダンスやアクションで培った体力を見せて欲しいものだ」

 「2番。346プロダクション所属大和亜季」

 「ミリタリーオタクをなめたらいけない。サバゲーで鍛えた能力は伊達じゃない」

 「3番。346プロダクション所属輿水幸子」

 「短距離、中距離に続き長距離にもエントリー。すでに3レース目だからな見るからに疲れているな」

 「それでもレースに出すあたりに幸子ちゃんのプロデューサーの鬼っぷりがわかるで」

 「それな」

 「4番。283プロダクション所属有栖川夏葉」

 「データによるとストイックに自分を鍛えるのが趣味らしいな。なんと1番人気だ」

 「5番。765プロダクション所属天海春香」

 「初代アイドルマスターが颯爽と参戦。割と本人がノリノリなのが驚きだ」

 「6番。346プロダクション所属夢見りあむ」

 「炎上アイドルが中山競馬場に参上。本人は死ぬほど嫌がっていたが俺達が無理矢理参加させた」

 「7番。283プロダクション所属三峰ェ!」

 「本人はかたくなに嫌がっていたが、アイドルのサイン付き生写真で釣ったら即座に快諾したアイドルクソオタクだ」

 「最後の出走者は8番。346プロダクション所属ヘレン」

 「まさかの銀河級アイドルが緊急参戦。世界ツアーで忙しいときいて流石の俺達も遠慮したところ、朝レースにやってきて出走宣言だ。流石は銀河級アイドルは格が違う」

 「以上の8人で長距離レースをやっていくで!」

案内も終わり、高らかにレースを告げるファンファーレが鳴り響く。

 「さぁ! 最終レースが今……開始!! 全員綺麗なスタート……ああっと!! まさかのヘレンが決めポーズを決めていて出遅れ!!」

スターティングゲートの中で決めポーズを決めているヘレン(爆発エフェクト付き)

 「ようやくヘレンもスタートをしたが、他のアイドルとはだいぶ離されたな」

 「さぁ! 先頭をいくのは大和亜季! 完全に逃げの態勢に入りました! 3人身ほど離れて菊地真、有栖川夏葉、三峰ェ! そこから2人身ほど離れて天海春香! さらに離れて死にそうな表情で走っている輿水幸子と夢見りあむ! そして最後尾にヘレンがいます!」

 「幸子ちゃんはすでに3レース目。夢見は根っからのインドア派だからな。走り切るだけでも大変だろうに」

 「そう言っている間に最終コーナーに入ります!! おおっとここで菊地真と有栖川夏葉が一気に上がってくる!! 逃げる大和亜季!! 追う菊地真と有栖川夏葉!! ここで最後の直線に入ります!!」

 「待て周子!! 大外から奴が来ている!!」

 「奴って誰や!!」

逃げる大和に追う菊地と有栖川。そして大外から飛ぶようにやってくるあの孤独なsilhouette……!!

 「「ヘレンだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」

置いてけぼり食らっていた幸子やりあむ。一生懸命に走っている天海春香。その天海春香の近くでそのスメルを堪能している三峰達をごぼう抜きして先頭集団に追いつくヘレン。

 「おおっとここで先頭が有栖川夏葉に交代!! だが菊地真と大和亜季も追いすがる!! そして圧倒的な速度で追い上げるヘレン!!」

 「ヘレンって先頭と40mくらい離れていたけよな?」

 「不可能を可能にするのがヘレンや!!」

 「説明になっていない……!!」

だが、周子の言葉を証明するようにヘレンは一気に先頭集団に追いつき抜き去ろうとしている。

 「ここでゴール!!」

 「四人がもつれるようにゴールしたな」

 「さぁ……写真判定に入ります……1着はヘレン!! まさかの出遅れからの追込でトップになりました!!」

 「あいつ本当に何者なんだ?」

 「2着に有栖川夏葉、3着に菊地真です!!」

 

 

 

 「そんな感じでトップはヘレンさんでした」

 「いや映像を見た人も感じたと思うけど最後の追込半端なかったな」

 「不可能を可能にする女……それがヘレンさんや!!」

 「勝利者インタビューも『そう! 不可能を可能にする女!! それが私!!』って宣言していたからな」

 「さて、皆さんお待ちかねの『ウマぴょい伝説』のお時間です。センターにヘレンさんという超豪華なウマぴょい伝説やで!!」

 「恥ずかしがる真ちゃんとノリノリの有栖川にも注目だ」




346どうでしょう主催第一回G1アイドル杯
主に塩見家が悪乗りして行われた。わざわざ中山競馬場でやるあたりに悪乗りの極みである

短距離、中距離、長距離
それぞれ100m、500m、1000m。それぞれの優勝者がウマぴょい伝説のセンターを務める

ヘレン
不可能を可能にする銀河級アイドル



そんな感じで今月の更新です
出来が悪いのは作者本人が一番わかっています。
短いのはちょっと作者のリアルが忙しいので、公募の期限が近くてマジで二次創作書くヒマがないのです。

来月にはもうちょっとマシなものができたらいいなぁ


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披露宴の招待客

ちゃんと考えて呼ばないとガチテロになるのが周介くんの交友関係


ヨルムンガンドががっつりクロスしてきます


 「兄ちゃん、来たでぇ」

 「急に呼び出しとはなんですか兄」

家のリビングに入ってきたのは周子と、つい最近テロ入籍を果たした貴音(なお、765のプロデューサーである秋月律子さんはマジ切れしたらしい)

そしてリビングに入ってきた周子は何かに気づく。

 「あれ? 兄ちゃん。美優さんと詩音さんは?」

 「二人でデートだ」

 「「詳しく」」

俺の言葉に身を乗り出してくる周子と貴音。

俺はそんな二人を落ち着かせながら口を開く。

 「二人の情報が欲しければ俺の質問に嘘偽りなく答えろ」

 「「塩見の血に誓って」」

 「俺達の披露宴にココを呼んだのはどっちだ?」

俺の言葉に速攻で顔を逸らす周子。

俺はその頭をがっちり掴む。

 「いたたたたたたた!! 兄ちゃん!! 痛いって!! ダメダメ!!」

 「痛くしているから当然だなぁ!!」

ココ・ヘクマティアルというのは俺の友人である。海運の大会社HCLIの御令嬢で中学時代に俺達の中学に社会勉強という理由でやってきて染まってしまった人物である。

そんなココの何が問題か。

まず一つ目に彼女の職業にある。彼女の所属するHCLIは世界でも有数の海運会社であるが、その実態は武器の売買をメインで扱う武器商人であり、彼女のいくところは銃撃戦に彩られる。

そして貴音が不思議そうに首を傾げる。

 「しかし兄。今更銃撃戦くらいどうでもないでしょう?」

 「いいか、貴音」

俺は周子の頭を握りながらもう一人の妹に言い聞かせる。

 「今回の結婚式には社長も出席する」

 「いけませんね。ビルの爆破は確実ですか」

そう、問題なのは俺の友人である社長の存在である。様々な商品を手広く扱っている社長はことあるごとにココと商売でぶつかることが多い。そのために二人は友人関係でありながら『機会があったら殺したいリスト』にお互い上位にいる。

そんな二人が揃ったらどうなるか?

互いの護衛の銃撃戦は当然として披露宴会場の爆破も視野に入ってくる。

 「で、でもな兄ちゃん。ココさんと社長さんだけやったら空気を読んで大人しくしてくれる可能性があるやろ」

 「いいか愚妹、よく聞け」

周子の抗弁を聞き流しながら俺は説明を続ける。

 「ココと社長が出席すると聞いたのかヘックスさんから何故か結婚式に出席する旨の手紙がきた」

 「「東京がピンチ……!!」」

ヘックスさんというのはアメリカはCIAの準軍事工作担当官・パラミリ……ようはテロリストに対する武力行使集団のお人である。本人はグラマーな美人なのだが、テロリストに対する殺意が高く、その殺意は武器商人であるココや、グレーゾーンを突っ走っている社長に対しても向けられており、世界各地で殺し合いをしているそうである。

 「いやいやいや、ヘックスさんはやばいやん。結婚披露宴がマジで血と硝煙の宴になるで」

 「せっかくの晴れ舞台ですので血なまぐさいのはNGなんですが。兄よ、断れないのですか?」

 「断ったら披露宴を爆破すると言われた」

 「「ガチテロ!!」」

ヘックスさんの何が厄介ってやると言ったらマジでやるところだと思う。

すると周子が何か思いついた表情になる。

 「せや!! だったらヘックスさんの上司のブックマンさんを呼ぼうや!!」

 「ブックマンだったら塩見三兄妹の結婚披露宴と言ったら『あ、僕は用事があっていけないや。変わりにスケアクロウくんとショコラーデくんに出席してもらうから』って言って電話切られたよ」

 「「悪化している件について」」

ブックマンというのはCIAの偉い人でヘックスさんの上司。そしてスケアクロウはココと社長を目の敵にしているCIAの工作担当官である。

どう足掻いても銃撃戦の未来しかみえない。

 「え、兄よ。マジでどうするんですか?」

 「とりあえず武器の持ち込みは禁止にするよなぁ」

 「それ素直にいうこと聞く人達ちゃうやん」

 「それなんだよなぁ」

ココは『武器商人なんだから武器を持ち込めるのは当然』とか謎理論の持ち主だし、そうなると社長も絶対に持ち込む。ヘックスさんなんか個人の戦闘力がガチ高めだから暴れだしたら俺の戦闘系友人達を使って強制鎮圧するしかない。

 「だったらPMCを連れてくるの禁止にしたらどうです?」

貴音の言葉に俺は首をふる。

 「それをやると社長のことだからウェイターとかに紛れ込ませてくる。そしてそうなるとココもやるし下手したらヘックスさんも私兵でやる可能性がある」

 「やばい、絶望しかないやん」

 「全部はお前がココに招待状出したからだからな?」

ある意味で対岸の火事を決め込んでいる周子に釘を刺す。

 「いやいや、兄ちゃん。よく聞いてや」

そして真剣な表情で周子は口を開く。

 「ウェディングドレス姿の美優さんを見せびらかしたいやろ」

 「その通りだクソ!!」

俺だってウェディングドレス姿をばっちり決めている美優の姿をできる限り色々な友人に自慢したい!!

 「ココさんも『美優さん大好きクラブ』の会員やからな。ウェディングドレス姿なんて超絶レア姿だったら文字通り命を賭けるやろ」

 「問題はその賭けている命がココだけじゃないんだよなぁ」

下手したら東京が日本地図からなくなりかねない。それほどの狂暴性がココと社長とヘックスさんにはある。

スケアクロウ? 頼りにならねぇよ。

そして今度は貴音が口を開く。

 「そうなると座席も問題ですか。兄には何かアイディアが?」

 「当然だ」

貴音の言葉に俺は頷く。

 「とりあえずココと社長とヘックスさんとスケアクロウは同じ机にしようと思う」

 「毒を持って毒を制するやな」

 「ココさんと社長さんのクソ煽りでスケアクロウの胃がマッハですね」




塩見周介
組み合わせがやばいので片方に結婚式の招待状をださなかったら披露宴がテロ会場になってしまった

仲野周子
全ての元凶。ウェディングドレス姿の美優さんを見せびらかしたいが故に起きた悲劇

四条貴音
結婚相手が決まっていないので苗字はまだ四条のままです。血なまぐさいことは珍しくないとか言っちゃう魔境出身

ココ・ヘクマティアル
漫画・ヨルムンガンドの主人公の武器商人。中学生の時期に周介くんの学校に社会見学として転校してきた模様。普通ではない

社長
この作品でたびたび登場する周介くんの友人(名前未定)。グレーゾーンな商売も金になるならやる主義

ヘックス
ヨルムンガンドの登場人物。原作ではココと殺し合いをしていたが、こちらの世界では社長ともしている模様。一人戦術兵器

塩見美優
ココと社長は貿易会社の偉い人って認識だし、ヘックスに至っては面倒見のいいお姉さんという認識の純粋培養

双海詩音
周介くんからココと社長とヘックスが揃うと聞いて戦慄した。とりあえず塩見三兄妹会議のために美優さんを連れ出す

美優さん大好きクラブ
会長・周介くん。副会長・周子ちゃん。加盟者は周介くんや周子ちゃんの関係者がいっぱい。美優さんがその気になったら世界制服もできちゃう集団。当然のようにCIAからマークされている



そんな感じで今月更新分です。
最初は結婚式に向けて招待者ネタやらないとなぁ、と思っている時にヨルムンガンドのブルーレイを流していたのが運の尽き。なんということでしょう。披露宴会場が爆破される可能性がでてまいりました。

ストッパーキャラもださなきゃやばい

そして本人の関係ないところでアメリカから要注意人物扱いされる美優さん。夫や友人が悪いよ。


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進撃の塩見

ついにアメリカにまで塩見菌が拡散されていたのが判明します。まさしく『シオミパンデミック』

思いっきりクロスキャラだしますのでご注意を!!


さて、ついにワクチン接種も始まり緊急事態宣言もあけたことで我が店にもお客さんが戻ると思ったのだが、残念ながらやってくるのはいつもの飲兵衛お姉さま集団のみ。一応「二人以上の宴会はお断りなんですが」と言ってみたところ真顔で「私達は二人ずつ呑んでるの? 異存はないわね?」と言われてしまっては断ることはできない。さらには飲兵衛お姉さま集団は「感染を食い止めるために念のため貸し切りにしとくわね」と言われて映画の1シーンのようにアタッシュケースに詰められた札束を見せられては俺に断る選択肢は存在しなかった。

 「兄ちゃん、あの店の端っこにある巨大な機械はなんや」

 「博士が作り上げた『コロナ絶対許さないマシーン3号』だ。コロナ対策の一貫として博士から購入した」

 「資金源」

 「飲兵衛お姉さま集団の財力って怖いな……」

俺の遠い眼の言葉に戦慄する周子。その飲兵衛お姉さま集団は緊急事態宣言で呑めなかった分を取り返すと言わんばかりに呑んでいる。

それに巻き込まれている美優と詩音に黙祷。

 「そういや兄ちゃんには姉ちゃんからの連絡きとる?」

 「ああ、来てる来てる」

今日、昼頃に突如やってきた貴音からの連絡。それは夜に客を伴って俺の店にやってくるということであった。

 「客って誰だろうな」

 「誠さんやない?」

 「それだったら旦那っていうだろ」

会話にでてきたのは貴音の旦那である若林誠。古来から続く天魔とかいう悪霊を祓う職業である鎮守人として働く人物で、気弱であるが剣の腕がたつ人物である。若手のホープとして嘱望されている誠は貴音が養子に入った天照郷の名家である四条家に婿養子として入ることになり、めだたく塩見の一員となってしまった。

 「いやぁ、調子にのってココさん達と一緒に解除した大天魔を相手に大立ち回りする誠さんはかっこよかったなぁ」

 「最終的に大天魔にとどめを刺したのは誠と一緒にやってきた鎮守人の面々じゃなくて武闘家の奴だったのには笑ったけどな」

誠を含めた鎮守人の面々が信じられないものをみるような眼でみるのが印象的だった。

 「そういや知ってるか周子。あの時封印をといた大天魔は放っておいたら世界がピンチだったらしいぞ」

 「マジかいな。私ら世界の救世主やん」

 「俺らが封印といているから完全にマッチポンプ」

 「それな」

時折世界を救ったりすることもある俺や周子の友人達であるが、基本的にその原因も俺達にあることが多いので完全にマッチポンプなのだ。

 「兄と妹よ。貴音様の登場です。飯を用意しなさい」

そして店の扉をスパーンと開いてくる貴音。その登場の仕方は正しく周子の姉であった。

とりあえずいつものように軽口を飛ばそうとしたところ、その隣にいた金髪美人が眼に入る。

 「あれ? ミスティアじゃん」

 「シュースケ久しぶりー」

俺の言葉に手をわしわしさせて挨拶してくる金髪美人は人気若手ハリウッド女優のミスティアであった。

さて、ミスティアと我ら塩見兄妹の関係であるが、ミスティアが小学生の時に『日本の文化を学びたい』ということで我が塩見家にホームステイしていたことがあるのだ。

本人的にそれがとても印象的だったらしく、こうして大人になってからもちょくちょく連絡をとったり来日した時は他の仲間と一緒に襲撃をかけたりする仲である。

わーい、と駆け寄って再会を喜ぼうとするミスティアと周子。

すると周子の眼がくわっと開いた。

 「流派東方不敗は!」

するとミスティアの顔も劇画調になる。

 「王者の風よ!」

 「全新! 系列!」

 「天破侠乱!」

 「「見よ、東方は赤く燃えている!!」」

拳をぶつけあって決めポーズをきめる周子とミスティア。そしてそれをみて宴会芸と勘違いしたのかおひねりを投げてくる飲兵衛お姉さま集団。

 「いやぁ、流石はミスティアさんや。すぐにあわせてくれる」

 「Gガンダムとスクライドは男の義務教育だからね~」

 「お前らの性別をいってみろ」

俺の突っ込みを無視してはっはっはと笑いあう周子とミスティア。俺はすでに席に着いて料理を催促してくる貴音に話しかける。

 「なんでミスティアいんの?」

 「新しい映画の告知のためだそうです。兄、料理はよ」

 「ああ、あの見るからにB級映画溢れる巨大タコ映画か」

 「え~、つまらなかった~?」

 「「悔しいことに楽しかったんだよなぁ」」

俺と周子の答えに満足そうにするミスティア。

人気若手ハリウッド女優のミスティアであるが、何故かB級映画にも率先して出演する。巨大な海のなまもの相手に時に重火器で戦い、時にチェーンソーで両断する姿にB級映画ファンのみならず、普通の映画ファンにも魅せられている。

とりあえず挨拶が終わったのかミスティアもカウンターに座る。

 「シュースケ、ミユは? 私も久しぶりに挨拶した~い」

ミスティアの言葉に俺は黙って飲兵衛お姉さま集団を指差す。

べろべろに酔っぱらった高垣さんと柊さんに絡まれている美優の姿があった。

それをみてからミスティアはイイ笑顔を浮かべる。

 「ミユへの挨拶はまた今度にするね!!」

 「お前も本当にいい性格してるよな」

美人でスタイル抜群な金髪美女だが、中身は塩見に染まってしまっているのでいい性格をしているのはファンにも広く知られていることだ。

むしろミスティアが塩見家にホームステイしていたということを暴露した時、塩見家を知っているファンの間からは納得が、知らないファンは塩見家について調べてドン引きしたという逸話もある。

 「そういやミスティア」

 「ん~、な~に~?」

三人分の夕食を作りながら俺は会話をミスティアと会話をする。

 「今公開してるペーターゼンフィルムのMEISTERってあるだろ?」

 「うん、ナタリーちゃんいい演技してたでしょ~」

 「いや、それ以上にマーティン・ブラドックが復帰したことに驚いた……いや、そうじゃなくて」

 「え~、つまらなかった~?」

 「最高に楽しかったで!!」

 「でしょ~」

周子の言葉に上機嫌で笑うミスティア。

とりあえず話が進まないので俺は流れをぶったぎって言葉をかける。

 「なんでお前出てるのにスタッフロールに名前ねぇの?」

 「……んにゃ~、やっぱりシュースケ達にはバレたかぁ~」

 「え? むしろあの程度の変装でばれないと思っとったの?」

 「一応ハリウッドでの最高級特殊メイクだったんだけど~」

 「忍者の奴の変装をみるとハリウッドの特殊メイクも陳腐なもんに見えるんだよなぁ」

 「「本当にそれ」」

俺の言葉に周子と貴音が同意。ミスティアは苦笑いである。

 「特殊メイクしてるとはいえ出演だろ? なんで名前ねぇの?」

 「ん~」

俺の言葉に顎に指をあてて首を傾げるミスティア。

 「色々あって~」

 「そうか、なら仕方ないな」

 「私シュースケのそういう突っ込んで欲しくないところは突っ込んでこないところ好き~」

 「ふ、悪いな。俺はもう売却済みなんだ」

 「あ、絶対にそういう眼ではみれないから安心して。むしろミユが勇者だと思ってる」

 「こ、ここぞとばかりに言いたい放題だな」

とりあえず爆笑している愚妹二人には晩御飯の品を一品減らすことにする。

 「そ~そ~、私はシュースケとシューコに重要な話があってきたのです!!」

立ち上がりながら俺達を指差すミスティア。黙って先を促す俺と周子。

そしてミスティアは真面目な表情で口を開いた。

 「なんで私を346どうでしょうに呼んでくれないの~」

 「お前大人気若手ハリウッド女優だろ。日本の一プロダクションのネット番組に出ていいと思ってんの?」

 「え~、だってタカネも出てて楽しそうだし~」

 「というか346どうでしょう知っとるんか」

周子の言葉にミスティアもなんでもないように答える。

 「346どうでしょうはアメリカでも大人気だよ~。ネットでも英訳つけた動画がすぐにあがるし~。マーティンさんもみてるって言ってた~」

 「「マジかよ」」

稀に外国からのコメントも寄せられていたが、そんなに人気になってるとは思っていなかった。

 「よっしゃ兄ちゃん!!」

 「なんだ」

 「姉ちゃんとミスティアも出して『346どうでしょう~ハリウッド侵略編~』や!!」

 「「のった」」

周子の思い付きに即座に悪乗りする俺と貴音。そしてミスティアは嬉しそうに拍手しているのであった。




塩見周介
相変わらずお店は飲兵衛お姉さま集団に侵略されている

塩見美優
無事に潰された

仲野周子
相変わらず兄の店に通い詰める既婚妹。旦那がプロ野球選手なので時間があるらしい

四条貴音
天照郷の名家である四条家に養子に入った塩見の血筋。婿養子をとることによって苗字はそのままである。

ミスティア
人気若手ハリウッド女優。金髪スタイル抜群美人。しかし塩見汚染をうけている

飲兵衛お姉さま集団
酒のためなら金に糸目はつけない



そんなわけで六月編です。

相変わらずメインヒロイン不在でも話が成り立ってしまうこの作品のバグ。
どうしてこうなった。

そして『映画大好きポンポさん』をみて完璧にポンポさんにはまった作者。ポンポさんで大好きなキャラであるミスティアを投入。機会があれば他のキャラもだしたいところ。

そして貴音の旦那も決定。若林誠くんは転生學園シリーズにでてくるキャラクターです。転生學園シリーズが大好きな作者。続編を今でも待ってます。榊原は結局どうなったんだ。


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おねショタ

朝霞リョウマさんの『かえでさんといっしょ』の最新話を読む

なるほど……おねショタ……


 「お、姉ちゃんやん」

 「おや、周子」

いつものように貴音が兄の店を襲撃しようと街中を歩いていると周子と合流する。

 「姉ちゃんも兄ちゃんの店?」

 「ええ、周子にも連絡が?」

貴音の言葉に周子がにんまり笑ってスマホをみせる。そこには二人の兄である周介から『緊急事態発生!! カメラを持って俺の店に集合』とあった。

 「周子は何があったと思いますか?」

 「美優さんが兄ちゃんに三行半叩きつけて実家に帰った」

 「……いけませんね。一番ありえないのに一番ありえてしまう可能性を選ぶのは」

 「兄ちゃんに付き合える美優さんマジ聖女」

貴音も同意見だったのか周子とがっちり握手。

そして二人は周介のお店に到着したので扉を開く。

 「兄よ、可愛い妹達がきましたよ」

 「今度は何やったん兄ちゃん。とうとうFBIに連行くらった?」

二人の戯言を気にせずに店の中にいた人物は腕を組みながら胸を張って叫ぶ。

 「よく来たな妹達よ」

声変わりする前の子供特有の高い声。

 「俺はお前達を歓迎しよう!!」

店の椅子に立ってようやく大人と同じくらいの身長。

つまりショタになった周介くんがそこにいた。

 「「ぶわははははははははははははは!!!!」」

そしてそんな兄をみた妹達の反応は爆笑であった。

 「みろ、美優。やっぱり二人はこの状態をみたら初手爆笑だったぞ」

 「なんでそんなに特殊なんですか……!!」

何故か自慢気な周介くんに嘆く美優。

 「いやいやいや、兄よ。何よやったんですか」

 「どうした兄ちゃん。忍者さんにショタ変化の術でも教えてもらったん?」

 「ふむ、説明をすると長くなるんだが……」

そう言ってから周介くんは真剣な表情で口を開く。

 「美優が博士からもらったドリンクを飲んだら俺がショタになった」

 「「それはおかしい」」

頭のおかしい塩見姉妹におかしいといわれる現象。だがそれが全てだ。

美優が博士から差し入れのドリンクをもらって飲む→周介くんがショタになる。

酷い現実だ。

 「というか何故美優さんも博士さんのドリンクを飲んでしまったんですか?」

 「そうや。どう考えてもろくなことにならないことは長い付き合いで知っとるやろ」

そんな二人の言葉に周介くんが美優のスマホ画面をみせる。そこには博士から美優に向けた連絡が入っていた。

 『やぁ!! 久しぶりだね三船!! 今日は君にプレゼントを送ったからぜひ飲んで欲しい。なに、安心したまえ。君に悪いことは起きない。むしろ塩見との仲が一層深まる代物さ!! それじゃあね!!』

 「どう思う?」

 「「こんな胡散臭い連絡を信じちゃう美優さんマジ聖女」」

同意見だったのか周介くんは妹達とガッチリ握手。美優は顔を真っ赤にして机に突っ伏した。

 「というかこんな薬品あったら兄の友人だったら即悪用する輩ばかりでしょう」

 「鋭いな貴音。さっそくモデルの奴が美幼女になってロリコンの奴らから金品を巻き上げていたところ警察沙汰になってな」

 「ふぅ!! 流石はモデルさんや!!」

 「逮捕した警察も実年齢で扱うべきか見た目の年齢で扱うか迷ったようでな」

 「まぁ、そうなりますね」

 「最終的に故郷のお寺の住職さんが『その腐った根性を叩きなおしてやる』って言い出してモデルは強制的に出家させられた」

 「「モデルの仕事」」

 「髪の毛を剃らなかったのが住職のせめてもの温情だよな」

塩見三兄妹の故郷のお寺の住職。この人物はかなり特殊だ。

お寺の修行と称して住職の恰好で北極にいったり南極にいったりギアナ高地にいったりするかなり特殊な人物だ。そして極限状態で極限まで自分を追い込みついには悟りを開いたというある意味で生きるレジェンドだ。

ちなみに御年113歳になるが未だに死ぬ気配がない。

そんな心温まる会話をしながら貴音と周子は改めてショタになった兄をみる。

 「いや、マジで縮んどるやん。工藤くん家の新一くんやん」

 「あれもそろそろ毛利さん家のお嬢さんにネタ晴らししたら面白いことになると思うんだよなぁ」

 「いえ、蘭ちゃんもうすうす感づいているようなのでダメージは低いかと」

 「「もうちょっと泳がすか……」」

ショタになってもクソはクソである。

 「というか兄よ。店はどうするんですか? その身長では料理できないでしょう」

 「台があればできるんだけどな。ここで美優の意見をお聞きください」

周介の言葉に美優が真剣な表情で口を開く。

 「包丁で怪我でもしたらどうするんですか。絶対にダメです」

 「兄ちゃんが完全にショタとして扱われていて流石に草」

 「知っていましたが過保護ですね」

 「だってこんなに可愛いんですよ!! 誘拐犯だったらきっと誘拐してしまいます!!」

 「「かわ……いい……?」」

美優の言葉に貴音と周子が不思議そうに周介くんをみる。

AAコロンビアのポーズを決める周介くん(ショタの姿)がいた。

 「憎たらしいの間違いでは?」

 「こんなショタおっても誰も誘拐せんよ」

 「ふ、愚妹どもめ。兄の魅力にまだ気づいていないとみえる。いいか、この姿になって『詩音おね~ちゃん』と甘い声で囁いたところ詩音の奴は致死量の鼻血を拭いて病院送りになった」

 「「詩音さん……!!」」

 「ええ、流れ弾で私も死ぬところでした……危ないところでした……」

 「「美優さん……!!」」

どうやら周介くんに惚れている組にはよくきく姿らしい。

妹達にとってはヘタレクソ兄がヘタレクソショタ兄になった程度であるが。

 「で、お店どうするん? 閉めるん?」

 「おっと、私達を頼っても無駄ですよ。何せ夫のほうが料理が上手いので」

 「お前ら奥さんとしてそれでいいの?」

 「ダメです周介さん。その言葉は私にも刺さります」

周介くんの言葉に『あ~あ~聞こえな~い』ポーズを決める貴音と周子。そして流れ弾で胸を抑える美優。

 「まぁ、店に関しては薙切さん家のえりなちゃんとアリスちゃんを呼び出した。あの二人だったら俺の料理で舌が肥えてる飲兵衛お姉さま集団にも大丈夫だろう」

 「どう思う姉ちゃん」

 「1000%無理でしょう」




塩見周介(ショタの姿)
元の姿に戻るまで一週間ほどかかった

塩見美優
周介くんが喜ぶという言葉につられてしまう素直な奥さん

仲野周子&四条貴音
とりあえず自分達もロリになってみた

撫切さん家のえりなちゃん&アリスちゃん
飲兵衛お姉さま集団にいかに周介くんとの料理に差があるかを言われてメンタルボロボロ



そんな感じで七月編です。
いつも通りなら周介くんのお誕生日ネタなんですが、朝霞リョウマさんのかえでさんといっしょの最新話を読んで「なるほど、オネショタ」と思って実験として周介くんにショタになってもらいました。

たぶんもうやりません

そして相変わらず交流関係がばぐっている周介くん。ついに料理界の重鎮・撫切家(食戟のソーマ)との付き合いがあることも判明

周介くん、君本当に本当に居酒屋の店主?


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神様な友人

さらにクロスキャラ登場!!

正直作者もどうかと思いますがよろしくお願いします!!

あ、あとちょっと短めです


いつものように閑古鳥がないている俺の店。いつもの飲兵衛お姉さま集団も仕事等で不在なので本格的に客がいないと思われるかもしれないが、カウンターで上品に食事をしながら日本酒を飲んでいるお客さんが一人。

高身長に長い黒髪、そして圧倒的なまでのサイズを誇るその胸部装甲を持つ女性は俺の同級生であった。名前を木戸という

お猪口に入った日本酒を飲んで感嘆のため息を吐きながら木戸は口を開く。

 「相変わらず料理の腕前は最高ですわね」

 「酒の目利きも褒めてもいいぞ?」

 「確かにお酒も美味しいですわ」

俺の言葉に微笑みながら言う木戸。その姿はまさしく地母神であろうか。

 「しかし、急に来るなんて珍しいな。雷銅とか四文字はちょいちょい連絡きていたけど、紫布とかはあんまり連絡きてなかったからな」

 「私や紫布さんは基本的に三船に連絡していたから仕方ないかもしれませんわね」

 「江下は?」

 「どっか行きましたわ」

相変わらずのフリーダムっぷりのようだ。

 「結婚祝いの報告……ということでしたので、同輩さんや皆さんも来たがっていたのですが、まぁ仕事のほうで手が回らずにたまたま手が空いていた私が一人で来ることになりましたわ」

 「ああ、それで木戸一人なのか。相変わらず住良木に振り回されているようで何より」

 「本望ですわ」

 「そんな決め顔で言われてもな……」

本当にきりっとした決め顔で言い放つ木戸。学生の時からそうであるが住良木(後輩)の過保護で何よりである。

 「それで塩見。三船はまだですの?」

 「そろそろ着くと思うが」

そう言って俺がスマホを取り出すのと店の扉が開かれるのは同時であった。

扉には少し急いできたのか軽く息切れをしている美優。そんな美優は木戸の顔をみてパーっと顔が明るくなった。

 「わぁ! お久しぶりです木戸さん!!」

 「ええ、三船も元気そうで何よりですわ」

嬉しそうに木戸に駆け寄ってその両手をぶんぶんとふる美優と、そんな美優を優しい笑みでみつめる木戸。その姿はまさしく……

 「飼い主が帰ってきて喜ぶ小型犬と飼い主」

 「自分の奥さんを犬扱いするのはおやめなさい」

 「?」

即座に突っ込んでくる木戸と、不思議そうに首を傾げる美優。

そんな美優も可愛くて最高!

そう思って嬉しそうに木戸と話をしている美優の姿を写メに撮って同級生ラインに貼り付ける。言葉で『俺の奥さんがこんなに可愛い』とつけるのを忘れない。

即座に大量の既読と共に俺に対する恨み言メッセージが大量に来るが俺はそれをスルーしてスマホをしまう。

 「美優、晩飯は?」

 「あ、すいません周介さん。お願いします」

 「任せておけ」

美優に頼まれたら俺のやる気MAXである。よぉし、張りきって料理しちゃうぞぉ!!

張りきって包丁を振るいだす俺と木戸が訝し気に口を開くのは同時であった。

 「三船、何か悩み事でもあるんですの?」

 「なんだって!?」

 「いえ、驚くのは私ですよ!? なんで周介さんのほうが反応早いんですか!?」

そんな美優の言葉を無視して俺は地面を叩く。

 「クソ!! クソ!!! 美優を悩ませるなんて『美優ちゃん大好きクラブ』会長として大失態!!」

 「いえ!! そんなクラブがあるの初耳なんですが!?」

 「ちなみに私も会員ですわよ」

 「木戸さん!?」

美優がとても驚いているようだが、俺の友人の実に100%が『美優ちゃん大好きクラブ』の会員である。

気分を落ち着けてから苦笑しながら口を開く美優。

 「いえ、今度の特別ドラマで女神の役をやることになったんですが、役作りがどうもうまくいかず……」

 「……あぁ、詩音が脚本を書いたっていう例の特別ドラマか」

我ら塩見家の同居人である双海詩音は小説家として売れ始め、さっそく我が愚妹が暗躍して詩音脚本の特別ドラマが撮影されることになった。

そのせいで今も家で地獄のマーチになっている同居人に黙祷。

 「しかし、女神役かぁ」

 「はい、やっぱり物語等でしかみることができないので役作りが難しくて……」

 「そのあたりマジもんの女神としてはどう思う、木戸」

 「そうですわね。私達は最初から『女神』として存在しているのでそのあたりの説明はできないのが現状ですわね」

 「だ、そうだぞ美優」

 「ちょっと待ってください」

焦ったように俺と木戸を止める美優。そしておずおずと言いずらそうに口を開いた。

 「木戸さん、神様だったんですか……?」

 「「え、いまさら?」」

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」

マジの驚愕声を浮かべる美優。

 「え? だって周介さんの高校時代の写真に制服着ていましたよね!?」

 「あら、塩見とは同級生なので当然では?」

 「神様と同級生!?」

美優のこの反応。

 「言ってなかったっけ?」

 「聞いてませんよ!!」

 「そっか。じゃあもっと驚愕的なこというと四文字はキリスト教の唯一神だぞ」

 「えぇぇぇぇぇぇぇ!? あの『人ぃぃ類うぅぅいがわぁなにかぁかるのをみるとぞぉくぞぉくすぅるねぇぇ』って言ってた四文字さんが!?」

 「あいつどう考えても邪神だよな」

 「今更ですわね」

四文字をみてからキリスト教の唯一神を調べると納得できると言ったのは史学科に進んで歴史学者になった友人の談である。

 「ちなみに木戸はスキタイ神話の女神・アピだぞ」

 「……すいません、木戸さん。スキタイに神話があったことも初耳です……」

 「まぁ、仕方ないですわね。マイナー神ですし」

本当に申し訳なさそうな美優に対して苦笑を返す木戸。

 「ちなみにギリシャとかオリュンポス神話だと怪物をいっぱい産んでる邪神・エキドナな」

 「あ、エキドナは知ってます」

 「神話で子だくさんだから高校時代のあだ名はか~ちゃん」

 「そのあだ名は酷いと思います」

 「だが、高校時代からその母性で数多の後輩達をおぎゃらせたのは木戸の罪」

 「全部あなた達の悪乗りのせいでしょうに」

確かに多少悪乗りした感じはあったが、その包容力(爆乳的意味ではない)で数多くの男子生徒(たまに男性教諭)を狂わせたのは事実だ。

 「え~と、それだと木戸さんの今のお仕事って……?」

 「一応神様ですわね」

 「職業:神様……!?」

戦慄している美優が可愛いと思った俺はきっと末期なんだと思う。




塩見周介
同級生の友人には神様もいる

塩見美優
夫の交友関係に戦慄(尚、本人はその面々に愛されているのを自覚していない

木戸 亜比奈江
きど あぴなえ。その正体はスキタイの女神・アピでありギリシャ・オリュンポス神話の邪神・エキドナ。巨乳ですわ系かーちゃん属性

周介くんの同級生や後輩
神様も珍しくない。魔境か



そんな感じで短めの八月編です。

魔境深まる周介くんの同級生達。ついに神様参戦。ちなみに四文字や木戸はオリジナルではなく、川上稔先生の神々のいない星でのキャラになります。作者の書く文章が大丈夫な方は川上稔先生作品はおすすめです。

この作品も残すところ四か月。なんの予定もない作品ですが残り短い時間もよろしくお願いします。


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式の準備

結婚式と披露宴も近くなってきたので準備回ですよぉ!!(なお内容


さて、警官隊が突入してくる確立が高い『塩見一族合同結婚式』まで残るところ三か月である。

決めることが多いために今日も長女・貴音と次女・周子は兄のお店へとやってきた。

 「お~っす、兄ちゃん」

 「可愛い妹達の登場ですよ。料理を準備してください」

食料のたかりのようであるが、実際のところは食料のたかい9割、結婚式と披露宴の相談1割なので結婚式と披露宴の相談がメインなのは誰の目にも明らかである。

 「って、兄よ」

 「兄ちゃん……やっぱり離婚危機かいな……」

 「待て! 何故お前らは『やっぱり』って視線になってる! 俺と美優がラブラブなのは誰の目にも明らかだろう」

 「「明らかすぎて逆にウザイ」」

 「ふわぁぁぁぁ!!! 旦那の仕事が忙しくて一緒にいられる時間が少ない負け犬供が何か言ってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

周介の煽りにダブルライダーキックを叩き込む周子と貴音。

床でモップになっている周介を無視して二人はカウンターに座りながら苦笑している美優に話しかける。

 「それで? 今度は兄は何をやったんですか? ついにポリス案件ですか?」

 「待つんや姉ちゃん。それだと兄ちゃんが今までポリス案件をやってないみたいな感じになるで」

 「それはいけない、言い直しましょう。保釈金はいくらでしたか?」

 「兄ちゃんのためやからな!! 私と姉ちゃんも一部払うで!!」

 「この愚妹達はお兄様のことをどう思っているのかなぁ!!」

そしてギャーギャーとどうでもいいことを言い合い始める塩見三兄妹をみながら美優はお茶の準備を始める。

 「相変わらず仲良しですね」

 「そうですね。いいことです」

お店のカウンターで執筆作業をしていた詩音も苦笑しながらその騒ぎをみている。

法律的にアウトなことをよくすることで有名な塩見三兄妹だが、塩見一族やその愉快な仲間たちと付き合いの長い二人にとっては警察沙汰までは微笑ましいやりとりだ。

そして一段落したのか周子と貴音はカウンターに座り、周介は料理のためにカウンター内に入る。

美優が淹れてくれたお茶を飲みながら周子が口を開く。

 「それで? なんで兄ちゃんは美優さんに土下座しとったの?」

 「そうだ聞いてくれ周子! 貴音! 美優がRG Hi-νガンダムとHG ナイチンゲールを買っちゃ駄目だって言うんだ!!」

 「「それは美優さんが悪い」」

 「えぇ!?」

速攻で兄に同調した妹’sに美優が驚きの声を挙げる。

 「いいですが、美優さん。HG ナイチンゲールがファン待望の1/144での販売です。今まではRE1/100しかなかったので小さくなって飾りやすくなったんですよ!!」

 「そうや。それに合わせるかのようにMGでも出来が良かったHi-νガンダムも1/144サイズのRGで販売。新金型もふんだんに使われた新規ランナーも多くてファン大満足の品や」

 「しかも俺はプレバンでRG Hi-ν用のハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーも注文してしまった……こうなったら買うのは運命なんだよ!!」

 「駄目です」

 「「「何故!!」」」

 「積みプラが多すぎるからです」

美優の言葉に塩見三兄妹は視線を逸らす。作っていないプラモデルがあるのに新しいのを買って積んでしまう。モデラーあるあるであった。

美優は怒っているアピールなのか腰に手をあてて人差し指を立てて言い聞かせるように話す。

 「いいですか? すでに今月はRG サザビー スペシャルコーティング、戦艦 陸奥、駆逐艦、浜風、HG ギラドーガ、HG イフリート・シュナイドを買っています。しかも周介さんはそれだけでなくメガミデバイス 朱羅玉藻のついに美少女プラモまで手を出し始めました。さらに来月にはプレバンからMG トールギス・フリューゲルとHG ガンダムF91ヴァイタル一号機&二号機セットも届きます。さらにSMP ALTERNATIVE DESTINY『トップをねらえ!』ガンバスターまで来るんです!! もう客室が一つ埋まっているんですよ!! だからこれ以上は駄目です!!」

 「だ、だがSD系は少し崩した!!」

 「詩音さんが執筆の合間に休憩で崩したんじゃないですか!!」

夫婦の言い争いに妹’sの視線が詩音に集まる。その視線に悪びれる様子もなく詩音は口を開いた。

 「最近のSDは無塗装でもかっこよくなるのがいいですね」

 「なるほど。ところでSDシリーズは来年に新作がでますが」

 「アーサーガンダムマークⅢは予約しました」

 「詩音さん!?」

まさかの同居人の裏切りに美優が驚愕声をあげたが、詩音は貴音と周子とガッチリ握手。どうやら同意見だった模様である。

 「わかった。美優、じゃあこうしよう」

 「な、なんですか? どんな条件でも絶対に認めませんからね」

美優の怒り表情(コアリクイの威嚇くらいの怖さ)に萌えながらも周介は真剣な表情で言葉を続ける。

 「タミヤの1/350戦艦 ビスマルクを買おう」

 「え(トゥンク」

 「「釣れてる釣れてる」」

妹’sの言葉に慌てて首を振る美優。

 「わ、私の好きな分野で釣ろうとしても駄目ですからね!!」

 「ビスマルクを買うんだからトランぺッター1/350 HMS フッドも買おう」

 「くぅぅぅうぅぅぅぅぅぅ!!!!」

ものすごく思い悩む表情を浮かべる美優。

そして美優は絞り出すように口を開いた。

 「ビスマルクとフッドでデンマーク海峡海戦のジオラマを作ってください」

 「モデラーの奴にも協力させよう」

 「じゃあいいですよ」

妻からの許可にガッツポーズを決める夫と、ジオラマを楽しみにする妻。

似た者夫婦であった。

そんな感じで夫婦の茶番を終えて周子と貴音は本題に入る。

 「兄よ、披露宴の会場はどこに決まりましたか?」

そう、結婚式と披露宴の会場選びである。

色々な意味で問題のある人物しかいない塩見方の参列者である。普通の会場ではきっと会場が物理的に本能寺して警察沙汰になる。

警察沙汰には慣れている塩見三兄妹であるが、せっかくの晴れ舞台で警察沙汰はできればやめておきたい。

だから慎重に慎重を重ねて会場選びをしていた。

条件は事件が起きても内内に握りつぶせるところ。

 「薙切のじーさんが遠月リゾートのホテル『遠月離宮』を使うように言ってきた。料理人も堂島さんが腕をふるってくれるそうだから問題はないだろう」

 「相変わらず兄ちゃんの人間関係がバグってて草」

 「なんか交換条件で遠月學園高等部一年生の実地研修受け入れることになったけど」

 「「Welcom to キチガイ ワールド」」

 「否定できないのが悲しいところだな」

いくら非常識に慣れている遠月學園の生徒でも頻繁に法律的にアウトな人物がやってくるこのお店での実地研修は辛いだろう。

哀れな生贄に黙祷。

 「それで、だ。披露宴の時に流す音楽なんだが……」

料理をしながらの周介の言葉に周子と貴音は美優からお茶のお代わりをもらいながら聞く。

 「小椋佳の歓送の歌は外せないと思うんだよ」

 「異存はないで」

 「銀河英雄伝説に異存などあるわけがないですね」

意見の一致をみた塩見三兄妹はガッチリ握手。

 「てなわけで美優。歓送の歌は使っていいよな?」

周介の言葉に美優は苦笑い。

 「名曲なのは間違いないですからね……いいですよ」

 「「「ひゃっほい!!!」」」

美優の言葉に喜びの声をあげる塩見三兄妹。

 「そういえば美優さんは使いたい曲とかないん?」

 「わ、私ですか?」

 「私達だけで決めるとダンバイン飛ぶで入場することになりますよ」

貴音の言葉に真剣な表情で考え込む美優。その姿をスマホのカメラ機能でバシバシ撮りまくる美優さん大好きクラブの面々。

 「そ、そのなんでもいいですか」

 「もちろんだ」

美優の言葉に周介が返すと、美優は思い切った表情で口を開いた。

 「ZABADAKの遠い音楽を使いたいです!!」

 「使いどころを考えるぞ愚妹ども!!」

 「「よっしゃ!!」」




塩見周介
家の一部屋は積みプラで埋まっている

塩見美優
「そんな……ビスマルクとフッドを並べられたらプリンツ・オイゲンとプリンスオブウェールズも必要になっちゃうんじゃ……」

双海詩音
売れっ子作家。最近の息抜きはSDプラモ組み。実は塗装用のガンダムマーカーも買ってる

仲野周子
HG ナイチンゲールは買い損ねた

四条貴音
RG Hi-νガンダムは買えなかった



そんな感じで九月の結婚式準備編です。

何が残念って作者は独身なので結婚式の準備で何をするのかわかっていない問題。
とりあえず場所の確保と流す音楽決めでした。

完全にそれ以前のプラモ談義のほうが長かったですが。
デンマーク海峡海戦のジオラマに釣られちゃう美優さん可愛い。

ちなみに周介くんに着弾予定のプレバン商品は作者の予定商品です。

ずっと待ってたトールギス・フリューゲル!!


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346どうでしょう最終回~そして伝説へ……~

最終回が近いのでこの番組もついにフィナーレ……!!

みなさん拍手でお見送りください……!!


How do you like 346プロダクション?

 

 「さて、諸般の事情によりついに今回で最終回となってしまった我らが346どうでしょう」

 「一年近く続いたのが割と奇跡だよな」

 「それファンも含めてみんな思ってることやから。我ら346どうでしょう班も最終回なので割と張りきって企画を練りました」

 「その結果があれか」

 「シャラップ兄ちゃん。そんなこんなで最終回ですが張りきってどうぞ!」

 「俺達のやばい交友関係がついに白日の下に!」

 

 

 

 

10月某日346プロダクション駐車場

 

 「りあむちゃん乗り物を買う~!!」

 「「いぇ~い!」」

 「待って!! 開幕から購入する張本人の同意を一切えていない企画をスタートさせないで!!」

周子の叫びに拍手喝采で答える周介と貴音。そして至極当然の文句を言うりあむであったがボスに挑むにはレベルが足りなかったので無視される。

 「さて、346どうでしょう恒例のプロダクションで適当に拉致った相手に高額商品を購入させるこの企画!! 今までの最高金額は幸子ちゃんの500万円!! りあむちゃんはこの記録をこえることができるのか!!」

 「待ってよ! 本当に待ってよ!! まだアイドルデビューして間もないペーペーのボクに何を買わせる気なの!!」

 「話を聞いていないのか、りあむちゃん。乗り物だよ」

 「塩見三兄妹が揃っている時点で普通の気がしないんだよ!!」

 「「「なんと失礼な」」」

 「残当で草☆」

しゅがはの突っ込みに演者とプロデューサーの罵詈雑言の飛ばし合いが発生したがこの番組ではおおむねいつも通りである。

とりあえず進行役がしゅがはとバトルを開始したのでカメラを回している美優が口を挟んでくる。

 「え~と、りあむちゃん。最近自動車免許を取得しましたよね」

 「え? うん、それをTwitterで報告したら何故か炎上したけど」

炎上系アイドルの面目躍如である。

 「はい、それを見た貴音ちゃんが『でしたらぜひ私達が乗り物を仲介しましょう。ええ、これを機会に私達の愛車を世間に広めるいい機会です』と」

 「貴音ちゃんに認知してもらっているのは嬉しいけどそれは嫌だ」

 「「「なんと失礼な」」」

再び塩見三兄妹が反論してくるがりあむはそれを無視して言われたことを纏める。

 「つ、つまり今回は車を買うってこと?」

 (苦笑)

 「待って!! 美優さんの苦笑の時点で嫌な予感しかしない!!」

 「はいは~い!! りあむちゃんの心配を他所に今回紹介するのはこちら!!!」

周子の言葉に美優がカメラを向ける。

明らかに車のサイズではない布をかぶせられたものがあった。

 「ちょっと!?」

 「はい、まずは一台目!!」

 「一台目は俺だな。これを見ろ!!」

そう言いながらまだ車サイズの布を周介が勢いよくひく。

現れたのはMAZDAロードスター。

その車にりあむは不思議そうに首を傾げる。

 「えっと、周介さんの有名なロードスターだよね」

りあむの言葉に周介はわかっていないとばかりに首をふる。

 「俺のロードスターをそんじょそこらのロードスターと一緒にしてもらっては困る。学生時代に中古で買ってからこつこつと改良を加えた結果最高時速はついに500kmをこえた」

 「それ日本で走らせていいの!?」

 「流石にニトロを使った最高時速だぞ?」

 「ちなみに兄よ。通常での最高時速は?」

 「430km」

 「充分だよ!!」

思わず地団駄を踏むりあむ。そんなりあむに周子が声をかける。

 「ちなみにりあむちゃん。そのロードスターのサイドミラー捻ってみ?」

 「え? こ、こう?」

周子の言葉通りの行動をするりあむ。

ガチャンという音と共にサイドミラーが外れてS&WM500がでてきた。

フリーズしているりあむからM500を回収して再び仕舞う周介くん。

そしてイイ笑顔を浮かべた。

 「じゃあ次は周子な!!」

 「いやいやいやいや!! 今明らかに日本では見ちゃいけない代物だったけど!?」

 「はい!! 私の愛車はこちら!!」

そしてりあむの反応を無視して周子が自分の布を取り去る。

ジェットエンジンを積んだホンダCT125・ハンターカブであった。

 「待って!」

 「この愛車は私と私の友人の有志数名で作った一品!! なんと空も飛べるで!!」

 「それは吹っ飛んでいるんじゃないの!?」

どう考えてもハンターカブに積んちゃいけない代物である。

 「しかも両側にジェットノズルを積んでる。私らはこれを『現代のパンシャンドラム』って読んどるよ」

 「イギリス失敗兵器の代名詞じゃないか!!」

りあむの嘆きにもHAHAHAとアメリカンに流す周子。

 「さて、次は私ですね。待ちなさい、何故身構えるのです」

 「周介さんの妹で周子ちゃんの姉の時点で貴音さんは要警戒ですよ!!」

 「ふ、これだから愚か者は。いいでしょう!! 私の愛車を見て感涙にむせぶがいいです!!」

そう言って貴音は自分の布を取り払う。

見た目は普通のJEEPのWranglerであった。

 「……え、普通?」

 「じゃあ、はいこれ、りあむちゃん」

 「え? 何これ? 巨大なハンマー?」

 「「GO!!」」

 「これで殴れと!?」

周介と周子の言葉に驚愕するりあむ。おそるおそる貴音を確認するりあむであったが、貴音はガイナ立ちをしているだけだ。

しゅがはの『はよやれ』カンペにふらふらとしながら巨大なハンマーを振り上げるりあむ。

 「うう、これだけで絶対に貴音ちゃんファンから叩かれて炎上するよ……病む……」

 「「りあむちゃんのかっこいいとこみてみたい!!」」

 「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

完全に346どうでしょう慣れしているりあむは逃げ道がないことがわかっているので思いっきり巨大ハンマーを振りぬく。

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

そして轟音と共にりあむの汚い悲鳴があがった。

なんと貴音のJEEPは無傷!! 凹みは愚か傷すらない!!

 「腕がぁぁぁぁぁぁっぁ!!!!!!」

 「説明しよう!!」

腕を抑えて地面をのたうちまわっているりあむを無視して貴音は小指をピンと立てて説明を始める。

 「私のJEEPの装甲に使われているのは軍の装甲車で使われている代物!! 素人では傷すらつけられない!!」

 「そのJEEPはもうそれ装甲車だよ!!」

りあむの悲鳴を高笑いで聞いていない貴音。そしてJEEPに乗り込む周介と周子。

するとJEEPの天井が開いてガトリングガンがでてきた。

 「……貴音さん?」

 「さぁ!! 次は美優さんの番ですよ!!」

 「武装もしてるのは完全アウトだよ!!」

りあむの言葉を無視してつぎの布に手をかける塩見三兄妹。

 「ちなみにりあむちゃん」

 「え? なにしゅがはさん」

 「美優ちゃん何に乗ってると思う?」

しゅがはの言葉にりあむは不思議そうに首を傾げる。

 「え、と軽とか?」

 「うむ、いい読みだ」

周介はそう言いながら美優の布を取り去る。

でてきたのはCV33快速戦車。

 「いや戦車ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

もはや車ですらなかった。

 「どういうこと!? なんでカルロベローチェが個人で持てるの!?」

 「あ、りあむちゃんCV33のことわかるんですね」

 「違うよ美優さん!! 突っ込みどころはそこじゃないよ!!

 「安心し、りあむちゃん。機銃は水鉄砲や」

 「ただし10mmの鉄板は貫通できるが」

 「だからそれもう兵器だよ!!」

周子と周介の言葉に突っ込みを入れるりあむ。

そんなりあむの反応を無視して塩見三兄妹は次の布に手を付ける。

 「お、どうしたんやりあむちゃん。まだ開帳してないで」

 「一番大きいこれが一番怖いんだよ!!」

周子の言葉にりあむが叫ぶ。

 「安心しろ。これは俺の友人のバイヤーがぜひとおすすめしてきたものだ」

 「……サイズ的にトラックとか? ボクとったの普通車の免許だよ」

 「安心しろ」

そう言って周介は布を取り去る。

AH-64Dアパッチ・ロングボウ戦闘ヘリコプターだった。

 「いや兵器ぃぃぃぃ!!!!」

 「その通り。何せバイヤーと言っても武器商人におすすめされた代物だからな」

 「武器商人の友人がいる周介さんの交友関係が怖いよ!!!」

 「何をわけわかんないこと言ってるんや」

 「武器など簡単に手に入るでしょう」

 「それを心底不思議そうに言い放つ塩見三兄妹が怖いよ!!」

塩見三兄妹の交友関係を調べようとした人物が行方不明になったのはファンの間では有名な話である。

 「さてさて、これで最後……おいおい!! りあむちゃん逃げるのはいかんで!!」

 「嫌だぁ!! 関わりたくなぁい!!」

 「暴れるな!! 暴れるなよ!!」

周介に関節をきめられながら押さえつけられるりあむ。それを見て貴音は優しい微笑みを浮かべる。

 「安心なさい。今までのに比べたらこれは普通です」

 「ほ、本当?」

 「ええ、本当です」

そう言ってから貴音は最後の布を取り去る。

でてきたのは小屋に入った対洲馬であった。

 「いや、馬ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 「何を言っているんだ。馬は馬でも対洲馬だぞ?」

 「せやで? 日本古来の在来馬や」

 「そういうことじゃないんだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

魂の突っ込みをするりあむ。

 「じゃ、りあむちゃん。どれ買う?」

 「え?」

 「え、じゃないでしょう」

 「私らのが欲しいんやったら普通の車両を買ってもらって私らが弄るから時間かかるで!!」

りあむがおそるおそるアパッチと対洲馬を指差す。

 「もし、あれらを選んだ場合は?」

 「「「持ち帰り可」」」

 「おかしくない!?」

今更である。

 「なんやりあむちゃん。買うの拒否するんか?」

 「いや、拒否云々じゃなくて買ったら逮捕される代物ばっかりなんだけど」

 「だったらゲームの時間だな!!」

 「ゲーム?」

りあむの言葉に周子がカメラに向かって笑顔で口を開く。

 「これからりあむちゃんには兄ちゃんとあるゲームで戦ってもらいます!! これに勝てたら今回の購入見送りになります!!」

 「よぉぉぉぉぉぉし!!! 絶対に勝ぁぁぁぁぁぁっぁあxつ!!!!!!」

 「やる気になったようですね。ではこれをどうぞ」

そう言って貴音はあるものをりあむに渡してくる。

上が赤で下が白のカラーリングのサッカーボールくらいの球体。

 「……モンスターボール?」

そう、それはサイズが大きくなったモンスターボールであった。

そして鳴り響く初代赤・緑のチャンピオン戦にテーマ。

 「え? え? え?」

状態異常:混乱になるりあむ。しかし塩見三兄妹は止まらない。

 「あ、いざかやてんしゅのしゅうすけがしょうぶをしかけてきた!!」

 「え? え? え?」

 「いざかやてんしゅのしゅうすけはカイリューをくりだしてきた!!!!」

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!???????????」

なんと周介が投げたモンスターボールから等身大の動くカイリューがでてきた。その出来事にめちゃくちゃな声をあげるりあむ。

 「うっそ!? 本物!? すごい動いてる!! え!? どういうこと!?」

 「「「科学の力」」」

 「科学の力ってすげぇぇぇぇぇ!!!!!」

塩見三兄妹の言葉に喜びを含んだ奇声をあげるりあむ。そしてりあむはノリノリで受け取ったモンスターボールを構える。

 「よ~し!! 君に決めた!!」

そう言って投げたモンスターボールからでてくるヒトカゲくらいのサイズの大きなリスのようなポケモン。

 「なんでヨクバリスなんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

よくばりポケモンヨクバリスであった。

 

 

 

 

 「さて、そんな感じで346どうでしょう最終回編でした」

 「ちなみにポケモンバトルの映像は346どうでしょう公式HPで見れるぞ」

 「あっさりと受け入れた私らの言えたことやないけど、兄ちゃん、なんでポケモン持ってたん?」

 「博士の奴が遊戯王のアニメにインスピレーションを受けて作り上げたソリッドヴィジョンシステムだ」

 「ふぅぅぅぅぅ!! 流石は博士さんだぜ!! ちなみに今回のエンディングは『風といっしょに』です」

 「また子供に戻りてぇなぁ」

 「ほんそれ」

 「「警察に捕まらないっていいことだよな」




塩見周介
俺の愛馬は狂暴です

仲野周子
憧れはミノフスキークラフト

四条貴音
渋滞の時は車を蹴散らす妄想をする(しかもできる

塩見美優
まさかの愛車はイタリア戦車

りあむちゃんのチャンピオン戦
カイリュー相手にヨクバリスで勝利を治めて汚い歓声をあげた

風といっしょに
名曲ですよね……



そんな感じで10月編は346どうでしょう最終回でした。

多方面にテロのように迷惑をかけまくったこの番組。支持者も多いけど業界関係者にはアンチも多かった模様。

そのためになくなく最終回……!!

そして世間に晒される塩見三兄妹のやばい交友関係


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悩み

おまたせしました!!

今月は遅くなってしまって申し訳ありません!!

しかも今回はちょっとシリアスなのでお気をつけください


 「「かんぱ~い!!!」」 

 「か、かんぱい」

美優は義妹の周子と貴音達と共に高級料亭の個室に来ていた。

美優がグラスからビールを少し呑んでおつまみを一瞥した時である。

 「女将さ~ん、ビール追加で」

 「周子、私の分もお願いします」

 「あいあい。女将さ~ん、ビールピッチャーで……いや、面倒だから瓶で10本くらい持ってきて」

 「いや!? 二人とも一瞬前までピッチャーにいっぱい入ってましたよね!?」

美優の言う通り周子と貴音の手にはピッチャーが握られている。そして美優が目を離す直前まではなみなみとビールが注がれていたはずだ。

美優の言葉に周子と貴音は不思議そうに首を傾げる。

 「「1秒あれば余裕では?」」

 「なんでそんな普通の反応!?」

さも当然とばかりの発言に美優が驚愕の声をあげる。

だが、美優も塩見家の嫁。夫である周介も似たようなことをよくするのですでに慣れている。

 「そういえばこのお店は? 周介さんの繋がりですか?」

 「そ。兄ちゃんに京都でええ店ないか聞いたらここを紹介された」

 「ネットで調べたらここの板長は遠月の卒業生のようですね」

 「……それって値段が大変なことになるのでは?」

美優の危惧に周子と貴音は不適な笑みを浮かべる。

 「「塩見の名前をだしたら無料になった」」

 「ものすごく不穏ですよ!?」

なんというか美優が知るかぎり塩見の名前は悪名を持って知られている。何せ美優が塩見家に嫁いだことを芸能界が知ると『よくやってくれるアイドル』といい評判が『下手なことをしたらやばいことになる要注意アイドル』という評判に変わった。

ちなみに周子は最初から『自由にやらせるとやばい。自由にやらせなくてもやばい』と大評判であり、貴音も最初は『ちょっと何を言っているかわからないことがあるアイドル』から塩見の血族ということを公表してから『下手なことをやると地獄をみるアイドル』と大評判だ。

そんな二人が『塩見の名前をだしたら無料になる』なんて言うのは不穏以外のなにものでもない。

そんな美優の反応に周子はけらけらと笑う。

 「いや、今回は本当に不穏なことはないで」

 「そ、そうなんですが?」

 「その通りです。ここに関しては塩見本家の当主のいきつけのお店なのです」

 「あ、それなら安心ですね」

美優も嫁入りしてから知ったのだが、塩見家は平安時代から続く由緒ある家柄で美優が嫁入りした塩見家もその流れを汲んでいる。

結婚直後に挨拶に向かった塩見家の本家の豪邸に驚いたのも記憶に新しい。

安心したので美優はおつまみに舌鼓をうつ。美優の食べたところ夫である周介の料理には及ばないが美味しい料理ばかりである。

 「いやぁ、それにしても今年のプロ野球は驚いたなぁ」

 「ええ、96年以来のオリックスの優勝ですからね」

 「美優さん、兄ちゃん五月蝿かったんやない?」

周子の言葉に美優が苦笑する。

 「優勝が決まった時に詩音さんと万歳三唱して即座に日本シリーズ初戦のチケットをどこからか入手してましたね」

 「「さすが」」

周介くんはオリックスファンである。そのファンがチームを優勝したことを知ったらどうなるか。

簡単である。お祭り騒ぎだ。

 「あのイチロー、田口、D.J、ニール、星野とかがいた黄金世代以来やからなぁ」

 「ええ、兄の影響でオリックスファンである私達も興奮したものです」

 「あの時代は阪神淡路大震災の『頑張ろう神戸』のスローガンもあって盛り上がったもんやもんなぁ」

まるで見てきたかのように会話する周子と貴音。そして美優は何かに気づく。

 「あれ? お二人とも96年の優勝の時は産まれて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『いかん美優!! 禁則事項だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

              は!?」

美優が目を覚ますと心配そうに周子と貴音が顔を覗き込んでいた。

 「大丈夫かいな、美優さん」

 「ええ、まるで『世界の禁忌に触れてしまったために強制的に意識を落とされた』ようでしたが」

 「ええ……えっと、私は何の話を……」

 「「思い出さないほうがいい」」

美優が何を話していたか思い出そうとすると、二人から止められた。

それからしばらくは世間話は今日の仕事の話をしていたが、急に周子と貴音が真面目な表情になる。

 「それで? 美優さんは何を悩んどるの?」

周子の言葉に美優は思わず息をのむ。だが、すぐに微笑む。

 「なんでもありませんよ」

 「姉ちゃん、どう思う?」

 「すごいですねこの義姉。これで嘘をつけると思っているなんて」

 「だが、それがいい」

 「わかる」

何故か周子と貴音ががっつり握手を始めたのが美優は印象的だった。

 「まぁ、兄に完璧に見抜かれているので嘘は無駄ですよ」

 「しゅ、周介さんにバレているんですか?」

 「というか今回の京都での仕事を機会に私らに相談に乗ってくれって頼んできたの兄ちゃんやからな」

周子の言葉に嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を真っ赤にして覆ってしまう。それを見て周子と貴音は美味しそうに白米を食べていた。

しばらくして心の整理をつけてから美優は口を開く。

 「思うんです。私が周介さんと結婚していいのか、って」

結婚式を来月に控え、最近の美優の悩みはそれであった。

 「周介さんは傍流とは言え由緒あるお家の後継者です。それは家の名前を残さないといけないことも意味します。ですが……私は子供ができません……」

産婦人科で言われた子供ができない、という診断。それを美優を悩ませた。

塩見家は頭がおかしいと言われるし、それはまごうことなく事実であるのだが、平安時代から続く由緒ある家柄でもある。それは名前を残すことが使命でもある。

だが、美優に子供はできない。

夫である周介はもちろん、義理の両親である塩見夫婦、果ては塩見本家も気にしなくていいと言っているが、その言葉が逆に美優を追い詰めた。

優しさとは時に凶器となる。

無理して産まなくていいという言葉が美優を傷つけた。

 「産まなくてもいい……それが私を気遣ってくれているのはわかってます……ですが……」

病気だから仕方ない。美優ももう子供ではない。病気だからと割り切ることはできる。だが、それでも思ってしまうのだ。

自分の体が健常者であったなら、と。

美優の言葉を聞いている周子と貴音。

そして周子はゆっくりと口を開いて。

 「美優さんは私ら……まぁ、塩見家の病気のこと知っとる?」

 「え?」

周子の言葉に驚いた声をあげる。周介と付き合って長いが病気のことは聞いたことがない。

美優の表情に説明されていないことに気づいたのか貴音が説明を始める。

 「私を含めた塩見一族には身体に欠陥を抱えています」

 「欠陥?」

 「まぁ、一族全体の病気です。なに、簡単な病気です」

そう言って貴音はビールを一口呑んでから口を開く。

 「遺伝子異常で短命なのです」

貴音が告げたあっさりとした言葉に美優のほうが絶句する。

そして周子もあっさりと会話を続ける。

 「不思議な病気よなぁ。ご先祖様の中には遺伝子計算して身体が頑丈になる子を産まれるようにしたのに、確かに身体は頑丈だったけど短命っていう前例もあるし」

 「個人的に塩見に迷惑をかけられた人々の呪い説を推したいですね」

 「それな!!」

からからと笑いながら会話する周子と貴音。

 「そ、その病気って周介さんも……?」

慌てて夫の病気を確認する美優。その顔には焦燥感があった。

愛した人が早死にしてしまうかもしれない。その焦りだ。

美優の焦った表情をみても、とくに雰囲気を変えずに周子はあっさりと口を開く。

 「あるよ」

周子の言葉に美優は絶句してしまう。

貴音はなくなってしまったビールの代わりに水を飲みながら説明する。

 「塩見家が世間一般的にキチガイと言われるのは知っています。ですが、私達は短い人生を精一杯楽しもうとした結果です」

 「『短い人生だったら楽しまなきゃ損だよな!』。私らのご先祖様の言葉や」

 「『恨まれるのはいいが誰も恨まず笑って死んでいけ』。それが我が一族の家訓です」

 「病気なんやから仕方ない。それは間違いないやろ」

 「ですがそれを気にして生活するより、それ以上に人生楽しめたらいいでしょう」

美優はなんとなく理解できた。夫である周介だけでなく、周子、貴音。そして美優が会ったことのある塩見家の一族は今を精一杯生きている。それは短い命を楽しむためだということだろう。

しばしの無言。そして美優は覚悟を決めて口を開く。

 「周介さんは……何歳まで生きれるんですが?」

美優の静かな問いに周子が口を開く。

 「さぁ。ひょっとしたら来年には死んどるかもしれないし、何十年も生きている可能性もある」

周子の言葉に美優は覚悟を決める。

最後の瞬間まで周介の側にいよう、と。

美優の表情を見て『結婚する権利云々』という周子と貴音にとっては笑止千万なことを気にしなくなったことに気づき義妹二人は笑う。

 「まぁ!! 文献みると百五十まで生きたお人もたくさんおるんやけどね!!」

 「長生きか短命の二択というのが我が一族ながら頭がおかしい一族ですね」

 「色々台無しなんですが!?」




塩見美優
病気のことを色々悩んでいたら嫁入りした一族に自分以上の爆弾があった

仲野周子
旦那はプロ野球選手。兄の影響でオリックスファン

四条貴音
夫は鎮守人。兄の影響でオリックスファン

塩見一族の秘密
実は短命な宿命を背負った一族。でも頻繁に百歳をこえる人もでるから割と謎な遺伝子を持つ一族

96年の優勝を知っている周子と貴音
全然関係ないですけどアイマスが稼働してから何年たちましたかね(すっとぼけ



お待たせいたして申し訳ありません!! そして待たせた上に半シリアスで申し訳ありません!!
でも今月は結婚に悩む美優さんを書きたかったんです!!(なお、すでに籍はいれているので無駄な悩みである

そして明かされる塩見家の秘密!! その一族は短命だった!!(しかし百歳越えも頻繁にでる
自分の悩み以上の病気をぶつけられて覚悟を決める美優さん

ある意味美優さん覚悟完了!!

来月最終回になります


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これからも

最終話になります

最後まで楽しんでいただければ幸いです


夢をみている。

美優が夢だとわかるのは見ている光景が学校の教室だからだ。

夕暮れの教室、この時は好きな人と一緒に日直だった。

その彼が真剣な眼差しで美優を見つめながら口を開く。

 『俺は三船美優さんが好きです。付き合ってください』

嬉しくて、恥ずかしくて、彼の顔をまともに見ることもできず、自分はこう言ったはずだ

 

その瞬間に目が覚めた

 

 「……ん」

美優はぼーっとした頭でベッドから起き上がる。そして周囲を見渡すといつもと違う部屋であることに気づく。

美優がそう呟いた時に部屋に備え付けのキッチンから周介が顔を出した。

 「お、起きたか。もうすぐ朝食できるぞ」

 「あ、はい。おはようございます」

美優が慌てて頭を下げると周介は苦笑する。

 「おはようさん。とりあえず上隠したほうがいいぞ」

 「へ? キャア!!」

美優が慌てて露わになっている上半身を隠すのとサムズアップしながら周介がキッチンに戻るのは同時であった。

 

 「「いただきます」」

部屋に備え付けられている机で二人は周介の作った朝食をとる。鮭の骨をとる美優をスマホで激写している周介に不思議そうに首を傾げながら美優は口を開く。

 「あの、周介さん」

 「ん? なんだ?」

 「本当に今日も披露宴やるんですか?」

 「社長とココの奴が遠月リゾートを貸し切った時点でマジなんだろうなぁ」

周介の言葉に美優は苦笑する。

世界各国の諜報機関も注目した塩見三兄妹の結婚披露宴は昨日開催され、大盛況のうちに幕を閉じた。

披露宴の途中で武装集団が乱入してきたりそれを参列者が返り討ちにしたり警官隊が突入してきて逮捕者がでたりヘレンがヘリコプターで登場してゲリラライブをやったりしたがおおむね平和に終わったはずであった。

しかし、周子の友人として参加していた三峰ェ!が言い放ったのだ。

 『延長戦やろうぜ!!』

それだけで主に塩見三兄妹の友人一同が悪乗りし、社長とココが札束を遠月リゾートに叩きつけて延長戦が決定した。

そして多くの参列者が不参加の中、塩見三兄妹の友人達は遠月リゾートで大騒ぎをしていた。

 「みなさん大丈夫でしょうか」

美優は心配そうに呟くと周介が笑顔で言い放った。

 「大丈夫、まだ一棟しか爆破されてない」

 「いえ!? 大問題ですよ!?」

美優の言葉に周介は落ち着けというジェスチャーをしてから真剣な表情になる。

 「いいか、美優。集まった面々を思い出してみろ。爆破どころかまだ遠月リゾートが残っている時点で奇跡だと思わないか?」

周介の言葉に何も言い返せない美優。その時、周介のスマホが振動して、周介が電話にでる。

 「どうした? あ? アサルトライフルで武装している見覚えのない連中がいるって? たぶん社長かココの私兵だな。ちょっと待て……ああ、この連中はココの私兵だ。ココに言っとけ。騒ぎを起こしたら『一生懸命に鮭の骨をとる美優の写真』はやらないってな」

そこまで言い切ると周介は電話をきる。だが、美優は顔が真っ赤で固まっている。それを不思議そうに見る周介。

 「どうかしたか?」

 「わ、私が一生懸命に鮭の骨をとっている写真ってなんですか!?」

 「美優さん大好きクラブに送るための写真だが?」

 「悪びれもしない……!?」

自分の夫ながら未だに理解できないことが多い周介に軽く戦慄する美優。

だが、いつものことなのでその後は会話をしながら朝食を終える。

美優が食後のお茶をいれながら周介に話しかける。

 「周介さんは中学時代のことを覚えていますか?」

美優の問いかけに周介は不思議そうに首を傾げる。

 「全裸の奴が全裸で隣町の中学に襲撃かけた奴か?」

 「……そんなこともありましたね」

周介の言葉に美優も苦笑してしまう。

ちなみにその全裸くんは昨日の披露宴で突入してきた警官隊に逮捕されて今は留置場の中である。

 「え~、と、その~……周介さんが私に告白してくれた時のことです」

恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら最後は駆け足気味の早口になった美優を周介は激写しながら懐かしそうに口を開く。

 「あ~、あれか。覚えているよ。なんで?」

 「いえ、今朝夢でみまして」

美優の言葉に周介は手で顔を覆う。

 「インパクトのない告白ですまん……!!」

 「いえ!? 告白にインパクトなんて求めていませんよ!? そ、それに私には充分インパクトありましたし」

恥ずかし気にいった美優を見て周介は真顔ですさまじい勢いで鼻血を吹いた。

 「しゅ、周介さん!?」

 「気にしないでくれ。ちょっと美優への愛が鼻から溢れただけだから……!!」

美優には周介が何を言っているかちょっと理解できなかったが、割といつものことなので流す。

 「私はあの言葉だけですごい嬉しかったですよ」

微笑みながらの美優の言葉に周介くんの耳から耳血が噴き出した。

 「周介さん!?」

 「大丈夫、大丈夫……!! この溢れ出る血液は俺の美優への真っ赤な誓いだから……!!」

 「いえ、確かに真っ赤ですけど……」

そう言いながらも床にまで溢れた血液を美優は処理する。本来なら処理の難しい血液をあっさりと処理できるあたり美優も塩見に染まっている。

美優と仲の良い飲兵衛お姉さま集団がいたらそう突っ込んでくれただろうが、この場には残念ながら塩見しかいないので流れる。

そして改めて美優と周介は向かい合って座り会話を続ける。

 「あの時は他の奴に嵌められてなぁ」

 「え? そうなんですか?」

長い付き合いだが初めての事実だ。

美優の言葉を聞いてから周介は懐かしむように口を開く。

 「全裸と社長と俺の三人で駄弁っている時にな。最初に全裸の奴が『じゃあ俺、三船に告白するわ』って言い出して、そしたら社長の奴が『いやいや、俺が三船に告白するわ』って言い出したから俺も『じゃあ、俺が告白するぞ』って言ったら二人が『ど~ぞど~ぞ』って言ってなぁ」

 「ダチョウさん方式……!!」

あの時代から続く古き良き伝統にのっとって告白することを決めたらしい。

 「まぁ、そんな話になったのもハッカーの奴がどこからか『一か月後に三船が転校する』って情報を手に入れてきたからなんだが」

それも覚えている。何せ美優も両親から言われた二日後には友人一同が知っていて『あれ?

 誰にも言ってないはずなのに』と疑問に思ったからだ。

だが、誰にも言っていないはずの情報が全員に知られているという出来事は珍しくもないので美優も深く突っ込まない。

 「それじゃあこうして周介さんと結婚できたのは全裸さんと社長さんのおかげかもしれませんね」

美優がそう言った瞬間に周介が味わい深い表情になる。それを見て美優は不思議そうに首を傾げた。

 「どうかしましたか?」

 「いや、それをあの二人に言ったらどうなるかと思ってな」

そう言われて美優も想像するが、美優の純粋な想像力では全裸が全裸になることと社長がお金を請求してくるくらいしか浮かばなかった。

 「でも、よく考えたら美優とは中学時代から付き合って結婚したのか。長かったって言えるはずの期間なのに短かった気がするな」

 「そうですねぇ」

転勤族の父親の影響で美優は付き合いの長い友人は周介くんと愉快な仲間たちくらいしかない。高校の時に周介くんと愉快な仲間たちが美優に会いに来た時は大騒ぎして警察沙汰になり、最終的に当時美優の住んでいた街に隠れていた凶悪犯を全裸亀甲縛りにしてバイクで走り抜けたくらいだ。

 「どうかしたか?」

 「いえ、改めて思い出すととんでもないことをする方が多いな、と」

改めて思い出さなくても頭のおかしいとんでもしかいいないのだが、聖女・美優はそれに気づかない。

するとこのタイミングで再び周介のスマホが振動した。画面を開いて周介は顔を顰める。

 「どうかしましたか?」

 「いや、全裸の奴が準備できたから大ホールにこいってさ」

 「……あれ? 全裸さんは逮捕されていたはずでは?」

 「警察から『頼むからでていってくれ』と懇願されたみたいだな」

やはりとんでもしかいないのが周介くんの友人関係である。

周介は残っていたお茶を一気に飲みきると椅子から立ち上がる。

 「んじゃ、行くか」

 「あ、周介さん。ちょっと待ってください」

美優の言葉に周介は不思議そうに立ち止まる。美優は一瞬だけ迷ったが、思い切って口を開いた。

 「もう一度あの時の告白をしてくれませんか?」

その言葉に周介の表情が曇る。それを見て美優はへにょりと眉尻を下げた。

 「あ、あの。やっぱりいいで」

美優が最後まで言い切る前に周介は美優の両手を握る。美優がびっくりした表情で周介をみると、周介は覚悟を決めた表情をしている。

 「俺は三船美優さんを愛しています。一生一緒にいてください」

その言葉に美優はびっくりする。あの時と言葉は違うが、真剣さは変わらない。

だから美優も当時と同じ言葉で、しかし気持ちはそれ以上に込めてこたえる。

 「こちらこそ、よろしくお願いします」




塩見周介
愛する人と

塩見美優
ずっと一緒



俺が美優にプロポーズするまで

Fin


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