でんこと行く「美し国、日本」 (アベノ ミサキ)
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にころと行く「黄金の國、いわて」
にころでしゅ。
にころは今、東北新幹線で【盛岡駅】へむかっているのでしゅ。
ますたぁは初めての岩手入りなのでメモリー集め真っ最中なのでしゅ。
今回の目的は協会からの司令【北岩手集中収集期間】を達成するにあるのでしゅ。ミッション名【黄金の國、いわて】だそうでしゅ。
北岩手には様々な伝承が残り、一部メモリーを解析することにより【特別なラッピング】を精製できるかもしれないとのことでしゅ。
ますたぁはまだ新米なので他のでんこのみなしゃまもビギナー。司令に乗じて大量メモリー獲得、みなしゃんの育成も兼ねてにころが抜擢されたというわけでしゅ。
盛岡駅に到着でしゅ。ここから【IGR いわて銀河鉄道線】に乗り換えでしゅ。
ますたぁは食いしん坊なので、乗り換えの合間にも食べるものを物色してるでしゅ。本当であれば【福田パン】が食べたかったらしいのでしゅが、駅から出ないと買いに行けないでしゅ……
乗車券は【きたいわてぐるっとパス】を購入でしゅ。これは【盛岡~二戸~久慈~宮古】の北岩手エリアを【左右どちらか周り】に電車、バス乗り放題になるという特殊な乗車券なのでしゅ。今回は盛岡発で時計回りコースを選択でしゅ。
ではいざ、北岩手の思い出集めに出発進行でしゅ!
いわて銀河鉄道線に乗り込みましゅ。銀河鉄道といえば宮沢賢治の【銀河鉄道の夜】を思い出しましゅね。うちのますたぁは『おそらく読んでない』そうなのでしゅ。学がないでしゅね……
今は3月なのでしゅがなんと雪が降っていましゅ。鉄道に雪は大敵なのでしゅが、ますたぁは雪景色は好きだそうでしゅ。
西に【岩手山】を望みましゅ。岩手で特に存在感のある山でしゅね。実は近い将来、ますたぁは何度か足を運ぶことになるのでしゅが……
岩手は鉄道沿い以外は山地が多く、乗り鉄ますたぁ的には目を楽しませてくれる車窓のようでしゅ。にころはもっと商機がありそうな都会のほうがいいんでしゅけどね……
【二戸駅】に到着でしゅ。ここからバスに乗って東の【久慈駅】を目指しましゅ。
実はぐるっとパスでは、二戸駅から更に北、【金田一温泉駅】まで行けるのでしゅ。
ご多分に漏れず温泉好きなますたぁでしゅが、なんと今回は『一日で司令を完了させる』らしく、綿密な計画を練っているらしいので寄り道はできないのでしゅ……
このますたぁ、綿密な計画とは言いましゅが、大体直前になって計画をたてるので弾丸ツーリズムになってしまうのでしゅ……
車窓は山間部と田舎道ばかりを映しましゅ……にころはメモリー集めに専念でしゅ。
およそ1時間10分程で久慈駅へ到着。
……久慈駅前は、にころ的には儲かりそうな匂いはしないでしゅね……
ますたぁ曰く『昭和を彷彿とさせるいい鄙び感』だしょうでしゅ。よくわからないでしゅね……
久慈駅周辺で旅の目的の一つ【まめぶ汁】を食べられるお店に入りましゅ。
なんとこのお店、奪取er協会の息がかかっていて、でんこ的ノベルティがゲットできるのでしゅ。まあ理由はなんとなくわかりましゅが……久慈駅のメモリーが枯渇しているんでしょうねぇ……
件のまめぶ汁でしゅが、まず【まめぶ】とは胡桃と黒砂糖を小麦粉で団子状にしたものだそうでしゅ。ますたぁ曰く『けんちん汁にまめぶを入れたような感じ。甘くてしょっぱい』だそうでしゅ……ますたぁの口には合うそうでしゅ。
食事を終えて次の鉄道的目的【三陸鉄道北リアス線】に乗って一路【宮古駅】を目指しましゅ。
【北リアス線】は海岸線を望む鉄道でしゅ。先頭車両から前方を見ることもできるので、線路の上を走る景色もまた楽しめましゅ。
海岸線は震災の影響で護岸工事が各所で行われていましゅ。そこも踏まえた車内アナウンス、また見どころでの低速運転と、観光列車としてなかなかのサービスでしゅ。
三陸鉄道南下の終点、【宮古駅】に到着でしゅ。
ここでは旅の目的がないので、次の盛岡駅へ向かう【岩手県北バス】を待つのでしゅが……実はこの宮古駅にある観光案内所で【とある証明書】を発行しているのでしゅが、ますたぁがそれを知るのは後日の話でしゅ。
このバスは、おおよそ【山田線】に並走しているためメモリー集めもはかどりましゅ。
実は今日は3月21日、エリアしゃんの誕生日だったのでしゅが、この頃のますたぁはでんこしゃんたちの誕生日に鈍感だったので特に優遇してなかったのでしゅ。モテないわけでしゅ……しかたないのでにころがますたぁにあどばいしゅして、山田線はエリアしゃんにおまかしぇさせてもらったのでしゅ。
県北バスは深い山間部を走るバスでしゅ。かの有名な【遠野市】よりはやや北でしゅが、徐々に暗くなっていく景色を見ていると薄らしゃむい気分になってくるのでしゅ……
そして本日のスタート地点であり、ゴール地点である【盛岡駅】に到着する頃にはすっかり暗くなっていたのでしゅ。
せっかくなのでご当地グルメ【じゃじゃ麺】を食べて本日の旅の締めくくりとするますたぁ。
にころのおかげで他のでんこしゃん達も育ってますたぁも満足のようでしゅ。もちろんメモリーも大量獲得で。協会へのレポートはにころがまとめましゅ。これでにころの協会への覚えもめでたく……なんでもないでしゅ。
今回は【北岩手】を踏破しましゅたので、次は【南岩手】でしゅかね。南岩手といえばやはり【遠野】でしゅかね。あとは【三陸鉄道南リアス線】でしゅね。(実はしばらくあと、南北リアス線を縦断することになるのでしゅが……)
まだまだ新米のますたぁでしゅが、他のでんこしゃんたちも含めてにころに任せておけば安心でしゅよ!
またお出かけしましょうね、ますたぁ!
(なお特別なラッピングは後日無事配布されたのでしゅ。にころのは無かったでしゅが、みなしゃん面白い格好でしゅた)
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うららと行く「地下鉄に乗ってマスターを探すっ!」
『わーっ、久々の遠征だねー!』
あたしの名前は【新百合うらら】……今、東海道新幹線の中に居ます……
『ねぇねぇますたぁ、おいしいものいっぱいあるかなー?』
年末差し迫った12月末、どこへ向かっているかというと……【古都、京都】……
『京都は雅と侘び寂びという相反するものを内包した都なんよ。マスターもそこが好きなんよ』
三人娘こと、【みろくさん、メロさん、ルナさん】も大はしゃぎ……マスターも、『年に一度は京都へ行きたいよなぁ!』だって……たまたま奪取er協会からの司令【京都地下鉄をチェックせよ!】が来たのもあるんだけど……
合わせて『今回はうららを育成しよう!』ってマスター言ってた……今回の編成は、うらら・みろく・メロ・ルナ・ひいる・アサの皆さん……
うららとアサさん、ひいるさんは一緒にお仕事することが多い(スキルの相性が良いんだって)けど、アサさんは以前に東京で宝探しをするときにいっぱいお仕事したから今回はうららが選ばれたみたい……(ひいるさんはいつでも人気なのでレベルも高い……)
京都へ到着……すでに夜なので京都駅周辺を少し眺めてからホテルへチェックイン……明日の行動予定をチェックして今日の予定は終了……
今回の司令対象の地下鉄、【地下鉄烏丸線】と【地下鉄東西線】は京都駅の北、【烏丸御池駅】を中心に東西南北に走る地下鉄……往復箇所が多く、見た目より時間がかかりそう……
マスタープランでは『南、北、西、東』の順だって……マスター、直前に計画変更することが多いので油断ならない……今回も一泊旅行なので観光に余裕は無いみたいだし……三人娘はなんとかして楽しもうとしてるみたいだけど……
翌日―
「あれっ、みろく?ルナ?メロ?」
今日は一日でミッションを完了するため、早起きして眠い目をこすり京都駅へ向かって……【地下鉄一日乗車券】を購入している間に三人娘の姿が見当たらなくなった……京都駅に着き次第、早速……
『あの三人が居て何も無い、とは思わなかったけど早速ね』
そう言って溜息をつくのは一人だけすっきりした顔のアサさん。
『まったく……おのぼりさんみたいでハズカシイじゃん……ふわぁ、ねむ……』
こちらはいつもどおりバッチリメイクのひいるさん。だけどさっきからあくびばかりで綺麗な顔が台無し……
昨夜は(ヤッバ、そういえばアサと一緒じゃん、どんだけ早起きすればいいの……)
ってぼやいてた……ひいるさんは絶対にすっぴんを見せないのは公然の秘密なのだけど、アサさんはでんこいち早起きなので狭いホテルではアサさんより早起きしないとすっぴんを見られてしまう……アサさんはすっぴん見ても絶対気にしないと思うけど……
「しかたないなぁ……時間も押してるし、まあルナもいるし大丈夫だろ……アサ、ひいる、うららのサポートよろしく」
『まかせて』『了解じゃん♪』
まずは南方の【竹田駅】へ。ところが早速、京都の路線の罠にハマってしまうマスター……実は竹田駅、【近鉄京都線】と【地下鉄烏丸線】が両方乗り入れるというトラップ……
竹田駅から更に京都駅を通過し北へ行くには地下鉄烏丸線に乗りたいので南下は近鉄京都線に乗ったほうが効率的なのだけど、地下鉄烏丸線に乗ってしまったの……まあ京都駅で乗り換えが必要なだけだけど……ちなみに近鉄京都線は地下鉄一日乗車券の対象にならないのも注意……
近鉄京都線を京都駅で烏丸線に乗り換え北へ、地下鉄烏丸線を制覇するため、終点【国際会館駅】へ。チェックインしたらそのままUターンして【烏丸御池駅】へ。ここは地下鉄烏丸線と【地下鉄東西線】の交点。烏丸御池駅から東西線に乗り換えて西へ、太秦天神川駅へ到着……むー……
「どうした?」
マスター……ちょっと地上へ出ないとアクセスできないみたい……
「そっか、ならちゃちゃっと地上へ出ようか」
地上へ出ると檸檬色の出入り口がある建物がある……地下鉄だから駅舎って感じじゃないけど……
『東西線は駅ごとにステーションカラー、っていうのが設定されてるんだって。太秦天神川駅は檸檬色みたい』
下調べバッチリなアサさん……
「眼の前には【嵐電天神川駅】もあるからついでにチェックインしとこうか」
スマホを操作しながら歩くマスター、前見て……
「あっ!」「きゃっ! えっ、あれっ」
小さな悲鳴、どうやらひいるさんと……檸檬色のジャケット、胸元に赤いリボンがアクセントの制服を着た、ロングヘアーの、多分女子高校生……むー……?
普通ならマスターの方にぶつかったと思うはずだけど、一瞬ひいるさんを見たような……
「大丈夫?」
マスターが心配そうに声を掛ける
「あ、すみません、ウチ、慌ててて……」
話を聞くと、友達と待ち合わせをしていて急いでいたようだ。
「ほな、失礼します~」
お互いの無事を確認して別れる。
『今の子、なかなか可愛かったね~、京都のJKはレベル高いのかな~、ひいるとは方向性が違うけど~』
ぶつかりそうになった事はすっかり忘れてファッションチェックするひいるさん……それにしてもあの人、絶対ひいるさんを見てたと思う……
嵐電天神川駅にチェックイン、次は地下鉄東西線を東へ。司令にある【小野駅】をチェックしつつ東西線を制覇……
【東西線】という名前の割に終点【六地蔵駅】は京都駅から見て東へ向かったあと大きくカーブして南東に向かう……後日この六地蔵駅にはお世話になるのだけど……
地下鉄なのであまり景色も見えず『今回の司令ってなんの意味があるんだろう?』と疑問のマスター……あたしもその時はそう思ったのだけど、これはある【二つの】ミッションに必要な下準備だったことをまだ知らなかったの……
六地蔵駅をチェックインしたら東西線をUターンして京都駅へ。京都駅の大階段を登ったところにあるフードコートで休憩……
『三人娘はどこへ行ったんだろうね……』
アサさんは朝早い分、暗くなってくるとすぐ眠くなるみたい……だけど三人娘を探し出すイレギュラーミッションが残ってる……と、そこへ
「あ、いたいた、おーい、お兄さ~ん」
最初は誰を呼んでいるかわからなかったけど、自分を呼んでいると気づくマスター。その声の主は……あ……太秦天神川駅でぶつかりそうになったあの子……
「えへへ、やっとみつけた。でんこちゃんが居てよかった~」
明らかにうらら達の方を見ている……
『やっと合流できたんよ』『マスター!』『ますたぁ~、何食べてるの? メロも食べた~い』
彼女の周りには三人娘と、あと二人女子高生っぽい子と……でんこサイズの緑色っぽいなにかが浮いてる……
そのままフードコートで女子高生三人が経緯を説明してくる。
「わたし、太秦萌っていいます、こっちは松賀咲ちゃんと小野ミサちゃん」
ボーイッシュな子とツインテールの子と挨拶を交わす。そしてこの子……マスター、見える……?
『はじめまして、都くんです。マスターさんにお会いできて光栄です』
どうも電車をモチーフとした……なんなんだろう……でんこみたいなものなのかな……特段説明はないみたいなのでとりあえずスルー……
「実は太秦天神川駅でひいるちゃんにぶつかりそうになったあと、わたし達三人は京都駅で合流する予定だったんです。そしたらルナちゃんたちに出会って……」
やっぱりこの子、あのときひいるさんのこと見えてたんだ……ってことはマスター適性がある……でもでんこが居ない……もしかしてこのミッション……
『萌たち今日は京都巡りする予定で、どうせマスターも最終的には京都駅に戻ってくるし、それまで時間もあるので一緒に観光しよう!というのとついでにメモリー集めもできるので一緒に行動してたんよ』
『萌ちゃん達との京都巡り、とっても楽しかったよマスター!』
『美味しいものも食べれたし、京都っていいところだね~』
迷子になった失敗をよそに満足げな三人娘……ついでとはいえメモリー集めもしていたみたいなのでマスターも怒るに怒れず苦笑い……
その後、少しおしゃべりしてからお互い帰る時間になってしまった……
「そうなんですね、じゃあ今回はあまり京都観光って感じじゃなかったんですね……できればお正月まで居られれば賑やかな京都を見れるんですけどね」
実際今回は指定駅のチェックに終始してしまって観光じゃなかった感じ……
「京都の魅力、もっともっと知ってほしいです! 次に来たときはめいいっぱい観光してくださいね! それじゃまたいつか会えるといいですね!」
そう言って彼女たちと別れる……
帰りの新幹線でも三人娘は萌たちとの京都観光の思い出話で大はしゃぎ……
マスターも今回の京都旅行は物足りないみたいなので、いつかまたきっと来ることになると思う……その時はしっかり計画を立てて……
またお出かけしようね、マスター……
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萌と行く「地下鉄に乗って京都を巡るっ」(1)
『マスターさん、ようこそ京都へ!』
京都駅に着いたマスターの前で歓迎の挨拶をしたのは檸檬色のジャケットに、胸元に赤いリボンが特徴的な制服を着た【太秦萌】。およそ1年前に京都で出会った女子高生。
ただし、宙に浮いていることと、フィギュアサイズである、つまり【でんこ】であることを除いては。
ルナなんよ。およそ1年前、マスターとウチらは協会のミッションを達成するために京都へ向かったんよ。その時は一日で指定駅を周るという、マスターお得意の弾丸ぶりを発揮したんよ。
でもその時、マスターもウチらもそのミッションに疑問を感じたんよ。【地下鉄東西線】と【地下鉄烏丸線】を巡るだけの味気ない内容に。結果的に地元の女子高生【太秦萌】ちゃん達と知り合えたのは良かったんやけど…
後日、イベント達成報酬として【京都まんきつきっぷ】なるものが1枚届いたんよ。調べてみたけど特に意味のない、いわゆる記念品的なものだろうとういことで落ち着いたんよ。ところが先日、自宅で次の旅行先について話し合っていると……
『……?マスター、鞄の中を見るんよ』
鞄といっても、ウチらでんこが言うのはマスターの端末内にある所持品リスト。ここには大まかに言って【使うと効果があるもの】【持っているだけで効果を発揮するもの】【特に意味のないもの】が格納されているんよ。
使うと効果があるものはマスターが使用申請することによってアクティベートされ、協会の未来の科学力によって発現するんよ。
マスターはリストをスクロールすると気づいたみたいなんよ。確か、特に意味のないものに分類されていた【京都まんきつきっぷ】が【使うと効果があるもの】になっていたんよ。
「どういうことだろう?」
『おそらく……今まで使えなかったものが使えるようになったということはプレゼントの準備ができたかだと思うんよ。』
でもそれは半分しか当たっていなかったんよ。
京都まんきつきっぷに触れるマスター。使用を確認されたきっぷは鞄から消える…
『ぴんぽーん』
何が起こるか、と期待していた空気に突然鳴り響くインターホン。タイミング的にドキッとしたマスターだったが、続けて『お届け物でーす』の声に「何だろ、配達か。尼かな? でも何も注文してなかったよな…」などとつぶやきながら玄関に向かう。扉を開けるとそこに人影はなく、足元にダンボール箱が置いてあるだけだった。
「このパターンはあれだよな……」箱を見つめるマスター。
ウチらでんこは、ミッションの報酬などで手に入る【プレミアムガチャチケット】を使用することによって、おおよそランダムで新しいでんこがマスターのもとへ協会から派遣されるんよ。でも今回はガチャチケットではないのにでんこが派遣されてくるパターンに似てるんよ。ということは【特定のでんこ】である可能性が高いんよ。
部屋に持ち帰り外箱を開封するマスター。でんこであれば中はパッケージングされた化粧箱にでんこが入っていて、開封すると起動する仕組みなんよ。
「やっぱりでんこだったね……あれ?このでんこ、見覚えが……」
化粧箱から見えた姿は、いつか京都で出会った女子高生のものだったんよ。
※※※
ははっ、彼、相当驚いている頃だろうね! ああ、そうそう、でんこのデザインの話だったね。
でんこのデザインにはモデルが有るのは知っているだろう? 主に最初から着ているラッピングや装飾品、パンタグラフなどは元となった車両。名前はやはりモデル車両や駅名なんかから持ってきている。じゃあでんこ……ええと、ボディのことだ。むしろ一番目立つ部分だろう。別に彼女たちは協会員やデザイナーの趣味で作っているわけではない。話の流れからわかるように彼女たちにもモデルは居る。では誰か?
その前に、彼女たちの使命は過去に渡り、滅びる前の駅からメモリーを集めることだが、実は彼女たちのモデルは各時代に居た実在の人物なんだ。そしてその選抜理由は【およそその駅、車両などに縁の深いこと】だ。何故かそういった人物をモデルにしたでんこはメモリー収集能力が高いことがわかっている。
次のミッションにはどうしても彼女の力が必要なのでね。開発に1年かかってしまったが、マスターくんと彼女ならきっと達成してくれるだろう。
※※※
『はじめましてマスター!私、太秦萌。マスターと一緒にメモリーを集めるために派遣されました!』
驚きを隠せないマスター。それもそうなんよ。だって彼女はどう見ても去年京都で会った人間の女の子、【太秦萌】そのもの。そして【このタイミング】なので協会の目的も予想はつくんよ。
『実は私、次のミッションに適したでんこと言うことと、ついでにメッセンジャーとして派遣されました!』
萌が持ってきたミッションは予想通り再び京都なんよ。これで納得いったんよ。去年の京都ミッションは【二つの】意味があったのが推理できるんよ。一つは京都地下鉄にマスターを慣らしておくこと。もう一つは太秦萌のデータを収集すること。
今度は駅の他に著名なスポットが追加されてるんよ。日数次第では難易度の高いミッションになりそうなんよ。なので京都に適したでんこが必要であること。それだけ次のミッションにかける期待と規模が大きいことが想像できるんよ。
そしてタイミングというのは……先日、マスターはインターネットで流れてきた【とある写真】にとても感動してたんよ。案の定ミーハーなマスターは渡りに船とばかりこのミッションに乗り気で、慌てて計画を練り始めたんよ。協会にばっちりリサーチされてるんよ……
というわけで改めて京都駅前なんよ。(でんこの)萌の歓迎を受けていざ、京都観光! ミッション名【地下鉄に乗って京都を巡るっ】
……ところでマスター、すごく眠そうなんよ……というのも、京都までの経路は仙台駅からおよそ20時出発の高速バスで日本海ルート、京都到着は8時……つまり12時間の乗車だったんよ。
高速バスなので寝てればいいのに(マスターは環境耐性が高くてどこでも眠れるらしいんよ)、行きが日本海ルートをいいことに「これは赤新駅大量取得のチャンス!」なんて言って殆ど寝てないんよ。そして徹夜の強行軍の犠牲になったでんこは……
『すや~、なの……』
編成に経験値を与えることのできる【なより】が一人で頑張ってたんよ。マスターはハイテンションで元気みたいだけど、いつ居眠りして電車を乗り過ごさないか心配なんよ……
萌です!今回はわたしがマスターの京都案内をさせてもらうね。ミッションスポットの他にもいくつかマスターの希望を含めて計画を立てたよ! 高速バスから降りて早速出発! マスターは大丈夫って言うけどほぼ徹夜したので体調には気をつけて……
まずは京都駅から南北縦断する【地下鉄烏丸線】に乗車して北上、7分ほどで着く【丸太町駅】を降りるよ。眼の前に見えるのは【京都御苑】!
ここでは京都御苑の紅葉も綺麗だけど、目当ては中にあるマスター希望のスポット【仙洞御所】の予約制のツアーガイド。インターネットで予約抽選できるんだけど、見事落選……でも諦めるのはまだ早い、当日申し込み(先着順)ができるんだ!
南側の【堺町御門】から入場、御苑は紅葉真っ盛り、赤や黄色に色づいた木々が鮮やか!
砂利敷、白壁の道を少し北上して東へ。仙洞御所の予約列を様子見。受付は11時からなので流石にほとんど並んでる人は居ないね。そのまま北上して【京都御所】へ。京都御所の鬼門の方向にある【猿ヶ辻】の屋根下に木彫りの猿があるのは有名だね。
さて、予約列は10時半くらいにくればいいかな。それまではどこで時間を潰そうかな……このあたりだと、御苑のすぐ南にお茶の先生も利用する【一保堂茶舗京都本店】があるね! 早速行ってみよう!
徒歩数分で一保堂茶舗京都本店に到着! お店の造りは手前でお茶の販売、奥は喫茶室になっているね。店員さんの勧めでまずは玉露を試飲。マスター、玉露は初体験。高級なお茶とはどういうものかと…飲んでびっくり! そうなんだよね。玉露は【とても甘い】飲み物。それは煎茶とは別次元。これはお土産に……と思ったみたいだけど、かなりお高いんだよね。それでもリーズナブルなセットを購入。
その後は奥の喫茶室へ。抹茶を注文…すると店員さんに「薄茶と濃茶、どちらになさいますか?」と。マスターは違いがわからないよね。ざっくりいうと【薄茶はサラッとしていて一人でそのまま飲みきり、濃茶はドロっとしていて、数人で廻し飲みする】って感じかな?ここでは濃茶も一人で飲むけどね。
マスターは薄茶を注文し、『これが抹茶か……』なんて、わかったようなわからないような顔やったね。
そろそろ時間なので再び仙洞御所へ。予約列はまあまあ並んでるね。そのまま列で待機。並んでいる人たちの雑談に耳を傾けていると11時になったので整理券を配布し始めたよ。マスターは13時半の回になったみたい。そうするとお昼ご飯を食べてからだね。このあたりだと……御苑の南東の角すぐにある中華料理屋【マダム紅蘭】が有名だね。
早速向かうも、すでに予約でいっぱい。さすが有名店。それなら……マスターはラーメンが食べたいっていうので、御苑の南にあるつけ麺屋さんへ。京風ラーメンではなく、流行りの豚骨魚介つけ麺だったけどマスターは満足したみたい。
間もなく時間なので再度仙洞御所へ。ツアー参加者はガイドさんの案内で御所内へ入場。
まず目に入った【大宮御所】の説明を受け、その先へ歩みを進めると…【北池】を囲む鮮やかな紅葉がお出迎え! 水面にも映る濃い朱。最初からクライマックスだね!
続いて北池をぐるっと回り【南池】へ。ここは池際が河原のようになっているのが特徴だね。更に南に進み、南池の南端にある茶室【醒花亭】へ。ここは仙洞御所に残る数少ない建築物だね。醒花亭という名は中国の詩人、李白の詩からとったんだって。
再び北池に向かうと西側にある茶室は【又新亭】。実は仙洞御所は火災で建物が消失して、庭園と茶室だけが残っているんだって。でもそのシンプルさが仙洞御所の良さかもしれないね。
ツアーを終え、仙洞御所をあとに。再び御苑内を北上し、西の【乾御門】から出てすぐそばの地下鉄烏丸線【今出川駅】から乗車。北上し、去年も来た終点【国際会館駅】へ。
今回は駅を降り、南側に広がるミッションスポット【宝が池公園】へ。宝が池公園は高台になっていて、宝ヶ池を囲むように緑が茂る造りで、池はあまり大きくないものの一応ボートもあるね。馬のモニュメントなどを眺めながら公園を散歩しつつ下り宝が池公園をチェックイン。流石に年末差し迫っているので寒い公園に人はまばら。でもマスターは歩くのが好きなので人混みがないほうがいいみたい。次のミッションは公園と京都御苑の中間にあるよ。公園の南側からバスが出ているね。
バスに乗って次のミッションスポット【下鴨神社】に到着! 朱と白が眩しい門を潜り境内へ。ねえ見てマスター! 虹が出てるよ! 古来虹は不吉の象徴と言われていたこともあるけど、なんだか縁起がいい気がしない?
ところでここ、下鴨神社はとある有名な和菓子の発祥の地なんだって。それは【みたらし団子】! 境内(糺の森)のみたらし池に湧き出す水の泡を形取って作られたと言われているんだって。
下鴨神社からバスで京都駅へ。17時も過ぎ日も沈みあたりは暗く。今日はここまで……というには気が早いよね! 近鉄京都線に乗り込み【東寺駅】へ。目的地もそのまま【東寺】だね。すっかり暗くなっているのにお寺へ何しに……と思うなかれ。この時期、京都のあちこちでは寺社仏閣の【紅葉ライトアップ】が盛んなんよだね。もちろん有名な東寺でも。
入場待ちは外壁沿いに大行列! 東側から入場して中に入ってもしばらく列は続くけど、早速湖面に映る【五重塔】が! フォトジェニックだね! ライトアップはそこから五重塔辺りまでの開放で、広場では湖面に映る紅葉と大柳が幻想的だね。
その後はバスで、予約していた【西院駅】付近のホテルへ。ここは明日の最初の目的に近いんだって。
とりあえず初日は大成功かな?明日の予定もなかなかハードだからゆっくり休んでね。
また明日も楽しもうね、マスター!
マダム紅蘭:【京風中華】とも呼ばれる、四川料理をベースにしながらも辛さを抑えた優しい味わいの中華料理。コストパフォーマンスにも優れる。(次こそは……)
本来の萌は京言葉なのですがそこはご勘弁…
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萌と行く「地下鉄に乗って京都を巡るっ」(2)
京都旅行二日目。旅行先ではいつも寝坊気味なマスターだけど、目的のために今日は早起き、と言っても出発は8時だったけど…
外はとってもいい天気! ホテルからほど近い【西院駅】へ。ここは2つの路線が乗り入れてるけど、乗るのは【(京福電鉄)嵐山本線】通称【嵐電】だね! 嵐電に乗るということは目的はもちろん【嵐山】!
路面鉄道なので、突然道路にホームが現れるのは新鮮だね! やってきたのは上がベージュ、下がグリーンのツートンカラーの車両。乗り込むと結構な乗車率。やっぱり秋の嵐山はみんな一度は見てみたいよね!
晩秋の日差しが差し込む温かい車内で揺られて終点【嵐山駅】。駅を降りると着物の柄のような柱がいっぱい立ってるね。【キモノフォレスト】って言うらしいよ!
マスターは修学旅行で嵐山に来たことがあったので、ちょっと懐かしい気分になったみたい。だけど今回の目的地はその先…まずは【竹林の小径】へ! 竹林の小径は、空を覆う竹林から木漏れ日が差し込む閑静な散歩道。爽やかな秋晴れの中、竹の葉が奏でる爽やかな音色が心地よいね。
小径を歩を進めると、その出口に見えるのは【トロッコ嵐山駅】、目的は【トロッコ列車】だよね!
トロッコ列車はアール・デコ調の5両編成の列車で、5両目はなんと! 窓ガラスのないオープン車両になっていて、嵐山の自然を肌で感じることができるんだ! でんこ【嵯峨野もみじ】ちゃんのモデル列車だね! もちろん人気なので予約制なんだけど……駅での先着順なんだよね。そのために早起きして来たってわけなの。忍耐で勝ち取るタイプのマスターなんだね。その甲斐あって12時4分発の予約をゲット! 今大体9時だから結構時間あるね…それなら、この近くにおすすめがあるよ!
それはトロッコ嵐山駅から北へ徒歩すぐにある【常寂光寺】。それはそれは風光明媚な場所なんだ。もちろん紅葉シーズンは大人気! 入り口には【紅葉最盛期】の看板。期待が高まるね!
門をくぐり見上げるとそこは一面のもみじと落葉で真っ赤な世界! 石階段を登って上へ。そして後ろを振り返れば、紅葉に縁取られた嵯峨野。これはちょっとすごいんじゃない?
下り際、池の畔のベンチで休憩。苔生した建物、紅葉の絨毯、柿の赤。澄んだ池の底にも赤や黄色の落葉が一面に広がってとっても綺麗……常寂光寺、マスターとっても気に入ってくれたみたい。
その後は【二尊院】、【落柿舎】に立ち寄ったりして時間になったので再びトロッコ嵐山駅へ。駅前では団子なんか売ってるね。駅舎の中には素敵なジオラマもあったりするよ。間もなく電車の到着時間なので改札を抜けホームへ。
いよいよやってきたトロッコ列車は、黒い機関部に【嵯峨野】のヘッドマークを掲げ、まるで紅葉のような赤いカラーリングのレトロな機関車。客車も赤と山吹色のカラーリング。発車時間まで少しあるのでマスターを含め他の乗客さんも列車の周りをうろうろしたり記念撮影したり……
そして時間になり乗車! トロッコ列車は機関車が上り側だけについているので、オープン車両の5号車は先頭になるんだね。席は左右二列ずつ。マスターは左外側の席だね。それでは出発進行!
発車するとすぐに紅葉深い山の中へ。トンネルを抜けるときは車両にぶら下がる裸電球がレトロさを醸し出すね。桂川沿いに車両は進み、紅葉と、川の青と白のコントラストがとっても綺麗だね。
終点は【トロッコ亀岡駅】。……トロッコ亀岡駅には【信楽焼のたぬき】が何体も鎮座してるんだね。なんでも【他抜き】(他を抜いて優れる)という縁起物でおもてなし、ということみたい。
帰りは近くの【(山陰本線)馬堀駅】から乗車してUターン、【嵯峨嵐山駅】へ。ここは【トロッコ嵯峨駅】と併設してるんだね。トロッコ嵯峨駅はトロッコ列車の京都側始発駅で、駅舎の外にはSLを展示してあるんだ!
そこから歩いて再び嵐電嵐山駅を経由して【渡月橋】へ。とっても観光客が多いね、さすが嵐山。桂川にはカワウも居るんね。そのまま嵐山公園を散策したら戻って【天竜寺】の紅葉を見て嵐電で【嵐電天神川駅】から東西線の【太秦天神川駅】で乗り換え(京都ってこういう乗り換え便利なんやで!)二条城へ!
二条城は協会からのミッションスポットなんだけど、スケジュール的に厳しいので城外からチェックイン! でも結局三辺は歩いたから流石に疲れたね……ならあそこで休憩しよ!
城門近くの東西線【二条城前駅】から乗車して東へ10分ほど、【三条駅】で降りるとすぐ近くを鴨川が流れてるね。その川を望むようにあるのが【スターバックスコーヒー京都三条大橋店】。スタバ? と侮るなかれ。ここは鴨川を眺めながらコーヒーを飲めるロケーションなんだ。夏は【ゆか】こと、【納涼床】が楽しめるんやけど今は晩秋やしね。ここで1時間ほど過ごし時間は16時半。もう薄暗くなってきたね。
さて、ここからが夜の部のキモだね。近くのラーメン屋で腹ごしらえをしたら再び三条駅で乗車して東へ。といっても方角的には南東だね。そして懐かしい小野駅で一度降り、いそいそとミッションスポットの【醍醐寺】へ徒歩で向かいチェックイン!【醍醐駅】で再び乗車、去年も来た終点【六地蔵駅】。去年来たときにはまさかこの駅で降りることになるとは夢にも思わなかったとマスター。去年は嵐山や宇治の場所なんて全然わからなかったって。旅をすると見識が広まるね!
そして【(京阪宇治線)六地蔵駅】に乗り換え(後で調べたら、奈良線のほうが良かったかも……)。さらに南、【宇治駅】を降り、眼の前【宇治川】を渡り参道を歩けば……そこは今回の目玉【平等院】!
入り口は長蛇の列。みんなマスターと同じで例の写真に触発されたんだね……でも列さばきが良いせいか特に滞りはないね。ワクワクしながら列を進むわたしたち。
そして……眼の前に広がる、【とある写真】で見た通りのそれは【湖面に映る平等院鳳凰堂の夜景】!
平等院鳳凰堂といえば10円玉にデザインされているので有名だよね。実物は赤い梁・柱、白い外壁、金の装飾。それがライトアップされ、湖面に写っているの!
風もなく、穏やかな湖面に映るそれはまさに写し鏡。もちろん紅葉も写り込んでとても風雅。列は向かって右側から流れ、正面からは仏像を拝することができるね。そのまま左後ろまで流れていき、【平等院ミュージアム鳳翔館】で国宝や重要文化財を観覧。
そしてここからが大変だったの……再び京阪宇治線宇治駅から北西の【中書島駅】へ向かい京都本線に乗り換え、すぐ北の【丹波橋駅】から【(近鉄京都線)近鉄丹波橋駅】に乗り換え北上、因縁の【竹田駅】で降り、最寄り駅だというのにミッションスポットである【城南宮】まで徒歩20分…当然時間的に城南宮には入れないので近くからチェックイン。再び竹田駅から京都駅へ。ホテルに着く頃にはもう日付も変わろうとする時間だったよ……城南宮に寄らなければ奈良線で宇治駅から京都まで一本だったんだけどね。
ホテルに着くなり感動と疲労で倒れ込むように寝てしまったマスター。明日はいよいよ最終日。明日はまた違った側面の京都を案内するつもり。時間的に余裕があるから寝坊しても大丈夫かな。
今日はお疲れ様。明日も楽しもうね、マスター。
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萌と行く「地下鉄に乗って京都を巡るっ」(3)
三日目は案の定、遅い起床になったマスター。今日は京都旅行最終日。ミッションを完了させるためのロスタイムのようなものだったけど、昨日まででほぼ完了しているので、丸一日無計画に京都の雰囲気を楽しむのに使えるね。
しかしまずもって朝食の計画すら立てていない。どうしようかな、京都の朝食……そうだ、あそこにしよう!
ホテルをチェックアウトし、東西線に乗車! 降りるのはすっかりおなじみ烏丸御池駅。そこから徒歩数分にあるのは【イノダコーヒ本店】
京町家風の格子窓に茶色の暖簾、赤いポットと緑のロゴがトレードマーク。暖簾をくぐり店内へ。朝食にはちょっとだけ遅い時間なおかげか、待ち時間無しで一階の席へ案内される。
店内を見渡すとクラシカルな内装で、随所に絵画や調度品が飾ってある。二階へは吹き抜けになっていてガラス張りの中庭が眩しい。
席に着きメニューを眺めるマスター。わたしがオススメするのは本店限定の【京の朝食】! とろとろのスクランブルエッグにハム、サラダ、クロワッサンにオレンジジュース。まるで高級ホテルの朝食のようなセット。それとこのお店はケーキメニューも豊富だし、何よりコーヒーを飲まなくちゃ。ってことでケーキセットも追加!
今日は急ぐ用事もないので朝食に舌鼓を打ちながらまったりと過ごす。昨日までは時間いっぱい使ってたから、こういう時間がありがたいね。
十分満喫したので、レジ前のお土産を物色してお店をあとに。次も烏丸御池駅のすぐそばにある【京都マンガミュージアム】へ!
ミュージアムの外は人工芝の広場があって、漫画を持ち出してここで読めるんだって。天気のいい日は寝転んだりしてる人もいるみたいだよ。
入口をくぐると……案の定、マスターは唖然としてる。「萌ちゃん、これ……」
そう、ミュージアムの入り口にはわたしのフィギュアが置いてあるんだよね……本物の萌ちゃんが京都観光イメージキャラクターとしてあちこちで広告に出てるので、その一環みたい。
気を取り直して中へ。内装の作りは昔の学校風の木張りの床に、所狭しと本棚が並んでいて漫画が蔵書されているの。そこから好きな漫画を取って好きなところで読むスタイル。マスターはとりあえずグルメ漫画の棚の前で適当に物色して、近くに座って読み始めたね。
満足したところで、時間は14時をまわり、そうだなぁ、次は……
烏丸御池駅から京都駅へ。そこからバスに乗り、東の鴨川を渡ってすぐの【京都国立博物館】へ到着! 今は国宝展をやっているんだ。すごい行列だけど並ぶのはマスターには慣れたもの。
中に入り国宝の数々を…マスター、あまり興味がわかない? 高尚すぎてよくわからないんだね……
博物館を出たらもう夕暮れ。そろそろ帰る時間が近づいてきたね。京都駅へ向かい最後のチェックイン。これでミッション【地下鉄に乗って京都を巡るっ】コンプリートだねマスター! え? もう一つ公式ミッションが残ってるの? データ上はコンプリートになってるけど……
そう言うと、駅ビル内のお土産エリアに向かうマスター。ここ、結構広くて迷ったけど……あ、なるほど。
マスターのお目当ては【2016年度ふるさと名品オブ・ザ・イヤー、こだわりの駅弁】部門賞を受賞した【きつねの鶏めし】。奪取er協会がコラボしていて、なんとでんこ【嵯峨野もみじ】ちゃんがパッケージを飾ってるんだよね! そういう意味での公式なのね。抜け目ないね協会……
帰りに食べたけど、中身は かやく御飯の上に鶏の旨煮がゴロゴロ乗っていて、お揚げさんや煮物、すぐき漬けなんかが盛り付けてあって、なんとお揚げには【美子さん】がプリントされていたの。黒七味もピリリと利いてるね
コンパクトな要領に、十分な旨味を詰め込んだ内容にはマスターも満足したみたい。
さて、帰りは東海道新幹線……ではなく、またも高速バス。今度は太平洋ルートだから赤新駅も狙えるなー、とマスター。
じゃ、じゃあわたしはここでバトンタッチかな……なよりちゃん頑張ってね。『がんばる、なの……』
今回は三日間かけて、ちょっと駆け足の部分もあったけど京都のエッセンスをまんきつできたんじゃないかな? でも京都の魅力はまだまだこんなものじゃないからね。京都はいつでもマスターを待ってるよ!
またおでかけしようね、マスター!
謝辞
この旅行にあたり【プレドラ】さん、【楽茶】さんに感謝の意を。
お二人の事前計画でのアドバイス及び現地でのリアルタイムサポートがなければこの旅行は成功しなかったでしょう。
実際、ミッション以外のスポットはほぼお二人のアドバイスに寄るものでした。ありがとうございました。
あとがき
これにて京都編終了です。京都はできれば年に一度は行きたいと思っているほど魅力的な街です。
これまでも何度か京都旅行をしましたが、駅メモ!に触れる前のことだったので今後も書き起こすことはないと思いますが、(タイムラインも保存されていないので起こしようもないのですが)それでもまだ京都の魅力の一端にしか触れていないので、いずれまた京都を訪れることになると思います。
その時はまたでんこたちと楽しい旅にしたいですね!
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北海道でんこと行く「北海道横断ツーリング2017」(1)
『師匠! 見えてきたぞ! 燃えてきたぁぁぁ!!』
フェリーのデッキから港を望むマスターとでんこ達。煙を吐くフェリーの煙突に感化されたのか、コタンはいつも以上に暑苦しい。
時刻は間もなく11時。仙台港発フェリー【きたかみ】は、間もなく北海道は海の玄関口【苫小牧港】に入港する。天気は曇りがちで日差しが少ないけど、真夏であることを考えればメリットもあるといえる。
『試される大地北海道……主殿、今度の旅で拙者共々一回り大きくなって凱旋しようではないか』
『広い北海道は本領発揮できるよ! さいかにまかしてね!』
『北海道はなかなか来られないからなー、うまく頭を使ってメモリーを集めるんだぞー』
『zzz……』
初の北海道でもあるので、縁のあるでんこ達で編成してみたけど……あらためて見ると個性的すぎるな……共通性は【直情】ってとこか。歯に衣着せぬ物言いをするでんこばかりだな。まあやる気があるのはいいことだ。
イムラじゃないが、この旅で俺と【相棒】とでんこ達で試される大地、北海道に挑むのだ。
普通自動二輪免許を取って数年経ち、転勤のため初代相棒は置いてきてしまった。ある日なんとなく近場のバイクショップを覗いたときに見つけたバイクに一目惚れしてすぐに大型自動二輪免許の教習を申し込み、バイクの購入をしたのが初夏。
慣らしも兼ねて東北のツーリングスポットを巡ったけど、大型バイクに乗ったからには北海道! と短絡的思考に行き着く。ちょうど仙台港からフェリーも出てるし。
札幌にはちょうど知り合いもいるので相談に乗ってもらい、夏休みの調整をしてスケジュールを立てる。待ち遠しい夏休みがやってきて、船上の人となった。
定刻通り11時に到着。フェリーを降りると、苫小牧港にはバイク乗り達がたまっている。出発前の最終調整やツーリング仲間を待っているんだろうか。友人が最寄りの、北海道の覇権コンビニ【セイコーマート】、通称セコマで待っていてくれるのですぐに港を出発する。
友人と合流し【道央自動車道】を北上、札幌市へ向かう。高速道路からはよく見えなかったけど、右には千歳空港を望んだり、自衛隊の演習場を二つも通過したりしたらしい。
札幌市到着後は昼食をとり、そのまま更に北にツーリング。渋滞回避で内陸を通り【道の駅石狩「あいろーど厚田」】まで。途中で、ある理由によりガソリンスタンドに寄る。
あいろーど厚田に到着。【あいロード夕日の丘】ってのが有名らしい。【にしん街道】なんて碑が立ってたけど、その時はまだ北海道とにしんの歴史を知らなかったのだ。帰りは海沿いのオロロンラインを通って札幌に戻ってその日は終了。友人宅にお世話になることにする。
『マスター早く! さいかにまかしてね!』
さいかが駅のアクセスを急かしてくる。仙台港から札幌まで移動したのでさいかのやる気は最高潮! 当然さいかで札幌市内の駅にレーダーを惜しみなくアクセスする。なぜ焦っているかといえばそろそろ18時になってしまうからだ。そうなるとレーノが主張してくるのは目に見えている。
『マスター、明日の夜は寝かさないからね……』
レーノが怖い!
翌日。友人にお礼を言って別れ、いよいよ今日から本格的に北海道を攻める。
まず経路説明の前に個人的ミッションがある。それは【ホクレンフラッグ】の入手。それは北海道ツアラーを応援するキャンペーンとして、北海道を4つのカラーエリアに分けたそれぞれのガソリンスタンド【ホクレン】で給油すると購入できるノベルティで、北海道をイメージした、バイクのシートバッグなんかにちょうど付けやすい旗である。毎年デザインが変わるのでコレクションするのは大変である。おおよそ道南、道央、道北、道東のエリアに分かれているので【わたしは今年このくらい北海道を回りましたよ。】というアピールになるらしいのだ。早速札幌で道南【イエローエリア】のフラッグを手に入れている。
これを踏まえ、今回のコースは【札幌から大雪山を横断、根室方面へ向かい折り返して釧路へ。その後は帯広を通って札幌へ】である。まずは初日のコースの詳細は札幌から旭川を経由して大雪山を通り北見という流れ。
札幌より大雪山へ向かうには、札幌市から旭川市へ高速道路である道央自動車道が走っているが、まずは下道で行く。北海道を感じたいという理由もあるけど、一応目的地もある。
『主殿、このあたりからでござる』
【
最長ではないが【最高な】直線道路というのは実は北海道にもいくつかある。今回の計画には入っていないけどいつか行ってみたいものだ。
直線道路の終点から道は徐々に北東に向かう。次の中継地旭川へ向かう道だ。でもその前に寄るところがある。
『……』
いつもはでんこ一暑苦しいコタンが神妙な顔をしている。ここは旭川市の西、石狩川の両岸に位置する【
川そばの駐車場に停め、川向うにある旧駅舎に向かうため石狩川に架かる吊橋に向かう。吊橋は川より少し高い位置であり、見下ろす河原は洗濯板のようにゴツゴツしている。
吊橋の名は【かむいおおはし】とあり、看板には『一度に100人以上渡れません』と書いてある。観光客はまばらで、まず100人以上同時に渡ることは……概算6トンくらいか?
『ますt』
ここには商売の匂いはしないぞ。地面にめり込むような重さの荷物を背負ったでんこは絶対に出てこないはずだ。いいね?
橋を渡ると左手には機関車、右手には駅舎が見える。まずは機関車へ。看板を見ると【29638】(通称キュウロク)【C57】【D51】とある。あまり鉄道に詳しくなくてもD51、通称デコイチは聞いたことがある。C57は201/201のラストナンバー車だそうだ。
『うおお! なんてかっこいいんだ、コタンも偉大な先輩達のようにがんばります!』
先程の神妙さはどこへやら。SLを見ていつも以上に熱くなるコタン。北海道開拓に寄与したSLはたしかに偉大だな。きっとコタンにもその意志は受け継がれているのだろう。寒い北海道ではあの熱さもわかるというものだ。
駅舎に向かうと【旧神居古潭駅舎】と書かれた綺麗な金属製の碑が立っていて、駅舎自体もきれいに手入れされている。元々線路があったところは今は歩道兼サイクリングロードになっているようだ。一段高いところにホーム跡があり【かむいこたん】と、錆びた駅名表示板が立っている。旧国鉄時代の駅は協会の対象外になっているが、記念にチェックインしておく。(このあとおよそ1年後、協会のはからいで神居古潭駅はチェックイン対象になる)
駅舎周辺は緑深く、石狩川のせせらぎ……ではないな。川の水は茶色く、流れは荒々しい。川の両岸は手入れされていない自然のままの緑。自然は決して癒やしだけを与えてくれるわけでは無く、神の荒々しい部分を見せつけられているのだろう。
ところでツーリングだとマスター的に問題がある。運転中はチェックインが出来ず、いちいち停まらないとできないことだ。ところが協会の新兵器【ルートビューン】を使えば……よし、函館本線の駅にチェックイン。ダメージは通らないので新駅ボーナスだけ欲しいでんこに任せられるのも長所かな? 一応最終チェックインしてからの時間制限があるので注意しなくてはいけないが。これさえあれば北海道のメモリー取得の任務を果たせるはずだ。
このあとは旭川市街に向かい昼食。もちろんラーメン好きな俺としては【旭川ラーメン】は外せないな!
下調べに時間がかかって『そこは勢いだぞマスター!』結構時間をロスしてしまったが『優柔不断はダメだなマスター』コタンうるさい。若干時間を外しているせいかまあまあ評判がよく、並んでない店を発見。
当然旭川ラーメンは初めてである。いただきます。熱い! 『熱いなマスター!』コタンのせいで余計熱い!
旭川ラーメンは厳密な制約はないものの、【スープは魚介類と、豚骨・鶏ガラ・野菜で出汁をとったWスープで、比較的醤油ダレベース】らしい。それと【ラードを入れるのが特徴】とのこと。ラードの油膜でスープに蓋をすることで冷めにくくしている、零下30度を下回ることもある旭川の工夫らしい。
本州でもラードが入ったラーメンは食べたことがあったので熱く冷めにくい事は知っていたけど、旭川のは特に熱い。北海道とはいえこれを夏に食べれば汗も吹き出るというものだ『汗だくだぞマスター』わかったから近寄らないで!
火照った体を冷やすにはもちろんバイク。相棒は股下が大火事になるようなタイプではないので快適である。しかし天気は下り坂。ラーメン屋選びに時間がかかったのは失敗だったか。
ところで旭川はすでにホクレンフラッグのレッドエリア。大雪山に入るまでにはレッドフラッグをゲットしておきたい。
『ふむ、拙者のルーツもここまででござるか。懐の広さ、見習いたいものでござる。』
イムラのルーツである美唄駅を含む函館本線は【旭川駅】で終点。旭川駅はなんと【函館本線】【富良野本線】【宗谷本線】、そしてこのあと並走する【石北本線】の起点終点駅であり、日本最北の友人高架駅(モノレールでおなじみ)である。今回は通過するだけだったけど、いつか見てみたいものだ。
ところで残りのでんこ達のルーツを路線別で確認すると、ふぶは【(宗谷本線)
さらに言えばさいかのルーツ【
ちなみに今まで通ってきた国道12号は【神居国道】という名で、それも旭川市街地まで。接続するのは【国道39号】、その名も【大雪国道】であり、大雪山を超え本日の宿のある北見市まで続く道だ。
旭川を出発し大雪山の手前、愛別にあるSSでレッドフラッグゲット! ついでに給油をしていると……来ました。大雨。一応雨対策の装備は準備してあるものの、濡れると片付けが面倒なので雨宿りすることにする。
しばらくして雲行きはまだ怪しいがとりあえず雨も上がり、出発することにする。
『マスター、この先はあまりワインディングは無いけど雨上がりだし気をつけて進むんだぞー』ふぶが注意を促してくれる。
しばらく石北本線と並走し、遠軽に迂回する線路と別れを告げ、南東方向にある大雪山へ向かう。
正確には大雪国道は大雪山を北へ迂回しながら東へ抜ける道路であり、超越する道路ではない。このあたりは【層雲峡】といい、断崖絶壁の続く谷間を通る道路だ。
天気が安定せず小雨に打たれつつ大雪国道を進めば、両側は森や山一色であるが、時折断崖が見える。『車が少ないからってあまりよそ見するなー』おっと、はいはい。
ところでライダーは目的地としてダムを設定することが多い。ここ、層雲峡の中央付近には【大雪湖】そして【大雪ダム】がある。そしてダムと言えば【ダムカード】。俺はそれほど熱心に集めてる方でもないけど、なかなか来ないダムともなれば是非ともゲットしておきたい。
【大雪湖】と看板が見えたので駐車場へバイクを停め、管理事務所へ向かう。幸いダム入り口に置いてあったので難なくゲット。
此処から先、石北峠へ登っていく。降雨のためか霧が濃く、先程まで遠くに見えていた山を隠している。慎重に行かねば。
やや進むとパーキングエリア。【
『マスター、時間大丈夫かー?ちょっとまずいと思うぞー』
この時点でちょうど17時。いくら夏場とはいえそろそろ日照がまずい。しかし北見側はヘアピンカーブもいくつかあるようなので慌てるのは禁物だ。
山を下るとほぼ緩急のない直線道路であり、山の合間は田畑で開けている。1時間ほどして、山攻めの緊張感と焦りから若干疲労が出てきたので、目についた道の駅にて小休止。【道の駅 おんねゆ温泉】とある。屋台売店のお兄さんは、「もう半値でいいよ~」などとお客さんへ声をかけている。
そこから更に真っ直ぐな道を1時間。ほんと北海道は直線道路が多いね……本日のお宿のある【北見市】に到着。ビジネスホテルなのと、わざわざ飲食店を探すのも面倒なのでやはりセコマで買い込むのであった……
さて、本日の走行距離は……ジャスト300km。北海道は地図で見ると計画内に収まる気がするんだけど、縮尺に対する感覚が狂ってプランオーバーしてしまうのを身をもって実感するのだった……さて、ルートビューンとレーダーを『ま・す・た・ぁ(はぁと)』
あっ……
先代相棒:CBR250R(MC41)
現在相棒:MT-09 TRACER(2017)
今回は京都編に引きずられてマスター視点になってしまったせいで、でんこの出番が少ないように見える……
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北海道でんこと行く「北海道横断ツーリング2017」(2)
北海道上陸三日目。実はこの日の予定はぼんやりとしか決めていなかった。もちろん後々後悔することになるが、得るものも多かった日である。
宿泊場所は釧路にビジネスホテルを取ってあるので、目的地は変わらないが経路はざっくりである。
1.北見を北上、サロマ湖を行くや行かざるや
2.なにかあるのかな?野付半島に行くや行かざるや
3.多分行きます、
4.オートバイ乗りは端っこが好き! 日本最東端、
このあたりをどうするか。立てた計画はおよそ1.5~2倍の時間を見積もらないといけないと後々学習するのだが、このときはまだわかっていなかったのである。そして試される大地では致命的であることも身を持って知るのであった……
『おいマスター、もう9時だぞ。北上は諦めて湖に迎えー』
軽い疲労と、ホテルの朝食バイキングに時間を費やしすぎ、ふぶにどやされる。いそいそと出発準備をするのであった。
昨日、石北峠より走ってきた北見国道にはもう少しお付き合いいただいて、すぐ東の【
朝の時点の天気は快晴! しかし雨は降らないが曇りに移行する予報なのだが昨日よりはマシか。美幌峠に行く前にホクレンへ。ここはすでにブルーエリアだ。3本目のブルーフラッグをゲット!
美幌町の周辺はやはり田畑が多いが、すぐに道路周りは木々だらけになる。いま狐がいなかったかな?
ゆるい上りの快走路をゆけば、あっという間に【美幌峠】へ到着。ここは湖の西側【道の駅ぐるっとパノラマ美幌峠】になっており、駐車場には車はもちろんバイクも所狭しと並んでいる。
案内板を見れば【阿寒国立公園】とあり、屈斜路湖は日本最大のカルデラ湖であると説明している。他にも美空ひばりの、その名も【美幌峠】と言う名の歌碑があったりする。
レストハウス周りは森のある牧草地と言った感じ。一面の緑が爽やかで、地平の先には山の姿も見える。後で調べたら知床連山というらしい。では満を持してパノラマ展望台へ。
足元の草原から、森に囲まれるように湖が見える。天気が良いので湖面は青色のさざなみが揺れている。
景色の中央には湖に浮かぶ、その名も【中島】が見える。森になっているそれを見れば、男子は島を見ると上陸したくなるものだと俺は思っている。『師匠、あの島へ行くのか!?』行かないよ…コタンは男子発想なのか……?
私感だが、並のダム湖などよりは比べ物にならないくらい大きいが、本当に北海道はスケール感が違いすぎていまいち感動を認識しづらい問題がある。
美幌峠をすぎると、美幌国道から【パイロット国道】と名を変える。操縦士という意味ではなく、試験農場(パイロットファーム)からついたと言われている。左側は湖畔沿いに林があり、屈斜路湖がちらりと見える程度。湖の南端からは道道52号線【屈斜路摩周湖畔線】に接続。屈斜路湖の東側を北上していく。東側は林も少なく湖が見通せ、レジャー施設やデイキャンプをしている人なんかもちらほら。
屈斜路湖北東端からは若干南下し、摩周湖へ向かう。途中、真っ白な山肌が見えてきたが
『主殿、なにか鼻を突く……これは硫黄の匂い。さては九尾の狐では!?』カタナを抜き構えるイムラ。その物騒なものをしまいなさい……大体、九尾の狐は那須だろう……
臭いの元は【アトサヌプリ】という硫黄山のようだ。後で知ったが摩周湖と硫黄山の駐車場チケットは共用らしい。立ち寄ってみたかったが時間的な問題でスルーしたのは後々正解だった。
いくつかのヘアピンカーブを上り、展望台駐車場へ到着。観光客もかなり居るようだ。駐車場より小高くなった丘、つまりカルデラの縁を登ればそこが摩周湖だ。
摩周湖はその透明度が日本一、世界でもなんと二位という。【摩周湖ブルー】と言われる青さが有名で、また【霧の摩周湖】とも呼ばれ、年中霧が立ち込めている……というイメージだが、実はそうでもないらしい。霧が晴れていると晩婚……などと言う【噂】もあるらしいが、結構晴れていることも多いようだ。あくまで噂なので。
『主殿、独り身のほうが修行にはよいのではないか?』 『独身の方がフットワークが軽くてメモリー集めが捗るぞー』 『マスターにはレーノが居るから心配ないよ(はぁと)』お前たち……噂だって強調しただろ……
展望台から摩周湖を見下ろす。美幌峠では晴天だったが、それほど離れていないはずの摩周湖は曇り空であった。空は白雲が垂れ込めているので一面真っ白に見えるのは少し残念か。だが屈斜路湖よりだいぶサイズが小さいせいかあまり波立ってなく、静謐なイメージを受ける。
『ふむ、屈斜路湖とは違って穏やかな湖であるな。見ているこちらの心も穏やかになるというものだ』 『霧が晴れてるねマスター、これはもうレーノを選ぶしか無いってことだよ!』レーノは飛躍しすぎだろ……
この展望台にもレストハウスが併設されていて、なかなか綺麗で賑やかだ。オレンジの果肉のメロンがかなりお安い値段でワンカット売りしている。まあ値段なりかなと思って1ついただいてみる……甘い! この値段でこの甘さは北海道の恵みと言ったところか。『甘いもので気合を補充だーっ!』 『味見はさいかにまかしてね~』 なんか燃費の悪そうな二人のでんこがすごい勢いで食べてるけど……
摩周湖を後に、少々南下して【ホクレン摩周】で最後の【グリーンフラッグ】をゲット! これでホクレンフラッグをコンプリート! ここは【(釧網本線)摩周駅』の最寄りでもあるので、今のうちにチェックイン。
この先【国道243号線】に乗り東へ向かう。目的地は【根室市役所】だ。根室市は北海道、ひいては日本最東端の街だ。バイク乗りは端っこが好き、そして得てしてそういうところには【証明書】がつきものである。
ともあれ摩周より東は、驚くべき風景が広がっている。とにかく農場しか無いのだ。北海道は開拓史とともにあり、その結果が目の前に広がっていると言える。先人たちの残した結果の証明なのだろう。
『駅はないけどひたすら何も無い道をどこまでも行く……そういうのも燃えるな! 師匠!』 『どこまでも行くのは得意だよ! さいかにまかしてね!』
さっきのメロンが効いたのか、やたら気合の入っている二人。モデル的には新旧の両端であるけど、方向性が一緒なのはなにか微笑ましいものがあるな。
『せ~んろはつづ……かないね、マスター』
農場が続くこのエリアは【
……とにかくひたすら農場を進む。単調なツーリングというものは眠くなるもので、考え事や歌を歌ったりしないと睡魔が襲ってくる。『zzz……』まあレーノなんかは昼寝してるし、イムラもふぶも物静かなので起きているのか寝ているのかわからない。ふたりとも真面目だから多分起きてるだろうけど。
国道243号線の終点は【国道44号線】に直交するT字路で、【(根室本線)
『マスター、時間がかなりギリギリだなー、いそげー』全く急かしていないような抑揚のない声でふぶが急かしてくる。先程言った【日本最東端到達証明書】の発行場所で最も近いのが【根室市役所】なのだが、市役所なので17時までには到着しないとマズイ(後で調べたら17時20分までだったようだ)。このときはまだナビを持っていなかったので移動中に到着予想時刻もわからないが、かなりぎりぎりになることは予想できたので絶対に道を間違える訳にはいかない。
実際、市役所は44号沿いだったので間違えなかったが、到着は17時数分前だった、危ない危ない……
市役所内に入ると、発行場所は2階のようだ。窓口で「すいません、証明書を……」と言うと「日付は今日でいいですか?」と聞かれたのだが、特にこだわりはないのでハイと答える(他の証明書でも日付の件は聞かれることはあった)。
さて、17時も過ぎたわけだが、ここから納沙布岬を目指すのか……かなり時間がマズイ気がする。だがバイク乗りとして【端っこ】を目指さない訳にはいかない。マップに寄ると片道30分程度らしいので明るいうちには着けるだろうと言うことで向かう決意を固める(当然誤算である)。
根室市役所を過ぎると国道44号線は終了、県道33号線で岬へ向かう。多少民家は見えるが自然も多く、曇り空のせいもあり一気に寂しい雰囲気になっていく。
どんよりとした天気のせいか、重い気分でバイクを進めるが、ついに日本最東端【納沙布岬】へ到着した。
『ついにやりとげたな、主殿』イムラはなにか分かったような風にしきりにうなずいており、何かに浸っているようだが、まあ確かに日本最東端に来た、というのは一種の達成感がある。
もう暗くなるがやはり何人かバイク乗りは居るみたいだ。まあお互い目的はわかっているので、気さくに声をかけ【本土最東端 納沙布岬】と書かれた碑の前にバイクと自分を配置し、お互い写真を撮る。
辺りは当然のようにお土産屋などもあるが、【日本最東端ポスト】なんてのも設置してある。あいにく出すような手紙は無いが、もし再び訪れるようなことがあれば準備しておいても良いかもしれない。
後は当然のように北方四島の方向を示した碑もあったが、曇り空が災いして殆ど見えなかったのは残念か。周辺には北方領土関係の大小様々なモニュメントがあったので一通り巡る。
本日のスケジュールはすべて終了。あとは釧路市内にとってあるホテルへ向かうだけだが……到着時間大丈夫だろうか、というか距離がマズイ。マップで見ると145km、2時間半と出ている。これは根室市でホテルを取ったほうが良かったか……
後悔しても仕方ないのでさっさとバイクを進める。『まあこうなるとはおもってたけどなー、ナビはしてやるから頑張れー』ふぶのドライなアドバイスがツライ!
再び44号線を折り返し、243号線との交差点付近のセコマで休憩。時間は19時を過ぎており、マップで確認するがまだまだ距離がある。
『師匠! 気合だぞ!』 『夜が長いってことはそれだけレーノと一緒にいられるってことだもんね、安全運転で行こうね(はぁと)』感情と欲望に任せた素直なアドバイスがツライ!
そこから少し進むがまだまだ農場エリアであるが、夜になると全く明かりもないので一転、不気味さすら感じるようになってきた。カエルの鳴き声が聞こえるのが救いか。
だがしばらくしてなにか違和感を感じ始めた。
『ねえマスター、なんでカエルの無き声が止まないの? 怖い……』いつもはあまり深く考えてないような気がするさいかも気づいたようだ。
そうなのだ、どれだけ進んでもずーっと耳元で聞こえるようなカエルの大合唱が響いているのだ。『れ、レーノも怖い、きゃー』さいかに感化されたのか、レーノも怖がってみせる。こいつ絶対演技だろ……
ともあれ一つの結論を導き出す。おそらくカエルの数が【圧倒的に】多いのだ。そもそもこの辺りは湿地帯が近く、カエルが棲んでいて当然、そして北海道という規模なのでカエルの数も想像を超えるほど居る、ということなのだろう。
『よかったな主殿、首元に数匹カエルが紛れ込んで大合唱をしていた、ということではなくて』それはそれで怖いな!
少し小高くなった道を進むと左奥手に赤い大きな帯状の光が見えてきた。あれが釧路か。時間は20時を回ろうかというところ。意外と早く着きそうだ。などと考えていたが……徐々に近づく光を見て、勘違いしていたことに気づく。
『マスター、あれは橋だな』ふぶのドライなツッコミがツライ!
どうやら見えていたのは【
ホテルへチェックインし文字通り倒れ込むように大の字になった。ともあれアクセスだけはこなし……
『主殿、まずはひとっ風呂いこうではないか』 『今日の教訓を生かして早く寝ろよー』 『師匠、気合だぞ!』 『ここはさいかに『いやレーノに』
冷静と情熱のあいだか……今夜も長そうだ……
【本日の移動距離:390km】
ブルーエリアのフラッグの取得場所の記憶が無い…
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北海道でんこと行く「北海道横断ツーリング2017」(3)
北海道上陸四日目。いよいよ最終日だ。
今回泊まっているこのホテルは昨日と同じ系列で、朝食バイキングの評価がなかなかなのでついつい食べすぎてしまう。
『……おいマスター、朝食は海鮮丼を食べに行くんじゃなかったのかー』ふぶがいつも以上のジト目でこちらを睨む。
しまった!釧路の朝市で好きな海鮮を選べる丼を食べる予定だったんだ……若干の後悔を残しつつホテルを出発するが、結果的に時間を節約することが出来た。
本日の予定はこれから向かう【帯広市】に集約されている。釧路市から近くの【道東自動車道】に乗り西へ、十勝平野の中心を目指す。
『パッとしない天気だな師匠!』 『いくら北海道の夏とはいえ、ちと寒すぎるな主殿』
今日の天気は曇っていて、時々小雨もあり寒さを感じる。この雨は、北海道に梅雨は無いが蝦夷梅雨と呼ばれることもあるらしい。
正午頃に高速を降り、帯広市に到着!まずは1つ目の目当てである【インデアン】を目指す。インデアンとは帯広市のソウルフード、インデアンカレーを提供する店だ。
最寄りの店舗はショッピングセンター内にあるようだ。店舗内に入ると、中央のサークル状になったところがカウンターで、その周りに並ぶようだがかなりの行列だ。
ルーは【ベーシック】【インデアン】【野菜】の3種類あるようだ。ここでは牛肉がふんだんに使われてるというインデアンルーを選ぶ。
満を持して登場したカレーは、学校給食でよく使われていた気がする銀色の楕円形のカレー皿に盛られ、ライスが見えないほど全面にルーがかかっている。
『アツアツだな師匠!』
まあコタンあたりはカレー好きだと思ってたんだよね……逆にレーノ、ふぶ辺りは苦手そうなイメージだけど、
『カレーかぁ……辛いのは苦手なんだよね…… !これあまり辛くないね! 食べやすいよ!』 『マイルドな辛さだなマスター』
案の定、辛いものは苦手みたいだったけど、インデアンルーは辛さ控えめで子供にも食べやすいルーのようだ。しかしこれはなかなかお腹にたまるけど、次の目的のために、あまり食べ過ぎる訳にはいかないのだ……
カレーを食べ終え、次は定番のお土産屋として有名な【六花亭】、マルセイバターサンドなどは誰でも一度は口にしたことがあるのではないだろうか。その帯広本店へ向かう。
店の正面は本店なのにあまり目立たない感じで見逃してしまいそうな場所だ。しかし店内に入ればイートインスペースもあり狭さを感じさせない。
店内には商品のポスターが掲示してあり、カウンターのショーケースに列んだ様々なお菓子が目を引く。
なぜわざわざ本店へ来たかと言うと、一部の店舗でのみ提供している【店舗内でしか食べられないお菓子】があるのだ。
さっそく噂の商品を注文し、イートインスペースへ向かう。買った商品は3つ。
【雪こんチーズ】はベイクドチーズをココアビスケットで挟んだ、モノトーンでスクエアなお菓子。
【サクサクパイ】はその名の通り、筒状のサクサクなパイにカスタードクリームが入った、いわゆるパイシュー。
【とかち帯広発】は帯広限定の商品で、ラズベリークリームをホワイト生チョコレートで包み、更にパイ生地でサンドしたものだ。俺はベリー系のお菓子が大好きである。
そしてなぜこれらが【店舗でしか食べられない】のかというと……なんと雪こんチーズは【賞味期限2時間】、サクサクパイは【3時間】だというのだ!
一応3つとも店舗の説明では本日中なのだが、その時間内に食べるのがおすすめと書いてある。
『ま、マスター、これ全部さいかにまかしてくれるの?』 『これはレーノにプレゼントしてくれたにきまってるでしょ、ね、マスター(はぁと)』
さいかとレーノがわけのわからないことを言い出したが、まあすでに見た目から美味しそうである。
食レポは苦手だけど、一応それっぽいことを言うと、雪こんチーズは濃厚なベイクドチーズが本体だが、ココアビスケットの苦味が口内をぼんやりとさせないアクセントを与えている。
サクサクパイは、『美味しさとは歯が当たった瞬間の食感にある』的なセリフを聞いたことがあるが……パイ生地に歯が当たれば途端に砕けるとともに香ばしさが広がり、クリームと共に口の中に広がりとろけてゆく。
とかち帯広発はパイとホワイトチョコレートのオーソドックスな組み合わせだが、噛むとラズベリーのすっぱさが引き締まった甘さを感じさせる。
食レポ難しすぎだろ……
『これおいしいよマスター! おいし……まかし……』パイ生地を散らかしながら口いっぱいに頬張り、わけのわからないことを言い続けるさいか。まあ人のことは言えないか。
『マスターはこれを食べさせてくれるためにレーノを連れてきてくれたんだね……もうレーノはマスターのものだよ(はぁと)』すっかり目がハートのレーノはそんなセリフを言いながらもお菓子から目を離さない。お菓子に語りかけているのか?
『この菓子は拙者の忠義に報いる褒美と捉えてよろしいな?主殿』忠義はさておき、すでに口をつけているさいかを横目に我慢しているイムラはお預けをくらっている犬のようだ。そうだよ褒美だよと適当に返事して食べるように促す。
『マスター、これおいしいなー』ふぶもすでに口をつけている。いつもどおりのクールな反応だが、食べる勢いはクールではない。
『気合だぁぁぁぁ!!』知ってた。
皆、『おいしい、おいしい』と食べるのが止まらないようだ……なぜかここに居ないでんこのプレッシャーをひしひしと感じる気がするので、お土産は奮発しておくか……
再び道東自動車道に乗り、苫小牧を目指す。が、その前にお土産を買わないとね。教えてもらったおすすめの売り場は【新千歳空港】。確かに空港ならそれなりにお土産が揃っていそうだ。
空港に到着し、駐車場に向かう。駐車場はバイクは停めやすかったので待たされること無く駐車する。
ロビー方面に向かい、エスカレーターを上がるとお土産売り場のようだ……それなりなんてレベルではなかった。ここには北海道のありとあらゆるお土産が揃っているのではないだろうか。とりあえず目星をつけていたお土産を購入。しかしあの人にもこの人にも……と考えていると買い物かごがいっぱいになってくる。まあ空港から宅急便が発送できるのであまり気にはしなくてもいいが……
『マスター、ちょっと買い過ぎじゃない?……あー、るるちゃんとかいるもんね。六花亭のことは内緒にしておくからねー、さいかにまかしてね!』
『レーノのお土産は、北海道でのマスターとの旅の思い出で十分だよ…ウフフ』
正直さいか、コタンあたりは口が滑るんじゃないかとヒヤヒヤしている。もしレーノが言った場合は既成事実をでっち上げるための確信犯だろう……
『マスター、わかってると思うが……』
ふぶが若干焦り気味で注意してくる。帰りのフェリーの出港時間までかなりギリギリなのだ。慌てて会計して駐車場へ向かう。
再び苫小牧港へ戻ってきた。かなり焦ったが、出港は電車や飛行機ほどシビアでは無いようでホッとしている。
『主殿はもうちょっと時間に余裕を持ってだな……』
イムラがくどくどと説教してくる。わかってはいるんだが……スミマセン。
乗船し、部屋に荷物をおろしロビーで一息つく。時刻は19時、出港の時間だ。デッキに向かい、港を眺める。
『よかったなー北海道』
始まる前は心配したけど、夏の北海道ツーリングは最高だったな。
『とっても長い距離を移動したね~』
おかしな距離を無理やり走り抜けたのは北海道ならでは……でもない気がする。反省。
『気合で乗り切ったな師匠!』
ほんとそうだよ……天候も厳しかったしね。
『夜も素敵だったね(はぁと)』
ン゛ン゛ッ! なんのことを言っているのか……夜景?
『主殿、良き旅であったな』
まだ北海道の一端にしか触れていないけど、それでも良かった旅と言えただろう。
まだまだ北海道を味わい足りないな。きっといつか来るだろう。またみんなで。
なにやらコソコソ話していたでんこたちだったが、一斉にこちらへ向き直り、笑顔で
『またお出かけしようね、マスター!』
【最終日移動距離:311km】
【総移動距離:1108km】
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お姉ちゃんでんこと行く「東北キャンプツーリング」(1)
『マスターちゃん、忘れ物はない? ハンカチとティッシュは持った?』
俺の周りをふわふわと漂いながらボディチェックをしてくる世話焼きな【ひびき】。
『マスター、夜が暇そうだからってゲームばっかり持ってっちゃダメよ。まあ、どうしてもと言うならわたしが相手……スマホゲーム……そう……』
ゲーム好きなの隠しておくんじゃなかったのか? 人前ではしっかり者の【いずな】。
『マスター、服装は大丈夫ですか? 走行時はもちろん、昼夜の寒暖の差、北国の気候、天気の急変……』
服装に気を使ってくれるのは服飾が得意な【みこと】。俺としてはか弱いみことの方が心配だが……
『マスター、ほんとにウチがお弁当作らなくてだいじょうぶなん? コンビニ弁当ばっかりは体に良くないんよ?』
食事に気を使ってくれるのは料理が得意な【らら】。
『マスター、バイクの調子は大丈夫ですか~? わたしがチェックしておきましょうか~?』
それだけは、それだけはやめてくれ。バイクが爆発物に変わってしまうぞ、【セリア】。
バイク用の大容量シートバッグに荷物を詰め込んでいく。バッグの中身はテントなどキャンプ用品。明日から3泊4日の【東北太平洋ルートキャンプツーリング】に出発するのだ。が、果たしてこの【ダメマスター製造編成】から無事に真人間として帰ってこれるのだろうか……
俺は常に【バイク+なにか】という、ツーリングに付加価値を付けた楽しみ方を模索していたが、オーソドックスなところで【フィッシング、キャンプ】あたりかなー、などと考えていた。
すると2018年、某アニメにより【キャンプブーム】が到来した。そして渡りに船とばかりに俺もブームに乗っかってキャンプ道具一式を揃えてしまったのだった。
『マスターすぐ感化されるんだから。でもその行動力、ありすにも見習ってほしいわね……』
いずなが頬に手を当ててため息をつく。苦労人お姉さんのポーズだ。
『マスターは道具から入るタイプなんやね。まあ料理も道具がいいと楽しいしな~』
道具から揃えるのは、モチベーションアップの他に退路を断つという意味もあるが、昔、別のアウトドアレジャーで『初心者だから安いものを……』と安物を買って苦労したことがあるのだ。
道具を揃えたら次に目的地を決める。【バイク乗りは端っこが好き】という持論があるが、東北には【本州最北端、最東端】がある。
最北端はマグロで有名な【大間崎】。そして今回調べてみて初めてて知ったのだが、最東端は宮古市の南東にある【
あとは……弘前市では【桜まつり】が開催中らしい。寄ってみたいが厳しいかもしれない。ちょっと保留しよう。
次にキャンプ地を決める。今回は【3泊4日】なので3箇所決める必要がある。東北のツーリングキャンプに特化した便利なサイトがあったので意外と楽に調べられた。
宮古市のすぐ北東【姉ヶ崎オートキャンプ場】、ここの評価はいいみたいだぞ。予約必須のようなので早速電話を……いっぱいらしい。無念。流石にゴールデンウィークは人気のようだ。
次点で宮古市と久慈市の中間にある田野畑村【
二日目のキャンプ地として目をつけたのは下北半島にある【
三日目は……まあ近くにいくつかキャンプ場もあるし、その時決めよう。ゴールデンウィークで混雑する中、このフレキシブルさもキャンプの利点だと気づく。
経路は仙台~八戸までは通称【三陸道】を使うことにする。現在工事中であり、途中ぶつ切りになっている。2020年のオリンピックまでには全線開通予定だそうだが、現在は何度か下道を経由することになる。しかし高速道路であり、なによりこの道路、無料なのだ。使わない手はない(なお開通後も無料という話だ)。
4月29日、出発当日、天気は晴れ。気温も24度まで上がるそうで絶好のツーリング日和である。
『マスターちゃん、荷物のチェックはしておきましたからね。特にキャンプ用品と防寒用具には気をつけないとね』
荷物の点検はひびきと一緒にしたので大丈夫だろう。
『モバイルバッテリー、ケーブル、LEDランタン……電気周りはバッチリよ』
スマホを含む電気周りは命綱だ。助かるよ、いずな。
『マスター、天気はいいみたいですけど、体温の調整がしやすいようにバッグの取り出しやすいところにインナーやアウター、着替えを入れておきましたからね』
服装の心配はみことがしてくれるようだ。みことには自分自身のことも心配してほしいが。
『マスター、朝ごはん食べてないんやろ? ちゃんと途中でコンビニに寄って食べるんやで?』
食事の心配はららがしてくれる。今回は自慢の料理の腕を振るう機会が無い分、食事管理を見てくれるようだ。
『マスター、やっぱりバイクの点検はわたしが~』
せ、セリアには疲れたときに肩を揉んでもらおうかな~
今回キャンプツーリングをするに当たり、合わせてメモリー集めをすることになったのだが、この五人のでんこが立候補してきた。見事に【姉属性】のでんこたちである。
妹がいるでんこの他に、妹は居ないが世話焼きお姉さんタイプのでんこもいるので姉(属性)である。キャンプ地を決めているときに突然立候補してきた。なにか興味を引く物があったのだろうか?
ちなみにチコなんかも妹がいるが、圧巻の姉属性でんこたちのまえに尻込みをしていたようだ(どちらかと言うと世話焼きは妹のマコの方であるし)。
『こ、こんなに他のでんこたちが居たら優秀なチコの足を引っ張られかねないからパスするわ!』
なんて言っていた。『お姉さまが行くならわたしも行くぞ! ……おいマスター、連結器が無いぞ、どこへ隠した!』
連結器はでんこたちを編成するために必要なアイテムである。あと一つあったはずだが……どこへやった?
くにはみことの説得で渋々お留守番することになったが、実際のところ口うるさいくにが残ってくれるのは内心ホッとしている。すまん、くに。
初日は太平洋に面した三陸道をひたすら北上する。天気がよく風も爽やかで気持ちがいい。ツーリングにおいて走っていて気持ちがいい以上に望むものもないな。
でんこたちは俺やバイクの何処かに腰掛けたりして、思い思いに風景を楽しんでいるようだ。
『風が気持ちいいですね、マスター』
ウェアのフードから肩越しに声をかけてくるみこと。俺の相棒はツアラータイプでウィンドスクリーンがあり、走行風をある程度防いでくれるので肩のあたりに当たる風はマイルドだ。
『この視点だとなんだかバイクレースしてるみたいで楽しいわね!』
いずなはウィンドスクリーンのすぐ裏に陣取り、走行視点を楽しんでいるようだ。まあゲーム好きないずならしいポジションだ。
『マスター、そろそろ休憩したほうがええんちゃう? さっきからコンビニ寄ってもコーヒーばっかり飲んですぐ出発してるやん。心配やわ』
俺のお腹の辺りに座っているららは心配そうにこちらを見上げる。
実は前日、先輩に誘われて日帰り登山をしたため疲労があり、出発は正午近くになってしまったのだ。そのためキャンプ場への到着時刻がタイトなので途中のコンビニ休憩の時間をあまり長く取っていない。
『そうですよマスターちゃん、疲れて事故なんてしたら元も子もないですからね。少し遅れてもいいからちょっと休憩しましょう。お姉ちゃんも心配だわ』
ほとんど母性に近いひびき、ちょっと甘やかされすぎな気もするが、もっともなのでしばらく休憩することにしよう。
次に立ち寄ったコンビニで長めの休憩をとる。もう少しすると魹ヶ崎のある半島だが、三陸道に並走する【国道45号】は半島の側面を通過するだけだ。
なんでも魹ヶ崎は駐車場から徒歩で1時間程度の険し目の道でしか行けないらしい。景色はいいらしいが今回はそのような余裕もない。
『マスタ~、それじゃマッサージしますね~♪』
ベンチに腰掛けているとセリアが背中のあたりに触れてくる。
バイクというのは同じ姿勢を取り続けるので筋肉が凝り固まりやすい。相棒はツアラータイプなので長時間走行向きであり、それほど窮屈な姿勢ではないが流石に長時間走行で疲れは出る。素直にセリアのマッサージを受けよう。
あ、腕時計とかスマホには触らないでね……
休憩を終え出発、次の目的地は【宮古駅】だ。宮古駅は以前、北岩手イベントで立ち寄ったことがある。
ところで本州最東端の魹ヶ崎だが、行ったところで【到達証明書】の発行する場所は無い。ではどこで発行しているかと言うといくつかあるのだが、アクセスしやすいところで宮古駅にある観光案内所で発行しているらしいのだ。
知っていれば前回訪れたときに発行してもらえたが、知らなかったものは仕方ない。まあ今回の通り道であるわけだし結果オーライである。だが……
『マスターちゃん、あのね、多分間に合うけど、宮古駅の観光案内所、18時までみたい……でも時間より安全運転でお願いよ』
休憩を長めに取るように勧めた負い目があるのか、ひびきが申し訳なさそうに言ってきた。ナビを見ると宮古駅到着は17時半になっている。まあ、時間ギリギリになるのは仕方がない。それよりひびきを心配させないように安全運転で行こう。
定刻通りに宮古駅に到着し、予定通り【本州最東端到達証明書】を入手した。ひびきもホッとした顔をしている。ううむ、ひびきにあんな顔をさせてはいけないな。今後気をつけねば。
宮古駅を出ると、そろそろ暗くなってきた。
暫く行くと【田野畑村】の案内が出てくる。目的地の明戸キャンプ場はもうすぐだ。
海岸線のアップダウンを越え、キャンプ場に到着。どうやらゴルフ場に併設したテントサイトのようだ。先客のテントは大1、小1。
小さい方のテントはもう寝静まっているようだ。おそらくサイクリングかトレッキングの人だろう。大きい方のテントは子供の声が聞こえる。ファミリーだろうか。
時刻は間もなく19時。流石に暗くなってきたのでいそいそとバッグからテントを取り出す……ん? 入れた覚えのない荷物が出てきた。荷物と言うかこれは
『あ、おはよー、マスター』
悪びれずにそう言うのはでんこ【つむぎ】だった。今回の編成に組み込んだ覚えはないのだが……ああ、連結器が1つ見当たらなかったのはそういうことか。
『あ、ほら、こんなチャンス滅多に……あ、いや、キャンプのことだよ?』
つむぎってアウトドアとか好きだっけ? まあ編成枠は余ってたからいいけど、素直に着いていきたいって言ってくれれば良かったのに。
気を取り直してテントを建て始める。このテントでキャンプをするのは初めてだが、道具をいきなり実践で使うのは愚の骨頂なので事前練習はしてきた。おかげで難なく建てることができた。
『マスターちゃん、お上手よ、練習してきた甲斐があったわね!』
ひびきからお褒めの言葉をいただく。練習してきてよかった。
『ダメよひびき、甘やかしてばかりじゃ。うちのありすみたいになったら目も当てられないわよ……』
しっかりもののいずなは、いつも家の中でゴロゴロしている妹のありすに対する経験上の苦労からか、それほど甘やかすタイプではないようだ。まあ家の中でゲームしてるときは仲のいい新居浜姉妹ではある。
テントを建て終わったら次は入浴だ。事前の調べによると、途中通過したホテルの入浴施設が使えるようだ。まずはそこでひとっ風呂浴びるとしよう。
その後は食事だ。まあお湯を注ぐだけだが。テントの前にテーブルを広げ、コッヘルでお湯を沸かして……ん? カップラーメンがないぞ?
『えっ、確かにわたしが入れたのを確認したはず……いいえ、マスターちゃん、わたしの確認不足だったわ、ごめんなさい』
ひびきが大変申し訳無さそうな顔でこちらを見る。
「いや、ひびきのせいじゃないから! 俺が最後に確認しなかったのが悪かったんだ! せっかくだしお菓子とか明日の朝のパンも買いたかったし!」
確かに入れたと思ったんだが、入れ忘れたなどと言ったらひびきが責任を感じてしまうだろう。
すると、バツが悪そうな様子でつむぎが
『ごめんマスター、あたしが入るスペースがなかったから、カップラーメン出してきちゃった……』
そういうことか……確かに初キャンプツーリングってことで荷物をパンパンに詰めたからな。まあ無いものは仕方ない。明日の朝食も無いし、買い出しには行こう。
『せやな、お昼から何も食べてないし、いっぱい買ってこような~』
ひびきとつむぎをフォローしてか、ららがそう言ってくれる。
調べたところ、最寄りのコンビニは戻る道らしい。しかし最後に見かけたのは結構遠かったような……
「う~ん、じゃあ内緒で着いてきたバツとして、つむぎだけついてきてくれるかな。あとのみんなは先にゆっくりしておいてくれ」
やっと人心地ついたでんこ達を連れて行くのは申し訳無いので、つむぎをダシにして休んでいてもらおうことにした。
すっかり暗くなってしまったので来たときより少し気をつけながらコンビニまでの道を戻る。
『ごめんねマスター、でもどうしても着いてきたくて……ひびきちゃんには悪いことしたな~』
流石に悪いと思ってか、ひびきのことを気にかけているようだ。まあ今回の編成で一番責任感を感じそうなのはひびきかもな~。あとでフォローしておこう。
『ところでマスターは今回の子たちで誰が一番タイプなの?』
ブフォ! 突然何を言い出すんだ!
『やっぱり才色兼備のパーフェクトないずなちゃん? ちょっと高嶺の花っぽいけど、マスターはゲーム好きだし一緒に遊んでくれそうじゃない? ああもちろんいずなちゃんがゲーム好きなの隠してるのはリサーチ済みだよ~、にしし! でもありすちゃんと合わせてずっと引きこもってしまうかもしれないね。たまに隙を見せてしっかりものの部分を引き出してあげればうまくいくと思うよ~』
なんか恋愛指南が始まったぞ……まあ確かにクラスに一人はいる人気者の女子っぽいいずなは魅力的だ……いやいやまてまて! 納得しそうになってしまったではないか!
『癒し系お姉さんのセリアちゃんはどお? 仕事から帰ってセリアちゃんが居るおうち。癒やされちゃうよね~。でも機械モノをいっぱい持ってるマスターとしては心配かな? 爆弾だらけになっちゃうかも……悪気はないんだろうけど。だからこれを期にスピリチュアル方面で行ったらどう? 健康に気を使ってくれるし、セリアちゃんとなら長生きできそうだよ!』
ライフプランまで織り込んできたぞ……でも確かにセリアのマッサージは最高なのは認めざるを得ない。
『それともマスターを立ててくれるタイプのみことちゃんとかが好み? マスター亭主関白ぽいし。服選びもみことちゃんに任せておけば間違いないしね! まあ妹のくにが曲者だけど……』
ファッションセンスについて追求されるとぐうの音も出ない。それとみことは儚げで庇護欲を掻き立てる。守ってあげたいでんこナンバーワンではなかろうか。
『ららちゃんもいいよね。料理得意だし、食べるの好きなマスターにぴったりだよね。心身共に包容力もあるし。ちょっと大雑把だけど、逆にお互い気を使わなくていいんじゃない?』
ららの料理はとても美味い。妹分たちもららの料理が大好きだ。毎日ららが料理を作ってくれたらと思うと、それは大変魅力的な未来である。
『でもやっぱり本命は甘やかしてくれるひびきちゃん? 尽くすタイプだし。ちょっとドジなところもあるけど、そこもかわいいよね! マスターもちょっと抜けてるし、案外いい組み合わせだと思うよ~』
姉属性でんこの中でも、特に強烈なのがひびきだ。高身長でスタイルもよく、まるでモデルだが性格はおっとりしており、包容力がある。みんなのお姉ちゃんポジションを自負しており無限に甘やかしてくるでんこである。しかしドジっ子属性も持ち合わせており放っておけない。ひびき沼である。
実のところでんこたちは美人ぞろいだし個性的で魅力的だ。しかし造られた存在であり、任務のパートナーでしかないという認識で接している。
確かにこんな子達が実際のパートナーだったらどんなに嬉しいことか。しかし相手はでんこである。
『そんな難しく考えなくてもいいんじゃない? でんこたちはメモリー集めが任務だけど、同じくらいマスターの役に立つことが好きだし、頼られれば嬉しいものよ。特別な感情を向けられて悪い気がしないどころの話じゃないよ!』
ニコニコと、しかし意味深な笑みでそう言ってくる。
『まああんまり特定のでんこに入れ込みすぎると不和を生むかもしれないけど……特に独占欲の強い子もいるしね~。でもある程度わきまえてれば多少は特別な感情を持ってもいいと思うよ?』
そっちから焚き付けてきた割には釘を差してくる。まあこれもつむぎ流恋愛術ってことなのだろうか。的確すぎるアドバイスに、しかし言われっぱなしも癪なので少しからかってやろう。
「ところでつむぎは? どんなでんこで、どこらへんが俺に合うかな?」
一人だけ外野からというのはズルイので巻き込んでやる。
『え、あ、あたし? あたしはいいよ~、自分のことより他の誰かの相談に乗ってあげたりする方が好きなんだよね! あとやればできる子を応援するのも好きだよ! もちろん恋愛方面でもね!』
しどろもどろだが、自分のことを除外したいばかりに自分の説明をしているぞ。これはしてやったり。
『む~、とにかくマスターにはあたしのことより他のでんこたちを幸せにしてほしいんだよぉ』
ぷーっと頬を膨らませてジト目て睨んでくる。ははっ、多少溜飲は下がったかな。おっとそろそろコンビニに着くぞ。
コンビニで晩飯と朝飯、お菓子を買い込む。お腹が減っていたせいでちょっと買いすぎただろうか? 再びキャンプ場へ向け出発。
『あっ、見て見てマスター! 月が大きいよ~!』
肩越しにそう言ってくるつむぎの言う通り、キャンプ場近くの岬にさしかかると、海上に出た大きな月が目に飛び込んでくる。海のないところでの生活が長かったため、海面に映る月というシーンを見るのは初めてかもしれない。コンビニに買い出しに行ってなかったら見れなかったので怪我の功名といえるだろうか。
「こんな景色、初めて見たかもしれないな。もしつむぎが着いてきてくれなければ見れなかったかもな。ありがとう、ひびき」
まさかお礼を言われると思ってなかったのか、ちょっと顔を赤くしてぷいっとそっぽを向いてしまう。さっき本人が言っていたとおり、あまり自分に感情を向けられ慣れてないのかもしれないな。そう言うところは素直に可愛いと思ってしまう。
キャンプ場に再び到着。早速テントで晩飯の準備をする。と言ってもお湯を沸かす程度だが。
このテントは前室付きの二人用(荷物があるので実質一人用だが)タイプだ。前室にテーブルを展開し、ガスバーナーでお湯を沸かす。
お湯が湧いたらあとはカップラーメンにお湯を注ぐだけ……ソロキャンプツーリングに凝った料理なんかを求めてはいけないぞ!
俺が食べてる間はでんこたちにコンビニスイーツを振る舞っておく。つむぎのアドバイスだ。
『あら、マスター気が利くじゃない。ポイント高いわよ~』
いずなを始め、みな喜んでくれているようだ。
食事を終え、やっと人心地ついた気がする。コーヒーを飲むために再度お湯を沸かす。
月も高く上り静かな夜だ。明日30日は満月とのことなのでかなり明るい。椅子に腰掛け背中を預ける。本当なら焚き火がしたいところだけど、ここは雑木林も無く薪が拾えないので今日はお預けだ。
海が近いため、潮騒が聞こえてくる。夜なので遠くまで届くようだ。
『なんかこういうの、ロマンチックでいいわね、うふふ』
セリアがテーブルの端に座り、月を眺めてそう言う。その佇まいはまさに癒し系お姉さん。しかし頼むからガスバーナーには近づかないでくれよ。爆発したらタダでは済まない……
みことはやはり少し寒いのか、俺の肩に腰掛け寄り添い、目を瞑って潮騒に耳を傾けているようだ。物静かなみことのその姿はなかなか絵になるんじゃないだろうか。一体何を思っているのだろうか。
『マスター、お湯が沸いたで~』
ららがカップにコーヒーを注いでくれる。でんこたちには俺がそれぞれカップに注ぐ。
まだ肌寒い4月末の夜。香ばしいコーヒーが体に沁みる。
『ありがとうマスター。コーヒー、美味しいわね』
椅子の肘掛けに腰掛け、コーヒーを飲むいずな。大人のお姉さんの夜のひととき、と言った感じだ。
最後にひびきにコーヒーを渡そうとしたが姿が見当たらない。キョロキョロと辺りを探していると、歌声が聞こえてくる。そちらに目を向けると月明かりの下、ひびきが歌っているようだ。彼女は歌が得意で、特に子守唄の威力は抜群であっという間に眠りに誘われてしまう。
なにか視線を感じると思い顔を向けると、ひびきが生暖かい目でこちらを見ている気がするぞ……先程の話を思い出してしまい、なんとなくでんこたちを意識してしまう。本当にみんな、俺にはもったいないくらいいい子たちだ。
「今日はありがとうみんな。おかげで楽しい旅になりそうだよ」
そう感謝を伝えると皆こちらを向き、笑顔を返してくれた。今回はいい旅になりそうだ。
【本日の移動距離:334km】
「キャンプ地は……姉ヶ崎かなぁ」
『姉』『が』『先』『!』『?』ガタガタッ!!
つむぎ(! これは面白くなるわ……)
でんこを知らない人のための説明(独自解釈)
※なぎさは2018年10月実装だったのでこのときはまだミオは姉ではなかった。
※ディフェンダー3人にみこと、セリアは編成的に見てもバランスが良いように感じますね。パッシブスキル多めなのでつむぎだけ噛み合っていない……
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お姉ちゃんでんこと行く「東北キャンプツーリング」(2)
「うー寒い寒い」
旅程二日目。4月とはいえまだまだ夜は寒いようだ。現在7時。
『おはようマスターちゃん』
一番に挨拶をしてくれたのはひびき。すでに起きていたようだ。さすがみんなのお姉ちゃん。俺も挨拶を返す。つられて他のでんこたちも起きてきたようだ。
『マスター、昨夜はちょっと寒かったわね。ひびきとみことに感謝しないとね』
いずながそう諌めてくる。まったくである。二人が用意してくれたカイロと防寒着がなかったら凍えていたかもしれない。二人にお礼を言う。
『いいのよ、マスターちゃんが無事ならそれに越したことはないわ。ねえ、みことちゃん』
『ええ。マスターをサポートするのがわたしたちの役目なのですから』
この二人の謙虚かつ相手を立てる性格には頭が下がる。
『マスター、風邪は引いてないようですけど慣れないベッドと寒さで体が固まってるので、いきなり動かさないようにしてくださいね~』
『せやな。まずは熱いコーヒーでも飲もか』
セリアとららのアドバイスに従い、すぐにコッヘルに水を注ぎ火にかける。まずは目覚めのコーヒーからだ。お湯が沸くまで天気予報を見る。予想最高気温は23~24度、天気は晴れのち曇り。今日も天気に恵まれそうだ。
コーヒーを入れたあとは追加でスープ用のお湯を沸かす。コーヒーを飲みながらお湯が湧くのを待つ。
キャンプ場を見渡すと、小さいテントはもう無い。やはりアウトドアスポーツの人だったのだろう。大きいテントの方も起き出して食事のようだ。父親一人に男の子二人かな。
再びお湯が湧いたのでスープのもとにお湯を注ぐ。あとは調理パンと野菜ジュースが朝食だ。
『まあ今回は初キャンプだったからしゃーないけど、次はもうちょっとマシな食事にしよな』
るるが残念そうな表情でこちらを見る。まあ食事は人生の楽しみだからな。しかしバイクだと荷物の積裁量に余裕が無いのでそこは目を瞑っていただきたい。
食事を終え、朝露に濡れたテントを軽く干して再びコーヒータイム。
……昨日空腹に任せて買ったお菓子があるが腹に入りそうにない。などと悩んでいると、大きなテントから賑やかな声が聞こえた。食事を終えた男の子たちがはしゃいでいるようだ。お、これはチャンス!
俺はお菓子を持って大テントに向かう。俺は父親に声をかけ、お菓子を差し入れる。
そこから少し会話をしたが、どうやらこの家族も【姉ヶ崎オートキャンプ場】を狙っていたようだが、最近リニューアルして客が急に増え、予約が困難になったそうだ。なるほど。
ところで会話中、父親がナイフで薪の表面を薄く削いで、まるでトサカスティックのようにしていた。後にそれが【フェザースティック】という、薪に容易に着火させるテクニックだと知るのだった。
その後は乾いたテントを格納して出発準備をする。時刻は10時。だいぶゆっくりしてしまった。
バイクに跨りエンジンを掛けると、先程の家族がこちらに手を振ってくれている。今日は母親が合流してもう一泊するそうだ。出発を見送ってもらうのがこんなに嬉しいとは。こちらも手を振り返す。
『マスターちゃん、家族っていいわね』
ひびきが家族の方を見ながらつぶやく。特に深い意味は無いのだろうが、家族への憧れがあるのだろうか。でんこである以上、どうしようもないと思うが……
(ほらマスター、甲斐性の見せ所だよ)
つむぎが焚き付けてくる。いやいやどうしろというのだ。そんな挑発には……ひびきの横顔を見てると何か声をかけてやらないと、という気分になってきた。
「ほら、俺たち、もういくつもメモリー集めとミッションをこなしてきたし、家族みたいなもんだろ」
当たり障りのないセリフをひびきに投げかける。決して挑発に乗ったわけではないぞ!
『そうね、私はマスターのお姉ちゃんだものね。うふふ』
『3点』 『いや~いずなちゃんキツイわぁ。3点』 『あのマスターが頑張ったのを評価して4点!』
突然いずなとらら、つむぎから謎の評価が下される。10点満点だよな? というか酷くない?
セリアとみことはニコニコしているが、みことは頭上には【?】が浮かんでいるのが見て取れる。セリアは……わかってて何も言ってないだけだな。その優しさがツライ!
お昼時になった。そろそろ休憩を……と思ったら、道の駅のようなものが見えてきたが、案内標識がないので道の駅ではないようだが。
入ってみると【たねいち産直ふれあい広場】とある。バイクを停めて広場内を物色する。
ここは産直品の販売とそれらを提供する食堂が集まった施設のようだ。建物は手作り感と年季が感じられるが活気はあるようだ。
「さて、何を食べようかな……」
物色していると店頭のおばちゃんに声をかけられる。
「ニシンの塩焼きはどう?美味しいよ」
ニシンか……確かに香ばしい香りは食欲をそそるが、実は俺はニシンがあまり得意でない。
『マスター、好き嫌いはあかんな~、とっても美味しそうやん』
ららが口を出してくる。まあ一応好き嫌いはないので食べられるけど……
『そうですよマスター。それにニシンの脂は体にいいんですよ♪』
セリアもららに続く。まあ健康面を考えてくれるのもありがたくはあるんだが……俺が若干渋っていると、
『でもマスターちゃんが食べたいものを食べればいいのよ、無理して嫌いなものを食べなくてもいいのよ』
ここでまさかのひびきの甘やかしが入る。すると何故かいずながニヤニヤし始めた。
『そうね~、苦手なら無理して食べなくてもいいんじゃない、ねえ、らら?』
ららもすぐに意味を理解したらしく
『せやね~、マスターにはニシンの良さがわからんかもね~』
煽る煽る
『マスター、ニシンは苦手なのですか?』
やっぱりよくわかってないみことの追撃が入る。このままでは俺がニシンも食べられないお子様みたいではないか……ニシンを食べる流れが確定した瞬間である。
(天然は策士に勝るわね~)
つむぎがなにかぼそっとつぶやいてニヤニヤとこちらを見てくる。なんなんだ……
おばちゃんにお金を払いニシンを手にベンチへ腰掛け手元に目を落とす。香りは最高にいいが、食べたときに感じる臭みが苦手なんだよな~
まあここは意を決して腹にかぶりつく。……たしかに臭みは感じるが思ったほどではない。それどころか脂の旨味が口いっぱいに広がり、旨味があふれる。
「あ~……これは美味しいね」
そう言うとでんこたちはみんな笑顔だ。なんだか苦手な料理を食べた子供を見る母親のようだ……生暖かい視線がツライ!
食事を終えて国道45号線をさらに北上する。八戸をぐるっと回り込むようにして進むと国道338号線に接続する。もうすぐ下北半島に入ろうというところだ。だんだん町並みが寂しくなってくる。と、突然轟音が響く!
驚きつつもその方向を見やると、戦闘機が低空で通過していくのが見えた。そうか、ここは三沢基地のそばなのか。おそらくあのシルエットはF-35ではないだろうか。これはいいものを見たぞ!
『あら、マスターちゃん、戦闘機に興味があるの? やっぱり男の子ね』
『この時代の最新鋭戦闘機ね。わたしなら操縦できるかも? っていうかしたい!』
『いずなちゃん操縦したいの? じゃあわたしも乗せてもらおうかしら~♪』
混ぜるな危険! この二人は絶対に近づけてはいけない。国際問題になりかねないぞ……
そこからさらに北へ進むと、下北半島は【まさかりの柄】の部分、【六ケ所村】に入る。
六ケ所村といえば原子力を始めとしたエネルギー関連施設が多く、バイク乗り的には【やませ】を利用した多数の風力発電機が見どころであるだろう。
太平洋側から陸奥湾へスイッチする道路へ進むと早速風力発電機が見えてきた。遠いところからかなり近いところに建っているものもある。あまりのサイズ感に距離感が狂ってしまう。いかんいかん、運転に集中せねば。
六ケ所村を抜け、陸奥湾沿いの【国道279号】に接続する。北上すれば間もなく青森県内最大の面積を持つ【むつ市】だ。
更に北へ。海の方まで抜けるときれいな舗装道路があり、街路樹は桜のようだ。しかしまだ4月末なのに葉桜になっている、残念。
そこから山へ向かう道に入る。鬱蒼とした木々の茂る山道を行きしばらくすると【
サイトは綺麗に手入れされているようだ。だが周辺は変わらず木々が鬱蒼としており、自然の中にいる印象が強い。
サイト内乗り入れ可なので荷物の運び込みも楽そうだ。水場、トイレも綺麗なようだしゴミステーションもしっかりした作りになっている。噂通りかなりいいサイトのようだ。
駐車したらまずは管理人棟に受付に向かう。
「いらっしゃい。時間がないからとりあえず温泉に行ってきたほうがいいよ~」
聞けば近くにある【かっぱの湯】という温泉が人気らしい、というか風呂に入るならそこしか無いようだ。更には男女入れ替え制でそろそろ男子の最終回らしい。それを聞いて慌てて再び出発する。
バイクで数分のところで【奥薬研 かっぱの湯】の看板を見つけたので広場に駐車し入口へ向かう。どうやら天然温泉に脱衣所と屋根をつけただけのような作りだ。ただし管理はしっかりしているらしく清潔な印象だ。ちなみにこの先に行ったところに『夫婦かっぱの湯』という男女別の露天風呂もあるそうだ。
特に洗い場も無いようなので掛け湯を……熱っ!
『あらマスターちゃん大変! ちゃんとお湯加減をみてからにしないと。火傷しないようにね』
見るとでんこたちも浴場へついてきている。タオルを纏い入浴する気満々のようだ。
「ちょい! あ~、女性はこの前の時間で終わりか……」
できれば女性の時間に入ってほしかったが、入浴はこの男子の時間で終わりらしい。まあでんこは他の人には見えてないし、仕方ないか。
「あんまりこっち見るなよ」
『それはこっちのセリフでは……』
いずながジト目で睨んでくる。いやいや、こちらの気持ちも考えたまえ。
『マスター、お背中流しますね』
『マスター、頭洗ってあげようか?』
『マスター、マッサージしてあげますね♪』
『マスター、背中流してくれへん?』
君たち、待ちたまえ。
『あらあらみんな、マスターちゃんが困ってるわよ』
さすがひびき、察してでんこたちを制してくれる。
『順番に並びましょうね~』
ちがう、そうじゃないぞひびき……
お湯の色はエメラルドグリーンで幻想的だ。近くには川も流れていて、サラサラと川の音も耳に心地よい。最初は熱かったお湯だが徐々に慣れてきた。凝り固まった筋肉が解け、疲れが溶け出していくようだ。
でんこたちも自分たちのペースで入浴しているようだ。
『マスター、眼福だね。みんなスタイルいいしな~』
だからそれが困るんだって……造られた存在とはいえ、みんなスタイル良すぎだろ……
特にセリア、いずな、ひびきあたりはモデル体型のようで目のやり場に困る。ららは健康的なふくよかさだし、みことについては深窓の令嬢よろしく儚げな雰囲気だ。
『んふふ、入浴時はまた違った魅力があるよね。温泉美人ってやつ? ほらほら、どの子が好みなのさ~』
つむぎが近寄ってきて挑発してくる。
「と、ところでこの温泉、エメラルドグリーンで綺麗だよな。つむぎの瞳と同じ色だ」
苦し紛れにパッと思いついた言葉で反撃してしまう。
『なっ!? マスター、それはズルイよ……』
予想外の反撃に驚いたのか、顔を赤くしてそっぽを向くつむぎ。
「のぼせたんじゃないか? 先に上がってていいぞ」
指でお湯をぴっぴと弾いてつむぎを追い立てる。
『後で覚えてなさいよ~』
つむぎが撤退する。また勝ってしまったか……
『あら、マスターちゃん、つむぎちゃんはどうしたの? 仲がいいからってやりすぎはいけませんよ』
心配そうにひびきが近寄ってくる。温泉効果で色気がマシマシだ。いろいろ危険なのであまり近寄ってほしくはないが善意からなので邪険にはできない。無心だ、無心になるんだ……
温泉から上がり、再びキャンプ場へ戻る。時刻は17時半か。暗くなる前にテントを設営しよう。よしよし、順調だな。
ところで管理塔の横には天然水をかけ流しているところがあり、そこでお酒やジュースを冷やしている人もいるようだ。俺も倣ってジュースを入れておこう。
あとはチェアと焚き火台を用意して……先程も言ったように、この辺りは木が生い茂っているので薪の確保も容易だ。例のアニメによれば松ぼっくりは天然の着火剤ということだが、サイト内には何本か松も生えている。拾うに困らないようだ。
だんだん空気も冷たくなってきたので火を熾す。徐々に火が回り、パチパチと弾ける音がしてきた。椅子に腰掛け焚き火を眺める。日も落ちて暗く、空気も冷たくなってきたが、それが焚き火の明るさと暖かさを際立たせてくる。
『雰囲気出てきたわね、キャンプらしいじゃない』
『焚き火を見るとリラックス効果もあるみたいよ~』
『ウチらにとって見ればキャンプファイヤーサイズやけどな』
確かに変幻自在な炎を見ていると、雑念が消えて一種の瞑想状態になる気がする。伝わってくる熱も心地よい。
『ほらほら、いい雰囲気だよ~、キャンプファイヤーといえば意中の子と抜け出すのが定番じゃない!』
せっかくまったりしていたのに空気を読まず再度挑発してくるつむぎ。そんな定番あるのか? そもそもでんこ一人だけ連れて抜け出すとか無理だろ。怪しすぎる。
「じゃあつむぎ、ちょっとそこまで付き合ってくれ」
『あ、あたし!? だから他にもっといい子が……』
一瞬キョトンとした表情をしたあと、明らかに慌てだす。
「いや、管理棟まで冷やしたジュースを取りに行こうかと。ずっと焚き火にあたってたから喉が渇いて」
そう言うと、一瞬思考停止したようだが、からかわれたことに気づくと
『もー! マスターのバカ! 一人で行ってくれば!?』
おっと、やりすぎてしまったかな? 退散退散。一人でジュースを取りに行くか。
しばらくみんなで焚き火を囲んでいると、ひびきが歌い始めたようだ。キャンプファイヤーでよく聞く歌だ。
でんこたちもつられて歌い出す。俺が歌うと他のキャンパーからの視線が痛いことになりそうなのでハミング程度にとどめておく。
いかんいかん、すっかりいい気分で眠くなってきてしまった。明日の予定は曖昧だったので、決めてから寝ないと。
『とってもいい場所だねマスター。明日もここにしない?(この雰囲気ならまだチャンスはあるぞ~)』
機嫌を直したつむぎが提案してくる。なにか企んでいる表情はミエミエだが。
そうだな~、明日わざわざ遠い弘前まで行って、新しいキャンプ場を探すのも手間だ。明日は下北半島をメインに動こうかな。
プランニングをしてでんこたちに伝える。みんな納得してくれたみたいだ。
でんこたちのおかげで二日目も上々だ。急なプランニングだが明日もうまくいきそうだ。
【本日の移動距離:235km】
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お姉ちゃんでんこと行く「東北キャンプツーリング」(3)
「よし、それじゃ出発しようか」
旅程三日目。ここ【薬研野営場】で連泊することにしたため、テントは張りっぱなしでいいのがとても楽だ。
天気は相変わらず快晴。今回は天気に恵まれたな。
本日の目的地は3つ。1つ目はどこへ向かうかと言うと……
キャンプ場から鬱蒼とした山道を南下し、川が見えてくる。
『マスター見えてきたよ、あれがそうじゃない?』
つむぎが俺の肩から身を乗り出し、ウキウキしてるのが感じ取れる。風で煽られたツインテールが首すじに当たりこそばゆい。つむぎが指し示す先は目的地【
昨夜、どこに行こうかと調べていたとき、そういえば下北半島といえば恐山だよな~、などと考えていたらなんと今日5月1日が開山日だというのだ。
『あ、行きたい、絶対行きたい! いいでしょマスター?』
そこに食いついてきたのがつむぎだった。つむぎはホラー好きという話は聞いたことがあった。まあ恐山は日本三大霊場といわれているらしいし。果たしてでんこに霊感はあるのだろうか!?
まずは我々を迎えてくれるのは有名な【三途の川】である。川を渡る木橋もあるが今は通行止めで、隣の石橋を渡るようだ。
橋のたもとにはこれまた有名な【
『ふんふん、最初からメジャーどころにマニアックなのを絡めてくるね、期待できるよ~』
つむぎは興奮気味だ。菩提寺に入ったらどうなってしまうんだろうか。
『ウチ知っとるで。衣服を剥ぎ取られて船に乗せられるんやろ? 罪が重いといつまでも対岸につかないという話もあるなー。マスターは食べ物いっぱい持っていかないとあかんかもな?』
『マスターは大丈夫? 【さぁ、お前の罪を数えろ!】』
ららといずなはナチュラルにキツイな……というかいずなは何を言っているんだ?
『衣服を剥ぎ取られるのですか? せっかく作ったお洋服なのでちょっと遠慮したいですね……』
『服を取られたら風邪を引いてしまいますしね。みことちゃん、マスターに代わりの服を用意しておきましょうね』
みこととセリアの微笑ましい二人の天然トークである。罪の重さより服のことを心配するみこと。大丈夫だ、みことの服の重さは天使の羽より軽いだろう。
【総門】の手前には大きな似たような像が6体鎮座している。【六大地蔵】とある。地蔵については後ほど。
総門で入山料を払い、門をくぐれば奥の院である。正面奥には【地蔵殿】があり、メインとなる【地獄めぐり】は左手に広がっている。
と、その前に小さな掘っ立て小屋があり、【薬師の湯(男湯)】とある。入山したならば利用できる硫黄泉だそうだ。硫黄臭がきつく、でんこたちに悪影響がありそうなのでとりあえず俺だけ様子を見てこよう。
脱衣所があり、全身浴もできるそうだが……やはり熱かったか。体も硫黄臭で臭くなりそうなので足湯にとどめておく。
温泉を出たらいよいよ地獄めぐりである。草木の生えぬ景色を昔の人は地獄と捉えたのだろうか。塔や仏像がいくつか見える。ところどころ
白装束でお勤めしている人たちも散見される。恐山の宿坊に泊まった人たちにはお勤めがあるらしい。
【無間地獄】【血の池地獄】などをめぐり、最奥の宇曽利山湖の【極楽浜】に向かう。そこには比較的新しい、堂に包まれた像が鎮座していた。その奥がいわゆる【賽の河原】である。目の前に広がる宇曽利山を望むと寂寥感がすごい。
『これが有名な賽の河原か~、一つ積んでは父のため~』
などといいながら小石を積むつむぎ。本来は地獄なのでホラーではあるが、むしろ楽しんでいる様子だ。満足したようなので、湖を背に別のルートに向かおうとしたところ
『ひっ!』
悲鳴を上げつむぎが俺の首元に飛びついてくる。少し震えているようだ。
『ま、マスター、あれ……』
目を伏せたまま指差す方向を見ると、先程の像の背中、正確には堂の裏側が見えるのだが、そこには無数の手形がつけられている。と言っても彫ったものだが。
後で調べたところによると、恐山の本尊は地蔵菩薩、いわゆるお地蔵さんであり、広く道祖神として旅の守り神であることはよく知られていると思う。
また地蔵菩薩は【子供の守り神】とされており、賽の河原で子供を獄卒から守っているのであると言う。
この像は東日本大震災犠牲者追悼の為に建てられたのだという。つまりあの手形はそういうことなのだろう。
「ただの手形だよ、つむぎ」
確かに無数の手形というのはホラーでは定番である。突然のことでびっくりしたのだろう。そう言って慰めるが怖がり方が尋常ではない。
『う、ううん……見えたの……』
み、見えた!? 一体何が……そう思うと嫌な汗が吹き出てくる。
『あらあら、つむぎちゃん、びっくりしちゃったんね、ほら、こっちへおいで~』
そう言ってつむぎを抱きしめるらら。
『あったかい……おひさまの匂い……』
しばらくららに抱きしめられていると段々と落ち着いたようだ。まさに太陽の化身ららである。
続いて【重罪地獄】や【金掘地獄】など聞き慣れない地獄を巡り、霊場と宇曽利山湖を一望できる【五智山展望台】というところにたどり着く。そこから望む景色にあらためて恐山の非現実感を目の当たりにする。
その後は【どうや地獄】【修羅王地獄】などまた聞いたことのない場所を巡って入口付近に戻る。帰り道、【イタコの口寄せ】の看板があったのでちらっと様子を見て総門を出る。
そういえば入るときに見たが、総門の隣で【霊場アイス】なるものが売っていた。結構暑かったし興味本位で買ってみる。
「つむぎ、あーん」
キョトンとした様子のつむぎだったが、差し出されたスプーンを舐める。続いて俺も口に運ぶ。
『……味、しないね』
つむぎは微妙な顔だ。
「うーん、ブルーベリー味を頼んだんだけど、言われれば風味を感じる……かなぁ?」
『なにそれ~』
と言って笑うつむぎ。すっかり霊障(?)も治まったようだ。
『あらあら、うふふ』
ひびきが子供を見守るような優しい微笑みを投げかけてくる。う~ん、なんだろう、照れくさいぞ。
時間は10時半。今日はまだまだ廻るところがあるので早々に恐山をあとに次の目的地へ向かう。
下北半島の北側、海沿いの道を東へと進む。あまり他の車とすれ違うこともなく、途中に採掘場があるだけで薄ら寒い気分になる。
『あら、マスターちゃん、お馬さんですね』
ひびきが手をかざし遠くを見やっている。灯台へ続くゲートを越えると広い草原地であり、近くに3頭の馬が見えた。このあたりにだけに生息・放牧されている【
『ねえマスター、ちょっと遊んできていい?』
「馬を驚かせないように気をつけるんだぞ」
聞いてきたのはいずなだが、許可を出すと6人とも飛んでいった。みんな興味津々だったのか……
3頭の馬にそれぞれセリア・ひびき、いずな・つむぎ、みこと・ららの組み合わせで背に乗ったようだ。路肩に停車し、しばらくその様子を眺める。
セリアとひびき、おっとりお姉さんペアは大人の余裕を感じるが、若干ポンコツなところもある二人だ。見ているだけなら尊い絵面なのだが。
いずなとつむぎはキャッキャとはしゃいでいる。女子高校生のノリかなぁ。花も恥じらう乙女たちである。一体なんの話をしているのだろうか。
みこととらら。なんだか陰陽、月と太陽といった感じのする組み合わせである。穏やかな二人からはほんわかした空気が醸されている。近寄ったらうっかり眠ってしまいそうだ。
みな満足したようなので先へ進む。正午を回った頃、2つ目の目的地が見えてきた。下北半島北東の端にある【
灯台は岬の先端にあり、辺り一面は草原が広がっていて寒立馬もちらほら見える。空の青、海の黒、草原の緑に浮かぶ白亜の灯台は絵になる。
「ところでつむぎ、この灯台にはこんな話があってだな……」
事前に仕入れていた情報で【まぼろしの灯台】というのがある。戦時中、灯台守が殉職し灯台も破壊されたのだがその後、灯台が光を放っていたという目撃情報が相次いだと言う。実際灯台のおかげで漁船が遭難を免れたという話まであるそうだ。そしてそれは仮の灯りを設置、点灯すると同時に無くなったという……
『ひぇ~っ、なにそれ、それって多分亡くなった灯台守さんの霊の仕業なのでは……』
怖がる素振りをするつむぎだが、顔はいかにも興味津々といった感じだ。
「いやいや、灯台の霊かもしれないぞ? 付喪神というのが居てだな……」
などとホラー考察を始めてしまうのであった。
寒立馬の粗相に注意する標識があったので注意しながらしばらく付近を散策する。海風強く、ここでもまた寂寥感、サイハテ感を感じてしまうのであった。
散策を終えたら本日3つ目の目的地、【
駐車場には結構な数の車両があり、観光客も多そうだ。近くには小さいながらもテントサイトがあり、いくつかテントが建っている。海風が強く煽られているので少し心配になってくる。
到達証明書を発行しているレストハウスへ向かう道にはたくさんの【タコ足】が干してある。確か大間崎で有名なのはイカだったような……?
話を聞くとこの年はイカが不漁のためタコを売っているそうだ。イカの代わりはタコになるのだろうか……?
レストハウスで無事【本州最北端到達証明書】を手に入れたあとは散策と写真撮影だ。どうも【端っこ】にはモニュメントが乱立する傾向がある。【本州最北の地~】の碑の他に【天童よしみ歌謡碑】なんてものもある。
その中で異彩を放っているのが【マグロと向かい合う太い腕】のモニュメントである。説明を見るとマグロ一本釣りの意匠らしい。これはぜひ写真に収めねば。
誰かに写真を頼もうと辺りをうかがうが、ライダーたちは身内で完結させているようだ……そこに手隙そうな女性二人を発見したので声を掛ける。
『マスター、ナンパ……』
つむぎが何か言っているが気にしてはいけない。こういう縁も大事だろう?
「実はですね~、このモニュメントは面白い撮り方があるんですよ~」
片方の女性がそう言ってニヤニヤし、もうひとりの女性が先程撮ったという写真を見せてくれる。
それを見て俺は絶句した。マグロの方のモニュメントの手前に波の意匠があるのだが、そこにうつ伏せになり、まるでマグロのような姿で写っているのだ。
若い女性がするポーズではないが、旅の恥はかき捨て。俺もこんな面白いチャンスをふいにするわけはない。
「撮りますよ~」
件のポーズを取り無心に笑顔を作る。いずなとつむぎは爆笑している。絶対帰ってから他のでんこに言いふらすつもりだ……セリア・らら・ひびきは困ったような笑顔を浮かべ、やんちゃな弟を見る姉の視線を送ってくる。みことは俺の醜態にオロオロするばかりである。俺の威厳はストップ安だ。俺はマグロだ。マグロになったんだ……シャッターはまだか。
時間はまだ14時過ぎ。もう帰ってまたかっぱの湯に入ってもいいのだが、キャンプ場の管理人さんに教えてもらった、帰りがけにある温泉施設に寄る。源泉かけ流しの温泉で、なんでも露天風呂から北海道を望めるというのだ。
でんこたちには女湯に行ってもらう。申し訳ないが一人の時間も必要なのだ。
露天風呂からは簡素な柵を隔てて津軽海峡を望む。その先に見えるのは夜景で有名な函館山だそうだ。いつだったか函館山には一度登ったことなどを思い出す。
「また行きたいな、北海道……」
今度はどんなプランで、どのでんこ達と思い出を作りに行こうか。
温泉から上がり休憩所で食事をしたあとはまったり過ごす。
だいぶくつろいでしまったが、暗くならないうちにキャンプ場へ帰ろう。
今夜も簡単な食事をして、焚き火のそばでコーヒーを飲む。名残惜しいが明日は帰路だ。
【本日の移動距離:160km】
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お姉ちゃんでんこと行く「東北キャンプツーリング」(4)副題【いつか八重の雲の地へ】
キャンプ最後の夜、今日も赤々と熾る焚き火を囲み、皆思い思いに過ごしている。
(ちょっとちょっとマスター)
つむぎがふわふわと寄ってきて耳打ちしてくる。
(キャンプ最後の夜だよ? このまま終わるの? 意中の子がいるなら最後のチャンスだよ?)
あー、うーん、そうだな。意中の子はさておき、みんなにお礼を言っておくか。
「あーみんな『みんなー、今からマスターが一人ひとりにお話があるってー!』
みんなにお礼を言おうとしたらつむぎがかぶせてきた。そして個別にということにされてしまった。
(言っとくけどマスター、ちょろっとお礼言う程度じゃ許さないからね!)
文句を言おうとしたが、逆に苦言を呈されてしまった。どうしろというのだ。まあ今回の旅の思い出トークでもしながらお礼を言えばいいか。
『それじゃ一人ずついこー! 最初はセリアさんね。他の子たちはテントで女子トークしてよー』
つむぎが皆を連れてテントの方へ行く。なんだこの流れは……女子トークが気になるぞ……
―――
つむぎ『ごめんねみんな。ちょっと強引だったかな? でもこうでもしないとマスターが腑抜けで……』
そう言って他の子達の様子をうかがう。
いずな『まあいいんじゃない? 面白そうだし。あのマスターが何を言ってくるか楽しみね~』
らら『せやな~。じゃあ折角やからウチらはウチらで楽しもか。最初はセリアちゃんやったね』
いずな『セリアさん、癒やしよね~。あたしたちの健康管理に加えてマッサージとかしてくれるし。優しいお姉さんよね。レイカと違ってツンツンしてないからついつい甘えちゃうわ~』
みこと『わたしはよく体調を崩すのでお世話になりっぱなしです』
らら『マスターもよくマッサージしてもらってるなぁ。もうセリアちゃん無しでは生きていけないんちゃう?』
ひびき『あら、じゃあセリアちゃんはマスターちゃんの一生のパートナーね♪』
女子トークに花が咲く。意外にもみんな乗り気のようだ。やっぱりみんな、マスターにどう思われてるのか気になるよね!
―――
セリアは今、俺の背中を撫でるようにマッサージしてくれている。正直たまらなく気持ちいい。
『マスターちゃん、今回も計画を詰め込みすぎて無茶をしたみたいね。背中が固まってるわよ~』
耳が痛い話である。猛省。
「でもセリアの健康管理のおかげでなんとか無事に終われそうだよ。ありがとう」
などと無難な言葉でお礼を言う。
『こんな無茶をするマスターにはこれからもず~っと体の心配をしないといけませんね~』
ずっとかぁ。そういえばつむぎが【長生きできるかもよ?】なんて言ってたな。
「そうだね。でもまあセリアがそばに居てくれる間は無用な心配だと思うよ」
マッサージが気持ちよくてついそんな事を言ってしまう。
『あらあら……じゃあマスターからはずっと離れることはできませんね♪』
背中の方から上機嫌な声色が聞こえてくる。なんか気の利いたこと言ったっけ……イタタ!ちょっと押す力が強いよ!
―――
つむぎ『セリアさん、どうだった?』
セリア『そうですね~、マスターとは一生添い遂げたいと思います♪』
つむぎ『えっ!? あのマスターが!?』
らら『あら~、いきなり本命やったか~』
いずな『あたしだってセリアさんとだったら一生添い遂げたいな~』
ひびき『あらあら、セリアちゃんとなんて、マスターちゃんは幸せものね』
みこと『おめでとうございます、セリアさん。マスターのことお願いしますね』
セリア『うふふ、そういうことじゃないんですけどね♪ 多分本命さんは他にいるんじゃないかしら?』
皆、意外そうな顔をしたが、セリアさんはそれを楽しんでいるようだ。なんかセリアさんの笑みにいたずらっぽいものが見えた気がするんだけど……この人、意外と人の心の操り方を心得ているんじゃないだろうか。あたしの目論見もバレていて、それでいて利用して楽しんでいるような気がしてきたわ……
―――
次に向かったのはいずな。
らら『いずなちゃん美人やし、一目惚れされやすいタイプやない? マスターそういうのに耐性無さそうやし』
セリア『頭の回転も早いわよね~、わたし、とっさの判断が苦手で。羨ましいわ~』
ひびき『しっかりもので、マスターにもビシッと言ってくれるわよね。わたしだとついつい甘やかしちゃって……』
みこと『自信家でみなさんをぐいぐい引っ張っていってくれる頼もしいところもありますね』
つむぎ『完璧超人ね……』
いずなを嫌いになる人は居ないだろう。アイドルタイプではないが、学生ならクラスに一人はいる才色兼備な女の子だ。やっぱりマスターはそういう子が好きなのかな?
―――
椅子の肘掛けに腰掛けるいずな。
『マスターお疲れ様。楽しい旅だったわね』
足をブラブラと揺らし、にこやかに語りかけてくる。
『でももうちょっと計画性を持ってほしかったなー、ちょっとひびきさんに迷惑かけすぎじゃない?』
しっかり釘を刺してくる。しっかりもののいずならしい。
「まあいずなが居なかったらひびきを始めみんなに甘やかされっぱなしだったかもな~。いずなが居てくれて助かったよ」
そうお礼を言うといずなは若干得意げな顔だ。いずなの特性は【本務機】であり、今回の個性的な編成を引っ張ってくれたのは間違いなくいずなだろう。
『まあマスターらしいけどね。旅の内容は面白かったし、これからも期待してるわ』
言葉のアメとムチの使い方が上手だなぁ、などと内心思う。まあそんないずなの期待に応えるためにももっと頑張らないとな。甘やかされっぱなしではマスターの沽券に関わる。どうしたものか。
「そうだ、今度いずなと二人で旅行へ行ってみようか」
そう提案してみる。シンプルなふたり旅ならプランニングも難しくならないだろう。しっかり計画を組むならリオナとかそら辺りと編成を組んだほうがいいんだろうけど、タイトで気疲れしてしまいそうだ。いずなならそのあたりのバランス感覚が良さそうだし、友達感覚であまり気負わず付き合ってくれそうなのでいい練習になるだろう。
『ふ、ふたり!? ……まあマスターとも短くない付き合いだしね……覚悟は出来てるわ!』
なんの覚悟だ? 声が上ずっていたぞ。なにか思案顔でウンウンとしきりにうなずいていたが、意外な一面を見れたのは嬉しく思う。
―――
つむぎ『いずなおかえりー……顔が赤いよ? 何かあった?』
いずな『……マスターと二人で旅行に誘われた……』
らら『マスターやるやん』(耐性のないのはいずなちゃんの方やったか)
セリア『あら~婚前旅行かしら、それとも新婚旅行かしら~♪』
みこと『おめでとうございます、いずなさん。旅行先は松山でしょうか』
ひびき『いずなちゃんなら安心してマスターちゃんを任せられるわね~。これからもマスターちゃんをよろしくおねがいしますね』
いずな『いやいや! 考えすぎだから! マスターに下心なんて無い……と思う……』
つむぎ『これはいずなで決まりかな~? みんな、がっかりしないでね~?』
いずな『だから違うって!』
慌てるいずなが可愛いのでついついからかってしまう。マスターがどんなつもりで誘ったのかはあとで問いただすとしよう。楽しみだな~
―――
つむぎ『ららさんかー、かなり強敵ね』
いずな『強敵って何よ……まあららさんお料理上手だしね。男の人は胃袋掴まれると弱いって言うから……』
セリア『ららちゃんのお料理とわたしの健康管理でマスター最近調子良さそうですしね♪』
みこと『ららさんのお料理、美味しいですよね。わたしにはちょっと多いときもありますけど、くにが結構食べるんですよね』
ひびき『ららちゃんとは一緒にお料理したりするんだけど手際が良いのよね~。味も見た目も完璧ですごいわ~。ちょっと量が多いけど……あと太陽みたいに暖かくて他の子たちに懐かれてるのよね』
つむぎ『いつも【ええんよ、ええんよ】って安請け合いしちゃうところもなんとなくホッとさせられるよね。ちょっと豊満な体型ももしかしたらマスターの好みかも……』
―――
『いや~、今回はウチの料理の腕を振るう機会は無かったな~、残念やわ』
俺の太もものあたりに座るらら。残念そうではあるが特に不機嫌な様子はない。しかし、太ももから感じるららの柔らかさがなかなか……
「ま、まあキャンプツーリングは初めてだったからね。調理道具を積み込む余裕と、時間的余裕も無かったからね……車でキャンプに行く時はお願いするよ」
太ももからの感触が気になるが、努めて平静を装ってそう言う。
『ん~、そんときはまかしとき! ま~とりあえず腕がうずくから帰ったらすぐになにか作ろか。なんでも作ったるで。なにがええ?』
腕まくりをして力こぶを作るらら。ぽよぽよとした二の腕にしか見えないが、料理の腕は折り紙付きだ。しかし食べたいものか。コンビニメニューに飽きた俺としては、とにかくシンプルで温かくてホッとするものが食べたい。ならばおのずと
「ならやっぱり味噌汁かな~、具材はららがその時の俺に合うと思うのにしてくれてるかな? きっとららの作った味噌汁なら体に染み渡ると思うんだよね」
そう言うと、ららは頬に手を当て、珍しく笑ってるような困ってるような顔をして
『あら~、マスター、それ意味わかって言うとる?』
あれ、なんかマズイこと言ったかな? 具材をお任せにしたのがよくなかったのだろうか? 具材くらいビシッと決めろって意味だろうか?
『まあええわ。味噌汁なんていつでも好きなだけ食べさしたるわ。楽しみにしててな~』
「それなら毎日お願いしようかな。ららの作った味噌汁が毎日食べられるなんて願ったり叶ったりだね」
そう言うと、更に困ったような表情になった気がする。でも伝わってくる感情はむしろ好意的なものだ。
『マスター、それを言うのはウチだけにしてな? ふつつか者ですが今後ともよろしゅーお願いしますわ』
そう言って頭を下げてくる。てっきり、【味噌汁なんかでええの? ええんよ好きなものを言ってくれて】くらいで済みそうだと思ってたんだが、どうも調子が狂うな。
『あとマスター、むっつりやなぁ♪』
ば、バレてる……
―――
つむぎ『ららさんどうだった? どうせマスターのことだから、【帰ったらあれが食べたいこれが食べたい】とか言ったんでしょ?』
らら『ん~、それがな。ウチもそう思ってたんやけど、【ウチの作った味噌汁が毎日食べたい】って言われて困ってしもうたわ』
いずな『えっ、それって実質プロポーズ……』
みこと『おめでとうございますららさん。ららさんの美味しい料理を毎日いただけるなんてマスターが羨ましいです』
ひびき『マスターちゃん、ららちゃんのお料理に慣れたら他のものを食べられなくなるんじゃないかしら、嬉しい心配ね~』
セリア『引き続きマスターの健康は私達で守っていきましょうね、ららちゃん♪』
どんな料理でマスターの胃袋を掴んでいるかと思ったら、まさかそれを逆手に取ってプロポーズとはね。……ん? マスター、一体誰が本命なの?
―――
つむぎ『みこと、大丈夫かしら。くにが居ないからマスターの魔の手からみことさんを守る人が居ないわ…』
いずな『つむぎ、マスターのことなんだと思ってるのよ……でもみことは守ってあげたいオーラが凄いわよね。マスター勘違いしなきゃいいけど』
セリア『みことちゃんとは健康診断の時に結構お話するけど、身体は弱いけど心の方は芯が通っていて献身的なのよね~。気がつけばそばにいてくれるのが当たり前になっちゃうから、庇護欲と独占欲を掻き立てられるの。結構魔性なところあるのよ~』
つむぎ『それって二人っきりにしたらマズイんじゃ……やっぱりマスターの魔の手が』
いずな『みことが危ない!』
らら『ふたりとも落ち着きや~。もうちょっと二人を信用してあげたらええんちゃう? まあマスターがみことちゃんに手を出したとしてもお互いが幸せならええとおもうで~』
あたしといずなはテントから飛び出そうとしたが、ららさんの説得により踏みとどまる。
まあそもそもこんなシチュエーションを用意した時点で誰にでもありえる可能性だったのだ。むしろあたしはそうなってほしいと思っていたのに、みことだけマスターから守ってあげたいという気持ちになってしまったのは、やはりセリアさんの言うようにみことの魔性ゆえのものなのだろうか? くにの気持ちがちょっとだけ理解できたかもしれない。
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『マスター、お疲れ様でした。今回の旅はいかがでしたか?』
やはり少し寒いのだろうか、みことは俺より少し焚き火の近くに浮いている。
「みんなのおかげでとても楽しむことができたよ。特にみことのおかげで快適に過ごすことができたんじゃないかな」
みことが衣服や寝具のチェックをしてくれたおかげでなんとか風邪も引かずに乗り越えられたのは大きい。
『いえ。わたしは当然のことをしたまでです。わたしの方こそ、くにが居ないのにこんなに遠くまで来れて……マスターがわたしを連れてきてくれたおかげです。ありがとうございます』
みことはいつも謙虚で相手を立ててくれる。気がつけばそばにいて支えてくれている気がする。
『あっ』
危ない! みことの姿勢が崩れる。俺はとっさに両手を掬うように伸ばし、みことをキャッチする。
「ふぅ……危ない危ない。大丈夫? やっぱり疲れが出た?」
心配になって顔を覗き込むと、みことの表情はちょっと上気したように見える。やはり疲れだろうか。
『いえ……焚き火に当たりすぎてのぼせてしまったようです……あの、マスター……』
みことの視線が俺の手のひらを見る。腕ではなく手のひらだが、お姫様抱っこの様相である。
「あっ、ごめん!」
とっさに手を離そうとしたが、みことが落ちてしまうのでそれはできない。
『いえ……それよりもう少しこのままで……』
いつの間にかみことの手は俺の指をギュッと掴んでいた。
―――
つむぎ『みこと……なにがあったの?』
帰ってきたみことの様子が明らかにおかしい。ぽーっとしていて上の空のようだ。
セリア『みことちゃん、体調が悪いの? 外は寒くて冷えちゃったかしら?』
みこと『いえ……マスターが抱き留めてくれたので暖かかったです……』
いずな・つむぎ『なんですってー!!!』
らら『ぽーっとしてるのはそういうことなんやね♪』
いずな・つむぎ『……』
黙って出ていこうとするあたしたちをららさんとひびきさんが止める。ええい、止めてくれるな。
ひびき『みことちゃん、無理やりじゃなかったんでしょ?』
ひびきさんがあたしを羽交い締めしながらみことに尋ねる。顔はニコニコと穏やかなのに、押さえつける力がえげつない。さすがディフェンダー随一の体力……
みこと『ええ。マスターはとても優しくしてくれました』
みことはうつむき気味にモジモジと、しかし嬉しそうな表情をしている。みことにこんな表情をさせるなんてマスターやるわね……
らら『これで実際に手を出されたのはみことちゃんだけやな~。これはわからなくなってきたで♪』
マスターが手を出すなんて……魔性のみこと、その恐ろしさの片鱗を見た気がする。
くにの気持ちがちょっとわかったかもなんて、とんだ勘違いだった。本当はくにはみことを守っているのではなく、人を惹きつけてしまうみことから皆を守っているのではないか、と。
―――
つむぎ『みんなのお姉ちゃん。ひびきさんね』
いずな『マスター・でんこ問わず激甘お姉ちゃんには誰も抗えないわ……』
つむぎ『別名【ダメマスター(でんこ)製造機】、またの名を【ひびき沼】』
らら『ひどい言われようやな……まあマスターにとってもお姉ちゃんみたいなもんだからある意味安牌やな~。面白いことは起きないかもしれへんな』
皆がうなずく中、一人だけ違う反応を示す。
セリア『でもそれって、裏を返せばひびきちゃんも【人に尽くしたい・頼られたい】という依存状態なのよね~。ひびきちゃんは不特定多数相手だからまだいいんだけど……』
みこと『わたしもくにと似たようなところがありますからわかる気がします。もしマスターとひびきさんが……』
マスターとの依存が深まり過ぎてしまった場合、二人はどうなってしまうのだろう?
―――
ひびきは肘掛けに立ち、上機嫌に鼻歌を歌っている。とても癒やされる時間だ。
「ひびき、今回の旅では準備から道中、色々気を使ってくれてありがとう」
ちょっとドジなところがあるので、しっかり者という点ではいずなに一歩譲るが、今回の旅の準備に最も腐心してくれたのはひびきだろう。
『あらあら、そんなにあらたまらって。マスターちゃんが無事に旅を終えることができればお姉ちゃんはそれだけで嬉しいのよ』
謙虚で懐の深いところもひびきのいいところだ。
「それにしてもひびきの歌はホントいいな。癒やされるよ。特に子守唄はてきめんだね。あっという間に眠りに誘われてしまうよ。ひびきならきっといいママになるんじゃないかな?」
姉妹でんこというのは居るけど、親子でんこってのは今の所確認されていないが、もしかすると娘でんこなんてのが居ないとも限らないよな。
『うふふ、それじゃ私、お姉ちゃんからママになっちゃおうかしら』
ひびきママ!なんと魅力的な響きだろうか。ひびきは私の母になってくれるかもしれないでんこだ!
『マスターちゃん、子供は何人欲しいかしら? やっぱり3人くらい? 名前は…シンフォニー、メロディ、ハミング……あら、女の子の名前ばかりになっちゃうわね♪』
ちょっと待て、ママって、俺のママではなく俺との子供のママってことか!? 飛躍しすぎだろ! しかもキラキラネームばかりじゃないか!?
『ちょっと不安だけど、マスターちゃんが一緒ならきっと立派なママになってみせるわ! 末永くよろしくおねがいしますね、パパ♪』
冷静になると【俺のママ】という思考になっていた時点でひびき沼にハマっていただろうことに気づくのであった。
―――
つむぎ『おかえりなさいひびきさん。上機嫌ですね、いいことありました?』
さっきのみこととセリアさんの心配が頭をよぎる。
ひびき『うふふ、私なら良いママになれそうだって言ってもらっちゃったわ♪』
まあそれにはみんなもうんうんと納得顔だ。
いずな『まあね~、ひびきさんなら間違いないわね。それにしても娘でんことか、将来協会から派遣されてきたりするのかしら?』
今の所、母娘でんこは居ないが、たしかに可能性はあるかも。ひびきさんの娘か~、どんな可愛い子になるんだろ? やっぱりお歌が好きなのかな?
ひびき『それでマスターちゃんには子供は何人欲しい? とか、名前は何がいい? とかそういうお話をしたの』
いずな・つむぎ『は?』
らら『あら~、ママってマスターの奥さんてことか。ええやんか~』
みこと『おめでとうございますひびきさん。子供は多いほうがいいと思います』
セリア『ひびきちゃんならきっと良いママになれると思うわ~。マスターも果報者ね♪』
依存どころか、一種の究極の愛の形、夫婦になってしまうとは……ひびきさんの無限の愛情があれば何人子供が居てもきっと大丈夫だろう。というかマスターとでんこの子供とかどうなっちゃうの!?
―――
つむぎ『これでみんなマスターとはお話できたみたいね。それじゃ女子トークもお開きにして、みんなでマスターのところに戻りましょ』
と言ったところ、ガシッと羽交い締めにされる。
ひびき『だめよ、つむぎちゃんがまだ終わってないわよ♪』
ひびきさん、笑顔だが有無を言わせない力で抑え込んでくる……
らら『きっとマスターが待ってるで~』
つむぎ『あ、あたしはいいよ~、みんなが幸せになることがあたしの幸せなんだから~。大体マスターがあたしのことなんとも思ってるわけないって!』
いずな『そんなわけ無いでしょ。もしつむぎだけ行かなかったらマスター、つむぎに嫌われたかと思うかもよ?』
うっ、あたしはいいんだけどマスターが気に病むのはあたしの本意ではない。
らら『覚悟して行ってきや~、きっと悪いようにはされへんで♪』
みこと『きっとマスターもつむぎさんのことを大切に思っているはずですよ』
セリア『マスターのためにもいってらっしゃい♪』
さすがにみんなにそう言われては行かないわけにはいかない。渋々ながらマスターの元へ向かう。
らら『つむぎちゃんの鈍感さは、るるちゃんにも負けてへんな~』
いずな『他人の気持ちには敏感なのにね。一番ほっとけないのはあの子なんじゃないかしら』
みこと『つむぎさんが他の人に幸せになってもらいたいと思うのと同じで、わたしたちもつむぎさんには幸せになってもらいたいですからね』
ひびき『つむぎちゃん、とってもいじらしくて抱きしめたくなっちゃう』
セリア『マスターならきっとつむぎちゃんの気持ちに気づいて……無いかもしれませんけど、愛情があれば自然に良い方向に向かう思いますよ? わたしたちにしてくれたみたいに♪』
―――
『ま、マスターお疲れ様! 聞いたわよ~、やるじゃない! マスターにそんな甲斐性があるとは思わなかったわ!』
あたしとしてはマスターが心に秘めた相手とうまくいくか、そうじゃなくてもこれをきっかけに想い人(でんこ)ができたり、いい雰囲気に持ってけたらな~、くらいに思ってたんだけどまさか全員と親密な関係を築くとは。大成功どころじゃない。だけどなんだかモヤモヤする。なんで?
「なぬ、やっぱり何を話してたかは話題になってたのか……しかし甲斐性? 俺はただお礼とか言っただけだけど……まあ確かにみんな反応が妙だったな」
こういう鈍感なところもマスターらしい。やっぱりほっとけない。
「でもでんこ達一人ひとりにお礼を言えたのはつむぎのおかげかな。俺だったらまとめてお礼を言って終わりだったよ、ありがとう」
『で、みんなに良いこと言ってたけど一体誰が本命なのよ? ほれほれ』
などと言って頬をつついてくる。なんのことだ。
「本命って……もしつむぎだって言ったらどうするんだよ』
こういう質問はこう返したほうがつむぎをやり込められるのは実証済みだ。どうせ『あ、あたしはいいよ~』とか言い出すんだろうが。
ところがつむぎは、一瞬固まったあと俯く。
『ま、マスターはあたしのことどう思ってるのよ……』
モヤモヤの原因。ほかのでんこたちの話を聞いたあと、みんなマスターに愛されてるんだと思った。そしてさっき送り出してくれたみんなのセリフで、あたしはどう思われてるのか意識してしまった。確かめたい。勇気を振り絞ってマスターに問いかけた。
つむぎから予想外のセリフが飛び出した。いつものような軽いノリではないそれに決意を感じた俺は、真面目に答えなければならないだろうか。
白い髪、透き通るような肌が焚き火の炎を映し揺らめいている。エメラルドグリーンの瞳は闇の中で宝石のようにミステリアスに輝き、つむぎの美しさを際立たせてている。
人の幸せばかりを考える心優しいでんこ。でも気さくに話せる気安さも好ましい。気恥ずかしくはあるが、そう伝えた。
マスターの答えはあたしにとってとても好ましく、期待通りで、でも勘違いしてしまう。他の子達もマスターの優しさを勘違いしただけなのかも。でも、もしかしたらあたしだけを……一縷の望みを懸けて。
『マスター、いつか八重の雲まで……あたしを連れて行ってくれる?』
八重の雲? 一体何のことだろうか? 八雲? 八雲といえばレーノのホーム、函館本線の八雲駅だろうか。少し函館からは離れるが何かあっただろうか。確か去年の北海道ツーリングを羨ましがってたかな? まあ北海道にはまた行ってみたいし、行くつもりだ。もし冬に行くならば真っ白なひびきには雪景色も似合うだろう。
「ああ。俺も(また)行きたいと思っていた。つむぎにはきっと純白のドレスも似合うんじゃないかな?」
北海道の某有名お土産は、創業者が言った【白い恋人たちが降ってきたよ】なんてセリフから生まれたらしい。白いドレスなんて言ってもいいだろう。ちなみにその製菓会社は【
『ばっ……ばっかじゃないの! マスターのバーカ!』
一瞬で顔が真っ赤になるつむぎ。もしかして見当違いの返事をしてしまって怒らせてしまっただろうか。
『あっ、ち、ちが……その……あーもう! 頭冷やしてくる!』
そう言うと林の方へ飛び去ってしまった。心配はないと思うが……まあこれで全員と話せたし、テントに戻っていよう。
―――
いずな『マスターおかえりなさい。……あれ、つむぎは?』
「それが【頭冷やしてくる】とか言ってどこか行っちゃったんだよ。すぐ戻るとは思うんだが……」
ひびき『あら、それは追いかけたほうが良いのかしら?』
みこと『マスターはつむぎさんになんと言ったのですか?』
「それを言わせるのか……まあみんなに言ったことはバレてるみたいだしな。それがさ、なんだっけな【八重の雲まで連れて行ってくれる?】って言ったから、【俺も行きたい。純白のドレスも似合うだろう】って……おそらく北海道のことだと思ってそう言ったんだけど……」
セリア『マスターったらキザね~、でもそうね、八雲駅って言ったら北海道よね~。どういうことかしら?』
みんな思案顔だったが、何人か何か気づいたらしい。
「なにかわかったのか?」
らら『ええと、ウチはちょっと和歌には詳しいんやけど……端的に言うと【八重の雲】は【八雲】を指しているんや。マスターの考えはそこまでは合ってるで。でもこの場合の八雲は……』
いずな『そういえば岡山から出る電車がつむぎのモデル【381系特急 やくも】だったわね。愛媛から近いから思い出したわ。たしか岡山から山陽線、伯備線、山陰線を経由して向かう先は……』
みこと『わたしたち姉妹の名字の【
らら『つまり八重の雲と意味するところは【出雲大社】だと思うで~』
「つまり八雲へ連れて行くというのは出雲大社に連れて行くってことか。出雲大社は縁結びで知られてるよな。神無月じゃなくて神在月に縁談をまとめるんだとか……ん?」
そう言うと、でんこたちは『にこ~っ』としてこちらを見る。
ひびき『あらあら、マスターちゃんたら、つむぎちゃんからのプロポーズを受けちゃったのね~』
セリア『純白のドレスってウェディングドレスか白無垢ですよね、マスター♪』
いずな『ロマンチックね~、つむぎが羨ましいわ』
らら『マスター、責任とらなあかんな~?』
みこと『おめでとうございますマスター。挙式はぜひ出雲大社で』
なんてこった、壮絶に勘違いをかましてしまった……
その後しばらくしてつむぎが帰ってきたが、ちょっとバツの悪そうな、照れた顔をしてこっそり『待ってるから……』などと耳打ちしてきた。
勘違いとはいえ、つむぎに期待させるようなことを言った責任はある。答えを出さなくていけないのだろう。いつか八雲の地へ向かうその時に。
さて、明日は夕方から降雨が予想されているので東北道に乗ってさっさと帰ることにするか。なかなかの苦行だが……
みんなと話せてなんだかほっこりした気分だし、明日のためにも今夜はぐっすりと眠るとしよう。でもその前に
「みんな、今回はありがとう。おかげていい旅になったよ」
シンプルかつストレートな気持で皆にお礼を言う。
『またお出かけしましょうね、マスター』
皆にっこり微笑んでそう返してくれた。
ちなみに、皆帰ってからも上機嫌であり、かなり甘やかしてきたため、くにからは『おまえ、お姉さまに何を……』とか言いがかりをつけられるわ、レーノは睨んでくるわ、その他のでんこたちからも『優柔不断』『シスコン』『やっぱりひびき沼からは……』『マグロ……』などいわれのない誹謗中傷を受けるのであった。俺が何をしたというのだ……
【本日の移動距離:444km】
【総移動距離:1173km】
活動報告【東北キャンプツーリング終了。】にあとがきを載せていますのでよろしければお読みください。
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