黒子のバスケ~果たせなかった約束~ (五木 いさむ)
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前編

「大事な約束があるんスよ、オレには。必ずそこへいく……ジャマすんじゃねーよ!!」

 

 冬の東京体育館を舞台に、全国高等学校バスケットボール選手権大会、通称『ウィンターカップ』と呼ばれる高校バスケットボールの大会が開催されていた。試合は7日間にも渡り、今日はその5日目だ。

 

 そして現在。本日最後の試合となる、海常高校vs福田総合学園高校の試合が行われていた。

 

 終始、福田総合のリードで進んでいた試合だったが、残り時間が5分を切り、大方の観客が『決まったな』と思った頃、状況は一変した。海常高校のエース、黄瀬涼太が、自陣のゴール付近から突如シュートを放ったのだ。

 

 それは、コートの半分以上も離れた距離からのシュートにも関わらず、リングにかすりもせずに正確にゴールの中心を貫いた。

 

 驚愕のあまり、場内が水を打ったように静まり返る。だが次の瞬間、驚きは歓声へと変化した。

 

 ――すげえ!!なんだ今の!

 ――てかアレって緑間の……

 

 観客たちの驚く理由。それは、自陣から決めた黄瀬のシュートが、コート全てがシュートレンジだと豪語する埒外の天才、キセキの世代の1人、緑間真太郎を彷彿とさせたからだ。

 

「よくやった、黄瀬!!」

 

 黄瀬の超長距離からの3Pシュートをきっかけに、海常高校が息を吹き返していく。再び黄瀬にボールが渡ると、さらに追加点を取ろうと怒涛の勢いで敵陣に切り込んでいった。

 

「っざけんなよ、リョータァ!!」

 

 迫りくる黄瀬を止めるべく立ち塞がったのは、コーンロウのような髪型が特徴的な福田総合の選手、灰崎祥吾だった。

 

「ジャマすんじゃねえって言ったはずっスよ!」

 

 だが黄瀬は灰崎をまったく意に介さず、全速力で突っ込んでくる――かと思いきや、灰崎の目の前で突然減速した。

 

 不意を突かれた灰崎は、思わずバランスを崩してしまう。その隙に黄瀬は、再びトップスピードに乗り、灰崎を抜き去っていった。

 

「ックソが!速えェ……!」

 

 ヘルプに入った福田総合の他の選手達も次々とかわし、最後はシュートとも呼べないような無造作に放っただけのボールでゴールを決めた。

 

 常人離れした緩急差に、型のない(フォームレス)シュート。それは紛れもない、キセキの世代のエース、青峰大輝のスタイルだった。

 

(ダメだ……キセキ世代(あいつら)の技だけは、オレにも奪えねえ……!)

 

 灰崎と黄瀬のスタイルはよく似ていた。どちらも、一度見ただけで相手の技を自分のものにすることができるのだ。

 

 いわゆるコピーを得意とする2人だが、灰崎の場合はそれだけにとどまらなかった。彼は技の再現時にアレンジを加えることで、相手本来のリズムを乱し、オリジナルの技を使用不能にしてしまうのだ。単なるコピーではなく、相手から技を奪う、『強奪』こそが灰崎の真骨頂だった。

 

 だがその灰崎をして、唯一技を奪えなかった相手がいた。それこそが、キセキの世代と呼ばれる天才達。彼らはそれぞれがオンリーワンの才能を秘めており、そのセンスは他のプレーヤーでは全く太刀打ちできないほどであった。

 

 だが黄瀬は、そんな彼らの技全てを再現できると言うのだ。名を、完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)――その圧倒的な性能の前に、灰崎はまるで歯が立たなかった。

 

 黄瀬の言うコピーはただの猿真似で、技を奪う自分の方が格上だ――そう確信していただけに、灰崎は動揺を隠せずにいた。

 

(リョータに負ける……?このオレが……!?)

 

 灰崎の中に敗北の予感が広がり始める。黄瀬との力の差は歴然だった。

 

(なら、もうどうなろーが……!)

 

 灰崎は明確な悪意を持って黄瀬の足を見やった。ごまかしてはいたが、黄瀬の足には過剰練習(オーバーワーク)によるダメージが残っていたのだ。その事に気付いた灰崎の心が、急激に黒い感情で染められていく。

 

 選手としての最低限の矜持すらも失いそうになったその時、

 

「福田総合、タイムアウトです」

 

 辛うじて笛に救われたのだった。

 

***

 

 灰崎は苛立った様子でベンチを蹴り倒した。

 

(クソがクソがクソがクソがッ……!何もかも気に入らねぇ。ついさっきまではオレの圧勝だったはずろうが!!なのにどうして……!?)

 

 みじめだと見下していた黄瀬から受けた予想外の反撃に、灰崎はすっかり荒れていた。

 

「灰崎。気持ちはわかるが少し落ち着け」

 

「あ゛ぁ゛!?」

 

 3年生でキャプテンの石田英輝が見かねて声をかけたが、灰崎は怒りに任せて石田の胸倉を掴んだ。

 

「クソの役にも立たねぇバカ共のくせに、偉そうに口出ししてんじゃねえよ!」

 

 準々決勝まで勝ち上がってきたのだ。灰崎以外の選手も、決して実力が低いわけではない。だがそれでも、キセキの世代に対抗するには、力不足だった。この試合、ここまで福田総合がリードを守ってこれたのは、灰崎の力によるところが大きかった。

 

「……確かに。お前からすればオレたちは雑魚にしか見えないだろうな」

 

 拳を振り上げ、今にも殴り倒さんというばかりの灰崎に対し、石田は抵抗することもなく、ただ小さく呟いた。 

 

「灰崎、正直に言うと、お前のことは嫌いだ。練習はさぼるし、態度はデカいし自分勝手で――」

 

「テメェ!!この状況で喧嘩売ってんのか!?」

 

 石田の発言を聞いた灰崎は、一瞬で頭に血が上った。黄瀬の件で苛立っていたということもあるだろう。石田が話し終える前に、彼の顔面目掛けて右手を振り下ろそうとして、

 

「だが、強い」

 

 その言葉に拳が止まった。

 

「……ウチは礼儀を重んじる強豪、なんて言われてはいるが、しょせんそれだけだ。インハイの時も、キセキの世代を擁するチームには手も足も出なかった。その時に思ったんだ。『ウィンターカップもきっと同じだろう、オレの三年間はここまでだな』ってな」

 

 そして石田の口から、チームメイトの誰も聞いた事が無かった不安げな心情が吐露されていく。

 

 自分たちのバスケが間違っていたとは思わない。誇りもある。それでも――インターハイで敗北したあの日、キセキの世代(本物の天才)には永遠に届かないのだと理解してしまった。

 

 だがキャプテンである石田にできることは、必死にチームを鼓舞し、分かり切っている結果から目を背けたまま努力を続けることだけだった。いくら練習を重ねたところで、キセキの世代には絶対に勝てない……そんな閉塞感を抱えたまま彼はバスケと向き合っていた。

 

「……灰崎、お前が現れるまではな」

 

 その言葉に、灰崎は目を見開く。

 

「お前が入ってから、このチームはすっかり変わってしまった。はっきり言って、お前のことは気に入らない……だが同時に、これまでのウチの伝統をぶち壊し、自分の欲望のままに奪い尽くして進んでいくお前に、どこか頼もしさを感じていたんだ」

 

 そう言うと、石田は悲しげに笑った。

 

「お前がいれば、優勝できるかもしれない……そんな夢を見ちまう程度にはな」

 

 灰崎という選手と戦った相手は一体何を思うのだろうか。

 

 血のにじむような努力の末に手に入れた自分だけの武器。自身を象徴するまでに磨き上げてきた技。

 

 バスケ選手にとってそれらは、自分がバスケに打ち込んできた歴史に他ならない。

 

 それを、たった一回見ただけの相手に目の前で再現される悔しさ。

 

 普段の調子を崩されて実力を発揮できなくなってしまった自分への憤り、そして喪失感。

 

 灰崎の強奪は、相手から技だけでなく、積み上げてきた自信を奪い、その人がバスケに捧げてきた時間と思いの全てを踏みにじる行為に他ならなかった。それはただ模倣する(黄瀬涼太)よりも、酷く屈辱的で――天才的ではないか。

 

「お前はオレたちに諦めかけていた夢を見させてくれたんだ……!ならこんなところで終わってねえで、責任もって最後まで見せてくれよッ!!」

 

 石田は声を荒げ、灰崎の胸倉を掴み返した。自分でもよく分からないことを言っているなと思う。ただ、ここで終わってしまうのだけは嫌だと、石田は必死で言葉を続ける。

 

「エースはお前だ。オレたちに協力できることがあったら何だってやる。だから……勝て!!」

 

 オレはお前の勝利を信じている。石田はそう告げると、静かに灰崎から手を離した。

 

「……ハッ!何勝手なこと抜かしてんだ。他力本願のバカ共が」

 

 チームメイトからの信頼の言葉を受けても、灰崎の憎まれ口は相変わらずだった。だが言葉とは裏腹に、その表情は毒気を抜かれたように穏やかなものだった。

 

「……あれだけ大口叩いたんだ。少しは役に立てよ」

 

 突き返すような乱暴な仕草で石田から手を離すと、灰崎はそう呟くのだった。

 

***

 

(……よかった。どうやら灰崎の頭も少しは冷えたようだな)

 

 灰崎と石田の一触即発な状況を、固唾を飲んで見守っていた福田総合のメンバーの一人、望月和宏はホッと胸をなで下ろしていた。確かに灰崎は実力はあるものの、その自己中心的かつ攻撃的な性格から、指導にはとても手を焼いていた。

 

 望月は2年生であり灰崎の先輩にあたるが、灰崎は先輩への敬意など持ち合わせていなかった。むしろ、灰崎のシュートが外れた時には、八つ当たりとして、トレードマークのスキンヘッドを叩かれてしまうほどに舐められていた。

 

 だからこそ、そんな灰崎を上手くたしなめた石田の手腕には頭が下がる。

 

 だが肝心の問題は何も解決してはいなかった。残り時間は約3分。福田総合の7点リードという状況ではあるが、もはやその程度のリードでは気休めにもならない。流れは完全に海常であり、黄瀬の完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)も未だ健在だ。このままでは逆転は時間の問題だった。

 

 福田総合の勝利のためには黄瀬を倒すことが絶対条件であり、その可能性があるのは灰崎だけだ。しかしそのための方法がまるで思い浮かばなかった。それは他のメンバーも同様であり、灰崎本人を含めて誰もが口を閉ざしていた。タイムアウトの時間も残り少ない。何かないのか?何でもいい、せめて何かきっかけが掴めれば――そんな思いから、望月は小さな疑問を口にした。

 

「……なあ灰崎。完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)なんて言ってはいるが、黄瀬は本当に、あの青峰の速さを再現……いや、青峰と同格の身体能力を持っているのか?」

 

 キセキの世代の技をコピーできるというだけで十分すぎる脅威だが、そもそもの問題として全国最速との呼び声も高い青峰と同じレベルで動けるのだとしたら、いくらなんでも勝ち目がないのでないか?そんな不安の裏返しから出た疑問だった。

 

「あ?んなもん、ダイキの方が速えーに決まってんだろーが。だいたい、リョータの身体能力はオレと互角……てか速さだけならオレの方が速かったくら……いだ……って、アレ?」

 

 ふと気が付いた違和感。黄瀬と灰崎の身体能力自体はほぼ互角であり、最高速度がずば抜けて速いというわけではない。だが先ほど見せた黄瀬の動きは、青峰のそれと遜色ないキレを有していた。

 

 灰崎の強奪は凶悪な技ではあるが、自分の能力を超えるレベルの相手からは奪えないという致命的な弱点があった。だからこそキセキの世代の技は奪えないでいたのだ。それは模倣(コピー)であっても同じはずだ。にも関わらず、灰崎と同等の身体能力である黄瀬がその不可能を可能にしている。そこから導き出される結論は――

 

「身体能力だけじゃねーっつうわけか、リョータァ。こりゃあ、なんかあんな」

 

 灰崎は好戦的な表情で笑った。怒りに任せて暴れていた今までとは打って変わり、その目には確かな闘志が宿っていた。

 

(……つーか、こんな簡単なことにすら気付かねーほど動揺してたってのかよ。クソが……!)

 

 一方で自分の情けなさに苛立ちが涌く。だが今は感情に振り回されていい時じゃない。怒りに任していては黄瀬には勝てない。そのことを自覚した灰崎は、自分への怒りすらも闘志へと昇華させ、勝つために思考を巡らせる。

 

 そんな灰崎の様子を見て取ったのか、キャプテンの石田が口を開く。

 

「それで灰崎、方針は決まったか」

 

 本来はキャプテンでありPGの石田が指示を出すべきだろう。とは言うものの、灰崎にはチームプレー精神というものが無いため、この数カ月間は作戦会議など意味を成していなかったのだが。

 

 だが今の灰崎なら。まだチームとして真に信頼し合えているわけではない。しかし闘志を抱いた今の灰崎になら、他のメンバーが動きを合わせることで何とか連携を取ることができるのではないか。そう考えた石田は、あえて選択権を灰崎に委ねる。

 

「種があんのが分かったんだ。まずはリョータをしっかり観察しねーと始まらねえ。テメェらはしっかりスペース作って、オレとリョータの一対一(ワンオンワン)でいく。」

 

「……言いたいことは分かるが、それじゃあ結局今までと同じじゃあ――」

 

「ちげーよ。これはリョータを近くで観察すんのが目的だ。一対一(ワンオンワン)なら抜かされんの前提だ」

 

 石田は内心驚いていた。このプライドの高い男が、自分が負ける前提で話をするなどと思ってみなかったからだ。

 

「だからテメェらは、オレが抜かされたら全力でフォローしろ。テメェらじゃリョータに勝てるわけねーが、時間稼ぎくらいにはなんだろ。その間にまたオレが観察する」

 

「……アイソレーションとヘルプディフェンスによる足止め……黄瀬を中心にスペースが出来ている分、確かに観察する回数は増やせるだろうが……」

 

「……まァ、点は取られるだろーが……逆転されても、ネタを暴いてゼッテーオレが取り返すッ!!」

 

 それは作戦などと呼べる大層なものではなく、勝利のための具体策があるわけでもない。だが、灰崎の自信に満ちた姿に、石田は不思議と安心感を得ていた。

 

 石田はゆっくりとチームメイト全員を見渡す。異議を唱える者はおらず、みな静かに頷いていく。

 

「決まりだな。どの道ここまで来たらお前に頼るしかないんだ。頼んだぞ、灰崎」

 

 石田がそう宣言したところでタイムアウトの終了時間になった。

 

「オラァ!いくぞ!!足だけはひっぱんじゃねぇーぞ。バカ共!」

 

『オウ!!』

 

 試合開始時と同様、チームメイト達は灰崎になじられながらコートに入っていった。だが開始時と違い、彼等の士気は高く、そこに険悪なムードは無かった。

 

***

 

 ――うおぉ!黄瀬がすげぇ……すごすぎる!海常猛追だ!!

 

 試合再開後も、やはり流れは海常に向いていた。黄瀬の完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)の前に福田総合のメンバーは歯が立たず、いよいよ点差は2点にまで迫っていた。

 

 だが灰崎もただ手をこまねいていたわけではなく、チームメイトらが作ったスペースを使い着実に黄瀬の観察を続けていた。

 

(けど、まだだ……まだ足りねぇ)

 

 黄瀬から更なるプレーを引き出すため、灰崎は次の一手を考える。

 

(今はコッチの攻撃……だがリョータからの反撃を待ってるだけじゃあ時間がもったいねえ。少しでもアイツから何か引き出すためには……)

 

 ――こっちから打って出る。灰崎はそう結論づけた。とは言うものの、今の黄瀬は乗りに乗っている。半端な攻撃では、新しいプレーを出すまでもなく簡単に潰さるだろう。

 

 灰崎がチームメイトの様子に目を向けると、石田からシューターの望月にボールが回ろうとしているところだった。望月を一瞥して灰崎は思った。黄瀬がキセキの世代の技を使ってでも止めざるを得ないような、虚を突いた攻撃ができれば、あるいは――。

 

(……役に立つっつったのはテメーらだ。後悔すんじゃねーぞ)

 

 意を決した灰崎は、石田から望月へのパスコースに割り込み、そのボールを奪い取った。

 

「よこせ!」

 

 灰崎の強奪は凶悪な技術だが、一歩間違えれば自軍の攻撃力すらダウンさせかねない諸刃の剣でもある。そのため灰崎は、仲間の技だけは奪わないという最低限のルールを自分に課してきた。だから、今から灰崎がやろうとしていることは、一種のタブーだった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 自らを鼓舞するように雄たけびを上げながら、灰崎が敵陣に切り込んでいく。対する黄瀬は、あくまで冷静に灰崎の前に構える。

 

「行かせないっスよ」

 

 黄瀬は高い集中状態にあった。今の黄瀬を相手に生半可な技で仕掛けたところで、いとも簡単に止められてしまうだろう。

 

 灰崎はそんな黄瀬のブロックを躱すために、ゴールからやや離れた位置で飛び、ボールを下から掬い上げるようにボールを放った。

 

「これは!!スクープショット!」

 

「だが灰崎!それは……!?」

 

 灰崎の選択した技は、スクープショットと言われる相手選手のブロックを避けることに特化したシュートだった。

 

 だが灰崎がシュートモーションに入ると同時に、チームメイトから戸惑いの声が漏れる。灰崎の使った技がただのスクープショットではなく、チームメイトである望月の得意とする型を模していたからだ。

 

(仲間の技奪ってどーすんっスか……)

 

 傍目には、黄瀬の追い上げに動揺した灰崎が、動揺して仲間の技を奪ったようにしか見えなかっただろう。事実、黄瀬はそう感じていた。

 

 だがその効果は折り紙付きだ。この試合の第1Q、黄瀬は望月からスクープショットをコピーしていた。だからこそ分かる。あのシュートは並のブロックでは止められない。

 

(終盤で自爆覚悟のこの攻撃……確かに想定外っスけど……今のオレなら止められる!!)

 

 スクープショットの強みは、タイミングをずらすことができる点にある。相手と離れた位置から、通常のシュートとは異なり大きく弧を描く軌道で撃つことによって、ブロックしづらい独特の間合いと角度を作ることができる。

 

 しかしそんなものは恐れるに足りないないとばかりに、黄瀬はブロックに飛んだ。その迫力に、灰崎は息をのむ。

 

(っこれは……!!アツシと遜色のない反応と迫力……!)

 

 綺麗な弧を描くかに見えた灰崎のスクープショットだが、キセキの世代のセンター、紫原敦のブロックをコピーした黄瀬によって難無く止められてしまった。

 

(けど、リョータとアツシじゃどうやったって体格差がある……)

 

 シュートを止められた灰崎は、しかし怯むことなく黄瀬を観察していた。どうせ止められるのは分かっていたのだ。大切なのは止められたという事実ではなく、どうやって止めたかだ。

 

 体格は比べるべくもない。ならば紫原のブロックを黄瀬が再現するには何が必要か……灰崎は観察結果をまとめ、必死で思考を編みあげていた。

 

 その様子が、黄瀬には次の攻撃手段を考えているように見えたのだろう。

 

「考えてる暇なんか無いっスよ!!」

 

 と言って灰崎の横を走り抜けた黄瀬は、ボールをキープしていた仲間からパスを受け、そのままシュートモーションに入った。

 

「また緑間か……っ!そう何度も撃たせるか!!」

 

 福田総合のメンバーがすかさずヘルプに付き、ブロックに飛ぶ。だが、初速が早くほぼ垂直に射出された超高弾道のボールに、並みの選手では触れることなど到底叶わない。

 

「クソっ!」

 

 止められなかった選手は悔しげにボールを目で追っていたが、当の黄瀬はシュートの結果など確認するまでも無いと、すでに踵を返していた。

 

 自陣に戻る途中、黄瀬のシュートの様子を見つめていた灰崎と目が合った。

 

「ショウゴ君、さっき言ってたっスね。キセキの世代の座を奪っちまおうと思って……だっけ。調子はどうっスか?」

 

「……っ!」

 

 試合前に灰崎が言っていた台詞を思い出して挑発する黄瀬に対し、灰崎は無言で黄瀬をにらみつけたがそれ以上のことは何もしなかった。

 

(さすがに乗ってこないっスね……別にどーでもいいけど)

 

 黄瀬は灰崎から興味を失ったのか、すぐに目線を切り、ディフェンスに戻っていった。

 

 と同時に、長らく宙を舞っていたボールが、福田総合のゴールを貫いた。

 

 ――うおぉぉ!キセキの世代の技二連発!!それに……!

 ――73対72……海常の逆転だー!!

 

 怒涛の追い上げの末についに逆転を掴んだ海常高校に、そしてその立役者である黄瀬に、観客はすっかり魅了されていた。会場のボルテージが最高潮に達する。

 

「よっしゃあ!!ナイス黄瀬!」

 

 黄瀬の周りには続々と仲間が集まり、手を合わせたり肩を抱き合ったりして逆転の喜びを噛み締めていた。

 

 福田総合のチームメイト達も灰崎の周りに集まってはいたが、こちらは海常とは対照的に悲壮さが漂っていた。

 

「灰崎……大丈夫か。お前、さっきの――」

 

 黄瀬に敵わないと諦めた灰崎が自暴自棄になって望月からスクープショットを奪ったのではないか――そのような懸念から、石田が灰崎に声をかける。

 

「うるせえ!触んじゃねーよ、バーカ」

 

 石田は心配げに灰崎の肩に手を触れようとしたが、軽くあしらわれてしまった。開き直っているのか、はたまた強がりか……その不遜な態度に、チームメイト達はますます懸念を深める。

 

 そんな雰囲気に耐えられなかったのか、灰崎はガシガシと右手で頭を掻きながら、

 

「ちっ……あ゛ーもう!悪かったな!!ハゲの技を奪っちまったのは!……けど別にヤケになっちゃいねーよ」

 

 ぶっきらぼうだがどこか恥ずかしげにそんな言葉を口にした。

 

「灰崎が……謝った……だと……!?」

 

「マジで大丈夫か灰崎。熱でもあるんじゃないだろうな?」

 

「て、てめぇらっ……!ぶっ殺されてーのか!?」

 

 威嚇する灰崎だったが、それを見たチームメイト達の表情には明るさが戻っていた。

 

「ったく!……けど、今のアイツのプレーを見てハッキリしたぜ」

 

「……行けるのか?灰崎」

 

 突破口を見つけたと言う灰崎に、石田は表情を引き締める。

 

「あぁ……覚悟しとけよリョータ。ぶっ潰してやるからよ……っ!!」

 

 灰崎はそう言うと、鋭い目つきで黄瀬を捉える。

 

 ――ぞくり。

 

 飢えた野生動物を思わせるその姿を見て、チームメイト達の背中に冷たい汗が流れた。

 

***

 

「ここは絶対止めるぞ!!」

 

 逆転に成功した海常のキャプテン 笠松は、ここが最後の踏ん張りどころだと部員に檄を飛ばす。残り時間は2分を切ったところで、この福田総合の攻撃を止めれば海常の勝利はぐっと近づくことになる。黄瀬の放った超高弾道3Pシュートの滞空時間中に戻りを済ませ、チーム全員が万全の守備体勢を取っていた。

 

 対する福田総合は、灰崎をやや後ろに置き、中央の石田がボールを運びながら、残りの3人は前に広く展開していた。相手のパス回しに圧力をかけ、カットを積極的に狙うための配置。いわゆる3-1-1ゾーンプレスと呼ばれる形だ。ディフェンスのフォーメーションであるそれを、なぜ攻撃側である福田総合が使ってきたのか、笠松は不思議に思った。しかも――

 

(灰崎が最後尾!?何を考えているんだ?…………まあ焦って仲間の技を奪うようなやつだ。下手に暴れられてこれ以上自軍の戦力を失うわけにもいかねぇしな。自然とこの形になってしまったってところか。だが、それなら好都合だ)

 

 ひとしきり考えたところで、笠松は黄瀬にちらりと目くばせをした。その視線に気付いた黄瀬は、頷いて力強く視線を送り返した。

 

(……悪いけど、他の4人じゃ束になったって相手にならないっスよ!)

 

 海常の方針は決まった。前線にボールが渡ったところを狙ってスティールし、そのまま黄瀬が灰崎の守備圏外からシュート――これでチェックメイトだ。

 

「今の福田総合に外は無え。シューターは灰崎がわざわざ潰してくれたからな。やつらを絶対に中に入れるな!!」

 

 笠松の号令の下、チーム全員が一丸となって福田総合に当たりに行こうと動き始めた矢先――

 

「いいのか?そんなに深く守っていて」

 

 そう呟くと、突然石田は最後尾の灰崎に向ってバックパスを出した。ボールを受け取った灰崎は、迷うことなくその場でシュートモーションに入る。

 

 海常チームに緊張が走る。この場にいる誰もがその動きに見覚えがあったからだ。

 

「そんな!まさかこれは……!!」

 

「……やっぱリョータ(お前)と仲良くやんのはムリみてーだな。マジで」

 

 言うと同時、灰崎の手から高々とボールが撃ち上げられた。ボールは高いループを描き、海常コートまで飛んだ後、リングに掠ることなくネットを揺らした。

 

 会場が静まり返る。誰もが信じられないといった様子だった。なぜなら、それはキセキの世代が誇る天才シューター、緑間真太郎の持つ超絶シュートと遜色ない射程距離と精度だったからだ。

 

 ――すげえ!!灰崎ってやつまでキセキの世代の技が使えるのかよ!!

 ――それに今度は福田総合の逆転!これは最後まで分かんねえぞ!!

 

 やがて正気を取り戻した観客から大歓声が沸き上がった。彼らもまさか、キセキの世代のコピー対決が見られるとは、夢にも思っていなかっただろう。

 

 会場の熱気とは裏腹に、黄瀬は明らかに動揺していた。

 

「そんな……!?ショウゴ君の力じゃ、キセキの世代の技は使えないはずっス!!なのにどうして!?」

 

「あぁ?よく言うぜリョータ。気付いてんだぜ。テメェだって完全には再現できてねーってな」

 

 うろたえる黄瀬を見た灰崎は、実に楽しそうに、ニヤニヤと口元を歪ませていた。



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後編

「黄瀬のコピーが不完全!?どういう事……っですか!?」

 

 灰崎が緑間のシュートを再現した直後。観客席からその様子を眺めていた誠凛高校バスケ部の()()()()こと、相田リコは、「黄瀬君のコピーは不完全だから、おそらくそこを突かれたのね」と呟いた。

 

 それに対し、同じく誠凛バスケ部の火神大我は思わず反論していた。赤みがかった髪色と、威圧的な性格を思わせる鋭い目つきが相まって、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

 

「アイツはキセキの世代の技を再現するために、必死に鍛えてきたはずだ!!それが、あんなクソヤローに負けるはずがねぇ!!」

 

「そうね。不完全、と言うより、正確には補っていると言うべきね」

 

 誠凛と海常は再戦を誓いあった仲であり、火神と黄瀬は互いにその実力を認めてあっていた。そのため火神は試合も海常びいきで見ており、自然と力が篭る。

 

 その結果、身長190cmという恵まれた体格を持つ火神が、160cmにも満たないリコを相手に声を荒げるという光景が生まれていた。普通の女子高生ならば萎縮してもおかしくない状況だったが、リコは特に臆することもなく、冷静に答えていた。

 

「インターハイでの海常-桐皇戦で黄瀬君は、最低速を下げることで青峰君と同じ速度差のチェンジ・オブ・ペースを再現していたわ。同様に、緑間君のシュートは利き腕でより溜めて撃つことで飛距離を。紫原君のディフェンスはジャンプ力と予測で守備範囲を再現している」

 

 リコの説明にバスケ部員一同が耳を傾ける。

 

 彼女は、スポーツトレーナーである父親の下、幼い頃からスポーツ選手のデータと肉体を繰り返し見てきた。そのためか、身体を目で見るだけで、選手の身体能力を把握することができるという特技を持っており、その観察眼にはチームの誰もが一目置いていた。

 

「……ちょっといいか?」

 

 と、ここで聴衆のうちの一人、木吉鉄平はふと浮かんだ疑問を口にした。彼もまた見上げる様な大男だったが、人の良さそうの顔をしており、火神のような荒々しいオーラをまとってはいなかった。

 

「そうやって足りない要素を補填できたとしても、それだけでできるほどキセキの世代の技術が易しいはずがないだろ?……だからこそ、その不可能を可能にした黄瀬のバスケセンスは凄まじい、という話だと思っていたんだが……まさか灰崎は、黄瀬と同等以上の力を持っているのか……?」

 

 木吉の疑問に、誠凛チームの誰も答えることができなかった。たとえ身体能力は互角であっても、センスは黄瀬の方が上――彼らはそう思っていた。だが現状を見る限り、明確な答えを出しあぐねていた。

 

「……ここからは私の推測なんだけど――」

 

 そんな沈黙を破ったのはリコだった。チームメイトの視線が再び集まる。彼女はあくまで推測だと前置きした上でゆっくりと語りだした。

 

「……守破離って知ってる?茶道や武道における、成長段階や師弟関係を表す言葉なんだけど」

 

「シュ・ハ・リ……?」

 

 聞きなれない言葉に、誠凛高校のメンバーたちは目を丸くして聞き返した。

 

「芸の世界において、修行とはまず師匠に言われた型を『守る』ところから始まるの。その後、その型を自分と照らし合わせて、より自分に合った型を作ることで既存の型を『破る』」

 

 リコは人差し指を立てて、彼らが初めて聞くであろう概念についての説明を進めていく。

 

「そして最終段階として、型から『離れ』て自由になり、自分だけの技や芸風を確立するに至る」

 

「それと灰崎に何の関係があるんだ?アイツがバスケ部をやめた後に茶道部にでも入ったっていうのかよ」

 

 チームの主将である日向が、ややふざけた様子で口を挟んだ。

 

「もう、茶化さないで!……で大事なのはここから。今の話を黄瀬君に当てはめて考えると、彼が普段やっているコピーは、元の使い手の技を模倣する『守』の段階。今回使った完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)は、足りない要素を研究して自分に合うように補填した『破』の段階に相当すると言えないかしら」

 

 それを聞いて、ハッとする誠凛のメンバー一同。ならば灰崎は――

 

「そして、灰崎君の『強奪』というスタイル……リズムやテンポだけを我流に変えて再現することで技を奪うそれは、間違いなく彼だけの技術。模倣を超えた、『離』の段階と言える」

 

 誠凛の面々は悔しそうに俯いた。だが納得できないこともある。灰崎は当初、キセキの世代の技は使えなかったはずだ。現に黄瀬は、灰崎を全く寄せ付けることもなく、10点以上あった点差をひっくり返したのだから。

 

「恐らくだけど灰崎君は普段、『破』の段階までは無意識でクリアしていたんだと思うわ。けどキセキの世代の技術に関してはそれができなかった」

 

「だからこそ、灰崎にはキセキの世代の技は使えなかったはずだろ!?」

 

「そのはずだった……黄瀬君が完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)を完成させるまでは」

 

 彼らのすがるような問いかけに、リコは悲しい現実を突き付けた。

 

「灰崎君にとって、黄瀬君の完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)は、キセキの世代という型を『破る』ための、いわば教科書。そんなの、試験中に堂々とカンニングを許すようなものよ」

 

 足りない要素を他で補っているとは言え、キセキの世代の技を自力で再現してみせた黄瀬のポテンシャルには、確かに目を見張るものがある。だが皮肉にもその才能が、試合の中で灰崎の成長を促すことにも繋がっていた。

 

 そんな結果には納得できないと、火神の口から思わず辛い言葉がこぼれた。

 

「クソッ!何やってんだよ、黄瀬のやつ……!!」

 

「……もちろん黄瀬君にそんなつもりは全く無かったはずよ。だから灰崎君は負けると分かっていても何度も黄瀬君に挑んでいた……完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)を近くで観察するために」

 

 自力ではキセキの世代を模倣することができなかった灰崎だったが、黄瀬という手本を間近で観察し、普段無意識で行っていた作業を改めて意識下に置き換えていったことで、急激な成長を遂げていたのだ。

 

 だが灰崎にとって、それはあくまで過程でしかない。彼の本質は模倣ではなく強奪だ。その灰崎が、このタイミングでキセキの世代の技を使用したということは――

 

「黄瀬君のバスケセンスは、まさに底なしと言うより他がないわ。けど今回は、相手が悪かった……」

 

 リコは悲痛な面持ちでそう告げた。彼女自身、心情的にはやはり海常びいきだ。

 

 誠凛メンバーはみな、不安に抗いながら、これまで以上に海常の応援に力を入れることしかできなかった。

 

***

 

 黄瀬はドリブルをつきながら、コートの中央で灰崎とにらみ合っていた。

 

(どうする……さっきショウゴ君が使った緑間っちのシュート。あれで本当に技が奪われたのか……クソッ!確認するには時間が無い)

 

 黄瀬は灰崎の実力を見誤っていた。灰崎にキセキの世代の技は使えない、だから完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)を解禁した時点で自分の勝ちは揺るぎない、そう思っていただけに、緑間の超長距離シュートを再現した灰崎に衝撃を受けていた。

 

「……悔しいけど、認めるしかないっスね。ショウゴ君は、強い。けど――」

 

 まだやれることはある、と戦意を奮い立たせ、黄瀬が灰崎に一歩踏み込む。

 

(黒子っち達とやる時まで温存しておきたかったけど……出し惜しみしてる余裕は無いっスね)

 

「抜かせるかよ!!」

 

「勝つのはオレだ!!」

 

 対する灰崎も、黄瀬の踏み込みに間断なく反応する。がしかし、その動きを予期したかのように黄瀬がボールを瞬時に切り返すと、

 

「……っ!テメェ!オレが反応した瞬間に、切り返して……っ!!」

 

 灰崎は崩れ落ちるようにその場に倒れ始めた。

 

 アンクルブレイク――相手の軸足に重心が乗った瞬間に切り返すことで、相手の足を崩し転ばせる超高等テクニック。通常、偶発的にしか起こり得ないそれを、黄瀬は明らかに狙って引き起こしていた。

 

(直に体験したことはねえが、話には聞いたことがある)

 

 それは灰崎が帝光中学のバスケ部を辞めた後から聞こえてきた噂だ。曰く――

 

 その眼の前では、あらゆる技は封殺され、どんな守りも立っていることすら許されない。

 

 ――キセキの世代キャプテン 赤司征十郎には、相手の動きの未来が視える。

 

「赤司の……天帝の眼(エンペラーアイ)……ッ!まさかコピーしたっていうのか!?」

 

「オレの視ているこの視界(未来)だけはオレのものだ!これだけは、お前にも奪えない!!」

 

(クソがっ……赤司が言ってたのはこういうことだったのかよ……?)

 

 倒れ行く中、灰崎は中学時代の赤司のことを思い出していた。

 

 当時の赤司は普段、冷静かつ温厚、実力もあり人望も厚いという、まさに理想的な人格者を体現する振る舞いをしていた。だが時々、別人のように冷たい眼になる時があった。

 

 そしてあの日、灰崎に強制退部を言い渡した時も、赤司は凍えるような眼をしていた。

 

「お前は黄瀬には勝てない」「バスケ部を辞めろ。これは命令だ」

 

 赤司は一方的に突き放すような言い方で退部を言い渡して来た。当時からプライドの高かった灰崎が、このような物言いをされて素直に頷くはずがなかった。

 

 反射的に赤司の胸倉を掴み、恫喝しようとしたのだが、逆に赤司の底冷えする視線に射貫かれ、灰崎は一歩も動くことができなかった。

 

 まるでナイフを首筋に突きつけられているかのような感覚。初めから灰崎に選択権など与えられていなかった。

 

(あの時の赤司の眼は、マジだった。逆らう者は誰であれ■■■と、本気で言っているような……)

 

「いけぇー!黄瀬ー!!」

 

 響き渡る海常チームの声援に、灰崎の意識が現実に引き戻される。ふと黄瀬の方を見る。その眼は、仲間達の期待に応えようと、まっすぐに前だけを向いていた。

 

(あぁ……赤司。確かにオレはお前には敵わなかっただろうさ。だがな、リョータに負けるっつったのはだけは、取り消してもらうぜ!!)

 

 崩れ落ちてゆく灰崎には目もくれず、黄瀬は一気に勝負をつけようと走り出す。

 

「……アイツの眼はな、仲間との絆だとか未来への希望だとか……そんな曖昧なもん視ちゃいねーよ」

 

 だがその時、ギリギリのところで体勢を立て直した灰崎が再び立ちふさがった。

 

 チームメイトから見た赤司は、厳しくもあるがカリスマを持つ絶対的なリーダーとして映るだろう。付き従うことは大きな安心感を得ることに繋がる。だが一方で、ひとたび敵対した相手には一切の容赦をしないという側面もあった。その扱いはまさに非情の一言。

 

「赤司に敵意を向けられたことがないテメェじゃ分かんねーだろうが……アイツの眼はな、そんなにヌルくねぇんだよ!!」

 

 チームのために戦う。認め合った好敵手との約束を守るために戦う。それらはスポーツ選手として、そして青春を謳歌する一人の高校生として、とても素晴らしい在り方だろう。

 

 だがそれを灰崎は生温いと一蹴する。希望という名の熱を帯びた天帝の眼(エンペラーアイ)にはもはや、対峙した者の心を凍らせるほどの非情さは宿っていなかった。

 

「そんな!今のを堪えた……どうやって!?」

 

 一瞬、黄瀬の動きが止まった。天帝の眼(エンペラーアイ)が通用しなかったことから来る焦りと困惑を、とっさに処理できずにいた。

 

 ……実際のところ、赤司の持つ天帝の眼(エンペラーアイ)自体が灰崎に破られたわけではない。確かに黄瀬の()ではオリジナルに比べて僅かに精度が劣ってはいるのだが、それは些細な問題でしかない。それよりも、灰崎が潜在的に感じていた赤司へ恐怖感との比較に依るところが大きかった。

 

 だがその答えを知らない黄瀬は、迷いで判断を鈍らせていた。

 

「ボケっとしてんじゃねえ」

 

「しまっ――」

 

 灰崎はその僅かな隙を見逃さず、黄瀬の手からボールを奪い取る。そしてそのままスピードに乗り、海常ゴール目指して走りだした。

 

「来いよリョータ!」

 

「クソッ……言われなくても!!」 

 

 灰崎の安っぽい挑発に、黄瀬はあえて乗ることにした。どっちにしても放っておくことはできないのだ。だったら調子に乗らせたところを逆に叩く。

 

 黄瀬は頭を切り替え、灰崎とゴールとの間に割って入った。

 

「いくぜリョータ」

 

 そう言うと灰崎は、ドリブルを続けつつ黄瀬の前で速度を落とした。それを見た黄瀬は、ボールを取り返すべく、腰を落として構える。

 

「さっきのお返しだ!」

 

 だが黄瀬が深く構えるのを狙いすましたかのように、灰崎は再び急加速しフルドライブを仕掛けて来た。瞬時に最低速度と最高速度を切り替えることで相手をかく乱するその動きは、キセキの世代のエース 青峰大輝が得意とするプレースタイルであった。

 

「青峰っちの動きまで!?…………けど、それならコッチも!!」

 

 またしてもキセキの世代の技を使用した灰崎を見て黄瀬は歯噛みする。だが同時にチャンスであるとも感じていた。青峰という存在は、黄瀬がバスケを始めるきっかけでもあり、彼の動きは完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)の中で黄瀬が最も得意とするスタイルだった。

 

 いくら青峰のスタイルを再現したと言っても、灰崎の特性上、我流に仕上げてくるはずだ。どちらがより『青峰』として完成度が高いかと問われれば、間違いなく自分だ。そう判断した黄瀬は、自らも青峰のコピーを発動させることで灰崎の変則的な動きに対応する。

 

「へぇ……」

 

「オレに勝てるのはオレだけだ、とはよく言ったもんっスね……勝負だ!ショウゴ君!!」

 

 『青峰』(黄瀬)『青峰』(灰崎)の第二ラウンドの火ぶたが切られた。

 

 灰崎は前後左右に大きく身体を振りながら、黄瀬に揺さぶりをかける。常人であればその変化に到底ついていけないであろう不規則なドリブル。だが黄瀬は慌てることなく、その都度ペースを灰崎に合わせることで、灰崎の侵攻を防いでいた。

 

 そればかりか黄瀬は、灰崎のギアが切り替わる瞬間を狙って、自らスティールを仕掛けてきた。

 

「あっぶねぇ!」

 

 黄瀬の狙いに気づいた灰崎は、すんでのところでボールを切り返し、辛うじて黄瀬の手を躱した。

 

(惜しいっ……!けど大丈夫。技は奪われていない。キレはオレの方が上だ。次で止める!!)

 

 スティールは成功しなかったものの、今の攻防から、改めて黄瀬は自身の有利を確信した。その様子を見た石田は、充実する黄瀬の気迫を感じ取り、司令塔として灰崎に指示を飛ばす。

 

「ダメだ灰崎。今はまだ攻めきれない……いったん戻せ!」

 

「何寝ボケたこと言ってんだ!いいから黙って見てろ!!」

 

 だが灰崎は指示には従わず、再度黄瀬に一対一(ワンオンワン)を仕掛ける。

 

青峰っち(オレ)だったらどうする……右か、左か……?) 

 

 対する黄瀬は、灰崎の動きを先読みすべく、自分と青峰とをより深く重ね合わせる。

 

 直後、灰崎は黄瀬の右側へ大きく踏み込んだ。と同時に黄瀬も灰崎に貼り付くようにようにして同じ方向に動く。それを見た灰崎はすぐさまクロスオーバーし、黄瀬の左側へと重心を移動させた。

 

(やっぱり!左フェイクからの右!!この場面で青峰っちが一番使いそうな形だ)

 

 灰崎の攻撃は、黄瀬からすると最もオーソドックスな選択であった。だからこそ裏をかく、という駆け引きもあったのだが、灰崎はあえてシンプルな方法を選んだ。

 

 黄瀬は自分の予想通りに動いた灰崎に、思わず笑みを浮かべ、自身も灰崎の移動先に合わせて切り返し始める。

 

「そんなひねりの無い技じゃ、オレには勝てないっスよ!」

 

「違えーよバァカ。今のお前相手に、小細工なんか必要ねえってだけだ」

 

 そう言って、フルドライブの体勢に入ろうとする灰崎。だがそれは黄瀬の予想通りの動きだ。切り返し後の僅かな硬直という絶好のタイミングを狙い、黄瀬はボールに手を伸ばそうとして――イメージと実際の動きとの間に、違和感を抱いた。

 

(えっ……!?追いつけな……い?)

 

 両者ともほぼ同じタイミングで切り返し始めたにも関わらず、どういうわけか黄瀬は重心が右側に残っており、灰崎の動きに一歩追いつくことができなかった。

 

「もらってくぜ!リョータ!!」

 

 灰崎は戸惑う黄瀬を置き去りにし、ゴールに向かって走りだした。明確に流れが切り替わった瞬間。この場にいる誰もがそれを実感したが、それでも諦めるわけにはいかない。

 

 海常チームのメンバーはすぐにヘルプについたが、黄瀬を下した今の灰崎を止めるには、残念ながら力不足であった。

 

「オラァ!!」

 

 叩きつけるような轟音と共に、灰崎のダンクが炸裂する。黄瀬はその様子を呆然と眺めながら、灰崎に抜かれた時のことを振り返っていた。

 

(イメージと噛み合わなかった。自分の中のリズムを崩されるあの感じ……まさか、奪われたのか……!?)

 

 それは、灰崎が緑間と同じ長距離3Pシュートを決めた時には先送りにしていた問題――完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)が奪われた。

 

 その事実に黄瀬は、初めて灰崎に戦慄を覚えた。

 

「ひっでぇツラだな、リョータぁ。せっかくのモデル顔が台無しだぜ」

 

「……ショウゴ君……さっきのは……」

 

 とそこへダンクを決めた灰崎が戻ってきた。軽口を叩く灰崎に対し、黄瀬はただ力なく視線を向ける。

 

 先ほどの青峰のコピー対決、途中までは黄瀬の方が明らかにキレは上だった。だが灰崎は、繰り返される攻防の中でも黄瀬の観察を深め、次第に強奪の精度を修正していった。

 

 その結果、黄瀬自身も最後まで気付けないほどの小さな変調を、少しずつ積み重ねてしまったのだった。

 

「あぁ?悪いけど、ありゃもうお前のもんじゃねえよ」

 

 灰崎はさも当然のことのように言い放ったが、黄瀬は納得できなかった。自分と遜色ない身体能力に、帝光でスタメンを務めていたという実績、それに、見た技を一瞬で自分のものにできるという共通点。

 

 確かに黄瀬に出来ることは灰崎に出来てもおかしくないのかもしれない。それでも黄瀬には、どうしても灰崎に聞かなければならないことがあった。

 

「けどっ……!キセキの世代(あの人)たちに憧れる気持ちとかは無いんっスか!?オレがそれを克服するのに、どれだけ苦労したと思って――」

 

 黄瀬の口から悲痛な声が漏れる。だがその言葉は最後まで紡がれることはなく、灰崎の笑い声に遮られた。

 

「おいおい、笑せんじゃねえよ……憧れだァ?そんなこと言ってるから、テメェはヌルいんだよ」

 

 灰崎は吐き捨てるように言うと、それ以上は何も語ることなく黄瀬の横を通り過ぎていった。

 

 その様子を見送った黄瀬は、拳を握り締めながらスコアボードを確認する。73対77……点差は4点差。残り時間は1分も無く、ここから逆転するためには3Pは必須だった。だが頼みの綱である緑間の高弾道・長距離3Pシュートは、灰崎に使用されたことで奪われている可能性が高かった。

 

(それでも……もう迷っている時間は無い。ここで動かなきゃ、どっちみち負けだ)

 

 己を鼓舞し、迷いを断ち切ろうと、黄瀬は自陣に戻っていく灰崎の背に向けて叫びをぶつけた。

 

「まだだっ……まだ試合は終わってない!!」

 

「――あ?」

 

 突然の大声に、思わず灰崎が振り返る。そこには、スローインされたボールを受け取ったまま動かない黄瀬の姿があった。

 

(ペースを乱されるな。集中しろ。集中……集中……!)

 

 数瞬の静寂が過ぎたのち、黄瀬は意を決する。ゆっくりと目を開くと、ゴールまで20メートルはあるかという距離をものともせずに、シュートを放った。

 

「黄瀬!お前なら大丈夫だ!!」

 

 笠松がさらに黄瀬の背中を押す。夏に桐皇に負けてから、海常は死に物狂いで鍛えてきた。中でも黄瀬は、自身の身体をかえりみないほどに努力してきたのだ。だからあんなクソヤロー(灰崎)に負けるはずがない――誰よりも努力していた姿を間近で見て来たからこそ、海常のメンバー達はこの危機的状況でも黄瀬のことを信じていた。希望の光はまだ消えていなかった。

 

「あーダメダメ。さっきオレのシュート見ちまったもんなあ」

 

 だが彼らの希望は、灰崎の容赦のない宣告によって打ち砕かれることとなる。

 

「他のキセキの世代が相手なら、こんなモン見せたところで技は奪えねーよ。アイツらはマジの天才(ホンモノ)だ。……けど、お前が相手なら、話は別だ」

 

「あ……れ……?」

 

 ボールが最高到達点に達した時、黄瀬自身も隠しきれない違和感を覚えてしまった。

 

キセキの世代(アイツら)の技だけは、どうやって真似るのかさえ分からなかったが……礼を言うぜ、リョータ。お前がどうやって()()してるのか、わざわざ見せてくれたんだからなァ」

 

 普通、シュートは上手い人ほどループの高さがいつも変わらない。事実、緑間のシュートはコート内のどこから撃っても常に一定のループを描いており、その正確さはまるで精密機械のようだと形容されるほどだ。そして先ほどまでの完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)は、見事にそれを再現してみせていた。

 

 だが今の黄瀬のシュートには明らかにブレが生じていた。コンマ以下の精度が求められる緑間の超長距離高弾道シュートにとってそれは、致命的とも言えるミスだった。

 

「けどそれは単なる紛い物(ニセモノ)だ。……だから、お前(ニセモノ)が相手なら、オレでも奪える」

 

 精彩を欠いた黄瀬のシュートに、海常メンバーに不安がよぎる。黄瀬を信じる気持ちとのせめぎ合い中、祈るようにしてボールを見つめる。

 

 そして祈りが届いたのか、ボールは無事に福田総合のゴールに届いた。

 

 ――がしかし、届いただけ。ボールはリングに当たって弾かれ、ゴールネットを揺らすことはなかった。

 

「もう一度言うぜ。完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)は、オレのもんだ」

 

 灰崎は自分の所有権を誇示するように獰猛な笑みを浮かべ、親指の腹に舌を這わした。その姿はまるで、獲物を追い詰めて舌舐めずりするハイエナのようだった。

 

「……っ、時間がねえ!とにかく当たれ!!」

 

 そこからの笠松の判断は早かった。黄瀬の技が奪われた……これはもう事実として認めるしかない。だが落ち込んでいるような時間はない。とにかく今できることをやるしかないのだと、チームメイトに声をかけていく。焦りの中、海常チームが一斉に走り出す。

 

 対する福田総合には、幾ばくかの余裕があった。海常は最後のチャンスを逃した、あとは時間一杯まで使ってボールを回していけば自分たちの勝ちだ、と福田総合に早くも祝勝ムードが漂う。

 

「いや、まだだ。黄瀬の言う通り、まだ試合は終わってない」 

 

 だがボールを回収したキャプテンの石田には、そんな気の緩みは無かった。バスケットボールに一発逆転はない……が、それでも諦めない限り可能性がゼロになることはない。そして海常は最後まで誰一人諦めることのないチームだということを、石田は十分理解していた。

 

 ならばこちらも最後まで全力で応えるのが当然の礼儀だと、石田は灰崎にボールを渡した。

 

「へえ……トドメを刺せってか?アンタもなかなかヒドいじゃねーか」

 

「灰崎」

 

「……はいはい」

 

 灰崎は石田の気持ちを汲み取ろうとはせず、ニヤニヤしながらボールを受け取り、その場でシュートフォームに入った。

 

「ショウゴ君――!!」

 

 それを見てもなお黄瀬は、声を荒げながら灰崎をめがけて走り続けた。もう今からでは間に合わないということは分かっていたが、それでも走らずにはいられなかった。

 

「リョータ……最後に手本を見せてやるよ」

 

 灰崎の手からボールが離れる。ブレの無い綺麗な軌道が、まっすぐに海常ゴールへ向って伸びていった。

 

 残り時間を削り取る長い長い滞空時間が、海常チームの心をえぐる。確かに海常は誰一人諦めていなかった。だがそれ故に、その心は着実にダメージを負う。いっそ諦めて無関心になれたほうがまだ楽だったのかもしれない。

 

(あぁ……改めて思う。灰崎、やはりこいつは――)

 

 その様子に、宙を舞うボールを見つめる石田は一人思った。灰崎という男は不真面目で、粗暴で……同じチームでプレーしたいとは決して思えないような選手だ。だが――まぎれもない天才なのだと。

 

 

 

 

 やがて、勢いよくネットを通過したボールが床を打ち鳴らした時、試合終了を告げるブザーの音が響き渡った。

 

***

 

「73対80で福田総合学園高校の勝ち!礼!!」

 

 試合終了の知らせに、場内は騒然としていた。()()黄瀬涼太を擁する海常高校が、注目高ではなかった福田総合を相手に敗退したという事実に、観客はわが目を疑った。だが彼らは、『キセキの世代』と呼ばれた黄瀬を圧倒した灰崎の実力を認めざるを得なかった。

 

 一躍注目選手となったことで、『黄瀬と入れ替わりで退部した元帝光中のスタメン』というセンセーショナルな過去はあっという間に広まるだろう。

 

 その時、『キセキの世代』と呼ばれているのは果たしてどちらだろうか。

 

「ショウゴ君……」

 

「オレの勝ちだ、リョータ。キセキの世代っつう呼び名、返してもらうぜ」

 

 ベンチに戻る前に、灰崎は改めて自分の勝利を宣言しようと、黄瀬に声をかけた。

 

「そんな肩書きなんかどうでもいい…!そんなことよりっ……頼みがあるっス」

 

 だが黄瀬は、肩書き自体に未練は無いという。それよりも約束して欲しいことがあると。

 

「オレは黒子っち達と次の準決勝で必ずやるって約束してた……だから!次の試合は、全てを出し切るぐらい全力で戦って欲しい……せめてものお願いっス」

 

 黄瀬は言い終わると、うつむいて悔しさに歯を食いしばった。黄瀬にとって、灰崎に負けたことよりも、黒子との約束を果たせなかったことのほうが悔しかった。信じている、そう言ってもらったのに、それに応えることができなかった自分が許せなかった。だからせめて、自分の代わりに誠凛とは全力で戦って欲しいと、準決勝への思いを灰崎に託そうとした。

 

「ハァ……どいつもこいつも、自分勝手なことばっか言ってんじゃねえよ」

 

 それを聞いた灰崎は、心底面倒そうに溜め息をついた。

 

「オレがバスケに復帰したのはただのヒマつぶしだ。お前らの中からキセキの世代の座を奪っちまったら、あとの試合になんかキョーミは無ねえよ」

 

「っ……ショウゴ君……!アンタは昔からッ……なんでいつもいつもそうなんっスか!?」

 

 自分たちの思いを踏みにじる返答に黄瀬は、思わず灰崎のユニフォームを両手で掴んで詰め寄った。

 

「知るかっつってんだろ。あいにくオレは、お前らと違ってバスケを何とも思ってねぇんだよ」

 

 分かったら放せよ、と黄瀬の手を払いのける灰崎。黄瀬の反応が気に入らなかったのか、舌打ちをすると、つまらなさげにコートから出ていった。

 

 一人残された黄瀬は頬を濡らし、「ごめん……黒子っち、火神っち」とうわ言ように何度も繰り返していた。

 

 

 

 

 一方そのころ、両チームの主将同士もまた、言葉を交わしていた。

 

「うちの負けだな。正直効いたぜ、最後のは」

 

「……笠松か。気の毒だが、悪いとは思わんぞ」

 

「いいさそれは。勝負の世界だ」

 

 口では謝らないと言いながらもどこか気まずそうな石田を見て、笠松は苦笑いしながら答える。だがそれもつかの間、ここからが本題だといった様子で表情を引き締め、続けてこう言った。

 

「けどアンタ、いつまで灰崎(あんなやつ)に好き勝手やらせるつもりだ?こう言っちゃなんだが、調子に乗らせると厄介なことになるぜ。あの手のは」

 

「……あぁ、分かっている。きっとうちのチームはロクな事にならないだろな。だがここまで来てしまった以上、アイツにはまだ働いてもらわないと困る。だから、せいぜい最後まで使()()()()()()さ」

 

 笠松の忠告に対し石田は、百も承知だと答えた。そして、決意を固めるように一呼吸置くと、

 

「毒を食らわば皿までだ」 

 

 静かにそう言い切った。

 

――――

――

 

 こうして、ウィンターカップ5日目は幕を閉じ、ついに4強が出揃った。激戦を勝ち抜いてきた彼らだが、その原動力となっているモノは人それぞれだった。例えばそれは――

 

 勝利という名の責務を全うするため。

 あの時の誓いを果たすため。

 仲間と共に夢を掴むため。

 

 ――そして、ただ我欲を満たすため。

 

 それぞれの理由を胸に、選手達は明日の試合に向けて英気を養うべく、会場をあとにする。

 

 帰り道、吐く息は白く……だが彼らの心は、季節外れの熱気に包まれていた。




ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

私はかませ犬っぽいキャラが大好きで、灰崎という存在はクリーンヒットしました。
灰崎みたいなクズがクズのまま、黄瀬君みたいな努力家で才能あふれる人に、
まっとうな勝負で勝つという話を読みたい、という思いから書き始めました。

黄瀬君には申し訳ないことをしてしまいました。
黄瀬クラスタの方々、すみませんでした。

……まあ黄瀬君たちも中学時代はなかなかクズなことやってたので、
アンチ帝光は灰崎のせいみたいな風潮には疑問ですが。

少しでも灰崎好きの方に楽しんで頂ければ幸せです。

最後に、

黒子っちのミートボールを食べた手と反対の手を舐めてた灰崎は可愛い。


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