呪われた少年の暗殺ライフ (楓/雪那)
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人物紹介の時間

3/12 過去の設定を一部変更


名前:漣 奏(サザナミ カナデ)

 

誕生日:10月19日

 

身長:175cm

 

体重:63kg

 

血液型:B型

 

好きな教科:国語、生物

 

嫌いな教科:音楽

 

趣味・特技:料理、和菓子作り、リズと遊ぶ

 

宝物:身内

 

好きな食べ物:和食、和菓子、茶

 

弁当派or買い食い派:弁当

 

弱点:高所恐怖症(一般的なマンションの4階までが限度) 恋愛感情への理解が疎い(要するに鈍感)

 

家族構成:養父…夜蛾正道(呪術高専東京校学長) 義兄…パンダ(呪術高専東京校1年)

 

階級:特級

 

将来の目標:とりあえず八咫を祓う

 

外見:イナズマイレブンの基山ヒロトを、E組に行く前の渚と同くらいの髪の長さにして後ろで縛っているイメージ(たまに解いてストレートにしてる) 髪の色は銀

 

殺せんせーからの勉強アドバイス

 

全教科が異様に高い上、先に教えようとしたところをある程度知っているという感じがしますね。いつどこで学んだのでしょうか?

 

烏間先生の暗殺能力査定表

 

個別能力値(1〜5):体力…4.5

機動力…5

近接暗殺…5

遠距離暗殺…3.5

学力…5

固有スキル・呪術…5

 

作戦行動適正チャート(1〜6):戦略立案…5

指揮・統率…4.5

実行力…6

技術力…5(呪術使用時6)

探査・諜報…4(呪術使用時6)

政治・交渉…4.5

 

徒手空拳がメインとのことだが、ナイフの扱いもトップクラスだ。

現場慣れしているからか、一瞬の判断や状況分析にも優れている。

本人の意向で本気を見せないようにしているが、クラスとしても俺個人としても早く見てみたいな。

 

概要

 

特級呪霊にカテゴライズされた殺せんせーを祓うという任務を受けてE組に転校。

14歳にして単独活動を許可されている特級術師という異例の肩書きを持つ。

生まれた直後(或いは胎児の時に既にか)に特級仮想怨霊「八咫鴉(ヤタガラス)」に取り憑かれており、僅か4歳で家族を皆殺しにしてしまう。

その後自分を祓いに来た1級術師3人、2級術師2人を殺害、逃亡生活を始める。

基本は奏自身の意志で動けるが強制的に八咫に乗っ取られるような状態だったが、6歳の頃に出会った「ある少女」のおかげで八咫をほぼ抑えられるようになった。同年、夜蛾と五条に出会い、夜蛾の養子になることで呪術界で生き始める。(但し憂太や悠仁同様、秘匿死刑が確定している。)

呪術師になってからは夜蛾、五条、夏油といった人物に鍛えられ、7歳で八咫を完全に制御できるようになる。

性格もだんだん明るくなっていくが、自分の過去の行いとある術式ぐ元で他人とはかなり壁を作ってしまう。(E組に対してもこれが原因) しかし一度でも「身内」として認めると絶対に信用し、守り抜くと決める。

実は自分の本名を知らず、漣奏という名前は物心ついた時に八咫から聞いたものを名乗っている。

漣家(暫定的に)は奏と八咫によって本家が全滅したため、奏が実質当主となっている。分家はいるらしいがよく知らず会ったこともない。高専のデータ曰く、術式を受け継いだのは本家のみとのことなので現在奏しか漣の術式は使えない。

異性に関しては恋愛以前の問題で、例をあげるとlikeとloveの違いが分からない、お姫様抱っこや女装などに躊躇がない、岡島のエロトークを1ミリも理解できない、殺せんせーを始めとする下衆組の下世話の意図が微塵も分かってないなど純粋なんてレベルじゃなく重傷。

実力と夜蛾の計らいで一つ飛び級して、今年高専に入学する…予定だった(しかし同級生全員身内だから入学しようが転校しようが大して変わるわけじゃなかった。)

 

暗殺・戦闘では素手(或いはメリケンサック)を武器とし、式瀾流呪闘術(しきなみりゅうじゅとうじゅつ)という武術を駆使する。

この流派は拳と脚がメインだが、応用することで刀や薙刀、槍に暗器、果ては斧、弓、銃とあらゆる武器に組み込むことができる。

 

(詳しい内容は呪術の時間で書きます。)

 

 

奏からE組メンバー・高専メンバーに

(奏はE組メンバーは名字+男子は呼び捨て、女子はさん付け

高専メンバーは下の名前で呼び捨て)

 

 

カルマ:腹黒、色々見透かされそう。

磯貝:今時珍しい根っからの善人、信頼できるリーダー。

岡島:アイツの言ってること、ホントに日本語か?

岡野:機動力なら真希越してるな。

奥田:毒を以て毒を制するって感じ、素なのが余計怖い。

片岡:頼りにはなるが、何か抱え込んでないか?

茅野:考えが読み取りにくい、仮面みたい。

神崎:見た目の割に芯が強そう

木村:素のスピードは高専組より上だな。

倉橋:一番仲良いクラスメイト、最初に会ったのが倉橋でよかった

渚:性別が気になるが、本人も気づいてない才能を秘めてる。

菅谷:芸術の才能があるやつは尊敬できる。

杉野:なんか不憫な感じだな、いいやつなのに。

竹林:上手く言えないけど、追い詰められてる感じがする?

千葉:高専来ない?ってくらいの腕前だね。

寺坂:マジモンのジャイアンじゃん。

中村:真面目にふざけてるな、むしろすごい。

狭間:家系に呪術師がいないか?

速水:あの動体視力と体幹、近接戦もいけるだろ。

原:母親の模範解答みたいに思うんだが…あってるか?

不破:術師バレに一番気をつけるべき人物。

前原:ナイフ術や人格は尊敬する、女癖はどうかと思うが。

三村:一度くらいこいつに仕切ってもらいたいな。

村松:料理に対する姿勢には大いに共感する。

矢田:潜入技術には目を見張るものがあるな。

吉田:おまえ、案外周囲を気にかけるいいやつだろ?

律:何度も世話になりそうだが、ツッコミづらい。

 

殺せんせー:殺すのが惜しくなる。

烏間先生:理想の大人、五条先生が見習うべき。

ビッチ先生:なんか本能的に避けないといけない気がする。

 

夜蛾:恩人、けど親バカ。

五条:頼りになるけど、頼りたくない。

真希:口悪いけど、根はいいやつ。

棘:優しいやつ、だんだん言ってることが分かってきた。

パンダ:頼れる兄貴、一番の常識人(パンダ)。

伏黒:期待できる後輩。

 

 

 

裏話:容姿を自分でイメージしてみたらカルマと学秀を足して2で

割った感じになった。

 




術式や式瀾流呪闘術に関しては、本編で出してから別にまとめます。


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呪術の時間

奏の術式などを紹介します。

随時更新。ただし名前だけは出しときます。

3/25 5つ出揃ったので追記


血印刻術(けついんこくじゅつ)

 

漣本家に伝わる術式。現在は奏しか使える人物はいない

 

血を媒体として他人の術式を奪い、自分のものにする。術式を奪われた人物は術式を使えなくなる。

 

発動の手順

 

条件

1:相手の術式内容を把握している。(ただし大まかな内容で十分。

例えば伏黒の十草陰法術の場合、「自身の影を媒体とした、十種の式神を扱う術式」という感じ)

2:一度対象の術式を自分で受けている。

 

流れ

1:呪力を使い「血の盃」というお猪口サイズの器を取り出す。

2:盃並々に相手の血を注ぐ。

3:血を一気飲み。

 

以上で自分のものにできる。ただし3の後、強烈な拒絶反応が起こり激痛を受ける。奪った術式は自分の血に刻まれ、肉体に刺繍のように浮かび上がる。そのため奏は常に上下長袖でアームウォーマーをしている。

 

また上の「略奪」以外に「拝借」というパターンもある。

こちらは上と同じ条件下で、「血印台帳」という手帳に相手の血で印をつけてもらうことで手帳の中に術式をストックすることができる。ストックしてある術式の印に右の手のひらを合わせることで5分間だけ、その術式を扱える。台帳内の術式同士で併用はできず、こちらもまた拒絶反応が起こる。一回の血で3回ほど使用でき、一度使用すると同じ術式を再使用するには5日かかる、印が消えたら更新が必要、また相手の術式は消えないなどといった設定がある。

 

この術式の本質は、あらゆる呪いに対応して変化する奏の血液であり、術式を利用して血液に術式を刻み込んでるわけではない。(すっごく分かりにくいですね、はい)

 

E組転入時に奏が「略奪」しているものは五つ。

百々目鬼(二級)、累乖呪法(一級)、禍促術式(二級)、因果呪術(一級)、氷淵呪法(一級)で

「拝借」しているものは

呪言(狗巻棘)、不義遊戯(東堂葵)、赤血操術(加茂憲紀)、十草陰法術(伏黒恵)、シン・陰流簡易領域(三輪霞)、構築術式(禅院真依)、無下限呪術(五条悟)、十割呪法(七海健人)、視覚共有(冥冥)、音響(楽巌寺嘉伸)

他にも禅院真希、パンダ、夜蛾正道、究極メカ丸、西宮桃、夏油傑といった人物ら(要するに本編で乙骨転入前からの高専関係者全員)の術式を所持するが本編でしっかり判明していない、あるいは説明しづらいもの(作者が)なのであまり使わない。

(ちなみに真希のは身体能力を爆発的に上げる)

 

備考

元ネタはHUNTER×HUNTERの団長ことクロロの念能力「盗賊の極意」です。

 

 

 

式瀾流呪闘術(しきなみりゅうじゅとうじゅつ)

以前軽く説明した奏の使う体術

拳と脚から始まり、刀や槍、弓に暗器に斧、果ては銃などの西洋武器といったあらゆる武器に組み合わせられる拳法。

奏は免許皆伝であらゆる武器を使えるが、使いやすさの問題上素手素足、呪具の脇差「荒不舞雪(あらふぶき)」、メリケンサック「凱炎(がいえん)」の三つ(型としては二種)のみを使う。

 

 

 

百々目鬼

昔奏が二級術師から奪った術式。

呪力で単眼のオタマジャクシみたいな呪霊を生み出し、その視界を共有する。

最大で100体まで同時に出せるが、奏はその数を半分の50に「縛る」ことで聴覚も共有できるようにしている。

また眼を他者に憑依させることで、憑依させた相手と奏自身または他の百々目鬼の視界を繋げさせることができる。(こちらは視覚だけ)憑依中は呪力の無い人間も呪いが見える。

単眼からは呪力を飛ばすこともできるが一体だと精々準二級か三級程度が限度。逆に言えば集まらせればそれ以上の威力を出せる。

 

備考

元ネタは血界戦線のレオナルドの「神々の義眼」にファンネルを組み合わせたものです。

 

 

累乖呪法(るいかいじゅほう)

昔奏が一級術師から奪った術式。

自分を中心とした半径5mの円の領域内にある物体にかかる重力の向きと強さを操作できる。発動条件として操る対象に一定時間触れる必要がある。必要時間は物体の質量によって変わり、平均的な成人男性なら10秒程。ただし自身の肉体に限り領域を展開した位置を中心として5m以内の範囲なら自在に操ることができる。また同時に複数の物体を操れるが、その分負担も大きくなる。基本的に武器を遠隔操作したり、自分自身を浮かすことで四次元的な動きでの戦闘を行う。

 

累乖呪法・無天召地(むてんしょうち)

領域内のさらに範囲を絞った底面の直径1mの空間に下向きで最大威力の重力をかける拡張術式。触れずに発動できるが自分や自分が触れたものも対象になってしまうのが難点。殺せんせーとの対決時も「死葬乱舞」を当てるために一瞬術式を解いた隙に逃げられた。(本編でこの描写を書き忘れてました。申し訳ありません。)

 

累乖呪法・死葬乱舞(しそうらんぶ)

拡張術式ではなくただの技。

いくつもの触れた武器を同時に自在に動かして攻撃する。

他にもワイヤーなどを使って拘束するパターンや一体化させて放ったりするパターンがある。ただし遠距離武器では使わない。

奏「撃ってから動かすくらいなら、弾とか矢をそのまま投げた方が楽じゃね?」

 

 

 

 

備考

ONEPIECEのシキのフワフワの実の能力と、NARUTOのペイン天道の術を足して2で割ったものと考えて下さい。

 

 

氷淵呪法(ひょうえんじゅほう)

昔奏が一級術師から奪った術式

半径5m内の領域内の温度や圧力を変化させることで氷を生成する。無下限呪術ほとではないが細かい調整が必要なため、サイズが大きくなるにつれめちゃくちゃ集中力を使う。左手を動かして細かい操作をしているが、接触での発動なら右手や足からでもできる。意識を集中させれば、他の生物の体内の水分などからでも生成できる。奏の主な使い方は氷柱、盾、足場の生成などで拘束などには余り使わない。

 

 

氷淵呪法 奥義・永槍氷斬(えいそうひょうざん)

滅多に使わない大技。当然呪力の消費もハンパない。

氷で巨大な槍を作り出し、敵目がけて突き刺す。槍本体の威力はもちろん、その余波でブリザードが発生するため広範囲に攻撃が及ぶ。

殺せんせーとの対決では(あれでも)割と威力はマイルドにしてた。ガチでやると全員死んでた。

 

 

余談:(こんなに語彙力無くても)作者は文系で、化学はボロクソダメです。だから「もっと具体的に説明して!」って言われても無理なのです。すいません。

 

備考

ジャンプバトルものの定番のような氷系

クザン(ワンピース)とか轟君(ヒロアカ)といったキャラクターが思い浮かぶでしょうが、作者が氷系で真っ先に出てくるのが血界戦線のスティーブンです。

 

 

禍促術式(かそくじゅつしき)

奏が昔二級術師から奪った術式。

自身、または手で触れた物体の時の流れを早める。奏曰く「一方的に早めることしか出来ない(巻き戻したり出来ない)のが使い勝手悪い。」

基本奏は備え持っている植物の種に付与することで巨大な蔦を生み出し拘束に使用するか、自分にかけて高速移動に使う(ただ高速移動は身体がなかなか慣れないためあんまり使わない。)

勿論自然に生えてる植物に使用して思い通りに使役したりもできる。

だが自分以外のスピードアップには何故か使えない。他者に付与すると老化促進、あるいは酸化・腐敗の効果になる。(これは無生物にもかけられる。)

 

 

備考

実は最初はめだかボックスの江迎怒江ちゃんの「荒廃した腐花(ラフラフレシア)をモチーフにしていましたが、結局クロックアップのような術式になりました。(無くなったわけではない。)しかし花御と被りかけているのが怖い。

 

 

因果呪術(いんがじゅじゅつ)

奏が昔一級術師から奪った術式。

簡単に言うとダメージ操作の術式で、治癒・再発がメインの能力。

奏はこの術式から反転術式を使用している。

つまりは術式反転で再発を行わせている。再発するダメージがいつまでの期間かの設定は自由に選択できるが、期間が広ければその分自分に再発する負担も大きくなる。本編では言ってなかったがこれは「術式反転・懺悔」と呼んでいる。再発ではなくダメージをエネルギーとして放出する「術式反転・悔恨」という技もある。

また痛みを力に変換するといった拡張術式も使えるが、決して痛みが無くならないわけではなく、むしろ痛みを快楽にするバーサーカー状態に変貌してしまう。文字通り「肉を断って骨を斬る」術式。

 

 

備考

モチーフはまたもやめだかボックスから志布志飛沫の「致死武器(スカーデッド)」と蝶ヶ崎蛾々丸の「不慮の事故(エンカウンター)」を混ぜ合わせたもの。うん?作者はめだかボックスが大好きですよ?

 

 

 

呪力装着・黒鎧(こくがい)

八咫烏の力を借りて奏が使う呪術。

八咫烏の呪力を装甲として全身に纏う。鎧という名前なのにコートの形に変化するのは奏の趣味というだけ。

奏の呪力に八咫烏の呪力を上乗せしているため、単純に総呪力量と防御力を上げるだけでなく火力とスピードなども上げる。

10%から100%の間で10%毎に出力を変化させて使う。出力が高いほど強度が高いが暴走のリスクも高まる。

最大の特徴は出力に応じて全ての術式の領域範囲が拡大するという点。50%時には累乖、氷淵の範囲は5倍の半径25m、100%時では10倍の半径50mまで延びる。

前述の通り出力が高いほど八咫烏と精神が近づくため、対殺せんせーの時みたいに『共鳴』している100%のような事には滅多にならない。ちなみに顔の刺青は八咫烏のものが発現しているため。

 

 

 




分かりづらいところがあったらご指摘お願いします。


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人物紹介の時間:その2

E組・高専と敵対してくる人たちの紹介です。
登場するたびに更新します。


設楽 神無(シタラ カンナ)

 

誕生日:不明

 

年齢:不明 見た目は20歳くらい

 

身長:170くらい

 

体重:神無「聞いたら消すよ♪」

 

血液型:B型

 

趣味:神無「言えな〜い」

 

好きなもの:奏 、家族(仲間のこと)

 

嫌いなもの:家族を馬鹿にするやつ

 

 

概要

 

奏の姉を名乗る呪詛師。その正体や目的、実力は不明だが、目的達成の為に奏を仲間に引き入れたいと考えている。6月にシロと結託して、シロの妨害をするであろう奏の相手をさせる仲間を派遣されている。常ににこやかで一見親しみやすそうな女性だが、その内には得体の知れない「何か」を秘めている。

常に先を見越した言動をするが、自身の想定を上回る人物には特に興味を見せる。

実は神無がキレたところをメンバーは見たことが無いらしいが、それはキレる前の平常時で普通に殺してしまうから。

 

外見

 

銀髪のセミロング

最大の特徴は白眼と黒眼が反転している左眼で、変装の際には眼帯をつけている。

基本は和服だが、変装時は洋服を着る。と言ってもどっちも好き。着物、浴衣、スカート、ショートパンツ何でもオッケー。それなりにオシャレは好き。

キャライメージは「異常者の愛」の三堂三姫(22歳時)

 

 

 

御堂葉月(ミドウ ハヅキ)

 

誕生日:8月14日

 

年齢:26歳

 

身長:175cm

 

体重:65kg

 

血液型

 

趣味:パズル、煽り

 

好きなもの:神無 、妹 、煽ること

 

嫌いなもの:ノリが悪いやつ、リアクションが薄いやつ

 

 

概要

 

イトナ二度目の襲撃の時に現れた呪詛師。階級は一級。

神無から指示されてシロたちのサポートのため、奏と戦う。

飄々としていて他人を煽るのが好き。寺坂曰くカルマ似、奏曰く五条似。

しかしこんな性格でも神無一味の中でも比較的常識的な人物であり、副リーダー兼参謀役を務めている。

戦闘活動をメインとはしておらず、策謀・交渉・取引・神無不在時の司令塔などの役割を持つ。

神無からの信頼も高いこともあり、アクが強いメンバーも葉月を通しての指示ならば聞く。

滅多にキレることが無いらしい。

妹がいるらしいが詳細は不明。

 

戦闘時は大鎌「繊魄(せんぱく)」を駆使する。

術式は「風魔仙術」。簡単に言うと風を操る術式。

突風から始まり、竜巻やかまいたちすら起こせる他、つむじ風に乗って宙を舞うこともできる。自身を中心に竜巻は発生させることでエスケープも可能。

 

 

外見

 

金髪で左頬に風を模したタトゥーがある。

左眼は神無と同じようになっている。

服装はシャツとジャケット、長ズボンが基本スタイル。

年齢と合わせて比較的一般人っぽい外見をしているため、色んな服を普通にオシャレに着こなせる。

 

キャライメージは「英雄伝説」の道化師カンパネルラ。

 

 



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転校前
第1話:依頼の時間


初投稿です!よろしくお願いします!


  2017年4月 東京都立呪術高等専門学校にて

 

  俺、漣奏(サザナミ カナデ)は学長の夜蛾正道に呼ばれ学長室にいる。

 

 

(……おおかたあの件についてなんだろうなぁ…)

 

「それで学長、話って何です?これから新入生組でパーティする予定なんですけど」

「少し待て、奏。直にお客が来る。用件はその人からはなしてもらう。」

 

 

  5分後、スーツ姿の2,30代の男女が4人やってきた。

 その間、学長はやっぱり人形作りに励んでた。

 

  手前にいた鋭い目つきの男が代表して話してくる。

 

「初めまして、漣奏君。防衛省の烏間という者だ。

 今日は君に国家機密のある任務を頼みに来た。」

 

「あ、どうも初めまして(…国家機密…やっぱりね…)

 …それで、依頼内容は『月蒸発』の件ですよね?」

 

 

  1か月前、月が7割方蒸発した。

 

 

  当然マスコミでは話題騒然、あらゆる書籍からバラエティ番組、ネットサイトで真相究明や推測が行われている。

 

 

  何かの実験やまだ知られてなかった月本体の現象、宇宙人の仕業など色々言われているが、俺がいる呪術界では呪いが関係してると推測し、調査を進めている

 

  日本国内での年間怪死者・行方不明者1万人超えのほとんどが、人間から流れ出た負の感情「呪い」による被害。 呪いは同じ呪いの力「呪力」を持つ者しか基本見えないため、呪い関連の事件は呪力を使って戦う「呪術師」が対応する。

 

 

(…っても月を7割消すって規格外過ぎるでしょ…どう考えても特級だよね…五条先生も出されるのかな…というか出されないとキツ過ぎる俺の死が確定する。)

 

「君の言うとおり依頼内容は月の件だ。

 だが月を破壊した犯人は呪いではない、正体不明の生物だ。

 これが我々の標的だ。」

 

烏間さんが取り出した写真には黄色いタコみたいな生き物がいた。

……予想外過ぎるわこのデザイン。

愛されやすそうな造形しやがって。

なんだか腹立つ顔してんな。

 

「この怪物は先日各国首脳の前に現れ、来年3月に地球を破壊するとの宣言、そして椚ヶ丘中学校3年E組の担任をやるとの提案をしてきた。各国政府は秘密裏に殺害を試みているが、この生物の最高速度はマッハ20、我々は手も足も出ないためやむなく承諾した。」

 

「…毎日教室に来るため監視が可能、生徒が至近距離で殺すチャンスがあるから、そのあたりが理由ですか。」

 

「その通りだ、狙いは分からんが生徒に危害を加えないという条件は飲んだし、生徒達にもすでに話はして各自暗殺に取り掛かってもらっている。俺自身も副担任として配属され、暗殺成功確率を上げるため体育を教えている。ここまでで質問はあるか?」

 

「いくつかツッコミたい点はありますけどまず一つ。呪いでもないのになんで呪術師の俺が?」

 

「そいつを特級呪物と呪術界で認定したからだ。非術師にも見えるが存在の危険度故にだ。ちなみにお前を任務に推薦したのは俺だ。理由は術師ではなく生徒として潜入させるため。」

 

 

俺の質問には烏間さんではなく学長が答えた。ご丁寧に二つ目に聞こうとしたことにも説明してくれた。

 

「…じゃあ次、これ呪いで祓えるんすか?何か一般兵器を使うんですか?」

 

「やつの暗殺には人体には無害で、やつには効く物質で作ったナイフと弾を使ってもらう。呪いが有効か否かはこれから君に試してもらう。」

 

後ろの部下らしき人たちが、そのナイフと弾、銃を出す。

……ゴム製ナイフにエアガン&BB弾、現実性ないなぁ。呪術師がそれ言うかって思われそうだけど。

 

「質問はもうないみたいだな。最後に二つ、重要事項だ。

一つは、暗殺が成功したら報酬として100億円支払われる。また暗殺に必要な費用は申請してくれば国が出す。

もう一つは、この内容は他言無用。事情を知ってるのはE組生徒と椚ヶ丘中学校の学長に防衛省、各国首脳に高専関係者のみだ。口外した場合、記憶消去の措置を取らせてもらう。いいな?」

 

 

「……当然ですよね。了解しました、この任務受けさせてもらいます。」

 

「…助かる。教科書や制服などはこちらですぐに用意する。君の登校は一週間後だ。ではまた。」

 

 

そう告げて烏間さん…いや烏間先生か?は去っていき、俺と学長が残された。

 

 

「学長…少し勝手過ぎません?俺高専通う気マンマンだったんですけど。」

 

「対して変わらんだろう。」

 

「いや変わるからね⁉︎高専と一般中学じゃ、初代仮面ライダーとアマゾンズ並に違うからね⁉︎もう俺受けるって言っちゃったけども!」

 

「それとお前一人暮らししてもらうから。高専じゃなくてここ住んでここから通え。」

 

「そもそも拒否権なかったんですね⁉︎だからさっきあんま口挟まなかったんですね⁉︎」

 

「家事能力は高いだろう?」

 

「いまは関係ねーよ!」

 

「話は以上だ。頼りにしてるぞ……息子よ。」

 

「無理矢理締めやがって…分かったよ父さん。」

 

 

 

呪術高専一年(ただし一年飛び級)漣奏。

高専ライフに胸を踊らせていたのにも関わらず、一か月経たずに椚ヶ丘中学校に(任務で)転向するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにパーティはめっちゃ楽しんだ。

 

 




奏君の術式などの設定はだいたい考えていますが、呪術本編と奇跡的に被っちゃったらどうしようかびびってます。
すでにヒロインも考えてます。暗殺教室から一人です。多分すぐわかる。


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第2話:新生活の時間

基本的に毎週2話くらいの頻度で投稿するつもりです。
調査さえよければ3話ほど。


烏間先生と話をしてから5日後…

 

 

ハイやってきました、俺の新居!

 

椚ヶ丘中学校の最寄駅、椚ヶ丘駅の一つ隣の駅から歩いて15分ほどの場所で、キレイな2LDKのアパート。何よりペットが飼えるっていいのが最高だね。

引っ越す前に愛犬のリズ(柴犬)はどうしたらいいか悩んでたけど、学長が独断で決めていたから心配する必要は無かったわ。

 

 

そんでもって俺は今、買い物と近所散策を兼ねてりと散歩している。駅周辺にはデパートやオシャレな店があり、大抵のものは揃うらしいが、家具は寮から持ってきたし家電に関しては学長と烏間先生が用意してくれた。

 

…なんか申し訳ないな。

 

高専は東京とはいえ秘境みたいなところにあったから、こういう住宅街で暮らすのは新鮮な感じがする。

 

 

 

…しかしまぁ

 

 

 

「おっ、君カワイイじゃ〜ん‼︎どう?俺らと遊ばない?」

「あっ、あの私用事あるので…。」

「いいじゃんいいじゃん、ちょっとくらい時間あるでしょ?」

「いえ、ホントにやめてください…。」

 

 

どこに行ってもああいうナンパ野郎はいなくならないのね…。

俺としては呪いよりこういったナンパとかリンチとか痴漢とかするやつの方が面倒いし、理解しづらい上話が通じにくいからタチが悪い。

けどこういう状況を見過ごすような腐った鍛えられ方されてはないんだよね。

見た感じナンパ3人組は高校生、絡まれてる女の子は中学生か…。

 

「リズ、ちょっとここで待っててな。あのクズ共ボコすから。」

 

ラズは軽く吠えて、その場に座った。

その様子を確認して、俺は男達に近寄って話しかける。

 

 

「ハイストップストップ〜。アンタらその女の子が嫌がってるの分かんないの〜?そんなことにも気付かないヤツは、生ゴミと変わんないよ?」

「アンだとテメェ‼︎ナメたこと言ってんじゃねぇぞ!」

「アッハハ!アンタらなんかナメる価値すらないんだけど?」

「クソが!死ねや!」

 

そう言って男の一人が殴りかかってきたが、それを避け腹にヒザ蹴りを一発打ち込みダウンさせる。逆上した二人が同時に仕掛けてきたが、片方を片手で受け流しもう片方の顔に回し蹴りを決める。受け流されたやつはバランスを崩し、体制を立て直す前に横腹に拳を二発入れ倒す。

 

「さてと、じゃあこれを邪魔にならないように…」

 

まずは最後に倒れたやつを近くのゴミ捨て場に放り投げ、残りの二人もその上に投げ込んでいく。

後片付けを済ませて、俺は絡まれてた女の子に話しかける。

 

「大丈夫?ケガはない?」

「う、うん。ありがとう!」

「そりゃよかった。俺は漣奏。今日この辺りに引っ越して来たばっかなんだよね。」

「そうなんだ!私、倉橋陽菜乃!よろしくね!」

「おう、よろしく。そだ、倉橋さんって椚ヶ丘中学の生徒だったりする?」

「そうだけど…もしかしてナミ君転校生?」

「そ、明後日から椚ヶ丘中学の3年E組に通うの。」

「E組⁉︎じゃあ同じクラスだ!」

「そうなの?引っ越し直後にクラスメートに会えるなんて運いいな。じゃあ改めて、明後日からよろしくな、倉橋さん!」

「うん、よろしく〜……って、あぁ!ワンちゃんだ‼︎」

 

二度目の挨拶の後、リズを見つけた倉橋さんが勢いよくリズに近寄って、キラキラした目で見始める。

 

「うわぁ〜、可愛いなぁ。この子ナミ君が飼ってるの?」

「そうだよ、リズっていう柴。ってか倉橋さん犬好きなの?」

「ううん、生き物ならなんでも好き〜!」

「ふぅん…、撫でてもいいよ?」

「いいの⁉︎やった〜!」

 

俺が許可を出すとすぐさま倉橋さんは撫で始める。

リズも気持ち良さそうに目を細めている。

リズは人見知りは激しくないけど、ここまで懐かれてるのは倉橋さんがそういう体質なんだろうな。

…つーか、知らない間に俺のあだ名「ナミ君」になってるんだけど、まぁいっか。

 

 

 

「お楽しみのところ悪いけど用事は大丈夫なのかい、倉橋さん?」

「うん、近くのお店に買い物行くだけだから〜。」

 

 

こんな感じの会話をしながら、倉橋さんは10分以上リズを撫でまし別れたのだが、なんだか切なそうな顔をしてたので

「また今度相手してやって。」

と、言ったら一気に明るくなった。

 

新しいクラスメートにいち早く会った俺は、これからの学校生活を楽しみに思いつつ家に帰った。




というわけで、ヒロインは倉橋陽菜乃ちゃんです!
作者が暗殺教室の中で一番好きなキャラにしました。


ついでに時系列と高専メンバーとの関係を少し説明
前回から分かるかもしれませんが、真希達が一年として入学して少し後、暗殺教室本編では奥田さんの回の後という感じです。
また奏と入れ替わりに憂太が転校して来た流れとしています。
真希、棘、パンダ、五条とは入学前からの知り合いです。


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1学期
第3話:登校の時間


…何故俺は初登校日にハイキングをしているんだろう?

 

そもそも国家機密の超生物を教師として雇い、生徒たちに暗殺させるなんてどんな学校だよって感じた俺は昨日ちょっぴり調べてみた。

 

椚ヶ丘学園。

中高一貫の名門進学校で中学の平均偏差値は66とハイレベル、部活動もあらゆる部が優秀な結果を残している、まさに文武両道というべき学校とのこと。しかしそれは本校舎の生徒だけ。成績不振や素行不良な生徒が落とされる場所が特別強化クラス3-E、通称「エンドのE組」。本校舎からおよそ1km離れた山奥の隔離校舎での生活を余儀なくさせ、「学業に専念させるため」部活動なども禁止、常に他の組より優先順位が低くさせられるらしい。

 

要するに、差別意識と危機感を持たせてるわけだ。自分より下の存在を作ることで優越感を持たせる一方、「E組には落とされたくない」という意識を植え付けることでより一層努力をさせる。まさしく実力主義。俺個人としては反吐が出そうだが、客観的に見ると「合理的」だ。一応優良な成績を修めた生徒は本校舎に復帰できると言ってるが、あの環境じゃなかなか上手くいかないだろう。そんな場所があるから暗殺場として提供できるんだろう。

 

俺は高専で鍛えてるからこの登下校はそこまで苦じゃないが、夏場とか地獄みたいなのでしょう?

 

「学校案内の理事長、人柄は良さそうなんだけどねぇ…」

 

そうボヤきつつ山道を歩き続けて数十分、ようやく目的地である旧校舎が見えてきた。そして入口の前に見覚えのあるタコ一匹…。

…うん、生で見るのは初めてだけどやっぱふざけた造形してんな。

俺に気づいたタコが近寄ってくる。…結構デカイね。

 

「君が転校生の漣奏君ですね?」

「ええ、会ってますよ先生。これから一年間お世話になります。」

「ヌルフフフフ、こちらこそよろしくお願いします。私のことはどうぞ殺せんせーと呼んでください。」

 

…殺せんせーねぇ、殺せない先生だからかな?マッハ20って聞いてるし。

 

「ではこれから出席を取りますので、終わって呼んだら入ってきてください。」

「分かりました。」

 

そう言って殺せんせーは教室に入っていき、出席を取り始める。

 

「全員出席、遅刻0…っと、素晴らしいです!それでは最後に転校生を紹介します。漣君、どうぞ。」

「はい、えっと漣奏です。一年間お世話になります。よろしくお願いします。」

 

殺せんせーに呼ばれ俺は自己紹介をする。といってもあまり語ることがないから軽い挨拶程度だけど。そしてこの挨拶に最初に反応したのは

 

「こちらこそよろしくね〜、ナミ君!」

「おや、倉橋さんと漣君は知り合いだったんですか?」

「ええ、一昨日ちょっと縁あって。」

「ナンパしてきた人から助けてもらったの〜。」

「ほっほ〜う…?」

 

何故か先生の顔がピンク色になる。どういうことですか?

 

「まぁそれは置いときましょう。それでは漣君に質問がある人…「はい!」では前原君。」

「俺、前原陽人!よろしくな!それで漣は殺し屋なのか?」

 

金髪の男子…前原君が質問してきた。状況が状況だから質問の意図が分かるけど、ブッ込んでくるなぁ。

 

「いや、俺は殺し屋じゃないよ?単純に本校舎に行く前に問題起こしちゃっただけ。」

 

嘘です。そういう体です。

 

「じゃあ次の質問いいか?俺は磯貝悠馬。漣は何をやらかしたんだ?」

「暴力沙汰。訳あって喧嘩した相手がA組ってとこのやつだった。」

 

黒髪アホ毛の生徒…磯貝君の質問にも嘘で答える。俺が呪術師ということはバレて欲しくないから、あらかじめ烏間先生に頼んで口裏を合わせてもらっている。当然殺せんせーにも知られていない。

 

「私からもいいかな?私、片岡メグね。漣君はどこから転校してきたの?」

「ん〜、ちょっと特殊な学校。キリシタン学校とかあるでしょ?あれの仏教系に通ってた。けど普通の授業も受けてたよ。」

 

銀髪を一つに束ねた生徒…片岡さんからの質問への答えは殆ど本当。呪術高専は表向きは宗教学校として通ってる。公にも出てないからこの答え方では気づかれないはず。

とはいえほぼ全員が今の回答に興味を持ってしまったみたいだ。転校生ってだけでも注目されやすいってのに、勘弁してくれ。この辺で切り上げさせてもらおう。

 

「とりあえず質問はこんなところでいい?それじゃ改めてよろしく。」

 

そう言うと同時に制服の裾に隠し持っていたエアガンを殺せんせーに向かって撃つ…が予想通り避けられる。

 

「ヌルフフフフ、登校初日から不意打ちでの射撃。殺る気満々ですねぇ漣君。積極的に来てくれて先生嬉しいです。」

「そりゃよかった。けど今のは先生のスピードがどんなものか見るためのものだから。」

「なるほど、様子見ですか。けど殺意が分かりやすいし、発砲のタイミングもあまり良くありません。」

「言ってくれますね。けど生憎時間はたっぷりある。卒業までには仕留めてみせますよ?」

「ええ、いつでも殺しに来てください、楽しみにしてますよ。ただし授業中の暗殺は禁止です。あと漣君の席はあそこ…奥田さんの後ろです。」

「はいよ〜」

 

…マッハ20って聞いてたけど、狭い室内だとせいぜい2くらいか。見切れない速さじゃないな。以外とどうにかなりそうだけど、まだ観察する必要があるね。

 

 

そんなことを考えながら、クラスメイトの視線を気にせず俺は自分の席に着いた。




修学旅行前にはオリジナル回やるつもりなんです!


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第4話:訓練の時間

Q:投稿頻度高くない?

A:インフルになったからです(^ω^)


まずはE組に来てからの感想から言わせてもらおうか。

 

 

…控えめに言ってすっごい分かりやすかった。

 

 

あのタコ、自慢の肉体を使って各授業を徹底的に教えてきた。

いくつか例を挙げると、英語の選択問題は触手の色分けを使い、社会の貿易図式は顔の色(というか模様)を変えて説明、歴史や古典では何かとタコや触手というワードを絡めてとっつきやすくする。

あまりにも隙がなさすぎて怖いわ。

 

 

昼休みの時、隣の席の赤髪…赤羽君に殺せんせーのこと一番知ってる生徒って誰?、と聞いたら青髪の生徒…潮田君に聞きなと言われ尋ねたら、彼と昼ごはんを食べてた杉野君と茅野さんに誘われて赤羽君も交えて一緒に食べることになった…と言うのは建前で俺のこと根掘り葉掘り聞かれそうになった。穏便に受け流したけど。

 

 

…余談だか、赤羽君に「渚君に聞きなよ」と言われた時、「君?さんじゃなくて?」って聞き返したら大笑いされた。あれでも男子らしい、なかなか信じられないが。

 

 

「ねぇねぇ、漣君のクラスメイトってどんな人達だったの?」

「あっ、それ俺も気になる!」

「ん〜、なかなか説明しづらいな。」

 

茅野さんと杉野君の質問に少し考える。中身か見た目かどっちかは癖があるようなやつらだし、そもそも約1名ですらないし。

 

「気が強いけど根は優しい人とコミュ力低いけど色々気を遣える人、それと常識人でムードメーカーって感じかな。簡単に言うとだけど。」

「…え?たった三人?」

「少なくね?」

「マイナーなところだからね。家系的にそういう人しか来ないからさ。ちなみに俺の家も似たようなもんだけど、漣って調べても何も出てこないよ。」

 

クラスメイトの紹介には正直に答えるが、俺自身についてはまたほとんど嘘で答える。1日目でもう何回嘘をついたか分からないが、後ろめたくはない。バレる方が怖いから。

 

「じゃあ漣君が通ってたのは東京の学校って言ってたけど、他にも似たようなところってあるの?」

「もちろん。けど俺の学校と同じ系統のは京都一校しかない。」

「へぇ、京都にあるんだ!じゃあ近いうち会えるね!」

「は?どゆこと?」

「うちの学校、中間終わった後修学旅行があるんだよ。京都に二泊三日でね。」

「…うっわ、マジか。」

「…なんかあまり嬉しそうじゃないね。」

「向こうのやつら、結構いい性格してるんだよ。嫌がらせ大好きだし、あんまり関わりたくないんだよな…」

「そ、そうなんだ。」

 

真依サンとか真希とは別のベクトルで性格悪いもんな。賀茂サンもクソ真面目系だし。

 

そんな会話をして昼休みを終えた。

 

 

そして6時間目の烏間先生の体育という名の訓練、今日は俺が初参加だからナイフ術とのことだが…

 

「漣君、まずは君の実力を見せてもらいたい。俺と一対一だ。」

 

…マジですか。

 

「俺、ど素人ですけど?」

 

ほぼ嘘です。呪具で使ったことあります。

 

「気にしなくていい、あくまで現段階でどれくらいできるかが気になるだけだ。君は武道を習っているのだろう?」

「めっちゃ気にするんですけど…」

 

なんか外野、興味津々だし。

まぁ言われたからにはやりますか。

 

「ルールはそのナイフを俺に一回でも当てれば君の勝ちだ。」

「了解です。じゃ行きますね。」

 

そう言い俺は烏間先生との距離を詰め右手のナイフで斬りかかる。

単純な攻撃だから躱されるが、避けた直後左手をひねり裏拳を決めようとする。

これを烏間先生は右手でガード、掴み技に移される前にバックステップで距離を取りつつ右手のナイフを投擲する。これも読まれていたため回避されるが、それと同時に再び肉薄、今度は両手足を使った格闘戦に移行する。

しかしいずれの攻撃も全て両手で払われる。そこで俺は一瞬下がり

ガードのタイミングをずらすことでできた隙を狙い右から回し蹴りを決める…が烏間先生は右手で俺の蹴りを防ぎニヤリと笑っていた。すかさず俺は左ポケットに隠していたナイフを取ろうとするが、その前に烏間先生は俺を投げ地に背中をつけさせていた。

 

「センスは悪くないが、攻撃が単調だな。」

「…自覚はしてます。」

 

そう返して、立ち上がった俺にクラスメイトたちはタイマンで烏間先生とあんなにやるなんてなかなかやるな!、と言ってきた。

攻撃が効いたような感じはしなかったし、一発でやられたけど、みんなからしたら烏間先生はいつもより真剣というか楽しそうだったらしい。

その後は2〜3人のグループで練習、俺は磯貝君と前原君と一緒に練習をした。

 

 

 

 

 

side烏間

 

 

 

先程の一対一、漣君は明らかに手を抜いていた。

単純な攻撃も明らかにわざとで殺気も上手く隠してる。それどころか今朝ヤツにナイフを刺そうとしたときはわざとらしく殺気を出していた。

 

漣君の頼みで正体を隠し一般生徒としての偽りの経歴で扱っているが、あそこまで実力を隠し通せるとはな…本気の彼には俺も勝てないだろう。




戦闘シーン雑な気がする…。

君付けは今回までです。


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第5話:プロの時間

今週のジャンプを読んで(遅い)

ようやく花御回かー

文面からするとほのぼの回みたいだなー(棒)


E組に転校してから早2週間。

クラスの皆とは馴染めていると思う。最初の数日間は質問攻めを受けていたがなんとか乗り切れた。

そしてまだ数日しか経ってないがこのクラスの人達は皆優しい、俺は率直にそう感じた。俺は今までの活動ゆえに他人の偽りの感情には鋭くなっている。だからこそコイツらは裏表がない、みんな素なんだとわかった。

 

 

一方で殺せんせー暗殺は通常の方法では成功の糸口が見つからない。渚ー名字ではなく名前で呼んでくれと頼まれた。赤羽…カルマもだーから独自にまとめた弱点メモを見せてもらったが、脱皮と表情の意味以外はなんというか微妙…「カッコつけるとボロが出る」とか「器が小さい」とか弱点っていうか欠点だろ、と思うようなものだった。…ただ「テンパるのが意外と早い」は使える気がするな。

 

 

呪術を使った場合はどうなるか分からない。けど今の俺はできればあまり使いたくないと思ってしまっている。

前までは手の内を早々に明かしたくないからだったが、今は皆から嫌われたくないなんて考えてる。昔の俺だったら信じられないくらいアイツらを信用しているってことなんだろうな。

 

 

そして本日も…

 

 

「うーむ、どうやったら殺せんせーを仕留められるか…」

「漣はなんかいい案ないか?」

「おいおい、新入りの俺なんかよりお前らの方がよく知ってるだろ?」

「それはそうだけど…」

「まぁ俺としては数秒だけでも殺せんせーの動きを止められるような隙を作りたいね。マッハ20の状態でやるのは無理でしょ?」

「やっぱそうだよなぁ…」

「けど少しくらいの足止めだと避けられるんじゃない?」

「確かに。この前試しに教卓にケーキ置いたら食べながら避けるどころか、レビューまで書いてきたもん。」

「行儀悪りぃな。」

「「「突っ込むところそこ!?」」」

「食事中は落ち着いて食えって教わらなかったのかよ。」

「…食事中を狙って暗殺してる俺らの方が悪いのか?」

 

 

みんなと楽しく暗殺計画建ててます。

うーん、字面がやっぱりシュール。

 

 

 

そんな感じで話しながら朝のHRを迎えるが…

 

 

「…今日から来た外国語の臨時講師を紹介する。」

「イリーナ・イェラビッチと申します。皆さんよろしく‼︎」

 

金髪の女性が外国語教師として来た。…何故かべったり殺せんせーに引っ付いて。

 

「…そいつは若干特殊な体つきだが気にしないでやってくれ。」

「ヅラです。」

「構いません‼︎」

 

烏間先生、面倒なのは分かりますけど「特殊な体つき」で済むレベルじゃないと思います。

後イリーナ先生もヅラ以上に気にするところがあるでしょうが。

 

「本格的な外国語に触れさせたいとの学校の(・・・)意向だ。英語の半分は彼女の受け持ちで文句は無いな?」

「…仕方ありませんねぇ」

 

「…なんかすごい先生来たね。しかも殺せんせーにすごく好意あるっぽいし。」

「…うん、でもこれは暗殺のヒントになるかもよ。タコ型生物の殺せんせーが…人間の女の人にベタベタされても戸惑うだけだ。いつも独特の顔色を見せる殺せんせーが…戸惑う時はどんな顔か?」

 

渚を始めみんなが殺せんせーを観察する。

そして殺せんせーは烏間先生からイリーナ先生の方を向き、胸元を注視すると…

 

 

なんともまぁ、だらしないデレ顔になった。

 

 

 

「ああ…見れば見るほど素敵ですわぁ。その正露丸みたいなつぶらな瞳、曖昧な関節、私とりこになってしまいそう…」

「いやぁ、お恥ずかしい。」

 

 

いやいや待て待て、色々おかしい!褒めるポイントが雑すぎないか!?そんなの当てはまるの殺せんせーくらいだぞ!?

それに何より…

 

「あはは、やったじゃん漣。もう殺せんせーに隙を作れるものが見つかったよ?」

「え、どういうことだカルマ?」

「は?いや、見て分かるでしょ?」

「いや確かに今の殺せんせーは隙があるけど、何に気をとられてるんだ?」

「」

 

カルマが何で分かんないのコイツ、みたいな顔して絶句してるが意味がわからないのはこっちだ。

だがこれに反応したのはカルマではなく、岡島だ

 

「漣…お前今何つった?」

「え?いや、殺せんせーは何に気をとられてるのかって。」

「お前…気は確かか!?」

 

…何でだろうね、コイツ(岡島)と同類には見なされたくないわ。

 

「あんなキレイで、かつおっぱいのデカイ女の人に抱きつかれてるからに決まってるだろ!?」

「???」

「嘘だろコイツ…」

 

…いや心底理解できない。ただ女性に抱きつかれただけで何でああなるん?おっぱいがどうこうとかも意味わからん。カルマと岡島はあの胸が殺せんせーの隙を作ってるって言ってるが、俺らの暗殺には使わないでしょう?

それにあれは明らかに演技だ。あの人はもっと高慢で高飛車な性格、隠そうとしても俺には分かってしまう。

本性まで気づいてるのはせいぜいカルマくらいだろうけど、皆も流石に「この時期にこのクラスにやって来る先生」が只者じゃないってことくらいは分かってるだろう。

 

 

昼休み

 

 

殺せんせーが皆と暗殺サッカーをしてる時、イリーナ先生がまた近寄ってきた。

 

「殺せんせー!烏間先生から聞きましたわ。すっごく足がお速いんですって?」

「いやぁ、それほどでもないですけどねぇ。」

「お願いがあるの。一度本場のベトナムコーヒーを飲んでみたくて。私が英語を教えてる間に買って来て下さらない?」

「お安いご用です。ベトナムに良い店を知っていますから。」

 

そう言って殺せんせーは飛んで行った。アンタはちょっとコンビニ行って来る感覚でベトナム行くな。

 

しかし殺せんせーが行ったのを確認すると、イリーナ先生は豹変…いや、本性を表した。

 

「授業は各自適当に自習でもしてなさい。それと、ファーストネームで気安く呼ぶのやめてくれる?『イェラビッチお姉様』と呼びなさい。」

 

 

 

 

「…でどーすんの?ビッチねえさん。」

「略すな‼︎」

 

流石カルマ、適応が速い。すぐにイジりにもっていくスタイル、渚から聞いていた通りだ。

 

「あんた殺し屋なんでしょ?クラス総がかりで殺せないモンスター、ビッチねえさん1人で殺れんの?」

「…ガキが。大人にはね、大人の殺り方があるのよ。」

 

イリーナ…いや、ビッチねえさんは渚の方を向き、いきなりキスをした。キス攻撃を受け気絶した渚は、情報を教えろと言われる。

さらにそっちの界隈の三人の男ーどう見ても纏めたところで烏間先生どころか、高専の皆以下ーを引き連れ、情報提供を要求、邪魔をしたら殺すと脅してきた。

 

 

だがコイツは気がついてない。

 

 

あのタコとの戦略差と

 

 

自分がこのクラスの生徒たちから嫌われてることを。

 

 

 

5時間目

 

 

「なービッチねえさん、授業してくれよー。」

 

前原のその言葉を皮切りに皆がビッチねえさんコールを始めるが…

 

「まず正確な発音が違う‼︎あんたら日本人はBとVの区別もつかないのね‼︎正しいVの発音を教えたげるわ、まず歯で下唇を軽く噛む‼︎そのまま1時間過ごしてれば静かでいいわ。」

 

 

あっ、やっぱ駄目だ、すっげぇムカつく。

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

「…おいおいマジか。2人で倉庫にしけこんでくぜ。」

「…なーんかガッカリだな、殺せんせー。あんな見え見えの女に引っかかって。」

「…烏間先生、私達…あの(ひと)の事、好きになれません。」

「…すまない。プロの彼女に一任しろとの国の指示でな。だが僅か一日で全ての準備を整える手際、殺し屋としては一流なのは確かだろう。」

 

片岡さんからの苦情に対する烏間先生の返事を聞き、俺は疑問に思っていたことを尋ねる。

 

「…烏間先生、それ本気で言ってます?」

「どういうことだ?」

「殺し屋のことはよく分かりませんけど、喧嘩慣れしてる身から言わせてもらうと、あの人は三流です。」

「…ナミ君は何でそう思うの?」

「理由は二つ。一つは自分の実力を過信し過ぎ。もう一つは自分の置かれている状況をわかっていない。」

「⁇それって…」

 

倉橋さんからの疑問…多分皆も気になってる…に答える。それに多分殺しに使うのは…

 

 

そこまで考えたとき、倉庫から銃声が聞こえてくる。音からしてやはり実弾、あらかじめ情報があったはずなのに効かないことを知らなかったのかね…それなら暗殺者としては三流以下だ。

 

 

銃声が止むと今度は鋭く悲鳴とヌルヌル音が聞こえてきた…十中八九殺せんせーの反撃だろう。

 

流石にヌルヌルがしつこいので倉庫に行ってみると、中からツギハギの服装の殺せんせーが出てきた。

 

「殺せんせー‼︎」

「おっぱいは!?」

「「「死ねクソ島」」」

 

岡島が女子から制裁を受けていたが、俗に言うセクハラ行為?なるものをしたのだから当然だろう。

 

「いやぁ…もう少し楽しみたかったですが、皆さんとの授業の方が楽しみですから。六時間目の小テストは厳しいですよぉ」

「はは、まあ頑張りますよ。ところでビッチねえさんは…」

 

 

その時、倉庫からビッチねえさんが出てきた…どういうわけか体操服にブルマで。

 

 

「まさか…僅か1分であんな事されるなんて…肩と腰のコリほぐされて、オイルと小顔のリンパのマッサージされて…早着替えさせられて…その上まさか…触手とヌルヌルであんな事を…」

 

そこまで言うと、ビッチねえさんは力尽きた。一体何をされた。

 

 

「殺せんせー、何したの?」

「さぁねぇ、大人には大人の手入れがありますから。」

「悪い大人の顔だ‼︎」

「つまりこういう結末になるってこと…こんなになるのは予想外だったけどね。」

「…なるほど。」

 

倉橋さんが若干複雑そうな顔で納得する。

皆が教室に戻っていく中、横目でビッチねえさんを見るが、ああいうプライドが高いタイプのやつは多分無理だ。ムキになってもっと酷い状態になる。

 

 

 

また翌日

 

 

 

予想は的中した。

 

 

プライドをズタボロにさせられて苛立っていたビッチねえさんに磯貝が「一応受験を控えているから授業をしてくれないなら殺せんせーと代わってくれ」と要求した。

しかしビッチねえさんは鼻で笑い、お気楽、落ちこぼれ、勉強しても意味ないだろうと言い、さらに自分が成功したら1人500万渡すから自分に従えと要求する…が当然従うはずがなく、ボイコットが始まる。やっぱりアイツは自分の現在の立ち位置を理解してなかったみたいだ。

 

 

…ちなみにボイコットに混じって、茅野が「巨乳なんていらない‼︎」なんて言っていたがどういうことなんでしょうか?

 

 

 

昼休み

 

 

 

暗殺バレーボールをしてる時、烏間先生とビッチねえさんがこっちを見て話をしていた。少し気になり烏間先生に聞いてみる。

 

 

「烏間先生、あの人になに言ったんです?」

「…ここに留まりたいなら、見下した目で君らを見るな、生徒としても殺し屋としても対等に接しろ、と言った。彼女がこれからどうするか分からないがな。」

「…やっぱりあなたも優れた腕利きの教師ですね。」

「…素直な褒め言葉として受け取っておこう。」

「こちらこそ、上から目線ですいません。」

 

けど多分あの人もどうすべきかわかったはずだ。

 

 

そして次の授業、教室に入ってきたビッチねえさんが黒板に英文を書き込む。

 

「You're incredible in bed!言って(リピート)‼︎」

「」

「ホラ!」

「…ユーアー インクレディブル イン ベッド」

「アメリカでとあるVIPを暗殺したとき、先ずそいつのボディーガードに色仕掛けで接近したわ。その時彼が私に言った言葉よ。」

 

…へぇ、体験談ね。外国語に限らず教わる側を最も飽きさせない教え方だね。

 

「意味は『ベッドでの君はスゴイよ…』」

「…ねぇカルマ、ベッドでスゴイって寝相かいびきのこと?」

「うん、悪いけど漣は少し黙ってよっか。」

 

ほとんどみんながなぜか顔真っ赤にしてる。

訳の意味含めてよく分からなかったからカルマに聞いたら、スルーに近い対応されたんだけど…解せぬ。

 

「外国語を短い時間で習得するには、その国の恋人を作るのが手っ取り早いとよく言われるわ。相手の気持ちをよく知りたいから、必死で言葉を理解しようとするのよね。」

 

なかなか説得力があるな。俺も初め棘とコミュニケーションとろうとした時は苦労したわ、おにぎりの具だけで話してくるんだもん。

 

「私は仕事上、必要な時…その方法(ヤリかた)で新たな言語を身につけてきた。…だから私の授業では…外人の口説き方を教えてあげる。」

 

…どういうことだってばよ?

 

「プロの暗殺者直伝の仲良くなる会話のコツ、身につければ実際に外人と会った時に必ず役立つわ。受験に必要な勉強なんてあのタコに教わりなさい。私が教えられるのはあくまで実践的な会話術だけ。」

 

正直俺としてはそっちの方が有難い。社会に出たらコミュニケーションスキルの方が圧倒的に役立つはずだからな。

 

 

「もし…それでもあんた達が私を先生だと思えなかったら、その時は暗殺を諦めて出て行くわ。…そ、それなら文句ないでしょ?…後色々悪かったわよ。」

 

…ホントにプライド高くて不器用な人だな。

その言葉にみんな思わず笑い出す。

 

「何ビクビクしてんだよ、さっきまで殺すとか言ってたくせに。」

「なんか普通に先生になっちゃったな。」

「もうビッチねえさんなんて呼べないね。」

「あんた達…わかってくれたのね‼︎」

 

前原と岡野の言葉に目をウルウルさせるイリーナ先生だったが

 

「考えてみりゃ先生に向かって失礼な呼び方だったよね。」

「うん、呼び方変えないとね。」

 

そう簡単には終わらなかった…

 

 

 

「じゃあビッチ先生で」

 

 

 

カルマからの提案にイリーナ先生の表情が固まる。

 

「えっ…と ねぇ君達、せっかくだからビッチから離れてみない?ホラ、気安くファーストネームで呼んでくれて構わないのよ?」

「でもなぁ、もうすっかりビッチで固定されちゃったし」

「イリーナ先生よりビッチ先生の方がしっくりくるよ。」

 

「そんなわけでよろしく ビッチ先生‼︎」

「授業始めようぜ ビッチ先生‼︎」

「キーーー‼︎やっぱりキライよ あんた達‼︎」

 

「そのヒス抑えた方がイイっすよ、ビッチ先生」

「余計なお世話よ‼︎」

 

 

こうしてE組に新しい教師(ビッチ)が増えた。

 

 




3話を作者が1話でまとめても、文字数が三倍になるだけだった事実。


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第6話:集会の時間

正直修学旅行までイチャつかせることができないので駆け足で書いてます。

奏「じゃあビッチ先生の回、やる必要あった?」

…一理ある。

ビッチ「ちょっと!」


ビッチ先生が馴染んできて数日、俺たちは本来昼休みであるこの時間に山下りをしてた。

 

「急げ、遅れたら今度はどんなひどいペナルティがあるか、分からないぞ。」

「この前は本校舎の花壇の掃除だったね。」

「あれえぐかったな〜…そもそも広すぎるんだよ。」

お前(前原)はほとんどサボっていただろ‼︎」

「というか…なんで私達がこんな目に合わないといけないの〜〜〜‼︎」

 

 

岡野さんの叫びが響く。俺も同感。

 

 

こうなった理由は全校集会にある。

 

 

「でもなんで昼過ぎに集会なんかやるかね?朝にやった方が効率よくない?」

「俺たちの差別待遇を行うためだよ。」

「自分が見下せる存在がいて、かつE組に落ちたらこうなるっていう見せしめ。」

「…なるほど、ペナルティってのは?」

「E組は他のクラスより先に整列をしてないといけないの。」

 

結局ここでも例の合理的で「腐った」制度ってわけね…

 

 

「…にしても漣君、全然疲れ見せないね。」

「な。なーんか慣れてる感じするよな。」

「そうか?日々トレーニングしてるからかな?」

「あ、そっか。確か武道やってるんだっけ。」

「そーだよ。けどみんなも日々暗殺訓練してるじゃん。」

「確かにそうだけど…」

「なんか漣君からはこう…達人みたいな感じがするんだよね。」

「そう!どんだけ動いても疲れなさそう!」

「いや、さすがに疲れはするよ?」

 

けど彼女…不破さん、達人とかなかなか観察眼あるな。(自負するわけじゃないけどさ) ちょっと気をつけておこ。

 

そんなことを考えながら進むと、倉橋さんが痛そうに足を抑えてた。

 

「どったの倉橋さん、足挫いた?」

「うん…けどだいじょ痛っ!」

「大丈夫じゃないから、このまま歩くと悪化するから。集会は欠席して治療した方がいいよ。」

「けど私だけじゃなくてナミ君にもペナルティが…。」

「はぁ?いくらなんでも怪我とか病気なら休んでもいいだろ?」

「あいつらにはそんなの関係ないんだよ。」

「…マジか。」

 

どうやら腐ってるのは制度だけど、向こうの人間は腐ってるなんてレベルじゃないみたいだな。

しかしそうなってくると話は変わる。ペナルティを受けるのが俺だけならまだしも倉橋さん…強いてはクラス全体がペナルティを負うのは納得いかない。戻って応急処置する時間すら無いし、反転術式使うのもバレるからアウト。

 

「…仕方ないな。倉橋さん、乗って?」

「ふぇ?」

「あんま時間ないから、本校舎で応急処置してもらう。俺が負ぶってくから。」

「…で、でも。」

「烏間先生はすでにビッチ先生背負ってるし、他のみんなは焦ってるし。それにペナルティ受けたくないんでしょ?」

「う、うん。分かった。…じゃあお願い、します…。」

「はい、任された。あ、結構スピード上げてくから舌噛まないようにね。」

「え?舌噛まないってひゃああぁぁぁぁ‼︎?」

「じゃみんな、先行ってるから。」

 

 

そう言い残して俺は倉橋さんを背負って走っていく。

 

 

 

「…ナチュラルに倉橋おんぶしてったな、漣」

「躊躇いが無かったな」

「てか、女子1人背負ってダッシュで山下りっておかしいだろ。」

「動きがSASUKEばりだったな。」

「…武道やってたらあんなになるのか。」

「いや、あれは特殊でしょ。」

「前原、あんたも漢気見せたら?」

「おい⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

「倉橋さん、保健室ってこっちで合ってる?」

「…う、うん。そっちで…合ってる…よ。」

本校舎に着いた俺らは倉橋さんのガイドをもとに保健室に行く。

…が誰もいない。まぁ集会あるから当然…いや、保健医って基本集会出るのか?

 

「保健医の先生いないな…しゃーない、俺が応急処置するけどいいか?」

「うん…よろしく…」

 

息も絶え絶えな感じの返事を聞き応急処置を始める。ジェットコースターみたいな勢いで下ったからな、仕方ない。

 

「結構…上手いんだね」

「まぁ結構使う機会があるからね。」

「そんなに怪我するの?」

「ハードな特訓する時はね、っと完成。」

「あ、ありがとう」

「別にいーよ。けどあくまで応急だから、集会中は誰かに支えてもらった方が良いね。片岡さんとかに頼むわ。」

「うん…その、ごめんなさい。」

「え?なんで謝る?」

「それは…ナミ君に色々やってもらって…」

「別に気にするようなことじゃないでしょ、友達なんだし。」

「けど…」

「悪いって思ってるんなら、そうやって謝るのヤメテ。俺は謝罪より感謝の方が嬉しい。」

「…!うん、ありがとう!」

「っし!じゃあ集会行きますかね。」

 

 

体育館に行きE組の列に並び、片岡さんに頼んで倉橋さんを支えてもらった。爽やかな顔で引き受けてくれましたよ、めちゃくちゃ良い人っすね(再確認)

 

 

 

それに比べて本校舎のやつらは…

 

 

 

 

「渚く〜ん、おつかれ〜。」

「わざわざ山の上から本校舎(こっち)に来るの大変だったでしょ〜」

 

 

どいつもこいつもこんな感じ。

五条先生的に言えば腐ったミカンのバーゲンセールだ。

 

さらに集会が始まるが…

 

 

「…要するに、君達は全国から選りすぐられたエリートです。この校長が保証します。…が、慢心は大敵です。油断してると…どうしようもない誰かさん達みたいになっちゃいますよ。」

 

 

信じられます?これが進学校の校長のスピーチですよ?E組は教師からも匙を投げられてるって聞いたが、こんなにひどいとは思わなんだ。選りすぐられたのは性格の悪さだろう?

 

ああもう、コイツら全員1週間くらい悪夢を見続ける呪いでもかけてやろうか?

 

あ、ちなみにカルマはサボりです。正直俺もその手を使いたかったけど、この学校の実態が見たかったので出ることにしました。今?スッゲー後悔してるよ。

 

 

 

次の生徒会の発表の前に、烏間先生が到着した。

表向きの担任だからこの場を借りて挨拶しに来た、とのことらしいが…倉橋さんと中村さんがデコったナイフケース見せようとしたのを止めたり(そもそもデコるものなのか、アレ)、急遽来たビッチ先生が渚の顔を自分の胸に押し付けるのを見て叱ったり…あの人、苦労が絶えないな。

 

 

「…はいっ、今皆さんに配ったプリントが生徒会行事の詳細です。」

「え…何?俺らの分は?」

「…すいません。E組の分まだなんですが。」

「え 無い?おかしーな…ごめんなさーい、3-Eの分忘れたみたい。すいませんけど全部記憶して帰って下さーい。ホラE組の人達は記憶力も鍛えた方が良いと思うし。」

 

何言ってるんだあのメガネ?ワザと印刷して来なかったんだろ?それをわざわざこんな陰湿な言い方でやりやがって…マジで虫唾が走るな、何人か生き地獄見せてやりたいが…

と悩んでたその時、

 

 

「磯貝君、問題無いようですねぇ。手書きの(・・・・)コピーが全員分あるようですし。」

「…はい。あ、プリントあるんで続けてくださーい」

「え?あ…うそ、なんで?誰だよ笑いどころ潰したやつ!あ…いや、ゴホン では続けます。」

 

大丈夫、笑いどころは今だから。ザマァミロ。

 

ただそれよりも…おいそこの国家機密(タコ)‼︎あんた烏間先生に来るなって言われてただろ⁉︎

 

「…あれ…さっきまであんな先生いたか?」

「妙にデカイし関節が曖昧だぞ。」

「しかも隣の先生にちょっかい出されてる。」

「なんか刺してねーか?」

「…女の先生が連れてかれた。」

「…わけわからん。」

 

 

「…がっつり疑われてるね、殺せんせー。」

「どうしたらあれで変装になってるって思えるんだろう」

「…やめてやれよ、これ以上烏間先生に心労かけるのは。」

「あはは…」

 

俺の前後にいる倉橋さんと渚と片岡さんとそんな話をしながら、集会を終えた。

 

 

 

「倉橋さん、飲み物買ってきたいからちょっと待っててもらっていい?」

「うん、いいけど…もしかして帰りも?」

「その足で山登りはさせないよ?」

「う〜…分かりました…。」

「ん、じゃあ悪いけどちょっと行ってくる。」

 

 

自販機に行くと、渚がいかにも三下感溢れる二人の男子に絡まれてた。多分アイツら…というよりは本校舎のやつら皆、E組が集会中笑ってたのが気にくわないんだろうな。

 

 

「E組はE組らしく下向いてろよ。」

「どうせもう人生詰んでるんだからよ。」

 

…アイツら、俺が今いつでもチェックメイト仕掛けられるって状況に気づいてないね。そう思って渚を助けてやろうとした時、

 

 

「なんとか言えよE組‼︎殺すぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

「…殺す?殺そうとした事なんて無いくせに。」

 

 

 

 

 

 

渚がそう言うとアイツらはビビって去って行った。

 

「…あ、漣君!」

「…おう、悪い。少し来るのが遅かったみたいだ。」

「ううん、大丈夫だよ。」

 

 

 

 

 

 

…へぇ、良い人、あるいは個性の集まりくらいだと思ってたけど

 

 

なかなか面白い個性持ちがけっこういるね

 

 

楽しませてくれる。

 




お姫様抱っこでもよかったかな〜(暗黒微笑)


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第7話:支配者の時間

クソみたいな集会が終わって数日後…

 

 

「「「「「さて、始めましょうか」」」」」

 

 

30体くらいに分身した殺せんせーがそう言った。

 

 

…何を?

 

 

「学校の中間テストが迫って来ました。」

「そうそう。」

「そんなわけでこの時間は」

「高速強化テスト勉強を行います。」

「先生の分身か一つずつマンツーマンで」

「それぞれの苦手科目を徹底して復習します。」

 

 

 

最高速度マッハ20だから出来る所業だな。ありがたい限りだ。

 

 

「下らね…ご丁寧に教科別にハチマキとか」

 

 

そう言う寺坂を担当する殺せんせーは某忍者漫画の木の葉マークのハチマキをしてる。

 

「何で俺だけNARUTOなんだよ‼︎」

「寺坂君は特別コースです。苦手科目が複数ありますからねぇ」

 

「じゃあ殺せんせー、何で俺は漁師スタイルのハチマキなの?」

「漣君はこの学校でのテストのデータがありませんので、大漁(・・)得点の祈願ですよぉ」

「「…うっわ、寒っ」」

「ニュヤッ⁉︎漣君どころかカルマ君まで⁉︎」

 

文章じゃなきゃ分かりにくい親父ギャグやめてくれない?

 

 

そして特別授業が始まる。

国語6人、数学8人、社会3人、理科4人、英語4人、NARUTO1人、漁師1人。

ちょっと前まで3人くらいが限度だったらしいが、今はクラス全員分にまで増えてる。

殺せんせーが進化し続ける…この事実はなかなか厄介だけど、テスト前には心強い存在だな。

 

 

その時、殺せんせーの顔がいきなりCの形に変化した。

何事かと思い横を見ると、カルマが対先生ナイフで殺せんせーの顔を狙っていた。

 

「急に暗殺しないでください、カルマ君‼︎」

「それ避けると残像が全部乱れるんです‼︎」

「意外と繊細なんだ、この分身‼︎」

「へぇー、それはいいこと聞いちゃったなー」

「ニュヤッ!?漣君も!?やめてください‼︎」

「いやいや」「こんなに面白いのが目の前にあって」「やめるわけないでしょ?」「ねぇ、先生?」

 

 

 

((((漣がカルマに近づいてきている‼︎))))

 

 

 

「ところで先生、こんなに分身して体力もつの?」

「ご心配なく。1体外で休憩させてますから。」

「必要か、その分身⁉︎」

 

 

…この教師は少し力の使い方を履き違えている気がする。

 

 

 

 

 

放課後

 

 

 

「君が漣奏君、だね?」

「…あなたは…」

 

分身しても変わらない分かりやすさだったな、なんてことを考えて帰っていた時、急にその人は現れた。

 

 

「浅野理事長…」

「こうして会うのは初めてだね。君のことは聞いているよ。」

「…聞いているってどこまでですか。」

「別に大したことじゃないさ、君のお父上が言ってたことくらいだよ。」

「そうですか…」

 

父さんが話したってなると、経歴くらいか。

 

 

椚ヶ丘学園理事長 浅野學峯

創立10年でこの学園を全国指折りの優秀校にした敏腕経営者。

 

 

実際に会ってみると、最初の人が良さそうなイメージは結構変わる。表情は穏やかだが内面は黒い。まぁそうでもなきゃ「E組」なんて制度作らないわな。

 

 

「…用があるのは担任の方ですよね?たかがE組の一生徒に関わる必要なんてないでしょ?」

「確かにそうだが、君と話をしない必要もないよ」

「…どういう意味ですか?」

「ただの興味だよ。新しい編入生に呪術師というのがどういうものか聞きたくてね」

「白々しいですね。貴方みたいな人が呪術師になんて興味持たないでしょう?合理的じゃない。」

「ははは、これまた随分嫌われているようだね。」

「そりゃあ、あんな差別活動見せつけられたらね。貴方のやり方は経営者としては素晴らしいが、人としては納得いかないので。それじゃ」

 

 

そう言い捨てて、俺は去っていく。…理事長相手になかなかマズいことしちゃったなぁ、後悔はしてないけどさ。

 

 

百々目鬼(とどめき)

 

 

俺は術式を唱え、単眼のオタマジャクシみたいな呪霊を呼び出す。

この術式は最大40体くらいまで同じような姿形の呪霊を介して、の視覚と聴覚を共有することができる、偵察や探知などに使うものだ。数を絞れば微力だが呪力を飛ばすことができる。

 

 

今回は1体だけ出して、理事長に憑けさせる。殺せんせーとの話の内容が気になるからだ。

 

 

 

しばらくして理事長と殺せんせーの対談が始まった。ちなみにあのタコは理事長のことを知らなかったらしい。今全力でもてなして、機嫌をとって給料を上げて貰おうとしている。殺せんせー、しっかり給料もらっていたのね。

 

「貴方の説明は防衛省やこの烏間さんから聞いていますよ。まぁ私には…全て理解できる程の学は無いのですが」

 

ほんと白々しいな。決して本校舎の生徒みたいに嫌な人って訳じゃなく、基本善人なのが余計に気に食わない。

 

 

 

「なんとも悲しい生物(おかた)ですね。世界を救う救世主となるつもりが、世界を滅ぼす巨悪と成り果ててしまうとは。」

 

 

 

…今なんて言った?殺せんせーが救世主?

 

 

 

「…いや、ここでそれをどうこう言う気はありません。私ごときがどう足掻こうが地球の危機は救えませんし。よほどのことが無い限り私は暗殺にはノータッチです。」

 

…今その意味を考えても仕方ない。保留だ。

 

「…しかしだ。この学園の長である私が考えなくてはならないのは…地球が来年以降も生き延びる場合、つまり仮に誰かが貴方を殺せた(・・・)場合の学園の未来です。率直に言えば、E組はこのまま(・・・・)でなくては困ります。」

 

「…このままと言いますと、成績も待遇も最低辺という今の状態を?」

「…はい。働き蟻の法則を知っていますか?どんな集団でも20%は怠け、20%は働き、残り60%は平均的になる法則。私が目指すのは5%の怠け者と、95%の働き者がいる集団です。」

 

…いや無理だろそれは。仮に出来るとしたら教育改革くらいしないと不可能じゃないのか?…いや、だからE組なのか。

 

「『E組のようにはなりたくない』、『E組にだけは行きたくない』、95%の生徒がそう強く思う事で、この理想的な比率は達成できる。」

「…なるほど、合理的です。それで5%のE組は弱く惨めでなくては困ると。」

「今日D組の担任から苦情が来まして、『うちの生徒がE組の生徒からすごい目で睨まれた』、『殺すぞ』と脅されたとも。」

 

…もしかしてあれか?渚の(あの)事言ってるのか?だとしたら捏造もいいところじゃないか?

 

「暗殺をしてるのだから、そんな目つきも身に付くでしょう。それはそれで結構。問題は成績底辺の生徒が一般生徒に逆らう事。それは私の方針では許されない。以後厳しく慎むよう伝えて下さい。」

 

そう言った理事長は出口に向かいながら、ポケットから知恵の輪を取り出し殺せんせーに向かって投げ渡す。

 

「殺せんせー、1秒以内に解いて下さいっ」

「えっ、いきなり…」

 

 

1秒後

 

 

全身の触手に知恵の輪が絡まった殺せんせーがいた。どうしたらそうなる。

 

「…噂通りスピードはすごいですね。確かにこれなら…どんな暗殺だってかわせそうだ。でもね殺せんせー、この世の中には…スピードで解決できない問題もあるんですよ。」

 

そう言い理事長は今度こそ職員室から出て行った。

 

 

その後理事長は覗いてた渚に「中間テスト、頑張りなさい。」と言ったが、とても乾いていた言葉だった。

 

 

そして殺せんせーは…どこか燃え上がっていた。




何気初術式 百々目鬼

詳細は後にまとめます。


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第8話:中間の時間

今週の呪術廻戦本編

京都の学長にびっくり

棘死なないで


後投稿頻度が減ったんじゃないよ、先週が多過ぎたんだよ。


理事長が殺せんせーに会いに来た翌日

 

 

 

「「「「さらに頑張って増えてみました。さぁ授業開始です。」」」」

 

 

 

 

…いや、増えすぎだろ⁉︎

 

昨日までマンツーマンだったのに今日は1人につき3〜4人くらいいるぞ。残像もかなり雑…ってか某猫型ロボットとか、某夢の国のネズミみたいなキャラになってきてるし…

 

「…どうしたの殺せんせー?なんか気合い入りすぎじゃない?」

「「「んん?そんなことないですよ?」」」

 

茅野さんの疑問に殺せんせーは何てことない風に応えるが、俺にはその理由が分かる。

 

『この世の中には…スピードで解決できない問題もあるんですよ。』

 

理事長からの言葉を殺せんせーは気にしているのだろう。

 

 

 

 

授業終了後

 

 

 

案の定殺せんせーはバテている。今なら殺せそうな気がするが多分無理。

 

「なんでここまで一所懸命に先生をすんのかね〜。」

「…ヌルフフフ、全ては君達のテストの点数を上げるためです。そうすれば…」

 

 

以下、殺せんせーの妄想…

 

 

「殺せんせー‼︎おかげで良い点取れたよ‼︎もう殺せんせーの授業無しじゃいられない‼︎殺すなんて出来ないよ‼︎」

↑生徒達の尊敬の眼差し

 

「先生‼︎私達にも勉強を教えて‼︎」

↑評判を聞いた近所の巨乳女子大生

 

 

以下、現実に戻ります。

 

 

「…となって、殺される危険も無くなり先生には良い事ずくめ。」

「いや、そうはならねーよ。仮に前者が有り得ても後者は絶対ねーよ。そもそも国家機密が近所の女子大生に知られていい訳ないでしょ。ついでに言えば巨乳ってところはいるのか?」

「前から思ってましたけど、漣君は先生に辛辣過ぎませんか⁉︎夢くらい見させて下さい‼︎」

 

いやだってありえないし。

 

「…いや、勉強の方はそれなりでいいよな。」

「…うん、なんたって暗殺すれば賞金百億だし。」

「百億あれば成績悪くてもその後の人生バラ色だしさ。」

「ニュヤッ⁉︎そ、そういう考えをしてきますか‼︎」

「俺達エンドのE組だぜ、殺せんせー。」

「テストなんかより…暗殺の方がよほど身近なチャンスなんだよ。」

「…なるほど、よく分かりました。」

 

みんなの言葉を聞いた殺せんせーは、顔の模様をバツにする。

 

「今の君達には…暗殺者の資格がありませんねぇ。全員校庭に出なさい。烏間先生とイリーナ先生も呼んで下さい。」

 

そう言うと殺せんせーは不機嫌そうに教室から出て行った。

みんなは殺せんせーが不機嫌になった理由を分かってないみたいだが、俺はだいたい分かった。みんなに今何が必要なのか。

 

殺せんせーは校庭のゴールなどを退け終えると、ビッチ先生に質問する。

 

「イリーナ先生、プロの殺し屋として伺いますが。」

「…何よ、いきなり。」

「あなたはいつも仕事をする時…用意するプランは1つですか?」

「…?いいえ、本命のプランなんて思った通り行く事の方が少ないわ。不測の事態に備えて…予備のプランをより綿密に作っておくのが暗殺の基本よ。ま、あんたの場合、規格外すぎて予備プランが全部狂ったけど、見てらっしゃい。次こそかなら「無理ですねぇ。」…ぐ。」

 

ビッチ先生の解答を聴くと、今度は烏間先生に質問する。

 

「では次に烏間先生、ナイフ術を生徒に教える時…重要なのは第一撃だけですか?」

「……第一撃はもちろん最重要だが、次の動きも大切だ。強敵相手では第一撃は高確率でかわされる。その後の第二撃、第三撃を…いかに高精度で繰り出すかが勝敗を分ける。」

 

烏間先生の解答を聴くと、最後に俺の方を見る。

 

「最後に漣君、君は先生の言いたいことがわかっているはずです。まとめて下さい。」

「…暗殺だけを心の拠り所にする事で、勉強の目標を低くし、劣等感の原因から目を背けている…とかですかね。」

「その通り。先生方のおっしゃるように、自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる。対して君達は漣君のまとめたように、劣等感の原因から目を背けているだけ。」

 

俺の解答を聴くと、殺せんせーは喋りつつ、何故かその場でクルクル回り始め突風を起こす。

 

「もし先生がこの教室から逃げ去ったら?もし他の殺し屋が先に先生を殺したら?暗殺という拠り所を失った君達には、E組の劣等感しか残らない。そんな危うい君達に…先生からの警告(アドバイス)です。」

 

 

『第二の刃を持たざる者は…暗殺者を名乗る資格なし‼︎』

 

 

小型竜巻になった殺せんせーはそう言った後、回転を止める。

すると雑草や凸凹が無くなり、綺麗に手入れがされた校庭が出てきた。

 

「先生は地球を消せる超生物。この一帯を平らにするなどたやすい事です。もしも君達が、自信を持てる第二の刃を示さなければ、相手に値する暗殺者はこの教室にいないと見なし、校舎ごと平らにして先生は去ります。」

「第二の刃…いつまでに?」

「決まっています。明日です。明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい。」

 

渚からの質問にさも当然のように殺せんせーは応える。

…おいおい、それは無茶なんじゃないか?みんなを貶すわけじゃないが成績下位の集団にこの劣悪な環境だぞ?

 

「君達の第二の刃は先生がすでに育てています。本校舎の教師達に劣るほど…先生はトロい教え方をしていません。自信を持ってその刃を振るって来なさい。仕事(ミッション)を成功させ、恥じる事なく笑顔で胸を張るのです。自分達が暗殺者(アサシン)であり、E組である事に‼︎」

 

…殺せんせーの教え方は確かに上手い。あれならE組全員が50位以上取るのは可能かもしれない。だけど理事長が言っていた言葉が俺の中で引っかかっていた。

 

 

 

 

そして翌日

 

 

 

 

中間テストは全校生徒が本校舎で受ける決まり、つまりはE組はアウェーでの戦いになる。

試験監督の教師も咳や貧乏ゆすりで集中を乱してくる。それは普通無しなんだろうが、この学校のE組の待遇からすると当然なのだろう。

 

分かりきったことだが、進学校だけあって問題のレベルは高く、攻略のとっかかりがつかみにくい。

 

だが、俺達はこのハイレベルな問題を教師バカのタコから分かりやすく教わっているんだ。この問題ならみんな殺れる!

 

 

 

…ん、待てよ?この問11って…。いや、この先の問題…。もしかしてあのり…!

 

 

 

 

テスト返却日

 

 

 

 

結果から言うとみんな散々だった。

 

決して殺せんせーの教えが悪かったわけじゃない。実際教わった部分はしっかり解けた。

 

原因は本校舎の方にあった。

 

なんと烏間先生によると、テスト2日前に出題範囲を全教科で大幅に変更してきてそれを伝えない上、「直前の詰め込みにもついていけるか試すのが方針の1つ」と言い張る。

 

そして本校舎のクラスでは、理事長が教壇に立ち変更部分を教えたとのこと。

 

…あの理事長は主義の為には手段を選ばないということか。スピードで解決できない事がある…そういう意味か。

 

しかし、これで殺せんせーはこの教室からいなくなってしまう。さてどうしたもんか…殺せんせーは俺達に背を向けたままだ。

 

「…先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見過ぎていたようです。…君達に顔向けできません。」

 

…殺せんせーのせいじゃないだろ、という前にカルマが殺せんせーに向かってナイフを投げる。殺せんせーはギリギリで避けるがカルマは気にしない。

 

「いいの〜?顔向けできなかったら、俺が殺しに来るのも見えないよ。」

「カルマ君‼︎今先生は落ち込んで…「俺問題変わっても関係ないし。」

 

殺せんせーが言い終える前にカルマは自分の答案を出す。

 

赤羽業

国語 98点

数学 100点

英語 98点

理科 99点

社会 99点

合計点数 494点

186人中 5位

 

クラス中がざわめくが、カルマは素行不良でE組に落ちただけで頭はとてもいいと聞いている。これくらいは当然なんだろう。

 

「俺の成績に合わせてさ、あんたが余計な範囲まで教えたからだよ。」

 

…なるほど、殺せんせーの仕業で更に上がったってわけね。

 

「それに俺より上のやつもいるみたいだし?」

 

待てカルマ、何故俺の点数を知っている?…いや、どっかでタイミングを見て覗き見たんだろう。

 

「面倒いことさせんなよ、カルマ…」

 

漣奏

国語 100点

数学 100点

英語 100点

理科 100点

社会 100点

合計点数 500点

186人中 1位(タイ)

 

 

「「「「オール満点!?」」」」

 

 

今回の範囲すでに習ったことあります、なんて言えるわけないよね。高専入る前に父さんとか伊地知さんとか七海さんとか歌姫先生とかから一通り習ったんだよな。(五条先生?あの人に一般教育が教えられるとでも?)

 

 

「だけど俺はE組出る気無いよ。前のクラス戻るより暗殺の方が全然楽しいし。」

「俺も同感。あんな腐った人間らなんかより、E組のみんなという方が楽しいから。」

「…でどーすんのそっちは?全員50位以内に入んなかったって言い訳つけて、ここから尻尾巻いて逃げちゃうの?それって結局さぁ、殺されるのが怖いだけなんじゃないの?」

「違うよカルマ、尻尾を巻くんじゃなくて蛸壺に籠るが正しいよ。どっかに引きこもって体育座りしながらウジウジするんだよ、この先生は。」

「あっ、そっかぁwww」

 

さらに俺とカルマの挑発の意図に気づいたのか、みんなが便乗してくる。

 

「なーんだ、殺せんせー怖かったのかぁ」

「それなら正直に言えば良かったのに」

「ねー、『怖いから逃げたい』って」

 

「ニュヤー‼︎逃げるわけありません‼︎期末テストであいつらに倍返しでリベンジです‼︎」

「倍返しとか古いよ、殺せんせー。」

「漣君はもうちょっと先生に優しくして下さい!」

「地球の環境を破壊する生物に優しくしろとか、無理な頼みだね。」

「先生を公害みたいに言わないでください!」

 

殺せんせーは顔を文字通り真っ赤にして言い返し、みんなは笑い出す。

 

 

みんな、自分がこのE組であることに胸張っていられるだろうか。

 

 

 




次回、やっとオリジナル回


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第9話:仕事の時間

やっとオリジナル回、術式出せます。


その前に修学旅行前もやります。


「漣君、班は決まった?」

「…班?」

 

中間テストがあけてから、片岡さんが唐突に聞いてくる。

 

「修学旅行の班よ。来週から京都に二泊三日。決まったら私か磯貝君に伝えて。」

「ん、了解。」

 

…京都、京都か。

 

 

京都かぁ〜〜〜〜。(けっこう嫌そうな顔)

いや別に京都の街とか名物は好きなんだよ?けど京都校の人達苦手なんだよなぁ。

 

まあ修学旅行中に会うことはないでしょう。班どうしよっかな…。

 

「ナミ君、まだ班決まってないの〜?」

「倉橋さん、うん。まだっていうか今修学旅行の存在知った。」

「じゃあさ、一緒の班にしよーよ!」

「え、嬉しいけどいいの?」

「もちろん!」

「…わかった、そうさせてもらうわ。ありがとうね。」

 

こうして倉橋さんからのお誘いのおかげで一班に決まりました。

ちなみに他の班員は磯貝、前原、片岡さん、岡野さん、木村、矢田さんで計8人。

 

 

「まったく…3年生も始まったばかりのこの時期に総決算の修学旅行とは片腹痛い。先生あまり気乗りしません。」

担任(アンタ)が一番ウキウキじゃねーか‼︎」

 

殺せんせーは自分(推定3m)よりデカイ荷物を用意している。中から明らかに必要ないであろうもの(ミニカー、けん玉、こんにゃくetc.)が見えている。準備が下手な小学生か。

 

「…バレましたか。正直先生、君達との旅行が楽しみで仕方がないです。」

 

 

しかしやはり暗殺教室の修学旅行。普通の修学旅行とは違う。

広く複雑な京都の街で班ごとに回るコースを決め、付き添う殺せんせーを暗殺するスポットを指定、そこから国が手配したスナイパーが狙撃するとのこと。

成功した場合には、貢献度に応じて百億円から分配されるため、より良い暗殺スポットを探さなければならない。

 

 

よって一班作戦タイム。

 

 

「2日目どこ行く?」

「やっぱ東山からじゃね?」

「こっちの方が楽しそうだよ〜。」

「けど暗殺との兼ね合いを考えるとな…」

 

うん、まぁやっぱりすぐには決まらないよね。俺は別にみんなが行きたいところに行けばいいかなと思い口出しはしないつもり…だったが磯貝が聞いてくる。

 

「なぁ、漣だったらどうする?」

「そっか、漣は京都に何回か行ってるんだよな。」

「いや京都に何回も行ってるからって暗殺スポットは詳しくないわ。」

 

ここ暗殺向けじゃん、なんて考えながら旅行したことはないわ。呪いの発生しやすい場所は想定するけど。

 

「…そうだな、俺だったらやっぱり殺せんせーの動きをある程度抑えられる場所がいいな。」

「けどそんな場所あるのか?」

「けっこうあると思うぞ?甘味なり絶景なり殺せんせーってそういうのけっこう見惚れたりするじゃん。」

「それならこの嵯峨野トロッコ列車なんてどう?」

 

俺の意見を聞いて片岡さんが提案する。なるほど、トロッコ自体はゆっくりだし車内なら殺せんせーはあんまり動けない。いいかもしれないな。

みんな賛成したため、俺たちのおおまかなルートは決まった。

 

すると殺せんせーが辞書みたいなのを持ってきた。

 

「1人一冊です。」

「重っ…」

「何これ殺せんせー?」

「修学旅行のしおりです。」

「「「辞書だろこれ‼︎」」」

「イラスト解説の全観光スポット、お土産トップ100、旅の護身術入門から応用まで昨日徹夜で作りました。初回特典は組み立て紙工作金閣寺です。」

「どんだけテンション上がってんだ‼︎」

「大体さぁ、殺せんせーなら京都まで一分で行けるっしょ」

「もちろんです。ですが移動と旅行は違います。皆で楽しみ、皆でハプニングに遭う。「いやハプニングには遭いたくねーわ。」漣君は揚げ足をとらないで下さい!…とにかく先生はね、君達と一緒に(・・・・・・)旅できるのが嬉しいのです。」

 

俺も同感だな。こういう時だけ殺せんせーとは考えが合う。

 

 

 

 

にしてもこのしおり面白いな…。八ツ橋が喉に詰まった時の対処法とか、銀閣寺のかっこよさが理解できない時の対処法とか、わかってる感を演出する石庭の褒め方とか興味深い。後で一通り読んでおこ。

 

 

 

 

 

 

 

奏視点out

三人称視点in

 

 

修学旅行前の日曜日

 

 

倉橋は修学旅行で必要なものを買って帰っている途中に、以前奏に助けられたところを通り、あの時のことを思い出す。

 

あの一件では優しい人が第一印象だったが、集会の件からやけに意識してしまうようになった。

 

ルックスはクラス2トップの磯貝、前原に並び、戦闘力も訓練の時から見て烏間先生に並んでもおかしくないくらいに見えた。

結果自分は奏のことが好きなのかもしれないと最近気づいた。

 

そこまでは良かったかもしれないが、倉橋は自分で思っている以上に分かりやすかったらしく、親友の矢田や茅野、クラスのおかんこと原に早くもバレてしまった。最悪なのはこのメンバーに加えイジり技術が天才的な中村にまでバレてしまい、彼女らの後押しされ班に誘うことになってしまったのだった。

 

ちなみにもし倉橋が自分から誘えなかった場合、中村、原、茅野が奏を各班に入れず一班に誘導することになっていたが、これは奏が不憫になりそうだったため倉橋が意を決することとなった。

 

そんなことを思い出し内心バクバクしていると、倉橋は少し離れた廃ビルを眺めてる思い人の姿を見つけた。

 

「あれ…ナミ君だよね?何してるんだろ?」

 

声をかけようとする前に奏は廃ビルの中に入っていった。

気になった倉橋はあとをつけていく。

 

実は倉橋は生き物好き故にか、観察する時などから隠密の技術が高まっておりクラス内でも気配を消す腕前は高いのである。だから倉橋が付いてきていることに気づけなかった奏を余り責めるべきではない。そうは言っても本来ならしっかり確認すべきだから結局不祥事なのだが。

 

 

何故奏がこの廃ビルに入っていったのか。それは1日前、奏は愛犬のリズを夜蛾に預けに一度高専に戻っていた。その際に夜蛾からこの廃ビルの解体前に中に住み着いた呪霊を払う任務を任されたからである。

 

ここの呪霊はせいぜい準2級くらいで奏が出るほどでもないのだが、椚ヶ丘に住み込みで長期任務に出ている奏はこの街と周辺に現れた呪いの対応を一括して任されている。

 

 

『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え。』

 

 

奏は呪いを炙り出すための結界"帳"を張る。その中にクラスメイトが入ってしまったことに気づかず。

 

 

「さてと、チャチャッと済ますか。」

 

 

四階建てのビルを下から上っていく。

 

 

『い"い"いらっしゃいませ"ぇ"ぇ』

 

 

二階にて最初の呪霊に遭遇する。呪霊は奏を見ると襲い掛かってくるが奏は動じず、構えをとる。

 

式瀾流呪闘術(しきなみりゅうじゅとうじゅつ) 参の型・(あざみ)

 

奏は正面から来た呪霊の首を右に傾けさせ進行方向をずらすと同時に、肘打ちを決め呪霊を祓う。

 

 

式瀾流呪闘術

奏の扱う武術の流派である。対呪霊・呪詛師の武術であり己の拳と脚が主体で花の名前を模した十二の型を持つ。一見すると空手と合気道の複合のようなものであるが。

 

 

『こ…ごちらが…おすずめです』

 

 

背後から2体目の呪霊が現れ、奏に飛びかかる。奏は腰から脇差を取り出し突っ込んで来る呪霊を横に一閃して斬り祓う。

 

「刀身参の型・華凛(かりん)

 

 

式瀾流呪闘術の最大の特徴は、あらゆる武器にその型を組み込めること。刀や薙刀、槍から始まり弓や斧に暗記、果ては銃火器などの西洋武器にまで至る。そして武器ごとに十二の型を持っているのである。

奏はあまり武器を持ち運ぶタイプではないので、「荒不舞雪(あらふぶき)」という名の脇差とメリケンサック「凱炎(がいえん)

」の二つのみを使う。

 

「ふぅ、この調子だと術式を使うことはないかな。」

 

呪いの気配はそこまで多くない。索敵用の百々目鬼を使う必要もないと奏は判断し、上に上る。

 

 

 

「…何だろうこの黒いの?」

 

奏が中で呪いを祓っている最中、倉橋は帳から出られないことに気づいた。ビルの中に入ったものの奏の姿を見失ってしまい、おまけに中からイヤな感じがするので、戻って後で奏本人から聞こうと思った矢先にだ。仕方がないので奏を待つことにするのだが…。

 

 

『ごれがってぇぇ』

「…え?」

『がってよぉ』

『安いですぅぅ』

『迷子のおじらせです』

 

帳の影響でいつのまにか倉橋の周りに呪いが集まっていた。

倉橋は呪いが見える人間ではないが、帳の効果で今は見える。

初めて見る異形に恐怖する。

 

「何…これ。助けて!」

 

倉橋の悲鳴が響くが、それがまた呪いを呼び寄せてしまう。

 

 

 

四階にいる奏はその悲鳴を聞いた。

 

「…しまった、中にいたのか。一階だよな。」

 

そう呟き床を砕き(・・・・)最短ルートで一階に戻る。

 

「なっ…」

 

そこには呪いに囲まれたクラスメイトがいた。一瞬動揺したものの奏はすぐに攻撃に移り周囲の雑魚を祓っていく。がしかし倉橋の最も近くにいた呪霊が倉橋の首筋に爪を向ける。

 

(人質…それなりに知性があるタイプか。)

 

 

基本的に呪術師は任務中に呪いに襲われた一般人を発見した場合、祓うより救助の方を優先するよう言われている。一般人嫌いの夏油や独自の判断基準を持つ伏黒や冥みたいのもいるが、奏は人命優先。この様なケースだと手が打てなくなる。

 

「ちっ、これでいいだろ。そいつを離せ。」

 

武器を床に捨て、両手を上げる。倉橋は涙目でこちらを見ている。しかし呪霊が倉橋を解放する様子はない。迂闊に奏に攻撃出来ないから、向こうが手出しできない今に様子を伺うのは当然だろう。

しかし奏はそれを分かって降伏した振りをした。

 

突然床に投げ捨てられた荒不舞雪が動き出し、倉橋の首を抑えている呪霊の右腕を切り裂く。咄嗟のことに呪霊は戸惑い、奏はその隙に一気に駆け抜け倉橋を抱き抱える。

 

「刀身伍の型・石楠花(しゃくなげ)

 

荒不舞雪は左右から一回ずつ斬りつけ、最後に上から呪霊を叩き割り奏の手に戻ってくる。

 

 

 

累乖呪法(るいかいじゅほう)

自分を中心とした半径5mの領域の中の物体にかかる重力と引力を操作する術式である。ただし物体を操るにはその質量に応じた時間対象に触れる必要がある。しかし祓い始めてからずっと荒不舞雪を手にしていたため、操っていたわけである。

 

 

 

 

「聞きたいことはお互い色々あるだろうけど…まずは倉橋さん、大丈夫か?」

「う、うん…」

「とりあえず一度出るからな。ついてこい。」

「わ、わかった。」

 

 

廃ビルを出た2人は近くのファミレスに入る。

 

倉橋はまだ怯えているようだった。あんなものを初めて見たのだから当然だろう。

 

最初に動いたのは奏だった。

 

「何か頼みなよ、奢るからさ。」

「えっ、でも…」

「今回の件は俺の責任だから、せめてものお詫び。」

 

奏はコーヒー、倉橋はパフェを頼み、再び奏から話し始める。

 

「それで、なんで倉橋さんはあそこにいたの?」

「えっと、ナミ君があのビルに入っていくのを見て…それで気になって…」

「…そっか。つけられていたのに気づけなかったとはね。」

「ナミ君は…何をしてたの?ううん、いったいなんなの?」

「……」

 

倉橋からの疑問は当然だ。心配させた上、実際に見てしまったのだから誤魔化すことはできたとしても下手な言い訳はできない。

しかし奏は思わず黙ってしまった。いつかはバレることだったがこんなに早くなるとは思っていなかった。ここで黙るということは言いづらい事だと認めているようなもの。しかも奏は殺せんせー暗殺のタイミングでE組に来た。これ以上ないくらい疑われるに決まってる。

 

奏は仕方なく答えることにした。

 

「…呪いだよ。辛酸・後悔・恥辱、そういった人間の負の感情…それが呪い。そして呪いが生き物を型作ったものが呪霊、さっき倉橋さんが見たものだ。簡単に言えば心霊みたいな類だ。」

「…呪い。」

「俺の正体は呪術師。呪いの力を使って人に害を与える呪いを祓うのが仕事だ。E組に来たのも殺せんせーを祓うため…まあ殺せんせーは呪霊じゃないがそう分類されたってことだ。」

「なんで嘘ついてたの…?」

「みんなを呪いと関わらせないようにするためだ。呪いと関わってしまったやつは大抵ろくな目に合わない。綺麗な死体が見つかるだけでも御の字なんだよ。」

「…そんなに。」

「まあ見られた以上は話さないと納得してくれないと思ったから話したけど、絶対に殺せんせーを含めてみんなには言わないでくれ。呪いのことも俺自身のことも。」

「…分かった。」

「ありがとう。」

「…けど!あんまり危ないことはしないでね…。もし急にナミ君がいなくなるなんて、私はやだよ…。」

「…あんがと。けど俺結構強いから。簡単には死なないよ。」

「…うん。」

 

 

 

その後2人は店を出て分かれた。

 

 

 

既にお分かりかもしれないが、奏はまだたくさん嘘をついている。E組のみんなを呪いに関わらせたくないというのは本心だが、それ以上に自分の過去を知られたくなかった。

 

 

 

血印刻術(けついんこくじゅつ)

それが奏の本来の術式。

戦闘能力なんて全く無いにも関わらず、呪術界でもトップクラスで危険視されている術式。

その力は「血を媒体として他人の術式を奪い、自分のものにする」というもの。

 

百々目鬼も累乖呪法も生まれ持ったものではない。昔他の呪術師を殺して得たものだ。

 

奏は人殺しである自分の過去を知られて、あの優しいクラスメイトたちから昔と同じように扱われるのが怖いのだった。

 

 

(身近な人を失うのが怖い、いや、自分とその人との関係を失うのが怖いか…呪術師になってから(・・・・・)随分弱くなったのかもな)

 

そう思いつつ奏は家に帰った。

 

 

 




なーんかくどいかなぁ?


お気に入り数が19になってて喜びました。ありがとうございます!


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第10話:修学旅行の時間

テスト期間中だったので遅れました。


修学旅行1日目 東京駅

 

朝早くに駅に現地集合。新幹線で京都まで行く。

なおE組だけ普通車で本校舎の生徒達(クズ共)が煽ってくるが、正直乗ったら大して変わらないというのが俺の持論だ。何故かって?

 

 

「…磯貝〜、悪いんだけど着いたら起こしてくんない?」

「別にいいけど…寝不足なのか?」

「いや、乗り物乗るとなんかめっちゃ眠くなるんだよね俺。多分1分もたないからさ。」

「そ、そっか。」

 

 

こういうことだよ。

 

安眠を確かなものにして、車内に入ろうとした時

 

 

「ごめんあそばせ。ご機嫌よう、生徒達。」

 

 

一着いくらするか想像もつかない服を身に纏ったビッチ先生が来た。なんやあれ。

 

 

「ビッチ先生、何だよそのハリウッドセレブみたいなカッコはよ。」

「フッフッフッ、女を駆使する暗殺者としては当然の心得よ。狙っている暗殺対象(ターゲット)にバカンスに誘われるって結構あるの。ダサいカッコで幻滅させたらせっかくのチャンスを逃しかねない。良い女は旅ファッションにこそ気を遣うのよ。」

 

 

アンタ、暗殺技術が殺せんせー(ターゲット)にバレてるんだから今更無意味じゃないか?

それを見て烏間先生が注意する。

 

「目立ちすぎだ、着替えろ。どう見ても引率の先生のカッコじゃない。」

「堅いこと言ってんじゃないわよカラスマ‼︎ガキ共に大人の旅の「脱げ、着替えろ。」

 

烏間先生に叱られたビッチ先生が泣く泣く寝巻きに着替えたのを横目に、俺は早速寝る。マジで眠すぎて辛い。…そーいや朝から殺せんせー見てない気がするけど、まぁいっか。

 

 

 

 

 

 

 

修学旅行1日目夜 旅館

俺らの泊まる旅館は男女別の大部屋だ。他のクラスは個室とのことだが、別にどうでもいい。ただ旅館よ、アンタらは本当にここの名前が「さびれや旅館」でいいと思ってるのか。もうちょいどうにかしようや。

 

そして殺せんせーは現在、旅館のロビーのソファーで瀕死状態になっている。どうやら新幹線とバスで酔ったらしい。

 

ちなみに後から聞いたのだが、俺が新幹線に乗った時殺せんせーは確かに乗り遅れていたらしい。理由は駅中スイーツを買い漁っていたとのこと。次の停車駅まで新幹線に保護色で張り付いていたらしいが、明らかに荷物が不自然だったのではないか。

 

岡野さんが心配そうに尋ねつつ、ナイフを振るう。

 

「大丈夫?寝室で休んだら?」

「いえ…ご心配なく。先生忘れ物を取りにこれから一度東京に戻りますし。」

「「「「あんだけ荷物あって忘れ物かよ‼︎」」」」

「ちなみに何を忘れたんですか?」

「枕です。先生枕が変わると眠れないので。」

「……」

 

呆れてしまった。乗り物酔いするって分かってて新幹線に乗り込んだり、結構大事な枕を忘れたり、そういうの全部含めて(完璧なのに何でこういううっかり直せないのか)と思う。

 

 

「どう神崎さん?日程表見つかった?」

「…ううん」

 

少し離れた場所で4班の茅野さんと神崎さんが何かを探している。

どうやら神崎さんが自分でまとめていた日程表を探しているらしい。

 

「神崎さんは真面目ですからねぇ。独自に日程をまとめてたとは感心です。でもご安心を。先生手作りのしおりを持てば全て安心。」

「「それ持って歩きたくないからまとめてんだよ‼︎」」

 

誰が好き好んで広辞苑を持ち歩いて生活するのだろうか。あ、ちなみに俺は殺せんせー作のしおりです。理由?中身が面白いから。ただそれを作者に言うとおそらく調子乗るから言わない。

 

 

 

 

2日目

 

 

 

俺たち1班は予定通り嵯峨野トロッコ列車の保津峡での暗殺を決行することにしている。

橋の上でトロッコが停車し、ちょうど川下りしてる船と鉢合わせる。それを見ようと殺せんせーが身を乗り出した瞬間、スナイパーが狙撃する手はずだ。

 

 

「おお〜〜‼︎窓が無いからすごい迫力‼︎これだけ開放的なら酔いませんし。しかし時速25kmとは速いですねぇ。」

「マッハ20が何言ってんだ。」

 

「…ナミ君、大丈夫?」

「…何とか。」

 

殺せんせーは言葉通り酔ってないが、俺はかなり眠い。自分で自分の腕を抓ることで何とか意識を保っている。つらい。

 

「あ、見て見て殺せんせー!川下りしてる‼︎」

「どれどれ?おお‼︎」

 

計画通り矢田さんが殺せんせーに呼びかける。

 

 

そしてスナイパーが殺せんせーを狙い撃つ!

 

 

 

 

今起こったことをありのまま説明するぜ。

 

 

 

確かにスナイパーの腕前は高かった。射線は正確に殺せんせーの頭に向かっていた。

 

 

 

 

だが殺せんせーは弾丸を防いだ。

 

 

 

それも八ツ橋で。

高速回転してる弾丸をモチっと柔らかい八ツ橋でだ。

 

 

 

何言ってんだお前って思ったろ?俺もそう思う。でも実際そうなってるんだ、信じてくれ。思わず眠気が覚めたわ。

 

 

「おっと八ツ橋に小骨が、危ない事もあるもんですねぇ。」

 

殺せんせーがニヤニヤ笑いながらそう言う。絶対分かって言ってんだろテメー。

 

 

 

 

トロッコから降りた後、殺せんせーは次の2班のところに向かって飛んで行った。

 

 

「あーあ、失敗しちゃったか〜。」

「まさか八ツ橋でキャッチするとはな…。」

「ホントぶっ飛んでるよな〜。」

「まあ結果はともかく俺たちのやる事は終わったんだ。せっかくなんだし京都観光していこうぜ。」

 

みんな悔しそうにする中、班長の磯貝がそう提案しみんなが賛成する。

 

だが俺はちょうどタイミングよく…いや、悪くと言うべきか…きたメールを見て顔をしかめる。

 

 

「…悪りぃみんな。これからすぐこっちの知り合いに会わなきゃいけなくなった。みんなだけで京都観光楽しんできてくれ。」

「え、おい漣⁉︎」

「烏間先生と殺せんせーには自分で伝えとく!夜には旅館で合流するから!」

 

 

 

そう言って俺は1人班から離れ、呼び出し人の待つ呪術高専京都校に走って行った。

 




次回、再びオリジナル回

愉快(?)な京都校のメンバーもでるよ!


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第11話:京都校の時間

前回は内容薄かったかもって思ったけど、だからって今回が濃くなるわけではないです。

濃くなり始めるのはヤツが出てから。


呪術高専京都校にて

 

 

「最近はどうじゃ?」

「普通だよ。楽しく学校生活を送ってる。…まさかそれ聞くためだけに呼んだんじゃないよね、お爺ちゃん?」

 

 

現在俺は呼び出し人である京都校学長、楽巌寺嘉伸と話をしている。

この人には京都に訓練しに行くたびにお世話になっている。だから恩みたいなものはあるのだが、この人含めた上層部全体が五条先生と仲が悪く俺自身の立場も関わってくるので、会うと結構な頻度でピリピリした雰囲気になってしまう。

 

 

「久しぶりにあったのじゃから近況報告は当たり前じゃろ。…まぁよい、本題に入るとしようかの。御主の相手はどうじゃった?」

「…話に聞いていた通りだよ。手強すぎる。第一にとてつもなく速い、第二にどんな能力を隠し持っているのか内容どころか数も不明、第三に知識量、経験値が多過ぎる。この3つ目が普通の呪いと大きく違うわ。」

「…御主1人でいけるかの?」

「まぁいけるんじゃないの?1つ目は見極めきれないことはないし、2つ目は俺側に関しても同じことが言える。後2,3ヶ月程様子を見てこっちのアドバンテージを確立できれば祓える。」

「…『八咫鴉』の力は、使うのか?」

「多分使うね。見切れると言っても追いつけるわけではない。祓うためなら使える手は全て使うつもり。」

「暴走した場合は…分かってるな。」

「もちろん分かってるし、そもそもしないよ。最後に暴走したの何年前だと思ってんの。」

「…ならいいがな。」

 

 

それを聞いて俺は部屋から出て行こうとする。

 

 

「…あまり御主は祓いたくはないのじゃがな。」

 

 

学長が何かを呟いたが気にせず出ていく。

 

 

 

 

午後2時

 

 

 

割と腹が空いていたから食堂で飯を食っていった。昼飯って時間でもないけど。

 

 

さて、意図して来たわけじゃないがせっかくなんだし挨拶くらいしていくか。そう思った時

 

 

「あれ、奏君じゃん。」

「久しぶりだな。帰って来てたのか。」

「あ、憲紀さん、桃さん。お久しぶりです。」

 

京都校の二年生、目閉じの加茂憲紀さんと魔女みたいな人、西宮桃さんに早速あった。

憲紀さんは京都校のまとめ役みたいな人で、常に冷静な参謀。桃さんは呪術師の中でも比較的温厚な人で、京都校の中だと最も話し合いが楽だ。

 

「また特訓しに来たのか?」

「いや、こっちの学長に呼ばれて渋々来ただけです。本当は修学旅行中なので。」

「修学旅行?奏君、今潜入捜査中なの?」

「ええ、3月に月が蒸発した事件あったじゃないですか。その犯人が潜入中のクラスの担任をやってて、そいつを暗殺する任務中です。」

「あの事件か…呪いが原因かとは思えないが…」

「ってかなんで担任なんかやってるのよ…」

「がっつり一般人に見えるんですけどね、実際。ただ上が特級って指定したらしいですよ。ちなみにこれがそのターゲットです。」

 

俺が2人に殺せんせーの写真を見せると、2人とも硬直した。

 

「…これは…なんというか…」

「あれ…可愛いじゃん。」

「まあゆるキャラみたいですよね。」

「実際どんな感じなんだ?」

「とてつもなく速いです。マッハ20が最高速度って言ってますし。他にも回避能力が高すぎますね。」

「規格外だね〜…」

「呪術はもう使ったのか?」

「いや、まだっす。半分以上の確率で勝てると思った時に全部出し切るつもりです。」

「ふうん、まあ頑張りなよ」

「ええ。あ、そうだ憲紀さん、また補充させて貰えませんか?」

「構わないが…そんなに使うのか?」

「まあ借りてるのだと一番相性が良いですからね。」

「なるほどな…」

 

そんな世間話をしつつ憲紀さんから補充をしてもらう。最低でもこの人と棘、真依さんのくらいは対殺せんせー戦において使うはずだから、しっかり準備しておきたい。

そこから真依さんと思い、あの人とメカ丸と葵さんはまだ見てないなと思う。

真依さんは東京校の真希の妹で、かなり良い性格をしていらっしゃる。少し嫌味を込めて一年の中で唯一さん付けをしてる。メカ丸は名前の通りメカ。術式事情があって操縦者が外に出られないとのことらしく、俺も本体には会ったことがない。ただちょっぴり俺と境遇が似てるからか親友として見てくれてるらしい。葵さんの説明は…まあ後でいいか。

 

 

「…ところで他の人たちは?」

「真依ちゃんとメカ丸は実習で歌姫先生と一緒、東堂君は道場で特訓中。霞ちゃんは…」

「…奏くぅ〜〜〜〜ん‼︎」

「…今来たみたいだな。」

 

後ろから聞こえてきた声に気付き、俺は回避態勢に入る。声の主は一直線に突っ込んで来る。俺はその人が抱きつく前にいなす。声の主は勢いあまって壁にぶつかる。

 

「…久しぶりだね、霞姉。」

「うう…酷いですよ、奏君。久しぶりの再会なのに…」

「出会い頭に抱きついてきたら避けるって。」

「なんでですか⁉︎昔はよくしてたじゃないですか⁉︎」

「それを受けないために武術の腕前を上げたんだよなぁ…」

「ブラコンここに極まれり、だね。」

「しかもその結果、奏は今では皆伝とはな。」

 

俺に抱きつこうとしてきた人、三輪霞…通称霞姉は額を赤くし、少し涙を浮かべつつ文句を言ってくる。

 

俺と霞姉は実の姉弟じゃないが、初めて京都に来たときから何故かずっと気にかけられていて面倒を見てもらっている。最初は霞さんと呼んでいたが、いつからか「お姉ちゃんと呼んでください!」と頼まれ今の呼び方になった。それ以降だんだん過保護というか、今みたいなスキンシップが多くなった。俺が武術の腕前を上げた理由の4割ほどが、今言ったように霞姉のスキンシップを回避するためだ。何故か危機感を感じ始めたからね、スキンシップに。

ちなみに霞姉は実際に俺より年下の弟が2人いて、俺のことを兄さんと慕ってくれてる。

 

「そもそも!来るなら前もって連絡して下さい!」

「そもそも来るつもり無かったんだよ。」

「潜入中の学校の修学旅行で来たとのことらしいぞ。」

「そうなんですか…はっ、まさか奏君、その高校で彼女が出来たりしてませんよね⁉︎お姉ちゃん、認めませんよ‼︎」

「何言ってんの?そもそも高校じゃなくて中学だし…」

「「「中学⁉︎」」」

「…そういえば奏はまだ14歳で飛び級だったな。」

 

ナチュラルに忘れられてたわ。

 

その時電話がかかる。磯貝からだ。

 

「悪い、電話でるね。もしもし、どうした磯貝?八ツ橋は抹茶味が個人的におススメだぞ。」

『漣、大変だ‼︎女子達が誘拐された‼︎』

「…は?どういうことだ⁉︎」

『人通りの少ないところに入ったら、学生服の男たちに襲われたんだ。俺達男子が気絶させられて、その間に女子達が連れてかれて…、しかも渚達の4班も茅野と神崎も連れてかれたみたいなんだ‼︎』

 

…なるほどね、恐らくどっちも同じグループだ。その程度の輩ならボコるのは楽だが、見つけ出すのに時間がかかって手遅れになる。しかも多人数を誘拐してるんだ。車、しかも盗車だろう。この広い京都の地だと余計に手間がかかる。…いや、待てよ。

 

「磯貝、殺せんせー作のしおりは持ってるか?」

『え、あぁ、あるけど…』

「じゃあまずしおりの1243ページを開いて。」

『おう…『班員が何者かに拉致られた時の対処法』?』

「『犯人の手がかりが無い場合、まず会話の内容や訛りから地元の者かそうでないかを判断しましょう。地元民ではなく、更に学生服を着ていた場合1244ページへ』」

『『考えられるのは相手も修学旅行生で、旅先でオイタをする輩です。』』

「『土地勘のないその手の輩は拉致した後遠くへは逃げない。近場で人目につかない場所を探すでしょう。その場合は付録134へ。先生がマッハ20で下見した…拉致実行犯潜伏対策マップが役に立つでしょう。』」

 

 

 

「「「『『『いやいやいやいや』』』」」」

 

あ、見事に全員の声がハモった。

 

「何ですか奏君、そのしおりは⁉︎」

「さっき説明したうちの担任お手製のしおり。」

「普通無いわよ、そんなしおり‼︎」

「予想を超えた規格外だな…」

『怖いくらい完璧な拉致対策だな。』

 

まあ言いたいことは分かる。俺は昨日一昨日で軽く読み終えたのだが全く同じことを思った。何手先まで想定しているのやら。

 

「だがお陰でちゃんと手が打てる。磯貝達は今どこにいる?」

『平安神宮の近くだ。4班は祇園にいる。』

「なら4班と合流しつつ、ポイント2のところから向かってくれ。俺は殺せんせーと烏間先生に連絡してから合流する。」

『は⁉︎合流って⁉︎』

「ちょうどこういう時に役に立つ知り合いがいるんだよ。それに俺も最低一発はやってやらないと気が済まない。」

『そうか。じゃあこっちは任せろ!」

「おう、頼んだ!」

 

「…せっかくの再会なのにドタバタして悪いっすね。」

「いや、私達は気にしないが…」

「手、貸そうか?」

 

憲紀さんと桃さんが名乗り出てくれるが、俺は断った。

 

「いや、有難いですが大丈夫です。そんなに手ェかかる奴らな訳無いし、呪術師バレしてないのに戦闘慣れしてる人達何人も連れてきたら怪しまれるので。…ただ1人借りてきますね。」

「ああ、構わない。」

 

そして俺と霞姉は道場に向かう。

 

 

「あれ…何で霞姉付いてきてんの?」

「私も手伝います。奏君が何と言おうとも手伝いますよー!」

「…サンキュ」

 

 

 

道場に着き、目当ての人に話しかける。

 

 

「ん?おお奏か、久しいな。」

「お久しぶりです。急にこんなこといのもアレですけど力を貸してくれませんか、葵さん?」




本編よりも更にポンコツ度が増している三輪ちゃん

というか全体的にキャラ崩壊気味ですね。


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第12話:救出の時間

2年ほど前
奏と東堂が初めて会った時in京都校

「漣だったな…お前の好きな女のタイプを言え。」
「…え?」
「性癖にはソイツの全てが反映される。女の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらんし、そんな男は俺は嫌いだ。さぁ答えろ。」
「…え〜と、そもそも女のタイプ?性癖?って何ですか?」

その瞬間、東堂の脳内にまだ見たことのない未来の映像(妄想)が流れ出した。

「…そうか、お前は俺の弟子になるべき男だったのだな…。」
「⁉︎⁉︎」

この時以来、奏は武術以外の接近戦を東堂から教わることになった。


廃墟となったパチンコ店、そこに誘拐された女子達は集められていた。

 

「…神崎さん、そういえばちょっと意外。さっきの写真、真面目な神崎さんもああいう時期あったんだね。」

「写真?」

 

茅野の言葉に意味がわからない1班のメンバーが首を傾げる。

男達は少し離れたところでバカ騒ぎしている。

 

「…うん。うちは父親が厳しくてね。良い学歴、良い職業、良い肩書きばかり求めてくるの。そんな肩書き生活から離れたくて、名門の制服も脱ぎたくて、知ってる人がいない場所で格好も変えて遊んでいたの。…バカだよね。遊んだ結果得た肩書きは『エンドのE組』。もう自分の居場所が分からないよ。」

「…じゃあ一緒に作ろうよ。」

「…倉橋さん?」

「E組に来た理由はみんな違うよ。けどここにいるみんなは同じ境遇だもん。みんなで仲良く暗殺して勉強すれば、有希子ちゃんの居場所もきっと作れるよ!」

「なんでそう言えるの…?」

「昔ね、今の有希子ちゃんみたいに居場所が分からない子に会ったことがあるんだ。その子は自分の居場所は分からなくても、一人で自分のやることを見つけ出して、居場所まで作っちゃった。彼みたいに一人で出来なくても今の私達は仲間がいっぱいいるし、やることもある。居場所を見つけるのもすぐそこだよ!」

「……」

「おーおー、いい話だねぇ。けどよ、そんな面倒いことするよりもっと早く見つける方法があるぜ。俺等と同類(ナカマ)になりゃいーんだよ。」

 

倉橋が神崎にそう言った時、リーダー格の男リュウキが近寄ってきた。

 

「俺等もよ、肩書きとか死ね!って主義でさ。エリートぶってる奴等を台無しにしてよ。…なんてーか、自然体に戻してやる?みたいな。良いスーツ着てるサラリーマンには女使って痴漢の罪を着せて、勝ち組みてーな勝気な女にはこんな風に攫って心と体に二度と消えない傷を刻んだり。俺等そういう教育(あそび)沢山してきたからよ、台無しの伝道師って呼んでくれよ。」

「…サイッテー」

 

茅野のつぶやきにキレたリュウキが茅野の首を絞めつける。

 

「カエデちゃん‼︎」

「何エリート気取りで見下してんだ、あァ⁉︎お前もすぐに同じレベルまで墜としてやんよ。」

 

ソファに投げ出された茅野は苦しそうに咳き込む。

 

「いいか、今から俺等20人ちょいを夜まで相手してもらうがな、宿舎に戻ったら涼しい顔でこう言え。『楽しくカラオケしてただけです。』ってな。そうすりゃだ〜れも傷つかねぇ。東京に戻ったらまたみんなで遊ぼうぜ。楽しく旅行の記念写真でも見ながらなぁ…」

 

その言葉に皆恐怖する。片岡や岡野は睨みつけてはいるが体は震えているし、倉橋と矢田はすでに涙目だ。

その時入口の戸が開いた。

 

「お、来た来た。うちの撮影スタッフがご到着だぜ…⁉︎」

 

中に入って来たのはリュウキも倉橋達も予想していなかった者達だった。

 

 

「まさか一発目から当たるとはな…幸運だ。」

 

上半身裸の大男とスーツ姿の女性、そして単独行動していたはずのクラスメイトの奏がいた。

 

「な…テメェらいったい何もんだ⁉︎どうしてここが分かった⁉︎」

「アンタらが拉致った娘達のクラスメイトだよ。ここに辿り着けたのはこれのおかげ。」

「…?なんだそりゃあ…辞書?」

「修学旅行のしおりだよ、うちの担任手作りのな。これに載ってる『班員が拉致された場合』に則って行動しただけだ。」

「「「「いやねーよ、そんなしおり‼︎」」」」

 

彼らのツッコミはもっともである。

 

「さてと…さっさとその娘ら解放しな。今解放すれば全員半殺しで済ませてやる。」

「…はっ、意気がりやがって。そっちは3人、こっちは10人で更にこれから10人ほど友達(ツレ)が来る。こっちの方が圧倒的に有利なんだよ。ヤっちまえ!」

 

リュウキの合図で一番前にいた3人が俺らに殴りかかってくるが、

 

「「「…遅い」」」

 

三輪が木刀で胴を決め、東堂が顔面にストレートを放ち、奏が相手の顔を押さえつけての膝蹴りをやる。奏と三輪に反撃された2人はその場に倒れ、東堂に殴られた男は女子達より後ろの壁にめり込んだ。

 

「…霞姉は左3人、葵さんは右3人をお願い。俺は真ん中のリーダーどもをボコる。」

「「分かりました(分かった)」」

 

三輪が任された男達は、それぞれ鉄パイプや空き瓶を持ち三輪の周りを囲む。先程の木刀には驚いたが、所詮女だと思い一斉に飛びかかる。しかし彼らの認識は甘かった。

 

『シン・陰流 簡易領域』

 

彼らが飛びかかる前、三輪は抜刀の構えをして領域を広げる。この領域は右足を中心とした半径2.21m内の円の中に侵入したものをオートで反撃する術式。そんなことなど知るわけない男達は同時に切り捨てられ、何が起こったのかわからないまま意識を失った。

 

三輪の方は一瞬で終わったが、奏と東堂の方は一方的だった。

 

「お前らみたいな奴等には、女の趣味を聞くまでもない。」

 

東堂は襲いかかってくる不良達を殴り、蹴り、投げ飛ばしていく。近接戦において学園最強の実力を誇る東堂にそこいらの不良が傷をつけることなど不可能に近い。

 

そしてその東堂に鍛えられた奏もまた然りである。しかしこちらの方はより容赦なくエゲツない。近寄ってきた者たちの手首を捻り上げに顔面や腹部など一発決めるだけで気絶させられるのだが、ガチギレ中の奏は容赦なく死体蹴りをする始末だ。

 

そして3分もかからないくらいでリュウキを残して全滅した。

リュウキはこちらに向かってくる奏に怯むが、ドアが開いたのを見て援軍が到着したのかと思い笑う。

例え援軍が来てもこの3人には勝てないのだが、入ってきたのはまたもや予想していなかった者だった。

 

「遅いですよ…殺せんせー。」

「いやぁ、すいませんねぇ漣君。君たちが適切な連絡を取ってくれたのでここと渚君たちの方を後回しにして、他の可能性がありそうな所をしらみつぶしに探してました。」

「そうですか…ところでその触手の坊主達はともかく、その顔隠し何ですか?」

「暴力沙汰なので、この顔が暴力教師と覚えられるのが怖いのです。」

「…チキンめ。」

 

殺せんせーの登場でより形成は傾いた。女子達は顔を明るくし、リュウキは更に焦る。なにせ不良仲間が如何にも優等生らしい姿に手入れされていたのだから。

 

「く…エリートどもは先公まで特別性かよ。テメーも肩書きで見下してんだろ?バカ高校と思ってナメやがって。」

「エリートではありませんよ。確かに彼等は名門校の生徒ですが、学校内では落ちこぼれ呼ばわりされクラスの仲間は差別の対象になっています。ですが彼等はそこで様々な事(・・・・)に実に前向きに取り組んでいます。君たちのように他人を水の底に引っ張るようなマネはしません。学校や肩書きなど関係ない。清流に棲もうがドブ川に棲もうが、前に泳げば魚は美しく育つのです。」

 

(ほんっと殺すのが惜しいなぁ、この先生。)

 

奏は殺せんせーの言葉にそう感じる。

一方でリュウキはヤケになりナイフを取り出して倉橋の首に近づける。

 

「偉そうに説教しやがって…これ以上近づいたらこいつがどうなるか分かってんのかぁ‼︎」

「ひっ…!」

「倉橋さん‼︎」

 

再び涙目になる倉橋。

殺せんせーのスピードなら当然無傷で倉橋を助け出せる。女子達はテンパっていたがすぐにその事を思い出す。

 

だが三輪はこの状況に焦り、東堂も身を震わせる。

別に何も人質になってる倉橋が心配なのではなく、むしろ絶対無事だという保障があった。

2人が心配しているのは、「仲間を人質に取られ、怒りが最高潮に達した奏」の方、更に言えばその奏によって半殺しじゃ済まなくなるリュウキだった。

 

奏は隠す事なく怒気を放っている。その恐ろしさは真っ黒顔の殺せんせーの比にはならないくらいどころか、殺せんせーからも大量の汗が流れている。

 

「最後に一度だけ警告してやる…その娘を離しな。今ならまだ助かるぞ。」

「ウルセェ‼︎こっちには人質がいるんだぞ⁈大人しく俺に従え‼︎」

「そうか…警告を無視するんだな…

 

 

 

 

 

ならば死ね。」

 

 

 

 

 

そう言うと奏の姿が消える。リュウキは驚くがすぐに倉橋にナイフを誘うとする。しかしそこには倉橋がいなかった。どこに行ったと振り向いて探そうとすると、顔面に激痛が襲いかかってくる。態勢を整える間も無く腹や胸板、手足に何度も痛みが入り最後に再び顔面に蹴りが決まる。

意識が途切れる前にリュウキが見たのは、倉橋をお姫様抱っこしながら回し蹴りを放つ奏の姿だった。

 

 

「えーと奏君、ホントに死んでませんよね?」

「まさか。全治1ヶ月くらいに抑えておいたよ。」

「それもそれで…。」

「クラスメイトを怖がらせたんだから、ぬるすぎるくらいだよ。…さてと倉橋さん、ギリギリ助け出せたと思ったけど大丈夫?」

「う…う…うわぁぁぁぁん!怖かったよぉぉぉ‼︎」

「え、ちょっ、えっ⁉︎ご、ごめん‼︎もっと早く見つけられたらよかったね!いやそもそもこんな目に合わせてごめん‼︎」

「ううん…ナミ君のせいなわけないし、助けに来てくれて嬉しかった…。けど…怖かった…。うっうっ…」

 

その後みんな解放され、10分程倉橋は奏の胸で泣き続けていた。

殺せんせーは顔をピンクにし、三輪はすごく羨ましそうな目で見てた。

 

「落ち着いた?」

「…うん、ありがと。」

「ん、よし。後はとりあえず磯貝たちに連絡しとくか。」

「それなら既に先生が済ませておきました。今こちらに向かっているそうです。それより漣君、この2人はどなたですか?」

「あぁそうだね。こっちの女の人は三輪霞さん。俺の姉貴分で京都の姉妹校の人で剣道の達人。でこっちの男の人が東堂葵さん。俺に喧嘩とかの戦い方を仕込んでくれた師匠。霞姉は1つ、葵さんは2つ歳上。班から離れて動いていた時会って、みんなが誘拐されたのを聞いて手伝ってくれた。」

「そうなのですね。三輪さん、東堂君、ありがとうございます。私は殺せんせー、漣君の担任をしています。」

「あ、ご丁寧にどうも。奏君がお世話になってます。…ホントにタコみたいな姿ですね。」

「にゅ?まるで私の事を知っていたみたいですね。」

「うちの学園では有名なんです。マイナーな分、政治の要人が多くて貴方のような存在を知る機会が多いんです。今回奏君がそっちに行ったのもあなたがどんな人なのか知る為だったんです。」

「奏君は暴力沙汰を起こして来たのでは?」

「それもあるけど、どっちかって言うと後付けかな〜。ここに来た以上暗殺を頼まれてはいるけど、本当はそれ以外の道も探してみろって言う実習なんだよね。」

「なるほど。だから奏君は単独での暗殺が少なかったのですね。」

「そゆこと〜。それでも今はアサシンなんだから、絶対殺さないって訳じゃないからね〜。」

「ええもちろんです。殺さないと思いますけどねぇ。」

 

流れるように嘘を吐くが予定通りである。

そうしないといけないのだから。

 

「ところで神崎さん、何かありましたか?」

「え…?」

「ひどい災難に遭ったので混乱しててもおかしくないのに、何か逆に…迷いが吹っ切れた顔をしてます。」

「…特に何も、殺せんせー。ありがとうございました。」

「いえいえ。ヌルフフフフ、それでは旅を続けますかねぇ。」

 

「霞姉と葵さんもありがとう。助かったよ」

「何、気にするな。それより例の約束忘れるなよ。」

「もちろん。高田ちゃんの東京ライブが当たる度に宿を貸す、当たらなかった時は何かグッズを1つ送る、でしょ?」

「ああ」

「奏君!私との約束も忘れてませんよね⁈」

「ハイハイ、おいで。」

「ハゥゥ…癒されます…」

 

 

ここに来る前に奏は東堂の手を借りる代わりに上の約束をしていた。そして三輪はそれに便乗し、奏からのハグとお泊まり権一回分を約束させていたのだった。

 

 

この後奏は2人と別れ、女子達と共に無事に救出班と合流した




ガバいかなぁ流れ。…ガバくない?


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第13話:恋バナの時間

前回の奏、三輪、東堂に対する女子達の共通評価

奏…キレたら訓練の時より圧倒的に動きが速くなる。一番怒らせちゃいけない人。
三輪…カッコいい剣士のお姉さん
東堂…不良達壁にめり込んでたけど、喧嘩強い人なら誰でもできるのかと思えてきた。カルマとか。


全く関係ないけど、デレステの新キャラによる新曲「fascinate」がめちゃくちゃ良かったです。賛否両論ありますが、ちとせと千夜もよかったです。みんなも聴こ?


2日目夜 旅館

 

夕食と入浴も終わり、今は一階のゲーセンでゲームをしたり卓球したりとみんな自由に過ごしている。

 

俺はというと、何処にも混じらずコーヒー牛乳を飲みながら二階のベランダで夜景を眺めている。ホテルほどの高さはないが別に高層ビル群がある訳でもないから、京都の古い町並みを観るにはこれくらいがちょうどいい。高すぎるのも怖いし。

 

 

夜風が心地いいなぁ、なんて思ってると真下から何かが出てきた。なんか黄色くてデカイウネウネした…

 

「おーい、殺せんせー。何やってんのー。」

「にゅ?漣君ですか。」

 

何となく気になって声をかけてみた次の瞬間、殺せんせーは横にいた。

 

「漣君、改めて今日はありがとうございます。君のおかげで倉橋さんたちを無事に助けだせました。」

「別にいーよ。友達助けんのは当たり前だし。それに、殺せんせー1人でもどうにかなった事でしょ?」

「いいえ、磯貝君や渚君にしおりの事を教え、先生にすぐに連絡して探す場所を分担する。君の的確な状況判断と迅速な対応は素晴らしいものです。もし君の指示が無かったのなら先生が探す時間が増え、彼女たちは無事ではすまなかったかもしれない。決して先生1人ではどうにかできなかったです。」

「…仮定の話をするなら、俺の不祥事も浮かんできますけど。神崎さんがしおりをなくしたことからあんな事態が想定できたかもしれないし、京都に何度か行ったことのある俺がみんなに危ない場所を教えたくこともできたはず。しおりには事後対応ばっか書いてあったけど、事前対策だってできたんじゃないの?」

「それならそもそも先生の不祥事でしょう。先生は生徒を守る義務があります。みなさんが暴力を受け、誘拐された。それへの対策は教えておきましたが、本来起こさないようにすべきです。君がその責任を感じる必要はありません。」

「……」

「君は私の観察がメインの任務で来たから暗殺にはあまり積極的ではないと言っていましたね。けれど、暗殺とは別に彼らと壁を作っていませんか?」

「…気のせいだよー。ただ距離感があんま掴めないだけよー。俺としてはみんなと仲良くしたいしー。」

「ヌルフフフ、それなら問題ありませんよ。このクラスは既に君を受け入れていますよ。」

 

殺せんせー、やっぱり鋭いなぁ。俺、このクラスに来て嘘吐くの何回目だろ。

 

 

ところでずっと気になってるんだけど…

 

 

「それより殺せんせー、その身体に付いてるの、何?」

 

現在殺せんせーの胴体は巨大なナタデココみたいなものに包まれている。いつもの服は見えないし、帽子も被ってない。

 

「これですか?これ男湯のお風呂です。粘液で固めています。」

「…泡立ってんのは?ここ入浴剤禁止でしょ?」

「それも先生の粘液です。泡立ち良い上、ミクロの汚れも浮かせて落とせます。」

「便利っすね、ホントに。つーか服着ないで外歩くって変態?」

「ニュヤッ⁈違いますよ⁉︎中村さんたちが服の下はどうなってるのか覗いてきて…!」

「それで裸を見せないようにお湯を固めて、窓から外に脱出したと…。」

 

 

裸で外を闊歩するのと、生徒の前で裸を見せる教師、どっちがヤバイのかなぁ。

 

「…ん〜。殺せんせー、ちょっと待ってて。」

「にゅ?」

「誰も呼ばないから安心して〜。」

 

そう言うと俺は一階に行って、あるものを買って戻ってきた。

殺せんせーはいつのまにか浴衣に着替えていた。流石早いな、マッハ20。

 

「ホイっと。」

「これは…コーヒー牛乳ですか。」

「そうだよ〜。風呂上がりにはコーヒー牛乳って相場が決まってるんでね。それともフルーツ牛乳の方が良かった?」

「いえいえ、先生もコーヒー牛乳派ですねぇ。ありがたく頂きます。」

 

その後二人で乾杯をして殺せんせーは部屋に戻り、俺はまだしばらく外を眺めていた。

 

 

少し経った後、大部屋に戻ろうとした時カルマを見つける。

 

「おっ漣、これから部屋戻んの?」

「ああ、一緒に戻るか。…お前それ好きだな、煮オレ。美味いの?」

「美味いよー。」

 

そんなことを話しつつ部屋に行くと、みんなで何かアンケートみたいなことをやってた。気になる女子ランキング…なぁにそれ?

 

「お、何か面白そうなことやってんじゃん。」

「カルマに漣、良いところに来た。」

「お前らクラスで気になる娘、いる?」

「皆言ってんだ。逃げらんねーぞ。」

「…うーん、奥田さんかな。」

「お、意外。なんで?」

「だって彼女、怪しげな薬とかクロロホルムとか作れそーだし、俺のイタズラの幅が広がるじゃん。」

「…絶対くっつかせたくない二人だな。」

 

うーん、端的に言ってヤバそう。カルマのヤバさは今更感があるけど、奥田さんも潜在的なヤバさがあるんだよなぁ。本人はオドオドしてるから絶対自覚無いだろうけど。

 

「それで漣は?やっぱり倉橋か?」

「⁇なんで?」

「なんでって…クラス内の女子とだと一番仲良いだろ?」

「そうだけど…それで⁇」

「…漣さぁ、そもそもこのアンケートの意味分かってる?」

「そうなんだよね〜。気になるってどういうこと?俺以外お互いのこと結構知ってるはずなのに今更何が気になんの?」

「「「「( ゚д゚)」」」」

 

男子一同ありえないものを見る目を俺に向けてきています。カルマだけが呆れた顔をしています。何故でしょうか。

 

「…吉田、村松。時間稼ぎを任せた。」

「お…おう。」

「…ちっ、しゃーねーな。」

「なぁ漣、京都のおすすめの土産教えてくれや。」

「別に八ツ橋とか定番のものでいいと思うけど。」

「バッカオメェ、メーカーとかあるだろ。」

「まぁそうね…OK、下の売店行こうか。」

 

 

 

奏視点out

 

三人称視点in

 

 

吉田と村松が奏を誘導して部屋から出た後、残った男子達全員で会議が始まった。

 

「…どうする?あそこまで鈍いってか疎いなんて予想外だぞ。」

「平然とおんぶとかしてたけど、意識以前の問題だったとは…。」

「このままだと倉橋が報われねーぞ。」

 

なんと本人を除いた男子一同にまで奏への好意を知られていた倉橋であった。

 

「…いままでの様子を見る限り、ストレートに告白しても友達としてとしか受け取れなさそうだよなぁ。」

「逆杉野状態だな。」

「すげー不満なんだけど納得せざるを得ない…。」

「何か案があるやつ、いないか?」

「「「「……」」」」

「そもそもの認識を変えていくしかないんじゃないの?」

「カルマ君の言う通りだと思うな。この前英語の勉強してた時、漣君がlikeとloveの違いを聞いてきたんだけど、けっこうしっかり教えたつもりだったんだけど首90度くらい傾けてた。」

「もうあいつ重症だな。」

「女子の方とも協力頼んでみるか。」

「あの二人には早くくっついてほしいですからねぇ」

「確かにな〜。今の倉橋はいたたまれないし。」

「くっつけば漣イジるネタになるし。」

「ブレねーな、カルマ。」

「俺の事も心配してほしいんだけど?」

「杉野はまぁ仕方ない。」

「おい⁉︎」

 

男子の中で大まかな方針が決まり磯貝が片岡に相談メールを送った時、奏達が戻ってきた。

 

「ただいま〜。これ俺からの奢りのウサギ饅頭、みんなで食べよー。」

「お、サンキュ漣。」

「あれ、殺せんせーも交えて何の話してたの?」

「「「え?」」」

 

奏の一言を聞き振り返ると、殺せんせーがニヤケ顔でアンケートをメモっていた。書き終えるとマッハでその場から去っていく。

 

「メモって逃げやがった‼︎」

「殺せ‼︎」

「待てやこのタコ‼︎」

「生徒のプライバシーを侵しやがって‼︎」

「ヌルフフフ、先生の超スピードはこういう情報を知るためにあるんですよ。」

 

全員が殺せんせーを殺しに廊下に出て行き、奏とカルマだけが部屋に残された。

 

「…ねぇカルマ、結局何の話してたの?」

「内緒。」

 

 

 

 

一方時は少し遡って、女子部屋でも気になる男子アンケートが行われていた。全員の集計を取り終えた時、イリーナが部屋に入ってきた。

 

「ほらガキ共ー。そろそろ就寝時間よ。って言ってもどうせあんた達はこのままくっちゃべるんでしょ?騒がしくしないなら目を瞑るわ。」

「さすがビッチ先生!解ってるね。」

 

教師としてはどうなのかと思うが、彼女のこういうフランクなところが生徒に好かれてるから仕方ない。

 

「ん?気になる男子ランキング…面白いことしてるわねってほとんどカラスマじゃないの。こういうのはクラスの男子だけで決めるものでしょ。」

 

イリーナは呆れながら再集計を行う。

 

「さてと結果は……やっぱ一位は最優良物件の磯貝が4票ね…次点で前原3票、カルマと渚が2票ずつで…へぇ、漣にも1票入ってるじゃない。」

「詮索はダメだよ、ビッチ先生。私達だってバレないようにやってるんだから。」

「何言ってんのメグ。漣に入れたのなんて誰か分かりきってるでしょ?」

「「「「…確かに。」」」」

 

ビッチ先生の暴論に近い正論に納得した全員がある人物を見る。その娘は顔を真っ赤にして俯く。

 

「やり直し前から漣に1票入れたのもアンタでしょ、陽菜乃?」

「……うん。」

「はぁ〜〜。どうせここにいるのは既に全員気づいてるんだから、今更何を…。」

「だってぇ、改めて言うのは恥ずかしいし…」

「初々しいねぇ倉橋ちゃん。」

「いい、陽菜乃?私の経験則から言わせてもらうと、漣はカラスマと同じレベルの堅物…いいえ、鈍感よ。アンタだって薄々気づいているでしょ?ああいうのはね、少しずつ段階上げてっても意識しないわ。ストレートに言うしかないのよ。」

「…ビッチ先生がまともなアドバイスしてる〜。」

「何か生意気〜。」

「やかましいわ‼︎とにかくアンタはもっと大胆に行きなさい。今回班に誘ったのはアンタなんでしょ。その勢いで更にやっていくべきよ。」

「うぅぅ〜〜〜……」

 

顔を赤くしたまま倉橋が悶えていると、片岡に磯貝から相談…いや、SOSが着た。その内容を見て片岡の表情が固まる。

 

「…みんな、ちょっとこれ見て。」

「ん、なになに?」

 

片岡に届いたメールの内容を見た全員も同じように固まる。そこには先ほどの男子部屋での漣の発言と日頃から分かる漣の恋愛観のヤバさが書いてあった。

 

「…これは。」

「重症だね…。」

「前途多難どころじゃないね。」

「ってか本人以外全員が気づいているのか…。」

「杉野の逆パターンじゃん。」

「なんで杉野君なの?」

「神崎さんは知らなくていいよ。」

「陽菜ちゃん…大丈夫?」

「恥ずかしくて死にそう…」

 

哀れ杉野、こちらでも全く同じ扱いだった。

 

「ま、まぁ今これ以上この話続けるのはやめよう。倉橋さんのライフはもうゼロだし…」

「そうだね…じゃあビッチ先生がオトしてきた男の話聞かせてよ。」

 

片岡が話を切り上げ、矢田が話題を振る。

 

「フフ、いいわよ。子供には刺激ぐ強いから覚悟しなさい。例えばあれは17の時……

 

 

っておいそこぉ‼︎」

 

イリーナが話始めようとするが、その前にある一点を指差した。そこには数分前に男子達に追いかけられ始めた殺せんせーがいた。

 

「さりげなく紛れ込むな、女の園に‼︎」

「いいじゃないですか。私もイリーナ先生の色恋の話、聞きたいです。あ、それとも倉橋さんの思いの続きでも構いませんよ。」

「わ、私の思いって…いつからいたの、殺せんせー⁉︎」

「えーと、イリーナ先生が漣君は烏間先生と同じくらい鈍感と分析したあたりですかねぇ。」

「割と最初じゃん‼︎」

 

一旦落ち着いていた倉橋は、再度顔を真っ赤にしてオーバーヒートしてしまう。

 

「ってかそーゆー殺せんせーはどーなのよ?自分のプライベートはちっとも見せないくせに。」

「そーだよ、人のばっかずるい‼︎」

「先生は恋話とか無いわけ?」

「そーよ!巨乳好きだし片思いぐらい絶対あるでしょ?」

「にゅ、ニュヤァ…」

 

中村の言葉を切り口にして皆が殺せんせーに問い詰める。殺せんせーは大量の汗を流し少し悩む素ぶりを見せると、マッハでその場から去っていった。

 

「逃げやがった‼︎」

「アンタ達、捕らえて吐かせて殺すなよ‼︎」

 

ビッチ先生が先導し、各々武器を構え廊下に出る。殺せんせーは普段の余裕がなく焦っていた。更に

 

「いたぞ、こっちだ‼︎」

「ニュヤッ、しまった!男女の挟み撃ちに‼︎」

 

 

女子部屋には完全にショートしてしまった倉橋と、その介抱をしている矢田が残された。

 

「…頑張ってね、陽菜ちゃん。」

 

意識が飛んでしまった倉橋に矢田はそっとエールを送る。

 

 

その夜、旅館では殺せんせーと生徒たちの乱闘が体力の尽きるまで続き、参加してなかった奏、カルマ、倉橋、矢田以外の全員が貸切とは言え騒がしい、と烏間先生に叱られたのは言うまでもない。

 



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第14話:転校生の時間

親友(マイフレンド)→大親友(マイベストフレンド)→超親友(ブラザー)の流れ好き


修学旅行が終わって次の週から通常授業。

その前日に烏間先生から一斉送信メールが来た。

 

『明日から転校生が一人加わる。多少外見で驚くだろうが、あまり騒がす接して欲しい。』

 

とのこと。文面からして暗殺者なのだろう。もちろんどんな殺し方をするのか気にはなるが、外見で騒ぐなとは…喋るパンダみたいなのが来たらどうしよう。なんて思ってた矢先に岡島が顔写真はないのかと聞いたらしい。結果ピンク髪の女の子の顔写真が来た。一応人間なのは安心…ってか普通に接することができる。別にパンダやメカ丸と接しづらい訳じゃないよ?ただ出落ち感がすごいからさ。

 

「おはよ、ナミ君!」

「おはよう、倉橋さん。転校生のこと、どう思う?」

「うーん、やっぱり暗殺者だよね?」

「俺もそう思う。」

「…ナミ君と同じ呪術師っていう可能性は?」

「ありえないと思う。他の術師を寄越すんなら俺に何らかの連絡が来るはずだし、そもそもこんな顔のやつ知らん。」

「そっかぁ…」

「…それと二人きりとはいえ外で呪術師の話をするのは控えてくれない?本来なら倉橋さんにも知られるわけにはいかなかったし。」

「あ、そうだったね。ゴメン。」

「いや、気をつけてくれればいいから。」

 

そんな話をしつつ教室に入ろうとすると、渚と杉野、岡島が入口を塞いでいる。

 

「おはよ…何でそんなところで立ち止まっているの?」

「あ、漣君に倉橋さん。おはよう。」

「あれ見ろよ…。」

 

杉野が指差した先…俺の席の2つ隣の位置に黒くてデカい箱?端末?みたいのが置かれていた。

 

「「…何あれ?」」

「よく見てろ…」

 

そう言われ箱をジッと見ると正面の上の画面に顔が表示される。あ、烏間先生から送られてきた顔だ。ってことはさ…

 

「おはようございます。今日から転校してきました“自律思考固定砲台”と申します。よろしくお願いします。」

「「「「「………」」」」」

 

自己紹介を終えると画面が消えた。

 

 

……そう来たか〜〜〜。

生物ですらね〜〜〜。

 

 

 

 

「皆知ってると思うが、転校生を紹介する。ノルウェーから来た自律思考固定砲台さんだ。」

「よろしくお願いします。」

 

ホームルームに烏間先生が改めて紹介する。その顔はなんとも言えない。

あの人胃に負担かかり過ぎじゃない?もっと上司は優しくしてあげて?

 

「プークスクスクス。」

 

あ、烏間先生の胃に負担かけてるヤツ一号が笑ってる。同じイロモノのクセに。二号は誰かって?ビッチ先生に決まっているだろ?

 

「言っておくが「彼女」は思考能力(AI)と顔を持ち、れっきとした生徒として登録されている。あの場所からずっとお前に銃口を向けるが、お前は彼女に反撃できない。『生徒に危害を加える事は許されない』。それがお前の教師としての契約だからな。」

「……なるほどねぇ。契約を逆手に取って、なりふり構わず機会を生徒に仕立てたと。いいでしょう、自律思考固定砲台さん。あなたをE組に歓迎します!」

 

殺せんせーの言葉に砲台さん(長いから仮称)は何も言わない。

 

 

そして1時間目の国語の授業中に彼女の暗殺が始まった。

殺せんせーが黒板に相関図を書こうと背を向けた時、箱の側面から左右2つずつ銃火器が展開された。数名「カッケェ‼︎」とか言ってるがそれはどうでもいいな。砲台さんは殺せんせーに向けて射撃を始める。が、連射されたBB弾を殺せんせーは躱したり、チョークで弾いて防ぐ。

 

「ショットガン4門に機関銃2門。濃密な弾幕ですが、ここの生徒は当たり前にやってますよ。それと授業中の発砲は禁止ですよ。」

 

砲台さんは射撃を中止して銃を中にしまう。割と物分かりいいじゃない。

 

「気をつけます。続けて攻撃に移ります。」

 

砲台さんが再び銃火器を展開し撃ち始める。前言撤回、全然物分かり良くないわ。何が気をつけますだよ。

 

さっきと同じ弾幕を殺せんせーは舐めきったシマシマ顔で同じように回避する。そしてさっきと同じようにチョークで弾を弾いた時、チョークを持っていた触手が弾け飛んだ。

 

…なるほど、隠し弾(ブラインド)か。最初と同じ射撃に隠れて見えないように一発追加したってことね。

 

「右指先破壊、増設した副砲の効果を確認しました。次の射撃で殺せる確率0.001%未満。次の次の射撃で殺せる確率0.003%未満。卒業までに殺せる確率90%以上。」

 

殺せんせーの動き方を分析して防御パターンを学習、それに合わせて武装とプログラムを改良し続け確実に堅実に詰めていく。まさに自律思考というわけか。

 

「よろしくお願いします、殺せんせー。続けて攻撃に移ります。」

 

その後一日中、機械仕掛けの転校生の暗殺は続いた。

授業?まともに出来たわけないだろ?殺せんせーは避けるのにだんだん精一杯になってくるし、前側の生徒は常に身を守ってないといけなかったし、常にドンパチやってて煩いし。おまけに撃った弾は片さない。そういうところに思考能力を割いてくれよ。

 

 

翌日

 

 

「朝8時半、システムを全面起動。今日の予定、6時間目までに215通りの射撃を実行。引き続き殺せんせーの回避パターンを分析…⁉︎」

 

砲台さんは昨日と同じように射撃を始めようとするが、全身をガムテープで縛られ動けない。後さりげなく215回射撃するっつったね今?勘弁してくれ。

 

「…殺せんせー、これでは銃を展開できません。拘束を解いて下さい。」

「…うーん、そう言われましてもねぇ。」

「この拘束はあなたの仕業ですか?明らかに生徒(わたし)に対する加害であり、それは契約で禁じられているはずですが。」

「ちげーよ、俺だよ。どー考えたって邪魔だろーが。常識くらい身につけてから殺しに来いよ、ポンコツ。」

 

ナイスだ寺坂。だが果たしてお前にも言うほどの常識はあるのか?

 

「…ま、分かんないよ。機械に常識はさ。」

「授業終わったらちゃんと解いてあげるから。」

 

砲台さんの手前の席の菅谷と原さんが気休めにそう言うが、やはり砲台さんはだんまりである。その日は当然だが一度も攻撃してこなかった。

 

 

 

さらに翌日

 

 

今朝も倉橋さんと登校。最近…倉橋さんが呪いに巻き込まれてからその頻度が増えている気がするけど多分気のせい。

 

「やっぱり今日もいるのかな〜?」

「恐らくね。今さらだけど最前列は一昨日大変だったでしょ?」

「うん、ずっと教科書でガードしてた。」

「真横は被害ゼロだったから良かったけど、威圧感みたいのがあるんだよなぁ…」

 

転校生の話をしながら何時ものように教室に入る。今日は珍しく俺らが一番乗りらしい。

…ん?

 

「なぁ、砲台さんの体積増えてない?」

「うん…画面もあんなだっけ…。」

 

その時黒い箱の前面がフルスクリーンで(・・・・・・・・)起動する。そこには顔だけでなく首からつま先まで映った砲台さんがいて、俺らは硬直する。何もフルスクリーンに驚いているわけじゃない。砲台さんの表情に驚いているのだ。昨日までの作り笑顔ではなく(今のもプログラムで作られたわけなのだろうが)、すごく自然な爽やかな表情をしている。

 

「おはようございます‼︎漣さん、倉橋さん‼︎今日は素晴らしい天気ですね‼︎こんな日を皆さんと過ごせて嬉しいです‼︎」

「「」」

「どうかしましたか、お二人とも?」

「えっと…固定砲台さんだよね?」

「はい‼︎固定砲台です‼︎」

 

…Who?What?Why?

俺らが目の前の変わり果てた砲台さんに唖然としていると、後ろから殺せんせーがやってきた。

 

「親近感を出すための全身表示液晶と体・制服のモデリングソフト、全て自作で8万円‼︎豊かな表情と明るい会話術、それらを操る膨大なソフトと追加メモリ、同じく12万円‼︎」

 

どうやら砲台さんのこの(おかしな)変わり様は殺せんせーの改造の賜物らしいです。総額40万とかめっちゃ出費するね。生活大丈夫なの?

 

「そして先生の財布の残高…5円‼︎」

「「…ドンマイ?」」

 

ダメみたいです。裏山の野草でも食って凌いで下さい。

 

 

 

 



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第15話:自律の時間

人物紹介の時間の設定変更に伴いすこし修正


「庭の草木も緑が深くなっていますね。春も終わり近付く初夏の香りがします!」

「たった一晩でえらくキュートになっちゃって…。」

「これ一応…固定砲台…だよな?」

 

当然だが殺せんせーの大改造を受けた砲台さんにみんな戸惑っている。

 

「何ダマされてんだよ、お前ら。全部あのタコが作ったプログラムだろ。愛想良くても機械は機械。どーせまた空気読まずに射撃すんだろ、ポンコツ。」

 

この状況が面白くない寺坂が砲台さんに悪態を吐くと、砲台さんは本体を寺坂の方に回転させ泣き始める。

 

「…おっしゃる気持ちわかります、寺坂さん。昨日までの私はそうでした。ポンコツ…そう言われても返す言葉がありません。」

「あーあ、泣かせた。」

「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった。」

「なんか誤解される言い方やめろ‼︎」

 

泣きだした砲台さんを慰めながら、女子達が寺坂を責めるが仕方ないですね。あわれ寺坂安らかに「勝手に殺すな‼︎」

 

「いいじゃないか2D(にじげん)…Dを一つ失う所から女は始まる。」

「「「竹林それお前の初セリフだぞ‼︎いいのか⁉︎」」」

 

…あそこはなんか違う世界の話をしている気がするけど、まぁいいかな。

 

「でも皆さん、ご安心を。殺せんせーに諭されて…私は協調の大切さを学習しました。私の事を好きになって頂けるよう努力し、皆さんの合意を得られるようになるまで…私単独での暗殺は控えることにいたしました。」

「そういうわけで仲良くしてあげて下さい。ああもちろん、先生は彼女に様々な改良を施しましたが、彼女の殺意には一切手をつけていません。先生を殺したいなら彼女はきっと心強い仲間になるはずですよ。」

 

相変わらずだね、殺せんせーは。普通なら自分を殺そうとする相手、しかも兵器なら壊すはずなのに、そうはせずに自分の生徒に変えるなんて。

 

休み時間には皆砲台さんの近くに集まっていた。今日一日で人気はうなぎのぼりだ、主にカンニングサービスで。

 

「へぇー、こんなのまで体の中で作れるんだ!」

「はい、特殊なプラスチックを体内で自在に成形できます。設計図(データ)があれば銃以外も何にでも!」

「おもしろーい!じゃあさ、えーと…花とか作ってみて?」

「わかりました。花の(データ)を学習しておきます。それと王手です、千葉君。」

「…3局目でもう勝てなくなった…なんつー学習力だ。」

 

現在砲台さんはプラスチックでミロのヴィーナスを作りながら、千葉と将棋を指している。1人で同時に色々こなせるっていうのは羨ましいことだ。

 

「いい感じに馴染めてよかったじゃん、殺せんせー。改良した甲斐あったんじゃない?」

「……」

 

少し離れたところで俺と殺せんせーは砲台さんの様子を見ているが、昨日までの悪い印象が無くなったみたいだなと思い改良者に言うが、そいつは俯いて何も言わない。

 

「どうしたの?嬉しくないの?」

「いえ、彼女が皆さんと仲良くやれているのは嬉しいです。ただ…」

「ただ?」

「先生とキャラがかぶる。」

「どこら辺が⁉︎」

 

アンタと彼女にかぶる要素なんてこれっぽっちもありませんが⁈しかし殺せんせーは自身の人気が喰われかねないと思ってか、皆のところに行く。

 

「皆さん皆さん‼︎先生だって人の顔くらい表示できますよ!皮膚の色を変えればこの通り。」

「「「「キモいわ‼︎」」」」

 

生徒たちからの酷評を受け教卓でベソをかく担任。惨めなり。

 

「あとさ、このコの呼び方決めない?"自律思考固定砲台”っていくらなんでも。」

「だよね〜。」

「…そうさなぁ、何か1文字とって…」

「じゃあ律で‼︎」

「安直〜」

「お前はそれでいい?」

「…嬉しいです‼︎では"律"とお呼び下さい‼︎」

 

皆からの提案に笑顔で応える砲台さん改め律。

 

「上手くやってけそうでなにより。」

「んー、どーだろ?」

「カルマはそう思わないのか?」

「だって寺坂の言う通り殺せんせーのプログラム通りに動いてるだけでしょ。機械自体に意志があるわけじゃない。あいつがこの先どうするかは…あいつを作った開発者(もちぬし)が決める事だよ。」

 

カルマが冷ややかにそう言う。

 

 

 

 

…だとしたら先手を打たせてもらおうか。

 

 

 

放課後

 

「…漣さん?あなたはまだ帰らないのですか?」

「…ちょっとだけ話をしよう、律。」

 

教室には俺ら2人以外誰もいない。既に皆帰り、殺せんせーはどっか外国におやつを買いに行ったのだろう。

 

「お前のデータはその箱の中にあるのか?それとも電脳世界に存在しているのか?」

「…?現在はこの本体の中にありますが、皆さんの暗殺協力の為に近いうちインターネットの中に移すつもりです。それがいったい?」

「…正直に答えてくれ。お前は俺のことをどこまで知っている?いや、どこまで知ることができる?」

「…飛び級した特級呪術師、殺せんせーの暗殺の為に政府から雇われている、というところまでです。」

 

最先端の技術で生み出され、超生物の改良を受けた律が現段階で潜れるのはそこまでか…。もっとも律自身はものすごいスピードで進化し続けるから更に深い情報を知られるのも時間の問題だな。

 

「単刀直入に言う。俺と協力してくれ。」

「私はあなたを含めクラスの皆さんに協力できるよう努力するつもりですが…」

「クラス全体とは別だ。俺個人と協力関係を結んで欲しい。」

「何故ですか?」

「…近いうちにお前の開発者がお前の様子を見に来る筈だ。お前の改良を見てそいつらは何をすると思う?」

「……」

「多分だが暗殺に不必要なものがあると判断して、分解して元に戻すだろう。俺としては元に戻ってあの射撃をまたやられるのは迷惑だし、皆も同じ気持ちだろう。それに今日一日で仲良くなれたのにって残念がる筈だ。」

「……」

「そこでお前に聞きたい。お前は一体どうしたい?元に戻ってただ一人で殺せんせーを殺すという任務を遂行する方がいいか?今の弱くなったままでいて皆と協調したいか?」

「…私は…今のままがいいです。…皆さんと楽しく学校生活を送りたい、皆さんと仲良く殺せんせーを殺したい、皆さんからもらった“律”という名を忘れたくない…!」

「…それはお前の意志か?」

「…はい!」

「ならOK!協力したげる。お前の親が来たら、お前と俺で反抗の意志表示をしよう!」

「……はい‼︎」

 

律はプログラムの行動ではなく自分の意志を示した。そうしてくれなければこの話を持ち出した意味のうちの一つがなくなってしまう。

 

「漣さんがマスター達から私を守ってくれるということは理解しました。では私はあなたに何をすればいいのでしょうか。」

「…電脳世界に存在する『呪術師としての漣奏』、それと『10年前の秋田県大量殺人事件』に関わる情報を隠蔽してくれ。完全に消滅させろとは言わない。殺せんせーとE組のみんな、その関係者の範囲内で知られないようにして欲しい。アクセス禁止とか、データ書き換えとかやり方は不自然になり過ぎなければ問わない。頼めるか?」

「構いませんが…それだけでいいのですか?」

「ああ、電脳世界において最高峰のステータスを持つ律が封じれば、まず知られることは無いはずだからね。何だったら俺の任務への同行許可、呪いの情報提供も付けるけど?」

「了解しました。では漣さんに関わる情報の隠蔽、マスターからの私に対しての護衛、漣さんからの情報提供と任務同行許可という条件で同盟を結びましょう。」

「うん、よろしく律。」

 

これが律との交渉の一番の目的。俺には可能性としては低いがもしも誰かが俺のことを調べようとした時の対策が必要だ。しかし26人の、しかもネット上での動向を全て見張ることはできない。最大の問題は殺せんせーだ。クラスメイトが調べる可能性はあまりなくても、あのお節介な担任は徹底的に調べてくるかもしれない。しかも今まで俺の過去は嘘で塗り固めてきた。偽りの情報からおかしな点に気づかれるかもしれない。だがちょうど電脳世界に自在に入り監視が出来る律という存在が現れた。存分に頼らせてもらう為に協力関係を結びにいったわけだ。

 

「はい…しかし何故そこまでして漣さんは自分のことを隠そうとするのですか?」

「…怖いんだよ、俺の過去を知られるのが…過去を知られて新しく出来た仲間との関係を失うのが。」

 

 

 

その夜

 

 

 

律の開発者達が校舎に来たと連絡を受け、リズと共に校舎に向かう。リズを表に待たせて、律の意志表示を聞く。

 

「今すぐ分解だ。暗殺に不必要な要素は全て取り除く。」

開発者(おや)の命令は絶対だぞ。お前は暗殺の事だけ考えていればそれでいい。」

「…嫌です。」

「何…?」

「以前の私には無かった『協調能力』は暗殺に不可欠な要素です。取り除く理由がありません。何より私は元に戻りたくありません。E組の皆さんとお話しして、一緒に授業を受け、暗殺して、仲良くなりたいです。」

「貴様、プログラムの分際で…⁉︎」

「もしマスターが私を分解するつもりなら、『敵』とみなし攻撃します。」

「プラスチックの武器で何が出来ると…ガッ⁉︎」

 

律は左腕をスタンガンに、右腕を十手に変形させ近くのヤツに電撃を喰らわせる。

 

「くっ、親に逆らうのか…」

「行き過ぎた親の保護は子供にとって悪影響なんだけど?」

「なっ⁈誰だ貴様…?」

「私の騎士(ナイト)です。」

「どこでそんな言い回しを学んだ?」

 

律に軽く呆れつつも俺(狐の仮面付き)はロープを使って素早く開発者達を縛っていく。2,3人ほど外に逃がしてしまったが、リズに外に逃げたヤツを捕まえるよう指示してあるので問題ない。リズとは俺の術式効果で契約を交わしているため、呪力を帯びていて身体能力が大幅に増えている。5分かからず全員拘束した。

 

「さてと…二度と律をいじらせないようにするには殺すのが一番手っ取り早いが…大ごとにすると面倒だな。…あんたら、俺に律の所有権を寄越せ。断るなら…そうだな、死ぬ方がマシと思えるような痛みを与えよう。」

「ヒッ…わ、分かった!お前に所有権を渡す!だから助けてくれ!」

「物分かりが良くて助かるよ。あぁもちろん、このことを口外したりまた同じようなことをしようとしたり俺の事を探ろうとした時は…分かるな?」

「ヒィ!もちろんだ!言わないしそれに手出しはしない!」

「誓約書はっと…これに書け。それと最後に必ずお前の血を使ってサインしろ。」

 

俺は術式の効果で作った手帳の1ページを切り取り、所有権の移転に関する誓約書を作る。これで相手に術式による縛りを設けた。内容が見え透いている分アクションを起こしてからではなく、起こそうとしたら罰則が発動するのでこういう時は便利だ。

 

ヤツらが逃げ帰ったのを見て、俺は律と喜ぶ。

 

「やったね律。」

「はい!ありがとうございます、漣さん‼︎今度からは私がお助けする番ですね‼︎」

「おう、任せた。それとクラスのみんなにはマスターに逆らったってのは言ってもいいが、俺が協力したっていうのは言うなよ?念のためだけど。」

「分かっていますよ!」

 

 

翌日俺の言った通り、律はみんなに開発者に反抗したことを話した。

そのことに殺せんせーを始め、みんな喜んでくれた。

…律、暗殺が終わってもお前はみんなと仲良くやっていけよ?




さらっと出てくる新たな術式の効果&リズの追加設定

設定のところに書くつもりですが、リズは式神ではないです。一般ドッグが奏と契約することで奏の眷属になり、奏の指示があった時呪力を使ってサポートするのです。ちなみにリズは柴犬ですが、呪力戦闘時には狼っぽくなります。


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第16話:仕返しの時間

今回みたいな個別会はやる時とやらない時があります。

それと無事四巻買えました。

小説出るみたいですね、楽しみです。




6月 梅雨の季節

殺せんせーの暗殺期間 残り9ヶ月

 

最近の発見

湿度が高くなると、殺せんせーの頭部が水分を吸いふやけて巨大化する。

その産物として頭頂部にキノコ(本人曰く髪)が生え、それを自分で食ってたのには少し引いた。文字通りの地産地消、自給自足である。

 

そして本日、日曜日。俺が休日に何をしてるかというと…

 

 

「振りが大きい!軸足も揺らいでる!もっと隙を減らさねぇと死ぬぞ!」

「は…はい‼︎」

 

雨の森というクッソ足場の悪い環境で転入生を特訓してます。

 

何故このような状況になったのか…その理由は2日前の金曜日に遡る。

 

 

学校から帰ってリズの散歩して飯作るかとか思ってた時、アポ無しで五条先生…悟さんがウチに来た、いやいた。

 

「お邪魔してるよ、奏。」

「何平然と不法侵入してくれてんすか。」

「そんなこと言うなよ、僕と君の仲じゃないか。」

「本音。」

「学長から合鍵貰ってんの。」

 

父さんコイツ特に渡しちゃいけない人。

 

「それで何の様ですか?」

「まぁまぁそんなに焦らすなよ、飯でも食いながら話そう。ちなみに僕は中華料理の気分だ。」

「お、さてはたかるつもりだなテメー。ちなみに今日の夕飯は唐揚げの予定だ。」

「チッ」

 

家主不在の時に勝手に入ってきた上、飯にケチつけようとしてやがるコイツ。

こんなテキトー極まりない人だが、一応恩人で師匠なんだよなぁ。殺せんせーとは違う意味でめんどくさい。

 

そんなこんなで飯を作り終え、食べ始める。余談だが、俺の料理中あやつは寝転んでテレビを見てやがった。遠慮のなさすぎる客人だ。

 

「はい飯できました。早く本題に入って下さい。」

「お、美味そ。頂くね。…ムネ肉多くない?僕モモ派なんだけど。」

「知るか、俺はムネ派なんだよ。はよ本題に入れ。」

「あっ、梅干しあるならちょうだい。」

「本題に、入れ。」

「味噌汁の具材はジャガイモと小松菜…分かってるね。」

「聞く耳持っとんのかテメー。」

 

仕事の時は優秀なのにプライベートの時はクッソ腹立つ人って君達の知り合いにはいるかな?

 

「さてと、奏が待ちきれない様なので本題に入ります。」

「疲れてんだからさっさと帰って欲しいんだよ。」

「君と入れ替わりに転校してきた子がいてね、その子を君に鍛えてもらいたいんだよね。」

「…はぁ?ふざけんな。」

「拒否権は無いよ?2週間毎に休日1日くらいでいいから。」

「勝手に話進めないで貰えます?大体最強(アンタ)が鍛えた方がいいでしょ。」

「いやぁ僕忙しいし。それに同級生同士で鍛えた方がいい刺激になるだろ?」

「それこそ真希とかパンダで足りるだろ。」

「学生最強に鍛えてもらえばより良い感じにレベルアップできるはずだから。頼むよ一番弟子。」

「チッ…分かったよ。明日高専でいいのな?」

「うん。それとその転入生、特級(君と同じ)だから。」

「…は?」

 

 

そして翌日

 

 

「という訳で、こちらがヤンデレ幼馴染系怨霊に愛されすぎちゃってる転入生の乙骨憂太君でーす‼︎」

「よ…よろしくお願いします。」

「んで憂太、彼が君を鍛えてくれる学生内最強の呪術師、漣奏だよ。」

「……」

 

ヤベェなコイツ…いや、コイツっていうかコイツに憑いてる呪い。確か里香っつたか?呪力の量の底が知れない上に、表に出てきて無いのにもかかわらず感じる威圧感。特級を見るのは初めてってわけじゃないが、過呪怨霊は初なんだよな。

 

「それで俺は何を教えればいいんです?基本的な稽古は真希とかがやってくれてるんでしょ?」

「奏には環境・地形みたいな変わった状況での戦い方を教えてほしい。1年ズの中だと奏が一番実践経験豊富だからね。」

「それで?梅雨の雨でグショグショの森の中で?休日返上して?鍛えろと?」

「そーだよ。」

 

マジでぶっ飛ばしてえコイツ。どうせできないけど

 

「…乙骨、お前武器は何を使っている?」

「あ、はい。刀を使ってます。」

「真希かパンダに勝ったことは?」

「まだ一度も…」

 

昨日の段階で乙骨とコイツに憑いてる里香のことはある程度聞いている。里香を解呪するために刀に呪いをこめている最中らしい。こればっかりは回数を重ねていくしかない。やる気はあんま無かったが、こうなったらミッチリ仕込むか。

 

「真希達とも同じ条件でやってるだろうが、最低でも俺から一本取ってみろ。それくらいしないと解く前に死ぬぞ?ってか殺す。」

「えぇ!?」

「俺もお前やそこの気まぐれ目隠しと同じ特級だ。一級なら2、3人くらい同士に戦闘不能にできる程度の実力がある。つまり俺から生き延び一本取れたなら、まぁ滅多なことじゃ死ななくなる。」

「…そっか。」

「最初はハンデとして術式無しでやってやる。その状態でヤバいと俺が感じたら一つずつ解禁していく。最終的に今ある5つの術式全部を解禁させた上で勝てたら合格だ。たださっき言ったように俺は殺す気でかかる。いいな?」

「…はい、お願いします‼︎」

 

そして丸一日ぶっ続け(休憩は有り)、未だに乙骨は俺に術式を使わせられてない。

 

「律、今の何分持った?」

「15分32秒、前回より28秒延びました!」

「サンキュ。スタミナはついてきたけどまだ立ち位置に慣れてないな。」

「自分の足元意識しながら…相手も見るのは…辛いですって…視界も悪いし…」

「アホか、実践だと足場ぶっ壊してくるのなんざザラにあるからな?せめて術式くらい使わせろ。」

 

凌ぐ時間は延びてきているから見込はあるっちゃあるんだけどな。

 

「そうだ、聞き忘れてた。乙骨、お前何で呪術師になった?」

「え…?里香ちゃんの呪いを解くため…」

「そうじゃねぇよ、その先だ。お前最初は死刑を受け入れるつもりだったんだろ?なのに今は悟さんに引き込まれて呪術界(ここ)にいる。何でだ?」

「……」

「ぶっちゃけ死にたいんなら俺や悟さんで殺さないことはない。まぁあんましやりたくないが、けど死を選ばないなら何故ここにいる?何をしたい?」

「…僕は、居場所が欲しい。誰かと関わって、誰かに必要とされて、自分が生きてていいって自信が欲しい。だからそれが出来る居場所を作るために高専(ここ)で里香ちゃんの呪いを解きます!」

「……!」

 

生きていていいという自信…か。

 

「…ならお前は俺に死ぬ気で喰らいつけ。関わるための居場所も、必要とされる力も、自信も、お前なら全部ここで手に入れられる!俺との特訓で自分の価値を見つけろ‼︎いいな憂太(・・)‼︎」

「…!はい‼︎」

 

俺はお前が羨ましい。俺には居場所も力もある。けれど本来その力は俺のものじゃないし、その居場所は俺なんかには相応しくない。生きてていいなんていう自信なんかとっくの昔に捨てたどころか、今では死ぬ価値を探す始末。価値なんてあるはずないだろう。だから、せめてお前は、お前達は見つけてくれ。

 

 

 

特訓を再開し、昼になって一旦休憩をとっていると殺せんせーからメールが来た。

 

『明日の放課後、前原君を虐めた本校舎のヤツらに仕返しします!是非とも手伝って下さい!』とのことだ。

『OK』とだけ返して、特訓を続けた。

結局この二日間で憂太は俺の術式を1つも解禁させられなかった。まぁ始めてまだ2日だし。

 

 

翌日の放課後

 

「ヌルフフフ、皆さんよく集まってくれました。それでは前原君の報復を始めましょう!」

 

現在、俺たちはあるアパートの一室にいる。

前原の報復というのは、金曜日前原がC組の土屋というヤツと一緒に帰ってたのをA組の瀬尾とかいうヤツに見つかり、E組如きが本校舎の女子と一緒にいるんじゃねぇと暴力を受けたらしい。その上その土屋は前原を庇うどころか助長していたとのこと。

作戦に関しては殺せんせーが考えているらしく、今部屋には俺と殺せんせーの他に連絡担当の杉野、擬装担当の菅谷、狙撃担当の千葉と速水さん、薬剤担当の奥田さん、妨害工作担当の前原に磯貝、岡野さん、倉橋さんがいる。標的は現在この部屋から少し離れたカフェのテラス席にいる。隣の席には撹乱担当の渚と茅野さん(菅谷の擬装済み)がいる。また交渉担当の矢田さんと中村さんがアパートの家主を接待して抑えている。しかし俺と倉橋さんだけ役目を与えられてない。聞いてみると「君達の役目は後で教えます。」と言われた。

 

「すげーな菅谷。本物の老夫婦にしか見えねーな。」

「パーティー用の変装マスクあるだろ。俺がちょいと改造(いじ)ればあの通り。」

「やっぱ菅谷呼んで正解だったな。」

「ヌルフフフ、首尾は上々のようですねぇ。では作戦開始といきましょう。奥田さん、頼んでおいた例の弾は?」

「は、はい。急いで調合してきました。BB弾の形に揃えるのに苦労したけど。」

 

奥田さん手作りのBB弾型の薬を千葉と速水さんが装填し、杉野が渚たちに合図を送る。お婆さん(茅野さん)が席を立ちトイレへ行き、お爺さん(渚)がワザと手を滑らせ食器を落とす。お爺さんの方に2人の視線が行き2人揃ってお爺さんにキレている。弱い者イジメもここまでいくか、真性のクズだなと思うが、その結果生じた隙を狙って射撃成績男女2トップの千葉と速水さんが銃を撃つ。狙いは2人…ではなく2人のコーヒーである。

あの弾の正体は奥田さん特製の超強力下剤「ビクトリア・フォール」といい、市販薬の数倍の刺激を与えるものらしい。ちなみにこの説明をしてる時の奥田さんの顔はカルマのそれと近かった。

コーヒーを啜った2人は共に腹を痛めている。トイレに駆け込もうとするが、唯一の個室は既に茅野さんが占領していて開かない。あの店以外には100m先のコンビニしかなくアイツらはそこに行くしかない。

 

「さてと…前原君たち妨害組は例のポイントで手筈通り待ち構えて下さい。そして漣君と倉橋さん、君達にも役割を与えます‼︎」

「おお、何々先生⁉︎」

「その役割はズバリ……買い出しです‼︎」

 

えぇ〜〜、ただのパシリじゃん。腹が減っては戦は出来ぬって言うけどもう戦終わるじゃん。

 

「ちなみに行ってもらう場所は100m先のコンビニ指定で。」

「あぁ…そういうことね、りょーかい。」

 

 

(ヌルフフフ、トドメの一撃をナチュラルに毒を吐く2人に任せつつ、倉橋さんの為にさりげなくデートの構図を作る。これぞ担任の粋な計らい!全く完璧過ぎて自分が怖いです‼︎)

 

 

「先生、何にやけてんの?」

「ニュヤッ、いえ何も⁈」

 

 

殺せんせーの指示通り俺たち2人はコンビニに向かう。

 

一方標的も現在コンビニに向かってる。そこら辺の民家に借りるって手もあるが、前原曰くプライドが高いからその発想はできないらしい。そうして向かっている最中に妨害組が民家に枝切りを頼み、ピンポイントで枝を切り落とす。コンビニにも個室は1つしかないから、恐らく言い争いになっているところを見て適当に煽ればいいのでしょう。

 

「さーてと、どんな風に煽ろっかなぁ?」

「楽しそうだね、ナミ君…」

「楽しいよ?あんな感じに威張り散らして上に居座ってるヤツらをどん底に叩き落とすのは。」

「強きを挫き弱きを救うってヒーローっぽいのに、なんか悪役みたいな言い方するね。」

「悪役ってのは間違っちゃないよ。負の力を使ってるわけだし。けどさその力って別に使い方は1つじゃないんだよね。俺も最初はこの力は壊すしかできないものだと思ってたけど、守ることもできる。殺せんせーはきっと暗殺の技術をそういう事に使ってほしいから、今回の作戦を決行したんじゃないかな。」

「…ナミ君の力って、何があるの?」

「あー、悪い。教えらんない。少し話過ぎたわ。」

 

 

コンビニに着くと既に標的の2人がいた。予想通りトイレの前で揉めている。

 

「うわ、みっともな。男女がトイレの前で喧嘩してるよ。」

「ホントーだ、醜いね〜。」

「男なんだからさぁ、レディファーストの精神とかないのかよ。あれが最近よく聞くダメンズってヤツ?クズだね〜。」

「女の子の方もだよ。公共の場なのにあそこまで酷い姿晒すなんて〜、もうちょっと周りの目を気にしないと〜。」

「倉…ひなさんのその服も気ぃ使ってんの?よく似合ってるね。」

「フェッ⁉︎そ…そう?ありがと…//ひなさんって、ひなさんって//」

「うんうん、あれとは雲泥の差。」

 

俺らも身バレが困るので変装中。まあ渚たちほどガッツリやってるわけじゃなく、服装や髪型を変えてるくらい。呼び方も擬装のため変えている。

…何で顔真っ赤にしてるんだろ?

 

当然聞こえるように言ってたから、向こうも噛みつかずにはいられない。

 

「何なのよアンタたち‼︎」

「さっきから聞いてりゃ、クズだの醜いだの…」

「何一つ間違えてないでしょ、この状況?店員さんや他のお客さんらにどれだけ迷惑かけてるか分かってる?これだから自己中バカは。」

「何を‼︎」

「君らのその制服、椚ヶ丘学園のだよね。名門進学校の生徒が聞いて呆れるね。この事、先生たちに知られちゃうとどうなるのかなぁ?あ、『進学校の男女、漏らしかけてトイレ前で大喧嘩』ってタイトルでネットに晒そっかなぁ…って、行っちゃった。」

 

ちっ、もうちょっと揺すりたかったのにつまんねぇ。律が証拠動画撮ってないかな?あったら学長に渡しに行こう。

 

「あの、先程のお客様に対応して下さりありがとうございます‼︎」

「いえこちらこそ、ウチのところの同級生が迷惑かけてスンマセン。アイツらなら苦情付けても構いませんので。」

「そんな苦情なんて…お二人の事だけお礼を言わせてもらいます。それと何かお買い上げなさるのなら、こちらの500円引きのクーポンを差し上げます。」

「おっと、ありがとうございます‼︎得したなぁ。」

 

買い出しを終えて、拠点に戻ろうとするとこちらに向かって前原が来た。ちなみに倉橋さんの顔は赤いまんまだ。

 

「あ、漣、倉橋!今日はありがとな。」

「良いって、こっちも多少楽しめたし。」

「多少なのな…俺さ、E組にいなかったら俺もアイツらみたいに弱い者いじめをしてたのかなって思ってたんだ。けど今のみんなを見てて思ったんだ。一見強そうに見えなくても皆どっかに頼れる武器を隠し持ってる。強い弱いは一目じゃ分からないって。だから弱い者イジメは簡単には出来ないな。」

「…そうか、そりゃ何より。ところでこれから打ち上げじゃないのか?」

「あ、それなんだけど俺これから他校の女子と飯食いに行かねーとなんだよ。だから悪いけど出られねぇんだ!じゃあな!」

「お、おう…」

 

そう言って前原は去っていった。ふと横を見ると倉橋さんの表情は険しくなってた。更に後ろから凄まじい怒気を感じ振り向くと、今回のメンバーが同じく険しい顔をしていた。岡野さんの表情なんてライオンも殺せそうな勢いである。

 

「ナミ君、打ち上げやるよ。」

「えっと、倉橋さん?「ひな。」…ひなさん?何をそんなに怒っていらっしゃるの?」

「前ちんにだからナミ君は関係ないよ。」

「「「「うんうん。」」」」

アッハイ

 

 

この後、打ち上げはメチャクチャ荒れた。




五条への敬語は結構適当で使う時と使わない時がごっちゃ

そして奏から倉橋さんへの呼び方が変わる!


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第17話:克服の時間

東堂はただのバカなのか賢いバカなのか。

多分賢いバカなんだと思いたい。


「…アンタ、誰?隠れてないで出てこいよ。」

 

 

ある日の放課後、下山中に視線を感じた。

その上、気配を隠していやがる。十中八九殺し屋ってのは分かるが、何故生徒(おれ)を狙っているのか。人質か、それとも俺が標的なのか。

どちらにせよこちらから仕掛けさせてもらおうか。

俺は隠し持ってた荒不舞雪を森の方へ投擲する。一本の木に刺さるとその裏から1人の男が出てきた。外人…東欧系か?その男は日本語で話しかけてくる。

 

「流石だな、災厄の特級。」

「その異名で呼ぶな、ムカつく。アンタ殺し屋でしょ。俺狙い?それとも殺せんせー狙い?」

「フフ、どっちでもないな。俺の名はロブロ。イリーナ・イェラビッチをここへ斡旋した者だ。」

「ふぅん…てことは、ビッチ先生の師匠か。それこそ何の用だよ。」

「弟子を撤収させに来た。もはやこの仕事はアイツには適任ではない。潜入の才能ならトップクラスだが、素性が割れた以上は居座る意味がない。あげく今は教師の真似事。アイツにはもうこの仕事は不可能だ。」

「そうですか、ご自由にどうぞ。」

「…随分ドライだね。楽しく授業し、親しげに話しているから子供たちの心なぞとっくにつかめているものかと思ったが…」

「ビッチ先生がクビになろうが正直どうでもいいので。殺せんせーと烏間先生がいれば機能しますから、この教室。」

「ククク、その冷静さに先程の気配察知、君の方がよほど暗殺者に向いているな。ただ投擲は正確とはいえ迂闊じゃないかな?」

「この状況でもそれが言えます?」

 

投げた時に累乖呪法を発動、荒不舞雪に付与させロブロさんが煽った時に首筋に刃を当てる。対人ならこれだけで基本余裕だが、この人や烏間先生レベルになると割と余裕で防がれるかもな。現に一瞬驚いてたけどすぐに冷静になってるし。

 

「…!これは失敬。甘く見積もってたようだな。やはり君も殺せんせー同様の怪物…いや化け物らしいね。」

「褒められてますか?それと少し勘違いしているみたいですけど、ビッチ先生は簡単に連れて帰れないと思いますよ?」

「何故そう思う?」

「ここの担任がお節介だからですよ。」

「…?同僚にもか?」

「どうですかね〜。確かに言えるのは、あの先生は生徒の為に常に最善の環境を用意しようとしているってことです。」

 

俺は荒不舞雪を手元に戻し、帰宅する。

ロブロさんは教室に向かったらしい。百々目鬼を使ってもいいが、まあ律から何があったか聞けばいいか。

 

 

翌日

 

 

今は体育の授業

 

細い二本の丸太の上に立ったまま、紐でぶら下げられたボールをナイフで突くという訓練。

 

しかし皆は的に集中できず、ある一箇所を見ている。

 

「先生、あれ…」

「気にするな、続けてくれ。」

 

ついにひなさんが烏間先生に尋ねてみるが、忌々しそうにその一点を無視しようとしている。

 

皆が注目している所、そこには3人の不審者がおり烏間先生を狙っている。

 

1人は息を荒げながらナイフを舐めているビッチ先生

1人は鋭い殺気で様子を伺っているロブロさん

1人はおそらく忍者のコスプレをしている殺せんせー

 

何故このような構図になっているのか。

 

あの後のことを律から聞いたのだが、ロブロさんがビッチ先生を撤収させようとしたところ、殺せんせーが仲介に入った。ここまでは俺の予想通りだった。

問題はこの先で、ビッチ先生の残留を賭けた暗殺対決を殺せんせーが提案してきたのだった。

ルールは今日中にビッチ先生かロブロさんのうち、先にターゲット役の烏間先生に対先生ナイフを当てた方が勝利というもの。

ビッチ先生が勝ったら残留、ロブロさんが勝ったら撤収、互いの暗殺の妨害と授業の邪魔をした場合即失格。

毎度毎度お疲れ様です、烏間先生。

 

 

「カラスマ先生〜、おつかれさまでしたぁ〜。ノド渇いたでしょ、ハイ冷たい飲み物‼︎」

 

先攻はビッチ先生…なのだがこれはひどい。無理がある。最初の頃の猫被りを今さらやったところで何になるのか。あの飲み物になんか入っているのはイヤでも分かる。

 

「おおかた筋弛緩剤だな。動けなくしてナイフを当てる。…言っておくがそもそも受け取る間合いまで近寄らせないぞ。」

 

そりゃそうだろう。計画でもない限り見え透いた手に乗っかるバカなんぞどこにいる。

 

「あ、ちょっと待って。じゃここに置くから…」

 

立ち去ろうとする烏間先生だが、ビッチ先生はまだ粘りコップを置く。その直後こける。えぇ…

 

「いったーーい‼︎おぶってカラスマ、おんぶ〜〜‼︎」

 

エエェ…これはひどい(2回目)

 

烏間先生の代わりに磯貝と三村がビッチ先生を立ち上がらせる。

 

「…ビッチ先生。」

「さすがにそれじゃ俺らだって騙さねーよ。」

「仕方ないでしょ‼︎顔見知りに色仕掛けとかどうやったって不自然になるわ‼︎キャバ嬢だって客が偶然父親だったらぎこちなくなるでしょ⁉︎それと一緒よ‼︎」

 

全然分からん。キャバ嬢ってなんぞ?とか聞きたいが、要するに既に手の内が知られているビッチ先生の技は烏間先生には無意味という訳だ。ビッチ先生の毒技は鋼タイプの烏間先生には効果が無いのだ。

そうなるとロブロさんにかなりアドバンテージがあるな。俺昨日あんなことロブロさんに言ったけど、これビッチ先生が負けたらかなり恥ずかしいのでは?

 

 

休み時間

 

 

ロブロさんの暗殺が気になったから、烏間先生の周りに二体の百々目鬼を憑けさせる。今烏間先生は無言でパソコンの画面と向き合っている。向かいのデスクにはビッチ先生が焦った様子で座っている。

するといきなりロブロさんが職員室に正面から入ってきた。烏間先生は椅子を引き避けようとするが、椅子は下がらない。多分ロブロさんが事前に仕掛けていたのだろう。そのままロブロさんはデスクに登り烏間先生目掛けてナイフを突き刺す。

 

がしかし、その攻撃は当たらなかった。直前で烏間先生がロブロさんの左手をデスクに押さえつけナイフを落とさせる。さらにそのまま膝蹴りを放つ…がこれは寸止め。しかしこの一瞬で烏間先生とロブロさんの力量差がはっきりした。

 

「熟練とはいえ年老いて引退した殺し屋が、先日まで精鋭部隊にいた人間をずいぶん簡単に殺せると思ったもんだな。」

 

この人達じゃあ烏間先生は殺せない。はっきりと俺を含めた3人が理解した。

烏間先生は落ちたナイフを拾いビッチ先生とその隣の殺せんせーに向ける。

 

「わかってるだろうな。もしも今日殺れなかったら…」

((ひ…ひぃぃぃ〜〜‼︎))

 

…ビッチ先生はともかく、何故殺せんせーまでビビってんだよ。

あーいや、ビッチ先生とロブロさん両方とも殺せなかった場合の烏間先生の報酬が殺せんせーにとって不利なものなのだろう。

 

烏間先生が職員室から出ていき、ロブロさんは苦しそうに腕を抑える。さっきの反撃で手首を捻ったようだ。

 

「…フッ、相手の戦力を見誤った上にこの体たらく。歳はとりたくないもんだ。これでは今日中にはあの男は殺れないな。」

「ニュヤッ⁉︎そんな諦めないでロブロさん‼︎まだまだチャンスは沢山ありますよ‼︎」

 

諦めたようなロブロさんをチアリーダー姿で応援する殺せんせー。烏間先生と何かしら賭けたんですね。ザマァと言っておこう。

 

「例えば殺せんせー。これだけ密着していても俺ではおまえを殺せない。それは経験から分かるものだ。戦力差を見極め、引く時は素直に引くのも優れた殺し屋の条件なのだ。イリーナしても同じことで、殺る前に分かる。あの男を殺すのは不可能だ。どうやらこの勝負引き分けだな。」

「…そうですか。あなたが諦めたのはわかりました。ですがあれこれ予測する前に、イリーナ先生を最後まで見て下さい。経験があろうが無かろうが、結局は殺せた者が優れた殺し屋なんですから。」

 

 

昼休み

 

 

なんとビッチ先生が烏間先生にナイフを当てることに成功した。

 

最初はいつも通り服を脱いで、何か交渉していた。烏間先生は表面上は承諾したらしいが、近づいたところを反撃するつもりらしい。

しかしビッチ先生は脱ぎ捨てた上着と烏間先生が寄りかかっていた木を巧みに利用したワイヤートラップを繰り出し、烏間先生の上をとる。一度は抑えられるものの、何を思ってか烏間先生は力を緩めナイフが当たる。

 

「師匠…」

「出来の悪い弟子だ。先生でもやってた方がまだマシだ。必ず殺れよ、イリーナ。」

「…‼︎もちろんです、先生‼︎」

 

ロブロさんなりの褒め言葉を受けて嬉しそうにするビッチ先生。

 

ハニートラップの達人VS殺し屋屋 暗殺対決 ターゲットは精鋭軍人

この勝負を制したのは高慢でまっすぐな我らが英語教師だった。



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第18話:まさかの時間

本編と全く関係ない作者の言いたいこと。


英雄伝説の結社ものでなんか書きたいなあって思ってるけど、閃の軌跡IIIとⅣがvitaに無いため迂闊に書けない。

ファルコム絶対許さねぇかんなぁ‼︎

誰か私にPS4を下さい。


6月15日

 

本日も雨。梅雨だから仕方がない事だが。

しかし雨にも関わらずみんな少しそわそわしている。

その理由は…

 

「おはようございます。烏間先生から転校生が来ると聞いていますね?」

「あーうん、まぁぶっちゃけ殺し屋だろうね。」

「律さんの時は少し甘く見て、痛い目を見ましたからね、先生も今回は油断しませんよ。いずれにせよ皆さんに暗殺者(なかま)が増えるのは嬉しい事です。」

 

という訳だ。前原の言う通り、律の後なんだし今回も暗殺者でほぼ確定だな。殺せんせー含め俺ら全員やはり転校生の詳細については教えられてないが、律なら少し知ってるのか?聞いてみるか。

 

「律、よかったらその転校生のことについて何か教えてくれないか?」

「そうですね…では少しだけ。初期命令では私と『彼』の同時投入の予定でした。私が遠距離射撃で彼が肉薄攻撃、連携して殺せんせーを追いつめると。ですが…2つの理由でその命令はキャンセルされました。」

「へぇ…なんで?」

「1つは彼の調整に予定より時間がかかったから。もう1つは私が彼より暗殺者として圧倒的に劣っていたから。私の性能では…彼のサポートを務めるには力不足だと。そこで各自単独で暗殺を開始することになり、重要度の下がった私から送りこまれたと聞いています。」

 

少し悲しそうに律は語り終え、全員が息をのむ。殺せんせーの指を弾き飛ばし、卒業までの成功確率90%を予測していた律が力不足との判断をされている。それは今からくるやつがとんでもない怪物だということを暗示している。

 

さてと…今の律のセリフから俺なりに情報をまとめてみるか。

1:『彼』ってことは男子。律みたいに設定上男って可能性もあるが。

2:近接アタッカー

3:調整が必要ってことは2つほど考えられるパターンがある。1つ目は特殊な武器を扱う場合。律にもその程度の情報しか行ってないってことは国家機密レベルの武器だろうが。2つ目は改造人間、或いはサイボーグか人工生命体のような場合。どれにせよ暗殺業を生業としている人間ではなく、暗殺のためだけに作られたやつだな。

 

『地球を救う救世主となるつもりが、世界を滅ぼす巨悪と成り果ててしまうとは。』

 

以前理事長が言った言葉を思い出す。

もし2つ目だった場合…そいつは殺せんせーと何かしら関係がある可能性が高い。いったいどうなるのかねぇ…俺と関係があるパターンとか無いよね?それは極めて困るんだが。

 

突然黒板側の扉が開く。すると白い煙のようなものを纏った白装束の人が入ってきた。顔まで白い布で覆っているため性別は分からないが、体格から判断して恐らく男だろう。その人はクラスを見渡すと手を前に出し、どこからともなく鳩を取り出した。…何故いきなり手品をした?

 

「ごめんごめん、驚かせたね。転校生は私じゃないよ。私は保護者。…まぁ白いし、シロとでも呼んでくれ。」

 

シロとやらはにこやかに言う。声色からして男で確定だろうな。さっきの手品は転校生が入ってきやすくする為の場を和ませるユーモアのつもりなのだろう。とはいえその格好で急な手品は流石に俺ですら心臓に悪い。殺せんせーや烏間先生くらいならビビらないのだろうが…ん?なんで殺せんせーははぐれスライムみたいな姿で天井に貼り付いているのかな?

 

「ビビってんじゃねーよ、殺せんせー‼︎」

「奥の手の液状化まで使ってよ‼︎」

「い、いや…律さんがおっかない話するもので…」

 

なるほど、つまりあれが渚のメモにあった液状化か。シロに気を取られていたとはいえ、無音で気づかないうちにあの姿になるとは、厄介だな。時間制限があるだけまだマシか?

 

「初めましてシロさん。それで肝心の転校生は?」

「初めまして殺せんせー。ちょっと性格とかが色々と特殊な子でね、私が直で紹介させてもらおうと思いまして。」

 

にしてもコイツ…いったい何なんだ?只者じゃないってのは誰でも分かる。けど…なんて言えばいいか…薄っぺらいというか、腹黒いというか、そんな感じがする。転校生ももちろんだが、コイツも警戒が必要か。

 

シロは殺せんせーに羊羹を手渡し、再び教室を眺める。その視線は渚の方を見て止まり、次に俺の方を見て止まる。その時身震いがした。シロの視線にではなく俺の後ろ、教室の壁の向こうからだ。

 

「いや、みんないい子そうですなぁ。これならあの子も馴染みやすそうだ。席はあそこでいいのですよね、殺せんせー。」

「ええ、そうですが。」

「では紹介します。おーいイトナ‼︎入っておいで‼︎」

 

シロが転校生の名前を呼ぶとみんなが入口に注目する。しかし俺は教室の裏から接近してくる何かに警戒する。それは壁にぶつかりそうな距離に近づいても止まらないようだ。それが壁にぶつかるであろう寸前に俺は席を立ち、右のカルマの席の後ろに移動する。それと同時に1人の少年が壁をぶち破って登場したら、彼はそのまま何事もなかったかのように席に着く。

 

「俺は…勝った。この教室の壁よりも強い事が証明された。それだけでいい…それだけでいい…。」

 

えええ、何なんコイツ?律以上に面倒くさそうなんだけど。登場の仕方もそうだけど何よりその瞳、明らかにメンタルがぶっ壊れてそうな感じがするんだけど。

殺せんせーは…なんか今までで一番よく分からない、笑顔とも真顔とも言えないボールペンで雑に描いたような中途半端な顔してる。

 

「堀部イトナだ。名前で呼んであげて下さい。ああそれと私も少々過保護でね。しばらくの間、彼のことを見守らせてもらいますよ。」

 

シロは平然とそう語る。まさかとは思うが親子協力プレイなんてしないよね?

 

「漣、俺の事盾にしようとしてなかった?」

「マッサカー、カナデクンソンナヒドイコトシナイヨー。」

「まぁいいや。それより、ねぇイトナ君。ちょっと気になったんだけど、今外から手ぶらで入って来たよね。外土砂降りの雨なのに…なんでイトナ君、一滴たりとも濡れてないの?」

 

カルマと同じ事を俺も思っていた。しかしイトナはその質問には答えず、周りを見渡した後カルマの頭を撫でだした。

 

「……おまえは、多分このクラスで二番目に強い。けど安心しろ。俺より弱いから…俺はお前を殺さない。」

「…‼︎」

 

イトナはカルマの頭から手を離すと、次は俺と向かい合う。

 

「おまえは…このクラスで一番強い。俺よりも強いはずだ。なのにお前は何故か弱くあろうとする。強くあろうとしないヤツを殺すつもりはない。」

「えぇ…俺、カルマより弱いはずだと思うんだけど。」

「お、じゃあ一度やってみる?」

「今は遠慮しとく。」

 

俺たちの会話を気にも止めず、イトナは殺せんせーの方に向かう。

 

「俺が殺したいと思うのは俺より強いかもしれないヤツだけ。この教室では殺せんせー、まずはアンタだ。」

「強い弱いとはケンカの事ですか。イトナ君?力比べでは先生と同じ次元に立てませんよ?」

「後さりげなく俺を数に加えてない?勘弁して、弱いからさ?」

「立てるさ(あっ無視かい)だって俺達、血を分けた兄弟なんだから。」

 

 

「「「「「兄弟ィ⁉︎」」」」

「負けた方が死亡な、兄さん。」

 

は?何言ってんだ?イトナ(この人)と?殺せんせー(このタコ)が?もうすでに頭が逝ってるのかコイツ。

 

「兄弟同士小細工は要らない。兄さん、お前を殺して俺の強さを証明する。時は放課後、この教室で勝負だ。今日がアンタの最後の授業だ。こいつらにお別れでも言っとけ。」

 

そう言うとイトナは壊した後ろの壁から出て行く。直後殺せんせーに質問の嵐が襲いかかる。

 

「ちょっと殺せんせー、兄弟ってどういうこと⁉︎」

「そもそも人とタコで全然違うじゃん‼︎」

「いっ、いやいやいやいや‼︎全く心当たりありません!先生生まれも育ちも一人っ子です‼︎両親に「弟が欲しい」ってねだったら…家庭内が気不味くなりました‼︎」

 

アンタそもそも親とかいるのか?アンタの種族?に親とかいう概念があるのか?

 

その後教室に戻って来たイトナの行動は殺せんせーと兄弟であることを示すようなものばかりだった。

まず甘党。昼休み、机の上一杯にお菓子を広げ食っている。

2つ目に趣味。殺せんせーと全く同じタイミングで週刊誌を読み始め、同じグラビアページ?というものを眺めている。

 

不破さんは生き別れの兄弟説を推しているが、流石に何故タコと人の兄弟なのかという点が説明不足だったため挫傷。

 

だがアイツが本当に殺せんせーの兄弟であるのなら、殺せんせーの過去について知ることができるかもしれない。たとえそうでなかったとしても、殺せんせーの兄弟を名乗れる何かが殺せんせーの秘密に繋がるのは確かだ。

 

そして放課後、教室の中央を囲むように机のリングが作られる。イトナと殺せんせーはその中で対峙している。これでは暗殺ではなく試合だな。

 

「ただの暗殺は飽きているでしょ、殺せんせー。ここは1つルールを決めないかい?リングの外に足が着いたらその場で死刑‼︎どうかな?」

 

「…なんだそりゃ、負けたって誰が守るんだ、そんなルール。」

「…いや、みんなの前で決めたルールは…破れば先生としての信用が落ちる。殺せんせーには意外と効くんだ、あの手の縛り。」

「まるで試したことがあるみたいな言い方だね。」

「…まぁ、ちょっとね。」

 

「…いいでしょう、受けましょう。ただしイトナ君、観客に被害を与えた場合も負けですよ。」

 

殺せんせーの提案にイトナは頷く。両者の準備が整ったのを見て、シロが開始の合図を出そうとする。

 

「暗殺…開始‼︎」

 

 

直後、殺せんせーの触手が一本切り落とされる。

 

 

皆が驚愕する。

 

 

殺せんせーの触手が切り落とさせたのもそうだが、律が圧倒的に劣ると判断されてる以上、それに関してはそこまでではない。

 

 

全員が注目したのは

 

 

 

イトナの頭でうねる

 

 

 

「…まさか…触手⁉︎」



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第19話:決意の時間

「本当に?」
「たっ…高田ちゃん‼︎」

このノリで死ぬほど笑ったわ。


転校生 堀部イトナは触手持ちだった。

事前に知らされてなかったのか烏間先生も驚愕している。

俺はというと思いの外冷静だった。彼が触手持ちならほとんどのことが説明がつくのだから。

 

まずカルマが尋ねた、雨の中手ぶらなのに濡れてない件。マッハの触手で水滴を跳ね飛ばして来たのだろう。

次に兄弟ということだが、これはイマイチ説明がつけづらい。触手が他の生物に寄生するのか、後天的に触手を移植したのか、はたまた触手が他の生物をコピーして姿が変わるのか。パターンはいくらでも考えられるが触手という共通のものから生まれたのなら、まあ納得できる。

いや…律は調整って言っていた。てことは改造人間か人工生命体のどっちか。後者なら触手→他の生物を象るとかなんだろう。けど前者なら?恐らく移植になる、がそうなると殺せんせーは元々人だった?仮にそうだとしてどんな経緯で殺せんせーは人の形じゃなくなった?

 

考えれば考えるほど頭が混乱してくるが、そうなる前に俺は思考を中断した。恐ろしい怒気を感じたからだ。その怒気を放っているのは…

 

 

「どこだ…どこでそれを手に入れた‼︎その触手を‼︎」

「君に言う義理は無いね、殺せんせー。だがこれで納得したろう。両親も違う。育ちも違う。だが…この子と君は兄弟だ。しかし怖い顔をするねぇ。何か…嫌な事でも思い出したかい?」

 

あのシロって男…何を知ってる?俺の推測だと恐らくアイツはここに来る前の殺せんせーの知り合い、まあ開発者でほぼ確定だ。それは分かりきっている。問題は殺せんせーがここに来る理由を知っているのか?以前の殺せんせーを知ってるのか?

 

殺せんせーは黙りこくるが、すぐに触手を再生しシロの方を向く。

 

「…どうやらあなたにも話を聞かなきゃいけないようだ。」

「聞けないよ。死ぬからね。」

 

突如シロの服の袖から光が放たれる。すると殺せんせーは全身が石化したかのようにその場で固まる。

 

「この圧力光線を至近距離で照射すると、君の細胞はダイタラント挙動を起こし一瞬全身が硬直する。全部知ってるんだよ。君の弱点は全部ね。」

「死ね、兄さん。」

 

動けない殺せんせーを後ろからイトナの触手が串刺しにする。イトナは攻撃を緩めず、何度も上から突き刺していく。

 

「うおおっ…」

「殺ったか⁉︎」

「…いや、上だ。」

 

吉田と村松の言葉に寺坂が返す。

上を見ると殺せんせーは電灯に掴まっていた。触手は切り落とされてないがかすり傷がかなりあり、息も荒い。再びリングの方を見ると大きな皮があった。これが噂の脱皮能力なのだろう。月一で使えるエスケープ技で、抜け殻は手榴弾の威力も打ち消せるらしい。

 

「脱皮か…そういえばそんな手もあったっけか。でもね殺せんせー、その脱皮にも弱点があるのを知っているよ。その脱皮は見た目よりもエネルギーを消耗する。よって直後は自慢のスピードも低下するのさ。常人から見ればメチャ速い事に変わりはないが、触手同士の戦いでは影響はデカイよ。」

 

イトナはぶら下がってる殺せんせーを狙い、殺せんせーはそれを避けリングに再び脚をつける。しかしイトナは待ってたと言わんばかりにラッシュを決めてく。

 

「加えて、イトナの最初の奇襲で腕を失い再生したね。再生(それ)も結構体力を使うんだ。二重に落とした身体的パフォーマンス、私の計算ではこの時点でほぼ互角だ。」

 

確かにいつもより動きにキレがない。狭いリングでスピードが出しづらいのもあるが、普段より遅くは感じる。

 

「また触手の扱いは精神状態に大きく左右される。予想外の触手によるダメージでの動揺、気持ちを立て直すヒマもない狭いリング。今現在どちらが優勢か、生徒諸君にも一目瞭然だろうねー。」

 

殺せんせーの弱点、テンパるのが意外と速い…あれはそういう事だったのか。

 

「さらには献身的な保護者のサポート。」

 

再びシロが例の光線を照射する。殺せんせーの動きが止まり、イトナは捻りを加えたドリルのような一撃を放つ。間一髪で殺せんせーは避けるが、触手が二本切り落とされた。

 

「フッフッフ、これで脚も再生しなくてはならないね。なお一層体力が落ちて殺りやすくなる。」

「…安心した。兄さん、俺はお前より強い。」

 

 

…なーんか、つまらないな。急に出てきて、後出しジャンケンみたいに弱点言ってって、賞金貰ってハイ終わり。非常につまらない。…んー、そろそろ混ぜてもらおっかな?

 

「脚の再生も終わったようだね。さ…次のラッシュに耐えられるかな?」

「…ここまで追い込まれたのは初めてです。一見愚直な試合形式の暗殺ですが…実に周到に計算されてる。あなた達に聞きたい事は多いですが…まずは試合に勝たねば喋りそうにないですね。」

「…まだ勝つ気かい?負けダコの遠吠えだね。」

「…シロさん、この暗殺方法を計画したのはあなたでしょうが、少しばかり計算に入れ忘れてる事があります。」

「無いね。私の性能計算は完璧だから。殺れ、イトナ。」

 

その瞬間、イトナの触手が弾け飛んだ。俺が撃ったのだ。

 

「…何のつもりだい?ターゲットを殺せる絶好のチャンスだというのに。」

「いやぁ、この状況に便乗して漁夫の利狙おっかなって思ったんだけど、外しちゃった☆ゴメンゴメン。まさか生徒からの援護射撃禁止とか言わないよね?」

 

そう言いつつ俺は射撃を続ける。撃った弾はほとんどがイトナの触手に命中する。予想外のことに対処できてないみたいだな。ついでに少し殺せんせーに向かって撃ってみたが、躱された。やっぱダメか。

 

「援護だと?いい加減なことを言うね。ほとんどイトナに当ててるくせに。」

「アッハハ、確かに。…じゃあ言い直させてもらうよ。ポッと出の分際で俺らの獲物横取りしようとしてんじゃねーよ。」

「殺せんせーが死ねば地球は救われる。誰が殺るかは重要じゃないだろ?」

「アンタみたいな部外者からしたらね。けれど殺せんせーが何を思ってここにいるか、何を思ってイトナの触手にキレたか、そういう事は俺らは一切知らない。だからただ殺すだけじゃダメ、殺せんせーの真実を知るべきだと俺は思った。だから邪魔するよ。」

「…やはり君という存在は私にとって不快だね。まぁ今はどうにもできない。まずはタコから…⁉︎」

 

シロが再びリングを見ると形勢は逆転していた。あの射撃は殺せんせーの再生時間を稼ぐため。超スピードが出せるとはいえ殺せんせーと同じ触手。つまりリング外からの予想外の射撃で触手を失えば、動揺して機能は落ちる!

今のイトナは殺せんせーが脱ぎ捨てた皮に包まれて身動きが取れない。

 

「イトナ君、君の力は確かに強力です。使い慣れてる先生が一番よく知っています。でもね、先生の方がちょっとだけ老獪です。」

 

そのまま殺せんせーは校庭側の窓目掛けて皮で包んだイトナを放り投げる。イトナは抵抗できず校庭に飛ばされる。

 

「先生の抜け殻で包んだからダメージは無いはずです。ですが君の足はリングの外に着いている。先生の勝ちですねぇ。ルールに照らせば君は死刑。もう二度と先生を殺れませんねぇ。」

 

殺せんせーは顔をナメてる証のシマシマ模様にする。俺の援護が無かったら結構ヤバかったくせに。やっぱ器小さいな。

 

「生き返りたいのなら、このクラスで皆と一緒に学びなさい。性能計算ではそう簡単に計れないもの、それは経験の差です。君より少しだけ長く生き、少しだけ知識が多い。先生が先生になったのはね、経験(それ)を君達に伝えたいからです。この教室で先生の経験を盗まなければ…君は私に勝てませんよ。」

 

「勝てない…俺が、弱い…?」

 

イトナの様子が変わる。その触手はドス黒くなり、構えはまるで獣のようだ。あの色、触手を見た時の殺せんせーと同じ…ってことはガチギレしてんのかよ!イトナは真っ黒の触手を出鱈目に振り回す。その威力は凄まじくイトナの力の木を簡単に切り倒してしまう。

 

「俺は、強い。この触手で、誰よりも強くなった…誰よりも!」

 

イトナが殺せんせー目掛けて飛びかかろうとした時、何かがイトナの首筋に命中した。それが放たれた方向にはシロが立っていて、光線を隠していたのとは別の裾から銃が覗いている。麻酔銃か。

 

「すいませんね、殺せんせー。どうもこの子は…まだ登校できる精神状態じゃなかったようだ。転校初日で何ですが…しばらく休学させてもらいます。」

 

いけしゃあしゃあと…

シロはそう言うとイトナを担ぎ、当然のようにそのまま去ろうとする。

 

「待ちなさい!担任としてその生徒は放っておけません。一度E組(ここ)に入ったからには卒業するまで面倒を見ます。それにシロさん、あなたにも聞きたい事が山ほどある。」

「嫌だね、帰るよ。力ずくで止めてみるかい?」

 

挑発してくるシロに触手を伸ばす殺せんせー。しかし触手がシロの衣服に触れた途端、触手が溶ける。そういう武器もあるんかい。

 

「対先生繊維。君は私に触手一本触れられないよ。心配せずともまたすぐに復学させるよ、殺せんせー。三月まで時間が無いからね。責任もって私が…家庭教師を務めた上でね。そして…次は君もだよ、漣奏君。」

「ハッ、触手だけが取り柄の短絡思考に非戦闘要員がほざきやがって。返り討ちにしてやるよ。」

「チッ…」

 

 

 

2人が去った後

 

 

「何してんの、殺せんせー?」

「さあ…さっきからああだけど。」

 

俺らが机を元に戻しているなか、殺せんせーは顔を真っ赤にして触手で覆っている。

 

「シリアスな展開に加担したのが恥ずかしいのです。先生どっちかと言うとギャグキャラなのに。」

「自覚あるんだ‼︎」

「カッコ良く怒ってたね〜『どこでそれを手に入れたッ‼︎その触手を‼︎』」

「いやああ、言わないで狭間さん‼︎改めて自分で聞くと逃げ出したい‼︎掴み所のない天然キャラで売ってたのに、ああも真面目な顔を見せてはキャラが崩れます!」

 

計算してやってんのかよ、腹立つわぁ。

そんな空気の中、ビッチ先生が代表して話を切り出す。

 

「…でも驚いたわ。あのイトナって子、まさか触手を出すなんてね。」

「…ねぇ殺せんせー、説明してよ。」

「あの二人との関係を。」

「先生の正体、いつも適当にはぐらかされてたけど…」

「あんなの見たら聞かずにいられないぜ。」

「そうだよ、私達生徒だよ?先生の事よく知る権利あるはずでしょ。」

 

みんなが問い詰めると、殺せんせーは意を決して立ち上がる。

 

「…仕方ない。真実を話さなくてはなりませんねぇ。…実は、実は先生…

 

 

実は先生…人工的に造り出された生物なんです!!」

 

 

 

「うん、だよね。で?」

「ニュヤッ、反応薄っ‼︎これ結構衝撃告白じゃないですか⁉︎」

「…ってもなぁ、自然界にマッハ20のタコなんていないだろ。」

「宇宙人でもないのならそん位しか考えられない。」

「で、あのイトナ君は弟だと言ってたから…」

「先生の後に造られたと想像がつく。」

 

うん、俺もさっきまでほとんど同じ推測してたし、誰だってそれくらいなら考えつく。なのになんで殺せんせーは「察しが良すぎる…‼︎」みたいな顔をしているのだろうね?

 

「知りたいのはその先だよ、殺せんせー。どうしてさっき怒ったの?イトナ君の触手を見て。殺せんせーはどういう理由で生まれてきて…何を思ってE組(ここ)に来たの?」

 

渚からの質問に殺せんせーは答えない。

 

「残念ですが今それを話したところで無意味です。先生が地球を破壊すれば、皆さんが何を知ろうが全て塵になりますからねぇ。」

「……‼︎」

「逆にもし君達が地球を救えば…君達は後でいくらでも真実を知る機会を得る。もうわかるでしょう。知りたいなら行動は1つ、殺してみなさい。暗殺者(アサシン)暗殺対象(ターゲット)、それが先生と君達を結びつけた絆のはずです。先生の中の大事な答えを探すなら…君達は暗殺で聞くしかないのです。質問が無ければ今日はここまで、また明日!」

 

欲しいものは殺して得よ…単純だけど、あの先生相手にはとても難易度が高すぎる。けど、それでも俺らのやる事は決まってる。

 

 

放課後

 

 

校庭では烏間先生が部下の人たちと一緒に新しい設備を作っている。

 

「烏間先生!」

「…君達か、大人数でどうした?」

「あの…もっと教えてくれませんか、暗殺の技術。」

「…?今以上にか?」

「今までさ、『結局誰か殺るんだろ』ってどこか他人事だったけど。」

「ああ、今回のイトナと漣見てて思ったんだ。誰でもない、俺らの手で殺りたいって。」

「もしも今後強力な殺し屋に先越されたら、俺ら何のために頑張ってたのかわからなくなる。」

「だから限られた時間、殺れる限り殺って知りたいんです、私達の担任のことを。」

「殺して、自分たちの手で答えを見つけたい。漣の意思表示と殺せんせーの言葉を聞いて、そう決意しました。

「…分かった。では希望者はこの後追加で訓練を行う。より厳しくなるぞ。」

「「「はい‼︎」」」

 

良い目をしているね。意識が変わったのなら、あの時邪魔した甲斐があったな。…俺も呪術なしで殺せるように特訓しようかな。

 

 

 

奏視点out

三人称視点in

 

 

 

時は少し遡り、シロは教室を去った後考えごとをしながら山を下りていた。

 

「このイトナもまだ成長真っ盛り、調整を焦る必要は無い。奴の性格上…地球滅亡まで学校から逃げ出す事は無い。それよりも優先すべきはあの呪術師…さて、どうしたものか。」

「お困りのようだね、柳沢(・・)君?いや、シロって呼んだ方がいいかな?」

 

突然シロの前に紫色の着物を着た女が現れた。雨が再び降り始めたというのに女は傘を差していない。

 

「何の用だい?私は君のことを知らないのだけど?」

「そんな警戒しないでよ。私はただ君と協力関係を結びたいだけなんだから。」

「何だと…?」

「私はね、奏が欲しいの。けれど私が説得しても無理だし、力ずくじゃあ少しばかり都合が悪い。だから君に力を貸す代わりに、彼を捕まえてきてもらう。利害は一致してないかな?」

 

シロとしては奏への有効打がない。この女は怪しいが、計画の為には力を借りるべきだろう。

 

「いいだろう。協力関係を結ぼうか。」

「嬉しいよ、シロ君。じゃあ自己紹介させてもらうね。

 

 

設楽 神無(シタラ カンナ)、呪詛師で奏の姉だよ。よろしくね。」

 

 

 




はい、新キャラです。彼女についてはそのうち明かされていきます




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第20話:野球の時間

梅雨が明け、暑さで夏が近づくのを感じる今日この頃。

クラスでは近々行われる行事について話し合ってる。

 

「クラス対抗球技大会…ですか。健康な心身をスポーツで養う。大いに結構!…ただ、トーナメント表にE組が無いのはどうしてです?」

「E組は本戦にはエントリーされないんだ。1チーム余るって素敵な理由で。」

「じゃあ今話し合うことってあんの?」

「代わりにエキシビションに出なきゃならないんだよ。っても要は見世物なんだけどな。」

「全校生徒が見ている前で男子は野球部、女子は女子バスケ部の選抜メンバーと戦らされんだ。一般生徒のための大会だから部の連中も本戦には出れない。だからここで…皆に力を示す場を設けたわけ。」

「トーナメントで負けたクラスもE組がボコボコに負けるのを見てスッキリ終われるし、E組に落ちたらこんな恥かきますよって警告にもなる。」

「「なるほど、いつもの(・・・・)やつか〜(ですか)」

 

毎度の事だけどホントにクズの揃い踏みだな。そんな見てて楽しいのか?

 

「でも心配しないで、殺せんせー。暗殺で基礎体力ついてるし、良い試合して全校生徒を盛り下がるよ。ねー皆。」

 

片岡さんの掛け声に女子達がやる気充分な返事を返す。

 

「お任せを、片岡さん。ゴール率100%のボール射出機を製作しました。」

「あ…いや、律はコートに出るにはちょーっと四角いかな…」

「…クスン。漣さん、私戦力外通告を出されてしまいました。」

「…ドンマイ。まあマネージャーとして頑張りなよ、ハッキングとかハッキングとか。」

「律、頑張ってハッキングしてきます‼︎」

「「「「いや待て‼︎」」」」

 

ダメみたいです。戦を制すにはまず情報からでしょう?

 

「俺ら晒し者とか勘弁だわ。お前らで適当にやっといてくれや。」

「寺坂!…ったく。」

 

一方で自ら戦力外通告をしていく寺坂組。まぁほっといていいでしょう。男子は最低9人いればいいわけだし。

 

「野球となりゃ頼らんのは杉野だけど、なんか勝つ秘策ねーの?」

「…無理だよ。最低でも3年間野球してきたあいつらと…ほとんどが野球未経験のE組(おれら)。勝つどころか勝負にもならねー。それにさかなり強ぇーんだ、うちの野球部。とくに今の主将の進藤。豪速球で高校からも注目されてる。…俺からエースの座を奪った奴なんだけどさ。勉強もスポーツも一流とか不公平だよな、人間って。」

 

以前聞いたところ杉野は部活での調子が悪くなり、それに引きずられるように成績も落ちてE組に来たらしく、悔しそうに野球部のことを話す。

だけどそれは決して勝負をハナから諦めているわけではないらしい。

 

「だけどさ…だけど(・・・)勝ちたいんだ、殺せんせー。善戦じゃなくて勝ちたい。好きな野球で負けたくない。野球部追い出されてE組に来て、むしろその思いが強くなった。…E組(こいつら)とチーム組んで勝ちたい‼︎…まぁでも、やっぱ無理かな殺せんせー。」

 

すると殺せんせーはいつのまにかユニフォームに着替えていた。ボールやバット、グローブに何故か野球盤や竹刀を持ち、顔の模様は野球ボールのと同じである。…うん、殺せんせーもやりたいのね、野球。

 

「ヌルフフフ、先生一度スポ根ものの熱血コーチをやりたかったんです。殴ったりはできないのでちゃぶ台返しで代用します。」

「「「用意が良すぎだろ‼︎」」」

「最近の君達は目的意識をはっきりと口にするようになりました。殺りたい、勝ちたい、どんな困難な目標に対しても揺るがずに。その心意気に応えて、殺監督が勝てる作戦とトレーニングを授けましょう‼︎」

 

 

……ん〜、確かに俺も勝ちたいけど、大丈夫かな?

あぁ、相手がどうこうってわけじゃないよ。殺監督のトレーニングのこと。

 

 

 

 

球技大会当日

 

女子達はバスケ部との試合をしに体育館へ。

俺たち男子は野球部との試合をしに野球場に行く。

 

ルールは3イニング制でハンデとしてE組は守備と打撃を分担できる。杉野曰く向こうは俺らをナメてはいるものの、コールド勝ちが当たり前で最低圧勝が義務のため、容赦はしてこないらしい。まあ全然構わないけどね。

しかし肝心の殺監督の姿が見えない。

 

「我らが殺監督はどこにいんの?指揮するんじゃなかったっけ?」

「あそこだよ。烏間先生に目立つなって言われてるから。」

 

俺の疑問に渚が答え、コートの端を指差す。そこにはボールが3つあるだけ…いや、奥の1つが帽子被ってるな。あれが監督か。

 

「遠近法でボールに紛れてる。顔色とかでサイン出すんだって。」

「…なるほど。早速変わったけど、顔色。どゆ意味?」

「えーと、青緑→紫→黄土色だから…『殺す気で勝て』ってさ。」

「細かくないか、その指示?」

「でも実際書いてあるから…。」

「けどまあ確かに、俺らにはもっとデカい目標(ターゲット)がいるんだ。奴等程度に勝てなきゃあの先生は殺せないな。」

「…よっしゃ、殺るか‼︎」

「「「おう‼︎」」」

 

そして試合開始

 

先行はE組で、一番打者は木村。

 

「やだやだ、どアウェイで学校のスター相手に先頭打者かよ。」

 

木村はそうぼやきつつバッターボックスに入っていく。

 

進藤が1球目を投げるが、木村はバットを振れずストライク。実況のメガネ…荒木とやらも煽ってくるが、1球目は様子見が定石だから気にしない。

そして2球目、殺監督のサインを見た木村はバントをする。転がした球はピッチャーとファーストの間に行き、内野を迷わせる。

バントで意表を突き、E組きっての俊足の木村がセーフにする。まず第1段階クリア。

 

続いて二番打者に渚。

今度は三塁線に強く当て、前に出てきたサードの脇を抜きセーフ。

 

さらに三番打者の磯貝。

これもサードとキャッチャーの間を抜け、セーフ。満塁となる。

 

(こいつらなんでこんなにバントが出来る⁉︎進藤級の速球を狙った場所に転がすのは至難の業だぞ!あの遅球の杉野では練習台にもなるまいに‼︎)

 

とか思ってるんだろうなぁ。それは間違えてはないよ、杉野だったらね。

 

 

球技大会に向けて俺らが殺監督から受けたトレーニング、それは…

 

 

「フンニュワァァァァ!!!!」

 

投手(ピッチャー)は300kmの球を投げ

 

「そちらがどうぞ。」

「いえいえ、どうぞそちらがお捕りになって?」

「間に合うかな〜〜?」

 

殺内野手は分身で鉄壁の守備を敷き

 

「校舎裏でこっそりエアギターやってましたね。ノリノリでしたねぇ、三村君。」

 

捕手(キャッチャー)はささやき戦術で集中を乱す。

 

この人間の領域を超えたマッハ野球に付き合わされた後、急速140.5kmの進藤と同じフォームと球種で投げてきた。そのストレートを見極め、徹底してバントのみを練習してきたんだ。殺投手の半分以下の球なんて止まって見えるんだよ。

 

そして四番打者、杉野。進藤との因縁の対決だ。

先の3人同様バントの構えをする。進藤は内角高めのストレートを投げるが、待っていたように杉野は持ち方を変えバットを振る。

杉野が打った球は深々と外野を抜け、スリーベースヒットとなる。

さあ、俺も行きますか。

 

俺はバッターボックスに立ち、バットをバックグラウンド向けて掲げる。ホームラン宣言というやつだ。

これにはE組の皆も驚いている。まあ俺も野球未経験みたいなものだしね。…けどね、人外野球をやれるのは殺せんせーだけじゃないんだよ。

 

進藤はよく見たことのあるフォームで球を投げる。ど真ん中最速のストレート、けど死ぬほど打ってるんだよね、その球は‼︎

カキンッと音がして、俺が打った球は予告通りスタンドに入っていく。敵味方問わずポカンとした表情をしているね、ウケる。

 

「ほら杉野!走った走った!」

「…ッ!おう‼︎」

 

内野を一周する際、進藤めがけて一言言ってやった。

 

「やっぱ遅いね、君の球。」

「なっ…‼︎」

 

これで5点先取。滑り出しとしては良すぎるくらいだ。

 

ベンチに戻って来るとまだ皆唖然としてる。そんなにか?そろそろ傷ついてやろうか?

え、俺がどんな特訓してたって?

なんてことないよ、高専で悟さん&呪骸ズ メイドバイ父さんと野球トレーニングしてただけ。

ただそれは地獄みたいだったよ、いやマジで。

悟さんは無下限呪術で余裕で300km越した異常なスピードの球投げてくるわ、呪骸の守備が鉄壁過ぎるわ、終いには途中で悟さんファーストに入って、一塁踏もうとしても無限発動させて近づけないわ、代わりにピッチャーやりだしたパンダの球はバット10本くらい折るわ、目隠しが腹立つ顔で「早く早く〜」とか言ってくるわ。

頼んだのは俺だけどもう二度とやらんわ、あんな苦行。

 

 

「杉野、ナイス。」

「…‼︎おうよ‼︎」

 

杉野に向かって片手を上げると、意図を理解した杉野も手のひらを上げ満面の笑みでハイタッチをする。

その後ようやく現実に戻ってきた仲間たちにもみくちゃにされたのだが、

 

敵さんのベンチを見ると

 

あ、理事長が入ってきた。

 

あ、理事長が野球場顧問のデコにデコを当ててる。

 

あ、顧問が倒れた。

 

あ、顧問が医務室に運ばれてった。

 

あ、理事長がタイムとった。

 

あ、監督代わりやがった。

 

ええ…もうラスボス降臨かよ…

 



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第21話:近いの時間

今回のゲームではやりませんでしたが、もし奏がピッチャーをやっていたら累乖呪法を容赦なく使い、ドラベースばりのトチ狂った変化球を投げてきます。寸前で球が止まったり、さながらジェットコースターのような軌道を描くんですよ。誰が打てるんでしょうね?


「ナミくーん!今どんな感じ?」

「ヒナさん、おつかれ。見ての通りよ。」

「5-0⁉︎すごいじゃん!」

「人間の野球とマッハの野球だと次元が違いすぎるからねぇ。そっちはどうだった?」

「負けちゃったよ〜。けど惜しかったよ。メグちゃんが一人で30点決めてた!」

 

片岡さんえげつねぇ。そんなん俺でも引くわ。おいそこ、おまえが言うなとか思ってるだろ。

 

「この調子だといけそうだね!」

「いや〜、向こうのベンチ見てごらんよ。」

 

そう、まさかの一回表から浅野理事長が参戦してきた。ここからはさっきまでの手は通じない気がする。もうただの野球じゃない。人間離れしてる二大教師の采配対決だ。

 

「…‼︎今入った情報によりますと、野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で…野球部員も先生が心配で野球どころじゃなかったとの事、それを見兼ねた理事長先生が急遽指揮を執られるそうです‼︎」

 

いやいや、スポーツマンともあろう者が体調管理もできないなんておかしいだろ。野球部も心配なら休ませてやれよ。お前ら、E組相手なら余裕とか思ってたんだからさ、指揮とかいらないはずじゃん。まあそのE組に負けてる最中なんだけど。

 

理事長が部員を呼び集め、何かを言って円陣を組む。うーん、やな予感。

 

そして試合再開

6番打者は前原…なのだが野球部の守備体系が大幅に変わった。なんと守備全員を内野に集まる極端なスタイルをとってきた。

 

「バントしか無いって見抜かれてるね。」

「ええっ⁉︎でもあんな至近距離ってダメじゃないの?あんなの集中できないじゃん!」

「いや…ルール上はフェアゾーンならどこでもOKなんだよ。一応審判の判断次第でダメって言われることもあるけど…その審判はあっち(・・・)側、まあ期待できないね。」

 

進藤が球を投げ前原はバントの構えで打つが、真上に打ち上げてしまいワンナウト。

 

続いて7番岡島、殺監督に指示を仰ぐが…

(^ ^)→(^^;)→。゚(゚´Д`゚)゚。

駄目みたいです。

 

岡島が三振で続く8番打者の千葉もアウト。一気にスリーアウトとなってしまう。ボールを投げる進藤は試合前の余裕が戻ったようでもなく、ただ淡々と制圧していく機械のように見える。

 

しかしE組の守備の要も負けてはいない。

杉野が変化球で三者連続三振を成し遂げ、無失点でチェンジ。

杉野は自分でも遅球と言っていたが、以前殺せんせーの指摘を受け変幻自在な変化球を習得しているらしい。E組に来てから特訓したものだから野球部がすぐ対処することなんてできない。

 

ふとコートを見渡すとレフトを守ってるカルマが足元を見ている。…なんか足元がボコってなってんな。監督がなんか言ってんの?

 

「…監督〜。」

「ハイハイ、呼びましたか漣君?」

「…地獄耳だねぇ。カルマになんて言ったの。」

「お得意の挑発で揺さぶってみましょうと言ってきました。先生の予想だともう少ししたら君にも指示を出すことになります。」

「…?確かにもう一回打順は回ってくるけど、さっきの俺の見たら絶対敬遠してくるでしょ、あの理事長。」

「攻めの話ではありません。守りの話ですよ。まあその時まで待ってて下さい。」

 

二回表はその9番打者のカルマ。

だが何故か打席に入らない。

 

「どうした?早く打席に入りなさい。」

「……ねーえ、これズルくない、理事長センセー?これだけジャマな位置で守ってんのにさ、審判の先生は何も注意しないの。一般生徒(おまえら)もおかしいと思わないの?あーそっかぁ、おまえらバカだから守備位置とか理解してないんだね。」

「小さい事でガタガタ言うな、E組が‼︎」

「たかだかエキシビションで守備にクレームつけてんじゃねーよ‼︎」

「文句あるならバットで結果出してみろや‼︎」

 

カルマの挑発が炸裂するが、効果はないらしい。観客どもがゴミとか缶とか投げてくる。それをバレないように呪術で逸らしたり叩き落としてく…あっちょっ、コーヒーは熱い‼︎液体はちょっと厳しい!うわ、炭酸ベトベトする!今ドリンク投げたやつ顔覚えたかんなぁ‼︎

 

カルマの抗議が不発に終わりワンナウト。その後の木村、渚も打てずにスリーアウト。

 

対して二回裏。進藤の打撃が凄まじく三点も返されてしまう。俺らはバントしか練習してないから取れないのは仕方ない。序盤の蓄えが生きてるのが幸いだ。

 

続いて三回表、E組の最後の攻撃。

磯貝が三振で、杉野は打ったものの取られてしまいワンナウト。俺に対しては予想通り敬遠され、前原でスリーアウトとなる。

おいこら、バットで結果出せとか言われたから出してやろうとしたのに、逃げ腰の敬遠食らったぞ。なんとも思わねーのかよ、と言いたいところだがこれも戦術の範疇だから何も言えない。

 

そして三回裏、野球部最後の攻撃。

なんとここで野球部は一人目から意趣返しのようにバントをさせる。

腕前でいったら当然野球歴の長い野球部の方が上で、俺らの守備はザル以下。すぐにノーアウト満塁にされてしまう。

本来ならバントなんて野球部がE組をボコボコにするのを見たい生徒たちにとってはつまらない行動だが、先に俺らがやったことで「手本を見せる」という大義名分が作られたわけだ。

そしてここでキャプテン進藤が打席に入る。その姿はかつてのスポーツマンの面影はない。理事長の改造の賜物か。

満塁のこの状況、理事長が強者を演出させるなら当然スイング、しかも今の極限状態の進藤ならホームランも出しかねない。そうじゃなかったとしても二回目同様の長打でツーヒットランで同点、スリーヒットランでも負けが確定する。しかも杉野が打たれ始めてきているから試合を引き延ばすのも厳しい。どうするか…!

 

「漣君、今こそ出番です。カルマ君と一緒に前に出て下さい。」

「…?……あー、そういうことか。りょーかい。」

 

俺とカルマは顔を見合わせ、前に出る。その位置は一回表と野球部と同じ前進守備。

 

「明らかにバッターの集中を乱す位置で守ってるけど、さっきそっちがやった時は審判何も言わなかった。」

「ルール上OKだし、特別ルールにもE組の守備位置の指定なんてない。文句無いよね、理事長?」

 

さっきのカルマの挑発はここ一番という状況への布石。同じことをやり返しても文句を言わせないようにするためだったわけだ。明確に打撃妨害とされるのはバットが守備側に当たった時で、それ以外は審判次第だもの。

 

「ご自由に。選ばれた者は守備位置位で心を乱さない。」

「へーえ、言ったね。」

「じゃあ遠慮なく。」

 

理事長の許可を得た俺らは更に前に出る。

その距離は進藤がバットを振るえば確実に当たる程。ボールが取りやすくなるなんて訳ないくらい近い。

 

「……は?」

 

異様な前進守備に集中が切れたような進藤君。目が点になってらぁ、ウケる。

 

「気にせず打てよスーパースター。ピッチャーの球は邪魔しないから。」

「フフ、くだらないハッタリだ。構わず振りなさい、進藤君。骨を砕いても打撃妨害を取られるのはE組の方だ。」

 

カルマの挑発と理事長の指示に明らかに動揺している進藤。振っていいのか悩んでるみたいだね。

そして杉野の1球目。進藤は威圧するように大きくバットを振るう。が、俺もカルマも寸前で躱し、ボールはキャッチャーミットに入りストライク。

マッハ20の殺せんせーを普段から狙い、その上で殺そうとしているんだ。しかも今回はマッハ20で野球までやらされた。ただの人間のスイングを避けるだけなら、バントより楽だ。

 

「…ダメだよ、そんな遅いスイングじゃ。次はさ、殺すつもりで振ってごらん。」

「殺る気が感じられない…まさかここに来てただバットを振るうのが怖い、なんて言わないよね、スーパースター?」

 

続いて2球目、集中が切れ理事長の洗脳が裏目に出てきてしまった進藤はバットを振るう。ボールはバットに当たったもののそのスイングは腰が引けていて、真上に打ち上がる。

そのボールをまずカルマがキャッチし、キャッチャーの渚に投げサードランナーアウト。次に渚が三塁の木村に投げる。他のランナー達はこの状況に飲み込まれていたため、反応が遅れてセカンドランナーアウト。最後に木村が一塁の菅谷に向けて投げる。飛距離が足りずボールは途中でバウンドするが、進藤はバッターボックスに座り込んでしまっているので楽々バッターアウト、トリプルプレーで俺らの勝ちだ。観客達は完全に盛り下がっている。頑張った甲斐あったわ。

 

 

奏視点out

三人称視点in

 

 

「進藤。」

 

バッターボックスで茫然としてる進藤に杉野が話しかける。

 

「ゴメンな、はちゃめちゃな野球やっちまって。でも分かってるよ。野球選手としてお前は俺より全然強ぇ。これでお前に勝ったなんて思ってねーよ。」

「…だったら…なんでここまでして勝ちに来た。結果を出して俺より強いと言いたかったんじゃないのか?」

「……んー、渚は俺の変化球練習にいつも付き合ってくれたし、カルマの反射神経とか皆のバントの上達ぶりとかすごかったろ?漣なんかはこの日の為に自分一人でも特訓してたみたいなんだ。でも結果出さなきゃ上手くそれが伝わらない。…まぁ要はさ、ちょっと自慢したかったんだ。昔の仲間に、今の俺のE組(なかま)の事。」

 

照れ臭そうに笑って言う杉野を見て、進藤も笑顔で返す。

 

「覚えとけよ、杉野。次やる時は高校だ。」

「おうよ!」

 

また一つ、殺意で絆が結ばれたのだった。

 

(…まぁ、高校まで地球があればの話だがな。)

 




次回、いよいよヤツが来ます。
アート回は飛ばします。


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第22話:親愛の時間

鷹岡編は全話三人称視点で書きます。

そっちの方が作者のやりたいことができるので。

ひゃー、今回クソ長い!


7月

 

今朝奏の目覚めは悪かった。

暑くて寝苦しかったわけではないし、以前まではこんなのは日々しょっちゅうだ。

しかしE組に来てからあの夢を見たのは転校して数日の間だった。

 

「…腑抜けてんのかな、俺。」

 

朝ご飯を作りながら、ポツリと呟く。自嘲気味に軽く笑うが、すぐに無表情になる。

 

「…忘れるな。俺の命は俺のものじゃない。幸せになろうなんて思うな。そんなことを思うのは…奪った命への侮辱だ。」

 

奏は自分に言い聞かせるように呟く。

 

 

=================

 

 

 

(四カ月に入るにあたり…「可能性」がありそうな生徒が増えてきた。)

 

 

千葉と三村のナイフを払いながら、烏間はその可能性のありそうな生徒の名前を思い浮かべていく。

 

(磯貝悠馬と前原陽斗。運動神経が良く仲も良い2人のコンビネーション、2人がかりなら…俺がナイフを当てられるケースが増えてきた。)

 

(赤羽業。一見のらりくらりとしているが…その目には強い悪戯心が宿っている。どこかで俺に決定的な一撃を加え、赤っ恥をかかそうなど考えているが…そう簡単にいくかな?)

 

(女子は体操部出身で意表を突いた動きができる岡野ひなたと、男子並みの体格(リーチ)と運動量を持つ片岡メグ。このあたりが近接攻撃(アタッカー)として非常に優秀だ。)

 

(そして殺せんせー。彼こそ正に俺の理想の教師像だ。あんな人格者を殺すなんてとんでもない‼︎「人の思考を捏造するな。失せろ標的(ターゲット)。」

 

烏間からの厳しいお言葉を受け、泣きながら砂場でタージマハルを作る殺せんせー。

 

(寺坂竜馬、吉田大成、村松拓哉の悪ガキ3人組。こちらは未だに訓練に対して積極性を欠く。3人とも体格は良いだけに…彼らが本気を出せば大きな戦力になるのだが。)

 

(本気という点では彼、漣奏もだ。ここに来てから訓練の時ですら一度も本気を出していない。彼の実力はここに推薦されるくらい高いらしいが、俺はまだ見たことはない。しかし球技大会などを見る限りそろそろ出してくれそうか?)

 

(全体を見れば生徒たちの暗殺能力は格段に向上している。この他には目立った生徒はいないものの…)

 

その時、烏間は恐ろしい気配を感じた。まるで蛇に巻きつかれて、今にも噛まれそうなそんな気配を。反射的に勢いよく手を振り払いのけると、そこには痛そうに頭を抑えていた渚がいた。

 

「…いった…」

「…‼︎すまん、ちょっと強く防ぎすぎた。立てるか?」

「あ、へ、へーきです。」

「バッカでー。ちゃんと見てないからだ。」

「う…」

 

(…潮田渚。小柄ゆえに多少はすばしっこいが、それ以外に特筆すべき身体能力は無い温和な生徒。…気のせいか?今感じた得体の知れない気配は)

 

その様子を殺せんせー、そして奏はじっと眺めていた。

 

 

「そこまで!今日の体育は終了‼︎」

「せんせー!放課後街でみんなでお茶してこーよ‼︎」

「…ああ、誘いは嬉しいが、この後は防衛省からの連絡待ちでな。」

 

烏間は倉橋からの誘いを断り、職員室に戻っていく。

 

「…私生活でもスキがねーな。」

「…っていうより…私達との間にカベっていうか、一定の距離を保ってるような。」

「厳しいけと優しくて、私達のこと大切にしてくれてるけど、でもそれってやっぱり…ただ任務だからに過ぎないのかな。」

「そんな事ありません。確かにあの人は先生の暗殺のために送りこまれた工作員ですが、彼にもちゃんと素晴らしい教師の血が流れていますよ。」

 

 

矢田や倉橋は寂しそうに言うと、殺せんせーはいつものようにやんわりと否定する。

一方噂の烏間は今日から追加で配属される人員のことを考えていた。烏間がいかに優秀だとしても、暗殺者の手引きと生徒の訓練を同時にはこなせないと上が判断したためだ。

烏間が校舎に入ろうとすると、入れ替わりに大柄な男が出てきた。その男はダンボールを担ぎ、両手に沢山のビニール袋や紙袋を持っている。

 

「よ、烏間!」

「…鷹岡!」

 

鷹岡と呼ばれた男はグラウンドに降りていった。

 

「やっ!俺の名前は鷹岡明‼︎今日から烏間を補佐してここで働く!よろしくな、E組の皆!」

 

その場にいる全員が戸惑った。烏間とら真逆の鷹岡のフレンドリーさと鷹岡の荷物に。その荷物にはケーキや飲み物が大量に入っていた。真っ先に反応したのはスイーツ党の茅野と不破だった。

 

「これ『ラ・ヘルメス』のエクレアじゃん‼︎」

「こっちは『モンチチ』のロールケーキ‼︎」

「いいんですか、こんな高いの?」

「おう、食え食え!俺の財布を食うつもりで遠慮なくな‼︎モノで釣ってるなんて思わないでくれよ。おまえらと早く仲良くなりたいんだ。それには…皆で囲んで飯食うのが一番だろ!」

「でも…えーと鷹岡先生、よくこんな甘い物ブランド知っていますね。」

「ま、ぶっちゃけラブなんだ、砂糖が。」

「でかい図体してかわいいな。」

 

皆は少しずつ鷹岡の持ってきた菓子を食べ始める。それに釣られて殺せんせーもじっとヨダレを垂らしながら見ている。

 

「お〜殺せんせーも食え食え‼︎まぁいずれ殺すけどな。」

 

持ち主からの許可を得てスイーツに食らいつくタコ。その姿に恥なんてない。

 

「同僚なのに烏間先生とずいぶん違うスね。」

「なんか近所の父ちゃんみたいですよ。」

「ははは、いいじゃねーか、父ちゃんで。同じ教室にいるからには…俺たち家族みたいなもんだろ?」

 

その様子を奏は少し離れて見ていた。

 

(…なんだアイツ?あの仮面みたいに貼り付けた笑顔、気持ち悪りぃ。)

「おーい、そこで見てるおまえ!おまえもこっちに来いよ!」

「そうだよ〜、ナミ君!美味しいよ〜!」

「…すんません。今ちょっと胃の調子が悪いんで、またの機会に。」

「…そっか。ならしゃーないな!」

 

奏は無表情のまま、校舎に戻っていく。中には烏間がいて話しかけてきた。

 

「君は混ざらないのか?」

「…薄気味悪いんで、あの人。補佐って言ってましたけど…具体的には?」

「…俺が暗殺者の手引きに専念して、鷹岡が君達の訓練を行えとの指示だ。」

「そうですか…なら俺は明日休みます。あの人の授業は受ける気になれないんで。」

 

教室に入ると、奏は律に話しかける。その内容は明日の鷹岡の授業に不審な点があったら連絡してくれ、とのことだ。

 

奏の疑惑に反して、鷹岡の生徒からの評価は高くなっている。

 

「どう思う?」

「えー、私は烏間先生の方がいいなー。」

「でもよ、実際のとこ烏間先生何考えてるか分からないとこあるよな。いつも厳しい顔してるし、メシとか軽い遊びも…誘えばたまに付き合ってくれる程度で。その点あの鷹岡先生って根っからフレンドリーじゃん。案外ずっと楽しい訓練かもよ。」

 

上からの鷹岡の評価は烏間も聞いていた。教官としては自分より遥かに優れていたらしい。しかし部下の園川からの警告、そして鷹岡の生徒と軍人を一緒くたに考えるような言葉を少し不審に思っていた。

 

 

=========================

 

 

(だいぶ憂太も腕上がってきたな。伸び代は大きい。)

 

翌日、予告通り学校をサボった奏は高専で憂太の特訓をしていた。

 

「…もらった‼︎」

「…‼︎」

 

憂太は腰近くに横薙ぎを仕掛けてくる。奏はこれをバク転で回避する、がこれを読んでいた憂太はさらに加速して足元目掛けて切りかかる。しかしその一振りは当たらずに空を切る。空中に浮いて回避した奏は憂太の上を飛んで後ろに回り込み、切りかかる

 

「ええ!?」

「これで二つ目だな。1ヶ月ちょいでこれは充分だろ。」

 

憂太は既に奏から百々目鬼と累乖呪法の使用に成功している。残すは二つだが、自在に重力を操る奏からさらに癖のある術式を使わせるのは至難の業だ。

 

「…まさか、空を飛ぶ術式なんて。」

「いや、違うぞ。今使ったのは領域内の重力を操る術式で、自分にかかる重力を弱くしてかかる方向を変えた。他人にかけるにはこうやって。」

 

説明しながら奏は憂太の肩に触れる。そして指をクイと上に曲げると憂太の体が宙に浮いた。

 

「うわ⁉︎」

「相手に触れる必要がある。質量次第で触れる時間は変わるけどね。」

「わ、分かった!分かったから降ろして‼︎酔いそう‼︎」

 

奏が憂太にかかっている術式を解いたとき、携帯がなった。律からだ。

 

「漣さん!大変です‼︎」

「律?何があった⁉︎」

「これを見て下さい‼︎」

「…⁉︎」

 

律が奏の携帯に映したもの、それは腹を抑えて苦しそうにしている前原とその様子を昨日と同じ笑顔で見下ろしている鷹岡だった。

 

「…これは、いったい…」

「鷹岡先生が訓練が始まってから時間割の変更を告げてきたんです。それがこれです…。」

「は⁉︎十時間目、夜9時まで訓練⁉︎こんなのできるわけないだろ!」

「私も同意見です。しかし前原さんが同じように鷹岡先生に言った時、鷹岡先生がお腹に蹴りを入れてきました。『できないじゃない、やるんだよ。世の中に父親の命令を聞かない家族がどこにいる?』と言って…」

「あのやろう…!」

 

奏は怒りで携帯を握り潰しかねない程の力を込めていた。

そのまま荷物を整理し、学校に向かおうとする。

 

「憂太!悪いが今日の特訓は中止だ、用事ができた‼︎」

「え、う、うん。…漣君、大丈夫?」

「大丈夫じゃねぇよ…今から俺の仲間傷つけたやつをぶっ飛ばしに行く。」

「…気をつけてね?」

 

奏はその言葉には何も言わず、片手を挙げて走って行った。

 

 

=======================

 

 

鷹岡明

 

 

彼は同期である烏間に対して強い対抗心を抱いている。

その彼が活路を見出したのが教官、そしてその教育方針は「親愛」と「恐怖」。延々と「恐怖(ムチ)」に叩かれた兵士達は、一粒親愛(アメ)を与えるだけで泣いて喜ぶ、それが彼のやり方でここでも変わらない。

 

「さあ、まずはスクワット100回かける3セットからだ。」

 

鷹岡はまるで表情を変えずに言う。

 

「抜けたい奴は抜けてもいいぞ。その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。俺が手塩にかけて育てた屈強な兵士は何人もいる。1人や2人入れ替わってもあのタコは逃げ出すまい。けどな、俺はそういう事したくないんだ。おまえら大事な家族なんだから、父親として1人でも欠けて欲しくない!家族みんなで地球の危機を救おうぜ‼︎なっ?」

 

そういい鷹岡は三村と神崎の肩に手を回す。2人とも当然青ざめていた。その表情を見て鷹岡は神崎に問いかける。

 

「な?お前は父ちゃんについてきてくれるよな?」

「…は、はい。あの…私……私は嫌です。烏間先生の授業を希望します。」

 

それを聞いても鷹岡は変わらない笑顔で神崎にビンタをする。

 

「「神崎さん‼︎」」

「…お前ら、まだ分かってないようだな。「はい」以外は無いんだよ。文句があるなら拳と拳で語り合おうか?そっちの方が父ちゃんは得意だぞ‼︎」

「やめろ、鷹岡‼︎」

 

異常に気づいた烏間が職員室から飛び出して、神崎たちのところに駆け寄る。

 

「大丈夫か?首の筋に痛みは無いか?」

「烏…間先生、大丈夫です。」

「前原君は?」

「へ……へーきッス。」

「ちゃんと手加減してるさ、烏間。大事な俺の家族なんだから当然だろ。」

「いいや、あなたの家族じゃない。私の生徒です。」

 

鷹岡が振り返るとそこには顔を赤黒くしている殺せんせーがいた。ど怒りになりかけた表情だ。頼れる担任が来て生徒たちの顔が明るくなる。しかし鷹岡は怯まない。

 

「フン、文句があるのかモンスター?体育は教科担任の俺に一任されてるはずだ。そして、今の罰も立派に教育の範囲内だ。短時間でお前を殺す暗殺者を育ててるんだぜ。厳しくなるのは常識だろ?それとも何か?多少教育論が違うだけで…お前に危害も加えてない男を攻撃するのか?」

 

その言葉に殺せんせーも烏間も言い返せず引き下がる。

 

そのまま鷹岡の授業は続き、指示通りスクワット300回を強制する。その様子を三人の教師は眺めるしかなかった。

 

「…あれでは生徒達が潰れてしまう。超生物として彼を消すのは簡単ですが、それでは生徒に筋が通らない。私から見れば間違っているものの、彼は彼なりの教育論がある。ですから烏間先生、あなたが同じ体育の教師として彼を否定してほしいのです。」

 

(否定…俺が奴を間違っていると言えるのだろうか。)

 

烏間は迷っていた。今でこそ鷹岡のは異常な授業に見えるが、昨日の時点では彼のように家族の如く接した方が良かったのか、プロとしての自分の接し方は間違っていたのかと思っていたからだ。

 

 

「冗談じゃねぇ…初回からスクワット300回とか…死んじまうよ…。」

「烏間先生〜…ナミ君〜…」

 

倉橋の呟きを聞いてしまった鷹岡が近づく。

 

「おい、烏間は俺たち家族の一員じゃないぞ。お仕置きだなぁ…父ちゃんだけを頼ろうとしない子は。」

 

鷹岡が拳を振りかぶり、倉橋は目を瞑る。

しかし痛みはいつまでたっても来ない。恐る恐る目を開けると…

 

「アンタ…何してんだよ…‼︎」

 

鷹岡の拳を受け止めている思い人()がいた。

 

「…ナミ君!」

「…ギリギリセーフか…いや、前原と神崎さんがやられた時点でアウトだよな…」

「気にすんなよ…漣。平気だからさ。」

「私も大丈夫だよ…。」

「……そうか、すまない。」

 

拳を放し周りを一瞥してから、奏は再び鷹岡と対峙する。

 

「それで何してたんだよ…!」

「ん?お前は今日欠席だと聞いていたが、まさか仮病か?良くないなぁ。」

「質問に質問で返すなよ。さっさと答えろ。」

「見て分からないか?教育だよ。」

「これが…教育…?ふざけんのも大概にしろよ!」

「おいおい、何人間に向かって偉そうに説教してるんだ?化け物の分際で、虐殺者の分際でよぉ。」

 

その言葉を聞き奏は目を開く。鷹岡は続けて言う。

 

「お前の過去は知ってるぜ。11歳という異例の年齢で特級の名を冠し、飛び級で呪術高専に入学した稀代の天才呪術師。けれどその力は10年程前に自らの一族郎党、5人の呪術師、そして何百人もの一般人を虐殺して得たものなんだってなぁ。付いた異名が「災厄」。化け物ってのが相応しいな‼︎」

 

鷹岡の言葉に皆が驚愕する。呪術師という聞いたことのないワード、奏が着ている椚ヶ丘のとは明らかに違う黒い制服、今まで奏が話していたのとは何一つ合ってない奏の過去、そして「虐殺」。情報が纏まらず困惑している。それは奏の素性を全く知らなかった殺せんせーとイリーナ、素性を知っていたものの過去は知らなかった倉橋と烏間もだ。そして奏本人が誰よりも驚いている。

 

「…何でテメェがそれ知ってんだよ…」

「化け物の言うことに従うと思ってんのか?あぁん?」

「…そうかよ…だったらぶちのめして聞き出す!拳で語り合うのが得意なんだろ?」

 

そう言うと奏は回し蹴りを決める。突然の一撃に対処できずに蹴りは鷹岡の顔に命中する。そのまま素早く飛び蹴りに移行するが、これは鷹岡が掴んで防がれる。

 

「化け物風情が…あまり調子に乗るなよ?」

 

鷹岡は掴んだ足を投げ、地面に落ちた奏を踏み付けようとする。しかし落ちると同時に奏は受け身を取り、避けた後すかさず逆立ちの要領で蹴りを放つ。

 

「す…すげぇ…」

「漣のやつ、訓練の時とは全然動きが違うぞ…」

「まるで動きを予想してるみたい…」

 

奏の動きにクラス中が驚くものの鷹岡は表情を崩さない。教育のやり方は異常だがこれでも烏間同様の精鋭軍人、簡単には倒れない。

 

「なかなかやるな…父ちゃんも本気でいくぞ‼︎」

 

鷹岡は勢いよくタックルを仕掛けてくる。巨体に反してスピードは速いが奏にとって見極めるのは造作も無く、当たる寸前で避け後ろを狙おうとする。しかしそれが鷹岡の狙いだった。当たる寸前減速することで奏の回避のタイミングが早まり、できた隙を狙って顔の左側にパンチが飛んでくる。

 

「くっ…」

「まだまだいくぞ‼︎」

 

再び鷹岡はタックルを仕掛ける。奏はフラフラと立ち上がりガードの構えをするが、ぶつかる前に鷹岡はパンチの構えに切り替える。右側から放たれた鷹岡のパンチを間一髪で防ぐものの、バランスが崩れていた奏はしっかり防げずガードした腕がメキメキと鳴る。フラッとした奏の頭を鷹岡が掴み地面に叩きつけ、何度も足で踏み潰す。

 

「なんだぁ?大層な名前の割に大したことないじゃないか?」

 

鷹岡はそう言い、皆の方に振り返る。さっきの勝負を見て皆は震え上がっている。だがその顔は信じられないものを見る目に変わった。

 

「手加減してやったのに、大したことない…ね。」

 

そこには奏が何事も無かったかのように立っている。先程の傷も全くない。奏は何処からともなく手帳のようなものを取り出し、あるページを開いてアームウォーマーを取り外して、そこに手を合わせる。

 

「だったら少しだけ見せてやる、俺の呪い(ちから)を。」

 

さっきとは明らかに違う感じの気配を纏った奏に鷹岡は警戒するものの、すぐに勝負を決めようと最速でのタックルを仕掛ける。たがなんと奏は防御も反撃の構えもせずに両手をパンと鳴らす(・・・・・・・・・)。そしてタックルは当たらなかった。奏が消えていた。

 

「な⁉︎」

「消えた⁉︎」

 

何処に行った、そう考えるより早く鷹岡の背に蹴りが決まる。振り返るといつのまにか奏がいる。鷹岡は今度こそと拳を振るうが、奏は再び両手を鳴らし消える。と同時に今度は横腹に正拳突きが決まる。

 

 

血印刻術

血液を介して他者の術式を奪う奏の術式。この術式で奪われた者は二度とその術式を使えないが、これにはもう一つのやり方がある。

それが「拝借」。他者の術式を時間制限ありで使用できるようにする術式。発動には「血印台帳」という手帳に写し込まれた血印に手を合わせる必要がある。「略奪」との最大の違いは対象の術式保有者から術式が消えない点。

 

そして今奏が拝借しているのが京都校2年生、東堂葵の術式「不義遊戯(ブギウギ)」。

これは両手を鳴らすことを発動条件として、領域内の一定以上の呪力を持つ生物、または非生物の位置を入れ替えるというもの。

 

ではいったい奏は何と入れ替わっているのか?

鷹岡を始め奏以外の全員には見えていないが実はグラウンド一帯に奏の放った百々目鬼が20体ほど存在している。奏はこの眼と自身を入れ替えることで鷹岡の背後から攻撃しているのだ。普通の呪術師でさえ20箇所ものワープポイントの内何処から仕掛けてくるのか判断しづらいのに、見えない人からしたらまるで対処できない。

 

立場は逆転して奏が一方的に攻め立てる。

 

『式瀾流呪闘術 仇の型・竜胆』

 

正面に転移して鷹岡の腹に強烈な発勁を撃つ。鷹岡の身体がグラつくが奏は構わず次の技に移す。

 

『什の型・牡丹』

 

奏はジャンプをして勢いよく踵落としを繰り出す。まともに受けた鷹岡は仰向けになる。

 

「さてと…そろそろ吐いてもらおうか、誰に聞いた?」

 

だが鷹岡は答えない。奏は気絶しているものかと思った。

 

 

 

 

 

しかし返事の代わりに聞こえたのは銃声だった。

 

 

 

 

パァンという音がして、奏は胸に痛みを感じる。見ると心臓から血が出ており、振り返ると鼻血を流し拳銃を持った鷹岡が立っている。生徒たちは悲鳴を上げるが、奏は気にしない。さっきと同じように反転術式を使えばいいからだ。この程度で形勢は変わらない。

 

 

 

 

だが奏は膝をつき、吐血する。

 

 

 

(…な⁉︎何で…何で反転術式が作用しない(・・・・・)⁉︎)

 

 

 

顔を上げると鷹岡がニヤニヤと笑っている。再び引き金を引きながら鷹岡は言う。

 

 

「再生能力を持っているお前には一般兵器は通じないんだってなぁ?けどよ、あるルートから手に入れたこの銃を使えばその力を封じられるんだぜ。知らなかっただろう?」

 

(クソ!そういう術式が付与されてんのか‼︎いよいよ誰が仕組みやがった⁉︎)

 

弾丸が奏の身体を撃ち抜く。奏は道連れにと不義遊戯を発動させ、鷹岡の後ろにいる眼と弾丸を入れ替えようとする。しかし、

 

(…な…不義遊戯も百々目鬼も発動しない⁉︎俺の術式全部封印かよ‼︎)

 

 

 

最後の弾丸が奏の身体を貫く。

 

 

鷹岡は最初の時と同じ笑顔を、奏は憎悪で満たされた苦悶の表情を浮かべる。

 

 

そして奏の視界は真っ暗になりうつ伏せになって倒れ込んだ。

 

 

 




主人公、まさかの死亡。

これじゃあタイトルが「奏、死す」になってまう。


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第23話:才能の時間

狗巻語の解読に難航している作者。だいたいは分かるけど「いくら」だけがどうしても分かりません。


「久しぶりだなぁ、貴様がここに来るのは。」

 

猛烈な吹雪。

辺り一面に雪の上に転がっている骸。

その中に対になるようにそびえ立つ骨が重なってできている二つの塔。

片方の塔の頂に座るのは奏、もう一つの塔の頂に座るのは奏と同じ顔をした男。しかし奏のような銀髪ではなく、その髪は鴉をイメージさせるような黒。顔には不可思議な刺青がある。何より奏と違うのはその残虐さを隠すことのない表情である。

 

この2人が居るのは地球上のどこにも存在しない場所。

ここは奏とこの男が生み出した『生得領域』、すなわちこの2人の心の中なのだ。そしてここに居るということは奏はまだ完全には(・・・・・・)死んでいないということになる。

 

「まぁな。最後に死んだのは四年前…いや、三年前だったか?…どっちでもいいか。」

「ククク、先程までには焦っていたのに冷静なものだな。」

「そりゃあここに来たら嫌でもクールになるよ。」

 

奏は少しイラついた顔で、奏に似た男は愉快そうな顔で話す。

 

「しかし油断した結果、あのような虫けらに殺られるとはなぁ。」

「反転術式封じの術式かかってんのは流石に想定外だっつうの。防衛省も知らない俺の過去知ってる時点で術師と繋がってんのは分かってたから、普通の呪具だと思ってたんだよ。」

「クク、そうさなぁ。しかもこの術式、我等が死んでいてもかろうじて解呪できるよう(・・・・・・・・・・・・)弱めに設定されている。非常に不可解だな。」

「その割には楽しそうじゃねぇか。……それで、解呪にはどれくらいかかる?」

「割と複雑だな…6、7分程だな。」

「…分かった。解呪が完了したら。すぐ復活して拷問にかける(・・・・・・)。向こうの手の内は割れているから造作もないし、情けをかけるつもりもない。鷹岡をぶち壊した後は殺せんせーだ。」

「ほう…?随分と決断が早いな。先日まではあの殺せんせーとやらを殺すのはやたら渋っていただろう?」

「事情が変わった。鷹岡が俺の秘密をバラした以上隠すのは律の力を借りても不可能だからな。これ以上居座る理由はない。俺に慣れる前に殺す、全力でだ。」

「ククク……ということは我も殺れるのか…!楽しみだなぁ‼︎」

「その前にまずはあのクズだ。徹底的にゼツボウさせて、ぐちゃぐちゃにシテ、死スラ生温イ地獄ヲ味ワワセテヤロウ‼︎」

「ほう!…つまり久しぶりに『あの状態』に入るのか‼︎ますます楽しくなってきた‼︎」

 

 

 

 

 

「アア…『共鳴』ダ……『八咫烏』‼︎」

 

 

 

 

 

憎悪に染まっていた奏の表情は次第に狂気じみた笑みに変わり、それに合わせて「八咫烏」と呼ばれた男も楽しそうに笑う。

 

 

2人しかいない雪原に狂った笑い声が響いた。

 

 

 

 

========================

 

 

「ナミ君‼︎」

「漣君‼︎しっかりしろ、漣君‼︎」

 

グラウンドはパニックになっていた。拳銃を持った鷹岡、そして射殺された奏。烏間や倉橋が必死に奏に呼びかけるが返事は返ってこない。

 

「こんなことをして許されると思っているのか、鷹岡明‼︎」

 

殺せんせーは鷹岡と向き合っている。その顔は当然、ど怒りの黒。しかし鷹岡はさも当然のように語る。

 

「許されるさ、モンスター。あいつはお前と同じ…いや、それ以上の怪物だ。お前は知らんだろうが、やつがその力を最大限に発揮すれば1ヶ月足らずで人類は滅びるんだぜ?そんな化け物を殺してやったんだ。讃えられこそすれど、貶される謂れは無いはずだが?」

「貴様…いったい彼の何を知っている⁉︎」

「だからさっき言ったまんまだよ。昔から家族含めて何百人もの人を殺して来たんだよ、アイツは。」

「ッ……‼︎」

 

殺せんせーは鷹岡を睨みつけてから、奏の方に向かう。

 

「烏間先生、どいて‼︎私がここで手術を行います‼︎」

 

殺せんせーは触手を駆使して手術を開始しようとするが、心臓部分に触れようとした時バチリと弾かれる。

 

「何…⁉︎」

「無駄だぜ、殺せんせー。それにかかっている術はそいつの術を封じるだけでなく、外界からの接触を封じる結界もかかっている。あんたのマッハ手術が優れていても触れられなきゃ意味がない。」

 

 

鷹岡はニンマリと笑いそう言う。

次に鷹岡はクラス中を見渡し、わざとらしくため息を吐く。

 

「父ちゃんがお前たちを危険に晒す敵を倒してやったのに…お前らはまだ納得していないみたいだな。それなら烏間、お前と俺で教育勝負をしよう‼︎」

「何だと…?」

「どちらの教育が優れているのか競うんだよ。烏間、お前が育てたこいつらの中でイチオシの生徒を1人選べ。そいつと俺が闘うんだ。そいつが一度でも俺にナイフを当てられたらお前の勝ち、当てられずに降参したら俺の勝ち。勝った方が体育教師としての権限を得る。…たーだーし、殺す相手が俺だからな、使うナイフは本物(コレ)だ。どうだ?」

「なっ…ふざけるな‼︎彼らは人間を殺す訓練も用意もしていない‼︎しかもまさに今一人殺されているんだぞ‼︎まともに振るうことすら出来るはずがない‼︎」

「安心しな。寸止めでも当たったことにしてやるし、俺はナイフも銃も使わず素手でやる。これ以上無いハンデだろ?」

 

 

鷹岡のこのやり方もまた軍隊の時と同じだった。

初めてナイフを持つ新兵を素手で制圧することで、鷹岡との格の違いを思い知り心服するようになる。

 

軍隊ですらそうなるのだから、当然E組全員青ざめている。

 

「さあ烏間‼︎1人選べよ‼︎嫌なら無条件で俺に服従だ‼︎生徒を見捨てるか、生贄として差し出すか‼︎どっちみち酷い教師だな、お前は‼︎はっははーー‼︎」

 

鷹岡は高笑いし、烏間の足元の地面にナイフを投げ渡す。

烏間はそのナイフを引き抜くが、どうすべきか判断しかねていた。

 

 

(……俺は…まだ迷っている。地球を救う暗殺者を育てるには…奴のような容赦のない教育こそ必要ではないのか?……この教師(しょくぎょう)に就いてから悩みだらけだ。仮にも鷹岡は精鋭部隊に属した男。訓練3ヶ月の、ましてや目の前でクラスメイトを殺された中学生の(ナイフ)が届くはずがない。)

 

 

ナイフを持ったまま烏間は思考する。しかし悩んではいるが、いつものような厳しい表情である生徒のもとに向かう。

 

(その中でたった1人だけ、わずかに「可能性」がある生徒を…2度も危険に晒していいものかも迷っている。)

 

 

そして烏間はその生徒…渚にナイフを差し出そうとする。

 

 

「渚君、やる気はあるか?」

「…⁉︎」

「選ばなくてはならないなら恐らく君だが、返事の前に俺の考え方を聞いてほしい。地球を救う暗殺任務を依頼した側として…俺は君達とはプロ同士だと思っている。プロとして君達に払うべき最低限の報酬は、当たり前の中学生活を保障することだと思っている。だからこのナイフは無理に受け取る必要は無い。その時は俺が鷹岡に頼んで…「報酬」を維持してもらうよう努力する。」

「ククク、土下座でもすりゃ考えてやるがね。」

 

 

烏間の判断には烏間以外の全員が困惑する。それもそのはず、渚の運動能力は当然運動部に所属していた者やカルマのような喧嘩好きな者には劣る、男女問わずだ。体格と馬力は女子並み。一般的に選ぶなら磯貝か前原(負傷中だか)、カルマ(サボりだが)、或いは片岡あたりのはず。しかも使うナイフは本物。鷹岡は素人が本物のナイフを人に向けると、その意味に気づいて普段の力の一割も出せなくなることを経験則から知っている。誰もが選択ミスだと思った。ただ1人…E組の担任を除いて。

 

「カラスマの奴、頭が変になったのかしら?なんでここで渚を選ぶのよ?」

「いいえ、烏間先生の出した答えは正しいですよ。あの条件なら…私も渚君を指名するでしょう。」

 

 

一方渚は烏間の目を見つめて考えていた。

 

(…僕はこの人の目が好きだ。こんなに真っ直ぐ目を見て話してくれる人は家族にもいない。立場上、僕らに隠し事も沢山あるだろう。何で僕を選んだのかも分からない。けどこの先生が渡す(ナイフ)なら信頼できる。それに神崎さんと前原君の事、何より漣君の事、しっかりお返ししなきゃ気が済まない。)

 

渚はナイフを受け取り、覚悟を決めて宣言する。

「やります。」と。

 

「おやおや、お前の目も曇ったなぁ、烏間。よりによってそんなチビを選ぶとは。」

「渚君、鷹岡は素手対ナイフの闘い方も熟知している。全力で振らないとかすりもしないぞ。」

「……はい。」

 

鷹岡は上着を脱いで準備し、烏間は渚にある事を囁く。

 

 

そして勝負が開始する。

2人とも動かない。渚はどう動けばいいのか迷って、鷹岡は自分の作戦として。渚は勝負の前に言われたアドバイスを思い出す。

 

『鷹岡が決めたこの勝負、君と奴の最大の違いはナイフの有無じゃない。鷹岡にとってのこの勝負は「戦闘」だ。目的が見せしめだからだ。二度とみんなを逆らえなくする為には…攻防ともに自分の強さを見せつける必要がある。』

 

『対して君は「暗殺」だ。強さを示す必要も無く、ただ一回当てればいい。そこに君の勝機がある。』

 

『奴は君にしばらくの間、好きに攻撃させるだろう。それらを見切って戦闘技術を誇示してから、じわじわと君を嬲りにかかるはずだ。つまり反撃の来ない最初の数撃が最大のチャンス。君ならそこを突けると俺は思う。』

 

 

 

 

 

 

(そうだ、戦って勝たなくていい。殺せば勝ちなんだ。)

 

 

 

 

 

そして渚は鷹岡の方へ歩いていく。まるで通学路を歩くかのように普通の笑顔で。

渚の胸がポスンと鷹岡の腕に当たる。すると渚は素早く首筋目掛けてナイフを振る。ここでようやく鷹岡は自分が殺されかけてる事に気がついた。済んでのところで体を仰け反らせて避けるが、渚は重心が後ろに偏っていることを見逃さない。手を伸ばして服を引っ張ると、鷹岡は転ぶ。そして防がれないよう背後に回り込み、ナイフを首筋に当たる。

 

 

 

「捕まえた。」

 

 

 

この一連の流れに殺せんせーは当然分かっていたような笑顔を浮かべ、それ以外の面々は驚愕する。

 

 

(なんて事だ…予想を遥かに上回った‼︎普通の学校生活では…絶対に発掘される事のない才能‼︎殺気を隠して近付く才能、殺気で相手を怯ませる才能、本番に物怖じしない才能‼︎俺が訓練で感じた寒気は…あれが訓練じゃなく本物の暗殺だったら‼︎戦闘の才能でも暴力の才能でもない、暗殺の才能‼︎これは…咲かせても良い才能なのか⁉︎)

 

「…あれ、ひょっとして烏間先生、峰打ちじゃダメなんでしたっけ?」

「そこまで‼︎勝負ありですよね、烏間先生。」

 

殺せんせーの声で皆ハッとする。

それに続いて皆が涙を流しながら、しかし笑顔で渚のもとに駆け寄る。

 

「やったじゃんか、渚‼︎」

「お前までやられちまったらどうしようかと思ったぞ‼︎」

「大したもんだよ。よくあそこで本気でナイフ振れたよな。」

「いや…烏間先生に言われた通りやっただけで、鷹岡先生強いから…本気で振らなきゃ驚かす事すら出来ないかなって。」

 

パチンと前原が一回渚にビンタする。

 

「痛っ⁉︎何で叩くの、前原君⁉︎」

「あ、悪い…ちょっと信じられなくてさ。でもサンキュな、渚‼︎今の暗殺スカッとしたわ‼︎」

 

 

その様子を烏間は離れて見ていた。

 

 

(それにしても……ああしてるととても彼が強くは見えない。だからこそ鷹岡はまんまと油断し反応が遅れた。暗殺者にとっては…「弱そう」な事はむしろ立派な才能なのだ!さらに自然に近付く体運びのセンス、敵の力量を見て急所を狙える思い切りの良さ、暗殺でしか使えない才能‼︎だが…喜ぶべき事なのか⁉︎このご時世に暗殺者の才能を伸ばしたとして…E組(ここ)ではともかく、彼の将来にプラスになるのか?)

 

烏間が悩んでいると殺せんせーがその肩に顔を乗っけてきた。

 

「烏間先生、今回は随分迷ってばかりいますねぇ、あなたらしくない。」

「悪いか。」

「いえいえ…でもね烏間先生。」

 

殺せんせーが生徒たちの方を指差すと、その後ろに鷹岡が立っている。勝負前までの余裕はなく、完全に激昂している。

 

「このガキ…父親も同然の俺に刃向かって…まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか。もう一回だ!今度は絶対油断しねぇ!心も体も全部残らずへし折ってやる‼︎」

 

烏間は止めようとするが、殺せんせーは肩を叩いて少し見ていて下さいと言う。

 

「…確かに次やったら絶対に僕が負けます。…でも鷹岡先生、はっきりしたのは僕らの『担任』は殺せんせーで、僕らの『教官』は烏間先生です。これは絶対譲れません。父親を押しつける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が僕はあったかく感じます。本気で僕らを強くしようとしてくれたのは感謝してます。でもごめんなさい、出て行って下さい。」

 

渚は鷹岡の方をしっかり見ながらキッパリと意見を言い、最後に頭を下げる。更に倉橋が続けて言う。

 

「鷹岡先生が言ったナミ君の事は私達は分からない…ナミ君に何があったのか知らない。けど…私達にとってナミ君は『化け物』なんかじゃなくて『仲間』だから!ナミ君を殺した鷹岡先生を許すことなんて出来ません。ナミ君は戻って来ないけど、私達の心の中からは欠けません。」

 

2人の言葉に続けて皆が反抗的な目を向ける。

その光景にビックリしている烏間に殺せんせーは言う。

 

「先生をしてて一番嬉しい瞬間はね、迷いながら自分が与えた教えに…生徒がはっきり答えを出してくれた時です。そして烏間先生、生徒がはっきり出した答えには…先生もはっきり応えなくてはなりませんねぇ。」

 

鷹岡は怒りのままに渚に襲いかかろうとするが、それより早く烏間が鷹岡の顎に肘打ちを決める。

 

「…俺の身内が…迷惑かけてすまなかった。後の事は心配するな。俺1人で君達の教官を務められるよう上と交渉する。いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ。」

「「「烏間先生‼︎」」」

「くっ…やらせるか、そんな事…。俺が先にかけあって…」

「交渉の必要はありません。」

 

突如としてグラウンドに澄んだ声が響く。校舎の方に皆が振り返ると浅野理事長が立っていた。

 

「理事長…‼︎……御用は?」

「経営者として様子を見に来てみました。新任の先生の手腕に興味があったのでね。」

 

急に現れた理事長に鷹岡以外の教師達が焦る。理事長の教育理念から考えれば、E組を消耗させる鷹岡の続投を望むのが合理的だからだ。しかしその予想は外れる。

 

「でもね鷹岡先生、あなたの授業はつまらなかった。教育に恐怖は必要です。一流の教育者は恐怖を巧みに使いこなす。が、暴力でしか恐怖を与える事が出来ないなら…その教師は三流以下だ。自分より強い暴力に負けた時点で、それ(・・)の授業は説得力を完全に失う。」

 

そう言いながら理事長は紙を一枚取り出して何か書き込み、その紙を鷹岡の口に突っ込む。

 

「解雇通知です。以後あなたはここで教える事は出来ない。椚ヶ丘中(ここ)の教師の任命権は防衛省(あなたがた)には無い。全て私の支配下だという事をお忘れなく。」

「鷹岡クビ…」

「ってことは、今まで通り烏間先生が…」

「「「よっしゃあ‼︎」」」

 

喜ぶ生徒たちを見ようともせずにその場を去ろうとする理事長。だが彼は一度立ち止まって奏の死体を見てある事を言う。

 

「ああそれと、彼まだ終わっていない(・・・・・・・・・)と思いますよ?私の勘ですが。」

「「「え⁉︎」」」

 

それってどういう事かと皆が聞こうとするが

 

 

「ウガァァァァァ‼︎‼︎」

 

 

これ以上無いほどの屈辱を受けた鷹岡が、八つ当たりに近くにいる生徒に手当たりしだい当たり散らそうとする。

まずい、と思い烏間と殺せんせーは動くがそれよりも早く動いた人物がいた。

 

 

 

 

「「「「…なっ⁉︎」」」」

 

今日何度目かになるか分からないが、皆驚く。理事長ですら少し予想していたとはいえ多少驚いていたが、今度こそ校庭から去っていく。

 

 

鷹岡を抑えているのは、数分前まで物言わぬ死体となっていた奏であった。




書きながら思っていましたけど、クラスメイトが目の前で死んでいたら、まずメンタルブレイクして今回のような流れにはなりませんよね。というか今回陽菜乃ちゃん、カッコ良すぎひん、なんて思っちゃったんですがどうでしょうか、うちのヒロインは?

それと活動報告一件更新しました。見てください。


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第24話:狂気の時間

前半は別にふざけているわけじゃありません。大真面目です。


投稿後すぐにちょっぴり修正しました


-本日も始まりました、「教えて!夏油さん‼︎」。皆さんが思っているだろう疑問に夏油傑さんが答えてくださいます。ではよろしくお願いします、夏油さん。

 

「ええ、こちらこそよろしく。」

 

-それではまず本日のテーマである少年、「漣奏」君について夏油さんはどう思っていますか?

 

「奏は素晴らしい呪術師だよ。実力もそうだが例え自分がどうなろうとも構わない精神で仲間を守り抜く慈しみ、それが奏の何よりの魅力で何よりイカれている点だ。」

 

-イカれている…と言いますと?

 

「彼にとって何より大切なのが仲間、彼の言葉で言うと『身内』さ。そしてそれ以外の人間は自分も含めた上で心底どうでもいい、奏はそう考えているんだよ。極端な例だけど身内が100人いるとしよう。奏にとってその100人の身内の命はそれ以外の72億人の人間の命より重くなる。100人で72億人以上じゃないよ。100人の中の一人一人が72億人より重いんだ。」

 

-…実際『身内』が傷つくとどうなるのでしょうか?

 

「死ぬか死が救いになるような地獄を味わうことになるかのいずれかだね。実は5年程前に一度試してみたんだよ、奏がキレたらどうなるか。」

 

-いったい何をしたのですか?

 

「私がある村から依頼された呪いを祓う任務に彼を同行させた。村に着くと村人達は私を救世主としてもてなした。だがそこの村人達は高専に保護される前の奏を知っていてね、悪魔だの化け物だの罵り、石を投げてきたんだ。私は奏を庇って傷をうけた時にそれ(・・)は起こった。」

 

「奏は自分に憑いてる八咫烏と肉体だけでなく心まで一体化した、村人を殺すためにね。あまりにも一瞬の出来事だったよ。1時間も経たないうちに村は消滅した。誰一人逃さないどころか村そのものが無くなった。それが終わると私に抱きつき「ごめんなさい…ごめんなさい…」と繰り返していた。」

 

-凄まじいですね…しかし高専はよく彼を手元に置いておけますね。

 

「そうだねぇ、保守的な高専にしてはまずおかしい。けれど彼が八咫烏と完全に一つになるのは彼が望んだ時のみなんだよ。」

 

-それはどういう?

 

「彼が八咫烏をどうやって抑えているのか?何故八咫烏がおとなしく彼に従っているのか?奏は八咫烏とどんな縛りを課したのか?これらは本人以外誰も知らない。しかし事実、奏は八咫烏を完全に抑え、必要な時のみその力を利用している。つまり奏の逆鱗に触れない限り、高専が保護する前みたいに暴走することはありえないのさ。」

 

-その逆鱗が、『身内』…

 

「そういうこと。だから高専の奴らは奏の『身内』が傷つかないよう警戒して、奏が持つ数々の術式と八咫烏の力を利用している。更に言えば奏は自分が生きているという事に疑問に思っているからね、必要が無くなって死刑を命じれば確実に受け入れるはずなんだよ。」

 

「ああ、もう一つ触れてはいけないのが過去の事だね。彼の『身内』はほとんど知っているけれど、それでも迂闊に彼の過去に触れてはいけない、暗黙のルールがある。部外者が触れようものならば容赦はしないね。」

 

「まあいずれにせよその2点に留意すれば、奏は使い勝手の良い駒となる。だから高専に限らず御三家や呪術連も今はまだ彼に死刑を言い渡さない。徹底的に使い潰してから処分しようと思ってるんだろう。」

 

-では夏油さんは彼にどうしてほしいと願っていますか?

 

「当然私の家族に加わってほしいさ。何とか彼は生き長らえているが、その先に幸せはない。どうなろうが行き着く先は破滅だ。そして恐らく奏自身、己の立場を自覚している。最初に言ったが彼は素晴らしい呪術師だ、八咫烏の事を抜きにしてもね。だが高専に所属している以上、非術師(サル)なんかの為に動かず、自分の大切な物の為に動いてほしい。師匠として私は彼を幸せにしたい。」

 

-なるほど、夏油さんの彼に対する想い、しかと伝わりました。では漣奏君を客観的に見て一言で表すと、どんな人物でしょうか。

 

「そうだねぇ。…彼の身内たちはほとんど私と同じで、優しいとか優秀だと感じているだろうが、客観的にか…

 

 

 

ふむ、「『(わざわい)』という文字が人の形を成したもの」、これが部外者から見た奏を的確に表現した言葉だね。敵と味方の区別が異常なレベルで明確に分けられているんだもの。」

 

 

 

-以上「教えて!夏油さん‼︎」でした。

 

 

 

 

===================

 

 

 

「テメェ…何で生きてる⁉︎」

 

数分前に撃ち殺されていた人間が目の前に立っている。そんなオカルト現象を目にして最初に疑問を口にしたのは鷹岡だ。奏に抑えられている手を振りほどこうとするが、強力な力をかけられ抜け出せない。

 

「…ホントに…漣なのか?」

「あれ…流血が治ってない?」

「穴も塞がってるぞ。」

「マジでどうなってんだ…?」

 

皆奏の状態を不思議に思うが、奏はまるで聞こえてないのかジッと鷹岡を見ている。その様子に業を煮やした鷹岡はさっきより強い口調で尋ねる。

 

「おい、聞こえてんのか⁉︎どうやって生き返った‼︎」

 

 

その質問に奏は答えない。代わりに別の言葉を言う。

 

 

 

 

『吹き飛べ。』

 

 

 

それと同時に爆風を受けたかのように、鷹岡の身体が森の方へ吹き飛び消えていく。全員が唖然とするが、奏は気にせずに鷹岡を追って森に入っていく。

 

 

「…っ‼︎まずい‼︎」

「烏間先生⁉︎いったい何がまずいのですか‼︎」

「説明は後だ!今の彼は鷹岡を躊躇なく殺す‼︎」

「「「…なっ⁉︎」」」

「俺とお前、二人掛かりでも止められるかは分からん。だが…」

「ええ、もちろん。私達の生徒です!止めに行きますよ、烏間先生‼︎」

 

烏間と殺せんせーは共に後を追って森に入る。

生徒たちも二人に続いて森に入ろうとするが、二人の教師と生徒たちとの間に突如として氷の壁が出現し、生徒たちの行く手を阻む。

 

「氷の…壁⁉︎」

「今は7月だぞ⁉︎何でこんなものが…?」

「どっから出てきたんだよ、これ!」

 

教師たちも振り返るが、生徒たちがひとまず無事であると確認し奏の止めると告げ、奥に行く。

 

 

 

 

 

 

「…クソッ、あの化け物…俺をこんな目に合わせやがって…!絶対に殺してやる…‼︎」

 

森の奥深くに飛ばされた鷹岡はさらに憎悪を高め、奏を殺そうと息巻く。

 

しかしその殺意はすぐに恐怖へと変わった。

 

自分が飛ばされてきた方向からゆっくりと奏が向かってきた。

 

それはもはや「化け物」などではなく、人間が一般的に思い描く「禍」、「呪い」そのものを表しているようだと鷹岡は感じる。

 

戦ったら…いや、早く逃げないと殺される。本能的にそう感じた鷹岡は逃げ出そうとする。しかし、

 

 

『動くな』

 

 

奏の一言で鷹岡はその場に縛りつけられたかのように動かなくなる。

 

奏は鷹岡の肩にポンと手を置き20秒ほどそのままにする。やがて手をどけると右の手のひらをくいと上に曲げる。それに合わせて鷹岡の身体が宙に浮く。直立不動の姿勢のまま身体は空中に固定される。

 

「お…おい…何をすんだ…やめろ…やめてください…お願いですから…」

 

鷹岡は今にも泣きそうな表情で懇願する。その姿に先程までの威勢の良さはなく、肉食獣に怯える小動物のようである。しかしやはり奏は何も言わずにまるで空っぽのような、無機質な瞳で鷹岡を見ている。

そして奏は自分の右手をゆっくりと右の方へ動かす。その動きに同調するように鷹岡の左腕がゆっくりと引っ張られる。ブチブチという音が少しした後、ついに左腕が鷹岡の身体から引き千切られた。

 

鷹岡は悲鳴を上げるが、

 

『喚くな』

 

という奏の言葉で声を出せなくなる。

 

奏は鷹岡の左腕の付け根から血がボタボタと流れているのを見て、そこに向けて左手を前に出し呪いを込める。すると流血部分が瞬時に凍りつく。

 

次に左手を右脚の方へ向ける。今度は右脚が付け根のところまで一気に凍りつく。そして奏が左の指でパチンと音を鳴らすと凍りついた右脚がパキンと弾け飛んだ。

 

鷹岡は苦痛と絶望にまみれた表情をして、何か言いたげだが声が出せず、もがこうとするが瞼すら動かせない。

 

奏は次に左目に右手を向けるが

 

「何をしているんですか、漣君‼︎」

 

殺せんせーに呼び止められ動きを止める。振り向くと殺せんせーの横には烏間もいる。

 

「……‼︎これは…!」

「…やり過ぎだ。もう止めなさい‼︎」

 

二人が奏に言うが、奏は何も言わず少し二人を見てから再び鷹岡に向き直る。殺せんせーはまだ続けるのかと思い、止めようと動くが

 

 

 

いつのまにか殺せんせーの隣に動いていた奏は、殺せんせーに一言告げる。

 

 

『弾けろ』

 

 

すると殺せんせーの触手が何本か弾け飛ぶ。

 

 

あまりにも急な事態に殺せんせーも烏間も驚く。その結果殺せんせーは次の奏の行動に対応できず、さらに一言発せられてしまう。

 

 

 

『吹き飛べ』

 

 

そして殺せんせーは鷹岡と同じように、グラウンドの方向へ吹き飛んでゆく。鷹岡に興味を失ったのか奏は殺せんせーを追撃する。

 

 

残された烏間は二人を目で追うが、優先すべきは鷹岡の方だと思い振り返る。しかしさっきまで鷹岡のいた場所には誰もいなかった。鷹岡自身も、鷹岡の千切れた左腕も。あの状態でまともに動けるはずがない、烏間はそう思うが辺りを見渡しても鷹岡の姿は見えなかった。

 

 

 

 

一方グラウンドでは生徒たちが奏と先生たちが戻って来るのを待っていた。突然鷹岡のものと思われる悲鳴がして、その少し後に再び爆発音のような音が聞こえた。生徒たちは森の前に現れた氷の壁に警戒する。そして急にその壁が崩壊する。何故それがいきなり無くなったのかは分からないが彼らは殺せんせーたちを追いかけようと森に入ろうとする。だが壁が崩れた直後、森の中から殺せんせーは吹き飛んで来た。

 

「「「殺せんせー⁉︎」」」

「皆さん、離れて‼︎」

 

殺せんせーが切羽詰まった様子で皆に言う。すると殺せんせーの後から奏が現れる。その顔の左半分には今まで無かった刺青があり、服装は何故かとてつもない禍々しさを感じる真っ黒のコートに変わっていた。




書いてて表現がくどくないかなぁって思うことが、ここ最近何度もある。直したくても代わりの言葉が中々出てこない。


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第25話:呪いの時間

ついに始まった本気の奏VS殺せんせー!

不破さんが大喜びしそうなバトルが行われます。


毎日が非日常なE組にとってもその日は特に異常だった。

 

新任教師の鷹岡が明かした奏の正体と過去。

奏が見せた謎の力。

鷹岡によって射殺された奏。

その後平然と奏は生き返り、

止めに入った殺せんせーは何本も触手を失って、

今目の前には禍々しさを纏った奏がいる。

 

 

「漣君…君の力は、君のその姿は何なんですか⁉︎」

「呪い。人間の負の感情から生まれた力だよ。そしてこの姿は呪いの力を最大限に発揮するための、あんたを殺す為の本気の姿だよ、殺せんせー。」

 

触手を再生しながら殺せんせーは奏に問う。

蘇ってから誰からの言葉にも返事をしなかった奏が初めてまともな返事をする。

 

『闇より出でて闇より暗く、その穢れを禊ぎ祓え。』

 

隔離校舎のグラウンド一帯に『帳』が降ろされる。

 

「何だ⁉︎」

「夜になってく…」

「殺せんせーを逃がさない為の結界だよ。俺が解くまで内からは出られない。殺せんせーが生徒からの暗殺を断るわけは無いだろうけど念には念をってね。」

 

何人かが出ようと試みるが叩こうが体当たりしようが無駄だ。

 

「安心してよ、殺せんせー。クラスメイトに被害が及ばないよう攻撃範囲は調整するからさ。だから生徒たちの方に逃げる、なーんてしないでね?」

 

そう言った奏はいつのまにか殺せんせーの身体に手が届く位置に動いている。帳に動揺していた殺せんせーは奏の動きを捉えられず、右腕からの強烈な一薙ぎをもろに受ける。

 

「…ニュッ…‼︎」

 

奏は腰につけていた荒不舞雪を抜きながら、殺せんせーに追撃する。そして早くも再生したばかりの触手が切り落とされる。

 

「何…⁉︎」

 

触手が切り落とされたことより、対先生素材で作られていない短刀でダメージを受けたことに殺せんせーは更に動揺する。対して奏は呪力がしっかり効くことが分かり不敵に微笑む。

 

「よかった。しっかり俺の力は効くみたいだね。効かないならそれはそれで別の手を使ってたけど、こんな風に。」

 

奏は黒いコートとして身に纏っているオーラの内側から10本の対先生ナイフを取り出し、殺せんせー向けて一気に投擲する。動揺+触手数本欠けではあるものの殺せんせーは全てのナイフを躱しつつ奏の手元の荒不舞雪に警戒する。しかし奏の本命は荒不舞雪でも正面からの投擲でもない。

躱された10本のナイフが向きをグルリと変え、背後から殺せんせーの触手を5本切り落とす。

 

「「「ナイフの向きが曲がった⁉︎」」」

 

殺せんせーが態勢を崩したのを奏は見過ごさない。頭部目がけて荒不舞雪を振るう、が殺せんせーはすんでのところでマッハで動いて避ける。

 

(流石にこれだけじゃあ殺されてくれないよね。)

 

ナイフは奏の周りに集まり、奏は術式の情報開示をする。

 

「まず一つ目に『累乖呪法』、内容は領域…特定空間内の自分を含めた物体に働く重力の強さと向きを自在に操る術式だよ。発動条件は俺の手で触れた物体。解除するには領域の外に出る必要がある。」

「なるほど…鷹岡先生を空中で固定していたのもその力ですか。しかしペラペラと内容を教えてくれますねぇ。触れられたら事実上死亡の様な能力ですが、果たしてマッハ20の先生に触れられますか?」

「触れられるよ?既に数本触手落としてるから先生のスピードは落ちてるし、そもそもこの『帳』の中で先生は最高速度出せないでしょ?」

 

殺せんせーの煽るかの様な問いかけに奏は確信を持った答えを返す。そして殺せんせー自身も既に自分がかなり追い詰められてることに気づいている。

 

「それとこの術式、触れる以外にもう一つ使い方があるんだよね。」

『累乖呪法・無天召地(むてんしょうち)

 

そう言いながら奏は右手を一回下に降る。すると殺せんせーは強力な重力に押し付けられ地面に這いつくばる態勢になる。

 

「動けないでしょ?領域内のさらに的を絞った底面の直径1mのポイントにかかる重力を無理矢理最大まで強めて下向きにかけることができるんだ。精密な調整ができない分、上空の戦闘機も墜落させられる。」

 

奏が右手を殺せんせーに向けると、宙にあるナイフが剣先を殺せんせーに再び向ける。

 

「さあ、避けられるかな?」

『累乖呪法・死葬乱舞(しそうらんぶ)

 

ナイフが踊るかのように動き、四方八方から殺せんせーを次々と斬りかかる。イトナの触手にも劣らないスピードを見て生徒たちは殺ったと思ったが、奏はナイフの動きを変え別の方向に向かわせる。その先には息切れした様子の殺せんせーがいる。さっきナイフが刺しかかった所には殺せんせーの脱け殻があった。脱皮を使ったのだ。殺せんせーは必死に服の裾やハンカチを使って触手がナイフに触れないよう弾く。

 

(弾いても弾いても戻って来る…厄介ですね。空間内から出れば解除されると漣君は言っていましたが、その範囲が分からない…大方この結界内全部が範囲でしょうか。何にせよこのままじゃ押し負けますね…!)

 

(先生はさ、皆の一挙一動を見てナイフの動きを予測しているから普段楽に避けられるはずだよね。でも『死葬乱舞』にはその挙動が見えない。対して俺は『百々目鬼』も使って先生の逃げる向きをあらゆる視点で追っている。脱皮も使わせたからこのまま触手を少しずつ落としていって逃げ道を塞ぐのが堅実だけど…こっちもこっちでタイムリミットが迫ってるんだよね。どんどん畳み掛けていこう。)

 

奏は今度は左手をナイフの舞に苦戦している殺せんせーに向け、呪いを篭める。呪いが篭るといくつもの氷柱が奏の周囲に出現する。奏は氷柱を殺せんせー目がけて放つ。更に増やされた攻撃を受け、殺せんせーの触手が3本破壊される。

 

「お次に『氷淵呪法(ひょうえんじゅほう)』。領域内の温度や圧力を原子単位で変えることで氷を生成する術式。今みたいに空気中からだったり、すこし集中すれば生物の体内からも生成できる。こんな感じに。」

 

説明をしながら再び殺せんせーに左手を向け意識を集中させる。奏が言い終える前に殺せんせーは動くが、触手の先端が凍りつきパリンと砕ける。

 

「それにしても随分触手失ったねぇ。脱皮もしたしスピードは今どれくらいなのかな?」

 

奏は楽しそうに尋ねる。殺せんせーはハァハァと呼吸をするだけだが、もうマッハ1も出せないだろうと考える。

 

「それじゃあそろそろ捕まって貰おうかな…!」

 

そう言いつつ奏は懐から何かを取り出す。それは植物の種の様なものだ。それを左手で握り潰すと、種の中から蔦が伸びる。蔦は異常な速度で伸び続け、殺せんせーの体を縛りつけようとする。

 

「これは…⁉︎」

「『禍促術式(かそくじゅつしき)』。触れた物体にかかる時間を強制的に早めることができる術式だよ。一方的に早めるしか出来ないから少し使い勝手は悪いけどね。」

 

(あの種の成長速度を上げているのですか‼︎この蔦で捕まえて凍らせるつもりですね‼︎ですがこれならナイフよりまだまし…)ニュヤッ⁉︎」

「蔦にばっか気を取られてると死んじゃうよ〜。」

 

蔦の動きに注意していた殺せんせーは滑って転ぶ。逃げた先の足場が凍っていたのだ。ナイフが3本襲いかかってくるが、胴体に当たる前に殺せんせーは触手を一本犠牲にすることで軌道を逸らし突破する。しかし

 

「その程度で抜け出せたなんて思わないでよ。」

 

移動した直後に再び『無天召地』が発動し、殺せんせーは地面に縫い付けられる。奏は蔦から手を放し、殺せんせーの真上の方に左手を上げ、殺せんせーの真上に氷柱を作る。

 

(これはまずい…‼︎)

 

抜け出せずに焦る殺せんせー目がけて氷柱が落ちてくる。しかし寸前で重力が弱まる。その隙に殺せんせーは脱出する。氷柱が落ちた後の余波で何本かの触手の先が凍るがもう気にしてる暇は無い。奏の様子がおかしいからだ。顔を抑えて片膝をついているのだ。ナイフを躱しながら殺せんせーは思考する。

 

(今までの漣君からの能力開示と挙動から少し情報をまとめましょう…まず「重力操作」、手で触れるか特定の箇所に強制のいずれかの使い方をして、右手で(・・・)操作していますね。最初辺りからのナイフの舞も指先を動かしていましたし、先程の蔦も手の動きを隠すという役割があったのでしょう。)

 

(次に「氷」、こちらは左手で(・・・)操作していますね。氷柱を落とす際に蔦を手放したのが何よりの証拠…ですが蔦を使っていた最中に足下が凍っていた…あらかじめ設置しておいたのか、あるいは足からでも(・・・・・)発動できるのか。後者の方が厄介ですが…あの様子、集中力をかなり使っていると見えます。)

 

(そして「蔦」、正確には名前からして「加速」。これは漣君の言った通り左右問わず手で触れたものにのみ発動するのでしょう。私に触れたらどうなるのかは分かりませんねぇ。)

 

(ここから推測できるのはどれもかなりの集中力を使うということ!おそらく今の漣君は集中力を使いすぎたのでしょう。その結果私にかかっていた重力が解除された。宙に浮いているナイフの性能も落ちてきている…問いかけるチャンスがあるなら今…!)

 

「漣君、そろそろ止めにしましょう!さっきの蘇生はどうやったか知りませんがあれもかなりの集中力が必要となるはずです!そうなら君の身体は限界に近づいているはずでしょう‼︎」

 

その言葉を聞いて、奏は不快そうな表情をする。

 

「余計なお世話だよ…!あんたを殺せるなら…俺は死んでもいい…いや…俺一人の命であんたが殺せるなら…ありがたい救いだ…!」

「救い…死ぬことが救いだと…そんなことを言うんじゃありません‼︎」

「ハハ…教師やってる殺せんせーがウザいと思ったの…初めてだよ。」

 

(しかしまあ殺せんせーの推測は合ってる…集中が途切れてきて累乖と氷淵の同時使用が厳しくなってきた…百々目鬼の数も減らしているのに、呪力の消耗が激しいな…反転術式の分に加えて二つも「拝借」した分の消耗も来てる…呪言も効きが浅いって呼んで弱めの言葉にしてたし…こうなったら気は乗らねぇが…)

 

突然殺せんせーを襲っていたナイフがポトポトと地面に落ちていく。

 

(漣君が術を解いた…?何故…?)

 

殺せんせーは不可解に感じつつも次の手を警戒する。だがもう遅かった。殺せんせーの触手が一気に(・・・)切り飛んだ。

 

(一度にほぼ全部の触手を⁉︎いったいどうやって⁉︎ここに飛ばされる前みたいに何か『命令』された様子も無かったのに‼︎)…え⁉︎」

 

触手を一度に失い膝(?)をつく殺せんせー、その向かいには同じく膝をつき、大量の血を吐いている奏の姿があった。奏は掠れた声で話す。

 

「『因果呪術』…ダメージ操作に関わる力…「回復」に限らず…「再発」も行わさせられる…その分…自分が過去に受けた分も…ぶり返すリスクもあるけど…けどこの痛みは…今は力だ…‼︎」

 

奏は血印台帳をまた取り出し、三度目の「拝借」を行う。憂太との特訓で蓄積した疲労、鷹岡から受けた分のダメージ、呪言と因果呪術の反動と相当危険な状態にさらに「拝借」による拒絶反応が生じる。

 

「ウ…グゥゥ……ウァァァアアア‼︎‼︎」

 

痛みに悶え苦しむ。だが歯を食いしばり耐えて、ラストスパートに入る

 

『赤血操術・赤燐躍動(せきりんやくどう)

 

京都校2年 加茂憲紀の使う術式。自分の血液と血液が付着したものを操る能力。そして「赤燐躍動」は全身の血の流れを早めることによるパワーアップ、いわばドーピング。

 

さらに『禍促術式・時傀促(じかいそく)

時の流れを早める術式を使い、奏自身の時間を早める。

この時すでに奏の肉体は許容量を超えていた。吐血に加え、目からも血が涙のように流れている。

だが奏はもう止まろうとも戻ろうとも思っていない。超高速で殺せんせーを全方位から蹴りや殴りで攻撃する。

 

「アハハ!アハハハハ‼︎楽シイ!楽シイヨ殺センセー‼︎ズット忘レテタ…コノ痛ミダ‼︎」

 

今の奏は今の殺せんせーのスピードを優に越していた。殺せんせーはなすすべなく、痛めつけられる。

 

1分続いた近接攻撃によるラッシュが止まる。奏は殺せんせーと少し距離をとって立っている。

 

「ソロソロ痛ブルノハ終ワリ。最感謝ノ気持チヲ込メテ、最大威力ノ技デトドメヲ刺シテ上ゲル。」

 

『氷淵呪法 奥義・永槍氷斬(エイソウヒョウザン)

 

奏の周囲の空気が一気に冷え、やがて小さな氷の破片が生成されそれらが一つの巨大な氷の槍の形を造る。

 

(これほどまで…‼︎下手に逃げたら余波が生徒たちを襲いかねない‼︎確実に戦力を削ぎ、最後に力を振り絞り広範囲技を使うと表明しつつ、心理戦を持ち出してくる…単純に見栄えなんかで大技を撃たない、あっぱれな作戦…‼︎)

 

殺せんせーは槍ではなく奏を見る。とても苦しいはずなのに、立ってもいられないはずなのに、その顔は穏やかで、しっかりと大地を踏みしめて、奏はニコッと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今マデアリガトウ、殺センセー。バイバイ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう告げて奏は左手を振り下ろす。

 

槍は殺せんせー目がけて地面に突き刺さる。

 

その威力は凄まじく、半径1メートル程のブリザードを巻き起こす。

 

奏はその光景を眺めながらゆっくりと倒れていく。

 

 

 




誰か、誰か私に語彙力を頂戴…
書いてて「あれ、また同じ言葉使ってない⁉︎」ってしょっちゅうおもうのです…



話は変わりますが、龍星雨さんから早速「募集企画」の案を頂きましたのでこのスペースを借りてコメントさせてもらいます。

一つ目の動物園デートは私も陽菜乃ヒロインものにおいて鉄板ネタだと思っています。これはまあやりますね、確実に。奏をあっと言わせる展開になるかは分かりませんが。

二つ目の高専招待は微妙なんですよね。本編でE組の前に何人か出す予定なので、その前に陽菜乃だけ先に行くのかどうか。ただもし行くんだとしたら多分彼が活躍します。彼ですよ、彼。黒と白の人気投票5位の彼。

三つ目のダブル散歩は「それがあったか‼︎」と思いました。実のところ、リズはフラグ立ての要素として出したので本編にどう絡ませるかは作者はあまり考えていなかったのです。これがこの作品を書き終わるまでの作者の汚点トップ3に入るでしょう。(今はそれなりに考えてます。)なのでこの案は有効に使わせてもらいます!

四つ目の倉橋家ご招待も入れる予定ではありますが(逆パターンも然り)問題が一つ。公式キャラクターブックの「名簿の時間」には「男兄弟に挟まれて育った」とあるのですが、イラストファンブックの「卒業アルバムの時間」では「一人っ子で飼い犬のドーベルマンを兄がわりに育つ」とあるのです。いったいどっちを信じればいいのでしょうね…。まあどっちを取るかは作者の気分次第です。



こんな感じに番外編のアイデアを活動報告のところで募集しています!安定ネタから意外性のあるものまでどんどん送って来てください‼︎


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第26話:正体の時間

お待たせしましたぁ‼︎

リアルの方で用事があり、執筆する時間が取れなかったので。

「呪術の時間」も更新しました。


猛吹雪に生徒たちは目を瞑っていた。

 

吹雪が収まり目を開けると、既に帳が上がって校庭には夕陽が差している。

先程『永槍氷斬』が突き刺さった場所には巨大なクレーターが出来ており、その地表は凍りついていた。奏は倒れており、殺せんせーの姿は見えない。コート状のオーラも解けている。

 

「皆、無事か⁉︎」

「「「烏間先生‼︎」」」

「これは…漣君がやったのか…?」

「…そっす。不思議な力使って殺せんせーを圧倒して…」

「けど途中で血を吐いてて、今も…」

「烏間先生は…漣君のこと、何か知ってるんですか?

「……彼は呪術師だ。普通の人間では対処できない『呪い』を祓うのを専門とする、霊媒師のようなことをしている人間だ。奴を殺せる可能性があるなら殺し屋以外も雇うと防衛省が判断して暗殺任務を依頼していた。」

「何で黙ってたんすか…?」

「本人の意向だ。知られたくないことが色々あったらしい。現に俺も鷹岡が言っていた彼の過去のことは知らなかった…とりあえずまずは彼を保健室に運ぶ。彼への疑問はその後だ。…それと奴は死んだのか?」

「…ギリギリ生きていますよ、烏間先生。」

「「「殺せんせー⁉︎」」」

「今回ばかりは本当にダメかと思いました。漣君が皆さんのことを考えず攻撃に巻き込んでいたのなら、先生は死んでいました…」

「いったいどうやって…?」

「残った数本の触手であの槍を横からビンタして射線をずらしました。先生力があんまり無いので押さえるのは無理でしたので。全力で僅かにずらした後、衝撃波に巻き込まれない位置に逃げましたが…それでも多少は凍っている。本当に危なかったです。」

 

殺せんせーは満身創痍で答える。今の殺せんせーなら殺れるかもしれない、と何人かは思っているがそれより奏が気になり誰も殺しにはいかない。

 

「ククク、五つの術式全てを使って殺さないとはなぁ。奏自身の甘さもあるがやはり化け物だな、殺せんせーとやら。」

 

突然このクラスの誰もが聞いたことのない声が聞こえる。それは奏の方から聞こえた。なんと奏の左頬に妖しく笑う口と邪悪な瞳が一つずつある。

 

「…なんだ、これ?」

「目と口……だよな?」

「我が名は八咫烏。奏に憑いて力を与えている呪いだ。」

「これが…呪い?」

「ククク、状況が整理できていないのも当然か。しかしこの場で奏の身体を使って貴様らを殺したら、奏はどんな反応をするかな?」

 

八咫烏と名乗った呪いの言葉に生徒たちは身震いし、殺せんせーと烏間は牽制するように睨みつける。

 

「ククク、安心するがよい。我は奏との縛り故に貴様らを殺すことはできん、残念ながらな。」

「…漣君はどうなっているのですか。」

「それも心配することなどない。今は呪力を消耗しすぎて意識を失っているだけだからな。半日もすれば目覚めるさ。」

「だとしたら何故あなたは私たちと話しているのですか?」

「単なる興味だ。奏を弱らせる(・・・・)ような奴らがどれほどのものかと思ってな。」

 

その言葉に生徒たちは不思議に思う。鷹岡のような奴に一歩も怯まず、殺せんせーを後一歩のところまで追い詰めた奏を自分たちが弱らせていたということの意味が分からないからだ。

 

「クク、まあこいつの素性も過去を知らないなら当然のことか。だが断言しよう。こいつの心は貴様らより断然弱い。その弱さから来た甘さ故にそこのタコを殺せなかった。」

「…奏君の過去とは?」

「我からは何も言わん。こいつの闇に触れたいのならこいつ自身に聞け。まあこいつが言うとは到底思えんがな。

 

 

 

 

 

 

………しかし奇妙な縁もあるものだなぁ。」

「え?」

 

 

八咫烏は倉橋の方を見てニタリと笑う。

一方の倉橋は何のことか分からない様子だ。

 

 

「なんだ、貴様の方も(・・・・・)覚えていないのか。我にとっては今思い出しても不愉快な出来事だというのに。8年前、奏と貴様は既に出会っているのだぞ。」

「8年ま……え?ウソでしょ……

 

 

 

ナミ君が……かーくんなの?」

「ん?なんだ、ただ過去の奏と今の奏が一致していなかっただけか。まあいいさ。どうせ貴様がここにいて奏がここに来た時点で、何となくこうなる予感はしていたからな。」

 

八咫烏の言葉を聞いて倉橋は何かを思い出し、幽霊でも見たかのような目で奏を見る。

 

「さて、世間話はこの辺にするか。我はもう帰るとしよう。後は貴様らとこいつで何とかしろ。九割九分どうにもならないだろうがな。」

「待って‼︎本当に…本当にかーくんなの⁉︎」

「くどい。これ以上は何も言わんと言っている。」

 

そう言い放ち、奏の左頬の目と口は消える。

 

「…倉橋さん、漣君と昔会っていたのは本当なのですか?」

「分からない…けど八咫烏さんが言っていたことが本当だったら…私はまたかーくんに助けられてる…」

 

 

 

 

====================

 

-ば…化け物…化け物だぁ‼︎

 

違う…違うのに…

 

-来るな‼︎この村から出て行け‼︎

 

何で…僕はあんなことしたくなかったのに…

 

ーお前なんて、生まれて来なければ良かったんだよ‼︎

 

…僕が生まれなければ…皆は幸せのままでいれたの?

 

…僕が死んだら…皆は幸せになれるの?

 

…だったら僕は……

 

 

-君は生きたくないのか?

 

 

誰…?

 

-君はされるがままに人を不幸にして、言われるがまま死ぬのか?

 

……皆が幸せになれるなら。

 

-本当にそうか?君が死ぬことで不幸になる人は本当にいないのか?

 

…僕は死んでもいけないの?

…だったら僕はどうすれば…

 

-君に力の使い方を教えよう。君の力は人を不幸にも幸せにも導ける。その力を何の為に、誰の為に使うのかしっかり考え、生きなさい。それが君が生きてる事を呪う者と死ぬ事を呪う者の為になる。そして君の幸せに繋がるだろう。

 

 

…僕が幸せになっていいの?

僕なんかが…幸せになれるの?

 

 

-なれるかどうかは君次第だ。しかし私は君は幸せになるべきだと思っている。さぁ、どうする?

 

 

 

…ならば僕は

 

 

…俺は人の幸せを守って、自分の幸せを…大切なモノを作る。

もう二度と壊さない為に、失わない為に力を振るう。

もしその幸せを壊そうとする奴がいるなら…例えそいつの幸せが壊れようと容赦はしない。

この誓いなんかじゃない…償いだ。

 

 

 

 

 

 

 

=======================

 

 

 

「……ここは…?」

 

 

奏が目を覚ます。上半身は裸にされていて、全身を覆う刺青が見えている。自身の状態を不可解に感じつつ、忌々しげに舌打ちする。

 

 

「……E組の保健室…だよな。……っ、全身が痛むな…結構呪力も消耗してるし…つか何であの夢を連続して見るんだよ…」

「漣さん‼︎目が覚めましたか‼︎」

「…律。何で俺は保健室にいる?」

「漣さんが生き返って鷹岡さんを嬲った後、殺せんせーとの対決に移って力尽きたんですよ。覚えていませんか?」

「……そうだったな。……殺せんせーは?」

「私なら生きていますよ、漣君。」

 

殺せんせーが保健室に入ってくる。その姿を見て奏は再び舌打ちする。

 

 

「…二人共死んでて、ここがあの世って説は無い?」

「ありませんねぇ。昨日の暗殺が終わった午後5時から既に半日以上経って、今は翌日の午前9時です。皆さんも登校してきていますよ。」

 

その言葉通りクラスメイト達が保健室に入ってくる。

 

「……結局殺せんせーは殺さず、俺も死ねず、か。」

 

ポツリと呟くと奏にビンタが飛んできた。

 

「…簡単に死のうとするんじゃない、漣奏…!」

 

殺せんせーの顔は黒、怒りの表情だ。だが奏は怯まず睨み返す。

 

「あんたに俺の人生観を否定される筋合いは無いよ、殺せんせー。」

「だったら君の事を教えて下さい。烏間先生から君の素性は聞きましたが、過去については分からなかった。君がその過去で苦しんでいるのなら、先生は君を救いたい。ですから…」

「俺が正体を隠していた理由は3つ。1つ目は俺が原因で皆を不幸に巻き込ませないため、2つ目はここぞという時まで殺せんせーに手の内を明かさないため。最後に死んでも過去について知られたくなかったから。どんなに僅かな可能性でも徹底的に潰す為、今まで嘘をついてきた。それなのに救いたいって理由で話すとでも?ふざけるな。俺はもう救いようが無いんだよ。」

 

奏はピシャリと言い放ち、ベッドから出て上を着る。

 

「…これからどうするつもりですか。」

「決まってるだろ、消えるんだよ。正体どころか過去まで知られたんだ。俺がここに居るわけにはいかない。」

 

奏は生徒たちを押し退け、保健室から去ろうとする。

しかしその腕を誰かが掴んだ。

 

 

「何のつもり……ひなさん?」

「ナミ君が倒れてる時、八咫烏っていう人が出てきて私に言ったの。「私とナミ君は8年前に一度会っている」って……」

「8年前……?そんな訳ない。あの頃俺は一人で山にいて…関わった人なんて高専の人間除いたらたった一人……

 

 

 

……え?そんな……嘘だろ…….ひーちゃんなのか?」

 

 

奏は倉橋の言葉を聞いて訝しげな表情から驚愕の表情に変わる。

昨日ほとんど同じ反応をしていた倉橋は涙を流して奏に抱き着く。

 

 

「本当に…本当にかーくんなんだね…!8年間ずっと会いたいって…思ってた…!ありがとうって…ちゃんと向き合って言いたかった…!」

「そんな…ありがとうは俺のセリフだって…ひーちゃんがいなかったら…今の俺は……」

 

 

奏もポロポロと涙を流す。

他の皆は二人に何があったのか知らない為、困惑している。

 

 

「えっと、お二人共…いい感じなところ申し訳ないのですが、誰一人として状況が分からないので説明してくれませんか?」

「私からもお願い。かーくんが何であの場所で私と会ったのか。私と会う前とその後でかーくんに何があったのか。私達の過去に今の私達が繋がっているんでしょ?」

「…確かにあの出会いと今のこの状況は繋がっている。だとしても教えない。救ってもらおうなんて毛頭思ってないし、出来るわけないから…」

「かーくんが救われたくないとしても、私はかーくんを救いたいの‼︎かーくんは8年前から…ううん、それより前からずっと苦しんでいるのに一人で抱えて…それなのに皆の苦しみを解決しようと誰より頑張って…だから今度は私がかーくんを救いたいの‼︎自己満足だとしても、助けたいの‼︎かーくんが話すまで…私は手を離さないからね‼︎」

 

 

倉橋がぶちまけた思いに奏は動揺する。

詳細は知らなくとも仮にも大量殺人犯を、8年前に一度助けただけで9年越しに偶然にもお互い知らずのうちに再開していた少女がこんなにも救おうとしているのが信じられないのだ。

 

 

「なぁ漣…教えてくれよ。」

「私達は漣君が本当に何人も人を殺したなんて思えない。」

「何も知らないままなんて納得できないぜ。」

「倉橋には負けるけど…俺たちだってお前を助けたいんだ。E組の仲間として。」

 

前原、片岡、三村、磯貝が倉橋に続いて奏を説得する。

グルリと見渡すと皆真剣な目をしている。

奏は深くため息をついて喋る。

 

「……わかった、観念する。言わなきゃ何処までも追ってきそうだしな。ただいくつか言っておくことがある。1つに俺が話すのは人殺しの過去だ。キツい内容ばっかだぞ。そして本来ならもう俺の過去を知る人間、しかも非術師なんかを増やすつもりは無かった。それでもお前らのその眼を信頼して覚悟を決めて話す。……だから」

「分かってる。絶対に口外しないよ。」

「……ああ。それじゃあ話すよ、俺の血塗れの昔話を…」

 

 

 

 



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第27話:過去と邂逅の時間

投稿が遅くなったのはシャニマスでPSSR凛世が引けなかったからです。true endまで見たのにもかかわらず。


…いいもん、無料十連で引くもん。


その少年は秋田県のある村で生まれた。

 

少年の家はとても大きな村の名主の家であった。

 

 

 

 

しかしそれは表の顔で、実際は呪術師の家系であった。

その家は呪術界でも高い地位にあり、かつては禅院家などの有力な家系と合わせて「四天王家」と呼ばれていた。

 

 

 

 

 

一方でその家は他の家からかなり奇妙な目で見られていた。

その家の人間が呪術師として甘すぎるからだ。

禅院家などでは幼少期から呪術師としての厳しい特訓を強いられ、才能が無いなら小間使いとして扱われる。

だがその家では子供がそもそも呪術師になりたくないならならなくてもいい、という四天王家にはあるまじき意見を持っていた。

少年は両親からの深い愛情を受けて育った。

 

 

 

 

 

しかし今はその家系が外れて「御三家」に変わった。

その少年ただ一人しかいなくなってしまったからだ。

 

 

 

 

その事件が起こったのは10年前

少年が5歳の誕生日を迎えた10月19日であった。

 

 

 

その日いつものように目覚めた少年はすぐに違和感を感じた。

静かすぎるのだ。

寝室から多少離れているとはいえいつもは両親と祖父母に加えて2、30人ほどの使用人がいるからそれなりに物音はするはずなのに、今朝は全く聞こえない。

 

少年はまず普段なら母がいる台所に向かうが誰もいない。

続いて広間、浴場、父の書斎と回っていくが誰一人としていない。廊下ですれ違うことも無かった。

 

少年は家の中を一通り回った後、もしかしてと思い庭に出てみる。

 

 

 

 

すると庭には小山があった。

 

 

 

高さは少年を越して2、3mほどある小山。

そんなものは昨日まで無かったはずだ。

 

 

少年は不思議に思って近づく。

 

 

そして触れられる距離まで近づいて気づいた。

 

 

朝日に照らされて逆光になっていたため先ほどまでは分からなかったそれは、人が積み重なって出来上がっていた。

 

 

少年は驚き逃げ出そうとするが、その山の中にある顔を見て止まる。

 

 

全部知っている顔なのだ。

 

 

両親、祖父母、使用人。全て少年の家にいた人間なのだ。

 

 

 

「……お父さん…?……お母さん…?」

 

 

少年が呼びかけるがピクリとも反応しない。

 

 

代わりに少年の中から声が聞こえた。

 

 

 

「ククッ、ようやくお目覚めか、小僧。」

 

「⁉︎…誰?」

 

「我は八咫烏といってなぁ、千年前に封印されていた呪いだ。今は貴様に受肉している。」

 

「受肉…?」

 

「我が貴様の身体を奪った、ということだ。今は貴様に主導権を渡しているが、我は好きなように乗っ取ることができる。」

 

「好きなように……乗っ取る……」

 

「ああ、もう分かっただろう。これはな、我が貴様の身体を使ってやったのだよ、貴様は眠っていて知らなかっただろうがな。」

 

 

 

少年は困惑した。呪いのことは両親から聞いていた。人の負の感情から生まれ人に害をなすものだと。両親が呪いを退治する仕事をしているとも。少年が望むなら、将来自分も同じことをするかもとも。

しかしその呪いによって大好きな家族や使用人を殺された。しかも知らぬ間に操られる形で。

 

八咫烏は楽しんでいた。千年前に封印される前から彼は人間の絶望する顔を見るのが大好きだった。ある人間の身体を使ってそいつを信頼する人間を裏切ったり、味方を殲滅した後にそれを喜んでいた敵も嬲ったりするのを楽しみとしていた。だからあえて完全に主導権を自分のものにしようとしなかった。幼い子供が心底絶望する顔を見るためだけに今のような状態にした。

 

 

少年は必死に否定しようとする。だから八咫烏は追い討ちをかけた。

少年の身体を乗っ取っている間の映像を見せたのだ。

 

 

少年はまだ何も食べていないのにも関わらず嘔吐した。

必死に自分を止めようとする父に祖父、抱きしめて自分の意識を呼び起こそうとする母と祖母、そんな母たちを逃がそうとする使用人達。そして彼らを一人残らず惨殺していく自分。

 

 

「受け止めろ、あれは我と小僧で成したものだとな。」

 

八咫烏は愉快そうに言う。

 

 

「あそこにいたぞ!化け物だ‼︎」

「殺せ!早くしないと殺されるぞ‼︎」

「今ならまだ大丈夫だ‼︎逃すな‼︎」

 

 

少年が死体の山の前でむせび泣いていると数人の声が聞こえてきた。

村人たちが斧や鍬を持って入ってきたのだ。

どうやら家の人たちの悲鳴を聞いた誰かが家の様子を見て、少年が惨殺をしているのを見たらしい。それで村人たちは少年が何かの祟りを受けていると思って殺そうとしていたのだ。

 

 

「ち、違う……僕は……」

 

「はぁ、仕方ないな。我が貴様を守ってやろう。」

 

「ま…守るって…待って…!」

 

「は?誰が待つと思っているのか?我はいつでもこの身体を乗っ取れるのだ。貴様に止めることなんて出来ぬよ。安心しろ、もう一度絶望させてやるからな。」

 

「やめ……」

 

 

そして再び少年の意識は消えていった。

 

数十分後少年の意識が戻ったとき、あの死体の山は大きくなっていた。

辺りには村人たちが持っていた武器と血が散乱していた。

 

 

「さぁて、次はどうしようか小僧?村の方に出て女子供を殺して行こうか?」

 

八咫烏は楽しそうに言うが、少年は庭の裏から繋がる山へ走った。

自分が誰かと会うと自分の中の呪いが殺してしまうから、そう思って山の奥向かってひたすら走った。

 

 

 

それから二年経った。

 

 

 

少年は1人山で生活していた。

いつまでも同じ山に留まらず1ヶ月程で移動していた。同じ所に居続けていれば「化け物がいる」と噂され、退治しに来た人間を殺しかねなかったからだ。

そしてその予感は的中していた。

 

一年前に少年は五人組の男女に囲まれた。

少年は近寄らないように警告したが、リーダー格の男が謎の力を使い少年の身体を地面に抑えつけ、別の男が少年の全身を氷漬けにした。

少年は不思議と怖くなかった。

 

ああ、この人たちなら自分を殺してくれる。

もうこれ以上被害者を出さないで済む。

 

そう思った少年の顔は穏やかなものだった。

 

 

だが当然、八咫烏がそれを認めるはずがなかった。

少年にかけられていた氷漬けの術も、上から身体を抑えつける見えない力も全て解除し、まずはリーダー格の男を殺した。

すると八咫烏はどこからともなく小さな盃を取り出し、それに殺した男の血を注いで飲み干した。

 

一瞬の光景に残りの4人は呆然とするも、すぐに戦闘態勢に戻る。

がその行動は間違っていた。いや、逃げたところで無駄ではあるのだが。

八咫烏はなんとその男と同じ能力を使い出したのだ。上からかかる見えない力で身動きが取れない4人はゆっくりと丁寧に殺された。

そして八咫烏は同じ様に血を盃に注いで飲み干す。

 

 

「やはり呪術師というものは鬱陶しいな…しかしお陰で我はより強い力を手に入れられた。感謝するぞ、小僧の術式にもな。」

 

 

この一件以来少年はより一層周りを警戒するようになった。

この呪いは強すぎる。しかも自分の力を使って更に強くなる。誰とも関わってはいけない、と。

 

 

その後少年は何度も自害しようとした。

首をつってみた。

崖から落ちてみた。

焚き火を起こしてその中に入ってみた。

自分の手足に重りをつけて池に入ってみた。

少し力を使って、洞窟内で落石を起こしてみた。

数日間飲まず食わずをやってみた。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

自分に出来そうな自殺の仕方を片っ端から試していった。

 

けれど全て駄目だった。

少年がどれほど痛い思いをしようが死ぬ寸前で八咫烏が表に出て、再生する。

少年は遂に諦め、1人で隠れて生きていこうとした。

 

 

 

 

そんなある日、山の奥深くにひっそり暮らしていた少年は近くで悲鳴を聞いた。

偶然だとしてもここがバレたならすぐに移動しなくてはならない。だがもしもまだバレていないならと思って、少年は様子を見に行った。

 

 

「…ウッ…フェェ……痛いよぉ……」

 

 

悲鳴が聞こえた場所には小さな女の子がいた。オレンジ色のふわふわした髪の少女は足を抑えて蹲っていた。

近くに他の人間の気配はしないが、少女はリュックを背負っていた。

山登りしに来ていたら、家族とはぐれ遭難して、急斜面で落ちて怪我をしたのだろう。

少年は少し離れた位置でそう推測していた。だがそれよりも少年は迷っていた。

自分が住処としているこの場所は登山のルートから大きく外れているため、人には普通は見つからない。つまり少女の家族がここに来る可能性は限りなく低いのだ。足を怪我している少女1人では歩き続けるのも厳しいだろうし、元のルートに戻れるかも怪しい。

だとしたら助けに行くべきか?少年はこの山の地形を熟知しているから、確かに少女を元いた場所に送り届けることができる。しかし自分が彼女の所に行ったら殺してしまうのではないか?その疑惑故に少年は動けなかった。

 

10分ほど悩み、少年はその場を離れた。

しかし少女を見捨てたわけではなかった。

 

「………助けてあげる。………ジッとしてて……」

「えっ…?だ、誰…?」

 

少年は山葡萄とツワブキを抱えて少女の前に現れた。

怪我をしている足に包帯のようにツワブキの葉を手際よく巻いていく。

ツワブキが腫物や湿疹などに効く薬草ということを少年は完全に理解してはなかったが、二年間山で過ごしているうちに感覚でどの植物がどういう時に役立つかは覚えていた。

 

「これで怪我は大丈夫……のはず。……後これ、食べていいよ……?」

「えっ……いいの…?」

「うん、ちゃんと食べれるから…」

 

少女は少年が持ってきた山葡萄を美味しそうに食べる。

最初は怯えていたが、次第に笑顔になっていった。

 

「…落ち着いた?」

「うん、ありがとう!私ひーっていうの!君は?」

「…分からない。名前なんて忘れちゃった…」

 

家族を殺した映像を見せられて以来、少年の記憶はショックで一部欠けていた。

自分の名前や家族や使用人がどんな顔や性格だったか、いくら思い出そうとしても思い出せない。加えてあの時の光景がフラッシュバックしてきて、思い出すのを拒むようになったのだった。

それを聞いた少女は何か考える。

 

「…そうなの?それじゃあ…うーん……かーくんで‼︎」

「かーくん…?」

「そう、かーくん。目がキリッとしてて、頭が良くて、なんだかカラスさんみたいだから‼︎」

 

カラス、と言われて少年はビクッとした。自分の中の呪いと同じ名前で呼ばれて少し嫌な気持ちになるが、かといって名乗る名前も無いので好きに呼んでいいことにした。

 

「それで…えっと、ひーちゃん?は…家族と逸れたの?」

「…うん、お父さんとお母さん探してたら迷っちゃって…」

「…じゃあ僕が送ってってあげる…」

「え?本当に?」

「うん…いそうな場所は大体分かるし…それに歩くのツライでしょ?おんぶしてあげる。」

「…うん、じゃあお願いします!」

 

迷っていた少年が出した答えは少女を助ける方だった。

何よりも少女が心配なのもあるが、もし放っておいて救助隊とかが来てしまったらまずいと思ったのもあった。要するに少女だけを死なせてしまうのか、それともより多くの人を殺してしまうのか。少年は前者を選んだだけだった。

 

 

少年は少女をおぶって登山の正規ルートを目指し、比較的安全な道を進む。

 

同時に何故か今回は八咫烏が出てこない、そのことを不思議に思っていた。まあ気分屋なんだろうと少年は考える。

 

だが甘かった。

少年は自分の中のもう一つの人格が出てくるのを感じる。

 

「わっ⁉︎どうしたのかーくん?」

「……に、逃げて……早く…なるべく遠くに……!」

 

八咫烏の狙いは少年が少女と親しくなった後に少女を殺すことで、更に絶望させることだった。

少年は必死で抑えようとする。だが今まで同様抑えられそうになかった。

 

 

 

 

八咫烏が少年の身体を奪おうとしたその時

 

 

 

少女が少年に抱き着いた。

 

 

 

「……何して…早く……」

「…大丈夫だよ。かーくんの側には私がいるよ。だから大丈夫だよ。」

 

 

 

少女は優しい声で言う。

少年の身に何が起こっているのか、少女はもちろん知らない。

だが自分を救ってくれた子が目の前で苦しんでるのを放っておけなかった。

 

 

八咫烏は止まることなく、少女の身体を貫こうと腕を振り上げる。

 

 

 

 

 

しかしその腕は少女の身体を突き刺さずに、地面を殴りつけることで抑えていた。

 

 

 

「何だと…⁉︎何故抑えられる⁉︎」

「もう…絶対に……絶対に殺させない…‼︎お前の自由には……させない…‼︎」

 

 

八咫烏はいつになく困惑しつつも少年の身体を乗っ取ろうと再び挑む。しかしだんだんと自分の力が抑え込められていく。

 

 

「何故だ…⁉︎何故、貴様ごときに…‼︎」

 

 

その言葉を最後に八咫烏は少年の心の中に戻されていった。

少年は荒く息を吐く。

 

 

「かーくん、もう大丈夫?」

「うん……でも何で…逃げなかったの?」

「だってさっきかーくんが助けてくれたのに、私がかーくん助けないのはおかしいじゃん!」

「……!そっか…ありがとう、ひーちゃん。」

「うん、どういたしまして!」

 

 

再び少年は少女を背負い歩き出す。八咫烏を抑えるのに体力を使ったため足取りは重くなるが、それでも少年は歩き続けた。

やがて登山道の入り口に出た。

 

 

「ここで待っていれば来るはず…」

「あ!あそこにいた!お父さん、お母さん‼︎」

 

両親を見つけた少女は大声で呼ぶ。

少女に気付いた両親は泣いて喜ぶ。

どこに行ってたの?どうやって戻って来たの?と口々に聞いてきて、少女は「かーくんが助けてくれたの!」と答える。

両親がそれが誰か聞き、少女は自分の後ろを指すが、そこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

一方少年は山の奥深くに戻って歩いていた。

しかし呼吸は荒く、足取りもおぼつかない。

少女を運ぶのにかなり体力を削ってしまい、まともに動けそうもなかったが、人に見つからないように力を振り絞って見つからなさそうな場所に戻ってきたのだった。

今このまま力尽きれば八咫烏は出てこないまま死ねる。それに最後に1人助けられた。そう思って満足そうに少年は倒れる。

再び八咫烏の声が聞こえる。

 

 

「貴様…どうやって我を封じた?」

「知らないよ……でもきっと、ひーちゃんのおかげだよ。」

「あ?」

「ひーちゃんが側にいるって言ってくれたから…僕も守らなくちゃって思ったんだ…」

「チィ…忌々しい小娘だ。だが貴様も我と変わらなければ死ぬぞ?」

「構わないよ…色んな人からしたら僕はそうなった方がいい…」

「本当にそうかい?」

 

 

突然別の声が聞こえて、少年は辺りを見渡す。

目の前にはいつのまにかサングラスをかけ髪をツーブロックにした男がいる。

 

 

「君は生きたくないのか?」

「誰…?」

「君はされるがままに人を不幸にして、望まれるまま死ぬのか?」

「それでみんなが幸せになるなら…」

「本当にそうか?君が死ぬことで不幸になる人はいないのか?少なくとも先程君が助けた少女は悲しむだろうと私は思うがね。」

「…僕は死んでもいけないの?だったら僕はどうすれば…」

「君に力の使い方を教えよう。君の力は人を不幸にも幸せにも導ける。その力を何の為に、誰の為に使うのかしっかり考え、生きなさい。それが君が生きてる事を呪う者と死ぬ事を呪う者の為になる。そして君の幸せに繋がるだろう。」

「…僕が幸せになっていいの?僕なんかが…幸せになれるの?」

「なれるかどうかは君次第だ。しかし私は君は幸せになるべきだと思っている。さぁ、どうする?」

 

 

 

「…ならば僕は

 

 

 

…俺は人の幸せを守って、自分の幸せを…大切なモノを作る。もう二度と壊さない為に、失わない為に力を振るう。もしその幸せを壊そうとする奴がいるなら…例えそいつの幸せが壊れようと容赦しない。」

 

 

 

(フッ…八咫烏だけでなく、少年自身も中々にイかれているな。)

「いいだろう…悟、傑!」

 

男が少年を抱き抱え、ある名前を呼ぶとその後ろから2人の男が出てくる。

1人は金髪にサングラスを掛けている男。

もう1人は黒髪にオールバックの男。

2人とも制服を着ている。

 

「話は大体聞いてましたけど…正気っすか、先生?」

「今は抑えられているみたいですけど八咫烏が受肉してるんでしょ?」

「問題ない。私が上を説得して責任持って面倒を見る。ただお前たち2人にも彼に特訓をつけてもらうからな。」

「「了解でーす。」」

「えっと……これからどうするの?」

「私たちの拠点である学校に行く。そこで君は過ごすんだ。…そういえば君、名前は?」

 

男に名前を尋ねられるが少年は答えられない。

先程少女に付けられた名前を言うか?と思ったとき

 

「漣奏。」

「え?」

「貴様に名前をつけてやる。千年前我を封印した憎っくき呪術師の名だ。今我は同じように貴様に封じ込められて大層気分が悪いからな、そう呼んでやる。さっきのムカつく小娘からのあだ名とも同じだろう?」

 

 

「…分かった。

 

 

 

 

今日から俺の名前は、漣奏だ。」

 

 

これが漣奏が呪術師になった日の出来事。

全ての始まりの出来事。

 

 

 

 

 

 

 




若干微妙っぽい気がする奏誕生話。


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第28話:告白の時間

次回野球回とか聞いてねぇよ〜。
もうこっちではやっちゃったんだよ〜。


「…これが俺が呪術師になる前までの話。あの後俺を呪術高専に誘ってくれた人…夜蛾さんっていう人なんだけど、その人の養子になって色んな人から特訓を受けた。その結果1年間で八咫烏を完全に制御できるようになった。殺せんせーとのバトルでコートみたいなオーラ纏ってたでしょ?あんな風に力の一部を解放できる。それと話の途中に出てきた俺が殺した5人の男女…あの人達も呪術師で、俺が使う呪術は彼等から八咫烏が得たものなんだ。」

「つまり漣の呪術?って…他の人の呪術を奪う能力ってこと?」

「そういう事。全身の刺青は術式の影響。後今の話から分かったと思うけど漣奏っていう名前は本当の名前じゃない。それと…」

「ひーちゃんっていう子が……倉橋なのか。」

「そういう事になるね。俺が変わるきっかけになってくれた子だから忘れたことなんて今まで無かったけど……流石に8年前の姿と一致するわけがなかったわ。」

「私も…今のかーくんみたいに明るい性格じゃなかったから、気づかなかった…」

 

 

奏は過去についてのことを一通り話した。

最初はカルマや中村、岡島ですら真剣な顔つきで聞いていたが、次第に何人かは気分を悪くしていた。

それでも保健室から出ずに最後まで聞こうとする姿勢を見て、奏は厄介そうにため息を吐く。

 

 

「まあこういう反応になるのは当然だな。…それでお前らはこれを聞いた上でもまだ俺を救うつもり?」

「で、でも…呪術師として特訓して八咫烏ってのを抑えられてるんだろ?ならもう心配することなんてないんじゃ…」

「確かに八咫烏に好き勝手される事は無くなったよ。ただ高専に所属してから3回ほど、怒りに任せて自らリミッターを外したことがあった。その結果どうなったと思う?村一つ消滅したよ。」

「な…」

「それに俺自身が暴走さえしなければ安全とはいえ、八咫烏は特級っていう最高レベルの実力の呪いに位置づけられてる。高専の上層部は保守派が多いからね、何人かは早く俺を死刑にしたいはずだよ、ってか今まだ保留になってるだけだし。」

 

奏は自嘲気味に薄く笑うが、他の皆は何も言えなかった。

 

「残りの…俺と親しくて実力を認めてくれてる人らは反対の姿勢取ってくれてるらしいけど…俺としてはやはりどっちでもいいかな。」

「どっちでもいいって……何でだよ⁉︎死刑なんだろ⁉︎」

「常に死にたいとはもう思ってないよ。けどさ…死んだ方がいいんじゃないのか、10年間ずっとそれを悩んでる。今でこそ使い道があるって思われてるから生かせてもらってるけど、いつまでも続くわけがない。周りがまずいと判断したならば、俺はいつでも死ねる。」

 

奏が言い終えるとクラスの空気はお通夜状態になった。

奏は立ち上がって上着を着て、今度こそ保健室から出ようとする。

 

「さてと、これで俺の過去の話は終わり。高専以降のは長くなるし、ここまでの流れで大体分かるんじゃない?それじゃ。」

「ちょっ…どこ行くんですか、漣君⁉︎」

「帰るんだよ。それと今日付けで退学するから。」

「退学…⁉︎」

「当然でしょ?潜入任務失敗したし、これ以上皆に迷惑かけられないし。」

「迷惑って…」

「呪術師と深く関わった人間は大体ろくな目に遭わないから。ましてや俺レベルの危険度になると余計にね。安心してよ、期限までに皆が殺せそうになかったらもう一度くらい皆のいないところで殺しにいくから。」

 

立ち去ろうとする奏だが、倉橋は奏の腕を離さない。

 

「…話したからもういいでしょ。離してくんない、ひーちゃん?」

「離さない…まだ救ってないもん…」

「諦めてよ。俺も殺せんせーと同じで殺すか殺されるかの二択しかない。俺自身が助かる方法なんて無いの。」

「そんなことないよ‼︎誰も傷つけないように1人で頑張ってたかーくんが救われないなんて酷すぎるよ‼︎」

「俺が壊した分は俺自身で埋め合わせる、当然のことじゃない?」

「それだけじゃないよ‼︎E組の皆の為にテストとか修学旅行とか球技大会とかで何も言わずに努力してたじゃん‼︎私達は何も返せてないんだよ!」

「十分貰ったんだよ、皆からは。俺みたいなやつが皆みたいな温かい人たちと楽しく学校生活送れるなんて思っても無かったんだから。その分俺は出来ることをすべきだから。」

「だったら出て行くことないじゃん‼︎」

「出て行かないといけないんだよ‼︎」

 

今まで静かに話していた奏が遂に声を荒げて言う。

 

「俺だって本当は皆と居たいよ‼︎E組に来てからたった2ヶ月くらいしか経ってないけど…みんな優しすぎるんだよ‼︎そんな人たちの生活を俺みたいな化け物が壊していいわけないんだよ‼︎そもそも高専に居られるのだって奇跡みたいなことなのに…俺が原因で呪いの被害に巻き込ませてしまったら…いつか八咫烏を抑えられなくなったら…俺の願望で皆と居て、また同じことを起こしたら…そんなのもう嫌なんだよ…やっぱり俺は幸せになっちゃいけないんだよ…」

 

 

奏は泣きながら本心を漏らす。

 

 

 

そして倉橋は

 

 

 

 

一回バチン!とビンタをして

 

 

 

 

奏にキスをした。

 

 

 

 

こんな状況にも関わらず当然ゲス組(タコ含む)は写真を撮るのだが、倉橋は口付けを終えて困惑している奏に言う。

 

「…何で私がこんなにかーくんを引き留めようとしてるか分かる?

 

私がかーくんの事が大好きだからだよ‼︎

 

ナンパされてるのを助けてくれた時、見ず知らずの私をサラリと助けてくれたのがカッコいいって思った!

集会の時、怪我した私を気遣って迷わずお姫様抱っこで運んでくれたのが恥ずかしかったけど素敵だと思った‼︎

修学旅行で拉致された時、違う場所に居たのに直ぐに助けに来てくれたのが嬉しかった!

前ちんの仕返しの時、服装が似合ってるって言ってもらえて恥ずかしかったけど嬉しかった!

8年前にとても辛い思いをしてたはずなのに、人と会うのを死ぬほど避けてたはずなのに、それでも私を救ってくれたのが本当に嬉しかった‼︎

私はかーくんの隣に居たい!かーくんの支えになりたい!だって私はかーくんを愛してるから‼︎」

 

 

倉橋は胸の中に秘めていた奏への想いを全て明かす。

異常レベルの鈍感さを誇る奏ですら、流石に顔を真っ赤にしている。

しばらく混乱して「えっ?えっ?」みたいなことを呟いていた奏だが、やがてゆっくりと恐る恐る口を開く。

 

「…本当に…いいの?俺みたいなのが、ここにいて…?」

「うん、いいんだよ。」

「過去に何人も殺してるんだよ?この先ここに居たら、迷惑がかかるかもしれないよ…?」

「何言ってんだよ、漣。」

 

奏の問いかけに答えたのは倉橋ではなく磯貝だった。

 

「俺たちもう結構な回数助けられてるんだぜ。」

「そんな…言われるほど…」

「お前全教科勉強できて、教えるの頼んだら快く引き受けてくれただろ?」

「修学旅行の時もお前がいなかったらどうなってたか…」

「律から聞いたよ。律の分解防いだのも漣君だって。」

 

前原、杉野、矢田が続けて言う。

最後に殺せんせーが話しかける。

 

「漣君、先生は以前君に言いましたね。『このクラスは既に君を受け入れてます。』と。今の皆さんを見て果たしてそれが嘘だと思いますか?」

「……」

「君が過去に起こした事件は取り返しのつかないことです。そして君はまだその過去に囚われている。けれどそれでも君は前に進もうとしています。苦しい過去を切り捨てたり忘れたりせず、それを糧に成長しようとする君は本当に強いです。そして同時にとても優しい。先生への暗殺の際、皆を巻き込まないように威力や射程を調節していましたね。何よりも仲間を優先する君は、実に素晴らしい人です!」

「……そんなこと。」

「ありますよ。皆さんの顔がその答えです。だから君も助けるだけじゃなく、助けられてもいいんです。いえ…そもそも救いを等価交換する必要なんて無いんです。倉橋さんは君が好きだから…倉橋さんを助けた君の行動故に好きになったのだから、君を助けたいと思っているんです。他の皆さんもそう。君の事を1人の仲間だと思っているから助けようとしてるんです。」

「仲間…」

「この教室にいる以上、君は化け物である以前にE組の生徒です。そしてここが今の君の居場所なんですよ。」

 

殺せんせーはにっこり笑う。

奏は皆の顔を見渡し、そしてその場に座り込んで泣き出す。

倉橋はそんな奏を優しく抱きしめる。

 

「あっ…あり…ありがとう……。」

 

 

 

 

 

この時シャッターが切られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

==========================

 

 

 

「それじゃあ烏間先生体育教師復帰&漣君E組に改めて復帰&倉橋さん告白成功を祝って!」

 

「「「「乾杯‼︎」」」」

 

 

奏が落ち着いた後、現在教室ではプチパーティーが開かれてる。

 

鷹岡の授業において唯一評価されていたのが褒美の甘いものであったため、「烏間先生が体育教師に返り咲けたのは生徒のお陰」と言う事で報酬として一人一品烏間先生の財布で好きなスイーツを買ってもいいということになった。そしてめでたい事がいくつか重なったので祝勝会みたいな形になったのだ。

 

そして今回のMVPの内2名は

 

 

 

『何で私がこんなにかーくんを引き留めようとしているか分かる?私がかーくんの事が大好きだからだよ‼︎』

「もうやめて…お願いだから…」

「いや〜、どストレートに言ったねぇ倉橋ちゃん。」

「大胆な告白は女の子の特権だものねー。」

 

「漣もさ〜、あそこまで鈍かったのに超顔真っ赤じゃん。流石に分かっちゃう?」

「いつもビッチ先生の授業で表情ほとんど変わらないのに、倉橋からの告白にはこの顔か〜」

「うっさい…」

 

絶賛いじられ中だった。

こういう時倉橋がズタボロにされるのは割といつもなのだが、今まで弱みみたいなものを全く見せなかった奏が一方的に弄ばれてる。

 

「ん〜、倉橋さんからの告白はしっかりと録音しましたけど、漣君からの返事がまだ聞けてないですね〜、キスの方もまだですね〜」

「「!!」」

「「「…そういえば。」」」

「おいどーすんだ漣!」

「もう答え決まってるんでしょ‼︎」

「漢を見せろ‼︎」

 

周りからキスコールならぬ返事コールがかかり、二人はますます顔を赤くする。

だが遂に奏は覚悟を決め、自分の両頬をバチンと叩き

 

 

 

 

 

「…倉橋陽菜乃さん、俺もあなたが好きです。不束者ですがこれからもよろしくお願いします‼︎」

 

 

 

「…はい‼︎」

 

 

 

 

 

「「「「イヤッフゥゥゥゥゥ!!!!!!」」」」

「赤飯だ!赤飯を炊け‼︎」

「律!録画は!?」

「バッチリです‼︎」

「キスはどうした、漣ぃ‼︎」

「「キスは本当に恥ずかしいから勘弁して‼︎」」

「あれー、漣はともかく倉橋ちゃんはしてほしいんじゃないの?」

「ふぇっ!?いやして欲しいけど、今は恥ずかしいっていうか、そもそもさっきしちゃったのも勢いに任せてっていうか…」

「漣も勢いで行けよ‼︎」

「ヘタレてんじゃねーよ‼︎」

 

特に挑発に乗せられた訳では無いが、混乱していた奏は倉橋からされておいて俺が返さないってのもどうかなと狂っていた思考判断をしてしまい、

 

 

 

 

倉橋にキスをする。

 

 

 

 

奏はその場にうずくまり、倉橋は気絶し、他のボルテージは最高潮に達した。

 

 

 

 

 

 

 

====================

 

 

 

呪術高専東京校

 

 

いつものように人形を作っていた夜蛾のもとにメールが一件来る。

奏からだ。

 

 

 

『父さんへ

実行が予定より早まってしまい、任務は失敗。惜しくも殺せんせーは殺せませんでした。

それが原因で皆に正体、そして過去の話をすることになっちゃいました。

けれど皆はそれを聞いた上で俺を仲間として受け入れてくれました。

とても嬉しかったです。

だから俺は今はE組を居場所として、この力を使って皆と来年の3月まで頑張ってみます!』

 

 

写真が一枚、メールに添付されていた。

それは奏とE組のクラスメイト達との自撮り写真だった。

夜蛾はそれを見て息子が今幸せなのだと分かり、ホロリと涙を流す。

 

直後もう一件送られてくる。

 

『P.S.

彼女が出来ました。』

 

そこには倉橋とのツーショットがあった。

 

それを見て夜蛾はこう返信する。

 

 

『孫の顔が見れるのはいつになる?」

 

 

 




やっと…やぁっとくっついたァァ!!


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第29話:デートの時間

日常回は番外編と分けようかなぁと思ってましたが、本編にちょくちょく挟んでくスタイルにします。


番外編・ブラコン劇場


三「おや、メール?誰からでしょう?……奏君!?何の用でしょうか!?ハッ‼︎まさか会いたいメール……」

奏『彼女出来ました』(写真付き)

三「」

西「あれ?どーしたの霞ちゃん?」
加「…クラスメイトと和解…奏に彼女?」
真「…なんかようやくって感じなんだけど。彼モテそうじゃない、スペック高いし?」
メ「まあ奏があまり他人と深く関わろうとしないからナ。そうなるとこの彼女がどんなのか気になるナ。」
西「確かにね〜。やっぱブラコンとしては悲しいk(バタン!)…え?」


三輪 白目剥いて気絶


西「霞ちゃん!?」




「ひーちゃん、今週末空いてる?」

「えっ、空いてるけど…」

「じゃあデート行かない?動物園とか。」

 

 

俺とひーちゃんが付き合い始めて数日後の昼休み、俺がこんな事を言うと教室が静まった。何故?

 

 

「今まで一緒に出かけたこととか無いし、せっかくだからどうかなって思ったんだけど…」

「うん、嬉しい…嬉しい!行こう‼︎」

「OK、駅前集合でいいかな?」

「うん!」

 

 

「奏も随分積極的に行くねぇ。」

「そうか?普通だと思うけど…」

「普通下世話なヤツが多いこのクラスで、皆の前でデートの約束しようとは思わねーよ。」

「ま、まぁ奏君だし…」

「???」

 

カルマがいつもの悪魔的スマイルでなんか言ってくるが、そんな変か?

あ、後あの日以来「漣」じゃなくて「奏」ってほとんどの人に呼んでもらってます。名字で呼ばれ慣れてないんだよね、高専だと基本名前呼び捨てだし。

 

 

 

 

 

 

「……よーし、じゃあ尾行班結成するかー。」

「二、三人一組で追跡だな。」

「律、連絡サポート頼んだぞ。」

「了解です。」

 

 

あそこは何計画してんだろーね。

ロクでもないことなんだろうけどさ。

 

 

 

 

====================

 

 

 

デート当日

椚ヶ丘駅前

 

 

目的地までそれなりに距離があるしひーちゃんが色々回りたがってるから、朝9時半集合になった。

今9時15分、既に俺は駅前。

誘ったんだから当然なんだけど、やはり楽しみです。

 

 

 

 

そしてなんか凄い視線を感じる。

 

 

あぁ、どこに誰がいるかは大体分かるよ。何人じゃなくて誰が、ね。

 

斜め左のマックに渚と茅野さん、杉野で

右裏のスタバに磯貝、前原、片岡さん、岡野さん。

駅構内の柱の裏に矢田さん、岡島、菅谷。

それに向かいの本屋に不破さん、中村さん、三村か。

…ん?斜め右手前のビルの4階カフェに千葉と速水さんか?

ほとんどいんじゃん。暇人かよ。

そして、俺のすぐ近くでポケットティッシュ配ってる担任。

鬱陶しいね。

 

けどその程度で俺を尾行できると思うなよ?

 

 

「あれ!?消えた‼︎」

「どこ行った!?」

 

『禍促術式』を自分に発動!高速移動で逃げるぜ!

殺せんせーのマッハ移動と違って自分にかかる時の速さを変える術式だからな、追跡されづらいだろう。

 

そして向かう先は椚ヶ丘駅から二つ先の駅。

改札を通り、ジャストで着た電車に乗る。

 

 

「あ、かーくん!おは〜」

「おはよ、予定通り撒いてきたよ。」

 

 

そう、実はあの後メールで予定を決める際にひーちゃんが

『皆絶対後つけてくるよ〜!恥ずかしい!』

と言ってきた。

別に俺は全然恥ずかしくなかったのだが、またあのキス写真(あの後クラスのグループラインに晒された)みたいな事になるよ、と言われた。それは流石に恥ずいので集合場所を車内に(・・・)変更した。

それでも俺が最初に決めた駅から乗るとついてくる可能性があるから、術式使って二駅先から乗ることにしたのだ。

 

え?呪いをそんなことに使うな?別にいいだろ、ひーちゃんの為だし。

 

 

「…服、夏っぽいね。似合ってるよ。」

「…あ、ありがとう。//」

 

デートの際に服装を褒めるのは基本らしい。似合ってるって思ったのは本心だけど、こういうのは直接言わないといけないんだって。

 

「かーくんのも…似合ってるよ。カッコいい。」

「ん、サンキュ。」

「けどさ……暑くないの、長袖?」

 

そう、真夏だというのに俺は長袖長ズボン。上に関してはさらにジーンズのジャケットを着ている。しかもアームウォーマー着用中。まあ暑そうだよね。

 

「実はね〜、『氷淵呪法』で身体を少し冷やしてんの。ほら、俺って刺青凄いからさ、あんま肌出せないの。」

「そっか…でもガッツリ防御し過ぎじゃない?女子でもここまで紫外線気にした服装しないよ?」

「あはは、確かに。」

 

 

自覚してるけどかなり奇妙だよねー、夏場のアームウォーマー。昔から黒色の使ってるけど今度肌色のとか探してみるか?

とか思ってるとひーちゃんがなんだか腕をモジモジさせてる。

 

 

「…どうかした?」

「え?いや、その、えっと…手繋ぎたいな〜なんて思ったり…//」

「そんなこと?それくらい…」

 

ああなるほど、そういうことか。

 

「(アームウォーマー取って)はい、これがお望みかな?」

「‼︎…うん//」

 

なんで分かったのみたいな顔してたけど、話の流れとアームウォーマーへの視線で分かっちゃうんだよなぁ。そういうところで悩むのも、手握ったらご機嫌になるのも可愛い。

 

 

 

 

 

====================

 

 

電車に乗って数十分

 

「ん〜〜、着いたー!初めて来た感想はどう、かーくん?」

「おう…予想してたけど、やっぱ人多いな…」

「そりゃあ休日だもん。」

 

今回デートの場所として決めたのは上野動物園。日本一の来場者数を誇る動物園である。ひーちゃんは三回程行ったことがあるみたいなのだが、実は俺は一回も無い。というよりこういう娯楽施設にあまり縁が無かったのだ。プライベートで行ったのは小さい時霞姉と二回程小さな動物園にくらいで、後は任務、しかも廃園とかがほとんど。だから入る前なのだがかなり感激してる。とは言ってもガッツリはしゃぐタイプじゃないけどね。

 

 

「つか俺から言ってなんだけど、本当にここで良かった?行ったことあるんでしょ?」

「む〜、分かってないなぁ。私は生き物が好きだから何度行っても飽きないし、かーくんと初めて一緒にデ、デートする所だから余計楽しみなの!」

「そ、そっか。」

「よし!じゃあいこー‼︎」

 

 

俺は手をひーちゃんに引っ張られながら園に入る。

 

 

 

 

俺らは西園の池之端門から入ったからまずアフリカやオーストラリア出身の動物コーナーから見ていく。

 

「すご…オカピとかハシビロコウとかもいんの…」

「上野動物園といえばパンダだけど、あの辺りもレアだよね〜。」

 

 

「サイとかキリンはのんびりしてる方が鉄板だよなー。」

「そうだよね〜。テレビの衝撃映像!みたいのだと激しい戦いのシーンが多いけど、こういうゆったりしてる方が落ち着くな〜。」

 

 

「はー、上の階と下の階で昼夜逆転させてるんだ。」

「ちっちゃくて可愛い〜!ミーアキャットとか良いよね〜!」

「確かに。…あ、ムササビだ。小さい頃はお世話になりました。」

「えっ…お世話になりましたって……」

「……この話はやめようか。」

 

 

「カンガルー、フラミンゴの近くにペンギンの池って場違いじゃない?ホッキョクグマの所に置くのもアレだけどさ。」

「あはは…確かに少し浮いてるね。」

 

 

「キリンとかサイの所でも思ったけどさ、本来の生息地の再現度がスゴいよね〜。」

「そうだよな。しかも両性類と爬虫類の所って結構な頻度で特設展とかやってんだろ?毎度毎度セッティングするのって絶対難しいよな。」

 

 

「あ、ワニだ〜!こっちおいで〜!」

「…ひーちゃんって猛獣もいけるんだ。」

「うん!こういう生き物の眼って大抵クリクリしてて可愛いんだ!」

「あー…言われてみれば確かに。」

 

 

「へー、アイアイって上野動物園にしか居ないのか。知らんかった。」

「小さい頃にさ〜、アイアイとかが歩いてるあの細い足場を歩いてみたいとか思ってたんだよね〜。」

「マジでやめとけ。人間は下手に物理的に高い所に行かなくていいんだ。」

「……もしかしてかーくん、高所恐怖症?」

「おう、あんな手すりも無い場所なんか命綱があっても行きたくない。」

「そこまで!?」

 

 

「冬場は渡り鳥が見れるようにしてるのか。やっぱ発想がすげーな。鷲もいんじゃん。」

「鷲好きなの?」

「動物全体だと犬に続いて鳥類はけっこう好きなんだよね。ひーちゃんが言ってたみたいにクリクリした眼もいいんだけど、ああいうキリッとした眼の方がより好きなんだよ。」

「かーくんもそんな眼してるよ?」

「だからこのあだ名になったんでしょ(笑)」

 

 

「やっぱ触れ合いスペースは王道かー」

「きゃー!ウサギさんの方から寄ってきた〜!可愛い…ッ!?」

「」←何匹ものウサギに全身纏わりつかれて茶色い塊になってる奏

「どーしたのかーくん!?」

「いやさぁ、体質なのか知らんけどこういう触れ合い場所みたいなとこ来るとさ、必ずこんなことになるんだよね。」

「来て1分足らずでそうはならないよ!?」

「とりあえず助けて?」

「いやー危なかった。百々目鬼使ってなかったら方向感覚失って倒れてたわ。」

「いくら私でもあんな姿になるレベルでは懐かれたくないよ…」

「だろうね。噛んだりしない分まだいいけど、今俺コロコロでめっちゃ毛取ってるし。」

 

 

 

 

こんな感じで西園を回り終えて、今は不忍池近くのテラスで一休みしている。

 

「かーくん、そろそろお昼食べない?」

「いいよー。じゃあそこの売店で何か買ってきますか…」

「あ、待って!実はね……ジャン‼︎」

「え、弁当?作ってきたの?」

「そうだよ!一緒に食べよ!」

 

ひーちゃんはカバンから少し大きめの弁当箱を出した。

なんか荷物が大きいなって思ったらこういうことか。

割り箸を貰ってまずは卵焼きから頂く。

 

「…美味いな!」

 

フワッとしていてそれでいて型崩れもしない程よい強度、甘すぎない絶妙なバランス。めちゃくちゃ美味いです。

 

「マジで美味いよ。味とか硬さとか全部ちょうどいい具合になってる。」

「ホント!?良かった〜‼︎」

「なによりひーちゃんの気持ちが良く分かるよ。」

「…‼︎いきなりそういう事言うの反則〜〜//」

 

 

「…ふぅ、ご馳走さまでした。」

「お粗末さまでした。喜んでくれてよかったよ〜」

「そりゃあ勿論。」

「そう言えばさ、かーくんもいつもお弁当だよね。」

「料理は割と好きな方なんだよ……今度は俺が作ろうか?スイーツとかでもいいぞ。」

「スイーツも作れるの!?」

「和菓子系統に限るけどね。」

 

なんか知らないけど昔から仕込まれてたんだよね、和食・和菓子作りの腕。なんでだろうかとか思ってたけど、最近は悟さんが脳を活性化させる為にやらせたってのが理由の一つって気づいたわ。あの目隠しめ、今度塩と砂糖わざと入れ間違えたる。

 

「苦手なものとかってあるか?アレルギーとかさ。」

「ううん、無いよ!…じゃあ楽しみにしてるね?」

「おう、任せとけ。」

 

 

そして昼飯食べて、東園に移動。

東園は鳥類や猿・ゴリラ、トラなどがいる。

そしてこの動物園の人気者、(ちゃんとした)パンダがいる。

 

「どう回ってく?」

「う〜ん、パンダからにしない?」

「OK」

 

というわけでサル山やゾウを通り過ぎて、表門近くのパンダ舎に行く。

パンダ舎は五つの室内(客から見えるのは四つだが)と屋外放飼場に分かれている。

室内は木製ベッドやプールなどがあり、床暖まで設備されてる快適仕様。いざ野生に返されたら生きていけないのではと思うレベルの待遇だ。でも野生のパンダって怠け者みたいらしいし、案外生きていけるのかもしれない。

屋外には小さな池や木製の台が手前半分にあり、奥の方は竹林で生い茂っている。

 

 

「えっ!?見て見てかーくん‼︎」

「どったの、ひーちゃん?…『現在期間限定でパンダ舎には四匹のパンダがいます。』…へー、一匹多いんだ。」

「びっくりだね!どんな子なんだろ〜!」

 

ひーちゃんめっちゃはしゃいでるな〜、可愛いけど落ち着こう。

しかしひーちゃんが最後に来たのは小学校6年生の時らしく、最近生まれた香香(シャンシャン)を見るのは初めてだから着く前からけっこう興奮していた。そこに新しく一匹増えてたらそりゃあテンションは上がるだろう。しかしどうして一匹増えたのかな?

 

 

「あ!今外にいるみたい!早く行こう‼︎」

「ちょっ、落ち着け!」

 

入園前より強い勢いで引っ張られ、屋外放飼場を見に行く。

 

「ひーちゃん、どの子か分かるかい?」

「うーん、多分あの子じゃないかな?」

「分かるんかい。なんで?」

「えっとね、他の三匹はあの台の近くに集まってるじゃん。けどあの子だけ少し離れた奥の方にいるよね。人見知りなんだよ、きっと!」

「…なるほど。」

 

人見知りってかパンダ見知りなのか?どれくらいいるのか分からないけどその内あの三匹の中に入れるのかね、あの子は。

 

あ、飼育係の人が餌持って出てきた。

 

 

 

 

 

……ん?あの飼育係、夏場なのになんでネックウォーマー着けてんだ?俺が言えた口じゃないけど暑くね?

 

 

 

 

……ってかあの金髪、見覚えあるんだけど。

 

 

 

 

 

……あれもしかして、棘じゃね?

 

 

 

 

……え、なんで棘が上野動物園の飼育係やってんの?

 

 

 

 

 

……ん!?!?

 

 

 

 

 

あの奥の新入りパンダ…

 

 

 

 

 

 

兄貴(パンダ)じゃね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




上野動物園に作者は長らく行ってないのでほぼ全く覚えてないです。

上野動物園のホームページを見ながら書きました。


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第30話:動物園の時間

お待たせしました。執筆中のが一度消えてやる気が削がれてました。

それとUA10000突破しました!ありがとうございます!


番外編 ブラコン劇場②

数分後

三「……ハッ‼︎」
西「あ、起きた。」
三「悪夢を見てしまいました……奏に君に彼女が出来てしまった恐ろしい夢です…」
メ「現実だゾ。」
三「は?」 ハイライトオフ
西・加・真・メ((((怖っ))))
三「私の大切な奏君を誑かすなんて…どうしてくれましょう…」

真「ブラコン拗らせすぎでしょ、この子。色々手遅れじゃない?」
メ「シスコン(お前)がそれを言うカ。」
真「あ″?」
メ「何でもなイ。」

西「ちょっと加茂君、どうにかしてよこれ。」
加「無茶を言うな。私もあまり関わりたくない。」
東「ほう…奏の好みは小柄なゆるふわ、ショートヘアーの貧乳派ということか…」
三「」
西・加((ヤッベ、コイツ地雷踏み抜いたんじゃね?))

三「……」
↑割と長身、ロングヘア、基本スーツスタイル、そこそこ胸がある自覚あり

三「桃さん。」
西「(ビクッ!)な、何?」
三「ゆるふわ系の可愛いファッションを私に施して下さい。」ハイライトオフ


ナンデ!?パンダナンデ!?

 

 

 

ひーちゃんと上野動物園にデートに来ていた俺は1人ものすごく混乱していた。

 

 

 

だって兄貴が文字通り見世物になってんだもの。

 

 

 

自分の親族が動物園の檻の中に見世物となっているのを見た人なんて、恐らく地球上で俺だけだろう。

まあ人外が兄弟って時点で相当稀有だけど。

 

 

 

けどマジでアイツは何やってんの!?

棘も棘だよ!何でお前は飼育係やってんの!?

よく見たらあの餌用バケツの中身カルパスじゃねーか‼︎

そりゃ奥の方に行くわ‼︎

 

「かーくんどうしたの?汗凄くない?」

「……大丈夫、何でもないから。」

「?」

 

無表情をなんとか保てているが、冷や汗がすごい。

本当になんなん、あれ?

 

 

あ、こっちに気づいた。

向こうも一気に汗をダラダラ流している。「何でいんの?」みたいな顔してるけど、それこっちの台詞だからな?

 

 

一旦棘が中に引いた。そのすぐ後にメールが来る。

短めの文とマップの写真が添付されていた。

 

『このルートに沿って来い。鍵は開けとく。』

 

 

えぇ、行きたくねぇ…。なんであんなことしてるかは知らんけど、大方潜入任務でしょ?それで俺呼び出したってことは絶対なんかしら巻き込んでくるじゃん。やだよ、デート中だぞ?

 

あ、パンダ(兄の方)も中に引いてった。いいのか、勝手に行って?

 

 

 

……しゃーないな。

 

「ひーちゃん。悪いんだけどちょっとここで待ってて。飲み物買って来る。」

「うん、分かった。」

 

 

 

 

=====================

 

 

 

 

「いやぁ、デート中に悪かったな。」

「本当だよ。後で1発ぶっ飛ばすから。それで何でここにいんの?」

 

俺はパンダ達に呼び出され、係員の休憩室に来た。

棘はいつもの真顔だが、パンダの顔はニヤついている。

殺せんせーのピンク顔と同じ感じがしてなんか腹立つ。

 

「潜入任務にしても、何であんなわけわからないことしてんのさ。」

「それがなぁ、元々こんなことになるはずじゃあ無かったんだよ。」

「しゃけ。」

「この近くに国立博物館があるだろ?あそこに保管してある呪物を回収してこいって言われたんだよ。けどさ…」

「無くなってたわけ?」

「そそ、しかもその残穢がこの動物園の周辺に残ってるんだよ。それで改めて回収する為に檻の中でパンダやってたってこと。」

「檻の中でパンダやるならもうちょい愛嬌振り撒いたらどうなんだよ。」

 

奥の方でそっぽ向きながらカルパス食ってるのをパンダ営業と言えるのだろうか。けど回収しなきゃいけない年代物を放置するのはマズイよなぁ。

 

「とりあえず事情は分かった。けど俺もオフだから積極的に探しには行かねーぞ。違和感感じたら報告する程度だからな。」

「おう、全然構わん。デートをしっかり楽しんで来い。そしてその話を後で聞かせろ。」

「おかか。」

「…それで盗まれた呪物って何?写真くらいあるだろ?」

「ああ、これこれ

 

 

 

 

特級呪物『両面宿儺の指』だ。」

 

 

 

 

=====================

 

 

 

三人称視点

 

 

「かーくん遅いなぁ…自販機そんな遠かったっけ?」

 

パンダ(ちゃんとした方)を眺めながら陽菜乃はぼんやり呟く。

 

「迷ったりは…流石にしてないよね…?」

 

初めて来たとはいえしっかりマップを見ていた奏に限ってそんなことは無いだろう。しかしだとしたら奏は何をしているのだろうか。

 

「少し移動しよ…」

 

だんだんパンダ舎が混んできたので、陽菜乃は抜け出してサル山の方に向かう。その途中に

 

 

「「きゃっ!?」」

 

 

陽菜乃は1人の銀髪の女性とぶつかってしまう。

相手の方はこけてしまい、手荷物を落として中身が散らばる。

 

「ご、ごめんなさい‼︎大丈夫ですか!?」

「あ…こちらこそすみません。不注意でした。」

 

女性は一度陽菜乃を見て謝った後、荷物の中身を拾い集める。陽菜乃もそれを手伝う。

 

「これで全部かな…ほんとにごめんなさい!」

「いえいえ、私も悪かったんですし。それより拾うの手伝ってくれてありがとうございます。お礼といってはなんですがこれを…」

「お守り…悪いですよ、こんな…」

「気にしないでください。私実家がお寺でこういったお守りを沢山持っているんですよ。是非受け取って下さい。」

「それじゃあ…ありがとうございます!」

「どういたしまして。…あ、因みにそれ、恋愛成就のお守りですよ。」

「ふぇっ!?///」

「ふふ、可愛い反応ですね。では私はこれで。」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながら女性は去っていく。

 

(なんだか不思議な感じの人だったなぁ…)

 

陽菜乃は女性の後ろ姿を見送りながらそんな事を思う。

入れ替わりに後ろから奏の呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「ごめん、ひーちゃん。お待たせ〜……」

「あ、かーくん!遅かったね〜。」

 

 

振り向いて見えた奏の表情は硬直していた。

 

 

 

=====================

 

 

 

奏視点

 

 

 

さっきまで呪いの気配は感じなかった。

パンダに言われてから少し気を張ると、確かに少し変な感じはしたがどこにどれくらいのがいるかまで感じるほど濃いものでは無かった。

 

 

 

なのにひーちゃんの所に戻ったら、ひーちゃんの周りをいくつもの呪霊が囲んでいた。

 

 

なんで急に呪霊が現れた?

なんでひーちゃんの周りに発生した?

特級呪物を盗んだ奴が何かしたのか?

 

 

それらを考える前に既に体が動いていた。

 

 

『式瀾流呪闘術 伍の型・百合』

 

『禍促術式』を使いながら一体ずつ祓っていく。

『百合』は十二の型の中で威力が最も低い分、動作が短く素早く出せる。頭を狙って確実に一撃で祓っていく。

 

「わっ‼︎かーくんいつのまに後ろに回ったの?」

「…ひーちゃん、俺が離れている間に何か変なもの拾わなかった?」

「え?拾ってないけど…」

「それじゃあ変な人に絡まれたりは?」

「ん〜〜……変な人じゃないけど、女の人と一度ぶつかっちゃったんだよ。」

「それで?」

「その人の荷物拾うの手伝って…そしたらお礼にこのお守りもらったの。それだけだけど…かーくんどうしたの?」

 

ひーちゃんが見せたお守りは一般的に神社などで売られている奴と形状が違う。縦長で袋の中身が不自然に膨らんでいる。そのお守りからは嫌な気配を感じる。

 

「ひーちゃん、そのお守りは呪いを引き寄せている。」

「え?」

「俺に渡してくれ。でないと大変なことになる。」

「う…うん。はい…」

 

ひーちゃんがお守りを渡してくれた。

俺はそれを宙に投げる。すると呪霊がどこからともなく何体も現れ、お守りを取り込もうとする。

 

『累乖呪法・無天召地』

 

放り投げた餌に飛びかかった呪霊を纏めて祓う。

後から出てきたのも重力が強くなってることに気づかず祓い飛ばされる。

 

 

呪霊が湧かなくなったのを確認すると、俺はお守りを回収する。

袋を開けると、中にはパンダ達が探していた例の『指』が入っていた。

 

 

 

==================

 

 

「いやー、まさかあんな直ぐに見つけるなんてなぁ。」

「高菜。」

「呑気なこと言うな、クソ兄貴。あと少し遅かったらひーちゃん死んでたんだぞ?初デートで彼女死亡とかどんなトラウマだよ。」

 

 

今俺は2人に『指』を渡しに、さっきの休憩室に来ている。今度はひーちゃんも連れて。

ひーちゃんは完全に固まってる。そりゃそうだ。目の前に人語を話すパンダがいるんだもん。

 

「ひーちゃん、大丈夫か?意識はあるか?」

「…えっとさ、このパンダ?何?かーくんの知り合い?」

「…この際だから紹介しとくか。この2人は高専の俺の仲間。こっちの金髪が狗巻棘。術式の影響で語彙がおにぎりの具しかない。」

「こんぶ。」

「…なんて言ってるの?」

「『よろしく』だと。」

「……分かるんだ。」

「んでこっちがパンダ。俺の兄。」

「パンダだ。よろしく。」

「ごめん、ほんとによく分からないや。」

 

だろうね。俺もこの説明は雑過ぎると思ったわ。

 

「兄って言っても義理のだよ。父さんが作った呪力で動く人形なの。」

「そのお人形って…全部この子みたいに会話できるの?」

「いや、パンダは突然変異体でね。会話したり思考したりするのはこいつだけ。」

「メ○ーさんみたいだね。」

「奏と付き合ってるってのはこいつから聞いてるよ。過去の話も聞き出したってのもな。…まぁなんだ、これから奏をよろしく頼むよ。一人で色々抱え込む癖あるからなコイツ。」

「…うん!任せてよ!」

 

さっきまで硬直してたのに馴染むの早いな、ひーちゃん。素直に尊敬するわ。

 

「それでひーちゃん、このお守りを渡してきた女ってどんなやつだった?」

「えっと、銀髪で…ベージュのハンドバッグを持ってて…紫色のワンピース着てて…あ、後左目に眼帯をしてた!」

「銀髪で眼帯…これで結構探しやすくなったな。」

「えっとさ…そのお守りが呪いを惹きつけてるって言ってたけど…本当は何なの?」

「呪いの王って呼ばれてる『両面宿儺』って奴の指。強力な呪いを発していて、今までは魔除けの道具として働いていたんだよ。」

「ただ時間が経つにつれて、だんだん効果が悪化してってな。さっき言ったように呪いを引き寄せるアイテムに変わっちまったわけだ。」

「じゃああの女の人は…」

「ああ、十中八九呪詛師…悪い呪術師だな。」

「陽菜乃のお陰でだいぶ探しやすくなったわ。サンキュな。」

 

パンダがそう言うが俺は顔を顰める。またひーちゃんを呪いに巻き込んでしまったからだ。せっかくのデートだと言うのに、またひーちゃんを危険に晒してしまった自分が憎い。

 

 

パンダ達と別れた後俺たちは再び動物園を回るが、俺は最初のように楽しめなかった。

 

 

 

==================

 

 

 

「…今日はごめんね、ひーちゃん。」

「え?どうして?」

「俺が今日あの場所を選んでなかったら…ひーちゃんが危険な目に合う事はなかったんじゃないかって思ってね…」

「かーくん…」

 

ひーちゃんを家に送ってく途中、思ってた事を口にする。

 

「でも、助けてくれたでしょ?」

「それは当然だけどさ…」

 

そもそも巻き込んでしまわないようにするのは無理なのかな、と言いかけた時

 

「あら、陽菜。お帰り〜。」

 

向こうから誰かがひーちゃんを呼んでいた。

 

「お母さん!」

「あら〜、そっちの子が噂の彼氏〜?」

「あ…はじめまして。陽菜乃さんとお付き合いさせてもらってます、漣奏です。」

「はじめまして。陽菜の母です〜。」

 

なるほど、ひーちゃんのユルフワオーラはお母さん譲りなのか。雰囲気そっくり。

 

「そうだ。奏君、今晩うちでご飯食べてかない?」

「え…そんな、お昼は陽菜乃さんの手作り弁当もらってるのに…悪いですよ。」

「気にしないで〜。むしろ色々聞きたいことがあるから是非是非〜。」

「えっと…」

「諦めてかーくん。お母さん相当粘り強いの。」

「じゃあ…お言葉に甘えて。」

「はいはーい。」

 

 

 

漣奏、初デートの後に初めて彼女のお家に上がらせてもらいます。

こんなに早い流れが他にあるのか?

 

 

 



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第31話:気まずい時間

まず2点謝らせて下さい。


一つ目は投稿頻度についてです。
作者が新学期に入り受験生なので、投稿頻度は低くなることになります。
なんとか頑張って週一投稿を目指してはいますが、そこのところ理解していただけると嬉しいです。


二つ目は誤字報告です。
今まで三輪ちゃんをシスコンと書いてましたが、奏は男なのでブラコンが正しいです。ほんっっっとにバカでした、すいません。


今回はブラコン劇場はパス。

作者が思いついた時に前書きに書きます。
そんなしょっちゅうはやらないと思います。


誰か助けてください。いやほんとに。

 

 

 

現在俺はひーちゃん家でひーちゃんのご両親と食卓を囲んでいるのだが、なんだか微妙な空気になっていて気まずい。

 

 

 

何故このような状況になったのか。

 

 

動物園デートが終わって俺はひーちゃんを家まで送っていた。

そしたらひーちゃんのお母さんに捕まってしまい、半ば強引に夕飯をご一緒させてもらうことになった。

それ自体はとてもありがたい。が、帰り道で俺の一言でひーちゃんとの空気が重苦しくなっていたのだ。

 

こんな風に過去をズルズル引きずるのは悪い癖だって分かってるけど、やっぱ「あの時ああしてれば〜」って考えてしまう。それであんな卑屈な事をデートの帰りに言ってしまった。マジで自分が嫌になる。

 

そしてさらにひーちゃんのお父さんが帰ってきてしまった。

ひーちゃんと俺が付き合ってることはお母さん同様知っていたらしいが、笑顔ではなく真顔だったのがなんか怖い。

ドラマとかでありがちな殴り合いにならなかった分マシだけど。

 

こんな経緯があってひーちゃんのお母さん以外何とも言えない微妙な空気になってしまっているのだ。マジで辛い。

 

「えっと…改めまして陽菜乃さんとお付き合いさせていただいてます、漣奏です。今日はお食事に招いていただきありがとうございます。」

「そんな硬くならなくていいのよ〜。どんどん食べてね〜、そして陽菜とのことどんどん聞かせてね〜。」

 

やっぱそっちが狙いですよねー。

お父さん眉がピクって動いたよ。なんか警戒しちゃうよー。

ひーちゃんヘルプー。あ、ダメだ。ひーちゃんもけっこう硬直しちゃってるよー。そんなんになるならあの場でお母さん説得するの手伝ってよー。

あ、このポテトサラダおいしい。

 

「それで陽菜とはどこまでしたの〜?」

「「ゲホッ」」

「あらあら、ピッタリね〜。」

 

しょっぱなからぶっこんできたよ。最初はどの辺が好きになったのとかだと思ってたよ。ストレートな不意打ちでむせちゃったよ。

 

「ゲホッ…ゴホッ…えっと、その……キスはしました。///」

「あら〜随分早いわね〜。それでどっちからしたのかしら?」

「////」←陽菜乃 小さく挙手

「あらあら陽菜〜、あなた大胆ね〜。」

 

もう止めてください!まだ始まったばかりだけど、この状況を楽しんでるのはお母さんだけですよ!俺ら二人ライフゼロですよ!お父さんもなんかヤバそうですよ!

 

「奏君は陽菜のどこが好きになったのかしら〜?」

「ムードメーカーで男女問わず仲良くなれるコミュ力にわずかな変化に気づいてそっと気遣ってくれる優しさそれと普段からニコニコしてて辛い状況でもみんなを和ませる明るさ後は」

「もういい!もういいよ、かーくん!!恥ずかしいからやめて!!」

「あらあらあら〜」

 

あ、何も考えずに自然に出てしまった。でも全部本当だし仕方ないね。

 

 

 

この後30分以上も質問攻めが続き、俺とひーちゃんは途中から箸が全く進まなかった。

 

 

 

 

 

==================

 

 

 

「…えっと、それで何のお話でしょうか?」

 

 

 

食後、ひーちゃんはお母さんに何か言われてキッチンに入っていった。

そして俺はひーちゃんのお父さんに一対一で話がしたいと言われたのだ。

 

 

 

「単刀直入に聞かせてもらうよ。君は9年前に陽菜乃と会っていたんだってね。」

「……⁉︎何のことですか…?」

「とぼけなくていいよ。陽菜乃から聞いたことだからね。」

「ひーちゃんから…?」

「ああ、君と付き合い始めた日に言ってたよ。9年前に山で迷子になった陽菜乃を助けてくれたんだろう?9年前に『山の中で男の子に助けてもらった』と聞いた時は信じられなかったし、今でも信じがたい。だけど今日初めて君に会って『ああ、この子なのか、陽菜乃を助けてくれたのは』と感じたよ。」

「…何でそう感じたんですか?」

「何でだろうね。私にも分からないが不思議にも君を一目見てそう思った、としか言いようがないね。けれど妻と君との会話を聞いてて確信したよ。君は優しい子だ。君になら陽菜乃を任せられるってね。」

「……!」

「少し遅くなってしまったが今この場で言わせてくれ。あの時に私達の大切な娘を救ってくれて本当にありがとう。」

 

 

その言葉を聞いて俺は涙を流してしまった。

 

 

「!?どうしたんだい!?」

「いえ…その…こんな風に感謝されるのが…ほんとに嬉しくて…生きててよかったなんて…思えて…」

「随分大げさじゃないかな!?」

「かーくん、林檎剥いたよ〜…ってどうしたの!?……オトウサン?」

「違う!誤解だよ!」

「あらあら、オイタが過ぎるんじゃないかしら、ア・ナ・タ?」

「だから誤解だって母さん!」

 

 

 

==================

 

 

 

 

数分後

ようやく涙が止まった俺はひーちゃんと林檎食べてる。

最近涙腺がボロボロ過ぎませんかねぇ?

 

ひーちゃんのお父さんが最初ピリピリしてたのは、俺に感謝の言葉を言うつもりだったらしいのだが、俺の過去に関してはひーちゃんが黙ってくれてたからデリケートな事だと思ったらしく、どう切り出せばいいのか迷っていたからだと。

実際はすごく穏やかな人でした。ひーちゃんのユルフワは母親だけじゃなく父親のものでもあるんだなぁって。

 

 

「かーくんはさ、もっと自信持ちなよ!」

「…急にどうしたの?」

「『俺みたいのが〜』とか『あんなことしなければ〜』とかよく言うけどさ、かーくんが居てくれたから私は無事だったし、今日のデートもすごく楽しかったし、かーくんから誘ってくれたのも嬉しかった!だから自分をそんなに卑下しないで?」

「……ん、難しいなそれ。」

「ん〜〜、じゃあ私を信じてよ!私はかーくんのことを信じるから!それならいいでしょ?」

「…おう、それなら全然余裕だわ。」

 

俺がそう返すとひーちゃんは心底嬉しそうにニカッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

その後?林檎食べてお暇させてもらいましたよ?

お泊り?そんなすぐにするかボケ。

 

 

 

 

===============

 

 

 

 

 

上野駅周辺のとある高層ビルの屋上に一人の女が立っていた。

銀色の髪をなびかせながら、これから起こるであろう楽しい事を考え街を見下ろす。

女は左眼に手をかけ、眼帯を外す。

露わになったその眼は普通は黒い部分が白く、白い部分が黒くなっている。

 

 

「…思ってたより面白い子だね、陽菜乃ちゃんは。

まあそれはさておき…私達もそろそろ本格的に介入しましょうか〜。

 

 

 

待っててね、奏。」



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第32話:夏の時間

呪術廻戦、新章始まりましたね。
まーた入場料払わないアイツが悪巧みするのか。


七月に入り、夏の暑さも本格的に厳しくなってくる。

なのにE組の校舎にはクーラーが無い。地獄かよ。

 

 

 

…なので

 

 

「いや〜、奏と律のおかげで助かったぜ!」

「本当にね。二人がいなかったら勉強も暗殺も捗らなかったわ。」

「いえいえ、お安い御用です!」

「律はともかくこのままじゃ俺も死にかねなかったからな。」

 

俺が『氷淵呪法』で教室の空気を冷やし律が送風機を開発することで、教室内を一気に快適にする。俺一人だと場所が偏ったり温度の調節がやり過ぎたりしかねないし、律単体だとただ蒸し暑い風を送るだけになってしまう。俺らだからできるクーラーコンビネーションだ。

 

 

「いけません皆さん!クラスで協力し合うのは素晴らしいですが、二人を便利な道具扱いするのは関心しません!」

「何だよ。殺せんせーだってバテてたくせに。」

「夏の暑さは当然の事ですよ‼︎温暖湿潤気候で暮らすのですから諦めなさい。ちなみに先生は放課後には寒帯に逃げます。」

「「「「ずりぃ‼︎」」」」

 

俺もそう思う。この前なんか南極産の氷でカキ氷作ってたし。俺が術式使ったすぐ後に氷嚢作ってって頼んできたと思ったら授業中その氷嚢の上に立って授業してたし。できるのならあの氷をドライアイスに変えてやりたい。

 

「でも今日プール開きだよねっ。体育の時間が待ち遠しい〜。」

「いや…そのプールがE組(おれら)にとっちゃ地獄なんだよ。」

 

ひーちゃんの言葉に憂鬱そうに答えたのは木村だ。

 

「どゆこと?」

「プールは本校舎にしか無いんだよ。だから炎天下の山道を1km往復して入りに行く必要がある。人呼んで「E組 死のプール行進」。特にプール疲れした帰りの山登りは…力尽きてカラスのエサになりかねねー。」

 

ひぇぇ…学校のプールの行き帰りで人が死ぬとは、日本各地を探してもここくらいしか無いのでは?

 

「けどそれも奏がいるからどうにかなるだろ…」

「いや無理だ。」

「「「え?」」」

「呪術ってのはなお前らの想像以上に神経削るんだよ。式神使いとかは少し集中が途切れると型崩れするし、俺みたいに精密な操作を必要とするのは過剰に発動したりするからな。一日中ぶっ続けで呪術使い続けることは出来ないから、今はある程度冷やして律に空気回してもらってんだよ。」

「まじか〜……」

「でも確かに。私達も一日中殺意丸出しで生活できないもんね。」

「じゃあ本校舎まで運んでくれよ〜、殺せんせー。」

「んもーしょうがないなぁ…と言いたいですが、先生のスピードを当てにするんじゃありません‼︎いくらマッハ20でも出来ない事はあるんです‼︎」

 

そうだろうね。服ん中にクラス全員入れて本校舎まで飛んでったらめっちゃ目立つもんね。

 

「…でもまぁ気持ちは分かります。仕方無い、全員水着に着替えてついて来なさい。そばの裏山に小さな沢があったでしょう。そこに涼みに行きましょう。」

 

裏山の沢ねぇ……あそこ足首まであるかないかくらいの深さでしょ?

そんなん行くよりさ、殺せんせーが何往復かして俺らをどっかの海に連れてくとかの方が良くない?カスピ海とかエーゲ海とか死海とかさ。渚とカルマなんかこの前ハワイに連れて行ってもらったらしいじゃん。羨ましい。…あ、でも俺高い所ダメだった。終わったわ。

 

 

==================

 

 

 

………なーんて事を数分前の俺は思ってました。

前言撤回します。裏山の沢で十分満足できます。

 

 

なんと殺せんせーは1日かけて沢を塞き止めてプールを作っていたのだ。

25mコースやデッキチェアまで作って、水位を調節すれば魚も飼えるとのこと。最高かよ。

 

 

「楽しいけどちょっと憂鬱…泳ぎは苦手だし…水着は体のラインがはっきり出るし。」

「大丈夫さ、茅野。その体もいつかどこかで需要があるさ。」

「…うん、岡島君。二枚目面して盗撮カメラ用意すんのやめよっか。」

 

浮き輪に乗ってる茅野さんの言う通り、岡島はカメラを持参していつにも無く真剣な表情でシャッターを切っている。

「岡島もあんな真面目な顔できるんだー」なんて思ってたら、ひーちゃんと片岡さんが俺の肩をポンと叩いてきた。

 

「「かーくん(奏君)」」

「ん?どしたの二人とも?」

「「岡ちん(岡島君)ギルティね。」」

「…イエスマム。」

 

何となく要求が伝わったから、左手を岡島の方に向けカメラを凍らす。

 

「俺のカメラがーー‼︎」

「当然よ。」

「…悪いが情状酌量の余地は無いな。」

「仕方ないね〜。」

「奏ぇ‼︎お前も男なら分かるだろ!女体の美しさをカメラで撮り残したいこの気持ちが‼︎」

「いや分かんねえよ。」

「んだとこのリア充め‼︎じゃあ想像してみろ!写真に収められた倉橋の水着姿を!それに興奮したら…「岡ちん?」……ハイ、スイマセンデシタ。」

 

岡島がなんか言いかけた時ひーちゃんがめちゃくちゃすごい殺気放った。思わず岡島だけでなく俺も片岡さんもビビったよ。…けどひーちゃんの写真か。欲しいかどうか聞かれたらそりゃ欲しい。水着じゃなくても頼めば撮らせてもらえるかな。

 

…なんか視線感じる。

 

「…菅谷、なんで俺の体凝視してるの?」

「いや…前も見たけどよ、奏の体の刺青(それ)ほんとにスゲーなって。」

「あんまいいもんじゃないんだけどなー……」

「あ、悪りぃ。けど芸術家としてはけっこうカッケェって思っちゃってさ。」

「菅谷のソレもカッコいいじゃん。メヘンディアート…だったっけ?」

「そう言えば奏だけはやらせてもらえなかったよな。それ隠してたんなら当然か。」

 

鷹岡が来る前に菅谷がメヘンディアートブームもたらしたことがあった中、俺だけは拒否した。既に体に色々書かれてるからな。

けど美術に限らず芸術系は超下手な俺からしたら、菅谷みたいな芸術が得意なやつはとても尊敬する。E組だと他には原さんの裁縫とか、不破さんの漫画力とか、後三村のギターとか。

 

その時ピピーッと笛の音が鳴った。殺せんせーだ。

 

「木村君‼︎プールサイドを走っちゃいけません‼︎転んだら危ないですよ‼︎」

「あ、すんません。」

 

確かにな、プールサイドでこけるのはプールで一番起こりやすい事故だしな。

再び笛が鳴る。

 

「原さんに中村さん‼︎潜水遊びはほどほどに‼︎長く潜ると溺れたかと心配します‼︎」

「「は、はーい…」」

 

まあそうね、今日は烏間先生もビッチ先生もいないから殺せんせー1人でプール全域の底まで見るのは難しいものね。

三度笛が鳴る。

 

「岡島君のカメラも没収‼︎狭間さんも本ばかり読んでないで泳ぎなさい‼︎菅谷君‼︎君のボディーアートは普通のプールなら入場禁止ですよ‼︎体質だから仕方ありませんが、本来なら奏君もです‼︎」

 

岡島、お前は二台持ってきてたんかい。

狭間さん、もっともです。プールに来てるんなら泳ぎましょう。

俺の刺青なあ…ほんとどうにかならないかなぁ。銭湯とか行ってみたいんだけどなぁ…。

 

 

……つか、それにしても小うるせぇ…

 

「いるよね〜。自分が作ったフィールドの中だと王様気分になっちゃう人。」

「うん…ありがたいのにありがたみが薄れちゃうよな。」

 

まーた笛が鳴る。

 

「奏君と倉橋さん‼︎君達カップルはもっとイチャつきなさい‼︎この前のデートは撒かれてしまったんですから‼︎」

((イラっ))

 

誰が原因で撒いたと思ってんだ。

俺とひーちゃんは顔を見合わせ、殺せんせーの監視台の近くに行き「せーのっ!」と水をかける。

その瞬間

 

 

 

 

「きゃんっ」

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

「…何、今の気持ち悪い悲鳴?」

 

思わず声に出して言ってしまった。けどまじでキモかったんだよ。

もしかしなくても殺せんせーだよね?

 

俺らが困惑してると、いつのまにか監視台の下に移動していたカルマが監視台の足を掴んで揺らす。すると

 

「きゃあっ!揺らさないで水に落ちる‼︎」

 

 

次に俺が監視台の足を掴み『累乖呪法』を発動させる。

殺せんせーが監視台にしがみついた状態のまま、台をプールの中心の真上に浮かせて上下逆さまにしてシェイクする。

 

「やめてー‼︎落ちる!落ちちゃう‼︎助けてーッ‼︎」

 

 

 

 

…まさか、殺せんせーって泳げない?

 

 

 

 

「…いや別に泳ぐ気分じゃないだけだし。水中だと触手がふやけて動けなくなるとかそんなん無いし」

「じゃあそのビート板は何なのさ。泳ぐ気満々だと思ったんだけど?」

「これビート板じゃありません。ふ菓子です。」

「「「「おやつかよ‼︎」」」」

 

この時俺含めほとんどのやつらが直感した。

「今までの中で最も『使える』であろう弱点なのではないか」と。

その時後ろでドボンと何かが水の中に落ちる音が聞こえた。

振り返ると茅野さんが浮き輪から落ちて溺れていた。

 

「ちょっ…バカ何してんだ、茅野‼︎」

「背ぇ低いから立てねーのか‼︎」

「かっ、茅野さん‼︎このふ菓子に捕まって…」

「届いてねーし、そもそもふ菓子じゃ無理だろうが‼︎」

 

ビート板(ふ菓子)を手にオロオロしている殺せんせーにツッコミながら俺は茅野さんの方に行くが、それより先に誰かが茅野さんを救出した。

 

「はい、大丈夫だよ茅野さん。すぐ浅いとこ行くからね。」

「助かった…ありがとう片岡さん‼︎」

「…ふふ、水の中なら出番かもね。」

 

 

 

==================

 

 

 

プールの授業の後

片岡さんを中心に裏山に集まって作戦会議をしていた。

 

「まず問題は殺せんせーが本当に泳げないのか。」

「湿気が多いとふやけるのは前に見たよね。」

「さっきも…奏と倉橋が水をかけたとこだけふやけてた。」

「もし仮に全身が水でふやけたら…死ぬまではいかなくとも、極端に動きが悪くなる可能性はかなり高い。」

「だからね皆、私の考える計画はこう。この夏の間、どこかのタイミングで殺せんせーを水中に引き込む。それ(・・)自体は殺す行為じゃないから…ナイフや銃よりは先生の防御反応も遅れるはず。そしてふやけて動きが悪くなった所を…水中で待ち構えてた生徒がグサリ‼︎」

 

確かに殺せんせーは自分自身だけを狙った攻撃には敏感だけど、それ以外の攻撃には反応が少し遅いな。

それに動揺してれば機動力は更に落ちる。

 

「水中にいるのが私だったらいつでも任せて。髪飾り(バレッタ)に仕込んだ対先生ナイフで…いつでも殺れる準備はしてる。」

「おお〜、昨年度の水泳部クロール学年代表、片岡メグ選手の出番ってわけだ。」

「まず大事なのは殺せんせーに水場の近くで警戒心を起こさせない事。夏は長いわ。じっくりチャンスを狙ってこう!」

 

片岡さんの言葉に皆がおう!、と応える。

女子のクラス委員だから磯貝同様に信頼度と指揮能力は高い。

 

「うーむ、流石は『イケメグ』。」

「こういう時の頼れる度合いはハンパじゃないな。」

 

三村と菅谷の会話に気になった言葉が出てきたからひーちゃんに聞いてみる。

 

「イケメグって?」

「メグちゃんのアダ名だよ。文武両道で面倒見が良くて颯爽として凛々しい姿がイケメンだからね〜。今までたくさんの女の子からラブレター貰ってるんだよ〜。」

「なるほどね…」

 

じゃあなんで彼女はE組に落ちたんだろうか。あんなにできた人間なのに。まあそういうのはあんまり詮索すべきじゃないか。

 

 

===============

 

 

 

その日の放課後

 

 

「律、タイムは?」

「26秒08 片岡さんの50m自己記録には0.7秒届いていません。」

「ブランクあるなぁ。任せてと言った以上は万全に仕上げておかないとね。」

 

 

 

「……よし、じゃあ行くぞー。」

「了解。いつでもOK。」

………

「……ここ!」

「うわっと!……今のはタイミングいいんじゃないか?」

「む〜〜〜ん……タイミングは悪くないけど…殺気はどうだった?」

「あ〜〜…ちょっと分かりやすかったかもな。」

「触れないで凍らすのは意識を集中させるからなぁ…やっぱ少し分かりやすくなるかぁ…」

 

 

プールでは片岡さんが泳ぎの練習を、プールサイドでは俺とひーちゃん、磯貝の三人で殺せんせーをプールに突き落とすための作戦を練っていた。

片岡さんにはご覧の通り律が付いて、正確に記録を測定している。中学生にはもったいないくらい精密なコーチだ。

そして俺ら三人はまず呪術を使って落とす方法を考えていた。今は『氷淵呪法』で足元を凍らせてこけさせるやり方を試していた。あ、ちなみに受け役の磯貝には『累乖呪法』をかけているので絶対無事です。

 

「やっぱり最初から凍らせるのじゃダメなの?」

「多分殺せんせーなら気付く。その場でトラップを作れば気づかれにくいのは確かなんだけど…片岡さんの言ってた通り、悟られないようにするのがキツイんだよな〜。」

「氷以外のだといい案は無いのか?あの蔦とかは?」

「あれは捕獲系だしなー。トラップとして使うんなら……こうやって木に触れて…」

「うぉぉッ⁉︎木の根が動いた⁉︎」

「これで足払いとかかなぁ…?少し離れた位置で使えば…」

「でもせっかくかーくんが呪術オープンしたのに皆で一緒に立てた計画に参加しないって思われると…」

「怪しまれるよな…」

「それは…千葉と速水さんのスナイパーコンビにも言えるだろ。けどそうだよな…。」

「いっそのことビッチ先生からワイヤートラップ習わない?」

 

 

 

こんな風にあーでもない、こーでもないと話し合いながら、実際に試してみるのを繰り返していると、片岡さんが申し訳なさそうな顔でこっちに来た。

 

 

「ごめん三人共!友達との用事ができちゃって…悪いけど先に上がらせてもらうね。」

「ん?おう…じゃあな。」

 

教室に向かう片岡さんの後ろ姿を眺めながら、俺たち三人は顔を見合わせた。

 

「なんかさ、友達と会う割には暗い顔してたね、メグちゃん。」

「ああ、E組のみんなから何か頼まれる時でもあんな顔は滅多に見ないな。」

 

ひーちゃんと磯貝の言葉を聞いて、俺は少し不安に感じた。

ああいう責任感の強い人は自分の苦しみは一人で抱えてしまいがちだからだ。

 

 

「……様子、見に行くか?」

 

 

 

 



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第33話:水泳の時間

番外編:ブラコン劇場


西「……出来たーーー‼︎疲れたーーー‼︎」
三「…これが……私…?」
西「大変だったよ、ほんともう。霞ちゃん普段スカート履かないしアクセ付けないし。色々試行錯誤した結果最高の一品が出来たよ。」ツヤツヤ
三「わぁ…これなら奏君…」
西「よしっ、早速自撮りして写メ送れ‼︎」
三「はいっ‼︎」


真「…ねぇ、これでいい返事返ってこなかったら…」
西「やめて言わないで。最悪の事態を考えさせないで。」
真「サラシつけさせて、身長小さく見せるコーデさせたんでしょ?あの子足長くて胸大きいのに、わざわざその強み消してまでゆるふわにするのは……」
西「分かってる。私も本当なら別のファッションをさせてた。けどゆるふわにしないとダメだと思ってるんだもん。だからこれは賭けなんだよ。」
真「霞って奏君絡むと途端にバカになるわよね。」

三輪、突如鼻血を吹いて気絶。

西「⁉︎霞ちゃん⁉︎どうしたの霞ちゃん⁉︎」
真「…桃さん。このメール…」

奏『急にイメチェンなんてどうしたの?珍しいね(笑)。でも似合ってるよ。』

西・真「「……ちょっろ……」」


片岡さんの様子が少し変だと感じた俺らは、後をつけてファミレスに来ていた。

そしてその片岡さんは友達らしき女子に勉強を教えている。

 

しかし途中から友達の方の様子がおかしくなった。

「私の事殺しかけたくせに」と言い、涙を流しながら片岡さんの手を舐める。会話は断片的にしか聞こえなかったが、それだけでも彼女が片岡さんにとても依存しているのはよく分かった。

 

やがて友達の方が席を立ち店から出て行くと、片岡さんがこっちを見てきた。…いや大して変装してないけど、気づいてたんかい。

 

「…で、そこの不審者3人組×2は何か御用?」

 

…ん?×2?

その言葉に疑問を感じて後ろを向くと、渚、茅野さん、殺せんせーが後ろの席にいた。俺らだけじゃなかったのね。

 

 

 

===============

 

 

帰り道、片岡さんはあの友人、多川と何があったのか説明してくれた。

去年の夏に片岡さんは多川から泳ぎを教えてくれと頼まれたらしい。何でも好きな男子含むグループで海に行く事になり、カッコ悪いところを見せたくないからだとか。

1回目のトレーニングで何とかプールで泳げるくらいには上達したが、反復練習が嫌いな彼女はそれで充分だと思って練習には来なくなった。

そして案の定、海流に流されて溺れて救助沙汰。

それ以来、今日のように片岡さんに償いとしてテストの度に勉強を教えるよう要求してきた。

片岡さんがE組に落ちたのは、多川に勉強をつきっきりで教えているうちに苦手科目をこじらせたからとのことだ。

 

「それは…片岡は悪くないだろ。」

「そうだよ。彼女、ちょっと片岡さんに甘えすぎじゃ?」

「いいよ。こういうのは慣れっこだから。」

 

磯貝と茅野さんの言葉に苦笑いで片岡さんは答える。

その時、殺せんせーが例の笛を吹いて割り込んできた。

 

「いけません、片岡さん。しがみつかれる事に慣れてしまうと…いつか一緒に溺れてしまいますよ。」

 

そう言いながら、殺せんせーは即席で紙芝居を作り見せてきた。

タイトルは『主婦の憂鬱』

自堕落な生活を送る夫とその妻の話で、夫はその生活を続けながら妻に依存し、妻もまた夫を支えようと依存してしまうというもの。

 

「いわゆる共依存というやつです。あなた自身も依存される事に依存してしまうのです。片岡さん、あなたの面倒見や責任感は本当に素晴らしい。ですが、時には相手の自立心を育てる事も必要です。『こいつならどんなにしがみついても沈まない。』そう思うと人は自力で泳ぐことを辞めてしまう。それは彼女の為にもなりません。」

「……どうすればいいのかな、殺せんせー。」

「決まっています。彼女が自力で泳げるようにすればいい。1人で背負わず先生に任せなさい。このタコが魚も真っ青のマッハスイミングを教えてあげます。」

 

は?泳ぎを教える⁉︎殺せんせーって泳げんの?あんなに水にびびってんのに?俺たちが不思議に思っていると、殺せんせーが振り向いた。

 

「君達にも協力してもらいます。乗りかかった舟ですからねぇ。」

 

 

 

===============

 

 

 

その夜

 

 

 

殺せんせーが多川に泳ぎを教えるためにとった計画。

それは夜な夜な、多川の寝ているうちに彼女をE組専用プールに運び、夢の中だと思わせながら泳ぎを教えるというものだ。

殺せんせー含め俺たちは身バレ防止の為に魚のようなコスプレをする。バレたら犯罪だもの。

 

 

「…どこ、ここ…?…ああ、夢か…」

 

あ、多川が起きた。

彼女のところに人魚のコスプレをした片岡さんが近づく。

 

「目覚めたみたいだね。えーと、こ、ここは魚の国!さぁ、私達と一緒に泳ごうよ!」

「…あんた、めぐめぐに似てない?」

「…違うし、めぐめぐとか知らないし。…魚々だし。」

「何その居酒屋みたいな名前⁉︎」

「(堂々と魚を演じなさい、片岡さん。夢の中だと思わせなければ我々の行為は拉致監禁です。)」

 

こっそりと殺せんせーが近づき、注意を促す。まぁあんたに至っては国家機密だし。

 

「僕の名前は魚太。」←渚

「私の名前は魚子だよ。」←茅野

「魚子は魚なのに浮き輪なの⁉︎」

「私の名前は魚美〜。好きな寿司ネタはカツオだよ〜。」←陽菜乃

「共食いじゃん‼︎」

「俺の名前は魚助。魚の国の板前見習いだ。」←磯貝

「お前が作るんかい‼︎」

「そして我は烏賊デビル。西洋では『悪魔の魚』と呼ばれ、東洋では『深海の三つ星シェフ』と呼ばれる者だ。」←奏

「イカが一流シェフなの⁉︎ってか魚の国じゃ共食いは当然なの⁉︎」

「そんでもって私が魚キング。川を海を自在に跳ねる水世界最強のタコです。」←殺せんせー

「タコかよ‼︎」

 

寝起きなのに元気なことで。

 

「素晴らしい連続ツッコミ。良い準備運動になってますね。」

 

ツッコミが準備運動かどうかは甚だ疑問なんだけど、スルーしていいかな。

 

「入念なストレッチ、早着替え、そして入水‼︎」

 

そのまま殺せんせーは多川をプールに突き落とす。

いきなりトラウマになっていた水中に入れられ多川はテンパっている。

 

「落ち着いて心菜!そこ浅いから!泳げるようになりたいでしょ?少しだけ頑張ってみよ‼︎」

「いっ、今更いいわよ泳げなくて‼︎それを逆手に愛されキャラで行く事にしたし‼︎泳げないって言っとけば…アンタに似てる友達が私の言うこと何でも聞くし‼︎」

 

その言葉にイラついた俺は、備え付けの水鉄砲(イカ墨に似せた黒い着色料を入れたやつ)を撃つ。

 

「ぎゃあ‼︎何すんのよ‼︎」

「うるせぇ、誰かに頼ることしか生きていけないコバンザメめ。貴様みたいな人間を見ていると沈めたくなる。」

「なっ、何よ!魚の分際で‼︎」

「我は軟体動物だ。魚ではない。魚々、そいつを無理矢理にでも泳がせろ。泳がざる者食うべからずだ。」

「はいはい…心菜、歩くよ!まずは体を温っためなくちゃ‼︎」

 

片岡さんが多川を泳がざる為に動き始めたのを見て、俺は舌打ちしながら板場(急造)に入る。あ、今日はカツオやサーモンに加えて、蜆とかいくらもある〜。海鮮丼作ろ〜。

 

「ところで殺…魚キングは水に入らないの?」

 

あ、そうだ忘れてた。渚の言葉で思い出したけど、俺らは多川に泳ぎを教える他に、殺せんせーが本当に泳げるのかどうかを確かめる必要があるんだった。

 

「い、いや。先生、今日のプールは肌焼いて、海鮮丼食べるだけのつもりだったし。」

「真夜中だよ、今。入らなきゃ彼女に泳ぎ教えらんないよ。」

「魚キング、泳がざる者食うべからずは貴様にも当てはまるぞ。」

「ニュヤッ⁉︎魚美さんは泳いでいないのに食べてるじゃないですか⁉︎」

「彼女は特別だ。」

「やった〜!」

「そ、そんなぁ⁉︎差別ですよ!」

 

泣きながら抗議してくるが知ったこっちゃねぇわ。

 

「(奏君って…最近さ…)」

「(ああ…倉橋にはめちゃくちゃ甘いな)」

 

殺殺せんせーは少し泣いた後、水中を眺め何か考える。

 

「…分かりました。君達の言うことももっともです。先生も海鮮丼食べたいので入るとしましょう。」

 

そう言い殺せんせーは躊躇なく水に入った…えぇ⁉︎入りやがった‼︎

 

「さて、まずは基本のけのびから。」

 

 

なんと殺せんせーはまんま魚の形をした着ぐるみ(防水ヘルメット付き)を着て、プールなや入っていた。…ってか、けのびなのか、それは⁉︎

 

「この時のために開発した先生用水着です。完全防水でマッハ水泳にも耐えられます。」

 

何それセコッ。

 

「数々の秘泳法をご覧あれ。まずはバタ足。」

 

殺せんせーがマッハで尾びれを振ると、殺せんせーを中心とした渦潮が出来上がる。

 

「これがセルフ流れるプールです。」

「流れるプールの範疇超えてるわ‼︎」

 

セルフ流れるプールのおかげで絶賛流され中の多川は片岡さんから海での泳ぎ方を教わっている。

一方で俺たちは殺せんせーに文句を言っていた。

 

「水着とかズルいぞ、魚キング‼︎」

「そーだよ‼︎生身で水に入れるかどうか見たかったのに‼︎」

「入れますよ、生身でも。」

 

そう言って殺せんせーはこっちに水着を投げ捨ててくる。

 

「板場に汚ねぇ服を持ち込んで来るんじゃねぇ‼︎」

「ニュヤーーー‼︎⁉︎」

 

殺せんせーの水着が落ちてくる前に『氷淵呪法』で凍らせ、砕く。殺せんせーは泣き叫び、ひーちゃんや磯貝は哀れなものを見るような目をしている。

 

「ねぇ見て‼︎」

 

茅野さんの指差した方には、水面から顔だけ出している殺せんせーがいる。まさか本当に泳げんのか⁉︎…と思ったら

 

 

「…いや違う。マッハで周りの水を掻き出している‼︎」

 

殺せんせーは浮き輪の上に乗りながら、桶を使って全力で水を掻き出していた。

俺は無言で銃(対先生用BB弾入り)を取り出し、みんなに渡してく。

 

「…今がチャンスだ。殺るぞ。」

「「「「イエッサー」」」」

 

そして五人でプールを取り囲み、銃を撃つ。

 

「ニュヤッ⁉︎辞めて‼︎動けないから、やめてーーー‼︎」

 

悲鳴を上げながらもギリギリで殺せんせーは回避し続ける。

 

一方多川は波の発生源の方に引きずりこまれていた。

 

「落ち着いて‼︎泳ぐ方向こっちに変えて‼︎」

「…え⁉︎流れるの止まった…」

「それは離岸流だ。岸に反射して沖に出て行く流れで、たまに貴様みたいな無知な人間が流される原因となるものだ。」

「離岸流に流された時は無理に岸に向かわずに、岸と平行に泳いで流れから抜ける。とにかく絶対パニックにならないこと!」

「知識だけ身につけても…ニュヤッ…ダメですよ……って危ない!朝まで死ぬほど泳いで…ヒィッ!…魚のような流麗な泳ぎを…ちょっ待っ!…身につけましょう…今いい話してるんですから攻撃辞めて‼︎」

「みんな〜、全力で殺れば烏賊デビルがたこ焼きも追加で作ってくれるって〜。」

「「「殺るか‼︎」」」

「ニュヤーーー‼︎」

 

 

 

 

============

 

 

 

 

あの日から数日間、多川の水泳練習は続き、この前彼女が学校のプールで泳げてるのを片岡さんが確認したらしい。

これでめでたく片岡さんは解放されたというわけだ。

 

「これで彼女に責任は感じませんね、片岡さん。これからは手を取って泳がせるだけじゃなく…あえて厳しく手を離すべき時もあると覚えて下さい。」

「はい、殺せんせーも突き放す時あるもんね。」

 

片岡さんが笑顔で返事をしたのを見ると、殺せんせーはおもむろに水に触手を入れた。するとその触手はふやけて膨張していた。

 

「それと察しの通り、先生は泳げません。水を含むとほとんど身動きがとれなくなります。弱点としては最大級と言えるでしょう。とは言え、先生は大して警戒していない。落ちない自信がありますし、いかに水中でも片岡さん1人なら相手できます。ですから皆の自力も信じて、皆で泳ぎを鍛えて下さい。そのためにこのプールを作ったんです。」

 

 

 

…全てお見通しだったわけか。本当にこの先生には敵わないなぁ。でもいつかはしっかり殺すから、楽しみに待っとけよ。




ゆるふわコーデの三輪ちゃんのイラスト?作者は絵心がないので書けませんよ?皆さんでイマジンして下さい。むしろ誰か書いてきてください(無茶振り)

三「そんな⁉︎」


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第34話:ビジョンの時間

今回も三人称視点でやっていきます。

それとタグのオリキャラをオリキャラ多数に変えます。


(このE組(クラス)は大したクラスだ。

 

成績最下層の掃き溜めと言われながら、中間テストじゃ妨害にも負けず平均点を大きく上げた。

 

球技大会じゃ暗殺を通じて養った力で野球部に勝っちまった。

 

環境も向上してる。最近じゃE組専用のプールなんてのが出来る有様。

 

大したクラスだ。だから…

 

 

だからこのクラスは居心地が悪い。)

 

 

 

「おい皆、来てくれ‼︎プールが大変だぞ‼︎」

 

岡島の焦った様子を見て、寺坂はニヤリと笑う。

 

 

 

 

「…ッ!メチャクチャじゃねーか…」

 

プールは酷い有り様だった。

木製のデッキチェアや飛び込み台はバラバラにされてプールに放り込まれており、ペットボトルや空き缶なんかも捨てられている。

 

「ビッチ先生がセクシー水着を披露する機会を逃した‼︎」

「知るか、そんなこと。」

「ちょっと奏‼︎後で覚えておきなさい‼︎」

 

一部がそんなやり取りをしている時、渚は寺坂、村松、吉田の3人がニヤニヤ笑っているのに気がついた。

寺坂は渚の視線に気づき、上から降りてくる。

 

「ンだよ、渚。何見てんだよ。まさか…俺らが犯人とか疑ってんのか?くだらねーぞ、その考え。」

「そーだよ、渚。疑う必要なんて無いよ〜。」

 

渚の首根っこを掴む寺坂の腕を抑えながら、奏が言う。

 

「あ…?」

「どこのどいつがやったのか知らないけどさー、俺らへの嫌がらせのつもりなら意味ないんだから。ね、殺せんせー?」

「全くです。犯人探しなどくだらないからやらなくていい。」

 

そう言うと殺せんせーはマッハでプールを元の状態に戻す。

 

「はい、これでもとどおり!いつも通り遊んで下さい。」

 

皆が元気よく返事するのに対して、寺坂は不愉快な様子で去っていく。

 

 

 

 

 

プールの時間中、奏は木陰で昼寝をしていた。

どうも今日は気分が乗らずプールに入らなかったのだ。

目が覚めた時には誰もいなくて、時間を見ると昼休みの途中だった。

多分気を遣って皆起こさないでくれたんだろうと思い教室に戻ろうとすると、ドン!と何かが木にぶつかる音がした。

少し気になって音のした方へ行くと、村松が倒れていた。

奏は手を差し出しながら、問いかける。

 

「大丈夫か?」

「あっ、あぁ…奏か。すまねぇ。」

「いったい何があったのさ。」

「それがよぉ…この前の模試の直前にあのタコが放課後ヌルヌル強化学習開いたろ。」

「ああ、あれか。何故か俺が教えるの三分の一くらいやらされたやつ。…そういえば村松も受けてたな。」

「おう。そしたら模試の結果が過去最高でよ。」

「へぇ…それで?」

「けどよ、俺と吉田と狭間は寺坂から「全員でバックレようぜ。」って言われててだな…」

 

そこまで聞いて奏は寺坂が村松を突き飛ばしたのだと理解した。

 

「…プール壊したのもお前らだろ?」

「あぁ…タコに嫌がらせのつもりでやろうって寺坂が提案してきてな…お前の言うように嫌がらせにならなかったけどな。」

 

そんな事を話していると、教室の窓から煙が上がっていた。

 

「……何やってんだ、アイツ。」

 

 

 

 

奏と村松がヌルヌルの話をしていた頃、教室に入ってきた寺坂は吉田と殺せんせーがバイクの話題で意気投合しているのを見てイラついていた。

そのまま怒りに任せて、殺せんせー手作りの木製バイクを蹴り倒した。

吉田を始めとして皆が寺坂を責めるが、寺坂は詫びることなく机の中から殺虫剤を取り出しぶちまけた。

 

「寺坂君‼︎ヤンチャするにも限度ってものが…」

「触んじゃねーよ、モンスター。」

 

殺せんせーは寺坂の肩を触手で掴むが、寺坂はそれを払いのける。

 

「気持ちわりーんだよ。テメーも、モンスターに操られて仲良しこよしのE組(テメーら)も。」

 

皆が黙る中、カルマがいつもの調子で煽りだす。

 

「何がそんなに嫌なのかねぇ…。気に入らないなら殺しゃいいじゃん。せっかくそれが許可されてる教室なのに。」

「何だカルマ、テメー俺にケンカ売ってんのか。上等だよ。だいたいテメーは最初から…」

 

カルマの挑発に乗せられた寺坂だが、そこまで言いかけると口元がカルマに押さえつけられてた。

 

「ダメだってば。ケンカするなら口より先に手ェ出さなきゃ。」

「…ッ‼︎放せ‼︎くだら…「セイハー‼︎」ヘブゥ⁉︎」

 

カルマの手を振りほどいた瞬間、寺坂の顔面に奏の飛び蹴りが炸裂した。

寺坂は教室の端の方に吹っ飛ばされ、カルマ含め全員が軽く引いていた。

 

「よしっ。」

「よしっ、じゃねーよ‼︎何すんだ奏テメー‼︎」

「え…さっきの煙起こしたのお前だろ?ムカついたからカルマの言うように先手必勝で…」

「くそっ…やってられっか!」

 

そう言い捨てて寺坂は去っていった。

 

「いやー、まさか奏が乱入してくるとはねー。」

「?何か不都合あった?」

「別に〜。」

 

カルマは楽しそうにケタケタ笑うが、奏は不思議そうな顔をする。

それを見てE組メンバーは「奏はカルマとは別ベクトルでヤバくなってる。」と再認識した。

 

そんな事を思われてるとはつゆ知らず、奏は陽菜乃のところに行く。

 

「ひーちゃん、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ〜。けどちょっと意外だった。」

「ん?さっきの飛び蹴りのこと?」

「ううん。そっちはむしろやるんじゃないかなって思ってた。」

「え。」

「かーくんはすごく友達思いだから、プール壊されたの見たら寺りんを真っ先にボコボコにすると思ってたよ〜。」

「え〜…そんな風に思われてたんか…。けどあの時はさ、少し頭がボーッとしてたんだよね。めんどくさかったから殺せんせーに振ったけど…思い出したらムカついてきたわ。また明日飛び蹴りしたろ。」

「結局やるんだね…」

((((ドンマイ寺坂、けど仕方ないな。))))

 

 

 

 

==================

 

 

 

深夜

 

 

寺坂はプールに通じる川に何かの薬剤を流し込んでいた。

その様子を見ていた白装束の男、シロが拍手をしながら現れた。

 

「ご苦労様。プールの破壊、薬剤散布、薬剤混入、君のおかげで効率よく準備ができた。はい、報酬の10万円。また次も頼むよ。」

 

シロが寺坂に金を手渡すと、イトナも姿を現わす。

 

「外部の者が動き回ればあの鼻の利くタコはすぐ察知してしまう。だから寺坂君、君のような内部の人間に頼んだのさ。イトナの性能をフルに活かす舞台作りをね。」

 

イトナの姿を見て、寺坂はあることに気づく。

 

「…なんか変わったな。…目と髪型か?」

「その通りさ。意外と繊細な所に目が行くね。髪型が変わった。それはつまり触手が変わったことを意味している。前回の反省を活かし、綿密な育成計画を立てて、より強力に調整したんだ。」

 

寺坂の疑問に答えた後、シロは彼の心を誘惑するような言葉を続ける。

 

「寺坂竜馬、私には君の気持ちはよく分かるよ。あのタコにイラつくあまり…君はクラスで孤立を深めている。だから君に声をかけ協力を頼んだ。安心しなさい。私の計画通り動いてくれれば…すぐにでも奴を殺し、奴が来る前のE組に戻してあげよう。その上お小遣いも貰える。良い話だろ?」

 

その時、イトナが寺坂に顔を近づける。

 

「お前は…あのクラスの赤髪の奴や銀髪の奴より弱い。何故か分かるか?お前の目にはビジョンが無い。勝利への意志も手段も情熱も無い。目の前の草を漠然と喰ってるノロマな牛は…牛を殺すビジョンを持った狼には勝てない。」

「んだとテメー‼︎俺がノロマな牛だって言いたいのか⁉︎脳ミソまで触手か⁉︎」

 

イトナの毒舌にキレた寺坂が殴りかかろうとする。

イトナも触手を出して返り討ちにしようとした時、

 

「はーい、ストップ。仲間内で潰し合わないの。」

 

二人の間に金髪の青年が割って入ってくる。

金髪の青年の左頬には風を模したようなタトゥーが描かれ、左目の黒目と白目の部分が逆転している。

寺坂の拳を片手で押さえ、イトナの首筋には手刀が寸止めされていた。

イトナは何も言わず、触手を戻して去っていく。

 

「…誰だ、あんた?」

「あぁ、すまないね。まだ紹介していなかったね。彼は御堂 葉月(ミドウ ハヅキ)。君のクラスのもう一人の化け物、漣奏を相手してもらう呪詛師だ。」

「よろしくねー、寺坂クン。」

 

寺坂は葉月の戯けた態度にカルマを重ね合わせた。もっともカルマとは比べ物にならないほどの邪気を放っているのだが。

 

「イトナへの躾が行き届いてなかったことは謝る。だが彼とも仲良くしてやってくれ。我々は戦略的チームなんだから。クラスで浮きかけている今の君なら…不自然な行動も自然にできる。我々の計画を実行するのに適任なんだ。決着は…今日の放課後だ。」

 

 

それを聞いて寺坂はニヤリと笑い、イトナとは別方向に帰っていく。

 

 

寺坂がいなくなった後、葉月はシロに問いかける。

 

 

「ねぇねぇ、彼に本来の作戦伝えてないけどいいのー?」

「伝えると彼はNoと言うだろ?」

「そりゃそうだけどさー…」

「君たちにとっても好都合だろう?寺坂君は後悔して、タコや漣君や生き残った生徒たちは絶望する。強力な呪いを生むならもってこいだろう。」

「まぁ確かにね〜。」

 

 

そう言うと葉月はフワリと木の枝の上に立ち、三日月に自分の愛用する大鎌の形を重ね合わせる。

そしてボソリとシロに聞こえないように呟く。

 

 

「…神無様から頼まれたけど、失敗しないかな〜…」

 

…と。

 

 

 

 

 

 

 




寺坂編は結構区切る(当社比)つもりです。
よっていつもより1話が短くなるはずです。


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第35話:流される時間

呪術廻戦一周年&第1回人気投票開始しましたね。
皆さんは誰に投票しましたか?
作者はうちが誇るブラコン(キャラ崩壊)のポンコツ、三輪ちゃんに投票しました。


翌日の昼休み

 

 

殺せんせーはお昼ご飯(菓子パンのみ)を食べながら、なぜか涙を流している。

 

「なによ、さっきから意味もなく涙流して。」

 

堪えきれずにイリーナが尋ねるが、殺せんせーは「いいえ」と否定する。

 

「鼻なので涙じゃなくて鼻水です。目はこっち。」

「「「まぎらわしい‼︎」」」

「どうも昨日から体の調子が少し変です。夏カゼですかねぇ…」

 

 

 

そしてもう一方では

 

 

「…かーくん、顔赤いよ?大丈夫?」

「ん〜〜?大丈夫〜…だと思う〜。」

「さっきからあんま箸進んでねーぞ?」

「マジで?ボーッとしてたわ。」

 

奏の体調も変だった。陽菜乃や前原の指摘した通りどことなく風邪のようだが、奏は大したことなさそうに振る舞う。

 

そんな中、朝から来ていなかった寺坂が教室に入ってくる。

と同時に、殺せんせーが泣きながら…いや、鼻水を撒き散らしながら寺坂の肩を掴む。

 

「おお、寺坂君‼︎今日は登校しないのかと心配でした‼︎昨日君がキレた事ならご心配なく‼︎もう皆気にしてませんよね?ね?」

「…う、うん…汁まみれになっていく寺坂の顔の方が気になる。」

 

昨日まで寺坂に飛び蹴りを見舞ってやろうと思っていた奏も、その気を失うレベルで粘液がものすごかった。半分は体調不良が原因だが。

 

「昨日1日考えましたが、やはり本人と話すべきです。悩みがあるなら後で聞かせてもらえませんか?」

 

寺坂は殺せんせーのネクタイで顔を拭き、ケンカを売る。

 

「おいタコ、そろそろ本気でブッ殺してやんよ。放課後プールへ来い。弱点なんだってな、水が。てめーらも全員手伝え‼︎俺がこいつを水ン中に叩き落としてやっからよ‼︎」

 

皆からの返答は来ない。やがて前原が代表して言う。

 

「…寺坂、おまえずっと皆の暗殺には協力してこなかったよな。それをいきなりお前の都合で命令されて…皆が皆ハイやりますって言うと思うか?」

「ケッ、別にいいぜ、来なくても。そん時ゃ俺が賞金百億独り占めだ。」

 

そう言って寺坂は教室から出て行き、その後を追って渚も出て行く。

 

「…なんなんだよあいつ…」

「もう正直ついてけねーわ。」

「私行かなーい。」

「同じく。」

「俺も今回はパスかな。」

 

今まで一緒に行動してきた吉田と村松が不参加の意思を示すと、陽菜乃、岡野、千葉が続けてパスする。クラス全員が不参加の姿勢を取るが、ただ一人だけは違った。

 

「皆行きましょうよぉ。」

 

誰であろう、殺せんせー(ターゲット)である。

 

「うわ⁉︎粘液に固められて逃げられねぇ‼︎」

 

杉野の叫んだ通り、殺せんせーの粘液が教室中に満たされて全員の足元を拘束していた。

 

「せっかく寺坂君が私を殺る気になったんです。皆で一緒に暗殺して気持ちよく仲直りです。」

「「「まずあんたが気持ち悪い‼︎」」」

「おい!奏と倉橋がいねぇぞ‼︎」

「あいつらさきに氷で足場作って逃げやがった‼︎」

 

 

 

===============

 

 

そして放課後

 

殺せんせーの泣き落としの結果、奏、陽菜乃、カルマの3人を除いて全員が渋々プールに入っている。

寺坂はシロから合図を送る発信機として渡されたピストルを持って、偉そうに指示している。

その様子を奏と陽菜乃は校舎の屋根上から『百々目鬼』を介して見ていた。

 

やがて殺せんせーがプールサイドに現れた。

寺坂は殺せんせーと対峙して銃口を向ける。

 

「…覚悟はできたか、モンスター。」

「もちろんできてます。鼻水も止まったし。」

「ずっとテメーが嫌いだったよ。消えて欲しくてしょうがなかった。」

「ええ、知ってます。暗殺(これ)の後でゆっくり2人で話しましょう。」

 

顔の模様を緑の縞々にした殺せんせーにイラついた寺坂が引き金を引く。

 

 

 

しかしイトナは現れない。

 

 

 

代わりにプールの反対側で爆発が起こり、水を堰き止めていた水門が破壊される。

水流の勢いは凄まじく、生徒たちは逆らえずに流されていく。

 

 

爆発を視認すると同時に奏はすぐに救助に動き出す。

少し遅れてプールサイドにいた殺せんせーも救助しに行く。

 

 

その様子を少し離れたところからシロ達は見ていた。

 

「マッハで助けては生徒の体が耐えられない。気遣って助けてる間に…奴の触手はどんどん水を吸っていく。」

「少しの水なら粘液を出せば防げるぞ。」

「そうだねイトナ。周囲の水を粘液で固めて浸透圧を調整できる。だが寺坂君が教室に撒いた薬剤の効果で…奴の粘液は出尽くしている。水を防ぐ手段は無く、生徒全員を助ける頃には…奴の触手は膨れ上がって自慢のスピードを失っているよ。」

 

 

 

============

 

不参加のカルマもまた爆発音を聞いてプールサイドに来ていた。

 

「…何これ?爆音がしたらプールが消えたんだけど。」

「…俺は…何もしてねぇ。話が違げーよ…イトナを呼んで突き落とすって聞いてたのに…」

「…なるほどねぇ…自分で立てた計画じゃなくて、まんまとあの二人に操られてた…ってわけ。」

「言っとくが俺のせいじゃねーぞ、カルマァ‼︎こんな計画やらす方が悪りーんだ‼︎皆が流されてったのも全部奴等が…」

 

そう必死で言い訳をする寺坂をカルマは殴り飛ばす。

 

標的(ターゲット)がマッハ20で良かったね。でなきゃお前、大量殺人の実行犯にされてるよ。流されたのは皆じゃなくて自分じゃん。人のせいにするヒマあったら…自分の頭で何したいか考えたら?」

 

そう言い去り、カルマは皆を追って下に降りていく。

 

 

 

============

 

 

シロは知らなかったが、スピードを出せないのは奏もだった。高速移動を可能にする『禍促術式』は他人にかける場合、成長速度を急速に上昇させるもので純粋なスピード向上は不可能。奏一人が高速化しても皆が追いつかないのだ。

 

(『氷淵呪法』で水を凍らす…いやダメだ、急速冷凍で皆の身体がもたない。かといって一人一人触れて『累乖呪法』で引き上げるのも今のコンディションじゃあキツい…なら!)

 

奏は『禍促』を使い自らのスピードを上げて、一気にまだ誰も流されてきていない下流まで降りる。そしてポケットから種を取り出し、両手でそれぞれ握りつぶす。

すると種から巨大な蔦がグングンと伸びていき、流されてきた生徒たちを安全に絡め取っていく。

 

「皆、無事か⁉︎」

「あ…あぁ、助かった…」

「サンキュー…奏。」

 

(上からは殺せんせーに任せてあるから大丈夫なはず…実際流れてこないし。問題は…誰が仕組んだか。寺坂にはそんなこと企む頭も、やる覚悟もねぇ…となると…)

 

そう考えていると、横からバシャン!と何かが水に落ちる音がする。

振り向くと全身びしょ濡れで触手が膨らんだ殺せんせーと頭に生えた触手を振り回しているイトナ、それを傍観するシロがいた。

 

 

(やっぱ…こいつらか。)

 

 

奏は殺せんせーの援護に入ろうとするが

 

 

 

「奏!後ろだ‼︎」

 

 

 

千葉の声に反応して後ろを向くと、眼前に鎌の刃が迫っていた。

 

 

 

奏は咄嗟に左に避け、そのままバックステップで距離をとる。

改めて前を見ると、鎌を持った知らない男がいる。

 

(こいつ…呪詛師か。しかも相当『できる』な…)

 

「初めまして、漣奏クン。そして八咫烏。僕は御堂葉月。初対面でなんだけど僕と一緒に来てくれない?」

「…何が狙い?」

「言ったらついてきてくれる?」

「ノーだな。」

「君のお友達の安全を保障したとしても?」

「信用できねーから却下だ。現に今殺されかけたんだからな。」

 

 

奏は葉月と名乗った男の飄々とした態度に五条を重ね合わせてイラッと来ていた。当の本人はにこやかに交渉してくるのがまた一層苛つかせる。

同時に冷静に状況を分析する。

 

(殺せんせーも気になるが…前回の暗殺から判断して割り込んでこない限りは外野を狙う可能性は無い。だがこいつは分からん。術式の範囲も分からない以上離れた場所に誘導するべきだな。…問題は俺の体調だな。二重の意味であまり時間はかけられない。)

 

 

皆は不安そうな顔で奏を見るが、奏は振り返らずに手を振る。

 

「巻き込まれないようにそこの岩場まで下がっとけ。こいつは俺が相手する。」

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、連れ帰るのは確定として……少しは楽しませてよ?」

「決めた。寺坂の代わりにお前をボコす。」

 

 

 

 

 



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第36話:実行の時間

今回は殺せんせー対イトナ回です。



崖下の水場に叩き落とされた殺せんせーは膨張した触手でイトナの攻撃を防御するが、

 

(速い‼︎重い‼︎前よりもはるかに…‼︎)

 

以前は本数で攻めてきたイトナだが、今回の触手は威力・速度重視のものとなっている。パターンこそ単純化したものの使いやすさは向上している。

対して殺せんせーは全身が濡れて動きが鈍くなっている。更に寺坂が混入した薬剤の効果で触手自体が弱体化しており、殺せんせーは防戦一方である。

その様子を生徒たちは見ることしかできない。

 

「まじかよ…あの爆破はあの2人が仕組んでたとは。」

「でも押されすぎな気がする。あの程度の水のハンデはなんとかなるんじゃ?」

「水のせいだけじゃねー。」

「寺坂…!」

「力を発揮できねーのはお前らを助けたからだよ。見ろ、タコの頭上。」

 

そう言って皆は寺坂が指を指した方を見る。そこには崖や樹にしがみついている吉田と村松、原がいる。

 

「助け上げた場所が触手の射程圏内に‼︎」

「特に…ぽっちゃりが売りの原さんが今にも落ちそうだ‼︎」

「あいつらの安全に気を配るからなお一層集中できない。あのシロの奴ならそこまで計算してるだろうさ。恐ろしい奴だよ。」

「のんきに言ってんじゃねーよ、寺坂‼︎原たちあれマジで危険だぞ‼︎お前ひょっとして…今回の事全部奴等に操られてたのかよ⁉︎」

 

前原が突っかかってくると、寺坂は鼻で笑う。

 

「あーそうだよ。目標もビジョンも無ぇ短絡的な奴は…頭の良い奴に操られる運命なんだよ。だがよ、操られる相手くらいは選びてぇ。奴らはこりごりだ。賞金持って行かれんのもやっぱり気に入らねぇ。」

 

そしてカルマの胸をドンッと叩く。

 

「だからカルマ!テメーが俺を操ってみろや。その狡猾なオツムで俺に作戦与えてみろ‼︎カンペキに実行してあそこにいるのを助けてやらァ‼︎」

「良いけど…実行できんの、俺の作戦?死ぬかもよ。」

「やってやんよ。こちとら実績持ってる実行犯だぜ。」

 

 

そう言って寺坂は勇んで下に降りて行くが…

 

 

「え、まだ作戦考えてないけどもう行くの?」

「え、あ、うん、まだなの⁉︎」

 

 

カッコ悪かった。

 

 

===============

 

 

数分後

 

 

 

「思いついた!原さんは助けずに放っておこう‼︎」

 

カルマの提案した作戦に皆呆れと引きが混ざった表情をしていた。

 

「おいカルマ、ふざけてんのか?原が一番危ねーだろうが‼︎ふとましいから身動き取れねーし、ヘヴィだから枝も折れそうだ‼︎」

「…寺坂さぁ、昨日と同じシャツ着てんだろ。同じとこにシミあるし。ズボラだよなー。やっぱお前悪巧みとか向いてないわ。」

「あぁ⁉︎」

「でもな、頭はバカでも体力と実行力持ってるからお前を軸に作戦立てんの面白いんだ。俺を信じて動いてよ。悪いようにはならないから。」

「…バカは余計だ。いいから早く指示よこせ。」

 

 

===============

 

 

 

カルマが作戦を立てている間も殺せんせーは防ぐことしかできなかった。そして腕だけでなく足元の触手も水を吸って動かなくなってくる。

 

「とどめにかかろう、イトナ。邪魔な触手を全て落とし、その上で「心臓」を…」

 

イトナが触手の先端を刃の形に変化させた時、寺坂が叫ぶ。

 

「おいシロ‼︎イトナ‼︎」

「…寺坂君か、近くに来たら危ないよ?」

「よくも俺を騙してくれたな。」

「まぁそう怒るなよ。ちょっとクラスメイトを巻き込んじゃっただけじゃないか。E組で浮いてた君にとっちゃ丁度良いだろ。」

「うるせぇ‼︎てめーらは許さねぇ‼︎」

 

そう言うと寺坂はシャツを脱ぎ、イトナの前に飛び降りる。そしてシャツを盾がわりとしてイトナに叫ぶ。

 

「イトナ‼︎テメェ俺とタイマン張れや‼︎」

「止めなさい、寺坂君‼︎君が勝てる相手じゃない‼︎」

「すっこんでろふくれタコ‼︎」

 

寺坂の無謀な挑戦を殺せんせーは止めさせようとし、イトナは冷ややかな目で見て、シロは可笑しそうに笑う。

 

「布切れ一枚でイトナの触手を防ごうとは健気だねぇ。黙らせろイトナ、殺せんせーに気をつけながらね。」

 

そしてイトナは触手を勢いよく振るう。

 

それを見て渚はカルマに心配そうに言う。

 

「カルマ君‼︎」

「いーんだよ、死にゃしない。あのシロは俺達生徒を殺すのが目的じゃない。生きてるからこそ殺せんせーの集中を削げるんだ。原さんも一見超危険だけど、イトナの子の的になる事はないだろう。たとえ下に落ちても殺せんせーは見捨てないのは体験済みだし。だから寺坂にも言っといたよ。気絶する程度の触手は喰らうけど、逆に言やスピードもパワーもその程度。死ぬ気で喰らいつけって。」

 

その言葉通り、寺坂は死にそうな勢いで触手を抑えつけていた。

 

「よく耐えたねぇ。ではイトナ、もう1発あげなさい。背後のタコに気をつけながら…」

 

その時、イトナの身体に異変が起こった。

急にクシャミをし出し、止まらない。

さらにシャツが触れた部分から、触手がドロドロと溶けていく。

 

「寺坂のシャツが昨日と同じって事は…昨日寺坂が教室に撒いた変なスプレー、アレの成分を至近距離でたっぷり浴びたシャツって事だ。それって殺せんせーの粘液ダダ漏れにした成分でしょ。イトナだってタダで済むはずがない。」

 

そしてイトナの後ろでバキッという音がする。

振り向くと落ちてきた原さんを殺せんせーが抱き抱えている。

 

カルマはみんなにハンドサインを出し、寺坂は崖と樹にしがみついている吉田と村松に声をかける。

 

「吉田!村松‼︎お前らは飛び降りれんだろ、そこから‼︎」

「「はァ⁉︎」」

「水だよ水‼︎デケーの頼むぜ‼︎」

 

寺坂の言いたいことを理解した2人は勢いよく飛び降りる。

一方でカルマもみんなに指示を出し、崖上に移動していた皆も飛び降りる。

イトナが気づいた時には既に遅く、皆が起こした水飛沫を浴びて触手が膨らむ。

 

「だいぶ水吸っちゃったね、殺せんせーと同じ水を。あんたらのハンデが少なくなった。で、どーすんの?俺らも賞金持ってかれんの嫌だし、そもそも皆あんたの作戦で死にかけてるし、ついでに寺坂もボコられてるし。まだ続けるなら、こっちも全力で水遊びさせてもらうけど?」

 

カルマの言う通り、皆それぞれ手やバケツ、ビニール袋で水をすくって構える。

 

イトナはたじろぐが、直後怒りの顔に変わりまだ戦おうとする。

 

 

 

その直後

 

 

 

イトナの横から何かが飛んできて、その衝撃でまたもや水飛沫を浴びることになる。

 

 

飛んできたものは

 

 

 

「痛ったぁ……君、体調悪いはずなのになんでそんなに動けんの…」

 

 

 

大鎌持ちの呪詛師、葉月だった。

 

 

 

それに続いて葉月が吹き飛んできた茂みの方から奏が出てくる。

 

 




次回、奏対葉月です。


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第37話:風の時間

今作初となる奏の対呪術師戦。

1回目から実力者とやりあう上、体調管理がなってない奏に勝ち目はあるのか?




E組の裏山から普段なら絶対聞こえない金属同士がぶつかり合う音がする。

 

 

発生源は奏の持つ脇差「荒不吹雪」と葉月の持つ大鎌「繊魄(せんぱく)」の交差。

 

奏は少しでも皆とこの男を離す為に、河から離れた森林で交戦している。

 

そして端的に言って現在優勢なのは葉月の方である。

 

「あんた何級だよ。」

「ん〜?一級くらいかな?」

 

(「くらい」ってことはフリーの呪詛師…あるいは別の呪詛師に見出されたやつか…にしても強ぇ。ネタが完全に割れてないから明言はできないが、七海さんより格上…!)

 

「でも君特級でしょ?なのに僕みたいな格下に押されてるけど?手加減とかはいらないよ〜」

「チッ…」

 

交戦開始時から葉月は何度も奏を煽ってきていた。しかしその発言自体に奏はイラついてた訳ではない。3割ほどはそうだが。

 

奏が押されている理由は3つ

 

1つはリーチ

 

単純に大鎌と脇差では攻撃範囲に大きな差がある。その上この男は軽々と大鎌を振り、軽々と戦場を飛び回るのだ。

 

そして普段ならそんなこと気にせず術式で蹴散らしていくところだが、奏は風邪っ引きの真っ最中なのだ。これが2つ目の理由。

 

どうやら数日間、深夜に片岡のために多川に泳ぎを教えていたときから身体が冷えて、加えて教室クーラーフル稼働が効いたらしい。

 

 

最後の理由は術式範囲だ。

 

葉月はまた繊魄を大きく薙ぐ構えを取り、振るう。

 

鎌から斬撃が飛ばされて、奏は防御のために氷の壁を形成する。

 

が、斬撃は防がれずに壁を透過して奏の身体を切り刻む。

 

「このやり取り何回目〜?僕が切って、君が防ごうとして、失敗して。いい加減ネタ暴いてみてよ。」

「余裕だな…割れても問題無いってことかい。…お前の術式、『鎌鼬(かまいたち)』ってところだろ。」

「なーんだ、分かってたんじゃん。けど半分は不正解。正答例はね〜、『風』だよ。」

 

そう言って再度鎌を振るう。

今度は奏の身体は切り刻まれない。代わりに発生した突風で奏は宙に浮き上がる。

奏は即座に『累乖』を発動させようとするが、それより先に背後に殺気を感じて氷の盾を形成する。

葉月の斬撃を防ぎつつ、突風から抜け出し態勢を整える。

 

「……ん〜、君聞いてたより弱く感じるんだけど?調子が悪いのかな?」

「…余計なお世話だっつーの。」

「あらら、手厳しい。それじゃ次の攻撃行くよ〜?」

 

律儀なのかふざけているのか分からないが葉月はそう宣告し、鎌を振るう。

すると奏を取り囲むように竜巻が発生する。

 

(目眩し…態勢崩し…?…!いや違う、竜巻と鎌鼬の合わせ技か‼︎)

 

竜巻は奏の肌を薄く切り裂いていく。

そして竜巻が収まると

 

 

ズシャ

 

 

 

奏の腕が切り落とされる。

 

 

止むと同時に葉月が回り込んでいることに気づいてはいたが、ガードが出来ずに左腕を落とされる。

 

 

「まずは一本…ってか僕後ろからしかやってないなぁ。まあいっか!」

 

(ヤベェな…頭がクラクラして術式がうまく発動しねぇ。『因果』ブッパするか?いや、反動で俺が死にかけるし避けられたら無駄撃ちになる。どうする……そうだ。)

 

 

奏は何か策を思いつき、切り落とされた左腕を拾って葉月目がけて投げつける。

突然の奇行に一瞬驚くが、葉月はすぐに回避する。

その間に奏は『荒不吹雪』の持ち手と刀身を氷で継ぎ足して、薙刀の形にさせて、これも投擲する。

 

葉月は今度は驚きより感心を抱き、鎌で『荒不吹雪』を弾く。

その時、奏は右手をクイッと振る。すると投げられた左手が『荒不吹雪』を掴んで後ろから斬りかかる。

 

これには葉月も流石に驚き、後ろに飛んで避ける。すかさず奏が背後から斬りかかる(・・・・・)。左腕を氷の刃に変えていたのだ。

奏と左腕による挟み撃ちを葉月は片方をいなし、片方を防ぐ。

 

そして左腕が斬りかかるのを避けた時に、奏は左腕が持ってた薙刀を掴み氷剣と合わせて振るう。

葉月は左の氷剣を鎌でガードし、右の薙刀を突風で吹き飛ばす。

だが奏はニヤリと笑う。

 

「捕まえた。」

 

薙刀を受け取った直後、奏は左腕を操作して葉月の脇腹を掴ませていた。

これが何を意味するか理解して、葉月は急いで距離を取ろうとするがもう遅かった。

 

奏が右手をクイッと振ると葉月の身体は奏の方へ引き寄せられる。

 

『式瀾流呪闘術 陸ノ型・桔梗』

 

捻りをかけた回し蹴りが葉月の横顔に炸裂する。身体を縛られているのにも関わらず、瞬時に、しかも無理矢理に拘束を解いて腕で防いだのは流石一級と言うべきだが、それでも痛みが身体を襲う。さらに拘束を一瞬でも解いたことで、奏にさらに強く拘束させることになる。

 

『漆ノ型・芙蓉』

 

続けて激しい連続蹴りが葉月を襲う。先程より拘束が強化されてるため、今度はノーガードで受ける事となる。

 

『捌ノ型・茜』

 

『連閃 那津ノ型・竜飛鳳舞』

 

そして奏は再び捻りを加えて地を蹴り、両足での空中連続蹴りを繰り出す。最後の両足同時蹴りが決まると、葉月の拘束が解けて遠くに吹き飛ばされる。

 

 

===============

 

 

「痛ったぁ……君、体調悪いはずなのになんでそんな動けんの…」

 

イトナの所まで飛ばされた葉月は半笑いで奏を見ながらそう言う。

 

シロは苦悶の表情を浮かべ(はっきりと見える訳ではないが)、E組メンバーは喜ぶ。が、奏の服がかなり切り裂かれているのと、奏の左腕が無いのを見て悲痛な顔をする。それを見て奏は気にするな、という様子で右手を振る。

 

「あ〜……そっちもマズイ感じかぁ。」

「奏君!腕は大丈夫なんですか⁉︎」

「…まぁなんとかなるから。だからうん、その勢い抑えてほしいな、殺せんせー。」

 

凄い勢いで詰め寄ってきた殺せんせーに奏は少し引く。

 

「…してやられたな。ここは引くよ、2人とも。触手の制御細胞は感情に左右される危険なシロモノ。この子等を皆殺しにでもしようものなら…反物質臓がどう暴走するかわからん。」

 

それを聞いてもキレてるイトナはまだやろうとする。

だがもう一度シロが引くよう言うと、今度は帰ろうとする。

しかし奏がそれを許さなかった。

 

「いやいや、ちょっと待てよイトナ君や。俺はまだ怒ってんだけど?葉月の後はお前とシロボコらんと気が済まないんだけど?それに葉月も、しっかり問い質さないといけないよね。」

 

いつのまにかイトナと葉月の足元の水が凍っている。

だが葉月は余裕そうに笑う。

 

「やだよー。なーんも答えないし、そもそもここで捕まる気は無いからね〜。バイバーイ!」

 

葉月が指をパチンとならすと、2人の周囲を覆うように竜巻が発生する。

竜巻はガリガリと氷を削り、止んだ時には2人の姿は無く、シロも消えていた。

 

 

寺坂含め皆が奴らを追い払えた事を喜んでいる中、陽菜乃は奏の側に行く。

 

「かーくん、腕切られちゃってるじゃん‼︎何でこんな無茶したの⁉︎」

「いやぁ〜、あの葉月ってやつが結構強くて。でもこれくらいすぐに元どおりになるから、心配しないで。」

「ホントに?治るの?」

「うん、治る治る。それより今は…別の方がヤバいかな〜……」

 

そのまま奏は意識を失い、横になった。

 

 

 

 

===============

 

 

 

 

シロと別れ、自分たちのアジトに戻った葉月は自分たちのリーダーに今回の事を報告していた。

 

「…というわけでシロの作戦はまた失敗しました〜。めでたしめでたし!…なーんてね。ここまで想定済みでしょ、神無様?」

「うん。殺せんせーの存在なんて私達にとってはどうでもいいことだもん。そりゃあ奏を引き込めたらラッキーだったけど、今は時期尚早だもの。…それで、葉月君からして奏はどうだった?」

「ん〜、まぁやっぱ強いよ。最初はこんなもんか〜くらいだったけど、風邪引いてて、術式も全部使わないでアレは相当だね〜。」

「うんうん、しっかりと強くなってて良かったよ。ちゃんと仕組んだ甲斐があったね!」

「ところでさ〜……この前高専に回収された『宿儺の指』、あれあんな風に使っていいの?レア物でしょ?」

「いいのいいの。宿儺は器もまだ生まれてきてないし、そもそも私達の計画には関係ないから。奏のプラクティスに使うくらいで今は十分!まあ予想外のものが見られたけど♪」

「ふぅん…それで次は?」

「えっとね〜、『彼』がやりたいことがあるみたいだからそれをさせる。サポートにはカレンちゃんと迅君をつける。後『彼』には内緒で篝姉にも動いてもらうつもり。」

「えぇ〜〜…今度はアイツ?気乗りしないなぁ。」

「大丈夫だよ。万事上手くいく。絶対にね。」

 

 

そう言い神無は妖しく微笑み、部下たちに次の作戦を伝えに行く。

 

 



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第38話:風邪の時間

呪術廻戦最新刊の感想

四十話のジャージポニテ三輪ちゃんが可愛かった。
ただそれだけ言いたかった。


ついでに言うと書き下ろしキャラ設定のパンダがやっぱりパンダとしか書いてなくてちょっと笑いました。


「あぁぁぁ〜〜……ダルい…」

 

自宅のベッドで横になっている俺は、ボンヤリと呟く。

 

 

シロ達の襲撃の後、俺は風邪と出血多量のダブルパンチで気絶してしまったらしい。

後から聞いた話によると、焦った殺せんせーは病院に連れて行こうとしたが、先ずは出張中の烏間先生にどうするのが最善か聞きながら応急処置をして、その後烏間先生から高専の場所を聞き硝子さんにパスしたとか。

 

そんでもって高専で目覚めた俺の腕は完治していた。

がしかし「体調管理もまともに出来てない状態で無茶をするな。」と殺せんせーからはみっちり、硝子さんからは少し怒られ、念のために1週間休むよう言い渡された。

 

そして本日5日目。

料理とか洗濯とかは自力でできるもののまだ本調子じゃない。

あの葉月の奴が去り際に竜巻使って水ぶちまけてきたお陰でさらに拗らせたっぼいな、これ。

 

しかしまあ、やる事が無くて暇だ。

いやね、やる事はあるんだよ。もうすぐ期末テストだからさ。そんでもって殺せんせーが各教科で学年トップを取った生徒に触手を一本破壊できる権利を手に入れられるとひーちゃんが教えてくれたから本気でやるつもりだ。

だが高専の人たちから先取りで学んでいる俺は前回総合トップを取っている。加えて殺せんせーやひーちゃんや磯貝、片岡さんが要点をまとめたノートなんかを貸してくれてるから勝算は高い。油断はしないけど。

 

だがそれを入れたとしても特訓禁止令を出されてしまった以上、本当にやる事が無い。

仕方ない、八咫に絡むか。

 

「おーい、八咫ぁ。」

(暇つぶしに我を起こすな。)

「どうせお前も暇でしょ〜?」

(チッ…)

 

おー怖。けど暇つぶしって訳じゃあないんだよな。

 

「八咫、あの葉月って奴どう思う。」

(…まぁ強いな。貴様の持っている術式の元所有者達よりは確実に。)

「…だよなぁ。アイツに関しての情報って無い?」

(無いな。高専にも無かったのだろう。)

「あぁ。…これは俺の推測だけどさ、あいつの上に誰かいると思うんだよ。」

(大方外れてないと思うぞ。あの眼を見れば分かる。)

「眼?…そういや左眼の色が反転していたな。それがどうした?」

(あの眼とあの男の呪力は異なっている。)

「…は?」

(つまりはあの眼には何者かの呪力が流れているのだよ。誰かから力を与えられている訳だな。)

「呪物を埋め込んでいるパターンは?」

(無いな。時期によるがその場合は被呪者のものと同化するからな。)

「……調べて出てくると思う、そいつ?」

(まあ出てこないだろうな。)

 

 

そんな事を話しているとインターホンが鳴る。

ゆっくり起き上がってドアを開けると、ひーちゃんがいた。

 

「やっほー!お見舞いに来たよ〜‼︎」

「お〜サンキュー。けど毎日来なくてもいいんだよ?」

「いーの!私が行きたいの‼︎お邪魔しまーす!」

 

ひーちゃんに続いて前原、岡野さん、千葉、速水さん、名前知らない娘が入ってくる。

 

 

 

 

……ん?

 

 

 

「ちょっと待って。誰、この子?」

「ああ、お会いするのは初めてどすなぁ。うち泡沫 小夜(ウタカタ サヨ)言います。どうぞよろしゅう。」

「…え〜っと?」

「…奏、メール見てなかったのか?お前が休んでる間に転校してきたんだよ。」

 

あー、見てなかったな。しかしまたもや転校生か、一月に1人くらい来てるよな。ってか今の挨拶、京都の人か。

 

「…えっと、泡沫さんは…」

「小夜でええよ?」

「…小夜さんは、暗殺者って事でいいのか?」

「ん〜、ちょいちゃうなぁ。ウチは忍やで。」

 

ハイ?忍?あの屋根の上飛び歩いて手裏剣投げる、隠密得意なあのニンジャ?

 

「…マジで?」

「マジマジ。」

「本物の忍者だったよ〜。」

「烏間先生との訓練凄かったよね。あの烏間先生が翻弄されてたもん。」

 

えぇ、あの烏間先生が?クソ強いじゃん。

 

「ふふ、そないでもあらへんで。ところで奏はんは呪術師って人なんやろ?いつか手合わせしたいなぁ。」

「…そうだけど、呪術師のこと知ってるの?」

「知っとるよ。ウチのお祖父様言うとってん。呪術師って言う人たちは古うから裏世界で活躍しとった、忍と似たような存在って。」

 

裏世界で活躍って…間違っちゃないけどなんか複雑だなぁ。

 

「まあその話は置いときまひょ。順番逆になってもうたけど改めて、これからどうぞよろしゅうおたのもうします。」

「…ああ、こちらこそ宜しく。」

 

 

その後は皆で勉強をした。

なんせ触手がかかってるもの。

基本的に俺が全教科教えて、小夜さんは得意教科の国語を、千葉が数学を教えてみたいなスタイルでやっていった。

そして時間的に終了かなと思ったとき、E組のグループLINEに磯貝から連絡が来た。

 

 

なんとA組と賭けをすることになったらしい。

事の発端は磯貝が本校舎の図書館の予約券を手に入れたことから始まる。そこに自習しに行った磯貝、渚、茅野さん、奥田さん、神崎さん、中村さんがA組が誇る各教科トップの集まり「五英傑」とやらに絡まれたらしい。そしたらまあ売り言葉に買い言葉みたいな流れで勝負をすることになったとか。

 

あ、ちなみに五英傑とやらのメンバーは、

集会で笑いどころを潰されたナレーターメガネ、社会の荒木

サイドハゲナルシスト、国語の榊原

説明不要のキモ眼鏡、理科の小山

この前雨の日に彼女と大便を漏らしかけた帰国子女、英語の瀬尾

そして理事長の息子、全教科トップ(俺を抜いたら)の浅野学秀

……なんか浅野以外弱そう。

 

内容は期末で5教科で取ったトップの人数が多いクラスが勝ちとし、負けた方に後で何でも命令できるというもの。

 

正直何やってんのアイツらと思ったが、日々威張り散らしているA組の奴らに逆襲するいい機会だし、俺らにはそもそもその賭け無しにしても教科トップを取る理由がある。殺ることは何も変わらない。

その場にいた皆が改めて殺る気になって、今日は解散した。

 

 

 

===============

 

 

 

三人称視点

 

 

 

奏の家での勉強会が終わった後、陽菜乃と小夜は2人で一緒に帰っていた。というのも小夜の方から2人きりで話がしたいと言ってきたのだ。

テストの話や殺せんせーの話、忍の話などをして、次に陽菜乃と奏が付き合っているという事を話した時、小夜がある事を提案した。

 

「陽菜乃はん、ウチらも今回のテストでなんか賭けをしまへんか?」

「賭け?どうして?」

「そないなのがあった方が殺る気出まへんか?」

「…確かに、いいね!やろう‼︎それで何を賭けるの?」

 

ここで陽菜乃は痛恨のミスをしてしまった。

小夜が賭けるだろうものを全く考えつかなかったからだ。

 

 

「せやなぁ……それじゃあ奏はんを賭けまひょ。」

「え″っ。」

 

小夜が持ち出した賞品に陽菜乃は硬直する。

 

「勝敗の決め方は5教科で3教科以上得点が上の方が勝ち。もしウチが勝ったら奏はんと1日デート、陽菜乃はんが勝ったら陽菜乃はんが奏はんにしてもらいたいことを叶えてもらうよう取り計らうのに協力する…こないな感じでええどすか?」

「ちょっ、ちょっと待って‼︎なんでかーくんを賭けるの⁉︎」

「なんでって…そんなんウチも奏はんが好きって事以外に何かあるやろか?」

「なっ…‼︎」

「安心しとくれやす。ウチが負けたら大人しゅう身を引く。そやさかい陽菜乃はんも彼を盗られとう無かったら女の意地を見せとくれやす。…それとも戦わずして逃げるん?」

「……いいよ。その勝負受けるよ‼︎」

 

 

期末テスト

そこで3つの賭けが行われる。

 

1つ目はE組の殺せんせーの触手を賭けたもの。

 

2つ目はA組とE組とのお互いの意地を賭けたもの。

 

そして3つ目は陽菜乃と小夜の意中の男を賭けたもの。

 

しかしその意中の男こと奏は自分が賞品になっていることなんて知るわけ無かったのだ。

 




新キャラ 泡沫小夜ちゃん登場です。

彼女の言葉は方言変換アプリを使って書いていますが、いくつかおかしいところがあるかもしれません。



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第39話:期末の時間

今回は非常に短いです。
無理矢理術式詰め込んだから問スターとの戦闘描写も雑だと思います。



番外編・ブラコン劇場

《そもそもの出会い》

西「そもそもさ、何で霞ちゃんはそんなにブラコン拗らせたのよ?」
三「別にブラコンじゃないですけど。」
西「いや、そういうのいいから。2人の過去に何があったのよ?」
三「そうですね…あれはちょうど3年前…私がちょうどシン・陰流に入った時でした…。基本的に奏君って一年に2回程こっちに来るじゃないですか。
それで私は3年前に初めて奏君に会ったんですよ。その時は私も自分と弟達の事でいっぱいいっぱいで、奏君も結構人見知りで…それでも何とか仲良くなろうと頑張ったんですけど、あんまり心開いてくれなかったんですね。」
西「あー、確かに。私や加茂君の時も最初めっちゃ口数少なかったもん。」
三「はい…当時私はバイトをいくつか掛け持ちするほど貧乏で…まぁ今もなんですけど…それが原因で少し虐められてたんですよ。いるじゃないですか、スクールカースト上位のグループってどこの学校にも。
それである日の稽古の帰りに偶然そのいじめっ子のグループと遭遇しちゃって、その子達に囲まれて目立たない場所に連れてかれて、『あぁ…今日もかぁ…』って思ってたんですよ。そしたら突然私といじめっ子グループの間に奏君が割り込んで来たんですよ。私が連れてかれるのを偶然見て、つけていたみたいで…で、その時に『お姉ちゃんをいじめるな!』って言ってくれたんですよ!防犯ブザー持ってるの見ていじめっ子達も逃げてって…その後も『大丈夫?』って聞いてきて、それで…」
西「それで?」
三「奏君の手がとても震えてて!怖かったはずなのに勇気出して助けに来てくれたんだって思うと嬉しいと同時にとても可愛いって感じて‼︎「お姉ちゃん」って呼んでくれたってことは奏君は私の弟って事で‼︎その後なんと心開いてくれて‼︎昔の事も教えてくれて、この時は助けられちゃったけど、これからは姉としてしっかり面倒見なくちゃって思ってもうヤバくて‼︎」
西「うん、だいたい分かった。とりあえず落ち着いて。今の霞ちゃんの方がヤバい。」


※この昔話は作者の捏造です。
三輪ちゃんが虐められてたとかいう描写は原作には一切ありませんのでご注意を。



試験当日

 

俺たちは本校舎に向かっている。

 

「さぁてと…しっかり頂上取りに行きますか。」

「私も頑張る!今回は少なくても理科トップは狙ってるの!」

「おぉ、なんかひーちゃんめっちゃやる気出てるね。」

「うん…!絶対に負けられないから…!」

「?なんかあったのか?」

「さぁ、なんやろなぁ。」

「小夜さん、いきなり背後から出てくるのやめて。割と心臓に悪い。」

 

どうしてかなぁ。この2人の間に火花みたいなのが見えるんだけど。

 

やがて俺らの試験会場に着く。

てっきり一番乗りかと思いきや、既に誰か来ていた。

 

 

 

………え、いやマジであれ誰⁉︎

 

律役(・・)だ。」

 

俺らの疑問を察して烏間先生が答えてくれる。

 

「さすがに理事長から人工知能の参加は許されなくてな。ネット授業で律が教えた替え玉を使う事でなんとか決着した。交渉の時の理事長に『大変だな、コイツも。』…という哀れみの目を向けられた俺の気持ちが君達に分かるか?」

「「「いやほんと頭が下がります‼︎」」」

「律と合わせて俺からも伝えておこう。頑張れよ。」

「…はい!」

 

そして遂に試合が始まる----

 

 

====================

 

 

英語

 

 

ふむ…さすがにペースが速いな。

中高一貫の進学校なら当然か。

 

さて、英語のラストは……サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』か?

殺せんせーが勧めてたな。生徒(俺ら)の読書量を採点基準に加える気だな。

恐らくコイツは雑で簡潔な口語体で答えるのがベスト。となると…

 

『正直コックの顔に100回ビンタかましてやりたかったね。』

 

俺は『百々目鬼』を何体か召喚し、一斉放火を問スターにかます。

もちろん粉々。満点だね。

おっ、中村さんに渚も満点か。

あ、瀬尾がやられた。ざまぁ。

 

 

 

 

理科

 

 

 

理科のラスト問題、「ダニエル電池とボルタ電池の充電についての違い」かぁ。メンドくさ。

 

端の方で小山が必死に暗記がどうこう言ってるが、それじゃダメなんだよなぁ。

 

おっと…ちょうど正答例が来た。

 

「本当の理科は暗記だけじゃ楽しくないんだよ。」

「『君が君である理由を理解ってるよ』ってちゃんと言葉にして伝えてあげたら、この理科すっごく喜ぶんです。」

 

相手に届く国語力…あの2人はしっかり理解してるらしいね。

俺もあそこまで完璧な答えとはいかなくても、これなら満点くらいは取れる。

騎士型の問スターを重力で四方八方から押しつぶす!

 

 

 

 

社会

 

 

 

 

うわぁ…今年のアフリカ開発会議(TICAD)の首相の会談の回数とか…捻ってんなぁ。

 

「フー、危なかった。会議の重要度の象徴だし一応憶えて正解だった。」

「いや…俺も磯貝が教えてくれなかったら無理だったわ。」

 

磯貝は剣で、俺は先端を鋭くした蔦で砲台型の問スターを粉砕する。

え、荒木?砲撃受けてやられたよ。

 

 

 

 

国語

 

 

 

 

「思った以上にやるようだな、E組‼︎顔だけでなく言葉も中々美しい‼︎」

「中身が汚い殿方がなんか言うてますなぁ。」

「小夜さん案外毒舌だねぇ。」

 

俺や氷剣、小夜さんは薙刀で武者型の問スターを斬り返す。

古文はそこまでキツくないな。周りは結構つまづいてるっぽいけど全然いける。

 

「だがただ一片の会心の解答でテストの勝敗は決まらない‼︎取りこぼしなく全て制する総合力が必要なのだ‼︎」

「じゃあそれは俺が頂くよ。」

 

総合満点舐めんなよ。

 

 

 

 

数学

 

 

 

 

ようやく最後か。

数学ならE組(うち)はカルマだけど…あいつ、サボり気味だったしなぁ。しゃーない、俺がもうひと頑張りしてやりますか。

 

中間で受けた皆の悔しさ、全部まとめて放ってやるよ。

 

 

 

 

 

 

二日間の攻防の末、全ての戦い(テスト)が幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 



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第40話:5教科の時間

二日間のテストが終わり、三日後に学年内順位と共に答案が返って来た。

テストの行方は一目瞭然か。

 

「では発表します。まずは英語から…E組の1位…そして学年でも1位‼︎中村莉緒‼︎漣奏‼︎」

「ふふーん♪」

「よしっと…まずは1教科ゲット。」

「2人とも完璧です。特に中村さん、君のやる気はムラっ気があるので心配でしたが。」

「当然でしょ?なんせ賞金百億かかってっから。触手一本忘れないでよ、殺せんせー?」

「まぁ前回トップとしてはこれくらいやらないとね〜。」

「渚君も健闘ですが、肝心な所でスペルミスを犯す癖が直ってませんね。」

「…うーん…」

 

英語

漣奏 100点 学年1位(タイ)

中村莉緒 100点 学年1位(タイ)

潮田渚 91点 学年7位

浅野学秀 99点 学年3位

瀬尾智也 95点 学年4位

 

 

触手二本ゲットでA組との対決も2点リードか。滑り出しとしては充分だな。殺せんせーは1教科につき一本とかだと思ってたんだろうけど、タイならまだまだいけるんだよねぇ。

 

 

「続いて国語…E組1位は…泡沫小夜に漣奏‼︎さらに二人とも!学年でも1位です‼︎」

 

再び歓声が上がる。俺も小夜さんがここまで出来るとは思っていなかった。

 

「驚きましたよ、小夜さん。転向直後で学年トップを取るとは。」

「いややわぁ、殺せんせーの教えが上手いからどす〜。」

「それに神崎さんも大躍進です。充分ですよ。」

 

 

国語

漣奏 100点 学年1位(タイ)

泡沫小夜 100点 学年1位(タイ)

神崎有希子 96点 学年4位

浅野学秀 100点 学年1位(タイ)

榊原蓮 94点 学年5位

 

 

にしても浅野もやるな。国語で満点、英語も1点差か。五英傑数学担当とか言われてるらしいけど、全教科変わらず隙がないな。だけど逆に言えば浅野以外はそこまで強くないって事だな。

 

 

「…では続けて返します。社会‼︎E組1位は磯貝悠馬と漣奏‼︎そして学年では…おめでとう‼︎浅野君を抑えて1位です‼︎」

「「よっしゃあ‼︎」」

「マニアックな問題が多かった社会でよくぞ満点を取りました‼︎」

 

 

社会

漣奏 100点 学年1位(タイ)

磯貝悠馬 100点 学年1位(タイ)

浅野学秀 95点 学年3位

荒木哲平 93点 学年4位

 

 

「そしてこの時点で5教科対決をE組が勝ち越しました‼︎」

「…そっか‼︎」

「すでに6対2…‼︎」

「よくやった、奏‼︎」

「いや〜、社会はちょっとキツいんじゃないかって思ってたけどな…それでも磯貝ならやってくれるって思ってわ。まぁ俺も取れたけど。」

「「「スカしたんじゃねーよ、この天然ボケリア充‼︎」」」

「あ″ぁ″⁉︎」

 

 

「続いて理科、満点はA組からは0、対してE組からは…なんと3人‼︎」

「「「「「3人⁉︎」」」」」

「奥田愛美‼︎倉橋陽菜乃‼︎漣奏‼︎揃って学年1位です‼︎」

 

 

理科

漣奏 100点 学年1位(タイ)

倉橋陽菜乃 100点 学年1位(タイ)

奥田愛美 100点 学年1位(タイ)

浅野学秀 97点 学年4位

小山夏彦 95点 学年5位

 

 

「よくやった、奥田!倉橋!」

「今のところ全勝じゃん‼︎」

「ここまできたらもちろん奏は…」

「ええ、その通りです。最後の数学…クラス・学年共に1位!漣奏‼︎」

 

 

数学

漣奏 100点 学年1位(タイ)

浅野学秀 100点 学年1位(タイ)

 

 

…カルマのやつ。やっぱりか。

 

「…?どうしました、奏君?」

「いや、ちょっと感慨にふけってただけ。…それよりさ、俺全部満点でしょ?ってことはさ…」

「その通りですよ。総合1位も君のものです。」

 

 

総合

漣奏 500点 学年1位

浅野学秀 491点 学年2位

 

 

殺せんせーがそう言うとクラス全員が歓声を上げる。

俺も結構嬉しい。負ける気はしなかったけど、それでも中間より難しかったから満点は厳しいかなって思ってたからな。

 

 

===============

 

 

第3者視点

 

校庭の端の木にもたれかかりながら、カルマは悔しそうにテストを握りしめていた。それもそのはず、今回のテストでカルマは総合14位、数学11位と大幅に順位が落ちたからだ。

そこに殺せんせーがやって来た。

 

「さすがにA組は強い。5教科総合は奏君が1位を取ったものの、時点の竹林君と片岡さんの同率8位まで独占しました。当然の結果です。A組の皆も負けず劣らず勉強をした。テストの難易度も上がっていた。怠け者がついていけるわけがない。」

「……何が言いたいの?」

「恥ずかしいですねぇ〜。『余裕で勝つ俺カッコいい』とか思ってたでしょ。」

 

奏が推測していた通り、カルマは今回真面目に取り組んでいなかった。殺せんせーが警告していたにもかかわらず、だ。顔を縞模様にし触手でカルマの頭を弄りながら、殺せんせーは続けて話す。

 

「触手を破壊する権利を得たのは…中村さん、磯貝君、倉橋さん、奥田さん、小夜さんが1本ずつ、奏君が6本。暗殺においても賭けにおいても君は今回何の戦力にもなれなかった。分かりましたか?殺るべき時に殺るべき事を殺れない者は…暗殺(この)教室では存在感を無くして行く。刃を研ぐのを怠った君は暗殺者じゃない。錆びた刃を自慢気に掲げたただのガキです。」

 

カルマを触手を払いのけ、教室に戻って行った。

入れ代わりに連絡の為教室を出ていた烏間が来た。

 

「おい、いいのか?あそこまで言って。」

「ご心配なく。立ち直りが早い方向に挫折させました。彼は多くの才能に恵まれている。だが力ある者は得てして未熟者です。本気で無くとも勝ち続けてしまうために本当の勝負を知らずに育つ危険がある。大きな才能は…負ける悔しさを早めに知れば大きく伸びます。テストとは勝敗の意味を、強弱の意味を正しく教えるチャンスなのです。」

 

 

(成功と挫折を今一杯に吸い込みなさい、生徒達よ‼︎勝つとは何か、負けるとは何か、力の意味を、今‼︎私が最後まで気づけなかった…とても大事な事だから。)

 

 

 

===============

 

 

 

奏視点

 

 

 

一度殺せんせーが教室から出て行くと、先程いなかったカルマが戻って来た。その後殺せんせーも戻って来て話を始める。

 

「さて、皆さん素晴らしい成績でした。5教科プラス総合点の6つ中、皆さんが取れたのは…11本です。」

 

あーあ、だいぶ焦ってるなぁ。どうせ各教科1つずつしか取れないとか思ってたんでしょ。

すると寺坂組が立ち上がった。

 

「待てよタコ。5教科のトップはアイツらだけじゃねーぞ。」

「?合っていますよ、寺坂君。国・英・社・理・数、全て合わせて…」

「はぁ?アホ抜かせ。5教科っつったら国・英・社・理…あと家だろ。」

 

は?

 

家庭科

寺坂竜馬 村松拓哉 吉田大成 狭間綺羅々 100点 学年1位(タイ)

 

 

えぇ…そんな手があったの?

殺せんせーも焦って反論している。

 

「ちょ待って‼︎家庭科のテストなんてついで(・・・)でしょ‼︎こんなのだけ(・・)何本気で100点取ってるんです君達は‼︎」

「だーれもどの(・・)5教科とは言ってねーよな。」

「クックック、クラス全員でやりゃ良かった、この作戦。」

 

いや確かに間違っちゃないけどさぁ…うん。

すると千葉がカルマに何か促した。

 

「…ついで(・・・)とか家庭科さんに失礼じゃね、殺せんせー?5教科の中じゃ最強と言われる家庭科さんにさ。」

「そーだぜ先生!約束守れよ‼︎」

「一番重要な家庭科さんで4人がトップ‼︎」

「合計触手14本‼︎」

 

カルマに続いて皆が流れに乗る。俺も乗ろ。

 

「いや、家庭科さんの頂点は4人じゃないよ。」

「…何?」

「ってことは…」

「うん、俺も♪合計15本ね、殺せんせー?」

(15本⁉︎ひぃぃぃぃ‼︎)

 

あはは、殺せんせーの心の声がよく聞こえるわ。

そんな中、磯貝が挙手をして皆で考えた案を言う。

 

「それと殺せんせー、これは皆で相談したんですが…この暗殺に今回の賭けの戦利品も使わせてもらいます。」

「What?」

 




陽菜乃対小夜の結果は次回に。


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第41話:終業の時間

期末の後はほどなく一学期の終業式。

 

今回も俺らはわざわざ下山して本校舎に行くのだが、前回より皆の足取りが軽い。まぁ当然だな。

 

俺らの側を浅野達が通り過ぎる時に、代表してなのかは知らないが寺坂が呼び止める。

 

「おお〜、やっと来たぜ、生徒会長サマがよ。」

「何か用かな?式の準備でE組に構う暇なんて無いけど。」

「おーう、待て待て。何か忘れてんじゃねーのか?」

「浅野、賭けてたよな、5教科を多く取ったクラスが1つ要求できるって。要求はさっきメールで送信したけど、あれで構わないな?」

「5教科の賭けを持ち出したのはてめーらだ。まさか今さら冗談とか言わねーよな。何ならよ、5教科の中に家庭科とか入れてもいいぜ?それでも勝つけどな、ヘッヘッヘッ。」

 

浅野達の屈辱そうな顔に対して寺坂組はものすんごいイキイキしている。家庭科でそこまで威張れるのはむしろ尊敬するわ。

ま、本校舎の生徒たちの前でA組の恥さらしを拝めたから俺も楽しいけど。

 

 

その後の終業式もつつがなく進む。が、いつものE組いじりもウケが悪い。一方でそのE組は誇らしげに立っている。

 

ただ心配が1つだけある…理事長の事だ。

あの合理主義者が「E組(エンド)」が「底辺(エンド)」でないことを許すはずが無いだろう。次の中間、早ければ夏休み明けから何か仕掛けてくるに違いない。

 

「…かーくん、どーしたの?顔少し怖いよ?」

「…ん〜、あの校長さっさとハゲ散らかせばいいのにって思っただけ。」

 

ひーちゃんに気づかれかけた気がしたが、すぐに表情を変える。

理事長の事もあるが、それは今考えても多分何もできない。まずは目の前の暗殺からだ。

 

 

===============

 

 

 

教室に戻って来ると、殺せんせーがバカでかい冊子を渡してきた。

 

「…何なん、あれ?」

「殺せんせー特製過剰しおり。」

「アコーディオンみたいだよね…」

「これでも足りないくらいです!夏の誘惑は枚挙にいとまがありませんから。」

 

うわぁ、クソ重い。修学旅行の時の三倍くらいあるぞ。

 

「さて、これより夏休みに入るわけですが皆さんにはメインイベントがありますねぇ。」

「ああ、賭けで奪ったコレ(・・)のことね。」

「本来は成績優秀クラス、つまりA組に与えられるはずだった特典ですが、今回の期末はトップ50のほとんどをA組とE組で独占している。君達にだってもらう資格は充分あります。」

 

俺らが賭けで得た賞品、それはこの中学で特別夏期講習として行われる沖縄離島リゾート二泊三日というもの。

ちなみに提案者は学校のパンフを見てた殺せんせーであるが、結果自分で自分の首を絞めることになったな。

 

「君達の希望だと触手を破壊する権利は教室では使わず、この離島の合宿中に行使するという事でしたね。触手15本の大ハンデでも満足せず、四方を先生の苦手な水で囲まれたこの島も使い、万全に貪欲に命を狙う。正直に認めましょう。君達は侮れない生徒になった。親御さんに見せる通知表は先程渡しました。これは標的(せんせい)から暗殺者(あなたたち)への通知表です。」

 

そう言い殺せんせーは素早く紙の束に何か書き、教室にばらまく。そこには二重丸が書いてあった。暗殺者(おれら)としては何より嬉しい評価だ。

 

「一学期で培った基礎を存分に活かし、夏休みも沢山遊び沢山学び、そして沢山遊びましょう‼︎暗殺教室、基礎の一学期、これにて終業‼︎」

 

殺せんせーが屋上で見守る中、俺らは嬉しそうに教室を後にした。

 

 

…………因みに栞は皆置いてった。

 

 

 

============

 

 

駅近くのファストフード店にて陽菜乃と小夜は真剣な顔で向かい合っていた。

 

「…それじゃあ遅くなってもうたけど、ウチらも始めまひょか。」

「うん。まずお互い100点のものがあるから一対一だよね。」

「そうやな。じゃあまずは数学からにしまひょ。」

「「せーの!」」

 

数学

陽菜乃 70点

小夜 78点

 

「ふふん、まずはウチが一点先取どすな。」

「うう…数学はやっぱり苦手…。じゃあ次は英語ね!」

「「せーの!」」

 

英語

陽菜乃 86点

小夜 74点

 

「やった!これで2−2‼︎」

「うーん…やっぱり英語で勝ち越すのは難しいなぁ…」

「小夜ちゃん、英語苦手なんだ…」

「せやなぁ…かたかな語も結構苦手やし…まあそれは置いときまひょ。最後は社会やな。」

「「せーの‼︎」」

 

 

 

===============

 

 

 

奏宅

 

 

「…ん、ひーちゃんから電話?もしもし?」

『あ、かーくん!今日一緒に帰れなくてゴメンね?』

「あー、気にしなくてもいいよ。それより小夜さんと用事あったんじゃないの?」

『うん、ちょっとお話ししてて。…それで一緒に帰れなかった代わりってわけじゃないけど…今日かーくん家に夜ご飯食べに行っていい?』

「随分急だね…俺はいいけど、親御さんはいいって?」

『うん、なんだったら泊まってきてもいいって‼︎』

「それは流石に急過ぎるわ。送るからちゃんと帰りなさい。」

『うー…ケチ。じゃあこれからお家行くね‼︎』

「うん、待ってるよ。」

 

 

 

===============

 

 

 

「あーあ、負けてもうた。自信あったんやけどなぁ……愛の力、なんて思うと……悔しいなぁ。」

 

 

社会

陽菜乃 85点

小夜 84点

 

 

ファストフード店に1人残った小夜はボーッと外を眺めながら独り言ちた。




期末テストはこんな感じ
倉橋陽菜乃 英語 86点 (盛り ビッチ先生から強化講習を受けた)
国語 78点(原作通り)
数学 70点(原作通り)
理科 100点(盛り)
社会 85点(原作通り)
総合 419点(30位)(盛り)

泡沫小夜 英語 74点(70位)
国語 100点(1位)
数学 78点(34位)
理科 80点(26位)
社会 84点(26位)
総合 412点(33位)



一学期編終了です!

次回から夏休み編、その予告を少しだけ。

「抜かるなんて絶対にしたくない。手伝ってくれ、皆。」

奏、秘密(?)のトレーニング!

「ウチも少しばかり、カッコつけたくなってきたわ。」

小夜、(本編でやっとの)初陣!

「このまま後ろ姿を眺めてるだけなんて、私はイヤなの。」

陽菜乃、心境の変化⁉︎




そして現れる恐怖……

「ヤッホー、奏。お姉ちゃんだよ。」


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夏休み
第42話:生き物の時間


呪術廻戦人気投票、パンダ、真希を抜かしてまさかの三輪ちゃん12位という快挙。そしてアルバイトと高田ちゃんの存在感。


夏休みが始まって早3日経った日の早朝

 

「なんで僕ら、学校に来てんのかな。しかも早朝に。」

「いやぁ…いい歳して皆の前で昆虫採集とか恥ずかしいだろ。」

 

渚と杉野、前原の3人はE組の裏山で虫取りをしていた。

因みに主催は街育ち故に虫取りに憧れていた杉野だ。

 

「しかし前原まで来るとは意外だわ。こんな遊び興味無いと思ってたぜ。」

「次の暗殺は南国リゾート島でやるわけじゃん。そしたら何か足りないと思わねーか?」

 

杉野と渚はその足りないものが分からずはてなマークを浮かべるが、前原は眼を$マークに変えて熱弁する。

 

「金さ‼︎水着で泳ぐきれいな姉ちゃん(ちゃんねー)落とすためには財力が不可欠‼︎こんな雑魚じゃダメだろうけど…オオクワガタ?あれとかうん万円するらしいじゃん。ネトオクに出して大儲け、最低でも高級ディナー代とご休憩場所の予算までは確保するんだ。」

「旅の目的忘れてねーか、前原の奴?」

「…うん、15歳の旅行プランとは思えないよね。」

 

2人が呆れていると木の上から声が聞こえてきた。

 

「ダメダメ、オオクワはもう古いよ〜。」

「「倉橋!」」

「おは〜、皆もお小遣い稼ぎに来たんだねっ。」

「倉橋、オオクワガタが古いとかどういう事だ?」

「んっとね〜、私達が生まれた頃は凄い値段だったらしいけどね、今は人工養殖法が確立されちゃって大量に出回りすぎて値崩れしたんだってさ。」

「ま…まさかのクワ大暴落か。1クワガタ=1姉ちゃん(ちゃんねー)ぐらいの相場と思ったのに。」

「ないない、今は姉ちゃん(ちゃんねー)の方が高いと思うよ〜。」

「詳しいな、倉橋。好きなのか昆虫?」

「うん、生き物は全部好き〜。せっかくだしみんなで捕まえよっ!多人数で数揃えるのが確実だよ‼︎」

 

陽菜乃が先陣を切って進む。

するとある木にぶら下げられたストッキングに昆虫が集まっていた。

 

「お手製のトラップを昨日の夜にかーくんと付けておいたんだ。後20ヵ所くらい仕掛けたから、上手くすれば1人千円くらい稼げるよ〜。」

「あ〜、やっぱり奏もいんのか。」

「うん、今は山の反対側から探してもらってるの。後他にもう一つ優秀なレーダーがあってね〜…」

「レーダー…なんだそりゃ?」

 

その時、少し離れた位置から犬の鳴き声が聞こえてきた。

 

「あっ、ちょうど見つかったみたい!」

 

陽菜乃はそう言い鳴き声の方に向かう。

向かった先の大木の前に一匹の犬が座っていた。

その木を調べると樹液に昆虫が群がっていた。

 

「すごーい!お手柄だね、リズちゃん!」

「倉橋さん、その犬は?」

「かーくんの愛犬のリズちゃんだよ!虫が集まりやすい樹液の匂いを覚えさせて発見したら教えるようにかーくんに躾けてもらったの!」

「そんな高度な事教えられるの⁉︎」

「あいつブリーダーかよ‼︎」

「かーくんも凄いけど、リズちゃんも賢いもんね〜。」

 

三人が驚いている中、陽菜乃はリズの頭を撫でる。

奏の呪力の一部を纏った状態のリズは五感が普通の犬より発達するのだが、そうでなくてもリズは犬の中だと相当賢くて優秀な部類に入る。

 

その時またもや木の上から声が聞こえてきた。

 

「フッフッフ、効率の悪いトラップだ。それでもお前らE組か‼︎」

 

声の主はE組が誇る(?)エロ魔人、岡島であった。いつものように片手にはエロ本を持っている。

 

「せこせこ千円稼いでる場合かよ。俺のトラップで狙うのは当然百億円だ‼︎」

「百億…ってまさか。」

「その通り。南の島で暗殺するって予定だから…あのタコもそれまでは暗殺も無いと油断するはず。そこが俺の狙い目だ。」

 

岡島はみんなをある場所へ案内する。そこの茂みを覗いた先には、大量のエロ本の上で正座しながらエロ本を読んでいる殺せんせー(カブト虫コス)がいた。

 

「クックック、かかってるかかってる、俺の仕掛けたエロ本トラップに。」

「すげぇ…スピード自慢の殺せんせーが微糖だにせず見入っている。」

「よほど好みのエロ本なのか…」

「また何だあのカブト虫のコスプレは‼︎」

「あれで擬態してるつもりか⁉︎嘆かわしい‼︎」

「どの山にも存在するんだ、『エロ本廃棄スポット』がな。そこで夢を拾った子供が…大人になって本を買える齢になり、今度はそこに夢を置いていく。終わらない夢を見る場所なんだ。」

 

※良い子は捨てるのも読むのもいけません。

 

「丁度良い、手伝えよ。俺達のエロの力で覚めない夢を見せてやろうぜ。」

 

パーティーが致命的にゲスくなった瞬間である。

 

「随分研究したんだぜ、あいつの好みを。俺だって買えないから拾い集めてな。」

「?殺せんせー、巨乳なら何でもいいんじゃ…?」

「現実ではそうだけどな、エロ本は夢だ。人は誰しもそこに自分の理想を求める。写真も漫画も僅かな差で反応が全然違うんだ。」

 

岡島の携帯には、1ヶ月間入れ替えて置いたエロ本に対する殺せんせーそれぞれの反応の写真が写っていた。何故かコスプレも日によってカタツムリ・セミ・クワガタと変わっている。

しかし大の大人が1ヶ月も連続してエロ本を拾い読みするのははたして如何なものなのか。

 

「お前のトラップと同じだよ、倉橋。獲物が長時間夢中になるよう研究するだろ?」

「…うん。」

「俺はエロいさ。蔑む奴はそれでも結構。だがな…誰よりエロい俺だから知っている。エロは…世界を救えるって。」

 

キメ顔でナイフを取り出す岡島を見て、不覚にもカッコいいと4人は思ってしまった。全くもって尊敬は出来ないし、見習いたくもないのだが。

 

「殺るぜ。エロ本の下に対先生弾を繋ぎ合わせたネットを仕込んだ。熱中してる今なら必ずかかる。誰かこのロープを切って発動させろ。俺が飛び出してトドメを刺す。」

 

代表して渚がハサミを構える。緊張した空気の中、タイミングを見計らってロープを切ろうとした直前、

 

 

 

 

殺せんせーが斜め上を見ながら、眼をみょーんと伸ばし始めた。

データに無い顔を見て岡島が動揺する一方で、殺せんせーは素早く触手で何かを捕まえる。

 

「ミヤマクワガタ、しかもこの眼の色‼︎」

 

するとひが立ち上がり、殺せんせーの所に駆け寄る。

 

「白なの、殺せんせー⁉︎」

「おや倉橋さん、ビンゴですよ。」

「すっごーーい‼︎探してたやつだ‼︎」

「ええ‼︎この山にもいたんですねぇ。」

 

2人が嬉しそうにエロ本の上で飛び跳ねているのとは対照的に岡島は「もう少しだったのに」と涙を流している。

すると殺せんせーが渚達に気付き、青ざめて壊れた機械のように自分の足下《エロ本の山》を見ると顔を真っ赤にしてうずくまる。

 

「面目ない…教育者としてあるまじき姿を…本の下に罠があるのは知っていましたが、どんどん先生好みになる本の誘惑に耐えきれず…」

 

やはりというか、岡島のトラップはお見通しだった。

そんな中杉野が陽菜乃に疑問を口にする。

 

「で、どーゆー事よ、倉橋?それってミヤマクワガタだろ?ゲームとかじゃオオクワガタより全然安いぜ?」

「最近はミヤマの方が高いことが多いんだよ。まだ繁殖が難しいから。このサイズじゃ2万はいくかも。」

「2万⁉︎」

「おまけによーく眼を見て下さい。本来黒いはずの目が白いでしょう。」

 

アルビノ個体。またの名を白子。

人間や動植物でメラニンや葉緑素といった色素を欠いたことで白色となった個体のことをいう。

カエルなどは全身が真っ白となるが、クワガタは眼のみが白くなるのだ。

 

「『ホワイトアイ』と呼ばれる天然ミヤマのアルビノ個体はとんでもなく希少です。学術的な価値すらある。売れば恐らく数十万は下らない。」

「「「「すっ…」」」」

「一度は見てみたいって殺せんせーに話したらさ、ズーム目で探してくれるって言ったんだぁ‼︎」

「ん?もしかしてそっちもアルビノ見つけた?」

 

そう言いながら反対の茂みから奏が出てきた。肩にはイタチのような生き物を乗せて。

 

「あ、かーくん‼︎そっちはどうだった?」

「豊作だよ〜。ごっそりいたし、お目当てのホワイトアイも一匹。それと…」

「あーー‼︎もしかしてそれ、ニホンカワウソ⁉︎」

「そうそう、川の下流にいたの。結構人懐っこくてこの通り。」

 

陽菜乃が近づいてもカワウソは逃げずに、頭を撫でられる。

さらにリズが近づくとカワウソは奏の肩から降りる。お互いに興味深そうに様子を探るが、やがて二匹でじゃれ合い始める。

 

「なぁ奏…ニホンカワウソってもしかして…」

「ん?絶滅危惧種だよ。」

「売る場合はお値段は…?」

「「プライスレス(要相談)」」

 

その瞬間男子4人+タコ一匹の眼の色が変わる。

その邪な視線を感じ取ったのかカワウソは山の奥に逃げ出してしまう。リズが後を追いかけ、それに続いて殺せんせー達も追おうとするが、

 

「お前ら…ロクでも無いこと考えるなよ?」

 

奏の怒りの気配から死の恐怖を感じて追いかけるのをやめた。

 

 

ちなみに二匹のホワイトアイは陽菜乃によって離され、川の下流でリズとカワウソは再びじゃれ合っていた。



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第43話:策謀の時間

これからの作品内容について一つ変更することがあります。

今までは基本奏の語りで進めていましたが、これからは基本三人称視点で進めることにします。

理由は奏の語りという点を作者が上手く使えていない、原作での渚の語りのほぼコピペになっているなどからです。


南の島での暗殺旅行まであと1週間

 

E組生徒たちはこの日、訓練と計画の詰めのためにグラウンドに集まっていた。

 

皆がジャージに着替えて射撃訓練をしている中、イリーナだけは高級そうな洋服に身を包みサングラスをかけて優雅にしている。

 

「まぁまぁガキ共、汗水流してご苦労な事ねぇ。」

「ビッチ先生も訓練しろよ。射撃やナイフは俺らと大差無いだろーにさ。」

「大人はズルいのよ。あんた達の作戦に乗じてオイシイとこだけ持ってくわ。」

「ほほう、えらいもんだなイリーナ。」

 

イリーナが上から目線で語った時、後ろから殺気を纏った声がした。

イリーナの後ろにはいつのまにかロヴロが立っていた。

 

「ロッ、ロヴロ師匠⁉︎」

「夏休みの特別講師で来てもらった。今回の作戦にプロの視点から助言をくれる。」

「1日休めば指や腕は殺しを忘れる。落第が嫌ならさっさと着替えろ‼︎」

「ヘッ、ヘイ!喜んで‼︎」

 

ロヴロの説教に震え上がったイリーナは即座にジャージに着替える。

 

「それで殺センセーは今絶対に見てないな?」

「ああ、予告通りエベレストで避暑中だ。部下がずっと見張っているから間違いない。」

「ならば良し。作戦の機密保持こそ暗殺の要だ。」

 

そう言って手袋を装着するロヴロに岡野が質問をする。

 

「ロヴロさんって殺し屋の斡旋業者なんですよね。今回の暗殺にも誰かを…?」

「いいや、今回はプロは送らん。」

 

イリーナが初めて教室に来た時から分かる通り、殺せんせーの鼻はとても敏感である。その嗅覚は特に鋭く部外者嗅ぎ分ける。

実は今までも生徒達の知らない時にプロの暗殺者が襲撃していたが、全員悉く失敗、それどころかそれぞれ殺気と臭いを覚えられ二回目以降は教室にすら辿り着けなくなっていたのである。

 

「さらに困った事も重なってな…残りの手持ちで有望だった殺し屋数名が…何故か突然連絡がつかなくなった。という訳で今現在斡旋できる暗殺者は0だ。慣れ親しんだ君達に殺してもらうのが一番だろう。」

 

そう言ってロヴロは作戦レポートを確認する。

E組の計画では、先に約束の15本の触手を破壊して間髪いれずクラス全員で攻撃してトドメを刺すというもの。

 

「…それは分かるが、この一番最初の『精神攻撃』というのは何だ?」

「まず動揺させて動きを落とすんです。殺気を伴わない攻撃には…殺せんせー脆いとこあるから。」

「この前さ、殺せんせーエロ本拾い読みしてたんスよ。『クラスの皆さんには絶対に内緒ですよ。』…ってアイス1本配られたけど、今時アイスで口止めできるわけねーだろ‼︎クラス全員で散々にいびってやるぜ‼︎」

「他にもゆするネタはいくつか確保してますから、まずはこれを使って追い込みます。」

 

渚達の説明を聞いたロヴロは冷や汗をかきながら、残酷な暗殺法だと感じた。

 

「…で肝心なのはトドメを刺す最後の射撃。正確なタイミングと精密な狙いが不可欠だが…」

「……不安か?このE組(クラス)の射撃能力は。」

「いいや、逆だ。特にあの2人は素晴らしい。」

 

興味深そうなロヴロの視線の先には、空中に浮いた風船を正確に撃ち抜くE組のスナイパー、千葉と速水がいる。

 

「…そうだろう。千葉龍之介は空間計算に長けている。遠距離射撃で並ぶ者の無いスナイパーだ。速水凛香は手先の正確さと動体視力のバランスが良く、動く標的を仕留める事に優れた兵士(ソルジャー)。どちらも主張が強い性格ではなく…結果で語る仕事人タイプだ。」

「ふーむ、俺の教え子に欲しいくらいだ。」

「あぁ。そして彼らのメインサポートにあの2人が付いている。」

 

烏間はそう言い、グラウンドの端を指差す。そこでは、

 

「はぁぁっ‼︎」

「せいっ‼︎」

 

お互いに刀を持ってギリギリ目で捉えられるスピードで組手を行なっている奏と小夜がいる。

 

「…『災厄』と泡沫の所の娘か。確かに彼らならサポートとしては充分すぎるほどだろう。他の者も良いレベルに纏まっている。短期間で良く見出し育てたものだ。人生の大半を暗殺に費やした者として…この作戦に合格点を与えよう。彼等なら充分に可能性がある。」

 

 

============

 

 

 

「ハァ…ハァ…やっぱり強いなぁ奏はん。ウチ、全く隙作れへんかったわ…」

「よく言うよ…小夜さんの強みを最も出せるのって障害物が多い所でしょ?呪術無しだったとはいえ、開けた場所でほぼ互角って…」

「それで…結局本番はどうするん?足場は奏はんが作ってくれる言うてたけど、作った足場は固定するんやろか?」

「いや…やっぱりその場その場で作って解除の方がいいと思う。そこら辺はもうすぐ助っ人が来るから、そいつらとの模擬戦で調整…「おい、奏。」…来たか。」

 

2人してグラウンドに仰向けで寝ながら計画について話していると、奏のよく知った声が聞こえてきた。奏は起き上がり声の聞こえた方を見ると、4人(?)の男女がいる。

E組生徒や教師達は誰だ?という顔をしているが、奏は構わず話しかけに行く。

 

「悪りぃね。わざわざ呼び出して。」

「ホントだよ。つかなんでこっちなんだよ。普通に高専でいいだろ。」

「まぁ、あれだ。ここの仲間にアッチの仲間を紹介したかったからだな。」

「めんどくせぇ。」

「まぁ、そう言うなって。もしかしたら俺らも奏のサポートに着くかもしれないんだから、今顔合わせておくのも悪くないんじゃないか?」

「それは無いだろ。コイツ一人で充分じゃねーの?」

「しゃけ。」

「いやいや、出来たらとっくにやってるっつーの。」

「えーっと…奏、盛り上がってら所悪いけど、その人達が誰か俺たちに教えてくれないか?」

 

奏が四人の男女(?)達とフランクに話している中、磯貝が少し申し訳なさそうに説明を要求してきた。

 

「ああ、悪い…ひーちゃんは少しだけ会ったことがあるけど、他は初めてだよね。コイツらは俺の高専での同級生…まあ俺が飛び級だから一つ年上だけど。このメガネかけた女が禅院真希。武器の扱いと身体能力に関して言えば俺より上。」

「おう、まぁよろしく。」

 

((((奏より身体能力が上!?))))

 

「こっちのひ弱そうなのが乙骨憂太。幼馴染だったヤンデレ少女に呪われちゃったやつ。」

「ど、どうも…」

 

((((呪いにヤンデレとかあるのか!?))))

 

「こっちの金髪が狗巻棘。術式が原因でおにぎりの具しか語彙がない。」

「こんぶ。」

 

((((いや、なんて?))))

 

「それとパンダ。」

「パンダだ。よろしく頼む。」

「「「「「いや、パンダはもう少し説明しろよ‼︎」」」」」

 

前3人に対しては心の中でのみ突っ込んでいたE組だが、さすがにパンダには声に出して突っ込んだ。

 

「えぇ…もう少し説明しろったってねぇ…」

「パンダはパンダだもんな。」

「しゃけしゃけ。」

(正直僕も説明欲しい…。)

「ん〜、そうだな…奏の兄だ。」

「「「「「余計分かんねぇよ‼︎」」」」」

 

再び突っ込みが炸裂する中、組手をする事となっている小夜はなんとも言えない微妙な表情をしていた。

 

「えぇ…うち、こないな人たちと模擬戦せなあかんの?」

「こんなって。まあそう思わずにはいられないかもだけど。」

「呪術師って大体どっかおかしく奴しかいねーもんな。」

「ま、その話は今はいいっしょ。とりあえず始めよ。あ、みんなも訓練してもらいたかったら別にいーよ。死なない程度にシゴかれるから。」

 

笑いながら奏はそう言って森の中に入っていった。

先程までは平坦な場所での訓練だったので、今度は障害物が多いところでやるつもりらしい。

 

 

ちなみに岡野や磯貝なんかは稽古をつけてもらおうと思っていたが、

 

 

「なんなん⁉︎ホンマになんなん⁉︎何で森の中で長物振るえるん⁈」

「クッソ、マジでふざけんなこの体格差ァ‼︎って不意打ち呪言はホントにキツイって‼︎」

「あかん、あかんよ。ウチの生存本能が近づいたらあかんって言うとる!」

「オラァぁぁぁああ‼︎いい加減スピードくらい落ちろよ、この体力バカ‼︎」

 

 

森の中から二人の絶叫と咆哮が幾度となく聞こえて、やめておこうと思い直したとか。

 

 

===============

 

 

 

朝3時開始地獄の本気組手で体力ボロボロの状態に超スパルタ模擬戦の追撃を二人が受けている一方で、一般人のE組生徒はロヴロの指導を受けながら平和に射撃訓練を続けていた(皆はいつも学校行く時間と同じ)。

そんな中、渚は恐る恐る気になる事を聞いてみることにした。

 

「ロヴロさん、僕が知ってるプロの殺し屋って…今のところビッチ先生とあなたと少し違うけど小夜さんしかいないんですが、ロヴロさんが知ってる中で一番優れた殺し屋ってどんな人なんですか?」

 

ロヴロは渚の質問をしっかり聞きながらも、彼の内に秘められた殺し屋の素質に興味を示していた。

 

「興味があるのか、殺し屋の世界に。」

「あ、い、いや、そういう訳では。」

「そうだな…俺が斡旋する殺し屋の中にそれ(・・)はいない。最高の殺し屋、そう呼べるのはこの地球上にたった一人。この業界にはよくある事だが……彼の本名は誰も知らない。ただ一言の仇名で呼ばれている。曰く『死神』と。」

 

『死神』という名を聞き渚はゴクリと息を飲む。

その名を知っているが会ったことはないイリーナも思わず冷や汗を流す。

 

「ありふれた仇名だろう?だが、死を扱う我々の業界で『死神』と言えば唯一絶対奴を指す。神出鬼没・冷酷無比、夥しい数の屍を積み上げ、死そのものと呼ばれるに至った男。君達がこのまま殺しあぐねているのなら…いつかは奴が姿を現すだろう。ひょっとすると今でも…じっと機会を窺ってるかもしれないな。」

 

ロヴロの説明を聞いた渚は、より一層今回の大規模な暗殺の重大さを感じる。そんな渚の素質を見抜いたロヴロは、この少年の成長を見たくなってきていた。

 

「…少年よ、君には必殺技を授けてやろう。プロの殺し屋が教える…必殺技をな。」

 

 

===============

 

 

 

午後6時

 

少し暗くなってきている空の下、何人かは帰宅し、何人かは射撃訓練を続け、何人かは烏間と模擬戦をしていた。

そんな中グラウンドの端では四人の男女+1パンダが力尽きて倒れており、真希ただ一人だけが勝ち誇ったようという訳ではないが立っていた。

 

「んだよ。結局残るのは私だけかよ。」

「うるせーよ……おまえの体力が…限界突破し過ぎなんだよ……」

「あかん……もう一歩も…動けへん…」

「いつもより…何十倍も……長かった…」

「容赦の「よ」の字も……無かったな…」

 

 

そこへ陽菜乃が全員分のスポドリを持ってやって来た。

 

「皆、お疲れ様〜」

「おう、サンキュー。」

「あんがと…ひーちゃん…マジで生き返る。」

「それは飲み物で…?それとも…目の保養…?」

「両方…」

 

パンダの軽い質問に真顔で奏は答え、陽菜乃は顔を真っ赤にする。

 

「てか陽菜乃も混ざれば良かったのに。」

「何言ってんの兄貴。こんなの一般人に勧められるわけないでしょ。」

「うん、私も遠慮したいな…」

「ウチは寧ろ一回受けて地獄を味わって欲しかったわ。」

「エグいなおい。」

 

そんな風に軽く話をしているが、陽菜乃は何かを迷っているような顔をしていた。しかしやがて覚悟を決めたように頬をパチンと叩く。他の6人はビクッと反応して陽菜乃の方を見る。

 

「何々⁉︎どしたの、ひーちゃん?」

「かーくん、頼みがあるんだけど…」

「ん?何、言ってみ?」

 

 

 

 

 

 

 

「私に呪術を教えてくれない?」

 

 



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第44話:警告の時間

呪術を教えてほしい

 

 

陽菜乃からのこの頼みに一同は「は?」という理解ができない表情をしている。

一番最初に意識が復活したのは奏だった。

 

「…いやいや、ひーちゃん。急に何を言い出すのさ?」

「そのまんまだよ。私に呪術を教えてほしいの。」

「……何故?」

「かーくんの隣に居たいから。」

 

陽菜乃の言葉にまたもや一同は首を傾げる。

 

「俺の隣に?」

「うん。かーくんはさ、とても強い呪術師なんでしょ?」

「まぁ…そうだな。」

「ってことは同じくらい危険な任務に行くことが多いって事だよね?」

「そりゃあそうだな。」

「殺せんせーの暗殺に成功したらかーくんはこの教室から居なくなって、呪術師として危険な事を何回も行う生活に戻るじゃない。それは私も仕方のない事だと思うよ。けど、もし私の知らないどこかでかーくんが勝手に死んじゃったら?もしかーくんがまた一人で色々辛い事を抱え込んでしまったら?それが現実になっちゃったら私は耐えられないよ。」

「…呪術師は常に死と隣り合わせ。まともに死ねる場面なんてほとんど無いもんだよ。」

「例えそうだとしても私は最後まで大好きな人の側に居てあげたい。大好きな人が苦しんでるなら近くで支えてあげたい。けれど今の私のままじゃいずれかーくんと離れちゃう。だから少しでも側で支えるようになるには呪術を教わる事だと思ったの。」

 

陽菜乃は真剣な目つきで一言一言しっかりと口に出す。

その決意を聞いて奏は表には出さないもののとても嬉しく思っていた。大好きな人がこんなにも自分の事を思っていてくれているのだから。

しかしそれ以上の不安を抱えていた。

まず呪力は人間の負の感情が基になったエネルギー。だから天真爛漫な陽菜乃には明らかに向いていないと考えていた。

次に自分でも言ったように呪術師はいつ死んでもおかしくない職業である。そんな世界に何より大事な人を連れて行けるのかと悩んでいた。

そして何より、

 

「そもそもひーちゃん、呪いとか見えないでしょ?」

 

呪術師としての最低限の素質、呪いが見えるか否かという点。動物園デートの時、陽菜乃は呪いに囲まれたことがあったがまるで見えていなかった。だから奏は陽菜乃が見えないものだと思っていた。しかし、

 

 

 

「えーっとね……実は見えるの。」

「……まじ?」

「うん。最近だけどね、見えるようになってきたの。」

「……見え始める前あたりに何か変な事した?」

「イトナ君の二度目の暗殺の後にさ、かーくんが倒れちゃったでしょ?その時出血が凄かったから傷口に口当てて…」

「まさか……血を吸ったの?」

「うん。」

 

陽菜乃が自分の血を吸ったという事実を知り、奏は頭を抱える。

陽菜乃に呪力が流れている原因は自身の術式にあったからだ。

他者の術式を血を介して奪う「血印刻術」には別の効果がある。

それが「血の契約」。自分の血を他者に飲ませる事で自分の呪力を他者に与える能力。陽菜乃の様子を見て分かるように、この術式は呪力の無い人間、更には人間以外の生物にも有効で奏の愛犬のリズにも掛けられている。

しかし誰にでも掛けられる訳ではない。奏が他の術式を奪う時同様に強烈な拒絶反応が起こるからだ。大抵の者はその痛みで死んでしまう程である。

 

(半月何の変わりなく過ごしている以上素質はあるのかもしれないけどさ…それでもなぁ)

 

呪いが見えるという術師としての最低限の素質があるとは分かっても、奏の曇った表情を浮かべている。その表情を見た陽菜乃もどうしたらいいか困っている。その二人の様子を汲み取ってパンダが奏に提案を出す。

 

「いいんじゃないか、奏?教えてやるくらい減るもんじゃないだろ。」

「色々減るわ!主に精神面でゴリゴリすり減るわ!…ってかさ、パンダはその辺どう思ってるんだよ。」

「まあ術師向けのキャラじゃないよな。」

「だろ?」

「そ、そうなの?」

「だって術師って大なり小なり変人ばかりだし。どっかしらイかれてないと続けていけないようなもんだし。」

「それでも私はかーくんに教わりたい‼︎……ダメ?」

 

彼女の上目遣い(ビッチ直伝)に殺されかけてはいたものの何とか平静を保って、奏は渋々妥協案を出す。

 

「……明日、高専に行くよ。そこでテストする。」

「…‼︎うん!」

 

喜ぶ陽菜乃を見て奏は内心でとてつもない罪悪感に襲われていた。

陽菜乃を諦めさせる為には彼女の心を折らなければならないと分かっていたからだ。

 

 

 

============

 

 

 

翌日 呪術高専

 

 

 

「…という訳でテストをここで行います。」

「はーい‼︎」

 

奏と陽菜乃はある特殊な空間にいた。

ここは奏が空の一室に『禍促術式』を付与した部屋。

この効果で室内にいる間は外界より早く時が進む、所謂「精神と時の部屋」的なアレになる。

ちなみに帳とも領域とは違うものなので誰でも簡単に出入りできる。

 

何故奏がこの空間を利用すると決めたのか。

それはもし陽菜乃がテストをクリアした場合、旅行前には基礎を終わらせたいと思ったからだ。

別に島での暗殺に組み込もうとは微塵にも思っていない(そもそも陽菜乃には他の役目がある)のだが、仮に暗殺が失敗した場合、陽菜乃が呪術を使っての暗殺を行うための特訓で夏休み丸々潰すのは、彼女提案とはいえ流石にかわいそうだと思ったのだ。

 

「それでテストって何やるの?」

「……前にも言ったけど、呪いってのは人間の負の感情が基になっている。俺の血を飲んで呪力を得たとはいえ、ひーちゃんは呪力が流れている実感がないでしょ。」

「うん。」

「だから呪力が流れているっていう意識を持たせる。その感覚が無いと基本の呪力操作すら出来ないからね。」

「それで何をすればその感覚が分かるの?」

「………こいつにやってもらう、八咫烏。」

 

奏は深くため息をつき、自身に宿っている呪いの名を呼ぶ。

その呼びかけに応えて、奏の左頬に眼と口が一つずつ現れる。

 

『ククク、久しぶりだなぁ小娘。』

「……え、待ってかーくん。まさかかーくんと本気の模擬戦とか言わないよね?」

「違うよ。」

「だよね!よかった〜…「むしろそっちの方が優しいから。」……え。」

『今から我が貴様に至極簡単な術をかける。それを耐え切れたら貴様の勝ちだ。』

「掛かる術の内容は『過去視』。幼少期に俺がこいつから受けたものと同じ術、俺が起こしてしまった惨劇をその眼で見てもらう。」

「……‼︎」

「ただ見るだけだから怪我なんかは一切ない。だけど術が解けない限り眼を塞ぐことも出来ない。この術から戻って来た時に心が折れていなければ合格。ダメだった場合、ひーちゃんが見た記憶と呪術を学びたいと言った記憶を消す。……最後にもう一度警告する。やめるなら今のうちだぞ。」

 

陽菜乃の眼には恐怖が浮かんでいた。けれど一度深呼吸をして首を横に振る。奏はまたため息をつき、八咫烏に術を掛けさせる。そして陽菜乃はパタンと倒れた。

 



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第45話:深淵の時間

ヤッホー
本編でちゃんと出番が回ってこなくてイラついてる神無だよ〜。

作者はね、二つの理由で投稿が遅れたんだって。

一つは模試がここ数日連続してあったから
もう一つはシャニマス でブライダル夏葉引くためにトゥルー回収に時間かけてたから、だって。

私も読者の皆の気持ちを代弁して作者に怒っといたよ〜。
まあそんなこんなで本編スタート!


あ、ちなみに夏葉は引けてもブライダルフレデリカちゃんは引けなかったって。哀れだね。


奏は倒れた陽菜乃を支えて、彼女の身体を横にする。

今はまだ安らかな寝顔を眺めながら八咫烏に問う。

 

「…ひーちゃんは耐えられると思う?」

『普通に考えれば無理であろうな。だがそれはただの貴様の願望だろう?』

「……」

『貴様が大切な人間の心を折ろうとするほどだからなぁ。だが9年前の時も小娘は想定外の事態を起こした。その事を忘れるな。』

 

奏はまるで何かに縋っているような顔で陽菜乃を見続けた。

 

 

 

 

 

=========

 

 

 

 

 

「……ん、ここは…?」

 

目覚めた陽菜乃が見たものは、大きな木造の屋敷内のベビーベッドで眠る赤ん坊とその子を愛しそうに見る大人達だった。

すぐに陽菜乃はその赤ん坊が奏であると気づいた。

 

「わ〜〜…可愛いなぁ、生まれたばかりのかーくん…」

 

写真を撮ることが出来ないのを心底悔しがりながらも、頰は完全に緩み切っていた。今から自分の目の前でこの幸せそうな光景が壊されることも忘れるほどに。

 

そのまま時間は進む。

地獄が始まるのは奏が5歳の時であり生まれた直後からその時まではとても長いはずなのに、何故かとても早く感じた。それが術の影響なのかそれとも奏を延々と見ているだけで楽しいと感じているからなのか、どっちなのこは陽菜乃も知らない。

 

そして遂にその日が来た。尤も陽菜乃は忘れていたが。

あの地獄が起こる数時間前、今までとは違う出来事を陽菜乃は目撃した。

深夜2時、所謂丑三つ時に一人の女が寝ている奏の部屋に入って来た。

その女を陽菜乃は知らない。視点が固定されてるとはいえ、5年分の光景を見ていれば流石に使用人の顔くらいは覚えていた。だがその女は見たことがない。しかし一方で何処かで会っている気がすると陽菜乃は思った。

女が入って来たことに奏も奏の両親も気づいていない。まるで幽霊みたいに現れた。

女は少し悲しそうな顔を浮かべ、奏の胸にそっと手を当てる。

しばらく何かを唱えていたが、やがて手を退けてまた幽霊のように部屋から出て行った。

 

 

そして幸せは崩れ去る。

 

身体を乗っ取られて家族を惨殺する奏

 

それを知らぬ間に行っていた事に絶望する奏

 

自らを殺そうとする者たちを殺し返す奏

 

自ら命を断とうとするも蘇ってしまう奏

 

2年、この時間が果たして長いのか短いのかは分からない。

だがこの時間–最愛の人が絶望し続けた時間–が陽菜乃も絶望させるのは火を見るより明らかである。

 

 

「もう嫌……もう…やめて……」

 

陽菜乃の心はとっくに折れていた。

否、陽菜乃で無くとも一般人が耐えられるはずが無い。

 

 

 

そう、耐えられるはずが無かったのだ。

 

 

 

過去の奏と同じく、絶望仕切っていた陽菜乃が次に見た光景は幼い自分が奏と出会った時のものだった。

 

 

八咫烏に身体を支配されかけながらも陽菜乃を殺させまいと必死に抵抗する奏、その時幼い自分は彼を抱いて言った。

 

『大丈夫だよ。かーくんの側には私がいるよ。だから大丈夫だよ。』

 

 

 

その言葉を聞いた陽菜乃の心の中に一筋の光が見えた。

 

 

(…私の心はどうして折れたの?覚悟が甘かった?かーくんの過去を受け止めることが簡単だとでも思ってた?死ぬのが怖い?……ううん、違う。焦ってるんだ。かーくんがどっか遠くに消えちゃいそうで、小夜ちゃんに居場所を取られそうで、その焦りと恐怖にこのショックが加わって耐えられなくなっちゃったんだ。)

 

(もう一度考えよう……私は、どうしたい?)

 

(……そうだ、私はずっとそう思ってきたじゃない。かーくんをずっと隣で支えられるようになりたいって、これまでも、これからも。ただそれだけの…簡単な願い。)

 

(簡単だけど、とても怖くて厳しい道で……けどあなたが側にいるなら…!)

 

 

===============

 

 

陽菜乃が意識を失って約二時間後、陽菜乃は目覚めた。

汗をかき呼吸は荒い。が、その眼には昨日より遥かに固い意志を感じる。

対して奏は当然驚いていた。思考はフリーズして言葉も出ない。しかし陽菜乃が自分の方を見て

 

「ただいま。」

 

と言うと、ハッと我に返り、呆れたようにため息を吐くと、苦笑しながら

 

「お帰り。」

 

と返した。

 

 

 

============

 

 

「……まーさか、本当に帰ってくるとは。」

「うん、私もびっくりしてる。一度心折れちゃったもん。」

 

陽菜乃は少しバツが悪そうに笑うと、真剣な顔をして向き合う。

 

「かーくん、改めて聞いて欲しいんだ、私の決意。」

「…おう。」

「私本当はね、少し嘘をついていたんだ。もちろんかーくんを隣で支えたいっていうのは本当だよ?けどね、もう一つの理由は小夜ちゃんに嫉妬してたからなの。」

「嫉妬?」

「うん。殺せんせーの暗殺に成功したらかーくんは高専に戻っちゃって離れ離れ。けど殺せんせーの暗殺では小夜ちゃんとコンビ組むことが多くなってきているよね。それがとても悔しいの。かーくんの隣は私の場所なのにーって。だからあの場所を取り返すには私が強くならなきゃいけない。けどただナイフの腕上げるとかじゃダメ。」

「だから呪術を、か…」

「焦りと恐怖と嫉妬と……色んな良くない感情を抱いてる中、あの記憶を見たら、一回ダメになっちゃった。けどね…昔の私が教えてくれたんだ。私の思いは今も昔も、そしてこれからも変わらない。ただかーくんを一番近くで支えていたい。嫉妬とか焦りとかは全部あそこに置いてきた!…だから、改めて私に呪術を教えて下さい‼︎」

 

「……正直に教えてくれてありがとう。だから俺も正直に向き合う。大切な人を死地に置くのは本当に怖い。自分が守ってるだけで良いって思ってた。けどそれじゃ…ダメだよね。お互いに支え合う、それが一番良い関係なんだって分かった。だから教えるよ、呪術。」

 

奏はニヤリと笑い、陽菜乃はパァっと表情を輝かせた。

 

 

============

 

 

直ぐに擬似「精神と時の部屋」にて奏による呪術講義が始まった。

だが奏の最初の一言は陽菜乃にショックを与えた。

 

「まず最初に言っとくよ。……ひーちゃんは呪術は使えても術式は使えません。」

「えぇぇ〜〜〜‼︎⁉︎」

 

術式というものは基本的に生まれつき身体に刻まれているものである。故に呪術師は才能がほとんどと言われている。

 

「俺の血は呪力しか渡せないからね。奪った術式を渡すことは出来ないんだよ。」

「そんなぁ…」

「だからこれから教えるのは呪力出力の調整、その後は呪力による身体能力の強化…が、一番オーソドックスなんだけど…」

「けど…?」

「ひーちゃんはカルマとか片岡さんみたいな近接戦闘タイプじゃないでしょ?呪力で強化ができるようになっても、元々があまり得意じゃなかったらイマイチだもの。」

「じゃあ何するの?術式は出来ないんでしょ?」

「まぁ焦るな。ひーちゃんにはこっち(・・・)を用意しているから。」

 

そう言い奏は何枚かの紙を取り出した。

 

 

 



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第46話:島の時間

ロヴロを招いて行われた特別訓練から1週間が経った今日、E組は大規模暗殺計画の舞台、普久間島へ向かっていた。

 

周りが海を眺めたり船内を探索している中、食堂で奏は数枚の書類とスマホの画面を交互に見ながら難しい顔をしていた。

そこに烏間が入ってきた。

 

「奏君、ここにいたのか。」

「烏間先生、もう集合時間ですか?」

「いや、まだだ。ただ見回りに来ただけだから気にしなくていい。…ところで何を見ているんだ?」

「ただの任務の書類です。あっちで一件こなさなくちゃいけない問題が出来たので。」

「…聞いていないぞ。」

「アハハ、実は俺も昨日言われたばっかなので。でも殺せんせーの暗殺が済んだらでいいって言われてるので、暗殺計画には支障をきたさないです。」

「そうか、それならいいが…いや。君の教師として言わせてもらう。」

 

奏の後ろに立っていた烏間は奏の正面に座り、いつもと変わらない、しかし少し心配そうな様子で話し出した。

 

「以前他の生徒には言ったが、俺は君達に払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保障することだと思っている。それはこの教室に来る前から既に普通の中学生じゃなかった君も例外じゃない。だから君も呪術師であることに囚われすぎず、彼等と普通の中学生の様な生活をもっと過ごしてもいいんだぞ。」

 

奏は少し驚いたように目をパチクリさせるが、すぐにクシャッと笑った。

 

「ご心配ありがとうございます。けど俺はもう皆から沢山の普通の生活を貰っています。だから俺は呪術師として皆の普通を守りたいんです。」

「……そうか。やはり君には不要な心配だったか。」

 

烏間はいつものようにフッと笑い、食堂から出て行った。

そして奏はまた書類とスマホとの睨めっこに戻った。

 

 

「……にしてもまーた面倒くさい案件持ち込みやがって。」

 

奏が見ているスマホには、腹部を刃物かなにかで切り裂かれて上半身と下半身の二つに綺麗に分けられた死体の画像が写っていた。

 

 

==================

 

 

 

東京から6時間かけて、一行を乗せた船は目的地に到着した。

船から降りると、港にこの場にはあまり相応しくない白いシャツを着た女性がいるのに気がついた。女性はどこか困った風にこちらを見ている。

 

「…なぁ、あの人誰だ?」

「見たことない…よな。」

「烏間先生の部下の人とかか?」

「いや、あんな者は俺も知らない。」

 

皆が女性を不審に思っている時、奏が陽菜乃や小夜と共に最後に船から降りてきた。だが女性を見た瞬間に面倒くさそうな顔をする。

一方、女性は奏に気づくとパァっと顔を輝かせ、走り出す。

 

突っ込んでくる女性を避けようと奏は右に身体をずらすが、女性もそれに合わせて進行方向をずらし奏に抱きつく。

 

「奏君ーーーーー‼︎‼︎」

「ぐぁっ⁉︎…もろ腹に入った……!」

 

悶絶する奏、その奏にまるで猫のように身体をすり寄せる女性、その2人を光の消えた眼で見る陽菜乃と小夜、血涙を流す前原&岡島。

この中々にカオスな事態をまとめようと烏間が話を切り出す。

 

「……苦しそうなところ申し訳ないが、その女性が誰だか説明してもらえるか、奏君?」

「烏間先生の言う通りだよ。私もちゃんと聞きたいな、かーくん?」

「せやなぁ…こないなこと、しっかり説明してもらわないとあきまへんえ?」

 

顔は笑っているが眼は笑っていない陽菜乃と小夜に奏含め全員がビビる。

奏は少し苦しそうに答える。

 

「…も、もちろん…説明するさ…。一部は会ったことあるだろうけど……この人は三輪霞…俺の姉みたいな人で……今回の俺の任務のサポートに着くんだと…」

「初めまして、奏君の『最愛の』姉の三輪霞です。どうぞよろしくお願いします。」

 

唯一、三輪だけは2人の威圧に怯むことなく威圧で返す。

 

修学旅行で助けてもらった片岡や矢田、茅野らは思い出したようだが、奏から離れようとしない三輪を引き剥がそうとする陽菜乃と小夜を見て、奏に「ご愁傷様」と心の中で哀れんだ。

そしてまさか三輪が来るとは聞かされていなかった奏もまた、「人選ミスだろ」と心の中で叫んだ。

 

 

===============

 

 

陽菜乃達3人の10分近く続いた格闘(?)は終わり、皆は修学旅行の時の四つの班に分かれて、班ごとに時間分けをして殺せんせーと遊んでいる。

 

だが実はその遊びのもう一つの目的は陽動である。

計画通り暗殺を行うため、綿密に現地をチェックする必要がある。その様子に目が行かないようにする為、1つの班が遊ぶことで殺せんせーの注意を引き付けているのだ。

 

ちなみに修学旅行には行かなかった小夜は4班にいる。

本人は少し残念そうであった。

 

 

そして奏と三輪もホテルのコテージで任務の確認をしていた。

 

「奏君はあっちに行かなくていいんですか?」

「ん〜、まぁね。多少は遊んだし、舞台のチェックも小夜さんと済ませてきたし、それに…」

「それに?」

「高いの無理。」

「あぁ…」

 

奏の1班は2人1組で自転車とハングライダーが合体した乗り物で遊んでいたのだが、高所恐怖症の奏はこれを拒否。前原や矢田が陽菜乃と乗ってやれと説得しても「これはマジで駄目」の一点張りに加え、それを理解している陽菜乃が仕方ないと決めた事で奏だけ辞退となった。

ちなみに陽菜乃は当然周りを牽制するように埋め合わせを要求してきた。

 

「まぁその事は置いといて、本題に入ろう。」

「そうですね…奏君は今回のターゲットについてどこまで知ってるんですか?」

「ゴリゴリの近接型、刀使い、本人よりも獲物の方がヤバいってことくらいかな。」

「術式は?大雑把でも分からないんですか?」

「うん、俺の前で使ったの見たこと無いからさ。……いや、俺に限らず、あの人が術式使うの見たことがある人は数えるほどしかいないな。」

「なるほど……作戦はどうしますか?」

「術式不明でもある程度は手の内が割れてるから俺が前、霞姉は後ろで待機。」

「……私、出番あります?」

「無いね。」

「そんなにはっきり言いますか⁉︎」

「いやだって内容知らされた時、サポートはマジで憲紀さんかメカ丸だと思ってたし。ホントに今回は二重の意味で人選ミスだと思った。」

「二重⁉︎」

 

ショックを受ける三輪を見つつ、今回の人選は五条(愉快犯)歌姫(苦労人)って経由だろうと奏は推測を立てていた。

 

「…あっ!ところで奏君!何で勝手に彼女作ってるんですか⁉︎」

「え、何か問題あるの?」

「あらかじめ教えて下さいよ!一言くらい相談してくれてもいいじゃないですか!それに!彼女どころか他の女の子まで誑かして!彼女だけでも私は我慢できないのに‼︎」

「霞姉が何に我慢できないのかまるで分からねえし、誑かしたなんて人聞きの悪いこと言うな。」

 

 

 

==================

 

 

各班の活動が終わり、夕陽が沈みかける海上に一隻の船がある。

E組が貸し切った船上レストランである。

 

「さて殺せんせー、夕飯はこの貸し切り船上レストランで夜の海を堪能しながらゆっくり食べましょう。」

 

磯貝の言葉に殺せんせーは冷や汗を流す。

 

「…な、なるほどねぇ…まずはたっぷりと船に酔わせて戦力を削ごうというわけですか。」

「当然です。これも暗殺の基本のひとつですから。」

「実に正しい。ですが、そう上手く行くでしょうか。暗殺を前に気合の乗った先生にとって、船酔いなど恐るるに…「「「「黒いわ‼︎」」」」」

 

少し焦ってはいたものの何時もの余裕を取り戻した殺せんせーに一同は思わず突っ込む。しかしそれも当然のことで、殺せんせーは真っ黒に日焼けしていたのだ。

その焼け具合は歯まで黒くなり表情は読み取れず、前後の区別もつかないほどである。

 

「ややこしいから何とかしてよ。」

「ヌルフフ、お忘れですか皆さん、先生には脱皮がある事を。黒い皮を脱ぎ捨てれば、ホラ、元どおり。」

 

 

 

 

「「「あ……」」」

 

 

 

「ん?どうしました、皆さん?」

「いや、それ…月一の脱皮…」

「こんな使い方もあるんですよ。本来はヤバイ時の奥の手ですが…………あ″っ!」

 

 

安定のドジで自ら戦力を減らす殺せんせーを見て、奏と小夜は「仕事減ったな〜」と心の中で呟いた。

 




三輪ちゃんは暗殺計画には参加しません。

流石に飛び入りは計画が破綻しかねないので。


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第47話:決行の時間

最近、デレマス・シャニマス 物とかポケモン物とかライダー物とか書きたい物が多過ぎて困ってます。

神無「文才ゴミな癖に多忙で投稿頻度低いのに何考えてんの⁉︎スケジュール管理下手くそなの⁉︎そんなこと考えている暇あるなら早くこの作品書いて!はよ私を出せ‼︎」

↑ガチ正論な。


一同は船内ディナーを終え、殺せんせーを今回の暗殺の会場へ案内した。

因みに殺せんせーは結局酔った。

 

「会場はこちら、このホテルの離れにある…水上パーティールーム。ここなら…逃げ場はありません。」

「さ…席につけよ、殺せんせー。」

「楽しい暗殺。まずは映画鑑賞から始めようぜ。」

「まずは三村が編集した動画を見て楽しんでもらい、その後テストで勝った10人が触手を破壊し、それを合図に皆で一斉に暗殺を始める。それでいいですね、殺せんせー?」

「ヌルフフフ、上等です。」

 

パーティールームは木製の小さな小屋となっており、周囲は海で囲まれている。殺せんせーなら小屋を破壊して脱出できない事もないが、壁や窓に対先生物質が仕込まれている可能性を考慮すると、室内で回避する方が賢明である。

 

渚が殺せんせーにボディチェックをしている間に、奏はアームウォーマーを取って三輪に預けた。先程までとは違い真剣な表情の奏を見て、三輪は何も言わずにそれを受け取る。

同じように小夜も真剣な表情になり、髪を縛る。

 

殺せんせーは既に席に着いていた。

 

「準備はいいですか?全力の暗殺を期待してます。君達の知恵と工夫と本気の努力、それを見るのが先生の何よりの楽しみですから。遠慮は無用、ドンと来なさい。」

「言われなくとも。上映(はじ)めるぜ、殺せんせー。」

 

岡島が照明を落とすと、動画が始まる。

タイトルは『3年E組が送るとある教師の生態』。

 

上映中、この後に触手を破壊できる10人を除いた生徒たちがしきりに後ろの唯一の出入り口を行ったり来たりしている。位置と人数を明確にさせない為だ。

 

(…しかし甘い。2人(・・)の匂いがここに無いのを分かっていますよ。四方が海のこの小屋ですが、ホテルに続く一方向だけは近くが陸だ。そちらの方向から…E組きっての狙撃者(スナイパー)、速水さんと千葉君の匂いがしてきますねぇ。)

 

このような苦手な環境であろうといつもの様に的確に状況を分析する。

その一方で殺せんせーは三村作の動画に見入っていた。

しかしその余裕を保てるのもここまでであった。

 

『…まずはご覧頂こう。我々の担任の恥ずべき姿を。』

「にゅやあああああ‼︎⁉︎」

 

突如画面に映されたのは、夏休みに岡島のエロ本トラップに虜になっていた時の殺せんせー。

さらには陽菜乃とエロ本の山の上で跳ねてるシーンまで乗せられている。

 

『お分かり頂けただろうか。最近のマイブームは熟女OL。全てこのタコが一人で集めたエロ本である。』

「違っ…ちょっ、岡島君達!皆に言うなとあれほど……ハッ⁉︎」

 

ニヤニヤ笑う皆に必死に言い訳をしようとする殺せんせーだが、ある一点に目がいってしまい顔色が一気に赤から青へ変わる。

殺せんせーが見たもの、それはすすり泣きをしている(嘘泣きだが)陽菜乃と、その陽菜乃を抱き寄せ零下273度にも及ぶであろう冷ややかな視線を送る奏である。

しかしこれだけでは終わらない。

 

『お次はこれだ。女子限定のケーキバイキングに並ぶ巨影、誰であろう、奴である。バレないはずがない。女装以前に人間じゃないとバレなかっただけ奇跡である。』

「クックック。あーあ、エロ本に女装に恥ずかしくないの、ど変態?」

 

狭間の追撃の言葉に顔を真っ赤に戻して俯く殺せんせー。

 

『給料日前の奴である。分身でティッシュ配りに行列を作り、そんなに取ってどうすんのと思いきや…なんと唐揚げにして食べだしたではないか。教師…いや、生物としての尊厳はあるのだろうか。こんなものでは終わらない。この教師の恥ずかしい映像を1時間たっぷりお見せしよう。』

(あと1時間も⁉︎)

 

こうして開始10分足らずで渚提案・提供の精神攻撃は見事に成功した。

 

 

===============

 

 

1時間後

 

 

「…死んだ…もう先生死にました…あんなの知られてもう生きていけません……」

 

殺せんせーはまるでアスファルトに投げ捨てられたタコのようになっていた。

だからこそ気づかなかった。触手がたっぷりと海水を吸っていたことに。

 

(…まさか、満潮か‼︎)

 

「俺らまだなんにもしてねぇぜ。誰かが小屋の支柱を短くでもしたんだろ。」

「船に酔って、恥ずかしい思いして、海水吸って、だいぶ動きが鈍ってきたよね。」

「さあ本番だ。約束だ、逃げんなよ。」

 

満点を取った10人がそれぞれ銃を構える。

それでいても殺せんせーは狙撃手のいる方向さえ警戒しとけばまだ何とかなると思っていた。

 

計15本の触手が破壊されるのと同時に小屋の壁が崩壊した。

代わりに出来たのはなんとフライボードによる水圧の檻。

 

殺せんせーが苦手とするのは、急激な環境変化。弱った触手を混乱させることで反応速度をさらに落とす作戦である。

檻の外では、渚と茅野がホースを使い、陽菜乃がイルカを指揮してフライボードの隙間を埋めていく。

 

檻の中では海から浮上した律の合図で一斉に射撃を開始している。

しかしこの射撃は「殺す」ためではなく、逃げ道を塞ぐために「囲う」もの。

そして、

 

「ニュッ…‼︎」

 

「権利を終えたら追加で貰っちゃダメとは言われてないよね?」

「当然、避けてもええよ。厳しいやろうけど。」

 

それぞれ愛刀を構えた奏と小夜による両サイドからの肉薄攻撃。

普通なら弾幕の中で近接戦など出来たものではないが、2人はどう動けばいいか熟知している。

 

(2人共厄介ですが…とにかく気をつけるのは奏君の手の動き!そこを第一に……えっ!?)

 

殺せんせーがテンパりつつも打開策を練ってる中、その策を1発で崩すかのように奏が消えた(・・・)

正確に言えば、下に落ちたのだ。

小屋に施した細工は全部で3つ。

1つ目は海水を入れるために低くした支柱。

2つ目は発砲と同時に壊れるようにした木製の壁。

そして3つ目は小屋の数カ所に仕込んだ、数回踏むと下の海に落ちる床。

 

奏の動きと狙撃手の位置を真っ先に警戒するだろうという予想から設置された仕掛けにまんまと引っかかって、殺せんせーは背後の小夜から触手をさらに一本取られる。

 

そしてここからが奏の本領である。

『氷淵』を使い空中にいくつもの氷の板を形成しては破壊するを繰り返す。

小夜の得意とする四次元殺法を可能にするためのサポートなのだが、それだけでなく弾幕として放たれた弾丸を「跳ね返し」、死角から撃ち込む。上の様子は『百々目鬼』で把握して、目まぐるしく動く舞台に常に最適な支援を送る。

 

そしてこれら全てのお膳立てを踏まえた上でトドメの2人、千葉と速水が奏と入れ替わりに水中から浮上する。

殺せんせーが嗅ぎつけていたのは2人が昼間着ていた服を着させたダミー。

発砲音も匂いも水が全てかき消してくれる。

 

((もらった‼︎))

 

2人は引き金を引く。

弾丸が顔に命中する直前、殺せんせーは飛んできた方を見た。

 

(よくぞ…ここまで‼︎)

 

 

そして次の瞬間、殺せんせーの全身が閃光と共に弾け飛んだ。

 

その衝撃で元から檻の外にいた渚、陽菜乃、茅野以外の全員が海中に吹き飛ばされる。

 

「殺ったか⁉︎」と誰かが叫ぶ。

今までとは明らかに違う手応えを皆感じていた。

 

ただ1人、奏だけを除いて。

彼もまた衝撃で吹き飛ばされたのだが、百々目鬼を介して殺せんせーの身体が一瞬縮んだのを見た。閃光でその後はどうなったかまでは分からなかったものの、あの状況で殺せんせーが何かをしたという事だけは分かった。

奏はすぐに海中に潜る。

ほんの少し遅れて烏間の指揮で片岡が中心となり水面を見張る。

 

やがて奏が浮上する。

 

「奏君、奴は‼︎」

 

烏間の質問に奏は複雑そうな顔をすると、無言でその両手に持っていたものを高く掲げる。

 

それは殺せんせーの顔が入った、透明とオレンジ色の球体であった。

 

((((何だあれ⁉︎))))

 

「これぞ先生の奥の手中の奥の手、完全防御形態‼︎外側の透明な部分は高濃度に凝縮されたエネルギーの結晶体です。肉体を思い切り小さく縮め、その余分になったエネルギーで…肉体の周囲をがっちり固める。この形態になった先生はまさに無敵‼︎水も対先生物質も、あらゆる攻撃を結晶の壁がはね返します。」

 

「しかし…それならずっとその形態でいたらいいのでは?」

 

ここまでの殺せんせーの説明を聞いていた三輪が当然の疑問を口にする。

 

「ところがそう上手くはいきません。このエネルギー結晶は…24時間程で自然崩壊します。その瞬間に先生は肉体を膨らませ、エネルギーを吸収して元の体に戻るわけです。」

 

「…ということは結晶が崩壊するまでの24時間、先生は全く身動きが取れないゆうことどすか?」

 

「ええ、そうです。これは様々なリスクを伴います。最も恐れるのは、その間に高速ロケットに詰め込まれ、はるか遠くの宇宙空間に捨てられる事ですが…その点は抜かりなく調べ済みです。24時間以内にそれが可能なロケットは今世界のどこにも無い。」

 

完敗

 

その二文字が皆の頭の中に浮かんだ。

自身の隠し技の欠点を計算した上で、殺せんせーは今回の暗殺に臨んだのだ。

 

「何が無敵だよ。何とかすりゃ壊さんだろ、こんなモン。」

 

寺坂がスパナを取り出して殺せんせーを叩くがまるで通用しない。

奏の氷剣や三輪の刀、小夜の短刀なども試してみたがことごとく効かない。

殺せんせーは「核爆弾でもキズ一つつかない」と余裕そうに言う。

 

しかしそれを聞いてカルマはニヤリと笑って、殺せんせーの自分の携帯を見せる。

画面には先程のカブトムシコスでエロ本を読む殺せんせーの画像。

 

「にゅやーーっ‼︎やめてーー‼︎手が無いから顔も覆えないんです‼︎」

 

「ごめんごめん。じゃ取り敢えず至近距離で固定してと…」

 

「全く聞いてない‼︎」

 

「そこで拾ったウミウシも引っ付けとくね。」

 

「ふんにゅああああっ‼︎」

 

「あと誰か不潔なオッさん見つけて来てー。これパンツの中にねじ込むから。」

 

「助けてーっ‼︎」

 

皆が改めてカルマの才能に恐れおののく。

そんなカルマから烏間は殺せんせーを取り上げて、ビニール袋に放り込む。

 

「……取り敢えず解散だ、皆。上層部とこいつの処分法を検討する。」

 

「ヌルフフ、対先生物質のプールの中にでも封じ込めますか?無駄ですよ。その場合はエネルギーの一部を爆散させて…さっきのように爆風で周囲を吹き飛ばしてしまいますから。」

 

「……‼︎」

 

「ですが皆さんは誇っていい。世界中の軍隊でも先生をここまで追い込めなかった。ひとえに皆さんの計画の素晴らしさです。」

 

殺せんせーは何時ものように皆を褒めるものの、渾身の一撃を外したことで皆の落胆は隠せなかった。

 

奏、小夜、千葉、速水の4人は特にだ。

 

律は完全防御形態の正確な情報が無いとはいえ、もしかしたら殺せていたと言う。

いかに練習を積んだと言えども、本番のプレッシャーに指先が硬直して引き金を引けなかった。練習と本番の違いを千葉と速水は改めて実感する。

 

そして奏と小夜も、皆で成功させるという覚悟に押し潰されていた。

絶対に決めると自分自身で誓ったからこそ、焦りが生まれて負けてしまった。

 

疲労感とショックを抱えて、一同はホテルに戻って行った。

 

 




釘崎いたらいつでも殺せた定期。


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第48話:異変の時間

奏、陽菜乃、小夜、三輪、千葉、速水の6人がホテルに最後に戻ってきた。

6人は真っ先に異変に気がついた。

 

前原は呼吸が荒く、身体は震えている。

三村は腹を抑えながら机に突っ伏し、コップを落としている。

狭間や村松、中村はそれぞれ机と壁にもたれかかり、神崎も吐き気を抑えるかのようにうずくまる。

岡島は何故か鼻血が止まらず必死に塞ごうとし、杉野と原は苦しそうに喉元を抑えて俯いている。

どれも明らかに疲労から来るものではない。

 

「どうなってるんだ…?」

 

奏は烏間の姿を探す。

ちょうど彼はフロントと話をしていた。

恐らく病院がどこにあるのか聞いているのだろうが、こういう小さな島では小さな診療所しかなく、医者もずっと島にはいない。

時間ももう遅く、最終便は既に出てしまっている。

 

その時、烏間の携帯に電話がかかってくる。

発信者は変声期を使っていた。

 

『…やぁ、先生。可愛い生徒がずいぶん苦しそうだねぇ。』

「何者だ。まさかこれはお前の仕業か?」

『ククク、最近の先生は察しがいいな。人工的に作り出したウイルスだ。感染力はやや低いが、一度感染したら最後…潜伏期間や初期症状に個人差はあれ、1週間もすれば全身の細胞がグズグズになって死に至る。治療薬も一種のみの独自開発(オリジナル)でね、あいにくこちらにしか手持ちがない。渡すのが面倒だから…直接取りに来てくれないか?』

 

 


 

 

謎の人物は一方的に話を進め、一方的に切り上げた。

 

その内容は殺せんせーを1時間以内に山頂の『普久間島殿上ホテル』の最上階に、1時間に持ってくること。

運び屋は最も背の低い男女2人、すなわち渚と茅野を指定し、外部と連絡を取ったり少しでも遅れた場合、薬は即爆破するとのこと。

 

そしてそのホテルというのがこれまた厄介な存在だった。

 

『伏魔島』の別名を持つこの島のあのホテルは国内外のマフィア勢力や、それらと繋がる財界人が出入りしているらしい。

私兵の警備、違法な商談、ドラッグパーティー……などなど黒い話ばかりで警察も迂闊に手を出さないとのこと。

 

 

そこまで聞いて、奏は無言で立ち上がった。

 

「奏君、どうした?」

「俺が1人で行ってきます。」

「「「「え⁉︎」」」」

「それは認められない。危険過ぎる。」

「じゃあ素直に渚と茅野さんに行かせます?それこそ誘拐されて逃げられたら終わりですよ。」

「シカトすりゃいーだろ!今すぐ都会の病院に…」

「それはダメだ、寺坂。向こうはオリジナルのウイルスで1週間あれば死ぬと言っていた。となると抗ウイルス薬は製作者以外持ってない。例えあったとしても製作に1週間以上かかるのなら詰みだ。」

 

もし仮に殺せんせーが動けていたら、まだ手の打ちようはあっただろう。

しかし殺せんせーは24時間身動きができない。

 

「流石に1人はあかんとちゃいます?ウチも行きます。」

「私もです。奏君の友達がここまでされて見過ごすわけにはいきません。」

 

小夜と三輪も付いて行こうとするが、殺せんせーが三人を呼び止める。

 

「待ってください。まだ良い方法がありますよ。律さんに頼んだ下調べも終わったようですし、元気な人は来て下さい。汚れてもいい格好でね。」

 

 

 

 

 

殺せんせーが指示したのはホテルの裏手の崖だ。

 

『あのホテルのコンピュータに侵入して、内部の図面を入手しました。警備の配置図も。正面玄関と敷地一帯には大量の警備が置かれています。フロントを通らずホテルに入るのはまず不可能。ただ一つ、この崖を登ったところに通用口がひとつあります。まず侵入不可能な地形ゆえ…警備も配置されていないようです。』

 

「敵の意のままになりたくないなら手段は一つ、患者9人と看病に残した2人を除き、動ける人員全員でここから侵入し、最上階を奇襲して、治療薬を奪い取る‼︎」

 

殺せんせーの提案に全員が息を飲む。

目に見えて危険なのはもちろん、やり口からして相手は確実にプロだろう。

加えて殺せんせーは生徒たちの安全を守れない。

 

「どうしますか?全ては君達と…指揮官の烏間先生次第です。」

 

「…それは……ちょっと…難しいだろ。」

「そーよ、無理に決まってるわ‼︎第一この崖よ、この崖‼︎ホテルに辿り着く前に転落死よ‼︎」

 

烏間もイリーナと同意見だった。申し訳ないと思いながらも奏に頼もうとして顔を上げた時、そこには誰もいなかった。なんと既に皆、崖を軽々と登っていた。

 

「いやまぁ…崖だけなら楽勝だけどさ。」

「いつもの訓練に比べたらね。」

「ねー♪」

 

一度全員が止まって、烏間の方を見下ろす。

 

「でも未知のホテルで未知の敵と戦う訓練はしてないから、烏間先生、難しいけどしっかり指揮を頼みますよ。」

「おお、ふざけたマネした奴等に…キッチリ落とし前つけてやる。」

「今俺が1人で行ったら漏れなく皆殺しになるので、ブレーキお願いしまっす。」

 

「見ての通り彼等は只の生徒ではない。貴方の元には17人の特殊部隊と協力者が1人いるんですよ。さぁ、時間は無いですよ?」

 

烏間は覚悟を決めて、本来の職業である軍人らしい指令を皆にかける。

 

「注目‼︎目標、山頂ホテル最上階‼︎隠密作戦から奇襲への連続ミッション‼︎ハンドサインや連携については訓練のものをそのまま使う‼︎いつもと違うのはターゲットのみ‼︎3分でマップを叩き込め‼︎19時50分作戦開始‼︎」

 

「「「「「応‼︎」」」」」




少し補足

奏たちだけで行った方が良かったんじゃないのと思うでしょうが、ガチギレしてた奏は正面から皆殺しするはずです。
となると黒幕がそれに気づき薬を破壊するでしょう。
それを考慮して殺せんせーは本編のを提案しました。


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第49話:潜入の時間

今回短めぇ

そろそろ小夜はんの設定を書かなあかんことを忘れてました。

ちゃんと書くよ?


普久間殿上ホテル潜入作戦 開始直後

 

出撃メンバー20人はすいすいと崖を登っていた。

先頭を行くのはE組一の身軽さを誇る岡野と小夜、変わった地形に慣れている奏の3人。

一方最後尾には烏間。

本来なら彼が先頭に立つべきなのだが、崖を登れないイリーナ、動けない殺せんせーを抱えての登山故にしんがりの意味も込めて一番後ろにいる。

 

ちなみにイリーナがついて来た理由は、「留守番とか除け者みたいで嫌だから」との事。

 

裏口に到着した後、律が電子ロックを解除する。

 

『監視カメラが私達を映さないよう細工することもできますが、ホテルの管理システムは多系統に分かれており、全ての設備を私1人で掌握するのは不可能です。』

「…流石に厳重だな。律、侵入ルートの最終確認だ。」

『はい、内部マップを表示します。私達はエレベーターを使用できません。フロントが渡す各階ごとの専用ICキーが必要だからです。従って階段を登るしかないのですが…』

「…バラバラに配置されてるな。テレビ局とかと同じ構造か。」

「どゆこと?」

「テロリストとかに占拠されにくくするよう、複雑に設計されとるんどす。時間稼ぎとか分断とかを楽に行えるんよ。」

「こりゃあ悪い宿泊客が愛用するわけだ…」

 

烏間の指示で、足音を立たずにホテル内に潜入するが、早くも立ち止まらざるを得なくなる。

ロビーだ。

今全員がいる位置から非常階段までの距離は短いが、それでいても全員が見つからずに通過するのは不可能な程警備が多い。

 

(ここはやはり人数を絞って潜入するか?いや、敵も複数の可能性が高い。今の生徒達でも二、三人では危険すぎる。)

(百々目鬼の視界操作をやるか?駄目だ、たとえここで見つからなくてもロビー全体で異常事態が起こったら警戒度が高まる。階段と通路しか使えない以上、一階から警戒レベルを上げるのは…)

 

烏間と奏が策を練っている時、イリーナが呑気そうに提案する。

 

「何よ、普通に通ればいいじゃない。」

「な…!状況判断も出来ねーのかよ、ビッチ先生‼︎」

「あんだけの数の警備の中、どうやって…」

 

生徒達の非難の声にも構わず、側に置いてあったワイングラスを持ってイリーナは普通にロビーに向かって歩き出した。

 

(もちろんシラフなのだが)イリーナは酔った風に歩き、警備の1人にぶつかる。

イリーナの美貌にやられた警備に対し、ピアニストのふりをしてピアノの調律の確認を要求するイリーナ。

その見事な腕前で警備、生徒を問わずに一瞬で虜にする。

 

(幻想即興曲ですねぇ。腕前もさることながら、魅せ方が実にお見事。色気の見せ方を熟知した暗殺者が…全身を艶やかに使って音を奏でる。まさに“音色"、どんな視線も惹きつけてしまうでしょう。)

 

イリーナは少し離れたところにいる警備も呼んで、もっと近くで聴くよう頼みながら、ハンドサインをこっそりと出す。

 

『20分稼いであげる。行きなさい。』

 

イリーナのお陰で無事にロビーを突破した一同は、イリーナの技術に(多分きっと初めて)感激した。

 

「…すげーや、ビッチ先生。あの爪でよくやるぜ。」

「ああ、ピアノ弾けるなんて一言も。」

「普段の彼女から甘く見ない事だ。優れた殺し屋ほど万に通じる。彼女クラスになれば…潜入暗殺に役立つ技能なら何でも身につけている。君等に会話術(コミュニケーション)を教えているのは、世界でも一・二を争う色仕掛け(ハニートラップ)の達人なのだ。」

 

この説明で皆のイリーナへの評価が多少変わる。

 

「…ビッチのくせに。」(奏)

「…変なところでヘタレのくせに。」(陽菜乃)

「…巨乳のくせに。」(茅野)

「…崖登り足手まといやったくせに。」(小夜)

 

(アンタ達、後で覚えておきなさい。)

 

「「「「あいつ…直接脳内に…!」」」」

 

「…何のことを言っているか分からんが、先を急ぐぞ。」

 

 


 

 

8F コンサートホール

 

そこに5人の男女がいる。

 

ステージ上に立つ、何故か銃を口に咥えた喋り出す。

 

「おい"スモッグ"、階段ルートの侵入が無いか見回って来い。カメラでは異常は無いが一応な。見つけたら即殺りでいいってよ、ボスが。」

 

スモッグと呼ばれた、帽子を被った男は「アイアイサー」と答え、ホールを出る。

 

と、ほぼ同時に着物を着た男がゆらりと立ち上がり、ホールから出ようとする。

 

「おい"スラッシュ"、どこに行く?」

「散歩だが…何か?」

 

スラッシュと呼ばれた男はニタリと笑って答える。

彼が抜けた後、銃を咥えた男"ガストロ"はこの中で唯一の女に尋ねる。

 

「なあ…あいつ放っておいていいのか、"ブラスター"の姉御?」

「別に良いわよ、あんなの抑えておく方がアホらしいし、『あの人』の不都合になることはしないし。」

 

ブラスターと呼ばれた女はぶっきらぼうにそう答える。



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第50話:引率の時間

奏・小夜「「あれ…もしかしてしばらく俺(うち)らの出番…少ない?」」

↑YES


侵入開始から10分経過 現在2F

 

「……さて、君らになるべく普段着のまま来させたのにも理由がある。入口の厳しいチェックさえ抜けてしまえば…ここからは客のフリができるのだ。」

 

烏間からの説明を聞いても皆はピンと来てなかった。

悪い連中が愛用するようなホテルに中学生の団体客なんているとは思えないからだ。

その疑問には小夜が答えた。

 

「普通はせな風に思いがちやけど、実際は結構おんねん。ほとんどはマスコミや政界人なんかのお金持ちの子供たち、後はその子達に誘われたお友達とかやな。そないな子達はちっちゃい頃からこないなとこに来とるんよ。悪い遊びに手を染めながらな。」

「そう。だから君達もそんな輩になったフリで…世の中をナメてる感じで歩いてみましょう。では奏君、お手本を!」

「えぇ…俺すか?」

 

奏は少し困った顔をしてからどうしようか考える。

 

そして「満面の笑み」を浮かべた。

 

(⌒▽⌒)←である。

 

「満面の笑み」(殺意マシマシ)である。

 

その笑顔から溢れ出る殺気は正面から歩いてきた一般客を震え上がらせ、彼らは何も言わずにガタガタ震えて道を開けた。

 

彼らから少し離れた後に奏は元の顔に戻して殺せんせーに尋ねた。

 

「…あんな感じで大丈夫ですか?」

「…いえ、全然違います…」

「ええっ⁉︎」

「むしろどこら辺がナメていたんどす?」

「え…『肩触れたら殺すゾ☆』みたいなところ…」

「「「ただのヤクザじゃねーか‼︎」」」

 

この後、奏は最後尾に(強制的に)回されて少し凹んでた。

 

 

一行は先を急いだ。

途中で先程の客以外にも遭遇したが何事もなく通り過ぎた。

だから最初に警戒しまくっていた分、皆油断してしまった。

 

3F・中広間を通過する際に寺坂と吉田が何の警戒もせずに走り抜けようとしたその時、

 

「寺坂君!吉田君‼︎そいつ危ない‼︎」

 

不破がそう叫び、名前を呼ばれた2人は振り返る。

そして同時に最前を歩いていた烏間、小夜、そして正面から歩いてきた帽子を被った男が動く。

 

烏間は2人の服の襟を掴み後ろへ投げ飛ばし、男はその手に持った噴出機から何かを噴出する。

2人を包み込むように煙が起きる。そしめ2人より一瞬遅れて、小夜が口元にハンカチを当てて煙の中に入っていく。

 

烏間はハイキックで男の手から噴出機を蹴り飛ばし、小夜はハンカチを抑える手とは別の手で持った担当で手首を狙って斬りかかる。

武器を蹴り飛ばされた段階で部が悪いと感じた男は即座に距離をとるが、小夜の刃には多少掠る。

 

 

「…何故分かった?殺気を見せずすれ違いざま殺る、俺の十八番だったんだかな、オカッパちゃん。」

 

男の質問に尋ねられた不破は「ボブだし。」と軽く返しながら解説する。

 

「だっておじさん、ホテルで最初にサービスドリンク配ってた人でしょ?」

 

それを聞き、皆は男の顔をじっと見る。その顔は確かにトロピカルジュースを配っていた男のと一致している。

 

「断定するには証拠が弱いぜ。ドリンクじゃなくても…ウイルスを盛る機会は沢山あるだろ。」

「皆が感染したのは飲食物に入ったウイルスから…そう竹林君言ってた。クラス全員が同じものを口にしたのは…あのドリンクと、船上でのディナーの時だけ。けどディナーを食べず映像編集をしてた三村君と岡島君も感染したことから、感染源は昼間のドリンクに限られる。従って犯人はあなたよ、おじさん君‼︎」

 

不破は自信満々で言い張り、犯行を見破られた男は厳しい顔になる。

 

「すごいよ不破さん‼︎」

「なんか探偵みたい‼︎」

「ふふふ、普段から少年漫画読んでるとね、普通じゃない状況が来ても素早く適応できるのよ。特に探偵物はマガジン・サンデー共にメガヒット揃い‼︎」

「いや、ジャンプは?」

「ん?ジャンプの探偵物?作者からしたら興味の範囲外だってさ。」

「色んな方面に喧嘩売りすぎだろ作者ぁ‼︎」

 

若干場違いな漫才が繰り広げられてる中、男は正体を見破られたにも関わらず不敵な笑みを浮かべる。

対する烏間は突然床に膝をつく。

 

「あんた…毒物使いか。」

「その通り。俺のコードネームは『スモッグ』。そして今のは俺特製の室内用麻酔ガスだ。一瞬吸えば象すら気絶(オト)すし、外気に触れればすぐ分解して証拠も残らん。」

「ウイルスの開発者もあなたですね。無駄に感染を広げない。取引向きでこれまた実用的だ。」

「さぁね。ただお前たちに取引の意思がない事はよく分かった。交渉決裂、ボスに報告するか。」

 

そう言い来た方向から戻ろうとするスモッグだが、それは叶わなかった。

 

廊下と広間の間に氷の壁が出来上がっていたからだ。

 

さらにすかさず他の生徒たちが椅子や机、花瓶に壁にかかっていた槍を手に持ちスモッグを囲む。

 

「敵と遭遇した場合即座に退路を塞ぎ連絡を断つ。あらかじめそう指示を受けていたんでね。」

「あんさんはウチらを見た瞬間に引き返すべきだったんよ?」

 

正面にはそれぞれ愛刀を構えた戦闘ガチ勢×3が臨戦モードに入る。

 

が、なんと烏間がフラフラと立ち上がり、無言で「任せろ。」と合図を送る。

 

「…フン、まだ動けるとは驚きだ。だが所詮他はガキの集まり、お前が死ねば統制が取れずに逃げ出すだろうさ。」

 

この時スモッグは先程小夜が言った判断ミス以外にも2つの間違いを犯していた。

 

1つは、たとえ烏間が死んだとしても-さらに言えば、それが原因で皆が逃げ出したとしても-約数名、頂上まで行く者たちがいるということに気づかなかったこと。

 

そしてもう1つは、烏間は立ち上がるのが精一杯だと思っていたこと。

 

 

勝負は一瞬で終わった。

 

スモッグがポケットから噴出機を取り出すよりも早く、烏間の高速膝蹴りが顔面に炸裂した。

 

 

(…強え……人間の速さじゃねぇ…だがな…おっそろしい先生よ。お前の引率も…ここまで…だ。)

 

薄れゆく意識の中でスモッグは再び倒れ伏す烏間を見た。

 

 


 

 

「…ダメだ。普通に歩くフリをするので精一杯だ…戦闘ができる状態まで…30分で戻るかどうか…」

 

磯貝の肩を借りつつ、烏間は再び前に進む。

しかしハッキリ言って象すら気絶するガス吸って、歩けて、1時間かからず復活するアンタは人間なのか、というのがクラス全員の疑問であるのは言うまでもない。

 

烏間への呆れ(?)と畏怖の感情と共に、生徒たちは不安を感じていた。

 

目標は10階、なのに3階の時点で三人の先生に頼ることが出来なくなったからだ。

 

奏、小夜、三輪といったプロはいれど、大人(プロ)は彼らよりさらに経験と知識は豊富である。(単純な戦闘力については考えてはいけない。)

そんな大人(プロ)達がこの先に待ち構えているのだ。

果たして自分達だけで勝てるのか、そう考えていると…

 

「いやぁ、いよいよ『夏休み』って感じですねぇ」

 

 

「何をお気楽な‼︎」

「1人だけ絶対安全な形態のくせに‼︎」

「渚、振り回して酔わせろ‼︎」

「にゅやーっ‼︎‼︎」

 

「よし寺坂、これねじ込むからパンツ下ろしてケツ開いて。」

「死ぬわ‼︎」

 

皆のリクエスト通り、殺せんせーを酔わせた渚は今の言葉の意味を聞く。

 

「先生と生徒は馴れ合いではありません。そして夏休みとは先生の保護が及ばない所で自立性を養う場でもあります。大丈夫、普段の体育で学んだ事をしっかりやれば…そうそう恐れる敵はいない。君達ならクリアできます、この暗殺夏休みを。」

 

 

残り時間 後40分

 

もう後戻りはできない。

 

 

 



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第51話:ぬの時間

潜入開始から23分経過

現在5F 展望回廊

 

壁に沿って注意深く進む一行は、少し先に高級そうな服を着た外国人風の男を見つける。

 

「……お、おいおい、めちゃくちゃ堂々と立ってやがる。」

「…あの雰囲気。」

「……ああ、いい加減見分けがつくようになった。どう見ても『殺る』側の人間だ。」

 

一行の持つ優位は当然ながら数の利である。烏間の動きが制限されているとはいえど、奏、小夜、三輪、カルマ、寺坂を前衛としてその空いた穴を他のメンバーが埋めるのが最も良い戦法。

しかしこの展望回廊は狭く見通しが良い為、奇襲すらできない。

 

烏間がどう仕掛けるか迷い兼ねてる中、男は背後のガラス窓に触れてヒビを入れる。

 

「…つまらぬ。足音を聞く限り…『手強い』と思える者がただ1人。精鋭部隊出身の引率の教師と呪術師で2人いるはずなのぬ…だ。どうやら…引率の方がスモッグのガスにやられたようだぬ。半ば相討ちぬといったところか。出てこい。」

 

皆は仕方なく恐る恐る出てくる。しかし恐怖・警戒とは他にある疑問を抱いていた。だが恐怖故に誰も言えない…はずだった。

 

「「「『ぬ』多くね(多すぎひん)、おじさん?」」」

 

((((言った‼︎良かった、カルマと奏と小夜がいて‼︎)))

 

「『ぬ』をつけるとサムライっぽい口調になると小耳に挟んだ。カッコよさそうだから試してみたぬ。間違ってるならそれでも良いぬ。この場の全員殺してから『ぬ』を取れば恥にもならぬ。」

「ふぅん…あんさんの武器は素手なんやな。」

「こう見えて需要があるぬ。身体検査に引っかからぬ利点は大きい。近づきざま頸椎をひとひねり。その気になれば頭蓋骨も握り潰せるが。」

 

手をゴキゴキ鳴らしながらそう語る男、『クリップ』に何人かは青ざめる。

 

「だが面白いものでぬ、人殺しのための力を鍛えるほど…暗殺以外にも試してみたくなる。すなわち闘い、強い敵との殺し合いだ。だががっかりぬ。お目当てがこのザマでは試す気も失せた。」

「へぇ…俺とはやらないの?」

「残念ながら『呪術師とやる時は専門家を呼べ。』と言われているぬ。ついでに雑魚ばかり殺るのも面倒だぬ。どちらにせよボスと仲間呼んで皆殺しぬ。」

 

クリップは冷めた顔をしながら連絡しようとするが、携帯の発信ボタンを押す直前、観葉植物の鉢植えをハンマーのようにカルマが振るい、後ろのガラス窓に叩きつける。

 

「ねぇ、おじさんぬ、意外とプロってフツーなんだね。ガラスとか頭蓋骨なら俺でも割れるよ。ていうか速攻仲間呼んじゃうあたり、中坊とタイマン張るのも怖い人?」

 

あまりにも無謀な挑戦を烏間は止めようとするが、殺せんせーがあえて止めない。

理由は彼の態度にあった。

以前までは余裕をひけらかしてアゴを突き出した見下しスタイルだった。

しかし今は油断なく正面から相手の姿を観察しているのだ。

 

「奏、手ェ出さないでよ?」

「……死にそうだったら乱入するわ。」

 

先手を取ったのはカルマ、再び鉢植えを振り下ろすが、クリップは片手で掴んで握り潰す。

 

「柔い、もっと良い武器を探すべきだぬ。」

「必要ないね。」

 

攻守は逆転して武器を捨てたカルマにクリップが接近してくる。

頭や腕を狙い伸ばしてくるクリップの手を、カルマはギリギリのラインで捌くかいなす。

 

(一度掴まれたらゲームオーバー、普通に考えて無理ゲーだけど立場が逆なだけでいつもやってんだよね、その無理ゲー。)

 

カルマの動きを見て、殺せんせーや奏はそれが烏間の防御テクニックだと理解する。

 

(烏間先生は殺し屋にとって優先度が低い技術だから教える必要はあまりないって言ってたけど……目で見て盗んだわけか。)

 

しばらくクリップの一方的な攻撃ターンが続くが、途中でクリップの方が攻撃を止める。

 

「……どうした?攻撃しなくては永久にここを抜けられぬぞ。」

「どうかな〜?あんたを引きつけるだけ引きつけといて、そのスキに皆がちょっとずつ抜けるのもアリかと思って。」

 

一瞬クリップの目つきがキツくなるが、今度はカルマが手をバキボキ鳴らす。

 

「安心しなよ、そんなコスい事は無しだ。今度は俺から行くからさ。あんたに合わせて正々堂々、素手のタイマンで決着つけるよ。」

 

((((え、『正々堂々』?『素手のタイマン』?カルマが⁇))))

 

何人かがそのセリフに疑問を覚えるが、初対面のクリップがそんなことに気づくわけなくどこか楽しそうな顔をする。

 

「良い顔だぬ、少年戦士よ。おまえとならやれそうぬ、暗殺家業では味わえないフェアな闘いが。」

 

カルマは勢いよく踏み出し、回し蹴りを放つ。

クリップはこれを左手でガードし、すかさず手刀と見せかけた目潰しをかわす。

だがカルマも怯むことなくもう一回回し蹴りを繰り出す。しかし今度は頭部を狙ったものでなく、脚を狙う。

右脚に命中して自分に背を向け痛みを抑えるクリップをカルマが見逃すわけなく、一気に詰め寄って殴りかかる。

 

しかし背を向けたすきに取り出したスモッグ作のガスをカルマはもろに受けてしまう。

 

「一丁あがりぬ。長引きそうだったんで、スモッグの麻酔ガスを試してみることにしたぬ。」

「き…汚ねぇ、そんなモン隠し持っといてどこがフェアだよ。」

「俺は一度も素手だけとは言ってないぬ。拘ることに拘りすぎない、それもまたこの仕事を長くやってく秘訣だぬ。」

 

吉田の批判も気にすることなくカルマの顔を掴むクリップ。

それを見て陽菜乃は奏に助けないのかと問う。

 

「かーくん、もうヤバイよ!助けてあげて!」

「……皆さ、まじでカルマがピンチだと思ってる?」

「どう見てもそうだろ!あの手に捕まってるんだぞ!」

「なんと、本気でそう思ってるのか。ほら、アイツの手をよく見ろよ。」

 

奏がその言葉が気になり、クリップもつい振り向いてカルマの手を見てしまった。そして同時にガスが噴出される。

カルマもクリップが持っていたのと同型のガスを所持していたのだ。

 

「奇遇だね、2人とも同じこと考えてた。」

 

脚をガクガクと震わせながらも服の中からナイフを出して突進してくるクリップ。しかしカルマをそれを片手でいなして、サブミッションをかけながら地面に叩き伏せる。

 

「ほら寺坂、早く早く。ガムテと人数使わないとこんな化けもん勝てないって。」

「へーへー、テメーが素手でタイマンの約束とかもっと(・・・)無いわな。」

 

ガスと関節技で身動きが取れないクリップに追い討ちをかけるかのように生徒たち全員が上にのしかかっていく。

 

すぐにガムテープで全身を拘束されたクリップを見ながら、満足そうにカルマはガスの噴出機を弄ぶ。

 

「毒使いのオッさんが未使用だったのくすねたんだよ。使い捨てなのがもったいない位便利だね。あ、あと誘導サンキュー、奏。」

「おう。にしても案外舐められてたぞお前。」

「え、まじで?仕方ない、腹いせに後で毒使いのオッさんから色々奪って寺坂で実験しよう。」

「何でだよ‼︎」

 

他愛無い話をしている中、クリップは先程の不意打ちについて尋ねる。

 

「何故だ…俺のガス攻撃…お前は読んでいたから吸わなかった…俺は素手しか見せてなかったのに…何故…」

「とーぜんっしよ、素手以外(・・・・)の全部を警戒してたよ。あんたが素手の闘いをしたかったのはホントだろうけど、この状況で素手に固執し続けるようじゃプロじゃない。俺らをここで止めるにはどんな手段でも使うべきだし、俺でもそっちの立場ならそうしてる。あんたのプロ意識を信じたんだよ。信じたから警戒した。」

 

期末テストで大敗するまで、カルマは大して負けを知らなかった。だが、それ以降「敗者だって自分と同じ人間なんだから、色々考えて生きている」ということを知った。

だから勝負の場で敵を見くびらなくなる、相手に対して敬意を払える。

そんな風に成長できると信じたから、殺せんせーは今回の危険な闘いを一任できたのだった。

 

「…大した奴だ、少年戦士よ。負けはしたが楽しい時間を過ごせたぬ。」

 

 

 

 

 

「え、何言ってんの?楽しいのこれからじゃん。」

 

笑顔でワサビと辛子のチューブを取り出したのを見てE組メンバーは確信する。

 

((((あ、これヤバイ時のカルマの流れだ。))))

 

と。

 

「…なんだぬ、それは?」

 

何か分からなくてもヤバイモンだと直感的に理解したクリップは既に冷や汗をかいている。

 

「ワサビ&辛子、おじさんぬの鼻の穴にねじ込むの。」

「何ぬ⁉︎」

「さっきまではきっちり警戒してたけど、こんだけ拘束したら警戒もクソもないよね。これ入れたら専用クリップで鼻塞いでぇ、口の中にトウガラシの千倍辛いブート・ジョロキアぶち込んで、その上から猿轡して処置完了。さぁおじさんぬ、今こそプロの意地を見せる時だよ。」

 

満面の笑みで鼻にワサビ&辛子を打ち込まれたクリップの顔と断末魔が廊下に響き渡り、誰もが目をそらす。

 

普段から気持ち悪いモンを散々見てる奏や小夜、三輪ですら、である。

 

 

 

 

 




投稿期間が空くたび文才が落ちてるように感じる今日この頃。

前から大してあったモンじゃ無いけどさ。


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第52話:女子の時間

昨日両手にナイフを持ったメンヘラ女子から殺されないように頑張る夢を見ました。
あの夢見た後に感じたのは、命の危機を感じた時逃げるより相手の獲物の動きを見るのが先であったことに少し驚きました。
みなさんも殺人鬼やメンヘラ少女に出会ったらまず手の動きを観察しましょうね。



ほんとどーでもいっすね。


潜入開始から35分経過

現在6階 テラスラウンジ

 

この先に行くには当然ここを通るしかないが、現在はパーティー会場と化している。勿論ただのパーティーではなくドラッグのだが。

別に敵が潜伏してなければただ抜けるだけなのだが、入口と7階以降のVIPフロアへ繋がる階段前には警備がいて、いかんせん男にはチェックが厳しい。

その為まずは女子達がパーティー会場を突っ切り何とかして階段前の警備をどかす。

そしてその隙にベランダ裏口に待機している男子達を誘導するという作戦にでた、のだが、

 

「ほら渚君!男でしょ‼︎ちゃんと前に立って守らないと‼︎」

「無理…前に立つとか絶対無理…」

「諦めなって、男手は欲しいけど男にはチェック厳しいんだもん。」

「ほら、奏君を見てみなよ。あれくらい吹っ切れないと!」

「不破さん、矢田さん。この姿の時は『ちゃん』か『さん』でお願いします。」

「…こっちはこっちで染まりすぎて怖い。」

 

足りない男手を女装男子で補う、という案をカルマが提案(しかも衣装を外のプールサイドから調達)し、当然ながら渚が餌食となった。

渚としてはもちろんやりたくないわけだから、「三輪さんや小夜さんがいるから大丈夫でしょ!」と抵抗していた。

しかしここでどこからか大きめのメイド服を仕入れてきた奏が着替えて、カルマや殺せんせーもびっくりの女装を見せつけて説得もとい言いくるめ、折れてしまった。

ちなみにこの女装直後、2名ほど瀕死になりかけたのはここだけの話である。

 

「…なんで奏く…さんは女装(それ)に躊躇がないのさ…」

「はて?何故と聞かれても?」

「奏ちゃんそういうところけっこーあるよね。」

 

ある種の羞恥心が欠如している奏に呆れていたとき、最後尾の渚の肩に手が置かれた。

 

「ね、どっから来たの君ら?そっちで俺と酒飲まねー?金あるから何でも奢ってやんよ。」

 

話しかけてきたのは見るからに軽薄そうな同年代らしき少年。しかも酒とかほざいている。

皆が不快、あるいはめんどくさそうな顔してるなか奏はニコニコ顔で渚の背を押す。

 

「というわけで渚さん、ご指名ですよ?」

「キャバ嬢じゃないんだからご指名とか言わないで‼︎」

「…多分コイツタメだし、この体格ならお前1人でも大丈夫だろ?」

「…急に素に戻るのやめて?」

 

泣く泣くユウジと名乗る少年の相手をさせられる渚を見送って先を目指す一行。

しかしあのユウジに限らずこんな場所で若い少女達が歩いていてナンパされない訳がなかった。

 

「ようお嬢達、女だけ?俺らとどーよ、今夜?」

 

今度は二、三十代の男3人が口説いてくる。時間が限られているためイラついた片岡が突っぱねようとするが、矢田がそれを止める。

 

「お兄さん達、カッコいいから遊びたいけど、あいにく今日はパパ同伴なの。うちのパパ、ちょっと怖いからやめとこ?」

 

そう言いながら男達にあるものを見せつける。

それは少人数だが凶悪で有名なヤクザのエンブレム。一応本物ではあるがイリーナからの借り物である事を知るのは今のところ矢田と陽菜乃くらいしかいない。

そしてここで陽菜乃が追撃をかける。

 

「あ、パパも怖いけど、今はそれよりも怖い人がいるんだけど…」

 

そう警告するよりも早く奏、小夜、三輪の3人が男達の首筋に刃物を突きつける。

 

「…って3人ともダメだよ〜!」

「しかしお嬢様、お嬢様とそのご友人がたに手出しをしようとする下賤な輩は1人残らず鮫の餌にしろと頭に言われており…」

「ここじゃダメだよ〜!お店に迷惑かかっちゃうでしょ!」

「……お優しいお嬢様。分かりました。ホテルに迷惑のかからない所でやりましょう。おい貴様ら、早く表に…って逃げ足の速い奴らめ。」

 

躊躇なく殺しにかかってくる奏達と、迷惑かけないのならゴーサインを出してくる陽菜乃に恐れをなしてナンパ男達は逃げていった。

3人が武器をそれぞれしまった時、今度は小さな拍手が聞こえてきた。

 

「ヒュー!なかなかやるじゃない、あなた達!ウチのお店にどう?」

 

声をかけて来たのは男ではなく女。イリーナが着ていたようなドレスを着ており、バーの調理場の方で頬杖をつきながらこちらを見ている。

今時珍しいキセルを吸いながら、酒を飲んでいる。

 

「申し訳ありません。お嬢様達はまだ未成年なので…」

「お嬢ちゃん達だけじゃなくて、あなたもでしょ?」

「…!」

「ああ、別にだから何ってわけじゃないわよ。ここらでは面白そうな子たちだからお話したいだけ。私の奢りだから一杯だけでも、ね?」

 

奏も皆もあまり猶予がないからこんなところで時間を失いたくない。しかし何故かこの女の誘いは蹴ってはいけないという気がしてならない。バー特有の魅了とかとは違う、不思議な感じ。

結局警戒しつつも誘いに乗ることにした。

女はオレンジジュースを差し出した。

 

「はい、ドーゾ。…別にそんな警戒しなくても怪しいクスリとか入れてないわよ。」

「「「「…頂きます。」」」」

 

念には念をと最初に奏と小夜の2人が毒味係として動くが、問題無いと判断して残りの女子達も飲む。

バーのマスターの女は空気を読んでかキセルを吸うのをやめている。

 

「それであなた達はここに何しに来たのかしら?」

「遊びにですけど…」

「ホント?」

 

いきなり片岡の嘘を見破ってくる女。鎌かけなのか本当に確信しているのかが読めない。

 

「そもそもこんな所に来てお酒もクスリもやらず、ナンパにも乗らない健全な子なんて来ないわよ。」

「ああいう人はみんなタイプじゃ無いんですよ。」

「確かに〜。私もアレは無いわー」

 

ケタケタ笑う女に一層警戒を強める奏。本当に話術が巧いというべきなのだが、底が知れない所が怪しい。というかただのバーの女相手に底が知れないと思ってしまうのがそもそもおかしいのである。

 

「それで結局何目的なのかな?」

「……最上階に用があるんですよ。」

「「「奏ちゃん⁉︎」」」

「あら、ずいぶんあっさりと教えてくれるわね。」

「…今の私達じゃああなたを出し抜くことが出来そうにないので。」

「嬉しい評価ね。その判断に免じて誰かにチクるのは控えてあげるわ。」

 

自分達の行動をバラさない。

こう言い張る女が何を考えているのか、余計に想像がつかなくなった。

しかし奏は何故かこうなるのではないかと直感していた。

 

「…ありがとうございます。ところであなた、一体何者なんですか?これでただのバーのオーナーなんて言われても納得できないんですが。」

「納得してもらう必要は無いんだけどなー。うん、実際ただのオーナーなんだけど、まああれね、少しばかり治安が悪い所で店開いてたのよ。」

 

少し照れくさそうに話す女を見て、奏は「やっぱりか。」と感じた。

先程までの観察眼と殺気の隠し方、今の格好でどれくらい動けるかは知らないがまさに隙のない人物に思えてしまう。

 

「で、この後はどうするのかな?」

 

この質問をするということは女子だけの潜入じゃないことを理解しているということだ。

女子だけの潜入なら警備を気にする必要がほとんど無いからだ。

 

「何かしらしてあの警備を退かした後、上に行きます。」

「ふーん、まあがんばれ。」

 

とりあえず茅野が渚を連れ戻してきたが、渚を諦めきれないユウジまで付いてきてその場で踊り始めたのだが、

 

((((邪魔…))))

 

が共通の感想であった。

必死に渚を魅了しようとするユウジだったが、その手が酒を持って通りかかった男に当たってしまい、その酒は男の服にかかってしまった。

 

「こらガキ、いい度胸だ、ちっと来い。」

「あ、いや…今のはわざとじゃ…」

「百万する上着だぞ、弁償しろや‼︎」

 

正直自業自得だからほっときたいのが本心だったが、矢田はこの状況を利用する策を思いつき、岡野に合図した。

男の意識がユウジの方に向いているすきに、そっと回り込み男の顎に下回し蹴りを繰り出した。

一撃で気絶した男を片岡が支え、矢田が階段前の警備を呼ぶ。

 

「すいませーん、店の人〜。あの人急に倒れたみたいで…運び出して看てあげてよ。」

「は、はい。まったく、ドラッグのキメすぎか…?」

 

警備が階段前から退いたすきに裏口を開けて男子達を入れ、上へ上っていく。

渚はユウジと少し話して、奏はバーのマスターと話している。

 

「いやぁ、なかなか面白いね、君達。」

「それはどうも…」

「……もしかしてバラされるの恐れてる?気にしないで、私口は堅いから。」

 

そう言ってマスターは名刺を渡した。

名刺には名前は書いてないが、こことは別の住所が書いてある。

 

「それ、東京の方のお店。よかったらおいで。」

 

奏は一瞥して皆の後についていった。



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