この素晴らしいホグワーツに爆焔を! (里江勇二)
しおりを挟む

第1章 紅魔めぐみんと賢者の石
この魔術な世界にめぐみんを!


 私はこれまで猫はニャーと鳴く生き物で、決して言葉を話したりメガネをかけたりしない動物だと思ってきた。

 

「お姉ちゃん!しゃべる猫だよ!見世物にしてお金取った後に食べよう!」

「すみません、ミス紅魔。あなたの妹の腕の中から私を出してくれると助かります」

 

 それはもしかしたら間違いで、ペットに話しかけるのは頭が悪いからではなくちゃんと会話が成立してるのかもしれない。

 

 妹のこめっこの腕に抱かれながら私に話しかけるメガネをかけた奇妙な猫を見つめながらそう思った。

 

 

 

 

 1992年8月のとある日曜日。私は私史上最も訳の分からないことになっていた。

 

「どうもありがとう、ミス紅魔。危うくあなたたちの夕食になるところでした。ところで東洋には食猫の文化が?」

 

 目の前にはさっきまで猫だったメガネの女性。緑色の背高帽子に緑色のローブというあまりに時代錯誤かつ地域錯誤な格好に猫が化けたときはびっくりしたが、とりあえず一対一で話すことになった。ちなみにこめっこには外で遊んできてもらってる。

 

「いえ、うちの妹特有の食い意地です……えっとそれより、あなたは?」

 

 私がそう聞くと、その女性は姿勢を正した。

 

「失礼しました。自己紹介をまだしていませんでしたね。私はミネルヴァ・マクゴナガル。ホグワーツ魔術魔法学校の教頭です。今日はホグワーツへの入学許可をお知らせに来ました」

「すみません、ちょっと待ってください」

 

 どうやらマクゴナガルと言うらしい目の前の女性は魔法の学校の教師らしい。ちょっとよくわからない。

 

「魔法というのは何かの比喩みたいな……?」

「いえ、正真正銘の魔法です。あなたもさっき私が猫から戻るところを見たでしょう。あれは少し特殊ですが、とにかくそういった魔法を教えるのが私の仕事です」

 

 どうやらこの人は頭がぱーのようだ。

 

「すみませんがうちには開祖様に出すようなお金は無くてですね……」

「あの、ミス紅魔。私は新興宗教の信者ではありません。マグルにとって魔法のことが俄かには信じがたい事は分かっていますが、さっき目の前で猫から人に戻ったところで信じてほしかったものです」

 

 なるほど、言われてみれば確かに。

 

「まあ一つだけでは手品と思われるのも無理はないかもしれませんね。いいでしょう、何でもいいです。魔法のリクエストをください」

 

 私が何となく納得しかけていると、マクゴナガルさんはそう言ってきた。どうやら魔法を実演してくれるらしい。別にそこまでしてもらわなくてもいいのだが、折角だ。頼んでみよう。

 

「爆裂魔法をお願いします」

「は?」

 

 私がそう言うと、マクゴナガルさんはそんな声を漏らした。

 

「えっと、その、ミス紅魔?爆裂魔法というのは一体……?」

「知らないのですか?爆裂魔法とは世界最強の破壊力を持つ魔法です。『エクスプロージョン』の言葉に応じてその力を示し、地を抉り大気を吹き飛ばし海をも割る。それが爆裂魔法です」

「それはどこで知ったのですか?」

「夢です。2年前に見ました」

「……そうですか」

 

 マクゴナガルさんは溜め息をつくと言った。

 

「すみませんがミス紅魔、その爆裂魔法というものを私は知りません。なので他にしてもらってもいいですか?」

「じゃあ私を巨乳にしてください」

「………………」

 

 どうしよう、マクゴナガルさんの私を見る目が残念な子を見る目になってきてる。

 

「……はぁ、ミス紅魔。あなた実はすでに魔法を信じてますね?信じてないならなら火を灯すだとか宙を舞うだとか、オーソドックスなものを言いますものね」

「まあそうですね。もう疑ってません」

「そうですか、それはよかったです。それではご両親を呼んでもらってもいいですか?少し話があるのです」

 

 マクゴナガルさんはそう言いながら、ようやくいつものペースだとどこかホッとしたような様子で書類を取り出して……。

 

「ミス紅魔?どうかしましたか?」

「すみませんマクゴナガルさん、両親は今家にいなくてですね」

「買い物ですか?それくらいなら待ちますよ」

 

 そんなことを言うマクゴナガルさんに、私は少しの申し訳なさを感じながら言った。

 

「うちは貧乏なので両親ともに日曜日も働かなければならないのです」

「……そうでしたか。それでは夜にまた来ますね」

 

 そう言って取り出した書類を片付けるマクゴナガルさんは、何も進んでないのにひどく疲れているようだった。

 

 

 

 その夜に再び訪れたマクゴナガルさんの話に対して私の両親は驚くほどに肯定的だった。お父さんは単純に魔法という言葉に惹かれ、お母さんは入学準備の手厚さ、つまりお金に釣られたようだった。世界一詐欺にかかりそうな家という言葉が頭をよぎったので大人になったら気をつけたいと思う。……そもそも狙われないとか言わないでください。

 

 さて、そんなわけで八月中にマクゴナガルさん改めマクゴナガル先生に手伝ってもらいつつ九月以降の学校の準備をして今日このキングズ・クロス駅にやってきたわけですが。

 

「9と4分の3番線なんてないじゃないですか」

 

 困った。これではそもそも学校に行けない。私の天才的な頭脳を以って一ヶ月で習得した英語を駆使して駅員さんに聞いてもそんなホームはないと言われるどころか迷子扱いされるし。

 ちなみにその駅員さんは子供に対する言葉遣いで話しかけてきたので杖でど突いておいた。何が「まだ小学生になったばかりなのに綺麗な英語で偉いね」だ。私はもう小学校高学年だ。この膨らみ始めた胸を見ればそれくらい……それくらい………………。

 

 ま、まあまだ小学生ですし?成長期がいつかなんて個人差ですよ、個人差。私の未来はばいんばいんのお姉さんで決定されてるんです。

 

 そんなことを考えていると、大きなトランクを持った黒髪の男の子が目に入った。そしてその子はしきりに手元の切符を見ながら私と同じように周りを見回していた。

 

 ほう。

 

「もしやあなたも9と4分の3番線を探しているのですか?」

 

 近づいてその子にそう話しかけると、その子はこちらを振り向いて、

 

「そうだけど……えっと、君は?もしかしてお兄さんかお姉さんの見送り?そうなら9と4分の3番線への行き方を教えてくれると助かるんだけど。ホグワーツに行くの初めてで、ホームがどこにあるのか分からないんだ」

 

 そんな失礼なことを言ってきた。

 

「残念ながら私もあなたと同じ9と4分の3番線を探してる新入生です……おい、どこを見て私を兄か姉の見送りと断じたか教えてもらおうじゃないか」

「え、本当に……?」

 

 ぶっ飛ばしてやろうか。

 

「い、いや、ごめん。日本人の年齢判断て僕たちには難しくて。それよりほら、一緒に9と4分の3番線を探そうよ。二人とも同じ切符なら間違いとかじゃないみたいだし」

 

 男の子の言葉に私が全力で睨みつけていると、男の子は誤魔化すようにそんなことを言ってきた。もう少し言ってやりたいところだが、時間が怖くなってきたこともあってそれは呑み込むことにした。いつかきっとこの屈辱を返してやる。

 

「そうですね、今はそれで手を打ちましょう。では自己紹介でも」

 

 そこで一呼吸置き、私は着ていたローブをばさりと翻した。

 

「我が名はめぐみん!紅魔家一の天才魔法使いにしていずれ爆裂魔法の使い手となる者!」

 

 うちは代々普通の家系なので紅魔家一は嘘じゃない。

 

 そんなことを考えていると、男の子は少し引き気味に言った。

 

「……それ、からかってるの?」

「ちがわい!これは魔法族の由緒正しい名乗りです。なのであなたもこれで名乗るのです。さあ!」

 

 私がそう迫ると、男の子は私とは対照的に恥ずかしがりながら言った。

 

「ぼ、僕の名はハリー・ポッター!ポッター家の長男にして闇の帝王?を打ち破りし者!」

 

 男の子改めハリーがそう言うと、急に脇の人混みから栗毛色の髪をした男の子が飛び出してきた。

 

「なになに、君がハリーポッター!?あの死ななかった男の子なの!?うわぁ、こんな所で出会えるなんて!」

 

 今の言葉を聞くに、どうやらハリーは有名人らしい。闇の帝王だとか死ななかった男の子とかいうのがキーワードっぽいが、生憎と私はそれを知らない。その子にその言葉について聞こうとすると、それより先にその子が言った。

 

「それとさっきは何であんな自己紹介の仕方をしたの?かっこよかったけど目立ってたよ」

 

 私の心の中でその男の子への好感度が上がった。

 そんなことを考えていると、ハリーが言った。

 

「え?あれは魔法族の伝統的な名乗りだって聞いたんだけど」

「そんなわけないじゃないか。誰に聞いたんだい?」

「あの、ハリー?悪かったので手を私に伸ばすのはやめへくりゃひゃい、いひゃいですハヒー、ほほをつへりゃにゃいでくりゃひゃい」

 

 私が少し涙目になってそう言うと、ハリーは割りとすぐにつねるのをやめた。全く、堪え性がないですね。かっこいい名乗り方を少し教えてあげただけじゃないですか。

 

「……なんでか分からないけど、君には言われたくないって今思ったよ」

「にゃにを!!」

 

 とは言ったものの、出会って数分で心当たりがありすぎたのでそれ以上は何も言えなかった。

 

「まあいいです。それよりあなたの名前は?それと9と4分の3番線に行く方法を知ってるなら教えてください」

「それなら知ってるから付いて来なよ。それと僕の名前はロン。ロナルド・ウィーズリー。ウィーズリー家の六男坊さ。君は?」

「私の名前は紅魔めぐみんです。さあ行きましょうか。……なんですかハリー、その目は。私は空気を読んだだけです。時間がないので名乗りは省きました。さあ、今度こそ行きましょう!」

 

 そうして、私たちは9と4分の3番線へと、つまりはホグワーツへと歩き始めた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この愉快な汽車旅行に友人を!

 ホームに着くとそこには既に列車が止まっていて、多くの保護者らしき人たちが生徒たちを見送りに来ていた。そんな人混みの中に紛れながら、私は言った。

 

「いやー、まさか壁をすり抜けるとは。マジシャンもびっくりですね」

「なんたって魔法だからね。マグルの家で育ってればそう思うのも仕方ないさ」

「ロンのその言い方は何か偉そうで腹が立ちます」

「理不尽じゃないかい?」

 

 私たちはここに来る間に軽く自己紹介をした。どうやらハリーは若き英雄でありながらマグルの家で虐げられながら過ごしてきたらしい。なぜかロンの方がハリーのことを誇らしげに語っていたがそれに関しては気にしない。またロンは六男坊ということから分かるように持ち物の全てがお下がりだそうだ。ペットすらお下がりだとか。それをあげる親も親だが、ロンはそこまでして鼠を飼いたかったんだろうか。

 

 そしてその話の間に、私は二人に闇の帝王だとか死ななかった男の子だとかそういうワードについて聞いておいたのだった。

 

「しかし『闇の帝王』ですか。ぶっちゃけダサいですね。痛々しいです」

「ダサっ!?」

 

 私がそう言うと、ロンがそんな反応をした。周囲の人も口には出してないがそんな感じだった。まあ別にいいでしょう。その人たちが話に入ってくるわけでもないようですし。

 

「いやだってダサくないですか?『闇の帝王』て。今時小学生でももう少しマシな名前つけますよ。安直とか言うレベルじゃないです。死ななかった男の子ってのもそのまんま過ぎです。もっと、こう、『世界に敵対せし闇の貴公子』だとか『選ばれし光の御子』みたいなのはなかったんですか?」

「ま、まあ、そういう考えもできる、かな?」

「僕、今の呼び名さえ恥ずかしいのにその呼び名だと学校来れなくなっちゃうよ。それにめぐみんの挙げたやつの方が痛々しいと思う」

「う、うるさいですよ!」

 

 そんな話を列車に乗り込みながらしていると、周囲で話を聞いていたらしい同い年くらいの男の子たちが割り込んできた。

 

「君があのハリー・ポッターって本当か?ホームでその話をちらほら聞いたんだけど」

「ああ、そうだよ」

 

 ガッチリした二人組の男の子にボディーガードのように立たれながら、青白い肌に金髪のその子はハリーにそう聞いてきた。よほどこのハリーというのは有名人らしい。まあ話を聞く限り妥当なところではある。

 そう思っていると、その男の子たちの親分らしき人が自己紹介を始めていた。

 

「こいつらはクラッブとゴイル。そして……」

 

 そこでその男の子は一息置いて、気取った様子でマントを軽く翻した。

 

「僕の名はドラコ・マルフォイ。名門マルフォイ家が長男にして、やがて魔法界を背負って立つことになる男!」

「ブフッ」

 

 その名乗りに、ハリーは堪え切れないといった様子で吹き出した。

 

「……何か変なところでも?」

「い、いや、特には。ところでそれ、魔法族の伝統的な挨拶の仕方だったり」

「するわけないだろう。これは僕が編み出した画期的な名乗り「ブフゥッ!」ポッター!君はさっきから何を笑っているんだ!」

 

 私たち紅魔家の名乗りをパクったとしか思えない名乗りを画期的と言ったドラコ少年にまたもや笑いを堪え切れなかったハリーは、こいつのせいと言わんばかりに私の方を指差した。

 

「お前は、さっきから『例のあの人』を愚弄していたマグルの子か。ポッター、そこのウィーズリー家やこんな穢れた血なんぞと付き合ってたら格が知れるぞ」

 

 ドラコのその言葉に、ロンは勢いよく立ち上がり、ドラコに向かって杖を向けた。

 

「黙れマルフォイ!お前今、お前、なんてことを言った!

「おや、気に障ったか?それにしてもやはりウィーズリー家、ネズミの如く子が湧くのだから仕方ないかもしれないが落ち着きがゼロだな。呪文の一つも使えない無能のくせに」

「なんだと!?」

 

 ロンとドラコが言い争っているのをよそに、私は一言呟いた。

 

「穢れた血?」

 

 それを聞いたドラコはにやりと口元を歪めた。

 

「なんだマグルの子。穢れた血と呼ばれるのがそんなにも癇に障ったか。全く、これだからマグルはいけない。全く躾がなってない。なあ、お前ら」

 

 そう言って部下らしきクラッブとゴイルと一緒にドラコはこちらを見て笑った。そんな彼らに私は言った。

 

「いえ別にこれっぽっちも癇に障ってないですし、むしろ琴線に触りました。その穢れた血ってダークヒーローの二つ名みたいでめちゃくちゃかっこいいですね!私好きです。闇の帝王(笑)なんかよりずっとセンスありますよ。あなたが考えたんですか?」

 

 そして私のその言葉に、その表情が固まった。

 

「え?ダークヒー……?ちょっとよく分からないけど、怒らないのか?」

「怒るわけないじゃないですか。ほらそれよりもっと、穢れた血について詳しく!」

「ちょ、やめ、近寄るな!こいつ頭おかしい……おいお前ら、行くぞ!」

 

 私がそう言いながらドラコに詰め寄ると、ドラコは手下らしき二人を連れて何処かへ走り去って行った。

 

「あら、行ってしまいました。あの名乗りと言い、『穢れた血』というワードと言い、あの子とは気があうと思ったのですが」

「それは間違いなく君の思い違いだと思う。二人はマルフォイ家って知ってる?」

 

 私の呟きに、ロンは私とハリーにそう聞いてきた。

 

「欠片も」

「僕も知らない」

 

 私たちが近くのコンパートメントに入りながらそう答えると、ロンは座席に座りながらふう、と一息置いて話し始めた。

 

「ま、そうだよね。マルフォイ家っていうのは『例のあの人』が消えた時に真っ先にこっち側に戻ってきた家族の一つでさ。魔法で隷属させられてたっていうんだけど、そんなの絶対嘘だっていうのが魔法界の通説だよ。マルフォイ家なら、闇の陣営の味方をするのに特別な口実はいらないだろうってね。

 それとコッチコチの純血主義でも有名で、さっき君に言った、その、『穢れた血』っていうのはマグル生まれの魔法族を指す言葉の中で最低最悪の言葉なんだ」

 

 なるほど。まあよくあることではありますね。分かりやすい悪役というか。

 

「しかし、薄々気付いてはいましたがあれは蔑称でしたか。かっこよかっただけに残念です」

「君のセンスは本当に独特だね」

「ハリー、おそらくあなたもいずれこのかっこよさに気付くはずです。具体的には14歳のあたりに」

「その14歳ってのはよく分からないけどとりあえず否定しておくよ」

 

 半純血とか、ヴォルデモートとかいう闇の帝王を打ち破ったとか、まさにそんな属性を持ってるのにこのかっこよさが分からないとは。可哀想な子ですね。

 

「しかし純血主義を小さい頃から背負わされてるあの子も少し可哀想ですね」

「マルフォイが?そんなわけあるか。あいつは好きで純血主義をやってるんだ」

「ロン、そう簡単に決めつけてはいけませんよ」

「魔法界についてはよく分からないけど、僕も出会ってすぐに決めつけるのはよくないと思うよ」

「二人とも……」

 

 君たちは知らないだけなんだ、とでも言いたげなロンの顔を見ながら私は言った。

 

「というわけで、私はこの学校生活においてあの子を救うことを決めました。具体的にはあの子に爆裂魔法の素晴らしさを伝授します」

「爆裂魔法ってのが何なのかよく分からないけど、絶対にやめといた方がいいと思う。さすがにそれはマルフォイ家が可哀想というか」

「ロン、あなたはどちらの味方なんですか!」

「魔法界の」

 

 その答え方はズルイと思う。

 

「ここのコンパートメントは空いてるかしら」

 

 そんなことを言い合っていると、新調のホグワーツ・ローブを着た女の子がそう言いながら扉を開けた、

 

「ええ、空いてますよ。あなたは?」

「私はハーマイオニー・グレンジャー。魔法族が誰もいない家庭で育ったから、手紙をもらった時はびっくりしたわ。もちろんそれ以上に嬉しかったけど。だから、私はここで優秀な成績を残したい。最高の魔法学校だって聞いてるし。教科書は暗記したんだけど、あとは何をすればいいのかしら……」

 

 私が聞くと、ハーマイオニーと名乗ったその子は席に座りながら一気にそうまくし立ててきた。まあいい。今度はこっちの番だ。

 

 私はそう思いながら、立ち上がってローブをバサッと翻した。

 

「では、私も自己紹介を。我が名はめぐみん!紅魔家一の天才魔法使いにして、いずれ爆裂魔法の使い手として歴史に名を刻む者!」

 

 私がそう言うと、ロンとハーマイオニーはポカンとした顔でこちらを見上げていて、ハリーはそんな二人を見てほっとした表情を浮かべていた。

 

「えっと、それは……?」

「めぐみん、君実はさっきのマルフォイのが気に入ってたのかい?」

 

 少しすると、二人はそんなことを言ってきた。

 

「ハーマイオニー、これは魔法族に伝わる由緒正しい名乗りです。さあ、あなたもこれでもう一度名乗りを「やめてあげなよめぐみん、ハーマイオニー混乱してるよ。からかうのは僕で満足したろ?」チッ、分かりましたよ」

 

 ハリーがすぐにネタバレしてしまったので、私はすごすごと引き下がった。別にからかってるわけじゃなくて単純にかっこよさを共有したかっただけなのに。

 

「あれ?そう言えばハリーもそれしてたよね。もしかしてハリーがさっきマルフォイを笑ってたのって」

「ええ、そうです。あれはさっきの金髪の画期的なアイデアなどではなく我が家で伝統的に使われている名乗りです。当然こちらの方が歴史は古いです。あんなフォイフォイ言ってる家とは違うんですよ!」

「プッ、フォイフォイって」

 

 マルフォイ家って名前からして面白いからつい言ってしまった。秘伝の呪文はフォフォイのフォイで決まりだ。

 

「というか、あれ?さっきマルフォイは穢れた血って君を呼んでたけど、マグル生まれじゃなかったの?」

「いえ、彼は合ってますよ。私の両親は正真正銘の一般人です」

「え?でも今、紅魔家一の天才だって」

「私の家には魔法使いが一人もいないので必然的に私が紅魔家一です」

「ふざけてるの?」

 

 私の言葉に、ロンはそう言った。おかしい。私が言ってることに何一つ間違いはないはずなのに。

 そんなことを考えていると、ハーマイオニーが言った。

 

「あなたもマグル生まれなの?もしかして、それを隠すために紅魔家一だとか言ったの?それはダメよ。そのマルフォイって奴みたいな人もいるけど、大半はそうじゃないんだから。胸張ってればいいのよ」

 

 ハーマイオニー……。

 

「別に私にそういう意図はなかったんですが。単純に紅魔家一って響きが好きなだけです」

「あれ?あ、えっと、変なこと言ってごめんなさい」

「大丈夫ですよ。あなたが強くていい人だってことは分かりましたから」

 

 私がそう言うと、ハーマイオニーは少し照れた顔で私から顔を背けながら言った。

 

「……そう。ありがと」

 

 そんなハーマイオニーにニヤニヤしていると、ハーマイオニーは無理やり話題を変えた。

 

「それで!あなたたちは?」

 

 ハーマイオニーの問いかけに、二人は答えた。

 

「僕はロナルド・ウィーズリー。みんなにはロンって呼ばれてる」

「ハリー・ポッター」

 

 ロンの後にそう手短に自己紹介したハリーに、ハーマイオニーは食いついた。

 

「ほんとに?私、もちろんあなたのことよく知ってるわ。参考書に載ってたもの。確か『近代魔法史』『黒魔術の栄枯盛衰』『二十世紀の魔法大事件』なんかに出てたわ」

「僕が?」

 

 そんなことを言うハーマイオニーにハリーは呆然とした。

 

「まあ、知らなかったの。私があなただったらできるだけ全部調べるのに。あ、そうだ。三人とも、どの寮に入るか分かってる?私、色んな人に聞いて調べたけど、一番いいのは絶対にグリフィンドールよ。ダンブルドアもそこ出身らしくて。まあレイブンクローも悪くないとは思うけどね」

「僕は家族みんなグリフィンドールだし多分グリフィンドールだと思う。というかそうでないとなんて言われるか」

「あら、よかったじゃない。何も手がかりのない人よりずっとマシだわ」

「ハリーはきっとグリフィンドールだよな、めぐみんは……入れる寮があればいいけど」

「ちょっと、それはどういう意味ですか!」

 

 そんなことを話していると、再びコンパートメントのドアが開いた。

 

「誰ですか、このコンパートメントはもう満員──」

 

 そう言いながらそちらを向くと、私はそこに立っている人影に途中で言葉を失った。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この騒がしい歓迎パーティーに組分けを!(1)

「めぐみん!」

 

 コンパートメントの入り口に立っていたのは、私の幼馴染であるゆんゆんだった。

 

「ゆんゆん!?なぜあなたがここに?」

「それはこっちのセリフよ!ひょいざぶろーさんもゆいゆいさんも魔法使いじゃなかったはずじゃない」

「ええ。でも私は魔法使いだったみたいです。そういうこともよくあるそうで……知らなかったんですか?」

「いや、確かにそうだけど、でも、まさかめぐみんがそうだなんて……」

「……知り合い?」

 

 私たちが言い合っていると、横からハリーが聞いてきた。

 

「ええ。遠い親戚の友達の遠い親戚です」

「それは他人じゃないの?」

「嘘言わないでよめぐみん!初めまして、私はめぐみんの幼馴染の紅魔ゆんゆんです」

 

 ゆんゆんがそう言うと、三人はゆんゆんの方をえっ、と言う顔で見た。

 

「あれ?めぐみん、私何かおかしなこと言っちゃった……?」

 

 そんなことを言って不安そうに三人を見るゆんゆんに、ハリーが言った。

 

「ゆんゆんはめぐみんみたいに「我が名はゆんゆん!」とか言わないの?」

「えぇ!?めぐみんあなた、あれやったの?外の人に?」

「当たり前じゃないですか。あれは紅魔の正式な名乗りです。むしろゆんゆんは何故やらなかったのですか」

「だって恥ずかしいし……」

 

 そんなことを言うゆんゆんに私は……

 

「もっと恥ずかしいところに刺青があるくせに」

 

 そんなことを言った。

 

「なんでそれを他の人の前で言うの!めぐみんのバカァァァ!」

 

 それを聞いてゆんゆんは顔を赤くして涙目になりながら走り去っていってしまった。

 

「……えっと、追いかけなくていいの?」

「割といつも通りなので大丈夫です」

 

 私の返事を聞いたハーマイオニーは何かを諦めたような顔になった。

 

「あ、そう言えばあの子も紅魔って言ってたけど、姉妹とかじゃないの?」

「いえ、どこかで繋がりはあるかもしれませんがそれこそ遠い親戚程度です。紅魔というのは普通の苗字……ファミリーネームではなくて、一族全体の言わばグループネームなんですよ」

 

 そんな私にロンが聞いてきたので、私はそう答えた。ちなみに山奥に紅魔の里というものがあり、紅魔はみんな年に一度そこに集まることになっている。

 

「紅魔の一族は裏ではそれなりに知られてましてね。その方がかっこいいからと時の天下人に反旗を翻したり、面白そうだからと国家転覆を図り、楽しいからと議員として自国や他国の元首の性癖を暴いて国会をめちゃくちゃに荒らしたりと、何者にも縛られない生き方で生を謳歌することを至上とする一族です」

「なんてはた迷惑な……」

 

 私の言葉に、ハリーはそう呟いた。当時の日本国民はそれを面白がって見てたらしいから意外と迷惑じゃなかったんじゃないかと私は思ってる。

 

「それと紅魔の者は基本的に何かの才能を持っています。例えば今知りましたがゆんゆんの家は魔法を、私の妹のこめっこは魔性とカリスマを、里の占い師のそけっとは未来を正確に知る力を、近所のニートのぶっころりーはネトゲの才を持っています」

「へー……いや、今最後なんて言ったの?」

「ネトゲの才です。彼はニートにも関わらずそれでお金を稼いでいます」

「……なんか納得いかないわ」

 

 そんなことを話しながら、私たちは初めてのホグワーツへの汽車旅行を楽しんでいた。

 

 

 

 

「着いたみたいね」

 

 汽車が止まったのを見て、ハーマイオニーがそう言った。

 

 コンパートメントのメンバーのうち三人が魔法界初体験なこともあり、汽車の中では色々なことがあった。

 

 車内販売で買ったカエルチョコなるお菓子が本物のカエルさながらの跳躍を見せたり、ハリーと私がダンブルドアのことをほとんど知らなかったことに驚かれたり、写真が動くどころか写真の中の人物がどこかへ行ってしまうことを知ったり、ネビルという子のカエル探しを手伝ったり。

 

「じゃ、行きましょうか。あ、荷物は持って行かなくていいみたいですね」

 

 そう言って四人でプラットフォームに出て行くと、そこはまさに魔法の国というか、駅以外に現代の文明を感じさせない景色が広がっていた。

 

 周囲には山や森。遠くにはおそらくホグワーツであろう巨大な古城がその中にそびえ立っていた。そしてその頭上には都会暮らしでは一生見ることができないような満天の星が広がっており、足元には大きな黒い湖が横たわっていた。

 

「ここがホグワーツ……」

「すごいわね、こんなところがイギリスにあっただなんて」

「ああ、すごいや」

「僕たちはこれから、ここで」

 

 少しの間そうして突っ立っていると、夜の冷たい空気を割くような大きな声が聞こえてきた。

 

「イッチ年生!イッチ年生はこっち!ハリー、元気か?もう友達ができたのか、そりゃいい」

 

 そちらを見ると、ひげ面の大男がハリーに笑いかけてるのが見えた。

 

「知り合いですか?」

「うん。ハグリッドって言うんだ。僕に入学許可を知らせてくれた人。ホグワーツの森の番人をやってるんだって」

 

 そのハグリッドという大男の案内についていくと、さっき見えた湖に着いた。四人乗りのボートに乗り込み、星空の下、威厳ある古城に向かって進む。

 

 そうして────

 

「イッチ年生!ここがホグワーツだ!」

 

 私たちは、ホグワーツに到着した。

 

 

 

 

「ホグワーツ入学おめでとう」

 

 大きな木製の扉から中に入ると、そこからはマクゴナガル先生の先導だった。少し歩き、ホールの脇にある小さな空き部屋に一年生を案内すると、マクゴナガル先生はそう言って話し始めた。

 

「新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。寮の組分けはとても大事な儀式です。ホグワーツにいる間、寮生が学校での皆さんの家族のようなものです。教室でも寮生と一緒に勉強し、寝るのも寮、自由時間は寮の談話室で過ごすことになります」

 

「グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンの四つの寮があり、それぞれに輝かしい歴史があって、偉大な魔法使いが卒業しました。ホグワーツにいる間、皆さんの行いは自らの寮の点に繋がります。良い行いならば加点、規則違反などの悪い行いならば減点。学年末には最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入っても、皆さんが寮にとって誇りとなるよう望みます」

 

「まもなく全校列席の前で組分けの儀式が始まります。待っている間、できるだけ身なりを整えておきなさい」

 

 マクゴナガル先生は準備ができたら戻ると言って部屋を出て行った。

 

「どうやって寮を決めるんですか?」

「兄さんたちに聞いてみたけど、みんな違うこと言ってた。もしかしたら学年によって違うのかもしれないけど、多分からかってるだけだと思う」

 

 なんだろう、呪文の試験かも、そんなの入学前にやらせるもんか、じゃあ筆記試験かも、いやそれもないんじゃないか。そんなことを話していると、扉が開いた。

 

「さあ行きますよ。組分けの儀式がまもなく始まります」

 

 マクゴナガル先生の言葉に、私たちはパーティー会場の中へと入っていった。

「わぁ……」

 

 会場に足を踏み入れると、私の口から自然にそんな声が漏れた。

 

 大きな広間を埋め尽くすほどの生徒に、机の上にはキラキラ輝く金色のお皿とゴブレット。宙には何千というロウソクが浮かんでいて、その間を飛ぶゴーストは銀色に光る霞のように見えた。そして上を見上げれば、そこには満点の星空が。

 

「本当の空が見える魔法がかけてあるそうよ。『ホグワーツの歴史』にあったわ」

 

 横でハーマイオニーがそう言ったのが聞こえた。

 

 しばらく天井を見上げていると、マクゴナガル先生が黙って新入生の前に四本足の椅子を置いたので、私は視線を戻した。椅子の上にはいかにも魔法使いがかぶりそうな背高帽子が鎮座していた。継ぎ接ぎだらけでボロボロだったが、なぜか私はそこから力を感じていた。

 

「帽子からウサギでも出すのかな」

「そんなわけないでしょう。おそらくあの帽子は失われし古代技術で作られたアーティファクトで、実は製作者の血を引いていた私に反応して人型になるのだと思います」

「そっちの方が無いと思う」

 

 そんなことをハリーと言い合ってると、唐突にその帽子が動き出した。そしてつばのヘリの破れ目が口のように開き、なんと帽子が歌い出した。

 

 

世界に帽子は数あれど

歌う帽子はそうはいない

山高帽子は真っ黒だ、シルクハットはすらりと高い

私はホグワーツの組分け帽子、彼らの上を行く帽子

君の隠れた才能も、組分け帽子はお見通し

かぶれば君に教えよう

君が行くべき寮の名を

 

グリフィンドールは勇気の寮

勇猛果敢な騎士道で、他とは違うグリフィンドール

 

ハッフルパフは誠の寮

忍耐強く真実で、苦労を厭わぬハッフルパフ

 

レイブンクローは賢者の寮

機知と学びの友人を、何より欲するレイブンクロー

 

スリザリンは野望の寮

狡猾にして抜け目なく、目的遂げるスリザリン

 

かぶってごらん!恐れずに!

興奮せずに、お任せを!

君を私の手に委ね、考える帽子にお任せを!

 

 

 歌が終わると、会場からは大きな拍手が上がった。四つのテーブルにそれぞれお辞儀をして、帽子は再び静かになった。

 

「帽子をかぶるだけだったわね」

「うん。試験がなくて良かったよ」

「本当に。僕、もしかしたら試験で落第して追い返されるんじゃないかって思ってた」

 

 今の帽子の歌を聞いて、横で三人がそんな話をしていた。全く、なんてことを言ってるんですか。

 

「私は別に試験でもよかったんですが。魔法の勉強はまだですが私は天才なのでトップ通過でしょうし、みなさんだってそれぞれ突破できる理由は持ってるじゃないですか。全く、志が低いですね。悪いことばかり考えても仕方ないですよ」

「めぐみんは少しは悪いことを考えたほうがいいと思う」

 

 私の言葉に、ハリーがそう言ってきた。他の人から聞いた話を考えるとハリーは本当に悪いことばかり考えすぎだと思うんですけどね。魔法界の英雄ならもっと堂々としててもいいと思います。

 

「アボット・ハンナ」

「ハッフルパフ!」

 

 そんなことを考えていると、組分けの儀式が始まっていた。儀式は本当に帽子をかぶるだけだった。帽子が大声で寮を宣言するのは思った以上にシュールだった。

 

「グレンジャー・ハーマイオニー」

「グリフィンドール!」

 

 そのまま儀式を眺めていると、ハーマイオニーがグリフィンドールと宣告されテーブルで歓迎されるのが見えた。彼女はG、私はK。そろそろですね。

 

「紅魔めぐみん」

 

 出て行く準備を整えていると、思ったよりも早めに呼ばれて私は椅子に座り組分け帽子を被った。

 

 

──やあ、私は組分け帽子。よろしく。

 

 帽子を被ると、頭の中に声が響いてきた。どうやら挨拶のようだったので、私も自己紹介を返した。

 

(我が名は紅魔めぐみん!紅魔家一の天才魔法使いにして、いずれ爆裂魔法の使い手となる者!どうぞよろしくお願いします)

 

 脳内でマントを翻しながらそう言うと、帽子はしばらく沈黙した。

 

(帽子さん?組分け帽子?……返事しないと燃やしますよ)

──はっ!いや、失礼。自己紹介を返してくれる生徒は少ない上に、個性的な自己紹介だったものでね。だから燃やすのは少し待ってくれないかな?私はまた来年もこのパーティーに出て上級生のパイ乙を眺めたいんでね。

 

 組分け帽子の欲望は思ったよりも俗っぽかった。

 

(冗談ですし、別に燃やしたりしません。話を聞いて少し燃やしたくなりましたが、あなたは貴重なようですし。それより早く私の寮を宣告してください。次がつっかえてます)

──いや、この会話は脳内で非常に早い速さで行われてるからそれは問題じゃないさ。問題は寮の決定そのものでね。

 

 私の要求に組分け帽子はそんな言葉を零してきて……

 

(なるほど、今までの既存の枠では収まりきらないほど私の器が大きかったんですね。なら仕方ないです。エクスプロージョン寮と宣告してください)

──君の自己評価の大きさと発想の奇想天外さは確かに既存の枠じゃ収まらないけどね。四つのうちどれかの寮に入れる素質はちゃんとあるから安心していい。ただ、困ってるのはね……

 

 そこで組分け帽子は一息置いて言った。

 

──君には四つの寮全ての素質が同じくらい大きくあるんだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この騒がしい歓迎パーティーに組分けを!(2)

(私に四つの寮全ての素質がある、というのは?)

 

 私は組分け帽子に聞き返した。自分が天才だということは知ってたが、まさか四寮全てとは。いやでも、案外よくあることなのかもしれない。

 

──君には分からないと思うがこれは間違いなく異常事態でね。普通の生徒は一つの寮の素質だけで、二つあったとしても片方が弱かったりするんだ。今年で他にこの異常が起こりうるとすればあのポッター家の子くらいと言えるほどに、君は普通じゃない。

 

 そんな私の考えを帽子はすぐさま否定してきた。そうですかそうですか。うんうん、さすがは私。天才の中の天才、正しく麒麟児ですね。

 

──……君は少々自信過剰ではないかな?

(うるさいですね。それより、その素質というのは具体的にはどんなものなんですか?)

 

 少し気になり質問してみると、帽子は答えた。

 

──君はひどく仲間思いで、世間に背いてでも友達を信じて守り抜くほどの気概が感じる。これはハッフルパフの素質。

 そして同じように、君は何やら大いなる魔法に対して並々ならぬ情熱を持ってるね。これはレイブンクローの素質。

 そして、どう言えばいいか分からないが君は間違いなくスリザリンで上手くやっていける。

 そして最後に、君は勇敢で誇り高く、英雄に憧れている。これこそはグリフィンドールの素質だ。

(……特に特別な要素は見えなかったように思えますが)

 

 ハッフルパフの素質は人として当然だし、ここに来てる人の半分以上は魔法に対して意欲的だろう。スリザリンだけはよく分からないが、グリフィンドールに関しては誰だって英雄願望を持ってるはずだ。

 そんなことを考えていると、帽子は言った。

 

─いや、私が素質と言い切るのは人より圧倒的にそれが大きい場合のみだ。つまり、君は全寮において成功する未来が存在する。この場合、選択権は君にある。君が強く願えば、私はそれに呼応しよう。

 

 私はそれを聞いて、少しだけ考えた。ハッフルパフの誠実さ、レイブンクローの知識の探求、スリザリンの目的への強力な意識。だが、それは本当に少しの間だった。全ての寮が選べるなら、答えは一つだけだ。

 

──そうだね、君ならそう言うと思ってたよ……「グリフィンドール!!!

 

 その瞬間、私の頭は再び現実世界へと戻ってきた。

 

 広間を見れば、一番横の緑地に獅子の描かれた旗が翻っているテーブルが沸き立っていた。そこへと歩いていってハーマイオニーの隣に座ると、上級生たちから歓迎とお祝いの言葉をかけられた。

 

「入学とグリフィンドール入寮おめでとう!」

「君は運がいい、ここは最高の寮なんだ」

「これからよろしくね」

「ロリっ子キター!」

 

 おい、最後の。

 

 辺りを見回してみたが、最後の失礼な言葉をかけてきた輩は見当たらなかった。見つけたら泣いて謝るまでボコってやることを誓った。

 

「紅魔ゆんゆん」

「レイブンクロー!」

「えぇ!?」

 

 組分け帽子に視線を戻すと、私の次に呼ばれたゆんゆんがレイブンクローと言われて涙目になってるのが見えた。こちらへの視線を見るに、私のいるグリフィンドールに入りたかったらしい。ぼっちでも頑張ってください、ゆんゆん。

 

「ロングボトル・ネビル」

「グリフィンドール!」

 

「マルフォイ・ドラコ」

「スリザリン!」

 

「ポッター・ハリー」

「グリフィンドール!」

 

「ウィーズリー・ロナルド」

「グリフィンドール!」

 

 組分けの儀式はサクサクと進んで行き、とうとう全員の分が終わった。どうやら新入生は百数十人ほどのようで、各寮にはだいたい三、四十人ごとに振り分けられたようだった。

 

 食事が来るのを今か今かと待っていると、教職員の机にいた白ヒゲのメガネのおじいさんが立ち上がった。

 

「新入生諸君、入学おめでとう!歓迎会を始める前に、二言三言ほど言わせていただきたい。では行きますぞ。そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!以上!」

 

 あの人は頭がおかしいんじゃないだろうか。そしてあの人に拍手喝采しているここの生徒たちも頭がおかしいんじゃないだろうか。

 

「すみません、今の頭がおかしなおじいさんは誰ですか?」

 

 近くに座っていたロンのお兄さんのパーシーにそう聞くと、パーシーは目を丸くした。

 

「え、君もしかしてダンブルドアを知らないのかい?あの人はホグワーツ現校長、世界一の魔法使いであるダンブルドア先生だよ!」

「なるほど、あの人がダンブルドアでしたか。確かに賢者感が凄いですね……でも今の言葉には間違いがありますよ。彼は世界二位です。世界一の天才は私なので」

「君は頭がおかしいのかい?」

 

 私が言うと、パーシーは心底心配そうな顔でこちらを見てきた。失礼な。でもこれ以上言うと本当に頭のおかしな子認定されそうだったので私はいつのまにか現れていた食事の方に視線を移した。

 

 目の前に並ぶご馳走の数々。こんなの、我が家はおろか紅魔の集まりでも見たことがない。

 

「いただきます!!!」

 

 私はそう叫んで、何の遠慮もなく食事にかぶりついていった。

 

 

 

 

「はっ!ここはどこですか」

「寮の部屋よ」

 

 気づけば、私は寮の部屋にいた。

 

 いや、待ってほしい。私はさっきまで歓迎会で滅多にないご馳走を体いっぱいに詰め込んでいたはずだ。

 

「私はどうやってここに?」

 

 とりあえず隣にいたハーマイオニーに聞くと、後ろから声がした。

 

「食べ過ぎて倒れたのを私たちが運んできたのよ。うわ言でタッパーにまだ詰め込んでないのにと言ってるあなたを運ぶのは少し疲れたわ……あなた、食いしん坊過ぎない?そんなに体が小さいのに」

 

 振り向くと、そこには綺麗な黒髪の少し大人びた少女がベッドに腰掛けていた。

 

「それはそれは。迷惑をかけたみたいですね、すみませんでした。あんなご馳走を目にする機会が今までなかったので、つい……それで、あの、あなたは?」

「女の子なんだから少しは自重しなさい。私はパーバティ・パチルよ。インドから来たわ。よろしく」

 

 パーバティが自己紹介をすると、部屋にいたもう一人の金髪の女の子も話に入ってきた。

 

「私はラベンダー・ブラウン。七年間よろしくね」

「私も同じ部屋よ、めぐみん。今後ともよろしく」

 

 どうやら彼女らは私のルームメイトとなるらしい。ならば私も自己紹介をしなければ。

 

 そう思い、私はベッドからぴょんと飛び降りた。

 

 そしてローブを翻そうとしてすでにローブを脱いでいることに気がついた。

 

「……あの、私のローブは?」

「運ぶ時に脱がしたわ。それとめぐみん、私たちは今日はもう疲れてるからあの名乗りは省略してくれると助かるんだけど」

 

 どうやらハーマイオニーに先手を取られていたようだ。

 

「そうですか。それなら仕方ないですね。私は紅魔めぐみんです。日本から来ました。私は天才なので、じゃんじゃん頼ってくれていいです。これから七年間、よろしくお願いしますね」

「……そういうのは明日の授業とかが終わってから言えるものだと思うんだけど。あなた、変わってるわね」

「まあまあパーバティ。私は面白そうな子でいいと思うな。じゃあめぐみん、宿題困ったら教えてね!」

「もちろんですとも」

 

 この感じだと、ルームメイトたちとは仲良くやれそうですね。ゆんゆんが魔法使いだったのにはビックリしましたが、今日は概ねいい日でした。

 

 それから私たち四人はベッドに横になりながら少しの間しゃべっていた。そして間もなくして、それぞれ眠りの世界へと落ちていったのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この魔法薬学の授業に減点を!

 授業は歓迎パーティーの翌日から始まった。授業は思っていたよりも複雑で面白そうだった。特に変身術。授業の最初にマクゴナガル先生が上げた口上から気に入った。

 

「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も危険で複雑なものの一つです。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒は出て行ってもらいますし、二度とクラスには入れません。初めから警告しておきます」

 

 もう、ね。素晴らしいとしか言いようがないですよ。初めから警告しておきます……なんとかっこいい響き。これだけかっこいいことが言えるのですから、魔法に長けているのも納得というものです。かっこいいことが言える人は万に通ず。紅魔の里で習いました。

 

 授業の内容の方も実に興味深いものだった。マクゴナガル先生は、まず演示として机を豚に変え、元に戻すということをやってのけた。すでに生徒たちは大興奮。みんなはつまらなさそうに受けていたが、そのあとの講義の内容も私にとってはとても面白いものだった。

 

 そして実技。最初の授業だからかマッチ棒を針に変えるという地味なものだったが、それでも素晴らしい魔法体験だった。

 

「矮小なる木の棒よ、その真なる姿を現せ!メタモルフォシス!

「ミス・紅魔、変身術にそんなに大仰な呪文はいりませんしそもそも呪文が間違ってます。それに変身術なのですから変身後の姿は真ではありませ……え?成功してる?最初の授業で完璧な成功なんて、しかもオリジナル呪文で?……なんですかミス・グレンジャー、私は今少し考えなくてはいけないことが……え、あなたも成功?なんですかこの学年」

 

 マクゴナガル先生は困惑していたが。生徒の成長を素直に喜んでくれてもいいのに。

 

 

 肩透かしだったのは、闇の魔術に対抗する防衛術の授業だった。特に実技があるわけでもなく、講義の内容も期待からするとイマイチ。頭にターバンを巻くという強烈な個性を持ち、闇の魔術に対抗する防衛術という最高にかっこいい名前のクラスを持ちながらこの体たらく。正直クィレル先生にはがっかりしました。

 

 まあいい。今日は魔法薬学といういかにもな授業がある。今日はこれに期待しておこう。

 

「いやー、今日の魔法薬学楽しみですね!いかにも魔法学校というような授業じゃないですか」

 

 朝食を食べながら私がそう言うと、同じく朝食を食べていたグリフィンドール生たちの机がシーン、と静まり返った。

 

 あれ?

 

「えっと、私今変なこと言いました?」

 

 もしかしたら魔法薬学の授業はクィレル先生並みのがっかり授業なのかもしれない。そう思っていると、隣に座っていたロンがため息をついて言った。

 

「……魔法薬学はスリザリンと合同授業で、しかも教授のスネイプは自分が寮監してるスリザリンを贔屓することで有名なんだ」

「マクゴナガル先生も僕たちを贔屓してくれたらいいのに」

 

 それに続いてハリーがそう言った。マクゴナガル先生は厳格にして公正なのでどの寮の生徒にも平等に接する。私は自分の寮監が依怙贔屓する人よりはマクゴナガル先生のように誠実な人の方がいいと思うんですけどね。

 

「贔屓を期待するのはおかしなことよ。それに、贔屓なんて本当にいい成績を残せば関係ないわ」

「だといいけど」

 

 ハーマイオニーに対して呟いたロンのセリフは、次の授業へのグリフィンドール生全員の不安を表していた。

 

 

 そしてやってきた魔法薬学の授業。

 

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ」

 

 冒頭のセリフで、私はスネイプ先生の有能さを確信した。

 

「吾輩の教えるこのクラスでは、杖を振り回すようなバカげたことはやらん。この時点でそれでも魔法かと思う諸君はただの見識なしだ。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管を這い巡る液体の繊細なる魔力……真にこの素晴らしさを理解できるとは思っておらん。吾輩が諸君らに教えることができるのは名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である──もっとも、諸君らが吾輩のこれまで教えてきたウスノロたちよりまだましであればの話だが」

 

 演説が終わるとすぐに、私は大きく拍手した。素晴らしい。百点満点の格好良さ。先日のマクゴナガル先生の厳粛な格好良さもよかったが、このスネイプ先生のコテコテの偉そうな演説もまた、非常にかっこいい。

 

 そう思いながらみんながシーンとするなか一人拍手をしていると、スネイプ先生は口を開いた。

 

「紅魔、お前の拍手は騒がしい。グリフィンドール、1点減点」

 

 圧倒的理不尽。

 

「はぁぁ!?ちょ、拍手しただけで減点ですか!?おかしいですよ!」

「さらに騒がしくなった。1点減点」

「ふざけてるんですか?」

「失礼な態度。1点減点」

 

 ぶっ殺してやろうか。

 

「物騒な思考。1点減点」

「どうしろと!?」

 

 ここで隣に座っていたハーマイオニーに止められ、私はようやく落ち着いて席に座った。納得いかない。そう思いながら先生を見ていると、先生のグリフィンドール嫌いの矛先はハリーに向いた。

 

「我らが新しいスター、ポッターに聞いてみよう。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

「えっ」

 

 確か強力な眠り薬だったような。『生ける屍の水薬』とかいう超絶かっこいい異名が付いていたから覚えてる。

 

 ハーマイオニーも分かってるらしく、彼女はサッと手を挙げた。先生は無視した。ハリーはどうやら分かっていないようで、ロンと目を合わせて首を力なく横に振っていた。

 

「分かりません」

「チッ、チッ、チ──どうやら有名なだけではどうにもならんらしい。ではもう一つ。ベゾアール石を見つけてこいと言われれば、どこを探すべきか」

 

 この学校の倉庫を探せばあるんじゃないだろうか。

 

 まあそんなことを聞いてるわけじゃないだろう。ベゾアール石と言えば山羊の胃石だ。牧場へ行って一匹買ってくるとか?

 

「分かりません」

「全く……クラスに来る前に教科書を眺めるくらいはしなかったのかね、ポッター。え?」

 

 再びハーマイオニーの挙手を無視しつつ、先生はそう言った。私いじめの時よりも追及が激しい。有名人に突っかかってるだけなのか、それとも何か因縁があるのか。私は何となく突っかかってるだけではないと感じた。

 

「では最後に。モンクスフードとウルフスベーンとの違いは何かね?」

 

 とうとう立ち上がって手を大きく上に突き出してるハーマイオニー。その気持ちは分かる。同じものの違いを聞くなんてバカなんですかと私も言ってやりたい。

 

「分かりません。ハーマイオニーが分かってるようですから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

 

 ハリーの言葉に生徒が数人笑い声を上げたが、スネイプの不快そうな顔に数刻と経たずに止んだ。

 

「座りなさい、グレンジャー。では答え合わせだ。最初のは眠り薬となる。強力すぎることから『生ける屍の水薬』との異名を取っている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石であり、多くの毒に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物であり、トリカブトのことだ。アコナイトとも呼ばれる」

 

 ここで先生は教室を見回して言った。

 

「どうだ?諸君、なぜ今の話をノートに取らないのかね?そしてポッター、君の無礼な態度でグリフィンドール2点減点」

 

 こうして魔法薬の授業は始まった。

 

 基本的にスネイプ先生は態度こそ悪けれ、授業に関しては普通にいい教授だった。最初のハリーへの質問だって、ハーマイオニーを無視したこととハリーをいじめたことを除けばノートの取らせ方としてはとてもよかったように思える。

 

「む。ドラコ、君の角ナメクジの茹で方は完璧だな。諸君、手本として見に来てはどうかね?」

 

 そんなことを考えると、お気に入りらしいドラコを先生がそう言って褒めた。ドラコは非常に得意げな顔でクラスを見回した。

 

「へー、確かに綺麗ですね。家で練習してきたんですか?」

「いや、父上はまだ危ないとやらせてくれなくてね。これは純然たる才能……って、お前はあの頭がおかしいマグルの子!」

「頭がおかしいって何ですか。私には紅魔めぐみんという素晴らしい名前があってですね。そう呼ばないのならば、私にはとある大魔法を覚えた暁にあなたを最初の餌食にする準備が」

「分かった!分かったから、紅魔って呼ぶから変なことをするのはやめてくれ!」

 

 …………。なんかすごい怖がられてるようで気に食わない。気に食わないが、取り敢えずここは流そう。

 

「それでドラコ、その大魔法について私はあなたに言いたいことが……あ!ネビル!それはダメです!ドラコ、また後で来ますね。聞いてくださいネビル、まずは火から鍋を降ろさないと」

 

 私はドラコに爆裂魔法の素晴らしさを布教するのを一旦中断してネビルの指導に向かった。

 

「……いや、もう来ないでくれ。僕の価値観が色々とおかしくなってしまう気がするから」

 

 ドラコのそんな呟きは、私の耳には入ってこなかった。

 

 

 




評価ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この番人な大男とお茶会を!

今回は短いです


「どうしよう、今日だけで僕寮点を2点も落としちゃったよ。みんなに嫌われたりしたらどうしよう」

 

 魔法薬学からの帰り道、先に帰ったハーマイオニーを除いた三人で廊下を歩いているとハリーが言った。

 

「何ですか、その2倍の4点を落とした私への嫌味ですか?」

「あ……いや、そうじゃなくて。なんかごめん」

「大丈夫だって二人とも、スネイプに減点されて嫌われることはグリフィンドールじゃありえないさ。それよりハリー、僕もハグリッドの小屋に行っていい?」

「あ、私も行きたいです」

「もちろん。一緒に行こうよ」

 

 三人でホグワーツ城の外、禁断の森の端にある小屋へ行くと、駅からホグワーツまでの先導をしていた大男が扉の前に立って待っていた。

 

「よく来たな、ハリー。友達も連れてきてくれたんか。ささ、入った入った」

 

 中に入ると、そこには大きな部屋が一つだけあった。ハムや干し肉が天井からぶら下がり、焚き火にかけられたヤカンにはお湯が沸いていた。昔話に出てきそうな内装に、私は少し驚いた。

 

「くつろいでくれや」

 

 そう言ってハグリッドは用意していたロックケーキを紅茶と一緒に私たち三人に振る舞った。ロックケーキは非常に固かったが、食べてみると意外と美味しかった。

 二人は歯が欠けそうとか呟いてたが、美味しいものが食べられるんだから文句を言わないでほしい。少なくとも夕食がいつもザリガニ定食だった私の前では。

 

「ロンです」

「紅魔めぐふぃんれす」

「お前さんは一回落ち着いてケーキを飲み込んだ方がいい。そいで、そっちはウィーズリー家の子かい」

 

 ハグリッドはロンの方を見た。

 

「お前さんの双子の兄貴、いたずらっ子のフレッドとジョージを追い払うのに俺は人生の半分を費やしてるようなもんだ」

 

 そう言っている表情は苦々しかったが、どこか楽しそうでもあった。

 

「そいで、授業はどうだ。慣れたか?」

「ううん、全然。僕、ここでやってけるかどうか心配だよ」

「やっていけないはずがあるか。お前さんの両親は天才だったし、お前さんだって『例のあの人』を打ち破ったんだ」

 

 不安そうなハリーに、ハグリッドはそうやって声をかけた。

 

「『例のあの人』っていうとヴォルデモートのことですか?」

その名前を俺の前で言わんでくれ!

 

 私が聞くと、ハグリッドは耳を塞いで大声で怒鳴った。

 

「……いや、悪かった。でもその名前は言わんでくれ。恐怖でどうにかなっちまう」

 

 そして続けてハグリッドがそう言って……。

 

「なるほど。こんな反応をしてくれるのなら闇の帝王も悪くないですね。いやでも魔王を倒した者が次の魔王っていうのはありきたりですし、少し話を弄らなければ。あ、そうだ。実は私がヴォル……『例のあの人』の実の娘だったとか」

「……ハリー?この子は大丈夫なんか?」

 

 私の言葉に、ハグリッドはハリーにそう言った。失礼な。私は正常にかっこよさを求めて闇の帝王になろうとしてるだけだというのに。

 

「あー、うん。めぐみんは少し変わってるだけでいい人だよ。多分かっこよさそうだから食いついただけだと思う」

「めぐみんって馬鹿と天才は紙一重ってのを実感させてくれるよな。だってマグル生まれなのにクラストップレベルで、でも頭の中はこんなんなんだもん」

「こんなんとは何ですか」

 

 なんか最近こんな扱いが増えてきた気がする。そんなことを考えてると、ハリーが言った。

 

「でもハグリッド、不安なのは単に実力がどうとかだけじゃなくてさ。魔法薬学のスネイプが僕のこと嫌い……というか憎んでるんだ」

 

 確かにあれは懸案事項だ。ハグリッドもそれを分かってるのか、返事をするときにハリーと目を合わせなかった。

 

「なんでスネイプ先生がお前のこと憎まにゃならんのだ」

「でも実際、そうとしか思えないような態度でした。本当にあの吊るし上げは酷かったです。授業自体はよかっただけに残念ですね」

「あの授業がよかった?嫌味だらけでスネイプのストレス発散みたいなあの授業が?」

 

 私が言うと、ロンが分かりやすく不満そうに言ってきた。まあ気持ちはわかりますけど……。

 

「ロン、それは言い過ぎですよ。確かに最初のクラスでするような注意ではありませんでしたが、間違いは間違いです。熟練でもやらかしそうなことであっても、ええ、私は納得してますとも」

「めぐみん実は一番根に持ってない?」

 

 そんなことはありません。実際、優秀だねと言われて終わるよりかはよっぽどいいですし。

 

「ハグリッドも新聞取ってるの?ちょっと見せてよ」

 

 そんななかハリーが机にポンと置いてあった新聞に手を伸ばした。

 

 そしてその新聞をハグリッドは素早く手にとって背中に隠した。

 

「……ハグリッド?」

「あー、なんだ、ハリー、お前さんに新聞はまだ早い。それよりほれ、俺が内緒で買った魔法の参考書でも……ああめぐみん、取るんじゃねえ!」

 

 ハグリッドがあからさまに誤魔化そうとしてたので回り込んでハグリッドの大きな手から新聞紙を抜き取ると、一面には大きな見出しでこう書いてあった。

 

“グリンゴッツに強盗、未だ犯人は判明せず。小鬼たちは荒らされた金庫は既に空になっていたと主張。強盗は失敗か”

 

「へー、地下数キロのあのグリンゴッツに。ハグリッド、なんでこれを隠したんですか?」

「あ!ハグリッド、グリンゴッツ侵入があったのは僕の誕生日だ!僕があそこにいる間に何かあったのかもしれないよ!」

 

 私が広げた新聞紙を見て、ハリーは興奮気味にそう言った。ほほう。

 

「その話詳しく」

「この七月三十一日に僕もハグリッドに連れられてグリンゴッツにいたんだ。そういえばハグリッド、何かの包みを取り出して713番金庫を空にしてたよね。確かダンブルドアに頼まれた仕事だって」

「ほう?ほほう?ほほほう?それでハグリッドは何を持ち出したんですか?」

「何でもいいだろう。言っとくけど俺は何も言うつもりはないぞ」

 

 そう言うとハグリッドは腕組みをしてそっぽを向いた。極秘事項の匂いがする。

 

「いえ、答えないなら答えないでいいです。こちらで判断するんで……それは危険なものですか?」

 

 ハグリッドはホッとした顔をした。

 

「小さな包みに入ってた……包みに入れるというと本ではありませんね。それは宝石のようなものですか?」

 

 ハグリッドはあからさまにビクッとした。当たりですね。

 

「じゃあ次は場所ですね。確かダンブルドア校長が学期の最初に四階の廊下には立ち入るなと言っていましたが、もしかしてあそこに……」

「マジで言い当てられそうだから止めてくれ!俺がクビになっちまう!」

 

 その日、ハグリッドは私たちが何を聞いても決して口を割ろうとしなかった。私たちはいずれ聞き出してやると心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この落ちこぼれな純血に励ましを!

 

「ふっふっふ。とうとう……とうとうこの時がやって来ました!」

 

 ある週の木曜日の午後。私は校庭でもうすぐ始まる飛行訓練の授業を前に、高鳴る期待を隠せていなかった。

 

 箒での飛行──それは魔法使いの証。スカートに気を付けなければいけませんが、ローブと背高帽子を身につけた美少女の私が箒にまたがり宙を舞う姿は最高に絵になるに違いありません。

 

「今日はいやにはしゃぐね、めぐみん」

「当然ですとも。ロンはあれですか、経験済みだからそんなに落ち着いてるんですか?」

「一応ね。そんなに上手くないけど。……ハリー?そんな顔してどうしたんだい?」

 

 ロンの言葉にハリーの方に目を向けると、ハリーは非常に不安そうな顔をしていた。

 

「飛行訓練はスリザリンと合同だろ?飛ぶのに失敗してマルフォイに笑われるのが眼に浮かぶよ」

「何でハリーはいつもそう弱気なんですか。あなたは魔法界の英雄でしょう。もっとシャキッとしてくださいよ」

 

 私がそう言うと、ハリーは顔をしかめた。

 

「めぐみんは出来るからそんなこと言えるんだよ。落第ってほどじゃないけど、僕はどの科目もいい成績を残せてないんだ。どうやって強気になれって言うんだよ」

 

 ふむ。確かにハリーはここまで特に目立った才覚を見せていない。見せてはいないが……。

 

「だからこそ飛行訓練が見せ場だとは思いませんか?『生き残った男の子』が全教科普通なわけないでしょう」

「飛行術で闇の帝王を打ち倒したとも思えないけどね」

 

 確かにそうだ。

 

「……何も言い返してくれないのもそれはそれで悔しいんだけど」

「どうしろって言うんですか」

 

 そんなことを話しながら、私たちは飛行訓練の授業までの時間を過ごしていた。

 

 

 

「何をボヤボヤしてるんですか。みんな箒のそばに立って。さあ、早く」

 

 開始の時刻にやってきたマダム・フーチは開口一番ガミガミと言ってきた。黄色の瞳は鷹を思わせるほどに鋭かった。

 

「右手を真っすぐ前に掲げて上がれ!と言うんですよ。ほら、さんはい!」

「「「上がれ!」」」

 

 フーチ先生の掛け声に、みんなが叫んだ。

 すると足元の箒が少し揺れ、スルスルと浮かび上がり始めた。そして一秒ほど後に私の手に収まった。

 

「おー、なんか感動ですね」

 

 すごいですね、これは。他の術とはまた違ったロマンを感じます。これに跨って飛ぶわけですか。

 

 なんとなく試してみたくなって、他の浮かばせ方もやってみた。例えば手に収まる瞬間に手を避け、行き場を失った箒を横からパシッと掴み取る。これはなかなかの出来。不敵に笑ってみるとなお良し。後は前に走りながら箒を呼んでリレーのバトンのように後ろで掴むやり方。これは掴むものが箒なのもあってイマイチかっこよくなかった。しかし姿勢自体は素晴らしかったので、改良の余地が見えた。

 

「何やってるんですか」

「あいたっ」

 

 そうやって箒で遊んでいると、フーチ先生に軽く頭をチョップされた。どうやら他の生徒の箒上げと諸々の注意は終わったようだった。私やハリーを含む少数だけが箒を浮かばせられていたので、指導に時間がいくらかかかったらしい。

 

「それでは箒に跨ってください。そして私が笛を吹いたら地面を強く蹴ってください。二メートルくらい浮上したら前傾姿勢になってすぐに降りてくること。笛を吹いたらですからね。さあ、一、二の──」

 

 ここで、さっき多めに注意をもらっていたネビルが緊張やら置いてきぼりに対する恐怖やらで笛より先に思いっきり地面を蹴ってしまった。

 

 それを見て、私は箒に乗ったままネビルの進む方向に滑空を始めた。

 

「こらロングボトム、戻ってきなさい!って紅魔、またあなたですか!二人とも帰ってきなさい!」

 

 そんな声が耳に入らないのかそれとも制御できないのか、ネビルはどんどん上昇していく。そして森の木よりも高く上がったところで箒から真っ逆さまに落ちた。そしてその落ちる先に、私は箒で先回りしていた。

 

「ふっ、あなたに怪我はさせません。この大魔法使いが受け止めてあげましょう」

 

 そう言いながら落ちてくるネビルを抱きかかえる姿勢をとり…………

 

「あ、思ったより重グヘ」

 

 ネビルの体を支えきれずにそのままネビルの下敷きとなった。

 

「紅魔!ほらもう言わんこっちゃない……早くマダム・ポンフリーのところへ運ばなくては」

 

 私は完全に伸びてしまい、フーチ先生の言葉を遠くに聞きながら意識を手放した。

 

 

 

 

「……ん?ここはどこですか?」

 

 目を覚ますと、そこは寮の普段使ってるものとは違う清潔感のある白いベッドだった。

 

「起きましたか。全く、空から落ちてくる同い年の男子を受け止めようとするなんてバカなんですか?もっと考えてから行動してください」

「あ、マダム・ポンフリー。すみません、治療ありがとうございます」

「私の仕事ですし、かわいい生徒ですからね。幸い骨折等はありませんでしたし。体は治しましたがまだしばらくは安静にしていてくださいね」

 

 保健室の先生であるマダム・ポンフリーはそう言ってベッドルームから出て行った。

 

「さて、と……授業に戻りますか」

「安静にしててって言われたんじゃないの?」

 

 ポンフリーさんがいなくなったのを確認してベッドから立ち上がると、横から声がかけられた。

 

「ああ、ネビルですか。怪我は大丈夫でしたか?それと安静とは安らかで落ち着いている様子を指します。つまり普段の私であり、普段の私は授業を受けている。というわけで行ってきます」

「めぐみんのお陰で僕は大丈夫だったよ。それとめぐみんはいつも安らかでも落ち着いてもないし、そもそもマダム・ポンフリーが言ったのはそういう意味じゃないと思う」

「価値観の相違ですね」

「ただめぐみんが読み取れてないだけだと思う」

 

 ネビルが譲らないので、私は仕方なく授業に戻るのを諦めてベッドの上にぽふんと座った。それを見てネビルも向かいのベッドに腰を下ろした。

 

「めぐみん、改めて助けてくれてありがとう。それとごめんね、僕なんかのせいで怪我させちゃって……」

 

 少しの沈黙のあと、ネビルは私にそう言ってきた。僕なんか、ですか。

 

「ネビル。僕なんかと卑下するのは実によくないことです。その言葉は自分の可能性を潰します。そんなことを言うのはやめましょう」

「でもめぐみん、僕は実際に何もできなくて……どこに行っても落ちこぼれで……」

 

 そうしてネビルは話し始めた。聖28家、完全な純血であるロングボトム家に生まれながらなかなか魔法の才が開花しなかったこと。開花したときも二階から落ちた時に鞠のように弾んだというイマイチな開花の仕方だったこと。魔法力が微弱で、この学校には入れないと思ってたこと。そのどれもが、自分を下に見るエピソードだった。

 

「ほら、仕方ないだろう?君は優秀だから分からないだろうけど、僕みたいなのはどうしても自分を低く感じちゃうんだ。事実だし。僕は多分、どこに行ってもこんな感じだよ。さっきも箒が僕の言うこと聞いてくれなかったしね」

 

 そして俯いて力なく笑いながらそう言った。ホグワーツの授業が始まって疲れてるんだろうか、その姿勢はひどく弱気だった。それを見て私は、優秀なのに人付き合いに対してはとても弱気で腰が引けてる友人を思い出し……。

 

「ネビル!」

 

 そう一喝した。

 

「わっ……急に叫ばないでよ」

「その方が気合が入るでしょう」

 

 そこから一呼吸置いて私は言った。

 

「ネビル、ハリーと同じであなたも悪いことばかり考えすぎです。開花の仕方がどうであろうが魔法力がどうであろうが、あなたはホグワーツに招かれグリフィンドールに入れられたんです」

「でもそれは多分ロングボトム家に対するお情けで……組分け帽子だって間違えて僕をここに入れちゃったに決まってるよ」

 

 私の言葉に、ネビルはそんなことを言ってきた。

 

「ハァ……ここは世界最高の魔法学校ですよ。そんなお情けで入れるような学校なわけないじゃないですか。それにあの帽子は言ってましたよ。他人よりも際立った素質がなければ決してその寮には入れないと。つまりネビル、あなたは自分自身の素質で選ばれたんです。もっと自分を誇ってください」

 

 なおも納得してなさそうなネビルに、私は語りかけた。

 

「ネビル。魔法はあなたが思っているほどあなたにとって分不相応ではありませんし、世界はあなたが思っているほどあなたのことが嫌いではありません。もっと力を抜いてください。そうすれば、意外と色んなことができたりするかもしれませんよ?」

 

 私がそう言うと、ネビルはようやく顔を上げた。

 

「……なんで君はそんなに僕を励ましてくれるの?」

 

 そして私にそんなことを聞いてきた。

 

「決まってるじゃないですか。級友だからですよ。私は仲間を大事にします。なのでその仲間、つまりは同寮生のあなたが落ち込んでいれば励ますのが私なのです」

 

 ここら辺が組分け帽子にハッフルパフの素質として評価されたんでしょうか。何にせよ、仲間が苦しんでいて無視するなんてありえません。この機会にネビルと話が出来てよかったですね。

 

「そうなんだ。ありがとうめぐみん、お陰で元気が出たよ」

「ならよかったです……では更に元気が出てしかも自信がつく話をしましょうか。具体的に言えば、世界で最高にクールで素晴らしい魔法である爆裂魔法に関して私に語らせてほしいのですが」

「あ。ははは、ごめんね。僕用事思い出しちゃった。……それじゃ」

「あ!ちょ、逃げないでください!ネビル!」

 

 そのあと騒いでしまって二人でマダム・ポンフリーに叱られるのはまた別の話。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この姦しいルームメイトに恋バナを!

「へえ、あのハリーが」

「ええ。マルフォイが投げた『思い出し玉』を十何メートルも急降下して怪我一つなくパシッと取ったの」

「あれはすごかったわ。私も一度でいいからあんなかっこいいことしてみたい」

 

 飛行訓練のあったその日の夕食。たまにはと誘われ、私はパーバティやラベンダーと一緒に席に着いた。ハーマイオニーも誘ったのだが、考えたいことがあるからと断られた。

 

 最近彼女は妙に機嫌が悪い。孤高の魔法使いを目指すのもいいが、彼女は一人だとやらかすタイプだと思うから少しでも友達を作った方がいいと思う。私?私はどんな状況でも成功するから大丈夫です。

 

「本当に凄かったのよ、めぐみん。空中でも自由自在で。それに比べてマルフォイの情けなさったらなかったわ。隠してたみたいだけど、おろおろしてて不安なのが丸分かりだったもの。子分がいなきゃ何も出来ないのね」

「ヒューッ、パーバティったら強気ね。でも正直私もそう思ったわ。それにいい気味だった」

 

 どうやらドラコは嫌われてる様子。まああれでは仕方ないでしょう。自業自得というやつですね。

 

「でも心配なのがね。その場面を見てたマクゴナガル先生がすごい剣幕でハリーを連れてっちゃったの。めぐみんとネビルを運ぶ時にフーチ先生が箒を使うのを禁止してたのにハリーが飛んでた上に危ない飛び方してたからだと思うんだけど、大丈夫かしら」

 

 そう思っていると、ラベンダーが心配そうな顔でそう言った。

 

「え。ちょっとそれ、マズイんじゃないですか?もしかしたら停学……いや、退学も?」

「ふふ、大丈夫よ二人とも。そんなに心配しなくても。マクゴナガル先生は大のクィディッチ好きと聞いたわ。多分、あれは単純に興奮してただけよ。それにあれはそんなに咎められるべき行為じゃなかったしね」

 

 私がラベンダーの言葉にそう言うと、パーバティが少し笑いながらそんなことを口にした。ラベンダーはそれなら安心かも、と言っていたが私には何のことだか分からなかった。

 

「それよりめぐみん、今更だけど大丈夫だったの?女の子が出しちゃいけない声出して潰れてたけど」

「もう問題ないですよ、ラベンダー。マダム・ポンフリーは凄腕ですね。全然痛みとか残ってませんよ」

 

 そんな私の様子に、二人は軽く胸を撫で下ろしていた。

 

「そう言えばめぐみんも上手に滑空してたわよね。飛んだことあったの?」

「いえ。自己紹介で言った通り私はマグル界育ちですので箒で飛ぶのは初めてですよ」

「すごいわね。魔法界で育った私たちでさえ箒を浮かばせるのもうまく出来なかったのに」

「自己紹介で言った通り私は天才なので」

 

 パーバティとそんなことを話していると、ラベンダーが横からプリンの乗ったお皿を差し出してきた。

 

「めぐみんは本当にすごいわよね。ほら、私のプリンあげる。……ところでめぐみん、私魔法薬学の宿題が分からないんだけど」

「あの、ビュッフェ形式の食事でプリンをもらっても仕方ないのですが」

 

 別にそんなことしなくても後で教えてあげると言うと、ラベンダーは嬉しそうにありがとうと言った。彼女に限らず、グリフィンドール生……というかスリザリン以外の生徒は一部を除いて概ね魔法薬学が苦手だ。理由は明らかで、スネイプ先生が嫌いだからだ。先生としては有能だとは思うが、あの贔屓では嫌われるのも仕方ない。

 

「あ、ハリーが来たわ」

 

 そうしていると、ハリーがホールに入ってくるのをパーバティが見つけた。入ってきたハリーの表情は、私たちの不安に反して明るかった。

 

「よかったですね。あの感じだと処罰は特になかったようです」

「ね、言ったでしょう?マクゴナガル先生だってハリーのことをちゃんと分かってるのよ」

「実は一番ほっとしてるあなたが何言ってるのよ。私たち、あなたがハリーのこと気になってるの知ってるんだからね」

 

 そしてパーバティの言葉にラベンダーはそう言って……。

 

「「えっ?」」

「え?」

 

 その場の三人は一様にそんな反応をした。

 

「パーバティ、そうだったんですか?言ってくれれば協力したのに」

「めぐみん知らなかったの?この子、分かりやすく気にしてたじゃない」

「い、いや、あれは単に有名人だから目で追ってただけで。めぐみんは気にしちゃダメよ」

「パーバティはこう言ってますが」

「恋する乙女の言うことを信用するなんてバカのすることじゃない!少し赤くなってるあたり、もはや白状してるようなものね」

 

 頬を赤らませながら否定するパーバティに、物知り顔でニヤニヤするラベンダー。女が三つで姦しいというのは本当なんですね。まさか私ですらこんな話をするとは思ってもみませんでした。

 

「ごちそうさまでした。さて、じゃあ部屋に行きましょうか。ラベンダーの話が本当かどうか確かめるにはこのホールは少し不都合ですからね」

「もう、めぐみんまで!」

 

 そんなことを話しながら、私たちは寮の部屋へと戻っていった。

 

 

 

「あ、そこ間違ってますね。『安らぎの薬』にいれるのはカノコソウの小枝ではなく根です。小枝では精神への影響が強過ぎるんですよ。ほら、カノコソウの小枝は忘れ薬に使われてるでしょう?」

「あ、確かに。でも根の方も『生ける屍の水薬』に入ってなかった?」

「あれはカノコソウではなくナマケモノの脳みそが強力な効果の主な要因ですから」

 

 部屋に帰り、パーバティを問い詰める前にラベンダーの宿題を見ていると、勢いよくドアを開けて随分と怒った様子のハーマイオニーが帰ってきた。

 

「信じられない!あの人たち、ただのケンカで校則を破ろうとしてるだなんて」

「どうしたんですか?」

 

 怒気を込め呟いていたハーマイオニーにそう言うと、ハーマイオニーはちらりとこちらを見てため息をついた。

 

「何でもないわ。邪魔しちゃってごめんなさい」

「そうですか。何かあったら言ってくださいね。力になりますから」

「ありがとう。でも本当になんでもないから。……早いけど私、もう寝るわ。お休みなさい」

 

 そう言うと、ハーマイオニーはベッドに横になり布団にくるまった。

 

 

「こんなに早く寝るなんてどうしたんでしょうね」

 

 ハーマイオニーが寝るとのことで、私たちはどこかに移動することにした。談話室へ行くと生徒はまばらで宿題を教えるのに問題はなさそうだったので、私たちはそこで時間を過ごすことにした。

 

「ここに入学してもう二週間弱よ。ハーマイオニーは勉強頑張ってるみたいだし、疲れてるんでしょう」

 

 私の言葉に、パーバティは持ってきた本のページをめくりながらそう言った。

 

「パーバティは何を読んでるんですか?」

「『アブラハムの書』よ。知ってるかしら。ニコラス・フラメルっていう有名な錬金術師の書いた本なんだけど」

「へー、随分と難しそうな本を読んでるのね」

 

 錬金術、ですか。そういえばホグワーツには錬金術の授業がありませんね。一番近いのは魔法薬学でしょうか。ちょっと興味があります。今度調べてみましょう。

 

「それよりパーバティ、さっきの話の続きなんだけど」

 

 ラベンダーがそう言うと、パーバティはさっと視線を本に落とした。

 

「もう、逃げないでよ。ほら、めぐみんも手伝って。あなただって女の子なんだからこういう話も気になるでしょう?」

「めぐみんは気にならないわよね?なんたって普通じゃないものね」

 

 ラベンダーにそう呼びかけられた私に、パーバティはそんなことを言ってきた。普段なら普通じゃないと言われれば喜ぶ私だが今回のはどちらかというと腹が立つ響きだったので、私はラベンダーの味方をすることにした。

 

「まあ私だって年頃の女の子ですし?そういった方面の好奇心は人並みにはありますよ、ええ」

「嘘。そんな……」

「私、めぐみんのこと信じてたわ!」

 

 虚をつかれたようかのように口を両手で覆うパーバティ。本当に私を何だと思ってるんだろうか。

 

「観念しなさい、パーバティ。本当のことを吐くまで追及はやめてあげないんだから。まずはそうね、とりあえず好きになった理由から。一目惚れ?それともこの一週間強で何かエピソードが?もしかして昔会ったことがあったり?」

 

 分かりやすくウキウキしてるラベンダーが聞くと、パーバティは言った。

 

「ちょっと待って。そもそも私は本当に有名人だから気にかけてただけなのよ。確かに憧れみたいな気持ちがなかったわけではないけど、そんな好きとまではいかないわ」

「またまた〜。……犯人はみんなそう言うのよ」

「私が何をやったって言うの」

 

 そんな二人の会話に私も入っていこうとすると、談話室の扉が開いてハリーとロンが入ってきた。

 

「あーあ、せっかくいいところだったのに。本人のご登場じゃこれ以上はね」

 

 ラベンダーの残念そうな声に、パーバティはほっとため息をついた。

 

「大丈夫だよ。魔法が使えなくたってあいつの鼻っ柱をパンチしてやればいいんだ」

「魔法使いの決闘で相手に触れるのは無しなんだろ?」

 

 一方ハリーたちの方に耳を傾けてみると、二人はそんなことを言っていた。

 

「何の話ですか?今『魔法使いの決闘』とかいう最高に気になる言葉が聞こえてきたのですが」

「あ、めぐみん。実はマルフォイが」

「ちょ、ロン。めぐみんが来たら僕たちじゃなくてめぐみんがマルフォイをやっちゃうだろ」

「あ、そうだね。……ごめんめぐみん、何でもないんだ」

 

 私が話しかけると、二人は二人で内緒話をした後にそう言ってそそくさと部屋の方に向かった。

 

「……なんか今日、友達が私にそっけない気がするのですが」

「私の胸で泣いていいわよ」

「ありがとうとございますパーバティ。では遠慮なく。いやー、パーバティの体はフカフカです、ね……」

 

 私がパーバティの胸に飛び込みそう言っていると、顔に柔らかな感覚がした。ふと顔を胸から離してみると、そこには既に女性の象徴である膨らみが緩やかにあって……。

 

「パーバティ、あなたは私の敵です。さあラベンダー、パーバティのことを全力で追及しますよ!ハリーたちも行きましたしね!」

「え、急に何で!?」

「普く胸有りは私の敵なので」

「ちょっとぉ、それだと私も小さいみたいになるじゃない!私だって少しずつ成長してるんだから!」

「ふふん。無いってかわいそうね」

「「ぶっ飛ばす」」

 

 そうやって、私たちは監督生のパーシーや他のグリフィンドール生に怒られるまでバカ騒ぎをしてましたとさ。

 

 ……いずれホグワーツで一番大きな女子になってみせますからね!

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この謎のスポーツに説明を!

一万UAありがとうございます!


「ええ!?昨日四階の廊下で怪物を見た!?」

「ちょ、めぐみん声が大きいよ。静かに」

 

 翌日の朝、今日も今日とて美味しいホグワーツの朝食を食べているとハリーたちが言った。

 

「マルフォイに嵌められたんだ。決闘だっていうから行ってやったのに」

「それは災難でしたね。でもフィルチさんに見つからなくてよかったです」

 

 知ってたが、ドラコはよっぽど性根がねじ曲がってるようだ。まさか決闘をそんなことに使うとは。スリザリン生はみんなどこかで更生させたいとは思うが、どうすればいいだろうか。

 しかし、そうですか。昨日はそれに着いて行くためにハーマイオニーは早く寝てたんですね。

 

「それより何で私を起こしてくれなかったんですか?ハーマイオニーも行ったのに私だけ仲間外れなんてひどいじゃないですか」

「いやでも、男子が女子寮に入るのは校則違反だし……」

「真夜中に校内を冒険してきて何を今更」

 

 そんなことを話していると、六匹の大きなフクロウが細長い包みをハリーに向かって落としてきた。そしてそれに遅れて一匹のフクロウが包みの上に手紙を落とした。

 ハリーは手紙を開くと、とても嬉しそうな顔で私たちにその手紙を見せてきた。

 

 その手紙には、マクゴナガル先生の字で包みの中身はニンバス2000という箒だということとここで包みをあけないようにという注意、そしてクィディッチの練習の知らせが書いてあった。

 

「ニンバス2000だって!僕、触ったことさえないよ」

「いい箒なんですか?」

「他の箒とは格が違うって言われてるニンバスの最新型さ!あとで一緒に見ようよ」

 

 一時間目が始まる前に三人で箒を見ようと急いで大広間を出ると、寮に上がる階段の前にドラコの子分二人が立ちふさがっていた。そして横から現れたドラコがハリーの包みをひったくり中身を確かめるように触った。

 

「ちょっとドラコ!中身が見たいなら一緒に来ればよかったのに、なんでそんなことするんですか」

「この僕がお前たちと一緒に仲良く包みを覗き込むわけないだろう。というかこの感触、やっぱり箒か」

 

 私の言葉にそう答えたドラコは妬ましさと苦々しさの入り混じった表情でそう呟き、包みをハリーに投げ返した。

 

「今度こそおしまいだな、ポッター。一年生は箒を持っちゃいけないんだ」

「今度こそおしまいですね、ドラコ。ひったくりは犯罪なんです」

 

 二人は吹き出した。そしてクラッブとゴイルも笑いをこらえた顔で体をプルプル震わせていた。

 

「笑うなポッターにウィーズリー!それに何でお前たちまで笑ってる!」

「わ、笑ってません。別にお頭が同級生の女の子に振り回されてるのは面白いな、なんて欠片も考えてません」

「考えてるじゃないか!」

 

 なんかドラコ一味って意外と愉快ですね。

 

「君たち、言い争いじゃないだろうね」

 

 ドラコが何か言おうと口を開いたとき、フリットウィック先生が現れてそう言った。

 

「先生、ポッターが箒を持ってます」

 

 そしてドラコが流れるように告げ口をした。まあマクゴナガル先生から貰ったものだからお咎めがあるわけがないのだが。

 

「いやー、いやー、そうらしいね。マクゴナガル先生が特別措置について話してくれたよ。箒は何型かな?」

「ニンバス2000です」

 

 ドラコの告げ口を聞いてもそんな風に気軽に対応するフリットウィック先生に、ドラコは顔を引きつらせた。

 

「実はマルフォイのおかげで買っていただきました」

 

 ハリーはそれだけ言って、ロンと二人で笑いを堪えながら階段を上がっていった。私も悔しそうなドラコの顔をなんとなく眺めながら二人について行った。

 

「だって本当だもの。もしマルフォイがネビルの『思い出し玉』を掠め取ってなかったら僕はチームに入れなかったし」

「それじゃ、校則を破ってご褒美をもらったと思ってるのね」

 

 ハリーの言葉に、背後からハーマイオニーの怒った声が聞こえてきた。彼女はけしからんと言わんばかりに包みを睨みつけながら階段を上がってきた。

 

「ハーマイオニー、そこまで言わなくても」

「校則を破ったのは事実よ」

 

 ハーマイオニーはツンとそっぽを向きながらそのまま行ってしまった。

 

「あんな言い方しなくても」

「あんな奴放っておけよ。それよりさ、早く箒を見ようぜ」

 

 誰もいない談話室で、ハリーは包みを開いた。

 

「おぉ」

「これはすごいですね……」

 

 箒のことはあんまり分からないが、この箒が素晴らしいということは分かった。スラリとして艶のあるマホガニーの柄や、その先にすっきりと束ねられている真っ直ぐな小枝。柄の先端近くに刻まれた金文字のニンバス2000という銘はとても輝いて見えた。

 

「ハリー、頑張ってくださいね。これだけの箒をもらったんですから活躍しなければいけませんよ」

「うん、頑張るよ」

「ハリーなら大丈夫さ。めぐみんは見れなかったけど、ハリーの飛びようは本当にすごかったんだ」

 

 

 

 その日の夜、私は談話室でパーバティとラベンダーの二人に少し気になっていたことについて聞いてみた。

 

「あの、二人とも。ちょっと聞きたいのですがクィディッチってどんなスポーツなんですか?」

「「知らないの!?」」

 

 私がそう聞くと、二人は驚いたような声でそう言った。

 

「ええ。私はマグル生まれですし、これまでクィディッチなんて単語は聞いたこともありませんでした」

「そう。マグルはクィディッチを楽しめないのね……いいわ、教えてあげる」

 

 パーバティはそう言ってクィディッチの説明を始めた。

 

「ルールはけっこう簡単よ。両チームのプレイヤーは七人ずつ。そのうち三人はチェイサーと言って、クアッフルというボールを三つあるゴールの輪のうちどれかに入れるの。一回ごとに10点」

 

 なるほど。ゴールが三つあるのは点数が入りやすいようにですかね。サッカーみたいに点が入らないと盛り上がりにくいですし。

 

「ゴールの多いバスケみたいなものですか」

「バスケ?」

「いえ、気にしないでください」

 

 私がそう言うと、そう、と言ってパーバティが続けた。

 

「各チームにはキーパーが一人いて、味方の輪の周りを飛んで敵が点を入れないようにしてるの。グリフィンドールはキャプテンがキーパーをやってるわ。これは典型的な例で、試合全体を俯瞰できるキーパーがキャプテンをやることも多いのよ」

 

 今度はサッカーですか。バスケほど点が入らないと。

 

「それと、ブラッジャーっていうボールが二つあってね」

 

 私が頷いていると、今度はラベンダーが話し始めた。

 

「ブラッジャーは真っ黒いボールで、すごい勢いで暴れて無差別にプレイヤーに襲いかかるの。それを敵の陣地に打ち返すのがビーターよ。点には直接絡まないけど、重要な役目なの」

 

 これに類似するような球技はマグル界にはない。強いて言えばドッジボールだが、それも全然違うし。どうやらこれは魔法界独自のものらしい。

 

「そして、最後に最も重要な役割。シーカーよ。シーカーというのは『金のスニッチ』を捕まえるプレイヤーのこと。スニッチはゴルフボール大で小さいし、とにかく速くて見えにくいから捕まえるのがとても難しいの。スニッチは一試合につき一個で、捕まると試合が終わるわ」

 

 なるほど、スニッチを捕まえるのが試合終了の合図になるわけか。

 

「それで、スニッチは何点分なんですか?」

 

 私がラベンダーに聞くと、ラベンダーはふふんと胸を張って言った。

 

「聞いて驚きなさい──150点よ」

「クソゲーじゃないですか!」

 

 ラベンダーの言葉を聞いて、私は叫んだ。

 

「150点て。舐めてるんですか?どう考えても試合はシーカーで終わりじゃないですか。最悪シーカーだけで全部決まっちゃうじゃないですか」

「何言ってるのよ。チェイサーたちがいればね、めぐみん」

 

 パーバティはそう言って言葉を溜めた。もしかしたら私は何か見落としてたんだろうか。あ、スニッチを見つけるのは本当に難しくてチェイサーも意外と試合を決められるのかもしれない。そんなことを考えていると、パーバティが言った。

 

「チェイサーが点を決めれば得失点差で順位が上がるかもしれないのよ!」

「試合の勝敗に絡む気ゼロですか。もっと勝敗に対してガツガツしてくださいよ!」

 

 途中までは面白そうだったのに、なぜ急にスニッチなんかを出してクィディッチをクソゲーにしたんだ。

 

「まあまあめぐみん、実際面白いのよ?見ればそれが分かるから。そうだ、今度のクィディッチの試合、一緒に観に行かない?どうせ寮生総出で見に行くだろうし」

 

 そんな私に、ラベンダーがそう言った。

 

「……そうですね。見る前からクソゲー呼ばわりは軽率でした。一緒に行きましょうか」

 

 そうして、私は三人で一緒にクィディッチの試合を観に行く約束を取り付けた。ハリーが出るし、どうせ観に行くのは決まってましたしね。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

このハロウィンのホグワーツにトロールを!(1)

 ハロウィンの日も、ホグワーツの授業は通常通りにあった。しかし夜はパーティー、つまりご馳走だ。また歓迎パーティーの時の食事を食べられると思うと、夜が待ち遠しかった。

 

「そろそろ物を飛ばす練習をしましょうか」

 

 そんなことを考えていると、朝の呪文学の授業でフリットウィック先生がそう言った。パーティーのことは頭から吹き飛んだ。

 

「……このようにして、魔法使いは物を飛ばすのです。大丈夫、皆さんは今まで手首の動かし方や呪文の唱え方を練習してきました。それを思い出せればできるはずです。さあ、二人一組でやってみましょう」

 

 ネビルが組みたそうにじっと見てきていたので、私はネビルと組むことにした。組みたいなら声をかければいいのに。ネビルにはもっと主体性を持ってほしい。

 

「ビューン、ヒョイ、ですよ。いいですか、ビューン、ヒョイ。呪文の正確さも重要です」

 

 それを聞いて、まずはネビルがやってみた。張り切ってやっていたがどうも空回りしたようで羽はまったく動いていなった。どうやら周りも似たり寄ったりのようで、だいぶ苦戦していた。

 

「今度はめぐみんがやってみてよ」

 

 ネビルがそう言うので、私はネビルと立ち位置を交代して机の前に立った。

 

「真打ち登場」

 

 私はそう言いながら、なるべく不敵に見えるように口角をあげながら杖を構えた。

 

ウィンガーディアム・レヴィオーサ!

 

 羽は浮かばなかった。

 

「めぐみん?真打ちだったんじゃないの?」

「うるさいですよネビル。……こうなったら我が秘奥義にして禁呪を見せてあげましょう。ネビル、これは先生が見てるところで真似しちゃダメですよ」

「今はいいの?授業中でフリットウィック先生がガン見してるけど」

 

 ネビルの言葉を無視しながら、私は杖を机と羽の間に差し込んだ。

 

ウィンガーディアム……

 

 そして呪文を唱えながら腕に力を入れ、

 

レヴィオーサ!

 

 力一杯上に振り上げた。

 

「ほら、浮かびました」

「ズルじゃん!めぐみん、それズルだよ!」

 

 私の禁呪に対してネビルは妬ましいのかそんなことを言ってくる。ふっ、聞こえないですね。結果が全てなんですよ。

 

「いや、紅魔のこれはズルではありません。ちゃんと浮いてますよ」

「「え?」」

 

 背後から近づいていたフリットウィック先生が私たちに向かってそんなことを言った。確認するように二人して上を見上げると、確かに羽は浮いていた。

 

「おお!見ましたかネビル!ほら、成功してるじゃないですか!」

「いや、うん……そうだけど、なんか納得いかない」

 

 そんなことを言っていると、教室の後ろの方から朗々とした響の呪文が聞こえてきた。

 

ウィンガーディアム・レヴィオーサ!

 

 ハーマイオニーの唱えたその呪文に従って、羽は机を離れ、頭上1.2メートルほどの場所に浮かんだ。

 

「オーッ、よくできました!皆さん、グレンジャーさんがやりましたよ!」

 

 そしてフリットウィック先生がハーマイオニーの浮かばせた羽を見てクラス中にそう言った。

 

「……ちゃんとした方法で浮かばせたなら賞賛されたのは私だったんでしょうか」

「禁呪なんか使うから。それよりほら、もう一回やってみてよ。今度は普通に成功するかもよ」

 

 言われてやってみた浮遊の呪文はネビルの言った通り、普通に成功した。

 

「………………」

「まあまあめぐみん、成功したんだからいいじゃん。それと、呪文の発音の仕方とか手首の振り方とかコツを教えてくれない?」

 

 ネビルがそんなことを言ってきたので、わたしは場所をネビルに譲ってネビルのすぐ後ろに立った。

 

「じゃあまず杖を構えてください。私があなたの手を動かすので、その感覚を覚えてください」

「うん、分かったよ」

 

 そして私はネビルの後ろから大人がよくやるように後ろから一緒に杖を握って教えようとして……教えようと……教え……。

 

「ネビル、あなたの体が大きすぎて手を握れません。少し体積を縮めてくれませんか?」

「めぐみんって時々すっごい無茶言うね。それとそれは僕が大きいんじゃなくて君が小さごめんごめん、謝るから僕の二の腕をつねらないで!痛いよ!」

 

 結局、私が杖を振る様子をネビルが見て真似ることにした。もちろんネビルが上手くいくことはなかった。

 

 

「だから誰だってハーマイオニーには我慢できないっていうんだ!まったく悪魔みたいなヤツさ」

 

 クラスが終わりハリーたちのところへ行こうと歩いていると、ロンがそう言うのが聞こえた。ハッとしてハーマイオニーの方を見ると、ハーマイオニーは何かを堪えるように顔を歪め、どこかへ走り去っていった。

 

「ちょっとロン!何てことを言うんですか!」

「何って、ちょっとした事実さ。あいつだって誰も友達がいないことにとっくに気がついてるだろうよ。というか、あれ?めぐみん目が光ってない?けっこう怖いよ」

「……ロン、あなたにはがっかりしました」

「あ、ちょ、待てよめぐみん!」

 

 グリフィンドールは騎士道の寮じゃなかったのか。これじゃあハッフルパフに誠実さを取られるのも仕方ないじゃないか。同じ寮生を悪魔呼ばわりだなんて。私はロンにそれだけ言って、ハーマイオニーの走っていった方に向かった。

 

 

 

「こんなところにいたんですか、ハーマイオニー」

 

 ハーマイオニーの駆け込んだ女子トイレの個室の前で私はそう呼びかけた。返答はなしですか。

 

「返事してくれなきゃ始まりませんよ。とりあえず出てきてくれませんか?」

 

 私がそう言うと、開けるかどうか迷うように少しドアがカチャカチャと音を立てた。そしてちょっとして、中からハーマイオニーが出てきた。出てきたハーマイオニーの目元は赤くなっていた。

 

「……何よ。どうせあなただってみんなと一緒で私のこと嫌ってるんでしょう?それで泣いてる私をみて、いい気味だって笑ってるんでしょう?」

「なんでそうなるんですか。みんなって言ったって実際に言ったのはロンだけでしょう。それに、私はルームメイトに対してそんなこと言いませんよ。あなたはちゃんと私の友達ですしね」

 

 私がそう言うと、ハーマイオニーは気まずそうに目を逸らした。……えっ。

 

「あれ、友達だと思ってたの私だけですか?うわぁ、ちょっとこれは恥ずかしいですね。出直してきます」

「違うの!そうじゃなくて、あ、と、とにかくちょっと待って!」

 

 私がトイレから退出しようとすると、ハーマイオニーは慌てたように待ったをかけてきた。

 

「……何ですか?私は今恥ずかしさで今すぐ寮の部屋で足をバタバタさせたいのですが」

「ご、ごめんなさい。あなたを友達と思ってなかったとかじゃなくて。えーっと、その……ほら、ここ最近私、あなたに冷めた態度ばっかり取ってたじゃない。だから友達って言ってくれたのが意外で」

「ああ、そんなことですか。別に気にしてませんよ。勉強で疲れてるのでしょう?仕方ありませんよ」

 

 私がそう言うと、ハーマイオニーはバツが悪そうに首を振った。

 

「そうじゃないの。私がめぐみんに素っ気なかったのは、その、端的に言って嫉妬してたからよ」

「嫉妬?」

 

 私が聞き返すと、ハーマイオニーは話し始めた。

 

「そう、嫉妬。私は私なりに頑張って勉強して授業に臨んでるわ。私は本を読むのが好きだし、今までクラスで一番をとるのが当たり前だったから。でもここでは一番が当たり前じゃなくなった。あなたがいたから。

 あなたは私と違ってみんなと楽しく過ごしてて。その上私と同じくらいに成績が良くて。なんで、私の方がずっと頑張ってるのになんでって思っちゃったの。

 ……ごめんなさい。勝手な都合だってことは知ってるんだけど、それでも抑えきれなくて」

 

 それは、ハーマイオニーなりの正直な言葉だった。まあ、自分は勉強してる間に遊んでる人が自分と同じくらいの成績を取ってればムカッとぐらいくるのは当然だろう。

 

「別にいいですよ、ハーマイオニー。そうなるのも分からなくはないですし」

 

 こちらをじっと見つめるハーマイオニーに、私はでも、と続けた。

 

「あなたの方がいいものだっていっぱいあるんですよ。まずは魔法史ですね。非常につまらない授業なので私はあの教科は人並み以下です。それと品行方正さ。自慢ではないですが、私は今月だけで5回先生に注意されました。それにあなたは私より背が高い……高……たっ!」

 

 私が苦しみながらそう言おうともがいていると、ハーマイオニーはクスリと笑った。

 

「もう、何でわざわざ自分で傷付きに行くのよ……でも、うん。ありがとう。ちょっと必死になりすぎてたみたい。そうよね。変に意識しないで少し力を抜いてやってみるわ」

 

 ハーマイオニーは大きく深呼吸をして、肩の力を抜いてそう言った。

 

「あ、でも成績は諦めないからね。学年トップこそが私のアイデンティティーよ」

「それはこっちのセリフです。天才と爆裂魔法が私のアイデンティティーですからね」

「爆裂……なんて?」

「爆裂魔法、この世で最強の破壊魔法です。まだこの世にないですけど」

 

 私の言葉に、ハーマイオニーはため息をついた。

 

「はぁ……まあめぐみんがふざけてるのはいつものことよね。それより授業だけど、戻りにくくなっちゃったわね」

「そうですね。もう授業も中盤を少し過ぎたところですし……というわけで」

 

 私は八月にマクゴナガル先生に買ってもらった空間圧縮ポーチを懐から取り出しながら言った。

 

「親睦が深まった記念にボードゲーム大会をしませんか?」

 

 

 

「アークウィザードをあなたのアークビショップの目の前にテレポートよ。これで詰みね。今まで七連敗してきたけど、ようやくあなたの癖が分かったわ。これからは楽に勝てると思わな」

「エクスプロージョン!」

「あぁぁぁぁ!ちょっとめぐみん、ズルじゃない!」

「ズルじゃありません。エクスプロージョンは一日に一回だけ使える技だとルールブックにも書いてあります」

「……本当だわ。酷いゲームね」

 

 ハーマイオニーはこのゲームがそんなに受け入れられない様子。紅魔の里の人気ボードゲームなんですけどね。

 

「それにしても遊んだわね。こんなの本当に久しぶりだわ。そろそろ夕食の時間だし、大広間に行くわよ」

 

 散らばった駒を二人で拾い上げながら、ハーマイオニーはそう言った。結局あの後、女子トイレの前にあった机を使って私たちはボードゲームに興じた。ハーマイオニーは意外にもこのゲームに熱中し、二人して時間を忘れて遊んでしまったのだった。

 

「そうですね。そろそろ行きましょうか」

 

 私が拾った駒とゲーム盤をポーチにしまいながらそう言ったとき、強い悪臭が鼻をついた。

 

「ハーマイオニー、なにか臭いませんか?」

「そうね、酷い臭い。何かしら」

 

 そうして後ろを振り向くと、廊下の少し先にそいつはいた。灰色の肌にゴツゴツの巨体、異常なほどに太い手足。その手には巨大な棍棒が握られていた。

 

「「ギャーーーー!!!」」

 

 私たちはすぐに女子トイレに駆け込んだ。その部屋の鍵が閉められると気付いたその時、ドアを大きく開けて体に比べてひどく小さい顔が覗き込んだ。

 

 

 それは間違いなく恐ろしい剛力の怪物、トロールの姿だった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

このハロウィンのホグワーツにトロールを!(2)

 

 

 女子トイレの中を覗き込むトロールに、ハーマイオニーはあわあわしながら言った。

 

「何でトロールが校内にいるのよ!先生たちは気付いてるのかしら」

「シーッ!静かに出て行くのを待ちましょう。幸いあのトロールは私たちにあまり注視していません、視力が悪いのでしょ──」

 

 そのとき、ガチャリという音を立てて鍵が閉まった。

 

「「……え?」」

 

 そしてその直後、トロールの小さな目が私たちをはっきりと捉えた。

 

「「キャーーーー!!!」」

 

 今日二回目の絶叫。こちらにゆっくり近づいてくるトロールにパニックになりながらも、私はトロールに杖を向けた。

 

「ハーマイオニー!何かトロールの弱点を!」

 

 私が言うと、ハーマイオニーはハッとしたような顔になった。

 

「ええっと、そう、火よ!トロールは火に弱いわ!見た目以上に肌が燃えやすいの!」

 

 ほとんどの生物の肌は燃えやすいのだからそれは弱点とは言わないんじゃないかと思いつつ、私は叫んだ。

 

インセ

 

 そしてそこで、トロールの棍棒が私の杖を捉えて弾き飛ばした。カランコロンと床を転がる杖。

 

「「「………………」」」

 

 少しの間見つめ合う私たち二人と一匹。

 

「……ハーマイオニー、バック!」

 

 ふと我に返って私がそう言うも、ハーマイオニーはトロールが間近に迫ったことの衝撃でか立ちすくんだまま動かなかった。

 

「ええい、仕方がないですね!」

 

 できるだけトロールから離れるべく、私はハーマイオニーを抱きかかえて壁際まで下がって行った。それでもトロールはゆっくりと近づき迫ってくる。覚悟を決めたとき、部屋の扉が開いて二人の人影が入ってきた。私は思わず叫んだ。

 

「ハリー!ロン!」

 

 そう、その二人はパーティーを楽しんでいたはずのハリーとロンだった。

 

 二人はトロールに向かって罵倒を上げながら、床に散らばっている蛇口やらを壁に投げつけて自分たちに注意を向けようとした。その甲斐あって、トロールは私たちの1メートル手前で止まった。しかしそちらをちらりと振り返っただけで、トロールはまたこちらに歩き出した。

 

「このウスノロ!」

 

 反応の薄いトロールに、ロンは足元に転がっていた金属パイプを拾い上げてトロールに直接叩きつけた。流石に痛みを感じたのか、トロールはロンの方に歩き始めた。

 

「へへっ、この脳足りん……あ、逃げ道が!」

 

 それを見てロンは逃げ出そうとしたが、周りが瓦礫で囲まれていて逃げ道が見つからなかった。そんなロンを見て、ハリーは思い切った行動をした。トロールの首筋に向かって全力で飛びつき、杖を鼻に突き刺したのだ。

 

「グォォォ!」

 

 鼻に感じる痛みに、トロールは叫びを上げてハリーを振り落とそうと体を捻り棍棒を振り回した。頑としてしがみついたままのハリーに棍棒が当たろうとしたちょうどその時、私はさっき吹き飛ばされた杖の元に辿り着いた。私は杖を掲げて告げた。

 

インセディオ!

 

 呪文は成功し、棍棒を持っていたトロールの腕全体が燃え上がった。思わず棍棒を落とし暴れ回るトロールに対して、ロンが無我夢中といった様子で叫んだ。

 

ウィンガーディアム・レヴィオーサ!

 

 するとトロールが落とした棍棒がそろそろと宙に浮かび、回転しながら持ち主だったトロールの脳天に直撃した。さしものトロールもそれに耐えられず、女子トイレ全体を揺らしながら床に倒れ込んだ。

 

 後には、息も絶え絶えの私たち四人だけが残った。

 

「これ、死んだの?」

「いや、伸びてるだけでしょうね」

 

 ようやく立ち直ったハーマイオニーに私がそう言った。

 

 急にバタンという音がして、マクゴナガル先生が飛び込んできた。そしてその後にスネイプ先生、クィレル先生がやってきた。マクゴナガル先生は、今まで見たことがないほどに怒っていた。

 

「いったい全体、あなた方はどういうつもりなんですか」

 

 そう言ったマクゴナガル先生の声は冷静だったが、怒りに満ちていた。

 

「殺されなかったのは運が良かった。寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」

 

 マクゴナガル先生ガチギレモードだ。どうしよう。私とハーマイオニーは言い訳が効くが、それだとハリーとロンは言い逃れができない。しかし二人が助けてくれたのに処罰されるというのは嫌だ。

 そんなことを考えていると、ハーマイオニーが立ち上がって言った。

 

「先生、聞いてください。全部私のせいなんです。私がトロールを探しに来たんです。私……私一人でやっつけられると思って。あの、本で読んでトロールについては知ってたので」

 

 私は愕然とした。ハーマイオニーが先生に嘘を、それも自分が規則を破ったという旨の嘘をついた。二人を庇うために。

 

「三人は私を探しにきて、助けてくれたんです。三人がいなかったら私は今頃死んでいました。ハリーがトロールの鼻に杖を差し込んでくれて、めぐみんは魔法でトロールにダメージを与えてくれて、ロンはトロールの棍棒でノックアウトしてくれました。三人は誰かを呼びに行く時間がなくて、それで自分たちでトロールを」

 

 私たちは、さもそれが事実であるかのように装った。

 

「そういうことでしたか」

 

 マクゴナガル先生は四人をじっと見ながらそう言った。

 

「ミス・グレンジャー、なんと愚かしいことを。たった一人で野生のトロールを捕まえようとするなんて。あなたには失望しました。グリフィンドールから5点減点。怪我がないようなら寮に帰りなさい。生徒たちが、さっき中断したパーティーの続きを談話室でやっています」

 

 それに黙って頷いて、ハーマイオニーは帰っていった。マクゴナガル先生は、今度は私たち三人の方を向いた。

 

「先ほども言いましたが、あなたたちは運が良かった。大人の野生トロールと対決できる一年生はそうはいません。一人5点ずつあげましょう。ダンブルドア先生にこのことをご報告しておきます。帰ってよろしい」

 

 私たちは急いで部屋を出た。しばらく私たちは黙って寮に向かった。

 

「二人とも、助けてくれてありがとうございました」

 

 トロールの臭いがしなくなったあたりで私はようやく口を開き、二人にそう言った。

 

「それとロン、さっきはがっかりだとか言ってすみませんでした」

「……別に、めぐみんが謝ることじゃない。確かにあの言い方はマズかったかもしれない」

 

 ロンはそっぽを向きながらぶつぶつとそう言った。

 

「まあ、何はともあれ無事に済んでよかった」

 

 ハリーは疲れたようにそう言った。

 

 寮の談話室へ行くと、そこは人がいっぱいでガヤガヤしていた。みんなが談話室に運ばれてきた食べ物を食べていた。私はそれを見て、それまでの出来事が一瞬で吹き飛んだ。

 

「そう言えば昼から何も食べていませんでしたね。二食分平らげてしまいましょう!」

 

 私はそう言って、後ろでハーマイオニー、ハリー、ロンが互いに「ありがとう」と言っているのを聞きながら、パーティーの輪の中に入っていった。

 

「……アレのあとによく食べられるわね」

「いや、あの図太さがめぐみんさ」

 

 聞こえてくる会話を聞く限り、三人はちゃんと仲良くなることができたようだった。よかったよかった。雨降って地固まるってやつですかね。

 

「めぐみん、どこ行ってたの?」

「ああ、パーバティにラベンダーですか。ちょっとした冒険ですよ」

「え?なになに?どんなの?」

 

 何があったのか聞いてくる二人を誤魔化しながら、私はそう思った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

このふざけたスポーツに観戦を!

 

「楽しみね、めぐみん!」

「そうですね。私にとって今回は初めての観戦ですし、ちょっとドキドキしています」

 

 十一月に入って少し経ったある日。私にパーバティ、ラベンダーの三人はクィディッチの競技場の観客席に来ていた。学校中が試合を楽しみにしていたようで、ほとんどの席が生徒、あるいは先生たちで埋め尽くされていた。

 

「……ビールの売り子さんとかいないんですね」

「生徒が観客の大半なのにいるわけないじゃない」

 

 私の疑問に、パーバティが呆れ顔で答えた。昔お父さんに連れて行ってもらった東京ドームとかいう場所にはいっぱいいたのだが、ここはそうではなかったようだ。

 

「あ、でも球場販売はあるよ。外から客席に入る通路があったじゃない? あそこを曲がるとポップコーンみたいなスナックとか、バタービールみたいな飲み物が安めの値段で売ってるのよ。あれを食べながらの観戦は結構楽しくてね。単純に美味しいし」

 

 そう思っていると、ラベンダーが何かを思い出しながらそう言った。なるほど、安くて美味しいと。

 

「もうすぐ始まりの時間ね……ちょっとめぐみん! どこ行こうとしてるの!」

「離してください! 私には安くて美味しいものを無視できない呪いがかかってるんです!」

「そんなバカな呪いがあるわけないでしょ。ちゃんと前もって三人分買ってあるから落ち着いて座りなさい」

 

 パーバティはそう言って手元の袋からジュースとスナックを取り出して私とラベンダーに渡した。

 

「確か、パーバティという名前はインドの神様に由来するものでしたね……なるほど。名は体を表すとは言いますが、パーバティはまさしく女神ですね」

「あなた、割と頻繁に頭おかしくなるわよね。どれだけ食事でひもじい思いをしてきたのよ」

 

 そんなことを言っていると、選手入場口からそれぞれ真紅のローブと深緑のローブに身を包んだ選手たちが出てきた。

 

「あ、見て! 選手たちが出てきたわ! めぐみん、赤がグリフィンドールだからね。間違えちゃダメよ」

「友達も出場してるのにどうやったら間違えるんですか」

 

 そう言いながら、私は向かい合って整列している選手たちに視線をやった。ハリーと、あとはロンの双子のお兄さんのフレッドとジョージもいますね。彼らは常に楽しそうに生きてますし、いたずらの発想が大変愉快です。この試合を実況する彼らの仲間のリー・ジョーダンも含めて是非とも仲良くなっておきたい人たちですね。

 

 そんなことを考えていると、審判のフーチ先生の笛が鳴った。試合開始だ。

 

『さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンの手に渡りました。何と素晴らしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります』

『ジョーダン!』

『失礼しました、マクゴナガル先生』

 

 グリフィンドールの手に渡ったクアッフルの行方を眺めていると、実況席からはそんな声が聞こえてきた。

 ……本当に楽しそうに生きてますね。

 

 

 

 しばらく後も試合は続いていた。クソゲーと思っていたが、観戦自体は意外と楽しかった。やはり友達と盛り上がるというのはいいものだ。まあみんなほどクアッフルの10点に歓声を上げることはできなかったが。勝敗に絡まないのになぜあそこまで盛り上がれるのか。不思議です。

 

「ん? あれはスニッチじゃないですか?」

 

 立ち上がって試合を見ていると、私は金色の光が走るのを見てそう言った。

 

「え?あ、本当だ! ハリーも見つけたみたいね、追ってるわ」

「本当!? ラベンダー、双眼鏡を貸して。……本当だわ、しかもハリーの方がスリザリンのより速いじゃない!」

 

 試合が決まりそうな場面に、今度ばかりは私もみんなと一緒に盛り上がった。スリザリンのシーカーより速く走るハリー。あと少しでハリーがスニッチを掴もうというところで、ハリーが突然コースを外れた。スリザリンのチェイサー、マーカス・フリントがわざとハリーの邪魔をしたのだ。

 

「反則じゃないですか! なんですかあの選手、スポーツマンシップに反します! 退学ものですよ!」

「そうよそう……いや、退学ほどじゃないと思うよ?」

「そもそもスリザリンにスポーツマンシップを要求する方が間違ってる気もするわ」

 

 私が叫ぶと、同調しかけたラベンダーと私の声に気勢を削がれたらしいパーバティがそう言ってきた。さっきまで私より盛り上がってたのに急に冷静にならないでほしい。

 

 騒ぎにより両シーカーともスニッチを見失ったらしく、二人はまた周りを気にしながら場内を飛び回り始めた。

 

「あれ? ハリーの動き、何か変じゃありませんか?」

 

 しばらくクアッフルではなくハリーを見ていると、ハリーの箒が急に変な動きを始めた。

 

「貸して!」

 

 私の言葉に、パーバティはそれだけ言ってラベンダーの双眼鏡をバッと取ってハリーの方を見た。

 

「え? ちょっと! 私も見たいんだけど!」

「恋する乙女が優先よ!」

 

 あ、さらっと恋してると吐きましたね。この前は頑として口を割らなかったのに。それに気付いたラベンダーはニヤニヤとパーバティを見るが、パーバティはハリーを見るのに必死で気付かない。ええ、確かにこれは恋する乙女ですね。この試合が終わったらラベンダーと二人でゆっくりと問い詰めてあげましょう。

 

 そんなことを考えていると、ハリーの箒が誰の目にもはっきりとおかしな動きを始めた。箒がグルグル回り始めたのだ。ハリーも必死にそれについていくが、ハリーの体を支えるのはもはや箒の柄を握る左手だけだった。

 

「ちょっとヤバくないですかあれ。フリントがぶつかったとき壊れたんですかね」

「箒はそんな簡単に壊れないわ。それに私、箒に悪さをできるのは強力な闇の魔術だけだってママに聞いたわ」

 

 私の呟きに、ラベンダーがそう答えた。となると球場のどこかにそれをしてる術師がいるはずだ。私は目に魔力を集中させて観客席を見渡した。

 

「闇の魔術……候補は先生たちと一部スリザリン生……いえ、いくらなんでも生徒ができることではなさそうですね。となると先生たちの中で闇の魔術を簡単に操ることができる人……スネイプ先生に、防衛術を教えてるんですからクィレル先生もですね」

 

 二人を探すと、二人ともスリザリンの観客席に座っていた。そして両者ともにハリーをじっと見つめ絶え間なく何か呟いていた。

 

「……二人ともですか。判別がつきませんね。いえ、言ってる暇はありません、とりあえず行ってみましょう」

「ちょっとめぐみん、どこ行くの!」

「ハリーの箒を止めに!」

 

 私はそう言って、スリザリンのスタンドに向かって走り出した。もう少しでスネイプ先生のところに辿り着くというところで、同じことに気がついたのかハーマイオニーがクィレル先生をなぎ倒しているのを見た。ナイスですハーマイオニー。あとは私がスネイプ先生をやるだけですね。

 

「おっとすみませんスネイプ先生! 体が滑りました!」

 

 私はそう言いながらスネイプ先生にタックルをかました。ハリーの方を凝視していたスネイプ先生はもちろん、やはりハリーの方を見ていた周りの生徒も私に対応できなかった。

 

 私は真横からスネイプ先生に勢いよくぶつかり、スネイプ先生はそれを受けることもできずに地面に強く転がった。よし、これでOK。

 

「……紅魔ぁぁぁぁぁぁ!」

 

 後ろにスネイプ先生の怒号を聞きながら、私はグリフィンドールの席まで逃げ戻った。ハリーの方を見れば、動きは正常に戻っていた。私が元の席に戻ったところで、ハリーは今度は急降下をした。そして私は見た。ハリーの口の中に金色の何かが入っていくのを。

 ハリーは地面に四つん這いになって着地した。そして、その金色の何かがハリーの手のひらに落ちた。

 

「スニッチを取ったぞ!」

 

 頭上高くスニッチを振りかざし、ハリーが叫んだ。私たち観客は大いに沸き上がり、試合は終了した。

 

『グリフィンドール、170対60で勝利!』

 

 実況席からはそんなアナウンスが聞こえてきた。

 

 

 

 試合後、みんなとまだ騒ぐと残ったラベンダーとパーバティを置いて、私は球場から出て行ったハリー、ロン、ハーマイオニーを追ってハグリッドの小屋へ向かった。

 

「ハリー、おめでとうございます」

 

 小屋に入ると、三人はすでに紅茶を淹れてもらっていた。

 

「ありがとうめぐみん」

「お前さんもいるか?」

「お願いします、ハグリッド」

 

 そう言いながら私は椅子に腰掛けた。

 

「スネイプだったんだよ。ハーマイオニーも僕も見たんだ。ハリーの箒に呪いをかけてた。ハリーからずっと目を離さずにね」

 

 紅茶を一口飲んで、ロンがそう言った。やはり二人も気付いていたようだ。

 

「あとクィレル先生もそうでしたよ」

 

 私がそう補足すると、二人は目を丸くした。

 

「「嘘!?」」

 

 ……どうやら気付いていなかったようだ。じゃあハーマイオニーのあれは偶然か。

 

「まあ闇の魔術に対抗する防衛術の先生だしね。ハリーを守ってくれてたんじゃないかしら」

「それにクィレルに箒に細工する度胸なんかないさ」

 

 私の言葉に、二人はそう言った。確かにそうとも考えられるが、悪役が本性を隠すのは世の常だ。怪しすぎるスネイプ先生が白な気もする。紅魔の人たちも怪しすぎるのは絶対にミスリードだって言ってた。

 

「ちょいと待て。なんでスネイプがそんなことをする必要があるんだ」

 

 ハグリッドの問いに、私たち四人は互いに顔を見合わせた。みんな、前日にハリーに聞いた話のことを考えているんだろう。どう言うか迷っていたが、ハリーが心を決めたみたいだ。

 

「僕、スネイプについて知ってることがあるんだ。あいつ、ハロウィンの日に四階廊下の三頭犬の裏をかこうとして噛まれたんだよ。何か知らないけど、あの犬が守ってるものをスネイプが取ろうとしたんじゃないかと思うんだ」

 

 それを聞いて、ハグリッドはティーポットを落とした。

 

「なんでフラッフィーを知ってるんだ?」

「フラッフィー?」

「そう、あいつの名前だ。去年パブであったギリシャ人から買ったんだ……俺がダンブルドアに貸した。守るため……」

「何を?」

 

 私たちは身を乗り出してハグリッドの言葉を聞こうとした。

 

「もうこれ以上聞かんでくれ。重大秘密なんだ、これは」

「でもスネイプは盗もうとしたんだよ?」

「スネイプはホグワーツの教師だ。そんなことするわけないだろう」

 

 そんなハグリッドに、私は言った。

 

「ならどうしてハリーを殺そうとしたんですか? クィレル先生もでしたが、確実に何かしてましたよ。私には分かりました」

「私も保証するわ」

 

 そんな私たちに、ハグリッドは大きくため息をついた。

 

「俺にゃスネイプが何をしたかなんて分からん。分からんが、奴がハリーを殺そうとしてないことだけは分かる。さあ、紅茶を飲んだら帰った帰った。もうフラッフィーのことにも守ってるものにも首を突っ込むな。あれはダンブルドアとニコラス・フラメルの大切な……」

「ニコラス・フラメルって人が関係してるんだね!」

 

 ハグリッドの言葉にハリーがそう言った。ハグリッドはハッとしたように口を押さえた。

 

「ちょっとハリー、なんですぐに声に出してしまうんですか! 黙ってればもっと聞けたかもしれないのに」

「あ、ごめん」

「何でもいいからお前さんらは今日聞いたことを全て忘れろ!」

 

 私たちは図書館でニコラス・フラメルなる人物を片っ端から探すと決意した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この冬の長期休暇に帰省を!

今回は少し短いです。


 十二月になり、ますます冷え冷えとしてきたホグワーツ。冬季休暇が近づく中、私たちは荷造りをしながらニコラス・フラメルに関する書籍を探していた。しかしどんな人物か全く分からないので、全然見つからない。

 図書館の司書であるマダム・ピンスに聞けばわかるかもしれないが、そうするとスネイプ先生(あるいはクィレル先生)の耳に私たちのことが入るかもしれない。それは避けたかった。

 

「今日でイギリスともしばらくおさらばですか」

 

 そして今日、フラメルが誰なのか分からないままとうとうイギリスから日本に帰国しようとしていた。ここはロンドン・ヒースロー空港。ロンドンで最も大きな空港だ。そこで私はゆんゆんと一緒にベンチに座って飛行機を待っていた。

 

「お父さんがイギリスにテレポートできればよかったのにね」

「そうですね。完全に当てにしてただけに予想外でした」

 

 紅魔の長をしているゆんゆんのお父さんがテレポートを使えるので、本当はゆんゆんのお父さんに迎えを頼もうとしていたのだ。しかしテレポートといえど世界の反対側まで行くほどの力はないらしく、私の帰省計画はすぐに頓挫した。

 飛行機に乗るお金なんてないのでホグワーツに残ろうと考えていると、なんと学校が奨学金だと言ってお金を出してくれた。その時私は将来ホグワーツに貢献することといずれゆんゆんのお父さんにテレポートを教わることを心に誓った。私の力なら世界のどこへでも行けるでしょうしね。

 

「私たちは直接紅魔の里に行くんだっけ」

「ええ、そうです。もうみんな集まってる時期ですしね」

 

 ゆんゆんの声に私はそう返した。毎年のクリスマス前に、紅魔の人間は日本のとある場所に存在する紅魔の里に集まることになっている。年末の実家帰りみたいなもので、三が日が終わるまで基本的にみんな紅魔の里でのんべんだらりと過ごしている。

 

「早く帰ってゆっくりしたいです」

「確かフライトは十二時間くらいだったっけ」

「ゆんゆんのお父さんが羽田まで来てくれるんでしたよね」

「うん、だから空港に着いたら里まですぐよ。……そろそろ時間ね、もう行こっか」

 

 

 

「よくぞ帰ってきたな、我が愛娘にその真なる友よ。その大いなる帰還を祝そう。我らが故郷にてしばしの休息を享受するがいい」

「ねえお父さん、なんで素直におかえりって言ってくれないの?」

 

 十二時間後、私たちは羽田空港のロビーでゆんゆんのお父さんと落ち合っていた。

 

「何を言っている、ゆんゆん。今のは紅魔の正しい『おかえり』の言い方だ」

「なんで私のいる一族ってこんなに訳が分からないんだろう……」

 

 ゆんゆんのお父さんの言葉に何か諦めたようなそんなことを言うゆんゆん。ちょっとかわいそうに思い、私はゆんゆんに声をかけた。

 

「個性的でいいじゃないですか、ゆんゆん。みんなだって本当に頭がおかしいわけじゃないんですから」

「頭のおかしさナンバーワンのあなたに言われても……」

「何おう!」

 

 知ってましたけど、この子けっこう言いますね。

 

「それはそれとして……よくぞ世界の救い手たる我らを迎え入れてくれた。族長たるあなたの示す通り我ら、安息の地たる我が故郷にて一時の休養を楽しまん」

「おお、めぐみんはよく勉強してるな。礼儀正しい挨拶だ」

「今のが礼儀正しいの!?」

 

 私たちのやりとりにゆんゆんが驚いたようにそう言った。この子は何年紅魔として過ごしてるんだろうか。もう慣れててもいいだろうに。

 

「挨拶はこれくらいにしておこうか。さあ、紅魔の里へ行こう」

 

 ゆんゆんのお父さんはそう言ってパチリと指を鳴らした。周囲の景色がぼやけ、次第に白い光だけが目に入ってくるようになる。一瞬目を閉じて再び開けると、そこは懐かしき里の入口だった。

 

「おー……やはりテレポートというのは凄いですね。ところでその指パッチンは必要だったんですか?」

「必要だったとも。恥ずかしながらこれがないとテレポートできなくてね。発動条件ってやつだ」

「ああ、なるほど」

 

 ゆんゆんのお父さんと私がそんな話をしてると、ゆんゆんがポツリと言った。

 

「お父さん、前テレポートした時はライターをカチってやって発動し」

「さあ行こうか!みんなもう集まってるぞ!」

 

 ゆんゆんの言葉を遮るようにして歩いていくゆんゆんのお父さん。なんとなくゆんゆんの気持ちが分かった気がした。これは確かにイラっとくる。

 

「こめっこ!」

「お姉ちゃん!」

 

 里の中を歩いていると、道の向こう側から我が妹、こめっこが走ってきた。

 

「お姉ちゃん、大丈夫だった?わたしがいなくて寂しくなかった?体が火照ってなかった?」

「それは普通私のセリフ……待ってください、最後のはどこで覚えてきたんですか」

「ぶっころりーがお菓子くれながら教えてくれた」

「あのクソニートが!」

 

 あとで紅魔随一の穀潰しをボコボコにしようと決意しているうちに、里で一番大きな建物に着いた。

 

「二人とも、夕食がまだだろう。早く上がって食べなさい」

「お姉ちゃん!今日は鍋だよ!ごちそう!」

 

 ゆんゆんのお父さんとこめっこに促され、私たちは建物の中へと入っていった。里にいる間は夕食は一族みんなで集まって食べることになっている。料理は紅魔随一の酒屋の女将とその娘である同い年のねりまきが作っていて、この里に来る楽しみの一つでもある。

 

「おお、めぐみん!お帰り」

「お帰りなさい、めぐみん」

「ただいまです、お父さん、お母さん」

 

 私が両親にそう言うと、こめっこが私の服の裾を引っ張ってきた。

 

「早く鍋食べよう!」

「あれ?まだ食べてなかったのですか?」

 

 私がそう聞くと、こめっこは言った。

 

「お姉ちゃんが帰ってくるの、待ってた」

「こめっこ!」

 

 それを聞いて、私は思わず妹に抱きついた。なんでこの子はこんなに可愛いんだろう。早く食べたかっただろうに、私を待っててくれるなんて。

 

「こめっこ、今日はお姉ちゃんと一緒に寝ましょう」

「お姉ちゃんは、寂しんぼ」

「……こめっこ、それもぶっころりーが?」

「うん!」

 

 ボコボコで許してあげようと思ってましたが、気が変わりました。魔法の実験台にしてあげましょう。

 

「……父さんには抱きついてくれないのか」

「そんなこと言ってると嫌われますよ」

 

 お父さんの呟きにお母さんがそんなことを言っていたが、もう遅い。私の父への好感度は呟いた時点で大きく下がってる。

 

「それでめぐみん、ホグワーツはどうだ?」

 

 家族で鍋をつついていると、お父さんが切り出した。

 

「けっこう楽しいですよ。いい授業も多いですし、色んなことが起こりますしね」

「ちゃんと友達はできたの?」

「ええ、たくさん。その友達の話も含めて、今から色々と話してあげましょう」

 

 そう言って私はホグワーツでの出来事を片っ端から話し始めた。

 

 

「そして私はトロールに杖を突きつけて……おや?」

 

 私が熱弁を振るっていると、ふと肩に重さを感じた。そちらを見ると、瞼が閉じかけのこめっこがこてりと頭を私の肩に乗せていた。

 

「そろそろ家に行きましょうか」

「そうね。ほらこめっこ、行くわよ」

 

 そう言って私たちは里の私たち用の家に帰っていった。そうして私の帰省一日目は終わった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この紅魔の友人に再会を!(1)

 翌日の朝、喫茶店でゆんゆんに朝食をたかっていると聞き覚えのある二人の声が聞こえてきた。

 

「めぐみんにゆんゆんじゃない。来てたのね」

「めぐみん、またゆんゆんから食べ物巻き上げてるの?程々にしておきなさいよ」

 

 振り向くと、そこには私たちと同い年であるふにふら、どどんこの二人組が立っていた。

 

「どどんこにふにふらですか。久しぶりですね」

「こ、これは巻き上げられたんじゃなくて私が奢ってるの!奢り……友達に奢り……ふへへ」

「ちょっとめぐみん!ゆんゆんのぼっち、この一年で悪化してない!?」

「あなたたち海外の同じ学校行ってたんでしょ?なんでこうなるまで放っておいたの!」

 

 ゆんゆんの様子を見て、二人は慌てた様子で私に言ってきた。なんで私がこんなに責められなければならないのか。

 

「そんなこと私に言われましても。だいたい私とゆんゆんは寮が違うのであまりゆんゆんの交友関係を把握できてないのです」

「え?同じ出身地で同じ性別なのに?」

「私たちの学校ではそういったものじゃなくて、本人の資質で寮が決められるんですよ。全部で四つの寮があるのですが、私はグリフィンドールと言って勇気の寮と呼ばれる寮に入りました。ゆんゆんはレイブンクロー、知性の寮です」

 

 私がそう言うと、二人はふーんと声を上げて納得したような納得してないような顔になった。

 

「まあでも確かにゆんゆんは真面目だし、知性があるって言われるのも分かる気がするわ」

「めぐみんの勇気も、何も考えないで突っ走ることを考えると蛮勇って意味じゃ合ってるし」

「ふにふら、喧嘩を売ってるなら買いますよ。というか私には四つ全部の寮に入る資質があると言われたので知性云々はゆんゆんだけじゃないのです」

 

 私が胸を張りながらそう言うと、二人は一気に胡散臭そうな目になった。

 

「めぐみんに知性?その判定ガバガバじゃない?」

「めぐみんにあるのは知識であって知性じゃないでしょ。気も短いし」

 

 そして二人で顔を突き合わせてヒソヒソとそんなことを言って……。

 

「ほう、私の気が短いとは分かってるじゃないですか。そのままそんなことを言えば私と喧嘩になることも分かればよかったんですがね。……さあ、表に出てもらおうか」

「ちょっと、本当になんでめぐみんはそんなに短気なのよ!分かったわよ、悪かったからその目やめて!」

 

 私たちが三人でそんなことを言い合っていると、ゆんゆんが腑抜けたニヤケ顔をやめて言ってきた。

 

「あ、そういえばめぐみん、寮のことでちょっと相談があるんだけど」

「なんですか?すみませんが私にはあなたの寮での孤独を癒すことはできませんよ」

「なんで私が相談するって聞いてすぐにそっちに話が行くの?いやまあ、解決できるなら解決してほしいけど、まだ大丈夫よ。一応私にも同じ部屋の友達くらいいるし」

 

 私の言葉に、ゆんゆんはため息をつきながらそんなことを言った。

 

「「「嘘!?」」」

「三人してなんでそんな反応なの!?いや、今は相談よ。実は私、組分けの時にスリザリンの素質もあるって言われたの。それでグリフィンドールはダメですかって聞いたらスリザリンは嫌なんだね、ならレイブンクロー!って言われたんだけど。それで聞きたいんだけど、めぐみんから見て私、スリザリンっぽいかな……いや、別にスリザリンが嫌ってわけじゃないのよ?でも、その、何というかね?」

 

 ゆんゆんは少し俯きがちにそう言ってきた。なるほど、スリザリンの素質ですか。この様子だと多分、周りにスリザリンの評判を聞いたんでしょうね。別に私はあの寮自体はいいと思うんですが、生徒たちがあまりに何というか、陰湿ですからね。

 

「スリザリンってどんな寮なの?」

「野心深く、どんな手段を使ってでも目的を達成しようとする人たちの寮とされています。実際はそんな大物っぽい人間はおらず、小悪党ばかりですが」

 

 ふにふらが聞いてきたので、私はそう答えた。もちろんスリザリン生全員を知ってるわけじゃないが、ドラコが旗頭になってるところを見る限り基本小悪党だろう。ドラコ自身だって、私に掻き回されて部下にも笑われてしまうあたり、ただ家の色に染まってるだけのようだし。

 

「ゆんゆんに全く似つかわしくない嫌な寮じゃない」

「そうそう。ゆんゆんは人に話しかける時点で緊張しちゃう弱いメンタルの持ち主だし、そんな陰湿な寮の素質があるわけないわよ」

「ありがとう、どどんこにふにふら……ちょっと待って、ふにふらのそれって私のこと貶してない?」

 

 まあふにふらの言うことも分からなくはない。いい意味でも悪い意味でも、ゆんゆんはスリザリンには合わないだろう。

 

「でも、それじゃあなんで私はスリザリンの素質があるなんて言われたんだろう?」

「多分血筋ですよ」

 

 なおも疑問を漏らすゆんゆんに私はそう言った。

 

「血筋?お母さんはグリフィンドールだったし、お父さんは魔法使いじゃないわよ」

「いえ、そういうことではなくてですね。さっき言われた通り私もスリザリンの素質があると言われたんですが、他の三つの寮の素質と違ってなんでかは分からないが成功するとだけ言われたんです。なので、あなた個人がどうこうではなく紅魔にスリザリン適性があるのかと」

 

 ゆんゆんのお母さんに関しては私やゆんゆんと同じように他の寮にも適性があってそっちを選んだのでしょう。

 

「いや、めぐみんがそのスリザリンって寮の適性があるのは明らかでしょ」

「野心云々は紅魔族のほとんどに合致するし、めぐみんは天才天才言いつつ意外と狡っからい手も使うしね」

「一々茶々を入れないでください」

 

 それに天才が狡っからい手を使わないというのはバカの発想です。天才は天才ゆえに卑怯汚いは敗者の戯言と分かっているので。

 

「そうそう、ゆんゆんの寮の話で忘れてたけど、私たちはあなたに聞きたいことがあったのよ」

 

 そんなことを考えていると、ふにふらがこっちを向いてそんなことを言ってきた。

 

「私にですか?爆裂魔法に関してはまだ鋭意制作中でして、まだ教えることはできませんよ」

「誰もあなたの妄想魔法についてなんて聞いてないわよ!」

「そうじゃなくて、あなたの向こうでの交友関係よ。ゆんゆんほどじゃないとは思うけど、あなたもけっこうぼっちなんじゃないの?流石にゆんゆんほどじゃないとは思うけど」

「なんで二回も言ったの!?そんなに大事なことなの!?」

 

 なるほど、そう来ましたか。確かに私は天才なので孤高な人生を送っていると思われても仕方ありませんね。

 

「だってめぐみんって紅魔の中でも頭おかし痛い痛いごめんってば私の二の腕にかじりつかないで!」

「もうどどんこったら、余計なこと言うから」

 

 そんなこと言ってますがふにふら、あなたもさっきから大概ですからね?

 

「それで、正直なところどうなの?」

「ぶっちゃけると、いるなら男友達とか紹介して欲しいのよ」

「だいぶぶっちゃけましたね」

「あ、でも私もめぐみんの交友関係は気になるかな。男の子といることも結構あるし、あの中に誰か、その、気になる人とかっているの?」

「「え!?」」

 

 ゆんゆんが何となく言ったその言葉に、二人は食い付いた。

 

「嘘よね?花より団子を体現してたあのめぐみんにまさか男なんて、いるはずないわよね?」

「めぐみんに男ができて私たちにできないわけがないし、そんなことありえないわよ。……ないわよね?」

 

 そんなことを言いながらも不安そうにこちらをチラチラと見てくる二人。別に彼らとはそんな関係ではないですが、少し使わせてもらいましょうか。

 

「そうですね、それなりに親しい人ならいますよ」

 

 私がそう言うと、二人はビクッと体を震わせた。そしてふにふらは、どこか縋るような顔で聞いてきた。

 

「で、でも、めぐみんの相手なんだからその人も頭おかしかったりするんでしょ?」

 

 それはどういう意味だ。……まあいいです。ここは二人に勝つことを優先しましょう。

 

「そうですね、別に特定の相手とどうこうしてるわけではないのです一人ずつ言っていきましょうか。まずはそうですね、イギリス魔法界の英雄と呼ばれている子に、出来る兄たちにコンプレックスを抱いている名家の子、少し卑屈ですが努力家で真面目な子、あからさまに俺様系な金髪の子……まだ何人かいますが、紹介しましょうか?」

 

 私がそう言うと、二人はプルプル震えた後に「逆ハーの主なんてズルじゃない!」と泣きながら店から駆け足で出ていった。

 

「ふっ、勝った」

「え、今の勝ちなの?私にはめぐみんの爛れた関係が暴露されたようにしか思えなかったんだけど」

 

 二人が出て行った方を眺めて私がそう言うと、ゆんゆんがそんなことを言ってきた。

 

「私はそれなりに親しい仲としか言っていません。それなのに爛れた関係とか言うなんて、脳内ピンク色のゆんゆんは何を想像したんですか?」

「ピ、ピンクじゃないもん!」

「……あれ?というかなんでゆんゆんは私がハリーたちとよくいることを知ってたのですか?レイブンクローの寮はグリフィンドールとは離れていますし、先学期は合同授業もありませんでしたよね」

 

 私がゆんゆんにそう聞くと、ゆんゆんは恥ずかしそうにしながら言った。

 

「その……めぐみんに会いたいけど行っても迷惑かもしれないから偶然会うためにめぐみんがよく居るところを探そうと思って。それで同室の友達にめぐみんについてちょっと聞いてもらってたから……」

「あの、ゆんゆん?会いたいなら訪ねてくればいいんですよ」

 

 そんなことを言いながら、来学期は私から会いに行こうと心に決めた。本当に、この子はどこまでぼっちを拗らせてるんでしょう。寮に紅魔以外の友達が出来たとは言え、性格は変わらないようですね。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この紅魔の友人に再会を!(2)

「めぐみんにゆんゆんじゃないか。帰ってきたのは知ってたけど、ここにいたのか」

 

 引き続き朝食を摂りながらゆんゆんと話していると、ゆんゆんほどではないがそれなりに膨らんだ胸を持つ眼帯の少女が話しかけてきた。さっきの二人と同じく私たちと同い年の友人にして作家志望のあるえだ。

 

「あるえですか。久しぶりですね。何か書けましたか?」

「まだ完成してないけどね。それより二人は海外の魔法学校に行ってたんだよね。少し話してくれないかな。小説のネタが欲しいんだ」

「別にいいですよ」

「私はそんなに話すことないけど、それでよければ」

 

 あるえのお願いに、私たちはそう言ってホグワーツでの出来事を話し始めた。

 

 

「そういうわけで、私たちは隠されし何かについての情報を得たところで冬休みとなったわけです」

 

 私が話し終えると、あるえは何か考えながら口を開いた。

 

「なるほど……ありがとう。参考になったよ。それにしてもめぐみんの半年はゆんゆんの地味なものに比べてだいぶ色々あったみたいだね」

「地味って言わないでよ。私が普通でめぐみんがおかしいのよ。それよりめぐみん、そんなに危ないことに首突っ込んでたの?何で私に言ってくれなかったのよ」

 

 あるえの言葉に反論しつつ、ゆんゆんはそう言ってきた。ゆんゆんは何というか抜けてるところがあるから、どこかで先生方に私たちのことが漏れて先生方が私たちを警戒するようになるのが嫌だったのだ。でもそれを言うとゆんゆんは何か言ってきそうだし……。

 そんなことを考えていると、あるえが言った。

 

「ゆんゆん、めぐみんは君が心配で話せなかったんだ。察してあげなよ」

「……そうなの?」

「違いますよ!何勝手に理由作ってるんですか!」

 

 私が言うと、あるえはごめんごめんと軽く謝った。全く、適当なこと言わないでください。ゆんゆんが本気にしてこれ以上変な方向に拗らせたらどうするんですか。

 

「……それと。ゆんゆんにあるえ、あなたたちは何だかんだ優秀で知識も豊富ですよね」

「めぐみん、急に私を褒めるなんてどうしたの?」

「多分デレたんだよ」

「なんであるえはそっち方向に持って行こうとするんですか?」

 

 あるえは冒険小説をメインに書こうとしてると聞いているのだが、恋愛脳に切り替えたんだろうか。それにしても百合物は変わり種だと思うのだが。

 

「さっき言ったでしょう?私たちはニコラス・フラメルが誰なのかを探しているのです。それで二人に聞こうと思ったんですよ」

 

 私がそう言うと、二人は手を口元に当てながら首をひねった。

 

「なるほど。ニコラス・フラメルね……残念ながら聞いたことがないな」

「ごめん、私も。お母さんたちには聞いてみた?」

「ええ、昨日の夜に。収穫はありませんでしたが」

 

 まあ紅魔での情報にはあまり期待してませんでしたしね。仕方ないでしょう。

 

「そうですね……ではもう一つ聞いてみましょうか。これは興味本位でさっきのとは関係ないと思うのですが、あるえかゆんゆんは最も古い紅魔族みたいなのって知ってますか?紅魔族の歴史みたいな」

「うーん……ごめんねめぐみん、私は知らない」

「あ、それなら知ってるよ。昔ネタを探してた時に紅魔の里の図書館で見つけたんだ」

 

 私が何となく聞いてみると、あるえがそう答えた。

 

「本当ですか?それなら出来るだけ詳細まで話してほしいのですが」

 

 私の考えが正しければ、紅魔の始まり付近に恐らく彼がいるはずだ。

 

「ああ、いいよ。確か歴代の紅魔族で唯一髪が黒くなくて眼も赤くなかったらしい。白髪で碧眼だったそうだ。一番古い情報でも老人の風体なんだけどなかなか死なず、ここに来たときには既に老人だったのにそれから三百年は生きてたらしいよ。ま、紅魔の人間はみんな飛び抜けて長命だし、そんなことがあっても不思議じゃないけど」

 

 それを聞いて私は確信を強めた。やはり特別な一族である紅魔の影にはやはり魔法の存在があったようだ。そしてその魔法使いの名前はきっと。

 

「あるえ、性別と名前をお願いします」

「ああ、もちろんだとも。性別は男。名前は──」

 

 あるえが名前を言いかけたちょうどその時、店のドアが勢いよく開かれた。

 

「ねりまき、めぐみんを知らないか!シスコンのあいつのことだからこめっこに色々吹き込んだことを知られたらぶっ殺され」

「ほう、よく分かってるじゃないですか」

 

 店に入ってきたのは私の幼馴染でニートのぶっころりーだった。そして私はぶっころりーを目にした瞬間、席を立って奴の元に向かっていた。

 

「ゲッ!あ、あのな、めぐみん。こめっこに色んな言葉を教えたのには理由があってだな?」

「いえいえ、言い訳には及びません。さっき吹き込んだって自分で言ってましたよね?分かってるならもはや説教は要らないでしょう。必要なのはお仕置きのみですね」

 

 なおも言い訳を続けようとするぶっころりーに、私は黙ってぶっころりーのお尻を叩き始めた。

 

「あ、ちょ、めぐみん、痛い!痛いよ!魔法は使っちゃいけないんじゃなかった痛ッ!」

「魔力を体に循環させて身体能力を高めるくらい朝飯前です。ニートなあなたとは違うの、です!」

「痛いッ!」

 

 ……何でしょう、ぶっころりー自体には何とも思いませんが何故だか段々と昂ぶってきました。ふふ、ぶっころりーはいい声で鳴きますね。もっと力を強めたらどうなるのでしょうか。ちょっとずつちょっとずつ強めて行きましょう。ええ、それがいいですね。さあ行きましょうか。

 

「めぐみん!目が危ない人になってるわよ!」

「……はっ!私は今まで何を」

 

 ゆんゆんの声に私が正気を取り戻した隙に、ぶっころりーは逃げて行った。まあ十分戒めることはできたでしょう。

 

「めぐみん、いいものを見せてもらったよ。お陰で新作が書けそうだ。それじゃ」

「え?ちょっとあるえ、今のを書くのですか!?というか紅魔の始祖の名前を教え……」

 

 私の声に振り向くことすらせず、あるえは店から走り去って行った。

 

「えぇ……あるえは今のどこら辺にインスピレーションを得たんですか」

「作家ってそういうものじゃない?それよりなんで紅魔族の祖先なんか聞いたの?」

「いえ、ちょっとした考えがありましてね。ですが憶測も多分に入りますし、まだゆんゆんには話さないですよ」

 

 まああるえに聞かなくても名前くらい分かるだろう。図書館で見たとも聞いたし、私だけでも見つけられるはずだ。もし無理でもまた後であるえに聞けばいいですしね。

 

 

 

 それから二週間が経ち、私たちはゆんゆんのお父さんに連れられて羽田空港に来ていた。結局紅魔の始祖に関する記述は全く見つからず、あるえも部屋に篭ってひたすら原稿をやってるらしく話すことはおろか会うことすらできなかった。その集中ぶりと紅魔の始祖の件で目の当たりにした情報収集能力に、私は彼女の紅魔としての才である書く才能のことを初めて畏怖した。

 

「めぐみん、ゆんゆん、元気でな」

 

 見送りたいと一緒にやってきたお父さんが私たちにそう言った。食事が約束されてる私たちより収入が圧倒的に不安定な自分たちの方の元気を心配すべきなのではと私は思った。

 

「あ、そうだ。お父さん、ちょっとお願いしてもいいですか?こんなものを作ってほしいのですが」

 

 元気でと返す代わりに私はそう言って、家で書いておいたあるアイデアについてのメモを、変なものを作るが腕は確かな発明家であるお父さんに渡した。

 それを見たお父さんはうーん、と唸った。

 

「別にいいが……何に使うんだ?」

「具体的には何も。単純に戦力をあげたいと思いまして」

「ふふ、そうか。いい心がけだ」

 

 今はありがたいが、戦力を上げたいと言う娘にいい心がけだと褒める父親って一体どうなのだろう。

 

「めぐみん、もうそろそろ行かなきゃ。お父さん、ひょいざぶろーさん、お見送りありがとう。またね」

「ありがとうございました。夏に帰ってくるときはお土産を持って帰りますね。あ、待ってくださいゆんゆん」

 

 私たちはそうして、ホグワーツのあるイギリスへと飛行機で向かった。

 

 

 




次からホグワーツに戻ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

このぼっちな友人に情報を!


今回から再びホグワーツです。


 冬休みが開けてからも、私たちはニコラス・フラメルに関する情報を探していた。近代魔法史に関する本はあらかた漁ったが、何もそれらしきものは出てこなかった。

 

「ナイトをここに。ほら、次はめぐみんの番だよ」

「くっ、まさかロンがここまでチェスに強かったなんて。仕方がありません。眼帯に封印されし我が邪眼を開放してあげましょう。未来視の魔眼よ、私に最善の手を!……フフフ、これであなたの勝ち目は消えました。ここにビショップです」

「ここにクイーンで詰みだね」

 

 ……………………。

 

「というかそれ、魔眼なの?見たところ普通の目っぽいけど」

「うるさいですね。誰が何と言おうとこの目は石化の魔眼なんです」

「さっきから変わってるじゃん」

 

 チェスをしながらそんなことをロンと話していると、クィディッチの練習からハリーが何か考え込むような表情で談話室に帰ってきた。

 

「ハリー、どうしたんですか?いつになく頭を使ってるような顔ですが」

「それどういう意味?僕だって宿題とかの勉強でちゃんと頭使ってるんだけど」

「そうは言ってもあなたたち、宿題は基本私かめぐみん頼りじゃない」

 

 ハリーの言葉にため息をつきそう言うハーマイオニー。私はいいと思うんですけどね。別に落第というほどでもないですし、時間の使い方は人それぞれですから。

 

「それでハリーはどうしたの?クィディッチの練習で何かあったのかしら」

 

 ハーマイオニーがそう聞くと、ハリーは少し迷いながら答えた。

 

「次のクィディッチの試合、審判がスネイプなんだ。どうすればいいと思う?」

「休め」

「休むべきだわ」

 

 そんなハリーにロンとハーマイオニーは即答した。まあ妥当ですね。流石に審判を邪魔しに行くのは骨が折れますし。

 

「私も休むべきだと思います。骨が折れたと嘘をつくか、なんなら本当に折りますか?」

「い、いや、遠慮しとくよ。そうじゃなくてさ、僕はクィディッチには出たいんだよ。もしこれで出なかったらスリザリンにバカにされそうだし」

「今度こそ箒から落ちた方がバカにされると思うわ」

 

 ハリーの言葉にハーマイオニーは痛切な切り返しをした。

 しかしどうすべきですかね。ハリーのやりたいっていう気持ちも分かりますし、ハーマイオニーやロンの危険だってい考えももちろん分かります。

 

「……審判なら観客席よりも人の目に付きやすいでしょう。そう簡単に呪いをかけたりできないと思います」

 

 少し考えた上で、私はハリーの味方をすることにした。危険に怯えて何かをしないのは紅魔的にちょっとナシだ。

 

「めぐみん、でもあのスネイプだぜ?絶対に何かしてくるって」

「ええ、その可能性ももちろんあります。なので、私とハーマイオニーで呪文破りをハリーに教えましょう。完全に防げるとは到底思えませんが、一度妨害できれば次はしにくいでしょう。それと試合前に私たちが呪文防止の魔法をかけます。これで、一発KOはなくなるでしょう。そうすれば後はどうにかなります」

 

 私がそう言うと、ハーマイオニーとロンは渋々といった様子で分かったと言った。

 

「ありがとう、めぐみん」

「いえいえ。私たちはグリフィンドール、勇気の寮ですから。恐怖に屈してはならないのですよ」

 

 そのあとロンの五連勝を阻止すべくハーマイオニーとハリーの観戦の中チェスをしていると、パーバティがやってきた。

 

「めぐみん、ゆんゆんって子があなたを呼んでたわよ」

「ゆんゆんが?いえ、そうですか。ありがとうございます、パーバティ。というわけで私はちょっと出掛けてきますね。まだ勝負は決してないので今回は引き分けということで。いやー、ロンの連勝を止めることができてよかったです」

「詰みまであと10手くらいなのが分かっててよくそんなこと言えるね」

 

 ロンの声を後ろに聞きつつ寮から出ると、果たして我が友人はとても居心地が悪そうにキョロキョロしていた。

 

「ゆんゆん、私はあなたが知らない人に声をかけられるようになってとても嬉しいです。それで何の用ですか?」

「あ、めぐみん!ちょっと知らせたいことがあって。それといくら私だってそれくらいできるわよ」

 

 ゆんゆんは私を見つけてホッと安堵の表情を見せたあとにそんなことを言ってきた。

 

「知らせたいことって何ですか?」

「めぐみんが紅魔の里で聞いてきたニコラス・フラメルって人が誰だか分かったの」

 

 私が聞くと、ゆんゆんはそんなことを言ってきた。

 

「本当ですか!?あ、ちょっと待っててください。そうですね、ゆんゆんは先に図書館に行っておいてください。私は三人を呼んできます」

「うん、分かった」

 

 私はそう言うと、すぐに談話室に向かった。まさかゆんゆんが見つけてくれるとは。これは相当に嬉しい誤算ですね。

 

 

 

「それで、ニコラス・フラメルについて何が分かったのですか?」

 

 図書館の少しなら会話できるスペースに私たちはいた。ゆんゆんはコンパートメント以来久しぶりに顔を突き合わせる三人に少し気後れしながら言った。

 

「あのね、この本の作者がニコラス・フラメルだったの。今月になってお姉さんが貸してくれたけどよく分からないから何言ってるのか教えてって同室のパドマ・パチルって子がこの本を渡してくれて」

 

 そう言ってゆんゆんは分厚い一冊の本を見せてきた。その表紙には確かに、アブラハムの書:ニコラス・フラメル著と書いてあった。それは数ヶ月前にパーバティが読んでいた本だった。

 

「どこかで聞いた名前とは思ってましたが、そうでした。アブラハムの書の作者でした」

 

 しかしまさかこんなところで繋がっていたとは。ゆんゆんの同室にパーバティの双子の妹がいて、その子経由でゆんゆんにニコラス・フラメルの本が伝わったのですね。

 

「それでそれはどんな本なの?」

「えっと、ジャンル的には錬金術にあたる本で、ニコラス・フラメルの成した偉業のために必要だった基礎に関して書かれてました」

 

 ハリーが聞くと、ゆんゆんは本をパラパラとめくりながらそう言った。そしてパタリと本を閉じ、ポケットから少し大きめのメモを取り出した。

 

「それで私、ニコラス・フラメルについて纏めてみたから見てほしいんです」

 

 ゆんゆんは少しニヤケながらそう言い換えてメモを私たちの前に広げた。

 

 1300年代生まれ。錬金術──いかなる金属をも黄金に変える力を持ち、飲めば不老不死になるという『命の水』の源でもある伝説の物質、賢者の石を創造することに関する古代の学問──の第一人者にして、賢者の石の創造に成功した唯一の人物。現在665歳であり、妻とイングランドのデボン州に住んでいる。ホグワーツとの関わりとしては、ダンブルドア校長との友人関係がある。

 

「色んな本を探したけど、ニコラス・フラメルの情報はこれくらいしかありませんでした」

 

 ゆんゆんはメモを見る私たちを見ながらそう言った。全く、この子は何を言ってるんでしょうか。

 

「いえ、十分すぎるほどです。自分のこともあっただろうに、これだけのものを集めてくれてありがとうございます」

「ううん、宿題以外やることなかったし別に。友達と話すこととかも、しない……し……」

 

 そんなことを言いながら俯いていくゆんゆん。なんでこの子は流れるように自爆していくんでしょうか。

 

「はぁ……そうですね。ゆんゆん、今度どこかへ遊びに行きましょうか。そのときに私の友達も何人か紹介しましょう」

「え!?いいの!?」

「普通の遊びの誘いでそんな反応しないでくださいよ」

 

 あまりの勢いにハリーたちが引いてるじゃないですか。

 

「だって誰かと遊びに行くなんてなかなかないんだもん。仕方ないじゃない」

「あの、どこか行きたかったら言ってくれれば付き合いますから、男の人とかに遊びに誘われても何も考えずにほいほい着いて行ったりしないでくださいね?」

「流石にそれくらい分かってるわよ」

 

 私には「俺たち友達だよな」と言われていいように使われるゆんゆんが簡単に想像できてしまうのですが。

 

「私だってここに来る前にも、めぐみん以外にマンドラゴラとか喋り草みたいな友達がいたんだから!こっちに来てからは『トロールとの仲の深め方』だって読んでるし、他にも」

「ゆんゆん、三人が引いてるのでやめてください」

「え?」

 

 私の言葉にピタリと口を止めたゆんゆん。ゆんゆんが私から視線を外して三人の方を見ると、三人はものすごく微妙な表情になっていた。少しずつ顔を赤くしていくゆんゆんに、ハーマイオニーが話しかけた。

 

「だ、大丈夫よ。私たちはトロールと友達になろうとしてる人がいても別に頭は大丈夫なのかななんて思ったりしな」

「うわぁぁぁぁ!」

 

 しかしそのフォローは逆効果だったみたいで、ゆんゆんは真っ赤になった顔を両手で隠しながら器用にもうるさくならないように叫んで駆けていった。

 

「……言い方が悪かったかしら」

「間違いなく悪かっただろう。元ぼっちのくせに分からなかったのかい?」

「うるさいわね。ねえめぐみん、今の子にお礼と……そうね、友達になりましょうってことを伝えておいてくれないかしら。言われて思い出したけど、独りはつらいものね」

「分かりました、今度言っておきます。それでは寮に帰りましょうか」

 

 その言葉をきっかけに、私たちは図書館を出ていった。何にせよ、私たちはようやくニコラス・フラメルの情報を得ることができた。これでやっとスネイプ先生かクィレル先生、あるいはその両方に一泡吹かせられるかもしれないと私は思っていた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

このイタズラな三人に企みを!

 

 

 

 それから数日たったある日。ロンとチェスの勝負(現在八連敗中)をしていると、談話室の扉が開きネビルがうさぎ跳びをして入ってきてそのまま倒れ込んだ。

 

「ちょ、どうしたんですかネビル」

「図書館の前で、マルフォイに出くわして、呪文を、試したいからって」

フィニート・インカンターテム!

 

 みんながネビルの姿に笑う中、私はネビルに駆け寄って掛けられていた呪文を解除した。ネビルは息を切らしてハアハア言いながら自由になった足を確かめた。

 

「マルフォイにやられたのか、ネビル。先生に言いつけてやれよ。これは立派な校則違反だ」

「いいよ。事を大きくしたくないし」

 

 近づいてきてそう言ったロンに、ネビルは俯きながらそう言った。これは少しまずいですね。ネビルの考え方が典型的ないじめられっ子のものになってしまっています。それとロン、校則違反に関してはあなたが言えたことじゃないと思います。

 

「それに僕が言ったって先生たちにもまたかって顔されるだけだよ。みんな知ってるから。僕になんの価値もないって。マルフォイに言われたんだ」

 

 そうしていると、ネビルが拗ねたようにそう言った。もう、あなたはまたすぐにそう言うことを。

 

「ネビル、君はマルフォイの何十倍も価値があるよ。なんたって君はグリフィンドールなんだから」

「ハリーの言う通りですよ。なんであなたはそんなに流れるように卑屈になるんですか。あなたは、少なくとも何回失敗しても気力を失わずに挑戦してる立派なグリフィンドール生です。スリザリンである意味を履き違えてる失敗スリザリンに何を言われようが、あなたが気にする必要なんてありません」

 

 ハリーと私がそう言うと、談話室の隅の方からパラパラと拍手が上がった。

 

「いやあ、素晴らしい。その通りだ」

「あの金髪には一回お灸を据えてやらなきゃな」

 

 拍手をしてそう言いながら話しかけてきたのは、ロンによく似た赤毛の二人組だった。

 

「フレッドにジョージでしたよね。ロンにはお世話になってます」

「よせよせ、弟の方が世話になってるに決まってるだろ?」

「なんたって聞くところによれば我らが恐怖の具現、例のヴォル何ちゃら様のことを馬鹿にするほどの肝っ玉。弟にそんな人材によくしてやる器量はないさ」

「兄さん、それはどっちかって言うとめぐみんがおかしいんだよ。ついでに言えば兄さんたちも」

 

 どうやらこの二人組はあのヴォルデモートとかいう人を特に怖がってないらしい。魔法界にいながらそうできるということに、私は二人に対して元々高かった好感度を更に上げた。

 

「確かあなた方にはまだ正式に名乗っていませんでしたね」

 

 そんな二人の前で私はグリフィンドールのローブをばさりと翻した。ハリーにロン、ハーマイオニーはまたかという目で、他の人たちは何をするのか少し興味があるような目で私を見た。

 

「我が名はめぐみん!紅魔家一の天才魔法使いにして、いずれ世界に名を轟かす者!今後ともよろしくお願いします」

 

 そんな中私がそう言うと、談話室は一度シーンとなった。そしてそのすぐ後に、フレッドとジョージが手を叩きながら笑い始めた。

 

「ハハ、そりゃいいや!」

「変に謙遜したりするよりずっといいな」

「「俺たちも次からこれやるか!」」

 

 そう言うと、フレッドとジョージは談話室の真ん中に立った。

 

「我が名はフレッド!ウィーズリーの悪戯ツインズの片割れにして、全力でこの世を面白おかしく過ごす者!」

「我が名はジョージ!ウィーズリーの悪戯ツインズの片割れにして、全力で大人たちを茶化す者!」

 

 そんな二人に小さく沸き立つ談話室。二人を指差して笑うみんなをよそに、私は二人に軽く感激していた。この名乗りを紅魔の外の人が理解してくれるなんて……!

 

「どうやらあなた方とは仲良くできそうです」

「それはこちらのセリフさ」

「これなら初対面の人に強烈な印象を残せそうだしね」

 

 私たちの名乗りの本質である「かっこいい」を感じ取ったわけではなさそうだが、使ってくれるというだけで仲間のような感じがする。

 

「ところで天才魔法使いさん、少し話があるんだが」

「俺たちの悪戯に一枚噛まないかい?青白坊やに一泡吹かせられるいい考えがあるんだが」

「詳しく」

 

 イタズラっぽい笑顔で手招きする二人に私は付いていくことにした。

 

「というわけでロン、今回は引き分けということで」

「君ってば毎回そうじゃないか!」

 

 

 

「それで、どんな悪戯なんですか?場合によりはしますが、基本的に全力で協力しましょう」

「まあまあ、そう慌てなさんな」

「こういうのは雰囲気が大事だ。知ってるだろ?」

 

 ここはグリフィンドール寮から少し離れたとある空き部屋。悪戯チームが見つけた部屋で、いつも会合をしてる部屋の一つらしい。

 

「まずはもう一人のメンバーも呼ばなきゃな。そろそろ来るだろう」

「呼んだかい?」

 

 ジョージがそう言うと、その直後にドアを開けて黒いドレッドヘアーの男子生徒が入ってきた。

 

「紹介しよう。我らがイタズラ仲間、リー・ジョーダンだ」

「やあ、めぐみんだね。話は聞いてるよ。クィディッチを観戦してるスネイプにドロップキックをお見舞いしたんだって?俺の名前はリー・ジョーダン。よろしく」

「クィディッチの実況の方ですよね。いつも楽しんで聞いてます」

「そいつはありがたいや」

 

 グリフィンドール寄りすぎて時々大丈夫かと思うこともあるが、解任されないうちはそんなことを考えなくてもいいだろう。

 

「それで、めぐみんを呼んだということはアレを実行するのかい?」

「ああそうさ。やっと目処が立ったからな。めぐみんがいれば問題ない」

 

 そんなことを考えていると、リーの質問にジョージがそう返していた。ほほう、なるほど。

 

「つまり悪戯の実行にはホグワーツ一の天才こと私の存在が必要だったわけですね?」

「全然」

 

 ……………………。

 

「じゃあ今の思わせぶりなセリフは何だったんですか!」

「いや、君が重要なのに間違いはないさ。ただ重要なのは君の魔法の腕ではなく君の人脈でね」

「今回の計画においてはあるものをスリザリンのフォイ助くんに食べてもらわねばならない。が、俺たちが送っても絶対に食べないし、匿名なら尚更だ」

「そこで君には父上大好きドラコくんがそれを食べるような仕込みをしてほしい。君には各寮隔たりなく友達がいると聞く。同じ寮の女子から渡されればアレも流石に食べるだろうさ」

 

 つまり私はただの橋渡し役で、直接イタズラに関わることはないと。なるほどなるほど、そういうことですか。

 

「……あからさまに嫌な顔してるね。やることが少ないのが嫌なら安心してくれていい。君にやって欲しいことは他にもあ」

「やります!」

「……早いね」

「うん、これは逸材だ」

 

 

 話を聞けば、どうやら贈るお菓子に入れる薬がまだ完成してないからよかったら手伝わないかとのこと。フッフッフ、そうならそうと早く言ってくれればよかったのに。

 

「もちろんやりますとも。ぜひ手伝わせてください」

「よく言った」

「それでこそ一緒にイタズラをやれるってもんだ」

「よろしくな、めぐみん」

 

 そう言って手を差し出してきた三人と私は固く握手を交わした。こうして私は今後も時々イタズラに加わることになり、私の魔法使いとしての歴史にグリフィンドールのイタズラチーム所属が加わった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この金髪のスリザリンにイタズラを!

 

 

「これをマルフォイに渡せばいいのね?」

「ええ、そうです。ありがとうございます。あ、私からのものだということは伏せておいてくださいね」

 

 それから数日後の飛行訓練の授業後。私は三人から預かったお菓子の袋を友人のダフネ・グリーングラスに渡していた。

 

「全く、この私があなたみたいなマグル生まれの頼みを聞くなんてね」

 

 私の渡したお菓子を懐に入れながらダフネはそう呟いた。

 ダフネの家、グリーングラス家は間違いなく純血とされる聖28家のうちの一つで、基本的にスリザリンの家系だ。そこから分かる通りグリーングラス家は純血主義を掲げている。それでも私と交流できているのは、ひとえに私が天才だからだ。より具体的に言うならば箒の扱い方を教えてあげたからだ。

 

「私との交友を機にその差別思想もやめた方がいいと思いますよ。そろそろ本格的に時代遅れになると思うので」

「うーん、それはまだちょっと。一つ下の妹はそういうのは最初からなかったんだけどね」

「へえ、グリーングラス家の子なのにすごいですね」

「すごいかどうかは人それぞれよ」

 

 そんなことを言い合いながら校舎内へと帰っていく私たちを、他の生徒たちは珍しいものを見るような目で眺めていた。グリフィンドールとスリザリンの組み合わせはどうやらどちらの生徒から見てもあまり思わしくないもののようだった。

 

「それで、これはどんなものなの?さすがに毒とかなら私はこれをマルフォイじゃなくて先生に渡さなくちゃいけないんだけど」

「そんなことするわけないじゃないですか。私も詳しくは聞いていませんが、基本的に愉快なことしか起こらないようになっています」

 

 あの三人が企むのはあくまでイタズラであって、誰かが本当に苦しむことを望んだりはしない。というか毒じゃなかったらいいんですね。スリザリンも別にマルフォイを中心に一枚岩というわけではないということですか。

 

「ふーん。まあいいや。もしマルフォイが食べてそのあとに問い詰められたらどうすればいいの?流石に私が作ったなんて言いたくないんだけど」

「ドラコが食べた後ならもう私のことをバラしてもいいですよ」

「そう。じゃあね。渡したら連絡するわ。報酬に呪文学を教えてくれるってこと、忘れないでよね」

 

 そう言うと、ダフネはスリザリンの寮がある地下牢の方へ歩いて行った。別に勉強を教えることくらい頼まれればいくらでもやるのだが、純血としてのプライドがまだそう易々と私に頼みごとをできないようにしてるのだろうか。生きづらいだけだと思うので早く目を覚ましてほしい。

 

「今話してたのはグリーングラスよね。何を話してたの?」

「ちょっとしたお願い事ですよ」

 

 私がダフネと別れるとすぐにパーバティが寄ってきてそう聞いてきた。

 

「ふーん?めぐみんってスリザリンとも仲良いよね」

「ええ。スリザリンも一緒に学ぶ学友には違いありませんから」

 

 ダフネの態度に、フォイフォイを崩せば以外と簡単に話せるくらいにはなるんじゃないかと密かに考えてたりする。

 

「珍しい考え方よね。マグル生まれなのが大きいのかしら」

「マグル生まれは多分関係ありませんね。マグルも魔法族並みに身内以外を差別しますし。単純に、一緒に学ぶ人たちは仲間であってほしいと思ってるだけですよ」

「それで、お願いってどんなこと?」

 

 パーバティと話していると、横で話を聞いてきたラベンダーが聞いてきた。

 

「明日になってからのお楽しみです。強いて言うなら……そうですね、ドラコを見てみれば分かると思います」

「「?」」

 

 キョトンとしてる二人を見て、私は小さく笑いをこぼした。あとはあの三人の案がどれほどのものか。かくいう私も明日になってからのお楽しみですからね。期待しておきましょう。

 

 

 

 翌日の朝。ハリーたちと一緒に朝食を食べに広間に向かっていると、クラッブとゴイルを従えて歩くドラコに遭遇した。

 

 そのドラコの髪はいつもの金髪ではなく、何種類かの蛍光色が移り変わりながらピカピカと光っていた。

 

「「「ブッ!」」」

 

 私たち四人は堪らず吹き出した。

 

「笑うなポッタァァァ!」

「ブハァッ!」

 

 顔が赤く染まったドラコのその声で、またしても私は吹き出してしまった。

 

「くっ……お前たちがやったことは分かってるんだぞ。父上に言いつけてやる!

 

 ドラコがそう叫ぶと、どこからともなく大人の男の声が響いてきた。

 

『ドラコ、それくらい自分でやりなさい』

「父上!?」

 

 どうやらその声はドラコのお父さんのものだったようで、私たちは倒れこんで爆笑した。

 

「くそっ、お前ら……!クラッブにゴイル、やっちまえ!

 

 ドラコが今度は二人にそう命令すると、またもやその場に声が響いた。

 

『えー、お頭がやってくださいよ』

『いつも俺たち任せじゃないですか。たまにはボスがやってくださいよ』

「お前ら!」

「今のは俺たちじゃないです!」

「多分さっきのと同じやつです!」

 

 キレた様子のドラコに必死で弁明する二人。これはちょっと、いやすごい面白い。さすがあの三人は期待を裏切らない。

 

「じゃ、私たちはこれで。今日は朝からいいものを見せてもらいました」

「あ!ちょっと待て、これを解いてから」

 

 ドラコが後ろから何か言ってくるなか、私たちは駆け足でその場を離れた。

 

 

 その日は一日中、ドラコとその周り以外の生徒にとってとても愉快な時間となった。スリザリン生ですら何かあるたびに笑っていた。特に図書館でチェスをやっていたドラコが、命令を全く聞かない駒に『たまには自分が戦場に立ってみろ』と言われて駒が動かないままダフネにボコボコにされていたのは見ものだった。

 

「いやー、いい体験をさせてもらったわ」

 

 私が湖のほとりでハリーたちと談笑していると、ダフネが近づいてきて言った。

 

「前あいつにチェスで惜敗してからずっとこき下ろされてたのよ。今日はスッキリしたわ。あなたのおかげよ」

「やっぱり今日のマルフォイってめぐみんが何かしたの?」

 

 ダフネの言葉に、ハリーがそう聞いてきた。

 

「ええ。私というかウィーズリー兄弟にリーが、というのが正確ですけど。私とあの三人で作った薬をお菓子に入れて、ダフネに届けてもらったんです」

「なるほど、昨日のはそういうわけだったか」

 

 三人に今日のことをバラしていると、後ろから聞き覚えのある怒ったような声が聞こえてきた。

 

「失望したよ、グリーングラス。スリザリンがグリフィンドールの頼みを聞くなんて」

 

 それは話題のその人、ドラコ・マルフォイだった。ダフネを強く睨みつつ吐いたそんな言葉に、ダフネは言い返した。

 

「スリザリンがグリフィンドールの頼みを聞いたわけじゃないわ。私が、めぐみんの頼みを聞いたの。髪じゃなくて目まで細工されちゃったの?首から上が見えてないみたいよ。それじゃめぐみん、また今度ね」

「グリーングラス!」

 

 ダフネはそう言って、ドラコの怒りも意に介さずに建物の方へと帰っていった。意外と大物になりそうですね、ダフネ。

 

「……まあ、グリーングラスなら後でどうにでもできる。今はお前たちだ。お前たちは絶対に許さない。スネイプ先生に言いつけてやる。あの人は僕を気に入ってるからな、お前たちなんか」

『ドラコ、そのくらい自分でやれ』

 

 ドラコがそれなりに怒ってる顔なのに、その声のせいで私たち四人は吹き出してしまった。

 

「笑うなお前ら!」

「面白いんだから仕方ないじゃないですか」

 

 私がそう言うと、ドラコはローブから杖を取り出して私たちに向けて構えた。

 

「もう謝っても遅いぞ。僕を怒らせたお前たちが悪いんだ」

 

 それだけ言って、ドラコは叫んだ。

 

フォフォイのフォイ!

「「「ブフォ!」」」

 

 ドラコの唱えた呪文に、私たちはやっぱり笑い出してしまった。あの三人はこんなところにまで影響が出るようなものを作ったのですか。やはりあの三人は優秀ですね。

 

「はぁ!?何だよ今の!クソ、ペトリフィカス・トタルス……よし、言える。ペトリフィカス・トタルスだ。よし、行くぞ!ペトフォフォイのフォイ!

 

 やはり何も起こらなかった。

 

「く、ふふ……マルフォイ、お前は僕たちを笑い殺そうとしてるのかい?」

「うるさいぞウィーズリー!原因を知ってるくせに!もういい、帰る!」

「パパの下にですか?」

「寮にだ!」

 

 そう吐き捨てると、マルフォイは髪をネオンサインのように光らせたまま建物の方へと帰って行った。そしてそれと入れ替わりにネビルがやってきた。

 

「ねえ、今日のマルフォイがおかしかったのって君たちが原因なの?」

「いや、今回に関しては私たちは関係ないわ。めぐみんとフレッド、ジョージ、それにリーが企てたみたい」

「どうです?面白かったでしょう?これで少しはドラコを怖がらなくても済むようになりましたか?」

 

 私がそう聞くと、ネビルは少しポカンとした後に笑顔になって頷いた。どうやら談話室でのことがきっかけだということを察したようだ。

 

「うん!ありがとう」

「もう卑屈になってはいけませんよ。あなたはこの私と同じ、グリフィンドールなのですから」

「分かったよ。本当にありがとう。それと四人とも、そろそろ日が落ちるから一緒に寮に帰ろうよ。もうすぐ一気に寒くなるよ」

「そうですね」

「そうするか」

 

 こうして、ドラコ以外にとって愉快な一日は終わっていった。そして翌日の朝。部屋に設置されている洗面台の鏡を見て私は叫んだ。

 

「あいつら!」

 

 私の頭は、昨日のドラコのように遷移的にキラキラした色になっていた。私は部屋のみんなに笑われながら、三人にどう仕返ししてやろうかを考えていた。

 

 なお、髪は部屋を出て朝食に行く頃には元に戻っていた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この賢者の石の話に進展を!

 悪戯トリオへの仕返しを考えつつ授業をこなしてるうちに、数週間が経った。その間にハリーは次のクィディッチの審判を務めるスネイプ先生への恐怖感を強めていた。

 

「絶対に僕への当たりが強くなってるって。多分僕をクィディッチの試合に出させる気がないんだ」

「考えすぎですよ。それにさっきのは先生の指示を無視して先にドラゴンの尾を入れたハリーが悪いです。あれは高価なので無駄にされたのが嫌だったのでしょう」

「それにしたってさ」

 

 そう言ったところでハリーは後ろを振り返った。

 

「どうしたの?」

「いや、スネイプに見られてた気がして」

「気にしすぎだって。元気出せよ」

 

 そう言うロンの顔も決して元気そうには見えなかった。

 

「さすがにあの人だってここの教師ですから、クィディッチの試合であからさまに何かするなんてことないと思いますよ。なのでみなさん、少しくらい落ち着いてください」

「そんなこと言われても、気休めにもならないよ」

 

 そういうハリーの不安は、日に日に大きくなっていってるようだった。

 

 

 

「ハリー、朗報です。次の試合にダンブルドアが観戦に来るそうです」

「本当!?」

 

 試合の前日、ハリーとロンが私の書いたレポートを参考に宿題をしてしているところに私は言った。ハリーは今までの不安が一気に吹き飛んだかのような元気な顔を見せた。

 

「誰情報?」

「パーシーがマクゴナガル先生から聞いたそうです。何でも、今年の寮杯争いは楽しみだそうで」

「君、パーシーと話すのかい?君みたいに規則なんて犬にでも食わせとけって人とパーシーは、なんというか水と油だと思うんだけど」

 

 私がそう言うと、ロンが少し懐疑的な目で聞いてきた。

 

「勉強をたまに教えてもらってます。あの人が優秀なのは確かですしね。最初はロンの言う通りの理由で私をよく思ってなかったようですが、さすが監督生だとか未来の首席だとか囃し立てると快く色々と教えてくれました」

「兄さん……」

 

 私の言葉に、ロンは呆れたようにため息をついてそう呟いた。囃し立てた私が言うのも何ですが、将来そういった肩書き……そう、例えば校長だとか魔法省だとかに振り回されそうで少し心配です。

 

「でもめぐみん、ありがとう。それを聞いて少し落ち着いたよ」

「ダンブルドアがいればスネイプだって滅多なことはできないもの。一応私たちが魔法妨害の呪文をかけておくけど、ハリーは心配せずに伸び伸びとプレイしなさい」

「うん、そうするよ」

 

 そうしてハリー、今までよりもずっとリラックスしている様子でその後の時間を過ごした。ハリーにとって、スネイプ先生が審判をすることもすでにそんなに怖くないことになっていた。

 

 

「いよいよですね」

「そうね。でも一応足縛りの呪文の練習くらいはしておきましょう。ロン、いい?ロコモーター・モルティスよ」

「分かってるってば。そうガミガミ言うなよ」

「ねえ、なんでそんなにその呪文について今強調してるの?」

 

 試合当日、私たちはクィディッチの観戦席にネビルと一緒に来ていた。ネビルは私たちが真剣な表情をしてさらに杖を持っていることを非常に不思議がっていた。が、途中でめぐみんがいるんだし仕方ないかと言って一人で納得していた。後でそれがどう言う意味かじっくり聞いてみたいと思う。

 

「さあ、プレイボールだ。アイタッ!」

 

 球場を見ながらそう言ったロンの頭を誰かが小突いた。後ろを見れば、そこにはドラコがいた。

 

「ああ、ごめんなウィーズリー。気が付かなかったよ」

 

 そう言ってニヤリとしたドラコに私は言い放った。

 

「なんで素直にスリザリン生の集まってるところに行かないんですか?この前のイタズラでハブられてるなら少し悪いと思うので謝ろうかと」

「違っ、そんなわけないだろう!僕がなんでマルフォイ家の本拠地スリザリンでハブになるんだ!お前たちに嫌味を言いに決まってるだろう」

「ちょっとくらい普通にクィディッチを楽しめよ、七色の髪のマルフォイ」

「ぶっ飛ばすぞウィーズリー」

 

 からかいの言葉を飛ばしたロンにそれだけ悪態をついてドラコは一息ついた。

 

「グリフィンドールの選手がどういう風に選ばれたか知ってるかい?」

 

 そしてそんなことを言ってきた。多分今日のために用意してきたんだろうなと思いながら私たちは意識の一割くらいを使ってそれを聞いていた。今はハリーの無事の方が先決だ。大丈夫だとは思うが、確認はした方がいい。

 

「気の毒な人が選ばれてるんだよ。ポッターは両親がいないし、ウィーズリー家はお金がないし。だからロングボトム、お前もチームに入るべきだね。脳みそがないから」

 

 そんなドラコにネビルは顔を真っ赤にしたが、座ったまま後ろを振り返って言った。

 

「マルフォイ、ぼ、僕は君が十人束になっても敵わないくらい価値があるんだ」

 

 ネビルの言葉に、私は目を見開いた。とうとうネビルがドラコに真っ向から反抗したのだ。

 

「ネビル、よく言いました。その通りです。狡猾という言葉の意味を全く分かろうとせずにスリザリンの意味を履き違えてる人よりも、あなたはずっと価値を持っています」

 

 ドラコがクラッブにゴイルと一緒に笑い転げるなか私がそう言うと、三人は笑うのをやめてこちらを睨んできた。

 

「は?お前にスリザリンの何が分かるって言うんだい?ただのマグル生まれのお前に、何が」

「少なくともあなた方が何も考えずに信望を表明してるヴォルデモートなんかは、学生時代の噂を聞かないあたり狡猾さの意味を知っていたようですよ」

 

 その言葉に、私の周囲は押し黙った。ヴォルデモートの名前はやはり影響力が大きいようだ。

 ヴォルデモートほどの力があって且つ今のドラコのような目立ち方をしていれば、自ずとヴォルデモートの学生時代の話は広まっていたはずだ。にも関わらず学生時代の話が全く見つからないあたり、学校ではずっと優等生か少なくとも目立たない生徒という仮面を被っていたのだろう。

 

「……グリフィンドールチームの話に戻すとだな」

 

 そんなことを考えていると、ドラコが話を戻した。ふっ、勝った。言い負かしてやった。私が勝ち誇った表情で聞いていると、ドラコが私にとって禁断の言葉を言った。

 

「紅魔、君もチームに入るべきだ。なんせ背がないんだから」

「ぶっ殺す!」

「あ、お頭」

「大丈夫ですか」

 

 ドラコが言った瞬間、私はドラコに飛びかかった。

 

「ちょ、お前、短気すぎるだろ。やっぱり頭おかしい……というかお前ら、早く助けろよ!実は僕のこと心配してないだろ!」

「多分二人とも、女の子に組み伏せられてるマルフォイに呆れてるんじゃないのか?」

「そんなこと思ってるのかお前たち!」

「「お、思ってませんよ」」

 

 ロンに煽られたドラコのキレ声に、吃りながら答えて私を引き剥がしにくる二人。

 

「女子一人に二人掛かりで襲うなんてそれでも男ですか!股のそれを千切りますよ!」

「めぐみん、その発言こそそれでも女の子なの?それと試合が終わったわよ」

「「「え?」」」

 

 ハーマイオニーの言葉に、組み合っていた私たちは顔を上げた。大きく表示された得点板は、グリフィンドールの大差での勝利を示していた。

 

「170-20。グリフィンドールの勝利よ!ハリーも無事だったわ!」

「本当ですか!それはよかったです」

 

 いやー、ハリーが無事でよかった。途中から他のことに気を取られて試合は見れませんでしたが、概ね良しとしましょう。

 私は立ち上がりながら苦虫を噛み潰したような顔のドラコたちに全力のドヤ顔を向けた。三人はとてもイラっとしていた。

 

「さ、行きましょうか」

「その前にめぐみんは保健室に行ったら?男子三人と取っ組み合いはさすがにめぐみんでもキツかったんじゃない?」

「いえ、私は大丈夫ですよ。それよりネビル、よく言い返しましたね。感心しました」

「この前、君たちに励ましてもらったから」

 

 そんなことを話しながら、私たちはグリフィンドール寮の談話室へと帰っていった。

 

 

 

 その日の夕方。私たちがグリフィンドールのトップを祝して談話室でパーティーを開いて騒いでいると、ハリーが深刻そうな表情で入ってきた。

 

「ハリー、どうしたんですか?今日のヒーローなんだからもっとシャキッとしてくださいよ」

「めぐみん、それどころじゃないんだ」

「どうしたんだい、ハリー?」

「何があったの?」

 

 ハリーのただならぬ雰囲気に私たちが聞くと、ハリーは声を潜めて私たちに言った。

 

「大事な話がある。部屋を変えよう」

 

 私たちが誰もいないことを確認して部屋に入ると、ハリーが私たちに告げた。

 

「僕たちは正しかった。『賢者の石』だったんだ。さっき、僕はスネイプがそれを手に入れるのを手伝えってクィレルを脅してたのを聞いたんだ」

「「「なっ!」」」

 

 思ったよりもスネイプが精力的に動いていたと知って、私たちはそんな声を上げた。

 

「スネイプはクィレルにフラッフィーを出し抜く方法を聞いてた。それとクィレルの『怪しげなまやかし』のことも。多分フラッフィー以外にも何か特別なものが石を守ってるんだと思う。それの一つにクィレルの魔法があってスネイプはそれを破らなくちゃいけないのかもしれない」

 

 なるほど。確かにここホグワーツにあって番が犬だけだというのはおかしな話だし、それも十分にありえそうだ。

 

「ということは、『賢者の石』が安全なのはクィレルがスネイプに抵抗してる間だけということになるわ」

 

 私がそんなことを考えていると、ハリーの話を聞いてハーマイオニーが警告した。

 

「それじゃ、三日と持たないな。石はすぐになくなっちまうよ」

 

 ロンのそんな言葉は正鵠を射ているようだった。確かにクィレル先生は気弱でスネイプ先生には簡単に負けてしまうだろう。しかし、私はまだどこかあのクィレル先生を疑っていた。ホグワーツの闇の魔術に対抗する防衛術の授業を、本当にただの気弱な先生が持てるだろうか。しかもあんなかっこいいターバンをしてるのに。紅魔式で言えば、あれは絶対に何かがあるはずだ。

 

 私はクィレル先生にどこか引っかかるところを感じながら、『賢者の石』に関する進展について考えを巡らせていた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この大男の小屋にドラゴンを!

 受験まで残り一年になったのと先の巻分のプロットを練るために少し更新頻度が低くなりますが、エタらずに続けていくつもりなので今後もよろしくお願いします。




 

 それから数週間が経ちイースター休暇も過ぎたが、ロンの予想に反して『賢者の石』は無事だった。少なくとも、スネイプ先生は何もしなかったようだし、クィレル先生も同等だった。ハリーたちはそれをクィレル先生の頑張りと見て、クィレル先生の授業中に先生を囃し立てる生徒たちを宥めたり、柔らかな挨拶をしたり、授業前や後の手伝いなんかをしていた。

 

 「ハリーたちは」と言った通り、私はそんなことをしなかった。まだこの件にはいくつか私たちが知らなければならないのに知らないままの事項がいくつかある。その最たるものは、スネイプ先生ではなくクィレル先生だ。

 

 クィレル先生がみんなに見せる臆病な性格を、私はしっかりと把握してる。あの人は強気な姿を他人に見せたことがない。正直この時点で闇の魔術に対抗する防衛術の教鞭を執れていることに疑問が湧く。そんな姿勢でそれらの術を習得できるとはとても思えない。

 

 そして、もしその性格が本当なのならばスネイプ先生は何をしているのか。あの先生が他の生徒の言う通りの邪悪なら、なぜクィレル先生の口を割るような術を使えない、あるいは使わない。ハリーたちの考えが正しいのなら、この数週間の平穏ははっきり言って異常だ。

 

 また、重要なことはまだある。スネイプ先生があまりに怪しすぎ、クィレル先生があまりに哀れなところだ。これは少し型にはまりすぎている。紅魔の里で、私はミスリードというものを嫌というほど学んだ。例えば『混浴温泉』という名前の施設が男女別浴の銭湯だったとか。あるいは私のパンツを盗んでいたのが変態ニートのぶっころりーではなくて幼馴染のゆんゆんだったりだとか。

 

「というわけで、私はどちらかと言うとクィレル先生が怪しいと思うのですが」

 

 図書館の片隅、他の人たちと少し離れた場所で私はゆんゆんとそんなことを話していた。

 

「私に言われても知らないわよ。というかまだあの時のこと言ってるの?あれは風で私の洗濯物の中に紛れこんだだけだって言ってるじゃない。そけっとさんの占いでもそう出てたでしょ」

「いえ、あれは絶対にゆんゆんが盗んだのです。別にあれだけ騒ぎ立てて今更引っ込みがつかないから強引にゆんゆんを犯人に仕立て上げようとしてるとか、そんなのでは全然ないのです」

「あれはそういうことだったの!?……全く、そういう思いつきで私を振り回すのは本当にやめてほしいんだけど。あれのあとしばらく、里の人たちの私を見る目が妙に生暖かかったし……」

 

 そう言ってゆんゆんは大きくため息をついた。

 

「それで、今日はそんなことを話すために呼んだの?そうなら私、早く寮に帰って『ナーグルやラックスパートとの楽しいお喋りの仕方』の続きを読みたいんだけど」

「そんな生産性のない本を読むのはやめたほうがいいと思います」

 

 そのナーグルやラックスパートというのは確か想像上の生き物だったはずだ。ゆんゆんの友達許容範囲はとうとうそこまで広がってしまったのか。ふにふらやどどんこの空想上の恋人ほどではないが、空想上の友達やペットも十分に痛いのでせめて観葉植物あたりで我慢してほしい。

 

「いえ、そうではなくてですね。今日は再来週の土曜日にお茶会をやるのでその誘いをしようと呼んだのですよ」

 

 私がそう言うと、ゆんゆんは一瞬固まった。

 

「えっとそれ、私も行っていいの?お茶会ってことは他の人も来るんでしょ?私が行って微妙な空気にならない?なんでこいつ来てるんだよ、みたいに言われない?」

「あなたはお茶会をなんだと思ってるんですか。大丈夫ですよ、ちゃんとあなたを呼ぶことをみんなに言ってありますからそんなこと思われたりしませんよ」

 

 それに話を聞けば、ゆんゆんはけっこう優秀で意外と色々な人に知られてるそうだ。なんでも図書館などで時々、宿題に詰まってる人にどこがダメなのかアドバイスして「余計なこと言ってごめんなさい!」と言って逃げることで有名なんだとか。なんというか、この子はなぜここまで不器用なのか。

 

「でもめぐみん、なんで急に私を誘ってくれたの?いや、嬉しいのよ?でも不自然というか、何か企んでそうというか」

 

 そんなことを考えていると、ゆんゆんはそんなことを言ってきた。この子は私をなんだと思ってるんだろう。

 

「別に何も企んでませんよ。ほら、以前あなたがニコラス・フラメルに関する話を持ってきてくれた時に今度あなたを遊びに誘うと言ったでしょう?ここでは休日にも外出ができないのでなかなかいいのが見つかりませんでしたが、ようやくそれらしいのが見つかったので誘ったのです」

「ああ、あの時の。覚えててくれたんだ。本に『今度遊ぼう』の今度はこの世に存在しないって書いてあったから忘れられたのかと思ってた」

 

 何というか、間違ってると言えないのがもどかしい。確かに別れ際の「今度」「また」ほど信用できないものもなかなかないですし。

 

「それでめぐみん、どこに行くの?さっきあなたも言ってた通り、ここは外出禁止でしょ?」

「ええ、なので遊びに誘うのは夏期休暇かなと思ってたのですが、ハッフルパフのハンナ・アボットからちょうどいい誘いを受けましてね。なんでも、厨房の屋敷しもべ妖精主催のちょっとしたパーティーがあるそうなんですよ」

 

 厨房がすぐ近くに寮があるハッフルパフ生のなかには、そこで働く屋敷しもべ妖精たちと仲がいい人たちがいる。今回はそんな人たちと妖精たちでパーティー企画したらしい。

 

「そうなんだ。ありがとう、めぐみん。この喜びは一生忘れないわ」

「あの、ゆんゆん。それはちょっと重いです」

 

 いつも思うけど、この子はぼっちを拗らせすぎだ。これからのホグワーツでの生活改善があるといいのだが。

 そんなことを考えながら、私たちは魔法史の長ったらしいレポートを互いに手伝いながら書き始めた。

 

 

 

「ハグリッドがドラゴンの卵を持ってる?」

 

 寮の談話室でハリーたちが一箇所に固まって何やら相談をしていたので話を聞くと、そんな答えが返ってきた。

 

「シーッ!声が大きいよ。他の人に聞こえたらどうするのさ」

「めぐみん、魔法界ではドラゴンの飼育は法律違反らしいんだ。他の人にバレたらハグリッドが捕まっちゃう」

 

 なるほど。まあドラゴンと言えば非常に危険で気性の荒い生き物だ。禁止はちょっと厳しいと思うが、妥当といえば妥当だ。

 

 まあ、紅魔の里の山では放し飼いにされてるわけだが。

 

「それで、どうするんですか?」

「ハグリッドにドラゴンが孵ったらすぐに自由にするように説得してみるくらいしか思いつかないわ」

 

 私が聞くと、ハーマイオニーは苦々しい表情でそう言った。何にせよ、ハグリッドがドラゴンを飼うという選択肢はないようだった。

 

 結局何かいい解決案が出ないまま、その相談会は解散となった。あのドデカ生物大好き人間のハグリッドがそう簡単にドラゴンを手放すと思えなかったからだ。私たちは心配を抱えたままに自分たちの部屋へと帰っていった。

 

 

「みんな聞いて。ドラゴンがそろそろ孵るって」

 

 その一週間後の朝、フクロウから受け取った手紙を見てハリーが言った。私たちは薬草学の授業をサボって小屋へ向かおうとしたが、ハーマイオニーが嫌がった。

 

「ハーマイオニー、これはチャンスなんですよ?ドラゴンの卵が孵化するところなんてそうなんども見られるものじゃないです」

「授業があるでしょう?めぐみんは予習復習すれば大丈夫かもしれないけど、そこの二人はきっと無理よ」

「失礼な。僕たちだって人並み以上には成績は取れてるんだぜ?だから一つの授業よりハグリッドのドラゴンをだな」

 

 ロンがそこまで言ったところで、ハリーが小声で言った。

 

「黙って!」

 

 ハリーの視線を追うと、ドラコが私たちから数メートルの距離でじっと立ち止まっていた。もしかしたら今のを聞かれてしまったかもしれない。また不安材料が増えてしまった。

 

 結局ロンとハーマイオニーの双方が折れて、小屋には午前中の休憩時間に急いで行くことになった。終業のベルが鳴るとすぐに、私たちは教室を出て森のはずれへと急いだ。

 小屋に着くと、興奮で紅潮したハグリッドが私たちを招き入れた。

 

「もうすぐ出てくるぞ」

 

 そう言ってハグリッドは机の上を指差した。そこには深い亀裂の入った卵が乗っていた。中で何かが動いていて、コツンコツンと音が響いている。私たちはみんな息を潜めて見守った。

 突然キーッと引っ掻くような音がして卵が割れ、赤ちゃんドラゴンが机の上にポイと出てきた。その姿は可愛さとは程遠い不気味なもので、正直心が踊った。なんか呪われた子みたいでかっこよく見えたのだ。

 

「ハグリッド、その子のことが気に入りました。その子を譲ってくれませんか?私が立派な使い魔にしてみせましょう」

 

 全身を覆う黒い毛皮、巨大な骨ばった翼、鋭く突き出た角にオレンジ色の瞳。私の使い魔となるに相応しい容貌だ。そう思って私がそう言うと、その場にいた私以外の四人はギョッとしたように私のことを見てきた。

 

「めぐみん、とうとう本当に気が狂ってしまったのかい?」

「思えば初めて会ったときからめぐみんは気が変だったな……」

「めぐみん、正気に戻りなさい。今なら間に合うわ」

 

 なんて言われよう。それとハリーとロンには後でたっぷり普段私のことをどう思ってるか聞かなければなりませんね。

 そうしていると、私の言葉に一番衝撃を受けていたハグリッドが口を開いた。

 

「めぐみん、バカなこと言っちゃいけねえ。ええっと、そうだ。お前さんは知らないかもしれんが、この世界じゃドラゴンを飼うのは違法行為なんだぞ!」

「「「あんたが言うな」」」

 

 オロオロしながら思いついたようにそう言うハグリッドに、私たちは口を合わせて返した。

 

「あ、いや、俺は別っていうか……でも知り合いがドラゴンを飼おうとするってのはこんな感覚なのか……」

「僕たちの気持ちが分かってくれた?分かってくれたならハグリッド、早いうちにそのドラゴンを放してほし……」

 

 そこまで言ったところで、ハリーは口を止めて目を大きく見開いた。その視線を追ったハグリッドもハリーと同じように固まった。

 

「子どもだ。カーテンの隙間からここを覗いてた。学校の方へ駆けて行く」

「マルフォイだ……どうしよう、ドラゴンのことを告げ口されちゃう」

 

 ハリーの呟きに、私たちは押し黙って学校の方を見た。ドラコに見られてしまったことを、私たちはどうしようもなく不安に思っていた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この土曜の午後にパーティーを!

「その後のハグリッドの調子はどうですか?」

「うーん、説得に応じる様子はないわね」

 

 数日後、今日も小屋に行ってきたらしい三人に状況を聞くとハーマイオニーからそんな答えが返ってきた。うーん、あんまり芳しくないようですね。

 

「あ、でもこの前めぐみんが譲ってって言ったおかげでハグリッドも僕たちが今どんな気持ちか少し分かったみたい。だからか僕たちへの反応もそんなに頑なじゃないんだ」

「もしかしたらもう少ししたら僕たちの言うことを聞いてくれるかもしれない。めぐみんの機転のおかげだよ」

 

 ハーマイオニーに続いてハリー、ロンはそんなことを言ってきた。機転とは何のことを言ってるのか分からないが、役に立てたのなら何よりだ。

 

「……ねえめぐみん、一応確認しておくけどあの『譲ってほしい』っていうのはハグリッドを諭すための嘘よね?本当はドラゴンが欲しいだなんて思ってないわよね?」

 

 そう思いながら宿題をしていると、ハーマイオニーが少し不安そうな顔でそんなことを聞いてきて……。

 

「何を言ってるんですか。もしそうなら私はもっと直球で言います。私は本気でドラゴンが欲しくてそう言ったのです。あの時はダメでしたが、粘り強く交渉を続ければハグリッドもうんと言うかもしれません」

 

 私がハーマイオニーにそう返すと三人はギョッとして私から距離を取り、ヒソヒソと三人で何か話し始めた。

 

「ねえ、今のも冗談だと思う?私は本気だと思うんだけど」

「聞くまでもないよ。やっぱりめぐみんは頭がおかしかったんだ」

「めぐみんに対してはマルフォイ並みの警戒をした方がいいと思うんだけど、みんなはどう?」

「それがいいわ」

「とりあえずドラゴンの件が丸く収まるまではめぐみんに近づかないほうがいいかも」

「それじゃあ解散ね」

 

 内緒話が終わると、三人はすぐさま持っていた本などを持って談話室から走り去っていった。

 

「えぇ……何なんですか」

 

 一人残された私は脱力気味にそう呟いた。

 

 

 

 それから一週間。ハリーたちは執拗に私のことを避けた。談話室に私が入ってくればすぐに部屋に引っ込み、食事の時間が被らないようになるべく早くに大広間へ行き、私が授業をしっかり聞くのを知ってハーマイオニーですら教室の一番後ろに座った。正直最初は戸惑ったが、流石にここまで露骨にされれば誰にだって原因は分かる。おそらくドラゴンに関する話を私の耳に入れないためだろう。

 

 そうと分かった私は、ハブにされたのに腹が立ったのと単純にドラゴンの情報が欲しかったので即席の盗聴呪文を作り出した。その結果分かったのが、以下のことだ。

 

・ドラゴンはハグリッドがノーバードと名付けた。

・もうすでに大きくなっていて、そろそろ何処かにやらないと本格的にまずい。

・そこでハリーが思いついて動物に強いロンの兄のチャーリーを頼ることにした。

・ビルによる迎えが来るのは今週の土曜日の夜。つまり今日。

 

 うーん、どうしますかね。もう今日が土曜日ですし、流石に事ここに至ってドラゴンを譲って欲しいという気はありません。ノーバードとかいう名前ではなくじゃりっぱという素晴らしい名前を用意していただけに残念ですが、仕方ないでしょう。

 そしてハリーたちに関してですが、正直にそう言って仲間に入れてもらうのが流れでしょうか。いえ、でもそれだとなんか負けた気がしますしね。それに……。

 

「めぐみんめぐみん、今日のパーティー楽しみね!」

「分かりましたからもう少し声のトーンを下げてください。恥ずかしいです」

 

 この子が今日のパーティーを楽しみにしてますし、他の予定を入れて上の空になるのも何だかかわいそうですからね。今回のドラゴンをゲットするのは諦めましょうか。

 

 ……いえ、別に私もゆんゆんみたくパーティーが楽しみで他のことを考えるのが面倒だとかそういうわけではないのです。ゆんゆんと勉強会以外で遊びに行くのは久しぶりだし、別の予定を入れないで全力で楽しみたいなー、だなんて思ってるわけではないのです。

 

「どうしたのめぐみん?さっきから変な顔して」

「何でもないです。それよりゆんゆん、お茶会では友達を作る機会もそれなりにあると思うので、なるべく人見知りしないように意識しておいた方がいいですよ」

「うん。とりあえず、このパーティーで同室の子たちとちゃんと話せるくらいにはなっておくわ」

 

 ……今まで話せてなかったんですか。

 

「まあ頑張ってください。紅魔の里でも言われましたが、いい加減ゆんゆんの拗らせすぎたぼっち感性を治さなければいけませんからね。今のままでは本当にナーグルみたいなのに話しかけてしまう痛いだけの寂しんぼ娘になってしまいそうですし」

「痛いだけの寂しんぼ娘って何!?私だってナーグルやラックスパートが架空の存在だって分かってるわよ。でもほら、もしかしたらいるかもしれないじゃない?そしたら友達になってくれるかもしれないじゃない?」

 

 どうやら架空の存在だとちゃんと分かってないらしい。どこか期待するようにそんなことを言うゆんゆんに私はそれを悟った。

 

「ありませんよ、そんなこと。というかそこら辺があなたがふにふらたちに『イブが生まれてこなかった場合のアダム』だとか『人生がピン芸人』『ぼっち度全一』だなんて言われる所以なので、本当に治したほうがいいですよ」

「私、そんなこと言われてたの!?アダムって男の方じゃない!」

 

 ゆんゆん、突っ込むところはそこではないと思いますよ。

 

「はぁ、まあいいわ。そう言えばめぐみん、このお茶会って何時からなの?今はもう一時過ぎだけど」

「確か二時からですね。では各々用意してぼちぼち向かいますか。大広間の扉の前で待ち合わせとしますか」

「待ち合わせ!?うん、そうするわ!待ち合わせ……ふふ、いい響きね」

 

 後ろにゆんゆんのそんな声を聞きながら、私はホグワーツに来て何回目だかのゆんゆんの脱ぼっちを心に誓うのだった。

 

 

「私たちのアフタヌーンパーティーへようこそ!よく来てくれたね、めぐみん」

「こちらこそ招待ありがとうございます、アンナ」

 

 厨房近くの大きな部屋の前に来ると、私をパーティーに誘ってくれたハンナ・アボットがそう言って近づいてきた。

 

「えっと、そっちの子が前に言ってたゆんゆん?なぜかめぐみんの背中に隠れてこっちをチラチラ見てるけど」

「ええ、この子が私の友人のゆんゆんです。あとそれは極度の人見知りが発動してるだけなので気にしないでください」

 

 全くこの子は。このパーティーで友達を増やすんじゃなかったんですか。

 そう思ってると、後ろでゆんゆんが何だか嬉しそうに呟いた。

 

「めぐみんが私のことを友達って言った……!」

 

 その言葉に、ハンナは私のことを無言でじっと見つめてきた。私は目を逸らした。

 

「それだけで喜ぶなんて、その子は普段めぐみんにどんな扱いを受けてるの?」

「ちょ、人聞きの悪いことを言わないでくださいよ!ゆんゆんはぼっちを拗らせすぎて究極にチョロくなってるだけです。今日はそのぼっちのリハビリも兼ねて連れてきたんですよ」

「ぼっちにリハビリなんてあるのね……まあいいわ、とりあえず二人とも中に入ってよ」

 

 ハンナにそう言われて、私たちは扉を開けて中へと進んで行った。

 中は結構広くて、すでに多くの生徒が来ていた。やはりハッフルパフ生が多いが、レイブンクロー生にグリフィンドール生もそれなりにいた。少ないがスリザリン生もいる。

 

「あら、めぐみんじゃない。あなたも来てたのね」

「こっち来なよ。ケーキとかもあるよ」

 

 会場を見て回っていると、あるテーブルから声がかかった。そちらを見ると、ラベンダーとパーバティが手招きして座っていた。

 

「二人とも、もう来てたんですね。ゆんゆん、向こうのテーブルに行きましょう。友達を紹介します」

「う、うん。そうね」

 

 私はゆんゆんに声をかけて二人のいるテーブルに向かった。

 

「二人とも、紹介します。私の友人のゆんゆんです。拗らせぼっちなので言動が少しおかしいかもしれませんが、仲良くしてあげてください」

「めぐみんに言動がおかしいって言われたくないんだけど。えっと、紅魔ゆんゆんです。めぐみんとは幼馴染です。それで、あの、えっと……よろしくお願いします」

 

 私に続いてゆんゆんが自己紹介をしようとして失敗していた。別に無理に色々なことを言う必要はないというのに、これが人馴れしていないぼっちという生き物ですか。

 

「私はパーバティ・パチルよ。よろしく。それと敬語はいらないわ」

「私はラベンダー・ブラウン。ゆんゆん、よろしくね。私にも敬語はいらないよ」

 

 そんなゆんゆんに二人は簡単に自己紹介をしていた。何というか、コミュ力の差を見たような気がした。

 

「パチル……?もしかして、パドマと姉妹だったりする?あの、レイブンクローの一年生の」

「ええ、双子の妹よ。友達?」

「うん、同室なの。いつもよくしてもらってるわ」

「そう。妹と仲良くしてもらってありがとうね」

 

 そんなことを考えていると、パーバティとゆんゆんはそんなことを話していた。そういえばパーバティの妹とゆんゆんは同室でしたね。

 

「ところでゆんゆん、あなた今好きな人とかっている?」

 

 パーバティとゆんゆんが話していると、ラベンダーが唐突にそんなことをゆんゆんに聞いた。

 

「え!?い、いや、いないけど」

「ラベンダー、何であなたはそうやって会ってすぐの人にそんなこと聞くのよ」

「女の子が仲良くなる手っ取り早い話題は恋バナだもの。そうだゆんゆん、この子はあのハリー・ポッターが好きなのよ。ミーハーよね」

「そうなの?ハリーってあのメガネの黒髪の子よね」

「前から違うって言ってるじゃない、ラベンダー。ゆんゆん、この子の言うことを信じちゃダメよ」

「そうは言ったって、前にクィディッチの時に自分のことを恋する乙女だって言ってたじゃない」

「そうなの?私は初恋もまだなのに、パーバティは大人なのね」

「恋する乙女という表現はどちらかというと少女的ですよ、ゆんゆん。どちらにせよパーバティがハリーのことを好きなのには変わりありませんが」

「めぐみんにゆんゆんまで……」

 

 私たちがパーバティの反応を見て年相応の少女らしく楽しんでいると、パーバティが言った。

 

「いつも私ばっかりじゃない。たまには私じゃなくてラベンダー……は喜んで喋りそうね。そう、めぐみんの恋バナなんて新鮮で面白いんじゃないかしら」

 

 パーバティはそう言って、私に話の流れを差し向けた。

 

「いいわね、それ。ほらめぐみん、吐いちゃいなさいよ。年頃の女の子なんだから浮いた話の一つや二つあるでしょ?」

「私もめぐみんのそういう話は気になるわね」

「というわけでめぐみん、観念しなさい」

 

 そんなパーバティの言葉に乗る二人と、二人を見て勝ち誇った顔でこちらを見てくるパーバティ。いや、そんな顔で見られてもそんな話なんてないのですが。

 

「残念ながら私はそのような話のネタは持ってなくてですね」

「じゃあ好みは?男の人の好みくらいあるでしょ?」

「さあ、洗いざらいぶちまけなさい。精一杯恥ずかしがらせてやるわ」

 

 私の言葉にそう被せてくる二人と目を輝かせてワクワクしているゆんゆん。というかパーバティは復讐する気満々ですか。

 

「好みと言っても普通ですよ。甲斐性のあるお金持ちで浮気もせず、常に上を目指して日々努力を怠らない誠実で真面目な人です」

「「「うわぁ……」」」

 

 私がそう言うと、三人は口を揃えてそんな声を漏らした。

 

「夢がないわね。なんというか、11歳なのに甲斐性を考えてるところとか小生意気な雰囲気があるわ」

「そんな人いないわよ。もっと現実見よ?」

「めぐみんが苦労してるのは知ってるけど、友達同士の恋バナの好みに経済事情を入れるのはどうかと思う」

 

 うるさいですね。こちとら現代社会で一日二食で両方ザリガニ定食というメニューを経験したことがあるのです。四の五の言ってる余裕なんてないのですよ。というかラベンダーにこの分野の話で現実を見ろと言われたのは割とショックなのですが。一番現実見てなさそうなのに。

 

「めぐみんったら欲張りね。でも安心して、我がハッフルパフ寮にちょうどそんな人がいるわよ」

 

 三人が私の好みに辟易しているなか、後ろから声をかけてくる人がいた。振り向くと、そこにはハンナが立っていた。

 

「え、そんな人がいるのですか?」

「自分で言っておいてそれはどうなのよ。まあいいわ、連れてきてあげる」

 

 そう言ってハンナは他のテーブルへと駆けて行った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この好青年なハッフルパフに噂話を!

 しばらくすると、ハンナは会場の扉をあけて一人の男子生徒を連れてきた。どうやらわざわざ寮まで行っていたようだ。

 

「紹介するわね。我らがハッフルパフの誇る未来の首席、セドリック・ディゴリーよ!」

「未来の首席はやめてくれ、四年も先のことなんて誰も分からないだろう。それはそれとして……セドリック・ディゴリー。ハッフルパフの三年生だ。君たちは?」

「パーバティ・パチル。グリフィンドールの一年生よ」

「ラベンダー・ブラウン。同じく一年生」

 

 セドリックの問いかけに、パーバティとラベンダーがそう答えた。私はすぐには答えずにセドリックを観察していた。落ち着いた茶色の髪の毛に、温厚そうな灰色の瞳。背は高く、顔は男前でイケメン。なるほど、周りの女の子たちがチラチラとこちらを見てくるのも納得ですね。

 

「君は?」

 

 そんなことを考えていると、セドリックが自己紹介を催促してきた。思えば自己紹介するのも久しぶりだ。ここは景気よく飛ばして行きましょうか。

 そう思い、私は椅子からスッと立ち上がった。

 

「我が名はめぐみん!紅魔家一の魔法使いにして、いずれ最も偉大な魔術師として歴史に名を残す者!というわけでめぐみんです、よろしくお願いします」

 

 私が名乗りを上げると、周囲がシーンと静まり返った。

 

「えっと、笑うところだったかな?」

「いえ、これは我が紅魔家に伝わる由緒正しき名乗りであり決してボケではないので笑わないでください。むしろ笑えばキレます」

「そ、そう」

 

 私の物言いに少し顔を引きつらせるセドリック。ふっ、未来の首席の肝も所詮はそんなもんですか。これは私の勝ちですね。

 

「うわぁ……みんながめぐみんを頭おかしいって言うのが分かった気がしたわ」

「初めて見たけど、初対面であんなのされたらそう言いたくなるのも無理はないわよね」

「ハハ、やっぱりみんなびっくりするよね」

「めぐみん、外の人にそれをやるのはやめた方がいいって言ってるじゃない」

 

 私がそんなことを思ってるなか、他の四人は好き放題言っていた。フレッドたちは分かってくれたのに。

 

「それで、僕はどうして呼ばれたんだ?いきなり連れてこられて少し戸惑ってるんだけど」

 

 そんな私たちにセドリックはそう聞いてきた。ハンナは何も言わずに連れてきたんですか。何というか、セドリックもよく付いてきましたね。

 

「さっきまで私たち、好みのタイプの話をしてたの。そしたらめぐみんのタイプがぴったりセドリックで、めぐみんにあなたを会わせてあげようと思って!」

「そう。ちなみにどんなタイプ?」

「えっと、確か……甲斐性のあるお金持ちで浮気もせず、常に上を目指して日々努力を怠らない誠実で真面目な人、だったかしら」

「それ、別にぴったり僕というわけではなくないかい?」

「そんな完璧超人はセドリックしかいないから実質名指しよ」

 

 セドリックの質問にハンナはトンデモ理論で答えていた。あまり適当なことを言わないで欲しいのだが。

 

「ねえみんな、ここは二人だけにしない?」

「そうね、その方がめぐみんも色々と話せるだろうし」

「うんうん、めぐみんもちょっとは女の子らしいことをしなきゃね」

「え、そ、そうね。めぐみん、頑張ってね!」

 

 なんとなく四人の方を見ていると、パーバティがニヤニヤしながらそんなことを言って他の人たちも同じようにニヤニヤしながら同調して席を立った。ゆんゆんだけは戸惑いながらそんなことを言ってきた。ゆんゆんは人の心配なんてしてないで自分の友達作りの心配をしてほしい。

 

「私の友人たちがすみません。普段私がこのような話をすることはなくて、格好の機会だと空回ってるようです。悪気はない……少なくともあなたに対してはないと思うのでそれは分かっててください」

「あ、うん。それは分かってる」

 

 私がそう言うと、セドリックはそんな気の抜けたような声を出した。

 

「どうしたんですか?どこか変なところでも?」

「いや、こんな場合は大抵女の子の方が押し黙ってしまうことが多いんだけど、君が冷静だから少し面食らってね」

 

 セドリックはそう言いながら周囲のテーブルを見回した。チラチラとセドリックの方を見ていた人たちが目を合わせて慌ててそっぽを向くのが見えた。

 

「ああ、なるほど。私がいつもの女の子達のような態度でないから面食らったわけですか。それなら安心してください、私は別にその子たちみたいにあなたを狙ってるわけではないので。あくまでタイプが合致しただけですし」

「それは助かるよ。悪い気はしないが、やはりああも多いとちょっと疲れてしまって」

 

 セドリックは今の言葉を真顔で言った。今の言葉を信じるならこの人は大層モテるようだ。しかし女子生徒との甘酸っぱい会話に疲れですか。セドリックからすれば正直な感想なのかもしれませんが、少しイラッとしますね。まあ自慢気に言うよりはずっといいですが。

 

「それで、僕はどうすればいいんだい?君が僕の、あー、僕と個人的に話がしたいわけでもない以上、ここに留まる意味もないわけだけど」

「いえ、あの子たちのためにもここにいてくれませんか?一応私のためにしてくれたことを無下にするのも何ですし。それにあなたにと言うわけではありませんが、三年生に聞いてみたい話もいくつかありますから」

 

 私がそう言うと、セドリックは上げかけていた腰を下ろした。

 

「時間はあるし別にいいよ。しかし聞きたいことっていうのは何だい?」

「三年生以降の選択授業も含めた先生方のことです。今年から新しくホグワーツに来た先生はクィレル先生以外にいますか?それと誰でもいいので先生方について何か噂とかありませんか?どんな小さいことでも構いません」

 

 私がそう聞くと、セドリックは口元に手を当てて考え込むような姿勢になった。

 

「少なくとも」

 

 少ししてセドリックは言った。

 

「今年ホグワーツに赴任してきた先生はクィレル先生のみだよ。他の先生たちは僕が一年生の時からいる」

「そうですか……噂の方は?」

「うーん、そうだな。いくつかあるけど全部聞くかい?」

「はい。お願いします」

 

 私がそう言うと、セドリックは思い出すように軽く左上に視線を向けながら話し始めた。

 

「まずは……そうだな。クィレル先生の話かな。僕の同級生が見たらしいんだけど、空き教室にクィレル先生が一人だけでいるはずなのに他のしゃがれた声が聞こえてきたらしい」

 

 ほうほう。いきなりクィレル先生の話を引き当てましたか。しかし、一人でいるはずなのに他の人の声とは一体なんでしょう。

 

「あとこれもクィレル先生絡みなんだけど、前にフレッドとジョージ──グリフィンドールの三年生、いたずらっ子で有名なんだけど──がターバンを取ろうとしたら五歩くらい素早く後ずさりされたんだって。多分あの下に何か隠してるんだって二人が言ってたよ」

「二個連続でクィレル先生ですか。一年目な分話題には事欠かないってことですかね」

 

 あるいは、実際に何かあるか。

 

「そうだね。最初の年はやっぱり話題になるものさ。それとあとは……フリットフィック先生がハゲを治すためにフィルチ先生に被験者の協力を要請してキレられたとか、占い学のトレローニー先生が毎年生徒が一人死ぬことを占うのはあの先生がショタコンで生徒の気を引くためだとか、スネイプ先生が夜な夜な不気味に笑いながら作ってる薬は愛の妙薬で相手はドラコ・マルフォイだとかくらいかな」

「最後のはもはやタチの悪い作り話ではないですか?」

 

 何というか、噂の元の出来事も酷ければ付け足される情報も酷い。というか学校の先生がショタコンとかけっこうヤバくないか。そして最後のあんまりな噂に、私はスネイプ先生に少しだけ同情した。

 

「でもどうしてそんなことを?三年生以上に聞きたいことって言ってたからホグズミードとかのことを聞かれると思ったんだけど」

「ホグズミード?」

 

 そんなことを考えていると、セドリックの口から知らない単語が出てきた。

 

「知らない?イギリスで唯一魔法使いだけがいる村で、三年生以上の生徒は学校の決めた日にそこに行けるんだよ。『三本の箒』っていうバタービールが売りのパブとか『ハニーデューク』っていうお菓子の店、それに『ゾンコの悪戯道具専門店』みたいな面白い場所が色々あってね」

「ほう。詳しく」

 

 私はホグズミードのこと、そして三年生以降の選択授業に関して色々とセドリックから話を聞いた。個人的には古代ルーン文字学という科目に心を惹かれた。もう科目名からかっこよさが滲み出ている。炎とかでかっこいい登場の演出とかできそうですね。

 

「今日は色々と教えてくださってありがとうございました。何かあれば言ってください。できる範囲でお礼します」

「いや、いいよ。寮は違えど僕は君の先輩だからね。頼られてナンボのもんさ」

「おお……かっこいいですね」

 

 この人がモテる理由が分かった気がした。決して顔とか成績とかそういうのではなく、言動から人の良さが滲み出ているんだろう。それも嫌味のない類のものが。

 

「僕はそろそろ戻るよ。じゃあ、また今度」

 

 そう言うとセドリックは席を立ち会場を出て行った。

 

「どうだった?ときめいた?キュンと来た?恋に落ちた?告白したくなった?だったらこのラベンダー・ブラウンが相談に乗ってあげる!」

「早いという次元ではないのでやめてください。普通に鬱陶しいです」

 

 セドリックが行くとすぐに四人組が戻ってきた。

 

「でもめぐみん、普通に話せてたわね。憧れの人と話せてよかったじゃない」

「パーバティ、私はタイプを言っただけであって憧れの人を名指しなんてしてません。あなただって分かってるでしょう」

「分かってるわよ。ぶっちゃけ思ったよりちゃんと話してて鬱憤晴らしにならなかったから都合よく記憶を書き換えてるところよ」

「書き換えないでください」

 

 意外と根に持つタイプなのですね、パーバティ。

 

「そんなんじゃハリーに興味を持ってもらえませんよ」

「そ、そんなことないわよ。というか別に興味を持ってもらう必要なんか……」

 

 また面倒くさい状態に入ったパーバティをみんなでからかいながら、私たちはパーティを楽しんだ。ドラゴンのことはすっかり頭から抜け落ちていた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この勇気の寮に減点を!

 翌日、いつもより早く目が覚めた私は朝の散歩でもと廊下を歩いていた。五月の朝の涼しい空気が眠気の残る私の頭を覚醒させていく。たまにはこういうのもいいですね。今度ハーマイオニーたちを誘ってみましょうか。

 そういえば、ハーマイオニーといえば昨日のドラゴンの件はどうなったのでしょうか。無事に引き継げたといいのですが。

 

「……うん?」

 

 そんなことを考えながら歩いていた私は、ふと寮の得点表の前で足を止めた。

 

「グリフィンドールの点が大きく減ってますね。故障でしょうか」

 

 そう、グリフィンドールのみ昨日から点数が150点も引かれているのだ。スリザリンの悪質ないたずらだろうか。本当にあの人たちは……。

 

「おや、ミス紅魔。今日は随分と早いですね。実にけっこう。しかし得点板の前で突っ立って、一体どうしたのですか?」

 

 スリザリンへのヘイトをまた一段と高めていると、マクゴナガル先生が声をかけて来た。よかった、誰か先生を呼ぶ前に向こうから来てくれた。

 

「あ、丁度いいところに。おはようございますマクゴナガル先生。あの、得点表が故障してるようなので直していただきたいのですが」

 

 私がそう言うと、マクゴナガル先生はため息をついてこちらを見て来た。どうしたんだろうか。

 

「ミス紅魔、この得点で合っています。表示は正常です」

「…………え?」

 

 先生が得点表を直すのを待っていると、先生はそう言ってきた。

 

「驚くのも無理はありません。一晩に150点なんて前代未聞です」

「何があったんですか?」

 

 私が聞くと、マクゴナガル先生は何度もため息をつきながらハリーにハーマイオニー、そしてネビルの三人が昨日の夜に天文塔にいたことを話した。見つかってしまったにも関わらず先生が透明マントに言及しないあたり、脱げてしまったわけではないようだ。おそらく興奮のあまりマントを忘れてきたとかそのあたりだろう。先生は三人がドラコをおびき出して減点を狙っていたと言っていたが、どちらかと言うと狙ってたのはドラコだ。

 

「ひどい話です。ドラゴンなんて与太話を使って他寮の生徒を罠に嵌めるだなんて」

 

 そんなことを呟きながらマクゴナガル先生は去っていった。

 

 その日、ホグワーツに激震が走った。寮杯争いの首位を走っていたグリフィンドールが一気に最下位に落ちたのだ。みんなが噂話をしていた。ハリー・ポッターが、あの有名なハリー・ポッターが、クィディッチのヒーローハリー・ポッターが寮の点をこんなに減らしたらしい。何人かのバカな一年生と一緒に。

 

 学校で最も人気があり賞賛の的だったハリーは一夜にして一番の嫌われ者となった。レイブンクローやハッフルパフの生徒すらも敵となっていた。どうやらスリザリンが寮杯を失うのを楽しみにしていたらしい。どこに行ってもハリーは悪口を言われた。スリザリンだけはハリーに拍手をし、口笛を吹いて囃し立てていた。

 

「まあまあ二人とも、そんなに落ち込まないでくださいよ。今まであなたたちの獲得してきた点数を考えれば差し引きしてもまだプラスじゃないですか」

「そうそう。それに数週間もすればみんな忘れるよ。フレッドとジョージなんか、入寮してから毎日のように点を引かれっぱなしさ。それでもみんなに好かれてる」

「差し引きなんて誰も考えてないわ」

「フレッドたちだって一回で150点も引かれたりはしなかっただろう?」

 

 私とロンはひどく落ち込む二人を励ましたが、二人は意に介そうともしなかった。ネビルとも話そうとしているのだが、私を見るたびにネビルは逃げていった。私が怒ると思っているのなら甚だ遺憾なところだが、ネビルも色々あって混乱してるのだろう。落ち着いてから改めて話をしようと思う。

 

 そんな試験まで一週間のある日、罰則から帰ってきたハリーが大事な話があると言って私たちを談話室に集めた。談話室で大丈夫かと思ったが、誰もハリーの近くに寄ろうとすらしなかった。あれから少し経っていたが、まだ歴史的な大減点の影響は大きいらしい。

 

 ……みんなは寮杯に命でもかけてるんだろうか。

 

「必要なことだけ話す。僕は森でヴォルデモートと会った」

 

 そんなぼんやりとした考えごとはハリーのセリフで吹き飛んだ。

 

「ハリー!それはどういう」

「めぐみん、静かに。僕はずっとスネイプがお金のために石を手に入れようとしてると思ってたんだけど、違った。スネイプはヴォルデモートのために石が欲しかったんだ……」

「頼むからその名前を言わないでくれ!」

 

 ロンの嘆願はハリーの耳に入らなかったようで、ハリーは話を続けた。

 

「フィレンツェは僕を助けてくれた。だけどそれはいけないことで、ベインがものすごく怒ってた。惑星が予言した出来事に干渉するなって。惑星はヴォルデモートの復活と僕が殺されることを予言してたのに、それを邪魔するのはダメだってベインは思ったんだ」

「いや本当に、頼むから『例のあの人』の名前をいうのだけはやめてくれ」

 

 ロンの再びの嘆願はやはり今度もハリーの耳に入らなかった。

 

「それじゃ僕は、スネイプが石を盗むのをただ待ってればいいんだ。そしてヴォルデモートが僕の息の根を止めて、ベインは満足するんだろう」

「ハリー、ダンブルドアは『あの人』が恐れる唯一の人だってみんな言ってるじゃない。ダンブルドアが側にいる限り、ここは安全よ。それに占いなんて当たらないものよ」

 

 熱に浮かされたようなハリーに、ハーマイオニーはそう声をかけた。どうしよう、うちの里に百発百中の占い師がいるだなんて言えない。

 

「大丈夫ですよ、ハリー。ヴォルデモートなんてただの死に損ないじゃないですか。そんなに怯える必要はないですよ」

 

 私たちはそれ以降もいくつかの声をかけたが、ハリーはまだ不安そうな顔のままだった。

 

 

 

「へー、あの減点の真相はそういうことだったのね」

 

 それから数日後、いよいよ学年末テストまで三日と迫り私はゆんゆんと図書館で試験勉強をしていた。

 

「まさかドラゴンなんて違法なもの……めぐみん、あなたの規則は破るものっていう意識がみんなに移っちゃったんじゃないの?そうなら謝っときなさいよ」

「勝手なことを言わないでください。怒りますよ。というかみんなも薄情ですよね。今まで散々チヤホヤしておいて減点されたら急に手のひらクルーだなんて」

「そういうものなんじゃない?まあ私はうちの寮までブーブー言うのはおかしいと思うけどね。スリザリンに寮杯を取られたくないなら自分たちで取ればいいだけなのに」

 

 それに関しては私も同感だ。望みを他の寮にかけておいてダメになったら怒るとか情けないにも程がある。

 

「それにしても意外ね」

 

 そんなことを考えていると、ゆんゆんが口を開いた。

 

「何がですか?」

「めぐみんってすごい負けず嫌いじゃない。だから150点も減点されて真っ先にその三人を責め立てるかと思ってたから」

 

 感心したわ、と言うゆんゆん。そんなことで感心されましても。

 

「確かに最初はドラゴンの件で仲間外れにされたことに関して数日ほど拗ねてましたが、点数の件では責めてませんよ。というかあそこまで他の人に責められてなお何か言えるほど私は鬼畜ではありません」

 

 あんなに周りにビクビクしてるハリーたちは初めて見ましたよ、本当に。

 私がそう言うと、ゆんゆんは「よかった、めぐみんにも人の心があったのね」と言って勉強に戻った。その言葉の意味をゆんゆんの無駄に育った忌々しい乳を引きちぎろうとしながら問い詰めていると、ゆんゆんが思い出したように言った。

 

「そうだ!ちょっとめぐみん、実はあなたに話があるの。だからその手を離して!痛い、痛いから!……全く、なんでめぐみんったらそんなに短気なの」

「紅魔族とはそういうものです。それより話って何ですか?」

 

 私が聞くと、ゆんゆんは懐からメモ帳を取り出した。

 

「ほら、あなたクィレル先生のことを疑ってたじゃない?だから私なりに調べてみたのよ。そしたらいくつか興味深い噂が出てきたの。私の胸を抓ったのを謝ってくれたら教えてあげてもいいわよ」

 

 そしてドヤ顔でそんなことを言ってきて……。

 

「あ、その話なら大丈夫です。ゆんゆんが知れそうな話は全部セドリックから聞いたので。話はそれだけですか?それじゃ」

「待って!もしかしたら少し違うかも知れないじゃない!お願いだから行かないで!見捨てないでよおぉぉぉ!」

「ちょっと、図書館で人聞きの悪いことを言わないでくださいよ!というかどいてください。別にどこも行きませんから。今のはあなたにイラっときたからやっただけのポーズです」

 

 私がそう言うと、立ち上がっていた私の腰にしがみついていたゆんゆんは素直に席に戻った。

 

「それで、あなたが集めてくれた話を聞かせてくれますか?あなたが言った通り私が聞いたのとは別の話もあるかも知れませんしね」

「分かったわ。ええっと……私が聞いたのはクィレル先生が一人でいるはずなのに他の人の声が聞こえたってことと、誰にもターバンを触らせないってことなんだけど。知ってる?」

「ええ。逆に私が知ってるのはそれだけですが」

 

 どうやらゆんゆんが私の知らない噂話をゲットしたことはなさそうだ。残念ですが、その二つを知れただけ褒めるべきですかね。なんせ私が聞いたのは如何にも人気で話が集まってきそうなセドリック。対してゆんゆんは交友関係が狭いですからね。どうやら図書館での過ごし方のお陰で知名度と人気は意外とありそうですが、話を集めることに役に立ちそうな人気の出方じゃありませんし。ゆんゆんにしては頑張ったと思います。

 

「あ、でもそれだけじゃなくてね。パドマ──ほら、パーバティの妹の──にクィレル先生のターバンについて聞いてみたのよ。そしたらいくつか分かったことがあって」

「ほう。詳しく」

 

 ゆんゆんの健闘を内心で褒めていると、ゆんゆんはそう言ってきた。なるほど、そう言えばインドにもターバンの文化はある。私もパーバティに聞いてみればよかったかも知れない。

 

「あのね、クィレル先生のターバンって相当高級品みたいなの。装着者の魔力が漏れ出ないような魔法がかかってて、しかも認識阻害の魔法もかけられてるみたい。本来王家とかが着けるようなものなんだってパドマは言ってたわ」

「なるほど……ゆんゆん、よくその話を聞き出してくれました。ありがとうございます。素晴らしい情報です」

 

 魔力が漏れ出ないようにしてある上に認識阻害の魔法……これは明らかにターバンの中に何かありますね。魔術的な通信装置、或いは怪物でも体内に宿しているか。いずれにせよ、推理はこの話で大きく前進した。

 

「めぐみんが手放しで褒めるなんて……そんなに重要な話だったの?」

「ええ、非常に大事な話でした。ゆんゆん、よくやりました。今度からあなたのことを心の中で万年ぼっちの寂しんぼ娘と呼ぶのをやめてあげましょう」

「それは今回の関係なしに普通にやめてよ!」

 

 ゆんゆんが何か言ってるが気にしない。何にせよ、賢者の石に関してはだいぶ大詰めに来ている。あとは何かあればすぐに対応できるように準備するだけだ。となると、ハグリッドのところへ行くことになりますか。もう黒幕撃退用の攻撃に関しては準備万端ですし、あと出来ることはハグリッドに聞けるだけ聞くだけでしょう。

 

 賢者の石について頭の隅っこでそんなことを考えながら、私は試験勉強をしていた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

このダンブルドアの留守に賢者の石を!

 お気に入りが千件を超えました!そして誤字報告が20件を超えました……。
 読者の皆さま、いつも読んでくださりありがとうございます。度々起こる誤字については本当にすみません。誤字報告を入れてくださる方々、毎度毎度本当にありがとうございます。助かってます。
 拙い文章ではありますが、今後ともよろしくお願いします。


 六月の今日、私は寮の部屋でパーバティたちと試験の答え合わせをしていた。

 

「うーん、どうやら魔法史で一部の事件の年号を間違えてしまったようですね。これは実技試験でいい点を取ってないとハーマイオニーに勝てなさそうです」

「あなたはいいわね、学年一位かどうかの心配ができて。というかあなたの実技試験は誰がどう見ても超高得点じゃない。どうやったら一年生でネズミを宝石がたくさん付いた豪華な嗅ぎタバコ入れに変えられるのよ。フリットウィック先生なんかもう大喜びだったじゃない」

「それに変身術の紙を金属にする魔法でなんで金なんか作れるのよ。そんなのもう錬金術の領域じゃない。あたしなんか鉄よ?しかも紙の形そのままじゃなくて鉄屑。もう嫌になっちゃうわ」

 

 私の呟きに、パーバティとラベンダーはそう言ってきた。どうやら試験のせいで少し気が立ってるようで、そのセリフは投げやりだった。

 

「二人だって別に悪いわけじゃないのでしょう?ならいいじゃないですか」

「私の呪文学の試験で作った嗅ぎタバコ入れはしっぽとヒゲが生えてたわ……何か言ってよ」

「いえ、その……すみません、ラベンダー」

「謝らないでよ!」

 

 そんなことを言っていると、ふと窓からハリーにロン、ハーマイオニーの三人が大急ぎでハグリッドの小屋に向かっているのが見えた。あの慌てようはテストではありませんね。おそらく賢者の石のことでしょう。

 

「用事を思い出しました。ちょっと出かけてきます」

「いってらっしゃい」

 

 私はそう言って、ハグリッドの小屋へと向かった。

 

 

 

「三人とも、そんな深刻そうな顔してどうしたんですか?」

 

 私が玄関ホールに着くと、すでに三人は小屋から城に帰ってきていた。

 

「ああ、めぐみんか。めぐみん、落ち着いて聞いてほしい。ハグリッドがドラゴンの卵を手に入れたときに、卵をくれた人間にフラッフィーの攻略法を教えちゃったみたいなんだ」

「なっ!……それは本当ですか?」

「残念ながら本当よ。それより早く、ダンブルドアのところに行かなくちゃ」

「ハグリッドが怪しいやつにフラッフィーの手懐け方を教えちゃった……その怪しいやつはヴォルデモートかスネイプだったんだ。ハグリッドを酔わせちゃえばあとは簡単だったに違いないよ」

 

 私の質問に、三人は口々にそう答えた。ハグリッド、なんて迂闊なことを……。

 

「それは大変です。今すぐ校長を探しましょう。それとハリー、一つ訂正があります。賢者の石の盗人はスネイプ先生ではなくクィレル先生です」

 

 私はそう言ってセドリックやゆんゆんから聞いた話を三人に話したが、三人は取り合わなかった。

 

「そんなわけないじゃない。絶対にスネイプよ。というかそんなの誰でもいいからダンブルドアを探すわよ。ああ、校長室への案内とかないかしら」

 

 ハーマイオニーのその一言で議論よりも校長を探すのが先決となった。とその時、マクゴナガル先生が近くを通った。

 

「そこの四人、こんなところで何をしているのですか?」

「マクゴナガル先生!ちょうどいいところに来ました、ダンブルドア校長先生にお会いできませんか?」

 

 マクゴナガル先生にそう言うと、先生は怪訝な顔でこちらを見てきた。明らかに私たちを怪しんでいる。

 

「校長にお会いしたい、ですか。理由は?」

 

 そして先生は私にそう聞いてきた。うーん、どう答えましょうか。

 

「……先生、秘密の一つや二つあってこその乙女だと私は思」

「紅魔、先生をからかうようなら5点減点ですよ」

「なんでもありません」

「よろしい」

 

 マクゴナガル先生はそう言ってため息をついた。むう、会おうとするくらい別にいいじゃないですか。狭量ですね。

 そんなことを考えていると、マクゴナガル先生は言った。

 

「四人とも、変なことを考えるのはやめなさい。それにダンブルドア先生は今魔法省に出向いてらっしゃるのでどうせ会えませんよ」

「先生がいらっしゃらない!?この大事な時に!?」

 

 マクゴナガル先生の言葉に、私たちは大いに慌てた。

 

「みなさん、先生は偉大な魔法使いであるからして大変ご多忙でいらっしゃるのです」

「でもとても、本当にとても重大なことなんです」

「紅魔、魔法省の件よりあなたの要件の方が重要だと言うんですか?」

 

 魔法省の件が新たな闇の帝王の誕生でない限りこちらの方が重要だろうが、どう言えばいいだろうか。

 そうしていると、ハリーが慎重さをかなぐり捨てて言った。

「実は先生、『賢者の石』の件なんです」

 

 この答えだけは流石のマクゴナガル先生にも予想外だったようで、先生は持っていた本をバラバラと落とした。

 

「なぜそれを……?」

「先生、僕の考えでは……いえ、僕は知っています。誰かが『石』を盗もうとしてます。どうしてもダンブルドア先生にお話ししなくてはいけないんです!」

 

 マクゴナガル先生は驚きと疑いの入り混じった目をハリーに向けていたが、しばらくしてやっと口を開いた。

 

「ダンブルドア先生は明日お帰りになります。どうやってあなたたちが『石』のことを知ったのか分かりませんが、安心なさい。『石』の守りは盤石ですから」

「でも先生」

「二度同じことを私は言いたくありません」

 

 先生はきっぱりと言った。

 

「四人とも外に行きなさい。せっかくのよい天気ですよ」

 

 先生は落とした本を拾い、そこを去った。私たちは一旦談話室へ行って作戦会議をすることにした。そしてスネイプ先生(と私の希望でクィレル先生)を見張る、四階の廊下にいるなどの計画を練ったが、いずれも失敗した。特に廊下の方はひどかった。マクゴナガル先生にすごい剣幕で怒られたのだ。久しぶりに先生のガチギレを見た。

 

「こうなったら、僕が今夜『石』を先に手に入れる」

 

 先生の説教を受けて談話室に帰ってきたあと、ハリーはそう言った。ロンとハーマイオニーは反対したが、ハリーの意思は固かった。

 

「めぐみん、君も何か言ってくれよ」

「いえ、私はハリーに賛成です。ハリー、よく言いました。ヴォルデモートが復活するのは何としても阻止しなければいけません。何、お化けの成りかけを本物のお化けにするだけです。簡単でしょう?」

 

 ロンとハーマイオニーは私の顔とハリーの顔を見つめ、ため息をついた。

 

「そうね、よく考えたら行く他ないものね」

「僕たちも行くからな。行くなら四人でだ」

「ええ、言うまでもありませんが私たちも行きますよ、ハリー」

 

 そんな私たちにハリーは確認するように言ってきた。

 

「もし捕まったら君達も退校になるよ。さっきマグゴナガル先生が言ってたろ」

「ふっ、この学校が稀代の天才たるこの私を退校にするわけないでしょう。なんでも宝石付きの嗅ぎタバコ入れを一年生の試験で作り出したのは先生の知る限り私が初めてだったそうです」

「私もね、フリットウィック先生の試験で百点満点中百二十点だったそうよ。先生が教えてくれたわ。これじゃ、私を退校にはしないわ」

 

 私たちの自信満々のそんな態度に、テストの出来がよくなかったらしいロンとハリーはものすごく微妙な顔になっていた。

 

 

 

 その日の夜、私たちは談話室から人がいなくなるまでずっと談話室の隅で待っていた。その間ハリーはなぜか戻ってきていたらしい透明マントを取りに行き、ハーマイオニーは本を読んで何か役に立ちそうなものを探していた。そして私は空間圧縮ポーチにあるものを入れ、時を待っていた。

 

「行く前に一回マントを着てみようよ。四人全員隠れられるかどうかさ。もし足がはみ出したまま歩き回ってるのをフィルチにでも見つかったら……」

「君たち、何してるの?」

 

 そしてみんなが談話室から出て行き、四階の廊下へ行く前にそんなことを話していると部屋の隅から声が聞こえた。そちらを見ていると、椅子の陰から手に逃亡生活を終えたペットのヒキガエルを持ったネビルが現れた。

 

「なんでもないよ、ネビル。なんでもない」

「君たちが集まってなんでもないわけがない。また外に出るんだろ」

 

 マントを体の後ろに隠してそう言うハリーに、ネビルは言った。ば、バレてる。

 

「外に出ちゃいけない。また見つかったら、グリフィンドールはもっと大変なことになる」

「ネビル、あなたに言うことはできませんがこれはとても大事なことなんです。ことは魔法界全体に関わります。そこを退いてくれませんか?」

「僕はバカだけど、めぐみんのいつもの大言壮語を信じるほどじゃない」

 

 私の言葉にネビルはそう返してきた。イラっと来たが、私は言い返すのをやめた。……別に何も言えなかったわけじゃないですからね。私が大人だから言い返さなかっただけですからね。

 

「行かせるもんか……僕、僕は、僕は君たちと戦う!」

「ネビル!そこを退け!バカなことはよすんだ!」

「もうこれ以上規則を破ってはいけない!君たちは恐れずに立ち向かえって僕に言ってくれたじゃないか!」

 

 キレた様子のロンにも一歩も怯まずに言い返すネビル。普段なら勇気を出してるネビルを褒めるところだが、タイミングが悪い。なぜ今覚醒したんですかネビル。

 ……仕方がない。私は杖を懐から取り出した。

 

「ネビル、すみません──スレプト!

 

 私がそう呟くと杖の先から出た閃光がネビルに当たり、ネビルはその場に崩れ落ちた。

 

「めぐみん、今のは何をしたの」

「ちょっと眠らせただけです。特に害はありません」

 

 私は強めに聞いてきたハリーにそう答えつつ、床に倒れているネビルにブランケットをかけた。もう夏ですし、これで風邪を引くこともないでしょう。

 

「それでは行きましょうか」

 

 そうして、私たちは『賢者の石』を巡る事件の最終幕へと繰り出していった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この賢者の石の試練に挑戦を!(1)

 

 

 夜のホグワーツは建物が古城であることもあり、とても雰囲気ある場所となっていた。時折ゴーストが飛ぶのも含め、まさに魔法学校といったところだった。

 

「先を越された」

 

 四階の廊下の扉に着くと、扉はすでに開かれていた。

 

「君たち、戻りたいなら今のうち」

「バカ言わないでください。それより早く行きますよ」

 

 まだ念を押してくるハリーの言葉を一蹴し、私は扉を押し開けた。扉は軋みながら開き、低いグルグルという唸り声が聞こえた。巨大な三頭犬の三つの鼻は、見えないはずの私たちの方向を正確に向いていた。

 

「さあ、始めよう。もう突き進むだけだ」

 

 ハリーはそういって懐から取り出した横笛を吹き始めた。メロディーといえるものではなかったが、最初に音を聞いた瞬間から三つの頭はトロンとし始めた。やがて犬の唸り声は消え、三頭犬は床にゴロリと転がった。私たちはマントを抜け出し、犬の向こう側にある仕掛け扉にたどり着いた。扉を開けると、真下に大きな穴が空いているだけだった。

 

「ねえ、何が見える?」

「何も見えませんね。真っ暗です。階段すらないので落ちていくしかありませんね」

 

 ハーマイオニーのこわごわとした質問に私はそう答えた。そんな私たちにハリーは笛を吹いたまま自分と穴を指差した。どうやら一番最初に行くと主張してるようだ。

 

「何言ってるんですか。先頭は私に決まってます。美味しいところは持って行かせませんよ」

 

 私がそう言うと、三人は私を何か奇妙なものでも見るような目で見てきた。

 

「さすがめぐみん、頭おかしい……」

「ロン、次にそのワードを口にすればそれがいつであれぶっ飛ばします。それでは、行ってきますね」

 

 私はそれだけ言って、仕掛け扉の淵に立った。そして勢いよく飛び降りた。冷たく湿った空気を切り、私はひたすらに落ちて行った。少しの飛行の後に、私はドシンという鈍い音を立てて何やら柔らかい物の上に着地した。あたりを手探りで触ると、床は植物のような肌触りだった。

 

「みんな、大丈夫です!軟着陸ですよ!飛び降りてきてください!」

 

 私は上にいる三人に向けて声を張り上げた。すると三人は少ししてそれぞれ落ちてきた。

 

ルーモス!よし、これで見えるようになりましたね……なっ!」

「何だこれ!」

 

 私が光をつけて周りを見回すと、私たちは互いを見て悲鳴を上げた。床の植物のツルが蛇のように私たちの足首に絡みついていたのだ。私たちはもがき振りほどこうとしたが、そうするたびにツルはさらに強く巻きついてきた。一番最後に落ちてきたハーマイオニーだけが植物から逃れることに成功していた。

 

「動かないで!私、知ってる……これ、『悪魔の罠』よ!」

「ああ。どんな名前かを知ってるなんて、大いに助かるよ」

 

 ハーマイオニーにロンが皮肉を飛ばす。だが私はそれにピンと来た。そして何とか杖を取り出し、呪文を唱えた。

 

インセンディオ!

 

 私の杖から真っ赤な炎が植物めがけて噴射した。草は光と熱ですくみ上がり、私たちの体から退散していった。

 

「ふぅ。ハーマイオニー、気づかせてくれてありがとうございました。すぐには『悪魔の罠』と気づけなくて」

「あなたこそ、すぐに弱点を思い出してくれてよかった。私、動転しててすぐには出てこなくて」

「今まで薬草学の勉強なんてどこで役に立つんだって思ってたけどちゃんと役に立つんだな。次からしっかり勉強するよ」

「そうするといいわ、ロン」

「さあ、次へ進もうか」

 

 私たちはそんなことを言い合いながら、次の部屋へと繋がる通路を進んだ。少し長めのその通路を抜けると、目の前にまばゆく輝く部屋が広がった。部屋中を手のひら大の小さな鳥が飛び回り、部屋の反対側に先へと続く扉が見えた。

 

「あの鳥たちはここを横切ろうとすると襲ってきたりするんでしょうか」

「多分。よし、走って突っ切ろうか」

 

 そう言って走り出したハリーに続いて、私たちはダッシュで扉まで向かった。意外にも鳥たちは私たちに襲いかかってくることはなかった。

 

「ここは特に何もありませんでしたね」

 

 そう言って扉の取っ手を引いてみたが、鍵が掛かっていた。

 

アロホモラ!

 

 やはり開かない。

 

「どうやら決められた鍵以外では開かないようになってるようですね」

「どうする?」

 

 私の様子を見て、ロンがみんなに言った。侵入者は先に行ってるのだから、何か手段があるはずなのだが……。

 

「鳥ね。鳥に何かヒントがあるはずだわ」

 

 ハーマイオニーの言葉に、私たちは上を向いた。頭上高くを舞い、キラキラと輝くその鳥を目に魔力を集めて見つめ、私は言った。

 

「あれは鳥ではありません!鍵です!鍵に羽がついてます!」

「羽のついた鍵か!ということはあれが……あった!箒だ!」

 

 私がそう言うとハリーは部屋を見回して隅っこにあった箒を見つけた。

 

「よし、僕がドアを開ける鍵を捕まえてくるよ」

「でも何百羽もいるよ」

 

 箒にまたがったハリーに、ロンはそう言って扉の錠を調べた。

 

「うーん……そうだね、大きくて昔風の鍵を探して。取っ手と同じ銀製だと思う」

 

 それを聞いて、ハリーは飛び立った。私たちも同じく箒にまたがり鍵を捕まえようと飛び立ったが、魔法のかかった鍵は私たちを嘲笑うかのように手の中をスルリと抜けていく。

 

「……インセ

「めぐみん、気持ちは分かるけど抑えて!余計に見つけるのが難しくなるだけよ!」

 

 そうこうしているうちに、ハリーは叫んだ。

 

「あれだ!あの大きいやつ……違う、そこだよ。明るいブルーの羽の……羽が片方、ひん曲がっているやつ」

 

 私たちはハリーの指差す方向に目標の鍵を見つけた。そこからハリーの作戦で私たちは上下左右から鍵を部屋の隅に追い込んだ。私たちの包囲網から逃げる鍵をハリーが一直線に追う。そして……

 

「やった!捕まえた!」

 

 私たちは鍵が逃げないうちに素早く地面に降り立ち、暴れる鍵を鍵穴に差し込んだ。鍵は合致し、錠はガチャリと音を立てて開いた。

 

「よし、行こう」

 

 ハリーは鍵を手放し、扉を開けた。私たちは次の部屋へと進んでいった。

 次の部屋は真っ暗で何も見えなかったが、一歩中に入ると突然光が部屋中に溢れ、驚くべき光景が目の前に広がった。

 大きなチェス盤が置かれ、三人は黒い駒の側に立っていた。そして部屋の向こう側に、こちらを向いて白い駒が立っていた。

 

「どうしたらいいんだろう」

「見れば分かるよ。チェスをすればいいんだ。多分、僕たちがチェスの駒になるんだろう」

 

 戸惑うハリーにロンが言った。そしてロンは黒のナイトに近づき、手を触れて聞いた。

 

「あの、僕たち、向こう側に行くにはチェスに参加しなくちゃいけませんか?」

 

 黒のナイトがうなずいた。ロンは私たちを振り返った。そして少し考えて言った。

 

「気を悪くしないでくれよ。でも三人ともチェスはあまり上手じゃないから……」

「気を悪くなんてしませんよ。それより早く、私たちがするべきことを言ってください」

 

 そしてロンの指示で、私はクイーン、ハリーはビショップ、ハーマイオニーはルーク、ロンはナイトとなりゲームがスタートした。駒はロンの言う通りに動いた。試合が続くうちに、双方ともに駒が取られていった。取られた駒は相手側に床に叩きつけられ、盤外に投げ出された。私たちは自分がそうなったらと身震いした。

 

「うん、詰めが近いな。いやでも、うーん……」

 

 試合開始からしばらくが経ち、ロンが呟いた。

 

「仕方ない。僕が取られるしか」

「「「ダメ!」」」

 

 ロンの呟きに私たちは同時に叫んだ。

 

「これがチェスなんだ!僕が前進するとクイーンが僕をとるから、そしたらハリー、君が動いてキングにチェックメイトをかけるんだ!」

 

 私たちの叫びにロンはきっぱりと言った。私たちはなおも食い下がったが、結局ロンの言う通りに動く以外に道はないようだった。

 

「じゃあ行くよ。いいかい、勝ったらここでグズグズしてないで先に行けよ」

 

 そしてロンは取られた。頭を石の腕で殴りつけられ、盤外に投げ出された。ロンは気絶しているようだった。

 そしてチェスは終わった。ハリーが進むと、白のキングが王冠をハリーの足元に投げ出したのだ。チェスの駒は左右に分かれ、道を開けてお辞儀した。私たちは一度だけロンの方を振り返り、順路を進んでいった。

 

「あとはスネイプとクィレルだけね」

 

 ハーマイオニーがポツリと呟いた。

 次の部屋の扉を開けると、中にはただテーブルがあってその上に形の違う7つの瓶が一列に並んでいた。扉の敷居をまたぐと、ちょうど通ってきた入り口でたちまち火が燃え上がった。その火はただの火ではなく紫の炎で、私はちょっとだけテンションが上がった。同時に前方のドアでも黒い炎が燃え上がった。私たちは部屋に閉じ込められた。そして私のテンションはさらに上がった。

 

「見て!」

 

 部屋の中の方へ進むと、ハーマイオニーがテーブルの上に巻紙を見つけて取り上げた。私とハリーはハーマイオニーの肩越しにその紙を読んだ。

 

 

前には危険 後ろは安全

君が見つけさえすれば 二つが君を救うだろう

前進させるは七つに一つ

後退させるも七つに一つ

二つの瓶はイラクサ酒 残る三つは殺人者

どれかを選び ここからすぐに去るがいい

選ぶに役立つヒントは四つ

まずは一つ目 第一に

毒入り瓶のある場所は いつもイラクサ酒の左

そして第二に両端の 二つの瓶は種類が違う

君が前進したいなら 二つのどちらも友ではない

第三のヒントは見た通り 七つの瓶の異なる大きさ

小人と巨人のどちらにも 死の毒薬は入ってない

第四のヒントは双子の薬 ちょっと見た目は違っても

左端から二番目と 右の端から二番目は いつも同じ味がする

 

 

 それは謎かけのヒントが書かれた紙だった。第四の試練は論理パズルだったのだ。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この賢者の石の試練に挑戦を!(2)

賢者の石編も佳境ですね。できるだけ連日の投稿で行こうと思ってます。



「ほう、謎解きですか。腕が鳴りますね」

「そうだめぐみん、どっちが早く解き終わるか勝負しない?それで食い違ったら話し合えばいいし」

「お、いいですね。やりましょう」

 

 ハーマイオニーの持つ紙を見てそう言う私に、ハーマイオニーが言ってきた。この手の勝負は久しぶりですね。一年前にゆんゆんの思考をひたすら邪魔して勝ちありがたくおやつを頂戴したとき以来でしょうか。

 

「ちょっと二人とも、何言ってるんだよ。そんなことしてる場合じゃないだろ」

 

 そんな私たちにハリーがそう言ってきた。

 

「いえ、この勝負はけっこう合理的です。互いに影響されずに同じ回答に辿り着いたなら多分それは合ってますし、違ってたならそこで議論すればいいだけですから」

「ああ、そうなんだ。それなら任すよ。頑張って」

 

 そんなこんなで私たちは紙を見つめたり瓶を覗き込んだりしながら必死に先に進むための薬の入った瓶を探した。そして数分もしないうちに、私たちは同時に同じ瓶を指差していた。

 

「この一番小さい瓶が『石』の方へ行かせてくれる薬で」

「この丸い瓶が戻るための薬ですね」

 

 私たちは『賢者の石』への薬の入った瓶を覗き込んだ。侵入者が先に飲んだからか、中身は一口か二口分しか残っていなかった。

 

「一人分しかないわね。どうしましょうか」

 

 ハーマイオニーはそう呟いた。私たちは顔を見合わせた。

 

「……うん、そうだね。めぐみんにハーマイオニー、丸い瓶の薬を飲んでくれ」

 

 そうしていると、何か考えていた様子のハリーがそう言った。

 

「はぁ!?何言ってるんですかハリー!」

「いいから少し聞いてくれ。戻ったらロンと合流してほしい。それから鍵の部屋の箒でホグワーツに帰って、まっすぐフクロウ小屋に行ってダンブルドアに手紙を送ってくれ。僕だけじゃ先を行ってるスネイプを止めるなんて無理だ」

「侵入者と戦うことを考えるならあなたではなく私が適任です。私が行きます」

 

 私がハリーにそう言うと、ハリーはかぶりを振った。

 

「いや、僕が行くべきなんだ。向こうにはヴォルデモートがいるかもしれない。もしそうなら、僕が一番実績がある」

 

 どうやらハリーに譲る気はないようだった。だがもちろん私だって戻る気は無いわけで。

 ……仕方ない。安全とは言えないが、これしかなさそうだ。

 

「ハリー、私にはここまで来て戻る気はさらさらありません。なので、私が瓶の中身をひと舐めするので残りをハリーが飲んでください。魔法薬は一定量飲まないと効果が出ないような代物ではありませんからね、それで十分でしょう」

「それは本当に大丈夫なの?」

 

 私の言葉にハリーはハーマイオニーに聞いた。ハーマイオニーは私の方をじっと見ながら頷いた。ハーマイオニーからの肯定が出た。

 

「ええ。効果は弱まるけど、消えるわけじゃないわ。大丈夫だと思う」

「というわけでハリー、二人で行きますよ」

 

 私がそう言うと、ハリーはゆっくりとうなずいた。話が決まったのを見て、ハーマイオニーは戻るための薬を飲んだ。

 

「二人とも、危なかったらすぐに逃げ戻ってくるのよ。ダンブルドアが帰るまで粘らなくても大丈夫、ダンブルドアならきっとどうにかするわ……本当に、本当に頑張ってね、二人とも」

「ええ、任せてください。そちらこそできるだけ早くダンブルドアに連絡してくださいね」

「もちろん。幸運を祈ってるわ」

 

 そう言うと、ハーマイオニーは走って部屋から出て行った。残された私たちは二人で瓶の中身を飲んだ。薬を飲むと、冷たい氷が体内を巡る感覚がした。

 

「さあ、行きましょうか」

 

 そう言って、私は黒い炎の中に足を踏み出した。薬のおかげか私は炎の熱を全く感じずに──

 

「……ん?少し熱さを感じるような」

「めぐみん!燃えてる燃えてる!ローブの端っこに火がついてるよ」

「え?……ギャーーー!!!」

 

 ──なんてことはなく、普通に私のローブに火がついて私はとても強く火の熱さを感じていた。

 

「あ、ちょっと、待ってよめぐみん!」

 

 何やら私に呼びかけるハリーを置いて、私は全身に火が回る前にダッシュで炎を突っ切った。

 

 

 何とかローブの火が大きくなる前に炎の域を越えて魔法で火を消した私は、同じく走ってきたハリーに苦言を食らっていた。

 

「やっぱりあの量を二人ではダメだったじゃないか。僕は燃えこそしなかったけど、あの通路を通るとき熱すぎて死ぬかと思ったよ」

「いやでもほら、死ななかったじゃないですか。それに熱いで済んだあたり、ちゃんと効果は出てるでしょう?」

「ちゃんと?火が付いたり死ぬほど熱かったりするのが?」

「ご、ごめんなさい」

 

 今までの先生たちの仕掛けた罠の傾向を見る限り、本来なら安全に突破できたはずだ。確かに薬はあの量だと不十分だったかもしれない。

 

「……いや、こっちこそごめん。僕が偉そうに言えることじゃないや。薬のパズルを解いたのはめぐみんとハーマイオニーなのに。ごめんめぐみん、『石』に近付くにつれて頭の傷の疼きが強くなってるせいで少し気が立ってるみたいだ」

「いえ、量が少なかったせいで効果が薄かったのは事実ですから。それより大丈夫ですか?きついならここで休んでても大丈夫ですよ。私が一人で解決してきますから」

 

 私がそう言うと、ハリーは首を横に振った。

 

「いや、そこまでじゃない。僕も行くよ」

 

 そう言って、ハリーは次の部屋の扉へと向かって行った。

 次の部屋は先ほど通ったチェスの間より少し小さいくらいの空間になっていた。中には何もないように見えたが、目を凝らすと巨大なトロールが奥の扉に寄りかかって寝ているのが見えた。

 

「……トロールですね。扉を塞いでます」

「トロールだって!?……本当だ。どうしようめぐみん、今度はハロウィンの時みたいにうまくやれる気がしない」

 

 トロールを見て、ハリーはそんなことを言った。確かにあの時のは奇跡みたいなもんですからね。トロールは本来大人の魔法使いでも手こずる相手ですし、仕方ないでしょう。

 

「そうですね、一つ作戦があります」

「本当!?」

 

 私がハリーにそう言うと、ハリーは勢いよく反応した。

 

「ええ。まず私がトロールを起こして引き付けるので、ハリーはその隙に奥の部屋へ行ってください。おそらくそこに『石』があるはずです」

「そんな、ダメだよめぐみん!一人でトロールに対峙するなんて!」

 

 私が作戦の内容を告げると、ハリーは首を振りながらそんなことを言ってきた。全く、今はそんな場合じゃないでしょう。

 

「ハリー。あなたの頭の傷が疼くということは、おそらくこの先にはヴォルデモートがいるはずです。ヴォルデモートが復活することのを阻止したいのでしょう?なら、今は一刻を争う時です」

「めぐみん……」

 

 本当は私が行ってヴォルデモートをボコってやりたいのだが、ハリーにトロールを任せるのはいささか以上に不安だ。それにハリーにはヴォルデモートの呪文から生き延びた実績がある。ならすぐに死ぬことはないだろう。つまりハリーが次の部屋に行ってすぐに私がトロールを倒せば何の問題もないわけだ。

 

「ハリー。ここは私を信頼してトロールを私に任せてくれませんか?」

「……うん、分かった。絶対に死なないでくれよ!」

「もちろんです、絶対に私がトロールごときにやられることはありません。安心してヴォルデモートから『石』をぶんどってきてください」

 

 私たちは二人で顔を見合わせて頷きあった。そしてハリーは扉が自由になればすぐに進めるように扉の近くへと行った。それを見て、私はトロールに杖を向けた。

 

インセンディオ!

 

 私の杖から炎が吹き出た。赤く強く燃え上がる炎は真っ直ぐにトロールへと進んで行き、トロールの全身を包み込んだ。

 

「グォォォ!」

 

 感覚の鈍いトロールも流石にこれはこたえたようで、そんな叫び声を上げて立ち上がった。そして火を放った私を見てゆっくりとこちらに向かってきた。

 

「ハリー、今です!行ってください!」

「頑張れよめぐみん!」

 

 ハリーはそう行って先へと進んだ。よし、これで作戦の第一段階にして最も重要な部分は済んだ。

 

「ふふ、ハロウィンの時はダメでしたが今度こそ倒してあげましょう」

 

 私はハリーからトロールに視線を切り替えてそう呟いた。

 

 

 

 





平然と死亡フラグを立てていくスタイル。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仇との対面(side:ハリー)

 めぐみんの合図で僕は扉を開けて次の部屋──つまりは最奥の部屋へと足を踏み入れた。そして僕はそこで先行者の姿をとうとう捉えた。しかし、そこにいたのはスネイプでもなかった。ヴォルデモートでもなかった。

 

「クィレル先生!あなただったんですか!」

 

 その場に立っていたのはクィレルだった。めぐみんが言った通りだった。『石』を盗みに来ていたのはスネイプではなくクィレルだったんだ。

 

「私だ。ああそうとも、そう、私だ」

 

 クィレルは笑みを浮かべて言った。その顔はいつもと違い、痙攣などしていなかった。

 

「ポッター、君にここで会えるかもと思っていたよ」

「僕はここで会うのはスネイプだと思っていました」

 

 僕がそう言うと、クィレル先生は鋭い笑い声を上げた。その声は不思議と冷たく感じた。

 

「セブルスか。確かに、セブルスはまさにそんなタイプに見える。彼が私の周りをコウモリのように注意深く飛び回ってくれたのはとても役に立ったよ。なんせ彼のそばにいれば誰だって、か、かわいそうな、ど、どもりの、ク、クィレル先生を疑いやしないだろう?」

 

 クィレルは僕に向かって嘲笑するような表情でそう言った。それを見て僕は確信した。クィレルがここにいるのは何かの間違いでも何でもなく、紛れもなくクィレル本人の事情によるものだ。そのことに思い至り、僕は呟いた。

 

「じゃあ、スネイプが僕を殺そうとしたのはこれと全く関係なかったのか」

 

 そんな呟きをクィレルは拾った。

 

「フッ、君たちはアレをそう取ったのか。逆だよ逆。殺そうとしたのは私だ。彼はむしろ反対呪文で君を守っていたよ。アレさえなければ、グレンジャーが来る前に君を叩き落とせたんだがね」

「スネイプが、僕を?」

「その通り」

 

 信じられなかった。あのスネイプが、会うたびに憎しみの目を向けてくるスネイプが僕を救っていた?

 

「彼がなぜ次の試合の審判を買って出たと思う?君を守るためだよ。まあ、全くの無意味だったがね。どのみち私はダンブルドアの前では何もできない」

 

 クィレルはそう言って芝居がかったような動きで肩をすくめて首を横に振った。そして不意にこちらを見て指をパチリと鳴らした。

 

「──つまり、ここならできるというわけだ」

 

 その言葉と共に縄がどこからともなく現れ、僕の体に固く巻きついた。クィレルは今度は苦々しげな表情を作った。

 

「ポッター、君は色々なところに首を突っ込み過ぎた。生かしてはおけない。ハロウィンのときもあんなふうに学校中をウロチョロするなど。『石』を守るものが何かを見に私が戻ってきたときも、君は私を見てしまったかもしれない」

 

 クィレルの言葉を聞いて僕は悟った。

 

「……あの時トロールを入れたのはあなただったのですか」

「そうとも。私はトロールについて特別な才能があってね。残念なことに皆がトロールを探し回っていたあの時、私を疑っていたセブルスだけがまっすぐに四階に来て私の前に立ちはだかった。あの日はとんだ厄日だった。なんせトロールが君を殺し損ねたばかりか、三頭犬はセブルスの足を噛み切り損ねたんだからな」

 

 確かにあの時、クィレルは息を切らしていたし倒れているトロールを見て驚いていた。あれは急いで駆けつけたからでも、トロールがそこにいたからでもなかったんだ。

 

「ふむ。そういう意味では君以上に紅魔も殺しておかなくてはな」

 

 そんなことを考えていると、クィレルがそう言った。

 

「めぐみんを?」

「ああ。彼女は本当に頭がいい。この学校で他人に何も聞くことなく私を疑おうとしたのはおそらく彼女とセブルスのみだ。彼女は最近、レイブンクローの方の紅魔と共にしきりに私の周りを嗅ぎ回っていたよ。確信に近い疑心だったはずだ」

 

 そこでクィレルは言葉を切って軽い笑みと共にこちらを向いてきた。

 

「だからこそ君たちが彼女を信じなくて助かったよ。数人がかりで、しかも君の知名度なら更なる人数も動員できたかもしれない。そこまでされれば流石の私にもどうしようもないからな」

 

 クィレルの嘲るような顔に、僕は後悔の感情を抱いた。どうしてあの時めぐみんの言葉を信じなかったんだろう。せめてまともに聞くだけでもすれば、この未来は変わったかもしれなかったのに。

 

「しかし彼女の性格ならまず間違いなく君に付いてきたはずだが……途中で脱落したか?いや、それはないだろう。となると」

 

 僕が黙り込んでいるなか、クィレルの言葉は続く。そこまで言ったところで、クィレルはふと扉の方を向いた。

 

「紅魔はトロールの部屋にいるわけだな」

 

 クィレルはそう言ったあとに僕の目を見て頷いた。

 

「やはりそうか。君が扉の前に置いてきたはずのトロールを突破できたのが不思議だったが、なるほどそうだったか。確かに彼女は優秀だ。少しの間戦うくらいはできるかもしれない。まあ万に一つも勝ち目はないだろうがな。私が彼女に直接手を下す必要性は消えたようだ」

 

 そう言ってクィレルは安心したようにため息をついた。そして部屋の奥の方へと歩いて行った。そこには大きな鏡が置いてあった。僕はその鏡によく見覚えがあった。『みぞの鏡』だ。

 

「さてポッター、大人しく待っていてくれるかな。私はこのなかなか面白い鏡を調べなくてはならないのでね。この鏡が『石』を見つける鍵なのだよ」

 

 クィレルは鏡の枠をコツコツと叩きながら言った。

 

「ダンブルドアならこういうものを考えつくだろうと思った。だが彼は今ロンドンだ。帰ってくる頃には、私はとっくに遠くに行ってしまっている」

 

 クィレルは鏡の周りを一周したあとに鏡の前に立ち食い入るように鏡面を眺めた。

 

「ふむ。『石』が見える。ご主人様にそれを差し出しているのが見える……しかし肝心の石はどこだ?」

「二、三日前、あなたが泣いているのを聞きました。あなたが本当に今回の事件の黒幕でスネイプが関係ないなら、どうして泣いていたんです?」

 

 僕はなんとかしてクィレルの集中力を切らせようと話しかけた。するとクィレルの顔に恐怖がよぎった。

 

「……時には、ご主人様の命令に従うのが難しいこともある。彼の方は偉大な魔法使いだし、私は弱い……」

「それじゃ、あの教室であなたは『あの人』と一緒にいたんですか?」

 

 クィレルの口から出た思わぬ情報に、僕は息を飲んだ。

 

「私の行くところ、どこにでもあの方がいらっしゃる」

 

 クィレルは静かに言った。

 

「私が世界旅行の時に彼の方に出会ってからずっと。その途中できっかけがあり、私はあの方の手となり足となった。もちろん私はあの方を何度も失望させてしまった。故にあの方は私にとても厳しくしなければなかった」

 

 突然クィレルは震え出した。

 

「過ちが簡単に許されることはない。特にグリンゴッツでの失敗の時はとてもご立腹だった。私を罰した……そして私をもっと間近で見張らなければと決心なされた」

 

 クィレルの声が次第に小さくなっていた。僕はダイアゴン横丁に行った時のことを思い出していた。そう言えばあの日に僕はクィレルと会ってるし、漏れ鍋で握手までしていた。めぐみんの方が正しいと判断できる材料はいくらでもあったのに、僕はどうして意固地にスネイプに固執していたのだろう。

 

「一体どうなっているんだ……『石』は鏡の中に埋まっているのか?鏡を割ってみるか?クソッ、この鏡はどう言う仕掛けなんだ……ご主人様、助けてください!」

 

 クィレルがそう言うと、別の声が答えた。しかもその声はクィレル自身から出てくるようだった。その声を聞くと、すでに疼いている僕の頭の傷がさらに強く疼いた。

 

「その子を使うんだ……その子を使え……」

「分かりました。ポッター、ここへ来い」

 

 クィレルは突然こちらを向き、そう言った。クィレルが手をパンと打つとハリーを縛っていた縄が落ちた。僕はクィレルに鏡の前まで連れていかれた。

 

「鏡を見て何が見えるかを言え」

 

 嘘をつかなくては。ハリーは鏡の前でそう思った。鏡には青白く怯えた自分の姿が映っていた。次の瞬間、鏡の中のハリーが笑いかけた。鏡の中のハリーは血のような赤い石をポケットから取り出し、ウィンクをして再びポケットにその石を入れた。するとその瞬間、ハリーはポケットに重量を感じた。なぜか──信じられないことに──僕は『石』を手に入れてしまった。

 

「どうだ?何が見える?」

 

 クィレルがそう聞いてきた。僕は必死に頭を回した。とにかく『石』をクィレルに渡さないでダンブルドアが来るまでの時間を稼ぐ。

 

「僕、あー、そう、僕がダンブルドアと握手をしてるのが見える。僕のおかげでグリフィンドールが寮杯を獲得したんだ」

「そこをどけ」

 

 クィレルが僕を押しのけた。クィレルは鏡を見ている。思い切って逃げ出そうか。しかし、ほんの五歩も行かないうちにクィレルからクィレルのものでない声がした。

 

「こいつは嘘をついている……嘘をついているぞ……」

「ポッター、ここに戻れ!本当のことを言うんだ!」

 

 クィレルが叫んだ。そしてあの頭に痛みを走らせる声が響いた。

 

「俺様が話す……直に話す……このために力を溜めてきたのだ……」

「分かりました。御心のままに」

 

 すると、クィレルはターバンを解き始めた。僕は石のように硬くなったままでそれを見ていた。そしてターバンが落ちた。ターバンを外したクィレルの頭は奇妙なまでに小さかった。クィレルはその場でゆっくりと体を後ろ向きにした。

 僕は悲鳴を上げるところだった。しかし悲鳴が出ることはなかった。それは僕が踏みとどまったからではなく、単に声が出せなかっただけだった。クィレルの頭の後ろにはもう一つの顔があった。その顔はこれまで見たこともないほどに恐ろしかった。蝋のように白い顔にギラギラと血走った眼、そして鼻腔は蛇のような裂け目になっていた。

 

「ハリー・ポッター」

 

 声がささやいた。後ずさろうとしたが、足が動いてくれなかった。

 

「このありさまを見ろ」

 

 そんな僕をじっと見つめて顔が言った。

 

「ただの影と霞に過ぎず、誰かの体を借りて初めて形になることができる……しかし常に誰かが、喜んで俺様をその心に入り込ませてくれる……この数週間はユニコーンの血が俺様を強くしてくれた……忠実なクィレルが森の中でそれを手伝っているのを見ただろう……そして命の水さえあれば、俺様は自身の体を創造できるのだ……」

 

 目を瞑り思い出すようにしみじみとそんな話をしていた顔はそう言うと目を開け、僕に言った。

 

「さて、ポケットにある『石』を頂こうか」

 

 僕は目を見開いた。ヴォルデモートは『石』の在り処を知っていたんだ。

 突然足の感覚が戻り、僕はよろめきながら後ずさりした。そんな僕に顔は諭すように言ってきた。

 

「バカな真似はよせ。命を粗末にするな。俺様の側に付くんだ。さもないとお前もお前の両親と同じ目にあうぞ。二人の命乞いをしながら死に行く姿は見ものだった……」

「嘘だ!」

 

 ヴォルデモートの言葉に、僕は叫んだ。そしてクィレルはヴォルデモートがハリーを見たままでいられるように後ろ向きで近づいてきた。邪悪な顔がニヤリと笑う。

 

「胸を打たれるねえ……俺様はいつも勇気を称える。そうだ小僧、お前の両親は勇敢だった。まず死んだのは父親だった。勇敢に戦ったがね……だが母親の方まで死ぬ必要はなかった。母親はお前を守ろうとして死んだのだ……さあ、母の死を無駄にしたくなくば『石』をよこせ」

 

 こちらに近づいてくるヴォルデモート。そんなヴォルデモートに僕は叫び、扉の方に向かって駆け出した。

 

「やるもんか!」

「捕まえろ!」

 

 ヴォルデモートが叫んだ。次の瞬間、僕はクィレルの手が僕の手首を掴むのを感じた。そのとたん、針で刺すような痛みが額の傷跡を貫いた。僕は悲鳴を上げたが、同じような悲鳴も後ろからしてきた。振り返ると、クィレルは僕から少し離れて自分の指を見ていた。その指は見るみるうちにブクブクと膨れていった。ふと僕も自分の手を見てみた。やはり僕の手も火ぶくれができていた。

 

「捕まえろ!捕まえろ!」

「やらせない!お前に『賢者の石』なんてものを使わせないぞ!」

 

 ただひたすらに連呼するヴォルデモートとそれに泣きそうになりながら従うクィレル、そしてクィレルに自分の手を押し当て自分とクィレルの両方にダメージを与える僕。そんな状態に焦れたヴォルデモートが叫んだ。

 

「それなら殺せ愚か者め、始末しろ!」

 

 クィレルは距離をとって死の呪文を唱え始めた。僕はとっさにクィレルの顔に手を伸ばした。

 

「アアァァァ!!!」

 

 クィレルは顔面に感じた痛みに耐えきれずに呪文を中断した。これだ!これで乗り切るんだ!僕がそう思った時、声が響いた。

 

「落ち着け、クィレル。ポッターから距離を取れ。そう焦る必要はない」

 

 クィレルはその声にハッとした様子で僕からダッシュで大きく距離をとった。そんなクィレルを追おうとすると、振り返ったクィレルが指をパチリと鳴らした。その瞬間、僕の足から全ての動きが消えた。僕は勢いよく床に倒れ伏せた。

 

「よくやったクィレル。俺様からのヒントがあったとはいえその冷静な判断、褒めてやろう」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「あとは殺すだけだな。しっかりと殺せよ」

「はい。もちろんです」

 

 クィレルはヴォルデモートにそう言って、こちらに杖を向けた。

 ……ああ、僕もこれまでか。これでも結構、頑張ったんだけどな。結局ダンブルドアは間に合わなかったんだ。死んだら母さんや父さんに会えるんだろうか。

 

アバダ

「エクスプロージョン!」

 

 そんなことを考えていると、死の呪いに割り込んでそんな声が響いてきた。その声に僕は目を開けた。すると僕の視界に、今にも死の呪いを撃とうとしていたクィレルに手のひら大の黒い球体が向かっているのが見えた。その球体はクィレルにぶつかり、小さな爆発を起こした。完全に意識をこちらに割いていたクィレルは不意打ちを受けて吹き飛んだ。

 

「ガハッ、ゲホッ……今のはなんだ!」

 

 起き上がったクィレルはそんな声を上げて球体が飛んできた方向を向いた。それと一緒に僕もそちらを向いた。するとそこには、小さな体躯の頼もしい友達が堂々と立っていた。

 

「めぐみん!」

「ふっ、どうやら間に合ったようですね。少し遅れてしまいましたが、もう安心してください」

 

 そこでめぐみんは焼け焦げて少し短くなったローブをバサリと翻して言った。

 

「ここからは私たちのターンです」

 

 そう宣言するめぐみんの姿は、今まで見たことのある何よりも力強く見えた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この賢者の石の事件に終結を!

「待たせてしまいましたね、ハリー。でももう大丈夫です。私があのキモいのをけちょんけちょんにしてあげましょう」

 

 私は扉のところからハリーのいる場所への移動した。その間クィレル先生……いや、ヴォルデモートは私を警戒してか私を遠巻きにしたままだった。

 

「ハリー、『石』はどうなりましたか?」

「僕が持ってるよ。それよりめぐみん、今のは何?爆発(エクスプロージョン)と言ってたけど、もしかして事あるごとに言ってる爆裂魔法が完成したの?」

 

 私が石について聞くと、ハリーはそんな質問を返してきた。

 

「いえ、残念ながらあれはまだ完成していません。というかあの魔法の力は強大すぎるのでこんな室内じゃ撃てませんよ」

「じゃあさっきのは?」

 

 ハリーの問いに、私は腰につけたポーチに手を置いて答えようとした。しかしその時、ヴォルデモートが言ってきた。

 

「貴様……何故生きている。トロールは一人の一年生ごときに倒せる存在などではない。どんな手品を使った」

「今あなたを吹き飛ばしたのと同じ方法ですよ。それに私を普通の一年生と同じに見ないでほしいですね。さもなくば痛い目を見ますよ」

 

 まあ私は痛い目を思いっ切り見てほしいわけですが。

 

「それでめぐみん、さっきのは何だったの?」

「ああ、そうでしたね」

 

 ハリーにもう一度聞かれて、私はポーチから黒いボールのようなものを取り出した。

 

「それは?」

「よくぞ聞いてくれました!これこそは我が秘密兵器、『爆裂弾』。私の魔力に反応して爆発する爆弾です」

 

 冬休みに父親に製作を頼んでおいたのだが、やはり我が父、腕だけはいいのか半年以内で完成させて私に届けてくれた。

 

「ちなみに……」

「フハハ、抜かったな紅魔!それを私にも聞こえるように話すとは。アクシオ!

「これには紅魔謹製の『魔術師殺し』が使われているのでアクシオ等の魔法は効きません。なので抜かったのはおバカなクィレル先生……いえ、先生呼びはやめましょうか。とにかく間抜けだったのはクィレルの方だったわけです」

「クソが!」

 

 私の言葉に、ドヤ顔だったクィレルは顔を真っ赤にして床を蹴った。

 

「じゃあめぐみん、さっきの呪文はその『爆裂弾』の威力を上げるためのものなんだね」

 

 そうしていると、ハリーがそんなことを言ってきた。

 

「そんなわけないじゃないですか。そこまで魔法的に高性能なものをマグルのうちの父親が作れるわけないでしょう。呪文はかっこいいから言ってるだけです」

「…………」

 

 どうしよう、さっきまで私の登場に希望に輝いていたハリーの顔が曇ってしまった。心なしかヴォルデモートまで呆れてる気がする。

 

「……もういい。クィレル、さっさと殺せ」

「御意に。アバダ

「エクスプロージョン!」

「ガァァァ!!!」

 

 私が爆裂弾を投げつけると、クィレルは先ほどと同様に吹き飛んだ。あの二人は学習するということを知らないのだろうか。

 しかしあれですね。やっぱり爆裂弾だとあの爆裂魔法の夢の感覚とは雲泥の差ですね。パチモン感がすごいです。父には悪いですが、これは今後は封印ということにしますか。

 それにしても……。

 

「ハァ……何というか、少しガッカリですね。闇の帝王と言うくらいだからもっとかっこいい系のラスボスを予想してたのに、学習しない上にどちらかというとキモさ寄りのラスボスとか、本当にガッカリです」

「誰がキモい系ラスボスだ!俺様も学生時代はイケメンで通ってたんだぞ!」

「中年のおっさんはみんなそう言うんですよ」

 

 というか学習しないということよりそっちに突っかかってくるんですね。意外と今の容姿を気にしてるんでしょうか。

 

「紅魔、キモいというのはご主人様であって私ではないよな?私はまだ行けるよな?」

「……おい、クィレル」

「はっ!すみませんご主人様!ついうっかり」

「そもそもお前だって極端に頭が小さかったりハゲだったりするだろうが!その時点でアウトだバカが」

「……二つともご主人様のせいなんですが」

「何か言ったか?」

「いえ、何も」

 

 そして向こうの主従は何かコントのようなものをしていた。言った私が言うのも何ですが、仮にもイギリス魔法界最悪の主従がそんなことで口喧嘩していいのだろうか。……まあいい、何にせよ注意が逸れた。

 

(ハリー、私が次に爆裂弾を投げるタイミングであなたはホグワーツの方に逃げてください」

 

 私はすでに呪文による拘束が解けているハリーにそう囁いた。

 

(……君は?めぐみんはどうするの)

(もちろんここに残ってあのハゲ二人をぶっ飛ばします)

(それなら僕も残る。君だけを置いて逃げるなんて!)

(ハリー、冷静になって客観的に考えてください。今回の目標はヴォルデモートに『石』を与えないことです。そのためにはハリー、あなたがここにいてはいけません)

(それは……そうだけど)

 

 そしてハリーは考え込んだ。しかしそれも一瞬だった。

 

(うん。分かったよ。悔しいけど、ここにいても僕にできる事はなさそうだし。その代わりめぐみんは絶対に死んじゃダメだからな。ダンブルドアが来るまで絶対に持ってくれよ)

(だからあの二人を倒すと言っているでしょう。持つも何もありませんよ)

 

 そんな私の言葉に、ハリーはじっと私を見つめた。そしてもう一言を口にした。

 

(うん、そうだね。めぐみんなら大丈夫だ)

 

 私たちは互いに頷き合った。

 

「さてブ男二人、喧嘩は終わりましたか?」

「「ブ男じゃない!」」

 

 私がそう言葉をかけると、二人は息の合った声を返してきた。何というか、一人の頭で喧嘩したり声を揃えたり面白いことをしてますね。

 

「喧嘩が終わったなら我が爆裂魔法を食らって仲良く逝くがいいです。エクスプロージョン!」

「魔法じゃないだろうが!」

プロテゴ!……ご主人様、魔法を撃つ時くらい静かにしてくださいませんか?」

「黙れ!少しくらいストレスを発散させろ!この娘のせいで俺様の頭は今グチャグチャなんだ」

 

 私の投げた爆裂弾は、そんなことを言い合っているクィレルの防護呪文によって止められた。流石にホグワーツに認められる魔法使いにしてヴォルデモートの宿主を務める人間の防護呪文には止められますか。実は最後の弾だったので少しくらいはダメージを与えたかったのねすが、仕方ありません。しかしこれで狙いは果たせました。

 

「……おい。ポッターはどこへ行った」

 

 ハリーが逃げたことに最初に気づいたのはヴォルデモートだった。

 

「答えろ、紅魔とやら。ポッターはどこへ行った!!!」

 

 ヴォルデモートは私に向かってそう叫んだ。さすがは闇の帝王、出そうと思えば風格が出せるじゃないですか。

 

「彼なら行きましたよ。仲間がダンブルドアを呼びに行ってますし、すぐに保護されるでしょう。もちろん『石』は彼が持っています……今どんな気持ちですか?何十才も年下のまだ一年生の私たちに出し抜かれた闇の帝王さん?どんな気持ちですか?」

 

 私がそう言うと、クィレルの頭からブチリという音が聞こえてきた。最も嫌な類の悪寒が背筋を襲い、ゾッとするような空気が私を包んだ。あ、これはヤバいやつだ。

 

「……クィレル。もう『石』を用いての復活は叶わない。ダンブルドアにポッターが保護されるという事はつまりそういうことだ。だがな」

 

 そこでヴォルデモートの声が強まった。

 

「この俺様を散々コケにしてくれたこの小娘を無視しておめおめと逃げる気は無い。俺様がどうなろうが、こいつには絶対に苦しんで苦しんで苦しみ抜いた上で死んでもらう。分かったらクィレル、まずは磔の呪文をかけろ」

「はっ、了解しました」

 

 ヴォルデモートの声にクィレルが答えた。クィレルの杖がこちらを向く。

 

「いいんですか?また爆裂弾で吹き飛ばされますよ?」

 

 私がそう言うと、ヴォルデモートは何ともないように答えた。

 

「俺様はとある経験から魔法具の目利きができる。俺様がその忌々しい弾とポーチを見たところ、お前の持てる弾の限界は四つ。トロールも含めて全て使ったはずだ」

 

 ……ば、バレてる。ブラフでできるだけ乗り切ろうと思ってたのに、そのブラフの筆頭にして切り札が真っ先に消された。

 

「クィレル、やれ」

クルーシオ!

 

 ヴォルデモートな命じられるままに、クィレルは静かな声で呪文を唱えた。杖の先から閃光が迸り、私の体を貫いた。

 その途端、この世のものとは思えない痛みが全身を走った。磔の呪文。確か死ぬほうがマシと思わせるほどの苦痛を味わわせる、許されざる呪文の一つ。ヴォルデモートの手下たちが拷問によく用いたものだったらしいが……。

 

「グッ……グァッ……ハァッ……ゲホッ!」

 

 噂通りだ。確かにこれは辛い。

 それでも、耐えられないほどじゃない。天才の呼び声は伊達じゃない。私の魔法力が呪文の効果を弱めたんだ。

 私はできるだけ苦しい素振りを見せないようにしてクィレルの方を向いた。

 

「何てものを……見せてくれるんですか……貧乳かつ爆裂魔法を使えない未来なんてッ……」

「掛かってるんだよな!?本当に磔の呪文は掛かってるんだよな!?」

「ご主人様、落ち着いてください。しっかりと掛かったところを見ましたでしょう。おそらく今のはただの強がりのはずです。……ですが、念のためにもう一度掛けておきます」

「おう、そうしろ。もう本当にこの小娘やだ……」

クルーシオ!

 

 そんなやり取りを経て、再びクィレルは私に向かって磔の呪文を唱えた。痛みはさらに激しくなり、いよいよ隠せるものではなくなってきた。その苦痛はあまりに大きく、私の感覚は徐々に現実から離れていく。

 

「……確かに掛かっているな。ハァ、なんかもうさっさと殺したほうがいい気がしてきた。苦しませたい感情よりホッとしたい感情の方が強い」

「どうします?もう殺してしまいますか、ご主人様?」

「ああ、そうしよう。もう本当に今日は疲れた……ゲッ、貴様は!」

 

 そんなヴォルデモートとクィレルの主従の声をどこか遠くの出来事のような感覚で聞きながら、私の意識は霧散していった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ・この獅子なる寮に優勝を!

 目を覚ますと、私の目には白い天井が映った。残念ながらその天井には見覚えがあった。

 

「……知らない天井じゃない」

「できれば知らないまま過ごしてほしいんですがね」

 

 私が呟くと、側でマダム・ポンフリーがそう言ってため息をついた。ここは医務室のベッド。私はそこに寝かされていたのだった。

 

「起きたか。随分と長い夜だったようじゃのう」

「ダンブルドア先生!」

 

 からかうような声に体を起こすと、ベッドの横の椅子に校長先生が座っていた。

 

「先生、間に合ったんですね。クィレルはどうなりましたか?」

「だいぶ落ち着いとるのう。『磔の呪文』を掛けられたとは思えん……ああ、クィレルに関しては安心するといい。ヴォルデモートが暴走して一人で死んでしまったよ。まあその前にちょこっと食い止める必要があったがの」

「そうですか。それはよかったです」

 

 そこで、私はふと先生の横のスペースに目をやった。そこにはお菓子やら何やらが山のように積み上げられていた。

 

「びっくりしたかの?君の友人や崇拝者からの贈り物じゃよ」

 

 先生はイタズラっぽく笑った。

 

「地下で君たちがしたことは『秘密』でな。秘密ということはつまり、学校中が知っているというわけじゃ。大勢に詰め寄られたハリーたちが話してはいけないこと以外の全てを話してな、あれから三日経った今では君は学校中でヒーローじゃよ」

「ほほう。つまり所々に見える手紙は私へのファンレターということですね?」

 

 ニコニコ顔のダンブルドア先生に私がそう言うと、先生は一瞬固まった後に笑い出した。

 

「ほっほっほ。君は大物じゃのう。ヴォルデモートから生き延びることができたのも納得というものじゃ」

「褒め言葉として受け取っておきましょう……そう言えば『石』はどうなったのですか?グリンゴッツでもホグワーツでもダメだったのです。よっぽどでないと次も危なそうですが」

「『石』、か……あれはもう壊してしまったよ」

 

 私がそう聞くと、ダンブルドア先生は何でもないことのように答えた。

 

「壊した!?それじゃあニコラス・フラメル夫妻はどうなるんですか?」

「おお、ニコラスを知っておるのか。君たちは随分ときちんと調べて今回の事件に取り組んだのじゃな。わしは嬉しいよ。

 彼らとはこの三日で少しお喋りをしてな、これが一番だということになったんじゃ。あの二人は身辺整理をするに十分な命の水を持っておる。それが終われば、ああ、二人は死ぬじゃろう」

 

 先生はそこで、私の驚いた顔を見て微笑んだ。

 

「君のような若い者には分からぬかもしれんが、ニコラスやペレネレにとって、死とは長い一日の終わりに眠りにつくようなものじゃよ。結局、きちんと整理された心を持つ者にとっては死は次の大いなる冒険に過ぎぬ。『石』などそんなに素晴らしいものではないのじゃよ。欲しいだけの金に命など」

 

 そう言って先生は心の底から人間の性を悲しむかのような顔で首を振った。その目は何かを思い出すかのように閉じていた。

 

「そんなものなのですか。私の出身の里とは真逆の考え方ですね。私たちは最後の最後まで生を謳歌することを信条としていますから」

 

 私がそう言うと、ダンブルドア先生は苦笑いをした。

 

「まあ、君たち紅魔族はそれでいいんじゃろうな」

「先生は紅魔族を知っているのですか?」

「もちろんじゃとも。紅魔族は日本人でありながら特別にマホウトコロではなくホグワーツに来る人たちじゃしな。なぜだったかは既に失われてしまったが、大昔から条約に定められているような集団じゃ。イギリスにも彼らを知る者は多いぞ?」

 

 特別。私はその言葉に少しテンションが上がった。先生はそんな私をよそに話を続けた。

 

「わしは君やゆんゆん以外にも紅魔族を教えたことがあるが……風変わりな生徒ばかりじゃった。今の双子のウィーズリーを彷彿とさせるようなことばかりしていた。大広間を占拠した理由が『テンションが高くて何かしたかったから』だった時は流石のわしも苦笑しかできんかった」

「大広間を占拠……いいですね、それ」

「言っておくがめぐみん、くれぐれもやるでないぞ?振りではないからな」

 

 先生は真剣な目をしてそう言った。あのダンブルドア校長先生がこんなことに真面目に注意をしているのがどこかおかしくて私は吹き出してしまった。

 

「それで、ヴォルデモートはどうなったのですか?」

「ヴォルデモートのう……あやつを捕まえることは今のわしでは不可能じゃ。今回のように奴の行動を阻止し、復活を遅らせることしかできん。次もまた、君たちのように勇敢な者が一見勝ち目のない戦いに挑まねばならないのかもしれん」

 

 私の質問に、先生は顔を少しうつむかせて静かにそう言った。私はその言葉に顔を曇らせた。この前初めて見たが、あれは本物の邪悪だった。あれがヴォルデモート。それも力を取り戻していない状態であの酷さだ。みんなが恐れるのも無理はないだろう。

 

「それでも、毎回その復活を遅らせることができれば」

 

 そこでダンブルドア先生は、ヴォルデモートが唯一恐れたその人は顔を上げ真っ直ぐに私の顔を見つめて言った。

 

「ついにあやつは、復活ができなくなるかもしれん。そうは思わんかの?」

「……はい。そう思います」

 

 先生の言葉はなぜだか私の中にすんなりと入ってきた。これがみんなが口を揃えて偉大だと褒め称える魔法使いのカリスマというやつですか。

 しかしダンブルドア先生に言われるままでは何だか悔しかったので、私はそこで言葉を続けた。

 

「まあ、今度私がヴォルデモートと出会ったときは復活の阻止とは言わずに永遠に滅ぼしますけどね。だから先生は安心してドーンと構えていてください!」

 

 私が胸を張ってそう言うと、先生は目を丸くした。そして大きな笑顔を浮かべた。

 

「ほっほ、それは楽しみじゃのう」

 

 

「マダム・ポンフリー、お願いです!入れてください!私はどうしてもあの子に言ってやらなきゃ気が済まないんです!」

「ダメです。病人に何を言うつもりですか。寮に帰りなさい」

 

 ダンブルドア先生が出て行ってからしばらくベッドで休んでいると、外からそんな声が聞こえてきた。この声はゆんゆんか。私は立ち上がり外まで歩いて行った。

 

「病人とは失礼な。私はピンピンしてますよ。あんな他人に自分の体を貸すような、ラスボスの風上にも置けないやつの魔法に負ける私ではありません」

「紅魔!なぜベッドを抜け出しているのです!あなたは『磔の呪文』を二発も受けたのですから休まなければ」

「『磔の呪文』!?めぐみん、許されざる呪文を二発も受けたの!?本当に大丈夫なの!?」

「紅魔、病人に摑みかからない!いえ、ゆんゆんの方です。あなたではありません。紅魔、あなたはベッドに戻りなさい。……めぐみんの方だけに決まっているでしょう!あなたは帰りなさい!……だから紅魔、あなたはベッド!舌打ちしない!ああもう、これだから紅魔族は!」

 

 そんなやり取りを繰り返すうちに、マダム・ポンフリーは折れた。

 

「五分だけですよ。それと喧嘩などはしないように。全く、しばらく紅魔族が来ないかと思えばウィーズリー兄弟が現れ、今度はまた紅魔族……本当に疲れる」

 

 マダム・ポンフリーはため息をついてそう言い、私たちを病室に残して出て行った。

 

「それでゆんゆん、言わなければいけないこととは何ですか?」

 

 私はベッドの中で上半身だけを起こした姿勢でそう聞いた。

 

「ああ、そうよ。私はそれを言いにきたんだった。……めぐみん、なんであなたは私に何も言わないで今回みたいなことをやっちゃうの?なんで私に少しでも声をかけてくれなかったの……?」

 

 すると、ゆんゆんは私にそんなことをキッとした顔で言ってきた。てっきり労ってくれるものだと思っていた私は言葉を失った。

 

「私、すごい心配したんだよ。四人がいなくなったって騒ぎになって、ロンとハーマイオニーが先に帰ってきて、そのあとハリーだけ先に帰って来た時なんてもう心臓が止まるかと思った」

「ゆんゆん……」

「めぐみん、私はそんなに頼りない?確かに私はあなたほどの天才じゃないかもしれないけど、私だって知性のレイブンクローの中でも優秀な方なんだよ?」

 

 言葉に詰まる私に、ゆんゆんはさらにそう言ってきた。ゆんゆんが優秀なことくらい知っている。ここホグワーツに来る前からゆんゆんは優等生だった。本人は知らないかもしれないが実は頼りにされていることも知っている。ゆんゆんが頼りないなんてことは全然ない。

 

「ゆんゆん、あなたが優秀なのは知っています。あなたが日頃から努力していることを私が知らないとでも?あなたが頼りないなんて思ってませんよ」

 

 私はそこで一息ついて言った。

 

「私があなたに声をかけなかったのはですね、その、何というか、あなたを巻き込みたくなかったんですよ」

「巻き込まれるだなんてそんなこと……ちょっとしか思わないわよ」

 

 やっぱり思うんじゃないですか。そんなことを思っていると、ゆんゆんはでも、と繋いだ。

 

「でも、待ってるだけよりはずっとマシよ。私はもう決めたの。私……私、あなたのライバルになるわ!」

「は?」

 

 ゆんゆんの口から出てきた言葉に、私は思わずそんな声を漏らした。

 

「だってそうでしょ。ライバルになってあなたが認めざるを得ないくらいになれば、あなただってちゃんと私を頼るようになるはず。私だってできるんだから。首席を取れるなんて思わないことね!」

 

 いや別に、今でもそれなりにゆんゆんの力は認めてるのですが。本当にこの子は、何でこうもやる事なす事が捻じ曲がって行くのでしょうか。

 

「ふふっ」

「めぐみん?」

 

 でもまあ。

 

「あなたが私に勝てるだなんて、それこそ思わないことですね。私の首席の座は安泰です」

「はあ!?まだ五年もあるのによくそんなこと言えるわね!」

 

 それがこの子らしさということなんですかね。

 

 その後ハリーたちが押しかけてきたり、私たちの会話を聞いていたらしいパーバティに「あなたたち、百合百合しいわね」と言われたり色々あったが、それはまた別の話。

 

 

 それから一日が経ち、私は一人で学年度末パーティーに向かった。マダム・ポンフリーの最終診察のせいで、大広間についた時には広間はもういっぱいだった。広間の天井には寮杯を獲得したお祝いにスリザリンの蛇の旗がはためいていた。

 私が入って行くと広間は突然シーンとなり、その後みんなが私が入る前よりもずっと大きく騒ぎ立てた。私はそれに対して満面の笑みであちこちに手を振りながら歩き、ハリーやネビルたちの座るテーブルの席に着いた。

 

「めぐみん、君ってば大物だね。よくあれにそんな返しができるなって思うよ」

「歓声を受ければ手を振り返せと紅魔の里の英雄のための冬季講習で習いましたから」

「英ゆ……今なんて?」

「英雄のための冬季講習です」

 

 私がそう言うと、ハリーはげんなりとした顔でため息をつき、目の前の食べ物をツマみ始めた。

 

「えー、諸君。今年度は君たちにとってどのような年だったかな?少しはその頭に何か詰め込めたといいんじゃが……新学年を迎える前に君たちの頭がきれいさっぱり空っぽになる夏休みがやってくる。

 それではここで寮対抗杯の表彰を行うことになってる。点数は次の通りじゃ。四位グリフィンドール、252点。三位ハッフルパフ、352点。二位レイブンクロー、426点。そして一位スリザリン、472点」

 

 そうしているうちにダンブルドア先生がパーティー会場の前に立ち、そんなことを言った。先生のアナウンスにスリザリンが湧いたが、その後に先生が言った言葉に会場全体がシーンとなった。

 

「よしよし、スリザリン、よくやった。しかし、つい最近の出来事について考えるのを忘れておるのう」

 

 おほんとダンブルドア先生は咳払いをし、言った。

 

「駆け込みの点数をいくつか与えよう。えー、まずは……ロナルド・ウィーズリー君。この何年間かホグワーツで見ることができなかったような最高のチェスゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 

 その瞬間グリフィンドールの席から大歓声が上がった。ロンは今にも胴上げされそうなくらいにみんなから喝采を受けた。

 

「次に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢。火に囲まれながら冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 

 その宣告に、ハーマイオニーは顔を袖で隠した。どうやら嬉し泣きしているようだった。これで100点。とてつもない加点だ。

 

「続いて、ハリー・ポッター君。その最高の勇気とズバ抜けた行動力を称え、グリフィンドールに60点!」

 

 今までよりずっと大きな歓声がグリフィンドールから上がった。何だかんだ言ってハリーはみんなの人気者なんですね。これで412点。あと61点で優勝だ。

 

「そして……紅魔めぐみん嬢」

 

 その声に、会場全体がシーンとなった。

 

「その魔法界全体でも稀に見る完璧な精神力に抜群の回転力を誇る明晰な頭脳、そして一年生とは思えない破格の魔法力。どれを取っても一級品な彼女を称え、グリフィンドールに60点を与える」

 

 そして先生がそう言った瞬間、広間全体が大歓声に包まれた。私は大勢のグリフィンドール生に囲まれ、てんやわんやの大騒ぎの中心となった。レイブンクローやハッフルパフも騒ぎに加わった。スリザリン以外の全ての寮がダンブルドアの宣告に沸いていた。これでスリザリンとグリフィンドールは同点。くっ、先生もケチですね。ヴォルデモート相手に粘ったのだから私に100点くらいくれればよかったのに。私がそんなことを思っていると、ダンブルドア先生が手を上げ、それに呼応して騒ぎは少しずつ収束していった。

 

「勇気にもいくつか種類がある」

 

 先生は微笑み言った。

 

「敵に向かって行くのと同じように、味方の友人に立ち向かうことにも多大な勇気がいる。よってわしは、グリフィンドールのネビル・ロングボトム君に10点を上げたい」

 

 今夜5回目の大歓声がホグワーツ城を貫いた。そして私は、信じられないと言った顔のネビルに思わず抱きついた。

 

「やりました!ネビル、あなたの振り絞った勇気が実を結んだのです!ほら、もっと喜んでいいんですよ!」

「え、え、嘘、僕……というかめぐみん、君、僕に抱きついてっ!?」

 

 初めて寮のために点を取った興奮からか顔を赤らめていたネビルがそこまで言ったところで、私たちは押し寄せてきた他のグリフィンドール生たちの群衆に飲み込まれ、押し潰された。

 

「ぐへ」

「あ、めぐみん!大丈夫!?」

「ふっ、何のこれしき。それよりネビル、騒ぎますよ!今夜は宴です!」

 

 その夜、私たちは最高に騒いだ。スリザリン生も私の友人など一部は、苦い表情をしながらもお祝いを言いに来た後に一緒になって騒いだ。その筆頭はダフネで、スリザリン生の中で一番早くこちらのテーブルにやって来た。

 

「優勝おめでとう。流石はあなたね、最後にあなたの友達も含めて五人で230点も取って行くなんて。……何よその顔は。言っておくけど、ここに来たのはあなたにお祝いを言いに来たわけじゃないから。たまたまこのテーブルに美味しそうなプディングを見つけたから来ただけよ」

 

 その場にいた全員は心の中でツンデレか!と突っ込んだが、ダフネがそれを口に出そうとした人全員を睨んだために誰かがそれを言うことはなかった。

 

 

 

 それから少し経ち、私たちはキングズ・クロス駅の9と4分の3番線ホームに立っていた。

 

「みなさん、お元気で!また新学期に会いましょう!さあゆんゆん、行きますよ。少し時間が押しています」

「みんな、いい夏休みを!あ、ちょっと待ってよめぐみん!」

 

 私はマグルの駅への境界線で、そう言って私の少し後ろを歩くゆんゆんを待った。

 

「これで魔法界ともしばしのお別れですか。とりあえず、こめっこには思いっ切り構ってあげましょう。みんなにもらった大量のお菓子もあることですし」

「めぐみんが遊びたいだけでしょ、素直にそう言いなさいよ」

 

 そんなことを言い合いながら、私たちはゆっくりと9と4分の3番線ホームを振り返った。

 

「結局あなたが学年トップだったわね」

「当然です。ダンブルドア先生曰く、私はどれを取っても一級品な天才ですからね」

 

 そう言って、私たちは互いを見つめ合った。

 

「次も絶対に負けませんよ」

「次は絶対に勝ってやるんだから」

 

 そうして早くも来学期への決意を胸に秘めながら、私たちはホームの壁の中へと消えていった。

 

 

 

 




 これにて賢者の石編は終了です。ここまで読んでくださってありがとうございました。少し空くかもしれませんが出来るだけ早いうちに次の話を投稿したいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅魔めぐみんと秘密の部屋
この二年目のホグワーツに再会を!


 
 今日から更新再開です。3〜4日に一度の投稿を目指して頑張るので、よろしくお願いします。


 ホグワーツの終業式から二ヶ月。家ではやっぱり変な言葉を覚えていたこめっこに色々言われたり、金持ちの彼氏はできたかとお母さんがしきりに聞いてきたり、ガラクタ発明品の説明を延々としてくるお父さんに辟易したりと色々なことがあったが、概ね楽しい夏休みを過ごしていた。そして今日、そんな長い休暇も終わり私はゆんゆんと一緒にキングズ・クロス駅に来ていた。

 

「あ、ハリーたちじゃないですか。久しぶりですね」

 

 駅構内を9と3/4番線に向かって歩いていると、同じく9と3/4番線ホームに向かっている集団を見つけた。ハリーとウィーズリー一家だ。

 

「ああ、めぐみんとゆんゆんか。久しぶり」

「おや、我らがイタズラ仲間のめぐみんじゃないか。ヘイ、夏休みはどうだった?と、そちらは初対面だな」

「おいフレッド、あの名乗りをやるチャンスじゃないか?」

「その通りだぜ兄弟」

 

 私が声をかけるとフレッドとジョージはこちらを振り向き、ゆんゆんを見てそう言いポーズを取り始めた。

 

「我らはフレッド&ジョージ」

「ウィーズリー家一この世界を楽しんでいるものにして」

「いずれ魔法界中を笑いで満たす者!」

「「よろしくな!」」

 

 その名乗りを見たゆんゆんはポカンとしていた。そして周りにいた人たちもポカンとしていた。

 

「え?なんで?なんでこの人たちが紅魔の名乗りを?」

「おうおう、混乱してるね」

「大成功だ」

 

 そんなゆんゆんを見て、フレッドとジョージはそう言い合ってハイタッチをした。そんな二人の頭に近くにいた女性が思いっ切りチョップを打ち込んだ。

 

「痛ッ!」

「何すんだ母さん」

「何をするはこちらのセリフです。全く大勢の前で大声を張り上げて、そちらの子なんて戸惑ってるじゃないの。ごめんなさいね、うちの子たちったら悪ガキで」

「え、えっとそんな、全然大丈夫です」

「あなた、うちのロンと同じ二年生よね。お名前は?」

「その、紅魔ゆんゆんと申します」

 

 どうやらその女性はフレッドたちのお母さんだったようで、二人を叱りつけた後にゆんゆんにそう声をかけた。そしてゆんゆんはしどろもどろになりながら答えていた。何というか、相変わらずですね。

 

「久しぶりだね、めぐみん。元気してた?」

「ええ、楽しい夏休みを満喫しましたよ。そちらはどうでしたか?」

「ま、元気ではあったかな」

「僕は今までで一番楽しい夏休みだったよ。何せ休みの後半はロンの家に泊まれたんだから」

「ほう、お泊まりですか」

 

 とりあえずゆんゆんは放っておいてハリーやロンと話していると、前を歩いていた大柄の男性が話しかけてきた。

 

「もしかして、君が紅魔めぐみんかい?」

「ええ、まあ。えっと、ロンのお父さんですよね。いつもロンを始めウィーズリー兄弟にはお世話になってます」

「おお、そうか。やっぱり君があのめぐみんか。ロンたちの父アーサーだ。君のことは息子たちから話は聞いているよ。成績が学年トップで、しかも『あの人』を前にして一歩も引かなかった『石』の死守の立役者なんだって?ハリーをヴォルデモートから逃がしたって聞いたよ」

 

 どうやらロンはけっこう深いところまで家族に話したらしい。ダンブルドア先生に口止めされてた気もするのだが、まあいい。そんなことを考えている間も、アーサーさんは言った。

 

「本当にすごい。私たち大人の中でもそんなことができるのはほんの僅かだというのに。ハリーは『石』を『あの人』から掠めた張本人だし、ハーマイオニーという子もとても優秀な子なんだろう?ロンも頑張らなくちゃな」

「分かってるよ。僕なりに頑張ってる」

「そうかそうか、期待してるぞ」

 

 それだけ言うと、アーサーさんはまた前を向いた。

 

「兄さんたちと比べられるだけでもウンザリなのに、同級生とも比べられるなんて。全く」

 

 そんなアーサーさんにロンは小さく悪態をついていた。

 

「あなたがめぐみんなのね!ロンの言った通りね、本当に小さい」

 

 そうしていると、後ろからそんな声が聞こえてきた。私はロンの首に手を伸ばした。

 

「ちょっとめぐみん、早いよ!まずは話し合おう、な?」

「そのセリフが出るということは自分が悪いことを自覚しているということです。さあ、表に出てもらおうか」

 

 私がそんなことを言ってロンに突っかかっていると、さっき私を小さいと言った女の子が慌てた様子で言ってきた。

 

「あの、気を悪くしたならごめんなさい。私が小さいっていうのは可愛いって意味で言っただけで、別に貶すつもりじゃなかったの」

「……年下にそう言われるのは少し複雑ですね。ですがありがとうございます。それと大丈夫ですよ、私がイラっときたのは私のことを小さいと伝えていたロンに対してだけなので」

「あら、そう。ならいいわ」

「よくないだろ!助けろよジニー!」

 

 どうやら女の子の名前はジニーと言うらしい。多分ロンの妹だろう。ウィーズリー家の特徴とも言える赤毛を長く伸ばした可愛らしい快活な子だ。将来はきっと美人になるだろう。

 

「あ、そうだ。私はジネブラ・ウィーズリー。ウィーズリー家の一番下の妹よ。みんなにはジニーって呼ばれてるわ。よろしくね」

「ジニーですか。こちらこそよろしくお願いします」

 

 私はロンを睨むのをやめ、ジニーにそう言った。するとジニーは私の後ろを見て「あっ!」と短く声を上げ、視線を下に逸らした。そんなジニーに何があったのかと後ろを振り向きてみると、そこには困った顔のハリーが立っていた。両者を交互に見ているうちに、私は悟った。

 

「ハリー。あなたも男の子ですから、そのような感情を抱くなとは言いません。でもさすがにその歳でいたいけな少女にセクハラはちょっと……」

「違うよ!何でそうなるのさ」

 

 私の言葉にハリーはそう言った。

 

「違うのですか?」

「あ、うん、えっと、その……」

 

 私がジニーにそう聞くと、ジニーはしどろもどろになりながら何とか答えようとした。しかしハリーの顔を見るとやはり視線を下に向け、何か意味を成すような言葉が彼女の口から出てくることはなかった。

 

「これはまさしく性犯罪を受けた女性の反応ですね。というわけでハリー、大人しく自首を」

「だから違うって!ロンも何か言ってくれよ」

「あー、うん。めぐみん、ハリーはジニーに何もしてないよ。ジニーはハリーに憧れててさ、シャイになってるだけなんだ。というかハリーが何かしてたら兄の僕が黙ってるわけないだろ」

「そうなんですか?」

 

 ロンの言葉に、私はジニーにそう問いかけた。するとジニーは顔を赤くしたまま黙ってうなずいた。

 

「なるほど、どうやら私の誤解だったようですね。失礼しました」

「本当に失礼だったからね」

 

 そんなこんなで、私たちは9と3/4番線の入り口に辿り着いた。

 

「じゃ、頑張ってこいよ」

「くれぐれも問題は起こさないように」

 

 それを確認すると、ロンのお父さんとお母さんはそう言って来た道を戻って行った。

 

「じゃ、行きますか。二年目のホグワーツ、未知と危険に満ち溢れた古城へ!」

「ちょっとめぐみん、そういう言い方しないでよ。ちょうど今年は何もありませんようにって思ってたところなのに」

「おっとゆんゆん、青春真っ只中の学生がそんなこと言っちゃあいけないぜ?」

「学生時代に危険を楽しんでおかなきゃ、楽しい人生は送れない。ゆんゆん、『危ない』を楽しめ!」

「フレッドさんにジョージさんまで……」

 

 そんなことを言いつつ、私たちは周りの一般人たちに不審に思われないようにしながらホームへの壁へと入っていった。

 

 

 

「ハリーたち、遅いわね。何をしてるのかしら。あなたたちは二人と一緒に来たのよね?」

「ええ。ホームの入り口の壁まで一緒に来たのですぐ来ると思ったのですが」

 

 ホグワーツ特急のコンパートメントの中。私はホームで合流したハーマイオニーにそう答えた。もう私たちがあの壁を通ってから5分が経っている。元々時間に余裕があったわけでもないし、出発はもうすぐなのにホームを見回せど一向に二人が来る気配はない。

 

「心配ですね。少し見てきましょうか」

 

 私がそう言ったところで、汽笛が鳴り響いた。そしてドアが閉まる音がして、汽車はロンとハリーを置いてゆっくりと走り出した。

 

「……来なかったわね」

「来ませんでしたね」

「え、どうするの?ホグワーツ特急って今日しか出てないんでしょ?」

「大丈夫よ。ハリーはフクロウのヘドウィグを持ってるし、先生に手紙を送れば迎えに来てくれると思うわ」

「それもそうね」

「それよりも今年起きそうなことでも話しましょう。私はヴォルデモートの過去がホグワーツに攻めてくるに一票を投じます」

「縁起でもないこと言わないでよ……」

「流石に去年の今年でないと思うけど」

 

 そんなことを話していると、今まで黙っていたジニーが言った。

 

「ねえねえ、ハリーって学校ではどんな感じなの?そ、その、やっぱりモテてたり?あとは、好きな人とかいるのかしら?」

 

 そう言ったジニーの頬は少し赤みがかっていた。これを聞くかどうか少し迷っていたようだ。

 

「うーん、そうね……少なくともハリーが誰かに惹かれてるとかは聞かないけど。でもハリーを狙ってる子はそれなりにいそうなのよね」

「ええ。実際に私と同室のパーバティもそんな一人ですし。去年度に実績も積みましたし、今年はもっと増えるんじゃないでしょうか」

「え?パーバティってそうだったの?」

「あの、ハーマイオニー、あなたがいる時もそんな話をしてたと思うのですが」

 

 ハーマイオニーはどれだけ人の恋バナに興味がないのだろうか。

 

「レイブンクローだとそこまでではないわね。それでもやっぱり人気はあるみたい。私、あんまり色んな人と話さないから詳しくは知らないけど。……知らないけど」

「だからなんであなたは自分から傷付きに行くんですか」

 

 私たちに続いて、ゆんゆんもそんなことを話した。私はイマイチピンと来ませんが、ハリーは魔法界の英雄らしいですからね。人気なのも当然でしょう。

 

「そうなの。実は私、ハリーの前だと上がっちゃってロクに話せないの。どうすればいいと思う?」

 

 私たちの言葉に、ジニーはそう言った。そしてそんなジニーにゆんゆんが分かる分かると頷いていた。いや、あなたのは少し違うと思うのですが。

 

「そうね、それなら……」

 

 そんなジニーに、恋愛経験はないはずのハーマイオニーがアドバイスをし始めた。それを真剣に聞くジニーとゆんゆん。そんな三人を眺めながら、私はホグワーツへと向かった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この新しい後輩たちに交流を!

 

 

 ハリーとロンが汽車に乗り遅れたこと以外には特に事件もなく、私たちはホグワーツに着いた。ジニーと別れハーマイオニーにゆんゆんと一緒に上級生たちの流れについて歩いて行こうとすると、一年生らしき女子生徒にローブを掴まれた。

 

「えっと、何ですか?」

 

 私が振り向きつつそう聞くと、その女の子は私に注意するように言ってきた。

 

「ダメですよ。一年生はこっちです。お姉さんたちについていきたい気持ちも分かりますが、新入生はボートから行く決まりなんです。ほら、行きますよ」

「え」

 

 そしてそう言うなり、私のローブを掴んだままゆんゆんたちとは反対方向の一年生のコースを歩き出した。

 

「え、ちょ、私二年生なのですが!あの二人は姉でも何でもなく友達で」

「あなたの体格で二年生なわけないでしょう。東洋人って小さいらしいですけど、そこまで極端ではないはずです」

「本当なのに!」

 

 悲しいことに一つ年下のはずのその子に力で普通に負けていた私は、その子に引っ張られる形でボートに向かって行った。そしてそんな私に気づくことなくゆんゆんとハーマイオニーは歩いて行った。遠くに、友達の作り難さで盛り上がる二人の声が聞こえていた。元ぼっちどもめ。そんな話題で盛り上がるんじゃないとか、その友達が下級生に連行されてるがいいのかとか、そんな事を考えながら私は湖に向かった。

 

 

 

「お?なんでお前さんがいるんだ?こっちは一年生専用だぞ」

 

 ボート乗り場に着くと、私のことを見つけたハグリッドがそう言ってきた。そんなハグリッドに、私を連れてきた子が言った。

 

「え?この子は一年生じゃ」

「何を言うとるんだ。この子は二年生だぞ。それも学年最優秀の一人だ。お前さんらだって新聞で写真くらい見たんじゃないか?何せ少し前大騒ぎになった『例のあの人』の事件解決の立役者だからな」

 

 ハグリッドのその言葉に、周囲がざわついた。ふふん、こういうのもけっこういい気分ですね。学校のみんなはこういうことしてくれないので少し新鮮です。

 

「ということは、あなたがめぐみんさんですか!?」

「ええ、まあ。あなたが体格の小ささから新入生だと判断した二年生のめぐみんです」

 

 そうしていると、女の子が驚きつつ聞いてきた。何でしょう。私の名前はもうそんなに有名になったのでしょうか。流石は私。

 

「姉から聞きました。何でもマグル生まれなのに『生き残った男の子』や名家の子息令嬢たちを抜いて学年トップだったそうで。魔法に関するセンスが抜群だと褒めていました」

「ああ、なるほど。そういうことでしたか。少し残念ですが、まあいいでしょう。それで姉というと誰ですか?」

「スリザリンのダフネ・グリーングラスです」

 

 私の問いにその子は答えた。なるほど、ダフネの妹でしたか。確かにあの子も妹がいるみたいなことを言ってましたね。

 

「ダフネですか。彼女、家ではそんなふうに私のことを言ってるんですね。てっきりマグル生まれのくせにできるやつ程度だと思っていました」

「いえ、そんなことはありません。姉はとてもめぐみんさんのことを気に入っているようで、ホグワーツの話をするときは大概あなたの話が出てくるくらいですよ。指摘すると否定されますけどね」

「ほう、そこまでですか」

 

 ダフネは分かりやすくツンデレだが、それは家でも健在なようだ。しかしいい話を聞いた。今度このネタでダフネをからかってやろう。そんなことを考えていると、ハグリッドが声をかけてきた。

 

「話が盛り上がってるところすまねえが、お前さんはどうするんだ?今から戻っても上級生たちには追いつけないだろうし、ボートで行くか?」

「そうするより他なさそうですね。まあ二年連続でボートに乗るなんてホグワーツの長い歴史でも稀でしょうし、それはそれでいいでしょう」

「そうか。そんならどれでも好きなのに乗っていけ」

「そうします」

 

 ボートで行くとホグワーツについてから先生や生徒たちに色々と言われるかもしれないが、後輩との縁を作るのも悪くない。

 

「すみません。私のせいで」

「いえ、体の小ささを度々言われたこと以外は特に何とも思っていませんから」

「すみませんでした」

 

 そんな私にダフネの妹が謝ってきたのでそう返すと、その子はもう一度謝ってきた。何も思ってないと言ってるのに。

 

「ちなみに次に小さいと言えば怒るのでそのつもりで」

「本当にすみませんでした。というか、その、気にしているのですか?女性なのですから体格は小さい方が可愛らしくていいと思うのですが」

「あなたもそう思うわよね。ほらめぐみん、やっぱり体のことなんて気にしなくていいと思うわよ」

 

 ボートに乗りつつダフネの妹の放った言葉に、そう言ってジニーが後ろから同じボートに入ってきた。

 

「別に体が小さいことで実害なんて起きてないんでしょ?」

「ちょうどさっき起こったところなんですが。というかジニー、後ろにいたんですね。声をかけてくれればよかったのに」

「会話に入るタイミングを見計らってたのよ。ロンの言う通りめぐみんの気が短いならちょっと避難しようと思って」

「私への認識に関してちょっと話があるのですが」

 

 私がそう言うのを無視して、ジニーはダフネの妹に向かって言った。

 

「私はジネブラ・ウィーズリー。ウィーズリー家の末っ子よ。みんなにはジニーって呼ばれてるわ。あなたは?」

「私はアステリア・グリーングラスです。アステリアと呼んでください。七年間同じ学び舎で過ごす者として、どうぞよろしくお願いします」

「よろしく。というかあなた、グリーングラスの人なのに私がウィーズリー家だって分かっても丁寧にしてくるなんて変わってるわね」

「よく言われます。マグルの存在を受け入れているだけで血を裏切る者扱いをする方がよっぽど変わってると思うんですけどね」

 

 そう言えばダフネも妹は生まれで差別をしないとか言っていた。ダフネも言うほど露骨ではないし、グリーングラス姉妹は綺麗に育ってるようだ。

 

「マグルと言えばめぐみんさん、姉がめぐみんさんのことをマグル生まれだと言うたびに母様や父様が微妙な顔をするのですが、何か心当たりはありますか?」

「そう言えば父さんもめぐみんにあんまり反応しなかったわね。マグルに関することならすぐに飛びつくのに」

 

 二人が話しているのを横で聞いていると、二人は私にそう聞いてきた。十中八九紅魔族のことを知ってるからだろう。紅魔族は魔法族でなかったとしても魔法のようなものを使える人もいる上に、魔法を使ったからといってそれカッコいいな以上の反応をする人もいない。そして先生方の反応を見る限りここで大人しくしてたわけでもなさそうだし、大人たちはそれなりに紅魔のことを知ってそんな反応をしてるようだ。

 

「私は生まれが紅魔族と言うのですが、その紅魔族は特別な集団であってマグルかと言われれば少し違う気もするのです。あなたたちの両親はそれを知っていたのでしょう」

「うーん、それだけであんな微妙な反応をするものでしょうか」

 

 微妙な表情をするということはおそらく紅魔族の誰か、世代的にはおそらくゆんゆんのお母さんあたりが何かやらかしたのだろうが、色々と面倒だから言わないでおこう。

 

「純血主義の人からすれば面倒な存在だからでしょう。それより二人とも、ホグワーツの予習は済ませましたか?魔法薬学のスネイプ先生は序盤から厳しいので魔法薬調合法をしっかりと読んでおくといいですよ」

「分かったわ」

「めぐみんさん、実は分からないところがあって姉に聞いたのですが姉も分からないところがあって。後で聞いてもいいですか?」

「ええ、いいですよ。ジニーもですが、じゃんじゃん頼ってくれていいですからね」

 

 そんなことを話しながら、私たちは湖上をホグワーツに向かって進んで行った。

 

 

 ホグワーツ城につき大きな木製の扉から中に入ると、去年と同じくマグゴナガル先生がそこに立っていた。ハグリッドから先導を引き継ぎ歩き始めようとしたところで、先生はギョッとした目で私のことを見つけた。

 

「紅魔。なぜあなたがここにいるのですか」

「他の一年生に一年生と間違えられて連れて来られました」

 

 私がそう言うとアステリアは申し訳なさそうな顔をし、マクゴナガル先生は口許をピクピクさせた。

 

「そうですか。なら先に行って席に着いてなさい。もう皆揃ってますから。一年生の皆さんは私に着いてきてください」

「分かりました。ではアステリアにジニー、また後で」

 

 私はそう言って、パーティー会場の大広間に向かった。大広間に入ると、先生の言った通りすでにほとんどの生徒が集まっていた。グリフィンドールの机に目を向けると、ハーマイオニーにパーバティ、ラベンダーが私を見つけて手招きしていた。

 

「二人とも、お久しぶりです。夏休みはどうでしたか?」

「いや私たちのことよりまずはあなたのことでしょ」

「めぐみん、なんで馬車に乗る前にどこか行ったの?というかなんでこんなに遅くなったの?」

 

 そんな三人のいるテーブルの席に着くと、パーバティにハーマイオニーからそんなことを言われた。

 

「色々とありましてね。それよりハリーたちはやはり来てないですか」

「色々って……まあいいわ。二人ならまだ来てないわよ。ホント、どうしたのかしらね。ま、まあ何でもいいのだけれど」

「パーバティ、そわそわしてるのバレバレだよ。でも二人は何して乗り遅れたんだろうね。『あの人』でも見かけたのかな」

「流石にそれはないでしょう。闇の帝王なんて名乗るくらいには役割というものを分かってるのですから、登場するとしてもラスボスらしく来るのは学期の最後になるはずです」

「めぐみんは『あの人』に何を期待してるの?」

 

 私が言うと、ハーマイオニーは呆れ顔でそう言ってきた。イケメンであることや黒いマントを羽織っていることなど色々と期待してることはあるのだが、それを言うともっと呆れられる気がしたから言うのはやめておいた。

 

「皆さん、静粛に。これより組分けの儀式を開始します」

 

 そうしているうちに広間の脇からマクゴナガル先生が現れ、組分け帽子がセットされた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この空飛ぶ自動車に登場を!


 だいぶ更新が遅くなってしまいました。すみません。ちょっと今受験勉強が佳境と言いますか、厳しい状況なので、今後もそう高頻度では投稿できなさそうです。ですがエタるつもりはないので、今後もよろしくお願いします。

 ではどうぞ。


 

 

 マクゴナガル先生が儀式の開始を宣言すると、広間全体がシーンと静まり返った。そして組分け帽子が軽く咳払いをして一曲歌い、組分けの儀式が始まった。

 

「グリーングラス・アステリア」

「スリザリン!」

 

 ほう、アステリアはスリザリンですか。あの気質ですしグリフィンドールやハッフルパフなんかもあり得るかと思っていましたが、血は争えませんね。

 

「クリービー・コリン」

「グリフィンドール!」

 

「ラブグッド・ルーナ」

「レイブンクロー!」

 

 そして儀式は着々と進んでいき、最後にジニーが呼ばれた。

 

「ジニー・ウィーズリー」

「グリフィンドール!」

 

 そして帽子はもはや考える必要すらないとばかりにジニーの頭に接した瞬間にそう叫んだ。

 

「おめでとうございます、ジニー。ようこそグリフィンドールへ!」

「歓迎するわ!」

「さすがウィーズリー家ね、これで本当に一家全員グリフィンドールじゃない」

「ありがとう、みんな。まあ分かってたことだけどね」

 

 組分け帽子の宣告にまっすぐこちらのテーブルに来たジニーはみんなに一通り祝われたあと、そう言いながらもホッとしたようだった。

 

「ねえねえめぐみん。さっき聞いたんだけどさ、ハリーとロン、車で空を飛んで来たらしいよ」

 

 校長の去年と同じような気の抜ける掛け声のあとパーティーのご馳走を貪り食っていると、近くにいたネビルがやって来て言った。

 

「ふぇ!?ふぁふぃれふかふぉれ」

「めぐみん、行儀悪いし何言ってるか分からないからちゃんと飲み込んでから話しなさい。それでネビル、今なんて?」

 

 そんなことを言うハーマイオニーと私にネビルはもう一度言った。

 

「だからハリーとロンが空飛ぶ車で学校に来て、今マクゴナガル先生と処分について話してるって」

「え!?今なんて!?」

「あぁ、もう!ハリーとロンが車で空を飛んで学校に来て、今先生と処分のお話し中らしいよ!」

 

 そして今度はパーバティに聞かれ、ネビルはキレ気味にもう一度言った。

 

「ねえネビル、ごめん、聞いてなかったんだけどロンがなんて?」

「君たちはなぜそんなにも人の話を聞かないの!?ハリーとロンが、空飛ぶ車で登校して、今処分について話し合い中!」

 

 一息ついて私たちの机の席に座ろうとしたネビルだったが、ラベンダーにそう聞かれてキレる寸前といった感じで言った。

 

「ふぅ。しかしネビル、それって本当なんですか?」

「さあ?ただ、結構な数の人がそう噂してたよ。なんでも暴れ柳に衝突したって」

 

 私がそう聞くと、ネビルは少し疲れた様子で答えた。暴れ柳といえば、校庭にある近づくととんでもない力で吹き飛ばされることで有名な古木だ。あそこに突っ込んだとか、二人はバカなんでしょうか。

 

「全く、二人は何を考えてるのかしら。退学になったらとか考えなかったっていうの?」

「まあまあハーマイオニー、いいじゃないの。男の子はそんなもんだってうちの母さんも言ってたわ」

「ハリーのことだからって寛容にならないで欲しいんだけど」

「な、何のことかしら。というか何であなたが知ってるの?いつも聞いてなさそうだったのに」

 

 そんなことを考えてる横で、ハーマイオニーとパーバティがそんな話をしていた。すみませんパーバティ、私がバラしました。

 

「しかし二人もバカですよね。せっかく車で来たのに木にぶつかって終わりだなんて。どうせなら窓ガラスを突き破ってここに直接来ればよかったのに」

「めぐみん、あなたの方が100倍バカだと思うわ」

「あ、ジニー。聞いてたんですね」

 

 私の呟きに、ネビルと話していたジニーが呆れ顔で言ってきた。そしてその隣でネビルやラベンダーも私を見て苦笑いしていた。

 

「何ですか三人とも。いいですか、人生目立ってなんぼだという格言が私の里にはありましてね」

「グリフィンドール生は付いてきて!遅れたら今夜は寮に入れなくなるかもしれないから、気をつけて!」

 

 私がそんな三人に人生の何たるかを教授しようとすると、パーシーの声が聞こえてきた。どうやらパーティーはもうお開きらしい。

 

「めぐみん、君が目立ちたがりなのは知ってるから早く行こうよ。ハリーたちも話を終えて寮に向かってる頃だろうし」

「無事ならの話だけどね」

「ジニー、縁起でもないことは言うものじゃないよ」

 

 本当はかっこよくすることの素晴らしさを話すことから始めて紅魔に伝わる秘伝のポーズ100連発をしたかったのだが仕方ない。ハリーたちに噂が本当か聞く方が先決だ。そう思い、私たちはグリフィンドール生の集団に入っていった。

 

 

 

「ハリー、ロン、あなたたちはどうして空飛ぶ車で登校するなんてことしたの?バカなの?バカなのね?」

「ハーマイオニー、怖い。怖いよ。そんなに顔を近づけないでくれ」

 

 パーシーの後を付いていった先の寮の入り口でハリーもロンの二人を見つけるなり、ハーマイオニーはツカツカと二人に歩み寄って言った。

 

「そうですよ、なんで私に言ってくれなかったんですか。最高にクールな登校方法を考えていたなら私にも声くらいかけてくださいよ。私に言ってくれれば花火や号砲等の魔法くらい用意して」

「めぐみん、ちょっと黙ってて」

 

 私もハーマイオニーに続こうとしたが、ハーマイオニーに止められてしまった。なぜだ。ちゃんと次からは私にも計画を話すよう説得しようとしたと言うのに。

 

「それで、処分はどうだったの?停学?退学?逮捕?」

「罰則で済んだよ。それより君、もしかして怒ってる?」

「ええ、もちろん怒ってます。なぜこの私を誘わなかったのかじっくり」

「めぐみん、黙っててって言ったわよね?」

 

 ……………………。

 

「パーバティ、ハーマイオニーがいじめてきます」

「なぜそれを私に言ったの?言っておくけど、今のは誰がどう見てもあなたが悪いわよ」

 

 ハーマイオニーの冷たい言葉にパーバティに泣きつくも、パーバティにもそうあしらわれてしまった。私は悲しい。そんな私を見かねてか、ラベンダーがハーマイオニーに言った。

 

「まあまあ、ハーマイオニーもそれくらいにしときなよ。怒るとシワ増えちゃうよ」

「まだ私はそんな歳じゃありません!私が怒ってるのはあなたたちが別にいいじゃんみたいな態度だからよ。魔法界では犯罪ですらあるのに、あなたたちはどうしてそんなに反応が軽いの」

 

 ラベンダーの言葉に、ハーマイオニーはため息をつきながらそう言った。ハーマイオニーはもう少し規則を守ることに対して丸くなってもいいと思う。この調子だと、歩行者の信号無視すら危険な重犯罪だとか言い出しそうだ。

 

「とにかく、次からはこんなことしないでよね」

 

 私がそんなことを考えていると、ハーマイオニーはそう言い捨ててスタスタと寮の方へ歩いて行ってしまった。それを見て、私たちも立ち止まってないでそろそろ寮へ行こうとなった。

 

 

「それで結局、なんで空を飛んで登校なんていう快挙を成し遂げようとしたんですか?あなたたちはそういうことを無理にやろうとする人じゃないと思うんですが」

「実はさ、なぜか僕のカートが9と3/4番線の入口の壁を通らなくて、特急に間に合わなかったんだ。それでどうしようかって考えて、咄嗟にアーサーおじさんの空飛ぶ車のことを思い出したんだ」

 

 寮に着き、先に部屋に戻ったパーバティにラベンダーと別れて談話室に残った私は二人にそう聞いた。すると、ハリーからそんな答えが返ってきた。なるほど。

 

「ちなみに、ヘドウィグで先生方に連絡して迎えにきてもらうことは考えなかったんですか?」

「さっきマクゴナガル先生にも同じこと言われたよ。焦ってて思いつかなかったんだ。分かるだろ?僕は君たちほど頭良くないんだ」

 

 まあ突然ホームに出られなくなって、その解決手段があるって分かったらすぐに飛びついてしまうのも分からなくはない。頭は全く関係なさそうだが。

 

 ……もしかすると、ロンは兄弟が多くて親に何かを解決してもらったことが少なかったから、ハリーは育ての親があまりにあんまりだったから、緊急時に誰かを頼るという発想が出なかったのかもしれない。そう考えると、今回のも仕方ないのかもなと思った。

 

「君のその哀れむような目は何?すごい腹立つからやめてくれない?」

「はあ?無理やり納得してあげたのに何ですかその言い草は。ぶっ飛ばしますよ」

「ぶっ飛ばすまでの過程が理不尽すぎる……」

 

 せっかく脳内で無理のある理論を展開してお茶を濁してあげたというのに、ロンったら全く。

 

「まあいいです。しかし壁を通れなくなったのは気になりますね。二人とも、何か心当たりはありませんか?この夏休みにあった何か変わったこととか」

 

 私がそう言うと、またもやハリーが言ってきた。

 

「今回のとは関係ないと思うんだけど、実はこの夏、僕の家に屋敷しもべ妖精のドビーって言うのが来たんだ」

「え?確か君の家ってマグルの家じゃなかった?」

「うん。だから他の家の。なんか無断で抜け出してたみたいで、早く帰らなきゃお仕置きされるとか言ってた」

 

 ほほう。なるほどなるほど。

 

「分かりました。それで、そのドビーとやらはなぜあなたのところに?」

 

 そのままハリーに話の続きを促すと、ハリーは言った。

 

「えーっと、確かね……そうそう、僕にホグワーツに来ないように言いに来てたんだったかな」

「あなたはバカですか」

 

 何が今回のと関係なさそうですか。バリバリありそうじゃないですか。

 

「めぐみん。僕は確かに君ほど成績は良くないけど、君だってその成績の分頭がおかしいじゃないか」

「その認識については後でじっくり聞きたいと思いますが、今はスルーしてあげましょう。あのですねハリー、あなたはなぜかホームにたどり着けずにホグワーツ特急に乗れなかったんですよ?これがあなたにホグワーツに来て欲しくない者の仕業でなくてなんなんですか」

「あ、なるほど。めぐみんはやっぱり頭いいね」

 

 今回のことはどっちかと言えばハリーが気付かなすぎなような気がしますが、まあいいでしょう。それより今後に関してです。

 

「ハリー、あなたをホグワーツから遠ざけたということは、今年もホグワーツで何か起こる可能性があるということです」

「?どういうこと?」

「よく分からないや。説明してくれないかい?」

「いや、あの、できればノータイムで聞かないで少しは理解に努めてほしいのですが」

 

 私の言葉にすぐそう聞いてくるハリーにロン。そんな二人に私はそう言った。二人だって今年で十二歳。日本ならそろそろ電車が大人料金になる歳ですからね。つまり実質成人手前。自分で考えるということくらい、そろそろできないと。

 

「まあいいんですけどね、何でも。ホグワーツで何かあるって言ったのは、ハリーをホグワーツから遠ざける理由がそれくらいしかないからです。生徒のイタズラにしては精度が高すぎますから、ドラコみたいなのではないでしょう。教師たちは除外。となれば、外部の何者かがあなたを疎んで遠ざけたのでしょう。外部の何者かがここでやることなんてたかが知れてます。つまり去年の『石』イベントの再来です!今年は何が起こるんでしょう!楽しみですね!」

「やっぱりめぐみんはめぐみんだったな」

「うん、途中まで頭が良い人の話を聞いてるみたいで衝撃だったけど、最後にめぐみんに戻ってよかった」

「ぶっ飛ばしますよ」

 

 その日は結局、何かあったら私たちに伝えるようハリーに言って別れた。さて、今年は何があるんでしょう。やはりホグワーツというのはいいですね。退屈しません。

 

 そんなことを考えながら、私は寮の自室へと向かった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

このいけすかない寮生に殴り合いを!

「ハァ……」

「めぐみんさん、どうされたのですか?随分と大きなため息を吐いたりして」

 

 始業式から一週間後の朝、私はアステリアに呼ばれて図書館で一緒に勉強をしていた。何でも、呪文学で分からないことがあったから教えてほしいとのこと。入学からまだ一週間だと言うのに、勉強熱心な後輩だ。

 

「いえ、別に何かあったわけではないのですけどね。いい加減、闇の魔術に対抗する防衛術の授業は何とかならないものかなと思ってしまって」

「ああ、なるほど」

 

 そんな後輩に、私は最近の悩みを打ち明けた。闇の魔術に対抗する防衛術というのは、名前の通り闇の魔術対策のための授業だ。去年受け持っていたクィレルがいなくなったため新任のギルデロイ・ロックハートという人物に私たちは教わっているわけだが……。

 

「あの人、ホグワーツが学校だってことを知らないんでしょうかね」

「確かに、あれを授業だとは思いたくないですね」

 

 何というか、ナルシストが過ぎる。私が聞きたいのはトロールの倒し方で、先生がどう美女を口説いたかはどうでもいいのに。

 

「生徒にもファンが多いせいで授業が肯定されてるってのも、また性質(たち)が悪いですよね。あ、そう言えばアステリアはあの人を見て何も思わないのですか?女子生徒の四割ほど……特に魔法界出身の人はあの先生のファンみたいなものだった気がするのですが」

「確かにイケメンな方だなとは思いますが、格と言いますか、雰囲気が軽薄ですから。ドラコ様には遠く及びませんよ。めぐみんさんもそう思いますよね」

「え、その振り方で私に振るんですか?前半は同意しますが、後半はちょっと……」

 

 というかドラコもけっこう雰囲気のない人間というか、小悪党臭がプンプンする人だと思うんですが。

 

「そうですか?めぐみんさんの感性は変わっていらっしゃるんですね」

「よく言われますが、これに関しては絶対に変わってるのはあなたの方ですからね」

 

 素で失礼なことを言ってくるアステリアに、私は言い返した。

 そう、今の会話から分かる通りアステリアは何とあのドラコ・マルフォイにお熱なのだ。どんな業を前世で積めばそうなるのか。見当もつかない。それ以外に関しては文句なしの清楚な深層の令嬢といった感じなだけに、余計にそう感じてしまうというか。

 

「まあでも、めぐみんさんがドラコ様の良さに気づいてなくてよかったです。もしライバルになってしまったら、なかなかの強敵でしたから」

「変な想像しないでください。怖気がします」

 

 考えただけでおぞましい。

 

「アハハ……それより、めぐみんさんはどうなんですか?ロックハート先生、見た目だけならかっこいいと思うんですけど」

 

 そうしていると、アステリアはそう聞き返してきた。アステリア、あなた何気にズバズバ言いますね。

 

「私のタイプは甲斐性のあるお金持ちで浮気もせず、常に上を目指して日々努力を怠らない誠実で真面目な人ですから。あんなの論外です」

「うわぁ……何というか、酷いです。コイバナしちゃいけないタイプの人間なんですね、めぐみんさん」

 

 なぜ私のタイプを聞いた人の反応は揃いも揃ってこうなのだろうか。

 

「そうでなくてもあんなの嫌ですよ。授業中にため息をついたら、『どうしたんだい?ああ、分かった。私に見惚れてしまったんだね?ほら、サインを上げるからこれで我慢しなさい』ですよ?どれだけタイプに合致してても引きます」

「あー、それは災難でしたね」

 

 なぜあれをハーマイオニーが羨ましがってきたのか、全くもって訳が分からない。

 

「そういえばめぐみんさん、そろそろ時間じゃないですか?」

 

 そんなことを話していると、アステリアは不意に時計を見てそう言ってきた。

 

「あ、本当ですね。ありがとうございます。ではとりあえず、今日はこれくらいで」

「ええ、ありがとうございました」

 

 私はアステリアにそう言って、図書館を出た。

 

 

 

 

 二年生になって、いくつかの変化が起きた。例えば、一部教師陣の入れ替わりだったり。あるいは、授業自体の難易度だったり。ただし、私に限って言えばもっと大きな変化があった。それは──

 

「新メンバーを紹介しよう。二年生の紅魔めぐみんだ!」

「紅魔めぐみんです。じゃんじゃん点を決めていくつもりなので、よろしくお願いします」

 

 ──クィデッチの新チームに入ることになったことだ。

 

「去年卒業したアーノルドの穴埋めを探していたところ、ハリーが推薦してくれた。二年生の中でも特に優秀な飛行術を持っており、勝負度胸や負けん気も十分とのことだ。期待してるぞ、めぐみん」

「フッフッフ、任せてください。紅魔族の力を見せてあげましょう」

「よろしくね、めぐみん。私はアンジェリーナよ」

「知っての通りフレッドと」

「ジョージだ」

「ケイティ・ベル、ケイティでいいわ」

 

 胸を張る私に、そう声を掛けてくる新しき仲間たち。スニッチ点が高すぎるためクィディッチに対してはあまりやる気にはならなかったのですが、聞くところによればチェイサーが160点差をつけて勝ちにつなげた試合もあるそうで。ならば私がと、グリフィンドールがキャプテン、オリバー・ウッドの打診に返事をしたのです。

 

「ふふん、私が入った以上、このチームの優勝は運命付けられたようなものです。みんな、張り切っていきましょう!」

「「「おー!!!」」」

「俺の仕事……まあいい、ミーティングにするから場所を移すぞ」

 

 そう言うオリバーに連れられ、私たちは更衣室へと向かった。

 

 

 

「ハリー、オリバーの演説っていつもあんなに長いのですか?」

 

 それから一時間後、私たちはようやく練習を始めようとしていた。眠い。眠すぎる。朝の一時間を、ウッドがミーティングという名の演説に費やすなんて。絶対に素直に練習した方が良かったと思う。みんな半分寝てたし。というか私も寝てたし。

 

「ここまでじゃないけど、いつもそれなりに長いよ」

「マジですか。分かってるなら先に言っておいて欲しかったです」

「ごめんごめん」

 

 競技場への道すがらハリーとそんな話をしていると、前の方から言い争っている声が聞こえてきた。小走りになりながら向かうと、そこにはなぜかスリザリンチームがいた。

 

「フレッド、どうして彼らがここにいるんですか?」

「さあ?今それを聞いてるところさ」

 

 その言葉にオリバーの方を向くと、丁度オリバーがスリザリンのキャプテンのフリントに向かって抗議をしているところだった。

 

「この競技場を予約してるのは僕で、今朝は我々の練習時間だ。そのために特別に早起きしたんだ!今すぐ立ち去ってもらおう!」

 

 特別に早起きして出来た時間を演説で潰した本人が何を言う。

 

 その後眠らないようにしつつ話を聞いていると、どうやらスリザリンの新シーカーの練習のためにスネイプ先生が特別にサインしてくれたことを根拠にスリザリンはここにいるようだ。管理体制ガバガバじゃないですかホグワーツ。スネイプ先生は予約の意味を理解してるのでしょうか。

 

「新しいシーカー?」

 

 しかしオリバーの、というかみんなの注意はそっちに傾いていたようで、オリバーは訝しむようにそう言った。そしてそれに応えるように、全体的に体格の大きいスリザリンチームのメンバーの後ろから、ドラコが得意げに出てきた。

 

「おっとこれはこれは」

「フォイフォイ卿のご子息ではありませんか」

 

 そんなドラコの登場に、フレッドとジョージは嫌悪感とからかいが同居するという大変器用な表情でそう言った。無駄な才能を見せないでほしい。

 

「我が家を侮辱するなよ、血を裏切る者(ウィーズリー)が」

 

 すごいブーメラン。本当に何でアステリアはこんなのを……まあ今はいいか。

 

「まあまあ、そうカッカするな。それより、その方がスリザリンチームに下さったありがたい贈り物を見せてやろうじゃないか」

 

 そう思っていると、フリントの言葉を合図にスリザリンチームの七人全員が揃って自分の箒を突き出した。どうやら新品らしきピカピカに光っているその柄には、金の文字で『ニンバス2001』と書いてあった。

 

「最新型だ。先月出たばかりさ」

 

 そこからしばらくは、自慢の嵐だった。どうやら相当いい箒らしく、旧型の2000に対して大きく水をあけるだの、クリーンスイープなんかでは勝負にもならなかっただの言っていた。ふーん、と空の雲を眺めながら聞いていると、ロンとハーマイオニーが何事かと様子を見るためか競技場の中に入ってきた。

 

「どうしたの?なんで練習しないのよ。というか、なんでマルフォイがこんな所にいるの?」

「スリザリンの新シーカーらしいですよ。グリフィンドールが予約していたのに、新シーカーの養成を理由にスネイプ先生がスリザリンにも許可を出してしまって、今それで揉めているところです」

「またスネイプかよ」

「困った先生ですよね」

 

 スリザリンチームと睨み合っているグリフィンドールチーム六人をよそにロンたち二人と話していると、マルフォイがニヤニヤしながらこっちにやって来た。

 

「僕の父上がチーム全員に買ってくださって箒を、みんなで賞賛していたところさ。ほら、これだよ。君らにも良さがわかるだろう?ま、君らの収入じゃ、人生をもう一回やっても買えないだろうけどね」

 

 こちらに、というより主にロンに向かってそう言うドラコ。よほど箒が嬉しかったのか、言葉の端々からウキウキしているのが見て取れる。自慢したいお年頃なんでしょうね。

 

「とまあ、親からの贈り物をドラコが無邪気に喜んでいるのを見てみんなでほっこりしていたところです」

「マルフォイ、本当なのか?」

「そうなの?」

「違うに決まってるだろうが!変な嘘をつくな紅魔ァ!というかお前、僕でほっこりしてたのか!?」

「ええ、少し。純真なところもあるんだなと思ってました」

 

 私がそう言うとドラコはぐぬぬと唸り、ハーマイオニーとロンは「絶対に違うわよね……」「うん、めぐみんの頭のおかしさが再認識できたな」とヒソヒソ声で言い合っていた。ロンは後でお仕置きすることにしましょう。

 

 そうしていると、ドラコは私に向かって言ってきた。

 

「というかお前!僕たちがニンバス2001を持っているのを見て何か思わないのか!」

「いえ、別に。というより、自慢できるのが装備だけだなんて可哀想だなと思ってました」

「お前は僕をバカにしてるのか!?」

「ふあ〜。いえ、特にそんな意図はないのですが」

「あるだろ絶対!今のあくび、確実に僕をバカにするためのものじゃないか!」

 

 勉強してから来たクィディッチ練習でバカみたいに長い演説を聞いて眠たいだけなのに。というか眠気のせいでさっきからテンションが低い。

 

「すみません、ちょっと眠いので叫ぶのはやめてもらえませんか?頭に響くんですよ」

「お前はどこまで僕を舐め腐れば気が済むんだ!このッ……この、生まれそこないの穢れた血が!」

 

 ドラコがそう言った瞬間、その場が静まり返った。そして次の瞬間、轟々と声が上がった。主にグリフィンドールチームがマルフォイに飛びかかろうとし、そしてスリザリンチームがそれを止めようとする声だった。

 

「今度こそ許さない!」

 

 ロンはそう叫び、杖を取り出してドラコに向けた。収拾がつかなくなると感じた私は杖を出し、誰よりも早く魔法を発動させた。

 

フラッシュ!

 

 私がそう叫ぶと、上空で大きな光と音を出す閃光が弾けた。驚いてみんなの動きが止まったのを見て、私は言った。

 

「グリフィンドールのみなさん、私は今の全然気にしてないんでそんなに怒らなくても大丈夫です。というかうるさいだけです。もうスリザリンなんて放っておいて練習に行きませんか?そろそろ本格的に寝ちゃいそうなんですが」

「お、おう」

 

 私がそう言うと、オリバーは拍子抜けと言った様子で答えた。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!今の言葉に腹も立てないなんておかしいだろ!少しは反応しろよ!」

 

 そんな私に、それまで言ってやったとドヤ顔だったドラコはそんなことを言ってきた。

 

「いやあの、忘れたんですか?私、初めて会った時もそれを言われて喜んでるんですよ?今日はあまり元気がないのではしゃぎませんが、少なくともダメージにはなりませんよ」

「ああ、そうだった……クソッ、どうすればいいんだ!このバカ!アホ!えーっと、穢れた血はダメなんだろ……この、バカが!」

 

 ふっ、勝った。そもそも私、紅魔族というマグルというにはちょっと普通じゃない一族ですしね。恐らく穢れた血という蔑称は当てはまらないでしょう。というかドラコの語彙力はどうなってるんでしょうか。

 

 眠いながらも勝利を確信しながら釈然としない様子のグリフィンドールチームと場所を移動していると、ドラコがふと思いついたように言ってきた。

 

「あー、このチビ!」

 

 なるほど。

 

 ピクリと止まる私に、何事かと顔を覗き込んでくるチームの面々。そんなみんなに、私はカッと顔を上げて叫んだ。

 

「みなさん、戦争です!憎っくきスリザリンをやっつけましょう!誰がチビですかこの薄ら金髪が!」

「「「よっしゃ来た!!!」」」

 

 チビの言葉一つで眠気が覚めてドラコに殴りかかった私をきっかけに、結局その場は殴り合いの乱闘となり、それは先生たちが止めに来るまで続いた。感想ですか?肉体言語が意外と楽しかったです。

 

 

 




 出てきたアーノルドというのは、めぐみんにクィディッチさせるためのオリジナルです。他に意味はありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

このマルフォイなおっさんに対面を!

 

「全く、なぜ私が玄関掃除なんてものをしなきゃならないんですか。煽ってきたのはドラコだというのに」

 

 クィディッチの球場での殴り合いから二日後、私はその副産物としてマクゴナガル先生から言い渡された玄関掃除をしていた。

 

 ちなみにドラコは無罪放免。納得がいかなかった私は、ドラコのカバンの中に森で見つけたGを入れておいた。

 

 授業中に見つけて慌てふためく姿が面白かったです。

 

 しかし面倒ですね。なぜホグワーツには掃除機がないのでしょうか。まあこの場所では電化製品が壊れてしまうわけですが。何と不便な。電化製品を受け入れないとかどこの未開部族ですか。動く写真はあるのに。

 

 まあ愚痴っていても仕方ありませんし、この広い玄関の掃除、少しくらい魔法の練習に使ってみましょうか。校内ですから別に怒られたりはしないでしょうし、

 

「というわけで早速やっていきましょう。まずはそうですね……ウィンガーディアム、レヴィオーサ!

 

 杖を振り、箒を宙に浮かべる。さて、次はどうしましょうか。物を自在に動かす魔法、私はまだ知らないんですよね。図書館で探しても木とか体とか限定的なものだけを、しかも少しの間だけ動かせるものしかありませんでしたし。

 

「なのでここは自作で行きましょう……箒に宿りし精霊よ、今こそ我が呼び声に応えん!モビライズ!」

 

 私がそう言って杖を振ると、箒は動き始めた。

 

 そしてサッと一回だけ床を掃き、止まった。

 

 …………………………。

 

モビライズ!

 

 サッ。

 

モビライズ!

 

 サッ。

 

 ………………………………。

 

モビライズ!モビライズ!モビライズ!モビライズ

 

 サッサッサッサッ。

 

 ……………………………………………………。

 

「ふふふ、そうですかそうですか。さては箒あなた、私のことをおちょくってますね?いいでしょう。その身体、私が自由を奪ってあげます!」

 

 この私が!天才たるこのめぐみんが!本気を出してあげましょう!

 

 魔力を使って一掃きしかしない箒に、私は持ってきた本を開いて呪文の作り方のヒントを探った。なぜかムキになってしまっているが、よく考えてみれば私はいずれ爆裂魔法を作る身。簡単にうまく呪文を作れない経験をしておいても悪くはないでしょう。

 

 そんなことを考えながら、私は試行錯誤を繰り返した。

 

 

 

 

「ふふ……ふふふ、ようやく、ようやく完成しました!」

 

 あれから三時間ほど。私は一回の呪文で箒を自由に操作するための魔法の開発に勤しんでいた。いや、正確には一時間ほどである程度は完成していたのだが、より完璧をと玄関ホールを無駄なく・隈なく掃除するルートを箒に覚えこませるのに時間がかかってしまったのだ。

 

 正直やりすぎ感は否めない。が、別に不都合もない。魔法訓練ですし、むしろいいことでしょう。

 

「今度こそうまくいってくださいよ?──ネオ・モビライズドルート!

 

 そうして、私は作り上げた呪文を唱えた。

 

 私の魔法を受けて浮かび上がり、ホールの隅へと行く箒。そしてその箒は丁寧かつサクサクとホールの掃除を進めて行く。

 

「……だからドラコ、私は理事の仕事でここに来ているだけだと言っているだろう。お前は私をただの口喧嘩の手札として使うのかね?」

「い、いえ、決してそのようなことは。しかし父上、あいつは僕だけでなくマルフォイ家までもバカにするような言動をしてくるんです!僕も色々と努力したのですが、奴の頭のおかしさゆえに効果も少なく……奴はマグルのようで、我が家のことも知らないから言えるのでしょう。なのでここは一つ、父上にマルフォイ家の凄さを教え込んでいただきたいのです」

 

 そうしていると、ドアの外からドラコと誰かが話しているのが聞こえてきた。どうやら父親らしい。

 

 段々と声が近づいてきてますし、多分ここを通るのでしょう。もうカツンカツンと響く足音も聞こえてきてますし。ドラコのお父さんと言えば何やらすごい人のようですし、一目見るのもいいかもしれませんが……。

 

 まあ関係ありませんね。今は新魔法の方が重要です。

 

 特に支障なく進んで行く箒。何と効率よく素晴らしいルートを進むのでしょう。やはり私は天才ですね。

 

「なるほど。まあ調子に乗っている者に立場を分からせるのも我が家の務めか。それで、その不届き者の名前はなんと言う」

「紅魔めぐみんです。あ、ほらちょうどすぐそこにいるやつです」

「……紅魔だと?」

 

 そして最後の数メートルを進み切り、私の箒は無事に掃除を終えた。やりました!さすが私、天才!

 

 私がガッツポーズを決めたちょうどその時、ドラコとドラコ父が扉を入ってきた。

 

「はっ、昨日ぶりだな紅魔!箒でホール掃除のなんて、本当に惨めな奴だな。今から父上が我が家の格というもの、魔法界でのあるべき姿勢というものを教え込んでやるからありがたく思えよ!……紅魔?なぜ満面の笑みなんだ?」

「たった今素晴らしいことがありまして。というわけでほら、イェーイ!」

「は?いぇ、イェーイ?」

 

 戸惑うドラコを勢いで押し通し、ハイタッチを交わす私。ええ、ええ、やはり喜びとは分かち合うものですね。

 

 そんなことを思いながらドラコ父の方に目をやると、ドラコ父の顔はなぜか強張っていた。

 

 ふむ、大物にしては余裕がないですね。ここは一つ自己紹介でもしてリラックスさせてあげましょうか。

 

「我が名はめぐみん!紅魔家随一の天才魔法使いにして、いずれ爆裂魔法を習得するもの!あなたはドラコのお父さんですね?魔法界でのあるべき姿を教えるとのことですが、どんなのです?かっこいいしきたりでもあるのですか?」

 

 おかしい。もっと強張った気がする。

 

「……はっ!クソっ、紅魔お前、僕に何をさせるんだ!まあいい、これから僕の父上が特別にお前に礼儀というものを教え込んでやる!感謝しろよ!」

 

 そんなドラコ父の顔を見ず、ドヤ顔でそう言うドラコ。そしてそんなドラコに、ドラコ父は言った。

 

「あー、ドラコ。ちょっといいか」

「何ですか、父上?」

 

 呼ばれて振り返るドラコに、ドラコ父は言った。

 

「父上、用事思い出したから帰るな」

 

 そう言ったドラコ父は、颯爽とターンして出口の扉へと向かっていった。

 

「え?ちょっと父上!?調子に乗ってる者に礼儀を教えるのもマルフォイ家の仕事ではなかったのですか!?」

「うるさい!ローブの袖を掴むんじゃないドラコ!私はもう紅魔族とは関わらないと決めたのだ!ああ、せっかく奴らはホグワーツ以外でイギリスには来ないのに、なぜ私はホグワーツの理事なんぞをやっているのだ。自分の有能さが今だけは恨めしい……とにかく!私は!帰る!」

 

 ローブに半分しがみついて止めようとするドラコに、何やら喚きながら外へ出ようとするドラコ父。何でしょう、紅魔族にトラウマみたいなものがあったりするのでしょうか。学生時代に私たちの上の世代が何かしたんでしょう。

 

「父上……おい紅魔、お前父上に何をした!父上のこんな情けない姿、僕は見たことがないぞ。お前がいつもみたいに何かしたんだろう!」

「ドラコ、今情けないとか言ったか?」

「言ってません」

 

 言ってたし十分情けないと思う。

 

 そんなことを思う私をよそに、親子の言い合いは続く。

 

「それに父上、紅魔族とは何ですか!こいつはマグルですよ!」

「違うのだドラコ。お前は知らないだろうが、あの見るからに頭がおかしそうなのは紅魔族と言ってな、極東は日本のある場所に住まうトンチキ集団の一員なのだ。純粋な魔法族ではないが、マグルでもない」

「そんな、魔法族名鑑にはどこにもそんな変なのはなかったはずです」

 

 どうしましょう、すごい殴り飛ばしたいです。まあ今日の私は機嫌がいいので許しますけど。それに一応、私も魔法界における紅魔族の位置については知りたいですしね。

 

「見たら分かるだろう?紅魔はキワモノとかいうレベルではない頭のおかしな連中の巣窟だ。そんなものを本に載せられると思うか?」

「確かに、この紅魔を見ればそれも納得してしまいそうですが」

 

 ……やっぱり、話が終わったら一発くらいはお見舞いしてもいいんじゃないでしょうか。うん、それがいいですね。そうしましょう。

 

「まあ聞け。ドラコ、接したお前なら分かるだろうが、紅魔族とは常にああなのだ。そしてあまりにもああなものだから、魔法界の中ではなかったことにしようという動きもあってな。名鑑には紅魔族は載っていないのだ。ゆえに当時の私もお前のような反応をしていたし、当時の我が父も今の私のような反応をしていた。時代は巡るものだな……」

「父上……」

 

 そんなことを内心で考えている私をよそに、遠くを見るような目をする親子二人。経緯は腹立たしいが、結果だけ見れば私たちは「失われし種族」「存在しないはずの恐怖」みたいなふうにも言えるはずです。

 

 カッコいい……

 

 結果オーライ。許しましょう。

 

「というかあんなふざけた種族、口で言っても信じはしまい。実際、自分の目で見て確かめることが魔法界では推奨されているのだよ。まあそんな機会、ない方がいいに決まってるが」

「確かにそうですね。僕も信じてなかったと思います」

「そうだろうな。というわけで私は帰る」

 

 ドラコがそう言ったところで、ドラコ父は大きくため息をついた。そして今度こそドラコに邪魔されずに扉の方へと歩いて行き、しかし数歩と行かないところで立ち止まった。

 

「ああしかし、そうだな」

 

 そしてこちらを振り返り、何とも不気味な笑みを浮かべて言った。

 

「めぐみんと言ったか。考えもしなかったが、お前がここにいることは、ともすれば奴への意趣返しになるのかもしれんな」

 

 それだけ残し、ドラコ父は今度こそその場を立ち去った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この騒がしいハロウィンパーティーに騒乱の幕開けを!

 少し長めかも。


 

 十月の終わり。冬の寒さが近づいてきたこのホグワーツでは、去年と同様に開催されたハロウィンパーティーの会場で、私は飲んでは食い、大騒ぎをしていた。

 

「だから言ってるじゃないですか!ヴォルデモートは私が討ち果たすべきラスボスなんです。予言しましょう!ヴォルデモートは、私が最上級生の時にホグワーツに攻め込んでくる!」

「ちょっとめぐみん、何をトチ狂ってるの?」

「そんなわけないじゃない。妄想もいい加減にしたほうがいいわよ」

 

 私の言葉を呆れながら否定してくるパーバティとラベンダー。全く、分かってませんね。紅魔族の人生とはすなわち物語。ゆえにラスボスが存在するものです。何なら一年刻みでヴォルデモート絡みの事件でも起こるんじゃないでしょうか。

 

「いや実際、未来なんて何が起こるか分からないじゃないですか。なら何を期待したっていいでしょう?」

「それでめぐみんは何で悪いことを想像するのかしら」

「悪いことなんかじゃありませんよパーバティ。活躍の場が増えることは素晴らしいことじゃないですか」

「『例のあの人』が起こす災禍にもちゃんと目を向けなさい」

「紅魔の物語は漏れなくハッピーエンドなので大丈夫です」

「何が大丈夫なの?」

 

 むう。去年の活躍を見てくれれば多少は賛同してくれてもいいのに。

 

「それよりめぐみん、ハリーたちは今日はどうしたの?どこにも見当たらないけど」

 

 そうしていると、ラベンダーがそんなことを聞いてきた。

 

「さあ?この会場のどこかにいると思っていたのですが、確かに見当たりませんね。また何かに巻き込まれてるのでしょうか。実に羨ましい」

「何をどう羨めるのか分からないのだけど」

 

 私がそう言うと、パーバティが変わらず呆れ顔で言ってきた。いやだって羨ましいじゃないですか。何もないよりあった方が楽しいでしょう。

 

「あ、いました。こんばんは、めぐみんさん。パーティー楽しんでますか?」

 

 そんなことを話していると、テーブルを移動してきたらしいアステリアが後ろから声をかけてきた。

 

「アステリアですか。こんばんは。もちろん楽しんでますとも。……おや?ダフネも一緒ですか」

 

 その声に振り返ると、そこにはアステリアだけでなくその姉、ダフネも立っていた。

 

「何よ。私がいちゃ悪い?」

「そんなこと言ってませんよ。珍しいなと思っただけです」

 

 ダフネ、私がグリフィンドール生と一緒にいるときはあまり話しかけてきませんし。

 

「言っておくけど、私はアステリアに付いてきただけだから。他意はないわ」

「お姉ちゃんはこう言ってますけど、聞き流してくださいね。スリザリンのテーブルにいる時からこちらをチラチラ見てる姉があまりにアレなので、私が連れてきたんです」

「はぁ!?何言っちゃってんのかしらこの妹は。そんな事実は存在しないわ。勘違いも甚だしいところね」

 

 そう言ってやれやれと首を振るダフネ。そんなダフネだが、残念ながら顔が赤くなっているのは隠せていなかった。

 

 そしてそんなダフネを見て、最初は怪訝そうな顔をしていたラベンダーとパーバティは和んだような顔をして言った。

 

「「素直になれない子っていいわねぇ」」

「誰が素直になれない子よ!全く、これだからグリフィンドールは」

 

 そう言いながら、空いていた席に座るダフネ。これだからグリフィンドールはと言いながらグリフィンドールの机につくの、なんか面白いですね。いえ、全然歓迎なんですけど。

 

「えっと、そうですね。……んんっ、初めまして。アステリア・グリーングラスです。いつも姉がお世話になってます。私も相席してよろしいでしょうか?」

 

 そんなダフネを見ながら、アステリアはラベンダーとパーバティの二人に向かってそう言った。

 

「ああ、アステリアね。もちろんいいわよ。めぐみんから話は聞いてるわ。マグル差別をしない、優秀ないい子だそうね。私はパーバティ・パチルよ。よろしく」

「私はラベンダー・ブラウン。よろしくね」

 

 そんな二人に、アステリアはよろしくお願いしますと返して席に着いた。名家の子ですし、やはり社交的ですねアステリアは。ゆんゆんもこの半分くらい……いえ、一割でいいから社交性を身につけてくれればいいんですが……レイブンクローのテーブルを見る限り、まだ無理そうですね。話かけられてはあわあわし、変に気を遣われて一人にされるゆんゆんを見ながら、私はそう思った。不憫な。

 

 そんなことを考えて小さくため息をついていると、パーバティがアステリアを見て言った。

 

「しかしあれね、もう私たちも先輩なのよね。グリフィンドールの一年生たちで分かってたけど、他寮の子とも関わると改めて実感するわ」

「約一名、始業式の日にその感覚を半分くらい味わえなかった人がこの場にいるけどね!……あ、ごめんめぐみん、もう気にしてないのかと思ってて……ねえ、謝る、謝るからにじり寄ってこないで!」

 

 そんなパーバティの言葉に続いてそんなことを言ってくるラベンダー。全く、忘れようとしてたことを思い出させるなんて。

 

「あの時はすみませんでした」

 

 そうしていると、アステリアがそう言って頭を下げてきた。おっと。

 

「いえ、アステリアはいいのです。頭が一年生のラベンダーが全て悪いので」

「ねえ、今の私ってそんなに悪かった?それと一年生は私の頭じゃなくてめぐみんの体……あの、ごめん、失言だったわ、言うつもりはなかったの、だから許して……ね?」

 

 またもや私を煽るようなことを言うラベンダーに、私はニコリと笑った。ホッとするような顔をするラベンダー。

 

「許してくれるのね?」

「許すわけないでしょう!リクタスセンプラ!」

「やっぱり!いやあああ!」

 

 私が杖を素早くポケットから取り出してラベンダーに呪文を唱えると、ラベンダーはそう叫んだ後に全身を丸めて変な声を出し始めた。

 

「!?ひゃうっ!ひゃ、やめ、あはは、これ、めぐみ、ひひっ、止め、はは、死ぬ、ひゃは、死んじゃう!」

「めぐみん、これ何の呪文なの?」

「くすぐりの呪文です。深刻度は低い割にけっこうキツいので、こういう時に便利なんですよ」

「おねが、解説してないで、あは、ふ、ひひ、呪文、はひ、解いて、あんっ、よ!」

「何でもいいけど、鬱陶しいから少ししたら止めなさいよね。私がここの机に来たのはうるさい声を聞くためじゃないの」

 

 そんなラベンダーを見て、何をするでもなくそう言うパーバティとダフネ。やった私が言うのも何ですが、大概ひどい反応ですね。

 

フィニート・インカンターテム!あの、大丈夫ですか?」

「はぁ、はぁ、ひー、ふぅ……うん、何とか。ありがと、アステリアちゃん」

 

 そうしていると、見兼ねたアステリアが終了呪文でラベンダーを助けた。ほう、入学して二ヶ月で終了呪文ですか。やはりアステリアは優秀ですね。入学前に家で練習とかしてたんでしょうか。

 

「全く、いつも一緒のパーバティさんならまだしも、何でお姉ちゃんまでそんなに馴染んでラベンダーさんを放置するの!いくらこれを機にこのグループと仲良くしたいからって、パーバティさんと同じ態度を取ればいいってわけじゃないんだよ!」

「はぁ?そんなんじゃないんですけど?変な言いがかりはやめてくれないかしら、アステリア」

「そんなこと言うんだったらもう相談に乗ってあげないよ!いつも『どうやったらめぐみんだけじゃなくて他のグリフィンドールとも仲良くできるかしら?』とか私に聞いてきてるくせに!」

「は!?ちょっと、それは今言っちゃダメじゃない!今だけはそれ言っちゃダメなやつじゃない!今からでも撤回しなさ……はっ!」

 

 そんなことを思っていると、アステリアとダフネが口喧嘩を始め、そしてダフネが自爆した。ふーん?へえ?なるほど?

 

 私とパーバティ、ラベンダーは視線を交わし、笑顔でダフネに語りかけた。

 

「ダフネ、そんなことを考えてたんですね。そうなら私に言ってくれればよかったのに。グリフィンドールはいつでも歓迎ですよ、ええ」

「へえ、ダフネあなたそんなこと思ってたのね。いつも遠巻きに見てるだけだったから気がつかなかったわ。ごめんなさいね」

「ごめんねダフネ、気がつけなくて。グリフィンドールのこと敵視してるとばかり思ってたわ。いつでも遊びに来ていいのよ?」

「ああああああ!あんたたちニヤニヤすんな!こうなるから嫌なのよグリフィンドールは!」

 

 またまた、そんなこと言って。

 

「本心は?」

「本心よ!」

 

 そう言うダフネに、ただニヤニヤする私たち。そんな私たちを見て顔を真っ赤にしながらぐぬぬとこちらを睨むダフネ。

 

「ああ、もういいわよ!ええ、そうよ。私はグリフィンドールの生徒とどうやったら仲良くなれるか考えてたし、あんたたちのことも気にしてたわ!悪い!?」

 

 そして、ダフネは叫ぶようにしてそう言った。

 

「開き直りましたね」

「開き直ったわね」

「開き直ったね」

「何なのよあんたたち!」

 

 しかしあれですね。こうして見るとダフネの素直じゃない性格も可愛らしいというか、微笑ましいですね。

 

「何ニヤニヤしてるのよ!」

「気にしないでください」

「気にするから言ってるのよ!」

 

 そうしていると、ダフネの様子をニコニコ顔で見ていたアステリアが言った。

 

「お姉ちゃん、仲良くできそうでよかったね」

「よくないわよ!あんた、自分のしたこと分かってるの?私はもっと、こう、いい感じに、クールに仲良くなりなかったのよ!」

「あ、それはアステリア関係なしに無理だったと思いますよ」

「何よ!」

 

 だってダフネ、割と初期からデレるタイプのツンデレみたいですし。

 

「はぁ……分かった。もういい。諦めるわ。あんたら、仲良くしてくれるんでしょう?それならもう何でもいいわよ」

「拗ねましたか」

「拗ねたわね」

「拗ねたのね」

「しつこいわよ」

 

 しかしあれですね、人って変わるものですね。去年はグリフィンドールで付き合うのは私だけとか言ってたのに、一年経たずにこうなりますか。

 

「まあ何はともあれ、これからよろしく」

「ダフネ、よろしくね!」

「……ヨロシク」

 

 勝手に感慨深く思っている私をよそにそう言う二人と、そっぽを向きながら答えるダフネ。うんうん、いい感じです。この感じで、あの陰気臭いスリザリンを更生させていきましょう。

 

「あ、そうそう。いきなりだけど、あんたらに相談があるのよ。アステリアのことなんだけど」

「私ですか?」

「ええ、そうよ。あんた」

 

 そうしていると、ダフネが横に座るアステリアを見ながら切り出した。頭の上に疑問符を浮かべるアステリアを横目に、ダフネは続けた。

 

「この子には好きな人がいるんだけど、そいつが何というか、アレなのよ。どう考えてもアステリアに相応しくない……というか、あれ単体で見ても無いわ」

「!ちょっとお姉ちゃん、やめてよ!まだパーバティさんやラベンダーさんに話すことじゃないじゃない!」

「黙りなさい。私のことだけバラしてあんたが無傷で済むなんて大間違いよ」

 

 ダフネが話そうとしている内容に、ダフネに食ってかかるアステリア。そんなアステリアを片手で押さえてダフネはそう言った。

 

「へえ!いいじゃないアステリアちゃん、もうそういう人を見つけてるのね!流石に入学からじゃまだ早すぎるし、家の付き合いで知ったのかしら?それとダフネ、そんなこと言っちゃダメよ。どんなにダメダメな男でも、恋する乙女からしたら王子様なんだもの」

 

 そして当然のように反応するラベンダー。気分が乗ったのか胸の前で手を合わせ、目を瞑りながらの言葉だった。そんなラベンダーに、ダフネの言いようにムッとした顔だったアステリアの表情が明るくなった。そしてラベンダーほどではないにしても、パーバティも気になったのか身を乗り出していた。

 

 いやでも、相手は実際あれですよね……私もこめっこがああいった類の人間を連れて来たらダフネと同じような反応をする気がします。ラベンダーは相手が誰かを知っても同じことを言えるんでしょうか。

 

 同じことを考えていたのか、少し小馬鹿にしたような笑みでダフネが言った。

 

「それがマルフォイでも?」

 

 ラベンダーが固まった。

 

 その横でパーバティも一瞬固まった後、現実逃避するようにそっぽを向きながら言った。

 

「ああ、知ってる知ってる。マルフォイ家の次男の、ナンカイイコ・マルフォイよね?マルフォイ家のくせに品行方正なことで有名な」

「残念ながらマルフォイ家は一人っ子よ」

 

 パーバティは沈黙した。

 

「ちょっと、お二人とも、あんまりな態度じゃないですか!どんなダメ男でも王子様だって、ラベンダーさんは言ってたじゃないですか!いえ、ドラコ様はダメ男なんかじゃないですけど」

「男以前に人として評価できるか微妙なラインはちょっと許してほしいの……」

「酷くないですか?」

 

 残念ながら当然の評価ですね。私はそこまで言うつもりはないですけれども、恋愛関連では断固としてノーですし。

 

「ええ、分かりました!もういいです、みなさんにはドラコ様の魅力について教えてあげます!」

「あいつに魅力なんてないでしょ」

「お姉ちゃん!」

 

 私たちの散々な反応が堪えたのか、アステリアがそう言った。

 

「ねえねえめぐみん、アステリアちゃんってあんな感じの子なの?イメージ違うんだけど」

「いえ、普段は穏やかですよ。多分イメージ通りです。ただ厄介なことに、ドラコ関係で時々スイッチが入っちゃうんですよね」

「そんな……あれを気になっちゃうなんて、不憫な子なのね」

 

 そんなアステリアを見て、私に小さくそう言ってくるラベンダー。あの恋バナ大好きラベンダーをしてこう言わせますか。ある意味すごいですね。

 

 そしてアステリアが私たちに存在しないはずのドラコの魅力を語ろうとした時。

 

「キャーーー!!!」

 

 パーティー会場の外から甲高い悲鳴が飛び込んできた。

 

 何事かと声の方向へ向かうパーティー会場にいる生徒たち。その中をかき分けて群衆の一番前に飛び出ると、そこには松明にぶら下げられている固まった猫と、呆然としているハリーたち三人がいた。

 

秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気を付けよ

 

 そして側の壁には、血文字でそんな文が刻まれていた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この石化事件に推測を!

「さて、事情聴取の時間です。昨夜、一体何があったのですか?」

 

 ハロウィンパーティーの日にミセス・ノリスが石になってから一日。私は、談話室の隅っこでハリーたち三人とティーテーブルを挟んで向かい合っていた。

 

「ごめん、でも」

「めぐみんに話せることは」

「何もないわ」

「ぶっ飛ばしますよ。何わざわざ腹の立つ返事してるんですか。さては練習しましたね?私に何を伝えるか決める会議で練習しましたね?」

 

 私の言葉にサッと顔を背ける三人。隠すにしても、もう少しやる気出したらどうなんですか。

 

「去年からその傾向はありましたが、なんで私に隠し事をするんですか!」

「だってめぐみん、君は話を聞いたら絶対暴走するだろう?」

 

 私が聞くと、ロンがそんなことを言ってきた。

 

「失礼ですね。石化事件の謎を暴いて真犯人をシバき上げ、魔女っ娘探偵めぐみんとして名を挙げる計画のどこが暴走だというんですか!」

「全部だよ」

 

 全否定されてしまった。ハリーとハーマイオニーの顔を見ても、二人とも頷くばかり。ひどくないですか。

 

「書籍化にコミックス、アニメ化やグッズ化による収益とかまで色々考えてたのに……」

「一日でそこまで発想が飛ぶの、ある意味すごいよね。妄想力がたくましいというか」

「うるさいですよハリー、自分は既にサイン入り写真なんていうものを配ってるくせに」

「配ってない!あれはせがまれただけだ!」

 

 どうやらハリーはせがまれるだけでも十分羨ましいということに気付いていないらしい。実に腹立たしいですね。

 

「で、あそこにあなたたちがいた理由は何なんですか?絶命日パーティーとかいうのに出席していたのは知っています。でもあそこ、食べられるものはロクに出ないそうじゃないですか。終わったらパーティー会場に直行しますよね、普通は。どうあっても犯行現場は通りません。……何かあったんですよね?」

 

 雑談もそこそこに、私は再び質問をした。話を逸らそうって魂胆だったんでしょうが、その手には乗りません。私は天才ですからね、ええ。まあ話がズレ始めたのは私からだった気もしますが。

 

 ……………………。

 

 気にしない方向でいきましょう。

 

「ねえねえ、やっぱりめぐみんには話しておかない?ここで何も言わないと変な妄想して被害が頓珍漢なことになりそうな気がするんだけど」

「うーん、そんな気もするよな。でも今の計画を聞くと言うに言えないよ」

「でも一応、去年僕たちが考えもしなかったクィレル犯人説にめぐみんは辿り着いてたし……」

 

 そうしていると、三人は顔を寄せ合って何やら相談を始めた。目の前に本人がいるのに、それで本当に聞こえないと思ってるのでしょうか。まあ褒められる分にはいいので放っておきますけど。

 

 そんなことを思っていると、三人の会話は過熱し始めた。

 

「だいたい、めぐみんが悪いよな。素直に頼らせてくれればいいのに、物事をぐちゃぐちゃにするから簡単に頼ろうとは思えないし」

「そうよね……私もこの前、めぐみんと校内を散歩してたらめぐみんが『こっちです!』って急に走り出して、付いて行ったら二人して迷子になってね。最終的に何か変な生き物を倒してここに帰ってくることになったのよ」

「うわぁ……そう言えば僕も、スキャバーズが体調悪いみたいだって相談したら三日ほど貸してくださいって言われて、そんで貸して返ってきたらムキムキになってたんだよ。そりゃムキムキなら体調も悪くならないだろうけどさ」

「あ、そういえば僕もこの前」

「何で私の悪口大会になってるんですか!私に昨日の事件について話すかどうかの相談だったんじゃなかったんですか!」

 

 どうなるかと思って聞いていれば、何ですか三人とも。私だけ除け者にして昨日の事件を経験した挙句、今度は私をダシに私なしで盛り上がるとは。

 

「え、めぐみん聞こえてたの?」

「ロン、あなたは私をバカにしてるんですか?私とあなたたちとの間に何メートルあると思ってるんですか?二メートルないんですよ」

「まあ、言われてみれば確かに」

 

 確かにじゃないですよ。もっと考えて欲しいです。まあ私には去年開発した盗聴魔法があるので意味ないですけど。

 

 ちなみにこの魔法、防音魔法のかかった壁には無力だったりあまり遠くの音は拾えないだったり、ちょっと効果が弱いんですよね。どこかで改良したいんですが、自作魔法は黙認気味とは言え一応まだ三年生ではない私は禁止されてますから先生たちに相談とかはできませんし、パーシーも権威側。

 

 うーむ……

 

 今度フレッドたちか、あるいはセドリックあたりにでも相談してみましょうか。

 

「ハリー、ロン、やっぱりめぐみんには話しておきましょう」

 

 そんなことを考えていると、ハーマイオニーが口を開いた。

 

「いいの?君が一番話すのに反対してたと思うんだけど」

「ええ、そうね。話したら暴走すると思ったし、心配だったから。でも今話して分かったけど、私たちが何をしようがこの子は暴走するし、なら正しいことを言っておいた方がまだ安心よ」

「あの、ハーマイオニーの中で私は狂犬か何かですか?」

「間違ってないでしょ?」

 

 間違ってると思いたい。が、横で力強く頷く二人がそれを許してくれない。

 

 そんなことを考えていると、ハーマイオニーがハリーに振った。

 

「というわけでハリー、お願い」

「そういうことなら、うん。分かったよ。じゃあ話すよ、めぐみん。昨日僕たちはね」

 

 そうして、ハリーは昨日起こった出来事を話し始めた。

 

 

 

「……って感じで。あとはめぐみんも知っての通りだよ」

「なるほど。ありがとうございます」

 

 ハリーの話には、大雑把に二つのことが含まれていた。まずは謎の声。ハーマイオニーとロンには聞こえずハリーだけに聞こえていたようで、その声がハリーを例の場所へと誘導したらしい。これは事件との関連性大ですね。真相に最も近い手掛かりでしょう。頭がおかしくなったと思われないようにハリーたちは誰にも言ってないそうですが。

 

 それともう一つ、その声が聞こえ始めた辺りから一緒に聞こえ始めたシュルシュルという音。これはハリーだけでなくロンとハーマイオニーにも聞こえていたらしい。これはよく分かりませんが、声と同時に聞こえ始めたというのは気になりますね。頭の片隅に置いとく程度はしておいた方がいいでしょう。

 

「しかし、ハリーにしか聞こえない声ですか」

 

 そこまで考えをまとめた私は軽く呟き、ハリーを見つめた。

 

 ハリー・ポッター。赤子時代に当時絶大な勢力を誇っていたヴォルデモートを打ち破った、生まれながらの英雄。しかし打ち出した実績を裏付けるような、絶対的な魔法能力は今のところ見られない。そんなハリーだけが聞こえる声。

 

 ……………………。

 

「ハリー、紅魔族というのはあらゆるエキスパートが集まった集団でして、その中には日本でも最高峰の医者がいます。さすがに精神科は専門外ですが、少なくとも診てもらわないよりはマシでしょう。今度紹介しますね」

「めぐみんすら信じないなんて!そんなに僕の言ってることはおかしいのか!?もしそうならおかしいのは僕じゃなくて世界だ!世界が悪いんだ!」

「あの、冗談なんで落ち着いてください」

 

 私の一言でそんなに取り乱さないでくださいよ。あと一つ言っておくと、ハリーが言ってることはおかしいです。間違いなく。

 

「ハーマイオニーにロン、二人とも本当に聞いてないんですね?その声みたいなのを」

 

 話を頭の中で整理した私は、とりあえずと二人に確認することにした。

 

「うん、間違いなく」

「ハリーは声は小さかったけどはっきり聞こえたって言うし、聞き漏らしとかじゃないわ」

「なるほど」

 

 となるとハリーの資質でしょうね、その声をハリーが聞けた理由は。ハーマイオニー、ロンが特別聞こえないとかではないでしょう。マグル生まれと昔からの名家、優等生と一般生徒、女子と男子。ある程度の条件は二人のどちらかでクリアできますし、これで二人が聞けないのならやはりハリーが特別ということのはず。

 

「あ、そのシュルシュルっていうのもハリーにしか聞こえなかったんですか?それと、どんな音だったんですか?大きさだとか、あとは何かが擦れた音だったのか、声だったのか、息漏れみたいなものだったのか」

「いや、そっちの方は二人とも聞こえてたみたい」

「ええ、聞いたわ。普通にしてたら違和感程度だったけど、少し息を止めたら普通に聞こえるくらいの音だったわ」

「どんな音だったかっていうと、うーん……その中だと息漏れだったと思うんだけど、絶対にそうかと言われれば分かんないや。でも、少なくとも声じゃなかったよ」

 

 こっちは特別な音ではなかった、と。そんでもって、息漏れに近い音だったわけですか。周りに誰かいたっていうのが自然な考えなんでしょうが、となるとその誰かは透明になっていたはずです。息漏れの音が壁を越えるはずありませんし。となると目くらましの術でも使ってたんでしょう。

 

 そして動機ですが、これは明白でしょう。犯行はすでに為されていて、わざわざハリーたちを現場に向かわせる必要はなかったはず。目撃者なら、パーティー会場から出てきた人たちで十分ですから。

 

 すると考えられるのは犯人をハリーに見せかけることですが、これもないでしょう。ハリーに……というか二年生の生徒にあんな完璧なレベルの石化なんてできないのは誰の目にも明らかですし。

 

 というわけで、動機はそれ以外でありそうなもの。つまりハリーへの挑戦というか、挑発のようなものです。そしてそんなことをするような派手好きで、かつ挑発の相手に校長のダンブルドア先生や猫の飼い主のフィルチではなくハリーを選ぶ人物。

 

「つまり今回の事件の犯人は、ヴォルデモート(死の飛翔)なんていうあからさまな偽名……というかペンネームみたいなものを平気で本名のように使い、そしてハリーに恨みがあるヴォルデモートで決定ですね!盛り上がってきましたよ!」

「ハーマイオニー、やっぱり話したのって失敗だったんじゃない?」

「私が間違ってたかも……」

「どうしよう、このままじゃ収拾つかなくなっちゃうよ」

「何ですか三人とも!」

 

 今回はふざけてるわけじゃないのに!

 

「だいたい、ヴォルデモートは依り代なしじゃ行動できない状態なんでしょ?クィレルの事件があってまたすぐに依り代が見つかるわけも、その依り代がホグワーツに入れるわけもないじゃない」

「それはまあ、そうですが」

 

 となると、他の闇の魔法使い……さすがに絞れませんね。ヴォルデモート傘下だった人なんでしょうが、そもそも私、ろくに魔法使いの勢力図とか知りませんし。

 

「あとはそう、動機だよね。あそこまでの石化はとても高度な闇の魔術でなければできないって、ダンブルドアが言ってた。そんなものを、なんでわざわざミセス・ノリスなんかにかけたんだろう」

「ま、僕たちとしてはちょっと鬱憤が晴れたけどね。あの忌々しい猫が消えてくれて」

 

 動機ですか……宣戦布告とか?いや、それにしてはメッセージが奇怪ですね。やはり挑発ですか。でもなぜミセス・ノリス……

 

「案外誰でもよかったんじゃない?たまたま最初に出会った生き物が猫だっただけとかさ」

「そんなわけないじゃない、ロン。ホグワーツのセキュリティを掻い潜ってしたことなんだから、何か意味があるに違いないわ」

 

 私が考えていると、ロンとハーマイオニーがそんな会話を交わした。クィレル関連とか、ロックハートみたいなのが先生をやれてるとことか、ホグワーツのセキュリティって結構ザルだと思うんですけど。

 

「三人とも、とりあえず今日はここまでにしない?先生たちが調べてるはずだし、また何か分かるはずだよ。それまでは結論は保留っていうかさ。先生たちが犯人を捕まえてくれるかもしれないし」

 

 そうしていると、ハリーがそう言った。犯人は私が捕まえたいんで先生たちに先越されるのはちょっと……まあでも、今考えても仕方ないのは事実ですかね。これ以上は続報を待たないとどうしようもないのも確かですし。

 

 そうして、石化事件について考えるのはまた今後にしようということになった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この奇妙な召使いに尋問を!

 

「うーん、ヴォルデモートはどうやって秘密の部屋を開いたんでしょうかね。スリザリンの継承者を自称するほどの自信家かつ痛い子なんて、あの人しか考えられないと思うんですが」

 

 ある日の夜。珍しく遅い時間になっても頭の冴えていた私は、みんなが眠りにつき静かな自室のベッドの上で何冊かの本を広げながら小さな声でそう呟いた。

 

 今日あたりであのミセス・ノリス石化事件からそろそろ一ヶ月となるにも関わらず、事件の捜査は未だに進展していない。というか教師陣は捜査すらしてないんじゃないだろうか。それくらい何もない。

 

 猫とはいえ石化なんてものがなされ、しかも犯行予告じみたものまであったのに先生たちはちょっと気楽すぎやしないだろうか。

 

 そんなことを思いながら、私はせっかく夜に考える時間ができたのだからと事件について考えていた。

 

 『秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけよ』。これ、いかにもあのヴォルデモートが思いつきそうな文章ですよね。しかも血文字でしたし。不覚にもかっこいいと思ってしまいました。

 

 ヴォルデモートか何かそれに近しいものがいるのは色々なことから考えてほぼ確定だと思うんですが、方法が思いつきません。さすがに『こんな文章を書くのはヴォルデモートに決まってます!』でみんなを説得できるとは思いませんし、何かそれっぽいものを考えないと。その特異性から言って秘密の部屋から考えていくのがいいんでしょうけど……

 

 そう、秘密の部屋ですよ秘密の部屋!もう名前からかっこいいのに、調べてみればあのサラザール・スリザリンがホグワーツを去るときに忘れ形見の怪物を置いて残した隠し部屋だそうじゃないですか!しかも長年の調査でも未だに発見されてないという。もうね、最高です。最高に紅魔族の琴線に触れました。

 

 何世紀にも渡って部屋一つ見つけられないホグワーツ 教師陣の適当さが脳裏をチラつきましたが、無視しておきましょう。発見した私(予定)がすごいということになりますしね。

 

「それとまあ、はっきりとした関係性は見えませんが、ハリーの言ってたドビーとやらも気になりますね」

 

 継承者の敵よ、気をつけよ……まんまハリーですよね、これ。ハリーに対する宣戦布告というか。そんな血文字と、ハリーの登校を邪魔しようとした屋敷しもべ妖精。うーん……。屋敷しもべ妖精とヴォルデモートは流石に繋がりませんね。

 

「せめて、そのドビーってのがどこの家の屋敷しもべ妖精か分かればいいんですけどね」

 

 うーん、屋敷しもべ妖精がいそうな家の生徒たちに手当たり次第聞いてみますかね?でも数がちょっと多すぎますね。生徒の家とは限りませんし。

 

 というか、ドビーの目的はなんだったんでしょうか。何かの計画を邪魔されないように主人に命令されて、というのが本命ですけど、なんかピンと来ませんね。そういう勢力がわざわざハリーの家に行って「すみません、来年度はホグワーツに来ないでもらえますか?」とか言わないでしょう。もしヴォルデモート勢力がそんな残念集団ならそれに飲み込まれかけたイギリスが情けなく思えてくるレベルです。

 

 そもそもハリーをこの学校に近づけたくない理由がなんらかの企みを邪魔されたくないというものなら、去年のMVPである私も排除しなくてはなりませんしね、ええ。

 

 というわけで、その線は一旦保留としましょう。となると、他の理由……今年度を使ってハリーに何かしてもらったとか。「君はホグワーツで勉強なんてしてる場合じゃない。イギリス魔法界の危機なんだ!私と一緒に世界を救おう!」。うーん、これもないですね。少なくともハリーからは「ホグワーツに来るな」以外のメッセージを受け取ったとは聞いてませんし。

 

 あとは、そうですね。限界系のハリー推しとかですかね?「私のハリーをホグワーツの女どもに渡したくない!」みたいな。それともなんかこう、ドS系の人ですかね?ハリーの家庭環境は悪いと聞きますし、「ハリーは虐められてこそ輝くのよ!」みたいな。

 

 ……ダメだ。ちょっと変な電波を受信してしまっている気がする。ちょっと休もう。

 

 と言っても眠るには勿体ないくらいに今日の夜は頭が動いてますし……ええ、校則にはちょっと触れてしまいますが、校内を散歩でもしてみますか。ちょうどいい月の夜ですし、先生方も許してくれるでしょう。多分。許してくれなかったら、まあ、その時はその時です。

 

 そう思い、私は静かに部屋を抜け出した。

 

 

 

 

「夜のホグワーツ、けっこういいですね。少し寒いですが気持ちいいです。これからも偶に歩いてみますか」

 

 日付も変わり一時間と少しが経った夜のホグワーツを歩く。なんか、こう、いい感じの雰囲気ですね。紅魔族的にグッドすぎる場所です、夜の古城。改めてホグワーツ城のかっこよさを認識しました。時折ゴーストが通り過ぎるのもまたその雰囲気の一助となってますね。

 

 しかし、ここってどの辺りでしょうか。秘密の部屋のことやドビーのこと、ヴォルデモートのことをなんとなく考えて歩いていたらよく分からない場所に来てしまいました。

 

 十二歳にして迷子。そんな言葉が頭をよぎる。

 

 ……ま、まあ、ホグワーツって毎秒通路が変わる迷路みたいなところありますしね。悪いのは私じゃなくて創設者四人みたいなところありますしね。ええ、大丈夫でしょう。

 

 というか教育施設として通路が変わり続けるとか欠陥だと思うんですけど、何を思って彼らはこんな仕様を取り入れたんですかね。勉強ができるタイプのバカだったんでしょうか。

 

 そう思いながら歩いていると、何やらガチャガチャという音が小さく聞こえてきた。

 

「ッ!!」

 

 その瞬間、私はすぐそばにあった柱の陰に隠れた。今の時間に起きてこの場所にいるとなると、教師しかありえない。さっきはその時はその時と思ったが、教師に見つかるのはやはりめんどくさい。

 

 全く、教師というのならば明日の授業に向けてしっかり寝ておくべきでしょう。自分のことを棚に上げてそんなことを考えながら誰の部屋か表札を確認すると、そこはフーチ先生の部屋だった。それを確認した私は軽く息をついた。フーチ先生は比較的緩めな先生だし、とりあえず焦りすぎる必要はないでしょう。何にせよ、スネイプ先生やマクゴナガル先生ではなくてよかったです。

 

 私が少しホッとしながら元来た道を引き返そうとすると、小さくボンっという音がして目の前にボロ布を纏った小人──屋敷しもべ妖精が現れた。

 

「ふぅ、これでハリー・ポッターはホグワーツから離れられます。ああ、ドビーはまた自分をお仕置きしなくてはなりません。でもこれもハリー・ポッターのため!私は挫けませ……」

 

 そして震えながらも小声でそう決意したそれがこちらを向き、私と目が合った。

 

「……えっと」

「確保おおお!」

「ぐへっ」

 

 私は小声で叫びながらその屋敷しもべ妖精をゲットし、ダッシュでその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、どうにか帰ってこれましたね。さてドビーと言いましたね?あなたにはいくつか聞きたいことがあります」

 

 それからしばらく走りいつのまにかグリフィンドール寮の前に辿り着いていた私はそのまま寮の談話室まで行った。そして捕まえた屋敷しもべ妖精の腕に姿くらましで逃げられないよう魔法で取り出した紐を結び、そう言った。

 

 この屋敷しもべ妖精はさっき自分のことをドビーと言っていた。時期的にもハリーの言っていた例の屋敷しもべ妖精で合っているだろう。

 

 そう思っていると、ドビーは恐る恐るといった様子で聞いてきた。

 

「な、なんでございますか?」

「そうですね……まずはあなたが何者なのか聞きましょうか。名前とどこで働いているかを教えてください」

 

 そんなドビーに、私はそう言った。名前を聞いたのは一応の確認だ。さっきのが私の聞き間違いならまずいし。今聞いたので重要なのは家の方。これが分かれば今回の件についてある程度前進できるかもしれないが……

 

「私めはドビーにございます。ご、ご主人様のお名前はお教えできません」

 

 ま、そうくるでしょうね。そう簡単に家名を教えられるほど忠実さのない生き物なら、この屋敷しもべ妖精という存在は世間であんな扱いを受けてないでしょうし。私は自分の腿を全力で抓っているドビーを見てため息をついた。どうやら自分がした何かについて自分にお仕置きをしているらしい。

 

「はぁ……分かりました。名前が確認できただけで重畳としましょう。それで。あなたは先程あんなところで何をしていたのですか?」

「え、えっと、その……」

 

 私が聞くとドビーは口籠もり、少しして奇声を上げながら自分の頭を壁に全力でぶつけ始めた。

 

「ドビーはいけないことをしてしまいました!ドビーは、ドビーはああああ!!!」

「ちょ、ちょっと静かにしてください!夜だって分からないんですか!?ここでうるさくしたらご主人様に迷惑がかかるかもしれませんよ!」

 

 私がそう言うと、ドビーは頭を打つのをやめた。

 

「ご主人様が?」

「え、ええ。ほら、あなたがここで騒いで捕まり、その上であなたの所属がバレたら家に迷惑がかかるでしょう?」

 

 私がそう言うとドビーはなるほど、と呟いた。そしてどこからかクッションを取り出し無言でそれに頭を打ち始めた。それがお仕置きになってるのかどうかはちょっと議論の余地があると思う。

 

アンノイズ

 

 そう思いながら、私は小声で呪文を唱えて私を中心に半径2メートルほどの防音空間を作り出した。

 

 防音魔法。ホグワーツに入ってから小声での相談が多かったため、あったら便利だなと思い最近作り出したものだ。空間内の音を漏らさないなんてのができれば理想的だったが、やはり魔法の作成は一筋縄ではいかないらしく、空間内の音が小さくなって外に出て行く程度のものしか作れなかった。まあ私はまだ二年生ですし、今後も気長に研究を重ねていきましょう。

 

「これである程度は大丈夫でしょう。とりあえずドビー、お仕置きはそこまでにしてもらってもいいですか?それと何をしてたか教えてください。さもなくばこのままあなたを先生方に差し出すので、さっき言ったのと同じ結果になりますよ」

 

 魔法がかかったのを確認し、私は言った。

 

 まあ嘘ですけど。このまま差し出したら夜に出歩いてたのがバレて怒られるし、そんなことはしません。しませんがどうやらドビーには効果はあったようで、ドビーはクッションに頭を打ち付けるのをやめてこちらを見てきた。

 

「私が捕まってもご主人様は名乗り出たりしませんし、私も言いません。捨てられて終わりです」

「そうですか。でも先生たちが探し出すのでどの道バレますよ」

 

 私が言うと、ドビーはビクッとした。なるほど、捜査の類の魔法に抵抗するような魔法がかけられているわけでも道具を持っているわけでもないと。ホグワーツに忍び込ませるならご主人様とやらはもう少し警戒していいと思いますが、まあ大丈夫だと思ったんでしょう。

 

 しかしそうですね、ドビーももうひと押しで簡単に吐いてくれそうです。適当に近そうな家でもいくつか挙げていきましょうか。色々言って近づいていけば音を上げるかもしれませんし。

 

「というか、私独力でも家名を探り当てるくらい簡単なことです。そうですね。比較的扱いの悪い屋敷しもべ妖精の中でも更に劣悪そうな労働条件を押し付け、ハリーに目をつけており、何か企んでいる。そして主人に似る(と私が勝手に設定を付け加えた)屋敷しもべがポンコツ気味。これはもう、マルフォイ家で決まりですね!」

 

 そう思った私が適当な理由を並べながらそう言って指先をドビーの顔の前に突きつけると、ドビーはさっきよりも大きく肩をビクつかせた。……マジですか。え、嘘でしょ?

 

 私が驚きながらドビーを見ていると、ドビーは「え、えっと、それは違うんです」と言いながら必死に頭を働かせているようだった。誤魔化しとか言い逃れを考えているらしい。

 

 マジですか、一発目で当たり引いちゃいましたか。別に私、豪運とかそんなんじゃ全然ないんですけど。よく当たりましたね、今の。

 

 というか、はぁ……またマルフォイですか。この世界の神様はとりあえずマルフォイにしておけばいいとでも思ってるんでしょうか。他の悪役はいないんですかね。

 

 なんか、こう、ガッカリです。

 

 私があまりにも安直な配役に少し白けた視線をドビーに送っていると、ドビーは慌てて私に言ってきた。

 

「ド、ドビーはご主人様に似てなどおりませんしルシウス様などお知りではありません!……あっ!ご主人様のお名前を口にしてしまいました!ドビーはドビーにお仕置きをせねば……い、いえ、ご主人様はご主人様ではないのですが!」

 

 これはひどい。

 

「あの、もういいです。別に私も告げ口するつもりがあるわけではないので」

「ち、違うのです!今のは、えっと、そう、錯乱の魔法がかけられていたのです!」

「気が変わりました。今から今の言動のレポートごとマクゴナガル先生にあなたを渡しに行きましょう」

「ああああ!!!おやめください!言います!言いますから!ご主人様の名前も私が今日ここに来た理由も!ですからそれは!」

 

 私が座っていたソファーから立ち上がると、ドビーはそう言って慌てて止めてきた。

 

「ほう。ではしっかりと説明してもらいますね」

「はい……承知しました……」

 

 そうしてドビーは少し項垂れながら話し始めた。

 

 

 

「なるほど。あなたはハリーが邪魔だからではなく、むしろハリーのために色々なことをしていたと」

「そうです、そうです!私がハリー・ポッターを邪魔と思うなど!」

 

 ドビーの話を聞くと、どうやらドビーの目的は何か危険なことが起こるらしいホグワーツからハリーを遠ざけることだったらしい。少し前に父フォイが何か意味深なことを言っていたし、何か起こそうとしてるのは確定事項だろう。そしてそれは多分秘密の部屋関連のことなんでしょうが……

 

「ドビー、ご主人様が何をしようとしているのかを言うつもりはないのですね?」

「は、はい。申し訳ありません。しかしそればかりは……」

 

 ドビーの返答に私は軽くため息をついた。今のところ物的な証拠どころか状況証拠すらない。これで先生たちに訴えても難癖にしか見えないでしょう。ある程度のことを話してくれた以上、ドビーを先生たちに引き渡すつもりもありませんし。

 

 それより。

 

「まあそれはいいです。それよりドビー、いくらハリーのことをホグワーツから追い出そうとしたかったからと言ってブラッジャーに細工をするのはやめてください。あれは割と本気で洒落にならないものです。当たったら骨折どころか最悪死にますからね?」

「し、しかし……ハリー・ポッターはここにいてはいけないのに……」

 

 問題はドビーが今日していたことだ。ドビーは今日、ハリーが大怪我をすればホグワーツから出て行くと思ったらしく、次の試合に使うブラッジャーに細工をしたらしい。

 

 先生にバレないようにブラッジャーに細工とか、ホグワーツの敷地内で姿現しができることといい、屋敷しもべ妖精はなぜ魔法使いに隷属しているのだろう。あんまりな扱いを受けても逃げ出さないくらいに仕事が好きなんだろうか。

 

 そんなことを考えながら、私は言った。

 

「あのですね、ドビー。そもそも、なぜハリーがあなたのご主人様の企み程度で殺されなければならないのですか?ハリーは危機的状況だとけっこう上手く動けますし、何よりハリーの近くには私がいます。そう、この春ヴォルデモートを相手に賢者の石を守りきったこの私・紅魔めぐみんが!」

「!」

 

 すると、ドビーは驚きを隠すことなく大きな目を見開いてこちらを見てきた。

 

「あなたが!?あなた様が去年『名前を言ってはいけないあの人』から『石』を守ったMVP、紅魔めぐみん様だったのですか!?」

 

 その目には驚きとともに尊敬の念が込められていた。ふっ、これは気分がいいですね。そう思って聞いていると、ドビーは続けた。

 

「はっ、言われてみれば新聞で見た写真通りの……あなたが、ご主人様が最近呟いておられる、あの方よりも頭のおかしな一族の方だったのですね!」

「言いたいことは色々ありますが、とりあえず私の出自に文句があるなら言ってもらおうか!」

「ああ、痛いです紅魔さま!違うのです!頭のおかしなも仰っていたのはご主人様で、私は決してあれには近づかないでおこうなどとは思ってなど!」

「思ってるじゃないですか!」

 

 全く、この屋敷しもべは!というか父フォイは頭のおかしさの基準としてヴォルデモートを使うのか。なんというか、それでいいんだろうか。

 

 そう思っていると、ドビーが土下座しながら行ってきた。

 

「すみませんすみません、本当に申し訳ありません!今から家に帰って身体にアイロンをかけてお仕置きするのでどうかお許しを!」

「いや、そんなお仕置きしないでくださいよ。怖いです。なんであなたのお仕置きはいちいち過激なんですか。ほら、顔を上げてください」

 

 よくそんな拷問を自分でできますね。屋敷しもべ妖精ってやっぱりアレなんだろうか。ドMなんだろうか。

 

「とにかく!ブラッジャーにかけた魔法は解いて帰ってください。父フォイの仕掛けたものがどんなものかは知りませんが、所詮はなんちゃって悪役のマルフォイ一家。大したことができるはずもありませんし。もし解かなかった場合、心苦しいですが今回のことは先生たちに報告しなければなりません」

「分かりました。このドビー、元より『例のあの人』を打ち破った英雄に逆らうつもりなどございません」

 

 なんとなくそう思いながら私が言うと、ドビーは敬礼のようなポーズで言ってきた。そんな急に恭しくされても、私はさっきまでの私に対する発言を忘れたりしませんからね。

 

 ま、今日はとりあえずこんなところですか。

 

「それならいいです。もう夜遅いですし、ドビーも早く帰らないとご主人様に見つかってしまうでしょう。私もそろそろ眠くなってきましたし、帰ってもらっていいですよ」

 

 私はそう言いながら指パッチンをしてドビーに繋がっていた縄を消した。そんな私に、ドビーはペコペコしながら姿くらましで消えていった。

 

「さて、と。私も部屋に戻りますか。事実整理は……ま、明日にしますかね」

 

 それを確認して、私もそう呟いて女子寮の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

このスリザリンとのクィディッチに騒動を!

 遅めの更新(三ヶ月ぶり)。
 いやほんと、すみません。そしてコロナのせいで忙しかったという言い訳もできないという。おのれコロナ。

 というか更新サボってる間にこのすば完結しちゃったんですけど。何あれ。何あれ!いや面白かったけど!面白かったけどさ!なんで終わっちゃうの!あああああ!

 騒がしくしてすみませんでした。それではどうぞ。例によってちょっと長めかもです。



 ドビーとの邂逅から三日。色々と忙しくて秘密の部屋関連の整理もまだできていない私は今、グリフィンドールのユニフォームを着てクィディッチ競技場を舞っていた。

 

 そんな私の足元を、十一月の下旬の冷たい風が吹き抜ける。生徒や教師たちで埋まる観客席が囲む中央で、私たち──クィディッチ・グリフィンドールチームは、宙を飛び交い試合前のアップをしていた。

 

 スリザリンチームがコートの隅の空中でこちらを見ながらミーティングをし、その更に後ろで各寮の生徒たちが友達と話したりポップコーンを頬張ったり思い思いのことをしながらこちらに視線を向けている。

 そう、今日はクィディッチ杯の開幕日。開幕戦は私のデビュー戦となるグリフィンドール対スリザリンだ。

 

「めぐみん、緊張してない?大丈夫?」

「何かあったら言ってね」

 

 そんな私にとって記念すべき試合となるこのゲームの始まる直前、私がコートを飛び回りコンディションを確認していると、アンジェリーナとアリシアが声をかけてきた。

 

「そんなまさか。輝かしい栄光の道の第一歩を踏み出すのにナーバスになる人間が、どこにいるというのですか?」

「ふふ、それくらい言えるなら大丈夫ね」

 

 私の言葉に、小さく笑いながらそう言ってくるアンジェリーナと横で同じく笑うアリシア。

 

「二人こそ、気合い入れてくださいよ?私はこの試合、チェイサーだけで160点差をつけるつもりなんです。今年はぶっちぎりますよ!クィディッチがシーカーだけのスポーツではないと証明するんです!」

「お、言うわね。いいわ、その意気で行きましょうか」

「めぐみんもアンジェリーナも、無理しないでよ?でもその気持ちは大事よね。頑張ろっか!」

 

 そうしていると、ホイッスルの音が聞こえてきた。そろそろ試合開始、入場準備の合図だ。私たちは一旦スタジアムの内部へと入っていった。

 

 入場に備えて一列に並ぶと、客席の熱気が伝わってきた。否応なしに高まる高揚感。何かを言おうとしているオリバーを無視し、私は列の前に出て声を張った。

 

「スリザ「さてみなさん!とうとうこの時がやってきました!クィディッチ杯開幕!相手はさっそくスリザリンです。ニンバス2001が何ですか!私たちの実力を以ってすれば箒の差など些事!蹴散らしてやりましょう!」

「「「おー!!!」」」

「なあめぐみん、言いたいことはだいたい同じなんだが、俺のセリフを取るのはやめてくれないか?」

 

 だって試合前にオリバーの長ったらしい演説聞きたくないですし。

 

「さあオリバー、それより入場ですよ!先頭へゴーです」

「あとで俺に対する態度で話があるからな、めぐみん!」

 

 そんなことを言いながら、オリバーはグリフィンドールチームの一番前へと向かった。

 

『両チーム、入場!』

 

 そうこうするうちに、場内アナウンスが響いた。

 

『さあ、今年もやってきましたこの季節!ホグワーツクィディッチ杯、今年も開始です!開幕戦はグリフィンドール対スリザリン!グリフィンドールには是非スリザリンをボコボコにしていただきたいというのが、スリザリンを除く三寮の共通の思いであるのは周知の事実でありますが』

『ジョーダン!』

『おっと失礼』

 

 去年と変わりませんね、リーの実況。場内に響く声にそう思いながら箒に乗って入場すると、途端に巨大な歓声が耳に入ってきた。

 

 おお……選手側から聞くとこんなにすごかったんですね。これはいいですよ。非常にいいです。否が応にも活躍してしまいそうな熱気ですよこれは、ええ。

 

『鳴り響くホイッスル!試合開始だ!』

 

 高まる高揚感の中、審判がホイッスルを高々と吹いた。放り投げられるクァッフル。私は、全速力でそのボールを追い始めた。

 

 

 

 

 

 

 1992年ホグワーツクィディッチ杯。その開幕戦は、グリフィンドール優勢で進んでいた。

 

『決まったー!これでアンジェリーナ、今日六本目!グリフィンドール、90対70とスリザリンに一歩リードです!』

 

「ナイスですアンジェリーナ!今日はいいですね」

「めぐみん、まだまだよ。どんどん点入れていくんだからね!」

 

 ゴール後に一瞬だけ言葉を交わし、またコートへと散っていく私たち。ブラッジャーに気を付けながらスリザリンスタートのボールを追いかけて行く。しばらく動きを見ていたが、ブラッジャーは正常のようだ。ドビーはちゃんと魔法を解除して帰って行ったようですね。そのことに少しホッとしながら、私は意識をコートに戻しながらスリザリンチームの箒を追った。

 

『さあスリザリンボールでゲーム再開です!しかし今日デビューのめぐみんですが、予想以上の活躍ですね。極めて高い性能を誇るニンバス2001を持つスリザリンを相手に、未だゴールはないものの6アシスト!驚異の得点貢献度です……おっと!ここでアリシアがパスカット!すぐさま攻撃に転じます』

 

 スリザリンのパスを鮮やかに横取りしたアリシアからクァッフルを受けつつ、私はそんな実況の声にテンションを上げる。そうでしょう、そうでしょう。私は天才ですからね!

 

『そしてスリザリンのマークを掻い潜りつつ前線へ出るめぐみん!フェイントを交え、強く相手選手とぶつかりながらもアリシアへ再びボールを戻しました。溢れたボールを拾う・体格差に負けずにボール保持・強引にゴールに迫らず味方にパスなど、普段からは想像もつかないチームプレイや泥臭いプレーを見せています、紅魔めぐみん!』

「誰が空気の読めない子ですか!というか私のプレーは華麗ですし!泥臭くないですし!」

「めぐみん、実況に反応しないの!」

 

 思わず言うと、アリシアが言ってきた。おっと失礼。ついやってしまいました。早くプレーに戻らなければ。

 

 少し注意が逸れていた私はパチンと軽く頬を叩き、アリシアとアンジェリーナと一緒に上がっていく。アリシアから短いパスをもらった私は、全速力でゴールへと向かった。小回りを利かせてスリザリンの選手たちを躱して上昇し、高さを利用して一気にゴール間近へ。

 

『おおっと、これはめぐみん選手、綺麗な箒さばきで相手選手を躱していく!これは初ゴールなるか!?』

 

「ふははは、見るがいい!これが私の栄光の第──」

 

 私がそう言いながらクァッフルを投げようとすると、急に右から巨体が迫ってきた。スリザリンのフリントだ。

 

 明らかに違反プレーのタックル。私は咄嗟に避けようとしたが、ニンバス2001を使うスリザリンの単純なスピードには対抗できず、私はまともにフリントのタックルを食らった。

 

「ぐへっ」

 

 そんな潰れた声を出して、私は箒から落下した。

 

 目に入るのはフリントのヤベェとでも言いたげな顔と、私のこぼしたクァッフル、目を大きく見開いたチームメイト。そして耳から息を飲むような音と球場を包み込むああっ!という驚きの声や怒号が聞こえてくるなか、私は仰向けに落ちていった。

 

『ああっと、スリザリンのラフプレーだ!めぐみんは箒から落下!審判団や先生方が追うが間に合うか!?クソが、○ねやこのド腐れフリント!』

 

 リーの声が通る球場の中を、私はかなりのスピードで落ちて行く。ぎゃあああああ!!!死ぬ死ぬ!これ死んじゃうやつじゃないですか!誰か助け──

 

「めぐみん!」

 

 っと。

 

 私が心の中で悲鳴を上げていると、アンジェリーナが全速力で私の方に向かい、そしてお姫様抱っこの姿勢でキャッチした。

 

「めぐみん!?大丈夫!?」

 

 私の顔を覗き込みながらそう聞いてくるアンジェリーナ。どうやら助かったらしい。

 

 地面に衝突でのデッドエンド回避に一安心とホッとしていると、アンジェリーナが私を揺すぶりながら叫ぶようにして言ってきた。

 

「めぐみん!返事ができないの!?けっこうな速度のまま落ちちゃったしどこか痛むの!?」

 

 どうやら何も言わないのを心配させてしまっているらしい。しかしかっこいいですね、アンジェリーナ。チームメイトを颯爽と救い(しかもお姫様抱っこ)、本気で心配する。イケメンですね。

 

 ふむ。

 

「アンジェリーナ」

「何!?」

「結婚してください」

「は?」

 

 おっと。

 

「んんっ。いえ、大丈夫です。タックルの衝撃で頭を打ったりとかはしてないんで、そんな心配そうな顔しないでください」

「えっと、これはどっちかと言うと困惑顔なんだけど……まあ大丈夫ならいいわ。箒拾って戻りましょう」

 

 アンジェリーナは私を何か変なものを見るような目で眺めながら、地上へと降り立った。

 

「おいめぐみん、大丈夫か!」

「けっこうなスピードで落ちたけど、気分が悪かったりしないか?」

 

 そんな私たちの周りに、グリフィンドールチームの面々が声をかけながら降りてきた。

 

「いえ、特に問題はありません。それより早く戻りましょう。あまり試合を長く中断させたくありません」

「めぐみん、ウッドが移ってない?大丈夫?」

 

 ウッドが移るってなんだろう。いや、何となくは分かりますけど。

 

 そんなことを思いながらフィールドに戻ると、クァッフルを持ったフーチ先生が近寄ってきた。

 

「ミス紅魔、大丈夫でしたか?かなり激しくミスターフリントと衝突していたように見えましたが」

「全然大丈夫です。さすがに死んだかと思いましたが、アンジェリーナが助けてくれましたので」

「そうですか。それはよかった。ではこれ、ペナルティゴールです。指定の位置から投げてください」

 

 フーチ先生はそう言ってクァッフルを渡し、審判としての所定の位置に戻っていった。え?

 

 ふと周りを見回すと、選手の面々はペナルティゴールの配置についていなかった。そしてシュートの位置に人影はなく、どう考えても私がシュートするような流れになっていた。

 

 なるほど。

 

 どうやら私の初ゴールはペナルティゴールの産物になると。

 

 いやあああああ!嫌だ!嫌すぎる!全然華々しくない!よりにもよってペナルティゴールが初とか!まだ泥臭いゴールの方がマシです。今から誰か代わってくれませんかね……?

 

 そう思うも、球場全体はスリザリンの席以外がスリザリンへのブーイングと私への声援で満たされている。この状況でそれをするのはちょっと、紅魔の血がストップをかけるというか、その、ね?分かるでしょう?もちろんわざと外すのもなしですし。

 

 どうしようもないじゃないですか……。少し落ち込みながら私はペナルティゴールの位置に移動し、シュートを放った。ボールは正確にリングへと向かい、吸い込まれていった。

 

『ゴール!先ほどのラフプレーに動揺することなく冷静にシュートを決めましためぐみん!レジェンドオブゴミのフリントのプレーによる影響もないようで安心ですね』

『ジョーダン、気持ちは分かりますが口を慎みなさい』

 

 リーの実況を聴きながら私はグリフィンドール側のフィールドに戻っていった。マクゴナガル先生はそういうことを言っていいのだろうか。まあ教師としてもさっきの危険なプレーは見過ごせなかったんでしょう。

 

「めぐみん、ナイスシュート!何はともあれ、初ゴールおめでとう」

「ナイスゴールめぐみん、おめでとう!さあ、ここからどんどん決めていこう!」

 

 そう思う私に、アンジェリーナとアリシアがそう言って近寄ってきた。

 

「ありがとうございます、二人とも。そうですね、頑張っていきましょう」

 

 二人の言葉にそう答える私。二人の祝福は嬉しいが、それでも私の美しい人生初ゴールが邪魔されたことか消えたわけじゃない。ちょっとスリザリンには嫌がらせしてやろう。

 

「ねえアリシア、めぐみんが初ゴールを決めたのに頭がおかしくなってないんだけど。何かおかしくない?」

「おかしくなってないのがおかしいっていうあなたの言葉もおかしいけど、確かにおかしいわね。何かおかしなこと考えてなきゃいいけど」

「アリシア、あなたの語彙にはおかしいの類義語はないの?おかしいがゲシュタルト崩壊を起こしそうなんだけど」

 

 そんなことを考える私のそばで、二人はそんなことを話していた。

 

『さあプレー再開。スリザリンボールからスタートです。この試合パスカットをされることが少し多いスリザリンチーム、警戒しながら慎重に上がっていきます』

 

 そうしてフィールドをゆっくり動いていると、プレーが再開してスリザリンチームがボールを数人の間で回しながらゆっくりとフィールドを上がってきた。私がマークに動こうとしたその時、パスが回ってきたフリントが急にグリフィンドール陣地に攻め込んできた。近くにいた私が追うが、なかなか追いつけない。

 

『ここでボールを持ったフリント急激に前進!グリフィンドールからはめぐみんが着いていきますが単純な直線飛行たと残念ながらフリントに軍配か』

 

 そんなフリントに、私は苦し紛れに叫んだ。

 

「私の初めてを台無しにしたこと、絶対に許しませんからね!」

 

 フリントはボールを落とした。

 

『おおっとフリント、ここでまさかの落球!ロリコンという罪の重さに気づいたようだ!』

「黙れジョーダン!俺はロリコンじゃねえ!」

 

 フリントが律儀に実況に突っ込みを入れている間に、私はフリントの落としたクァッフルを拾った。

 

「クソ、待ちやがれ!正々堂々とか()えのかテメェは!」

 

 そんな私を追ってくるフリント。あなたに言われたくないんですが。というかまさかあれだけで動揺して落球するとか思いませんし。そう思いながら、私は叫んだ。

 

「ロリコンに迫られてます!助けてください!」

 

 球場がドッと沸いた。

 

「めぐみん、ロリコンに追いつかれる前にパスよ!」

「こっちよめぐみん!ロリコンがすぐ後ろまで来てる!」

「ヘイブラッジャー、どうせならあのロリコンを狙ってくれよっと」

「ロリコンは引っ込んでろ!」

「うちの紅魔を汚すんじゃねえ!」

「YESロリータNOタッチの原則すら守れないとは、ロリコンの面汚しよ」

「テメェら後で覚えておけよクソがあああ!」

 

 私の言葉を面白がったのか、コートの内外からロリコンロリコンと聞こえてきた。なんか一人ロリコン目線の人がいたけど。なんだろう、たまにこの学校からロリコンの気配を感じる。

 

 そう思いながら、私たちはフリントを中心に精彩を欠くスリザリンをパスを中心に翻弄して得点を重ねた。

 

『決まったー!めぐみん、今日二つ目のゴールでスリザリンに50点差!チャンスメイクにポイントゲット、初試合にして見事に役割を果たしていますめぐみん!対して動きにキレがないスリザリンはなんなのでしょうか。めぐみんに翻弄されまくっています。もうスリザリンじゃなくてロリザリンでいいんじゃないですかね』

『ジョーダン、少しは口を慎みなさい!』

 

 私が得点を決めると、リーがそんな実況をしていた。マクゴナガル先生がたしなめるも時すでに遅く、会場全体に「ロリザリン!ロリザリン!我らがピエロ、ロリザリン!」のコールが鳴り響いていた。

 

「おいロリコン、お前のせいで俺たちまでロリコン扱いされてるんだが」

「どうしてくれるんだロリコン、俺彼女いるのに」

「もう俺の妹に近づくなよロリコン」

「お前らまでロリコン言うなや!ぶっ飛ばすぞ!」

 

 スリザリンチーム内でもロリコン呼ばわりされるフリント。なんか少しだけ不憫になってきた気もしますが、私の初ゴールを邪魔したことを考えれば当然のことですね。

 

「おっとロリコンさん、身の危険を感じるので近づかないでくれませんか?」

「テメェ!クソ、この野郎○ねや!」

 

 そう思いながら私がボールを受け取ると、フリントが普段の数倍の迫力で迫ってきた。とりあえず煽ると、フリントはさらにキレて向かってきた。

 

「野郎って何ですか。私は女です。それにいまさら私を男扱いしても、ロリコンの名は消えませんよ」

「黙れやこのチビが!」

「はあ!?チビとはなんですかこのウスノロ!そっちこそ図体しか取り柄がないとか恥ずかしくないんですか?」

「今度こそぶっ○す!」

 

 どうやらガチギレした様子のフリント。うまくパスを出せる位置にいなかった私がコート内を逃げ回っていると、不意にホイッスルが鳴った。フリントへの注意かと思って振り返ると、そこではハリーがスニッチを片手に微妙な表情をしていた。

 

『逃げろ逃げろめぐみん、どうせならそのまま交番まで行っちま……と、ここでホイッスル?ええっと、ああ!グリフィンドールがスニッチをゲットしたようだ!ごめんよハリー、見てなかった。何はともあれ試合終了!270対70、勝者はグリフィンドールだあああ!』

 

 そうして、私の初の公式戦は無事勝利で終わった。

 

 

 

「なんだろう、この徒労感。スニッチを掴んで試合決めたのは僕なのに、全然達成感とかないや。歓声も浴びなかったし、僕自身乾いた笑いしか出なかったし」

 

 その日の夜、私はハリー、ロン、ハーマイオニーと遅めの夕食からの帰り道を歩いていた。

 

「あー、うん。あれは仕方ないよ。めぐみんの最初の試合だぜ?分かってたことじゃないか」

「それもそうだね。流石に次はあれほどめちゃくちゃにはならないだろうし、切り替えていくよ」

「ロン、私の最初の試合だからとはどういう意味ですか」

「あー、違うんだ。別にそういう意味じゃなくてね。だから杖を片手ににじり寄らないでほしいんだけど」

 

 私がロンを杖で小突いていると、ハーマイオニーが言った。

 

「ま、とにかくデビュー戦勝利と初ゴールおめでとう、めぐみん。今日の試合、あなたらしくて見てて楽しかったわ」

「今日の派手さのないプレーが私らしいとは納得いきませんが、ありがとうございます。本当はチェイサーで160点差付けてシーカーなしで勝ってやるつもりだったんですが」

「そんなこと考えてたの?ただでさえ今日の試合は(シーカー)の影が薄かったのに。というか無理があると思う」

「しょうがないよ、めぐみんはいつも頭のおかしなこと考え……あの、ほんと、悪かったと思ってる。ごめんよ。めぐみんは頭がおかしくなんかイタッ」

 

 再び何やら私のことを言ってきたロンの頭を私は軽く小突いた。全く、ロンは学ぶ気がないんでしょうか。出会った時から同じことを繰り返しているような気がするんですが。

 

 そう思いながら、私は言った。

 

「というかハリーは別に一試合くらい影薄くてもいいでしょう。女子生徒の中には一定数試合関係なしに見てる人いますし、もう固定ファンなんかもいます。コリンとか今夜あたり『写真撮りました〜』とか言って駆け寄ってくるんじゃないですか?」

「あー、確かに今日明日あたりあるかもしれないわね。まあでも、固定ファンならめぐみんにも付いてると思うわよ。この学校の人たちは基本お祭り好きだし」

 

 私が言うと、ハーマイオニーがフォローするように言ってきた。ほう。確かに先学期の最後なんかファンレターももらいましたし、名前も売れてる頃でしょう。そろそろサインをせがまれてもいい頃ですね。

 

「あー、確かにめぐみんにもファン多いかもね。見てて面白いし、ちょっとした芸人みた」

「自分はアイドル人気だからって調子に乗ってますか?調子に乗ってますね?顔の傷痕増やしてあげてもいいんですよ?」

「ごめんごめん。というかよくそんなズケズケと気にしてるところ抉れるね……」

 

 ハリーが何か言ってますがスルーしましょう。人のことを芸人とか言うから悪いんです。女子の人気を喩えるのに芸人はないでしょう。

 

 そうしていると、ロンが言った。

 

「それより早く寮に戻ろうぜ。初戦でスリザリンに大勝ちしたってので、談話室でちょっとしたパーティーやるってさ」

「おお、それはいいですね。早く行きましょう」

 

 談話室に着くとパーティーはもう始まっていたようで、すでに喧騒に包まれていた。今日の主役たる私を差し置いて先に楽しむとは何事か。そう思った私は一瞬でテンションを上げ、みんなに向かって突撃していった。

 

 そのままみんなでワイワイ騒いで、だから私は忘れていた。

 

 翌日、コリンが石になって発見された。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この犯人らしきスリザリン寮にカチコミを!

 

「ドラコ!ここにいるのは分かっています!さっさと出てきて秘密の部屋について知ってることを洗いざらい話しなさい!聞いてるんですかドラコ!さっさと出てこないとドラコのこと今度から薄らハゲと」

「あああああ!!そろそろ黙れ!我慢すれば帰ってくだろうと待ってれば、いつまで居座る気だお前!というかなんだ最後のは!僕は禿げてなんかない!」

 

 クィディッチの試合の翌日……つまりコリンが石にされた翌日の朝10時ごろ。私がスリザリン寮の目の前で騒いでいると、ドラコが叫ぶようにして出てきた。

 

「あ、気にしてたんですか。すみませんでした……身体的なコンプレックスのことは言っちゃダメでしたよね」

「憐れむような目で僕の頭を見るなあ!」

 

 出てきたドラコに私が謝ると、ドラコは顔を上気させて言った。やはり気にしてるようだ。そういえばお父さんが男にとっては深刻な問題なんだとか言ってましたね。

 

「というかドラコ、随分と前から私の声に気づいていいたようですね。それでいてすぐには出てこなかったと。ほう、私に喧嘩を売るとはいい度胸ですね」

「お、お前、さんざん寮前で僕の悪口言っておいてそんな態度取れるのか……フ、フン、お前こそここで僕に喧嘩を売るってのがどういうことなのか分かってるのか?ここはスリザリン寮生たる僕の本拠地だぞ。それにいつもならともかく、今回は完全にそっちから吹っ掛けてきた形だ。教師に言えば間違いなく罰はお前が独り占めだぞ、紅魔」

 

 そんなことを考えながら私がいつものように挑発すると、ドラコは少し引き気味に呟いた後ニヤニヤしながら言い返してきた。なるほど。

 

「つまりドラコ、あなたは喧嘩をすること自体には異論はないと」

「えっ」

 

 ドラコの言葉に私がそう言うと、ドラコはにやけ面から一転呆気にとられたような顔をした。

 

「オーケーいいですよ、分かりました。ちなみに多くのスリザリン生は昨日のクィディッチの試合により私に関わりたくないと思っており、また教師陣もさっき私が仕掛けた足止め用のいたずらの解除に忙しいはずなので呼んでもしばらくここには来ないでしょう。さあドラコ、時間の許す限り存分にタイマンといきま」

「悪かった!僕が悪かった!だから杖を下ろせ!なんでお前はすでにやらかしてからここに来てるんだ!実質ノーダメじゃないか!」

 

 私が杖を掲げて呪文を唱えようとすると、ドラコはそう言った。ほほう、あのドラコが謝りますか。なんか気持ちいいですね。でも。

 

「すみません、もう喧嘩の気分になってしまったのでそれはなしです」

「ふざけんな!お前はどれだけ好戦的なんだ!なんだよ喧嘩の気分って」

「冗談です」

「お前が言うと本気に聞こえるからやめてくれ」

 

 私が言うと、ドラコはげんなりした表情で私を見ながらそう言った。別に私としては本気にしてもいいんですよと言おうと思ったが、話が進まなくなるからやめておいた。

 

「まあいいです。それよりドラコ、話があります」

「僕にはないからさっさと帰……おい紅魔、冗談だ。冗談だから杖を下ろせ。話なら聞いてや」

アグアメンティ!

「おま、水責めはシャレになら、ガッ、ゴボ」

 

 話を進めようとしたのにドラコが同じようなネタを繰り返そうとしたのにイラっと来た私は、ドラコに魔法で水を浴びせてしばらく放置した。

 

 

 

「さあ、もうくだらない返しはしないでくださいね?」

 

 ドラコに水を浴びせて五分ほど。口に入った水をあらかた吐き出しゲホゲホ言いつつある程度落ち着いてきたドラコに私は言った。するとドラコはこちらを向き、妙な迫力で言ってきた。

 

「げほ……お前、最初に僕にかける言葉がそれか?建物の中で溺れかけた僕にかける言葉が本当にそれで合ってるのか?本当に僕から話を聞きだす気あるのか?」

「す、すみません、コリンの件でちょっと気が立っていまして」

 

 私がドラコに押されている……だと?

 

 ひそかに動揺していると、ドラコはため息をついた。

 

「まあお前の頭のおかしさは今更か。それで、話ってなんだ」

「おや、やけに素直ですね。どうしたんですか?」

「お前に溺れかけさせられた」

 

 …………………………。

 

「まあそれはいいとして」

「いいわけあるか。後できっちりスネイプ先生に言っておくからな」

「いやホント悪かったんでその話はやめましょう。ちょっとやり過ぎたかなとは思ってるんで」

 

 私がそう言うと、ドラコは引いたような視線でこちらを見ながら「ちょっと……?」と呟いた。思ったよりさっきの水が堪えたらしい。別に口に水を注ぎ続けたりしたわけではないのだが、水量の調整でもミスりましたかね。

 

 そうしていると、ドラコが口を開いた。

 

「それで、なんの話だ?ああ、分かったぞ。さては紅魔、お前もようやく純血主義に興味が出てきのか?それならこの僕がたっぷりと解説を」

「いえ、違いますが」

「……全然?全く興味ない?」

「ええ。欠片も」

「……そうか」

 

 私が返すと、ドラコは心なしか肩を落とした。なんだろう。語りたかったんだろうか、純血主義。そもそも秘密の部屋についての話だと最初に大声で言ってたんですけどね。

 

 そうしていると、ドラコが言ってきた。

 

「じゃあ何なんだよ。正直お前が僕に聞きにくる話なんて見当もつかないが。冷やかしなら帰れよ」

「他寮の冷やかしって何ですか。勝手に拗ねないでくださいよ」

「す、拗ねてない!」

 

 どう見ても拗ねてたと思うんですが。

 

「それでドラコ、話ですが」

「ああそうだ紅魔、こちらもお前に聞きたいことがあったんだ」

 

 そう思いながら本題を切り出そうとすると、ドラコが被せてきた。

 

「聞きたいことですか?あなたが私に?」

「ああ、そうだ。お前ならこういう話にもいち早く首を突っ込んでるだろうと思ってな」

 

 私がいち早く首を突っ込みそうな話ですか。……それだけでは絞り込めませんね。心当たりが多すぎて。

 

 そうしていると、ドラコが切り出した。

 

「あー、その、なんだ。お前のところ(グリフィンドール)のクリービーとかいうのが秘密の部屋の怪物に襲われて石になったそうじゃないか。その石化ってのは治るものなのか……?」

「は?」

 

 ドラコの言葉に、私はそんな声を上げた。

 

「いや、別にビビってるわけじゃないぞ?僕が継承者の敵を狙う奴に襲われるわけなんかないし?むしろ僕が継承者だし?まあでも、一応というかな?他のスリザリン生なんかは怖がってるやつもいるかもしれないし?」

 

 私の反応を何だと思ったのか、自己弁護を始めたドラコ。そんなドラコに私は言った。

 

「そんな見え透いた強がりはどうでもいいです。しかし、え、あなたは秘密の部屋の怪物を動かすのに一枚噛んでるんじゃないんですか?」

「え?」

 

 私が言うと、今度はドラコが戸惑ったような声を出した。

 

「えっと紅魔、なんでそう思った?」

「いやだって、あなたの家の」

「僕の家の?」

「あ、いや、何でもないです」

 

 どうしよう。なんかドラコの反応がガチっぽいんですけど。問い詰めてドラコに白状させればこの事件も終わると思ってたんですが……。

 

「一応石化について話しておくと、死んだりはしないようです。ただ、すぐに治るようなものでもないとマダムポンフリーは言ってました。薬を作るのに時間が要るとか何とかで」

「そうか。いやー、よかった……あ、今のは僕がホッとしたとかでなく他の奴らを心配してだな?」

「もうその強がりはいいですから。それよりドラコ、本当にあなたじゃないんですか?最初に石化事件が起きた時、あなた若干ドヤ顔してましたよね?」

「あの時はテンション上がってたからな」

 

 野次馬ですか。

 

「しかし僕の家、ね。さてはお前、父上のことを疑ってるな?言っておくがな、父上はこんなことしないぞ。なんせ父上はこの学校の理事を務めておられる。父上は自分のテリトリーを自らの手で荒らしたりはしない人だからな!」

 

 そうしていると、ドラコがドヤ顔で言ってきた。この人本当に父上大好きですね。ファザコンってやつですか。

 

「そう言われてもイマイチピンと来ませんね。私たち(紅魔族)なんか、かっこいいかそうでないか以外に領域の区分はありませんし」

「お前……幼稚園児でももう少し考えて区分けするぞ」

「家柄だけで一年の頃から寮の代表面してるドラコには引かれたくないです」

「い、家柄だけじゃない!僕には全身から溢れ出るカリスマ性がだな」

「全身から溢れ出る(笑)カリスマ性(笑)」

「舐めてるのか紅魔ァ!というか代表面に関してはお前には言われたくないんだが!」

 

 私は成果残してますから。

 

 そんなことを考えていると、ドラコが言ってきた。

 

「フ、フン。まあ、わけのわからない迷惑一族には理解できない信条だしな。仕方がないことだ」

 

 ほう?

 

「はあ!?誰がわけのわからない迷惑一族ですか!そっちこそコッテコテの悪役ポジのくせに小悪党なヘタレ一家のくせに!」

「吠えたな紅魔!我が一族の侮辱は許さないぞ!そろそろお前に僕の実力を見せつけてやる!杖を抜け!」

「なるほど、決闘(ケンカ)ですか!いいでしょう、望むところで──」

「ほう、石化事件(クリービーの件)で忙しかった職員室周りに迷惑な罠を仕掛けるに飽き足らず、ここで新しく騒ぎを起こしていたわけか紅魔。実に奔放なことだな、え?」

 

 そこまで言ったところで、ふと私とドラコの間にニュっと黒い影が入ってきた。

 

「ス、スネイプ先生……お疲れ様です」

 

 その影の正体は、頬をピクピクさせイライラを隠そうともしていないスネイプ先生だった。私が少し詰まりながら声をかけると、スネイプ先生は言った。

 

「ああ、そうだ。我輩は実に疲れている。お前のせいでな。そしてこれからも疲れることになるわけだ」

「と、言いますと?」

「お前への罰はお前を最初に見つけた者がすることに決まってな。喜べ紅魔、お前は今から今日一日我輩の薬品及び薬草倉庫の整理の手伝いだ」

「え、ちょ、私にはやることが……襟をつかんで引っ張らないでください!従います!ちゃんと従いますから!……ちなみにその作業、半日になったりとか……ああ、襟はやめてください!一日でいいですから!」

 

 そんな私の抗議をよそに、スネイプ先生は私の襟を掴んだまま歩いていった。

 

 

 

 

 




 父上に信条裏切られてるマルフォイくんかわいそう……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この秘密の部屋事件に会議を!

 カズマ出したい。どこかで番外編とかやろうかな。


 マルフォイを問い詰めた一週間後、午前。

 

「これより、秘密の部屋事件対策会議を始めます!」

 

 私は図書館にハリーたちとゆんゆんを集め、声高らかに宣言した。

 

「静かにしなよ」

「周り見なよ」

「うるさいわよ」

「めぐみん、その、みんなの邪魔になっちゃうから、ね?」

「なんですかみんなして。そして周りを見るのはあなたです、ロン。ほとんど人なんていないでしょう」

 

 私の言葉の通り、座っている生徒はまばらだった。多分時間帯と、先週のコリンの事件のせいでしょう。あまり気軽に出歩こうとは思えないでしょうし。

 

「というかみなさん、機嫌悪くないですか?低血圧ですか?」

「朝から図書館まで引っ張ってきておいてよく言うよ」

 

 そう思いながら私が聞くと、ハリーが答えた。なるほど。

 

「……それはさておき、早速本題に移りましょう」

「今日はもういいけど、次からはやめてね」

「……はい」

 

 集めるのを朝にしたのは図書館が空いてて騒げそうだったからというのは黙っておこう。

 

「めぐみんが素直に反省してる……!?」

「うるさいですゆんゆん、乳もぎますよ」

「酷くない!?」

 

 何やら喚いてるゆんゆんをスルーして、私は言った。

 

「さて、皆さんに集まってもらったのは他でもありません。秘密の部屋事件の犯人についてです」

 

 私がそう言うと、みんなは一転して表情を引き締めた。

 

「めぐみん、何か分かったのかい?」

「まだ具体的にはあまり。ただいくつかはありまして、とりあえず、ドラコは犯人ではありません」

 

 私の言葉に、ハーマイオニーが反応した。

 

「根拠は?」

「ドラコが言ってました」

「「「は?」」」

「あの、そんな怖い顔しなくても。というかこれは冗談ではないです」

 

 みんなしてそんな目を向けなくても。

 

 ジト目で見てくる三人と三人に乗り遅れてオロオロしてるゆんゆんを尻目に、私は咳払いをして言った。

 

「んんっ……私が先週職員室周りに大量のトラップを仕掛けたのは知ってますね?あのとき、私はスリザリン寮まで行ってドラコと話してきました。その時、ドラコが私が秘密の部屋の話を切り出す前に向こうから秘密の部屋の怪物について聞いてきたんです。しかもかなりビビりながら。おそらく、ドラコは秘密の部屋について何も知りません。あれは嘘をついている感じではありませんでした。ドラコにあれだけの演技はできません」

 

 変な強がりするくらいにはビビってましたし。演技でそんなことするのは、ドラコ的にはプライドが許さないはず。

 

「ああ、真面目な話だったんだ。いつもの謎根拠の話かと思ってたよ。でも確かにアイツはめぐみんに弱いところあるし、めぐみんがそう言うなら本当かもしれないな。でもマルフォイだしなあ」

「まあハリーが言うのも分かるよ。マルフォイのやつ、今までめぐみんに勝てたことないし。でもマルフォイだしな」

「そうよね。今回のめぐみんの言葉は割と説得力あるけど、問題はマルフォイがマルフォイだってことよね」

「さすがにマルフォイくんの扱い悪すぎない……?」

 

 私が説明すると、ハリーたちは口々にそんなことを言った。どうやらゆんゆんはマルフォイについてあまり知らないらしい。

 

「ある意味私たち並みに学年で有名なドラコのことすらろくに把握できていないとか、さすがゆんゆんは人生一人プレイなだけありますね」

「人生一人プレイって何!?」

「そんなゆんゆんはさておき、三人はそんな反応をすると思ってました。なので、証人を用意しておきました。さあ、出番ですアステリア!」

 

 私がそう言うと、ガタリと後ろから音がして一人の生徒が立ち上がった。

 

「みなさん、おはようございます。そしてはじめましてですよね、アステリア・グリーングラスです」

 

 その生徒──アステリアは私たちのいる机の前に来ると、そう言った。

 

「はじめまして、僕はハリー・ポッター。君がアステリアか。めぐみんから話を聞いてるよ。マルフォイに惚れちゃってるんだって?君も大変だね」

「僕はロナルド・ウィーズリー。何がどうなってアレに惚れちゃったのか分からないけど、元気出しなよ」

「ハーマイオニー・グレンジャーよ。生きていればいいことはきっとあるから、アレを好きになっちゃったからって自棄になったりしちゃダメよ」

「え、急に酷くないですか?」

 

 登場したアステリアに対して口々に慰めの声をかけるハリーたちと、戸惑ったような声を上げるアステリア。あー、そう言えばハリーたちにはアステリアがドラコを慕っていることを言ってましたね。三人は学校でも特にドラコを嫌ってますし、この反応も致し方なしですか。

 

「えっと、はじめまして。紅魔ゆんゆんです。あの、めぐみんがいつも迷惑かけてるようで……」

「いえいえ、めぐみんさんにはいつも助けられてますよ」

 

 そんなことを考えていると、ゆんゆんがアステリアと挨拶を交わしていた。ゆんゆんは誰目線ですか、失礼な。

 

 そう思った私はゆんゆんに言った。

 

「そうですよゆんゆん、私は後輩に認識すらされていないどこぞのぼっちと違い、ちゃんと勉強を教えたり色々としているのです。どこぞのぼっちと違って」

「二回も言わないでよ!というか私だって認識くらいされて!……され……認識くらい……ぐすっ」

 

 弱すぎません?

 

 机に突っ伏すゆんゆんに、アステリアがフォローをするように口を開いた。

 

「元気出してくださいゆんゆんさん。レイブンクローの友達から、寮に一人が好きらしい頼りになる先輩がモゴッ」

「しっ!この状態のゆんゆんが見てて一番面白いので、しばらく放っておきましょう」

「……めぐみんさんってけっこう悪ガキみたいなところありますよね」

 

 まあいいですけど、とため息をつくアステリア。そしてアステリアはハリーたちの方を向き、言った。

 

「それでは本題に入りますね。えー、最初の事件は、確かハロウィンパーティーの日ですよね。あの日、ドラコ様は確かに何も怪しげなことをされていませんでした。この目でしっかりと見ていたので、間違いないです。先週も談話室で今日の反省会と称して周囲に当たり散らしていました。夜は流石に知りませんけどね」

「あー、そうなんだ。ちなみにアステリア、君はその当たり散らしているマルフォイを見て、幻滅とかしなかったのかい?」

「いえ、しませんよ?子どもみたいでかわいいではありませんか」

「そ、そう」

 

 アステリアの謎の迫力に押されるハリー。そんなハリーに助け舟を出すように、ハーマイオニーが今の話の要点をまとめようとした。

 

「な、なるほど。とにかく、事件があった日は両方ともアステリアがあいつと一緒にいたってわけね」

 

 すると、アステリアがそれに答えた。

 

「いえ、違いますよ?」

「え?」

 

 え?

 

「あ、言い方が悪かったですかね。残念ながら私はまだドラコ様とそこまで親密になれていないので、今は遠目に見るだけにとどまっているのです。あの日は課題も終わり一日時間があったので、散歩しながらドラコ様の様子をなんとなく見ていたのです」

 

 あれ?

 

「アステリア、ちょっとタイムです」

「?分かりました」

 

 アステリアの言葉に私はそう言い、ハリーたちを集めた。

 

「ちょっとめぐみん、話が違うよ。アステリアはドラコ以外はまともだって話だったじゃないか」

「ハーマイオニー、確認したいんだけど女子ってみんなあんな感じだったり」

「するわけないでしょ。あの子は特殊よ」

「ロン、ハーマイオニーに質問するなら私にもしていいんじゃないですか?」

「だって君は女子と呼べるか微妙……違う、違うんだ。僕が言いたかったのは、君は恋なんてしなさそグヘッ」

「どっちにしろ失礼です。そしてハリー、あの子のストー……あれは一応ドラコ関連じゃないですか」

「あの子は多分相手がマルフォイじゃなくてもやるぞ」

「まあ、そうですよね……」

 

 どうしよう。アステリア、思ったよりやばい子だった説が浮上してきてるんですけど。ストーカーて。

 

「みなさんどうしたんでしょう?私、何か変なこと言ってましたか?」

「ううん、何も変じゃなかったわよ。うん、そうよね。会いに行きたいけど迷惑かもしれないから会いに行けず、偶然会うことを期待してその人がいそうな場所を散歩するのって普通よね!」

「ええ、普通ですよ。めぐみんさんたちは何が引っかかったのでしょう……?」

 

 そう思ってアステリアの方を見ると、いつのまにか復活していたゆんゆんと何やら変なところで意気投合していた。うん、アステリアはやばい子のようですね。

 

「あー、まあとりあえずグリーングラスさんのヤバさは置いておきましょう。何にせよハリーたち、これでドラコが犯人じゃないことは分かってもらえましたか?グリーングラスさんはやばい子ではありますが、ごく一部を除けば良識のあるとてもいい子です。こういったことに関して嘘をつくことはないと思うのですが」

「えっとめぐみんさん、やばさって何のことですか?というか今私のことを家名で」

「うん、異論ないよ」

「僕も」

「私も」

「はい、というわけでグリーングラスさん、今日はありがとうございました。もう大丈夫ですよ」

「え、ちょっと、なんですか?距離感遠くないですか?めぐみんさん?めぐみんさん!?」

 

 戸惑うアステリアを強引に図書館の外に連れて行き、私は扉を閉めた。ふう、とりあえずはこれでいいでしょうか。……次にアステリアに会うときまでには整理しておきませんとね。まあアステリアは完璧寄りな子でしたし、変態(これ)くらいはスルーした方がいいんでしょうか。

 

「なんにせよ、ドラコが犯人じゃないってことは分かってもらえましたね?というわけでみなさん、ポリジュース薬を作るのはやめておきましょう」

「それが目的か!」

 

 アステリアを追い出し戻ってきてそう言った私に、ロンが言った。

 

「目的?ちょっと何言ってるか分かんないです。冬休みは私が里帰りするのに三人だけそんな面白そうなことをするなんて許さないとか、そんなことは全然考えてたりしません」

「考えてるじゃん」

 

 ちょっとハリー、冷静に突っ込まないでくださいよ。私がバカみたいじゃないですか。

 

「でも実際マルフォイの線が薄いなら、かなりの校則を破ってポリジュース薬を作るってのはリスクに割に合わないわよね」

 

 そうしていると、手を口元にやって何やら考えていたハーマイオニーが言った。

 

「さすがハーマイオニー、そう言うと思っていました!校則バカの名は伊達じゃな……すみません、校則バカは言い過ぎですね、謝ります。だから眼帯に手を伸ばさないでください!」

 

 私がそう言うと、ハーマイオニーは全く、とため息をついて手を引っ込めた。それを見て私は言った。

 

「そうですよね、ハーマイオニーはせいぜいが校則が服を着た存在……ごめんなさい眼帯は引っ張らないでください!すみませんでした、だからやめっ……ヤメロー!」

 

 そんな私を見て、ハーマイオニーはにっこりと微笑んだ。よかった、許してくれるみたいですね。やっぱりハーマイオニーは優し

 

「反省しなさい」

「ちょtア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!イイッ↑タイ↓メガァァァ↑」

 

 私は左目を押さえて床を転がりまわった。

 

「ちょっとハーマイオニー、ひどいじゃないですか!」

「はいはい、そんなことより次に行きましょう。もうポリジュース薬はいいから」

「そんなこと!?」

「もう一回眼帯引っ張った方がいい?」

「さあみなさん、ぐずぐずしてないで次行きますよ、次!」

 

 なんだこいつ、というみんなの目は気にしない。

 

「全く、この眼帯は我が強大なる魔力を抑えるマジックアイテムだというのに」

「それって私と一緒に新宿に連れて行ってもらったときに東急ハ○ズで買ってもらったやつじゃ」

「ゆんゆん、みんなに話しかけられないからって私にだけ突っかかるのはやめましょう。ぼっちが治りませんよ」

「そそそ、そんなんじゃないし!」

 

 私が言うと、ゆんゆんは焦りながら否定してきた。図星ですか。この春になんで頼ってくれなかったの!とか言ってきたから今日呼んでみましたが、ぼっち改善が先ですかね。

 

「ゆんゆん、いいですか?ハリーたちはスリザリンでさえなければ、基本偏見の目を向けません。いくらあなたがサボテンやらマンドラゴラやらと友達になろうとする変人だったとしても、彼らは引いたりしま」

「うわああああああ!」

 

 そう思った私がゆんゆんに言おうとすると、ゆんゆんは私に叫びながら掴みかかってきた。

 

「ちょっとなんですかゆんゆん、急に掴みかからないでくださいよ。言っておきますけど、あなたハリーたちとの初対面の時に既にやらかしてますからね。今更隠したって無駄ですよ」

 

 そんなゆんゆんに私がそういうと、ロンが乗っかってきた。

 

「そうだよゆんゆん、僕たちは君がトロールと仲良くなるための本を読んでたって気にしないさ!」

「ああああああああ!」

「ちょっとロン、言葉を選びなさいよ!ゆんゆんったら奇声を上げて机に突っ伏しちゃったじゃない。言っておくけど、ぼっちってのは他人からどう思われてるかを過剰に気にするの。別になんとも思ってないのに、異常に自分のことを気にするのよ。今の声だって、ふと我に返って恥ずかしくなってるに決まってるわ!」

「う、うん、ごめんよ。でもハーマイオニー、多分君の言葉の方がダメージ大きかったと思うんだ」

「え?あ、あの、ごめんなさいゆんゆん、そんなつもりはなかったのよ?ただちょっと私、こういう面で口が上手くないというか」

「い、いえ、全然大丈夫です……」

 

 ロンの言う通り、ゆんゆんは突っ伏せたあとハーマイオニーが何か言うたびに顔の赤さを増していた。ハーマイオニー、あなたもぼっちを経験しているのだから少しは手加減してあげてください。

 

「ま、まあいいや。それでめぐみん、次っていうと怪物の正体とか?」

 

 そうしていると、ハリーが話題を変えるように言ってきた。その横では未だに対人が不得意な元ぼっちと永遠に対人が苦手な名誉ぼっちが話していたがスルーだ。

 

 というか。

 

「あれ、言ってませんでしたっけ。もう怪物の正体自体は分かってますよ」

「「「え!?」」」

 

 私がそう言うと、みんなは声を上げた。ほう、まだ言ってなかったようですね。ならばここは探偵風にかっこよくいきますか。

 

「コホン。いやなに、そんなに驚くことではありません。三人が聞いたシュルシュルという息漏れの音、石化という特徴的な被害、そして蛇を象徴に冠するスリザリンの残した秘密の部屋の怪物。これらの情報を組み合わせれば、結論は自ずと見えてくるというものでしょう」

 

 私はそこで一旦言葉を切り、言った。

 

「秘密の部屋の怪物とは、魔眼と恐ろしき猛毒を併せ持つ大蛇。すなわちバジリスクのことです」

 

 

 

 

 

 




 イイッ↑タイ↓メガァァァ↑

 今話はめぐみんのこれをループ再生しながら書きました。めぐみんかわいいよめぐみん


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この秘密の部屋事件に会議を!(2)

「怪物の正体はバジリスクです」

 

 秘密の部屋事件についての会議の最中。私が四人にそう告げると、ハーマイオニーが言ってきた。

 

「……とりあえず、根拠を聞いてもいいかしら」

「ただの勘です。……嘘です嘘、冗談です!だから無言で眼帯に手を伸ばさないでください!」

 

 私が答えると、ハーマイオニーがまた眼帯をバーンとやろうとしてきた。全く、ちょっとした冗談じゃないですか。ハーマイオニーは余裕がないですね。

 

「めぐみん、なにか失礼なこと考えてない?」

「微塵も。それよりも、根拠ですか」

 

 根拠と言っても、さっき言ったのが大体全てなのだが。

 

「そうですね。まずは秘密の部屋の怪物が、サラザール・スリザリンの置き土産と言われていること。そして三人が聞いたシュルシュルという息漏れのような音。この二つから、怪物はおそらく蛇だと推測できます」

「そうね。そこまでは分かるわ」

 

 私が説明を始めると、ハーマイオニーがとりあえずと相槌を入れた。

 

「次に、その息漏れのような音が三人にしっかり聞こえてきたこと。いくら音の響きやすい誰もいない廊下とはいえ、目に見える場所にいない蛇の息漏れが聞こえてくるとかおかしいでしょう。しかも見えなかったということは、壁を隔ててた可能性すらありますし。というわけで、怪物は蛇は蛇でもかなり大きな大蛇だと考えられるわけです」

「すごいよめぐみん、まるで頭のいい人みたいじゃないか!」

「ぶっ飛ばしますよハリー。私は『まるで』ではなく頭の良い人です」

 

 説明してる最中に茶々を入れないでほしい。

 

「なるほどね。そこまでは納得できるわ。私が聞きたいのは、そこからバジリスクに飛んだ理屈よ」

 

 そうしていると、ハーマイオニーが言ってきた。あれ、ここまでくればあまり説明することないと思うのですが。

 

「え、飛ぶとかいうほどそこから距離ありますか?大蛇で、被害が石ですよ?バジリスク以外思いつかないと思うんですけど」

 

 バジリスクといえば石化と毒でしょう?石化とかそんなに普遍的な能力でもないですし、そんな変なこと言ってないと思いますけど……

 

 そう考えていると、ロンが言った。

 

「なんだ、ただの設定か……」

 

 イラッときた。

 

「ぶっころ!」

「ちょ、おい、それはおかしいって!今ので掴みかかるのはおかしい!今回に関しては僕絶対悪くないって言えるんだけど!茶々を入れたつもりはないぞ!」

「はあ?バジリスクといえば石化の魔眼でしょう。何を言ってるんですか?どう考えても茶々でしょう!」

 

 そうして私がロンに掴みかかっていると、ハーマイオニーか言ってきた。

 

「ちょっと待ってめぐみん。石化と言えばバジリスクなんて私も聞いたことないわ。バジリスクは強力な毒を持つ大蛇で、目を見ると即死するって言われてる怪物よね?石化なんて前見た図鑑には載ってなかったわ……あの、めぐみんの妄想とかじゃないのよね?」

「ハーマイオニーまで知らない?ということは本当に石化と言えばバジリスクではないのですか」

「そうね。私の知る限りでは」

 

 ということは、本当にバジリスクではない……?となると、ゴルゴーンとかコカトリス辺りでしょうか。いえ、ゴルゴーンは蛇系ではありますが人型ですし、コカトリスに至っては鳥。シュルシュルという音だとか、スリザリンとは合致しませんし。やっぱりバジリスクだと思うのですが。

 

「ねえめぐみん、考え込む前に僕に言うことがあるんじゃな」

「あ、でも、私もバジリスクといえば石化って思っ……あ、ごめんなさいロンさん。被せちゃって。邪魔でしたね。私、黙りますね」

「全然いいから!別に被したくらいで黙らなくていいから!というかハーマイオニーの目が理不尽に痛いからむしろ喋って!」

 

 私が考えていると、ロンとゆんゆんが何やら言った。

 

「ゆんゆん、ロンにそんな気を遣うなんてことしなくていいわよ。もっと雑に扱うといいわ。そんなことより、ゆんゆんは石化とバジリスクが結びつくの?」

「そんなことってなん……はい、すみません、雑に扱ってもらって大丈夫です、はい」

 

 ハーマイオニーに視線一つで黙らされるロン。そんなロンを微妙な視線で見ながら、ゆんゆんは口を開いた。

 

「う、うん。紅魔族のニートのゲームの話とか、お母さんの見る怪物映画とかではそんな感じで……」

「なるほどね。……そう言えば私も、昔テレビでそんな内容の映画見たことあるかもしれないわ。少し考えてみましょうか」

 

 ハーマイオニーがそう言うと、ハリーが立ち上がった。

 

「じゃあ僕はバジリスクが載ってそうな本を探してくるよ」

「あ、それなら向こうの方の棚を探すといいかもしれません。お願いしますね、さっきから影が薄いハリー」

「うるさいな!僕もそう思って今立ったんだから、ほっといてよ!」

 

 ハリーはそう言うと、私の言った棚の方へと歩いて行った。いつもみんなが周りにいるような生活してるわけだし、別にたまに影が薄いくらい気にしなくていいと思うのですが。

 

 そうして私たちはハリーが持ってきた何冊かの図鑑のバジリスクのページを探した。すると、バジリスクに関していくつかのことが分かった。

 

・バジリスクは鶏の卵から生まれ、ヒキガエルの腹の下で孵化する。

・その牙から分泌される毒は非常に強力。

・その目を見ると死ぬ。

・蜘蛛が逃げ出すのはバジリスクが来る前兆。

・雄鶏の時をつくる声が唯一の致命的な相手。

 

「……なるほど」

 

 相変わらず魔法界の生物はなんというか、色々と舐めてますね。鶏の卵から生まれるはまだ分からなくもないですけど、ヒキガエルの腹の下で生まれることになんの意味があるんでしょうか。

 

「うーん、やっぱり今回の件の犯人だって断定するには至らないわね。石化に関する記述が何もないわ」

 

 そんなことを考えていると、ハーマイオニーがそう言った。

 

「そうね。日本では割と石化のイメージもあったと思うんだけど、やっぱり創作なのかな……」

「どうなのかしら。何もなしに石化ってイメージが根付くとも思えないけど、そもそもマグルの世界で魔法生物のイメージなんて空想もいいところだし」

 

 何やら話し合うゆんゆんとハーマイオニー。私も概ね同じようなものですね。ふとハリーとロンの方を見ると、図鑑のページを軽く眺めながらこちらを見ていた。最初から考えるのを諦めてこっちに任せるのはやめてほしいんですけど……

 

「とりあえず、状況を整理してみましょう。それで何か見えてくるかもしれないわ」

「そうですね。じゃあまず、猫のところからですか。概要は聞いてはいますが、もう一度要点だけまとめて話してくれませんか?」

 

 私がそう言うと、ハリーとロンが切りだした。

 

「そうだね。絶命日パーティーの帰りに、僕の頭に謎の声が響いてきたんだ。シュルシュルって音も一緒にね。それでその声を追って廊下を行くと、ミセスノリスの現場に着いてたってわけさ」

「そんで、壁に描かれた血文字に呆然としてたらみんなが来たわけ。他に変わったことと言ったら、なんだろう、水溜まりくらいかな。なんかミセスノリスが掛かってた壁の下に水溜まりができてたんだ」

「ほう、水溜まりですか」

 

 確かにそんなものもあったような気がしますね。だからといってすぐに結びつくようなものでもないですが。バジリスクと水溜まり。うーん……

 

「コリンの方は立ち会ったわけじゃないからあまり詳しくないのだけど、寮に戻る途中の廊下で石になってたそうよ。近くにカメラが落ちてたけど、中が溶けてたらしいわ」

「溶けてた、ですか」

 

 少し考えていると、ハーマイオニーが言った。中だけというのが気になりますね。カメラに魔法が直撃したわけでもなさそうですし。

 

「あ。私、分かったかも」

 

 そうしていると、ゆんゆんが呟いた。

 

「……中だけが溶けてたということは、魔法がカメラに直撃したのではなく、中に入っていったということなんでしょうか。中に入るというのはつまり」

「聞いてよめぐみん!分かったかもって私言ったじゃん!今こっちをちらっと見てたし、絶対聞こえてたじゃん!」

「あー、はいはい分かりましたよ。聞いてあげます。それで、何が分かったんですか?」

「なんでそんな上からなのよ……まあいいわ。私ね、もし怪物の正体がバジリスクだったとして、どうやって姿を見られずに石化をしてるのかを考えてたのよ」

 

 私が振ると、ゆんゆんは若干ドヤ顔で話し出した。

 

「最初は透明化の魔法とか能力があるのかと考えてみたけど、さすがにそれだけじゃ無理があるじゃない?実際に廊下を通ってるなら痕跡の一つくらいは残ってるだろうし。そういうふうに考えてたら、ふと思ったのよ。なんで水たまりができてたんだろうって」

 

 ゆんゆんはそこで一旦切り、私たちがじっと見つめてることに気づいて少しテンパった。

 

「え、えっと、それでね!なんだっけ、その……そう!耐久魔法がかかってるホグワーツで雨漏りはありえないし、あとはこの場所で水と言えば一つ。そう、水道管(パイプ)よ!」

「「「!」」」

 

 その言葉を聞き驚く私達を尻目に、少しドヤりながらゆんゆんは続けた。

 

「そこらの家なら別だけど、ホグワーツは大きな城だもの、水を張り巡らせるためのメインパイプはかなり太いはずよ。もし怪物の正体が蛇なら、いくら大きくても太いパイプの中を通るくらいできるんじゃないかしら」

「……なるほど、バジリスクはパイプの中を移動して、穴か何かから出てきたってわけね。それなら水たまりは説明がつくし、けっこう納得のいく説だわ。すごいじゃないゆんゆん、よく思いついたわね!状況からはもうバジリスク確定で考えていいかしら」

「そうよね、これいい考えよね!ありがとう、ハーマイオニー!」

「そういえばハグリッドが雄鶏が殺されたと言ってたわね。雄鶏はバジリスクの天敵。パーフェクトじゃない。そしたら、そうね、水たまり……そしてコビー……あ、分かったわ!反射よ!ミセス・ノリスは水たまりに反射したバジリスクを、コビーはレンズ越しにバジリスクを見たのよ!それで死の視線が緩和されたんだわ。つまり、バジリスクに対抗する手段は鏡!鏡越しに曲がり角を見るなりすればいいんだわ!」

「あなたたちそろそろ止まってください!なんでそんなポンポン意見が出てくるんですか!」

 

 ゆんゆんに触発されたのか、ハーマイオニーが石化の謎まで有力な説を出してしまった。これはマズい。非常にマズい。これでは石化事件のMVPを取れなくなってしまう。

 

「ふふ、めぐみんが思いつかなかったことを思いつけた……!はじめてめぐみんに勝った……!」

「めぐみんも衰えたものね。一年の成績は早熟だったってことかしら?これはもう、今年は勝ったも同然ね」

「説一つ出したくらいでそんな勝ち誇らないでください!ぶっ飛ばしますよ!」

 

 そこまで言ったところで、ふとハリーとロンはどうしたのだろうとそちらを見ると、どこから取り出したのかチェスをしていた。とうとう話し合いを聞くことすら諦めてしまったらしい。

 

「あ、僕たちのことは気にしないで。なんかもう、今回考えるのは君たちに全部任せた方がいいと思うから」

「同意。はい、チェック。ハリー、君にこの盤面は返せないだろう」

「……うん、無理だね。リザインだ。あーあ、また負けた。なんでロンはチェスだけ頭が回るんだろう」

「負けたくせに言うじゃないか」

「あの、せめて話を聞くくらいしてほしいんですが」

 

 ……まあ、二人のことは置いておいて。そろそろ私もゆんゆんとハーマイオニーに負けず何か言わなくては。そうですね、何かあったでしょうか……あ!

 

「そうでした、私にはまだこれがありました」

 

 私が呟くと、ゆんゆんにハーマイオニーと、なんだかんだ話は聞いてるのかハリーとロンもこちらを見た。そんな四人に、私は言った。

 

「今回の事件、マルフォイが関係しています!」

「「「やっぱりそうじゃないか!」」」

 

 私の言葉に、四人は口を揃えて言った。あ、あれ?

 

「めぐみん、君マルフォイじゃないって自分で言ってたじゃないか。どっちなんだよ」

 

 私がその反応に戸惑っていると、ハリーが言ってきた。

 

「ああ、なるほど。そういうことですか。はい、ドラコではありませんよ。それは多分間違いないと思います。私がマルフォイと言ったのは、パパフォイのことです」

「パパフォイ……つまりルシウス・マルフォイのことよね。その根拠を聞いてもいいかしら?」

 

 私が言うと、ハーマイオニーが聞いてきた。

 

「そうですね……ではこれは他言無用でお願いします」

 

 そう言って、私はドビーのことを話し始めた。

 

「……ドビー、また何かやらかそうとしてたのか」

「やることなすこと全部おかしいなそいつ。頭のネジが飛んでるんじゃないか?」

 

 まだ会ったことのないロンにもこの言われよう。やってることを考えたら仕方ないですが。

 

「ま、そういうわけで私は父フォイが黒幕であることを知ってるわけです。なんかこの前私に向かっていかにもなセリフ吐いていきましたし。ただ、屋敷しもべの証言だけではおそらく取り合ってもらえないでしょう。というわけで、準備してないところに詰め寄ってぐいぐい行けば簡単にゲロってくれるかと思ってドラコのところに行ってみたわけです」

 

 ま、ドラコが白っぽいとかいうまさかの結果に終わったわけですが。

 私がそう言うと、ハリーが言った。

 

「なるほど、あれは例の発作じゃなくてめぐみんなりに考えての行動だったのか」

「ハリー、言いたいことがあるならはっきり言っていいんですよ?」

 

 例の発作ってなんですか。

 

「しかしそうなると分からないわね。ルシウス・マルフォイはどうやってバジリスクを操ってるのかしら。あれでも立場ある人だし、そう簡単にホグワーツで事件なんて起こせないと思うんだけど」

「誰か手下でも潜り込ませてるとか?あいつならそういうのが常套手段だろ。よく父さんが愚痴ってる」

 

 私がハリーを睨みつけていると、ハーマイオニーとロンがそう言った。そういえばロンのお父さんはマグル関係の取り締まりでマルフォイ家を目の敵にしてるんだったか。まああの感じだと後ろ暗いものがワラワラありそうですし、それを検挙しきれてないんだから当然ですね。

 

 そんなことを考えていると、バン!と大きめの本が落ちる音が後ろの方からした。何かと思って振り返ると、少し離れた席に何やら日記帳のようなものを拾おうとしているジニーがいた。

 

 いつのまに来てたんですね。そう思いつつなんとなくそちらを見ていると、こちらを伺うように振り向いたジニーと目が合った。どうせなら話し合いに加わってもらおうかと思い声をかけようとすると、ジニーはそんな私を見てビクッと体を震わせた。

 

 ……えっ。

 

「なんですかその反応。え、私何かしましたか?ジニーにはそんな変なことしてないと思うんですけど」

「めぐみん、うちの妹にまで何かやらかしてるなら僕はやらなくちゃならないことができるんだけど」

「いやあの、私本当に心当たりないんですけど。ジニー、できればその反応の理由を教えてくれませんか?けっこうショックです」

 

 私がロンからの視線から逃げつつジニーに言うと、ジニーは小さく咳払いをして答えた。

 

「んんっ。ちょっと考えごとしててびっくりしただけよ。別に深い理由はないわ。また変なことでも調べてるのかと思ったけど、ハーマイオニーたちがいるってことはそういうのじゃないのね」

「またってなんですか。私は変な調べ事などしたことありませんよ。具体的に言えば、そっちのぼっちみたいに植物とのしゃべり方とかUMAと友達になる方法なんて調べたことないです」

「なんであんたはそう軽率に私に流れ弾飛ばすのよおおおお!」

「あ、ちょ、組み付くのはやめてください!図書館ですよ、静かにしてください!」

「めぐみんにそのたしなめられ方するのは納得いかない!」

 私たちがそうしていると、ジニーは「じゃ、私はやることがあるから」とその場を去っていった。

「ジニー、やっぱり様子おかしくないですか?いつもは私が騒いでたらあきれ顔で話に参加するのですが」

「どっちが先輩か分からないわね、あなたとジニーの関係。ま、そんな日もあるんじゃない?一年生だし、まだ色々慣れなきゃいけないことは多いでしょうし」

 私が呟くように言うと、ハーマイオニーがそう言った。確かに、全寮制ということもあって一年生は新しいことばかりだ。毎日変わる校内の道順だのロックハートのあまりに自意識過剰な絡みだのどう考えても意味が分からなくてめんどくさいものもあるし、四か月そこらじゃ余裕が出ないこともあるだろう。ちょうど疲れが出始める時期でもあるし。

 結局会議でそれ以上何か新しいことが分かることはなく、とりあえず怪物の正体がバジリスクであろうことを先生に伝えるということで話は終わった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この50年前の日記に調査を!

 エタらない(断固たる決意)




 

「今さらだけどめぐみん、よく怪物の正体なんて当てたね。私、ずっと何が起こってるのか見当もつかなくて怖かったの。もちろん解決したわけではないけど、正体が分かったしちゃんと注意してれば死にはしないって聞いて少しほっとしたわ。ありがとうね、めぐみん」

 

 会議から冬休みを挟みだいたい一ヶ月後。いつものようにラベンダー・パーバティの二人と一緒に宿題をやっていると、ラベンダーが口を開いた。

 

 あの会議の後、私たちはマクゴナガル先生にバジリスクの話をしにいった。最初、先生はあからさまに「またあなたたちですか」といった顔で取りあってくれなかったが、私とハーマイオニーが根拠を説明すると、先生は「確かに、一考の余地があります。校長に伝えておきましょう。もしあなたたちの話を信じるならば、そうですね。対策としては──廊下の曲がり角に鏡を張り、生徒に曲がる際は鏡を見て確認するよう言うのがいいでしょうか」と言ってくれた。

 

 その後少しして冬休みとなり、私とゆんゆんは去年と同じく紅魔の里へと里帰りした。あるえに去年聞きそびれた最初の紅魔族のことを聞こうと思ってたのだが、今年は忙しいらしく里へは来なかった。話を聞けなかったのは残念ですが、去年聞いた「白髪碧眼の老人で紅魔族の中でも特に長生きした」という情報だけでだいたい察しはつきました。できれば確定まで持っていきたかったのですが、忙しいなら仕方ありません。

 

 まあなんにせよ、とりあえずはこれで死者が出ることはないでしょう。石化を解く薬も目途が立っているようですし、ちょっと一息ついてよさそうです。鏡をつけて以降は、今のところ被害者ゼロですし。

 

 そんなことを考えていると、ラベンダーに続いてパーバティが言った。

 

「めぐみんはいつもは頭のねじが飛んでるけど、こういう時はほんとに頼りになるわよね」

「パーバティ、そのいつもはの認識について詳しく」

 

 パーバティの言葉に、私はそう言った。頭のねじが飛んでるとか、人のことをなんだと思っているんでしょうか。え、日ごろの行い?何を言ってるのか分かりませんね。

 

「しかしバジリスク、ねえ。あんまり石化と結びつかない印象だけど、日本じゃ違うのね。ただの超危険な大蛇ってイメージだったわ」

「蛇といえば、最近ハリーがパーセルマウスだって噂になってるわね。それで今回の黒幕はハリーだって言い出す人もいる始末。そんなわけないのにね、パーバティ?」

「なんで私に聞くのか分からないけど、まあ私も違うと思うわ。ありえないでしょ。根拠を挙げるまでもないわ。よりによっても継承者がハリー・ポッターって……何よ、ラベンダー」

「いや、ハリーの話をするパーバティの絶妙な表情はなんともいいものだなtいひゃいいひゃい、頬はやめひぇふぁーふぁてぃ」

 

 そうしていると、二人がそんな話を始めた。何それ、初耳なんですが。

 

「え、何ですかそれは。パーセルマウス……?それでハリーが継承者?ちんぷんかんぷんなんですが」

 

 私が聞くと二人は少し顔を見合わせ、答えた。

 

「めぐみんは噂聞いてなかったのね。えっと、パーセルマウスってのは要は蛇語が話せるってこと。パーセルマウスは昔から闇の魔法使いの証だって言われてて、実際サラザール・スリザリンもパーセルマウスだったらしいわ」

「なんでも、一昨日あたりに開かれた決闘クラブでハッフルパフのフレッチリーに蛇をけしかけたんだってさ。ハリーは蛇に逆に襲わないよう言ったらしいんだけど、蛇語なんて他に分かる人がいるわけないし、真相は分からないわ」

 

 全部初めて聞いたんですが。え、蛇語使い?なんですかその私の心を震わせる言葉は。というか決闘クラブの話、私聞いてないんですが。まあなんにせよ、とりあえず。

 

「なんでハリーは蛇語使いなんていうかっこいい称号をゲットしたんですか!既に生き残った男の子とか言われてちやほやされてるじゃないですか!もう十分でしょう、私にくださいよパーセルマウス!」

「相変わらず斬新な感想ね」

 

 私が悔しがりながらそう言うと、パーバティが小さくため息をついてそう言った。なにが斬新なものか。紅魔の里でアンケートを取れば間違いなく私の意見ばかりになりというのに。

 

 それに。

 

「あと決闘クラブとかいうどう転んでも楽しくなるものになぜ私に教えてくれなかったんですか!ハリーが出たということは少なくともロンも出てたはず……くっ、私たちは友達ではなかったのですか!」

「私たちに言われても。ちなみに講師はロックハート先生とスネイプだったみたいよ?用事があっていけなかったけど、ロックハート先生の勇姿は見たかったなあ」

「あ、ロックハート先生ならいいです」

「なによ!かっこいいじゃないロックハート先生!」

 

 私がロックハート先生の名前を聞いてすっと冷めた表情に戻ると、ラベンダーが言ってきた。さすが魔法界育ちでミーハーのラベンダー。しっかりとロックハート先生びいきですね。

 

「しかし、パーセルマウスですか。そういえば昨日一昨日と、ハリーは妙にカリカリしてましたね。色々重なって理由は聞けてませんでしたが、あれはそういうことだったんですか。ハリーが継承者とは、また随分な仮説ですね」

「ま、疑いたくなるのも分かるけどね。怪物の正体がバジリスクだってんだから、パーセルマウスはなおさら怪しいもん。みんな不安なのよ」

 

 私が言うと、ラベンダーがそんなことを言った。まあ対策が立ったとはいえ、それが不十分なのは明らか。不安なのはそうでしょうね。

 

「ハリーといえば、少し前ハリーが何も書かれてない日記を見つけたんですよ。持ち主はトム・リドルというらしいです。どうやら前に一度だけ秘密の部屋が開いたと噂の五十年前の物らしく、色々探ってるんですよ。透かしてみたり、炙り出しや透過魔法の反対魔法を試したりしてみてるんですが、どうにも何も分からなくて。二人は何かそういった方法に心当たりとかありませんか?」

 

 しかもロンのよると、トム・リドルというのはその五十年前にホグワーツ特別功労賞をとった人らしい。今学期の最初にホグワーツに車で突っ込んだときの罰でやらされた杯磨きで見て覚えていたらしい。そんなこともありましたね。今度私もやってみたいものです。窓から飛び込んで入場。

 

 まあなんにせよ、タイミング的にその功労賞は秘密の部屋の事件を解決したことに対するものと考えるのが自然だろう。もちろん違う可能性もあるし、今事件が再発しているのだから本格的に解決したわけではないんだろうが、なんにせよその日記はとても重要な手がかりなわけだ。

 

 そうでなくても、今になって出てきた五十年前の日記とかどう考えても怪しい。どう考えても事件解決への伏線だ。フラグはちゃんと全部回収しろって主人公のための夏期講習で習いましたし、間違いなく手掛かりだと思うのですが……。

 

「うーん……私は思いつかないかなあ」

「私も特に思いつくことはないわね。あなたたちも思いつくことはとりあえずやってみたでしょうし、それをここでパッと思いつくのは難しいわ」

 

 そう思いながら二人に聞くも、二人はそう言って首を横に振った。うーん、どうしたものか。

 

「それよりめぐみん、宿題の手が止まってるよ!あなたが終わらなかったら私は誰のを見ればいいのよ」

「さすがに私もそういう言われ方をすると見せてあげる気は失せるんですが」

「お願いします今回の魔法薬の課題難しくて分からないんです教えてください」

「そこまでかしこまれとも言ってないです。ええと、その問題は……」

 

 そうして、私たちは秘密の部屋の件は一旦置いて課題へと頭を向けた。

 

 

 

 

 

 

「やはり、あまり活気はありませんね」

 

 翌日。ハリーたちと廊下を歩きながら、私は呟いた。

 

 冬休み前後以降、ホグワーツの雰囲気はよくない。不必要に寮を出る生徒はかなり減ったし、廊下を歩くときもなるべく早く移動するのがほとんどだ。昨日ラベンダーとパーバティはほっとしたとか頼りになるとか言ってくれたが、それは今のホグワーツではかなり少数派で、大半はあまり気休めにもなってないように見える。

 

 まあそれだけあの二人は有事での私を評価してくれてるのでしょう。その信頼がちょっと嬉しかったのは内緒です。

 

「まあこんな状況じゃあね。鏡を見て用心したところで石化から逃れられるわけじゃないし、そもそも怪物がバジリスクって証拠があったわけじゃないし」

「証拠ねえ。そもそも怪物が何かを落としていったりしてないし、証拠なんてあるわけないのよね。図書館でいろいろ調べてみたけど、結局手がかりすら見つからないし」

 

 私の呟きに、ロンとハーマイオニーが答えた。あの会議以降も色々と調べているのだが、情報は50年前にも一度部屋が開いたらしいという噂以外に全く集まらない。となると、あと望みは謎の日記帳くらいなのだが。

 

「ハリー、どうしたんですか?さっきから押し黙ったままですが」

 

 その日記帳を持っているハリーに目を向けると、その日記に軽く目をやりつつ何やら考えごとでもしているようだった。そのハリーは私の言葉に顔を上げると、少しだけ考える素振りをして言った。

 

「ああいや、そうだね……三人とも、ちょっといいかい?日記についてなんだけど」

 

 ハリーがそう言うと、後ろでドサッと何かが落ちる音がした。何かと思って後ろを振り返ると、ジニーの足元に教科書が落ちていた。

 

 なんだ、ジニーですか。そう思ってふうっと息を吐いたところで、知らず知らずのうちに肩に力が入っていたことに気が付いた。どうやら、私も廊下を歩くときは緊張してしまっていたらしいですね。

 

 まあ仕方ないでしょう。いくら鏡越しなら大丈夫と言っても、やはり石化という現象には背筋に走るものがあります。これはビビりとかじゃありません。当然の緊張状態です。ええ、怖がってるとかじゃ全然ないので。

 

 そんなことを考えている私をよそに、ハリーは落ちた教科書を拾ってジニーに渡した。

 

「はい、これ。あー、次は魔法薬学か。スネイプに睨まれないよう気を付けてね。といっても、あいつはグリフィンドール生全員を頭のないトロールだと思って──」

「ヒッ」

 

 そんなハリーに、ジニーは小さくそんな悲鳴を上げた。

 

「え?」

「……あ、ご、ごめんなさい。ちょうど、あの、怪物のこと考えてたから驚いちゃって。それじゃ」

 

 そしてジニーはそう言い、その場から逃げるように私たちの横を抜けて去っていった。

 

「これは言い逃れできませんね。ハリー、自首しないと罪は重くなるばかりですよ」

「違う、誤解だよ!僕、そもそもジニーと最近ろくに話してないし!バジリスクのこと考えてたら多少のことでああなるのも仕方ないんじゃないか?」

「本当だな?本当に妹に何もしてないんだな?」

「本当だって。というかロンはジニーがろくに僕と対面できないの知ってるだろう」

 

 どうやら冤罪だったらしい。しかし、今のジニーの怖がり方は怪物(よく分からないもの)に対するものとはまた別だったような……

 

「そういえば最近、ジニーの様子が少しおかしいんですよね。学校に来たての頃の快活さがあまり見られないと言いますか。それに談話室や図書室にいると、たまにどうにも何か探るような視線をジニーから感じるんですよね。そっちを見て目が合うとすぐ逸らされるんですけど」

「「「なんだ、今のはめぐみんが原因だったのか(ね)」」」

 

 そんなことを考えながら私が言うと、三人は納得したような声を出した。

 

「違いますよ失礼な!先月の会議のときも言いましたが、ジニーに何か怖がられるようなことをした覚えはありません」

「だってめぐみんの覚えとか全然信用ならないし」

「ぶっ飛ばしますよハリー」

「じゃあめぐみん、ジニーの前であの岩は爆裂させがいがあるとか言わなかった?」

「言ったに決まってるでしょう、それとこれと何の関係が?」

「…………」

 

 私の返事に、やっぱりと言わんばかりのあきれ顔を見せるハリー。爆裂対象の厳選はただの私のライフワークだというのに、ハリーはなぜそんな顔をするのだろうか。

 

「……めぐみんの言動がおかしいかどうかは一旦おくとして、確かにジニーがいまさらそんなことでめぐみんを怖がるとは思えないわ。学期が始まって数か月はふつうに仲よさそうにしてたもの。めぐみんは出会ってまだ時間が経ってないからとか言って頭のおかしさをセーブしたりする人じゃないでしょう?」

「確かに」

「言われてみればおかしい」

 

 そうしていると、ハーマイオニーがそんなことを言った。頭のおかしさをセーブするってなんだ。セーブできるものではないでしょうそれは。いえ、そもそも私は頭おかしくないですけど。そして二人もそんなことで納得しないでほしい。私をなんだと思っているのか。

 

「……まあいいです。その納得のしかたには言いたいことがありますが、今は置いておきましょう。それで思うんですが、先月の秘密の部屋事件解決会議のとき私を見てビクっとしたでしょう?あのときは疲れでもあったのだろうって話でしたが、今のを見るとどうも何か他の原因な気がします」

「なるほど。ふつうにバジリスクが怖い、とかじゃないわよね。なら特別めぐみんに怯える理由がないわ。うーん……分からないわね。やっぱり何かやらかしたとしか」

「違うって言ってるじゃないですか!というか、よっぽどのことがない限りジニーはあんな態度を取らない子だと思います。ロン、そうでしょう?」

「まあそうだな。ジニーがしどろもどろになるのなんて、それこそハリーくらいだ。わりと肝が据わってるやつだよ、あいつは」

 

 うーん……なんでしょう。本当に心当たりがない。話しかけようとしても避けられるの、ふつうに悲しいのでなんとかしたいんですが。

 

「まあ、今考えても仕方ないですね。ジニーのことはまた後で考えるとしましょう。それでハリー、日記について何か言いかけてましたよね。何か手掛かりでもつかめましたか?」

 

 ジニーにはあとで無理やりにでも話を聞くとでもしましょうか。そう考えながら私がそう聞くと、ハリーは口を開いた。

 

「この日記帳の読み方……というか使い方が分かったんだ」

 

 どうやらこの事件の捜査にも、ようやく進展が訪れたようだ。

 

 

 

 




 このすば、新作アニメやるらしいですね!それに合わせて書籍の方も動きがあるとか!戦闘員もあるのに完結作品も書いてくださるとか、ありがたい話です。戦闘員のアニメもよかったですし、今年はいい年ですね!コロナ?知らないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この人の来ないトイレに五十年前の日記を!

 

「それでハリー、何が分かったんだい?使い方が分かったくらいじゃこんなところにわざわざ来る必要はないだろう?」

 

 ハリーから日記の読み方が分かったと聞いてからだいたい二時間後。気もそぞろに魔法史の授業を受けたあと、私たちはハリーに連れられ二階の女子トイレへと向かった。

 

 女子トイレに行くと言い出したときは付き合いを考え直そうかと思ったが、聞けばその女子トイレには“嘆きのマートル”というゴーストが住み着いており、秘密の話をするのに好都合らしい。なんでも、ポリジュース薬の作成もここでやるつもりだったとか。そう言えばそんな話もありましたね。

 

 余談だが、女子トイレに行くと言い出したハリーに頭でもおかしくなりましたかと聞いたら、ハリーは「めぐみんに頭おかしいって言われた……」と絶望したような表情で言っていた。私のことをなんだと思っているのか。友情の確認のため小一時間問い詰めたかったが、大人な私は寛大な姿勢でスルーした。

 

 ええ、私は大人なので。別にハリーに同情を寄せるような二人の表情に何も言えなかったとかじゃありません。ええ、別にいつも問い詰めようとして三人一丸となってめぐみんは頭おかしいよと言われててちょっと尻込みしたとかじゃ全然ありませんとも。

 

「こんなところってなによ。人の住処にケチ付ける気?」

 

 そんなことを考えていると、どこからともなく少女のゴーストが現れそう言ってきた。どうやら彼女が嘆きのマートルらしい。

 

「あー、うん、悪かったよ。トイレするのに移動しなくてすむし、案外いい場所かもしれないかな?」

「トイレがいい場所とかそんなわけないじゃない。バカじゃないの?それに私ゴーストだからトイレなんてしないんだけど。もしかして死んでる私への皮肉かしら?最低ね」

「僕はなんて言えばよかったんだよ!」

 

 そのマートルはロンとコントをしていた。わりと口が回るタイプらしい。

 

 そうしていると、マートルは私の方を見て訝しむような視線を向けてきた。なんでしょう。私とマートルには特に何もないはずですが。そもそも初対面ですし。そう思っていると、マートルは言った。

 

「あんたもしかして、紅魔族かい?」

「ああ、なるほど。ご明察です。長い間ホグワーツにいるだけはありますね」

 

 どうやら紅魔族を知っていたらしい。さすが学校憑きのゴースト。私の前にホグワーツへ来た紅魔族はわりと前の世代だと聞くし、マートルはそこそこ長い間ここにいるのかもしれません。

 

 そんなことを考えながら、私はローブに手をかけた。フフ、そういえばこれ(・・)をやるのは久しぶりですね。

 

「我が名はめぐみん!紅魔家随一の魔法使いにして、いずれ爆裂魔法を操りし者!」

「ああはいはい、そういえば紅魔族には名乗りなんて風習があったわね。うるさいったらありゃしない」

「「「!?」」」

 

 私が名乗りを上げると、マートルはそんな返しをしハリーたち三人はマートルに驚いていた。

 

「おかしい。めぐみんが名乗りを上げたのに大して反応してない」

「多分マートルもおかしいんだ。おかしい者同士通じ合ったんだ」

「そうね、そうに違いないわ。めぐみんのアレに引かないなんておかしいもの」

「おいそこ、言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」

 

 というか引いてたんですかハーマイオニー。

 

「私を紅魔族と一緒にしたら二度とこのトイレに入らせないわよ。それと紅魔、もう一人紅魔族がいるでしょう?紅魔にしては大人しい子よ。あの子に、もうここに来ないようやんわり言ってくれないかしら」

 

 そうしていると、マートルはそんなことを言ってきた。

 

「ゆんゆんが来てるんですか?」

「あー、多分そいつ。多分私がいるのを知らないからだと思うんだけど、たまに来てなんか友達の作り方とか話しかけ方の計画練ってるのよ。なんというか、悪い子じゃないのは分かるんだけど見てて苦しくなってくるのよね。いつもは人の無様な姿は面白く思えるんだけど、あの子のはあんまり笑えないのよ」

 

 私の質問にそう答え、マートルはその場から立ち去っていった。さらっと最低なことを言っていたが、どうやらゆんゆんはたまにここに来て随分とアレな光景を見られているらしい。まあ人付き合いが希薄なゆんゆんだし、別にマートルを知らないくてもおかしくないでしょう。私も知りませんでしたし。

 

「あー、その、うん。あんまり見ないけど、今度ゆんゆんを見たら話しかけてみようかな」

「正直サボテンと話す本だとかトロールと話す本だとかはジョークみたいなものだと思ってたよ。僕もこれからは話しかけるようにしよう」

「そうよね……一人は寂しいものね……友達欲しいわよね……」

 

 私が聞く限りあまりいい性格をしていないマートルにすら心配されるゆんゆんに微妙な気持ちになっていると、三人も同じように微妙な雰囲気を漂わせながらそう言った。約一名が一年の最初の時期を思い出してる気もするが、ここはスルーだ。

 

「……話を戻そうか。日記の使い方の話。ロンが言った通り他に分かったこともあるんだけど、まずはこっちから話そうと思う」

 

 そんな微妙な空気の中、ハリーはそう言って日記帳を私たちの前の台に置いた。

 

 この日記の持ち主の名前はトム・リドル。ロンによれば、前に一度秘密の部屋事件が起きたとされる五十年前にホグワーツ特別功労賞をとった生徒の名前だ。間違いなく重要な手がかり。微妙だった私たちの空気は自然と切り替わった。

 

 そんななか、ハリーは言った。

 

「これ、何かが書いてあるものじゃなかったんだよ。書いた人の記憶かな?それが編み込まれた魔法の品だったんだ。だからこの日記の“読み方”は、書いてある文章を探すを探すんじゃなくて、こういうふうに書き込むことで答えてくれるんだ」

 

 そしてハリーは日記に「気分はどう?」と書き込んだ。するとその文はスッと消え、「ハハ、日記に気分も何もあるわけないだろう。どうしたんだい、ハリー?」という文が浮き出てきた。

 

 道理で読めないはずだ。この日記は何か見えないインクで書かれていたわけではなく、そもそも何かが書かれているタイプの日記ですらなかったわけだ。

 

「書き込むと答える……なるほど。その手がありましたか」

「なるほど、そういうタイプの魔道具だったのね。そういうものがあるのは知ってたけど、やっぱり現実で見てもパッと出てこないものね」

 

 言われてみればありがちですね。なぜ思いつかなかったのか。これは悔しいですね。

 

「ハリーはどうやって気づいたの?」

「ちょっと飲み物をこぼしちゃったんだけど、いつのまにかシミが消えててね。それでもしかしたら、って思ったんだ」

 

 そうしていると、ロンが言った。

 

「うーん、書いたら返事が返ってくるかあ。ねえハリー、それに書き込んでて大丈夫だった?何か変なことはなかったかい?」

「文字が浮かび上がるのはまさに変なことだと思うんだけど」

「そういうこと聞いてるんじゃないのは分かるだろう!みんなは知らないだろうけど、魔法界じゃ脳がどこにあるか分からないものを信用しちゃいけないのは鉄則なんだ。分かるだろう?」

「変なことねえ。うん、少し考えてみたけど特になかったよ」

「そう。ならいいんだけど……」

 

 言葉通り特に何もなさそうなハリーに、ロンはそう言った。魔法界にそんな鉄則が。正直いろいろとデタラメなこの魔法界で脳の場所なんて些細だと思うのですが。

 

「それで、書いたら返事が返ってくるのに気づいた僕は軽くトムについて質問したあと、五十年前の事件について聞いてみたんだ。それで分かったんだけど」

 

 ハリーはそこで一息つき、言った。

 

「五十年前の事件だけど、全くの未解決だったみたいなんだ」

 

 今回も前回も怪物の正体がバジリスクで合ってればだけど。そう言いながらハリーはこちらを見てきた。

 

「それは間違いないです。ここ一ヶ月で色々調べましたが、怪物の正体はバジリスクで正解でしょう。調べた限り、他の石化能力を持った魔法生物だと今回の事件の状況には当てはまりませんでした」

「未知の魔法生物だったらお手上げだけど、五十年前の事件がちゃんと解決してるならそれもありえない。バジリスクと考えて調査すべきよ」

「え?あ、うん。そうだよ。バジリスクで間違いないさ、ウン」

 

 大きな鳥ではホグワーツ城内で動けないからコカトリスはなし。ゴルゴンは髪が蛇なだけで本体は普通の人型でパイプを通る必要はない。水との縁もないし、水溜りの説明がつかない。他もスリザリンの秘密の部屋の怪物としてしっくりこないし、バジリスクでFAでしょう。

 

「ロン、無理しなくていいよ。僕も同じだから安心して。じゃあ、この日記で見た五十年前の出来事を今から話そう」

 

 そう言って、ハリーは話し始めた。

 

「詳しいことは省くけど、五十年前、今回と同じように秘密の部屋が開かれたんだ。それで同じようにマグルの生徒が狙われた。でも今回とは違って、一人実際に犠牲者が出てしまったんだ。それで閉校の話も出てきて、当時からいたダンブルドアも犯人を見つけられないなか、トム・リドルが怪物と犯人を見つけたんだけど……」

「それがバジリスクじゃなかったと。そういうわけですね?」

 

 私が言うと、ハリーはぎこちなく頷いた。

 

「うん、そうなんだ。見つかった怪物は大蜘蛛でバジリスクじゃなかった。でも、問題は他にもあって」

 

 ハリーは少し言い淀んだあと、言った。

 

「捕まった犯人がハグリッドだったんだ」

「「「は?」」」

 

 私たちの綺麗に被った声がトイレに響いた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この秘密の部屋事件に展開を!


 常にお久しぶりという事実。


 

 

「なるほど、そういうことでしたか……」

 

 ハリーが50年前に捕まったのがハグリッドだといった後、私たちはハリーが日記から見聞きしたことを説明された。どうやら当時ホグワーツの学生だったハグリッドが校舎のなかの目立たない一室に閉じ込められていた大蜘蛛のアラゴクを見つけて育てており、それを発見したトム・リドルがそれを秘密の部屋の怪物だと思って先生に伝えたという流れらしい。それでハグリッドは退学、トム・リドルは特別功労賞、事件は解決と、そういうわけだそうだ。

 

 なんというか……ハグリッドならやりかねない話というか……

 

「……まあなんというか、ハグリッドらしい話だよな。城のどこかに怪物が潜んでるって聞いたから見てみたくて探し当てて、そんでずっと部屋に閉じ込められて可哀そうだからちょっとくらい外を出歩かせてやってもいいんじゃないか、みたいに思うのは」

 

 私がそう思っていると、ロンも同じことを思ったのかそう言った。どうでもいいですが、わりとハグリッドの解像度高いですね。

 

「うん、僕もそう思ったんだ。だからもう一回聞くんだけど、本当に秘密の部屋の怪物はバジリスクなんだよね?アラゴクじゃないんだよね?なんかリドルの話聞いてから、なんか僕もハグリッドならやっちゃいそうな気がしてきてて……」

 

 ロンの言葉に、ハリーが自信なさげにそう聞いてきた。

 

「正直私も今の話聞いてハグリッドならと思いましたが、少なくとも今回の事件に関しては怪物の正体はバジリスクです。……そうですよね、ハーマイオニー?」

「ちょっとめぐみん、あなたまで不安がらないでよ。秘密の部屋の怪物はバジリスクのはずだわ。石化の力を持った大蜘蛛なんて調べてて一回も出てこなかったし、第一今回も50年前も、もしハグリッドと大蜘蛛が犯人ならスリザリンの秘密の部屋関係ないじゃない。ハグリッドが誤魔化すために血文字であんなこと書くとは思えないし」

「ですよね。そうです、今回もおそらく50年前も、怪物の正体はバジリスクです」

「そう……うん、そうだよね。確かに色々考えるとハグリッドが犯人なのはおかしい。よかった、ハグリッドが犯人じゃなくて」

 

 私たちがそう答えると、ハリーはそう言ってほっとしたようにため息を吐いた。そんなハリーを横目に見ながら、ロンが言った。

 

「でもそしたら、なんで50年前はハグリッドの退学で被害者が出なくなったんだ?まあ僕も冷静に考えたらスリザリン関係のところがハグリッドじゃありえないのは分かるんだけど」

「そうね。まず思いつくのは、ハグリッドが捕まったのをちょうどいい機会だと一旦犯行をやめて、それでほとぼりが冷めてしばらく経った今になってまた動き始めたってところかしら」

「まあそれが妥当ですかね。あと考えられるのは……」

 

 トム・リドル自身が自分からハグリッドに濡れ衣を着せに行ったか。

 

「あと考えられるのは?めぐみん?」

「……いえ、なんでもないです」

「?そう。まあとりあえず、犯人の特定につながりそうな話はなかったわね。せいぜい50年前の事件がただの噂話から本当にあったことだって確定したくらいかしら」

 

 さすがに考えすぎですかね。今回の事件にからんでそうなところもいくらか調べましたがトム・リドルなんて名前全く見ませんでしたし、犯人か犯人と近い関係にあるはずのルシウス・マルフォイとの関連性も全く見えませんし。

 

 あとできることは、ハグリッドに当時のことを聞きに行くとかですかね。

 

「そうだね。あとはまあ、ハグリッドに何か聞きに行くかい?」

「なんて聞くんだ?『ハグリッド、50年前の事件の冤罪で退学になったんだって何があったのか聞かせてよ』?それはずいぶんと楽しそうだ」

「ああ、まあ、そうだね。聞きにくいよなあ」

 

 ロンはハリーに言われ、確かにというような顔でそう声を漏らした。……聞きに行こうとしてたなんて言えない雰囲気ですね。

 

 結局その日もそれ以上話が進むことはなく、また何か分かったことがあれば集まって話そうということになった。帰り際、マートルがもう来るなと言いたいがあなたには言っても意味がないんでしょうねと言っていたのでハリーたちに向けて「あなたたち、何かしたんですか?」と聞いてみたら、「多分紅魔族(めぐみん)のことだと思う(わ)」と口をそろえて言われた。私は泣いた。

 

 

「あー、めぐみん?ちょっといいかしら」

 

 話し合いのあと、ちょっと寄るところがあるからとみんなと別れて歩いていた私に後ろから声がかけられた。何かと思って振り返ると、そこにはジニーが立っていた。

 

「おやジニー、何でしょう?」

「えっと、まあ別に何ってほどのことではないんだけど。秘密の部屋の事件について調べてるんでしょ?その、何か分かったかしら?」

「ああ、そのことですか。まあぼちぼちってところですかね。怪物の正体もおそらく分かりましたし、50年前の事件についても知ることができましたが、そこからいまいち進展する感じがなくてですね」

 

 私がそう答えると、ジニーはほっとしたやら不安やらいろいろと混ざった複雑な表情になった。

 

「どうかしましたか?もし何か知ってるなら教えてくれると嬉しいのですが」

「いや別に、ほんと何でもないの!ただほら、やっぱりちょっと怖くて。あと、その、なにか古ぼけた日記を見ていろいろ話してたみたいだけど、あれはなんだったの?」

「ああ、あれですか。あれはまさに50年前の日記です。解読方法に手間取っていたのですが、ハリーが発見しましてね。それでさっき日記から得た50年前の話をいろいろ考えていたんです」

 

 最近話していなかったが、どうやらジニーはわりと私たちのことを見ていたらしい。どうでなら話し合いに加わってくれてもいいのだが、まあそれは今はいいだろう。

 

「そ、そう。何かその日記は他に言ってなかった?」

「いえ、事件について以外はまだ。というか私、ジニーに日記が自分から話してくるタイプのものって言いましたっけ?」

「え?ああいや、言葉のあやよ。それについては今知ったわ」

 

 私がなにげなしに聞くと、ジニーはそんな反応を返してきた。まあ別にそんなまぜっかえすことでもないですが。もしかしたら魔法界ではそこまで珍しいものじゃないかもしれませんし。日記を調べたメンバーのうち私にハリー、ハーマイオニーはマグル界育ち。ロンはたまたま知らなかっただけかもしれません。

 

「まあいいわ。また何か分かったら教えてね。それじゃめぐみん、またね」

 

 そう考えていると、ジニーはそう言って歩いて行った。てっきりジニーには避けられていると思っていましたが、今ふつうに話しかけてくれましたね。まあ少しぎこちなかったですが、それを考えるのはまた後でいいでしょう。せっかく今ジニーと話して少し整理できましたし、もう少し事件について考えてみますか。

 

 

 

 

 それからだいたい一週間が経った二月の初め頃。授業後の時間にハーマイオニーと寮の談話室で暖を取っていると、男子寮の方からハリーとロンが駆けてきた。

 

「なんですか、騒がしい。私は今冬のクィディッチの寒さを癒してるのです。宿題ならあとで教えてあげてもいいですから、今はゆっくりさせてください」

「めぐみんに騒がしいとか言われるの、けっこうショックだな!いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない。ハリーのバッグから例の日記が盗まれた」

 

 は?

 

「いや、なんでですか。おかしいでしょう。あれの持ち主は50年前の人ですし、他に持ち主がいるわけはないでしょう。まさかトイレに捨てた人が取り返しに来たとかですか?」

「そんなこと僕に言われても困るよ。とにかく、僕のトランクの中身がそこらに散らばって日記だけがなくなってたんだ」

 

 私の言葉にハリーがそう返すと、ハーマイオニーが言った。

 

「それより、そんな、おかしいわよ。グリフィンドール生しかそれを盗めないはずじゃない。だって合言葉は寮生以外知らない──」

「そうなんだ。いったいグリフィンドール生の誰があんな日記を欲しがるんだ」

 

 私たちはその場で少し考えたが、犯人も理由もさっぱりだった。日記から事件の情報がバレるのを恐れた?にしてもなぜグリフィンドール生がそう思う?今回の事件の犯人がスリザリンの関係者なのは半分くらい確定的だ。そもそも、なんであの日記について知っていたのか。まあ隠してたわけではないが、そんな知れるものでもないはずだ。私たちはすっきりしない疑念を解決できないまま、就寝時間を迎えた。

 

「ほんとあの日記、どこ行ったんだろう」

「誰なんでしょうね。まだ調べてみたいこともあったのですが」

 

 日記がなくなった翌日の午後、私はクィディッチの練習に向かいながらハリーとそんな話をしていた。50年前の件ではあまり確たる話を聞けなかったとはいえ、日記は大きな手掛かりだった。

 

「それもそうだし……なんというか、嫌な予感がするんだ。何かが起こりそうな……」

「予感ですか」

 

 まあそれはなんとなく私も分かる。なんというか、しっくりこないというか、この件にはもう少し続きがありそうな。何かまとわりつくような違和感を感じる。

 

 まあ襲うなら襲うがいいです!返り討ちにしてやりますよ!と、いいたいところですが、正直鏡越しに見るみたいに対策したところで石にされたら何もできないんですよね。だいぶクソゲーじゃないですか?やっぱりバジリスクとの直接対決は避け、大蛇を使われる前に犯人を倒すことを考えるべきなんでしょうか。ぐぬぬ……なんか負けた気がして悔しいんですが。

 

 しかしその違和感はすぐに解消された。いや、解消されてしまった。

 

 それはみんなでウォーミングアップをしているとき。今から練習を始めるというところで、マクゴナガル先生が血相を変えてクィディッチ場に入ってきた。

 

「どうなさったのですか、マクゴナガル先生。そんな剣幕」

「オリバー、即刻練習を中止して寮に戻りなさい!みなさんもです!早く!今すぐに!今年のクィディッチ杯は中止になりました!である以上、危険を冒して練習することは認められません」

「そんな、一体いきなり何を言うのですか!今年こそグリフィンドールが優勝できるってときに!それに危険って」

「オリバー」

 

 急な宣告に私たちが動けないなかすぐに声を上げるオリバー。そんなオリバーにマクゴナガル先生はそう声をかけ、短い間を空けて言った。

 

「緊急事態です。あれこれ言っている段階ではありません」

「「「っ」」」

 

 マクゴナガル先生の言葉に、みんなが息をのんだ。言葉の内容ではなく、有無を言わせない雰囲気だった。

 

「私は他にやることがありますのですぐここを離れなければなりません。あなたたちは、今すぐ寮に戻るのです。いいですね」

 

 私たちが返事をできないなか、マクゴナガル先生はそれだけ言いその場を後にした。と思いきや、くるりと振り返り言った。

 

「ポッター、それと紅魔。あなたたちは一緒にいらっしゃい」

 

 なんだ?まさか、私たちの推測が外れて怪物の正体はバジリスクではなくて鏡の効果はないということが分かったのか?とすれば犠牲者が本当の意味で“犠牲者”になってしまったということだが、だとしても私たちは呼ばないだろう。そもそも生徒が亡くなったにしては先生に動揺がない。

 

「僕じゃ、僕じゃありません!まさか先生まで僕を疑うんですか!?」

「分かっています。ポッター、あなたがあんなことをするはずがない。今あなた達を連れているのはあなたたちを疑ってるからではありません」

「そ、そうですか。分かりました」

 

 私がそう考えている横で、ハリーとマクゴナガル先生がそんな会話をしていた。ハリーは生徒たちに疑惑の目を向けられていましたからね。不安になったのでしょう。しかし、今の口振りだとなおさら私たちが呼ばれた理由が分からない。私たちの鏡の提案が間違っていたわけでも、それを咎めるような雰囲気でもない。

 

 そうしながら校舎へと入っていくと、ぶーぶー言いながら寮に戻っている生徒たちの中からロンが飛び出してきた。マクゴナガル先生は戻るよう言うと思ったが、意外にもそれを叱らず、逆にロンもついてくるように言った。一体どういう風の吹き回しだろう?

 

 そのまま私たちは不満たらたらの生徒たち(クィディッチ杯の中止はもうアナウンスされたらしい)とは逆に進んでいった。そして医務室の近くに差し掛かったところで、マクゴナガル先生はこちらを振り返らず言った。

 

「あなたたちは少しショックを受けるかもしれません。襲われたのは二人です」

 

 その声はとてもやさしげで、しかし私たちは身体の中に冷たく重い石が沈んでいくような感覚を受けた。そんな私たちをよそに、先生はドアを開けた。

 

 マダム・ポンフリーが五年生の女子生徒の上にかがみこんでいた。そしてその隣のベッドには。

 

「ハーマイオニー!」

 

そのベッドには、身動き一つ取らず、目を見開いたハーマイオニーが横たわっていた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。