東方全能録(リメイク版) (焼鰯)
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一旅:転生

暇な時に書くことにします。


目の前が真っ暗だった。どうしてこんな状況になってるかは分からない。考えることは出来るが体が思うように動かない。自分は確か寝ていた気がするが、これはもしかすると金縛りかもしれない。ストレスの溜めすぎか、睡眠不足で起こったのか?最近早寝早起きしているから睡眠不足ではない。だったらストレスの溜めすぎか?いやこれも無いな。職場でもそこまで働き詰めで働いてないしこれも違う。 最初は混乱したが冷静になればどうしてこうなったのか考えるとふと浮遊感に襲われた。浮いてるという寝ている間に起きることではない。浮いてるという感覚で混乱していると頭の中で声が響いた。

 

「浮くというのは慣れてないか。すまんかったのぉ」

 

 

浮くの次に頭の中で老人の声が聞こえた。これが金縛りの効果か?

 

「金縛りがこんなもんだったら混乱するのは無理もないのぉ」

 

 

寝ながら浮くという感覚に襲われるのは中々無い。てか無い。それに老人の声が聞こえるのはもはや幻聴だ、冷静になれ。

 

「落ち着いてくれると有難いんじゃが、そろそろいいかのぉ?結構待っとるんじゃが?」

 

 

幻聴の老人の声が話しかけてくる始末。もう金縛りじゃなくて夢であってほしい。ん?てかほんとに話しかけてる?

 

「やっと気が付いたか。さっきから話しかけとったんじゃが中々気付いてくれなくてもういっその事伝えずにやるとこじゃったわ!」

 

 

頭の中で老人の声が響き渡る。どうやらさっきから無視していたらしい。それは悪い事をした。だが普通に考えて金縛りの最中、老人の声が聞こえるのは流石に怖い。

 

「それもそうじゃが心して聞いてくれ。お主は金縛りではなく亡くなっている」

 

 

は?い、いや実際にあなたと話しているじゃないですか。

 

「じゃが金縛りに遭いながら話が出来るか?口を動かして話しているか?」

 

 

そう言われると何も言えなくなった。確かに金縛りに遭いながら話も出来ないし口も動かすことが出来ない。おまけに頭の中で老人の声が響いている。金縛り以上に奇妙だ。てことはほんとに死んでしまったのか?

 

「ほんとじゃよ。詳しい死因は分からないが現にここにいる。誠に残念ながら若くして死ぬのはさぞ辛かろうに」

 

 

考えたくなかった、まさか死んでいるとは。まだ二十代、人生を楽しむ真っ只中。これほどまでに悔しい思いをしたのは初めてだった。まだこれからだと言うのに。やりたいこともあったのにまさかこんな終わり方なんて誰も想像しないだろう。

 

「悔しい気持ちは分かるがお主に朗報じゃ。『転生』という単語を知っているかのぉ」

 

 

……て、転生?またやり直す事が出来るのか?ラノベのような転生がどうやって?

 

「なに、儂も神と呼ばれている1柱だ。それくらい造作もない。……そう易々と転生させるのはいけないのだけど」

 

 

今更だが神様だったのか。でも転生か。

 

「なにか思い残すことがあるのか?」

 

 

いや転生したら記憶とか無くなるのか?出来る限り短い人生で終わってしまったからなるべく家族とかの記憶を覚えていたいんだ。こんな短い人生だが家族だったからな。

 

 

「ふむ、まあそこんところはなるべく弄らんようにしとこう」

 

 

弄るって……なるべく消さないようにしてください。しかし転生ってやっぱりラノベ的な転生なの?

 

「いや現代に転生することも可能じゃ。儂的には面白味がある人生を送って欲しいのじゃが……」

 

 

まあ現代に転生するのも悪くないけどやっぱりアニメとかそういうのもいいのかも。

 

「無難な選択じゃな。ではそっちの転生で良いのじゃな?」

 

 

お願いします。転生先はおまかせでいいです。おまかせの方が楽しそうなんで。

 

「転生先はおまかせじゃな!だったらオススメなところに転生させてやろう!」

 

 

おまかせとは言ったがあまりハードコアなところではないことを祈ろう。

 

「それじゃーお待ちかねの特典じゃ。好きなのを言うてみ」

 

 

特典もおまかせでいいですか?正直ありすぎて選ぶのに困っちゃうんですよね。なんかすいません。

 

「せっかくじゃ全部付けとけ。ほかの神にバレなければ問題ないし」

 

 

そんな簡単に決めていいものなのか?てか全部って、能力に全部ってあるのか?

 

「まあ使いこなすには相当な時間と労力が必要じゃがな。それはお主次第じゃ。能力にも相性があるからのぉ」

 

 

使いこなしてみせますよ。使えなかったら宝の持ち腐れだからな。……その前に転生先で生き残れるのか心配だが。

 

「そろそろ時間じゃな。大丈夫じゃ、能力と生き残り方については後で儂がそっちに行って説明しよう。では始めるぞ」

 

 

すると頭の中で老人の声が聞こえなくなり、浮いてるような感覚から落ちるような感覚になった。ちょ、こ、これはムリィィィィィィ――

 

 

 

森の中、大意識を覚醒した。どうやら無事?に転生?をしたらしい。とりあえず立ち上がり、周りを見渡す。辺りには木が生い茂り、森の中のようだ。転生先が分からない分、安全確認は怠らない。何が起きるか分からないからだ。その後は身なりの確認。うん、寝巻だわ。まさかほんとに寝ながら死ぬとか心臓発作か何かか?だが身なりを確認しているうちにあることに気付いた。二十代後半だった体が十代前半ぐらい若返っている。これもあの神様がやってくれたのだろう。ありがたやー神様。そう言えば転生前に神様が後でそっちに行くとかなんとか言ってたな。

 

「あー待った?遅れてごっめーん!用事のせいで遅れちゃった、てへ」

 

 

ヒィ……さっきまで頭の中で老人の声が聞こえていたがまんまの老人であんな言い方で手を振ってきながらこっちに来た途端、背筋が凍った。

 

「いやそこまで引くことないじゃろ。流石に儂もあんなこと言いながら近寄ってこられたら引くが」

「最初からやんなければいいだけの話だろ!はぁ……それにしても想像しやすい神様像っすね。老人の声が聞こえたから老人って想像してましたけど見たまんまだったわ」

 

 

中肉中背で長い髭に整えられた髪型、体には白いローブな物を纏っていた。

 

「性別は男性だが見た目は見る人の想像によって反映されやすいぞ。まぁ、そうなるのは儂だけなんだが」

 

 

さっきまであんなこと言っていて危ないヤツかと思ったがどうやら大丈夫なようだ。もしあれが素だったら俺の死亡フラグ立っちまう。

 

「転生前に言った通り、お主の能力とこれからのことについて説明しに来た!分からなかったらもう一度聞いても良いからのぉ?」

「お手柔らかに頼みますよ。転生なんて体験するとは思いませんでしたから」

「まず最初に能力のことじゃがお主の能力は『全能を併せ持つ程度の能力』じゃ!」

 

 

『全能を併せ持つ程度の能力』?全能は分かるが『併せ持つ』ってどゆことだ?てか程度レベルの能力じゃないんだが?!

 

「難しい顔をしとるが簡単に言えば多種多様の能力を持っているということじゃ。その能力は一纏めに言えば『全能を併せ持つ程度の能力』なんじゃが本当は一つ一つの能力をお主は持っているのじゃ」

 

 

これはまたややこしい能力だこと。

 

「つまり『炎を操る程度の能力』とか『水を操る程度の能力』が別々に分けられてるってこと?」

「そうじゃ、だから一纏めとして『全能を併せ持つ程度の能力』というわけじゃ。全能とは全ての能力ってことじゃからな?流石に完全無欠の『全能を司る程度の能力』は無理じゃったわ」

 

 

いや両方ともそこまで変わらない気がするのは自分だけだろうか?

 

「その能力を付ければワンチャン神に出来たんじゃがなぁ」

「能力に司るってあるからゼウスとかオーディンみたいな主神レベルの神になるのか?」

「まあそりゃー完全無欠の全能じゃからな。相性良ければなるのぉ。おまけに儂としてはお主が上司になってゴマすりでもしよう思ってたんじゃが世の中上手くいかぬな」

「欲望だだ漏れじゃねぇーか!もしかしてそのために転生させられたのか俺はぁ!」

「半分冗談じゃよ。半分……というわけじゃ、能力の説明はいいな?」

 

 

半分ってのは聞き捨てならないが能力の説明についてはもういいだろう。チートすぎて使える気がしないが。いやあと気になるところがあったな。

 

「さっきから能力に『程度』ってあるがそれはなんなんだ?普通になんとかの能力って言えばいいのにさぁ」

「まあ、この世界だと能力はそう呼ばれているんじゃ。気にすることは無い」

「そ、そうか。能力の説明はもう大丈夫だ」

 

 

能力に程度を付けるのか。自分の他にも程度レベルじゃない能力者とかいないかな?いてくれると俺としてはこの世界のパワーバランスが平行に保つから有難いんだが。

 

「さて、次にこれからについて説明させてもらうのぉ。この世界は神や妖怪とか普通にいる神秘に満ち溢れた世界じゃ。別世界では色んな呼ばれ方をされている」

「妖怪ねー、神はもう目の前にいるから驚かないとして妖怪かぁー…はぁー」

 

 

神の次に妖怪ときた。まさかのハードコア世界に転生しましたとさ。生き残れるのかこの世界で?

 

「ほぼ今の状況で森の中を歩いてみろ。そんなチート能力でも瞬殺じゃぞ?」

 

 

俺のチート能力ですら瞬殺とかほぼ無理ゲーですね。理解しましたはい。

 

「妖怪にホラー系とかグロ系とカワイイ系とかいるのか?」

「この世界の妖怪は大半は人型じゃし、カッコイイ系とかカワイイ系、美人系もおるな。まあ、グロもホラーもおるんじゃがな」

 

 

妖怪に人型か。そっちの方が目にも優しいし、俺のSAN値をゴリゴリ削られることもないから安心だな。

 

 

「それでじゃが世の中は妖怪で蔓延っている!瞬殺されることほぼ間違いなし!チート能力を有していても瞬殺される!なら瞬殺されないように修行、鍛えるしかない!」

「は、はあ……修行ですか?」

「修行と言ってもピンッとこんじゃろ。お主がある程度防衛できるまで鍛えてやるじゃ。最初は痛いだけじゃ済まないと思うのじゃが気を張っていけば大丈夫じゃろ」

 

 

痛いだけじゃ済まないってなんですか?体力には自信があるが流石に死ぬ気でやらないだろう…多分。

 

「言っとくが儂はそこらへんの妖怪一発ko出来るのじゃからな?」

 

 

ダメだ。死ぬ気でやらなきゃ死ぬ未来しか見えない。

 

「これからの方針は鍛える。それだけじゃ、質問は?」

「どうこう言ってる場合じゃねぇんだ。暫くよろしくお願いします!」

「儂の修行はちと厳しいぞ?」

 

神直々の修行だ。そんななまっちょろいものじゃないって分かっている。

転生までしたんだ。この世界で生き残ってやるがその前に

 

「絶対(修行から)生き残ってやる!」

 



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二旅:生き残るため

神に「お前弱いから修行な?」と言われて修行することになった。まさか転生してからすぐに修行と言われるとは思わなかった。神の修行とは一体なんなんだ?

 

 

「とりあえず仙人になるための修行をするかのぉ」

 

「修行で仙人目指すのか?防衛程度じゃダメなのか?」

 

「あほぅ!お主は分からんじゃろうがこの時代は古代と言われて妖怪はバカ強いんじゃ!おまけに神もいる始末。チート能力以外にもスペックもチートにしなければ瞬殺されるじゃぞ!」

 

 

てことは俺以外にもチート能力持ってる妖怪とか神がいるってことか。それはパワーバランス崩壊してるな。

 

 

「あとは寿命的に短いので仙人になって寿命を延ばすのもこの修行の目的の1つなんじゃよ」

 

「能力の修行もあるからやることが多いな」

 

「まぁ、頑張ればそのあとの時間はたっぷりある。お主の頑張り次第じゃ!それに時間を短縮するために経験を身につけやすくお主の歳を変えたんじゃからな」

 

 

まさかそこまで考えていたのは見た目によらず神は侮れない。その前に仙人になるための修行とはなんだ?

 

 

「仙人になるには何をすればいいんだ?」

 

「最初は主に基礎的な鍛錬じゃな。呼吸法とか歩行法が一般的じゃ。お主が知ってるとしたら波紋法じゃのぉ」

 

「波紋って仙道の?」

 

「それじゃな。あれはチベットの者が仙人の呼吸法を応用した物じゃ。あれって地味だけど結構技術がいるんじゃよな」

 

 

波紋か。あれには憧れたなー。ジョ〇立ちしながらあの独特な呼吸をしたのは良い思い出だ。そのあと変な体勢で独特な呼吸をしてたからむせたけど。

 

 

「修行についてじゃがさっき言った呼吸法と歩行法をやってもらう。同時に出来るからお得じゃぞ」

 

 

神は淡々と進める。まずは最初に呼吸法。深呼吸のように大きく吸って息を長く止める。その後に長く止めた息をゆっくりと吐く。ギリギリまで息を吐き続けさっきと同じことを繰り返す。それを繰り返していくうちに無呼吸に似ている呼吸法が出来るらしい。

 

 

「すぅーーーー……ぐっ……はぁ~~~」

 

「それを繰り返していけば無呼吸運動のように激しい戦闘でも大丈夫じゃろ」

 

「これすぅーーいつまですぅーーやってればすぅーーいいんだ?すぅーー」

 

「基礎じゃから修行中は毎日やるぞ。準備運動のようなものじゃ」

 

 

これを毎日やるのか。地味に大変だな。それと同時に歩行法もやるのか。ふふっ、こいつ()最初から殺す気である。

歩行法は常に足が水平にして歩くらしい。

 

 

「坂に登る時も水平に歩くんじゃぞ?」

 

「つま先を地面に突き立てて歩くのか?」

 

「いや違う。足の裏を水平にして傾けてダメだし坂に登る時は足を水平にして霊力で足が地面に着いてるように想像するんじゃ。霊力は少ないと弱いが多いほど体を支えるほど強力じゃ」

 

 

どうやらつま先を地面に突き立てて移動方法ではないらしい。頑張り次第じゃ壁歩きが出来る気が。

 

 

「霊力ってのはなんだ?」

 

「生物が本来持っている力の事じゃ。妖怪の場合、妖力じゃな。仙人になれば霊力やらの流れが見えるようになるぞ」

 

「そうなのか。だが使い続ければ無くなる、霊力が無くなったらどうすればいい?」

 

「さっきやった呼吸法で霊力を集める。自然が多いほど霊力が多いぞ」

 

 

霊力で想像して足を再現するのは中々骨だぞ?霊力を足のように形作り足を水平にして歩く。これを当たり前のように出来るようにしろとか言ってきやがった。

 

 

「これが出来るようになれば仙術の一つの縮地が使えるんだがのぉ」

 

 

また分からない単語が出てきやがった。仙人になるための修行だったが地味すぎて心にくるな。それも数十年感もやらなければならない。えっ、普通に詰むやんけ。

 

 

「まだ始めたばかりじゃ、そう焦らずゆっくりやってけば良い。では呼吸法と歩行法を同時に行いながら山奥まで進むぞ」

 

「はぁー!?これをやりながら山奥に行くのか!?俺死ぬぞ!」

 

「ほっほっほ…そう叫ばなくて良い。妖怪とかそんなが現れたら儂が蹴散らすからのぉ」

 

 

いや精神的に来るものがあるんだが…それを伝えても無駄か。

 

 

「さて仙人への道の険しく遠いぞ!心して取り掛かるのじゃ!」

 

 

神はそう言いながらどこから出したのか、杖で後ろから叩いてきた。暴力反対だ!

…拝啓、お父さんお母さん、死んでしまったのは申し訳ないけど多分俺…もう一回死ぬと思います。 敬具。

 

 

 

――――――

 

 

 

「本当に中々筋がいいのぉ、あれから結構経つが仙術に耐えきる肉体に仕上がってきたのぉ」

 

 

あれから数えるのをやめたぐらい時が経ったがまだ仙術を使えるようにはなっていない。呼吸法や歩行法などの基礎的なことをやらなければ、仙術を使おうとすると反動で肉体が崩れるらしい

 

 

「これも神様が鍛えてくれたおかげですね。自分でも分かるぐらいに人間辞めてますわ」

 

「まぁ、この世界じゃなくても仙人自体ほぼチートを体現したようなもんだしのぉ」

 

 

話によれば仙人は神通力を使えば予知能力やら得られるらしい。仙人は不老不死になるためのものなんだが、予知能力やらは何の目的に使うんだ?

 

 

「さて基礎はもうマスターしたからのぉ、そろそろ仙術への足を踏み入れる時が来たか」

 

「仙術ねぇー、それはどんなことが出来るんだ?」

 

 

仙術は聞いたことがあるがその内容はほぼ知らない。

 

 

「代表的なものは前に言った縮地…かのぉ、主に移動方法として活用されているが基礎が出来ていなければ体が崩れるものじゃ」

 

「歩行法を教えられてる時に確か言ってたなぁ、一体なんなんだそれは?」

 

「まぁー待て待て、そう質問してくるでない。今から実践するか一キロぐらい離れてくれるかのぉ」

 

「は…はぁ、分かりました」

 

 

言われた通り、おおよそ一キロぐらいまで離れる。

 

 

「では行くぞぉ…」

 

 

すると一キロ離れていたはずが目の前に神が現れた。あまりの出来事に俺は声が出ず、息を呑んだ。

 

 

「ほぉほぉ、驚き方に新鮮味があっていいのぉ。これだがら教えるのが楽しくて仕方がないのぉ」

 

「は、ハハハッ…これは、マジで人間やめてるなぁ」

 

「見た通り、瞬間移動やワープのような技じゃ。戦闘にも使えて相手の懐に入り、一撃入れることも出来るんじゃ」

 

 

まさか瞬間移動を自分で使えるなんて思いもしなかった。それも戦闘でも使えて、戦闘慣れしてない俺でも先手必勝で一撃でko出来るかもしれない。

 

 

「歩行法のおかげで霊力の扱いには慣れたじゃろ?それを応用して足全体に霊力を纏うんじゃ」

 

「だけど歩行法で霊力の扱い方を覚えなくても良かったんじゃないのか?足に纏うなんて簡単だと思うが?」

 

他の転生ものでは、いきなりチート能力で無双しているものもあるがあのようには行かないのかな?

 

 

「そんなことはない。そもそもの話、いきなりチート能力で無双するものなどはほぼ才能じゃろ。お主は纏うのは簡単だ、とか言ってはいるが歩行法をやらなければ霊力の扱い方が下手くそじゃ」

 

「世の中上手くいくもんじゃないな」

 

 

そう言いながら自分の足全体に霊力を纏うように操る。すると足に薄く青いオーラの様なものが足を覆う。

 

 

「ふぅ…こんなもんでどうだ?結構上手くできた気がするが?」

 

「ふむ、ちゃんと足を守っていてしっかりと全体に纏っているな。よし、今から一キロぐらいに離れるから準備が終わったら始めるんじゃぞ?」

 

「分かった。だが纏うだけでも霊力は結構消費するのにあまり減った感じがしないな。一応霊力をいつもより多く使ったが?」

 

「それはのぉ、呼吸法と歩行法を行ってきたからじゃ。筋肉のように使えば使う程、発達するのじゃ。歩行法で霊力を消費し、呼吸法で集めて増やす。それを何度も繰り返せば霊力のタンクが大きくなっていったんじゃ」

 

 

神は言い終わったら縮地で一キロぐらいに離れていった。あれを平然に行えるにはどんだけ修行したんだ?それはいいとして縮地だ、これは習得すればこれからの修行にも役立つだろう。

 

 

「よし、慣れないじゃろうが始めてみるんじゃ!」

 

 

やってみろとは言うが一体どうやればいいんだ?剣道みたいに間合いを取るみたいにやればいいのか?モノは試しだ、やってみよう。間合いを取るように一歩、一キロぐらいまで踏み込むような感じでやると周りの景色が一瞬にして変わった。だが前には神がいない。どこに行ったんだ?

 

 

「やはりそうなるか」

 

 

後ろを向くと神がいた?あれ、おかしいぞ?さっきまで前にいたのに後ろにいるって。

 

 

「最初はそんなもんじゃ、ピッタリ一キロなんて修行中の身としては難易度は高いじゃろ。じゃが…」

 

「じゃが?」

 

「大体は一キロも行かずに出来ないんじゃが、お主は仙術の才があるんじゃろう」

 

 

まさか俺には仙術の才能があるとはおかしいこともあるんだな。ん?てことは将来化け物確定じゃないか、うん。

 

 

「縮地は慣れれば500キロぐらいは進むことが出来るがそこまで到達することが出来るのかのぉ」

 

「まぁ、そこんところは神様の修行でどうにかしてくれ」

 

「そうじゃな、今日の修行は終わりじゃ。気分転換に散歩でもしてるんじゃな」

 

 

そう言うと神はどこかに消えた。一体あの神は何者なんだ?神なのに平然と仙術やらを使うし。まぁ、お言葉に甘えて散歩でもしますかねぇ。

 

 



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三旅:妖しいもの

神に散歩でもしてろと言われたがここ最近では修行しかやってなかったので山奥から出るのは久しぶりだ。いやー清々しい気分だ、修行がない時間がこんなにも素晴らしいなんて。小鳥のさえずりや風によって聞こえる木々たちの葉の擦れる音、あぁ…素晴らしい。おっといけない、キャラじゃないことを言っていた。まぁ、そこらへんを歩いたら戻ろう。とりあえず一旦山を1つ越えるか。

 

 

 

山の頂上を着いてポツンっとある岩に座り、辺りを見渡す。山を1つ越えたのはいいがあれだな、ここ周辺森だわ。山の頂上から見て、目の前の景色は森でそのまた先を見ると山で詰みやんけ。高くから見ても平原らしきものもない。ここ周辺森と山は確定だな。だが高いところから見る森は転生前の時代とは違い、濃い緑一色で昔はこんなに綺麗だったんだな、と感じて浸っていたがそろそろ山奥に戻ろうとする。すると肩に小鳥が止まる。

 

 

「さっきのさえずりはお前だな?」

 

 

そう言うとまた小鳥は鳴く。頭を撫でると眠そうな目になり、少し大人しくなった。肩に乗った小鳥のせいで動けなくなった俺は静かに景色を見渡していると後ろから物音が聞こえた。小さく振り返るとそこには鹿がいた。急に動物が近寄ってきたな。警戒されないのか?…多分まだ人間の恐ろしさを知らないのと見たことないものに対しての好奇心だろうか?まあ、それぐらいだろ。

 

 

「なんだ?お前もこっちに来たいのか?」

 

 

手招くで呼ぶとこちらに近寄り頭を擦り付ける。まさか甘えてくるとは無警戒にも程がある。あまりに今の自分の状況に対して思わず口が開いた。

 

 

「…和むなぁ」

 

 

転生してかれこれ数十年経ってる俺は生き残るために死にものぐるいで修行をしていたんだな。今のようなこんな時間もたまにはいいなと感じていた。

この一匹と一羽には悪いが帰らせてもらうか。立ち上がると驚いたのだろうか、こちらを向く。

 

 

「すまんが俺は修行をしている身でね、そろそろ帰るんだ。暇があったらここに来るとするよ」

 

 

そして来た道を戻ろうとすると、急に動物たちが怯えだした。

 

 

「な、なんだ!動物たちが急に怯えだしたぞ!」

 

 

辺りを見渡すと木々がざわめき出して、妖しい気配を感じた。何かがこちらに近づいているのか?

 

 

「おいおい、いい匂いがしたからこっちに来たが獲物三匹いるとはなぁ~?」

 

 

声がした方向を向くとやや筋肉質な女性がいた。なんだあいつは?獲物とか言っていたがあいつが神が言っていた妖怪ってやつか?額の所には角らしきものが生えているが。

 

 

「何者なんだ、お前は?」

 

「何者だってぇ?そんなこと私に聞かれても分からないねぇ。分かっていても今から食われるあんたらには意味が無いでしょ!」

 

 

言い終わった途端、女はこちらに突っ込んできた。小鳥と鹿を逃がすために庇うが不意なことで庇うことしか出来ず、女の右腕が溝に入る。

 

 

「!っ……」

 

「おや?中々頑丈じゃないか!少々楽しめそうじゃないかい」

 

 

女は口角を吊り上げるともう一発叩き込もうと左腕を振り上げる。隙が大きかったので振り上げられた左腕を受け止め投げた。

 

 

「組手の要領でなんとかなったな。…通じてるか分からんがとにかく安全なところまで逃げてろ」

 

 

動物たちはそそくさと女とは逆の方向へ逃げていった。さて、どうしたものか。戦いなんてまだ経験したことも無い。逃げようと思えば逃げれるがそれだと動物たちが襲われてしまう。ならば時間稼ぎをすればいい。倒せは出来んが耐えることは出来るんだ。

 

 

「まさか耐えた上に受け止めるなんて食いごたえがあるじゃないかい」

 

「ハハッ…それはどうも。そのままどっかいっててくれれば良かったのによ」

 

「それは無理ねぇ、目の前に獲物がいるんだから」

 

 

さっきと同じように突っ込む女は拳で連打する。出来る限り、躱すのに専念するが徐々に連打が加速していた。

 

 

「オラオラオラァ!どうしたどうした、さっきのように受け止めるなりしてこないのかい!」

 

「あぁ?こちとら躱すので…精一杯だわ!」

 

 

連打していた両方の拳を受け止め、後ろに回り込む。両腕を防ぐことに成功した。

 

 

「隙が大きくて助かるねぇ」

 

「はぁん?両腕を防いだからって調子こいてんじゃないよ!」

 

 

すると力任せで俺を振り払った。なんだあの怪力は、ただ者じゃね。何の妖怪は分かったぞ。額の角で分かるべきだったがあいつは鬼だ。一般的には赤や青なため、あいつは肌色で分からんかった。

 

 

「あら?男の癖に力が弱いのではありません?」

 

「おいおい、俺より筋肉質なやつがよく言うよ」

 

「ちっ…」

 

 

そう言うと気に障ったのか、さっきよりも大きくて腕を振り上げる。さっきからワンパターンだな。これだとあいつらの時間稼ぎは充分だろう。

 

 

「一撃『二歩…』」

 

 

あいつの拳に何かが集まっていく。

 

 

「『必殺!』」

 

 

何かが来る!あまりの威圧で俺は縮地で避けた。俺がいた場所を向くと直径10mのクレーターが出来ていた。

 

 

「ちっ…避けんじゃないわよ!」

 

「お生憎、あんなもん殴られたら終わるに決まってるだろ」

 

 

だがあいつの技はどうやら妖力とやらで強化された拳で殴りつけるらしい。いや、俺の見解が悪いかもしれんがな。

 

 

「埒が明かねぇ…あんた!」

 

「なんだい?」

 

「これ以上続けても無駄だ、諦めて魚でも取って腹を満たしてくれ」

 

「嫌だねぇ、なら力づくでどうにかしてみな!」

 

 

駄目だ、何を言っても聞かない。ならあいつが言った通りに力づくでやるか?いや、これはこれで危ない。俺が手を出したらあいつが何を仕掛けてくるのか分からない。考えていると鬼はすぐ近くまで来ていた。近付かれると厄介なので縮地で逃れる。

 

 

「逃げんじゃないよ!これならどうだい」

 

 

鬼は俺に向かって腕をかざすと赤い何かを放った。妖力での遠距離攻撃だと?近接しかしてこなかったから出来んと思ったがまさか出来たとはな。分析はしているが躱す余裕はなく、直撃する。幸い瞬時に霊力を纏って軽減したがあの脳筋女、流石に痛かった。

 

 

「さっきまで近接しかやってこなかった癖に妖力を撃ってくるとはどういう了見だよ」

 

「いやぁ、さっきまでは熱くなりすぎて忘れてただけよ」

 

 

これは面倒くさくなったな。だが直感なんだがあいつにはもう切り札とかそんなものは無いと感じた。

 

 

「へぇーそうかよ、なら俺も耐えるだけじゃなくて攻めさせてもらいますか」

 

 

縮地で鬼の懐に入る。

 

 

「なぁっ!?」

 

「こんな感じか?」

 

 

鬼の技を真似て拳に妖力ではなく霊力を込める。そして縮地の勢いを使って全体重を乗せて殴った。

 

 

「あっ…」

 

 

だがそれを見事に外し、鬼の顎に掠る。

 

 

「な、なんだってんだよ…ビビらせやがっ…あれ?目の前が揺れ…てる…」

 

「はぁ?」

 

 

ふらふらっと揺れた鬼は大の字で倒れた。顎に掠っただけなのに倒れやがった。

 

 

「ほぉほぉ、何…ただの脳震盪じゃよ」

 

「なぁ!?いつから居た神様!」

 

「今来たばかりじゃアホ。急に森がざわめき出したのでな、様子を見に行けば妖力を感じたので来ればこれじゃ」

 

 

何故神がいるのかわからんが正直気味が悪いと思った。

 

 

「心配かけたすまんかった」

 

「何、弟子を心配するほど甘い鍛え方した覚えはないわい。心配などしとらんじゃ」

 

「そ、そうか」

 

 

だが今回で俺は妖怪と張り合えるぐらいまで成長しているということが分かったので万々歳である。

 

 

「だがお主、平然と縮地を使っておったな」

 

「ん、縮地?…あぁ、確かに今思えば普通に使えてたな。なんで使えたのかはわからんが」

 

「まぁ、所謂火事場の馬鹿力じゃな!お主は仙術の才能もあるし覚醒したんじゃろ」

 

「最後は縮地の勢いがうまく出来ずに掠って脳震盪で終了ってなったんだがな…ハハッ」

 

 

思わずさっきのことを思い出すと苦笑するしかなかった。

 

 

「油断の表れじゃよ。そこんところは徹底的に鍛え直さないといけんようじゃな?」

 

「へいへい、だがこいつはどうすんだ?」

 

 

俺は倒れた鬼に指差して言う。

 

 

「んーーまぁ、そのうち起きるじゃろ。今起きられると困る、山奥に戻るぞ」

 

「了解」

 

 

縮地で戻ろうとするが鬼の方を見る。なんとなくだがいつかこいつとまた会うかもしれない。会った途端戦闘だと思うが。

 

 

 

「今思うが縮地成功してる事、なんで知ってるんだ?」

 

「あっ…」

 

 

もしや、こいつ…

 

「最初からいたんじゃねぇか!助けろや!」



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四旅:修行の成果

散歩の帰りに女鬼(めっき)をミラクルパンチで脳震盪にさせて、無事縮地を習得した俺だったがこれは序章に過ぎなかった。あれからたまに仙術を教えられた度に散歩に行けと言われ、何もすることもないので散歩をしたがその都度妖怪と戦う羽目になった。3度目ぐらいにはそのことに気づいていたがまぐれだろ、と思っていたがその後も続いたため、神に問いだしたところ

 

 

「はて、なんのことやら?」

 

 

と濁すあたり犯人はこいつだな?と分かったが本人は認めない。何回も問いだしても知らんの一言である。

まぁ、さっき言った通り俺はあれからある程度の仙術を習得した。

 

まずは梱歩(こんぽ)だ。これは体内の陰と陽を調和する必要があり、調和によって霊力を気に変換することが出来る。気は霊力と似ており、放ったり纏うことも出来る。やったね、かめはめ波が撃てるよ!それは置いとくとして、梱歩とは相手の脚に自分の脚を添えて足さばきを封じる技だ。原理としては霊力を気に変換して相手の脚に気を流し、相手の霊力や妖力などを弱めて動きを封じている。この仙術は脚じゃなくても体全体触っても出来るぞ!

 

次に発勁(はっけい)だ。これは気を使わずとも使える仙術で、筋肉の運動量を相手に与える技だ。まぁ、運動量を与えるのはおまけのようなもので相手を内側から壊すのが本当の技だ。これは力を必要とせず、体を張れる部分なら発勁を使えることが出来るぞ!

 

その最後は神通力だ。これは主に6つに分けられてる。神足(じんそく)天眼(てんげん)天耳(てんに)他心(たしん)宿命(しゅくみょう)漏尽(ろうじん)だ。

神足は飛翔能力でなんでも仙人の上の存在の天仙に必要な要素らしい。

 

天眼は未来を見通す能力らしいが俺の場合だと他にも『目的を果たす』能力っていうのがあるらしい。目的を果たす能力ってなんなんだ?

 

天耳は聞き分ける能力。

 

他心は予知能力。

 

宿命は生物の探知能力。

 

漏尽は煩悩を無くし悟る能力なんだがこればかしは習得することが出来なかった。仏専用神通力だとか。

 

これが俺が習得した仙術だ。神に聞いたが転生してからかれこれ千年経っているらしい。まぁ、分かっていたがあれだな。この世界に生き残るためにここまでやるか普通!いや…まあ嬉しいよ、ここまで鍛えてくれたのは。だけど限度がある。ほぼチートのようなもんじゃ!おまけに仙術の他に特典能力があるがあれは省こう。能力も練習したがある程度使えるレベルまでになった。まぁ、使えるようになった能力はあまり少ないけど。

 

神いわく「特典として付与した能力だがお主の場合だとどの能力も凡人の上レベルしか使えない。使い続ければ天才を超える可能性はあるが」、と言っていた。

 

他には……あぁ、武器もある程度触ったな。神はどこから持ってきたのかいきなり「状況よっては武器が使う場面もあるじゃろ。儂が教えてやるから最初に好きな道具を取ってみろ」って言われた。あの時は戸惑ったものだ。包丁以外で刃物を扱うなんて初めてだったからな。そのおかげである程度多種多様の武器を使えるようになった。

これが千年間修行した成果だ。そう言えば、あの女鬼以外にも気になるやつが現れたんだったな。それは転生してから100年たったある日のことだったな。

 

 

 

―――――

 

 

 

暑い。ちょうど今の季節は春が終わって初夏だったな。反復横跳びの要領で縮地で風でも起こすか?試しにやってみた。

 

 

「お主、なんでそんな短い距離で縮地をやっておるのじゃ?」

 

「いや、こう反復横跳びの要領で縮地を連続的に使えば風が起きて涼しいんじゃないかなぁーって思ってな?どうだ神様、一緒にやってみないか?」

 

「アホっ!儂はこれでも神様で師匠でお年寄りなんじゃぞ!近くで涼しんじゃるわ!」

 

 

そう言い神は俺の近くまでより、縮地で起きた風に涼しんでいた。

 

 

「おい!何お前だけ涼しんでるんだ!満足したら俺と交代しろ!」

 

 

この後交代して何回か繰り返した。縮地のやりすぎで疲れてしまい倒れる。

 

 

「こ、これ…逆効果なんじゃ?」

 

「儂に言うな」

 

 

だが神は平然と息を乱さず立っている。こ、こいつ…出来る!

そうしてると近くから妖気を感じた。

 

 

「こんな山奥まで妖怪が来るか?」

 

「お主の肉でも食べに来たんじゃろ。仙人の肉は妖怪にとって美味って言われてるし」

 

「ナニソレキイテナイ」

 

 

妖怪が来る方向を見ていると木の影から妖力の弾幕が飛んできた。霊力を込めた腕で一つの妖力弾を別の妖力弾に当て弾幕を誘爆させる。

 

 

「何も言わずに弾幕張るとかどうにかしてんじゃねぇか!出てこい!」

 

「いや、殺しに来てるんじゃから何も言わないに決まってるじゃろ」

 

 

弾幕が飛んできた木の影から男が出てきた。臙脂色の髪に赤い目、彼岸花柄の和服を着ていた。

 

 

「フッ…フフフハハハハハッ!」

 

 

その男は影から出てきた途端急に笑いだした。えぇ、ちょっとこの人怖いんですけど。

 

 

「ハハハハハヒィーヒィー…ゔぅん!ゴホッゴホッ」

 

「あいつ笑いだしてむせてるぞ」

 

「ダサいのぉ」

 

 

咳が止むまで待っていると男はこちらを向き、指をさしてきた。

 

 

「貴様か、無理矢理自分の生を引き伸ばしてる人間は?」

 

「……えっ!?お、俺!?うーーん、そう…かな?」

 

「そうか、貴様が…」

 

 

と言うと男は影から黒い西洋剣を取り出す。

 

 

「今から死ぬか、抵抗して死ぬかどっちにする?」

 

「どっちも死ぬじゃねぇか!せめて名乗ってから聞いてくれ怖いわ!」

 

「…私は小野塚 影宗(おのづか かげむね)。貴様の命を輪廻の輪に戻す者だ」

 

「暁 佑全だ。…輪廻の輪ねぇ、クサくて言ってる意味がわからんがかかってこいよ。とりあえず相手になってやる」

 

 

影宗は西洋剣を突きの構えで突進してきたが霊力の弾幕を張り、残りの霊力を気に変換した。弾幕を切り伏せ、俺に近付く影宗は突きの構えに戻し、妖力を纏った。

 

 

「いくぞぉ!」

 

 

妖力を纏った西洋剣で俺に向けて突くが躱す。

 

 

「かかったな!『屈折』!」

 

影宗が言うと黒い西洋剣が曲がり、俺の心臓部に目掛けて飛んでくる。

 

 

「危ねぇ!」

 

縮地で影宗の反対側に回り、影宗の背中に手を置く。

 

 

「発勁!」

 

 

言った途端、影宗は勢いよく飛ばされ一本、二本と木を倒しながら飛ばされた。勢いが止まるとヨロヨロっと立ち上がった。

 

 

「まさか…『屈折』を初見で見破られるなんて」

 

「『屈折』って、ただ曲げるだけだったら良かったけど飛んでくるとはなぁ。なぁ、もうやめにしないか?」

 

「ちっ…技を見切られる時点で私の負けだ。此度はここまでだ。次は同じ手が通じると思うなよ」

 

 

すると木の影に吸い込まれるように消えていった。

 

 

「あいつはなんだったんだ?妖怪ではあるが俺を食う気なかったように見えるが?」

 

 

避難していた神の方向に向きながら言った。

 

 

「なんじゃ、言ってなかったかのぉ?仙人は不老不死を目指して何百年も生きるためにそれではいけないと閻魔大王が百年経つ度に死神を送るんじゃ。それで勝負して負ければ即死、勝てばまた百年遊べるドンじゃ」

 

「そんな話聞いてないぞ!」

 

「いやぁのぉ、物忘れが激しくてなぁ。許してくれんかのぉ」

 

 

いつもは世話になってるし今回ぐらいは許してやろう。結果的に俺は生き残ることが出来たんだ。

 

 

「大事な事は出来る限り早く言ってくれよ、まったく……」

 

 

 

これが小野塚影宗との出会いだ。まあ、あれから百年ごとに来てるが2回目はこうだ。

 

 

「さぁ、前のようにはいかんぞ!」

 

「隙ありぃ!縮地ッ!」

 

縮地で影宗の懐に入り、腹パンを決めこんだ。溝に入ったのか倒れ込み、腹を抑えながら5分ぐらい呻き声をあげていた。

3回目は

 

「フハハハッ!暁ぬかったな!今回は腹に鉄板10枚を着けてきた。これでは「フンっ!」グボァッ!」

 

 

鉄板10枚を重ねて腹に着けてきたが別に変わることも無く一発で沈めた。

4回目は

 

 

「これでどうだ!腹には棘付きのくさび帷子だ!これじゃー殴れないな!」

 

「あーそうだな」

 

 

刺付きのくさび帷子を着けてきたが別に思いっきり殴らなければいい話だったので発勁で飛ばした。

5回目は

 

 

「今回ばかしは舐めんほうがいいぞ、いくぞ!」

 

 

西洋剣で斬りかかってきたが躱した。この時は流石に反省したのか、俺でも分かるぐらい剣に磨きがかかっていた。

 

 

「ホラホラッ!どうした?いつもの様に殴ったり飛ばしたりしてこいよ!」

 

「ちっ…」

 

「これでトドメだ!『屈折』!」

 

 

一度影宗は後ろに下がり、突きの構えをとるが、その瞬間、縮地で近寄って梱歩で押さえつけた。

 

 

「か、体がァ…動かない…だと!?」

 

「今回はマジで危なかったわ。覚悟出来てるだろうな?」

 

「ちょ…」

 

 

女鬼の二歩必殺でダウンさせたが瞬時に手を変えて、発勁をした。

そして6、7、8、9と続いていき、千年経った10回目の時が来た―――



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五旅:陰と陽

転生してから千年経ち、影宗との十回目の勝負の時が来た。どうせあいつの事だ。前回の反省と言いつつも、アホな事でも思いついて、勝負を仕掛けてくるだろう。次はどんなことを思いついてくるんだ?

 

そんなことを思いつつ、影宗が勝負を仕掛けてくるのを待っている。なんで今日来るのを知ってるかって?アホなのか、予告を出してやってくるんだ。アホを通り越して呆れた。まぁ、予告を出してくれることで対処しやすくなるので敢えて何も言ってないがな。

 

あいつの来る時間帯はいつも昼なんだが、今回は昼になっても来なかった。一応、俺の生き残りをかけた勝負なので気合を入れて、神と待っていたんだが昼になっても来なかったので気が緩んでしまった。

 

 

「あいつ、有給でもとって休んだんかな?」

 

「死神に有給があるわけなかろうに」

 

 

神は髭を触りながら、折れた木の切り株に座り込む。

 

 

「立ちっぱなしで一緒に待たせてすまん神様」

 

「なに、そう気を使わんでも良い」

 

「そう言われてもなぁー」

 

 

頭を掻きながら俺は神に目を向ける。ここ最近、神の調子が悪い。 たまにボッーっとしていて、何か患ったか?と考えたが神だから大丈夫だろうと無視していた。だが日が経つにつれて神がやつれているように見えて、組手の途中に倒れるということが起きた。

 

神に問いだしたところ、

 

「神というのは信仰によって、その存在を信じるという心をエネルギーにしている者じゃ。儂はお主を鍛えるために過去に遡ってここに居るんじゃが、儂はこの時代では信仰されておらん。貯めていたエネルギーは消費され、もうすぐ限界が来る」

 

と言った。てことは、俺はもうすぐ一人で生き残らなきゃいけなくなる。神を心配するが気を使わんでも良いと言う。見た目も老人なんで余計な心配をしてしまう。俺は出来る限り、神には無理させないように修行を行った。

 

こういった経緯があり、俺は神が無理しないように見張っていた。

 

 

「暁よ、どうやら影宗は夜に現れるぞ」

 

 

唐突に神は言ってきた。

 

 

「天眼使ったな神様!そういうのは俺がやるから無理しないでくれ!」

 

「お主の天眼なんて数分先のことしか分からんじゃろうが!」

 

「うっ…」

 

 

反論しようとしたが事実、俺の天眼はまだ数分先のことしか見えなかった。

 

 

「ほれ、夜に来るらしいからその間でも体を動かしとけ。今夜はちと一筋縄にはいかんぞぉ?」

 

「あ、あぁ」

 

 

そう言われ、夜になるまで俺は神通力の修行に励んだ。

 

 

 

夜になり、大体11時ぐらいの時間帯だった。鳥達の鳴き声もせず、ただ風の音がいつもよりよく聞こえた。すると足音が聞こえ、そちらの方へ向く。

 

 

「すまんな、自分から予告を出していたのに」

 

「いやいや、別に気にすんなよ。そのおかげで準備運動ぐらいできたし、神様には避難させることが出来た」

 

「ハッ、それは良かったな」

 

 

どうも雰囲気が違うな。いつもなら叫びながら言ってくるんだが、あいつに何か起きたか?

 

 

「なぁ暁、これ合わせて何回目だっけな」

 

「十回目だ」

 

「そう、十回目だ。長いな…」

 

「お前が諦めてくれたら、俺は楽に生きられるんだがなぁ。どうだ?これで最後にするってのは?」

 

 

そう言うと脚を少し開き、両手の指を曲げて伸ばし、右腕を胸の前に出して左腕を少し引いた。

 

 

「あぁ、確かに……なぁ!」

 

 

影宗は黒い西洋剣を作り出し、俺に放つ。

 

 

「おいおい、そんな使い方もあるんだな!」

 

 

俺は黒い西洋剣から逃げながら、両手を銃の形にし、霊力を溜める。

 

 

「これでもくらいやがれ!『霊丸』!」

 

 

人差し指から直径4mの霊力弾を放つ。何故かあいつはマジだ、様子見で近接戦闘は控えよう。俺の後ろを追尾している黒い西洋剣は形を変え、無数のナイフになり、加速していった。

 

 

「ちっ…埒が明かない」

 

 

無数のナイフを躱しながら、影宗の方を見る。影宗は黒い大剣を作り出し、俺の霊丸を真っ二つに斬った。

 

 

「ある程度は出来るか…」

 

 

それを確認したあと、後ろのナイフの方を振り返り、霊力の弾幕を張り、無数にあったナイフを減らす。弾幕の間を通り抜けた残りのナイフは、気を使って腕で叩き落とした。

 

叩き落とした後、影宗の方を向くがいなくなっていた。どこに行った?宿命(しゅくみょう)*1を使い、探し出す。………下だ!すぐさま後ろに下がると下から大剣を突き出して出てきた。

 

 

「危なかったわ、今のはハハハッ」

 

「笑ってるのも今のうちだぞ?」

 

「だったら思い残さぬように笑ってやるよ。だが…一つ聞きたいことがある」

 

「なに?」

 

「お前の能力は一体なんだ?」

 

 

俺は千年間、あいつの能力の正体が分からずにいた。ある時は地面を動かす時もあり、木を操る時もあった。

 

 

「フッ、お前も分からないととことん仙人とは馬鹿よな?」

 

「どゆことだ?」

 

「何、簡単なことだよ。俺が持ってるこれは影だ。そして地面を揺らしたり、植物を操ったりもした。これらには消極的な物として捉えられてきた。これだけ言えば仙人でも分かるな?」

 

 

このことを言われ、影宗の能力の正体が分かった。それは仙人の中で身近なものでもあった。

 

 

「まさか『陰を操る程度の能力』…か?」

 

「半分正解、俺は『陰の性質を操る程度の能力』だ。死神でもありながら陰陽の陰の性質を操ることが出来た」

 

 

『陰の性質を操る程度の能力』、陰陽とは森羅万象、宇宙やありとあらゆる事柄を二つの属性の分けたものだ。その一つの陰の性質を操ることが出来るとはなぁ。

 

 

「まぁ、能力のカラクリが分かれば、こっちのもんだな」

 

「それはどうかな?」

 

 

すると俺の脚に木の根が巻きついた。すぐさま縮地で躱すが脚にまた木の根が巻きついていた。ここら全体は森だ、能力で周りを木の根で張り巡らせてやがる!

 

 

「洒落せぇ!霊丸でぶっ飛ばしてやる」

 

「させるか!」

 

 

影宗は影の大剣で俺に斬り掛かる。

 

 

「なんーてな」

 

 

「!?」

 

 

振り下ろされた大剣を腕で受け止めた。

 

 

「そんなナマクラじゃ俺を斬ることは出来るか!」

 

 

大剣を引き寄せ、影宗の腕を掴んだ。影宗の両脇腹に発勁を放つ。

 

 

「ゲボッ?!…ぐっ」

 

 

内部を破壊され、肋骨が折れる。血を吐く影宗は空中に影の刀剣を無数に作り出して、放った。躱すために影宗を離し、刀剣を躱していくが数が多く、腕で叩き落としながら逃げた。

 

 

「今は夜だ……ならば俺の能力の真骨頂はこれからだァ!」

 

 

影宗は地面に手をつけると、地面から二体のゴーレムが現れだした。刀剣を躱しながら叩き落とすが、数が多く身体中に無数の切り傷が出来る。叩き落とす最中に二体のゴーレムが乱入し殴ってくる。縮地で躱して、ゴーレムの懐に入り、体の軸に手を添える。

 

 

「失せろ、発勁!」

 

 

ゴーレムの上半身部分が吹っ飛ぶ。それを見かねて、影宗は無数のゴーレムを作り出す。

 

 

「多いな…まとめてぶっ飛ばすか」

 

 

直径10mはあるだろう霊丸を作り出し、そこに気を混ぜ込む。

 

 

「吹き飛びやがれ!気装『霊丸』(きそう れいがん)!」

 

 

霊力で作られた霊丸に気を混ぜ込んだそれは、ゴーレムの集団に着弾すると同時に周りの物を巻き込んで爆発した。

あまりの呆気なさに影宗の口は開きっぱなしだった。

 

 

「余所見か?」

 

 

影宗は意識を覚醒し、影の西洋剣を作成して俺の拳を受け止める。

 

すかさず片方の手に()()()()()で斬り掛かる。

 

 

「なぁ!?」

 

「ハッ、良い刀だろ?」

 

 

刀剣を叩き落としてる際に取り、隠し持っていた影の刀を影宗を斬る。

 

右斜めに振り下ろされた刀は見事に影宗を斬り裂いた。

黒塗りの刀は死神の鮮血に濡れ、刃先から血が垂れている。

影宗が胸の傷から血を吹き出しながら、後ろに倒れていく。

 

 

「っ!!俺は……お前を…超えるんだよ!」

 

 

影宗は倒れそうな体勢から踏みとどまり、西洋剣を突き刺そうとする。

 

 

「諦めろ…それも1つの道だ」

 

 

刀で西洋剣を受け止め、弾き返す。刀を捨て、右腕に霊力を込める。刹那、影宗の両脇腹に発勁をする。既に肋骨は破壊され、肉が崩れる。そして、最後に腹の中心部に向けて発勁をする。是、即ち発勁の派生技、兇叉(きょうさ)である。

 

二つの発勁による体内の一点に重ねて集中し、中心部に発勁を行う。これにより一点集中された破壊力が生まれるのだ。

 

兇叉による破壊力で影宗はぶっ飛んでいった。だがあいつは最後の抵抗なのかと腹の中心部に発勁をする瞬間、西洋剣でガードをした。まさか、両脇腹の発勁で気絶してると思ったが意識があるとはまだまだ修行が足りんな。

 

壮大に殺ったが影宗の安否を確認しに向かう。

 

 

「ぉ…お”れは…」

 

 

影宗は両脇腹の肉が崩れ、内部はもうボロボロなのに意識があった。まさかここまでとは…常人ならとっくのとうに気絶してるか死んでるぞ。

 

 

「もう喋るな、影宗」

 

「ぉぉ……お”れ…は、お”まえが…う”らやましかっ……たんだ…」

 

 

何を言っているんだこいつは!?

 

 

「い”つも”お”まえ…は、なにごとなかっ…たのようにせっして…くるお”まえを…」

 

 

淡々と影宗は口に出していく。

 

 

「だか…ら”、お”れは、このたたかいで…答えよう…ど」

 

「ああ、分かったから喋るな」

 

「フッ…おれは…死神だ、こんくらい…じゃ…しな…ね”ぇ」

 

 

これほどまで俺の事を思ってた奴がいたんだな…

 

 

「まるで……陰と陽……だな。陰は俺で……陽は……お前だ、暁。陽は陰を照らす……」

 

 

言い終わると影宗は糸が切れるかのように気絶した。この後、神のところに戻り、仙術による治療で何とか影宗の傷を治した。それから100年経たなくてもたまに遊びに来るようになったのだった。

 

 

 

*1
神通力の1種。効果は生物の探知能力



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六旅:死神の過去

十回目の勝負が終わって、影宗が百年経たなくてもたまにこちらに来るようになったが今度は別の問題が起きた、それは

 

 

「いやー師匠、毎日修行なんて大変っすね!」

 

「いや師匠ってなんだよ!いつから俺はお前の師匠になったんだよ!そのせいで修行に集中出来んわ!」

 

 

俺の事を師匠呼びするようになった。師匠呼びするようになったのは十回目の勝負が終わった翌日である。最初に言われたことは

 

 

「師匠の御業、恐れ入りました」

 

 

あまりの変わりように普通のことではあまり驚かないようになった俺でもこのことに関しては

 

 

「は?」

 

 

これである。神が当たり前のように仙術を使ったことに関してもそうだが、転生して驚いたことランキングで三位以内に入るレベルだ。え、あと一つは?だって。それ以外にあまり驚いてないんだよ、色々ありすぎてな!そりゃ、ランクインするわ。

 

それは置いとくとして、影宗のあまりの変わり様、ビフォーアフターは正直きもかった。最初会った頃はあんな痛々しい台詞を吐き、そして何度挑みながらも、アホな発想で負けていく様なやつだったあいつが、何綺麗なジャイアンのようになってんだよ。

 

 

「てか、師匠呼びするのはなんだ?とうとう死神の本質の精神攻撃か?やることが小さすぎるわ!」

 

「いや違いますよ?」

 

「じゃあなんだ!」

 

 

ほぼこいつからの師匠呼びは精神攻撃に近かった。自覚してないあたり、余計にタチが悪い。だがちゃんとした理由があって呼んでいる可能性もある。

 

 

「師匠の強さに惚れたからです!」

 

「ああ…は?」

 

 

いや理由もアホだった。この頃から師匠呼びする風習があるのだろうか?いやないだろ、多分。

 

 

「あ、別に深い意味は無いんで大丈夫ですよ」

 

「アアウンソウダナ」

 

「十回も死神から死を逃れるなんて他の人なら無理ですからね?自分でも言うのもなんですが自他共に認める死神の中でもエリートなんですよね」

 

 

口には出さないがお前ら死神はどうかしてる。

 

 

「それで同僚達に師匠との勝負の事話したらそいつとは戦いたくないって言ってました。流石は師匠!他の死神とは戦ってもないのに相手が尻尾を巻いて逃げるレベルなんてこれはもう十回目の勝負で自分がまた負けたのなら師匠と呼ぼおってことにしたんです!」

 

「そんなことだけで呼ぼうとしないでくれ」

 

 

たったそれだけ呼ばれるなんて正直精神がゴリゴリ削られていく。さては孔明の罠だな?

 

 

「てか、お前の口調おかしくないか?前までちょっと痛々しいクサイ台詞言ってたし、今の話聞いてる限り成長してるようには聞こえないし、どうしたんだよ」

 

 

この前から気になっていた口調の変わり方にも指摘する。師匠呼びと同じでくだらない理由で変えてたら盛大に笑ってやろう。

 

 

「痛々しい…?ああ、あの口調は仕事上での口調ですね。死神って結構陰気って思われてるので強そうな口調でやってるんですよ。通常がこの口調ですね」

 

 

あれが強そうな口調ってのが分からんが理由はまともだった。通常は馬鹿だが仕事に関してはエリートだな。

 

 

「だがなぁ、エリートは無いわ無い。仕事に関しては百歩譲って良いとして通常が馬鹿なのは無いわぁ」

 

「へぇ…師匠だとしてもそれは許しませんよ?」

 

「ん?いや事実だしな」

 

 

すると影宗の周りに黒い剣が浮かんでいる。ははん、実力行使で殺る気だな?

 

これが十回目の勝負が終わってからの日常である。

 

ーーーー

影宗side

 

 

初めてその人間を見たのは仕事上の事でした。僕ら死神は、生きすぎた者たちを輪廻の輪に戻すために殺す暗殺者のような存在だった。ほぼ兵器のようなもので自分という存在が嫌だった。

 

死神の中でも最高傑作と言われた僕は能力として『陰の性質を操る程度の能力』を授かった。上司によると正直『陽の性質を操る程度の能力』でも良かったらしい。その後、死神の中でも特別な存在になった僕はすぐに教育という名の実戦に放り込まれた。

 

当然、生まれたばかりの自分はどうすればいいか分からずに逃げるだけだったがある力で相手を倒した。本能なのか、そもそもの話、作り物である死神に本能があるのかと疑問に思ったがある力で相手を倒したのだ。そう…『陰の性質を操る程度の能力』である。

 

 

死神の主な殺害対象は仙人である。仙人には陰と陽の力を調和させ、不老不死になるのだが自分の能力『陰の性質を操る程度の能力』によって陰と陽のバランスを崩し、意図的に不老不死を消すという、ほぼ対仙人兵器と言っても過言ではない能力だったのだ。

 

そうして僕は、対仙人兵器としてあの人と会うまで自分という存在を隠していた。人間は生を続けたいために仙人になるものは後を絶たなかった。

 

その度に自分は繰り出される。そんな自分に同情したのか、他の死神達が自分が仙人を殺して帰ってくる度に優しくしてくれた。正直、この人たちがいなかったら精神は保っていないだろう。仙人を殺す度に聞こえる叫び声、最初は苦痛だったが殺していく度に慣れてしまい、徐々に精神を蝕んでいた。

 

 

徐々に仙人になる人間が減ってきた頃、また新しい仙人が一人増えたらしい。長く生きてもらうと後々めんどくさいという事で命令を受けて、その人間のところまで向かう。仙人になったばかりなのに殺されるのは少し同情してしまうこともあったが兵器なのでそれ以外は何も感じることはありませんでした。

 

その仙人のところに着くと、どうやらこちらを向いていた。僕の存在が分かるのか?そんなことを考えながら淡々と能力を使うが何故だ…発動しない、いや、効いてない。何度も能力を使うが全く効いた様子がない。

 

ありえない、ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない!! 陰のバランスを変えたのに死なないなんてありえない!この頃の自分は初めてな事だったので混乱しましたが相手が悪かったので、しょうがないと思いました。相手が悪いとつい知らず、直接殺そうと挑むが返り討ちにされた。

 

 

初めて能力が効かない人間、初めて自分という存在を見ていた人間、どれも自分にとって初めてな事である感情が芽生えました。それは恐怖でした。能力が効かない、それだけで恐怖でした。幸い、その人間は帰れと言ってきたので帰ったが心底呆れた。

 

仙人の中には、死神を逃がす者がたまにいるらしい。大体は仙人によって死神は殺される。それがあたりまえなのに人間は殺さなかったのだ。自分を殺せば、他の者にも被害が合わないのに逃がすのは呆れた。

 

次回はあの人間を殺そうとするがどうすればいいか分からなかった。そもそも、自分は能力ばかり多用していたため、戦闘に関してはからっきしだったのだ。

 

 

未熟だった自分はどうすればいいか分からず、とりあえず思いついたことをあの人間に試して行った。案の定、腹パンされたり、腹パンされたり、腹パンされたりと物理で全てはね返された。

 

今でも思うが流石に腹に鉄板10枚着けるのはアホだと思ったよ。そして、あまりの実力差にある感情がまた芽生えた。それは怒りでした。

怒りと同時にこんなことを言っていた。

 

 

「何がいけないんだ!何を試しても無駄だ。思いついたことを何度もやったのに!」

 

 

そして人間はこう言った。

 

 

「お前…仲間とかいるか?いるならそいつらと話してみろよ。分からないことがわかるかもしれんぜ」

 

 

人間の言っていた仲間とはなんなのか、他の死神たちに聞いてみた。なんでも不満などを言える真柄らしい。その他の死神たちはそれは友達だろ!と言っているが友達もなんだろうか、自分には分からなかった。だけどこれだけは思った。仲間とは今目の前にいる他の死神達のことだと。人間に言われた通り、話してみるが

 

 

「えっ、それ無理では?」

 

 

の一言で終わった。出来る限りとして死神たちが持ちうる、近接での戦闘技術、精神攻撃、能力の応用などを教えて貰った。能力に関しては死神たちも知っていたので応用に幅が広がった。

 

そして、死神たちに色々教わり、再戦を挑んだ。頭の中でこれまでの事を想像をするが、人間は新たな術で僕を倒した。人間は気絶させる前に自分に対して、こう言った。

 

 

「今回は、マジで危なかったわ」

 

 

初めてだった。あの人間に対して初めて危機感を持たせたのだ。そして、新たな感情が芽生えた。今度は喜び、悔しさ、楽しさだった。

 

あともう少しだった、悔しさをバネに他の死神たちの手を借りて特訓に励んだ。特訓の途中、ある感情にも芽生える。それは恋、愛だった。異性の仲間に恋をしたのだ。内緒だがこのことに関してはあの人間には秘密だ。流石に何されるかわからない。

 

そして刻々と時が経ち、十回目の勝負が来た。正直、この勝負でも勝てなかったら、一生勝てないだろう。感情に諦めが芽生える。

 

 

だが僕は、自分の存在をあの人間に教えるんだ。最初は互角だった。正直、互角だったのか怪しいけど。無数にある影で作った刀剣を拳で叩き落とすし、大剣を軽く受け止めるし、オマケに作ったゴーレムを触っただけで吹き飛ばすはで、反則だと思います。

 

最後には5m級のゴーレムの集団をたった一発の霊力弾でぶっ飛ばすのは一番驚いた。これで感情に驚きが芽生えたがそんなことに考えてる暇がなかった。

 

もう目の前には人間がいて、咄嗟にガードをするが、人間のもう片方から自分が作った刀を出して、斜めに斬られた。

 

 

ああ、勝てないと分かっても挑む自分が憎い。今度は憎しみが芽生える。何故、挑んだんだ?自分の役目だからか?違う。なら、何なんだよ。さっき言った自分の存在を教えるのか?いや違う。じゃあなんだ!そう自問自答を繰り返し続けるが、ある感情が芽生え始めた。そうだ……僕は…あの人に勝ちたいと思ったんだ。

 

そして、自分は薄れゆく意識の中、最後の抵抗を行った。気絶する前の記憶は覚えてなどいなかった。目が覚めれば大木の下にいた。あれだけど戦闘だ。骨折や内蔵のやられ方は酷いだろう。自分の身体に気を遣いながら立つが、痛みが全くなかった。

 

不思議に思い、身体中を見るが戦闘での傷や骨折などがなかったのだ。借りを作らせてしまった。

 

翌日、あの人間の元に向かうが昨日まで戦っていたのにも関わらず、何事もなかったかのように話しかけてきた。敵わないなぁ、この人には。自分は人間に対してこう言うようになった。言う理由としては強さより自分という兵器に人並みの『感情』を教えてくれた。だからは自分は人間のことをこう言った……『師匠』と。

 

 



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七旅:神は何者?

影宗の師匠呼びの話から数百年が経った。ココ最近、時間が経つのが早く感じるようになった気がする。歳が歳なんでそう感じるのは仕方がない。修行してる身でもあるんで集中しすぎもあるだろうけど。

 

相変わらず影宗は師匠呼びでこちらにやってくるので懲らしめてやった。まあ、良い奴だったよ。慈悲はないが。

 

そんなこんなで修行の日々を送っていた俺は、ある時、影宗にこんなことを言われた。

 

 

「師匠の師匠は何者なんですか?」

 

 

師匠の師匠って、他にも言い方があるだろ。まあ、確かに気になるな…

 

 

「神だが、お前はなんだと思う?」

 

まあ、本人が言ってるし神だろう。その場にあぐらをかいて座り、話を聞く体勢になる。

 

 

「神、ですか……だけど神力感じなかったんですよね」

 

「……神力ってなんだ?」

 

「そこからですか!?」

 

 

神力が分からなかったので神力その他もろもろ影宗に教えてもらった。神が使う力が神力、人間が使う力が霊力、妖怪が使う力が妖力、人間は霊力の他にも魔力を使うらしい。人間の体には神経の他に『魔術回路』なるものがあるらしいが正直知らない単語が多くて困る。

 

 

「まあ、こんなもんですよ!」

 

「そうか……ところで魔術回路ってのは俺の体にもあるのか?これでも元は人間だからあると思うが」

 

「そんなことでしたら僕が調べますよ!ではちょっと背中見せてください」

 

「あ、ああ」

 

 

服を脱ぎ、背中を見せるために寝そべる。影宗の冷たい手が俺の背中を触る。意外と冷たいな。

 

 

「で、分かったか?」

 

「す……凄いですよ!0本です!」

 

 

影宗が大きな声で叫ぶ。ぜ……ゼ、0本?

 

 

「あのー影宗さん?0本って零のことですか?」

 

「はい!0です、全くないです!」

 

 

oh……まさか0とは、神よ…。てか神に頼めば増やせるのでは?なんだ簡単じゃないか!

 

 

「無いなら頼めばいいんだ!影宗、そうしよう!」

 

「誰にですか?」

 

「神様だが?」

 

「僕はやめた方がいいと思いますがね」

 

「どうして?」

 

「正直神力感じないし、何の神か分からないし、胡散臭いんですよね」

 

「そんなもんか?」

 

「そんなもんですよ。この世界の神はろくな奴しかいませんので」

 

 

ろくな奴しかいない…か。俺の場合、あの髭ジジイの神しか知らんが他にいるのだろうか?

 

 

「師匠は神のことを信用してますが、僕は信用できませんね」

 

 

そう言うと影宗は背を向ける。口に手を当て、影宗は何か考えてる様子だった。正直何考えてるか分からんがめんどくさいことなのは分かる。

 

 

「なんだ、もう帰るのか?」

 

「ええ、まあ……調べることが出来たんで」

 

「いいけどよ、あまり無理すんなよ?」

 

「……はい」

 

 

そう言い、影宗は影に溶け込んで消えていった。影宗がどんどん離れていくのを感じ取る。あぐらの足を解き、痺れた足で立ち上がる。影宗に聞かれたことによって神について知りたくなってしまった。

 

 

「……どうせ知るだろな。うーーんっと、そんなことより修行だ、修行」

 

 

背筋を伸ばして、仙術の修行を始める。影宗の事だ、それなりの情報を持ってくるだろう。あいつの上司は閻魔だし、同僚たちもいるし大丈夫だよな。

 

 

 

影宗と神は何者なのか、という話をしたその日の夜、俺は神に呼ばれた。神が呼び出すとはこれまた珍しい。そんなことは言うけどどうせコソコソと俺達の会話を聞いてて「堂々と聞いてこい、たわけが」とか言われそう。そんなこんなで神のところに着く。

 

神は修行に来る以外は小屋に住んでいる。くっ、俺は山篭りなのに家の暖かさを味わいやがって解せん。小屋の扉をノックする。

 

 

「暁です、神様いますか?入りますよ」

 

「ああ、入っていい」

 

 

許可が出たので中に入ると机とイスがポツンと置いてあるだけ。他にあるとすればランプぐらいだろう。

 

 

「茶しかないがそれでいいか?」

 

「いいですけど、呼ばれてきましたがどうしました?」

 

「それなんだが、これで修行は終わりにしようと考えたんだ。儂にも色々と用事が出来た。だからこれからの事をお主に話そうと思ってのぉ」

 

「そろそろだと思ってたけど、今かー」

 

 

置かれた茶を飲みながら考える。そうかぁ…とうとうこの長い修行が終わるのか。千年以上前に転生してからここまで来たのか。第一の目的として立てた、まず修行に生き残るが達成するな。

 

 

「今回の修行ではお主の生き残る手段、仙人、能力の強化だがほぼ未完成に等しい。能力に関しては少ない数しか扱いきれてない。仙人は、鍛えきれていないところがある。言っても数え切れないぐらいあるがまあ、今言ってもしょうがないだろう」

 

「これだけやっても仙人になってないのかよ!」

 

 

あの千年間はまだ仙人なってなかったのかよ。いや、それだと矛盾してるな。仙人になってないのに影宗はなんでやってきたんだ。

 

 

「じゃあ影宗はなんでやってきたんだ?」

 

「すまん、言葉が足らんかったのぉ。この世界ではほぼ仙人なってるだろう。だが、完全なる仙人になるにはあることを使えなきゃならん」

 

「その使えなきゃならんってやつはなんだ?」

 

「魔法って知ってるかの?」

 

「は……ま、魔法?」

 

 

魔術に対しても驚いたが魔法って、魔術と同じようなものなのか?

 

 

「魔術みたいなものか?俺、そこら辺はよく分からないんだが」

 

「いや魔術とは根本的に違う、説明するとなぁ」

 

 

魔術は人為的に神秘と奇跡を再現したものらしい。で、魔法はその魔術の最終目標に辿り着ける方法らしい。他にもポンポンと知らない単語があったが俺はなんとか覚えることが出来た。仙術も魔術の類らしい。

 

 

「だがその話で出てきた魔術回路が俺には無いらしいぞ?」

 

「なんじゃと!?」

 

 

そう言うと俺の腕を掴み、脈を見てるかのようにじっと見ていた。見終わったら、残念そうに顔に手を当てた。

 

 

「そんな……まさかの……」

 

「支障でもあるのか?」

 

「無い訳では無い。ただ単に開いてないだけだが…これが開かなければ話にならん。どうするか…そうだ。暁くん、君のその眼を使えば出来るかもしれん」

 

「ん、どゆこと!?」

 

「お主のその眼は一種の『魔眼』じゃ。魔眼には大抵別となる魔術回路が備わっている。それを利用すれば開いてない回路を開くことが出来る!」

 

 

ま、魔眼!?初めてだぞ、そんなことを聞いたのは。いや…確か他に能力があるって言って『目的を果たす能力』とかなんとか言ってたな。

 

 

「だがどう使うかわからん。たまに変な気が流れる時があるが……」

 

「それだ。それを使って開いてない回路を開くんだ。霊力のように魔力を目に集中させて、お主の魔術回路のスイッチを作るんだ」

 

「難しいこと淡々と言わないでくれ、集中できん」

 

 

えーと、魔力を操るために魔術回路のスイッチがいるんだよな。だったら霊力のように魔力を目から辿って体に纏った感じでやってみる。すると目から体中に激痛が走る。目元を押さえながら、倒れ伏せた。

 

 

「大丈夫か!?やはり無理にこじ開けたからか?」

 

「い、いや大丈夫だ。……なんとか痛みが引いてきた」

 

 

そう言い立ち上がり、目元を抑えていた手を離した。瞼を開いたり閉じたりと、何も起きてないか確認する。

 

 

「ふむ、『宝石』……か……」

 

「どうかしたか?」

 

「いやなんでもない。ところで魔術回路はどうじゃ?」

 

「ああ、そうだった」

 

 

まだ痛みはあるが魔術回路の魔力の流れを確認する。霊力と違って上手く操ることが出来ない。

 

 

「どれ、魔術回路の数でも見るか」

 

 

先ほどと同じように神は脈を見るかのようにじっと見始める。確かめてる間、魔術回路で魔力の流れを確認する。見終わると神は腕を離した。

 

 

「魔術回路の本数は24本、質は中の中でまずまず、量は……そうかなるほど……」

 

「どうだった?自分で言っちゃあなんだが鍛えてるからそこそこいいと思うが?」

 

 

これまで鍛えてきたのだ。その魔術回路が良くなければ落ち込むぞ。

 

 

「結果的に言うとお主の魔術回路は、中途半端じゃ。本数も平均、質は平凡だが、なんと言っても量がこれまでにない量じゃ。あくまで推測だが、お主の魔力は霊力と混合している。何か心当たりあるか?」

 

 

このことを聞いて魔術回路は良いのか?自分の中では良しとしよう。さて心当たりか。もしかして、

 

 

「魔術回路を開く時に霊力を使うように魔力を纏うようにやったが?」

 

 

それを聞いた途端、神は目頭を押さえる。何かやらかしてしまったのだろうか?

 

 

「それが原因で霊力と魔力が混合しているのだろうな。これからも霊力とでも呼んでおけばいいだろう」

 

「わ、分かりました」

 

 

試しに霊力と魔力を分けることが出来るか試してみる。案の定分けることはできませんでした。霊力=魔力になったが別に支障はないだろう。

 

 

「てか魔法の話をするんじゃなかったのか?」

 

「ああ、そうだったのぉ。まずある世界の魔法で六つ確認されている。確認されてはいるんじゃが、どのような力なのかは明確には知られていないんじゃ。すまんの」

 

「いや別にいいよ。俺って、魔法って言われてもピンッと来ないしさ」

 

 

急に魔術とか魔法って言われても、困るぐらいだし。

 

 

「それで魔法がどうかしたのか?」

 

「それなんじゃが……魔法を使えるようにしてもらいたい」

 

「はぁ?いやいや、魔法使えるようにしてもらいたいって言われてもなぁ。困るだけなんだが」

 

「困るのは分かっておる。じゃがこの世界にはまだ魔法使いがおらん。そこでこの世界での魔法使いの一人としてなってもらいたいんじゃ!」

 

 

そう言うと神は俺の目の前で土下座をする。何かあるのか、少し疑問に思うがあの神だ。何かあるのはわかるが事情があってこんなことをしているんだろう。ここまで鍛えてもらったんだ。少しは役に立つか。

 

 

「神様、もう頭を上げてくれ。なんとか魔法ってやつを使えるように努力するよ」

 

「それはホントか!?」

 

「ああ、だけど神様にも協力してもらうぜ」

 

「それならお安い御用、出来ることなら協力するのぉ」

 

 

言質を取ったが魔法を目指すのって大変なのでは?まあ、そこらへんは後で神にでも聞くか。

 

 

「さて伝えることは伝えた。儂はそろそろ行くかのぉ」

 

「用がある時は呼ぶから来てくれよな」

 

 

するとにっこりと分かったと言って、神は縮地のように消えた。ほんとにあいつは神なのに仙術を使うとは何者なんだ?

 

 

「さて俺もこれからどうすっかなあー」

 

 

神がいなくなって今、魔法の事以外でこれからどうするか決めるか。魔法を使えるようにまた修行か、修行も飽きたしこれからについて影宗にでも相談するか。そんなことを考えながら、俺は茶を飲み干して小屋を出たのだった。

 

 

 



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八旅:遭遇

神から魔術やら魔法を知り、研究に励んでいた。最初は乗り気ではなかったが修行以外でやることがなかったので始めたのだ。修行しかやることがなかったのは理由がある。それは神が言っていた『古代』という事だ。これには神から古代としか言われてないので今の時代が曖昧だが多分結構古い時代かもしれん。正直帰る際に教えて欲しかった。人間などが集まっている村とかないのだろうか、と思ったが俺はまだ未熟者。下手に出たら妖怪にやられてしまう。俺は、山奥で引きこもって魔法の研究に励むことにした。後は能力と仙人の修行も忘れずに行っている。

 

余談だが若返っていた肉体が十代前半から十代後半ぐらいに成長していた。髪色も黒から白になっていた。まあ、歳が歳だからしょうがないけど、白髪になるとなんか歳食ったなって思う。結局、一日の日課に魔法の研究が追加されただけだった。

 

魔法の研究をするにあたって、魔術も始めた。仙術も魔術の一つなんだが、神から他にも習っていたものがある。『煉丹術(れんたんじゅつ)』、仙丹という霊薬を作る魔術の一つである。例えるなら中国版錬金術だ。仙丹というのは服用すると不老不死になる代物だ。錬金術と似通った術なんだが、金属で薬を作るのは無理な話だ。金は良いとして、水銀で薬を作って服用すれば、確実に水銀中毒になり、死に至るだろう。他に魔術はないか考えたが、この手に関してはほぼ無知なため、半ば諦めました。

 

こんな難しい話をしても面白くないので話題を変えよう。ある奴らから聞いた話によるとある所に人間が沢山いる大きな村があり、そこには四角い高い建物やら眩しいらしい。何それ、どこの古代文明ですか?宇宙人でもいるんですか?まあ、人間がいるって言うから大丈夫だろう。奴らって何者だって?鳥です、はい。修行してたら動物と会話ができるようになりました。この時は、修行のやり過ぎとぼっちでいつの間にか病んでしまったのかと思ったのは内緒だ。

 

ある日、神が前まで住んでいた小屋で魔術と魔法を研究をしていると誰かがドアをノックした音が聞こえた。

 

 

「どうせ影宗だろ?入っていいぞ」

 

「すいません師匠!ちょっとベッド借りますね!」

 

 

ドタドタっと激しく足音を立てながら、影宗はそう言ってきた。俺は後ろを向いていたので何がどうしたのか分からなかった。

 

 

「ん、どうしたんだ?」

 

 

影宗の方に振り返ると、そこには影宗に背負われてる女性がいた。

 

 

「お、おま、どこで攫ってきたんだこの人でなし!?」

 

「ち、違いますよ!ここに来る途中倒れていたんで運んできただけですよ。それでベッドはどこに?」

 

「お生憎様、睡眠不要の体なんでね。ベッドはないが、そこのソファに寝かせとけ」

 

「この長椅子みたいなものですか?」

 

 

そういえばここは古代だからなかったっけな。まあ、そんなことは別にいいか。ソファの上に散らかっていた物をどかし、女性を寝かせる。ジッっと、女性を見るが美人だ。ロングの銀髪に白い肌、整えられた顔で将来今よりも美しい女性になるだろう。だけど服装を見ると青と赤のツートンカラーで奇抜な格好をしていた。

 

 

「で、この少女をどうするんだ?」

 

「そりゃー師匠が見てやってくださいよ」

 

「いや何故?」

 

 

影宗に言われたことに困惑するが理由があるのだろうか?

 

 

「自分、死神っすよ?師匠の他にも殺らなきゃいけない人たちがいるんで面倒見ることが出来ないっすよ」

 

「じゃあ俺も魔法の研究しないといけないからダメ?」

 

「別にいいじゃないっすか!師匠は毎日暇でしょうに」

 

「……」

 

 

毎日暇と言われたが、研究と修行しかやっていないので影宗に暇人扱いされているのだろう。本当のことなので何も言い返せなかった。

 

 

「……はぁ、分かったよ。お前がいない時は、俺が面倒を見る。これでいいだろ?」

 

「わかってらっしゃる!では僕はここでおいとまさせていただきますね」

 

「ちょ、ちょっと待てや!」

 

「どうしました?」

 

「用事があってここに来たんじゃないのか?」

 

「いや、特にないですよ?あまりいると仕事先に何か言われそうなんで」

 

 

いつもは結構いる癖に、この時に限って仕事を理由に逃げるのは許せないな。

 

 

「今に越したことじゃないだろ。もっとマシな嘘つけよ」

 

「ギクッ…い、いやぁー本当は彼女(ゆうじん)に呼ばれてまして、それで…」

 

 

苦笑しながら今度は別の理由を言ってきたがこれがホントかどうか調べるために天眼を使うか。最近分かったことだが天眼の未来を見通す力を相手個人に使うと、相手の考えてることや真実、心、前世までも分かるらしい。前世が分かるんだから過去も視えるだろって視ようとしたがダメだった、無念。てなワケで、影宗の心を視てみる。

……どうやら本当らしい。この娘を看るのが面倒だからこいつに押し付けたかったが本当ならしょうがないか。

 

 

「はぁ…早く行ってこい。この娘の面倒は俺が見とくから」

 

「ありがとうございます!では、行って参ります!」

 

 

影宗はそう言って扉を勢いよく開けて消えていった。あいつ、言動がやや子供っぽいんだよな。まるで誰かに教えられたばかりのように。

 

 

「だが扉はゆっくり開けてくれ」

 

 

勢いよく開けられた扉を閉め、女性の方を向く。さっきは容姿しか見てなかったが、どうやらところどころ傷がある。痣とかすり傷ばかりなので崖を滑らせて落ちたのだろう。彼女には悪いが服を脱がさせてもらおう。

 

 

「ん?服に穴や綻びがあるな」

 

 

後でやる事やったら直してやるか。その前に彼女の傷をどうにかするか。煉丹術で作った薬があったがあれ効くかな?

 

 

 

彼女が影宗に連れてこられたその日の夜、俺は彼女の服の綻びを繕っていた。赤とか青とかこの時代、染物があったのかと疑うがなんとか出来た。夜なので彼女に布団を被せる。翌朝になれば起きるだろう。研究をまた始めるために後ろを振り向いた瞬間、後ろから首に手を回された。

 

 

「暴れないで。今から質問しますので答えるだけでいいです」

 

「まさか、不意をつかれるとは…」

 

 

油断していたら寝てた彼女に不意をつかれて、首に手を回され尋問される態勢にされた。てか、急すぎて若干焦ってる。

 

「ここはどこなの?」

 

「お、俺の家兼研究所だ」

 

「あなたは何者なの?」

 

 

何者だと言われたがこれは仙人と答えていいのだろうか?影宗にはあまり言わない方がいいと言っていたがこれは素直に影宗の言う事を従った方がいいだろう。

 

 

「妖怪ではなく人間……かな?」

 

「なんで疑問形なのよ……で、私は何故ここにいるのかしら?」

 

「近くの森に倒れていたからここに運んだ」

 

運んだのは俺じゃなくて影宗だけどネ。

 

「最後に私に何かしたかしら?」

 

「怪我をしていたので治療した」

 

「だからこんな雑に包帯が巻かれていたのね。そうね…もういいわ、一応害悪ではないことは分かったわ」

 

 

包帯の巻き方が雑で悪かったな。彼女は首に回してた手を離してくれた。離した所を見ると赤くなっている。この女、強く締めすぎでは?そう思いながら彼女の方を向く。

 

 

「あら、赤くなってるわね。力入れすぎたかしら?」

 

「いんや、別に気にすることではないから大丈夫だ。さて、お嬢さんの名はなんて言うんだい?」

 

「お嬢さんなんて口がお達者ね。そうねー……八意 永琳よ」

 

「八意 永琳…名乗られたからには自分も返そう。暁 佑全だ。姓が暁で、名が佑全だ」

 

 

妙に似合わない自己紹介で名前を教える。少し恥ずかしいな。自分の名前を教えるだけなのに久しぶりすぎて忘れてしまった。それだけこれである。羞恥心で少し赤くなった顔を隠した。

 

 

「……フフ、何よその名乗り方。面白いわ、私の周りでもそんな名乗り方した人なんていないわよ?」

 

「名乗り方なんて適当でいいんだよ適当で!」

 

 

やけくそ気味に永琳と名乗る女性に言う。美人だからって油断した。

 

 

「にしてもやけに青臭い部屋ね、ここ。こんなところで何やってるのよ?」

 

「お前が来るまで魔術を試してたんだよ」

 

「ふーん……」

 

 

永琳はそう言い、ソファから起き上がり道具などが置いてある机に向かう。まじまじと道具を見たりすると、製作途中の薬液の入ったビンに触りだした。

 

 

「お、お……ぃ……」

 

 

だが彼女の薬の扱い方が妙に手慣れていた。ランプの光に照らし合わせながら、薬液を見ている。それをして何になるんだ?すると今度はビンの蓋を開けて、薬液に鼻を近づけた。それが終わると薬液を小指に垂らして舐めた。

 

 

「うーん……違うわね。ねぇ、これって独学?」

 

「そうだが、なんでそんなこと分かるんだ?」

 

「分量、濁り方、机に置いてあるものを見るかぎり材料が適当すぎ。それぐらいでわかるわよ。後は匂いと味ね。匂いがなんかツーンっとしてるし、薬の苦味にムラがあるわ」

 

 

返答して、逆に聞いたら唐突のダメ出しだ。気に食わんが魔術に対して詳しいのだろうか?

 

 

「魔術に詳しいのか?」

 

「魔術……あぁ、ほんのちょっとね。私は魔術より医学よりの科学かしら」

 

 

科学かぁー……かがくッ!?あまりにもこの時代では聞くことは無い単語を聞いて、唖然とした。魔術も驚いたが、この時代に科学の概念があるとは、正直この世界はどうにかしている。まあ、魔術も少しはやってるらしいので良しとしよう。

 

 

「……」

 

「………何よ、その目は。信じてないわけ?」

 

「いや、さっきのダメ出しが的確だったから信じるが、ちょっとお願い聞いてもらってもいいか?」

 

「無理難題じゃなければ良いわよ。助けて貰った恩もあるしね」

 

「弟子にしてくれ」

 

 

俺がそう言うと永琳がきょとんとした顔で少し驚いているようだ。顔を下に伏せると小刻みに震えだした。怒らせてしまったか?

 

 

「…フフ、アハハハハハ良いわよ!私に弟子入りする人なんてそうそういないのに面白いわ!」

 

 

すると顔を上げて、口を手で隠しながら笑った。

 

 

「え…え、良いの?」

 

「良いって言ったでしょ。あとそうねぇ…助手になってもらおうかしら?あなたのあれ、見た限り出来損ないだけど、知識がないのにあそこまで出来るのは凄いわ。そして、あなたの口からさっきの薬の匂いが僅かにするわね。自分で試行錯誤で作った証拠ね」

 

 

えっ、何この人。実は凄い人に弟子入りしちゃった系?だけど、助手かぁー。多分、こういった奴は大抵実験台に使うな。

 

 

「助手は主に何をやるんだ?」

 

「試薬の実験台に、材料の買い出し、それから私の身の回りの世話ね」

 

「実験台に買い出し、身の回りの世話か……は?」

 

「これが主にやることね」

 

 

実験台とかもう予想してたからいいけど、身の回りの世話って……

 

 

「思いっきり執事じゃねぇか!」

 

「あら不満?」

 

「不満だらけだよ。たくっ、美人はこれだからなぁ…弟子入りするからには我慢しますよ」

 

 

こういった事は我慢すればいいだけの話だ。前までの修行に比べれば簡単だ。実験台とかちょっと怖いけど。

 

 

「は……早く帰って、最初に何を試そうかしら。……楽しみね?」

 

「やめろ、寒気がする」

 

 

まさか会ったばかりの人、それも怪我をしていた女性を助けて弟子入りするって珍しいこともあるもんだな。他人事の様に思っているが自分だろうが。物好きだな、俺って。永琳を見るが、興奮気味にお経の様にぶつぶつと唱えていた。

 

 

「なんか楽しんでるところ悪いが、永琳の傷が治ってからな」

 

「えっ……」

 

 

少ししゅんっとなった。あっ、可愛い。

 

 



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九旅:月が治める都

永琳が来てから数日間経った。永琳には怪我をしているので大人しくしてろと言った。しかし、見ているだけに専念しようとしたらしいが見るに堪えなかったらしく、俺が煉丹術や錬金術で薬を作っていると後ろから的確なアドバイスをした。

それで彼女の傷が治るまでの数日間、俺は永琳との個人レッスンを受けていたのだった。別に深い意味は無い。

 

 

「なぁ、先生さ」

 

「どうしたの?」

 

 

なお弟子入りした際に『先生』と呼べと言われた。前まではあの神に様呼びとか師匠と呼んでいたので慣れていたが、相手が絶世の美女級であることで恥ずかしいと感じた。

 

 

「今更聞くが、なんでこんな山奥まで来てたんだ?」

 

「そうね。簡単に言うと材料探しよ。在庫を切らしちゃってね。都市にも売ってないらしくて、それぐらい自分で取りに行けって上の奴らに言われたのよ。上の奴らは、それだけで兵を動かしたくなかったんでしょうね」

 

「難儀だな。それはそうとして度々話に出てくる都市ってのは何だ?」

 

 

これまでの話を聞く限りでは、十中八九あの動物達が言っていた所だろう。それにしてもこんな森しかない時代に科学があるのが不思議だ。

 

 

「月読命様が総べる場所の事よ。まあ説明すると月読命様の権能により力を授かった神達が、魔術より科学を重視した場所よ。私はそこで賢者って呼ばれ、慕われているわ」

 

 

月読命、日本神話でも有名な神だな。月の神として有名で天照と喧嘩して日と月が交互に変わって昼と夜の概念が出来たんだよな。しかし月読命がいるってことは、ここは日本でそんでもってこの世界は前の世界とはあまり変わらないってことだよな。

それにしても魔術より科学を重視した……か。神が魔術より科学を取るって、些か拍子抜けだ。魔術が存在してるなら、そっちを取れよ。それでも神だろ、神秘的象徴だろお前ら。こう批判してはいるが、科学を主体にした世界で生きてきた自分でもその選択もありだと思った。

 

 

「ん?てことは、永琳も神ってことか」

 

「あら、今気付いたの?」

 

話を聞いた限り、永琳も神だとほぼ神しかいなくないか?

 

「都市ってのは、案外良いものよ。私の傷も癒えたことだし。明日は都市に向けて出発よ!」

 

 

俺に指差ししながら永琳はそう言うと、毛布にくるまり寝た。

都市で賢者って呼ばれるのは少々プレッシャーを感じると思うのだが、彼女は感じないのだろうか?端から見れば美女だが、それにしてもまだ幼さがあると思う。いや数日一緒だったからって、彼女の事を知った訳では無いが尋常ではない。都市に入れば彼女の事も知ることが出来るだろうか?

彼女という存在が何なのか、考えながら明日の準備と荷物の整理をするのだった。

 

 

―――――

 

 

小屋の窓からは日差しが差し込む。準備と整理だけで夜を過ごしたらしい。

大方、荷造りが出来たな。だけど荷造りしてる際に大量の薬液をこぼして服に掛かるとは災難だ。荷造り用の服にも掛かるし。洗えばいいと思うが青臭さが残りそう。なので自分で新しい服を作ることにした。卓越した裁縫スキルを魅せよう。

前はジャージのようなものを着ていたが今回はジャージではなく僧侶などが着ている作務衣(さむえ)にしよう。作務衣は紺色にするがなんか面白みがないのでこの上に白衣を足そう。これは酷い。センスの欠けらも無いのに少しだけいいと思っている自分がいる。

すると妖気を感じたのでこの服装について聞いてみるとしよう。俺は荷物を持って外に出た。

 

 

「師匠!おっはようごっざいマース!しかし……変な格好ですね!」

 

「……変化をつけずにストレートで言わなくたっていいじゃん。あと永琳が起きるから静かにしてくれ」

 

 

分かっていたが初球からどストレートはなかなかキツイ。にしても相変わらずの元気の良さで挨拶をする影宗。耳がキーンっとするが、元気が良いので良しとしよう。

それにしてもニコニコと笑顔をしているが、何かいい事があったのだろうか?敢えて何も言わないが。

 

 

「永琳ってあの女性ですね!それにしても……こんな朝っぱらから外にいるなんて、師匠。どうしたんですか?」

 

「俺が朝から外にいちゃー悪いのかよ。いやなに……都市って所に行くことになったんだ。お前にも伝えようと考えてはいたが、タイミングが良いな」

 

「都市ですか。あそこって結構居心地良いですよね。自分もたまに行きますよ」

 

「そうなの……て、お前知ってるの?」

 

「知ってますよそりゃー。僕だって、これでも神ですよ。死神っすけど」

 

「え、神なの?妖気とか妖力使ってたのに?」

 

俺がそう言うと、影宗は僅かながら神気を発する。こいつも神なら神らしくしっかりしてほしい。いや、影宗の場合は死神としてしっかりやってるか。頭に問題はあるけどね。影宗の事を馬鹿にしてた、すまん。

 

 

「これで分かったっすか?」

 

「ごめんな」

 

「なんで謝るんっすか!?」

 

「……すまない……心の中で馬鹿にしてすまない……」

 

「それだと前から馬鹿にしてますよねッ!?」

 

 

すると、後ろの扉から永琳が出てきた。毛布にくるまりながらまだ眠たいのか、目を擦りながら出てきた。

 

「なによぉ……あさからうるさいわねぇー」

 

まだ寒いのか、少し震えている。

 

 

「暁、何その服装……イイじゃない!」

 

「ッ!?やっぱり先生は信じてたよ!流石ツートンカラーの奇抜な格好してるだけのことはある!」

「ちょっと待って、聞き捨てならないことが聞こえた気がするわ」

 

 

永琳は良いセンスを持っている。本来は僧が雑務をする際に着る作務衣の上に白衣を着るとはこれほどまでにベストマッチしてない物はないだろう。アンバランスの黄金比だろう。これを良いと言う永琳は少しというか結構抜けている。

 

 

「奇抜な格好って言うのは癪に障るけどいいわ。ちょっと暁ぃー、火を起こしてー」

 

「あーはいはい」

 

 

霊力を魔術回路に通して、火を起こす。あれだな。能力は使い続けなきゃ上達しないし、魔術も使い続けなければ上達はしない。魔術以外にも能力もどうにかしなかければな。そう言えば影宗にも能力があるし、ある程度実力とかあれば能力持ちとかいるのかな?時間があれば、永琳に聞こう。

 

 

「あたたかーい。ありがとねぇ……そこの人、誰?」

 

「こいつは小野塚影宗だ。自称弟子兼死神だ」

 

「どうもっす!死神の小野塚影宗です!」

 

 

すると永琳は立ち上がり、影宗に近付く。珍しい物を見るかのように、影宗を観察し始めた。影宗は、永琳が何をしているのかわからず、不思議そうな目で見ていた。

 

 

「へぇー、これが死神ねー……なんでこんな所にいるの?」

 

「あ……いやー……」

 

するとこちらへ顔を向けてくる影宗はどうすればいいか困った顔をしていた。

 

「実はそいつ、この前仙人やられてなあ。倒れてるところを俺が助けてやったんだよ。それでたまに、遊びに来るようになったんだ」

 

「あら、そうなの?私たち少し似た境遇ね」

 

「そ、そそうなんっすよ!いやー、一時はどうなるかと思いましたよ?ハハハ……」

 

 

頭の後ろに手を置きながら影宗は、苦笑をしている。仙人の事を隠せって言ったのは、お前だからな?少しは誤魔化して欲しい。

 

 

「そうだわ暁」

 

「どうした?」

 

「私が着替えたら即出発するわよ。死神の方も一緒に来るかしら?」

 

「自分はいいっすよ。二人だけで行ってください。たまに来てるんでその時に寄りますよ」

 

「分かったわ。それじゃあ、今から支度してくるから待っててね」

 

 

永琳は羽織っていた毛布を掴み、毛布を引きずりながら小屋の中に戻って行った。魔術回路に霊力を流すのをやめて、火を消す。それでも消えない跡に残った残り火は踏みつけて消した。

火の暖かさが消え、冷たい風が顔に当たる。ぶるっと震えるがうずくまりながらも永琳の支度が終わるまで待っていた。支度が終わったのか、小屋から永琳が出てきた。

 

 

「じゃあ行くわよ!」

 

 

まだ寒いがなんとか立ち上がる。なんでこいつらはこんなにも元気なのだろうか。俺にはわからない。

 

 

「では師匠、都市でまた会いましょう!」

 

「ああ、でも仕事はほったらかしてこっちに来るなよ?」

 

 

影宗に一時の別れを言い、地面から足が離れる。昨日うちに永琳に飛べるかと聞いて、飛べると知ったので森の中を歩くより安全な空を選んだ。

嗚呼、どんどん影宗と俺の魔術工房(小屋)が小さくなっていく。これまで生きてきた場所を離れるとは、こんなにも名残惜しいものなのか。何年経ってもまだこの場所を覚えていたら、忘れずに立ち寄ろうかな……

 

 

「それで先生、都市の方角はどこなんだ?」

 

「ここからだと……南西の方角ね」

 

 

日没の方向で少し南側だから―――あっちか。これから都市に行くんだ。一回天眼で視てみよう。……ぼやけて視れなかった。無念……天眼に慣れるにはまだかな?

 

 

月が昇り、のんびりと都市に向かって飛んでいると前にいた永琳が降下し始めた。都市の場所がわからないので永琳の後ろをついていた俺は急な事だったので慌ててしまった。

 

 

「急に降りてどうしたんだ?降りるんだったら言ってくれよ」

 

「都市の近辺まで来たから降りたのよ。そのまま飛んでると撃ち落とされちゃうのよ」

 

「うち……おと……」

 

 

撃ち落とすと物騒な事を言う永琳に少し驚いてしまった。

砲台とかそんなものがあるのか?これでは都市ではなく要塞の間違いだろう。うっかり撃ち落とされるのは嫌だ。俺もこれから都市生活なんだ。忘れないように覚えておこう。

このまま歩いていくと永琳が止まった。

 

 

「着いたわよ」

 

「着いたって、目の前木だらけじゃないか?」

 

「ホントに魔術について知らないのね。いいわ、このまま歩くわよ」

 

 

永琳がまた歩き始めると突如、永琳が消えてしまった。何が起きた?そう思ったが、声が聞こえた。

 

「何つったってんのよ。こっちよ」

 

目の前の何も無い場所に手が出てきた。うおっと、言いそうになり少し驚いたが心の中でなんとか止めた。こう冷静になると影宗が影に潜って、手だけ出して驚かしたようにしか見えなかった。

永琳の声に導かれて進むと、目の前が一瞬にして変わった。目の前には建ち並ぶ高層ビルや空飛ぶ車、おまけに人間に似ているロボットなどのものがあった。

前世での僅かながら記憶の中を探っても、前まで生きてきた世界の発展技術を凌駕していた。魔術より科学を重視しているのは聞いたが古代でここまでの科学力があったのは驚きしかない。僅かながらの知っている歴史の中でそんなこと聞いたことも無いからだ。

 

 

「ふふ、物珍しそうに見てるのね。わたしたちは日常的に見てるけど田舎者の暁にはそう見えるわよね」

 

「ああ、だけど珍しいって域じゃない。ほぼこの時代では幻想なようなものだよ。この時代でここまで進んでるって、何をどうしたらなるんだよ……」

 

 

幻でも見てるかのように辺りを見渡しながら歩くが、都市と言われるだけあって神の数が多い。

その神たちは外からの者が珍しいのか、俺の事をジロジロと見ている。嫌悪とかそんなものは感じないが、ここまでいろんな人に見られると逆に気分悪くなる。

 

 

「暁、あれを見て」

 

「なんだ?」

 

永琳が指した方向には高層ビルより高い電波塔らしきものが建っていた。

 

「おおー!あれはなんだ、神気が尋常じゃないぞ?」

 

「あれはこの都市の統治機構を担う建物よ。ここを治める月読命様を始め、その血を継いでいる神があそこにいるのよ」

 

 

だからこんなにも神気が感じるのか。周りの神よりも神気が強い。それにしてもこの都市でもやはり治めるための機関があるのか。これも覚えておこう。

 

 

「まあ私も少しは継いでいるのだけど、都市を発展させるのが役目だからあそこじゃなくて研究所で色々やってるわ」

 

「何気に凄いことを言うな。それで今からあそこに行くのか?」

 

「ええそうよ。私の助手になるんだからお偉いさんに報告するのは当たり前よ?」

 

 

都市で賢者と呼ばれてる神なんだ。その助手になるのだから報告を当たり前か。そう考えると一気にプレッシャーがお腹に来るな。

 

 

「ハハ、改めて先生の助手になることがこんなにも胃をキリキリさせるなんて……」

 

「まあ暁の実力を神に知らしめせばいいのよ」

 

「簡単に言ってくれるよホントに」

 

 

そう言いながら月読命がいる塔へと向かった。

塔の中に入ってみると中は、ビルのロビーのような空間で人間や神はいなかった。いるとするならロボットぐらいだ。テーブルとソファが端にあり、ロボットは中央で受け付けなのか、ぽつんっとその場にいただけだった。

永琳はそのロボットに近付く。

 

 

「月読命様はいるかしら?いたら会わせたい人がいるからと連絡しといて」

 

 

永琳はロボットにそう言うと「了解しました」と機械音のような甲高い声ではなく、生気を感じるような人間の声で返答した。

ここまで再現するか、都市の技術は……。

 

 

「月読命様いるらしいから行くわよ」

 

「俺はこれ以上驚かん!」

 

「何言ってるのよ。さっさと、行く!」

 

 

この後が心配だ。ああ……お腹痛い……。



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十旅:夢

永琳に連れられ、月読命がいる部屋の前にいた。部屋に近付く度に心臓の鼓動が速くなり、部屋の前までいくと鼓動が高速に達していた。

落ち着け俺、三貴神の1柱の月読命だが他2柱よりは地味で知られていない。所詮月の神。俺はそう考えながら心を落ち着かせた。

 

 

「月読命様、会わせたい人がいるので参りましたあっ!」

 

 

永琳は扉を勢いよく開け、ズカズカと入っていった。助けた時から思ったが、こいつは博識だが常識というのを知らないな。身内だから好き勝手やっていい事とやってはいけないことはあるだろ。

 

 

「ヒエ……え、永琳さん!いつも入る時は静かにと口酸っぱくして言ってるじゃないですか!何度言えば!」

 

 

後ろから覗き込むと青白色の髪色をした女性がいた。彼女が月読命なのか、男神としても有名なので分からない。もしくは、女性のように見えて男性という男の娘なるものもあるので油断出来ない。にしても……永琳の上司とは大変そうだな……。

 

 

「大丈夫よ。今だけは忘れないわ」

「ダメじゃないですか!……と、お見苦しいところを見せてしまってすいません。ささ、どうぞおすわり下さい」

 

座るように勧められたので座る。どうやら彼女が月読命らしい。気が強い人だと思ってたが物腰が柔らかい人だ。これなら緊張せずに済みそうだ。

 

 

「話は伺っております。ワタシは月読命と申します。ここ都市で主に統治と管理に携わってます。今回永琳さんを助けて下さりありがとうございます」

「暁 佑全って言います。いえいえ、そこで倒れていたもんで見過ごすにも後味が悪いので」

「ところで、永琳さんのお客様ということで私のところまで来たそうですが何用で……」

「実は……」

 

 

永琳を助けたところからその後に起こった事の経緯を月読命に説明する。最初は真剣な顔でその話を聞いていた月読命だが話の最後が近付くにつれ、百面相のような喜怒哀楽と顔を変えながら聞いていた。説明し終わった後、月読命は深刻そうな顔でこちらを向く。

 

「暁さん……考え直してください……」

「……んんー?どうしてですか?」

「月読命様、何故ダメなのですか?」

「別にダメとかじゃなくてですね。その……弟子入りは良いとしてその師匠の方に問題があって……」

 

 

月読命はチラッと永琳の方を見た。師匠に問題があるとはそういう事か。その問題の師匠は少し首をかしげているが自覚してない辺り、天然なのか?

 

「まあ自分から弟子入りしたんで大丈夫ですよ。これから起きることに比べれば、ここに来る前までの修行の時より楽ですし」

「そう言ってくだされば心強いですが、ダメそうでしたら言ってくださいね?ワタシも協力しますので!」

 

 

月読命から弟子入りに関して承諾してもらったし、一安心だ。他にもあるらしいが月読命が承諾しても他の奴らがちょっかい出して来る可能性があるらしい。月読命が味方にいれば大丈夫だと思うが用心しておこう。

 

「てことで、月読命様に報告したし帰って早速試薬するわよ!」

「……暁さん、何かあったらいけません。相談してくださいね?」

「……はい。ではこれで」

「永琳さん、くれぐれも暁さんに迷惑かけないように……ですよ?」

「私をなんだと思っているの月読命様?大丈夫よ、仮死状態になるぐらいですから」

 

 

仮死状態になる薬って服用するものじゃない。仙人はある程度の毒耐性があるのか分からないが解毒剤とかないか、服用する前に永琳本人にあるか聞くか。いやまあ仮死状態になる前提で考えているが仮死状態にならない程度には作って欲しいと願うばかりだ。

 

「それが迷惑かけてるんです……」

 

 

部屋から出る際に月読命に何か寒気を感じる目で見られたが気がするが、緊張してたせいで緩んで気の所為のようなものを感じたんだろう。

 

(暁……佑全ですか……、彼について分からないことがありますが少し探りますか)

 

 

 

場所は変わり、永琳の弟子入りを月読命に報告した俺は永琳の和風な屋敷に連れてこられた。中は思ったより綺麗で物などが散らかっていなかった。乱雑してると思っていたが整理整頓出来る人なのか?各部屋を見て回るが綺麗というより物が無い。最低限の生活用具しかないのだ。

 

「先生。この家殺風景すぎませんか?」

「しょうがないでしょ。最近まで使ってなかったのよこの屋敷。最低限のものとここに仕舞っているものしかないわよ」

 

 

そう言うとどこからともなく見知らぬ道具や都市の資料なるものを出してきた。最近まで屋敷を使ってないとかさらっと言っているがツッコまないでおこう。

俺は永琳に案内された部屋に向かい、荷物を置いた。外側の戸を開き、中の空気を入れ替える。

外側の戸の向こう側には庭があるが何も無い。本当に何も無いんだなこの屋敷……。

 

「まあ一通り終わったし、仮眠でもするか……」

 

 

仙人は睡眠を必要としないが、心身共に気分を一新することが出来るのでたまに寝たりする。食事と同じで仙人にとっての娯楽の一種だと自分は認識している。縁側に横たわり、瞼を閉じる。睡眠なんて要らない体になっているので非常に寝にくい。

 

「あなた……何寝てるの?」

「昨日の夜から荷造りしてたからな。急に言われて大変だったんだからな?」

「それはごめんなさい。少し休んでていいから起きたら色々やってもらうわよ」

 

 

言い終わると永琳が離れていく。永琳には悪いが寝かせてもらおう。瞼を閉じて意識が薄れていく。今思えば、寝るのは久しぶりだな……。

 

 

 

意識を落とした瞬間、脳が覚醒し目が覚めた。視界にある光景が広がる。辺りを見回す。何も無い無限に広がる真っ白な殺風景が続いていた。別に何も起きそうもないのでもう一回目を閉じ、意識を薄めていく。……眠れない、逆に気分が悪くなっていく。

 

(ここは一旦、この無限に広がる空間を探索してみるか。妖怪か何かの類かもしれないしな)

 

無限に広がる空間を探索する。天眼を使おうとするが真っ白な空間が広がっているだけで意味がなかった。視ただけでは分からないこともあるので探索を続ける。無限に広がる空間を歩き続ける。何も無い。空を飛んで探索をしようとするが飛べなかった。他にも能力を使うが、どうやら天眼以外は能力が使えないらしい。天眼だけが使えるのは疑問に思ったが何かの影響で使えないのだろうと自己完結した。

 

無限に広がる空間を歩き続けると目の前に小さな歪みがあった。

 

(なんだあれは?微かだが魔力を感じるぞ)

 

怪しい歪みにそう思ったがその瞬間、歪みから光が広がり、俺を飲み込んだ。

光が薄れて手をどかすと、次に目の前に広がったのはある光景だった。上空には黒い玉のような魔力の塊、その近くには人がいた。人の顔を天眼で視ようとするが、黒くぼやけて確認することが出来なかった。だが人が何か言ってることに気付き、耳を傾ける。

 

「そうか……俺は世界の***だったのか……いや無理やり入ったのが正しいのか。根源やらなんやら視てきたが、変なやつに付き纏われてたのもこのせい……そのための*か。……いいだろう、付き合ってやる。俺は世界の歴史を正しい方向に変えた調整者。あいつと一緒は嫌だが……その先の人の未来がある限り、この魔法で世界を見守るよ」

 

根源?調整者?世界の***とはなんなんだ?上手く聞き取れなかった。だがこれは何なのだろうか。何故か不思議とその人の事を悲しいと感じた。ここに来るまで何があったのか、知りたくなった。もっと聞きたい、そう足を進めると奥からまた光が広がり、俺を飲み込んだ。

 

 

 

あの夢から覚め、頭の中を整理する。あれは一体なんだったのか?夢なのか?だがそれにしてはリアル。そうとしか思えなかった。

 

(あれは何かしらの意味があるはず。この先のことについて、重要なんだ)

 

このことは忘れないようにしよう。

外を見るとまだ日が落ちていなかった。起きたので永琳の手伝いに向かった。

 

 

永琳の手伝いをするために屋敷の中を探し回るが永琳が見当たらない。

 

(外にでも出ているのか?外に出ているのなら屋敷で待っていた方がいいのだが……やることがないな。)

 

待ってる時間が勿体ないので何かしようと考えているとふと思い出した。

 

(そういえば、朝早く出たせいで日課の鍛錬を忘れていた。)

 

寝ていた部屋まで戻り、座禅を組み始める。意識を集中し瞑想に入り。邪念を消し、瞑想することで体の中を魔力が走らせる。魔力は霊力の混合しているため、流れる魔力は膨大な量だ。それを体に循環させて、体に馴染ませる。魔術回路の質はまあまあだが魔力の量のせいで焼かれるような痛みを最初の頃何度も味わっていた。だが日に日に経つにつれて、回路も慣れて痛みも無くなっていたのだ。その副産物として魔力の量も調整できるようにもなっていたのだ。

 

(霊力と混ざらなければこんなことしなくても済んだのにな……)

 

混ざらなければと先週の出来事を思い出しながら、気落ちする。自業自得なので後悔しか感じられなかった。

瞑想が終わったと同時に玄関から物音がする。ちょうど永琳が帰ってきたらしい。

 

「起きてたのね。もう少し寝てると思ったけど。」

「おかえり、流石に来てばっかでそんなに寝るか。こんなの仮眠にもならんわ。」

 

永琳は手にぶら下げてた物を二つ、足元に近くに置く。パンパンと膨れ上がった袋は上から中身を覗くと、薬草や食材が入っていた。

 

「買い物に行ってたのか。」

「薬草買うついでに食材を買ってきたのよ。今日から私の家であなたが作ってくれるからね。」

「まぁ、あっちよりは器具が揃ってるから美味しいのは作れるか。早いが今から作るか?」

「お願い。出来たら隣の研究所にいるから呼んでね。」

 

「あぁ」と返事をした後、永琳は薬草が入った袋を持って屋敷から出た。食材を台所に持ってて何を作るかを考え、作り始めた。

 

 

 



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