ZOIDS additional story (龍大徳)
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プロローグ

龍大徳です。

今回はゾイド無印をベースにバトストやコンセプトアートなどの要素を盛り込み、
書籍などにあるゾイドに関する様々な設定を基にし、ゾイドと古代ゾイド人の秘密に迫る作品を考えています。

かなり遅い投稿ペースになるかもしれませんが、どうぞお付き合いよろしくお願いします。



地球から遥か6万光年の彼方にある星、惑星Zi。

そこには優れた戦闘能力と意志をもつ金属生命体「ゾイド」が存在した。

単純な原核生物として誕生した初期の惑星Zi生命体は、高濃度の金属イオンを含む海水の中で生活し、高等生物へと進化していく過程で金属の殻と骨格を手に入れた。その後いくつもの大変動を生き残り、この中にゾイドコアを持つ生命体が誕生した。これが初期のゾイドである。ゾイドはあらゆる環境に進出し、適応放散の結果様々な形態へと進化していった。その大半が収斂進化によって、地球生物に類似した形態を持っていた。一方で、ゾイドと同じ共通の祖先から知的生命体が生まれ、それが古代ゾイド人の起源となったと現在の学説ではなされている。しかし、惑星Zi独自の生物であるにも関わらず、地球人とほぼ変わらない姿や地球人との交配が可能であることなどから、地球人類との関連性を指摘する説もあるものの、ほとんどの学者からは否定されており、詳しいことは未だに謎である。

 

かつてこの星では上記で紹介した古代ゾイド人が惑星を支配し、高度な文明を作り上げていた。しかし、度重なる戦争と彼らの手によって生み出された破滅の魔獣「デスザウラー」によって古代ゾイド人は自らの文明を亡ぼしてしまった。

 

その後、地球より地球人が入植し、地球生物の遺伝子を原始金属生命体に組み込み新たなゾイドを生み出しながら、惑星Ziに様々な国家を成立させた。その中でも有力だったのがヘリック共和国とゼネバス帝国、ガイロス帝国の三つの大国であった。始めは中央大陸においてヘリックとゼネバスの兄弟が争った。ゼネバス帝国滅亡後に共和国はぜネバスを支援していた暗黒大陸のガイロス帝国と交戦する。このヘリックとゼネバス、あるいはガイロスとの戦争においてデスザウラーが復活し、共和国を苦しめたという伝説があるが定かではない。惑星の大変動により戦争は一時的に終結。覇王ガイロスも亡くなり、ヘリック共和国とガイロス帝国はそれぞれが拠点とした大陸デルポイと二クスを捨て西方大陸エウロペに政府を移し、休戦条約を結んだ。その一方で両国は、古代ゾイド人の秘密と彼らが残したオーバーテクノロジーを解明しようとし、来るべき戦争に備えていた。

 

戦争終結から数十年後、ガイロスの弟で病弱のツェペリン皇帝を傀儡とし頭角を現した名門プロイツェン家の帝国軍元帥ギュンター プロイツェンがエウロペで再び戦争を起こそうとしていた。彼は、ゼネバス皇帝、そして覇王ガイロスが蘇らそうとした破滅の魔獣デスザウラーの完全復活を計画。その研究拠点の一つとして、首都ガイガロス郊外とは別に北エウロペのオリンポス山の古代遺跡を研究所とした。

 

オリンポスの帝国軍秘密要塞建設を共和国情報部によって察知した共和国軍は極秘に北エウロペのロブ基地からエルジー ハルフォード中佐を指令とする独立第二高速大隊へオリンポス山頂の調査及び破壊を命令。帝国と共和国の運命を決める戦いが始まろうとしていた。

 



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第一章 オリンポス山での陰謀
1 オリンポス山の死闘1


「帝国軍め、一体全体何を企んでいやがる。オリンポス山に軍事拠点だなんて、協定違反じゃねーのか。まあでも興味ありだけどな」

「少佐、別に少佐はうちらの隊所属ってわけでもないのになんでついてきたんすか。ロブの兄貴も止めたっていうのに」

 

愚痴りながらも、帝国軍の秘密基地に興味津々のレオマスター、アーサー ボーグマンにトミー パリス中尉はあきれる。

 

「あまり派手にやらないでくださいよ。強敵と戦えるということで我々に同行したのでしょうが、これは極秘任務なのですよ、クレイジーアーサー」

「なあに、心配はかけんよ中佐。もし強敵が現れたらお前たちだけじゃ不安だろう。だからわしが来たんじゃ。もし敵が来たとしても安心せえ」

 

老齢のシールドライガー乗り、アーサー ボーグマンは年下のハルフォード中佐を和ませる。

 

独立第二高速大隊は共和国情報部や、衛星電波とプテラスレドームからの位置情報の助けで帝国軍に察知されないように山頂を目指していた。

 

「しかし、軍もルイーズ大統領もなんで俺たちをオリンポスへ派遣なんかさせたんだ。北エウロペの帝国と共和国の支配域のちょうど境界に位置するオリンポス山に要塞なんて建てたんだから、これをカードにして帝国に文句言えばいいじゃねーか」

「トミー、いくら証拠を示したところであのプロイツェンのことだ。しらばっくれて共和国こそ帝国にいちゃもんをつけて戦争を起こそうとしてるのだろうと言い返しかねない。それに我々が帝国の極秘要塞に気付いたこと帝国側が知ったら、益々プロイツェンは警戒し、それこそ難癖付けて攻めてくる可能性もなくはない。オリンポスで造っているであろう秘密兵器で。そうなる前に俺たちで帝国がもつ技術を奪い取り、あの基地を破壊し戦争を防がなければならんのだ。俺の弟も帝国秘密要塞をネタにしてプロイツェンに圧力を加えればいいと言ってたが、あの男はそんなに甘くはないぞ」

 

共和国政府と軍の考えは的外れであると思われるであろうが、それは帝国の支配者がプロイツェンでない限りの話である。彼はこのエウロペに国は一つしかないという独善的な思想の持ち主で、共和国を反乱軍としか見なしていない。実際にプロイツェンは4年前、アーサーの友人であったダン フライハイト少佐率いる共和国軍が捕獲したオーガノイドを奪い取るため自ら軍を率いて攻めてきた。そんなプロイツェンに強く追及したところで、秘密兵器が完成してしまえば、彼はそれを持ってして北エウロペを完全に帝国の支配下に置き、ガイガロスからの軍をも動員して共和国の首都ニューヘリックシティを挟み撃ちするだろう。

 

「帝国軍の持つ遺跡のオーバーテクノロジーを手に入れれば、共和国も帝国に対抗できるということだろう。そういえば中佐、お前さんの弟は古代遺跡の調査部門に所属しているだろう。オリンポス山の遺跡の技術はのどから手が出るほど欲しているだろう。帝国軍の手に落ちていなければ、すぐにでも調べられたのになあ」

「確かに弟は遺跡調査においては優秀ではありますが、人命よりも任務を優先する男で、部下からはあまり信頼されておりません。4年前に当時上官だったダン フライハイト少佐と共に捕獲したオーガノイドを帝国に渡さないために逃しましたが、そのせいでダン少佐は亡くなりました。同時にオーガノイド研究者夫婦殺人事件の捜索中に保護された少年も行方不明です。弟の判断が果たしてよかったのかどうか兄としては疑問です。しかし、ダン少佐の遺族とその行方不明の少年には非常に申し訳ないと思っております」

「そうだったな。あれは悲しい事件だったな。しかしダンの奴、故郷の村を守るためとはいえ無茶なことを。だが俺でも奴とおんなじことをしただろう。奴が今も生きていればなあ」

 

アーサーは親友であったダンのことを思い出し、涙ぐんだ。

 

 

 

 

 

オリンポス山中腹まで敵に気づかれずに部隊を進めたハルフォード。しかし、ふと疑問に感じた。情報部や衛星電波のおかげとはいえ、いくら進んでも全く敵の気配がないのだ。まるで、侵入を許しているかのようだ。しかし、進むしか道はない。帝国の思い通りにさせないために。

すると、付近の岩陰から何かが飛び出したように感じた。

「ん!?何か動かなかったか」

「いえ中佐、何も」

その時であった。

ズガーン!

「ギャー!!」

「どうした!」

「いったいなんだ! うわー!」

「どうした、応答しろ!」

「分かりません、何かが襲って・・ぐわー!」

 

部下のコマンドウルフが次々と撃墜されてしまっていた。

「何だあのスピードは、それにあの赤い影・・・まさか!」

アーサーはそれが何なのかすぐに察した。シールドライガー同様口からはえた2本の鋭い牙に、鋭い爪。間違いない。帝国軍が誇る高速戦闘機械獣セイバータイガーだ。

「ヘリックの諸君。よくぞここまで来てくれた。俺はステファン スコルツェニー少尉。この険しい山道の中ご苦労だった。だが貴様らの運命もここまでだ!プロイツェン閣下の御命令で貴様らを討ち果たす、覚悟しろ!」

 

赤い暴風が独立第二高速大隊に襲い掛かる。

 

「ちっ、なんて奴だ。みんな相手はたった1機だ。一斉攻撃だ!」

ハルフォードとアーサーのシールドライガーがミサイルと3連砲を放ち、パリスたちのコマンドウルフがビーム砲を打ち込む。が攻撃の全ては簡単によけられた。

「なんて機体だ。昔戦った3銃士のセイバーに匹敵するんじゃないのか」

元々ポテンシャルの高いセイバータイガーではあるがこのセイバーはチューンナップされた機体で機動性が格段に向上しているようだ。そしてそれを操るスコルツェニーもただ者ではない。

「だめだ、攻撃が当たらない。ぐわー!」

1機、また1機と撃破されていくウルフ。

ならばこちらもと攻め込む味方部隊。しかし、攻撃はかすりもしない。

 

「おのれ、こうなれば俺が出る」

アーサーのライガーがセイバーめがけて爪と牙を向ける。しかし、寸前でよけられた。

「無駄だ!そんな攻撃ではこの俺を仕留められん。くらえ!!」

セイバーのストライククローがアーサーの愛機の頬を狙う。寸前でかわした・・と思ったら。

「グオー!!」

愛機が悲鳴をあげる。

「なんて速さだ、それにこのパワー。単にチューンナップされた機体じゃないぞ!肩の色も普通のセイバーとは違うような」

「その通り、こいつにはオーガノイドの力も加えられている。肩の色がその証拠だ。それにライガー対策のため俺は幾度もシミュレーションで模擬戦闘を繰り返している。だから貴様らには絶対負けはしない!」

「絶対などありえん!俺が相手だ」

今度はハルフォードがビームやミサイルを放ちながら愛機をセイバーへと向けさせてきた。加えてパリスらのウルフも支援攻撃を繰り返す。

「ふん、雑魚は引っ込んでろ!ストライククロー!」

「ガオー!」

「ラ、ライガー、大丈夫か!?」

ハルフォードの機体の左側のミサイルポッドがセイバーの爪で破壊された。その勢いで、援護射撃をしていたウルフたちにビーム砲を浴びせた。

「グアー!」

「ギャー!!」

部隊はまさに危機的状況だった。

「化け物め、こうなりゃこうするしかない。いったん引くぜ」

パリスはセイバーから逃げるように愛機を走らせた。

「腰抜けが、怖気づいたか。俺からは逃れられんぞ!」

ウルフを追うセイバー。その距離はどんどん詰められる。

「ここで終わりだ、砕け散れー!」

セイバーの爪が襲い掛かる。その瞬間、

ドガーン!

「何!」

「トミー、お取りなんて無茶するな!そんなに甘い相手じゃないだろー」

パリスの行動を察したアーサーがビームを放った。

「貴様、あの一撃を喰らったのになぜ無事なんだ!」

「へっ、俺を誰だと思ってる。共和国のエースレオマスターだ。なめられちゃあ困る」

「ふっ、だから何だ。今は俺の方が有利だ」

アーサーに向かって攻めようとしたその時、

ギシッ!

「何、どうした!左腕の関節が!」

「俺が適当に撃ったかと思ったか!?ちゃんとセイバーの関節を狙ったのさ。腕が使えないように」

「くっ、まあいい。まだ右腕がある。これでも十分だ」

左腕が不自由でも、まだセイバーは素早く動ける。

「なんて奴だ、これがオーガノイドの力なのか!」

アーサーに襲い掛かろうとするセイバー、

すると側面から

「そうはさせん、くらえー!」

ズゴーン!

Eシールドを展開しながらハルフォード機が突進、

突き飛ばされ地上にたたきつけられるセイバー。

「おのれー、なめおって、貴様から始末してやる!」

怒りに燃えて背中のビームを放ちライガーに迫るセイバー、

しかし、ビームはEシールドに跳ね返される。

「なぜだ!?OSで攻撃力も強化されているのに」

「いくら強力な機体でも、あれだけのダメージを喰らったんじゃあ力も弱まる。今度はこっちから行くぞ!」

ハルフォードも愛機をセイバーへと走らせる。

「これでおわりだー!」

「速い、しかし先ほどに比べれば遅く感じる」

セイバーの爪をかわし、首に牙を立てる。

「グワオー!!」

「くそ、なぜだ!?シミュレーションの模擬戦闘はいつも完ぺきだったのに」

「シミュレーションと実践では違うのだよ。俺の弟と同じだな!」

「おのれー、あの黒のオーガノイドの力はここまでかー!」

「黒のオーガノイドだと!?貴様、いったいどこでそれを?」

「ぐわー!!俺は死なん、死なんぞー!ゼネバスの復活のため、閣下のためにも!!」

ズガーン!

セイバーは大破し炎上、スコルツェニーは戦死、ハルフォード達は辛くも勝利した。

 

「いやー、何とか倒しましたね中佐」

「あー、しかし、部隊の損害も大きい。しかしあの男の言っていた黒のオーガノイド、気になるなあ。まさか弟が逃がした奴じゃあ。もしやそれがオリンポスでの研究に使われているのでは!?」

「そうかもしれん。あのセイバーの肩の黒い色もその黒のオーガノイドが関わっているのだろう。だとしたら長くは休んじゃおれん」

「そうですね。しかし我々もダメージを負っているので、これ以上は進めません。敵に気付かれなさそうな場所で少し休息を取るのが最善でしょう。岩場の多いここがいいでしょう」

 

進軍はしたいものの被害状況を考慮し、ハルフォードの判断で部隊はゾイド達の回復を待って出撃することに決めた。

 

 

 

 

オリンポス山基地

 

「おい偵察隊より報告があった。スコルツェニー少尉のセイバータイガーが撃破された!」

「なんだって!じゃあ共和国が攻めてくるのか。あいつめ、いくらオーガノイドの力があるとはいえ、たった1機で出撃して全滅させてくるだなんてほざきやがって!俺たちの協力があれば全滅できたかもしれんのに」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう。スコルツェニー少尉がやられた以上あれが知られるのも時間の問題だ。相手は疲弊しているとはいえ精鋭部隊だ。うかつに攻めて犠牲を出しここの守りを手薄にするわけにはいかん。ここで待ち伏せし一気に叩くべきだ。プロイツェン閣下直々の御命令でここの守備にあたっているのだから」

 

この要塞の奥深くに無数のパイプが繋がれた一体の巨大ゾイドの姿があった。それは、この惑星に存在してはいけない怪物であった。

 



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2 オリンポス山の死闘2

2日の休息を経て、再び山頂を目指した独立第二高速大隊。山頂へと進むにつれ敵の襲撃が出始め、守りも厚くなっている。しかし、精鋭部隊でセイバータイガーとの死闘を生き残った独立第二高速大隊は難なく帝国軍のオリンポス防衛部隊を撃破していき、ついに山頂にたどり着いた。

 

「これ以上は勝手な真似はさせん。ここを死守するぞー!」

敵のゲーターやヘルキャット、モルガ、強化型モルガ、ヘルディガンナー、レッドホーン、そしてアイアンコングまでが襲い掛かってきた。

「コングまで出てきたとは。だが機動力はセイバーの方が上だ。恐れるに足りん!」

コングの強力なパンチをかわし、アーサーのライガーは重装甲に牙を爪をたてて撃破。高速大隊の勢いに恐れをなし基地内へと撤退していく帝国軍。

 

「こうなればあれを動かすしかない。あいつで共和国を一気に片付ける!」

「待て、いくら強力とはいえあれはまだ未完成だぞ。勝手に動かしてもしシステムがフリーズしたらどうなる。それで共和国に破壊されたら俺たちは閣下に始末されるぞ。何としてでもあれを守り抜け!」

 

オリンポス防衛に当たる帝国軍将校は今ある戦力での抵抗を必死で呼びかける。しかし、基地内においても高速大隊の勢いは抑えられずとうとう基地の最深部までの侵入を許した。そこで彼らは驚くべきものを目にした。

 

「こいつが・・・デス・・ザウラー。太古の昔、古代ゾイド人を滅ぼし、ゼネバスやガイロスが復活させ旧共和国軍を苦しめたとも伝えられる破滅の魔獣」

しかし、ゾイドコアは剥き出しで、全身に無数のパイプが繋がれている。未完成の機体であることから、破壊するのは今がチャンスだと攻撃を仕掛けた。そうはさせまいと、抵抗する帝国軍。

 

しかし、

「グワオー!!」

 

「何だ!いったい。」

「そんな馬鹿な!!なぜあれが動き出す!?未完成のはずじゃあ」

 

突然デスザウラーが動き出した。同時に帝国と高速大隊のゾイド達が一斉におびえ始めた。

まるで、化け物を目にした子犬や子猫のように。

 

「おい、どうしたんだ!なにびびってるんだ!未完成の機体だぜ。ちびることはないだろう」

パリス中尉の激も、破滅の魔獣を前にした愛機には届かず、そこでただ凍り付いているのだった。

 

そしてデスザウラーの口内が光った。

 

「あれはまさか!」

 

次の瞬間口からまばゆい光が放たれた!

「いかん、皆よけろ!!」

 

咄嗟の判断だった。しかし、その場にいたほとんどの機体がデスザウラーの放った光の渦に飲み込まれた。なんとかよけようとした機体も、半身を失い大破した。

 

「うわー!!」

「ぐわー!!」

 

よけきれないと判断し光線が当たる瞬間、アーサーとハルフォードは愛機のEシールドを展開した。しかし、光線はシールドを貫き彼らの愛機の半身を奪った。

 

「間違いない!あれは荷電粒子砲だ!!」

 

荷電粒子砲。それは直撃した物体を原子レベルにまで分解するという魔の兵器だ。デスザウラーの放ったそれは、共和国の誇る最強ゾイドゴジュラスでも蒸発させる威力だ。

 

「ぐー、なぜ勝手に動き出したのだ。まさか我々を敵と判断し、攻撃したのか!?なんということだ。これではここにいる皆が奴に殺される!」

 

高速大隊を敵とみなしたことで自己防衛本能が目覚め、暴走したのだ。このままでは子の魔獣が惑星Ziを滅ぼしかねない。そう判断したハルフォードは、

 

「全軍、奴のゾイドコアに攻撃せよ。何としてでもデスザウラーを止めろ」

「だめです、中佐。残念ながら生き残っているのは俺と、中佐と少佐のみです。ですが俺の愛機は下半身が消失し大破しています。他の機体も大破あるいは荷電粒子に飲み込まれましたか」

「そうか、絶望的だな。私の機体も左半身が消失し、コアが剥き出しだ。ダウンするのも時間の問題だ」

「俺のは右半身だ。しかし、まだ動ける。俺が奴のゾイドコアに‥グフッ!」

「ボーグマン少佐!!」

ハルフォード機同様半身は失っているもののまだ動く余裕はあるアーサー機。しかし。パイロットのアーサーは愛機が荷電粒子を喰らって地面に叩きつけられた時の衝撃でキャノピーが割れた。その破片がアーサーのわき腹と腕を貫いた。

 

「ならば私がコアに攻撃します。パリス中尉!ボーグマン少佐を頼むぞ!」

 

残りのミサイルや砲弾をデスザウラーのコアに放つも、全くもってびくともしない。

やはりあのコアに決定的なダメージを与える必要がある。それにはやはりライガーの牙しかない。しかし、あの魔獣にそう簡単に近づけもできない。もはや打つ手なしか。

絶望しかけたその時、

「ギャーオー!!」

デスザウラーが悲鳴をあげた。それは不完全な状態であるにもかかわらず荷電粒子砲を発射した結果、エネルギーが逆流し自己崩壊し始めた。

 

「よしいける。いくぞライガー、奴のコア目掛けてかみ砕くのだ!!」

「中佐!よしてください。そんなことすれば中佐も無事ではすみません」

「パリス中尉、俺がやらなければここでみな死ぬだけだ。そうなったら誰が共和国にこのことを報告する。お前は生き延びて共和国に伝えるのだ!」

「中佐・・うっ、これはデスザウラーとその詳細な研究データ!さっきこの研究所に入った際にコンピュータが打ち出したものか!」

パリスは目の前の画面にでたデータに驚く。

「ならばなおさらお前は生き延びなければならない。あとは俺が何とかする!」

「馬鹿もん!お前さんはわしより若い。俺のような老いぼれがやるべきだ。お前は死ぬんじゃない!!」

「少佐、私はあなたよりゾイド乗りとしての心得など多くを学んできました。そのおかげで中佐の地位にあるのです。私の恩人として生き延び、この戦争を終わらせてください。これはあなたにしかできないお役目です」

「うー、馬鹿者が!」

アーサーの目に涙があふれる。

「では少佐さようなら!・・・よし行くぞライガー!!」

 

デスザウラーのコア目指すシールドライガー。コアにかみつき砕く。

 

「ギャーオー!!」

悲鳴をあげながら崩れ落ちる破滅の魔獣。

「これで終わっ・・た・・、さらばだ・・ライガー」

 

デスザウラーと共に爆炎に包まれるハルフォードとライガー

しかし、使命を果たした男と愛機は満足げに眠った。

 

 

 

一方パリスとアーサーは偵察中の飛行ゾイドダブルソーダによって救助された。

 

 



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3 闘神VSゴジュラス乗り

今回はあのゲームの登場人物たちも出ます。


「ふっ、派手にやったようだな。しかし、あの共和国の軍人もたいしたものだ。デスザウラー相手にシールドライガーで突進し、そのコアを破壊するとは。益々面白くなってきた。生かしておいて正解だったなあ、アンビエント!?」

「グウー‥」

 

赤髪の若い男の隣にいるのは赤いオーガノイドのアンビエント。そしてその側には・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オリンポス山からダブルソーダに救出されロブ基地を目指すパリスとアーサー。途中レドラーの追撃を受けるも、味方のプテラスや地上のステルスバイパーからの援護で、無事に基地に到着。

 

彼らを出迎えてくれたのは、共和国軍大尉でロブ ハーマンの副官でもあるオコーネル中尉だ。

 

「ボーグマン少佐、パリス中尉、よくぞご無事で。しばらくはゆっくりと休まれてください」

「いや、オコーネル中尉、そんな暇はねえな。パリスが持ち帰ったデータをすぐにでも役立てないと。出なければ帝国がまたよからぬことを企みそうだ」

「少佐。俺は大丈夫ですが、少佐は大けがしてるじゃないですか。ダブルソーダで治療したとはいえ傷は浅くないんですから」

 

とりあえず安全を考え治療室に運ばれる2人。

 

それを見ながらオコーネルは

「あれだけの犠牲の中あの2名はよくやったなあ。特にパリス中尉は昇進させるべきだろうな。重要なデータを持ち帰ってくれたんだから」

とつぶやいた。

 

治療が終わり、病室へ移送される2名。

その2人にオコーネルが今後のことについて伝える。

 

「まずパリス中尉が持ち帰ったデータは共和国遺跡調査部門が解析し明らかにします。そしてパリス中尉は今回のデータ奪取の功績により大尉に昇進する予定です」

「昇進とはいえ、あれだけの犠牲が出たからあんまりうれしくないなあ」

「いや、喜べトミー。でなきゃ死んでいった奴らも浮かばれんよ。ところでオコーネル中尉。共和国遺跡調査部門ということは中佐の弟もいるんだろう。兄貴が持ち帰ろうとしたデータを弟が解析することになるとはな。あとドクターDにも伝えといた方がいいんじゃないのか?」

「いえ、彼はすでに軍の研究から離れ、人里離れた場所でひっそりと暮らしております。なんでも雪を降らせるための研究をしているんだとか」

「共和国の天才科学者だったってのに、雪かよ。あっ!そういえばロブの兄貴の姿が見えないんですけど、いったい今どこに?」

ロブ基地に入って以来、ハーマンの姿がないことにパリスは疑問を感じた。

「ハーマン大尉は高速大隊が背後を突かれないため、軍事境界線付近にてゴジュラスで警備に当たっておりました。ゴジュラス乗りのデュー少尉と共に」

「でも俺たちは戻ってきたんだからもう帰還したらいいじゃないか」

「はあー、そうなんですがねー」

すると、病室のドアをノックする音が聞こえた。

そして入ってきたのはハーマンだった。

「パリス中尉、いや大尉になるのか。ご苦労だった。少佐もよくぞご無事で」

「兄貴、いや大尉。どうされたんですか、私たちはすでに引き上げたのに帰還が遅れたのは」

「それがな、警備に当たっていた際帝国軍の小隊と出くわしたんだが。そこにあのエインガングがいたんだ」

「エインガングって、あの闘神エインガングか!」

「はい、それでその小隊とにらみ合いとなったのですが、突然あのエインガングが出てきて決闘を申し込んできたんです。見逃してやるから俺たちのことも秘密にしろ、そして俺と戦えと。それに乗ったのがあのデュー少尉なんです。私は止めたのですが」

「いや、あの男相手なら腕に自信のあるゾイド乗りは挑むだろう。デューもゴジュラス乗りとして誇りを持っているからなあ」

 

 

その頃、軍事境界線近く

 

「ゴジュラス乗りと一戦交えられるとは、今日はついてるぜ!なあ大尉」

「中尉!派手にやらないでください!私たちはシュバルツ少佐の依頼で上層部に極秘で動いているんです。もしばれたら私たちだけでなく少佐にも責任が及ぶかもしれないのよ!」

「心配するな、ベレッツァ。つまらん任務で退屈だったのにこんな強敵とまみえたんだ。もったいないだろう」

「闘神エインガング、準備はいいようだな俺から行くぞ!」

デュー エルドは愛機ゴジュラスでエインガングのアイアンコングに猛進した。

ゴジュラスの牙が迫る。もろに喰らえばアイアンコングもただではすまない。

だが、

「甘い!」

ズゴッ!

コングが左手で受け止めた。そして右手でゴジュラス目掛けて殴りかかる。

ガシッ!

「へっ、やるじゃねーかゴジュラス乗り。こいつとおれの一撃を受け止めるたあよ!」

力が拮抗する。

「ぐーーーー!」

「ぬおーーーー!」

お互い一歩も引かない。

「ならばこれはどうか!」

ゴジュラスの尾がコングに迫る。

ガシーン!!

放り出されるコング。

尾がある分、ゴジュラスの方が有利のようだ。

それでも格闘戦で挑むエインガング。

力と力が何度もぶつかり合う両者。

「そのコング。普通のやつとはちがうな」

「あー、そうよ。何度も共に鍛え上げてポテンシャルを高めた機体だからな。そう簡単には倒れん!」

そして、

「そこかー!」

一瞬のスキをついて、コングの拳がゴジュラスのわき腹に入る。

「ガオーー!」

「くっ、勝負ありか!」

ダウンするゴジュラス。

「がっはっはっ、そうだ悔しめ悔しめ!そしてもっと強くなれー!!だがいい勝負だったぞゴジュラス乗り。次会う時が楽しみだ」

「俺の名はデュー エルドだ。名前ぐらいは覚えとけよ。次こそお前を倒して見せる」

 

今回はエインガングとコングの勝利で終わった。

気づかれぬように早々とその場を両者は去って行った。

 



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4 少佐からの極秘指令

撤退する帝国軍小隊

 

「もー大尉、遅いじゃない終わるのが。ひやひやしていたわよ」

「悪い悪い、ついつい熱くなっちまった」

前線近くの防衛基地まで帰還するダークホーンとアイアンコング率いる小隊。

ダークホーンに乗っているのは小隊の指令ベレッツァ大尉。黒いロングヘアーの美女で、若き司令官でもある。階級は彼女の方が上ではあるが、エインガングとは同期のためため口で呼び合う仲でもある。

「結局任務は失敗ってことね。オリンポス山が爆発したみたいだから。シュバルツ少佐になんて報告したらいいのかしら」

溜息を洩らしながら一行は、防衛基地にたどり着いた。

 

「ご苦労様、ベレッツァ大尉、エインガング中尉」

彼らの前に出てきた美女は技術者のプラトー博士だ。帝国軍の最新兵器開発を手掛ける技術機関「ヴァシコヤード アカデミー」を首席で卒業した優秀な科学者でもある。彼女もまたベレッツァとは同期でもある。

「早速だけど、伝えたいことがあるの。帰ってきたばかりで申し訳ないけれど」

 

2人を基地内部に連れて、タブレットを持ちながら、とある一室であることを伝えた。

 

「何ですって!オリンポス山の基地が爆発の原因がデスザウラー!?」

「ああ、わが隊の偵察機が確認したところどうもそうらしい。あの研究所だがどうやら帝国軍の一部しかその存在を知られていなかったようだ」

「なんてことなの。だからシュバルツ少佐は私たちにその確認を依頼したのね」

 

4日前、暗号化された極秘の命令書がベレッツァたちのいる基地に届けられた。独立第二高速大隊がオリンポス山にてセイバータイガーと遭遇した時である。その内容はオリンポス山にある秘密の研究所の詳細な潜入調査であった。共和国にも帝国にも知られず行動せよとのこと。しかし、彼らが出撃してから2日後、オリンポスは爆発し研究所も消え去ってしまった。基地へ帰還する際中に、ハーマン率いる共和国軍と遭遇したのだった。

 

「だがよかったじゃねーか。もし俺たちがもっと早く出撃してたらそのデスザウラーの餌食になってたかもしれねえ」

「そんな、でもなにもわからないまま終わってしまったのよ。これでもし戦争が拡大したらどうするの?」

 

ベレッツァ大尉はガイロスの中でも数少ない和平派の1人であった。そして和平派の中心人物がベレッツァに極秘依頼を送ったカール L シュバルツ少佐であった。プロイツェン家と双璧を成す名門シュバルツ家の当主で、非常に優秀な指揮官でもあり、共和国との戦争終結を願っていた。また、彼には弟がいるが、今はプラトーが卒業したヴァシコヤード アカデミーの学生であるらしい。

 

「だが別の情報も手に入れた。オリンポスより1機のダブルソーダがコマンドウルフの頭部を引き上げていった。そのウルフの頭部に2人の男がいたらしい。彼らがおそらく生存者だろう。共和国が何か重要なデータを手に入れたのかもしれない」

「ということは共和国からその情報を得なければならないってことね。でも今の状況ではそれは難しいわね」

「まあ、やむを得ん。とりあえず事の詳細は少佐に伝えた方がいいな。なあに叱責はされんよ」

 

 

 

 

 

 

帝都ガイガロス郊外

 

「そうか、オリンポス山が爆発したか。あれも暴走したとか!?」

「はいプロイツェン閣下。監視していたPK師団兵からの報告です。ハーディン准将を通じて届きました。やはり復活には他のゾイドのコアを融合させ、圧縮させ複製させることで完全な復活となります。クローニングしただけのコアでは不安定で暴走を起こしやすくなります」

杖を持った高齢の科学者は帝国軍元帥プロイツェンに研究状況を説明をしている。その杖には、カラスの紋章が刻まれている。

「ならばやはりこやつにしか頼る道はないということだな、ドクトルF。完全なデスザウラーの復活。これこそがこの私が惑星Ziの覇者となるために必要となる。そう思うだろうレイヴン!?」

「ふん、僕には全く興味がないことだね。それはそうと、あのスコルツェニーって奴、シャドーの力を組み込んでも奴自身が未熟だったから敗北したか。僕であればものの数分で片付けられるのに。なあシャドー?」

「グルルー」

不気味に唸る黒のオーガノイド。そして、巨大な培養液をのぞき込む3人の人間。

「ゾイドコアの回収お前に任せるぞレイヴン。存分に働いてくれ」

「僕はただ戦場を提供してくれるだけで結構だけどね。まあ、やってみるよ」

そう言って少年はオーガノイドと共に培養液からの鼓動が鳴り響く研究所を後にした。

 

 

レイヴンたちとは反対の方向から彼らを眺めていた、若い男女がいた。

「このまま父上を放っておいてはゼネバス復興どころでは済まなくなるかもしれない。やはりあれは危険だ。帝国、共和国はおろかこの大陸、いや惑星を滅ぼすかもしれん」

「そんな、どうしてあなたのお父様はそんなことを。ゼネバスの再興が私たちの目的だったのに」

「分からないが、私には感じるのだ。あの培養液から伝わる邪悪な意識を。おそらく父上もあれに取り込まれようとしているのだろう。かつてのゼネバス皇帝やガイロス皇帝のように」

「どうすればいいの、ヴォルフ?」

「ニクシーで我々が今開発中のゾイドがある。あれが完成すれば父上の好きにはさせん。平和な惑星Ziを築くためにも」

その若者の目には強い意志が宿っていた。

 




これで一章目は終わりです。この章のお話は、無印ゾイドの話の1年前の物語になります。今回はゾイドタクティクスに関連した話や、フルメタルクラッシュ、バトストのキャラを出させました。これからは私が以前から考えていたキャラも少ないですが搭乗させていきます。

この物語は特定の主人公を扱ったものではなく、様々な人物とゾイドの活躍を描いていくものにするつもりです。しかし、最後はバンを主役に持っていきたいと考えています。


次回からも引き続きよろしくお願いします。


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第二章 プロイツェンの謀略
1 庭園の一時


「殿下―、殿下―、どこにいるのです?そろそろお昼のお時間よ」

優しげな声で殿下と呼ぶ若い女性。長い黒髪が風に揺られなびく。少し地味ではあるが、穏やかなワンピース風の衣装も似合っている美少女である。

「まあ、ルドルフ、いえ殿下、ここで何をしているのです?」

「あっ、姉上。庭園の昆虫を調べていたところです。ほら見てください」

少年は昆虫を指で示した。2匹いるのだが、そのうち一方は金属でコーティングされたような殻を持っている。

「もしかして、この虫はゾイドなのかしら?でもほとんど普通の昆虫と変わりないわ」

確かに金属の殻があるかどうか細かく見ないと違いが分からないくらい両者は酷似している。

「はい、しかし体内にゾイドコアを持っていないから、ゾイドではありません。金属の外皮を持つ小さな虫です」

地球においても深海の巻貝の一種であるウロコフネタマガイは硫化鉄の鱗をもつ。この虫もそれと同じ生態をもつのだろう。

「あっ、殿下。そろそろ昼食のお時間よ。早くしないと」

 

殿下と呼ばれた少年は若い女性に連れられ、庭園の中央にあるテーブルで共に食事をとった。

 

「美味しい!これ全部姉上がつくられたのですか」

「いえ、厨房の料理人の方々と一緒につくったんです。以前からやってみたかったことだから」

 

皇族である姉弟は平和なひと時を送ろうとしていた。

 

「いやーしかし、エリザベート殿下に助けられたなあ。宮廷料理人顔負けの料理の腕だよ」

「料理長、これじゃあ我々もお払い箱ですよー。殿下には今後つくらせないようにしないと」

厨房にてコックたちは談笑しながら、少女の料理の味見をしていた。

 

美少女の名は、エリザベート ツェッペリン。

ガイロス帝国皇位第一継承者ルドルフ ツェッペリンの姉で、ツェッペリン皇帝の孫でもある。年は17である。ガイロス系、ゼネバス系あるいは貴族と平民と分け隔てなく接し、国民から非常に慕われている。

 

「厨房の皆さん、殿下がお呼びです。殿下たちとお食事をとるようにと」

宮廷の侍女が料理人たちに知らせてきた。

「なんだかいいのかなあ。俺たちみたいな身分の高くない連中と食事なんて。でも断ったらそれこそ無礼だがな」

 

食事の席にて、

 

「皆さんのおかげでできた料理だから、みんなで召し上がった方がいいかと思って誘ったのよ。遠慮せずにどうぞ」

 

「あ・・ありが・・いえ・・誠にありがとうございます、殿下」

「そうかしこまらなくてもいいわ」

「キョエー!」

エリザベートの側にいた巨大なクジャクが鳴き声を発した。

「あらあら、あなたもうれしいのね。レインボージャーク。みんなが来てくれて」

 

レインボージャーク

東方大陸に生息しているクジャク型の飛行ゾイド。個体数が少なく東方大陸でもめったに見られない希少ゾイドである。外翼部にフェザーカッターと呼ばれるリーオ(メタルZi)製の刃を持つ。このリーオと呼ばれる鉱物は、大質量の内部重力を持つプラネタルサイトと同じくらい希少で、惑星Zi表層ではほとんど見られない。

 

「しかし殿下、このゾイドは東方大陸の非常に珍しい種類のゾイドですよね。殿下は東方大陸へ訪れたことがあるのですか?」

「ええ、あれは私がまだ幼いころですが、お忍びでお父様やお母様と東方大陸の自然保護区を訪れた際に偶然ケガをしたこの子に出会ったの。保護区の職員さんの指導でけがの手当てをしたら、私になつくようになったのよ。それでこの子を引き取ったのよ」

「ということはこいつ、殿下に惚れたということでしょうか?」

「クエーン!!」

「うふふ、はずかしがってるわ。どうやら本当のようね」

上品に微笑みかけるエリザベート。

「戦争が終わったら、自由に外の世界をこの子やルドルフと旅してみたいわ。そこでいろんな人たちと出会いお友達も増やしたい。それが私の願いだわ」

「はい、僕も外の世界を見てみたいです。まだ見ない珍しいゾイドに出会いたいです」

ルドルフも話に入り、外への世界の憧れを抱く。

「きっと来ます、その時が。そうなると信じています」

 

 

 

楽しい昼食が終わり、皇族としての職務も終え夕方になった。レインボージャークは庭の小屋で休ませている。

 

「姉上、夕日を見ていかがされましたか?」

「綺麗ね、でも思い出すの。あの時あの方も同じ夕日を見ていた。けれどどこか寂しげな眼をされていたわ」

「あの方って、もしかしてヴォルフ大佐のことですか、プロイツェン家の?ずっと前の夕方の晩餐会の時のですか?」

「ええ、何だか少し暗い表情をされていたわ。その時のことが忘れられないの。

「ヴォルフ大佐のことが好きなのですか、姉上?」

「ええ、でもあの方にはアンナさんという大切な幼馴染の方がいるわ。小さいころからずっと一緒だったらしいわよ」

 

空を赤く照らす美しい夕日。それとは反対に、日の当たらない暗い格納庫では、国境地帯のレッドリバー進軍のため、帝国軍ゾイドの整備が進められていた。

 

『ふふふ、共和国軍を倒せば俺も少佐に昇進できる。そうなればあのシュバルツと同格だ。奴の指揮下に入る必要もなくなる』

「マルクス、そろそろ出るぞ。演習のため、これよりレッドリバーへ進軍する」

「はっ!了解です、少佐」

 

シュバルツと副官のマルクス率いる、ダークホーンを中心とした帝国部隊がレッドリバーを目指し、軍を進める。しかし、その目的は演習ではなく、プロイツェンの命令による共和国への進行である。それでもシュバルツは何とか衝突を回避させるつもりでいた。プロイツェンの好きなようにはさせまいと。

 



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2 ロブ基地強襲

帝国と共和国の境界地帯を流れる川、レッドリバー

イセリナ山からの雪解け水がもたらされ、南エウロペを帝国と共和国に分け隔てる。

 

金で雇った賞金稼ぎを利用したマルクスの策略で交戦状態に入ったものの、とあるシールドライガー乗りの少年の活躍で、帝国軍は撤退せざるをえなくなった。軍を引き上げる途中に、そのライガーと交差したシュバルツ。

 

『あの少年とはまた会うかもしれない。いや長い付き合いになるような気がする』

 

心の中でシュバルツはそう感じた。

 

そして何より、共和国の軍人ともわずかだが接点ができた。ロブ ハーマン大尉だ。

 

『ベレッツァ大尉からの情報が事実なら、共和国がデータを持ってるはず。オリンポス山に関する機密情報は、帝国ではプロイツェンと彼の私軍のPK師団が独占しているだろう。我々国防軍に与えられるはずがない。共和国とは少しでもつながりがあった方がいい。今回のコンタクトだけではまだまだ不十分だろうが。まあ一応、ベレッツァには今回の件を伝えておこう』

 

共和国との戦闘を回避できたことに安心し、シュバルツは帝国へと帰還した。

 

 

 

 

北エウロペ ロブ基地 レッドリバーの戦いからおよそ2か月後

 

「しかしなあ、ゴドスの後継機の開発のためとはいえ、まだ未知の部分が多いオーガノイドシステム(OS)を組み込んだゾイドとは。アロザウラーの方がいいと思うんだが、暴走するリスクがあるんじゃないのか?」

「御心配には及びません、パリス大尉。あくまで限定的に利用しますから、操縦性は若干悪化するものの、従来機とは比べ物にならないくらいの活躍が期待できそうです」

「そうか、それじゃあこの新鋭機に期待するか。これからは頼むぜ、ガンスナイパー!」

 

新型ゾイド、ガンスナイパーに期待を込めた挨拶をするパリスだった。

 

その近くの格納庫には、これまた新型のゾイドや強化型のゾイドが収納されている。

 

 

演習場

 

「ぬおーーー!」

ドシン!グアシャーン!

「まだだー!次!」

演習用のウルフが襲い掛かる。素早い動きでゴジュラスを翻弄。

しかし、

「そこだー、ゴジュラス!」

デューのゴジュラスも負けじと、ウルフの機動性に追いつこうとする。そして、

ガシャーン!

強烈な一撃でウルフは飛ばされた。

「これだ、この機動性があれば、あの闘神に勝てる。待ってろよエインガング!次は俺が勝利を頂く!」

 

エインガングとの闘いに闘志を燃え上がらせ、訓練に励むデュー エルド。軍人というよりは格闘家といってもいいだろう。周りの兵士もその熱心さにあきれている様子だ。もっとも、エインガングも格闘家が向いているのかもしれない。

 

「少尉、ドリンクです。休憩も入れましょう」

「ああ、ありがとな。助かるぜ」

 

コックピットから降りてタオルで汗を拭き、ドリンクを受け取る。

すると、

「おう、少尉。調子はどうだ?」

「パリス大尉、ばっちりですよ。これで奴との決闘をつけられます」

 

意気揚々と自分とゴジュラスのコンディションを語るデュー。

 

「まあ、あんまりむちゃすんなよ。それに俺たち軍人にはもっと大切なことがある。つい先日も帝国軍が首都目指して攻め込んできたんだ。ロブの兄貴がゴジュラスを起動させてなんとかしのいだけど、またいつ奴らが攻めてくるかわからねえ。その時のために軍人として準備しとかないと」

「分かってますよ。ただハーマン大尉はロングレンジキャノンで追っ払ったんでしょう。俺だったら格闘戦で帝国軍と戦いたかったなあ」

「おいおい、無茶言うな。自軍に損害を出さない戦い方が優先だ」

 

先の防衛戦について語っていると、兵卒が駆けつけてきた。

 

「大変です、パリス大尉!帝国海軍がニューヘリックを包囲。帝国上陸部隊も展開されました!」

「なんだって!どうやって首都までいきなり来やがった!?この大陸の東側はほぼ共和国の領域なんだぜ!」

「それが、南エウロペの帝国領の軍港より直接攻めてきて、氷山に偽装して共和国海軍の目を欺いたようです。これを仕掛けたのはあのプロイツェンです」

 

その名を聞いてパリスは舌打ちした。また奴か。帝国にはあの男を止められる人間はいないのかと。

 

「すぐにでも俺たちが援軍として向かわないと。首都が落とされる前に」

「ダメです!敵はわが方の10倍の数。今から向かっても間に合いません」

 

何もできずにただ首都が落とされるのを黙って待ってるだけなのか、共和国もこれまでなのかと落胆する。

 

「くそっ!」

 

そう言って、拳を壁に叩きつけるパリス。

 

そうしていると、基地内に警告アラームが、

 

「帝国軍が接近中!基地守備隊は、出撃せよ!」

 

なんとこのロブ基地にも陸と海から帝国軍が迫ってきたのだ。

ルイーズ大統領が無条件降伏を蹴ったことを理由に帝国軍は攻撃を開始したというのだ。

 

「へっ、何もできないよりはましか。首都が落とされたとしてもここは絶対守り通す。いくぞみんな!」

 

 

 

 

 

 

予想以上の敵の数。次々と破られる基地の防衛部隊。

 

「いくぞゴジュラス!訓練の成果をここで見せてやる」

 

敵の大舞台の中に猛然と挑むデューと愛機。そこにはモルガやその強化型をはじめ、レッドホーンやダークホーン、アイアンコングなど帝国を代表する機体と見慣れない小型ゾイドの大群が待ち構えている。

 

「なんだ、あの赤い小さい奴は!?ガンスナイパーに似ているようだが、・・まあいいこのゴジュラスが片付けてやる」

 

迫りくる帝国ゾイドを撃破しながら愛機を進めるデュー。

すると、あの小型ゾイド達が前足や後ろ足の鋭い鎌のような爪を向けて一斉に飛び出してきた。

 

「なにっ!このゴジュラスに格闘戦だと!?」

 

ガシッ!

 

小型ゾイド達はゴジュラスに軍隊蟻のように群がり、爪を立てていった。まとわりつくゾイド達を中々振り払えないゴジュラス。

 

「悪いな少尉、今助けてやる、少し我慢してくれ」

 

ドキューン、ドキューン!

 

後方よりパリスのガンスナイパーが尾のスナイパーライフルで、ゴジュラスにまとわりついた小型ゾイド達を打ち抜いていった。そのいくつかの弾丸にゴジュラスも被弾した。しかしこれぐらいの傷、ゴジュラスにとってはかゆいぐらいだ。

 

「やはり手ごわい奴らだな。帝国の新型ゾイド、レブラプター。ガンスナイパーと同じOS搭載ゾイド。帝国もやはり開発していたか。情報部の話の通りだ」

 

更に、大口径ビームキャノンを装備したカノントータス、コマンドウルフAU、ミサイル強化型のコマンドウルフ、ディバイソンなどのビーム砲やミサイルが火を噴いた。帝国軍の大群に対し守備隊を援護するため、やむを得ずロブ基地のゾイドの大部分が出撃したのだ。

しかし、共和国の猛攻に、後退する帝国軍。とその中の一体のアイアンコングがゴジュラスに向かってきた。

 

「久しぶりだな、デュー エルド。腕を上げたようだな。早速だが俺と勝負しろ!」

 

「闘神エインガング、お前か。訓練の成果今こそ見せたやるぜ!パリス大尉!あんたらは帝国軍を追撃してください。俺はこいつとケリをつけますぜ!」

 

「まったく、勝手なヤローだぜ!無茶すんなよ!」

 

デュー、エインガング、両者の愛機とも声を唸らせ、一騎打ちを展開しようとする。

 

 

 

 

一方その頃、追撃する共和国のスキをついて、少数の部隊が密かにロブ基地内部へと潜入しようとしていた。

 

「ハーディン准将。上手く忍び込めましたね。これで、この要塞も手中にできます」

 

「ふっ、国防軍の本体は上手く引き付けてくれた。これで両者ともかなりの犠牲が出るだろう。この戦いの手柄は我々PK師団が頂いた」

 

ハンマーロック、レブラプターPBを引き連れたアイアンコングPKは基地奥へと侵入していった。

 



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3 怒りのゴジュラス1

「うおーーーっ!!」

「どりゃーーー!!」

両者ともに一歩も譲らない。

コングの拳が迫るも、強靭な腕で受け止めるゴジュラス。

その直後に牙をコングに向けるも、片方の腕で阻まれる。

力と力がぶつかり合い、衝撃が走る。

「どうした!コングにはミサイルがあるはずだ。なぜそれを撃たない!?」

「はっはっはっ!それはお前もわかってるだろう。そんなちんけなもんで決めたくないからだ。俺とコングは拳でほとんど勝負を決めてきた。そして、これからも同じだー!!」

コングの拳が迫る。ストレートだ!

しかし、ゴジュラスは、長い尾で叩きつける。

グゥアシーン!

拳が弾かれた。まるで剛速球をバットでジャストミートされたかのように。

「へっ、熱くなりすぎて、尻尾があること忘れてたぜ!ならば!」

コングがドラミングをして、ゴジュラスの後ろへと回ろうとした。

再度尾をコングへ振り向けるゴジュラス。

が、

ガシッ!!

強力な振り払いをコングが両手で受け止め、尾をつかんだ。

「同じ手が2度も通用するか!」

そのまま尾を離さず、つかんだままコングは回転しながらゴジュラスをハンマー投げのようにして投げつけた。コングのジャイアントスイングである。

グゥアシャーン!!

地面に叩きつけられるゴジュラス。

「クッソー、舐めたがって―!!」

するとゴジュラスの目が赤く光った。

そして、すぐに立ちあがり怒りの咆哮をあげた!

グアオ―――!!

投げ飛ばされたことにゴジュラスもかなり怒りを覚えていた。

「お前も怒りを感じているか。よしっ!このまま一気に行くぜ相棒!」

怒りに狂い、コングに突進してくるゴジュラス。

「なんと!ゴジュラスをここまで怒らせたのは初めてだ!こいつは少しまずいかもしれんな。だが、こっちも行くぜ!」

 

 

 

 

 

 

同じころ ロブ基地沖合

 

「もう少しで、ロブ基地だ。陸上部隊は苦戦しているらしい。我々海軍が一番乗りだ!」

帝国海軍司令が海軍全軍に呼びかける。

帝国海軍はシンカー、プレシオス、そしてウオディックで構成されている。

 

ウオディック

大異変によってその個体数を大幅に減らしたものの、オーガノイドシステムによって数を回復させ、海軍にも配備された海戦ゾイド。その力は共和国の海戦ゾイド、バリゲーターを上回る。

 

プロイツェンより強力なゾイドを与えられた海軍。シンカーもオーガノイドシステムの力でその数を増やした。

しかし、ここまで進んできて共和国海軍の姿がまったく見当たらない。レーダーにも反応がないのだ。ウオディックの復活を知って恐れを抱いたのか。海軍司令は疑念を抱きながらも軍を進めた。この戦いで手柄を取れば、プロイツェンに引き立てられる。その思いに突き動かされてもいるのだ。

そんな帝国海軍の動きを海底から監視する影があった。

「あれが、ウオディックね。見るのは初めてだけど、この機体ならいけるかも。いくわよ、ハンマーヘッド!私とあなたの初陣よ!!」

バリゲーターを護衛に、新型海戦ゾイドハンマーヘッド数機が帝国海軍へと向かう。その中の一人、共和国の若き海軍士官、マリン ブルーガー曹長は不安ながらも愛機をはしらせる。

 



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4 怒りのゴジュラス2

帝国軍上陸部隊を追撃する、パリスらの共和国軍。そこへ基地より緊急の知らせが届いた。「パリス大尉!大変です。帝国軍が基地内部へ侵入してきました!!」

「なんだって!じゃあ、こいつらは俺たちを引き寄せるためのおとりだったってのか!」

基地を落とされれば共和国の敗北。そうなっては自分たちは袋のネズミだ。

「デューには知らせたのか!」

「はいっ。しかし、応答がありません。いったいどうしたのでしょうか!?」

「くっ!あの馬鹿!一人で熱くなりやがってー!」

通信機を手にパリスはデューに呼びかける

 

 

 

ガオーーーッ!!

吠えながらコングに向かってくるゴジュラス!

コングは自慢の拳で、対抗しようとする。

が、しかし、

グアーーーン!!

ものすごい勢いに、コングは突き飛ばされた!

ガタ―――ン!!

「グアーーーッ!!」

悲鳴をあげる闘神エインガング。

「こいつはまじでヤベーな!逃げた方がいいかもしれん!」

コングを睨みつけ、今にも襲い掛かろうとするゴジュラス。

「これでケリをつける!」

デューが愛機を走らせようとしたとき、

「おいデュー!プロレスゴッコなんてしてる暇まねえぞー!!基地が帝国軍に襲われた。お前の方が近いはずだ。救援に迎え!!」

「なっなんですってー!?すいません!つい勝負に熱くなってしまって」

動揺するデュー。

「エインガング!俺を引き付けるために勝負を誘ったな!そのスキに別動隊を基地に向かわせるために。卑怯な手を使いやがって。闘神の名が泣くぜ!!」

「なんのことだ!?俺は知らんぞ!軍が引いたのはお前らの猛攻のせいだ。別動隊なんて聞いてないぞ!!」

「まあいい。熱くなった俺も悪いからな。勝負はいったん中止だ。お前に付き合ってる暇はない。いくぞ相棒!」

そう言って、デューは全速力でゴジュラスを基地へと走らせた。

「なんなんだ別動隊って?まさかPK師団か!?奴らめ、本隊から離れて勝手な真似を。砲撃戦のどさくさに離脱しやがったな。そうなりゃあの基地はまずい。ベレッツァにも知らせねば!」

エインガングも本隊へと引き返した。

 

 

 

 

 

「あと少しで上陸だ。皆、進め―!」

ロブ基地目前まで迫る帝国海軍。

「司令!海底より未確認の物体が迫ってきます!!あれは・・・」

それは帝国軍が見たこともない新型ゾイドであった。斧のような頭部をし、様々な武装を施している。その数は数機であるものの、護衛のバリゲーターと共に、帝国軍に対してミサイルを放った。

ガガガ――ン!

突然の攻撃に混乱する帝国海軍。

次々と撃破されるシンカーやプレシオス。

そんな状況を見てウオディックが新型ゾイドに向かってきた。

「来たわねウオディック。私たちが相手よ!」

新型ゾイドハンマーヘッドとマリン ブルーガーがウオディックに挑む。

ウオディックはソニックブラスターを放つ。水中においては回避が困難な強力兵器だ。

「ぐうっ!やっぱりウオディック相手じゃ分が悪かったかしら!?」

苦しめられるブルーガーと愛機。撃破されるバリゲーターたち。

そこへ、空から爆撃が起こり、ウオディックが撃墜された。

共和国飛行ゾイド、レイノスの攻撃である。

共和国も、帝国の攻撃に備え小数ではあるものの、強力な飛行ゾイドを保護していた。

「ありがとう、レイノス。さあ、いくわよハンマーヘッド。なんとしてでも食い止めるわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

ロブ基地

 

「基地は空同然だ。残っているのも雑魚だけだ。このまま一気に片付けろ!」

少数とは言え、強力なゾイドが揃っているPK師団。

このまま簡単に基地を占領できるだろうと漫然とするハーディン。

基地中枢までたどり着くと、あるゾイドを目にする。

「これは・・ゴジュラス!だが色が普通とは違う、ブラウン色だ。こいつは一体」

珍しいゴジュラスに不思議がるも、共和国の強力な兵器である。

「こいつのゾイドコアは強力だ。あれの復活に利用させてもらう」

と、そこへ、

ガダーン!

後方のハンマーロックが、突き飛ばされた。

後ろへ向けると、そこには目を赤く光らせた一体のゴジュラスがいた。デューである。

「そいつには指一本触れさせん!いくぜ!!」

ハンマーロック、レブラプターPBを倒していくゴジュラス。

「ふんっ!わがPK師団を舐めるなよ!喰らえっ!!」

ハーディンのPKコングが拳をゴジュラスへと叩きこもうとする、

が、

「エインガングとは比べ物にならないくらい遅い!」

コングの拳を易々とかわし、鋭い爪をPKコングの装甲へ突き立てる。

「馬鹿な!PKコングはそこいらのコングとはわけが違うぞ!ゴジュラスとはいえ、ノーマル機に後れを取るはずがない!」

たしかにPKコングは強力な機体で、それを操るハーディンも並みのゾイド乗りではない。

が、エインガングの方がコング乗りとしては実力が上だった。エインガング対策に執念を燃やしてきたデューとゴジュラスの相手ではなかった。ましてや、怒りに燃えるゴジュラスに対してはなおさらだ。

分厚い装甲は大きな切り傷がつけられ、右肩のビームランチャーもゴジュラスの牙に噛み砕かれた。怒りのゴジュラスはもう誰にも止められない。

そこへ、

「帝国軍、共和国軍の兵士の皆様。戦闘を即刻中止してください。私はガイロス帝国皇太子、ルドルフ ゲアハルト ツェッペリンです。つい先ごろ、ツェッペリン皇帝陛下がご崩御されました。そこで私は皇位第一継承者として、現在行われている帝国軍の攻撃を即刻中止といたします。共和国ならびにルイーズ大統領に対しては依然と違わぬ中立をお約束します」

ルドルフより両軍の戦闘が中止された。

ハーディン機は寸前で救われたのだ。

停戦勧告にゴジュラスも平常に戻った。

『くっ!あの皇帝がもう亡くなったか。機体がボロボロなうえ、停戦勧告がなされた以上戦闘継続はもはや不可能だ。このまま帝都に戻るしかないか』

停戦勧告に救われたハーディンらPK師団はそのままロブ基地を後にした。

なんとか共和国は帝国の脅威から救われたのだった。

 



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5 企み

辛くも大きな犠牲は避けられた共和国軍。

ロブ基地へ帰還してくるゾイド達。

「まったく、お前は熱くなりすぎなんだよ!もし遅れてたらどうしてくれんだよ!」

「まあまあ大尉。少尉が駆けつけてくれたおかげで、基地の被害も最小限に済んだんですから」

パリスをなだめる兵士たち。

「いやー、すいません大尉。まあでも結果オーライですよ。これからは気を付けますけど」

「いいか、もしまた帝国の奴らが来たら今度は独り相撲すんなよ!ここには強化型や最新のゾイドがたくさんあんだからな!リニアレールガン装備したウルフやらなんやら、いろいろあるんだぜ!」

デューを叱るパリス。

そこへ、

「マリン ブルーガー曹長、帰還しました。なんとかこちらも帝国軍を食い止めました」

「ご苦労、ブルーガー曹長。あの格納庫のゾイド、ハンマーヘッドで良くやってくれた。これで一安心だぜ」

 

 

周りでは緊張から解放された兵士たちが談笑している。

「聞いたか、ニューヘリックの戦闘では、マウントオッサを爆発させて、それで帝国軍を撤退させたんだと。ドクターDの案らしいぜ。それでプロイツェンに対して大統領が強気になり戦闘の中止を求めたんだと。さらにダメ押しでルドルフ皇太子の停戦勧告だ。プロイツェンもざまあないな!」

「それと、火山を爆発させたのがクルーガー大佐のプテラスらしいが運び屋の女が助けたんだと。さらに護衛としてシールドライガーが関わったんだが、それに乗ってたのが白いオーガノイドを連れたガキだってんだ」

「そいつって、レッドリバーでも俺たち共和国に協力した奴だろ。ドクターDが今回力になってくれたのもそいつのおかげらしい」

兵士たちが話すマウントオッサでの出来事に、パリスが

「なんだ、マウントオッサがどうしたってんだ?」

「あー、パリス大尉。実は・・・・」

兵士たちより、火山の爆発と白いオーガノイドを連れた少年に関する話を聞いた、

「なるほど、そいつがねー。ロブの兄貴たちが頼んだんだろ。詳しいことは兄貴に聞いてみるか」

 

 

 

 

 

 

 

一方、撤退する帝国軍。

「サーベラー少佐、なぜプロイツェン閣下は今回の作戦を実行されたのでしょうか?しかも、エインガング中尉よりPK師団がロブ基地へ向かったと知らせがありましたが、彼らには何か理由があるのでは?」

「さあな、ノグチ。だがロブ基地には強力な共和国ゾイドが揃っていた。プロイツェン元帥の目的はそれなのではないのか?」

愛機を進めながら今回の戦いに疑問を抱く二人の兵士。一人は老齢の男で、パイルバンカーを装備した黒いレブラプターに乗り、ハインケル サーベラー。もう一人の若い男は、キャノリーユニットを乗せた緑色のモルガを愛機とする、ヤース ノグチ中尉。

「このまま戦争が終わってくれればいいんですが、プロイツェン閣下が中枢にいる限り、まだまだ一波乱が起きそうな気がしますよ」

「うむっ、元帥は油断ならないなあ。だが皇太子であるルドルフ殿下は幼少ながら、聡明なお方だ。殿下が御即位なさればこの大陸、いやこの惑星から戦火は消えるだろう」

 

 

別の隊では、

「中尉、今回も熱くなってたわね。どうだったの、結果は?」

「いやー、ゴジュラスを本気で怒らせてしまったわー!!あいつ、あそこまで起こるとは、闘争心の強い奴だぜ、まったく」

「それはお互い様でしょ」

ベレッツァにゴジュラスとの対決を語るエインガング、

「うーん、しかし解せん、解せんわ!なぜPKの奴ら勝手な真似を!?奴の、プロイツェンの目的は一体?」

「そうね、怪しいわね彼ら。でもルドルフ殿下がこのまま即位されれば、共和国との和平も不可能ではないかもよ。そうなれば彼らの企みも明らかにできる。そう願いたいわ」

帝国国防軍のほとんどは、プロイツェンに忠誠を誓っている。その中にはベレッツァの直属の上司でもあるガイツ少将もいる。しかし、彼女やハインケルのように、彼に疑いを持つものも少数ではあるが存在する。その代表が、第一装甲師団大隊長、カール リヒテン シュバルツだ。マウントオッサ要塞の戦いでは、共和国の罠にいち早く気づき、自軍をできるだけ多く撤退させた。一方で、先行突撃した部下のマルクスは溶岩に巻き込まれ死亡した。プロイツェンへの忠誠をなによりも優先させたのだ。

「彼のために、これ以上犠牲が出るのは避けるべきだわ。なんとしてでもね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都ガイガロス

 

「くっ!あと少しのところで共和国を攻め滅ぼせたものを、停戦勧告とは!共和国のゾイドコアを一気に多量に手に入れられたというのに。レイブンの集めたものではまだ足りない。あの死にぞこないの病弱皇帝め、こんな時に死ぬとは!覇王と呼ばれた兄とは違って傀儡にはできたが、あそこまでひ弱とは!」

悔しがるプロイツェン。

そこへ、

「そろそろ我々テラガイストの出番では、閣下?」

「バイパーか?お前たちの手で再び共和国との戦争を起こせるのか?」

プロイツェンにそっくりの長髪の男、バイパーが話しかけてきた。

「えー、共和国にも我が同志が潜伏しております。彼らの協力も得れば可能です。ぜひ我々にお任せください」

「よけいなお世話、と言いたいとこだが、まあいい。お前たちの手で共和国との戦争を起こしてくれ」

 

テラガイスト

ゼネバス帝国復活を目論む、プロイツェンの私兵集団。しかし、PK師団とは違い、表向きはテロリストということになっている。

 

「では、さっそく手はずを整えます」

そう言って、バイパーはその場を去った。

そしてバイパーと入れ替わるように、一人の老人がプロイツェンのもとを訪れた。

「閣下、来てくださいませ。あの本体とは別に、まったく新しいゾイドが生み出されました。こんなことはめったにありません。まだ未完成ですが、見ていただきたいのです」

「ほうっ!それは興味深いな。では今から見に行こう」

帝国の科学者、ドクトルFとともに、帝都郊外の研究所へと向かっていった。

 

『あれの副産物だと。やっかいになってきたな。益々父上を止められなくなる。手遅れになる前に何とかせねば。やはりニクシーでのあの二つの機体の完成が必要だ。それにあの魔物が復活したときのためのゾイドも。デルポイの同志にも秘密裏に頼んではいるが、中々難しく時間がかかる。だがなんとしてでもやらねば』

プロイツェンの話を盗み聞きした一人の若者、ヴォルフ ムーロアは焦りながらもニクシーとデルポイの部下に極秘連絡をした。

「アイゼンドラグーン、完成を急げ」

と。

 



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6 テラガイストの暗躍

共和国首都ニューヘリックシティ

 

「ハーマン大尉!国境付近にて帝国ゾイドが展開中との報告がありました!」

慌てた様子でハーマンに駆け寄る副官のオコーネル。

「何!停戦勧告がされたばかりではないか。今度は一体何を!?」

ルドルフ皇太子から停戦が言い渡されたにもかかわらず、帝国軍が動き出してる。共和国にとってみれば裏切り行為だし、帝国にとっても、皇太子の命に背いているということになれば、反逆行為だ。

「怪しいな。よしっ、帝国軍に極秘回線でつなげ。あの男に伝えるんだ!」

 

 

帝都ガイガロス

 

「シュバルツ少佐!共和国より極秘の回線です。ハーマン大尉という方からです」

兵からの言葉に反応するシュバルツ。

「分かった。すぐつなげ」

「お久しぶりです、シュバルツ少佐。共和国のロブ ハーマン大尉です」

「こちらこそ、ハーマン大尉。で、極秘の回線での連絡とはいかがなされました?」

「はいっ。実は貴国と我が国の国境付近で帝国ゾイドの動きが確認されました。それで、あなたにお伝えしようと」

「それならば、今我々も確認したところです。ご安心をハーマン大尉。今すぐにでも我々が出撃し、対処いたします。おそらくこれを仕組んだのは・・」

「えー、察しはつきます。ではお気をつけて!」

あまり長く回線で連絡をしていては、プロイツェンに感づかれるとのことで、回線を切った。

「ロッドディガーのクローディア隊長に連絡を!不審な帝国ゾイドを調べるように。私もセイバータイガーで出撃し合流する!」

 

 

 

国境地帯

 

ロッドディガー隊と合流したシュバルツ

「ようこそシュバルツ少佐。不審なゾイドを確認しました。機体はモルガが数機、レッドホーン、セイバータイガー、それにアイアンコングです。国境付近の川沿いに展開しております」

帝国の強力なゾイドが勝手に出撃しているとは、やはりあの男の企てかと確信したシュバルツ。

「少佐、こちらもアイアンコング、セイバータイガーで出撃して正解でした。敵があんなに強力なゾイドを揃えているとは」

「分かった、ありがとう、隊長、それにマックス副官。相手が誰であろうと勝手な真似は許さん」

ロッドディガー隊とシュバルツは不審な帝国ゾイドに向けて進撃した。

帝国ゾイドを目前にしたシュバルツ達。

「そこの帝国ゾイドに告ぐ!国境付近での勝手な行動は違反である。貴殿らの所属はどこの部隊だ!」

「ほうっ!この我々に勝負を挑むとは、身の程知らずどもが!」

「きっ・・貴様はプロイツェン!!いやっ、似ているが彼よりずっと若いか!?」

「冥途の土産に教えてやろう。我らはテラガイスト。下等な貴様ら等、叩き潰してくれん!やれっ!!」

その直後、何もない場所からいきなり攻撃がかけられた。

ガガガガガッ!

「ぐっ!」

「ぐわっ!!」

「これは・・・光学迷彩か!?ヘルキャットの襲撃か!」

姿の見えない敵に翻弄されるシュバルツら。

そこへ、レッドホーン、セイバータイガー、アイアンコングがいっせいに襲い掛かる。

まずレッドホーンがクローディアのアイアンコングに角を突き立て、次にセイバータイガーはマックスのセイバーに牙を向け、コングが拳をシュバルツのタイガーに喰らわせた。

「ぐあっ!」

「ぬうっ!」

「キャーッ!」

不意を突かれ、思うように動けないシュバルツ達。味方部隊もダウンしてないのは自分たちだけだ。

「少佐!だいじょうですか!!」

「あー、なんとかな。ただまともに動けるのは我々だけだな。かなりの強敵だな相手は。いかに穏便に済ますとはいえ、もっと味方を連れてくるべきだった!」

「ふんっ、今更嘆いても遅い!」

レッドホーンに乗った若い女はそう言って、三連キャノンを放った。

シュバルツらの機体が被弾する。

「ぐっ、ここは一度引くしかないか!」

ところが、敵の攻撃で中々逃れられない。

ついに河を背に、追い詰められたロッドディガー隊とシュバルツ。

迫るテラガイスト。

「消えろ、シュバルツ!」

コングの拳が迫ってくる。

「今だ!」

喰らう寸前に、タイガーは上へ高く跳躍した。そして、コングの背中の大型ミサイルの装備に爪を立てた。ストライククローだ!

「ぐわっ!!」

装備を破壊されたコング。

これで形成は逆転か、と思われたその時、

「不審な帝国ゾイドを発見した。これより帝国軍を追撃する!」

共和国領の方から、ゾイドの部隊が現れた。その中にはゴジュラスもいる。

「なぜ共和国軍が!?ハーマン大尉から連絡はありましたか!?」

「いや、何もない。どういうことなのだ!」

突然現れた

共和国軍に戸惑うシュバルツ達。もはや絶体絶命!

共和国部隊が攻撃を放とうとしたその瞬間、

ドガーン!

「むうっ、誰だ!我々の邪魔をしようとするのは!?」

「とうとう化けの皮がはがれたなレザール!前々から怪しいと思っていたが!」

そこには、また別に共和国のゾイドが現れた。ウィーゼルユニット装備のガンスナイパー、コマンドウルフ数機、ゴルドスである。

「シュバルツ少佐、遅くなって済まない。見ての通り、貴殿らの救援に来た」

ゴルドスに乗っているのはあのハーマンだ。

「そこの共和国ゾイドに告ぐ!貴様らの所属と階級を答えよ!」

「ぐうっ!そ・それは・・・」

ハーマンの問いに答えられずにいるレザール。

「まあいい、貴様らが勝手に部隊を動かしたことは既に承知済みだ。そこのアルバーン隊長からの知らせでな。これが最後だ、改めて聞く!貴様らの所属と階級を答えよ!答えられねば、戦争を引き起こそうとする悪党として処罰する!」

「やむを得ん、共和国に戻れなくともここで死ぬわけにはいかん!攻撃開始だ!!」

「聞いての通りだシュバルツ少佐、我らの手でこの者たちを取り締まる。これより帝国軍と共同戦闘に移る!」

「感謝する、ハーマン大尉!これならば大義名分が立つ」

シュバルツ達の反撃が始まった。

 



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7 水面下での協力 

ドガーン、ドガーン!

「なにっ!ヘルキャットの姿が見破られているだと!?」

ゴルドスの砲撃が敵のヘルキャットを捉え、倒していく。

光学迷彩を備えたヘルキャットといえど、GPS磁気探知機に改良された背びれを持つゴルドスの敵ではなかった。このおかげで索敵性能が高まりレールガンによる精密射撃も可能となった。

アルバーンのガンスナイパーは、共和国ゾイドに一斉にミサイルやビーム砲を放つ。

レザールの部隊は戦意喪失。

「ゴルドスのおかげで助かった。我々も行くぞ、クローディア、マックス!」

「了解!」

「了解!」

テラガイストのゾイドに反撃をするシュバルツとロッドディガー。

「くっ!舐め負って、そう簡単にはやられん!!」

バイザーをかけたセイバーの男は、迫るマックスを再び狙って砲撃を行う。が、よけられる。

「味方が増えればこっちのもんだ。ストライククロー!!」

セイバーの爪がセイバーの右前脚を切り裂く。

「ぐっ、前脚が!リバイアス!助けに来てくれ!」

「だめよ、こちらも!コングに武装を破壊された!」

テラガイストももはやこれまで。捕まってしまっては正体がばれる。

「おのれー、共和国め。こうなれば仕方ない、撤退するぞ!ガルド、レザール、リバイアス!!」

「待て!逃してたまるか!!」

すると突然煙幕が放たれた。

煙が晴れたときには既に敵は消えていた。

「くっ!逃げられたか!」

しかし逃げられたものの、何とか助かったシュバルツ達であった。

 

 

 

「今回のご協力を心より感謝します、ハーマン大尉!」

「いえ、こちらこそ貴殿の協力で共和国の不穏分子を退けられました。

ハーマンに感謝の意を示すシュバルツ。

「クローディア隊長、お久りです。ブルーユニコン隊長のアルバーンです」

クローディアに親しげに話しかけるアルバーン。

「うん?二人は知り合いで!?」

「はい。共和国との小競り合いで何度か敵として相手をしまして、その縁で」

「なるほど。しかし、敵としての関係だったのに険悪な仲ではなさそうだな」

「なるべく小規模な戦闘になるようにしていたので、むしろお互い協力していたといった方がいいかと」

それを聞き安心するシュバルツ。

「今回の件は、帝国、共和国ともに内密にとういうことでよろしいでしょうか?このことが知れれば両国とも混乱するでしょうから」

「同感です。それに今回の件で、共和国にも不穏な動きがありましたから、それらに対処するのが先決と心得ております」

「ありがとうございます。それとハーマン大尉。これは別件なのですが、先のオリンポス火山で共和国の兵士が助けられたという知らせを私とは別の部隊から伝えられたのですが、その際に何かデータが持ち帰られたということはないでしょうか?」

ハーマンはきょとんとする。

「えっ!?なぜそのようなことを?もしそうだとしても貴殿らはそれをお持ちなのでは?」

「実は、我々もオリンポスの件については詳しく知らないのです。プロイツェンによって公式にはあれは単なる火山の爆発だとされているのですが。ただ、あれはあるゾイドを復活させるたに起きた事故だとその部隊から知らされています。しかし、その研究に関するデータを得られませんでした。恥ずかしながら、もし何かデータがあれば教えていただきたい」

シュバルツら国防軍にもその詳細は伝えられていなかったことに驚くハーマン。

「あるゾイド・・・、デスザウラーですね!」

ハーマンは、やはりプロイツェンの企みだったことを改めて知らされた。

「となれば今回の企みの背後にいるのもプロイツェンでしょう。しかし、分からない。なぜ戦争を引き起こそうとしているのか。デスザウラーを復活させてから共和国との戦争を始めてもいいような気がするのですが」

「はい、ただ妙な話があるのですが、オリンポス山の爆発の少し後に国境近くのわが軍のゾイドコアが抜かれたスリーパーの死骸が転がっているということがありまして。セイバータイガーで傷つけられたような跡もありました。もしやデスザウラー復活に関係しているのでは!?」

「抜き取ったコアでデスザウラーを復活ということかもしれませんね。詳しいことは分かりませんが。となれば、また仕掛けてくるかもしれません。ある少年を使って」

セイバータイガーと少年、それを聞いてはっとしたハーマン。

「ある少年?もしやその少年の名は『レイブン』では!?」

「ご存知でしたか。そうレイブンです。共和国のスリーパーを襲ったのも彼のセイバータイガーでしょう」

「ただ心配には及びません。彼のセイバーは先日のマウントオッサにて破壊されました。ある少年とオーガノイドのおかげで」

「少年とオーガノイド!?もしやその少年はレッドリバーで共和国軍の中にいた少年では!?」

「はい、彼の名は『バン フライハイト』です。オーガノイドの名は『ジーク』です」

バン フライハイトとジーク、そして彼と同い年くらいの少女や賞金稼ぎの男、運び屋の女のおかげで、ニューヘリックシティが救われたことを話すハーマン。

「彼らの働きがあったから救われたのですか。それで今彼らはどこに?」

「今はあるものを探すために旅に出ております。もともと我々とはひょんなことで知り合っただけですから」

「そうですか、そのあるものとは一体?」

「私もよくわからないのですが、『ゾイドイブ』と呼ばれるものです」

それを聞いて今度はシュバルツがはっとした。

「ゾイドイブですか。ただ帝国の裏の歴史をまとめた書物には、あのゼネバス皇帝や覇王ガイロスもそれを探していた記述があります。これも詳しいことは謎なのですが、おそらくデスザウラー復活とも関連するはずだと思います」

「なるほど。そういうことでしたか。しかし、レイブンはセイバーを失ったのですから、次のゾイドが与えられるまではゾイド狩りはできないでしょう。その前に共和国内の軍備を整えなくては」

国内のゾイド強化の意志を伝えるハーマン。

「あと、こちらからもお聞きしたいのですが、シュバルツ少佐にオリンポスでのわが軍の兵士の救出を伝えたのはどの部隊ですか?帝国内での我々に協力してくれそうな人間を少しでも知りたいのですが」

「第53独立部隊です。率いているのはベレッツァ大尉、そして闘神エインガングです」

エインガングが所属していることにハーマンは、

「闘神エインガングですか。先の戦闘ではわが軍のデュ― エルドと何やら熱い戦闘を行っておりましたが。それは頼もしいです。では、わが軍がオリンポスより得た情報をお渡ししようかと思います。今はありませんが後日お伝えします」

「その場合ですが、通信での連絡手段ではプロイツェンに知られる危険性がありますので、とある場所でデータを密かに受け取るということでよろしいでしょうか?」

「分かりました。では国境付近の小さな町がいいですね。チェニスタウンでよろしいですか?」

「はい、それでOKです。ではこちらの無線機をお渡しします。スイッチをつけてお互いが近づけば振動が起きます。その役目をロッドディガー隊に頼みます」

「助かります。共和国製の無線機は性能が悪いもので。では、こちらはアルバーンに頼みます。アルバーン隊長、よろしいか?」

「了解したハーマン大尉。特殊部隊の経験もあるから朝飯前に感じるな」

「では、我々も解散しよう。これ以上ここでの長居は無用だ」

 

水面下で帝国、共和国との強力なパイプができたのだった。

 



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8 虐殺竜ジェノザウラー

帝都ガイガロス

 

悔しげな表情でプロイツェン邸に戻るバイパー。シュバルツと共和国さえ邪魔しなければ上手くいったものを。しかし、プロイツェンに状況を報告する義務がある。

「閣下、申し訳ございません。シュバルツの邪魔が入ってしまい作戦は失敗してしまいました」

歯ぎしりしながら、プロイツェンに謝罪するバイパー。

「ふっふっふ、バイパーよ、そう心配するな。今回の件でシュバルツは今国境付近での警備に当たっているだろう。これは絶好の機会だ。ある計画のな」

不敵に笑いながら、余裕の表情を見せるプロイツェン。

「ある新型ゾイドが完成したのだよ。それをもってしてあいつにコアを集めさせようとしている。それで、あれを復活させる」

「レイブンですか、しかしその新型ゾイドとは?」

新型ゾイドに興味を示すバイパー。

「そのゾイドの名はジェノザウラー。破滅の魔獣の血を受け継ぐ強力なゾイドだ。ただ、今のところシャドーを連れたレイブンでしかまともに動かせないだろう。だから彼に任せたのだ」

あの日、バイパーとすれ違ってプロイツェンのところに来たドクトルFによって完成が伝えられたゾイドである。

「さらにある計画だが、それはルドルフ皇太子の暗殺だ。シュバルツらがいない今がチャンスだ。ルドルフを暗殺して、その死を共和国の暗殺に装って宣戦布告をするというな」

「閣下はそこまで先を見通されていましたか。しかし、一人厄介な女がいます。ルドルフの姉のエリザベートです。彼女も亡き者にしたほうがいいのでは?」

「なるほど、そうしたほうがいいかもしれん。ただ皇族が続けて帝国領内で死んだならば怪しまれる。エリザベートには、帝都を離れて慈善活動の一環として国境地帯へ赴いてもらう。そこで始末せよ!」

「承知いたしました。それとジェノザウラーですが、いずれ我々の方にも配備をお願いしたいのですが」

「それも考えている。が、言ったようにあれはまだ扱いづらい。そこで、ニクシーのテストパイロットでもう一つのジェノザウラーのテストを行わせようと思っている。そこでどれだけ、一般の兵士が扱えるかを試す。その後で正式な配備を考えていく」

プロイツェンの陰謀はまだ止まることはなかった。

 

北エウロペ ニクシー要塞

 

帝国拠点の基地でもあるこの要塞には、多数の強力なゾイドが配備されている。

アイアンコングMK2、ダークホーンWG、ブラックライモスなど。そして最新型ゾイドのエレファンダー

共和国との決戦のために配備されたゾイドだ。

そこである演習が行われようとしていた。

「こいつがジェノザウラーか。しかし、何なんだこの感触は。理由もないのになぜか感じる憎しみ、怒り、これは一体?」

「リッツ ルンシュテッド中尉。演習開始です。相手はダークホーンWGとグレートセイバーです」

「よしっ、いくぞ!!ジェノザウラー!」

ダークホーンWGがバルカンを、グレートセイバーが8連ミサイルを放ちながら襲い掛かってくる。両方とも帝国軍の主力の一つとなる有力なゾイドだ。

だが、しかし、

グオン!

ジェノザウラーが空高く跳躍した。

そして、その勢いでダークホーンとセイバーに向かう。

対するダークホーンとセイバーはそれぞれ角と牙を向ける。

スピードでは負けるがパワーならと、ダークホーンのパイロットは思った。が、

「グアーーーーッ!!」

「ギャーーーー!!」

一周の出来事だった。

ダークホーンとセイバーの両機体の首が、ジェノの爪に刈り取られたのだった。

スピードもさることながらパワーも並みではない。ゴジュラスに匹敵するかもしれないパワーだ。

「ハアッハアッ!なんなんだこいつは!?俺が操作したわけでもなさそうなのにこいつは!!」

「中尉!すごいです。わが軍の誇る強力ゾイドを一瞬で葬り去るとは。今すぐにでも量産すべきです!」

「馬鹿言うな!いいか、こいつは誰にも操れない!かけたっていいぜ。こいつは敵よりもまずパイロットを殺す!量産は危険だ!!」

惨状を目にし恐れおののくリッツ。アイスマンと呼ばれた冷静な男が震える。

それを上から見下ろす老人がいた。

「あれがジェノザウラーか。素晴らしい機体だ!プロイツェン閣下に配備を今すぐにでも願い出ろ、グローリエ大佐」

「はっ!少将」

有力なプロイツェン派の将校の一人、ガイツ少将であった。

 



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9 突然の襲撃

荒野の中、南エウロペ国境地帯の町へ向かうトレーラーを引っ張るグスタフの姿があった。それを護衛するアイアンコングとセイバータイガー、並びにヘルキャット数機。ロッドディガー隊の所属機である。

「久しぶりの慈善活動だから、ルドルフも連れてきたかったわ。ただ、公務で忙しいみたいだから仕方ないけど」

「殿下、もうそろそろ国境地帯です。このあたりは紛争が絶えなかったため、治安が悪く、野生化したゾイドもしばしば出没する所です。難民キャンプまではお気をつけてください」

皇太子の姉、エリザベートに注意を促すロッドディガー隊長のクローディア。

先の一件の後、そのまま国境警備に当たっていた。共和国よりあるものを手に入れるために。しかし、エリザベートが国境地帯を訪問するとのことで、急遽護衛に努めることになった。

『殿下の護衛を命ぜられることになったが、まあいい。待ち合わせの日にはまだ十分ある』

護衛に努めながらもマックスは共和国の保有するデータの受け取りを気にかけていた。

 

すると突然、

ピーピー!!

「警告アラームだとっ!一体なんだ!?」

辺りを見渡すが、敵機の姿はない。

光学迷彩か、と思っていたら。

ズガーン!

「キャー!!」

グスタフが襲撃を受けた。地面から何かが爆発したのである。

「殿下!大丈夫ですか!!」

「えー、心配ないわ。でもこの攻撃は!?」

土の中から襲撃した正体が姿を現した。

ガイサックである。それも、50~60機ぐらいいる。

共和国のスリーパーが国境近くとはいえ帝国領に。しかし、ガイサックならば恐れるに足らないと見ていた。だが、

「気を付けろクローディア隊長!こいつら爆弾を備え付けてやがる!今の爆発はガイサックが突っ込んできて自爆したんだ!」

「何ですって!それじゃあこいつら殿下を狙って!!」

「そういうことだな。いくらガイサックとはいえこの数だ。スキを突かれグスタフが破壊される。ここは逃げた方がいい!!」

ガイサックの群れから少しでも離れようと、必死になる。

グスタフのパイロットは冷や汗をかきながらエンジンペダルを全力で踏む。

「おい、パイロット!殿下を危険にさらすな!そんなに暴走したんじゃ、グスタフはコントロールを失うぞ!」

「しかし、追いつかれては爆発に巻き込まれてしまいます!そうなっては殿下の身が!」

「私は大丈夫です!それよりも皆さんが!」

このままでは追いつかれ、エリザベートを爆発に巻き込んでしまう。

こうなれば仕方がない。

「殿下!トレーラーの殿下のゾイドでお逃げください!このままでは殿下が危険です!」

「そんなことはできないわ!皆さんを見捨てて逃げるなんて!!」

「我々は軍人です。御心配には及びません!時間がありません。今すぐに!!」

クローディアから早くこの場を逃げるように促されると、

「キエ―!!」

トレーラーが開き、一体の飛行ゾイドが飛び出した。

「レインボージャーク、あなたなの!?」

自分の主人の危険を察知し、グスタフのコックピットのエリザベートの前に躍り出る。

そして、自身のコックピットのハッチを開く。

「さあ、早く!お逃げください!」

レインボージャークに乗り換えるようにパイロットがグスタフのハッチを開く。

「・・分かりました。ただ、お願いです。絶対に死なないでください!!」

そう言い残し愛機に乗り換える。

「クエ――!」

勢いよく空高く舞い上がり、全速でその場から逃げようとする。

ドキューン、ドキューン!

しかし、ガイサックのレーザー砲が一斉にレインボーを狙って火を噴く。

そうはさせまいと、ロッドディガー隊が応戦する。

しかし、

ズガッ、ズガッ!

無数のレーザーがレインボーの翼を捉えた。

攻撃を受けたレインボーは地上へと落下していく。

「キャ――!!」

悲鳴をあげるエリザベート。

「まずい、殿下が。クローディア!あとは任せる!俺は殿下を追う!!」

後をクローディア達に任せ、エリザベートを追うマックス。

必死にセイバーを走らせる。だが、そのセイバーに地面から、

ドガーン!

「ぐわーーーっ!」

突然の爆発にセイバーは大きなダメージを負い、システムフリーズした。マックスもケガを負った。

「くっ・・くそっ!で・・殿下を・・追わなければ・ならない・・のに」

セイバーのコックピット内で気絶するマックス。

一方レインボージャークは、コントロールを失い、付近の森林へと墜落していく。

それを遠くより、眺める一人の男がいた。

「共和国に所属してたおかげもあり、多数のスリーパーガイサックを操ることができた。森の方へ落ちたが、念のために死んだのか確認しておこう」

テラガイストのメンバーの一人、レザールであった。

 

 

 

同じころ、帝都では大混乱が起こっていた。

皇太子ルドルフが誘拐されたのだ!

 




これで二章も終わりです。

今回登場したオリジナルキャラクターのエリザベートですが、以前ハーメルンのゾイド小説での砂鴉様の企画で、私が考え出したキャラクターになります。結果は不採用でしたが、キャラクターや小説を考えるきっかけになりました。

この小説は、ゾイド無印をベースとして、バトストなどの設定を作中の話の中に組み込む形となっております。そこでは、バトストの人物などや他の作品のゾイドを登場させており、このやり方を続けるつもりです。

次章では、物語の本質へ徐々に迫っていきます。エリザベートの運命はいかに!?
そしてバンに関係するある女性との出会い、そしてその人物と帝国の重要人物との初恋、北エウロペの情勢、アイゼンドラグーンの動き、リッツ中尉などについても描いていきたいと思います。




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第三章 チュニスでの騒動
1 森の中


夕方のエレミア砂漠を二体のヘルディガンナーDTが走っていく。

「あーあ、戦争も終わっちまったな。これじゃあ商売あがったりだぜ俺たち」

「まー、気にすんなよ兄貴。共和国でとれた純金があるじゃねーか。これでしばらくは食ってけるさ」

ヘルディガンナーに乗っているのは賞金稼ぎのクロスボウ兄弟。共和国で傭兵として雇われていたものの、停戦勧告がなされたことでやめさせられ、帝国へと戻るところだった。

「もうすぐチェニスだ。早くシャワーでも浴びてごろ寝したいぜ」

眼前に移るのは国境地帯の町、チュニスタウンである。

 

 

 

 

 

国境の森林地帯

「うっ・・うー!はっ!ここは一体!?」

レインボージャークのコックピットの中、目が覚めたエリザベート。

辺りは夕暮れで、今にも暗くなろうとしていた。

「クー―」

レインボーは深く唸り、周りを警戒する。

「どうやら私たち、森の中にいるようね。大丈夫よ、心配しなくて。でもありがとう。守ってくれて」

レインボーに感謝して、ハッチを開け外に出ると、

「レインボー!あなた翼をケガしてるわ!!」

ガイサックの攻撃で翼に酷いダメージを負っていたのだ。

「ゾイドコアは無事のようだけど、このままじゃ野生のゾイドにあなたが襲われてしまう」

「クエ――」

低く唸るレインボー。

「ここは国境の森林地帯。もしかしたら上手く抜けられれば、チュニスタウンに行きつけるかも」

コックピットに戻り、計器を操作し現在位置を確認する。このまま南東に行けばレッドリバーの支流にたどり着き、そこを下流に沿って行けばチェニスタウンに到達できる。

「あとはこの子が隠れられそうな場所を見つけなきゃ」

辺りを移動していると、段差のある場所の上に倒木が何本も重なり筒状の隠れ家のようになっている所を見つけた。エリザベートは愛機で木や枝をそこの側に集めて、愛機を段差の陰になるように隠した。そして再びコックピットからでて、木や枝で隠れ家を覆った。

「レインボー!申し訳ないけどここで待ってて。あなたをきっと救ってみるわ!」

そこを後にし、エリザベートは支流を目指した。

 

 

 

 

「ハアッハアッ!もう日が暮れちゃった。でも早くしないとあの子が」

支流を目指し歩き続けるエリザベート。先ほどの愛機の隠れ家づくりなどもあって、疲労がたまっている。それでも彼女は足を止めなかった。

数十分ほど歩いていると、かすかに川のせせらぎが聞こえてきた。支流が近い。そう感じて、足を速めた。

「やったわ!ついに着いた!あとはここを下って行けば」

川につき安堵して、その水を飲むエリザベート。そこでしばらくの間休んだのち、再び歩き出した。チュニスへとたどり着こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

チュニスタウン

 

国境地帯にある中規模都市である。帝国、共和国か様々な物資や人が行きかう交通の要衝として発展した。各地からの様々な物品や特産目的でやって来る市民でにぎわっている。物品の中にはゾイドの傷を修復してくれるゾイマグナイトもある。

 

『ここがチュニスね。とても活気があるわ。それはそうと、早くあれを手に入れなきゃ!』

すでに夜中であるのの空腹も忘れ、ゾイマグナイトを売っている店へと足を急がせる。

その途中、

ドン!

「あっ!」

何かが後ろからぶつかってきた。振り向いてみると、子供が一人倒れていた。

「大丈夫!ケガはないかしら」

優しく声をかける。すると、

さっ!

何かが持ち去られる感じがした。振り向くと、少女が走り去っていくのが見えた。そして、ぶつかってきた子も姿を消す。そして、ポケットの中に手を入れると現金の入った財布がなくなっていることに気付いた。

『もしかして・・スリっ!』

お金がなくてはゾイマグナイトを買えない。逃げた子供を必死で追うエリザベート。

「お願い待って!!それがないとお友達を救えないの。返して!!」

しかし、群衆に紛れてしまい子供を見失ってしまう。

その最中、一人の若い女性と体がぶつかってしまう。

「キャッ!」

エリザベートと同じ年ぐらいの少女だ。

「大丈夫ですかマリアさん!ケガは!?」

「はい、大丈夫です神父さん」

マリアと呼ばれた少女に駆けつける眼鏡をかけた神父。

「お願い・・かえし・・て。でないと・・あの子が・」

エリザベートはその場で倒れた。

すぐに駆け寄るマリアと神父。

「大丈夫!?しっかりしてください!しっかり!」

「ダメです。どうやら相当お疲れなのでしょう。とりあえず、私たちの止まっている宿までお連れしましょう」

二人はエリザベートを介抱するため、宿まで運んだ。

 

 

 

 

 

 

ロッドディガー隊 テント

 

「うーーーっ!はっ!俺は無事だったか!そうだっ!殿下はどうした、殿下は!」

「マックス中尉!落ち着いてください!傷は浅くないのですから!」

兵士たちがマックスを落ち着かせる。

「殿下なら未だ行方知れずです。中尉。殿下を追われてましたが、何か分かりますか?」

「そうだ!殿下のレインボージャークは森の方へ落ちていった。その後どうなったかはわからないが。とにかく森だ。森を探し出せ!」

「今は夜で、捜索は困難です。早朝、すぐにでも出て探し出します!」

かつての部下であるクローディアがなだめて、落ち着きを取り戻すマックス。

たしかに夜間での捜索は困難であり危険でもある。ここは、朝日を待って行動を起こすべきだ。

「すまない、興奮してしまって。ならば、クローディア、捜索の方よろしく頼む!」

「了解しました、中尉!」

 



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2 ひったくりの発見

早朝の森

 

「おのれ共和国軍め、我々の邪魔を!奴らさえいなければ昨日のうちに捜索できたものを」

苦い表情を見せながらも、部下に探索を命令するレザール。

昨日、エリザベートとレインボージャークを見つけ出そうと森に入るも、遭遇した共和国軍に不審がられて彼らとの戦闘が起きた。何とか退けたものの、エリザベートの捜索ができなかったのだ。

「こんなことをするのは奴しかいない。アルバーンの仕業だな!このわしの動きを逃さなかったというのか。・・・・ええい!まだ見つからんというのか!?おそらくあの状態で無事ではないだろうが、万が一生きていたら邪魔になる!!」

レザールの部下たちはコマンドウルフで探すも中々見つからない。

そのウルフ達の動きを監視するヘルキャット。

「やはり、テラガイストの仕業だったのか。あのガイサック達を動かしていたのは」

「クローディア隊長、殿下と我々を狙ったのはテラガイストのようです。彼らは今殿下を探索しております」

「分かった。何としてでも奴らより先に殿下を見つけて助け出してくれ!私も赴きたいのだが、別件でチュニスに行かなければならない。申し訳ない!」

例のものを共和国より受け取るため、クローディアはチュニスへと向かった。

 

 

 

 

 

 

「チチチッ」

街が朝日に照らされ、スズメが鳴く。

「うーん、あらっ!?ここは・・一体?」

目覚めると、自分がベッドで寝ていたことに気付いた。

陽の光が窓ガラスから差し込み、美しい長髪を映えさせる。

ガチャっ!

突然ドアが開き、神父と自分と同じ年ぐらいの少女が入ってきた。

「お寝覚めのようですね。ご気分はいかがですか?」

少女の方が語り掛けてきた。

「は・・はい・・・・あの、あなたがたは?」

「我々は倒れていたあなたをここまで運び介抱していました。お元気で何よりです」

「あ・・ありがとうございます!みなさんに迷惑をおかけしてしまって」

善良な人たちだと安心したエリザベート。

「いけない!早くあれを手に入れないと!でないとあの子が!!」

すべきことを思い出し、ベッドから出ようとする。

「待ってください!今は落ち着いて。どうしたのですか?」

「大切なお友達を救うためにどうしても必要なものがこの街にあるのです。それを手に入れないと。あっ!いけない!お金をすられてしまったんだったわ!」

「そうですか、だからあんなに慌てて。とにかく今は落ち着いてください。まずは朝食をとらないと」

エリザベートを落ち着かせようとする神父。

「は・・はい。すみません。私ったら焦ってしまってて」

「いいんです。ご友人を助けたい一心なのでしょう。あっ、自己紹介が遅れました。私はレオンといいます。ウィンドコロニーという村で神父をしております」

「私はマリア、マリア フライハイトと申します。自分で作った織物を売るためにウィンドコロニーからこの街に来ました。神父さんは私のお共で来たんです。あなたは?」

「私は・・エリザと申します。・・国境地帯の村の娘です」

エリザは嘘をついた。この人たちを危険な目に合わせまいとついた嘘である。

 

 

 

 

 

 

「クエ―」

遠くから何者かが来る。その気配をレインボージャークは察知した。

野生ゾイドという感じではない。何か、異様なものが近づいてくるような違和感。味方にはヘルキャットがいたが、この気配はコマンドウルフだ。

ゾイドの野生のカンというものだ。

「ククッ、ククッ!」

この場に留まるのは危険だと判断したレインボーは隠れ家を抜けて少しでも気配から逃れようとした。傷はまだ完全には癒えていないとはいえ、だいぶ良くなった。これなら少しは逃げられるだろう。宮殿で長く暮らしてきたとはいえど、野生の本能はまだ残っているようである。

 

 

 

 

 

 

朝食をすまし、宿を出て街の通りを歩く3人。ゾイマグナイトの売っている店へと向かっていた。レオン神父が代わりに購入してくれるようだ。

「まさか、お友達ってゾイドのことだったんですね。エリザさんってなんだか私の弟とそっくりだわ」

「はい、そのゾイドと小さいころからずっと一緒だったんです。とても大切なゾイドなの」

自分とゾイドの思い出について話すエリザベート。

「マリアさんに弟さんがいるんですね。村で帰りを待ってらっしゃるんでしょうね」

「いえ・・弟は村を出ていったんです。あの子とあのゾイドを守るため、そして村に迷惑が掛からないようにするため」

「あの子とあのゾイド?それは一体?」

「女の子と小さな恐竜型のゾイドです。盗賊に狙われてたんですけど、あの子たちを守るために村を後にしたんです。村に彼らがいればまた襲われるだろうと考えて」

「そうなの・・すみません。いやなことを聞いてしまって」

申し訳なさそうにするエリザベート。

「いえ、いいんです。弟のことなら心配はいりません。何度も遺跡を探検して困らせられましたけど、必ず帰って来るんです。今回もきっと無事に戻ってくると信じています」

故郷の村を出ていった弟を思い出すマリア。

「マリアさんってお強いのね。私にも弟がいるんです。ゾイド好きで、いつも庭の昆虫型ゾイドを観察しているんです。でも今は私がいないことに寂しがってるだろうと思います。それを考えると心配でなりません」

表情が少し暗くなるエリザベート。

会話をしているうちに目的の店にたどり着いた。

「ここです。ここでゾイマグナイトが売られています」

店には多くの鉱物が売られていた。アメジストやエメラルド、またこの惑星特有のメタルZiやプラネタルサイト、ぞしてゾイマグナイトもある。ただし、ゾイマグナイトは火山地帯など特定の場所でしか産出せず、価格も高い鉱物である。

「やっぱり、高価な物ね。神父さんにご迷惑をおかけすることになってしまいますわ」

「いえ、お金のことなら問題ないです。大切なゾイドを助けるためなら。ただ、私の今の所持金でもゾイマグナイトの購入は難しいです。もっとお金を持ってくるべきだったかと思います」

落ち込んでしまうエリザベート達。

その時彼女は、自分の持っているペンダントの存在に気付いた。

「そうだわ!これをお金の代わりにしてもいいかしら!?これとなら交換してくれるかもしれない」

取り出したペンダントには開閉式になっており、中には、剣にまとわりついた竜の紋章が刻まれていて、ダイヤモンドなど高価な宝石が飾り付けられていた。

「綺麗なペンダントだわ!でもエリザさん、こんな高価なものどこで手にいれたんです?」

「これは先日亡くなった祖父の形見なんです。とっても大切な物なんだけど」

『これはガイロスの紋章。なぜ彼女の祖父がこんなものを?』

神父は竜の紋章に目をやり、不思議がる。

ペンダントに二人が驚いてると、

「こら、このガキ!やっと見つけたぞ!宝石も盗もうとしやがったな。さあ俺から奪ったものを早く返してもらおう。重要なものだからな」

店の外を見ると、一人の男が少女の手をつかんでいた。

「し・・知らないよ!私があんたから何を盗んだってんだ!」

「とぼけるな!このアルバーン様を騙そうったってそうはいかんぞ!」

その騒動を見てレオン神父が、

「どうしたんです、騒々しい。その子の手を放してやりなさい」

「何だ、あんたは!こいつは俺から重要なものを盗んだんだ。取り返さにゃならん!」

今度はエリザベートが少女に目を向けると、

「あなた・・昨日の女の子?」

少女はギクッと身を震わせた。

「昨日私から財布を盗んだ子・・そうでしょう?」

「こいつめ!他の人間からも盗みやがってたのか!さあ白状してもらうぞ!どこへやった!?」

アルバーンは少女に盗まれたもののありかを教えるよう強く迫った。

「やめなさい!とても脅えているではないですか!」

「なんだよ?あんただって財布を盗まれたんだろう!?こいつをかばう必要はないぜ!」

「怖がっている女の子に強引に接するべきではないわ。・・・ねえ、あなた。どうして盗みなんてするの?家はどこなの?」

エリザベートは優しく少女に問いかけた。

「家なんて・・ない。私たちは裏町の通りで暮らしている。商人や観光客から盗みをしながら」

「そ・・そうなの!?そんなつらい思いを。でもお願い。私とこの人から盗んだものは返して。大事な物なの」

エリザベートから諭されて少女は、

「ご・・ごめんなさい、お姉さん!ちゃんと返すわ!」

と泣きながら答えた。

「よかったですね、エリザさん。・・・ねえあなた、お名前はなんて言うの?」

とマリアが問うと、

「シシリー。シシリー ヴォルタ」

と少女は答えた。

「シシリーね。じゃあ私たちを案内してね」

シシリーという少女は、エリザベート達を裏町へと案内した。

 



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3 裏町の貧困 

森の中

 

コマンドウルフに気付かれぬよう、息を殺しながら必死で逃れようとするレインボージャーク。どれぐらいの時間走り続けたかわからない。すると、今度はまた別の気配を感じた。ついにばれたか。そう思って気配の方を見ると、何も見えない。どういうことか。途端に、気配の主がぬっと姿を現した。ヘルキャットである。光学迷彩を施していたため、見えなかったのだ。

「おいレインボー!俺たちは味方だ。わかるだろう!?お前を助けに来た!殿下も一緒か!?」

「キエ―!」

味方であることを知り、安堵するレインボー。

ヘルキャットのパイロットがコックピットに返事をよこす。が何も応答はない。ハッチを開けさせると、中には誰もいない。

「一体殿下はどこに?」

兵士たちは不安がる。

「おい!何か近づいてくるぞ!これはコマンドウルフだ!」

これではこちらの存在がばれてしまう。ピンチである。

ところが、

ドカーン!

遠くの方で音がした。

同時に自分たちに迫っていた機影が、音の方がした方向へと移動した。

「もしやあの爆発は・・・ダミーだな!おそらくシュバルツ少佐の部隊の。おい、このスキに逃げるぞ。レインボーお前もついてこい!」

ヘルキャットに誘導され、レインボーはその場を離れた。

 

 

レインボーたちはレッドリバー支流にたどり着いた。レインボーはそこで、エリザベートの録音記録を兵士たちに聞かせた。エリザベートが自分を助けるためにチュニスへと向かったことを伝えたのだ。

「そうか。ありがとよ、レインボー!クローディア隊長とシュバルツ少佐に伝えろ!チュニスに殿下がおられると!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、チュニスの街

 

「馬鹿野郎!なんで易々と純金を盗まれたんだ!せっかくの稼ぎがパーじゃねえか!!」

「仕方ねえだろ兄貴!一瞬のスキを突かれたんだ。それにあのガキどもの向かった方向はわかってる。そこへ行けば取り返せるさ!」

いい争いながらも、スリの少年たちを追うのは、クロスボウ兄弟である。

「兄貴こっちだ、こっち!」

「わーってるよ、ロス。ったく、なんで困難面倒なことに!」

 

 

 

 

 

 

裏町の通りについたエリザベート達。

「ひ・・ひどい!こんな状況だったなんて!」

そこには粗末な服で生活をする子供たちの姿があった。

いわゆるストリートチルドレンである。

戦争などで親を亡くし、路上で生活する少年少女たちだ。

ここチュニスは帝国、共和国から様々な人があふれてくるため、そういった人間たちから盗みを働いているのだ。

『こんな悲惨な生活をしている子たちがいたなんて』

エリザベートはこの状況を認識できなかった自分を恥じた。今まで多くの慈善活動を続けてきた。しかし根本的な解決には至らず、今目にした状況はそれを物語っている。

「みんな盗みで生計を立てている。そうでなきゃ生きていけない。だけど誰も助けてくれない。飢え死にで死ぬ子も多いのに」

シシリーは拳を強く握りしめ、涙を流した。

「シシリーはどうしてここにいるの?あなたの家族は?」

「私たちは元々デルポイに住んでいた。父はヘリック系で、母はゼネバス系。父が死んで生活が苦しくなったから、この大陸に移り住んだの。でも敗戦国民ということでいろんなとこでいじめや差別を受けたわ。そのショックで母は病気で死んで、私はこの街にたどり着いた。ここにいるほとんどの子たちは、同じような境遇をたどってきたわ」

かつて中央大陸ではヘリック共和国とは別にゼネバス帝国という国が存在した。しかし、ゼネバス帝国は滅亡し、その国民は敗戦国民としてそのほとんどが冷遇されていた。ガイロス帝国にわたったゼネバス系住民も同様の扱いだった。覇王ガイロスにより多くのゼネバス兵が前線に送られ、ガイロスの鉄砲玉として利用された。

「歴史の本を読んでそのことを少しは知っていたけど。今でもそんなひどい扱いを受けてるなんて」

歴史書を読んだだけで、実際の状況を知らなかったマリア。

エリザベートに至っては自分の無力さを痛感させられるばかりだった。

苦しんでいる人たちが大勢いることに何も気づいてやれなかった。

「それだけじゃないわ!もっとひどい扱いを受けた女の子がいる。その子は青い小型の恐竜型ゾイドを連れていたけど、共和国の実験に利用されたって。昔ノーデンスってとこに住んでたらしいけど、そこの村人たちによって共和国に引き渡されたって。その時に自分を庇おうとしたお友達が殺されたみたいよ。何とか共和国から逃げてこの街まで来たみたいだけど」

それを聞いてアルバーンは驚愕した。

「なんだと、人体実験だと!そんな倫理に反すること、帝国でも共和国でも禁止されてるはずだ。そんなことが行われてたなんて!!」

アルバーンは激しく動揺した。自身も国内でのゼネバス系の扱いに憤りを見せていたが、それだけでなくこのような実験が秘密裏に行われていたとは。

「それで、その女の子は今はどこに、お名前は?」

「知らないわ。一か月間だけ一緒にいたけど、その後すぐに姿を消したわ。でもかなり震えていたわ。またいつ共和国に連れていかれるのか不安でいっぱいだったのよ。名前も尋ねたことあるけど、教えてくれなかった」

「そうなの。かわいそうに。・・・でもその子と一緒にいた小型の恐竜型ゾイドって、マリアさん、まさか!」

「はいっ!弟が連れていたのと同じ種類だと思います。そうですよね神父様!?」

「ええ。だとすればそのゾイドは・・オーガノイド!」

エリザベート達はすぐに確信した。マリアも弟のゾイドと同種の個体がこの世界に他に存在することを知らされた。

『青いオーガノイドってことか。それで実験をされてたのか。・・・ん?弟が連れていたゾイド!この娘の弟ってまさか!?』

アルバーンが感づいたその時、

「捕まえたぞ、このガキが!さあ俺たちの純金を渡せ!!」

声の方へ向かうと、男二人が幼い少年を捕まえ、持っているものを無理やり取ろうとしたのを目撃した。

「おい!貴様ら!」

「何をしているんです、あなた方は!子供相手に大の大人が情けない」

アルバーンとレオン神父が注意する。

「何だてめーらは!俺たちはこいつに用があるんだ!」

少年の胸ぐらをつかみ殴りかかろうとすると、

ドウッ!

「わっ!」

レオンは隠していたサイレンサー付きの銃で男たちを脅した。

「てってめー!神父のくせに銃で俺たちを脅すとは!」

「その子を放しなさい!痛い思いをしたくなければ!」

エリザベートやマリアも駆けつける。

「おいおい、別嬪の娘二人もつれてるぜこの神父。こいつはちょうどいいや!」

そう言うと、男たちは隠し持っていたガス弾を投げた。

辺りが煙で覆われた。そのスキに、

「キャッ!」

「ウッ!」

「ゲホッゲホッ!あっ!マリアさん、エリザさん!」

不意を突かれて彼女たちはさらわれた。

「くそっ!おい神父さんよ、奴らを追え!俺も後で向かう!」

「わ・・分かりました!」

煙の中、レオンは二人の男を追いかける。

 

 

街の外の砂漠まで追いかけると、突然地面から二体のヘルディガンナーが現れた。

「ハハハハハッ!俺たちクロスボウ兄弟を甘く見ていたようだな神父さんよ!純金を持ってくれば女二人は返してやる。ここで待ってるぜ」

ゾイド相手では銃など話にならない。

「おい賞金稼ぎども!純金ならここにあるぜ!早く二人を解放しろ!」

この声はアルバーンである。

「へっ、そうこなくちゃ!」

「まず彼女らが先だ。早くするんだ!」

アルバーンも分かっていた。このまま純金を渡して彼女らを返すとは限らない。賞金稼ぎとはそういうものだ。安易に信用してはならない。

とその時、

ドゥーン!

ヘルディガンナーのレーザー砲から、網がアルバーンと神父に放たれた。

「ぐわっ!」

「うっ!身動きが取れない!」

ヘルディガンナーから降りて、アルバーンから純金を取る。

「へっへっへっ!これで純金は返してもらった。あとは女どもも頂いていく。あばよ!」

まんまと賞金稼ぎに逃げられてしまった。

中々網を破れない二人。

すると、

「アルバーン隊長!大丈夫ですか!」

ピンク色の長髪の若い女が駆け寄ってきた。

「あ・・あんたは、クローディア隊長!ロッドディガーの」

駆けつけたのはクローディアだった。アルバーンからの極秘情報を受け取るため、そしてエリザベートを捜索し救出するためこの街に来たのだ。

あみを切り、二人を助け出した。

「クローディア隊長、申し訳ない」

「いえ、この無線機のブザーのおかげで、あなたを探し出せましたから」

「いやいや、あなたにいろいろと苦労をかけた。そうだ、これが極秘情報だ。ぜひ受け取っていただきたい」

アルバーンから極秘情報の入ったUSBを受け取り、ファイル表示のためのパスワードを知らされるクローディア。

「そこの神父さんは?」

「彼は偶然この街で出会ったんだ。さっき、二人組の賞金稼ぎらしき男に連れの女性二人が連れ去られた。我々を網にかけたのもそいつらだ」

「了解しました。それでその男たちは?」

「ヘルディガンナーで砂漠の方へ逃げた。応援を呼ばねば」

状況を聞かされたクローディアはすぐにシュバルツに連絡した。

 



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4 出会い 

チュニス近くの砂漠

 

 

「へっ、儲けたもんだぜ。女二人手に入れられたのはよお!」

「兄貴、もうすぐ帝国領だ。そこまで行きゃあ安心だ!」

一目散に帝国領へと走るヘルディガンナー

「あなたたち!こんなことしてただで済むと思ったら大間違いよ! 共和国から帝国に通報が入って、あなたたちもすぐに捕まるわ!」

弟のロスのヘルディガンナーに捕まっているマリアが食って掛かる。エリザベートもマリアも手を後ろに縛られている。

「うるせー!悪あがきは無駄だ!あきらめな」

ついに帝国領にたどり着いたヘルディガンナー。そこへ、

「貴様らか、女二人を連れ去らった賞金稼ぎとやらは!直ちに彼女らを解放しろ!痛い思いをしたくなければな!」

「ガオー!」

二体のヘルディガンナーの前に現れたのは、ガトリング砲を装備したセイバータイガーだった。

『この声は、もしかしてシュバルツ少佐!』

エリザベートが察する。

「へっ!何のことだ?俺たちには心当たりがないな」

クロスボウ兄弟はしらを切る。

「おねがい!早く助けて!私たちはここにいるわ!」

マリアが必死で助けを求める。

「くそっ!小娘が!こうなったら仕方がねえ!」

隠し通せずに、ヘルディガンナーからセイバーに向かってレーザー砲を放ってきた。

「砂漠使用のヘルディガンナーか。たいしたスピードだ。だが!」

砲撃をかわしながらセイバーも攻めてきた。

「それでかわしてるつもりか!?ロス、行くぞ!」

「おう、兄貴!」

すると、一体のヘルディガンナーが素早く地中に潜った。残る一体は砲撃をしながら接近する。

『地中に潜っただと?奴ら何を?』

とりあえず前方の一体に狙いを定める。

「今だロス!」

突然、迫って来るヘルディガンナーの後ろからもう一体のヘルディガンナーが地中から飛び出し、レーザーを放つ。そして再び地中に潜る。それが繰り返される。

「ぐっ!」

怯むシュバルツとセイバー。

「はっはっはっ!これが俺たちの必殺のHell and heaven formationだ!」

賞金稼ぎにしては見事な連係プレーだ。

スキを見せたセイバーに、ヘルディの尾についているブレードが迫る。

その時、一つの銃弾が遠くから放たれた!

「ぐわっ!」

弟のロスのヘルディが銃弾を喰らった。

その衝撃でコックピットのハッチが開くのと同時に、マリアの手の拘束も解かれた。そのスキに彼女はヘルディのコックピットから飛び出した。

「あっ!あの女め、待ちやがれー!」

必死で逃れるマリアに、レーザー砲を向けるヘルディ。

「止めろ!」

レーザーが放たれる直前、セイバーがガトリングでヘルディを攻撃した。

「ぐっ!くそー、あのやろー!」

そのままマリアの方に向かい、セイバーの顔を下げ、コックピットのハッチを開けた。

「君!ここは危険だ。私のセイバーにひとまず乗るんだ!」

マリアに早く乗るように促すシュバルツ。

「あ・・ありがとうございます・・」

助けてくれた帝国軍人に顔を赤らめるマリア。

『なんだろう?なんで私こんなに興奮しているのかしら?』

救われたことに胸がドキドキしている。

「一体なんだ?どっから攻撃が!?」

兄のアルバートが周りを見渡すと、

ズガッ!

「うわっ!」

また、銃弾が放たれた!

そして狙撃をした一体のゾイドが姿を見せた。

ガンスナイパーである。その後ろにはアイアンコングもいる。クローディアの機体だ。

「観念しろ!早く彼女を解放するんだ!さもなくばここで貴様を撃つ!」

ガンスナイパーに乗っているのはアルバーンである。

追い込められたクロスボウ兄弟。

「ちっ、あいつか!コングまでいやがる。このままじゃあやられる!・・くそっ、女ならくれてやる!ロス、ずらかるぞ!」

ヘルディの口からエリザベートが吐き出される。そして彼らは帝国側へ素早く逃げていった。

「あれは殿下!殿下、ご無事でしたか!」

エリザベートに近寄るセイバー。

「えっ?殿下ってどういうことです?だってあの人は」

不思議がるマリア。

シュバルツはコックピットから降りて、エリザベートの手かせを外す。

「ごめんなさい、マリアさん!騙してしまって!私は村娘じゃないの。本当の名はエリザベート。ガイロス帝国の皇女なの」

エリザベートからそれを聞いてマリアは驚いた。

「えっ!そ・・それじゃあ、私は帝国の皇族の方と一緒だったということ!」

突然のことに頭が混乱するマリア。

「もし私が皇族だと知れたら、あなたと神父さんに迷惑がかかるかもしれないと思って隠してたの。本当にごめんなさい!」

涙を目に浮かべてマリアに謝るエリザベート。

「いえ、私のためにそこまで考えてくれていたなんて。私の方こそ軽々しく接して申し訳なかったです」

今度はアルバーンとクローディアが来てくれた。

捕まっていたのが皇女と知りアルバーンは、

「まさか、帝国の皇女の方だったとは。手荒なことしてしまい申し訳ございません。もっと早く気づくべきだった」

と謝罪する。

「いえ、私は大丈夫です。皆さんのおかげで助かりました」

エリザベートは軍人たちに感謝を示した。エリザベートとマリアを連れて、一行はチュニスへと戻った。

 

 

 

 

 



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5 照れる二人 

チュニスの街にトレーラーを引っ張るグスタフが来た。そのトレーラーに入ろうとするエリザベート達。レオン神父も同行する。

「まさか、あなたが帝国のエリザベート殿下だったとは。宝石店で見せられたペンダントから気付くべきでした」

「本当にすみませんでした。騙したくはなかったのですが」

トレーラーの中に入ると、そこにはレインボージャークが乗っていた。

「レインボー!よかった、無事だったのね!」

「クエ――!」

涙を浮かべ親友によりそるエリザベート。

「すでにゾイマグナイトを与えて、だいぶ回復したようです。あとは安静にしていればいつでも飛行が可能です」

ロッドディガーの兵士が説明する。

「殿下、よかったですね!お友達がお元気になられて」

エリザベートが皇族と知り、口調が堅苦しくなるマリア。

「マリアさん、そうかしこまらなくてもいいわ。私たちも友達になったばかりじゃない」

「いえっ!お友達だなんて、殿下と私では!」

まだまだ慌てふためいているマリア。

「殿下、あと少しでレインボーは敵に見つかるところでした。彼の協力がなければ」

シュバルツがエリザベートにレインボーの保護について話した。

「あの・・シュバルツ少佐・・でしたっけ。助けてくれて本当にありがとうございます!」

「君は・・殿下と一緒にいた。あー・・いやこちらこそ」

シュバルツは顔を赤らめた。

「君が叫んでくれたおかげで奴らが誘拐犯だということが分かった。それで殿下も助けられたんだ。礼を言わなければならないのはこちらの方だ」

「いえ、こちらこそ。あっ、自己紹介が遅れてすみません。私の名前はマリア、マリア フライハイトと申します。こちらがレオン神父。ウィンドコロニーで今暮らしております」

フライハイト。その名を聞いて、思い出す。もしや彼の姉なのでは。

「私は帝国軍第一装甲師団第一大隊長のカール L シュバルツです。殿下を救って頂き本当にありがとう!」

改めて感謝するシュバルツ。

「ところでシュバルツ少佐。レインボーを助けてくれた彼ですが、その方は今どちらに?」

「彼ならレインボーを捕えようとした連中を引き付け、今は殿下がいた森の中にいます。まだ若いですが、最近わが隊に配属されました。彼の名はコウキ デモン、今の階級は伍長です」

「そのような男が少佐の部隊に。いずれ会ってみたいです」

クローディアがその男に興味を抱く。

「そうですか。その方にも、後で私からの感謝を伝えておいてください。本当にありがとう。・・そういえばマックス中尉はどちらに?」

マックスがいないことに気付くエリザベート。

「マックス中尉なら先日の砂漠の一件で、ガイサックの爆発に巻き込まれましたが、今は無事です」

「よかった!よくご無事で!」

安心し胸をなでおろす。

「それと殿下!今は御身を隠された方がよろしいかと思います。殿下を狙ったのはテラガイストと呼ばれる集団です。いつまた狙われるかもわかりません。つい先日も彼らは国境地帯で無断に軍を動かしていました。この背後にいるのは恐らくあの男、プロイツェンに違いありません!」

「プロイツェン摂政が!そんな・・忠義に熱い人物だと思っていたのに!」

エリザベートは耳を疑った。だとしたら、弟のルドルフの身も危ない。

「急ぎガイガロス近くにいる私の知り合いに連絡をします。どうか殿下はご自身の身を案じてください。ルドルフ殿下の身は我々にお任せを!」

シュバルツは急ぎ、ガイガロスへの連絡をしに、通信機の方へ行った。

「殿下、ルドルフ殿下のこと、心中お察します」

「いえ、私もマリアさんのように強くならなきゃ。少佐のお知り合いを信じるしかありません」

心の奥底では動揺しながらも、毅然とした態度のエリザベート。

「そうだわ!裏町のあの子たちは今どうしてるのかしら!?」

急に子供たちのことを思い出した。

「彼らなら、あそこにいたままです。シシリーも」

「そうですか、じゃあ彼らに少しでも食べ物を与えなきゃ!マリアさん、神父さん。協力をお願いしてもよろしいですか?」

「はい、でもどうやって?」

「私に任せてください。食材と費用ならこちらにあります」

裏町の貧しい子供たちのために炊き出しをしようと考えたのだ。

 

 

 

 

トレーラーの通信機でガイガロスの協力者に依頼するシュバルツ。

「というわけだクーリム少佐。ルドルフ殿下を頼む!」

そう言って通信機を切る。

これで何とかなるだろうと安堵する。

「シュバルツ少佐、やはりテラガイストの仕業だったのですね。だからあの連中あの森の近くをうろついていたんだな」

「というと?」

「私もチュニスでの任務の傍ら、テラガイストの動きを察知していたんです。そしたら奴らが森の近くで不審な行動をしていたので。それで私の部下たちとの小規模な戦闘がおこったんです。そのおかげもあって、あのレインボージャークの捜索が遅れたのかもしれない」

テラガイストがまた活動していたことをシュバルツに伝えるアルバーン。

「そうでしたか。であるなら、あなたにもお礼を言わなければ。殿下に変わり、私から感謝します」

結果的にはアルバーンのおかげもあって、エリザベートとレインボーの救出につながったのだ。

「ところで少佐。殿下と一緒にいた少女ですが、彼女には弟がいるそうです。もしやその弟とは・・」

「彼のことでしょう。ただ、彼女には黙っておきましょう。彼女に心配してほしくない。彼の動きも探ってみたいと思います」

「だとするなら、今はガリル遺跡の方に向かっているかと思います。あそこには、ゾイドイブに関する秘密があると言われていますから」

「ありがとうございます。アルバーン隊長!」

礼を言うシュバルツ。

「しかし、少佐。あの娘のことを気にかけておられるようで。もしかして、彼女に惚れているのでは?」

いきなりの言葉にシュバルツは、

「えっ!いやー、そ・・それは別に。ただ感謝されたことに自分もうれしく思って。それだけです」

しかし、どう見ても何か思っているということはバレバレである。

「隠さなくてもいいですよ、少佐。誰にだってそういうことはありますから」

「いや、私は‥」

照れるシュバルツを、ちゃっかりとからかうアルバーンであった。

 

 

 

 

 

 

街で必要な食材を買いそろえ、炊き出しを始めたエリザベートとマリア。裏町の子供たちを連れてきて食べさせた。

「みんな、まだまだたくさんありますよ。急がなくても大丈夫よ!」

温かい食事に喜ぶ子供たち。

子供たちが食べているのはジャガイモのスープに、カツレツ、パンケーキやソーセージなど地球でいうドイツ風の料理だ。

『こんなに美味しいなんて。なんて優しい人たちなの!』

シシリーもその食事に感激し、涙を浮かべている。

「殿下はお料理が上手なのですね。私なんかまだまだで」

「いえ、マリアさんがつくられたジャガイモのスープ、とってもおいしいですよ!」

ジャガイモのスープは彼女の自慢の料理だった。弟や村の人たちも喜んで食べていたものだった。おいしく食べる子供たちを見て、マリアは表情を和ませる。同時になぜか目から涙がこぼれる。

「マリアさん・・泣いておられるの?」

エリザベートが気付く。

「えっ!あっいえ。なぜかしら。多分弟のことを思い出したんだと思います。・・すみません、弟を思うとやっぱり心配で」

「いえっ、誰でも心配になるのは当然です。本当は私もルドルフが心配です。それでも絶対に大丈夫だって信じています」

マリアを慰めるエリザベート。

「ありがとうございます、殿下。私のために」

手を顔で覆うマリア。

「殿下!あまり外におられるのは危険では。そろそろグスタフの方へ」

シュバルツが駆け寄ってきた。

「いえ少佐。レオン神父やロッドディガーの皆さんが見張っておられます。少佐も召し上がってください」

ジャガイモのスープを渡され、それを飲むシュバルツ。

「こんなに美味しいスープは初めてだ。病みつきになりそうだ」

ジャガイモスープを気にいっているようだ。

「それを作ったのはマリアさんよ。マリアさん、よかったですね!」

それを聞き、マリアとシュバルツは同時に顔を赤らめた。エリザベートもまた、マリアがシュバルツに思いを寄せていることに気付いていた。

「えっ!あっ、はいっ!」

「そ・・そうでしたか。マリアさん、ありがとう!」

アルバーンやクローディアも加わり、彼らにも料理がふるまわれた。

 

 

 

 

炊き出しが終わり、あたりは暗くなり皆が寝静まった。マリア達は宿に、エリザベート達はグスタフに戻った。子供たちには温かい毛布が配られた。

グスタフの前で3人の男が会話をしていた。

「プロイツェンでしたか、殿下を狙っていたのは。以前故郷の村の近くであの男に出会いました。その時マリアさんのお父上がなくなられて・・。当時私は彼の部下の一人でした」

「そうか、やっぱりあんた軍人だったんだな。サイレンサー付きの銃といい、感づいてはいたが」

レオン神父とシュバルツ、アルバーンであった。

「それと、裏町のシシリーという少女が言っていたのですが、以前彼女と一緒にいた少女が青い小型の獣脚類型ゾイドを連れていたと。プロイツェンが私たちを襲撃したのも、それと同種のゾイドを奪うためでした。色は黒かったのですが。そのゾイドは恐らく・・オーガノイド!」

「はい、そうだと我々帝国もにらんでいます。奴はオーガノイドとそのシステムを使って帝国を支配するつもりです。そしてレオン神父の言うその事件でプロイツェンが狙っていたオーガノイドですが、見当がついています。それとレオン神父。マリアさんの家族に弟がいますよね。『バン』という名の少年が。彼もオーガノイドを連れている」

バンの名を聞いて驚くレオン神父。

「そうです。彼は村に迷惑が掛からないようにオーガノイドと少女を連れて出ていきました。マリアさんは平常を装っていますが、心の中では心配しています」

「彼の活躍で帝国と共和国の戦争の危機が2度も避けられました。彼には感謝してもしきれないくらいです。ですが、マリアさんをこれ以上心配させたくはない。だから、このことは彼女には内密にお願いします。我々の方でも彼の動きを探ってみます」

信頼できる人間と判断してレオン神父にそう伝える。

「分かりました。あなた方によろしくお願いします。・・ふふふ。シュバルツ少佐。マリアさんを心配していただき、また助けてくれたこと改めて感謝します。あと隠さなくてもよろしいですよ。彼女を密かに思っていることを」

シュバルツはギクッとした。アルバーンだけでなく彼にも見透かされて、恥ずかしがる。

「ハッハッハ!少佐、頬がまた赤くなってますよ!神父さんも油断できないなあ!」

「しかし、マリアさんはレオン神父の方を思っているのでは」

「確かに彼女と私は親しい間柄です。けれど、私はカトリックの神父です。心の中では彼女を愛していますが、神父である以上結婚などは考えていません。いつか少佐にマリアさんをお願いする日が来るでしょう」

「レッ・・レオン神父!い・・一体何を!?」

再び慌てふためくシュバルツであった。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

身を隠すため、エリザベート達はチュニスを後にしようとした。

共和国からもグスタフが来ていた。裏町の子供たちを保護するためである。

大勢いるためそのうち何人かはエリザベートやマリアが引き取ることにした。シシリーはエリザベートについていくことにした。

「じゃあ、マリアさん。その子たちをよろしくお願いします!」

「はい!この子たちを大切に育てていきます」

「ありがとう!あと、いつか結ばれる日が来るといいですね!!」

それを聞いて再び顔を赤らめる。

「えっ!な・・なんでしょうか?私は別に・・」

「うふふふ。出会えて本当によかったですね。またいつかお会いしたいです。それではごきげんよう!」

そう言って、エリザベートは共和国軍とともに、ロッドディガーのわずかなお供と子供たちを連れて共和国基地へと向かった。マリア達は、アルバーンらの共和国のグスタフと途中まで移動し、ウィンドコロニー付近で別れることになった。

一方シュバルツとクローディアは国境の警備に戻り、引き続きプロイツェンの監視とともにバン フライハイトの消息を探ろうとした。そのために、シュバルツは部下のコウキ デモンに依頼した。

移動中にマリアはあるものを手に握っていた。それは鳥の姿をした人間のような生き物の像であった。買い出しの際にエリザベートと一緒に購入したものだった。この像はどういうわけか知らないが、エウロペの遺跡でしばしば出土されるものだ。

「マリアさん。その像ですが、殿下と購入されたそうですね」

「はい、殿下とご一緒になったという記念で。殿下も昔ある場所でこれと同じようなものを見たことがあると。確か、東方大陸でしたっけ。レインボージャークの故郷だそうです」

その像を見て、ふと思い出した。東方大陸に移住した東洋系の人たちの間で、地球において古くから伝わる『妖怪』と呼ばれる存在の中に似たようなものがいると。それはまるでカラスのような姿をしていた。おそらく偶然だろうが、この惑星Ziにも自分たちの故郷の星、地球と似たような伝承があるのだろうと思った。

「あと、マリアさん。どうやら運命の人と出会えたようですね。私は嬉しいです」

「えっ!もー、神父様まで殿下と同じようなことを!」

恥ずかしがるマリアであった。

それを見てアルバーンは、

『やれやれ、全くだぜ』

と顔をにやつかせた。

 

 

 

一方、警備に戻ろうと帝国領へ移動するシュバルツ

『やはり、黒のオーガノイドとはシャドーのことだろう。そして行方不明の少年だが、もしやレイブンでは』

クローディアとは途中で別れて、国境の基地へと向かう。

後日彼には予定があった。それはブラックレドラーが配備されているエーベネ空軍基地での演習である。士官学校同期のラルフ少佐との演習だ。

ピーッ、ピーッ!

突然、シュバルツに連絡が入った。

「どうした、クーリム少佐か!なにっ!ルドルフ殿下が誘拐!さてはプロイツェンの仕業か!!」

プロイツェンに先を越されたシュバルツ。帝国に動揺が広がり始めた!

 

 

 

 

 




三章目が終わりました。
あまりいいできではないですが、今回は恋愛話を取り入れました。予想がつくかと思いますが、ガーディアンフォースのエース二人が後に義兄弟になるという設定も面白いかと考えました。
今回の章は非常に短期間の話になりました。また、ここでとりあげた何気ない話題も後で重要となってきます。
それでは、次回もよろしくお願いします。


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第四章 エウロペ動乱
1 ライガーゼロ 


東方大陸 とある街

 

「ふー、気晴らしにこの大陸を旅したが、野生ゾイドはほとんどいないな。大異変の影響がひどかったってことだな」

白ひげを生やした中年男は、宿を探していた。彼がいる街は、地球でいう東洋の雰囲気を醸し出しており、他の地域と比較しても個性的である。戦争がない大陸のため、経済は発展しており、いくつものビル群が立ち並ぶような都市も増えてきている。この大陸では戦争がなく、経済発展も進んでいるため、地球からの移民団が頻繁に訪れている。

「はー、エウロペもこれぐらい平和ならなあ。まあ、そのためにも俺たちが頑張らねば!ただ、今は休暇を楽しむか!」

宿泊するホテルにつき、チェックインを済ませる。

「アーサー ボーグマン様ですね。お荷物は私共がお部屋まで運びます」

「ああ、それなら俺一人で持ってくよ」

「さようでございますか。では、ごゆっくりと」

ロビーには中華風や和風などの飾り物があり、斬馬刀や青龍刀、日本刀のレプリカが置かれてある。

『あれをゾイドにつけたらかっこよさそうだな!』

そう思いながらエレベーターに乗って上の階へと移動し、予約した部屋へ向かう。クレイジーアーサーと呼ばれた男にも休息は必要だ。帝国側の停戦勧告がなされ、自信も若くないとのことで、軍上層部より休暇を勧められた。

「まったく、ハーマンからの希望だな。あいつ、そこまで俺に気を遣わんでも」

鍵を開け部屋に入り、ベッドに寝転がる。顔を横に向けると、

「なんだ、ありゃ?見たこともない像だな」

アーサーの目に入ったのは、見たこともない生き物の像である。首が長いものや、亀のようなもの、そして人間と鳥を合わせたようなものまでいる。

「これが東洋特有の像か。おもしろいもんだな!」

東洋の品物に興味を示したようである。

 

アーサーの泊まる部屋とは違う階のある一室で、

「ではよろしくな。まだ極秘での協力なのだ。正式に奴らとZOITECが契約するのは、奴らが中央大陸でことを成してからだ。そして仲介役を果たした我々も動くであろう。我々の新技術『BZ』を以てして、わが主、ジーン様のためにも!」

ひそひそと電話で話す男。なにやら怪しい雰囲気である。電話の会話が終わると、

「さて、こいつをエウロペへと送るとするか。あの若造に」

 

 

 

 

 

 

話は変わって、2日後の西方大陸

 

帝国皇太子ルドルフが亡くなったという知らせは、南エウロペの広範囲に広まった。まだ公式発表はないものの、共和国の暗殺者によって殺されたと帝国は判断している。共和国側は何度も、共和国による暗殺を否定したが、同然のようにプロイツェンは聞く耳を持たない。ルドルフ暗殺を理由に帝国が共和国を攻めるのももはや時間の問題である。危機と判断した共和国上層部は、ある一人の若者を北エウロペのニクシーへと偵察させた。帝国軍の兵器を少しでも把握するためにも。

「ふー!いくらヘルキャットと言えど、帝国の中枢の一つまでバレずに来れたのは奇跡だぜ!上層部も無茶を押し付けやがる」

ニクシーの作業員に変装し、ゾイドの格納庫へと移動する若者。彼の名はレイ グレッグ。共和国軍中尉で、ライガー乗りのエキスパート、レオマスターの一人である。ゼネバス系の出ながら、アーサー ボーグマンにその腕を見出されてここまで出世した。

『さすが、帝国の中枢基地の一つだ!ダークホーンWG、グレートセイバーにアイアンコング、そして決戦用ゾイドのエレファンダーか。こいつらが共和国に一斉に攻め込んできたら手も足も出ねえ!』

レイ自身もロブ基地の戦いで、愛機のシールドライガーDCSJと共に帝国軍を打ち負かし、基地防衛の役目を果たしていた。しかし、その戦いで愛機は中破し戦闘不能となり、引退となった。

『あいつには悪いことをしたなあ。これじゃあ少佐に合わす顔もないぜ!』

愛機に無茶をさせたことを後悔しながらも基地内を探索するレイ。

レイがこの基地に来たのは、他にもわけがある。先日、この基地より一体のゾイドが出撃し、共和国の前線部隊を強襲したのだ。ジェノザウラーである。同様のゾイドが南エウロペでも確認された。おそらく黒のオーガノイドを連れた少年、レイブンの機体だ。そのジェノザウラーは次々と南エウロペの共和国基地を破壊しながら、ニューヘリックシティを目指していた。

『ジェノザウラーのデータも見つけ出さないと。でなければますます共和国は不利になる。なんとしてでも手に入れて見せる!』

無我夢中で基地内のゾイドを確認していくレイ。小型の高性能カメラで対象を撮影していく。

『これで大方この格納庫のゾイドは撮影した。次は下の階だ』

下の階を目指そうとエレベーターに乗ろうとすると、

「おい、貴様!そこで何をしている?そのエレベーターは立ち入り禁止エリアの階に向かうものだぞ!」

後ろから銃をむけられたかのように、いきなり声をかけられた。

「すいません、迷ってしまいまして!ここへ来たのは初めてなもんで」

「作業員の待機部屋は向こうだ!」

兵士に注意され待機部屋へと向かう。

 

 

 

深夜

レイは再び下の階へと移動しようとする。防毒マスクも一応持ち、身の安全をはかる。

立ち入り禁止とあって怪しい気がした。ジェノザウラーのデータか、それとも敵の新兵器があるのか!?疑問を抱きつつ、立ち入り禁止とされた階に入った。その階にはゾイドの格納庫ではなくいくつもの部屋があり、そのうちの一部に立ち入り禁止の表示が電光掲示板に掲げられていた。通路の監視カメラを気にせず、その部屋へと歩いた。事前に協力者のハッカーに連絡し、モニター室に送られる監視カメラの映像を移し替えてくれるように頼んでおいた。

「いかにもって感じだな。こりゃ隠れ家にできそうだ」

だが、部屋には鍵がかかっている。開けるにはカードキーが必要なようだ。入れないかと落胆したとき、エレベーターの音がした。急いで物陰に隠れる。

「一体なんなんだよ、こんな夜に。しかも一般作業員が普通入れないこの階までに運び物なんて。ふわ~、眠いなーしかし」

男はかなり眠そうなようだ。あくびをしながらもカードキーを取り出して鍵を解除した。しめたと思い、持っている小型麻酔銃でその男を眠らした。その場で倒れて、眠り込む。男と運びものを中に入れてその部屋に入り、扉を閉める。中はたくさんの資料であふれていた。どうやら資料室のようである。この中にジェノザウラーの詳細なデータがあるのかと思い探してみた。だが、なかなか見つからない。どうやら目的の試料はないようだ。

その時、扉の向こう側から足音が聞こえてきた。眠った男とともに身を隠し、部屋の明かりを消した。今度は軍人らしき男が入ってきた。後ろ髪を少し結った、武骨な男だ。

「これが奴らからのメッセージか。殿下にお見せしなければ」

男は作業員が運んできたものを持って、扉ではなく部屋の奥の方へと歩いて行った。

『殿下だと?もしやルドルフ皇太子のことか?だが帝国は、ルドルフは死んだと伝えている』

レイもこっそりと後をつけていくと、男は小さな部屋の一室へと入っていった。そおっと扉を開けてみると、男が何かの機器を取り出して操作していた。すると床の一部が開いて、地下へと続く階段が現れた。男が階段を降りると、床が閉まっていく。まずいと思い、咄嗟に眠っている男の方へ付近にあった本を投げつける。

バササッ!

それに気づいた男は、慌てて引き返し部屋の中を探った。そのスキにレイは階段の方へと走って行った。男は、眠っていた作業員を発見した。その横には本が落ちていた。始めはこの男が資料でも漁っていたのかと考えたが、ふと自分がここへかけ出たときに扉が少し開いていたことに気付いた。もしや侵入者か。だとしたら今のスキをついて、階段を下りたはずだ。慌てて先ほどの部屋へ移動し、階段を下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

長い階段を急いで降りていくと、通路に差し迫った。そこを通り、エレベーターを降り、さらに通路を歩いていくと地下工場にたどり着いた。そこには見たこともない2機のゾイドが並んでいた。一つはライオン型、もう一つはゴジュラスと同じティラノ型であった。だが装甲は身につけておらず、ティラノ型の方はゴジュラスとは違いやジェノザウラーと同じ前傾姿勢である。どうやらゴジュラスと同じ変種のティラノ型ではなく、本種のティラノそのものをベースにしたようだ。もう一方のライオン型も野生体ベースのようである。どちらも惑星Ziの生態系のトップに位置する野生体で、数が少なく捕獲するにも困難を極める。

二体のゾイドに魅入ってると後ろから会話が聞こえてきた。さっきの男と金髪の若者が話をしている。

「殿下、申し訳ございません!どうやら侵入者が入ったようです。一瞬のスキを突かれてしまいました。今部下に捜索させております」

「かまわんよズィグナー。どうせいつかばれることになるだろう。帝国、共和国にばれたところで奴らには何もできん。我々もここを破壊して立ち去る。それよりも例のものはあるか?」

「はい、こちらになります。どうぞ」

先ほどの男は彼が殿下と呼ぶ男に運びものの中にあったものを差し出した。

「あれの復活はもう誰にも止められない。ならばいっそのこと私たちの力であれを止めねばならない。その後に我らの悲願を達成する。父上の本来の目的を・・な」

そう言って、男から手渡された機器を操作し、立体映像をだす。移っていたのは白髪の中年男だ。

「ヴォルフ殿下、お久しゅうございます。ジーンです。あれはお気に召していただきましたでしょうか?加えて本日は殿下にあるものをお見せします。どうぞ、このデータを!」

物陰から殿下と呼ばれた男の様子を見るレイ。いったいこいつらは何者なのか。

「おい貴様!さては侵入者だな。見られてしまっては仕方がない。この基地と共に運命を共にしろ!」

兵士が銃を後ろから向けてきてレイは両手をあげる。

「あーそうかい。それなら!」

素早く小型麻酔銃を取り出し、兵士に投げつけて逃げる。銃弾の雨の中、必死で避ける。

「くそっ、逃げ足の速い奴!」

帝国兵の銃撃をかわしてレイはライオン型のコクピットに滑り込んだ。

「こうなったら、こいつで脱出しよう!」

レオマスターであるレイがライオン型を選択するのは当然だった。先ほどの若い男の会話から、撤収作業中だったのだろう。メインエンジンには、すでに火が入っているからすぐに動かせる。すると、機体の軽やかさを感じた。

「いったいこれは!?」

脱出経路を探し、あたりを見回す。

「あそこか、あそこを通れば外に出られる!」

ゾイドが通れる通路を見つけ、そこへ機体を走らせようとすると、

「グワオ―!」

後ろから何やら雄たけびが聞こえた。振り返ると、そこにはライガーの隣にいたティラノ型のゾイドが動き出していた。

「よくぞここまで侵入できたものだな。だが貴様の好きにはさせん!」

乗っていたのはあの金髪の若い男だった。ティラノ型は牙を向け猛然と迫って来る。やられると思った瞬間、寸前でかわした。レイの感情がこの機体の野生の本能とリンクしているようだ。

「なんて奴だ!あの機体、ライガーゼロを簡単に乗りこなすとは!」

ティラノ型は顎を大きく開き、恐ろしいほどのエネルギー粒子が口腔内で収束していく。

「あれはまさか・・荷電粒子砲!」

身の毛がよだつレイ。その瞬間、レイの本能に反応してライオン型がティラノ型の方へ飛んだ。爪を向けて、ティラノ型に突撃する。今までに体験したことのない瞬発力だ。粒子砲の渦をかわし爪がティラノの左腕に傷をつける。

「よし、このスキにここから逃げるぞ!」

難なくレイは秘密工場からの逃走に成功した。

「むう、逃げられたか。あの男、ライガーと心を通わせたというのか。もしやレオマスターなのか?」

ティラノの若い男は、逃げていくレイとライガーを見ながらそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

レイとライガーは長く続く通路を走りかける。出口に出ると、前方には海岸が広まり、巨大なゾイドが停泊している。ザリガニ型の大型輸送ゾイドのようだ。物資を基地から持ち出しているようだ。

「何をしているのか怪しい奴らだな。だが一機で行動するのは危険だ。ここは退散するしかない」

機体を共和国へと向ける。その途中、見知らぬ小型ゾイドの襲撃を受けるも、上手くかわし何とか逃げ切れた。

「ここまでくれば安心だ。しかし、あのティラノと言い、さっきのカマキリやディロフォサウルスっぽい奴はなんなんだよ、まったく」

見たこともないゾイドの襲撃につかれているようだ。

「そういやお前の名前を聞いてなかったな。俺はレイ グレッグていうんだ」

「ガオーー!!」

ライオン型は唸り、モニターに自分の機体名を表示した。

「ライガー・・ゼロか。よろしくなライガーゼロ!」

 

 

 

 

 



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2 翼の男爵 アーラ・バローネ

輸送艦ゾイド、ドラグーンネスト艦内

 

ドラグーンネストはロブスター型の巨大ゾイドで、ホエールキングほどではないものの、多くのゾイドを輸送できる。ただし、その存在は誰にも知られていない、アイゼンドラグーン所属のゾイドだ。レイが見た巨大ゾイドがこれである。

「申し訳ございません、殿下!逃げられてしまいました。あの機体を奪われたのでは、我らが不利になるかと思われます」

後ろ髪を結った、軍人が殿下と呼ばれる男、ヴォルフに報告する。

「やむを得ん、ズィグナー。ライガーゼロのデータは我々にもある。共和国に渡ったとはいえど、彼らがあれを有効に活用できるのには時間がかかろう。それに私たちにはこのゾイド、バーサークフューラーがある。ジェノザウラーにも引けを取らない強力なゾイドだ」

先ほどの地下工場でゼロと並んでいたティラノ型ゾイドである。

「秘密の地下工場を帝国軍に知られずに破壊できたことだけでも良しとしよう。あのガイツ少将が疑いだしていたからな」

ヴォルフは、父であるプロイツェンを支持する将校にも隠れて行動をしていた。いかに父を支持するとは言ってもガイロスの軍人だ。自分の組織、アイゼンドラグーン以外の人間を信用できない。

「こちらはヴォルフ ムーロア。諸君にはこれよりニクスへと向かってもらう。私たちの艦は帝都ガイガロスへと向かう。そこで私は直接父上を説得する。それでも父が考えを変えなければ、そのまま帝都を後にし、ニクスで諸君らと合流する!デルポイの同志にはあれの完成を急ぐように連絡せよ!デスザウラーが復活したときのために!」

アイゼンドラグーンは世界各地で活動しているようだ。その内容は、東方大陸のとある民間企業とのパイプ作り、デルポイでのあるゾイドの開発、テュルクの新興勢力との同盟などだ。

東方大陸の民間企業とのつながりは、テュルクの新興勢力の仲介のおかげできたのだ。もちろんその新興勢力も内心は信用してはいない。自分たちに協力をしてきたのには何か理由があるのだろう。

「ヴォルフ、上手くいくのかしら?」

「アンナ、心配するな。きっと大丈夫だ」

ヴォルフの隣にいた若い女が不安げに話しかけた。

「でも、私たちのやろうとしていることはあの人を、エリザベート皇女を裏切るのと同じだわ。だってあの方はゼネバス系住民にも、そして私たちにも優しく接してくれた。なのに・・・・」

「わかっている。だが彼女は亡くなったそうだ。続いてルドルフ皇太子も死んだ。たとえ彼らが生きていたとしても、ゼネバス住民の悲願は達成できない。これからは我々が彼らに代わって平和な世を築かなくてはならないんだ!」

ヴォルフの目的がゼネバスのためを思ってのこととは理解している。しかし、アンナは底知れぬ不安を抱えていた。ヴォルフもゼネバス帝国復活を願うあまり、プロイツェンと同じようにあの魔獣に取り込まれてしまうのでは。その懸念がアンナから消えることはなかった。

「ヴォルフ!あなたが道を誤ろうとしても私がいつでも側についている。だから・・、だから決して無茶だけはしないで!」

「アンナ・・・」

アンナはヴォルフの不安を取り除くために彼を抱きしめてきた。誰もいない一室で、二人は互いを抱擁した。自分は一人ではない。幼馴染であるアンナがいるおかげで自分は自分でいられると感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

南エウロペ レッドリバー基地

 

チュニスでの騒動後、エリザベートはこの基地にて身を置いている。

「殿下!本日は殿下に合わせたい人物がおります」

基地の一室でシシリーと共にお茶を飲んでいたエリザベートの下に、護衛のロッドディガー隊員が伝えに来た。ティーカップを置き、

「それはどなたですか、一体?」

「はい、共和国の元科学者Dr. Dとルドルフ殿下と途中まで行動を共にしていた者たちです」

隊員に合図され、部屋に入ってくる3人。

「これは、これは、お会いできて光栄です、殿下。わしがDr. Dです。でこっちの二人が・・・」

「お初にお目にかかります、殿下!私はロッソ。こちらがヴィオーラです。」

エリザベートに挨拶をするロッソとヴィオーラ。彼らは元々盗賊団のデザルトアルコバレーノを率いていたが、ルドルフを誘拐後に盗賊団を解散させ、ルドルフを帝国の刺客から守っていた。しかし、あるゾイドからルドルフを逃がすために自分たちが身代わりとなったが、奇跡的に助かり、共和国へと逃走してきた。

「結果的に助かったとはいえ、ルドルフ殿下にご迷惑をおかけしたこと、誠に申し訳ございませんでした」

「いえ。もしあなた方がいなければ弟は今頃殺されていました。複雑な気持ちですが、あなた方には感謝をしたいです。その一方で、あなた方の行為は許されるものではありません」

ルドルフが救われたのはよかったが、誘拐は犯罪である。そこのところを割り切っているエリザベートであった。それでも二人には感謝もしたい気持ちでもある。

「承知しております。そこで償いとは言えませんが、彼らを護衛するため、これから帝国領内へと入ります。あるゾイドに乗って」

ヴィオーラがそう言うと、Dr. Dが格納庫へと案内してくれた。

共和国のレイノスにも似ているが、レイノスよりもプテラノドンの形態に近い飛行ゾイドだ。

「殿下、こちらがわしの開発した新型飛行ゾイド、ストームソーダーですじゃ!とはいっても帝国の設計図を情報部が奪取して、それを元にして開発したもんじゃが」

エリザベートは驚いた。帝国軍がこのようなゾイドを設計していたとは。飛行能力はレインボージャーク以上かもしれない。

「まあ!共和国には優秀なスパイがいらっしゃるのね。ふふふ、私の秘密も知られているのかしら!」

「い・・いやいや殿下・・」

エリザベートはDr. Dを揶揄う。このストームソーダーでルドルフたちをロッソとヴィオーラが護衛するのだ。

「護衛するということは、ルドルフの居場所はどこなのか知っているのね。あとヴィオーラさんが先ほど彼らとおっしゃっていましたけど・・」

「はい、ある少年と殿下は行動を共にされておられるようです。Dr. Dも途中までご一緒でした。オーガノイドを連れた少年と共に」

オーガノイドと聞いて、エリザベートは察する。

「もしかして、その子の苗字ってフライハイトでは!?」

「おや殿下!あのはなたれ小僧をご存知でしたか?」

「はい!彼のお姉さんとチュニスでお会いしたので。全くの偶然だわ。弟同士が出会っているなんて」

ロッソとヴィオーラはあのウィンドコロニーの娘を思い出した。姉は姉同士ですでに知り合いだったとは。

「マリアさんの弟さんだったら頼もしいわ。きっと無事にガイガロスまで送ってもらえるわ」

「はい。あと彼らを陰から護衛している男もいます。殿下のレインボージャークを救ってくれたコウキ デモンです」

「そうですか。すぐにでもお礼を言いたいわ」

多くの人が自分やレインボー、ルドルフを助けてくれたことに感謝しきれない様子だ。

「そろそろ、我々はルドルフ殿下の護衛へと赴きます。翼の男爵、アーラ・バローネとして。では、失礼いたします!」

「はい!よろしくお願いします、バロンさん、バロニスさん!」

格納庫からエレベーターで地上へと運ばれるストームソーダー二機。

アーラ・バローネの二人とDr. Dも地上へと移動する。

3人を見送り部屋に戻ろうとすると、

「あらシシリー、どうしたのゾイドを見上げて?」

シシリーが格納庫のゾイド達を眺めていたのだ。

「私、今までこそこそと生きていた。皆自由や平和のために戦おうとしている。でも私はあの街から出ずにいた。私以外にも苦しんでいる子供がたくさんいる。・・・・だから私もなりたいの!ゾイド乗りに!」

大声でゾイド乗りになるとエリザベートに向かって宣言した。

「シシリー、・・あなたならなれるかもね。皆を助けるためのゾイド乗りに」

エリザベートはシシリーと共に部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

しばらくしてDr. Dが部屋に戻ってきた。

「あらDr. D。お二人はもう行かれたのですね。あとお願いがあるのです。シシリーを立派なゾイド乗りにしてあげるため、共和国軍の方にお願いをしてもいいかしら?」

「なんと!そこのお嬢さんもルドルフ殿下と同じようなことを!まあいいじゃろう」

内線電話でハーマンとオコーネルに連絡して、承諾を得ることができた。

「ありがとうございます!よかったわねシシリー!あと・・Dr. D。ひとつお伺いしたいのですが、ルドルフを襲ったゾイドとは一体・・・」

「ジェノザウラーというゾイドです。わしらも詳しいことは分からないのですが、恐らく生み出したのはプロイツェンですじゃ。それをレイブンという、黒のオーガノイドを連れた少年に与えたのです」

ジェノザウラーの強さと、バンのシールドライガーが倒されたことをDr. Dより聞かされた。

「じゃが、あの小僧のライガーも生まれ変わりました。ジークというオーガノイドの力で。ブレードライガーに!」

「ブレード・・ライガー・・?」

Dr. Dはブレードライガーの誕生の経緯について説明した。オーガノイドが石化したシールドライガーと合体して光の繭をつくり、その中から生まれたのだ。

「不思議な現象ね。私も見たかったわ。でもそのゾイドとアーラ・バローネ、コウキさんがついていればルドルフも安心だわ!」

エリザベートはオーガノイドと光の繭に興味を抱いた。

「でも、そのジェノザウラーというゾイド。なんだか気の毒な気もするわ。プロイツェンが勝手に生み出し、破壊のために利用されているなんて。ゾイドはそのために存在しているのではないのに。そのジェノザウラーも本当は自由に生きたいはず・・・・」

「殿下・・・・・」

例えどんなゾイド、どんな人間であっても悪い感情を抱けない。それが彼女の優しさでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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3 捜索

前話の数日前

 

 

帝国領のとある町の酒場

「あーん、んもう悔しいわ~!なんであんな小僧なんかに負けるなんて!思い出しただけで腹たつぅわ~!」

ミルクを飲みながらおネエ言葉で悔し気に文句を言っているのは、賞金稼ぎのスティンガーである。フィッシャーマンの異名を持つ極悪非道の賞金稼ぎだ。オカマだが、切れると口調が男言葉に変化する。数日前にシールドライガーから進化した見たこともないゾイドに自分のセイバータイガーを倒されたそうで、悔し気な様子だ。

「銀色のオーガノイドなんてほっといて、さっさとメッテルニヒから金を受け取ればよかったんだわ~!そうすればあんな恥かかなくてもすんだのに~!」

「もう過ぎたことだろ、スティンガー。クロスボウ兄弟から純金を頂いたんだからそれでいいじゃないか」

酒場の主人はコップを拭きながらスティンガーを慰める。

その様子を一人の男が窺っていた。オレンジ色の髪の毛の若い男だ。

「おいあんた!その話、詳しく聞かせてくれないか!?」

「何よ、あんた!見たところ帝国軍の軍人さんね。ひょっとしてあんたもオーガノイドに興味が?」

男はスティンガーに問いかける。

「ああ、オーガノイドの力は我が軍にも必要だからな」

「いいわよ、教えてあげるわ。でもその前に・・」

「ほら、これなら十分すぎるだろ。」

スティンガーが言い終わる前に、男は札束を渡した。かなりの大金だ。ついでにミルク代も払ってくれた。

「あら、物分かりがいいわね!ありがとう!ちなみにあんた名前は?」

「俺は帝国軍のコウキ デモンだ。さあ、話を聞かせてもらおうか」

スティンガーからオーガノイドの話を聞く。

「ついでにそいつらと一緒に今行方不明の皇太子ルドルフもいるわよ。あんたにとってもいい話じゃない。ルドルフとオーガノイド!一石二鳥じゃない!でも早くしないと手遅れになるわよ。あんたよりも先にクロスボウ兄弟っていう賞金稼ぎにも教えたからね。その時にこの純金を頂いたのよ」

話を聞き終え、外に待機させていたヘルキャットに乗りこみ酒場を後にした。

「ふふふ、オーガノイドを連れてたらあのガキもただじゃすまないわね。さあてと、あたしもそろそろでなくちゃ。じゃあ親父さん、またね!」

「今度からはリスクぐらいは避けなよ、スティンガー」

 

 

一方ヘルキャットの男は愛機を砂漠へと走らせる。

『あいつ、極悪非道の賞金稼ぎとして有名なスティンガーだな。だがこれでフライハイトとオーガノイドの情報は聞けた。しかもルドルフ殿下といるとは!』

チュニスの件の後、コウキはシュバルツより銀色のオーガノイドを連れた少年バン フライハイトとその一行を護衛するように依頼された。共和国のアルバーンから彼らがガリル遺跡へ向かったことを伝えられ、彼も始めそこを目指した。しかし、彼が遺跡にたどり着いた時にはすでに彼らはそこにおらず、スリーパーのレブラプターが何体も倒れていた。数日間探したがなかなか見つからず、遺跡から一番近い小さな町にしばらく留まった。その間にルドルフが行方不明であるという情報が帝国よりもたらされた。

『オーガノイドでパワーアップしたライガーなら殿下を守れるだろう。俺が出るまでもないかもしれないが、一応陰からの護衛は必要だ!』

ロッドディガー用の回線で、ルドルフの無事を伝えた。

 

 

しばらく砂漠を移動していると、背部を破壊された二体のヘルディガンナーとそのパイロットの男たちに遭遇した。

「砂漠使用のヘルディガンナーとさっきのスティンガーの話。間違いない、あいつらだ!」

コウキは彼らがクロスボウ兄弟だと確信した。チュニスでエリザベートとマリアを誘拐しようとした賞金稼ぎの兄弟だ。

「何だてめーは!俺たちとやろうってのか!」

背の低い小太りの男がイラついた様子でコウキに迫ってきた。兄のアルバートだ。

「お前ら、クロスボウ兄弟だろ!チュニスで若い女二人を連れ去ろうとしたな!」

「けっ!それが何だってんだ!おめーもあの帝国軍人のお仲間か。なら俺たちを逮捕死に来たってのか!?」

弟のロスが銃を向けてくる。

女二人、しかもそのうちの一人が皇女のエリザベートなのだったから、すぐにでも彼らを拘束しておきたいところである。だが、

「そうしたいところだが、あいにくその余裕はなくてね。それよりもお前ら、オーガノイドを狙ってたんだってな。スティンガーとかいうオカマから聞いたぜ」

「あの野郎・・・。ああそうだぜ。確かに俺らはオーガノイドを狙った。このヘルディガンナーでな」

開き直るかのように自分たちがオーガノイドを強奪しようとしたことを述べる。

「だが見たこともねえゾイドに見事にやられちまったぜ。俺と兄貴の必殺のフォーメーションが通じなかったぜ。あれがオーガノイドの力ってやつだな」

「馬鹿野郎、ロス!余計なこと言うんじゃねえ―!相手がオーガノイドたあいえガキにやられたんだぜ!恥ずかしいだろうが!!」

弟を怒鳴る兄のアルバート。

「そんなことはどうでもいい。オーガノイドの居場所を教えろ!早くしないと手遅れになっちまう!」

「奴らならここから北西の方へ向かった。小さな町があるみたいだが、その付近には帝国軍の部隊が集まっている。さっさとお仲間に伝えときな」

クロスボウ兄弟が教えたルートは、ガイガロスへの道のりだ。ルドルフ達は間違いなくガイガロスを目指している。

「そういうことだ。さあて特別に教えてやったんだから、何をすればいいかわかるよな!?」

「ああ、わかってるよ。このまま見逃してやる」

「へへへ、話が分かる奴だなおめーは。しかし、帝国軍も落ちたもんだぜ。オーガノイド欲しさの余り誘拐犯を見逃すたあよ!」

コウキはムッとした表情を示した。バン フライハイトを守るためとはいえ、犯罪を見逃すことになるのだから。しかし、彼らを誘拐犯として拘束し裁判にかける余裕はない。また、仮にそうしてしまったらエリザベートの居場所がばれ、彼女にも危険が及ぶことになるかもしれない。ガイロス皇室を守るため、苦渋の決断をしなければならないのだ。不本意ながら愛機のコックピットに戻り、バンたちが向かった方向へと急ぐのだった。

 



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4 プロイツェンへの疑念

クロスボウ兄弟が教えた町では帝国軍の非常線が張られており、非常線の部隊がバン フライハイトの一行を捕えようとしていた。事態を察したコウキは、ヘルキャットと共に追撃部隊のレブラプターを撃破していった。その後、ロングレンジライフルを装備した黒いコマンドウルフと、見たこともないライガータイプのゾイドをトレーラーに乗せたグスタフを発見した。ライガーの側には人が3名、そして銀色のオーガノイドもいる。3人の中の幼い少年がルドルフだと確信した。

「間違いない!あいつらがバン フライハイトの一行だ。ルドルフ殿下も無事だ。しかし、あのゾイド。シールドライガーにも似ているが一体・・・」

珍しいライガーを気にするも、コウキはグスタフの跡を追った。

 

 

後日、バン フライハイトの一行はエーベネの基地にて帝国空軍に攻撃されるも、レッドリバー基地よりきたストームソーダーの助けと基地内のシュバルツの判断で、何とか危機をしのいだ。

「レッドリバーのロッドディガー隊より報告があったが、あれがストームソーダーか。ブラックレドラーなんて目じゃないな」

自分とストームソーダーの護衛があれば、バン一行も順調にガイガロスを目指せる。しかし、油断せずにそのまま一行の背後を護衛するコウキであった。

 

 

 

一方エーベネで自爆装置を作動したシュバルツは捕らわれの身となった。手かせをされ、帝都まで連行されるところだ。

「愚かだなシュバルツ!もはやプロイツェン閣下の天下だというのにまだそれを認めんのか?閣下を嫌うのは、貴様の家がプロイツェン家と仲が悪いのが原因か?」

衛兵に拘束されているシュバルツに声をかけたのは、士官学校時代の動機でもあるラルフ少佐だ。帝国空軍アイゼンベック部隊に所属し、ブラックレドラーを愛機としている。ゾイド乗りとしての腕はいいが、時流に乗るためプロイツェンを支持している。

「お前こそガイロス帝国に忠誠はないのか、ラルフ?プロイツェン家との仲など問題ではない。ルドルフ皇太子が現れた以上、殿下をお救いするのが当然だろう!?」

冷静にシュバルツは答える。

「それに奴とその周辺は以前から怪しいと睨んでいた。オリンポス基地での爆発、ロブ基地でのPK師団の行動もだが、それよりも以前だ。大異変からの復興もままならない時期に共和国との戦争を盛んに主張している。奴がプロイツェン家の当主となってからだ。何とか休戦協定を共和国と結べたが、あのままいったらこのエウロペも荒廃していたはずだ。そのことに何も感じないというのか!?」

シュバルツの指摘は間違っていなかった。ずっと前に、彼は帝国と共和国を争わせようとしていたのだ。そんなことをすれば双方共倒れになり、彼自身も無事では済まされない。プロイツェン家はガイロスでも名門中の名門である。その家系の出身の彼がなぜ、かつて亡国への道を取ろうとしていたのだろうか。

「その時は彼もまだ若かったのだから、それ故の行動だろう。反乱軍を征伐し、わが帝国がこのエウロペを統一して惑星Ziを支配するために!」

ラルフがそう主張しても、シュバルツにはまだ疑念が晴れなかった。今のプロイツェンはガイロス皇帝になろうとしていたが、休戦協定前の彼にはそんな気配など微塵もなかった。そもそも彼はプロイツェン家の人間なのか!?その疑いを捨てられないシュバルツであった。

 



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5 ライガーへの興味1

帝都ガイガロス プロイツェン邸

 

「それでは父上。ガイロスの帝位につかれるということでしょうか?」

戴冠式についてプロイツェンに尋ねるのは、アイゼンドラグーン指揮官のヴォルフ ムーロアである。ニクシーからドラグーンネストで帝都まで移動してきたのだ。

「私の帝位が不満なのか、ヴォルフよ?これで我らの悲願が達成されるのだぞ。我々ゼネバスがこの大陸を、いやこの惑星Ziを支配する時が来るのだ!」

しかしヴォルフは、プロイツェンが以前のようにゼネバスのためを思って帝位に着こうとしているとは考えられない。帝都郊外の研究所での異様な雰囲気から、まるで父が何かにとりつかれているかのような感じがするのだ。

「では、父上。戴冠式ではあれを披露すると・・・」

「そうだ!あの力を以てして、この私が世界を手に入れるのだ!息子よ。お前にもこの私のために働いてもらうぞ!」

「わかりました・・・。では早速我々もニクスへと進軍して準備いたします。我らゼネバスのために!」

そう言って、屋敷を出ていくヴォルフ。

プロイツェンはその様子をバルコニーから見送り、

「ヴォルフめ、どうやらこの私を裏切ろうとするつもりだな!まあいい。もはやあれの復活は時間の問題だ。今更誰がどうあがこうが誰も私を止められない!だろう、ドクトルよ」

「はい、閣下。まさしくその通りです」

穏やかにプロイツェンに賛同する老科学者のドクトルF。しかし同時にわずかに呆れた様子も見せる。

『はたして上手くいくだろうか。やはり同じ失敗を繰り返すのだろう』

 

 

 

 

ドラグーンネスト艦内

 

「大佐、いえ殿下。やはりプロイツェン閣下は・・・」

「ああ、もはや父上は我々と相いれない存在となった。もう悩んでばかりはいられない。あのキメラブロックスの技術もある。我々自らの手でゼネバスの再興を成し遂げて見せるしかない!」

ドラグーンネストに戻ったヴォルフはズィグナーとアンナに告げた。プロイツェンとは違うやり方で惑星Ziを統一すると。

「それと殿下。我々のディロフォース偵察隊からの報告ですが、銀色のオーガノイドを連れたバン フライハイトと名乗る少年が勇者の谷に向かっているようです。あの珍しいライガーゾイドに搭乗しているとのこと」

「そうか。確かブレードライガーだったか。勇者の谷か」

どうやらブレードライガーに興味津々のようだ。

「はい、それと行方不明のルドルフ皇太子も同行しているようです。ガイガロスを目指しているのでしょう」

勇者の谷ならそう遠くはない。すぐにでもそのブレードライガーをこの目で見てみたい。さらにルドルフの安全も確認したいという気持ちもある。

「すまないが、私はこれから勇者の谷へ向かう。皆は先に準備していてくれ」

それに対してアンナが、

「ヴォルフ待ってよ!あなたは私たちにとって大事な存在よ!あなた一人じゃ心配よ!」

「大丈夫だ。私とフューラーなら心配いらない。それにただそのライガーを見たいわけじゃない。我々のライガーゼロの開発の参考になるかもしれない。だから見に行くんだ」

「ヴォルフ・・わかったわ。でも気を付けて」

アンナはヴォルフを見つめ、彼の手を握りしめた。そしてすぐにヴォルフは愛機のいる倉庫へと向かった。その様子は、まるで皇帝になるような人物とは思えないものだった。年齢は違えど彼にもルドルフと似たようなところがあるようだ。

 



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6 ライガーへの興味2

勇者の谷

 

かつてここでは帝国・共和国のゾイド乗りたちが腕を競う闘技場が存在した。あのクレイジーアーサーことアーサー ボーグマンも参加しゾイド乗りとしての腕を磨いていた。数あるゾイド乗りの中でも最強と謳われたのが、「伝説の三銃士」とよばれる皇室銃士隊のセイバータイガー乗りたちだ。現在は一線を退き、勇者の谷近くの森の中で隠遁生活を送っているそうだ。

 

ヴォルフはまず勇者の谷にほど近い風の都と呼ばれる小さな町を目指した。ツェッペリン皇帝の保養地としても有名な場所だった。

「フューラーは目立つから、町の近くの森に隠しておくか。フューラーそれでいいだろう?」

「グゥ~」

愛機は返事として低く唸った。愛機を隠し、風の都へと向かう。

 

風の都に着いたヴォルフは衝撃を受ける。

なんと村が全滅していたのだ。ゾイドの襲撃を受けたようだ。しかし、この村にはグレン中隊と呼ばれる帝国の部隊が警備をしていたはずだ。それがなぜ。

不審に思い、住民に尋ねる。

「いったいこの村はどこから攻撃を!?」

「村を守るはずの帝国中隊が、村を襲ったんだ。我々にもなぜなのかわからん」

住民を守るべき警部隊が村を襲ったのだ。ヴォルフには信じられないことだった。

『皇帝即位、デスザウラー復活にしか目がいかない父上のせいで、末端の軍隊が勝手な行動とは。これが・・父上が目指そうとする世の中なのか』

父プロイツェンの支配の下ではゼネバスの再興はおろか、民の幸せも作れない。やはり自分たちが成し遂げねば。

「待ってくれ。私も何か手伝わさせてくれ」

「あんた、ありがとう。じゃあ、そこの木材を運んできてくれ」

復興の手伝いをするヴォルフ。

貴族としての生活ばかりだったとはいえ、周りの作業を見て何をすればいいかぐらいは判断できる。

「兄さん、ありがとよ。ところであんたどこから来たんだ?生まれ故郷は?」

「そ・・それは・・・」

すると村の子供たちが声をあげて向かってきた。

「みんなー!三銃士だよ!闘技場で三銃士の決闘が始まるよー!」

「何だって、三銃士だと!そうか!」

作業を止め村人たちは一斉に闘技場のある場所へと向かう。ヴォルフも彼らの後をついていく。

 

 

闘技場に着くと、そこには声援が盛り上がっていた。闘技場内には5体のゾイドがいるが内3体がすでに倒れていた。残っているのは金色のセイバータイガーATと見たこともないライガータイプのゾイドだ。

『セイバータイガーが三銃士なら、あのライガーはもしや!?』

そう確信すると、セイバーが背部の装備を外した。飛び道具なしで戦うつもりだ。ブレードを展開していたライガーも、刃を閉まった。二体は互いに接近し、頭部を付き合った。が、ライガーの方が力負けし、弾かれた。倒れこむライガー。そのライガー目掛けてセイバーが飛び込む。だが、

「バ―――――ン!」

観衆の中から大声がした。

『あれは・・ルドルフ皇太子!』

大声に気を取られセイバーが着地し動きを止める。そのスキにライガーがセイバーに牙を向ける。セイバーの牙が折られ、そのまま倒れこむ。

「肉弾戦とは。見事な戦いだ」

闘技場での戦いに感心するヴォルフ。観衆からは盛大な拍手がライガーや三銃士に送られる。

 

 

 

 

『やはりまだ私には足りない。アイゼンドラグーンのゾイド乗りとしてまだまだ未熟だ』

闘技場での戦いを見て確信した。あのライガーや三銃士に勝てるだけの力は自分にはないと。

「兄さんどうした?浮かない顔して。何か考え事?」

「いや、別に何も。そうだ。すまないが、もうそろそろいかなくては。これは何かの役に立てばいいが。復興にぜひ使ってほしい」

ヴォルフが出したのは少し厚みのある紙幣の札束だった。

「お・・おい、あんた!いくらなんでもこれはちょっともらいすぎだぜ!ここまでしなくても」

「いや、いいから受け取ってくれ。何とか村を復興させてくれ。では、さらばだ」

札束を渡してヴォルフは村を去って行った。

 

 

ドラグーンネストへと向かうバーサークフューラー

「バン・・フライハイトか。そしてブレードライガー!いずれ相まみえるときが来るだろう。その時のためにフューラーの装甲を完成させなくては」

父を止めるため、そしてゼネバス再興のためにはバン フライハイトに遅れを取ってはいられない。そのようでは、デスザウラーを倒すことなどできない。フューラーは格闘に特化したライガー系とは違うタイプのゾイド。それに見合う装備を模索しながらヴォルフはドラグーンネストへと愛機を走らせる。

 



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7 共和国への侵攻作戦

ニクシー要塞

 

「プロイツェン閣下の戴冠式までもう残りわずかだ。閣下からも、共和国、いや反乱軍への攻撃も命令される予定だ。すぐにでも国境付近に軍を集結させる、グローリエ大佐!」

「はっ、ガイツ少将!」

ガイツの命令で、ニクシー要塞のゾイドに出撃を要請するグローリエ。

ニクシーから出撃するのは、モルガキャノリー、レッドホーンやダークホーン、ダークホーンWG、エレファンダー、アイアンコング、レブラプターなど。飛行ゾイドとしてはレドラー、海戦ゾイドではシンカー、ウオディックがいる。

「すでにアイスマンを前線の基地に向かわせた。奴が先陣を切り開き、我々主力部隊が反乱軍を蹴散らし、この北エウロペを支配する。これで閣下に歯向かう者などでやせんだろう!」

プロイツェンに追従し、帝国内での地位を高めようと野心を抱くガイツであった。

 

 

帝国領 国境付近の基地

 

出撃命令は前線のベレッツァの部隊にも出された。しかもあるゾイドがベレッツァ隊に同行することになった。

「まさか、こんな奴と共に戦線に出ることになろうとは・・」

エインガングの面前に待機する黒い恐竜型ゾイド。

脚部にはミサイルポッドを備え、鎌のような巨大な爪が不気味さを見せる。レブラプターを大きくしたようなシルエットのようにも見えるが、遥に頑丈な体つきをしている。

「こいつが・・ジェノザウラー・・。ニクシーでの模擬戦闘で一瞬にして二体のゾイドを葬ったという・・」

プラトー博士はこのゾイドに恐怖を覚えた。その機体がまるで破壊を目的としているかのような雰囲気を出しているからだ。

「ベレッツァ大尉。リッツ ルンシュテッド中尉であります。此度の共和国への進行作戦のご協力を感謝いたします」

無表情にベレッツァに挨拶したのはジェノザウラーのパイロットであるリッツ ルンシュテッドだ。

「ありがとう、リッツ中尉。では作戦を説明するわ。まずは国境付近に共和国の大部隊が集結しているけど、そこを中尉のジェノザウラーが奇襲をかけ敵を混乱させる。そのスキに私たちが混乱した敵部隊を一気に殲滅する。言っておくけど、荷電粒子砲を使う必要はないわ。ジェノザウラーのスピードとパワーで十分敵を倒せるはずよ」

「了解しました・・・ベレッツァ大尉・・」

そのままジェノザウラーへと向かい、出撃の準備に取り掛かる。

『どうしたのかしら?いくらアイスマンの異名を持つとはいえ、あまりにも不自然よ。まるで感情のない機械のようだわ』

「ベレッツァよ。俺はあんな不気味な奴と不気味なゾイドと戦うのはごめんだ!あいつらは戦いに来たんじゃない。破壊しに来たんだ!俺にゃあ分かる。奴らの目を見てな!」

エインガングは今回の作戦を断ろうとするも、

「中尉、これはガイツ少将からの命令なのよ!もし従わなかったら私たちも反逆者として拘束されるのよ!エーベネのシュバルツ少佐のように・・・」

シュバルツが捕えられた以上、もはや帝国内部でプロイツェンに異議を唱える者はいなくなったも同然。小隊規模の自分たちではもはや何もできない。となれば、被害を少しでも小さくするために努力するしかない。幸いにもシュバルツのおかげで、共和国の一部の人間とつながりができた。ルドルフが暗殺されたという知らせをいち早く共和国に伝えたのもベレッツァだった。ゆえに、共和国はニクシーの要塞へ極秘にレイ グレックを潜入させた。さらに、今回の帝国の進撃と自分の隊による奇襲作戦、そしてジェノザウラーの出撃も共和国へ連絡済みだ。そのため共和国は国境付近へ大部隊を展開し、帝国軍の侵攻に備えるようにした。しかもその部隊にはあのデュー エルドもいるようだ。

「いい中尉。今回の私たちの目的は帝国軍の共和国への進撃を阻止することよ。そのためにあなたの力が必要なのよ。奇襲作戦に見せかけて戦闘を長引かせ、共和国の戦線の後退を遅らせるのよ。その間に共和国の別動隊が帝国本隊を攻撃する。それで帝国主力部隊の戦意を失わさせるのよ!」

確かにこれがうまくいけば、帝国も共和国侵攻作戦を断念せざるを得ない。しかし、あくまで一時しのぎに過ぎない。体制が整えば再び進行する恐れもある。だが、ベレッツァにはある期待がある。

「ルドルフ殿下の偽物が帝都を目指しているっていう情報が入っているけど、恐らく本物の殿下よ。だから、殿下を助けようとしたシュバルツ少佐は捕えられたのよ。殿下が帝都へ着けばプロイツェンの野望も潰えるわ。今はそれに賭けるしかないわ」

帝都にルドルフが現れれば、プロイツェンの皇位継承も正当性を失う。そうなればこの大陸の戦争も終結へと向かう。

「しかもルドルフ殿下と行動を共にしているのが、オーガノイドを連れた少年だそうだ。珍しいライガーにも乗っているらしい。私もこの目で見たいものだ」

プラトーはオーガノイドとライガーに興味を抱いているようだ。学者であるから当然ということにはなるが。

いずれにせよ、その少年を信ずるしかない。あとは自分たちができることをやるまでだ。

『でも、問題はあのジェノザウラーだわ。別の機体が南エウロペで共和国軍の基地を次々と落としている。しかも、乗っているのはあのレイブンのようだわ。彼も黒いオーガノイドもつれている。だけどリッツ中尉の機体にはオーガノイドはいない。何かしでかそうとしても止められないことはなさそうだわ』

少なからずではあるもののジェノザウラーに不安を抱く。何か嫌な予感がすると胸騒ぎを感じるのだった。

 



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8 虐殺竜の攻撃

帝国軍が今にも進攻しようとしていたその頃

 

中央大陸

 

「グワオ―!!」

巨大な竜が咆哮をあげる。

「くっ!なんて暴れん坊だ!ディバイソンでもまるで歯が立たない。これが野生体の力なのか!?」

バッファロー型ゾイドのディバイソンに乗った男が相手にしているのは、中央大陸の大型のT-Rex型野生体ゾイドだ。同じ中央大陸にはギガノトサウルス型やトリケラトプス型など強力な恐竜種の野生体もおり、縄張り争いや捕食のため彼らと度々争うこともある。どの種も究めて個体数が少ないものの、あの惑星大異変を生き延びた強力な野生体である。そのなかでもティラノ型はこの大陸に君臨する種だ。戦闘用ゾイドとはいえど、人間に扱いやすい機体が勝てる相手ではない。特に今相手にしている機体は、体のあちこちに傷を負った歴戦のゾイドだ。ちなみに、この種とは別にゴジュラスのベースとなった変種のT-Rex型ゾイドも中央大陸に存在する。

「隊長!ディバイソンやレッドホーンでもこいつには全く歯が立ちません!ここはいったん撤退を!」

「馬鹿もん!奴の金属細胞だけでもいいのだ!それだけあればあの方も・・ジーン様も満足する。なんとしてでも奴の体組織だけでも!」

逃げようとするレッドホーンの部下を男はしかり、乗機の背部に装備された17連砲を暴君の竜に対し向けた。

「くらえ!」

ドドドン、ドドドン

砲弾が雨のように降り注ぎ、T-Rex型は怯んだ。

「今だ!ツインクラッシャーホーン!」

グワッシャーン!!

強力な一撃だ。砲弾を何発も受けたこともあり、T-Rex型のボディーはボロボロだ。いくつか装甲の金属片が飛び散った。だが、ディバイソンの角も歪んだ。鋼鉄製とはいえ相手にした暴君竜の装甲はさらに上を行った。

「急げ!金属片を回収しろ!」

隊長の掛け声に、潜んでいたコマンドウルフが暴君竜の金属片を素早く回収する。

すると、

「ギャオ――――!!」

突然暴君の主が怒り狂った。そして巨大な顎を開き、ディバイソンの背部に迫る。

ガッシャ――ン!!

一撃で、17連砲を備えた装甲が噛み砕かれ、ディバイソンはダウンした。

「グワオ――!!」

雄叫びをあげる暴君。

「隊長!!」

「俺は大丈夫だ。なんとかな。それよりも早く金属片を持って逃げろ!これさえあれば十分だ。俺も後から行く」

隊長と呼ばれた男の命令で、部下たちは暴君竜の金属片をウルフにくわえさせ、その場から立ち去る。

『フフフ・・・ついにサンプルが手に入った。これであの方のための計画が進められる』

笑みを浮かべながら、勝ち誇った様子の暴君竜のスキをついて、男はディバイソンのコックピットから飛び出し、その場を立ち去った。

『今日の祝杯はスコッチウィスキーがいいな』

 

 

 

 

 

 

 

共和国領 国境付近の基地

 

「というわけだ。帝国の小隊が奇襲攻撃をかけてくる。その中にはあのジェノザウラーもいる。だが、帝国部隊のエインガングのアイアンコングとわが方のデュー エルドのゴジュラスの力さえあれば、止められんこともなかろうよ」

ベレッツァから受け取った報告を出撃する軍の兵士たちに伝えるのはブルーユニコンのアルバーン隊長だ。チュニスの件以後、北エウロペへ派遣されたのだ。

「ジェノザウラーか。南の方では派手に暴れながらニューヘリックを目指しているようだが、北にもいやがったとはなあ。どう相手すればいいことやら」

「同じ獣脚類型ゾイドとはなあ。だがパワーならゴジュラスが上だ!チタニウム合金の装甲もあることだ。荷電粒子砲の1、2発は耐えてみせる!」

不安そうなパリスを尻目に、デューは意気揚々と語る。

表向きは帝国軍に対する防衛だが、極秘にベレッツァ小隊との共同作戦で、帝国の奇襲作戦を失敗に見せかけて帝国本隊の共和国領への侵攻を長引かせることだ。その間にルドルフが帝都へたどり着ければ、戦争は終結する。

「ただ、我々はいいとして南の方のジェノザウラーに対してはどうしているのだろう?いくら北エウロペが守れても本拠地を攻撃されれば、我々の敗北だ」

パリスは南エウロペの戦力が十分なのかどうかを心配する。

「それについては、ニューヘリック付近に共和国の精鋭ゾイドを揃えてある。いくらオーガノイドとジェノザウラーでもそれを突破できやしない」

ニューヘリックの防衛に当たるのは、どれも精強なゾイドばかりだ。シールドライガーDC、ディバイソン、ゴジュラス。更に旧大戦で活躍したガンブラスターの復活や、ゴジュラスCAと呼ばれるゴジュラスの後継機の開発も行っている。ゴジュラスCAはゴジュラスと別系統の大型純粋種のT-Rex型ゾイドをベースとし、ジェノザウラーと同じく前傾姿勢をしている。

アルバーンはこれらのゾイドによる防衛に期待している。

 

 

 

格納庫

 

「戦争が終わったら、スコッチを楽しみたいぜ。なあ、ゴジュラス!?」

「グゥ~」

愛機は低く唸った。

「ジェノザウラーか。どんな奴なのか、早く相手にしたいもんだぜ!」

「グゥ~~~!」

唸り声が大きくなった。

彼自身も今回の相手との戦いを待ち遠しく思っている。

「まったく。今までの相手とはわけが違うってのに、お前とお前の愛機は何を期待してんだ」

今にも帝国が攻めてくるといううのに、ノー天気な奴らだと呆れるパリス。

すると、

「敵ゾイド接近中!直ちに出撃せよ!繰り返す。敵ゾイド接近中!直ちに出撃せよ!」

警報アナウンスが鳴り響く。

「ついに来たか。出るぜ!」

 

 

 

共和国軍の前に現れたのはたった1機のゾイドであった。だが、北エウロペの兵士たちにとっては、初めて見る機体だ。頭部は小さいものの、鎌のような爪を持ち、不気味な視線を共和国軍に向ける。その姿はまるで死神であった。

「あいつが…ジェノザウラーか」

初めて見るその機体の姿に兵士たちは今まで感じたことのない恐怖を持った。

こいつとは戦ってはいけない、そのような負の感情が自然と出てくるのだ。

しかし、その中においてもこの男だけは違ったようだ。

「あいつがジェノザウラーか。強そうな機体だが、俺の敵じゃあない!」

初対面の黒い竜に対しても脅えることなく、平然と立ち尽くすゴジュラスと、主のデュー。

両者がにらみ合っている間、最初に動いたのは虐殺竜の方だった。脚部のブースターを吹かしながら迫る。

「来やがったな。いきなりゴジュラス狙いとはな。」

ゴジュラスに到達する直前に、右腕の爪を振り上げ、そのままゴジュラスに向ける。

が、

「そんなひ弱な攻撃、ゴジュラスに効かねーよ!」

ガシッ!!

鎌が迫る直前に強靭な尾でジェノを側面から薙ぎ払い、横倒しにした。

「グアッ!!」

腹部のコックピット内のリッツは声をあげる。いかにジェノザウラーが強力とはいえ、戦闘経験を積んだゴジュラスに対しては分が悪かった。鈍重なゾイドだと甘く見ていたところがあった。

「へっ!新型とはいえ、力ならこのゴジュラスの方が上だぜ。大人しく降参しろ!」

配下のガンスナイパーを引き連れ、虐殺竜へと向かう。

「ふっ、さすがゴジュラスだな。模擬戦でのあの二体とは格が違う。ならば・・」

機体を起こして、再度ブースターを吹かし突進する。今度は背部のパルスレーザー砲を向けながらゴジュラス達に迫る。

ズガン、ズガン!

「こちらも撃て―!」

ガガガガガッ!

ジェノに対して砲弾を放つも、その素早さゆえにことごとく避けられ、ガンスナイパーやコマンドウルフたちが次々と撃破される。ゴジュラスも集中的に攻撃を浴びせられる。

「なかなかやるな。だがそっちがそうなら、こっちも!」

「グワオ―!」

咆哮をあげ、攻撃を受けながらも愛機を突進させる。そして巨大な口をあけ、虐殺竜に向ける。

「くらえ―!」

が、黒い竜を捕えられなかった。上空へと高跳びし、ゴジュラスの背部に立ち牙を向ける。ゴジュラスは振り向いて、今度は力強い腕で阻止しようとするが、ジェノの牙に捉えられてしまう。

「こいつ、離しやがれ!」

必死に振り払おうとするも中々外れない。ゴジュラスほどではないものの、接合力もかなり強い。

すると背後の要塞の方にて、轟音が響いた。

ベレッツァ大尉の部隊による攻撃である。

「やっと来たか!よし、反撃開始だ!」

「グワオ―!」

グンと思いっきり腕を振り上げて、かみついて離れないジェノを叩きつける。

グアシーッ!!

ジェノの牙が腕から離れた。

「これからが本気の勝負だ!」

 



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