月が揺蕩う復活譚 番外編 (マスター冬雪(ぬんぬん))
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IF 月は朧になりて

四月バカ企画。(四月とは言っていない)


此処は─────何処だ?

 

 

 

赤黒い雫を鋼から滴らせ、男は緩慢に辺りを見渡した。

何処も彼処も赤黒かった世界は一転し、非自然的な真っ白い人工物が聳え、申し訳程度の草木が(かいな)を広げている。

ほつり、ほつりと敷き詰められた黒い道に紅が滴り落ちる。

空は雲で白く染め上げられ、然れど明るく、景色も相俟って男は酷く浮いていた。

 

くるくると瞳だけを廻らせて幾許いくばく、漸く男は気付く。

 

 

 

「……嗚呼、渡ったか」

 

 

 

(りーん)、と、刃金が鳴る。

 

 

それはまるで静かな水面に波紋する水滴のような、はたまた楽器のような、反響する冷たく斬り裂く刃音。聞いた者の肌を冷たさに荒立てる、艶やかな魔性の鋼。

緩やかな弧を描く刀身は鈍く冴え。

その刃は鋭く。

しとりと、濡れる、刄。

 

 

ぴしゃり、と、赤が地面に模様を描く。

男は得物を払い、腰元の鞘へと収めた。

刃鳴りはなく、よくよく手入れされた刃は静かにその姿を隠す。

無機質な風すら洗い流せぬ血霞を纏い、男は自身の身を濡らす流血に不快を覚え、眉を寄せながら(ぬめ)る掌を握った。

男にしてみれば、血化粧は嫌わない。唯、興味すらなかったが。

 

美しく染め抜かれた月夜色の着物は今や終末の赤黒。

金の装飾は赤錆。

然し、その瞳に浮かぶ三日月だけは、変わらず美しく下弦の月を輝かせていた。

 

薄く、細く、長く。倦怠に息を吐き出し、男─────三日月宗近の皮を被った悪霊は(のろ)う。

 

 

「修羅となれ。剣修羅となれ。果てまでゆけ。弔え。積み上げろ」

 

 

男の目には何ひとつ映らない。

 

あるのは黒き煙を吐き出す桜木と、崩壊した幸福。

残酷な程に美しき、血塗れた終宵(しゅうしょう)

彼はあの箱庭で時を止めた。

 

ただ、ただ、骸を。

菩提を弔う為に、血肉を捧げ続けている。

 

 

宿りしは修羅。荒御魂と化すには穢れ過ぎてしまった。

終わりし修羅。重ねるべき死骸の判別も出来ぬ程に曇ってしまった。

故に、剣修羅。最早斬り捨てる事しか出来ぬ。

 

然れど。然れどその残骸はあまりに美しかった。

神剣の無念と激情を全て孕んだ、一体した肉塊は。その様は。

 

抱きし誇りも注がれた想いも何もかも、黒く煤けてしまったのだ。

残るのは思い出だけ。彼はそれを糧に息をし、笑い、斬り裂いている。

 

 

怨霊、三日月宗近。

まざりもの。

一身複刀。

神にはなれず、人でもなく、刀。

 

……それが男の正体。

 

故に、男は(のろ)う。

 

「刀剣の神に捧げるに相応しいのは、血が湧き、肉が滴る死闘。果てまでゆけ。この身をその果てへ。それを以て贄となる」

 

この世界でも弔う為の骸を掻き集めるべく、より強き者との死闘を演ずるべく、男は顔を其方へ向けた(・・・・・・)

 

 

 

「─────やあ、覗きとは良い趣味をしておるな?」

 

 

 

見開いた紫目を覗き込んだ男は、瞳の三日月を歪に歪ませて、にこやかに血塗れに笑った。

 

「……覗きだなんて心外だなぁ」

 

動揺を抑え込んだ真っ白な青年は、真っ黒に染まった男を見上げて口角を上げた。

 

「物騒な気配がしたから見に来たんだ。ねえ、キミ、何?」

 

何。と、青年は問う。

誰、でも、名前は、でもなく、その存在自体を問うたのだ。

それが無性に面白く感じて、男は青年の無垢に麗しく微笑んだ。

 

「俺は刀だ。斬り裂くもの」

「カタナ?ふーん」

 

面白そうだと青年も目を細めて笑う。

 

「キミみたいなモノとは初めて会うなぁ。これはとても凄い事なんだよ」

「ふぅむ、そうか」

 

男の声音は青年の言葉に大仰に驚いてみせたが、その瞳は凪いだままだ。つまるところ、その点では大した興味を抱いていない。

何かを見極める、もしくはその様を待っている。それは予感を抱いてこそ。

 

「カタナって、ジャッポーネの剣の事だよね。キミ自身が剣なら、それを使うニンゲンはいるのかい」

「いや、おらんな。俺は妖刀の類ゆえ、担い手すら斬り裂いてしまう。俺の主共は……それは、それはもう、か弱くてだなぁ。アレらでは果てなど見れる訳もあるまいて。俺()が見たいのは死闘。己の命を捨てられぬ者に俺()を使う資格などない」

 

そうしてころころと笑いながら、何処か不可思議な妖しさを身体中から吐き出して、鳴るように声を零す。

 

その狂気をなんと見たか、白い青年はとても嬉しそうに笑ったのだ。

 

「いいね、キミ。狂ってるよ」

「……ははははは!!」

「何がそんなにおかしいの?僕変な事言ったかな?」

 

不思議そうに首を傾げる様が重ねて面白かった。

"言われ慣れている"、とも、─────"お前が言うのか"、とも。

笑いの収まらぬ男は囁く。

 

「ふふ、お主、見える世界は平面か?」

「!」

「なんという様よ、皮肉なものよ。お主をお主たらしめたその力が、お主をその様に貶めたのだ」

 

無遠慮に青年を嗤い、男はいっそ灼熱すら込めて唆す。

 

 

「斬るか、斬ろうか。その様を」

 

 

鋭き刃のように口を歪ませ、真っ赤な口腔を覗かせる。

 

それは地獄のような有様で、それだけで常人は、男が埒外の方向へと進んでしまっている事を思わされるだろう。

 

それはおそらく修羅道で。

至ってしまえば終わるのだろう(・・・・・・・)

 

凛と、刀が哭く。

 

 

「んー……僕はまだやりたい事あるし、それはお断り」

「それ()?」

「キミさ。僕に付いて来なよ」

 

 

青年は笑う。

青年の皮の下、白き悪魔が嗤う。

男はまるで白痴のように、首を傾げてみせる。

 

 

「俺は斬るのだぞ?」

「うん」

「お主に仇為す敵も、お主を守る味方も、お主が守るものも、お主自身も」

「うん」

 

青年は白く言い放つ。

 

 

「だって、どうせ斬るんだよね?」

 

「!……ふ、ふはは、あははははははははは!!」

 

 

男はその答えを大層気に入った。

 

「面白いなぁ、人間とは。自殺志願でもあるまいし、俺のような妖刀を使いたいなどと」

 

涙が滲む程に高笑った。

 

 

「嗚呼、嗚呼、いいとも。俺はお主の刃となろう。この刀がお主自身を斬り裂くその時まで」

「じゃあ、決まりだね」

 

 

 

歓迎するよ─────僕のミルフィオーレファミリーにね。

 

 

 

 




ここからアヤマツ闇堕ちミカさんの血塗れライフver.ミルフィオーレ。

このミカさんは『本丸が落ちて復讐に走った刀剣達の怨念を受け入れた名もなき幽霊と、哀れんでその身を彼に与えた朋友』のその後の話。

前のやつを再掲載。


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IF 月は朧となりて 2

またなんだ、すまない。
そんな訳で耐えきれず朧書いちゃいました的な。
まだ続きそうですし唐突に終わる。


チョイスという遊び(・・)。詰将棋のように順当に王手を掛けた我が主は、外から盤をひっくり返されたことに大層腹を立てている。

 

取り返せ。奪え。全てを握る鍵を。

 

そう命ぜられ、俺は一筋の血風となって疾走る。

が、そう簡単にはいかぬようだ。道を遮られたと同時に己が得物を振るう。きぃぃん、と鋼同士が合わさる不協和音を轟かせ、……漸く自分の欲求が満たされると笑みを乗せた。

その横を緑が過ぎ去っていく。あゝ、アレに任せておけば万事良かろうて。アレは主に忠実な犬。なれば俺はこやつの相手をしていいだろう?

 

つ、と。其方に目を戻す。

剣の冴え。動き。剣に宿る魂。そしてその色。

間違いなく剣客。良き手合いである。

 

「ぐ……っ!てめぇ、何モンだぁ゙……!?どれだけ斬りゃあここまで成り果てやがる?!」

 

蒼の輝きを帯びた銀の剣は、先程の遊戯で見た燕剣に競る程美しく殺伐としている。

 

「ふ、斬り合いに言葉など……無粋ではないか」

「ああ゙?!」

 

だが、まだ若いな。笑みを滲ませるとその鈍い(しろがね)(まなじり)を更に吊り上げた。

 

「俺が何者か等どうでも良い。─────さあ、月に踊れ。この俺のように血に酔い、闘争に浸ろうではないか」

「っ、」

 

狂気は伝播する。然れど銀はそれを良しとしないようで、視線を断つ事で拒否されてしまった。

 

「……あなや。振られてしまった。ツレない男だ」

 

一見、淑やかに笑ってみせる。なれば戯れようか。幼子のように。

それにしても……残念だ。()れてしまえば、お主も愉しかろうになあ。目の前の剣戟を楽しめぬ剣士が酷く哀れに思う。モノを抱えるとそう(・・)なる。

修羅に成れぬ、俺とは異なる意で、愚かで、哀れな者。

 

 

いっそ脆く壊してしまおうか。それも一興やもしれぬ。

打てば鳴る鋼の音色(こえ)に耳を傾ける。

 

 

─────左、右、左。

─────突き、逆袈裟、振り下ろし。

 

 

背後に気を散らした瞬間を、三度(みたび)は見逃さない。

 

「ほぉら、爆ぜた」

 

「がっっ!?」

 

 

刀の柄頭で蟀谷(こめかみ)を打ち据えた。俺の刀は円や弧を辿るゆえ、打ち据えれば人外の膂力なくしても脳を揺らす。

 

「若いし、甘いな。故に愛い」

「く、そ……っ、抜かせカスがッ!!」

 

早く身を起こせ。剣を構えろ。

 

「堕ちぬと云うなら鮮烈に魅せてみよ」

「っ、」

 

「それとも、─────お主が替わるか?」

 

 

俯かせた顔を向ける事なく、殺意が描く線にそっと刀を置いてやるのだ。

 

がきり。今度の音は酷く鈍い。

荒々しい獣のような殺気。

 

「……分かりやすくてならんな。が、お主も先の戦いに加われず不完全燃焼と見る」

「ごちゃごちゃ煩いね、キミ。……!」

「お主こそ。本気で殺らぬ癖に手出しするなど、まなぁ(・・・)がなっておらんぞ」

 

黒髪を宙に舞わせ旋棍(トンファー)を振り被る、漆のように艶やかな子ども。

 

不愉快。不愉快だ。不愉快よなぁ。

得物を掬い上げるように弾き飛ばし、その素っ首目掛けて月色の剣を閃かせる。

 

「地に伏せよ、獣。貴様に用はない」

「ッ!?」

 

紅い血を撒き散らせば、幾らかは俺()の渇きを癒せるだろう。

 

「ッ退けぇ゙ヒバリ!!」

 

突き飛ばされた標的は腕を浅く斬られ、その側面を跳ね上げるように剣がぶつけられる。

 

「おお、護るのか?面白いな」

「何がだクソッタレぇ゙!!」

「ふふ、なに。唯の戯れよ……

───そやつを今より斬り殺す」

 

「「!!」」

 

「故、死ぬ気で護れよ?」

 

そら、と。弾かれた勢いを全身に行き渡らせて、鋭く円弧を振り抜く。それを苦し紛れに受け流した銀の男。

 

「ははは、まだ往くぞ?抗えぬならば散れ。さもなくば耐えてみせよ。時間稼ぎでもよかろう、俺は寛大に赦してやるさ」

「狂犬が、ナメるなァ゙!!」

「狂犬とは……はははっ。人など皆皆獣よ、俺も、───お前も!」

 

ああ、あゝ、嗚呼。愉しいなぁ。

執拗く漆の子供に向けて刀を振るう。銀はそれを弾き、邪魔だと吼えた。

 

「っ!調子に、乗るな……!!」

 

漆の子供から放たれた紫の焔を宿した銀閃に、俺は漸く子供を見る。

 

「斬るか、斬ろうか、何もかも」

「ぐ……ッッ」

 

呪いのような言の葉に、銀は漆の子供の首根っこを掴んで大きく飛び退る。

 

と同時、独特の音を響かせた上空の機械が彼ら全てを飲み込んで光と消えた。

 

 

 

 

「ああ……消えてしまったか」

 

今回のところはお主らの勝ちで良い。

己が頬に飛んだ血を指で掬い、口角を吊り上げる。

 

「次は主らの頸を貰うとしよう」

 

その次は、見事幻騎士を討ち取ったあの淡い青色の炎を纏った子供だ。命を奪う事を厭い、潰える様を悲痛の面持ちで見ていたあの燕剣が……憎悪に塗れて俺を殺しに来ると思うと、酷く胸の奥が高鳴る。彼ならば俺()に心躍る剣戟をくれるだろう─────

彼の父親のように。

 

「であるならば……奴らの首魁。沢田綱吉を殺めるのも手か、」

「三日月」

「……うん?ああ、桔梗か」

 

浮かぶ凶相を指摘されて顔を片手で覆う。

 

「……戻りましょう。白蘭様に報告せねばなりません」

「ああ。そうであった。姫君が奪われたのであったなあ」

「まさかとは思いますが、今の今まで忘れていたと?」

「あいやすまん。あやつら、中々に通してくれなんだ」

 

ついつい夢中になってしまった。正直に言えば、姫君なんぞに興味の欠けらも無かったのだが。

それを察したのか、桔梗は重く溜息を吐いてやれやれと呆れてしまった。

 

「行きますよ」

「うむ」

 

 

 

 

 

「三日月」

 

一刻も早く姫君を奪え、と。

姫君を貶し殺してしまえと無邪気に言ったブルーベルに、煩わしいと言わんばかりの殺意を向けた我が主は、薄ら寒いばかりの昏い声音で俺を呼ぶ。

 

「なんだ、我が主。一刻も早く姫君を連れて欲しいのだろう?」

「キミ……遊んでただろ」

「何故?」

「キミが本気を出せば、アイツらなんて一瞬で細切れだった筈だ」

 

心底恨めしいと言いたげだ。

俺は酷く可笑しく思えて、声を上げて笑った。

 

「これはこれは異な事を言う。……お主、これは遊戯(ゲーム)なのだろう?主は指し手(プレイヤー)、我らは(キャラクター)。此処は真に最終局面に相応しいか?弁舌で丸め込むよりは、奴らに一手差し向けてやった方がよりらしい(・・・)ではないか」

「……」

「笑えよ我が主。遊戯は楽しまねば。もどかしさも一興よ。俺は主が楽しむその一端を味わっているに過ぎんぞ」

 

奴らは袋の鼠。これより第二回戦、完膚無きまでに叩き潰して勝利の美酒に酔いしれよう。

 

「……ホントに、キミは無駄口が多いね」

「ははは、お褒めに預かり恐悦至極」

「ふふ♪褒めてないよ」

 

いつもの笑みを浮かべた主はその指でマシュマロをひとつ摘む。

 

「いるかい?」

「うむ。賜るとしよう」

 

さあ、我が主。(人斬りの刀)は主に捧げよう。

勝利を、姫君を、そして奴らの首級を。

叛逆するもの全て頸を撥ねて、主の前にて並べ立てよう。

─────故に命ぜよ、我が主(担い手)よ。

 

「奴らを殺せ」

「─────拝命仕った」

 

参ろうか。

屍山血河築き上げた後の、躯の上の玉座に座る白き悪魔は、酷く空虚で美しかろうて。

 




そんな訳でした。ふあーちかれた!後で変えるかもーっと


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25話のボツ〜21の刺客 三者会談〜

25話のボツを供養。途中まで書いてやっぱやーめーたってしたやつ。唐突に始まって唐突に終わる。
カッコイイ西川(桃巨会会長)が見られるのはココだけ(誇張)


2人は桃巨会の巡回に、2人は雲雀殿率いる風紀委員会及び警察に、3人はCEDEFの日本支部構成員に。

それぞれ捕縛、尋問がされた。全勢力が送られた刺客の人数は把握しただろう。

 

桃巨会も風紀委員会も自分のシマが荒らされたと怒り狂っている。前者は先月送られてきた刺客を粉々にして沖にバラ撒いた時から抑えていたのだが、それは雲雀殿の預かり知らぬ事。今回で初めてだと思っている。

そしてCEDEFだが、こちらも漸く刺客の規模に気付いたところだ。しかも本国に連絡を入れる直前まできている。

ここで満を持して、並盛町の裏を制する桃巨会が声明するのだ。

 

"我々は他国より攻撃を受けている"、と。

 

 

「共同戦線と行こうではないか」

 

 

 

 

 

並盛駅前にある高級ホテル。その最上階のVIPルームにて、並盛町に存在する3つの勢力が円卓にて合間見えていた。

 

1人は黒髪を後ろに撫で付け皺のないスーツを着こなす、顔に傷を負った男。彼の傍には2人、護衛が立っている。

 

1人はまだ幼さの残るが、鋭い眼光を切れ長の目に宿す学ランの少年。彼の傍にはリーゼントの彫りの深い顔立ちの青年が立つ。

 

そして、2人の部下を控えさせた金髪の偉丈夫が1人。

 

 

「……ねえ、早く本題を話してくれるかい」

「まあ、待て。儂らは顔見知りじゃが、そやつの事は先生以外に知らんじゃろうが」

 

窘められるような口調に学ランの少年は口を噤む。

少年は殺気を帯びながらじとりとオールバックの男の隣を睨み付けた。

その視線だけではないだろう、睨み付けられたフードの男は口角を皮肉げに吊り上げる。

終始疎外される金髪の偉丈夫は遠巻きに部外者と罵られるような空気に僅かに眉間に皺を寄せた。

 

「疑問の声もあろうな。故に今一度自己紹介でもしようか」

 

オールバックの男の傍に控える黒ずくめ、肌の露出は顔半分のみの青年が不遜に笑う。

 

「……君、名乗るの好きなの」

「所属が分からねば話にならん。名乗らねば帰ってもらって結構」

 

機嫌悪く鼻を鳴らした少年は口を開く。

 

「ならそこの奴から名乗らせて。僕の並盛に潜伏してた理由、キッチリ話してもらわないと」

 

その後咬み殺すと言わんばかりに剣呑に睨み付ける。

 

「では、宜しいか」

「ああ……」

 

気を入れ替えるようにふと息を吐いた偉丈夫は名乗る。

 

 

「イタリアンマフィア門外顧問機関所属。当代門外顧問、沢田家光」

「……風紀委員会委員長、雲雀恭弥」

「構成団体十七統括、桃巨会会頭、西川智」

 

そして最後に、黒ずくめの男が口を開く。

 

「桃巨会特別外部相談役、プルトーネ」

 

では、各々情報の開示を行おうか。

 

 

 

「今回この場にて集ってもらったのは他でもない、この町が攻撃を受けている件についてだ」

「……尋問では誰かの暗殺って聞いてるよ。その標的だけはいくら嬲っても話さなかった」

 

どうでもいいけどね、そんな事は。雲雀は吐き捨てる。

 

「儂らも同じじゃて。折ろうが潰そうが口を開かんけぇ、1人潰してしもうてのぉ。裏に大層でかいモンが控えとる言う事じゃろうなぁ?」

 

勿体無い事をしたと冷笑する西川。

それらを受けてCEDEFの頭である沢田家光は黙する。

 

「合計で21の刺客が送られていると見たが、……ああ、そう言えば私の元にも身の程知らずな若造が2人程来てなぁ……撫ぜてやれば脆く壊れてしまった」

 

プルトーネは自分の持つ情報を開示すると共に、新たに2人仕留めたと口にしてくつくつと笑う。

 

「じゃあ、あと12人ってこと?潜伏場所と顔は?……君が僕を呼び寄せるんだ、全部分かってるって事でしょ」

「然り」

 

プルトーネの情報網に冷汗を拭う沢田家光は、フードの陰から覗くプルトーネの眼光に鋭く目を細めた。




はいおしまい。全カットして内容変えてたんだぜ!!めんどくさくなったとも言う!!この時点で雲雀さんと家光パッパ会わせちゃうとリング戦でめんどくせーと思って!!!
番外編だから短くても堪忍な

月は朧となりて書きたいけど取り敢えず本編を未来編まで書いてからかなあとかなんとか供述しており……(デデドン)
書いちゃった(にっこり)前のページに2話目入れてますので宜しければどーぞ。

実は別の世界に移動したミカさんの方もちょこちょこ書いてたり……出来次第こっちにあげます。もうちょいだから……もうちょいだから……!
タイトルは『月、漂いて海に眩む』。ぶっちゃけタイトルで次の世界がなんなのか察せるっていう。……原作持ってないんだなあこれが。いやぁ困った困った(あっけらかん)


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月、漂いて海に眩む

ミカさんが復活から海賊へ、みたいな試作品です


 

「……さて」

 

人の一生は短きもの。

人ではない俺は主殿や彼らとは時を同じくする事は出来ないのだ。

故に俺はただ、流れるのみ。

手には荷物を包んだ青の風呂敷、腰には布で覆った刀(半身)。

三、四十年であったが、いつもよりも長く世話になってしまった。……老耄はもう去るべきだ。

見慣れた自室は初めに見た時より、何度かの改装で新品の匂いがしたが、あまり変化のない過ごしやすい場所だったもの。今や伽藍としておるが。

ふとデスクに置きっぱなしにしてあったリングを手に、ボスの部屋へと足を向ける。

 

 

 

 

 

「あ、やっぱり来たんですねー」

「うむ。来たぞ」

 

青竹色の髪と目を持つ男が間延びした口調で話しながら、デスクに伏せていた顔を上げた。

 

「相変わらず年齢のわからぬ姿をしているな」

「そりゃアンタが言えた事じゃないですよねー、妖怪ジジイ」

 

妖怪ジジイだぞ〜、なんてな。うむ。不変故事実だしなあ。

からからと笑えば男は少し不満そうな顔をしていたが、ふと目を伏せて頬を綻ばせた。

 

「アンタには面倒掛けましたね」

「ん?どうした、突然」

「いえ、別に。……この機会を逃せば伝える事すら出来なくなるでしょうから」

 

幼い頃から見ていたが、まさかこんな殊勝な物言いをするとは。10にも満たない頃は生意気で、ことある事に当時の幹部らに毒を吐いていたのだが。

ああ、今も変わらずか。

 

「俺も世話になった。長々と居座ってしまったが、そろそろ潮時だと思ってな」

「でしょうねー。定年退職ってどころじゃありませんけどー、……今までお疲れ様でしたー」

 

手渡した雲のヴァリアーリングを指先で摘み上げた彼は、─────それに引き出しから取り出した革紐を通し、再び俺の手に乗せた。

 

「おい、」

「それは退職金代わりに持っていけばいいと思いますよー。新ヴァリアーリングは発注かけてますしー、現にボス……ザンザスさんも堕王子もアホのロン毛元隊長も変態クジャクオカマも変態雷親父も、みーんな全部持ってっちゃったんですから」

 

お蔭でミーのは型落ち品か、性能だけがぶっ飛んだ粗悪品ですー。そりゃ、ヴァリアーリングはマーモン先輩の金で作らせたものだから仕方ないかもしれませんけどー。

 

「はは……、まあ、なんだ。お前くらいだぞ?ヘルリングを粗悪だの型落ちだのと言うのは」

「事実でしょー。こんな持ってるだけで呪い殺されそうな指輪、何度砕いてやろうかと」

 

666のヘルリングはかつてのボスから、瞳のヘルリングは彼の師匠から。残像骨のヘルリングは敵対ファミリーからの押収物で引き出しの中。2つのヘルリングを指に嵌めて、時に3つのリングすら操る彼は、まさに稀代の術士と言っても過言ではない。

であるからこそ、彼はヴァリアーのボスに成り上がれたのだろう。

 

「って事で。はい。ミーの率いる新生ヴァリアーにはそんな旧型リングは要りません。……はーぁ、新しい雲の守護者、探さないとですねー、」

 

暗殺部隊ヴァリアーは絶賛人手不足です、と彼は下敷きにしていた書類を顔でぐちゃぐちゃにしていく。

 

「はっはっは。まあ、若い内は苦労するだろうよ」

「若いって、ミーはもうすぐ四十路ですよ。妖怪ジジイと一緒にしないでくださいー」

「む、もうそんなになるのか」

 

リングを受け取って首に掛け、その手で彼のだいぶ伸びた髪を撫でる。

 

「俺がいなくとも、お前ならば大丈夫だな?フラン」

「当たり前ですー。寧ろせーせーしますよ、ミカ」

 

なれば良し。

踵を返そうとしたところ、フランはそのままの体勢で口を開いた。

 

「……ひとつ、いいですかー」

「うむ、なんだ?」

「ミーは、ちゃんと……貴方の主になれましたか」

 

俺はふと、頬を綻ばせると、姿勢を正して布に包まれた刀を掲げる。

 

「ああ。お主は間違いなく、天下五剣がひとつ、三日月宗近の主である。誇れ」

「……」

 

腰に刀を戻し、挨拶だけではつまらぬと、俺は懐から短刀を取る。

 

「守り刀だ。餞別に受け取れ」

「……餞別って、普通ミーが贈る側じゃないですかー?」

「細かい事は気にするな。指輪なら受け取った。……大切にしてやってくれ」

 

今度こそ、俺は踵を返し、執務室から出た。

 

 

 

 

 

「……もしミーが、行かないでって言ったら、……行かないで、くれませんよ、ねー……」

「何しょぼくれてるのさ。情けない」

「……マーモン先輩、」

 

フードにマントといった真っ黒の姿で、部屋の片隅から現れたのは、漸く30代の姿になったマーモンだった。見た目は十数歳から全く変わりないのだが。

 

「挨拶、してこなくてよかったんですかー?親密だったでしょ、」

「先先日には済ませてあるよ」

「そーですかー……あれ?あの人には幻術効きませんでしたよね?先輩が此処にいたって事はあの人にはバレて……あいたっ!」

「ほんっと、最初から最後まで腹立たしい奴だったよ!ここまで術士を馬鹿にしたような存在は初めてだ!」

「ミーに当たらないでくれます?……、……でも、だからこそ、」

 

 

いつもミーを見つけてくれたんですよ、あの人は。

 

 

 

 

 

 

境界の揺らぐ場所に辿り着いたのは結構前になる。

その時はまだ、フランの率いるヴァリアーが始まって間もなかった為、此処に踏み入る事はなかった。

人手不足も極まれり。一般隊員は兎も角幹部が揃わないという事態。大空はともあれ、ボスであるフランの霧を除けば雷と雨以外幹部が存在しなかった。流石に半数を空けるのは拙い。

俺は暫定雲の幹部として在籍していたが、漸く雲以外の幹部が揃い、今に至る。

 

浮雲は流れる身。まあ、これも気侭故。

 

「次は何処に辿り着くか」

 

そこが天国であろうが地獄であろうが、それもまた良し。

 

「行くか」

 

 

 

 

 

揺らぐ境界を踏み越えて。

俺が降り立ったのは、酷く薄暗い湿った空気の孕む国だった。

辺りは黒い森に囲まれ、目の前には瓦礫の山と化した建物がざらりと残っている。雨雲が今にも泣きそうだと空を見上げる。

 

 

風に乗って漂うのは、鼻を覆いたくなる程の凄まじい死臭だ。

 

 

百や二百では利かないだろう、国1つ分の死骸の臭い。

そちらの方へ足を運ぶと、そこに散るのは無辜の民、兵士、貴族らしき者どもであった。

内乱で滅んだ場所だと目を細める。根こそぎ資源を狩られたのだろう、開け放たれた倉庫や荒らされた店に、足の踏み場の無い程の死体。

苦悶の表情を浮かべた朽ちかけた童を哀れに思った俺は、渡って早々、素人ながら墓守の真似事を始めた。

 

 

ある程度集めて、掘って、埋める。

このまま野晒ではあまりに浮かばれぬ。

どんな罪を背負っていようと、これでは。

 

 

初めは瓦礫の中に埋まる建物の梁の残骸だの刀だので穴を掘っていたが、途中錆びた円匙を見付けてからは、円匙で四角く地に穴を開け、掘り起こすというのに方法を変える。

 

墓はなるべく隣合うようにした。

瓦礫を削って作った墓石。

街並み、道に沿って立ち並ぶ墓の列。

それは葬列のように沈鬱としていた。

 

いつか此処に花を植えよう。なんて。

 

どれだけの時間が経ったか分からんが、何度か昼と夜を繰り返したその日、俺はこの世界で初めて、生きている人間に出会ったのだった。

 

 

 

「何をしている」

 

肩越しに振り向く。

その声はどこが無感情にも聞こえたが、はて。

 

「見ての通り、墓穴を掘っておるよ」

「この国の者か」

「いいや、通りすがりだ」

「ならば何故このような事をする」

 

男はずぅっと続く墓標の列でも見たのだろう。それが全て同じような意匠であれば、同じ人間(モノ)……俺が成したものだと簡単に察しがつくか。

 

「流石に数百もの屍を野晒にしたままなのも気が引けてな。なに、体力には自信がある。これも縁というやつさ」

「……」

「そういうお主も、此処には立ち寄っただけなのだろう?町の家屋に無事な物が幾つかばかりあった筈だ、宿がなければそこを使うと良い。そこら中武装した猿が沢山いるが、まあ、お主ならば大丈夫だろう。ああ、無論森で野宿もアリだ」

 

死体ばかりの此処からは直ぐにでも立ち去れ。病に罹ってしまうぞ。此処には食べ物もあまり無い故。

そう告げて再び墓穴に哀れな住人達を投げ込む作業を続ける。

 

「……、……まだ何かあるか?」

「いつ終わる」

「さて、あと2、3日もあれば」

 

そっと城の方に目を向ける。あちらは更に澱が深い。

男の方を見れば、何やら丁度良い瓦礫に腰掛けて俺を眺めていた。

なにが面白いのやら。

小刀を手に取って振るう。瓦礫を利用したが故、白い石の墓標は十字架となって佇んだ。

新たに墓穴を掘りながら、剣閃を見た故か鋭くなった視線に一笑を零す。

 

 

 

 

 

 

月の香、薫り立つような男だった。

 

黒衣を纏い、土で白い指を汚しながら、腐敗しかけた死体を墓穴に沈めていく。

その腰には業物とみえる美しい刀が揺れる。

振り向き様に見た瞳には下弦の月が弧を描き、また直ぐに逸らされた。それは雲間に閉ざされる名月だった。

 

「これも縁ゆえ」

 

死体など放っておけば良いというのに、可笑しな男だ。

 

「命に貴賎があると言うのか」

「差などあるものか。……これは言わば、俺の気紛れさ」

 

一区切りとその上から土を被せていく男は、そう言う割に、真摯な憐憫を貌に乗せている。

 

─────先程の細工を成した一閃、おれの目から見ても見事なものだった。繊細且つ、鋭利。その力量の全てを目にしたという訳では到底無いが、剣気の一端を見るには充分過ぎる。腰の得物は飾りではない。

 

剣士。それも並々ならぬ。

気付けば背の剣に手を触れていた。

それを横目に淡々と見つめ、再び戻した男。

 

……このまま立ち去るも癪だ。

無意識に子供のような事を考えながら、おれは手頃な瓦礫に腰掛けた。

 

 

 

 

 

 

一帯全ての死体を埋葬し終え、最後はと城を見上げる。

予め死体は城の中庭に集めてある。城下の人々に較べれば大した数でもない。兵士はそれなりに多いものの。

奇妙な程に城の損壊は少ない。血糊はそこら中に見当たるが。

男は俺が移動すると見ると腰をあげる。

手に荷を持ち、強く地を蹴った。

 

 

 

 

「……ふう。まあ、なんだ。用件を聞こうか、鋭き目の男よ」

 

ぱたぱたと手を叩く。

国1つ分もの墓守の真似事はこれにてお仕舞い。

ぐっ、と背を伸ばし、改めて向き直る。

 

男は騎士のような格好をしていた。

その背には大剣を負い、油断なき佇まいをしている。

身に纏う剣気は男の技量を明確に表しており、思わず刀に手を伸ばしてしまいそうになる程には闘争心を擽られた。

 

それは、相手も同じく。

 

「名はなんだ」

「ふむ。三日月宗近。三日月と呼ぶが良い。お主は?」

「ミホーク。ジュラキュール・ミホークだ」

「うむ。鷹の如き気高さが感じられる、お主に似合う良き名だ」

 

造られた大きな白い十字架の前。

同時に己が得物を抜き去る。

剣士に多くは必要ない。

 

「では」

「いざ」

 

その剣戟は、音を置き去る。

 

 

 

 

 

純粋なる剣の応酬は、猛者共が集う偉大なる航路後半の海、通称新世界を行動範囲とする天下の王下七武海の戦いと言うには些か見劣りするものだろう。天変地異は起きず、確かに疾くはあるが言ってみればそれだけで、地形は変動しない。精々草が舞い、土が抉れる程度の力だ。

 

然れどその冴え冴えとした鋭き刃の織り成すおそろしさと美しさは、例え言葉を知らぬ幼子であろうと見惚れるであろう。それ程までに妖艶であった。

 

究極なる、柔の剣。

 

込められた力は無く、それは至極単純、技にのみその剣舞は収束する。

斬り払い、薙ぎ、唐竹割り。

逸らし、斬り上げ、袈裟斬り。

ああ、それよりも、何よりも。老齢の大樹のようなそれと鋭い爪と思わせるそれよりも。

 

目を奪われるのは、彼らの表情だろう。

 

─────まるで少年たちが棒きれを振り回しているかのように、無邪気で、とても楽しそうに笑っていた。

 

 

「強いな、お主」

「おまえもな」

 

鷹の目と呼ばれる男は確かに剣の頂に程近い。ジュラキュール・ミホークは世界一の大剣豪と名高く、しかしながら武芸というものには限りがない故の"程近い"であり、実質ひとつの極みに達している。

 

その剣の剛さ(つよさ)は巨大なガレオン船を断面を潰さず両断し、その剣の柔さ(つよさ)は襲い来る銃弾の嵐を切先のみで受け流す。

並外れた力量に相対できる剣士は、かの四皇である赤髪のシャンクスのみ。

 

そんなところに現れた三日月宗近という男は、彼と次元を同じく……否、もしかすれば彼をも上回るやもしれぬ技量を持っていた。

ミホークは今までに見た事も無い強敵に胸を高鳴らせる。

 

対する三日月はといえばというと、彼の方も剣に真摯な鷹の目を持つ男に興味を抱き、刀を合わせる事でそれは確信に変わっていた。

刀剣の神として彼の剣に対する純粋な信念は心地好いものであった。それを己の半身を以て身に感じ、更に心を踊らせる。

それ故三日月は己が望みのままに、そしてミホークの望むがままに、剣を振るう。

 

 

黒と白。

抜き放たれた片刃の大剣は触れば切り裂かれんばかりの白刃に流される。それに沿い、然しその流れに逆らい、握られる手首目掛けて放たれた柔き鋭刃は紙一重で鍔に堰き止められる。鍔迫り合いは一瞬。直ぐ様立ち位置を入れ替え、振り向き様に再び両者の剣技が放たれる。

 

まるで舞踏。くるりくるりと、ぎこちなさの欠片もなく、互いの呼吸すら把握したかのよう。

 

どっしりと身構え放たれたる疾は、肉厚の片刃により骨すら両断する。軽やかな足取りで刀に衝撃を通さぬよう受け流し、その薄刃は変わらぬ鋭さを保ったまま致死の一撃を放つ。

 

 

終わりたくない。まだ、ずっと、この立合いを続けたい。

死の剣戟。

昂る熱。

止まぬ鋼の音色。

永遠は2人にとって、苦でもなんでもなかったのだ。

 

 

 

ふと、息を吐いた。

どちらともなく距離をとり、油断なく構える。

 

「……ゆくぞ」

「来い」

 

笑みを消し、殺意と剣気を極限まで滾らせていく2人、突如渦巻くように風が吹き荒び、ぶつかり合い、遂には可視化した。

その得物と同じ黒々とした鉛色と、冴え冴えとした柔くも冷たい月色。

それらの気迫と呼ばれるものはこれより初めて、周りの物を轟々と唸らせ、罅を入れ、割り砕く。

 

正真正銘、本気の一撃。

これにて終い。

 

黒剣は更に黒く、白刃は紫の炎すら帯びて。

 

その時、世界から音が消え失せた。

 

 

 

 

 

 

「はっはっは!いや、見事。実に良き手合いであった!」

 

上機嫌である自覚はある。大いにある。

開けられた酒樽は荒廃した国の地下の無事だったセラーから頂いたものだ。状態はかなり良かった為、ここを拠点とするならば暫くは事足りるだろう量だ。

男もそれにグラスを入れて飲み干す。ふむ、どうやら彼もザルらしい。表情は余り変わらないが、機嫌が良いのはその上に上がった口角が示していた。

 

「お前は何処の海の出だ?その実力があって何故今まで名が知れていなかった」

「何処の、海?……うむ。つい数日前に此方に参った故、この世界の事については全てが未知なのよ」

 

言わば究極の世間知らず。それには男も意表を突かれたのか、少し考えたようにすると顎を摩る。

 

「異界、か。道理で」

「俺のような者はよくいるのか?」

「いや。だが偉大なる航路(グランドライン)、特に新世界は何が起きてもおかしくない」

「ぐらんどらいん」

 

なんとこの世界は4分の3程が海なのだという。

 

地図では赤い土の大陸(レッドライン)と偉大なる航路で分けられた4分割が見て取れるようだ。前半の東西南北の海は楽園(パラダイス)、赤い土の大陸を超えた先の後半の海を総じて新世界と呼ぶのが俗称らしい。

新世界では常識が通用しない。

異常気象に様々な様相を覗かせる島々。コンパスは意味を為さず、指針(ポース)という島の磁気に引かれる特殊な方位磁針で航海をするのだという。

 

「世は大海賊時代。海賊共は一攫千金を夢見てラフテルを目指す」

「らふてる」

「……海賊王と呼ばれた男が死の間際に言った」

 

オレの財宝か。欲しけりゃくれてやる。

探せ!この世の全てをそこに置いてきた……!

 

ラフテルとは偉大なる航路の最終地点。ポースを辿った先にある島。

「海賊と言っても差はある。ピースメイン。モーガニア。ラフテルを法螺話と馬鹿にし、略奪に悦を見出したものも多くいる。大まかに勢力は3つ。海賊。海賊を捕まえ、海の平和を守る事を心情とする海軍。そして革命軍」

 

この世の創造神を自称する天竜人、世界貴族を頭に置いた世界政府。男は俺にそれらを軽く説明してくれた。

 

「お主は?」

「……王下七武海。海軍の狗となった海賊だ」

 

ふむ。

 

「礼を言う。そこまで分かればどうにかなる」

「聞かぬのか」

「?……ああ、主が王下七武海とやらである事を、か?」

「……」

「構わぬさ。俺は物の価値を知らぬ。が、海賊だからといって今更恐れる程、俺の剣はヤワではない故な」

 

そも、人斬りにそれを問うのか?

 

「くっ……違いないな」

 

男は目を細め、上がった口角をグラスで隠した。

 

 

 

 

 

それから暫くして、男……ミホークはその島を出た。

 

俺も城に残っていた書を読み終えた後、打ち捨てられていた木の小舟を補強して海に出た。

見渡す限りの空の青と海の青。

島を離れ、ころころと変わる天気に転覆を免れるは精一杯。それも実に面白く、嵐を乗り越えた後などは思わずからからと笑えた。

 

また、この世界特有の海洋生物にも襲われた。海王類と呼ばれる海獣はとても巨大で、木の小舟など一溜りもない。荒れる波を乗りこなしながら峰打ちした。1匹は仕留めて食料にした。

 

俺は暫くは楽園をうろつき、気が向いたら初めにいた島……クライガナ島に戻り、住居周りを掃除してみたり、長持ちする食材を備蓄したり、何日が過ごした。ミホークも気紛れに此処に訪れるようになったらしく、よくはち会っては刀を交え、酒を交わした。

 

 

 

そうして、数年の時が過ぎる。

 

 

 




そっからバラティエ編に介入したり、赤髪と戦って宴したり、世界各地を気ままに流れたり、クライガナ島で鷹の目と一緒にゾロの修業見てあげたりする、あんまり原作沿いじゃない物語。
……ワンピース持ってないしアニメは頂上決戦で止まってるんすけどね。


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