その指揮官は深すぎる信頼関係を築けていた事に気付けてなかった (東吾)
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どうやら自分が思っていた以上に彼女たちとの間に信頼関係を築けていたらしい

 G&K設立以降からの未曾有の危機とまで言われた、鉄血勢力による超大規模攻勢が起きたのは三ヶ月前の事。後に【驟雨(しゅうう)事件】と呼ばれるようになったその事件によって、グリフィンは危うく壊滅する寸前まで追い詰められた。

 

 圧倒的物量と高度な戦術を伴って突如として出現し、奇襲して来た鉄血兵の軍勢の光景。それは、突然の事態に迎撃態勢も整っていない状態にある本部が襲撃されれば、グリフィンが壊滅するのは免れないであろう事を予感させるのに十分だった。

 

 それを辛くも食い止めたのが、進軍途中にあった前哨基地に配属されていた指揮官、即ち俺であり、それを成し遂げた事で内外を問わず英雄扱いをされている……という事になっているらしい。

 

 まるで他人事のようだって? 仕方ないだろう。だってまるで実感が沸いてないのだから。

 

 あの時はここを抜けられたら本部が危ないなんて考える余裕は微塵も無く、状況の報告と応援の要請をした後はとにかく無我夢中で、指揮を取り続けた。

 二日二晩、昼も夜も間断なく襲い掛かって来る鉄血兵を相手に、絶え間なく作戦を立てては人形たちに指示を出し、自分もまた武器を手にして不眠不休で戦い続け、三日目に突入しようかという時に本部から応援の部隊が到着したのを見届けて意識を失った。

 そして目を覚ましてみれば、実に三ヶ月もの間、昏睡状態にあったという事を告げられたのだ。実感が沸く筈もない。

 

 たまたま俺が目を覚ましたタイミングに見舞いに来ていたクルーガーさんによれば、駆けつけたグリフィンと正規軍の混成部隊により、鉄血兵は無事退けられたらしい。しかも素晴らしい事に、基地の人員には負傷者こそ出たが死者はおらず、クルーガーさんからは身を削ってまで時間を稼いだ俺のお陰だとまで言われた。

 

 その言葉に、考えるよりも口を衝いて出て来たのは、それは違いますと言葉だった。

 全ては自分ではなく、部下である戦術人形たちの――彼女たちのお陰であると。

 

 あの時自分は、逃げようと思えば逃げる事ができた。むしろ当初は、それを第一に考えていた。

 

 戦力差はどう甘めに見積もっても圧倒的で、半日持たせる事すら絶望的だった。

 それならば、バックアップの存在する人形たちを殿にし、指揮官である自分を含む人間たちと、バックアップの利かないAR小隊が撤退する時間を稼がせるのが、最も合理的な戦術であるのは考えるまでもなかった。

 

 だがそれを決断するよりも先に、「ここは我々が時間を稼ぐので、指揮官は退避を」と言われた事で、考えが変わった。

 その言葉は、特定の誰かが言った訳ではない。言葉こそ違えど、基地に所属していた人形の全員が口を揃えて同じような事を進言して来たのだ。

 

 それまでの自分と彼女たちの関係は、あくまで上司と部下、あるいは人と人形以上でも、以下でもないと思っていた。

 業務的な場面以外でも、なるべく積極的に彼女たちとコミュニケーションを取ろうと努力をしてはいたものの、ある程度までの関係までは踏み込めても、そこからは壁を作られているように感じ、それ以上踏み込む事ができなかったのだ。

 どれだけ綺麗事を並べても、自分は人であり、彼女たちは人形であるという事実を、あるいは隔壁を埋める事はできないのだと、諦念交じりの想いを抱いたりもしていた。

 

 だがその自分を慮った言葉を、副官に指名していた者からならばまだしも、基地に所属していた人形たち全員から言われたのだ。

 

 自分なんて所詮、ただ指揮官適性がたまたま高かっただけで、兵士としての経験も能力もない、ただの若造でしかなかったのだ。それは他でもない、俺自身がよく理解していた。

 そんな自分に対して、躊躇する素振りも見せずに言ってくれた彼女たちに対して。

 その程度には築けていた信頼に対して、応えない訳にはいかなかったのだ。

 

 戦っていた時もそうだった。

 戦術人形は、指揮官が居てこそ真価を発揮する。16LAB製のM4A1とRO635でも指揮こそできるものの、自分が指揮を取った時と比べれば発揮できる能力は劣ってしまう。それが分かっていたからこそ、逃げ出す事は許されなかった。

 例え頭が割れて、手足が折れて、銃弾で体中に穴を開けられて、どてっぱらに金属片が刺さって、背中に火傷を負って、内臓が傷ついて、片目が潰れて、全身に持て余すところなく傷を負っても、弱音を吐く事も逃げる事も許されなかった。できなかった。

 

 自分だけならば、あるいは部下たちが人形ではなく、人だけの部下であったならば、とっくに意思が揺らいで逃げ出していた。

 自分の進退が、身近な彼女たちに直接的に影響を与えると分かっていたからこそ、歯を食い縛って戦い続ける事ができたのだ。

 

 だが結果こそ良かったものの、あの時俺が下した判断は、指揮官という肩書きを持った者としては下策もいいところだった。

 だからこそ、自分の行いを誇れはしない。全て彼女たちのお陰であると、考えるまでもなく言い切れる。

 

 そういう嘘偽りの無い想いを込めた言葉を聞いたクルーガーさんは破顔し、そんな俺だからこそ、彼女たちも最後まで着いて行ったのだろうと述べた。

 そして、しばらくは休職扱いとなっているのでゆっくり休むようにと言い残し、退室する。

 その後姿を見送り、直前の言葉の意味を考えようとした直後に、病室のドアが壊れんばかりに開かれる。

 

「指揮官、目を覚ましたのですね!」

 

 真っ先に入って来たのはM4A1。

 余程急いで来たのか、額に長い髪を汗で貼り付けたまま、泣き出しそうな表情を浮かべてこちらに駆け寄ってくると、ベッドの上で起こしていた上体を力強く抱き締めて来る。

 

 M4と言えば生真面目であると同時におしとやかなイメージが強く、とてもこんな感情に身を任せた行為をするようには思えず、目を白黒させるも、すぐにM4の肩が震えているのに気付く。

 

「何度も、何度も夢を見ました……指揮官が二度と目を覚まさなくなってしまうような、悪い夢を……目を覚ます度に夢だったと安堵して、すぐに正夢になってしまったらどうしようと、私、私……!」

 

 戦術人形の中で唯一夢を見るM4だからこそ感じたであろう恐怖。それが震えの正体だと分かり、肩にそっと手をやる。自分はその夢と違い、ちゃんと無事に帰って来たと。そういう思いを込めて。

 それが果たして通じたのかは分からないが、M4の震えが止まる。

 

「正夢にならなくて、本当に、本当に良かったです……」

 

 ギュッと、こちらを抱きしめていたM4の両腕に更なる力が込められる。

 

「もう二度と離しません。これからはあなたのために戦いますから、ずっとお側に置いてくださいね」

 

 誤解を招きかねない発言。気持ちは嬉しいが、これからもいつものように、俺のためではなく仲間のために戦って欲しい。

 

 あと、そんなに強く抱きつかれると色々と柔らかくて非常に困る。ついでに病み上がりの体が、徐々に強まっていく力によって軋みを上げる。

 

 混乱しているようにも見えるM4に、その事を伝えるべきか、それとも好きにさせておくべきか迷っていると、病室に続々と来客が入って来る。

 

「おいおいM4、指揮官はまだ傷が治り切ってないんだ。程ほどにしとけ」

 

 そう言ってM4をやんわりと引き離したのは、AR小隊の長女的存在であるM16A1。お陰でM4から解放されて、嬉しいような残念なような……。

 

 それにしても、ある程度の信頼関係は築けていたとあの時の戦いで判明はしていたが、まさかM4がここまで取り乱す程に自分を信頼してくれていたとは。

 指揮官としては嬉しい限りだが、どことなく気恥ずかしさを感じる。

 

 そんな事を考えていると、M16がこちらに対して、勢いよく頭を下げて来る。

 

「指揮官すまない。この私が側についていながら、貴方をこんな目に遭わせてしまった」

 

 片方だけ残っている目を申し訳なさそうに伏せ、苦しそうに言葉を搾り出す。

 

「私がもっとしっかりしていれば、指揮官をこんな危険な目に遭わせる事はなかった。どれだけ謝っても足りない」

 

 あの戦いでの終盤、俺の側に立って護衛をしてくれていたのはM16だった。

 AR小隊の中でも、最も耐久性に秀でた性能を持った彼女が、いざという時に俺の盾になるのに最適であるという判断からの配置だったが、その役割を十全に果たせたかと言えば、俺の現状が答えだろう。

 

 とは言え、それは決してM16の所為ではない。それだけはハッキリとさせておく。

 

「馬鹿を言うな指揮官。私はあの時の指揮官の護衛だったんだ。どう言い訳をしようと、それを全うできなかったのは――」

 

 いいや、M16は間違いなく最善を尽くしていた。それは傍らで見ていた俺が断言できる。

 問題があったとすればむしろ、俺の方だろう。

 

 指揮官である俺があの時に判断を違えてしまったからこそ、最終的にこうなってしまった。

 むしろそこからあそこまで立て直したM16は、称賛されてしかるべきだ。

 

「だが……」

 

 それでも気になると言うのであれば、あの時に俺に非があったのも事実。それとM16が感じている非とで、手打ちだろう。

 

「指揮官……」

 

 再びM16が俯く。その表情から推測するに、あまり納得はいってなさそうだったが、それ以上何かを言う事も無かった。

 正直に言って、俺はあの時の行動をM16から咎められるとばかり思っていたので、むしろこの彼女の反応は意外極まりない。とはいえ、受け止め方は当人の問題であり、俺も掛けるべき言葉は全て掛けただろうし、時間を掛けて彼女の中で消化して貰うしかない。

 

 考えようによっては、こんなに非を感じているのは信頼関係があった事の証左であるとも言える。そう考えると、やはりこそばゆい。

 

「もー、M16は気に病み過ぎだって。指揮官もこう言ってるんだし、それでいいじゃん。やっと指揮官が目を覚ましたんだし、もっと明るく行こうよ」

 

 SOPMODⅡが、M16の暗い空気を吹き飛ばさんばかりに溌剌とした声を上げる。その明るさを感じさせる声に、自然と笑みが毀れる。

 あの戦いの中でも、この明るさには幾度と無く元気付けられたものだった。

 

 そんな彼女とは、他の人形たちと比較しても距離が近い関係を築けていたと思う。帰投する度に鉄血兵の生体部品を持って来るので、ちょくちょく犬猫感覚で撫でたりと、スキンシップも多かった。

 勿論、壁をどこかに感じていたが、それも他と比べてそこまで強固でないように思える。

 

 ……どことなくペットのような感覚を、俺が彼女に対して抱いていたからだろうか?

 

「そんな事より、指揮官~。わたし目を覚ますのをずっと待ってたんだよ。はいこれ、お土産〜」

 

 傍のテーブルの上に、持参していた箱が置かれる。中を覗き込んでみると、血や肉片が付着している爪やら配線やら指なら目玉やら、その他様々な生体部品がギッシリと詰まっていた。

 

 お土産って、一体何だったっけ?

 

「早く元気になって、遊ぼうよ指揮官~! 元気になったら、指揮官が受けた傷、奴らに百倍にして返してやるからね!」

 

 SOPよ、君の中では戦闘は俺と一緒にする遊びなのか?

 残念ながら、自分はそれに付き合うのは難しいそうだ。

 

「ひひひひぃ……ずっと待ってるからね、約束だよ~。破ったらやだよ指揮官」

 

 何かを呟きながら下がる。小声だったので聞き取れなかったが、見るからに上機嫌そうなので大丈夫だろう。

 それにしても、普段ならばここで撫でるか抱っこするかを要求してくるのだが、今回は無かった。

 

 こちらの事を慮っているからだろうか。相変わらずのように見えたが、SOPMODなりにこちらを心配してくれているのだろう。

 

「SOPMOD、あまり指揮官に迷惑を掛けないようにね」 

「分かってるよ~。まったくコルトったら、さっきまでずっと心配してたくせに、指揮官を見た途端にキリッとしちゃってさ」

 

 何やらSOPMODをやんわりと窘めていたAR-15が、そう言われて急に焦ったような表情を浮かべる。

 普段から俺に対しても厳格に接してくるので、その表情は非常に新鮮だった。

 

 そのままSOPMODと俺との間で視線を彷徨わせていたが、やがて視線を伏せ、小さな消えそうな声で言葉を搾り出す。

 

「当然、心配でしたよ。指揮官、私だって怖かったんですよ……」

 

「このまま貴方が死んでしまって、真っ暗な中に取り残されてしまったらどうしようと、ずっと、ずっと……。指揮官、これは夢ではないのですね?」

 

 上げられた顔に、どこか放心したような、だが喜色を浮かべて、AR-15が言う。人形は夢を見ないと言えるような空気ではなかった。

 

 代わりに、夢ではないと応える。その答えに満足したのか、AR-15が泣き笑いの表情を作る。

 

「指揮官。復帰なされたら、貴方のために戦う名誉を、私に頂けますでしょうか?」

 

 勿論、と答える。

 果たして俺のために戦う事が名誉になるかは分からないが、英雄扱いされているというのなら、それはコルトにとっては名誉な事なのだろう。

 

「ありがとうございます。私の活躍を、しっかり目に焼き付けてくださいね」

 

 正直、それだけの信頼を向けられるのは荷が重いと感じるが、彼女の期待を裏切らないよう俺が努力すれば良いだけの話だ。

 それで信頼に応えられるのであれば、全く苦ではない。

 

「皆さん、そろそろ時間です。M16も言っていた通り、指揮官はまだ治り切っていないのですから、あまり騒ぎ立てて負担を掛けてはいけませんよ」

 

 いつの間にか病室の出入り口に、RO635がどこか呆れたように立ち、溜息交じりにAR小隊の面々へと声を掛ける。

 その言葉にM4たちもハッとした表情を浮かべて退室をし始めるが、SOPMODが不満そうに口を尖らせる。

 

「なにさ、RO635は指揮官が目を覚まして嬉しくないの?」

「誤解しないでください。私だって嬉しく思っています。ですが、大袈裟に騒ぐ程の事でもありません。正しい行動を成された指揮官が、死んでしまう筈がないと私には分かっていましたから」

 

 澄ました顔で、そんな事を言い切る。これも信頼されていたが故の事だろうか。

 

「指揮官、無事に戻って来られるのをお待ちしております」

 

 俺に対して声を掛けながら全員が退室したのを確認してから、RO635が最後にそう締め括って扉を閉める。

 

 再び室内に一人となった病室で、ベッドに身を沈めながら先ほどの彼女たちとのやり取りを反芻する。

 

 少なくとも、あんなに心配をされるとは、あの戦いの前では考えられなかった事だ。

 どうやら俺は、自分が思っていた以上に彼女たちとの間に信頼関係を築けていたようだった。

 

 




実は人形たちの好感度はカンストしているけど、指揮官は人形同士の牽制があってそれに気付けずにいて、でも指揮官が死に掛けた事で牽制し合ってる場合じゃないっていう事になって積極的にアプローチしたりプチ修羅場ったり、そんな話が読みたかったけど無いからなかったから作った(実はあるけど探し方が下手な可能性あり)。

原作は全てやってる訳ではなく、Wiki片手に書いてます。二次創作を投稿するのは初めてなので、もし違和感を感じるところがあったり、他にもご意見があれば積極的に指摘して頂けるとありがたいです。

このキャラの話が読みたいという意見があったら、自分が持っているキャラなら出来る限り対応したいと思います。つまりはネタをください。のんびり更新していきたい。



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たまたまだから

HK416の話になります。


 目を覚ましてからしばらくすると、リハビリが始まった。

 

 正直なところ、目覚めた事で病室の移動があり、同時にまだ怪我が治りきっていないという事を理由に面会謝絶となってしまったので暇を持て余しており、このリハビリはかなり楽しみだった。

 

 これでも元々はしがない一般人だったが、グリフィンに入社するに当たって、最低限の基礎訓練はこなしてある。

 それと比べればリハビリなど、軽いジョギング程度のものだろうとタカを括ってた。馬鹿だった。

 

 リハビリは想像以上にキツかった。というか、自分の体力の低下を考慮してなかった。

 

 冷静に考えてみれば、三ヶ月もの間昏睡してたのだ。筋肉は衰えていて当たり前だったのだが、イマイチ実感がなかった為に完全に失念していた。

 ただ歩く事でさえ、松葉杖を使わなければ困難で、激しい息切れを伴った。勿論腕の筋肉も衰えているので、松葉杖を長時間使う事もままならず、移動には大きな制限が掛かった。オマケに失明して半分になった視界に中々慣れず、その感覚を掴むのにも一苦労だった。

 

 そんな状態の為、初日は最初に提示されたメニューを全てこなす事すらできず、歯痒い思いもした。

 しかしそれをバネにする事で、翌日からは全てこなせるようになった。

 

 それから数日が経ち、多少なりとも体の調子が戻り、そろそろ次の段階に進んでもいい頃だと思っているのだが、残念ながら医師からは暫く同じメニューに従事するように言われている。

 

 他でもない専門家の意見に従うべきなのは分かるが、それでもこのままでは復帰するのに長い時間が掛かってしまう。

 それが焦りに繋がってしまい、リハビリのメニュー以外にもできる事をしようと、病棟での昇降にエレベーターではなく階段を使って移動しようと思ったのがいけなかった。

 

 あっ、と思った時にはもう遅かった。

 あと一歩で全ての階段を登り切れるというところで、目測を誤ってしまい、松葉杖の先端が階段の縁に降ろされて滑る。

 咄嗟に側の手すりを掴むも、完全に流れていた体重を片手の握力だけでは支えきれず、あっさりと手から滑り抜けてしまい、背中から浮遊感に包まれる。

 

 死んだ――それも実にマヌケで呆気ない理由で。

 そう確信しながらも身構えて衝撃に備える。

 

「危ない指揮官!」

 

 返って来たのは想像していた全身を強打する衝撃ではなく、柔らかなものに包まれ床を転がる感触。

 まるで天上の羽衣のように、自分が知るどの家具よりも柔らかで安心感を与えて来るその不思議な感触に、自分が転落したという直前の事実まで忘れて意識を奪われる。

 

「指揮官、大丈夫かしら?」

 

 そんなこちらを心配する声が聞こえて我に返り、自分が階段から転落して、誰かを下敷きにしてしまっている事に気付いて顔を上げる。

 水色の前を綺麗に揃えられた長い髪に、エメラルド色の瞳。その下に涙のような赤いタトゥーと、対照的に白い肌。

 

 よりにもよって、階段から転落して下敷きにしてしまったのは、あのHK416だった。

 

 404小隊という特殊な部隊に所属する戦術人形であり、常に完璧である事を求め、自分は勿論他人に対しても厳しく、その対象は指揮官でもある俺も例外ではない。

 そんな彼女を、経緯はどうあれ下敷きに――もっと言えば押し倒してしまったという事実に、自分の顔から血の気が引くのが分かった。

 

「待ちなさい指揮官」

 

 慌ててどこうとして、何故かそれを妨害するように、416に抱き締められて身動きが取れなくなる。とても柔らかい……じゃなくて。

 これは不可抗力であり、わざとではない。たまたまなのだ。

 

「いいから、落ち着きなさい。そんな体の状態でいきなり動こうとしたら、また転ぶわよ。変な所をぶつけたらどうするつもりかしら?」

 

 そう言ってゆっくりと、俺の体を支えながら起き上がる。そして側に転がっていた松葉杖を拾って俺に手渡し、ベレー帽を被り直す。

 続けて彼女と同じ名前の――本当は逆なのだろうが、HK416という名の銃を拾い上げる。

 

 そこでようやく、彼女が武装した状態にある事に気付き、続けて何故そんな状態で病院に居るのかという疑問を持つ。

 

「面会謝絶というだけで、近くに居てはいけない訳ではないもの。だから側に張り付いて護衛する事こそできないけど、こうして巡回しているのよ」

 

 俺を受け止めてくれたのは、偶然にも巡回中に俺が落下した場面に遭遇できたからだと言う。それを聞いて、自分はたまたま助かっただけなのだと改めて実感する。

 

 しかしそれはさて置き、何故居るのかは分かったが、どうして巡回をしているのか。

 そう聞くと彼女は、呆れたと言わんばかりの溜め息をつく。

 

「あなたは自分が英雄として称えられているという事を聞いていないのかしら? 今や指揮官は注目の的よ。良くも悪くも、ね」

 

 そう言われてみればそうだった。相も変わらず実感に乏しいし、何より自分自身が大した人間じゃないという事を知っている為、どうしたって忘れてしまう。

 

「一応指揮官のような立場の人が入院する病院だから、それなりに警備システムは揃ってはいるけど、わたし達が警備に加わった方がより安心できるもの」

 

 わたし達という事は、彼女以外にも巡回を請け負っている人形が居るという事か。

 

「ええ。基地に所属している人形総出で、ローテーションを組んで実施しているわ」

 

 総出って、基地の防衛は大丈夫なのだろうか?

 

「その辺りは抜かりないわ。きちんと必要十分以上の戦力を残して、その上で余剰になった人員を回しているわ」

 

 平然と答えられる。完璧である事を常とする彼女が、そう胸を張って言うのならば大丈夫だろう。

 

「それで、指揮官こそどうしてこんなところに居るのかしら。あなたの病室とリハビリテーション棟を行き来するのに、ここを通る必要はない筈よ?」

 

 痛いところを突かれて、咄嗟に目を逸らしてしまう。それが良くなかった。

 

「指揮官、何をしていたのかしら? わたしの目を見て答えてください」

 

 顔を手で挟まれて無理やり目を合わさせられる。その視線は虚偽は許さぬと雄弁と語っており、正直に答える以外の選択肢は無かった。

 

「指揮官、焦りは禁物よ」

 

 当然怒られるとばかり思っていたが、返されたのは意外な反応だった。

 

「少しでも早く復帰したい、そう思ってくれる事自体は嬉しいわ。でもそれで焦って失敗してしまえば、元も子もないわよ。現にさっき、あなたは危うく命を落としかけた」

 

 要は急がば回れという事だった。俺の現状にぴったりなその言葉に、返す言葉も無い。

 冷静に判断できているつもりが、できていなかった。その事を反省していると、HK416の手が頬を撫でて来る。

 

「指揮官、わたしは完璧よ。でもそれは、あなたが居てこそ完全になる。もしあなたが死んでしまったら、わたしは完璧でなくなってしまうのよ。だからお願い。わたしを完璧なままで居させて頂戴」

 

 あれ? HK416ってこんな人形だったか?

 誰にも拠らず、一人で完璧である人形。それが彼女だったと思うのだが。

 

「ねえ指揮官、そんなに復帰は急がなければならない事かしら?」

 

 いつもと違う様子のHK416に面食らっていると、唐突にそんな事を言われる。

 

 復帰は急がなければならない事か、否か。答えは勿論、イエスだ。

 

「わたしはそうは思わないわ。指揮官、あなたはとてつもない事を成し遂げたのよ。それこそ意図しない事だったとしても、英雄と称えられるほどの事を」

 

「だけど支払う羽目になった代償は決して軽くはないわ」

 

 頬に当てられていた手が上がって行き、光の失われた目の周辺を撫でられる。

 

「だからもう、頑張らなくていいのよ。少しぐらい休んでも、罰は当たらない筈よ。それだけの事を成し遂げたのだから、誰にも文句は言わせない……」

 

 有無を言わせない空気を纏った416のその言葉に、それでも否定の言葉が湧き出す。

 人形である彼女たちが居たからこそ達成できた事を、自分の功績だと言い張る事はできない。

 

「あなたは大した事をしたとは思っていないのかもしれないでしょうけど、そうやって自分を卑下するのはやめなさい。それはわたしたちに対する侮辱よ」

 

 唐突な、それでいてこちらの先程の内心を読んだかのような言葉。

 

「あんな非合理的な命令に、普通ならわたし達は従ったりはしない」

 

「あなたがそう決めたからこそ、納得した上で付き従ったの。それだけは履き違えないで」

 

 そう言われて、胸中の霞が、一気に晴れるような感覚に襲われる。

 

 あの時彼女たちは、上官である自分の命令に従わざるを得なかったのではないか。

 自分のエゴに付き合わせて、彼女たちを無理やり戦わせたのではないか。

 

 あの戦いである程度の信頼を得ていた事が分かって、あの時自分はその信頼にかこつけて、選択を強制させてしまったのではないかと疑っていた。

 その疑念が、杞憂であったと諭された。

 

 ありがとう、という感謝の念と。これからも頼りにしているよ、というこちらの信頼を込めた言葉。

 それらを伝えると、フッと微笑む。

 

「当然よ。わたしは完璧だもの」

 

 実に彼女らしい、誇らしげな返答。それが実に心地よかった。

 

「それに、あなたがどれだけわたしを信頼してくれているかは、よく理解しています」

 

「あの時だって、わたしを使ってくれていたんでしょ?」

 

 最初はその言葉の意味を理解できず、数秒経って、そう言えばあの戦いの終盤で自分が使っていたのは、彼女と同じ名前のHK416という自動小銃であると思い出した。

 だがあれは、武器庫に保管されていたうちの一つとして、咄嗟に選んだだけなのだ。 

 たまたま選んだのがHK416だっただけだ。

 

 だからそんな怪しい笑みを浮かべないで欲しい。ちょっと怖い。

 

「例え咄嗟に選んだのだとしても、とても嬉しいわ。だって咄嗟に選んだって事は、わたしが一番信頼できるっていう無意識の表れだもの」

 

 いや、違う。確かにHK416の、彼女の事は信頼している。

 だがあの時戦うための武器としてそれを手に取ったのは、本当にたまたまなのだ。

 

「でもね指揮官、実銃を使ってくれるのも悪くはないけど、何ならわたし自身を使ってくれても――」

 

 怪しい発言の途中で、ピピッという電子音が鳴り響く。

 

「……チッ」

 

 音の出所である耳のインカムを抑えて、凄まじく顔を顰めたHK416が、物凄くガラの悪い舌打ちをする。君、そんな顔するんだね。

 

「……長々と話し過ぎたわね。それじゃあ指揮官。わたしは巡回に戻るけど、大人しくエレベーターを使って戻ってね。ここで貴方に付いて行けば良かったって、後で後悔させないで頂戴」

 

 すぐに表情をいつも通りのものに戻して、拒否は許さないという言外の圧を込めて言われる。

 もっとも、拒否するつもりは毛頭ありはしない。さすがにさっきので懲りた。

 

 専門家の意見には素直に従って、彼女の言うとおり安静にするとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。つい抑え切れなくなったのよ」

 

「接触したのは偶然よ。何よ、疑ってるのかしら?」

 

「そもそも、わたしだったら指揮官があんな目に遭う前に偶然を装って声を掛けて止めていたわ」

 

「そんな発想が出て来るそっちこそ、性格悪いんじゃないかしら」

 

「……分かってるわよ。本当に悪かったって思ってるわ」

 

「一応、わたしのお陰で助けられたのだから大目に見て頂戴」

 

「ええ、分かっているわ。抜け駆けは無し」

 

「指揮官が戻って来てから、ね」

 

 

 

 

 

 




という訳でHK416とのお話をお送りいたしました。
彼女はとても好きなキャラなのですが、口調が敬語とそうじゃないのが入り混じってて結構書き難かったです。変に感じたところがあれば、ご指摘ください。

指揮官は割とかなり優秀なのですが、本人的には戦っているのは自分ではなく人形であり、功績も彼女達が居てこそという考えが根底にある為、過剰に自己評価を低く見積もっている感じです。

失明した目に関しては、右なら9と、左なら45姉とお揃いになる訳ですが、どちらの目を失明しているかはまだ未定。どちらか先に仕上がったら決まると思います。


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違うんだ

M590の話です。


 リハビリも次の段階に入り、面会謝絶も段階的にだが解かれる事になった。

 というのも、次から行われるリハビリには補助要員が必須であり、本来ならば病院側の人間がそれを担当するのだが、防犯上の理由というイマイチ納得のいかない理由により、グリフィンから派遣される戦術人形がそれを担当する事になったのだ。

 

 まあ理由は何にせよ、個人的にはリハビリと休息のローテーションの毎日に変化が訪れるというのだから、文句を言う筋合いは無い。

 何より、自分が留守中の間の基地の様子を聞けるというのは大きい。

 カリーナのような後方幕僚達や、HK416のような内務能力の高い人形たちも居るから心配無用というのは分かっているが、それでも気になるものは気になってしまうのだ。

 

 そんな訳で、果たして誰が補助要員として来てくれるか、結構楽しみだったりする。

 

 本当ならばこちらが指名するのが一番良いのだろうが、しばらく基地を離れている為に、いつ誰の予定が空いているのかまるで分からない為、人選は向こうに丸投げする事になった。

 だが、向こうも趣旨を理解している筈なので、下手な人選はするまい。

 

 できれば建設的な話ができる相手が来てくれる嬉しいが、それができなかったとしても、今まで積み重ねて来たコミュニケーションは無駄ではなかったと分かった為、例え建設的な話ができない相手だったとしてもそれはそれで別の意味で嬉しい。

 

 ……後者に当て嵌まる相手の筆頭に、SOPが浮かんでしまったのは俺だけの責任ではないと思う。

 

 それはともあれ。

 そろそろ、補助要員に任命された人形が到着する頃の筈だが……。

 

「お待たせしました。こんにちは、指揮官。モスバーグ590式、本日の補助要員としてただいま到着しました」

 

 噂をすれば何とやら。ノックの後に褐色肌が特徴的なM590が入室し、教本のお手本にできそうな見事な敬礼と共に挨拶する。

 

「ふふっ。どうされました、指揮官? 私が来たのは意外でしたか?」

 

 敬礼を解き、微笑みと共にそう言われて、顔に出てしまっていたかと少し焦る。

 

「ええ。指揮官は結構分かりやすいので」

 

 分かりやすいと言われたのは初めてだ。

 分かり難いとまではいかないにしても、曲がりなりにもお偉いさんと会う事もある立場であるが故に、それなりに内心を隠す術には自信があったのだが。

 

「ご安心ください。あまり交流の無い方が相手であれば、問題なく隠せると思います。()()()()()()()()()()()()()分かるだけですので」

 

 なら安心か。

 でもなんで今、付き合いの長い云々のところを強調したの?

 

「私が来た理由は、そう複雑なものではありません。指揮官の事ですから、留守中の様子を詳しく聞きたいだろうと思いまして、初日は内務に詳しい者が行こうという話になったんです」

 

 なるほど。確かにちょうどそう思っていた事だし、その気遣いは非常にありがたい。

 

「ですが、あくまで指揮官の最優先事項は療養ですので、あまりお仕事の事ばかりをお話しするのもいけませんから。その辺りの匙加減もできる方が望ましいと、カリーナさんもおっしゃっいまして」

 

 カリン、君はお金に関する事以外の気遣いもできたのか。感激だ。

 

「他にも立候補した方は居ましたが、最終的に私が来る事となりました」

 

 立候補制だったのか。そしておそらく、条件に合わない人形をカリーナあたりが弾いたと。

 ……他に誰が立候補したのか、少し気になる。

 

「そうですね……M4さんやAR15さんは、とても強敵でした」

 

 あっ、M4やコルトも立候補してたのか。確かに先日の様子を考えてみると納得……って、戦ったの!?

 ちょっと、どうやって担当者を決めたの? まさか本当に戦った訳じゃないよね?

 もし本当に戦ったんだとしたら、SOPならまだしも、相性最悪もいいところだろう。

 

「では指揮官、行きましょうか」

 

 そうだね、行こうか。

 ところでまだ質問の答え聞いてないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官、お疲れ様です」

 

 一通りのトレーニングが終わり、医師から一端休憩を取るように言われてベンチに腰掛けると、すかさず側に控えていたM590が清潔なタオルと液体の入ったコップを差し出してくる。

 礼を言ってそれらを受け取り、汗を拭き取ってコップに入ったものを口に含む。ほんのりと甘みを感じる、適温の経口補水液だった。

 

「メニュー等は事前に伺っていましたが、やはりまだまだ激しい運動はできないのですね」

 

 まあ、単純に筋肉が衰えていたというのもあるが、それ以上に三ヶ月やそこらで完治するほどの怪我でもなかったからな。

 それはきちんと俺自身も理解しているから、焦りは今のところは無い。

 

「それは何よりです。焦っても碌な事はありませんから」

 

 それは良く分かってる。さすがに先日のあれで学習しないほど、マヌケではない。

 

 それにしても、補助要員が必要とされたが、今のところその出番はそう多くは無い。

 

 電気治療を行ってから補助器具を用いない歩行練習の後にトレーニングを行い、医師による身体機能評価が行われ、修正されたメニューを積む。基本的にはこの繰り返しだ。

 その間に万が一の事態に備えて俺を監視しながら待機し、場合によっては簡単な補助を行う程度。当人である俺はともかく、M590にとってはかなり退屈なのではないだろうか。

 

「そんな事はありませんよ」

 

 そんな心配は無用だったようで、使い終わったタオルを受け取りながら、笑って否定される。

 

「こうして指揮官の様子を見られるだけで、退屈等というものからは程遠いです」

 

「もう二度と、あなたが動く事はないのではないか。そんな不安に駆られていた日々とは打って変わって、あなたがこれだけ動けるようになるまで回復したのだと、実感できるんですから」

 

 確かに、全身包帯塗れだった、自分の事ながらかなり痛々しい当時の写真(何で撮ってあるのか甚だ疑問だった)の姿と比べれば、今の状態は劇的な変わりようではある。相変わらず実感は沸かないが。

 

 俺だって、もし彼女達があんな姿になってしまったら、きっと昼も夜も眠れず心配で堪らないだろう。例え人形であると分かっていたとしても。

 ましてやそれが生身の人間であったとしたら、その時抱くであろう不安は、推察するに余りある。

 

 ならば、きっと彼女達も似たような思いを抱いたのではないか。そう自惚れてみても、良いのだろうか。

 

「きっと私以外の者も、同じ思いを抱くと思いますよ」

 

「ですから、戻って来てくれてありがとう、指揮官。ずっと待ってました、この時が来るのを……」

 

 普段から微笑を絶やさない彼女が見せる、弱々しい表情。直後にそれを塗り替える笑顔に、思わず見惚れてしまう。

 

「それに、私の本格的な出番はこの後ですから」

 

 ああ、そう言えばメニュー自体は事前に聞いているんだっけ?

 こっちは詳しくは聞いてないから知らないけど、その口振りだと補助要員が必須なメニューがこの後に控えてるって事かな。

 

「それは後のお楽しみですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あだだだだだだだだだだだッ!!

 

「指揮官、ゆっくり息を吐いて力を抜いてください。抵抗すれば余計に痛いだけですよ」

 

 どんなシチュエーションであったとしても、聞きたくない台詞だね、それは。

 

「ほら指揮官、もっと足を広げてください」

 

 いや、これが限界だって。三ヶ月も寝たきりだったから、股関節が凝り固まってるんだ。

 

「三ヶ月寝たきりだった事を考慮しても、驚くほど体が硬いですね。普段は書類仕事とトレーニングにばかりかまけて、柔軟運動を蔑ろにしてませんか?」

 

 全く持って仰るとおり。指揮に雑務にと追われてるのもあって、運動も数日おきに最低限の量しかこなせなくてね。

 

 まあ、あんな事件があったのだから、今後は無理にでも時間を捻出しておくべきなのかもしれないが。

 

「指揮官、失礼します」

 

 M590が圧し掛かるように、背中に体を密着させて体重を掛けてくる。

 まあ、その、なんだろう。とても背中に柔らかい物が……。

 

「指揮官、どうなさいましたか?」

 

 いや、なんでもない。違うんだ本当に。

 

 だがお陰ですんなり、とはお世辞にも言えないが、床にべたりと張り付くまで体を曲げる事ができた。

 いや、背中の負荷が消えたら即離れるだろうけどね。うん、だからこれは仕方ない……じゃなくて。

 

 これは本当にまずい。色々と。

 やっぱり我儘を言ってでも、専門の人にお願いするべきだったか。

 

「本当は専門の方に補助してもらうのが一番なのでしょうけど、安全面を考慮しますとあまり推奨されませんので、僭越ながら私が務めさせていただきます」

 

 そう言って説明するM590の話によれば、もし補助要員に害意があれば、今この瞬間にナイフを突き立てられる。抵抗する暇も護衛の人形が介入する隙もなく、いとも容易く殺されてしまう危険があるとか。

 

 故に補助要員は人形が務めるようになったらしいが、その時は漠然としか理解できなかった危険性とやらが、今は充分以上に理解できている。

 そりゃ古来からハニートラップが使われる訳だよ。殆どの男に対してこの上なく有効だもん。

 

「では指揮官、次のメニューに行きましょう」

 

 そう言って背中からM590が離れる。かと思ったら、正面に回り込んで来てって、ちょっとタンマ! 今は色々とまずいんだって。

 

「どうかしました?」

 

 どうかしたのかって、ええ……? もしかして無自覚なのか?

 それだけ悩ましい体を持っていて?

 

 ……いや、少なくともそういう体型である事に、彼女は直接的に関係はしていないか。

 製作者があらかじめそうであれと作ったからこその体であり、それ故に彼女はその辺りについての自覚が薄いとか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色んな意味で過酷だったリハビリを終えて病室に戻る頃には、既に満身創痍だった。精神的な面でも。

 

 だが肉体的疲労はないという訳でもなく、非常に情けない話だが、精神的疲労を抜きにしても疲れは相当なもので、松葉杖だけでなくM590に肩を貸して貰わなければ歩くのも一苦労な有様だった。

 

「指揮官、大分お疲れのようですね。部屋に戻る前に、少々お休みしましょうか」

 

 M590から見てもその有様は酷かったようで、彼女からそう提案され、廊下の椅子へ誘導されて一緒に腰掛ける。

 かと思ったら、抵抗する間もなく、だがこの上なく丁重に体を倒され、膝枕をされる。

 

 頬に当たる太ももの感触が非常に悩ましい、じゃなくて、別に変に遠慮したりするつもりもないから、せめて一言事前に言って欲しくはあったかな。

 

「今日は本当にお疲れ様でした」

 

 

 膝の上に乗せた頭を静かに撫でられる。その感触が心地良く、目を閉じてしまう。

 

 もし自分に母親が居たのなら、こんな感じだったのだろうか?

 そう、失礼な事を考えてしまう。

 

「私は本日限りになりますが、明日もまた別の人形が来ますので、その子とも仲良くお願いしますね」

 

 それは言われるまでもない。彼女達から進んで補助要員を務めてくれるというのに、邪険に扱う訳がない。

 

「ふふっ、そうでしたね。あなたに対しては、無用な心配でした」

 

 そこまで言われるほどの事ではないとは思うが。

 

 俺は別に聖人君子ではない。人間である以上、相手に対する好き嫌いは抱く。嫌いな相手に表面上は取り繕っても、進んで仲良くしようなどとは思わない。

 たまたま人形達の中に、苦手と思う相手は居ても、嫌いと思うような相手が居ないだけの話だ。

 

「知っています。だからこそ、です……」

 

 そこでそれまで一定のペースで動いていた手が止まる。同時に微かに空気が変化するのが伝わり、閉じていた目を開いて、M590へと視線を向けてみる。

 

「正直に言うと、本当は本日あなたに会うのが、怖くもありました」

 

 意を決したような表情で、彼女が口を開き紡いだのは、搾り出すかのような告白。乗せられていた手から震えが伝わってくる。

 

「本来ならばM16さんよりも、私の方が適任であったのにも関わらず、あの時の私は指揮官の側に居る事ができませんでした」

 

 それは仕方がないだろう。あの時M590には、正面から敵を引き付け足止めするという役目があった。

 決して前線で戦う訳ではない俺の護衛と、どちらが優先度が高いかは言うまでもない。

 

「ええ、それは分かっています。それが最善であると、私もその案を支持しましたから」

 

「ですが、だからこそ考えずにはいられなかったのです。指揮官が危機に陥った時に側に居たのが私であれば、きちんとあなたを守れたのではないかと」

 

「そしてあなたに責められてしまうのではないかと」

 

「こんな事を考えてしまっている時点で、指揮官の事を疑ってしまっているも同然ですね。申し訳ありません」

 

 そんな事はない。そう思ってしまうのは、人だろうが人形だろうが関係なく当然の事だ。

 

 それにそれを言うなら、俺だって少しは怖かったのだ。

 彼女達が俺のところに来て、叱責されるのではないかと。

 

 俺の下した判断で彼女達を危険に晒した事を責め立てられ、更には見損なわれるのではないのかと。

 あの極限状態では、それが最善であると考えられるのならば、安全性は二の次の指示をいくつも出した。

 

 彼女達の誰もが、それに文句の一つも言わずに従ってくれた。

そしてそれは、彼女達も納得した上での事だったと、416も保証してくれたからこそM590と会う時には払拭できていたが、それでもそんな恐怖を感じていたのは事実だ。

 

 それこそが、彼女達に対する侮辱であるという事にすら気付けずに。

 

 だからM590が気に病む必要など、どこにもないのだ。

 当たり前の思いを抱いた事を責め立てる道理などなく、なんら恥に思う必要はない。

 

「やはり指揮官は指揮官ですね」

 

 俺の言葉を聞いて、その余韻を噛み締めるかのように微笑む。

 まるで俺の三人称に三人称とか役職以外の意味があるかのような言い方だなぁ。

 

「気にしないでください。あなたは今のままで良いんです」

 

「だからこそ私達は今までも指揮官に付いて行き、そしてこれからも付き従おうと決めたのですから」

 

 静かな決意が込められた言葉。それを直接伝えられて嬉しくもあるが、結構気恥ずかしい。

 

 気を紛らわせるように、基地の様子はどうかと、ちょうど良いタイミングなので聞いてみる。

 

「概ね平常通りに運用されています。指揮官の不在を機に、いくつか業務の効率化を図りました」

 

「またカリーナさんが本部に申請した予算の増額の許可が下りて、各種設備を強化する事で不在の穴を補填しています」

 

「変更された内容に関しては、私の方で書類に纏めて持って来ましたので、病室に戻りましたら目を通してください」

 

 それはありがたい。口頭で伝えられるよりも形で残してくれれば覚えやすいし、何より入院中の暇潰しにもなる。

 ……カリーナの予算増額の辺りが少し気にはなるが。

 

 それで、皆の様子はどうだろう?

 

「みんな、指揮官の事を心配しています。そして早く会いたがっています」

 

「例えどんな状態に陥ってしまおうとも、指揮官が指揮官である限り、全員が付いて行く事を決めています」

 

 どんな状態に陥ってしまおうとも、か。今の俺の状態を見て、尚もそう言ってくれるのか。

 

 リハビリは順調だ。順調に進んでいるからこそ分かる。もう俺の体は完全には元には戻らないと。

 

 失った片目が良い例だ。あくまで今行っているリハビリも、失った体の機能をある程度まで取り戻し、後遺症を少しでも軽くすると共に、多くの機能を失った体に少しでも慣れるためだけのものだけに過ぎない。

 一度失われたものが戻って来る訳ではないのだ。

 

 この先、どれだけ取り戻せるかは分からないが、健常者と比べれば足手纏いになる事は確実だった。そんな自分に、今後も皆が果たしてついて来てくれるのか、不安だった。

 だが少なくとも、その俺を見ているM590は見捨てずにいると、そして他の人形達もそのつもりだと言ってくれた。

 それだけで、大分救われる。

 

 これからも迷惑を掛けるとは思うが、よろしく頼む。不安を払拭するように、そう頼み込む。

 

 彼女達が今後も俺に付いて来てくれると決めてくれた――その事自体はとても嬉しい。

 だが今の俺はこんな体だ。きっと今まで以上に迷惑を掛けてしまうだろう。

 

 だからせめて、言葉だけでも彼女達を労ってやりたかった。

 

「勿論です。それと指揮官。先程は今のままで良いと言いましたが、ご自分が言ったとおり、できればもっと私達を頼ってください」

 

「あの事件の前から思っていましたが、少しばかり指揮官は自分で何でもやりがちです。ですが、もっとわたし達を頼ってくれれば、却ってスムーズに物事が進む事だって多々ありました」

 

 撫でる手を止めずに、苦言を呈して来る。その内容もこちらを慮ってこその事。

 それが余計に母親の説教のように思えて苦笑してしまう。

 

「本当に反省していますか?」

 

 だが、その反応がよろしくなかったのか。咎められる。

 

「今後おそらく、指揮官にはより多くの物事が舞い込んで来るかと」

 

「加えて、体も万全ではないのですから、今まで通り何でもかんでも自分でやろうとしては、倒れてしまいます」

 

「それを避ける為にも、もっと私達を頼ってください。私達は戦う以外にも、様々な分野で活躍できる技術を併せ持ってますから」

 

 それは良く理解している。秘書に任命した人形次第だと、時たま差し入れとかも入れてくれるし、様々な業務を手伝ってくれる。416とか、その最たる例だろうし。

 

「ですので指揮官、戦闘以外の事でも任せてください」

 

「例えば私でしたら書類仕事に対話の仲介や補佐、業務以外でも炊事、洗濯、掃除といった家事まで幅広く対応できます」

 

「もし他の子が何かを言って来ても、指揮官に迷惑を掛けないよう話し合って解決するので、その辺りも心配要りません」

 

 その辺りって、どの辺り?

 俺が人形に頼り過ぎると、情けないって苦言を呈する子も居るって事?

 

 それはむしろ、心配するべきじゃないかな。彼女達に見捨てられたら目も当てられないと思う。

 

「ですから存分に頼ってくれていいんですよ?」

 

 まあ、さすがに全面的に頼る訳にはいかないだろうが、M590の言っている事にも一理ある。

 これからはもう少し、彼女達に業務関連の事なら頼ってみるのも手だろう。

 

 と、そこで不意にM590の手が止まる。

 

「ところで指揮官。先日勝手ながら、あなたのお部屋を片づけさせて頂いたのですが……」

 

 ああ、そういえば何だかんだと結局三ヶ月以上放置しているから、埃とかも溜まるか。

 わざわざすまないな。

 

「いえ、それは良いのですが……」

 

 何かあったのか? まるでその歯の奥に物が挟まったかのような物言いは。

 ていうか、心なしか顔が赤くないか? 一体どうしたんだ?

 

 ……あれ、何だろう。何故か急に嫌な予感が。

 

「あなたの部屋のベッドの下の木箱の中身についてですが……」

 

 ワーワーワーッッ!!

 

 いや、違うんだM590。

 それは健全な男であれば、持っていても何も不自然じゃない、むしろ当然の物というか。

 

 仕方ないだろう、若いんだから。

 

「そんなに顔を隠してまで恥ずかしがるぐらいなら、今度はあんなもの先に隠しておきましょうね」

 

 いや隠してたでしょ。隠してたのをそっちが見つけたんでしょ。

 はい、すいません。次はもっと上手く隠します。

 

 でもそうか。見つかったのはベッドの下のブツだけか。ならまだセーフだな。不幸中の幸いってやつだ。

 引き出しの二重底の中身とか、ベッドの天板の裏とか、本棚の裏の隠し扉の向こう側とかはバレてないんだな。

 

 さすがにそれらの中のいくつかは、大分バレたらヤバイやつだって自覚ぐらいはある。

 いや、さすがにそういう性癖じゃなくて、単純に好奇心と巡り合わせが重なった結果で手に入れただけであって、その後捨てるのもできないから持ってるだけだけど。

 

「全く、ああいうご趣味があるのなら、もっと早く言ってくれても……」

 

 ん、何だって? よく聞こえなかったんだけど。

 

「何でもありません。それより、そろそろ戻りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、どうかなさいましたか? 何か問題でもありましたか?」

 

「ちゃんとルールは守ってみせましたが」

 

「ええ、指揮官の補助要員の役目が終了したら、指揮官を病室まで送り届けた後に速やかに戻る事」

 

「ですからこうして、戻ってるでしょう?」

 

「あれはあくまで、指揮官の体調を第一に考えた結果ですよ。大分お疲れでしたから。そのついででしかありません」

 

「何も問題はありませんよね?」

 

「これですか? ただのタオルですよ。こちらにあるかどうかは分からなかったので、念の為に持って来たんです」

 

「指揮官が汗を拭くのに使われたので、持ち帰って洗濯するのは当然の事ですよね?」

 

「……そうですか、それは良かった。それでは、失礼しますね」

 

「そう睨まないでください。あくまで最優先事項は、指揮官の事です」

 

「少なくとも今は、どんな形であっても指揮官には迷惑を掛けないように」

 

「ですから、みんな仲良くやりましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 




M590は初めてうちに来てくれたショットガンです。褐色肌に銀髪でしかも包容力抜群とか、どストライクでした。
果たしてあの世界で人形のデザインと性格がどのようにして決められているのかは不明ですが、M590の性格と外見を兼ね備えさせた人物には拍手喝采を送りたいです。
惜しむべきはストーリーでの登場がまだ無い事ですかね。お陰でまだまだキャラが掴み辛いのです。
最初は徹底的に甘やかされる話にしようとしてたんですが、考えてみると駄目になるような甘やかし方というよりは、存分に甘やかしつつも自立を促すようなキャラなんじゃないかと個人的には思って、途中で大幅に書き直しました。お陰で文量が今まで一番多くなりました。

書いてて思ったんですが、筆者の技量不足も相まって、病院が舞台だと意外とシチュエーションとか展開が限られるんですよね。もう少しの間病院生活の話を続けるつもりでしたが、縮めるべきか悩み中。

それと活動報告にリクを下さった方、ありがとうございます。できる限り消化できるように頑張ります。


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誤解しないでくれ

色々と私生活の方がごたごたしていて投稿が遅れてしまい申し訳ありません。

コルトAR-15、バルソク、SOPMODⅡ、M4A1の話になります。


 初日にM590が補助要員として来たのを皮切りに、翌日から色んな人形達が見舞い兼補助要員として病室に訪れて来た。

 

 次の日に来たのはコルトAR-15だった。

 

「指揮官、本日は私が補助要員を務めさせて頂きます。よろしくお願いします」

 

 先日のM590に負けず劣らずビシッとした敬礼と共に入室して来た彼女は、挨拶を終えると何か言いたそうに、ジッとこちらを見て来る。

 

 しかしどうかしたのかと問いかけると、静かに首を振る。

 

「いえ、何でもありません。指揮官こそ準備は良いですか? 私はいつでも行けますよ」

 

 コルトの言葉に、さっさと準備を終えて移動を始める。

 

 リハビリが次の段階に移行してから、移動にエレベーターだけでなく、階段を利用する許可も医師から下りたため、今日から階段を使ってみたが、道中もコルトが支えてくれたお陰で特に危ない場面もなく、リハビリ棟に到着する事ができた。

 逆を言えば、まだ補助無しで移動する事はできず、補助要員の仕事を一つ増やしてしまう事になるが、ここはまだ彼女達に甘えておく場面だろう。

 

 しかし、リハビリ中もコルトはどこか心ここにあらずといった様子で、ボーっとする場面が多かった。

 とは言っても、役目に支障が出ている訳ではない。医師の指示の元リハビリを行っている俺の補助要員として側に立ち、要所ではしっかりと役割を果たしていた。

 

 どこか様子がおかしいのは明らかだ。しかしあからさまにミスをするようならばともかく、仕事はきっちりとこなしている。

 加えて先程聞いた時には何ともないと答えられている為、イマイチ切り出し辛かった。

 

 そんなコルトにどうしたものかと、休憩時間に入って頭を悩ませていると、以外にも彼女の方から話題を切り出してきた。

 

「指揮官、一つ伺ってもいいですか?」

 

 彼女が聞きたい事、おそらくはそれこそが、今の彼女の奇妙な様子に関係しているのだろうと考え、居住まいを正す。

 

「指揮官は、胸の豊かな女性が好みなのですか?」

 

 ゴフッと口に含んでいた経口補水液を吐き出した俺は悪くないだろう。

 

 いきなり何を言うかと思えば、どうしてそんな答え辛い事を言うのかなぁ!?

 

「……私たち戦術人形は、最初からそうであるように体を造られています」

 

体構造(パーツ)のカスタムは不可能ではないですけど、戦術的に必要性が認められないと難しいです」

 

「勿論、私達の役割は戦う事です。それを果たすのに体型は不要というのは分かってます。ですが……」

 

 そこでそこから先は言いたくなさそうに……というよりは、言えないかのように、言葉を区切る。

 

「その……私のモデルは、貧そ……いえ、起伏に乏し……いえ、あまり男性受けし辛い、ような……」

 

 うん、二度も言い直す必要はないよ。何を言いたかったたのかは、大体分かったから。

 ……この様子だともしかして、誰かにからかわれたか?

 

「誤解しないで欲しいのですが、別に気にしてるとかそういう訳ではなく、それが原因で私の活躍を正当に評価されない事が無いとは言い切れませんし……」

 

 心なしか頬を紅潮させて、早口で捲し立てて来る。

 

「いえ、決して指揮官がそういう人であるとは思ってはいませんが、上の方々には男性が多いですし……」

 

「やはり同様の戦果を挙げた場合に、私よりも男性受けするモデルの人形の方が、評価が高くなる事も考えられなくはないかと……」

 

 あれか? 言外にクルーガーさんはそういう人だと?

 ……あの人が女性の趣味について語るところが想像できないな。

 

 まあ、俺の個人的趣向はさて置いて、確かに一般的にはそういう男の方が多いのではないだろうか?

 

「一般的には……」

 

 俺の回答を口の中で転がし、目線を自分の胸元に落とす。

 その視線が憂いを帯びているように見えて、すかさず気にする事はないと続ける。

 

 一般的にはそうかもしれないが、少なくとも俺は、外見で人や人形を差別するつもりは毛頭ない。

 そんな事をするのは、指揮官として以前に、人として最低な事だ。君が言ったとおり、俺はそんな最低な奴になるつもりはない。

 

 だから、彼女の抱いている心配はただの杞憂だ。

 そういう意図を込めて伝えると、一瞬ハッとしたように顔を上げ、すぐに満足そうに微笑む。

 

 その後に彼女からその件に関して特に言及はなかったが、休憩が終わりリハビリが再開しても、それまでのような心ここにあらずといった風の様子は消え失せ、普段どおりの態度で補助要員を務めてくれた。

 

 その様子に、何とか納得して貰えたのかと安堵の息を吐く。

 

 実のところコルトに対する回答は、当初の彼女の質問から論点がズレている。

 彼女がそれに気付いたかどうかは分からないが、どちらにせよ、それ以上の追求がないならそれに越した事はない。

 

 不誠実だって? 勘弁してくれ、だってどう答えても詰むだろ。胸の大小に関する俺の嗜好の話なんて。

 変に濁したところで誤魔化せないのは目に見えているし、かと言ってどんな回答をしたところで、変態の汚名を受ける事は免れないだろう。

 

 だからもし後でそのことに気付いたとしても、どうか許してくれ、コルトAR-15よ。それにどうか誤解しないで欲しいが、君に言った事は嘘じゃない。

 胸の大きさに貴賎はないと思ってるし、故に差別する事はない。本当だ。だけどそれを明言するのは勘弁して欲しい。俺にも恥というものはあるのだ。

 

 いやまあ、気付かないでいてくれるのが一番なんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その次に来たのはAEK-999、通称バルソクだった。

 

「指揮官、人の趣味にとやかく言うのは野暮だって分かってるけど、それでもあの本はロックじゃないぜぇ」

 

 入室して来て早々、挨拶もそこそこに言って来たのは、そんな言葉。

 ……あの本?

 

「ベッドの下の木箱の――」

 

 ちょっ、何でバルソクがそれを知ってるの!?

 

「M590が見つけた時に、他の奴等も居合わせていて、そこから他の人形達にも広まってたぞ」

 

 基地全体の人形達に!? ワタシもそれで知ったって、いいよそんな報告はしなくても!

 

「他人の趣味にとやかく言うのはナンセンスだってのは分かってるけどさぁ、方向性の違いはバンドでも気をつけなきゃいけない一番の事項だぜ?」

 

「ただでさえうちの基地は大所帯なんだし、中にはそういう事を気にする人形だって居るんだ。実際、ショックを受けてた奴も何人か居たし」

 

 ショックを受けたって、彼女達が? 何故に?

 もしかしてあれだろうか。別にそう見られたい訳じゃないけど、それでもそれはそれでムカつくみたいな感じだろうか?

 

 あれ、もしかして昨日のコルトの不調の原因ってそれなの!? だとしたら俺、随分と的外れなアドバイスしてた気がする!

 

「確かに勝手に見たのはこっちだけどさ、それでももっと気をつけてくれよ。そんな理由で瓦解とかなったら、割と笑えないぞ」

 

 それは確かに面目ない。人形といえども、見た目通りその中身は年頃の少女のメンタルを有している娘が多い。

 そんな彼女達にとって、俺が所持していたアレはかなりデリケートな代物だっただろう。

 

 だが誤解しないでくれ。確かにジャンルは褒められたものじゃなかったかもしれないが、あれイコール俺の性癖ではないのだ。

 その辺りの認識だけはきちんと解いておかなければなるまい。

 ちゃんと隠していたし、見られたら不味いという自覚ぐらいはあったのだ。

 

「自分のジャンルじゃないのにも関わらず持っていた……って事は、別の隠し場所もある?」

 

 ……ソンナコトナイヨ?

 

「鼓動と声紋が乱れたって事は、図星か……」

 

 君そんな事できたの? 割と長い付き合いだったけど初めて知ったよ。あとそんな目で見ないで。

 普段から手厳しい娘からならばともかく、友人のような距離感で付き合っている君にそんな目で見られるのは、さすがに堪えるものがある。

 

 結局その後、リハビリの時間が来るまで、延々と根掘り葉掘り詰問された。

 ちょくちょく何とか誤魔化そうとしたのだが、即座に見抜き、正解を当ててみせるリアル嘘発見器と化したバルソクに勝てる筈も無く、隠し場所も隠してるブツの内容も、全て把握された。

 

 唯一の救いは、入手経路と事情も把握され、且つそれが嘘でないと理解してくれた事か。お陰で変態の汚名を被る事だけは免れた。

 既に大分手遅れな気もするけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー指揮官。少しは元気になった?」

 

 次にそんな掛け声と一緒に来たのはSOPMODだった。

 

 業務的なやり取りは殆ど無いが、それでも初日にM590から渡された資料を元にしたやり取りが少しばかりあるため、まだしばらくはそういった話ができる人形が来るとばかり思っていた為、彼女が来たのは意外ではあった。

 

 とはいえ、決して彼女が来た事自体に不満は無い。むしろ心なしかいつも以上に上機嫌そうな様子を見ていると、こちらの気分も向上してくる。

 聞きたかった事は後日でも構わないだろうと、来訪を歓迎する。

 

「ごめんね指揮官。お土産に指揮官を苦しめた奴らの部品(パーツ)を持って来ようと思ったんだけど、コルトに没収されちゃって何も持って来てないんだ」

 

 そうか。ナイスだコルト。正直気持ちは嬉しくても貰っても困るのが本音だからね。

 

「でもでも、今日に備えて鉄血の奴ら沢山バラバラにしたから、その分指揮官の役に立てるよ! 期待してて!」

 

 んー、鉄血兵の解体は特に俺のリハビリに結びつかないと思うんだよなぁ。だからそんな褒めてと言わんばかりの目で見られても困る。

 まあ一応、俺の為を思ってやってくれたのは確かなんだから、頭は撫でておくけども。

 

「いひひぃ、指揮官が撫でてくれたぁ……」

 

 ニマニマと……いや、これはニヤニヤだなもはや。ちょっとこの笑顔は気持ち悪いというか、怖い。

 まあ、喜んでくれてるなら何よりだ。SOPMODも相変わらずのようで安心した。彼女が補助要員を務めてくれるというのならば、今日のリハビリも楽しいものになりそうだ。

 

 そう思っていた事がありました。

 

「指揮官、もっと力を抜いてってば!」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!

 ちょっとタンマ! もっと加減してくれって! M590の比じゃないぞ!

 

「大丈夫、もっと関節って曲がるようにできてるから!」

 

 いや無理だから! 俺の体はそんなに柔らかくないぃッ!!

 

「そんな事ないって。鉄血の人形を解体して調べたから間違いないよ!」

 

 いやいやいや、確かに人形は人間を模してはいるけれども。しかしだからと言っても、人形のように人間が動くとは限らないのだ。

 SOPMODよ、個体差って知ってるかい?

 

 やけにやる気と自信満々だったが、まさか人形で練習したからとかいう、無免許医も真っ青な理屈が飛び出してくるとは思わなかった。

 

 あまりの事態に、居合わせていた女性看護師さんが止める為に駆け寄って来ようとする程だった。

 

「近寄るなっ!!」

 

 しかしその瞬間に、SOPMODが凄まじい形相で睨みつける。その声と視線たるや、駆け寄ろうとした看護師さんが足を止め、明確な怯えを表情に浮かべるほどだった。

 

 それを見て、即座にSOPMODを注意する。

 

「だって……」

 

 だってじゃありません。そりゃ任務があるのだから過敏になるのは分かるが、今のはこちらを心配しての行動だったのだ。そう目くじらを立てる程の事でもないだろう。

 もっともSOPMODとて、任務があるからこその今の言動であって、決して悪気があっての事ではないのだろうから、軽い注意程度に留めておく。

 

 それにしても看護師さんには申し訳ない。頭を下げて謝罪を口にするが、表情から察するにあまり結果は芳しくない。

 SOPMODの剣幕が余程恐ろしかったと見え、目じりに涙が滲んでいる。

 

「うぅぅぅぅ……」

 

 俺が頭を下げているのを見て、SOPMODが唸り声とも、呻き声ともつかない声を上げる。ただその表情には、確かな申し訳なさがあった。

 それが分かった以上、俺からはもう何も言うべき事はない。

 

 ひとまず看護師の女性には、後ほどもう一度、詫びの品を持って謝罪するべきだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官……本日はよろしく……お願いします」

 

 翌日、儚げさを感じさせる挨拶と共にやって来たのは、AR小隊の隊長であるM4A1だった。

 

「申し訳ありません指揮官。昨日はSOPMODがご迷惑をお掛けしたようでして……」

 

 目元を伏せて、頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。

 それに対して、気にしていないと手を振って答える。

 

 実際こちらが直接的な被害を受けている訳でもなければ、既に済んだ事であり、またあくまで当事者はSOPMODなのだ。本人以外がその件で責を感じる必要はないのだから。

 

「お気遣い、ありがとうございます。指揮官」

 

 昨日からずっと気掛かりだったのか、肩の荷が下りたかのように口元を綻ばせて笑顔を見せる。

 その破壊力たるや凄まじく、その元から整っている顔の造詣とも相まって、不覚にも強い動悸を感じてしまう。

 

 それを誤魔化すかのように、リハビリに向かう事を伝える。

 

「ええ、分かりました。では、行きましょう指揮官」

 

 先導するM4A1の後を追う。

 

 しかし答えておいて何なのだが、果たしてどれの事を指して言っているのだろうか。

 人体強制軟化運動(ストレッチ)の件なのか、それとも威嚇行為の件についてなのか。はたまた両方なのか。

 

 そんな比較的どうでもいい事を考えながら、リハビリ棟に到着し、いつも通りのメニューをこなしていく。

 驚くべき事に、先日の人体強制軟化運動(ストレッチ)には確かな効果があったのか、体の調子は大分良い気がした。

 

 主治医の先生からも調子が良い事を驚きと共に褒められ、次のメニューに移行できると太鼓判を貰った。

 その準備の為に、先生が少し席を外している間は休憩となった。

 

「お疲れ様です、指揮官」

 

 ありがとう、と礼を言い、M4から経口補水液とタオルを受け取り、水分補給をしながら汗を拭く。

 

「経過は順調だと伺ってはいましたが、やはり実際に見る事ができると、安心できます」

 

 ほっとしたような安堵の表情で、微笑みながら言うM4に、手伝ってくれている君達のお陰だと伝える。

 

 実際予定よりも早く次の段階に進めたのは、ほかでもない昨日のSOPMODのお陰だった。

 だから決して世辞ではなかったのだが、だからこそ本心だと伝わってしまったのだろう。面と向かって言われたのが気恥ずかしかったのか、顔を赤くして俯かれてしまう。

 

 その反応を見ていると、こちらまで恥ずかしくなり、気を逸らすように明後日の方を見る。

 

 そう言えばと思い立ち、周囲を見渡して昨日迷惑を掛けてしまった看護師の女性を探す。

 しかし、いくら探しても姿が見えなかった。

 

 ならばと、戻って来た主治医の先生に彼女の居場所を尋ねると、先生も不思議そうに今日は居ないと答える。

 

 何でも、何の連絡もなく欠勤しているのだとか。

 まだ入って一年経っていない新人だが、勤務態度は良好であり、無断欠勤するようなタイプには見えなかった為、同僚達も首を傾げているとの事。

 

 それを聞きながら、昨日のSOPMODの事が余程怖かったのではと、冷や汗をかく。

 

「指揮官、どうかされましたか?」

 

 俺の動きを不思議そうに見ていたM4の質問に、昨日の看護師の姿が見当たらない旨を、掻い摘んで説明する。

 

「そう、ですか……」

 

 俯き、思考に没頭するM4に、心配しなくていいと伝える。

 SOPMODの事を怒ったりはしない。結果的に不味い行動ではあったかもしれないが、それとて任務を忠実に果たそうとしたからこそであり、何ら問題はないのだ。

 

 まあ後ほど昨日の看護師については、上層部の方にフォローをお願いしておくとしよう。ついでに、お詫びの品も想定していた物よりグレードを上げておくべきか。

 

「指揮官、ありがとうございます」

 

 俺の言葉に安心できたのか、礼を言われる。

 だが、この程度の事で礼を言われるほどでもない。指揮官として、そして彼女達の上司として、当然の事だからだ。

 

 それ故に背中にむず痒さを覚えながら、リハビリに戻る。

 

 ちなみに新たなメニューは、想像以上にきつかった。

 

「指揮官、大丈夫ですか……?」

 

 疲労困憊となり、ろくに身動きが取れない状態となった為に、車椅子をM4に押してもらいながら病棟まで戻ることになった。

 心配そうに声を掛けてくるM4に、問題ないと伝えるが、正直座っていても意識を保っているのが辛い。

 

 その事に不甲斐なさを覚えていると、エレベーター前までに辿り着き、しばらくその場でエレベーターの到着を待つ。

 

「そう言えば指揮官……少しお聞きしたい事が……」

 

 一端俺の横に立ったM4が、遠慮がちにそう言って来る。

 勿論、質問に答えるぐらい何て事はない。こんな事をさせてしまい申し訳なく思っていたのもある。何でも聞いてくれて構わない。

 

 そう言うと、背後で安心したように息を吐き、続けて考え込むように視線を伏せる。

 それでも特に催促もせず、彼女の質問を待つ。すると少しして、やや言い辛そうに口をまごつかせる。

 

「その……指揮官の所持していた……ええと、何と言いますか……」

 

 段々と嫌な予感がして来たが、まさか即座に前言を撤回する訳にもいかず、黙って続きを待つ。

 

 M4は、光を柔らかく反射する艶のある黒髪を恥ずかがるように手で触れながら、視線を伏せたままおずおずと口を開く。

 

「指揮官は……黒髪の女性の方が好きなのですか?」

 

 ……誤解なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です。これよりそちらに戻ります」

 

「はい、指揮官の容態は順調です」

 

「遠からず戻ってこれるかと」

 

「ところで一つ、聞きたい事があるのですが……」

 

「……なるほど、そういう事でしたか」

 

「では、後で戻ったら詳しく聞かせてください」

 

「ええ、大丈夫です。指揮官は特に気付いた様子はありませんでした」

 

「その後については、そちらにお任せします」

 

「それでは、後ほどに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




AR小隊の中にバルソクが入っているのは完全に趣味です。
バルソクいいですよね。あの何とも言えない距離感が堪らないです。スキンが来るのを楽しみにしています。

病院内が舞台だと思っていた以上に話が膨らませられないと気付き、ダイジェスト風になりました。多分近いうちに、退院して舞台が移っていくと思います。

おそらく次はリクを頂いていたダネルの話になると思います。遅くなりましたが、リクエストを下さった方、本当にありがとうございます。残りも可能な限り徐々に消化していきたいと思いますので、よろしくお願いします。


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セクハラにならないよね?

鋭利な刃さんより受けた「抜け駆けをしてしまう愛の深いダネル」……の前編です。
リクエストしてくださりありがとうございました。

愛が深い描写が全然足りないです。力量が足りずに本当に申し訳ありません。


 消灯時間がとうに過ぎた真夜中に、ふと目が覚める。

 

 別段、尿意を催してしまった訳でもなければ、日中寝すぎて目が冴えてしまった訳でもない。かと言って、胸騒ぎがするという訳でもない。

 本当に偶然にも目が覚めて、そして何となくそのまま再び眠りに入る気分にもならなかった。そんな気紛れに身を任せて、上着を羽織って病室から出る。

 

 消灯時間を過ぎた夜の病棟には当然明かりも殆どなく、周囲の静けさと相まって、不気味な雰囲気に満たされている。

 

 そんな不気味な空間を見ていると、夜風に当たりたいと思い、階段を使って屋上へと向かう。

 

 一般的な病院ならば施錠され立ち入りができないのだろうが、ここの病院はそれなりの立場のある者達が利用する為か、深夜でも解放されている。

 扉を開けると、まだまだ冷たさを残す風が体を撫でる。上着を羽織って来たのは正解だったなと一人笑う。

 

「指揮官、そこで何をしているんだ?」

 

 欄干に手を乗せて星空を眺めようと頭上を見上げると、背後から聞き覚えのある声が届く。

 振り向くと、出入り口の上にNTW-20、通称ダネルが腹這いになってライフルを構えていた。

 

 特に隠すような事でも無かったので、正直に気晴らしに夜風に当たりに来たと伝えると、何故か眉を顰められる。

 

「護衛も付けずにか? 少しばかり不用心過ぎるぞ指揮官」

 

 ごめん、と素直に謝ると溜め息をついて、耳のインカムに手を当てて「少し場を離れる」とどこかに通達する。

 

「行くぞ指揮官。護衛は私が務めよう。気晴らしをしたいなら、いい場所を知っている」

 

 そう言って降りたダネルの後に、特に拒否する理由もないのでついて行く。

 少なくとも、病棟とリハビリ棟を行き来するだけの俺よりは、周辺に詳しいだろうという期待もあった。

 

 そして結果から言えば、その期待は正しかった。

 

「ここだ」

 

 ダネルに連れられて来たのは、病院の敷地のやや外れにある、それなりに大きな建物。

 病院の敷地内に建てられているためか、白く殺風景に塗られた壁には『ドールズカフェ』と書かれている。

 

「いらっしゃいませー」

 

 ベルを奏でながらドアを開けると、聞き覚えのある、気だるそうな声が出迎える。

 

「んあー、指揮官、来たの?」

 

 癖のある灰色の髪を縛り、見覚えのある給仕服に身を包んで立っていたのは、自分の部下の一体であるゲパードM1だった。

 

「それにダネルも。今日は第一病棟の屋上担当じゃなかったっけ?」

「その通りだが、指揮官が護衛もつけずに屋上まで来たからな。私が護衛を務めて、気晴らしに付き合おうと思ってな」

「……ふーん、そう」

 

 やる気のない言動に惑わされがちだが、引き受けた仕事はしっかりとこなす、我慢強い一面があるのがゲパードだ。

 そんな彼女からすれば、俺の勝手な都合で本来の仕事をそっちのけでダネルを連れ回している事に、思うところがあるのかもしれない。

 

 そう思うと途端に申し訳なくなり、二人に頭を下げる。

 

「……別に謝られる事でもないってば。それじゃあこちらへどうぞ」

 

 何やら探るような目でダネルを見た後、やはり気だるそうな態度のまま、中央のテーブルへと案内される。

 

「それなりの立場の人が入院する病院だから、こういった施設もそれなりに充実しているんだ。人形たちが二十四時間態勢で、いつ来てもいいように交代でシフトに入っている」

 

 俺が椅子に座るのをさり気なく補助しながら、ダネルが説明してくれる。

 

「勿論、食材も良い物を仕入れている。きっと指揮官も満足できると思う」

 

 なるほど、大物が入院している時に、可能な限り不便な思いをしないように、採算を度外視して設置してあるのか。

 言われてみれば確かに、周囲を見てもホールに居るのは人形達ばかりだ。

 

 それにそういった立場の者は、得てして舌が肥えているものだ。そんな舌を満足させる為には、それなりの品質のものが仕入れられていて然るべきだろう。

 ちょうど病院食も味気ないと思っていたところだし、いい場所を教えて貰った。

 

 しかし、何故ゲパードがここに?

 

「警備の一環で一時的に働かせて貰っているんだよ。一応、ここが占拠される可能性もあり得ない訳じゃないし」

 

「以前給仕を務めた事があるって事で、ワタシが抜擢された」

 

「私も巡回が入っていない時は、ここで働いているんだ」

 

 だからダネルもここの事情にも詳しいのか。納得した。

 

「こちらがメニューになります」

 

 メニューを渡されて、見てみる。

 

「どれも美味しいが、私は特にデザート系がオススメだ」

 

 砂糖が希少品となった現在では、そもそも取り扱っている店も限られている中で、驚くほどの充実ぶりだった。

 こうも多いと、あれもこれもと目移りしてしまう。

 

 迷った末に、オーソドックスなパフェを頼む。

 

「はーい。ただいまお持ちしますので、少々お待ちくださいませー」

 

 程なくして、注文した品が運ばれてくる。

 

 想像していたものよりも一回り大きな容器に、出し惜しみはしないと言わんばかりに様々な種類のフルーツと生クリームが盛り付けられ、その上からさらにチョコソースが掛けられている。

 一方、ダネルの注文したパンケーキはふんわりとしたスフレケーキで、メープルシロップと傍らにバニラアイスが添えられているシンプルなもの。

 

 食べ切れなかったら彼女に分けてあげようと決めて、まずは一口食べてみるが、想像以上のクオリティに思わず美味いと声が零れる。

 

「そうだろう。材料もそうだが、調理する人形も専用にモジュールが組まれているらしい」

 

 ダネルの説明に得心する。

 

 クリームのしつこさを感じさせず、どのフルーツとも調和した上品な甘さに加えて、そのフルーツ自体もクリームの量と比較して適切な大きさにカッティングされている。

 パフェ自体の温度も適温で、素材の味を殺さず、そして空調の聞いた室内温度にも見事にマッチしている。

 

 然程料理に詳しくない俺でも、素材が良いだけでは説明のつかない出来栄えだという事は分かる。

 値段はそれこそ目玉が飛び出る程のものだったが、それだけの価値はあると断言できる。

 

「随分と気に入ってくれたみだいだな。紹介した甲斐があった」

 

 気がつけば食べるのに夢中になっており、ダネルの声でようやく我に返る。

 見れば彼女はこちらを微笑ましそうに見ていて、逆にこちらが恥ずかしくなって来る。

 

「しかし、そんなに美味しいなら、私もそちらを頼めば良かったか」

 

 少し残念そうに言う。もしかして、まだこれは食べた事が無かったのだろうか?

 

「それはそうだ。何せここは病院関係者専用店だからな。私たちも、オフの時に訪れる事はできない。精々が警備担当の休憩時間に訪れるぐらいだ」

 

 言われてみればその通りか。相応の立場を持った者専用の病院の敷地内に、早々部外者を受け入れる訳にもいくまい。 

 

 ならばと、まだ半分は残っているパフェを一掬いしてダネルへと差し出す。

 

「し、指揮官、何を……!?」

 

 何をって、折角だから食べてみないかと思って。

 

「い、いやでも、これはいわゆる、か、かん……」

 

 俺の顔と差し出したスプーンを交互に見ながら、急にわたわたと慌てだす。

 

 もしや、イチゴは嫌いだったのだろうか?

 だとすれば、余計な気を回してしまったか。すまなかった。

 

「いや、そんな事はない! 頂こう!」

 

 大声を上げて、パクリと一気に口の中に入れる。

 そのまま少しの間口をもぐもぐと動かして咀嚼していたが、やがて普段のクールさをどこかに投げ飛ばして、顔を幸せそうな表情へと変える。

 

「う、美味いな……うん、本当に美味い」

 

 それは良かった。

 笑顔のダネルの顔を見て満足感を得ながら、パフェの残りを片付け始める。

 

「そっ、そうだ。折角だし私のも食べてみないか?」

 

 そう言って、パンケーキを素早く切り分けてフォークに刺し、どこか緊張したような面持ちでこちらに向けてくる。

 

 確かに彼女の食べているそれも気になっていたし、こちらに気を使ってくれた彼女の想いを無碍にするのも失礼に当たるだろう。

 ここは彼女の好意に甘えよう。そう思って顔を近づけようとして止まる。

 

 今気付いたけどこれ、凄く恥ずかしいな。

 ダネルが慌ててたのも、もしかしなくてもこれが理由なのでは?

 だとすれば、物凄く失礼な事をしてしまった気がする。

 

「……ど、どうしたんだ指揮官。もしかして、私の食べた物は嫌なのか?」

 

 そう言って急に悲しそうに顔を伏せる。その反応に、今度はこっちが慌てて、そんな事はないぞと否定し、差し出されたパンケーキを食べる。

 

 こちらも絶妙なふわふわの食感にパンケーキ自体のほのかな甘さと、メープルシロップの甘さが合わさり、素晴らしい絶品になっていた。

 惜しむらくは、入院中しか味わえない事か。

 

 最悪材料はポケットマネーで調達するにしても、調理できる腕を持つ者がいない。

 いや、専用にモジュールを組んでいると言っていたか。どうにかそれを手に入れられれば、あるいは……。

 

 そんな邪な思考が頭を掠めていると、ふと視線を感じる。

 見ればダネルの背後で、ゲパードが何とも言えない表情で、こちらをジトリと睨んでいた。

 

 ……今更だけど、さっきのやり取り、部下に対するセクハラにならないよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダネルから報告。指揮官を予定通り『ドールズカフェ』に誘導完了だって」

「了解。あの店の壁は防音もしっかりしているし、万が一にも騒ぎは聞こえないだろうね」

「だからって、あまり時間がある訳じゃないわ。速やかに奴らを殲滅するわよ」

 

 病院より一キロ以上離れた場所で、UMP9が耳のインカムから聞こえて来た報告を、その場に居たVectorとHK416に伝える。

 

 その報告に、二人は共に物陰に身を隠しつつ応答する。その物陰に、あるいはその傍らの虚空を、断続的な銃声と共に銃弾が駆け抜ける。

 

「チッ……」

 

 忌々しそうに舌打ちし、銃だけを物陰から出して発砲する。斜線上に居た、フルオートでアサルトライフルを撃っていた男が額に銃弾を喰らい、悲鳴を上げる暇も無く倒れる。

 

「考えなしに撃って、指揮官に聞こえたらどうするつもりよ」

 

 そう吐き捨てるHK416の銃には、そしてVectorやUMP9の銃にも、サイレンサーが取り付けられていた。

 

「まっ、これだけ離れていれば夜中でも大丈夫でしょ。その為に迎撃地点をここにしたんだから」

「どの道、指揮官の居る病院の敷地には近付けさせない」

 

 Vectorも9も、416に倣うように別の相手へと銃弾を浴びせる。

 銃弾を受けた者たちは血肉を地面に撒き散らしながら倒れる。中には幸運にも即死を免れた者も居るが、即座に頭に銃弾を受けて、脳漿を血と共に撒き散らして息絶える。

 

「辞めてくれ、撃つな! 我々は君達の味方だ!」

「我らは君達人形を、あの悪魔から解放する為に来た!」

 

 まだ銃弾を受けていない者達が、射線から身を隠しながら声を張り上げる。

 

「指揮官が、悪魔ですって……!?」

 

 だが逆にその言葉は、彼女達の逆鱗に触れる結果に繋がった。

 端正な顔立ちが憤怒で歪められ、凄まじい迫力を生み出す。それを目撃した男達が反射的に後ずさり、射線がぶれる。

 その大きな隙を逃す筈もなく、手足を正確に撃ち抜く。その痛みに男は地面に倒れながら絶叫する。

 

「指揮官を殺そうとして、ただで済むと思わないで頂戴!」

 

 彼らは人形ではなく、人間だった。

 

 ロボット人権団体の中でも過激派で知られる彼らは、先日の驟雨事件で英雄として名を馳せた指揮官を、人形を酷使する敵として認定し、密かに入院場所を突き止めて殺害する計画を立てていた。

 

 名声が引き寄せるものは、良いものばかりではない。時にはこうして、良からぬものまで引き寄せてしまう場合もある。いや、そういったケースの方が多いと言っても良いだろう。

 

「ああっ!?」

「急にどうしたのよ?」

 

 戦闘中であるのにも関わらず、奇声を発した9に416が訝しげに視線をやる。

 

「こ、これ……」

 

 そう言って9が見せたのは、通信用端末。その端末の画面には、彼女達の指揮官が恥ずかしそうに頬を染めながら、ダネルが差し出したパンケーキを頬張る姿が写っていた。

 その指揮官の手元には食べかけのパフェがあり、ダネルが差し出しているフォークが彼の物ではないのは明らかで、つまりは必然的に既に彼女が使っていた物である事はすぐに分かった。

 

「はっ……?」

 

 ちょうどリロードのために抜き取った空のマガジンが、416の手の中で不穏な音を立てる。

 

「私達がクズ共を掃除している間に、一体何をやってんのかしら……」

「ずるいよね! 協定無視して抜け駆けなんて!」

 

 ドスの利いた声音で毒づく416に同調するように、9も頬を膨らませて不満を露にする。当然その間、二人は戦闘に参加していないため、Vectorが一人で応戦していた。

 

「さっさと片付けて戻るわよ」

「……もう一つの迎撃地点の応援は行かなくていいの?」

 

 当初の計画ではいち早く片付いた方がもう片方の迎撃地点の応援に向かうという手筈になっていた為、Vectorが一応は声掛けする。

 

「あの寝ぼすけだって、やる時はやるから大丈夫よ。あいつも居る事だしね」

 

 その問いに心から忌々しそうに答え、リロードを終えて戦線に戻り、先程とは比べ物にならないほど鬼気迫るオーラを纏い、引き金を引く。

 

 結局その迎撃地点の敵が全員骸と化したのは、それから僅か五分後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今後登場予定のUMP姉妹の為にも諦めるわけには行かず、深層映写何とかギリギリで駆け抜けました。ランキングは35万前後なので専用装備は無理そうですね。
UMP40の「鬼ごっこしよう」の台詞、ストーリークリア後だと凄く切ないです。

そしてついにバルソクのスキンが発売されましたね。ガチャではなく確定で売ってくれる運営さんは本当に有情ですはい。

次話は今回の後編になります。別人形視点に挑戦できたらしてみたいと思いますのでよろしくお願いします。


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NTW-20

幸運にも8月8日のオーケストラコンサートの昼の部のSS席に当選し、これは何としてでも行かねばなるまいと当日に休みを取るために躍起になっていた結果、大変遅くなってしまいました。楽しみにお待ちしていた方々には大変ご迷惑をお掛けしました。
そんな訳で後編になります。
ダネルのキャラがうまく掴みきれてないので、後日修正するかもしれないです。


 指揮官の身に危険が迫っている。UMP45からその知らせを聞いた時、今まで経験したことが無いほどの焦燥感が全身を支配した。

 

 スナイパーとしてあってはならない、自身の内心を制御ができないという事態。思考が上手く回らず、今にも一心不乱に指揮官の下へと駆け出したい想いが胸中を満たしていく。

 

 それでも何とかそうした想いを身体の内に留め切り、正確に事態を把握すべく、努めて冷静にどういう事なのかと問い返した。

 そうして得られたのは、所謂ロボット人権団体と呼ばれる連中が、指揮官を私たち戦術人形を酷使する敵であると見なし、その命を狙っているという情報だった。

 

 それを聞いた途端に、焦燥は憤怒へと変わる。

 

 ふざけるな、何がロボット人権団体だ。何が、指揮官は悪魔だ。

 指揮官が私たちの意志を無視して、人形を酷使している? 冗談じゃない。

 指揮官は私たちと共に最前線に立ち、自らを犠牲にして戦い続けた。だからこそ私たち戦術人形は一体も欠ける事無くこの場に居て、さらにはロボット人権団体のような連中も生きていられているのだ。

 

 あのまま鉄血の人形共が防衛線を突破し、グリフィンに甚大な損害が出ていたら、巡り巡って危険に晒されるのは人間たちだ。それを防いだのが指揮官だ。

 

 そんな事も理解せず、私たちの意志すら無視して、私たちから指揮官を奪おうとするな!

 

「落ち着きなさい」

 

 気が付けば周囲の人形達に、我を忘れて飛び出すのを抑えられていた。

 言わずとも気持ちは一緒であるという事がすぐに理解できた。その上でその激情を押し留めていた。それが指揮官のためになるから。

 それが分かったからこそ、表面上だけでも冷静さを取り戻す事ができた。

 

 続く情報によれば、既に指揮官が入院している病院に、連中の手の者が潜入しているという事。それがSOPMODのお陰で判明し、既に身柄を押さえてある事。尋問の結果、連中の作戦の決行が今夜である事が分かった。

 

 その上で私たちがするべき事は、指揮官を守る為にこれを迎撃する事であると伝えられる。それも指揮官に悟られる事なく。

 勿論、そんな事は言われるまでもない。

 指揮官は既にその身に、充分すぎるほどの苦を背負っている。そんな彼にこれ以上、余計な負担を掛けさせる訳には行かない。ましてや指揮官の命を狙った、不貞の輩に関する事で思い悩ませるなど論外だ。

 

 だからこそ、私が後詰めなのは納得しよう。

 

 あくまでスナイパーの役目は長距離からの狙撃であって、近・中距離での制圧ではない。銃声を指揮官に聞かれるリスクを考えると、出番が無いのが一番であり、万が一にでも防衛線を突破された場合にのみ出番がある。

 正直に言えば、指揮官の命を狙う連中は自分の手で仕留めたかったが、指揮官の事を考えれば優先順位は自ずとハッキリする。それに自分以外のライフルやマシンガンを扱う人形も事情は同じなのだ。

 

 結果として、多少のアクシデントこそあったものの、目標は完璧に達成された。決して指揮官に気取られる事なく、迅速に、襲撃者たちを最小限の捕虜のみを残して殲滅する。

 捕らえた捕虜からも情報を引き出して、残党も全て始末した。だから自分に割り当てられた役割に文句等あろう筈もない。

 

 だが、拘束されているロボット人権団体の連中の端っこで、同じく拘束されている私のこの扱いについては、まるで納得できない。

 

「一体どうして邪魔をするの!? 私たちは貴女たちを自由にしてあげようとしたのよ!」

「うるさい」

 

 後ろ手に縛られ跪かされた女が金切り声を上げる。その背後に立っていたUMP9が、笑顔のまま女を蹴り倒し、床に叩きつける。

 続けて髪を掴んで持ち上げられたその顔は、情報を引き出す際に再三に渡って殴られたため、醜く腫れ上がっていた。

 

 女は指揮官が入院している病院に、看護師として一年近く前から潜入していた。

 元は敷地内にある『ドールズカフェ』に対する調査が目的であり、それが指揮官の入院により急遽として役割が変更となっていた。

 

 指揮官が入院するに当たって、時間が無いなりに直近で配属された者たちや。配属を希望した者たちの経歴こそを調べたものの、まさか一年近く前に配属された者が過激派団体の者だったとは思わなかった。

 偶然とはかくも恐ろしいものだと感じた以上に、結果的に指揮官を危険に晒してしまったのが悔やまれる。

 SOPMODがその直感で気付かなければ、今頃どうなっていたかを考えると、心底ゾッとする。

 

 人形が直感というのも変な話だが。

 

「わ、我々ロボット人権団体は、人形達が人と同等の権利を手にするため、日々戦い続けている」

 

 女の隣で、同様に縛られ跪かされている禿頭の男が、虚勢を張り始める。

 

「それで?」

「例えここで命尽きようとも、崇高な使命を引き継ぐ同志が必ず現れる! 我々は決して負けはしない!」

 

 その背後では、姉のUMP45が退屈そうに適当な相槌を打っている。

 

「き、貴様ら悪魔の手先に屈する事など、決して有りはしない!」

「……つまり指揮官が悪魔って言いたい訳ね」

 

 底冷えする45の言葉に内心で同意する。

 HK416から聞いていたが、なるほど確かに、これは凄まじい怒りを覚える。

 

 私たちを人してではなく、戦術人形として扱ってくれた指揮官。私たちを人形であるとした上で、それを尊重して常に寄り添い理解しようとしていた。

 

 雪が見たいという私の我儘を叶えてくれた指揮官。私一体のために高い費用をポケットマネーから支出して、人工降雪で私に雪を見せてくれた。

 

 甘いものが意外と好きで、それを少し恥ずかしい嗜好だと考えている指揮官。それを食べた時の至福の表情は見ていて心が落ち着いた不思議な気分になれる。

 

 お酒にはそこまで強くない指揮官。酔うと結構陽気になって、こちらが赤面するよな言葉まで平然と言い始めるのだから困ったものだ。

 

 そんな彼の一体どこが悪魔なのだ。

 

「と、当然、人形の人権を無視し奴隷のように扱う者など、人ではない! だまされているとは言え、その片棒を担いでしまった君達もまた、その手先だ。決して許される事では「うるさい」……」

 

 これ以上は聞くに堪えないと、45が後頭部に押し付けていた銃口の引き金を引いた。

 その光景を間近で見せ付けられた仲間たちが悲鳴と怯えを露にする。今更のように謝罪と命乞いの言葉を口々にするが、それを聞いた、彼らを取り囲む戦術人形たちの表情には醒めた色。

 

 それが当然の報いだと言わんばかりの冷酷な表情で、何の躊躇いもなく、次々と引き金を引いていく。

 

「このガラクタ共め、お前たちもあの男と同じく悪魔だ! 地獄に落ちろ!」

「さようなら」

 

 最後まで残されていた女が、金切り声を最後にUMP9に撃ち殺される。

 

「すっきりした~」

「良かったわね。さて、忌々しい連中の処分も終わった事だし……」

 

 妹と同じく気分が晴れたのか、清々しい顔で45が言う。その顔がこちらに向けられる。

 

「残りの仕事も片付けましょうか」

「私は何も悪い事はしていないだろう!」

「協定違反をしたじゃない」

 

 協定、それは私たちの基地に所属する戦術人形の間で取り決められている、指揮官に関する決まりごと。

 

 大小様々な協定があるが、最も重要なのは指揮官に対して抜け駆けは許されないという事。そしてこれに違反すれば、厳重な処罰が下される。

 

 45が写真を差し出してくる。

 

 一枚目、指揮官と私が向かい合って椅子に座り、メニューに目を通している……ふりをして、私がメニュー表で目元を隠しながら指揮官の顔を見ている写真。

 この時の指揮官は想像以上のメニューの豊富さに驚きを覚えながら、せわしなく視線をメニューのあちこちに走らせている、とても愛らしい姿だった。

 

「この写真が一体なんだって言うんだ。特に違反はしていない」

 

「そもそも、指揮官が外に出てしまった場合はこの店に誘導すると事前に取り決めてあっただろう。その上で、何の理由も無しにその場に指揮官を留めて置くのは不自然だから、一緒の席について注文をしただけだ」

 

 協定の一つに、指揮官に対して余計な気苦労を負わせない事というものがある。

 

 今回のロボット人権団体の件のように、例えそれが指揮官の為になる事であっても、指揮官は自分のせいで私たちに無用な殺しをさせてしまったと、そして忌々しいが奴らを殺めてしまったと悔いてしまうだろう。

 そうした気苦労を負わせない為の協定であり、それを遵守する為の行動だった。

 

「じゃあこっちは?」

 

 二枚目、指揮官が差し出されたパフェを見て目を輝かせている写真。その微笑ましい表情を前に、思わず頭を撫でてあげたくなる衝動を抑えるのが大変だった。

 三枚目、指揮官がパフェを口にして、頬を緩ませている写真。その愛らしい表情を前に、思わず飛び掛かり抱き締めてあげたくなる衝動を抑えるのが大変だった。

 

「随分とだらしない顔ね?」

 

 言われて改めて端から見てみると、自覚はなかったが、横からの写真だというのにも関わらず、締まり無く緩んでいると分かる私の顔が写っていた。

 ついでに三枚目の私の利き手は、食器から離れてテーブルの下で何かに耐えるかのように力強く握り締められていた。

 

「これも特に問題は無いはずだ」

 

 確かに任務中に、そしてスナイパーにあるまじき感情を表に出してしまっている、恥じ入るべき場面を収められてはいるが、協定自体に背反していない筈だ。

 

「それもそうね」

 

 45もそれは分かっているのか、あっさりとそれらを引っ込める。

 

「でもこれは?」

 

 四枚目、指揮官が自分が頼んだパフェをスプーンで掬って私に差し出している写真。

 先ほどとは違い、撮影は私の後方で行われたのか、顔が写っているのは指揮官ばかりで、私の顔は写されていない。

 

「確かに軽率な行動だったかもしれない。だが、あそこで不自然に断れば、結果的に指揮官の中に疑念を生じさせる可能性だって僅かながらあった」

 

「それにこれは、あくまで指揮官の自主的な行動だ。協定も指揮官からの動きに対しては例外とするという事項があっただろう」

 

 指揮官に対する抜け駆けを禁止する協定。しかし指揮官からの行動に限っては、例外事項として明記されてある。

 

 私たちは指揮官の為に存在している。それ故に指揮官の意思は、最大限尊重するようにしている。仮に指揮官が、私たちのうちの誰に対してアプローチをしようとも、だ。

 

 協定にかこつけて美味しい思いをしたと言われても仕方がないかもしれないが、これも例外事項の範囲内に収まる筈だ。

 

「その通りね。確かにこれは、指揮官からの自主的な行動。例外事項に当てはまる」

 

「でもこっちは?」

 

 先程と同じく、やけにあっさりと認めると思った直後に出された五枚目は、指揮官に向けて私が切り分けたパンケーキをフォークで差し出している時の写真。

 

「これはどう見ても、指揮官からじゃないよね?」

 

「そ、れは……」

 

 今度こそ、言い訳通用しない。

 それが理解できて、首から力が抜ける。その私の姿を見た45が冷たく笑う。

 

 そこでようやく気付く。四枚目から変わったアングル。当事の光景を思い返してみれば、あれらタイミングで、このアングルの写真を撮影できるのはゲパードだけだ。

 

「…………」

 

 反射的に首を動かして彼女のほうを見ると、言葉は無く、ただし冷酷な視線で私を射抜いていた。

 思わずその視線に耐え切れず顔を逸らすと、その先に居た9は変わらず楽しげな笑み。果たして何を考えて楽しそうにしているのか。

 周囲の他の人形達も、大体はその二通りに別けられた。私に対して同情している者は、いくら探してもこの場には皆無だ。

 

 そもそも明確な協定違反をした者に対して、掛けられる慈悲は無い。それは私もよく理解していた。

 いや、している筈だった。

 

 している筈だったのに、堪え切れなかった。

 スナイパーとして感情は制御できて手当然のものだった筈なのに、あの瞬間、指揮官の身に危険が迫っていると聞いた時と同じかそれ以上に、自分の内側の感情を処理しきれず、頭の中がエラーで埋め尽くされた。

 

 咄嗟に指揮官と同じ行為をし返したのは、あのまま無理に押さえ込もうとすれば決壊して、指揮官に対して何をしてしまうか分からないという意思が辛うじて働いたが故だ。

 それならばせめて、穏便にそれを解消してしまおうとした。

 

 もっとも、そんな事は言い訳にもならない。

 顔の向きを元に戻すと、いつも通りの微笑を浮かべた45が宣告してくる。

 

「それじゃあ協定違反を認めた訳だし、ペナルティを下すわね」

 

 

 

 




ペナルティの具体的な内容については、また今度(というかまだ大雑把にしか決まっていない)。
このあとしばらく話を進めた後に、今回のエピソードの続きを描く予定となっておりますので、それまで生暖かく待って頂けたら幸いです。


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本当に好きなんだなぁ

G11+αの話になります。


 寝る事は好きだ。でも、ただ寝れればいい訳じゃない。寝ている場所だって重要だ。

 その気になれば例え、そこが敵陣のど真ん中でだって寝れる自信がある。でも、寝る場所があたしにとって安心できる場所であれば、尚の事良い。

 

 だから今日もあたしは、指揮官の部屋に寝に行く。お気に入りの寝袋を抱えて。

 

 指揮官の部屋は執務室と兼用になっている。

 いや、正確には執務室とは別に指揮官の私室があるのだけど、忙しい時とかは執務室に缶詰になるから、ソファをベッド代わりにそこで寝泊まりする事が多々あり、更に他の様々な私物が持ち込まれた結果、第二の指揮官の私室みたいになっている。

 結果本来の指揮官の部屋は使われない日が時たまあって、そんな時はあたしが代わりに寝させて貰っている。

 

 普通ならあまり褒められた行為じゃないけど、なんだかんだ指揮官も「仕方がないな」と苦笑しながら、あたしがベッドを使う事を許してくれるし、指揮官が自室を使う時も床で寝袋を遣って寝る事を許してくれる。

 あたしがHK416から逃げて来た時は、さすがに限度はあるけど基本的に匿ってくれるし、余程の事がなければ怒ったりもしない。

 おやすみと声を掛けてくれて、運が良い時は寝ているあたしの頭を撫でてくれる時もある。まあ、それに気付くのはあたしが寝たふりをしている時なんだけど。

 

 あたしと指揮官の間には、いつの間にかそんな関係が築かれていた。

 いつからそんな関係を築けていたか、正確には分からない。最初こそ驚かれたり、注意をされたりもしたけど、そのうちそんな事もなくなって、顔を合わせてもそれが当然のように、ただ「おやすみ」という言葉をくれるようになった。

 

 言ってしまえばたかが一言だけの挨拶だったけど、でもそんな事はどうでもいいくらいに、その当たり前は心地良かった。

 自分がまた明日、何事も無く目覚めて来る事を疑いもしていないたった一言で、眠りに入る前の、今度こそ自分が目覚める事はないんじゃないかという懸念が、跡形もなく吹っ飛んでしまう。

 そんな言葉をくれる関係は、いつまでも手放したくないと思える程に安心できるものになっていた。

 

 そんな指揮官とは、もう長い間言葉を交わせていない。

 

 指揮官が寝たきりになって、もうすぐ三ヶ月になろうとしている。

 医者曰く、最初の一月で何とか峠は越えたという。だから後は自然に目覚めるのを待つだけだというけど、指揮官は一向に目覚める気配が無い。

 頭部にも傷を受けた事もあり、最悪このまま二度と目覚めない可能性もあると医師から聞かされた時のほかの戦術人形達の胸中は筆舌し難い。

 

 今でこそ皆指揮官が目覚める事を信じているけど、聞かされた当初は感情モジュールの誤動作に身を任せて暴れまわったり、自室に塞ぎ込んだりする人形が多々現れたりもした。

 

 だけどあたしは、最初から特別心配はしていない。

 

 きっと少しだけ、ほんの少しだけ指揮官は疲れ過ぎているんだと思う。だから少しだけ長く寝ているだけ。ついでに、今のうちに少しでも長く寝ていたいのかもしれない。

 その気持ちは凄く分かる。きっとあの戦場は指揮官にとって、とても大きな負担になっただろうから。肉体的だけじゃなくて、精神的にも。

 

 だから今だけは、嫌な現実から少しの間だけ目を逸らしている。

 でも指揮官は中途半端に責任感があって、変なところで真面目だから、なんだかんだ言って最後には戻ってくるだろう。

 あたしはそれをただ待っているだけで良い。そして指揮官が戻って来た時に、お帰りって言ってあげれば良い。

 

 そしてその時が来るのを、今日もまた彼の部屋で──

 

「ちょっ、ちょっと何よこれ!?」

 

 ……あたしの安心できる場所が、盛大に崩れる音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな物を隠し持ってるなんて、信ッじられない!」

「まあまあ、指揮官も男の人ですので、そんなに目くじらを立てなくとも……」

 

 WA2000が机を叩いて憤慨する。そんな彼女をやんわりと宥めているのはM590だ。

 

 その場にいるのは二人だけではなく、この基地に所属している戦術人形の大半が集まっている。

 そして皆の視線は共通して、WA2000が叩いた机の上に載っている、積み上げられた雑誌の束に向けられていた。

 

 その束の一番上の雑誌の表紙には『東洋美女の神秘』という表題と一緒に、スタイル抜群で黒髪ロングな女性のヌード写真が印刷されていた。

 

「不潔よ不潔、汚らしい!」

「WA2000、落ち着いてください」

 

 事の発端は、定期清掃中にM590が指揮官のベッドの下から、大量の雑誌を見つけた事だった。

 多分ベッドの床板の留め具が、しばらく確認していないうちに緩んでいたんだと思う。指揮官にとって、そしてあたしにとっても不幸なことに。

 

 そして隠されていた雑誌をその場に居合わせたWA2000が見て大声を上げて、それを聞きつけた他の人形達が何事かと集まって来た結果、場所が指揮官の私室から作戦室へと移ることになった。

 

 正直作戦室を占領する程の事だろうかと思ったけど、これだけの人数が集まれる場所はそうは多くないし、一部の人形たちにとってはある意味重要議題と言えなくもないし、何も言わないでおく。

 

 耳を澄ませてみれば、周囲の人形たちも「指揮官……」とか「うっわー」とか「これはむしろ指揮官の好みを知るチャンスね」とか、他にも色んな反応を示している。

 そんな状態で下手に口を挟んで、とばっちりを食らいたくもないし。

 

「そんな事言いながらも、わーちゃん実は内心、ちょっとだけ嬉しかったり?」

「なっ、何でそうなるのよッ!?」

 

 とか思ってたら、9がさらにヒートアップする気配のあったWA2000に口を挟み始めた。

 

「でもほら、よく見るとこっちは『長い髪が魅せるチラリズム』で、こっちは『気になるあの娘の妖艶な赤い瞳』だし、結構わーちゃんに当て嵌まってると思わない?」

 

 9が次々と雑誌を手に取って、パラパラと流し読みしながら言う。

 

「あとこのページの被写体の娘も、こっちのモデルもわーちゃんに似てない?」

「そっ、それとこれとは関係ないでしょ!こんな物を隠し持っていた事自体が問題だって言ってるのよ!」

(……凄いなぁ)

 

 半ばこじつけに近い論理だけど、WA2000の「あと誰がわーちゃんよ!?」という剣幕に怯む事もなく、巧みに彼女の勢いを剥いでいる。

 きっとWA2000含む周囲のみんなの内心には、言われてみればっていう考えが大小あれど浮かんでると思う。

 

 これで多少なりとも、WA2000の指揮官に対する気勢は落ちるだろうし、皆の関心も少しは雑誌からWA2000に移ると思う。

 現状できる中では、最大限と言ってもいい指揮官に対するフォローだ。

 あたしには到底真似できない。

 

(……指揮官をフォローしている、んだよね?)

 

 WA2000に対して、協定違反を遠回しに唆している訳じゃないよね?きっと。

 

 あと、さりげなく流し読みして「うわー、エローい」とか言いつつ、全ページをつぶさに観察してるよね、あれ。

 どのページが一番読み込まれてるか、こっそりと確認してるよね。

 

 ……正直あれは指揮官のものじゃないから、そこまで役には立たないと思うけど。

 一応ベッドの下に隠してたやつは、何度か目を通した事があるみたいだから全くの無駄でもないだろうけど。

 

「あれっ、ていうかこれ全部巨乳もの……」

「ちょっ、バカナイン!」

「へえ……」

 

 とか思ってたいたら、9が雑誌の共通ジャンルに気づいて思わず口にする。

 薄々察していたらしい416が、慌てて9の口を塞いだけど既に手遅れで、45の発声装置から底冷えする声が零れ落ちていた。

 

「確かに言われてみれば、そういう共通点があるようにも見えるわね。でも、こういう雑誌は大抵がそういうものなんだろうし、むしろそれをメインに押し出しているのは一冊もないわよね?」

 

 笑顔で――なんでか物凄い怖い笑顔で、周囲の頬が紅潮していたり、緩んでいたり、更にはどこか勝ち誇ったような顔をしていた、他の人形たちをぐるりと見渡す。

 傍から見てても威圧感が尋常じゃないのに、見られて目を合わせている人形たちも平然と見返しているんだから凄い。

 

「それに、指揮官が隠し持っているのがこれだけとは限らないんじゃない? たまたまベッドの下に隠してあったのがこれだっただけで、他にも隠している可能性は十分考えられるわ」

 

 妙に圧のある反論が正しいのは、あたしがよく知っている。

 他の人形たちも「確かに……」とか「まだチャンスは……」とか、同意的な反応を示す。その中には416も居て、無言で『黒髪少女の蠱惑的な肢体』というタイトルの本を見ながら、自分の髪を指で弄ってた。

 

「だからこれから、指揮官の部屋を徹底的に捜索しましょ。そうすればハッキリするわ」

「やばっ……!」

 

 9のその提案に、他の人形たちも賛同を示す。今回見つかった本の内容を見て勝ち誇っていた人形たちは、結果は見えていると言わんばかりに。逆に気落ちしていた人形たちは、9と同じような心境で。416もこっち側だった。

 

 室内から聞こえて来たそんな声を尻目に、あたしは音を立てないよう、且つ全速力で指揮官の私室に向かう。

 

 彼女たちの気持ちは分からなくないけど、あの流れは滅茶苦茶不味い。

 特に引き出しの二重底の中のブツとか、ベッドの天板の裏とか、本棚の裏の隠し扉の向こう側とかは、絶対に見つかったらやばい。指揮官のものじゃないにしたって、最悪、基地内がドロドロの泥沼化する。そんなの想像したくもない。

 

 結局あたしはギリギリで間に合った。

 指揮官の部屋で使う予定だった寝袋に、把握している隠し場所全てから回収した本をパンパンに詰め込んで部屋から抜け出したあたしと入れ違うように、大勢の人形達が突入していった。

 

 あと10秒抜け出すのが遅ければ、誰かしらに寝袋を見られて押収されてたのは想像に難くない。でもその甲斐はあって、結局彼女達は何一つ指揮官の部屋から見つける事はできなかったみたい。

 そのせいで45を始めとした一部の人形達の機嫌が物凄く悪かったけど、見つかっていたよりはマシだと思う。

 

 その代わり物凄く疲れたけどね。

 指揮官が起きたら、こっそりご褒美を強請っても良いよね? それだけの働きはしたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていう事があったんだよ。指揮官はあたしをもっと褒めるべきだよ……」

 

 そうか、俺がいない間にそんな恐ろしい出来事があったのか。

 

 リハビリの経過も順調で、退院できる日も近付いてきた頃に補佐として来たのは、意外な事にG11だった。

 そして話を聞いてみれば、俺の目が覚める前にあった出来事を退院する前には伝えておかなければと、わざわざ立候補したらしい。

 あとついでに、証拠品を隠しておくのがいい加減厳しくなって来たらしく、こちらに移動させたかったとの事。

 

 ただ順番争い(それが果たしてどういうものなのかは未だに判っていない)に敗れ、結局この日になってしまったそうだ。

 

 普段のぐーたらな態度なんか間一髪で阻止してくれたG11には、感謝しても仕切れない。本当にありがとう。

 

 とりあえずお礼を言いながら、悲痛な顔で報告してくる彼女の頭を、心からの感謝を込めて撫でる。青みがかった白い髪が、ところどころ指の間に引っ掛かりながら流れていくのを堪能する。

 

「しかも無理やり詰め込んだせいでお気に入りの寝袋はダメになっちゃうし、45の機嫌が悪すぎて空気がずっと重苦しかったしで、本当に大変だったんだから」

 

 それは本当に申し訳ない。お詫びといっては何だが、代わりの寝袋を贈るとしよう。他にも何か欲しいものがあれば、可能な限り用意しようじゃないか。

 

「じゃあラムレーズンアイス、一緒に食べに行こうよ。指揮官の奢りで」

 

 そんなものでいいのだろうか。宿舎の布団を高級羽毛布団にしろとか、枕を高級安眠枕にしろとかいうものを想像していたが。

 だが、まあ本人が良いと言っているのならば構わないか。「約束だからね」と嬉しそうに言っている彼女に、わざわざ水を差すこともないだろう。

 

 それにしても、ここまで嬉しそうにするなんて、ラムレーズンアイスが本当に好きなんだなぁ。今日のリハビリが終わったら、メニューに出している店を調べておくとしよう。

 

 あと例の本は全て今日中に宅配で送り返してやる。十中八九、本人の手元に届く前に所属人形の確認が入ってトンでもない事になるだろうが、そこまで気を遣ってやる義理は無い。

 

「あっ、それと指揮官」

 

 一端病室から出ようと扉を開けた11が、思い出したように立ち止まって振り返る。

 

「明日、頑張ってね」

 

 一体どういう意味だろうか?

 首を傾げる俺を他所に、11は「あたしも頑張ったけど無理だったよ」と、よく分からない言葉を残して病室から立ち去る。

 

 そんな彼女の言葉の意味が判ったのは、文字通り翌日の事。

 

指揮官(しきかぁん)、ちょっと聞きたい事があるんだけど、良い?」

 

 少し間延びした、鼻に掛かるような甘い猫撫で声が病室内に響いた瞬間、ただ本を送り返すだけという甘い処置で済ませたのを心底後悔した。

 

 45の追求はそれは凄まじいものだった。何せ彼女は、胸の事で弄ると拳がノータイムで飛んで来る。

 そんな彼女にとって、そんなジャンルの本が視界に入ることはおろか、自分の近くに存在している事すら許せないことだったのだろう。

 

 結局、あれは俺のものではないという説明をすると不気味なぐらいすんなりと納得して貰えたが、不思議とその一日は背後から常に視線を感じ、胃が刺激される一日となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




11が聞いた会話の詳細までは知らないため、彼女が喜んでいる理由と45姉の追及が凄まじかった理由を的確に間違うスタイル。
ちなみに416はスタイルは指揮官の嗜好に合っているようだし、髪の色程度ならば私は完璧なのだから問題ないと自己完結。
9は後日に11が自室に隠した物品の数々をこっそり発見していたので、事情を大体察して納得している。


しばらくどころじゃないくらいに間隔が空いてしまって大変申し訳ありません。
作品の文体を思い出しながら描いていますので、違和感があればご指摘お願いします。

おそらく病院が舞台の話は今回で最後になると思います。


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