どこかバグった神聖円卓領域キャメロット (ひらいず)
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プロローグ

見切り発車で、書き溜めもありません。
加えて、亀更新です。それでもお付き合いいただければ幸いです。


_____ずっと続くはずだった歩みは終わりを迎えた。

 

見果てぬ荒野を歩き、深い森を抜けた先に、懐かしい草原が広がっていた。

彼の旅は、どうやらここで終わりらしい。

 

追い続けていれば、叶う事もあるだろう。

心は穏やかに、遠い昔に故郷の街であったことを思い出した。

 

___会いたかった。

その在り方を腕に抱き、焦がれていたものを確かめたかった。

 

空に願うだけだったその望みも、ついに叶う時がきた。

 

 

息が上がっていた。

呼吸が乱れるのは、一体いつぶりだろう。

半人前だったあの頃に戻ったようだ。

 

___いや、それほどまでに心踊る再会なのか。

彼は、心の中で苦笑し、また駆け出した。

 

彼女が案じ、憂いた通り、彼は心も体も磨耗してしまった。

この光景すら、執着ではなく、忘却しなかっただけだ。

結局、彼はその生き方を変えることはできなかった。

 

 

 

_____しかし、失われて久しい彼女の郷にようやく心が追いついた。

 

言葉でしか覚えていなかったものが、鮮明に蘇る。

後生大事にしまっておいたものが、もう一度動き出した。

 

「ただいま、セイバー」

 

まるで、あの頃に戻ったようだ。

ここからあの頃の続きが始まるように。

 

「はい___おかえりなさい、シロウ」

 

黄金の大地。見果てぬ大空。

くずれるように微笑む彼女を見て、彼の夢は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______はずだった。

 

「久しぶりに色々と話したいことが……セイバー?」

 

「? なんでしょうか?……もしや、この格好は、変でしょうか…?」

 

「いや、一瞬見惚れた。相変わらず綺麗だ」

 

「なっ…!シロウはまたそういうことを恥ずかしげもなく…」

 

「…って、そうじゃなくて、セイバーの体光ってないか?」

 

「え?……これは、召喚の…?」

 

「えーと……お勤めか?」

 

「いや、そんなはずはないのです。私は聖剣を手放し、英雄としての資格を放棄したはずですから」

 

そう。言い終わるや否や。

シュイン、と音を立てて、目の前からセイバーは消えてしまった。

 

 

 

 

「なんでさ…」

「それは私が説明しよう」

 

「うわっ!?何者だあんた!」

 

「はじめまして、衛宮士郎くん。宮廷魔術師のマーリンさんだよ。アルトリアは、行ってしまったようだね」

 

「セイバーはどこに行ったんだ?」

 

「しいて言うなら、世界を救いに?」

 

「はぁ?何言ってるんだあんた?」

 

「それでね、申し訳ないが、アルトリアがいないとキミが妖精郷(アヴァロン)に招かれる理由がない。つまり、追い出されてしまうんだ」

 

「なっ!?」

 

ようやく此処まで辿り着いたのに、そんなことってあるか!?

そんな彼の言葉を聞いて、魔術師は微笑み、

 

「その通りだ。そんなのハッピーエンドじゃない。だからこれから私は、キミをアルトリアと同じところに送る」

 

そんなことを言い放ちやがった。

彼はイマイチ理解が追いついていないようだ。

 

「大丈夫、ここまで歩ききったキミならすぐの道のりだ。帰りはキミ一人では妖精郷(アヴァロン)に入れないからね、アルトリアと一緒に帰っておいで」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

そんな彼からの必死の叫びをガン無視し、

宮廷魔術師は呪文を唱え始めた。

 

「それじゃ、いってらっしゃーい♪」

 

「な、なんでさぁぁぁああああああ……!!」

 

_____瞬間、彼の体は黄金の光に包まれ、その場から消失した。

 

 

 

 

「あれ、おかしいな。アルトリアと同じ転移場所にしたはず……ああ、なるほど。彼の影響か」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

彼が目を覚ますと、そこは砂漠地帯だった。

目の前には、遠い昔にテレビで見た、スフィンクスのような化け物がいた。

 

「……スフィンクス…?……なんでさ」

 

その声に目敏く、いや、耳敏く反応したスフィンクス。

敵と認識したのだろう。

耳を劈くような激しい咆哮をあげ、臨戦態勢に入った。

前足を振り下ろし、容赦なく彼を殺しにかかる。

 

「クソッ!問答無用か!?」

 

すんでのところで、それを躱し、次の動きに備える。

その間にも、スフィンクスは前足を振り下ろし続ける。

 

「マーリンめ!覚えてろよ!」

 

怖い怖い♪などと、聞こえるはずのないマーリンの声が聞こえ、それが更に神経を逆撫でるが、そんなもの、今は相手にしていられない。

 

まずは、目の前のスフィンクスだ。

 

 

 

脳内に撃鉄をイメージし、

それを落とす___

 

 

_____投影、開始(トレース・オン)

 

 

剣を生み出し、手に握る。

 

久々の感覚だ。

…それにしても、髪の色も落ち、手に握る剣は干将・莫耶か…後は赤い聖骸布でも纏っていれば、まるっきりアイツだな…なんて、心の中で苦笑を浮かべる。

 

 

 

___油断していた。

スフィンクスの攻撃は前足からしか来ないと。

スフィンクスは眼前に迫っており、目からは光線が迸った。

 

「んなっ!?」

 

光線自体は、かろうじて避けるが、体勢を崩した彼をスフィンクスは見逃さなかった。

 

二撃目、前足での攻撃を剣の腹で防ぐが、干将・莫耶を吹き飛ばされ、そちらに気を取られてしまった。

すでに、スフィンクスは目に光線を湛えている。

 

 

……やっと、やっと追いついたのに!こんなところで死ねるか!

 

勝利すべき黄金の(カリバ)___」

「___剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)!」

 

 

___その時、銀に輝く流星が、スフィンクスを切り裂いた。

スフィンクスは、突然の襲撃に絶叫をあげ、仰け反る。

 

しかし、彼はそんなことには目もくれず、ただ一点を見ていた。

思わず見惚れてしまったが、あれは銀の流星などではなく…あれはきっと彼女の…。

 

「早くこちらへ!」

 

ハッ、とした彼は、その声に導かれるまま、その場から離れた。

 

 

 

 

 




ご意見、ご感想お待ちしています。


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出会い

前話では、感想や評価をいただけて、本当に嬉しいです。
原作との、キャラクターの口調や設定の相違は、ご指摘いただけると感謝です。
しかし、作者の力不足で、口調の再現率は高くならないかもしれません。申し訳ありません。





___

______

 

 

《士郎が砂漠に放り出される数十分前》

 

 

「立香ちゃん、マシュ。よく聞いてほしい」

 

マシュがブリーフィングに合流した後、考え込んでいたロマンがようやく口を開いた。

 

「どうしたの?ロマン」

 

「新しいサーヴァントを召喚しよう」

 

「ドクター…私では力不足でしょうか…」

 

マシュが悲しそうに俯いてしまった。

それを見た私は、思わずロマンを訝し気な目で睨みつけてしまう。

なにもこんなタイミングで言わなくてもいいじゃないか…。

 

「そ、そうじゃない。マシュの体調も回復直後で、加えて、人理定礎評価EXの特異点だ。ここは、マシュの負担を少しでも減らすべきだと思う」

 

なるほど、マシュを落ち込ませた罪は重いが、ロマンの言うことにも一理ある。

 

「それには私も賛成だ。いくら万能の天才である私が同行すると言っても、人理定礎評価EXは未知の領域だ。ここは安全にいこう」

 

どこからともなく現れたダ・ヴィンチちゃんもロマンの意見に賛成のようだ。

 

「私も賛成。マシュだけに無理はさせられないよ」

 

マシュを信頼していないわけではないものの、今までとは少し状況が違う。ここは、二人の意見に従ったほうが良さそうだ。

 

「先輩…。先輩が言うなら…」

 

口では、そういうものの、顔は不満気だ。

少し恥ずかしいけど、私の正直な意見を伝えよう。

 

「あのね、マシュ。私が一番信頼してるのはマシュだからね」

 

「先輩……はいっ!」

 

マシュは、一瞬驚いたような表情になったが、すぐにそれは花が咲くような笑顔に変わった。本当に可愛い後輩だ。

私は私で、顔が熱くてしょうがないが…。

 

 

 

 

 

 

「今日も百合の花が咲き乱れてるねぇ」

 

「レオナルド、あれは既にカルデアの宝だよ」

 

「今日も気持ち悪いなー、ロマ二は」

 

 

 

***

 

 

 

「聖晶石を触媒にして…と」

 

カルデアの召喚室に入り、いつもの手順で召喚の準備を進める。

詠唱は、再契約の時以外は無くてもいいはずなので、触媒を指定の場所に置き、召喚が始まった。

 

バチバチと音を立てながら、サークル上を魔力の塊同士が付いては離れを繰り返す。

魔力の塊は、やがて結び付き、魔力の渦へと姿を変える。

魔力の渦は螺旋を描き、眩い光が召喚室を満たす。

 

眩い光が収まり、人影が姿を現した。

 

 

「問おう。あなたが私のマスターか……この台詞も、この格好も久しぶりですね。……ああ、混乱させてしまいましたか。こちらの話です。」

 

 

___ハッ、あまりに綺麗な人で呼吸が止まってしまっていた。

 

 

「あの、マスターの藤丸立香です。よろしくお願いします」

 

「そう緊張しないで、リツカ。

セイバーのアルトリア・ペンドラゴンです。こちらこそよろしくお願いします」

 

う、緊張してるのが見破られてしまった…。

でも、優しそうな人で良かった。

 

「それにしても、まさか手放したはずの聖剣があるとは…湖の婦人に礼を言いに行かなくては…」

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ___それよりもそのように堅い口調ではなく、もっと楽な口調で話してください」

 

「わかりま___うん、わかったよ」

 

「はい。それで、お願いします」

 

「改めてよろしく、アルトリア」

 

「ええ、よろしくお願いします。リツカ」

 

 

 

______

___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここまで来れば大丈夫でしょう」

 

銀色の腕を持つ騎士と共に逃げ込んだ先は、荒野だった。

彼は、地形の変化があまりに急激過ぎることに、違和感を覚えた。

彼自身、様々な国を渡り歩くこともあったが、こんなことは初めてだった。

 

「さっきは、ありがとう。助かった」

 

「いえ、無事でなによりです。それにしても、どうしてあのような場所に?」

 

「………実は、道に迷ってさ」

 

「それは災難でしたね…。……この辺りは危険です、私が案内しましょう。どこを目指しているのですか?」

 

会ったばかりの彼に、この時代の人間ではないことを説明してもしょうがないだろう。

少し返答に時間がかかってしまったが、信じてもらえたようだ。

 

「あー…いや、人を探してるんだ。そうだ、肩くらいまでの金髪で、綺麗な碧色の目をした、白いワンピースを着た女の子なんだけど、見かけなかったか?」

 

「ワンピース…が、どのようなものかわかりませんが、聖都の民ではないでしょうか?」

 

「聖都?」

 

「ええ、山の民や砂の民とは、髪や瞳の色が異なりますから」

 

「山の民とか砂の民って言うのは?」

 

「え、どちらかから来たのでは無いのですか?」

 

「あー…俺の住んでたところは少し特殊でさ…」

 

「……なるほど、事情があるのですね。ならば、あえて問い正そうとは思いません」

 

察されてしまった…。

しかし、話のわかる相手で助かった。

 

「…すまん、助かる」

 

「先ほどの質問にお答えしましょう。

山の民というのは、"山の翁"を中心に、山岳地帯に身を潜めて暮らす民のことです。

砂の民というのは、先ほどの砂漠を治める"大神殿の王"の臣民たちのことです。

そして、聖都の民というのは…あらゆる異民族、異教徒を受け入れる、完全完璧な理想都市の民…らしいです」

 

…?

聖都の民だけ、妙に歯切れが悪かったような気はしたものの、大まかには理解ができた。

 

「いきなり地形が変わったと思ったら住んでる人間まで違うのか…。とりあえず俺は、その聖都って場所に行ってみようかな」

 

「…お待ちください、今の聖都は危険です」

 

「…?」

 

「私もあまり詳しい事情は知りませんが、難民を受け入れる前に聖抜という儀式があるそうです」

 

「その儀式がなにか?」

 

「曰く___永劫無垢なる人間の選定と、選ばれなかった者たちへの粛清と聞きます」

 

彼には、なんとなく予想がついていた。

何の代価もない、理想の都市など存在しない。

それは、長い旅でよくわかっていた。

 

「___そうか」

 

「悪いことは言いません、聖都に向かうのは控えるべきかと」

 

「それなら、尚更行かなくちゃな」

 

「は?」

 

銀の腕を持つ騎士は、困惑の声を上げる。

___が、彼は構わずに続ける。

 

「___もしも救える命があるなら、救う」

 

擦り切れ、磨耗し、それでも捨てられなかった彼の理想(呪い)

夢に追いつこうと、旅が終わろうと、世界が変わろうとも、その生き方は変わらない。

 

「…………どうしても、行くのですか」

 

___彼の根底に眠るものを察した。

どうにも歪んで見えたそれも、果たさなければならないものがある同士。騎士も無理に止めようとは、どうしても思えなかった。

答えはわかっている。

しかし、それでも聞かずにはいられなかった。

 

「ああ___止めても無駄だぞ」

 

「………はあ、かくいう私も聖都に向かう旅の途中です。それに、ここで放り出すのは、騎士の名折れ。何かの縁です、私も共に行きましょう」

 

もちろん、使命が最優先。

しかし、彼には、ストッパーが必要だと騎士は思うのだ。

救うと言えば、彼は本当にやってのけるだろう。

___自分の命以外は。

 

「それは助かる。___そうだ、俺は衛宮士郎。あんたは?」

 

「私のことは、ルキウスと。よろしくお願いします、士郎殿」

 

「仰々しいな、士郎でいいよ」

 

騎士のあまりの態度に、彼は思わず苦笑を浮かべてしまった。

 

「はい、それでは士郎と」

 

「改めてよろしく、ルキウス」

 

「ええ、それでは聖都に向かいましょうか」

 

かくして、二人は互いの目的を果たすべく聖都へと向かった。

きっと長い旅になる。言葉には、出さずとも二人ともそれを理解していた。




今回の話は、二人分の出会いとしました。
次の話からは、士郎視点とセイバー視点、たまに立香視点に分けてやって行く予定です。
あくまで予定なので、あまり期待はしないでください。


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レイシフト

前話では、評価、感想ありがとうございます。
意外にも高評価をいただけているようで、とても励みになります。


___レイシフト先は、エルサレム。かの聖書にも名前の出るような有名な都市だった()()()

 

「ここは…?」

 

……常に突風が吹き荒れ、突風が砂を巻き上げ、先も見渡せないような場所をはたして都市と言えるのだろうか。

 

「マスター!こちらへ!」

 

少し大きい岩陰からマシュの声が聞こえた。

条件反射でマシュの元に駆けつける。

 

「ここがエルサレムなの…?」

 

「これがエルサレムであるものかーーー!一面の砂嵐だーーー!」

 

マシュと岩陰に居たらしいダ・ヴィンチちゃんからツッコミが飛んできた。

良かった、エルサレムが砂に呑まれたわけではなさそうだ。

というか、この岩陰って…大きな動物の骨…?

 

「って、そんなことよりロマンとの通信は?」

 

「……カルデアとの通信、安定しません。ドクターも対応してくださってると思うのですが…」

 

砂嵐のせいか、それともEXが伊達じゃないのか。

まあ、大事なときにカルデアとの通信が途切れるのは、いつものことか。

 

「全然違う時代に飛ばした不始末をロマニに着けさせなきゃ……うん?…時代が違う?ちょっと計測器で…っと」

 

ダヴィンチちゃんが、なにやら取り出した計測器でなにかを測り出した。

___と、その時フォウが雄叫びをあげた。

 

「フォウ、フォーウ!」

 

「どうしたのフォウく…っ!」

 

砂嵐で接近に気付かなかった!

咄嗟に距離をとり、マシュに発見を知らせる。

 

「マシュ!敵影発見!鎧の騎士が三体!」

 

「…っ!せんぱい!」

 

マシュの反応も速かった。

風除けに使用していた盾を即座に持ち替え、鎧の騎士に向かって構える。

しかし、そんなマシュには目もくれず、鎧の騎士は的確に立香を追い詰める。

 

「くっ…!」

 

砂地でいきなり動いたせいで、思わず足を取られてしまう。

鎧の騎士は、体勢を崩した立香に向かって、機械的に剣を振り下ろす。

___が、剣は立香に触れることはなく、軌跡を描きながら宙を舞った。

 

「___ハァッ!」

 

剣を吹き飛ばされ、怯んだ騎士に対して、英雄は、すかさず次の斬撃を叩きつけた。

鎧の騎士は、不可視の剣との間合いを掴みきれず、重い衝撃を胸に受け、後方に吹き飛ばされた。

 

突然の乱入者に残った騎士たちは反応し、咄嗟に盾を構えるが、英雄はそれを大きく上回る速度で、不可視の剣を叩きつける。

盾は、その役割を果たすことなく、砕けてしまう。

 

そして、間髪入れずに放たれた斬撃に、鎧の騎士たちは反応することができなかった。

 

その英雄は、鎧の騎士たちを目にも留まらぬ速さで制圧した。

それはまるで、一陣の風のように。

 

鎧の騎士たちは目的を達成することなく、撤退を余儀なくされた。

 

「無事ですか、リツカ」

 

「大丈夫だよ。ありがとう、アルトリア!」

 

「いえ、少し離れたところに転送されたようで…御身を危険に晒しましたね。申し訳ありません…」

 

「ううん、無事だったんだから何の問題もないよ」

 

本心からそう思ったが、アルトリアがあまりに落ち込んでいるので、無理やり話題を変えることにした。

 

「追い打ちには行かなくていいからね?」

 

「ええ、これ以上痛めつけなくとも、彼方に戦意は無いはずですから」

 

冗談のつもりで言ったのに、敵意があれば、遠慮なく追い打ちに向かいそうな口ぶりだ。

好戦的すぎる姿勢に思わず、笑ってしまった。

 

「___先輩!無事でしたか!?」

 

「あ、マシュ!アルトリアが守ってくれたから大丈夫だよ」

 

「アルトリアさん…先輩が危ないところをありがとうございます。私では…間に合いませんでした…」

 

良かった、見たところマシュにも怪我はない。

しかし、マシュは肝心なときに動けなかった自分を責め、俯いてしまった。

 

「そんなこと___」

 

ない、と言いかけて、アルトリアに手で制されてしまう。

 

「マシュ、顔を上げて。私はリツカの剣で、貴女はリツカの盾だ。貴女が俯いてしまっては、守れるものも守れなくなってしまう。

___さあ、前を向いて。その盾は敵を倒すためではなく、自らの大切なものを守るために在るのです」

 

そう言い放つアルトリアは、凛としていて、その在り方は美しかった。

私が狼狽えてどうする。マシュに大丈夫と胸を張って言えるように、私がもっとしっかりしなければ。

 

「アルトリアさん……はい!マシュ・キリエライト、改めて先輩を守る決意を固めました!」

 

「その意気です。…ああ、やはり貴女には笑顔がよく似合う」

 

「……は、はい」

 

フッ、とアルトリアの表情が緩み、マシュを褒める。

その姿に、マシュは…思わず見惚れてしまっていたようだった。

 

他人(わたし)の後輩を口説かないでくださーい」

 

…むう…面白くない。

マシュの笑顔が可愛いなんて、私が一番よくわかっているんだから。

 

「え、えぇ!?アルトリアさん口説いていたんですか!?」

 

「……私には、心に決めた相手が居ますので」

 

さっきのように冷静に切り替えしてはいるが、口元が緩んでいる。

私はとても優しいので、指摘してあげることにしましたまる

 

「アルトリア、口元緩んでるよ」

 

「っ!………つ、つい…お見苦しいところをお見せしました…」

 

おやおや、まあまあ!

頬を染め、そっぼを向くのが妙に乙女チックだ。

いつも気を張って凛としているように見えたアルトリアも、今はもう年相応の女の子のようで、可愛らしいギャップだ。

 

 

 

「あのー、そろそろいいかい?」

 

「……ダ・ヴィンチちゃん?……あ!ごめん!すっかり忘れてた!」

 

「稀代の天才に対して、すごいこと言うねキミ」

 

私のあんまりな物言いに苦笑していたダ・ヴィンチちゃんだったが、それはそれとして、と仕切り直した。

 

「私の計測器が正しければ、西に水源がある。というか、都市があるようだし、そこに移動しよう。立香ちゃんも休みたいだろう?」

 

「え?私?……まだ大丈夫そうだけど」

 

「ダメですよ、先輩。唇はカサカサ、顔色は真っ青で、乙女にあるまじき顔をしてます」

 

………う。マシュに言われると心に刺さる…。

 

「マシュの言う通りです。リツカ、無理はよくありません。自分の現状を把握するのも大事な能力の一つです」

 

「…うぅ…わかったよ…確かにちょっと息苦しいかも…」

 

「…やっぱりね、魔力濃度が濃過ぎるんだ。これを着けるといい」

 

そういって、ダ・ヴィンチちゃんから手渡されたはゴツゴツして、ダイビングとかで使いそうな…そう…。

 

「………酸素ボンベ?」

 

「うん。急ごしらえで作った魔力遮断ボンベだよ。ここの大気は…人間にはちょっとキツイ」

 

「確かにこれは…リツカの生きている時代とは比べものにならないほどの魔力濃度ですね…」

 

「なに、遠慮することはない。その為の私だからね!でも、ありがとうの言葉は嬉しいのでジャンジャン言ってくれたまえ!」

 

早速魔力遮断ボンベを着けてみることにした。

………なるほど、大分呼吸が楽になった…。

魔力濃度っていうのは、案外バカにならないらしい。

 

「ありがとう!ダ・ヴィンチちゃん!」

 

「ああ、また困ったことがあればドンドン言うといい!なんせ私は万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチなのだから!」

 

ダ・ヴィンチちゃんは不敵な笑みを浮かべて、そう言った。

これからも頼りにさせてもらおう。

 

 

 

 

***

 

 

 

「……あれは…?」

 

先陣を切って歩いていたアルトリアが立ち止まった。

呟いた声が砂嵐の中でも、いやにはっきりと聞こえた。

 

「どうしたの?アルトリア?」

 

「…大きな建物の周囲を無数の影が徘徊しています」

 

「大きな建物…きっとそれが神殿だろう。その周囲を徘徊する影…?」

 

ダ・ヴィンチちゃんが考え込んでしまった。

と同時に上空から、バサッバサッ、と大きな羽の音が聞こえた。

 

「___全身がビリビリする___何か、異質なものがやってきます!マスター!」

 

「___ッ!リツカ!離れて!」

 

アルトリアの声と同時に巨大なナニカが砂を巻き上げ、滑空してきた。

 

「な___!あの羽の音とシルエットはまさか___!立香ちゃん!様子見は無しだ!次の相手は文句なしの強敵だぞ!」

 

 

 

巨大なナニカは、名乗りをあげるように___或いは、王の領域を侵犯した愚か者を罰するように咆哮をあげた。

 

「…スフィンクス…!?」

 

ここがエルサレムだとするのなら、絶対に存在するはずのない神獣に呆気を取られてしまう。

 

「スフィンクス!戦闘態勢に入りました!」

 

マシュは盾を構え、ダ・ヴィンチちゃんは杖をとる。

アルトリアは、すでに準備を終え___勇猛果敢に攻め込んだ。

 

「ハァッ___!」

 

不可視の剣も神獣には、視えているかのように防がれる。

アルトリアの剣ですら、神獣の爪には易々と弾かれてしまう。

 

「フッ…!」

 

神獣がアルトリアに気を取られている隙を突き、マシュも攻め込む。

しかし、外皮も硬く、大したダメージを与えられていないようだ。

 

アルトリアが斬りつけ、防がれ、後退する。

神獣は、後退した隙を突き、襲いかかる。

それをマシュが盾で防ぎ、今度はマシュが攻め込む。

お互いに一進一退の攻防だ。

 

そして一番の救いは、アルトリアとマシュの立ち回りが良かったことだった。二人のコンビネーションは初めて組んだとは思えないほどに洗練されていた。お互いがカバーし合い、神獣も攻めあぐねいているようだった。

 

 

そして___

 

 

「二人とも、見せ場を取って悪いけど、少し離れていたまえ」

 

「東方の三博士、北欧の大神、知恵の果実___。我が叡智、我が万能は、あらゆる叡智を凌駕する! 」

 

「___万能の人(ウォモ・ウニヴェルサーレ)!!」

 

 

右腕の籠手から放たれた光弾は、

神獣に触れると同時に爆裂し、眩いほどの閃光を放ちながら、神獣の外皮を食い破ることに成功した。

神獣は、絶叫をあげ、霧のように消えていった___。

 

 

「他にも追加で説明したいところだけど、後にするとしよう!今はとにかくこの場から離れることが先決だ!」

 

「巨大生物は撃破できたのでは…?」

 

「そういう風に見えるだけさ。目をこすったら回復する…というほど軽いダメージではないが、時間が経てば必ず回復する」

 

「じゃあ早く神殿の方に向かおう!」

 

ならば、早く移動するべきだろうと思い、神殿の方に歩きだそうとするが…。

 

「残念ながら、神殿の周囲を徘徊する影もスフィンクスだろう。ここまで来てなんだけど、別の避難場所を見つけよう」

 

「……あの中に飛び込むのは自殺行為です。撤退しましょう。リツカ、まだ歩けますか?」

 

「うん、大丈夫だよ。アルトリア」

 

「そうですか、辛かったらいつでも言ってください。私が抱えて歩きます」

 

「そ、それはちょっと…」

 

 

 

___こうして、第六特異点での初めての戦闘は終わりを告げ、人理修復が幕を開けた。

 

 




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聖都の民

___

_____

 

 

 

 

「さて、どうしたものか…」

 

「とりあえず、別のルートを探さないといけませんね」

 

「思わぬ足止めを食らったものですね…」

 

「まあ、そう悲観するほどのことでもないよ。いざとなれば秘蔵の万能コテージもあるし、スフィンクスのおかげで、あの神殿の主の大凡の見当はついた」

 

「さっすがダ・ヴィンチちゃん!

……あれ?神殿の方から何かがこっちに向かってきてない…?

まさか、またスフィンクス!?」

 

神殿の方角からの影に、思わず身構える。

どうやらスフィンクスより影が小さいようだが、正体がわからない以上、警戒するに越したことはないだろう。

 

「よし、今すぐ逃げよう!なんとなく髑髏の面が見えた気もするけど、それはそれだ!」

 

「髑髏の面…?もしかして…」

 

髑髏の面と聞いて、ふと、頭の片隅に引っかかるものがあった。

もしや、サーヴァントだろうか?

 

「マスター!?何か気になることでも…!?」

 

「おや…?この数と魔力量…スフィンクスにしては…もしかして、人間?」

 

 

 

「___チ、先回りされたか!兵士を差し向けているとは、流石は太陽王よ!」

 

「あれは…」

 

「アルトリア、どうかした?」

 

「いえ、嫌なことを思い出しただけです…」

 

いつも凛々しいアルトリアが、とても苦々し気な顔をしている。

きっと、それだけの事があったのだろう。

 

「女王を捕まえておれば、怪物どもは手出しはせぬが、相手が人間であれば魔除けも効かぬ…。

時間がない、片付けよ!ただし一人は生かせ!貴重な情報源だ!」

 

よくよく耳を凝らして聞いてみれば、なんて事ない女性の声だ。

それにどことなく、聞き覚えがある。

 

 

 

「……目測ですが、敵影10。みな人間です。迎撃しますか?リツカ。」

 

「うち一人は手足を縛られた女性を抱えているようです!先輩、指示を!」

 

その手足を縛られた女性が、「女王」というヤツなのだろう。

なんて良いタイミングで、来てくれたのだろう。右も左もわからない今回の特異点で、貴重な情報源を引き当てた!

 

「マシュ、アルトリア!迎撃して!峰打ちでね!」

 

「はい!お任せください、マスター!」

 

「了解しました。迎撃します」

 

言うが早いか、アルトリアは難なく一人、また一人と制圧する。

その動きは、獣のように俊敏だが、その瞳に殺気はない。

マシュも負けじと、その巨大な盾を自在に操り、敵を打ち倒す。

 

 

「つぁ!?私の仮面が…!」

 

そして、ついに最後の一人の仮面を弾き飛ばした。

仮面の下には___

 

 

「___ ハサンじゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだその反応は!気安く私たちの名を呼ぶな、バカモノ!」

 

「申し訳ありませぬ、百貌様!こやつらまっとうな兵士ではありませぬ!

あの娘らの鎧の紋様、おそらくは聖都の___ 」

 

「貴様たちは下がっていろ! 敵はサーヴァントだ、貴様らでは容易く殺され……ては、いないな。……峰打ち、というヤツか。

……余裕のつもりか? 嘲りか?我ら山の民など殺すに値しないと?貴様らは、常に優位に立ち、我らを見下した態度でいる。……精々余裕ぶっていろ…必ずその喉元を掻っ切ってやる…ッ!」

 

峰打ちを嘲笑と捉えたのか、ハサンから殺気が上がる。

しかし、それよりも……

 

「聖都…?山の民…?なにかの略称…?」

 

この土地に関係する言葉だろうか?

中々話が見えてこない…。

 

「いや……いいや、それならそれでよい。命さえあれば、我らの勝ちよ。

幸い、今回の目的である女王の奪取は終えている。この女さえ手に入ればスフィンクス共なぞ___ 」

 

「それが……百貌様。戦いの隙に、あの珍妙な格好の手品師に…その…」

 

「はぁい♪ 珍妙な格好の手品師じゃない、天才だってば。抜け目ない、ね」

 

いつ間にやら、ダ・ヴィンチちゃんが、縛られた女性を抱えていた。

ホントに抜け目ない…。

 

「…! 貴様ら、何者だ! オジマンディアスの手の者か!?」

 

「オジマン……誰です?」

 

またも新しい単語が出てきた。

しかし、今度は人名だ。先程までとは違い、わかりやすい。

 

「誰と言われてもな……貴様、ただの阿呆か…?」

 

「百貌様!スフィンクス共が戻ってきます!メジェドとか言う生き物も!」

 

「ええい!メジェドと目を合わせないようにしつつ撤退だ!奪取した食料は落とすなよ!

そして盾の娘、剣の娘…?あれ、男の格好?……まあいい!杖の女…あれ?女?……ええい! とにかく剣と杖のサーヴァント!そして子狼のような人間よ! 覚えていろ! この恨みは忘れぬぞ!」

 

「あ、待って!聞きたいことが山ほど___!」

 

「ふははは!待てと言われて待つハサンがいるか!さらばだ、ノロマども!砂嵐は、我らにとって風除け魔除けの加護ぞある!」

 

 

 

「……砂嵐が酷くなってきましたね。こうなってしまえば、追跡は不可能ですね…。」

 

「せっかく話の出来る人達と出会えたのですが…」

 

「話……出来たかなぁ…?」

 

「それは…はい。何を言っても逆効果な雰囲気でした…」

 

「…あっ!ダ・ヴィンチちゃん!縄解いてあげて!」

 

「はいはい、任せて。

……んー、眠らされているのかな? おーい、ぺしぺし。

キミ、起きたまえよー?」

 

ダ・ヴィンチちゃんは、なんとも手際よく縄と猿ぐつわを外し、頬を軽く叩いている。

 

「ん、いけません…ファラオ、そのように私の髪を引っ張られては…それは、耳のように見えるかもしれませんが、ホルスを表す魔術触媒…決して寝癖では………は!?」

 

「あ、起きた」

 

 

「__________。」

 

 

「(あっ、マズイかな、これは)」

 

「(はい、固まってらっしゃいますね。)」

 

「(無理もありません、いきなり連れ去られて、いきなり助け出されているわけですから…)」

 

皆が、刺激しないように小声で会話する。

が_____ 、

 

 

 

「____おのれ無礼者たち、何者です!

私をファラオ、ニトクリスと知っての狼藉ですか!」

 

 

「(ニトクリス!彼女は、古代エジプトの魔術女王です、マスター!)」

 

「(威厳は台無しだが、紀元前二千年前の神秘を備えた強力な英霊だ、確実に現代の魔術師とは一線を画しているはずだ!)」

 

「(お気の毒に…これで、威厳が保てていれば完璧だったでしょうに…)」

 

「(やめたげてよぉ!状況が状況なんだからしょうがないよ!)」

 

 

「…おのれ、こそこそと小声で話して!私を笑いものにするのですかッ!」

 

ギクッ!

べ、別に笑いものにはしてないよ!

 

「いえ、笑いものにしたのですね!薬で眠らせ、神殿の外まで連れ出し、あまつさえ寝顔を眺めて楽しむなど!」

 

いや、そこまではやってない!

無実の罪まで被せられてる!

 

「その蛮行、もはや温情はかけられません!

あなた達はまず、蛮勇を以て、この私の情けを得なければいけません!」

 

「ま、待ってよ!私たちはただ___、 」

 

「黙りなさい!

冥界の鏡よ、いでませぇい!この者どもに我が恥辱を万倍増しでかえしてください!」

 

「話を聞いてくれない!!

もう!総員、戦闘態勢!戦闘の間に、頭冷やしてもらうからね!」

 

「うーん、杖でこづいたのが悪かったかな。

ま、過ぎたことだし、あの女王は人の話聞かなそうだし!」

 

「全くですね。

なぜ、あそこまで頑なに話を聞こうとしないのでしょう」

 

 

「………………。」

 

なんとなく、アルトリアは同じタイプのような気がした。

したけど、咄嗟に言葉を飲み込んだ。敵が一人増えそうだし。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「寝起きで、半分の力も出せない私ですが、それでもここまで追い詰められるとは…」

 

「絶対嘘だ!途中から完全に本気だったでしょ!?」

 

「流石に、宝具を二回連続で展開された時は、肝が冷えたね…」

 

一回放った宝具を再装填するまでが早すぎる。

明らかに、本気だった。

冥界の鏡もまさか、ものの数秒で呼び出されると思っていなかったのか、困惑していた。

 

 

「…そ、そこまでで、丁度半分程度なのですよ!」

 

「……その割には、ファラオから預かったという神獣を惜しみなく使ってきましたね…。」

 

「…………。」

 

あ、目が泳ぎだした。

やはり、本当は使うつもりは無かったんじゃないだろうか。

 

「女王ニトクリス、私たちは本当に、暗殺者に捕まっていた貴女を助けだしただけなのです。」

 

マシュが意を決して、説得を試みてくれる。

 

 

 

「____破廉恥な。信じてもらえると思いますか?

そもそも確証がありません!

なぜ貴女たちは名前も知らない私をわざわざ助けたりしたのですか?

本当に偶然居合わせたと、どうして言い切れます!

この終末の地において、無償で人を助けるなどと、それこそあり得ない話です!」

 

「___立香ちゃん、これはもう彼女を倒すしかないかもだ。」

 

「………それは、ダメだよ。

もし信じて貰えなかったとしても、彼女はきっと、悪い人なんかじゃないから」

 

……?

ニトクリスの顔が曇った?

信じようとしてくれてる…のかな?

 

 

「……その鎧は、聖都の騎士たちのものです!信用できません!

いきますよ、スフィンクスたちよ!この者たちに偉大なりし、太陽王の裁きを!」

 

「ま、待ってニトクリ____、 」

 

雑念を振り払うように、ニトクリスがかぶりを振った。

あと一手!あと一手で信用してもらえそうなのに!

 

 

_____その時、それまでずっと黙っていたアルトリアが口を開いた。

 

 

 

「___この鎧が、聖都の騎士のものとは、どういうことでしょうか」

 

「言葉のままです!鎧だけでは、ありません!

その剣が、その鎧が、その格好そのものが、聖都の騎士と瓜二つではないですか!」

 

「つまり___、聖都という場所には、私に似た装備の騎士(・・・・・・・・・)がいるのですね」

 

「………なるほど、少し事情が見えてきたね。聖都とやらには、円卓の騎士が関係してるかもしれない」

 

「え、でも、最初の情報では、十字軍がどうのこうのって…」

 

「そこまでの情報は、揃ってない。けど、ニトクリスに加えて、ハサンたちも私たちを聖都の騎士と勘違いしていた。何があったまではわからないけど、事前の情報と状況が全く異なるのは、確かだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____不敬者!私を放って、なにを盛り上がっているのですか!」

 

 

「……女王ニトクリス、少し質問があるのですが」

 

 

「この期に及んで、なにを聞くというのです!」

 

 

「私たちが、どのような立場ならば、貴女は納得してくれるのですか?」

 

 

「我がエジプト、ファラオ・オジマンディアスの臣民であれば、少しは納得できるでしょう!」

 

 

「なら、もう一つ。先程、貴女を攫った者たちは、自らを山の民と名乗っていました。貴女は、聖都と山の民、どちらからも狙われているのですか?」

 

 

「え、う、いや……よく考えてみれば、聖都の騎士は、私のことを攫う必要は無いかもしれませんが…。」

 

 

「聞く限りでは、『聖都の騎士』と『山の民』、それから貴女たち『エジプトの民』は三つ巴のような関係にあるようですね。

ならば、我々を聖都の騎士と仮定して、我々が山の民と手を組んだというのなら辻褄が合うでしょう。」

 

 

「………それは……。」

 

 

「しかし、三つ巴のうち二つの勢力が手を組み、残りの一つがそれに気づかないなど、余程の無能でない限りは、あり得ません。」

 

 

「……………。」

 

 

「なぜ聖都の騎士は貴女を攫わないのか、それはわかりません。そもそも攫う気がないのかもしれませんからね。

余程高潔な、人質など絶対にとらないと言える人物が聖都の指揮を執っているのなら話は別です。選択肢のうちから消し、他の方法で攻めてくるでしょう。

しかし、戦の相手である以上は、敵の戦力をそぐことに力をいれるでしょう。敵の英霊を攫うことのできる好機など、逃すはずもない。

 

どちらにせよ、貴女の神殿内に侵入する術を持たなければ、選択肢に入れることすらできませんが。」

 

 

「………………。」

 

 

「山の民の集団の先頭にいた人物は、山の翁と呼ばれる非常に隠密に長けた人物でした。

山の翁に匹敵するほど、隠密に長けた人物が聖都にいなければ、貴女の神殿の警戒を掻い潜り、貴女を神殿の外に攫うことなどできないのではないでしょうか。」

 

 

「…………………。」

 

 

「さらに言えば、薬で眠らされたと貴女は言いましたが、聖都の薬は神秘を備えた英霊に対して、そこまで強力に作用するのでしょうか?

その点、山の翁たちは、暗殺者集団です。

睡眠薬の調合など、山の薬草の知識に長け、数多の英霊の入り混じる聖杯戦争でも使用してきた彼らからすれば、そこまで難しいことでもないでしょう。

どの点においても、山の翁たち率いる山の民に攫われた可能性が高いように感じます。」

 

 

「………………………。」

 

 

「ここまでの私の見解を踏まえて、もう一度お聞きします。私たちは、何処の何者に見えるのでしょうか」

 

 

「聖都の……騎士にみえます………」

 

 

「つまり、貴女を攫ったのは、私たちなのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうやめてあげて!アルトリア!」

 

「そうです!これ以上ニトクリスさんを傷付けないでください!」

 

「流石の天才も擁護出来ないよ…」

 

思わず、三人ともニトクリスの擁護に回ってしまう。

それほどまでに、ニトクリスはしゅんとしてしまっている。

 

 

「むっ…!私は別に、彼女を傷付けようとしていたわけではありませんよ!」

 

「傷付けるためにやってたら、それはそれで問題だよ!」

 

「すいません、ニトクリスさん…。アルトリアさんも悪気があったわけでは…」

 

「………いいのです、私の短気が悪いのです…。

ごめんなさい、旅の方。助けてくれたこと、感謝しています…。」

 

「…と、ところで、この辺に水場って無いかな!私、喉乾いちゃった!」

 

なんとか話題を逸らすんだ、私…!

空気が、空気が重い…!

 

「水ですか…?

近場にオアシスがあったと思いますが、案内しましょうか?」

 

「わぁ!ありがと____ 」

 

「____私は、果物が食べたいですね」

 

「アルトリアさん!?」

 

アルトリア…?

いきなり何を言いだすのだ、このアホ毛は…?

しかし、それを見たダ・ヴィンチちゃんが悪い顔をし出した。

 

「___そうだ、そうだー!水浴びもしたいし、休憩もしたいぞー!」

 

「ダ・ヴィンチちゃんまで!?」

 

「(立香ちゃん、マシュ、いいから話を合わせて)」

 

ダ・ヴィンチちゃんが小声で、語りかけてくる。

………あ、なるほど!

 

「ご、ごめん。ニトクリス、私もお腹空いてきちゃった…」

 

「せ、せんぱい????」

 

マシュだけが、目を白黒させている。

ごめんね、後で説明するからね…。

 

 

 

「……た、確かに、誤解の上でいきなり言いがかりを付け、あまつさえ助けてくれた相手に向かって冥界の鏡まで持ち出すなど…いや、でも、しかし……うーん、うーん……」

 

 

ニトクリスは長い間、一人でうんうん唸っていたものの、最終的に、

 

 

「…………コホン。いいでしょう!特例として、貴女たちを私の客人として招待します!

もてなしを受けたいのならば、私を神殿まで、護衛しなさい!この砂漠で、最も栄えた理想の国、光輝の大複合神殿(ラムセイム・テンティリス)に立ち入る栄誉を与えます!」

 

 

まさに私たちの狙い通りの、返答を返してきてくれた。

 

 

 

 



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