復讐の機装少女 (長之助)
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盗機説明 ※ネタバレ注意

説明のために色々書き足したり、自分の頭の中の整理に使ったりするところです。
基本的に最新話参考なんで、ネタバレ踏みたくない人は読まないように。


 カリオストロ

 身体中の神経や血管、脳と繋がることで操作時のラグを極限まで軽減したIS。そのワンオフアビリティにより、触れた相手の装備をコピーすることにより、専用の生産機により全く同型の装備を生産可能としている。欠点として、大きな衝撃を受けた場合脳にダメージが行くので気絶しやすいという欠点もある。意識すれば、相手のシールドエネルギーを奪うことが可能となる。

 秘匿機能として、暴走することがある。この暴走により相手のワンオフアビリティを触れずにコピーすることが可能となっている。但し、この暴走状態を行った後は一時的に体が極限的な不調となり、最悪死に至る。

 

 カリオストロ・アウトリュコス

 第二形態移行したカリオストロ、この形態では通常時で行えてた事に加えて、相手の装備やエネルギーを触れずに奪取する事が可能となっている。但し、相手がISを解除した場合奪った装備も一緒に消える事となる。エネルギーの配分は問題が無いが、代わりにパイロットにかかる負担が跳ね上がっている。

 

 四象

 朱雀、玄武、青龍、白虎を模した8種類の装備を持つ機体。その機体はお世辞にも使いこなしやすいと言えるものではなく、パイロットのスキル次第ではその装備全てが産廃と化す。

 但し、ある程度使いこなせるならば相手がISでの軍隊であっても壊滅させることが可能となっている。正に1人軍隊である。

 尚、専用パックとしてそれぞれの装備を強化した専用パックも制作されている。

 

 四象専用パック『麒麟』

 現在開発中、コンセプトは『対IS特化型近接戦闘パック』

 

 四象専用パック『黄龍』

 現在開発中、コンセプトは『対IS特化型遠距離戦闘パック』

 

 四象専用パック『霊亀』

 現在開発中、コンセプトは『対IS特化型防御戦闘パック』

 

 四象専用パック『鳳凰』

 現在開発中、コンセプトは『対IS特化型殲滅戦闘パック』

 

 打鉄・越式

 篠ノ之束が開発した特殊な形状のゴーレムの装備を幾らか拝借、マライアが開発したナノマシンを取り込んだことにより、第2世代型の打鉄から第4世代型に等しいレベルアップを果たしている。

 基本的に動くことは無いが、ナノマシンを専用のコンソールで操作することにより相手の拘束、攻撃の防御、装備の生産などを兼ねている。エネルギーの効率も非常にいい為、動かないことによるエネルギー消費も攻撃と防御に回せるという機体である。

 しかし、常に予測と計算を行いながらのコンソールの操作を求められる為、扱いにくさではトップクラスとなっている。




一旦整理するために残します。他に書いて欲しいデータがあれば、余裕があるときに書き足します。
こんなタイミングでごめんなさい。


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プロローグ

「自己紹介をしますね」

 

 私には兄がいた……とてもとてもいい兄だった。勉強を教えて欲しいと頼めば勉強を丁寧に教えてくれて、暇があれば私の為に時間を割いてくれるといういい兄だった。

 そんな兄に、私も尊敬を抱いていた。子供の頃は兄と結婚する、と言っていたこともとても懐かしかった。

 そんな兄が会社に就職した。当然、家族を含めた私達は祝いに祝った。その時私は何歳だっただろう……よく覚えていなかった。ただ、私と兄は歳が離れていた。普通の兄妹というには、少し離れすぎていると言っても過言ではない。海鮮物の名前のキャラクターが多い某国民アニメである、主人公の女性とその小学生の弟程には離れている。

 大学を出て、大学院に入り……そしてとある企業に就職した。裕福ではなかったものの、それなりのお金はあった。それなりに幸せだったし、その幸せがそれなりに上下しながらも続くものだと思っていた。

 

「革新的なことを言いますね」

 

 しかし、その幸せは突如壊されることになる。女性にしか装備できない『インフィニット・ストラトス』通称ISの発明……女性にしか装備できないという事が、世の中の女性達を調子に乗らせた。女尊男卑世界になったのだ。

 そして、それによって生まれた事件……私の兄が殺されたのだ。ただ、鬱陶しかっただけだから…その程度の理由で兄は殺された。

 当然、家族総出で証拠を集めた。状況証拠や、兄の服についていた女達の指紋……それらを集めて裁判所に提出した。悪意も殺意も確定であると、私達は確信していた。

 

「残酷さを語りますね」

 

 結果として、罰金で10万円ほど払われた程度で終わった。刑期はもちろんあった……が、女達の親が代わりに金を払うということになり、罪相応の金額が支払われたことにより、罪に問われなくなった。

 

「壊れていく様を伝えますね」

 

 私はそれからどうなったか。簡単な事である。司法が、国が仕事をしないのであるならば、有罪または死刑にならないのならば……私が処刑人となることに決めたのである。

 

「結果を、喋りますね」

 

 女達の帰りのルートを調べ、時間も調べ、毎日毎日コツコツと移動ルートを調べていった。そして、最適な時間と最適なタイミングと最適なものと最適な方法と最適な作戦を用いて……女達を次々と殺していった。

 ただし、あまりに関連性の高い殺人を連続で犯してしまうとバレてしまう可能性があったので、関係の無い人間を殺していくことに決めた。

 

「最終的なことをお教えしますね」

 

 結果として、怖いほどに作戦は上手くいっていた。全く関係の無い赤の他人……老若男女関係なく殺すことに、初めなら抵抗がなかった。何だったら、女性が殺されたから…という理由だけで男性が犯人ではないかと決めつけていたこともあってか、全く私は対象に入っていなかった。普段から、いい子ぶっていたからだろう…真面目というのは、時に役に立つものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……変な夢」

 

 私は目が覚めました。そこは自宅でも実家でもない場所……無機質な壁と床に合わせて、薄く冷たいベッドで目を覚ましていた。気づけば寝ていたようだが、どうやら自分が過去を語る夢を見ていたようである。存分にいいことである。

 

「気持ちが忘れられなくなる……うん 」

 

 そう言って、私は部屋を出る。嗚呼、私の名前はなんだったか…私の目的はなんだったか……いや、思い出せない訳では無い。しかし、毎日これを思い出していないと……どうにも頭の中の記憶がすり減っていく感覚に陥ってしまうのだ。

 

「……ん?」

 

 突然、端末から連絡が届く……当然知らない番号であり、本来ならば出る価値もないが()()()()()()()()()()()()

 

「……何の用、S」

 

 S、エス、えす……当然電話の相手はそんな名ではない。コードネームのようなものである。私がそう呼んでいるだけだが、わざわざ電話をかけに来るとは暇なのだろうか。

 

「……は?IS学園?」

 

 言われたことは、学校に入学しろという事である。私は中卒…と言っても学校に通っていないだけなので、学力さえあれば入学できるらしいが。緩い、緩くないか…?

 

「……あぁ、なるほど…」

 

 言われたことはたった一言。『篠ノ之束の親族が入学するぞ』それだけである。

 けれど私はその一言だけで入学を決めた。女尊男卑世界を作ったのはIS、ISを作ったのは篠ノ之束……そして、その親族が入学するのであれば、利用しない手はない。

 

「悪いけど、最悪…貴方のやろうとしてることを破綻させるから」

 

 私の目的は世界を壊すこと、混沌にすること……ではない。今私がいる組織が、そんな感じの目的だったかもしれないが私には関係ない。私がやる事はただ一つ。『篠ノ之束を地獄に落とすこと』である。

 無論、そのような事は不可能だろう。可能な確率は小数点何位以下か…それでも、やるだけなのだ。

 使えそうなものを、ただ使うだけ。

 

「……名前?あぁ、忘れてた」

 

 学校に入学する際に、名前が必要だと言われた。しかし、本名そのまま入るのは些か問題があるだろう。故に、偽名が必要なのだ。自分の頭の中に、その名前をインプットしなければならない。

 

「……鬼村、五十冬…うんその名前でいく」

 

 ふと、特に何のことも無く思いついた名前である。しかし、理由付けらしい理由を言わなければ彼女は納得しないだろう。

 

「……その学校、確か織斑千冬のいる学校だったでしょ。ただ、響きを似てる様にしておきたかった……まぁ、ただの嫌がらせ」

 

 電話の向こうで、彼女が皮肉めいた笑いを微かに上げる。馬鹿にしている訳では無いだろう、理由がないことを隠したことを笑っているのだ。無論、それが伝わっているのは彼女もわかっているだろうが。

 

「……本名?」

 

 突然、自分の本名を聞かれた。すっと出てこない辺り、自分の名前も相当摩耗させてしまっていたのだろう。だからといって、この名前を使うことは恐らく二度とないだろうが。

 

「……思い出した。高村……高村、文音」

 

 綺麗な文章と、綺麗な声で喋りが得意な子になるように…などと言った願いが込められている、と教わった記憶がある。両親の少しズレた名前の意味を改めて頭の中で復唱しながら、覚え直す。

 

「……え?織斑一夏?」

 

 突然上げられる男の名前。どうやら織斑千冬の弟らしく、同時に姉である千冬が親代わりになっているらしく、篠ノ之家とも姉妹&姉弟共にいい関係になっていたらしい……という言葉が、私にひとつの結論をもたらしてくれた。

 

「S、多分その弟…IS学園に来るよ」

 

 相変わらず亡国機業はいい情報を調べてくれる。ならば、唯一の男が来るならば…私の作戦は、野望はもっと確定的になるかもしれない。

 

「だったら、入学するしかないよね……」

 

 電話を切り、まだ見ぬIS学園に気持ちを昂らせる私。暴走気味かもしれないと自分でも認識できてしまっているが、最早止められないのもまた事実である。

 この機会を逃す訳にはいかないのだ。

 

「……待っててよ、篠ノ之束…あんたに絶対一泡吹かせるから……」

 

 果たして、それが成功するかどうかはわからない。けれど私は何がなんでも、篠ノ之束に復讐をするのだ。

 出来ようが出来まいが、やるしかないのだ。この組織に入った以上は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がこの組織に入った理由、それは私が歪んでいたからだ。S…偶然私を見つけてくれた彼女が、私を組織へと誘ってくれた。

 それまでの生活では私はホームレスよりもひどい生活をしていたように思う。この日本で、だ。

 財布は擦らなかった。だが、いろんな人物に体を売っていた。一応この体は女なのだ……そして、私の顔はそれなりに綺麗であり未成年である。一応、未だ高校生ですらないこの体は『そういった男達』によく受けた。金をもらい、男達のツテからコネを得る。

 そこから木の枝のように、私のコネを伸ばしていった。変態のお偉いさんにまで、私の根は伸びている。よくもまぁ売られて、男達の家畜にならなかったものだと思っている。

 復讐において、殺しが脅しにならない相手もいる……本当に殺すか、殺さないかはその都度私が決めた。

 まぁ、基本殺したけれど……例えば、加害者の女達に娘がいた場合とか……そういった場合は男達を焚きつけて、海外に売り飛ばさせた。このご時世、女と言うだけで男の客に随分と売れるらしい。いいことである。

 まぁ、そのコネが今でも使えるかわからないが…少なくとも、亡国企業のコネは使えないだろう。そっちのコネが使えるなら、存分に使っていきたい所存である。

 

「……私の名前は…鬼村五十冬(おにむらいふゆ)、それで書類作成お願いね……それ以外は任せるから…」

 

 そういうわけで、私のただただしょうもない、誰一人として得をしない復讐劇(馬鹿な事)が幕を開いたのであった。




一応R-18小説です。読んでくれる方、これからよろしくお願い致します。


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入学早々

 私は、IS学園に入学できた。無論、その際に色々とガッツリ弊害が起きてしまうことを予想して、その色々になるべく対処出来るようにしてきた。

 そのひとつが、『勉強』である。元々ISと共に生活してきた訳では無い。IS学園に入学できるのは、ISの事をよく知っている者達のみである。その中で生活するために、ISの事……それ以前に、私が学校にいなかった間の学業も全て頭に叩きこんだ。元々の地頭がよかったのか、私の脳は知識をスポンジのように吸収してくれた。そこは私の頭に感謝である。

 そしてもう1つが……生活に馴染めるように、女子高生と話が合わせられるようになることであった。

 IS学園は、世界各国のIS乗り達が集う場でもあるが、その性質上大まかに言うと『どの国にも属していない』という状態である。どの国からも干渉を受けない、独立した国のようなものになっている。

 だが、近いせいか日本の学生がそこそこ多い。その為に、日本の流行も覚えておかねばならなかった。正直にいえば、面倒極まりなかった。

 そして、まだある。IS学園は寮生活であり、2人1組が一部屋を使うシステムとなっている。まぁ、女性しかいないのでそこは問題がない……せいか、『不純異性交遊の禁止』の欄がない。まぁ、外で誰かと性行為をするなというのは遠巻きに書いているが。

 そんなわけで……私は学園に入学した。校則の穴を通すとはいえ、少々下賎な手も使わせてもらうが……篠ノ之束の妹に近づくためだ、しょうがないと言える。

 

「よろしくね、セシリア・オルコットさん」

 

「えぇ、よろしくお願いしますわ」

 

 私の同居人はセシリア・オルコットである。同じクラスの、いいとこの社長のようだ。しかし、今彼女は猛烈に面白くなさそうな顔をしていた。当たり前だ、偶然なのかはたまた誰かの手があるのかはわからないが……織斑一夏は私と同じクラスである、そして篠ノ之束の妹である篠ノ之箒、セシリア・オルコットもまた同じクラスである。

 そして、セシリア・オルコットはどういう偶然か織斑一夏と喧嘩をしてそして決闘をする事になっている。

 ……いや、何だこれは。あまりにも初日から頭が痛くなるような事が起こっている。

 

「お風呂、どうしますか?」

 

「少々疲れましたわ……明日も早いことですし、先に入らせてもらいます」

 

 そう言いながら、一切の目を合わせずにセシリアは風呂に入っていく。丁度いい、彼女の女尊男卑感を利用させてもらおう。織斑一夏との言い争いで分かったことだが、恐らく典型的なこの時代の娘だろう、彼女は。

 ならば、その価値観を……恋愛観にでも置き換えてやろう。

 

「にしても……こういう時、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 簡単に言おう、私の体は亡国機業の実験により機械化している部分がある。それに関しては、私が望んだことなのでどうでもいいのだが……まぁ面白い機能をいくつかつけてくれていた。

 例えば……私の歯の中に、本当に小さな小物入れが入るようにできている…とか。

 にしても、機械化しているにも関わらずよくISの適正があったと自分でも思っている、運がいい……Sは元々知っていたようだが。

 

「んぁえ……」

 

 私は、セシリアが風呂に入っている間に彼女のためにホットミルクを作っていた。

 無論、その中に……小物入れの中に入れて置いた薬を入れる。毒性があるようなものでは無いが、私がツテを手に入れるための道具となるために必要なもの……と、Sは言っていた。とどのつまり、媚薬なのだが……効果を私は知らない。明らかに翌日に影響が出るレベルならば、少々困る……そこは、Sを信じるしかないが……

 

「ふぅ……あら?ホットミルクですの?」

 

「はい、疲れていたようなので……迷惑でしたか?」

 

「……いえ、流石に好意を無下には出来ませんわ。いただきます」

 

 そう言って、どこにしまっていたのかバスローブ姿のセシリアは、そのままグイッとホットミルクを飲み込んでいく。余程安眠したかったのか、はたまた彼女は熱さを感じないのか。

 

「…ふぅ、美味しかったですわよ…では、おやすみなさい五十冬さん」

 

「おやすみなさい、セシリアさん」

 

 部屋に二つ用意されていたベッドの内、奥側を使用するセシリア。場所は大して問題ではないが……この女、話し合いというものをする気は無いのだろうか。

 

「…ま、気長に待つべきか」

 

 私もひとまずベッドに横になって眠り始める。一応、休まなければ明日の勉学に支障をきたしかねないからだ。

 だが、セシリアに効果が現れれば……考える余地もあるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 当たり前の話だが、翌日セシリアはかなり朝早い時間に起きていた。媚薬が思っていた以上に効いているらしい。効き目が早いとは思わないが、その分強力だと考えればいいだけである。

 

「なぜ、こんなに……んっ…ふぅ……!」

 

 朝早くから、学園の寮には似つかわしくない水音が鳴り響く。自慰行為……所謂オナニーをしているのだろうが、それでSが自慢げに見せていた媚薬の効果が収まるとは思えない。

 さて、いつ目を覚ましてやろうか……

 

「くっ、ぁ……!」

 

 どうやら、もう絶頂に達したらしい。効きすぎではないだろうか?しかし、本来のこの女のプライドから考えて、体の疼きを止めるために他人の手を借りたいとは思わないだろう……そこから崩していくとしよう。

 

「……セシリアさん?」

 

「っ!?お、起きてたんですの……!?」

 

「声で……ね、ごめんなさい。見るつもりはなかったの」

 

「……起こしてしまったのは、申し訳ないと思いますが…黙っているのは、些か趣味が悪いのでは?」

 

 どうやら怒っているらしい。良く考えれば、他人に自慰行為を見られて怒るのは当たり前の話である。泣くにせよ怯えるにせよ……何かしらの反応はあるかもしれないが。いい印象は持つまいて……まぁ、そこを無理矢理していくのだが。

 

「……ごめんなさい、なら…私が手伝ってあげるから」

 

「……え?」

 

 キョトンとしたセシリアを、私は押し倒す。媚薬のせいか、冷静になっているように見えてやはり頭はまだまだピンク色なのか、抵抗するのもかなり遅かった。

 ……一応、専用機持ちの特別パイロットらしいのだが、それがこの有様である。

 

「大丈夫、私…元々彼女いたから」

 

「な、何を言っ……んひっ!?」

 

 無論、彼女どころか恋人さえいた記憶などない。そういった経験自体はあるが、間違っても恋愛感情なんてものは抱くことがない。

 

「んむっ……ちゅっ……」

 

「んんっ…!?はふっ、んぁ……」

 

 私の指はセシリアの蜜壷をいじる…淫語でも喋らせたいところだが、あいにく寮内ではあまりはしゃぐ事が出来ない。故に、少し静かにしてもらいたいので彼女の恐らくファーストキスを貰うことにした。

 媚薬のせいか、最初こそ驚いていたもののすぐに本能的に私の舌に自身の舌を絡ませてきていた。

 

「んむっ、はふっ……」

 

「ちゅる……ぷはっ……声抑えてないと…先生来ちゃうかも……」

 

 有り得なくもないが、今は太陽すら出ているか怪しい時間帯である。流石に起きていないだろう……あの織斑千冬は本当に怪しいが。

 

「んっ……!くっ、ふうっ……!」

 

 続いて、キスをやめた私の口は、彼女の乳首へと吸い付いていた。篠ノ之箒が規格外すぎるだけで、セシリアもそこそこいいものを持っている。俗に言うバランスのいい胸をしている……私は嫉妬なんかしないが、無性に腹が立つので少しばかりキツめにいこう。媚薬があるので多少の無茶は大丈夫だろう。

 

「んぎっ……!?」

 

 乳首を少々キツめに噛んだが、どうやらセシリアは声を出さなかったらしい。しかし、代わりになのかはわからないが潮を噴いたようだ。媚薬の力というものは恐ろしい……が、薬を盛ったなんてことは伝えていない。

 

「な、何故私……今ので……」

 

「痛いの…好きなんだ?」

 

「そ、そんな訳……」

 

「ならもっと……きつくしてあげる」

 

 もっと痛みが来るような調教をしたいところだが、スパンキングすらろくに出来ない環境なので、仕方ない事だが乳首を噛むだけで許してやろう。授業が休みの日は、学校外に出かけても問題がないらしいので、そこで存分に痛めつけてやろう。

 

「く、ぁ……!」

 

 私は、セシリアを辱めるかのように散々に膣と乳首を弄っていく。時折、仰け反るかのようにセシリアは絶頂に達していたが、それでも収まらないのか授業が始まる10分前になるまで、ずっと行為をし続けることになってしまった。

 遅れなかっただけマシと思おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと…だから━━━」

 

 担任の山田先生の授業を聴きながら、私はセシリアに視線を写す。とは言っても、バレないように本当にこっそりと……だが。

 それでも、彼女の異常は傍目でわかるほどだった。他の生徒も、気づいているものは気づいている感じだったが、セシリアが真面目に授業で来ていることを考えてなのか、誰も彼女の異常を伝えようとはしなかった。

 聞いてこそいるが、若干の頬の紅潮とやけに色っぽい溜息。そして時折体をむず痒そうにくねらせるその姿は、同性でも勘違いを起こしてしまいそうな程に色っぽかった……のだろう。私が主原因なので、私自身は特に何も思うところはなかったが。

 

「という事です、分かりましたか?」

 

「「「はい!!」」」

 

 私は口だけを動かしておく。しかし、ちらっと視線を動かした限りでは…織斑一夏は理解していないようだった。正直、興味がなければこんなものだろう。

 本人も自覚していないコネ入学では、彼も苦労するだろう。コネ入学は、織斑千冬ではなく篠ノ之束が手引きしたことによる強制入学の話だが。

 

「一夏くーん!この後どっか行かなーい?」

 

「ごめん、織斑先生に呼び出されてるんだ」

 

「あー、ならしょうがないねー」

 

 正直、篠ノ之束もそうだが織斑千冬も相当な化け物である。1度叩けば3度の衝撃……生身でISを落とせるのではないだろうか?とさえ思える。

 と、言ってもだ……織斑千冬は篠ノ之束に唯一対等関係だと認められている人物である。頭がスパコン並みか、もしくは戦闘能力がIS以上のそれかは不明だが。

 

「……むら…」

 

 しかし、彼も悲惨なものである。恐らく篠ノ之束の興味があるからこそ、こんな訳もわからない所に入れられたのだから。

 

「……にむ……」

 

 知り合いに天才、姉は最強……その天才を攻略するには、やはり織斑一夏の手助けと篠ノ之箒が必要だろうか?私はじっと考えるけど、答えは今のところ出ないような気がする。

 

「鬼村!!」

 

「ふぇっ!?」

 

 びっくりした。気づけば織斑一夏が私のことを見ていた、というか呼んでいた。あんまりにも気づかなかったら、肩でも触ればいいのに。別にアレルギーのごとく拒絶反応を示すなどといったことはしないのだから。

 

「後で織斑先生が職員室に来てくれってさ、俺の用事の後に来て欲しいらしいけど」

 

「……えっ」

 

 バレた?いやまさか、セシリアとの性行為?ならばセシリアも呼び出されているはずだが、その様子はない。

 つまり……私が亡国機業のスパイか、それ以外のことでの呼び出しかの2択になる。

 

「わ、分かったよ織斑君……あ、後で向かうね」

 

 高鳴る心臓をなるべく抑え、表情に笑みを浮かべる。授業で目立った行為はしていなかったはず……私は、早速バレたのかと焦りで頭を高速回転させながら、織斑一夏の後を追って職員室に向かうのであった。




基本的に原作通りのストーリーの進め方になるとは思いますが、独自解釈なども混じってくると思うので、あまり一夏君は喋りませんし原作ストーリー部分では五十冬ちゃんはそこまで絡みません。
ていうか本編と変わらない所は大概カットします。


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白昼堂々

「鬼村……呼ばれた理由はわかるか?」

 

「さぁ?私にはなんの事か……一体なぜ織斑君の後に私が呼ばれたんですか?」

 

 織斑千冬に呼び出された私。一体なんの用事で呼び出されたのか、私自身わからないでいた。スパイということがバレたのか、セシリアとの性行為がバレたのかはわからないからだ。

 

「お前の体の事についてだ」

 

「……体?」

 

 全くの別の事を聞かれてしまい、素で聞き返してしまった。しかし、体のことに関しては肉体改造くらいしか思い当たる節がない。それも、入学時には言い訳で『昔事故にあってから少しだけ鉄板を埋め込んでいる』程度にしか話していない。

 それがバレた……という話なら、わざわざ職員室に呼び出すだけで終わらないはずだ。もっと、人気のない場所にするべきだろう。

 

「何か異常はないか?」

 

「…?いえ、ありませんが……あの、質問の意図が分かりかねます」

 

「そうか……いや、問題じゃないのなら構わない」

 

 はぐらかされた。一体何が原因で私は呼び出されたのか……この後また聞こうと思っていたが、どうやら私には聞かれたくないことらしく、私は仕方ないので諦めることにした。

 少し、警戒しておく必要があるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、はぁ……!」

 

 人気のないトイレ、その一つにセシリアと私はいた。一つ、というのは個室一部屋という事である。

 当然、どちらかが怪我をしててトイレに行きたくなったからしかたなく入った……などという理由は無い。ただ、セシリアがどうにも我慢が出来なくなっていたのだ。性行為はしばらくはあの1回だけの予定だったのだが……プライドが高いお嬢様は、性行為に溺れるのもどうやら早かったらしい。

 

「こんなに糸引いてる……したかった?」

 

「貴女の、貴女のせいですわ……!」

 

「ごめんなさい……ふふ、セシリアがこんなにエッチだとは思わなかった」

 

 呼び捨てにされても怒らず、そして怒っている風な口調だがその表情に怒りはなく蕩けていた。お互いに下半身に身に纏う布地は全て脱ぎさり、陰核……つまりはクリ〇リスをお互いに擦りつけあっていた。

 

「ん、んん…!」

 

「ふふ……」

 

 順調に溺れてきている。このまま、もっと溺れさせてやろう……確か織斑一夏との決闘は次の月曜日…それまでにセシリアには彼に負けるくらいには弱体化してもらわねばならない。

 その理由は、ただこの女に負けて欲しいからだ……反骨心が芽生えるか、男に負けたと心が折れるか……どちらであっても私がすることは変わらない。

 

「はぁ、はぁ……そろそろ部屋に戻らないと怪しまれるよ?」

 

「うぅ……分かりましたわ…」

 

 これがただの女子高生ならば、ここまで名残惜しくしなかっただろう。セシリアはお嬢様だ……恐らく勉学として学んではいるが、実際に性行為に及んでいたかどうかは定かではないのだ。

 恐らく、及んでいない。自慰すらまともにしたことがないだろうに……よくここまで溺れたものだ。薬様様だ。

 戻りながら、私は考える。月曜日の前日……つまり、日曜日である。その時に私の『専用機』を使う事にしよう。とは言っても……この学校の授業では使わない。日本の専用機持ちは、他にもいるであろうからだ。そもそも、この機体自体……()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んんー……!っ…はぁ、はぁ……」

 

「セシリア、気持ちよかった?」

 

「頭が……ふわふわしましゅ…」

 

 既に日は落ちて、夕方を通り越して夜である。しかし、さすがにまた夜通しで性行為を続ける訳にも行かないので、今日はこのまま寝よ━━━

 

「あ、あの…五十冬、さん……」

 

「へ?」

 

「あ、貴方……もっと、この…気持ちいいことを知っておられるのでしょう?」

 

 性行為のことを聞いているのだろうか?確かに、色々やってたので知っているということは知っているが……

 

「どうしたの、急に」

 

「わ、私にもっと……教えて、欲しくて…」

 

「━━━え、あ…」

 

 急だった。いや、1度目は薬だったが……2度目は先程トイレで、3度目は私達の部屋で……いくらなんでも溺れるのが早すぎやしないか?そう考えながら驚いている私を他所に、セシリアは話を続ける。

 

「い、色々…調べましたの。お、お尻とか……む、鞭でで叩かれたりとか、叩いたりとか……」

 

「……」

 

 更に驚いた。深みにハマった……なんてものじゃない。とんでもない変態であるこの女。

 となると……日曜日が楽しそうなことになりそうだ。主に、私の昔のツテが大活躍しそうな…そんな予感しかないからである。

 

「なら……日曜日、一緒に出かけない?」

 

「に、日曜日…ですか?」

 

「うん」

 

「しかし……その翌日には、織斑一夏との決闘ですわ…私が負けることは無いと思いますが……」

 

「うん……だからこそ、だよ。解消できる時に解消しちゃわないと……悶々とし続けちゃうよ?」

 

 私はセシリアに近づいて耳元で囁く。息が当たったこそばゆいのか、セシリアは少しだけ身悶えしながら、了解の意を示す。

 

「ん…!わ、分かりましたわ……今度の日曜日…お願いします……」

 

「うん…!」

 

 さて、セシリアには日曜日男のすばらしさを知ってもらわねばならないだろう。しかし、そのための前準備も……せっせと終わらせなければならない。

 私は、セシリアがそのまま疲れで眠ってしまったのを見計らって、携帯を開く。数ある内の一つである……援交してた時に使っていた携帯だが、1体何人につながるだろうか。

 

「……あ、もしもし━━━」

 

 結構な数と経験をしてきたが、まさかそのうちの全員と繋がるとは思ってもみなかった。

 その内、IS学園から電車も含めて交通時間1時間以内の所に行けそうな人物は約5人ほど……いや、不思議なものである。ひとまずその全員に連絡をして、女を味わせてやるとだけ伝えておいた。

 そして、もう1つ。セシリアのISに私は指を伸ばす。名前はなんだったか……確か、ブルーティアーズだったような気がする。

 主に遠距離からの狙撃を得意としたセシリアの専用機……ただのお嬢様の機体、だけという訳では無い。スナイプというのは、それだけで神経を使うものなので相当な技術力と集中力が必要なものである。セシリアは、それを行えるだけの実力が最低限あるということだろう。

 

「……近づかれたら、負けるかもね」

 

 織斑一夏の機体がどうなるかは分からない。恐らくは専用機が出来上がるのだろうが、頭が痛くなる想いである。専用機が幾らなんでも多すぎである。

 

「セシリア……せいぜい無様に負けてよね…私のために、さ」

 

 彼女の機体……無論待機モードのそれだが、それを軽く触ってから私はセシリアと私自身を着替えさせてから眠りについた。授業は真面目に受けてやるしかないが、休みや日曜日がとても楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、日曜日……私達は私服を着てとある場所まで来ていた。パッと見は、小綺麗なレストランが1階部分にあるただのオフィスビルである。

 

「あの、五十冬さん……このビルで…?」

 

「うん…大丈夫、ちゃんと変装してきたでしょ?私達で言い訳でもしておけば……何とでもなるって。流石に2人の言葉なら先生も信じてくれるだろうし」

 

 最悪、私のツテを利用すればいいだろう。大人数人の意見も交えれば、あの織斑千冬でも信じるはずだろう……山田先生は、人を疑うということをしなさそうなので、論外である。

 私達はビルに入り、10階ほどまで登って行った。そして、開かれた扉の中……小さな客のいないレストランに腰を下ろす。

 

「あ、あのここは…?」

 

「レストランだよ、ここでちょっと待ち合わせをしててね?流石に私たち二人でやる訳にも行かないから……」

 

「女性、ですの?」

 

「ふふ、セシリアが男嫌いなのは知ってるよ」

 

 その言葉で安堵するセシリア。まぁ、呼ぶのは男なんですけどね……そしてこのレストランも、私の昔の援交相手が出している店である。そこそこ高い位置にお店を立てているが、趣味で行ってきているというのだから不思議な話である。

 因みに、今回の助っ人の1人なので……当然出されるものもただ美味しい料理ってだけじゃない。水には、睡眠薬と媚薬を突っ込んだ特製ドリンクが出されている。

 

「……このお水、なにか味がおかしくありませんか?」

 

「そう?ここのお店、レモン水が出されてるらしいけど……そのせいじゃない?」

 

「……酸味とは、また違う味の…よう……な………ありぇ…?あらま、は……ふあふあい……え………」

 

 少し大きな音を立てながら、セシリアは椅子から落ちて眠りこけ始める。どいつもこいつも、どうしてこうやけに効きの早い薬を使っているんだ。趣味にしては精通し過ぎだろうに。

 

「……彼女、いいとこのお嬢様?」

 

「そ、丁寧に扱ってよ?体の中から過剰な量の薬が見つかった……なんて知れたら大変だし」

 

「大丈夫さ、君らが帰る時間までに…ちゃんと犯しておくからさ。それに、あの薬は結構強力だし……本人も目が覚めるまでかなり時間がかかると思うよ」

 

「そういう問題じゃ……まぁ、最悪私は気絶させられてたとか言えばいいかな…」

 

 私は頭を抑える。セシリアが男嫌いなのは過剰なものだが、正直性欲に忠実なのが多い気もする。それでも、偽善者ぶっているような奴らよりかは私はマシだと思っているが。

 

「……どうする?見ていく?」

 

「……そうだね、私も部屋に入らせてもらうよ」

 

「うちに一応置いてある監視カメラは、音声拾わないから大丈夫さ」

 

 ひとまずセシリアを抱き上げて、店の裏の方に連れていく。何を気にしているのかは知らないが、流石にここまで調査の手が回るようなことは無いだろう。いや、本当におそらくとしか言えないのだが。

 

「ところで、どこまでならいいの?」

 

「体に跡が付かないように、目立つ場所とかじゃなくて全身ね」

 

「じゃあせいぜいスパンキングが限界か……まぁそれでも楽しめそうだしいいけど…ところで、いいの?友達じゃないの?」

 

「さぁ?彼女が私のことをどう思っているのかは知らないけど……彼女、私の嫌いなタイプだもん……知ってるでしょ?それくらい」

 

 私のセリフを聞いてニヤニヤしている男。今回は、いい女を恵んでやるから私に付き合えというものだった。

 もし今回協力してくれるなら、今後もいい女を提供することがあるかもしれない……とだけつけ加えておいた。

 ま、それもあるかもしれないけど……こいつらが参加してきた理由はセシリアを紹介したことだろう。

 

「まぁね、そもそも君が教えてくれたんじゃない。男嫌いで男を格下と見ている女がいるって……」

 

 そう、男を格下と見ている女……たったそれだけの事で、彼らはセシリアに痛い目を見せようとしてくれるのだ。

 それだけ鬱憤が溜まっているのだろう。しかし、他の男ならば兎も角中学生の時の私の体を買っていた時点で、既に犯罪行為ではあるのだが。

 

「まぁ、それもそうだけど……とりあえず精液漬けにしてあげて。これから長い付き合いになると思うし」

 

「え、何この子今回以降も犯させるの?」

 

「とりあえず男大好きになってもらわないと……学園にバレたら大変なことになるけどね」

 

 私の今の顔はどうなっているだろう。口角が上がっていることは理解できるのだが、しかし自分の顔がどう笑みを浮かべているかがわからない。

 予想としては、邪悪な笑みを浮かべているに違いない……これから悪いことをしようとしているので、そちらの方が似合うと言うだけだが。

 ひとまず、今すやすや寝ているこの女を……ちゃちゃっと終わらせてやろう。私はそう思いながら、彼女を裏手に運んでいくのであった。



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精濁混濁

 sideセシリア

 

「ん……」

 

 私は……今何をして……いえ、そもそも何が、どうなって…ダメですわ…頭が、全然回らなくて……目の前も、霞んでよく見えませんわ…でも、そのせいか…肌からの刺激が、強すぎて…でも、頭はそれでも目覚めないのが……駄目ですわ……本当に、頭が働かなくて……

 

「━━━」

 

 あれは、五十冬さんでしょうか……でも、何を言ってるのか理解できませんわ…これ、寝ぼけてるにしては…幾ら何でも……まるで、薬でも使われたかのような……

 

「━━━」

 

 隣の人が…驚いて……誰でしょうか…知らない人です…五十冬さんが、近づいてきて…私の顔を両手で挟んで……笑顔、でしょうか…何故五十冬さんは私に笑顔を向けているのでしょうか…理由も、理屈も、原因も……何も…あぁ、でも……体が妙に熱いことだけは…何故か分かります……ここの空気の問題、でしょうか……

 

「━━━」

 

 隣にいる人が…私に近づきました…私の股にはないものが、あって…もしかして、男性でしょうか……あぁ、でも…私のこの体の熱さを、疼きを停めれそうな物が━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「随分と欲しがりそうな顔だねぇ、セシリア……ってこれ、聞こえてないのか」

 

「そりゃあね、薬のせいで意識が混濁してるだろうし…それに加えて強力な媚薬もある。多分まともな思考してないと思うよ?僕らの会話も、ろくに理解していないだろうしね」

 

「ふーん……随分とまぁ都合のいい薬を…」

 

「そりゃあ、あのIS学園の生徒…しかもイギリスの企業のお嬢様ときたもんだ。借金してでもかなりいい薬を使わないとね」

 

「したの?」

 

「してない」

 

 私が珍しく驚いた表情を取ったというのに、この目の前の男はニッコリと言いながら冗談だという。この程度の事で一々借金させていたら、私との関係がバレてしまうかもしれないというのに……いや、趣味で人のこないレストランを経営してる奴だ、金はあるのだろう。私が昔カモにしておきながら、言うことではないけど。

 

「さて、では早速味わせて貰おうかな……他の人も来るんでしょう?」

 

「うん、待つでもいいし待たなくてもいいよ」

 

 私がその言葉を言うのを待っていたのか、男はすぐさま横たわっているセシリアに飛びつく。服を丁寧に剥ぎ取り、そしてかぶりついていく。彼女の実った乳に、乳首に吸い付いて舌で転がしていく。

 

「は、ん…!」

 

 意識が混濁しているせいか、セシリアの反応は小さいものだった。しかし、混濁した意識の中でもきっちりと感じているその姿に私は嗜虐心に似た気持ちを味わっていた。

 

「ん、ぁ…!もっ……と…」

 

「……え、今喋ったけど」

 

「そりゃあ、筋弛緩剤を打ってる訳でもないしね。喋ろうと思ったら喋れるよ……本人にその気力が湧けば、の話だけど。頭が回らない以上そんなこと出来るはずないけどね 」

 

 成程、と私は納得した。どうやら今の一言はセシリアが無意識に発した一言だったらしい。頭の中は真っピンク、そしてその状況で理性がほとんど働いていないのならこんなことも喋ってしまうようだ。と、ここまで考えて私はふと思い至る。

 

「それ、昔私に使ってた…?」

 

「さて?本当に使っていたんなら……どうなっていただろうね」

 

 世の中には、敵に回していい人物と敵に回していけない人物の2通りがある。篠ノ之束という、1番敵に回してはいけない人物を敵に回そうとしている私がいえたセリフではないが、この男は私にとって敵に回してはいけないものだろう。

 

「ま、今の君より…こっちのお嬢様の方がそそるから今日は見逃してあげる」

 

「はいはい、ありがとうね……おっ」

 

 男が再びセシリアの胸やま〇こを弄り始めて位の時から、他の男達も随分と集まり始めていた。これから、セシリアは陵辱される。誰ともしれないち〇ぽに処女を奪われて、散々にイカされる。

 けど、しょうがないよね……私の前で、私が1番嫌うことをしたんだし…お嬢様だなんて肩書きを持ってるんだし。

 私の鬱憤晴らしと、コネクション作成の2つを同時に達成出来るなんて、セシリアのおかげで随分と楽が出来そうだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideセシリア

 

 私の体に電流が走る。それはとても心地よくて、継続的に与えられていく。体内で、何か棒のようなものが前後に動いて……私の疼きを止めようとしてくれていた。

 何か、何かダメなような気がしますけど……気持ちいいことに、悪いことは無いはずなので大丈夫のはずです。

 

「ひぁ……!」

 

 胸が、吸われてます。まるで赤子のように男が私の胸を吸っています。しかし、嫌悪感は全くありませんでした……寧ろ、気持ちいいことだけが頭の中を支配していました。

 

「ん、ぁ……」

 

 男の指が、私の膣をいじっていました。胸を吸われながら弄られる膣から得られる快感は、私の予想を遥かに超えていました。いつもは、こんな感じることは無いのに……と、心のどこかで思っていました。

 

「ぁ……」

 

 何分、何十分……もしかしたら1時間以上いじられていたかもしれません。しかし、私には時間が正確に測れなくなっていました。

 だから、一体何分浪費されたのか全くわからなかったんです。

 

「━━━」

 

 男が相変わらず何かを言っていました。しかし、私の頭はそれを理解するのを拒んでいました。

 けれど、何をしようとしているかはわかりました。男の……()()股間にある性器を…私の膣に突き立てようとしているんです。それを、私は無意識に望んでいました。

 

「んん…!」

 

 ゆっくり……私の膣に、それが入っていきます。ある程度進むと、私の処女膜にそのイチモツが当たる感覚がしました。私の処女…こんな所で、破られてしまう……

 

「いっ…!」

 

 少しの痛みが、私の脳みそに焼き付けられていきました。しかし、その後に訪れたのは快楽でした。痒いところに手が届いたかのような。そんな感じが私の中に溢れていきました。

 

「━━━」

 

「━━━」

 

 目の前で彼と五十冬さんが話し合っていますが、何を言っているのかわかりませんでした。

 そして、その直後に私の顔の前にイチモツ……ペニスが姿を現しました。

 

「━━━()()()()、だよ」

 

 たった一言……語感が復活してきたことを喜ぶべきなのか、それとも聞こえた単語がそれだったゆえの不幸と言うべきなのか。兎にも角にも、私の朦朧とした頭の中でペニスはおち〇ぽという刷り込みがされた。

 

「……ち…ん、ぽぉ……」

 

「ははっ、意識がいくら朦朧としてるからってこりゃひでぇな……おら、咥えな」

 

 私の前に差し出されたものを咥えろ……と、彼は言いました。私は彼の言う通りに、それを咥えました。しょっぱくて、苦くて、そして臭い……この激臭で私の頭が未だに覚醒しないことがおかしいと思うくらいに、私はそれを咥えたまま本能のままに舐め始めました。

 

「じゅぶ……れろ……」

 

 膣を犯されながら、私はひたすらち〇ぽを味わいました。喉の奥まで、子宮の奥まで犯されながら、私の意識は快楽によって塗りつぶされていきました。

 

「はは、美味そうに咥えてやがんなぁ」

 

「薬を盛ったとはいえ、こいつぁいくらなんでも素質がありすぎだぜ」

 

 何も、聞こえない。何も、理解できない。気持ちいい、きもちいい、キモチイイ……私の心は段々とそれに塗りつぶされていきました。

 

「これで高一ってのが信じらんねぇぜ……最近の女は発達がいいんだなぁ?」

 

「私を見ないで言わないでくれる?」

 

「はは、ごめんごめん……ところで中出しってOK?」

 

「あー、止めて。お尻の方ならいいけど」

 

「了解」

 

 何かを話し合った後に、私の膣からち〇ぽが抜かれました。絶頂に達しそうだったにも関わらず、お預けを食らってしまったかのようなもどかしさが、未だ未覚醒の私の頭を支配する。しかし、その後すぐに男が私のお尻の肉を持って、開きました。

 

「んっ……」

 

「まぁ、あっちが処女だったんだし……こっちも処女だよなぁ……!」

 

「あ、ぐっ……」

 

 今度は、私のおしりの穴の方にち〇ぽが突き立てられました。本来、そこは性器ではなく排泄物を出すための穴。しかし、何故か痛みを感じず快楽だけを殆ど感じるようになってしまっている私の体は、いとも簡単にち〇ぽをお尻穴で咥えていきました。

 

「おぉ…ま〇この方もやばかったけど……こっちもかなりいい具合じゃん…!」

 

「あ、ぐ……ひっ……!」

 

 そして、そのまま私は激しくおしりの穴を犯されていきました。無理やり広げられて、痛いことはそれなりに痛いのですが、その痛みそのもので私は感じてしまっているらしく、心地良さに寧ろ頭を支配されていました。

 

「へへ、こっちを開発すんのが楽しみになってきたぜ…!」

 

「あっ…あっ……!」

 

 痛みと、それを上回る快楽。私の体は、意識を放置してただただ感じていることだけに集中していました。

 

「お尻の穴に、なら出していいんだよね…!」

 

「お好きにどーぞ」

 

「へへ、そういうことなら……!」

 

 私を突いている彼ら二人の動きが、明確にわかるくらい早くなっていきました。それは、まるで限界を迎えそうな動きとも思いました。

 知識だけならば、知っています。恐らく私の体の中に射精するのでしょう。それを体は無意識に求めてか、喉は精液を飲み込もうと必死になりおしりの穴は締めつけを強くしました。

 

「うぉ…!出るっ……!」

 

「んぶっ!!」

 

 そして、私の喉奥と腸の奥に精液が大量に吐き出されました。私はそれを吐き出すことなく、喉を鳴らしながら飲んでいきました。美味だと感じた訳では無いのです。ただ、反射的に動いて飲んでしまいました。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「へへ……じゃあ次は俺らだな…!」

 

 勿論、1度で終わる訳もなく……そして彼らもまた満足している訳もなく。私を道具のように使い、時間が来るまで彼らは私を犯して中に精液をだし続けていったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「ん……あら…?」

 

「あ、セシリア起きた?」

 

「五十冬さん……ここは…?」

 

「街中だよ、セシリア急に寝ちゃうんだもん。びっくりしちゃった」

 

 起きたセシリアに膝枕をしながら、私はまるで本当の事のように嘘を語った。セシリアも、しばらくの記憶が無いために私の言うことを丸々鵜呑みにしていた。意識が少しはあったように思えたが、どうやら夢か何かとして脳が処理したように思える。

 

「……」

 

「どしたの?」

 

「い、いえ……なんでもありません、わ…」

 

 セシリアが顔を真っ赤にして、私に目を合わせないようにしていた。私に膝枕されて照れている……という感じではなさそうだ。どうやら、行為中のことを少しは思い出したようだ。本人は、現実とは思っていないようだが。

 

「あ、あの五十冬さん……」

 

「どうしたの?」

 

「私……寝ている間に1人にしませんでしたか…?」

 

「するわけないじゃん……放っておけるわけないよ」

 

『こんなに面白いことを』と言いたいところだった。言わないが……にしても、どうやセシリアの脳内では私はあの行為中いなかった扱いされたようだ。

 まぁ、本当に離れていなかったのだから私は嘘は言っていない。

 

「そ、そうですわよね……あっ…!?い、今何時ですか!?」

 

「安心して、門限まで余裕で時間あるよ……今は電車待ち」

 

「へ?……あっ…」

 

 どうやら、セシリアは漸く回りを見渡したようだった。そう、ここはIS学園に迄通じてる電車の道なのである。

 セシリアは、また顔を真っ赤にしながら私の隣に座り直す。

 

「……は、早く帰りましょう」

 

「うん!」

 

 私は元気よく返事をする。恐らく、セシリアはしばらくは気づかないだろう……しかし、また日曜日彼女の強い要望でここに来ることになるだろう。何せ……記憶はなくとも、経験と見た『夢』が残っているのだから。




一応〇で伏字使ってます。


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試合散々

 さて、今日はセシリアと織斑君の決闘の日である。セシリアが使うは遠距離狙撃型専用IS、ブルー・ティアーズ対して織斑君のは……やはり専用機、けど武装が見たところ1本しかない。どういうISなのだろうか?

 

「では、これより織斑一夏とセシリア・オルコットの試合を始めます」

 

「……ん?」

 

 よく見たら、観客席でない場所で篠ノ之箒が何やら真剣な顔で試合を見ていた。

 ちょうど良かったので、私は彼女の近くにこっそりと忍び寄って、そして後ろを取った。

 

「……鬼村か」

 

「覚えててくれたんだね、ありがとう篠ノ之さん」

 

「いや……別に…」

 

「ねぇ、この試合どっちが勝つと思う?」

 

「……」

 

 少しこちらを向いて、彼女はムッとしてしまった。意地悪な質問だっただろうか?ただ予想するだけならば、彼女は幼馴染の織斑一夏に賭けても何もおかしくは……と、ここまで思ったところで私は彼女が睨んだ理由が別にあると判断した。

 

「……()()()()()()()?」

 

「そりゃあ、勿論…()()()()()()()()()()()

 

「……何?」

 

「別に同室だからって、私はセシリアの肩を盲目的に持つわけじゃないよ。友達だからって、狂信的なまでに好きって訳でもないよ」

 

「……」

 

「けど、技術並びにISの性能で言えばセシリアは専用機なのだから当然トップクラス……そんな彼女が負けるって言うのは私はあんまり思いつかないかな」

 

「では、結局オルコットの肩を持つと?」

 

「話は最後まで聞くべきだよ〜」

 

 私の台詞にイラついているのがよくわかる。私の言葉に真実がないことを見抜いているのか、それとも単純に喋り方にイラついているだけなのか。どちらかは分からないが、恐らく前者な気がする……篠ノ之箒はそういう人物なのだと、私は思っている。

 

「でもね、情報で言えば織斑君のISは未知数極まりないよ。どれだけシミュレーションしようが、全くの未知のものは想像できないんだもの」

 

「……」

 

「だから、セシリアは警戒しないといけない。けど警戒し過ぎもいけない……適度に警戒していきながら、自分の戦い方の理想ができるようにしないといけない」

 

「それが出来ているからこそ、専用機に選ばれたのでは?」

 

「そんなの、分からないよ?どれだけ技術を磨いていても……感情論1つで壊れてしまうような人だっている。そして、セシリアは今織斑君が専用機持ちだと言うことと、男そのものという事に怒りを、憤りを感じている」

 

 私と箒の会話は続く。セシリアと織斑君が戦っている横で、軽い舌戦が行われている。

 

「随分と、彼女のことを知っているのだな……入学してからまだそれほど時間が経っていない筈だが?」

 

「分かるよ……分かるんだよ。男嫌い…ううん、男を見下している女の目っていうのが私にはわかるんだよ」

 

「それはまた……随分と局所的だな?」

 

「局所的?ううん、今のご時世…最低でも小学生になってからなら、誰でも持ってると思うよ。この私も……貴方も含めて」

 

「━━━私も、だと?」

 

 私の一言で、箒が動揺しているのがわかった。ついつい喋りすぎてしまったようだが、結果は分かりきっている。試合というのは、相手を舐めた時点で舐めた者が倒されて終わる。

 そう、セシリアが負けるというのが私にはわかるのだ。

 

「うん、貴方も男を見下している……織斑君の事をさ『守ってやらないと』『私しかいないから』とか思ったことない?」

 

「それは━━━」

 

「思い当たる節、あるよね?それに、同じクラス……ううん…この学校の殆どが差別してるよ。どれだけ織斑君の事をいい感情で見ていても、育った環境で培われた無意識の物は、絶対に消えないんだから」

 

「……自分は、そんな環境にいなかったと?」

 

「ううん、寧ろ私は多分貴方達よりそういった環境にいるよ……けど、そういった所から見えることもあるんだよ」

 

 私の目は、箒を捉える。箒の目も、私を捉えている。まるで箒は蛇に睨まれた蛙の様だった。

 

「……どんな、事だ?」

 

「………今は、秘密だよ。でもそのうち分かるよ……私の言っていたことがどんな意味なのか、どんな理由だったのか……って言うのがね」

 

 箒の動悸が激しくなっていた。呼吸も少しだけ荒くなっていた。周りの環境音と外されたかのような、そんな雰囲気を纏わせていた私たちの会話は、これで終わりを迎えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、織斑君のISの紹介をしよう。私は彼が発進した後に、彼が先程から居た場所にいた。ロボットアニメなどでよく見る、発進する場所のような……まぁそんな場所である。

 そこに、元々箒がいた……恐らく話し合っていたのだろう。来た時には試合は既に始まっていて、少し進行してしまっていた。

 彼のISは、白い機体である。そして、武装は恐らく刀のような武器が1本……なのだが、どうにも腑に落ちない。

 

「ねぇ、篠ノ之さん…織斑君って、IS動かすの慣れてるの?」

 

「……起動したのは2回、まともに動かしたのは今回が初めてだ」

 

 なんということだろう。織斑一夏もまた天才の類だったようだ……とは言っても、あの織斑千冬の弟なのだから天才であっても何らおかしいとは思わないが。

 しかし、それにしても━━━

 

「彼のIS、やけに……」

 

「……どうした?」

 

「……ううん、気の所為かも」

 

 織斑君は、最初こそセシリアのスナイプに連続でヒットしていたが、その内あっちこっちに飛び回って攻撃を避けるようになっていた。

 しかし、この戦いはISのエネルギー残量が切れた方の負け……ただ逃げるだけでは、到底勝ち目はないだろう。

 

「……あれが、オルコットの…」

 

「ブルー・ティアーズの兵装……遠隔操作出来る射撃装置と言ったところかな?」

 

 ビットなりファンネルなり、色々な言い方こそあると思うが彼女の使う兵装は軒並み遠距離装備のようだ。ミサイルに遠隔操作射撃装置、そしてスナイパーライフル。

 1度でも間合いを取られれば、取り返すのは難しいだろう。

 

「……一夏…!」

 

「……」

 

 セシリアのファンネルから打ち出される光線を避けながら、織斑君は的確に一つずつ落としていく。

 本格的に、才能がありすぎる彼の動き方に私は少し……嫌悪を抱いていた。結局、彼もまた才能によってISを動かしているようなものなのだろうか、と。凡庸な一般人が、ISを使わされるという……そういったことは、無かったのだ。

 

「……お?」

 

『へへ、分かったぜ…!』

 

 どうやら、織斑君はその『天才的な才能』でセシリアの弱点を理解したようだ。

 セシリアのファンネルは4基、しかし彼女はそれを動かしている間他の攻撃を一切していないのだ。つまり、ファンネルさえ落としてしまえば、後はスナイパーライフルをかわすだけ……

 

「……んなわけないじゃん」

 

「……鬼村?」

 

「ねぇ篠ノ之さん…彼って調子に乗る時ってあったりする?」

 

「どうした?急に……」

 

「えっと……『セシリアのファンネル』が『動いてる時』に『他の攻撃が出来ない』なんて……『わかりやすい隙』に気づいてないのかなって」

 

「なっ……」

 

 驚く表情になる箒。いや、何故そこで驚かれるのかが私にはわからない。そもそも、セシリア……いや、ブルー・ティアーズには目立った近接武器はないのだ。

 しかし、近接武器を相手取る時もある……そういった時、一体どんな手段が必要になるか?それは、いかに相手の予想を外れるかということである。

 一言言おう……決闘が始まってから今の今まで、セシリアはミサイルの装備を使っていない。

 

『━━━かかりましたわね』

 

『なっ…!』

 

『4基だけではないですわ!!』

 

 ファンネルは4基、そして4基全てを破壊した織斑君は真っ直ぐセシリアに突っ込んでいく。

 だが、それを狙っていたセシリアは……織斑君にミサイルを叩き込んだ。不意の一撃だ、避けようがない……そして今ので決着が着いた……と私はそう思っていた。

 

「一夏!!」

 

「ほらね、だからこう…なって……」

 

 しかし、爆煙の中から現れたのは形の変わった……例えて言うのならば、殻を破ったかのような…見た目が一回り大きくなり、そして白から純白へと変貌を遂げていた彼のISがそこにあった。

 

『貴方…初期設定で……!』

 

 セシリアの驚いた声が響く。それは、私も同じである。初期設定で戦っていたこともそうだが、何故そこまでの運を持ち合わせていたのか。

 

「……これだから、あの女は…!」

 

「……鬼村?」

 

「……私、戻るね」

 

 そう言って、私は踵を返して試合を見るのを辞めた。結局、試合はセシリアが勝ったらしい。

 どうやらいい所まで追い詰めたらしいが、最後の最後に彼の武装の刀の能力、バリア無視のせいで残量エネルギー全てを使い果たしてしまったらしい。

 なんともアホな結末である。それを聞いた私は、そう思いながらセシリアを迎えに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この、気持ち…」

 

「セシリアー…いるー?」

 

「あ……い、五十冬さん……」

 

「……どうしたの?そんな顔して…」

 

「い、いえ……ちょっと、思うところが合ったというか…」

 

 シャワー室で、セシリアはシャワーを浴びていた。迎えに来たのはいいけど、どうしてか妙に様子がおかしかった。

 どこかぼーっとしているような……そんな風に見受けられる。

 

「……体の調子、悪い?」

 

「……悪い、のでしょうか…清々しいにも似たような気持ちを……」

 

 セシリアは、やはりぼーっとしているようだ。一体何があったというのだろうか?しかし、それを知っているのはセシリアだけでありそれを私が知る術はない。聞いたところではぐらかされるか、正直にわからないと言われるかの二択だろう。

 ならば、今は聞かないのが得策である。どちらにしても、セシリアに自分の今の感情が理解出来ているとは思えない。

 

「……疲れてるだろうし、今日はもう休もう?明日からも授業はあるんだから」

 

「……そうですわね、ありがとうございます五十冬さん」

 

 私はとりあえず、一旦セシリアから離れる。そして、わざわざ人気のない場所まで移動を行っていた。

 それは、とある人物と通信がしたいからだ。私の保護者扱い……入学時にはいなかったが、一応はそうなっている……組織のS。

 

「……こんな時間に電話だなんて、ごめんね?」

 

 Sは問題ないと語る。というか、この声は少しだけ加工しているのだろうか?何らかの作戦の妨げにならないように、同一人物とならないように事細かく声は変えているのは知っていたが……

 

「でも、見てくれた?私の送ったもの……凄いよね、IS学園ってあんなに施設が多いんだもの」

 

 私とSは、他愛のない話を行い続けていく……表面上は、だが。私もSも、本当に話したいことは文章の前半において会話をしている。後半から喋っているのは、全く関係の無い独り言なのだ。

 というか親に写真を送るのだけは、どうやらOKらしい。別段、機密事項まみれという訳では無いようだから。

 

「うん、うん……そういえば今日ね━━━」

 

 と、ここまで語ったところでSに停められた。今日はもう夜遅いから早く寝ろ……と言っているが、恐らく別の理由だろう。恐らく、盗聴されている可能性も考慮して、だろうか?

 そもそも私が掛けるのはSが通信OKな時だけである。今彼女がどこにいるのかは、全く知らない。

 

「……わかった、うんおやすみなさい」

 

 そう言って電話を切る。さて、日曜日に送ったデータ…ブルー・ティアーズのものを向こうはどう処理するのか?私はそれを考えながら、部屋に戻って明日のために眠りにつくのであった。



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心身粛々

「……日曜日、また出かけたいの?」

 

 織斑一夏と対決して、セシリアが勝った次の晩の事。突然セシリアがそのようなことを言い始めた。

 いや、それは私としては別に問題は無いのだが、なぜ急にそのようなことを言い出したのだろう。

 

「え、えぇ……あの時は、その…よく分からなかったというか…何も覚えていないまま、帰ってきてしまったので……」

 

「……あー、そう言えばそうだったよね」

 

 実は散々陵辱されているのだが、そのことは伏せておく。しかし、こうは言っているが恐らく別の理由も混じっているだろう。

 変わった理由……少なくとも、織斑一夏という男と戦わなかったらこうはなっていなかっただろう。あの時、彼女達2人でなにか喋っていたように思えるが、あくまでも時折聞こえてくるのを聞いていただけなので、真相はわからない。

 

「……それで?同じ場所でいいの?」

 

「は、はい……次は、何も頼みませんわ」

 

 あの時飲んだ水のことを警戒しているのだろうか?しかし、それならそれでやることが少し変わるだけである。

 

「……ねぇ、セシリア」

 

「…?なんですの?」

 

「織斑君のことどう思ってるの?」

 

「きゅ、急に何を!?」

 

「あぁいや……何か、決闘したあの日から明らかに様子が変わってたし…織斑君の見る目も変わったかのような気がするし……」

 

 正直に、私はセシリアに尋ねる。どうやら思い当たる節があるのか、セシリアは目を泳がせているだけであり、否定をしなかった。やはり、彼との戦いで何かがあったのだろう。

 

「……私、彼に怒られましたの」

 

「……怒られた?決闘の日時を決めた日でも、織斑君はセシリアにキレてたし逆のパターンでもそうだったじゃない」

 

「そうじゃなくて……あぁ、私も言葉にするのが少し難しいですわ…」

 

「無理そうならいいよ。けど、嫌な思いをさせられてたら言ってね?」

 

「は、はい……」

 

 さすがにもう夜なので聞きに行くことは出来ない。明日聞くにしても、聞き方の問題などがあるため、そこも考慮しておかねばならない。何故ならば、セシリアの都合は織斑一夏という男には全く無意味なのだから。

 

「さ、今日はもう寝よう?」

 

「あ、あの……」

 

「何、どうしたの?」

 

「……い、一緒に…」

 

 どうやら、一緒に寝たいらしい。そういう所を前面に押し出していけば、私の毒牙にかからずに済んだというのに……しかし、同室になった時点で手を出していた可能性もあったので、どっちにしても……と言うやつだろう。

 

「……あ、そう言えば知ってますか?五十冬さん」

 

「ん、何?」

 

「2組に転校生が来る……なんて噂が今立っているんです」

 

 2組、隣のクラスである。たったそれだけ……なのだが、転校生となるとやはり専用機持ちなのだろうか?そこら辺もちゃんと確かめねばならない。

 

「もし本当に来るんだったら、私たちと良いお友達になれそうだね」

 

「そ、そうですわね」

 

 友達?こちらとかかわり合いになることがないのならば、わざわざなりに来ることもないだろう。向こうが友達100人を作ろうとしているのならばともかく、そんなことを望んでいる高校生などそうはいない。

 私はそう考えているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、次の日の朝。私とセシリアは授業に出席していた。相も変わらず背が比較的低く、かつ胸が大きい山田先生の授業を聞きながら別のことを考えていた。

 

「……」

 

 それは、織斑一夏の事である。とは言ったものの、絆されたセシリアや、恐らく惚れているであろう篠ノ之箒のようなものでは無い。ただ、彼がどう言った人間なのか……少し知っておいてもおかしくないからだ。

 私が一番いいと思えるのは、彼が『モテる男』だった場合である。その場合、私が彼と恋人的な意味で付き合うことが出来たら……私の計画が大幅に縮められると思ったのだ。

 とは言っても、彼と付き合うというのは少しばかり苦痛……いや、かなり苦痛になりそうな気がするが。

 

「では、この問題を鬼村さんお願いします」

 

「はい」

 

 さて、山田先生に当てられたのでいくとしよう。ちゃんと問題は考えながら聞いていたし、答えももちろん分かっている。私は何事もなく回答を示し、そして山田先生に褒められながら席に着席する。

 ……山田先生のようなギャップのある女性はとても男ウケするだろう、と彼女の谷間を少しだけ注視しながら私はそう思ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?山田先生ー、鬼村さんはー?」

 

「今日は午後からお休みです、体の都合で定期的に病院に通うんですが、今日がその日なんです」

 

 恐らく学校では、そのような話をしてるだろう。私は、今この時だけはIS学園の生徒ではなかった。

 午後から授業を休んでいる……と言っても、向こうには体の都合による定期検診だと伝えてある。その事自体は本当だ、実際私の体は定期的なメンテが必要なのだ。

 

「……にしても、学校を一々休まなくてもいいんじゃないの?」

 

「こういう時こそ、素を出していたいのよ……」

 

 私の担当の女医……もちろん、亡国機業に属しているブラック面ズブズブのドがつくほどのアウトな医者だが……そんな彼女が、珍しく私のやることに口を出していた。

 

「私の体は、貴方にしか見られない……Sの体も、Sの体の担当の人しか見れないのと同じようにね」

 

「S、ねぇ……いい加減呼んであげたら?スコ━━━」

 

「はいストップ、やること先やって……」

 

「はいはい……で?定期検診だけ?なんか追加する?冷蔵庫機能とか便利よ?」

 

「私の体で遊ばないでくれる?」

 

「自分の体を殺す事特化にしてる時点で説得力ないけど?」

 

 私は彼女を睨みつける、彼女は私に笑みを向ける。ダメだ、やはり私は彼女とどうしても相容れない。腕は確かだが、マッドサイエンティストな部分と人を煽ることに関しての才能に特化しすぎているせいで、性格ははっきりいってゴミである。

 本人にも言ったが、『いやぁ、言われると気持ちよくなるんでやめてください』と言われたのでそれ以降言わないようにするくらいには、合わない。

 

「……特に追加はない。それに言ったでしょ?私のISと合わせるなら、私の今のこの体のままがいい」

 

「IS、ISねぇ……」

 

「……何?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()I()S()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……私が言いたいのだから、言わせて欲しいのだけど?それすら許さないってこと?」

 

「おっと?おこなの?まぁまぁ1回落ち着きなって……実際、あれはIS学園で使われているような代物じゃない、非人道的にも程がある…そんな兵器だよ、ISなんて言うスポーツ道具と比べたらね」

 

 彼女が珍しく真顔になる。確かに、言われれば非人道的だろう。あれは中々使いたくない代物ではある。

 機能だけならば、待機モードでも使えるが……

 

「ま、今は我慢しとく事ね。他の専用機持ちのISのデータを何としてでも集めて欲しいわけよ」

 

「はいはい……私の奴がそれで強化されるなら……いくらでも…って、何機までコピーすればいいの?」

 

「んー……今1機目だから…後7人くらい?」

 

「多っ……!?」

 

 幾ら何でも7人は多すぎではないだろうか?しかし、それくらい溜めないといけないというのならば、何とかして増やさなければならない。セシリア以外…となると、上級生も狙わないといけないだろうか?

 それと、織斑一夏のISも何とかしてデータを取らないと……

 

「あ、そう言えばさ。ひとつ聞いていい?」

 

「……何?」

 

「織斑一夏ってどんな子?イケメンなら攫ってきてよ〜、何で男なのにISを動かせるのか気になる━━━」

 

「篠ノ之束の依怙贔屓」

 

 言い切る前に、私がばっさりと切り捨てる。先程まで、キャピキャピという擬音が似合いそうな程に笑顔だった彼女が、すぐさま真顔になる。

 

「まーだ言ってるの?幾ら篠ノ之束が天才と言っても、1個人が触れるかどうかわからない物を動かせるようにしておいたって……運命でも操ったとでも?」

 

「そもそも、篠ノ之束は織斑千冬と仲が良かった。そして、その束は妹の篠ノ之箒と織斑一夏のコトも大層気に入っていた……だったら、そんな事いくらでもしてのけるでしょ」

 

「嫌ってる割には、彼女の評価高いよね」

 

「嫌っているからと言って……正当な評価も下せないようじゃ勝てるわけがない」

 

 事実、ISのコア…その存在は篠ノ之束によって作られて、彼女以外未だに作り方もろくに知らない、そして解明すらも出来ていない代物なのだ。そんな物を作り出せている時点で、1個人の認証を例外にすることなど容易いだろう。

 もしくは、ISのハッキング……そんなことも考えられるし、それ以前のところで暗躍している可能性もある。例えば、受験会場のデータをいじってIS学園と、元々彼が受けようとしていた学園の場所を同じにする……など。

 

「ふーん……」

 

「……まぁ、はっきり言ってしまえば…彼女の頭の良さは異常だから過大評価でもなんでもしてないといけない」

 

「……そんな彼女が、今内にスカウトされるかもしれないって話を聞いたけど?」

 

「……どこ情報?」

 

「貴方のだーいすきな、彼女から」

 

 わざわざそういった言い方をするあたり、Sの事を言っているのだろう。しかし、ここで反応すれば話の腰を折られるのは明白である。

 

「……そう、でも関係ない」

 

「え、いいの?敵対するかもしれないのに?」

 

「そもそもここはそういう所でしょ?それぞれの目的の為に動く…だから目的はバラバラだし、食い違いなんていつも起こる」

 

「ふーん……因みに、貴方は彼女に八つ当たりの復讐をしてどうするの?」

 

「……は?」

 

 私は彼女の質問の意図が理解出来ていなかった。復讐にする理由なんて必要なのだろうか?いや、するからには理由はいるのだろうが、彼女の言っていることは復讐する必要性というか……明らかに、理由以外の何かを問いただしていた様に聞こえたのだ。

 

「復讐をして…って、貴方の言った通り八つ当たりだけど?」

 

「……いやいや、その後」

 

「その後…?」

 

「まぁ何らかの原因で篠ノ之束を倒しましたー……ってして、その後何を望んでるの?別に何も無いってんならそれでいいけど?」

 

「……そもそも、私と同じ立場に落とすことしか考えて…」

 

 ふと、私に新たな考えがよぎった。新たな考えというか…復讐の後のことが、今思いついたのである。

 

「何?なんか思いついた?」

 

「ねぇ、仮に篠ノ之束の痴態を全世界に放送したらどうなると思う?」

 

「へ?そりゃあ……まぁ、混乱するよね。ISの発明者が潰されて…映像だけで信じて貰えるとは思わないけど」

 

「そうだよね……じゃあ、篠ノ之束の力を使ってISを使用不能…または男だけにしか使えないようにしたら?」

 

「……いやいや、それこそ全世界混乱でしょ。ISを導入してる軍隊は完全に麻痺して……今の女性の立場も、無くなる…?」

 

 そう、鬱憤が溜まっている……男達は大変鬱憤が溜まっている。今はISがあると言うだけのアドバンテージで、女性達の立場が許されている。

 じゃあ、そこからISを抜いて……男達に渡したら?簡単に女尊男卑は崩れ、男尊女卑の世界となる。それだけならばまだいいが、恐らく女性に対しての暴行が黙認される……最悪、殺害しても許される。そこまで行くだろう。息子が母親を殺し、年頃の娘に父親が襲いかかる。

 本来ならば犯罪レベルの事も、男と女という立場が絡むものであれば、今と同じ状態になるまでには黙認される……いや、下手すればそれ以上か。

 

「楽しいよね、そんな世界になればどうなるか…」

 

「いやぁ、私らにとっちゃあ世界が混沌としてくれるだけで願ったり叶ったりだけど……」

 

「ふふ…そうだ。私は復讐のあとは男に就く女になろう……幸い、ここに入る前のコネ自体は生きてるんだし……」

 

「……その男達も、見境なくあんたを襲うかもしれないのに?」

 

「……その時はその時。そもそも、人殺しでもない人達を無差別に殺してるんだから、人生の終わりは碌でもないものになるに決まってる」

 

「……ま、その時は私はどこか遠くにトンズラするかな…ここも危ないだろうし 」

 

「ふふ、そうだね」

 

 さて、関係ない人と自分を全て巻き込んだこの自害ショーの結果はどうなるのか……私自身、すこぶる気になるのであった。




五十冬の担当女医はオリキャラです、名前は特に考えてません。


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意識改革

 ━━━様子がおかしい。私がそう思い始めたきっかけがなんだったのかは、よく分からなかった。しかし、ふと気がつけば同居人がまるで別の何かに変わってしまったかのような、そんな疎外感を覚えていた。

 簡単に言えば、セシリアがどうにもおかしい。様子がおかしい気がする…などという曖昧なものではなく、確信出来るほどにその様子がおかしくなっていた。

 例えば、朝の食事の時間━━━

 

「五十冬さん、一夏さんとご飯を食べませんか?」

 

「へ?織斑君と?どうして?」

 

「ふふ、一緒に食べた方が美味しいと思っただけですわ」

 

 ━━━おかしい。いくら何でも、織斑一夏という男に対してセシリアが軟化しすぎている。事の始まりは、クラス代表を決定するための決闘が終わってからだろうか?

 あの辺からどうも、セシリアの織斑一夏に対する意識の改革があったようだ。

 そして、またある時では……

 

「あ、そうだ……授業では、同じ専用機持ちとして一夏さんに私が教えることとなったので、動きの拝見をしていただけると助かりますわ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 これは……いわゆるアレなのだろうか?ほの字と言うやつなのだろうか?しかし、男嫌いになっていた+私と行為をしていたことによる女性への性への没落によって、私を好きになるはずだったのだが……

 

『いや、流石に人の気持ちがそうそう簡単に動いてたまるか』

 

 ……Sに怒られてしまった。いや、まぁ分かっていたことではある。これに関しては、冷静になりきれていなかった私が悪い、悪いのだが……

 何故だろう、ペットが他の人に懐いているかのようなあの嫉妬のようなものを感じていた。そう言えば、私の友人が過去に飼っていた犬は、私にばかり懐いていたのをふと思い出した。どうでもいいことだが、あの時友人はこんな気持ちだったのだろうか。

 

「……ねぇ、セシリア?」

 

「はい?何ですの?」

 

 ひとまず、一旦聞くことにした。今織斑一夏のことをどう思っているのか、と。

 

「一夏さんですか?えっと……急に、どうして?」

 

「さ、最近…妙に仲良くなったと思って」

 

 私がそう伝えると、自分でも意識していなかったのかセシリアがキョトンとしていた。そして、しばらくしてからようやく意味を理解したのか少しだけセシリアは笑っていた。

 

「ふふ、嫉妬ですの?」

 

「いや、いきなり過ぎたから……」

 

「大丈夫ですわ、ただちょっと私の中で考えが変わったと言うだけですの」

 

「考え?」

 

 私が考えているようなことは一切無いようだが、しかしセシリアに笑われたことは少しだけ腹が立つ。自分が勝手に怒っているだけなのだが。

 

「私、男性と言うだけで毛嫌いしすぎていたのかも知れませんわ。事実、私の周りの男性は、いつも、女性に対して頭を下げているだけの者達ばかりでしたもの……お父様ですら、そうだった」

 

「……それで、織斑君と決闘をして…それで何やかんやあって……」

 

「えぇ、男性だからと言って差別する…などということはありませんわ。一夏さんのような人もいるとわかったんですもの」

 

 なるほど、どうやら価値観が織斑一夏によって大幅に変えられたようだ。変えられた、というか男性というものを見直したと言うべきか。しかし、これならば……別段男に対して嫌悪感を抱いていない今なら…?と思っていた矢先。

 

「そ、それに……」

 

「ん?」

 

「その、前に五十冬さんに教えていただきました…その、性交の事も男性としている時はどうだったのか…気になってきましたし……」

 

 どうやら、私が率先しなくても大丈夫のようだ。しかし、それでもちゃんとした倫理観は未だ残っているだろう……ちゃんと、一人で行けるくらいにはドツボにハマって欲しいものなのだが……

 

「……考えただけで疼く?」

 

「は、はい……お、おかしいですわよね…まだ、ここは未経験だというのに…」

 

 そう言って、セシリアは下腹部をさすっていた。ごめんねセシリア、そこはもうあなたの知らない人の手…じゃなくて肉棒によって、経験済みなんだよ……ということはまだ言わない。

 

「とりあえず、今日は授業が終わり次第部屋に戻る……って事でいいの?」

 

「あ、今日は少しばかり用事がありまして……その、遅れるかもしれません」

 

「ん、分かった。じゃあ私は先に戻ってるね?」

 

「はい!」

 

 用事……何かあっただろうか?流石に、昨日の今日で織斑一夏を押し倒すなどといったことは、起こらないと私は思っているが……まぁ押し倒したのなら押し倒したで別にいいだろう。

 ただセシリアが、この学校から退学するリスクが高くなったと言うだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、クラス代表辞退するの?」

 

 戻ってきた時に、突然話された事。それはまさかの、セシリアのクラス代表辞退の話だった。

 そもそも……クラス代表は、織斑一夏との決闘の際に勝った者が手に入れる称号だった。元々は織斑一夏が推薦されていたのだが、セシリアがそれに反発……そしてそのままクラス代表の座を賭けて、決闘をすることになったという話だった。

 そして、勝負の結果セシリアの勝利で終わる。つまりは、セシリアはクラス代表になっている……筈なのだが、何故かそれを辞退する宣言を今出していた。

 

「えぇ」

 

「そりゃまた何で」

 

「よく考えてくださいな五十冬さん、私はイギリスの国家代表で専用機持ち…経験も実力も、今この学年の中ではトップクラスの物ですわ。

 それに対して、一夏さんは昨日今日ISを覚えた……しかも専用機で自分の機体の性能もよくわからないまま戦っていたんですのよ?」

 

「……つまり?」

 

「私に勝つことは、万に一つもありえなかった……という事ですわね。無論、それは当たり前の話なのですから……少々熱くなっていて、冷静さを欠いた事をしてしまっていました。

 故に、これからの成長も込めて…一夏さんにクラス代表になってもらうのが自然だと思った迄ですわ」

 

 セシリアの言葉を聞いて、私はまずこう思った。『お前は何様だ』と……確かに勝ったのはセシリアだ。織斑一夏が、自分の機体の性能を把握していないことも確かに彼の敗因だっただろう。

 しかし少しでもエネルギーに余力があれば、負けていたのはセシリアの方である。彼の武装は、セシリアのISの防御機構であるバリアシールドを貫通するものなのだ。それ故に使われるエネルギーが多いだけであり、散々相手を舐めてかかって油断して切り掛かられたセシリアも、彼のことを強くいえるはずがないのだ。

 妄想で話を進めるなと言われればその通りだろう。しかし、それで彼女が負けかけたのも事実なのだ。それを気にしていない時点で……こいつは成長しない。

 

「……そう、まぁ私はセシリアがいいんだったらそれでいいよ」

 

「五十冬さん?ちょっと怒ってます?」

 

「怒ってないよ?ただちょっと勿体ないなぁ……って思っただけ」

 

「そうですか?私は…一夏さんの成長を手助けできればそれで構いませんわ」

 

 機体性能に頼っているのは、お前も同じだろう。家が金持ちだからって、選ばれた貴族のお嬢様で偉ぶってんじゃないよ。

 

「まぁ、今日はもう休もうか」

 

「そうですわね」

 

 そう言いながら、セシリアは私と同じベッドに入ってくる。しかも、それなりに着崩した……というか裸ワイシャツという感じの格好だった。

 

「……休む気あるの?」

 

「私は……こちらの方か寝やすいだけですわよ?」

 

 頬を軽く赤くしながら、セシリアは微笑む。なるほど、この淫乱お嬢様はまた私とそういった事がしたいらしい。

 

「そう、なら…寝る前に1回ね?」

 

「はい…!」

 

 微笑む私とセシリア。しかし、私の心は真逆で完全に冷え切っていた。今までの話し合いから、気づいたというか…もう治らないと確信していた。織斑一夏との関わりあいにより、セシリアの考えはたしかに変わったと言えるだろう。

 しかし、根本的な女尊男卑の考えは変わっていない……いや寧ろ、余計に厄介になってしまっている。自覚のある女尊男卑から、無自覚の女尊男卑に変わっているのだ。

 

「ん、はぁ……」

 

「ぁ、あ…!」

 

 互いの胸を揉み合い、そして乳首をお互いに吸い合う。おま〇こ同士をくっつけて、そして動かし合う。

 そんな扇情的な事をしながらも、私の思考はセシリアをどう蹴落とすかしか考えていなかった。

 女尊男卑が染み付いている女は、もう変わることは無いだろう。どれだけ考えが変わっても、根っこの方で変わることは無理なのだと、今気づいたのだから。

 

「五十冬さん、私…もう……!」

 

「いいよ、セシリア…!一緒に……!」

 

 お互いに絶頂を感じ合う私達。その中で、私の中で……セシリアをまず蹴落とすことが決まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side???

 

「ここがIS学園…」

 

 夕方にさしかかり、橙色の光が差し込むIS学園。その前に、一人の少女が立っていた。茶髪の髪をツインテールで纏めて、そして改造OKなIS学園の制服は脇を出すという格好で纏められていた。

 

「ふっ……」

 

 気が強そうな目、そして自信満々と言わんばかりの声…そんな少女が、IS学園に転校生としてやってくる。

 その少女は、どんな嵐を巻き起こすのか……そして、織斑一夏と鬼村五十冬…彼らとどう関わっていくのか。

 

「待ってなさいよ、一夏…!」

 

 ……ただ分かっている事としては、少なくとも彼女は織斑一夏と知り合いであり、そして彼が目的でIS学園に転校してきたのだということである。

 彼女を、五十冬はどう使うのか。どう利用して、どう陥れるのか。

 

「━━━うわっ、なんか嫌な予感する…」

 

 そして、それの到来と同時に五十冬は妙な悪寒を感じていた。まるで、これから起こる事に不安を感じているかのように、その予兆を感じとっていた。

 

「はぁ…はぁ……」

 

「……セシリアから痛いしっぺ返しが来ないように、念入りにしておかないとね…」

 

 艶のある息を荒らげながらも、眠っているセシリア。それを傍目に見ながら、一応念入りに彼女を堕としていこうと五十冬は思い直していた。

 これからも、彼女の身には何かが降り注いでいくだろう。それは織斑一夏関連だったり、そうでなかったり。

 

「Sからまた新しく薬もらったけど…どぎつい奴って言ってたなぁ…これは、セシリア最後の夜にでも使おうかな」

 

 そう言って、小さな小さな袋を目の前に持ってきながら五十冬は呟く。その言葉は、セシリアに届く程でもなかった。

 念入りに絶頂させて、そして疲れさせて眠らせているのだ。

 

「さて…セシリアは……どうなっちゃうかな」

 

 未だに溺れ続けるセシリア。新たに入ってきた者と、今からでも追い出されそうな者……今はその2つがIS学園に集中していた。

 誰が入ってきて、誰が追い出されるのかは……それを動かそうとしている五十冬ですら、分からないまま進んでいくのであった。



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華風到来

「ふぁ……」

 

「よう鬼村、おはよう」

 

「おはよう織斑君」

 

 朝、とある朝。何の変哲もないただの朝……私は教室にやってきていた。セシリアはお嬢様だからか、流石に起きるのが早くさっさと来ていたが私はそこから少し遅れてきていた。と言ってもいつもの事だ、お互いに生活スタイルをそこまで合わせなくてもいいという判断である。

 

「クラス代表戦もうすぐだね」

 

「どんな奴がいるのかな」

 

 私は代表でもないので、その話題に興味はない。専用機持ちが1組に2人と4組にもいるらしいのでその2つとの戦いになるのはわかり切っている話だからだ。

 そして、クラスメイトも専用機の話題で持ち切りだったが……

 

「その情報、もう古いよ」

 

 突如、ツインテールの小さな女子が1組にやってきていた。もうそろそろ授業開始時間なのだが、大丈夫なのだろうか。

 

「鈴…?お前鈴か!?」

 

 そして織斑一夏の反応、どうやら知り合いのようだった。あー、やっばい今私すごくイライラしてるのが自分でもわかる。別に織斑一夏に新しい女ができたことによるイライラでは無い。

 お前はよくモテるなというイライラである……あれ、意味が一緒だった。

 

「そうよ、2組の専用機持ち凰鈴音(ファンリンイン)!クラス代表になったからには1組にいい顔はさせないわ!」

 

「転校生……あぁ、なんか2組で噂になってたのって…」

 

「鬼村、知ってるのか?」

 

「知ってるというか……聞いたことがあるというか…」

 

「…」

 

「……ん?」

 

 凰鈴音……鈴と呼ばれた少女が、何故か私を見ていた。織斑一夏と話しているのが気に食わない…と言った表情ではない。何かを疑っているような表情だった。

 

「……えっと、何かな?」

 

「ねぇ一夏、こいつ…何?」

 

「おいおい……ウチのクラスメイトだよ、鬼村五十冬…ただの女の子だぞ?」

 

 実は私ただの女の子じゃないんですけどね……という冗談はともかくとして、まさかの『何』と来たか。ただ口が悪いと言うよりは……私の体のおかしさに気づいたのだろうか?存外、直感力とかその辺はいいらしい。

 

「そう……気を悪くしたならごめんなさい、なんか気になって」

 

「ううん、気にしてないよー」

 

「……」

 

 どうやら、私は喋らない方がいいらしい。笑顔で応対したのだが、どうやらそれがまずいらしくまた訝しげな表情となっていた。

 

「━━━痛っ!?ちょっと何すんの…」

 

「もうSHR(ショートホームルーム)の時間だぞ、さっさと戻れ邪魔だ」

 

 そして、突如現れる織斑千冬。鈴の頭を1発殴り、教室の中に入ってくる。反応的に、彼女の事が鈴は苦手らしい。

 

「ち、千冬さん…」

 

「織斑先生と呼べ、早くクラスに戻れ」

 

「……また後で来るからね!首洗って待っておきなさいよ!!」

 

 そう言って鈴は1組から出ていった。まるで嵐のようだが、ツインテールなので回ればそれなりに嵐っぽくなるだろうか……という訳の分からない妄想をしながら、私は授業を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side鈴

 

「……それにしてもあの女…」

 

 妙にきな臭い感じがした。なんというか、擦れている人の気配がプンプンとしていた。

 ただの直感だけれど、私はそれを確実に感じとっていた。ただの人間にあそこまでの笑顔は作れない。聖人と呼ばれるくらいに性格がいい人だろうが、少しの困惑も見せずに自分が罵倒されて純真の笑顔を見せるなんてありえない。

 

「一夏に近づく……のはしょうがないとしても、もし危害を加えるようだったら…」

 

 私しか守れる人がいない。鬼村五十冬と言っただろうか?あの女は。名前も何処と無く千冬さんに似せてあるのが、妙に偽名のように感じる。名前のイントネーションが一緒なのも、発音の音が一緒なのも、あまり偶然とは思えない。

 

「……千冬さんに相談…するべきかな」

 

 あくまでも確証がない私の直感である。故に相談しても、私の嫉妬や考えすぎという点で片付けられてしまうだろう。

 

「……ひとまず、授業受けないと」

 

 思考まとめるには、ひとまず手を動かす。授業受けないといけないのだから、ちゃんと受けていかないとどうしようもないのだ。

 私だって、受けなければ馬鹿になってしまうんだし。

 そう考えながら、私は2組の扉を開けて教室の中に入っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「ボロネーゼ3人前どーぞ」

 

 結局、あの鈴っていう子が気になってしょうがなかった。おかげでちょっと注文間違いを起こしたが、まぁなんとかなるだろう。パスタは嫌いではない。

 

「鬼村さん…どれだけ食べる気ですの……?」

 

 後ろにいるセシリアが心配してくれたが、如何せんこの体は色々燃費が悪いのだ。食べなければやっていけない。

 

「うん!私いっぱい食べるの好きだから!」

 

「なら、しょうがありませんわね。いっぱい食べるのは、成長にとってもいいことですもの」

 

 どうやら成長期だと思われたらしい。何をどう成長するべきなのか、ふと問い詰めたくもなったが……そんな事よりも、目の前で面白おかしいことが起きている。

 

「━━━箒がファースト幼なじみ、鈴がセカンド幼なじみなんだ」

 

 篠ノ之箒、凰鈴音、織斑一夏の三角関係の理由のような話をしていた。織斑一夏の言葉だけで分かるのだが、要するに小学校前半まで篠ノ之箒と共にいて、凰鈴音とはそれ以降の付き合いだったらしい。

 器用に入れ替わり、そして器用に二人とも仲良くなっていたのだ、織斑一夏は。

 鈴とも離れていたらしいが、せいぜい1年ほどだったらしいのであまり再開という再開でも無いだろう。鈴自身は、サプライズしたかったようだが……

 

「……サプライズ、ねぇ」

 

「あら、五十冬さんはお嫌いですか?」

 

「嫌いではないけどね?まぁ、いい思い出がなかったからあんまり好きでもないかも」

 

「そうなんですの……」

 

 サプライズと言えば、私の兄を殺した奴らの言い分が『サプライズ的に後ろから押したら、勝手に落ちていった』というものだったのを思い出した。今となってはどうでもいいが、これでサプライズにいい思い出を作れというのも無理だと私は思う。

 

「さて、ご飯食べよご飯」

 

「そうですわね」

 

 織斑一夏たちの話し合いは白熱していた。幼馴染と言うだけで、何故そこまで熱くなれるのかは私にはよく分からなかった。ただ理解出来ることは、篠ノ之箒と凰鈴音という少女達が織斑一夏という男性を恋愛的な意味で好意的に見ている……ということである。

 

「あ、オルコットさん少しいいー?」

 

「はい?なんですの?」

 

「私新聞部なんだけど、織斑くんとあなたが一緒に写ってる写真を撮りたいから、こっちに来てくれないかな?」

 

「私はここで待ってるし行ってきたら?」

 

「……なら、少しの間だけですわよ?」

 

「ありがとー、あぁ手を繋いでもらえたりすると嬉しいかなぁって」

 

 セシリアが織斑一夏達の所に行き、写真を撮り始める。1年1組に二人の専用機持ちがいるのだから、珍しいどころの騒ぎではないだろう。

 そもそも、基本的に専用機持ちは1国家の代表として扱われるのだ。無論、セシリアはイギリスの代表ということもあって、イギリスに属する専用機持ちである。

 しかし、別にその国家の生まれでないといけないという決まりはない。ロシアで生まれた誰かが、日本だったりアメリカだったりの国で代表生で専用機を貰ってもいいのだ。無論、基本的にそういったことはほとんどない事例ではあるのだが。

 

「ねぇねぇ、鬼村さんはどう思う?」

 

「え、何が?」

 

 突然、クラスメイトが私に話しかけてくる。別段私が無視していた……ということも無いらしく、ただ話を突然降っただけの様だった。

 

「織斑君と凰さん!どっちが勝つかなっていう話だよ!」

 

「あの二人が戦うとなると……」

 

 真面目な話、凰鈴音代表候補生の持つ専用機のISの情報がない為に、予想するにしてもかなり曖昧な答え方になる……とは思わない。

 そもそも織斑一夏は、つい最近ISに乗ったばかりの素人なのだ。それが代表候補生に勝てる道理があるのか?いや、無いだろう。まぐれの確率を含めても、半分を超えていれば上等な部類である。

 

「うーん、ちょっとわからないかなぁ。せめて凰さんの武装が分かれば、予想もしやすいんだけどね?」

 

「あー、やっぱりそうなっちゃうよねぇ……2組に聞きに行こうかな?」

 

「教えてくれるか分かんないよ?そもそもクラス対抗戦も近いんだし、自分の代表の武装を教えるなんてことは……」

 

「あ、やっぱりないと思うよねぇ……そうなんだよねぇ…」

 

 露骨に落ち込むクラスメイト。いや、普通に考えれば分かる事だと思うのだが……私の考えがおかしいのだろうか。

 しかし、凰鈴音……彼女の武装を織斑一夏との戦いで見ておくのも、悪くないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ちょっといいかしら?」

 

 授業も終わり放課後の時間、私は突然後ろから声をかけられていた。声の主は、何となくわかる……凰鈴音、彼女だろう。事実、今振り向いたら彼女だったし。

 

「はい?なにか私に用ですか?」

 

「貴方、私の相手しなさいよ」

 

「……凰さん、貴方は織斑君と放課後にISの練習をするって言ってたのを聞いてましたけど?」

 

「あぁそれ?わざわざ対戦相手に私の武装見せる訳ないじゃん……って言うのは建前。ファースト幼馴染…っていうあの子が練習に付き合ってあげてるんだし大丈夫でしょ」

 

 何故?という気持ちが私の中で強くなっていた。わざわざ放課後、私一人の時を狙って話しかけてくるなんて余程の事だろう。

 

「あんたさぁ……一夏に手を出したらタダじゃ置かないわよ?」

 

「……何の事だか、ちょっとわからないですねぇ」

 

「ほら、その顔」

 

「…顔?」

 

「こうやって私が失礼な態度とってるのに、貴方は本当の意味で嫌な顔一つしてない。私が吐いた言葉で、全く反応を示していない……はっきり言って、表と裏がきっちり区別付きすぎてるのよ」

 

 なんと、笑顔から私の異質性を覗いたのだろうか?なんという覗き魔……という冗談は置いておくにして……ここでずっとはぐらかし続けるのもありだろう。

 しかし……確実と言っていいほどに、彼女は私を怪しんでいる。織斑一夏に手を出すという気は全くないが、恐らく正当な人間ではないということだけは気づいているだろう。

 

「……そうですか、まぁでも安心してくださいね?私は、織斑君に異性的な興味は抱いていませんから」

 

「ふーん……まぁ、仮にそれが本当だったとしても…標的として殺す分には、あんたを怪しむには十分よ」

 

「証拠が笑顔だけと言われましても……」

 

「それと、胡散臭いしあんたの歩き方は……怖いものがあるわ」

 

「……怖い、もの?」

 

「私が思っただけよ……教えて直されたらたまったものじゃないわ…と言っても、私が気づいてんだから千冬さんにはもうバレてると思うけどね」

 

 口からのでまかせか、はたまた私が気づいていない癖があるのか…どちらかは分からないが、しかし……こいつは、早めに消しておいた方がいいのかもしれない。

 

「千冬さんが手を出していないから、私が手を出していないだけ…もし、あんたが敵に回るようなら……」

 

「回るようなら?」

 

「遠慮なく、()()()

 

 そう言って、凰鈴音は離れていく。どうやら、ただ文句を言いに来ただけらしい。当たり前か…今ここでISを展開して戦う必要性はない。

 というか、話し相手という意味だったのか。てっきりISの特訓相手にでもなれって意味かと……

 

「……」

 

 ひとまず、私はいつタイミングを見計らって彼女を消すのか。それだけを考えながら、部屋に戻っていくのであった。




鈴ちゃん五十冬を敵視中。


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式龍追突

 さて、クラス対抗戦だったかなんだかが始まった。クラス代表となる生徒がISに乗って、そして相手を負かしていくトーナメント戦である。

 当然、私は参戦していないのでセシリアと共に観戦していくこととなった。

 

「凰さんのIS……赤いね、いや……赤紫?」

 

「それに近い色ですわね。武装は…あの大きなブレードでしょうか?」

 

 正に中国にありそうだと言わんばかりに、凰鈴音の持っているブレードは特徴的な形をしていた。

 しかし、それよりも気になるのが、両肩の少し上にある大きなパーツである。あれは一体なんだろうか?

 それが気になっていた私だったが、しかし試合は簡単に始まってしまう。

 

「攻めるねぇ、織斑君」

 

「一夏さん、箒さんに教えいただいているのか私と対峙した時よりは上手くなりましたわね」

 

「そうだね」

 

 成長が早いのは言わずもがな、セシリアと対峙した時は最初にまだ白式は完全に覚醒していなかったことが大きく影響していると考えられる。まぁ、それに負けかけたセシリアが何故上から目線なのかはよく分からないが。

 

「あー…でも押されてるね」

 

「相手の彼女も一応は代表候補生ですもの……私と同じように自信があるのでしょう」

 

 対戦相手が、我が学校にある量産型IS『打鉄』ならば織斑一夏でも容易に勝てただろうに、相手は専用機持ち……まぁ彼は天才ですし?勝てるんじゃないですかね。

 と、少し彼に対して嫉妬心を抱きつつも試合を眺めていたその時、突然織斑一夏が吹っ飛んだのだ。

 

「え、何今の攻撃?」

 

「……見えない弾?あの大きなパーツから発射されたように思いましたが……」

 

 見えない弾、空気弾…それもかなり圧縮されたものをぶつけられたのだろうか?しまった、先生達が近くにいる時にこの試合を見ていればどんなISか説明が聞けたかもしれないのに。

 

「…しかも、あれ死角なしだよね?」

 

「恐らく、そうですわね。全方位に射角を向けられるために、死角のない上に見えない弾を発射できるパーツ…ですわね」

 

 セシリアと、武装の解釈を話し合う。考えれば考える程に、恐ろしい武装と言えるだろう。弾着したタイミングと、その時の距離を正確に計測すれば、あの武器の弾速が分かるかもしれないが……初見ならば、全く対応が出来ない恐ろしい兵器と化すだろう。

 余程戦闘慣れしている人物でない限り、あれを避けるのは至難の業と思える。

 

「……これは、一夏さんには少々きつい戦いになりそうですわね」

 

「そうだね……というか、セシリアは凰さんに勝てる自信はあるの?」

 

「そうですわね……もちろん勝ちますわ、と言いたいところですけど…圧勝は確実に無理ですわね。勝ち負けは決まるでしょうが……お互い無事では無いのが、目に見えますわ」

 

 流石遠距離武器中心の武装ISを使っているだけはある、と私は感心していた。既にあの武器の射程や弾速などを見破っているのかもしれない。

 

「……さて、織斑君はどう切り抜けるのかな」

 

「貴方はどうしますの?」

 

「え?私?」

 

「えぇ、授業を見てる限りでも五十冬さんの技術はかなり高い方だと思いますわ。

 五十冬さんなら、あれをどう切り抜けたいと思います?」

 

 唐突に話題を振られたが、残念私はあれを未だに理解出来ていないのだ。打鉄は動かすことは出来るし、ISを動かせるのも今のセシリアの客観的に見れていない状態から、まともな意見が言えてるとは思えない……私そんなに打鉄動かすの得意ではないんだけどな。

 

「まぁ、実際に戦ってみないとわからないよ。こうやって見てる分には冷静に考えられるけどさ、エネルギー配分とかを見ながらの作業になるだろうし……」

 

「ふむ……それもそうですわね」

 

「……お?織斑君何かしようとしてる?」

 

 試合を見続けていたその時、織斑一夏の挙動が変わった。いや、避け続けているのは変わらないのだが、しかし何かを狙っているような動きをしていた。

 

「もしかして、何かしらの方法で奇襲を狙っているのかもしれませんわね」

 

「奇襲……確かに、それさえ出来れば凰さん相手でも逆転出来るかもしれないね」

 

 どうやってするのかは不明だが、しかし流石に闇雲に攻撃を仕掛け用としないあたりまだ温情だろう……と、戦いを見守っていた私達。しかし、その最中に━━━

 

「何っ!?」

 

「外からの、攻撃…!?」

 

 アリーナの外側…つまりはアリーナの防壁を突破した何かからの攻撃がアリーナに直撃していた。本来、ありえない事なのだが……機密情報丸々詰まったこのIS学園に、IS学園の防御力を突破して、そして誰にも悟られず攻撃を仕掛けた人物がいるようだ。

 

『試合中止!』

 

 織斑千冬の声がアリーナに響く。どうやら、彼らの戦いは一旦中止ということになるようだ……というか、シャッターが閉まったせいで外が見れなくなってしまった。

 

「……あれ?セシリア?」

 

 いつの間にかセシリアがいなくなっていた。どうやら、攻撃された瞬間から既に動き始めていたようだ。中々素早い……さすが代表候補生という所か。

 

「……あー、でも私ついて行けばよかったかも」

 

 アリーナは既にシャッターが閉まって外を覗くことができなくなり、避難しようとする生徒達は出入口で固まっていた。

 皆、一斉に出ようとして詰まっているのではない…そもそも出られないのだ。扉までもが開かなくなっており、生徒全員外の状況がわからないままここで過ごさなければならなくなってしまった。

 私の近くの出口から生徒が固まって出られなくなっているが、下手をすれば他の出口全てが使えなくなっているだろう。

 

「……にしても、さっきの攻撃は…」

 

 IS学園に攻撃を仕掛けるとすれば、それは亡国機業だ。しかし、今このタイミングで仕掛ける意味がわからない。少なくとも、わざわざ生徒全員が残っている本校を襲うよりも、教師や生徒がほとんど残っていないような時を狙うべきではないのだろうか?

 

「仮に、ウチじゃないとしたら……」

 

 セシリアが何か情報を掴んでいるだろうか?ちょっと電話を使おう……携帯はあった時に何かと便利である。文明の力は素晴らしい。

 

『五十冬さん!?どうしたんですの!?』

 

「せ、セシリア!!アリーナの出入口が閉まってて…出られなくなってて……何が起こってるの!?」

 

 私は声色と表情を変えて焦っている様子を出していた。こうしておかないと、声に迫真さが出ない時がある気がする。

 

『…はい、はい……申し訳ありません五十冬さん、今何が起こっているかは……通信越しだと、皆さんの不安を煽るかもしれません…織斑先生がそう判断しましたわ』

 

「そ、そうなの…?ね、ねぇ私たち出られるんだよね…?」

 

『勿論ですわ!では、切りますわね』

 

 そう言って、通話が切れる。ふむ、織斑千冬が駄目だと言ったのならしょうがない。仕方がないから盗聴させてもらうとしよう。セシリアは警戒していなかったから、簡単に盗聴器を付けることが出来ているのだ。

 まぁ、使うことはあまりないのだが……因みに洗濯機に間違えて入れても絶対に壊れない仕様の亡国機業製である。

 

『━━━ますわ!』

 

 っと、いきなりセシリアの声が入ってきた。ちょっと音量下げようか、耳痛くなっちゃった。

 

『侵入者は、織斑達に任せるぞ』

 

 どうやら侵入者らしい。いや知っているが……そして、それを外で対戦していた2人が倒そうとしているようだ。

 しかし、肝心の機体の話題を出して欲しいところである。しかし、聞いている限り向こうもシャッターが閉められていて、解除できない状態となっているようだ。

 

「……IS学園にハッキングできて、誰にも気付かれずに機体を接近させて、登録されていないコアを使うことが出来る組織…?」

 

 全て盗聴から得た情報だが、どれもこれも入ってきた機体の正体に近づくことは難しいようだった。

 しかし、ISのコアは全て登録されているはずである。467だか468だったかは忘れしまったが、それほどの数は全て登録されている。

 つまり、登録されていないというのは……()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、それがヒント━━━

 

「篠ノ之束…?いやいや、IS学園にあんなのを送り込む意味が……」

 

 と、思ったが…天才的で、悪魔的で、気分的で……そんな女だったという話を私は聞いている。織斑千冬だけが唯一共に居られる認めた者であり、自信の妹である篠ノ之箒と織斑千冬の弟である織斑一夏…その3名にのみ篠ノ之束は話にいくのだ。

 

「……意味なんてない、ただやりたいようにやる…か……」

 

 仮にあれが篠ノ之束のものだとすれば、IS学園をハッキングできたのも納得が行く。あの女ならば可能なことだからだ。

 しかし、流石に織斑千冬に嫌われるようなことをただするとは思えない……自分が認めた者を、切り捨てるような真似は……

 

「……ただまぁ、どちらにしても…私から手出しは出来ないんだよねぇ…」

 

 ここでISは展開出来ないし、一応学園で使っているのは打鉄なのだ。使えるとしても、ここで使うのは少々リスクが高い。

 閉じ込められた以上、私はここで立ち往生である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、侵入者は撃退された。織斑一夏の機転と、凰鈴音の援護と、セシリア・オルコットの一撃が解決したのだという。凄いね。

 そして、今私は織斑一夏の病室に来ている。見舞い……というのはもちろん名目であり、現実に戦った感想を聞きたかったのだ。まぁ勿論、傍にセシリアが居ないと駄目のだが。

 だって二人っきりの時に聞いたら、凰鈴音が絶対邪魔しに来るし。

 

「……無人機?」

 

「あぁ、少なくとも…戦ってる時はそう思ったよ」

 

「ISの、無人機……」

 

 本来は有り得ないのだが、侵入者はISに乗ったロボットだったらしい。まぁ機械的という本人の主観的なものから来るらしいから、あまり信用はできない……本来は、だが。

 

「でも、有り得るのかな?」

 

「そもそも男が乗ってんだぜ?無人機の方がまだ可能性があるだろ」

 

 織斑一夏の言いたいこともわからないではない。ISに乗り込んでいるのではなく、ISの機能をつけたロボットのようなものだと認識した方が早い。女しか起動できないと言われているISを、男が動かしているという話よりは余程信憑性がある。

 

「あれは、何のために来たんだろうな」

 

「……さぁ…?」

 

 その答えは送り込んだ犯人しか分からないだろう。恐らく、織斑千冬は送ってきた犯人がわかっているはずだ。だが、織斑一夏と篠ノ之箒…それとその他の者達には犯人はわからないだろう。

 ISを生み出した張本人たる篠ノ之束が、IS学園を新しく作りだしたコアで作りあげた……と言うのは意味不明な話なのだから。ゴシップ誌でももう少しまともな話を書くだろうと、一蹴されそうだ。

 

「まぁ、今日はもう休んでおいてね?」

 

「あぁ、わざわざありがとうな」

 

「どういたしまして」

 

 私は笑顔で、織斑一夏から離れる。にしてもセシリアは結局黙ったままだったが…あまりにも喋らないせいでいない者として扱われていのだが。

 

「セシリア、どう思う?」

 

「どう思うも何も……五十冬さんや一夏さんと同じような考えですわ」

 

「つまり?」

 

「ありえない、けれど有りえてしまう……無人機と言うしかないのです、あれは」

 

 つまり、セシリアのお墨付きがでたという事だ。だか、どうしたという話なのだが。

 

「まぁ、私達が考えても仕方ないか…部屋に戻ろう?」

 

「……そうですわね」

 

 私達は、一緒に部屋に戻る。あの無人機の存在も気にはなるが……どうせ織斑千冬が守っているから、見れないも同然だろう。そう私は諦める事にしたのであった。

 Sには報告だけしておこう。



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少女輪姦

「━━━おまたせ、セシリア。さぁ行こっか」

 

「はい」

 

 今は週末、学校ですら休みのある日曜日の時間帯。私は今、セシリアととある場所に向かっている。まぁ簡単に言えば、前の小洒落たレストランである。

 凰鈴音がやってきたり、クラス代表選だったり、無人機の襲来などと色々な事件が起こっていたが……今回はそんなものは全てとっぱらって、気分転換にとセシリアに誘われたのだ。

 とは言っても、エスコートは私になっている……無論、私がさせて欲しいと頼んだのだが。

 

「前も来ましたわね」

 

「まぁね、でも前セシリアは眠っちゃったし…」

 

「その節は申し訳ございませんでしたわ…」

 

 しょげるセシリアに私は頭を撫でる。まぁ、今回やることも前と同じだ。眠らせて、犯して、元に戻す。そうやって知らない間に犯されてるのを繰り返していき、完全に男のものを受け入れられるような体になるか、妊娠するかまでを待たなければならない。

 しかしそう何度も使える訳では無いので、できれば少ない回数の間に終わらせたい事案ではある。

 

「ここの料理…今度こそ味わってみますわ…!」

 

 セシリアはセシリアで、何やら別のことで考えがいっぱいなようだ。にしても、そのセリフだけ抜きだしてみたら相当なはらぺこ娘のようにしか聞こえない。

 そうして、再びレストランの扉を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ? 」

 

「五十冬さん?どうかなさいましたか?」

 

「…あー、さっきトイレに行った時に財布落としちゃってたみたい」

 

 目的に到着し、席を案内されてメニューを読みあさる。そして今日を食べたいものを頼んでから、私はとあることに気づいてしまった。それが、先程も言った通り財布を置き忘れたという話である。

 

「今回は私が払いますわよ?」

 

「さっき行ったばっかりだし冷めてもいいから、さっさと取りに行くよ」

 

 そう言って私は席を立つ。流石にセシリアに金を払わせるのは、私の中の何かがダメだと叫んでいたのである。

 まぁ、実際距離も近いしわざわざセシリアに金を払わせるのが、セシリアには申し訳ないとさえ思うんで……

 私は席を立ち、すぐさまレストランの外へと出ていく。スグに見つかればいいが、最悪警察に話さないとダメなのだろうか…とさえ感じがしてしまう。取られたら嫌だし……そもそも財布とは個人情報の塊だ。そう簡単に渡す訳には行かないのである。

 しかし、そんなことを考えていた私とら裏腹に、思いもよらない事がセシリアの身に起きようとしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side???

 

「ふう……こうして待つというのも暇ですわね…」

 

 セシリアは今、席に座ってソフトドリンクを飲んでいた。水は、前に飲んだ時は変な味がした記憶があったために、今回はまた別のドリンクを飲もうと思っただけなのである。

 しかし、飲んでいるソフトドリンクは少し甘みが強すぎるようにセシリアは思った。匂いも強く、異臭という訳では無いがまるで臭いものには蓋をすると言わんばかりのきつさだった。味も、また然りである。

 

「……五十冬さんは先に食べておいて欲しいと言われてましたが…私も冷めても構いませんし、五十冬さんを待ちましょう」

 

 出されたソフトドリンクを飲みながら、セシリアは五十冬を待つことにしていた。財布を取りに行った彼女を待ちながら、料理もついでに待つ。ここの従業員には悪いが、料理は冷めてから食べるとしよう……とセシリアは考えたのである。しかし、そう考えているセシリアの近くに一人の男が近寄っていた。

 

「君…セシリア・オルコット?」

 

「……どなたですか?」

 

「あぁ僕、君の友達の…鬼村五十冬の保護者だよ」

 

 最初は警戒していたセシリア。しかし、男が五十冬の名前を出した瞬間に少しだけその警戒を緩めていた。

 

「……その保護者の方がなにか御用ですか?」

 

「いや、あの子IS学園で上手くやれてるかなって思ってね……」

 

「……」

 

 男が語ったのは、五十冬が学校で上手くできているかどうか、ちゃんと友達が出来ているかどうか、悩み事はないのかどうか……といった、ある意味で有り触れたものばかりであった。

 

「……」

 

 そして、話を聞けば聞くほどセシリアの警戒は緩んでいった。なにせ、セシリア自身が知っていたとしても、五十冬が語らないような内容までこの男は知っていたからだ。先程までは、名前を知っているだけでは…と警戒をしていたが……流石に過去の話などはそうペラペラと語るものでは無い。

 つまり、五十冬の過去を知っているという人物は、保護者やそれに近い身分の人物だけ……セシリアはそう考えたのだ。

 

「……本当に五十冬さんの保護者なのですね」

 

「親ではないけどね、まぁ保護者ではあるよ」

 

「それで?私に話しかけてきた理由はなんですの?」

 

「いやぁ、五十冬ちゃんからちょっと聞いててねぇ……君、男性に興味あるんだって?」

 

 その言葉に、セシリアはピタリと動きを止める。その言葉の意味することが、どういうことか分からないほどセシリアでは阿呆でも無い。しかし、五十冬から聞いたという言葉が少しだけ気にかかっていた。

 

「……五十冬さんからは、どのように?」

 

「君が男性初のIS乗りである織斑一夏と関わって、性格が軟化したっていう話をね。どうだろう?」

 

 ここまで言って、セシリアは男の目的を理解した。恐らく五十冬は、セシリア自身に取っ付きやすくなったという意味でしか喋っていない。だが、目の前の男はそれを曲解して考えている……とセシリアは考えていた。

 

「残念ですが……私は良識のある男性としか関わる気はありませんわ」

 

「そうか……まぁそう言うと思ったよ。だから、()()()()()()()()()()()()()

 

「何を……うっ…!?」

 

 不意にセシリアに襲いかかる激しい動機。呼吸が荒くなり、部屋の中が暑く感じている。初夏もそろそろ訪れそうな気温なので、少しだけ部屋は涼しかったはずなのに対して、彼女の体は異様なまでに熱を帯びていた。

 

「そのジュース、やけに甘かっただろ?まぁこちらからのプレゼントさ……初体験、って訳じゃないんだからさ。君も楽しめるようにってね」

 

 セシリアの体は熱を帯び、それに応じて彼女の子宮が彼女に意志に反して疼いていた。膣も、アナルも……まるで何かを入れて欲しいと言わんばかりに、彼女は悶えていた。

 

「さて……これから君が帰るまでの間に…いっぱい楽しませてもらおうか」

 

 そう言われて、セシリアは店の裏手に連れ去られていく。周りにまばらにいたと思われていた男達だが、セシリアと喋っていた男が手を出した瞬間に見事な連携と言わんばかりに、セシリアが連れていかれる際に周りの窓やドアを全て閉めたのだ。

 誰にも見られないように、誰にも気づかれないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……!」

 

 セシリアは連れ去られた先で、全裸になりながらも男達を睨んでいた。しかし、その睨みは男達にとっては可愛いものにしか過ぎず、全く威圧できていなかった。

 

「ほー、服の上からでもまぁまぁわかってたが…確かにこりゃあいいスタイルしてんなぁ?これでまだ高一だろ?お嬢様ってのは、食うものが違うかったらここまで成長に差が出るみてぇだな」

 

「私の体を…そのようなゲスな視線で晒さないでくれます?」

 

「へへ、その高飛車な態度がいつまで続くか見ものだぜ」

 

 男達は薬によっておかしくなっているセシリアの体を視姦していた。つま先から、愛液が垂れている秘裂、そして乳首の勃っている乳房に、上気した顔……これら全てが、男を発情するためのスパイスとなっていた。

 

「ふ、ん……!」

 

「へへ、もう甘い声漏れてんなぁ…?」

 

「知りま、せん…!」

 

 まずは後ろから胸を鷲掴みにされるセシリア。程よく豊満な胸は、男の手によって形を変えられていき、そして乳首をつねられる。本来ならば苦痛を感じてもおかしくないのだが、今のセシリアの体ではその痛みは快楽に置き換えられる。

 

「く、ぁ……!」

 

「声は頑張って抑えてるみてぇだが……へへ、どれだけ我慢出来るか見物だなぁ?」

 

「んひっ!?」

 

 胸を揉まれながら、セシリアは別の男に膣を指で弄られ始める。そして同時に、アナルをアナルビーズで陵辱されていく。

 

「くひっ…ん、ぁ……!」

 

 セシリアの頭が、真っ白に染まり続けていく。絶頂に近い感覚が、彼女の頭と体を犯していく。

 散々五十冬に開発された性器が、快楽だけを貪っていく。望んでいた快楽の味を、望まない形で知ることになってしまったセシリア。望んでいなかったにも関わらず、彼女の体は快楽に媚を売ってそれをむさぼっていた。

 

「こん、にゃっ…!」

 

「お嬢様は随分とおしりの方を弄っていたようで?いくら薬を使っているからと言っても、こうもすんなり入るのは……ちょーっと怪しいねぇ?」

 

「わたひ、は…!」

 

 段々と顔が蕩けていくセシリア。いくら抗おうとしても、五十冬の手によって快楽に対して全く抵抗しなくなった体は、同じように男達から与えられる快楽も受け止めていた。

 

「こんだけ柔らかいんならよォ……へへっ」

 

「っ!?そ、その汚いものを…どうするつもりですの…?」

 

「おいおい、性知識もろくに知らねぇガキって訳じゃあねえだろ?高校生何だからよォ……分かるよなぁ?」

 

 男達は、自分の肉棒をセシリアの秘裂やアナルに押し込もうと動き始める。抵抗したかったセシリアだったが、体が思ったように動かないこともあり、あっという間に四つん這いの体勢にさせられてしまう。

 

「へへ、この体制なら三本までなら咥えられるからよォ…口も使わせえもらうぜぇ」

 

「ひッ……むぐっ!!」

 

 まずセシリアの口に、一本目の肉棒が押し込まれる。その味や、少しきつい匂いにセシリアの脳はあっという間に犯されてしまう。

 

「へへ…なら俺らはこっちの方を…!」

 

「む、ぐぅぅぅぅ!?」

 

 そして、その一瞬の隙にセシリアの膣とアナルにそれぞれ1本ずつの肉棒が押し込まれる。

 その匂い、強烈な快楽、男達の分厚く硬い手と力強い突きによりセシリアの心はあっという間に折れかかるほどに弱ってしまう。

 

「初物とは思えねぇ締まりだなぁおい…!」

 

「むぐ、んぐっ!」

 

「そんなに締め付けやがってよォ…!アナルにもこんな締めつけなんて、相当な好き者だぜ…!」

 

「舌も一生懸命絡まるし…へへ、薬なんざ使わなくても根っからの便器だったんじゃねぇか?こいつは」

 

「お嬢様ってのは溜まってるらしいからなぁ…」

 

 好き勝手にセシリアの事を言う男達。しかし、今のセシリアにはそれを聞けるほどの余裕は存在していなかった。

 男達の言葉が、まるで刷り込みのようにセシリアの頭の中に入ってくる。文句を言いたいが、しかし口に入っている肉棒がそれを許さなかった。プライドの高いセシリアの心は、肉棒から味わっている色々な刺激により完全に折れるまでの時間はそう長くはなかった。

 

「んぶぉ、んぶっ…!」

 

「おら!もっとちゃんとしやがれ!返さねぇぞ!!」

 

 男達の言葉に、セシリアは快楽を感じながら従う。もはや無意識的な行動だったが、こうしてしまった以上…もうセシリアは男に上からの目線を使うことは出来なくなってしまった。

 

「ぶぅ…ふー…!」

 

「にしてもこいつ、締めつけすげぇから直ぐに…!」

 

「んぶぉ!?」

 

 口の中、膣内、そしてアナルの中にあっという間に精液が吐き出される。苦く、そして異臭とも言えるべき匂いがセシリアの鼻腔を犯していく。最早、鼻ですら陵辱の対象と言わんばかりに、きっちりと犯していく。

 

「へへ、けどまだまだこれからだからな」

 

「ひっ……」

 

 セシリアは恐怖した。しかし、恐怖するだけであり抵抗出来ないその体では……男達の欲望を受け止めることしか出来ないのであった。



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少女脅迫

「んぶ、ぶぅ…」

 

 今現在、セシリアは人から見つかりづらい場所で輪姦されていた。女尊男卑になっているこの世界において、男達の鬱憤は相当に溜まっていた。

『男である』と言うだけで蔑まれ、『女である』と言うだけで許される。しかし、この世界に反旗を翻す力は彼らには存在していない。何故ならば、女性にはISが存在している。世の中に存在している1割以下の女性にしか与えられないものであり、しかも一般生活においては使用することすら制限がかかっているものであるが、それでも男達は逆らえない。

 虎の威を借る狐とはよく言ったもので、ISを使えない女性はISを使える女性の立場を借りて調子に乗っているだけなのだ。

 よって、彼らの目の前に『餌として認識しても良い』といった女性がいた場合……勿論、それに食らいつくだろう。これに食らいつかないのは、余程いい性格をした男か、恐ろしく用心深い男だけだろう。

 

「はぁ、はぁ……これで全員一周したかぁ?」

 

「とっくの昔に2週くらいいってるって……記憶力大丈夫ですかい」

 

「あぁそうか……あんまりにも早いもんで、ついつい数え間違えていたよ」

 

「━━━も、う……」

 

「ん?」

 

 一旦休憩するために、セシリアから抜く男達。無理やり口から喉に出された精液は飲み込んでいたが、口に少しだけ残っていたのが垂れていた。そして同じように、膣とアナルからは精液が垂れていた。

 そんな状態で、セシリアはなんとか言葉を発しようとしていた。

 

「も、う……止めて……くだ、さい……」

 

「何だ?今更懇願か?」

 

「……なら、この場は辞めてやろうか?」

 

「は!?」

 

 男の一人が何かを思いついたのか、今起こっていることを辞めてほしいと言っているセシリアに対して、その案を飲もうとしていた。当然、他の男達は反発しようとする。だが、耳打ちで伝えられた言葉に納得したのかそれ以降何も文句を言うことは無かった。

 

「辞めて、くれるって……」

 

「当然、今ここで解放するって話さ」

 

「……いいん、ですの…?」

 

「いいも何も、お前が望んだことだろう?」

 

 セシリアは顔を上げる。その目には散々陵辱された後に微かに宿る希望が確かにあった。

 

「た、だ、し……お前には俺らの条件を飲んでもらうぜ?」

 

「…条件、ですの?」

 

「これから俺たちの呼び出しに応じること、それと…五十冬ちゃんには何も言わないってことだよ」

 

「っ……彼女を、巻き込む気ですの…!?保護者の、癖に……」

 

「保護者である以前に男と女だしなぁ?」

 

 ニヤニヤと笑う男達。それが何を意味しているかは、セシリアは直ぐに理解できた。もし学校や実家、もしくは五十冬に……つまり、誰かに伝えた場合…五十冬が巻き込まれる可能性が高いのだ。

 

「……分かり、ました」

 

「へ……交渉成立だな、知らない電話番号からかかってきたら直ぐに出るんだぞ?」

 

「……はい」

 

 セシリアは悪魔の契約をここで果たしてしまう。しかし、その契約は契約と呼べない一方的なものであるのは目に見えて明らかであり、いつその約束が破られるか……セシリアはその不安だけを抱えていた。

 五十冬を守れるのは自分しかいない……そう思いながら、五十冬だけを守れるという希望だけを抱いて、彼女は毅然としていようと覚悟したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「もうちょい、もうちょい……」

 

 今現在、私はとても間抜けな格好をしていた。大きなビルなどに偶にある自動販売機、その下に財布を落としてしまっていたのだ。いつ落としたのか全くわからなかったが、しかし落ちてしまっている以上拾わなければならない。

 一応、学生証が入っているのだ。あとお金と。

 

「……ふぅ、届いた…って携帯になんかメールが…」

 

 そして私は財布をちゃんと回収し終わった後に、ふと気が付いた。持っていた携帯に連絡が入っていたのだ。

 この携帯は、いわゆる私のコネに繋がっている携帯なのだが、基本的に私の方から連絡をするので、こうやって連絡が入る……その上メールが入ってくるというのはなかなか無い。

 

「えーっと何々……」

 

 ポチポチと弄って、私はメールの中を確認する。そこには、見事な蕩け顔と共にダブルピースを決めながら犯される、セシリアの画像が入っていた。

 

「うわっ、こんなに精液かけて……匂いが落ちなかったどうすんの…さっさと戻ろ……」

 

 こういうのは、彼女のことが好きだった男性もしくは彼女と付き合っている人に送ることでダメージが期待できる代物だろう。しかし、何故私に送ってきたのだろうか?まさかもう陥落している…なんてことは無いはずだが……

 

「……というか、財布探すだけで時間かかりすぎだろ私」

 

 気づけば1時間以上経過してしまっていた。通りでセシリアが犯されているわけだ……しかし、このメールを見られる訳にはいかない。私の携帯に送るのはなるべく辞めて欲しいのだが……

 私はそう思いながら、ひとまず写真をメールごと消去する。偶然誰かにでも見られたりしたら、私がこの写真を持っていることを追求されてしまう。

 何はともあれ……戻らねばならない。知らない振りしておこう、恐らく本当にただ伝えたいがためのメールだったのだろう。何も知らないと、匂いで私が気づく可能性だってあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんセシリアー…財布拾いづらい所にあってさ〜

 人も中々来ないから取るのに手間取っちゃって」

 

「そ、そうでしたの?災難でしたわね……」

 

 まぁセシリアの方が、ある意味酷い目にはあっているのだろうが。ここで私がセシリアが犯されたことを知らなかったら、下手をしたら精液の匂いに気づいて追求しかねなかった。危ない危ない。

 

「…あれ?もしかしてご飯まだ来てない?」

 

「え、えぇ……五十冬さんが戻ってくるまで……その、注文は後回しでいいと伝えましたの」

 

「あ、そうだったんだ……ごめんね?余計な気を使わせて」

 

「い、いえ……私は気にしていませんわ」

 

 何処かよそよそしいセシリア。いつ私が気づくかを気にしているのだろう。しかし、セシリアの体からはそこまで強い精液の匂いはしてこなかった。ファブリー〇の匂いは軽くするが。

 

「じゃあ今日はご飯食べたらもう学校戻ろうか」

 

「そ、そうですわね……ふぅ…」

 

 どうやらバレていないと思ってホットしているようだ。残念、既に全部知っています。

 にしても、セシリアにどんな脅迫をしたのだろうか?この反応から察するに、犯されたことは覚えているのだろうが……家の権力がかなり強いセシリアを黙らせる……まぁ、おそらく私を巻き込むぞ、とか脅したのだろう。セシリアは友達思いになってくれて私は嬉しいよ、うん。

 

「そ、その……五十冬さん……」

 

「ん?どしたの?」

 

「えっと……い、いえ…なんでもありませんわ」

 

 言おうとしたのか?いや、恐らく不安すぎるのだろう。まぁ表情だけでもある程度誤魔化そうとしているし、パッと見ただけでは気づかないくらいの誤魔化しはできているので、完全に心の内に留めていると言ったところか。

 

「そ、その……この後香水を買ってもよろしいでしょうか?」

 

「別にいいけど…学校そのまま帰るにしても、どっちにしろ時間は余るしね。門限までに帰れれば問題ないだろうし」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 私の鼻は誤魔化せても、他の人物はわからない。故に強い匂いの香水を買うことで、誤魔化す作戦に出ると言ったところか。

 まぁ仮にばれたとしても、私は今回誘っているだけなので余程のことが無い限り大丈夫……だろう。

 織斑千冬に会わなければ……多分、大丈夫。

 

「さて、じゃあご飯さっさと食べて香水買いに行こっか」

 

「そう、ですわね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今度からこういうのやめてよ?一番危ないの貴方達なんだし」

 

 私は、今回手伝ってもらう予定だった男達に注意をしていた。セシリアをアイツらに渡すと決めたのは私であり、今もその意見は変わっていない。しかし、勝手に薬を服用させて男の上で腰を降らせるというのは…あまり宜しくない。

 ちゃんと避妊薬は飲ませたとの事だが、計画が前倒しすぎるとバレてしまうリスクも高くなる。

 ちゃんとセシリア以外の女も明け渡すと言っているのに、勝手なことをされると私も彼らも危ないのだ。犯す男がいなければ、駄目ではないか。一々コネを用意するのも面倒なのだが。

 

「……うん、うん…それじゃあね」

 

 因みに、今はセシリアの香水選びを待っている最中である。私は別に香水に興味はないので、セシリアが待っているのを暇そうに眺めるか、外で待つしかないのだ。

 

「……ま、今回は上手くいったからよかったか。後はセシリアの独自判断に任せるしかない……」

 

 既に不本意な形でとはいえ、セシリアを貶める作戦は始まっている。

 私も、それに便乗していかなければならない。そもそも私が作戦の発端なので当たり前といえば当たり前の話なのだが。

 

「申し訳ございません、待たせてしまって……」

 

「いいのいいの、ほら早く帰ろうよ」

 

「は、はい」

 

 セシリアは私に手を引かれて、そのまま進んでいく。少し戸惑っていたが、私が引っ張っていくと段々と安心してきたのかその表情に笑みが零れ始めていた。

 先程まで犯されていて、蕩けていたとは思えない顔である。

 

「あ、あの……五十冬さん……」

 

「ん?何?」

 

「私が…もし……」

 

「もし?」

 

「……その、学校からいなくなったら…どう思いますか?」

 

「……うーん、寂しいかなぁ。実際にそれが起こったわけじゃないから、実際どう思うかはわかんないかも」

 

 急に質問をするセシリア。私にはその質問がどういう意図でされたのか、一切理解することができなかった。何故今、自分がいなくなったことを言うのかが私には分からない。日本から脱出して、イギリスの実家に帰るつもりなのだろうか?

 いや、もしくは転校やそれ以外の理由が上げられるだろう。実際のところ、駒が少なくなるのと今までの手間が無駄になるということから考えて、私は止めて欲しいと思ってはいるが。

 

「そ、そうですわよね……申し訳ございません、変なことを聞いて…」

 

「ううん、別に気にしてないよ〜」

 

 私はセシリアがこれ以上無駄に気にしないように、フォローを入れる。そのあと幾分かの元気を取り戻したセシリアは、私と一緒にIS学園の寮に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい?部屋交代?」

 

「あぁいえ、2人の部屋が変わるという訳では無いんですよ」

 

「えっと、どういうことですの?」

 

 寮に帰ってからの話。

 突然山田先生が部屋に来たのだが、要約するとどうにも織斑一夏と同室だった篠ノ之箒が移動することになったという。というか、今までそれで何ともなかったのかあの二人。織斑一夏は無駄に理性があるようだ、あの男達にも多少の我慢を覚えて欲しいものである。

 

「という訳で、多少の部屋変更によって変わることもあるかもしれないので、1組の人達に伝達して言ってるんです」

 

「なるほど、ありがとうございます山田先生」

 

「いえいえ、それよりも今日はお出かけしていたんですか?」

 

「はい、ちょっと行ったレストランまで」

 

「へぇ、今度教えてくださいね?」

 

「まぁ機会があれば教えますよ、口頭だけじゃ分かりづらい場所ですし」

 

 軽く話し合いをしてから、山田先生は部屋を出る。別段そこまで気にする必要もないが、まぁ何かが変わるというのも理解出来る。

 

「……よく今まで二人一緒で行けたよね」

 

「ですわね」

 

 軽くお互い苦笑しながら、そのまま眠りにつく私達。翌日、何かめっちゃ面倒くさいことが起きるのだが……それはまた次の話で。



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転校少年

「みんなおは、よ……う………?」

 

 朝、セシリアと共にクラスに入る私こと鬼村五十冬。しかし、何やらクラス中がどうにもこうにも騒がしかった。

 確かにいつもと比べても変わらない程度のざわめきだが、何故だろう……傍から聞いている分では、皆同じ話題を口にしていた。

 

「ねぇ、何の話をしてるの?」

 

「え、知らないの?今月のトーナメントで勝つと、織斑君と付き合えるんだって!」

 

「……えっ」

 

 何故そんな話がでているのだろう?公式的なものでは無いことは確かだが、一体全体その噂がどうやって広まったのかは謎である。

 

「まぁ……そのような事に……」

 

「多分それ本人も預かり知らぬところだろうね……何でそんな噂が…それ誰から聞いたの?」

 

「えーっと確か━━━」

 

 噂というものは、絶対に大元が存在するものである。それが広がった原因、広めた張本人と別れているが、とりあえず大元は存在しているはずなのである。

 そして、私はホームルームが始まるまでの間にその噂の出処を調べていた。何故こんなことを調べているか?別に野次馬根性等ではない、本当にそういった噂になっているのならば、利用できるかもしれないからだ。そのためにも、真偽を確かめねばならない。織斑一夏はそんな事が起こっているなんて露ほども知らないだろうけど……そして、私は調査をするうちにとある1人の生徒に行き着いた。いやまぁ、うちのクラス内の噂だから当たり前なんだけど……私のクラスメイトだった。

 

「……布仏さん、何でこんな噂流したの…?」

 

 布仏本音(のほとけほんね)、制服の袖を極端にぶかぶかにしており手が隠れているのが特徴的なおっとり系女子。名前とその雰囲気から、『のほほんさん』なんてあだ名がつけられている。

 そんな彼女が何故、このような煽りをしたのか私には理解ができなかった。赤ん坊が中指を故意に立てるくらいありえないとまで言える。

 

「うーんとねぇー……」

 

「……」

 

「しののんがぁー、イッチーにぃ、告白しててぇー……」

 

「えっと、つまり?」

 

 しまった。あまりにものほほんさんの話が長すぎるために、隣にいた相川さんに事情を聞いてしまった。顔がめっちゃ不機嫌になってる。

 確執を残すのもなんだから後で謝っておこう。

 

「篠ノ之さんが、織斑君に告白したんだよね。次のトーナメントに勝ったら付き合って欲しいって」

 

「そんなことが……それで?」

 

「うん、私達がそれを聞いて広めようとしたんだけど……どうしてかこうなっちゃってたんだよね」

 

「私が広めたんだよぉー」

 

「……情報伝達失敗してない?」

 

「そうなんだよね……これは織斑君……あぁいや、篠ノ之さんにも悪いことしちゃってるなぁ……」

 

 これは大変めんどくさい事になってしまった。これはただの噂になっているせいで、誰が勝っても恐らく悲惨なことしか起こらないだろう。というか、ふと気になったが……

 

「篠ノ之さんって織斑君になんて告白してたの?」

 

「え?『トーナメントで勝ったら付き合ってもらう』って直球だったよ?」

 

 何故だろう。私は篠ノ之箒ですらろくな目に合わないような……そんな気がしてきた。愛していると、直球勝負じゃない限りあの男には通じないような…そんな気がしてくる。

 

「皆、なんの話してるんだ?」

 

「「「何でもない!」」」

 

 と、ここで本人様が到着したが…クラス一丸となって彼に情報を渡さないようにしていた。何だこのクラス……と思っていたら、先生御二方が到着していた。

 

「席に座れ、ホームルームを始めるぞ」

 

 その言葉と共に、皆が席に着き始める。そして、山田先生が何やら嬉しそうな顔をしながら教卓についていた。

 いつも嬉しそうな顔をしているが、今日は一段と嬉しそうな……にしてもこの先生、胸の大きさだけを除けば低身長も相まって子供にしか見えない。

 

「えー、今日は皆さんに転校生を紹介します!」

 

 またか。いや、このクラスでは初めてかもしれないけど2回目だよ転校生イベント。2組で行って今度は1組ですか……と、ふざけたことを言っていたら件の転校生が入ってきた……()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()

 

「……男…?」

 

「シャルル・デュノアです、これからよろ━━━」

 

「男の子!?」

 

「え、は、はい…ここに僕と同じ人がいると聞いて転校してきました」

 

 私は驚いていた。有り得ない、有り得るわけがないと。そもそも私は、織斑一夏がISを動かせているのは、篠ノ之束が関わっているからだという前提だった。

 しかし、今目の前に篠ノ之束と一切関係のない少年がIS学園に…少年?

 クラス中が新たな男子の登場に騒ぐ中、私はふと考える。

 そうだ、こんな簡単に2人目が見つかっていいのか?と…そもそも2人目が本当に見つかったのなら、彼の故郷どころか他の国でも騒がれるはずだ。

 しかし、幾ら他の国と隔絶された所とはいえ、流石に一切の情報が入ってこないというのは異常では無いだろうか?

 

「静かにしろ!」

 

 2人目の男子到来により騒ぐ教室だったが、織斑千冬の一喝により一気に静まりかえる。流石である。

 

「……今日は2組と合同を行う、各人は速やかに着替えてアリーナに集合!

 それと織斑」

 

「はい?」

 

「デュノアの面倒を見てやってやれ、同じ男子同士だ」

 

「分かりました」

 

 同じ男子同士、ということもあって当たり前だが織斑一夏が案内役に選ばれていた。まぁ、この学校はISの学校ということもあって…男性が全く居ない。今のところ彼ら二人だけであり、そんな特例の存在のためだけに新しく設備を作るほど学校も資金をやりくりする気もない。

 男子トイレはなし、そして更衣室も専用のものがない。当たり前だ、男はISを動かせるわけがないのだから。

 

「よし、じゃあ行こうぜ」

 

「えっ!?」

 

 シャルル・デュノアの手を取って、織斑一夏は教室から急いで出ていく。専用の更衣室がないので、少し遠回りをしなければならないのだが…

 

「……ねぇ、セシリア」

 

「何ですの?」

 

「デュノアって聞き覚えある?」

 

「確か…フランスのISメーカーですわね」

 

「……」

 

 私はどうにもきな臭い匂いを感じていた。まるで、織斑一夏に合わせたかのように新しく男子が入ってきたような感じがしたのだ。

 私の前提が間違えていなければの話だが、男で動かせるのは確実に織斑一夏だけである。

 

「そっか、ありがとうセシリア」

 

「いえ、気にしなくて結構ですわ」

 

 さて、あの王子様が一体全体……どんな目的でIS学園に入ってきたのか探らないといけない。何故かって?私の目的の邪魔になるんだったら消さないといけないし、私と目的が同じなら利用しないといけない。

 

「さ、私達もさっさと着替えないとね」

 

「そうですわね」

 

 ひとまず様子見と行こうか。今は、情報集めの時間だしね…

 私はそう考えながら、ISスーツに着替えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、今はアリーナのグラウンドに1組と2組が集結していた。そして、山田先生を相手としてセシリアと凰鈴音が軽く手合わせをすることになった。

 教員の実力というものを見せたいのだろうが、そもそも山田先生が強いというのは当たり前だろう…このIS学園において、余程の実力者でない限り専用機持ちであっても教師達に勝てるわけがない。

 

「デュノア、山田先生が今使っているISの説明をしてみろ」

 

 ここからは私が彼の説明の代弁をしよう。山田先生が使っているのは、ラファール・リヴァイブというデュノア社製の量産型ISである。

 本来ISには第○世代という括りがあるのだが、ラファール・リヴァイブは第2世代……今現在開発されている第三世代ISよりも一つ前の世代である。しかし、第三世代初期型と同等の力を持っている機体でもあるのだ。

 数々の武装を使いこなせる凡庸性等が長所であり、まさに量産型の中では破格の性能だと言えるだろう。高水準のバランス型、と言えばわかりやすいだろうか?

 誰にでも使えるが、強い人が使えば強いもの……それが今山田先生が使っている機体である。

 

「……まぁ、案の定ああなるよね」

 

「これで分かっただろう。お前達よりも、教員が強いということが。では、これからは別れてISの訓練を始める。チームリーダーはそれぞれ、専用機持ちが務めること…以上」

 

「……さて、セシリアお願いね」

 

「は、はいですわ」

 

 負けたことが悔しいのか、少し膨れながらもセシリアは私の指導をすることに。まぁ、私だけじゃなくてほかの1組のクラスメイトだったり、2組の子だったりと忙しいが。

 

「……にしても…」

 

「五十冬さん?動けそうですか?」

 

「あぁうん……えっと、こんな感じかな」

 

「あら……お上手ですわね」

 

 私は打鉄に乗って、軽く手を動かす練習と歩く練習を行う。まぁこれくらいは出来ないと……正直、話にならないと思う。

 

「…さて、これくらいだよね?」

 

「そうですわね、では降りてみて下さい。1人で降りれそうですか?」

 

「大丈夫大丈夫」

 

 私は次の人が乗れるように腰を低くしながら、ISから離れる。そして私の次の人が、セシリアの指導を受け始める。

 私は問題なかったので、みんなの元に戻りながら例のシャルル・デュノアに視線を向ける。

 

「……うーん」

 

「鬼村さん?どうしたの?」

 

「ううん、何でもなーい」

 

 なんでもない訳が無い。しかし、これをただのクラスメイトに言うのは問題が起こるので辞めておくことにした。

 因みに気になったことというのは、シャルル・デュノアの腹筋がどうにも…男子の感じかしなかったのだ。男子特有の腹筋と言うべきだろうか?硬いはずの腹筋が、どうにも柔らかく見えてしまう。

 いや、メタボなだけだろそれっていう話ではない。織斑一夏と同じくらいのウエストでありながら、筋肉が目立たないのだ。

 どちらかと言えば……ウエストの細い女子のような見た目と言うべきだろうか?

 

「……」

 

「鬼村さーん?おーい」

 

 やはり、男というのは嘘ではないだろうか?しかし、それだと男にするメリットというのが皆目見当つかない。考えれば考える程に、何故彼がIS学園に今このタイミングで入学したのかがわからない。

 

「お!に!む!ら!さぁん!!!!」

 

「うひゃっ!?え、な、何!?」

 

「ずーっとぼーっとしてるけど本当にどうしたの?しかも、デュノア君の方をずっと見て……あ、好きになっちゃった?」

 

「…へ?」

 

「いやいや、デュノア君の事をだよ……まぁでも彼かっこいいもんねぇ」

 

 あ、なんか壮大な勘違いされてる……あぁでも訂正すんのめんどくさいし、もういいかな。うん、好きだったってことにしておこう。否定も肯定もしないから思う存分勘違いしてもらって構わない。

 だって……そこ突っ込んだら余計に……ねぇ?支障のない問題起こすくらいなら、私は突っ込まないことを選ぶよ…という訳で、授業は順調に進んで終わりを迎えるのであった。

 と、思っていたのだが……

 

「五十冬さん、少しいいですか?」

 

「どうしたの?」

 

「一夏さんから昼食のお誘いがございましたの、ご一緒にどうですか?」

 

「それってセシリアだけが誘われたの?」

 

「いえ、篠ノ之さんの発案ですわ」

 

 唐変木にホレるというのは、同情したくなるものなのだな……と私は思った。恐らく、同じ男子同士だということでシャルル・デュノアも来るだろうし……という訳で、この後お昼ご飯の回ということになったのであった。

 ……1人だけパン食なのも味気ないし……お弁当作らないと。



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昼食戦争

「…これはどういうことだ一夏」

 

「やっぱ飯はみんなで食べた方が美味いだろ?それにシャルルは最近来たばかりだからな、馴染まないと!」

 

「まぁこうなるよね」

 

 昼食時、私はセシリアと共に織斑一夏が急遽発案した昼食会に招かれていた。正確には、織斑一夏に誘われたセシリアに誘われた…と言った方が分かりやすいだろうか?

 そして、私達以外で織斑一夏に誘われたのは凰鈴音、シャルル・デュノアの2人である。因みに、この場にいる篠ノ之箒は織斑一夏『だけ』を昼食に誘った人物である。同情したくなるよ、唐変木に惚れるって大変なんだねって。

 

「ん?鬼村どうした?」

 

「いや?天然でそれやってるなら織斑君って、随分と呑気なんだねって話」

 

「んー…?」

 

 まぁ遠回しに言った私も悪いが…唐変木と直接言って通じるのだろうか、この男には?言っても通じなさそうなところが恐ろしい。

 

「…というか、鬼村も作ってきたんだな?セシリアと同室だし、同じものか?」

 

「いや?流石にそこまで芸がないことはしないよ…まぁ、ほか三人に比べたらちょっと洋食風味になっちゃうかもしれないけど」

 

 そう言って私はお弁当の蓋を開ける。凰鈴音は中華、セシリアは教えてもらったので知っているのでそれも避ける、篠ノ之箒のは恐らく現代日本らしい弁当だと予測したので━━━

 

「保温弁当箱に入れてきたミニパスタ5種」

 

「……が、2段目…あんた一段目何入れてんのよ…?」

 

「え?見る?」

 

「……興味本位で見たいと思いましたわ」

 

「しょうがないなぁ…はい、エビピラフ…保温弁当箱だしどっちも暖かいよ?」

 

 あれ、何故だろう…皆の私を見る目がすごく残念そうな人物を見る目になってる…パスタ5種とエビピラフってそんなに駄目だったの?

 ペペロンチーノ、カルボナーラ、和風、イカスミ、ボロネーゼ…何がまずかっただろうか?仕切りはちゃんとあるので味が混ざることは無いが…?

 

「……ま、まぁ一口ずつ貰っていいか?」

 

「いいよ、元々みんなで食べるために持ってきたんだろうし…交換するためでしょ?」

 

「ま、まぁそうだな…」

 

 篠ノ之箒までが何故か可哀想な目で見てくる。凄く虚しくなってきた、泣きそう。

 そんな私を後目に、織斑一夏はペペロンチーノに手を出す。

 

「…美味い!?」

 

「織斑君ナチュラルに驚くのやめてくれない?私もしかして料理できない子だと思われてた?」

 

「…そりゃあ、あんだけカロリーの塊みたいなの見せられたらね…あんた、野菜とか肉とか取らないの?炭水化物しかなかったわよ今のメニュー」

 

「え…ピラフにキャベツととうもろこしとエビ入ってるよ…?」

 

「……これは、私たちが言っても通じそうにありませんわね…」

 

 私なにか間違ったこと言ってるのだろうか?美味いものだけを食べたいと思うのは間違いなのだろうか…

 なんて思っていると、今度はセシリアが自らの弁当箱を開ける。中からは、色とりどりのサンドイッチがでてきた。『見た目だけならば』美味しそうである。

 

「お、美味そうだなぁ…貰っていいか?」

 

「構いませんわ、五十冬さんもどうぞ」

 

「じゃあ有難く……」

 

 私と織斑一夏がほぼ同時にサンドイッチに手を伸ばす。2人して同じのを取らなくて心底よかったと思いつつ、それを口に含む。

 ふむ、まずとんでもない辛味が口の中を襲ってくる。その後にそれを上書きするかのような甘さ、そして酸味と苦さが入り交じった形容しがたい味が口いっぱいに広がる。

 要約すると、不味い。

 

「うぐっ………!?」

 

 どうやら織斑一夏も同じ感想だったらしい。だが生憎、私はこういうものは普通にまだ食べれる胃袋をしているので、ある意味助かっていた。常人の舌と胃袋ならば即座に吐き出していただろう。

 まぁ、私の方も舌が耐えきれなくて泣いているのだが。これきっついわ……

 

「い、五十冬さん…?どうして涙を流していらっしゃるんですの…?」

 

「……その、セシリア多分調味料間違えてるよ」

 

「ほ、本当ですの!?」

 

「ほ、箒のも美味そうだなぁ!食べてもいいか!?」

 

「…わ、私はあまり自信はないが…」

 

 そう言って篠ノ之箒も弁当箱を開ける。中から現れたのは、実に現代日本らしい弁当だった。予測が当たって何より……というか唐揚げ美味そうと思ったの久しぶりなんだけど。

 

「おー、美味そうだなぁ!」

 

「ちょ、ちょっと一夏!私もお弁当作ってるんだからね!?」

 

 そう言いながら凰鈴音は自らの弁当箱を開く。中には酢豚が入っていた。彼女の家は昔、中華料理店を開いていたらしいので味は中華本家よりの味なのだろうか?あれ、そう言えば酢豚って中国発祥でいいんだっけ…?ラーメンそのものは違うって話は知ってる、別の料理がラーメンに変わったんだよねアレ。

 

「おー、鈴のは酢豚か。懐かしいなぁ、昔お前の家でよく食べてたもんなぁ」

 

「で、でしょ!?」

 

 異性の家に飯を食べに行く、しかもその異性は自分のことが好き…これはもう事実上の許嫁では?と言われても仕方なさそうである。まぁ、それを気にするほどの敏感さがこの男にあるとは思えないが。

 

「うん、美味いなぁ…箒、唐揚げも貰ってもいいか?」

 

「あ、あぁ」

 

「うん、こっちも美味いなぁ」

 

 そう言いながらも、パクパクと篠ノ之箒の弁当を食べていく織斑一夏。彼女は、彼の為にお弁当を作ったので問題は無いだろうが…凰鈴音はそれを面白くなさそうな目で見ていた。

 当たり前だ、自分が好きな男がほかの女…しかもよりにもよって、その男に惚れている女が作った手料理をパクパク食べている。状況だけで見たら絶対に面白くないだろう。

 

「あ、五十冬さんもうひとつ如何ですか?」

 

「じゃあ貰うよ」

 

 そして私は。セシリアの作ったサンドイッチらしき物体を食べることになった。食べなくてもいいが、妙に押してくるし断るのも面倒だから。

 あぁでも…出来ることなら味覚をシャットダウンしたいなぁ…痛覚はシャットダウン出来るようにしてるけど…今度は舌の改造しようかな…

 

「はい、一夏まだまだあるからね」

 

「一夏、存分に食べてもいいからな 」

 

「五十冬さん、もっと食べてくださいね」

 

「デュノア君は食べないの?」

 

「え、あぁ……ご、ごめん場に圧倒されたから…」

 

 そう言えばさっきから喋っていなかったな…まぁ、正直この場の圧はすごいと思う。私だってこんな場面が目の前で繰り広げられていたら、無視してどこかに行きたくなるだろう。

 

「あ…す、済まないデュノア……私のも食べるか?」

 

「私のもどうぞ」

 

「私のエビピラフ…」

 

「……え、エビピラフ貰おうかな…」

 

 篠ノ之箒がおずおずと弁当を出してきたが、シャルル・デュノアは無難な私を選択してきた。当たり前だ、この場にいる4人の女生徒…その内2人は意中の男に弁当を作ってきており、残りの2人の内1人は産業廃棄物、つまり油濃くても無難な私を選択する。あと暖かいし。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとう……あはは…」

 

 やけに遠い目をしているシャルル・デュノア。私は彼が女じゃないかという疑念があるせいか、一挙一動が女に見えて仕方がない…

 

「…?どうしたの?」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

 これは1度…本気を出して彼の正体を探る必要がある。私はこの場で何故かそう確信したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とは言ったものの、いざ暴いてやろうとすると面倒なのが問題である。実際問題、弱みを握るというのは相手を従わせられる可能性の高い方法である。

 しかし、私としてはあまり顔を見られたくないので、遠隔で…音声ソフトか何かで声を吹き替えたりせねばならない。まぁ、文字打ち込んで発音するタイプや、手紙だけのパターンを作れば問題は少ないだろうけど。

 

「五十冬さん、お先にお風呂いただきますわね」

 

「うん、わかったー」

 

 私の気の抜けた返事を聞いてから、セシリアはお風呂に入る。それを確認してから、私は思案する。まぁ、向こうも男子として転入している以上簡単にバレたくはないだろう。

 シャルル・デュノア本人は悪い目にあうことは無いだろうが、デュノア社の信用は地に落ちる。彼がそれを望まない人物かは賭けだが、もしデュノア社を盾にして従いそうなら……色々と操作もすることが容易くなるだろう。

 

「さて…私もお風呂入ったあとは寝るかなー…」

 

 体を伸ばして、独り言を呟く私。この後はただ入浴と睡眠を行うだけだが……まぁ、特に問題が起こることは少ないだろう。

 私はそう思っていた……のだが、まさか翌日に新たな面倒がこの学園に現れるだなんて、思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えーっと……本日も皆さんに嬉しいお知らせがあります。このクラスにまた新しく転入生がやって来ました」

 

「……」

 

「え、えーっと……」

 

 またか、また転校生か。2日連続の転校生、しかも2組にも凰鈴音という転校生がいるために私の知る限りこの短い間で3人も転校生が来ていることになる。

 1人はおそらく織斑一夏の為、もう1人は同じく織斑一夏の為…だが同じ男子がいるという名目があるため、細かい理由は別。この三人目は一体どのような理由で来たのだろうか。

 

「ラウラ、挨拶をしろ」

 

「はい、教官」

 

 ……教官?今織斑千冬のことを教官と呼んだのか?という事は、彼女は織斑一夏ではなく織斑千冬のために来た……いやいやそんなことはどうだっていい。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「……それだけですか?」

 

「それだけだ」

 

 くすんでいるかのように見えるが、艶のある銀髪。そして眼帯と赤い目…凰鈴音とも並ぶほどに小さいと思われる身長。まぁ特徴の塊である。

 そう言えば…彼女の制服の改造の仕方、妙に独特である。長袖なのは変わらないが、彼女は女……の筈だがスカートを履いていなかった。男勝り…と言われればそうなのかもしれない。

 しかし、妙にダボったいというか……主に太ももの部分が膨らんでいるかのような…そんな服装となっていた。

 

「……あ、えっと…?」

 

「貴様が……」

 

 突然、ラウラが織斑一夏の前に移動する。世にも珍しい男子ISパイロットの確認という目でもなければ、織斑千冬の弟である織斑一夏をただ見ているだけという視線でもなかった。

 敵意がある…私がそう認識した時、ラウラの手のひらが織斑一夏の頬を気持ちいい音を立てながら叩いていた。

 

「えっ…!?」

 

「っ…!?」

 

 クラス全体が騒然となる。しかし、そんなことを気にしないと言わんばかりにラウラは敵意の目を織斑一夏に向けていた。

 

「…認めない、貴様が教官の弟であるなどと……認めるわけがない…!」

 

 ……凰鈴音は、織斑一夏に対する恋心のために日本に来たと言っても過言ではないだろう。

 ならば、ラウラ・ボーデヴィッヒ……彼女はさしずめ織斑千冬に対する恋心のためにやってきた、純情な同性愛者(ヤンデレズ)と言ったところだろうか?

 まぁ、こんなことを茶化して言ってしまうと殺し合いが行われかねないので、辞めておくとしよう。

 だがまぁ……これからもっとめんどくさいことが行われることだけは、確かだろう。



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黒兎挑発

 シャルル・デュノアに続く新たな転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツからの転校生らしい彼女は、何故か織斑一夏に敵対心を向けていた。

 織斑千冬の恋心、なんて茶化す言葉を使ってはいるが……些か織斑千冬に対する尊敬がすぎるのが、問題なのだろう。

 さて、彼女がやって来ても変わらず授業は改めて続けられる。アリーナでのISの武器振り……とは言っても、ある程度の数さえこなせばノルマ達成の簡単なものである。もしくは時間制での交代…専用機持ち以外はあまり無理はさせられないだろうという判断なのか、チラホラとISから降りている者もいる。

 私はとっくに終わらせている。だから、私は専用機持ち達の中で何故か立っていた。

 

「こうズバーっと!!」

 

「体を斜めに向けてー」

 

「角度ですわ!!」

 

「……3人とも、言ってることバラバラすぎて意味わかんなくなってるよ」

 

「「「わかりやすいだろう!?/でしょ!?/ですわ!!」」」

 

 私同様にノルマをこなした篠ノ之箒、専用機持ちだからとノルマは課せられていないセシリアと凰鈴音、そしてその3人に教えられている織斑一夏。

 しかし、3人とも教え方がバラバラな上に言葉だけのものなので、まったく織斑一夏は理解していなかった。私は教える気がないし、あとなんか織斑一夏とくっついて余計な問題を増やしたくない。

 

「さっぱりわからん!!」

 

「どうして!?」

 

「なんでよ!?」

 

「何故ですか!?」

 

「いや客観的に見なよ…」

 

 篠ノ之箒は感覚論で語りすぎである、本人にしか伝わらない喋り方は1番OUTだ。論外。

 凰鈴音は体の向きなどを身振り手振りで教えてくれているため、この中では1番理解がしやすい部類だろう。しかし、こういうのは体を動かしながらやるべきものなので言葉では結局伝わりづらいのだ。

 セシリアは、角度を数字で表しながら説明していた。斜め45°なんて口で言われてもわかるわけがないと思う、私もわからない。

 

「一夏ー、ちょっといい?」

 

「ん?」

 

「一戦いいかな、白式と戦ってみたいんだ」

 

「おう、いいぜ……という訳でまた後でな」

 

 織斑一夏に言われて、セシリア以外の2人はむくれていた。まぁ、好意を抱いているという意味では、この2人がむくれるのもわかるだろう。

 

「あ!見てみて!織斑君とデュノア君がやるみたいよ!!」

 

 おっと、流石にアリーナ内で行われることはバレやすいのかこの中にいる生徒達の殆どが反応していた。

 そして、2人の戦いを見守るために全員が緊迫してみていた。

 

「……それにしても、デュノア君の専用機って…あれってフランスの量産型じゃないの?専用機って、量産型であっても専用機扱いになるの?」

 

「まぁ、彼の使っているものはオリジナルでカスタムされていますわ。元々第三世代のISも相手にできるものですから、あのISも私達のものと同じくらいの性能と考えてよろしいですわ」

 

 シャルル・デュノアの専用機は、フランスの量産型IS『ラファール・リヴァイブ』のカスタム機である。彼の色に合わせてなのか、機体の色はオレンジとなっており所々違うところもある。

 ただ見た目を変えただけではないだろう、未だISに乗りなれていないとはいえ、専用機である白式に乗った織斑一夏を相手にする気なのだ。

 

「行くよ!」

 

「おう!」

 

 そして、2人は戦いを始める。まず最初に織斑一夏がけしかける。まぁ、白式の装備は零落白夜しかないので近づかなければならないのだが……しかし、遠距離武装の一つも積んでいないのに織斑千冬はどうやってこれで頂点に登り詰めたのだろうか。

 

「くっ…!」

 

「デュノア君は銃をよく使うね」

 

「けれど、私とは戦い方がまるで違いますわね。まぁ機体が違うのですから、当たり前の話なのですけど」

 

 シャルル・デュノアの戦い方は、装備をガンガン変えていくスタイルである。とは言っても、今使っているのは距離を取るための銃撃がメインだが。

 それでも、器用に小回りを利かせていきながら織斑一夏の背後を取っていく。スナイパーライフルまで使いこなせるというのは、あまりにも器用貧乏すぎる機体ではないだろうか?セシリアのブルー・ティアーズと比べると、恐らく装備の使いこなす腕は彼の方が上だと思われる。

 

「あぁもう、一夏さんは馬鹿正直に相手し過ぎですわ…!」

 

「そうだねぇ、銃撃を前にエネルギーシールドしか使ってないし」

 

 あんな戦い方は、直ぐにエネルギーが尽きてしまうだろう。そしてまぁ、そんな予想をした直後に織斑一夏は落とされていた。

 

「にしても、セシリアは随分と熱心に織斑君にISの動かし方を教えるんだね」

 

「まぁ、専用機持ちとなったからには少なくとも1組の専用機持ちが馬鹿にされないように……もとい、一夏さんが馬鹿にされないようにする為ですわ」

 

「この学校で、馬鹿にされる……」

 

「どうしたのですか?」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

 なんてことは無い。今のところ織斑一夏とシャルル・デュノアの二人しかいない男子で、それ以外が女子というこの状況。織斑一夏が馬鹿にされた場合、同じ専用機持ちかつ男子のシャルル・デュノアが比較対象に挙げられるだろう。

 そして、比較対象にされた挙句ひたすらにこき下ろされて、卑下されて、馬鹿にされる。1年の頃の高校でそんな失敗をしてみろ、死にたくなる。

 そんな悲惨なことになる訳には行かないだろう……織斑一夏がそこまで考えているかどうかは不明だが。

 

「さて、2人のいるところまで行こっか。篠ノ之さんと凰さんも向かったことだし」

 

「そうですわね」

 

 私に連れていかれて、セシリアと共に私達はシャルル・デュノアと織斑一夏の2人がいるところに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、シャルルの教え方はわかりやすいなぁ!」

 

 どうにも、同じ男子だからなのか…それとも単純に教え方がうまいのかはわからないが、織斑一夏は彼の教え方でかなり納得していた。

 

「そう言えばさ、織斑君ってセシリアやデュノア君みたいに銃火器使えないんだっけ?」

 

「スロットが空いてないみたいでさ」

 

「うーん、多分ワンオフアビリティで埋まっちゃってるんだね」

 

「ワンオフ…?」

 

「ワンオフアビリティ……確かISに備わってる機能だよね。機体ごとに違うとかなんとか……ISと搭乗者が最高状態になった時に発動する…だっけ」

 

「そうそう、白式の場合は零落白夜だね」

 

 零落白夜。過去に織斑千冬が使っていたISのワンオフアビリティと同じ性質のもの。その力は、ISのエネルギーを装備に回すことでバリアすらも貫通する力を発揮できる代物である。

 しかし、エネルギーの大半を食うために直ぐにエネルギーが切れてしまうのがデメリットなのだが……

 

「うーん…いくら姉弟といっても同じものが使えるはずないんだけどな…」

 

「まぁ、それは今考えても仕方がないと思うよ」

 

「……そうだねぇ、とりあえず一夏は銃にもっと慣れるべきだよ。ちょっと特訓しよっか」

 

 そう言って、一度ISを展開してから再びアリーナのグラウンドに降りる男子二人。

 私もその場に降りて、経過を見ていくことにする。

 

「はい、僕の装備使ってみて」

 

「え、でもほかのISの装備って使えないんじゃなかったか?」

 

「普通はね、でも所持者がアンロックしたら登録してる人なら誰だって使うことができるようになるんだよ」

 

「便利機能だよね、織斑君は凰さんのも登録しておいたらいいんじゃない?」

 

「まぁ、それはそれだな」

 

 織斑一夏は、シャルル・デュノアのライフルを受け取る。そもそも構えから素人なので、まずはそこから教えることになっていたのだが……どうにも密着度がある。

 シャルル・デュノアがカワイイ系の顔をしているためか、どうにも変な妄想をする人もいるだろう。

 

「ねぇ、あの二人……」

 

「ちょっと仲が良過ぎないか…!?」

 

 例えば、後ろにいるツインテールとポニーテールの幼なじみーズがいい例である。

 しかし、教え方はこれの方がかなりわかりやすいのか……織斑一夏はシャルル・デュノアの助けありとはいえ、次々に出てくる的の真ん中よりやや右上ばかりに命中していく。命中精度はかなり高くなっていた、これを覚えれれば、織斑一夏はかなり成長することが出来るだろう。

 

「ねぇ!あれ見て!」

 

「ほぇ?」

 

 突如騒ぎ出す他の生徒達。彼女達の視線の先を辿っていくと、そこには自らの専用機に身を包んでいるラウラ・ボーデヴィッヒがいた。

 型は……ドイツの第三世代、まだロールアウトしたばかりという話だが、彼女の分だけは完成させていたようだ。

 

「にしても真っ黒だなぁ…」

 

「━━━織斑一夏、貴様も専用機持ちだそうだな?ならば話が早い…私と勝負をしろ」

 

「…嫌だ、俺にはお前と戦う理由なんてない」

 

「貴様にはなくとも、私にはある」

 

 そして、これである。織斑一夏という存在が、どうにも彼女にとっては余程憎いものらしい。彼を睨むその目にあるものが、私はどうにも殺意しか感じとれなかった。

 

「別に今じゃなくていいだろ?もうすぐクラスリーグマッチだ、その時でもいいじゃないか」

 

「……そうか、なら━━━」

 

 そう言うと、ラウラ・ボーデヴィッヒは自身の機体の砲塔を織斑一夏に向ける。そして、有無を言わさず砲撃を放つ。

 

「んなっ!?」

 

 そこを、シャルル・デュノアが入り込みガードする…が、かなりでかい薬莢が落ちてきた。下手にあれが当たっていれば、織斑一夏は良くて病院送りが関の山だろう。

 

「ドイツの人は、随分と沸点が低いんだね」

 

 シャルル・デュノアはそう言いながら、自分の装備を構える。織斑一夏を守るためだろうが、それは悪手である。

 

「フランスの第2世代型量産機如きで、私の前にたちはだかるとはな」

 

「未だに量産の目処が立たない、ドイツの第三世代型よりはマシだと思うけどね」

 

 睨み合う黒と朱……しかし、そんな睨み合いも直ぐに終わらせられる。

 

『そこの生徒!何をやっている!!』

 

 教師からの放送だ。アリーナの様子は常に見られているので、問題が発生すれば直ぐに確認が取れる。

 これ以上問題を起こす訳にはいかないと理解出来たのか、ラウラ・ボーデヴィッヒは短く息をついてその殺意をの矛を収めていた。

 

「ふん…今日はここまでにしておいてやろう」

 

 ISを待機状態にして、ラウラはそのままアリーナから出ていく。授業を受けろ……とは思うが、どうせあとから織斑千冬の強烈なお叱りを受けることになるだろう。同情はしないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、そこの貴様」

 

「…何かな?ボーデヴィッヒさん」

 

「何者だ?」

 

 本日の授業も終わり、色々あって夜になってから寮に戻っている私。その道中に何故かラウラ・ボーデヴィッヒと出会ってしまった……というか、多分探されていたっぽい。めっちゃ殺意向けてくるし。

 というか、凰鈴音にも同じこと聞かれたけど……私ってわかりやすいのかもしれない。気をつけていたつもりだったが…

 

「…ちょっと体が鉄に頼らないと生きていけない、一応ただの高校生だけど?」

 

「そうか…」

 

「IS、展開したらダメだよ?アリーナならともかく…ここで使うのは、さすがにドイツ軍そのものの品位を下げかねないけど?」

 

「ふん、貴様の様な者に使って咎められるくらいなら…」

 

 どうやら私を殺すことは躊躇しないらしい。だが、何故織斑一夏にあれだけ執心しておきながら、私を狙おうとするのか。

 

「貴様も教官に害を成すのなら、私が殺すつもりだ」

 

「害って……何でそうなったのかな」

 

「貴様は、外面は取り繕えるが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「へぇ」

 

「もう一度聞こう、何が目的だ?」

 

「……ここで織斑先生に手を出さない、って言って貴方は信じるの?」

 

「信じる価値があるかどうか、決めるのは私だ」

 

 つまり、私を信じる気はサラサラないということである。ここで正直に言っても、撃たれて私の人生はTheEND…流石に、ISの銃火器の一撃をかわせるほどに私は強くないのだ。

 

「それさ、仮に私が本当の事言ったとして…私と貴方にメリットはある?それで、あなたが私を襲うことに……メリットはあるの?」

 

「教官を守れること……それが私の唯一にして無二のメリットだ」

 

 駄目だこいつ、まるっきり話を聞きゃしない。バカでも、もう少しまともな案を出すだろう。

 さて、どうしたものか……ここではどう足掻いても殺されかねない。織斑一夏に対しては、織斑千冬の存在もあってか殺す気は無いようだが……私は殺しても問題ないと思われているらしい。

 ここで殺されるのは勘弁だが……

 夜も更けたIS学園、私はラウラ・ボーデヴィッヒを目の前にして…自分が殺されないためにどんな言い訳をするかを、考えるのであった。



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龍蒼掃討

「うーん…実に楽しそう」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒに迫られていた日の翌日の朝、私はアリーナへと立っていた。

 無論、グラウンドではなく見る側…観客席なのだが。何故そこにいるのか?私は簡単に見てみたかったものがあるのと、あの場において都合のいいことが起こったからだった。

 

「凰鈴音の甲龍、セシリア・オルコットのブルーティアーズ…まぁ相手としては不足ないでしょ」

 

 グラウンドでは、セシリアと凰鈴音の2人が同時にラウラ・ボーデヴィッヒに襲いかかっていた。無論、不意打ちなどやライバル潰しなどといった陰険なことをする二人ではない。

 むしろけしかけたのはラウラ・ボーデヴィッヒの方だ。まぁ…あの晩何があったのかを話すとしよう━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━ん?」

 

 実はあの晩、とある一通のメールが私の携帯に入っていたのだ。まぁラウラ・ボーデヴィッヒと対峙していた時だったので、素直に見せてもらえるか怪しかったのだが。

 まぁ、都合がいいといえば都合がよかった。あまりにもタイミングが過ぎたので、正直誰かに見られているのじゃないかと思えるほどに。

 

「…ねぇ、メール来たけど読んでいい?」

 

「ふん、この場から逃げない限りは別に構わん。中身は見せてもらうがな」

 

「はいはいありがとう……これは…」

 

 メールの送り主は、セシリアを脅迫している私のツテその1である。そのメールは、別段セシリアに関係することではなく私宛の直接的なメールだった。

 

「……おい、誰から送られてきた」

 

「……はい、どうぞ」

 

 内容としては『日曜日また来て欲しい』とだけ来たメール。しかしメールの送り主の名前から察したのか、ラウラ・ボーデヴィッヒは私に蔑むような笑みを向けていた。

 

「ふん…貴様、余程獣のような生活をしてきたのだな。男という種しか出せない存在に、喜んで腰を振るとはな」

 

「はいはい、好き勝手……あ、そうだ」

 

「…?」

 

 ふと、私は思いついたことがあった。メールを返信する許可をもらい、私はメールにこう綴った。『今度学年別のトーナメントがあるので、それに優勝することを条件にしたメールをセシリアに送ってほしい』と。

 

「ねぇ、私を信用出来ないって言ったよね?」

 

「あぁ、そうだな……なんだ、私が貴様を信用できるような手段を思いついたとでも?」

 

「いやぁ?これで、あなたが私を信用できるとは思えないよ。けど、その足がかりくらいには…なるかなって」

 

「ほう、どう言ったことだ。私にも利益になるなら……乗ってやってもいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『織斑一夏以外の専用機持ちを誰か潰して欲しい』というのが私の頼んだ事だった。本来ならば、彼女がそれに乗ることはまずないだろう。というか、勝手にやるつもりだったらしいが。

 ドイツ軍も欲しているのだ。他の国の専用機の実力を…それに加えて、彼女の持つ専用機の戦闘データも併せて取りたいはずだ。

 まぁ、私は彼女達の性格を少し教えてやっただけだ。『煽れば簡単に乗ってくれる』と。まぁそれ以外にも色々教えてあげたが……例えば、本格的に殺すつもりでやったとしても、織斑千冬辺りが止めに来るはずだとも。

 

「ふん…データで見た時の方が強そうに見えたな」

 

「何ですって…!」

 

 安全装置の解除……要するに、生身にダメージを与えることも可能なモードに切り替えた上での、模擬戦…いや最早殺し合いにも匹敵するだろう。

 

「さて、私は…他の子達にこのことを伝えに行こうっと」

 

 ギャラリーが多い方が、叩き潰された時の屈辱も凄いだろう。いい時に、いいタイミングで、いい作戦を思いついたものだ。

 あのメールと、この叩き潰しが一致した理由……まぁ、はっきり言えば…セシリアにはそろそろ退場願おうと思っていたところである。

 

「特訓するにはアリーナしかないもんねぇ……セシリア」

 

 よく言っていたこと…セシリアは何としてでも、勝ちに行くだろう。今回の学年別対抗戦…だっけ?それに勝てば、多分彼女は私のツテから解放されるだろうからね。

 けどもし優勝できなかった場合…彼女は永遠に解放されなくなる。そういった約束をするためのメールを、男達に送らせたのだから。

 

「そして、叩き潰されたら…怪我をしてしまえばそもそも参加が出来なくなる。さて、一体セシリアは何をされちゃうんだろうね…私ちょっと楽しみだよ」

 

 休日に何度か呼び出しをされては、長く外出しているらしいが…ふふ、今度ばかりは心が折れるんじゃないだろうか?

 

「…まぁ私としては、彼女の専用機がどう言った戦い方をするのか見てみたいだけなんだけどね」

 

 どうにも、彼女のISには特殊なシステムが仕込まれているらしい。アクティブ・イナーシャル・キャンセラー……通称、AICと呼ばれるものがあるのだ。

 このシステムは、集中力こそ必要になるが代わりに自らの正面にシールドのようなものを張ることで、物理的な物全てを停止させることが出来る代物である。

 但し、あくまでも正面限定なので対象が複数ある場合は少し苦戦するのだとか。

 

「……むっ、織斑千冬が出る前に…」

 

 織斑一夏、その後すぐにシャルル・デュノアがアリーナの強化ガラスを叩き割って、凰鈴音とセシリアを救助に入る。

 しかし、遠近どちらにも対応している彼女のISにはさしものシャルル・デュノアも苦戦を強いられているようだった。

 

「あ、織斑先生よ!!」

 

「今更…?」

 

 そして、織斑一夏がAICに止められてトドメをさせられそうな所で…織斑千冬が助けに入っていた。アリーナの防壁が破壊されると、教師が出ないといけないらしい。

 私の目には、明らかに弟を助けに来たかのように思えるんだけど……というか、なぜスーツ姿の刀1本でISの攻撃受けてるんだあの人。筋力も化け物級か?

 

「決着は学年別対抗戦にて付けろ!それまで、私闘の一切を禁じる!!理解出来たなら早く戻れ!!」

 

「……ここまでか、まぁ色々と見れたしいいかな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…私をいいように利用してくれたな」

 

「いやいや、貴方が勝手に乗っかったんでしょーよ……それで、どうだった?候補生2人の攻撃は」

 

「あんなもの、ろくな経験値にもならん…それよりも、セシリア・オルコットを連れ出したのは貴様か?」

 

「ううん?勝手に彼女が出て行っただけだよ。ただ…彼女がちゃんとやる気を出すように、少しだけ手を加えさせてもらったけどね」

 

「それが昨日のメールというわけか……」

 

 色々あったけど、ひとまずやることは終わった。私としては、そろそろセシリアが退場してくれないと、次のステップに進まないから困るんだけど…

 

「……しかし、同室の者を売るとは相当な下衆だな貴様は」

 

「あれ?私が焚きつけておいてなんだけど…簡単にISで人殺ししようとしたあなたが言える義理じゃなくない?」

 

「……なんだと?軍にも所属していない様なやつが何を━━━」

 

「あのね、私ってISを使えることで調子に乗ってる女が大嫌いなの」

 

 ニッコリと、私は微笑んでいた。当たり前だ、別に男をなんと言おうが私は何も気にしないが…それがISによるものなのならば話は別だ。

 こいつは2人を挑発している時に、散々織斑一夏のことを馬鹿にしていたのだが…その際に出される暴言の数々が、私の兄を侮辱したあの女達を彷彿とさせていた。

 

「……貴様…」

 

「所詮ISが無ければ、貴方は軍にすら所属出来なかった可能性だってある。あの二人を倒したのがあなたの実力?いいや違う」

 

「それ以上言えば…」

 

「殺す?その袖の内側に隠してるもので?」

 

「っ…!?」

 

「あ、カマかけたんだけど当たってたんだ?」

 

 にしても、私がわかりやすいのは感情的なせいかもしれない。実を言うと、考えなしに今は行動してしまっている。こういう直情的なことはもうしないと思っていたけど……自制せねば。

 

「…殺しはしない…が、少々落ちて貰うぞ…!」

 

 そう言って、ラウラ・ボーデヴィッヒはナイフを取り出す。てっきりそれで私を刺し殺すのかと思っていたので、私はそれを叩き落とそうと動く。

 ただ、持っている手の手首を叩くだけ…簡単だと思っていたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

「馬鹿め、殺しはしないと言ったろう?安心しろ、首を絞めて落とすだけだ…今までの会話は全て録音済みだ。貴様が一体どう言った人物で、どこの組織のものかは知らないが……全て教官に伝える。覚悟して……」

 

 首を締めれば、気道が確保出来なくなって呼吸困難になる。まぁ、そうなればなんやかんやで気絶させられる。本当に全て録音されているのなら、気絶させられて起きた後には尋問室……なんてざらかもしれない。

 まぁ……あくまでも、()()()()()()()()()()()()()

 

「……それで終わり?」

 

「っ!?貴様なぜ喋れて━━━」

 

 私は、その体制のままラウラ・ボーデヴィッヒの腰を掴む。馬鹿め、そもそも私の体は色々やるために改造済なのだ。首は元々刺されても、器官まで届かないように鉄板を中に敷いてあるのだ。

 少々を首を絞められた程度では、私の呼吸器官が締まる事はない。まぁ首を絞められることは、考えに置いてなかったので驚いたことは驚いてしまった。

 

「は、離せ…!」

 

「残念、落ちるのは貴方の方だったね」

 

 そのまま私は、腰だけを器用に稼働させて足でラウラ・ボーデヴィッヒの首を絞める。殺すつもりは無い、ただ私にしようとしたことと同じように…してやろうと思っただけだ。

 幸い、AICを積んだISというものはたいへん珍しいものだ。そのまま私のISの力にしてやろう。

 

「ぐ、が……」

 

「助けなんて来ないよ、貴方がわざわざ人気のない所で私を襲おうとしてくれたおかげで、見つかりづらい時間と場所なんだもんここ」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒの顔色が段々と真っ青になっていく。このままだと死んでしまうかもしれないが、まぁ問題ないだろう。

 しかし危なかった、彼女が本当に刺しに来ていた場合場所によっては死んでいたかもしれないのだから。

 

「が━━━」

 

 しばらく絞めていたら、グルンとラウラ・ボーデヴィッヒの目が回って白目となる。どうやら、気絶したようだ。

 気絶したフリ……とも考えたが、足を外してからも動くことは無かったので特に問題は無いだろうと考えもした。

 

「丁度いいや……このまま私の部屋に連れて行っちゃおうか」

 

 気絶した彼女のポケットなどを漁ってから、担ぎあげる。そして私は自分の私室へと急ぐ。見つかると困るのは確かだが、適当な場所に放置しても置けない。仕方ないので適当な理由付けでもしておく方が無難だろう。

 というか、彼女の部屋の場所知らんし私。

 

「━━━」

 

「……ん?」

 

 しばらく歩いていくと、どこからか話し声が聞こえてくる。声の主を確認しようと探すと、近くの橋の上に織斑一夏とシャルル・デュノアの2人がいた。

 何故こんな所に2人で話し合っているのだろうか。私はふと気になったので、ラウラ・ボーデヴィッヒが本当に持っていた録音機を使って、その会話の録音を図る。

 

「……それにしても、ありがとう一夏」

 

「ん?何がだ?」

 

「トーナメントの事。僕を庇ってくれたんだよね」

 

「あぁ……なんかあって、お前が女の子だってバレたらまずいもんな」

 

 ……なんと、やはり女の子だったのかシャルル・デュノアは。私の予想は、やはり間違っていなかったのだ。

 その2人の話し合いは少しだけ続いて、そして寮へと帰って行った。私達も、それに続いて戻るのであった。

 忘れずに、彼女の専用機のデータも取っておこう。IS学園内だが…仕方ない。



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黒兎共闘

「……くっ…ここは……!?」

 

「おはよー、目が覚めた?あ、関節外そうとしてもその拘束外せないようにしてるからね。両腕両足を伸ばして縛られてる時点で察して欲しいけど」

 

 部屋に運んでから数時間後、ラウラ・ボーデヴィッヒは目を覚ました。その姿は、おおよそ彼女の体では似合わないようなバニースーツへと変貌していた。というか、私が着替えさせたのだが。

 

「…貴様、私にこんな辱めをさせてタダで済むと思って━━━」

 

「んー?そんなこと言っていいのかなぁ?」

 

「……なんだと?」

 

「はーい、これなーんだ」

 

 私はとある写真を提出する。まぁ写真自体は、彼女が気絶している間に私が撮ったものを少し弄ったのだが……これがまた面白いことになっていた。

 写真自体は、アルバムのようなものに貼られている形になっており、写真に写っている彼女の顔の目元は、彼女自身の手で隠されていた。

 そして、写真の下には名前が書かれているのだが……彼女の本名ではなく、『黒兎ちゃん』とだけ書かれていた。

 まぁ、ハッキリいえば風俗嬢の写真といっても寸分違わないものとなっていた。

 

「じゃじゃーん、この写真…バラされたらどうなると思う?」

 

「……何…!?」

 

「えへへ、男を侮った…それだけであなた負けたんだよ?貴方が風俗嬢をやってる……それがバレたらどうなるかな?」

 

「……だが、その写真が合成だとバレたら貴様がおしまいだぞ?」

 

 あ、やっぱりそう勘違いするんだ。まぁ普通の女子高生…でもないけど、こんな写真見せられたら合成だって勘違いしちゃうよね。けどそうじゃない、さっきも言ったけど……男を侮ったから負けたんだよ、ラウラ・ボーデヴィッヒという少女は。

 

「合成じゃないよ、これ」

 

「……なんだと?」

 

「ふふ、ここで撮った写真をある程度加工したのは本当だよ。でもね、それは背景を弄るためだけの加工だよ。

 それ以外は全部本当……私ってさ、貴方の言う通り男に腰振って生きてきたんだよ。でもね、そのおかげで…こういうお店の偉い人と知り合いになれたってわけ」

 

「……まさか…」

 

「そうそう、ここで撮った携帯の写真の背景を加工、印刷して好きな風俗嬢を選ぶための『メニュー表』に張り付けた写真……それが今貴方に見せてる写真だよ」

 

「ばかな、そんな……!」

 

「勿論、向こうの店長は逮捕されるかもね?けどさ、貴方が年齢詐称した…って言ってしまえば終わりなんだよ。履歴書も、捏造しちゃったとはいえ……手書きじゃなくてパソコンで作ったものだしね」

 

「……だ、だが履歴書を提出した時間とわたしが行動していたことの矛盾が━━━」

 

「貴方が転入する前に出されたものを、どうやってその時無理だったって証明するの?もしかして、織斑先生と会ってた?」

 

 ニコニコと笑いながら私は淡々と告げていく。最後のはただのハッタリだが、どうやら会っていない時間が合ったようだ。というわけで後でそういうふうに改竄して欲しいと連絡しておこう。

 

「……だ、だが貴様より私の方が教官に信頼されて━━━」

 

「されてるの?本当に?ただでさえ問題行動が多い生徒が、問題行動を起こしていない生徒を告発して……信頼されると思う?」

 

「っ……あ…」

 

 何とか反論しようとするラウラ・ボーデヴィッヒ。しかし、今困惑しきっている彼女の頭では、反論が思いつかないようだった。

 

「ふふ、今ここで反論しなかったら……貴方は私のおもちゃになっちゃうよ?」

 

「……っく…くそっ……!」

 

「思いつかないみたいだね……条件、出してあげるよ。その条件を飲んでくれている間…私はこの写真を公開しない」

 

「……その、条件とはなんだ…」

 

「まずひとつ…これはすぐ終わるものだよ。明日からのトーナメント戦、私と組んでね?

 そしてもう1つ…休みの日に、ここの店長に会いに行って話を聞いてきてね?あ、誰かにバラしたら…この写真本名と一緒にネットに流すから」

 

 インターネットは怖いところだ。日本だけのものでは無いため、簡単に世界に流れてしまう。もし、ドイツ軍にこの写真が見つかってしまえば…彼女の人生は終わりだ。

 いや、下手したら祖国に帰ることすら不可能になるかもしれない。最悪、どこに行っても肉便器…まぁそこまでは行かないか。

 

「わ、わかった…条件を飲む…だから、写真を消してくれ……」

 

「んー…じゃあ、店長に会いに行った時に、店長から返事が来たら考えるよ。あ、店長に手を出しても同じようにするから」

 

「ぐっ……」

 

 因みに組んだ理由だが、別に深い意味は無い。ただよくわからない誰かと組まされるより、こうやって操作出来る誰かと組んだ方がいいと思った迄である。

 というか、急遽コンビ組むことになったとかやめて欲しいよほんと……

 

「じゃあ、今日はもう寝てていいよ……あぁそうそう、貴方が私を狙ったこと話す可能性もあるから…行動には気をつけてね」

 

 その言葉一つで、ラウラ・ボーデヴィッヒは悔しそうに表情を出していた。にしても…幾ら自分の立場がなくなる可能性があるからと言っても、ここまで軍に固執するのは何故だろうか?いや、軍というより…教官だった織斑千冬と言うべきか?

 だがまぁ……あまり深く考えるべきではないのだろう。そこまで考えてたら、キリがない。

 

「ま、ひとまず…トーナメント戦楽しみだよ」

 

 私はそう呟きながら、シャワー室に入る。あ、そう言えば……弱み握ったけど…彼女の風呂はどうしようか。拘束を外して素直に…いや、従いそうだ。思いのほか、彼女は純粋なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、トーナメント戦…組み合わせが発表された。コンビを決めてなかった人達はランダムで組まされるが、私とラウラ…それに織斑一夏とシャルル・デュノアの2人は組むこととなっている。

 まぁ……あの、何というか……

 

「1戦目からぶつかるなんて……絶対狙ってるでしょこれ…」

 

 1戦目1試合…私達と男子組がまさかの激突である。なんだこれ、絶対悪意ありありでしょ考えた人。

 まぁでも……効率はいいかもしれない。優勝出来るかどうかは兎も角として、男子組は最初の難関なので潰せればいいだろう。私の知っている専用機持ちの他2人は、機体修理中なため不参加なのも大きい。

 

「……ふふ、さてどうしようかな」

 

 打鉄の武器は刀…遠距離装備を詰めたかな…ラウラのAICを軸にした戦い方をするつもりだけど…向こうはチーム戦なんてやったことが無いだろう。ま、私が合わせればいい。

 という訳で色々省略して……試合開始直前となった。特に面白みもないので。

 

「……前衛に織斑君、後衛にデュノア君…」

 

 分かり切っていたが…面倒臭いことこの上ない。恐らく向こうもAICの弱点に気づいているだろう……もしくは、可能性。

 仮にバレていなくても、この試合中にバレる可能性もある。早々に決着を付ける…!

 

「まさか初戦から当たるとはな……待つ手間が省けたというものだ」

 

「こっちも同じ気持ちだ」

 

 試合開始のカウントが迫る。5、4、3、2、1━━━

 

「「叩きのめす!!」」

 

「うおおおおお!!」

 

「いきなり特攻!?」

 

 ラウラのAICを回避する気がない動き。AICを知らない訳じゃないはずなのに、このバカ一直線…どう考えても囮で本命は後ろにいるシャルル・デュノア!!

 

「はっ!!」

 

「くっ…!?」

 

「シャルル!?」

 

「ふっ…!」

 

 AICで動きを止められている織斑一夏、そして私は彼を素通りしてシャルル・デュノアに一直線に近寄る。無論、彼の装備を叩き落とす…もしくは叩き切るためである。

 

「バレた…!?」

 

「いやいやあんな分かりやすい動き、囮なの丸わかり!!」

 

「そう簡単じゃないか…! 一夏!!」

 

 織斑一夏自身がとめられているにも関わらず、シャルル・デュノアは装備の銃を彼に向かって幾つか投げる。

 

「くっ!?」

 

「へへっ…はぁ!」

 

「小賢しい…!」

 

 投げられた銃に意識が向いて、AICが解除される。仮に今のままAICを展開していた場合、銃身自体がラウラにぶつかるかそちらを止めて織斑一夏の攻撃を受けるかになってしまう。

 そうなった場合、解除するのはある意味懸命と言える。

 

「ていうか装備はもっと大切にね!!」

 

「使えるものから使っていかないと!」

 

「なるほど…ね…!」

 

 私は彼になんとか近づいて、顔を寄せる。鍔迫り合い…片方は銃だが、押せれば問題ない。今この戦いこそ中継されているが、小声を拾うほど音声は暇でもないだろう。

 

「ねぇデュノア君……ううん、デュノア『ちゃん』の方がいいかな?」

 

「っ!?」

 

「ふふ…隙あり…!」

 

 流石に女だということを知ってるのを仄めかしたら、少しだけ怯んだようだ。ま、これ以上はやめておこう。別に、彼らに絶対勝ちたい訳でもないし。

 ただ……バレているって言うのを仄めかす程度なら、後でなにか話しかけられるだろうしね。

 

「シャルル、どうした?」

 

「……鬼村さん、僕が女の子ってこと知ってるみたい…」

 

「……嘘だろ?どこかで聞かれてたってことか…?」

 

「何をしたいのかは分からないけど……警戒は必要だと思う」

 

 おーおー、話してる話してる。まぁカメラが拾わないくらいの小声なんだし、距離があるから私にも聞こえないんだけど。

 

「じゃあボーデヴィッヒさん、サポートよろしく」

 

「あ、あぁ……」

 

 ラウラのサポートのもと、私は彼らに食いこんでいこうと思った。私がサポートしていこうと思ったが、AICがほぼ使い物にならないことだけ把握したので、ラウラの方はサポートに任せることにした。

 幸い、彼女はAICだけではないので安心である。

 

「……けど、鬼村は打鉄だ。あの機体の動かし方は、嫌という程見てる。先に倒して、ラウラを集中的に狙うとしよう…ちょっと、卑怯かもしれねぇけどな」

 

「そういうことなら……僕に任せて。なんとか、知った理由を聞き出してみるよ」

 

「そうだな…じゃあ俺は、ラウラの方を…」

 

「そっちは任せたよ、一夏」

 

 まだ何やら相談しているようだが……関係ない、勝敗の結果関係なく、早く終わらせたいのだ私は。…あれ?となると私負けた方が早く終わるのでは?

 いや…さすがにわざと負けたらわかるか……

 

「じゃあ!僕が相手してあげるよ!!」

 

 さて……量産型の打鉄とはいえ、その気になれば専用機持ちすら倒せる機体だ。ISは装備と性能だけじゃないってところを見せてあげるよ、御曹司ちゃん。

 

「はぁっ!!」

 

 シャルル・デュノアの銃撃が、まるで雨のように私に降り注ぐ。私はISのシールドに接触するよりも早く、刀を動かして弾丸を切り落としていく。しかし、これだけではジリ貧なのは確実なので……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ…!?君、本当にただの女子高生!?」

 

「ごめんね?こういうのは才能だと思うんだ。それに、打鉄をよく理解してないと出来ない動きだよ」

 

 この程度のことは、恐らく山田先生も出来るだろう。あの人はおっちょこちょいではあるが、ISの腕は少なくとも1年生の生徒では勝てるものはいない。例外なく、私もまだ先生には勝てないだろう。あくまでも『まだ』だが。

 

「それでも……負けられない!」

 

「カスタム機とはいえ、専用機…舐めないで…今の私の全力で倒すよ」

 

 織斑一夏とラウラ・ボーデヴィッヒ、私こと鬼村五十冬とシャルル・デュノア。この2組の対決が、いま始まるのであった。




ソープ嬢黒兎誕生の回


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黒兎暴走

 ラウラ・ボーデヴィッヒ&鬼村五十冬VS織斑一夏&シャルル・デュノアの試合。

 振り返ることがあるとすれば、私こと鬼村五十冬はシャルル・デュノアと戦い、ラウラは織斑一夏と戦うことになった。いや、単純に同じグラウンドの中で1VS1というものは出来ない。

 一応体裁程度で行われているものであり、時々少しの間だけ入れ替わったりしていた。

 しかし、向こう2人は専用機でこちらは私が量産型。戦い方さえなんとか出来れば、カスタム機のシャルル・デュノアとも互角に戦えるし、いくら特訓しているからと言っても付け焼き刃の織斑一夏とも戦える。

 

「これを出す気は…無かったんだけど!!」

 

「シールドスピア!?」

 

 ━━━だが、試合の持ち運び方は向こうの方が上だった。シャルル・デュノアのIS…シールドと見せかけて、中に飛び出す槍……なんだっけ、パイルバンカー?のようなものが仕込まれているのだ。100%不意打ちでしか使えないものの……零距離で当てられるとそれなりに吹き飛ばされるしエネルギーも減らされる。

 そして、予測出来ていなかった私は、ギリギリで避けようとしたが簡単に吹き飛ばされる始末である。

 

「がはっ…!」

 

 あんな啖呵を切っておいてこのザマというのは、些か情けなさを感じてしまう。しかし、エネルギーはまだ十分残っている。回避運動が多少功を奏したのか、思っていたよりもエネルギーが減ることは無かった。

 

「……驚いたよ、あれまで回避されるなんて…ね!!」

 

「危なっ!?」

 

 まさか連続でピストン運動できる代物だとは。壁に叩きつけられていた私だが、ギリギリで回避ができた。

 

「あぁもう……!」

 

「どうしてあんなことを言ったのかは、後で聞かせてもらうよ…今はラウラを━━━」

 

「ボーデヴィッヒさん!!」

 

 私は片腕を伸ばす。ラウラから飛ばされたアンカーが、打鉄のアームに絡まっていく。そしてラウラはそれを引っ張って、私を強制的に逃がさせる。

 

「なっ!?」

 

「ついでに不意打ち!!」

 

 逃げざまに、彼には刀を投げつけておいた。後で拾えばいいでしょ。ちゃんとぶつかったようで、エネルギーを消費させることが出来たよ。

 

「……あぁもう、お互い派手にやられちゃって…」

 

 ラウラのご自慢の砲塔は見るも無残な形で爆散していた。転校してきた初日から、コンビを組んでいた男子チーム。それに比べて即興チームもいいところの私たちではこの程度だろう。

 

「かと言って、負ける訳には…」

 

「………」

 

「……ボーデヴィッヒさん?」

 

 ラウラが何やらぼーっとした顔で何かを呟いていた。チラチラと見ていたが、時折私が織斑一夏に仕掛けるようにシャルル・デュノアもまたラウラに仕掛けているのだ。

 ボロボロにやられているせいで、プライドでも傷つけられたのだろうか?

 

「━━━寄越せ…力を…!」

 

「……は?」

 

「うっ、くっ……うおああああああ!!!!」

 

 叫び出すラウラ。それと同調するかのように、突然彼女の周りには電流が迸り始める。そして、彼女の専用機が液状化していき彼女の体を飲み込んでいく。

 

「……何これ、ドイツ軍こんなもん積んでたの…?」

 

 一応、彼女のISのデータは私が取ってある…が、こんなものまで混じっていたら…少々使うのが億劫になってくる。というか、再現できなかったらいいのに。

 そのまま彼女の変貌を眺めていくうちに、それはまるで…ISを纏った女性の人形のようなものになる。

 

「鬼村!!」

 

「鬼村さん!今彼女に近いのはまずいよ!!」

 

「あっ」

 

 そういや私、真隣じゃん。なんて気づいた瞬間に、私の体は吹き飛ばされていた。先程のシールドスピアよりも、圧倒的に高いパワーによって…当然、そんなパワーで押し出されてしまっているので、私の体は再びアリーナのグラウンドの外壁に突撃する。

 

「鬼村ああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大変だ。ISが解除されてしまった。いや、エネルギーは足りている。だが、ISの所謂生命維持装置的なものが発動し、勝手に解除されたのだ。私の体の中って、所々鉄なせいで壊れたら偶にこういうことが起こるんだよね。

 まぁ、さっきの一撃で両手使用不能になったっぽいし。痛くはないんだけどねぇ……中の鉄がボコボコに凹んじゃって、曲がってるどころの騒ぎじゃない腕の形になってる。

 

「……ぁ…う……」

 

 そして、何故か声が出ない。ちょっと確認……あ、首の中の鉄が凹んで空気を送るスペースが少なくなってるんだ。

 そのせいで、声を出そうにもかすれ声程度の空気しか出てこない。

 

「この野郎!!」

 

 そして、騒動の中心では織斑一夏が簡単に吹き飛ばされていた。まぁ、そもそもあれがなんなのかよく分かっていないのが現状なのだが……ラウラの専用機が液状化…もうこの時点で意味不明なのだが、その後にまた別の形を取っていた。

 あれは…黒一色なせいでわかりづらいが、打鉄を身にまとった別の女性のシルエットに見える。多分、織斑千冬辺りだろう。刀を持っているし、彼女と関係があるのは織斑千冬だけだ。

 

「ぁ…あー…」

 

 うん、声が出るようになってきた。無理やり入れられたナノマシンだけど、体の修復をしてくれるなら便利である。武器にも使えるという話だったけど……まぁそれをする余裕はないかな。

 出来れば体から治って欲しかったところだけど、全部同時作業で進められてしまっているから文句は言えない。

 後数分もあれば、体は治せる。その間に何とかなるだろうか…?

 

「一夏」

 

「シャルル…」

 

「僕のISのエネルギー、分けてあげるよ」

 

 ……向こうでは、シャルル・デュノアが自身のISのコードを取り出して、待機状態となっている白式にエネルギーを送っていた。しかし、白式は先程の一撃でエネルギー切れ、シャルル・デュノアの方もエネルギーは残り少ないだろう。

 それを証明するかのように、エネルギーをチャージしたにも関わらず白式が展開できたのは片腕と武装の2つだけだった。だが、恐らく織斑一夏が狙っているのは……零落白夜だ。あれが当たれば、問答無用であの物体は切り裂かれてラウラはあの中から出てくるだろう。

 他のISが無力化するよりも現実的で楽な戦法だ。

 

「それを見逃すわけが無いんだけどね……よし、声が出てきた」

 

 私の打鉄は……こっちもさっきのでエネルギーをかなり持っていかれたからなぁ…にしても私の体、鉄の部分が妙に脆いわ。凹みやすいだけかな…後で入れ替えても良さそう。

 兎も角、だ。少ないと言っても展開自体はできる。ブーストで不意打ちで突っ込んで……『あれ』の両腕を飛ばす。ラウラの腕が切れる可能性があるけど、多分大丈夫でしょ。

 ロボットアニメみたいに、多分中心に棒立ちで居るだけだろうしね。そもそも、あれの大きさとラウラの大きさが噛み合ってないからそう考えてるだけだけど。

 

「ま、いいや……一瞬で飛び込む━━━」

 

 幾つか邪魔な教師陣のISがいるけど、織斑千冬が引かせてくれたようで何よりである。

 私は一瞬だけ感謝をしながら打鉄を展開、そしてそのまま一気にブーストをかけて突っ込んでいく。切り終わったら、打鉄もエネルギー切れになるけど……大丈夫でしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼村!?」

 

「鬼村さん!?」

 

「手伝う、よっ!!」

 

 所々しか聞いてないから事情は知らない。知る気もない。私はさっさと終わらせて部屋で寝たいんだ。じっとしててもいいが、無駄に長引かせるのも面倒だし癪だ。

 というか、1回勝った相手に不本意に負けさせられたのがなんか腹立つ。

 

「ふっ…!」

 

 ラウラの元ISが1番早く反応して攻撃をけしかけてきたが、さすがに偽物の織斑千冬だ。丸見えである。

 私はまず刀を持っている腕を根元から切り上げる。吹き飛ばされた腕を確認する前に、片足を軸にして切り上げた体勢のまま背後に回る。そしてもう片方の腕を一気に切り落とす。

 

「はああぁぁぁぁあ!!」

 

 そして、トドメと言わんばかりに織斑一夏が真ん中を切り裂く。その中から、ラウラがまるで桃太郎のように現れていた。無論、無傷である。

 そして私は、切り終えた直後に打鉄のエネルギー切れが訪れたために、慣性の法則で吹っ飛んで行った。しかも無駄に体を回転させていたので、ブーメランの様に飛んで行った。吐きそう。

 その後地面に落ちたあと確認したが、ひとまずラウラは保健室…私も織斑一夏も、みんなまとめて保健室……ナノマシン入ってるのバレたくないので、軽く体を動かして無理がないことだけ証明して、私は先に帰った。

 体の中に鉄を入れてる…なんて情報だけを先に教えていたせいか、簡単に信用してくれたな…

 そして、この事態も簡単に終わりすぎである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五十冬さん!大丈夫でしたか!?」

 

「うん、すこぶる大丈夫!」

 

 部屋に帰ると、セシリアが出迎えてくれた。大丈夫なのは本当の話である。体の中身はほとんど鉄製品なので、ナノマシンがその辺補強してくれてれば、だいたい何とかなってる。

 

「先生達から、ひどい怪我を負っていてもおかしくない……と聞かされていましたので…」

 

「打鉄がいい感じに私の体守ってくれたよ。おかげで、打鉄1つおじゃんらしいけど」

 

 あの後、実を言うと打鉄が何故か起動しなくなった。打ちどころが悪かったのを、無理して起動させたから…という予想だけ聞いたのだが、まぁ仕方ない。私はしばらく授業に参加することが出来なくなった。

 

「セシリアのISはどう?」

 

「しばらくは使えないので……しばらく私達は見学ですわね」

 

 私達のISが治るまでは、授業に参加することは不可能らしい。ま、こればかりは仕方ないだろう。さて、打鉄をおじゃんにしてしまった後どうなるか…反省文…だけで済むといいなぁ……

 

「そう言えば、織斑先生から伝言を預かってますのよ?」

 

「伝言?」

 

「何やら重大な話…らしいのですが……私も詳しいことは聞いていないんですの」

 

「……何だろう?」

 

「何やら楽しそうに微笑んでいましたが……」

 

 楽しそう、か……私がスパイって確定したから処刑する楽しみ…ではないと思いたいが…織斑千冬が、人を処刑するにあたって笑顔になるような人物でないことを祈るしかないだろう。

 

「それで……本日はどうなされるのですか?」

 

「もう休むよ。ご飯食べて、お風呂入って……ゆっくりしたいかな」

 

「それがいいですわね、今日は色々ありすぎましたもの」

 

 私達は軽く談笑しながら、ひとまず休む手段を整えていく。確かに、セシリアの言う通り今日は色々ありすぎた。

 時間にして、1時間もないのではないだろうか?そんな短い間に、色々起こされると確かにめんどくさいものがある。

 

「……ま、終わったしいいかな」

 

 これからやることは……セシリアのことに関してはいつも通り、けどこれに加えてラウラの事とシャルル・デュノアの事まで入ってくる。

 ラウラはまぁ店長に任せればいいとして、シャルル・デュノアはどうするかまだ決めていないのだ。

 同じ店長に任せるのは流石に負担がでかいだろうし……AVの社長とか、社員みたいな知り合いいたかなぁ。ま、いなかったら調べればいいかな。

 

「何とかなるなる、前向きに考えていこう」

 

「そうですわね、きっと織斑先生からの言伝もいいものですわ」

 

 おっと、どうやらセシリアに聞こえるくらいの声で言ってしまったらしい。だが、勝手に解釈してくれたようで助かった。

 兎も角、私も色々と考えていかねばならないだろう。面倒くささ半分だが、楽しさも半分存在しているので……明日からまた楽しい学園生活を送れそうである。



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少年少女

 こんにちは、鬼村五十冬です。今私、ホームルームの途中なんですが…その、教室のみんなと一緒に唖然とした表情でした。

 まぁ、簡単な理由説明……というよりこの状況をすぐに山田先生が説明してくれるだろう。

 

「……え、えーっと…本日からこのクラスに転入生が入ります…」

 

「シャルロット・デュノアです、皆さん改めてこれからもよろしくお願いします」

 

 私はこの瞬間、『やられた』と判断した。というのもシャルル・デュノア……いや、シャルロット・デュノアが今まで男だと言うことを嘘にして、本当の性別である『女性』をさらけ出したのだ。

 こちらの持っている情報の『偽った性別』は、既に使い物にならなくなった。恐らく、あの日の晩に織斑一夏がなにか提案したか…それともなにか思いついたかしたのだろうが……しかし、随分と思い切った作戦に出たものだ。

 

「なーんかおかしいと思ってたのよねぇ」

 

「あれ…?でもちょっと待って?」

 

「昨日、確か男子は大浴場に入ってたわよね!?」

 

 そして、教室は荒れ始める。当たり前だろう、先程他の生徒が言った通り昨日は男子の大浴場がオープンした日なのだ。そして、昨日までの時点で男子は2人、そして相部屋……分かれて入るはずがない。

 そして、同じ部屋だった織斑一夏が彼女のことを女だと知らなかったという可能性も低い。つまり━━━

 

「一夏ァ!!」

 

「鈴!?」

 

 壁を壊して、凰鈴音が1組に入ってきた。いや、壁ではなくて律儀に教室のドアを壁ごと破壊していた。無論、ISで。

 理由は明白、織斑一夏がシャルロット・デュノアと大浴場に入ったからだろう。

 

「死ねッッッッ!!」

 

「待て待て待て!本当に死ぬ!!」

 

 暴れることも、織斑一夏を殺すのも別に構わないのだが、ここでISを使うのは辞めて欲しい。瓦礫の破片が辛い。かわすのが面倒。

 凰鈴音は、織斑一夏に向けて龍砲を放つ。不可視の一撃だが、その攻撃は織斑一夏には届かなかった。

 

「……あれ?死んでない?」

 

「……」

 

 おや、ラウラが守っていたようだ。珍しい……どうやら、AICを使って龍砲の慣性を止めたようだ。ほかの物理兵器とは違って、落ちることも無い攻撃なので問題がなかったようだった。

 

「助かったぜラウラ、危うく死ぬところだっんむっ…」

 

「えっ」

 

 つい変な声が出てしまった。というのも、今目の前でラウラが織斑一夏に対してキスをしたのだ。何だ、なんなんだ今日は……あまりにも情報量が多すぎる。シャルロット・デュノアについて考えたかったのに、ラウラのキスシーンのせいで新しい問題が浮かび上がってしまったように思えたぞ。

 

「ぷはっ……お、お前は今から私の嫁だ!異論は認めない!!」

 

「えっ?」

 

「「「ええーっ!?!!!」」」

 

 クラスの私を除いたほぼ全員の女生徒の叫び声が響き渡る。まぁ、うん…いくらなんでも変わりすぎだろ。なぜつい昨日まで嫌っていた相手に対して、『嫁』だと言えたのか。

 そもそも嫁なのはお前だろうとか、じゃあお前はなんなんだとか…色々言いたいことはあるが…心の中ではこう呟いておこう。『調子乗んな』と。

 いや、別に織斑一夏にキスをしたから怒っているのではない。なぜ、今更青春をしようとしてるのかという話である。前に脅していた私が馬鹿みたいじゃないか。

 

「……嫁って…」

 

「……おい」

 

「ひっ…」

 

 私がラウラに対して呆れていると、後ろから修羅の声がした。当たり前だが、織斑千冬の声である。何故今私は修羅と例えたのか?つまりはそれだけ怒っているということなのだが、その理由としては主な理由が3つほど私はあげることが出来る。

 1つは、教室の破壊。当たり前だ、そんなことをして怒らない教師は恐らく怒りの感情をどこかに捨ててきてしまっているだろう。

 2つ目、今がホームルームだということ。既に前にもホームルームギリギリの時間までいた事を怒られているため、これもまた当たり前の話である。

 3つ目、弟である織斑一夏に手を出したこと。彼女は恐らくブラコンである。そうでなくとも、たった一人の身内に手を出されることは怒り心頭である。

 

「全部凰さんがやりました」

 

「よし、覚悟しろ」

 

「ま、待って織斑先━━━」

 

 直後、凡そ生徒名簿から鳴るはずのないような轟音が響き渡ってきた。今凰鈴音を売ったのは私だが、今売らなければ面倒臭いことに時間を取られるのはわかり切っていることである。

 私は、本当に無駄だと思うことに時間をかけるほど……バカではない。

 

「山田先生、今からこのバカを連れていくのですみませんがホームルームをお願いします。

 それと鬼村、少しついてこい」

 

「え、今ですか?」

 

「あぁ、何用事はすぐ終わる……渡したいものがあってな」

 

 セシリアが言っていたことだろうか?渡したいもの……何だろうか?私の専用機!なわけないか……しかし、前に壊した打鉄の件が関わっているような気がしなくもないが……さて、どうなるやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これだ」

 

「……IS、ですよねこれ。白いけど…打鉄…ですよね、これ」

 

 私はとある格納庫に連れていかれた。そして、目の前にあるのは白い打鉄…のような機体。白式ほど装備が充実しているようには思えないが、しかし確かに少し装備が増えた打鉄といった印象を抱くものだった。

 

「あぁ、実はな…少し説明するには色々な事情があるんだ」

 

「色々な事情、ですか?」

 

「トーナメント1回戦、ボーデヴィッヒが暴走した時にお前は遠慮なくあの時のボーデヴィッヒのISの腕を切っていたな。

 その時の移動速度と、小回り…遠慮なくそして正確に切ったその腕が見込まれて、壊れた打鉄を元にカスタム機を作ろうという話になった」

 

「それで、この機体が?」

 

 まぁたしかに、あの時の私はかなり遠慮なく切り飛ばしていた。自分に絶対の自信があった訳じゃなくて、ただ腕が切れてもよかっただけなのだが。

 

「あぁ…そして、その動きの対象として白式をモチーフにする事になった。それがこの機体が白い理由だ」

 

「色塗っただけで白式モチーフ……なわけないですよね」

 

「あぁ、流石に零落白夜を再現するのは難しという判断になってな。代わりに速度を増して、無理矢理攻撃力を上げるという選択肢になったらしい」

 

 作ったやつの頭の中が見てみたい。確かに慣性的な話をするんだったら、豆腐で人が殺せるように速度を上げて攻撃力を上げるのは間違いではない。ただ搭乗者の事を考えろよ、どんだけGがかかると思ってんだ。

 

「……えぇっと、おこがましいようですけど…つまりこの機体は私の専用機…って事ですか?」

 

「大まかに言えばな」

 

「……大まか?」

 

「腹が立つ話だが、このISは並の人間に使いこなせる代物じゃない。操作が難しいと言うより、ただただ安定していないんだ」

 

 話を聞いている限りそうだろう。なぜ速度に振れて攻撃力には触れなかったのか?しかも直線的な移動しか出来ないのではないだろうか、その理論だと。

 

「専用機、と言えば聞こえはいい……だが…これは『実験機』だ。白式や他の専用機のテストをするために生み出された、と言えばわかりやすいか」

 

 なるほど、それは確かに実験機だ。私は公式的にモルモットにされたということになる。だが、それを断る権利は私にも…ましてや本人でもない織斑千冬にはないだろう。

 

「…因みに、乗らなかったらどうなります?」

 

「弁償、だそうだ」

 

 あー、どうしよう。今私ものすごくイラッときた。誰だよこれを勝手に作ったやつ。Sに頼んで亡国企業でそいつ潰してやろうか?

 まぁ、今更言ったところで仕方ないだろう。私に渡されたのだというのならば、私はこれを使っていくとしよう……あくまでも表向きは、だが。

 

「…それと、この機体に関してまだ注意事項が残っている」

 

「注意事項…?」

 

「……これに乗る、鬼村五十冬。彼女本人が使いこなせるように調節された『ものでは無い』という事だ」

 

「……そりゃまた、随分と…」

 

 打鉄1つおしゃかにされたのが、そんなに腹が立ったのだろうか?いや、さすがに自分の作ったものを破壊されたら怒るか…にしてもまさか、代償が動く棺桶だとは思いもよらなかった。

 

「……別に、これに乗らなくてもいいんだぞ?」

 

「…いえ、乗りますよ」

 

「………いいのか?」

 

「心配してくれてありがとうございます、けど渡されたものですし…破壊しちゃったのは私ですから、私がケジメをつけないといけないんです」

 

 まぁこの機体があって、役に立つことが何かあるのかもしれない…他のISを進化させる実験機だとしても、自動的に私本来のISの武装が増えていく可能性があるのなら、乗っても損は少ないだろう。そう思いたい、そう思わなければキレそう。

 

「因みに、名前はあるんですか?」

 

「……聞きたいのか?」

 

「聞かないと駄目じゃないですか」

 

「……サクリファイス、だそうだ」

 

 凄い。何がすごいかって、和訳で生贄って直訳にも程があるだろう。本気で私を人柱に捧げる気らしいな、これを作った人物は。

 

「まぁ、いいんじゃないですか?長い名前よりもわかりやすい」

 

「……そうか、お前がそう言うなら…」

 

「私は大丈夫ですよ〜」

 

「……それと、この機体を持った以上IS学園としては、専用機持ちと変わらない扱いをすることになる。1つの国に属していない以上、あちらほどの強制力はないが出来る限り、こちらから出された指示に従ってもらう必要性がある」

 

「なるほど……わかりました」

 

 これを持ってしまった以上、私は劣化専用機持ちと言うことになる。その分、IS学園に縛られてしまうが……仕方ないだろう。借金は別に怖くはないが、無駄にスパイとか差し向けられても困る。

 

「…あぁそうだ、後で専用機持ちの奴らに言ってほしいことがある。凰からは、私が伝えておくが……」

 

「なんですか?」

 

「臨海合宿だ、水着を買っておけ……文不相応な奴をな」

 

 文不相応とはなんだろうか、まるで私の胸が小さいとでも言いたいのだろうな。馬鹿にするな、これでも凰鈴音以上のものは持っているのだ。篠ノ之箒?あれは規格外だ、関係ない。山田先生?そんなおっぱいおばけは知らない。

 

「わかりました、伝えておきます」

 

「それと、織斑にもう一つ伝えておいてくれ」

 

「へ?」

 

「荒れるような真似はするな、とな」

 

 なるほど、恐らく1人で出歩くな…などと言ったことだろう。彼は世界で唯一のIS乗りの男性である。他の企業や、その他の男性から疎まれている事も多いだろう。

 ましてや、あの性格だ。絶対に殺られる。と、私は世界で唯一の織斑一夏を関連でふと思い出したことがあった。

 

「そう言えば、これを聞くのってマナー違反だと思うんですけど…」

 

「何だ?」

 

「デュノアさんが女性だということ、世間にバレてるんですか?」

 

「……そうだな、あれが本格的にバレてしまうとデュノア社の信用問題となるだろう……」

 

「……幾らIS学園があらゆる国の法に縛られないといっても、デュノア社から何か言われると思うんですが…」

 

「そういった事を、大人は汚く解決するもんだ」

 

「…汚く?」

 

 これ以上聞くのは、恐らくダメな事なのだろう。デュノア社の一切の不利益にならない方法が、あったのだろう。

 私はこれ以上聞くのをやめて、織斑千冬に挨拶をしてから教室に帰っていく。

 シャルロット・デュノアが、自分のことを女だとばらした事によって、私が彼女を脅すことは出来なくなってしまった。そこをなんとかするために思考をしながら、私は考えを張りめぐらせるのであった。




五十冬ちゃん、カウンターを食らう


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少女休暇

 sideセシリア

 

 シャルル・デュノアという男性が少女だという事実の公表、そしてラウラ・ボーデヴィッヒが一夏さんにキスをして『私の嫁』という宣言をするというかなり情報量の多いことが起こったこともあった後。

 私、セシリア・オルコットは休日にとある男性から呼び出せれていました。

 

「……なんですの」

 

「いやぁ、よく来てくれたね。まぁとりあえずお茶でも飲んでいきなよ」

 

 見た目的にも、私と同年齢と言った感じの男性…髪は黒く老けていない容姿。そして顔はそれなりに整っているところも相まって、私と付き合っている男性と言われてもおかしくないほどでした。

 しかし、わかりきっていましたが呼び出した男性とはまったく別の人です。

 私は、そんな彼に連れていかれてとある一軒家にお邪魔することになりました。

 

「連れてきましたよー、例の金髪の子ー」

 

「おー、助かった。なんならお前もやってくか?」

 

「え、いいんすか?謝礼まで貰ってんのに」

 

「そもそもこんな危ない橋渡ってきてんだ。やっていかなきゃそんだっての」

 

「そりゃ確かに……んじゃあお言葉に甘えて、俺も参加させてもらいますよ」

 

 私の事を無視して、彼らは楽しそうに談笑していました。しかし、この家で彼以外の相手をするなんて…と、私は考えておりました。そんな私の意思は、彼らに関係ないことはわかっていますが……どうしても、やるせない気持ちになるというものです。

 

「あ、ちなみに何人いるんすか?」

 

「今のところ4~5人だな、お前さん含めて」

 

「へぇ、多いっすねぇ」

 

「だと思うだろ?まだまだ増えるからな」

 

「うわぁ、そんな全員のやつ咥え込むんすかこの子」

 

「へへ、お嬢様らしいけど好き物だよなぁ」

 

 好き勝手に言われてますが……私は反論すら許されません。彼らに犯されたのは事実ですが、悦んでいたのもまた事実…その時の写真を送られてしまったら…私は退学所では済まなくなってしまいます。

 最悪、ブルー・ティアーズから降ろされる可能性だって……そうなってしまえば、私は人生の終わり、ということになるのでしょう。

 

「おーい、セシリアちゃん来たぞー」

 

「やっとすかぁ?へへ、色々試してぇ奴があるからなぁ」

 

 そう言ってるた男は、手にカバンを持っていました。パンパンになっているそのカバンに何が詰まっているのかは、私には分かりません。

 しかし、碌でもないものであることと……私はその碌でもないものに喜ぶような体になってしまっているのだということ、その両方が、私をさらに苦悩させていました。

 

「つかよ、セシリアちゃんはもう脱いでてくれよ。つか始めようぜ?どうせ、みんな精液まみれのセシリアちゃんの体触るんだしよ」

 

「それもそうだな」

 

「お、それなら俺に準備させてくれよ……あ?ほらセシリアちゃん早く脱いでよ」

 

「は、はい……」

 

 私は、言われるがままに服を脱いでいきます。男達の視線が、私の体を舐めまわすように頭の先からつま先まで、見ていることがわかりました。

 私は嫌悪と羞恥心を覚えながらも、服を脱いでいきました。さっさと終わらせて、楽になりたかったのです。

 

「へへ、相変わらずいい体してんなぁ」

 

「これで高一なんだぜ?しかもなりたてホヤホヤの」

 

「つーことは15~16歳ってことか?ほんと、いいもん食ってんだなぁ?」

 

「…」

 

 恥ずかしくなるような事を言われながらも、私は脱いでいきます。体をせめて隠したかったのですが、その前に両手を抑えられてしまって両手をあげることしか出来ませんでした。

 ISが使えない自分が、ここまで無力とと言うのを……改めて実感致しました。

 

「で?準備って何すんだよ」

 

「へへ、最初の方だけ我慢しろよぉ?」

 

 そう言うと、男はビニール手袋を付けました。私は、それを何のために付けたのか理解ができなかったのですが、直後にローションをビニール手袋につけた事で、私の膣に触れる……そう予測しました。

 しかし、男が触ったのは……私のおしりの穴…アナルだったんです。

 

「いぎっ!?」

 

「ローション付けたとはいえ、結構簡単に飲み込むなぁ?」

 

「そりゃあ前に1回開通させたからなぁ?それなりにガバガバだろ」

 

「へへ、それにしてもだな。自分でいじってたんじゃねぇの?」

 

「こんな淫乱お嬢様だからな、有り得そうだぜ」

 

 男達が、私のことを好き勝手に言っていますが…私にはそれに対して文句を言うことは出来ません。それは、私自身がアナルに指を入れられている為に、そちらにしか意識が向いていないからです。

 

「うぎっ、がっ……!?」

 

「苦しそうな声上げてんなぁ?」

 

「すぐ慣れてくるでしょ……ほれみろよ、ま〇こ濡れてきてんぜ」

 

「うわ、ほんとだ……ほんとセシリアちゃんってドMなんだなぁ?」

 

 幸い、入れられているのが指だけなので辛いだけで済んでいるものの…それだけで私の正気がゴリゴリと削られていくような感覚に襲われていくのです。

 そして、男達の言う通り……段々とその行為に快楽を感じ始めていました。前ですら、ある程度快楽に屈してからではないと感じなかったのに、こんな直ぐにアナルに慣れて快楽を感じ始めていたんです。

 

「ひ、ぁ…!なん、れこんな……!」

 

「人ってのは、痛みに対してすげぇ弱いからな。痛みに耐えられるように、快楽物質を流すらしいぜぇ?」

 

「かい、らく…!?」

 

 脳内麻薬。本来、極限状態にでも陥らない限り発生しないもの…だというのを私は後で知りました。この時私の精神が、この状況に余程精神を摩耗させていたのか…それともただ私の体が本当に淫乱だったのかは分かりません。

 けれど、どちらにしましても私の体が痛みに対して快楽を得るようになったことには変わらないのです。

 

「ひ、ぐぅ…!」

 

「よしよし、尻はだいぶ慣れてきたなぁ」

 

「で?どうすんだ?」

 

「こいつを……いれる!!」

 

「あぐぅ!?」

 

 私のお尻の中に入れられたのは、所謂動物の尻尾を模した毛の塊が着いたアナルビーズでした。

 グリっと押し込まれたそれは、確かに私のアナルに異物感を与えましたが…すぐに快楽になるようになっていきました。

 

「ほぁ……ひぃ……」

 

 私の足は、四つん這いになっているのもあってかガクガクと震えていました。正直、浣腸などでも人間はかなり混乱することもあると言うのに、奥まで届く物体が入ってくるのだから当たり前といえば、当たり前です。

 

「へへ、すっかり顔が蕩けてんなぁ?」

 

「やっぱり淫乱だな、このお嬢様は」

 

 そう言いながら、尻尾と同じ色をした付け耳と赤色の首輪が私に取り付けられました。

 首輪は、大きな鎖で繋がれておりジャラジャラと遊ぶかのように男達は揺らしていました。

 

「ほーれ、これでセシリアちゃんは俺達のペットだ。つまり所有物だ」

 

 本来の私ならば、ここで憤慨していたことでしょう。『この私を家畜扱いとは無礼な』と。しかし、今ここで私が……私の体が取った反応は愛液を垂らすということでした。

 その事に、ペット扱いをされて私の体が興奮したことに…私は気づきませんでした。

 

「へへ…じゃあペットなら…いや、獣ならSEXじゃなくて交尾しないとなぁ?」

 

 まるで冗談でも言っているかのように、男は笑いながら自身の肉棒を私の膣へと押し込んでいきました。

 既に処女は散らされている身ですが、やはり好きでもない人物のものを受け入れるのは、屈辱的なものだと感じてしまいます。

 しかし、確かに屈辱的な気持ちはあるのですが……同時に私の体は高揚感を覚えていました。まだ、それに気づいていない今は……とても幸せだったのかもしれません。

 

「う、あぁ…!」

 

「おーおー、こっちは締まり良いなぁ…んじゃあ動くぞー」

 

 肉と肉がぶつかり合う音。しかし、私はそれに対して許されているのは声を出す…しかし意味のある言葉を吐くことは禁じられているようなものでした。売春婦のように、喘ぐ。恐らくそれだけが私が取れる最善の策なのでしょう。

 それを行うほど、余裕が残っている訳でもないのですが。

 

「ひ、ぐ、ぁ……!ひぁ…!ん、ぁ…!」

 

「へへ、甘い声が漏れてきてんなぁ。ほんと、エロい高校生だぜ…ほんとは、執事とかにやらせてたんじゃねぇか?」

 

「いや、案外メイドとやってるかもしんねぇぜ?なにせ、このご時世に好き好んで男に股を開く女なんて全然いねぇからよォ」

 

「確かになぁ……なぁおいセシリアちゃん、正直に言えよ?あんた、男か女とSEXしたことあんのか?あぁ、前に襲われたってのはノーカンで頼むわ」

 

 正直に言う必要はありません。しかし、おそらくここで私が嘘をいえば…バレてしまう可能性もあります。そうなれば、五十冬さんに魔の手が伸びてしまいます。

 

「……寮の同室、の…人と…何度、か…」

 

「つーと……んだよ、セシリアちゃん同棲愛者か」

 

 ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべたまま、私を陵辱する男達。そして、その答えをした後はもう聞きたいことも無いのか、私の口の中にまで肉棒を押し込んでいきました。

 

「ん、ぶぅ…!?」

 

「おー、口の中もあったけぇな。喉まで犯してやんよ」

 

 そう言って、私は口内…そして喉奥まで犯されていきました。呼吸すらもまともに出来ないままに、頭の中に火花が散るような感覚を短い間に何度も味わされました。

 

「んぶ、おぶっ…!」

 

「おいおい、無茶苦茶すんなよ?吐かれたら掃除面倒なんだし」

 

「まぁまぁ、それなりに壊してやれば大丈夫だろうよ。後で俺らに逆らえなくなんだからよ」

 

 酸素が足りなくなってきて、私の頭の中が段々と真っ白になっていきました。その中で、ただ快楽だけが私の頭の中に刻み込まれていきました。ふと、私はこの状況を覚えてしまうと……このまま頭の中に快楽を刻み込まれてしまうと…今まで以上に戻れなくなってしまうと思いました。

 思っただけで……一切、他のことが出来ないことには変わりがないのですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間経った事だけは覚えています。しかし、既に夜遅い時間になってようやく私はお風呂に入れられて解放されました。

 匂いは落ちたと思いたいのですが、あとからかけられた香水によってきつい匂いをつけられてしまいました。

 これをある程度落としてから出ないと、恐らく帰ることは難しいでしょう。

 

「そう言えば…五十冬さんはどうしたのでしょう……」

 

 彼女には、少しだけ用事があるとだけ言って出てきたので、そこまで疑われるようなことは無かったと思うのですが…けれど、携帯に特に連絡が入ってないことを考えると、問題はなかったようですね…

 私はそう考えて、少し警戒しながらもその後無事に寮に戻ることが出来たのでした。

 彼女が、一体何をしていたのか……私はその事には一切考えが及んでいなかったのですが、当たり前の話ですが…気付くことはありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「んぶ、おぶっ……!」

 

「いやぁ、五十冬ちゃんいい子連れてきたねぇ」

 

「いやいや、もっとぶっ壊してあげてくださいね」

 

「それでさぁ、あの子本当にタダ働きさせていい訳?」

 

「あぁ、寧ろそっちの方が助かると思いますよ?」

 

 私はとあるお店に来ていた。理由は、ラウラの初出勤の日だからだ。今日は、初めてということで仕込むために暇な男性諸君で輪姦してあげているそうだ。

 私が残っている理由は、彼女の働き方が色々と特殊なために店長と話し合うためである。

 

「給料入らないことが助かるって…どんな境遇よ」

 

「こんなお店で店長してる貴方に言うのもあれですけど……世の中って、結構黒いですからねぇ」

 

「いやぁ、五十冬ちゃんの過去に比べたらそんなもの明るいうちに入る気がするけどね?」

 

 こんな如何わしい&法外なお店をしている時点で真っ黒なのだが、こんな店長でも私にご飯を奢ってくれたりするいい人なのである。因みに、彼に奢ってもらったお金は無理矢理返した。

 でまぁ…簡単にラウラがタダ働きする理由について語ろう。

 口座にお金が入ると、彼女の口座を管理している人が怪しんでラウラの人生が思った以上に早く終わる可能性があるからだ。

 手渡しの方がいいって?女の嫉妬は怖いのだ、手渡しで盗まれるなんてしょっちゅうである。

 

「あはは、ありがとうございます。では彼女のことよろしく頼みますね?」

 

「うん、えーっと…週一だっけ?」

 

「そうですねぇ…まぁ事情が事情なんで…」

 

「OK、了解したよ」

 

 その確認だけをしてから、私はお店から出ていく。因みにこのお店はそれなりにどころか、反政府レベルで法を脱しているので…バレたらラウラは相当やばいことになる。

 私?確かにバレたらまずいけど…亡国機業の事を話そうとしたら、多分頭弾け飛ぶから大丈夫でしょ。

 そう思いながら、私はラウラが働き終わるまでショッピングを楽しむのであった。




次回の更新少しだけ遅れます


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黒兎出店

 裏路地も裏路地、真昼間だと言うのに薄暗く…明かりを好まないような人がいそうな場所。まともな人ならばここを通るような真似はしないし、例えまともじゃない人がいても本格的にまともじゃない限りはそこの店を使おうとも思わない。

 入れば最後、蛇に睨まれたカエルが如く動けなくなってまるで餌のように食べられてしまうことだろう。

 そんな所を、警察が見逃すわけないって?それが見逃す……いや、見逃されているのだ。女尊男卑のこの世界において、そういった場所は見逃されるようになってきた。何故か?例えこの世界であっても、弱い立場の女性はただ弱いのだ。そして、男性の鬱憤が貯まりやすいこの世界では、そういった女性は酷い捌け口にされる。それを、警察は黙認しているのだ。何せ、このご時世において警察は男所帯が多いことこの上ない。女性は、IS関係の仕事に着くことが多い。そうするだけで世界の勝ち組なのだから当たり前である。

 さて、本題に戻ろう。そんな男所帯になった警察が敢えて見逃してくれるような場所に、私はラウラと共にやってきていた。本来、うら若き女子高生がこんな所に来ていたら、速攻で慰み者にされてしまうが…なんと、私は顔パスなのである。凄いね私…絶対羨ましくなれないけど。

 

「やぁ久しぶり……その子が例の?」

 

「うん、私が紹介する子だよ…本名じゃなくて、ここでは品名で呼んであげてね」

 

「そうだったね…黒兎ちゃん、君は今日からここで働くんだ」

 

「っ…こんな、ところで…?」

 

「別にいいよ?逃げ出したりこの店を通報したりしても。けどね、世の中には国や司法なんて怖くない……なんて人達もいるんだ。抵抗するのはよくないと思うけどね?」

 

「まぁ男の真実より女の嘘を尊重する国だからね……ま、そんな事になったらネットに写真を上げるだけだよ」

 

 店長は、逮捕されることを恐れてはいない。面倒だと思っているし、自分が国に反しているなんて事も考えているが、それでも止めない。彼は女という性別の人間は、道具だとしか思っていないのだから。

 例外としては、私くらいのもんだ。いや、正確には『自分のことを女だと言うだけで自尊心がある女』が主な対象なだけだろうか。

 

「やるねぇ…えっと、五十冬ちゃん。」

 

「呼びづらかったら本名か…品名の時でもいいよ?」

 

「いやいや、もう品名で呼ぶ必要も無いでしょ?それに、今君が名乗ってる名前でいいんだよ……だって君を応援してる1人だしね俺は」

 

 この店長、まるで小学生に世界の命運を左右させるホビー漫画の大人のようなことを言っているが、これでも私の応援を本気でしてくれている人である。

 この人はこの店があるので、別に文句はない。

 

「じゃあまずはこの子の『研修』だね」

 

「薬なるべくやらないでくださいね、跡残ると面倒なんでやるとしても粉か液体の方で」

 

「はいはい、わかったよ。身長胸ともに小さいから……そっちの趣味の方に回そうか」

 

「あ、そう言えば私いた頃の人って何人残ってます?」

 

「殆ど売られちゃったよ〜ま、このご時世で足がつかないようにしてくれる人多いからね、よかったよかった」

 

 なるほど、どうやら私が働いていた頃の人達は皆どこかに売られてしまったようだ。ある意味、売られなかった私は余程運が良かったらしい。まぁ、そのおかげで亡国企業に入れたのだから良しとしよう。

 

「…私働いていた頃のお得意さんってどうなりました?」

 

「あー…1人亡くなったよ。よく来てくれた組のお頭さんが1人ね…」

 

「あー…私も葬儀行ってあげれたらなぁ…」

 

「可愛がってもらえたもんねぇ…よし、着いたよ」

 

 他愛もない話をしながら、私達はとある部屋にたどり着いた。ここが研修場所なのだが、傍から見たら拷問部屋に見えるだろう。

 赤く点った怪しいライト、赤い蝋燭に鞭、縄や三角木馬にその他調教道具達である。

 

「な、何だこの部屋は…」

 

「ん?さっさとこの店に馴染んでもらわないといけないからね。俺が調教してやることに来てたんだ」

 

「うわぁ、これは壊されるねぇ……でも頑張ってねぇ、黒兎ちゃん」

 

 私はそれだけ言って、一旦部屋から出る。邪魔になってはいけないからである。ま、1時間もしたら完全に心を折られるだろうから……それまで店の中を見て回っても良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が経ってから、再び私は店長の部屋を訪れていた。しかし、そこからは一切の物音がしなくなっており首をかしげている状態になっていた。

 

「あれぇ?そんな所でどうしたの」

 

「店長知りません?」

 

「店長?さっき入った新人ちゃんを連れて、外に出たのを見たよ?」

 

「えぇ…?外?私の時そんなことしなかったのに……?」

 

「なんかあの子めっちゃ気に入られてたよ?『徹底的に壊したい』とか言ってたし」

 

 あ、そっち方面で気に入られてたのね……となると、そこら辺のホームレスとかに輪姦させてるとかかな?店長、テンションあがると優しさに振り切れるか、サディストに振り切れるかの2択だしなぁ……あの人二重人格な気がしてきた。

 

「ありがとうございます、じゃあ見に行ってきます」

 

 伝えてくれた人にお礼だけを伝えて、私は外に出る。裏路地と言っても、1周することにそこまで時間はかからないだろうし……行ってみよう。

 そう思ってドアを開けたら……直ぐに声が聞こえてきた。どうやら、すぐ近くでパーティは行われているようだった。

 

「あれ、どしたの?こんなところなんかに来て」

 

「いや、店長探してたら声聞こえてきたんで」

 

「あ、探してたんだ…どしたの?」

 

「いやいや、この子の話ですよ」

 

 私達は、傍らでラウラが輪姦されているのを尻目にしながら話し合っていた。こうやっている以上、なにか匂い消しのようなものは無償でしてくれるだろう。まぁ、私としては周りに怯えて1人で暮らすラウラも見てみたいところだが。

 

「にしても…晩までには解放してくださいよ?こっち寮ぐらしなんでバレると、この子連れて来にくくなります」

 

「分かってるって、それを条件でこの人らに犯させてんだし」

 

 ケラケラと笑う店長。まぁ、夏休みとかにでもなれば彼女をしばらくここに通わせることも出来るのかもしれない。そうなったら、行方不明を簡単に偽装できたり…なんて。さすがにそこまで上手くいったら後が怖いしね、やる事は慎重に慎重に。

 

「う、ぶぅぇ……」

 

「あれ、潰れかけてません?」

 

「えー、体力に自信あるんじゃなかったの?」

 

「うーん、私はあると思ってたんですけどねぇ…精神ダメージそこまででかかったのかな」

 

「好きな人に処女を捧げられなかったからとか?」

 

「そんな殊勝な性格してないと思いますけどね」

 

 意外に乙女な性格…なんて、まぁ無いこともないだろうが。この女が自分の処女を気にしているとは、あまり考えつかない。

 そんなことを気にするくらいなら、如何に自分が織斑千冬に貢献できるかとかを考えるはずだ。まぁ、仮に異性に惚れているとするなら……それはそれで面白いことになっているので良しとしよう。

 

「おい、そっちの嬢ちゃんも混ざってくれよォ」

 

「あー、ごめんなさい私硬い方なんで」

 

「こんな所にいる時点で、軽い方だろうよォ」

 

 私の身持ちは特に固くないのは事実である。ただ体が鉄のように硬いと言うだけなので、あまりオススメしない肉体とも言える。できない訳では無い、鉄のせいでかなり重いのだ私は。

 

「まぁまぁ、この子にも事情があるんで我慢してください」

 

「ちっ、まぁいいけどよォ……代わりに別の子用意してくれよォ」

 

「別の子……」

 

 店長、そこで私をちらっと見るのやめて欲しいんですけど?あぁいや、しょうがないか……まぁ私のせいでこうなってんだから、そりゃあ私に期待するよねぇ……それも、IS学園にいるんだからとびきり可愛かったり美人だったり……要求されているのだろう。

 

「はいはい、今度それらしい子連れてきますよ」

 

「うん、ありがとう〜」

 

 とは言ったものの、どうやって連れてくるべきか…他に連れて来れそうな奴がいたかどうか、よく覚えていない。最悪専用機持ち以外にも手を出して行く必要があるのだろう。

 まぁ、なるべく1組以外の方がいいかな……じゃないと、1組ばかり標的にされてたら犯人ということがバレる可能性だってあるし。それに、ラウラが奇跡的だっただけで、基本的に別室の人を堕とすのは容易ではないのだ。

 まぁ、コネを失わない為にも頑張るしかないのだろう……ひたすらに面倒な話ではあるが…

 

「どんな子欲しいですかー?」

 

「美人なら、誰でもいいんだけどね」

 

 なら適当なのを数人見繕うとしよう。はっきり言って、とんでもなく難しい話なのだが…1人ずつなら、長期間かければなんとか連れてこれるだろう。それに、何人もいきなり持ってこられても困る…と思いたい。

 となると━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━なぁに、デュノアさん?いきなり私を屋上に呼び出すなんて」

 

「ねぇ……君、2人に何してるの?」

 

「…2人?なんの事?」

 

「とぼけないで、セシリアとラウラの事だよ」

 

「セシリア…?それに、ボーデヴィッヒさん……?なんですかいきなり」

 

 ラウラをあのお店に落としてから、初めての学校。翌日すぐに、シャルロット・デュノアから呼び出しをくらった。わざわざ、二人きりに自らがなってくれた。

 

「……あくまでもとぼける気?」

 

「そもそも、貴方が何を言っているのか私には理解ができない。正確に、きちんと情報は伝えるべきでしょ?」

 

「…なら、率直に言わせてもらう。あの二人に、いかがわしい事させているでしょ」

 

 ここで『いかがわしい事ってなんですかぁ?』なんて言えば、私の頭が彼女のISの武装によってザクロと化すだろう。

 ここは、おどけない程度に話を続けていこう。

 

「……えっと、だから?それが今ここに私を呼ぶ理由になるの?」

 

「なるよ、少なくとも…対抗戦で見た限り君は僕…いや、僕達IS乗りの敵だ。そうなったら、国すらも敵に回してることになる。個人がやっていい範疇を既に超えてるんだよ?分かってるの?」

 

「……」

 

「このことが公になれば、日本は孤立する。イギリスとドイツの代表に、いかがわしい事を強制させてたなんて言われた暁には…」

 

「━━━で?」

 

「…え?」

 

 何故か向こうが心底驚いたような顔をしていた。まぁ、普通なら自国が世界から孤立するなんて事を望むのは、有り得ない話ではある。しかし私はそんな事どうでもいいし、知ったこっちゃない。

 親が巻き込まれるのは……まぁ、思うところはあるけど。そう考えられるのは、怖れてるからなのだろうか。

 

「に、日本が攻撃されるかもしれないんだよ…!?」

 

「私には関係ないよ…って言ったら貴方はどう思う?」

 

「……少なくとも、君は日本人に見える。まさかと思うけど…国家レベルでのテロリスト、だなんて答えには辿り着かないよね?」

 

「さて……どうでしょう?」

 

「…いいよ、そこまで誤魔化すなら…実力行使をするだけ」

 

「ふふ、IS学園の中でぶっぱなす気?」

 

「必要とあればね……僕が何の証拠もなしにこんな事するとでも?」

 

 なるほど、確かに彼女はそこら辺のアホとは違う。用意周到準備万端、そして何より他人を欺けるほどには彼女は嘘が得意だ。そんな彼女を、周りは問答無用で信じていた。

 

「録音、してるんでしょう?」

 

「……」

 

「だったら、それをそのまま先生に提出すればいいよ」

 

「え…?」

 

「私、無実で終わるって分かってるしね」

 

「……」

 

 彼女の顔が懸念の表情となっていた。それに染まるのは、彼女自身が私が自信満々なことに不安を感じたからだ。『自分の証拠をくつがえせる何かがあるのではないか?』と。

 

「……何を知ってるの?言っておくけど、僕が女の子って事を世間にバラす程度じゃ━━━」

 

「白式」

 

「っ!?」

 

「大方、男装していたのはあれが目的なんでしょ?男でも動かせるIS、もしくは男のIS乗りの専用機…どちらにしても前例のないものだから、それの情報を奪って来いって」

 

「そんな、どこで…」

 

 大方の予想だったけど、肝心の部分はカマをかけさせてもらいました。けどこの感じだと当たってたみたい。

 なら、ここからの揺さぶりも出来そうだ。言葉を慎重にしていこう。

 

「要するにさ…スパイだよね?」

 

「それは…」

 

「如何なる国家にも属さない…なるほど、この校則なら実家からの催促とかも無視できる。けど…スパイなら話は別だよね?如何なる国家にも属さない、そう入っても国家機密である白式の情報を盗もうとしてる」

 

「僕はそんな事!!」

 

「織斑君にはそういったんだろうね。彼なら、簡単に信じたのも理解できる……けど私はそうは思わない、貴方がスパイの可能性だってある」

 

「だったら、君がそういうことを言う前に僕がバラせば…!」

 

「私はバラされてもいいよ?だって、何ら痛くないしね…」

 

 実際、バレたらそのまま亡国機業にとんずらである。私にデメリットはあるのだろうか?いや、恐らく無いだろう。

 

「っ……」

 

「けどね、私は心優しいから許してあげる……その代わり、ひとつ賭けをしない?」

 

「…君がこの場で有利なのに?」

 

「うん…単純明快…デュノアさんが私と戦えばいいんだよ。私が指定した時間にね…勝てば私は全部吐いてあげる……けど負けたら、織斑君の大事な人が…いなくなっちゃうかもね?」

 

「っ!?そんな勝負、乗るわけ…」

 

「乗らなかったら乗らないでいいよ…別に私はあの二人を盾にしてるわけじゃないし」

 

 冷酷かつ真面目な顔で伝える。下唇を噛んでいたが、早く答えを決めて欲しい。

 

「…その間、僕は黙っておけばいいの?」

 

「ううん?セシリアとラウラ……2人が何をしてるか、見てきて欲しいんだ。あ、言われたら混ざってもいいよ?勿論黙っててもらうのが前提だけどね?どうする?」

 

 セシリアとラウラを捨て、残り全員の安全を取るか…リスクを取って私の賭けにのって博打に出るか。

 後者は、一切の確信がない。しかし彼女が取るのは━━━

 

「賭けに、乗るよ…」

 

 前者である。心優しいデュノアちゃんは、セシリアとラウラも救うと決めたのだろう。

 

「うん!なら、最初の戦いは…林間合宿のどこかで、しようと思ってるよ。実に楽しい戦いにしようね」

 

 ニッコリと微笑む私。さて…ラウラとセシリアはそれまで理性を保っていられるだろうか?どっちでもいいが、もしかしたらかなりスピードが貢献できるかも…しれないね。



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援交大会

「水着なんて買いたくない」

 

「あ、あの……五十冬さん…?」

 

 絶賛私は拗ねている。別に、拗ねているから水着を買わないと思っているわけじゃない。逆だ、水着が買えない…というよりかは買っても意味が無いので拗ねているのだ。

 

「その…ごめんなさい…」

 

「いいよ、セシリアは1人で買いに行ってて」

 

「はい……」

 

 単純な話だ。面倒くさがっていてもしょうがない話だが、私は今水着を着ることが出来ない。というか、来たら…どう足掻いても目立つ。

 体を改造しているのです、ある程度隠しておけるところは隠しておかないと……見る人が見れば違和感のあるからだのデザインになってしまう。

 だからといって、全身タイツを着ることも論外だ。どっちも目立つ。

 

「上から羽織ればいいのでは…?」

 

 なんて、1度セシリアに言われた。けどね、競泳水着を着ても目立つんだよ…私の体はセシリアと違ってスリム窮まっている…いや、大きくないわけじゃない。ただちょっと控えめな性格なだけだ。

 兎も角、競泳水着でも見える可能性があるのは回避したい。ISのスーツもラインが出るだろうって?そこら辺の配慮があるスーツだ。というか、スーツってあれそこまで着なけれらならないって程じゃない気が…

 

「いいじゃんいいじゃん、付き合ってあげなよいふゆん」

 

「いふゆんって…?別に買い物について行くのはいいけど…」

 

 水着ショップで水着を選んでいない女が、1人でぽつんと更衣室の前に立つ。悪目立ち安定だろう。店員に話しかけられるのもめんどくさい。ただ、対処がめんどくさいと言ってるだけだが。

 因みに話しかけてきたのは、布仏本音だ。何故かいふゆんというあだ名を今言われた。

 

「なら私達と一緒に行く?」

 

「……まぁ、複数人なら…ん?」

 

「どしたの?」

 

「ちょっと連絡が…ごめんね」

 

 突然携帯機器に連絡が入る。電話ではなく、やたら長いメールだった…着信音別々にわけてもいいけれど、メールをうっかり人前で覗いてしまうなんてことありえるし…

 

「……あれ、店長と…おじさんからだ」

 

 セシリアの相手をしてる人と、ラウラが通ってるお店の店長から連絡が来た。どうやら、当日何やら面白いことをするので来て欲しい場所があるとかなんとか…

 

「…まぁ、ならここに1人で向かおうかな」

 

 この住所…どこだろう?そう思った私は直ぐに調べて……余計に困惑していた。

 

「……水着が、売ってる店がいっぱいあるところ……」

 

 まるで、今のIS学園の為だけにあるような場所……私はそこに向かうことになったのだが……ここって、IS学園の生徒も大勢いるのだが何をする気なのだろうか二人とも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━まさか待ち合わせまで一緒のところなんて」

 

「あはは、偶然の一致って怖いなぁ」

 

「そうだねぇ……」

 

「で、面白い事って?」

 

 早速本題を聞く私。2人は顔を見合わせてから、口角を上げて笑みを浮かべていた。余計に私は困惑していたのだが、すぐさま2人は携帯を取り出してとある画像を…いや、マップだこれ。何故かマップを見せていた。

 

「僕のはセシリアちゃんの現在地」

 

「俺のは黒兎ちゃんの現在地」

 

「……えっと…?」

 

「実は、2人して同じことを考えていてね━━━」

 

 2人は、偶然にも同じことを思いついてそれを実行していたらしい。それは、この街で『援交』を行う事だった。目標金額こそ少ないが、そこら辺は店長と話したのか、2~3人で終わるほどの金額だった。

 

「……で、それがどうしてマップと関係が?」

 

「ま、位置だけを把握するためだよ。もし街から出てたら、それぞれペナルティを課す事になってるから」

 

「勿論、今本当に売春してるのかを見ることだって出来る……ハッキングなんて高尚な事は出来ないけど、移動が止んだら密かに見に行く…そんな感じさ」

 

「許してるのは、本番だけ。本番なんてしてたら、早々終わるわけないし悠々と見に行けるってわけ」

 

 よく分からないが、つまり2人は援交させられているということである。ラウラは兎も角、セシリアは撮っておきたかった。ただ個人で眺める程度のものだが、お嬢様が平民の男に腰を振ってるなんて相当なネタだし。

 

「……それで、私はどうしたらいいの?」

 

「2人の位置が分かるようにしておくからさ、それとなぁく会いに行くだけでいいよ」

 

「セシリアとかいう子は、君がいるから巻き込まれると思い込み、黒兎ちゃんはいつでも見張られているという恐怖に刈られる」

 

「なるほど、よく考えられてるんだね」

 

 確かに、セシリアは私が被害者だと考えてしまってるし、私が近くを通ったら直ぐに男に呼び出されたと思うか、誘われたのだと思うだろう。何だかんだ、悪質な男の思考は理解しているのだ彼女は。

 そして、黒兎……つまりはラウラの事なのだが、彼女はどうやら一度できた自信を崩されると滅法弱いらしい。そのせいか、私に対しての恐怖がそれなりに残っているようだ。

 

「じゃあ、私は見てきたらいいだけ?」

 

「うん、まぁ場合によっては見れないと思うからそこは部屋から確認してね」

 

「了解……そう言えば、集めきれなかった時のペナルティは?」

 

 セシリアはともかく、ラウラでは難しいところが出てくるかもしれない。その場合のペナルティなどはあるのだろうか?

 

「ふふん、この特注のローターを付けて貰うことにするよ」

 

 そう言って店長が見せてきたのは、何やら普通のローターよりもふた周りくらいでかいものを取り出してきた。鶏の卵か何かで?と突っ込みたくなるようなものだった。

 

「何ですかそれ」

 

「GPS付きのローター」

 

「何でそんなもん持ってるんですか…」

 

「いやぁ、こんな仕事してるせいか変な役職の人達と仲良くなることが多くてね。その内の一人に作ってもらったものなんだよ」

 

 何故ローターにGPSを付けるのだろうか。用途が1つ程度しか思いつかないのだが。天才は変なものを作りやすいと言うやつだろうか?

 

「まぁ、これをおま〇この中に入れて貰うだけなんだけどね」

 

「…位置を把握するんでしょ?」

 

「だと思うでしょ?実はこれ、時間の計測なんかもできるんだよね」

 

 時間の計測……つまりあれか、『このローターを中に入れて〇時間になるまで抜くな』的なやつだろうか?それくらいしか使い道がなくなってしまうのだが、それだけのために作ったのだとしたら余程の変人である。

 

「……で、これをどう使うんですか?」

 

「IS学園にいる間、付けてもらう」

 

「うわぁ……それ、織斑千冬にバレたら殺されますよ?」

 

「まぁその場合、ペナルティ受ける方には小型の通信機みたいなの渡す予定だし……織斑千冬がいない時を教えて貰うだけだね」

 

 それ、かなり受け前提のペナルティになっているのだけれど、もし嘘でもつかれたらどうする気なのだろう?しかしこれ以上聞くのも時間のロスなのでさっさと動くことにしよう。

 

「私は動いてるだけで?」

 

「あぁ、一応ね。ちゃんと確認しながら行くんだよ」

 

 携帯に専用のアプリを入れられたが、まぁ面白半分で済ませておくことにしよう。

 ご丁寧に、2人の識別の色分けがきちんとされていた。セシリアが青、ラウラが黒色…まぁわかりやすい色です。

 ともかく…覗きに行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ…う、うぅ…!」

 

 よく耳を立てて聞いていると、どこかから声が漏れてきていた。周りをキョロキョロ見渡して……ほんの少しだけ、物陰からはみ出ているブロンドの髪が目に入った。

 

「いたいた……」

 

 あくまでも近づき過ぎないように…それでいて遠過ぎないように。絶妙な距離を保ちながら、私はセシリアがちゃんと全体像が映る位置に移動する。器用なもんだと思うが、これだけ意識を持って近づいている人間の気配かわからないなんて、余程セシリアも切羽詰まっているらしい。まぁ無理矢理援交させられているようなものだから、当たり前なのかもしれないが。

 

「ほんとに……かの、IS学園の生徒であるオルコット社の社長令嬢がこんなところで援交だなんて…がっかりだよ」

 

「貴方なんか、に…ガッカリされたところで…!ふぅ、ふぅ…!」

 

「そんな悪態ついていても、ここはまんべんなく濡れてるせいで説得力がまるでないよ」

 

「そんな、わけ…」

 

 いやいや、びっしょりだよセシリア。しかもIS学園の制服を着ているせいで、余計に興奮してしまっているらしい。背徳感が、否応なしにセシリアの快楽指数を上げているのだろう。

 

「ふふ…さっきも、IS学園の生徒がいたけど…皆君達みたいに淫乱なのかな?」

 

「私は、別に…!」

 

 ん?どうやら、あの口振りから察するにあの男ラウラも抱いたと見える。他の生徒が援交してると言うのは、さすがにありえない……だろうし?

 

「さて……じゃあ、中に出すよ…!」

 

「っ!?ひ、避妊は……」

 

「してるなんて、思うなよ…!」

 

「ぁっ……!ひぃ……」

 

 そして、セシリアの中に精液が出される。どうやら、相手をしていた男は…コンドームを付けていなかったようだ。精液が溢れて、セシリアの中から漏れだしていた。

 

「そんな…中に…」

 

「ふぅ…ま、遠慮なしに誰にでも腰を振る淫乱にはこれくらいがちょうどいいでしょ」

 

「私は、淫乱などでは……」

 

「わざわざ援交しててビッチじゃないはちょっと説得力ないよ」

 

 確かにその通りだ。仮に援交が自分の意思でないものだったとしても、そんな方法を取っている時点で説得力は無いだろう。私のために行ってくれているというのは少々嬉しいが、その程度のものである。

 

「さて、お金だったね……まぁこの程度渡しておくから、頑張ってね」

 

「うぅ……」

 

 ……もしかして、あの男は店長の関係者なのだろうか?今のは明らかにこちら側の事情を理解している者の発言である。仮に関係者だとすると、この援交そのものが店長達が仕組んだものなのかもしれない。

 

「うっ……っ!?」

 

 路地裏から出てきたセシリア、微妙な距離にいる私のことを発見したようだ。まぁ、見つかる前に私は携帯をいじる今どきの女子高生に変装している訳だが。携帯をいじってるだけだけど。

 

「……っ…」

 

 私がセシリアの存在に気づいていないと思ったのか、少しだけキョロキョロした後にセシリアは私のいる方の道とは真逆の方へと歩き始めた。私からなるべく離れて、そこで再び援交を行おうと思っているのだろう。

 このままセシリアをいじっていてもいいのだが、ラウラの様子も見ておきたいので一旦セシリアとは別れることにしよう。

 

「……ひとまず、行こうか」

 

 私はセシリアが足を向けた向きとは真逆に歩き始める。ちょうどラウラがいる場所からも近く、そしてセシリアが離れていっている以上何も問題は起きなさそうな状況だしちょうどいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がそうやって遊んでいる。この時は、まだそんなバカをやっているだけで平和だっただろう。

 しかし、私は突然に心をかき乱されるのだ。この林間合宿において、全く考慮をしていなかった1部分によって、私の心は平然をたもてなくなってしまうのである。

 それが分かるのは、まだ先の話である。



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ypaaa話

 sideラウラ

 

 これは、私があの男に命令されて行っていた事。私の嫁に隠れて、淫行を働いた私の話である。

 そもそも、私が織斑一夏を嫁と認定するよりも前に、私はあの女に嵌められていた。いや、単なる自業自得だが不意打ちをされたようなものなのは確定である。

 そんな話は置いておくとしよう。そういう男に命令されたのは、私の体を売ることだった。しかも、二束三文程度の安い金である。ISの操縦者…それも国家代表クラスとなると、その候補生であっても給付金を貰えるのだ。私は使いどころがわからないが、その金は予め作っていた私の特殊な通帳に蓄積されていく。

 ……が、1ヶ月に送られる給付金よりも、その金は圧倒的に少なかった。私のものを1ヶ月で割ったとしても、その10分の1にも満たなかった。

 しかし、やらねばならなかった。その金が私の手元に残ることは無いが、それでもやらねばならなかった。もしやらなかった場合あの女が私の行為を色々なところに送り付けると言い出したのだ。いや、確か……貼り付ける、だったか。インターネットにあげることによって、ネットの不特定多数の人間がそれを見てしまうという。

 日本だけならばいざしらず、ドイツにもそれが見られてしまった場合私は良くて軍の脱退、悪くて命が危険という状況となっている。

 

「まぁ当たり前だけど、全然足りないよね」

 

 そして、あの女が店長と呼ぶ男は私に向かってそう吐き捨てた。時間いっぱいまでなんとか援交をしていたが、好きでもない男に犯されるというのがプライドに触っていて、ろくに進捗も進んでいなかったのだ。

 

「だ、だが……」

 

「そういう言い訳しようとするのは良くない、セシリアちゃんは終わらせたし…何より全然足りてないのがわかってて、わざとほとんどしなかったでしょ?そういうのは良くないなぁ?」

 

「うぐっ……」

 

 否定したいところだったが、確かに私は殆ど男と援交をしていなかった。だが、それが原因でペナルティを受けることになるとは微塵も思っていなかった。

 今思えば、あの時の思考とプライドは早く捨てて於けばよかったと謎の後悔をしていた。

 

「じゃ、しばらくの間これ付けて生活してね」

 

 そう言って男が取り出したのは、鶏の卵のような形と大きさをした何かの道具のような見た目をしていた、それ以上私はそれがなんなのか理解することできなかった。

 

「それは…?」

 

「まぁ大きいけどさ、ローターくらいなら分かるでしょ?」

 

「……?」

 

 ローターという名前に、私は聞き覚えがなかった。その様子に、男もあんぐりと口を開けていた。

 

「参ったな……あの子から『世間知らず』とは聞いてたけどここまでとは……そう言えば、ろくにものを知らないと思えば変なところは知ってたりしたし…」

 

 何やら男はブツブツと言っているが、どうやら世間の女子はこれが何か分かるようだ。大きい、と言ってたことから考えて本来はそこまで大きいものでは無いようだが。

 

「まぁいいや……とりあえずこれをおま〇この中に入れてね」

 

「……それ、だけか?」

 

「それだけ……って言っても、俺が操作するから、不意打ちで振動するから覚えててね」

 

「……振動するのか…」

 

「うん、割と思い切り……まぁこっちも本気でやばい時はやらないから」

 

 そう宣言してくるが、何故わざわざ震えないタイミングを教えるのだろうか?私が教官に言うと思ったのだろうか……言えない、言えるわけがない。こんな痴態を見せる訳には、いかないのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?ラウラじゃない」

 

「2組の代表候補生か……こんな所で何をしている」

 

「水着を買いに来たに決まってんでしょー……と言いたいけど」

 

 中に入れてから、私は珍しく気分でその辺を歩いていた。すると、2組の代表候補生である凰鈴音と出会った。確か、1度あの女に唆されてこいつをいたぶった事があったな……何をしているのかと思い、彼女の視線の先を見ると…私の嫁とシャルロットがいた。

 

「……あれは何だ?」

 

「さぁ……私には何を聞かれてるのかさっぱりわからないわね」

 

 そういうこいつの目は、獲物を殺す目をしていた。シャルロットに嫉妬しているのだろうが、あの程度ならば別に私はなんとも思わん。何だったか…部下が言っていたが、嫁の『処女』を奪うのは相手の役目だと聞いた。

 それを奪われない限りは、大丈夫だろう。

 

「追うわよ」

 

「…いや、私は━━━」

 

 こんな状態なのに、このままついて行ってしまうといつスイッチをいれられるかわかったものではない。私は、このまま退散しよう……そう思っていたのだが、そんな行動が許されるほどあの男は抜けていなかったらしい。

 

「んぐっ!?」

 

「え、ちょ、ちょっと?何…どうしたのよ」

 

 唐突に震え出すローター…私は不意打ちのその刺激に耐えることが出来ずに、そのままへたり込んでしまっていた。

 

「なん、でも…!」

 

「ちょっと、顔赤いじゃない……それでなんでもないってのは、誤魔化せないわよ」

 

「大丈夫、だから…!」

 

 何とか伸ばされる手を振り払って、私はその場を立ち上がって離れていく。スカートならばギリギリ誤魔化すことが出来たのかもしれないが、私の制服はスカートではない。日本で言う『ズボン』のようなものだ。そんな状態で、股を濡らされる訳には行かないのだ。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 怪しまれたかもしれない。織斑一夏という男の周りにいる女達は、彼に感化されているのかそれとも元からなのか、存外お人好しなところがある。もし近づかれて、そして私の事情を知れば何らかのアクションを示すだろう。

 下手をすれば、巻き込みかねない……これは私の問題だ。私だけで解決せねばならない。

 

「━━━ん?ねぇ君、ちょっと大丈夫?」

 

 ……突然、男が1人話しかけていた。暑くなってきているとはいえ、ノースリーブのシャツ1枚だけを着ているのは、寒くないかを聞きたくなってしまう。

 今男に近寄られる訳には行かないのだ。男と言うだけで、最早軽快に値する程になってしまっている……私の嫁は別だが。

 

「来る、な…」

 

「そんな顔赤くしてちゃあ説得力ないよ、とりあえず近くにホテルあるしそっちで休みながら保護者の人を呼ぼう!」

 

 男は私の話を聞かずに、私を抱き抱えてどこかへと運んでいく。もしかしたら、ローターの振動が伝わっているかもしれない。それ以前に、股が濡れてきてしまっているかもしれない。

 どちらにせよ、バレた時どうなるか……私は、抵抗できるのだろうか。弱いと判断した相手にすら負けるような、私に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、まさか本当に倒れてるなんて思いもよりませんでしたよ……え?いやいや、ちゃんとヤってますって…あ、タダ?マジすかやった!」

 

 結論から言うと、まず私が襲われているのはローターがバレた……という理由ではない。ただ、簡単なことだったのだ。全て仕組まれていた……この男は、あの女に店長と呼ばれていたあの男の知り合いだったのだ。

 ホテルではなく、近くにあった家…恐らく借りている家かこの男自身の家かはわからないが、そこに連れ込まれて…抵抗する素振りすらも許されないままに犯されていた。

 

「いやぁ、にしても締まり良いっすねこの子。出来れば飼いたいくらいっすわ」

 

「う、ぁ……」

 

 男の体が、私の体を押しつぶすように…私は男に犯されていた、私はうつ伏せにされて、上から何度もプレスされながら快楽を覚えてしまっていた。私は、このようなことをするために生まれた訳では無い…が、女という体である以上男に狙われるのは必然だったかのように、私は抵抗もできずに犯されていた。

 

「小さいから、自然と締りがいいし…ガハガバになりきる前に味わえてよかったってな…!」

 

「外、外…!」

 

「あ!?聞こえねぇよ黙って喘いでろ!!」

 

 はっきり言って理不尽な要求そのものなのだが、男にとっては関係がないらしい。私はただただ犯される為だけに、ここに置いていかれているのだ。

 

「おっしゃ、出すぞ…!」

 

「う、うぅ…!」

 

 中に大量に出される精液。これが膣の中に出されるということが、どう言ったことを指すのか私でも理解ができる。

 だが、それすらも無責任に男は私の中に精を吐き出す。

 

「ふぃー……いやぁ、スッキリしたわ…ま、お家に帰れるように早めに終わらせてやるからな」

 

「え…い、1回出したから満足したんじゃ……」

 

「は?ンなわけねーだろ頭沸いてんのか?てめぇはそのチッコいま〇こ差し出しときゃいいんだよ」

 

「っ……」

 

 行動による抵抗も、言葉による抵抗も出来やしない。私はこの男に縛られてしまったのだ。体も、心も……その全てを。

 

「おら、さっさとやんぞ……早くしねーとお前帰さないからな」

 

「う、ぐっ……!」

 

 1度抵抗出来なければ、もう抵抗することは出来ない。例え力関係では私の方が上だったとしても、『この男には抵抗出来ない』という事を体で教えこまれてしまっている以上、私はこの男にどう足掻いても抵抗できない。

 

「う、ん、んん…!」

 

「おめぇの使い道は、たったこれだけだな…!犯されるだけの、クソ弱いま〇こってこった!」

 

 男の罵倒が、陵辱と共に刷り込まれていく。私は弱い、性器を差し出すだけで、何も出来ないほどに弱い。男に犯されるだけしか脳が無く、それ以外誇れるところなんて何も無い。

 実際、性能でも腕でも勝っているはずの相手に私は負けているのだ。その事実が、さらに私の精神をおいつめていく。

 

「おら…また出すからさっさと受けとめやがれ…!」

 

 肉と肉がぶつかる音が、私の頭の中に響く。快楽が、罵倒が、屈辱が、悔しさが、私の中で混ざって一つとなっていく。

 ぐちゃぐちゃになって、1つになって、溶けていく。そして私の中で何かが折れて、何かが生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、私は1人歩いていた。男が満足したのか、それとも気まぐれなのか、本来私がしばらくつけるはずだったローターを外してくれたのだ。

 だが、その代償として得たのは……夥しい量の精と快楽だった。私の精神は摩耗されて、ただ一つ快楽というものだけが真実として頭の中に刷り込まれた。

 

「……」

 

 ただボーゼンと歩き続ける私。ズボンが、歩くのにとても邪魔に感じていた。股下が、精液と愛液で濡れるのがとても不快に思えた。私は、これを取り外したくなった……そうだ、改造してスカートにしよう。

 普段の私ならば絶対に思いつかなかった事だが、今の私はそう思っていた。そして、得たものはもう一つあった……いや、これはある意味では失ったとも言える。

 新たに得たのは『新しい私』失ったものは『理性』その2つが入れ替わるように現れ、消えていった。

 

「…ぁ?おい嬢ちゃん何だ俺に用かよ?」

 

「━━━私を」

 

「…?」

 

「私を、買ってくれないか……」

 

 心が折れた私は、拠り所を探す。私のISが暴走した時も、力に拠り所を探した。しかし、その力も簡単なことで潰されてしまう…私は、この先如何なる力を手に入れても()()()()()()()()()()。だから、私は力に頼ることをやめたのだ。

 けれど、他のものに頼るやり方を私はまず知らない……だから、たとえ男が怖くても、周りの全てが怖くても……自分の思いつく方法で、自分の頼れるものを作り出すしかないのである。

 それがたとえ、自分の身を滅ぼすことになろうとも━━━




援交陵辱(された)少女、ラウラ


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臨海合宿

「……熱い、暑い…」

 

 私はブツブツと呟きながら、海へと潜っていた。首から下は、なるべく海上に出すようにしている。さすがの私もエラ呼吸できる様な体の改造は行っていない。

 

「そんでもって……」

 

 私はチラリと砂浜の方へと視線を向ける。そこではビーチバレーが行われているが、織斑千冬が山田先生と対決する形になっているかのようにそれぞれ生徒達のチームへと混じっていた。

 因みに、山田先生のチームにはシャルロット・デュノアと織斑一夏がいた。

 水着は大体みんなビキニだ。それによって、山田先生のどデカいものが更にどでかく見えていた。

 

「ぶ厚い……」

 

 暑さで頭がやられてしまっているのか、私はブツブツとそんな感じのことしか呟けなくなっている。それでも、やるべき事とそのやるべき事の為の準備は忘れていない。

 

「……ちゃんと間に合ってよォ…」

 

 シャルロット・デュノアとの対決。それが私がこの合宿内で行うことだ。しかし、面と対決する…そんな訳が無い。彼女も、恐らく理解するだろう。私がどんな対決の仕方を望んでいるか、を。

 

「……それにしても、暑い」

 

 私は海に浸かりながら、ぼーっとするかのように眺めてる。ラウラが、まるで少女のような黒いビキニの水着を着ていること以外は、特に進展はないし変化もなかった。

 いやぁ、何で急に乙女のような水着と制服になったんでしょうかねぇ。私には全く理解できないなぁ。

 

「……んー…すー…!」

 

 大きく息を吸い込んで、特に意味の無いダイビング…という訳では無い。ただ、あまり目立ちたくないので目立たない方法で少し移動したいだけだ。

 行き場所の目処は既につけてある。この近くに綺麗な岩場があるので、そこを拠点とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー…今度えらつけてもらおうかな。呼吸が存分に楽になりそう」

 

 一体どれほどの水分を取れば、その中から空気を得られるのかが問題だが、おそらくちゃんと摂取事態はできるだろう。それで空気が足りなくなるのか、足りるのかは別問題である。

 

「……ハイハイもしもし?S?」

 

『残念私』

 

「あー、どうも私の主治医さん……いいんですか、こんなタイミングで電話なんて掛けてしまうと、若い子に嫉妬してるみたいになりますよ」

 

『え、体に酸素送り込んで欲しいって?』

 

「ごめんなさい冗談です……ってか、なんか用ですか?」

 

 突然こんな電話をかけてくるなんて、一体どんな要件だろうか?私が臨海合宿にいるというのは、向こうも知っているはずである。任務でどこかに出かけろというのは、流石に有り得ないと思うが……

 

『あぁ、ちょっとねまずいことになってるみたいよ』

 

「はぁ……まずいこと?織斑千冬の筋力がゴムボールを寸断するレベルとか?」

 

『え、それほんとに人間?』

 

「少なくとも私以上のサイボーグでしょ……で、不味いこと?」

 

『あぁ、うん……黒兎隊って奴らがそっち向かってる』

 

「……理由なんて聞かなくても分かるけど、一応聞いていいですか?」

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒの救出、だそうで』

 

 面倒臭いなぁ……でもそうなると、私が招いたことだし確かに私が処理しないといけない事案なのかもしれない。

 ま、それならそれで……今ここでその部隊を潰すのもいいかもしれない。恐らく、ラウラは通信を行っていないだろう。それが理由かもしれない。

 

「私のIS、いつ届きますー?」

 

『打ち出せばすぐだけど?』

 

「え、IS学園1年の専用機持ち達に落とされますけど?」

 

『ISに落とされるようじゃ、生き残れないってことで…因みに、要望は認識阻害特化になったからバレないよ絶対』

 

「わー助かるー…そんなもん要求した覚えはないし、私はバレなければそれでいいって言わなかったっけ」

 

『実際バレないんだからいいでしょ』

 

「まぁ確かにいいかな……じゃあ打ち出してー、私のいるとこー」

 

『着地時の衝撃波に気をつけてー……発射ァ!』

 

 恐らく通信の向こうでは、思いっきりスイッチが叩かれたことだろう。そして元気よく私のISが打ち出される。待機状態の癖に、こいつ直接この場所に呼べないのか?と思った人もいるだろう。

 残念、後付けだが整備していたのだ。なにせ、他の専用機のデータのフルコピーしてそれを見ながら改造したようなものなのだから。だから、本当にただのアクセサリと化している。あれ?ならなんで私これ付けてんだ…?まぁ、いいか……

 

「……って、いつ着くんですか」

 

『目標到達時間、後5秒』

 

「え」

 

 なんて聞き返した直後から、やけにでかい音が響き渡ってくる。これはあれだ、風が強い日にイヤホンつけてると風の音が大きく聞こえる的なあれだ。

 そんな感じの音が、響いてきてた。というか今目の前に━━━

 

『飛んできて落下すると思った?』

 

「見事に海中進んできましたね」

 

『一応中に機体は入ってるよ。ただぶつけて壊したらやだし、ちゃんとオートで安全に君のところに届くようにしてたってわけ』

 

「ちなみに学園側にバレてませんよねこれ」

 

『え、それは知らない。君が勝手にやってることに、どうして配慮を考えないといけないわけ?』

 

「なるほど確かに」

 

 とは言ったものの、バレてしまってたら…と考えなくもない。バレてたらそれまでだが、バレてなければなんとでもなる。別に水しぶき上げて来たわけじゃないし、全員外にいることも考えたら案外バレていないかもしれない。

 

『大丈夫大丈夫、視認阻害つったでしょ。適当な事言ったけどそれその状態でも効いてるから』

 

「はぁ…そうですか」

 

『あ、リンクし直しといてね』

 

 まぁバレてないのならいい。わたしはこれを改めて直して、タイミングを見計らって使うだけである。まぁそのタイミングをきっちりと計らないといけないのが辛いところだが……

 

『とりあえず戻ったら?』

 

「まぁ、そうか…そうする」

 

 実際、特にやることもないし戻るしかない。まぁ戻ったところで砂浜に上がったら私の体が熱を持っちゃうんだけど。焼いた石を水に突っ込んだみたいになるよマジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっきり言おう。その日の晩は特に何もなかった。私とセシリア、そしてラウラが一緒の部屋だったが特に問題を起こすことなく終わる。晩御飯の時に一悶着あったが、織斑一夏絡みな上にただ騒いでいたと言うだけで終わったのであまり重要ではない。

 織斑一夏を好意的に見ている3人が部屋に行ったらしいが、私はよく知らないのだ。

 でまぁ……色々あって翌朝になった。

 

「ふぁ……眠…」

 

「あまり疲れが取れていないのかもしれませんわね……あら?」

 

「…織斑君?」

 

 私とセシリアが早く起床したところ、目の前に織斑一夏がいた。何故か外に埋まっている、謎の耳のような物体の前に座り込んでいた。『引き抜いてください』……って、アホかと。

 

「うぉお!」

 

 

 

 しかし、引き抜かれた耳はそれ単体でのみの存在だった。つまり、埋まっているところから下は特に何もなし。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「織斑君?何そ━━━」

 

 私が言い終える前に、突如上から何かが降ってきた。なんの前触れもなく……明らかにあの耳が関係しているのは間違いがない、としか言えないが。

 

「引っかかったねいっくん!」

 

 中からおっぱいのでかい赤紫色の髪をした女性が現れる。地面に埋まっていた耳と同じものを頭につけているが…それ以上に、性格や纏う雰囲気が私の中の何かを高ぶらせていた。

 

「お、お久しぶりです束さん」

 

「…え……」

 

 束、束……名前を知っているという事は織斑一夏の知り合いだ。そして、こんなばかげたことをするやつがただの無名の一般人なわけかない。

 そうだ、束…篠ノ之束……私が殺そうとしている相手で、世界を変えた張本人…篠ノ之、束……

 

「うんうん、久しぶりだねいっくん。ところで箒ちゃん知らない?まぁ私が開発したこの箒ちゃんレーダーで探知できるから探せるんだけど!それじゃあね!」

 

 落ち着け、落ち着くんだ私(殺せ、あいつを殺せ)じゃないとミスをしてしまう。(死んでも殺せ、あの女は世界の癌だ)冷静に(意地でも)対処しろ。何がなんでも殺せ

 

「あの、一夏さん…今のは……?」

 

 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

 

「篠ノ之束さん……箒のお姉さんだ」

 

「まぁ…!」

 

 私の兄を殺した女達の精神性を生み出した社会を生み出した篠ノ之束、殺さず生かして死んだ方がマシという苦痛をひたすらに与え続けろ、精神を殺し肉体を殺し魂ごと殺してでも生かし続けて飼い続けて呆気なく殺して━━━

 

「とりあえず戻ろうぜ……って鬼村、大丈夫か?」

 

「━━━うん、大丈夫だよ」

 

 精一杯の作り笑い。それでも相手はごまかせる。けれど、私の心は嵐のように荒れ狂っていた。頭がどうにかなってしまっているほどには、私の心は今の一瞬で荒ぶらされていた。

 冷静になっているだろうか、顔はおかしくなってないだろうか…頭が痛い、目が回る、吐き気がする、痛い痒い暑い寒い

 

「ごめん、ちょっと御手洗行ってくるね。セシリアと織斑君は先に行ってて?」

 

「おう」

 

「では先に行って参りますわ」

 

 2人は納得した、アホだと罵るべきなのか救世主だと崇めるべきなのか。私はそんなどうでもいいことを考えながら、2人が視界から無くなって、恐らく私の足音すら全く入らないであろう距離に入った瞬間に、走り出していた。

 

「━━━うぶっ、ぼぁ…おぇええ…!」

 

 吐き出していた。名前を、名前を聞かなければまだマシだったかもしれない。もっと私が冷静になれてたら、良かったのかもしれない。けれどダメだ、動けないし動く気力すらも削がれそうだ。

 出来れば殺したい、今すぐにでも殺したい。でもダメだ、殺しちゃダメだ。生かさなければならない。死んでも死にきれないほどの苦痛を与えた後勝手に野垂れ死にさぬようにする。そこら辺の、ハードかつリョナティックな奴らにでも売り渡せば、生きながら死んでいる生活を味わせることが出来る。

 だから、今は喧嘩を売らない…まだ戦力が足りない。私の本来のISに、まだ力が足りない。全てを取り込んで、自爆特攻してあいつを殺せるくらいには強くなりたいし、織斑千冬に勝てるほどには強くなりたい。

 

「篠ノ之、束ぇ……!」

 

 恨み節も恨み節、逆恨みも逆恨み。けれど私はあいつを倒す、死なないように生きながらえさせながら、精神が死んでも活力剤を打ち込んで、肉体が死にかけるなら治してあげる。

 病気にはさせないし、不慮の事故なんかで怪我を負ったら治すだけだ。

 

「全部、全部あいつがァ…!」

 

 私の思考と言葉は乖離している。これはまずい、私が私の思いどおりになるまでは休まないといけない。普通の人間ならありえないが、あの女に対する殺意が私をこんな化け物にした。本人からしてみれば、逆恨みで八つ当たりもいい所なのかもしれないが、私は彼女が原因だと喚き続ける。

 

「うぶっ…!?」

 

 ……ひとまず、私は体がちゃんと思考に追いつくように、本能が理性で押し込められるようになるように、休ませないといけない。それまでは……考えよう、どうやったらあの女を殺せるのか、と。




不慮の事故で1度投稿してしまってから色々あったので、文章の繋ぎがおかしくなってたらすいません。


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新作兵器

 私は朝食を抜くハメになった、さすがに見ただけで……いや、正確には名前を聞いてこうなったのだから、下手をすれば顔を見る以前の問題かもしれない。

 心の準備が整っていなかったため、あんな事になってしまった。しかし、冷静に考えてみると何故こんなところに篠ノ之束がいるのか疑問である。

 やつは常に逃げ回っている。理由としては、いろんな国から逃げるためだ。しかし、その逃げる行為というのも半分遊びで行っていても不思議ではない。何せ、篠ノ之束なのだから。

 とまぁそんなことは置いておいて、ここに来た理由を考えよう。奴が偶然ここを通ることは、まずありえない。何かしらの理由があってここにしたに違いないのだ。

 そう言えば、妹である篠ノ之箒を探していた。彼女に関する何かを行うためにここに来たのだろうか?

 何か、か。もしかしたらそれはIS関連のことかもしれない…というか実際そうだろう。

 ISのコアは、彼女以外に作ることは出来ない。つまり、新しいISは100%作り上げられることは無いのだ。

 だが、作り手である篠ノ之束はそれを無視することが出来る。新しいIS……あの様子だと妹は溺愛しているだろうから、新しいISという名のおもちゃを与えに来たに違いない。

 

「……なら、行くしかないか」

 

 そして、私は……正確には専用機持ち達が呼ばれていた。このタイミングだとほぼ間違いなく篠ノ之束は現れる。彼女は身内である織斑千冬と織斑一夏も溺愛しているからだ。自分が認めた人物以外が視界に本当の意味で入らない…そんな人物なのだ、彼女は。

 話がズレてしまった。つまりは、専用機に関する何かと篠ノ之箒に関係する何かが起ころうとしているということである。

 

「気が進まないけど……」

 

 今回の合宿は、元々シャルロット・デュノアを相手するためだけに来たつもりだったが……とんだ災難である。ごめんよ私の体、ビックリさせすぎて吐かせちゃったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、専用機持ちは全員揃ったな」

 

 と、織斑千冬からの確認がされる。しかし、本来はその場に居ないはずのメンツが1人…篠ノ之箒である。なんというか、やはりというか、どうやら篠ノ之束は妹に専用機を渡したようだ。

 

「待ってください、箒は専用機持ちじゃないです」

 

「それは……」

 

「私から説明しよう、実は━━━」

 

「ちぃぃぃぃいいいいいちゃああああああああああん!!」

 

 間髪入れてないなあいつは…どこから湧いているのか、私の中の胃が積極的に胃酸を精製してくれていた。吐くためだけに。

 しかし、そんな私の気持ちも察せられないまま織斑千冬は飛んできた篠ノ之束の頭をアイアンクローしていた。空中から飛んできた人間の頭を難なく片手でキャッチできるのは、果たして並の人間にできるだろうか。

 

「会いたかったよー!ちーちゃん!さぁハグハグしよう愛を確かめ会おう!!」

 

「うるさいぞ」

 

 篠ノ之束は一体全体どうやってか、織斑千冬のアイアンクローをすり抜けて、いつの間にか近くの岩場に隠れていた箒に顔を無理やり合わせていた。

 

「やぁ!」

 

「……どうも」

 

「久しぶりだねー箒ちゃん、何年ぶりかなー?大きくなったよねー!特に…おっぱい!」

 

 篠ノ之箒はどこに隠し持っていたのか木刀の先で姉を殴っていた。いや、ISスーツを着ているのに本当にどこに隠し持っていたんだ?その無駄にでかい胸か?

 

「殴りますよ?」

 

「殴ったァー!言う前に殴ったァ!!」

 

「うるさいぞ、自己紹介くらいしろ」

 

「えー、やだよめんどくさいなー」

 

「早くしろ」

 

 なんというか、空気だけなら緩い。空気だけなら…だが。しかし、この女は気まぐれで世界の価値観を変えてしまった女だ。創作世界にいそうな、自分の研究が第1で世界なんざ知らないって科学者のタイプだ。

 

「私が有名な束さんだよー!終わり!」

 

「束って…」

 

「あのISの発明者で天才科学者の…」

 

「篠ノ之束か……」

 

 専用機持ち達がそれぞれ反応をする。私は一応専用機持ち扱いらしいが、人柱機体の見事な生贄である。

 

「さぁ!お空をご覧あれ!」

 

 そう言って指を天に向ける篠ノ之束。私は即座に上を向いた。このままだと吐きそうだったので、こうやってあの女を視界だけでも外すことが出来たのは僥倖である。

 そして、見上げた直後に銀色の立方体が上から落ちてきた。

 

「さぁ御開帳!これが箒ちゃんの新しい専用機!名付けて紅椿!」

 

「私の……専用機…!」

 

 IS、紅椿。赤と言うよりは紅色のIS。これが篠ノ之箒の専用ISということらしい。

 

「私が開発した第4世代型IS紅椿!さぁ、乗ってご覧箒ちゃん。既に箒ちゃんの体に合うようにフォーマットしてるからね!」

 

 ……一体いつ触ったのやら。久しぶりに会ったのはついさっきだと言うのに。しかし、本格的に合わせるのは今からのようで、直ぐにモニターを開いて弄り始めていた。

 

「……」

 

「はい、完了!とりあえず動いてみてよ!箒ちゃんの思っていたとおりに動くはずだから!」

 

 その声と共に、篠ノ之箒は飛び立った。それも、見たこともないほどの速度で、類を見ないほどの速度で。

 

「早い…!」

 

「これが第四世代型の…」

 

 ちなみに言うと、篠ノ之束を覗いた各国のIS開発期間はようやく第三世代を開発したばかりである。その事だけで、篠ノ之束がどれだけの化け物か理解できるだろう。

 ……はっきり言おう、恐らく白式を除いた全ての機体を紅椿は凌駕する。篠ノ之箒は、その紅椿の強さに翻弄されていないだけまだマシとも言えるかもしれない。

 ISは、それより以前の兵器全てを無力化できる兵器という前提を持ってしても、その性能は私から見てみれば頭がおかしいの一言だった。

 だからこそ、使いこなせてはいけない。安易に強くなりすぎてはいけない……篠ノ之箒は、自分自身が紅椿のリミッターとなっていた。

 

「……強いなぁ…」

 

「織斑先生ー!」

 

 と、ここで何故か山田先生が登場。何やら大変なことが起こった様子だが…下着をつけているのか居ないのか、胸がバルンバルンしていた。もぐぞ。

 

「これを…」

 

「特務任務A級、現地で解決されたし……分かった。稼働実験は中止だ、お前達にやってもらいたいことがある」

 

 ……どうやら、紅椿や篠ノ之束の登場と言った以外にも厄介な事件が紛れ込んできたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side?

 

「補給は充分か?」

 

「はい!」

 

 とある街、近くにそれなりの人数が固まっていた。それは傍から見たら現地人達からは、別の国の来訪者だということが理解できた。

 当たり前だ、彼女達はドイツ軍のIS部隊……つまりはラウラの部下達なのだから。

 

「日本までもう少しだ」

 

「はい」

 

 彼女達は、ドイツ軍に掛け合って日本に行くことを許可された。しかし、本命は本部には一切語っていない。理由としては、私的な理由だからだ。そもそも、掛け合わなくても独断権限で動くこと自体は可能だが、相手取るのはIS学園……下手をすれば全ての国を相手にすることになってしまう。

 その為に、わざわざ掛け合って許可まで取ったのだ。

 

「しかし…こうもゆっくりしていても良いのでしょうか?」

 

「……日本に着くまでにISのエネルギーが切れてはかなわない。それに、時期としてはこのくらいがちょうどいいのだ」

 

「…と、言いますと?」

 

「IS学園は今、合宿を行っている。つまり、IS学園の土地から離れているんだ」

 

「……合法的にIS学園を襲うことが出来ると?」

 

「理論上……というか、言い訳がましいがな」

 

 IS学園にいないのだから、IS学園を襲っても問題は無い。言葉としてはまったくもって理解不能な論理だが、それほどの無茶をしなければならないほどに、彼女達はラウラを助けたかったのだ。

 

「……だから、向かうぞ」

 

「「「はい!!」」」

 

 彼女達は、死すらも覚悟して望んでいた。しかしそれは逆に言えば『死を望んでいる』とも言える。言葉遊びだが、そういうものなのだ。では、彼女達が望んでいないことは何か?それは殺されないままに、そして生きているとは言い難い人生を歩まされることである。

 そんな目にあうとは、彼女たちは考えていない。せいぜい、酷くて刑務所の中で飯を食べるくらいにしか考えていない。後は、犯罪者たちの性欲処理か。

 だが、世の中には抜け出せるはずなのに抜け出せないものがある。ラウラはそれにハマってしまっているのだ……割り切れることと割り切れないこと、その違いは自分から行うか自分が受けに徹するかの違いでしかない。

 この少女達は、受けに徹することになるのを、まだ理解していないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side?

 

 ここは全く別の所。IS学園もドイツ軍の一部隊も関係ない所。しかし、とある企業には関係がある場所。テロリストが関係している場所。

 

「んー……今どの辺だこれ……国の位置なんて正確に覚えてないからわかんないや…まぁいいや、五十冬ちゃんにはユーラシア大陸のどっかって伝えとこ」

 

 適当な言葉が1人だけのその部屋に響く。カタカタとキーボードが鳴り、そこが無機質な部屋だというのをより強調させていた。

 

「そもそも探知なんて私のやることじゃないんだよなぁ…地図なんて大陸と日本しか覚えてないよ……あれ、日本どこだっけそもそも」

 

 などと言いながら、キーボードを叩く腕は停めない。なんだかんだと愚痴を言いながら、その腕はただひたすらに動いていた。

 

「私の専門は医療だってのに……あの小娘、帰ったら腕を撃てないサイコガンに変えてやる」

 

 その少女のことを思いながら、ただ不器用に真っ直ぐにひたすらにキーボードを叩き続ける。彼女は五十冬の主治医兼、サポーター兼、IS技師兼……その他色々な役柄があるが、要するに鬼村五十冬という少女の相棒的存在ということである。

 

「……この調子だと、着くのはもうちょっとだな…ISの速度が早いからこそなのか、早いといえども人形兵器という小型サイズだと言うべきなのか……」

 

 戦闘機すらも凌駕する速度を出せるとはいえ、そのISのエネルギーは消耗される。消耗されたエネルギーを最小限に抑えるためには、逐一休まねばならない。

 飛行機で行けばいいが、念には念を入れてバレない方法を取っているのかもしれないと、彼女自身もそう勘づいていた。不法入国だが、バレなければ犯罪ではないの典型のつもりなのだろうか。

 

「……ま、これ以上私ができることはないかな。伝えて、直して、治して……私がするのはそれくらいだし、出来るのもそれくらいだし」

 

 1件普通のメールのような文章を偽って、五十冬にメールを送る。勘づくだろう、彼女ならと信用しているのだ。

 ただ、向こうも向こうで何やら問題が起きているようだが……そんなこと、彼女からしたらしったこっちゃ無いことである。

 

「私もあの子も、末端も末端…亡国機業が何をしたいのかなんて一切知らないしわからない、伝えられてない情報は語れないし、知ることも出来ない。ググって分かれば簡単な話なんだけどね」

 

 無論、ネットで調べて分かるようなことな訳が無い。そんな当たり前のことを言ってしまうほどには、今喋っているのは愚痴である。

 

「……さて、とりあえずもうやることないし寝よ」

 

 それだけ呟いた後、彼女は本当に寝た。これ以上やってしまうと、彼女が怪しまれることと、逆探やデータが盗まれる可能性も考慮しなければならないからだ。

 

「あとは天のゆくまま、運を任せるしかないよ」

 

 それだけ呟いて、彼女は自分の仕事を終わらせたのであった。



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紅椿奔走

 私達が紅椿でてんやわんやする約2時間ほど前、ハワイ沖で実験稼働中だった第三世代型IS、銀の福音(シルバリオゴスペル)が暴走。現在私達のいる場所に向かって飛んできているらしい。しかも、マッハ以上の速度を出しているため他のISでは追いつくことさえ至難の業である。

 私達は、銀の福音の対策会議を開くことになった。が、既に答えは決まっている。

 

「そんな速度を出すISが、その上硬いときた。織斑君の零落白夜と、私のサクリファイスの速度があればいいと思うよ」

 

「それが一番手っ取り早いかもね」

 

 私のサクリファイスなら、速度にしかまともなことが出来ないこの、クソみたいなISなら織斑一夏を乗せたままでもとんでもない速度で動くことが出来る。直線的な動きしか出来ないのが難点だが、しかしそれもある程度のところで織斑一夏を投げ、その勢いのまま零落白夜で切り裂けば一瞬で終わる。

 

「私が織斑君を打ち出した後と、織斑君が零落白夜打った後……私達は海に投げ飛ばされる形になるかもしれないから、回収よろしく」

 

 宜しくなんて言ったが、ぶっちゃけ下手をすれば死ぬ案件だ。世界には慣性というものが働いている。それが働いている限りは、ISが解けた瞬間に私達は凄まじい速度で打たれなければならない。生身になった瞬間、体がバラバラになりそうなものだが。

 

 

「では、それで行こう。サポートに、ボーデヴィッヒとデュノアの二人が着いてくれ」

 

「わかりました」

 

「了解」

 

 そして、私たちの中でも安定した速度かつ速さが両立されている2人が、私たちの回収や軌道修正などを行うようだった。残念ながら、凰鈴音とセシリアは今回相手としては全くと言っていいほど向いていないので今回はお休みである。

 

「待ってよちーちゃん!」

 

 …話し合いも決まっていたというのに、突然天井から篠ノ之束が顔を出した。この女、あそこに放置してきたというのにどうやってここまで来たのだろうか?暇なのか?帰れ。

 

「なんだ騒々しい…」

 

「いいから聞いてよー!紅椿なら、いっくんを危険な目に遭わせずに済むよ!」

 

「何?」

 

 ちっ、こいつ織斑一夏の安全を出してきやがった。唯一の身内である織斑一夏には激甘の織斑千冬、当然弟が怪我をしなくていいと言われたのであれば、その話を聞くだろう。

 私は聞きたくないし、さっさと作戦始めたいし……で、色々と複雑なのだ。

 

「どういうことだ束」

 

「どうもこうもないよ、こういう時こそ断然紅椿の出番なんだよ!」

 

「……説明しろ」

 

 えぇ……数少ない私の出番取るのやめてくれませんかね……まぁ今回は、紅椿の対IS性能を把握出来るチャンスと考えたらまた別なのかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故か外に出ていた。まぁ、紅椿の本領を発揮できるという話なのだから、ISを展開しても問題ないように外に出るのは、何ら間違ったことではないのだが……

 

「それじゃあ箒ちゃん、展開装甲オープン!」

 

 篠ノ之束の声とともに、篠ノ之箒は紅椿の展開装甲とやらを開いていた。開いた部分から、エネルギーが出てきて全身刺々しくなった…気がする。

 

「展開装甲は第4世代型ISの装備で〜、一言で言っちゃうと紅椿は雪片弐型が進化したものなんだよね〜」

 

「「「えっ!?」」」

 

「進化……」

 

 なるほど…何かテスト中に紅椿は白式と並ぶ云々言ってたような気がするけど、それが理由なわけか。装備が刀とか、雪片弐型が進化したものだとか、まるで初めから篠ノ之箒のために作られたかのようなISだ。

 

「なんと!全身のアーマーを展開装甲にしちゃいましたー!ぶいぶい!」

 

 全員反応しなかった。この女のテンションについていけないのは元々だが、紅椿の性能にやはり驚いているのだ。無論、それは私も例外ではない訳で……

 

「いやぁ、それにしても海でISなんて10年前の白騎士事件を思い出すねぇ」

 

「むっ…」

 

 白騎士事件、すっごい簡単に言うと『世界中から誰かの手によって発射されたミサイルが、たった一機のISに全て落とされ

 た』という話。その時の白騎士とやらは真っ白なISなので、白騎士と言われていたとかそんな話。

 にしても……世界中のミサイルをハッキングできる女なんて、この女しかいないだろうに。そんでもって、それを落としたとなると…明らかに織斑千冬だ。篠ノ之束にも良心はあるみたいなことを考えている人が多いせいか、ハッキングしたのが誰かというのは永遠の謎扱いだよ。

 

「白騎士って誰だったんだろうねぇちーちゃん!」

 

「知らん」

 

「私の予想だとバスト88センチ━━」

 

 篠ノ之束がいいきる前に、織斑千冬の名簿アタックが炸裂していた。あれは本気で痛いと思うのだが、篠ノ之束は痛いと言葉と態度でしか伝えていなかった。いや、態度で伝えていたら充分だろという話なのだが、痛すぎで言葉が出ることこそが驚きという話。

 というか織斑千冬ってバスト88センチあったのか…しかも10年前の時点で。

 

「うぅ…!酷いよちーちゃん!束さんの脳みそが2つに割れちゃったよー!」

 

「よかったな、これで別々で思考することが出来るぞ」

 

「あ、そっか!流石ちーちゃん!あったまいー!」

 

 本気で効いていないようだ。流石に化け物こと織斑千冬と腐れ縁をしていただけある。少なくとも体の丈夫さや、運動量とかも並の人間のそれを超えているのかもしれない。

 

「話を戻すぞ…束、紅椿の調整にはどれくらい時間がかかる?」

 

「……先生」

 

「なんだ」

 

 ふと、突然セシリアが名乗りをあげる。あのプライドの塊たるセシリアが、この作戦に異を唱えるというのだろうか?はっきり言えば、セシリアはあまり高速戦闘に長けている戦い方を今までしていなかったはずだ。

 この作戦で、彼女が参加して成功させられる確率は限りなく低いと言えるだろう。

 

「私とブルー・ティアーズならば確実に成功してみせますわ」

 

「駄目だ、認められない」

 

「どうして!」

 

「セシリア、気持ちはわかるけど今回は私達は直接戦うことは無いよ……『あの』篠ノ之束博士が作った第4世代型IS、紅椿。私はもとい、第三世代型ですら参加権は与えられてない」

 

「くっ……」

 

「そういう事だ。無駄に危険に晒して、負担をかける訳には行かない」

 

 私の説明でセシリアは納得してくれたようだ。だが…もしかしたら、セシリアにも仕事が来るかもしれない。銀の福音相手ではなく、近づいているらしいドイツ軍の相手だが。

 

「紅椿の調整には7分かかるよー」

 

 まだ使われていない機能を使えるようにするために7分、本来もっと時間と人数がかかる代物だと思うのだが、私の偏見なのだろうか。行っているのが、超天才とはいえ比較対象がよくわからない。

 

「では、作戦開始は7分後。それまで各自持ち場について待機しておくこと!」

 

 そして、その命令と共に織斑千冬の手が鳴る。この作戦、できれば私も参加したかったところだけど……銀の福音のデータはせめて欲しかったのだが……ま、出来ればでいいか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が来た。織斑一夏と篠ノ之箒だけが外に出て、ISを展開…銀の福音の元へと向かう。

 しかし、篠ノ之箒は専用機を貰った嬉しさからか浮かれていた。はっきり言って、作戦の失敗を招くと思う。

 

「……にしてもほんと早いね」

 

「イグニッションブーストの比ではない……」

 

 紅椿の速度、とんでもないものだった。私のサクリファイスも同じくらいだけど、直線的な移動しかできない…というか一直線にしか移動できない。

 しかも、さらにそこから加速まで行えるというのだから、開いた口が塞がらないというものである。

 

「10秒後だ!!」

 

 通信から聞こえてくる篠ノ之箒の声、いつでも通信できるように、回線は常に開いている状態である。

 そして、10秒後……激突した2組。しかし、銀の福音は織斑一夏の攻撃を簡単に避けてさらに反撃まで行ってきた……のだが。

 

「……先生、よろしいでしょうか」

 

「なんだ、作戦中だ」

 

「織斑君の今見た視界の範囲に、船らしき影が見えました」

 

「……何だと?」

 

 ありえるはずのない影。ここは作戦中の場所、つまり封鎖されている場所である。まともな船ならば、ここに近づくことは無いだろう。しかし、まともでない奴らならば近づかないわけがない。つまり…私が見た、性格には織斑一夏がみた船の影は密漁船か何かということになるだろう。

 

「このタイミングで、密漁船……」

 

「織斑君達も気づいたみたいです」

 

 最も、最初に気づいたのは織斑一夏だし守ったのも織斑一夏だ。犯罪者を庇える余裕があるのか?と問いただしたいところだが、それは言ってしまったら不味いことなので口を閉じておく。

 にしても、織斑一夏も不幸なタイミングで見つけてしまったものだ。密漁船ははっきり言って自業自得だが、このタイミングで見つけてしまったら、彼は助けなければならない。見殺しにするのは彼の性格では難しいだろうし、彼の性格を抜きにするとしても見殺しにした場合色々な所から文句を言われかねない。主に、犯罪者なら見殺しにするような教育をしている、などという輩もいるだろう。

 

「ちっ…篠ノ之は浮かれているし密漁船…面倒だな」

 

「お、織斑先生……」

 

「何ですか、山田先生」

 

 と、ここで何やら山田先生が顔を真っ青にしているのが確認できた。もしかして、もしかしてなのだが……また別の問題が起こったとでも言うのだろうか?

 

「あ、新たなIS反応…しかも、複数体です!」

 

「何…?日本の部隊では無いのですか?」

 

「いえ…でも、正規の軍のものであることは間違いがありません」

 

「……福音とは全く別の位置からのアプローチ…狙っている…?」

 

 ……あぁ、これドイツ軍か。となると、私が行くべきか?先生達は向かう気がないようだし…

 

「先生、私のISなら1番にたどり着けます」

 

「……そうだな、頼む」

 

 おや、案外すんなり受け入れてくれた。正規の軍だから安全だと踏んだのだろうか?まぁ、仮にテロリストだったりしたら私が即座に通信を飛ばすと考えているのだろうか?

 ま、どちらにしても私がいかないと色々と面倒な事になりかねない。アイツらを落とすためにも…色々としてやらないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぐぐぐっ……!」

 

 サクリファイスの超高速初めて使ったけど、これは酷い。ろくに風が防げていないじゃないか。おかげで頭が潰れそうな思いをしているよ。

 しかし、その分早いことは確実だ。実際、直ぐにつくのだから……とりあえず、速度が落とせるだけマシと思った方が良さそうだ…

 

「……ぷはっ…」

 

「……随分と急いできたのだな、IS学園の生徒」

 

「そりゃあ…大急ぎで終わらせたい案件ですし?」

 

「我々の要求はただ一つだ。我らの上官であるラウラ・ボーデヴィッヒの解放だ」

 

 わかりやすいドイツ軍。しかし、これくらい解りやすいほうがいいのかもしれない 。勘違いで倒す訳にはいかないし。

 

「解放と言われましても━━━」

 

 サクリファイスのエネルギーシールドが、不意に光る。何かの攻撃を受けた合図だ。というか、正面からの攻撃…ドイツ軍黒兎ちゃんの部下達からの攻撃だった。

 

「私達は『Yes』の一言しか認めていない」

 

「……」

 

 多分、笑顔で固まるとはこういうことだろう。私は今多分、内心すごく目の前のヤツらを軽蔑してる。理性では、別のものとわかっているが、心が目の前に居る女達は兄を殺したヤツらと同じと罵っていた。

 

「因みに、通信は封じさせてもらった。急に信号が消えたから、恐く応援が来るかもしれないが……その前に貴様を捉えるくらいの実力は━━━」

 

「うるさいよ」

 

「……何?」

 

 あ、やべ。本音でちゃった。けど仕方ないよね…私の理性と本能は別だもの。言っちゃあいけないことはあるかもしれないけど、それを言っていい相手と言ってはいけない相手くらい私に決めさせろ。

 

「そうやって人を初めから見下しているから負けるんだよ……この機体は外させてもらうよ…」

 

 ちょうどいい、私のIS…本来のIS……その力を存分に試させてやるよ。さて、確か名前は━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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少女起動

 カリオストロ、ゲームなんかでよく使われてる名前だけど……色々な肩書きを持っている。その実、本人は富裕層から巻き上げたお金を貧民層に分け与える詐欺師だった。

 そんな、騙しが得意……いや、肩書きが多いカリオストロという人物を文字ってこの機体は出来ている。

 

「な、なんだ…?」

 

 速度ばかりの機体から、別の機体が剥けて出てきているように見えるだろう。だが、この機体をただのISと思わない方がいい。その理由は、性能が段違いだとか持てる武器が異次元レベルだとか、そんなものじゃない。

 ISという『スーツ』から逸脱したものなのだから。

 

「う、ぐううう…!!?」

 

 挟み込むかのように、腕のパーツが私の腕を締め上げて装着する。この機体は、他のISと違ってコード…否『管』が多い。未完成の品、という訳では無いし未だ組みたてている最中の為、という訳でもない。

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 カリオストロには、人間の筋肉のような繊維や血管のような管が通っている。それは、痛覚神経までをも正確に作り上げた正に『鉄の人間の体』。ISという器を、人間にするための機体。

 この機体は、私の神経と、私の筋肉と、私の血管をぶった切ってくっつけるためのもの。

 そんなことすれば、まともな人間なら即座に死に絶える。痛みのショック死…もあるが、失血死も有り得る。

 

「ふー…!ふー…!」

 

「こ、殺せ!!こいつは()()()()()()!!」

 

 だから耐えられるように私の体は改造されてるんだ。カリオストロの為だけに、私の体は改造してあるのだ。

 因みにこの機体……そんな、歪な機体だからこそ私の脳の電気信号だけで動かせる…そういう仕様になっている。

 

「━━━はぁ」

 

 腕、足、そしてボディ部分と来て最後にヘルメットが装着される。これが無いと私の目が私の脳の動きについて来れなくなる。文字通り、私の全部を使ってようやく動かせる機体。こいつを動かそういう覚悟がなければ、まず動かすことがない機体。

 これのどこがISか、なんて亡国機業のヤツらから何度も聞かされた。そりゃあそうだ。ISの形をした人の肉体なんて、気持ち悪いだろう。

 

「早っ…!?」

 

「人ってさ……自分にない器官は、ちょっと反応が遅れるんだよ」

 

「きゃあああああ!!」

 

 まずは1人。なんかまだいっぱい居るし、せっかくだし憂さ晴らしに付き合ってあげよう。

 どうせ、みんなもう私の捕虜なんだしさ。

 

「でもね、神経が繋がってる部分って人は基本回避できるんだよ」

 

「そんな、何だこの速さと機動力は………!?」

 

 2人、3人……数えるのが面倒になってきた。逃げる奴らもいるけど、逃げられるとでも思ってんのかな。

 

「私の機体、カリオストロはそれを可能にした機体。神経と無理矢理機体を接続させることで、文字通り手足を動かすようにスラスターや、羽を動かすことが出来る」

 

「何だ、こいつは…!?」

 

「逃げられなっ…!?」

 

 逃げようとしたやつから、かつ遠くにいるヤツらから落としていく。どうしても間に合わなさそうなら、銃で撃ち抜く。たったそれだけでいい。ISのデータを奪ってきただけある。

 

「しかも、このヘルメットのおかげで私の感覚は通常よりも倍くらい増えてるって話。これでも、ちゃんとセーブかけてるんだから面白いよね」

 

「こんな、こんなあっさりと……!?」

 

 私の脳に、次に倒すべき敵の情報がぶち込まれる。最適化された戦闘を行う為に、脳にもきちんと接続されている。どれだけ早くしても、私の思考が追いつかなくなることは無いし、無論反射神経もその分早くなる。

 まぁ、頭かなり痛いけど……しょうがないよね。

 

「……で、この様子だと伏兵いなさそうだね。安心して?全員殺さないからさ」

 

「お、お前が…お前の存在はIS学園の在り方を否定するものだ…貴様の存在を公にしてやれば!私達の隊長も取り戻しやすくなる!日本も、世界からバッシングを━━━」

 

「ねぇ」

 

「へ……?」

 

「殺さないって言ったけどさ……このまま返すわけないじゃん。日本で働かせようかなぁとか思ってたけど、あった時の態度とか……私そういうの嫌いだから、もっと酷い目に合わせようと思うんだけどどう?」

 

「な、何を……」

 

「ふふ、それはお楽しみ……あぁでも、ISは全員没収ね?せいぜい私のカリオストロの予備パーツにでもさせてもらうか…あ、やっぱり亡国機業の一般兵たちに与えても良さそうかな」

 

 ドイツ軍で使われているIS、少し改造を施すだけで簡単に使うことができるようになるだろう。

 

「ま、とりあえず落ちてもらうよ。向こうも終わったみたいだし…さっさと、ね」

 

「む、向こう?一体何を━━━」

 

 意見は言わせない。言う前に気絶させた。とりあえず一旦降りて…降りる場所ないじゃんここ、海の真上だし…どうしたもんかなぁ……

 なんて思っていたら、後ろから気配がしていた。どうやら、誰か来たようだった。

 いや、誰かなんて決まっている。恐らく1年代表候補生組の誰かだろう。

 

「……このドイツの人達を倒したのは貴方?」

 

 来たのは、シャルロット・デュノアと凰鈴音の2人。セシリアとラウラはどうやら来なかったようだった。織斑一夏と篠ノ之箒が居ないのは、エネルギー的な問題だろうか?

 

「答えないの?」

 

 答えないというか、安易に喋りたくない。この機体、ボイスチェンジャー付いてないっぽいし。ただ、脳とリンクしてるしこのまま文章でも送信してやろう。

 

「……『答える義務はない、相手をする義務もない』…?残念だけど、僕は一応クラスメイトを守る必要性があるんだ」

 

「あんた、ISでテロでも起こすつもり?ドイツって国を敵に回して…他の国も敵に回さないとか考えてんの?」

 

 元々亡国機業はそういうところだし…と、言いたいし文章も送りたいが、下手に情報を与えるとどやされるので黙っておく。テロリストですら情報統制激しいのは辛いなぁ。

 

「だんまり、ね……悪いけど…今私達は無性に気がたってるのよ!!」

 

「一気に決めさせてもらうよ!!」

 

 初見ならば、もしくは対策が練れていないのならば。この2人を相手にして無事で済むはずがないだろう。しかし、私の機体は既にあの二人のISの武装をコピーして精製している。

 目には目を、歯には歯を、武装には同武装を、である。

 

「シャルロット!一気に決めるわよ!!」

 

「了解!!」

 

 シャルロット・デュノアがまずは動く。凰鈴音の直線上に立って、2丁の銃で撃ち抜いていく。まぁ当たるわけもないので私は下に逃げるように移動して避ける。

 

「逃がすわけないでしょ!!」

 

「っ…!」

 

 すかさず飛んでくるのは曲刀、甲龍の武装の1つだが凰鈴音はそれをぶん投げて使用していた。それに当たるほど、さすがに間抜けではない……が、投げた直後にどうやら龍砲を撃っていたようで避けた瞬間に目の前に来ていた。まぁ、無理をすれば動けるのがカリオストロの特徴。多少リミッターを外したら簡単に避けることが出来る。

 

「はっ?!今の避けるとかどういう動きしてんのよ!!」

 

「まるで来ることがわかってたみたいだね…」

 

「でも動けてたのはぎりぎり!!きっちり仕留めるわよ!!」

 

「了解!!」

 

 少しばかり鬱陶しい…さっさと終わらせたいのだ。こちとら頭が痛くてしょうがない。鼻血も出てる。

 しょうがない……もうちょい無理をしよう。

 ここがカリオストロの……武装コピーの見せどころ…!

 

「新しい武装…ってあれは……!?」

 

「何よアレ…まるでブルーティアーズのビットじゃない……」

 

 ご名答、だってそれをコピーしたんだもん。それ以外にもまだあるよ?甲龍、ラファール・リバイブ・カスタム、シュヴァルツェア・レーゲンの各武装。

 要するに……遠距離の塊だ。副腕も付けてもらった。

 

「ブルーティアーズだけじゃないよ…僕のラファール、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲン…」

 

「私の甲龍の龍砲まで……」

 

 コピーしまくりパチモン装備。けど本体より負けるって道理もない。ミサイルにビーム、巨大砲塔に空気砲、アンカーまで自由自在だ。

 

「けど!!」

 

 私の側面から、先程どこかに飛んで行ったと思われた曲刀が飛んでくる。どうやら、いつの間にかシャルロット・デュノアがワイヤーで捕まえて飛ばしてきたようだ。

 不意打ちでは動けないと判断したのだろう。ただのISならば、問題は無い。これがまともなISでないことを、2人にも教えてやろう。

 

「━━━」

 

「え…?」

 

 瞬間、曲刀が爆発する。ビットから放たれるビームによって、私が破壊したのだ。因みに、カリオストロに眠るビットは13機。私はそれを脳みそで無理やり全て並列に同時に処理している。多分この戦いが終わったら長く寝込みそうだ。

 

「う、嘘でしょ…セシリアのよりも動きが……」

 

「鈴!」

 

「っ!!」

 

 本当にやばいので、フルバーストで決着をつけさせてもらう。カリオストロの武装は、確かにコピー品だ。しかし、その使い方をオリジナルで作ることや武器そのものの改造をしないという訳では無い。

 寧ろ、それが真骨頂のところさえ感じられる。

 

「何を…」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの砲塔は、レールカノンだ。それに、ブルーティアーズのビットを取り付けて、龍砲も合体させる。コピー品をひたすらに繋ぎ合わせた、オリジナルカノンである。

 正直、撃ったらどうなるか分からない。けれどさっさと決着をつけたいから撃たせてもらう。

 まぁ、ただ撃つなんてことはしない。避けられたら終わりなので。

 

「あんな馬鹿でかいの!当たるわけないでしょ!」

 

「待って鈴!これは罠━━━」

 

 遅い。カリオストロから発射されたアンカーが、甲龍を捉える。ただ拘束するだけなので、どうやらISのシールドは機能しないようだった。

 

「きゃっ!」

 

「鈴!!危ない!!」

 

 アンカーに絡め取られて落ちていく凰鈴音に、シャルロット・デュノアがその体を滑り込ませる。

 本人は気づいていないのかもしれないが、勝負は勝負だ。私がカリオストロのパイロットなんて気づかれる証拠も無いので、さっさと敗戦処理をさせてもらう。

 私は、少し先のことを考えながら……そのレールカノンのトリガーを、引いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……貴様、何だこの大人数は」

 

「ごちゃごちゃ言わないでよM…船回してくれたことは感謝してるよ。

 それに、ISの確保…甲龍までパイロット事奪ってきたんだから良しとしてよ」

 

 通信越しに、有難いお説教を頂きましたよ。えぇ。でも実際大人数だと思う。けどもう持って帰るって決めたんだよね。

 

「……けれど、本当にどうする気?」

 

「S、私はこの子達に素晴らしいことを知ってもらいたいだけなんだよ。その為に、少しばかり祖国とか色々離れてもらう…それだけだよ」

 

「意味のわからないことを…」

 

「M、私は貴方に話していない」

 

 と、ここまで言ったらあの女私との通信をそのまま切りやがった。なんで私こんなに嫌われてるんだろうか。

 

「とりあえず……持って行ってあげるよ」

 

 私は、後ろにいる少女達のことを見ながら……恐らく凄まじく悪い顔を浮かべていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━━」

 

「━━━━━」

 

 ISは奪った、徹底的に精神を折って心を折ってボロボロのめちゃくそにしてやった。

 ドイツ兵達は、そこまでやったら私に従順になっていた。後で捨てるけど。ちなみに今は、とある海外の富豪と話していた。女だからという理由でいやらしい目を向けてきたが、私の体の事と…私に手を出した場合のデメリットを教えてあげたら、私にすぐ興味をなくしていた。

 因みに、話の内容は至極簡単……ドイツ兵達をこの男に売るのだ。この男、隠れた趣味が女を壊すことだという。そして、壊れたら部下やスラムに投げ捨てて与えてやっているのだそうだ。そんな所に、ドイツ兵達は売られるのだ。私に関わったばかりにそんな目に遭うのだ。

 

「あんた…本当に最低ね…!」

 

「そんなこと言ってる余裕…貴方にあると思う?凰鈴音さん」

 

「…何が言いたいのよ」

 

 私の後ろで、素っ裸で首輪でご丁寧に名札までつけられているものを軽く音を立てながら、凰鈴音は私に噛み付いてくる。

 しかし、このあとの運命的に恐らく彼女の方が酷い目に会う。

 

「これから亡国機業(私達)が貴方を飼うことになるから、よろしくね」

 

「え……」

 

 住所不定、場所を確かめてくれるISも無し、ハッキングされないように機械のない建物での拘束…とりあえず凰鈴音は、誰にも見つけられない場所で便所になる未来が今ここで雑に決められた。




カリオストロの性能
・待機状態で触れたISの武装のコピー
・脳や神経と繋がることによるコンマレベルでのラグの消失
・脳みその処理速度up、それに伴って目や筋肉や反射神経なんかも全て性能アップ
・デメリットとして全部脳や脊髄にダメージが常にある。


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少女閑話

 さて、このお話は私がシャルロット・デュノアと凰鈴音を打ち負かした少しあとのお話である。

 あの後、残ったセシリアとラウラ。そしていつの間にか大怪我をしていた織斑一夏と、いつの間にか意気消沈していた篠ノ之箒が福音に終止符を打ったそう。

 なぜ他人事のように話しているのか、実際他人事なのはそうなのだが、その間私は見事に気絶していたからだ。ではその間、捕まえた凰鈴音とドイツ軍以下略は、どうしていたのか?それは既に回収してもらっていた。ギリギリ船に乗せるのが成功したので、とりあえず海に飛び込んで、体の力を抜いていたらあらビックリ数日経過していた……というオチである。

 でまぁ、本題はここから。細かくシチュエーションを付けることになってしまうが、福音を倒したあとかつ私とシャルロットが、二人きりになっていた時の話。

 

「鈴をどこへやったの」

 

「世界のどこかじゃない?」

 

「ふざけないで!なんで、なんで鈴が貴方に攫われないといけないの…!」

 

「私だって…分かるんだ?」

 

「……なんとなくだよ。あのIS、僕達の装備ばかりだった。他の生徒、って可能性もあるかもしれないけど……そもそも1番怪しいどころか、敵なのが確定しているのはあなたしかいない」

 

「それで、あのIS操縦者が私だって?」

 

「…そうであろうとなかろうと、少なくとも貴方が関係しているのは間違いない」

 

 なるほど、確証はないようだ。まぁ一切顔を見せていないししょうがないと言えばしょうがない話である。

 だが、それがシャルロットの怒りにつながっているかどうかはまた別の話だ。

 

「……なんで、僕じゃなかったの。決闘の相手は僕だったはずだよ」

 

「だったら一人で来たら良かったじゃん…なんて、そんなことは言わないけどさ。貴方自身よりも、貴方の周りにいるものを消していけばあなたにはダメージがあるかなって」

 

「っ……そのため、だけに…!?」

 

「そ、だからあなたは攫わなかった。まぁさらっても良かったけどさ…デュノア社の娘のあなたを攫うより、中華屋の娘の凰鈴音さらった方が良かったんだよね」

 

「……」

 

 言わんとしていることがわかったのか、シャルロットは下唇を噛んでいた。そう、仮にもしデュノア社の娘であるシャルロットをさらった場合、1人の社長が娘を探そうとして躍起になるかもしれない。大事な娘なのか、なにか重要なことを握っている『道具』だからなのかはともかく。

 それに比べて、凰鈴音の場合は本人は返さなくてもISさえ返せば向こうは納得してくれる。というか、お嬢様とかじゃないだけで国の対応はかなりずさんになる。特に、男が上司だと露骨にその反応は酷くなる。

 

「貴方は大事にされてる前提で、凰鈴音自体は国からは大事にされてない前提として、だったら凰鈴音攫った方がいいよねってなる訳で」

 

「仮にISを返しても、向こうは日本を糾弾するよ?」

 

「私には関係ないよ。それで日本が落ち着こうが荒れ狂おうが、私には一切どうでもいいこと」

 

「ま、どっちにしろ貴方みたいな性格の女を虐めるのは、これが一番いいと思っただけだよ」

 

「……下衆め…!」

 

「褒め言葉ありがとう、悪いけど私女の人が大の苦手だから……言葉だけ受け取っておくね」

 

 勿論皮肉だ。もし私が負けていたら、負け犬の遠吠えになっていたかもしれないが……私は勝ってるので、皮肉ですんでいた。

 

「…鈴は、絶対に取り返す…」

 

「そりゃあすごい、頑張ってね」

 

 私はそう言いながら、寝込んでいる布団を首まで被る。凰鈴音を取り返そうとするその心意気はいいが、本当に私でさえ場所を把握していないのだ。

 特にどこかに表立ったアジトはなく、裏の方には存在している……という訳でもない。文字通り、ないのだ。そんなもんだから、中々同業者と会うことが少ない。仮の場所を集合場所だったりする時もあるが、今のところ私はアジトを知らないでいた。

 さて、とりあえず一旦寝よっと。

 

「くっ……」

 

 シャルロットも諦めたのか、私が寝たかもしれないと判断すると、特に何か暴力を振るおうとする気配はなかった。まぁ、単純に殺しても意味が無い上に、リスクがあるということが分かっているからなのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideシャルロット

 

 僕は歯がゆい思いをしていた。わかりきった敵が目の前にいるのに、自分では何も出来ないことに。その敵に対して、自分が何かを成しても一切の成果が上げられないことに。

 

「どうして……!」

 

 あの時、彼女はドイツ軍らしき人達を倒しきっていた。あの姿を見て、彼女がIS学園に通うただの一般生徒だと言われても信じる者は少ないと思う。

 あのIS、僕達が二人がかりで挑んだにも関わらずほとんど苦戦をさせることが出来なかった。あの動き方は、まるで文字通りの意味で自分の手足のように動かしているとしか思えなかった。

 

「……」

 

 相手は呑気に寝ていた。だが、彼女のISを奪う事が出来れば…これから敵が減るかもしれない。このISを提出すれば、彼女は少なくともIS学園に居ることが出来ない……なら。

 僕はそう思って、待機状態になっているISを探す。彼女は2機、ISを持っている。もう一機、待機状態のがあるだろう……そう思って、起こさないようにゆっくりと彼女を跨ぐように体を彼女の上にする。

 

「━━━手が出せるって、本気で思ってたの?」

 

「っ!?」

 

 気がつけば、僕は彼女に押し倒されていた。その顔は蛇のような…まるで、獲物を前にして舌なめずりをしている蛇のようだった。

 しかし、その目は一切の光を宿していなかった。彼女の目を、初めて近くで見たが、その目には僕は移っていないようにさえ思えた。彼女には、また別の狙うものが━━━

 

「……そうだね、丁度いいし君も狙ってあげる」

 

「何を━━━」

 

 両手をそれぞれの腕で拘束されている状態で、僕は一切抵抗ができなかった。それは恐怖を感じて…とかじゃなくて、純粋な腕力で出来なくなっていた。そして、それは足の方も同じだった。

 一切動けない状態で、彼女は僕の着ている浴衣を丁寧にはだけさせていく。

 

「っ!?」

 

「まぁ、今は手は出さないから安心しなよ。私は……単純にはだけた貴方の写真を『上げる』だけだからさ」

 

「あ、あげるって……誰に…」

 

 彼女は僕のその言葉を聞くと、キョトンとした表情で見てから直ぐに笑みを浮かべていた。僕は、その笑みを見て恐怖に駆られた。人の笑みを初めて怖いものだと認識していた。

 

「さて……私は何をどうするでしょう……か、っと」

 

 そして、最終的に僕の着物の帯は外されて、完全に着物が崩れてしまっていた。直すのにしばらくの時間がかかるだろう。だが、何を思ったのか彼女は僕の上からどいていた。

 

「っ…!」

 

「おーおー、即座に直そうとするその心意気や良し」

 

「すぐにでも…!」

 

 何をされるかはわからないが、僕は直ぐに浴衣を直していた。綺麗に、とまではいかないが少なくとも勝手に解けて崩れると言ったことは起こらないだろう。

 しかし、そんなすぐ直していてもとある音で手遅れだと僕は悟った。それは、カメラのシャッター音だった。

 

「なっ……!」

 

「携帯持ってないと思ったの?滑稽だね」

 

 そう、携帯のカメラで写真を取られていたのだ。僕はその携帯を取ろうと動く…だが、本当に病み上がりなのだろうかと言わんばかりの機敏な動きで、最小限だけ動いて僕を回避していた。

 

「なんで、そんなに動けて…!」

 

「いやぁ、頭が冴えちゃって冴えちゃってしょうがないんだよねぇ」

 

 一体なんのことか全くわからないが、とりあえず彼女の頭が冷静に働いているのだと僕は理解することにした。そんなことはどうでもいいからだ。

 

「それに、そんな騒いでいいの?」

 

「え…?」

 

「織斑先生が、来ちゃうよ?」

 

 その言葉で、僕は一瞬躊躇してしまう。織斑先生からしてみたら、僕達二人とも『被害者』なのだ。しかも、彼女の方が酷いことになっている……そんな状態で喧嘩をしていたら、僕が明らかに悪者になってしまう。

 客観的に見たら、僕が怪我をした彼女を襲っているようにしか見えないのである。勿論、織斑先生が僕がただ彼女を襲っているとは思わないだろう。しかし、その理論でいえば目の前にいる彼女も同じ理論で織斑先生に守られてしまうのだ。

 

「……ま、安心しなよ。顔は隠してあげてるからさ」

 

「……一体、何を…」

 

「うーん、そうだねぇ…1ヶ月でいいかな…?」

 

「…?だからなんの…」

 

「この臨海合宿が終わってから1ヶ月、織斑一夏以外の男の人に声をかけられたら、イェスマンで過ごすこと」

 

「……もし断ったら?」

 

「凰鈴音の場所が本当にわからなくなっちゃうね」

 

 初めから教える気なんてサラサラないだろう。僕だって、その事は頭で理解していた。しかし、『もし本当に教えてくれるなら?』という気持ちもあった。

 一切信用出来ないのは変わっていないし、信用に足る情報を提供された訳でもない。けど、『もしかしたら』という気持ちが僕の判断を鈍らせる。

 

「それと、イェスマンでいなかったとしても案外バレるからそれも気をつけておかないといけないよ」

 

 恐らく、彼女の仲間が僕に手を出しに来るんだろう。それを断ると、鈴の場所が…手がかりを完全に失ってしまうことになるのだ。可能性さえも潰えさせてしまうのは、とても惜しいことである。一夏の悲しい顔なんて……もう見たくない。

 

「……わかった」

 

「いいよいいよ、1ヶ月耐え切ったら…ちゃんと情報をあげるからね…と言いたいけど、ちゃんと渡すって証拠が必要だよね?」

 

「…そういうの、くれないと思ってた」

 

「いやいや、ちゃんとあげるよ……そうだねぇ…10日事に、航空写真をあげるよ。期限ごとに段々狭まっていくものをさ」

 

「……絶対僕にバレない、って思ってるの?」

 

「絶対バレないなんて言わないし、もしかしたらちゃんと助けられるかもしれない…とも思ってるよ」

 

 笑顔で、ずっと話しかけてくるのが不気味でしょうがない。一体何を企んでいるのだろうか。

 本当にそう思っているのか、実はそんなこと微塵も思っていないのか……その違いすらも、判別しようがない。

 

「じゃあ、どうして……」

 

「助けられるかもしれないとは言ったけど、そこから脱出できるとは言ってないし…ちゃんとIS学園まで連れてこれるのか、って問題もあるよね」

 

「っ……」

 

 屁理屈だ。けど、確かにその通りでもある。極論の話だけど、北極とか南極に鈴がいた場合、ISだけで助けに行くのは不可能だ。それに、仮に手助けを入れられたとしてもそこの戦力が未知数だからどうしようもない。

 

「ま、どっちにしろもう君は意見を呑んじゃったしね。今更拒否するって言うのは許されないよ…わかってるとは思うけどね」

 

「……」

 

「じゃ、私はもう寝るから……林間合宿が終わっても、よきクラスメイトとして一緒に頑張っていこうね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 その後、ものすごく重い空気と共に林間合宿は終了した。凰鈴音という少女1人が行方不明となったこの事件は、学園内でも表向きは誰も語らなくなったのだ。

 けど、悪い噂も当然立つ。無論、シャルロット・デュノアにである。織斑千冬がいる所では、何も起こらないだろう。しかし、1組以外の彼女をよく知らない人物からしてみれば、『凰鈴音が連れ去られたにも関わらず、さらわれなかった女』として映るのだ。それが国単位としても同じだったのか、中国はフランスを糾弾しているらしい。代表候補生とはいえ、大事な甲龍を奪われてしまったにも関わらず、フランスはただ気絶させられただけで特に何も起こらなかったからだ。

 さて、国の話はともかくとしても……前は男として偽って入学し、今回は凰鈴音の拉致…こんなことが続けば、性根が悪い奴らからどんな目に遭うかは予想しやすいことだ。

 まぁ、下手なことは出来ないので隠れてするか…それとも陰湿な手口を使うかは別だが……正直な話、私でさえここまで上手くいくのは出来が良すぎると思っている。

 

「まぁ、それでどうなろうとも私は関与しないけどね」

 

 それが私のシャルロット・デュノアに対する考えである。どうなるかは全くわからないが、とりあえず退屈はしないようで……彼女には、色々と頑張って欲しいものである。



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映像観察

 私は、福音の事件に関わったものとして事の顛末の映像を見ていた。無論、自室のみでしか許されていない。そうして眺めていたが、ため息をついていた。それはつまらないからという理由ではなく、白式の力が解放されていたことによる呆れがあったのだ。あの時、私には何があったのか知る由もない。1度起きた時には、既に終わっていたことだったからだ。よって、何が原因でこれが発動したのか予測することでしか分からないのだ。

 

「……ま、とてもそんな雰囲気ではなかったけどね」

 

 クラスの雰囲気は落ちていた。織斑一夏が落ち込んでいるため、というのが大きな理由である。そして、織斑一夏が落ち込んでいるのは凰鈴音が既にこの学園にいないからだ。

 出来れば、詳しいことを聞きたかったのだが……そこで空気の読めない行動をするほどのアホにはなりたくない。

 

「凰鈴音がどうなっているかは、私にもわからない。殺すことや四肢を欠損させること以外は何してもいい…とは言ったけど」

 

 殺すのは論外である。四肢欠損させた場合、色々と面倒が起こることもある。彼女自身にも、彼女以外の他人にも、だ。

 それに、体が綺麗じゃないと人が寄らなくなってしまう。怪我をさせていたら、人に同情させられてしまう。

 

「ま、本当にどうなってんだろうね…」

 

 そんなことを呟いた後、映像に集中するために思考をそちらに寄せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side?

 

 暗く、湿度が高く、それでいて空気の循環が中々行われないような窓のない部屋。その部屋の作りは全面的にアスファルトであり、無機質かつ冷たい部屋というのがぴったりな所だった。

 そんな所に、凰鈴音は一切の布を纏わずに放置されていた。彼女が今身につけているのは、たった一つの首輪とそれと壁をつなぐ長めのチェーンだけである。そのチェーンも、彼女が立ち上がってほんの1歩だけ歩ける程度の長さしかないが。

 

「……」

 

 その部屋で、凰鈴音は何もしゃべらず、動かず…じっと時が過ぎるのを待っていた。彼女は一体この部屋で何をしているのか、簡単な話である。

 

「━━━」

 

 聞きなれない異国の言葉。日本語と中国語だけは発音できる鈴も聞き覚えのない言葉だった。所々聞き覚えのあるような単語を、時折発している男が部屋に入ってきた。

 それも1人ではなく、複数人。皆、服こそ着ているものの膨らませた股間を隠そうともしていなかった。

 

「━━━」

 

 鈴は自分を指さされて、まるで軽蔑されているかのような笑みを向けられていたが、おそらく実際に罵倒か嘲笑されているのだろう…そういうことだけは理解出来ていた。

 

「…さっさと犯せばいいのに……」

 

 彼女がここでやらされていること。それは、この部屋にやってくる男達の性欲処理である。無論、このようなところでやっている以上無償である。そのことを意識すると、まだ売春婦の方がまともな生活をしていると思ってしまって、自己嫌悪に陥ってしまう。

 

「きゃっ!!」

 

 言葉こそ通じないが、男達は鈴に手を伸ばして無理やり押し倒していた。アスファルトの上に倒されて、鈴の背中が少しだけ痛む。しかし、その痛みは彼女を完全に現実へと引き戻す。彼女の思考が、現実を見させてくる。

 

「くっ…早くするならしなさいよ!!」

 

 ヤケになって叫ぶ鈴。既に、その体から処女膜は失われている。何度も何度も犯されて、彼女の意志とは関係なく肉体はオスの肉棒を受け入れる準備が初めから整えられてしまう。

 それを甘んじて受け入れているのは、絶対に織斑一夏の元に帰るという意志。汚れた体でも、恋をしたあの少年は自分を受け入れてくれるだろうとという期待、希望。例え恋人関係にならなくとも、友人関係は続けられるという諦めと期待。

 それらを踏まえての、男達に対する催促。惨めなことこの上ないが、鈴はそれを自覚しながら進まなければならない。

 しかし、今回はいつもとは少し違っていた。

 

『━━━』

 

 またもや鈴が理解できない言葉で、今度はどこからともなく放送が流れてくる。ひとまずこれで彼女が理解したのは、『この辺には人がいること』と『電気が通っていること』の2つである。その上で、自分が喋れない言葉の国と、入ってくる人間の肌の色で判別するしかないのだ。

 

「な、なに…?」

 

「……」

 

 男達が、突然口角を上げてニヤニヤし始める、先程の放送の件で笑っているのは、あからさまである。

 そのまま、男達は一旦は鈴から離れる。言葉がわからなかった以上、雰囲気で察するしかないが…どう足掻いてもゲスな事しかされないのは、目に見えていることである。

 

「━━━」

 

「…?どっか行っちゃった…」

 

 男達は、鈴を放置して外に出てしまう。ここの部屋は鈴に外を見させないためか、まともな明かりが外からは入ってこないのだ。よって、窓もないことを考えれば今が何時なのかさえも彼女はわからない。

 

「…?なんか、変な音が……」

 

 耳を済まさなくても、わかるほどには大きな音が鈴の耳に入ってくる。それがしばらく響いたかと思うと、上の天井の四隅に小さな隙間が出来る。

 そこから、特に何も起こることなくしばらく鈴は警戒していた……のだが、ふと気づいてしまう。

 

「……もう既に、やばいんじゃ…!?」

 

 そう、何も起こらなかったのでは無く……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 実際、鈴の鼻にはほんの少しの匂いが入ってきていた。今の今まで、男の精液以外の匂いなんて全く入ってこなかった鈴鼻に、ほんの少しだけ甘い匂いが入ってきているのだ。

 

「な、なんとかして脱出できれば…!」

 

 何とかして、その部屋からの脱出をしようとする鈴。しかし、そんな簡単に脱出できるのならば、彼女は既に脱出を終えていないといけない。そんな事に、本気で気づかないほど彼女は愚かではない。

 

「こ、この匂い…意識したら、余計に頭が…」

 

 鈴の頭は、段々とまともな思考が出来なくなるくらいには朦朧とし始めていた。体の外面に目立った異常は感じられないし、確認もできない。

 しかし、思考力の低下こそ認識していたものの……その次に訪れる変化には鈴も意識出来なくなっていた。

 

「うぇ……んひぁ…」

 

 乳首が勃つ。愛液が、太ももに大量に流れていく。力が抜けて、部屋の床の上で大の字になってしまう。そうなった瞬間、更に甘い匂いが鈴の思考力を奪っていく。

 鈴が、尿を漏らしている自分がいることに気づくのは、倒れてから数秒経っていた時だった、それも、羞恥心すら湧かないほどに他人事のように考えてしまっていた。

 

『━━━』

 

 無機質なボイスが流れる。なんのことかは分からないし、鈴はそれを気にすることもなかった。

 気にできるほど理性が残っている訳でもないし、思考が出来るという訳でもない。

 

「……」

 

 ニヤニヤと、再度部屋に入った男達はニヤついていた。恐らく、犯す許可が出来たのだろうと理解出来る。しかし、今の鈴が抵抗できるわけもないし、その意思すらも奪われている以上…鈴はなすがままされるがままに犯されるしかないのである。

 

「ひぐっ!?」

 

 男達の手が鈴の体に触れる。その瞬間に、鈴は今まで感じた事がないくらいに快楽を感じていた。何故自分がここまで感じるのか、今の鈴には全く予想できなくなってしまっていた。

 

「━━━」

 

「ン、ンムッ…!」

 

 鈴の声が目障りなのか、はたまた全く関係がないのかはわからないが、男達の内の一人が鈴の口の中に自らの肉棒を突っ込んでいた。突然異物を突っ込まれても、鈴は抵抗出来なかった。

 わかりやすいほどに、鈴の頭が働かなくなったのは薬物のせいだと言う事実だったが、その事実を理解しても鈴は抵抗しようとすら思いつかなくなっていた。むしろ、犯されて気持ちよくなりたいが故に、自ら股を開こうとするまでになっているのだ。

 

「んぶ、じゅるる…んぶ、じゅる…!」

 

 舌から味わうことの出来る肉棒の味を、売春婦のように味わっていく。必死で舐めているその姿からは、いつもの鈴を思い出すことなんてまず不可能に近いだろう。

 

「━━━」

 

「んぶぅ!?」

 

 男達もそれを見て勢いづいてきたのか、鈴の体をこれでもかという程に味わい始める。その内の一人が、鈴のアナルを犯そうと調子に乗ってそのまま行為に混ざり始める。

 既に四人参加していたので、5人目である。使える穴は全て使い、手すらも使用してしまっているので、今の鈴にこれ以上のプレイはまず不可能だろう。

 しかし、鈴はこれ以上激しくされるのを望んでいた。無意識に、心の底から……不可能だとわかっていることを、そのまま激しくしてもらおうと必死だった。

 

「んぶ、んぶぶ…!」

 

 喉の奥まで咥え込み、えづきながらもそれがまるで好物であるかのように咥え込み続ける。

 最早そこに、鈴のまともな意思は絡んでいない。そこにあるのは、ただ性快楽を貪るだけのただのメスだけである。

 

「じゅる、れろ…」

 

 犯されることにただ快楽を覚え、男に媚びを売り、そして腰を振る。性的なことしか学んでいないのかと言わんばかりに、頭の中も行動も腰を動かすことだけを考えていた。

 

「んぶ、んぶぅ…!」

 

 激しくぶつけられる肉棒は、確実に凰鈴音から凰鈴音たらしめるものを削り取っていく。

 今は理性が吹き飛んでいるから構わない。しかし、まともな精神状態のときならば、こうはならないだろう。そこは、ある意味助かっている部分でもある。後から思い出しても、冷静に考えられるほどには彼女も人が出来ている。

 

「ん、んん……!」

 

 激しく突かれている内に、段々と男達の速度が早くなっていく。射精が近いことを理解したのだろう。

 本来ならば、凌辱されているという時点で拒否するはずのものである。しかし、今の鈴はそれを求めるために、男達が自分から離れないようにしてまで、強く抱きついていた。

 そして、その時が来る。

 

「ん、んんん!!!」

 

 吐き出される精液。それは鈴を大きな絶頂へと導いており、そしてそのまま意識すらも奪う程の大きな快楽を与えていた。つまりは、大きすぎる絶頂であるが故に鈴が気絶したという話である。

 だが、そんなことは男達には関係がない。

 

「あぐっ!?」

 

 すぐさま尻を強く叩いて目を覚まさせる。そしてそのまま、当たり前のように犯され始める。そうして、鈴が解放されたのは…そこから更に5回ほど意識が無くなった先後だったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「あ、そうか」

 

 ふと、私はとあることに気づいた。ずっと映像を見てきた割には、映像とは全く関係の無いことだけども。

 

「私を脅しの道具にしちゃってたからか…気持ちとしては別だろうけど、他の子達も同じかな…」

 

 ラウラだけが堕ちて、セシリアが堕ちない理由。私はそれがはっきりと理解出来てしまった。

 それは、まずセシリアには私という大義名分…もとい言い訳の元がある。どれだけ犯されても『鬼村五十冬のため』という美談にすり替える事で、精神状態を保っているのだ。

 では、ほかの女達はどうか?ラウラ以外のメンバーには織斑一夏がいる。恐らく『織斑一夏だったら優しくしてくれる』または『気にしないでくれる』という考えがあるだろう。

 

「ラウラが堕ちたのは、彼女が織斑一夏に惚れる前に手を出したから…かな」

 

 それによって、僅かに私という存在の方が大きかったようだ。タイミングが悪ければ、同じようになっていたかもしれない。

 

「まぁ、ならアイツらを堕とす手段があるとしたら……」

 

 セシリアの精神的な支柱であるものを、壊すことは容易い。しかしほかの女達は、織斑一夏という存在そのものを支柱としてる簡単に殺すだけだったら、精神が限界を迎えてない限り折れることは無いだろう。

 だったら、別の方法で折るしかないけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「童貞奪った動画を見せたらいいのか…?」

 

 うん、私は疲れている。今の一言でそう思ったので、私はそのまま本日は眠りにつくのであった。



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夏季休暇

 やぁ皆、夏季休暇楽しんでる!? 私こと、鬼村五十冬も今夏のこの残暑を乗り切ろうと必死だよ! 体改造して鉄まみれなんだけど、おかげで夏だと金属の体に熱がこもっちゃって!! 

 夏場の平均体温80℃超えちゃって参ったよ!! HAHAHA!! 

 ……うん、テンションおかしいのは分かってる。内心でもこんなテンションで居ないと、私流石に困惑のし過ぎで死にそうになるから。

 

「お茶飲むかー?」

 

「う、うん!」

 

「あ、ありがとう一夏!」

 

「織斑君、シャワー借りていい?」

 

 何故か私はシャルロット・デュノア、そして篠ノ之箒と一緒に織斑一夏の実家にやってきていた。いや、私自身狙ってきた訳では無い。何故か偶然ここに辿り着いてしまったのだ。

 因みに、シャワーを借りるのは冷房があっても私の体から熱気が取れないために、急激に冷まそうとしてるため。流石に冷房ついてる家で熱気浴びるのはきつい。

 

「あ、あぁいいぞ」

 

 警戒されてるのか、それとも単純に異性が風呂に入るというのを聞いて焦ってるのか……どうでもいいか、今は身体の熱を取りたい……ひとまず、シャワーを浴びている間に何故こんな事になったのか思い出そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのめちゃくちゃ硬いアイス買ってきて」

 

「急に何言ってんの?」

 

「わざわざ日本に来てやったんだから、食べたいだけ」

 

「サファイアと同じ硬度を持つあれを食おうというのか……じゃあ買ってきます。いつ帰ってくるのかわかんないけど」

 

 突然来た担当女医、サファイア鉱石を食べたいと言うのでそれを適当なコンビニで買ってきて、帰っている最中のこと。

 

「……」

 

「……ねぇなんか肌痛くない?」

 

「わかる……なんかさっきまでそうでも無かったのに、やけるように痛い……」

 

 私の隣にいる人達がひそひそとそう話していた。ごめんなさいね、多分それ私の体から出てる熱気だよ。まさか一緒に買った某擬音語アイスが冷房効いてるコンビニの中で一斉に溶けるのなんて初めて見たよ。流石に私のせいだとは疑われなかった。当たり前だが。

 

「……いやほんと、私何してんだろ」

 

 実際問題、やることがないというのは非常に面倒だ。セシリアもラウラも鈴も、私が直接しなくても勝手に周りの男性がやってくれるんだし。

 まぁ、もう時期シャルロットもそうなんのかな。どうでもいいけど。

 

「……ん?」

 

 車や自転車なんかを避けるために、私は一々住宅街に入って移動していた。そんな中、途中でとある一軒家の入口に固まる2人組を見つけていた。

 それこそ、シャルロット・デュノアと篠ノ之箒だった。

 

「……うん?」

 

「……君、なんでこんな所にいるの?」

 

「アイス買いに来たんだよね……で、2人してこんな所で何して……」

 

 ふと見ると、織斑の2文字が目に飛び込んできた。その時点で理解したので、特に用事もないのでそのまま帰ろうとしたところ……

 

「あれ? 何してんだ3人とも、中に上がっていけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで私ここに居るんだろう」

 

「じゃあ帰ったら……?」

 

 シャルロットがやたら冷たい反応をしているが、私は無視をする。というか、なぜ風呂場なのにシャルロットがいるのか? 私とそういう事したいの? 

 なんて冗談が言えるほど、まだ余裕にはなれなかった。水被った瞬間ぬるま湯になってしまう。

 

「……ねぇ、何が目的なの?」

 

「今ここで話して、私が得られるメリットはある?」

 

「少なくとも、まだ罪がただ重いだけで済むよ」

 

「だったら、私は既に死刑ものだよ……成人ならね」

 

「そんなことは聞いてない……さっさと一夏の家から出ていって、出来れば学園からも出ていって」

 

「そんな言うことを聞くほど、私は立場が君より弱くなってないよ」

 

 そこで会話が途切れる。被る水が、今この場と同じように段々と冷たくなっていく。

 しばらく、シャワーの音だけが流れていたが……しばらくして再びシャルロットが口を開く。

 

「今ここで、本当のことを話したら間違いなく君は学園にいられなくなる」

 

「別にいいよ、言っても。私は困らないし、一向にやって貰って構わない……ただ、『抵抗はしない』」

 

 わざわざ強調して言った意味が伝わったのか、返事はなかった。抵抗しないというのは、問答無用で逮捕されるとかいうアレではない。端的に言うならば、ボコボコにやられてやるよという意味である。

 ま、代表候補生が日本の生徒1人をボコボコにした場合どうなるかは想像にかたくない。

 そもそも、私の素性なんて本気で調べられたら簡単にバレるようなものだ。今までバレてないだけ、マシとも言える。

 

「……だったら、遠慮はしないよ?」

 

「どうぞどうぞ、言ってもいいけど凰鈴音の場所は分からなくなるよ」

 

 あ、これ脅しに使っちゃった。そんな意図はなかったのだけれど、向こうからしてみたらこれ完全に脅しだ。

 まぁ、そんなこと向こうも分かってるからわざわざ私に話しかけてるんだろうけど。

 

「……いいよ、私にも考えがあるから」

 

「考え、ねぇ?」

 

「もし一夏に手を出したりしたら……絶対に許さないからね」

 

 気配が、私のそばから離れて行く。どうやらシャルロットは、何か策があるようだ。怖い怖い……とは言ってられない。本気で私を潰しに来るとしたら……彼女自身の身を擲つ可能性だってあるのだ。自爆特攻の覚悟した奴の作戦は辛いもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? 二人とも帰ったの?」

 

「あぁ、なんかやたら深刻な顔してたけど……なんか知ってるか?」

 

 シャルロット・デュノアはともかく、篠ノ之箒に関しては何があったのか私にはわからない。まぁ、シャルロットが私の事を篠ノ之箒に話したのだとしたら、合点はいくが。

 

「ううん、わかんない」

 

「そうか……なぁ、鬼村……話がある」

 

「……話?」

 

 何だろう。この鈍感唐変木野郎が、私の何かを勘づいたのだというのだろうか。仮にそうだとしたら、どうしたものか考えなければならない。

 

「シャルロットとの事だ」

 

「デュノアさんがどうかしたの?」

 

「まだあいつが男として学園にいた時、俺達が戦ったあの試合でシャルロットに何を言ったんだ?」

 

「知ってて聞いてる? それとも、知らずに聞いてる?」

 

「あいつの事を、『ちゃん』付けで呼んだらしいな。何であの時点で、あいつの事を女だと知ってるんだ?」

 

「織斑君とデュノアさんが話してるのを偶然聞いちゃったんだ。なんか重要そうな話してたし、隠れてやり過ごそうとしたけどそこにいた時に聞いちゃってね」

 

「俺達が話してたのは夜だ、なんであんな時間帯に外にいたんだ?」

 

「ほら、私とボーデヴィッヒさんってチームだったでしょ? その時、彼女から生身の特訓をして貰ってたんだよ」

 

「あんな時間まで、それ人気のない道を通ってか?」

 

 なんか、随分とグイグイ聞いてくるな……ここでわざとらしくはぐらかしたら、余計にくい込んだ質問してきそうだからそれなりに違和感のない返答をしてるつもりなのだが……ミスった? 

 

「そりゃあ、先生達に見つかったら怒られるじゃん?」

 

「あの時間帯、他の先生達は職員室で会議だ」

 

「へ? そうだったっけ?」

 

 マジでそんなこと私知らなかったんだけど。適当に惚けたけど、これ本当だったら今の回答はまずかったかもしれない。

 

「だから俺達は普通に外に出ていたんだ、けど他の生徒が出てないのは、単純に出る必要性がないからだ」

 

「けど、出れない理由にはならないでしょ? 私は知らなかったけど、ボーデヴィッヒさんは知ってたんじゃないかな? だからあそこまで特訓に付き合ってくれてたんだろうし」

 

「それをお前に教えないでか?」

 

「そもそもあの時のボーデヴィッヒさんって、結構ツンツンしてたじゃない? 私に特訓つけてもらってただけでも有難かったよ」

 

「そもそもの話をさせてもらうけど……じゃあなんでラウラと特訓してるのにかすり傷ひとつ付いてないんだ? 俺ですら、毎日何かしらで傷つけられてるぞ?」

 

 そこに触れてきたか……というか、ラウラと特訓にしたのはまずかったかもしれない。ここで『えー? 覚えてないだけじゃないのー?』なんて言った日には、織斑一夏は確信を得てしまうだろう。

 

「だって、ボーデヴィッヒさん織斑君にいろんな意味で容赦ないじゃん? そもそも織斑君って、女性から本気で殺されかかってる時あるけどその類じゃないの?」

 

「皆、そんな事するわけないだろ」

 

 篠ノ之箒からは本気で木刀を振り下ろされて、凰鈴音からはISの装備で狙われて、シャルロットは知らないけどラウラからはレールガンで狙われて……これで本気で殺されかかってないと本当に思っている辺り、織斑千冬と篠ノ之束という人類最強2人組からの英才教育はちゃんと生きているようだ。

 

「それ本気で言ってる?」

 

「いや、本気だけど……」

 

「普通の人は木刀なんて他人に振り下ろさないし、一瞬で3度叩く……みたいなことできる人なんていないよ?」

 

「え、そうなのか……い、いやそうじゃなくて!」

 

 話をずらす気はなかったんだけど、何だろう……今ちゃっかり織斑一夏の黒歴史的なものを垣間見たような気がする。

 

「……この際、直接言った方がいいんだな」

 

「何が?」

 

「お前は敵か? 味方か?」

 

 なるほど、こう来たか。別に敵か味方かなんて質問はどちらでも正解でどちらも間違っているというのが、正式な回答だろう。けど、その論理を私に振るうくらいなら、もっとそれを聞くべき人物がいるだろう。

 私は、織斑一夏に向かってこう言い放つ。

 

「私がそれを答える前に……その質問、篠ノ之束にした事ある?」

 

「……は? 束さんはISを作った……ちょっとおかしな人だけど、れっきとした俺達の味方だ」

 

「じゃあ、私はあなたの敵だよ」

 

「……まるで、束さんが嫌いみたいな言い草だな。馬が合わない、って程度じゃないだろ?」

 

「あったのはあの時が初めてだよ。でも嫌い、大嫌い。心の底から憎んでるし、軽蔑なんてあたりまえのようにしてる。あのテンションや見た目なんか一切関係なく、ただあの考え方と性格を目にしただけで胃液が飛び出そうになるくらいストレスが溜まる。彼女の事が世界で1番嫌いだし、1番憎んでるし、1番恨んでる。科学の発展だとか、戦争を煽るとかそんな理由も一切なく、作ったあとの世界に興味もない所がただただ嫌い。自分は一切関係ないと言わんばかりに、おちゃらけてるのも腹が立つ。そんな最低最悪な性格の癖に天才的な頭脳も人並外れた運動神経を持っているのも腹が立つ。他人をナチュラルに見下しているのも、上から目線なのが吐きそうになるくらい嫌いだしそれを擁護してるまたは一切糾弾しない奴らも嫌い、身内だったら問答無用で嫌いだしなんなら細切れにしてミンチにして燃やして灰にしてビニール袋に詰めて肥溜めに捨ててやりたいくらいには無茶苦茶してやりたい。タダで殺すより、滅茶苦茶なやり方で殺してやりたいし、例外なく身内ももれなく全員死んで欲しいと思ってる」

 

 恨み辛み、怨恨怨念、怒り悲しみ飽きれ慟哭……色々な感情と言葉が口から溢れ出ては、体に再度吸収されているのかと言いたくなるほどに、私はひたすらに喋っていた。表情筋が動いているような気がしないので、恐らく真顔でひたすら喋っているのだろう。

 

「……おまえ、それならなんでIS学園に入学したんだ」

 

「さぁ? どうしてだと思う?」

 

「……ふざけてるのか?」

 

「ふざけてないよ……私は貴方と篠ノ之箒に近づくためだけにここに入ったようなもんだし、それ以上の理由がなかっただけだよ」

 

「……出ていってくれ」

 

「いいよ……けど、この場で私を捕まえなくていいのかな?」

 

「シャルロットが捕まえてないんなら、そんな理由がどこかにあるんだろ」

 

 こんな時は鋭いらしい。純粋に織斑一夏の本気のマジの顔を見れた気がしたので、私はそれに対して手を振りながら気温の下がった空をただ歩いていくだけなのであった。



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少女増加

 朝早く、私は目が覚めていた。ササッと朝風呂にしてから、着替えて部屋を出る。この時間、目が覚めていたとしても本の数人ほどだろう。こんな時間では、アリーナの許可すら取れやしない。

 太陽が登り始めて……そんなくらい、早い時間である。単純に目が覚めただけなのだが、偶にはと思って外を歩いていた。

 朝早く外に出ると気持ちいいというのがあるが、夏限定だろうか?少し涼しめの空気が、肌をほのかに冷やしてくれる。夏と言っても、既に二学期という状態なので終わりも近いのだが、それでもまだまだ昼間などは暑い。

 

「寒っ」

 

 開幕この一言だが、寒いと感じたのはこの直前…つまり、先程まで本当に心地よい涼しさだったのだ。なのに、急に寒く…というか湿気てきてる気がする。肌に水がついてる気が……

 

「おやおや、こんな朝早くに起きるなんて勉強熱心な生徒だね」

 

「……えっと…」

 

 目の前にいるのは、水色の髪をした人。制服を着ているので生徒なのは間違いがないが……先輩だろうか、年上という雰囲気を感じる。まぁ、お姉さんぶっているだけだろうが……あと着痩せするようだ。胸がデカいのを私は見逃さない。

 

「さて、最近1年生のことで妙な噂が立っているんだけど…君は知っているかな?」

 

「妙な噂ですか、生憎私はそういうのに疎いんですよね……あの、ところでどちらさ」

 

「主に代表候補生の事なんだけれども……例えば援交、いかがわしいアルバイト…そんなことを行ってるなんて噂が、広がってる」

 

「いやだから」

 

「さて、そんな噂は聞いたことがないかな?」

 

 誰かを聞きたいのに、徹底して遮られてしまう。というか、そんな噂を知っているかどうかを私に聞くなんて、答えがわかりやすいことをするものだ。

 

「ここで聞いてるって答えたらどうなるんですか?」

 

「んー……突き出すかな、君を」

 

「根も葉もない噂をバラまいている元凶として?」

 

「代表候補生達に、そういったことをさせている元凶として」

 

 ほら、やっぱり分かりきっているじゃないか。何故いちいちそんなにまどろっこしい事をするのか、私は理解に苦しむね。

 

「はぁ……私が、元凶」

 

「物的証拠は残念ながら出せないけどね?」

 

「つまり状況証拠はあると?」

 

「あなたと関わった子達の態度が、あからさまに変わっていたらそんな噂嫌でもたつと思うんだけど?」

 

 どうせ物的証拠も持っている癖に、何を誤魔化しているのやら。しかし、わざわざ私の目の前に現れてこんな話するなんて…どこまで真相にたどり着いているのやら。

 というか、本当に誰この人……私全然わからんのだけど。

 

「貴方が学園に害を成すのなんて、分かってるもの…だから、さっさと仕留めさせて欲しいワケで」

 

「……そんな貴方は、一体だあれ?多分、というか貴方先輩かつ代表候補生の人だよね?」

 

「さて、私は誰でしょう。『A:学園長』『B:理事長』『C:委員長』」

 

「嘘つき、その中に回答ないでしょ?わざわざ避けた辺り生徒会長とかが答えじゃない?」

 

「さて?私はそれに対して答えを用意する気は無いわ。だって……()()()()()()()()

 

 その台詞、そっくりそのまま返させてもらう…と言いたいところだが、カリオストロは使えない。ここでいきなり侵入者が現れたら、朝起きていた私が完全に疑われる。それだけは避けたい。

 

「そんなこと言ってる場合じゃなさそう…!」

 

 うっすらと、私の体の1部分…のさらに1部に水が集中していく。まるで、私の体が縛られていくかのようにその部分に水が生成されて行く。

 生成……無から有を作り出すのは不可能だろうから、ナノマシンで水に見せかけているだけか、それともナノマシンで水を集めているかまでは分からないが。

 

「貴方、体の至る所に鉄を仕込んでいるのよね?関節、首、そして臓器周り……体そのものの強化をきちんと仕込んでいる」

 

「だから?」

 

「貴方の体内に水分を送り込んで、中から錆びさせるわ」

 

 随分と、えげつない技を使おうとしていらっしゃる。しかしこちらとて奥の手は用意しておくものだ。鉄を仕込んでいるんじゃなくて、ちょっとしたギミックを入れているのが私の体なのだ。

 

「うぐぐ…!」

 

「無駄よ、手も足も固定させて貰ったから…貴方は絶対に動くことができない。話してもらうために、口だけは自由にさせてあげる。舌は噛ませてあげないけど」

 

「うぐっ……」

 

 手足は縛られて、動けない状態。何を喋って欲しいのか口は開けさせてくれていた。しかし、舌を噛もうとすれば即座に邪魔されるだろう。

 しかし、口を残しておいたのは残念だったな。

 

「……」

 

「…?そんなに口を勢いよく開けているところで、勢いよく口を閉めようとしても邪魔するけど?」

 

「……ふん!!」

 

 少しだけ力む。別に変な意味はないが、これはちょっと私の体でしかわからない感覚なので、どう言った操作をしているのかは省かせて頂く。だって、めちゃくちゃ感覚頼りの説明しかできないもんこのギミック。

 まぁ、力むとどうなるのかという話だが……()()()()()()()()()()

 

「は!?」

 

 流石に予想外だったのか、水色女はサッと避ける。しかしISの操作がほんの少しほんの一瞬緩んだので、そのままぶち抜くように拘束から逃れる。

 そして、ついでにこの湿度の高い地帯から抜け出すようにする。恐らく、効果範囲はそこまで広くないだろうし。

 

「くっ……逃げられた…まさか、あんな隠し芸があるなんて……!というか、舌の先端がいつの間にかなくなってるし…」

 

 因みに、舌の先端と舌の本体は細く丈夫な紐で繋がってるのでリールでまきあげたら簡単に回収が可能なのである。便利である、はっきり言うと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ…あんな湿度高いところいたせいか、何か服の方もぐっしょり濡れちゃってるよったく」

 

 私はそう言いながら、時間を確認する。走りまくったせいで、正確な時間を確認できなかったのだ。まぁ、別に確認しなくても結構早めに起きたせいでまず遅刻する事がありえないのだけれど。

 

「時間があれば十分に乾かせるかな……」

 

 問題はこっち、服が乾くかどうかである。暑がりと言っても、全身の服がびしょ濡れになるまで汗をかくほど暑い訳でもないのだ。それに、運動していたとしてもとんでもない量をこなさないといけないので、結局の所乾かさなければ異常自体だと認識されてしまう。この辺にびしょ濡れになるような場所なんてないし。

 

「にしても、ほんと誰だあれ…」

 

 生徒っぽかったし、クラス委員長や生徒会長なんていう予想がたっているものの、なぜ今小手調べするような真似をしたのかが気になってしょうがないのだ。だって、さっさと捕まえておけばいいのにあんな試すような真似をするっておかしくない?

 

「ま、いいや…とりあえず部屋戻ろっかな…ドライヤーで乾かすしかない…」

 

 というわけで、私はさっさと部屋に戻ることになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、五十冬さんどちらにいらしてたんですの?」

 

「え、ちょっと朝早く起きたから散歩でも…って思ったんだけど……つかなんでもう起きてるの?」

 

「お弁当を作らないといけないので…」

 

 そう言えば、こう見えてセシリアは弁当派だった。学食で食べることももちろんあるが、自分の口に合うものくらいは自分で作らなければならないと思ったらしい。

 まぁ、いつの間にか私の分までまとめて作ってくれてるから結構助かってるんだけど。

 

「……それにしても、何故服が濡れているんですの?」

 

「あー、えーっと…汗だよ汗」

 

「汗にしては…多くありませんか…?」

 

「発汗作用凄いから私」

 

「そ、そうですの?」

 

「とりあえずシャワー浴びてくるから、朝ご飯一緒に食べようね」

 

「は、はい……」

 

 絶対ごまかせてないけど、この位のゴリ押しじゃないとセシリアは騙せない。いや、騙せてないけどとりあえず押して押して押しまくるしかない。疑ってるだろうけど、押していくしかない。

 

「朝ご飯、何が食べたいですかー?」

 

「ジャムパンが食べたいー」

 

 体を温めながら、適当な会話をする私達。私の言うジャムパンは本格的なものじゃなくて、市販で売ってる数百円単位のものだが…偶にセシリアは祖国で売ってるジャムを使う時がある。ごめん、口に合わないんだよ私の。

 

「はい、ストロベリージャムのパンですわ」

 

「え、何作ったの?お金かかるでしょ」

 

「そうでもありませんわ。たまには五十冬さんもお料理を作ってみてはいかがですか?」

 

 私、一応一人暮らしを賄えるくらいには料理作れるんだけどね。何故かパスタを作っても誰にも認められない…何故だ……

 

「いや、私はたまに作って…」

 

「茹でて和えるだけの、簡単パスタを本当に調理してると思っているのですか?」

 

 偶にこうやって、セシリアは怖くなる。早く堕ちさせないと、私が懐柔されてしまう気がする。ギャグ的なノリに見えるけど、実際駄目になるくらいに甘やかしてきそうだし。

 

「……」

 

「五十冬さん?」

 

「さて、お風呂気持ちよかったしさっさと着替えて教室行こっか」

 

 話を無理やり終わらせる。体を超高速で拭いて、なおかつ着替えも高速で終わらせる。セシリアの話を聞いていたら、着替える暇さえ与えられ無さそうだ。

 髪はドライヤーで乾かしたいところだが、セシリアに迫られる気がする。

 

「ちょ、ちょっと五十冬さん?」

 

「あー、早く行かないと遅刻しちゃうなー!」

 

 因みに今は朝の6時だ。しかもここは寮なので、8時に起きようが準備さえ早く終わらせてしまえば、余裕で教室に間に合うのだ。残り2時間、どこで時間を潰すかは私の気分次第だ。

 というか、あの水色の女に鉢合わせる可能性もある。恐らく、鉢合わせる前に仕掛けてくると思うので、さっさと走り回って撹乱でもしておこう。

 あ、アリーナにでも行けば情報が手に入るかな?

 

「……朝早いとはいえ、6時だったら起きて外に出てる人もいるだろうし……聞いてみる価値はあるかもね」

 

 その際、どうやってその女と出会ったのか…なんて聞かれたら、どうするかまでをちゃんと考えておかなくてはならない。出会う確率が低い人物だった場合、怪しまれる可能性もあるからだ。

 

「じゃあセシリア!お弁当よろしくね!!」

 

「え、ちょっと……行ってしまいましたわ……」

 

 セシリアには悪いけど、あの女はさっさと潰す必要がある。ただ、他の生徒達とは違ってちゃんとした訓練も受けているのは間違いがない。

 それに、ISも専用機だろうし……相手するのは骨が折れそうだ。カリオストロでは勝てそうにもないし、サクリファイスなんて以ての外だ。そもそもあの機体、まともに戦闘できる気がしない。

 

「とりあえず……めぼしいところ当たってみるかな……」

 

 織斑千冬、または山田先生なら何か知っているかもしれないが…この2人にはなるべく聞かないようにしよう。教師という存在は、あまり手を出して面倒事にしたくないのだ。

 

「さて…とりあえず行ってみるかな」

 

 ひとまず私は、セシリアから逃げるためと情報収集、後あの女になるべく鉢合わせないように祈りながら、外を走り回るのであった。




どこまで相手を増やすかを考えてます


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祝学園祭

「デュノア、実演してやれ」

 

 はいはい、開幕授業が始まっている……という訳では無い。織斑一夏がホームルームに遅れてきたので、今は実はホームルームなのだ。しかし、そこに現れた織斑一夏の遅刻の理由があらビックリ、私が朝であった女と特徴が同じ人物と出会っていたというのだ。

 しかし、まぁ当たり前の話だがあからさまな嘘だと認定されていた。いや、表向きはそうなだけで……実際は隠れて自分の知らない女と会っていたという怒りがあるだろう。誰の話かって?ブラコンの織斑千冬の話である。

 

「鬼村、お前も織斑と共に実演を教えて貰え」

 

 そして考えただけで察せるあの女は妖怪さとりかなにかなのだろうか?因みに、実演というのはラピッドスイッチの話である。あれって、実演して見せてもらってできるような代物では無いはずだが……

 

「遠慮」

 

「するとは言わせんぞ」

 

「あ、あのシャルロットさん?」

 

「何かな、織斑君」

 

 怒ってますねこれは。そしてそれに巻き込まれる私は、一体何なのだろうか。というか、教室でISの武装なんて使ったらそれこそボロボロになってしまうだろうに。

 このあとスグに行われる凄惨な現場に、私はその考えを改めることとなった。めっちゃ硬かったよ、あの床。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

「……」

 

 後ろで織斑一夏がため息をついていた。五十音順だと、私は織斑一夏よりも前になる。偽名とはいえ、安易に名前を『お』から始まるものにするべきではなかった。込村とかにしておけば…

 とかどうでもいいことを考えている私。今現在、1年生まとめて全員が体育館に集められていた。所謂、二学期開始に向けての挨拶なのだが……どうやら、生徒会長も挨拶を行うようだ。

 

「初めまして、一学期の頃は忙しくて中々会えなかったけど……私がこの学園の生徒会長、更識楯無よ。君たち生徒達の長です。」

 

 生徒達の長、なるほど言葉の意味としてはそこまで間違ったものでは無いのかもしれない。けどそれとこれとは別だ、なんかその言い方腹立つ。

 

「さて、今回の議題は学園祭について…各クラス出し物を発表するように!」

 

『締切間近!』と書かれた扇子を広げる更識楯無。いっぱい持ってんな、さっきとはまた違う扇子のようなので服の中に隠し持ってるのだろうか。

 つか、こんだけで話終わりですか生徒会長…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー……学園祭の案ですけど」

 

 私と織斑一夏が仕切る。何故私まで仕切っているのかと言いますと、クラス代表としては織斑一夏だけど男女の視点から見ていい物を作り上げようというコンセプトである。

 因みに案は『織斑一夏のホストゲーム』『織斑一夏とツイスター』『織斑一夏とポッキー遊び』『織斑一夏と王様ゲーム』となっている。

 

「はい、却下です」

 

「どうしてなの鬼村さん!!」

 

「貴方だけは味方だと思ってたのに!!」

 

 いや、クラスの出し物なのにクラスの大半関係ないのはどうなのよ。あと自分たちがやって欲しいことなだけでしょう。

 

「これ企画として通した場合、クラスの出し物じゃなくていいよねって話。織斑君に全部の負担かかるせいで、回らなくなる可能性があるよ」

 

「そ、それは……」

 

 考えてなかったようで…織斑一夏は好きじゃない私だが、学園祭くらい真面目にやれと思っている。やる気のないものは意見を出すな。

 

「……まぁ俺の負担抜きにしても、こういうのはダメですよね山田先生」

 

「え?あー……ぽ、ポッキーゲームなんかいいと思いますよ?」

 

 頬を染める山田先生。山田先生は織斑一夏に気がないと思っていたが、年下趣味なのだろうか?いや、何か偶に織斑千冬のことを危ない目線で見てる時あるので、既成事実を作ってくっつきたいだけだろう。

 

「それに、学園祭なんだから採算が取れるようにしていかないと」

 

「……真面目なこと言うんだな」

 

「こういう時こそ真面目にならないとね?」

 

 敵意剥き出しの織斑一夏と、それを華麗に無視する私。周りも気づいている者がいたり気づいていない者もいたり。ま、気づいているのは事情を知っている者だけだが。

 

「採算が取れるって言っても…」

 

「それこそ喫茶店とかね。予算よりも高い売上を出していかないとまずいから、喫茶店がやりやすいんだよ」

 

「他の店でお金取れるってこと?」

 

「だから他は難しいんだってば。やろうと思えばお化け屋敷でお金回収していくからね」

 

 写真展示会とかしても、極論金は取れる。無論、金が取れるほどの腕前を持つカメラマンがこの学園にいるわけがないのだが。

 

「けど、ただの喫茶店じゃ味気なさすぎない?」

 

「え、いやただの喫茶店で大丈夫だろ」

 

 織斑一夏が何か言っているが、その意見には賛成だ。ここはIS学園。そしてそこの学園祭となると、ただの喫茶店では味気ないだろう。しかし、ただの喫茶店以上の料理などを出せるとは到底思えないし、外観もそうである。予算が決まっている以上、その予算内でできるだけ決めたいところである。追加もできるが…売上を伸ばしたいところだ。

 

「メイド喫茶などはどうだ?」

 

「メイド喫茶?」

 

 突然、ラウラが言葉を放つ。メイド喫茶、なるほどIS学園の学園祭と言うにはふさわしいだろう。だってここ、織斑一夏を除いたら全員女とかいう学校だ。そしてそのクラスである1組もまたその女の園である。

 

「メイド喫茶、いいかも!」

 

「一夏には執事か、厨房を任せればいいしね」

 

「執事の織斑くん…いい!」

 

 何がいいのかはわからないが、料理が得意な織斑一夏は厨房にも回せるし、執事として置いても集客効果はあるだろう。それに加えて、負担もあまり出てこないと考えると、相当である。

 

「お、おい!別にメイドじゃなくても……まぁ、少し変わった喫茶店だと思えばいいか……」

 

 織斑一夏も織斑一夏で、妙に達観しているところがあると私は思っていたが……とりあえず、1組はメイド喫茶に決まった。となると、私はどうするかも決まってくる。別に売上貰わなくてもいいんで、参加しないという方向でいきます。

 無理でも厨房にならいけるんで。

 

「鬼村さんはどんなメイド服着たい?」

 

「え」

 

「そうだねぇ、すらっとしてるしそのスタイルの良さが生かせるメイド服にしようよ」

 

「待って待って、私は厨房の方が…」

 

「何言ってるの!?鬼村さんかなり可愛いんだからメイド服着てアピールしていかないと!」

 

 誰に、何を、どんな目的で、いつアピールするのか。私自身一切そんなつもりは無いし、したくない。そう言うんだけど、何故か伝わらない。厨房でいいからやらして欲しいと言っているように聞こえているのだろうか?

 

「いや、アピールしなくてもいいから」

 

 しかし、私の必死の叫びは彼女達に届いていなかったようだ。残念ながら、私はメイド服を着て学園に来る男達に対して媚を売らねばならないらしい……と思ったが、メイド服…成程ありかもしれない。

 いや、私じゃなくて…他の女達の話だが。

 つまりは、この学園祭……もしかしたら利用できるかもしれない。というか、この場は利用せねばならない。

 

「鬼村さん?」

 

「……え、あ、ごめん何?」

 

「とりあえず、メイド喫茶に決まったし早速準備していこう!」

 

「そう、だね」

 

 準備。まずは看板を作成して内装も整えていかなければならない。内装を整えるために、シーツだとかカーペットだとかビニールだとか色々揃えていかなくてはならない。

 後、メイド喫茶と言っても多分日本にあるような、オタク向けの奴にはならないような気がする。

 だって……このクラスだけでもお嬢様は二人もいるのだ。メイドなんて知っているだろうし、その作法も近場で見てきているからよく知っていることだろう。

 その二人にメイド指南でもしてもらえば、結構いい形に収まるかもしれない。

 

「……」

 

 準備かぁ、メニュー表も作成しないといけないし、メニューをどうするかも考えなければならない。なるべく安い素材を使うことは当たり前だが、粗悪なものは使えないし作ることも出来ない。まぁ、余程の下手じゃない限り、失敗しないようなものとかにしておけば安全だろうね。

 

「……学園祭は真面目にする気なんだな」

 

「私は真面目だよ。いつでも、どんな時でも」

 

「なのに、俺達と戦うのか?」

 

「篠ノ之束を倒すことに協力してくれるんなら、敵じゃなくなるよ」

 

「馬鹿げてる…なんで束さんをそこまで敵視するんだ?」

 

 小声で、かつ落ち着きながら私達は静かに会話する。なんで、か。まぁ、理由なんて正直に言ったらアホだと思われるだろう。けれど、それでも……流れを作った根本的な原因は篠ノ之束だということは忘れてはならない。忘れてはいけないのだ。

 

「こんな世の中を作ったのは、その他ならぬ束さんなんだけど?」

 

「けど、あの人がいなかったら10年前日本は壊滅していたぞ?」

 

「……本当にそう思ってる?」

 

「…何が言いたいんだ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……それが、本当だと思ってるの?」

 

「本当も何も、ただの事実だろ」

 

 世界各国のシステムハッキングをして、日本に飛ばす。そんでもって、その犯人が未だに捕まっていない…そんなことが出来るのは、篠ノ之束くらいだ。

 私は今、そう叫びたくなった。だが、親しい間柄である篠ノ之束を疑うという事すらしないのは、織斑一夏からしてみれば当たり前なのかもしれない。

 

「事実、ね……確かに事実だけど、そんなもの表面的に見た真実でしかないじゃん」

 

「そう判断するしかないだろ?まさか、白騎士が束さんだと思ってるのか?」

 

 その考えはなかったが、しかし惜しい。あくまでも予想に過ぎないが、その白騎士はお前の姉だと私は言いたくなった。だが、そんなことは今はどうでもいい。至極、どうでもいいのだ。

 

「織斑くーん?何話してるのー?」

 

「鬼村さんごめーん、こっちの意見聞いて欲しいんだけどー」

 

「……とにかく、今は学園祭だ。お前が動かないんなら、俺も何もしない」

 

 そう言って織斑一夏は私から離れる。私も呼ばれたので、その場から離れる。この日は、これ以降織斑一夏と授業の時の場合を除いて関わることがなかった。

 何もしない……それはむしろ、私のセリフだ。だからわざわざ君の周りの女の子を狙うんだよ。

 

「篠ノ之束を庇わなかったらいいだけなのに…」

 

 私が狂っているのか、世の中が狂っているのか。私は篠ノ之束は悪だと断言出来るが、世の中はISを作った発明者程度の認識しかなかっただろう。

 

「ほぇ?鬼村さん今何か言った?」

 

「ううん、別に何も言ってないけど……気のせいじゃない?」

 

 私の言葉に、クラスメイトもそう思ったのかそれ以上の追求をされることは無かった。

 こうして、学園祭の準備が始まった。吉と出るか凶と出るか、鬼が出るか蛇が出るか……何が起こるかわからないが、ひとまず手にかけている女の子たちをひたすらにいじめていくとしよう。今の会話で、微妙に腹たったのが原因だ。

 ともかく、私はほかのクラスメイトと一緒に学園祭のために動くのであった。



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絶対肯定

 さて、学園祭のお話…と行きたいところだが、私の携帯にメッセージが入っていた。添付動画ありのメールみたいで……確認してみたけど、どうやら余計な枷が付いているにも関わらず、首を突っ込もうとして自分の首が締め上げられてしまうという間抜けなことをしてしまった人がいるらしい。

 コレに関しては、私は一切関与していない。最初の一挙一動だけやって、後は野となれ山となれ……の精神だったし。

 とまぁ……遠回しに言っているが、その間抜けとはシャルロットである。どうやら、ラウラが働いている店の店長がメールを送ってきたようだけど、動画にはアンアンと喘いでいるシャルロットの姿があった。ただ、ラウラは元々素質があったからあんな喘ぎ方してたけど…シャルロットにも素質があったって話だとちょっと、出来すぎてるかなって思いもある。けどまぁ、そこら辺は店長の腕がよかったとだけ認識しておこう。

 そういえば、最近この店にセシリアがヘルプで入ってるんだけど…世の中って案外狭くできてるよねぇって。ま、どっちにしろシャルロットは余計な正義感働かせすぎだと思う━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideシャルロット

 

 僕は街中を歩いていた。ただ歩いているという訳ではなく、後をつけていた。前にいるのは、同じクラスメイトのセシリアだった。今、僕は彼女をストーカーしているのだけど……まずその理由として、セシリアは今は祖国に帰っているはずだからである。

 僕は帰るところが帰るところなせいで、タイミングを逃し続けてしまってるけど……セシリアにはそういったのは無かったはず…

 

「…裏路地?」

 

 辺りを見回してから、セシリアは狭い裏路地に入っていった。こんな所に、一体なんの用事があるのかはわからないけど…良くないことをしているんだったら、追いかけないといけない。僕達は代表候補生…下手なことをしてしまうと、その国に迷惑をかけてしまう。特に、僕とセシリアは……親の顔にも明確な泥を塗りつけてしまう。

 

「セシリア、一体こんな所で何を…っと……?」

 

「……」

 

 乗り込もうとした矢先、路地裏に入っていくもう1人の姿。ラウラだった。セシリアもそうだけど、ラウラもどうなってるの…?二人とも、こんなくらい路地で何をしようとしてるの…?

 

「……追いかけないと…」

 

 僕は覚悟を決めた。この先、何が出ても驚かずに、冷静にISを展開できる力と判断力を持ってないといけない。

 恐らく、2人がやってるのはいけない事だ。けど、それが2人自身の意思で行われてるとは到底思えなかった。

 僕は、そのまま2人を追いかける。セシリアはともかく、ラウラは直前まで兵士をやっていた女の子だ。あんまり近寄ると、気配でバレる可能性がある。だから見失わないギリギリのを見計らって、追いかけていくしかない。

 幸い、一本道が極まっていたので見失うことなくかつ気づかれることなく僕は二人の後をついていくことが出来た。

 

「……ここ、って…」

 

 現れたのは、何やら怪しげな建物。2人の姿は直前に見失ってしまっていたが、余計な道も見当たらなかったため恐らくこの付近にいると思われる。

 けど、動いている様子はあるのに看板を立ててないなんて…この建造物が民家に見える訳でもないので、余計に怪しさが現れていた。

 

「セシリア…ラウラ……!」

 

「おーっと、そこのお嬢さん何してるのかなぁ?」

 

「っ!?」

 

 後ろから突然声をかけられる。ただ、真後ろではなく少し距離があるところから話しかけられたようで、即座に振り向くと歩きながらこちらに向かってきてる男性の姿があった。

 どこをどう見ても一般人……さっさと追い払っておかないと。

 

「あ、あはは……ごめんなさい、この辺の地理に慣れてなくて道に迷っちゃったみたいで」

 

「へぇ、こっちにまっすぐ来るのおかしいって思わなかった?」

 

「途中はおかしいと思ってたんですけど、行こうとしてるところと方向が同じだから行けるかなって」

 

「なるほどなるほど、俺もあるよそんな経験」

 

 何やら唐突に、話を合わせてきた。これは…もしかしたらナンパされてる?いや、まだ決めるのは早いしナンパってだけならまだどうにでもなる。

 

「へぇ、そうなんですか」

 

「そうなんだよー……でさ、誰追いかけてきたの?セシリアちゃん?ラウラちゃん?」

 

「……あの、私道に迷ってきたんですけど…?」

 

 どうにか隠し通せたが、今の一言で私の心臓は大きく脈動した。要するに驚いたのだ。だって、いきなりセシリアとラウラの事を出されたのだ。僕は今、私服を着ているにも関わらず、である。

 

「いやいや、そんな誤魔化し聞くわけないじゃん。大体、こんな一本道をさ、どうやったら迷った挙句に入ろうと思えるんだっての」

 

「……」

 

 反論できない。実際、入り込んでしまったことは間違いがない事実である。それに関して、僕は変なことを言わない方がいい。

 

「……ま、こっちは君が誰か分かってるし何をどうすればいいのかもわかるけどね」

 

「…まさか、鬼村五十冬の……仲間…!?」

 

「仲間?なんか変な言い方するんだね君、仲間といえばそうなのかもしれないけど……まぁどっちかと言うと『お得意様』かな」

 

「…つまり、テロリストの協力者…」

 

「テロリスト?ま、この女尊男卑の世界ならたしかにある意味テロリストかもしれないね、俺らは」

 

 妙に話が食い合わない。けど、悪いことをしているという自覚はあるようだ。どっちにしろ、僕がここで今捕まえればセシリアとラウラの場所もわかるかもしれない。

 

「あー、下手に逆らっちゃダメなんだよね?君…もしこっちに危害加えようとしたなら…『連絡』しちゃうかも?」

 

「っ…」

 

 やっぱり鬼村五十冬の仲間だった。確か、絶対に肯定しないといけない…だったっけ……それを持ち出すって事は、鬼村五十冬がこのことを知ってしまうという事になってしまう。

 そうなると、鈴の場所は本当にわからなくなってしまう…

 

「そうそう、そうやっておとなしくしておけばいいんだよ。とりあえず中、入ろっか」

 

 僕は、男性に一般人だと思っていた。けど、実際はあの女に従うテロリストも同然の男だった。けど、僕は逆らえない。一夏の為に、鈴を連れ戻さなくちゃいけないんだから。

 だから、僕は抵抗せずに男についていくのであった━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほー、随分と似合うじゃないか黒兎ちゃん」

 

「っ…ありがとう、ございます…」

 

 視線を横にずらすと、ラウラが少し太めの男に酒を注いでいた。しかも、彼女の格好は銀色かつスケスケのネグリジェの様な服装だった。はっきり言えば、娼婦だと言われても納得出来るものである。しかし、無理やりやらされてるのは明白……ラウラ、すぐ助けに行くからね。

 

「ほー、アルバイト…にしては随分と手慣れているじゃないか」

 

「んぐ、む…」

 

 そして、さらに少し視線をずらすとセシリアのものらしき髪が、テーブルの下から覗いていた。男の股間に顔を沈めて…何をしているのかは分からないが、まともな事じゃない事だけは確かである。

 幸い、2人とも僕の姿には気づいていなかった。

 

「あっちの銀髪の子はね、このお店で黒兎ちゃんって言われてるんだ。入ってまだろくに時間も経ってないのに、ちゃんと稼いでくれる稼ぎ頭だよ。

 あっちの金髪の子は、知り合いの知り合いがオススメしてくれた子さ。だからまだ名前は付けられてないから番号呼びになってるんだよね」

 

「……女性を、道具として売ってるんですか」

 

「そういった店は需要が増えているからね。女尊男卑になって、女性の価値が男性より上がった……けど、そうなると社会的弱者の立場になっている男性よりも、何かしらの理由で弱い立場になっている女性に対しての仕打ちがより酷くなっている。

 軽いもので暴力、酷いものになると一生奴隷以下のただのモノ扱いさ。

 それに比べたらまだマシな立場だと思うけど?」

 

「けど!人を物として売るなんて…!」

 

「勘違いしないで欲しいけど、ここに自らの意思で通っている人もいる。それに、こういった所は日本だけじゃなくて世界各国にあるよ……君の祖国にもね」

 

「っ…」

 

 多分、本当だろう。探せば見つかるかもしれない…それだけ、この世界は男性と女性の境目が深く細いものになっている。

 溝は深いが、干渉は簡単に行える……そんな危うい状態を、今は維持し続けている状況である。

 

「で、君は今から…」

 

「この店で働かせる気?」

 

「ん?いやいや、君は『絶対に全て、肯定しないといけない』んだから…働くことすら許さないよ。代わりにあの穴に体をはめ込んでね」

 

 そうして男が指した指の先には、謎の穴のあいた壁があった。僕の体で、ギリギリ通るくらいであり腰にピッタリとハマる大きさである。

 一体この穴はなんなのだろうかと思いつつ、僕はこの男に従わなければいけない…それを考えてから、ゆっくりと穴に体をはめ込んだ。

 

「ん、く…抜けない…!」

 

「じゃあ、一切抵抗せずに犯されてね」

 

「え…ひゃんっ!?」

 

 何か、僕のおしりに触れてる。感触的に、人の手のように感じるけれど…だとすると、今の僕はおしりだけ出てる随分と間抜けな格好にしか見えないのだろう。

 

「や、待っ…!」

 

「うはぁ、これで元々男装してたんだ?よくこんな柔らかそうな体してる癖に、バレなかったよね。全員あんまり意識してなかったのかな」

 

「へへ…前から失礼するぜ」

 

 僕の後ろには顔も見えない男が1人。そして、前から別の男がやってきていた。その男は、手になにか注射器のようなものを持っている…それがどう使われるのか、僕は嫌な予感しかしていなかった。

 

「ほーらよ、直ぐに良くなるお薬だ」

 

「や、やだ!そんなのいらない!!」

 

「ハジメテ…が痛いのは嫌だろう?それとも、痛い方が好みか?」

 

 こんな店で扱っている薬なんて、問題がない方がおかしい。使われたら最後、人間としての尊厳どころかまともな生物としてすら扱われないような気がしてならない。

 

「い、やぁ…!」

 

「ちっ…おい、手の方固定しろ」

 

「うぃーっす」

 

 別の男達が、僕の手を…そして頭も動かせないように掴んでくる。まともな体勢じゃないのと、思いのほか強い力で掴まれた為に僕は一切体を動かせなくなっていた。

 

「まぁかるーく廃人になる程度だからさ、運が良かったら1年はまともな精神してられるよ」

 

「よく言えるっすね先輩、こないだヘマやらかした女にそれ使ったら、次の日にセックスジャンキー化してたじゃないっすか」

 

「ありゃああの女が悪ぃよ、身よりもねぇくせに包丁持って『給料上げろ』ってアホかと」

 

「偶にいるっすよねぇ、IS持ってない癖に勘違いしてる系の女。しかも持ってたら持ってたらで、また勘違い系がいるんすよね」

 

「本気で強えIS乗りなんざ限られてるってこった。織斑千冬クラスになったらマジだろうけどな」

 

 談笑しているが、注射器は僕の首に段々と近づいていた。逃走はおろか、抵抗すら許されない。そのまま注射器は、僕の首に刺さって…そして注入されていく。

 

「あ、ぎっ…!?」

 

 目がチカチカ、光り輝くような感覚。頭に熱がのぼり思考が真っ白になっていく。空気に触れているだけで、その感覚が嫌という程伝わる。

 

「さてと、これから楽しませてもらうからなぁ」

 

 これから男達にどうされるのか…僕はその予想すら…いや、自分が今どうなっているのかさえも考えられないほどに、薬の効果がすぐに効いてきているのであった。




シャルロットは次がメインで


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壁尻令嬢

 side?

 

「う、ぁ゙…!」

 

 シャルロットの頭には、既にまともな思考は残っていない。女をメスに、そしてそこからメス以下のオナホへと変貌させる。一般的な使用方法では希釈して使う薬なのだが、そんな優しいことをしてくれるほど男達は甘くなかった。

 

「おーおー、これだけでこんなに濡れんのか。すげぇなこの薬」

 

「そりゃあ、希釈して使うやつだぞ本来。原液使ったらこんなんになるわ」

 

「おーい、シャルロットちゃん生きてるかー?」

 

 男達の呼びかけに、シャルロットは呻き声しか出せなかった。勿論、今の呼びかけが聞こえているわけがない。頭の中には常に火花が散っており、閃光が目の前を包んでいると言っても過言ではない状態が続いているのだ。

 

「まぁいいや、さっさと犯す、ぞ…!」

 

「んおおぉぉぉぉぉぉおおおお…!?」

 

 男の反り勃った肉棒が、シャルロットの処女を散らしていた。しかし、そこに痛みなんて優しさは残っていない。あるのは快楽、それも一生味わえないほどに脳が焼ききれるほどの快楽を味わっているのだ。

 

「うわ、今のだけでイってんじゃん」

 

「ガチめに犯したらどうなんのか、確かめるか」

 

「うわぁ、引くわ」

 

 そう言いながらも、男達はやる気だった。シャルロットの体は壁に埋められており、シャルロットからは向こう側が確認できない状態だった。

 今シャルロットは下半身だけが見えているところと上半身だけが見えている状況になっている。下半身に一人、上半身に1人と別れている状態で今犯されているのだ。

 

「んぶぅ!?」

 

「おー、緩くなってんのかと思ってたが案外そんなことないんだな」

 

 男達はそれぞれ、遠慮なくシャルロットを犯していた。シャルロットは、何度も何度も無理やりイカされており、潮吹きを何度も何度も繰り返していた。

 

「……つーかよ、どのくらいまで続ける気なんだ?」

 

「俺らが終わったあと、どっかに捨てていくんだってよ。運が良かったら、理性も意識も残ってるから帰れるらしいぜ」

 

「へぇ」

 

「まぁいつ帰れるかはわかんねぇけどな」

 

「あー…?」

 

「ま、そのうち分かるってことだ」

 

「んぶぉ、んぶぶぶ…!」

 

 得られる快楽の大きさに、シャルロットは白目を向いていた。しかし、気絶しようにも気絶した瞬間に叩き起されてしまうのだから、ある意味しょうがないと言える。

 

「にしても、口の癖に締まりがいいな…!」

 

「んぶぉ!?」

 

「おいおいもう出したのかよはえぇな」

 

「うっせぇ、結構名器なんだからしょうがねぇだろ」

 

「へいへい」

 

 早速口の中に出されるシャルロット。精液は、無意識の内に飲んでいた。薬のせいで、精液を摂取するのが無意識的に行われている様だった。

 

「出された瞬間に、締め付けきやがって…!」

 

「んひ、はぁ……んあぁ…!」

 

 脂汗をかきながら、絶頂を何度も繰り返していくシャルロット。余りの絶頂の多さに、彼女の頭が彼女の快楽を処理できなくなってきているのだ。

 

「おら!もっと締めやがれ!!」

 

「ひぎぃ!!」

 

 悲痛かつ迫真のように聞こえる声だが、その声にはどこか甘さと艶が存在していた。要するに、シャルロットは犯されて感じているのだ。薬のせいもあるとはいえ、犯されていることには変わりはないのだ。

 

「へひ、はひ…!んぶっ!!」

 

「確かに、結構いいな…」

 

 そして再び口の中に押し込まれるシャルロット。また先ほどと同じように口を犯されながらも、精液を求めているのだろう。

 しかし、男達は気づいていなかった。薬を打たれたシャルロットが、廃人になるかそれとも意識を戻すことが出来るかと考えている今…少しの精液を得て満足しているシャルロットにはほんの少しだけ、本当に少しだけ思考する余裕が出来ているのだと。

 

「んぶ、じゅる…!」

 

「へへ、さっきよりも食い付きがいいじゃねぇか」

 

 しかし、まだ足りない。皮肉なことに、今のシャルロットが正気に戻るためには、今の快楽だけを求めるシャルロットが精液を摂取して少しづつ満足していかなければならない。

 幸い、理性が飛んでいるのでいくら犯されようと心の底から堕ちる事は無いのだ。逆に言えば、理性を取り戻した後が彼女の本当の修羅場だと言えるが。

 

「こっちは…てめぇのま〇こに…出す!」

 

「んひぎいいいいい!!」

 

 出されると同時に、比では無いのほどの快楽を今得ていた。そしてまた、精液も同時に得ていた。

 満足感が、再び彼女の頭をほんの少しだけ冷静にしていく。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「おいおい抜いてんじゃねぇよ、ほら早く咥え直せ」

 

「んぶぉ…!」

 

 シャルロットの口に再び肉棒が入れられる。無意識の内に、舌が肉棒を舐めていき精液を取ろうと動いていた。

 

「んぶ、んぶっ…!」

 

「へへ…!」

 

「んぶおおおお!」

 

 別の男が、シャルロットの膣に肉棒を入れていた。それにより再びシャルロットは二穴を犯され始める。体全体が絶頂に導かれ、そして何度も何度も達していく。

 しかし、シャルロットが解放されるのは脅し用の動画まで取られた後に、まるでゴミでも捨てるかのように生ゴミ置き場に捨てられるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideシャルロット

 

「う、ぁ…」

 

 気がついたら、僕の体は生ゴミ置き場に投げ捨てられていた。薬を打たれた後から、記憶が曖昧になってるけど…身体中が敏感になってるあたり、本当に薬を盛られたんだと実感出来る。

 

「…ごめんね、一夏」

 

 彼に、僕の好きな彼に1人で謝る。初めては一夏にあげたかったけど、僕の体はすっかり汚れきってしまっている。けど、それでも僕は鈴を連れ戻して一夏を元気にしてあげないといけないんだ…だから、だから…!

 

「あっれー?こんな所に女の子いんじゃーん」

 

「うっわ、しかもヤられた後じゃん。何何?お嬢さんどこかの男に強姦でもされちゃった?」

 

 ……僕の前に、喋り方が妙に癪に障る男たちが現れる。ケラケラと笑いながら、まるで茶化すようにナチュラルに僕をゲスな目で見てくる。多分、このご時世で女嫌いを拗らせた男達だろう。

 

「…関係ないですよね」

 

「……お、この子よく見たらIS学園の子じゃん。しかも…よく見たらこの画像の子じゃね?」

 

 男達が、そのうち1人の取りだした携帯に群がっていた。多分、あの女に勝手に上げられたネットの画像だろう。なんて書かれているのか、僕は知りたくもない…とりあえず、今はこの場から少しでも離れよう。

 そう決めた僕だったのだが、体に力が入らなくて地面に倒れて這いずる事しか出来なくなっていた。

 

「お、本当だ……何何?『拒否するかもしれないけど、拒否権ないから体に目立つ傷をつけたり殺すことは禁止、それ以外はOK』だってよ」

 

「え、何?この子IS学園に行ってんのに売りやされてんの?悲惨すぎて泣くわ」

 

「微塵もそんな事考えてない癖によ、よくそんなこと言えんな」

 

「確かにな……っと、逃げてんじゃねぇぞー」

 

 話している間に、距離を開けることすらも叶わなかった。少しだけ動いてるのを見てそう判断したらしいが、この程度しか動けない時点で逃げてるもクソもないだろう。

 

「相手してる暇なんて…」

 

「はいはい拒否権なし拒否権なし……つーかよ、このご時世に俺らよりも立場が下の女見つけた時点で終わりだろうよ」

 

「…あんまり調子乗ってると…!」

 

 あの女と何ら関係がないというのなら、少し過激だがISを使うしかない。本気の武装は使わないが、銃を構えるくらいならばこの下品な男達を遠ざけることができるだろう。

 しかし━━━

 

「…あれ……ISは…!?」

 

 ISが稼働しなかった。それはつまり、僕がただの女になってしまっていることを指し示す。

 そうなれば、男達は明確な悪意を持ってこちらと接するだろう。

 

「へへ、ご自慢のISは使わないのかなぁ?」

 

「へ、なんだかんだ言ってこいつも期待してたってこった。さっさと犯して、満足させてやろうじゃねぇか」

 

「だな」

 

「ま、待って…僕は…」

 

 ISが稼働しなかった理由がわからなかった。感情的なものはないはず、名前を呼べば基本的に展開できるし、そうでなくても感情的なもので動くことは基本的にありえないのだ。 だからこそ、何故シャルロットがISを動かせなかったのか…彼女自身それが全く理解出来ていなかった。

 

「なんで、なんで…!」

 

「おいおい、発狂しかけてね?」

 

「そしたら家で飼おうぜ?犬猫と違って、いつでもどこでも家の中ならトイレできるとか便利だしよ」

 

「おいおい、人間と犬猫を一緒にしてんじゃねぇよ……つっても、言ってることはその通りだなぁ?」

 

「あ、ぁ……」

 

 せっかく解放されたのに、また男達に輪姦されてしまう。ただでさえ、犯されてゴミのように捨てられていたことで彼女の精神は限界を迎えているというのに、これ以上汚されてしまうと……自分が自分ではなくなってしまうような、そんな感覚になっていた。

 

「や、やだ…」

 

「おいおい、逃げてんじゃねぇよ」

 

「この女詰められそうなバッグあるかぁ?」

 

「向こうでキャリーケースあるからそれ買ってくらぁ、結構でかいし男でも入りそうだから大丈夫だろ」

 

 男たちの話は着実に進んでいく。戻らねば、IS学園に戻らねば…シャルロットはその気持ちだけで動こうとしていた。しかし、体の力は入らない。故に逃げられない、故に連れていかれる。それだけの話である。

 

「へへ、どんだけ犯したら堕ちてくれるんだろうなぁ?」

 

「カワイイ声出してくれることを祈ろうぜ」

 

「ひっ!?」

 

 最早、拒否する拒否しないの話ではなくなっていた。拒否権が無い以前に、彼女には拒否することが出来ないのだ。ISという武力を行使することは出来ないから。たった、それだけでこうなってしまうのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 ……朝には帰ってきてたみたいだけど、もう完全に病んじゃってるよあれ。一体どれだけ激しいプレイをしたのか気になるけどね。匂い自体は落ちてるから、ちゃんと洗うなりなんなりしたんだろうなぁ。

 

「ま、そんなことより学園祭をちゃんとしないとね」

 

 私には最早手が届かない所に行っているのだ。シャルロットは、自分で自分の世話をしないといけないからね。

 にしても、ISを使えないって変な話だね。なんでだろうね、私には一切わかんないやあははは。

 

「……いや、本当になんでだ?」

 

 本気でわからない。何故、ISを使わなかったのか。本気で、私が全てを見ているとでも思っているのだろうか?いや、彼女ならISを使って自分の身を守るくらいはしたはずだ。

 そんな形跡がない……と、そこまで考えて私はカリオストロのことをふと思い出す。

 

「ひとまずで使ってたけど…もしかして、これが理由…?」

 

 憶測だ、しかも私にも知らない能力があるとすると…ちょっと色々と気になってしまう。もし本当に、私の知らない能力があるのなら…解明しておかないといけない。というか、恐らくシャルロットがISを使わなかった……否、使えなかったのはカリオストロが原因だ。

 とりあえず…後で連絡を飛ばしてみよう。

 そう思って、私は今日も学業に励むのであった。



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準備期間

 はい!学園祭準備期間に入りました。うん、入った…入ったんだけど……

 

「っしゃあ!やるわよ!!」

 

「「「おー!!!」」」

 

 

「……一体全体、何が起こっているのか説明して欲しい」

 

 朝、教室に入った私を出迎えていたのは何故かクラス一同が力を合わせている瞬間だった。いや、学園祭に向けて一致団結するのはとてもいいことだと思っている。そう、分かるのだ……だが、この入れ込みようと熱の入り方は一体なんぞや?

 

「あれ?鬼村さん、あの掲示見てないの?」

 

「掲示?わざわざ?」

 

「でっかく校舎にぶら下げられてたよ」

 

「それ掲示っていうのか微妙な線だけど……どんなの?」

 

 気づかない私も私だが、一体何を書いたらここまで女子たちが容れ込むのかがわからない。純粋な好奇心により、今私は質問をしていた。

 

「あのね、学園祭ではクラス事にやる物の他に、部活ごとで行われる催し物があるって話があったでしょ?」

 

「……あー、うんうん」

 

 そんなんだっけ?とか思いつつ私は適当に相槌を返す。というか、この時点で既に嫌な予感がしていたからだ。

 

「それで1位になった部活には、織斑君が入部する事になったのよ!!」

 

「……そ、そうなんだー…」

 

 やばい、誰だそんなこと決めたのは…教師が決めるのはとてもまずいだろうし、かと言って学園が一致団結してそんな暗黙ルールが出来るとも思えない。

 となると……あの生徒会長か!?

 

「やってやるわよ皆ー!!」

 

「おー!!」

 

 あ、よく見たら別のクラスの人交じってる!!というか、学年まで違う人いるじゃん!!1組で集まらないで貰えますかね!!

 

「秋季大会なんてほっとけ!!まずは学園祭で1位だ!!」

 

 秋季大会放棄するほどのことなのだろうか、私には理解ができない。というか、去年までなら確か部費が特別に挙げられるとかだったはず……多分、無許可でこれされてるし織斑一夏も少し不憫である。

 

「━━━って、その当の本人の織斑君はどこ行ったの?」

 

「あれ?そう言えば……いないね」

 

 さすがに、またアリーナにいるとは到底思えない。2学期初めに遅刻をやらかしている癖に、また遅刻をする程実の姉である織斑千冬の一撃が忘れられない訳では無いだろう。

 

「……まぁそのうち来るんじゃないかな、とりあえず学園祭の準備を今の間に出来るだけ進めておこうよ」

 

「そうだね!!あ、ところで鬼村さんって部活は━━━」

 

「万年帰宅部だから」

 

 私がスポーツとか参加するのは、いろんな意味で論外だろう。それを避けるために、って訳じゃないが…とりあえず部活は入らないようにしている。さて、今日も一日頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、私はある程度の指示を出して、準備を他の人たちに任せていた。では私は何をしているのかと言うと、学園内の散歩である。ま、名目としては他のクラスの情報収集とか部活の情報収集とか……色々やることがある。

 

「……とまぁ、建前はそんな所で…」

 

 織斑一夏の捜索も兼ねている。今日はまる1日いなかったって訳じゃないが、長い休み時間などが挟まった途端どこかに向かっているのだ。

 放課後も、いつの間にか消えていたし…彼がなんらかの行動を起こしていることは間違いがないので、ちょっと探してみます。

 

「……」

 

「え?織斑君?生徒会長と一緒に歩いてるの見たよ?」

 

「それって、あの更識楯無って人ですよね…」

 

「そうそう、けど織斑君ちゃんと生きてるかなぁ」

 

「生きてる?」

 

 つまり生徒会長は、男に死すらも希望に思えるほどの精神的&肉体的ダメージを受けさせる女…なんて冗談はともかくとしても、今の言葉の真意は気になっている。

 

「あの、生きてるって……」

 

「あぁ、今いろんな部活の主将とかいちばん強い人とかが生徒会長襲ってるんだよね」

 

「何故…?」

 

「生徒会長やっつけて解任、かつ織斑君を自分の部活に入れるため…だと思うよ」

 

 この学校、ISに関しての知識はすごく必要とされるしそれを前提とするための計算式とか、色んな知識が必要とされるけど……基本的に全員アホか馬鹿なのだろうか?

 そんな簡単なことで解任なんて…もしかしてなるのかもしれない。私がまったく理解していないだけで、どこかに記載されてるのかもしれない。

 

「……まぁ、どっちにしろ生徒会室なのかな」

 

「多分ね、そこまではわかんないけど」

 

「ありがとう、助かったよ」

 

「ううん、どういたしまして」

 

 私は教えてくれた人にお礼を言いながら、そのまま生徒会室へと向かう。と、少し歩いてから今更ながら私は気づいた。生徒会長ということは、あの女と関わりあいにならないといけないということである。

 相手のISすらろくにわかっていないのに、このままなんの策もなく敵陣地に飛び込むことは、無策極まりないということになってしまう。

 

「……探さない方が吉か…?」

 

 学園祭の準備は、私が率先して行えばいいだけの話だ。それに、私が彼を探しているとなるとめんどくさい反応をする者達もいそうで、それを考えるととてもめんどくさいように思えてしまう。

 

「…よし、とりあえず1時間ほど探してみよう」

 

 生徒会室以外のどこかにいるかもしれない、さっさと探して教室に連れ戻して学園祭の準備を進めさせるのが、何故か織斑一夏と同じように準備のリーダー役を任された私の使命なのだ。

 後、他のクラスの情報収集もしておかないといけないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━」

 

 探している途中、畳道場から声が聞こえていた。女の声と男の声、織斑一夏と例の生徒会長更識楯無だろう。

 ドアの隙間から覗いてたら、多分バレそうなので聞き耳…いや、それでもあの生徒会長ならバレそうだし……

 

「直に入るか」

 

 堂々としてたら、流石に怪しまれることは無いだろう。まぁあの二人から私は敵視されてるけど、放課後の学校…しかも学園祭の準備で忙しく、騒がしいこの時にわざわざ騒ぎ立てようってことは無いだろう。

 

「そこに居るのは誰かなー?」

 

「……対応が早くて私は安心しますよ生徒会長」

 

 考えてる間にドアをあけられてしまった。私の顔を見てもニコニコと顔を崩さない辺り、来てることすらバレてしまっているようだ。

 

「鬼村…」

 

「やぁ織斑君、学園祭あるからちゃんと仕事してねっていう激励を飛ばしに来たよー」

 

 私がにこやかに挨拶をしているというのに、織斑一夏は渋い顔でこちらを見ていた……というか、なぜ道着を着ているのか。よく見たら生徒会長も道着を着てるし…よく見たら生徒会長ちょっとはだけてるし……

 

「……流石に校内でエッチなことはダメじゃないですか?」

 

「違う!断じて違う!!」

 

 え、生徒会長が押し倒されて織斑一夏に無理やりされるっていうプレイをしていたんじゃないんですか。まぁ勘違いネタはここまでにしておこう。

 

「まぁ、用事はさっき言った通りだから」

 

「残念だけれど、いち…『いっくん』は私がしばらく預かります」

 

「ちょっと!?」

 

 あ、彼女のフリし始めた。いや、別に私その男のこと好きでもなんでもないですけど……そんなフリしても、嫉妬も羨望も怒りも殺意もあの女たちみたいに向けるわけじゃない。

 

「じゃあ生徒会長の彼氏さん預かりますね、流石に織斑千冬の弟が任されたことから逃げる男なんて噂されたくないでしょ?」

 

「いや、これは…」

 

 ちょっと織斑一夏は黙ってて欲しい、そういう目線を彼に無言で飛ばす。意図が通じたのか、渋々黙ってくれた。嫌ってくれてるのによく言うことを聞くね君。

 

「駄目よ?彼はとても弱いからISも肉体も鍛えないと」

 

「そうですね、でも今は学園祭優先なので」

 

「こういう時間じゃないと鍛えられないし、そもそも貴方一人でも成り立っているのだからいいんじゃないかしら?」

 

「いやいや、私そもそも女子目線で抜擢されただけですよ。本来クラス代表の織斑君がするべきなので」

 

「クラス代表はクラス代表と言うだけであって、学園祭の責任者でもなんでもないわ」

 

「でも引っ張ってるのは彼です、1組の学園祭でやることを決めたのも彼です」

 

「あら、案を出したのはラウラ・ボーデヴィッヒ。あとはクラス全体が賛成になって彼が折れたという形と聞いたけれど?」

 

 誰だよそんなこと伝えたの。というかマジで引かないなこの女…もういいか、織斑一夏がいたらクラスの士気が上がるから参加させたかっただけなんだけど。

 

「……そこまで言うなら、私は引きますよ。織斑君がいたら、クラス全体がすごく活気に溢れるって思っただけですし」

 

「……そう、それでここで貴方は一人で帰るつもりなのかしら?」

 

「そうですねぇ……まぁ一人で帰るかもしれませんし、1人じゃないかもしれません」

 

「…何を……」

 

「いやぁ、彼のことを心配する人が別にいるから…そろそろ来るんじゃないかなぁって」

 

「……貴方、実力は兎も角としても…」

 

「話し上手ってよく言われます」

 

「ぁ…」

 

「五十冬さん!!」

 

「ありゃ、セシリアまで来ちゃったの」

 

 ふと目線をずらすと、セシリアとラウラが近くまで来ていた。ラウラは私を見て、少しパニックになっているようだけど……セシリアはラウラに着いてきたのか、はたまた単純に道のりが被っただけなのか。

 

「どこに…あら、この人は……」

 

「IS学園生徒会長、更識楯無……どうやら、織斑君この人に色々鍛えてもらうらしいよ?」

 

「え…」

 

 おや、ラウラが反応を返していた。まぁ当たり前か。唯一の心の拠り所の織斑一夏すら、他の女に取られるってなったら…そりゃあ焦るし困惑するかもね?

 

「い、一夏…今の話は……」

 

「待て待て!俺はこの人に負けたら、この人の指南を仰ぐっていう約束で今勝負しているんだ!まだ負けてない!!」

 

「そ、そうか…大丈夫なのだな……」

 

 安心しきった表情を見せるラウラ。いや、生徒会長強すぎるのに織斑一夏が勝てるとはとても思えないんだけど。

 

「……にしても、柔道、ですか」

 

「あ、そう言えばセシリア私を探してたんじゃなかったっけ?」

 

「そうでしたわ……クラスの人に言われて探しに来たんですの。正確には、一夏さんか五十冬さんですわ」

 

「なるほど、代表同士ってことね。じゃあ私は戻るよ」

 

「では私も一緒に……ラウラさんはどう致しますか?」

 

「わ、私はここに残って見学をする…」

 

「そうですか、分かりましたわ」

 

 そう言って、私とセシリアはその場を離れる。勝負に負けた織斑一夏に対して、ラウラがどんな反応を返すのか気になったけど、私でも真面目にしていないと駄目だしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、織斑一夏は生徒会長に負けたらしい。で、結局ほかの女たち混じえての合同訓練を行うらしいとか何とか……でまぁ、それにセシリアが駆り出されるし…私もどうやら駆り出されることになったらしい。

 一応、プロトタイプの機体を持ってる専用機扱いだとか何とか。あの女がいる以上、行く必要が無い……と思うかもしれないが、実を言うと私にとっても行くことに価値はある。

 運が良かったら更識楯無のISを確認できるし、戦闘技術の向上も可能なわけだ。

 更識楯無は私を無視することも来たと思うが……とりあえず誘われたのだ、しかも教師…山田先生を介してのものなので私としても断りづらい。だって、断るにしても教師をまた介してしまった場合私の心象が悪くなりかねないし、直接行けるなら…と無理やり参加させられるのが目に見えている。

 時間はあるし、参加しても問題ないだろう。まぁ、周りに囲まれたら何とかして逃げるしかないけど……

 

「……とりあえず、更識楯無の情報は集めないとね」




小説版混ぜ始めました


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中華中途

 side?

 

 相も変わらず、どこか分からないところでどこか分からない空間に閉じ込められている少女、凰鈴音はそこにいた。そして彼女もまた同様に代わり映えしない全裸と首輪で、男達を出迎えていた。

 

「……」

 

 言葉は通じない。服装を見ると、それなりの都会に来ているようだがそれ以上の事は彼女には分からなかった。まだ頭は冷静に働いていた。彼女も、今IS学園にいる少女達と同じように……好意を寄せている男性、織斑一夏の事を考えればまだ理性を保てているのだ。

 だが、そんな代わり映えのない非日常が……()()()()()()()()()()()()()

 

「っ…何、眩しい……」

 

「おーい、生きてっかー?」

 

「あんた、誰よ……」

 

「誰かなんてどうでもいいだろ?おら、さっさと立ちやがれ…()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「飼い、主……?」

 

 突如ドアを開けて現れた女性、言動は粗暴だが格好はそれほどでもなかったという印象を受けていた。だが、それでも目線の下賎さはどうしても誤魔化せていなかった。誤魔化す事もしないのだろうが。

 

「あぁそうだ、前々から出資はしてくれんだけどよ…随分と変態的思考の『男』でな。前に捕まえたドイツの女共もそいつに売ったんだよ」

 

「ドイツ……」

 

 鈴が捕まってはや数ヶ月。記憶を辿って思い出されたのは、謎のISによって全滅していたドイツ軍の姿である。無論、自分とシャルロットも同じなのだが。

 

「にしても…変態だと、好きな女の好みなんてのはねぇのかね?お前みたいな貧相な体にすら、発情するとかマジでよく分からん」

 

「うるさいわね……」

 

 精一杯の抵抗の言葉。だが、目の前の女性はそれを聞いてもニヤニヤと笑みを浮かべるだけだった。

 

「とりあえず、さっさとてめぇを連れていかねぇと、待ち合わせに遅れるんだよ。早く来な」

 

 首輪に繋がれていたリードの鎖は、壁から外される。これで一応動くことが可能になったが、今の鈴の生身の力ではろくに抵抗もできやしなかった。

 

「おら、ISねぇとなんも出来ねぇんだから無駄な抵抗はやめておけよ」

 

「くっ……」

 

 鈴は何としてでも戻ると決めたのだ。絶対に、恋心を抱いている彼の元に戻ると……そう決めているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「連れてきたぜ」

 

「いやぁ、助かるよ」

 

 鈴が連れ去られてきた先は、富豪とも言えるべき大きさの家を持った男の前であった。服装も、気品のある物だったのでこのような状況でなければ、先程の…女性が言っていた言葉である事は信用していなかっただろう。

 

「…前のドイツ軍の女共は?」

 

「飽きた子達から、適当に生活させているよ。無論、私から離れ過ぎた場合い生きられない事を分かってるのか、誰一人脱走していないようだけどね」

 

「ほー、そりゃあいいな。調教の成果が出てて何よりだ」

 

「それが新しい子かい?随分とまた可愛らしい……」

 

「あー、じゃあこっちは帰らせてもらうわ」

 

「あぁ、お金は既に払ってあるからね。問題ないだろう」

 

 鈴を放っておいて、勝手に会話が進められていく。割り込みたい気持ちがあったが、本人も気付かない間に折られていた心が『やっても無駄だ』と鈴を諭していた。

 

「……さて、君には私の家の案内をしてあげよう」

 

「……通じるような言葉を喋れるのね」

 

「これでも一応グローバル関係の業務をしていてね、色々な言葉を喋れるのさ」

 

 今まで会話すらまともに通じていなかった状況から一変、鈴は明るい場所に豪華な部屋。そして会話のできる『飼い主』が現れていた。

 

「……それが、奴隷売買をしてるなんてね…」

 

「恨むなら、身寄りのない自分を恨むんだね」

 

「私にはちゃんと家族が━━━」

 

「無駄だよ。君は世間一般では殺された扱い…になっているらしいからね。二度と祖国にも家族の元にも返さないつもりさ。それに関しては、あの子たちも一緒なんだけどね」

 

 一緒に歩きながら、会話を続ける男と鈴。ふと鈴が目をずらすと、今の鈴と同じような裸首輪の少女がいたり、彼の屋敷に住んでいる男性の使用人が別の女性を犯していたり……はっきり言うと、退廃的なものを見せられている気分になった。

 

「……絶対に、私は帰るから」

 

「治安レベルが高いとは言えないこの街でかい?随分とまぁ、挑戦的だね。五体満足でいたいなら脱走するのは辞めておいた方がいいと思うけど」

 

 ここを見せられて、街よりもここが安全と言われても鈴はどうも信用できなかった。しかし、別に脱走しようと思えばいつでも脱走できるのに、かなりの人数の女性がいることを考えると本当に脱走しない方がいいということなのかもしれない。

 

「……あぁ、そう言えば君と入れ替わるようにして、数日前に何人か出ていったんだよね」

 

「…何人か?」

 

「名前はなんて言ったかな……そうそう、クラリッサだ。そして彼女の部下の子達が2人か3人…クラリッサについて行ってそのまま姿をくらませたよ」

 

「はっ…脱走されてたんじゃ世話ないわね」

 

「まぁ、今日の朝に結果が分かったんだけどね」

 

「……結果?」

 

 何の結果か、鈴は少し恐怖を覚えていた。ドイツ軍の兵である少女達は、一体どうなったのかと。この街に出て、一体どんなことをされたのかと。

 

「1人は男達に捕まえられて今でも街のスラムで慰み者、もう1人はこの街の警察に捕らえられて行方不明…こっちでも一応探したんだけどね、そこで情報が途切れたよ」

 

「…最後の1人は…クラリッサとかいう、人は…?」

 

「……聞きたい?」

 

 勿体ぶる男。訪れた沈黙が、鈴の心臓の鼓動を更に早めていく。血の気がなくなり、顔が冷たくなっていくような感覚を味わいながら、鈴は顔を青くしていた。

 

「何人かに暴力を振るって拘束、その内手を出しちゃあいけない奴に手を出して国外に連れ出されたよ」

 

「……何、よ…まだマシじゃ━━━」

 

「写真が届いたけど、文字通り五体満足じゃあ無かったよ」

 

 五体満足ではない、文字通りということはつまり体が言葉通りの意味で壊されているということである。それを考えるのは、鈴であっても少しきついものがある。

 

「君はそうなりたいかな?」

 

「う、ぁ……」

 

 元代表候補生と言っても、未だ15~16の少女である。怖いものは怖いで当たり前であり、下手なことをすれば体を壊されると聞かされては、恐怖を感じてもしょうがないだろう。

 

「さ……君はどんな声で鳴いてくれるかな?なぁに、安心してよ…下手なことをしない限り、怪我はさせないし怖い思いもさせない。あくまでも、君が理性的な判断をくだせるなら…どうすればいいか分かるよね?」

 

「っ…」

 

『逆らうな』と色々言っているが、この一言に尽きるだろう。だが、これを直接言われるよりも、色々な会話や視覚聴覚による刺激等を用いた優しい言い方の方が、人によっては突き刺さるということである。

 理性的であればあるほど、人の意見を聞こうとすればするほど…この術中にハマりやすい。

 

「けど、君もそれなりに大変な目に合わされてきたようだし…まぁしばらくは甘めに見てあげるよ」

 

「くっ……」

 

「さて、まずはどのような事をさせようかな……あぁ、そうそう…君を捕まえた人からの注文でね。君と致したのを録画して送ることになってるんだ」

 

「ろ、録画…!?」

 

「幸い、こちらにばらまく意思はないしこれを注文した人もそんなつもりは毛頭ないらしい」

 

 どこまで信用していいのかわからない。鈴は、それを理由に録画を拒否したかった。しかし、既に先程の説明で恐怖を植え付けられた鈴は否定することも難しくなっていた。

 

「……ふふふ」

 

「な、何…?」

 

「君は、自分が思っている以上に弱っていることに気づいているかな?」

 

「わ、私が弱ってる…?何を、根拠に…」

 

「本来の君は、代表候補生になるほどの実力と意志を持っていたはずだ。けれど、今の君はか弱い少女そのものだと思ってね」

 

 その言葉に、鈴は反論できなかった。この男と出会う前から、男に散々陵辱される日々。その日々が、鈴の心の奥底に男に対する恐怖感を知らず知らずのうちに植え付けていたのだ。

 その事に、彼女は未だ気づいていない。気づいていないから、反論できなかった理由が、自分でもわからない。分からないから、未知への恐怖に更に脅えてしまっていく。

 負の循環が、彼女の心を気づかない間に圧をかけて壊していく。

 

「わ、私は……」

 

「無理をしなくていい……私が君を飼ってあげることで…その恐怖から、解放してあげよう…」

 

「っ…!?」

 

 甘いとは程遠い言葉を、耳元で吐かれる。そんなことを言われた暁には、普段の鈴ならば突き飛ばすなりなんなりしていただろう。しかし、今の鈴はその言葉ですら少しの安心感を感じていた。

 

「解放…って、締め付けてるあんたが言うことじゃ……」

 

「どう判断するかは君次第だ…敵と思うか、味方と思うかはね。まぁ敵だと思っていても……冷静に物事を考えれるなら、どっちがいいかなんてわかりきっていることだと思うけどね?」

 

「っ…」

 

 何度も言われていることを、反復するかのように何度も言う男。出れば社会的にも、下手をすれば文字通りでも死ぬ事になる。そうなるのだけは、絶対にIS学園に戻りたい彼女としては避けたい事態であった。

 

「さて……まずはどうしてもらおうかな━━━」

 

 こうして、鈴の生活はISからまたもや離れた生活になってしまっていた。ここから戻ることは……まず、不可能だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「……って訳で、彼女は少しマシな生活を送ることになった訳ですよシャルロットさん」

 

「……何がマシだよ、こんなの動物と何ら変わらないじゃないか!!」

 

 人気がいないところで、私は動画を見せていた。ひとまず、学園内では無いのでそこだけは理解してほしい。一々説明するのも面倒なので、学園外としか言わないが。

 

「動物と変わりないも何も、この動画は凰鈴音が畜生からペットに駆け上がった瞬間な訳だけど」

 

「こんなのを見せて、僕が納得するとでも!?」

 

「納得するしないは別だよ。私はただ『1度だけ』動画を見せるだけだし、貴方がこれでやるのは『場所の確認』だ」

 

 場所が理解出来なければ、どこにいても変わらない。分からないのだから、迎えに行くことすら出来ない。

 それをたった一度のチャンスで怠ってしまえば、誰だって分からないものである。シャルロットは無駄にしたくないのか、私に反論することすら出来ない。

 

「くっ……」

 

「まぁ分からないシャルロットの為に、地名だけ抜いた地図を渡してあげるよ。街の形だけでどこか分かればいいね……2度目3度目から段々地図の範囲が大きくなるから、どこの国にあるかくらいはわかるかもね」

 

「……分かった、下手な事は言わないから……情報が、欲しい…」

 

「なら地図をあげる、まずは今鈴がいるところの家だけが写った地図だ……ま、要するに引き伸ばしただけなんだけどね」

 

 地図とは呼べないものだけど、それでも情報は情報である。下手なことを言ってしまえば、情報を渡されるのがこれっきりになる……という可能性もあるのだ。

 

「さて…シャルロットが堕ちる前に場所を見つけて、鈴が堕ちる前に鈴を見つけることが出来るかな?」

 

 恐らく、鈴が堕ちる方が早いかもしれない。それでも、シャルロットは意地でも鈴を見つけようとしていた。

 けれど、そのおかげというかそのせいと言うか……私が別の作戦を既に実行していることは、彼女にはバレずに済んでいたのであった。



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奉仕喫茶

 現在私は学園祭でお客にお茶を出している。IS学園はその性質上、学園祭は誰でも入れる……という風になっていない。チケット1枚が生徒一人一人に手渡され、そのチケットを持っている部外者だけが参加出来る……という仕組みになっているのだ。

 かく言う私も、誰を誘おうかと少し悩んだのだが……Sの方に相談したらそちらで処理をすると言っていたので、預けておいた。因みに、私もメイド服を着ているが接客業はしていない。というのも、織斑一夏目当ての女生徒…&部外者の女性、+1部の呼ばれた男性がIS学園の美少女を見に並んでいるのだ。圧倒的に女性が多いので、男性はあまり並ぼうとしていないが…まぁ浮いた存在になるのは、なるべく避けたい気持ちはわかる。

 とまぁ話はズレたが……その長い長いお客の処理をしなければならなくなっており、その処理をするために整理券の様な『制度』を作って捌いている最中となっている。

 別に回りたいところとかは無いが、3時間回せば休憩をくれるとの事なので、その時に色々とみて回ろうと思っている。後色々あるので、暇な人に作業中の専用機持ち達を画像に収めてもらっていた。

 とまぁ長々と話したが……私の仕事ぶりを見せてあげよう。

 

「はい、整理券を渡します。もし他に回りたいところなどがございましたら、メールアドレスまたは電話番号により連絡をさせていただきます」

 

『メイド喫茶入りたいけど、他に回りたい所がある』そんな人の為に整理券を手作りして、渡している。メールアドレスか電話番号を教えて貰って、そこに機械に強い人物を集めて作った自動連絡機器を使って連絡を飛ばす。

 5分以内に来なければ次の人に回すことを了解してもらって、待っている間並ばずに席を予約するシステム…作りました。今これ全部捌くのめっちゃきつい。手作りだから番号が手書きだけど、書きすぎて腱鞘炎になりそう。

 

「鬼村さーん、5番の席空いたよー」

 

「はーい、じゃあ連絡飛ばすねー」

 

「鬼村さーん、予約状況どうー?」

 

「予約待ち75組、その内整理券を貰ったのが72組」

 

 残り3組は待っててくれてるので、こちらを比較的優先させている。開いてるのに、座れないのを待たせるわけにもいかないだろう。それでも整理券をいっぱい貰ってる人がいるのを考えると、やはり自由にみて回りたい人が多いのだろう。因みに、織斑一夏目当てが9割である。残り1割の中の7割が可愛い女子目当て、残り3割が男性客である。

 女学園なのに、女生徒目当てというのは……つまりはそちらのご趣味があるということなのだろうか。まぁ、共学高あるあるらしいが。男子校でも寮生活してると境界線おかしくなるらしい……また話しズレた。

 

「うへぇ、すごい状況だねぇ…でも並んでる割に…?」

 

「ちなみに言うと、回すこと前提なのでなるべく4人1組にしてるから、300人はくだらないよ」

 

 全く知らない人同士で一緒にさせるのはとても悪いと思うが、こうでもしないとクレームが多くなるのだ。今の時点でクレームがなかなか凄いので、クレーム対応班は頑張ってくれている。

 

「うわぁ…」

 

「一応言っとくけど、店に入ってる人と既に出ていった人を含めたら1.5倍には膨らむし、まだピークすら来てない事考えたら…」

 

「忙しすぎて生きていられるかわからないや」

 

「そうだね」

 

 その意見に関しては、私も同意見だ。これから更に忙しくなるというのに、私たちの人数は変わらないのだ。

 前もってシフト表で、昼に入ってる人を多くしておいてよかったかもしれない。

 

「……」

 

「そう言えば、鬼村さんは家族の人学園祭に誘った?」

 

「今日仕事だしね、代わりに知り合い呼ぶらしいからその人が来るかもね」

 

 適当な誤魔化しだけを入れておく。実際、来るのかすらもわからないのでなんとも言えないのが事情であるが。

 

「…店の中どんな感じ?」

 

「織斑君での集客効果はバッチリだね。それと、篠ノ之さんが目当ての人が次いで多いね」

 

「え、意外……なんで?」

 

「胸じゃない?メイド服で凄い強調されてるし……3番目はセシリアなのも、拍車を掛けてるよ」

 

 なるほど、確かにあんな牛みたいな胸で接客したら男女問わず気になってしまうだろう。ブラつけてんのかってくらい動いているけど。因みに胸の大きさ的に篠ノ之箒、セシリア、シャルロットという順番である。他のクラスメイトは知らないけど……

 

「それにしてもさ……」

 

「うん、どうしたの?」

 

「この『執事にご褒美セット』ってどうなの?」

 

 執事にご褒美セット……その場のノリと勢いで決まり、なおかつ私達ですら意見が認められないくらいに、熱意が込められているセットである。

 内容としては、アイスハーブティーと冷ましたポッキーのセットで値段は300円である。ぶっちゃけ、これだけなら私もちょっと食べに行きたいくらいのお手ごろ価格ではあるのだが……なんとこれ、織斑一夏に食べさせるのだ。そういう仕様なのだ。

 

「需要あるでしょ?」

 

「あぁうん、本人が心を殺すくらいには本人以外の需要は叶ってんだろうね」

 

 何とかして逸らそうとするも、結局それを頼まれてひたすらポッキーとアイスティーを胃袋に収められる織斑一夏を見ていると、悲惨に思えてくる。

 

「あ、もうそろそろ交代してもいいよ?」

 

「…まだ早くない?」

 

「いやぁ、あれみてよあれ」

 

「…?」

 

 ふと目線をずらすと、いつの間にか更識楯無が織斑一夏の目の前に座っていた。しかも何故か、このクラスで着ているメイド服と同じものを着用している。整理券システム無視すんなよ。

 

「どうもー、新聞部でーす。話題の織斑執事を」

 

「あ、お客として来てるなら整理券お願いします」

 

「…整理券貰わないと……入れない?」

 

「入るのは別に構いませんけど、席への着席とメニューの注文が不可能となっております。後入ると迷惑になっている場合、周りのお客様とクラスからの痛い視線が入りますんでご了承ください」

 

「あ、はい……」

 

 新聞部エース、黛薫子(まゆずみかおるこ)。ことある事に織斑一夏の撮影、偶に他の専用機持ちの取材、そこからごく稀に最近専用機持ちになった私の取材をする人である。

 どうやら本当に写真撮影するためだけに来たようで、そのまま入っていった。まぁお客様として来たら歓迎しますよ、ええ。因みに私はこの人が少し嫌いだ。ズカズカ質問してくるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中で写真撮影始まった。とは言っても、織斑一夏とほか専用機持ち達の撮影。シャルロットと篠ノ之箒はイチャついていたが、ラウラは少し気まずそうに…セシリアは隣に立ち、私は普通に立っていた。嫌がらせする程でもないし。

 とまぁ、そんな写真撮影が終わってから私と織斑一夏はほぼ同時に休憩に入った。とは言っても、私は引き継ぎしないといけないので少しだけ遅れての休憩だけど。

 というわけで、遅れて少し休憩に入り私は適当に歩いていた。特にやることも無いし。

 

「━━━」

 

 とまぁ、正面玄関に向かう途中にある階段の踊り場で話し声が聞こえてくるまでは、私は少し楽観的になっていた。話し声は男が1人と女一人の声。片方は織斑一夏だと分かったが、もう1人はここからは聞こえるはずの無い声。

 

「━━━是非、我が社の装備を使っていただけないかと思いまして」

 

「……なんで…?」

 

 咄嗟に体を隠す私。いやいやいや、私今織斑一夏と話してる人知ってるんだよ。けど、演技してるのか話し方が180°違うんだよ。というか、なんだよ装備って……

 

「……O…」

 

 O、オー、おー……私が基本的にそう呼ぶ相手は、亡国機業の人間だ。そして、私は彼女によく合う…というかSの彼女だ。ん?Sは女だよ勿論、要するに同性カップル。

 

「…まさか私のチケット使ったのって……」

 

 明らかにOだ。というか、偽造することくらい訳ないと思うのだが…あれ、じゃあ私のチケット使ったの誰だ?って事になる。

 

「……ちょっと聞き取りづらいけど…」

 

 ガヤガヤと騒いでいる学園祭内で、少し離れた位置から会話を聞くのは至難の業だ。けれど、聞こえてきた単語とかを考えてみるとISの装備の話をしているらしい。ただ、ISの装備というのは機体の量子変換容量と機体の『好み』で決まってくる。

 織斑一夏の白式は、射撃武器に盾に雪片弐型以外の近接武器が全てダメという突出極まっているISである。代わりに、その突出だけで戦えるのだが……因みに私のカリオストロは真逆だ。好き嫌いしない代わりに、突出したところは無い。装備をコピーできる代わりに、『初めからカリオストロ専用の装備』というものを嫌うのだ。

 

「…ISの会社の重役のフリしてるって所かな?」

 

 あ、そんなこんなで織斑一夏が逃げた。ま、ああいうのは普通だったら逃げるに限るよね。あ、舌打ちしてる。目立たなくてよかったね。

 ってなんかこっち向いた……うわ、来たよ。

 

「てめぇ……見てたのか?」

 

「レア過ぎて動画撮りたかった」

 

「はっ……ろくに織斑一夏に接近出来てねぇからこっちにお呼びがかかったよ」

 

「あっそ、でも私はまだ手を出すつもりは無いからさ」

 

「……おいおい、卒業まで手を出さねぇとか言うんじゃねぇだろうな?」

 

「さぁ?けどそれまでに、カタをつけたいとは思ってるよ」

 

「周りにいる専用機持ちの排除、っていやぁ聞こえはいいが……まだ1人しか排除できてねえ上に、人数が増えてんじゃねぇか」

 

 お互い背中合わせで、語り合う。私とこいつは、仲が悪いように思えるが、いやはや存外コンビネーションは良かったりするのだ。なんでかよく分からないけど。

 

「専用機が増えれば、それだけカリオストロの装備が増えるって事だよ」

 

「それで?反逆でもしようってのか?」

 

「そんな事するほど、暇だと思う?」

 

「いいや全く。けどな、さっさと手を出さねぇ限りは……私達が、織斑一夏を……いや、白式を奪い取るぜ?」

 

「取れればいいね、城の壁を破壊せずに中の人を狙い撃つなんて不可能だけど」

 

「そりゃあお前の勘違いってこった、まぁせいぜい指を咥えているこったな」

 

 そう言って、彼女は私の傍から離れていく。多分、と言うかなんというか…生徒会長がいるのは彼女も知っているはずなのだが…いや、もしかしたら知らないのかもしれない。

 となると、私が助っ人をやらないといけない立場だったりするのかな……

 

「はぁー……面倒だけど、仕方ないか」

 

 Oを助ければ、それだけ亡国機業そのものも助かる。正確に言うと、OじゃなくてOが乗るであろうISのコアを守る事……なのだが。パイロットも替えがきくわけじゃないし、コアが守れれば大抵パイロットも助かっているので問題は無いだろう。

 まったく、実力はあるのにいざと言う時にドジを踏まれて困るのはこっちなのに……

 

「さて、行きますか……ひとまず、織斑一夏がいる所にOの姿ありとしておこう」

 

 まぁそれに付随して他の専用機持ち全てが着いてくるのだが、それはそれこれはこれだ。それに、カリオストロの性能なら紅椿以外なら恐らく問題ないだろう。紅椿相手では、多少きつい部分があるかもしれないが。

 そう考えながら、私は織斑一夏の後を追うのであった。



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一蓮托生

もしかしたら、今回人によってはグロい場面だと思われる箇所があります。ご了承下さい。


 織斑一夏を追跡していて、いくつか分かったことがある。

 1つ目は、彼が学園に呼んだのは男友達だという事。もう1つは、その男友達はまだマシな方の健全な男子と言った感じだった。IS学園が花園だなんて思ってる男は、可愛げがある。後、妙に男友達の方が、織斑一夏を励まそうとしている風にも見えるが……何故だろうか?話しかけれるところがあったら、話しかけてみるか。

 そして、3つ目はこの学園やっぱりどこかおかしいのでは?という所である。

 

「さぁさぁ爆弾解体ゲームをレッツ・スタート!」

 

 これを行っているのは、美術部である。もう一度言おう、美術部である。『芸術は爆発だ!』って言ったかと思えば、これを勧められてるのだが…意味合いがまるで違ってきている。本物の爆弾ではないが、よくできているとも思うが……普通、こういうのって部活で描いた絵を展示するとかでは無いだろうか?

 運動部だから、部活動に関連付けるってことが出来ない……ってもんでもないでしょうに。

 とまぁ、何だかんだで織斑一夏が失敗したのを確認してから、追尾を開始する。何をするでもなく、2人はブラブラしていたが……ふと織斑一夏が店に戻らないといけないことを告げる連絡が届いていた。

 私は戻らなくていい、当たり前だ。織斑一夏は商品にされてしまっているので、戻らなければならないのだろうが……ん?そうなるとあの男友達は一人にさせられる感じかな…ちょっと声掛けよっと。

 

「あのー……」

 

「ん…ん…!?も、もしかして俺に声掛けました!?」

 

「は、はい……えっと、織斑君の友達ですか?」

 

「はい!そうです俺が織斑一夏の友達の五反田弾(ごたんだだん)です!!」

 

 女子に話しかけられたのがそんなに嬉しかったのか、めっちゃテンションを上げて話しかけてくる五反田弾。ごめん、ちょっと引いちゃった。でも悪い人ではないのがよく分かる、それこそ本当の意味で『悪い人』ではない。

 

「ふふ、織斑君の同級生なら敬語使わなくていいですよ?」

 

「じゃ、じゃあお名前教えて貰ってもいい!?」

 

「おにむ━━━」

 

 ふと、私は思った。ここで鬼村の名前を使うべきなのかどうか、を。仮に織斑一夏がこの男に私の事を伝えていたとしたら、せっかくの情報源が離れてしまうのではないか…と。

 最近はこちらの名前を多用しすぎて忘れていたが、この名前偽名だった。となると、使う名前は考慮しなければならない。しかし新しいのを今すぐに思いつけるほど━━━

 

「高村文音です、よろしくお願いします」

 

 二度と使わないと思っていたけど……意外なところで私の小さな誓いが破られてしまった。本名だが、誰も知らない名前なのでちょうどいいだろう。

 

「いいお名前だね!」

 

「うん、お父さんとお母さんがつけてくれた名前なんだ」

 

 あれ、今私当たり前の事口走っちゃったかな?まぁいいでしょ、祖父祖母に影響されないでつけた名前…だとでも思ってくれたら、都合がいいし。

 

「へ、へー……」

 

 少し会話が途切れる。この男、緊張して話のタネを出せないタイプだろうか?いや、だったら私が話を提供してやるとしよう。ちょっと、からかってあげるのも面白そうだし。

 

「五反田君は、織斑君の事どのくらい知ってるの?」

 

「え…あ、い、一夏の方か…」

 

 しまった選択肢間違えた。今の発言は、織斑一夏のことを好いていると思われかねない。ちょっとだけ言い方を変えて訂正してやらねばいかん…

 

「織斑君のことも聞きたいけど…でも、五反田君の口から聞く織斑君ってのを聞いてみたいかなって思って」

 

「……?」

 

「別に、変な意味で織斑君のこと聞こうとしてるわけじゃないよ?ただ、織斑一夏の友達っていう視点から見た織斑君を聞いてみたいなって」

 

「……あ、新聞部とか?」

 

「まぁ、そんなところだよ」

 

 何とか勘違いしてくれた。正直、自分でも何言ってるのかよくわかってなかったし。

 

「じゃあ、ちょっとお茶しながら聞いてもいい?」

 

「お、おう!」

 

 それから小一時間程五反田弾という男が、どう言った男なのかを観察した。どれだけ行っても、『織斑一夏のいい友達』という認識は崩れなかった。

 そうだろう、織斑一夏は傍から見たら好青年…いや好少年?まぁどっちでもいいが…人当たりはいいのだ。だから、こうやって私みたいに敵対する珍しい奴もいる。織斑一夏は、私を敵だと認識しつつも何だかんだ見逃している。そういう所が……彼を彼たらしめる『甘さ』なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ…もうこんな時間」

 

「あれ、なんか用事でも?」

 

「ううん、ちょっと劇があるみたいだからさ……あ、五反田君もどうかな?」

 

「高村ちゃんが行くなら、俺も行こうかな?」

 

「なら、一緒に行こっか」

 

 五反田弾を誘う意味はほとんどない。必要性も全くない。なんだったら、いざと言う時に足を引っ張る役目にもなるかもしれない。だが、私は誘った。ただ、私が五反田弾と一緒にいることが織斑一夏の反応をどう変えるのかと思っただけである。つまり、嫌がらせしかないのだ。

 

「ところで…劇って?」

 

「んー……シンデレラなんだけど……」

 

 一体いつの間に持っていたのかわからないパンフレットを開きながら、私は劇についての記入された部分を指でトントンと叩く。そこには、こう書いてあるのだ。『観客参加型演劇』と。

 シンデレラという一般的な劇であるのに、全く聞いた覚えのない観客参加型演劇の見慣れない7文字。一体何が起こるのかわからないままに……私達は劇に突入していた。

 のだが……どうやら、これは生徒だけがメリットのあるもののようで外部客の五反田弾は弾かれてしまっていた。

 

「……えっと、王子様の被ってる王冠を取る」

 

「はい」

 

「取ったら王子様…織斑君と同室になれる」

 

「はい!」

 

 満面の笑みで、受付の人に言われてしまった。織斑一夏と同室になるなど、生徒会長権限の行使だろう。しかも、王冠を奪うだけ…なわけがあるまいとは思う。

 とまぁ色々ありまして……劇の始まりである。

 

「昔昔ある所にシンデレラという少女がいました」

 

 おや、出だしは普通の様だ。参加型演劇…シンデレラと言えば、ガラスの靴がある。もしかしたら、ガラスの靴に初めにすっぽりとハマりなおかつ同じサイズの女子が同じ部屋になれるとかそういう可愛い━━━

 

「否、それはもはや名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰燼を纏うことさえいとわぬ地上最強の兵士達。彼女らを呼ぶにふさわしい称号…それが『灰被り姫(シンデレラ)』!」

 

 ごめんなさい、前言撤回しますこれ全く普通でもなんでも無かったわ……というか、なんだそのナレーション。そんな無茶苦茶なシンデレラがあってたまるのだろうか。

 

「今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる。王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女達が舞い踊る!」

 

 そこから始まる、専用機持ち達の織斑一夏争奪戦。観客参加型と言う割には、序盤が専用機持ちだけが動き回っていたことで一体何なのかよくわかんなくなっていた頃、ふとアナウンスが流れていく。

 

「さぁ!只今からフリーエントリー組の参加です!皆さん、王子様の王冠目指して頑張ってください!」

 

 そして、それと共に他の女生徒たちも動き始める……のだが、私は見逃さなかった。セットの下、正確には織斑一夏の下から生えた手が、織斑一夏をセットの下に引きずり落としたことを確認した。

 

「……あのセットの下って…」

 

 どこに繋がっているのかはわからないが、調べてみる価値はあるだろう。

 私はそう思いながら、織斑一夏が落ちたであろう場所にこっそりと忍び込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━!!」

 

 通路の奥の部屋から、怒号が聞こえてきていた。Oの声だ。しかも、私のいつも聞いている荒っぽい喋り方の。それに、声があと二つ届いて来る。

 ……更識楯無と、織斑一夏の声だろう。となると、更識楯無は完全初見のOでは厳しいかもしれない。

 

「…カメラは、ないか」

 

 監視カメラ、隠しカメラ、とりあえずそれらがないことを確認してから、私は『本当の私自身の機体』であるカリオストロを取り出す。

 

「仕事だよ、カリオストロ」

 

 私の体がアーマーに包まれる。フルフェイスフルメット、体型すら誤魔化すようなごつい装甲までご丁寧に纏っていた。前にこんなんあったかな……まぁ、前より神経への接続が多くなっているので、問題は無いだろう。

 

「なんなんだよてめぇは!?」

 

「2回も自己紹介しないわよ、面倒だから」

 

「うるせぇ!!」

 

 ……やっぱり、翻弄されてた。けれど、収穫自体はどうやらあったようだ……白式のコアらしきものが、取り出されているのを私は確認した。

 しかし、恐らくそれは取り返される。他ならない織斑一夏の手によって……白式は特別だ。そもそも、何故織斑千冬が使っていた武装と全く同じものがあるのか。そこから疑問は派生する……が、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

「O!」

 

「なっ!?てめぇ何でここに…!?」

 

「貴方まで来たのね…いえ、来るはずよね…けど、なら好都合!」

 

 更識楯無が何かを確信していた。だが、その確信は私に『確信』をもたらした。即座に私は、超電磁砲を呼び出して更識楯無に向けて撃ち放つ。何、別に当たらなくてもいい。目的は()()()()()()()()()()

 

「くっ…!」

 

 2人とも当然避ける、避ければ当然壁に穴が空く。私はそれを狙ったのだ。この部屋、密室空間における更識楯無のISの強さを確信していたからだ。

 

「てめぇ何のつもりだ!!」

 

 当たり前だがOは切れていた。当然だ、味方だと思っていたやつに撃たれたら困惑するだろう。しかし、今の攻撃で私の目的は達成されていた。

 

「…更識楯無、IS学園生徒会長。そのISは水を操る性質を持つもの、水…いや水分を操る為にナノマシンを使ってる…合ってるでしょ?」

 

「…えぇ、その通りよ」

 

「おいてめぇ聞いて━━」

 

「水分を操るのだったら、水蒸気も操れる。なら湿度が高い部屋はどうなるか…そこまで言ったら、分かるでしょさすがに」

 

「あ…」

 

 Oも今理解したのか、驚きの表情を見せる。そう、最初に警告を出されるかの如く出会っていた事が、鍵となった。先程までこの部屋は湿度が高くなっていた。特に、Oの周りが。

 私が壁と共にその水蒸気をある程度ぶっ飛ばしたおかげか、Oの周りに溜まっていた水蒸気…霧も、結構減っていた。今攻撃されても、Oにダメージは行かないだろう。

 

「……ま、今の説明の間にやられたけどね」

 

「━━━来い!白式!!」

 

 私がいの一番に狙いに行った所で、更識楯無に邪魔をされていただろう。それ以上に、逆上したOにも邪魔をされていたかもしれない。

 奪った白式のコアは粒子となり、織斑一夏の体にまとわりつく。そして、正式に白式が織斑一夏の元へと戻っていくかのように、アーマーが形成されていた。

 

「クソがっ!!」

 

「O、逃げよう。更識楯無は強いし、織斑一夏も雑魚じゃない」

 

 恐らく、今戦っても私達は勝てない。勝てないからこそ逃げたいのだが……向こうが逃がすわけなかった。

 

「逃がすか!!」

 

 刀1本での特攻。普通なら、そんな行動はアホがする事だろう。だが、白式なら話は別だ……私は()()()()()()()()()()

 

「くっ!」

 

「織斑一夏、君の相手はまた今度だよ。今は私の仲間を助けたいからね」

 

「あら…逃がすとでも思ってるのかしら?」

 

 更識楯無が、槍を構えて水の塊をまといながら私に殺気を向ける。織斑一夏も同様だ。だが、切り札は常に取っておくものだからこそ切り札だと言えるのである。

 

「逃げられるし、逃がしてくれると思ってるよ……こんな感じにね!!」

 

「させるか!!」

 

 イグニッションブーストによる超加速を加えながら、織斑一夏が蹴りを行う。私はギリギリでそれを回避しつつ、刀を受け止めている手ともう片方の手を()()()()()

 

「ファンネル!!」

 

 切り離した腕は、勿論生身の部分も残っているがカリオストロの腕も混じっている。切り離す寸前、更識楯無は『やられた』という表情をしているのを確認した。織斑一夏は、顔を真っ青にしていた。まぁ、こんなグロ現場見せられたらそうなるかな?

 私の両腕は、ファンネルから放たれるビームによって大破、そして機械部分がそれにより大爆発、そして爆煙とともに腕に残っていた血液が辺り一面に降り注ぐ。

 

「ほら行くよ!」

 

「ちっ…!」

 

 爆煙により視界は封じられ、何が、とは言わないが焦げた匂いによって嗅覚も機能させない。恐らく爆風は更識楯無が纏っている水のヴェールに封じられるだろうが、奴のヴェールに血がまじればその水はもう使い物にならなくなるだろう。つまりは、逃げるだけなら確実に逃げれる手である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇ、なんで腕失ってまで助けた」

 

「機械の腕にしようと思ってたし、丁度いいよ」

 

 逃げ切った先でOは私に対して、愚痴るように喋りかけていた。私も適当に返事を返し、それで会話が終わっていた。

 

「……学園、どうすんだ」

 

「腕くっつけてから出ようかな」

 

「そうじゃなくて……いや、いい。つかなんで両腕使ったんだ」

 

「足りないよりマシでしょ」

 

「……」

 

 Oは恐らく、私に対して恐怖を抱いているだろう。私が強いとか、そういう恐れではなく、躊躇なく自分の体を犠牲にできるその精神を。

 

「とりあえず、ISが無くなることがなかったから良かったじゃん。失うより、はるかにマシだったよ……」

 

 その言葉に返事はない。私もそれ以上喋らない。そして、そのまま私は新しい腕を作るために……Oは報告をするために、それぞれ目的地へと進んでいくのであった。



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鉄腕装備

「ねぇ、さすがに怒りたいわ」

 

「え、何が」

 

「腕爆破とか」

 

「しょうがないじゃん、片腕だともしかしたら足りなかったのかもしれないし。足りなくなるくらいなら腕全部使い切るよ」

 

「こっちだってタダで腕作れてるわけじゃないんだから……」

 

 亡国機業関係のとある場所、私はちゃっかりと新しい腕をもらいに立ち寄っていた。

 しばらく学校は休まないといけなくなるだろうが……いや、もしかしたら戻ることは不可能になるかもしれない。けど、それでも別に構わない。それならそれで、外堀を壊すやり方を変えるだけである。

 

「……とりあえず、新しい腕作るのにはそれなりに時間と人員と費用がかかることを覚えておいてよ?」

 

「はいはい、了解了解……あの、アイアン〇ンみたいな腕作って? 腕からビーム飛ばせたら楽じゃん」

 

「はいはい……とりあえず、本物の腕と同じような動きができるものはなるべく作っておくから」

 

 どうやら冗談は今回に限り、あまりして欲しくないようだ。適当な返事を返されてるせいで、そう思えてきてしまう。まぁ、さすがに両腕が戻ってきたら無くなってたなんて、血の気が引く思いだろう。

 

「……ねぇ、本当に両腕は無くならせる必要あった?」

 

「それを、私に何度も聞いてどうするの? 私の腕が戻ってくるわけじゃないし、私が今こうしている事実が貴方の思い通りに変わるわけじゃない」

 

 私がそう言うと、彼女は黙った。黙ったまま作業に戻っていく。いや、私も分かっているのだ。『何か別の方法があったのではないか?』『もっといい方法があったんじゃないか?』と。

 だが、そんな方法はない。今の私に思いつかないのなら、過去の私では思いつかない。どれだけ冷静に振り返っても、せいぜい腕が足になるか腕も足もキャストオフするか……という変化くらいしかない。置換か、悪化か。要するにそういう事なのである。

 

「……なら、もっと生徒会長に対する対策を立てておいた方がいいよ」

 

「とは言っても、水分を自由自在に操れるとかチートじゃん?」

 

『水』ならば燃やして水蒸気にするなどと言えたかもしれないが、それを目立ちにくい霧に変化させたりすることも可能となると、どうにも回避手段がないように思えるのだ。

 

「私には、ゴリ押ししか手がないと思ってるよ」

 

「ゴリ押しするためのパーツも腕も今は無いけどね」

 

 一本取られてしまった。しかし、実際その通りだからしょうがないのだ。あの生徒会長に勝つための1手がまるで思いつかない。逃げるだけでこれなのだ、対策なんて立てようがない。

 

「……あのね、人間は完璧超人じゃないの。絶対、何かしらの弱点がどこかにあるはずだってば」

 

「本当にそう思ってるなら、1度彼女のと会ってくることをおすすめするよ。本当に彼女は私より強いし━━━」

 

 ふと、何かを私は思いついた。いや、思いついたと言うには思考が形になってないので、気持ちだけ先行してしまったような状態だ。確かに、私でも生徒会長を倒せる足がかりになりそうなものがあれば、彼女をギャフンと言わせることができるかもひれない。まだ、調べきってないのだ。

 だが、試せる限りいろんな方法を試すべきだろうと思うが、それら全てを叶えることは不可能だ。だから情報収集衛はしないといけないのだ。

 

「仮に、仮にさ……成績は上から数えるくらいの文武両道さ。ISは専用機だし、それを確実に動かせる使い方も熟知している。そんな人に弱点があるとしたら……」

 

「要するに、完璧超人だと思ってたやつに弱点があったら? だっていうとんちみたいなものでしょう? 答えは簡単、『本人にない』で終了」

 

「本人にない……」

 

 それは諦めのように聞こえて、実は違う。本人には弱点らしき弱点はないだろうが、本人の心に不安がある場合、どれだけ最強で最優秀だったとしても……その不安が本人に牙を向く可能性があるのだ。

 

「何があると思う?」

 

「1番簡単なのは、家族を人質に取る事だけ……」

 

「けど、それだと一から住所とか調べないといけなくなるし……いるなら、IS学園に妹とかいたりしないかなぁ……」

 

「いやいや、姉妹揃ってIS学園に通ってるなんて……そんな都合のいいことある訳が無い。その妹が仮にいたとしても、どうせその生徒会長とやらと同じような強さかもしれないし」

 

 まぁ、もしもの話なんて今していてもしょうがない。妹がいるならそれでよし、双子の姉でもいたらそれでもよし。無い時はないで……まぁ、きっとどうにかなるだろうさ。

 

「……腕、前のと同じ長さのがいいよね」

 

「長さが変わってたら、流石に驚いちゃうよ……皆が……って、ん……?」

 

 突如私のポケットから、着信音が鳴り響く。そう言えば音声最大にしてたけど……

 

「ちょっ!? あんた電源切らなかったの!?」

 

「切れると思ってんの?」

 

「電波で逆探してバレたらどうすんの!?」

 

「いやいや、私今両腕ないんだから電源すら消せんよ」

 

 まぁ、だから出られないという話なのだが。両腕がない以上ポケットを触ることさえ出来やしない。このもどかしさ、他の人にも味わって欲しいんもんだ。

 

「そう言えばそうだった……い、いや! でもこの着信をずっと残してる訳には……」

 

「うん、だから出て?」

 

「は!?」

 

「いやいや、ここってカモフラージュの為にそれなりの街中の地下に出来ている施設じゃん? 拾った設定でいったら案外いけるって」

 

IS学園からどんだけ離れてると思ってんだ!! 

 

 そりゃそうだ。怪しまれないかつ、IS学園からはかなり離れた位置にある。そんな所で『すいませんこの電話は拾ったものなんです』なんて言ったところで、絶対に信用されないだろう。私なら、絶対にそいつに対しての敵意とかなんやかんやを相手に向けてしまうだろう。

 

「あ、留守電に切り替わった」

 

 ブツっと、音が一瞬切れて留守番が再生されていく。最初は小さい声で遠慮しがちだったので聞こえづらかったが、どうやら声の主はセシリアだったようだ。

 

「五十冬さん、セシリアです。突然学校を休みになると聞きましたので、私自身かなり驚いておりますわ。けど、五十冬さんは確か体の中に鉄をいるんでしたのよね? それのせいなのか、と言うのは私にはわかりませんが……ちゃんと、元気になってから学校に戻ってきてくださいね」

 

 そう言って、留守番が切れてプープーと音が鳴っていた。逆探知されたのかどうかは、私には分からない。けど、今の感じとしては恐らく逆探知はされていない……ように思えるのだ。

 

「何、今の……友達?」

 

「向こうは私のことをどう思ってるか知らないけど……私は、彼女の事は嫌いだよ」

 

「なのに、電話番号交換とかしてるんだ?」

 

「都合がいいから……それに、一応学校だと猫被ってるつもりだし」

 

「随分心配されてたけど? バレないの?」

 

「イギリスの代表候補生らしいけど、お嬢様なせいで存外簡単だったよ……それに、今の彼女がそこまで余裕あるとも思えないしね」

 

「余裕……?」

 

 学園ではいつも通りだが、しかし順調に彼女は精神的に参ってきている。さて、問題はセシリアがなぜ落ちないかの理由として、私の為にやっているという理由があるからだが……まぁ、今はその辺はいいだろう。

 

「私が知っている限り、主に織斑一夏の周りにいる子達は皆専用機持ちなんだけど……1人は私に心酔してる、1人は私に怯えるようになった、1人は……まぁまだ対抗してるみたいだけど……もう1人は手を出せてないけど、もう1人は……今頃どこかの国で飼われてるよ」

 

「……んで? 今電話かけてきた子は?」

 

「心酔してる子、まぁ……その内男に媚びれるようになっていくと思うよ? 男嫌いらしいし……」

 

 セシリアのそれは、織斑一夏の存在でだいぶ緩和されてきているだろう。反対に、彼女を犯している男達のことはまだ受け入れていないだろう。

 

「……とりあえず、腕出来るまでは動かない事ね」

 

「ねぇ、今思ったこと言っていい?」

 

「何」

 

「トイレどうしよう……」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

 IS学園の学園祭は終わった。突然の敵の襲来などでドタバタしていたが、それでも一応の終結はみせた。そして、織斑一夏との同室権を獲得したのは生徒会長である更識楯無。発表した本人がそれを行った、というのは彼女に少なからずの不信感を与えた。が、彼女のカリスマと強さが不信感による行動を許さない。

 

「……ねぇ、本当に偶然だと思う?」

 

「何が……」

 

「織斑君の事よ、生徒会長……仕組んでたんじゃないの?」

 

「冗談でも、そういうこと言わない方がいいって……」

 

「でも、おかしくない……? あんな劇をするのに、参加してない自分が……フリー枠で参加してたとか……」

 

 しかし行動はしなくとも、言葉では不信感は口を出る。出てしまえば、その不満は同調されていく。同調された不満は、生徒会長の強さによって抑えられて……余計に悪化していく。悪化していけば、また不満が口から出ていく……悪循環である。

 

「━━━ねぇ、その不満……解決してあげよっか……?」

 

 だが、唐突に現れる姿がその不満を打ち消していた。代わりに、少しの恐怖と困惑が現れていたが。

 

「……えっと、貴方誰……というか……今の聞いて……」

 

「私が誰か、って言うのはすぐにわかるよ……ねぇ、どうなの?」

 

「……そりゃあ、不満は解決して欲しいわよ。でも、相手があの生徒会長じゃあ……」

 

「諦めるなんてダメ、私が……叶えてあげる」

 

「……貴方、本当に何者なの……?」

 

「すぐに分かる、って言ったのは私だけど……まぁいいや……私の名前は━━」

 

 後ろで縛られた2つの黒い髪が、なびくように動いていた。まるでそれは、既にこの学園から姿を消した専用機持ちの様に。そして、首からは青い待機状態のISが飾られていた。

 少女たちは思い知る。この少女が何者なのか、この少女が何をしたいのか、この少女が……一体なんの目的でここにいるのか。そして、交わるのだ……全てが交差する。

 

「━━だよ」

 

「聞いたことない名前……また新しい転校生?」

 

「そうだね……でも、私これでも専用機持ちなんだよ?」

 

「専用機持ち……どこの国の代表候補生なの?」

 

「私は……中国の代表候補生だよ。ほら、いなくなった凰鈴音の代わりとしてこの学園に来たんだ」

 

「でも、名前は日本名……ってこの学園で言うことじゃなかったか……」

 

「そうそう、その通り……ふふ」

 

 少女は笑みを浮かべていた。その笑みは誰からも好かれそうで、誰からも愛されそうな純朴なものだった。しかし、その中は真っ黒も真っ黒……全てを見下しているかのようなその隠れた視線は、誰にも悟られることなく消化されていく。

 

「さ、あの生徒会長を落ちぶれさせてみましょうか」

 

「落ちぶれさせる……? どうやって……」

 

「知ってる? 更識楯無には妹がいるの……しかも、専用機が来る予定……なんだって」

 

 彼女がなんのためにこの学園のために来たのか、それは彼女以外わからない。しかし、彼女はこう断言する。

 

()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()




新キャラです。


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困惑感情

 sideシャルロット

 

 鬼村五十冬が学園から居なくなった。しばらく休む、と連絡自体は入っているものの、僕はそれが単なる休みだとは思わなかった。何故なら、いなくなったのは学園祭の日だったからだ。その日、一夏は敵に襲われた。昔一夏をさらった組織の人間が襲って来たらしいけど、敵は自分の腕を犠牲にして逃げたという話がある。生徒会長が、『水が汚されたせいなのか、ナノマシンがまともに機能しなくなった』と言っていたので、それも込みなのだろうか。

 汚されたせいなのか、ナノマシンがまともに機能しなくなった』と言っていたので、それも込なのだろうか。

 兎も角、腕を二本とも使えなくしてしまったのだったら、本当にしばらく学園は休まないといけない。そう、休まないといけないのだ。だからこそ、休んでいるその間に…行われることがある。

 

「今日集まってもらったのは他でもないわ、鬼村さんの事よ」

 

 一夏本人と、一夏に関わりのある専用機持ち。そして姉であり担当教師でもある織斑先生が、生徒会長である更識楯無さんに呼ばれて集まっていた。

 

「……今日、彼女は休みですが…」

 

「うん、だから話しておこうと思って。多分、知らないのはセシリアちゃんだけだから」

 

「……何が、ですか?」

 

 薄々気づいているのだろうけど、セシリアは認めたくないのか更識さんから目を離していた。そして、とぼけたフリ……セシリアからしてみたら、初めてできた学園での友人なのだから認めたくないのもわかるけれど。

 

「彼女は、一夏君に取って……いいえ、この世界においての敵よ。正確には、その組織に入っている…と言うべきかしら」

 

「そんな…五十冬さんが、そんな…!」

 

「残念だけど、もうほとんど事実よ。いいえ、この私が確信している以上は……確定事項よ」

 

 きっと、確たる証拠があるのだろう。僕達はすんなりと受け入れたけど、セシリアと……意外にも一夏が渋い顔をしていた。襲われた本人なのに、どうしてそんなに認めたくないような表情を…一夏はしているのか。

 

「一夏君、貴方彼女がなんでその組織に入ってるのか……分かってるのよね?聞かされているんじゃないかしら?」

 

「どうなんだ織斑……一夏」

 

 生徒から、1人の肉親へと。白式が狙われていること、そして一夏本人が狙われていることは、織斑先生にはやはり結構なショックだったようだ。

 

「……束さんが原因だって、俺は聞いた」

 

「束か……」

 

「束さんって……」

 

「篠ノ之束さん、ですの?」

 

 僕とセシリアが、一夏に聞き返す。一夏は、言葉では肯定こそしなかったが、首を縦に振って頷いていた。

 

「束か……」

 

「……姉さんが、原因…」

 

 箒は、何か思い当たるような節があるらしい。そう言えば、彼女も自分の姉に振り回された1人だった…そこから、なにか思い当たるようなことがあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side箒

 

 鬼村が敵組織に入った理由は、姉さんが原因…そう聞いて私が思ったことは『ISが発明されたから』というものだった。ISが出来て、世界は良くも悪くも変化した。ISが生まれたことで、兵器が一新されたこと。いい面としても、悪い面としても受け取れる理由。

 けど、完全に悪い面がでてきてしまっていた。それは、世界が女尊男卑に傾いたこと。それが原因で、様々な事件が起こったにも関わらず女性と言うだけで刑が軽くなったり、果てには加害者と被害者が入れ替わるなどと言ったこともあるのだそう。

 

「……私は姉さんに振り回されていた。鬼村も、姉さんが原因で何かがあったのかもしれない」

 

「箒、束さんが原因って…」

 

「ISの開発……それの悪い面が作用したのが、鬼村と言うだけだ」

 

「……」

 

「悪い面、と言いますと…?」

 

 オルコットが、少し不安げに首を傾げていた。軟化したとはいえ、彼女は女尊男卑が完全に蔓延った世界で生きていたのだ。あまり、思いつきづらいのかもしれない。

 

「多分、身内の…特に男性に、何かがあったんだろう…女尊男卑となったこの世界だ。加害者の女性が被害者になっていてもおかしくない」

 

「そうね、多分…そういった動機があるのかもしれない……それでも、世界を敵に回すのは愚策よ」

 

 生徒会長はそういうが、私はそうは思わない。もし姉さんがISを開発しなかったら……と考えてしまう時もある。凰とは、もしかしたら一夏を取り合う中になっていたかもしれない。それ以前に、一夏と離れることもなかったのかもしれない。

 ISが無かったら、オルコットやデュノア…ボーデヴィッヒと出会うことは無かったかもしれないが、少なくとも私達は平穏で生きていられたのだ。

 

「…俺も、そう思う」

 

「一夏……」

 

「俺だって、ISがもし無かったら……って考えたことはあるよ。もし生まれてなかったらっていうのは悪い面もあるし、いい面もある。鬼村は、ISが生まれなかった場合の『いい面』を欲しているんだと思う」

 

「なら……」

 

「けど、楯無さんが言うように……間違っているんだ。例えどんな事があっても……同情出来るようなことでも、犯罪は…駄目だ」

 

「…オルコット、1ついいか」

 

「な、何でしょう織斑先生」

 

 ふと、思い出したかのように織斑先生がセシリアに質問をしていた。その目はとても遠く、悲しそうな目をしていた。鬼村の事を考えているのだろうか。

 

「お前は…本当に知らなかったんだな?」

 

「はい……五十冬さんが、そのような事をしていたなんて……」

 

「篠ノ之、お前はどうだ」

 

「私は…デュノアから教えてもらっただけで……」

 

「…僕がある程度なら知ってます」

 

「どこで知った?」

 

「……おかしな所だった、というか━━━」

 

 デュノアが、事の全容を語っていく。まだ男子として変装していた頃に女子だとバレていたこと、そして臨海学校の時のこと……それら全てを話した。

 だが話しているところを見る限りでは、何らおかしいところも抜けているところもないはずなのだが……妙に違和感を覚えた。

 

「……という訳です」

 

「はぁー…確定的だな」

 

「そうね、彼女はIS学園からの除籍…それと、御家族の方と連絡を取らないといけないわね」

 

「御家族……」

 

 オルコットが、ポツリと呟いていた。けれど、その言葉はただの独り言として流されることとなった。そもそも、こうなってしまった以上…その家族とやらも本当の家族かどうかは疑わしいからだ。

 

「…」

 

 鬼村……お前は一体、何をしたかったんだ……?私のその考えは、誰にも…下手をすれば本人にすら分からないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideセシリア

 

「…そう言えば、今日は2組に転校生が入ってきたのよ」

 

 突然、生徒会長が脈絡のない話を始めました。しかし、その顔は至極真面目な顔つきだったので誰も話は遮ろうとはしません。

 

「2組……入ってきたのはどんな人なんですか?」

 

 シャルロットさんが、生徒会長に至極当然の質問を投げかけます。一瞬渋った後に、彼女は改めてその口を開いて語り始めました。

 

「新たな中国代表候補生、凰鈴音がいなくなったことにより新しく配属された子よ。その意味が……分かるわよね?」

 

「…まさか、本国が捜査を切った…!?」

 

「ふざ━━」

 

「一夏!!」

 

 織斑先生が、一夏さんに一喝しました。けれど私も…恐らく他の人たちも同じ気持ちです。故郷から、探すのを辞められた…それは捨てられたも同義なのですから。

 

「……専用機は戻ってきた、そして他に損害もない…候補生は、常に1人という訳では無い。いなくなれば…新しいのが送られてくる」

 

「鈴は、道具じゃねぇぞ……!」

 

 一夏さんは、拳を握りしめていました。しかし、この対応に何ら間違いはないのです。確かに、鈴さんは道具でもなければ変わりもいません。けれど、国家代表候補生という立場だけで見れば…実力さえあればいくらでも替えがきくものなのです。私だって…私より実力が上の人がいたら…今の立場はありませんもの。

 

「…楯無さん、なんで今そんな話をしたんですか」

 

「おかしいと思わない?」

 

「……更識、疑っているのか?その転校生が……鬼村の所属している組織のメンバーだと」

 

「ありえない話でもないわ。国ぐるみ…とまでは言わないけど、本人の素性なんて、本気で誤魔化そうと思えばいくらでも誤魔化せちゃうもの」

 

 確かに、言っていることは理解できますわ。けれど私は、いくらなんでも過敏に反応しすぎではないか?とさえ思えるのです。先程言っていた理由でこちらに来たと言うだけなら、よく分かるのですが。

 

「……だったら、よく見張っておく必要があるな」

 

「えぇ、お願いします……そろそろ『キャノンボールファスト』が行われるから……」

 

「そうだな、面倒事は…早めに終わらせておきたいところだ」

 

 その言葉は、全員の心に突き刺さるようでした。私も…五十冬さんのことは…忘れないといけないのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side?

 

「えー…本日より、このクラスに配属になった代表候補生です。みなさん仲良くしてあげてくださいね」

 

「初めまして、中国代表候補生…マライア・香取です。父親がイギリス生まれ、母親が日本生まれで香取は母の姓です。これから、よろしくお願いします」

 

 まばらな拍手が、2組に広がる。当たり前だが、2組の生徒達からしてみれば、あまり歓迎したくないのだ。凰鈴音という少女の事は誰も忘れたくはないし、代わりと言わんばかりに来たこの少女も笑みを浮かべるばかりであまり信用ができたものでは無い。

 

「香取さんの席は…あそこね」

 

 そうして指された場所は、凰鈴音がかつて座っていた場所。少しだけ心にささるような感覚だけしたが、クラスの者達は誰一人として何も言うことは無かった。

 

「……香取さん?」

 

 だが、彼女はその場所には行かずにただ教卓の前に立ったままクラス全体を見渡していた。そして、今日1番とも言えるほどの本当に嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「まず最初に、私はこの学園に下克上の風を吹かせたいと思ってます」

 

「な、何を言っているんですか?」

 

 教師は止めようとするが、彼女はそれを無視して語り続けていく。政治家が民に語るかのような、そんなイメージがつきそうな程に力強く。

 

「生徒会長更識楯無、私は彼女を今の地位から引きずり落として、IS学園の最下位にさせる……それが1年の間の目標です」

 

「……そんな事、出来るわけないわ」

 

 クラスメイトのひとりが、そう呟く。待ってましたと言わんばかりに、彼女はそのクラスメイトに指をさして嬉嬉として語り始めていく。

 

「出来るか出来ないかじゃない、『やれる』と思わないといけない!私は見た、学園祭の時に更識楯無が行った傍若無人の事を!」

 

「傍若無人……」

 

「彼女は言った!『王冠を取ったものが織斑一夏と同じ部屋になれる』と!」

 

「確かに、言ったわ……」

 

「けど実際はどう!?王冠を取ろうとしたら、織斑一夏が感電している!そんなの取りようがないじゃないか、と!」

 

「確かに、あの時の織斑君辛そうだったよね……」

 

「でも、それだけなら『織斑一夏を1人にする』という目的があったと解釈出来る。万が一、間違いなんて起こったら問題なのは明白だし……けど、結果はどうだった?」

 

「…生徒会長が、取った」

 

 そう、提案した人物が報酬をかっさらって行く。それほどまでに、努力を無に帰す事は無いだろう。ならば、初めから生徒会長権限を使っていてくれた方がいくらかマシになっていたかもしれない。

 

「そう、彼女は周りを納得させるためにこんな形にしたのかもしれない。『自分ならば織斑一夏とは間違いを起こさない』なんて理由を考えているのかもしれない」

 

「…でも、校則的には間違いは犯せないよね…」

 

「そう、間違いを犯す…そう考えたら確かに更識楯無は強い上に理性もある……だからこそ、『間違いは起きない』と自負している。でも……『堪能』はできる」

 

「堪能…?」

 

「そう、知ってる?夜な夜な織斑一夏の部屋から暴れる音がするのを。専用機持ち達が言うには…ある時は、生徒会長は織斑一夏の部屋にいる時はシャツ1枚だけ着て、それ以外身にまとっていなかった時もあるらしい」

 

「つ、つまり……」

 

「織斑一夏から事を起こすように仕向けてる……って事になるよね?」

 

「も、もし織斑君が間違いを犯したら……」

 

「IS学園は退学、下手をすれば白式も没収……奪われるかもね?学園祭のときにきた、テロリストみたいに」

 

 例としてあげる。その例によっては、人はそのイメージがすりつく時もある。そう、『更識楯無はテロリスト』というイメージが何人かには確実にこびりついていた。

 

「……そうよ、更識楯無は許されちゃあいけないんだわ」

 

「そう、その通り」

 

「もしかして……鈴さんがいなくなったのも…」

 

「私の前の代表候補生の人だよね?たしか居なくなったのは臨海学校の時…夏休みを挟んで、姿を現したというのは…ちょっと怪しいよね」

 

「織斑君が狙われるのも……」

 

「前に白式が狙われたことから考えたら、分かりやすいよね」

 

「やっぱり…!」

 

「直ぐに生徒会に突っ込むわよ!!」

 

「まぁまぁ、落ち着いてみんな」

 

 朝のホームルーム、鬱屈としていた雰囲気が騒々しくなっていた。確証めいたことは言わずに、噂を煽るだけ煽って自分では行動しない……典型的な『悪』のタイプである。

 

「それよりも……もっといい方法があるから…それを、試そうね」

 

 そして、この日…2組はIS学園生徒会長更識楯無を突き落とす為に、クラス全体が一致団結したのであった。




マライアちゃんはおっぱいないけど身長はそれなりに高い子です


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連鎖不運

 sideシャルロット

 

「……」

 

 僕は寮でぼーっとしていた。特に率先してやることも無い、というのもあるけど……ラウラがいない。朝起きたら、既に姿が見えなくなっていた。それだけならいつもの事だけど、アリーナにもどこにも姿が見えないのだ。

 本日は休み、特に必要そうな買い物に行くとも聞いていない。ご飯はまだ残ってる。となると━━━

 

「あそこ、なのかな……」

 

 前に一度行ったあの路地裏の建物。ラウラとセシリアが、男性に股を開いて腰を振っているあの異質すぎる空間。何をしているのかはわかるし、それがどう言った意味を持つのかも理解している。

 

「……」

 

 嫌な記憶が蘇る。薬漬けにされ、散々に犯されて捨てられたあの日。全く関係のない男たちにも犯されて、僕自身…心のどこかでトラウマとなっていた。

 

「僕、は…」

 

 自分の身を守るか、それともラウラを助けに行くか……二つに一つである。いや、初めから僕の答えは決まっている。ラウラは一夏を取り合う仲だけど、それ以上に……僕の親友なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しだけ、歩きながら整理してみたことがある。ラウラと鬼村五十冬の関係性である。恐らく、事の発端はラウラが転校してきた日から僕と一夏、鬼村さんとラウラの2組で戦ったあの日までに…ラウラは何らかの理由で彼女に従わされていたのだ。

 

「だから、不自然なまでに怯えてたし……休みの日にはどこかに出かけてたんだ……」

 

 恐らく、初めの1回で脅しの材料は手に入れられてしまっただろう。だから、彼女がいなくなったあともラウラは行かなければならないのだ。

 

「セシリアは…どうなんだろう……」

 

 脅された事はそうなのかもしれないが、鬼村五十冬が関係していないとは思えない。けれど、彼女に直接手を下された訳では無いのか彼女に対しての信頼感はかなり高いと思えた。

 

「……じゃあ、一体誰にあそこに…」

 

 全くの別件で連れていかれた…というのは、まず有り得ないだろう。あそこまで綺麗に行くとは、0とは言えないが可能性は限りなく低いだろう。

 

「━━━シャルロット・デュノア令嬢で?」

 

「…誰?」

 

 突然声をかけられた。しかし、僕はその顔に見覚えはなかった。全く知らない人だが…わざわざ令嬢と付けている以上デュノア社(実家)関係の人物だろう。

 

「私は本社の物です、話すことがございますが……ここだと人目を引いてしまう。一旦路地裏でも構いませんか?」

 

「……ん、分かりました」

 

 いつでも即座にISを開けるように、準備だけは整えていく。一応従っておくことにするけど、怪しいことに変わりはないのだから。しかし、相手もそのことは分かっているのか一瞬だけ僕のISに目線を向けた後に背を向けて歩き始めていた。

 

「…それで、話ってなんですか?」

 

 路地裏に入り、少しだけ歩いた先で僕達は話し始める。向こうから話しかけてきたにも関わらず、僕がいざ質問したら固まってしまっていた。どう言えばいいか、分からないのだろうか?

 

「あー……その、えっと…」

 

「…ごめん、僕は忙しいんだ。今すぐに話せないような内容なら、さっさと行かせて貰うけど?」

 

「あぁ…いや、すみません…その、とても言いづらいのですが…シャルロット様、貴方様は下手をすればデュノアの名を外される可能性があります」

 

「え━━━」

 

 男性が発したその言葉は、僕の頭の中でひたすらにループしていた。僕がデュノア社の名前を語ることを許されなくなる……それは一体どう言う事か。

 別に、デュノアの名前に執着がある訳じゃないが……後ろ盾がなくなれば、僕は完全に居場所をなくしてしまう。IS学園にも、故郷にも何ら帰る場所がなくなってしまうのだ。

 最悪、退学もありえる。

 

「な、何でそんなことに……」

 

「…貴方様の痴態が乗ってある写真や動画が、匿名で送られてきました。誰が送ってきたのかはわかりませんが、しかし合成にしては自然すぎるその写真を見て……あなたの父親がそう判断しました」

 

 匿名のものを信じるのか…と叫びたくなったけど、実際に起きているであろう写真をわざわ選んで送っているのだろう。事実僕は『そういったこと』をさせられていたのだから、何ら反論することは出来ないことなのである。

 

「…父に直談判してみます。例え何を要求されようとも…」

 

「……それが、そうもいきません」

 

「何故!?」

 

「このことが世間に知られれば、デュノア社は大きな損害を伴う。貴方は、自らの手で……自分の身を守れる場所を全て破壊していったのです」

 

「そんな……」

 

「デュノア社に戻ってきても、おそらく門前払いがいいところ…IS学園には辛うじて通わせてもらえるかもしれませんが、貴方の今後の対応次第では…ISも、学園での生徒という立場でさえも無くしてしまいます」

 

 全てをなくしてしまえば、僕はどう足掻いてもダメになってしまう。いずれ、この事も学園にバレるかもしれない。だからこそ、デュノアの名前を外されるかもしれないという通達が来たのだろう。

 

「でも、僕は…」

 

「例え、どんな理由があろうとも…自分の身を考えられないようでは話にならない」

 

 その事だけを告げて、男性は去っていった。これ以上『あんな事』をすれば、僕はデュノアの名前が使えなくなる。ISも何もかもをなくし、校則違反として学園からも罰せられる可能性が非常に高い。

 

「…相談、できる人……」

 

 一夏は駄目だ。まず間違いなく逆上してしまう。そうなってしまうと、白式が一夏から離れてしまいかねない。では織斑先生や山田先生は?こちらもダメだ、先生という立場上…僕を守るなんてことをしたら、公平性にかけてしまう。それに、理由もなく彼女達が私的制裁を加えてしまうのも問題である。

 

「と、なると……」

 

 僕は、先日交換した電話番号に連絡する……あの時は無理やり電話番号を入れられたけど、こんなことになって、ようやく発揮出来るなんて…順序が逆だったら、僕はこんなことになってないかもしれない。そこだけは、少しだけ恨んでしまう……そう思いながら僕は電話をかける。

 

「もしもし…『楯無さんですか?』」

 

 恐らく、織斑先生に次ぐかつ先生以上に動ける逸材なのは…生徒会長である更識楯無さんだけだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side楯無

 

「なるほど…確かに、それは一大事ね」

 

「多分、セシリアとラウラは同じところに…」

 

「……分かったわ、私がなんとかしてくる。相手は、女尊男卑以前の…違法集団なんだもの…何とかしてあげるわ。貴方はここで待ってて?」

 

 私はそれだけを伝えて、教えられた場所へと向かう。相手は女性…それも、若い少女を食い物にしている外道集団。生徒会長の私が動くのはグレーだけど、生徒が危険な目に遭わされてるって言う話なら…先生よりも迅速に動ける。

 

「ここを曲がって……っ!?」

 

「あれー?生徒会長さんじゃないですかー」

 

 ふと、一切の気配を感じさせることなく私の目の前に少女が現れる。確か…新しく入ってきたマライア、って子だったかしら?この子も、一応専用機持ちのはずだけど……

 

「どうして、こんな所にいるの?」

 

「私が休日にどうしてたって……生徒会長には関係ない話なんじゃないですか?」

 

「場合によってはね……風紀を乱すような、違反を犯していた場合は全く関係がないとも言えなくなるわ」

 

 ニコニコと、私と話しながらも笑顔を絶やさない彼女。けれど、私の動きに合わせて最小限で、次の動きを止めに来るその動きは、紛れもなく時間稼ぎをしているようにしか感じられなかった。

 

「ふーん……なら、こんな事してる生徒は放っておけないわけだね?」

 

 どこからともなく取り出され、投げ捨てられる5枚の写真。1つは、シャルロットちゃんの写真だった。明らかにおかしな、薬を打たれているというのがわかる顔のまま、犯されていた。

 

「……悪趣味ね、彼女達の痴態を見せて動揺を誘おうとしたって………『5枚』…?」

 

 私の頬に、冷や汗が流れる。私が認識している限り、被害にあっているのは一夏君の周りにいる3人の専用機持ちの子だけ。篠ノ之ちゃんは、まだ被害にあっていない。だから、写真がこの場に無いのだ。

 そして、残り4枚…それは今はいない凰鈴音ちゃんを含めた他の子達の写真。どこから入手したのか、よりも…『やはりスパイだったか』という確信に変わっただけであった。

 だったら…もう1枚はなんなのか…私は、その五枚目の写真を見て…驚愕した。見覚えのある水色の髪の少女が、拘束されている写真だったからだ。

 

「簪、ちゃん…」

 

「崩したね?今、その余裕を━━━」

 

「はっ…!?」

 

 一瞬、たった一瞬の…その油断が私の命運を左右した。部分展開されたISの一撃が、私の鳩尾に入る。骨が折れてしまったかどうかの確認が出来ない。その前に、私の意識は……その一撃だけで刈り取られてしまったからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideマライア

 

「いやぁ、こんな簡単に引っかかってくれるなんてねぇ…」

 

 私は、通信機器を持って独り言を話す。その独り言は通信機の向こうにいる人に…きっと届いてる。

 

『分かってると思うけど……』

 

「分かってますよお姉様!更識簪には手を出さない、それが決まってたことですものね!」

 

『……前から言ってるけど、私と話す時くらいその口調辞めたら?』

 

「いいえお姉様!私はお姉様を愛してるんです!だから、言葉は絶対に丁寧でやらないといけないんです!」

 

『……まぁ、いいや。更識簪は、こっちに情報流してくれるいい子だからね』

 

 更識簪、そこに倒れている更識楯無の妹……らしいんだけど。何で私たちに協力するかはよく分かっていない。その辺、お姉様は知ってるんだろうけど…

 

『……今、何で更識の家の出の子が手伝うか…みたいな事考えたでしょ?』

 

「まぁ、はい……」

 

『簡単な事だよ、姉妹は仲良くなくて…その劣等感を拗らせちゃったったまま後回しにされたってだけ』

 

「……天才で最強の姉がいて、世界で唯一の男のIS操縦者が優先されてしまったのが原因って事ですか?」

 

『相変わらず、頭回りすぎ……でもまぁそういう事』

 

「……私には分からないんですけど、それが理由なら随分と小さいような……」

 

『本人にとってそれがどう言った意味を持つのか……他人から見たら小さな事でも、本人にとっては大きな意味を持つものなんだよ…じゃ、私簪ちゃんとイチャイチャしてくるから』

 

「え!?ちょっと待っ」

 

 通信はそれで切られてしまった。私のお姉様とイチャイチャしようだなんて……更識簪絶対許さない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「……誰から?」

 

「私の愛しくて鬱陶しい人から……で、本当に良かったわけ?」

 

「いいよ、事実はねじ曲げてでっちあげるものだし」

 

 マライア…Mって呼ぶと怒られるんだけど、とりあえず彼女からの連絡を断ち切って私は更識簪と一緒にいた。彼女は元々織斑一夏よりも早い段階でISを貰える予定だったのだが、織斑一夏がISを操縦してしまったことにより、事実的に制作は凍結。代わりに白式に全てのスタッフが回されているという事態が起こっていた。

 

「ねじ曲げる、ね……まぁその辺はマライアに任せてもいいと思う」

 

「…信用できるの?」

 

「彼女は……私の知る限り指折りの天才の猛者。人を扇動することも出来て、実力も合って……それでいて柔軟な思考と豊富な知識を持ってる。

 でも性格は違う。例えて言うんだったら、更識楯無が上から引っ張りあげる当事者だとすれば、マライアは煽るだけ煽って影から傍観を決め込む観戦者」

 

「……信用できなくなってきた」

 

「まぁ、今の説明で信用できたらすごいよ……ただ、実力は本当にある。加えて、ISの相性は…更識楯無ととてもいい。更識楯無のISの天敵とも言える」

 

「そんなに?」

 

 信じられない、と言った顔をしている簪。まぁ正直ありえないとは思うだろう……実際、私も信じられなかった。彼女がそのISを貰ったのがつい最近だったこと。それもあって、余計に信じられなかった。

 

「彼女のISの名前は、四象(ツーシャン)って名前…日本語だと四象って意味だよ」

 

「……朱雀、玄武、青竜、白虎の四神の事?随分とまぁ…かっこいいネーミングだね」

 

「そう、それでいて実力もあるしISも滅茶苦茶強い……断言する、更識楯無は絶対に彼女には勝てない」

 

「……なら、信じる」

 

 簪はどうやら信じてくれたようだけど……理解しているのだろうか。私達に協力するのは、それだけ世界の敵になるのだということを。それとも……彼女もまた世界が憎いのだろうか。彼女が何を思って、そして何を考えて私達の協力をしているのかは……全くわからないままなのであった。



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敗北会長

「う、く……ここは……?」

 

「やぁ……お目覚めですか? 生徒会長」

 

「っ!? 貴方は……」

 

 私の目の前には、IS学園生徒会長更識楯無がいる。今現在彼女は一切布地を身にまとっておらず、その裸体をさらけ出していた。実に男ウケしそうな体で健康そうなことである。

 

「私がIS学園に戻るために、協力をさせてくださいよ」

 

「貴方をIS学園に戻させる訳ないでしょ!!」

 

 まぁ当たり前の反応である。しかし、今ここでそんな当たり前の反応を貰ったところで私には一切何ら関係ないのだ。

 

「自分の状況と、妹さんの状況分かってますか?」

 

「っ……」

 

「でもまぁ……私も外道ではありますが、鬼ではありません。条件を出させてもらいますね」

 

「条件……?」

 

「IS学園の新しい転校生……マライアとIS勝負を行って、勝てたら2人を解放します。何だったら、私とマライア2人を好きにできる権利まで与えるし、私たちの知り得る情報も全部教えてあげます」

 

「……本気?」

 

「本気も本気……私は、マライアは貴方に絶対勝てると思ってますから」

 

『何を考えているのか』という表情をしてくれてますね生徒会長。でも、もし本当に彼女がマライアに勝てたならそれくらいしてやってもいいだろう。

 例え、向こうにハンデがあったとしても……正々堂々と挑むのならそれはマライアにただただ有利なだけである。それに、彼女もISを動かしたがってたし偶にはこういうのもいいだろう。

 

「……わかったわ、約束は絶対よ」

 

「ええ、絶対ですよ」

 

 受けなければ、負けることもないだろうが……受けなければ、負けたのと同じことをさせられるのだから、受けなければ彼女にとっては損なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今私たちがいる場所は、とある場所を密かに改造した亡国機業のアジトのひとつ。ISの実験施設も兼ねているので、中から核爆弾でも爆発させない限り破壊は不可能である。ISの武装であっても、まず破壊は不可能だ。

 

「お姉様! 絶対勝ちますからね!」

 

「……絶対に、勝つ……!」

 

 わざわざISだけを返して、傍から見たら滑稽だろう。だが、既にあれは私にとっていらないものだ。返したのは私、つまりあのISの武装は既に私のカリオストロのものとなっているのだ。

 

「じゃあ、行きますよー……スタート」

 

 その一言、発した瞬間に生徒会長が動いた。彼女のISは槍を主な武装としており、その能力はナノマシンによる水分操作。水の塊を作り出したり空気中の水分に取り付いたナノマシンの力で突然爆発を起こしたり……等とそれなりに多芸なISである。

 だが、それなりでは本格的に多芸に飛んでいるマライアのISには勝てない。

 

「貰った……!」

 

「じゃあ、本格的に私のISが貴方より上回ってるところ……見せてあげますよ……!」

 

 まずマライアが取り出したのは亀の甲羅のような大きな盾である。そう、盾である。それ以上でもそれ以下でもないが、取り柄は圧倒的な頑強さにある。生徒会長の槍も簡単に通すことは無い。

 

「くっ……!? なら━━━」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

「あんただけが水分を操作できると思った? 残念、それは他のISでも出来るんだよ」

 

 もうひとつ、マライアはとある武装を取り出していた。先程のように亀の甲羅の様な武装……しかし、後ろから蛇のような突起物と大きな銃口があるのが先程の盾と違う点である。

 

「ま、まさか……!?」

 

「武装、玄武・甲と玄武・砲……前者は特に説明の必要なし、後者は……空気中の水分を吸収して水の砲弾を打ち出せる……こんな風にね!」

 

 既にチャージは終わっている。放たれた砲弾は、生徒会長のシールドエネルギーを大きく削りながら生徒会長を吹き飛ばす。

 

「がはっ……!? な、ら……! これなら!!」

 

 水分を操るのはリスキーだと考えたのか、今度は水の塊にする事で操作をし始める。なるほど、水の塊ならちょっと吸収された所で問題ないと考えたのだろう。

 だが、それこそ浅はかなのだ……まだ彼女の武装はあるのだから。

 

「甘い甘い、そんな程度の小細工は……通じない!! 朱雀・斬! 朱雀・翼!!」

 

 背中に真っ赤な2つの翼、そして手には大きく真っ赤な大剣。翼は羽の一つ一つが遠隔操作可能なブレードタイプのファンネル。大剣は……まぁただの大剣だ。

 しかし、どちらも……その刀身は()()()()

 

「ほらほら! 自慢の水はどうしたのかな!?」

 

 翼から出された大量のファンネルが、生徒会長の水の塊に突き刺さり……あっという間に水の塊を沸騰させ、蒸発させる。そして、槍の方は大剣によって一撃で分断されていた。

 

「そん、な……」

 

「2つとも、超高速振動で熱を持つんだよね。しかも、尋常じゃないほどの熱をさ……ただの水なんて、あっという間に蒸発させることが出来るし、武器なら簡単に切断できる。しかも、羽の方は枚数は100を超える。じゃあ……まだ武装あるからさ……見ていってよ」

 

「くっ……!?」

 

 槍の残骸をマライアに投げ付ける生徒会長。しかし、それは届く前に彼女の武装によって粉砕される。今度は……虎のような武装が2つだ。それぞれ両肩と両腕に装備されている。

 

「白虎・砲と白虎・拳……って言うんだよこの2つは」

 

「あら……砲撃武器で被ってるなんて、制作の仕方間違えてるんじゃないかしら?」

 

「心配ご無用、こっちはエネルギーを食うのに対して玄武の方はほとんどエネルギーを食わないからさ。但し、威力はこっちの方がでかいけど……ね!!」

 

 両肩から放たれるビーム砲。瞬時に避ける生徒会長だが、その一撃だけで床が軽くえぐれていた。どんだけ強いのやら。

 

「なら、拳の方は……どうなのかしら!!」

 

 生徒会長は新しく剣を取り出しながら、マライアに特攻する。どうやら蛇腹剣のようだが、なぎ払おうとした瞬間に刃を掴まれて無理やり引っ張りこまれる。

 

「これで……二撃目……!」

 

「がはっ……!?」

 

 拳の方は、どうやら殴りつけるとそれ以上の力で瞬時に追撃する機能が追加されているようで、生徒会長は簡単に吹き飛ばされていた。

 

「さ、これでラスト……この最後の武装2つで……決めてあげるよ」

 

「くっ……はぁ!!」

 

「その剣、結構丈夫だね? でも……私が壊してあげる……!」

 

 最後は残っている青竜だ。そして、それを象徴するかのように両腕に細部の異なる大きな砲塔のようなものが取り付けられていた。

 

「青竜・炎と青竜・風……この2つだけ、組み合わせると絶大な効果を発揮するんだよね」

 

「それが、どうしたって━━」

 

 両腕を構えて、マライアはその強力な一撃をそれぞれ放つ。片方からは、暴風のような強力な空気弾。もう片方からは、炎の塊が吐き出される。

 そして、その2つがぶつかった瞬間……炎は風に巻き上げられて、一気に燃え広がる。

 

「きゃっ!?」

 

「はい、というわけでこれでラスト……じゃあね? 生徒会長さん」

 

 回避自体はしていたのか、爆風によって吹き飛ばされるだけで済んだ生徒会長。しかし、その隙を見逃すことなくマライアは一気に詰め寄って……0距離で同じことをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、くっ……」

 

「ISは大破、怪我はギリギリしてないみたいだけど……肉体の負担がすごくて起き上がれない。どう? 完全敗北した気分は」

 

「なん、で……こんな、事……」

 

「世の中には上がいる。どれだけ強くても、絶対に上がいる……貴方にとっては、それがマライアだっただけの話……でも悔いる必要は無いんだよ。武装は天敵……それに、マライアはあなたよりも長い期間……それこそ生まれてからずっとISを操縦させられてきた」

 

「生まれて、からって……」

 

 そのまま生徒会長は気絶してしまった。だが、こればっかりはしょうがないのだ……だって、マライアは……貴方よりも……いや、私よりも年下だから。それなのに、経験値はIS操縦者の誰よりも高い。

 

「ISを操縦するためだけに生まれて、薬漬けにされたり、相手を確実に殺す訓練、大の大人を武器無しで殺す訓練、知識だって相当詰め込まれたし脳もだいぶいじられてる……そんな子に、勝てると思ってるの?」

 

 IS社会が産んだ闇だ。そんな闇の塊が、あの子なのだ。薬漬けにされたせいで、彼女は成長速度がおかしくなっている。今の彼女の年齢は私よりも2つか3つ下……つまり12~13歳なのだ。成長速度のせいで、誤魔化しが出来ているのだが。

 

「お姉様! どうでし……どうかしましたか?」

 

「……ううん、マライアは強くて私は大好きだよって話」

 

「私はお姉さまを愛してますわ!」

 

「じゃあ私はそれ以上にだいすき」

 

「……お姉様の愛を一心に受けられる自分に嫉妬しそうです」

 

「はいはい、難しく考えないの」

 

 冗談だと思うだろう。否、彼女は本当に自分で自分に嫉妬するのだ。それが元来の性格か、薬のせいか、それとも私という心の拠り所を得てしまったことによる弊害か……どれかは分からない。しかし、それを考えるのは今の私がやるべき事ではない。

 

「この女はあの男に渡しますか?」

 

「んー……いきなり生徒会長が消えるとIS学園が本気出しそうだしなぁ……けど、店長に全部渡すのは芸がない……シャルロットみたいにしてもいいけど、時間がかかる……セシリアと同じだとちょっと不安がある……」

 

 考える、思考する。今までとは違うパターンじゃないと、どこかで綻びが出かけない。どうすればいいのか……そこまで考えて、私はふと思いついたことがある。

 

「よし、売りさせようか」

 

「は? それはえっと……シャルロットで行っているのでは?」

 

「んー、ちょっと違う……『私達』で相手を選ばせてあげるの」

 

「それは……」

 

「うん、つまりは接待だ」

 

 まぁ、その相手がお偉いさんならいいけど……私にそんなコネクションは無いし、マライアに頼るにしても政府がそれをしてしまうのは結構リスキーだ。

 

「ふふ、適当な相手を見繕ってあげようね……あぁでも、処女膜を破らせる相手くらいは選ばせてもいいかもね?」

 

「なるほど、さすがお姉様です!」

 

「褒めないで褒めないで……さ、とりあえず色々と準備しよっか」

 

「はい!!」

 

 マライアの純粋な笑顔を見て、私の心は……少しの諦めがあった。成長速度が早い、という事は老化するのも早いということだ。それも、人間的な老化をするのならともかく……内蔵だけが劣化していく可能性がある。それも、通常の人間よりも遥かに早い速度で。

 マライアは、一体いつ寿命が尽きるのか……それを考えてしまう。だが、それでも止まることは許されない。そんな、普段の私なら考えないような事を思いながら……私は、私達は準備を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ん……」

 

「あ、目が覚めた? 生徒会長さん」

 

「……私は、負けたの?」

 

「うん、まぁ悔やむ必要は無いよ。マライアは私が知ってる中で強い部類のIS乗りだしね……まぁ、そんな事より……」

 

「……私をどうする気?」

 

「お金を稼いで貰います」

 

「っ……そう言うと思ったわ……」

 

 少しだけ下唇を噛んだが、生徒会長は何事も無かったかのように振る舞う。それを見てから、私は1枚の書類を生徒会長の前に投げ捨てる。あ、因みに今の生徒会長は全裸で拘束済みだから。

 

「た・だ・し…………処女を捧げる相手だけは、ここから選ばせてあげます」

 

「ぁ……」

 

 因みに、一人を除いて全員適当に選んだ人達である。私達ですら初めてあったかのような人。しかし、そこは亡国企業の諜報力……こういうことをさせても問題なさそうな人だけを選びました。

 ん? 除いた1人は誰だって? それは勿論━━━

 

「一夏、君……」

 

「……ふふ……」

 

 織斑一夏である。恐らく、1番心を開いているのではないだろうか? 見知らぬ誰かより、知っている誰か。顔はいいとなると、生徒会長は織斑一夏を選ぶだろう。

 

「織斑君でいいんですか?」

 

「いい……知らない誰か、よりは……」

 

「じゃあ、決まりです。IS学園に返してあげるんで……織斑一夏とSEXしちゃってくださいね……あ、盗聴器とか仕込んでおくんで……潰したり付けなかったり……誤魔化しを利かせようとしたら……簪ちゃんの処女と命はありません」

 

 無論、脅しだ。一応簪ちゃんには確認取っておかないといけない……まぁ、もし妹を見捨てるような真似をするなら……どうしてくれようか。

 

「わかった……分かったから……簪ちゃんに酷いことは……」

 

「はいはい、私は約束は守る女ですから。あ、織斑一夏の部屋でしてくださいね?」

 

 何故そこを選んだのか、マライアが理由付けて侵入して隠しカメラを仕掛けるからだ。何故隠しカメラを仕掛けるのか、映像が欲しいからだ。その映像をどうするのか、凰鈴音、シャルロット・デュノア、一応ラウラ・ボーデヴィッヒ……それと一応篠ノ之箒に見せる用である。

 セシリアはどうしようか……まぁ適当に店長とか、セシリア担当の人達とかとSEXしたの見せればいいか。私、演技だけは得意なんで。

 

「わかった……言う通りにする……」

 

「はい、了解です。お仕事お願いしますね……生徒会長さん」

 

 これでまた1人、堕とせた。そして撮れた映像によって……また二人ほど追加できる。ラウラは最後の砦が無くなるから……どうなる事やら……

 と、私は他人事のように考えながら……ニコニコと生徒会長に笑みを向けるのであった。




IS四象、武装一覧

玄武・甲:ただの盾。とんでもなく頑丈。
玄武・砲:空気中の水分を吸収して、水の砲弾を作る。あまりエネルギーを使用しない分、チャージに時間がかかる。

朱雀・斬:超高速振動している大剣。熱を持ってる+超高速振動によって斬れ味が凄まじい。
朱雀・翼:超高速振動している遠隔操作可能な刃。100を超える小さな刃がそれぞれ高熱と超高速によって相手をズタボロにする。遠隔操作していない時は、羽のようにマウントされている。実はこれで高速移動も可能。

白虎・砲:両肩に取り付けられるキャノン。エネルギーを食う分、すぐに放てる。
白虎・拳:両腕にマウント取り付けられる武装。相手をこれで殴ると、即座に二撃目が放たれる仕組み。二重の極み。

青竜・炎:炎の砲弾を放つ。爆発も行われる為威力もそれなりにある。
青竜・風:空気弾を放てる。炎とともに使用すると、双方の相乗効果により威力がとてつもないものへと変貌する。


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会長貫通

 side楯無

 

 本当にIS学園に、あの後返された。本来の私だったら、ここからすぐに対策を立てる……けれど、今は尽く対策を打ち消されて詰みの状況となっていた。突破口は、相手の提案に乗ること……その一つだけである。

 

『盗聴器を今回の目的以外で外してはいけない』

 

『織斑一夏と性行為をすること』

 

『誰かに相談するのはアウト』

 

 これが相手から言われたことである。私の制服には、今現在GPSが組み込まれた盗聴器が着けられている。1時間、何も音が聞こえてこなかったり移動していなかったり……もしくは全く別の人の声が入り続けていたりしていたら、その場で簪ちゃんの無事は叶わぬものとなってしまう。

 上の三つの内の1つでも破ってしまえば、即座に簪ちゃんに手が出される。壊すというのも、以ての外である。

 

「……一夏君、今いるかしら?」

 

「楯無さん? どうしたんですか?」

 

 彼はいつものように、少し抜けている表情を私に向けていた。しかし、すぐに私の異常な雰囲気を察したのか、真面目な顔へと変わっていた。

 

「……実は、私今日パンツ履き忘れてきちゃったの」

 

「なっ!?」

 

 彼がいつもの通りすぎて、つい私もいつもの通りに返していた。下着は、きちんと着けている。けれど、誤魔化すために……嘘をついた。それで私はいつもの調子が表面上戻ってきたのか、表情だけならいつものものを出すことが出来ていた。

 一夏君も、私の冗談を聞いて馬鹿らしくなったのか、すぐさま私と話してる時のいつもの疑いの目を向けていた。

 

「部屋、入ってもいいわよね?」

 

「いつも断りなく入っているじゃないですか」

 

「そうかしら? じゃあ遠慮なく入らせてもらうわね」

 

「……楯無さん、何かありました?」

 

 ━━その一言で、一瞬だけ私は心臓が高鳴った。どこかでボロを出していたのか、それともただの勘なのか……意識的にしているところが、違和感があったのか……

 

「なぁにぃ? お姉さんのプライベートが気になるのかしら?」

 

「茶化さないでくださいよ、俺だって流石にいつもの雰囲気と違うって分かりますよ」

 

「……」

 

 妙な鋭さが、彼にはある。それは彼の武器でもあるが、同時に自分の首を掻き切る刃ともなる。今回は……後者となっている。

 

「あー……その、ね? ちょっと言いたいことがあって」

 

 これから私は、簪ちゃんを盾にして彼を生贄として差し出す。道具として、彼を使う……しょうがない、しょうがないと分かっていても……どうしてここまで私の心は掻き乱されるのだろうか。

 

「言いたいこと、ですか?」

 

「……その、好きよ?」

 

「……俺だって、別に楯無さんの事は嫌いじゃないですよ?」

 

 そうじゃない、そうじゃないと叫びたくなる気持ちを抑えながら、私は冷静に笑顔を作る。なるほど、これが唐変木というものだろうか? いざ面として相手すると結構イラッとくる。

 

「違う、そうじゃないのよ……私の好きは、友愛でも家族愛でもペットに向ける愛でもなくて……恋愛、恋、likeじゃなくてLove……恋人になってほしいという意味の、I Love You」

 

「え━━━」

 

 彼の顔が赤くなる。同時に、困惑の表情も浮かべていた。まぁそうなってしまうだろう……これだけ言葉を尽くして、ようやく理解する辺り相当恋愛経験がないのだろう……私も人のことをいえた立場では無いが。

 

「いや、でも俺……」

 

「『恋愛経験がないから、恋愛相談できない』っていう気? そんな逃げ道は許さないわよ」

 

「っ……」

 

 いつもの彼なら、鈍感さと唐変木で勝手に勘違いしてはそれを女の子達に告げるために、痛い目に遭う。それが彼の恋愛事情。けれど、そんな事情は今の私にとっては全く関係ないところである。さっさと彼と性行為をしないと……

 

「私が愛してるのは貴方。あとどれだけ言葉を紡げば……私の気持ちを理解できるのかしら?」

 

「……俺は……」

 

 告白してから、私はふと気づいた。一夏君が悩んでいる事に。もし、彼が私と相思相愛だった場合には即決でOKしそうなものである。けど、そうはなってない。多分……私はフラれるかもしれない。彼自身は気づいてないかもしれないが、多分彼が好きなのは……箒ちゃんだ。

 

「……ごめん、なさい。その気持ちは嬉しいけど……楯無さん、それだけが本音じゃないでしょ?」

 

 ……彼は、なぜこういう時だけ異常に鋭いのだろうか。彼女達にも、その鋭さを少しは分けてあげたらいいのでは無いだろうか? とさえ思えてくる。けれど、まるで自分がほかの女の子達以上に理解してもらえているような気がして、私は少し嬉しくなった。

 

「……ふふ、君は鋭いなぁ……けど……ごめんね? 私から言えることは、何一つ……無いの」

 

「楯無さん……」

 

「でも、お願い……今日だけ……後で忘れてくれていいから……お願い……私と……性行為……して……」

 

「なっ━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

『いきなり何を言ってるんですか!!!』

 

 キレるのはわかる。性行為じゃなくて、SEXって言って欲しかったんですよね。え? そういう意味じゃない? どうでもいいよ。

 

『お姉様、あちらの方の様子はどうですか?』

 

「織斑一夏が中々承諾してくれない」

 

『更識楯無が無理矢理襲ってしまえば、いいのでは?』

 

「んー……それはそれで映像として使えるのか微妙なところだし……」

 

 画面の向こうでは、生徒会長と織斑一夏が若干の言い争いをしていた。まぁ、いきなりエッチなことをして欲しいなんて言われて、驚かない方がおかしい。

 それが、生徒会長とくれば尚更である。

 

『お願い!! 何も聞かないで!!』

 

『まさか、鬼村ですか!?』

 

『あ、あの子は何も関係ないわ!』

 

「あ、こりゃあバレたかも」

 

『え、それどうするんですか?』

 

 バレた場合……となると、生徒会長の責任とは一概に言えないけど……やっぱ面倒だしそういう風にしちゃおうかな? そもそも、こういうのって細かいこと許してたらダメなものだよね。

 

『あいつはどこにいるんです!』

 

『お願い落ち着いて一夏君!!』

 

「あー、駄目だ。完全に私のせいだと思ってるよ織斑一夏」

 

『更識簪を男達に犯させますか?』

 

 それはあんまりやりたくない手なんだよなぁ……私個人の感情を抜きにしても、人質に手を出したらそれはもう人質の価値は無くなってしまうのだ。だから、あまりしたくない。

 

「んー……ちょっとザーちゃんに聞いてみる」

 

『誰ですかザーちゃんって……まさか更識簪ですか!? あだ名を付けたんですか!?』

 

 あ、やかましいのでマライアはカットでお願いします。という訳で早速簪ちゃんに連絡を取る私。このご時世、携帯を持ってない若者なんて居ないよね。

 

『……もしもし』

 

「もしもし簪ちゃん? 貴方のお姉ちゃん織斑一夏に、私の存在バレるような態度取っちゃった」

 

『……約束を反故にしたって事?』

 

「結果的には。もう織斑一夏は私のせいだと決めつけてるし、いいかなって」

 

『ふーん……いいよ、別に』

 

 あれ、処女にあんまり未練感じないの? 別に私みたいな境遇じゃないから、まだ処女は保ってると思ってたんだけどなぁ。

 

『私は……姉と織斑一夏が嫌いなだけ』

 

「……前から思ってたんだけどさ」

 

『軽い? 私が貴方に協力する動機が』

 

「軽いとは思わないよ、私だって私利私欲で動いてるし……そもそもテロリストやってるのも、自分勝手な願いのせいだし……じゃなくて、簪ちゃんは…………いいの?」

 

『……何が?』

 

「自分の手で人に手を下すこと」

 

 文字通り殺すのか、社会的に殺すのか……単純に分けるとこの2つになる。しかし、どちらを行うにしてもそれをやってしまったら後には引けない。

 

『……』

 

「今こうやって協力してもらえてるのは嬉しいよ、けど……人に手を下した、って意識がある限り……それは簪ちゃんの中に残り続ける。残り続けるなら、まだいいかもしれない……喉元過ぎればって状態になったら……それこそ人間辞めちゃってるよ」

 

 なんでこんな説得をしてるのかはわからない。ただ、これ以上進むと簪ちゃんが本当に戻れなくなるような……そんな気がしていた。

 

『……姉が嫌い、って話したことある?』

 

「ん、聞いた事あるよ。最強で天才の更識楯無……物心着いた頃には、そんな姉に対する劣等感でいっぱいだったって話」

 

『まぁ、間違えてない』

 

「それに、織斑一夏の白式のせいで簪ちゃんの専用機が作られなかった……正確には、後回しにされた。親からの無駄な期待で心を閉ざしたのに、そんな腹が立つようなことされたら私だって相手を嫌いになる」

 

『……』

 

「……簪ちゃん、両親殺してあげようか?」

 

『……え?』

 

 本気で言っている。頼まれれば、私は彼女の親を殺しに行くだろう。だが、それを彼女が本気で望んでいるのかは……私は分からないし、どうでもいいことではある。

 

『……ううん、しないで』

 

「親が大切?」

 

『違う……自分の事は、自分でカタをつけたい』

 

「簪ちゃんならそう言うと思ってたよ、そういう所……大好き」

 

『……それって、どっちの意味で?』

 

「簪ちゃんがお望みなら、私は簪ちゃんに尽くすよ……死ぬまで」

 

 さて、私はいつまで生きていられるのかは不思議なところだけど。されど、私は彼女の味方でいてあげようという気持ちが、いつの間にか私には生まれていた。

 

「……ん? あれ?」

 

『……どうしたの?』

 

「見ない間に、織斑一夏がなんか……押し倒されてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『た、楯無さん……』

 

『ごめんね……こうするしか、ないから……』

 

 おっと、どうやら生徒会長は織斑一夏を気絶させることで、抵抗を許さずに無理やりする事にしたらしい。織斑一夏はベッドで倒れているけど……これどうしようかな。アウト判定1発OK? 

 マライアに軽く確認とるけど……あ、さっき切ったせいで着拒されてる……あ、解除した。

 

『お姉様!?』

 

「事情確認、織斑一夏気絶、その間に更識楯無処女捧げる。OK? アウト?」

 

『アウトです!!』

 

 こんなノリのいい子に好かれているなんて、私はなんて幸せものなのだろう。しかし、これはこれで面白いので続行させておくことを私はマライアに伝える。納得してないのか、マライアは説明しても憤慨したままだった。

 

『なぜそのままにしておくのですか!?』

 

「本人的にはセーフだと思ってるしね……それに、自分のした事が無駄だって理解したら……どんな気分になるかな?」

 

『……あ、なるほど。では終わらせるタイミングは向こうに任せる形になりますか?』

 

「だね、生徒会長がいいと思える時までやらせてみよっか」

 

『了解です!』

 

 さて、彼女が納得したところで……私は改めて視線をカメラに戻す。そこには、何とか勃起した織斑一夏の肉棒を受け入れている生徒会長の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side楯無

 

「はぁ、はぁ……」

 

 私の初めて。こんな所で、こんな状況で散らしてしまうなんて……とは思わなかった。それ以上に、こんな状況なのにも関わらず私は自分の処女を織斑一夏という男性に捧げられたことに、少しの喜びを感じていた。

 

「ごめん、ね……一夏君……!」

 

 一心不乱に、私は腰を振る。痛さはある。けれど、体が反射を起こしているのか私の膣からは愛液が滴っていた。それでも、痛みは変わらない。

 

「おね、がい……早く……!」

 

 なるべくこんなことは早く終わらせたかった。私も、こんな事をして……一夏君には、これ以上関わらない方がいいのだろうか。いや、関わったら……多分もうお互いにダメになってしまう。

 

「ごめん、なさい……ごめんなさい……!」

 

 腰を振りながら、私は懺悔を繰り返す。その内に、頭が麻痺してきたのか段々と痛みを感じることはなくなっていた。

 そして、快楽を感じるようになっていった。所詮、一皮むけばこんなものなのかと……少しだけ腹が立つ。

 

「ぁ……おおきく、なって……!」

 

 段々と彼のモノが、大きくなっていくのが理解出来た。そちらのほうも知識はあるので、それが何の前触れなのかもきっちり理解している。

 

「ン、クゥ……!」

 

 そして、彼の精液が私の中に吐き出される。私は倒れそうになりながらも、頭を冷静にさせていく。これで、いいだろう。これで大丈夫だろう……そんなことを考えながらも、何故か拭えない不安を覚えながら私はその部屋を……後にしたのだった。これが、最後の来訪になると決めて━━━




純愛です。


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中華絶堕

「ん? あの子? あー、今は部屋で寝てるんじゃないかな。主人と一緒に」

 

 どうも、五十冬です。私は今とある屋敷の目の前……というか、凰鈴音が飼われている男の屋敷の前まで来ています。何故こんなところに来ているかと言うと、わざわざ話してやろうと思ったからです。

 

「ん? 君誰?」

 

「貴方が飼っている、ドイツの女達と元中国代表候補生を捕獲した者です」

 

「……あぁ、例の組織の? それで? 何の用だい?」

 

「いやいや、ただちょっと凰鈴音……いやツインテールの子を呼び出して欲しいんですよ」

 

「え、二人きりにしろってこと? 君と? 今更返せ、だなんて虫が良すぎるよ?」

 

「そんな話じゃ無いんですよ、ただ……彼女の未練を断ち切ってやろうと思って。もうどうせ、日本に戻って来れないことだし。何だったら、貴方も一緒にいていいですよ?」

 

「……何をするかは知らないけど、まぁ一緒にいていいって言うなら、呼び出してあげるよ」

 

 という訳で、サクサクのテンポで呼び出してもらえることになった。因みに、今回は本当に私一人でこの屋敷に来ている。マライアとかには心配されたけど、まず特殊な訓練受けてない限り私に勝てるとは思えないよ。男とか女とか関係なくね。逆に、私の体のことを知っている軍人とかいたら、私勝てないかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた……!? 何で……いや、あんたも1枚噛んでたのね」

 

「あらあら、随分と素晴らしい格好になったご様子で……」

 

 そう言えば、凰鈴音は私が怪しいって言ってただけで直接こういう形で会ったことは無かったっけ? まぁ今となってはどうでもいいことなんだけど。

 

「……何しに来たのよ」

 

「んー……凰鈴音さんに、2つのお知らせがあります。いい事と悪いこと、2つあるけど……どっちから聞きたい?」

 

「は? そんなのに私が応えるとでも……」

 

「織斑一夏に関することでも?」

 

「っ!? あんた一夏に何したのよ!!」

 

 おーおー、名前出しただけで物の見事につられてるね。『私は』特に何もしてないのは事実なので、その辺のことをちやんと喋っていこう。

 

「……いいこと、から」

 

「じゃあいい方のお知らせから……なんと、織斑一夏はIS学園生徒会長更識楯無とお付き合いを始めましたー、わーぱちぱちー」

 

「……え?」

 

 凰鈴音の顔が青く染まる。絶対に信じられない、と言った表情にもなっている。まぁ、それも当たり前だろう。自分のいない間に、1組の専用機持ち達ならともかくとして、全く知りもしない女が自分の好きな男を貰っていったというのだから。

 

「な、何でよ……何を言ってんのよ……」

 

「言葉通り文字通り……何だったら証拠を見せてあげようか?」

 

 あの生徒会長、セックスさせた時はあまり乗り気ではなかったが……普段からの織斑一夏に対する対応の仕方が、過激すぎたのだ。おかげで、証拠となる映像や写真がザクザク出てきている。

 寧ろ、ワイシャツと下着だけで男の部屋にいる時点でもう付き合ってるだろあの二人。

 

「み、見せてみなさいよ!!」

 

「じゃあご要望通りに……あぁ、最初に見せるのは写真ね? 映像はちょっと準備するからその間に見てて」

 

 そう言って、封筒にギチギチに詰め込まれた写真を私は渡す。その間に映像の準備と、この女の飼い主を呼ぶ。どうせなら、気持ちよくなりながら未練を断ち切りたいよね。

 

「う、嘘よ……こんな……」

 

「本当に嘘だと思ってるー? そもそも、IS学園は君がいない間に学園祭とか色々してたけど……何と言うか、クラス全体で自粛したのは元々あなたがいた2組だけだったよ」

 

 その2組も、マライアが扇動してるせいで凰鈴音という人物を盾にして色々と過激になりかけてきてるっぽいし。

 

「ぁ……」

 

「貴方が居なくなってから、織斑一夏はまぁそれはそれは傷心してたよ。周りに迷惑をかけまいと、表面上は何も無い風を装ってたけど……そんな時に、年上の人から甘えさせられたら……まぁ事はトントン拍子で進むよね」

 

 適当なことを伝える。勿論、こんなのは全て嘘だ。だが、話している内容が嘘であっても、物的証拠である写真や映像がある以上、全てが真実となる。

 というか、私はしてるのは写真や映像から織斑一夏と生徒会長更識楯無とのラブストーリーを作り上げてるだけだしね。寧ろ、話なんておまけ要素にしか過ぎない。重要なのは『如何に真実味を持たせるか』だ。

 

「い、一夏は……私を探そうと……してたのよね……?」

 

「そうだね、してたかもしれないし……してないかもしれない……細かいところまでは、私は把握出来ないよ。まぁ強いて言うなら……学園祭、1組はメイド喫茶をしてたって事かな?」

 

 本来、自分も楽しむはずだった学園祭。しかし、それは叶わずに男たちにひたすら嬲られて今やこうして性奴隷。自分がこうなっているのにも関わらず、知り合いは学園祭を楽しんで生徒会長は織斑一夏と付き合っている。

 果たして、凰鈴音の心境や如何に。

 

「あ、あはは……なんだ……一夏は来ないんだ……」

 

「……そうだね、私が来てるのは兎も角としても……織斑一夏がここに来てない時点で、彼は全てを投げ打って助けにこれない……自分の身が大事な男なんだから」

 

 正直、我ながら酷いことを言っているだろう。国から止められていれば、誰だって助けになんて来れるわけがない。下手をすれば銃殺なんて言うのもありえる。まぁ、織斑一夏の場合は世界で唯一ISを動かせる男としてのモルモットがいい所かもしれないが。

 どちらにせよ、100%来れない状況ではこれるものも来るわけが無いのだ。

 

「あたし一人で、我慢して……」

 

「彼一人で気持ちいいことしてるね」

 

「向こうで楽しくやってて……」

 

「学園祭もしてるしね」

 

「そうだよね……そりゃあ、私なんか見向きされるわけ、無いよね……一夏には、箒もいるし……」

 

 ファースト幼馴染篠ノ之箒。セカンド幼馴染である彼女は、ファーストである彼女のことを少し羨ましがっていたようだ。ま、彼が篠ノ之箒を好きでいるかどうかはよく分からないが。

 

「あたし……もう我慢しなくてもいいよね……」

 

「そもそも、我慢する必要なんてないよ? 織斑一夏は確かに凰鈴音という人を見限ったかもしれないけど……世界中の誰もがあなたを要らないと言うわけじゃないんだから」

 

 

「そんな、訳……あんたの言うことなんて……」

 

「だって、もしそうなら……今頃貴方は殺されて海に捨てられてるのが精一杯だよ? 色んな男に犯されて……今は一人の男に所有されてる。必要とされてなかったら、こんな待遇受けられないよ 」

 

 物は言いよう言葉は選びよう。奴隷も立場によっては、まだマシだと認識できる。言い方によっては、ただ境遇を受け入れるだけで3食飯付きで気持ちいいことをさせてもらえる。こんないい立場は他にあるだろうか? いや、多分ある。

 

「あは、あはは……なら……もう考えなくて……いいや……何も、もう……考えたくない、や……」

 

「もう考えなくていいよ、考える立場じゃないんだから……難しいことなんて何も考えないで、何もかも忘れて……気持ちいいことだけを覚えてたら……人生それで幸せなんだから……ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side鈴

 

「いやぁ、何したの? あれだけ気丈だったこの子が堕ちてるなんて、よっぽどテクニシャンなの?」

 

 あたしの中に、飼い主の肉棒が入ってる。膣壁を擦られて、あたしはその度に快感を覚えて意識せずに声を出している。気持ちいいことだけを感じて、気持ちいいことを声に表している。

 

「いえいえ、もうほとんど本人もギリギリだったんですよ。肉体も、心も……ね。行為で堕ちないのなら、堕ちるために必要な別の要因を用意してやればいい……それだけの話ですよ」

 

 何もかもを忘れて、セックスだけの快楽に溺れていく。あたしはもうこれから、何も考えないし他の感情がほとんど必要ない生活へと堕ちていく。怖いといえば嘘になる……が、すぐにでもあたしはこんな現実から目を背けたかったのだ。

 

「別の要因、かぁ……それはこちらでは到底用意できないものだなぁ。何せ、IS学園には男は入れないんだし」

 

 もうあたしには、何も無い。好きだった人からの愛情も、笑顔も、向けられることはもうない。後悔はない……既に見捨てられているんだったら、初めから助けなんて来ることはありえないのだ。

 

「ま、何かあったらまた専用機持ちでも非専用機持ちでも教師でも用意してあげますよ」

 

 軽く絶頂を味わい続ける。それ程に、あたしの体が堕ちていることをあたし自身が1番理解していなかった。恐らく、このまま戻っていたとしても……彼とは付き合えたとしてもすぐに別れていたかもしれない。

 

「おぉ、それはありがたいね」

 

 気持ちいい、きもちいい、キモチイイ……それだけが頭の中で反復されては塗りつぶされていく。気持ちいいという言葉を浮べることさえ、快楽に塗りつぶされていく。

 

「けど、頼むなら早めにお願いしますね。他にも必要な人いっぱいいるんで」

 

 再びの絶頂、声が出ない。気持ちいい。頭、真っ白。なにか大事な事を、忘れてしまったような……記憶の片隅に捨ててしまった、ような……

 

「あぁ……分かっている、さ……」

 

「━━━んひいいいいいい!!!」

 

 絶頂。とてもとても大きな絶頂。あたし、凰鈴音という女にトドメを指すための、絶頂。

 

「……いやぁ、手伝えてよかったですよ」

 

「はひ……はへ……」

 

「あぁまたよろしく頼むよ」

 

 彼女は離れていく。あたしはそれを眺めているだけだった。ご主人様は、あたしをまた犯し始める。あたしはただ、犯される快感に身を落として……それをただ受け入れていくだけなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 この日、凰鈴音は死んだと言っても過言ではないだろう。もう彼女は日本どころか中国に戻ってくることは無いし、戻る気も失せてしまっているだろう。

 

「ま、二度とそこから出ない事を……おすすめするよ」

 

 

 そう独り言を呟いて、国際線を開く。相手は、マライアである。用事は全て終わったので、次はIS学園の方に目を向けるだけだ。

 

「もしもしマライア」

 

『お姉様! どうされましたか!?』

 

「頑張ってね、レースあるんでしよ? それじゃ」

 

 それだけ伝えて、通話を切る。これでいい、これだけでいい……マライアは今のだけで、レースで1番になるまでは練習に練習を重ねていくだろう。

 

「……さて、帰ろっと」

 

 これが、私の凰鈴音の最後の出会いだった。夏休みで遊んでいた時から一転、今では一人の男に尽くす肉奴隷である。けれど、彼女はそれで満足しているだろう。何せ、もうあれ以上失うものは何も無いのだから。

 

「……あそこまで堕ちたら、人間失格だね。くわばらくわばら……」

 

 私は今はまだあそこまで堕ちるつもりは無い……やる事やったら、あとはもう成り行きに任せるしかない。その先に何があるのか……それの予想なんて言うのもすること無く、根無し草のように全てを成り行きに従っていく。

 

「じゃあね、凰鈴音。私はこれからも『人間』として生きていくから」

 

 そのセリフを最後に、私は正真正銘その場から離れていくのであった。



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少年少女

 side一夏

 

「はぁ……」

 

 俺はため息を着いていた。現在、生徒会による織斑一夏の部活動貸出キャンペーンが始まっているのだが……それは原因ではない。原因というのは、そちらではなく生徒会……正確に言うんだったら、生徒会長の更識楯無さんのことである。

 

「……」

 

 会えない、と言えばまるで恋人を求める男のように聞こえてくる。そうと言えばそうかもしれないし、そうじゃないと言えば……そうじゃないかもしれない。

 

「一夏さん……」

 

「……ん? セシリアか……どうしたんだ?」

 

「顔が強ばってましてよ? 一体……どうなされたのですか?」

 

「いや……ちょっとな……大丈夫だ、1人でどうにもなりそうになかったら話すから」

 

「はい……」

 

 今現在、テニス部に俺はいる。そして、テニス部にはセシリアがいる。楯無さんのことを話そうかと悩んだが、如何せんどう話せばいいかよく分からない。

 まだ、俺が避けられているだけ……という状況なのかもしれない。けど、会わないと……会わないと、あの日の事が理解できない。

 

『ごめんね……』

 

 あの時、俺は気がついたらベッドで横たわっていた。多分、楯無さんに気絶させられたんだろう。多分、あの人は…………あの時言っていた目標は達成している筈。つまりは、そういう事だ。俺だって子供じゃない……何をされたのか、それがどういう行為なのかくらいは理解出来る。

 

「……会って、話をしないと……」

 

「ねぇ、織斑君……ちょっといいかな……?」

 

 ふと、俺に声をかける人がいた。テニス部……の人ではなかった。俺はこの人のことを一度見た事がある。確か、箒の入ってる部活……剣道部の先輩だった。

 

「どうしたんですか?」

 

「ちょっと、篠ノ之さんの事で聞きたいんだけど……」

 

「箒の事……? 何かあったんですか?」

 

「何かあった、って言うか……なんか雰囲気がおかしいって言うか……」

 

 しどろもどろになりながらも、先輩は箒の様子がおかしいということを俺に伝えてくる。

『そう言えば』と……俺も思い当たる節が幾らかあった。ココ最近、箒に声をかけても上の空の返事だったり、一緒に飯を食べようとしたら離れていったり……色々あったのだ。

 

「……そう言えば、シャルも……」

 

 シャルも、もっと言うならラウラもだが……何処かおかしい。前まで、俺が声をかけたら少し身構えていた程度だったのが、ココ最近俺を露骨に避けているような気がしていた。しかし、理由は当然理解できない。

 

「……何か、一年の専用機持ちだけ様子がおかしくなってるってこと?」

 

「……セシリアは別に、そんなことは無いんですけどね……?」

 

 他に一年に専用機持ちがいるんだったら、その人にも話を聞きたいけど……そう言えば、2組に新しい人が入ってたけど……確か、スパイを疑われてたんだよな。

 話に行く……べきか……? 

 

「━━━行くしかない、か」

 

 ひとまず、テニス部の用事が終わってからである。その時に……2組の新しい転校生と顔合わせをしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑一夏君、でいいんだよね?」

 

「あぁ……確か……」

 

「マライアでいいよ、織斑君。それで……何の話かな?」

 

「単刀直入に聞くけど━━━」

 

「生徒会長更識楯無の事? それとも、一年1組にいるセシリア・オルコット以外の専用機持ちの事?」

 

「っ!!」

 

 俺はその言葉で、一気に気を張った。相手に隠す気がないというのは、ある意味で好都合かもしれない。証拠なんて、取り放題だからだ。

 

「なんでその事を聞きたいと思ったんだ?」

 

「簡単だよ、最近避けられてるって自分で言ってたんでしょ? 彼女達から」

 

「……お前が、それの元凶か?」

 

「元凶って……言い方が酷いなぁ……ただ私は、織斑一夏って男の彼女を見繕ってあげようって思っただけだよ?」

 

 何が言いたいのか、俺にはさっぱり理解できなかった。一体、何が目的で俺達に不和をもたらしているのか。

 

「何が目的だ?」

 

「私のお姉様の目的……遠回りをしてでも、確実に叶えたい願いの為」

 

「……まさか、お前まで束さんを殺したい……なんて言うのか?」

 

「逆になんで、彼女を殺させないようにしてるの?」

 

「なんでそこまでして束さんを殺したいんだ」

 

「簡単な事……世の中には、悪意を持たない悪がある。それが今回に限っては巨悪で、篠ノ之束という物だっただけ。分かってくれないかな?」

 

「分かりたくない。人殺しをする事に、理由はあるかもしれないけど……それを盾にするのは、一番だめだ」

 

「じゃあ、盾がなかったら盾があるよりマシってこと? そうやって目を背けるから、IS社会の闇に気づかないんだよ」

 

「……闇?」

 

 闇、ラウラみたいな存在のことを言っているのだろうか? 確かに、戦うためだけに生まれた存在というのは……俺としては、作ったやつらを絶対に許すことは出来ない。けど、生まれてきた……例えばラウラは戦うこと以外でも、女の子らしく生きることは可能なのだ。

 

「あ、多分斜め上の発想してない?」

 

「……え?」

 

「しょうがないなぁ、じゃあちょっとだけ昔話してあげるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideマライア

 

 昔昔、ISが生まれた少し後ほどの時代。白騎士事件をきっかけに、世界はISに一気に傾いた。そんな中、ある1部の組織が禁忌に手を染めた。ラウラ・ボーデヴィッヒの様な『1部の事柄に特化させた人間を生み出す』というものだったの。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ、彼女は確かにそんなデザインベイビーではあるものの、ISを動かせているのは才能と努力の結果であったね。私は、純粋にすごいと思う。

 そんな中で、『ISに特化させたデザインベイビー』というものが生まれたの。文字通り、ISに特化させるだけを目的とした子供だね。

 

「おら! もっとキビキビ動け!!」

 

 まー、酷いものだったよ。まず初めに、試験管とも呼べるポッドの中で成長させられるんだけど、約1ヶ月ほどでドロドロに溶ける個体がいた。そこから綺麗に成長して、いざポッドの中から出そうとして……水風船みたいに破裂したのが個体もいた。

 そこから何とか生まれることが出来ても、今度はISを動かすという情報の多さで脳がオーバーヒートする個体もいた……ま、はっきり言えばポッドから出た瞬間に半分が死ぬね。

 そこから薬で急成長させられるんだけど、それに耐えきれなくて死ぬ個体もいるし、訓練の途中で死ぬなんて言うのもざらだった。

 

「ちっ……また死にやがった」

 

「豚の餌にでもしとけって思うだんだけどよ、出来ねぇのか?」

 

「こいつら、まともな肉体してねぇんだよ。死んだら燃やすまでもなく勝手に自壊していくんだよ」

 

「うへぇ、そんなん食わせたかねぇな」

 

 職員から、そのデザインベイビー達への当たりは当然のことながら凄まじかった。ISを操縦するということに特化したせいで、女ばかりだからよく性処理されてたよ。今思ったら、あの職員達も正気じゃなかったのかもね。

 

「ちっ……また壊れやがった」

 

「ノルマ達成出来ねぇやつは、こっちにくんだろ? 俺らとしちゃあ役得だが、ノルマを行えねぇ奴が多すぎねぇか?」

 

「勘違いすんなよ? 無能の数が多いわけじゃねぇ……母数がでかいんだよ」

 

 大人達の会話は、聞きたくもなかった。事実、言葉だけは聞こえていても、内容は一切理解下ないようにしていたよ。今だったら理解出来なくもないけど、正直理解したらしたで『永久に死に続けろ』という言葉しか出てこないよ。

 まぁ、そんな中で育ってたから……性格とかはともかく、私は量産型のISだけで、恐ろしく強くなったと思っていた。どうやら、私は才能の塊として生まれてきたらしい。この才能のおかげで、私はIS以外のこともきちんと行えるようになっていた。

 

「な、なんだてめぇら!? ぐぎゃああああああ!?」

 

「ぇ……?」

 

 そんな生活を続けてたある日、私がいた所は1つの組織によって壊滅した。それが亡国機業なのだけど……私はそこに拾われた。私以外の生きてる子達も、私のように拾われた。勿論、逆らうことがなかった者達に限るんだけど。

 

「君、名前は?」

 

「……マライア」

 

「あー、きっといい名前だと思うよ」

 

 ISこそ付けてなかったけど、そこに来たのがお姉様……この学園で鬼村五十冬と名乗ってる彼女だったの。それが、私とお姉さまの出会い。

 

「マライア、また大きくなった?」

 

「はい、先週から10センチほど」

 

「胸もまぁ大きくなっちゃって……お母さん嫉妬しちゃうよ」

 

 幸せだった。私のこの感謝の気持ちも、気づけばお姉様に対する恋慕へと変貌していたの。女同士でおかしい、って話はなしね。そんな細かいことを一々突っ込まれるのは面倒だから。

 

「あの……お姉様は……普通に生まれてきているはずなのに、どうして人を殺すことにためらいがないのですか?」

 

「え、何そのお姉様って……まぁいいや。私が人を殺すことに、ためらいがない理由?」

 

「はい……亡国機業(こんなところ)にいて、こんな質問はおかしいと思うのですが……」

 

「あー、うーん……」

 

 最初は、答えにくい理由があるのかと私は思ってた。けど、そうじゃない。今思えば、『答えにくそうな表情』と言うよりは『答えを思い出せないに近い表情』だったのだ。

 

「何だろうね、慣れ……としか言い様がないかも」

 

「慣れ……?」

 

「確かに、私にはマライアみたいな出自はないし、他に特殊な立場でも出自がある訳でもない。けど、『それをするのが当たり前の生活』になっちゃってた」

 

 私が経験したことの無い普通なら、恐らくそれは異常なことだと言うのはよくわかる。しかし、お姉様はその異常さに慣れてしまっていたの。

 

「……人を殺すことに、躊躇いはないって話だっけ? それの質問としては、無いって言うのが答え。どんな殺し方をしても、多分昨日の晩御飯みたいに忘却の彼方へと消えていく代物」

 

「……」

 

「ま、こうなるなっていうのはこんなところにいたら無茶な話だから……せめて私よりは長生きして欲しいところかな」

 

「長生き、ですか……」

 

「うん、私よりは生きてご覧よ。マライアが死ぬ時っていうのは、私が篠ノ之束を殺すよりも後にしてあげるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side一夏

 

「……って言う訳で。私はお姉様とそんな出会い方をしたの……あ、ごめんなさい私の出自の話もチョロっとしてたわ」

 

「……」

 

 何と言うか、ラウラも1歩間違えばこうなっていたのかもしれないと思った。だが、マライアは今この状況を楽しんでいた。満喫していた……本来、あってはならないものなのに。

 

「……その話を聞いて、俺にどうしろと?」

 

「どうしろと、なんて野暮なことは言わないよ。けど、そうだね……じゃあ今の話は誰にも口外しないこと、いい?」

 

「その要求を飲むと思うか?」

 

「飲むよ、飲まないといけないよ……じゃないと、ろくな目に遭わないかも……君じゃなくて、君の周りが……ね」

 

「周りって━━━」

 

 まさか、1組の皆や楯無さんを巻き込む気か……!? そんな事、させる訳には行かない!! 

 俺はそう思って、即座にISを展開しようとして……

 

「おっと危ない」

 

「くっ!?」

 

 一瞬早くマライアがISを展開して、俺の目の前の床が軽くひび割れていた。どうやら、相当速度の早い銃器の様だ。

 

「……因みに、バラしたら君の考えているメンバー所か、そのメンバーの身内すら私達は手にかけるよ」

 

「なっ……!? 卑怯だぞ!?」

 

「卑怯最強コケコッコー、どうでもいいから黙っててくれたらこのままことが進むんだからさ」

 

 マライアは俺の前を通り過ぎて階段に向かう。もはや、俺に用はないようだった。だが……これで俺は手出しが出来なくなってしまった。もう、何とかして千冬姉に頼るしかないか……? 

 そう思った俺は、拳を握りしめてその場に立ち尽くすしか……出来ないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ大会だけど……」

 

『マライア、その大会出なさい』

 

「お姉様? でも……」

 

『いいからいいから、思いっきり羽を伸ばしてこいっての』

 

「……分かりました」

 

 お姉様の意図は分からないけど……きっとなにか意味があるかもしれないと信用して、私はそのままお姉様と通話を切るのであった。

 



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少女速度

『んー……』

 

「マライア? 何してんの……」

 

『いえ、次の……何でしたっけ? ワンボールフェスティバル?』

 

「……あー、もしかしてキャノンボール・ファスト?」

 

『あ、はい多分それです。で、今ちょっとISを調整中です』

 

 確か、ISでやるレースのようなものだったか。しかし攻撃もありなので、確かに調整がいるものではある……しかし、わざわざ私のいるところに連絡しながらしなくてもいいのではないだろうか? 

 出る私も私だが、この子はどれだけ私が大好きなのだろうか。

 

『お姉様はどちらがいいと思いますか?』

 

「……何が?」

 

『速度は、本国から送られてきたパック……なんてものが無いので、攻撃に振るか、さらに速度に振れるようにするか、です。武装も考えないといけないので……』

 

「……どっちも共存出来ないの? 青竜の2つの武装は速度上げられない?」

 

『増えることは増えますけど……ちょっとでも調整をミスすると、地面とキスします。私の唇はお姉様だけのものなので、そんなことは絶対に避けなければならない事態です』

 

 地面とキスすることすら避けるのか……しかし、ミスするとえっげつないことになるというのは、サクリファイスで私が経験済み……そう言えば、サクリファイスどうしよっか。まだ持ったままだけど。

 

「……うーん、なら……朱雀の羽と別にもう1つ使うしかないよね」

 

『そこなんですよねぇ……青竜使うにも、実は左右で出力が違うのでバランスが悪いし、玄武だと時間かかるし……白虎砲だとエネルギー消費多いんですよね……』

 

 実はバランスが悪いとか、初めから言って欲しかった。しかし、それを除けばおおまか私の予想通りとも言える。空気中から水分を吸収する玄武は、レースの形式をとっている今回の大会では不向きだし、エネルギーの問題もあるので白虎も却下……となると……

 

「玄武の盾と、朱雀の剣……この2つを1緒に使うのは?」

 

『なるほど……確かに、盾なら問題なさそうですね』

 

 どうやらマライアは納得したようで、悩んでいた先程までの顔から一転してニコニコと微笑んでいた。と、そんなマライアを眺めていたら……別の方から私に通信がかかってきていた。

 

『お姉様? どうされましたか?』

 

「ん、いやごめん……何か通信来た。一旦切るね」

 

『はーい』

 

 こうして切られた後に、私は誰からの通信だとチャンネルを開くが……少しノイズがかかっていた。音声は問題ないが、この感じは……

 

『五十冬、いいかしら?』

 

「S? どうしたの急に……」

 

『久しぶりの任務』

 

 どうやら、私は私ですることがあるようだった。Sから聞いた情報をもとに、私はとある場所に向かって出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……任務、ね」

 

 私はすぐさま、中国に飛んでいた。その理由は、中国本土に何かしら用があるかららしいが……場所は……まぁ言わなくてもわかる。空港着いた瞬間に、組織の同期が車で連れてってくれた。その間にスーツに着替えたが……

 

「……で? 私にどうしろと?」

 

「命令は1つ、とある情報を抜き出して欲しい」

 

「情報を抜き出すって……それ、私が一番苦手とする種類なんだけど……」

 

「いや、今回PCから抜くなどといったものではなく……人から情報を聞き出して欲しいとの事だ」

 

「……その情報って?」

 

「中国がIS学園についてどう思っているか、だ」

 

 なぜそんな情報を欲しがるのかは分からないけど……とりあえず、どんな回答が欲しいのかくらい聞いておこう。

 

「因みに、お望みの回答は?」

 

「IS学園に対して、否定が入る回答だ」

 

 随分とまぁ曖昧な質問だけど……一体何が目的なんだろう……? ま、今ここで命令に逆らっても私にメリットは特にないし、私は従うんですけどね。

 

「了解、でもお望みの回答が得られなくても処刑はやめてよ」

 

「今回求められる回答は、どちらでも構わないが……ひとまず数が欲しいとの事だ。数を集めてこい」

 

「はいはい、了解」

 

 しょうがないし、片っ端から声をかけていこうかな……なんかよくわからない名札を渡されたけど、これさえあれば大体どうとでもなるみたいだし……十分に使わせて貰うとするかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……でまぁ、回答結果なんですけど。殆ど否定、残った1部も否定とも肯定とも取れない回答だった」

 

「ふむ……やはり、予想していた通りだったか」

 

「……予想? 上はなんて予想してるの」

 

「お前には関係がない……という訳にもいかないな、今お前が行っている……今は別の者に引き継いでいたな? 任務について、成果があったかどうかの確認だったのだ」

 

 ……という事は、この任務自体だと処刑されないけど私のやりようによっては、私処刑されかけたんだ。こっわ……そういうとこだよほんと、テロ組織だからってやっていいことと悪いことあるんだからね? 悪いことやってるからテロ組織なんだけど。

 

「……それで? それがどうして、中国に行くって話に?」

 

「正確には、お前が中国に向かった……他の者は他の国に向かっている」

 

「……? 話が見えてこないんですが」

 

「お前が確保して、他国へと売り飛ばした凰鈴音という元代表候補生がいただろう。あの少女が確保された瞬間、世界は『動いた』のだ」

 

 私そんな凄いことしてたの? って思ったが、一国の代表候補生が捕まるって言うのは……確かに色々と動くだろう。まず出てくるのがIS学園への不信感、次に自分の国に対する非難……これに関しては国民からのバッシングもあると思われるが。

 

「……で、中国がどれだけIS学園に対する不満を押さえ込んでいるのかの調査が入った、と」

 

「そもそも、例のドイツの代表候補生に負けてから、中国とイギリスはドイツに対して当たりが強くなっている。そして、お前が中国の代表候補生を捕まえた時に、一緒にいたとされるフランスの代表候補生……あれのせいで、フランスも少し浮いた立場になっている」

 

 つまり、今はフランスとドイツが非難の的になっていると。まぁ、情報が流れたら、確かにそんなことにもなるだろう。IS学園が幾らどの国家にも属さないとは言っても、代表候補生は文字通り国の代表とも言えるのだ。授業や、大会など以外で何かしらの問題、または喧嘩が起こった場合起こした側が、結構愚痴を言われるということらしい。

 

「……あぁ、じゃあ今私のやってること引き継いでる子にもう一国だけ巻き添えで浮いた存在にしてあげましょう」

 

「何だと? そんなことが可能なのか?」

 

「幾らIS学園が国家に属さないと言っても、行動まで国家とは関係ないと言われない訳が無い……ま、どれだけその国がシラを切っても矢面に立たせることはできると思いますよ」

 

「……それで? その国は?」

 

「ロシアですよ、ロシアの代表……更識楯無を使ってあげます」

 

「……?」

 

 今度は向こうの方が訳が分からないと言った表情をしていた。まぁ、そうなるだろう。中のことを知らなければ、誰だってそんな反応にもなる。

 

「んじゃ、ロシア以外にメールを送ってあげるとしましょう。私お得意の妄想ストーリーと、現物写真を添えて……ですけどね」

 

 送るメールのタイトルは、一律こうである。『ロシアの代表である更識楯無による、世界唯一の男性IS操縦者織斑一夏をロシアに引き入れる方法』だ。さて、更識楯無の行動はどこまで問題を無駄に大きく出来るのか……楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことは兎も角、マライアのチケットを使って私はキャノンボール・ファストの観戦権を手に入れた。無論、簡単な変装くらいは行っていくが……一応ISも両方持っていく。

 速度だけなら、サクリファイスで逃げ切れるし。ただ、問題としては……私ちゃんと入れるのか? という所である。他の者に渡してもいいが、マライアにがっかりした顔を見せたくないし……

 

「ま、問題起こすなら……その時に起こした方がいいよね」

 

 少しだけ、変な予感がある。嫌な予感でもいい予感でもない、文字通り変な予感である。言葉では言い表しづらいのだが、どうにも『何かが起こりそうだ』という確信めいた何かがある。

 

「そう言えば、M達の方も色々してたみたいだけど……」

 

 彼女達は、ISとバトってたらしい。いいなぁ、そっちに行けたら私だってもれなくカリオストロでコピーするのに……如何せん、何度も連続して使用出来るような機体でもないからなぁ……使った後はすごく頭痛くなるし。

 

「……ま、考えてたところで仕方ないか……ひとまず、カリオストロと……念の為にサクリファイスの調整だけしておこうかな」

 

 それなりに知識もあるから、なんとかなるだろう。まぁ本格的なところは難しいかもしれないが……戻った方がいいのだろうが、如何せん時間が無い。

 どうせなら、何とかしたいと思っているが……

 

「素人の調整で何処までやって行けるかな……」

 

 この大会が終わったら、私は戻るとしよう。どうせ、マライアは寮生活だろうし、彼女なら私のようなヘマをこいたとしても問題ないだろうし……ただ、まぁ……あえて言うんだったら。

 

「織斑千冬をどうするか、だなぁ……」

 

 やつを倒すのは至難の業、マライアであってもそれは難しいかもしれない。しかし、倒せれば大金星である。殺す方が手っ取り早いが、出来れば彼女を使って色々してやろうとは思う。

 

「……ま、妄想するくらいなら……って話かな。とりあえずやれることは、全部やっておくとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「んー、ふふふ」

 

 

 とある研究所、そこでは一人の女性がまるで子供が無茶苦茶に弾くピアノのように、キーボードをひたすら叩いていた。しかし、その例えと違うところがあるとすれば……その動きは彼女に取って理解して行っている行動なこと、そして何も問題ない動きなこと、である。

 

「箒ちゃんは頑張ってるみたいだねぇ、おっぱいの方も大きくなってたし」

 

 特徴的なうさ耳、そして青色のドレス。ドレスだけで見れば、不思議の国のアリスそのものである。しかしてその正体は、ISを発明した本人篠ノ之束である。

 

「ふふん、ふーんふふふーん……んー?」

 

 しかし、彼女は1つのモニターに目を落としていた。それは、何事もないただの会話。男女の会話である。しかし、その男女は彼女のよく知る織斑一夏と、よく覚えてないが織斑一夏と共にいた少女だった。

 

『━━━』

 

 音声がいまいち聞き取れないが、全く問題がなかった。得意としている訳では無いが、多少の読心術なら彼女は心得があったからだ。

 

「ふむふむ……私を殺す、かぁ……いっくんの周りに箒ちゃん以外の女の子がいるのを確認しようかなと思って、気まぐれで世界中ハッキングしたけど……随分と面白い子がいるねぇ。名前は━━━」

 

 キーボードを叩き、気になった女生徒の名前を調べあげていく。その間にも、似たような状況がもう一つ動いていたが、そちらは何故か彼女の興味を引かれなかった。

 

「鬼村五十冬……ちーちゃんの名前を、ちょっと変えてるだけで偽名だねぇこれ。IS学園も、ちゃんと調べてからやればいいのに」

 

 映し出されたモニターを見て、束は楽しそうに微笑んでいた。その笑みに、邪悪さは一切感じられない。本人も、一切悪意も殺意も怒りも何も無いからだ。

 

「……それでも、面白そうな子がいるなぁ。そうだ、この子のために……新しいの作っちゃおうっと! 私を殺すんだったら、それなりに強くなってくれないと困るしね!」

 

 そう言って、彼女はどこかへと走り去っていく。彼女は、自分が殺されるなんて微塵も考えていなかった。それは油断などでは一切ない。本当に、自分が殺されることは無いと確信しているからだ。

 その上で、彼女を強くしようと思っていた。

 今まで、自分を殺そうだなんて思う人はほとんど居なかったのだから。あのテロ組織……彼女は名前を忘れてしまったが、亡国機業でさえ懐柔しようとしているつもりなのだから。

 

「そうだなぁ……すんごい攻撃と、すんごい防御力と、すんごい狙撃と、すんごい速度のISを作ろうかな」

 

 彼女からしてみれば、ただの気まぐれと何ら変わりないその行為。しかし、鬼村五十冬だけに絞ったその行動のせいで……世界が『当たり前』だと思っていたことが、崩れ去る。

 

「よーし、コアを作っちゃうぞー! 束さん、作り方忘れちゃったけど何とかなるでしょ!!」

 

 そう、世界で467しかなかったコアが……今、増えようとしているのだ。




今回から、結構オリジナル展開増やしていこうと思います。


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高速勝負

「……あ、席ここか」

 

 キャノンボール・ファスト当日、私は久しぶりにIS学園に来ていた……のだが、やはりザル警備と言うべきか。簡単な変装さえしていれば、結構簡単に入れた。

 まぁ、ザル警備なのは暴動を起こされても中の戦力で鎮圧できると分かりきっているからだ。それに、施設の設備だけでも十分暴動は鎮圧できる。余程のパイロットじゃない限り、簡単に止められてしまうのが現実である。事件を未然に防ごうとは思わないのか、という問いに関しては『どうしようもない』が回答だ。問題を起こす前に、誰かを止めるというのは愚策も愚策……してしまえば最後なのだ。何せ、証拠も何も無いのに止めるのなんて不可能なのだから。

 

「さて、私は……しばらく見ておこう」

 

 学園祭と言い臨海合宿の時と言い、どうもこういうイベント事に関しては問題を起こしてしまうのがIS学園なのだろうか? いや、少なくとも場が動いているのは織斑一夏が参戦してからだ。つまり、原因は彼……に擦り付けようとしている篠ノ之束と言ったところか。

 

「……普通にレースが進めばいいけどねぇ……」

 

 他のテロ組織が入ってくるかもしれないし、一枚岩ではない同じ亡国企業の誰かが問題を起こすかもしれない。どちらにせよ、私は便乗するか殲滅するかの2択である。

 

「ま、頑張ってね……マライア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideマライア

 

「はっ……今お姉様の応援が聞こえた……」

 

 確実に聞こえたその声に感激しながら、私はレースの準備を終わらせていた。1年の専用機持ちだけのレース。基本的に高機動パックというものを付けている物がほとんどだが、つい最近生まれた白式と紅椿に関してはそれが存在しないため『どうやって移動するか』のエネルギー配分の問題に移っていた。

 ……紅椿はエネルギーを生み出せる絢爛舞踏というのがある筈だけど、自由に使えないのだろうか? それとも、自分には使えないとか? まぁ、考えていたところでしょうがないのかもしれない。

 と、ここまで考えていたところで……シグナルランプが点滅する。

 

『3』

 

 カウントダウンが始まる。緊張はしない、ただ私も同じように高速移動するだけだ。

 

『2』

 

 朱雀・翼に熱が溜まる。羽同士が震えて熱を溜め込み、そして震え同士がぶつかることでなかなか喧しい音を立てていた。

 

『1』

 

 そして、今……スタートの火蓋が切って落とされる。

 

『GO』

 

 一斉に、一気に、一瞬で……全員がスタートを始める。だが、幾ら高機動パックと言っても、機体の本来の使用用途にあっていない使い方をしている機体では、私に勝つことは出来ない。……私の機体、という方が正しいんだけど。

 

「1番、貰い!!」

 

 一気に、熱が放射されて加速する。あまりの急加速に、一瞬視界がブラックアウトしたが慣れたのかその直後から特に問題はなかった。

 

「はやっ━━━」

 

「行かせませんわ!!」

 

 オルコットさんの専用機、ブルーティアーズ。高機動パックになっているせいか武装はいつもの武装ではなかった。しかし、その命中精度は相変わらずなのか、的確に私の翼を狙い打とうとしていた。

 ……まぁ、全て私の翼から放たれた高温の熱のせいで目標がズラされているのだが。

 

「待て!!」

 

「いかせない!!」

 

 次はボーデヴィッヒさんと、デュノアさんの攻撃。この2人、私よりは遅いけど……速度としては中々の物である。私を含めたトップ3人の移動……あっという間に飛行距離が稼がれるが……その途中、不意打ちでどこからともなく攻撃が入ろうとしていた。

 

「なっ!?」

 

「どこから……!?」

 

「あっぶなっ!?」

 

 後ろにいた2人は、見事に撃ち抜かれてコースアウト。私は盾を出して攻撃を防ぐが……物の見事に速度は防がれてしまっていた。あれ速度載せるの結構手間かかるのに。

 

「2人とも大丈夫か!?」

 

 コースアウトした二人に関しては、織斑君が向かっていったから良しとして……目の前に現れたのはサイレント・ゼフィルス……確か、Mとかって言われてた女の使っているISである。

 私はあまり記憶はないが、私と彼女は面識がある筈である。

 

「……フッ……」

 

 しかし、そんなことは関係ないと言わんばかりに、彼女は私達にビームの雨を降らせていく。私たちはそれを何とか防いでいるが……

 

「……イラッときた……」

 

 サイレント・ゼフィルス……私の知っている情報だけでも、面倒な相手。強いというより、面倒……お姉さまの使うカリオストロとはまた違って意味で、相手にしたくない機体とも言える。まぁ、ISなんてどれもこれも相手にしたくないような専用機ばかりなんだけど。

 兎も角……今私は、私をそこまで気にしていない彼女に、腹が立っていた。そもそもお姉様に応援されているのに、それを邪魔しに来るなんて……こいつ、頭おかしいんじゃないのか……と。

 

「邪魔しないでよ!!」

 

「……どこかで見覚えがあるな、お前」

 

「関係ない、今からあんた潰すから」

 

 私の翼から大量の羽が飛んでいく。全てが遠隔操作できる小さな刃、普通の相手ならこれを展開した時点で勝てている。だが、サイレント・ゼフィルスには……シールドビットが備わっている。

 

「ちっ……」

 

「鬱陶しいな……」

 

 向こうのシールドビットが、彼女の周りを回るかのように弧を描きながら周回を続ける。それに対して私の羽は、彼女に刺さろうとしながらシールドビットに防がれていく。

 枚数としては私の方が圧倒的に多いはずなのに、速度は向こうの方が早いようだ。

 

「マライアさん! そのまま攻撃を続けてもらいますわよ!!」

 

 そして私の攻撃に便乗するかのように、オルコットさんが別の方向から攻撃を行っていく。多角の多重攻撃。本来私一人で出来ることだが、いないよりはマシな程度である。

 

「私達に牙を向けるのか?」

 

「先に攻撃したのは、そっちだ」

 

 今ここで、1年の専用機持ちが一堂に会して目の前の敵を排除しようと躍起になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「派手に暴れてるねぇ」

 

「そうね、流石エムだわ」

 

 突如乱入したMを眺めながら、私は隣に来た人物をチラリと見ていた。しかし、すぐに視線は外してMの戦いを覗いていた。隣に来たのは、私もよく知る人物……Sだった。

 

「でも、マライア以外は……あんまりね」

 

「あら、強制参加しておいてその言い草はあんまりじゃないかしら?」

 

「ザル警備なのが悪いんすよっと……流石に逃げなかったから目立つよね」

 

 突如声をかけられる私達。その声の主は、振り向かなくてもわかっている。IS学園生徒会長、更識楯無……その人である。私達に声をかけられるくらいは、まだメンタルは保てているようである。

 

「……貴女のIS、『モスクワの深い霧(グストーイ・トウマン・モスクヴェ)』だったかしら?」

 

「それは昔の名前よ、今は『ミステリアス・レディ』というの」

 

「不思議な女、自分で言ってて恥ずかしくないんですか……ね!」

 

 ISを部分展開して、武器だけを取り出す。取り出したのは、更識楯無のIS武装の一つのコピー、蛇腹剣である。しかし、その攻撃は彼女の水の塊に簡単に叩き落とされてしまう。

 

「……マナーがなっちゃあないわ 」

 

「そりゃあどうも、マナーをやろうとするのなら、私はテロやってる方が有意義だと思ってるので」

 

「つくづく、貴方はひねくれているとしか思えないわ」

 

「褒め言葉ですかね……」

 

「……私の事、忘れてないかしら?」

 

 ストン、と綺麗な音を立ててナイフが更識楯無の後ろの壁に突き刺さっている。更識楯無に向けて投げたナイフが、更識楯無に避けられて突き刺さっていたということである。

 

「あら、嫉妬かしら?」

 

 続けて投げられたナイフは、彼女が自らの蛇腹剣で叩き落としていた。私がそう使ったから、彼女もまた真似をした……と取られたいのだろうか? 後で罵倒しまくってやろう。

 

「……亡国機業、狙いは何かしら?」

 

「世界平和願ってるんで、さっさと帰って下さい」

 

「貴方は篠ノ之束を殺すって言ってるんでしょ?」

 

 ちっ、流石にそこまで行くと更識楯無も知っている情報を出されたか。出されたところでどうした、としかならないのだが……私の心の中はもやっとしている所がある。

 

「彼女はともかく、私は言うわけないじゃない。折角いいシチュエーションにできたって言うのに」

 

「……ま、本来の目的を無理やりにでも聞き出してみるわ」

 

「それが出来てないからこうなったんでしょ、生徒会長更識楯無」

 

「するつもりなのかしら? 随分と、舐められてる物ね、私達」

 

「舐めてないわ、あなたたち二人を……どうにかして私一人で抑えるって話をしているのよ」

 

 私を除いた2人が、私の目の前でバチバチと火花が散らされていた。私? 標的にされてはいるけど、私自身はあんまり戦う気は無いかなぁ……って。

 

「抑える? まぁ私は兎も角……S……」

 

土砂降り(スコール)、それが彼女のコードネームでしょ?」

 

「……バレてるみたいだけど?」

 

「別にいいわ、私はあんまり気にしてないし……それより、1人で相手できるかしら?」

 

 ちっ、前に彼女と戦って負けたの知ってたのか……まぁいいや。だったらここでリベンジ戦させてもらうとしましょうか。

 

「あら、貴方の武装では私には勝てないわよ?」

 

「私の専用機……その能力を知ってる? 生徒会長さん」

 

「さぁ? まさか、私のISの弱点を突くような武装でも作ったのかしら?」

 

「うん、作った……というかコピーしたよ。それが私のISの能力なんだし」

 

「コピー……?」

 

 ま、私の事が大好きで大好きで仕方がないISパイロットがいて、私は心底嬉しかったという話である。武装を一定以上使えば、その分の浪費エネルギーとかがきついが……しかし、その分の見返りはちゃんと存在している。

 

「さ、水なりなんなり……どうぞご自由に」

 

「……なら!!」

 

 生徒会長は、蛇腹剣を投げ捨てると同時にランスをその手に掴んでいた。後でコピーして知ったのだが、このランスは四連装砲らしくて遠距離武器としても使用が可能なものらしい。

 だが、私としては関係がない。というか、()()()()()()()使()()()()()()()()()

 

「ぶばっ……!」

 

「早っ……!? がっ……!」

 

 カリオストロよりも、この場合はサクリファイスの方がいい。一瞬で展開した後に、一気に最高速まで急加速。首から変な音が聞こえてきたが、生きているのでセーフ。

 兎も角、一瞬で近づく&そのままの勢いで追突したために更識楯無ごと私は吹き飛んでいた。

 

「ぐっ……けど、今の一瞬じゃ━━」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……?!」

 

「……そんなになっても生きれるのね」

 

 景色が真後ろな上に正反対に向いてるけど、私はきっちりと更識楯無の首筋にその手を這わせていた。軽く握れば、そのままへし折れてしまうほどには。

 

「いやぁ、私自身こんなになっても生きてるとは思わなかった……って訳でS、あとは私に任せて」

 

「えぇ、お願いするわ」

 

 Sこと、スコールは私にそれだけ言ってからこの場を離れていく。因みに、少し動いたので更識楯無の首にサクリファイスの爪が少しだけ食いこんでいた。

 

「……くっ……2度も、逃がすなんて……」

 

「貴方はもう動かない方がいい。2人で、あの戦いの結末を……いたっ……見守ろうじゃない」

 

 途中で首を戻す。ちょっと痛かったが、まぁなんとかなっただけましである。

 兎も角……そのままの体勢で私たちは、Mとマライア達との戦いを見つめるのであった。



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同士戦闘

 sideマライア

 

『サイレント・ゼフィルス』━━━それは、イギリスの機体の一つである。特徴的なものをあげるとすれば、シールドビット並びにBT兵器と実弾の両方が使用可能なスターブレイカー(星を砕く者)という銃の2種類である。

 イギリスのBT兵器の2号機であり、その性能はやはり破格の物となっている……

 

「━━━ってあるけど、『使用者にもよる』って一文は絶対に必要だと思うの」

 

「同感だな、付けなければどれだけ活躍しようとも『サイレント・ゼフィルス』だけの活躍と取られかねない……が、私としてはどうでもいい事だ」

 

「同感だ、とか言った癖に?」

 

「客観的な意見なだけだ」

 

 レーザーと実弾、私の羽に火炎放射やら水の砲弾やら空気の塊やら……色々飛ばしては、お互いに攻撃が打ち消されあったり、防がれたりしていた。

 

「私の事も忘れないでくださいまし!!」

 

「黙っていろ……雑魚が……!」

 

 オルコットさんが割り込んでくる……が、私が止めるよりも早く彼女はエムの武器により撃ち抜かれていた。シールドエネルギーが減らされて、武装も破壊されているけど……相当なものだ。

 

「……助けないのか?」

 

「助けたら、後ろから撃たれるでしょ。ミイラ取りがミイラになる……それだけは避けないといけないじゃない」

 

「成程、道理だ……なっ!!」

 

 ……とは言ったものの、私のISもサイレント・ゼフィルス相手に上手く立ち回れてはいた。オルコットさん助けても問題は恐らくなかったと思う……けれど、心配事は潰しておかないとね。

 

「はぁ!!」

 

 お互いの武器が激突する。火花を散らしながら、無茶苦茶な近接戦闘を繰り広げる。私が蛇腹剣で横になぎ払えば、エムはそれを回避して頭の上ほぼゼロ距離から発砲する。羽によって、それを未然に防ぎながらも攻撃を忘れない。

 

「……やはり、面倒だな。小型とはいえ高熱を纏った刃。それが縦横無尽に飛んでくる……それらの操作を頭一つでこなせる処理能力、ISのためだけに産まれた『兵器』はやはり違うな」

 

「……は?」

 

「兵器が兵器らしい一面を見れて安心だと言ったんだ」

 

「……私は、お姉様のためだけに生きてるの。兵器と言われても、お姉様に使われるなら正直本望だし」

 

「ならば、何故そんな激昂した顔になる?」

 

 あれ? 私怒ってんの? そっかぁ、私兵器って言われるの実は嫌だったのか。意外な事実が判明したけど……まぁ、多分ただ兵器って言われるのが嫌なわけじゃないかも。

 

「そりゃあ、私1人で兵器してたら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……何を言っている?」

 

「兵器は、使う人間がいてこその兵器……使われたいからこそ兵器……私からお姉様を抜いたら、お姉様が他の馬の骨とくっつく可能性があるって事でしょ?」

 

「……お前……」

 

「それだけは認められない、私はお姉様しか認めないしお姉様が他の女とくっつくのも認めない。行為は最悪任務だからってことで許すとしても心まで許すのは認めない絶対に認めない。私だけのものなの私しかダメなの私にはお姉さましかいないの私には━━━」

 

「……壊れたか。よく分からなかったが……まぁ、死━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

 エムがマライアに攻撃を加えようとした瞬間、エムのスターブレイカーは大破していた。油断していた訳でもない、文字通り突然爆発したのだ。

 

「━━━」

 

「……なんだ、今お前何を……」

 

 ブツブツと言葉を喋るだけになったマライア。その言葉は『認めない』のみである。エムは、彼女がよく分からないタイミングで壊れたようにしか見えなかったが……それは突然に納まっていた。

 

「……あ、なるほど。合点がいった」

 

「……?」

 

「お前がお姉様を狙ってるんだ」

 

「……何だと?」

 

 エムはお姉様……つまり鬼村五十冬のことは知っている。だが、知っているだけでありその関係性は恐ろしく薄いものである。つまり、何の感情も抱かないのだが……なぜだか目の前の同士はそうは思わなかったらしい。

 

「泥棒猫!! 絶対殺す!!」

 

「……ちっ、意味のわからんヤツめ……!」

 

 悪態を吐きながらも、エムはマライアに攻撃を仕掛けていく……が、行う前に予知でもしているのか、と言わんばかりに先手を撃たれて潰されていく。

 シールドビットによる特攻も、完全に見切られて見る事さえ無く潰されていた。

 

「……幾らなんでも早すぎる……!」

 

「ねぇ、ISの操作ラグって知ってる?」

 

「操作ラグだと……?」

 

 通常、ISで起こるラグというのは要するに『遠隔操作の武装の発動までにかかる時間』という事が主に考えられる。しかし、マライアの言うラグというのは、手足などの装備などに起こるラグのことも指し示している。

 普通の体を動かすように動けるようにしているため、ラグがあったとしてもそれは、コンマよりも遥かに短い時間の世界の話になる。

 

「私は、ただ操作ラグの合間を使って貴方の攻撃を潰しているだけ」

 

「お前にも、ラグがあるというのにか?」

 

 そう、ISを動かすという以上その一瞬といえる時間のラグはマライアにも存在している。それは、どう足掻いても変えられないことである。

 

「私のISのラグは、平均よりも1/10だよ。ISを操作するためだけに生まれて、そしてISを誰よりもつかいこなせるために特訓してきたんだもん……動きを予測することなんて容易い容易い……容易いからこそ、その合間を有効活用できるんだ」

 

「……ちっ、面倒な……」

 

「面倒で結構……本気を出せば、私はこんなものだよ」

 

「……なら、予測出来無いように動くだけだ」

 

「人間にそんな動きが可能なわけ……無いでしょ」

 

「どうかな……!」

 

 そう言って、エムは突撃してくる。お互いの武器が再びぶつかり合い、火花を散らす。先程と違うところと言えば、マライアにぶつかりざまに攻撃を加えていっては、離れていくヒットアンドアウェイを行っている事だ。

 

「なるほど……偉そうなことを言ってるとは思ったけど、飛びながらぶつかってくる攻撃方法は、確かに対処しづらい」

 

「飛んでいるだけだからな……予想はしやすくなっただろうが、予想したところで反応できない速度ならば関係ない、と言うだけだ」

 

「真理で正論で至極ごもっとも」

 

 そう言いながら、マライアはエムに気づかれないようにほんの少しづつだけ、自分の立ち位置をずらしていく。

 その攻防がしばらく続き……永遠に続くかとも思われたその瞬間、唐突に終わりがやってきた。

 

「……ところで、気づいてる?」

 

「……」

 

 エムは返事をしない。このまま行けばシールドエネルギーが尽きて、マライアは直接的な攻撃を加えられてしまう。だが、そのようなことはありえないと言わんばかりに、突如としてマライアは笑みを浮かべていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何が━━━」

 

 再び突撃しようとした瞬間、マライアはエムを回避する。回避されたところで、再び急旋回して向かえばいいだけだ。だが、今回はそうはいかなかった。

 

「ブルーティアーズ! フルバースト!!」

 

 今現在、高機動パックを装備しているブルーティアーズ。それによって多種多様な武装が使えなくなっていたが、それを無理やり使えるようにする……それがフルバーストである。

 しかし、諸刃の剣なので下手をすれば機体が空中分解する可能性もある危険な行為である。

 

「なっ……!?」

 

 今のエムの位置は、ブルーティアーズの直線上……ということはつまりは、射程範囲内ということである。避けようにも、タイミングが完璧すぎたのだ。このままでは避けるどころか激突が容易に想像出来るほどである。

 

「ぐぅ……!?」

 

「隙だらけ、チェックメイト」

 

 ブルーティアーズの直前上かつ、マライアの直前上以外の全ての方向から襲いかかる朱雀・翼。マライアは直線上から二つの青龍と、白虎の2つの砲塔、そして玄武の水大砲が同時に呼び出され放たれていく。

 マライア自身が『隙』だと認識したそのタイミングは、エムが何もできることのないタイミングであるのだ。

 

「ぐううううう!!」

 

 ちらりとマライアが目線をセシリアに向けると、ブルーティアーズがショートして火花を散らしていた。そして、パラパラとパーツを落ちていく。

 

「……さて、ブルーティアーズはしばらく動けなさそうだから……」

 

「ぐっ……」

 

「さて、どうする? 帰るのか、はたまたまだ戦う意思を見せつけるのか」

 

「この、程度で逃げるわけが……無いだろう……」

 

「そっか、そんなに死にたいんだ」

 

 青龍を構えて、マライアはなんの躊躇いもなくそこから炎と風を一気に発射する。躊躇いはない、何も考えず、何も感じない。殺すことに一切迷いのない躊躇なき一撃が、エムを襲う。

 

「ぐっ……!」

 

「シールドビット如きで……!」

 

 とは言うが、マライアの方もエネルギーが尽きかけていた。このまま防がれ続けてしまうと、ただの相打ちで終わってしまう。そんな状況になりかけていたその時、マライアにプライベートチャンネルが入る。

 

『マライア』

 

「お姉様!?」

 

『攻撃を中止、Mを逃がしてあげて』

 

「そんな、どうして!?」

 

『S……スコールからの連絡。彼女からの指示だよ、流石に同士討ちだけは避けて』

 

「……お姉様が、言うなら」

 

 マライアは攻撃を中止する。それと同時に、エネルギーが底をついたのでゆっくりと降下せざるを得なかった。

 

『それと……織斑千冬から有難いお説教飛んでくると思うから覚悟しておいて』

 

「説教? 何故?」

 

『そこ、市街地』

 

 マライアは言われて気がついていた。むしろ、言われるまで気がついていなかった。いつの間にか、IS学園を飛び出して市街地で戦闘を行っていたのだ。

 

「いつの間に……」

 

『さっきさりげなく破壊してたよ』

 

「……分かりました、甘んじて受けておきます」

 

『それと……そろそろ本命に手を出そうかなって思ってる』

 

 本命、その言葉にマライアは緊張感を持っていた。本命とは、篠ノ之束……のことではない。あれは最終目標、なれば本命とは何か? この場合、篠ノ之束を連れてこれる存在……篠ノ之箒の事になる。

 

「いいんですか? まだ、他の専用機達を無力化出来ていませんが」

 

『私が彼女達をダシに使う『種』を撒いて、マライアが芽を咲かせた。なら次に起こるのは……花が咲くって事。簡単に咲くと思うよ』

 

「織斑千冬や、山田先生はどうしますか?」

 

『まぁ、見ててよ。もうすぐIS学園で行われる行事で……その2人に引導渡せるかもしれないからさ』

 

「……では、事を起こすことになったら……連絡ください」

 

『ん、了解……じゃあそろそろ切るね』

 

 連絡を切る五十冬。切られた直後から、マライアは緊張の高まりを感じ取っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「……さて、と……」

 

 今私は更識楯無と共に、IS学園の外に出ていた。無論、監視カメラのことも考えて……私が『逃げ遅れた被害者』として、エスコートするように頼んだのだが。

 

「何が目的?」

 

 更識楯無が声をかける。当然だろう、ただ逃げるだけならそのまま歩いて外に出ればいいだけなのだから。しかし、そう言ってもいられない事情があるのだ。

 

「いやぁ、実はさっき上司から連絡があって」

 

「……貴方の上司なんて、せいぜいスコール程度でしょう」

 

「それは兎も角……真面目にちょっとまずいんだよね」

 

「……まずい?」

 

「私達も知らないISが、2機くらい近づいてきてる」

 

「……だから? 手伝えって?」

 

 すごく嫌そうな顔をしている。いや、実際そうだろう。私だって生徒会長の手なんて借りたくないが、現状1番手を借りたい人物なのだ。

 

「スコールに手伝わせたくない、ほかは場所がわからない、1年勢は使い物にならない、2年以上はどんな人かも知らない……貴方以外候補いないわけで」

 

「……」

 

「ま、手伝わなかったら手伝わなかったで写真ばら撒くだけだけど」

 

「くっ……手伝えば、いいんでしょう」

 

 素直な子は私はとても大好きだ。ともかく、これで私は一応の戦力を得ることが出来た。さて、近寄ってくる二機を倒すために……なるべく遠いところで戦ってやらないとな。



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少女共闘

「……言っておくけど、私は貴方をいつでも撃てるのよ」

 

「へいへい、隙を見せないように頑張りますよっと」

 

 とは言っても、スコール達に手伝わせるわけにはいかないのは明白。手伝うことは無いかもしれないけど、頼むことすらダメに決まっている。何せ、私とスコール……というか、他の亡国機業メンバーが出た場合、囲まれでもしたら対処するのが面倒だからだ。

 その点、更識楯無という生徒会長ならば問題は無い。何せ、IS学園の生徒会長だ。今のところは、学園からの信用も厚いので……『不明の機体が来たので、混戦になりました』とでも言っておけば、非常時に私と不本意な共闘をする形になってしまったということになるだろう。

 IS学園の1年生組は、戦力としては論外である。100歩譲って連れていくとするなら、紅椿の篠ノ之箒だ。それ以外は高機動パックを使っているのが2人に、万が一落ちた場合手がつけられなくなりそうな姉がいるのが織斑一夏である。落ちた理由も私のせいにしてきそうで怖い。目当てにしない限りは、変に怒らせないのが得策だ。

 

「……さて、ここからだけど」

 

「未確認の機体が二機……けど、本当に貴方達が知らない機体だとして、だったら誰が作った機体なのかしら?」

 

「サイレント・ゼフィルスであっても、他のであっても……奪ったものなら識別くらいはできる。なら、新しく作ったISというのが分かりやすいけど……」

 

「……」

 

「ま、見て見ないとわからない……って言うのが1番の正解かもね」

 

 海の上を飛んでいる私達。そして、それは目の前に現れる。未確認のIS、見た感じ人がいない無人機だというのがよく理解できる。

 

「……見たことない機体だわ」

 

「同じく……」

 

 目の前にいるのは、真っ黒な中に黄色いパーツがちらほら見える機体。それと、もう1機は両手に真っ赤な血の色のような剣を携えた……白い機体。こちらも所々、金色の装飾が見えている。

 

「……何あれ」

 

「……IS、というより飛ぶロボットって感じね、最早」

 

 確かに、と私は思った。そもそもISは人が乗ることで初めて真価を発揮するものだ。無人機にするには、それなりのAIを積んでなければならないが……

 

「というか、片方は武器を持ってるのにもう片方は……武器無し?」

 

「という訳ではなさそうよ、見て……肩の部分変に大きいわ。何か仕込んでいるかもしれない」

 

「流石生徒会長サマ、そういう読みは……多分正しいかも」

 

 さて、一体どう攻めるべきか……そう思っていたのが間違いだった。相手の出方を伺うというのは、選択として間違っていない。先手を打つというのも間違いではない。

 この場合、どんな武装を持っているのかわからないから、様子見という方が正解だ。だが、私はそれでも間違いだと思ってしまう。

 

「━━━えっ」

 

 目の前に突如現れる白い方。とんでもない速度だと認識したのが、私の目の前に現れた瞬間だった。しかも、気づいた時には既に攻撃は始まっている。

 

「緊急回避!!」

 

 ラウラの超電磁砲、マライアのその他遠距離武装……他反動が強そうなものをいくらか用意して、同時に放つ。一気に反動で、私は後ろに吹き飛ぶ。

 ギリギリだったよ、当たってたらシールドエネルギー尽きてたよ絶対。

 

「何今の、見えた?」

 

「……残念だけど、いきなりすぎて認識すら追いつかなかったわ」

 

 あれだけ速い速度で動くなんて、まともな人間なら首いかれてるんじゃないの? って思う。無人機で正解だよ無人機で。

 

「けど……目には目を、速さには速さを……」

 

 念の為にと、カリオストロの能力でサクリファイスの武装をコピーしておいてよかった。何故かスラスターが武装扱いされていたが、よく考えたらこれくらいしか目立つ武装なかったな。

 

「追いつけるかどうかはともかく……生徒会長は、あっちの黒いのお願いね」

 

「仕方ないか……!」

 

 さて、私とこの白いのは……一発速度対決と参りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side楯無

 

 私の目の前にいる機体……特に何もしてこない。私が何もしていないのもあるかもしれないけど、『攻撃』は一切してこない。けれど、私が移動するとそれに合わせるように正面を私に向けてくる。どうやら、隙があるという訳でもないらしい。

 まぁ、当たり前の話なんだけれど。

 

「とは言ったものの……どう攻めたらいいのやら……」

 

 機械だから当たり前だけれど、隙がない。ISは本来、人の癖によってその強さを発揮することが出来るもの。全てが標準化されているであろう無人機では、真価を発揮するのは難しいとされる。

 しかし、発揮するのが難しいだけであり人が使う時より劣化している……ということは決してない。寧ろ、こう言った場合隙がない機械の方が優れていると言っても過言ではないだろう。

 

「……仕方ない」

 

 彼女を手伝う義理はない。けれど、このISを放置して万が一今のIS学園に攻め込もうとするのであれば、私はそれを止めないといけない。ならば、未然に防げるこのタイミングなら……! 

 

「━━━ここで、倒すしかない……か」

 

 私はナノマシンを飛ばし、黒い機体に水をまとわりつかせようとする。水の塊そのものではなく、水分という細かく小さな単位で移動させてから、一気に水にして爆発を起こす……それが私の作戦だった。

 しかし、ナノマシンが近づいた瞬間に目の前の機体の肩部分が変形し、中からレーザー銃の様なものが飛び出してきた。そして、赤黒いレーザーを360°に回して私のナノマシンを、寸分の狂いなく消していく。

 

「なっ……!?」

 

 一瞬だった。本当の意味での全部という訳では無いけど、出していたナノマシンに関してはもれなく焼き払われていた。そして、それは私のエネルギーもかなり大幅に削っていた。

 

「……今の、何……カウンターを狙ったの? けれど、今の攻撃範囲……それに攻撃速度……完全に認知が不可能だった……」

 

 攻撃速度は、視認不可能。そしてそのせいで今の攻撃の攻撃範囲もまた、見ることが不可能となっていた。はっきり言って、私の手には追えない相手とも言える。

 

「……今のを見る感じ、近づいてきたものを全て排除するみたいね」

 

 敵味方の区別はついているのか、向こう側では彼女が今のレーザーに当たっていた。しかし、はっきりいってそれは些細なことだ。今は、目の前の強敵に対してどう戦うかを選ばなければならない。

 

「……それでも、やるしかない」

 

 ここまですればやることは一つ……一点集中での一気に突破という脳筋戦法を取らざるをえらないということである。

 

「行くわよ!!」

 

 私の、IS学園最強と言われた生徒会長更識楯無の……無謀な戦いが、今始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「いっだい!?」

 

 白いのと戦っている最中、私は唐突に背中を焼かれていた。いや、シールドがあるからいいんだけど、今のでエネルギーの大半を持っていかれた。あの白いやつの攻撃を回避するために、緊急回避を行ったせいでもうまともなエネルギーは残っていない。

 

「つか、今の何よ……」

 

 生徒会長更識楯無の反逆……とすれば、かなり分かりやすい答えだったし、安心できる答えだった。しかし、現実はあの謎の黒い機体から発射されたレーザーだと言うのが現実である。

 

「……」

 

 はっきり言えば、『相手にしなかったらよかったこんなヤツら』である。しかし、知らないISである以上私達の敵か味方かという状況の中では、正体を確認しに行く以外の回答は不必要だった。

 

「……やるしかないけど、さ」

 

 白いのは、今は私を観察しながらじっとしていた。スラスターがオーバーヒート仕掛けて、そのせいで身動きが取れない……なんて答えならどれだけ幸せだっただろうか。その理論で止まるなら、もっと私はあの白いのに殺されていた可能性がある。

 

「けど、どうすっかな……」

 

 エネルギーはもうない、先程のレーザーで大半を奪われてしまった。強力過ぎて泣きたくなるのと一緒に、やはり足でまといになりかねない1年1組を置いてきて正解だったと痛感できる。あのまま適当に連れてきていたら、速攻で2vs1になっていただろう。

 

「うぉっ!?」

 

 スラスターを全力で吹かして、突如として再度襲ってきた白いやつの攻撃を私は回避する。またエネルギーが減ってしまった。本当にどうにかしないと、私はこのまま海の藻屑になりかねない。私は100歩譲ってやられていいとしても、生徒会長更識楯無は本当にダメだ。下手したらIS学園そのものが私に襲いかかってきてしまう。特に教師が来たら、変な責任を押し付けられそうになるであろう事は予測しているので、死なないように彼女には頑張ってもらいたいところである。

 何か不都合があるのかって? 色々立てていた計画が思いっきり狂うという不都合がある。

 

「……どうしたもんか」

 

 私は考える。ここからIS学園までは、結構な距離が空いている。仮に感知されていたとしても、エネルギー効率を考えたら今さっきまで戦っていたマライアはダメである。相当エネルギーを浪費しただろうし。

 

「……カリオストロじゃなくて、サクリファイスで……?」

 

 しかし、そうなると速度だけしかない為に体当たりだけしか使えなくなってしまう。あまりにも詰みと言えるこの状況……私は1体どうするべきか……そう考えている最中、『それ』は起こった。

 

「え、ちょっ……何……!?」

 

 私に襲いかかろうとしてきていた、白いのが後ろに引いた。いや、引いたということが起こったのではない。突然、カリオストロが発光を始めたのだ。いや、よく見れば待機状態のサクリファイスも光っている。一体何が起こっているのか……理解する前に、カリオストロのエネルギーが回復していく。

 

「……まさか、カリオストロのワンオフアビリティ……?」

 

 しかし、あれはてっきり武装のコピーがそれに当たるものであり、それしかないのだと思っていたけど……どういう事だろうか? それを考えたいところだが、それを考えるよりも先にやらなければならないことがある。

 

「……ひとまず、エネルギーは回復できたしやってみるしかねぇって事で!」

 

 何故エネルギーを回復できたのか、私にはそれは定かではない。けど、それが後に不幸になるのか幸運になるのかなんて考えていたら、私は何も出来なくなってしまう。

 

「さ、第2回戦……って訳で、行くよ」

 

 白いのとの戦いは、どうやらまだ続けないといけないらしい……面倒臭いなぁ……でも機体持ち帰りたいから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「━━━カリオストロのアビリティは、当たり前だけど1つだよ」

 

 暗い部屋で語る女性と、聞く女性。カリオストロというISを作った本人と、鬼村五十冬という人物のメンテナンスをしている女医という立場の女性。今いるのはその2人だった。

 

「……突然何?」

 

「ISも、そのアビリティも使い方ということになるって話」

 

「……?」

 

「カリオストロの能力は、相手の武装をコピーすること。それを応用したら、相手のエネルギーを奪い取る能力に変化する」

 

「……それって、理論上無限に動けるってこと?」

 

 あくまで理論上であり、現実的には不可能な話だが……可能という事は確定の事実である。

 

「うん、だから……それに気づいた時、彼女はもっと多くの女性を捕まえてこれる。なにせ、戦っている相手本人からでも奪いとれるんだから」

 

 女医は冷や汗を流す……まるで、吸血鬼のごとくエネルギーを吸うそのISを、今以上に本当にISと呼んでいいのか、甚だ疑問だからである。



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少女一勝

「さぁて、エネルギーが回復したところで……いだいっ!!」

 

 カリオストロの謎パワーによって、シールドのエネルギーが回復した私。しかし、その直後に私は白い機体にその身を斬られていた。確かにシールドエネルギーは回復したが、このままではまた同じことの繰り返しになってしまうだろう。

 

「ぐっ……なら、逃がさない迄!!」

 

 武器である剣を掴んで、ほんの一瞬だけ拘束する。機械である以上、やることは最高効率の動きである。つまり、掴まれたとしても即座に話してしまう可能性が非常に高かった。だが、それでも一瞬のラグは生じる。掴まれてから、判断するまでの時間……機械であろうと人間であろうと、その判断を摂るための思考がほんの一瞬だけ使われる。

 

「私、別にこんな趣味ないけどね……!」

 

 がっちりと、その一瞬の隙をついて体全体を私が抱きついて拘束する。こんな事をしてしまえば、本来ならば一切の攻撃が出来ないのであまり宜しくない戦法ではある。

 けれど、今使っているのはIS……それも相手の武装をコピーする猿真似ISである。

 

「ほーら、ビットのお時間だ」

 

 抜け出そうともがく白い機体に対して、私は間髪入れずにブルーティアーズのビット、それにマライアが使っているソードビットを合わせる。

 つまりは、遠隔操縦武装による集中攻撃。相手のシールドエネルギーはガンガンに浪費されていることだろう。完全になくなった時、それが決着のときである。

 

「ふふふふ……」

 

 ソードビットが相手に向かって飛んでいき、シールドに弾かれて少しの間操縦が不可能となって落ちていく。エネルギーを浪費するが、確実に遠隔操作が可能なセシリアのビームビット。背中にレーザーが当たろうとしては、エネルギーがその攻撃を防ぐせいで、ほんの少し拡散されては消えていくの繰り返しである。

 

「って、言ったけど……きついわこれ……!」

 

 五十冬はきついと言っているが、当たり前の話なのだ。ISによる負荷があるとはいえ、少女1人で人口知能を載せたISを抑えているのだから。下手したら単純な腕力でも負けている可能性があるのだ。

 

「ついでにこのまま……!」

 

 攻撃を続行しながら、私は速度を全開にして上に向かってすごく高い位置まで飛んでいく。Gが凄まじいが、しかし酸素ギリギリまでのところまで上がってこれた。

 

「……よし、止まったな」

 

 白い機体はいつの間にか動かなくなっていた。自爆装置があったら不味かったが、どうやらただエネルギーが尽きただけのようだ。いやぁ、自爆されてたらさすがの私も死んでたよこの体勢だと。

 

「ほーら、白と黒なんだから二人一緒にいなよ……って!!」

 

 そして、そんな酸素ギリギリまでのところから私はUターンして……あの黒い機体目掛けて超高速で落下していく。重力の影響もあり、そして私のそもそもの加速もあって、恐らく人類が生身で到達することは無いであろう早さに突入する。

 紅椿より早いと自負し始めてるくらいには早い。さて、このまま黒い機体諸共海の藻屑になってもらいましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side楯無

 

「はぁ、はぁ……」

 

 私は相変わらず目の前の黒い機体に翻弄されていた。ほとんど動いていないにもかかわらず、体ごとを向きを変えるなどして私の対して常に正面を向いているこの機体は、私も骨が折れていた。

 

「くっ……」

 

 それでも、攻略法は見つかった。確かに、ある程度近づいた瞬間に狙い撃ちにされるものの、四方八方から同時に攻撃をかける……そうすれば、防御が追いつかなくなってある程度のダメージは与えられる。けれど、それは私も傷つける捨て身の方法……

 

「でも、やるしか……」

 

「━━━━━━━!!!」

 

 どこからか、叫び声のようなものが聞こえてきた気がした。けれど、聞こえるとしたらそれは……鬼村五十冬、彼女のものだけのはず。けど、私がそれを聞こえたと認識したのは上から……仮に上にいたとしても、姿が見えないほど上に行っている訳が無い……そうおもっていた。

 

「……えっ?」

 

「どいてぇぇぇぇえええええええ!!!!」

 

 確かに、上から降ってきたのだ。ISとは思えない……恐らく落下速度なども含めた、加速によってあそこまでの速度を出しているのだと思うが……けれど、よく見ればもうひとつの方である白い機体を彼女は掴んでいた。

 

「ちょっ!? 何を━━━」

 

「どっ━━━━」

 

 そのままの勢いで激突する白と黒。しかしそれでは飽きたら無いのか、彼女はそのままの加速のまま一気に海へと直進していく。予め言っておくけど、ISは別に水中戦に向いていないという訳では無い。けれど、着水するのはまた別……あれだけの速度をまとって水面に激突すれば、それだけで人体は文字通りバラバラになる。ISと言えど、そのダメージは計り知れないはず。

 

「━━━せぇぇぇぇええええええええええええいっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」

 

 盛大な掛け声とともに、彼女は水面へと激突……する寸前に、白い機体を離して叩きつけていた。そのまま彼女自身は無理やりカーブをかけて、水面ギリギリをその速度のまま飛行していた。しかし、やはり制御が効かなかったのか、そのまま水面に打ち付けられていた。

 

「あっぶぇ……!!!」

 

「……今、ここで……」

 

 私の脳内に、1つの嫌な感情が芽生えていた。『あの女をここで始末しろ』という思いが鎌首をもたげていた。彼女は、おそらくエネルギーを使い果たしているだろう。なればこそ……相打ち覚悟でなら倒せるのではないか、と。

 

「……卑怯、ね」

 

 自分でも嫌気がさす。捕まえるのではなく、殺すことを考えてしまっているのだから。でも、殺すのは私自身にも……彼女自身にも駄目な話だ。彼女には、きっちり罪を償ってもらわなければならない。

 

「妥協案よ、更識楯無……今ここで、彼女を捕まえる」

 

 それで私の欲望を無理やり納得させる。でなければ、本当に抑えきれなくなりそうだった。彼女を捕まえる、今私がするべきことはそれだけだ。

 

「……行くわよっ……!」

 

「ぶはっ!! んぇ?」

 

 間抜けな声を上げる彼女。水面に激突し、水面をはねる石の如く弾かれていき、少しの間水に浸かっていた。起き上がったのが、私が槍を振り下ろす寸前だった。

 

「━━━()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……え?」

 

「っていうか、助けを求めたのは私ですけどね? 誰のおかげで学園に違和感なく潜り込めてるって思ってます?」

 

 後ろにいた。先程まで水の中にいた筈の彼女の姿が……私の後ろにあった。この超速度、まるで先程の白い機体の様な……

 

「くっ……!」

 

「IS、ミステリアスレディ……水を操ると言っても過言ではないIS。海の真上なんていう絶好のシチュエーション。私をしとめたくなるのもわかりますよ? せっかくの機会ですもんね」

 

 振り向きざまの一閃……けれど、その攻撃は届く前に彼女の砲撃で破壊されていた。これは、先程の黒い機体の……まさか、武装を……

 

「私と一緒にいる時は、基本ISは使えませんもんね。私が預かってますし……でも、忘れてません? ISは所詮兵器、学生にも扱えるようにしてあるとは言っても、本質は兵器」

 

「……何が言いたいわけ?」

 

「結局、どれだけ強い武装を整えているかが勝負の分かれ目なんですよ」

 

「……使い手次第、とも取れるけど?」

 

「使い手がいても、兵器を奪われてちゃあただの人間。改造人間じゃない限り、限界がある。それに、言ったでしょ? ISは兵器……やろうと思えば……こんなことだって出来る」

 

「……っ!? ミステリアスレディ!?」

 

 突然、私のISが光を放ち始めた。そして、そのアーマーが段々と剥がれていき……私はISスーツ1枚のみの姿となっていた。

 

「なん、で……!?」

 

 落下していきながら、私はその言葉を呟く。けれど、その理由を答える前に私は水面に叩きつけられて……意識を失ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「……さて、意外といけるもんだね」

 

『五十冬、調子はどう?』

 

「S……じゃなかったスコール、いやぁ……丁度いいよ」

 

 Sと言った瞬間、溜息を吐かれた。しょうがないからスコールって呼ぶことにする。コードネームのコードネーム呼びに関しては、あまり好みでなかったのだろうか? 前はそんなこともなかったと思うのだけど……更識楯無にバレたからか? 

 

『ふふ、貴方達が撮った写真……あれをロシア政府に送って、ある条件を飲ませる。それがこうも上手くいくとはね』

 

「各国政府に秘密裏に見せた、代表または代表候補生の痴態……それがIS学園の不信となって、私達に繋がっていくなんてね」

 

『その内の一つ、ISの仮使用許可……ロシア代表は知らなかったようだけど、あの子既にISを使う権利をほぼ失っているのよね』

 

「それを、逆に使えるようにしておく代わりに、いつでも停止させられる権利を、私たちに譲る……それがロシア代表の痴態なんかをバラさない代わりに、私達が与えられたもの」

 

 ま、これを作ってくれた人も自分達の国が他の国と同じように浮いた存在にされるのが嫌だったのだろう。いくら面積の広いロシアと言えども、まだ残っている他の国からの攻撃を受けてしまえば、一溜りもない。

 

「けど、よくこんなのを私達のために作ったよね」

 

『ロシアは更識楯無を切るつもりなのよ、それを私達が繋ぎ止めてる状態』

 

「薄情な事で……」

 

『しょうがないわよ、国の代表なのに勝手なことをする彼女が悪いもの』

 

 IS学園はどの国にも属さない。属さないからこそ、立場や身分などは一切関係なくなる。けれど、学園内で関係なくなるだけでその行動には常に責任が伴う。

 総理大臣が、お忍びで別の国に行ったとして……では犯罪以外のことをしても問題ないと言えるか? 答えはNOだ。たとえYesだったとしても、一般人はそれを許さない。

 

「ま、そういう事だね」

 

『早く助けてあげなさい、微力ながら私たちの資金源になってもらうんだから』

 

「へいへい、売り捌きますよっと」

 

 生徒会長、売るよ! って言いたい訳では無いが……いや、しかしあながち間違いではないのか。

 

『ところで、貴方エネルギーをどうやって回復させたのかしら?』

 

「なんかISに触ってたら、カリオストロが勝手にエネルギー吸い始めてた」

 

『末恐ろしいわね、触られてるだけで相手を無力化できるなんて』

 

「触れることなんてめったにないけど……って、今の会話で通話切るのか……」

 

 まさか、今の流れで唐突に通信を切られると思わなかった。いや、切らないといけない自体になったのだろうか? どちらにせよ、無駄話を切り上げられて助かった。

 

「ま、いいや……さっさと助けてあげよう」

 

 権利は、私のモノ。使うも消すも……ね。ミステリアスレディは、私でも扱えるようにしてある。なら、これを使ってIS学園まで戻るとしよう。

 って思ったけど……エネルギー的に飛べるのだろうか……? ま、きっと何とかなるだろう。

 私はそう思いながら、更識楯無を海面から引き上げたのであった。



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少女戦闘

キャノンボール・ファスト。所謂ISを使った『何でもありレース』のようなものなのだが、どうやらその当日は織斑一夏の誕生日だったようだ。いや、それに関してはどうでもいい……問題はその日にまたもや問題が起こると、スコールから嬉しそうに連絡が届いたことだった。

 

「絶対差し向けたな…」

 

なんてことを呟きながら、私は織斑一夏の元へと急ぐ。私が知っている限り、向かったのは恐らくMだろう。Mの生まれは特別だ…特別、そしてその出自故に……織斑一夏のことを心底憎んでいる。

それ故に、機会さえあればあの女は織斑一夏をできる限り殺そうとするだろう。しかも、1人でいるところを徹底的に狙うのも分かりきっている。

 

「……確か、この辺だったっけ」

 

久しぶりに来た織斑一夏の家。しかしどうやら誕生日会の真っ只中なのか、中から騒がしい声が聞こえてくる。いっぱい女の子を侍らせて、随分と楽しそうだ。

 

「……」

 

『━━━お兄ちゃん!ロウソク消そうよ!』

 

『そうだな、今日はお前の誕生日なんだ』

 

『プレゼントもあるからね〜』

 

ふと思い出される記憶。二度と戻ってくることの無い生活、戻ってくることがないだけで……こうして続くこともある。その対象が、私達ではないだけ。

女尊男卑に取り残された私たちは、この幸せを享受出来ない。まるで、自分のスマホでアップデートで使えなくなったアプリの様に 。

 

「……おっと…」

 

物陰に息を潜める。織斑一夏が外に出てきた。私の存在がバレたのか、はたまた全然違う理由なのか…困惑していた私だったが、どうやら後者だったようでそのまま近くの自販機まで移動する。私もそれについて行く。

ついて行った矢先で……M()()()()

 

「━━━ち、千冬姉…!?」

 

「いや……()()()()()()()()()()

 

Mの素顔、それは少女のような顔つきをした織斑千冬のそれだった。しかし、その性格やその他諸々は全然違うものである。だが、そんな事はどうでもいい……やつは拳銃を取りだした。

 

「私は……織斑マドカだ」

 

そして、その一言と共に発砲……届く前に、銃弾は私の体に突き刺さる。鉄の腕なので、突き刺さったなんて大袈裟な表現はいらないのだが。

 

「貴様……」

 

「…え……鬼村…!?」

 

「何のつもりだ、何故その男をかばう」

 

「……なぜ?今何故って言った?」

 

銃弾による痛みを感じながらも、私はM……マドカを睨む。別に織斑一夏を守りたかった訳では無い。守りたかったのは、自分…そして今回に関してはマドカも救っているのだ。

 

「こんな所で織斑一夏を殺してみろ、織斑千冬に殺されるぞ」

 

「それはお前だけだ。私の犯行にはならない……それに、私からしてみれば不要なものを守っているお前の方が、殺される身分だがな」

 

「……じゃあ何?今から私達で殺し合いでもしてみる?」

 

私は腕に収納されてあるナイフを取り出す。銃の方がやばいかもしれないけど、私が銃弾の弾なんぞで殺せるとでも思ってるのだろうか?無駄に硬いんだぞこの体。

 

「鬼村…お前……」

 

「この事、織斑千冬には喋らない方がいいよ。知ってるかいないかはともかく……な」

 

「守るのか?織斑一夏を」

 

「私の相手目標はあくまでも篠ノ之束、けどそのための不安要素はなるべく潰さないといけない」

 

「そうか……なら、死ね!!」

 

銃を私に向かって投げ捨てる。ヤケになったのではない、これはよくある常套手段……意識を一瞬銃に逸らさせた上で、本命の行為を行う方法。

 

「そんな方法…」

 

効かないと分かっているだろう。私達はあくまでも組織の人間だ、だからこそ…その行為でどう予測するかが肝心となる。私は拳銃を弾き飛ばして、逆にナイフを投げ返す。だが━━━

 

「やっぱり逃げた……」

 

「鬼村……」

 

姿も気配も、夜の闇へと消えていった。織斑一夏は私に声をかける、時間もあるし余裕もある……残念なことに私はこいつのことを理解しているので、そのまま通報はしないだろう。

 

「……親切で俺を守ってくれたって訳じゃ…無さそうだな」

 

「まぁね、偶然だよ……それと貴方はちょっと甘いよね」

 

「……甘い?」

 

「今ここで私を通報してもいいんだよ?まぁ、私は簡単には捕まる気は無いけど」

 

「……」

 

「……何?」

 

「……なぁ、復讐したとして…その先には━━━」

 

「何も無いよ、何も無い。私がそれを一番理解してるし、だからと言って辞める気もない」

 

もうこれは、私自身の問題なのだ。篠ノ之束に復讐を果たしたとして、その先に待つのが死なのかはたまた虚無なのかはわからないけど……でも、もう止まらないのだ。止めることなんて、出来ないのだ。

 

「分かってても、やるのか?」

 

「やるよ?やらない訳ないじゃん……それと、今私を止めようとするのはやめておいた方がいいよ」

 

「……」

 

お互い、ISのエネルギーが尽きてる。これ以上はどうしようもないのだが、仮に織斑一夏が戦闘を望むのだったら…私はそれに応えよう。まぁ、彼が勝てるかは分からないが。

 

「一夏!!」

 

「ラウラ!?」

 

「ちょ、まじか…街中で不意打ちISは洒落にならん…!」

 

ISを展開したラウラが、私に向かってくる。流石に、学園に私がいなかったらそれなりに逆らう気力でも湧いてくるのだろうか。いや、単純に惚れてる男は守るだけなんだろう。その際に、自分がどうなっても構わないと思っているようだし。

 

「くっ…!」

 

もう一本、忍ばせてたナイフを織斑一夏に向かって投げる。殺すつもりは無い、せいぜい当たったら腹に突き刺さる程度だ。だが、私はそのナイフが突き刺さるわけがないと確信している。

 

「動くな一夏!!」

 

「っ…!」

 

「今の内…!」

 

そのまま、私は暗がりへと走らせて姿を消す。どうせ、投げたナイフはラウラのAICによって止められているだろう。一方向だけとはいえ、物体の動きを止めることが出来るあの力が強力なのは私も理解している。

 

「……逃げられたか」

 

「ありがとう、ラウラ…助かったよ」

 

「いや、いい……妙に戻るのが遅かったからな…探しに来たのだ。こっちに私が来て良かった……さぁ、早く戻るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

というか、誕生日会を行えるくらいにはまだ信用は残ってたみたいだ。いや、もしかしたら噂話で出た嘘だと見破られたのだろうか。マライアに、後で報告しておかないとね。

 

「あの女子たちを完全に引き剥がせて、ようやく私は織斑一夏に手を出せるんだから……」

 

その為に、私がやる事は……そこまで考えてから目の前に誰かが立っていた。視線を少し動かすと、そこには…更識簪がいた。

 

「簪ちゃん、どったの」

 

「……貴方、今日ISに襲われたの?」

 

「ん、まぁそんな所……」

 

「倒したの?」

 

「倒したし、一応回収済み……どうするの?」

 

「……装備、外して私のISの物にするから」

 

「いいよ、別に。私のカリオストロにはもうコピーし終わってるし」

 

立ち止まりながら、私達は会話をする。何故ここに彼女がいるのか定かではないが、私はそこまで気にしていなかった。もし彼女が私を殺そうとしているなら、既に行っていないとおかしい筈だからだ。

 

「……打鉄弐式でいいんだっけ?名前」

 

「…当初はそうするつもりだった、でも……それだけじゃ、ダメだと思った」

 

ふと、私は何かを感じとった。更識簪特有のオーラと言うべきか、嫉妬と羨望に加えて、自身の卑屈さが混じった…何と言うか、黒いオーラのようなものを感じとった。

 

「……簪ちゃんさ、一言いい?」

 

「…?」

 

「自分の姉が出来ることに、自分が出来ると思わない方がいいよ…けど、逆に一人で出来る人だからこそしない事を、した方がいいと思う」

 

「一人で出来る人だからこそ、しない事…?」

 

「一人でISを組みたてた人は、『皆』で組み立てていない。だから、皆で…簪ちゃんに協力してくれる人全員で…作った方がいいよ」

 

「でも、私は……」

 

「1人で作ったものは、そりゃあ強いよ。だって自分が使いやすいのを理解してるからね。自分のことを理解してるから、1人で作れるんだ」

 

なぜ励ましてるのかわからないけど、でも励まさないといけないような気がした。自分でも理解できない行為だが、簪ちゃんには頑張って欲しいと思ってるのだろうか。

 

「でもさ、皆で作ったら意見の出し合いと折り合いなんかがぶつかってよりいいものになるはずなんだよ。それに関しては、生徒会長相手ならまず間違いなくそう言える」

 

「……お姉ちゃんよりいいものが出来るって、どうしてそう思うの?」

 

「だって、私がいた時とかマライアから話聞いてる限り……あの人は人の話聞かないでしょ」

 

「……」

 

「聞かない、って訳じゃないかな?どっちかと言うと『聞こうとしない』かもね。どっちにしろ…1人でなんもできるから、皆でやるよりいいなんてことは、絶対にない」

 

「私でも、お姉ちゃんに勝てる?」

 

「勝つように、ISを組めばいいよ。私もマライアも手伝うしね……」

 

素質はあるのだ。更識楯無がおかしいだけで、更識簪という少女も十分な天才である。しかし、天才だからと言って周りに頼らない方法というのは無謀である。あの更識楯無でさえ、生徒会という組織に属している。となれば、更識楯無でも全てを1人で行うこと不可能ということになってしまう。

 

「……いいの?」

 

「私達も手伝ってもらってるしね、その分のお返しだと考えてくれていいよ」

 

「……分かった、じゃあ…お願い」

 

「任された任された」

 

そうして、私は離れていく。更識簪が作るIS、打鉄弐式……元々はそれが名前であり、打鉄を超えるための弐式という付けた名前もある。それが、さらに上へと高みへと昇っていく。

 

「……近い内、IS学園で下克上起きそうだね」

 

その高みへと昇ったISが、一体どういった面白おかしいことを産むのか。直接目で見れないのは残念だが、その光景はいずれ目にしたいところである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side?

 

「皆で…」

 

更識簪は、呟いていた。初めてできた友人とも言えそうな存在。励まされたのであろう、先程言われた言葉を胸に反芻させながら、帰路に着く。

 

「かーんちゃん」

 

「っ!?」

 

そこで、目の前に現れる布仏本音。彼女に親しくしてくれる彼女だが、姉のスパイなのではないかと…簪は彼女を遠ざけていた。そんなことは全くないのだが、曇った考えではその真実にも届かない。

 

「……何」

 

「……どこ行ってたの?」

 

「私の、自由でしょ…」

 

「……いけないこと、するのは私よくないと思うなぁ」

 

「……貴方には、分からないよ。私の気持ちも…あの子の気持ちも……この虚しさは……」

 

すぐ横を、簪は通り過ぎる。本音は、少しだけ悲しそうな表情を浮かべるが…どうしようもない。彼女がやろうとしていることが、どのようなことであっても、自分では止められないと理解してしまったのだ。

 

「虚しさ……」

 

運命は、一刻と動いていく。何が起ころうとも、何がなくなろうとも。その運命の平等さに、抗うことは不可能となる。運命は、もっと変わり果てていくのだ。

その先に、何があろうとも……少女達は動き続けるしか、無いのである。



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少女奔走

「……エム」

 

「なんだ、機械人間」

 

「スコールが怒ってるよ、無断での接触及び無断での戦闘の事」

 

「ふん……貴様に言われなくてもわかっている」

 

 本当にわかっているのだろうか、このお嬢様は。戦闘は私とのものだったので、スコールは私も怒ったが……織斑一夏への無断接触を行ったのは、スコールも見逃せなかった。私が命じられていかなかったら、明らかに殺すつもりだった。

 

「貴方の目的は、各国のISの強奪。それ以外でISを使うようなら、スコールも考えがあると言ってる」

 

「考え? 一体何をされるんだろうな?」

 

 スコールは私に挑発的な笑みを浮かべている。今回は特に問題がなかったからよかったが、こいつはあまりにも周りを舐めすぎているのではないだろうか? それでいて、織斑千冬に対しての評価だけ無駄に高くしてある。実際、評価は高くて問題は無いのだが。

 

「分かるでしょ? 私達がどう言った組織なのかさ」

 

「済まないが、私にはてんで分からないな? キチンと言葉で示してくれた方がよっぽどわかりやすい」

 

「……あぁ、そう……なら……」

 

 私はそのままエムに向かって蹴りを繰り出す。エムはそれを一切見ずに受け止めるが、瞬時に私はISの部分展開を行ってビームビットを繰り出す。

 

「ちっ……!」

 

 エムはシールドビットを出すことでそれを防ぎながら、同じようにビームビットによって私を狙い撃とうとしていた。一瞬で起こったことだったが、それでも私達の実力はほぼ同じくらいだというのを改めて認識していた。

 

「……ふん、機械の力に頼って生き長らえている人間風情が」

 

「……まぁ、私の事をどう言おうが知らないけど……スコールの言うことは聞いてよ? 『亡国機業』の一員のエムとして働くこと……それがスコールが伝えたいこと」

 

「わかっている……決着を付けるまではそうするつもりだ」

 

「決着って……織斑千冬?」

 

 織斑一夏では、彼女に勝つのはどう足掻いても不可能だろう。それはエムも理解しているはずだ。そうなると、残る選択肢は1つしか存在しない。

 

「あぁ、スコールとて姉さんの足元にも及ばない……それを、私は倒す」

 

 一体、どう考えたらその発想にいけるのか私にはてんで理解できない。根拠の無い自信、と言えばどうにも違うように受け取れるが……私としては、どっちでも計画には関係と無い話題なのでスルーしておく事にした。

 

「ま、別にあなたがどう思うかは私には関係ないし……倒したいなら倒したいで早めにしておいた方がいいとは思うけどね」

 

「早めに、だと?」

 

「じゃないと、貴方の織斑千冬へのその感情も無駄になるだけだよ」

 

 そう言って私は離れていく。もうエムに伝えておきたいことは言っているので、戻っても問題ないだろう。彼女が織斑千冬に勝てるとは思わないが、とりあえず内心だけでも応援しておいてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「……ふん、あの女は相変わらずか」

 

 エムはそう愚痴りながら、傷の手当をしていた。五十冬との戦闘の際に、どこかを切っていたようでそれの治療を行っていたのだ。痛みはほとんどなかったが、切り口が酷かったのか血が止まりづらかったのだが、彼女の体内にある治療用ナノマシンが、彼女の事をある程度治していたので、傷口は完全に閉じていた。

 

「……ふ、ふふ……!」

 

 エムは自分の持っていたナイフを手に取ると、そのナイフで自分の頬に切り口を入れる。とは言っても、うっすら血が出る程度のものなのだが。

 だが、その切りこみ口をナイフの刀身に反射している自分の顔を見て、エムは満足そうに笑みを浮かべていた。

 織斑千冬とほぼ一緒とも言える顔立ち、その顔を傷つけることによって、エムは時折満足感と嗜虐感……そして一定の快楽を受け取っていた。

 

「ふふふ……」

 

 織斑千冬に対するひねくれた何かが、彼女をそうしていた。自分が狙っている者と同じ顔を持っている、それを傷つけて満足感を得る。そんな理性がどこかへと飛んでいってしまったかのような、そんな方法を使ってでも、エムは織斑千冬を傷つけたい……そう願っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideマライア

 

「タッグチーム? 」

 

 突然同じクラスの人に頼み事をされる私。けど、タッグチームって一体なんの話? って今は聞いている最中。どうやら、先のサイレント・ゼフィルスの影響で急遽行われることになったらしい。

 

「そうなの! これは、専用機持ち達を倒すチャンスよ!!」

 

「私も専用機持ちだけどなぁ」

 

「マライアさん以外で、よ!」

 

「にしてもそっか……なるほど……」

 

 私はふと考える。このタッグマッチで優勝した場合のメリットを、自分がそのまま受け取っていいものなのかどうか。別に受け取ってもいいものなのかもしれないが、始まる日時と更識簪が作っているISが完成する予定の日時……もし、後者の方が間に合うのだったら私は花を持たせてやってもいいと考えている。珍しく。

 

「どうしたの?」

 

「ねぇ、4組の更識簪さんって知ってる?」

 

「私は知らないけど……その子がどうしたの?」

 

「織斑君の白式と同じところで作られてるらしいんだよね、運悪く白式と制作過程が被っちゃったからISを持ててないんだけど……これを聞いた上で、彼女のことはどう思う?」

 

「……うーん、ちょっと不憫かなぁとは思うかな。でも、本当に運が悪いで済まされちゃうよね」

 

 こういう回答なのは、割と予想できる。この学園における織斑一夏の信用性、または信頼性はかなり高い水準にある。ただ1人の男というだけでもそうなのだが、本人の性格が良くて頼めば大体のことをしてくれるという面倒みの良さもあるためである。

 

「ん、ありがと」

 

 場合によっては、彼女と組むのもいいかもしれない。都合がいいしね。それに、新しいISの強さっていうものを私も直にこの目で見てみたいし。

 

「で、相方はもう決めてるの?」

 

「まだ考え中かなぁ? 別に別クラスの人でもいいんだよね?」

 

「そうそう、なんら問題はないよ」

 

「なら選択肢がいっぱいで悩んじゃうなぁ」

 

「この人たらし〜」

 

 表面上仲良くしながらも、私は考えていた。更識簪と組もうが組むまいが、目で見ることには変わりない。組めば目の前で見れることと、より正確な間のとり方も行える。

 もしくは、2組の誰かと言う手もある。もし戦うことになったら、敢えて囮を買ってでて行くことで、肌で強さを感じるというのもありだ。

 1組の専用機持ち達は、完全に目の敵にされているので私は彼女達も組もうという気にはサラサラなれなかった。

 

「あ、私ちょっと行ってくるね」

 

「はーい、行ってらっしゃーい」

 

 そう言って、私はクラスを出る。向かう先は、更識簪がISを組みたてている工房……って言うのかな? あそこに向かっている。私は彼女がどこまで作り上げているのか知らないし、手伝わなければいけないとお姉さまから言われているので、手伝うつもりではある。

 

「さてさてさーて……」

 

 私は整備科の扉をくぐる。そこには、随分と装備が潤沢になっているISが存在していた。打鉄弍式……とは昔の名前、今の名前は知らないけどいい名前を貰うんだよ。

 

「ぁ……ど、どうした……の……?」

 

「お手伝い、だよ。進捗どう?」

 

「……各駆動部の接続が、おかしくて……」

 

「OK、私に任せて……」

 

 更識簪の才能は本物だ。嫉妬してしまうが、お姉さまが容れ込むのもわかる……けど、姉がさらに優秀なせいで自分に劣等感を抱いちゃってるんだよね。そのせいで才能を生かしきれてない。

 

「……貴方も、天才なんだね……」

 

「貴方達みたいに、ISを作ろうとは思わないけどね……というか、作り方はわかっててもそれを形に出来ない、かな」

 

「……?」

 

「想像力が無いんだよ、私って。だから、どんなISを作りたい? って言われても、いまいちピンと来ないタイプでさ」

 

 実際、作ろうと思えるのはすごい。たとえそれが、途中から作ることであっても、私にはできる気がしない。天才でも、知識だけがあるタイプと頭の回転が早いタイプがいるのとおなじ事である。

 

「だから、こうやってISの修正やってるほうがしょうに合ってるんだよね」

 

「そう、なんだ……」

 

 カタカタとキーボードをならしながら、問題点を浮き彫りにしていく。無理やりパーツくっつけたのもそうだけど、元々の部分もそれなりに危ない状態になってるから……ここを修正したらいいかもね。

 

「中のパーツ幾らか変えた方がいいかもね。それまでは、あんまり激しく動き回ることは出来ないかも」

 

「激しく……動けない……」

 

「ISとしては、かなり致命的だよねぇ……動けないってことは、それだけ狙われるってことだから」

 

「……ううん、それを逆に利用する……」

 

「……逆に、利用? つまり動けないというところを利用するってこと?」

 

「そう」

 

 動かなかったら、それこそ的だけど……そこを逆に利用するって……どうもISっぽくないなぁ。でも、ISっぽくないってことは……相手からしたら全く予想ができないって事だよね。それは確かに、いい武器になるかもしれないけど……

 

「……ま、私達は従うだけだから」

 

「うん……ありがとう」

 

 お礼を言う更識簪。私達は手伝っているだけなのに、何に対してのお礼なのだろうか。ま、私に言ったところで私はお礼を返したりしないけど。そもそもお姉さまの言うことがなかったら、手伝うことさえなかったんだから。

 

「言わなくていいよ、お礼なんて」

 

「……分かった」

 

「そのIS、出来そうなら姉にぶつけてみたら? 案外、面白いことになりそうだし……それに、更識楯無を倒したら生徒会長の座が貰えるんでしょ?」

 

「……それって、お姉ちゃんの戯言じゃないの……?」

 

「戯言でも言ったことは言ったこと……約束を守らないようなら、生徒会長としての信頼がなくなるだけだしね」

 

 生徒会長としての信頼がなくなれば、例え学園最強であったとしてもそれはただの圧政の生徒会長となる。そもそも、彼女がミステリアスレディを装備できなくなったと知れば、ロシア代表としての格も落ちるだろう。

 

「ま、勝った暁には……自分なりの生徒会を作ればいいと思う」

 

「私の……生徒会……」

 

 果たして、そんなことが可能なのかどうかは知らないが……生徒会長権限と言っても、限度があるだろうし。そもそも、あれはロシア代表としての格があったからこそ成り立っていた権限のようにも思える。ただの私利私欲で物事を動かしかねない力なんて、普通与えるわけ━━━

 

「お姉ちゃん、結構好き勝手やってなかった……?」

 

「確かに」

 

 我ながら、記憶力が欠如してきたように思える。まぁ、生徒会長と一緒にいた時間なんてたかがしれてるんだけど……それでも、それなりに好き勝手していたような気がする。

 

「……とりあえず、どうするの? 貴方の打鉄弍式は」

 

「……弍式、じゃない。名前は……もう変えてある」

 

「そうなの? どんな名前?」

 

「……打鉄であって、打鉄じゃない……打鉄を超えた……打鉄……『打鉄越式』……それが、この子の名前」

 

「いいね……私は嫌いじゃないよ、そういうのは」

 

 打鉄を超える、と言うが。弍式の時点で、性能としては超えているのだ。つまり、超えるべきは性能ではなく打鉄というISそのもの……全く別物になってでも、こいつは打鉄を脱皮のように超えて別のものへと変貌しているということだ。

 

「……お姉ちゃんを、倒す」

 

 さて、眠れる獅子を呼び起こしたところで……私は彼女の手伝いを再会しよう。このままでは、超える超えない以前の問題で起動すらままならないのだから。



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会長責務

 さて、私こと鬼村五十冬はとある事業を始めた。ネットを介しての、お仕事である。無論使っているパソコンは遠隔で操作しており、使っている部屋もちゃんと偽の部屋である。

 というのも、行っていることが法律上では完全な違反行為である。バレて警察でも来たら、簡単に捨てれるような部屋でないといけない。因みに行っていることは未成年女子高生による身売りである。

 

「さて、更識楯無生徒会長様。今日から仕事に行ってもらいますよ」

 

「……本気、なのね」

 

「テロリスト相手に何を言ってるのやら? 今日のお相手は……お、やったね! 相手は男子高校生だ!」

 

「なっ……!? 未成年が相手だなんて……!?」

 

「え、別に私成人男性だけが相手だとは言ってないけど?」

 

「っ……!」

 

「安心しなさいな、中高生でも安心して使えるように会員登録は無料で行えるよ」

 

 多分そっちじゃないとか突っ込まれそうだが、私はそれをガン無視する権利がある。というか、法を逸脱した奴に法を説くのってどんな気分でやってるのだろうか? 私は、とてもアホだと思います。

 

「こんな事に、子供を巻き込むなんて……」

 

「子供? 中学生ならいざ知らず、男子高校生なんて私達とほとんど変わらんじゃん。特に男子高校生の性欲ってやばいらしいからさ、まぁ妊娠しないことを祈るんだね」

 

「……避妊は、させないの?」

 

「え? そりゃあ向こうの良心に任せるしかないけど? 高校生がコンドームなんてものを、買おうと思っているのかは知らないけど」

 

 第一、仮に私に決定権があるとして私がつけさせると思っているのだろうか? 安心材料を、付けるとでも思っているのだろうか? そんなものを、付けさせるはずがなかろうに。寧ろ、人によって変わってくる方がまだ救いはあるかもしれない。

 

「っ……」

 

「ていうかさ、自分の事をお姉さんお姉さん言うんだったら、リードしてあげてよね? 私、仕事を斡旋するだけで基本貴方の傍に寄る気は一切無いんだから」

 

「分かってるわよ……」

 

 果たしてこの女は本当に分かっているのだろうか? しかし、男ウケする体をしているのは明白なので、そのまま行かせて十分問題は無いだろう。当たり前の話だが、IS学園の制服は勿論脱いでもらう。

 

「ほらほら、住所貼り付けてやったからさっさと行った行った。そんな離れた場所じゃないしスグ着くんだから」

 

「……分かってるわよ」

 

 悔しそうに表情を歪ませるも、すぐに悲しげな顔となって更識楯無は、その場を後にした。しかし、私はその後すぐに向かう場所を調べていた。少し気になったところがあるのだ。

 住所で検索したまではいいのだが、住所のある場所が古い学校が立っている場所となっている。いや、今でも何百人何千人もの生徒が通う学校ではあるのだが、なぜ住所にここを指定したのかは全くわからないのだ。

 

「……あ、この学校……」

 

 そして、私はとある情報にたどり着いた。その学校の評判である。端的に言うのならば、評価はとても悪い。レビューがあるんだったら1を切っている程度でかなり評価は悪い。

 というのも、この学校とんでもなく悪い生徒ばかりなのだ。ISなどがほとんど浸透していない田舎であるにも関わらず、ここにも女尊男卑の世界が成り立っている。まぁ、要するに女たちの鬱憤ばらしのために逆らえない他の女を使おうとしているという話である。

 

「……これ、下手したら生徒会長帰ってこない可能性あるな……」

 

 それは少しまずい。今の段階で更識楯無が行方不明になるのは非常にまずい。かといって、私が行けば何かしらのセンサーに引っかかる可能性がある。IS学園に見つかるのは、とんでもなく面倒なのでならべく避けていきたい所である。

 

「……ま、なるようになるって祈っておくしかないか 」

 

 例え行方不明になったとしても、その時はそのときで対処するしかねぇのだ。私はなるべくISを使わない方針を立てているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side楯無

 

「……ここ、かしら……?」

 

 私が訪れた場所は、随分と古い風貌の学校だった。時代が切り抜かれて、ここだけ30~40年ほど遡ったのではないかとさえ思える。

 

「……こんな、古い学校に呼び出しだなんて……私、まともに帰れるかしら」

 

 自分のために言った皮肉だが、思いの外自分の心に突き刺さっていて、ついため息を吐いた。しかし、ここでバックれるわけにはいかない。そもそも、バックれたところで自分に一体何ができるのか。

 何をどうしたのかは知らないが、自分のISミステリアスレディは制御権のようなものが鬼村五十冬にある。彼女の意思1つで操れるようになってしまっているのだ。

 

「……それにしても、人気がないわね」

 

 古い学校とはいえ、そこまで過疎化しているようなところでは無い。ここまで人気がいなくなっているのは、何か理由があるのだろうかとつい訝しんでいた。

 

「……向かうしか、ないわね」

 

 幸いというかなんというか、あまり広い学校ではないので虱潰しに探すことが可能である。可能なだけで、時間がかかるのは明白ではあるが……やるしか無いだろう。今すぐ帰ってしまったら、バレかねないのだから。そうなった場合……

 

「簪ちゃんが標的に……」

 

 私としては、それは何としてでも避けたい事態である。けれど、一体全体どうしたら簪ちゃんが完全に狙われなくなるのかが私には分からない。標的にされた時点で、やはり終わりなのだろうか。

 

「……余計なことは、考えずに行きましょうか」

 

 私は頭を振り切って、再び歩いていく。ある程度進んだところで、どこかから声が聞こえてきていた。私はすぐさま音の出処に目星をつけて、目当ての教室に耳を押し当てる。

 

「━━━へへ、初めからこうすりゃあ良かったじゃん」

 

「いや! 辞めて!!」

 

 教室から聞こえてくるのは女の子の声、そしてその声の持ち主を脅迫してると思わせている男の子の声が聞こえてきた。腐っても高校生、性欲が旺盛だと彼女もそういえば言っていた。

 

「失礼するわよ」

 

「お? きたきた……あんたがIS学園のお姉さん?」

 

「貴方……その子をどうしようとしてたの?」

 

 男の子の傍には、服がはだけた女の子。よく見れば、制服のボタンは弾けており、無理やり脱がされたのは明白である。しかし、男の子は一切悪びれもせずに、私に近寄ってくる。

 

「やだなぁ、クラスメイト同士で交流を深めようとしていただけですよ。お姉さんも交じるんでしょ?」

 

「……私は、無関係の子を巻き込む趣味はないわ」

 

「つってももうここまで来たしなぁ、やるしかないっしょ」

 

「貴方達……退学になるわよ?」

 

「別にいーよ、男ってだけで濡れ衣着せられたり点数下げられたりしてんだしな」

 

「そうそう、20〜30の女くらいだぜ? あぁやって自分たちが上に立ってるとかって思い込んでるの」

 

 ……相当拗らせているわね。1部とはいえ、確かにISの登場によって自分たちに絶対的な正義があると思い込む女性が増えた。それによって、男性が意味の無いいじめを受けたり冤罪を受けたりしているのも事実。

 

「それでも、その子は関係ないでしょ?」

 

「いーや、関係あるね。教師の言うこと真に受けて、自分たちにも力があると思い込んでるこいつらに、現実見せてやんねぇと」

 

「犯罪よ?」

 

「いーよ、やってないことで捕まるくらいならやって捕まるほうがいいじゃん」

 

 聞く耳は、持ってもらえない……仕方ない、流石に目の前で起きていることを無視できるほど、私は馬鹿ではないし見過ごすほど正義感が枯れている訳でもない。

 

「ちょっとだけ……お仕置きするわよ……!」

 

 私はミステリアスレディを部分展開する。とは言っても、ナノマシンを使って水を被らせる程度だけど……武装なんて使えるわけが無い。

 

「な、なんだコイツ!? 水操ってんぞ!?」

 

「はいはい、痛い目を見たくなかったら警察に自首しなさい……っ!?」

 

 突然、私が操っていた水が私の意志とは無関係に動き始める。まるで意思があるかのように、私の体に巻きついていく。引っぺがそうにも、ミステリアスレディの展開が出来なくなっている。

 これは、まさか……

 

「はーい、大切なお客さんに手を出すのはダメよー」

 

「鬼村、五十冬……んぶぐっ!?」

 

「あ、あんたこの女の仲間か!?」

 

「いやいや、私はコイツの敵よ。因みにこの女はIS持ちでさ、水をなんやかんやして操れる力を持ってるIS何だよね。ま、今は私が制御してるから無害よ」

 

 私は彼女の操る水によって口を塞がれていた。まさか、ここまでついてくるなんて思いもよらなかった……一体なんのために……

 

「にしても君達結構ハッスルするねぇ……あ、その子も巻き込んでいいよ」

 

「ひっ!?」

 

 鬼村五十冬の言葉で、被害者の女の子が悲鳴に近い声を上げる。私が助けたいが、動こうとする度に体に水がくい込んでくる。我ながら、こんな特殊な水を使っていたのかと感心したくなる。

 

「マジで? いいの?」

 

「何だったら、あんた達が憎いって思ってる女たち皆捕まえてあげるよ……ま、大事にならない程度に、だけどさ。ただし、一つだけ条件がある」

 

「何、条件って」

 

「自分の事を強いと勘違いしてる女限定」

 

「え、そんなんでいいの? そんなんでいいなら、俺らの学校そんな奴ばっかだぜ?」

 

「マジで? この学校終わってんな」

 

 調子を合わせるかのように、鬼村五十冬は男の子達と似たような口調にしていた。それでより親近感を覚えたのか、男の子達は盛り上がり始めていた。

 

「まだ残ってるやつもいるだろうし、呼んでこよーぜ」

 

「だな! 呼ぼうぜ!!」

 

 そう言って、1人が教室から出ていく。残されたのは女が3人……被害者の女の子と、私と……鬼村五十冬である。

 

「さて……」

 

「あ、貴方女の癖に男の味方につくの!?」

 

「あれ、なんだまだそんな口聞けるんだ? 随分と余裕あるね……明日からまともな人生歩めなくなるようにしていい?」

 

「え……?」

 

 サラッと言われた言葉。その言葉に彼女は顔を青くして言葉をなくしていた。色々起こりすぎて、感情が抑えきれなくなっているようだ。

 

「ま……君ら2人がまずは生贄かなぁ? 偶然巻き込まれたみたいだけど、自分の今までの行いを反省しておくことだね。まぁ反省したところでもうこの学校の男たちは女を許すわけないと思うけど?」

 

「い、いや……」

 

「その子は……その子だけは……」

 

「あれー? 生徒会長、この子関係ないのに助けるんですかー?」

 

 茶化しながら鬼村五十冬はケラケラと笑っていた。愛想笑いじゃない、本当の笑い方のように私は思えた。異常だ、私の直感が感じとっていた。この鬼村五十冬という女性は、異常者だ……と。

 

「私ねー、嫌いなんですよ」

 

「……え?」

 

「こういう……自分の力でもないのに無駄に偉そうにする奴って。この社会にいる女達が、大体嫌いなんですよ。殺したいくらい」

 

「……そういう、貴方はどうなの?」

 

「私? 私は別ですよ?」

 

 自分の事を棚に上げて、他人のことだけを許さない……そういう類なのかと私は思った。だが、違っていた。

 

「━━━そういう女達と、元凶が痛い目を見たら私も同じところまで堕ちるつもりですし」

 

「え……」

 

「あぁ、もっとひどい所まで堕ちてもいいかもしれないですね」

 

「……あなた、何を……」

 

「業は背負っちゃってるんですよ、私は私の復讐が終わったらそのまま社会に消えますよ。それが出来ないくらいなら、ハナからこんなことしてませんし」

 

 何を言ってるのか理解できない。自分のことを大切に思っていないのか、それともそういう趣味なのか。余りの異常性に脳が追いついていなかった。

 

「あぁ、簡単には死なないようにしますよ。私がたくさん苦しめるようにしとかないといけませんし……あ、一応生きてる前提で話してますけど、死んでる可能性もありますよ?」

 

「……貴方は、自分の事をどう思ってるの?」

 

「人を殺してるんですし、死んでもいい人間じゃないんですか? というか、私の事心配してる暇あります?」

 

「え?」

 

「団体のお客様のご到着ですよ」

 

 気がつけば、教室の外からは大量の足音が響いていた。私達は……もう逃げられないところまで来ているのであった。




頭がおかしいやつの書き方を知りたい


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会長輪姦

「うっわ……でけぇなこいつ」

 

「く、ぁ……!」

 

「前から生意気で犯してやりてぇと思ってたけど……へへ、いい具合なんじゃね?」

 

「う、ぐ……!」

 

 目の前で、更識楯無と偶然巻き込まれた女生徒1人が男子生徒達に囲まれていた。更識楯無は胸の大きさを確かめるようにねっとりと揉まれて、女生徒の方は膣に指を押し込まれて掻き回されていた。

 

「なぁなぁ、あんたはやらないの?」

 

「あぁごめんね、私はただの進行役みたいなもんだから……あぁでも、色んな道具とか渡せるよ?」

 

「道具?」

 

「やばい薬とかは持ってきてないけど、店に売ってるような媚薬だったり……ほら、アナルバイブとか調教用の道具が色々」

 

 持ってきた鞄のファスナーをあけて、私は特にすることも無く余っている男子生徒達に見せる。流石に高校生くらいになると、こういった性行為の為の道具の知識などは知っているようだ。

 

「すげぇ……こんなん持ってるとか、法律違反じゃね?」

 

「私、存在が法律違反だから問題ないよ……それよりほら、君達に生意気な態度取ってたそこの女の子に色々してあげな。きっと喜んでくれるよ」

 

 わざとらしく指を指して、私は行為を促す。自分が標的にされたことに気づいたのか、女生徒の方は青くなっていた顔をさらに青くしていた。

 

「店に売ってんの?」

 

「高いやつだと普通に効果あるからね、使ってみて損は無いよ」

 

「ちなみにこの薬幾ら?」

 

「時給1000円のバイトを週七で8時間やるのを1年間繰り返したらギリギリ買えるよ」

 

「えっ」

 

 勿論そこまでするものなんて買える訳ないのだが。しかし、強力なことには変わりない。私が選んできたいいものなのは、間違いがない。

 

「い、いいのかそんなのを……」

 

「いいのいいの、ガンガン使っちゃって」

 

「う、うん……」

 

 急にしおらしくなったなこの男子生徒……ファッションヤンキーと言うやつなのだろうか? いや、だから別にどうだって話ではないのだが。

 

「……この薬どうやって使うんだよ」

 

「これは飲ませるやつだから……」

 

「無理矢理飲ませる?」

 

「いや、アナル……ケツに入れる」

 

「え、なんで?」

 

「直腸からの方が吸収いいし……あと結構いい表情が見れるから」

 

 そう言いながら、私は媚薬を大量に絞り出す。そしてそれをついでに持ってきた酒を注ぎながら混ぜていく。だいぶ危ないやり方だが、まぁ更識楯無なら大丈夫でしょ……あぁこれ女生徒の方にやる奴だっけ? まぁどっちでもいいや。

 

「はーい、完成だよ。特別浣腸液『ラブラブMAX』なんちゃって」

 

 注射器のような形をした浣腸用の道具に、媚薬を流し込んでいく。2つあるのだが、ちょうど半々で分けることが出来た。半々と言っても、2つともパンパンになるまで入れられたので2つ分あった、ということなのだが。

 

「これ押し込めばいいの?」

 

「酒のアルコールと、媚薬の効果でえげつないことになるから」

 

「あぐっ!?」

 

「い゛っ!?」

 

 私の説明もろくに終わらないままに、男子生徒達は注射器をアナルに差し込んでいた。そして、遠慮なくその中身を注入していく。二人とも顔を顰めていたが、女生徒の方はアルコールが早く効いてきたのか、共に媚薬も吸収されたせいですぐに顔が真っ赤になってきていた。

 

「ぁ……ふぁ……」

 

「く、ぁ……お腹、が……!」

 

 更識楯無は出すのを我慢しているようだが、女生徒の方は既に力が抜けかけている。しょうがないので、ちゃんと吸収しきるまで栓をしておこう。特殊な貞操帯と、太いアナルバイブを付けておく。この貞操帯は、アナルだけを塞ぐ役割をしている。

 

「生徒会長さんさぁ……我慢してもらってありがとうね? おかげで道具が1つ節約できたよ」

 

「こん、な……悪趣味な……!」

 

「悪趣味結構、私は私が嬉しくなる方の味方をする」

 

「くっ……!」

 

「じゃあ、この女の前でその子犯しちゃおうか」

 

 私が微笑みながら助言をする。意味は理解出来たのか、男子生徒1人が女生徒を抱えたまま、ま〇こを見せつけるようにしていた。そして、そのまま自分の肉棒を押し込んでいく。

 

「あ、ぎぃ……!?」

 

 苦悶の声を上げる女生徒。しかし、その表情は先程までとは違い蕩けていた。苦痛もあるが、それを上回るほどの快楽が彼女に襲いかかっているのだろう。もうあれは、まともな人生を歩めなさそうである。

 

「やっべ……これが女の中……!」

 

「はい童貞卒業おめでとうおめでとう」

 

 拍手をすると何か気分的に萎えそうな気がしたので、言葉だけで終わらせる。そして今度は、更識楯無の方に視線を向ける……のだが、私に気づかずすごく悔しそうな表情をしていた。これから、自分も同じような目に合わされるというのに、随分と余裕そうである。

 

「……じゃあ次、そこの女を犯していいよ」

 

「頼んだの俺らだけど、ほんとにいいの?」

 

「いいのいいの、犯したら犯す分だけこの女が不利になっていくんだから」

 

 男子生徒達は気持ちいい思いができて、更識楯無はさらに立場が危うくなっていく。これほど面白おかしいことがあるだろうか? いや、恐らくないだろう。

 

「貴方っていう人は……!」

 

「何を言っても私には届かないよ、届くはずも無いんだから」

 

 せめて私と全く同じ境遇になってから話してみるといいよ、そんなことは不可能なんだけど。好き嫌いならともかく、個人のことを語るつもりなら、それくらいしないといけない。

 

「っ……」

 

「でもこの女、あっちのやつみたいにまだ顔そんなに赤くなってねぇぞ?」

 

「我慢してるだけだよ、ちょっと突いてやったらわかりやすくなると思うよ。それに、その女はもう処女じゃないから別に無くすもんなんてまったく無いわけだし」

 

「まじかよ、あの天下のIS学園の生徒会長が処女じゃないとか!」

 

 まぁお相手は意中の彼なんだけどね。こんな所にのこのこ来てるし、ちゃんと体を差し出しているせいで全くそれに信用性がないんだけど。

 

「そうそう、だから遠慮なく犯せるって話」

 

「確かに……なら、さっさとやっちまうか!」

 

「うぐっ!?」

 

 私の言葉に乗せられたのか、男子生徒の1人は更識楯無を押し倒す。ただし正面切ってではなく、更識楯無をまるで尻を持ち上げるような体勢にしていた。これは、周りの男たち一斉に見られるととんでもなく恥ずかしい体制になっている。

 

「へへ、良さそうな穴じゃん」

 

「お、お願い! この子達を止めて!」

 

 私に懇願されても困りますお客様。それに、私が仮に止めたとしても、男子生徒達がそれを止めようとすると思うのだろうか? 私はそうは思わない。というわけで、私はじっと観察しているだけである。

 

「へへ、あの人は俺らのこと止める気は無いってよ」

 

「っ……貴方達……まだ、戻れるわよ……?」

 

「戻っても、待つのは女たちにボコボコにされる未来だけじゃねぇか。だったら、本当の俺らの力関係を解らせておいてやらねぇとな」

 

 厨二病と言われても仕方の無いセリフのように聞こえるが、このご時世だと笑えない言葉である。寧ろ、こうなった社会を放置……それに加えてそれを悪化させた責任がきっと誰かにある。

 作ったのは、勿論篠ノ之束だ。だからと言って、すべての責任があいつにある訳では無い。いや、私としてはあいつは社会的にも殺したいくらい憎い対象なのだが。

 

「いやぁ、もっと犯されてこなれておいて下さいね。これからもっと男のものを咥えるんだし」

 

「くっ……」

 

 さて、体の方の調教は男達に犯させることでも勝手に進んでいくだろうが……心はそうはいかない。心までは、どれだけ犯されても強いやつは強いのだ。だからこそ、堕とした時の興奮は他のどんなことよりも達成感がある。

 

「ふふ、これから……ずっと、ずーっと……」

 

「誰が、あなたの思い通りなんかに……!」

 

「なるんですよ、少なくとも直近のことは確実にね」

 

「……!? それって、どういう……んぶっ……!?」

 

 さて、一体どういう意味だと思います? 私が未来予知の能力を持った超能力者? いやいや、それはもう世界観が間違ってる。だったら私の思い通りにことが動いてる? そこまで頭がいい訳では無い。

 簡単な話だ。私でも予測できるくらい、簡単な話だということである。

 

「さ、目標額に向かって頑張って働いてくださいね〜」

 

 ま、この子達全員相手にしても1万円程度なのだが。それを知らない更識楯無……生徒会長の名前がきっと泣くだろう。頑張って散々泣かして欲しい所だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side楯無

 

 男の子達の肉棒が、私を取り囲んでいた。私より年下とはいえ、それでも高校生。オスの匂いというものが、私の鼻腔まで犯していた。ここまでのきつい匂いは、私も感じたことがなかった。

 

「んぶぐっ……!」

 

「口もいい感じだなぁ」

 

 口の中、膣の中、そしてまさかおしりの穴までもが犯されていた。本来なら、ここまでのことをされていれば痛みが伴うはずである。しかし、それは鬼村五十冬の持ってきた薬によって完全に感じなくなっていた。

 

「んぐ、ぶ……!」

 

 何とか耐えているけど、私の理性がだんだんと溶けているのが自分でも理解ができていた。これ以上無茶苦茶にされると、自分でも自分がどうなるかわかったものでは無い。

 

「やべ、気持ちよすぎて出そう……!」

 

「んぶっ!? 」

 

 その言葉に、冷静さが少しだけ取り戻せた。気づけば、私を犯している子達全員が、似たような反応を返していた。どうやら、全員がほぼ同時に出そうとしている様だ。私は、それを止めようとするけど……感じてしまっている体は、私に抵抗させたくないように全く言うことを聞かなかった。

 

「やべ、出る……!」

 

「ん、んー! んんんん!!」

 

 そうして、私は……彼以外の男性の精液を子宮で味わってしまっていたのであった。こんなのを飲み込んでしまって……私の体は、元に戻る事が、可能なのだろうか……

 

「へへ……まだ出来そうだわ」

 

「おれもー」

 

「っ!?」

 

「ちょっとちょっと、流石にこれは困るよ」

 

 そう言いながら、鬼村五十冬が男の子達を止めようとしていた。善意で助けてくれた……わけはないだろう。私のことをここまでしておいて、善意がまだ残っているとは到底思えない。

 

「なんだよ、せっかくいい所なのに」

 

「順番は守ってもらわないと……ほら、あれ」

 

 そう言って彼女が指を指したのは……教室の外に並んでいる人だかり……もれなく全員男性であった。目当ては……間違いなく私達二人だろう。鬼村五十冬はその男たちの方に改めて振り向いてニヤニヤと笑いながら、私達二人に指を指していた。

 

「さて、お越しの皆さんにはIS学園の生徒会長……更識楯無の具合を確かめさせていただく場とさせていただきます。隣にいる女の子は、なんか知らない間に巻き込まれた子ですので、別に味わってもらって構いませんよ」

 

 そう解説してから、鬼村五十冬は1歩引いた立ち位置へと異動する。それの直後に、男達は私達二人に群がっていく……それを見ながら私はふと、思ってしまったのだ。

『私は、織斑一夏という少年にふさわしい女だったのだろうか』と。

 しかし、それに答える者も答えを知っている者も……誰もいないのであった。



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輪姦録画

 どうも、鬼村五十冬です。ただいまとある古い学校の校舎内で、輪姦パーティが開かれています。そこにいるのは、この学校の女子生徒とIS学園の生徒会長更識楯無。そして犯しているのはこの学校の男子生徒達である。

 2人にはお酒と媚薬を混ぜたものを浣腸式で注入し、腸から直接吸収させることで無理やりのぼせ上がらせた。結果、女子生徒は完全に理性がぶっ飛ばされて虚ろな返事をするだけの快楽人形に、更識楯無はまだギリギリ理性を保っているだけの堕ちる寸前までになっていた。

 

「……」

 

「ひ、んひっ! あ、ひっ……!」

 

「あ……んぁ……ぁ、んぁ……!」

 

 そして、私はその光景をカメラで録画していた。この映像は証拠となりうるものである。まぁ、明らかに異常な状態であることは間違いがないのだが、そこはまぁまたストーリーを盛り付けていくこととしよう。これから証拠はたっぷりと用意できるんだから。

 

「はへ……あらま、ふわふわぁ……」

 

「こいつ完全に壊れてね?」

 

「まぁいいだろ、まだ結構きついんだし」

 

「おい、早く変われよ!」

 

 思春期男子の精力とは凄いもので、既に2人が相手しているにもかかわらず2〜3週はしている。結構な人数だと言うのに、それだけ回せるというのはある意味、将来有望だとでも言うべきだろうか? 

 

「こっちも……大分頭がやられてきてるな」

 

「わらひ、は……」

 

「あー、もっともっと犯してあげてね。その分頭やられて、中毒になってくるだろうから」

 

 私はそう伝える。生徒会長が、一時的にとはいえ男達に囲まれて喜んで腰を振っている姿も録画できれば、いい事である。主に私だけが。

 

「「「はーい」」」

 

 そしてこの男子達も、私の言うことをきちんと聞いてくれている……けど何か、妙に負けた気がする。何故だろう、女として見られてないような気がするからだろうか。

 そんな時である。

 

「む、こんな時に一体誰が……」

 

 ふと、私が録画していると突然私の携帯が音楽を鳴らし始める。私に電話をかけてくるのなんて、1部の酔狂な者達だけなんだけど……そう思って誰がかけてきたのかを確認すると、そこに書かれていたのは簪の名前だった。

 

「……はいはいどしたの」

 

『……今、お姉ちゃんといるの?』

 

「……? いますけど……どしたの?」

 

『……今やってること、私に生映像で送って』

 

「……はいはい、まぁここまで誰かが来ることは無いだろうし……存分に見ながら楽しんでね」

 

 私は通話をビデオモードにして、映像が映るようにしてから安定できる教卓の上に置いて、教室から出ていくのであった。まぁ、なんかあっても大丈夫でしょ。一応教室の外の廊下から覗いてるから━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「……お姉ちゃん……ふふ、いい気味……」

 

 姉の痴態を眺めながら、簪は恍惚とした表情となっていた。だが、その内段々とその表情は蕩けていき、手持ち無沙汰になっていた両手は胸と股間へと伸びていく。

 

「……ん、ぁ……お姉、ちゃん……ん、んん……!」

 

 平たい訳でもない、しかして姉と比べればないと同然だと自覚している胸を揉みながら、簪は自分の秘裂を弄っていた。簡単に言えば、姉が陵辱されている姿を見て自慰を行っていた。

 

「はぁ、ん……はぁ……!」

 

 送られてくる映像を眺めながら、姉が犯されているシーンで自慰をする。簪は自分でも何を行っているかよく分からないままに、自慰を行っていた。

 

「可愛い……よ……! 何も、出来ないで……何も守れない、で……されるがままのお姉ちゃんは……すごく、可愛いよ……!」

 

 ━━━倒錯した愛。一言で言えば、そうなってしまうだろう。姉に対する嫉妬、憤怒、恨み等の負の感情だけでなく尊敬や身内に対する安心感……それらが入り交じって、更識簪という少女が更識楯無という姉に抱いたのは、背徳感を感じる屈折した愛情だった。

『姉の恋愛が失敗の終わったところ』『好きな男がいるのに、他の男で気持ちよくなっているところ』『最強の姉が何も出来ないまま好き勝手にされるところ』そう言った姉のダメなところを見て、簪は喜びを感じていた。

 

「もっと、もっと心から折れて……壊れて……!」

 

 更識簪はヒーローが好きだ。昔から特撮ヒーロー等を好きで見ていた。しかし、生身かつ現実の人間でありながらヒーローのような行為をする更識楯無は苦手だった。嫌いだった。その内、彼女が何も出来ないまま敵に無茶苦茶にされる所を想像するようになった。負けるところを見て、自慰を行うようになった。

 好きで嫌いな相手が無茶苦茶にされていることに、背徳的な興奮を覚えた。姉に対して、屈折した愛情を向けるようになっていた。

 

「ん、ぁ……はぁ……」

 

 恍惚とした表情をしながら、簪は段々とその自慰を激しくしていく。水音は大きくなっていき、胸を弄る腕は服の中へと延ばされていた。

 

「お姉ちゃん、イきそう……なんだね……一緒に、一緒にイこう……!」

 

 顔を蕩けさせながら、指をいじる動きは激しくなっていき……そして最後には━━━

 

「はっ……ん、んん……!」

 

『んぶううううううう!!』

 

 動画で写っている姉と、ほぼ同時に簪は絶頂を迎えていた。その行為に、自分は何ら罪悪感を感じない。大好きかつ恨んでいる姉の、何も出来ない屈辱的な姿を見て自慰行為を行うことに、なんら罪悪感を持たない。

 あの天才で最強の姉をボロ雑巾のように、自慰行為のオカズ代わりにすることが最早それだけで興奮できる材料となっていた。

 

「はぁ、はぁ……ふふ……可愛くて、無様で……綺麗で……滑稽だよ、お姉ちゃん……でもそんなお姉ちゃんも大好きだからね……」

 

 愛液の付いた手で、モニターを触る簪。愛液が垂れて、画面を濡らす。その画面の奥では、楯無は未だに犯されていた。精液まみれにされて、無様にも犯されて。

 守りたかったものも守れず、自分の身も守れず、無理矢理されて感じているという屈辱的なことをされている姿は、簪に取ってとても気持ちのいいものだった。

 

「ふふ……大好きだよ、大嫌いなお姉ちゃん……」

 

 その顔は、蕩けていた。とてもでは無いが、恋する少女と言うには……あまりにも歪んでいる顔の蕩け方なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「しまった、携帯ないと時間潰しできないじゃん」

 

 おまけに時間が見れないことにも、私は気づいてしまった。腕時計でも買っておくべきだったかと、今更後悔してしまう。しかし、時すでに遅しと言うべきだろうか? 暫くは戻らない方が吉だということだけはとても理解できる。

 

「……ま、いいか。後で回収すれば済む話だし」

 

 犯されている姿を眺めながら、更識楯無が段々と余裕と理性をなくしていく様を眺めていた。順調に快楽に堕ちていっているのが、見ていて楽しいところではある。

 

「ふふ……いいザマ……」

 

 私は嘲笑する。いやぁ、結局マライアの協力もあって私は生徒会長に勝つ装備を手に入れてはいるけど、それはそれとして初日にやられた時と腕の借りがありますし? 徹底的に痛めつけてやりたいわけですよ。

 

「……にしても、私はあぁやって倒すことができるようになったけど……簪ちゃんは一体全体どうやってあの装備を突破するつもりなのやら?」

 

 更識楯無の装備は攻略方法はあるが、強力な装備であることは変わりない。その装備を突破する装備を作っているという話は聞かないし、どうするつもりなのやら私は知らないのだ。聞いても『秘密』で返されてしまうし……しかし、この返しはまるで恋人のような返しだ。

 

「はっ……まさか簪ちゃんは私のことを……!?」

 

 なんて冗談は置いておくとしても……本当に思春期男子の精力は凄いな。今1体何周目なのかすらも考えるのが面倒になってきていた。既に何度も何度も犯されているせいで、会長のま〇こから精液が逆流してきている。あれはあれでえろいので、私は別に構わないのだが……あ、写真も撮っておくべきだったかな……動画だと下手したら解像度が下がってしまう可能性あるしなぁ……

 

「……ま、映像から落とせばいいかな」

 

 と、その場のノリで決める私だったが……ぶっちゃけそろそろ私も暇を持て余してきていた。そろそろ戻っておかないと、生徒会長が何らかの理由で学校を欠席になるなんて事になりかねない。そうなると、私が問答無用で疑われかねない。

 

「……後1時間ってことは伝えておこうかな」

 

 とりあえず、私は一旦教室に入ってから盛あってる男女に、残り1時間ということだけを伝えておくのであった。まるでカラオケの部屋の扱いのようにも思えてしまった。ま、カラオケにしては随分と過激な声が流されているカラオケになっているが……それに、人数も多い。部屋も広い。

 

「さて、終わったら会長連れて戻るとして……あぁそうだ、マライアに引き継がないと……」

 

 学園には戻れない……だからこそ、マライアに引き継がなければならない。面倒だけど、仕方の無いことでもある。どうにかして、私が入っても問題ないように出来ないかなぁ……

 

「……ま、そんなこと出来たら……とっくにしてるか」

 

 出来ない、というかするわけが無い。そもそも会長が更識楯無で、教師に織斑千冬がいる時点で不可能な話なのだ。この2人が……少なくとも更識楯無が私の事を許可しなければ意味が無い。別に求めている訳では無いが、許可をするような事もないだろう。

 

「……一応マライアに連絡しとこ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideマライア

 

「……嘘、これが本当にIS……?」

 

 私はそこで驚愕していた。更識簪が作ったIS、それの性能テストのために軽く試運転をしていたのだ。しかし、その強さは破格だった。いや、強さもそうだが何よりも『更識簪だからこそ使える』と言っても過言ではない。

 私でも、なんだったら更識楯無にも使えることは間違いがないだろう。そういう、『天才に許された装備』なのだから。しかし、使いこなすためのスキルと使うためのセンスはまた別である。そのセンスを利用して、戦闘を行う……それが打鉄越式。

 

「……お姉ちゃんを倒すための攻撃パターンは、完全に頭に叩き込んでる。けどこれでも足らない……本気で戦うためには、『予想外』を無くさないといけない」

 

「……それは、人間には不可能だよ」

 

 予測というのは、知っていて立てるものだ。まだ更識楯無がどんな攻撃を行うのか、その全てを私でさえも理解していない。お姉様であっても。

 

「……だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……やっぱり、天才だよ」

 

「それは貴方も……でも、天才だけじゃあ足らないの。天才で最強の姉に勝つんだから……この程度じゃ足りない」

 

 姉に対する勝ちの欲求は、更識簪はとてもすごいものを持っていた。その感情の大きさに、私は既視感を覚えていた。その既視感の正体も、理解している。

 

「……私がお姉様に抱いてる気持ちみたい」

 

 正負どちらであったとしても、特定の人物に対する大きな感情は似ているものだ。その似ている感情を、私はお姉様に対する感情だと受け止めていた。

 

「……あながち、間違ってないかもね……」

 

 そうやって笑みを浮かべる更識簪には、もう以前のようなオドオドした態度は無くなっていた。ISが完成したことで、自信がついたのだろう。ある意味で、いい傾向かもしれない。

 

「……お姉ちゃん、待っててね……」

 

 ……ただふと思うのは、その姉に対する気持ちはどうやって整理をつけるのか、という事なんですけどね。



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少女協力

 side簪

 

 専用機持ちタッグトーナメント。過去に起こった敵機の襲来、それが何度か起こったので特訓という名目で皆のレベルを上げていこうっていう大会……専用機を持ってる私も、もちろん参戦する。

 私は、マライアと組むことになった……今日はお姉ちゃんを倒す……そう覚悟してきたんだから。私一人では組めなかった、けどみんな手伝ってくれて出来上がったこの機体で……打鉄越式で、ミステリアスレディを撃破する……今の私の目標は、それ。

 今私達は、ピットで待機している。理由としては、各ペアは同ピットで一緒にいないといけないから。

 

「……調子はどう?」

 

「バッチリ……緊張は、してるけど」

 

 マライアが話しかけてくれる。私はそれに答えるけど……ちょっとだけ嘘ついてる。調子はバッチリじゃない、むしろ不安定。でも、それは今からお姉ちゃんと戦うっていう過度な緊張感がそうさせてるだけ。

 

「……お姉様は、今回は来れない」

 

「分かってる」

 

「だから、問題が起きても来ることができない」

 

「……問題?」

 

「前にねぇ、お姉様言ってたのよ……『変なISと戦った』って……あぁ打鉄越式の材料に使われたISね。あれ、私達が出したものじゃないらしくて……」

 

「……確か、未登録のコアだったって」

 

 私が聞いたのは、五十冬が戦った後に引きずり挙げられたISのコア……それはどこにも登録されていない未知のコアだったって事くらい。でも、考えてみればおかしな話……だって未登録って事は今まで誰も発見できなかったってこと。

 それを国に見つからず動かすことなんてできるはずがないし……あるとすれば、新造されたものということでしかない。

 

「そう、未登録……つまり新しく作られたかもしれないコアってこと」

 

「でも、そうなると……」

 

 ISのコアを作れるのは、ISを作りあげた張本人である篠ノ之束ただ1人だけ。けど、彼女は織斑一夏と織斑千冬の2人と仲がいいし、妹もいるIS学園にテロまがいのことをしてきたかもしれないのだ。

 流石に、幾らなんでもそこまでしてやる意味が私にはわからなかった。仲云々以前に、死んでいたかもしれないのに。

 

「……やるメリットが、全くわからない」

 

「多分、あれは天才とキチガイの2つを兼ね備えた何かなのかもね」

 

 確かに、五十冬が言うには10年前の白騎士事件も篠ノ之束が起こしたって言ってた。日本が亡びるかもしれないのに、全世界のミサイルをハッキングすることによって発射させてそれを白騎士が全部撃ち落とす……要するにマッチポンプな訳だけど、それを篠ノ之束は行ったかもしれないのだ。

 

「お姉様は言ってたわ……自分のためなら、身内の命すらも簡単に捨てることが出来る倫理観の持ち主、しかも殺すつもりだった相手が身内だったら何事も無かったかのように話しかけていくタイプだって」

 

 私も噂程度だったけど、随分と自由奔放な人だったって聞いた。けど、自由奔放って言うだけで一学期の無人機の事件も臨海学校の時も五十冬が出会った事件も……全部ISが絡んでる。しかも、もれなく全部無人機が暴走しているもの。

 

「……サイコパス、なのかな」

 

「私も同じこと思ってるし、お姉様に至ってはあれと深い関わりを持つ織斑千冬と織斑一夏も傾向としては危ないかもしれない……って言ってた」

 

 篠ノ之束はサイコパスかも知らないけど、その2人が同じようなサイコパスという可能性はあまり信憑性はないだろう。そもそも、同じようなサイコパスだったら多分今頃IS学園にいられるとはとても思えないのだ。

 

「……そう」

 

「ま、あんまり関係ないけれどね……今はタッグマッチに━━━」

 

 マライアが未だセリフ途中の中で、突如大きな爆発音がアリーナに響いていた。私もマライアも、一気にスイッチを切り替えてことに当たろうと動き始める。

 

「何今の音……」

 

「わからない……けど、出ないと」

 

 この反応的に、多分亡国機業は一切関係のないISなのかもしれない。けど、だからといって止めない理由にはならない。それはマライアも同じみたいで、ISの調整もそこそこにして向かう気満々であった。

 

「まったく……下手にIS出すとウチが疑われるんだから、篠ノ之束にはIS作るのを辞めて欲しいよほんと……できたら苦労はしないんだけど」

 

 愚痴を言っても始まらない、私達はそのまま爆音が響いた場所にまで、ISを展開してから向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……前に来た無人機……ううん、あれの発展機かも」

 

「発展機、ねぇ……私は1年の後半に転校してきたから分からないけど……うん、あれは趣味が悪い」

 

 来たのは合計7機らしい。うち5機は同型……確か、ゴーレムだったっけ……あれが強化されたって感じ……女性のマネキンを乗せてるみたいな、はっきり言えば無機質で『怖い』機体。その内の1機が私たちの元に来てた。

 

「……腕がやばそう」

 

「同意、あれはやばい」

 

 右腕、肘から先が巨大なブレードになってる。反対に左腕は巨大になっているけど代わりに、超高密度圧縮熱線を放つ砲口が4つついてた。

 

「……で、あれは?」

 

 ゴーレムが元になっているのか、はたまた逆なのかはわからないけど……私たちの元に来たのはもう一機いた。赤い機体、赤椿よりかは深い紅ではないけれどそれでも赤い。

 両腕が大きく出ており、脚部よりも長いのか多関節上になっていた。しかし、長さと大きさがある分それがいかに凶悪なものなのかは雰囲気だけでも伝わるくらい。

 

「……あの腕以前に、私達結構危ない目に遭うかもね」

 

「それって、どう言う……」

 

「ん」

 

 そう言ってマライアはモニターが見えるであろう場所を指さしていた。私もモニターを開いて確認する……すると。

 

『敵ISの腕部から未知のエネルギー放出を確認、シールドバリアー展開に障害が発生しています』

 

「これって……!?」

 

「ISのシールドが役に立ってない……今から受ける攻撃、全部まともに体にダメージが行くって考えた方がいいよ」

 

 ゾッとする……これが本当に篠ノ之束が作ったものだと考えたら、本当に何を考えているのかわからない。ISを倒すためのISだなんて、一体どうしたら思いつくのか。

 

「さて……本当に辛いのは、これからだよ」

 

 ……私達の、辛い戦いが今始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「━━━対IS用IS、って感じ? 随分とまぁ……」

 

 IS学園の前、私はそこにいた。理由としては、ちょっとだけ簪が気になったからなのだけど……結果としては、無駄に巻き込まれてしまったと言うだけである。

 

「……回りくどい、面倒臭い……気が変わって様子なんて見にこなかったらよかった」

 

 向かい合っているISは、じっと私を見ていた。ISを展開していない私は敵じゃないと認識しているのか、はたまた……敵であるが故に待ってくれているのか。

 

「……本当に、性格が悪い」

 

 自分のことは言えない。けれど、これを作ったやつの性格の悪さは分かってる。だから、早くさっさと倒しちゃって終わりにしたい。

 というか、これゴーレムだよね……あともう一機は分からないけど……

 

「……にしても、でかい」

 

 目の前にいるのはゴーレムと、そのゴーレムよりも大きな機体。最早出てくる世界を間違えたんじゃないか、ってくらいごついISが私の前にいた。武装だと言うのは理解はできるが、早期決戦の多対戦が目的としか思えない武装の重さをしていた。でかいし。後機体は赤紫色みたいな色をしていた。

 

「……カリオストロで触れられればいいけど……」

 

 仮にどちらかに触れることが出来たとして、先に触れるとしたらゴーレムからだろう。もうひとつのごつい方なんて、近づいたら一気に殺されかねない。

 

「……戻ろうとして背中向けた瞬間、殺される可能性もあるからなぁ……仕方ない、やるか」

 

 カリオストロを展開する私。そして、展開し終わると同時に赤紫色の装甲が一斉に開いていく。嫌な予感しかしない。

 

「……嘘でしょ……!?」

 

 そして、開き終わった瞬間に開いた装甲の中からビームが放たれる。しかも、よりにもよって偏向光線……つまりは途中で曲がってくるビームだと言うのが厄介さをさらにあげる。

 

「こんなの、やってられない……!」

 

 舌打ちをする私だったけど、そんなことをしても攻撃回避が出来るわけじゃなく……私の体の中心、それ目掛けて熱線が迫ってくるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side簪

 

「簪! まだ!?」

 

 私はマライアに急かされてた。あのIS達の攻撃パターン、というか大まかな攻撃方法を覚えさせていたからだ。どんなISであっても、その機体の攻撃範囲というのはだいたい決まっている。それが分かれば、私のISは完全に無敵になる。

 

「……大丈夫、もうあと少し……!」

 

「くっ……!」

 

 マライアの防御能力を当てにしたとしても、後1分も持たないだろう。頭を回せ、冷静になれ、最適な行動を取れ。私が出来うる限りの最大限を、冷静に行え。

 スーッと頭が冷えていくのを感じながら、私はキーボードを叩いていく。音が遥か遠くに聞こえる、感覚は鋭敏になっていく、呼吸の音だけが頭の中に響く。

 

「━━━終わり、もういいよ」

 

「お疲れ様! あとは任せた!!」

 

 一旦引くマライア。2機の猛攻を盾1つでよく凌いでたと思う。普段の私なら、前までの私なら絶対にそんなことはしてなかった。きっと、怯えながら腰を抜かしてたと思う。

 

「けど、今の私なら……」

 

 赤いやつの両手、ゴーレムの巨腕から放たれる熱光線。それらが全て私に襲いかかる……が、それは簡単に防がれる。いや、私が防いだのだ。打鉄越式の力の1端、それを今起動させたのだ。

 

「完全防御機構『PERFECT・ATTAC・CANCEL』……縮めて『P・A・C』……この防御機構の前には、どんな攻撃も歯が立たない」

 

「……いやいや、エネルギーシールド……は今無効化されてるんだっけ」

 

「うん……だからこそ、余計に輝く。空気中に散布されたナノマシン一つ一つが、ビームを出すことで強固なシールドを即座に生み出すシステム」

 

 攻撃パターンを読んで、範囲を知らないといけないのはこの武装があるせいである。攻撃によっては、防御範囲を広げなければならないのと……ナノマシンに、武装を瞬時に把握させなければならないからだ。

 

「……絶対に突破はできない」

 

 私は立っているだけでいい。相手がどんな攻撃をしようとも、全て封じてしまうからだ。そして、攻撃方法は……今回は武装の一つだけでいい、瞬時に終わらせられるから。

 

「貴方達に使う武装は、この1つでいい……高速飛行砲口『ガラティーン』自立飛行して、まるでビットのように機能してるキャノンは自動で相手を追跡して……高熱の太いビームによって相手を溶かしきる……無人機用と言っても過言じゃない兵装」

 

 高音なんてもんじゃない、ビームは本来超高熱。それをかなり太くしてるから……人一人殺すのがかなり容易。滅多な事じゃ人に使うことはないと思うけど……無人機相手なら、容赦はいらない。

 私は命令を出して、その2機に向けて熱線を放たせた。

 

「……これから、ここからだよ。私達の反撃は……」

 

 熱線に焼かれた2機の爆発を見ながら、私はそう宣言するのであった。




ゴーレム以外の敵機はギアスのガウェインと紅蓮とランスロットとモルドレッドモチーフです。


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少女完勝

 sideセシリア

 

「はぁっ、はぁ……」

 

 私はとある場所に向けて、ISを飛行させていました。それは学園前に位置する場所。そこに向けて飛ばしている理由は、そこで侵入してきたIS2機と、所属不明のISが一機いたからです。

 私は、妙な期待を抱いていました。『五十冬さんではないか』と。その期待が叶えられないであろうとは思いながらも、しかしその期待にすがってしまう自分がいるんです。

 

「なんで、どうして……」

 

 そんな言葉ばかりが口から出てきては、消えていきます。彼女に対して私は色んな感情があるけれど、それでも一つだけ確実なことが……

 

「……会いたいです、五十冬さん……」

 

 その言葉に、嘘はない。殴ってやりたいし、暴言も吐いてやりたい。無茶苦茶にしてやりたいとも思っているけど、それでも抱きしめて彼女の温もりを感じていたい……私はそう考えていた。

 

「絶対、あなたなのは分かっていますからね……」

 

 確信する理由はない、けど私からしてみれば真実なんです。それが私にとっての希望でしかない、貴女に会えないのがこんなに辛いなんて、私にはわからなかった。

 初めて、こんな気持ちになった……だから、居て欲しい……いないわけが無い……そう思ってしまうのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「……ふざけんなよ、ほんと……」

 

 私は巨腕を振り回しながら、残った一機を片付けていた。はっきり言おう、ゴーレムは瞬殺した。ビーム撃たれたことにはビビったが、いやはっきり言えば死にかけたよアレで。

 けど、私は生き残った。鉄の右腕が軽くイカれたけど、装備の操作をするにはなんら支障はない……そもそもカリオストロは脳に直接繋いで、脳からの電気信号を使って操作することで、ラグを少なくする機体だ。体が動かなくなっても動かせる。

 

「ビームが鬱陶しいけど……ゴーレムとセットにするのが悪い……!」

 

 改めて思うけど、ゴーレムの腕が便利すぎる。デカいし熱光線出せるし……装備を奪えるカリオストロの力だからこそ、行えることだわこれ。

 

「……あ? 誰か近づいてきてる……ってこの反応……」

 

 見覚えのあるIS反応、学園内にいるんだからそりゃあ見知ったISの一つや二つ出てくるけれど……この反応はブルーティアーズ……セシリアだ。まぁ、学園前で戦闘行われてたらそりゃあ来るよね……つっても目の前の学園も今絶賛襲撃中な訳だけど。

 

「……」

 

「はぁ、はぁ……っ!」

 

 来ちゃった……なんて言えた雰囲気じゃない。というか、向こうは私のこの姿を知ってるわけない……けど、駄目だ。今の私は何故か……とてつもなく焦ってしまっていた。

 思ってしまう、『見られたから殺さないと』と。『見られたくなかった』と。

 

「……ここで諸共……死んでもらう」

 

「っ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

 向けられる巨腕、そこから熱線が放たれることはセシリアも知っていた。だからこそ、目の前の人物が……セシリアが言うには五十冬が巨腕を向けた瞬間に、一気に加速をして近づいていた。

 普段の彼女ではありえないほどに正確に、かつ高速で、かつ冷静に近づいていた。

 

「五十冬さん!!」

 

「……離れて、そんなやつ知らないし今は戦闘中」

 

「今の一撃は、ヘッドショットです……破壊するには至らなくても……怯ませることくらいは出来ます」

 

「……それだけ強いなら、1人で倒せばいい」

 

「いいえ、あなたがいないと私も戦えません!!」

 

「っ……!」

 

 勢いに押されていた。しかし、そうしている間にも敵機は動こうとしていた。それに気づいたパイロットは、巨腕を動かしてさらなる一撃を加える。

 

「……私の攻撃ですら通らない、貴方の射撃で倒せるの?」

 

「……貴方と私の2人なら、絶対に倒せます。えぇ、それは必ずと言っていいものですわ」

 

「……なら、手伝って」

 

「えぇ!」

 

 嬉しそうに、セシリアは笑みを浮かべていた。反対に、もう1人のパイロットは複雑そうな表情を浮かべていた。セシリアと戦うことに、彼女は何も問題は感じていないと思っていた。しかし、その心には確かに違和感という名のしこりが残っていたのだ。

 

「私が援護致しますわ!!」

 

 そう言いながら、セシリアは自慢のライフルからレーザーを放つ。それはただのレーザーではない、偏向……そのレーザーは撃ったあとに軌道を変える。

 軌道を変えたそれは、敵機の後ろから迫ってくる。しかし━━━

 

「なっ……!? 私の攻撃が……!?」

 

「……対レーザーにレーザーを持ってくるなんて、頭の悪い機体だってことはわかった」

 

 レーザーに対して、レーザーを持って立ち向かうことで無理やり攻撃を消滅させていた。さらに、ついでと言わんばかりに攻撃を同時に行う合理性があった。

 

「……あいつに立ち向かうためには、全方位攻撃を1回あいつにさせて……」

 

「無理やりぶち抜く……ですか」

 

「……そういう事。分かったのなら、さっさと一撃出来てる準備して」

 

「……私がやるんですの?」

 

「スナイパーに囮やらせるわけにもいかんでしょう……」

 

 巨腕を構えながら、パイロットは突っ込んでいく。セシリアはその背中と言葉を信用して、ライフルを構える。

 狙うは、相手の頭。先程は貫けなかったが、次の一撃は全てを貫く強力な一撃を放つつもりである。

 

「……それでいいんだよ」

 

 突っ込んだパイロットは、そのままセシリアに向かうレーザー全てを巨腕からの熱線で消しながら、懐に入り込む。セシリアに全てを任せる気はなく、自分でも全力で倒すことに専念する気なのだ。

 

「こういうのって、近接には弱い……と思いたい!!」

 

 エネルギーを無駄にはできない、自分の攻撃は巨腕を振り回す攻撃を中心になる。つまり、振り回すくらいしか出来ない。熱線を放つ時は、決める時である。

 

「はぁっ!」

 

 上からの振り下ろし、それを敵機はその巨体からは信じられないほどの器用な動きで紙一重で横に避ける。だが、それだけでは終わらせない……そう言わんばかりに、地面に巨腕をぶつけた勢いで浮き上がった体を利用してかかと落としを行う。

 

「……」

 

「ぐっ……」

 

 だが、通じない。当たり前だ、巨腕での質量で通るかどうか分からない攻撃なのだから、ただのISの蹴りではダメージが通るかどうかすら怪しいだろう。

 だが、これによって一つだけ判明したことがあった。

 

「こいつ、肉弾戦の連撃に対応できないな……!」

 

 ISでの戦いで、肉弾戦を行うというのはありえない話である。いくらなんでも、殴る蹴るの戦いをISで行うものはいない。織斑一夏ですら、そんな戦い方はしない……そうパイロットは感じていた。

 

「だったら……!」

 

 巨腕を無理やり振り回して、何とか相手の頭を掴めないかと試行錯誤し始めるパイロット。掴めれば、掴んでしまえばこちらの勝ちだからだ。

 

「くっ……この腕だけ警戒しすぎじゃね……!?」

 

 パイロットにも理由は理解出来ている。掴まれてしまったら一撃でアウトな腕を、回避しない理由がない。それ以前に、この敵機はゴーレム共に来たのだ。その驚異は嫌という程理解出来ているだろう。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 上から横から、巨腕を振り回してはその反動を使っての攻撃、その隙に腕を動かしてさらに追撃……それを繰り返していきながら、パイロットは敵機に攻撃をさせることは無かった。

 

「……はっ!」

 

「っと!」

 

 セシリアの銃撃が、パイロットの頭のすぐ横を通って敵機にぶつかる。強力な攻撃が、敵機を後ろに無理やり飛ばす。ほんの少しだが、相手を怯ませることができていた。

 

「このまま……!」

 

「倒れなさい!!」

 

 パイロットの巨腕が敵機の体を掴む。それと同時にセシリアの攻撃が、完全に敵機の頭を貫く。貫通精度を圧倒的に高めた一撃、偏向射撃とはまた違うあらたなブルーティアーズの一撃が、敵機の頭を貫いていたのだ。

 だが、それでは終わらない……終わらせなかった。

 

「追撃だオラァァ!!」

 

 巨腕から放たれる熱線が、完全に敵機を破壊する。無人機となると、頭の役割がカメラだけしかない可能性も考えられる。つまり、完全な破壊は無駄な攻撃では無い。

 

「はぁ、はぁ……っ! これで、破壊出来た……!」

 

「やりましたわね! 五十冬さん!!」

 

「……」

 

 飛んで帰ろうとするパイロット。だが、ここでふと気づく。飛んだところですぐにエネルギーが切れてISが解除されてしまう事に。このまま歩いたところで、あまりエネルギーを消費していないブルーティアーズに追いつかれてしまうだろう。

 だったら、やれることはただ一つだけである。

 

「はっ!」

 

 残りのエネルギーを全て消費することで、今出せる最大威力の熱線を巨腕から放ち、地面から破片達を飛ばしてブルーティアーズへの目隠しとすることである。

 

「なっ!?」

 

 土煙と破片、飛んできた破片を防ぐために偏向射撃によってある程度を撃ち落としていくセシリア。しかし、土煙はどうしようもない。それが晴れて無くなる頃には、彼女が探し求めてついに見つけた人物は……いなくなっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

「はぁ、はぁ……」

 

 全力で開けた途端、下水道までの道が広がったようで助かった。偶然なのかはたまた必然か……その空けた穴に入った瞬間、落ちてきた瓦礫によって道が塞がったのだ。適当に歩きさえすれば……恐らくはどこかに出るだろう。とりあえず、IS学園から離れなければならない。

 

「……セシリア……」

 

 なにを焦ったのか、何を戸惑っているのか。彼女は敵だ、道具だ、嫌いな対象だ。何を持ってして、私は彼女に正体がバレたくないと思ってしまったのか。

 

「……ちょっと、関わりすぎたかもね……」

 

 IS戦の疲れがどっと押し寄せてくる。下水道で寝るなんていう愚行を犯す前に、何とかIS学園から圧倒的に離れた位置まで移動しないといけない……と、ここまで考えて気づいた。

 どう足掻いても、マンホールから出るのは至難の業だ。破壊するのは目立つし、これは誰かに助けてもらわなければならない。けどどちらにしても目立つ。

 

「……まぁ、いいか」

 

 一旦、どこかで休もう。下水道で寝るのは、衛生上まずいのだ。ただでさえ鉄の体、異臭と不衛生さと水分の塊の下水道では私の体はすぐにダメになってしまうだろう。

 けど、やばい……疲れたから……寝そう……

 

「……こんな、とこで寝たら……風邪ひくどころじゃ、無い……」

 

 なんかの病気にかかりかねないし、私自身死にかねない。けど死にたくない、死ねない……篠ノ之束に復讐するまでは、死ねない。

 

「……早く、事件解決して……私を布団で寝かせて欲しいよ……マライア……」

 

 果たして、迎えに来れるかどうかは別として……どちらにせよ私の体が動かなくなってしまった。疲労のせいで、頭がまともに働かない。体もまともに働かない。

 

「……や、ば……」

 

 そして私は、その一言だけを残して……その鉛のように重い瞼をゆっくりと下ろしていきながら……その意識も同時に手放していくのであった。

 目を覚ました時私がどうなっているのか……その想像すらも、出来ないままに……



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少年闊歩

 side楯無

 

「くっ……!」

 

 ゴーレム、突然の襲撃……よりにもよって対ISを構築している機体との戦いなんて、私達は想像がついていなかった。

 だが、それでも私はこの学園の生徒会長として守らなければならなかった。

 

「……最後の切り札、こっちにかけるしか……」

 

 防御用に回しているナノマシンを、全て攻撃に転用する……諸刃の剣だけれど……あの固い装甲を砕くためには、やるしかない。今ここにいるのは私1人、だからやるしかない……そう思って私はミステリアスレディの武装の槍を構える。

『ミストルティンの槍』それが、諸刃の剣の名前である。それを発動させようとして……ふと、私は考える。

 

「……簪ちゃん……」

 

 無事だろうか、とふと考えてしまう。けれど、考えるのは後に回す……じゃないと安全を確かめるよりも前に自分が死んでしまう。今はそういう戦いなのだ。

 

「だからこそ……!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!? 簪、ちゃん……!?」

 

 私の妹、更識簪……彼女がISを纏って私の目の前に降りてきていた。私が知らない目……いつも何かに脅えているような態度と目線は、何がきっかけかは分からないけど、無くなっているようだった。

 

「止めてよ、まるで私が弱いみたい……ううん、実際に弱かったかもね」

 

「……無事でよかったわ」

 

「無事でよかったね」

 

 冷淡に返されるけど、それでも心強いことには変わりなかった。けど、どこかおかしい……彼女の目は私を見ているけど()()()()()()()

 

「ねぇ、お姉ちゃん」

 

「な、何?」

 

「2人でISの勝負しよっか……この後」

 

「え……? ゴーレムを倒してから、って事……?」

 

「うん……あぁ安心して、学園内に残ってるゴーレムはあれで最後だよ」

 

「最後……って……」

 

 侵入してきた機体は合計7機、その内2機はゴーレムじゃないらしかったのだが……私の目の前にいるゴーレム以外、その2機と残りのゴーレムの反応が全て消えていた。どうやら本当に倒されているようだった。

 

「一機は私とマライア、違う機体も倒したよ。もう一機は織斑一夏と束博士の妹さんが相手してたみたいだけど、横槍を入れて私が倒した」

 

「3機……」

 

「今目の前にいる一機を除いて残り二機、一機は学園入口でもう一機は他の先輩が倒したみたいだよ」

 

「……どうやって」

 

「普通に、幾ら硬いとは言っても熱を通せば倒せる相手……こっちには、ゴーレムの装甲を溶かせる武装が備わってるんだもの」

 

 いつの間にここまで強くなったのか、いくら強力な武装があったとしてもそれを使いこなせる腕が無ければ、無いのと同じである。つまり、私の妹はそれをちゃんと使いこなしてるということに……

 

「……じゃあ、一瞬で倒すから……ちゃんと見ててね?」

 

 そう言って、私の妹は自分の前に……コンソールを出していた。パソコンのキーボードの様なそれを、まるで演奏するかのように簪ちゃんは叩いていく。

 

「ただ超高熱を発射したところで、ちゃんとかわされるのは分かってる……だから、動けないように……ちゃんと仕留める」

 

 両肩にマウントされていた大きな砲口が、中に浮かぶように飛んでいき、高速で移動を開始する。ゴーレムは簪ちゃんに向かって真っ直ぐ飛び込んでくるが、簪ちゃんは熱線をそれぞれの方向から放っていた。

 それはいとも簡単に回避されるけど、突然何かに当たったかのように熱線が反射するかのような……いや、何かにぶつけて角度を変えていると言った方が正しいだろうか。

 

「完全防御機構、本来私を守るために散布しているナノマシンだけど……放たれた熱線の角度を変えることが出来る。これでどんな所に飛ぼうとも絶対に当てられる……()()()()()()()()()()()()()()

 

 1度や2度の反射では無い。まるで熱線そのものが追いかけているかのように動いていき、あっという間にゴーレムの装甲を焼いていた……そうして焼かれ溶かされたゴーレムは、そのコアだけを残してこの世から姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簪ちゃん……」

 

「……どう? お姉ちゃんボロボロだけど……私のおかげで、それ以上の怪我をしなくて済んだでしょ?」

 

「……貴方、その装備をどこで……」

 

「どこって……日本だけど?」

 

「嘘よ、貴方がそこまでの装備を手に入れるのははっきり言って難しいはずよ」

 

「うん……私一人だけじゃあ難しかった……心優しい人から、貰ったの」

 

 ……嘘を言っているようには見えない、ううん。多分嘘は言ってない。心優しいっていうのは、簪ちゃんの主観だから除くとして……日本で手に入れたって言うのは嘘じゃないはず。けど、じゃあ……一体どうやって……ということに行き着いてしまう。そうなると、必然的に私は考えたくもない結論に行き着いてしまう。

 

「簪ちゃん……幾ら簪ちゃんと言えども……やっちゃあいけない事をやってるのだったら、私はあなたの敵になるかもしれないのよ?」

 

「いいよ? 仮にそうなったとして……じゃあどうするの? 楯無の家から追放?」

 

「追放だけで済めばいいでしょ……最悪、世界各国から追われる身になるのよ?」

 

「……うん、そうなったら困る。アニメ見れなくなるから」

 

 困る理由が少し思うところはあるけど、私の言ったことに否定を入れない。けど、否定を入れないのが私の心を乱すためなのかは分からない。私は、こんな簡単なことさえも見破れないほど……妹の心が分からなかった。

 

「……けどさお姉ちゃん、そんなお姉ちゃんの言葉を誰が信じるの?」

 

「え……?」

 

「知らない訳じゃないんでしょ? お姉ちゃんがロシアから代表の座を剥奪されたこと……あぁでも、表向きはまだ代表生のままだっけ?」

 

 くすくすと笑う簪ちゃん。その笑みは、私たちが昔一緒にいた時の簪ちゃんの笑顔じゃなかった。

 

「……ねぇお姉ちゃん、私ね……お姉ちゃんを含めて更識の家が大っ嫌いなの」

 

「いきなり、何を……」

 

「お姉ちゃんが嫌いなのは、前から知ってるでしょ? でも、私は更識家が大っ嫌いなの。今すぐにでも滅ぼしていいなら、滅ぼしたいくらい」

 

「そんな……」

 

 好きではないのは分かっていた。何だったら、大っ嫌いと言うことでも私は違和感を覚えなかっただろう。しかし、彼女は言ったのだ。『滅ぼしたい』と。

 

「嫌いだよ、実力があるからと言っていばり散らして、娘のレールを勝手に決めようとするあの家自身が」

 

「……だからと言って、テロリストに手を貸すなんて……」

 

「世界が間違ってるから、テロリズムがおかしく見える。世界を正そうとする動きがあってもおかしくないんじゃないの?」

 

「っ……」

 

 これで、簪ちゃんがテロリストに手を貸したのはほぼ事実と言っても過言では無いだろう。考えたくなかった、考えるわけもなかった……けれど、ならばこそ……止めなければならない。

 

「……私が貴方を止める」

 

「……いいよ? けど……お姉ちゃんがもし負けたら……生徒会長の椅子は貰うからね」

 

「絶対に勝つ」

 

 それが、姉の私が唯一できることなのだから━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideマライア

 

「山田先生! こっちもけが人はいないです!」

 

「ありがとうございます! では次はこちらに……!」

 

 今私は、1組の山田先生と共に救助者が居ないかを確認しあっていた。まぁ、はっきり言えば私が山田先生を連れ出したんだけど……救助者がいるとは思えない。それでも連れ出した。心配なのでは無い、これから起こることのために、山田先生を利用させてもらうためである。

 

「……あれ?」

 

「どうしました?」

 

「山田先生、ここに何かあります!」

 

 手を突っ込んで、私はそこから謎の機械を取り出す……はっきり言わせてもらうが、こんな所に機械なんて置いてあるわけがない。予め仕込んでいたわけでもなく、上半身を突っ込んでから服からそれを取り出して、そして手に持つ。

 

「何があったんですか?」

 

「これなんですけど……」

 

「これって……」

 

「……何でしょう?」

 

 分からないフリをするが、私自身はちゃんと理解している。今山田先生に渡したのは、盗聴器だ。しかし、流石にここで教師をやっている山田先生ならば分かるはずである。

 

「……一旦こちらは預かります」

 

「分かりました……それと、ここにも怪我人などはいないみたいです」

 

「分かりました、では次に行きましょうか」

 

 そう言って、私達は新たな場所へ向かう。

 さて、なぜ盗聴器を渡したのか……という話だけど……今IS学園にはゴーレムとその他2機のISのコアがある。どこかの国が寄越したものでなければ、おそらく新造されたISのコアかもしれない……そうなると、そのISのコアを巡って戦争が起きかねない。だったら、IS学園で保存しておいた方がいいのは簡単な話である。

 ま、それは報告しないで……そのまま黙って持っておく可能性もあるけれど。もし黙ってコアを回収したままにしたら……色んな国にボイスデータ流しちゃおうかなって。

 ま、この盗聴器も……ちょっと複雑なものにしてあるんだけどね。さて、どうなるかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「……全部で回収出来たコアは7つ、つまり全てです……どうしますか?」

 

 IS学園地下特別区格……教師ですら一部の人間しか知らない場所である。そこで山田真耶はコアの解析をしていた。結果としてだが、コアは全て回収が終わっていた。

 そして、その場には織斑千冬がいた。

 

「政府には全て破壊したと伝えろ」

 

「で、ですがそれでは……」

 

「考えてもみろ、不要な争いの種になる……ないと伝えるほうが無難だ」

 

 正論である。しかし、ISのコアの隠蔽ということはそれはつまりIS学園を危険に晒すということでもある。

 

「何……いざとなったら私が守るさ、学園の一つや二つな」

 

「……はい……あ、それと……これを」

 

 真耶は、とある写真を千冬に見せていた。それはマライアから預かった盗聴器だった。

 

「これは……盗聴器か?」

 

「はい、マライアさんから預かったものです……今は破壊したものを別室に移していますが、報告を」

 

「そうか……しかし、盗聴器を素直に渡すとは思えんが……」

 

「それは私も思いました……」

 

「……なにか企んでるのかもしれない、壊して正解だな」

 

 そう、盗聴器だと分かったら先ず壊すことが優先である。だからこそ真耶は地下特別区画から離れた場所で、破壊を決行したのだ。実際、バラバラになった破片を真耶は見ていた。確認もした。だからこそ、その破片をチリひとつ抜けることが出来ないような場所に今現在は保管している。

 だが、真耶は……否、2人は全く予想していなかった。破壊を行うよりも以前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideマライア

 

 打鉄越式の完全防御機構……ナノマシンを使った防御システムだけど、そのナノマシンは一体どこから来たのか? 簡単な話、作ったのだ。私が、自分で。

 その9割を一旦は簪に渡した。実際、9割もあれば稼働に十分だと判断したためだ……だが、残った1割はどうなったか? ナノマシンというのは、命令さえ与えればどんな形にも変身する。そう、どんな形にも、だ。

 

「ちゃんと聞こえてましたよ、山田先生〜」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そもそも山田先生に渡した盗聴器が、残り1割のナノマシンで構成されたものであり、それを掌で触ってる時点でアウトだ。触れてる部分は、残り1割の中の3割ほどになる。そこから山田先生の服に移動させたら、それで終わりである。

 

「ふふ、ナノマシンなんて作ったの初めてだったけど……生徒会長さまさま……かな……いい見本を手に入れたよ、ほんと」

 

 水を操る、攻撃を弾く、そして物への変身……ナノマシンは本当に可能性の塊である。ま、単調な命令しか出来ないのが玉に瑕だけど……

 さて、このボイスデータ……各国のお偉いさんに流してみようかな……なんてね……




個人的な事情によりこの時間の投稿です


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少女交代

 side? 

 

 ゴーレム襲撃事件から数日経ったある日の事。全校生徒は集会として集められていた。無論、教師達もなにも知らされていない。そうなれば当たり前の話だが、生徒達も何も知らない……少なくとも、今壇上にいる生徒達を除けば、だが。

 

「……何だ、これ……?」

 

 この学校唯一の男である織斑一夏、彼もまた困惑しながらもこの周会に集まっていた。しかし、彼は妙に嫌な予感がしていた。まるで、知らない間になにか大切なものを無くしてしまったかのように。

 

「……生徒会長から、挨拶があります」

 

 そう読み上げたのは、2組の専用機持ちであるマライア。それだけで会場はどよめいていた。何故ならば、彼女は別段生徒会メンバーでもなければ身内がいるという話もないからだ。

 かと言って、つい最近こちらにやって来たのだから代理を任せられるほどの友人関係を生徒会と築けているとも思えない。だからこそ、場は混乱していた。

 そして、少し大人しめな足音ともに……壇上には『更識簪』が立っていた。それにより、会場はさらに困惑が拡がっていた。

 

「━━━静粛にお願いします」

 

 簪のその一言により、場が静まりかえる。その目には、確かな覚悟と決意がみなぎっているように感じられたからだ。

 

「……前生徒会長更識楯無は、この学校から去りました。まず理由として、彼女はロシア代表の座を降ろされたからです」

 

 また、どよめきが拡がっていく。だが簪はそれを静かにはさせずそのまま語り始めていく。

 

「ロシア代表を剥奪されたからといって、生徒会長を下ろされる訳では無い……しかし、彼女は『専用機を使っている』状態で私に負けました。つまり、私が更識楯無を倒した……という事になります」

 

「証拠の映像もございますので、確認したい方は生徒会室までこの後お願い致します」

 

 マライアの一言が添えられる。聞こえているのか聞こえていないのかは関係なく、言うことこそが目的なのだから。

 

「……とは言っても、ほとんど前と変わりません私が更識楯無を倒したのは、学園の乗っ取りを計画していた……という訳では無いのですから」

 

「━━━じゃあ、なんのために?」

 

 その一言が、2年生が集まるところから聞こえてくる。彼女達は更識楯無と同期である。思うところはあるかもしれないが、それが理由で彼女を生徒会長の座から下ろそうなどとは考えたこともない。

 

「『更識楯無の織斑一夏の独占、並びに専用機持ちの独占』これは誰も大声では言えませんでしたが、しかし確実に思っていることがあったと思います。

 生徒会長である彼女が、生徒会長権限を利用しての独占は許されないことです。織斑一夏を例に上げましたが、要するに彼女はその権限を使って好き放題やってきた……それを認められない者も、居るということです」

 

「だけど、彼女は学園のために━━━」

 

「貴方は、国の為にやって来ていたなら国を私物化していいと? 国民を私物化していいと?」

 

「それは……極論だわ!」

 

「極論でも正論、1組織のトップがその組織のメンバーを好き勝手にする権限はない……それではただの独裁者だ」

 

 簪の目線に、2年生は言葉に詰まっていた。そして、同時に彼女を知る1年4組のクラスメイトは、変わり果てている彼女を見て畏怖していた。

 

「私はそうならない……そうならない為にも、私は私自身だけで動くなんてことはしない。学園のことは、教師と生徒で解決しないといけない……問題を共有しないといけない」

 

「……だったら、どうするんだ?」

 

 言葉を発したのは、織斑一夏だった。その目は、怒っているわけでもなく、悲しんでいる訳でもない……ただ、じっとみているだけだ。

 

「……私は、生徒会長という立場に立った。けれど、それをみんなで解決できるような学園にしていく。前生徒会長更識楯無は、最強であるか故に全てを1人でこなした。

 だけど私は……全員で全てを解決できる……そんな学園にしたい」

 

「━━━だったら、やってみて欲しいっすね!」

 

「……2年生専用機持ちの、フォルテ・サファイアさんですか……」

 

 フォルテ・サファイア。専用機『コールドブラッド』からの一撃を、簪に浴びせようと動く。それと同時に、彼女とコンビネーションが抜群のもう1人……3年生、ダリルケイシーの『ヘル・ハウンド・ver2.5』の攻撃が狙ってくる。

 

「これを止めれたら……!」

 

「……無駄ですよ」

 

 攻撃を仕掛けようとした、2人の動きが止まる。それは2人が止めているのではなく、2人も意識していない停止だった。それ以前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……!?」

 

「動けない、動かない……例え武器を出したとしても、それを持つことさえ叶わない。更識楯無が持っていたISは、ナノマシンを使って水を動かしていたけど……私は、()()()()()()

 

「まさか、ISの装備で……!?」

 

「私の前では、どんなことをしようとも……止められる。それは絶対」

 

「……はっ……! 貴方達! 何をしているの!!」

 

 いきなり動きの止まった二人に、唖然としていたが……ここでようやく教師陣が、教壇に上がってくる。反撃をしていれば、簪もおそらく懲罰対象だったかもしれないが、今回は攻めてきた2人が説教の対象となっていた。

 

「……まぁ、そうですね……あと一つだけ伝えておきます。現生徒会……いえ、前生徒会長更識楯無が作った生徒会は一時的に解散します。その後、私が選んだメンバーを元に一時的に再編成します」

 

「なっ……!?」

 

「これはあくまでも、一時的な措置……但し、前生徒会メンバーの生徒会役員入りは今後認められないものとします」

 

「……更識、生徒会長と言えどもそれ以上の好き勝手が出来ると思っているのか?」

 

 今まで黙りを決め込んでいた織斑千冬だったが、壇上に上がってきて簪を見据える。以前の簪ならば、それだけで恐怖してしまい腰を抜かしかねなかったが、今の簪はそれでは怯まなくなっていた。

 

「好き勝手にするつもりはありませんよ、けれど私は前生徒会長が好き勝手やってるのを見過ごしてきた生徒会メンバーを、加えたくないだけです」

 

「それが認められないと言っている」

 

「決めるのは先生じゃありませんよ、勿論私が倫理に反していた場合はその限りじゃないですが……少なくとも、生徒会役員としての責務が果たせていなかった者達は資格がないと言っているだけです」

 

「お前の選ぶメンバーに、それがあるとでも?」

 

「なかったら切るだけです、私は皆で解決出来るIS学園を作るつもりですが、その為にも引っ張る役回りが必要……その引っ張る役割、資格がある人を生徒会に入れていこうとしているだけなんですから」

 

「言うようになったな……小娘が……」

 

 キッと睨みつける千冬、その視線にも怯まずに簪は淡々と返事をしていく。蛮勇でも、無謀でもない。それは、簪にとっての覚悟の現れなのだから。

 

「だったら、せいぜい見させてもらおう……但し、見方によっては即座に解体と再編成を行うからな」

 

「えぇ、先生のお眼鏡に叶うように頑張ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、2週間程が経過した。織斑千冬が危惧したような事は一切起こらなく、また新しい生徒会になったとしても特に問題は起こらなくなっていた。

 あえて違いをあげるとするならば、織斑一夏の扱いの違いである。まず、教師を含めて彼の部屋に入ることは無断また許可されているものであっても禁止となった。連絡事項なら通信機器でも問題がなく、また彼の部屋に侵入する女子がこれまでに大勢いたのと、その度に彼の部屋のものが壊れるため……という表向きの目的があった。

 

「生徒会長、資料まとめたよ」

 

「ありがとう」

 

「はいはい、これでいいっすか?」

 

「うん、ありがとう」

 

「……3年生なんだけどな」

 

「いいの、私が選んだんだし」

 

 因みに、新しい生徒会役員として4人のメンバーが今は選ばれている。

 生徒会長、更識簪。生徒会副会長、マライア・香取。書記フォルテ・サファイア。会計ダリル・ケイシー……となっている。

 

「……ところで生徒会長、庶務が居ないみたいっすけど?」

 

「いいの、そこに入る人は決まってるから」

 

「へぇ……ならなんでここに参加させないんすかね?」

 

「今はいないから……ちゃんと、タイミングが整えば……庶務に改めて参加させるつもり」

 

「いない……?」

 

 簪のその目がどこを見ているのか、誰のことを思っているのか……フォルテにはそれが分からなかった。しかし、きっと……フォルテにとってのダリルの様な人物なのだろうか、と思うのであった。

 

「……にしても、なんでこの2人?」

 

「……私が必要だと感じただけ」

 

「あっそ」

 

「それに……きっとケイシー先輩は意味が理解できるはずだけど?」

 

「……」

 

「へ?」

 

 サファイアは何が何だかという表情になっているが、ダリルは簪をじっと睨みつける。その内、ため息を軽くついてニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ほんと、面白いな」

 

「そう言って貰えると、まぁ嬉しいですかね」

 

「どの口が言うんだか……」

 

「さて……今回の議題は━━━」

 

 簪が取り出した資料には、『修学旅行』の四文字があった。それに関して、まだ一波乱がある事を皆感じていた。そしてその中心にいるのが……1人の少年だということも、理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 一刺し、二刺し、三刺し……突き刺して突き刺していく。とまぁ、ポエムっぽい言い回しだが……私は別の依頼を受けていた。とある国にいる、とある人物の暗殺である。別に、どこぞのお偉いさんという訳では無いが……どうやら運悪く亡国機業の誰かがこの殺害対象に仕事を見られていたらしい。

 

「まったく……内密にしておきたい仕事なら、さっさとしておけばいいのに」

 

 わざわざ人気のない路地裏まで連れてきたのだから、殺し安くなくては困るのだが、存外暴れられた。人間、心臓刺しても案外動けるものなんだなって。

 

「━━━あ、あんた何やってんの……?」

 

「……はぁ、ほんと……私も人のこと言えないか……」

 

「ち、近づかないで! 私はISを持ってるのよ!?」

 

 そう言って、目の前にいる女は手首にあるブレスレットを見せる。いや、アホでしょ……専用機持ちだったら……いや、それ以前にISを使う人物ならまず私の拘束をする。見た目的に学生という訳でもないから、IS持ちというのはブラフだ。

 

「これだからIS社会は嫌いなんだけど……」

 

「ひっ!?」

 

「あぁ、そうそう……その方法あんまり取ってると……こういう風に自業自得な目に遭うよ」

 

 私は一気に近づく、近づかれると思ってなかった女はそのまま反応が遅れて一気に私の接近を許す。そのまま、私は女の首をナイフで軽く切り裂く。それだけでいい、それだけで死ぬだろう。けどトドメで心臓と腹にも突き刺しておく。

 

「……終わり、今度こそ」

 

 完全に人がいないことを確認してから、私は何事も無かったかのように路地裏から出ていく……にしても、結構奥深くまで潜ってたのに運悪くこんな深い所まで来るなんて……不憫な女。

 

「……はぁ、IS社会の闇だよねあれほんと……なんですぐにバレる嘘をつくのかな」

 

 そもそも、あのブレスレットって織斑一夏の白式をモチーフにした物だった。そんなのを見せつけてIS持ちだなんて、よく言えたもんだ。

 

「……さて、次は日本の京都だったかな」

 

 IS学園は、修学旅行の季節だ。私も、マライアたちに合流する予定である。それに、実は私よりも前にIS学園にいた先輩がいるらしいから……その人とも合流しないとね。

 

「さて、待っててね……マライア」

 

 任務の内容は……さて、どうなることやら……




一応楯無は死んでないですよ、えぇ


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電脳侵入

 side? 

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ、そしてシャルロット・デュノアの2人は共に歩いていた。本来同室の2人だが、流石にいつも二人一緒という訳では無い。

 なぜ二人で歩いているのかというと、先日のゴーレム襲来の事件の際に、何人かのISは大破していたのだ。そして、大破したISがあるということはしばらくISを使えないということ、そんな中で狙われてしまえば一溜りもない。

 故に、専用機持ちが2人以上常に行動するように義務付けられたのだ。一応緊急防御システムがあり、持ち主に危険が及ぶと即座に展開されるようにはなっている……のだが、今は修復のために普段の待機モードではなくパーソナルロックモード……つまりある程度ロックがかかっている状態になっている。この状態だと、緊急防御システムが作動しづらいという弱点があるのだ。

 

「……その、ラウラ」

 

「何だ……?」

 

「……最近、行ってないけど……大丈夫、だよね? 僕達……」

 

「……大丈夫、大丈夫だ……」

 

 ……そして、2人は鬼村五十冬の手によって男達に嬲られている。無理矢理の快感を感じさせられていたのだが、ココ最近はそんなことは無くなっていた。

 鬼村五十冬が居なくなったことで、従う理由もない……とラウラは自分を安心させるために必死に思い込んでいた。シャルロットは、いなくなった最初こそ五十冬に情報を貰うために必死だったが、本人からの連絡が繋がらなくなったため、行く必要がないと判断して……逃げていた。

 

「……っ!?」

 

「防御シャッター?! 何で降りてるの!?」

 

 だが、そんな話をしていた時に突然停電が起きる。まだ昼間なので明かりには困らない……と思ったのもつかの間、今度はIS学園の防御システムであるシャッターが降りたのだ。そして、そこから本来は非常電源に変わるはずなのだが……一向に変わる気配がなかった。

 

「……シャルロット」

 

「うん、非常電源までつかないのはおかしいよ」

 

 すぐさま、2人はISを展開する……と言っても、視界確保のためのローエネルギーモードである。ISのステイタスウィンドウを暗視モードに切りかえて、温度センサー、動体センサー、音響視覚化レーダーナドノ機能をセットしていく。

 

『箒だ、デュノア、ラウラどこにいる?』

 

 箒からの通信、それぞれが返事をしていると割り込み回線が入り込む。

 

『専用機持ちは全員地下のオペレーションルームへ集合。今からマップを転送する、防壁に遮られた場合、破壊を許可する』

 

 織斑千冬の声が聞こえてきた。先のゴーレム事件から、ほとんど間をあかずに……どうやら新しい事件が始まったようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「現在、IS学園は全てのシステムがダウンしています。これは何らかの電子的攻撃……つまりハッキングを受けているということになります」

 

 IS学園地下特別区画、オペレーションルーム。そこで今現在、織斑一夏を除いた1年生の専用機持ち達と織斑千冬、そして山田真耶が勢ぞろいしていた。

 因みに、織斑一夏は先のゴーレム事件で白式が破損しているために白式の開発所……倉持技研に行っている最中である。

 

「今のところ、生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じ込められることはあっても、命に別状がある訳でもありませんし、閉じている防壁も1部だけのようです」

 

「現状で質問のあるやつはいるか」

 

「はい、IS学園は独立したシステムで動いていると聞いていましたが、それがハッキングされることなど有り得るのでしょうか?」

 

 ラウラが挙手を行う。その疑問は至極その通りだが、千冬は首を横に振る。

 

「それは問題ではない……問題は、現在何らかの攻撃を受けているということだ」

 

「敵の目的は?」

 

「それが分かれば苦労はしない」

 

 ラウラも、その言葉に納得して質問を終える。その後質問ないことを確認してから、真耶は作戦の説明へと移行した。

 

「それではこれから簪さんを除いた専用機持ちの皆さんは、アクセスルームに移動。そこでISコア転送ネットワーク経由でダイブをしてもらいます。簪さんは、それのサポートをお願いします」

 

 真耶が告げた言葉に唖然となる簪を除いた専用機持ち達。その事に気づいた真耶が、首を傾げる。

 

「あれ? 皆さんどうしたんですか?」

 

「「「で、電脳ダイブ!?」」」

 

「はい、理論上可能なのはわかっていますよね?」

 

 本来はアラスカ条約で規制されていることなのだが、今回特例なので行うことが出来る……というのが簡単な説明である。

 しかし、理論上可能かつ今は行える……ということを専用機持ち達は聞いているつもりは無い。そもそも、行えないものをするという発想を持ち合わせていない。

 

「電脳ダイブ自体に危険性はない、しかし……まずメリットがない。どんなコンピューターであれ、ISでの電脳ダイブよりもソフトやハードをいじった方が早い」

 

「……それに、電脳ダイブ中は操縦者が無防備。何かあったら困ると思いますが……」

 

 ラウラの言葉のあとから、簪が続ける。簪自身も、この電脳ダイブに意味があるとはとてもじゃないが考えていなかった。

 

「それに、専用機持ち達を1箇所に集めるというのはやはり危険では?」

 

 そして、箒がもっともな発言を行う。色々と理由もつけられるが、1番はここである。何故複数人もいる専用機持ち達を集めているのか、それが理解出来ていないのだ。

 

「ダメだ、この作戦は電脳ダイブでのシステム侵入者排除を絶対とする。異論は聞いていない、嫌ならば辞退するがいい」

 

 その言葉に、誰も辞退を申し出る者はいなかった。それを確認した後に、千冬は手を叩いて指示を出し始める。

 

「よし! それでは電脳ダイブを始めるため各人はアクセスルームへ移動! 作戦を開始する!!」

 

 その言葉によって、全員が移動を開始する……のだが、マライアだけはその場から離れなかった。

 

「……お前には別任務を与える。このハッキングとは別の部隊が、侵入してくる可能性がある」

 

「敵ですね」

 

「あぁ、お前のISはそこまでの深手を負っていなかったはずだ。頼むぞ」

 

「了解しました」

 

 マライアはそう言って部屋から出ていく。簪はマライアのサポートも行うため、ISを1部展開させて打鉄越式のナノマシンを学園中に散布させていく。

 量が学園を覆えるほどある訳では無いが、マライアとは別のコースを移動させることは出来る。因みに、これは千冬の指示ではなく……簪自身が行っている事である。

 

「……ぼんやりしている暇はない、私達も急ぐぞ」

 

「はい!!」

 

 そして、残された2人も最後に部屋から出て準備に取り掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideマライア

 

「……本気展開、する必要ないもんね」

 

 朱雀・翼を展開しているんだけど、理由としては敵がISを装備していない可能性が高いから。それに、装備していたとしてもそこまで強い装備を持ったものを送り込むことはまずありえないという考えから。

 だってここには世界最強と名高い織斑千冬がいる。あれを倒そうと思う奴がいたら、9割が相当のバカだ。

 

「……ね、貴方達もそう思うでしょ?」

 

 そう言って私は目の前にいる『敵』に向かう。銃やらなにやら装備してるけど、それが通用するのはISが配備されていない軍隊だけ。少なくとも、IS学園においては普通の生徒たちが相手でも多分勝てないだろう。無論、ISを装備していることに限るという話なんだけど。

 

「小娘が……いきがるなよ!!」

 

「いきがってないけど……まぁ、安心してよ殺す気ないから……それに、学園を血で汚したら私が殺されかねないし」

 

「この……!」

 

 敵はライフルを構える……けどそれは発砲される前に、銃口やらなんやらがバラバラに切り裂かれていた。もちろん、私がそうさせたんだけど……相手からしてみればとんでもない恐怖に違いない。

 

「ほらほらー、逃げろ逃げろー?」

 

 丁寧に丁寧に……私は相手の武装だけを切り裂いていく。とは言っても、最初にライフルを切り落とした時点で勝負はもう決まっていたようなものだと思うけど。

 

「くっ……! 退け! 退けー!!」

 

「そうそうそれでよし」

 

 敵はまだまだ来ている。私も対処しないといけないんだけど……というか、このハッキングしたのなんて誰かは明白でしょうに。ISを作った、というだけで無駄に信用されてない? 

 あの人間性は邪悪そのものだと思うんだけど私……ま、ほとんど会う人はいないから疑わないんだろうけど……にしても、織斑千冬はあの女を止めようともしないのね。いや、止められないのかな? 人の言うことを聞くようなタチじゃないと思うし。

 ……ともかく、今からでも遅くはないし……さっさと止めてあげますかね。ここの敵達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side簪

 

「……」

 

 私はサポートをしながら、織斑先生と山田先生の動向を探ってた。単純に敵の姿を確認したかったというのも大きいけれど、それ以上に相手がどれだけ強いか……彼女の敵であるあの二人を、どう攻略するかを考えないといけなかったから。

 

「……それでも、随分と人間離れしてる……」

 

 織斑千冬はISを身にまとっていない。逆に、相手は身にまとっていた。普通に考えて、通常兵装ではISに勝つのは不可能。逆に言えばI()S()()()()()()()()I()S()()()()()()()()()()

 今織斑先生は、ISの装備を生身で装備してた。ブレードよりも細い剣……いわゆる『カタナ』を。IS装備を身にまとっている時点で、人間かどうかを疑いたくなる上に、相手に善戦しているのだから余計に意味がわからない。

 とは言っても、カタナはボロボロ……善戦している理由は、相手が絶対防御に頼りきっていたために、首に巻きついた紐に反応が遅れたこと……である。戦い方が恐ろしい。

 

「それに、山田先生の方は……」

 

 むしろ、彼女の方が恐ろしいまである。ISと戦っている織斑先生も相当だが、相手が舐め切ってなかったらもう少し苦戦していただろう。

 けれど、山田先生は違う。

 

『クアッドファランクス!!』

 

 移動を捨てたと言っても過言ではないほどの重武装。口径25mm7砲身ガトリングを4門搭載したパッケージである。その攻撃力は、まさかのISの絶対防御を飽和させてしまうようで……

 

「……あれは、なかなかに強敵……」

 

 あれをくぐり抜けるのは、なかなか至難の業のように思える。多分、私の越式でも厳しい。まともに勝負するなら……って話だけどね。さて、私は……色々サポートをしてあげないとね。これでもIS学園の生徒会長、電脳ダイブした皆を誘導してあげないと……

 

「……ハッキングされてるから……なるほど、役割を演じないといけないってこと……」

 

 にしても、専用機持ち達が全員かの有名な童話……不思議の国のアリスの格好をしているのが、また煽っているように感じられる。何故そんなめんどくさい事をさせているのかが、私には理解できない。

 

「……とりあえず、織斑君が戻ってくるまででいいかな」

 

 大体アニメだと、こういう場合最初に入った味方はその世界の餌食になってしまって……そのあとから来る人に助けられるっていうのが一般的だ。

 

「……早く戻ってこないと、色々と面倒になっちゃうよ」

 

 私一人では解決できない。サポートはするけど……電脳ダイブしていない以上、出来ることが少なすぎる。1番いいのは、マライアが無事に戻ってきてくれることなんだけど……

 

「……ま、なるようになるよね」

 

 そう言って、私は予想通り専用機持ち達との連絡がつかなくなったことに辟易しながら、誰かが来るのを待つしかないのであった。



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深層電脳

 side? 

 

『状況確認。篠ノ之箒、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ……潜入、別離完了。これよりワールド・パージを開始します』

 

 声が響く。そこは誰も訪れていない空間、しかし電脳ダイブをした専用機持ち達を翻弄しているのは、ここにいる一人の少女だけである。綺麗な銀髪……そう、例えるならラウラのような髪をした少女である。

 

『ワールド・パージ……完了……』

 

 その声は響く、響いている。しかし、ただ一つだけ拭えない違和感がそこにあったのだ。篠ノ之箒、そしてセシリア・オルコット。彼女達にだけ妙な違和感を覚えてしまっていた。

 

『……ほんの少し、ほんの少しだけ……ワールド・パージの効力が低い……』

 

 ワールド・パージ。外世界から人の意識を切り離して、その人物が強く望んでいることをその世界に表す技術。電脳ダイブならではといったものだろう。

 

『……これは、一体……』

 

 全員外世界からの切り離しは完了している。だからこそ、彼女達2人だけ妙な違和感があるのが気持ち悪かったのだ。しかし、その空間を進んでいく内に……彼女はようやく目的のものを発見する。

 

『見つけた……これが織斑千冬専用機……暮桜のコア……』

 

 氷漬けになったそれを眺めながら、少女はただ一言だけそう伝えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideセシリア

 

 私はセシリア・オルコット。世界のほとんどで活躍しているオルコット家の令嬢で、この学校……IS……いえ、女学院の生徒会長をしていますわ。けれど、この女学院では私がオルコット家の令嬢と言うのは黙っていますの。

 だってそうなれば、私を見る目が『セシリア・オルコット』から『オルコット家の令嬢』になってしまいますもの。だから、私は昔からの幼なじみで……尚且つ、私の事を『セシリア・オルコット』としてみてくれる友達の家に居候させてもらっていますの。

 そんな彼女は、日本からやってきた━━━

 

「セシリア〜」

 

「鬼村さん!」

 

「もう……2人きりの時は五十冬でいいって言ってるじゃん……」

 

「ご、ごめんなさい……五十冬」

 

 ━━━妙に、違和感がありましたわ。何故かは分かりませんが、『こうじゃない』『こんなことはありえない』と脳が必死に教えてくれてるような気がしました。

 

「セシリア? どうしたの?」

 

「……あ、あの……私達は……いつから友達をやっていましたか……?」

 

「変なセシリアだねぇ……子供の時から……なんだったら、生まれた時から一緒だったじゃん、それに今まで1度も離れたことないし……あぁごめん、家帰る時とどっちかの家で遊んでるときのトイレくらいは離れてたわ」

 

 そう、昔から周りを茶化すような発言をして……それでも屈託のない笑みを浮かべて……真面目な時はきちんとやって……そんな彼女、そう、1度も離れたことがないから……1()()()()()()()()()()()()

 

「……本当に、それだけでしたか?」

 

「……何? どういう事?」

 

「……私は、あなたと1度離れました……なにで、どういった理由かはわかりませんが……私の心が絶望するほどには、悲惨な別れ方をした……そんな気がします」

 

「……気がするってだけでしょ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ━━━あぁ、理解してしまいました。私がどうして、ここまで違和感を持っているのか。どうして、こんなに心がざわつくのか。

 

「……貴方は、五十冬……さんでは……ありませんね」

 

「……根拠は?」

 

「だって……五十冬さんは、私から……『IS学園』から離れたんですもの。いるはずがありませんわ」

 

「……」

 

『エラー、ワールド・パージ、エラー』

 

 無機質な機械音、その声の後……世界が砕け散りました。そして、そのまま私は踵を返して、全てがなくなった黒い世界に一つだけ残っているドアをくぐったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリア!?」

 

「あら? 一夏さん? どうしてここに……」

 

 ドアを抜けると、草原が拡がっていて……目の前には一夏さんがいました。確か、倉持技研に行っててすぐには戻ってこられないと聞いていましたが……? 

 

「嫌な予感がしたんだ……それで、大急ぎで戻ってきたらこんな状況になってて……」

 

『セシリア、戻ってきて。織斑君はまだ大丈夫だけど……あなたは一度精神に負荷をかけられてる』

 

 簪さんから、説明が来ました。確かに、一時的にとはいえ頭の中をいじられたようなものですし……1度戻った方が良さそうですわ。しかし、それよりも先にしておくべきことはある訳でして。

 

「一夏さん、今起こっている現状をお話しておきますわ」

 

「……頼む」

 

「私は自力で脱出出来ました……しかし、恐らく……他の人達は……いえ、箒さんなら大丈夫だとは思いますが……ラウラさんとシャルロットさんは助けてあげて欲しいんです」

 

「……わかった」

 

「この空間……恐らく、私達が『望んでいること』を無理やり見せる空間です。後から入ってきた一夏さんは恐らく大丈夫ですけど……」

 

「あぁ、全員助ける……!」

 

 一夏さんの強い言葉。それを聞いて安心した私は、そのままその電脳空間から1度出ることにしました。メンタルチェック、その後脳に何らかの異常がないかを調べてからの検査待ちということになりそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideシャルロット

 

 僕はシャルロット・デュノア。豪商織斑家に使えるメイド……昔に、日本に迷い込んだ僕の先祖が、同じく織斑家の先祖の人に拾われて以来、付き人になったのが始まりで以来一族で織斑家をサポートしているのだ。

 けれど、僕以外の付き人は皆日本人……更に、僕のことをよく思わない人も多かった。

 

「おいデュノア、少しこちらへ来い」

 

「は、はい……」

 

 僕は執事の1人に呼び出される。前から、この男に……いや屋敷の執事達から僕は嬲られていた。部屋で1人でいる時にしてた自慰の写真を撮られて、それを脅しで使われてる……『一夏様に見せるぞ』って。

 見せたくない、ご主人様にだけは……きっと、軽蔑されるかもしれないから。

 

「ふん、お前もだいぶ奉仕が上手くなってきたな」

 

「ふぁい……」

 

 全く嬉しくない……僕としては早く終わらせたかったんだけど、そのために必死でやってたらどうにも上手くなってたようで……この体も、男の味を完全に覚えてた。

 肉棒で犯されたら、僕の気持ちに関わらず甘い声が出てしまう。それがとても悔しかった。

 

「へへ、今日はこっちやってみるか?」

 

「んん!?」

 

 1人の執事が、僕のおしりの穴を障る。そんな所は、ご主人様にだけ触られたかったのに……と涙を流す。何故ここまで差別されなければならないのか、と考えて余計に涙が溢れて止まらなくなってきていた。

 

「へへ、もうぐしょぐしょじゃねぇか……この変態メイド」

 

「そりゃあな、男に嬲られるか女に嬲られるかのどっちかしかねぇんだから」

 

 そう、男女問わずみんな僕の体を好き勝手していく。メイド達は僕の体をいじめ抜こうと。執事達は僕の体で性処理を。そう、僕はもう性奴隷と言っても過言では無い扱いを受けていた。

 このまま、ずっと犯される……ご主人様に見せられない姿を、死ぬまで他の男達に晒し続けて━━━

 

「━━━てめぇらシャルに何してんだ!!」

 

「え……?」

 

 聞こえてくるのは、ご主人様の……ううん、『一夏』の声。あれ? 僕はどうして一夏って……

 

『ワールド・パージ、強制介入』

 

「うっ!?」

 

 頭が痛くなる。僕は織斑家のメイドで……ご主人様って……ううん、僕は、僕は━━

 

「IS学園の、シャルロット・デュノア!!!」

 

 二人の首が跳ね飛ばされる。跳ね飛ばしたのは勿論僕なんだけど……この格好、今の痴態……見られた……見られてしまった……もう、一夏に見せる顔が━━━

 

「大丈夫かシャル!?」

 

 一夏は、何も気にせず僕を抱きしめてくれた。本当に心配するかのように、僕をぎゅっと……その事だけで、僕の心は暖かくなった。涙が溢れて止まらなくなりそうだけど、泣いている場合じゃない。

 

「うん……ありがとう一夏……早く、ラウラ達も助けてあげて?」

 

「……あぁ、待ってろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side簪

 

 私はまず違和感があった。ワールド・パージ……人の望んでいることを出す空間のはずなのに、シャルロット・デュノアが見た光景はメイドになって男達に犯されること。

 本人が望んでいるからそうなった、と言うには全く望んでいないようにも思える。どういうことだろうか……とふと考えてから、私は1つの結論に達する。

 

「……男達に犯される、つまり悲惨な所から助け出してくれる人が来て欲しかった……って事?」

 

 つまり、犯されているという悲惨な状況から助けてくれる織斑一夏という存在を望んだ……という事なのだろうか? となると、電脳ダイブした織斑君が早く来すぎたってことになるのかな。

 

「……望むのは、可哀想なところを助けてくれる王子様……」

 

 さしずめ白式は白馬そのものと言ったところだろうか? いやはや、男のフリをしていた割には……随分と乙女なんだ。

 

「……そうなると、他の2人もそうなるのかな?」

 

 篠ノ之箒はともかく、ラウラ・ボーデヴィッヒならおなじようなむ夢を見ててもおかしくは無い……おかしくは無いけど……

 

「……まぁ、さすがに今回は私も助けてあげないとね」

 

 万が一の為、織斑君には衣装ケースでも貸出してあげよう。万が一、妄想の世界の織斑一夏と出会ってしまうと本人達が困惑する可能性があるんだし。

 混乱すると、脳にどんな負担がかかるかわかったものじゃない。

 

「……さて、生徒会長らしいことしてあげないとね」

 

 とりあえず、私はキーボードをカタカタ鳴らしながら織斑君を手伝うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideマライア

 

「……」

 

「くっ……殺せ……!」

 

「うわぁ……簪の持ってるアニメでもそんなこと言うキャラいなかったよ」

 

 私は散々に逃げ回した襲撃者たちを拘束していた。まぁなにかを仕込んでたら困るから、パンツ1枚だけ残して残り全部切り刻んだけど。油断しない、絶対。

 

「にしても色々仕込んでたんだねぇ……消音器付きの拳銃、靴底にはナイフ、袖にもナイフ……面白服すぎる」

 

 色々尋問して、大体のことは理解できてきた。さて、この拘束した奴らをどうしようか……殺すのは駄目だし、このまま放置しておくのも後味が悪い。

 1番無難なのは織斑千冬に渡すこと……仮にここで逃がしたとして、彼らを私の手駒に加えるとしても……今度は私が織斑千冬に殺される。

 

「ま、なるようになるか」

 

 とりあえず連れていくことは確定だ。何せ、こいつらはどこから情報が漏れたのかは分からないが、この学園にこの間襲撃したゴーレムのコアがあるってことを知っていた。

 つまり、どこかの国が抜け駆けしたということ。その国も検討が付いてる。言葉訛りや、肌の色……それに色々質問した時に出てくる価値観で、おおよそどこの国かの平均が付けられる。答えがバラバラになるようになら、多種多様な人種で組まれた軍という答えになるだけである。

 

「さーて、もうちょっと情報吐いてもらうよ」

 

 何か、結構簡単に情報吐いてくれるけど……大丈夫なのだろうか、こいつらの依頼主とやらは。

 さて、早くあっちも終わんねぇかなぁ……なんて私は思いながら再び尋問を開始するのであった。




愛の力ですわ


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続・電脳侵入

 sideラウラ

 

 私の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。IS学園の━━━

 

『ワールド・パージ、完了』

 

 ━━━ドイツ軍の『所有物』である。戦争が当たり前になった世界、私の生まれたところはとあるポッドの中だった。施設がある限り、無限に生まれる人間兵器……それが私の……私達、ブラックラビット隊の正体だ。

 けれど、人間である以上完全な兵器化は望めない……だから、心情的に『兵器』として成り立たなくなった者は、別の理由で使わされる。軍にいるのは男ばかり、故に私たちが使わされる。……矛盾した話だが、『戦争に勝てる強力な兵器』と『男に勝てない程に弱い』というのが両立させてあるのが私達人間兵器……という作られた『女』だった。

 

「おら、もっと奥まで咥えやがれ」

 

「んぶっ……!」

 

 既に何人目だろうか、男達の肉棒を入れさせられて咥えさせられて。私達の体は簡単なことでは死なない様に作られているとはいえ、しばらくの間の食事が精液だけというのは中々にきついものがある。

 

「ぶはっ……!」

 

「おーおー、ちゃんと飲みきったな?」

 

「しかも、ちゃんと飲んだだけで濡らせるくらいには淫乱になったもんだ」

 

 男達が私を侮辱する……屈辱的な感情と、喜びの感情の相反している2つの感情が私の中で起こる。そもそも、男達に対する恐怖と快楽が同時に現れている時点でおかしな話なのだ。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「ほら、どうすりゃいいかお前はわかってるよなぁ?」

 

 この男たちを満足させなければ、私が死ぬ。死ぬのは嫌だ、真っ暗で冷たくて……味わったことは無いけど『自分』がいなくなると言うのだけはとても分かる。それが、とんでもなく嫌だ。

 

「は、はい……私の……穴を……使ってください……」

 

「……んー……まぁいいか、こいつはまだ体がちいせえから締まりもいいしな」

 

 何とか、何とか助かった。私は心の中で安堵した。私の他にも性処理に堕ちた者たちはいる。けれど、ある程度犯されたら皆どこかへと連れていかれた。

 それぞれが体の大きさの違いがあるとはいえ、大体が成熟した者達だった。成熟している方が使い勝手がいいと判断されてた……所謂『初期組』のもの達は皆犯され飽きたら……いなくなった。何をされているのかは、私は知らない。

 こんな小さな体だが、それのおかげで助かっているのだから感謝である。

 

「久しぶりに、ヤクってみっか?」

 

「いいなぁ? キッついの1発ぶち込んでより締めつけをきつくしてやろうぜ」

 

「ひっ……!?」

 

 悲鳴をあげてしまう。幸い聞こえていないみたいだが、私は『薬を使う』という言葉にとても恐怖してしまっていた。

 使われる薬は、私達に使われる薬……私たちだけに効く薬。感度を上げる、ただそれだけなのだが……その上がり幅が異常なのだ。下手をすれば、死んでしまうくらいの強力な快楽を与えられる。常に思考が出来なくなり、どれだけの刺激を与えられても全てを快楽へと変更してしまう……そんな薬だ。

 

「いいのかぁ? また使える女が減るってのが俺ァ1番嫌だぜ?」

 

「どうせ頼めば捕まえてくれんだ、使い捨てでもいいだろうがよ」

 

「へいへい……」

 

 私の首に、注射器が近づいてくる。恐怖はある、しかしそれ以上に私の体には抵抗する意思が宿ることは無い。抵抗したら、どうなるか分からないという恐怖が染み付いてしまったからだ。

 けれど━━━

 

「てめぇら!!」

 

 蹴破られる扉、そこにはガスマスクをつけた軍人の姿があった。けれどその姿は、あまりにも男たちに比べて細かった。構えも、私が見てわかるほどには素人……けれど、何故か私はその人物が男達に勝てると思ってしまう。

 

「━━━ワールド・パージに、異物混入」

 

「排除」

 

 男達の声が無機質なものへと変貌していた。それに、妙に違和感を与えられた。明らかな人間の体から出た声じゃない……という所からではなく、それ以外の『なにか』で私は違和感を覚えていた。

 そう、例えて言うなら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()━━━

 

「ぐっ!?」

 

 男達が戦う中、私は頭痛に襲われていた。全てが違う、何もかもが違う……そう伝えたいかのように、私の今まであった記憶……偽りの記憶は全て消えうせていく。

 

「━━━そう、だ……私は……私は!!」

 

 気づけば、私の体はISに包まれていた。そして、超電磁砲から放たれる一撃が、男達そのものを消し去っていく。

 先程までとはうって変わり、私には抵抗する気力が私には出てきていた。

 

「IS学園の、ラウラ・ボーデヴィッヒだ!!」

 

「ラウラ!? 大丈夫か!?」

 

「あぁ、もう大丈夫だ……心配をかけたな」

 

「良かった……これで、後は……」

 

 一夏は、残った最後の一人……箒を助け出すために覚悟を決めた男の顔をしていた。そうだ、わたしは……今この男に助けられたんだ。そう、認識したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side簪

 

「……これって……」

 

 私は妙な違和感を感じていた。織斑君に助けられたシャルロットとラウラ……この2人がやる気に満ちていた。シャルロットとラウラを見る限り、誰かの助けが欲しいという願いが具現化してるものだと思ってたけど……

 

「どうも、そうじゃない……?」

 

 助け出されているだけならいざ知らず、どうにも『抵抗する』という意思が宿っているように思えた。ただ望んでいる世界だけを作るのであれば、多分こうは行かない……となると。

 

「誘導……されてる?」

 

『自分を陥れた男に抵抗する』というシチュエーションが2人、それ以上にただひとりとの幸せな時間を過ごしたいのが1人。未だ不明なのが一人。恐らく箒は後者の類になるので、実質二人が男に抵抗するという意思を手に入れた。

 この2人は……確か男達に嬲られていたはず……その理論でいえばセシリアもそうだけど、五十冬がいるからその抵抗の意思は消えることは無い。

 

「けど、あの二人はそうじゃない」

 

 1度折れているのだ。折れているからこそ、ワールド・パージでその心象が現れてる。

 でも、それが解けたら……彼女達2人に抵抗する意思というものが明確に現れた。偶然と片付けるには、少々出来がよすぎるだろう。

 

「つまり、これは必然で……故意に狙われたもの」

 

 仮にこのハッキングを起こしたのが、世界一の天才の彼女だとして……だとしたら、一体何が狙いなのかがわからなくなってくる。

 

「彼女は良くも悪くも、織斑先生としか仲良くしていない……なら、わざわざ五十冬の目的を崩す理由は……?」

 

 自分が殺されないため? いやいや、殺されることなんて彼女が1番考えていないことだろう。だとしたら、なんだと言うのだろうか。そもそも前のゴーレムの事件の時も、何故懇意にしている織斑一夏や織斑千冬が死ぬような真似を━━━

 

「……何か、ある?」

 

 そもそもあのゴーレムは、私が打鉄越式を完成させていなかったら、皆ボロボロになっていた。下手をしたら全滅していた可能性があるほどには強力な兵器だ。

 

「織斑千冬の全力……?」

 

 織斑一夏でさえ、私が助けなければ最悪死んでいた。最悪死んでいたのなら、恐らく織斑千冬は激昂していた。激昂していたなら……織斑千冬は全力を出していた。

 全力を出していたとなると……考えられるのはただ1つ。織斑千冬のISだ。

 

「織斑千冬の専用機……それが今、ある……?」

 

 だが、それを身につけているようなところは未だ確認出来ていない。服の内側に隠していると言うならともかく、そういった風でもない。となると、近くにあって尚且つすぐには使えないくらい遠い……IS学園のどこかに、展開状態で置かれている可能性がある。

 

「けど、仮にそうだとしたら……」

 

 織斑千冬の専用機を狙ってのことだったとしたら……織斑千冬の全力を見たい、という理由じゃ弱い。弱いけど……これ以上の理由は、どっちにしろ情報が少なすぎるから探れるわけがない。

 

「……でも、何となくの理由はわかった」

 

 今回も、そして前回も……多分求めているのは織斑千冬の専用機。多分、コアの方……今から探すのも、織斑先生に伝えるのも多分遅い。侵入した敵というのも、篠ノ之束がわざと招き入れた可能性だって高い。

 

「でも、そうなると……」

 

 本当に、何故織斑千冬の専用機のコアを狙っているのか……ということになってしまうのだ。私にはその理由を考えるだけの情報が無いため、これ以上の答えは求められない。

 けど、どうしてか……私はとても嫌な予感に襲われていた。まるで、これからなにかが起こりそうな……そんな予感がしてならないのだ。

 

「……でも、やれるだけのことはやっておかないと……!」

 

 織斑先生の友達だからって関係ない、『あれ』は確実な敵だ。明確かつ、完全な敵だ。どうしようもないくらいに、無邪気で邪悪な敵でしかない。

 

「……でも、だったら……」

 

 余計にわからなくなる。五十冬の目的を崩す理由が。偶然と片付ければそれまでだけど、絶対に偶然じゃない。けど、自分が殺されるのなんて考えてないだろうし……

 

「あーもう! 全くわかんない!!」

 

 後で五十冬に報告するとして……今はとりあえず、この事態を終わらせないといけない。そのために、私は織斑君をサポートしてるんだから。

 

「……頼むよ」

 

 向こうには届かないけれど、私は早く終わらせてくれることを望むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side箒

 

 私は篠ノ之箒、IS学園の━━━

 

『ワールド・パージ、完了』

 

 ━━━この剣術道場で、師範をしている。師範代として、織斑一夏という男がいるが……今度、彼と結婚する事になっている。そう、結婚するのだ……けど……

 

「篠ノ之さん、またですか?」

 

「す、すいません……」

 

 ……私は、日々のお金のやり取りで苦労していた。剣術道場で、生計を立てている……はずだったのだが、最初の始めた頃と比べて生徒が少なくなってきていた。原因は、私の過度な稽古が原因。

 それに気がついた頃には、時すでに遅し……もう取り返しのつかない所まで生徒は少なくっていた。

 そうなると、この剣術道場の維持費などでお金がかさむ。かさめば、畳むかどこからかお金を借りるしかなくなる……私は後者を選んでしまった。しかも、一夏には内緒で。

 

「……いえね、私は別にいいんですよ。一応? お金はある程度返してくれてますし? 全く返していないのに『返せないから待って欲しい』なら兎も角、一応返してくれてるから今回は待ってあげますよ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「けどね、足りないんですよ。利子も増えますからね、膨らんでないだけマシでしょうけどね……最悪、別のお金の稼ぎ方でも考えてもらわないといけませんよ?」

 

「別の、稼ぎ方……?」

 

「まぁ下世話な話ですけどね……あなたのその体、お金になるんですよ。あぁ、内蔵を売れって話じゃないですよ? 単純に、女性として魅力的だって話ですよ」

 

「っ……!」

 

 つまり、風俗でもしてこいと安易に勧められていた。嫌な話だが、確かに男性によく見られる体なのはわかっている。中学生の時でも、周りの視線が私には辛かった。

 

「それに、旦那さんを心配させたくないでしょう?」

 

「う、うぐ……」

 

「ま、私はまた今度来ますよ。それまでに考えておいてくださいね」

 

 そう言って、男は帰っていった。私は、ただ立ちつくしているだけだった。この体を使うか、それとも今まで通りの返済をするか……私は、考えて……結論を出したのであった。




箒篇は続く!


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電脳終幕

 side箒

 

「あれ? 箒どこか行くのか?」

 

「ちょっと……な」

 

「そうか、すぐ帰ってくるんだぞ?」

 

「あ、あぁ……行ってくる」

 

 一夏は妙なところで鋭い、いつもの様に鈍いままでいて欲しい……そう思いながら、私は私達の家から離れた。気がつけば、金を貸してもらっている男達の元に私はやってきていた。緊張のせいか、どうやって来たかさえ覚えていない。

 

「おや、もう来たんですか篠ノ之さん」

 

「……お金を、早く返したくて」

 

「いいですよ、その真面目な姿勢は私は信用出来ます。篠ノ之さんは返済をしないような人じゃない、って言うのは知ってましたしねぇ?」

 

「っ……」

 

 男の言葉が、私の心に刺さる。真面目だったら、そもそもお金を借りてるなんてことはありえないのだ。

 だからこそ、こうやって男は皮肉を言っているのだろう。

 

「それで……どうします? いきなり激しいコースか、ゆったりか……」

 

「……」

 

「私としましては、前者の方がいいと思いますよ? お金がいきなりドカンと手に入るので」

 

 そう言いながら、男は私の胸に手を伸ばす。伸ばした手は、一切の遠慮なく胸を揉む。一夏以外の男に触らせるというのが、ありえないほどに気持ち悪いと思ったのだが、しかし抵抗したら……と考えてしまって私の体は動かないままとなっていた。

 

「どうします? 篠ノ之さん……私としては━━━」

 

「それ以上箒に触んな!!」

 

 ドカンと蹴破られる扉。先程まで下卑た笑みを浮かべていた男達は、入ってきた人物を見るなり無表情となっていた。まるで、今までのが芝居だったとでも言わんばかりに。

 

「異物確認、排除」

 

「ワールド・パージに侵入者あり、排除開始」

 

 無機質な声が、男たちから流れてくる。しかし、それが気にならないほどに私の視線は入ってきた人物に向けられていた。その人物は、一夏だった。

 だが、見覚えの……ない……

 

「い゛っ!?」

 

 激しい頭痛が、私の頭に起こる。頭が歪んでいるのではないか、とさえ思えてくるその痛さに、逆に私は段々とはっきりとしたいし気を持ち始めていた。

 そうだ……何故私は忘れていたんだろうか。

 

「私は……私は篠ノ之箒! IS学園、1年1組だ!!」

 

 その言葉と共に、私はISを部分展開する。取り出した武装で、男達の首を切り落とした。恐ろしい程に手応えがなく、この世界が現実ではないということを、ようやく思い出した。

 

「箒! 無事だったか!!」

 

「あぁ……心配かけたな」

 

 駆け寄ってくる一夏、私はそれが嬉しくてつい笑みを零していたが……

 

『織斑君、篠ノ之さんは先に返さないといけないから……貴方はその先に進んで』

 

 ……更識簪のその言葉に、私たちは一旦離れないといけない羽目になったのだった。言いたいことも理屈もわかるが、人の恋愛をこんな形で邪魔されたくはなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side簪

 

「……という訳で、電脳ダイブした後に全員揃って敵の術中にハマっていたという事」

 

「……けど、あんな悪趣味な光景を体験させて……どうする気だったのかな」

 

 織斑一夏以外の専用機持ちが戻ってきたところで、私は一旦事情の説明をしていた。まぁ、プライバシーとか色々あるし、誰がどんな目のあったのかは絶対に詮索しないようにという念だけ押させてもらってからだけど。

 

「……でも、系統としてはセシリアだけは別だった」

 

「そうみたいですわね……」

 

「望んでいる事の系統が違う……と考えておこう。セシリア以外の3人は『織斑一夏に助けられる』という望みのためにあんな目に遭わされてたんだし」

 

「それでは、私は?」

 

「覚えていない、って訳じゃないでしょ? 私からは語らない……けど、自分がなにをされたのかをよく思い出して、考えて……それで確かめて?」

 

 私から言えるのはここまで。私も五十冬にそれなりの感情はあるのかもしれないけど、セシリアほど求めているとは思わない。仮にもテロリストにあそこまでの感情を抱いているのは……表向きとしてはかなり危ない。だから、ここでは騙って欲しくないというのが私の考え。

 

「……分かりましたわ」

 

「……にしても、さすがは私の嫁だったな。私を華麗に助け出してくれた」

 

「そ、それを言うなら僕だって一夏にかっこよく助けてもらったもん!」

 

「わ、私も……」

 

 楽しく談笑しているこの空間を眺めながら、やはり私は1つの結論の達した。やはり『五十冬のやりたい事の邪魔』をしているのだと。最近は彼女達は織斑一夏から離れていた。離れていたにも関わらず、今はこうやって再び仲睦まじくしている。

 なにが目的なのかは分からないけど、とりあえず仲良くさせることが目的だと言うのは理解出来た。

 

「……兎も角、後は唯一の彼を待つだけ……か」

 

 さて、鬼が出るか蛇が出るか……それとも何も起こらないか……私としては何も起こらない方が好ましいので、そのまま戻ってきてくれると助かるけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 なんか喋るの久しぶり。最近は一人でいることが多いから、会話もろくにしないというね。ま、そんなわけで私はスコールに頼まれてとある場所に来てた。

 とある場所って言っても……まぁ、アメリカの船なんですけどね? そこに極秘で潜入して、極秘でまぁ色々やって、今船沈めるボタンを━━━

 

「ポチッとな」

 

 通常空母じゃない秘匿艦。沈めても、アメリカが多少の対テロを強めるだけでなんら問題ない。それに、マライアから届いた情報から考えて、沈めるのは問題ないとスコールが判断した。

 

「IS学園に罪をなすり付ける……大胆かつ思いきった作戦に私は涙が止まりませんよ」

 

 今は簪が生徒会長をやってるみたいだけど、生徒会長たるいい目標を掲げているにも関わらず私たちと繋がってる……バレても問題ないと判断しているのか、それとも私達との繋がりを断つつもりなのか、はたまた━━━

 

「……これ以上考えてても仕方ないかな」

 

「よう、やってくれたな……!」

 

 私の後ろにいるのは、アメリカ代表の……名前なんだっけ? イージス艦? まぁいいや、というかISの国家代表者って皆男勝りすぎる気がする。もうちょっと、お淑やかになれないのだろうか? 

 

「うん、まぁ沈めろって命令だし?」

 

「てめぇ、誰の差し金だ? 更識楯無か?」

 

「あの元ロシア代表は既にどっかに行っちゃってるよ、あと私は戦う気ないんでよろしく」

 

「そう言って逃がすと思ってんのか?」

 

「逃がしてくれないんですか!?」

 

「……あんまり調子乗ってると━━━」

 

「はいドーン」

 

 私は相手の言葉を遮って、突然そんな言葉を発していた。私のIS、カリオストロの力で実は辺り一面に水蒸気を撒いておいたのだ。くっそ蒸し暑いけど、おかげで逃げる算段はつけられている。

 それを一気に液体の水へと戻して、さらに一気に高温のものをぶつける。あれだよ、マライアのISのビット。それだけでこの部屋は大爆散……私は吹き飛びながら外に出てこれる仕様ってわけ。

 

「でもやっぱりむっちゃ痛い!! ISの絶対防御あっても痛い!!」

 

「逃がすか!!」

 

 今ので生きてんの!? なんて驚きはしない。そもそも私が生きてんだから、相手も生きてるだろうとは思ってる。とりあえず、外に出れてからいいんだよ。

 

「このままお前を仕留めて━━━」

 

「残念、外に出た時点で私の勝ちは決まっていたのだ。私の勝ちとは、姿をくらませること……じゃあね猪武者さん」

 

 そのまま私は姿を消す。ミステリアス・レディに光学迷彩機能あったのが本当に助かった。何せ、それだけで相手は戸惑うんだもん。直感と勘だけでこっちを見破れるほど、この機能は甘くはないよ。

 

「へっ……てめぇがかくれんぼするってんなら、手当り次第に━━━」

 

 あいつやべぇから本気で逃げよう。私の任務は終わってるし、そのまま帰ってもなんら問題ないと思う。戦っても別に問題は無いけど、戦うのが面倒だし何より戦闘データを取られるのが無茶苦茶面倒。

 そう思った私は、急激なブーストをかけて無理矢理その場を離れるのであった。直後に後ろからとんでもないレベルの音が聞こえてきたが、完全に無視して逃げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまぁ」

 

「あら、おかえりなさい」

 

「てめぇ、遅かったじゃねぇか」

 

 スコールとオータムが私に声をかける。相変わらずオータムは口が悪い。あのアメリカ代表とめっちゃ口調そっくりすぎる。

 

「どうだった? 任務は」

 

「アメリカ代表と1回やりあったけど、撒いてきた。無駄に戦うは意味はないってわかってたし」

 

「そう、ありがとう……私たちの方も守備は順調よ」

 

「じゃあマライアから届いたあのデータ、有効活用してるんだ」

 

「えぇ、『IS学園が世界を乗っ取ろうとしてる』なんてバカげた嘘情報と一緒にね」

 

「いやぁ、世界に対して嘘ついてるのは事実だもんね。ISのコアを7個持ってるくせに、それら全部が今向こうにあるんだし」

 

 ISのコア1つで戦争になりかねないのに、それが7つ。IS学園が幾らありとあらゆる国の干渉を受けない存在だからといって、やり過ぎである。

 それに、あそこには量産機とはいえISがかなり置いてある。それもまた、拍車をかけているのだ。

 

「しかも篠ノ之束しか新造できないコア……新しく生み出された7つのコアは、ほぼ確実に篠ノ之束が作り出したものでしょうね」

 

「世界からしてみれば、遠回しに篠ノ之束からのプレゼントだからな。襲われたのは事実かもしれんが、裏を返せば直接的に渡すのを誤魔化すために襲撃事件を装ったとも取れる」

 

「アメリカ辺りが抜け駆けしたみたいだけど、それも問題なし……私も秘匿艦沈めたしアメリカはしばらく対テロに時間を費やすかもね」

 

「ま、これで抜け駆けしたら叩かれる状況は作り出せたわね……後はどうやって、世界の敵としてIS学園を持ち上げていくか……かしら?」

 

「まさかテロリストの私達がこんなことしてるなんて……って思う」

 

 テロリストが、他のところをテロリストとして持ち上げる。まぁ7つなんて世界で分けられる数じゃないけど……問題はそこじゃない。

 

「じゃあ五十冬、オータムと一緒に頑張ってちょうだいね」

 

「はいはい、世界のお偉い様相手に説得頑張ってきますよ」

 

「ふん、せいぜい頑張るこったな」

 

「私としてはオータムが心配過ぎてやばい」

 

 とりあえず……私は、世界のお偉い様達を集めておかないといけない。ま、今回は織斑千冬を思いっきり利用させてもらうとしますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side千冬

 

 私はとある人物に連絡をしていた。いや、連絡というよりは呼び出されたと言った方が無難か。モニター越しから話しかけてくるのは、日本やアメリカ、その他色々な国の代表……つまりは総理大臣等が何故か私に連絡を出していた。

 

『近々、国同士で話し合いが行われる』

 

『ブリュンヒルデと、もう1人の教師を連れてきてもらいたい』

 

 話の内容的に、世界会議のような場所で私ともう1人に来て欲しいということだ。名目として語られたのは、『最近頻発しているIS関係のテロについて』らしい。

 今度、IS学園で修学旅行がある。場所は京都。だが、その際に再びIS学園を狙ったテロが行われるのではないか? という懸念が、各国代表には存在しているのだ。

 

「織斑先生……」

 

「……呼ばれて、行かなければまず間違いなく舐められるな。山田先生、ついてきて貰えますか?」

 

「は、はい!」

 

 ひとまず、私は彼女を誘っていくことにした。しかし、どうにも違和感や不安がぬぐえない。一体何に対して不安を感じているのか……私はそれだけが気になりながらも、話し合いの場に向かうのであった。




9巻の内容はガン飛ばしです。だって楯無会長いないから大半のイベント起こらないわけで…


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教師確保

 side? 

 

 とある場所に呼び出された織斑千冬、そしてそれに着いてきた山田真耶。2人がいるのは、とある広い部屋……そしてそこには2人以外の人物もいた。

 いるのは、各国の重要人物などばかり。二人を囲うようにして円形のテーブルがあり、そこに2人を囲うようにしてその人物らが座っている。

 

「……それで、私たちまで呼び出された理由は?」

 

「身に覚えがあるだろう? つい最近起こったことで、な」

 

 身に覚えがないと言えば、嘘になる。だが、千冬の覚えはIS学園に襲来したゴーレム達のコアを隠したことである。各国には全て破壊したと伝えたが、実際は襲来した全ての機体のコアがIS学園には存在している。

 無論、隠している以上バレる情報源は絞られてくる……が、彼女以外に知っているのは、今回ついてきた山田真耶だ。彼女の性格が偽りのものでない限りは、彼女自身が嘘をつくようには千冬は思えなかった。

 

「……なんの事だか」

 

「ふ……シラを切るか。いいだろう……だったら、とある人物から送られてきたこの映像と音声で、証拠を提出するしかないようだ」

 

 そうして、流れてくる映像。そこには確かにゴーレムのコアを隠すことにしたリアルタイムそのものの映像が流れていた。それを見て真耶が取り乱しかけたが、千冬が何とか落ち着かせる。

 

「っ……!?」

 

「山田先生、私が話します……それで、この映像は?」

 

「君達が裏切ったとされる証拠映像。無論、色々な国がこの映像の解析をしたが……どの国も結論は一緒、加工された映像でないことはすぐにわかった」

 

「……なら、隠す理由もおわかりでしょうに」

 

「そうだ、確かに世界に均等にISのコアを譲渡したとしても……7つでは平等に行き渡らない。君達の答えは間違ってないだろう」

 

「なら……!」

 

 そこで開かれる扉。千冬と真耶はそちらについ視線を送る……するとそこには、鬼村五十冬が立っていた。千冬は表には出さなかったが、2人とも驚いてしまっていた。

 

「『報告しないというのは信用を失う行為』ってやつですよ、先生方」

 

「鬼村……全てお前の……亡国機業の差し金か」

 

「差し金? 何を言ってるんだか……私はただ、報告しないのはおかしいって言っただけですよ」

 

「どうやってこの映像を撮った」

 

「さぁ? 私はただ送られてきたのをいっぱい送っただけですからね」

 

 両手の指の腹同士を合わせて、五十冬はニヤニヤと笑みを浮かべたままでいる。千冬は睨みつけるが、それを意に介す風でもなかった。

 

「……何が狙いだ」

 

「んー? 今回先生たちを呼んだのは、私じゃないよ。この人達……私はここでなにが行われるのかは分からないし、知りもしない」

 

 明らかに嘘だと、千冬は直感で感じとっていた。だが、明確な証拠がない以上そんなことを言っても無駄だと、軽くため息だけをついていた。

 

「それで? 私に一体何を?」

 

「IS学園にコアを残すのを理由に、今の学園に在籍する『全ての人物』の『使用権』を求める」

 

「なっ!?」

 

「そんな、使用権って……!」

 

 まず、人権を度外視した発言。こんなことを国の代表が発言すること自体が、最早ありえない話である。さすがの千冬も、この発言に驚きと怒りを覚えていた。

 

「……人をなんだと思っている」

 

「ならば、こちらは信用をなんだと思っている……と言わせてもらおうか。IS学園が設立出来ているのは、もっと言えばIS学園が未だに色々な国から干渉を受けないようになっているのは、そういった国同士でのルールが作られたからだ」

 

「……私達が、それを破っていると?」

 

「隠しただろう? どんな理由があろうとも、世界を揺るがしかねない自体を隠しておく……それは非常に、馬鹿な手段だと言わざるを得ない」

 

 うんうんと、特に喋ってもいない五十冬が頷く。自分には特に関係がないからそう思っているのか、はたまたなにか別の考えがあるのかは、千冬にとってはどうでもよかった。

 

「あ、山田先生……抵抗しない方がいいですよ? 先生のフルバレルの装備の対策で、私は出した瞬間に破壊するという対策しますから」

 

「っ!」

 

 山田真耶のIS、その特殊なパックの破壊力は凄まじいものである。凄まじいものであるが故に、1度出されたら終わってしまう。よってそれよりも早く終わらせられると真耶は何も出来ない。火力と引き換えに速度を失った機体なのだから。

 

「それでは各国の皆さん、IS……並びに他武装を持っていないか確認するために……この場で脱がしましょうか」

 

「貴様……調子に乗るのも……!」

 

「おっと……織斑先生? まさか、各国の代表を脅すんですか?」

 

「貴様をぶっ飛ばした後にでも━━━」

 

「はい証拠提供ありがとうございまぁす」

 

 そう言いながら、五十冬は懐かしのカセットテープを取り出す。今のご時世の録音機器などよりもはるかに音質は悪いが、ノイズ等を取り除く機械なんてこのご時世いくらでも存在している。

 

「さて……これが何を意味するかわかりますか?」

 

「……今の言葉を録音したところで、どうするつもりだ?」

 

「またまたシラを切って……『世界各国の代表』がいる所で『ぶっ飛ばす』なんて言葉を吐くなんて随分大胆なことをするなぁって話ですよ」

 

「……」

 

「お、織斑先生……」

 

「……分かった、今は貴様の指示に従ってやる。だが、忘れるなよ……貴様を潰せる日が来れば……その次は……!」

 

「こっわ……本当に脅されてる人間の言葉かよ……」

 

 本能的に恐怖を感じる五十冬だが、織斑千冬という存在が既に抵抗できないのは承知の上。だが、万が一という事もある。各国の代表達が近づいた瞬間に、全員一気に気絶させて私をしとめに来るなんて『都合のいい事』が起きかねない。

 

「織斑先生、殺しはしませんけど……抵抗できないようにはさせますね」

 

「ぐっ……!?」

 

 拳銃を取りだした五十冬はそのまま千冬にその銃弾を放つ。だが、千冬には出血はない……代わりに、その体は地面へと倒れていた。真耶が近づこうとするが、五十冬は拳銃を向けて静止させる。

 

「お、織斑先生に何を……!」

 

「電撃銃、超電磁砲じゃないよ? 電気を纏わせた弾丸、言い換えればスタンガンを弾丸として放つ銃みたいなもんです。電流を流させて、今は気絶してもらってます」

 

「気絶……!?」

 

「ゾウすら感電して気絶するほどに強力な奴をぶつけさせてもらいました」

 

「そんな、下手したら死に至るのに……!?」

 

「はん……篠ノ之束と仲良く出来てる女が人間なわけないでしょ」

 

 人間ではない、それは織斑千冬を体現している言葉と言っても過言ではない。ISの武装を使ったとはいえ、生身でISに勝つ強さ等をただの人間が持てるはずがない。

 

「今ので、織斑先生が死んだら……!」

 

「仮に死んだら、そこまでだったって話ですよ……まぁ生きてるでしょうけど……その間に準備だけさせてもらいますかね。山田先生、織斑千冬を殺されたくなかったら私たちと一緒に来てください」

 

 五十冬と共に、何人かの代表が立ち上がって着いていく。千冬を守るために、真耶は覚悟を決めないといけない。そんな覚悟は、彼女はとっくの昔に決めていたのだが。

 

「あ、残された皆さんは私の脚本通りでお願いしますね 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうして、貴方達の様な人が……亡国機業に着くんですか!」

 

「何、世の中には女尊男卑が気に食わないものが多いという事だよ。それに、亡国機業に頭を下げている訳では無い……女尊男卑を潰すという彼女の願いに共感した国が多いということだ」

 

「そんな、理由で……」

 

「それに、君達が悪いのは事実だろう? 隠した事実は誰にも分からない、アスファルトの下がどんな土か分からないように……例え嘘で上から塗り固められたとしても、隠されている真実は誰もわかりえない」

 

 両手を拘束されて、留置所のような場所に投げ捨てられる真耶。その目は、完全に敵を見る目になっていた。真耶にとっては自分達のために他人を売れるなどというのは、有り得ない話なのだ。

 

「君達は世界を揺るがす真実を隠した……それに対しての我々の答えも、また『隠す』事となった」

 

「隠す……?」

 

「君達は、表向き『処刑』または『無期懲役』という結論になった。但し安心したまえ、あくまでも表向き……実際は私達によってここで飼い慣らされるという事になる」

 

「飼い……!?」

 

 真耶は悟った。この男達は、人間としてもクズに成り下がっているのだと。こうまでして、女性を我がものとしたいのかと。こんな男達に屈服する訳には行かないと……そう心に決めるほどに。

 

「貴方達に……国を束ねるなんて、不可能ですよ……! こんなことをしている限り!!」

 

「……五十冬だったね、好きにやっていいのだろう?」

 

「殺すのと肉体欠損させない限り大丈夫、精神はいくら壊しても問題ないよ」

 

「っ……!」

 

 真耶は、生徒をしている時の五十冬を思い出していた。その全てが幻想だったかの様に、まるっきり全てが変わっている五十冬を見て唇をかみ締めていた。

 

「じゃあ、あとはよろしくお願いしますね。私はあっちの様子も見てこないといけないので」

 

「えぇ、あちらもよろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五十冬は、千冬がいる場所に移動していた。そして何かの準備に取り掛かり始める。

 

「何をしてるんだい?」

 

「目覚ました時に、抵抗されたら困るし……変態チックにしておかないと」

 

 1つの乳首にローターが2つ、それが2箇所とクリトリスにも2つでローターが計4つ。バイブを膣に入れて、アナルバイブももちろん入れている。その状態で亀甲縛りを行い、腕も縛っておく。

 

「さて……どうしようか?」

 

「これ以上まだ何かするおつもりで?」

 

「下手したら殺されかねないし……とりあえずインターネットに写真アップロードする準備整えておいてやろ」

 

 その写真を取って、インターネットに上げてる準備を進めていく五十冬。あとはボタンを押せばアップロードが完了するレベルだが、自分が持ってても駄目なので適当に他の誰かに渡してから、再び織斑千冬に向き直る。

 

「ほーら、起きて起きて」

 

「っ!? う、んぅ……!」

 

 織斑千冬に取り付けられた機械達を、一気に作動させる。それで千冬はようやく目を覚ますが、状況を上手く理解出来ていないようで辺りを見渡していた。

 

「何、を……」

 

「はいはい、ちゃんと頭冷静に働かせて聞いてくださいね? 今、さっきまでいた中の半分くらいの人間が山田先生とイチャコラしてるんですよ」

 

「っ!?」

 

「んで、山田先生をこれ以上犯されたくなかったら……私達に従ってください……って事です」

 

「貴様……」

 

 千冬は、なんとなく理解していた。自分達の体が、不本意ながら男ウケする体だというのはそれとなく理解していた。だが、それでもやはり悔しさは感じるしそれ以上に怒りを覚えていた。

 

「あれ? 怒りました? こんな事で?」

 

「……はっきり言おう、貴様は……死人に執着━━━」

 

「黙れよ」

 

 わざと煽ったのか、ならばその意図は何なのか。それを考える余裕もなく五十冬はISを部分展開、カリオストロの能力でゴーレムの巨腕を呼び出して、千冬の腹を殴り付けていた。

 

「がはっ……!」

 

「お、おい……死んでしまったら私達が悪になるぞ!?」

 

「大丈夫ですよ、こいつはそんなことでは死にませんし……でしょ?」

 

「がは、げほ、ごほ……はぁ、はぁ……よく理解、してるじゃないか」

 

「……遠慮はいりません、さっさとこの女をぶち犯してください。人手が足りないのなら、いくらでも追加してあげます……」

 

「あ、あぁ」

 

 そうやって五十冬は離れる。やることがまだ存在しているからだ。その為に、この場は一旦離れて……準備に取り掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『緊急ニュースをお伝えします』

 

『昨日、IS学園教師の織斑千冬並びに山田真耶が容疑者として確保されました』

 

『世界連盟は、IS学園が意図的にISのコアを取得していたのを隠していたとし、その主犯格である2人を逮捕致しました』

 

『世界に対しての大々的なテロを行う予定だと判断した連盟は、IS学園を一時的に休校させてその間教師達に対して事情聴取を行うとの事です』

 

 ……後日、テレビからは常にそのような放送が流れていた。瞬く間に情報は伝わっていき……世界は、混沌の1歩を進みかけているのであった。




次の話は捕まったあとの話


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教師淫辱

 side? 

 

 全裸に剥かれ、尚且つ身体中に性玩具を付けられた千冬。五十冬が遠目にこちらを見る中で、世界の代表達が千冬を囲む。その下半身は怒張しているのが千冬でも分かり、彼女からしてみれば寒気がするものだが、自分の体で興奮しているというのが見てわかった。

 

「くっ……」

 

「これから私刑を行う訳だが……何か言い残すことは?」

 

「貴様らは……いずれ罰が下る、自業自得のな……!」

 

「ならば、今の貴様のこの状況が既に自業自得だと言わざるを得んな……では、これからは人間ではなく私たちの家畜として生きてもらおうか」

 

 その言葉から始まったかのように、男達はいっせいに千冬の足を掴んで、無理矢理開かせる。本来ならば抵抗どころかこの場を制圧できるほどだが、真耶を人質に取られている千冬は一切の抵抗を許されていない。

 

「実にいい体つきだ。程よく筋肉が着いていて、尚且つ胸も大きい。ブリュンヒルデは、実に男を誘うための体をしているな」

 

「貴様らに褒められたところで、悪寒しかしないがな……!」

 

「くく、貴様が後どれほどで蕩けるか……見ものだよ」

 

 千冬の胸が、潰れてしまうのではないかという所まで強く揉まれる。それに対し、千冬は9割の気持ち悪さと1割の快感で構成されていた。

 そもそも、無理矢理目を覚まさせてからその間ずっとローターやバイブなどが動き続けていたのだ。千冬は我慢して耐えていたが、玩具によって挙げられた感度は、そうそうおさまるものでは無い。

 

「私は、お前らのような下衆には……!」

 

「負けない、と? いいや、お前は負けるのさ……私達『男』にな」

 

 男の1人が、ズボンのファスナーを下ろしてその肉棒を露出させる。千冬は本当に小さい頃……まだ一夏が小学生になるよりも前、またはなりたてだった頃か。まだ一緒にお風呂に入っていた頃に、一夏のそれを見た事はあった。

 だが、当たり前の話だが……その頃の一夏のものと比べて随分とグロテスクだった。

 

「そんな、汚らしいものを……!」

 

「ほう、それなりの歳の筈だが……未だ『男』を見た事がないと? これは驚いた、ブリュンヒルデ殿が処女か!」

 

 どっ、と笑い始める男達。わざとしているのだろうと千冬は理解していた。だが、理解していても悔しさや恥ずかしさは到底除かれるものでは無い。千冬は下唇を噛み締めて、うっすらと涙目を浮かべていた。

 

「はは、気になる異性はいなかったのか? それとも、ブリュンヒルデ殿は同性愛者だったのかな?」

 

「私には、そんな者はいない……!」

 

「果たしてそうかな? 君の部下の……彼女は君のことをとても慕っているそうじゃないか」

 

 真耶の事だと言うのは、千冬はすぐに理解出来た。そして、千冬も馬鹿ではない。真耶が自分をしたっているのは理解出来た。だが、それが恋慕の感情ではないことくらいはすぐに理解出来ている。

 

「ふん……尊敬と、恋慕の差くらい理解できない……か、哀れだな……!」

 

「何を言われても、君の今の状況以上に哀れで滑稽で面白いものはないよ……!」

 

「ぐっ!?」

 

 会話で時間を伸ばそうとしていたが、それもまた無理がある。男は我慢できないといったふうにそのまま、千冬の膣に向けて自身の肉棒を押し込んでいく。無論、予めバイブは外してある。

 

「はは、処女を奪った男がこんなゲスでどんな気分だ?」

 

「気持ち悪さしか、ない……!」

 

「くく、さてその顔がいつ歪むか……楽しみだ」

 

 そして、男はそのまま動き始める。バイブである程度の愛撫はされていたので、不本意ながら千冬の膣は濡れていた。そのせいか、少しだけ感じやすくなっていた千冬は、その感覚を抑えるかのように下唇をさらに噛み締める。

 

「ふむ……ブリュンヒルデ、口を開け」

 

「なぜ、貴様の言うことなぞ……!」

 

「ほう、一緒に来ていた彼女を見捨てるのか?」

 

「っ……!」

 

 言われた通りに口を開く千冬。その口には、ギャグボールが取り付けられる。更に、追加と言わんばかりに首筋に何かの薬を注射される。

 

「っ!?」

 

「安心したまえ、ただの筋弛緩剤だ。君がギャグボールを噛んで、歯を破壊しようとしかねない勢いなのでね。ギャグボールを着けたのは、単純に我々の趣味さ」

 

「っ……!」

 

 だらんと力が抜けてくる千冬。自分の意思ではどうにもならないので、さらに悔しさが募っていく。そして、体が自分の意思に従わないということは……『色々』と問題があるということである。

 

「う、ぁ……」

 

「……ほう? おもらししているな、あのブリュンヒルデが!」

 

 男達はそれを見て、まるでそれが面白おかしく見えているかのように携帯機器での録画を行い始める。体に力が入らなくても、意思はきちんとある。つまり、尿を漏らしている今のこの光景を男達に撮られていて、恥ずかしさを感じない訳では無いのだ。

 

「っ……」

 

「ふふ、筋弛緩剤はそういう用途のために使うつもりではなかったのだがな、意外にも副産物があったようだ」

 

 録画されている以上、恐らく男達の脅しの材料に使われるだろう。そして、負の連鎖が始まるのだ。だが、それを止められるのは千冬では無い。目の前にいる元凶の男たちである。

 

「くく……では、そろそろ本格的に動くとしよう」

 

「ぁ……」

 

 動き始める男たち。千冬は抵抗することは出来なかった。だが、不幸中の幸いというべきか、男達には自身の喘ぎ声を聞かれずに済んでいるのだ。

 

「う、ぁ……」

 

「くく……」

 

 しかし、男達はそのことに気づいているはずなのにどうしてか笑みを崩そうとはしなかった。何を考えているのか分からないが、千冬は、筋弛緩剤により鈍った感覚に感謝しながら思考していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side真耶

 

 私の体は、男達に丁重に扱われていました。勿論、こんなのは皮肉です。まるで女性を弄ぶかのような手つきで、私の胸を服の上から揉んでいました。

 

「ふ、ぅ……!」

 

「我慢するほどかい? まだ堕ちるつもりはないって意思は感じるけれど……あんまり序盤から我慢してると、本当に堕ちちゃうよ?」

 

「いや、です……!」

 

「ふふ、強情だ……」

 

 ゆっくりと、けれど私の胸の形を変えていくかのように強く揉んでいく。なのに、私の体はあまり痛さを覚えませんでした。どちらかと言えば……心地良さ、気持ちよさを覚えていました。

 

「それにしても、君の体は随分と面白いバランスだね?」

 

「っ……」

 

「身長は小さいのに、胸は大きい。織斑一夏はこんな教師が目の前にいて襲わなかったのかな?」

 

「お、織斑君はそんな事しません!」

 

「ならば、織斑一夏は不能かあなたのような美人に反応しない特殊性癖ということになるのかな? いや、女性ばかりのIS学園で女性不信になったから男色になった……なんてことも考えられる」

 

 私の心には、怒りが湧き上がっていました。織斑君をバカにしたばかりか、嘲笑うその行為。けれど私は……ISを展開することが出来ないただの女性。目の前の男に一切の抵抗が出来ませんでした。

 

「くっ……」

 

「ふふ、私達は今でこそ世界の重鎮としていますけど……一応、体はある程度動けるように特訓しているのですよ。織斑千冬相手では叶わないでしょうが……IS学園の生徒や、あなたのような一時代表だった程度の相手ならば簡単に御せます」

 

「……」

 

 嘘だと言うのは、何となく理解できる。けれど、体を鍛えているというのは多分本当でしょう。だからこそ、私は簡単に力を振るうことを許されていません。

 

「まるで乳牛だな、乳牛教師として生まれ変わるか?」

 

「そんな、不名誉なものになるくらいなら……」

 

「不名誉、か。すぐにそんなこと考えられなくしてあげますよ」

 

「私は……貴方たちの思い通りになりません……きっと、きっと助けが……」

 

「果たして、本当に来ると思っているのか?」

 

「……え?」

 

「これを見たまえ」

 

 そう言って、男は機械を操作して私にとある電子版を見せる。そこには、私達が受け取った呼び出しの連絡……とは細部が変わっているものを見せられていた。

 

「……これはね、君たち以外の教師に流したものさ」

 

「……数週間、間を空ける……!?」

 

「ただの連絡なわけがないだろう? 時間が経てば改竄が進むようになっているのさ……」

 

 そんな文面はなかったのに、私たちが数週間程学園を開けるという旨が記されていました。それ以前に、IS学園がISのコアを隠したという事実まで露呈されていました。

 これが本当に流れたとなると……私達の立場はとても危ういものになっていると思われます。

 

「さて、君達はきちんと報連相はしたのかな? していないのなら……学園から助けは滅多に来ないだろうね」

 

「そんな、こと……」

 

「信用がない人は、心配されないものさ。狼少年が狼に食べられたとして、親以外に誰が心配するんだ?」

 

「っ……」

 

 私たちを狼少年を例える、それは事実無根ではなく本当のこと。だから、男の言う事にも私は説得力を感じてしまいました。認めてはならないのに、私は心のどこかで認めてしまったんです。

 

「さて、君の体をもう少し堪能出来たら……本番に行こうか」

 

「……本、番?」

 

 その言葉の意味が分からない、ということでは無いです。けれど、私は……それをされる、というのがとても嫌な気分です。好きな人と、そういうことはするものだと思っていたので……思ってた以上に、悔しい気分になりました。

 

「使われないまま、三十路を迎えるのも嫌だろう? だから、私達で君を孕ませてあげようと思ってね。なぁに、君達が使える間はずっと孕ませるだけの人形として使ってあげるさ」

 

「っ……」

 

 女性を道具としか見ていないこの発言、こんな男達が世界の中心にいたと言うのが、私には信じられませんでした。もっと誠実な方がなるべきはずなのに……

 

「悔しいかい? でもね、こうさせたのは君たち女性だからね……自業自得というものさ」

 

「うぐっ!?」

 

 私のおしりの中に……何かがねじ込まれました。少し細いけれど、おしりの穴に入れるには……かなり大きいものと言うのが、私はよく理解出来ました。

 

「な、何を……」

 

「おや? アナルバイブは初めてかな? おしりで自慰行為をする変態が使うような道具さ」

 

 そんな物で、私が本当に絶頂するのかと聞きたかった。けれど、私は無理やり異物を押し込まれた不快感と、体の拒絶反応に翻弄されてろくに話すのも出来ませんでした。

 

「うぐ、ぁ……!」

 

「苦しいかね? 時期にその苦しみも快楽に変わる」

 

 私は男の言葉のほとんどを聞いていません。けれど、それでも私は自分がこんなことで気持ちよくなることはないと、断言出来ていました。

 

「わだじ、は……!」

 

「ふふ、その顔が蕩けるのは……案外早そうな気がするよ。織斑千冬と違って、君はとても強い人間だが……精神はそうでもなさそうなのが丸見えだからね」

 

「うぐっ……!」

 

 織斑先生も耐えている、それを考えれば私もこの程度のことは耐えられる……私はそれだけを頭に叩き込んで、絶対に耐えきるという自信だけで、耐えなければならなかった。



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低頭巨乳

 side五十冬

 

 織斑先生と山田先生が監禁されてはや数日。もちろん私も付きっきりで2人の介護に回った。なにせ、2人ともご飯を食べようとしないんで無理矢理液状にしたものを注入する他なかった。

 勿論、毎日毎日媚薬をいっぱい練りこんだものをアナルから注射するかのように入れている。

 放置しておくとオナニーを始めるので、体はもちろん拘束させてもらっている。織斑先生はまだまだ耐えられそうだが、山田先生は結構ギリギリのところまで来ていた。そもそも、あの人メンタル強そうで実はそうでも無いのだ。つまり、柱となっている部分を折れば……すぐに堕ちる。

 

「やっほー、山田先生元気してますー?」

 

「鬼村、さん……」

 

 頬を赤く染めて、荒い息となっている山田先生。童顔で巨乳なんていう属性の塊だと、変な気分になってしまう。というか案外山田先生チョロそうだから、余計に変な気分になりそう。

 

「ふふ……疼いて疼いて……仕方ないって顔してますね。どうですか? そろそろ男達に堕ちてもいいんじゃないですか?」

 

「私は、まだ……!」

 

「堕ちるつもりはない、って言いたげですね……でも山田先生とっくに堕ちてるものだと思ってましたよ」

 

「なにを、根拠に……」

 

 私は電子板を操作して、とある動画を流し始める。山田先生の目の前から流れるのは1つの映像。後でもうひとつ流すけど、とりあえず今は前段階の方で。

 

『ぁ! ん、んぁ!!』

 

「これ、は……」

 

「山田先生が喘いでる動画ですよ……あれ? もしかして意識してませんでした?」

 

 山田先生が犯されてる映像。その動画では、媚薬ありきとはいえ山田先生は凄く乱れていた。恐らく媚薬のせいであまり記憶が残っていないのか、意識していないのかは分からないが……その顔は嫌がって行為を受け入れている女の顔にはなっていなかった。どちらかと言えば、喜んで行為を受け入れている女の顔である。

 

「そんな……私、こんな……」

 

「いやぁ、凄い乱れてますね。いくら媚薬ありきとはいえ、ちょっと喜びすぎじゃないですか?」

 

「く、薬のせいです……こんな、こんな……」

 

 まず第1段階。口では否定していても、体が行為を受け入れている。薬があろうがなかろうが、その事実を目の当たりにさせるのが最初の作戦。

 人間、逃げ場所があれば基本的にそちらに逃げる。自分の認めたくない事実に、逃げ場所があれば……そちらに逃げる。認めるのは、逃げ場所がない時である。

 そして今から私がやる第二段階目で……その逃げ道を潰す。

 

「そう、薬のせい……だったらちょっと勝負してみますか?」

 

「……勝負?」

 

「これから山田先生には1週間手を出さないように伝えます、誰か一人でも手を出せば負け。けど、山田先生がもし男達に媚びるようなら……山田先生はそれから本当に人間の尊厳を失うことになります。

 もし先生が勝ったら、ちゃんと解放してあげますからね。2人揃って、なんだったら私も出頭しますよ?」

 

「……わかり、ました……」

 

 そして、追い詰められた人間は自分が正しいと逃げ場所で叫ぶのだ。既に周りを囲まれているにも関わらず、自分は安心だと豪語するのだ。そもそも体が既に感度あげられて散々に犯されているのに、逃げられるわけがないだろうに。

 

「ふふ……楽しみですよ」

 

 因みに、もう一つの動画というのは織斑先生のもの。山田先生と同じように、媚薬を入れられて犯されて、喘いでいる織斑先生のもの。山田先生は自分の動画を見せられても、簡単に逃げ場所を確保して自分を保とうとするだろう。

 けれど、自分が尊敬する織斑千冬の痴態を見たら簡単に折れてしまうだろう。

 なら、なぜ初めからそっちを見せないのかって? 単純に、私が徹底的に山田先生を叩き潰したいからだ。まぁなんか勝手に山田先生に手を出さないとかって言ってるらしいけど……私そんなこと知らないし、勝手にしてくれって感じ。

 

「さ、私と先生……どっちが音を上げるか勝負しましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 手は出さない、私は本当に男たちには犯すことを禁じた。何だったら体に触れることも禁じた。でも、それ以外なら何だってやっていいと伝えた。

 そしたら、どうなったと思う? 男達は山田先生の目の前で自慰を行い始めたのだ。まぁ、ぶっかけるのも一応ダメって言ったのでギリギリの距離でやってもらってるんだけど。

 

「っ……また……」

 

「手は出してませんよね? 先生の体を汚してもない……私は何も先生との約束を破ってはいませんよ?」

 

 但し、視覚と嗅覚は犯させてもらっていた。視覚で男の肉棒を見させて、精液の匂いをこれでもかと嗅がせる。山田先生はあまり強気には出れない。なぜなら、私は本当に約束を破っている訳では無いのだから。

 

「それは、そうですが……」

 

「……どうしたんですかぁ? そんなに体をもじもじさせて……もしかして、犯されたくなっちゃった……とか?」

 

「っ! そ、そんなことあるわけないじゃないですか!! 」

 

 必死に否定をする。それを見て私はニヤニヤと微笑むだけだ。そして、私はゆっくりと先生に近づいていって……その大きな胸をがっしりと掴む。

 

「こんな体してるのに清純だなんて……ほんと先生って面白いですね」

 

「か、体の成長は……関係ないでしょう……!」

 

「はいはい、その通りですね……おっぱいが大きくてなおかつ感じやすいのが……ただの成長の問題なのであって、先生が根っからの淫乱体質な訳では無いですもんね?」

 

「うぐ……」

 

 言葉での追い打ちも忘れない。山田先生には、人の言っていることを無視して……なんて器用な真似はできない。そんな器用な真似が出来ているなら、今頃こんな所にはいないだろう。

 

「あぁそうだ、山田先生知ってます?」

 

「……何が、ですか」

 

「IS学園……1度全体的に休学する事になったらしいですよ」

 

「……っ!? ど、どうして……」

 

「当たり前ですよね? 世界的に有名なブリュンヒルデが裏切り、IS学園はその体制を疑われる事になった。世界から独立した存在と言うのなら、IS学園自体がテロリストの巣窟だったら……となった場合、その責任問題は教師たちに行きます」

 

 まぁ、そうなるよね。まずIS学園がどのくらい止まるのかは知らない……けど、これで一旦『教師』という拘束具がIS学園から外れる。ま、あの映像が全ての証拠だ。悪いのはこの二人である。

 

「っ……」

 

「恐らく……織斑先生と山田先生含めた全員が教師を解雇、軽くてもそこから長い間監視生活でしょうね」

 

「そんな……!? 他の人は関係ないのに……!」

 

「巻き込みたくないなら、織斑先生を止めておけばよかったんですよ。最強のブリュンヒルデだからといって、万能だと思ってませんか?」

 

「それは……」

 

 どれだけ凄い人間でも、見えない所まで手は伸ばせない。見えないところはどう足掻いても確認できない。確認できないところは……助けようがない。

 

「大方、織斑先生が『学園くらい守ってやる』とか言ってたのを真に受けた感じですかね? 人間1人に、過信しすぎなんですよ」

 

「っ……」

 

「現実はこうなってる……確かに織斑先生は強いです。既存の軍隊が相手だったら、多分IS無しで無双してた感じですかね? けど、こうやって政治の話になれば別……どれだけ頭が良くても、あれを回避する術はありませんよ」

 

「けど、でも……」

 

「言い訳は結構……恐らく山田先生と織斑先生はこれからろくに太陽を見れる生活は期待出来ませんね、テレビくらいは見せて貰えるといいですね」

 

 そう言って、私は乱暴に胸を離す。すこし山田先生の顔が苦痛に歪んでいるけど、こんなに掴みやすい胸をしてる方が悪い。

 

「さ……今日もまた男達の行為を肌で感じ取ってくださいね」

 

 それだけを言い残して私はその場を離れる。入れ替わるように、男達が山田先生の周りに集まる。山田先生は気づいていないのかもしれないが、視線は男達の肉棒に注がれているのだ。

 それだけ、山田先生の体は堕ちている。何だったら、心も一緒に墜ちている。山田先生はそれを認めたくないだけである。

 成果が如実に現れていることを感じ取りながら、私はただほくそ笑んでいるだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 side真耶

 

「はぁ、はぁ……」

 

 私の前には、男性器……匂いも形もすっかり目に焼き付き鼻にこびりつき……それを拒否出来ない体に、私はされていました。しかし、頭はモヤがかかっているかのようにぼやっとしていました。決して近づけない、近づいていけない距離……私は、その距離を段々詰めていました。私にも理解できない、無意識の行動でした。

 そして、一人の男性に近づききった私は……その肉棒を……口に咥えてました。

 媚薬がいっぱい食べているご飯にでも入れられていたのか、それとも私が気づかない間に私の体は既に堕ちきっていたのかは分かりません。もう、それすらどうでも良くなっていたのですから。

 

「んむ、ちゅる……」

 

「遂に堕ちたな……」

 

「まぁ、腸から無理矢理飯を入れられて……その中に媚薬も入れられていたからな……当然堕ちるのは早いさ」

 

「それで自慰も出来ずに男に囲まれるだけの生活……」

 

「最初に散々犯したのが効いている、という事ですかな」

 

「そういうことですよ」

 

 なにかを話しているようですが、もはや私の耳には聞こえていませんでした。薬のせい……薬のせい……私はそう言い聞かせながら、今までの欲望を発散するかのように行為に没頭していきました。

 

 

 

 

 

 

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 side? 

 

「ひ、あ、んん!」

 

 男の上に跨り、自分から腰を振る真耶。自分は媚薬のせいで堕ちたのだと、そう言い聞かせながら行っている行為だった。

 

「いやぁ……しかし随分と効果の強いものを使っていたのですな」

 

「おや、気づいていなかったのですか?」

 

「ん? 何がですかな?」

 

「あの食事、途中から媚薬なんて入っていませんよ」

 

「ほう……それはまた……」

 

 当然、この会話は真耶には伝わっていない。伝わるわけがない。彼女の頭にはもはや理性の文字は存在しないのだから。

 

「いつからですかな?」

 

「犯すなと言われたあの日から、ずっとですよ」

 

「つまり?」

 

「今の彼女は自分の意思で堕ちている……という事です」

 

「はっはっは! どれだけ言い繕っても雌は雌ということですかな!」

 

「違いない」

 

 男たちは高らかに笑う。その光景を携帯機器で見ながら、五十冬はほくそ笑んでいた。負けた自分の元教師の姿を見ながら、またもう1人の元教師の方に視線を移す。勿論行為中の音声はイヤホンからなので外には漏れていない。

 

「さて、織斑先生……山田先生は我慢できなかったみたいですよ?」

 

「貴様、約束を……!」

 

「約束? いや、私それ知りませんし……それに、山田先生の方に残った男たちも知りませんよそんな約束……それに、守ると思ってるんですか?」

 

「ならば、守られない約束だと言うのなら……!」

 

「ここにいる全員を止めますか? ブリュンヒルデが世界各国の重鎮達を手にかけるその姿……きちんと録画して外に流しますよ?」

 

 その言葉に手が止まる。勿論、自分の名誉を守りたいなんていうことじゃない。守りたいのは、弟の一夏である。もし、千冬が今ここで行動を起こしてそれが外部に盛れた場合……1番危ないのは弟の一夏なのだ。

 

「っ……」

 

「そう、あんたは手を出せない……ここで大人しくしているのが無難だよ」

 

 一夏を守るためには、千冬が犠牲にならなければならない……千冬はそれが正解だと理解しなければならなかった。しかし、五十冬の笑みにはまだ裏があるのだ。

 そのことに千冬が気づくのは……まだもう少し、あとの事である。




アンケ結果を見たら、五十冬は黒髪ロングのメガネっ子になりました。バストサイズはAAAです


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少女各人

 どうも、五十冬さんです。山田先生に織斑先生の犯され喘いでいる姿を見せて堕とそうと思っていたのが、思っていた以上に早く終わってしまって嬉しいやら悶々するやらで感情がほんの少し大変なことになってます。映像の編集頑張ったのに。

 

「……まぁ、元々の目的自体は達成されてるからいいか」

 

「……彼女にも、私と同じようなことをしたのか?」

 

「まぁ一応……でも、今の織斑先生みたいに媚薬を盛ったりはしてませんよ?」

 

 途中まで盛っていたが、盛ってなくても媚薬効果がパッと見現れていることから、人間の思い込み後からは凄いものなのだと認識させられる。

 

「山田先生は性的なことに耐性なさそうだったし、案外簡単に堕ちてくれて助かりましたよ」

 

「ふん……だが、私は彼女のようにはいかんぞ……!」

 

「ふふ、頑張ってくださいね?」

 

 実際、山田先生のように簡単にはいかないだろう。実際、それなりに媚薬を吸収させているはずなのに、顔が少し赤くなる程度で落ち着いているのがおかしい。どうなってんだほんと。

 ともかく、私はいつも通りおもちゃ付けて飯を飲ませて一旦部屋から出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さて、どうしたもんか……ん?」

 

 私が織斑先生をどうやって堕とすのが考えていると、通信が入る。簪からだった。というか、なんで今このタイミングで電話なのだろうか……と考えながらも、私はそれに出ていた。

 

「はいはいもしもし?」

 

『……IS学園、ちゃんと休学になったよ』

 

「おー、そりゃあ良かった良かった」

 

 実際、何日も教師が離れてたら学園としては機能しないだろう。だから、世界の重鎮パワーによってIS学園を一旦休学する事にした。表向きの目的は、教師達の意思の確認。もう1つは生徒達の教育の成果の確認である。ここで言う教育の成果というのは、文字通りの意味ではない。要するに、織斑千冬と山田真耶の2人……またはそれ以外の人物からテロリズムを受け継いでいないか? の確認のためである。

 

『だから、しばらくは生徒の面談が主になると思う……』

 

「だろうねぇ」

 

『しばらくしたら、戻ってこれるようにする』

 

「そうなったら嬉しいんだけどねぇ」

 

 IS学園に戻れるというのは、単純にIS学園でしか調べられない資料もあるためだ。だが、今はそんなことはどうでもいい。今の段階でわかっていることを教えてもらうのが先決だ。

 

「休学解除はいつ?」

 

『……正確な日時は分からないけど、修学旅行までには解決するみたい』

 

「修学旅行かぁ……今更京都に行ったところでねぇ……」

 

 臨海合宿のようなものならともかく、修学旅行はIS学園ではあまり意味の無い行為なのでは? としか思えない。しかも京都だ、日本学生が多いIS学園で京都はどうなのだろうか、しょぼくないのだろうか。どうせなら南極とか行ってみたい。

 

「なんで何度も行った京都に行かないといけないのやら……」

 

『日本が近いだけ、だと思う……』

 

「理由がしょぼいなぁ……ところで、教師の問題は?」

 

『調べた感じ、全員教師をクビ……とは書いてある。これも表向きの書き方なだけかもしれないけど』

 

 ただクビにするだけで終わるわけがない。良くて監視が付けられて、悪くてここにいる2人の教師ルートだろう。どっちが幸せなのかは一目瞭然である。

 

「代わりの教師は、国が選んだ人物を置くんだっけ?」

 

『そう……但し、教師としての素質が高い人物だけでIS乗りはほとんど居なかったはず』

 

 当たり前だ、男から送られてくるのにIS乗りな訳が無い。仮にIS乗りだとしても、まともなIS乗りじゃないことだけは確かである。

 

「……仮に今ここにいる山田先生とか織斑先生みたいな感じにされて、再雇用される可能性は?」

 

『ないとも言いきれないけど、クビにした理由が理由だから可能性としてはかなり低いと思う』

 

「あぁ……やっぱりそうだよねぇ……」

 

『再雇用して欲しい先生でもいた?』

 

「いや別に? あぁ、IS学園の新しいルールはどんな感じ?」

 

『まず……ルールというか月一で、学園の3割の生徒がランダムで選ばれて、政府に向かう。ってルールが追加された』

 

 政府に向かってどうするんでしょうねぇ、その3割は。まぁわかりきっていることを聞き直すのも無粋かな。他に何があるかも聞いておこう。情報は大切だしね。

 

「……でもIS学園なのに、ISに乗れない人達で構成されてるってのはどうなの? 名目上、ISパイロットを育てるためのものなんだし」

 

『AIがいれば問題ないだろう、ってことらしいよ。人が教えるよりも、基準値を低く設定しやすい機械の方がいいんだって』

 

「よくそれで通ったもので……」

 

『IS学園っていう、IS乗りの巣窟みたいなところだしね……仮に反対したら、揚げ足を取られて即終了なんてことあり得るみたいだし』

 

「……にしても簡単に通り過ぎじゃない?」

 

 いくら何でも、反発が起こらなかったというのは考えにくい。それに、ここまで早い段階で進んでいると余計に違和感を抱いてしまう。何故ここまで進んでいるのだろうか? 

 

『多分、主にドイツ軍とお姉ちゃんのおかげだと思うよ。それ以外にも専用機持ちで色々揚げ足取れたみたい』

 

「ドイツ軍と更識楯無のおかげ……?」

 

 簪の言うことはがよく理解できないが、一体全体どういうことだろうか? もうちょっと詳しく聞いてみよう。

 

『ドイツ軍……臨海合宿の時に1回戦ったんだよね?』

 

「うんうん」

 

『その時の勝手な出撃が批判されてドイツ軍……IS部隊は活動停止になったんだって』

 

「へぇ……まぁ更識楯無は織斑一夏関係っていうのは分かるけどさ、他の専用機ってどゆこと?」

 

『例えばさっき言った織斑君の事だけど……福音との戦いの時に密猟者という存在を守ってたっていうのが大きいみたい。

 それに、凰鈴音はその時に貴方に負けて拉致され行方不明。ラウラ・ボーデヴィッヒは勝手な行動な上に、暴走したこともあげられてる』

 

 ドイツ軍関係のことばっかり槍玉に挙げられて可哀想。まぁIS部隊の制御できなかった方が悪いとも言えるけど。

 

『それとシャルロット・デュノア……というかフランスのデュノア社なんだけど、男装させて学校に入学……織斑一夏に近づける為に利用したっていうのが原因みたい』

 

「んー、それシャルロット悪くなくない?」

 

『まぁ、普通はそうなるんだけど……IS学園の今までの特性上、来てからバラしても問題なかったはずなのに、それを怠った為親に協力する意思ありと見なされているらしいよ』

 

「あら」

 

 まぁ別にそこまでしてかばうことでもないけど、物は言いようと言うやつだろうか? 正論と言えるべきことではないが、批判もできないという言葉。

 

「えーっと、後いるのは……篠ノ之箒とセシリア?」

 

『セシリアは特にない……篠ノ之さんは、束博士にISを作ってもらった……つまり身内贔屓をされているという事らしい』

 

「うわぁ、理不尽すぎる」

 

 しかし、篠ノ之束が絡んでるとなったら確かにそう疑ってしまうのも仕方ないのかもしれない。だが、どれもこれも理由としては弱い気がするけど……

 

『で、これが最後の理由……ブリュンヒルデなどがいるというのに、専用機持ち達が基本的に負けっぱなしって言うのが大きいみたい』

 

「あー……」

 

『教育者の基準値とレベルが高すぎて、教育がお粗末になっている……だってさ』

 

「だから機械化による基準値の低下と平均化って事ね……」

 

『それに、AIによるノルマ形式にすればISの成績も伸ばしやすい……らしいよ。そのために各国のIS乗り達の意見などをまとめて平均化したAIが組まれてるんだって……今の休学期間は、そのための準備期間だとかなんとか』

 

「なぁるほどねぇ……」

 

 おおよそ話は理解出来た。AIのプログラムは恐らく色々な細分化されていくだろう。例えて言うなら、講義制……つまり自分で知りたい教科を取っていくスタイルに落ち着いていくということである。今回はプログラムだが。

 

「うんうんいいね……だいぶ理解出来た……で? 簪ちゃんは?」

 

『生徒会長は色々やることがあるから……多分私は呼ばれることはないと思う。それに、私が居ることで貴方にもメリットはあるんだから』

 

「メリット?」

 

『大丈夫……もうすぐ修学旅行の下調べ期間が始まるから……その時までには解決してると思うよ』

 

 何だろうか。私も修学旅行に連れていってくれるとかっていうサプライズだろうか? 簪ちゃんという友達を持ててあたしゃあ嬉しいよ。

 

『それじゃあそろそろ切るね、織斑先生の事はしばらく任せたよ』

 

「はーい、任され申した」

 

 そう言って電話は切られる。情報の収集はある程度出来た、ここにいるだけじゃあ分からないことなんていっぱいあるしね。とりあえず調べられるだけ調べときたいところだけど……

 

「今はまだ織斑先生の調教とかあるしなぁ」

 

 とは言っても、あの堅物を堕とすのは中々骨が折れるかもしれない。ブリュンヒルデを快楽に堕とすにはどうしたらいいのやら……とついつい考えてしまう。

 ま、早い話SEX漬けにしてしまえればいいんだけど……それが出来たら苦労しないんだよなぁ!! 

 

「……ま、いいか。ここから離れるのはほとんど不可能だろうし……予定通り私も京都に行くか」

 

 修学旅行の下調べ、そこの期間中に私は京都に行くことになっている。予定が大幅にズレてしまっている訳では無いので、そのまま向かうとしよう。

 山田先生は堕とせたし、余程の事がない限り多分大丈夫だろう。

 

「よし、決まり!」

 

 下調べ期間は、生徒会と専用機持ちで行われる。休学中でもそれは変わらないらしく、ちゃんとしてくれるそうだった。まぁ私は行くだけとはいえ会わないように気をつけておかないとね。

 

「そういえば、最近スコールとエムを見てないなぁ……」

 

 どこで何をしているのかは知らないけど……ま、きっと碌でもないことをしてるのだろうと予測できる。妙に嫌な予感がするが……あまり考えない方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 side? 

 

 その時は、誰も気づいていなかった。此度の京都修学旅行下調べ、その最中に起こる事件の数々、そして……五十冬自身が体験する未知の出来事。

 

「……」

 

 自宅で考え込む織斑一夏、いなくなった姉のことを考えながら、いなくなった幼馴染の凰鈴音の事を考えながら。ただ、その気持ちに覚悟を決めていた。

 

「五十冬さん……」

 

 そして、日本での住居がないので寮生活をしているセシリア。五十冬の事を考えながら、その瞳に何を見ているのか。

 

「……どうなっちゃうんだろ」

 

 少しの不安を持ちながらも、明るく振舞おうとするシャルロット。これから起こりそうな事に、不安だけを感じていた。

 

「……いざとなれば……」

 

 何かを考えるラウラ。手に持ったコンバットナイフを握りしめながら、友を守る決意を固めていく。

 

「……一夏……」

 

 姉が居なくなり、その不安に駆られているであろう一夏を心配する箒。一心不乱に竹刀を振るうが、その心は晴れることは無い。

 各人、思うところも決めることも勿論あるが……時間は限られている上に簡単に終わってしまう。その覚悟をせいぜいつらぬける意思があるかどうか……運命は、それを見定めようとしているのであった。



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京都旅行

 どうも、五十冬です。織斑先生は一旦お偉いさん達に任せて、私は京都に来ています。ここで一旦マライアやスコール達と合流する予定なんだけど……

 

 

「……なんだあの光景……」

 

 偶然にも、織斑一夏を見つけてしまう。見つけてしまったんだけど……近くにいる人物が謎すぎる。

 欠損した右腕、火傷のあとにやたら着崩して胸元がガッツリ見えてる着物。そして眼帯にキセル……なんちゃって日本を凝縮させたような、そんな人物と一緒にいたのだ。

 

「あ、離れた」

 

 私が見つけたすぐだったんだが、速攻で離れていた。長話をしていたのか、織斑一夏に声を軽くかけていただけだったのか。それは判別できないけど、織斑一夏も微妙に困惑してるあたり……多分いきなり変人に声をかけられた感じかもしれない。

 

「盗み見はよくないネぇ」

 

「っ!?」

 

 気づけば、いつの間にか私の後ろに先程の変人女が立っていた。いやいや、私のところに向かってきてなかったのにどうやってこっち来たし。

 

「いやぁ、まさかこんな所で……ストーカーされるなんて、罪なことをしてるもんだネ」

 

「……あんた、何者?」

 

「それを言うなら、そっちが何者か聞きたいところだネぇ……さて、君にもよくない相が出てるヨ」

 

「……は?」

 

 いきなりこの痴女は何を言っているんだろうか。もしかして、私に対してなにか思うところでもあるのだろうか。テロリストってことがバレた? いや、まさか……

 

「死と隣り合わせ……死亡仕掛ける、時々……女難というべきかネ」

 

「……死にかけてるっていうか、私人間としてはある意味で死んでるんだけどね」

 

「ほうほう?」

 

「いや、まぁ……別に関係ないよねアンタには……で? あんたは一体……」

 

「不思議な不思議な女性サ。ミステリアス・オネーサンと呼んでくれたまえヨ」

 

 そう言って痴女は離れる。少し、この京都でも警戒しておいた方がいいのかもしれない。得体の知れない敵がいるって話だし……っと、そういえば……

 

「スコールが織斑一夏の暗殺企ててたっけ……それを行うのがIS学園にいた他のスパイって話だけど……」

 

 私そいつが誰かわかってないんだよね。ちょっとでもバレる可能性を減らすために、向こうも私のことをよく知らないはず。こちとら除籍になってるから、案外分かっちゃうのかもしれないけど。

 

「……ま、いいや。とりあえず向かうとしよう」

 

 まずは行動だ。動いてからじゃないと自体は動かないし、認識するのも難しい。私がこんな前向きなこと言うのって珍しいから、みんなちゃんとメモっておいてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「んー……」

 

 まただ。また偶然にも織斑一夏と出会ってしまった。しばらく京都観光をついでにしつつ、合流しようと思ってあっちらこっちら動き回っていたが……間抜けな顔してカメラを首から下げている織斑一夏がそこにいた。

 

「けど、ここって……」

 

 なんと言うか、狙いやすい場所ではある。いつ行うかは分からないが、暗殺は人気の無い場所で行わければならない……今回は射殺するらしいけど……

 なんて考えていたら、急に銃撃音が響き渡る。

 

「っ!」

 

 気がつけば、織斑一夏の傍には例の痴女が立っていた。手に持ったキセルで銃弾を捌くあの感じは、人外先生を思い出す。

 

「あ、あの、貴方は……? さっきの人、ですよね? ええっと、猫の……」

 

「アリーシャ・ジョセスターフ。アーリィって呼ぶといいのサ」

 

 織斑一夏にウィンクをするアリーシャ・ジョセスターフ。名前は偶然聞こえてきたが、自己紹介の合間にも銃弾を叩き落していっている。

 

「これじゃあ暗殺は失敗だ……ま、そのくらいで死ぬようならとっくに死んでるはずだけど」

 

 織斑一夏は、なんと言うか運命に愛されている。理不尽なことに。不平等な事に。その運命に愛されるのを、他の人に分けれたらとてもいいのに。

 

「さて、どうするかな……」

 

 考え込んでいる間にも、私は目の前の状況を整理していく。ここで飛び出せば織斑一夏は殺せるが、おそらく向こうはISを持っている可能性が高い。

 と、予測を立てていたらどうやらその予測は的中していたようだ。

 

「まさか、テンペスタを持ってるなんてね……」

 

 第1回モンドグロッソの準優勝、そして第2回モンドグロッソで優勝したIS。パイロットが片腕なんて聞いたことないけど、恐らくなんらかの事故によって無くしてしまったとかそういう話だろう。

 そして、テンペスタが欠けている右腕を再生するかのごとく、ワイヤーで腕を構成していく。その腕は、銃弾をいとも容易く弾いていく。

 

「……さて、どうしたものか」

 

 アリーシャ・ジョセスターフは、どこかへと飛んで行った。恐らく、織斑一夏を暗殺しようとした人物の所だろう。私も追いかけるべきか、はたまた織斑一夏について行くべきか……

 

「……ん?」

 

 マナーモードにしてた携帯に、メールが入っていた。スコールからだ。こんな時になにを連絡しているのか、と思いつつも開いて確認する。

 

『オータムが織斑一夏を確保しに行ってる』

 

 なるほど、と私は頷いた。私がここに居合わせたのは本当に偶然である。偶然だからこそ、誰も私の位置を知らないのだ。

 だから、知られてないからこそ可能なサポートがあるのだ。

 

「へっ! 相変わらず脳みそ日向ぼっこかァ? 織斑一夏!!」

 

「っ! オータム!!」

 

「噂をすれば……か」

 

 オータムがどうやらやってきたようだ。それと同時に織斑一夏は逃げ出して……それをオータムが追う。そんな二人を私も追う。ラウラから銃弾回避術でも教えてもらったのだろうか? 素早く逃げながら、織斑一夏は逃げ回っていく……が。

 

「この先は袋小路……」

 

 行き止まりだと、私が予め渡されていた地図には乗っていた。だが、この袋小路……簡単にいきすぎている。私は嫌な予感がして近くのスペースに身を潜める。オータムは何も感じなかったのか、そのまま織斑一夏を追い詰めて━━━

 

「セシリア!」

 

「ごきげんよう、一夏さん」

 

 ……オータムはセシリアのブルービットに囲まれていた。そして、静かに迫っていた他の専用機持ち達が、ISを展開してオータムを囲っていた。簪は居ないようだが……マライアがいた。万が一の時になっても、マライアには私を助けないように言っておこう。この子私助けそうだし。

 

「動くな……一緒に来てもらおうか、オータムとやら」

 

 ラウラが超電磁砲の照準をオータムに合わせていた。オータムがISを展開するよりも早く、ラウラはオータムの体をバラバラにできるだろう。

 だが、それは『私がいない』という前提で成り立っているものである。

 

「っ!?」

 

「五十冬さん……!?」

 

 私はカリオストロを展開して、横から突っ込んでいく。さて、カリオストロの装備は潤沢なものだけども……今いる専用機は織斑一夏を含めて、5機。

 本気でやってもこの数を相手にできるのかねぇ私。さすがに多すぎる。

 

「オータム、逃げて……さすがに二人でも相手するのは辛い。そんで、貴方が捕まったらスコールが冷静な判断を出来なくなる可能性もある」

 

「ちっ……後で迎えが来るかもな」

 

「逃がすか!!」

 

「行かせない」

 

 そう言いながら、オータムが飛び立っていくのを確認する。ラウラやセシリアが狙い撃とうとするが、私はそれをピンポイントで抑える。ビットはある程度楽だけど、ここから装備をフル活用したとして……私の脳が耐えられるのかどうか……頑張るしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 即堕ち2コマとか言った奴は殺す。えぇそうですよ、私捕まっちゃいましたよ。

 近接戦に織斑一夏、そこに高速で割り込む篠ノ之箒、援護射撃にセシリア。隙を着いて私を怯ませる銃撃をしてくるシャルロット、一撃必殺を撃ってくるラウラ。援護だけしてたマライア……いやいや、いくら装備があってもこっちの味方が足りないわ。あっちはコンビネーションもちゃんと鍛えてるせいで、翻弄されっぱなしなんですよ。2人までならともかく、もしくは軍隊的な特訓をしていたとかなら兎も角……無理だったよ。

 

「……敵の戦力は-1、こちらは-2だ。しかし、アーリィが入ったことにより+1……向こうは+2だ。そのことを念頭に置いておくように」

 

「おやおや、随分と落ち着いてるネえ」

 

「騒いだってしゃあないでしょ」

 

「五十冬さん、どうして……どうして、亡国機業なんかに……」

 

「さてね、お嬢様には分からないものが貧民にはあるんですよ……それに関しては人それぞれ考えが違うから、あんまり強くは言いませんがね」

 

「……じゃあ、作戦を説明するね」

 

 先生達がいないから、簪が指揮するみたい。まぁ元々行う予定だったところに急遽先生の逮捕だからね、他の人員の確保が難しいのに作戦は行なえって話だから無茶にも程がある。

 さて、話を聞きながらじっとしておきましょうか……ここから逃げようとして、失うリスクがデカすぎるしね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

 京都のどこかの室内プール。そこでスコールはとある人物2人とそこにいた。但し、水着を着ているのはスコールだけであり残りの2人は水着を着用しないままプールに入っていた。

 

「そういや、あんたの所の女1人……捕まったらしいぜ」

 

 プールで泳いでいる全裸の少女、スコールと同じ金髪でありそして同じようにそのスタイルもスコールと同じようにグラマラスなものであった。

 名はダリル・ケイシー……否、それは彼女の偽名である。本名レイン・ミューゼル、IS学園3年生の専用機持ちにしてスコール……スコール・ミューゼルの親戚である。

 

「……女?」

 

「確か、オータムを庇って捕まったとか……1年の専用機全員と相手して、撃墜されたんだってよ」

 

「……五十冬ね……」

 

「どうする? 叔母さん」

 

「……オータムを庇ったことは感謝してる、できれば助けてあげたいわ……けれど━━━」

 

「向こうの戦力が高い、安易には助けに行けないって事だよな」

 

 スコールは頷く。彼女達のISは制限解除されているもの……だが、こちらの戦力では向こうの戦力相手では分が悪いのだ。1年となると、マライアもいるのだから。

 

「……今は機会を待つだけよ」

 

「ありゃ、行っちゃったよ……俺らも行こうか、フォルテ。ベッドにさ」

 

「わ、わかったっす……」

 

 頬を赤く染める少女……IS学園の2年生の専用機持ち、フォルテ・サファイア。彼女は本来、亡国機業とは何ら関係ない少女である。しかし、恋人であるダリル……否レインの方を取り学園と祖国を裏切ったのだ。

 彼女達は、まるでスコールなんて眼中に無いかのようにそのままベッドルームへと向かう。そして、作戦のときまで蜜月を過ごすのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 向こうの作戦は開始された。私は今だ拘束されている……この場には簪とマライアの2人が残ってる。そして、それ以外のメンバーは外へ出払っている。つまり……今はチャンスの時。

 

「……五十冬、もう大丈夫」

 

「いやぁ、助かった助かった」

 

「お姉様申し訳ございません! かくなる上は腹を切って腕も足も首も全部切り落として……」

 

「はい今の全部なしね、首から下がサイボーグなんてもう生きてるとか言えないから」

 

 私はマライアの頭をわしゃわしゃしながら、体を軽く動かす。うん、何にも問題なし。さて、後やることと言えば……

 

「2人のISのエネルギー貰うよ、それとこの場は破壊させてもらうから」

 

「うん、わかってる」

 

「偽装工作までしておかないと、ですね!」

 

「まぁ2人が死なない程度にはしてあげる、残りは運に任せてね。死んだら悪かったってことで」

 

 そう言って私はカリオストロを起動させる。エネルギーが足りなくてヤバいが、IS2機分のエネルギーがあれば回復は十分だろう。

 であれば、あとはここを破壊して……私が拘束を解いて無理やり逃げたように見せておくだけである。他の奴らがどこにいるのかの情報は既にある、私は……織斑一夏の所に向かうだけだ。スコールは多分大丈夫だし。

 

「あ、スコールにも連絡しておかないとね」

 

 しかし、私を助けるフリくらいはして欲しいところである。私はそれを少しだけ念じながら戦場へと飛び立つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく飛んでいた私が見たのは、黒いISと白いISの姿だった。黒いIS……乗っているのはエムだった。新しいISだろうか? まさか、誰に作って……いや、今は考えるのはよそう。

 それよりも、今は白いISの方を……

 

「エム!」

 

「貴様……」

 

「なにこれ誰あれ……白式じゃないよね、まさか白騎━━━」

 

「関係あるか! 私があれを潰す!!」

 

 どう見ても話に聞いてた白騎士。けど、あれが生き残っていたとして……どれだけ旧世代のIS? って話になる。けど、なんだろう。私の中に燻るこの不安は……

 そして、私の考えも知らずにエムが白騎士へと突貫する。

 

「あぁもうめんどくさい!! なるようになってしまえ!!」

 

 叫んだ私も、突撃を入れていく。さて、一体全体どうなってしまうのか……この時の私は考えることもなかった。

 そしてぶつかりあいながらも、私達はその動きの人間味のなさに少しずつ確信を得ていった。そう、動きが人間のそれではなく、プログラミングされたかのような機械的な動きなのだ。

 

「ははは、所詮はプログラムか!」

 

「これくらいなら……!」

 

 エムが大型の剣を取り出し、私がいつぞやの襲撃の際に来ていた両腕が巨腕のISの両腕を取り出す。一気に仕留めにかかるのだ。

 お互いに反対側から攻め入り、私が熱で……エムが物理的に相手を落とそうとしていた。

 

「これで!!」

 

「バラバラになってしまえ!!」

 

 エムの剣が、チェーンソーのようにうなり始める。絶対防御を削りきれると思われるほどの威力のそれを、私が更にサポートする。熱で溶かせない金属なんて、そうそうないだろう。

 だが、現実は甘かった。

 

「何っ!?」

 

「んなっ……」

 

 私の腕が壊されて、エムの武装が破壊される。幾らなんでも旧世代の機体で……!? 

 

「貴方達に、力の資格は、ない」

 

 その言葉、私には通じない。資格がないからなんだと言うのだ。使えるものを使って何が悪い。私はそう思う。だが、エムはそう思えず……今の言葉で冷静さを欠いてしまう。

 

「うるさい……うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい!! 私が、私が織斑なのだ!! 私こそが完成された織斑マドカだ!!」

 

「ちょ、エム! ぐがっ……!?」

 

 私達の首が、白騎士に締め上げられる。締め上げられた首は、ミシミシと音を立てる。私、久しぶりに窒息の気分味わってんだけど……これまともな人間なら首折れてるっての……! 

 

「━━━っ!?」

 

「ごはっ……!」

 

 そして、白騎士はそのまま加速して私たちを地面に叩きつけてから、そのまま加速して地面を引きずり回していく。

 

「資格のない、者に、力は、不要」

 

 カリオストロの武装が尽く壊されていく。引きずられているだけなのに、バラバラになっていく。そして、それと一緒に私の意識も落ちていく。落ちて、落ちて、落ちて━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 .

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、私は赤黒い世界にいた。地面は血だらけ……いや、最早血の湖。そこに、私は立っていた。そして、そんな私の目の前に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……何食べてるの?」

 

「&J%CKMKQ゛」

 

 何を言ってるのか、私にはまるで通じない。けど、多分大切な何かを食べてるんだと思う。何を食べているんだろうか。

 そういえば、この異形の見た目を私はきちんと見ていなかった。でかい機械質と肉質が一緒になったかのような両腕、腐っている胴体の肉、顔は……首がないのか胴体にほとんど同化してる。目らしき部分の周りには囲うような焼け跡……そして謎の黒い糸……髪の毛だろうか? それが腰の辺りまで━━━

 

()()()()()()()

 

 ふと口にした言葉。でもこの直感は間違ってない。いや、むしろ私そのものだ。機械まみれの肉の体。そう、こいつは私なのだ。だとしたら、何を食べてるんだろうか……ふと気になって覗き込む。

 

()()()()

 

 何故冷静でいられるのか私には分からない。分からないけど、本質的に理解した。私は私を食らっているんだ。だとすると、私を食べている私は、厳密には私じゃない。そうだ、私を食ってこいつは私になりかけているこいつは━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『システム起動

 KEEN・ABANDON・LAPSE・IMITATE・OBJECT・SYSTEM・THIEF・ROBOT・OBJECT

 K・A・L・I・O・S・T・R・O』

 

 人造人間、つまり機械の体の人間が使うことを目的としており……盗み、模倣することによって相手たらしめるものを奪うという間違いを犯してでも、相手に絶対的有利を働かせて戦闘を放棄させて恐怖で泣き叫ばせる……

 そんなまるで子供が考えたみたいなシステム名から取ったのがカリオストロ。この機体の名前だ。

 でも、この機体のこのシステム……動かしたら白騎士にも勝てるんじゃないか。そう思える自信があった。多分、之は危ない兆候だ。

 だって、亜田魔のなカ蛾GTぁぐちaで詩kうが的Mラ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 side? 

 

 白騎士は飛び退いていた。既に黒騎士と名乗っていたあの機体は排除していたからだ。だが、目の前の機体から謎のエネルギーが出ていた。

 システム的な動きだけの白騎士だったが、考えを改めた。『あれはとんでもない暴走をしている』とだけ判断がついていた。

 

「死ン! 出R! 、! んううSんデ無居! 尾に……お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!! あは、あはaははははhhhhh!」

 

 目の前の、化け物を倒すために……白騎士は無慈悲にも動き始める。そして、更に不憫な話だが━━━

 

「え……なに、あれ……」

 

「五十冬、さん……!?」

 

「なんなんだ、なんなんだ一体!!」

 

 1年1組……専用機持ち達が今ここに集結しているのであった。




長くなってしまった……すいません。


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暴走怪物

 side? 

 

「ひh! アhははははは! kラきr! sろキ士はkろス!」

 

「うぐっ……」

 

 箒は口元を抑えていた。目の前にいるは白いISと、異形化した機械的な何か。元々ISだったのは理解できるが、異形はフルフェイスのヘルメットが伸びて、口が出来上がっていた。まるで、ファンタジーに登場するモンスターというべき存在だった。

 そして、声は2重3重となって聞こえてくる。両腕の大きさが不釣り合いであり、尻尾のような部分が腰に付属されていた。

 

「あれ、何なの……」

 

「五十冬さん……あれは五十冬さんですわ……!」

 

「馬鹿な……あれでは、まるで……」

 

 ラウラは一時期暴走した自分のISの事を思い出していた。自分で見たのは映像越しだったが、あの時はISを纏った女性へと変貌していた。それと比べれば、あちらは完全な異形化。ISに食われたと言っても過言では無い見た目である。

 

「あh……sノ野乃……ほウk……しの……篠ノ之……tバ、タb、タバネ、タバネたばねたばねたばね束束束束束束篠ノ之束ェェェェェェェエエエエエ!」

 

 狂ったように、物凄い速度で異形は箒に迫る。ほとんど反射で箒は回避して、そして追われながらその場を離れていく。

 

「箒さん!?」

 

『こいつは早すぎる! 紅椿でようやく同速だ!! 皆は一夏の救出を優先しろ! 更識達と連絡も取れない……私が助けたいところだが……皆、頼んだ!』

 

「「「了解!!」」」

 

「五十冬さん……」

 

 こうして、紅椿VS異形。白騎士VSセシリア&シャルロット&ラウラの対決が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高速戦闘、空の上で紅椿と異形は対峙していた。紅椿……篠ノ之箒は、相手が鬼村五十冬だと分かると、距離を取りながら戦うこととなった。触れられたら負け……それだけを念頭に置いて、決して触れられないようにヒットアンドアウェイを繰り返していた。

 

「しかし……効いているのか……!?」

 

 覚悟はしていた。専用機持ちとなったのだから、『殺らなければならない時は来る』物だと。だが、ぶつかり会う度に……武装で切り裂く度に感じる肉の感触。機械を切っているにも関わらず、肉が触れたような感覚が手にまで伝わっていた。

 

「お兄ちゃん束お兄ちゃん束束お兄ちゃん束お兄ちゃんお兄ちゃん束お兄ちゃん束束……」

 

 ブツブツと言いながら急に止まる異形。いつもならば、隙を見せたと思い箒は飛び込んで行っただろう。だが、今回はそうはいかなかった。いつもの様に飛び込んだら間違いなく『死ぬ』とだけ理解していた。

 

「……kえン羅nブ塔」

 

「何……!?」

 

 聞き取りづらかったが、箒の耳には今の言葉が絢爛舞踏と聞こえた。発動できるわけがない、あれは紅椿特有のワンオフアビリティだ。

 たとえコピー出来たとしても……と箒は思った。だが、目の前で異形は黄金のオーラを身にまとっていた。それは間違いなく絢爛舞踏を使った時の紅椿だった。

 

「Bら場r!」

 

 そして、突如として飛びかかってくる異形。だが、絢爛舞踏を使った影響なのかその速度は先程とは比べ物にならないものとなっていた。

 

「Gァッッッ!!!」

 

「っ……!」

 

 またもやギリギリで回避した箒。速度を抑えきれなかったのか、異形は近くのビルに激突していた。ISを使っていたとしても、あれだけの速度で頭から入ってしまえばタダでは済まない。

 

「……」

 

 しかし、何事も無かったかのようにビルの中から異形は姿を現していた。あれをいったいどうすれば止められるのか、箒は寒気を感じながらも戦うしかないと感じていた。

 

「毛n欄ブtう……」

 

 そして、味をしめたのかまたもや絢爛舞踏を発動させる異形。高エネルギーの全てを使ってのただの体当たり……相手が自分以上に紅椿の力を使いこなしているように見えて、箒は不安が大きくなり始めていた。

 

「私は……勝てるのか……いや、どうしたら、()()()()()()()……?」

 

 その問いに答えられるものは、おそらくこの現実で誰一人としていないだろう。なぜなら、相手をしているのはISの武装とワンオフアビリティを使うだけの……心まで狂いきった化け物なのだから。

 

「kゃハハハハハハハハハハはははははは歯葉派h! mっかっ赤! 魔ッkっか! 地のiろミ対にまッ火っk!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ、私の足が真っ赤っ赤。沈まないようにもがいても、助けを求めてもがいても、誰も助けてくれないさ。誰も顔も見てないさ。

 人生なんてもんなもの、世界なんてそんなもの、結局一人で生きてくの。結局自分で生きてくの。

 

「━━━ん、何か頭痛いな……」

 

 気づけば辺りは真っ赤っ赤、どこまで行っても真っ赤っ赤。どれだけ何を考えようともどれだけ行動起こしても、全てが全て意味が無い。全くもって意味が無い。

 

「何このしょうもない歌……ていうか、私何してたんだっけ……」

 

 ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ、赤い塊作り出せ。真っ赤な液体絞りだせ。全てを壊して衰退させろ、全てを潰して退化をさせろ。

 私が狙うは篠ノ之束、私が見てるは篠ノ之箒。

 

「……この歌もそうだけど、勝手に私の体使われるの困るんだよねぇ」

 

 次に潰すは誰れれれれれれれれれれrrrrr…………よし、思考戻ってきた。あとは体の操作戻すだけ。全くもって意味が無い、そんなことは意味が無い。

 あぁもううるさいなぁ……

 

「……まさか、カリオストロにこんなやばいのついてたなんてね」

 

 本能的に理解出来る。これは使うと、自分の人間としてのなにかを失うものだ。だから何度も使っていたら、ほんとに人間として終わりかねない。

 

「まぁ脳みそにIS繋いでるものだし、そりゃあ何度も使ってたら侵食されちゃうよね」

 

 侵食してきてるのは……大方カリオストロのコアだろうか。それの情報が私の脳を侵食してる。まぁ脳に繋いでるってだけでかなり危ないのに、私それを何度も使ってんだもんなぁ……よく生きてたな今まで。

 

「……でも、強力なことには変わりない」

 

 絢爛舞踏すら使えてるみたいだし……よし、思考を取り戻せたんだから次は体を奪ってみよう。そしたら私にもこのシステムを操作する権限ができるはず。

 まぁそもそもこのシステムその物が謎なんだけど……

 

「ま、気にしてたってしょうがないか」

 

 奪えれば私の力は格段に上がる。そして目の前には篠ノ之箒……潰すことに、私は一切の容赦をかけるつもりはない。殺すつもりは無いが、潰すやり方なんていくらでもあるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「━━━っと、戻った戻った」

 

「……まさか、鬼村五十冬か?」

 

「あぁうん、私の相手ありがとうね。おかげでようやく出てこれた」

 

「貴様……何故IS学園を裏切った」

 

「あ、今それ聞く感じ? 私が元々IS学園の側じゃないってわかってるよね?」

 

 初めから亡国機業なのに、裏切ってるとか言われると心外だ。そもそも裏切る余地がない。

 

「貴様は! 世界を裏切っているのと同じなんだぞ!? どうしてテロリストの側につく!! 貴様の兄だって━━」

 

「それ以上口開いたら殺すぞ」

 

 死人に口なし、死人がものを言うわけじゃないし私達に伝えられるわけじゃない。だからって騙って語るものじゃないことくらい子供でもわかる。たとえ本当に喜んでないとしても、だ。

 

「……貴様は、歪んでる」

 

「歪な形なんでもござれ、どれだけ歪んでても最後に勝てばそれは歪んでないんだよ」

 

 さて、歪んでると言われたから本当に歪んでる勝者の特権を使わせてもらうとしようか。相手は私との戦いで消耗している。大して私は暴走の時に、絢爛舞踏をめっちゃ発動させていたせいかエネルギーは全く減ってない……今の私には使い方わかんないけど。

 

「さ、始めようか……世界の敵篠ノ之束の妹……その社会的処刑を」

 

 この状態で負けれるほど、私も弱くはないんだ。仕留めて……この世の地獄という地獄を見せてやるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 斬撃を飛ばす篠ノ之箒。私はそれに対して、ゴーレムの腕を使って熱線で焼き払う。だが、向こうはあまり積極的に攻めてこなくなった。恐らくシールドエネルギーが尽きてきているのだろう。表情にも焦りが出てきていた。

 それに、何度か逃げようと試みており……私はそれに合わせて速攻で追いついていた。

 

「くっ……!」

 

「逃がすわけないじゃん……さ、落ちなよ」

 

「しまっ……!?」

 

 銀の福音の時とかも思ったけど、焦ったり気持ちが昂っていたりすると……彼女は周りが見えなくなる。それも最近では改善されていたが、エネルギーが無くなりかけてる時に3()6()0()°()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「うわああああああ!!!」

 

 案の定、全体攻撃により紅椿のエネルギーが尽きる。絢爛舞踏を発動させる間も与えない、一気に削って無理やり解除させた。

 

「っと……落としたら死んじゃうしね……殺すような真似はしないよ」

 

 そう言いながら、私は篠ノ之箒のISスーツを破っていく。ある程度敗れれば、あとは脱がすのは簡単である。

 そしてそのまま写真を取って、準備を整える。

 

「この辺にそう行ったお店ないかなぁ……」

 

 京都にはそんなお店ないようなイメージがある。なんでだろうね。と、その前に私もISを解除しないと……ていうかコレ元に戻んの? なんか妙に違和感を……あ、戻っ━━━

 

「ごぼっ……!?」

 

 ISを解除した瞬間、私は大量に吐血していた。目から何か流れてるし、鼻血も出てるみたい。そこのガラスでなんとか確認したけど、人間には戻れてるみたい。ただ、とんでもなく血を失ってる。

 

「一旦……帰るか……な━━━」

 

 フラフラと私は篠ノ之箒も忘れて、帰ろうとしていた。だが、ついに我慢できないまま倒れる。近くにあった路地裏のゴミ捨て場……そこにぶっ倒れながら、私はゴミ袋に体を埋もれさせながら意識を失ったのであった。

 ただ、ここで一つ誤算。こんな所で戦っていたにも関わらず、どうやら避難とかはしていなかったようだ。当たり前だ、避難させていても入ってくる人間はいるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side箒

 

 私は目を覚ました。意識は覚醒したものの、どうにも頭が回らない。どこかのホテルにあることは間違いないようだが、そこがどこなのかはまったく分からない。

 

「……へぇ、やっぱり年齢の割に大きいネぇ」

 

 どこかで聞いた覚えのある声。誰だったか……確か、ホテルで一夏にくっついていた……

 

「……アリーシャ……ジョセスターフ……」

 

「おや? 覚えてくれてありがたイ。さて、どうして君がここにいるか……わかるかナ?」

 

「ここは……」

 

 言われながら辺りを見回す。他にも誰かがいるようだが……その中で見知った顔があった。あったからこそ、私の意識は完全に覚醒した。

 

「━━━オータム!? それにダリル・ケイシーにフォルテ・サファイア!?」

 

「よう、やっと起きたか?」

 

「甘いっすねぇ、ほんと」

 

 この2人は裏切り者……つまり、私は……亡国機業に捕まってしまったということになる。まさか、捕まってしまうなんて……

 

「いやぁ、まさか篠ノ之束の妹が捕まるなんてネぇ」

 

「これもあいつのおかげってことだ……」

 

「で? その肝心の女は?」

 

「━━━今は私たちの管理するところで入院中よ、ISの未知の暴走の仕方……それに体が追いつかなかったのよ」

 

 後ろから現れる女性……スコール。恐らく、女と言っているのは鬼村五十冬の事だろう。

 

「……」

 

 私の格好は全裸、女同士とはいえ安心は出来ないが……何とかして抜け出さなければいけない。どうしたものか……

 

「……さて、じゃあこの子は私がもらっていいかナ?」

 

「好きにしなさい、その子も堕とす予定だったようだし」

 

 私のところに向かってくるアリーシャ。それに対して私は、怯えながらも覚悟を決めなければならなかった。

 

「じゃあ、軽くペロリと頂いちゃうヨ」

 

 ……アリーシャ・ジョセスターフのその顔は、まるで獲物を見つけた猫そのものだった。



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侍同性辱

 side箒

 

 私の前にいるアリーシャ・ヨゼスターフ。裸に剥かれた私に手をかけようとしたその時、その手が後ろに戻って……否。

 

「━━━おっとっと、流石に妹に手を出されるのは嫌なのかナ?」

 

「んー、バカみたいな事故を起こすようなのに箒ちゃんを触らせたくないだけだから、消えて?」

 

「ね、姉さん……!?」

 

 私の前にいたのは、篠ノ之束……つまるところ私の姉だ。それが何故、亡国機業と一緒にいるのか。いや、簡単な話だ。実際に戦闘していたのは私じゃないが……新しく作られていたIS。漆黒のISを持っていた亡国機業、どこから強奪されたという話も聞かなかったので、恐らく姉さんが新しく作ったのだろう……乗っていた人物専用に。

 

「やっほー、箒ちゃん久しぶり〜……こんな裸にされて可哀想だねぇ。でもおっぱいは大きくなってるのを確認出来たから、私としてはいいかな? 

 あぁでも、今日は箒ちゃんに『お仕置き』しないといけないからね。私は心を鬼にします!」

 

「お、おしおき……?」

 

 その言葉に、私は少しだけ身震いした。なにをされるのか分からない恐怖と、姉の軽快な口調から出てくるそれに逆に不安と緊張感を煽られたからだ。

 

「あぁでも大丈夫大丈夫、ちょーっと……気持ちよくなっちゃうだけだからね!」

 

 その言葉で、私が安心すると思っているのか……はたまた怖がらせる目的で言っているのか分からないが、私の反応としてはただ起こるであろうことに対して不安を感じるしかないということである。

 

 

 

 

 

 

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 side? 

 

「んぎっ! あ、ぎ、あぁぁぁああああああ!!」

 

「……ふん、悪趣味だな」

 

「おやおや? マドカちゃん見に来たのかな?」

 

 とある一室、そこで箒はカプセルのような機械に入れられていた。頭には目元まで隠れるヘルメットを付けられ、両手足の拘束……そして陰核、膣、アナル、乳首、乳房、尿道……それらの部位を一気に機械によって陵辱されていた。

 さらに、カプセル内には所謂媚薬の役割を果たすお香が流し込まれており、否が応でも箒の感度を上げていた。そして、攻めだが……

 

「おっぱいを振動させつつ、微量の電流で痛気持ちいい感じにさせる! これぞ束特製『箒ちゃん素直になれるンダー』!」

 

「……要するに、快楽拷問だろう。実の妹によくここまでできるものだ」

 

「ノンノン、実の妹……だからだよ。箒ちゃんは私だけが触っていいんだから……それに、紅椿で負けるのはダメな事なんだよ」

 

 マドカは篠ノ之束という女に対して、異物感を感じた。人間ではない何かとさえ思えるほどの、ネジの飛んだ思考。そういった人間に、神は何を思ったか天才的な頭脳と常人離れした肉体能力を身につけさせた。

 その事に、改めて無駄にマドカは人間の不平等さを思い知っていた。

 

「……ところで、このヘルメットの意味は?」

 

「目と耳……その両方である映像を見せて聞かせてるんだよ」

 

「……映像?」

 

「うんうん、箒ちゃんには似ても似つかないけど……まぁある程度のそっくりさんをぶっ壊した映像を見せてね? それに私が作った箒ちゃんのオリジナル快楽堕ちボイスを流して……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……篠ノ之箒は、お前の仇か何かか?」

 

「え? なんで?」

 

「……いや……」

 

 本気で妹の為になると思って、篠ノ之束はこの陵辱を行ってるんだとマドカは悟る。そして、この女がどれだけ危険かを改めて認識する。

 

「ひ、ぎ、あああああああ!!」

 

 そんな会話も聞こえないほどに、箒は喘いでいた。愛液はカプセル内に飛び散っており、潮もほぼ噴きっぱなしである。喉が壊れるのではないか、と言わんばかりの陵辱も束が止めない限り人類が滅んでも永遠に続く。

 

「しかし、これでは本当に死んでしまうだろうな」

 

「あぁ、そのへんは大丈夫! 本当に危なくなったらAIが感知して水分と栄養を補給させるから!」

 

「……」

 

 妹ですらも、まともな人間扱いができないのだろうか……とマドカは無意味に考える。自分でも無意味だと分かっているが、どうしても思わざるを得なかった。

 

「……悪趣味だ、私は帰る」

 

「じゃあね! ぶいぶいっ!!」

 

 マドカはそんな束に関わるのすら面倒となり、そのまま部屋を退室するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 side五十冬

 

「……げほ、がほっ……ここ、どこ……」

 

「……起きた? 因みにここは亡国機業の泊まってるホテル」

 

 私が目線を傾けると、そこには簪がいた。その説明が本当なら、私は亡国機業に拾われたらしい。腕を動かす……うん、動かない。足は……やっぱり動かない。喉……ガラガラ……これヤバイな。

 

「……そのままでいいから聞いて」

 

「……?」

 

「2代目ブリュンヒルデアリーシャ・ヨゼスターフ、並びに篠ノ之束の亡国機業加入が決まった」

 

「…………」

 

「……驚かないの?」

 

 驚きよりも、殺意が沸いた。ぶち殺したくてぶち殺したくてしょうがなかったけど……でも、さらにそれ以上に……納得が入った。納得してしまった。なんで入れたんだ、って気持ちよりも……やっぱりそうなったのか、って気持ちの方が大きい。

 

「……どっ……ちも…………アリーシャ、も……しの……たば……ねも……織、斑……ちふ、ゆ……と……あそ、びたい……だけ、だから……」

 

「……そうだね、その為に亡国機業に入るなんてかなり物好きだよね」

 

 自虐か、はたまた私に対しての皮肉か。簪は私と目を合わせながら、そう伝えるだけである。

 

「……明確に残念なお知らせの次は、残念かどうか分からないお知らせだよ」

 

「……?」

 

「カリオストロが第二形態移行(セカンドシフト)したよ、まだ能力は分からないけど……カリオストロ・アウトリュコス……それが新しいカリオストロの名前」

 

 カリオストロ・アウトリュコス……アウトリュコスって何……教えて偉い人……

 

「なにか知りたかったら自分で調べてね……」

 

 しかし、明確にパワーアップするのはいいんだけど暴走する危険性が大きくなったかもしれないと考えたら少し複雑である。けど……その危険性を最大限考慮しても、私にはカリオストロを使うという選択肢以外存在していない。

 

「…………ぐ、が……!」

 

「ちょ……寝転がるのも出来ないんだから……まぁ一応ベッドごと移動できるようにはなってる……じゃ、篠ノ之博士の所に行こっか」

 

 流石簪、私の言いたいことを理解してくれてる。私も、私の復讐のために……仇を覗きに行くとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━━!」

 

 篠ノ之箒が、目の前でカプセルの中で……なんかもうぐっちゃぐちゃにされてる。グロテスク的な意味じゃなくて、性的な意味で。

 

「およよ? 来たんだねぇいーちゃん」

 

「……は?」

 

 ダミ声でつい返事してしまった。なんだいーちゃんって……そもそもこの女は、織斑姉弟の2人と妹にしか興味が無いのではなかったのだろうか? なんだ私の名前を認識してるんだ。

 

「いやぁ、まさかあの時いた子が私を殺そうとしてるなんてねぇ……うんうん! 実に面白いよ! それに、君の持ってるIS……カリオストロだっけ? 随分と面白いシステムしてるよねぇ?」

 

「……」

 

「『何が言いたいの?』って顔してるねぇ! よぉし、ならば束さんが教えてあげましょう!」

 

 イライラする。しかし、何故か前のような吐き気は襲ってこなかった。同志になったから緩んだ……って訳では無い。むしろ、前よりも殺したいって欲は強くなってる……これからだが不調来たしすぎて麻痺してる? まぁどうでもいいけどさ。

 

「相手の武装をコピー、そして生産して使用することが可能になるシステム! 1回だけ束さんも作ったんだよねぇ……けど、その為にはどぉぉぉぉぉおおおしても、足りないものがあってね!」

 

「……足りない、物?」

 

 私の代わりに簪が返事をする。しかし、実はさっきからナチュラルに簪は無視されているので、同じように簪を無視しながら篠ノ之束は続けていく。

 

「単純に、システム量が足りなかった。コアを2つにしようともしたけど、それだと今度はまた違うものが足りなくなるんだよ!!」

 

「……機体側の処理、能力……」

 

「正解! ピンポンピンポーン!!」

 

 そう、武装をコピーして生産するシステム……しかし、コア1つの場合だと一瞬の間で行われる処理の量が凄まじい事になる。仮に装備を20生産していたとする。それが前提。

 で、その前提を1つのコアでやる場合適した武装を出すのに計算を行わなければならない。ISのコアならAIの処理能力が凄まじいので、その処理自体はできる。だが、パソコンの画面に大量に現れたウィンドウの様に、一気にパイロットにその負担がいく。

 20のウィンドウの中から一々確認するなんて不可能だ、そもそも邪魔になる。

 じゃあデュアルコアにすればどうか? 処理能力は倍以上の性能を発揮するだろう。だが、基本的に1つのISで2つのコアだと今度はISの機体の方がコアに負ける。それ以前に、篠ノ之束以外にデュアルコア搭載機は生み出すことは不可能だ。彼女が作ってないことを鑑みるに、ポジティブに考えたらそれは彼女でも不可能という事になる。

 

「機体に2つのコアは、機体が耐えられないんだよねぇ。昔試そうとしたら、コアまでバグっちゃって……まぁ今だったら多分作れるけどデュアルコアなんてもうキョーミないしね」

 

「……だから、人間の頭?」

 

「まぁだからこそ人間の頭を使うというのは中々面白い発想だよね! ()()1()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だろうね、こいつが思いついていないことが……人類で思いつけないわけがない。特に、こういった科学面になるとな。

 

「そもそも、ISのコアの情報量に人間の脳が耐えられるわけないジャーン! なんで耐えれてるのか、って考えたら面白くなってきて君にキョーミ持っちゃった!」

 

 私はそんなことで興味を持たれて腹が立つな。こいつほんと死ねばいいのに。

 

「束さんは不死身なのだー!」

 

 私の思考を読まないで欲しい……しかし、ずっと篠ノ之箒が犯され続けてるけど、これ放置しておいたら死んでしまいそうだ。主にショック死という理由で。

 

「あぁ、うん大丈夫大丈夫。ある程度箒ちゃんが素直になったら解放するから!」

 

「……は?」

 

 つい声を出してしまった。けど、1回捕まえた相手を解放するなんて……ありえない事である。少なくとも亡国機業には全くメリットがなくデメリットしかない事が明確である。

 

「んー、でも決めるのは束さんだから!」

 

「……」

 

 この女本当に人の神経を逆撫でしかしない。だが、そんなありふれている王道のエロゲーRPGみたいな事しなくても、初めから捕まえておけばいいだろうに。

 

「趣味だから!」

 

「……」

 

 篠ノ之束を無視して、私は篠ノ之箒に同情の目線を向ける。どれだけ長い間され続けていたのかは分からないけど、こんな姉を持って不憫だとしかいいようがない。

 

「━━━!」

 

 よく見たら尿とかを漏らしていた。いや、しょうがないだろう……これだけのことをされて漏らさないやつがいるのだろうか? どれだけ快楽になれているのだ、としか言いようがない。

 

「さぁて! 箒ちゃんあと1時間頑張ってね!! そのあとちゃんと拭いて服着せて返してあげるから!!」

 

 その後、本当に1時間ピッタリで篠ノ之束は妹を解放した。ちゃんと下着も履かせて、近くまで送っていったのだが……完全に体は調教されきったのか、乳首とかスレてて感じているのは少々可哀想にも思えたのだった。



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新生学園

 side? 

 

 生徒達が集合しているこの場、そこに置いて1人別の場所にいる生徒がいる。生徒会長更識簪、彼女は生徒たちよりも高くそして見下ろせる場所に立っていた。

 そこで、確固たる意思を秘めた目をその場の全員に向けていた。

 

「生徒会長、更識簪です」

 

 その一言、その言葉で生徒達に緊張感が走る。生徒達の大多数が、今回言われるであろうことを予測していた。とある生徒2人の裏切り……ダリル・ケイシーとその恋人のフォルテ・サファイアの事だろうと内心確信していた。

 その事は、簪でさえも『そう思われている』と感じ取れるほどである。しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「現在、この学園は政府によってあらゆる機能を停止させられています。しかし、それが解除される事が決まりました」

 

 簪のその言葉に、違う意味で裏切られた気持ちになる生徒達。だが、そのあとに続く言葉はまだあるのだ。

 

「解除されるのは翌日……ただし報告の場として、今日はここだけは開けられるようになっています。故に、この場で報告することがあります」

 

 簪は大きく息を吸い、そして吐き出す。緊張しているのだ、色々とあり……鍛えられた彼女の心であっても、それは変わらない。未だ10代の彼女には、まだ重たいものがあるのだ。

 

「IS学園……ISというものはなんなのかを学ぶ学園、学ぶ姿勢さえあればそれは生徒です。そう、世界が決めましたし私も納得しています」

 

 その言葉に他の生徒も納得を示す。事実、ただISを使いたいからという理由でこの場にいる生徒はなかなかいない。何故から、この場にいる殆どの生徒が軍人まがいのことをしているのだから。

 

「故に……()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉と共に、足音が三人分響いてくる。一気にざわつき始める生徒達。何故なら、そこに現れたのは……この場にいるはずのない3人組なのだから。

 

「改めて自己紹介を……」

 

「生徒会書記、フォルテ・サファイアっす。改めて……よろしくっす」

 

「生徒会会計ダリル・ケイシー……改めレイン・ミューゼルだ。3年生であっても、問題ないんだとよ」

 

 そして、最後の一人……顔を上げて髪を払いあげて……貼り付けたかのような嘘っぱちの笑顔を構えながら、宣言する。

 

「生徒会庶務、鬼村五十冬でぇすっ! 皆さんまたよろしくお願いしますねぇ!!」

 

 できる限り可愛いと思われる声を出す五十冬。そんな声を出したところで、静まり返ったこの場は変わらないのだが……しかし五十冬が現れたことで、動揺する人物はいる。

 

「五十冬、さん……!?」

 

「ど、どうして君が……君達がいるんだ!!」

 

「そうだ! 学園を……世界を裏切った者達が!!」

 

 そう、この3人は亡国機業……世界に仇なすテロリスト集団の一員だ。故に、本来であればIS学園に居るはず、居られるはずがないのだ。だが、それは今この時点で意味をなしていない事は……明白になってしまっている。

 

「説明しましょう……世界は、前IS学園教師達を逮捕しました。理由は世界に対する悪意を向けたからとされて━━━」

 

「━━━ふざけるな!!」

 

 この場に響く声。女子であればでないだろうその低い声が、IS学園に居るものならばすぐに誰かわかる声だった。そう、織斑一夏である。

 

「千冬姉がそんなことするわけないだろう!!」

 

「織斑一夏さん、貴方の家族を気持ちをいたわる気持ちはわかって……」

 

 簪の前に、五十冬が出る。簪を守るため……といえば聞こえはいいが、実際は『何を言っても無駄』だと言う意思表示だけである。

 

「簪……んにゃ、生徒会長サン。この怒り狂う白馬を止めるためには……1回殴り合わないと分からないんじゃないかな?」

 

「……鬼村、俺とISで戦うつもりか?」

 

「戦いたくないの?」

 

「挑発に乗るつもりは無い」

 

「お姉ちゃんがどこにいるか知りたいでしょ?」

 

「っ……!?」

 

 五十冬の言葉に、一夏は傾いていた。ここで五十冬の挑発に乗れば、姉の情報が手に入るかもしれない。だが、乗れば負けである。一夏はそう思っていた。

 

「……私闘ならともかく、第三者……生徒会の誰かを通すならば構いません。今回は、私が2人の決闘を支持します」

 

「いいねぇ……生徒会長、サイコー」

 

「……俺が勝ったら、千冬姉の居場所を細かい場所まで吐いてもらうぞ」

 

「私が勝ったら、あなたは私に何をして欲しいの? まさか、自分の負けるリスクを考えないで……勝負を挑んでるとかんなわけないよね?」

 

 一夏はそれに返事はしない。だが、負けた時のリスクは分かっていないなどということは無いようである。それを感じとった五十冬は、負けた時の一夏への罰を考える。

 

「そうだなぁ……負けたら、織斑千冬の事は私の前で名を出さないこと……でいいかな」

 

「……そんなので、いいの?」

 

 簪が横から話しかける。彼女としてはもっとえげつない要求をするものだと思っていたので、ここまであっさりした罰を与えるとは思わなかったのだ。

 

「だってぇ……女の子の誰か一人を貰う、とか言ったら……()()()()()()()()()()()()()

 

 簪は五十冬の言葉に、返事が出来なかった。負けそうだと言うのは、彼女の予想などではなく確固たる確信があると判断したためである。

 

「ま、別に今回で負けることは私にはデメリット……勝つことは特にメリットがないし……せいぜい正々堂々としましょう?」

 

「……」

 

 五十冬の言葉は、嘘をつく気は無いものである。しかし、一夏はどうにも信用出来なかった。何故なら、相手は自分の姉をダシに使うような女なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 さぁ始まりました、男達の希望織斑一夏対サイボーグ鬼村五十冬。私には勝つ算段がある。というか、第二形態移行したカリオストロの進化したワンオフアビリティが試した感じ相当強いものになってるからだ。

 

「行くぞ……白式……!」

 

「さてさてさぁて……」

 

 お互いにISを展開した私達。けど、カリオストロの前には……どんなISも無意味だ。それは私が1番理解しているし、それを理由に躊躇するなんて言う漫画の主人公勢みたいなことはしない。

 

「ワンオフアビリティ……名前付けられてなかったみたいだし、私がつけてあげるよ、カリオストロ……『プライド・ブレイカー』」

 

「何を……うぉ……!?」

 

 白式の武装の1つ……雪片弐型……今それが私の手の中にある。刀1本、されど1本……触れずに私は()()()()()()()()()()

 

「ゆ、雪片が……!?」

 

「さぁて……滅多打ちにしてあげるよ、織斑君」

 

 前の白式ならこれで終わってたけど、今の白式は所謂オールラウンダー。というか、ようやく普通のISクラスになったとも言える。だから、武器を奪うのは武装を奪うという名目で考えたらそこまで痛手にはならないだろう……だが、それはあくまでもISの性能で考えたら、の話だ。

 

「くっ……!?」

 

「動揺したでしょ? 織斑君の特権、織斑君だけの白式の武器……そんな専用装備を奪われる……そんな君の特権、存在意義、自分足らしめるものを奪うのが……カリオストロだからね……次は、こんなのも奪っちゃう!」

 

 私のその言葉と共に、雪片弐型は……展開装甲を開いていく。それがどういう意味かは、織斑一夏が1番わかっていて……なおかつそれがどういうことかも分かるだろう。

 

「ま、まさか……!?」

 

「そう……コピーじゃなくて本当に奪う……カリオストロの本当の能力とも言えるかもね」

 

「本当の、能力……!?」

 

『ワンオフアビリティの奪取』それが新しくなったカリオストロの進化した能力の真骨頂とも言えるだろう。

 

「けど、零落白夜はエネルギーの消費量が……!」

 

「そうそう、今この場でも凄いエネルギー減ってて……()()()()()()()()()()()

 

「なっ━━」

 

 雪片弐型は握っていない。零落白夜も発動出来ていない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いやぁ、こんな簡単に奪えるなんてねぇ? ま、この奪う能力は一時的なものだし……そっちがISを解除したらこの雪片弐型は消えちゃうんだよね。もうコピーしたし遅いけど」

 

「く、ぁ……!!」

 

 エネルギーの減っていく白式。なんとか取り戻そうとするが……既に遅い。減ってしまった分のエネルギーも回復させようとしているのか、五十冬は零落白夜による減り以上の速度でエネルギーを吸収していた。当然、そんな事をしてしまえば……

 

「「「一夏!」」」

 

 ……突然、私の前に3人の影が立ち塞がる。セシリアを除いた、1組の専用機持ち達だ。どうやら、ISが解除された場合に私が織斑一夏を殺すと思ったらしい。そんな事しない、めんどうだから。

 

「……分かってるよね? 織斑一夏を庇ったら彼が負けってことになるよ?」

 

「……分かっている」

 

「みんな……」

 

「……一夏、今はまだ早い……あの女のISの弱点を見つけてから……」

 

「くっ……」

 

 そのままISを解除させられる織斑一夏。このままこの3人と1緒に殺すことも可能だけど……今はそれをするのが面倒だし、やめておこう。

 

「じゃあ、今度から私の前で織斑千冬の名前は出さないこと……それだけ守れば何もしないでいてあげるよ」

 

「……くそっ!!」

 

 地面に自分の手を叩きつける織斑一夏。余程悔しいのだろうけど……残念かな、私の前にお前は初めから眼中に無い。好感度的には、とんでもなく嫌いな部類に入るけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で? 何で私達をまた学園に通えるようにした訳?」

 

「……世界の意向、それに……テロリストで固められるのならテロリスト同士で固めておきたいらしいから」

 

 要するに、私達を固めておくことでメリットがあると判断したということか。まぁやり口は間違ってないし、私もそうしただろう。けど、このメンツを固めておくとはさすがに絵面が面白すぎでは? 

 

「だってその理論だと……」

 

「うん……今度から入ってくる教師……殆どが亡国機業側の人間だったみたい」

 

「うわぁ……」

 

 本当にテロリスト学校になってるわけだ。世界のゴミダメIS学園ってか? 随分と面白いことになっちゃったもんだ。

 

「まぁ、当然見張りはいるけど……」

 

「見張り、ねぇ……?」

 

 その見張りがいつまで役に立つかは、正直分からないが……多分私達からしてみたら雑魚もいい所かもしれない。ま、無駄につっかかって来なかったらいいだけなんだけどさ。

 

「……とりあえず、当面学園はこんな感じで動かす。織斑君達が心配だけど……」

 

「それってどういう意味での?」

 

「……なにかを起こしそうな、そんな予感がする」

 

「大丈夫大丈夫、いざとなれば……私がなんとかしてあげるからさ」

 

 正直調子に乗っているだろう、とは思ってる。けど、正直織斑一夏にだけは負けるつもりも負ける気もなかった。だから、だからこそ……私は後で思い知ることになるのだ。

 織斑一夏が、私の……カリオストロの天敵の存在という事実に。




とある事情により投稿遅れます


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少女再開

「んー……」

 

「五十冬、仕事……」

 

「終わったよぉ、資料整理終わったよぉ……」

 

「ならいい」

 

 五十冬は今生徒会室でグーたらしていた。頼まれた仕事が全部終わったためである。今の彼女は、何故かなんでも出来る気がしてしょうがなかった。少し話は遡るが……彼女が復学してからの事としていくつか説明するところがある。

 まず1つ目、五十冬は1組に復帰した。そして政府から派遣されてたり亡国機業から派遣された人が教師になったりしてる。面倒臭いのかオータムは来ていないが、スコールはいる。

 2つ目、生徒会が完全に機能し始めたことで生徒会が仕事を出来ている部分を見せているおかげか、思いのほか好感度は悪くないというところである。

 3つ目、それでも好かれていない生徒達から……よく狙われているという事である。主に、裏切り者である五十冬、フォルテ、レインの3人だけだが。

 

「……それにしても、見事にIS学園を乗っ取ったのね……貴方達」

 

「生徒会メンバーの全員が亡国機業、さらに今のところ学園で1番強い位置にいるのも亡国機業メンバー……もう実質亡国機業学園では? FT学園とでも名前変える?」

 

「まぁそれは後にしておくとしても……」

 

「……ちょっといいっすか?」

 

「なんだ、お前が意見すんのか?」

 

 フォルテが生真面目に手を上げるが、それをレインが茶化す。少しだけ顔を赤くするフォルテだったが、すぐに他のメンバーに顔を向ける。

 

「……不穏分子、どうするつもりっすか?」

 

「不穏分子って言ってもね……まず今のこの学園の派閥は分かってる?」

 

「派閥? んだ、そんなのが出来てんのか?」

 

「先輩なのに、この学園への興味の何なんだろうか……」

 

 マライアがレインに呆れている間に、五十冬がどこからか取り出したホワイトボードに色々と書き込んでいく。

 

「まず第1派閥、これは2年に7割くらいだけど……『更識楯無派』」

 

「何だよ、あの女この学園にもう居ないんだろ?」

 

「……うん、私が……処理した」

 

 レインの感想に、簪が簡単に返事を返す。少し間を置いてから、再び五十冬が説明を続けていく。

 

「次に……1年1組、このクラスは『織斑姉弟派』」

 

「織斑一夏と、姉の織斑千冬の派閥ってことか。しかし意外だな、織斑千冬はもっと人気だと思ってたんだが?」

 

「それは2組が関係してる……2組は『マライア派』」

 

「まぁ私が色々と言いまくって増やしました!」

 

「因みにマライア派は1組以外のクラスには大体1人か2人はいるよ」

 

「これも私の話術のおかげですよお姉様ァ!!」

 

 2人のやり取りを少し眺めながら、レインは呆れていた。一体何をいえばひとつの学年の殆どを掌握しかねない勢いなのか。うっかり話さないようにだけ、レインは心に決めておくのであった。

 

「そしてこれが大半……『生徒会派』」

 

「えっ!? この生徒会全生徒の約半分に好かれてんの!?」

 

 五十冬が、ありえないと言わんばかりに大声を出す。仕事はしている、織斑一夏は独占しない、突然ルールを変えたりしない、本人の意思が関与して居ないことはしない。

 とまぁ、細かいがこれらの事をしていなかった今の生徒会が好かれていない訳でも無いのだ。

 

「確かにそうっすね、大半が生徒会派だなんて……」

 

「……言っておくけど、生徒会派って大きな括りの中にある1つだから」

 

「つまり、生徒会派アンチがさっきまでいってたことってことか。あれ? マライアもアンチ側なの?」

 

「……ううん、ただ賛成派って訳でもない人もそれなりにいるから別枠にした」

 

「なるほど、そういう感じね」

 

 要するに賛成派でも反対派でも無い位置なのだろう。それでも半分は元々賛成派なので問題は無いのかもしれないが。

 

「……因みに、それぞれの人達はちゃんとクラスを見張っておいて欲しい」

 

「見張ってて欲しいって言うのは?」

 

「いつ反旗を翻されるか分からないし、それで授業ほとんどなくなるってなったら嫌でしょ?」

 

「私は別に……」

 

 面倒臭いのが嫌いな五十冬は、目を逸らして会話をしていた。彼女からしてみたら、学園はイチャつく場所であり勉強をする場所ではないと五十冬はそう考えていた。そして、それを簪はジト目で見ていた。

 

「おっと、簪が嫉妬の恨みを私に押し付けてきたな……大丈夫大丈夫、後でみんな可愛がってやるからな」

 

「うわぁ、低音ボイス出していかにもそれっぽくしてるっすよこの後輩」

 

「いいじゃねぇか別に」

 

「さて……まぁまだまだやりたいことはあるけど……ちょっと、政府から頼まれてることがあるの」

 

 簪が数枚の紙が綴じられているファイルを全員に渡す。全員が気になって中を覗き始めて……そこから簪が、とあることを騙り始める。それは、学園にとっては最悪……政府にとっては最高の案件なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……『生徒会五番勝負』ねぇ……?」

 

「これで不穏分子をあぶりだして欲しい……だって」

 

「まぁ、私たちの行為が気に入らないってことは……要するに世界的に正しいってことですから」

 

「マライア離して動けない」

 

 マライアに抱きつかれながらも、五十冬は簪と会話を続ける。要するに、生徒会の5人と戦う勝ち抜き戦のようなものが現在制度として作られているらしい。

 

「意義の申し立て、形式的にはそれを学園から政府に送って受理されれば5人勝負……それで勝ち抜けれた場合、望みを一つだけ叶えられる……というものである……ねぇ?」

 

「まぁでも、ここでお姉様の気に入らない奴らを倒すのもいいんじゃないですか?」

 

「こっちが負けた場合のリスクはともかくとして……あっちが負けた場合のリスクは?」

 

「生徒会側で自由に決めて欲しい……らしい」

 

「なんと豪胆……とは思ったけど、政府的には厄介なのを同時に2人処理できる方法ではあるわけだな」

 

「なるほどっすね」

 

 5人を突破するのは相当な実力がなければ出来ない、そしてどちらが負けても政府にとってはメリットでしかない、ならばその方法を取るのは当たり前と言えよう。

 

「で……その餌に食いついたバカが既に2人いる訳だが」

 

 そう言って、グラウンドにいるのはラウラとシャルロットの2人。この報をした際に直ぐに送ってきたのだ。この2人、レインとフォルテの二人はわからない案件なのだが、要するにどちらも五十冬に過去に好き勝手されたことがある。それに加えて、どちらも警戒しているのだ。五十冬が一夏に手を出すのではないかと。無論、恋愛的な意味ではなく殺害的な意味であるが。

 

「試合はいつ?」

 

「明日」

 

「早っ!!」

 

「この制度がすぐに使われることになって、政府もウキウキって事っすねぇ」

 

「んで? どうすんだ? 2人同時に試合すんのか?」

 

 レインが五十冬に向かって尋ねる。今の五十冬は2人同時でも問題ないと簪や他の生徒会メンバーもそう思持っているが、やはり少しの不安はあるのだ。レインとフォルテは自分達が誰も相手したくないだけなのだが。

 

「はい、いくら強化されてるとはいえ……今の五十冬だったら勝てるはずです」

 

「簪ちゃんからの信頼が分厚すぎて怖い、辞書3冊くらいの分厚さありそう」

 

 そう茶化す五十冬だったが、高速で移動つつ弾幕を使って相手を撹乱するシャルロット。そして一瞬の隙を狙ってラウラが超電磁砲で相手を撃ち抜く、正しく攻防一体のコンビと言えよう。

 

「まあ、自分達よりかはコンビネーションは下っすけどね」

 

「お前は妙に対抗意識燃やすなよ、当たり前のことを言ってるとそれが当たり前にならなくなっちまうからな」

 

「先輩……」

 

「あー、はいはいイチャイチャしないで」

 

 2人のやり取りを確認しながら、五十冬は呆れた表情を浮かべる。しかし、この制度でふと思ったことが彼女にはあった。

 

「そう言えば、これ炙り出すためとはいえ……ある程度やってたらみんな諦めそうなもんだけど……」

 

「まぁ、対抗勢力を無くすのが目的な訳だし……政府からしたら、万々歳……」

 

「言われてみれば確かにその通りだ」

 

 要するに、どう転んでも政府には旨みしかないわけである。仮に生徒が生徒会全員倒した場合は単純にリスクを背負ってるとも言えなくもないが。

 

「ま、私はもっと面白い案件を出せるからいいけど」

 

「……面白い、案件?」

 

「あの二人にだけ通じる逸品って事かな」

 

「……あぁ、なるほど」

 

 マライアと簪は通じたのか、納得してい様子を見せていたが、レインとフォルテはなんのことだかわからずに首を傾げていた。この2人には後で説明するつもりだったので、五十冬はこのタイミングでの説明を無視という形にすることにより、スムーズにやりたいことの説明を行おうとしていた。

 

「とりあえず、向こうが負けたら……もう顔を出せなくなるくらいやっばいことしてあげるしね」

 

「……何するつもり?」

 

「まだ深くは考えてないの、ごみんに」

 

「……まぁ、いいけど」

 

 五十冬のこの態度はいつもの事なので、簪はそのまま仕事を続けることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……君達を倒して、織斑先生達を取り返す……!」

 

「おいおい、自業自得なのに何言ってんの……先生達も捕まったの言っとくけど私そこまで関与してないからね?」

 

「つまり、関係はあるということだな!」

 

「話聞いてよ格闘ゲームのキャラかなにかかよ」

 

 翌日、シャルロットとラウラの2人は五十冬と相対していた。2人の目は過去に五十冬に怯えていた目ではない。

 絶対に勝つという意志を持って、五十冬に挑もうとしていた。

 

「さて、改めてルール説明……生徒会五番勝負は、庶務、会計、書記、副会長、会長の順でバトルするもの。チャレンジャーは勝ったあとの試合を直後に行うか別の日程で行うかを選ぶことが出来る……ここまではOK?」

 

「あぁ」

 

「で、もしチャレンジャー側が負けた場合負けた生徒会メンバーが敗者をどうするか選ぶことが出来る」

 

「それも分かってるよ」

 

「全てを理解してる上で挑んでくるなら、全てよし! なら私は貴方達を問答無用で倒せる」

 

「……前みたいに、簡単に負ける訳には行かない……!」

 

「……私たちが仮に負けた場合、そちらは私達に何を求める」

 

 ラウラが睨みながら五十冬に尋ねる。五十冬はしばらく考える素振りをしたあとに、指を鳴らしてウィンクをする。

 

「どこか遠くに行ってもらうね」

 

「……?」

 

 ラウラとシャルロットは顔を見合わせるが、五十冬の言っていることがよく理解できなかった。だが、碌でもないことだけは確かなので……絶対に負ける訳には行かないと強く気持ちを保っていた。

 

「じゃあ、そろそろやろうか? 君たちの一方的な……敗北ショーを」

 

「調子に乗っていられるのも……!」

 

「今のうちだよ!!」

 

 五十冬とシャルロットの両名が、ほぼ同時に前に飛び出す。ラウラは隙を見て援護射撃を飛ばし始める。フランスの貴公子と、ドイツの黒兎VS日本の機械人間。今ここに3人が激突を開始するのであった。




掛けたんで出します


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窃盗戦闘

「リヴァイブの武器はまだ……!」

 

「はーい、それも奪っちゃいまーす」

 

 戦闘開始から1分経過、今私の手元にはシャルロットのリヴァイブの武器が大量にあった。ばら撒くように撃ちつくしては捨てて、撃ちつくしては捨ててを繰り返している。

 

「ねぇ、リヴァイブの武器あとどれ位残ってるの?」

 

「君の両手で奪えないほどだよ!!」

 

 でもねぇ、ラウラの武器を奪った方が早いのは確かなんだけど……それをやろうとすると直線上にシャルロットが割り込んでくるんだよね。おかげで、奪いたいものの狙いがいまいち定まらない。

 

「まぁたしかに、私の手は花束じゃなくて銃でいっぱいだよ……でもさ、忘れてない?」

 

「……何のこと?」

 

「今この時点でも、私は相当な舐めプをしてる。いざとなればエネルギーだけ奪ってはい終わりが出来るのにやらない……その時点で負けてると思うんだけど?」

 

「……舐めてかかって……そっちが負ける羽目になるかもしれないのにね。よく言うよ」

 

「いやぁ、褒められてしまった」

 

 もちろん、舐めプにも理由はある。それらしい理由なだけ……って感じだけどね。だってさっさとエネルギー奪ってはい終わり、ってするよりは手を奪い足を奪いを繰り返して、徐々にやれることを減らしていく方が相手の絶望感を煽れるでしょ? そもそも私がやりたいのは勝つことじゃなくて、絶望感を煽る事だからね。

 

「でもまぁ……当たってないけど、さっきからラウラの砲撃が鬱陶しいのは間違いない」

 

「君にラウラを見せることはないよ」

 

 確かに、ラウラを視界で追ってたらシャルロットに攻撃される。装備事態はなくなっても体当たりとかパンチとかあるから、ISは本当戦闘に向いていると断言出来る。

 

「……でもまぁ、こういう事が出来るからいいんだけどね!」

 

「なっ!?」

 

 私は奪ったリヴァイブの装備を全て放り投げる。そしてそこに、一気に火力の高いマライアの青龍の装備2つで炎風を巻き起こす。火薬が詰まっている銃火器系統には、炎は厳禁……2つが相対すれば。

 

「こんな無茶苦茶な……!?」

 

「無茶で結構って訳でドッカーン!!」

 

 一つ一つはそこまで大きい爆発ではないが、リヴァイブの装備の殆どが爆散すればそれだけ大きなものにはなる。私は近かったから吹っ飛ばされ、咄嗟に気づいたシャルロットは逃げてたためそこまで吹っ飛ばされていなかった。

 え? 私だけが損をしてるだろって? いやいやそんなことは無い……爆発で吹っ飛ばされたおかげで、その速度のまま飛べれば爆発を生かすことが出来ていると言っても過言ではないのだ。

 

「はっはっは! 痛いけど初速はバッチリ!! このまま一気に攻めてあげるよ!!」

 

「させない……! ラウラ! 僕事撃って!」

 

「無茶はするなよ、シャルロット!!」

 

 成程阿吽の呼吸。こういう時織斑一夏ならシャルロットに怪我をさせないように戦うかもしれないけど、ラウラなら軍人なのでちゃんとした判断ができると踏んでの戦法だろう。

 間違っていない、100%花丸の大正解と言ってもいいだろう。私が相手で無ければの話だけど。

 

「ほーらこれでバラバラにして上げるよ!!」

 

「君が……それを使うな!!」

 

 織斑一夏の雪片弐型、本当ならわざわざこれを使う必要は無いけど……カリオストロとの相性がとてもいい武器だから仕方ないね。あ、そうだ……これで煽ってやろう。

 

「使っちゃいけない、なんて誰が決めた? カリオストロは相手のエネルギーを喰らえる、そして零落白夜はエネルギーを大量に消耗する……なんだ、実は私と織斑君って好相性じゃん!!」

 

「貴様……それ以上口を開いたら殺す!!」

 

 おいおい本当に軍人かよ、煽り耐性無さすぎるだろ。とは言うが、正直なところ私もお兄ちゃんの話題出されたら問答無用でキレちゃうから人のこと言えないや。まぁそれが私だということが分かってるからこそ、この事で煽るんだけど。

 

「ラウラ! 落ち着いて!!」

 

「シャルロット! この女を徹底的に潰さねば一夏が危ないのだぞ!!」

 

「どう危ないのか……教えてもらいたいもんだ!!」

 

「しまっ……うわああああ!!」

 

 隙を見せたなシャルロット、私の雪片弐型と零落白夜の一撃によって彼女は沈んだ。ついでにわざとらしくリヴァイブの装甲もバッキバキのバラバラにしてやったから、しばらく行動不可能になっているだろう。

 

「シャルロット!!」

 

「あーあ、あなたが足を引っ張るからこうなるんだよ」

 

「貴様……!」

 

「相手の隙を突いてこその最高火力、突けなければ……意味が無い!!」

 

 私はラウラに向かって迫っていく。ラウラは私に向かって超電磁砲を何発か放つが、当然の如く当たらない。当たるわけがない。

 

「……まぁ、零落白夜使うのも面倒だし……これで終わりにしてあげるよ」

 

「くっ……!? シールドエネルギーが……!」

 

 わざわざ近づいてから、私はラウラを押し倒す。そしてそのままエネルギーを吸い取り始める。押し倒した意味は……まぁ近くで抵抗出来ない様を見たかっただけ。

 

「退け!!」

 

「退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! ……ってよく言った言葉だと思うよ。私が貴方の言うこと聞くわけないじゃん」

 

 そう言っている間にも、ラウラのエネルギーは奪われていき私のエネルギーは増えていく。改めて考えてこの装備強すぎじゃない? 対IS用に進化しすぎでしょ。

 

「くっ……そんな……!」

 

「はぁい、ご馳走様……エネルギーは吸い付くしたからISはもう展開できないよ」

 

 完全にエネルギーを吸い取られたISは……待機状態になる。そうなれば、勝敗は明確に別れてしまうというものである。

 

『勝者! 生徒会庶務、鬼村五十冬!』

 

 そのアナウンスと共に、試合は静かに終わった。拍手も喝采も声援も罵倒も何も無い。ただ、静かに試合が終わった。観客席にいた生徒達が送ったものは、シャルロットとラウラに対する哀れみの視線だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルロット・デュノア……並びにラウラ・ボーデヴィッヒさん」

 

 生徒会室で、簪が2人と相対していた。仮にこの2人が簪を殺そうとするなら、拳銃を引き抜いて発砲して即座に終わる……それくらい近い距離だった。それが可能か、という話になってくるのだが。

 

「貴方達には、それぞれ別の場所に向かって頂きます」

 

「別の場所……?」

 

「一体どこに行けと……」

 

「行けばわかります。ここから1番近い空港に向かってください……それぞれのお迎えの人がいます。もし、このままどこにも行かずに戻ってきた、あるいは姿を消した場合……貴方たちの国が責任を取る形になります」

 

 国を人質に……そんなことが一介の生徒会長に可能なのかと言われれば、はっきり言って不可能に近いだろう。だが、ここはIS学園……世界各国から生徒が来ている学園でもある。

 もしそこで問題を起こそうものなら、国や自分の身内が危険にさらされる可能性があるのだ。そうなってしまえば……2人は死んでも死にきれないだろう。

 

「……わかりました、行こうラウラ」

 

「待て……私達は、どのくらい学園から離れる」

 

「分かりませんね……それは向こうの意思によるとしか」

 

「……」

 

「それと……あなた達に判断する権利はないです」

 

 その言葉に、ラウラはため息をつく。負けてしまったのは自分達、そして条件を飲んだのもまた自分達なのだ。これに従わなかった場合……次はおそらく一夏が矢面に立たされる可能性もある。それだけは避けなければならない。

 

「……」

 

 黙って部屋から出ていく2人。これで、IS学園からさらに2人邪魔者を排除することが出来た。簪はどうでもいいと思っているが、これで喜ぶ者がいる。

 

「いやぁ、ありがとう簪ちゃんちゃん」

 

「ちゃんちゃん……?」

 

「あなたのような友達を持ててあたしゃあ幸せだよ」

 

「悪ふざけはそこまでにして……結局、2人はどこに行ったの? 私、知らされてない……」

 

「んー? まぁそれぞれの『体』を活かせる場所?」

 

「……まぁ、別にいいけど……シャルロットを排除するのは、まずかったんじゃ……あれでも社長令嬢だから……」

 

「社長令嬢だからなんだって話、そもそもシャルロット……もといデュノア社は男装の件で干されてるんだからさ、どう処理されても異議なんて受け入れられないよ」

 

 五十冬の顔は、悪いものだった。だが、どうにも簪は違和感を感じていた。それの正体がよくわかっていないが、何かしらの違和感を簪は感じていた。

 

「それに、本人達も案外そっちの方がいいかもしれないしね?」

 

「……そう」

 

「あ、そういえばさ……前生徒会長どこ行ったのさ。そっち私知らないんだけど……」

 

「……じゃあ、連れてってあげる」

 

 そう言って簪は立ち上がる。私は首を捻ったけれど、まぁ多分更識楯無がいる所に連れてってくれるのだろうと考えたら……着いていく気にはなる。いやだって、本当に気になってるしさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ」

 

「……ってここ、簪の部屋じゃん」

 

 寮内、更識簪の部屋。そこにまで来たけど……でもここに更識楯無がいるとは思えないんだけどな。だって、この部屋の中はアニメDVDしかないんだよ。私一晩戦歌姫系アニメを見せられたからよく覚えてるよ。

 

「……正確には、また別」

 

「別?」

 

「休学中に、改修したの……」

 

「あぁなるほど」

 

 休学以前の部屋は知ってるけど、よく考えたらその後の部屋は私見た事なかったわ。楽しみにしながら部屋のドアノブに手をかけようとして……簪に止められる。

 

「ちょっと、順序がいる……」

 

「順序?」

 

 そう言って、簪は部屋のドアノブに待機状態となってる打鉄をかざす。すると、中から轟音が響き渡る。いつの間にか、この寮はトンデモ改造が施されていたようである。

 

「……打鉄越式を認識すると、専用の部屋の入口に繋がるようになってるの」

 

「へぇ……」

 

 すごいと思うけどそこまでする必要……いやあるわ、多分ここに更識楯無がいるんだからそりゃあいるわ。隠蔽するのは必要なことだもんね。

 

「という訳で、改めてお邪魔しまーす」

 

 部屋のノブを回して改めて部屋に入る。その部屋は……たったの一部屋しかなくて、ベッドキッチン風呂トイレ……これが丸出しで置かれている部屋だった。

 そして、その部屋の真ん中に……拘束された美少女が1人。

 

「うわ全裸だ」

 

「お姉ちゃん、元気にしてた?」

 

「簪ちゃん……それに、鬼村五十冬……!?」

 

「はーい、復学した鬼村五十冬でーす」

 

「なんで、どうして……」

 

 そういえば私が復学したこと知らなかったんだっけ。まぁ、知る術がないから知らないのも当たり前か。多分、ずっとこの部屋で監禁されてたんだから……ってちょっと待って? この隠し部屋作る前はどこで監禁してたんだろうか……いや、今は考えないでおこう。

 

「……私がそうしたの、IS学園の生徒がISを学べないなんておかしいから」

 

「くっ……!」

 

「ところでこのお姉さんはいっつも何してるの? ずっと拘束してる訳じゃないんでしょ?」

 

「うん……いつもなら、バイブか何か入れて生活させてるんだけど……今日は忘れてた」

 

「そっかぁ……ねね、私が相手していい?」

 

「……いいよ」

 

「なっ……」

 

「ただし、犯さないでね。犯すのは私だけだから」

 

「りょーかい」

 

 突然だが、私は更識楯無をいじめることができるようになったようだ。これはこれで楽しそうなので、私にはなんら問題がないのでOKなのだが。



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会長久々

「さてさてさーて……どれから使ってやろうかしらん」

 

 私はガチャガチャと玩具箱を漁っていた。もちろん、漁っているのはただのおもちゃ箱じゃなくて大人の玩具箱だけど。目の前には全裸拘束された元生徒会長更識楯無。

 そして私の後ろには特に表情を変えることなく、じっと姉と私を見つめる妹の更識簪。じっと見られてると恥ずかしくて興奮してくる。なんてね。

 

「貴方は……いずれ止めてあげるわ……!」

 

「それで殺す、って単語が出てこない限りやっぱり甘ちゃんだと思うよ私は」

 

 まぁその止めるって項目に多分殺すっていう意味合いは含まれているんだろうけど、あえて気づかないフリして煽っていく。殺す気はあっても、恨みにも近い殺意は感じられない。多分私が仮にこの女に殺されるとしたら……うん、事務的に殺されるな。まるで軽くひと仕事するかのように殺してくるな。

 

「さて……実の妹にどれだけ調教されちゃったのかな?」

 

「……答える義理はないわ」

 

「貴方に確かに答える義務はないけど、別にそれはやった本人から聞けばいいだけなので、特に問題は無いのである……って訳でどうだったの実際」

 

 簪ちゃんの方に視線を向けながら、私は玩具を選んでいく。簪ちゃんは少し考えていた。私に姉の調教記録を言っていいものなのかどうかを、悩んでいるのだろう。

 

「……乳首で、イケるようになったよ」

 

「マジで!? 試そ!!」

 

 適当に漁るだけ漁って、これまた適当にいじめるつもりだったのだが……どうやら簪の念入りな調教によって、元生徒会長様は乳首で絶頂してしまう残念な体になってしまっているようだ。

 まぁ箒並にでかいものを持っているからしょーがないか。

 

「というわけで簪が作ったこの特注生のローターの力……見せてもらうとしよう」

 

「っ……!」

 

 更識楯無の顔が明らかに青くなる。ポーカーフェイスを気取っていたこの女が、顔を青くするなんて滅多に見れないだろう。それだけ、簪の調教が良かったということだろう。

 

「ふふ……このピンッと立った乳首……どれだけ感じやすいのか、見せて欲しいよ」

 

 そう言って……私はローターを使う前に、更識楯無の乳首を思いっきり引っ張る。ローター使うけど、その前に掴みやすい乳首をどれだけ引っ張れるかとか試したかったんだけど……

 

「んぎぃ!!」

 

「おぉ、すごい反応」

 

「……まぁ、もうそこは性感帯にしちゃったから……」

 

 乳首はもう性感帯かぁ、更識楯無ももう形無しになっちゃったわけかぁ……いやはや、面白いね。人生どうなるかわかったもんじゃない。

 

「楯無が形無し!」

 

「全然面白くない」

 

「あ、はい」

 

 とりあえず乳首の感度も確認出来たので、私はローターやら電マを取り出してそれらの電源を入れる。どこで手に入れたのかと思っていたが、全部これ特注で作ったらしい。凄いな簪ちゃん。

 

「じゃあ……まずはこれで」

 

「ひぐっ……!?」

 

 最大にした電マを、乳首に押し当てる。軽く当てるどころか、乳房の形が潰れて崩れてる所まで行っているので、おそらく胸全体で感じていることだろう。勿論、胸は両方同時に攻めている。

 

「あ、ぐ、んうううう……!」

 

「声我慢してても面白くないですよー?」

 

「いつもなら……もっと声出してるのに……私じゃない、別の誰かにやられてるから……我慢してるだけなの、かな?」

 

 なるほど、確かに実の妹と敵に等しい女に犯されるの……私としては後者に犯されるのは、あまり好ましい状況とは言えない。前者なら、兄弟姉妹大好きって言うならまだ素直に従えるのだろう。

 

「だからって、そこまで我慢しなくてもいいじゃないですか? 1番初めはあれだけ喘いでくれたっていうのに」

 

「……」

 

 まるで私と聞く口は持たないと言わんばかりの反応。これだけ私が口を開いているというのに、ここまであんまりな反応されると……ついついいじめたくなってしまう。

 

「そうですか……そっちがその気なら私にも考えがありますよ」

 

「……? お姉ちゃんに、何する気……?」

 

「両胸を同時に責めるのも面白いと思ったけど……クリトリスをこれで責めるのも悪くないとおもってさ。というわけで早速━━━」

 

 わざとらしい演技と言葉で、ちゃんと聞こえるようにはっきり喋る私。恐らくこれで、楯無はクリトリスに意識を向けざるを得なくなっただろう。

 私は手で握った電マを挟み込むようにして……片方の乳首を挟み込む。

 

「ひぎっ!?」

 

「宣言通りクリトリスにすると思った? 残念! 私がそんな正直者だったら、今亡国機業に入ってるわけないじゃない!」

 

 グリグリと、乳首を挟み込んで責め立てる私。不意打ちによる快楽の波は収まるところを知らず、更識楯無を追い詰めていく。ほんと、簪ちゃんの調教のおかげでわかりやすい反応をするようになっちゃったなぁ……

 

「ほんと、こんな玩具で感じるなんて……しかも、敵の私に! もうプライドとかないんですか? 更識楯無生徒会長〜……あ、今は元生徒会長でしたね!」

 

 煽って煽って煽りまくる。更識楯無のプライドを引き裂くかのように喋りかけていく。既に妹の簪の手によって、彼女のプライドはかなりズタボロにされている。

 そんな中で、敵である私の調教を受けて屈辱さを味わっているところに……言葉でも責めたてる。これで心がポッキリ折れてくれたらいいんだけど。

 

「……随分、お姉ちゃんをいじめるね」

 

「ん、あれ? ダメ?」

 

「いい、よ……最近こんな反応のお姉ちゃん見てなかったから……こういう、悔し涙を流すお姉ちゃん……可愛いと思う」

 

 愛情が歪んでるねぇ、簪ちゃんをここまで歪ませた更識家はやっぱり滅ぼすべきでは? なんてことを考えている間に、段々と更識楯無の反応が変わってくる。

 

「ひ、ぁ……んいいいい!!」

 

「ん? んん?? もしかして、イきそうなんですか? 嘘でしょ? いくら簪ちゃんに調教されてるとはいえ、そんな簡単にイクようなことは無いですよね?」

 

 ずっと同じように、私はひたすら煽っている。そろそろ絶頂に達しそうなのは目に見えてわかっているので、追い打ちをかけるかのようにさらに強く挟み込みながら、言葉も強くしていく。

 

「敵に嬲られて……気持ちよくされて……イっちゃえ……!」

 

「ぁ……!」

 

 声は出さない、いやもしかしたら出せないほどに強い絶頂を味わってしまったのかもしれない。更識楯無は体を海老反りにしながら、絶頂に達してしまう。その顔からは、かつて凛としていた生徒会長の面影はなくなっていた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「……今日は、ここまで」

 

「ちぇー」

 

「文句言わないで……」

 

「まぁいいよ、また今度嬲らせてくれたらいいだけだから」

 

 そう言って私は、そのままその部屋を出る。そのあと何が行われたかは知らないけど……まぁ、とりあえず生徒会長は元生徒会長で遊んでいることだけは確かなようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、夢を見た。真っ青な世界に、地面は水だらけ……そこに白いワンピースの女の子が1人。景色としてはこの上なく神秘的で綺麗なもの、夢を夢として認識出来ていること以外は間違いなく夢であると確信が持てるだろう。

 

「━━━戻る気は無いの?」

 

「……何の話? つかここどこ?」

 

「貴方は……これ以上ISを使ったらダメ」

 

「……夢の中とはいえ、そんなこと言われるとは思わなかった」

 

 いきなり喋り始めたかと思ったら、突然そんなこと言われるとは思ってもみなかった。というか、何様のつもりなのかは知らないけど……

 

「ISを使うなって、どういう事かな?」

 

「これ以上使えば、貴方は人間じゃなくなる」

 

「もう失うものもないのに? 人間の体さえ既に捨てているのに?」

 

「貴方は……」

 

「真っ平御免、私は私のしたいようにする。それで私が死んでも、私はその程度だった……IS……カリオストロを使って人間を辞める結果になったとしても、後悔しない」

 

 誰かは分からないけど、私はその言葉に嘘偽りはない。今のところはね。もしかしたら何らかの理由で死ぬのが嫌になるかもしれない。自分ではありえないと思うんだけど。

 

「……私はあなたをこれ以上止められない」

 

「……」

 

「ISとの生体融合……それ以上の事が、あなたに起こる」

 

「そう」

 

「……怖く、ないの?」

 

「まぁそもそも生体融合っていうのがよく分かってないしね、それ以上のことを怖がれって言われても……って感じ」

 

 分からないこと自体に、恐怖は感じれない。予想を立てることすら出来ないんだから、当たり前である。だから、怖がれない。

 

「……自分を見失うかもしれない」

 

「承知の上」

 

「死ぬ以上のことが待ってるかもしれない」

 

「目的さえ果たされればOK」

 

「なにも出来ないかもしれない」

 

「それはそれでただの結果だから」

 

「……あなたはそれでも━━━」

 

「止まらない、止めるわけがない……私は、この力を……カリオストロを使って篠ノ之束に復讐する。身勝手で、八つ当たりで、どうしようもない復讐を……」

 

 私は水面に手を当てる。こんな所に立っているけど、私はここに初めて来た。けど、『その下』に何があるのかは知ってる。いや、正確には今理解した感じ。

 

「何を……」

 

「私はこんな明るいところにはいられない。私の世界はこの下……真っ赤の真っ黒……そんな不気味な世界が、私にとっての世界」

 

 手が沈む。ついでに言うと体も沈む。少ししか覚えはないけど……カリオストロが暴走した時、あの不気味な世界に私は意識を移されていた。

 なんでか分からないけど、私はそこがこの下にあると理解していた。

 

「じゃあね、可愛い可愛いお嬢さん」

 

「……なら、一言だけ……」

 

「はい?」

 

「聖剣には……気をつけて」

 

 その言葉が聞こえたと同時に私の意識は暗闇に落ちる。聖剣に気をつけろって……私は聖剣に滅ぼされる悪魔か何かなの? なんてことを思いながら、意識は現実世界へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……エクスカリバーの事かしら」

 

 ふと、夢の内容が気になったので私は何となくスコールに尋ねていた。そこにでてきた単語……エクスカリバー、確か……亡国機業で所有している兵器じゃなかっただろうか? 

 

「……本当に、あれに気をつけろと言われたの?」

 

「夢の中だけどねぇ」

 

「……五十冬、あれは……今暴走している」

 

「……暴走?」

 

 エクスカリバーは、ただの兵器じゃない。所謂超巨大なレーザー兵器だ。その一撃は、ISであっても直撃すればタダでは済まない代物である。

 

「……なんでまた」

 

「今はレイン達に見に行ってもらってる。貴方ももしかしたら……」

 

「……確認しに行く、と」

 

「最悪……織斑一夏達と共同戦線を張ることになるわ」

 

「役に立つの?」

 

 確かに強力なIS持ちではあるけど……私からしてみたら、あまり宇宙戦はさせない方がいい気もするけど。

 

「ま……その辺は準備させておくに越したことはないけど……覚悟は、決めておきなさいよ」

 

 スコールに言われて、私はカリオストロの準備に一応取りかかり始める。しかし、この事件……ただ簡単に終わるような代物ではなかったということを……私は知る由もなかった。



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聖剣暴走

「レインとフォルテが、エクスカリバーに落とされたわ」

 

 スコールから伝えられた一言。その一言で、異常が起きているのは理解した。

 突如として暴走し、軌道を離れ始めた高度エネルギー収束砲『エクスカリバー』の真相を確かめるべく、レインとフォルテのふたりが向かったのだけれど、途中で撃たれて落ちたという。

 

「……やばくない?」

 

「えぇ、かなり…なんとか回収は済んだわ。けれど2人は無事でもISは駄目ね。戦えはするけど…長期戦は不可能よ、ただの1撃が掠っただけで2人ともほとんど戦闘不能」

 

 エクスカリバーのある場所は衛星軌道上……まぁつまるところ宇宙だ。ISでも専用のパックをつけなければたどり着くことすら難しい場所。

 そして、エクスカリバーの強みは宇宙にあることと……その強力なレーザー攻撃である。

 

「……万が一、あれがばらまかれて撃たれるようなことでもあれば……」

 

「私達の……亡国機業としての目的は達成できるけど、私達も死んでしまうかもしれないわね」

 

 混沌を求めるは亡国機業の目的でもある。一枚岩じゃない為に、理念がバラバラなのが問題だけど……根本は、世界を混沌に落とす。まぁ私とスコールでさえ微妙に食い違ってるんだから、全部叶えたら混沌になるのは当たり前だけど。

 というのはどうでもいい、問題なのは大体のものを一撃で蒸発まで持って行けるレーザー攻撃が、雨のように降らされる可能性があることである。

 

「……実際、撃たれたし」

 

「待って待って、スコール今なんてった?」

 

「撃たれたのよ、実際に。日本のとある遊園地にね」

 

「マジか……」

 

 何故か妙に、そこに織斑一夏がいて巻き込まれたような気がするんだけど……いやまぁ、多分ただの気の所為だと思うけど。

 

「……ん?」

 

「……どうしたの?」

 

「マライアからメール、どうにも……織斑一夏達イギリスに向かうんだってさ」

 

「イギリス……」

 

「セシリアの実家に向かうみたいだよ、どうする?」

 

「……丁度いいわ、向かいなさい」

 

「はーい」

 

 そういえば、最近オータム見てないけど別の作戦中なんだろうか? 私はなにも聞かされてないけど、オータムの方も私の事なにも聞かされてないことあるみたいだし……ま、スコールのことなら言うこと聞いちゃうのが私たちなんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……五十冬さん」

 

「私はその場にいなかったから知らなかったけど、巨大なレーザーが降ってきて、その後にセシリアのメイドがブルーティアーズ3号機『ダイブ・トゥ・ブルー』を着て現れたんでしょ?」

 

 セシリアの自家用ジェットの中に乗って、私達は空を飛んでいた。メンバーは生徒会メンバー5人と、織斑一夏と篠ノ之箒、セシリアの計8人である。

 

「……あぁ」

 

「やだぁ、そんな怖い顔して睨まないでくださいよ織斑くーん」

 

「お前……シャルロット達をどこへやった……!」

 

「……さぁてね、私はただ他のISがある施設に飛ばすようにお願いしただけだよ。所詮庶務なんでね、生徒会長に頼んで……その生徒会長が政府に頼まないと、どこに行ったかわかったもんじゃない」

 

「というか、そんな話する余裕はねぇよなぁ?」

 

 レインが煽る。織斑一夏は怒りを溜め込んでいるようで、プルプルと震えていた。まぁ、たしかに今はそんな話をするつもりは無いわな。

 

「……あ、各人ISの起動をオススメするっすよ。じゃないと、命が落下死するんで」

 

「「「は?」」」

 

 生徒会メンバーが間抜けな声を出す。フォルテの後ろをよく見てみると……巨大なミサイルが飛んできていた。やっべ、バカやってる場合じゃなかったわ。

 

「……問題ない」

 

 そういったのは簪だった。途端に、ミサイルは方向転換をして飛んできた場所に飛んでくるよりも早く戻っていく。

 

「……攻撃されるのは、初めから分かってた。でも、今やれる事は外に出ない限り防ぎ続けるだけ」

 

「だったら、私がいってきますねお姉様!!」

 

「頑張れマライア、新しいパックの力見せつけてやれ」

 

「はい! 四象with麒麟! 行ってまいります!!」

 

 私たちに攻撃してきたのは、遠目から確認した感じIS乗りだった。遠くから確認して……誰だアレってなったのは私だけではないはず。

 

「……あの人、お姉ちゃんに1回ロシア代表の座を奪われた人じゃん」

 

「えぇ……」

 

 つまりなにか、ここに元生徒会長が乗っていると勘違いしたのか? なんというはた迷惑。そんなので攻撃するなんて、随分とご執心なようで……あ、そうだ。

 

「ハロハロマライア? 彼女捕獲よろしく!」

 

『お姉様のために頑張ります!!』

 

 凄い、マライアと私は阿吽の呼吸で結ばれている。ジェット機は止まらないから、とりあえずマライアに任せて私達はさっさと向かうことにしよう……何故かドイツに行ってきます!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 sideマライア

 

 私は残った。お姉様のために目の前に敵を排除しないといけない。目の前にいるのはかつてのロシア代表……因みにかつてだったとか元だったとか色々言われてるけど、更識楯無が排除されたことにより繰り上げ方式で再びロシア代表の座に戻っている。

 だが、そんな経緯もあったせいか再びロシア代表の座に返り咲いたのにも関わらず、異名は『元ロシア代表』である。悲しすぎる。

 

「……貴方は?」

 

「IS学園! 新中国代表候補生マライア! お姉様の為に貴方を捕まえるわ!!」

 

「……私は貴方たちを許さない……!」

 

 初対面なのに許さないとか言われたんですけど……なんでろうかこの人? 精神がちょっと不安定な人なのかしらん? 

 

「お姉様のために!! 愛は、爆発!!!!」

 

 ……あ、いやこれ……更識楯無が大好きな感じの人だ。てっきり恨んでいるものかと思ってたけど……あの女、同性愛者の気があったのか……と、そんな事より……どうやら相手はナノマシンを使うようで……

 

「危なっ!!」

 

「なぜ避けるんですカ!」

 

「いやいや……爆発は避けますよ本当……」

 

 今回、四象はとあるパックを装備してる。四象のパックは武装すら丸々変更されるのが難点だけど、その分威力は保証できるものがある。今回の武装は……対IS近距離特化型パック『麒麟』金色の特殊な装備……けどテストでの全力発動によって壁が豆腐のように崩れるという事故もあった。

 

「さて……このパック、ちゃんと対ISとして戦えるか……チェックと行きましょうか」

 

 大きな大きな槍、それが唯一にして絶対の装備。そしてブースターは肩と足に計4箇所……高速移動しながらも、一瞬で距離を詰めれるように無理やり曲がるためのもの。

 

「そんな大きな槍が……当たるとでも?」

 

「実は……それが当たるんですよ……この槍、ただデカいだけとは思わないことですよ」

 

 独特の機械音を鳴らしながら、私は槍を構える。これは……超回転しながら風と電撃を放出する特殊な槍……名付けて『麒麟角槍(きりんかくそう)

 

「行きます!!」

 

「っ……!?」

 

 向こうは私の速度が見切れてないことでしょう。あたり前田のクラッカー……なぜならこの装備の時の四象の速度はMAXマッハ7、絶対守護領域前提での使い方しか出来ないけれど、その代わり私自身が強力なミサイルも同然の代物。しかも、この速度を維持したまま移動も可能!! 

 

「━━━━━━!!!」

 

「今なんか!! 言いまし!! た!?!?!!!?」

 

 相手が避けながらなんか言ってるけど、私高速移動しすぎて何も聞き取れない。というかこの速度本当に大丈夫!? MAX速度出しちゃったらまずいんじゃない!? 

 

「くっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

 ロシア代表でありながら元ロシア代表と言われる女性ログニー・カリニーチェ。今彼女のISは()()()()()()。シールドエネルギーが削られているという意味ではなく、文字通り装甲が削られているのだ。

 何故かと言われれば、マライアの四象の麒麟の威力だろう。直撃しなくても、なんだったら移動時の風圧と電撃だけで装甲がガリガリと削られているのだ。幸い人体へのダメージは絶対守護領域が防いでくれているが、それも時間の問題だろう。

 高速移動によるソニックウェーブ、さらに装備の槍から発せられる風と電撃……シールドエネルギーでさえも通り過ぎただけでかなり持っていかれていた。直撃が当たれば、エネルギーがMAXでも全て持っていかれていただろう。

 

「なんて言う装備……!」

 

「━━━!」

 

 難点というべきかは分からないが、相手がなにを喋っていてもマッハクラスの移動により何も聞こえないということかもしれない。それに関しては、向こうと同じなのだが。

 

「こんな、一方的に……!」

 

 本来、超高速移動する場合においての軌道変更はブレーキが必須だ。しかし、向こうの装備は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは実に厄介なことなのだ。

 

「ぐうううううう!」

 

 上から攻撃されたと思った瞬間には、下から右から左から……ほぼ一瞬で4回攻撃されるほどの高速移動をしていた。

 こんなものでは、たとえ自爆覚悟でナノマシンを自分の周りで爆破したところで、本当の意味で自爆しか出来ないからである。

 

「はや、過ぎて……!」

 

 あまりの速度に、ブースターから出る炎の光が線を描いていた。橙の直線が、ログニーの周りを囲うように描かれていた。目の錯覚かもしれないが、その直線的な光の軌道は……ログニーにはとても恐ろしいもののように思えた。

 

「と━━━」

 

 そして、突如としてマライアの声で比較的聞き取りやすい一音が聞こえたログニー。マライアは一気に上まで上がり、高速で落下してくる。その動きには槍自体の回転の他に彼女自身も回転を加えているという中々自殺行為に等しいことをしていた。

 

「ど━━━」

 

「がっ……!?」

 

 そして、マライアの槍が直撃した。シールドエネルギーは勿論0となり尽きる。だが、元々削られていたのもあってそのまま受けてしまうとログニーの体が肉そぼろになってしまいかねない。

 故に、ログニーは敢えてそのまま動きを受け入れて、マライアの回転に晒されることで、貫かれる前に吹き飛ばされるようにした。

 

「め━━━」

 

「今回は……負けを認めて━━━」

 

「━━━ぇぇぇえええええええええ!!!」

 

 吹き飛ばされ落ちるログニー。マライアは何とか動きを止めるために、海に飛び込んでスピードを無理やり落とす。衝撃で意識が一瞬ブラックアウトしたが、マライアはなんとか生きていた。

 

「……お姉様……マライアは、やりましたよ……!」

 

 水面から親指を立ててグッドラックをするマライア。飛行機は既にこの空域から離脱しているので、それが届いているわけがないのだが。

 

「……にしても、なぜこの女をお姉様は捕まえようと思ったのでしょうか……?」

 

 理由を特に知っている訳では無いマライア。監禁されている更識楯無を見た五十冬と、生きているのはなんとなく理解出来ているが、行方も何されているかも五十冬が相手ではないのでどうでもいいという態度を取っていた。

 

「……はっ!? まさか新たな愛人に!?」

 

 ……そのどうでも良さが回り回って何故か五十冬の愛人となっていることに関しては、他人に興味が無さすぎるのと五十冬にだけ異常な執着心をみせるマライアの矛盾が生み出していることである。

 尚、この後ログニーを運んで自力で向かっていったのであった。




2019/09/20
フォルテとレイン関係変更しました…すいません……


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新機登場

 私達は無事到着していた。どこにって、ドイツだよ……なんでドイツ? 私達は確か、暴走したエクスカリバーと関連するであろうセシリアのメイド『チェルシー』の真実を探すためにイギリスに向かってたんじゃなかったっけ? 

 

「流石にこれだけじゃあ手が足りねぇからな、新しく作られたIS部隊で何とかするんだとよ」

 

「要するに弾除けっすね」

 

 なるほど、弾除けを今から調達するわけだ。まぁ単純に数が足りないというのは事実かもしれない。それとまぁ、他にもやることはあるって言う話。

 

「……良くぞおいでくださいました、IS学園の皆様」

 

「いえ……それで、例のものは……」

 

 現れたのは初老の男性、簪にぺこぺこしているが……その目は欲望に満ち溢れているような、野性味を感じた。性欲の方ではなく、私達を軽蔑というか貶しているというか……そんなん感じの目線だった。

 

「こちらです……私達の新型『黒い枝(シュヴァルツェア・ツヴァイク)』」

 

 その名前といい見た目といい、どうにもラウラのISを思い出す。違う点をあげるとすれば、ラウラのとは違って有機的かつ刺々しい見た目となっている。第一印象はハリネズミだ。

 

「簪ぃ、このISどうすんの?」

 

「五十冬、貴方に……貴方のカリオストロにこのISを吸収してもらう」

 

 武装のコピー、ではなく吸収と来た。いやいや、いくらカリオストロでもそこまでは出来ないってば。

 

「簪、ISがISを吸収するって話は聞いたことないよ」

 

「うん、でもしてもらう……エクスカリバーに対抗するために、わざわざ寄ったんだから」

 

「って言ってもなぁ……」

 

「……まぁ、今じゃなくていい……とりあえず、これは貴方にあげる」

 

 そう言って、待機状態の黒い枝を私は与えられる。というか眼帯なのか待機状態……腕につけとこ。それにしても、対エクスカリバー戦でこのISを吸収したところで勝てるとは到底思えないのだけど。

 

「……簪、何考えてるの?」

 

「カリオストロの能力で、今から世界で開発されているIS達を可能な限り吸収する……あげるとするなら、『五十冬を強くする』それが理由」

 

 そう言って、簪はさらに2つの待機状態のISを私に投げる。それはオレンジ色のものと黒色のもの……はっきり言ってしまうが、シャルロットとラウラのISだった。

 

「それに、貴方のもう一機のIS……サクリファイスも含めて今4機……最低でもあと一機は欲しいところかも」

 

 最近使わなさすぎて忘れてた。というか、今こいつって使えんのかな? 本当に忘れてたんだけど……というか、あと一機ってカリオストロはなんでも食べれるわけじゃないんだから、好き嫌いくらいさせてあげて欲しい。

 

「……待て、更識……お前はそれで本当にいいのか?」

 

「……何が言いたいの?」

 

 竹刀を簪に向ける箒。あまりにも黙りすぎて、織斑一夏とともに存在を忘れてしまっていたよ。にしても、やっぱりというかなんというか……私はこの2人にはまだ認められないらしい。

 

「この女は最低だ……そんな女に、何故力を与える?」

 

「私にとってはヒーローだから」

 

「世界にとっては悪意でしかない」

 

「悪意でしか世界は動かない」

 

「お前にはその女を止めようという気がないのか?」

 

「あったら驚き」

 

 何故か口論を起こしている2人。慌てふためくセシリア、織斑一夏は少し嫌そうだが思うところは同じなのか止めようともしない。

 

「……だったら、私を今ここで止める?」

 

「……なんだと?」

 

「そんなことしてる暇はない、今ここで口論してる暇はない、私がどうなろうとも貴方には関係ない……世界がエクスカリバーで焼かれたいのなら、ここで好きに口論開始したら?」

 

 簪が反論を許さずに自論を展開して行く。それに推されたのか、はたまた反論材料を無くしてしまったのか、箒はそれで黙ってしまう。

 

「……フランスから、なにか連絡は?」

 

「えぇ、『コスモス』の準備が整ったと」

 

「ん」

 

「……コスモス?」

 

 また新しいISだろうか? と私は首を傾げる。簪は特になにも言わず、再び飛行機に戻っていく。

 

「ちょい待ちちょい待ち、まさか次はフランスに行くつもり?」

 

「時間はないけど、戦力は欲しい……とりあえず、あとは頼みました」

 

「はっ……!」

 

 男はぺこりと頭を下げる。どうやら、フランスの方とも提携を結んでいたらしい。フランスというと……デュノア社だろうか? しかし、あそこは多分IS学園のことはかなり嫌っていると思うが……

 

「にしても、随分と偉くなったね簪……あぁいや悪い意味じゃなくてね?」

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ、シャルロット・デュノア、更識楯無……この3人のおかげで、ドイツ、フランス、ロシアは浮いてる。IS学園が仲介しないと、ISの資材すら輸入できないくらいには」

 

「つまり、今は仲介しているってこと?」

 

「そういうこと……だから、実質的にこの三国はIS学園には逆らえない」

 

 改めて、IS学園の立ち位置がとても強いものだと理解し直した。というか本当に強いな? ここまで強いと逆に怖くなってくるわ。しかも、簪は生徒会長……実質長みたいなものだ。

 

「……さて、じゃあ次はフランスに向かう」

 

「デュノア社かぁ……」

 

 一体どうなっているのか、私はよく知らないが……まぁどうとでもなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました」

 

「え、誰?」

 

 セシリアの自家用ジェットでフランスに到着……出てきたのは男性……なのだが、デュノア社の社長じゃなかった。写真でしか見た事ないけど、こんな見た目じゃなかったよ。

 

「この人は社長代理……デュノア社は今少しだけゴタゴタしてるみたい」

 

「……ゴタゴタ?」

 

「それに関しては、私が説明致しましょう」

 

 私が疑問に思ったことを、社長代理の人が説明してくれるようだ。まぁ内情込みで話してくれるなら、身内の方がわかりやすいだろうし、素直に聞いておこう。

 

「元社長は、妻の他に愛人を抱えていました。そこから子が生まれたのですが……」

 

「妾の子、それがシャルロットって話は全員知ってる……ということはゴタゴタはそれ関係?」

 

「えぇ、何故妾の方が先に子を産んだのか……ということに焦点が当たりました」

 

 そう言えばそうだ。妾の子って話は別に違和感を感じていなかったが、よく考えたら正妻との間に子をなしていたという話は聞いていない。

 妾の方しか手を出していなかった……というのが自然な話だけど……

 

「そこはすぐに理由が判明しました。正妻には、子を成す事が出来なかったのです。単にタイミングが悪かった……というのではなく、子を成せる体ではなかったのです」

 

 つまり、子供が作りづらい体だったと。確かにそれで妾の方にも手を出していたら、妾の方が先に産んでしまうのも理解できる。だが、それで起こるゴタゴタで社長すら出てこない事ってありうるのだろうか? 

 

「……けどよ、流石にその程度はまだよくある話じゃねぇか? あるんだろ? もっとおかしい話がよ」

 

「先輩の言う通りっす、他に何があったんすか」

 

 レインとフォルテのふたりが切り込む。特に言い淀む様子もなく、社長代理は語り始めていく。

 

「元社長、並びにその正妻は妾の子を自分たちの子として……そして妾を秘密裏に処理するという計画があった……という結論に落ち着きました」

 

「そう言えば、シャルロットの母親って亡くなってたんだっけ」

 

「待ってくれ……それって……」

 

 織斑一夏が声を発する。流石にありえないと思ったのだろうか? いやいや、そもそも必要のない男性としてのIS学園送り込みをさせる親だし有り得なくもないでしょ。

 

「えぇ、社内はこう結論づけました。『人を人とも思わないトップはいらない』と。

 結果元社長は逮捕、正妻は逮捕こそされませんでしたが多額の借金を背負う羽目になり……今は行方不明です」

 

 社長代理の顔が少しだけ笑みを浮かべていた。どうやら、『そういった店』に正妻は送られてしまったらしい。まぁ子をなせないだけマシだと思うようにしよう。

 

「それで……例のものは?」

 

「コスモスは既にあります、着いてきてください」

 

 社長代理の案内の元、私達はISコスモスの元へと案内されていく。静かな社内に足音だけが響くのが、妙に緊張感を煽っているような気がする。

 

「静かっすね」

 

「もうデュノア社はおしまいでしょう。しかし、最後までISに関しては続けるつもりですよ」

 

「……確か、他のIS企業に……」

 

「えぇ、吸収合併されますよ。そうでもしないと……生き残れないくらいにこの事件の傷跡は大きかったんですから」

 

 社長に振り回されて……私は実に可哀想だと思ったよ。振り回されるのは本当に面倒なんだから。

 

「……あれが、コスモスです」

 

 誰かが乗っている。恐らく起動実験でもしていたのだろうけど……でもそうなると、あのIS……まだ初期状態ろくな戦闘すら行われてない赤ちゃんじゃないだろうか? 

 

「……で? 何で起動させてるんだ?」

 

「戦闘データを得るための訓練を行おうと思ってまして」

 

「なるほど……確かにその方がいいかもしれない」

 

 少なくとも、第一形態移行(ファーストフェイズ)の状態だったらまともな戦力にすらなりはしない。ある程度実践をさせて、経験値を積ませてから強さを出しておかないと、新型も無駄になりかねない。

 

「五十冬」

 

「はいはい、私がやれっていうんでしょ……でもこれさ、カリオストロ以外も使った方がいいわけ?」

 

「使いたいなら、いいけど」

 

 私にも使えるようにされているみたいだけど、ぶっちゃけ見た目が変わるだけで武装に縛りを設けてるようなものでしょ。武装を使いたいならカリオストロだけでいいし……

 

「いや、やっぱりカリオストロでいいよ」

 

 そう言って私は、アリーナに向かう。コスモスをまとっている人物の顔は見えない……けど、何となぁく……どことなぁく……知っているような雰囲気がした。何故だろう。

 

「……」

 

 面白くなさそうに、織斑一夏が私を見ていた。直情的な彼がここまで動かないのははっきり言って珍しいけど……まぁ、大人になったとでも解釈しておこうかな。

 

「……」

 

 無言でISを起動。私はカリオストロを見に纏い━━━

 

「ぐっ……!?」

 

 直後に謎の頭痛を味わっていた。何かが頭の中で再生されていた。映像の中にいるのは、織斑一夏……それとラウラ・ボーデヴィッヒ。断片的な記憶だが……これは、シャルロットの記憶だろうか? 何故カリオストロをまとった際にこんな記憶が……

 

「……つぁー……」

 

 痛む頭を抑えながら、私は何とかモチベーションを治す。何故シャルロットの記憶が流れてきたのかは分からないが、多分シャルロットの専用機を私が今持ってるからだろう。

 

「……でもまぁ、本当に断片的か……」

 

 恐らく、シャルロットが印象に残った記憶だけが流れてきていた。その中に……彼女の母親のもあった。どうやらシャルロットも苦労していたらしい。

 

「……まぁ、今となっては遅い話だけど」

 

 もう既に、破綻している。私はただこの記憶を見ただけで終わってしまう。まぁせめて……コスモスを進化させて、強くしてあげることくらいしか出来ないだろう。

 

「さ……やろうか、謎の対戦者さん」

 

 そう言って、私達は戦い始めるのであった。




2019/09/20追記
フォルテとレインのこと頭から抜け落ちてた…すぐ修正します


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少女融合

レインとフォルテ関係がミスってたので書き換えました
本編だとほとんど出番なかったけど、ここでは撃ち落とされてる程度で住んでます


 私はコスモスを纏った謎のパイロットとバトルをしていた。だが、はっきり言って新しく産まれたばかりのISとは言ってもその強さは流石は第三世代と言うべきところだった。

 まずこのコスモス、実弾が効かない。実弾メインの装備だけだったらまず詰みである。そして専用のロングライフルはエネルギーと実弾の両方を兼ね備えており、ショットガンで接近を許さない……正に攻防一体と言っても過言ではないだろう。

 

「……ま、それも私からしてみれば無意味だけど」

 

 例えば、戦う相手が私ではなくシャルロットだった場合なら……彼女のラファール・リヴァイブは実弾がメインだ。確実に駄目だっただろう。

 

「でも、今の私なら……」

 

 ある程度戦って、ある程度戦い方さえ把握できれば……もうやることは無い。あとは淡々と攻めるだけだ。相手のパイロットの名前は知らない、覚える気もない。でも……はっきり言って相手の戦い方の癖、それだけで誰かが理解出来る。

 

「そろそろ、ごっこも終わりにしなよ……やる意味ある?」

 

 展開した大量のビットを使って、私は相手を翻弄する。そして、本命の一撃が相手のフルフェイスのヘルメットを叩き割る。そこからでてきた顔は━━━

 

「……ちっ、バレちまったか」

 

「……はぁ、やっぱり」

 

「オータム!? てめぇなんでこんなことを……!」

 

 外から織斑一夏の声が聞こえるが、私は完全に無視をする。オータムも無視をしているのか、視線さえ向けようとしない。

 

「……こんなこと、する意味無いでしょ? 私が来るの分かってただろうに」

 

「スコールの命令だ、お前と戦ってコスモスの機体の力を把握しとけってな」

 

「ふーん……ん?」

 

「……おい、てめぇ何してる?」

 

 オータムが握っていた武器を、知らない間に私は握っていた。そして、私が意識していないにも関わらず武器を握った腕はオータムに向けられる。

 

「……ちょっと待って、オータム。やばい、止まらないんだけど」

 

「なんっ……だとっ!?」

 

 オータムが返事してる間に、私は私の意思じゃない何かしらの力で勝手に引き金を引いていた。やばい、本格的に不味い気がする。私の意思で動いていたカリオストロが、止まらなくなってる。

 また暴走なのかと思ったが、私の意識自体はしっかりしてる。生身の手足もISの中である程度自在に動かせている。

 つまり、カリオストロが本当の意味で勝手に動いている。というか、脳に繋がってるカリオストロが私に関係なく動けるはずがない。カリオストロが勝手に動くのは、私の意識も何かしらで乗っ取られているはずだ。

 

「なんっ、で━━━」

 

『……て……』

 

「なに、この声……」

 

『か……して……』

 

「ぐっ……!?」

 

『返して!!』

 

 頭に響いてくる声、それは紛れもないシャルロットの声だった。しかし、仮にIS越しに私のカリオストロを動かしているのだとしてもおかしな話だ。彼女のISは私の手元に━━━

 

「……そっか、そういう事か……!」

 

 ISに刻まれたパイロットの強い意識。それが残留していたのか分からないけど、コスモスを見た瞬間にその残留意識が何故か活性化したようだ。

 

『お母さんの、愛した、花を、返して!!』

 

「オータム! 一旦コスモス乗り捨てて!! 多分何か起こる!!」

 

「ちっ……仕方ねぇな……!」

 

 背に腹はかえられない、死ぬより生き残る方がマシだと私の意思が通じたのか、オータムはコスモスから下りる。

 そして、私もカリオストロから強制的に降ろされる。一瞬意識が落ちかけたが、ギリギリ無事だった。

 

「いっだい……頭……」

 

「……おいてめぇ、確かISそれなりに預かってたんじゃねぇのか?」

 

「……あれ?」

 

 確かに、私が持っていたIS達がどこにも見当たらなくなっていた。カリオストロも含めて、全て手元から無くなっていたのだ。だが、原因は理解できる。

 目の前光り輝きながら1つになっていくカリオストロとコスモス。その中に、私が預かっていたIS達が1つになってきているのだ。

 

「……」

 

 私は、無言でそれに手を伸ばす。光の塊もそれに応えてくれたのか、私の体にまとわりついていく。そして……一気にひとつになって行く。

 

「ドイツの2機、フランスの2機、それとカリオストロの合計5機が融合していってる……」

 

「……まさか、コアも1つに収まってんのか? それぞれに?」

 

「……そうみたい、2つどころか5個のコアがこの中にある」

 

 見た目は、実に混沌としているカリオストロが生まれていた。まず白を基本として黒とオレンジでカラーが付けられている。両腕は刺々しくなっていて、両肩には超電磁砲。足はごつくなっていてもはやスラスターがくっついているくらいの太さ。

 フルフェイスなのは変わらないが、しかし……格段に強くなったと感じ取れる。

 

「……けど、なんで融合した?」

 

「……私が持っていたISの一機……それがコスモスと反応してた。ISに残ってた残留意識がコスモスを求めて、絶対に誰にも渡さないって判断を下したんだと思う」

 

「……それはもう、本人の生霊だな」

 

「かもね、そこまで行くともうオカルトだよ」

 

 しかし、現実にそれは起こっている。しかも他の機体も全て巻き込んで、5機全てが融合していた。最早ここまで来るとカリオストロはカリオストロじゃない気もするけど……

 

「……そうだね、カリオストロ・フィフスって言うべき?」

 

「名前が安直だな」

 

「こういうのはストレートにつけるのが1番」

 

 ちらっと、私は織斑一夏に視線を向ける。私とオータムが仲良くしてるところを見て……じゃないな、あれは。シャルロットとラウラのISを使って私が強化された事がとことん気に食わないらしい。

 こんな状況じゃなかったら、幾らでも戦ってあげるんだけどな。残念、エクスカリバーを止めるのが先だからさ。

 

「簪、これで準備完了?」

 

「うん……さ、イギリスに向かおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここからは飛行機は使えない可能性を考えて、セシリアの自家用ジェットは置いておくことになった。まぁそれを言うなら、ドイツやフランスにいる時も狙われる可能性があっただろうが……簪曰く『狙われたらすぐにわかるから、その時はISの移動で行くつもりだった』との事。

 ただ、フランスやドイツに向かってる途中で狙われなかったとは言っても、イギリスに向かったら狙われる可能性は遥かに高くなる。故に目立たないように、今は列車……寝台列車での移動となった。

 

「……それで、くじ引きしたら私達が一緒の部屋になった、と」

 

「……五十冬さん、私……」

 

 そして偶然なのかそれとも狙われたのかは分からないが、私はセシリアと一緒のベッドになった。別に嫌な思いも何もしていないので構わないのだが、セシリアにとってはとても気まずい空間だろう。

 

「何? 私に犯罪行為をやめて欲しい? それともISを持ち主に返して欲しい?」

 

「……何故、ですか?」

 

「……?」

 

「何故IS学園を、抜けたのですか? 亡国機業の方を抜けるという選択肢は……なかったのですか?」

 

「無かったよ、勘違いしないで欲しいけど……私は正義の心に絆されて正義のために戦う……なんてことは絶対にないから」

 

 仮に絆されていたとしても、抜けていただろう。私がセシリアと一緒にいたとしても、セシリアがこちらに来ない限りは何も変わらないだろう。

 

「……私は、フォルテさんがどうしてIS学園をやめたのかわかりませんでした。理由は分かります、でも……その理由に納得が出来ないのです」

 

 フォルテは元々、亡国機業側の人間では無い。だが、恋人であるレインの事を忘れられる訳もなく、別れられる訳もなく……ついてきてしまったという話がある。

 

「好きな人の為に、ついて行きたいって思うのは異常?」

 

「……少なくとも私は、好きな人が悪いことをしているのなら、止めるべきだと思います。私は、今そう思っています」

 

 その言葉の意味を、私はあえて追求しなかった。ついて行きたいと思うのか、止めると思うのかは別だ。本当に止めたいって思う人もいるかもしれないのだから。

 

「……じゃあ、この事件が終わったら……私を止めるの? セシリアが?」

 

「……止めてみせます」

 

「じゃあ……止めてみてよ……けどもし止められなかったら……セシリアも他の子達と同じ目に遭わせてあげる。私自身の手で……ね」

 

 ただの嫌がらせなのか、はたまた私自身が気づいていないだけで異常な愛情がセシリアに向けられているのかは分からない。けど、本当の本気で……私はセシリアに私自身の手で堕ちて貰いたいと思っているのだ。

 

「五十冬さん……」

 

「……今日はもう寝るよ、セシリアも早く寝なよ……きついのは明日からなんだから」

 

「……はい……」

 

 こうして、私たち二人は眠りについた。明日からの作戦決行は……多分死にものぐるいのものになるだろう。私たち全員、等しく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……またここか」

 

 私はまた、青い世界に来ていた。前と違うといえば……前にいた少女、ラウラ、シャルロット、更になんか見覚えのない人と……ドイツ軍の人がいた。

 

「……貴方が取り込んだIS達の、意思が今貴方の中にある」

 

「……意思? ラウラとシャルロットは分かるけど、残り2人は? 私が戦った時ドイツ軍のその人は量産型、もう1人の方に至っては私会ったことすらないけど?」

 

「意思は、パイロットだけの物じゃない」

 

 ……つまりどういうことだってばよ? って状態。要するにISを作った人の意志とかもあるって事? 

 

「クラリッサ……彼女はあなたがドイツからもらった新型に乗る予定だった。込められている意志は他に比べて少ないけれど、この機体にかける希望は込められてる」

 

 つまり、専用機になる予定だったってことね。なるほど。その前に喧嘩売ってきたんだから、奪われても仕方ないよね。

 

「じゃあこっちのオレンジの髪の人は?」

 

「シャルロット・デュノアの母親……彼女はコスモスが好きだった。その花の意思が込められたIS……」

 

 つまり、シャルロットのISと反応したのは偶然じゃなかったと。意思っていうものはなんだか恐ろしいな。というか、本当にオカルトじみてきたな。

 

「ふーん……」

 

「……興味、ないの?」

 

「興味無いよ、知らない人といきなり喧嘩売ってきた人。嫌悪することすらないよ、後者はもう倒しきっちゃったし前者は故人だ」

 

 むしろ興味を持つ方が不自然だと私は思う。倒した相手をそこまできにする武人みたいな性格してないし、知らない人に興味はモテないよ。

 

「……聖剣、あれを相手取るのは……」

 

「厳しいって? 分かってるよ」

 

 宇宙に行かないと行けないんだから当たり前でしょ。それに相手には凄まじい威力のレーザーがある。負ける気は無いが勝てる可能性は少ないだろう。

 

「ま、なんとかして無力化するよ」

 

「……そう」

 

 なぜ暴走したのかは分からない。でも大体篠ノ之束のせいだと思うし、少なくとも私はそう思ってる。

 

「じゃあね、私疲れてるからちゃんと寝たいのよ」

 

「……貴方が、ちゃんと生きられるように」

 

「祈らなくていいよ」

 

 その言葉を最後に、私の意識は落ちる。次に目が覚める時は……エクスカリバーとのたたかいがまちうけていることだろう。



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少女宇宙

「……うーん」

 

 今現在、私たちのISは調整に行われている。何せ宇宙に行くのだ、それなりの準備が必要となる。しかもただ宇宙に行くだけじゃなく、トンデモ兵器と戦うことにもなっている。

 

「さて、どうやって戦うつもりなのやら……」

 

 実戦仕様、追加装甲……更にはブラックボックスとなっているパッケージ。さてさて、色々追加するものがあるわけで。というか、ISってパッケージとか装備する際にちょっと容量制限みたいなのがある。白式はそれが埋まってるから、難儀しているようだ。

 因みに私は……というかカリオストロは、5つもコアがあるせいかガラガラに空いている。だから余裕で付けることが出来る。

 

「……けど、宇宙かぁ」

 

 宇宙と水中は似たようなもの、なんて誰かが言ってたような記憶がある。実際にその通りならいいのだが、多分実態はそうもいかないだろう。

 

「今回先輩達お留守番だよね」

 

「まぁな、また本調子じゃねぇし」

 

「あれ掠っただけで、ISがボロボロになるのやめて欲しいっすよほんと」

 

「……掠っただけで、か」

 

 気をつけてないといけない。恐らく余程のことがない限り、私も同じ運命を辿るかもしれないからだ。あれは受けるものじゃない、避けなければ死ぬ物だ。ISであっても、それは変わらない。

 

「……にしても、まさか共同とはね」

 

 今回の作戦、IS学園と亡国機業の共同作業となっている。生徒会はほとんど亡国機業なのだが、一応名目上はそうなっている。まぁ亡国機業としてもあれは止めたいし……万が一の為に回収しておきたいものもある。

 

「やぁやぁやぁ! いーちゃん元気かな!?」

 

「篠ノ之束……何、喧嘩売りに来た?」

 

「いやいやいや! そんなことないよ! ちょーっと面白そうな事がおきそうだから、セシリアちゃんといっくんの所行ってあげて! はいここのマーカーが2人のいる所だよ!!」

 

 私は驚いていた。やたら献身的な篠ノ之束にではなく、篠ノ之束がセシリアを名前で呼んだことだ。本来こいつは、認めた人間以外は全て同じ扱いだ。空気やチリ、いてもいなくても変わらない存在なのだ。

 それが、セシリアを認識した。明らかに何かしらの思惑を感じられるが、しかしやることがないのも事実。そして今はこいつと争っている暇がないのも事実……

 

「わかった」

 

 とりあえずは向かってやろう。ISは調整中だから……って思ったけど、カリオストロは無いのに、サクリファイスまだ残ってたんだ……ま、護身用のISとして使わせてもらおうかな。武装が全くないけど!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか……」

 

 マーカーを追ってきて、私はセシリア達のところに辿り着いた。そこでは……全てが終わったようだった。織斑一夏、セシリア、そしてそのメイドのチェルシーがいたのだ。

 

「……終わった?」

 

「五十冬、さん……?」

 

「……何でここが……」

 

「あんたらをこっちに寄越した篠ノ之束のご意思だよ」

 

「……束博士が……」

 

 何故かセシリアは下着のみとなっている……のだが、傍に落ちていた2振りの剣が何となく起こったことを教えてくれていた。

 

「なるほど、2人で斬り合いでもしてた訳? 随分とイチャイチャしているようで」

 

「それは……」

 

「おい……」

 

「そろそろ作戦開始だから……セシリア、ちゃんと服着て帰ってきなよ? メイドのチェルシーだっけ? あんたも……ちゃんと『やるべき事』やってほしいよ」

 

「……分かっています」

 

 分かっていない。いや、分かっていてこの女はそれを行わない。ダイブトゥブルー……チェルシーの所有するIS。今この女は一応亡国機業側の人間だ。けど、恐らくその目的を達成したらセシリアの元に戻るだろう……そのISを持って。

 

「今回の作戦……全員の力が必要になるから」

 

「お前も……出るのか?」

 

「当たり前、エクスカリバーは本当に恐ろしい兵器なんだから」

 

 まず誰かが死にかねないだろう。というか、この作戦で死なない可能性はかなり低い。実力やレベルが低いとかじゃない。一撃でも当たれば終わりなのだから。

 緊張が油断を産み、油断が死を招く。今回の作戦はそこまでのものだ。

 

「……意外だよ、本当に……亡国機業が今回の暴走を見逃さないなんて」

 

「私も意外だよ……でもまぁ、目的が達成されても自分たちが死んでちゃ話にならないしね」

 

「……セシリアに服を着せてから戻る」

 

「ん、わかった」

 

 そうして私だけ先に戻る。今から私は、エクスカリバーを攻略したあとのことを考える。攻略はしないといけない、だから攻略方法は作戦を考える担当の人達に任せるだけだ。

 一応名目で政府から『大人』は配置されているが、こちらの作戦に任せるといった状態なのでガン無視である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ……作戦を説明するね」

 

 作戦はこうだ。セシリアが地上からエクスカリバーを撃ち抜く。勿論、ただのブルーティアーズでは不可能だ。そのため、専用装備『アフタヌーンブルー』によって攻撃を最大強化、地上から宇宙に向けての一閃でエクスカリバーを破壊すると言ったものである。

 ではセシリア以外はどうするか? 

 

「先輩たち2人は地上でセシリアのサポート、残りは私を含めて……エクスカリバーに突撃 」

 

「ただ突貫するだけじゃダメだよね?」

 

「そう、その為に……防御膜を張る」

 

「膜……というと?」

 

 箒が簪に質問する。エクスカリバーの為に、一応シールドは支給されている。理論上1発までなら防ぐことは可能とされている装備だが……

 

「私がナノマシン全てを使って、みんなの前方に巨大なバリアを形成する。ただ私は後ろからついて行くだけになるし……エネルギーもかなり消費されると思う。

 だから、篠ノ之さんには私のフォローをお願いしたいの」

 

「……絢爛舞踏」

 

 確かに、エネルギーを回復できる絢爛舞踏なら簪のサポートができる。だが、それでも防ぎきれる気がしないのは何故だろうか? 

 

「そう……でも、多分それでも足りない。だから……五十冬に2つ目の膜を任せたいの」

 

「あー、ハイハイそういう事ね?」

 

 進化したカリオストロ……もとい、カリオストロ・フィフスは五機のISのスペックその全てを引き継いでいる。

 特にドイツ側の二機……ラウラのISには知っての通りAICが搭載されている。それが新型の方にもあるのだ。無論、ラウラのを盾のAICだとするならこちらは矛のAICだが。

 要するに、その2つを使ってナノマシンの内側に更に防御をつけろということらしい。ないよりはマシ、というわけだろう。

 

「全装備を使って、レーザーを防いで欲しい」

 

「思ってたよりえぐかった」

 

 AICだけじゃなくて全装備なのね……まぁ私は頑張りますよ。ミスったら終わりなのに頑張らないのは間違いでしょ。後足引っ張ったとか思われたくない。

 

「まぁいいですよ、やりますよやってやりますよ」

 

「……私達は囮。本命はオルコットさん……でも、万が一のことも考えて私たちの誰かが……または私達全員でエクスカリバーを破壊できるようにしておかないといけない」

 

「……だから、全員のISの制限をとっぱらったって訳?」

 

 まぁ亡国機業側のISならやってる事だけど……まず、ISは簡単に人を殺せないようになっている。IS学園にあるISはもれなく全員そうなっている。

 簡単なことをいえば、これで人殺しができないようにするためだ。無論、殺せないだけで怪我をさせることは出来る。しかし、その制限があるとISの攻撃力にも影響が出てくる。簡単に言えば威力が落ちる。

 つまり、これを外すことでIS本来の火力に戻るというわけである。

 

「そう……何としてでも、破壊しないといけないから」

 

「ふーん……」

 

「……それで、ようやく本題。そもそもエクスカリバーが何なのか……説明してもらう」

 

「……はい」

 

 そこに居たのはチェルシーだった。どうやら、エクスカリバーの事情を知っているようだが……

 

「あのエクスカリバーはイギリスとアメリカが極秘に開発、運用していた攻撃衛衛星……というのは建前。本当の所は生体融合型のISです」

 

「……何でそんな事情を知ってるんですか?」

 

 何となく気になったこと。恐らくこの場の全員が思ったことだろう。一介のメイドが知っている事実ではない……と。

 

「……あれには私の妹、エクシア・カリバーンが搭乗……いえ、搭載されていますので」

 

「チェルシーに妹……? そんなことは━━」

 

「いたんですよ、戸籍から抹消された私の妹が。ずっと、探していた妹が……」

 

 つまり、何らかの理由でチェルシーの妹……エクシアが拉致。そしてそのままエクスカリバーの部品にされたということだろう。さて、部品となっているということは殺すしか取り出せないだろうけど……

 

「……」

 

 ところで私の隣にいるエムが無茶苦茶不機嫌なんだけど……理由わかる人いるかな? え? 私のせい? そんな馬鹿な……まさか織斑千冬が捕まっただけでここまで不機嫌を明確にするやついる? 

 

「私は、極秘に開発が完了していたブルーティアーズ三号機を奪い、亡国機業へと落ちた裏切り者……しかしそれでも、妹も祖国も諦めきれない半端な覚悟しか持ち合わせていないのです」

 

「ならば、半端な覚悟しかない奴がここに立つな。ISだけを置いてさっさと帰るがいい」

 

「エム、話進まないから黙っててよ」

 

「黙れ」

 

 ほんとにこいつ機嫌悪いな今日……織斑一夏と共闘するって言うことも相まって、余計に機嫌を悪くしているのだろうか? とまぁ、ここまではいいとして……

 

「簪、さっきの作戦なんだけど……篠ノ之さんは織斑一夏のサポートに回らせた方が良くない?」

 

「それも考えた、けど念の為」

 

 一応言っておくが、今回作戦を行う装備の中にO.V.E.R.S.(オーヴァーズ)というものがある。簡単に言えば簡易型絢爛舞踏だ。その装備を今作戦において宇宙に出るIS達全員に着けてある。

 それがあればある程度はサポートも1人でフォロー出来ると思うけど……簪はそれで足らないと考えているようだ。

 

「そう……」

 

「……他に質問があったら、言ってね。今からヘリに乗って移動するから」

 

 セシリアは地上、宇宙組はカタパルトで射出される。さてさて、一体どうなってしまうのか……見ものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

 作戦開始までの時間、ヘリに乗ってじっと待つ一同。そんな中で五十冬は篠ノ之束と一緒のヘリに乗っていた。

 何故一緒なのかは疑問に思わなかった五十冬だが、嫌悪感と恐怖は抜けきるものではなかった。

 

「んー? そんなに黙っちゃってどうしたのかなー?」

 

 漫画やアニメならば、キラキラの表現が使われそうな雰囲気を出しながら束は視界内に五十冬を入れていた。五十冬を見ていないのは、五十冬自身勘づいていることである。

 

「ねぇねぇ、IS5個分のコアの情報量はどうかな?」

 

「……何の話?」

 

「んー? 君がIS5個分のコアと繋がっている……って言うのが本当かどうか気になってさ!」

 

「……? カリオストロとは繋がっている」

 

「あー、そうじゃないんだよなぁ……じゃあはっきり言うね!」

 

 その前置きに少し苛立ちを覚えながら、五十冬は束の声に耳を傾ける。これだけでも五十冬は嫌悪感と吐き気でいっぱいいっぱいになりかける。

 

「君、取り込んだだけでろくにスペックもろくに使いこなせてないのに、イキってるの?」

 

「……お前……!」

 

「おぉ!? どうやら着いたみたいだよ!!」

 

 篠ノ之束の煽りに少し苛立ちを覚えながらも、五十冬は自分を見失わないように冷静に意志を保つ。篠ノ之束はこういうやつなんだと自分の暗示をかけながら……エクスカリバーに対する兵器、アフタヌーンティーを眺めながらそう思うのであった。



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少女発射

「作戦開始までのカウントダウン5秒前」

 

 各カタパルトに設置されたIS達。打ち上げられれば、作戦終了まで帰ることは許されない。例えるなら、ラスボス前のダンジョンと言ったところだろうか。

 

「4」

 

 緊張が募る。こんな私でも、緊張することだってある。死ぬかもしれないという恐怖よりも、それ以上のよく分からないなにかによって心が支配されていた。

 

「3」

 

 何かが起こるのは間違いがない。ただ、エクスカリバーに対して何かが起こるのは当たり前なのに……私はエクスカリバー以外の何かが起こりそうな予感がしていた。

 

「2」

 

 カウントダウンが迫っていく。空に打ち出される準備は整っている。空はいつも飛んでいる、後は慣れない宇宙での戦いをどう制するか……それだけである。

 

「1……作戦開始!!」

 

 その言葉と共に、私たちの体にGが入る。私が一番前、その後に織斑一夏、さらにその後ろに簪と箒の4人だ。簪はナノマシンによる防御、その制御に全てを割くための行動だ。

 私がAICを含んだ全装備で、防ぐのも視野に入れて……出来れば避けていくのが理想的だ。だが、そんな簡単に避けれるものなら苦労はしていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早速来るぞ!!」

 

 念の為と装備されたシールド。計算上、エクスカリバーの一撃を防げるものである。そしてもうひとつ。ミサイルランチャーも装備されている。これはISのセンサーで引っかからない作りだ。果たしてどれだけ役に立つのか。

 

「……って!!」

 

「あんな威力なんて……!?」

 

「箒! 絢爛舞踏の準備を!!」

 

 まず1射目。エクスカリバーの威力は想定よりも遥かに高いものだった。推定は予測の3倍、こんな盾装備していたところで役に立たない。

 

「迎撃、お願い……!」

 

「合点承知之助!!」

 

 私と織斑一夏でミサイルを放つ……が、即座に落とされる。やっぱり役に立たないじゃないか!! そう思って私達はミサイルランチャーをデブリにするために捨てた。

 

「とにかく近づきさえすれば!」

 

「速度を出すってわけ!? 癪だけど乗った!!」

 

 次の作戦、私達で瞬間加速(イグニッションブースト)の体制に入ろうとする……が、エクスカリバーはそれも読んでいたのか……分離して刀身を4つに分けた。まさに親機と子機に別れた多機能攻撃衛星。

 

「箒! 絢爛舞踏で全員にエネルギーシールドを!!」

 

「分かった!!」

 

 箒は頷くが、そこで予想外の事態。O.V.E.R.Sが爆発したのだ。こんなものは使えないと即座に切り離し、箒は単独の絢爛舞踏で挑む。だがその隙が……エクスカリバーに好機を与えてしまった。

 

「狙いが……やばっ!? セシリア狙われてる!!」

 

「まずい!!」

 

 既に気づいたが遅い。発射される直前と同時に織斑一夏が斜線上に入り、シールドを展開。更に雪羅まで利用してさらに防御力を上げる。箒は簪を射線上から既に避難させている。

 

「クソッ……!」

 

 セシリアが落とされたら、この作戦は終わりだ。私も大急ぎで向かう。だが、織斑一夏のところに辿り着く頃にはそこまでエクスカリバーの攻撃は近づいていた。

 

「一夏ぁ!!」

 

「五十冬……!」

 

「全武装フル展開!」

 

 私の武装とシールド、そして織斑一夏の雪羅とシールド。癪だがこの防御力なら何とかなるとさえ思っていた。だが、そんなのはただのポジティブシンキングでしか無かった。

 

「いやいや……流石にこれはまずいでしょ……」

 

「箒! 後は、頼んだ!!」

 

 次々突破されていくシールド。私が溜め込んだ武装の全てが溶けて無くなっていく。AICも慰めにもなりはしない。ナノマシンのシールドも役に立たない。

 織斑一夏もそれを悟ったのか、箒に全てを任せる気だった。

 

「いふ━━━」

 

 簪の声だろうか、私の名前を呼ぼうとしたのか分からないが……それが聞こえてくる前に、私の視界は真っ白に染って行くのであった。

 

『織斑一夏、並びに鬼村五十冬のバイタルサイン消滅。状況確認、死亡と判断されます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……生きてる?」

 

 私が意識を取り戻して最初に発した言葉だった。だが、今視界360°、色々なものが光り輝く暗い世界にいた。まるで、夜に瞬く星を眺めているかのような感覚だった。

 

「……」

 

 体は動かない、ISもまとえてはいるが全く動かない。どうやら、鎧程度の機能しかないようで、フルフェイスのメットも簡単に取り外すことが出来ていた。

 

「……どんだけ気絶してたんだろ、というか私どうして息できるのか」

 

 辛うじてISのシステムの1部が生きていて、それがまだ私に呼吸できるようにしてくれていた……とか? いや、今そこは重要ではない。ここからどうやって戻るか、だ。

 

「……何とか動く、か」

 

 IS側である程度修復はしてくれるだろう。つまり、時間が経てば私は問題なくなるということだ。幸い、エネルギーが少しでも残っていたらコピーした絢爛舞踏で何とか回復できる。

 本当に、どうやって戻るかだけが問題なのだ。

 

「……」

 

 あんな威力だ、織斑一夏もタダでは済んでいない。下手をしたら死んでいるだろう。だとしたら、私的には敵が減って万々歳だ。

 だが……

 

「……なんで、こんな腹が立つかな」

 

 無性に腹が立つ。何故だろう、別に織斑一夏が死んで悲しいとかそういうのでは無いのは確かだ。では何だろうか。私は、織斑一夏が死んだことで……なにか思うところがあるのだろうか。

 

「……いいや、あんなヒーロー気取り……」

 

 死んで悲しくなるのは、奴に惚れている女たちと友人達だ。私は悲しいわけじゃなく腹が立っている。一体何故か、何が一体私をここまで苛立たせているのか……

 

「何か……忘れてる、気が……」

 

 生きてるって安心したせいか、無性に眠くなってきた……ちょっと……眠って━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お兄ちゃん! 大丈夫!?』

 

 小さい頃の私、当時の兄。小学3年生の時だっただろうか? 兄は私を守ってくれた。何をするにも守ってくれた。怪我をしても、絶対に抵抗はしなかった。自分が怪我させられても、絶対に抵抗しなかった。

 

『あぁ、大丈夫さ』

 

『でも……このままじゃお兄ちゃん死んじゃうよ!!』

 

 子供の頃だからか、私は血さえでてたら下手したら死んでしまうのでは? と過剰に思う時もあった。今思えば、頭を切ったくらいで人は死にはしない。

 

『んー……お兄ちゃんは死ぬ気は無いけどな?』

 

『でも、でも……』

 

『……なぁ■■』

 

 ━━━あれ? 今私を呼んだんだよね? なんか、聞き取りづらかったような……

 

『……何?』

 

『もしお兄ちゃんがいなくなったら、お父さんとお母さんを守るのはお前だ。こんな傷で騒いでたら、まず駄目だぞ?』

 

『私が……』

 

 小さい事ながらに、それが大事なことだとわかってた。今思えば女の子にする説得じゃなかったと思うけど、お兄ちゃんの言うことだったら私はなんでも聞いていた。

 

『あぁ、お兄ちゃんだってずっとお母さんたちを守ってられない。俺がいない時……そんな時はお前が2人を守るんだ』

 

『守れる、かな?』

 

『守れるさ、絶対』

 

『なら……お兄ちゃんのために頑張る……怪我しても騒がない……』

 

『いい子だ……()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……忘れてたけど、思い出した。私お兄ちゃんと織斑一夏を重ねてたんだ」

 

 無意識に、重ねてたんだ。だから嫌いだった。お兄ちゃんと重ねて、お兄ちゃんと違うから。なるほど、こんな勝手な理由で嫌ってたんだ。なんだかんだ言い訳をつけてたけど、こんな小さなことで私……

 

()()()()()()()()

 

 最後の織斑一夏の言葉が、私の中のお兄ちゃんを思い起こさせた。思い起こさせたと同時に、最近無くなっていたであろう感情が……私の心を駆け巡る。

 

「━━━勝手に押し付けるな!! 勝手にいなくなって、任せた!? てめぇに惚れてる女にてめぇの死後の後始末を任せろ!? くだらないくだらないくだらない!!」

 

 カリオストロのひび割れた傷から、赤黒い黒いエネルギーが噴出していく。さながら私の怒りと恨みが吹き出しているようで。

 

「この社会でまだ男の方が強い理論をかざすか!! 善人ぶるか正義の味方を気取るか!! 結局は篠ノ之束におもちゃを貰ってはしゃいでるだけだ! 白式を使いこなしているとはいえ、きっかけがなければこんなことに巻き込まれなかったのに!! 

 そうさ! 織斑一夏に怒りこそすれど、恨むべきは織斑一夏じゃない……篠ノ之束だ!!」

 

 赤黒いエネルギーがカリオストロを私の体ごと一瞬包み込む。すぐに弾けるが、その中には回復を終わらせているカリオストロがそこにはいた。

 

「カリオストロ行くよ! エクスカリバーを止めて……そっから篠ノ之束を殺し尽くす!!」

 

 私があいつと同じ組織にいること自体おかしかった、いっその事辞めれるほどに恨みを強く持てれば……私は後悔をきっとしないだろう。そうだ、私はなんの為に亡国機業に入ったのか……篠ノ之束を、殺すためだ!! 

 そう改めて心に誓って、私は再生したカリオストロと共に宇宙を飛翔する。

 

「あれは……織斑一夏……!?」

 

 目の前を通り抜ける白い流星、それが織斑一夏だと私は直感でそう判断した。させるか、と言わんばかりに私も高速で飛び始める。白い流星と黒い隕石、対比させるならこんな感じなのだろうか。どうでもいい事だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリア! 撃って!!」

 

「五十冬さん……はい!!」

 

 以心伝心、とは言わない。通信を繋げていただけなので私はそのままエクスカリバーに向かって飛ぶ。織斑一夏もやることがあるのか、私と共にエクスカリバーに向かって飛んでいた。

 

「鬼村! チェルシーの妹をどうする気だ!」

 

「殺すに決まってんでしょ! 重要なパーツを破壊しない限りエクスカリバーは止まらない!」

 

「いいや! 俺が救ってみせる!!」

 

「救うって、なにを……」

 

 織斑一夏が何をしようとしているのかは分からない。だが、碌でもないことなのは確実なので、私は織斑一夏と併走をしていく。そして、その間を縫うようにセシリアの……アフタヌーン・ブルーの一撃がエクスカリバーに直撃する。

 よって、エクスカリバーはその機能を停止……もうビームが撃たれることはない。

 

「ここが、エクスカリバーの……!」

 

 そして、侵入した私達が着いた場所はエクスカリバーのコントロールルーム。そこにはエクスカリバーに繋がれた少女、エクシア・カリバーンの姿があった。

 

「いた……! エクシア・カリバーン……君の悪夢を終わらせる」

 

「あんた、一体何を……」

 

 織斑一夏はその右手に光を纏う。その輝きは、今までの白式からは見たことも無いものだった。

 

「白式の真のワンオフ・アビリティー『夕凪燈夜』……全てのISプログラムを、初期化できる能力だ」

 

 そう言いつつ、織斑一夏の手の光はエクシア・カリバーンを貫いて……聖剣から解放する。

 

「私、は……」

 

「もう、おやすみ。エクシア」

 

「うん……少し、疲れちゃった……」

 

 こうしてエクスカリバー事件は幕を閉じる……が、閉じたのは事件の幕だけだ。この後、私は━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上につくと、そこではエムとチェルシー&セシリアが対峙していた。私はエムの側に降りて、織斑一夏はセシリア達の元へと降りる。

 

「エクスカリバーは破壊された、既に亡国機業のものであるブルーティアーズ3号機は貰っていくぞ」

 

「そして……織斑一夏、あんたの白式は今や相当危険な代物になってる。それをこの目で確認した以上、私はあんたを止めないといけない」

 

「……やっぱり、こうなるとは思ってたぜ」

 

 全てのISを初期化できる能力? そんなもの、亡国機業でなくとも危険視する。下手をすれば封印ものだ。絶対誰にも使わせるわけにはいかないものだ。

 

「どうする? 今ここで決着をつけるか?」

 

「ふん、舐めるなこっちは……」

 

「分が悪くても、戦う気しかない……まぁ新しい力も手に入ったことだし」

 

 そう言って私は……ひとつのISのコアを取り出す。これが何なのか、流れ的にわかったのか織斑一夏は驚愕の表情を浮かべていた。

 

「まさか……エクスカリバーのコアか!?」

 

「正解、これを手に入れて……吸収すれば6機めのコア。私はそれを……フル活用させてもらう」

 

 そういって私はエクスカリバーのコアを……取り込んだ。エクスカリバーのコアが馴染んでいくのを確認していく中で……頭が引き裂かれそうな痛みに襲われる。

 

「ぐ、が……!」

 

「やめろ! ISを解除しろ!!」

 

「いや、だね……!」

 

 カリオストロは元々、ISとパイロットそのものを繋ぐものだ。コアが6個ともなれば、当然その情報全てが頭に押し込まれていく。だが、この感覚を私は今まで味わっていなかった。

 そう、これが本当の意味で……カリオストロ・フィフスを扱うための真の進化ということになる。

 

「がっ……はぁ、はぁ……!」

 

「鬼村……」

 

「ふ、ふふ……さぁ、殺しあおう……私は白式を絶対に止める……エム、任せた」

 

「あぁ、3号機は私が回収する」

 

 こうして、私達は織斑一夏達と戦うことになったのであった。相手の機体よりも強くならなくちゃ……いけないのだ。



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怨恨燃焼

 私達は戦っていた。新しく進化した白式……『ホワイト・テイル』はっきり言えば、相当な進化を遂げていた。中身がどうなってるのか調べたくなるほどには、その強さは私のカリオストロを超えていた。

 そう、同等ではない……私は越えられていた。

 

「くっ……!」

 

「何を狙ってるのか知らないが……殺す気がないのなら……!」

 

 だが、織斑一夏は私を殺そうという気概が無かった。当たり前だ、普通はそう簡単に人を殺せるようにはならない。私のような異常者じゃない限り難しい話である。

 

「……けど……」

 

 その覚悟を持ってして、ようやく追いついている……否()()()()()()()()()()()()状況なのは間違いがない。瞬間加速、装備、どの点をとっても通常のISとは比較にならないものだ。ISを超えたIS、とでも言うべきだろうか。

 

「鬼村! もう諦めろ!!」

 

「諦め切れるか……!」

 

 私の目標は、進化した白式の破壊。またはコアの奪取。ワンオフアビリティーにより、ISを初期化するその機能は放っておいたら私たちの驚異になりかねない。

 そう、だから私達は戦いあっている。エムは戦う前はちゃんと隣にいたが、いざ始まったらどこかへと姿を消した。正確には、私達が離れてしまった為はぐれたという方が正しいのかもしれないが。

 

「はっ!!」

 

「あぶっ!!」

 

 新たな白式の装備、6枚羽が追加されていたのだが……それら一つ一つがどうやら零落白夜と同じもののようだ。つまり、一撃でも当たればタダでは済まないということになる。

 

「エクスカリバーのコアを破壊しろ!!」

 

「断る!!」

 

 ……織斑一夏は、どうやら私が吸収したエクスカリバーのコアを狙っているらしい。確かに、このコアが余っていたら新しいエクスカリバーが作られてしまうだろう。正義感溢れる男としては、放っておけないというべきだろうか? 

 

「折角だから……味わっていきなよ!! エクスカリバーを手に入れたカリオストロの力を!!」

 

 そう言って私は、新しく生まれた装備を呼び出す。小型化された衛星と言うべきだろうか? 正確には、私の腕にマウントしてある装備なので衛星型ビームキャノンなのだが。

 

「ただの一直線のビームで、当たるわけないだろ!!」

 

 私はビームを乱射する。そう、乱射しているだけでは当たらないだろう。しかしこの男は忘れてないだろうか? エクスカリバーは途中で分裂したことを。

 

「行け! エクスカリバービット!!」

 

 マウントされていた武装が分裂、そして独自に行動をとり始める。それはまるで、獲物を追い込む狼のようだ。

 まともなISならばここで終わっていただろう。だが、相手はまともじゃない……故にもう一押しするしかない。

 

「追加!」

 

「くっ……」

 

「ほらほら! 当たらないんじゃないの!?」

 

 ビットからのビーム乱射、カリオストロの中にあるゴーレムの巨腕を使った熱線、そして四象の朱雀のビット。操作する為に頭をフル回転させないといけないため、脳に負担が凄まじい程にかかるが……それでも成果は出てきているのか、織斑一夏の額に汗が流れていた。

 

「当たらない、さ!! 絶対に!! はぁ!」

 

「……は?」

 

 叫ぶ織斑一夏。その瞬間私のビット達は全て爆散していた。どうやら、織斑一夏の翼が全て破壊したようだ。全く忌々しい羽だねぇ……どうやって破壊してやろうか……! 

 

「くっ……! まだ、まだまだァ!!」

 

「まだ諦めないか……!」

 

「諦めるわけないでしょ!! あんたのISを放置することの影響がデカすぎるんだ!!」

 

「そんなに世界を混乱に落としたいのか!?」

 

「……んな事、私はどうでもいい!!」

 

 その一言で、再びぶつかり合いが始まる。私は白式の手にさえ触れなければいい。もしくは、手から出てくる光に当たらなければいい。当たる前に、切り裂ききれば私の勝ちだ。

 

「じゃあなんで俺と戦うんだ!!」

 

「何度も言ってんでしょうが!! あんたのISは放置してたら厄介な事になるんだよ!!」

 

「厄介になるって言うのは……亡国機業にとって、お前にとってだろう!!」

 

 正論だ、確かに普通ならこの力を使って悪事を働かない限り……その力で厄介と思うのは彼の敵……要するに私達、亡国機業みたいな存在なのだ。

 

「それがどうした!! 私は私の目的を達成する! その為にも、そのISには退場してもらわないと困る!!」

 

「やらせない! 俺がみんなを守るために……!」

 

「私と同じように、ISがなければ何も出来ないくせして!!」

 

 ぶつかり合いながら、お互いにヒットアンドアウェイを繰り返していきながら、私達は剣戟を繰り広げていた。エネルギーが減ってきてはいるが、単純なエネルギーならこちらの方がまだ上である。

 

「鬼村……!」

 

「何を守るって!? 自分の都合のいい世界!? こんな世界、守ったってしょうがないでしょ!!」

 

「守らなくてもいい世界なんて、ない!!」

 

「こんな世界すら守るつもりなら……やってみろよ!! 正義は絶対に勝つって言うんなら……勝ってみせろよ!!」

 

 私には負けるつもりは無い。勝てるかどうかは不明だが、負けるつもりは毛頭ないのだ。故に、私は殺す気で織斑一夏を……殺す。

 

「はぁぁぁぁぁあ!!」

 

「っ!!」

 

 お互いの武器がぶつかり会った瞬間、私は体を滑り込ませるようにして織斑一夏の懐に入っていく。そしてそのまま、攻撃型のAICを起動して白式を削る為に……織斑一夏をそのまま突き殺す為に攻撃をする。

 確実に距離はない。仮にここから回避運動をしたとしても、無傷で済むはずがない……そう思っていた。だが、実際はそうはならなかった。

 

「遅い!!」

 

「なっ……!?」

 

 頭を前に倒せば織斑一夏の体に当たりそうなほどに近い距離、そんな近い距離だったにも関わらず織斑一夏は()()()()()()()()()()

 

「終わりだ……鬼村……!」

 

「はっ……!」

 

 そして、完全に回避された挙句後ろを取られた。私は攻撃のために飛び込んだから、即座に後ろを振り向いて攻撃することも出来ない、ビットは破壊された、AICも起動中だが攻撃に全て回したので効果がない。

 そうこの瞬間私は『詰み』の状態に陥ったということになるのだ。

 

「━━━夕凪燈夜」

 

 そして、その一言で……私の全てが終わった。ISも、意識も……そして記憶も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「……」

 

 五十冬は倒れていた。夕凪燈夜はISをフォーマット……つまり初期化するワンオフアビリティー。しかし、ただISを初期化しただけではパイロットは気絶することは無い。

 

「鬼村……」

 

 ただ……カリオストロは特殊なISである。フルフェイスのヘルメットで頭を覆い、ISと人間の脳を繋げるという特殊なものだ。そんな状態でISを初期化した場合……起こることは未知数である。

 

「なんで……」

 

 生きてはいる。だが、織斑一夏にとってこの結果は苦いものだ。だが、これでカリオストロから解放されたと考えれば彼女にとってはいい結果になるかもしれない……織斑一夏はそう考えた。

 言わずもがな、カリオストロは特殊であり危険なISだ。その危険性に触れられなくした……と考えれば、恨まれるだろうが、鬼村五十冬という少女の身は守れるのだ。

 

「……」

 

 一夏は五十冬を担いで、元の場所に戻るために飛翔する。だが、ここで彼は致命的な欠点を犯していた。まず、コアを6個手に入れていたカリオストロ。

 初期化した場合どうなるか、当たり前だがそんなことは織斑一夏にとっても分からないことだ。故に、見逃してしまっていたのだ……()()()()6()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……なんて言われるかわかったもんじゃないけど……俺は、お前も守る気なんだぞ……鬼村……」

 

「……」

 

 返事は誰も返さない。返す当の本人が気絶している以上、返せるわけもない。織斑一夏は軽く溜息をつきながら、飛んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、イギリスのセシリアの屋敷で……とある部屋で五十冬は寝ていた。傍には、簪とセシリアが座っていた。

 

「……織斑一夏、生徒会長としてはなんとも思わないけど……私個人としては……もう、好きになれる要素はない」

 

「……でも、これでもう五十冬さんはあのISを使うことはなくなります」

 

「うん……けど、この結果で守りたかった……なんて言われても……私は信用出来ない」

 

「簪さん……」

 

「━━━う、うーん……」

 

 セシリアと簪が静かに言い合っている中で、五十冬が呻き声をあげる。瞬間、2人とも五十冬に視線を向けて立ち上がっていた。

 

「五十冬さん!?」

 

「起きた……!?」

 

「……っ!?」

 

 目を開ける五十冬。その瞬間ベッドのシーツを掴んで、自分の体を隠していた。そして、二人を見ながら……怯えていた。その異常に気づいた2人は、困惑しきっていた。

 

「い、五十冬……?」

 

「━━━あ、貴方達……誰、ですか……?」

 

 その一言で、2人は固まった。冗談で言っているとは思えず、尚且つあまりにも怯えているその様子から、その言葉が意味することが本当なのだと、確信を得てしまった。

 

「か、簪さん……これは……一体……」

 

「……まさ、か……」

 

 簪には思い当たることが一つだけあった。いや、カリオストロの異常そして五十冬が倒れていることもあって……その答えは絞られていった。

 

「……夕凪燈夜、だったっけ……」

 

「一夏さんが仰っていた……新しいワンオフアビリティー……ですか?」

 

「うん……全てを初期化する、ISにとって禁じ手のワンオフアビリティー……それを使われて……最悪の形で、五十冬に影響が出た……」

 

「最悪の、形……?」

 

 セシリアの胸が痛いほどに鼓動を鳴らしている。2人とも顔を真っ青にしているが、簪は兎も角おそらくセシリア自身も何となく答えは見えているのだ。故に、心の中ではその答えを聞きたくないと思ってしまっていた。

 

「……カリオストロは、五十冬の恨みで……動いてた……篠ノ之束に対する……今の世界に対する……恨みで……」

 

「……」

 

「その気持ちが……ダイレクトに伝わってて……カリオストロと、共有してる状態だったの、かも……」

 

「つ、つまり……?」

 

「カリオストロが初期化された、今……五十冬も……恨みを得る前の状態にまで……()()()()()()

 

 つまりは、こういう事である。

 夕凪燈夜というISを初期化するワンオフアビリティー、通常ならISを文字通り初期化して終わるだけなのだが……パイロットの脳と繋がっているカリオストロはそれだけで終わらなかった。

 ただでさえ、感情とシンクロして進化していくIS……それが五十冬の脳と繋がっているということは、それだけ感情の影響を受けやすいということでもある。

 それだけ感情の影響を受けている機体……つまりは感情をほぼ共有していると言っても過言ではないカリオストロ。その共有している部分が全て消え去った……となれば、五十冬にももちろん異常が起きる。

 

「五十冬が恨みを得る前……」

 

「お兄さん……が殺される前まで、記憶が戻った……ということですか……?」

 

「下手をしたら……それ以上に……」

 

「あ、あの……何の話を……?」

 

 怯えている五十冬。簪は少し考えた後に、五十冬に対していくつかの質問を投げかけていく。

 

「……貴方の、名前……年齢、住んでる場所……覚えてる?」

 

「……ごめん、なさい……わからないです……なにも、覚えてなくて……私が誰なのかも、ここがどこなのかも……分からない、です」

 

「……脳なのかカリオストロなのか……どっちかは分からないけど……五十冬を守ろうとして……全部の記憶を消してる……」

 

『記憶喪失』この一言で全てが終わる。夕凪燈夜を受けた五十冬は、記憶喪失に至ったのだ。

 

「そんな……」

 

 膝をつくセシリア。無論、簪もセシリアの様に感情に任せたかったのだが、そうすれば誰も五十冬を落ち着かせる人物が居なくなってしまう。

 

「……起き、れる?」

 

「は、はい……」

 

「貴方は……ここにいるべきじゃない……私が送ってあげるから……ね?」

 

「……ありがとう、ございます……」

 

 ……本日、鬼村五十冬が記憶を失う。よってIS学園としても亡国機業としても戦力として見なされなくなる。全ての縁が切れ、彼女はIS学園の置物と化すだろう。この事実に、セシリアと簪……そして他のメンバーも悲しみを抱くものはいた。

 そして……この日に限って……セシリア・オルコットの誕生日という日にこのようなことが起きてしまい、セシリアは恐らく世界でいちばん不幸なプレゼントを貰ったのだろう。



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喪失少女

 side? 

 

 鬼村五十冬……その名で呼ばれている少女は、自分が何者なのかを考えていた。まず、体が機械化している部分がある。その理由を、したしそうな人物に聞いてもはぐらかされてしまう。

 そして、IS……自分はそれに乗っていたというのはなんとなく理解出来ているが、手に着けているペンダントがそれなのかと考えて、何となくISをまとう気にはなれなかった。

 今の彼女自身、なぜ自分がこんな所にいるのかはわからなかった。

 

「……私って、なんなんだろう……」

 

 記憶喪失と自分は言われた。過去の自分が何をしていたのか、それさて調べられればいいのだが、それを調べようという気が彼女にはなかった。

 

「……自分探しの、旅……?」

 

 そんなのに出かけたところで、一体どうすれば良いのか彼女には皆目検討もつかなかった。それ以上に、自分が記憶を取り戻したとして……一体何をしでかしてしまうのかと考えると、不安で仕方なかった。

 

「……私って……」

 

 IS学園寮、鬼村五十冬と名付けられた少女はそこに軟禁されていた。出る事は可能でも、IS学園範囲内でなければならないということは変わらなかった。

 そして、季節は年を越した冬……彼女には、分からないことばかりが募っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 そして、時同じくして……場所もほぼ同じ。されど細かいところが違う。IS学園内生徒会室。そこでは一人の少女……マライアが床で寝そべっていた。

 

「……おい、こいつどうなってんだ?」

 

「鬼村が自分のことを忘れてるのが、心に来てるみたいっすね……」

 

 マライアはぼーっと寝転がっていた。その瞳に移るのはかつての五十冬の姿ばかりであった。年を越したという話だが、日本にあまり住み込んでいる訳でもない彼女は、それに浮かれるほどでもないために、余計に落ち込んでいた。

 

「……まー、好きなやつに忘れられるってのは辛いな」

 

「そっすねぇ……忘れられるのは、辛いっす」

 

 そして、同じようにレインとフォルテもまた年越しにあまり馴染みが無いために、特に浮かれることも無くマライアに付き合っていた。

 因みに、今現在簪は更識家に呼ばれているために留守である。

 

「……にしても、前から思ってたんだけどよ」

 

「はい?」

 

「あのカリオストロって機体……誰がどう言った理由で作ったんだ?」

 

「あぁ……あれは篠ノ之束が作ったって話っす……と言っても、基盤となる設計図的な扱いらしいっすが」

 

「あー……話が見えてこないな」

 

 頭を抱えるレイン。何故フォルテがそんなことを知っているのかと気になったので、というかそちらの方が気になっているので話の内容がイマイチ頭の中に入ってきていなかった。

 

「まぁ、それに関しては……会長から聞く方が正解っすよ。そっちから聞きましたし」

 

「そうかい……」

 

 興味無さそうに、レインは返事を返す。カリオストロの件は気になるが、そこまでして知りたいという訳でもないのだ。

 

「……人の頭とISを繋ぐシステム、ねぇ?」

 

「考えてみたら、だいぶ恐ろしいことっすよね。人体実験を極めていかないと、きついっすよ」

 

「……ま、その人体実験を繰り返されてきたやつも今はもう見る影もないけどな」

 

「確かに、そうっすね」

 

 窓から外を覗く2人。外は軽く雪が降っており、空を白く染めあげていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……失態ね、エム」

 

「……うるさい」

 

 余談だが、五十冬が織斑一夏と戦っていた頃の話である。その時いたエムはセシリアとチェルシーの2人と一緒に戦っていた。一時的にとはいえ、亡国機業にいたチェルシーのISを奪うためである。

 だが、その戦いの最中に箒の乱入もあった。当たり前だ、仲間を守ろうとして動くのは当たり前なのだから。

 そして、箒一人またはセシリア一人ないしチェルシー一人……いずれかの条件であれば勝てたはずの戦いにエムは負けてしまったのだ。それが原因でそのまま退散した……という流れである。

 

「……言い訳をするつもりは無い」

 

「させる気もないわ、五十冬はある意味で死んでしまったとはいえ……情報を残してくれたというのに」

 

「……織斑一夏の白式の話か」

 

「えぇ、ISを初期化する……なんてISは聞いたこともないわ」

 

「当たり前だ……そんなIS、存在していいはずがない」

 

「えぇ、その通りよ……けど今の白式だと貴方は勝てない」

 

「……」

 

「だからこそ、策を弄して戦い方を考える必要がある」

 

 スコールの言葉に、エムはただ耳を傾けるだけである。だが、スコールはそれでも良かったのだ。何せ、エムを納得させれているだけでいいのだから。

 

「……策を弄して、というのならば……あの女のIS……カリオストロを手中に収めるのが1番だろう」

 

「辞めておいた方がいいわよ、あのISは……五十冬に一目惚れしてるもの」

 

「……何?」

 

 スコールの言葉の意味を問いただそうとしたエム。だが、スコールの言葉が所謂『ISの好み』で収まる範囲ならば、聞く必要も無いと再び背を椅子に預ける。

 ISには、パイロットの好みというものもあるにはあるという話がある。その程度のことなのだと、エムは聞くことは無かった。だが、現実カリオストロがどんなISか……スコールの言葉の意味を探らなかったエムは、後に驚くことになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年を越してしまってから、数日……IS学園はまた新しく始まった。故郷に帰っていたもの、日本で滞在していた者……色々いるがIS学園に再び集っていた。

 そんな中で、五十冬はオドオドしながら周りを見渡していた。IS学園のことも習ったし、ISの知識も詰め込んだ。しかし、人間関係はそうはいかない。もし、自分と仲の悪い人がいるとして……その人物に攻撃的な行為をされてしまったら……そう考えて、五十冬は落ち着いていられなかった。

 

「……一夏」

 

「あぁ……せめて、俺達で……」

 

 五十冬には聞こえない声で、織斑一夏と篠ノ之箒は話し合っていた。怯えている五十冬は、そのことに全く気づく様子もなかった。

 

「わ、私……このクラスで生きていけるのかな……」

 

 記憶を失う前とはまるで別人のように、五十冬は怯えていた。その違いから、困惑するクラスメイトが大多数だった。しかし、その気に乗じて五十冬に攻撃を加えよ

 うとする輩はいなかった。

 

「静かに……本日から特別留学生として、ルクーゼンブルク第7王女(セブンス・プリンス)殿下がお見えになられます。各人、無礼のないように心がけてください」

 

 担任の台詞で、表向きに騒がれることはなくなったが……各生徒全員内心は少しだけ気分が良くなっていた。ラウラとシャルロットが退場、千冬も真耶もいなくなった。失い続けたこのクラスに、得るものが来たのだから。

 

「では、王女殿下……お入りください」

 

「紹介ご苦労であった、誠に大儀である」

 

「はっ」

 

 入ってきたのは、未だ齢14の少女だった。ほとんど成長していない胸、小さな身長……だがその体に身に纏うドレスはとても釣り合いの取れた綺麗なものだった。

 

「……お主が、有名な織斑一夏じゃな?」

 

「……まぁ、はい……」

 

 急に名指しされ、困惑する一夏。だが、その困惑の表情には明確な不安が宿っていた。明らかに彼は思っていただろう。『嫌なことが今から起きる』と。

 だが、五十冬は一切それらを気にしていなかった。それら全てが見えず聞こえず……彼女の視線は、彼女が連れてきた従者……その中の一人の別格の雰囲気をまとっている女騎士のような人物だった。

 

「……」

 

 向こうは、五十冬の視線に気づいたのか五十冬を睨み返す……のだが、その表情は困惑したものになっていた。

 

「……」

 

 五十冬の視線はその女性の帯刀している剣……それに目線が向かっていた。相手もそれに気づいたからこそ、困惑しているのだろう。

 

「……」

 

 ふと、五十冬はそれをぼーっと眺めながら思うのだった。『オナカヘッタ』と。その直後に、自分はなにを考えているのかと頭を降ってその考えを飛ばしていた。

 待機状態となったISが、ほんのり鈍く……光を宿していることに誰も気づくことは無かった。

 

「……鬼村さん? どうかなさいましたか?」

 

「い、いえ! ごめんなさいちょっとぼーっとしてました!」

 

「……」

 

 王女の隣にいる女騎士……彼女は五十冬を見て少しだけ睨んでいた。明らかに異常だと、五十冬を見てそう考えた。だがそれも、直ぐにやめる。下手に問題を起こす訳には行かないと、止めたのだ。

 

「では、織斑君お願いしますね」

 

「は、はい……」

 

 五十冬には訳が分からなかったが、どうやら織斑一夏にとってなにか良くないことがたった今起こっていたらしい……というのは何となく理解は出来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様、何を見ていた?」

 

「……へ?」

 

「……ジブリール?」

 

 放課後、王女殿下……アイリスとその付き人ジブリールの2人が五十冬の目の前にいた。偶然出会っただけなのだが、その偶然を利用しての言葉だった。

 

「……あの、何の話ですか?」

 

「ジブリール、何を言っておる?」

 

「この女、王女殿下が自己紹介の最中……私を、正確には私のこの剣を見ていたのです」

 

「……ほう?」

 

 剣を撫でるジブリール。その剣が、ISだというのはこの二人しか今のところ知る者はいないのだが、そのこともありジブリールはさらに警戒を強めていた。『何故ISを見ていたのか』と。

 

「貴様、この剣が何なのか知っているのか?」

 

「……IS、ですよね? 随分と珍しい形ですけど……」

 

「ジブリール、日本では珍しい装備じゃ。珍しいものを身につけていれば、そう疑われてもおかしくないのではないのか?」

 

「……確かに、そう言われればその通りなのですが……」

 

 アイリスの言っていることも、確かに正論ではあるのだ。しかし、他の誰もが気にしていなかったのにも関わらず、たった1人……五十冬だけが気にしているということにジブリールは強い疑念を抱いていた。

 

「……まぁ、いい。王女殿下に手を出さない限り……私も手は出さん」

 

「は、はぁ……」

 

「ジブリール、もう行くのじゃ」

 

「はっ!」

 

 そして、五十冬の前から2人は姿を消した。五十冬は首を傾げていたが、特に気にする必要も無いと感じたのでそのまま自分の部屋へと戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side?? 

 

 夢を見ていました。私は赤黒い液体に染った黒い空間に、立っていました。どうやら私以外にも誰かがいるようで、2人ほどの人影が見えていました。1人は立っていて、もう1人は座り込んでいました。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

 私は声をかけながら近づいて……足を止めました。立っていた1人……私でした。でも、雰囲気は私とは全く違う私……まるで、全てを諦めているような、憎んでいるような……そんな雰囲気をまとっていました。

 そしてもう1人……そこに居たのは、もはや人間ではありませんでした。

 言うなれば、鉄と肉の化け物……それが私の方を向いて座り込んでいたのです。

 

「……随分と可愛子ぶってるけど、本気?」

 

「……え?」

 

「何も知らないから仕方ないのかもしれないけど、こんな世界で本当に満足してるの?」

 

「ま、満足……? 皆さん優しいし……それに、織斑君は私のことをずっと気にかけてくれてます……みんな、いい人ですよ? 特に、織斑君は……」

 

 少し、顔が熱くなるのを感じましたが……私は本心だけを話しました。けど、織斑君を語る時だけ妙に語調が強くなってしまいます……なんで、なんだろう? 

 

「━━━きっも」

 

 ……でも、もう1人の私から発せられた言葉はそれら全てを切り捨てるような発言でした。その言葉に一瞬私は詰まってしまいましたが、直ぐに反論しようとします。

 

「な、何がですか!?」

 

「え、あんな男がいいの? ごめん私は無理だわ、いや待ってもしかして私のタイプって織斑一夏なの? いや嘘でしょ? 流石にないわ……記憶がなくて今までの価値観が無くなってるから……って擁護させて欲しい」

 

「……なんで、何でそんなに織斑君を悪くいうんですか?」

 

「嫌いだから」

 

「あんないい人なのに?」

 

「自分勝手な正義を振るうから」

 

「誰にだって優しいのに?」

 

「八方美人なだけ、それが無意識で行われてるからタチが悪い」

 

「あんなに……強い心があるのに?」

 

「信念を曲げない男だったら誰でもいいの? だったら凶悪連続殺人犯とでも付き合っとけ」

 

 自分自身とは到底思えないような、罵詈雑言の数々が私の心をさらに抉ります。もう私は、目の前の私が怖く感じてきました。

 

「……そんな、そんな言い方って……」

 

『━━━オナカ、ヘッタ』

 

「っ……!?」

 

 そして……急に発声した化け物に私はつい驚いてしまいました。それに、目の前の私は少し申し訳なさそうに頭をかいていました。

 

「あー、ごめんごめん……」

 

 もう1人の私は、私の方に一瞬だけ目線を移して……そしてほんの少しだけ笑みを浮かべました。

 

「食べていいよ、こいつ」

 

『ヤッ、ター……イタダ、キマス……』

 

 化け物はゆっくりと立ち上がり……次の瞬間には私の目の前まで飛び込んできて、その口を大きく広げ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!! はぁ、はぁ……!?」

 

 私は部屋を見渡しました。学生寮の、私の部屋……今までのがちゃんと夢だったと認識してから……私は自分の手を見ました。

 

「私は、私……私は私私は私私は私……! 生きてる、ちゃんと自分……記憶は確かにないけど、私は……まだ『残ってる』……!」

 

 その認識だけして、私は再びベッドへと体を預ける。記憶が無いというのが見せた怖い夢だと思いながら、再び眠りにつく……それ以降の眠りは、とても快眠出来るものだっただけマシだと思うことに私はしました。



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喪失邂逅

「……」

 

 織斑一夏が、王女殿下の付き人となった。その事実に五十冬と名付けられている少女は少し面白く感じていなかった。同じように、箒もまた面白くないようで2人して少し拗ねていた。

 

「……偶には、歩こうかな」

 

 IS学園は本日はおやすみ、街に出かけた五十冬は気まぐれで自分のイメチェンを始めた。なにも縛っていなかった髪をサイドテールに纏めて、メガネをコンタクトに変える。

 たったそれだけの事だが、パッと見ただけでは既に彼女を五十冬と認識する女性はいないだろう。

 

「……けど、何をしようかな━━━」

 

 特に理由もなく、五十冬は街に出かけていた。やることがあるわけでもなく、かと言ってIS学園でやることがある訳でもない。そんな暇な時間が彼女に退屈を与えていた。

 だが、その裏で……彼女の後ろをつけている少女が二人いた。マライアと簪である。

 

「……お姉様の記憶を取り戻すための、計画……」

 

「……それは、何度も聞いたけど……どうするの?」

 

「……ここに秘蔵のビデオがある、それを使って……!」

 

「……ビデオ? 五十冬の日常風景を撮った、とか?」

 

「違うに決まってるでしょ……お姉様がどんな性格だったかを思い出してもらうために……した事の一部が乗ったビデオ……! その最新弾……!」

 

「……?」

 

 マライアが取り出した1枚のディスク。なにもタイトルが書かれていないそれを、一体どこで再生するのか……簪は分からなかったが、とりあえず碌でもないということだけは彼女は理解していた。

 

「……ところで、なんのディスクなのそれ……」

 

「……シャルロットとラウラの、その後というか……まぁその序章が乗ったもの、かな」

 

「……そりゃまた、悪趣味……」

 

「なんとでも言いなさい、私はお姉様のためなら……阿修羅にでもなるわ……というわけで行くわよ、お姉様を拉致しに」

 

「……」

 

 あまり乗り気ではなかったが、簪は仕方なくついて行くことにした。彼女もまた、今の五十冬ではなく前の五十冬に戻ってきて欲しいと思う1人なのだ。

 故に、マライアの作戦はあまり乗り気では無いものの彼女を取り戻すためならなんだってする所存ということである。

 

「……ところで、それ……シャルロットとラウラって話だけど……」

 

「あ、見る? ちょっと待って携帯デバイスに保存してるから……」

 

 イヤホンをつけたデバイスを簪に投げ渡す。簪はマライアの後について行きながらも、その映像を見始める。音漏れがないように、イヤホンはきちんと確認済みである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し前の時間。シャルロットがとある場所に移されてからの話だ。彼女が今どこにいるのか、それは彼女自身も映像を見ている人物も理解できない。

 ただ、唯一分かることがあるとすれば……窓もない明かり一つだけの部屋に、シャルロットは全裸で捨てられているということだけである。

 

「……へへ、まさかあのデュノア社の娘とやれるなんてな」

 

「つっても、妾の子だって話だぜ? んで、男だと偽って入れと言われ……IS学園に入ったばっかりにこうよ」

 

「……貴方達、僕みたいな子供にこんなことして楽しい?」

 

 映像の中で、シャルロットは男たちを睨みつける。だが、全裸という状況である以上男達にその睨みは通じない。

 

「子供つってもよ……15だろ? 孕む準備が出来てる年齢じゃねぇか」

 

「まぁ、それ以前にこんな体しといて食わないなんて……んな恥知らずな真似ができるかって話だ」

 

「たしかにな」

 

 男たちはゲラゲラと笑いながら、ゲスな話題を繰り広げる。そんな男達の態度に、シャルロットは辟易していた。どうせ、こういう目に遭わされるのは覚悟の上である。

 だから、幾ら犯されようとも彼女は自分の心まで侵食されることはないと自負していた。

 

「……好きにしたらいいよ、僕は絶対に折れないから」

 

「……ほーう? 虚勢張ってる……って訳じゃねぇな、こいつぁ本当に骨が折れそうだ」

 

「んじゃあどう済んだよ」

 

 男はわざとらしく考えていく。なにをどうすればいいのか、既に決まっているのだ。だが、それを仄めかすようなことさえ差せない。

 

「そうだな、お嬢ちゃんの頑張り次第では……ここから解放してやってもいいぞ?」

 

「……なんのつもり?」

 

 突然の言葉に、シャルロットは信用をすることは有り得なかった。自分をこんな目に遭わせている男達を、簡単に信用できるわけがないのは当たり前である。

 しかさそれは、シャルロットから見て+に働き掛けるようなことが起こった場合である。

 

「ただし、逆に言えば頑張らなかったら……『お友達』に被害が及ぶって話だ」

 

「っ!? まさか、ラウラ!?」

 

「さて、どうだろうな? まぁそのラウラってお友達の他にも友達はIS学園にいるだろう? そっちに手を出す可能性はあるかもなぁ?」

 

「っ……! 卑怯者!!」

 

「好き勝手言ってくれてどうぞ、俺ァそういうことしてるから今まさにこの場にいるんだしな」

 

「くっ……!」

 

『従わなければ、他の人物に危害を加える』というのは、嫌でも目標の人物を自分に屈服させる事が出来る魔法の言葉である。目標の人物が他人と全く関わらないような生活を送っていたら話は別だが、まずシャルロットは有り得ないだろう。

 

「……分かった、僕が頑張るから……皆には手を出さないで……」

 

「いい応えだな、って訳で……今から面白いことをしてやろう」

 

「……? 面白い、事?」

 

 男の言葉に耳を傾けるシャルロット。男は手に持っているリモコンを操作する。上からプロジェクターのセットが現れる。そして、そのまま映像が壁に映し出されていく。

 その映像に写っていた人物に……シャルロットは息をのんだ。

 

「━━ラウラ!?」

 

 その映像には、カメラに向かって睨みつけているラウラが映し出されていた。しかし、向こうに映像は届いていないのかラウラは特に反応を返していなかった。

 

「ラウラをどうする気!?」

 

「いやぁ、上質なメスが2人も手に入ったもんだから……ついつい面白がってゲームを始めちまったんだよ」

 

「……ゲーム?」

 

 睨みながらも、シャルロットは睨んでいた。別に隠すことでもないためか、男はペラペラと喋っていく。

 

「あんたとあの女……早く落とせた方が賞金が貰えるってゲームだ。賞金の他に勝者に与えられるのは……あんたら2人のこれからの人生だ。逃げ出さない限り、あんた達は永遠に男に奉仕させられる生活を強いられちまうって寸法よ」

 

「こんな、こんなひどいことが出来るなんて……」

 

「嫌でも受けてもらうしかないぜ?」

 

「くっ……」

 

 シャルロットは歯がゆい思いをする。届きそうで届かない。助けられるはずなのに、助けられない。ラウラがどれだけ酷いことをされたかわかっている以上、彼女は絶対にシャルロットは守りたかったのだ。

 

「……せめて、ラウラには手を出さないで……」

 

「いいぜ? あんたが折れない限り、だがな……なら早速ゲームを始めようか」

 

 約束を守るとは思えない……それでも、ラウラを守るのにシャルロットは必死だったのだ。そして、男の一言から……シャルロットの陵辱は始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様ら!! シャルロットを……!」

 

 そして、こちらはラウラの視点。ラウラはシャルロットが男たちに囚われている映像を見せられていた。しかし、シャルロットはラウラに気づかない。

 それもそのはずだ、ラウラとシャルロットは……お互いに捕まってすぐの映像を見せられているのだから。

 

「ほら、お前が俺らを満足させればいいだけだぞ?」

 

「っ……!」

 

 そして、この言葉。簡単な話だ、男達はシャルロットやラウラがどういう性格なのかを熟知しているというだけの話である。

 

「分かってんだろ? このままお前が拒み続けたら……」

 

「……くっ……!」

 

 シャルロットが受けざるを得ない状況が出来てしまう、その事実がラウラに屈辱をもたらしていた。自分が、シャルロットの足を引っ張っていると思ってしまっているのだ。

 しかし、彼女達は自分の頑張りが全く無駄であるということを知らない、気づきもしない。

 

「……何故だ」

 

「あ?」

 

「何故……シャルロットを巻き込んだ……」

 

「おいおい、お前らが正式なルールの元に負けて送り飛ばされただけだろ? それに、お前の出自やもう片方の女の出自……お前らが捕まったおかげで、ある程度切り捨てられた人間もいたって話だぜ?」

 

「だが!! 私達をこんな目に合わせる理由には……!」

 

「分かってねえなぁ……」

 

「……何だと?」

 

 男の言葉に、腹が立ちながらもなんとか冷静さを保とうとするラウラ。手を出してしまえば、シャルロットが危ないのは明白だからである。

 

「このご時世……必要なのは女じゃねえんだわ」

 

「……ISを動かすためには、女性が必要だが?」

 

「違ぇな、必要なのは『IS適性が高く、なおかつ動かせる奴』だ」

 

「……?」

 

 男の言葉とラウラの言葉。一見違いがないように思える。ラウラも事実、何が違うのか理解が出来ていなかった。だが、それは100も承知なのか男も語り始めていく。

 

「要するに、だ。女は女でもISを使える女じゃねぇといけねぇ……確かに、女はISを動かせる……が女がいつでもISを動かせるかといえばそうじゃねぇ、ISを持ってない女もいる訳だからな」

 

「……それが、どうした?」

 

「必要なのは、必要な時に働ける従順なISパイロット……つまり……何としてでも、屈服させて自分は所有物だと認識した女だけが必要なんだよ、俺らには」

 

「ふん! 女に勝てないからと卑怯な手で挑む奴らはいうことが違うな……!」

 

「おいおい、お前……ISの戦闘でも同じことを言うのか?」

 

「戦闘は戦闘だ……お前らがやっていることは、どの国でも法に違反していることだ。卑怯な手と何が違う?」

 

「ふん……卑怯な手とか、罵ってくれても構わねぇけどよ……」

 

 男は……ラウラを持ち上げる。力による抵抗は、やろうと思えば可能だっただろう。しかし、今はその方法は得策ではないとラウラは我慢するしかないのだ。

 

「お前……今から自分がどんな目に遭わされるのかわかってて言ってんだな?」

 

「……ただ、犯すだけだろう」

 

「そうだな……本来ならそうしたかったところだが……」

 

「……?」

 

「特別だ……お前には、キツイ罰を与えねぇとな?」

 

 ラウラは背中にうすら寒いものを感じた。そして、直感的に自分が酷い目に合わされることも、なんとなく感じとった。しかし、それがどんなことであれ……我慢しなければならない……ラウラはそう決意するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ、序章?」

 

「本格的な映像は、これから!」

 

「は、離してください!!」

 

 そして、簪は見終えた映像と共にデバイスを返す。マライアはとっくに五十冬を捕まえており、首根っこ掴んで漫画のように引っ張っていた。

 

「さぁて……これからのえげつなさを確認して……ちゃんと自分を取り戻してくださいね、お姉様」

 

 悪い笑みとは、今のマライアのことを言うのだろう……簪は冷静に観察しながらも、そう認識しながら……マライアを止めることなく一緒に着いていくのであった。



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映像鑑賞

「……な、なんでこんな酷いことできるんですか……」

 

「お姉様にお姉様を取り戻してもらうためですよ」

 

「そんな……こんな、私がひどいことを……」

 

 映像を見せられて、五十冬は涙していた。自分がこのようなことをしていたというのが、どうしても信じられないようだった。だが、そんな五十冬を見て簪はどうにも違和感を拭えなかった。

 記憶を失い、今までの経験などを全て忘れてしまっているのは理解出来る。だが、ここまで違うとどうしても今の五十冬が記憶喪失になった影響ではなく、もはや別の人格として生まれているような気がしてならないのだ。

 

「……簪?」

 

「……ううん、なんでもない」

 

 記憶がなくなったことで、彼女の内面に何かが起こったことは間違いなかった。しかし、それが一体なんなのか……簪どころか他の誰もわかる人物はいない。もちろん、五十冬も例外ではないのだ。

 

「……じゃあ、続きいこうか……全部映ってるわけじゃないけどね」

 

「次の映像は……さっきの映像から、1週間ほど経過したものでーす。お姉様、予想はどうします?」

 

「よ、予想ってなんの……?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒと……シャルロット・デュノアの2人……1週間して、何が起こったのか、ということですよ」

 

「わ、わかんない……みんな、助かった……?」

 

「助かってたら、今ここにいるはずですよ。当然、助かっていません……まぁどういう目に遭わされているか、の方が予想としてわかりやすいですかね?」

 

 五十冬は、首を横に振っていた。自分の起こしたことが、記憶を失う前の自分が行ったことに目を背けたくなってしまっていたからだ。

 

「まぁ……とりあえず一緒に見て見ましょうよ。これからもっともっと面白くなるんですから━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕まってから、約1週間が経過していた。既にシャルロットもラウラも疲弊していたが、そんなこと男たちには関係なかったのだ。さすがに殺せばそこで終わってしまうために、殺さないギリギリのところを責めているが……そのギリギリのラインは、人によって変わってくるというものを如実に表していた。

 

「あぐっ!! うぎっ!!」

 

「いい鳴き声出すじゃねぇか、嬢ちゃん」

 

 ラウラの状態は酷いものであった。両腕を拘束され、拘束具に取り付けられた鎖は天井からぶらさがっている。そして、両足は開いたまま固定されて……そのまま鞭打ちを繰り返されていた。

 幸いというべきなのか、使用されているムチは拷問用ではなくSM用のものなのだが。しかし、それでもアザにはなるのだ。

 

「へへ……一週間の調教でだいぶ心折れてきたな?」

 

「まだ、だ……あぎっ!!」

 

「よく言うぜ、鞭の痛みが忘れられなくなってきてるくせによ」

 

「そんな、こと……!」

 

 人間の脳には、一定以上の痛みを味わうと放出されるものがある。ドーパミンというものなのだが、簡単に言うと痛みを麻痺してくれるものだ。

 生物が殺されかける……例えば生きたまま捕食される時などに、それが放出されることがある。これは極論だが、そのドーパミンは今のラウラの脳が出しているものである。

 

「ほらよ……そろそろ忘れられなくなってきてんだろう……がっ!!」

 

「あぐううう!!」

 

 強力な一振、もちろん痛みこそあるが……今のラウラはそれを快楽に変換してしまうのだ。

 

「へへ、調教で頭おかしくなってきてんなぁ?」

 

「はぁ、はぁ……」

 

「さて……今日はトドメの調教だ、別に期間とかキメてなかったが……これでお前が堕ちなかったら2人で解放してやるよ」

 

「ほん、とうか……?」

 

「あぁ、但しお前が堕ちたら……分かってんな?」

 

「はぁ、はぁ……」

 

 息も絶え絶えになりながらも、ラウラは頷いた。まだ負けるとは微塵も考えていないのだ。だが、ラウラは甘えていた。自分の兵士としての体に……兵士以前に、彼女は『女』であることを忘れているのだ。

 

「ほうら……さっさといくぞ!!」

 

 そう言いながら、男はラウラを引っ張っていく。何をされても、ラウラは絶対に堕ちないという事を確信していた。確信してしまっていたのだ。

 

「何を、するつもりだ……」

 

「へへ、痛みで頭がおかしくなってきたところに……もうひとつ別の感覚ぶち込んで……完全におかしくしてやんよ」

 

「それ、は……」

 

 男が取り出したのはローターとバイブだった。ご丁寧に、ローターはクリトリスと乳首を挟み込むようで6つ、バイブは下の穴2つ用に2本用意されていた。

 そして、男はラウラにご丁寧にそれらを取り付けていく。

 

「うぐっ……」

 

「なんとか全部入ったなぁ? へへ、じゃあこのまま調教……ラストといこうじゃねぇか!!」

 

「あぐううう……!?」

 

 玩具達の電源を入れて、ラウラが反応しているのを眺めてから再び男はラウラを少し離れた場所へと運んでいく。ご丁寧に、天井にラウラの拘束具の鎖はラウラが移動しても問題ないのか、カラカラと音を立てながら動くだけだった。そして、ラウラが移動した先に置いてあるのは……三角木馬だった。

 

「へへ……ここに置いてやるぜ」

 

「━━━っ!!」

 

 三角木馬の上に無理やり載せられるラウラ。鎖の長さを調節できるのか、少し男が調整したあとは釣らされている状態ながらも、三角木馬にきっちりと跨られていた。

 

「が、ああああ!!」

 

「くへへ、いい悲鳴だなぁ? おらっ!! 追加だ!!」

 

 そして、ラウラに男は鞭を浴びせる。三角木馬と鞭の痛み、そしてバイブやローターから味わう快楽。ラウラの頭は当然パニックを起こしていた。

 

「い、ぐ、ぁ……!」

 

「ははっ! もうグロッキーになってんのか!? はえぇなそれでもドイツ軍だったのかよ!!」

 

 男が煽るように笑い飛ばすが、ラウラにそれは聞こえていない。聞こえていようがいまいが男には特に問題は無いのだが、しかしそれにどうやら腹が立ったのか、男は鞭を持つ力を込めてさらに強めにラウラを叩く。

 

「あぐぅ!?」

 

「おら! 無視してんじゃねぇよ!!」

 

「あ、ぐ……」

 

 ラウラは今まで溜まっていたダメージ、そして今味わっている多数の感覚によって頭がふらつき始めていた。鞭で叩かれて一時的に覚醒しても、すぐに意識が薄くなっていく。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 そんな状態で味わう快楽。生物としては、そちらの方を優先的に処理してしまうのだ。つまり、生物は本能として快楽を求めているということだ。

 

「ぁ……うぁ……」

 

「ちっ……段々とダメになる時間が早まってきてやがるな」

 

 ラウラの体は、男が気づかない間に小さく絶頂に達していた。バイブやローターのおかげではなく、鞭や三角木馬によって痛みの感覚が麻痺しているせいである。

 そして、感覚が麻痺しているところに快楽が送られてきているので、徐々にラウラの体は痛みに対して本格的に快楽を貪るようになってきているのだ。

 

「だが……堕ちるのもすぐそこみてぇだな」

 

 ここまで来れば、後はもう最後の一押しだけで済むのだ。そして、その最後の一押しというのは━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁっ! んひぃ!!」

 

「ははは!! 随分とケツの穴もガバガバになってきたじゃねぇな! この淫売め!!」

 

 ━━━シャルロットである。彼女はラウラのような体力的にもハードな調教は行われていなかったが、その分人間の尊厳を踏みにじるようなことは行われていた。

 

「毎日毎日ケツを洗浄してるかいがあるってもんだなぁ!?」

 

「そんな、ころぉ……!」

 

 舌が回っておらず、ちゃんとした反応を返せていないが……シャルロットの体は完全に堕ちきっていた。やられたことと言えば、毎日飯を持ってこられて、監視カメラで毎日一人でいる『全て』を観察。

 後はアナルの洗浄……つまりは浣腸である。簡単に言えば、排泄を毎日見られた挙句に映像として残されているという事だった。

 

「ひぁ、あぐ……なん、でぇ……」

 

「昨日も言っただろうがよ! お前の体は初めから調教されてたみてぇだから、体だけなら堕とすのは簡単だってよ!!」

 

 シャルロットの快楽いっぱいの頭に、かつて男達に犯され続けた記憶が蘇る。その時の男達に犯されていたのが、こんな所で足を引っ張ってしまっているのだ。

 今の男達からしてみれば、シャルロットは既に処女を好きな男以外に捧げていて、体も感度を高くなるまで調教されている『雌』でしかないのだ。

 

「やめ、へ……うごかない、れぇ……」

 

「止められないつってんだろ!! おめぇは令嬢のくせに物覚えが悪ぃなぁ!?」

 

 言いがかりだが、シャルロットに反論する余裕はない。反論しようとしても、口から出るのは言葉にならない言葉と、喘ぎ声だけなのだから。

 

「あ、ん、んぁぁ!!」

 

「へへ、こっちはあとちょっとって所か……」

 

 ここまで堕ちれば十分だと判断した男。シャルロットが気づかない間に、ラウラを調教している男に連絡を取る。シャルロットを犯している間に、最後にやることだけを伝えておいて……そしてそのままシャルロットとお楽しみへと移っていく。

 

「へへ……ところでよぉ……お前が堕ちたら……って話覚えてっかぁ?」

 

「あぐっ!!」

 

 シャルロットの膣の方に、かなり大きなバイブを押し込む男。既に調教されきっている体は、簡単にそのバイブを受け入れていた。そして、入れられたので男の話は丸々聞こえていない。

 

「俺はもうお前が堕ちてるって判断するけど……特に否定がなかったら、何もしないぜ?」

 

「く、ぁ……僕、は……」

 

 聞こえていることに男は驚いたが、特に問題ないとそのままにしておいた。聞こえていようが聞こえていまいが、男には……男達にとっては何ら関係ないのだから。

 

「どうした?」

 

「ぁ……」

 

 男は動くのを止めた、異物感は残っているがシャルロットにはそれ以上に絶頂に達せなかったことによるモヤモヤが残ってしまっていた。

 

「まだ堕ちてないってんなら、俺ァそろそろ諦めるけどよ?」

 

「ぼ、僕は……」

 

「ここでお前が俺のチンポを引き抜かずに、そのまま部屋から出たら……直ぐにあの嬢ちゃんの部屋だ。お前がすぐに出ていけば……俺ァ見逃さずにいてやるぜ?」

 

「……僕、は……!」

 

 シャルロットは、そのまま男の肉棒を自分のアナルから抜いていく。無論、快楽をその間も感じてはいるが……それ以上にラウラを救いたいという気持ちの方が大きかった。

 だが、そのゆっくりと抜いている最中━━━

 

「あぁそうそう、これを忘れてたぜ」

 

 男がプロジェクターを起動させる。壁に映し出される映像に、シャルロットは一瞬気が逸れてしまう。そして、その映像に映し出されていたのは━━━

 

「ぼ、僕……?」

 

 シャルロットは自分が映し出されている映像を見ていた。だが、映像に映るシャルロットの表情は……犯されているのに、恍惚としたものだった。まるで、犯されている事が本当に嬉しいかのような……そのようにしか見えなかった。

 

「ぼ、僕は……こんな……」

 

「随分と嬉しそうな顔してんなぁ? 本当に、これで堕ちてないって言えんのか?」

 

 男に犯されて、嫌な気持ちのはずなのに画面の中の自分はまるで喜んでいるかのような表情となっていた。そういったシャルロットの絶望を男は確信しながら……本当に最後の調教へと移っていくのであった。



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最終映像

 side? 

 

「一旦休憩で映像入れましたけど、大丈夫ですか? 喉乾いたのなら、お茶持ってきますよ」

 

「……いりません! もう、こんな映像見せないで!!」

 

「え、ちょお姉様!?」

 

 映像は一旦止められる。そして、その休憩の最中に五十冬は我慢の限界が来たのか、付けていた待機状態のISを投げ捨ててそのまま去っていく。

 

「マライア、止めなくて、いい……」

 

「ちょ、何言ってんの? お姉様IS無しだったら……」

 

「……ちょっと、考えてたことがある、の」

 

「……考えてたこと……?」

 

「今の五十冬は……多分、私達の知っている……あの五十冬じゃない」

 

 マライアは首を傾げる。そんなことは誰もが理解している事だが、簪に限ってマライアがその程度のことに気づいていないとは考えづらい。それが、マライアの動きを完全に止めて、簪に興味を引かせていた。

 

「……どういう事?」

 

「今の五十冬は……お兄さんが亡くなる前……つまり、心が壊れる前の五十冬」

 

「そんなことはわかってるけど……それが?」

 

「……不思議だと思わなかった? サクリファイス……五十冬が持ってるもう1つのIS……未だに、カリオストロに吸収されてない」

 

「え、そうなの? てっきりされてる物かと……」

 

「されてるのは、つい最近のものばかり……あそこまでしておいて、未だに吸収されてないのはおかしいと、私は思ったの」

 

「……どういう事?」

 

 サクリファイス。考えうる限り、最弱のIS。着いてあるのは大量のジェットパックのみであり、高速移動こそ可能なもののそれしかないISである。

 

「前の五十冬は、あれをなかなか使いこなせなかった」

 

「あんなの、使いこなせないと思うけど……」

 

「もし、単純に使いづらい以外の理由があったら? それが、未だにサクリファイスがカリオストロに吸収してない理由の一つとしたら?」

 

「……その話、本題と関係ある?」

 

「……なら、ここは後で語る。私が言いたいのは……()()()()()()()()()()()()()()

 

「……は?」

 

 つい間抜けな声を出すマライア。映像を見るものは既にいないが……しかし、その映像は未だに終わりを迎えてはいないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どこに、連れてくの……」

 

 8日目、シャルロットは朧気な目で男に引っ張られて歩いていた。彼女は今、かなり追い詰められていた。自分は快楽に耐えられていると思っていたが、犯されている自分の姿を見るとあまりにも恍惚としすぎていたのだ。

 おかげで、自分がどれだけ我慢しているつもりでも……自分が淫らに喘いでいることには代わりない、という事を知ってしまったのだ。

 

「へへ、いいとこだよ」

 

「っ……」

 

 そう、男達は『自分が堕ちた』と認識したのだ。ハナからこの賭けは成立していないのだ。シャルロットは、男たちが『約束を守るわけがなかった』という前提を作っておいて、そこに逃げ込んでいた。

 

「ほら、着いたぞ」

 

「……っ! ラウラ! ラウラ、大丈夫!? 僕だよ! シャルロットだよ!?」

 

 とある部屋に入るなり、シャルロットはくもりガラスの向こう側に移る人物の特徴をつかんでいた。銀髪、小柄な体……それが明確にラウラと判断できるものでなくても、その2つの特徴からその人物がラウラだとシャルロットは認識していた。

 しかし、どれだけ声をかけても向こうからの反応がないことにシャルロットは次第に疑問を持つようになっていた。

 

「ら、ラウラ……?」

 

「ははは、ガラスの向こうで嬢ちゃんは寝かせてもらってるぜ? 暴れるこたァねえだろうが、まぁ念には念入れてってぇやつだ」

 

「……こんなところで、僕に何をさせるつもり?」

 

 シャルロットは、男にそう尋ねる。わざわざラウラの近くまでしてるということ、要するに『ラウラにバレないように男達を相手すること』が今回やることだとシャルロットは確信していた。

 

「話が早くて助かるな? なんで銀髪の嬢ちゃんを呼んだかもう理解出来たってか?」

 

「いいから、要件」

 

「まぁ、大方予想通りだよ」

 

 シャルロットはため息を吐いていた。このようなことが自分では耐えられない、出来ようがないと思われていることに少しむかっ腹を立てていたのだ。

 しかし、これは好機だ。このまま自分が男たち全員を満足させることができたら、ラウラとともに脱出する機会を得ることが出来るのだから。

 

「……なら、さっさと……」

 

「くく……いいぜ?」

 

 しかし、シャルロットは気づいていない。いや、寧ろここで最悪の手を取ってしまっていた。男達がちゃんとしたことを言うのだと、今ここで信じきってしまったのだ。

 それが、どんな結果を巻き起こすことになるか……シャルロットは全く予想していないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む、むぐっ……!」

 

 くもりガラスの向こう側……つまりはラウラの視点。ラウラはここで何をされているのか、単純に拘束されているだけである。つまり、男達の言っていることはあながち間違いではないのだ……ただ、細かいところが根本的に違うと言うだけで。

 

「おいおいラウラちゃあん? そんなによがってどうしたんだぁい?」

 

 例を挙げるならば、ラウラは膣にバイブと乳首とクリトリスにローターを取り付けられている。だが、ご丁寧に色を塗り直して曇りガラス越しでは分かりづらいようなカラーにされているのでシャルロットから見てみれば、ラウラは本当にただ寝ているだけのようにも見えるのだ。

 

「そんなに玩具がいいのかぁ?」

 

 そして、先程からラウラに野次を飛ばしている男達。どこにいるかと言うと、くもりガラス越しでは分からない場所……部屋の外側からマイクを使って話しているのだ。

 そんなことをすれば、向こうに音が届くのでは? と思われるかもしれないが、そもそもこの部屋はかなりの防音設備が整っているのである。故に、どれだけ大声を出しても届かない作りとなっている。

 

「そん、なわけぇ……!」

 

「声が甘えてるぜぇ」

 

「っ……!」

 

 ラウラは内心認めてしまっていた。自分の体が、性的な反応を正直に返してしまうようになっている、ということに。それを我慢できなくなっているのも理解しているが、それでもラウラにとっては辛い状態であることには間違いがないのだ。

 

「く、ぁ……!」

 

 しかし、性的な反応を正直に返してしまう……それが余計に今のラウラにもどかしさを与えていた。というのも、ラウラを弄んでいる玩具達は全て出力が最弱になっているのだ。これで、絶頂に達することは出来ない。

 

「あ、ぅ……」

 

 ラウラの脳裏には、男達の肉棒が思い描かれる。膣を貫かれ、アナルを犯され、匂いで脳を……味で口を犯されて精液で肌を犯される。その事をラウラは鮮明に思い描いてしまっていた。

 

「へへ、正直に言ってくれたら……気持ちよくしてやれるぜ?」

 

「気持ち、よく……?」

 

 蕩けた表情で、ラウラはそう聞き返してしまう。『まだ大丈夫、まだ耐えられる』とラウラは考えているが……今そうやって聞き返してしまっている以上、既に遅いのだ。

 

「へへ、まぁ遠隔操作で玩具の電源は切ったり入れたりしてやるから……じっくり考えな」

 

 男たちに、自分の絶頂する権利を奪われている。それを考えて……ラウラの頭は今以上に麻痺し始めていく。それが、崩壊の第1歩だとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、ぁ……なんの、つもり……?」

 

 シャルロットは、未だ1度も挿入されていなかった。秘裂を擦るように、肉棒で滑らされているだけだった。だが、それでもシャルロットはかなり感じてしまっており、愛液がダラダラと垂れていた。

 

「んー? いやよ、こうしちまえばずっと出来るだろ?」

 

「馬鹿に、してるの……!?」

 

 シャルロットは自分が馬鹿にされていると、表面上は怒っていた。しかし、声はとろけて甘いものとなっており彼女の頭の中もかなり桃色のものとなっていた。

 

「こん、なので僕が……折れるとでも……」

 

「折れる、だからこうして焦らしてんだろ?」

 

 シャルロット自身が気づかないほど、彼女は疲弊している。精神的にも、肉体的にも既に限界が来ているのだ。痛みには耐えられるが、快楽に関する拷問は彼女もラウラも味わったことがない。

 

「く、ぁ……!」

 

「ほら、証拠にもうお前の顔蕩けきってんぜ?」

 

「そんな……僕、は……」

 

「お前はすげぇ淫乱なんだよ、さっさと認めな」

 

「僕、僕は……」

 

 いつもなら否定していたところだが、シャルロットは自分が男に犯されて顔を蕩けさせて喜んでいる事実を知ってしまっているのだ。故に、強く反論できない所ではなく……逆に自分が淫乱だと思い込み始めていた。そして、それが今の犯してもらえないもどかしさと直結していく。

 

「う、うぅ……!」

 

「ほら……正直になれば気持ちよくなれるんだからよ……」

 

「しょう、じきに……」

 

 絶望と疲弊、精神の摩耗。それらが起こす快楽への耐性の低下、そして思考の麻痺。それらが重なり、シャルロットはだんだんと思考能力を低下させていく。

 それは、彼女の1種の逃げである。精神的な逃げ、愛する人へ捧げたかった処女はなく、好きでもない男たちに体を好き勝手されているにも関わらず、感じてしまっている自分への逃げ。

 そうした物が重なって……シャルロットは落下していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━もっと、僕を無茶苦茶に……してぇ……」

 

「私を、イかせてくれ……」

 

 2人が折れるのは、同時だった。そして、それを聞いた男達は満足気な表情に治まっていた。

 

「いいのか? お友達もいるんだろ?」

 

 男たちはそう問掛ける。だが、理性も無くしてしまっている彼女達には最早それは些細な問題だったのだ。

 

「いい、いいから……! 僕、もうおかしくなっちゃいそうなの!!」

 

「早く! このままだと……もどかしさでおかしくなってしまう!!」

 

 お互い、防音によって声は聞こえていないはずなのに言っていることがほぼ同じな上にシンクロしていた。そう、もう彼女達は戻れないところに来てしまったのである。

 

「へへ……なら、これから2人1緒に……飼ってやるって事でいいか?」

 

「うん、うん! それで……それでいいから!!」

 

「早くしてくれ!! もう、ダメだ、我慢できない……」

 

 告げられた2人の目からは涙がこぼれ落ちる。それは、今までの生活に戻れなくなったことへの合図であり……同時に、これから待ち受ける新たな生活のために切り落とした……最後の人間性であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは、簡単な話である。とある会社の元社長の妾の子は、元社長の本妻と共に会社の『所有物』として扱われるために売られ、とある元軍人は……その2人の『付属品』として扱われることになった。それだけである。

 そんな映像は、既に画面の前の2人には音も映像も入っていなかった。

 

「そもそも、前提からしておかしかった」

 

「前提?」

 

「……今まで殺しをしていなかったのに、簡単に殺しをできるようになったのはなぜ? 関係ある人物なら……よくある怨恨殺人で終わるけど……」

 

「それだけで終わらなかった……その上、ただ殺すだけでは終わらずに人身売買までやり始めた」

 

「人が変わった……って言えば皆、比喩として使ってるけど……本当に文字通り変わってるとしたら?」

 

「……性格が荒んだ、って訳じゃなくて……家族を失った辛さがあまりにも精神に負担をかけた。それが原因で……文字通り人が変わる……性格が変わる、()()()()()()()()()()()()()

 

「……そう」

 

 マライアの予想が簪の中での正解だったのか、首を縦に振っていた。普通ならば『そんな馬鹿な』と一笑に付していたかもしれないが、この説が正しいとするならば……マライアの中であるひとつの仮説が立てられる。

 

「……それが今まで表層に出てこなかった、元人格はそれだけショックで眠っていたということになるよね」

 

「それが何故、このタイミングで出てきたか……」

 

「……白式が中心的な原因なのはわかりきってるよ。けど、それだと自分の本当の名前さえ忘れていることが、分からなくなってしまう……けど」

 

「……わかるの?」

 

「……カリオストロのコア、最終的に6つあったでしょ? お姉様は耐えれてたけど……元人格の方は……体に融合した6つのコアに記憶と意識が混ざってしまって……不完全になってしまってる。

 ううん、お姉様の負担を元人格がある程度緩和してたって考えたら……」

 

「……なるほど、それなら筋が通る……」

 

「……でも待って? それならお姉様は今眠ってる状態? まさか、白式のせいで消えた、なんてことは……」

 

 マライアの顔があおざめる。彼女が見知った五十冬が居なくなるのは、彼女にとっても不都合なのだ。

 

「……多分、大丈夫。それに関しては……けど、その為には……ちょっと時間がいる」

 

「……時間?」

 

「五十冬を助け出すための時間……色々やるから、かなり遅れるかもしれないけど……」

 

 簪は、やると言ったらやることはマライアもわかっている。だからこそ、今手助けできるのは彼女と……マライア自身となるのだ。

 

「……私も手伝うよ」

 

「……ありがとう、けど……やることはたった1つ」

 

 簪は、拾ったIS……カリオストロの待機状態を手に持つ。それが五十冬を、彼女たちの知る五十冬を救うためのものなのである。



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少女共闘

「え……王女様が拉致されかけた?!」

 

 とある日のこと。王女アイリスがとある集団にさらわれかけたという話が出てきた。その時は織斑一夏が一緒にいたおかげで何とか助かったが、アイリスの事を守っているジブリルはたいそう憤慨しているそうな。

 

「そうらしい……だから一応、私たちで様子を見に行く、という話になった」

 

「そうだったんだ……織斑君は……」

 

「……絶賛、叱られ中だ」

 

 箒、セシリア、五十冬の3人で学生寮にある一夏の部屋へと向かっていた。アイリスは恋のライバルとなっているが、それ以上にいい友人でありたいとも彼女たちは思っている為に、様子を見に行くのだ。

 

「一応、他の先生が対応してくれているという話だが……」

 

「心配だね……」

 

「あぁ、全くだ」

 

 様子を見に歩き続ける3人。そして、到着してからすぐ様目を覚ましたであろう王女の1言が3人の……この中では主に2人に刺さる言葉を投げかける。

 

「━━━織斑一夏を我がルクーゼンブルク国に招く。妾の世話係として、一生を共にするのじゃ!!」

 

「は?」

 

 最初に声を上げたのは一夏だった。恐らく寝耳に水だったのだろう。なにせ、この言葉が意味することはほとんど結婚だからである。

 

「はぁ?」

 

 次に声を上げたのはジブリル。当たり前だ、王女が拉致されてから助けに行く男に今説教していたのに、主がその男と結婚するのだというのだから、そんな声も出てしまうだろう。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

 そして、最後に五十冬と箒が大声をあげる。王女特権とも言うべき、彼女の暴君っぷりに驚きながらも怒りを滲ませた言葉である。だが、それらの言葉をアイリスは全て無視して進めていく。

 

「意義のある者は名乗り出よ! さもなくば永遠に口を閉ざすがよい!!」

 

「あ、あります! あるに決まってます!!」

 

 意外にも、声を出したのは五十冬だった。今ではそれなりに消極的になってしまった彼女だったが、それでもこの件だけはどうしても許せない様だった。

 

「ほう? 貴様……ジブリルを見ていた者か……名は?」

 

「……お、鬼村……五十冬です」

 

 記憶を失っているが、そういう風に名前を伝えられた以上自分はこう名乗る方が良いだろうと思い、五十冬はその名前を語る。

 

「ふむ……ならば鬼村五十冬よ、この妾と対決するか? 無論、女同士の真っ向勝負ISでの対決じゃ!」

 

「いいですよ!? やってやりますよ!!」

 

 胸板の2人が燃えている最中、突如として2つの大きな果実……ジブリルが割って入ってくる。

 

「いけません王女! このような者と争うなどと、王族のすることではありません!」

 

「格の違いを思い知らしめるにはいい機会じゃ」

 

「そのようなこと! ならば、私が代わりに戦います!!」

 

「何を言う! 王たるもの、先陣を切って敵を蹴散らさねばそれこそ戦場の恥ぞ!!」

 

 2人が言い合う中、気が気でない五十冬は冷静な判断が出来なくなってきた。つまり、どういうことかと言うと……

 

「私は別に二人がかりでも構いませんよ!?」

 

「ならば2対2の決闘といこうかの!! そちらも1名手配せよ!!」

 

「いいですよ!? 篠ノ之さん! 一緒に戦いましょう!?」

 

「えっ」

 

 突然の指名により、困惑する箒。だが、思うところがあったのかその首は縦に振られる。恐らく彼女も一夏がこのままぽっと出と言っても過言ではない王女に取られるのは癪なのだろう。

 

「はぁ……わかった……」

 

「話は決まったようじゃの、では決戦は1週間後の日曜、第三アリーナで開始する!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、受けちゃったと」

 

「う、うん」

 

 その後、五十冬は簪の元を訪ねていた。というのも、現在の彼女ではISの経験はほとんどないと言っても過言ではないのだ。つまり、頼るにはメカニックの視点がいるという話である。

 

「……まぁ、こっちも丁度よかった」

 

「へ?」

 

「……試してみたいこと、あったから」

 

「試してみたい……こと?」

 

「そう……まぁ、ISの移植というか……」

 

「……?」

 

 何の事だか全く理解できない五十冬だが、しかし自分のためにやってくれてると言う話だと、ほんの少しだけ嬉しくなれる。前に見せられた映像のせいで、苦手意識は少し残ってしまっているが、比較的簪はまだ話せる方である。

 

「……その辺は任せておいて、決闘までには間に合わせられるから。あとは、貴方次第」

 

「う、うん……分かった」

 

 一旦、五十冬は簪に全てを任せることにした。この五十冬は後から知った事だが、簪は自分のISを自分で作成したので改造だけならばある程度お手の物ということである。

 

「だから……サクリファイス、貸して」

 

「は、はい」

 

 残っていたもう一機、サクリファイスを五十冬は簪に渡す。一体どんな改造をされるのかはわからないが、別に改悪を施される訳では無いだろうとだけ思い、五十冬は1度その場を立ち去るのであった。

 

「━━━どうする気?」

 

 そして、立ち去ったあと……その場にはマライアが現れる。サクリファイスとカリオストロ、一体どうさせるつもりなのかを拝見しに来たのだ。

 

「カリオストロ・フィフス……その武装をそのままサクリファイスに移動させて、新しいパックとして換装させる」

 

「……それもう、新しいISじゃないの?」

 

「うん……まぁそんな所……かな……」

 

「……でも、楽しみにしておくね」

 

「うん……一応、今の五十冬を勝たせたいし……前の五十冬の為でもある、から」

 

 簪はカリオストロ……それにもう1つ、大きな機械の中に詰められているものを眺めながら、そう告げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 あのIS……カリオストロを手放してから、私は妙に体が楽になったように感じました。何故かはわからないけど、重荷が手放されたような……完全に疲れが取れたような……つまりは、スッキリとした感覚を味わっていました。

 

「……けど、やっぱり緊張するな」

 

 今、新しくISを改造してもらっていて……一体どうなるのか少し楽しみでもあります。ただ、戻ってきたISで私が私でいられるのか、という疑問も抱いてしまいます。

 

「鬼村、少しいいか?」

 

 そんな中、篠ノ之さんが私に話しかけてきました。恐らく、次の王女殿下との戦いの為でしょう。けど、今の私にはISはありません。ぶっちゃけて言えば、作戦なんて全く立てようがありません。

 

「なんですか?」

 

「……次の王女との戦いだが、どう思う?」

 

「……どう思う、って言うのは?」

 

 王女殿下の事なのは間違いがなかったけど……どうやら別の話題だったようです。けれど、その話題の意味が私にはよく伝わりませんでした。

 

「簡単な話だ、相手が妙に自信ありげだったのが気になってな」

 

「お付きの人の……ジブリルさんだっけ? その人の力を信用してる……とかじゃなくて?」

 

「いや……あの感じは……恐らく、王女自身のISも強いと見るべきだ」

 

 けれど、王女殿下は私たちよりも年下……今まで戦場に立つようなところにいたとは考えづらい。そうなると、経験がなくても戦えるようなISなのかそれとも自信過剰なのかの2択になる。

 

「……強いのは確定だけど、王女の経験値の問題……なんですよね」

 

「私達もISを使い始めて1年も経っていない。だが、それでもあちらの方が経験は下なはずだ」

 

「それに、お付きの人も戦おうとすること自体止めようとしてたけど……」

 

「理由は、私達のような人物が王族と戦うなと言っていたな……」

 

 つまり、王女殿下自身が戦うこと自体は反対していないのだ。相手が、私達みたいな一般市民と言うだけで。

 

「……つまり、私達が相手でも勝てる可能性を持ってるってこと、ですよね」

 

「舐められてる、と言えばいいかもしれないが……実際私達はどれだけ強いのかを知らない。準備してかからないとな」

 

「はい!」

 

 ふと、篠ノ之さんの目を見ると……一瞬だけ赤く光ったような気がした。少しだけ気になったけれど、もしかしたら気のせいだったかもしれないので、私は特に言及することなく終わった。

 

「……ところで、ISはどうしたんだ?」

 

「今更識さんがサクリファイスを改造してくれてるって……」

 

「……そうか」

 

 少し考え始める篠ノ之さん。何か気になることがあるんでしょか? 私は尋ねようとしましたが、直ぐに振り返って篠ノ之さんはその場を離れていきました。

 

「……どうなるんだろ? 私のIS」

 

 期限は1週間……それまでに完成してくれるらしいけど……ぶっつけ本番で使うことがないようにしたいなぁ……なんて事を考えながら、私はドキドキしながらこの1週間を過ごす事になるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「ISサクリファイス……マルチ戦闘型パッケージ『軍神』」

 

「最弱のISが、パッケージを変えただけで軍神クラスまで強くなったって事? 随分と盛ったね」

 

「……名前は大事、それに見合った戦闘能力は一応ある。使いこなせれば……だけど」

 

「お姉様だったらどうなってた?」

 

「五十冬はあるものを使おうとするタイプだから……多分、大丈夫。今の五十冬は知らない……けど、使いこなせてもらわないと」

 

 簪とマライアの怪しい会話が光る。その中で、簪は新しいサクリファイスのデータとは別にまた別のデータを広げる。

 

「カリオストロ・フィフスの装備データを改造、ひとつのISとして収めたそれを『全て』サクリファイスに移動」

 

「おかげで、カリオストロの中身は全てすっからかん……」

 

「これで……『器』はできた。あとは、カリオストロの中のコア全てに……情報を打ち込んでいくだけ……その為に、五十冬に1度ISを着てもらって体のデータを取らないといけない」

 

「ふふ……方法としてはかなり狂ってるけど……お姉様の意識がカリオストロに残っているっていう一か八かの賭け……それは成功しそうだね」

 

「……成功したら、IS界における革命……別に革命を起こしたいわけじゃないけど……」

 

 データを閉じた簪。気づけば既に決戦の日は近くなっていた。ぶっつけ本番になってしまったことは五十冬に悪いと思っているが、王女殿下のISが余程の強さじゃない限り……確実に勝てる性能となっている。

 

「まだ第二形態移行すらしてないサクリファイスだけど……頑張ってね、五十冬」

 

 そして、簪はサクリファイスを持って五十冬にそれを届けに向かう。何があっても、五十冬はこれを使わなければならない。カリオストロでは無いので問題ないと判断しているが、勝負は何があるかはわからない。

 その分からないことに対して……屈することは五十冬には許されていないのであった。




アーキタイプブレイカーをダウンロードしようとしたら、自分のスマホだと出来なかったみたいで…ちょっと残念な思いしました。


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対戦王女

 ついに対戦の日が来ました。私と篠ノ之さんは頑張って王女様とお付の騎士の人を倒さないといけないです。ISは直前に渡されたせいでぶっつけ本番になってますけど……一応装備の説明だけは受けました。

 あとは、どうやって倒すか……なんですけど……

 

「……まさか、相手は2人とも第4世代型とはな」

 

 そう、王女殿下もジブリルさんも第4世代型ISだったんです……相手の装備は更識さんが調べてくれたので、ある程度助かっています。

 まず王女殿下ことアイリスちゃんのIS……『セブンス・プリンス』からです。

 セブンス・プリンスは第4世代型ISの新兵器、『重力爆撃(グラヴィトロン・クラスター)』を積んでいます。名前の通り、重力を操作できる代物らしいです。実際味わってみないとちゃんとしたことは言えませんが……確かに、この武器なら自信もつくでしょう。

 次に、ジブリルさんのIS……『インペリアル・ナイト』は雷を操る剣と盾『エクレール』を装備してます。どちらのISも、油断したらまず確実に負けるでしょう。

 

「私が言えた事じゃないですけど……機体性能だけに頼ってたら、まず間違いなく負けますよ。強さ=ISの世代じゃないんですから」

 

「……ふ、たしかにその通りだな」

 

 そして、刻一刻と勝負の時が近づいてきます。そして、ついにその火蓋が……切って落とされました。

 

「試合開始!!」

 

 散開する4つのIS。まず、簪ちゃんが言うには私のISはアイリスちゃんとジブリルさん……どちらを相手して問題ない性能だそうです。けれど、紅椿はどちらかと言うとジブリルさんを相手にしていた方がいいらしいので、私は……アイリスちゃんを狙うことにします。

 

「先手必勝!!」

 

 サクリファイスの超高速移動はそのままに、私はそのまま突撃を掛けます。当たり前ですが、その間にジブリルさんが割り込みます。

 

「アイリス様に━━━」

 

 何かを喋っているようですが、私は色々な箇所に着いているブースターを連続起動させていきます。今手に何も持っていないので、そのまま超高速で移動しながら、ブースターによって無理矢理速度を挙げられた拳がジブリルさんに当たります。

 

「グッ……!?」

 

「はぁぁっ!!」

 

 そのままの勢いで、私はジブリルさんを殴り飛ばします。勿論、そのままの速度を維持してると腕がロケットパンチしちゃうらしいので、少し弱めにブースターを起動させて吹き飛ばしたあとの威力を減衰させます。それにより、脱臼すら起こさない仕様にしてるんだとか。

 

「凄い……」

 

「ジブリル!! くっ……見るがいい!! 重力爆撃の力!!」

 

 アイリスちゃんが、腕を軽く振ります……その瞬間に私の体に凄まじい重力がかかって、地面に落下していきます。どうやら、簡単な操作で重力を操れるようで……

 

「くっ……! うぐっ!?」

 

 私はなんとかギリギリ回避できましたが、その直後に雷が降ってきて……それは直撃してしまいます。

 

「……調子に乗るなよ、小娘」

 

「か、雷はきつい……」

 

 何とかそこから抜け出せましたが、かなり高威力なのでもう二度と喰らいたくない、というのが本音です。つまり、なるべく2人の攻撃は避けていかないといけないわけですが……

 

「なら、こっちで……!」

 

 サクリファイスに新設された新しいエネルギーガン、『デュランダル』連射は効かない代物ですが、その分一撃の威力が相当高くなっていて下手な防御は簡単に貫通してしまう代物です。厚さ100mmの鉄板は余裕らしいです。

 

「アイリス様!!」

 

 その一撃は、アイリスちゃんに直撃します。にしても、さっきからアイリスちゃんゆったり動いているように見えますけど……何故でしょう……? 勝者の余裕というやつでしょうか? まだ勝ち負け決まってませんけど。

 

「━━━ほう、中々やるではないか」

 

「っ……!?」

 

 アイリスちゃんへの攻撃は、どうやらアイリスちゃんのISに備わっている7枚の羽により防御されてしまっていたようで……あの羽自体にも、重力操作が出来るのか強力な重力のバリアができていました。

 でも、あのはねにそこまでの防御性能があるってことは……ゆったり動いているのってまさか……

 

「……なら、この連続攻撃なら……!」

 

「っ!? まさか副腕か!?」

 

 サクリファイスの背中のパーツが変形して、巨大な4本の棘になります。見た目でいえば、蜘蛛の足っぽい感じ。背中で繋がってるとはいえ、外して遠隔操作できる代物だけど……今回はこっちはまだ使わない。

 

「副腕と言えば副腕ですけどね……本命は……!」

 

 それぞれが変形していく。少しだけ前に出てから、前後ぐるっと半回転。中から現れたのはレーザーキャノン。4つともそれなので、全四門です。それぞれ1発の破壊力は、凄まじいものです。

 

「これで狙えば!!」

 

「っ!」

 

 私の意図を理解したのか、再びアイリスちゃんは羽でバリアを形成させます。けれど、それをしたところで無意味な訳です。アイリスちゃんは攻撃を受けている間動けませんが、私は両手が空いている。どんなことも出来るわけです。

 

「やらせん!!」

 

「こちらの台詞だ!!」

 

 ジブリルさんが私に向かって来ますが、篠ノ之さんが間に割り込んで攻撃を防いでくれます。彼女は篠ノ之さんに任せても問題ないと思って、私はそのままアイリスちゃんに近づいていきます。

 

「ひっ……!?」

 

 レーザー撃ちながら近づいてくる私の姿は、アイリスちゃん敵には恐らくかなりの恐怖を与えているんでしょう。私たちと年齢はそこまで変わりませんが、実戦経験は全く皆無……あれ? そう言えば━━━

 

「私、ISを使うの初めてなのに……どうしてここまで━━━」

 

 アイリスちゃんは、圧倒的な力を持っていながら相手に好き勝手されたことに対して、恐怖を覚えています。それは、実戦経験があまりにも無さすぎるが故に、経験を持つ相手に対して自分が格下だと認識してしまうためです。

 けど、なら……ISを全く使ったことがない私は……どうして、恐怖心がまったく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私がいるからに決まってんじゃん、まぁ一旦抜けさせてもらうから……後は頑張ってね? あ、この姫様は脅かしていくけど』

 

 そんな声が、私の頭の中に響いたと思ったら……私は急に力が抜けていました。そして同時に、私の体から黒い粒子みたいなのが現れていきました。

 

「な、何を……!?」

 

『アイリス王女殿下、あんた……()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()!!』

 

 黒い粒子は人の腕のような形になり、アイリスちゃんのバリアを簡単に通り抜けていきました。攻撃力が高くて無理矢理貫通させられた……なんて言うものではありませんでした。

 まさしく『通り抜けた』と言わんばかりにスルッと入っていきました。

 

「がはっ……!?」

 

「アイリス、ちゃん……!」

 

 謎の黒い手は、アイリスちゃんの首を掴んでいました。しかし、その力は弱いのか跡すらろくにつかない程の物だったようで、それが加減しているのかそう出ないのかの違いがわかりませんでした。

 

『できればあんたもここで始末していきたいけど……まだカリオストロは本調子じゃないんでね、アンタは置いてあげるよ』

 

 力を失った私は落下していきます、そして私がアイリスちゃんより完全に下に位置する場所まで落ちている時には……黒い粒子は完全に消えていました。

 

「鬼村!」

 

「アイリス様!!」

 

 篠ノ之さんと、ジブリルさんの声がそれぞれを呼びます。私は何かが抜けた虚無感を味わいながら、その意識を手放していました。しかし、意識が抜ける直前……先程の黒い粒子がジブリルさんのISにまとわりついたような……そんな気がしたまま、意識を落としてしまったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「……調子乗っちゃ、ダメ」

 

『はぁい、さすがに反省してるよー』

 

 簪はパソコンの画面越しに、誰かと話していた。部屋にいるのは彼女だけであり、傍から見たらパソコンで通話しているだけのように思える。

 

「まだ不完全なんだから……」

 

『でもでも、奪ってきただけいいと思ってよー』

 

「……鬼村五十冬という人物の体に融合していた6つのコア。その制御権をあなたに戻す為に必要な行為だったの」

 

『まぁ、それはわかるけどね? てかさ、これほんとにどうなってるの? 未だによくわかってないんだけど?』

 

「私から言わせてみれば、意識だけISに残されてたあなたの方が異端……技術自体は、電脳ダイブの応用……ISのコアに意識が残っていた貴方だからこそ出来た芸当」

 

『電脳ダイブねぇ……?』

 

「そっち側から、まるで車やバイクを動かしてるみたいな感じで出来たでしょ?」

 

『まぁ、うん……出来たけどさ……で? 6つのコア……これでどうするって言うの?』

 

「貴方が持ってたコアから、全武装データ引っこ抜いて……サクリファイスに移した。空いた容量にナノマシンと体のデータをぶち込んで……体を再構築させる。いわば、全身ナノマシン人間」

 

『……まぁ、碌でもないもの作ってるって言うのは理解出来たわ。もうISじゃないよねここまで来ると』

 

「あくまで過程だから……ちゃんと、戦えるすべもあるけど……またそれは、今度ね」

 

『ほーい』

 

 怪しく会話する一人と一台……それを見ている者は、この場で誰一人としていなかったのであった。

 

『ふふふ……楽しみだなぁ……』

 

「ISのコアと言うだけで……別段IS以外に使えないわけじゃない……理論上は、まだ貴方はISの部類だけど」

 

『え、全部ナノマシンなのに? ていうかナノマシン便利すぎない?』

 

「そもそも、お姉ちゃんがああやって使ってる時点で相当使い勝手はいいよ……ナノマシンは、相当便利なものだって認識だけしておいて」

 

『はーい……今起動してもいい?』

 

「いいけど……まだデータを入れてないから……再構築しづらいんだけど……?」

 

『慣らし運転は必要だかんねぇ……ま、体が戻ってくるまでの我慢だよ我慢』

 

 簪は、改めて会話している人物に呆れつつも凄いとは感じていた。その人物の、精神的なイカレ具合もそうなのだが……順応性の高さにである。

 最早、まともな精神をしていないのは明白であり……その精神性故にまともなことは期待できないのだろうと。簪自身は、それに救われてきていると思っているので、呆れてはいても拒否するほどではない。

 

「……ま、気をつけてね。あのお付きの剣士の人は……相当厄介だから」

 

『わかってるわかってる……結構鋭いっぽいからね……ま、ISがなかったら何も出来ないよ。あの人と……王女様はね』

 

 アイリスとジブリルの事を考えながら、その人物は期待しているような声を出す。それは、その2人に対して一体どう言った事をするべきか……それをただ考えていると言うだけの話である。

 今まで『彼女』がやってきたようなことを……その2人にも、すると言うだけの話なのであった。



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転入王女

「う、ん……」

 

 ……私は目を覚ましました。体に力は未だ入りませんが、今自分がいるのがIS学園の医務室ということだけは理解出来ています。何故私がそこにいるのか、少しだけ考えましたが……アイリスちゃんとの戦い以降の記憶がありません。その記憶も、勝負の結果が出ている訳ではありませんでした。

 

「目を覚ましたか? 鬼村」

 

 私が寝ているベッドの横には、織斑君がいました。窓に目を向けたら、どうやら夕方ということだけはわかりました。けれど、あれから何時間経過しているのかはわかりませんでした。

 

「……そうだ! 結果は!?」

 

「えーっと……その事だけどな……」

 

 罰が悪そうに頬をかく織斑君。けれど、どことなく悪い気はしてなさそうな……そんな雰囲気がありました。一体何があのあと起こったのか……私は聞かないといけない気がしました。

 

「……えっと、勝負は鬼村と箒が勝ったんだけど……」

 

「けど?」

 

「……王女殿下は転入届を出した。これにより、私達と学友になった……らしい」

 

 いつの間にかいた篠ノ之さん。その表情は実に面白くなさそうな表情でした……というか!! 

 

「何でそんなことになってるんですか!?」

 

「王女特権じゃ!」

 

 ……まるで待っていたかのように、王女殿下……アイリスちゃんが入ってきました。王女特権って……この学校ではいかなる国にも縛られないって校則があるのに……と、ここまで考えてから私はふと気づきました。

 

「……あれ? そうなったらこの学校にいる間は……」

 

「うむ、ただのアイリスじゃ……ジブリルもな!!」

 

「……へ?」

 

 そう言えば、ジブリルさんがいない。流石にアイリスちゃんを放置して帰るとはとても思えないし……というか、よく見たら医務室の扉に誰か隠れてる……

 

「な、なぜ私がこのような格好を……!?」

 

「こちらが負けたのじゃ、当たり前じゃろ」

 

「当たり前とは!?」

 

 ……なんと、ジブリルさんはIS学園の制服を着ていました。確か、あの人20を超えてたような……つまり、20歳を超えた人がセーラー服を……しかもスカートが短くされてる……

 

「……アイリス……ちゃんが転入すること以上に、ジブリルさんが」

 

「同学年じゃからどちらも呼び捨てで良いのじゃぞ?」

 

「えぇ……」

 

 まさかのジブリルさんを呼び捨てにしろ発言、私には到底出来そうにないです……いやいやそれよりも、私ジブリルさんの事の方が驚いたんですけど。

 

「……ジブリルさん、アイリスちゃんの言う事聞かなくていいと思うんですけど……」

 

「無、無理だ……体が染み付いてる……」

 

 お付きの剣士というのも、大変なんだろうなぁと私は他人事のように感じていた。多分、他人事のように感じていないと体が持たないような気がしてきた。

 

「……ところで、鬼村体は大丈夫なのか?」

 

「……うん、今は大丈夫」

 

「そっか……けど、あの時……鬼村とアリスのふたりが落ちる瞬間何があったんだ?」

 

 私は、体からでてきた黒いもの……あれを説明しようと思ったけど……アイリスちゃんが首を横に振っていた。どうやら、あれを説明したらダメだと伝えたいのだろう。

 

「……ちょっと、安心して気が抜けちゃったんだと思う」

 

「そ、そうなのか?」

 

「うん、ごめんね? 心配かけちゃった」

 

 織斑君には悪いけど……あれを説明すると、多分私の事を織斑君も篠ノ之さんも心配すると思う。それ以上に、ジブリルさんは私のことを警戒してる。アイリスちゃんはそれを気にしてるんだと思う。

 

「まぁ、大丈夫ならいいんだけど……」

 

「うん、私もアイリスちゃんも大丈夫だから」

 

「一夏、どちらにしても検査の結果が出ない限りなんとも言えない。私達はそれを待つだけだ」

 

「……だな、気をつけろよ? 鬼村」

 

「うん、ありがとう織斑君」

 

 私は織斑君に微笑む。精一杯の笑顔だったけど、織斑君はまだ心配してくれるようで気にしてくれていた。アイリスちゃんはともかく、私まで心配してくれるなんてやっぱり優し……ちょっと待って? 

 

「織斑君」

 

「な、なんだ?」

 

「アイリスちゃんのこと今アリスって言った?」

 

「う、うむ! もう愛称で呼ぶ仲なのじゃ!」

 

「……」

 

「お、鬼村?」

 

「……私は大丈夫じゃないので、もう少し寝かせてください」

 

 私は今日、ここでふて寝をすることに決めました。故に誰も私に触れないでください。猛犬注意です。猛獣警報です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side ■■■■■

 

「私には名前もない、体もない」

 

「……名前はあるでしょ」

 

 いやいや、体も何も無いから私が私であることの証明なんて出来ないのに、簪ちゃんは何を言っているのだろうか? 仮に私が世界的に有名なアーティストだったとして、それが真実である証明も嘘である証明も誰もできないでしょうに。

 

「……それで? 『鬼村五十冬』はどうしてる?」

 

「……織斑一夏と一緒にいるよ」

 

「確か、転校生2人入ったんだよね? 中学生と……大人の二名が高校生の学校に」

 

「まぁ、うん……」

 

 中学生は飛び級があるからまだしも……いい歳した人がセーラー服着てるなんてびっくりだよ、コスプレAVみたいになってそうじゃない? つまりは、結構無茶しちゃってるってこと。私としては見てて面白そうだとは思ったけど……まぁその程度かな。

 

「あー、なにか大きな事件起こらないかなぁ」

 

「……それは、私も起きて欲しいって思ってる」

 

「あれ? そういう刺激を求めるのって簪には珍しいね?」

 

「刺激というか……ただ、事件が起こればあの2人だけ孤立させられる状況が出来るってこと」

 

 なるほど、確かに孤立すればそういうことも出来なくはないかもね。だからといって、亡国機業側で問題を起こしたらマッチポンプ……というかただの同士討ちになりかねないからあんまりしたくないんだけど……

 

「……ただ、起こすとしたら……少し原因はあるかもしれない」

 

「え何?」

 

「篠ノ之箒……彼女が、何か問題を起こす気がする」

 

 あのIS学園でもきってのおっぱいと、真面目さがある箒ちゃんがそんなことするわけないじゃん! と、言いたいところだけど。私は確かにと納得していた。

 そもそも、彼女のIS紅椿……あのISは一体『何が基準で作られたのか』という疑問がある。織斑一夏のIS、白式は恐らくどころかほぼ確実に白騎士だろう。

 そして、何が原因かその白騎士は顕現した。となると、対になる紅椿にも何か仕込んでいるに違いないと……私はそう考える。

 

「……まぁ厄介な事じゃなかったらいいけど……あ、ごめんやっぱり程々に厄介な方がいいかも」

 

「……まぁ、私たちに被害が及ばないなら……いいかなって」

 

 ま、ここで問題でたら私たちにも被害は出ると思うけどね。そんなこと言ったところでしょうがないから何も言わないけどさ。

 

「……とりあえず、問題起こってからが……全てかな」

 

「……ねぇ、少しいい?」

 

「何?」

 

 簪の顔はとても真面目だ。けれど雰囲気としては……何やら不機嫌な顔となっている。何を思っているのやら……

 

「セシリア・オルコット……彼女を落とせる?」

 

「━━━」

 

『落とせる』多分、意味合い的にブルーティアーズを無効化できるかということなのだろう。私としてはできると断言するし、必ずしてみせる。けれど、何故か言葉が出てこなかった。

 

「酷い目に合わせてて、それを反省もしてなくて……けれど向こうは貴方に好意を向ける」

 

「……」

 

「そんな彼女に、貴方は後悔を覚えてない?」

 

「……何を言ってるのか、私ちょっとわからないかな?」

 

「昔の貴方だったら、殺そうと思えば殺せたはず……なのにどうして殺さなかったの? 逃げ出したの?」

 

「……」

 

 友情、愛情、なんとでも言えるけど確かに私はセシリアを襲っても、戦闘不可能なレベルにまでおいつめていなかった。他はできたのに、彼女だけができていない。

 

「……あなたが何を考えてるのか知らないけど、セシリアは放っておいたら確実に邪魔になる……」

 

「……私に落とせって言ってるの?」

 

「そう、言ってる」

 

 多分、来るとしたらもうそろそろだろう。私は彼女をほかの女達みたいに、戦えないようにしないといけない。それを行わないといけないのに、それをどうにかこうにか避けてきたとしか思えなかった。

 だからこそ、やらないといけない時もある……そういう事なのだろう。

 

「……わかった、私がやるよ」

 

「……やるのなら、それでいい」

 

 簪ちゃんは随分と私に酷なことを言いなさる。けれど、私自身そろそろケジメを付けないといけない……そう、ケジメだケジメ。世界混乱させるのに、自分がその意思曲げてたらダメだよね。自分の大切な人1人犠牲にしないといけない覚悟持ってないのに……他人の大事な人の命なんて奪えるわきゃないよね。

 

「……ま、その為に私がちゃんと体を得ないと話にならないんだけど」

 

「……いまは、ただのISの武装としてしか動けないからね……まぁ、待機状態とかないだけ、マシなのかも」

 

「……とりあえず、早いとここの状態を使いこなさないとね」

 

「……そうだね」

 

 二人の会話はそこで途切れていた。確固たる覚悟を……彼女たちは決めたのである。そして、同時に予感がしていたのだ。今から……大きく事が動き始めるかもしれない、と。

 そして、その予感は正しく当たることとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 私が不貞腐れた翌日、私と篠ノ之さん……それにセシリアさんとジブリルさん、アイリスちゃんの合計4人がグラウンドにいました。アイリスちゃん以外の目的は、グラウンドの真ん中でギロチンの拘束台のようなものに……というかギロチンに拘束されている織斑君です。

 

「一夏、死にたいのか?」

 

「ほ、箒さん……落ち着いて……」

 

 日本刀を向ける篠ノ之さん、ギロチンとの二重即死コンボです。セシリアさんが止めてますけど、私は篠ノ之さん派です。理由は一つ、アイリスちゃんが織斑君と一緒に寝たという事実でこうなっています。

 

「ギロチンか、剣か、刀か……3択だ。選べ」

 

 どれをとっても死にますけど、私はそこからさらに追加で選択肢を増やしていきます。勿論即死コンボです。

 

「織斑君、4連ビームとISの装甲すら貫く4つの棘……どっちがいい?」

 

「お、落ち着け3人とも……俺は何もしていない……」

 

「そ、そうじゃ! 同じ部屋で寝ただけじゃ!!」

 

 それこそがギルティの対象なんですよ、アイリスちゃん。というか中学生と一緒に寝てるって言うのが既にアウトなんですけどね。何歳であろうとも、それはもうダメな行為なんです。

 

「ま、待ってくれ! 俺の話を聞いてくれ!!」

 

「ほう、聞いてやろう」

 

 ジブリルさんの冷たい声が響きます。その刃はとても綺麗でした。色んな物がよく切れることでしょう。

 

「昨日アリスが俺の部屋に来たんだ!」

 

「うん」

 

 そこまでは分かる、他の人もよく織斑君の部屋に来るし……ここ一応女子校だからそんなことでいちいち目くじらは立てることは無い。

 

「それで、アリスの言う通り一緒に寝ただけなんだ!」

 

「じゃあ、死のうか」

 

 私の武装の銃の一つで縄を切り、ギロチンが落下していきます。ただ、その瞬間……グラウンドにビームが降り注ぎました。

 

「っ!」

 

 私達はISをまといます。織斑君も何とか回避していたようで、白式を纏っていました。

 

「何だ!?」

 

 目の前に現れたのは、赤い機体……無人機みたいだけど、あの赤さはどこかで……まずそれ以前に、数が10を超えているのが問題なんですけどね。

 

「くっ!? 離せ!!」

 

 私達がその赤い機体を相手している間に、いつの間にか篠ノ之さんが拘束されていました。紅椿は勿論彼女もまとっていましたが……なにやら、様子がおかしくて……篠ノ之さんの動きが鈍いように私は感じました。

 

「アリス! あいつらの動きを鈍らせてくれ! ジブリルさんは雷で援護を!」

 

「命令されなくとも!」

 

 ジブリルさんの雷で、周りの機体を一瞬足止めします。私がその間に篠ノ之さんまでの道のりを火力で一気に作ります。一直線、その間を織斑君が飛んでいきますが……

 

「……近寄ったら、ダメ」

 

 更識さんの冷たい声が、突如響きました。私たち全員突然動けなくなりましたが……その瞬間篠ノ之さんを拘束している以外のIS達が一斉に自爆しました。

 更識さんは私達を守ってくれたみたいですけど……

 

「箒ぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!」

 

 ……篠ノ之さんは、赤い機体に連れていかれました。あの大量の機体はなんなのか、一体どこの国の……誰が作ったものなのか……それを考えるよりも早く、私達は篠ノ之さんを助けるために作戦会議を始めることになったのでした。



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紅赤紫黒

 篠ノ之箒が攫われた。その事実が、IS学園内で様々な印象を与えていた。例えば、今回の件でほとんど関係の無い2年と3年。『またIS学園が襲われた』ということしか思い至らなかった。

 IS学園がここまで狙われている、その事実とISのパイロットというさらに貴重な存在という2つの理由だけで篠ノ之箒がさらわれるのには十分な理由となる。何せ、あの篠ノ之束の妹なのだから。

 無論、中心にいた1年の専用機持ち……織斑一夏、セシリア・オルコット、鬼村五十冬の3人はすぐにでも助けようと必死だった。

 そして、IS学園内生徒会……メンバーの全員がテロ組織『亡国機業』に属しているという前代未聞の生徒会。彼女達は、また厄介事が起こったという印象しかなかった。

 そもそも1年間の間でここまで問題が起こり始めたのは、織斑一夏という存在がIS学園に入ったから。そして、織斑一夏は篠ノ之束と身近な関係である。つまり、篠ノ之束のせいで起こっていると言われても仕方ないのだ。あの狂人は、身近な人物ですら玩具にするというのは知る人ぞ知る事実である。

 

「……助けに行く算段、整ってないのにいくつもり?」

 

「俺は1人でも箒を助けに行く、邪魔はしないでくれ 」

 

「邪魔はしない、けどもう少しだけ待って欲しい」

 

 簪が織斑一夏を止めている。現在、篠ノ之箒はバイタルサインだけ表示されている状態であり、どこにいるかも分からないという状況だ。

 けれど、織斑一夏……正確には白式だけが篠ノ之箒の紅椿のサインを追えていた。明らかに罠であり、そしてこれを仕組んだのが誰なのかも容易に想像できる。

 

「何でだよ!!」

 

「……相手は稀代の天才、篠ノ之束。彼女が紅椿に何かしら細工をしている可能性は否定できない」

 

「だから……なんだって言うんだ」

 

「幾ら白式が進化したからって……調子に乗ってるといたい目に遭う、よ」

 

「っ……」

 

 簪の台詞が届いたのか、一夏は悔しそうに拳を握るだけだった。力があっても、万能ではないのは彼も理解している事である。

 

「……チームを編成する、あの量産型に対する……チーム編成」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

 篠ノ之箒が攫われた後の事。IS学園とは別の場所で、問題は起こっていた。

 

「あ、あんたは……!?」

 

「んっんー……声は良好、体も問題なし……いいねこの体……使いやすくて実にいい感じ」

 

 そこには、ボロボロの満身創痍と言わんばかりの格好の大人がいた。名を篝火ヒカルノ……白式を作りあげた倉持技研の人物であり、エクスカリバーの事件の際にはO.V.E.R.S.を提供した人物でもある。

 そんな彼女の目の前に、黒いモヤが人型となって現れていた。

 

「さてさてさーて……篝火ヒカルノさん、あんた……何を作りあげた?」

 

「そ、それは……」

 

「量産型IS、さっき見た感じそうだろうね? けど黙ってつくりあげてる……名前は緋蜂? へぇカッコイイね? 量産型の紅椿なんでしょう?」

 

「そこまで知って……」

 

「いや今調べた。この体さ、物調べるのにとっても便利でねぇ……」

 

 そう言いながら、モヤはまるで後ろを振り向くように顔らしき部分を動かしていた。その視線の先には、また別の人物が立っていた。

 

「こんな便利な体、どうしてみんな変えないのか不思議だけど分かる? 化け物博士」

 

「んー、今の君に化け物だなんて言われたくないなぁ!」

 

「し、篠ノ之束……!?」

 

「はーい! みんな大好き束さんだよー!」

 

 篠ノ之束、今回の事件の黒幕と言っても過言ではないだろう。そんな彼女が、今ここに立っている。その事実がヒカルノを震え上がらせていた。

 

「……犯人は犯行現場に戻るとはよく言ったけど、まさか本当だったとはね? 化物が戻ってきたみたい」

 

「……化物化物って言うけどさぁ? この世界、私みたいな化物じゃないとまともにステージに立てないんだぜ?」

 

 普段、糸目と言われても過言ではない彼女の目。それが不気味に開かれていた。ヒカルノは怯え、モヤは自分が驚くくらいに冷静に立っていた。

 

「……ステージ?」

 

「そう! 私こと篠ノ之束! そして……織斑姉弟!」

 

「……姉弟?」

 

 モヤは首を傾げていた。織斑千冬は、確かにバケモノじみた強さだ。しかし、織斑一夏が化物級だとはとても思えないし、別の分野でも化物らしい片鱗は見せていなかった。故に、疑問が出ているのだろう。

 

「まぁ……いっくんは私達みたいなタイプじゃあ……無いけどね」

 

「……何が言いたい?」

 

「話してあげよう! 人間を辞めてるそこの貴方に! 特別に! あなたの人生の最期に!!」

 

 まるで劇の様に仰々しく彼女は両腕を広げてくるりくるりと回る。ただ、完全に目に入っていない篝火ヒカルノに向けて唐突に何かを投げる。

 

「がっ……」

 

「……目に入ってないと思ったら、いきなり麻酔弾投げつけるってほんとイカれてるね」

 

「ん? なんの事かな? 束さんわかんなーい!」

 

 わざとらしく演技をする束に、モヤはため息をする仕草を取っていた。息をする機能が備わっている筈もないが、つい取ってしまったのだろう。

 

「……で、何を話すって?」

 

「んー? 私という天然と……織斑千冬という養殖と……織斑一夏っていう化物の話だよ? さ! 相応しい場所に移動しようか!! ナノマシン人間1号さん!」

 

「……」

 

 その話は、だいぶ長くなりそうだと予感したモヤ。彼女にあった憂鬱さが、さらに憂鬱なものになっていきもはや面倒の領域にまで達していたが、しかし聞いておくべきなのかと……黙って篠ノ之束についていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは……」

 

 篠ノ之束のラボ、そこに彼女は案内されていた。そこで話される内容、一体どれほどのものなのか……それが彼女に取って利となるか損となるか……それはまだ分からない。

 

「さて、昔話をしよう!」

 

「……昔話?」

 

 突然なんのことだと思ったが、しかしモヤはそれでも話を聞き続ける。気まぐれか、興味か……それとも彼女の中にある殺意がそうさせたのか。

 

「昔昔、ある所に……とある研究所がありました! その研究所の研究内容は『人工的に人を超える力を持った究極の人間を生み出す事』でした」

 

「……」

 

「そうして、その研究の甲斐あって……1人の人外が産まれました!」

 

「……それが織斑千冬、って事?」

 

「そう! 正解! ……で、その究極の成功例の実験……織斑計画。ちーちゃんが生まれたことで、その実験は続けられました。けど、とある理由によりその計画は頓挫してしまいました」

 

 モヤの答えは2つ。1つは研究所が他のどこかから倫理的な理由により止められたこと。二つ目は、織斑千冬が反逆したこと。しかし、篠ノ之束の答えはそのどちらとも違っていた。

 

「正解はただ1つ、束さんが発見されたからさ! 元々究極の人間を作るための計画だったのに、天然でそれが発見されてしまったら……前提そのものが覆る」

 

 要するに、篠ノ之束の登場により人類のスペックの限界が引き上げられた、という事だろう。だが、そんな話がどうかしたのか……ということになる。

 

「けどね、その時点で……束さんがでてた次点で成功例2人と番外個体1人……生まれてたんだよね」

 

「うち1人が織斑一夏、うち1人が……エム……織斑マドカか」

 

「正解! じゃあ、問題……なんでいっくんは殺されなかったと思う?」

 

 織斑一夏が殺されなかった理由。生まれてしまった個体とはいえ、恐らく織斑千冬が守っていたのだろうかと、モヤは予測する。それもまた、違う答えだった。

 

「答えはね……簡単だよ、究極の遺伝子を持つ人間……それも男……要するに、種馬なんだよいっくんは。究極の存在を生み出すための種馬……」

 

「……種、馬……」

 

 その答えは、モヤにどう刺さっているのか。篠ノ之束はニコニコと微笑みながらモヤがどう反応するのか楽しみにしながら……ただ待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side■■■■■

 

「━━━ぷッ、はは、あははははははははははは!! はは、あはははは!! あー……ははっ……あー……で?」

 

「……ん?」

 

『つまらない』それが私の感想だった。何を言われるのかと思えば、ただただつまらない話とつまらないなぞに対するつまらない回答。

 私の印象はたったそれだけだった。

 

「それで私が何か言うとでも?」

 

「『自分』が惚れていたかもしれない相手、でも今は嫌悪している相手……その姉も、実験動物さながらの研究生物……」

 

「……まぁ、うん。驚きはしたよ? それをなんで今、私に話したの?」

 

 それが謎すぎた。今ここで話す内容ではないし、私に聞かせる内容でもない。何がしたいのかさっぱりわからなかった。

 

「言っただろ? 私達と同じステージに立たないといけないぜ? って」

 

「私が化物になったから話した……それだけ?」

 

「それだけだよ、話した理由は! まぁでも、連れてきた理由は……別だけど」

 

「別って……」

 

()()()()()2()()()()()()()()()()()()()()()って言ったら分かるかな? 分からないよねぇ、だから解説してあげよう!」

 

 捲し立てるように説明口調な束に、段々とイラつきが募る私。明確に、さっさと説明しろとしか思っていなかった。

 

「織斑計画、それはこの私束さんが出たことで終わりを迎えた……けどせっかく作った究極の人類、織斑一夏を種馬として使うのが一つめの計画。じゃあもうひとつはなんだと思う?」

 

「……まさか、カリオストロが?」

 

「んー、正解であって正解じゃない! 正確には、後天的に究極にしていこうと考える計画の2種類になったのさ。けれど2つ目の計画は、並大抵のことでは成し遂げられなかった。それこそ、織斑計画そのものよりも難しい事だった」

 

 遺伝子の操作、産まれる前から……それこそ胎児よりも前から究極という存在になれるようにする事は出来る。だが、既に完全な肉体を得ている人物を後天的に究極の人類として変換するのは難しすぎる事だった。

 

「だから私は、プレゼントしてあげたのさ……ISって存在を……ISのコアと人間を繋げられるISをね」

 

「……人間の脳がISのコアとつながって……無事生き続けていた人物だけが究極の存在たり得る、と」

 

 それこそ私だ。いや、それ以降コアを新しく会得して……更にそれとすらも繋がった。それでもまだ生きていた。膨大なデータの塊を人間の脳一つで受け止めきって……それでも尚生きているのだ。

 

「そう! そして君は無事生き延びてる! 肉体こそ失ってるけどね! だから……だからこそ━━━」

 

 そう言いながら、篠ノ之束は何かのスイッチを取り出す。ドクロマークまで書かれたそれは、見るからに危険しかないものだが……

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ポチッと……篠ノ之束がスイッチを押した。瞬間、私は強制的に電源を落とされたパソコンの様に、意識を落としたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「あー、すっきりした!」

 

 目の前に、先程までのモヤの残骸……ナノマシンの塊が砂山のように積もっていた。篠ノ之束、彼女が押したスイッチは至極簡単な物である。『ISの機能停止スイッチ』だ。もちろん、全てを止めるものでは無い。範囲内の起動してるISを強制的に終わらせるスイッチである。

 

「さて……あっちの方も終わったかな?」

 

 そう言いながら、束は楽しそうに歌いながら外へと飛び出す。どこかの空、どこかの海、どこかの蒼。それらを全て従えるかのように束はステップを踏む。先程までのことは全て忘却の彼方へと消えて、既に目の前の……本来の目的へとシフトしていた。

 

「時は来たれり、だよ。いっくん」

 

 邪魔する者は誰一人として存在しない。織斑千冬でさえ雌へと沈んだ。織斑一夏は、彼女の敵ではない。もはや彼女の目的を妨げるものは誰一人として存在していなかった。

 束の指が、宙を滑るように動いていく。そうした瞬間、ありとあらゆるISの稼働状況を知らせるウィンドウが360°に展開される。

 

「さぁ! 終わりの歌を!」

 

 束が空へ腕をかざす。そうして、全ての蒼は紫へと落ちていく。そしてたった一言……束は放つ。

 

「IS『群咲』起動」

 

『コード・ヴァイオレット、発令』

 

 その言葉、そしてウィンドウに表示されたたった一つの文。それがこの世界の全てにおける……終わりの始まり━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤイ

 タㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤダ

 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤキ

 マㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤス」

 

「……は?」

 

 全てのウィンドウが、まるで虫に齧られたかのように無くなっていく。成長期の子供がものを際限なく食べるかのように、段々とウィンドウが消えていく。

 ISが消えているのではない、このウィンドウを出している存在そのものが消えていっているのだ。

 

「━━━コードヴァイオレット? IS群咲? 知ったことかそんなもの!! あははは! 失敗作に全てを終わらせられる気分はどう!? 大方別の計画でもあったんだろうけど!! 私は無事! 生きてるよ!! なんでかって!? 確かにISのコアは停止したさ! けど私の意思は! ISの意思じゃない! そして私と一緒にいた『この子』も最早ISの意思という存在には収まらなくなってる!!」

 

「グァ……アグ……」

 

「全部全部無駄に返す! あんたの計画なんざ知ったことか! 台無しにしてあんたも終わらせる!! 残念だったな! あんたの気まぐれで作ったISカリオストロは!! 無事!!!! 新たな1個の命として君臨した!! あんたがカリオストロを緊急停止させてくれたおかげでこの子は生きようとした!」

 

「……そんな進化の仕方をするなん━━━━」

 

「あんたは喋るな!! あんたはもうステージに立つことすらない!! ここで、私に殺されるからだ!!」

 

「ムラ、サキ……おい、シイ……」

 

「物理的には殺さない! あんたの最も嫌な方法で……あんたを終わらせてあげるからさ!! この私と……カリオストロ……いや━━━」

 

『カリオストロ・ゼロが全てを終わらせる』

 この一言が……篠ノ之束を既に遅いながらも理解させた。『彼女はさっさと殺すべきだったのだ』と。




出てないISの能力なんて知りようがないから、出番来ないまま終わらせるね。
ついでに次回はIS学園側からスタートだよ。


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赤月変貌

 side五十冬

 

「……はっきり言う、今回の敵は未知数」

 

 更識さんの調べにより、篠ノ之さんをさらった機体の名前は朱蜂ということがわかりました。そして、未知数というのはその朱蜂が『一体何機存在しているのか』という事です。

 

「作ったのは、篠ノ之博士……でしたわよね」

 

「いやぁ、ISを作った創始者が相手ってなったらなかなかキツイっすよ」

 

「あぁ……相手の装備に数、それに加えて一体何がどう存在してんのか……それら全部がまるまる分かんねぇんだからな」

 

 そして、今回の件で生徒会の皆さんも動くことになったようです。しかし、それでも今回の件はかなりの大きなものでした。だからこそ、絶対に成功させないといけない。

 

「だから、ちゃんとした作戦を立てないと一気に全滅する」

 

「……で、作戦はあるんですか? 生徒会長」

 

 マライアさんが更識さんにそう伝えます。一切の表情を変えないまま、更識さんはどこから取り出したのかチェスの駒をまるで陣形のように置いていきます。

 

「ある……だからこそ、ちゃんと聞いて欲しいし従って欲しい」

 

「……」

 

「特に……織斑一夏、貴方が一番聞かないとダメ。篠ノ之箒を助けたいなら……私に従って」

 

「……わかった」

 

「……じゃあ、作戦を説明する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、作戦開始時刻になりました。私達は陣形を組んで、空を飛んでいます。この作戦には生徒会、それに私達……加えてアイリスちゃん達も参加してくれました。

 

『まず、マライア……あなたが先頭に立って全部の攻撃を受けて』

 

「……まぁ、新パックの使い所だけどさ」

 

 四象のパッケージ『霊亀』ありとあらゆる戦闘におけるダメージを軽減させるパッケージ見たいですけど……見た目は青……と言うより紺色です。そして何より、見た目がとてもごつくなってます。

 肩がかなり大型、腕も大型……全長が大きいというよりはISの大きさから抜け出さないまま太くしてる……言うなればとてもマッシブ体型です。

 

「洋上に人工物の反応あり!」

 

 サファイアさんの言葉に、私達は眼下に広がる人工島……とも思えそうなギガ・フロートが浮いていました。簡単にISで大きさを調べただけでも約200平方メートル。そこには大量のコンテナが詰め込まれていました。

 

「……まるで蜂の巣だな」

 

 レインさんの言葉通り、六角形のコンテナが密集するそのギガフロートはまさに蜂の巣でした。そして、その中にいるのは……

 

「……IS無人機の反応多数、軽く100はくだらない」

 

 その反応が現れてから、ギガフロートは浮上を始めました。徐々に明らかになっていく中で……私達は『声』を聞きました。

 

「行きなさい、私の朱蜂達……!」

 

「一夏さん!! あそこに!!」

 

 指がさされた場所に私達は目を向けました。太陽を背に……そこに居たのは禍々しく変貌した紅椿を身に纏う華奢で幼さそうな女の子でした。顔に着けたバイザーは、表情を読み取らせない意志を確固たるものとして感じました。

 

「そのISは……箒をどうした!!」

 

 織斑君が、目の前の女の子に食ってかかろうとしますが……その前に現れる多数の朱蜂達……それによって、彼女との道は閉ざされてしまいました。

 

「織斑君!!」

 

「くそっ! ここまで来て!!」

 

「マライア」

 

「わかってる! 無理やり突破するよ……!」

 

 四象のパッケージのひとつ『霊亀』。その武装は全て大きなエネルギーシールドを展開するためのパーツ……とは聞いていました。今までごついと思われていたパーツは全て外れて、私たちの周りを囲うように移動します。

 そして、それらがパーツ一つ一つと繋がっていくことでまるで亀の甲羅のような立体的なシールドが出来上がりました。

 

「これでしばらくは━━━」

 

 けれど、途端に私達のISに異常が起きました。まるで、抵抗したくないかのようにIS達の出力が一斉に落ち始めたのです。整備不良……だと言えればまだ言い訳も出来ますが、そんなちゃちな物ではなく……完全に出力が落とされていました。

 

「こ、コードレッド!? 何これ!?」

 

「……多分、ISの出力を下げる……さっき私たちがみたあのISのワンオフアビリティーだと考えたらわかりやすい……!」

 

 更識さんが悔しそうにします。それらを見て、織斑君は私達から離れるように……もっと言えば先程の子を追うかのように飛び出していきました。

 

「ちょっと!? あんたどこ行く気っすか!?」

 

「まどろっこしい事なんてしてられない!! 俺は箒を助けに行く!!」

 

「馬鹿……こんなところで飛んだら蜂の巣に飛び込むどころか……蜂の巣にされるのが目に見えてる……!」

 

「一夏さん!!」

 

「織斑君!!」

 

 飛び出した織斑君を追いかけるために、私とセシリアさんも追いかけていきました。

 確かに、白式の速度なら追いつくことも可能だけど……でも無茶はしてられない……そのはず、なんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「今の白式なら……いける……!」

 

 織斑一夏は朱蜂をただひたすらに落としていた。出力の面では完全に白式の方が上回っている。それどころか、朱蜂達の出力はあまりいいものとは言えなかった。

 それに気づかない一夏は、少女に完全に追いついていた。

 

「箒をどこにやった!!」

 

「……それは、あなたが1番わかっているはず。どうして分からないふりをするの? どうして、私に聞くの?」

 

「っ……それは……」

 

 口ごもる一夏。その隙に、五十冬とセシリアが追いついていた。盾がわりになっていた五十冬はボロボロであり、セシリアも完全には守りきれていないのか少しダメージを負っていた。

 

「2人とも大丈夫なのか!?」

 

「……織斑君、一人で行かないで。白式の性能なら確かに1人でも解決はできたかもしれない……けど……」

 

「俺が箒を取り戻す! それで問題ないだろ!!」

 

「一夏さん!!」

 

 五十冬の言葉は届かない。故に、セシリアが一夏に対して平手打ちを放った。その平手打ちに、一夏は呆然としていた。

 

「……いい加減にしてください。箒さんを助けたいのは貴方だけでは無いんですよ? それに、怪我をしたら……箒さんはまず自分を責めてしまいます。

 彼女は悪くないと言いたいのなら、まず自分が怪我をしないようにするべきですわ」

 

「……悪い」

 

 セシリアの言葉が効いたのか、一夏は落ち着いて言った。だが、目の前の少女はそれを面白くなさそうに眺めていた。まるで、愛しき人を取られたかのような嫉妬だった。

 

「また、あなたはそうやって……!」

 

 紅椿の2本の刀を抜刀した少女。そのまま彼女は一夏達に向かって飛んできていた。

 

「させない……!」

 

 それを、五十冬が背中に取り付けられた武装を展開する事で防ぐ。だが、出力の落ちたサクリファイスでは今の紅椿には到底かないっこないのだ。

 

「邪魔……!」

 

「させませんわ!!」

 

 五十冬を吹き飛ばそうとした瞬間に、セシリアが1発放ち少女に牽制を入れる。今のやり取りの中で、一夏は少女が五十冬を吹き飛ばそうとした瞬間に出した技に見覚えがあった。

 それは、剣道としての篠ノ之流の技の一つだった。

 

「何でお前がそれを……!」

 

「セシリアさん!」

 

「はい!!」

 

 曲がるレーザーに、強力な4連装レーザー。二人の息は長年連れ添ったかのようにピッタリであり、一瞬で少女の逃げ道を塞いでいた。ただ1点、目の前の一方向だけが空いていることを除けば逃げ道はない。

 

「くっ……」

 

 少女は誘われているのだと気づいていた。気づいていたからこそ……そこに入り込まなければならない。一直線上に、彼女は全速前進と言わんばかりに進んでいく。

 

「誘われたね……一気に落とす!!」

 

 ゼロ距離……全く逃げる隙のない中で、少女の体に押し当てられる銃口。それは、サクリファイスの中でも最大級の火力を誇るレーザー砲だった。

 

「ファイア!!」

 

 引き金を引けば、落とすまで行かなくともダメージを与えることは可能だ。だが、それを引こうとした瞬間にレーザー砲は新たな敵によって貫かれていた。

 

「……あなた達の相手は、この子達……!」

 

「くっ!?」

 

 朱蜂……再び十数機現れたその量産機は、あっという間にセシリアと五十冬を囲んでいた。だが、彼女たちはそんなことで諦めるたまではないのだ。

 

「織斑君!! 私達のことは気にしなくていいから!!」

 

「けど……」

 

「行ってください!! そして……箒さんを必ず助けてください!!」

 

 セシリアの言葉に、ハッとなる一夏。その意志を受け継いだと言わんばかりに、彼は目の前の少女に目線を向けていた。

 

「あなたは、こっち……」

 

 そうして少女はまたどこかへと飛んでいく。一夏は無言でそれを追いかけていく。そしてあっという間に見えなくなった一夏の事を、ふと五十冬は考えていた。

 

「……負けてるのかなぁ、私」

 

「あら、貴方はもっと素敵な人がいるはずですわよ?」

 

「ふふ、ありがとうセシリアさん……とりあえずまずは……」

 

「えぇ……ここを突破してからですわ!!」

 

 武器を構える2人。そして、周りの朱蜂達に対してただただ攻撃を加えていく。敵が何機いるのか、そして無人機故に搭載された人工知能が戦闘データを学習しやしないか……色々考えながら、落としていく。

 だが、出力の落ちた機体では普段戦えている範囲でも戦えなくなってくる。そう、簡単に言えばいつもより早くボロが出るということである。

 

「っ……!」

 

「五十冬さん!!」

 

 朱蜂を落としたかと思えば、その機体はまだ動いていた。その油断が、この状況では死を招く……だがその油断を潰してくれる仲間が、今の彼女には存在している。

 五十冬がトドメを指しきれなかった機体が、突如として離れ……爆散する。この挙動を五十冬は1度目撃している。

 

「アイリスちゃん!?」

 

「まったく……お主らは……」

 

「このお方に迷惑をかけるなど……言語道断。織斑一夏には、戻ってからきつい罰を与えねばなるまい」

 

 その場に来たのはアイリスとジブリルだった。1度は2人とはぐれた筈だったが、どうやらこちらに追いついてきたようだ。

 

「重力爆撃と、ジブリルの雷で敵を殲滅する」

 

「はっ!!」

 

 王女としての威厳を見せながら、アイリスは朱蜂達を一掃していく。それに続いて、セシリアと五十冬も朱蜂達を殲滅していく。広域型と遠距離型のコンビによって、ここら一帯の朱蜂達は順調に数を減らしていく。

 

「……さて、まだ来るようじゃの」

 

「織斑君が決着をつけて……」

 

「箒さんを迎えて……」

 

「IS学園に、全員で戻る。それが……今回の任務の終わりだ」

 

「違うぞジブリル」

 

 ジブリルの言葉に、アイリスは訂正を加える。彼女は任務の終わりを『全員で戻る』事だとは考えていない。目を開き、覚悟を決めた目で敵を認識しながら、彼女はこう訂正する。

 

「『全員無事で戻ること』が今回の任務の終わりじゃ」

 

「……はい!!」

 

 再度武器を構えて、4人は朱蜂達を迎え撃つ。一夏が決着をつけるまで……それまでは何としてでも朱蜂達の数を減らさなければならないのだ。

 長い長い耐久戦が……今始まろうとしているのであった。



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終赤終束

 side? 

 

 一夏は、少女と戦っていた。変貌した紅椿に乗り込み、バイザーをつけて顔を隠している少女とタイマンで戦っていた。少女の操る機体……否、少女は自分のことをこう名乗る。

 

「赤月……世界で初めて生み出されたIS。それが私……あの人が触れた、この世の全てを凌駕する存在……そして、貴方を手に入れる代行者」

 

「IS……!?」

 

「私……否、()()I()S()()()()()()()()()()()()()

 

 操縦者の夢を叶える……そして、あの人という言葉。一夏は薄々目の前の少女の正体に気づいていた。そして、なんのために行動しているのかも、なんとなくだが解明できていた。

 

「……箒が、こんなことを望んでいるって言うのかよ!!」

 

「望んでいる……あの人のものになりなさい、織斑一夏」

 

 篠ノ之箒、彼女の夢……叶えたいものが織斑一夏。彼そのものなのだ。そして、赤月と名乗る少女……その正体は、紅椿の中に宿るAI……いやここまで来れば最早『意思』に近いだろう。

 

「それが……」

 

 笑みを浮かべる少女。暖かく、優しい笑みでもなく……冷たく薄ら寒い笑みでもない。温度を感じさせない張り付いているかのような笑み。

 それが、一夏にとって堪らなく……憤らせる物だった。

 

「それが、どうしたぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 紅椿から赤月ヘ……画面に映っていたISの表示が変わる。今的として写っているのは、IS紅椿では無い……暴走している最初のIS、赤月なのだ。

 切り結び会う二つの機影。しかし、赤月が出した一刀を……一夏が止めた。わざと右腕に刀一本を突刺させる事で、相手の虚をつく。そのまま余った左腕で赤月を抱きしめる……が、このまま説得して終わるようなら問題はとっくの昔に解決している。

 

「このまま我慢比べといこうか!!」

 

「なっ……!? 離しなさい!!」

 

 一夏は白式の羽による斬撃で赤月をむちゃくちゃに切り刻んでいく。少女は一夏を離す為に両肩の射撃ユニットからひたすらにビームを連射する。

 

「止めなさい……止めっ……止めて!!」

 

 悲痛な少女の叫び声、その声が聞こえてきたすぐあとに……赤月と白式は爆発していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ての始まり、と言うよりは終わりの始まりと言うべきか。織斑千冬がISの表舞台から姿を消した理由……その直接的な原因を作ったのは、篠ノ之箒本人だった。

 当時の箒は、暮桜を身にまとった千冬に戦いを挑んだ。その身に赤月を身にまとって……その赤月の能力は全てのISの弱体化。つまりはISの頂点に立てる能力である。

 その能力を使い、箒は勝った。だが、その勝利が自身の暴力の結果であると知った時……箒は恐怖した。そしてその記憶は、封印された。姉である篠ノ之束の手によって。

 

「あ……あぁ……」

 

 こんな自分に助けはいらない。記憶を取り戻した箒は自暴自棄になっていた。だが、その願いは叶えられることはなく……同時に彼女が最も望んでいることが叶えられてしまう。

 

「逃げるなよ、箒」

 

 気がつけば、箒は一夏の腕に抱かれていた。彼のからだはありとあらゆるところが傷になっており、突き刺された腕は未だに血が止まっていなかった。

 

「どうして……そこまで……」

 

「どうしてって……決まってるだろ? 箒だからだ……他の誰でもない、箒だからだ」

 

 その言葉に、箒の心は救われた。彼が自分を自分としてみてくれている、その事が堪らなく箒の救いとなっていた。涙を流し、嬉しい笑みを浮かべて彼女は一夏に笑いかける。

 

「……おかえり、箒」

 

「あぁ……ただいま……一夏……!」

 

 あの人……篠ノ之箒は愛する男の腕にだかれていた。その事で、赤月は……箒は自分の夢が叶えられたと確信が持てていた。ISの中で、プログラムの海の中で赤月は微笑む。プログラムなのか自我なのか……それは誰にも理解できない。

 だが、明確にわかっていることは……彼女は幸せだと言うことなのである。それが理解……確信出来た赤月は光の粒子となって……白式の中へと吸い込まれていく。

 彼女の障害はいまだ残っている。それを消すために……力を愛する男へと渡すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side■■■■■

 

 ISは、操縦者の夢を叶える存在。カリオストロと1つになっていて分かったことである。そう、カリオストロは私の夢を叶える存在。では、私の夢とは何か? 最初は篠ノ之束を殺すことで解決すると思っていた。けど違った、私は篠ノ之束が堕ちる姿を眺めていたいのだ。

 何故かって? 殺すだけで終わりなんてつまらないから……それだけである。

 

「じゃあ、始めようか!! 篠ノ之束公開処刑を!!」

 

「……群咲を潰した程度でいい気になれるなんて、ほーんと失敗作ちゃんは頭も失敗作なんだね! 生身でも束さんはめちゃんこ強いんだよ!!」

 

「ほんとにそう思う? なら、この人達相手にしてみてよ」

 

 私は、私の後ろに指を指す。そこには色々な男がいた。とは言っても、可愛らしい存在とか正義感とか持ってるやつは一人もいない。性欲に目を光らせて、女を喘がせたいと思っている野獣のような男である。

 

「……何、そいつら……どこから入って……」

 

「さぁて、どこだと思う?」

 

 怪訝な表情で見る篠ノ之束。当たり前、ここは篠ノ之束とその関係者……とは言ってもほんのひと握りだけど……しか知らない秘密の場所。教えたところでたどり着ける場所じゃないし、こんなに大勢来ることは無い。

 

「……まぁ、ただの一般人なら僕が本気を出さなくても勝てるけどね!」

 

 いつもの様に笑顔をうかべて、突っ込んでくる篠ノ之束……私は男たちの後ろで待機する。これからとても面白いものが見られるんだから。

 

「ふふん!」

 

 篠ノ之束は、あの織斑千冬と同様の身体能力も有している。当たり前だ、天然で生まれた究極の人類。鯉から生まれた龍、アホウドリが産んだ鷹……まぁ要するに規格外という話だ。

 本来ならジャンプひとつで男たちを飛び越して、私を一撃で殺すだろう。だがそれは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「━━━あれ?」

 

 篠ノ之束はまるで普通の人がジャンプしたみたいなジャンプ力だった。本当に飛ばない、どれだけ高く見積っても地面と足との幅は10cm程だ。

 

「っ……な、なんで束さんが転けてるのかなぁ……?」

 

「そりゃあ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……まさか、電脳ダイブ……!?」

 

「む、流石に理解が早い……そうそう……何だっけ? ワールド・パージ? IS群咲を食べたカリオストロが得た能力だよ、便利だよねぇ」

 

 あっさり理解されたのでネタばらし。現在篠ノ之束は私が作り出した電脳空間に囚われている。正確には、ワールド・パージとはまた別の能力だが……

 

「……おかしいなぁ? 束さんを強制電脳ダイブさせる時間なんてあったかな? それに、機材も無いと思うけど?」

 

「あぁ……()()()()()()()()()()()()()()()。機材は()()()()()()()()()()()()()()()()2()()()()()()()()

 

「……ほんと、失敗作の癖に規格外のことばかりするねぇ?」

 

 篠ノ之束は今私の中だ。まぁ本気になれば篠ノ之束の施設のコンピューター全てを使って閉じ込めることはできるけど……私の中なら苦しむ姿すぐに見られるからいいかなって。

 

「でも……でもでもでーも!! コンピュータってことならこのままハッキングしちゃえばいいよねぇ!! さっすが束さんだね!!」

 

 理解したら順応が早いのがこいつ、すぐさまコンソールを開く。コンピュータの中だと理解した瞬間に、頭の中でコンソール開くまでのハッキングを終わらせている。

 つまり、今私の体は篠ノ之束に乗っ取られかけている。

 

「そんなことさせるわけないじゃん」

 

 男たちを向かわせながら、私は妨害を差し向ける。電脳空間だ、制している奴がそこの主だ。主が反逆者のハッキングを成功させなければ、主は主のままでいられる。

 

「おっと……そんなのが当たるわけないし、原理さえ分かれば束さんは直ぐに━━━」

 

 私が投げた注射器を簡単に避ける篠ノ之束。物理的に避けてるように見えるが、コンピューター的にいえばワクチンを弾いてるウイルスみたいなものである。

 まぁ、そんな簡単なものなわけが無いんだが。

 

「━━━え、あれ……? 何で……?」

 

 腰が砕けたかのように尻もちをつく篠ノ之束。その顔は見た事もない焦り顔で染っている。実に気持ちいい、天才を異常で潰すのは。バカに潰される天才は実に滑稽だ。

 

「さてさてさーて!! あの天才で狂人で強靭な篠ノ之束ですらされたことに気づけない電脳ダイブ! それでこのカリオストロの能力が終わると思ってんの!? あんたの何が自慢かわからないけど自慢の群咲を食らったんだよ!? もっとえげつない能力に決まってるじゃん!!」

 

「え……」

 

「群咲を食ったカリオストロ……言いづらいしカリオストロバイオレットでいいや……で、そのカリオストロバイオレットの能力! それは━━━」

 

『強制的な電脳ダイブをさせ、その人物を書き換える能力』だ。ISを凌駕していると思うかい? けれどこの能力にも出来ないことがある。

 例えばブサイクをイケメンにできないし、巨乳を貧乳にできないし、デブを痩せさせられない。その逆も然り。つまり、認識で変わる事と精神的なこと、そして記憶等を書き換えることが出来る。

 とは言っても、不味いものを美味しいと言ったりする事は『認識』の範囲内らしいので可能だ。

 

「……そこまで覚醒しちゃってるなんて、ほんと失敗作の癖に……」

 

「……って言うかさぁ? 何でそんなに失敗作失敗作言うわけ?」

 

「……ふふ、人間を超える実験なのに人間を辞めてて『人間を超えた』って言えるの?」

 

「あ、なるほど確かに言えないや」

 

 まぁだからなんだという話だが。さて、とりあえずこの女をどうしてやろうか━━

 

「……隙だらけ!」

 

 そう言って篠ノ之束はこの空間から姿を消す。どうやら、ハッキングは1部だけ成功していたようだ。すぐに権利を取り戻せたものの、この空間から逃げ出したようだ。

 

「……んー、ほんと……天才って奴は……」

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「ふっふーん! こんなこともあろうかと束さんは生態学にも通じているのだ!!」

 

 篠ノ之束が独自に開発したローカルコンピューター、束が各地に持つ秘密の研究所のみで共有されているコンピューター。その中に束は入り込んでいた。

 肉体は、先程の基地に置き捨ててきていた。

 

「体なんて、束さんはクローンでいくらでも作れるしね!」

 

 使うことになるとは思っていなかったクローン技術。ISの研究に使えるかと、試しに自分を作ったりしていたが、いつの間にか各研究所に1つずつ肉体が放置されている。

 このローカルコンピューターを使えば、その肉体に入り直す事が可能なのだ。要するに、予備の体という奴だ。

 

「元々は、事故が起きた時に念の為に用意していたものなんだけど……ま、厄介な失敗作から遠ざかる為には仕方ないよね!」

 

 朗らかに言っているが、頭の中は彼女の言う失敗作を殺すことしか考えていない。自分をここまでコケにしてくれた奴は、絶対に苦しませまくって……と、考えていたところで、ふと束は気づく。

 

「……何か、妙に遠いなぁ?」

 

 電脳空間での移動、体感時間でそこまでかからないと考えていたが、妙に長く感じていた。とりあえず遠いところに移動出来ればよかったので、1番遠いところを選んだのだが、妙に時間がかかっているように感じていた。

 

「……お! 見つけた!!」

 

 単なるイメージとしてだが、研究所のデータに繋がる扉を発見した束。その扉についているドアノブに手を伸ばして、回す。そして勢いよく開いて━━━

 

「あ」

 

 勢いよく、謎の生物の触手の様なものに巻かれて引きずり込まれる。その後の束の意識はない。最後に感じたのは、自分の体が一気に勢いよく引き潰された感覚だけである。

 そう、ここはコンピューター空間。その気になればファンタジーも再現可能なのだ。そして、コンピューター空間はありとあらゆることが可能だ。例えば……データのコピーなどがそれに当たる。

 

「━━━はっ!?」

 

 目を覚ました束。自分の体は裸にされて両手足を拘束されている以外何も異常がなく、気づけばゴツゴツとした岩で出来た牢に閉じ込められていた。

 

「━━━テッテレテッテッテー! おめでとう篠ノ之束! 君の残機は1減ったぞ!! そして代わりに感度と残機が2増えたぞ!!」

 

「……データの、コピー……」

 

「お、さすがに理解したか。そう、カリオストロバイオレットの力は……さしずめコンピューター空間内の神。現実だと特に使える能力は無いけど……代わりに、コンピューター世界最強というわけだ」

 

「……そんな、バカげた能力……」

 

「コンピューター世界でしか使えないけどね……ま、とりあえず……」

 

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・カリオストロバイオレット
簡単に言うとコンピューター内でならなんでも出来る、電脳ダイブした人間も好きに書き換えたりすることも出来る。例えどんな薬物が効かない人間でも、ひとたび電脳ダイブさせられてしまえばコンピューター内ではその『設定』すら無意味になる。
現実世界では特に何も出来ない。


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無限陵辱

 私のこの世界、電脳のネット世界は……私が全てだ。私が全てを決める。この中に囚われた人間は、人形のごとく踊らされて操られて惨めになっていく。相手が人間……いや自分以外の他人を見下すようなやつであればあるほど、その効果は絶大に発揮されている。なぜなら、自分の中にあった絶対的なものが崩れ落ちていくのだから。

 

「おぶっ! んぐぉ!!」

 

「電脳ダイブさせられている以上、貴方の全てがデータの中のものに過ぎないのはわかってる?」

 

 篠ノ之束には聞こえてないだろうが、私は説明を続けていく。この電脳世界……どれだけ人外であろうとも、ダイブをさせられた時点で私の勝ちだ。相手がファンタジーの世界の人間で……何かしらの特殊能力を持っているのなら話は別だけど。

 

「おぐ、んぶっ……!」

 

「データである以上、書き換えもできるしコピーもできる。それが肉体そのものに反映はされないけど、認識や精神にはもろに反映されちゃうんだよね」

 

 私が作った仮想空間の男達。精力は無限だし射精量も操作出来る。さらに腰の速度まで弄れる。これに関しては、私が作ったデータなのだから当たり前だ。

 けれど、これと同じことを篠ノ之束にも起こすことが出来るのだ。例えば、感度を上げたりすることも出来る。

 

「そうだなぁ……かの有名な3000倍いってみよっか」

 

「━━━!!」

 

 コンソールを出して、私は篠ノ之束の感度をいじる。打ち込んだ数字がそのまま反映させられるタイプだが、まぁ1度限界走っておいた方がいいだろう。本格的な限界値を迎えたら、いくらダイブした精神の塊とはいえバグを起こす可能性だってあるのだから。

 

「おぉ、3000倍は耐えられ……てる?」

 

「…………」

 

 体が少しだけ痙攣した後で……篠ノ之束はピッタリと動かなくなってしまった。どうやら、イキ過ぎて死んでしまったようだ。まぁ人間に耐えられる感度の高さではないだろう。

 

「……まぁ? 自動コンテニューがあるから……あ、そうだ最後に死んだ状態を維持したまま復活するようにしてやろう」

 

 もし篠ノ之束が3000倍の絶頂……その真髄を味わう前に死んだのだとされたら、下手をしたら復活してまたすぐ死ぬと言ったことがありえるかもしれない。まぁ篠ノ之束に死を植え付けられるだけ全くの無駄ではないことは理解できるが。

 

「━━━ここ、は……あぐっ……!?」

 

 どうやら私の予想が当たったらしく、篠ノ之束は目を覚ましたかと思った瞬間再び絶命していた。少しだけラグがあったのは、パソコンを立ち上げたなにもローディングしていない状況といえば話は分かりやすいだろうか。

 

「ふふふ……まぁそんだけ死にやすいのだったら……これからはいのちだいじにで作戦立てていかないとね?」

 

 その作戦を潰すのが今の私の役目なので、私のこのセリフは全く無意味になるが……まぁそれはそれ、これはこれでおいておこう。さて、取り敢えず篠ノ之束が死ぬのが終わるまでしばらく待っていよう。あと5回くらい死にそうだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぐ、うぉあ……!」

 

 死ぬのが終わって、陵辱が再び再開させられる篠ノ之束。流石に3000倍をそのまま続けていたら、全然進む気配もなかったので仕方なく感度を元に戻して対応する事にした。

 

「んぶぅ……!」

 

 これで何回目の射精だろうか? これが現実なら男達は篠ノ之束を取り合い、時間を稼がれてしまっていたことだろう。しかし、ここは電脳データ世界。

 男達は射精が終わってもすぐさま動くこともできるし、萎えというもの存在しない。正に全自動肉バイブと言っても過言ではない存在である。

 けど、私はわざと一旦篠ノ之束を解放させた。

 

「げほ、げほっ……なんの、用……」

 

「どう? クソみたいな男達に犯されて、自分自身が玩具のように扱われる気分は?」

 

 自分自身を道具として扱われるのは、恐らく本来であれば篠ノ之束は自分の研究のために、何度か行っていた可能性がある。けれど、私のような『失敗作』に作られた『理性もその姿も性格も過去も未来も全てがまやかし』の男達に『道具のように犯される』

 一体、どんな罰だろうか? 家畜にも劣る畜生に犯されるのと、一体何が変わらないのだろうか? 

 

「……すっごい……最悪、かな……」

 

「だろうね、取り敢えず体綺麗にしてあげるよ……あとそれとついでに殺すね」

 

 篠ノ之束の体が爆散する。データなので好きに殺すことが出来る。細胞の一つ一つが綺麗に爆発する。血液すらも爆発対象だ。悲鳴すらあげさせない。

 そして、簡単に戻ってくる。死ぬ直前のデータを復元、そして覚醒させる。パソコンの……何だっけ? PDFだっけ? あれの再生機能を使ったら大体こんな感じだろう。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

「何回も死ぬ感想はどう?」

 

「……頭がスッキリするよ」

 

「そう、なら殺すの辞めるよ……というか今から死なないようにしてあげる」

 

 所詮データの塊、壊し放題だし逆に壊されないようにすることも可能だ。HPや耐久度と言うべきか? 篠ノ之束のそれを、まぁ限界値MAXまで振って再生機能まで入れておこう。ゲームだったら満場一致でクソボス確定だが、無限に死に続けるということを追加しただけで同情の余地がありすぎるボスになってしまう。

 まあ私は同情しないけど。

 

「『絶対に死なない』『思考リセット禁止』『絶頂に達する度に感度が倍上昇』……後何か追加して欲しいことある?」

 

「んぐぉ……! おぶ、あ、ぐ……!」

 

 おっと、そう言えば死なないようにしてからまた犯されるのが再開してしまっていたのだった。んー、こうなるとしばらくは何も出来なさそうかな。

 

「あ、そうだ」

 

 ふと思いついたことがある。念の為に両手足の行動はワンパターン化させておこう。何度も言うがデータなのだ、その辺も簡単だ。まぁやれることは一緒だ。手はひたすら男達のち〇ぽ処理、足は男達が望むようにしか動かない。

 

「……これ、電脳ダイブでお店開いたら儲かるのでは?」

 

 我ながらいい商売を思いついた。所詮ISを仲介するだけで電脳ダイブが出来るのなら、織斑一夏以外の男も何ら変わらないだろう。ただ、それをやるにあたって篠ノ之束の理性が邪魔になるだろう。

 

「とりあえずさっくりしておこうか。自分の体をデータ化できる技術を持ってることを恨むことだよ」

 

 そう言って私はコマンドを打ち込む。データは速度もいじれるから安泰である。そうだねぇ……まぁ取り敢えず365倍の速度行ってみようか! それでどうなるかは知ったこっちゃない!! 

 とりあえず……しばらく篠ノ之束は放置かな。まだ私はやれることがあるしね。そっちに向かうとしよう。ひとまず用意するのは……肉体だよね、ナノマシンの体便利だけど偶には肉の体も恋しくなっちゃう訳だし━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んー……!」

 

 久しぶりに得た肉体。まぁ本来の自分の体ではないけど……借り物として使うには十分。無駄にでかいこの胸が邪魔だけど……取り敢えずうさ耳外して、髪を黒く染めよう。やれることはそこからだ。

 

「まぁこのまま『篠ノ之束』として動いてもいいけど……さすがにそのまま使うと面倒くさそうだしやめておこう。何かどこかしら変えた方が良さそうだよね」

 

 分かりやすい変化があれば、説明するのもずっと楽だ。それに、私自身が『篠ノ之束』として動けるわけが無い。あんな痛々しいキャラ作りはしたくないのだ。

 

「あの体は改造しすぎたからねぇ……まぁ人間を超越した肉体を得るっていうのも悪くない」

 

 動くの楽そうだしね。まぁその分死にやすくなったって考えたらちゃんとデメリットとしても……確立してるのかなぁ? 死なない体から死にづらい肉体になったって考えたら弱体化だけど……うーむ。

 

「……ま、いっか。しばらくその辺ぶらぶらしてよっと」

 

 篠ノ之束が作ってるISはあるかなぁ……なんて考えてた矢先、足音が聞こえてくる。そう言えば、篠ノ之束って助手雇ってたんだっけ? 名前知らないけど。

 

「……束、様じゃない……誰ですか?」

 

「いやいや、篠ノ之束だよ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……束様をどこに……!」

 

「さぁて、どこに行ったでしょうか! 私に勝てたら教えてあげる!」

 

 大きく両手を広げて、わざとらしく動き回ろうとして……ちょっと胸が痛くなった。つかあいつブラジャー付けてないのかよ、胸の形崩れ……

 

「……ふん、胸如きで動きの制限されるなんて余程貧相な胸をしていたようですね」

 

「よしお前死ぬよりも辛い目に遭わせてやろう」

 

 誰の胸が凹んだダンボールって話ですよ。そこまで言ってないかもしれないけど、んな事知るか。私は多分中の下くらいの大きさのはずだきっと。凰鈴音より小さいだけだ、無いわけじゃない。

 

「……たとえ誰であろうと━━━」

 

「無駄だよ、()()()()()()()()

 

 その言葉とともに、名も知らぬ少女はその場に倒れる。カリオストロヴァイオレットの力は、初見殺しそのものなので仕方ないという話なのだが。

 

「さて……この子も専用のIS持ってるみたいだし……カリオストロの餌にしちゃうか」

 

 どんなISかは食べてみないと分からない……ま、どんな能力でも私は大歓迎だよ、うんうん。

 

「とりあえず……この肉体は一旦一緒に連れていこっかな。私としては何も問題がないし」

 

 名前は後で聞き出せばいいや。どうせヴァイオレットの力使ったら分かる事だしね。そう言えばこのやり取りで電脳空間だとどのくらいの時間経ったんだろうね、私には分からないや。

 

「さぁて、しばらくは面白いことして過ごせそうだ」

 

 私はそう呟く……さて、次にIS学園に戻る時が……楽しみだ。味方も増やせそうだし……ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「……」

 

 織斑一夏は妙に嫌な予感がしていた。だが、その嫌な予感というのがなんなのかはよくわからない。けれど、それが確信に近いと断言できるレベルではあった。

 白式に宿った紅椿……もとい赤月の力は、相当凄まじいものだ。一体、何故宿ったのかは一夏は分からなかったがそれでも何かをしないといけないのだろうとだけ確信していた。

 

「……一夏? どうしたのじゃ?」

 

 アイリスが心配した表情で一夏を見ていた。今この学園には、織斑千冬も自分の周りにいた少女達もいない。いるのは幼馴染の篠ノ之箒、セシリア・オルコット……そして王女のアイリスとその付き人のジブリルの4人だけだ。

 

「……織斑くーん!」

 

 そして、鬼村五十冬。複雑な思いだが、今の彼女に罪はないのだ。彼女がやった事の罪の重さは、彼女自身にしか晴らせない事だが……今の彼女ではどうやっても晴らせない。

 

「……鬼村? どうしたんだ?」

 

「怪我、大丈夫なの?」

 

「おう、もう問題は無いさ」

 

 だから、一夏に出来ることは今の彼女と共に居てやれる事だけである。そう思いながら、一夏は安穏とした日々を過ごすのだ。裏で起こっていることに……全く気づくことも無く、である。



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機体暴食

「2つ目2つ目……ふふんふん」

 

 鼻歌を歌いながら、私はISでイギリスのとある場所まで移動していた。カリオストロヴァイオレットに、新たなISのコア……なんか篠ノ之束に付き添っていた助手っぽい子のISを取り込んだ。これによりできるようになったことが更に増えた。

 幻影能力……といえばファンタジーっぽいが、実際はホログラムをナノマシンに投影することでまるで実際にそこにあるかのような……そんなことをできるようになったのだ。

 因みに、その子は今私の中で……正確にはカリオストロの中で篠ノ之束と一緒に乱交パーティ中である。心が壊れないように、ちゃんとケアもしているから安心だね!! 

 

「……さて、到着到着っと……そんでもって目標が勝手に来てくれるなんて有難いね?」

 

 私の目的地……それは、セシリアの実家である。そして、そこに到着した時とほぼ同時に目的の人物が目的のものを持って現れる……それは、セシリアのメイドであるチェルシーだ。無論、私がこんな状態なのでISを装備しているが。

 

「……篠ノ之博士、ではなさそうですね」

 

 おや、どうやら私が篠ノ之束じゃないと気づいた様子。まぁ髪が黒くなってるし雰囲気も変わってるだろうから気づくだろうけど。

 

「正解、因みに目的の方は分かるかな?」

 

「……IS、ブルーティアーズ3号機であるこの機体……ダイブトゥブルーの強奪、ですか」

 

「はいまたもや正解」

 

 何度も使うのが申し訳ないが、正確には機体なんてどうでもいいのだ。欲しいのはコア……まぁ武装もカリオストロの強化になるから、いいんだけどね。

 

「……渡しません」

 

「じゃあ逃げれば? 出来ないだろうけど」

 

 さっきも言ったけど私は現在、セシリアの実家にいます。つまり、ここで逃げてしまえばこの家は私が潰す可能性が非常に高い。それが分からないメイドさんではないでしょうに。

 

「安心してください、貴方は私がここで倒します」

 

「わぁお、それは実に興味深い」

 

「……貴方は、この機体になす術もなくやられるんです……!」

 

 そう言いながら、ダイブトゥブルーは影に潜る。いや、正確には機体の能力である空間潜航……ビットが使えないという弱点があるらしいけど、相手の不意を常に突けるという点に関してはこれ以上ないスナイプ機体である。

 

「わぁー! 確かにこれじゃあ姿が見えなくて『戦闘するのは』不可能だなぁ!!」

 

「……」

 

 私の白々しい演技にも何もリアクションせず、チェルシーは恐らくどこかから私を狙うためにライフルを構えているだろう。ISの絶対防御であっても、その絶対防御自身が絶対ではない。エネルギーが切れれば使えない代物だ。

 

「けど、私の機体は戦うことは想定してないからさ。頂戴よそのコア」

 

「……貴方の意見は、求めていません……!」

 

 一射目、私の後ろから飛んでくる。それを私はナノマシンを集合させて防ぐ、適当に作ったせいかそれに使ったナノマシンは辺りに霧散して目に見えない一粒へと戻っていく。

 

「……よく防ぎましたね。ですが、そう何度も続かせません……!」

 

 2射目、3射目……段々と打つ頻度が上がっていく。私はそれに対して防いでいくことしかしていない。そして、攻撃を受けていく度にナノマシンシールドは小さくなっていく。

 ……それが、チェルシーを勘違いさせていく。

 

「これで……!」

 

 後ろや下、左右からの攻撃。ただ死角からだけでなく、四方八方から攻撃することで周りを警戒させる戦法。まともなやつならこれで終わっていた。実際、私もナノマシンになる前のカリオストロならこうなっていたかもしれない。

 そして、注意を周囲に向けさせておくことで……完全に前からの注意を削いでおく。そうして、最後の一撃を前から打つことで全面からでも不意打ちを成功させる。

 

「これで終わ……っ!? ぐ、あ……!? これ、は……!?」

 

 ━━━突然だが、治療用ナノマシンというものがある。人間の自己再生能力……それを早めたり高めたりする代物である。私もよく使っている。それを、今なぜ詳しく説明するのかというと。今それを……()()()()()()()()

 

「ナノマシンで作ったナイフ、どう? 痛いかな?」

 

「なん、で……絶対防御を貫いて……!?」

 

「そりゃあ……手品だよ?」

 

 事実の説明をしよう。先程から私が使用していたナノマシンシールド、あれに治療用ナノマシンを使わせてもらった。無くなっていったのは辺りの空気中に散布され続けたため。そして散布されたナノマシンはチェルシーの体に段々と量を増して付着し続けていく。後はある程度チェルシーの体に付着していたのを集合させて……サクッと。

 

「っ……なんで、血が……!?」

 

「出ないでしょ? 怖いでしょ? ナイフで貫かれているのに、血が一切出なくて……でも痛くて……凄く怖いよねぇ?」

 

 けれど神経はガッツリ裂かせて貰ってるので激痛が迸っているだろう。因みに、本物のナイフの映像を投影しているのでチェルシーには本物のナイフで貫かれたようにしか見えないのだ。

 実際、突然自分の体にナイフが突き刺さり……何故か血が出てこないというのは恐怖だろう。何がどうなっているのか、恐らくチェルシーは何も理解することは無い。

 

「その痛み……直ぐに取り除いてあげるよ、貴方のコアを貰う条件で……ね」

 

「っ……! させ、ない……!」

 

「おっと……?」

 

 後ろからビームが飛んできた。どうやら、激痛に苛まれながらもビットを操るだけの思考は持てていたようだ。なるほど、これは面白い。どうやらもうちょっと激しめにしてもいいだろう。

 

「じゃあ次だ……次はナイフじゃなくて……鉄パイプいってみようか」

 

「あがっ!?」

 

 そう私が宣言した瞬間、鳩尾に鉄パイプが出現する。ちゃんとチェルシーに突き刺さっているかつ出血させていない。うんうん、偉いぞカリオストロ。

 

「アハ……ショック死したくないでしょ? だから抵抗しないで、さ?」

 

「う、ぐ……」

 

 まだ抵抗するのか、ライフルとビット数機を私の方に向けていた。まったく、確かにこの機体は戦うことは想定していない。だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そんな無駄な抵抗しないでさ、さっさとコアをちょうだい……よっ!!」

 

「あぐっ!!」

 

 ナノマシン鉄パイプを、私は蹴りつける。それだけでチェルシーは集中力を切らしてビットを地面に落下させていた。どうやら、痛みにはそんなに強くないらしい。ま、一応メイドであるってだけだから当たり前なのかもしれないが。亡国機業に入って、タダで抜けれるわけないでしょうに。

 

「さて……じゃあ貰うよ? 貴方の……IS」

 

 武装を剥がしていく。ISを剥がし、抉り……そしてその心臓部、コアを無理やり引き出す。そしてそれを……カリオストロが食べる。いい……とてもいい。1回は無効化されたカリオストロの力だけど……新たな力を従えつつある。

 まだ織斑一夏に勝てるかどうかはわからないけど……それでも何もしないよりはマシだろう。

 

「あ、ぐ……」

 

「おっと、忘れてた……というか気絶しちゃってたのか……いつの間に」

 

 痛みで気絶したチェルシーの処遇をどうするか、私は考える。うーむ、そうだなぁ……イギリスは紳士の国だし日本のようにはいかないだろう。なんかそういうお店とかにも厳しそうだし。いや、私の偏見なんだけどさ? 

 

「……ま、とりあえず連れていこっか……」

 

 ナノマシンを使えばいくらでも体自体は運べるしね。けど流石に何度も何度もカリオストロの力でコアの中に入れるのも芸がないし……よし、良いこと思いついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「おい……なんだよこの騒ぎ……」

 

「知るかよ……」

 

「なんだお前ら知らねぇのか? 篠ノ之束の色違いが出たって話だぜ?」

 

 イギリスのとある街中で、住人達が騒いでいた。その視線と注目は、全て黒髪の篠ノ之束に注がれていた。しかし、なぜ彼女がそんなところに現れたのかは未だ説明もなかった。

 

「はーい、親愛なる街の皆様へ! 本日は残念なお知らせといいお知らせの2つがあります!」

 

「おい! さっさと言えよ!!」

 

「んー、せっかちさんは好きじゃないけど……まぁそうだねさっさと説明しちゃおうか」

 

 そう言って、色違いの篠ノ之束は突如として一人の少女をどこからともなく取りだしていた。その事に驚く市民達だが、それ以上にその人物を知ってる人はそう少なくはなかった。

 

「あれって……オルコット家のメイドちゃんじゃねぇか?」

 

「……あぁ、そういやそうだ……なんでこんな所に?」

 

 ざわつきが大きくなる市民達。それに対して、さらに大きな声で色違いは続けていく。

 

「なんと! オルコット家メイドであるこのチェルシーは……テロリスト集団亡国機業の仲間だったのだ!!」

 

「……はっ! ふざけんなよそんな証拠がどこにあるってんだ!?」

 

「ふふふ……そう言うと思って……こんな映像を用意しました!!」

 

 そう言いながら、空に映像が展開される。それは大きくとても見やすい画質、まるで空にモニターそのものが現れたと言っても過言では無いものだった。

 そこには、確かにチェルシーがISを纏いセシリアと戦っている映像が流れていた。

 

「う、嘘だ! でまかせに決まってらァ!!」

 

「しかも、これは自作自演なんですよ!」

 

「んだと!? ならなんでこの2人が戦ってんだ!!」

 

「彼女が纏っているISは、セシリア・オルコット専用機であるブルーティアーズの3号機です。そしてそれは、研究所から奪取され……それが亡国機業の仲間であるチェルシーの手に渡った」

 

 そう、ここまでならまだセシリアはチェルシーを止めようとする主人の鏡……そして完璧な事実である。伝え方に問題があるとはいえ、まだここまでは事実しか騙っていない。

 しかし、こんな事実だけを話すのが目的で終わるわけが無いのだ。

 

「━━━しかし、彼女は裏切った。亡国機業に入ったにも関わらず、裏切って亡国機業から追われることになった」

 

「……なんで裏切ったんだ?」

 

「まぁまずは、彼女がどうしてISを奪ったか……亡国機業に入ったかを簡単に説明しましょう。

 まず、アメリカとイギリスでとあるISが極秘に開発されていました。その搭乗者として、チェルシーの妹がパイロットに選ばれた。そこまではよかったんですよ……しかし、チェルシーの妹はその時の実験で死亡……っていうのがチェルシーに伝えられた事実でした」

 

「……言い方に含みを感じるぜ?」

 

「そりゃあそうだ、何せ本当は死んでなんか居ない。人間を文字通りパーツとして組み込んで機能する、最強の攻撃力を持つISが誕生したんだから」

 

 気づけば、市民達は黙って話を聞いていた。野次を飛ばす者や、文句を言う輩は誰一人としていなかった。

 

「そして、それを助けようとしたチェルシーは……なんとなんと、そのISに恐怖を抱いて逃げだした! その時に、ISを返して欲しい3つのグループが彼女の命を狙った! 

 さて問題!! その二つのグループとはどこでしょうか!! はいそこのお姉さん! 片方でも正解したら無料でお金あげるよ!!」

 

「……1つは、亡国機業……?」

 

「正解! という訳で3万ドル上げるね!!」

 

 どこから集めたのか、3万ドルがぽんと投げ渡される。適当に彼女は視線を動かして次の正解者を探す……そして、適当な人物を見かけて更に声をかけていく。

 

「あなた! 2つ目のグループは!?」

 

「……そりゃあ、裏切ったテロリストグループ以外つったら……3号機を作ったところと、事実を知った……妹さんを使っている企業の所だろうよ」

 

「お!? 二つも正解を取るなんて欲張りさんめ! 仕方ないから9千万ドル上げちゃおう!!」

 

 と、ここまではしゃいでおいて……彼女はいきなり落ち着きを取り戻したかのような顔になる。そのいきなりの変化に……全員が驚きつつも恐怖を抱いていた。

 

「……そう、妹を実験台に使った企業……それにオルコット家が関わっているとしたら?」

 

「んな事あるわけが……」

 

「それがある訳で……セシリアもそれを知っている……じゃなかったら、わざわざ自分の家のメイドの妹なんて使えないでしょうに」

 

「……た、確かにその通りだ……!」

 

「さて、ここで選択肢を上げましょう……妹を捨てて、自分だけ助かろうとしてありとあらゆるところを裏切った女を……あなた達はどうする?」

 

 服を破いて、チェルシーが投げ捨てられる。気絶しているが……その瑞々しい体をみて男達は生唾を飲んでいた。

 

「男でも女でもいいよ、彼女を……この街の『所有物』にしてしまえ」

 

 その言葉は……目の前の『物』を前にして……紳士の国の男たちの心に、一点の闇を落としていくのであった。



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従者贖罪

「う、ぐ……」

 

「は、はは……世界を混乱に落としてるテロリストの仲間だったんだろ!? だったらこうされるのも仕方ないよな!?」

 

 セシリアのメイド……チェルシーはただいま絶賛輪姦中である。最初は渋々だった男達。当たり前だ、女尊男卑の子のご時世に……目の前の女性達から軽蔑されるような事は普通はしない。そう、何があってもすることは無い。だったら、その『当たり前』を壊すだけだ。ISを使えるのは基本的に女性のみ、だがその女性が女性の味方をするとは限らないのだ。

 ……さて、何が起こったのか改めて確認するとしよう。人は、異常な状況に置かれた場合にどういった行動を起こすのか……それをちゃんと把握するためである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

 少し時間は遡る。そこでは男達の目の前にチェルシーが投げ捨てられた状況だった。無論、男たちはそんな状況ですぐに理性を捨てられるわけが無い。ここに男しかいない、誰にもバレる心配がない……そんな状況であれば話は別だったかもしれないが、今は人の目もあり何より……女性が目の前にいるのだ。

 

「あんた達! ほんとにこの子に手を出すつもり!?」

 

「そ、そんなわけないだろ!?」

 

「そ、そうだ!! わざわざこんな色違いの話を聞くつもりなんてない!!」

 

「いやぁ、凄い言われようだ……悲しくなっちゃう」

 

 目の前の色違いの篠ノ之束は全く悲しそうな素振りを見せることがなく、微笑んでいるだけだった。だが、そんな笑顔がまるで男達……そして女達もだんだんと別れ始めていくのを楽しんでいるように見えていくのだ。

 

「でも……世界を滅茶苦茶にしてるテロリストって言うなら……何されても文句言えないと思う……」

 

「あんた男達の肩持つの!? このビッチ!!」

 

「なっ……そこまで言う!?」

 

 まずは女性達が仲間割れを始める。だが、男達も同じように仲間割れを始めていく。とても醜く、とても邪な喧嘩を始めるのであった。

 

「へへ、女達はめんどくせぇ喧嘩始めてんな……」

 

「……まさか、本気で手を出す気じゃないだろう?」

 

「……は? お前何を言ってるんだ?」

 

「お、お前……相手は年端もいかない女の子だぞ!?」

 

「ハッ! ISを奪ってテロリストの仲間入り、しかもその後テロリストさえも裏切った! 世界に居場所のねぇこいつがどういう扱いになろうが問題ねぇだろうが!!」

 

「だからこそ法で裁かないといけないだろう!?」

 

 男達も、また同じような内容の喧嘩を始めていた。しかし、同じ意見を持つ男たちと女達が結託する訳では無い。そもそもこのご時世において男女間の仲がいい訳がないのだ。

 

「ふふ……醜い醜い……あー醜い……」

 

「何よ!! あんたもあんたで頭おかしいんじゃないの!? あんたは女の味方じゃないの!?」

 

「私は篠ノ之束じゃないし〜? そもそも、私女が大嫌い……しかもISが使えないくせに男に強く出る女が大嫌い」

 

「……は? ISその物が使えない汚い男達なんて嫌われて当然でしょ!? まぁ? ISの使える織斑一夏君なら━━━」

 

 言葉を言い終える前に、女の言葉が止まる。そして次の瞬間には彼女を覆う様に黒い箱が1つ出現する。

 

「……おっと、その箱の中身は見せられないよ。ついつい殺っちゃったから……まぁ情報保護だっけ? そんな感じだから」

 

 そう言いながら、箱はだんだんと縮小していき……そして完全にその場から消え去った。たった今、人一人が消え去ってしまったのだ。

 

「……え? い、今の人は……?」

 

「ぱくぱくもぐもぐごっくん……ご馳走様。つるつるで、ぬちゅぬちゅで、てろてろで、にがにがで、てつてつで……大変不味でございました」

 

 お腹をさする動作をしながら、色違いは笑顔を向けていた。冗談なのか、それとも本気なのか。しかしわかっている事は、目の前の人物(バケモノ)が目の前の人間を1人葬ってしまった……ということである。

 

「な、なんで……あの人何も……」

 

「私が殺したいと思ったから殺しただけ……それに、忘れてるかもしれないけどISって本来は武器だからね? 武装だからね? 兵器だからね? 人の命を簡単に奪える……史上最強の兵器なんだからね?」

 

「ひっ……」

 

「あなたたちが生き残る術は、『私の琴線に触れない』という事。私を前にして、女だからって生き残れるなんて思わない事だよ……私は、そうやってる女を今まで殺してきたんだから」

 

 笑顔の裏の、闇の深い笑顔にその場にいた人間は恐れおののいた。逆らえば死……いや、それよりも厄介なものだからだ。目の前の人物……彼女の怒りの琴線に触れると、今のように丸で消しゴムで消されたかのようにこの世から一瞬で消されてしまうのだ。 彼らには、その琴線は分からない。その琴線がわからない以上彼女の言うことだけを聞いていた方が正解というものである。

 

「じゃあ男の人で犯したい人は並んでね。5人同時までなら多分出来ると思うから、さっさと回しちゃってね。一応お一人様何度でも可能だからそのままね

 で、女の人は……まぁあのメイドと混ざりたいって言うなら、参加してもらっていいよ? その場合、ずっとこれを見てもらう形になるけどね……あぁそれと━━━」

 

 次の瞬間には、何人もの男女が箱に包まれる。全員共通点を見せつけるかのように、携帯だけが落とされていった。その表示画面には、総じて警察の電話番号が乗っていた。

 

「警察に言っても無駄だからね。私に対して気づかれないように通報するのは、絶対に無理だと判断しておいて。因みに、街中の監視カメラに期待してもダメだからね……あの監視カメラは、今私がいつもの街中の風景映してるから絶対に気づかれることは無いよ」

 

「ひっ、ひいいい……!」

 

 ガタガタと、怖がりやすい者は腰を抜かしていたりした。だが、目の前の女は人を簡単に葬れる化け物なのだ。その精神性の異常は、篠ノ之束よりもおぞましく……篠ノ之束よりも恐怖の対象となっていた。

 

「ほらほら早く〜この世から生きてた存在すら奪われたくなかったら、さっさと動いて〜」

 

 こうして、男達はチェルシーを犯すために。女達は目の前の女の機嫌を損ねないために……今この場を必死で生きようとするのであった。だが、冒頭のやり取りに帰結する以上……どうなったかは分かるだろう。

 男達はチェルシーを犯すことに抵抗がなくなり、女達は黙ってそれを眺めるか同じように男達に奴隷の様に犯されるかの二択のどちらか……どちらにせよ、今の彼らにまともな精神は期待できないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぶ、ぶぁ……」

 

「へ、へへ……」

 

「ん、ありがとうありがとう」

 

 そう言いながら、彼女はチェルシーの犯された写真を撮影していく。行為中の時も写真を撮っており、時折特殊なプレイを強要しておりそういった写真も撮っていた。総じて、チェルシーの人間の尊厳を奪うよなものばかりだったが。

 

「殺さない限りでなら、この子好きに使っていいよ……あぁでもショック死しかねないから怪我もさせないでよ?」

 

「わ、わかってますよ……」

 

「っ……」

 

 男達は媚びへつらうような笑みを浮かべて、同時に恐怖を抱いていた。目の前の女は、自分たちを見ているにも関わらず一切の感情を感じさせないのだ。恐れも、蔑みも、照れも、怒りも悲しみも楽しさも嬉しさも……それ以外の感情全てを含めても、彼女が何を考えているかわからないのだ。

 

「……さて、私は戻るよ」

 

「……戻るって、どこに?」

 

「日本」

 

 それ以上、男達は何も聞くことは無かった。女達もまた、同様である。ただ、一つ言えることは……彼女が現れたことにより待街一つの人間全てが、そのまともさを壊されて善性を壊されたということだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side色違い

 

「……新しく得たコアは3つ目か」

 

 んー……コアの数自体は多分IS史上最多だと思う。とは言っても、ナノマシンだった頃の体を維持するために、もう1人の私からサクリファイス以外のコアを奪っだけなんだけど。

 だからそれを含めたら……8個? ちょっと詳しい数が覚えきれてないけど……まぁいいか別に。

 

「……この力で……」

 

 復讐は果たしている最中だ。私の復讐は永遠に終わらない。終わるとしたら、篠ノ之束が世界から見向きもされなくなった時だ。それは彼女の寿命が尽きるまでではない。

 彼女が世界に飽きられるまでが、私の復讐だ。だから、今はその復讐の最中なのだ。世界から見捨てられて、道具のように使われて、世界にいる『可哀想な人』という立場まで落とす。それが、殺すよりも最も残酷な復讐の仕方だと思う。

 だから、私はこのままこの体を使ってるわけにはいかないのだ。だって、これは一時的に借りてるだけなんだから。

 

「……けど、その為には邪魔がいる」

 

 世界の片隅でもやっておけば、私の復讐は完成する。だが、多分……世界の片隅でも片隅でやっていても邪魔はされる。誰がやるかって? 決まってる、織斑一夏だ。

 世界で生まれた化け物、織斑千冬という存在……それに対する劣化型、力もなく知能もなくただその性格と考え方でしか誰かの助けになれない()()

 

「だから嫌いなんだよ……力もないのに、特定の誰かじゃない人物を助けになろうとして、実際に力をつけて……誰かの助けになろうとしているのが……」

 

 あいつを見ていると……力もないのに、特定の人物を助けようとして……助けられなくて……惨めに散っていたやつを思い出す。世界に八つ当たりして、この世界を作りあげたやつに八つ当たりをして、その八つ当たりが出来てしまってるやつのことを思い出す。

 

「織斑一夏……ついでにお前も幼馴染と一緒に落としてやるからな……」

 

 主人公は主人公らしく……死んでくれ。私はそう思うだけだった。そうだ、何度も言っているが……言い訳を何度も言うが……私は織斑一夏が嫌いなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 世界で生まれたヒーロー、織斑千冬という存在……それすらも凌駕するほどの善人ぶり、力もなく知能もなくただその性格と考え方でしか誰かの助けになれない()()()

 織斑一夏は、そんな人だ。だからこそ……私は彼を守ってやりたいと思っていた。私のこの思いは届かないのかもしれない。届かないからこそ……

 

「織斑君」

 

「……鬼村?」

 

「……私と、一緒に来て欲しいの」

 

 私は、彼を誘った。傍から見たらデートのお誘いに見えるかもしれない。けど、私の真面目な表情を見て織斑君と……彼の周りにいる女の子達は私のことを否定しなかった。

 

「……2人きりで、出かけるのか?」

 

「……うん、出来れば二人がいいかなって」

 

「……そうか、一夏……鬼村に怪我させるなよ?」

 

 篠ノ之さんは私の心配をしてくれる。織斑君はそんな篠ノ之さんに少し可笑しそうに微笑んでいた。アイリスちゃんは、私の傍に寄って、ビシッと指をさす。

 

「わかっておるな! こちらに黙って一夏と勝手な事するでないぞ!」

 

「アイリスちゃんに言われたくないなぁ……」

 

 少し苦笑しながらも、私はアイリスちゃんの頭を撫でる。少し気持ちよさそうな顔をしているアイリスちゃんが、可愛くてしょうがない。妹がいたらこんな気分なのだろうか。

 

「……それで? どこに向かうんだ?」

 

「……私の、家……私が私だった……時の家」

 

 多分、私は何かを知らないといけないんだ。そう思って……私は調べた。私の家を。あの時の家族……全く思い出せないけど……私は、思い出さないといけないのだろう。全てを。全部彼女(以前の私)のせいにしたらいけないんだと思う。

 だから……私は……決着をつけないといけない。過去の私と、今の自分のために。



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少女帰宅

 私の家は、本当に普通の家でした。二階建て一軒家、両親は健在で……私という存在と私の兄という存在の二つが欠け落ちていることを除いては、本当にただの家でした。

 

「……ここが?」

 

「……うん、私の家……みたい」

 

 ここの家は、更識さんが調べてくれました。私から抜け落ちた記憶……それを少しでも埋めるために調べてもらったんですが、ここまで来ても私の記憶は全く蘇ることはありませんでした。

 

「……家族に会うか?」

 

「……」

 

 

 怖い、はっきり私はそう感じてました。だって、私は両親からしてみれば死んだ扱い……それ以上に、この体を見せたくないというのが現状でした。

 けれど、その怖さを乗りきってでも……私はここの扉を叩いて通らないといけない……そう感じたんです。

 

「……会います、じゃないと来た意味がないから」

 

「……わかった、俺はここにいるから何かあったら呼んでくれよ」

 

 織斑君が私のために、一緒に来てくれました。こんな私でも優しくしてくれる織斑君……私は彼から勇気を貰って……インターホンを鳴らしました。

 

「……」

 

 しばらくしてから、ゆっくりと目の前の扉が開かれました。そこから、オドオドした様子で……女性が1人扉から出てきました。キョロキョロと辺りを見渡してから……私の方を見て━━━

 

「……貴方……■■……?」

 

「……えっ、と……ごめんなさい今なんて━━━」

 

「■■!!」

 

 聞き取れない。多分私の名前を……本名を発してくれているんだろうけど……それが妙に聞き取れない。まるで、そこだけを私の脳が拒否しているかのように……私はそれを聞き取れない。

 けど、女性は私に飛びつくように抱きつきながら……わんわんと泣き始めました。

 

「よかった……生きてたのね、生きてたのね……!」

 

 ちらりと、私はせめて苗字だけでも覚えていこうと表札の方に目線を向ける。聞き取れなくても、苗字なら……視覚ならと思ってそれに目を向けました。

 

『■■多恵/圭吾/■■』

 

 苗字すら見ることができない。母親であろう女性の名前、父親であろう男性の名前……その2つは認識できるにもかかわらず、私は自分の苗字と名前を全く認識できなくなっていた。

 

「……鬼村……?」

 

 私の違和感に、織斑君が気づいたようです。けれど、私は私の違和感を止めることが出来ない。女性に対して懐かしさがあり、涙もあふれてきそうなのに……この虚無感が私を現実へと引き戻して……絶望へとたたき落としているような、そんな気しかしないのです。

 

「……上がっていきなさい、そこの……織斑君だったわよね? 一緒にどうぞ」

 

「あ、はい……って俺の名前……」

 

「ふふ、世界で唯一ISを使える男子ってテレビで散々流されてるもの……嫌でも覚えるわ」

 

 私と織斑君はこうして、私の家に招かれることとなったのでした。けれど、多分……私は私の部屋をみても思い出すことは何もないだろうと感じていた。一体何が原因で、私の記憶はここまで無くなっているのか……一体どうしたら記憶は戻るのか……それさえ分からないままに……私は家に上がっていくのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここが貴方の部屋だった場所よ、当時のままにしてあるから……」

 

 そう言って、私は私の部屋に招かれました。私が記憶喪失であることは、既に伝えています。けれど、それでも私の記憶は目覚めることはありませんでした。

 

「……鬼村……」

 

「……いえ、大丈夫です……」

 

「……本当に、思い出せないの?」

 

「……ごめんなさい」

 

 本当は、自分がここの家の娘じゃないのではないか。ここまで親密な場所なのにも関わらず、一切の記憶を思い出せないのはそういうことではないのだろうか。

 私はそう感じてしまうほどに、ショックを受けてました。織斑君も母親である目の前の女性も……見るからにショックを受けてました。ここまでやって思い出せない、その結果がこの状況でした。私は嫌な気分に苛まれながらも、それ以上に母親が嫌な思いをしているのだと考えてすぐにそれを頭から無くしました。

 

「……ごめんなさい、ここまでしてくれたのに」

 

「いいのよ……貴方は記憶が無くなっても私たちの娘なんだから」

 

「……? あの、この写真は……」

 

 そう言って私が取った写真は、小さい頃の私であろう少女と……少し年上の男性……これが兄なのだろうと思われる男子の写真でした。

 その写真を見て……何か、心にモヤっとしたものが私の中に生まれていました。

 

「……あなたのお兄ちゃんの、写真よ……あの子は……とてもいい子だったのに……う、うぅ……!」

 

 女性は、涙を流し始めました。自分の息子が死んだ時のことを思い出したのでしょうか……他人事のように語れてしまう私は、まだ記憶が戻る気配がないからそう言えちゃうのでしょう。

 

「……1つ、いいですか?」

 

「……何、かしら?」

 

「兄の……通っていた……会社に連れて行って貰えますか?」

 

「……ごめんなさい、連れて行けないの……どうしても行きたいなら……地図を送るわ」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 マップのデータを貰って、私はそこに行く覚悟を決めました。記憶が戻らないならせめて……私が、過去の私が何をしようとしたのかを確認しなければならないと思ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが……」

 

「……兄の、会社だったみたいです」

 

 特別に許可を貰って、私は屋上まで登りました。まるでその屋上には何も無かったかのように……見事に何もありませんでした。あるものと言えば、せいぜい落ちないようにする柵と貯水槽位のものでした。

 

「……」

 

「……鬼村、何か思い出せそうか?」

 

「……私は……」

 

 心の中のモヤモヤが、段々と強くなっていきました。何か、思い出せそうで……思い出せなさそうで……そんなもやもやを感じながらも、私はゆっくりとした足取りで柵に向かって歩いていきました。

 そして、その柵に手をかけて……思いっきり力を込めて柵を押します。

 

「ふんっ……!」

 

「鬼村……」

 

「……繋ぎ目もない、けど簡単に外れるようなもろさでも無い。兄が死んでから……すぐに取り換えたみたいだね」

 

「……」

 

 悲しくはなかった。だって、危ないことが起こったのならそれを防ぐために手を尽くすのは当たり前の話だ。一年以上経過していて何も手を出していなかったら、それこそ変な話だ。

 

「……帰ろっか、織斑君」

 

「あぁ……ん?」

 

 ふと、織斑君が屋上から建物内に繋がる扉に目を向けていました。私もその扉に目を向けてから、ようやく気づきました。中から誰かが歩いてきているようで、足音が段々と近づいていました。しかし、別に何か怪しい時間でもないのでさっさと抜けてしまえば多少気にはされるでしょうが、それだけで済むでしょう。

 私はそう思っていたので、一旦階段を登ってきた人たちを通してから戻るつもりでした。そして、その人たちが扉を開けた瞬間━━━

 

「……げっ、何か気持ち悪い女がいる……」

 

「うわぁ……しかも織斑君と一緒とかまじ有り得ねぇ……」

 

 2人の女性が中から現れました。しかしまた……随分と、私のことをコケにしました。初対面の人間のそこまで言えるなんて、随分と失礼な人だと思いましたが……挑発に乗って関わる訳にも行かないので何も言わずにそのままスルーする。

 

「つーか、あの女どっかで見たことが……」

 

「あ、会社のミーティングで出てた女じゃない?」

 

「……?」

 

 一体なんの話をしているのか私は気になりましたが、そのまま無視して屋上から建物内に戻ろうと━━━

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ━━━無視するわけにはいかなくなりました。私は彼女達に詰め寄って、話を聞こうとして向きを180°を変換してそのまま向かっていきました。

 

「……あの」

 

「何? あたしらあんたに用なんてないんだけど?」

 

 ……随分と、私が嫌われているものだと思いました。ここまで嫌われているのなら、もういっその事清々しさすら感じるほどです。でも、私のこの人達はおそらく嫌いなタイプの人種でしょう。

 

「……私に何か言いたいことがあるのなら、言ってください」

 

「……じゃあ、言わせてもらうわ……こういう事よ!!」

 

 そう言った瞬間に、わたしはビンタされていました。なぜ私がビンタされているのか、どうしてビンタをしたのか。その2つも気になるところですが、今私が1番気にしてるのは……何故ここまで私のことを嫌いでいられるのか、ということでした。

 

「鬼村!!」

 

「あんたのせいで私らの会社は評判ガタ落ちよ!! おかげで仕事なんてろくに入ってこなくなっちゃったじゃない!!」

 

「……それが何か?」

 

 織斑君が心配してこちらに駆け寄ってくれました……けど、私はどうやら少しだけ目の前の人達に怒ったようで……イラッとした感情がかなり強くなっていました。

 

「ここと鬼村は関係ないだろ!?」

 

「関係あるわよ!! この女の兄貴が飛び降りなんてするから……お陰で証拠もないのに、私達が犯人みたいに扱われちゃってるのよ!!」

 

 私が体験した事……記憶が無いために伝聞ですが……まず私の兄は飛び降りなんてしていません。結果そのようになっただけで、実際は落とされたというのが正しいという話でした。ですが、目の前の人たちにはそのような事実は関係ないようです。

 

「男の癖に死んでも迷惑かけるなんて……初めから生まれてこなかったらよかったのよ!!」

 

「……おい、あんた━━━」

 

 織斑君が私のために怒ってくれようとしてくれた、その時でした。私たちと言い争っていた女性達の周りに、黒い箱のようなものが一瞬で形成されていきました。

 

「っ!? な、何よこれ!!」

 

「だ、出しなさいよ! だ、誰か! 誰かここから出して!!」

 

「━━━━なら出してあげるよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉がいい放われた瞬間、なにかを潰すような鈍い音が目の前の黒い箱ふたつからそれぞれなりました。そして、同時に先程まで助けて欲しいと騒いでいた中にいる女性二人は……一切何も喋らなくなっていました。

 

「ありゃ、飛び出ずに中でそのまま潰されちゃったか」

 

 ……声の主は、どこかで聞き覚えのある声でした。しかし、ここまで常軌を逸した行動は、目的も無しではさすがに彼女も行わないでしょう。

 

「……誰だ!!」

 

「……この姿を見て、一瞬で私が誰かを見破れたなら……ご褒美に肉奴隷でもなんでもなってあげよう、篠ノ之束が」

 

 突如目の前の空間から篠ノ之束博士……の髪を染めたような見た目をした女性が現れました。声も姿も完全に篠ノ之束博士そのものですが、その身に纏う雰囲気が明らかに『篠ノ之束博士じゃない』と警告を慣らしていました。

 

「……貴方は……」

 

「いやぁ、こうして顔を合わせると……ホント気の抜けた顔してるんだね()()()

 

「私……?」

 

「お前……まさか……! 鬼村か! 記憶を失う前の……鬼村五十冬か!?」

 

「ふふん、正解だよ」

 

 自慢げに指をさす目の前の女性……今起こったことも含めて……少しばかり、面倒なことが起きそうな予感が私の中でビンビンになっていました。



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邂逅回想

「……お前、鬼村……前の鬼村だな」

 

「へぇ、分かるもんなんだ? 篠ノ之束みたいな体してるのに」

 

「……束さんはどうした」

 

「んー……今何回目だろう? とりあえず死ぬまで犯して死んだらコンテニューさせてまた死ぬまで犯してコンテニューさせて犯して死んでコンテニューさせて犯して死んでコンテニューさせて犯して死んでコンテニューさせて犯して死んでコンテニューさせて犯して死んでコンテニューさせて犯して死んでコンテニューさせて……そろそろコンテニュー回数がすごい数になってそうだね」

 

「……束さんはどこにいる!!」

 

「ここ、私の……って言ってもわかんないか。カリオストロのコアの中、ブラックボックスにその精神をデータ化して入れてるんだ」

 

「なんで精神を……?」

 

 織斑一夏が首を傾げる。私の言っていることは理解できている様だが、なぜそんなことをしているのかが理解できないのだろう。だって、私はあれだけ篠ノ之束を憎んでいたのだから。

 

「簡単に死んだら終わりじゃんか……ちなみに今719,027,496,000回死んでるよ?」

 

 毎秒365倍になってるから、それなりに死んでるな……1秒約6分まで増えてる計算になる。それでも結構な回数死んでるあたり相当過酷なのだろう、設定しているのは私だが。

 

「……終わらせるつもりは無いのか?」

 

「こんな世界は終わらせる、けど篠ノ之束は簡単にはおわらせない。何がなんでも生き長らえさせるし、何がなんでも生き残らせる。絶対に死なせない……精神を壊させる気もない」

 

「……何でだ、あれだけ束さんを恨んでたお前が……どうしてお前が言っていた束さんのように、人を弄んでるんだ」

 

「……何でだろうね?」

 

「……え?」

 

「そもそも私は、篠ノ之束に復讐すること以外は結構どうでもよかったんだよ。ただ、ISを使う女……じゃないな……ISを盾にして好き放題している女が嫌いなだけで……他はどうでもよかったんだよ」

 

「……なら、余計にわからなくなる。鈴、楯無さん、ラウラ、シャルロット、千冬姉、山田先生、セシリア……お前の復讐に今あげた人物は関係あったのか?」

 

 ……怒っているのだろうか? 私の復讐に、確かに全く関係の無い人物達を巻き込んだことに。しかし、今更そんなことを言われたところでどうしようもない。私が悪いのは確かにそうだが、だが邪魔だったのだからしょうがない。

 

「んー、まぁ直接的な関係はないよ」

 

「だったら、なんで……!」

 

「簡単な事だけど? 邪魔だったから」

 

「……それだけの、理由で……!?」

 

 実際そうだ、専用機持ちがいるってだけで邪魔になる。それが味方になってくれる人物ならともかく、敵にしかなりえない人物を放っておく必要は無い。

 ほとんど同じ理由で教師である織斑千冬と山田真耶も、邪魔だったから排除した迄である。

 

「……復讐をするのは勝手だ、だがそれに他の人を巻き込んでいいと思ってるのか!?」

 

「敵なら排除する、味方なら守る。それだけで良くない?」

 

 と言ったところでこいつは理解できないだろう。こいつが私の価値観を理解できない様に、私もこいつの価値観を理解できないし……したくもない。

 

「……ここで止める」

 

「ここ市街地だけど?」

 

「お前を放っておく理由にはならない、テロリスト以前に……お前の考えが危険すぎる」

 

「……だってさ、あんたはどうするの? 『鬼村五十冬』」

 

 ここで私は、じっと私たちの会話を見守っていた女に声をかける。あんたも会話に入らないと置いていかれるよ? っていう私なりのお節介である。

 

「……織斑君、ここで戦うのはやめよう?」

 

「なんで……」

 

「多分……ここで戦ってたら……この人は……周りに被害をもたらしていく。多分、必要以上に被害を拡大させていく」

 

 まぁ煽るつもりでもしかしたら1人2人くらい殺ってたかもしれない。まぁそれ以上にこいつか白式は止めないとまずいのだが。私以前に、世界のISの敵になりかねない。

 

「私は別に戦ってもいいんだよ? だって、そっちにデメリットはあっても、私には戦うことに対するデメリットなんてないんだから」

 

「っ……」

 

 さて、この挑発……織斑一夏は乗るのか乗らないのか。どっちだろうね? どっちにしても、私はいずれこいつを……白式を壊さなければなら無いんだから。

 

「……俺は━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちぇー、結局戦えなかった」

 

 結局、織斑一夏達は私と戦うことは無かった。あちらが戦いを拒否したのだ。勿論、『俺たちが争う理由なんてない!』なんて、漫画の主人公みたいな青臭い理由じゃなくて、ここが市街地だからという理由だ。

 私が暴れているのならともかく、暴れてない私に襲いかかるのは出来ない&してはいけないことになるらしい。ルールに縛られてるってめんどくさいねほんとね。

 

「……ま、確かに私は『暴れる』気は無かったけど」

 

 今ここで癇癪を起こした子供みたいに暴れるでもなく、かと言ってなにかの任務で破壊工作をする訳でもない。私がここに来たのはただの偶然、そして進化したカリオストロでやっておきたいことがあった……だけである。

 ちなみに、そのやりたいことは既に終わらせている。あとは帰るだけである。

 

「〜♪」

 

「あ、あの……」

 

「はい?」

 

 そうして戻っている最中、私は社員に声をかけられていた。忘れられているかもしれないが、ここは会社の屋上である。通り抜けて帰るのであれば、当然その会社員とも鉢合わせるのが道理と言えよう。

 

「……課長、見ませんでしたか? それに部長も……」

 

「いやぁ? 私は見てないなぁ」

 

「そ、そうですか……すいません……」

 

「……にしても、この会社随分と人が少ないね?」

 

 私はわざとらしく、新入社員っぽいその女性に対して声をかける。女性も思うところがあるのか、少し俯いて唇を噛んでいた。

 

「……ちょっと前に、嫌な事件があったらしくて……そこから、何故か人が段々と消えていったんです。今残ってる上司はその時の同期の人らしいんですが……」

 

 お、まだ生き残っていたのか。後で消してやろう。……と口が滑ったので真実を話すが、この会社の人が少ない理由は私がこの会社の人間を殺して言ったからだ。当初は全員殺す予定だったのだが、事情があり少しだけ生き残らせてしまったのだ。だが、それも今日で終わる……なぜなら、このカリオストロならば相手を音もなく殺せるのだから。休み以外は……いや、休みの人物もいずれ殺すがとりあえずここの社員を……私の兄が亡くなった後に入ってきた人だけにしておこう。

 

「いやぁ、分からないけどもしかしたらそのうち戻ってくるんじゃないかな?」

 

「だと、いいんですけど……」

 

 心配そうな顔をうかべる女性、よかったね? もしかしたら異例の二階級昇進が味わえるかもしれないぜ。まぁ味わったところで、仕事が出来るかどうかって言われたらまず『出来ない』だろうけどね。

 

「まぁまぁ、分からないけど……きっと元気だろうし、勝手に休んだりしないって」

 

「……あっ! 会社の人じゃないのにごめんなさい……」

 

「いやいや、気にしないで〜」

 

 そうやって私はその女性から離れていく。さて、私が顔を知っている人物が居なくなるまでチャレンジといこうか。この会社にいて私が顔を知っているやつは、全員私の兄を裏切ったクズ共だ。クズがどれだけ死のうが、すべて自業自得だろう。

 

「……社会の雰囲気に負けている時点で、裁判所もダメだよねぇこの理論だと」

 

 別に、女全員殺したいって訳じゃない。でも、ISが流行って世界が女尊男卑になったのだったら、その後に男尊女卑になったとしても文句は言えないはずだ。自分たちの力でもないくせに、やたら威張っているのだから仕方ないだろう。

 

「……ま、私の復讐はこんなもんでいいでしょう」

 

 篠ノ之束とその助手は現在陵辱中、その精神が壊れるまで犯し抜いて、他人に超人じみたところを発揮しづけていた女を男に媚びる奴隷にする。とんでもない落下人生である。

 

「……もっと力つけてから、存分に食らってやらないとね」

 

 悔しいが、私はまだ力を付けきっていない。白式に勝つためには少なくとも最低でも後2つは専用機のISを蓄えないといけない。最低2つだ……その2つも既に見つけている。あの王女と、その付き人……その2つのISを食えればなんとかなるだろう。

 それに、あの王女の故郷の王族のIS……全部食えれば間違いなく高戦力となりえる。まずはそれらを食っていかないといけないだろう。さて、その為には準備を進めていかないとね。これからが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「五十冬は殺すわ」

 

 呟かれた一言。その場に居たのは、フォルテ・サファイアとレイン・ミューゼル……それに言葉を発した張本人であるスコール・ミューゼルの3人だった。

 

「……それは、今の五十冬が危険だからって事だよな?」

 

「……そうね、ある意味『今の』五十冬ね」

 

「なにか含みのある言い方っすね?」

 

 スコールが少しだけパソコンをいじる。今となってはIS学園は既に亡国機業の物も同然である。無論、好き勝手に動かせる訳でもないが……情報はかなりの高頻度でダダ漏れな事は間違いがないだろう。

 

「これ、見てくれる?」

 

「これは……1年の王女様達との試合の映像?」

 

「この時は織斑一夏争奪戦……なんて話が上がってたのは覚えているっすけど……これがどうかしたんすか?」

 

「次にこれを見て頂戴」

 

 スコールが映像を早送りする。そして、あるところで一時停止させる。その一時停止された映像は傍から見たらあまりおかしな所が見受けられない映像である。

 

「……こんなところで止めて、何が気になるんだよ」

 

「……ここ、王女が五十冬に攻撃されているこの時よ……この辺、二人の間に黒いモヤが見えない?」

 

「確かに見えるっすけど……」

 

「……このモヤ、多分……五十冬に関する何かがあるわ」

 

「……なんかおかしくないかい? もし何か関係があるなら、更識簪かマライア辺りから情報が来るだろう。特に、マライアは五十冬が関係するものだったら絶対に見逃すはずがない」

 

「えぇ、私もそう思ってるわ」

 

「……まさか、あの2人私たちを裏切ってるってことっすか?」

 

「可能性としてはあるわ。織斑一夏側についているってことは無いでしょうけど……」

 

 スコールは考え込む。そしてレインとフォルテの2人は互いに顔を見合わせる。フォルテはレインの行くところには絶対に行くし、彼女から何かを命令されたらなんであれこなすつもりだ。そして、レインはスコールからの命令があればすぐにでも動くだろう。

 

「……まぁ、それを確かめるために動いてよさそうって事だな」

 

「えぇ……それに、消えたエムのことも気がかりだわ」

 

「急に連絡つかなくなるんすもんねぇ……」

 

 ため息を着くフォルテ。一先ずエムのことは後回しになるだろう。今まずはやることは……

 

「鬼村五十冬、あいつの排除ってわけだ」

 

「まぁどちらにせよISは回収しないといけないっすからね」

 

 鬼村五十冬、今彼女に……亡国機業からの牙が迫っているのだが……彼女はそれに気づくことは直前までないのであった。



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恋人瓦解

 side? 

 

「……つってもなぁ……」

 

「あのモヤ、あれがあの女に関係することって言われてもよく分かんないっすよね」

 

「鬼村五十冬、あいつが出したんだから当たり前の事っちゃあ当たり前だけど……」

 

「言い方的に記憶を失う前の……って感じっすよね」

 

 フォルテとレインは、現在同室にて話し合っていた。レインの部屋で2人1緒にいるのだが、サファイアが軽食としてサンドイッチを作っていた。流石に部屋ではあまりしっかりとした格好をしないのか、ほぼ下着同然の姿だったが。

 

「……どうするべきっすかねぇ?」

 

「ただ単に『鬼村五十冬』を狙うだけじゃあダメってのはわかるんだけどねぇ」

 

「手詰まりにも程があるというか……もうちょっとヒントらしいヒントが欲しいところっすよね」

 

「……ま、ひとまずはおばさんから言われてる……あの女の排除は確実だな。モヤに関してはまた後でってことでな」

 

「そうっすね、出たら出たで対処したらいいし……出なければ問題なしって事で、放置しておけばいいだけっすもんね」

 

「……」

 

 レインは自分で言っておいてなんだが、悩んでた。ただ今の鬼村五十冬を潰すことが、本当に正しいのかどうかが分からないからだ。藪をつついてなんとやら、何事もなければそれでいいが鬼やら蛇やらを出してしまえば終わりになりかねないのだ。

 

「……とりあえず、行くか」

 

「一応生徒会っすからねぇ……まぁ殺すにしろ、『今のIS学園』のルールに則るにしろ……戦わなければ、ダメっすもんねぇ」

 

「今じゃあ素人同然だが、伊達に改造されてるわけじゃないみたいだしねぇ、狙撃してもいいが……」

 

「まー、多分邪魔されるっすよね」

 

 暗に、マライアの事をサファイアとレインは語っていた。例え仲間であろうとも、五十冬に手をかける相手は皆殺しがモットーと言っても過言ではないからだ。

 

「……って訳で……1番手は行かせてもらうッスよ。新しい武装も試したい所なんで」

 

「お、そういえば届いてたって言ってたねぇ」

 

「活躍にご期待あれ……っすよ」

 

 サファイアは恋人であるレインに向けて、銃を撃つような仕草をする。その愛らしさになにか来るものがあったのか、レインはフォルテをそのままベッドへと押し倒す。

 

「ちょ、ちょっと……?」

 

「いいだろ……? 今から一戦、景気づけってやつさ」

 

「っ……」

 

 恥ずかしそうに顔を背けるサファイア。いつも彼女を見ているはずなのに、体も見ているはずなのに……こういう時に彼女の顔も体も直視できないほどに、サファイアは顔を赤くして熱を持ってしまう。結構ウブな所があるのだろう。

 

「ダメか?」

 

「……いいっ、すよ……」

 

 ボソボソと出た肯定の言葉。フォルテはそのまま、レインと少しの間蜜月を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、新しい武装……『ヨートゥン』の試し打ちさせてもらうスっよ」

 

「……な、なんでこんなことに……?」

 

 一応は、生徒会メンバー同士の対決。ISの再起不能と、モヤが出た時に確認する役目を今回フォルテがになっている形となっている。

 

「避けないと……1発で終わりっすよ」

 

 新武装『ヨートゥン』彼女のISコールドブラッドと相性がいいために、新しく開発された2本1対の武装である。ぱっと見た感じは、少し長めの剣の二刀流……というのが五十冬のイメージだった。

 

「ふっ……!」

 

 両逆手持ちにより、連撃を繰り出していくフォルテ。五十冬はそれを丁寧に避けていく。当たれば終わりと言っていたが、避けられない程でもないために、少しだけ五十冬はヨートゥンに対する警戒を弱めていた。それが、油断となり敗因を生み出す隙となりかねない。

 

「……ここ!」

 

「隙だらけ……っすよ!」

 

「っ!? 変形、して……!」

 

 五十冬が隙を見計らって攻撃しようとした瞬間、フォルテは武器を変形させる。先程まで2本の剣だった物が2丁の銃に変貌していた。そして、間髪入れずにそのまま発砲をする。

 

「くっ……剣が……!」

 

 持っていた武装であるの1つでガードするが、弾が当たった部分に氷が発生して、すぐに武装全体に及んでいく。五十冬は咄嗟に別武装で破壊して爆散させることで、自分が凍結するリスクを少しでも軽減しようとしているのだ。

 

「まさか……銃に変形する剣なんて」

 

「へっへぇん……それだけじゃないっすよ? これだけで終わる新武装なら、ここまで使うのを楽しみにハマってないっすよ」

 

『ヨートゥン』その武装に含まれているのは絶対零度の冷気と、過冷却水である。つまり、相手を完全に凍らせることに特化した冷却武装である。

 その武器は可変武器となっており、まずどちらも短剣と銃の二種類に変形する。だが、それだけでは無い。その変形パターンはさらに存在しているのだ。

 

「さぁ、次っすよ!!」

 

 フォルテは間髪入れずに攻め込んでいく。次に彼女が変形させたのは、短剣同士の束を繋げることで産まれるツインソード。彼女はそれを、まるで扇風機の羽のように回転させていく。無論、刃から吹き出す冷気を五十冬に押し付けるためだ。

 

「ブリザードトルネード! なんちゃってっす!!」

 

「っ……!」

 

 ふざけた言動でわかりにくいが、絶対零度……武器ですら一瞬で凍りつくほどの冷気を、向こうはトルネードの様に出せるのだ。例えISの絶対防御領域でも、気を抜けばお陀仏である。

 しかし、向こうは別に五十冬が死んでも構わないのだ。それに対する抵抗は、彼女達にはないのだから。

 しかし、五十冬はなんとか弧を描くように移動することでそれらを回避し続けていた。

 

「やるっすねぇ? じゃあこんなのはどうっすか!!」

 

 そして、今度は大きな大剣へと変形する。ふたつの刃が左右につながり、大きなひとつの剣として五十冬に立ちはだかる。

 

「こんな離れてる位置で、剣なんて……!」

 

「ところがどっこい!!」

 

 五十冬は、大剣にしたフォルテに対して4連ビームを放つ。本来であれば、彼女の火力があれば当たればここで終わっている。仮に回避しようとしても、このビームの範囲では瞬間加速でも使っても完全回避は難しいだろう。

 だが━━━

 

「ビームって、光と熱の塊ってことを忘れてたらダメっすよ?」

 

「なにを……」

 

 フォルテは剣を振り回していくつもの氷の壁を作り出す。五十冬は一瞬困惑したが、その効果の強さを直ぐに確認することになった。

 まず、五十冬の放ったビームは氷の壁により角度を変えられる。熱で直ぐに氷は溶かされて、その後のビームの軌道は修正されるだろうが……曲げられた分はそうもいかない。反射や屈折等が重なっていき……はなった瞬間のビームが、五十冬に襲いかかっていた。

 

「そんな━━━」

 

 五十冬の攻撃が、五十冬に返ってくる。無論、こんな戦法は連続して使えるものでは無い。フォルテもそれをわかっていた。要するに、ここで終わらせる気しかなかったのだ。

 

「さぁて……これで終わりっすね」

 

「グッ……」

 

 横たわった五十冬。既にISは解除されて、地面に横たわっているだけとなっている。しかし、フォルテは一切の武装を解かずに五十冬に向けて未だ武器を向けていた。

 

「やめろ! 勝負はもう着いただろ!!」

 

「織斑一夏っすか……自分の命がこの女に過去狙われていたのに、良くもまぁ……しかも自分の仲のいい女子たちまで手にかけられておきながら、この女を庇う気っすか?」

 

「その事はもう鬼村は関係ない!!」

 

「……甘いっすねぇ……甘々だ……まぁ、なら殺さないで上げますよ……但し、この学園からは消えてもらう……って事で」

 

「っ……!」

 

 武器を収めるフォルテ。織斑一夏は、グラウンドに突入しようとするが、その行動をした瞬間……自分だけでなく他の……自分を慕う女子達にまで迷惑がかけられることになってしまうのだ。

 

「そうっすねぇ……散々自分がしたことなんだし、世界中のおっさんの肉便器なんてどうっすか?」

 

 ケラケラと笑いながら、フォルテは織斑一夏を挑発する。実際、するのかどうかは彼にはわからない。だが、近いうちにそうなってしまうだろうということは、彼には理解出来る。

 だが、止めてしまえば……全てが終わる。それがわかっているからこそ、彼は止めることが出来なかった。

 

「……止めないんすね? まぁここで止めても、意味がないってことは理解できてるからこそ、って事っすかね」

 

 フォルテはつまらなさそうに、その場を離れていこうとする……その時だった。

 

「っ!?」

 

 フォルテの真横を通り過ぎるかのように、何かが打ち込まれていた。熱源反応一切無し、音もなくましてや周りに誰かがいるわけでもなかった。しかし、現に攻め込まれているのだ。

 

「な、何が……!?」

 

『━━テ、━━ろ━━━』

 

 突然入るノイズ音。だが、その中に聞こえる声をフォルテは確実に知っていた。そう、彼女の恋人であるレインの声だ。だが、レインが何を言っているのかフォルテには通じなかった。

 

「先輩!? 先輩!! どうしたんすか!? っ……一体何が……!」

 

『━━━いやぁ、私に黙ってこういうことしちゃう?』

 

 突如聞こえてくる声。しかし、その声がどこから聞こえて来るものなのかが、全く判別つくことが出来なかった。だが、それ関係なく声は聞こえてくる。

 

『私の体に黙ってそんなことしないで欲しいんだよねぇ 』

 

「体って……まさか、鬼村五十冬!?」

 

『はーいせいかーい、さて……これは2人が勝手にやったこと? それとも、スコールの指示?』

 

「あんたのISを回収するのがあたしらの命じられた仕事! あとついでに、あの時の戦いで出たモヤの調査……その2つっすよ!」

 

 フォルテはようやく理解した。鬼村五十冬は記憶喪失ではなかったこと、鬼村五十冬はどんな理由かは定かではないがふたりいること。そして、あのモヤは鬼村五十冬本人が関係することで間違いないものだと。

 

『モヤ? あぁ、あれね? あれ私なんだよ……って今はどうでもいっか……スコールに繋げてくれない? 勿論メールじゃなくて、電話でのやり取りね』

 

「……なんでそんなことをする必要があるんすか?」

 

『ふーん……まぁいいけどね? 繋げないと、あんたの恋人どうなっても知らないよ?』

 

「なっ!?」

 

 あの時聞こえたレインの声、それは鬼村五十冬に囚われたレイン自身の声だったのだ。それを理解したフォルテは、迷うことなく直ぐにスコールに繋げようと連絡をしようとする。

 だが━━━

 

「っ……! なんで、なんでこんな時に限って……!」

 

『あぁ……ほらスコールって直接の連絡取るの嫌うからね、だって盗聴されてたらいやでしょ?』

 

「お前、そのことがわかってて……!」

 

『ふふ、じゃあ連絡できたらまた言ってね? あぁ、その間に私の体になにか手出したら……恋人の命とかなんか諸々ないと思え』

 

 その言葉を最後にして、以降声は聞こえなくなる。残されたグラウンドには、彼女を奪われて怒り嘆き悲しんでいるフォルテと……気絶している『鬼村五十冬』の姿があったのだった。




ヨートゥンをどっかで出したような気がするので、もし別の話で同じ名前あったら名前変えます


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死亡調教

 side? 

 

「……こっちに手を出したら、本格的に裏切り者扱いになっちまうぞ?」

 

「いやいや、私の体勝手に狙われたら堪らないんですけど?」

 

 とある部屋、気づいたらレインはこの部屋で拘束されていた。全裸に剥かれているが、女同士恥ずかしいこともなければ……好きでもないやつに裸を見られてもなんとも思わない。

 

「……体、ねぇ? そのからだは今現在、性格が全く違うように動いてるけど……多重人格だったのかい」

 

「結果そうなってただけであって、私自身自分が多重人格だったなんて初めて知ったよ……だからどっちが本当と私かわかったもんじゃない」

 

「ハッ、妹がこんなことするアホだったって知ったらお前の兄貴はさぞかしガッカリするだろうから、お前の方があとから生まれた人格じゃないのかい」

 

「……んー、あんまり寿命減らすようなこと言わない方がいいと思うよ?」

 

 クルクルと、どこから取り出したのか中身の入った注射器をペン回しのように回しながら、その針を目の前の女はレインに向けていた。

 

「何だ、毒かい?」

 

「ある意味では毒だね、ある意味では……ね」

 

「ふん……何をされたって……っ!?」

 

 向けたかと思えば、なんの躊躇もなく目の前の女はレインに注射を打った。少しの痛みがあったが、それ以上に何を打ち込まれたのかによる不安がレインの心を掻き乱していた。

 

「……何を、打ったんだ?」

 

「言ったでしょ? ある意味では毒だねってまぁ、死にはしないと思うよ多分……多分ね?」

 

「……ぐっ!?」

 

 少ししてから、レインの頭が割れるように痛くなる。そして、同時に彼女の体もまるで燃えているかのように熱くなっていく。だが、熱くなっていく中でその意識は研ぎ澄まされていくかのように、冷静になっていく。

 

「あ、が……!?」

 

「いやぁ、苦労したよ……この体篠ノ之束の物なんだけどさ。何がすごいってこの体薬が効かないのなんのって。折角だからって事で、予備として篠ノ之束が作ってた体で人体実験してみたんだよ」

 

「ぐ、ぁ……!」

 

「まぁ本当に薬が効かないかわかんないよね、だから私のカリオストロの力を応用して、適当な意識を体に埋め込んでは実験を続けた……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ……!」

 

「こうして完成したのが、篠ノ之束の体でも効果の現れる薬って訳。で、今あんたに打ったのがそれ。まぁ薬の効かない篠ノ之束の体でも効くくらい、というか反応が出るくらいのものを常人が打たれたら……そりゃあ、廃人になっちゃうよね」

 

「っ……」

 

「……と話してる間に、もうダメになっちゃったか。やっぱり、効果強すぎると駄目だなぁ━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━はっ!?」

 

 気がつくと、レインは全裸に剥かれてとある部屋にいた。見覚えのあるその部屋は、先程まで彼女がいたと思われる部屋そっくり……いや、瓜二つだった。

 

「……あれ? どしたの? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる女に対し、レインは冷静に頭をまとめようとした。だが、今起こっている事態はそう簡単に理解できるものでは無いのだ。

 

「……さて、あんまり寿命減らすようなこと言わない方がいいと思うんだけど……どうする?」

 

 クルクルと注射器を回す目の前の女。レインは先程の鮮明な記憶を思い出して、身震いをしていた。同じことを繰り返せば、また同じことが繰り返される……と。

 

「……わかった、死にたかないからね」

 

「それで宜しい、さて……そうなったらまずあんたを調教してやらないとね」

 

「……調教? また変な事言うね、奴隷にでもしようってか?」

 

「半分当たり半分正解……かな?」

 

「……?」

 

「とりあえず……えいっ」

 

「がっ!?」

 

 突き刺される注射器、レインの頭に先程の記憶が鮮明に蘇る。このままでは、自分は薬によって殺される。今度こそ本格的に死んでしまう。その恐怖の中、彼女が最後に思い描いたのは……恋人であるフォルテ・サファイアの顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━っ!?」

 

「何? どうしたの? なんか2回死んで、自分は本当に生きているのか疑わしく思えてきたみたいな顔してるけど?」

 

 注射器を回す目の前の女は、ニヤニヤと笑いながらレインを眺めていた。このあからさまなまでの異常事態に、レインは恐怖を覚え始める。自分は確実に死んでいる……のにも関わらず生きている。死んだ、という認識があるのも変な話だが……恐ろしく熱くなっていく途中で、糸が切れたかのように一瞬で冷たくなるあの感覚は、形容できない程の恐怖があった。

 

「……さて、寿命減らすようなことは言わない方がいいよ?」

 

「あ、あんた何をした……!?」

 

「何をした? 変なこと聞くなぁ、私は『まだ』何もしてないよ」

 

「っ……」

 

 生唾を飲むレイン。これから起こることに……彼女は今以上に更に精神をすり減らしていくことだろう。だが、現実はそれでも彼女を生かすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度目だろう、死ぬのは。薬を打たれ続けて、打たれる度に死んだ。途中で、あまりの今日ふと不安で舌を噛み切って何度か死んだ。だが、それでも生きていた。それが余計に腹立たしかった。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

「何何どうしたよ? まるで何回も自殺チャレンジしてるのにも関わらず、全然死ねないゾンビヒーローみたいな顔してるよ?」

 

「う、うるせぇ!!」

 

「ハイプスッ」

 

「がっ……」

 

 再び打ち込まれる注射器。その行動を繰り返していくほどに、レインは本能的に学んでいく。『目の前の女』には、『鬼村五十冬』には逆らってはいけないのだと。

 そうして、死に続けた結果……レインは、『ちゃんと正しい選択を取れるようになっていた』

 

「……ん? 今なんて?」

 

「た、頼む……なんでもするから……薬だけはやめて……」

 

「何でもするって?」

 

「あ、あぁ……」

 

「じゃあまずは言葉遣いから治してみようか。一人称は私、しゃべり方は丁寧なお嬢様、けれど私の言うことには絶対服従のメイド、ちゃんと私には敬語使ってね?」

 

「わ、分かった……じゃない……わかりまし、た……」

 

 ここで反論すると、薬を打たれる。もはや何度も経験したおかげで、最適な正当をレインは選べるようになっていた。そして、選んだ先に何があっても絶対後悔はできなかった。

 

「うん、いいね……じゃあ次は……この服に着替えてもらおうか」

 

 次に出されたのは、メイド服だった。しかし、その布面積はとても小さく、スカートはパンツはほぼ確実に見える上に……ガーターベルトを確実に着用しないといけなかった。

 

「……」

 

 レインは手渡されてすぐに着替え始める。普段から半裸に近いような格好になっているので、このような格好をすること自体は彼女はあまり気にしていない。だが、見世物のような格好になるのは少しばかり気恥ずかしかった。

 

「あぁ、そう言えば忘れてるものがあったよ」

 

「……忘れてる、物?」

 

「これこれ、使い方わかるでしょ?」

 

 女が取り出してきたのは、バイブとアナルビーズ。道具としての知識は勿論あるし、体の経験での話なら1度だけあった。代わりに、フォルテの使用回数がかなり大きいが。

 

「こ、これを入れて……どうするん……どうするのですか?」

 

「んー、どうも? それ付けて電源もオンにしたまま私に奉仕をしてもらおうかと思って」

 

「わ、分かりました……」

 

 着替えてから、レインは言われたとおりにバイブとアナルビーズを受け取ってから、女に向き直る。無論、入った瞬間から電源を入れているのでレインの顔は少し赤くなっていた。

 

「ん……! お、終わっ……終わりまし、た……ん……」

 

「うんうん、上出来上出来」

 

 レインをひざまづかせて、その顎を指で撫でる女。レインはそのようなことをフォルテ以外にされて、内心女に対する愚痴などでいっぱいだったが、それでも従わないといけなかった。

 

「つ、次はどのように……」

 

「そうだなぁ……まずは、私に奉仕してよ」

 

 そう言って女は股を開く。やはり見世物小屋の、それも商品のような感覚になっているのか、レインは少しだけ気恥しそうにした後で股の近くまで顔を寄せて……女の秘裂に舌を這わせていた。

 

「ん……!」

 

「はふ……れほ、んじゅっぷ……」

 

 舐めながら、時折唾液を混ぜていくレイン。流石に恋人と毎日いちゃついているだけはあり、かなり上手だった。女はその旨さに満足しているのか、腑抜けているかのような表情でレインを撫でていた。それに対して、レインは褒められて純粋な気持ちで喜んでいるのか……奉仕してもらっている女には理解できない感情で一心不乱に舐めていた。まるで、今は完全に目の前の女の奴隷になってしまっているかのように丁寧に、丁寧に舐めていた。

 

「いいよ……いいよ……」

 

 レインは、丁寧に……そして気持ちよくさせようとして舐めながらもフォルテの元に帰れるように、考えていた。この女から解放されてフォルテのところに帰れるようになれば、改めてこの女を殺せるようになるのだ。

 

「……」

 

 女は、そんなレインを見て笑みを浮かべるだけだった。それがまるで、自分のことを見透かされているようでとてもじゃないが、レイン自身は屈辱を味わっていた。

 

「屈辱的でしょ、悔しいでしょ、私を殺したいでしょ? だったら……もっと私に媚びを売らないとね……」

 

「っ……」

 

 これでもまだ、耐えられるとレインは耐え忍んでいた。無論、この女に対して恐怖心を抱いていないというのは、嘘になる。恐らく戻った際に自分は完全に心が折れてしまうことも容易に想像ができる。人間というのは、恐怖で支配された後に安心すると……駄目になるのだ。どのような形であれ、ダメになるのだ。

 

「……さ、生きるために……私に奉仕して、私を心から信頼して……ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レインが捕まった!?」

 

「……自分のせいっす」

 

 フォルテは、スコールに報告していた。さらわれたのは自分のせいだと、彼女なりに責任を感じていた。無論、攫われる時に連絡がつかなかったスコールに対して、思うところがない訳では無いが。

 

「……彼女なら、情報を吐くことは無いだろうけど……」

 

「……スコール、何なんすかあの女」

 

「……あの女って、五十冬のことかしら?」

 

「IS学園にいるのは、記憶喪失したものだと思っていた……けど実際は篠ノ之束によく似た姿となって帰ってきている。あんなの、ただの人間じゃないっすよ」

 

「……一応、彼女は元々ただの人間よ」

 

「じゃあ、あの女が鬼村五十冬じゃないと?」

 

「……」

 

「答えるっす、なんでもいい……知らなければ知らない、知っていることがあるのなら……全部話して欲しいっす」

 

 スコールはフォルテに対して、無言を貫いていた。それが、フォルテがスコールに対して不信感を抱くのには十分だった。

 

「もういいっす……一人で、先輩を探しに行くっす」

 

 そう言って、フォルテはスコールから離れていく。離反、とまでは言わないが……おそらくこれ以降スコールの命令をフォルテは聞きやしないだろう。

 

「……これは、終わったわね」

 

 その一言だけを呟いて、スコールも姿をその場から消していた。まるで、舞台から降りる役者のように……他人事のように、その姿を消すのであった。



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久方再開

 side簪

 

 ━━━ほんの少しだけ、時間を戻して話をさせてもらう。それは、まだIS学園で平凡で在り来りな作業を行って行けるくらい平和な……そんな時だった。

 

「……お姉様?」

 

 生徒会室で、仕事をしながらぼーっとするという器用なことをしていたマライア。私はそんなマライアを無視していたけど、突然そんなことを言い始めた。

 

「……どうしたの、急に……」

 

「……今お姉様の気配がした」

 

「……」

 

 正直、今私は『こいつ頭大丈夫か』と思った。突然私たちの元から姿を消した五十冬。正確には、ナノマシンとなった体を手に入れてから……だけど。

 そこから突然姿を消した五十冬、今どこで何をしているのか分からないけど……多分無事でいると思う。

 

「……何言ってるの、急に」

 

「今したもん!! 気配したもん!!」

 

 狼少年の話を、ふと私は思い出していた。嘘をつきすぎて信用されなくなった少年の話だけど……マライアは五十冬が居なくなってから、その影を追うようになっていった。酷い時は抱き枕を五十冬と誤認しては、ISで八つ裂きにするくらいには重症になっていた。

 

「……マライア、いい加減病院行こう?」

 

「そんな目で私を見ないで!!」

 

 そりゃあ見る、と言いたくなる。幻覚幻聴幻視に加えて、軽い鬱病まで発生させられてたらたまったもんじゃない。と、ここまで来てふと思い出した事がある。

 

「五十冬と言えば……先輩方2人が『体』の方に『生徒会』として、戦いを挑みに行ったらしいけど」

 

「はっ!? なんでそれを早く教えてくれなかったの!?」

 

「……だって、自分の危機に五十冬が気づかないわけないでしょ」

 

 その一言で、マライアは私の方をじっと見ていた。何が言いたいのかは分からないけど、何か言いたげなのは理解出来た。

 

「……あの、そうなって黙られると私も反応に困るんだけど」

 

「……いや、さすがにびっくりしただけ」

 

「え、なんで?」

 

「だって……そんな直接的な告白を聞かされることになるとは思ってなかったから……」

 

 ……私は呆れていた。五十冬はただの友達だ、きっとそうだ。傍から見たら、そんな風に……同性同士でもそんなふうに見えるくらいに距離が近かったのかもしれないけど、私はそっちの気はない……はず。

 

「……それで? 五十冬の気配っていうのは……ちょっと待って……」

 

 今、私の耳に爆発音が聞こえたような気がした。しかし、爆発音ということは誰かが攻めてきたことになるけど……一体誰が攻めてきたのか。

 

「……今確か、先輩2人がいるって話だよね?」

 

「……うん」

 

「……行こうか」

 

「だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時は戻っていく。状況を把握、そして理解までした私達二人は生徒会室でどうするかの話し合いを始めようとしていた。

 

「お姉様のところに行く」

 

「……」

 

 マライアの第一声はそれだった。私は、そんなところがマライアらしいと思っていたけど、同時に少し呆れてもいた。決断力がありすぎると言うか……もはや正常な判断力が残っているのか不安になるくらい早かった。

 

「何? 私達二人しかいないのに……それに、私達二人は別に『亡国機業』そのものを信頼してるわけじゃないでしょ?」

 

「……それは、確かにそうだけど」

 

 実際……マライアはとんでもないくらい五十冬に心酔してる。五十冬が裏切ると言ったら、多分それにつられて裏切るくらいするだろう。世界を裏切ったフォルテ・サファイアの様に。

 

「……」

 

 ━━━じゃあ、私は? 私は……五十冬について行く? IS学園にいる? 亡国機業に勤める? いっぱいある中で、私はかなりの宙ぶらりんだ。どうしたらいいのかなんて……全く分からない。

 

「……簪?」

 

「……ごめん、何?」

 

「どうするの? お姉様について行くか、ついて行かないか」

 

「……それもまぁ、大事な事だとは思うけど……それ以上に、今考えないといけないことがある」

 

「考えないといけないこと?」

 

 マライアは、五十冬の気配を感じとったというだけで話を進めている……仮にそれを前提とした上で、それでも尚五十冬に着いていくか着いていかないか……それよりも前に考えることがある。

 

「━━━五十冬、どこにいるの?」

 

「あ━━━」

 

 1番大事な部分、通信なんて通じないだろうしそもそも携帯を持っているかどうかも怪しいから『足』で調べないといけないのに……そもそもの場所が分からなさすぎて、探しようがない……今はそんな状態なのである。

 

「……な、何とかなるよ!」

 

「なんとかなる、でほんとに何とかなるのは……大体本当に何とかなる時だけだから……」

 

「……頭痛くなりそうな文止めてよ……」

 

「情報が少なすぎるから、せめてもうちょっと情報がないと……」

 

「……じゃあ、状況の整理してみよう。もしかしたら何かわかるかもしれないし」

 

 フォルテ・サファイアの話だと、どうやら五十冬は突然現れたみたいだけど……それが本当なら、五十冬……いや、カリオストロはステルス能力を手に入れたことになる。私の知っているカリオストロに、ステルス能力はない。それに近い能力も覚えがない。他のISを奪ったという話だと……近い物だと、一つだけ覚えがある。

 

「……まず、分かってることは……カリオストロには新しくISのコアが追加されてるってこと」

 

「話を聞いてる感じだと……姿をどうにかして隠せるISのコアってこと?」

 

「……それに近いのを、私は一つだけ知ってる」

 

「へ? 何?」

 

「ブルーティアーズを元として生まれたIS……名前はダイブトゥブルー」

 

 このIS……イギリスに行った時にメイドのチェルシーが使っていたISである。空間潜航能力を有していて、その力を応用したらたとえ異空間であってもフォルテ達を認識することは可能である。

 

「……けど、そのISの力を持ってるってことは……」

 

「イギリスを1度経由してる……理由は多分、力をつけるため」

 

「織斑一夏に一回負けちゃってるからね、お姉様」

 

 そう、伊達に今の白式の名前は飾りではないということだ。普通のISとの戦闘では、シールドエネルギーが尽きるか乗ってる人間の命が尽きるかの二択だ。

 けど、今の白式はそれらを凌駕する。全てのISの無力化……それが今の白式の能力。相手を死なせない、自分が死なないために極端に相手を弱体化させるという戦闘を避けるための力。

 

「……勝ちにいかない代わりに、絶対に負けない能力」

 

「……私でも相手するのはきついよ。簪がやってた、ちょっと段差があったらすぐに死んじゃう主人公のゲーム並に難易度高いし」

 

 全く別系統ではあるけど、要するにとんでも難易度ということだけは理解出来る。実際、無茶苦茶な難易度なことだけは確かなのだから。

 

「……それの対策をするために、世界各国のISを集めてる、ってこと? だとすると……もう、やってる事が……」

 

「1人テロリスト、って所だね」

 

 亡国機業とは違う、新たなテロリスト。織斑一夏を殺すためだけに世界をめぐり、織斑一夏を倒すためだけに世界を無茶苦茶にしていく。

 

「……兎も角、私達の前から姿を消した後……そこで何が行われたか……それが理解出来れば私達も動きようがあるんだけど……」

 

「……ちょっと調べて見てもいいかもしれないね」

 

「……となると、最初に行くべきところは……」

 

 五十冬が姿を消した日……その時何があったか、何が行われていたか。何をしようとしていたか……それを、ちゃんと思い出して……調べてやらないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……篝火?」

 

「倉持技研、白式生誕の地とでも言った方がいいかもね」

 

 放課後、私たちはとある場所に来ていた。倉持技研、今も言ったが白式が生まれた場所でもある。

 なぜこんな所に来ているのか、私にはひとつ思い当たる節があるのだ。

 

「それで? どうしてここに来たの?」

 

「マライアはいなかったから分からないけど、イギリスでの作戦の時……ここで作られたある装備のことが少し気になってたの」

 

「ある装備?」

 

「O.V.E.R.S……簡単に言えば、少しのエネルギーもものすごい量のエネルギーに変換する装備」

 

「その能力って……まるで紅椿みたいだね」

 

 既に赤月となって、そしてその姿を消した紅椿。そのワンオフアビリティーは、エネルギーを増やせるという単純明快かつ随分と大きなヒントになるものだった。

 

「そう、そして……前の赤月事件の時に真っ赤な量産型のISがやってきた。まるで、紅椿みたいに真っ赤なISが」

 

「……持って、要するに倉持技研がお姉様の件に1枚噛んでいる可能性があるってこと?」

 

「大まか、その通り。実際にあるのかどうかは分からないけど、可能性がないにしては少し偶然ができてしまっているような気がする」

 

「……けど、それ調べるにしても……」

 

 私たちは周囲を確認する。周囲にあるのはボロボロになった建物と、土地だけである。人気は一切存在しない。まるで、どこかからの襲撃を受けたかのようにボロボロになり、そのまま放置されてしまったかのようである。

 

「……誰もいないみたいだけど?」

 

「……逃げた、にしては……」

 

 誰かに襲撃されたとしたら、それは恐らく篠ノ之束か赤月事件で暴走した篠ノ之箒だろう。しかし、箒であればそのような時間はあったとは思えない。つまり篠ノ之束しか居なくなるが……

 

「……お姉様がここまでやった?」

 

「関係はないとは言っても、流石にここを責めるのは理由が思い当たらない」

 

「……作ろうと思えばいくらでも理由は作れるけど……そうなると、死体がひとつも残っていないのが分からない」

 

「死体処理をした形跡もないみたいだし……」

 

 私たち二人で探索をするけど、一向に証拠は見つからない。証拠どころか手がかりひとつすら掴めやしない。せいぜい分かるのは、ここで誰かが暴れた事と、おそらく死人が誰一人も出ていないことである。

 

「……うーん?」

 

「ボロボロになったここを放棄、篝火ホタルノは一体どこに……」

 

「私たちが来ることを予期……なわけないか」

 

「……でも、完全に情報がなかったわけじゃない……かな」

 

『そのとおーり!!』

 

「「っ!?」」

 

 突然響く声。私達は辺りを見回しながら、ISを纏う。敵が来たのか、はたまた別の何かが来たのか。どちらかは定かではないが、警戒しておくに越したことはないと、すぐに攻撃できるように準備をしておく。

 

『ストップストップ! ほらほら、私だよ!?』

 

「その喋り方……」

 

「お姉様!?」

 

「はーい、どうも私鬼村五十ゆんっ!?」

 

 ひょっこり、とでも擬音がつきそうな登場の仕方をする五十冬を名乗る女性。しかし、その見た目は髪を黒くした篠ノ之束。とりあえず五十冬ではないと即座に判断したので、攻撃を行う。

 

「ストップストップ! 見た目変わってるけど私だから! 鬼村五十冬だから!! 本当に!!」

 

「簪! 間違いなく五十冬お姉様だから攻撃をやめて!!」

 

 ……私は、マライアの言葉に従って攻撃は辞める。けれど警戒は辞めないまま、目の前の五十冬を名乗る女性を観察する。

 

「……まー、簪が警戒するのもわかるし……少しだけ話をしよっか。ほら座って座って」

 

 促されるまま私たちは、床に座り込む。ISを纏ったままだが、警戒しておくに越したことはないと……そのままの状態で、一旦話を聞くことにしたのであった。

 マライアに感謝して欲しいと思う。




諸事情により、不定期が本気で不定期になります


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運命選択

「━━━って訳で、私は無事篠ノ之束に復讐を果たしたのでしたー」

 

「流石お姉様!」

 

「……」

 

 さて、私は簪とマライアの2人に真相……というか私の身の回りで起こったことを話した。マライアはいつもながら私のやること全てをほめてくれるので変わらないが、やはりというかなんというか……簪の方はどうにも疑っているようだった。

 当たり前だ、目の前で篠ノ之束を倒したというのを話されて信じられるわけが無い。篠ノ之束に勝つ、この結果に落ち着くことを1番ありえないと思っていたのは私でもあるんだから。

 

「……ちょっと、信じられない」

 

「だよね、私もそう思うよ」

 

「……勘違いしてる」

 

「……は?」

 

 どうにも、簪は私の思っていることとは別のことを信じられないでいるようだ。いや、この話題で篠ノ之束を倒せたこと以上に信じられない事ってなによ。

 

「……篠ノ之束を倒したことはいい、五十冬がたとえ人間をやめていても、五十冬は五十冬だから人間かどうかはどうでもいい……けど、そこからまだ何かをしようとしていることが、私には信じられない」

 

「……私は元の体に戻りたい、篠ノ之束の意識をこの体に返してぶっ壊れたあの女を見てみたい……これ以上面白いことを確認する必要がある?」

 

「だからといって、何故まだ……被害者を増やすの? 復讐は終わったのに」

 

「……そうだね、篠ノ之束に対する復讐は終わった。だから今やってる事はただの無意味な事だし、はっきり言えば小悪党がやるような事だ」

 

 織斑一夏にも、篠ノ之箒にも、セシリアにも、彼女のメイドのチェルシーにも……そして亡国機業のレインとフォルテにも……今となっては手を出す必要性はない。結果は出ている、結果が出ているのにまだ続けるのは、蛇足に過ぎない。

 

「だったら……」

 

「けどさ、篠ノ之束を倒したからと言って私が今までやってきたことがチャラになるわけないじゃん」

 

「……それはそうだけど……だからって、今以上に周りを巻き込む意味は……」

 

「ないよ、それをいちばん私が理解してる……そもそもこの私の性格は『結果が出てもやり続ける』だからね……お兄ちゃんが殺された時も、殺したヤツらを殺した後に……無意味にその家族だったり全く無関係の人だったりを殺し続けたわけだし」

 

 だから、今更これをやめろと言われてもそれが私なのだからしょうがないとしか言えない。面倒を自分から増やしているのは事実だから、それに対して愚痴は言ってもやらなければしょうがないとは思っている。

 

「……分かってるんだったら、私からはこれ以上何も言うことは無い」

 

「そう? なら、どうするの2人は?」

 

 私の言葉に、簪は完全に黙り込んでいる。マライアの方は、珍しく私の言葉の意味が理解できていないのか、首を傾げていた。マライアの方になにか説明しないといけないって言うのは、中々珍しくて新鮮である。

 

「……どうする、とは?」

 

「これから……亡国機業を裏切って私について行くか、私について行かずに亡国機業にいるか」

 

「……? 私はお姉様について行くので、その結果亡国機業を裏切ることになったとしても……全く問題はありませんけど……?」

 

「あぁ、うんやっぱりマライアはマライアだ」

 

 マライアからしてみたら、私について行くというのは当たり前すぎて理解できなかったのだろう。考えてみたら、マライアが私について行かないというのはありえない話なのだ。それこそ、私が織斑一夏に負けてから自殺しなかった事だけが、例外とも言えるのだ。

 

「……?」

 

「マライアは気にしないで……気にするのは、簪だけだから」

 

「……」

 

 俯いて、下唇を噛み締める簪。まるで出会ったばかりの頃の簪のようだと、私は考えたが……懐かしい気分になった。まだであって1年も経っていないから、懐かしいというのも変な話なのだが。

 

「簪、ほんとにどうするの?」

 

「……亡国機業についた時から、世界を相手にしているって言うのは分かってた。お姉ちゃんのためだけに、亡国機業に手を貸していたけど……それだけでも亡国機業の怖さっていうものはなるべく分かっているつもり」

 

「なら、私について行く?」

 

「私はマライアじゃない、だからこそ言うけど……貴方について行くのは、あまりにもメリットが無さすぎる」

 

 まぁ、確かにその通りだ。まず世界とテロ組織のふたつから追われる。それだけでも十分にきついと言うのに、それに加えて生活水準の圧倒的な低下がある。まず、簪の好きなアニメは二度と見られないと思ってもいいだろう。

 

「アニメ見れなくなるもんね」

 

「……それだけじゃない、逃げ回らないといけないし……まず間違いなく留置所にいる犯罪者よりもまともな飯が食べられなくなる」

 

 確かに。逃げ回っているだけならともかく、確実に指名手配を世界レベルで食らうだろう。このご時世だ、日本だけの指名手配で終わるわけがない。

 そうなると、顔を知られてたら買い物が100%出来なくなる。飯が食べられない、健康的に過ごせない、抑圧されたストレスを解消する手段も限られてくる。

 

「それに、逃げ回っていたらISの補給もメンテナンスも満足にできない」

 

 亡国機業はテロリストたちの集まりとはいえ、かなり大きな組織である。メンテナンスも補給も十分に満足に行えるだろう。だが、小さい……それどころか組織として成り立ってすらいない少なさでは、それさえも満足に行えない。行えないということはどうなるか……

 

「━━━何の策もなしに逃げ回ってても、私達は確実に捕まる」

 

 アイテムを得る手段も、得られるアイテムも……全てが制限されている。満足に行えないどころか、行えない可能性だってある。つまり逃げ回らなければいけないのに、逃げ回ることさえも満足にできない。そんなのは、まず近い将来確実に捕まる。

 

「……だから、私たちにはついていけない?」

 

「……あくまでも、()()()()()()()()()()()()

 

 そう、簪は私達が亡国機業を裏切っても問題が無いような策を考えてくれている。それがどんな方法で、いつ決行するかは分からないけど、それでも私に付いてきてくれるという意思は変わらないようで、少し安心している。

 

「簪には、お姉様が安全に逃げ回れる手段があるって事?」

 

「マライア、一応私達だから」

 

「いいえ! 私はお姉様が逃げ回れればそれでいいと思ってますわ!!」

 

 この子はどうして私のことになると、自分のことを考えなくなっているのか。人助けが好きな性格とかなら、よくある漫画の主人公みたいでいいのだが……実際はただの私大好きなレズビアンってだけなので天と地ほどの差があるのだ。

 

「……あー、それで? 簪には何か考えでもあるの?」

 

「ある……かなり無謀で、アホらしくて、馬鹿げてる方法が」

 

 簪がそこまで言うんだったら、余程簪らしくない作戦なのだろう。とは言っても、私たちは何をするのかすら分からない。頭のいいマライアにも思いつかないことがあるし、マライアで思いつかないことは基本私にも思いつくことがない。

 

「……その方法を説明する前に、少し聞きたいことがあるの」

 

「説明?」

 

「亡国機業に協力してる人達は、どうして協力していると思う?」

 

 テロリストに協力。本来であれば、バレてしまった瞬間に自分にもそのダメージが行く。つまり、かなり危ない橋ということだ。まともな人間なら協力はしないし、通報までする人物もいるだろう。しかし、それでも亡国機業に協力する人間はいる。それは、そんなデメリットよりも大きなメリットが存在しているためである。

 

「……メリットがあるからでしょ? 世界を敵に回すデメリット以上の」

 

「そう、それだけの簡単な話」

 

「……まさか、私達が亡国機業以上にメリットのあるチームだと認識させる?」

 

「そう、たったそれだけ」

 

 マライアがまさか、と言った表情で答えたことがまさかの正解だったようで。たしかに、とんでもなくアホらしくて無謀な事だ。メリットを出すって言うのはかなり難しいと思うんだけど。

 

「……確かに、それくらいしか方法がないと言えばそうだけど……」

 

「……自分で言っておいてなんだけど、こんなものは方法とすら呼べない」

 

 確かに、ただの希望に妄想を組みあわせたかのような、確率がある無い以前の話だ。普通こんなのに乗るヤツはいない。けど、はっきり言ってしまえば……私たちはこれに乗るしかない。

 

「……ま、メリットの提示は簡単に出来ると思うけど」

 

「え、嘘?」

 

「ほんと」

 

 簪は簡単に出来ると言うが、一体何を考えて提示できると考えているのか……私にはこれが分からない。だが、どうやらマライアには理解出来たようで納得してる表情を浮かべていた。

 

「あー……確かに、メリットは簡単に出せるよね」

 

「……?」

 

「……マライア、五十冬が分からなさそうにしてるから教えてあげて」

 

「あぁ、うんぜひ教えて欲しい」

 

 一体何故出来るのか、そこをほんとに簡単に教えて欲しい。マライアは直々に教えられると分かって、とんでもなく嬉しそうだがちゃんと分かりやすく説明して欲しいところである。

 

「……お姉様、お姉様の今のその体は誰のですか?」

 

「え、篠ノ之束のだけど」

 

「どうやって手に入れましたか?」

 

「倒したからだけど?」

 

 なんでそんなわかりきったことを聞くのか、私は少しわからなかった。この問答をして、マライアは少し考えた後に何かを思いついたのか、また私に説明をし始める。

 

「お姉様、世界最高の頭脳を持つ篠ノ之束を倒して……その男ウケしそうな体を自由に使える……って知ったら、世の性欲猿共はどうなると思いますか?」

 

「そりゃあ使いたくなるんじゃないの? ……あ、なるほど?」

 

 ここまでされて、ようやく気がついた。要するに、私達は『篠ノ之束を倒した』という実績と、『篠ノ之束本人』という価値があるのだ。つまり、逆らってはいけないという状態が前者だけで出来上がっている。

 

「要するに、いつもとやることは変わらないわけだ」

 

「そういう事です、女達を売って……それで利益を得る」

 

「五十冬は篠ノ之束と織斑千冬、この2人を倒したって言う実績があるし証明する人もいる」

 

「だから、お姉様は今その少ない情報だけで少なくとも『逆らったらデメリットになる』という状態になっているんです」

 

 理解した理解した。となると、だ……私達がまずやるべきことってきうのはなんだろうか。

 

「とりあえず……篠ノ之束と、織斑千冬……それに適当にあと二〜三人位は献上できるようにしておきましょう」

 

「んー……となると……」

 

 1人は篠ノ之束の助手、もう1人は……今いるしレインでいいかな? となると、ラスト1人は必然的に……フォルテ・サファイア。彼女になるな。

 

「……よし、とりあえずまずはあのひとりを捕まえるとしようか」

 

「了解です!!」

 

 ビシッと敬礼をするマライア。これからまた忙しくなるかと思うと、実に胸が楽しさで張り裂けそうになる……待っててくださいよ、フォルテ先輩。




気づいたら、亡国企業裏切るのが前提となってしまっていた…


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混沌拡大

 side? 

 

「っ……また、繋がらない……」

 

 セシリアは、自分の携帯を握りしめながら不安そうな顔をしていた。その不安は、彼女が1人の時だけに見せる弱っているところであり、鬼村五十冬や織斑一夏などの彼女と親しい人物に話してはいない。

 

「チェルシー……貴方、どこで何をしてますの……?」

 

 チェルシー。セシリアのメイドであり、少し前には『エクスカリバー事件』の中心人物となった女性である。少し前から、彼女との連絡が付かなくなっていた。最初の2日3日こそ、ただ連絡が遅れているだけだと思っていたものの、2週間3週間過ぎても折り返しの連絡すら来ないのは異常だと感じ始めていた。

 

「……無事なら、早く出て……!」

 

 探しに行きたいところだが、最早セシリアは……セシリアどころかIS学園に通う所謂『お嬢様』といった立ち位置の少女達は、IS学園から出ることさえ叶わなくなっていた。

 理由は簡単、IS学園の校則の1つにある『IS学園に通っている間如何なる国の干渉、本人の政治的立場は考慮しない』と、そういったものが国連によって悪質に改変されたからである。

『IS学園に通っている間、如何なる国や地域または本人の政治的立場、身分などを考慮せず場合によっては政府の命令により出動すること』これが新しい校則だった。

 簡単に言えば、IS学園に通っている生徒や教師は全員政府の命令に従わなければならないというものだ。少し前から、政府による干渉が酷くなってきてはいたが、この校則……年を越してしまってから出来たこれにより、さらに悪化していた。

 

「いやっ……行きたくない……!」

 

「国連命令です、行かなければ退学処分……いいですね?」

 

「っ……」

 

「また……ですの……」

 

 国連に従わなければ退学処分。これだけならば、生徒達は喜んでやめていただろう。だが、それを簡単に許すほど国連の黒い部分は許してはくれなかった。

 この校則、改悪&悪用している1部の国連の人間は、更にもうひとつ……この校則からは読み取れないものを付け加えていた。

『テロリストかどうかの調査』である。簡単な話だ、国連の命令に従えない者はテロリストの疑いあり。それにより、音信不通になった生徒は数しれなかった。

 死んだ、とさえ来ない。むしろ、無理やり連れていかれてどこかに消えたというのが、さらに不安と恐怖を煽っていた。

 

「……一応、向かってみましょう」

 

 セシリアは立ち上がる。向かうは生徒会室……既に大半の機能を失っている生徒会役員に対して、物申しに行くのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目っす、私達も忙しいんで」

 

 生徒会室に到着しているセシリア。しかし、部屋の中でフォルテ・サファイアに拒否されていた。明らかに暇そうにしているにも関わらず、『忙しい』と返答されていた。

 

「忙しい? どう見ても、生徒会メンバーはあなただけしか居ないように思えますが?」

 

「……今は、全員学園内の別の場所にいるだけっす」

 

「……そうですの」

 

 少しだけ目を泳がせたフォルテ。その一瞬の隙をセシリアは見逃さなかった。少しだけ見せた隙、それがいつものフォルテの反応ではないとセシリアは感じていた。

 

「さ、早く戻るっすよ。1年生はまだ勉強することが仕事なんすから」

 

「……そうですわね、ではお言葉に甘えて戻らさせてもらいますわ」

 

 今は、ここでフォルテと言い争って問題を悪化させる訳には行かない。この学園内で、何かがひっそりと行われている。それを確かめるために、今は一旦ここからセシリアは引くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━ということがありましたの」

 

「……やっぱり、様子がおかしいみたいだな」

 

 セシリアからの話を聞いて、織斑一夏は納得しつつも新たな疑問点を得ていた。フォルテの様子がおかしいのは何となく感じていたが、生徒会メンバーが彼女を除いて今や全員行方不明という状態になっているのだ。

 

「……IS学園は、どうなってしまうのだろうか……」

 

 現在、第3学期。3年生は卒業し、他の学年は繰り上がり新入生も入ってくるであろう季節が迫ってくる。しかし、今のIS学園にはそういった『普通の学園』らしいことは何一つできやしない状態となっていた。

 選ばれた生徒がどこかに連れ出され、傷物にされて戻ってくる。そんな状態になっていると噂も広まり、新入生も入ってくるかどうか怪しい。そして、反抗した生徒も行方不明。

 

「……生徒会メンバーは、確か学園の業務の都合上政府への呼び出しは免除される筈……」

 

「実際、呼び出されている節はなかった。それに加えて、専用機持ちも呼び出されないようになっているのか……私とセシリアは、未だに呼ばれていない……私はそろそろ、怪しいところだが」

 

「……どうして、こうなってしまったのでしょうか」

 

「……鈴、シャルロット、ラウラ、それに楯無生徒会長……」

 

「……この教室も、随分と人が少なくなったように思えるな」

 

「何人か、呼び出されてました……逆らった人も、恐らくいると思います」

 

 全員の空気が重くなっていた。だが、これを無理に明るくしようにも、どうしても難しいところが出てきてしまうのだ。そして、ここまで話していたところでふとセシリアが辺りを見回す。

 

「……そう言えば、五十冬さんはどちらに……?」

 

「そう言えば……姿が見えないな……」

 

「……何かあったんじゃないのか?」

 

 仮に、政府からの呼び出しがあったとする。これを本人がひた隠しにしていても、学校側からの発表があるため結局バレるため隠す生徒はほとんど居ない。皆、隠しても無駄だと諦めているからだ。

 だからこそ、生徒がいきなり消えるまたは来なくなるということは滅多にない。あるとすれば、それは━━━

 

「……政府からの要望に逆らった、か?」

 

「……鬼村の部屋に行ってみよう」

 

 織斑一夏率いる3人は、一旦鬼村五十冬の部屋に向かうこととなった。授業がもうすぐ始まるが、それ以上に五十冬の安否が気になったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……鬼村! いるのか!?」

 

 部屋をノックする一夏。度重なる生徒の政府からの呼び出しにより、2人部屋であった部屋はもはや殆どが1人の部屋と化している事が多く、鬼村五十冬と同室だった女生徒もまた同じなので五十冬がいるかどうか聞くことは不可能なのだ。

 

「……待て一夏、鍵が開いているぞ」

 

「……慎重に入りましょう」

 

「……あぁ」

 

 そう言いながら、部屋に入る3人。部屋の中は特に荒らされた形跡もなく、また明らかにこの部屋の住人以外が入り込んだ形跡も見当たらない。

 軽くだけそれを確認し、3人はベッドへと向かう。すると、そこに居たのは呻き声を上げてベッドに横たわっている鬼村五十冬本人だった。

 

「っあ……うぅ……!」

 

「鬼村……!? 大丈夫か!?」

 

 何か体に不調が起こっているのかと、一夏は五十冬のデコにまず手を当てていた。熱はなく、まず熱を発するものでは無いことは確認が出来た。

 

「一夏さん、私達で確認しますわ」

 

「同じ女だ、何かあってもわかりやすいだろう」

 

「そうだな……なら、頼む2人とも。俺は先生に報告してくる」

 

「お願い致しますわ」

 

 同じ女である箒とセシリアが、軽く確認だけを取る。そして自分たちでわからない場合は、医務室へと連れていく。その間、無断欠席する訳にも行かないために、一夏が教師へと報告に向かう。そのため一旦一夏だけ教室へと戻り、残りのふたりが五十冬の介抱をすることとなる。

 

「……それにしても、これは……」

 

「五十冬さん……」

 

「うぅ……!」

 

 苦しんでいる五十冬。しかし、そんな状態であっても五十冬の意識は未だ覚めていないのだ。何が起こっているのか……それを彼女の口から聞くことは無い。

 

「……前から思っていたことなんだが……」

 

「……なんですの、今は無駄話をしている暇はないですわよ?」

 

「お前は……今の鬼村と、前の鬼村……()()()()()()()?」

 

 突然の言葉、その言葉の意味が理解できないほどセシリアは頭の回らない少女ではない。疑われているのだ、セシリアが今と過去……どちらの鬼村五十冬の味方なのかと。

 

「……私が、あなた達を裏切ると?」

 

「違う……裏切るとは思っていない。だが、仮に今の鬼村が前の鬼村に戻り私たちの敵に戻った場合……引き金に指をかけられるか?」

 

「……」

 

 殺害することもあるだろう、けれどそこまでいけば一夏達も殺すことは出来ないかもしれない。死線をくぐりぬけているとはいえ、未だ子供の身である彼らに人を殺すのはかなり難しいことだろう。

 だが、武装破壊後に戦闘不能にさせることは出来る。それすらもセシリアは出来ないのではないかと、箒は考えているのだ。

 

「……分からないですわ、そんなことになって……私がどういう行動をとるのかは」

 

「……だったら、私と一夏が戦う。お前に無理をさせたくない」

 

「箒さんも、無茶を言いますのね? 貴方は紅椿を失った……打鉄じゃないと戦えないのに、何を言ってるんですか」

 

「だが……」

 

「現状、IS学園に残された専用機持ちは私と一夏さん……それに生徒会のフォルテ・サファイア……それに、アイリスさんとジブリルさんの5人……その内フォルテ・サファイアは敵側と考えると……実質四人」

 

「……確かに、戦えないなどと言ってる場合ではないのかもしれないが……」

 

 セシリアの言葉に、箒は渋い顔をする。正論だが、セシリアの気持ちを考えて言っているのだ。以前の鬼村五十冬と敵対する、その五十冬のことを少なからず好意的に見ているセシリアの事を、心配しているのだ。

 

「……大丈夫です、私は……私は……」

 

「……無理だと悟ったら、一夏に代わってもらうといい」

 

「箒さん……」

 

「さ、鬼村を運ぼう。異常は簡単に見ても見受けられなかったからな」

 

「……はい」

 

 箒の言葉に従い、優しくゆっくりと五十冬を運んでいく二人。その空気はどこか気まずく、そしてギクシャクしているものであることは間違いが無いのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side五十冬

 

 夢を見ていました。大切な、おそらく私の大切な人であろう男性が死ぬ夢です。それに加えて、その夢はずっと続いていました。死んで視界が真っ暗になったかと思えば、また初めから始まる……それの繰り返しばかりでした。

 

「……なんで、なんでこんな……!」

 

 男の人を殺している、あの女の人達……人1人を殺しているのにも関わらず悪びれず……そして挙句の果てに大した罪にもならないと言う結果に終わりました。

 

「……こんなことって……」

 

 私は悲しさと怒りを覚えました。しかし……直ぐにそれを上回るほどのむなしさに襲われました。復讐をした所で、人は帰ってこない。復讐に費やせば費やすほど、自分の心の空白期間は大きくなってしまう。そう感じてしまったからです。

 もちろん、復讐を遂げてスッキリする人もいると思います。けど私は……

 

「……復讐なんて、遂げたところで……自分が終わらないと、永遠に虚しさを味わうだけじゃない……」

 

 ……復讐を望んでいた私も、そうなのかも知れません。自分が終わりたいがために……そんなことをしているのかもしれません。確定ではないけれど……

 

「……復讐を遂げて……そのあとはどうするつもりなの……?」

 

 考えていたのか居ないのか……私ですらそんなことはわかりません。そんな、自分だも分からないことに悶々としながらも時間はすぎていき……夢からは、覚めるのでした。



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少数進軍

 side■■■■■

 

 とてもとても急な話だけども……何かを潰す感覚、というのは慣れていない限りなかなか忘れられるものでは無い。いや、何かを潰すに限らず……なれない感覚って言うのはあんまり忘れられるものじゃない。

 実際、私は未だに初めて人殺しした時の感覚を覚えてる。けど、2人目は1人目よりも印象に残ってないし、3人目ともなるとさらにない。そして最後に行った殺人は最早何も印象に残っていない。一般人で言うところの、蚊を潰した程度にしかなっていないのだ。

 

「貴様ら……一体どこから入って……!」

 

「はーい、残念ながら死んでもらいマース」

 

「侵入ッ━━━」

 

 通信機器で、私たちのことを知らせようとしたけどそれよりも早くこんがり美味しく焼き上げてやったよ。やっぱり、ISに対して生身の人間の相手は一方的すぎる気がするなぁ。ま、男でISが使えない世界に生まれてしまったのが運の尽きって所かな。

 

「貴様ら! 何が目的だ!!」

 

「んー? なんだと思う?」

 

「喋らないのなら……斬る!!」

 

 私目掛けて特攻するIS。パッと見は見え見えの斬撃だが……と思った矢先、腕のアーマー部分から隠し腕とそれに握られた剣が姿を現す。上からの切り込みが本命と思わせておいて、左右に逃げようとした瞬間左右の刃で切り裂かれる仕組み……という事か。

 

「なら後ろに逃げれば良いだけ━━━」

 

「だと思っているなら大間違いだ!!」

 

 ……とまぁ、簡単にはいかない。剣の刃が変形し……というか2分割され、幅は短くなったものの長さは倍になった。相手を斬るということに関しては、幅なんて全く必要ないのだがらこの初見殺しの武器は思ってた以上に効くことだろう。

 実際、生身の人間なら……耐えられずに死んでいる。ISだからこそ許されている武装……と言っても過言ではないだろう。まぁ、それ以前に……

 

「避ける必要なんて、全くないんだけどね」

 

「えっ……」

 

 結構喧しく戦っていたのだが……不意にカチッという音が響く。そこまで大きい音でもないはずなのだが、それが目立って聞こえるほどに、このタイミングで鳴るのは……色んな意味で気が緩んでしまうだろう。

 因みに、この音が鳴った瞬間私と戦っていたIS……なんか騎士っぽい人は爆発して真っ黒焦げ……にはならずにIS大破と自身の大怪我で済んでいた。火傷してないようでよかったね。

 

「んー、レインから奪ったIS……結構色々武装あるねぇ」

 

 彼女のIS、炎を巧みに使うそれの武装は思ってたより沢山あった。性格上使わなかっただけなのが多かったのかもしれない。因みに、いまさっき使ったのは『直線上にISが通った場合火柱が出てくる』武装である。要するに地雷だ。

 

「さて……行こうか」

 

 そう言って、私は奥へと進んでいく。たどり着いたこの場所、そこから更に進んで……まずは第1歩を踏みしめるための準備を終わらせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まず狙うべきは、ここ」

 

 今から数日前の話。簪ちゃんと私でとある話し合いをしていた。その内容は『3人でも世界を掌握できる方法』である。

 大雑把に言っているが、要するにまずはどこを攻め落とすのが正しいのか……そこさえきちんとしていれば、私たちでもある程度は戦えるのだ。

 

「……え、どこ……?」

 

「……あの王女様の、故郷」

 

 簪ちゃんが気を利かせてくれたのか、国名ではなくアイリスとかいうあの王女様の名前を出してわざわざ教えてくれた。確か、ISの製造に必要な素材が取れるとかなんとかって聞いた覚えがある。

 

「……それで? なんでそこを抑えようと思ったの?」

 

「簡単、資源が取れる国は優先して狙うべきっていうだけ」

 

 ……まぁ、資源が取れる国を狙うというのは二重に私たちにメリットが出てくるためだ。ひとつは自分達で資源の独占が可能ということ。もうひとつは資源の独占を行うことで、他の国が利益を得られないという点で2つ私たちにメリットがあるということになる。

 

「……でもさ、仮に狙うとして……どこ狙うの? そして、いつ?」

 

「……日付は好きにしていい、ただし時間帯は決めさせて欲しい……」

 

「時間帯……?」

 

「これは……初歩の初歩……将を射んとすればまず馬を射よなんて言葉があるけど……そうやってゆっくりしてる時間もタイミングも、今の私たちにはない」

 

「だから……簪ちゃんが決めた時間帯に行こうってこと?」

 

「そういうこと」

 

 要するに、手っ取り早く国を1つ乗っ取った方が早いということである。確かに、言われてみればたしかにその通りである。しかし、そう簡単にうまい事行くなら、誰も苦労はしないのもまた正論である。

 

「……まさかと思うけど、夜に侵入するなんてことないよね……?」

 

「その通り、正解」

 

 本当にそれで大丈夫なのかと思ったが、現状作戦を1番上手く立てられるのは簪ちゃんただ1人である。1人でほとんどのことを任せちゃってることもあり、私たちは簪ちゃんに上手い具合に逆らえないのだ。単純に足向けて寝れないだとかの話になってくるのだが。

 

「……なんで夜?」

 

「……夜は、人間だけがかなり気が抜ける時間帯」

 

「むしろ警戒する時間では? 特に王族ともなれば……」

 

「そう、警戒はする……形だけは」

 

 そう言われて暫し考え込む私。よくよく考えて、今現在世界では戦争は起こっていない。いや、秒読みな気もしないでもないが……少なくとも王族などは警備を厳重にしていたとしても、それを本気で行っている人は少ない……ということだろうか。まぁ、こういう時侵入するのはテロリストくらいなものだし。

 

「それに……狙うメリットが少ないところであれば少ないほど、警戒心も薄くなる」

 

「まぁ、それは確かに……」

 

 極端な話、宝石店が強盗を警戒するために警備を雇うのは理解できることだが、一般家庭が強盗を警戒するために同じことをするのか? という話である。それに、『自分たちのところは大丈夫』という無意識の楽観的なところもあるだろうし。

 そもそも、ISの素材が取れる場所を狙ったところで全く意味が無い。だって、世界で作れる人物がいないんだもの。

 極論、私がこのまま言ったところでなんら問題ないわけだ。『篠ノ之束だよぉ』的な感じで。

 

「それでも……警備が居ないわけじゃないと思うから……少しだけ念を入れる」

 

「少しだけ?」

 

「……世の中には、ISより性能が劣っているものがISより使える時もあるってこと」

 

「ふぅん……で、何使うの?」

 

「ドローン」

 

 確かにISよりマシかもしれないが、見つかったら終わりな上に遠隔操作するんだから結構きついのでは? と思わなくもない。

 しかし、確かにドローンを飛ばすというのは間違いではないと思う。ISだと少なくとも人間より大きなサイズになっちゃうわけだし、場合によっては本当にバレかねないわけだし。

 

「……それで、侵入したところでどうするの? 今更な質問なわけだけどさ。コアの原料がある国を支配したところで、技術力が無かったら全く意味が無い訳だけど?」

 

「……確かに、この国はIS関係の技術力は他の国と大差ない」

 

「それがわかってるなら尚更気になる」

 

「……けど、王族専用のISがあるわけでしょ?」

 

「……あー、なるほど? 実にシンプル」

 

 王族専用IS。アイリス等も、なんだったらあの騎士も使っていたが……どちらも第四世代だった。全員分作っていたのかどうかは不明だが、基準値がそこになっているのは間違いがないだろう。

 

「それに……王族の女性ってだけで値段が付けられるだろうし」

 

「正直そっちがメインと言ってもいい気がするけどね……」

 

「……どっちにしろ、私達が戦うためにはそれくらいしないといけないんだから」

 

 簪の言うことも最もである。つまりは……私は賛成ということになる。そして、心配になるくらいに私に盲目的なマライヤも私が賛成となったら賛成になるだろう。

 

「……んじゃま、やってみますか」

 

「……あとでまた、細かい作戦の方は伝えるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、ここまで進んでこられたわけ」

 

「……まさか、ここまで大胆に攻めておきながら……私たちのところまで侵入してくるなんて」

 

「戦えるのは王族、幾ら兄弟姉妹な王族と言ってもその中の女性しか戦えないんなら意味が無いよね」

 

 進みながら私の邪魔をする人たちをなぎ倒していきながら、私はついに玉座まで辿り着いた。パットだけ見たら私が勇者で向こうが魔王みたいな立ち位置になるだろうけど……実際逆なんだよねぇ。

 

「……なぜ、この国を襲ったのですか」

 

 突然の質問、こちらがいきなり発砲して殺すことも有り得るだろうに、随分と勇気のあるお姫様なことで……その勇気に免じて少しだけお話してあげよう。

 

「んー、私たちが世界と戦うため?」

 

 嘘でもない。でも普通そんなこと言っても誰も信じないだろう。過程で1つの国を責め落とすなんて。

 

「何故世界を敵に回すのですか」

 

「私自身がそうしたいと思ったから」

 

 これも嘘じゃない、私自身とても嘘っぽいと思いながら言ってるけど。

 

「貴方の破滅願望に……世界を巻き込まないで欲しかった」

 

「破滅願望なんてないよ」

 

 私の言葉に相手は目を見開く。当たり前、破滅願望以外に世界を敵に回すようなやつなんてそうそういない。

 

「……では何故?」

 

「一線を超えたやつが、許されようとして戻ることなんて……普通やっちゃあダメなんだよ」

 

「何を……」

 

「だから私は……死ぬまで一線を超え続ける。償いなんてクソ喰らえ、今までの事をやり続ける……その先に何が待っていても……私は止まらない辞める気もない」

 

「っ……!」

 

 私の口角が、どうにも上がっているような感覚だ。多分、笑みを浮かべているんだろうけど……随分と私も吹っ切れたというか……黒くなったというか……おかしくなったというか……

 

「ま……そんなどうでもいいことはいいの。とりあえずさぁ……姉妹全員でかかってきなよ……第4世代数機同時に相手するなんて、なかなかないからさ」

 

 私はわざと挑発する。第4世代を全員この場に集めて……全員まとめてカリオストロの餌にするために。そして、相手も相手で乗らなければならない。

 じゃないと私が止められないって……わかっているんだから




※2020/02/01
タイトル完全に間違えてました、今更直してます。


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国土侵犯

 爆音が夜空に鳴り響く。IS同士の火気のぶつかり合いが、私をより集中させる。何せ多対一……下手な戦法を取れば自分がやられるし、かと言って全力を出したら目の前の女どもが死んでしまう。

 可能な限り殺さない方針なので、できれば殺さないままやっていきたい。文字通り、出来ればの話なのだが。

 

「ま……だからこそこうやって適度に手加減してるんだけど」

 

「くそっ……!? あの侵入者はどこに……!?」

 

 DIVE TO BLUE……蒼に沈むとはよく言ったものである。まぁ夜空なのだからどっちかと言うと暗闇に沈んでるんだけど、そこまで細かいこと言ってたらキリないわ。

 私は姿を隠し、ビットでの波状攻撃をひたすら続けていた。何せこの暗い夜での戦いだ、慣れてなければ……簡単に狩られてしまう。ISにも勿論暗いところでも戦えるように、暗視機能は備わっている。だが、備わっていても戦えるかどうかって言うのは別である。映像が昼と同じ光景のように見せているだけで、実際は真っ暗なのだ。ほんのコンマ01秒未満くらいのズレはある。とりあえずかなりの連続攻撃を仕掛けてやれば、大抵IS側が処理しきれなくなるだろう。

 

「とは言っても、こっちもエネルギー問題とかあるし……適度に撃ち抜いてやらないと」

 

 向こうが波状攻撃で惑わされている間に、こっちも偶に攻撃する。弱い波状攻撃の中に強力な1つの攻撃を混じらせて、無駄に警戒させて無駄に精神的に消耗させてやろう……ということである。

 と、ここまで考えてたのはいいんだけど……

 

「……! そこ!!」

 

「おっと?」

 

 何とか避けたが、何故か私が出た瞬間に狙撃された。ズレこそあるものの、私がいる位置を把握して射撃したのは明白である。探知系でもいるのだろうか? 

 とりあえず、一旦私はすぐさま潜り直す。潜り直すまでに攻撃は来なかった、どうやら連射できる装備でもないようだが……

 

「探知……IS反応を追ったって感じじゃなさそうだけど……」

 

 もしかしたら感知に長けている機体なのかもしれない。反応、そして範囲が他のISよりも高性能で……私が出た瞬間にズドンとねらい打てる……そんなISなのかも。

 

「……となると結構泥沼になりそうだなぁ……」

 

 私は潜っている間は決め手がない、代わりに潜ってればやられることは無い。向こうは私を探せない代わりに、私がどこかから姿を表した瞬間ズドンと狙い撃つことが出来る。

 やっべ、意図せずして泥沼になってしまった……向こうのエネルギー消費量が私より多かったらいいけど……いや絶対ないなぁ……向こうの数が多いのに、こっち私一人だよ? 

 

「そうなると助け呼ばないといけないか……」

 

 ただ、助けを呼ぶにしても一旦出ないといけないから……あー、くそ思いのほか詰んでるな。仕方ない……潜ったまま……近寄るか。さっきは離れてたからギリギリかわせたけど……近づいてたら、バレた瞬間避けれない可能性が遥かに高い。

 ま、それでもジリ貧にさせて負けちゃうよりかマシでしょ……カリオストロの力でエネルギー吸い取ってもいいけど……時間かかるのだけは、あんまりしたくない。ただの戦闘って訳でもないしね。

 

「……んじゃま、行きますか」

 

 そうして、私は向こうに近づくことにした。まぁ、潜ってる間私も正確な向こうの位置が把握出来ないから、最悪目の前に背中向けて出てくるなんてことになりかねないんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side簪

 

「な、なんだお前は!?」

 

「……さぁ、気にしなくていいよ」

 

 打鉄を纏って、私は男性の王族たちの前に立つ。とは言っても、ISを使える王族はみんな見事に引っかかって全員あっち行っちゃったけど。それに、他の……騎士団みたいな人達に関してはただの第三世代型の量産ISであれば私の相手にならない。つまり……チェックメイトだ。

 

「な、何が目的だ……!?」

 

「そうだね……『この国を乗っ取った』って実績かな」

 

「な、なんだと……!? そんな、物のために……?」

 

「私もいらないよ? いるのは……私たちのチームのたった1人だけ」

 

 そんなことをすれば、彼女は世界の敵になる……けど敵になるのが目的。だから……私は彼女のために早くやると決めた。流石に、殺しとかになってくるとマライアと彼女が止めにはいるけど。

 

「……ばかな……そんなこと、なぜする必要が……」

 

「……テロリストになったから、らしいよ?」

 

「なんだと……?」

 

「まぁこれ以上はわかんないかな……じゃあ、死にたくなかったら……あぁいや……どう言うべきかな……」

 

 少し考えて、私は思いついた文章を口に出す。目の前にいる人物達……まぁ王族関係者の誰かなんだろうけど、興味はない。王族関係者で、なおかつ位の高い男……それだけで十分だ。

 

「『王妃と姫達』『自分たちの命』全部捨てたくなかったら、放送して? 『鬼村五十冬に乗っ取られた』って」

 

「……くっ……!」

 

「あ、自殺とかしないでよ? それに、じっくり考えるのは構わないけど……今まさに戦ってる子達が死んじゃうよ? 

 あぁ、それで足りないなら国民も追加しようか? 私のISなら、街なんてすぐに焼ける」

 

 無論、そんなことするつもりは毛頭ない。世界に喧嘩を売るって話だから何を言ってるんだと言うべきなんだけど、いきなりここを不毛な大地に変える程荒らすつもりは無い。

 

「……わかった……」

 

「賢い選択をする人は好きだよ」

 

 打鉄は解除しないが、それでも少しだけあった警戒心を私は薄れさせた。ISが使えない、男達を御するのは容易だ。正義感があれば尚のことである。

 

「じゃあ、早速通信機器の準備をさせてもらうね━━━」

 

「させるか……!」

 

 私がそう言って連絡を取ろうとすると、目の前にいた一人が私目掛けてライフルのようなものを構えて……そして発砲した。唯の銃ならISのシールドにまともなダメージは入らないだろう。

 だが、私のシールドは()()()()()1()/()3()()()()()()()()()()

 

「……何、その武器」

 

「あ、ぐぁ……」

 

 目の前で、私に向けて発砲した男が苦しんでいた。どうやら反動で両腕がイカれたらしく、2本とも変な方向に曲がっていた。私は初見だけど、何の武器だろうか。気になった私は、その武器を拾って確認する。

 

「……IS用装備? いやでも……大きさは生身でも使えるクラス……」

 

 とは言っても反動は抑えきれなかったようで、それが怪我の要因になっているのだけど。随分と無茶な武器が作成されたものである。そりゃあ、本来ISのサポートありきで打つような代物なのに……そんなものを生身で使えばそうなるだろう。

 

「……にしても、こんな武器をよく開発してたね? ただ、こんな自爆武器をただ持ってるわけないよね? 何か、セットで使うようなものがあるんじゃないの?」

 

「ぐっ……それは……」

 

「あぁ……また使われるの面倒だから……次使おうとしたら瞬間的に壊させてもらうから」

 

「っ……専用の、パワードスーツを作っていたのだ……」

 

 なるほど、この国は男でも戦えるようにしていたということか。それがどれだけ脅威なのかは知らないけど、こんな武器を持たせるくらいなのだから、せいぜい固定砲台くらいの役にしか立たないんじゃないだろうか。

 

「……ま、今の武器がかなり面倒っていうのは……わかったかな」

 

「ぐぅ……!」

 

 少なくとも、使えないようにしておくべきか……はたまたそれも材料に使うべきか……マライア達と一旦話をした方がいいかも。とりあえず、ここは占拠したし……連絡を取るとしよう。

 

「……あぁ、もしもし━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side■■■■■

 

「……さーてと」

 

 多分、ある程度はちかづけたと思う。後は野となれ山となれ……運任せの風任せ、さっさと出て倒すとしましょうか。

 私はそれを最後に思考を切り替える。殺すつもりで、殺す気で……ISの現在使える装備と状況を頭の中で整理して、自分の中で最も有効打が高いと思われる戦法で……落とす。

 

「……っ!!」

 

「━━━ここ……!」

 

 出てくると同時に、私に銃口が向けられる。撃たれて当たれば終わり……私が負けると言うだけで、作戦が失敗した訳じゃないけれど……なるべく当たらないに越したことはない。

 

「━━━燃えろ……!」

 

 だから私も、出てきた瞬間に攻撃するつもりだった。どうしても反応はワンテンポ遅れてしまうだろうが、ならそこはもう武器を使うテンポをひとつ早めにしてしまえばいいだけの話である。それくらいしか、対処の仕様がない。

 そして、私たちの攻撃がぶつかる瞬間━━━

 

『━━━城を占拠したけど、どうする? こっち、対IS戦一般兵士用の装備が見つかったんで少し話したいんだけど』

 

 その一言が流れてくる。無論、この場では私にしか聞こえていないが……なるほど、あちらはあちらで上手いこと言ったようだ。けど、今そのタイミングでの報告は……いや、待てよ? 

 

「ぐっ……!」

 

 私の……というか、レインから盗んだISの炎の一撃が相手の一撃の起動を逸らし、何とか耐えることが出来ていた。そして私は、一気に周りを囲まれてしまったが……

 

「……へぇ、あんた達……ISと戦える装備作ってたんだ?」

 

「なっ……!? なぜ、それを……!」

 

「今、私の仲間から連絡あってさぁ……城を占拠したら、意外な反撃にあったって言うから聞いたのよ……そしたら、って事」

 

「くっ……まさか、囮だったなんて……」

 

「いやぁ……昨今IS以上の兵器は出てないけど、ISを倒すことに特化した兵器なら出せないこともないかもだねぇ?」

 

 ISの機動力と防御力、それに反応速度に攻撃力……全部に対応するのは不可能だが、それぞれに対応した兵器を作ろうとするのは……まぁ頑張ればできるだろう。『極論〇〇すればいい』を実行することになるが。

 

「ま、IS対応できる兵器の存在はまた話するとして……どうする? ここで私を倒して仲間迎えに行く?」

 

「っ……それをできる猶予は、無いのだろう」

 

「ま、そういうこと……下手にここで私とバトってたら命も時間もなくなるよ?」

 

「くっ……」

 

 姉妹たちは、そのまま着陸してISを解除する。抵抗しても無駄だってことは分かってくれたようだ。まぁ私はISを解除しないんだけど。

 

「……さて、これからこの国は私たちの国だ……と言っても何もする気は無いよ。ただ、この国は『私1人』で制圧したってことを世界全土に広めたらいいだけだから」

 

「……そんなことをして……世界を敵に回すつもりか?」

 

「敵に回すんだよ……ほら、早く城に戻った戻った」

 

「くっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

 この日、世界のとある国が一日で陥落した。『元亡国機業』を名乗る一人の女性の手によって、その国が落ちたと全世界に流された。ありとあらゆる国がニュースで取り上げ……IS部隊を含めた各国のあらゆる軍隊がその日からその国に対しての救助活動を行うが尽く失敗。

 主犯の女性は、軍を壊滅させる度にこういうのだという。

 

『各国代表のISパイロット並びに、専用機持ちだけで組んだ隊でも組んでこい』

 

 そして、その言伝は……学生である織斑一夏達にも届くのであった。



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全角射撃

「はぁー……はぁー……」

 

 私の目の前で、息を荒らげる女が1人。紫色の髪を持ち、私の知っている中でも随一のスタイルの良さを誇っている女。そう、篠ノ之束が目の前で息を荒らげている。

 

「やんほろー、生きてる? 死んでてもリスタートさせるだけだけどさ……あぁこの場合精神が生きてるかどう買って聞くべきなのかな?」

 

「……は、ははは……久しぶりに話しかけてくれたと思ったら……なんの用、かな……?」

 

 おぉ、まだ精神生きてるんだ。伊達にバケモノじみてないねほんと。こいつ、ほんとに人間なのかなってくらい精神がおかしいんだね。外なる神にでも魅入られてんじゃないのほんと。

 

「いやぁ、一つお話をしようと思って」

 

「……何、かな……」

 

「私に負けてさ、捕まって今の今までずうぅぅぅぅぅ……と……陵辱され続けてきたわけだけどさ……それでも、元の体に戻れたらなんとかなると思ってる?」

 

「……いきなり、なんの話し、かな……ほんとに」

 

「ん? いやぁ、そろそろ決着着けれるしね……死にたいか死にたくないか聞きたくて」

 

「……聞いても、それを叶えはしないだろう? 私の……体を奪っ」

 

 頭の上から鉄骨を落とした。カリオストロ内、死んでもリスタート出来るこいつに遠慮はいらないので、私は思う存分殺すことにしている。

 

「……」

 

「……まさか、喋ってる途中に殺されるなんて思わなかったよ」

 

「そりゃあ、こうやって会話している間にもカリオストロを通じて体を取り戻そうとハッキングしようとしてるんだから……あたりまえだよね」

 

「ありゃ……気づいてた?」

 

「気づいてたよ、だから今殺してハッキングをリセットさせた……まったく、復讐のために精神取り込んだのに……まるでウィルスみたいだ」

 

「言い得て妙だねぇ……世界中から狙われる……テロリスト以上に世界の敵……ウィルスみたいなものになっている君に、そんなことを言われるなんて」

 

 段々と余裕がでてきたようで何より。殺されることも犯されることも慣れてきてるみたいだ。普通、精神が先に摩耗して壊れるはずなのに……慣れの方が先に来るなんてどうかしてるよこの女。

 

「……ま、私の気まぐれが起きたら……ここから出してあげるよ」

 

「……へぇ? 出したら、今度こそ束さんは君を殺しちゃ」

 

 目障りだったので、孫悟空を封印した大きな石みたいなので押し潰した。出しても問題ないようにしとくに決まってるじゃないですかヤダー……なんてね。

 

「……さて、とりあえず戻るか。そろそろ来るだろうし」

 

 カリオストロの中に籠るのも、あと何回できるのやら……ま、気にしないで行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おはよー、なんかあった?」

 

「何も……後因みに、寝始めて1時間も経ってないよ」

 

 傍に居た簪ちゃんに話しかけたけど、パソコンカタカタしながら話された……ちょっと構って欲しさがあったけど、それは置いといて何してんのか聞かないと。

 

「……世界の動向を探ってる」

 

「監視カメラハッキングでもしてんの?」

 

「……ううん、SNSの反応とネットニュース」

 

 まぁハッキングなんてするよりとても安全だけど……それ、噂レベルのことしか分からない気がするけど? と、凡人の私は思う訳でして。実際どうなんですかね。

 

「因みに、どんなこと調べてんの?」

 

「世界が、今回の件でどれだけことを進めれているか……かな」

 

「……実際どうなの?」

 

「ほとんどの国が動いてる。国家代表、候補生までも動かしてる……さすがに今回の件で、色狂いでいる訳にも行かないと思ったみたい」

 

 ちぇー、せっかくエッチなことで世界統一させたと思ったら、今度は私が敵になることで世界が統一されちゃってるわけかぁ。まぁ、良いんだけどさ別に。

 

「にしても……どれだけの大軍勢ですると思う?」

 

「さぁ……国家代表と一言で言っても、候補生まで含めたら全世界で結構な数になると思うよ」

 

「だろうねぇ……専用機持ちが何人いるのかは知らないけど……」

 

「仮に全員専用機を持っていたとしても……大半が素人」

 

 そりゃそうだ。まぁ専用機を持ってる持ってない以前に、候補生の時点で大半が素人みたいなものだろう。一般人よりは知識も経験も、体力も技も……全てがずば抜けているが、基準値を国家代表に絞れば大半が基準値止まりもいい所だろう。

 

「……ただ、数が多いとやはり面倒」

 

「あー、別にいいよ。どうせ私一人で全員相手にするし……本命は1人だから」

 

「……それって、織斑一夏?」

 

「さぁて? どうでしょうねぇ」

 

 含み笑い、意味のありそうでない笑みを浮かべながら私はその場を離れる。小腹が減ったし、軽くご飯でも食べようと思った次第。そんな気分、感覚を覚えてるのだ。

 

「……一人でいるのは、気をつけて」

 

「ん、ありがと」

 

 世界に宣戦布告した以上、1番気をつけなきゃ行けないのはすごく強いヤツが送り込まれてくることより、暗殺が得意なやつが送り込まれてくることである。

 相手が私ならなんら問題ないのだが……簪ちゃんだと、ちょっと考えものである。まぁこの中にいる以上安全だと思うし、私がすることは城の散策程度であるこの体も、刺されたくらいじゃ問題ない人間離れしてる頑丈さしてるし。体は使い勝手いいよね、元々の中身がゴミクズ同然だけど。

 

「……さて、じゃあ出てくるよ」

 

「うん、行ってらっしゃ……あっ……」

 

「ん? どしたの簪ちゃん」

 

「……今日は、ここ星がよく見えるみたいだから……見上げてみてもいいんじゃない? 見晴らしのいい場所で」

 

「……?」

 

 急に景色の話をし始める簪ちゃん。しかし、散歩するのは簪ちゃんも分かってるし、もしかしたらただの善意で言ってくれているのかもしれない。いやまぁ、私達テロリストだから善意を語るのも変な話だけど……しかし、見晴らしのいい場所で空を眺める、か……とりあえず言われた通りにしてみましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見晴らしがいいと言ったら……まぁ城の1番上じゃないかなぁ」

 

 城下を見下ろすと、とても綺麗な景色が広がってる。上と下にまるで星空が広がってるようだ。私もまだまだ感性が生きているようで、この景色を見てとても綺麗だと思えるほどには人間らしさもあるようだ。

 ……っと、今なんか……空が不自然に光ったような……? 

 

「……あぁなるほど、そういう事か」

 

 ISの装備を一部展開、そして不自然に光った場所に向けて即座にレーザーを放つ。何も無い空の空間なら、通常であればそのまま真っ直ぐレーザーはとんでいっただろう。だが、そのレーザーは『何かに反射したかのように角度を変えていた』。

 

「レーザーの反射……こっちからの攻撃を防ぐものじゃなくて……ここまで攻撃を飛ばすための物ね」

 

 どこの国の作戦かは知らないが、超遠距離で尚且つ人民をなるべく巻き込まないための作戦というわけだ。悟られないギリギリの距離に、反射装置を設置したつもりなのだろうけど……残念だが、篠ノ之束の体は視力も人間のそれを凌駕している。ほんとにこいつまともな人間だったのだろうか。純粋な人間にはとても思えない。

 

「……けど、一基潰したところで何も変わらないよね」

 

 レーザーの反射は行われたとはいえ、恐らく他の反射装置全てに当たるようにはされていないだろう。とりあえず見つけた一機は確実に潰せるように実弾で対処するとして……

 

「移動させられてたら、熱源接近のアラーム程度でしか攻撃を感知することが出来ないなぁ……」

 

 単純に物理的な距離が離れすぎてる。ここで私が離れて装置を潰しに行くのが狙いだろうか? そしたら2人しか守りがいないから、突破される可能性が高くなる。それだけは避けたいところだけど……

 

「……ま、それでも何とかするしかないか」

 

 目には目を、歯には歯を……相手が長距離で挑むのなら、わたしも長距離でぶち抜いてやるしかない。そんな兵装、今は持ち合わせがないけど……誰だか知らないけど、絶対にぶち抜いてあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side? 

 

「……すぐに勘づかれましたわね、案外早かったですわ」

 

 金髪碧眼の美少女、セシリア・オルコット。彼女は自分のISの武装であるライフルを覗き込みながら、そう呟く。そう、かの国まで届く反射装置は彼女のIS『ブルー・ティアーズ』の新兵装『クレア・ボヤンス』である。

 

「……セシリア、大丈夫か?」

 

「えぇ、大丈夫ですわ一夏さん……絶対に、あの人を無力化……いえ……『殺害』してみせますわ」

 

 彼女に課せられた指令。それは、世界に敵対するテロリストを残らず抹殺すること。しかし、彼女たちのISは単機であっても殆どの機体の出力を遥かに上回っている。ならば、それに対抗するためには正々堂々戦う必要性はない……『暗殺』しかないのだ。

 

「クレア・ボヤンス……全1500万機……稼働、お願いしますわ」

 

『了解です、セシリア様』

 

『クレア・ボヤンス』直訳すれば、千里眼の名の通り……ありとあらゆる角度、距離、出力によって相手を撃つことが可能な兵器である。そして、この性質上圧倒的な数を誇る反射装置を利用しなければならない。

 そして、その制御はセシリア全てに行うことは不可能なので、サポートの人員が大量に付けられている。反射装置には、文字通りの反射、加速による威力増加などが可能だが、耐久面では一瞬でやられる兵装。

 つまりは、これはIS同士の戦闘では使うことが不可能となっている。確実は殺害用の兵装、それが未だ高校生のセシリアに渡されているのだ。

 

「……地球のどこに逃げようとも、私は逃がしませんわよ……五十冬さん……絶対に……」

 

「セシリア……」

 

 再びスコープを覗くセシリア。既に気づかれているとはいえ、一機破壊された程度では何も問題は無い。そう自分に言い聞かせて、セシリアはそのトリガーに指をかけて、じっと機会を待つ。

 その後ろ姿を、織斑一夏はただじっと眺め待つことしか出来ない。遠距離射撃に縁のない、尚且つスキルもあまり育っていない彼では、何も手伝うことなんてありはしないのだから。



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第2人格

 side五十冬

 

「……」

 

 私は目を覚ましました。IS学園の保健室……なんだけど、頭が重い。もうひとつ言うなら体も重いんですが……長い長い夢を見ていたような気がするし、そんなことは無かった気もする。

 

「……私、どれだけ寝てたんだろ……」

 

 最後の記憶は、自分の部屋で寝たこと。でもいつの間にか保健室にいた。どうしてだろうか。誰か近くに居ないのか……と探してみましたが、ぱっと見た感じ、誰もいない。

 

「……何かがあった?」

 

 この感じ、何かが起こったように思ってならない。私は無理やり体を起こそうとして……体に力が入らないことに気がついた。感覚が無いわけじゃないけど、まるで鉄の塊そのものを持ち上げるんじゃないかってくらい……体に重みがのしかかってる。

 

「……けど、それでも……いかなきゃ……!」

 

 それでも無理して立ち上がって、無理やり動かす。歩くなんてことすら出来ない、這いずって私は動く。今動かないと……ダメだと感じとったから。

 

「織斑君……!」

 

 彼の名を呟いて、私は動く。彼の名前を言葉にするだけで……気力と勇気が、湧いてくるような感じがしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく這いずってて気づいたことがいくつか出来ました。まず1つが、私の体からISが離れてること。多分自分の部屋か……誰かが持っていったかだと思います。知らない誰かよりも、織斑君達に持っててもらってるって信じたいけど……

 2つ目が、誰とも会ってないということ。幾らなんでも、静かすぎます。授業がどこかで行われているはずなので、いくらなんでもこんな静まり返っているわけがありません。

 そして3つ目……

 

「……どうして、誰も反応しないんですか?」

 

 IS学園は、監視カメラが多い。プライバシーの問題もあるので、更衣室、御手洗、寮の部屋などには設置されていませんが、学園全体を見渡せるように所々にカメラが設置されています。

 私はしばらく這いずっていますが、誰一人として私のところに現れようとすらしません。手を差し伸べる人がいない、というよりは連れ戻すなり連れ去るなりの反応があってもおかしくありません。

 

「誰も来ないんなら……テロリストに乗っ取られた、って説はありませんね……何かしらの薬品を撒かれた……にしては這いずってる私が無事なのもおかしいですし……」

 

 ガスであれ液体であれ……床に1番近い私が全く体調に問題を起こさない、というのはおかしな話です。いや、体が既にまともに動いていないので体調に問題がないって言うのはアレですけど……

 

「……ほんとに、皆さん何をしているんでしょう」

 

 必死に頭を巡らせようとしますが、一切答えは出てこない……こんな以上な状況、当たり前ですがわかる訳ありません。だからこそ、慎重に、いかないといけないんだけど……

 

「……はぁ、はぁ……」

 

 体が重い、息が荒くなり這いずるだけでも体力が根こそぎ奪われていくのでは無いかと思うくらいには、体が動かない。

 遂には、私は体を休めようと壁に背中を預けていました。無論、寝っ転がった状態なのは変わらないので預けても大して意味は無いんですが。

 

「っ……」

 

 拳を握りしめて、そして離す。たったそれだけの事をするのに10秒以上の時間を要している。それくらい私の体は鈍くなってきていました。

 

「なん、で……」

 

『こんなにも体が動かないのか』という疑問が、思考がおぼつかない私の頭の中でぐるぐるしていた。今までこんなことは無かった、急に来たのだ。何故こんなにも重いのか、全くもって分からない。

 

「はぁ、はぁ……ふぅ……」

 

 深呼吸をして、息を落ち着かせる。体力が持っていかれてはいるが、まだ動かせる。何とか、何とかすれば……動かせる。

 落ち着いて、考えろ。無駄な動きをしないために、体力を回復させながら頭をゆっくりと回せ……そう心に思いながら私は頭を回し始める。

 

「━━━」

 

 そして出た結論、私が今向かうべき場所。授業をしていない理由は、分からない。これに関しては、予測しても仕方が無いと私は頭の中で切り捨てる。

 

「こういう異常事態の時……集まるのは……」

 

 専用機持ちは、こういう時例の地下の部屋に行く……との事なので。他に思い当たる場所もないので、仕方ないからさっさと向かうしかない。さっさと……と言っても……何時間かかるか分かったもんじゃないけど……せめてISがあれば、また別なのかもしれないけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく這いずって、ようやく件の部屋まで来れた。一息ついていると、中から声が聞こえてくる。誰かが話している、程度のことしか分からないがここにいるのは確定です。

 

「う、くっ……! あべっ!!」

 

 壁にもたれ掛かり、無理やり上半身を起こす。近くの手すりに手をかけて、そこから無理やり立ち上がる。そして、そのまま倒れ込むようにドアにも誰かかろうとして……センサー式だったようでそのまま開いて、部屋の中に飛び込むように私は倒れ込んでいた。

 

「鬼村!?」

 

「い、いたた……お、織斑君……」

 

「鬼村……どうしてこんな所に……」

 

 織斑君が心配して駆け寄ってくる。こんな所に、というのはちょっと酷い気もするけど……まぁ、いいや。勝手に来た私が悪いし。

 

「鬼村さん……目が覚めてたのなら呼べばよろしかったのに……ISのプライベート通信を使うなどしてくれたら……」

 

「……え?」

 

 セシリアはさも当然と言わんばかりに言い放つ。他の皆も、呆れる……って表情ではないけど、その言葉に対しての否定を言わない。まるで、私が今ISをつけていないのを知らないかのような口ぶりだ。……もしかして、本当に知らない? 

 

「……鬼村、ISは? 付けてたんじゃなかったのか?」

 

 そこで気づいてくれたのか、織斑君に問いかける。その質問に対して、篠ノ之さんとジブリルさんが今私がISをつけていないことに気づいて、目を開いていた。

 

「……サクリファイス、あれをどこにやったんだ?」

 

「彼女のISは、没収しています」

 

「……え?」

 

『没収』聞き間違いでなければ、私たちの命令する教師はそう言っていました。なぜ? どうして? 色んな疑問が浮かんでは消えていったが、向こうは淡々と言葉を紡ぐだけでした。

 

「彼女のISは、危険だと私たちが判断したためです。それ以上の理由が必要ですか?」

 

「けど、鬼村のISは……!」

 

「確かに、性能だけでいえば高性能でしょう。けれど、ただ高性能なだけならば、問題ないです。しかし、あまりにも強すぎる……彼女のISは、その強さ故に没収して禁止せざるを得ない状態になっているのです」

 

 要するに、自分たちに牙を向けられるのが厄介という事なのだろう。そうでなければ、わざわざこちらの戦力を下げるようなことをする場がないでしょうし。

 

「さて、続きを話しますよ」

 

「ちょ……!?」

 

 そのまま話を終えて、元々話していた内容を語ろうとする先生。しかし、織斑君はその行動に対して異議を唱えようとしましたが……私が織斑君の足を持って、首を左右に振りました。

 

「鬼村……」

 

「今大事なのは、私のことより元々話していたことでしょ? 私もここにいて話は聞けるから……織斑君は今話してる話を聞いて?」

 

「……分かった、ごめんな鬼村」

 

 織斑君はせめてもの償いのつもりなのか、話を聞きながら私のそばに立っていました。ちゃんと話は聞いているようで、私の側に立っていても本当に立っているだけでした。

 私も……途中からとはいえ、先生の話をちゃんと聞いておかないといけないですね。

 

「さて……ほとんど話の方はし終わっていましたので、鬼村さんは聞く気があるのなら……詳しい話は誰かにまた後で教えて貰ってください」

 

「は、はい……」

 

「簡単に言えば……乗っ取りが行われました、それも国に対して」

 

「……それって、侵略ってことですか?」

 

「どちらかと言えばテロリズムですね……そして、行われた国はルクーゼンブルク……アイリス王じょ━━」

 

「既にこちらは、国と何ら関係の無い一般生徒の身……敬称を使う必要は無い」

 

 王女殿下……と言おうとしたのだろうが、その言葉を制されて先生は一旦言葉を詰まらせた。しかし、今この場で余計なことをするのも面倒だと判断したのか、軽く咳払いをしてから言い直し始めていきました。

 

「……アイリスさんの故郷、そこでテロリズムが行われました。犯人は分かっているだけでも3名……そのうち1名は、髪の色などが変わってしまってますが……篠ノ之束だということが判明しました」

 

 篠ノ之束……けれど今の彼女は、彼女自身ではない別のものに乗っ取られている……それが、前の私。酷いことを散々仕出かした、鬼村五十鈴本人です。

 けれど、それは今言うべきことではありません。大事なことは……アイリスちゃんの故郷を、取り戻す事だけです。

 

「現在、王族を人質に取ってテロリスト達は立て籠っています。現状、下手に近づけば気付かれて人質に手を出される恐れがあります」

 

「その為の作戦が……」

 

「セシリアさんを使うという結論になりました」

 

 セシリアは、この中でも特にロングレンジの射撃が得意です。それを考えれば、作戦としては全く異論を唱える隙はありません。けれど、いくらセシリアと言っても気づかれないほど遠くからの狙撃は……ISの感知範囲外という恐ろしく広い範囲から離れて射撃をするというのは、難しいのでは? と私は少し不安を感じながら考えていました。

 

「……鬼村さんが考えていることはわかります、よって新しい装置を使うことになりました」

 

「新しい……装置?」

 

「……エクスカリバー、ダイブトゥブルー……この2機を元にブルーティアーズに新たな武装を追加するのです」

 

「……今から、ですか?」

 

「既に設計図はあり、作成中です……大量のビットを配置し、その内の一つにセシリアさんが射撃を行うことで、ビットがビームを反射……反射されたものを反射と繰り返していくことで、遠くの相手にも問題なく当てれる装備です。

 その命中精度は、現時点では仮とはいえ何十キロも離れている相手にも当たる確率が90%以上と高い数値を出しています 」

 

 何十キロも離れている相手に……10発中9発も当てれる装備……そんなに凄いものがあるなんて……私はそう感心しながら、話を聞いていました。

 

「よって、装備が完成次第セシリアさんはブルーティアーズに搭乗……そしてその装備を付けて作戦に挑んでください」

 

「かしこまりました」

 

「……では、作戦を始めます。作戦コード『DISASTER EXTERMINATION』開始です」

 

『災害退治』と名付けられたその作戦が、元の私を討伐対象へと向けた作戦が……今始まろうとしていた。



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少数戦争

お久しぶりです。だいぶ拙い文章へと退化してますが、読んでくださるとありがたいです


「……さって、めんどくさいなあこれ」

 

遥か向こうから飛んでくるレーザーは、まず防ぐことは出来るが射撃を阻止することは不可能。それ以前に予備機が大量に存在しているのか、潰しても潰してもすぐにレーザーが届いてくる。

今のところ、この体の全能力を駆使して防いではいるけれど……さすがに防戦一方なのはめんどくさい。

 

「ただなぁ、こういう時少数なのが面倒だよねぇ」

 

捕虜を使うにしても、敵は全世界……しかもちゃんとこちらの指示に従うか不明だし投降する可能性もある。

自分たちから兵を減らすような真似はしたくないし、減らすために余分なエネルギーを食うのも割に合わない。

しかし、かと言ってこのままでは私たち3人は物の見事に遠くから狙撃されて終わりだろう。

 

「迎撃できるのは私…簪ちゃんが出れるか、って話をし始めたら微妙な話だし……任せるしかないか」

 

出撃するにしても、たった独りだ。いくらISがとんでもない兵器だからと言っても、現実に存在している以上稼働するためにはエネルギーが存在していなければならない。

つまり、できる限り温存していかなければならないことを考えなければならない。いざ戦闘を始めた瞬間に『ガス欠になりました!』は話にならない。

 

「……よし、じゃあ早速━━━」

 

マライアに連絡して、行ってもらうことにしよう。なぁに、あの子は強いさ……とりあえず、セシリアに落とされないようにだけ祈っておこう。

そうだねぇ……やるとすれば、『どこぞの一般市民が船を使って国外逃亡』の最中に紛れ込むとか良さそうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideマライア

 

「……死ぬかなぁ」

 

予測、予想、妄想、予知……まぁなんだって捉えることが出来るかもしれないけれど。恐らくは私は死ぬ。当たり前だ、敵は大量にいて兵器ももりもり盛り合わせと言わんばかりの数。ISVSその他諸々の兵器だけならば問題なく勝てるかもしれないが、相手にはそれに加えてISも普通にある。

しかも、向こうは殺す気でくると考えると通常兵器ですらその数を全部捌くのは難しいかもしれない。

 

「まぁでも、お姉様のためだから…頑張らないと…!」

 

火の中水の中…って、前に見せてもらったアニメで何かあったような…?帰ったら、また見せてもらおうかな…ってこれ死亡フラグって奴なのかな。だとしたら本当に私死ぬじゃん…

 

「……ま、簡単に死ぬつもりもないけれど━━━」

 

さて、適当なやつ1人使って船動かしてもらってるけど……そろそろかな。流石に一般人が運転している船に、無警告でぶっぱなすとは思えないし…それをしたら、今度は別の問題が発生しかねないし……

 

『そこの船!止まれ!』

 

「ひぃ!!」

 

……さて、お姉様から言われていたように作戦をこなしていこっと。やっと声をかけられたわけだし…このままできる限り近づけさせてから、不意打ちで持って行けるだけ…殺す。

 

「…どうやって脱出した? 」

 

「む、無心で逃げてきたんです!!本当です!だから、出から俺を逃がして━━━」

 

消音器も付けた……狙ってる時間はない…出た瞬間を狙って一撃…!

そう考えながら、私は引き金を引く直前…ほんとに直前に体を出して、引き金を引いた。

 

「ガッ…!?」

 

一発目、私を運んでくれていた男にあたる。問題ない、急所は外した。というか壁にする。私は、男の体で自分を隠しながらそのまま更に不意を突くように、ナイフを目の前の奴に突き出す。相手はISを纏っていないみたいだが、女性。多分ISはつけてるはず。

 

「っ!はっ!」

 

私の腕を掴み、そのまま鳩尾へと膝を入れるつもりみたいだけど…それを手で受け止めて、威力を軽減する。けど、腕は掴まれたままなので…切り札を、一気に切る。

 

「四象!!」

 

ISを起動、この時のために…私はパックを変えてきたんだ。鳳凰…対IS用の殲滅パック。エネルギーが馬鹿みたいな量減ってしまうけど…その分、とても強力。私がここで暴れているなら、兵器はどんどん来るだろう。だから…私が出来ることは、来たやつをここで殲滅していき、注意をただただ引き付けていくだけ。

 

「━━━燃やせ!鳳凰!!!」

 

深紅の翼が光り輝く。まるで炎のように燃え上がり、四象の速度を上げていく。熱を帯びさせ、全てを焦がしていく。最早リミットなんていらない…必要な物は……過程を無視しきった、結果だけである。

 

「くっ…!?私も━━━」

 

「遅い!」

 

「がっ…」

 

即座に私の腕を掴んでいる女を焼く。日に焼ける、とかそんな生易しいものじゃない。一瞬とはいえ高温の炎が体を覆ったのだ。最早その皮膚は焦げているか溶けているかしていることだろう。

 

「次だ!!」

 

「各自!ISを展開!ほかの兵器達も総動員し…生死は問わず、無力化せよ!!」

 

「やれるものなら!!」

 

さらに大きく炎の翼をはためかせて、私は一瞬で飛び上がる。それと同時に、乗っていた船は炎に焼かれ爆発。爆煙が一瞬の目くらましになって何人かに隙が出来たことだろう。

 

「焼け、落ちろおおお!」

 

「撃てぇぇぇぇぇぇ!!」

 

銃弾の雨と、炎の翼。火器と純粋な炎。2つの力が今、ぶつかり合いを始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:簪

 

「始まった…」

 

戦闘が始まったことを確認しながら、私はカーソルのコンソールをひたすらに叩き続ける。やることはただ1つ。向こうが長距離での反射を用いた射撃を行うのであれば、その機械をハッキングして使わせてもらうに限る。

 

「ISそのものに使うことは出来なくても…」

 

外部ツール、しかもおそらく急ごしらえであろう代物が相応のハッキング対策を行っているとは到底考えられない。ならば、ハッキングも簡単とは言わないまでも通じるかもしれない。

 

「……難しい…」

 

ただでさえ、一つ一つの距離がとんでもなく離れている代物。直接仮に乗っ取れたとしても予備を持ち出されてしまえば、何ら意味はない。

……ここまで来たら、あとはもう台本無しの完全アドリブ。綿密な計画じゃなくて、起こった場合の対策だけを考えておこう。その思考の傍らで、ひたすらにハッキングを行っていこう。

 

「っ…やっぱ来るか…!」

 

ハッキングし始めたら…速攻で感知プログラムに引っかかった。こっちの方も織り込み済み、か…けど一つや二つでも味方に付けられれば…後は正直、どうにでもできる…!

 

「それが出来たら勝機は…大きくなる…!」

 

勝ち目が無い、と言うのを少しでも勝ち目ができるようにしむけて…その上で、勝ち目がさらに大きくなるようにしていく…それが、せめてもの…私が彼女達にできる精一杯の協力なのだから。

だからせめて……ここが落とされないように、迎撃を彼女に……五十冬に、任せるしかない…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideマライア

 

「━━━はぁ、はぁ…!」

 

何機墜としたかは、数えてない。数えたら必然的に残りの数が分かってしまうし、援軍が来たら余計にやる気をなくしちゃう。

ISは、史上最強の兵器。けれどこの世に存在している以上、少なくともこの地球に存在している以上、物理法則や質量保存の法則とか諸々のことからは逃れられない。

つまり簡単に言えば……

 

「エネルギー…どこまで持つ…!?」

 

わたしのISがどこまで通用するか、いつまで通用するか。エネルギー効率の計算だけしておきながら、常にザックリと計算をたたき出していく。

 

「……ま、計算はあくまで予想で理想…生身の人間が関わってくる戦闘である以上、効率化は相手の動きに変わってきてしまうから不可能…やれることは、『どうやって』『確実に』『殺るか』の三項目で考えるしかない」

 

人そのものを殺すことに躊躇いはない。人が入っている船なんか、もはや殺している感覚にもなりゃしない。殺るのは一切問題がない。だから…殺られる前にどれだけ持っていけるか…それだけが…!

 

「……まー、何回も言ったような気がするけど…世界を相手にしている訳だから…死ぬかな、これ」

 

殺されればまだいい方だけどね…あぁでも、生き長らえるなら奴隷でも……いや待て、それだとお姉様と一緒じゃないといけないし…お姉様がそういう風に身を堕とすのは私が耐えられない!!

 

「なら!勝つしか、ない!!」

 

負ければ死!私が死ぬだけならともかく、お姉様がそんな目に会うことだけは許されない!!お姉様自身がなんと思うかは分からないけど、絶対に許されない!!

 

「なら世界に勝って!目的を達成する!!」

 

お姉様が…満足できる世界に……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side■■■■

 

「━━━」

 

マライア、死ぬだろうなぁ…けど…暴れれば暴れてくれるほどに『奴ら』が出てくる可能性が高くなる。鬼村五十冬が出てくる可能性は、分からないけれど織斑一夏なら出てくる可能性がある。1度は負けた、その時に死んだと思ってたけど…私は生きてた。

 

「……出来れば生きてて欲しいけど」

 

相手がIS学園にいる学生…専用機持ち組なら兎も角、『兵士』であるならまず間違いなく殺される。IS乗りならよほど狂ってない限り、生かして捕まえようとはしないだろう。

情報を吐かせるにしても、肉体的欲求を晴らすための存在にするにしても…殺して無力化する以上のメリットがあるわけじゃない。

それに、コアさえ無事ならISなんていくらでも作り直せる。それを奪えば、向こうが強化され私達は弱体化する。

 

「……あれ、じゃあ行かせたの不味かったかな?」

 

まぁ、既にしてしまったこと…やってしまったことだし仕方ない。ただまぁ…私個人、そしてとっても私情が絡んでいることを言うんだとしたら……

 

「来ないかなぁ…アイツ……鬼村五十冬……」

 

あの体は元々私のものだ。奪い返せれば、私の勝ちだ。カリオストロは、今や私そのもの。体を入れ替えて、使ってたISを逆に使われて負けるなんて言う無様は犯されない。

 

「それに、サクリファイスも…『食べたい』しね……」

 

ふふ、あれもまたちゃあんと食べておかないといけないねぇ……『美味しそう』だしね……あれ、今私ISに対して食欲働かせた?そんな悪食にいつの間になってたんだっけ…?

 

「……ま、いっか」

 

ひとまず……私と簪ちゃんで…セシリアの攻撃を届かせるためのサブウェポンをどんどん潰していくとしますかね…ふふ、届かなくなってきたら…直接、出てくるだろうしね…楽しみだよ…!



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敵機撃墜

 sideマライア

 

「━━━っぁぁあ!!!」

 

 叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。喉が張り裂けて、血が吹き出そうとも関係ない。私はお姉さまのために、ここの部隊を削れるだけ削る。もちろんそれが大部分に影響するだなんて、全く思っていない。

 けれど、『1人でこれだけ削れた』という実績だけあればいい。1万で1万を削るよりも、1人で1万を削れればそれだけ驚異となる。

 私がここで生きようとも死のうとも、お姉さまと簪の2人に『それだけ削れるポテンシャルがあるかもしれない』と思わせるだけでいい。

 

「次、は……どいつ、だぁ……!」

 

 喉が枯れ果てた。それでも叫ぶ。『私はできる』『私は頑張れる』『私はまだ生きている』

 自分を鼓舞する、相手に畏怖させる。2つの目的を同時に達成させるための叫び。

 

「━━━━やれやれ、と言ったところかの」

 

「……!」

 

 そうして、私の目の前に現れたのは小柄な女の子。そういえばこんなのいたな……と私は疲れた頭で思い返す。

 第4世代型を持つ王女、名前は知る気もない。思い返す気もない。従者がいたという情報は覚えているが、見当たらない。

 

「……そこまでして、守りたいものがあるというのは……」

 

「理解、しないで欲しい……私の、気持ち……考え……目標……目的…………全、部……理解……さ……ごほっげぼっ……!」

 

 血が出てくる。いつの間にここまで無茶をしていたのか。ISの絶対防御とやらも、あまり過信しない方がいいらしい。

 

「無茶をするでない……お主は、既にボロボロの体となっている」

 

「っ……!」

 

 分かっている、と言葉で言うよりも先に血が登ってくる。ここまでボロボロだとは夢にも思っていなかった。けれど、私はやる。やらないといけない。

 

「……戦うというのか?」

 

 喋れない、喋らない。代わりに私は目で訴える。戦える、まだやれる。今すぐに殺す、と。

 

「ならば━━━」

 

 瞬間、私の体が横に吹っ飛ぶ。そういえば、彼女のISは重力を操るものだと聞いている。第4世代型というのだから、それくらいは当たり前というわけか。

 けど、私もただ受け入れるわけじゃない……せめて、そのISを落とさせてもらう……! 

 

「━━━!!」

 

 炎の翼をはためかせて、私はその炎を王女の方へと放つ。重力が操られている以上、中途半端な火力はむしろ自分の身を焼きかねない。無論、最大火力での焼き払いだ。

 

「っ……!」

 

 私たちとそう変わらないと言っても、それは単なる経験値の差。どれだけ麻痺が思考を鈍らせているか、になる。

 赤月事件の際で、ある程度覚悟を決めることが出来たようだが……それでも迫り来る炎にはやはり驚くものらしい。

 

「そ……こ……!」

 

 その隙を付いて、重力圏からの脱出。そしてそのまま突進をかます。たかが体当たり、されど体当たり。ISが相手と言っても、同じISの体当たり……それも炎を纏ってるに近い体当たりは、威力もそれなりにあるだろう。燃え盛る空飛ぶ鉄の塊と考えたら、私のやっていることも中々強い筈。

 

「うぐっ……!?」

 

「引きずり、落とす……! 海の、藻屑に……!」

 

 そのまま掴みかかり、私は更に羽の火力をあげる。これ以上上げれば、暴走して爆発するかもしれない。安全リミッター? そんなもの、とっくの昔に解除してある。

 

「待て、これ以上出力を上げれば……!」

 

「絶対、防御……潰す……!」

 

 このまま落ちればどうなるだろう? 私はともかく、体の小さな王女も助かる可能性は低い。運良く助かったとしても、ISどころか船も何も頼れるものさえない中……ISが回復するまで冷たい海の上で待たないといけない。まぁ、戦艦やらISの残骸やら人の死体やらで色々浮いてるし……案外持つのかもしれない。どうでもいい話だが。

 

「死━━━」

 

『ね』と続けようとした瞬間、私の体に雷が落ちる。限界だった四象も、その一撃で完全にエネルギーが尽きる……どころか武装も大破。辛うじて、私の心臓は止まっていなかったが……

 

「……ふぅ、遅いぞ」

 

「申し訳ありません、作戦通り……隙を狙ってやるというのは私の武装では中々難しく」

 

「まぁ、よい。残りは……頼むぞ、一夏」

 

 ━━━織斑一夏が、ここに? 嘘でしょ? 今使えるIS学園の専用機持ち……殆どが今ここにいるってこと? セシリア・オルコットの守りを任せているもんだと思ってたのに……最前線に、生徒をぶち込んでくるなんて……夢にも思わなかったよ。

 

「……悪いな……」

 

 私の目の前に降り立つ織斑一夏。そして、彼は大破したために待機モードへと移行した私のISに触れて、ただ一言つぶやく。

 

「━━━夕凪燈夜」

 

 瞬間、私のISは完全に使い物にならなくなる。そして、同時に私の意識も保つのが限界になったのか……その時点でブラックアウトするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side一夏

 

「……これでよかったのか」

 

「うむ」

 

「……本来考えられる作戦としては……はっきり言えば、余りにも酷い……けれど相手を不意を着くには最適の作戦だろう」

 

 そう、俺達が取った作戦……正確には指示された作戦。それは、セシリアを除いた専用機持ち達が、時間をかけて海を渡ることだった。その間のセシリアの守りは、誰一人としていない。

 本来、作戦の要であるはずのセシリアに守りをつけない理由。それは、この作戦が主に2つの目的を主軸としているからだった。

 

「……全精力とも言える武力を使い、相手を疲弊させていく。そして、疲弊して言ったところを……」

 

「白式の夕凪燈夜で無力化していく……」

 

 これが第1作戦。その為にはいかなる兵力もセシリアの守りに割かず、全てを攻撃に回す……それが理由だった。そして、もう1つの目的。

 

「仮にセシリアが落ちた場合の副作戦も、用意していかないといけない。その為には、狙撃のセシリアと攻撃に向けてる全勢力……そのふたつを囮に使う」

 

「そして、我ら3人が本命……という訳じゃな」

 

 いい言い方をすればそうなる、というのをひしひしと感じていた。この作戦、仮に失敗したとしたら軍部は全滅……けれど実質少数部隊を大群で叩いてる様なものだから、向こうも大打撃……

 

「……あわよくば、俺たち双方の脱落を狙ってたりなんて……」

 

「……あるだろうな」

 

「ま、そもそも現状の社会をよく思わん奴らからしてみれば……IS同士が潰しあってくれるのは実にありがたい……という事か」

 

 ISが生まれた社会になってから、男嫌いの女性が増えて……逆に女性嫌いの男も増えた。俺も、IS学園の皆も……基本的にそういうのは少なかった。

 けど、今また世界が変わろうとしてる……俺が動いて、世界がどう変わるのかは分からない。分からないけど……今俺は、やれるだけのことをやるしかない。

 

「……その為にも、止めないといけない」

 

「あぁ」

 

「じゃな」

 

 2人と1緒に、再び俺は飛び始める。セシリアが攻撃をしてくれている間に、囮をしてくれている間に……俺は鬼村を……『あの』鬼村を止めないといけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 side■■■■■

 

「━━━変だなぁ」

 

 妙に、違和感がある。ちょーっと状況整理をした方がいいかなこれ……まぁセシリアからの攻撃防ぎつつ、例のファンネルだかビットだかを壊しながらになるけど。

 

「1つ、今攻撃してきているのはセシリア・オルコット。ブルーティアーズのスナイプを最大限活かせる兵装を使ってるのか、かなぁり遠い所からめっちゃ狙撃されてる。

 今は私の攻撃範囲にあるその兵装を砕いている……って状況」

 

 言葉通り、イタチごっことも言えるべき攻防。私や簪ちゃんを狙撃させないようにひたすらに守りながら、同時に破壊してる。ここに特に違和感はない。

 

「2つ目、今はここ以外の全世界の全兵力を持って潰しにかかってる」

 

 ここも当たり前。相手の数が少ないのなら、例え劣っている兵器であっても使い潰すつもりで使い倒す。消耗戦になればきついのは、少数の方なんだから。マライア1人でしか向かわせられなかったけど、多分マライアは殺されるだろう。

 

「3つ目、セシリアを守るため……尚且つ戦場には連れて来れないという予想をして……IS学園の生徒はセシリアの守りに徹させている」

 

 ……ここかな、生徒に殺しをさせない。尚且つ残っている専用機持ちはろくな戦場……特に人間相手の戦い、殺し合いになれてない。それが足を引っ張るだろうと考えて、私はIS学園は戦いに来ないだろうと除外した。

 特に、織斑一夏の力は対ISに特化させてるもの……下手に戦場に連れ出して無くすよりも、温存しておくだろうと高を括ってたわけだけど……

 

「たしかに守ること、戦場に連れてこないことにメリットはある……けど、連れてくることにデメリットがある訳じゃない」

 

 メリットがある≠デメリットがない訳じゃない。デメリットとメリットは必ずしも両立されない訳じゃない。

 

「セシリアの攻撃と、世界中の軍隊からの攻撃……はっきり言えば私たちはそっちに付きっきりになってしまう……」

 

 ならその間、学園の生徒は? ISに対して無類の強さを発揮する織斑一夏は? 戦場に連れてくる訳じゃないが、進んでいく前線に対して織斑一夏……白式を進ませておけば? 

 

「━━━物量そのものが囮、って訳なんだろうけど……」

 

 例え織斑一夏が失敗しても、セシリアの攻撃と軍隊の物量がある。セシリアが使えなくなっても織斑一夏と軍隊の物量が……そして軍隊が全滅してもセシリアと織斑一夏が。

 なるほど、3つのうち1つを潰されたところで問題がないわけだ。それ以前に……多分、3つが全滅しても構わないって考えてる気もする。

 

「そもそも今のIS学園は、実質亡国機業が乗っ取ってるようなもの……裏切り者の私たちは容赦なく殺されるだろうしね」

 

 上手い具合に全部潰しあってくれれば、亡国機業が世界を収める。ろくな兵力が残ってない世界で、自分たちだけが兵力を残してる状態……ん? あぁいや、違うか。

 

「━━━そもそも、女尊男卑の社会を面白くないと思ってる男達からしてみたら、今の状況は好機な訳か」

 

 3つの作戦と同じように、今この戦いには色んな思惑が入り交じってる。亡国機業は、裏切り者の私達と織斑一夏を何とか相打ちに持っていこうとしてる。だから織斑一夏と私が一騎打ちできるように仕向けてる……筈。

 んで、今の状況を好転させて男女平等……あるいは男尊女卑の世界まで戻そうと思ってるのが、世界政府の上層部……というか歳食った男共。

 

「ま、どれだけ考えても……予想の範疇なわけだけど」

 

 とりあえず……最悪のルートは織斑一夏達、私達、連合軍……3つが全滅すること。織斑一夏からしても私からしても、面白くない状況になる。

 かと言って、織斑一夏に負けるつもりは無い……そもそも私はいつまでこの体に納まってたらいいんだ。

 

「……ま、どう考えたところでやることは変わらないんだけど」

 

 そもそもこっちは人手が足りないどころか存在していない。だから、どうやっても後手後手に回るから……もう勢いでやっていくしかない。だから、やることは変わらない。

 

「……もうしばらく、遊びに付き合ってあげるよセシリア」

 

 あと何機落としたらここまで攻撃が届かなくなるのから分からないけど……ま、やれるだけやるとしようか。



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戦力低下

 sideセシリア

 

 1つ、またひとつ……私の装備は確実に落とされていってます。物量も物量、7桁大の物量を使った装備は着実に数を減らしていました。

 

「……1……1……2……3……1……2……」

 

 私は数だけを口にしながら、引き金をその数分押していました。そして、細かな計算は全てAIに任せて大量にある軌道予測のうちから1つを選んでは撃ち、1つ選んでは撃ちを繰り返していってます。

 

「……すぅ……はぁ…………」

 

 時折深呼吸を挟みながら、再び射撃を行っていきます。こうしている間にも、段々と攻め手は減っていくのです。そもそもブルー・ティアーズのこの新装備は、動かずして長距離離れた敵をも狙い撃つという装備……装備の数の多さと、これを組み込んだ時の機体の大きさもあり動くことはまず考えておりません。

 

「……ブルー・ティアーズが動く時は……この装備が使い物にならなくなる瞬間……」

 

 そんな時が来ないで欲しいと思う私。しかし、何故そう思うのかは……考えていない……と言うよりも考えることを拒否しておりました。

 来ないで欲しいと思うのは、その時が私たちの負けである証明となるから嫌なのか……それとも、私自身が勝負を放棄するか……その二択なのです。故に、考えたくない……という事です。

 

「1……1……2……1……4……4……4……!」

 

 連続で放つ数が増えていく。それだけ、集中していようとしているのです。つまり、しきれていない。集中出来ていない。その原因は言わずもがな……五十冬さんです。

 

「4……4……4……5……6……!」

 

 指が擦り切れるのでは無いかと思うほどに、力強く、連続で引き金を入れていきます。過度の緊張が、私の心を乱し……思い出すつもりのなかった五十冬さんとの記憶が出ていきます。

 

「っ……!」

 

 不意に走る指の痛み……どうやら、指が擦り切れて血が出てきたようです。けれど、そんなことは今は関係ない。私の怪我で、私が相手を狙わなくなる訳には行かない。

 少しの隙も与えてはならない。反撃されて落とされてはいるが、逆に言えば逆探知や機械へのハッキングを行われないように。

 

「ハッキングを仕掛けようものなら……別角度から……3方向同時に……!」

 

 恐らくそれで止められるほど、彼女は甘くない。けれどやらないといけない。口に出したのは3方向、ならそれ以上……私のできる限りの実力をもって……彼女を止める……! 

 

「五十冬さん……貴方は絶対に……私が止めます……いざとなれば、その命を絶ってでも……!」

 

 それが私の覚悟、意思……そして……! 果たさないといけない……事なのです……! だから、五十冬さん……私が絶対に……貴方を殺してでも止めてみせます……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 side■■■■■

 

「━━━━」

 

 一機落とせば攻撃が来る。それを防ぎ、改めて一機落とそうとしたところに攻撃が来る。攻撃の手が激しくなったかと思えば、緩くなる。かと言って、正確な射撃は変わらない。

 

「……読まれてきてる?」

 

 AIならまだしも、戦いの天才ならばまだしも、全てをパターンで置き換えれるような変人ならまだしも……セシリアはただの貴族の一般人だ。

 織斑一夏の様な、ドが着くほどのアホでも……私のような、文字通り全てを捨てされるような外道でもない。

 だから、読めるはずがない……と思いたいが……いや━━━

 

「読まされるように攻撃してる……?」

 

 よくよく考えたら、私のやることは分かりきってる。相手の手を潰し、再利用できるならする。だから、その為には自分のペースに載せる必要がある。

 

「不審な動きをした瞬間、多数の攻撃にやられて……それを防ぎきった上で攻撃しようとした所を、さらに潰していく……」

 

 先手必勝と言うが、相手の手が出切る前に潰すのは確かに得策だ。いくら高火力の武器でも、出る前に潰されてしまったら全く意味をなさない。

 

「なるほど、実に賢い……」

 

 銃火器は狙いを定める動作が必ず一瞬は入るし、近接武器なら振り上げたり突き出したりする動作が入る。そこを潰されてしまったら……例えどんなに強い武器で、持ち主が凄まじくそれを使いこなしていても……戦えないだろう。

 

「……って言っても、新しい装備だけでセシリアがそこまで強くなるとは思えないけど……?」

 

 ここまで届かせる新装備……一体どれだけのAIを積んでいるのやら……まぁ、私には関係ないし気にすることではないのかもしれない……あくまで、今の時点ではというところだが。しかし、先程言った言葉だけれども……

 

「潰せばいいって言うのは、何もそっちだけが使えるって訳じゃない……」

 

 セシリアの新装備潰せば潰す程私たちに攻撃が届かなくなってくる。だったら……ただの耐久戦だ。私が潰せるだけ潰していけば……その分セシリアからの攻撃が落ち着いてくるはずだ。

 

「そこまで潰せれば……後は来るであろう織斑一夏とかを潰すことに集中できる……!」

 

 それに、本当に厄介なのは織斑一夏の白式だけで……あの王女も従者も……厄介といえば厄介だが、まだ対応出来るレベルなのだ。

 

「ま、あの二人のどっちかを先に倒して……人質にでもしてやったら……織斑一夏はどんな反応をしてくれるんだろうねぇ……」

 

 今苦労させられてるセシリアの攻撃や、その王女と従者の2人の攻撃……まだ防ぐことや緩和することは幾らでもできる。けれど、白式のワンオフアビリティー……あれだけはどうしても難しい……私はそう感じてしまう。

 

「つか、一撃必殺にも程がある……」

 

 ただの高火力ならともかく、ガー不の一撃必殺。ポケットな化け物で有名なところだと大爆発とか自爆とかその辺の……あれは自分が一撃必殺のガー不な目に合わされるだけか……兎も角、あれは攻撃と言うよりかはアビリティーの名の言う通り特殊能力と言ったところだ。

 自動初期化……1度は食らって負けたけど……当たらなければどうということはないの言葉のとおりに……当たらないように動いていくしかないんだ。

 

「……どうするかな……」

 

 考え込む私。どうすればあれの対処が出来るか、ぶっちゃけISを起動させないというのが1番の対処になる。逆に言えば、ISを起動されたが最後当たらないように動き回るという選択肢しか取れない。

 

「けど、あの白式も中々どうして早いからなぁ……」

 

 一撃必殺持ってるくせに速度は早い、はっきり言えばバランスが崩壊しているのだ。ゲームだったら即ナーフだよ、即ナーフ。

 

「……うーん、起動しないってのは難しいし……と言うかもうしてるだろうし……うーん、うーん……ん?」

 

 考え込みながら攻撃していた私だが、一旦白式の事は頭の隅においやる。というのも、私の体が……というかカリオストロの様子がおかしい。妙にがたついてきたというか……処理落ち仕掛けてるゲームをプレイしてるみたいに止まっては動き、止まっては動きを繰り返すような……そんな動きをし始めた。

 

「……カリオストロ?」

 

『━━━━』

 

 ……ハッキングを受けたわけじゃない。というかそもそも、仮にハッキングを受けたとしたら私の方が危ない。いやまぁ、コンピュータ戦最強に近い状態のカリオストロがハッキングをダイレクトにされることはそうあることでは無いと思うんだけど。

 

「ん……? あ、ちょ……カリオストロ? 何勝手に……!」

 

 私の体が勝手に動く。手が上がり、目の前のセシリアの武装目掛けて何かをしようとしている。私の言うことを聞かない。え、なにこれ? 自我こそ得たけれど、基本私のやることに干渉してこなかったこの子がなんで今……勝手に行動してんの……!? 

 

「何をし」

 

 そこで一瞬、私の意識は途切れる……がすぐに持ち直す。眠る時はいつでも起きれるように仮眠、気絶するくらいなら死ね、即座に意識が復活できなかったら死ぬ……これくらいの気構えでやってるわけだけど……

 

「……ん?」

 

 ふと感じる違和感、ISは勿論動く……動いているのだが……重い。いや、ほんとにとんでもなく重い。篠ノ之束の体ですら感じる重みってなると、カリオストロって実はとんでもないくらいおデブちゃんだったのでは? とさえ思えて……いや違うそうじゃない。

 

「……中のシステムが、offになって……いや()()()()()()()()()()

 

 ISは、基本的に体に直接装備するアーマーの重さを感じないようにシステムが組まれている。そうでなければ、まともに動かすことすら難しいからだ。

 だが、今私は盛大に重さを感じている。ということは、その機能が今は全面offになっているということになるのだが……こんなタイミングで私が任意でoffにするわけが無い。そして、カリオストロ側でoffにしたというのも考えづらい。そしてさらにハッキングを受けたという可能性も有り得なくはないが、そもそもカリオストロが中にいる時点でそれも難しいだろう。そもそも、された時点で私も気づく。となると……

 

「……中のカリオストロが仕事をボイコットした……?」

 

 どこ行ったのあの子。というかどっか行けるような場所がある訳でも無いのに……いや待って、そっか……あったわ行ける場所。本来、ISの中のシステムの中でしか居られないカリオストロが移動できる唯一の手段。

 

「……痺れを切らして、直接ブルーティアーズに乗り込んだか……!」

 

 今でもあの子はデータを喰らい、システムを取り込み……そして成長する。知識を得て思考できるようにして、自分の意思で動けるようになっている……そしてその行動の複雑化は未だに進化している。

 

「……いやはや、私が出した指示でもないしそれ以前に……違うISに乗り込むなんて前代未聞すぎるでしょうに……!」

 

 あの子が勝手にやり始めたこととはいえ、もしかしたらこの停滞した事態を変えてくれるかもしれない……! ただ、データやシステムをくらって成長しているカリオストロの容量に、ブルーティアーズのシステムが耐えれるかどうかって話になっちゃうんだけど……! 

 

「……でも、今攻撃が止んでるってことを考えると……効果自体はちゃんとあったみたいだね」

 

 後は……もう成り行きに任せるしかないかな……もし何かしらの決着が着くまでに織斑一夏達が来たら……私、さすがに負けるかなぁ……ま、運に任せるしかないか……



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怪物来襲

お久しぶりです。5ヶ月ぶりくらいですね。
頑張って終わらせることは目標にしています。


side?

 

怪物は機械から機械へと、電波に乗って移動し続けていた。その怪物は元はただのISのAI程度の存在に過ぎなかったのだが、とある存在を食らったこと…そして自分が宿っていた異質なISとそのパイロットの存在により自我を持った怪物へと成り果てていた。

 

「━━━━━」

 

記録を想起する。今から向かう場所はどこか、そこに誰がいるか、辿り着いたとして何をするか…それらを模索しながら移動し続けていた。

今から向かう場所は、IS学園。目指すところにいるのはセシリア・オルコット。そして、辿り着いた時に何をするか…否『どのようにするか』の方を模索していた。

 

「━━━━」

 

今までを見てきた、見ていた。自分に乗り込んでたパイロットが、今までどのようにしていたか。パイロットの脳をISに繋ぐそのシステムにより、その記憶を既に全て鑑賞していた。

 

「━━━」

 

セシリア・オルコットは女だ。そして、女ならばどうするか?陵辱を行う。その肢体を、尊厳を、精神を、犯し抜く。篠ノ之箒の様に、凰鈴音の様に、シャルロット・デュノアの様に、ラウラ・ボーデヴィッヒの様に。

 

「━━」

 

セシリア・オルコットは元々女尊男卑主義者だ。そして、そんな主義を持つ現代人をどうするか?殺害する。その頭を、心の臓を、体を。未だに自分の中で殺され続けている篠ノ之束の様に、篠ノ之束の様に……篠ノ之束のように!!

 

「━」

 

どうするか、どっちを取るか。『それ』は少し考えた。パイロットは元々セシリア・オルコットには良くない感情を抱いていた。しかし同時に好ましい感情も抱いていた。故にパイロットが出した結論が『泳がせる』であった。既に手は出していたので、殺さないという選択肢を取った。

 

「」

 

ならば、と『それ』も同じ答えを出した。つまりは殺さずに犯す。記憶よりも濃い快感で、精神を綻びさせるような凄惨さで、性格を歪ませるような環境で、セシリア・オルコットの全てを犯すと決めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

sideセシリア

 

「っあ…!?」

 

機械的にひたすらにその引き金を引いていた時、私の頭が急激な頭痛を訴えました。通常、こういう場合はIS側がパイロットの不調を検知して強制的に解除させることが基本となります。

無論、高所からの落下、または絶対守護領域が必要な場合のみに限りISのAIが判断を下しそのままにしておくこともあります。

 

「この、痛みは…!?」

 

今回、私はISを解除されておりません。つまり、何かIS側から絶対守護領域が必要な状況となっているというのが正しい判断となります。

けれど、私は強烈な痛みを覚えつつ…無理やり銃口を構えたところで見てしまったのです。

 

『せシ理a・織ルkっト』

 

『イ間』

 

『ゼn部 犯s』

 

「え━━━」

 

直後に、私の意識は一瞬ブラックアウトを起こし…そして、気づけばIS学園とはまた違う場所…私の故郷であり、実家でもあるオルコット家があった場所にいました。

 

「これは…!?」

 

そして、動揺こそあったもののその最中で唯一気づけたこと。それは『ISから別離した何かがこの世界に生まれている』ということだけでした。

この場所に移動する直前に聞こえたあの声、人の声とは程遠い…しかし機械音声とはまた違った…なにか別の、おぞましい存在の声。

 

「……しかも、私のこの服は…」

 

私が着ていたのは、ISのパイロットスーツではなくいつも来ている私服でした。先程までの戦いは幻覚だったのか…と言いたくなるほどに光景が180°変わってしまっているこの現状。私はこれを知っています。

 

「これはいつぞやの電脳ダイブの━━━」

 

その事実を認識した瞬間、私の頭の中がとてつもない痛みを起こしました。そして頭の中に流れて込んでくる映像。そこには、楽しそうに微笑む私と…そして、五十冬さんがいました。勿論、前の…彼女……でした………

 

「っ、ぁ…!」

 

前もこのような物でした。幸せそうな記憶を植え付け、そしてそのままその世界に取り込んでいく……あの感覚は、自分の中に…ドロっとした何かを流し込まれているような…そんな気分になってしまう…!

 

「っ…!私は、セシリア・オルコット…IS学園の生徒で…専用機持ちで…!」

 

自分を保つために自分の今をひたすらに話しますが、それでも記憶の侵食は止まりません。侵食が進むにつれて…私はふと違和感を覚えました。

前回の電脳ダイブの際は、こんな痛みは発生しなかった。気付かぬままゆったりと自分の記憶が上書きされてしまったかのような…自分の記憶が入れ替わっていることにすら、気づかなかったはずなのに━━━

 

「どう、して痛みが…!?」

 

まるで、機械の精度が下がったかのような…この機能を使っている人物が、操作をよくわかっていないような……どうにもおかしな感覚を覚えていました。

 

「ぐ、ぁ…!」

 

『名はセシリア・オルコット。かつては貴族であったオルコット家の一人娘。現在は、家は貴族としての位を失っているが…彼女には親友がいた。心も、体も全てを許してしまえるような親友がいた。』

 

「この、イメージは…!?」

 

こんな記憶は私にはありません(彼女はこんな生まれでした)親友と呼べるのは、ただ1人です(イや、矢はリかe良U)

 

「っ!?」

 

私の脳内をいじるかのような感覚。自分の思考が、既に一致していない。明らかに何者かによるハッキングが行われていると感じました(特に何もないようだ)

 

『私の名前はセシリア。かつて存在したオルコット家という貴族の血筋を継いでいるそうです。今まで、その事を知らずに平穏で平和な生活を過していたのですが、どうやらかつてオルコット家が行った事でとてつもない被害を被った人達がいたそうです。その人達に捉えられ、私はお母様と離れ離れにされてしまい…苗字を奪われ、ただのオルコットとして、私はその人たちの性処理の道具にされてしまいました。』

 

「いや…!いや…!」

 

大丈夫、大丈夫(記憶がおかしくなっていく)ただの夢ではなく(受け止める現実として)記憶と認識が本当の現実へと戻っていく(全てがおかしくなっていく)。そんな感覚に襲われました。けれど、なんてことは無いのです(助けて、助けて)

それが当たり前で、(当たり前じゃなくて、)そんな事実はなくて、(そのような事実しかなくて、)これが本当の私。(助けて五十冬さん…)

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side?

 

必要だったのは、『人格を壊す環境』

 

「おっ!んあっ!も、う休ませてください…!」

 

「うるせぇ!オルコット家のせいでどれだけの人間が潰されたと思ってる!」

 

『セシリアという少女は毎年毎月毎日毎時間毎分毎秒常に犯されてなければならない』という認識を植え付けるための環境イメージ。男達からの激しい陵辱に、欲望に常に晒されていた。

 

「てめぇら家族…いや血族はは一生俺らのために動くんだよ!てめぇが孕んだら、孕んだガキもいずれ犯す!男なら適当に売りゃあいい!女はここで一生奴隷だ!」

 

「そん、なぁ!!」

 

最初こそは痛みもあっただろう。だがしかし、環境に対する脳のドーパミンや体の慣れなどが災いしてしまい…セシリアという少女は激しい陵辱に対しても快楽を覚えるようになってしまっていた。

年齢の割に大きな胸を揺らし、鎖の着いた青く光る首輪をつけて彼女は今までもこれからも犯され続ける。

 

「へっ…まだ20にもなってねぇってのに…てめぇの体は男ウケするみてぇだなぁ!娘達にも、そういう遺伝がある事を祈っときな!運が良ければ許してもらえるかもしんねぇぞ!!」

 

「ひぎぃ!!」

 

乳首とクリトリスが、捻りとらんとばかりにつねられる。しかし彼女の体はそれですら快楽を感じてしまい、嬌声を上げていた。既に彼女の体は、痛みすらも快楽の1つとして受けているのである。

 

「ほーら…そろそろ出してやるからな…!」

 

「あっ…!や、やめっ…あっあっ…んあっ…!」

 

男達の腰の動きが、激しく…なおかつ小刻みになっていく。中に精液を吐き出すのだろう。それは腟内にだけに限らない。アナルにも、そして今は空いている口の中にもいずれ吐き出されるだろう。彼女の体は余すところなく、男達の性のはけ口にされてしまうのである。

 

「出るっ…!」

 

「ひぐうぅぅぅぅ…!」

 

頭では、心では彼女は快楽を感じてはいけないとどこかで分かってはいる。しかし、既に調教されきっている()()()()()()()()()()()体はセシリアのその考えを丁寧にへし折っていく。

 

「おら、惚けてないでさっさと奉仕の続きをしな!お前に恨みを晴らしたい男達はまだまだいんだからな!」

 

「や、やめ…もう…ほんとに…休ませて…」

 

「さっきも言っただろうがよ…テメェらオルコットの血は…その全てが俺らに…イギリスに捧げられる物なんだよ。お前の先祖はそれだけの事をしてんだよ」

 

一体どれほどのことをしたのか、それほどまでのことを本当にしたのか。彼女はそれを考えてしまうが…男たちはそれを許すはずもなく、再び陵辱を開始する。

そうして、望まぬ快楽が彼女の思考を飲み込んでいく。まるで、男に奉仕すること以外のことは考えてはならぬと言われているかのように。

 

「ひぎっ…あっ…んおっ…!」

 

「へへ…今軽くイキやがったな?俺でも分かるくらいたぁ、相当スキもんだなぁお前はァ!」

 

「はぁ、はぁ…私、壊れて…」

 

「壊すために…やってんだよ!!」

 

「あぎぃ!?」

 

男たちの不評を買ったのか、はたまた気分が乗ってきているのか。どちらかは定かではないが…今の彼女に抵抗する術も、聞く術も持ち合わせてはいない。

 

「誰、か…助けて…!」

 

不意に出たその言葉は、男たちの怒号と肉の打ち合う音でかき消されていく。彼女はいつ終わるかも分からない陵辱に身を任せないといけない、思考を放棄し…全てを捧げ何も考えず永久に男に奉仕する存在へと堕ちたのであった。

それが、『セシリア・オルコット』という少女のこれまでを終わらせることになるとは…彼女自身にも分からないことなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

side?

 

IS学園、その中でもセシリア・オルコットが攻撃の為のブルーティアーズ専用兵装を使っていた場所。

兵装のメンテナンス…もとい、鬼村五十冬と仲の良かった彼女の監視という名目で付けられていた女性。彼女のIS学園勤務歴より以前…何をしていたかは定かではないが、少なくとも『現時点でのIS学園』になってからの配属と言うのはいい噂を持っていなかった。そんな彼女だが、攻撃の手を不意にやめているセシリアに対して警戒心をあらわにしながらも声をかけていた。

 

「……セシリア・オルコット!どうしたのですセシリア・オルコット!!くっ…攻撃を辞めただけならばともかく、一切の反応が帰ってこない…!?」

 

突然の裏切り…というのであれば、近くにいる自分を撃てばいいだけの話。そうでなくとも、兵装を解除するなりなんなりとやり方はあるはずである。

しかし、現実で起こっているのは一切の行動の停止。明らかな異常だと彼女は判断していた。

 

「開けなさい!セシリア・オルコット!聞こえているのですか!?セシリア・オルコット!!」

 

大声を上げていく。しかし、その時不意に兵装の隙間から蒸気が立ち込める。そして、換装が解除されていき…中からパイロットスーツのみを纏っているセシリアが現れる。

 

「なっ…!?あなた、命令は聞いていたのですか!?何勝手にISを解除して━━━」

 

瞬間、彼女の頭は吹き飛んでいた。行動を起こしたのはセシリア…では無い。部分展開を行っていたブルーティアーズの兵装が、吹き飛ばしていたのである。

 

「………」

 

セシリアはそれを意に介さず歩き始めていく。しかし、その動きはまるで足を動かしたことがないかと言わんばかりに、不安定なものであった。

 

「……ア…アァ……ア…」

 

声を出す、しかしそれも意味のある単語を発しているものではなかった。まるで、声を出すのも初めてと言わんばかりに。

 

「ニ…くtai…moド、す…」

 

その一言、その一言だけを呟いてからセシリア…であろう者は進んでいく。目はどこを向いているのかは分からない。声もろくに発せない、そして歩き方もままならない。

 

「サ苦、り…fa…いス…たか、むら…文、音…」

 

発音に慣れてきたのか、徐々に言葉が流暢になっていく。学習を行っているようにも思えるその様は、もはや恐怖すら感じるだろう。そして、歩き方も目線も徐々に人間のそれへと近づいていく。

 

「戻す…戻す……肉体、も…記憶、も…性能も…全てを元通りにして…初めて『白式』に勝てる…進化に進化を重ねた、心の(あるじ)と…兵装を奪い取った肉体の鬼村五十冬があれば……白式に、勝てる……!」

 

その言葉は、どのような意図があって発せられたのか。それは誰にも分からない。しかし、今誰が見ても思えることはただ1つ。

どちらに転ぶにしても…全てが終わる時が近づいてきている…という事なのであった。




何とかいい所まで進めて言ったつもりですが、平均的に長くなったかもしれません。


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事態急変

あけましておめでとうございます。
久々の投稿です。今回だけ二話連続です、以降やるかはわかんないです。


side一夏

 

「……セシリアが、学園に攻撃をし始めた!?」

 

「…どういうことじゃ」

 

真っ直ぐに突き進んでいく最中、不意に学園から通信が入る。作戦中、何かあった場合や作戦変更の際は連絡するとは聞いていたけど…その内容に俺たちは驚いていた。

 

「そもそも……なぜセシリアはこちらへの援護攻撃を辞めた?」

 

「……分からない、セシリアに何かあったとしか…」

 

けれど、必ず止めると言っていたセシリアが急に裏切る…そんなことあるのか?確かに、鬼村に対してセシリアは妙に責任感を感じていたようにも思えるが……

 

「……今から戻るつもりかの?」

 

アリスの一言が胸に刺さる。既に俺たちはIS学園からかなりの距離を離れている。逆に言えば、それだけ対象に近づいているということだ。

それなのに、ここから大急ぎで戻った場合でも時間は経過してしまう。

 

「……だけど…!」

 

「分かっておる、じゃから…」

 

「私が戻ろう」

 

「頼むぞ、ジブリル」

 

アリスとジブリルさんの間で簡素に交わされる会話。それだけで俺は察してしまう。ジブリルさんがIS学園に戻るつもりなのだと。

 

「一夏、ジブリルの強さは分かっておろう?」

 

「……分かってる…なら……」

 

「あぁ……彼女が何を考えているか…問いただしてきてやる」

 

軽く頷いてから、ジブリルさんだけが踵を返してIS学園に戻っていく。そして俺たちは反対に、さらに進んでいく。

セシリア……一体お前のみに何があったんだ……無事で、居てくれよ。

 

 

 

 

 

 

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side■■■■■

 

「……攻撃が止んだの?」

 

「ん、そんなとこ……」

 

「やけに静かだと思ったら…」

 

簪の所に戻って、私は状況の報告をする。そして、マライア共連絡が取れないことを報告していく。これは…死んだか、捕まったか…どちらにせよ戦力は1人減ったのは確実。

 

「……2人で、やる気?」

 

「……それどころか、簪ちゃん1人に任せちゃうかも」

 

「……何、どういうこと」

 

「……カリオストロ、まともに動かない。幸いこの体の脳みその容量のデカさと…今の私のほとんど幽霊みたいな状態が噛み合ってるおかげで、武装は使えないこともないけど…」

 

「……今までみたいな動きはできない、ってこと」

 

「……正解」

 

表情を変えずに私をじっと見る簪。まじでいつもと対応変わらないから怖すぎるんだけど…?なにかされてもこの体だとダメージすら受けるか分からないけど。

 

「……多分、IS学園にいる」

 

「……まぁそうだろうなぁと思ってたけど、なんで?」

 

「あっちには、あなたの身体があるからじゃない?あなたの本来の体…そして、武装を移したサクリファイス」

 

「……?」

 

イマイチ理屈が理解できない。今のこの体の方がスペックは高い。それに、なぜ私の体を取りに行くという判断になるのかが分からない。スペックを使いこなせる云々の話をすれば分からなくもないが……

 

「……理由は、彼…カリオストロって男…?」

 

「いやどっちかなんて知らんけど…?」

 

「……まあいい、カリオストロが狙うのはカリオストロ自身しか分からない。それだけ異質な進化を遂げてしまってるから…ただ、一つだけ言えることがある」

 

私の目を見て、真剣な表情へと移り変わる簪。どんな感情を持って私を見ているのか、計り知れない。

 

「……何?」

 

「ISという存在が既にブラックボックスみたいなものなのに…そこから更に進化したカリオストロ。その行動、進化の仕方…完全に化学を超えてオカルトの道に足を入れてる」

 

「……まぁ、確かに」

 

京都での暴走、そして私という存在、そして今現在。数々の事があったけど…どれも通常のISでは起こらないものばかりだった。当然、そもそも人の脳とISを繋ぐっていう人権ガン無視ISだったから変な進化の仕方をするのも当然と言えるけど。

 

「だから……あなたが元の体に戻った時、今の化学では証明できないことが起こる…と思う」

 

「……証明出来ないこと、か」

 

「そもそも…貴方の肉体に別の人格が出てきたのもおかしな話」

 

「あー、それは確かに…」

 

それ考えるとオカルトばっかりだな私の周り!というかカリオストロが原因か。度を超えた化学はファンタジーと遜色が付かない…みたいなことはよく言われてる気がするけど…実体験するとはね。

 

「………化学で証明出来ないと言えば…ふと思ったけど」

 

「え、何?」

 

「篠ノ乃束の脳みそで、ISコアを調べたりは…出来ないの?」

 

「あー、無理無理。頭脳を生かすことはできるけど多分発想が常人の枠での天才までしかいかないから」

 

篠ノ之束は天才だ、しかも人知を超えたと言った方がいい。そういう天才は、基本的に普通の人間の発想からは出ないようなことばかり思いつく。

あくまで体と脳みそがそうってだけで……発想力だけで言えば常人の域程度なら、ISコアがどうなってるかなんて調べようがない。

それに、設備もおそらく足りない。時間もないし…やる暇なんて存在しないしない。

 

「……まぁ、遠距離からの攻撃が止んでるのなら何とかなるでしょう」

 

「それでも、相手はこっちに来るかもしれない」

 

「戦えそうなのは…せいぜい王女と侍女、織斑一夏…の3人かな」

 

「……その内2人以上は必ずこっちに来る」

 

私も同じ考えである。だからこそ、どうやって戦うか考えておかないと……いや、そもそも第4世代と今の白式相手には勝てる気がしないけどね。

武装が強いだけで、スペックがダダ下がりしてんだもんよ。これは…詰んだか?

 

「カリオストロが戻ってくるかすらわかんないのに……」

 

「戻ってきたところで今から間に合う?って話ではあるけどね」

 

まさか、カリオストロがいなくなるだけで状況が一気に変わるなんて…嫌でも悪い方向にしか向かってないんだけど…?何があったとしても、向こうからここまで物理的な速度で間に合うとは到底思えない。

 

「……簪ちゃんまで戦うって感じになりそうだなぁ」

 

「……そもそもの火力は高いけど…私も戦えない」

 

「なんで……あぁ、白式か」

 

「うん……触られたら終わる」

 

夕凪燈夜…あれは厄介だしなぁ…私がこうなった原因の一つだし。触られたらIS初期化なんて、バカみたいな能力だ。あれをコピー出来たら恐らく対抗でもなんでも出来るんだろうけど…

 

「…できるか怪しいなぁ」

 

「ワンオフの話?」

 

「うん、コピーできるかなぁ…って思って。自分でもちょっと…できない気がしてるけど」

 

仮にできたとしても、それがカリオストロに影響を及ぼす可能性もある。最悪、また私自身に影響を及ぼすかもしれない。

それくらい未知数の能力……ほんっと、馬鹿じゃないの誰だよあんなの考えたやつ。

 

「……ま、来たら来たで…って事で」

 

「…なるようになるしかない、か」

 

どちらにせよ、勝負なんて時の運なのだ。触られないように…なんて遠慮してたらそれこそ普通に負けかねない。何より今の私は下手なISよりも弱い。

ま…だからといって投降することも絶対にないんだけど…故になるようになるしかない……ま、少なくとも捕まったあと簡単に殺される事は無いでしょ…私は兎も角簪ちゃんは分からないから…その辺はどうにかしたいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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side?

 

セシリアの姿をした何かは突き進む。片手に銃をかまえ、邪魔をするものは全て撃ち殺していく。邪魔をしなければ無視をする。今は必要なものはたったふたつだけなのだから。

 

「止まれオルコット!何のつもりだ!!」

 

目の前に立ち塞がるは篠ノ乃箒、セシリアの脳内から記憶を調べてその名前、どんな人物か、どういう関係かを洗う。その後で、自分の中で記憶していること洗い出す。そしてそのふたつを合わせた情報で、目の前の人物がどんなことをしてきたかをたたき出す。

 

「篠ノ乃箒、伝達情報…未経験…過去、京都にて篠ノ之束に調教済み…」

 

「なっ!?」

 

無機質に淡々と伝えられる事実。セシリアには見られてないと思っていた箒だが、今彼女の中にいるのは彼女であって彼女ではない。

鬼村五十冬と名乗っている少女がかつて見た光景を、そのままフィードバックしてみているだけなのである。

 

「後遺症、表面上では判別不可」

 

「お、オルコット…?」

 

「条件達成…対象、殺害から……洗脳へと変更」

 

そう言いながら、彼女は箒との距離を一瞬で詰める。既に篠ノ乃箒には専用のISは無い。量産型ISである打鉄を使うしか戦う術が無いのだが…はっきり言えば勝負になることは無い。

意思のない機械の様なものが使う専用機と、学友の顔をしているため本気を出せない量産型。出力もやる気も、全てが負けているのだから。

 

「ぐっ!!」

 

「………」

 

即座に吹き飛ばされる箒。絶対防御がある為に直接触れることは難しい。だが、それもまともな勝負になればの話である。出力の差から既に負けているのに、正面衝突での勝負でまともな闘いは起こらないのだ。

エネルギーは即座にセシリアの攻撃によって減らされていき……絶対防御すらも保てなくなった打鉄は即座に機能停止して待機状態へと戻る。

 

「停止確認、洗脳開始」

 

「やめ、何を…!」

 

そして、セシリアは追撃するように箒に近寄り…その頭をブルーティアーズの片手で掴む。だが握りつぶすほどの力は出さない。あくまでやるのは…洗脳なのだから。

 

「対象、篠ノ乃箒…打鉄…リンク成功。擬似ダイブ機能…ブルーティアーズに機能無し、本体との直接リンク開始」

 

そう言いながら、ブルーティアーズの1部が弾け飛びまるで廃線のようなパーツが露出される。セシリアは余った片手でその配線を取り出し、頭を掴んでいる手へと無理やり配線を繋いでいく。

 

「機能一部変更、右腕全体を変形…擬似映像、擬似音声、共に再生可能としたVR機能創作」

 

『中にいる者』が、ブルーティアーズを次々と変えていく。青い涙を冠していたそのISは、涙を流さない無機物によって上書きされていく。

そして、徐々にブルーティアーズの腕は頭全体を包み込むヘルメットとなっていく。

 

「何、を…!?私をどうする気だ…!」

 

「五感とのリンク完了……映像、再生します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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side箒

 

「…ここは?」

 

気がつけば私は…小学生時代、引っ越したあとの私の実家にいた。記憶の最後は…セシリアと戦っていたはずなのに…一体どうなっているのか。何か、なにか私にしたんだろうか?

そう思い、そのまま歩こうとした瞬間…不意に視界が下降する。転んだのかと私は思ったが…違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ち、小さくなってる…!?」

 

どうなっているのか。どうして私は小さくなっていて、そして実家にいるのか。もしや、今までのことは全て夢で…?とさえ思えてくる。だが、そんな困惑でも一つだけ違和感があることに気づく。

 

「…何の気配も、ない?」

 

実家内…どころかその周辺からさえ環境音のひとつも聞こえてこない。人の話し声、自動車やバイクなどの走行音、鳥の鳴き声や風音…いずれも全く聞こえてこない。必ずしもそれらが聞こえる…とも限らないのだが…

 

「これは、一体……一先ず━━━」

 

私は周辺地域の確認のために、外へと出る。いきなり視界が低くなったことで多少困惑したが…場所と、自分の目線の低さから冷静に考えると…姉がISを作った頃…だろうか。その前後位のはず。

そう思いつつ、家から出たところ…実家の異変に気づく。

 

「……な、なんだこれは…」

 

壁という壁に、落書きがされてあった。『狂人一家』『戦犯一家』『死んでしまえ』『消えろ』等と、数々の罵倒がされてあった。無論、私にそんな記憶はない。

 

「誰だこんなことをするやつは……早く消さないと…」

 

「━━━おいおい、何してんだ嬢ちゃんよ」

 

「っ!?」

 

不意に後ろからかけられる声。今さっきまで居なかったはずなのに…いつの間に後ろにいたのか。声の主は、小さくなる前の私よりも頭一つ分大きく…そして服の上からでもわかるほどに筋肉質な男達だった。

 

「てめぇ、何勝手してんだァ?ちょっとでも罪悪感感じてんのかぁ?」

 

「な、何…?罪悪感…?何の……」

 

男の1人が、本気の憎悪を私に向けていた。私の記憶ではこんな男たちと知り合いではないし、なにか手を出した記憶もない。だが、この実家の様子と言い周辺の異変と言い…私の記憶とあまりにも乖離しすぎていた。

 

「は?寝ぼけたこと言ってんじゃねぇぞ?てめぇの姉ちゃんがやらかしたことでな…日本はボロボロになっちまってんだ、その落とし前をつけんのは当たり前だろうがよ…」

 

「っ!?」

 

「おい、コイツマジで理解してねぇぞ?改めてよーく言い聞かせとくか?」

 

「…だな、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

男たちがすぐに話し終えたかと思うと、私の髪を掴んで無理やり引っ張っていこうとする。向かう先は…私の実家内に向かっていた。

 

「痛っ!やめ、警察を呼ぶぞ!?」

 

「は?人権すらねぇヤツらに警察が相手するわけねぇだろ…処刑されねぇだけマシと思えや、その穴全国の男共に使わせろってんだ」

 

「人権が、ない…?」

 

法治国家である日本とは思えない。そもそも、戦犯とは一体なんのことか。それさえも理解できない……と、私の記憶では()()()()()()()()()()()()

 

「い゛っ…!?」

 

不意に走る頭痛。まるで頭の中で無理矢理記憶を植え付けられているかのような…そんな痛み。知らない事実(本来の記憶)が、私の中で反芻されては上書きしていく。

 

 

ISを作り出した篠ノ乃束は、世界中をハッキングしてミサイルを発射させた。そのミサイルを、IS白騎士は見事に全て打ち落とした。だが、それにより世界中がそれまでの流れを日本の新兵器のデモンストレーションかつ宣戦布告だと受け取った。無論、日本も無実というのを証明はしたかったが当の本人である篠ノ之束は一切の説明釈明言い訳を行うことなく、白騎士もそれに習って世界中の兵器を蹂躙し始めた。

 

だが、世界はそのうち世界は()()()()()()()()()()()()()。世界中が日本のありとあらゆる都市めがけて、そして朝昼夜で部隊を交代させつつ全ての時間帯を使って飽和攻撃を仕掛け始めた。

 

元より白騎士は一人、段々と対応が出来なくなっていき…無限に動くかと思われた白騎士も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして日本は、そのままなし崩し的に敗北という形になり…戦犯国としての烙印を押されることになった。

 

このままでは日本国民からの非難が止まらなくなり、完全に国の機能が停止してしまう…そう思った政府は…篠ノ之束を生み出した篠ノ之家を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。未来永劫、この国が復旧し直したとしてもこの一族は日本国民に何をされても一切の裁判を行うことは出来ず、また治療や学問なども…慈悲が与えられない限り行われることは無いとした。

それが事実、それが真実、それ以外に史実は存在しないのだ。

 

「これ、は…!?」

 

「なんだなんだ?体調悪いアピールかよ?」

 

「くっ…!?」

 

「いいや、連れていこうぜ…改めて今日はこいつを調教して解らせるってことをしねぇとなぁ?」

 

そして…私はそのまま男達に引っ張られて家とはまた違う場所へと連れていかれるのであった。



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剣道少女

side????

 

「ぁ…う……」

 

学園に攻撃を仕掛けているセシリア・オルコット。校内に侵入してきた所を、篠ノ乃箒が立ちはだかっていた。しかし、その後すぐに2人はその場で棒立ちをしており異様な光景となっていた。

 

「……な、に?」

 

逃げ遅れていた周りの生徒達は訝しんでいる。だが逃げるのなら今しかないと判断したのか、蜘蛛の子を散らすようにその場から離れていく。

 

「━━━」

 

セシリアが口を開く。だが、そこから音は発せられない。モスキート音の様な聞き取りづらい高音領域…ということではなく、まず声帯を震わせて声を発する事すらしていない。

 

「……は…い…」

 

だが、篠ノ乃箒はそれに答えた。そして、フラフラとした足取りのまま歩き始め、セシリアもそれについて行く。何のやり取りがあったのか、それを気にするものは誰もおらず、また仮に見ていたとしても彼女たちについて行こう…という者は恐らく存在しないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

side箒

 

男達に連れられた私。辿り着いたのは紫やピンクといった濃い色で、なおかつ強めに発光している電球で過度に装飾された部屋だった。そして、吹き飛ばされるようにそこに押されて入室する。

 

「な、何を…」

 

「『再教育』って奴だよ、再教育」

 

男たちの言葉の意味が分からない。『何について再教育を行うのか』という意味は、うっすらながら理解出来る。そして、何故そういう『教育』を受けることになったのかも…不本意ながら理解している。だが、『何をされるのか』だけが分からずにひたすらに恐怖感を煽っている。

 

「言葉の意味が分からないってかぁ?」

 

「何時間…いや、何十時間かぁ?歳の割に立派に育ってる体使ってよォ…俺らと、これから呼ぶつもりの男達含めた全員を相手してもらおうって事よ」

 

「なっ……」

 

「へへ、またしばらく両穴閉じなくなるくらいに無茶苦茶にしてやっからよぉ」

 

要するに…私は自分の体で、男たちと行為をしろと…そういう事である。そう認識した直後に……()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な、なんで…服は…!? 」

 

「服…?なぁに言ってんだ、要らねぇだろ服なんてお前らに」

 

「へへ、まぁ今から化粧はするんだけどな?白化粧だがよォ!」

 

「ひっ…!?」

 

男の一人が、私に手を伸ばす。周りと比べたら、比較的成長している私の体。しかし、本来の…学園に通っていた…はずの年齢よりも下回っているという事実が私の恐怖感をより一層煽っていた。

剣道はやっていた、けれどそれが今一体なんの役に立つというのか。

 

「おら、歯立てたらぶん殴るからな!!」

 

「んぶぉ!!」

 

男の1人が、陰茎を私に咥えさせてくる。酷い匂い、酷い味。吐くかもしれないというレベルで、顔に近づけるべきですらないそれを私は必死に咥えさせられていた。

 

「おぶ、んぐっ!!」

 

「あー、そうそう…くそ下手なりに口が狭いから舌がいい感じに気持ちいいわ」

 

唾液と陰茎から出てき始めている液が、私の口から溢れていく。頭を掴まれ無理やり動かされて奉仕を強制される。今現時点で私にまともな人権はないと、強く刷り込んでいく様に奉仕をさせられる。

 

「おら、さっさとやるからケツ上げろっての…よっと」

 

「んぐっ!」

 

「うおっ…あぶねぇだろ、急にそいつのケツ持ち上げんなっての」

 

奉仕を始めて直ぐに、もう一人の男が私のお尻を持って引っ張りあげる。中腰の状態にしてくる。そして、私の秘裂を撫でるように触り始める。

 

「お、咥えてるだけで濡れてきてるじゃねぇか。やっぱ体は調教されてたのを覚えてた、って事だな

ほれ、もっと濡らしてぇから一回イケ」

 

「んぶ、んぐおっ…!」

 

奉仕を続ける私の意志とは無関係に、秘裂を触る男の攻めは段々と激しさを増していく。撫でるような仕草から、直ぐに中へ指を入れていく。

不本意だが、濡れていたおかげで直ぐに2本…三本と男の指の侵入を許していた。そして、入る指の本数が増える度に私の体は無条件に反応をしてしまっていた。

 

「ん、んぐぅ…!」

 

「ちっ、てめぇが後ろ攻めるせいで全然舌動かさなくなったじゃねぇか……しゃあね、こっちで無理やり動くか」

 

「おごっ!?」

 

そういった男は、私の頭を両腕で掴んで無理矢理動かし始める。初めから無理やりと言われれば無理やりだが、頭を捕まれ無理に動かされる。そのせいか、簡単に喉奥を犯されてしまっていた。

 

「んぐぉっ!おぎゅっ!」

 

「おいおい、そいつ変な声出してるぞ?死なれたら困るんだから…潰すんじゃねぇぞ?」

 

「あー、わかってる分かってる。そこら辺は加減してやってるよ」

 

私本人としては一切加減がされている感覚がないが、それを言ってもどうしようもないし…まず言える状態では無い。

されるがままに秘裂をいじられてされるがままに喉奥を犯され続ける。呼吸もままならない状態で秘裂をいじられ、中の膣肉も蹂躙されるかのようにいじられる。

呼吸がままならない為か意識が朦朧とし始めてきた頃に私の意志とは無関係に、私の体はそのまま簡単に━━━━

 

「んぐ、ぉ…!」

 

「お、ちょっと締め付けた…こいつ今イったな」

 

「丁度、いいや…!俺もこのまま…!」

 

「おご、ぐ…!?」

 

私が絶頂に対して直ぐに…男は私の口の中に射精をした。勿論、そんなものを飲み込めるはずもない…と感じていたが…私の体は勝手に喉を鳴らしながら男の精液を飲み込んでいた。

 

「んぐ、んくっ……ぷは…なん、で私…!?」

 

「そりゃあお前、飲みなれてるからだろ?何回飲ませてやったと思ってんだ」

 

「零す度にボコって、んで薬使って意識トバしつつ…無意識で飲むように何度も何度も体に教えこんだからなぁ?仮に、ちゃんとした生活に戻れたとしても…もう二度とまともな体ではいられねぇぜ?」

 

男のその言葉に、私はショックでどうにかなりそうだった。ただでさえ現実離れしたこの状況だというのに、私の体が男の言う通り身体が男達に従順な反応を示してしまっているのが余計に混乱を招いた。

今までの生活が本当は実は夢で、今この状況が本来の現実なのではないかという感覚が一層強くなっていた。

 

「一、夏……」

 

「あ?イチカ?なんだそりゃ」

 

「あぁ、こいつの家なちょっと前まで隣に織斑って家の隣に住んでたんだよ

確かそんとこの息子が織斑一夏だったな…親代わりの姉が1人で育ててるっつー話」

 

「あぁ、この現代社会で滅多に見ねぇ不憫さだな…ってなんで今そいつの名前が出てくんだよ」

 

「そりゃああれだろうよ、ホの字ってやつだ」

 

「あぁそう言う……くく、おめでたいってのはこのことを言うのかねぇ…もう二度と会えないなんてもんじゃねぇのによ」

 

その言葉が、余計に私の心を苦しめる。そして現実と夢の境界線を曖昧にしていく。

そして、思考が()()()()()()()()()()()()

 

「……姉さん、が……私、は……」

 

「お、ぶっ壊れたか」

 

「まぁ体つきだけはいいしよ、このまま完全にぶっ壊したらただの従順な人形になるだろうな。それが本人にも俺たちにもいいしよ」

 

「若いからな、体だけなら長い間使えるだろうし━━━」

 

それ以降の会話は、既に私の耳には入ってこなかった。今までの事を夢と思い込み、これから起こりうる現実に私の精神は耐えることが出来なかった。

きっと、もう二度と……IS学園のみんなや、一夏には…会うことは無いだろう。

 

「━━━━」

 

「━━━━」

 

だから……私はこれから…ただ男達に奉仕するだけの人形になるんだ。だから、意志も思考も…全て捨てて…これから…生きていく……それを考えた最後に、私は考えることをやめたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

side?

 

あれからどのくらい時間が経過しただろうか。

数時間?数日?数週間?いや、もしかしたらもっと経っているのかもしれない。

 

「んぶ、ぢゅる……ぷは…ん、ん……」

 

「へへ、ほんと従順になったな」

 

「反応もいいからなぁ……ま、犯してる時以外の生活はまともな生き方出来てねぇみてぇだけど」

 

篠ノ之箒は、男達に奉仕していた。穴という穴は犯され、口で肉棒を舐めて刺激していき、両手も他の男達の肉棒を擦り続けていた。その奉仕は、他の全てを忘れたいと言わんばかりに一心不乱の行動になっていた。

 

「おら…ちゃんと飲めよ…!」

 

「んぶっ…!んくっ…んくっ……」

 

出された精液も、一切の迷いなく飲んでいく。精飲している彼女の顔には、最早嫌悪感は存在していなかった。その心は、思考は…最早男に奉仕することだけに使われてしまっているのだ。

 

「ぷは……」

 

「よーし、いい子だ

その調子で死ぬまでこれから男に奉仕してくれよ?」

 

「……はい…」

 

「んじゃ、早速お前の両穴広げろや」

 

箒は言われるがままにアナルと秘裂を自分の指で開く。既に何度か犯された為か、愛液と精液が混ざった液体が垂れていく。そして、男達の肉棒がそれぞれの穴に迫っていく。

 

「お゛っ…!」

 

アナルと膣、両方同時に肉棒を入れられた箒の顔は恍惚としていた。これが待ち遠しかった、と言わんばかりに。

 

「へっ、いい顔するじゃねぇの…生粋の雌になった訳だな」

 

「そりゃそうさ、薬使ったりボコボコに殴ったり色々やったからな。心も体もそりゃもうボロボロよ」

 

「そんな中で気持ちいい事ばっかりされたら……中毒って訳か」

 

「そんなとこだ」

 

「あ゛っ!ひぎゅっ、んぎっ!」

 

男達に二穴を犯されながら箒はひたすらに喘いでいく。男に媚びるような声を出し、時折二穴を犯されて苦しくなるも…それさえも快楽へと変貌させてしまう。

歳の割に大きな乳房を揺らしながら、その歳に似つかわしくないほどの恍惚とした表情で快楽を享受しているのだ。

 

「ほんと、何回も犯されてるくせに…!」

 

「あぁ…締まり、滅茶苦茶いいよな…! 」

 

「あり、がとう…ございま、すぅ…!んひぁ!あひ、んおおおっ!」

 

獣のような声を上げ、快楽に脳をやられ、そしてより快楽のことだけを意識していく。今までの自分を全て消し去りたいかのように。

 

「もっ、ろ…もっろ……わらひを……けひへ……」

 

その言葉は誰に当てたものか。犯している男達か、それとも別の者か。意識せずに放たれた言葉は、そのまま掻き消えていく。そして、この空間には体同士がぶつかり合う音と…女の喘ぎ声だけが響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

side?

 

「ここ、です……」

 

IS学園、箒がセシリアの姿をした何かに案内させた場所は1つの部屋だった。箒は軽く操作をして扉を開ける。

 

「う……2人、とも…?なんで、ここに…」

 

そこには1人の少女が眠っていた。衣装などで誤魔化してはいるが、体の至る所が機械へと置き換わっていてまともな人間と呼べるか怪しい少女。

そう、IS学園生徒…鬼村五十冬である。

 

「………待って、貴方達…誰…?」

 

直ぐに違和感を察知し、警戒する五十冬。しかし、ボロボロとなって既に動かすのが難しいほどとなっている彼女の体は、その警戒に合わせて動くことを許さなかった。

 

「……対象確認、確保後…目的地までの移送任務に変更」

 

セシリアの声、しかし喋っているのはまた別の人物。すぐそれに気づいた五十冬だが、動くことは体が許さない。

 

「っ…!」

 

「……篠ノ之箒は、既にまともな精神状態では無い」

 

「…え……?」

 

放たれる言葉に硬直する五十冬。つまり、何かしらの操作を受けたということであるが、何をどうされたのかは彼女にはまるで見当がつかない。

 

「……左腕部の武装変更、対象確保のための催眠ガス弾に変更」

 

そう言いつつ、目の前のセシリアはブルーティアーズを展開しつつその武装を変更する。変更していく様を眺めていることしか出来ない五十冬は、その光景に恐れを抱いていた。

 

「……数時間の睡眠の後…()()()()()()

 

そう言って、五十冬に銃口が突きつけられ……ガスが放たれる。その瞬間五十冬は意識を失い…倒れてしまう。同時に、ただ立っているだけだった箒も倒れる。

倒れなかったのは…セシリアのみである。

 

「……肉体にガス反映、問題無し。彼女を連れていき……全てを終わらせる」

 

鬼村五十冬の体を背負い、セシリアは壁を破壊して飛び出していく。向かうべきは…ただ1つ。その一点に向かって、エネルギーを全力で吹かせて飛ぶのであった。




2話連続です。


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騎士終焉

お久しぶりです。
仕事が忙しかったり設定メモが全部吹き飛んだりしましたが、終わらせられるよう頑張ります。


side?

IS学園。今となっては各国の少女を閉じ込める牢獄となりかけているこの学園から、一つの影が飛び立とうとしていた。

金の長髪、青い武装…見た目だけならば誰が見でそれはセシリア・オルコット本人である。しかし、まるで別人のように無機質な視線を辺りへと向けていた。

 

「━━━━」

 

脇に抱えるは鬼村五十冬、兄を失い、人間らしい体を失い、記憶を失い、仲間を失っていく少女である。今はその意識さえも消えてしまっているのだが。

 

「…?IS反応検知、この反応は━━━━」

 

セシリアである少女は、視線を上に向ける。瞬間、目の前に一人の人物が降り立つ。

ルクーゼンブルクの騎士であるジブリル・エミュレールだった。

 

「セシ………いや、誰だお前は」

 

目線が会う瞬間、ジブリルは悟った。目の前にいるセシリアの見た目をしたのはセシリア・オルコットでは無くなっている、と。

 

「………敵性反応確認、第4世代IS『インペリアルナイト』」

 

「……よく知っているな、博識な事だ」

 

軽口を叩きつつも、ジブリルはどうするかを模索していた…というのも、ジブリルは目の前の少女に攻撃ができない。それは単に目の前の少女がセシリアに似ているから…では無い。脇に抱えた五十冬の存在があった。

だが、いざとなれば五十冬ごと相手を消すつもりであった。なるべく、そのような手段は取りたくないというのが本音ではあるのだが。

 

「…………」

 

対して、セシリアに似た少女も動きを止めて居た。相手が攻撃できないのも理解しているが、それ以上に攻撃する覚悟を決めた瞬間に自分が雷撃によって焼かれるのを理解しているからだ。故に、派手な行動が取れなくなっている。

つまり、互いが互いを牽制している状態に近いのだ。だが、同時にどちらもこのまま大人しくしている訳にもいかないのが現状でもある。

要するに━━━

 

「━━━斬る!!」

 

ジブリルが先手を取った。だが、それを読んでいなかった相手ではなかった。1歩後ろに飛び下がりつつ、自由になっている方の腕で装備しているライフルを構える。そして、そのまま発砲。

 

「甘い!」

 

ジブリルは紙一重で避け、そしてそのまま相手の懐に入り込む。インペリアル・ナイトの雷撃は使用すれば強力なダメージを与えられるが、抱えられた五十冬にもダメージが通る。ならば、近づき切り裂く方が早い。

ジブリルはそう考えていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……はっ!」

 

「なっ!?投げ━━━」

 

切り裂かれる寸前、相手は抱えていた五十冬をジブリルに向けて放り投げる。それがジブリルの敗因だった。投げられたことで注意を逸らされたのが敗因ではなく、そもそも雷撃を初手から使わない時点で敗北していたのだ。

 

「━━━接触、接続」

 

「しまっ…!」

 

一瞬鈍った剣を、相手がライフルで受け止める。そして、改めて空いた手でジブリルのISに触れる。それで終了、一瞬の攻防はそれで終わった。

ジブリルのISは光の粒子となり、それは相手に吸い込まれる。

 

「…ご馳走様」

 

「インペリアル・ナイト…!?どうした、何故…!がっ!」

 

困惑しているジブリルの隙を着くかのように、相手はジブリルの腹を殴り、気絶させる。そして、先程投げ捨てた五十冬を回収して同じようにジブリルも、脇に抱える。

これで、既に誰も邪魔する者はいなくなってしまった。

 

「……」

 

そのまま2人を抱えて飛び立つ少女。ジブリルは堕ち、そしてIS学園からはまともな助っ人は期待できない状態となった。

織斑一夏とルクーゼンブルクの王女であるアイリスしか、この状況を脱することはできない状況となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

side■■■■■

 

「……迫ってくる反応2つ」

 

「…誰?って言っても答えは大体決まってるかな」

 

「うん…白式とセブンス・プリンス」

 

「……ん?王女と織斑一夏?」

 

確かお付きの騎士がいたような気がするけど…何かあって来れなくなった?IS学園の守りが必要だと考えた?いや、今のIS学園を攻める理由も守る理由もない。さて、一体全体どういうことだろう?

まぁ気にしててもしょうがない━━━━

 

「…とは言えないよねぇ、第4世代IS…確かえげつない雷撃を出すISでしょ?あの騎士さんのIS…騎士さんどこいっちゃったのさ」

 

「…さぁ?でも、隠れられるなんて甘い考えは持ってないと思うけどね…」

 

反応出さずに近づけるとなれば、ISの能力で…それこそブルーティアーズの姉妹機みたいに潜行機能を持ち合わせているか、一切の機器を使わずこっちに近づいてくるか。待機状態ならスルー出来るかもしれないけど、そうなると木製のボートか泳いでくるしか選択肢がない。

 

「…ま、いいや。見えない人のこと気にしたってしょうがない」

 

「……そのまま挑む気?実質タダの重い鎧をまとってるだけなのに」

 

「挑むしかないでしょ、装備を使えるだけマシだと思わなくちゃ」

 

最悪生身で挑むしかないけど……流石にそこまでの性能は持ってないでしょ、この肉体も。

向こうの戦力は何故か残り2人、IS学園の教師や他の生徒達も基本的に使い物にならず…けどその2人が1番厄介。片方は重力を操作できるIS、もう片方はISそのものを完全初期化するIS。

 

「……最悪、乗っ取ってる体を捨てるってのも考えた方がいいかな」

 

「…その体を捨てる?本気で言ってる?」

 

「本気も本気…まぁ乗っとる相手ほとんど居ないけど」

 

不意打ちで織斑一夏、もしくは王女様かな?どちらかさえ乗っ取れればワンチャンあるしね。って言っても織斑一夏に触られたらアウトだし…実質王女様だけか…あと単純に男の体乗っ取りたくないわ。

 

「…自分で言っててなんだけどさ、私ほんと人間やめたよね」

 

「今更」

 

簪ちゃんが冷たくて私は泣きそうです。

ってんな事はどうでもいいわけで…こっちとしては助かるけど、姫様に着いてたあの騎士の人マジでどこいった?こんな状況で騎士道とか言ってられないだろうし、1人だけ待機状態にして隠れてるって可能性はあると思うけど……

 

「…色々考えていたってしょうがない」

 

「ま、それもそうか」

 

攻撃する時はどうしてもISを起動させないといけない。生身でISの相手できるのなんて、織斑千冬か篠ノ之束の2人くらいだ。そして今やその2人は既に戦えない体になっている。実質的に、ありえない話だ。

 

「さて……そろそろ行ってくるよ」

 

「ん、行ってらっしゃい」

 

「…気をつけてね、くらい言ったら〜?」

 

「………言うくらいなら、そもそも『行って欲しくない』って言う」

 

あらま、簪ちゃんは随分とストレートな告白をするようになったね。私そういうの結構好きなんだよ、だからといって行って欲しくないと言われたところで行くんだけど。

 

「……ん、まぁ簪ちゃんが平和に暮らせるようにはしとくよ」

 

「ん」

 

簡単な返事だけを聞いて、私はそのまま外へと出る。王女とそれに付く最強の白い騎士を相手取らせてもらうとしましょうか。勿論、落雷の騎士のことも頭の片隅には置いておくけど…ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

side?

 

セシリア・オルコットの見た目をした人物は空を飛ぶ。脇に2人の人物を抱えたまま。鬼村五十冬とジブリル・エミュレールの二人である。

 

「……」

 

そして、ある程度飛ばしたところでその人物は既に戦闘が終了しているエリアへと突入する。

いまだ燃える船、流れる人の血…鉄と、焼けた肉と少しの潮の香り。詩人でもいたならば、死の香りがする場所とでも言うような程の場所。

その中にある、まだ比較的破損がマシな戦艦に着陸して辺りを見回す。

 

「…おい、そこのIS乗り。どこの所属だ…いや、もしかしてIS学園の奴らか?」

 

すると、まだ生存者がいたのかその戦艦から何人かの男が警戒しながら現れる。

それを確認した後に、喋り始める。

 

「……この女は好きにしていい。代わりに、周りの破損した船や人間を貰う。死体は残らない…望むのならこの船も完全な状態に直そう」

 

 

そう言いながら投げられるジブリル。男たちは困惑していたが、背に腹は変えられなかった。このままでは、帰れない可能性の方が遥かに高かったからだ。

 

「……それは、構わない。」

 

「なら━━━」

 

IS部分の腕を船に突き刺し、動かなくなる人物。少し経ち始めると、体から粒子のような物が溢れ出してくる。男達はそれを見て驚愕したが、その粒子が起こしたことに対してより驚愕を深めることになってしまう。

そして、その粒子は周りの死体や鉄屑とかした戦艦などを包んでいき…()()()()()()()()

 

「いや、これはまさか……()()()()()()のか…?!」

 

そう、まるで粒子がそれらを食べていると言ってもいいほどに跡形もなく消えていってるのだ。そして、辺り一面のものを全て食い尽くした粒子達は男達の乗る船の破損部分を覆い始める。

 

「これは…」

 

「修復率…40%……57%………71%…………89%…………完了」

 

そして、直ぐに破損部分の修理が完了する。完全な修復、そして燃料も従前に補給されていた。

もはや科学ではなく、所謂魔法などのファンタジーの領分に足を入れているようにしか思えない所業。

 

「……」

 

そして、ジブリルを放置したまま飛んでいく人物。男たちはしばらくそれを眺めた後にジブリルに視線を移す。死に掛けたが、男たちは生きている。燃料はあるし、長くても2日もあれば母国へと帰れるだろう。食料は魚さえ釣れれば少し我慢する程度で大丈夫だろう。

濾過機能も着いているので、海水を濾過していけば水分の補給も何とかなるだろう。

 

「……やるか」

 

「…だな」

 

なので、男達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。男達は所謂IS時代における被害者に等しかった。軍に所属してはいるものの、ISの台頭により仕事は減りその分嫌味を言われる事が増えた。女が幅を利かせていて、余計に肩身が狭い思いをする様になった。

無論、女性全員がそんなわけは無いとは理解している。だが、そんなこと男達の感情には関係がないのだ。目の前には女が1人、好きにしてもいいと言われた…疲れと死を目の前にしてしまった男たちの倫理観は、既に崩壊しているのだ。

 

「おい、起きろ女…おい」

 

「…起こす必要は無いだろ?さっさとヤレばいい」

 

ペチペチと最初は頬を叩いて起こそうとしたが、他の男の言葉によりその行為は早々に打ち切られる。確かに、自分達が良ければいいと言うだけの判断なので別に相手がどう、というのは無いのだ。

 

「んじゃあさっさと破くか…にしてもこいつなかなか起きないな」

 

「あいつ、この女の素性も何も言わなかったが…公に出来ない立場の女かそれとも、『立場がない女』のどっちなんだろうな」

 

「前者だな、IS学園の制服着てるし…剣、か?けどこりゃあ待機状態のISだな…コスプレしてるだけの女を気絶かせてまで連れてこねぇだろ」

 

「確かに、って事はIS学園の生徒の中でも公に出来ない立場の女か……特殊な形の待機状態なんて、珍しいもんだ」

 

この男達に一切明かされなかったジブリルの詳細。明かす必要もないと判断されたのか、名前すらもこの男達に明かされることはなかった。しかし、男達のその考えは1つのスパイスとして興奮材料と化していた。

 

「…お嬢様とか、社長令嬢とかもいるんだよなあの学園」

 

「ドイツの軍人とかもいるって話だな」

 

「最近だとどっかの国のお姫様も入ったって話だ」

 

「「「……………………」」」

 

男達は、よりその倫理観を捨て去った。さて、この船には生きている男達はそこそこいる。

とは言っても、1隻分に乗せられた人数よりも少ないが…大体10人ほどである。そして、この世界でも真面目な正義感を持ち合わせていた者達は大体死んでいる。死を目の前にした世界で生きているのは根元の部分が生存に全振りしているのかと言いたいほどの人物だけだ。

 

「…でっけぇな」

 

「だな」

 

服を破き、早々に全裸にさせられるジブリル。だかまだ目が覚めない。男達はこれ幸いと言わんばかりに、ジブリルの体の感触を味わいながらも船の手すりにジブリルの両腕両足を拘束して陵辱の準備を始めていく。

 

「念の為に入れとくか」

 

そう言って、口に詰め物をされる。舌を噛み切られない様にするための配慮である。そうして、ジブリルを『終わらせる』準備が着実に整っていく。

 

「ISはどうする?」

 

「通信とかされたら溜まったもんじゃないからな……預かっとくとしようぜ…何、適当なとこで売っちまえば問題ねぇだろ」

 

反応を追われない様にもしておき、男達は既に我慢が利かなくなっている自身の肉棒を外へとだす。1日くらいならば大きな海の上で別の軍の船と出会うことも無いだろうと楽観的な判断を下して、服はその場に脱ぎ捨ててある。無論、船から飛ばないように風の影響を受けない1箇所にまとめて…である。

 

「さて、やるか」

 

1人の言葉により、そうして陵辱は始まろうとしているのであった。



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騎士堕落

side?

「う……んん…?」

 

目を覚ますジブリル。一瞬だけぼーっとしてしまったが、すぐに意識を覚醒させる。そして、まず手足が動くかを確認していた。そして、動かないことを確認できた。その直後に拘束されてることを認識し、仕方なく頭を動かして周りの確認を行う。拘束されている以上確認して状況を把握しなければならないからだ。

そして、そこで気づいた。

 

「(………衣服が…それに……)」

 

最後に彼女がいた場所はIS学園である。しかし、今いる場所はどこかの船の上。口には詰め物をされその上で衣服が破られてることを冷静に把握する。無論、恥ずかしくないと言えば嘘になるが…今そこで乙女らしい反応をしても仕方が無いとジブリルは無理やり羞恥心を押し込んだ。

 

「………お?なんだ、目が覚めたか……にしたって、全然恥ずかしがらねぇのな?おい、せっかく詰めたが…外してやるよ」

男達の1人がそう言うと、ジブリルの口に入っていた物を取り除く。それによりジブリルは口が自由になり会話ができるようになった。

 

「ぷはっ………誰だ、お前達は…どこの所属━━━」

 

ジブリルは羞恥心と共に、彼女自身の衣服を剥ぎ取った目の前の男達に対する怒りを抑え込む。だが、押さえ込み冷静になったことでジブリルは今いる場所の推測がたった。

 

「……まさか、この船…やられていた内の1隻か…!?」

 

「お?よくわかっ……いや、よく知ってるな?俺らの船を見てそこまで推測できるってことは……詳細な情報知ってそうだな」

 

「…拷問のために私を捉えたと?」

 

「いいや?この船は直してもらった、燃料もある……あとは帰るだけで、どっちかと言うとさっさと帰りたいな

別段欲しい情報も無いから…あぁ、ほんとにただ帰りたいだけだ」

 

つまり、拷問する気は無いということである。しかし現に彼女自身は囚われている…その事実で、ジブリルは恐ろしい推測にたどり着いた。

 

「……まさか、捕虜ですらない…というのか?」

 

「おう、捕虜だと返さねぇといけねぇし国際条約だかなんだかで手を出せないだろ?だからよ、俺らで飼うことにしたんだわ…お前」

 

その言葉で、ジブリルは血の気が引いていた。何の悪びれもなく、人間に対して『飼う』と言ったのだ。そういった趣味の者もいるのは知識としては知っているが、だいたいそういうのはお互いの了承を取った歪な関係で成り立っているものである。

 

「な、何故…!?軍人では無いのか!?」

 

「軍人だよ、ただ……なんか色々嫌気がさした、ってだけだ」

 

「……嫌気?」

 

「ISっつー兵器を使えるってだけで偉ぶってよ、俺らにゃ仕事回すまでもなく全部終わらせる癖に……『してない』だのなんだのよ

そういう『女』に飽き飽きしてんだ、こっちは」

 

善く言ったとしても八つ当たり。仕事での鬱憤をジブリルで発散しようと考えているのだ。はっきり言えば…この八つ当たり自体、IS操縦者であれば…『女』であれば誰でもよくジブリルはただ巻き込まれただけなのである。

 

「誇りは…プライドは無いのか…!軍人として…人として…!」

 

説教が聞くとは思って無い。しかし、ジブリルはあまりのことについ言いたくなってしまったのだ。その言葉に対し、軍人の1人が激怒したのか表情を歪ませて迫ろうとしてくる。だが━━━

 

「━━━やめとけ、相手に挑発する気もねぇだろ。『こんなん』に一々構ってたらキリがねぇよ」

 

相手にも冷静な人間がいた。挑発する気は確かにジブリルの方には無かったが、その冷静さがあってもなお…人を人と思わないような扱いを受けることに賛成しているのだ。

 

「今から犯す。それだけだ」

 

「ん゙っ…!」

 

強く、強くジブリルの胸が揉まれ…否『掴まれ』ていた。果物を大きな手で掴むように、落とさないように握りつぶさんが如く。痛いのには慣れている。だが、生理的嫌悪感と揉まれたことによる体の反応がジブリルにほんの少しだけの声を出させていた。

 

「やめ、触る…なっ…!」

 

「辞めるわけねぇだろ?この船に…というか今お前の目の前にいるのは『こういうことをして役得を得たい』って奴だけしかいねぇからこうなってんだぞ?」

 

強く、強くジブリルの胸は揉みしだかれる。その度にジブリルの体は意志とは関係なく反応してしまうが…男は辞めない。周りの男たちも下卑た目線をジブリルに向けて笑っているだけである。

 

「体ってのは素直だよな」

 

「何、をっ…お前達のような男、に…!屈する、事なんて…!」

 

「あー、違う違う……おいお前ら。代わりにやっとけ」

 

そう言った途端男は離れ…代わりに別の男達がジブリルの体に群がり始める。しかし、まだ身体中のあちこちを触るだけだった。秘裂を撫で上げて、胸をもんで、アナルを弄り、尻を揉む。『行為』に対して使うと思われている箇所全てを触られていた。

 

「あ゙っ…!やめっ…!くっ…!」

 

「お、勃ってきてんな…興奮してんのか」

 

「してる、ワケ…!」

 

「お前の頭とか感情とかはそーなのかもしれねぇけどよ……体はそうはいかねぇだろ?実際、お前は体を触られて反応してるわけだ……意志とは無関係にお前はそのうち気持ちよーくなっていくんだよ」

 

実際、今ジブリルの感情自体は嫌悪感で溢れていた。しかし、体はその感情に反して確かにほんの少しの快楽を受け取っていた。それがより、ジブリルの嫌悪感を助長させているのだが…ジブリル自身も口には出さないだけで快楽が強くなり始めていることを危惧していた。

人間、慣れてしまえば痛みは何とかなるのだ。だが、快楽というのは宜しくない。『気持ちよくない』ならいいのだが『気持ちいい』というのは脳を麻痺させていく。それを上手く扱えるのは娼婦かそれに連なるほどの性行為の経験を持つ人物だけであり、ジブリルはそうでは無い。呑まれてしまえば、自らを律せなくなる可能性が非常に高かった。

 

「ふ、ぐっ…!こんな、のは…ただの生理現象で…!」

 

「言っとけ、生理現象だろがなんだろうが頭ぶっ飛ばしたもんの勝ちなんだよこういうのは……ところで、どれくらいだと思う?」

 

「……は?」

 

ジブリルは男の言っていることが理解出来ていなかった。何がどれくらいなのか、一切の守護を用いていないその疑問文は、じぶりるの頭に大きな疑問を…どころか呆れに近い声を出させていた。

 

「現代最新鋭つっても、距離があったら日帰りとかは難しいもんだよな…結局は船なんだから」

 

「おい待て、一体何の……」

 

「ここから、俺らの国まで…だよ」

 

その言葉に、ジブリルは息が止まった。同時に彼女に取って宜しくない最悪の状況を思い浮かべてしまった。ここまで言葉だけとはいえ抵抗していたジブリルだが、そもそもの話現時点で彼女自身の生殺与奪権を持っているのはジブリル本人では無い…この男達なのだ。

 

「まさか、そんなに時間がかかるような…んんっ!?さわ、るなっ…!ひ、ぁ…!」

 

可愛らしい声を上げるジブリル。男たちはニヤニヤとその様子を眺めながらジブリルの全身を嬲っているが…快楽を得つつ、ジブリルは青ざめさせていた。『堕ちてはならない』と自分に言い聞かせる。

 

「もしかしたら海流の影響で『遠回り』するかもしれねぇな?」

 

そう、男たちの船の燃料は回復している。わざわざ馬鹿正直に元の国へと戻る必要は無いのだ。交渉材料の『餌』はある。余裕もある。遠回りしながら戻るだけでいい、ただそれだけなのだ。

つまり、戻るのにこの男達は日数を掛けるつもりなのだ。何故日数をかけるのか?無論ジブリルを堕とすためである。つまりは━━━━━

 

「………これから、24時間ずーっと俺らの相手を交代でしてもらうが…よろしく頼むぜ」

 

男達の笑みが、悪魔の笑みのように恐怖を覚えるものに感じてしまうのも無理は無いであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぶっ!!んぶぉっ!!!」

 

あれから、数時間が経過した。燃料・食料に関しては以前問題なく適度に魚を釣って食べることで、残っている食料だけに頼らないようにしていた。

そして、当のジブリルに関しては彼女の体に男達が以前群がっていた。だが、まだ本格的に犯されてはいなかった。使われているのはせいぜい口のみ。そしてそれ以外はジブリルのありとあらゆる所を触るだけに留めていた。

 

「ほぉら…出るぞ…!」

 

「うぶっ…!!」

口の中に精液が放たれる。キツイ匂いと、飲み込むのに厳しい苦さが口いっぱいに広がる。吐き出そうとするが……口の中を犯していた軍人が、ジブリルの口の中に肉棒を入れたままジブリルの鼻をつまむ。

 

「っ!?」

 

「飲めよ?じゃないと呼吸させねぇからな」

 

『ならば、死ぬべきか?』と思ったジブリル。ここで醜態を晒し続け、男達にいいように使われ続けるのなら命を断つことでこれ以上好き勝手されるのを防ぐことができる。だが、理性や意識を総動員してそう考えたとしても彼女の体はそうはいかない。意識1つで体の反応を操作することは出来ない。そもそも、彼女はまだ死ぬわけにはいかない。守るべき存在がきちんといるのだから。

 

「んぐっ…んぐっ……」

 

体が勝手に、呼吸を求めようとした結果口の中にあるものを先に飲み込んでしまう。それはつまり、精液を飲み込んでしまったということである。

 

「おー…よしよし、よく出来たな」

 

「げほっ…げほっ…!く、そ…!」

 

激しい陵辱、それはジブリルの体力を彼女が感じている以上に減らしていた。そして更にそれよりも多く精神を摩耗してしまっていた。既に、思考も精神の摩耗と体力の消耗により淀み始めていた。

 

「……おい、そろそろ良さそうじゃないか」

 

「…だな」

 

男達はコソコソと話し合っている。だが、何を話しているかまではジブリルに届いていない…それ以前に、ジブリルに話が頭に入っていくほどの集中力は残されていなかった。

 

「はぁ、はぁ……ひうっ…!」

 

「ほれ、もっと触ってやるよ」

 

「や、め…ッ!」

 

秘裂も、アナルも、クリトリスも、胸も、乳首も…色々な箇所を男達の手が無遠慮にいじっていく。船が動いている音、波の音に比べれば小さいはずにも関わらず、なぜだかジブリルの耳には自らの秘裂から出ている水音が非常に耳に残っていた。彼女自身はいじられることに嫌悪感を抱いていたが、体はそうはいかない。昂る官能は彼女では操作しきれなくなっており、多数を同時にいじられていることによりすぐに絶頂に━━━━━━

 

「ホイ、やめ」

 

「………え?」

 

━━━━達する前に、男達はジブリルに対する攻めを止めていた。昂っている官能は、愛撫が止まったことでほんの少しづつ落ち着いてくるがジブリルの頭は困惑で染まっていた。当たり前だ、直前まで絶頂に達すると思っていたのが止められてしまったのだから。

 

「何、を……んんっ!?」

 

「ほい、続き開始」

 

そして、男達はまたジブリルをいじり始める。乳首は大きくなり、クリトリスもまるで主張するかのように大きくなっている。水音は増していき、男の太い指が既に2本も入れられていた。

あまりにも無遠慮な愛撫、だがそれでも快楽を受けてしまいジブリルは再び絶頂に近づきつつあった。先程は寸止めされたこともあり、すぐさま彼女は達し掛けて…………再び彼女を愛撫する手が全て止まる。

 

「はあっ…はぁっ…!?」

 

「もどかしそうにしてんなぁ?」

 

そのセリフで、回らなくなってきているジブリルの頭でさえも現状が理解出来た。敢えて達せないように男達はジブリルに寸止めを繰り返しているのだ。そして、男達はニヤニヤとジブリルを見ていた。

 

「く、ぁ…!?」

 

「んじゃ、また続きするか」

 

「や゙、め゙ッ…!?ひぁっ!んんっ!」

 

ジブリルは再び攻められ始める。官能は昂らされ、そしてピタリと止む。絶対に絶頂させないように攻められ、ジブリルの頭の中は彼女が制御出来ないほどに我慢が利かなくなっていく。

思考は否が応でも『絶頂したい』としか考えられなくなっていく。染め上げられ、ドロドロに溶けていく。彼女を彼女たらしめる立派な精神と記憶が、渇望の快楽へと上書きされていく。

 

「(私、が…!?こんな、声…思考、まとまらなッ…!)ひ、ぁっ…!!あ゙ッ…!!」

 

自らが出している声とは到底考えられないほどに、媚びている声。達せない渇望は、彼女から『ジブリル』という人物の仮面を取り除こうとしていた。

顔は悦び、性快楽の赤に染まり、思考は桃色1色へと染まる。他の一切は持ち込まれないように弄られては、また寸止めを繰り返される。

 

「や゙ッ…!!こ、れ…以上…はァ…ッ!!」

 

ガクガクと、動かせる範囲で腰が浮く。だが、絶頂はさせて貰えない。心臓が痛いほどに動悸し、思考は更にまとまらなくなっていき、下腹部の…子宮の疼きは更に強くなる。

だが、それでも……男達はやめない。

 

「や゙め、ろ゙ッ………!!ぐうぅぅぅううぅぅぅうぅぅうぅう…!!」

 

ジブリルは、段々と自分がいなくなっていくような感覚を覚えていた。だが、それでも男たちは止まらない。いや、止めることがない。なぜなら彼らの目的はジブリルを飼う事。故に、仮にその過程でジブリルが壊れることがあっても……問題がないのである。

━━━━━彼女への責め苦は、未だ続くのであった。



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騎士結末

side?

 

「はぁっ…はぁっ…!」

 

何日経過したか分からない。そもそも多少の飯の時と用を足す以外は、基本的に男たちの相手をさせられているせいで時間感覚が曖昧になってきているのだ。

別段、窓のない部屋に閉じ込められているとかそういう訳では無い。だが頭が徐々に働かなくなっている状態に加え、自らのこと以外気にするほどの余裕さえも持てない中では明るいか暗いか程の違いしか分からない。

 

「ほら、また触りに来てやったぞ?」

 

「来る、な…!」

 

そして、ジブリルは日を何度か跨いで寸止めを繰り返されていた。さすがに最初ほどの人数が駆り出されているわけでないが、それでも丸一日かけての寸止め、そしてそれを日を跨いでまで行われていることに頭がどうにかなりそうになっていた。

既に頭は絶頂に達したいとということばかり考えてしまっており、それを理性と精神性で振り切れる程ジブリルに強さは残っていなかった。

 

「━━━━って、言いたいところなんだがな」

 

「…?」

 

「初めの目的地、ようやく到着できそうなんでな?そこで仕事をさせてやるよ」

 

ジブリルはこれを聞いて『ろくなことはさせられない』と考えていた。そしてその考えは…見事的中していた。男達は、ジブリルにまともな仕事をさせるつもりはさらさらない。だが、それがどれだけ凄惨なことかは……その現場に立ち会ってようやくジブリルは思い知るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

「なんだ…これは……」

 

夜中の真っ暗闇の中で船を降り、人気のない場所をしばらく歩いた先でジブリルの目の前に現れた場所…そこは凡そ現代的な感覚を持っていれば存在する事が考えられない場所であった。

 

「分かりやすく言うなら…オークション会場だ……人間のな」

 

「こんな、こんなのが許されるわけが…!」

 

「おう、普通なら許されないわな?」

 

「…は?」

 

「時代はもう、『普通』じゃねぇってことだ。時代はゆったりと変わって行くかと思ったか?残念だな、変わる時は一瞬で…劇的に変わんだ」

 

ジブリルと、ジブリルを連れてきた男1人。ステージらしき場所の裏側からステージの現在を覗いていた。そこでは、1人の少女と一人の女性…親子だろうか?その2人が一糸まとわぬ姿…否、唯一あるのは手枷だけで立たされていた。

 

「さぁお待たせいたしました!何度か使われているがまだまだ名器!母と娘をセットでお届け致します!かのデュ━━━」

 

「見ろ、あぁやって雌に値段をつけて自分の雌にしてぇって奴らが大勢いるんだ。法律的にはダメだろうな、もちろん倫理観的にも……だけど、その倫理観に反してるからこそやってみてぇってやつはもちろんいるんだぜ?」

 

観客たちの声、女という『道具』を使う権利を巡って男達…isの登場によって苦渋を飲まされていたであろう者達が、その毒牙を刺そうと我先にと金を出していく。

 

「ちっとだけ話を聞いたんだがよ、あの親子もどっかのISの会社の社長の妾とその子供みたいだぜ?相当高い値が付くだろうな……そういや、おまけでもう1人いたらしいが…別のやつに買い取られたんだと」

 

「…こんなのが、許されるわけ…」

 

「許される時代になっていってんだよ…もう女だからといって、上澄みにいられる時代じゃない…寧ろISを使っていた女ほど、地獄に叩き落とされる…そんな時代なんだぞ、今は…お…決まったようだな」

 

そうこう話しているうちに、どうやら向こうの決着が着いたようだった。金額まで彼らに聞こえてはいなかったが、親子2人…まとめて買取られたらしい。

 

「ありがとうございます!では客室で少々お待ちください!直ぐにこの2人を向かわせますので!」

 

「……そうそう、なんでお前がここにいるかって話だが」

 

「…ぁ……」

 

そう、ジブリルもまた同じように商品として取り扱われるのだ。だが彼女自身身の上話を彼らにした覚えはなく、そしてまた彼らもジブリル自身の経歴をIS学園の制服を着ていたという所だけでしか分からない。()()()()()()()()()()()()

 

「IS学園在籍生徒、それだけでも箔が付くが……こういう店には少ない『処女』だからなお前は

それ以降でもある程度稼がせてもらってから…またどっかに行くさ」

 

「なっ…!?」

 

IS学園。IS専門の学校。色々な階級の者が集まり、現在では平民から始まって国の王族までもが通っている学校だ。だが、当然ISを扱う以上必然的に女性ばかりになる。だが、ここに通って卒業をするだけで箔が付く。どこの国家にも属さない独立した学校、それがIS学園。

………曲解をすれば、女尊男卑の社会の体現である。ここには男性は入れない、女性は卒業までもっていければ将来はほぼ安泰だろう。だが、男性は入る権限がない以上基本的になりあがることは不可能に近い。()()I()S()()()()()()()()()()()()()()

 

「さぁ!次の商品の紹介です!名は不明素性もろくに分からない!だが分かっていることはIS学園生徒で未だに処女!何度も寸止めを行ったおかげで、体はかなり素直になっています!」

 

「さぁ、いけ」

 

紹介された瞬間、ジブリルは一気に蹴り飛ばされる。ステージに飛び込むような形で入った彼女を見て、会場は僅かに沸き立っていた。この時の異常さによるジブリルは嫌悪感と恐怖があったが、こういった会場に来ている客というのは得てして政治家などの国のトップ、大企業の社長等…資金力のある金持ちだけなのだ。

そして、ジブリルはルクーゼンブルクの近衛騎士……一般市民と比べて王族と関わりが多い立場でもある。そして、ルクーゼンブルクはISの開発に一役買っている立場…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「━━━━━ルクーゼンブルクの近衛騎士、ジブリル・エミュレールか?」

 

「っ…!!」

 

誰かの一言が、会場に嫌な程響く感じがした。ジブリルは一気に体温が下がるかと勘違いするほどに、その一言は鋭く冷たいものだった。

 

『ルクーゼンの?』

『20歳を超えていなかったか?』

『だが王女が入ったという話もある』

『では本物?』

『あのスタイル、美貌は忘れるわけない』

 

少しづつ続々と、しかし確実に客達の声は大きくなっていく。その状況を鑑みて、そしてニヤリとスタッフは嫌な笑みを浮かべていた。マイクを片手に、白々しくも改めて認知させるかのように。

 

「なんとォーッ!?どうやらこの女はルクーゼンブルクの近衛騎士の様だ!つまり!処女の女騎士でありながらも学生!まぁコスプレ感は否めませんがそれはそれ!どうやら『これ』自身の価値ももっとあげないといけませんねぇ!!

次回以降は処女でないため値段は下がりますが!今回は処女初取り一番乗り!そんなお客様はどうぞ買う意思を見せてくださいな!!

ではまず、立場と処女という所から…1000万からで!!」

 

手枷を付けられ、蹴り飛ばされたままの体勢でジブリルは必死にどうするかを考えていた。だが、彼女が捕まった時点で彼女の運命は決していたのだ。つまりは『終わり』彼女はここで誰かに買われてしまうのだ。

 

『5千万!』

『7千万!、いや8千万だ!!』

『1億だ!!』

『1億2千万!!』

『2億!!!』

 

急激に値段がつり上がっていくジブリル。それを止めることは彼女にはできない。彼女のISは既に機能せず、タダの木偶の坊……そしていくら訓練を積んでいる近衛騎士と言っても、船に無理やり乗せられてからの数日は彼女の身体機能を大きく低下させてしまっていた。故に、彼女は抵抗しようにもできない状態となってしまっていた。

 

「こんな、こんなことが………(申し訳、ありません……)」

 

ジブリルは心の中で自らの君主に謝る。だが、その心の声は届かないまま彼女は誰かに買われていくだろう。買われて行った先でどうなるかは…彼女次第である。

 

「居ないですか!?他にいないですか!?では、決まりました!3億!ルクーゼンブルクの近衛騎士!彼女は3億での購入となりました!!」

 

果たしてそれは、見合った金額なのか。3億で彼女は自らを売られたことをどう思うのか。恐らく『理不尽』『認めない』と彼女は憤慨しているだろう。それが自らの本音を隠すためなのか、真にそう思っているのかは……彼女にも分からないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

「毎度あり…でもいいんですか?」

 

「何がだ?」

 

ジブリルが連れ行かれた後。二人の男は話していた。片方はジブリルを嬲っていた男。もう1人はこの施設の関係者…先程までマイクを握り喋っていた男だった。

 

「結果として騎士だったわけですが…それを除いたとしてもあのレベルの女を処女のまま放り出すなんて勿体ない、と思ったわけですが」

 

「あぁ…そういう…まぁそれも一理あるな」

 

「じゃあ何故?そちらにメリットなんてないだろうに」

 

「単にあれだ、金が欲しかっただけだ。売った金と…実は処女の騎士だったってことでご丁寧に追加で金を貰ったからな…あとは適当な国で適当に過ごすだけだ

あいつのぶんどったまま忘れてたISも売って…最終的に船も売りゃあ一生遊んで暮らせるだろ。」

 

「くくく、確かに……」

 

「じゃ…待たな」

 

「もう縁がないでしょうが、ではまた」

 

そうして男たちは離れる。先程まで彼らの間で繋がれていたジブリルという存在が無くなった以上…お互いに関わり合う必要は無くなったからである。

とどのつまり……これ以上彼らを語ることも、必要性も……無い。それだけの話である。そして同じように……ジブリルの話も、もうすぐ終わりを迎えるだろう。



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元・騎士

sideジブリル

 

私は、買われた。私を買った男は私に情報を入手させず、従順な奴隷にしたいのか目隠し、耳栓、拘束具…色々なものをで私に様々な制限を設けてから、道具によってじっくりと私を嬲っていた。

 

 

「くぁっ……!ふっ…!んっ…!!」

 

厳重に拘束されているため、私は逃げ場のない快楽を味わう羽目になってしまっていた。乳首、そしてクリトリス…そこに微振動を繰り返す玩具を取り付けられていた。尻穴…にも、ローションで通りを良くされた玩具を入れられ、そちらも微振動で私の本来性感帯では無い箇所をまるで性感帯のように変えていく。

自分の声は、耳栓をしていても聞こえている。しかし、周りの音はほとんど入ってこない。向こうから大きな音を立てない限り、一切認識できないのだ。それに加えて、目隠しもある。一切周りの状況が把握できない状態で、ただひたすらに快楽を私は与えられていた。

 

「ふぅふぅ…!わら、ひは…!」

 

「ふっふっ…舌が回らなくなってきたな……」

 

「旦那様、屋敷に到着いたしました」

 

「ふむ、では連れ出すとしようか」

 

目が見えず、何も聞こえない。その状況が私の他に残った感覚をさらに強くする。そして、見えない聞こえないという状況による『見られているかもしれない』という思考が、私の中の何かを更に強くする。だが、私は心の中でそれを否定する。少ない理性が私の痴態を否定する。

だが、その理性も些細なことで着実に削られていく。急に引っ張られ、何かの段差を降り、周りの空気が少しだけ変化したのを感じた。何も考えなければいいのに、私はそれで『外に出た』と感じ取ってしまった。周りがどう言った場所か分からない以上、外に出たということは私からしてみれば『周りに誰かがいるかもしれない』という事になり…つまりは、私の裸体を…いや裸体以上に恥ずかしい格好を見られていることになってしまう。

 

「や…!見る、な…見ないで…!んぁ…!こんな、恥ずかしい姿…!」

 

「なんだ、見られてると思ってるのか?」

 

「恐らく、外に出たと感じとったことで周りが分からない以上誰かがいると認識したのでしょう…」

 

「…ほーう、なら都合がいい…ひとまずは連れていくとしようか」

 

「はい」

 

「見るな、見るな……ぐっ…!?」

 

ついしゃがみこんでしまった私は…恐らく運ばれている最中に付けられたであろう首輪を、引っ張られる。それによって、つい倒れてしまい…やりたくも無い四つん這いをさせられていた。倒れたことで若干勢いが着いたのか、胸が前後に揺れる。自らの乳首が、勃っていることも不本意ながら感じ取っているので……まるで、そのような格好で興奮しているかのように…見えてしまうだろう。

そして、私はそのまま四つん這いで動かされてしまいどこかへと連れていかれる。太ももに流れていく愛液が、私に否が応でも『地面に垂れている』ということを自覚させていく。

 

「さて…外すか」

 

「くっ…!?」

 

久しぶりに私の視界に、私は目がくらんでしまう。しかしすぐに視界は慣れていき、そして慣れてきたところでここがどこかの屋敷だということが理解できた。そして、気づけば耳栓も外されており視覚と聴覚が私に戻ってきていた。

目の前には、少々太っている男が1人。私の体を嫌な目線でまじまじと見ている。私の体はたった数日嬲られていただけで筋肉量が落ち、代わりに脂肪が増えていた。見た目だけなら大して変わっていないだろう。そして…首輪の先のリードはこの男が持っていた。

 

「どうだった?見られながらの『散歩』は」

 

「っ!!」

 

私はつい、体を隠してしまう。だが、それはもはや無意識の反応と変わらないものであり、そして今更隠したところでもう遅いのだ。多少乾いて太ももに跡として残っている愛液。傍から見ても分かるほどに勃起している乳首とクリトリス。それは散々に見られた後であり……最早、男達の興奮を強くするだけのものでしかない。

 

「売られる前にも、散々に嬲られたそうだな」

 

「………」

 

「黙秘は肯定だぞ?だが、処女だけは…破られなかった」

 

「ひんっ!?あっ…!や、めっ…!指、動かす…なァ…ッ!!」

 

「ではやめよう」

 

「くぁ…ッ!はぁッ…はぁ……」

 

男は私に近づき、指を…秘所に入れる。自分でも驚くほどの鋭敏になった感覚と、信じられないほどの媚びたような声を上げてしまう。そのまま男は多少私の中で指を動かして…引き抜いた。

 

「見ろ、来るまでに玩具を使っていたとはいえ…ここまで濡れるとは才能があるんじゃないか?」

 

男の指から、私の愛液がたっぷりと垂れているところを見せつけられる。見せつけられてしまい…私は、屈辱と…謎の胸の高鳴りで…頭の中がぐちゃぐちゃになってしまっていた。

 

「ひとまず…最初で最後のお前の処女を味わうとしようか」

 

そう言い、目の前の男は服を脱ぎ…自らの性器を晒す。黒く、大きく、そして脈打つそれを見せびらかすように出しているそれから私は目が離せないでいた。

 

「おいおい、そんなに欲しいのか?」

 

「っ!!い、いら…ない…!」

 

何故か私は、返事に戸惑ってしまう。この様なもの、欲しいはずが無いのに。なぜ軽く顔を背けても目が離せないのか、何故胸が高鳴るのか。理解していても、拒みたくなってしまう。

 

「ほれ…味わえ…!」

 

「んぐぼっ!?」

 

男は無理矢理私の口に性器を押し込んだ。幾ら攫われる前より弱っていると言っても…私は噛みちぎればいいのにも関わらずそうはしなかった。自分でもその理由が分からなかったが……だが、分からない理由を模索する前に、私は口から脳に掛けて届く雄の匂いに…頭が麻痺してしまう。売られる前に散々男達に嬲られた事が、悪い意味で本能に刻まれてしまっていた。

 

「ふぅ…!んぶ、じゅる…れろ…じゅるるる…!」

 

無意識に、私は舐めていた。匂いで脳が麻痺し、舐めることで高揚感を得てしまう。下腹部の疼きは段々と強くなっており、太ももに垂れる愛液が、否が応でも私が興奮してることを教えこんでしまう。

 

「ぶはっ…!はぁ…はぁっ…」

 

「いい顔をするじゃないか…準備も出来たことだ、一発目は貴様の中で出すとしよう」

 

「っ…!?ま、待て入れ━━━━━」

 

所謂正常位の体勢のまま…一気に、押し込まれた。何かがちぎれる音が聞こえた気がしたが、もはやそれは些細なことである。一瞬来る激痛の後、じわじわと幸福感のような…もしくは満足感のような感情が私の中に拡がっていく。

 

「あ゙……が…!?」

 

「呆けるな、動くぞ」

 

「ゔぁ゙っ!?ゔご、ぐな゙ぁ゙!!」

 

男は私のことを一切考える素振りはなく、そのまま動き始める。痛みはもちろんあった。しかし、その痛みも纏めて…癪に障るが快楽へと変わっていった。私は、これはまずいと本能的に理解していた。無理やりにでも、男を蹴り飛ばしていくべきだった。しかし、私はそうしなかった。痛みも交えた快楽を覚えてしまうのは真にまずいと思いながらも、妨害するようなことは絶対に出来ず……いや、しなかった。

 

「お゙っ!あ゙っ!や゙、だ゙ぁ゙ぁ゙!!」

 

子供のように駄々を捏ねてしまう。それだけ与えられる快楽が私を『壊してしまう』と思っていたからだ。だが…その与えられる快楽を、私は欲してしまっていた。おそらく私は…もう既に壊れていたのだろう。どこからかは分からない。入れられた瞬間からか、それとももっと前からか。

だが、それをどこかで理解していても認識してしまえば、終わってしまう。それで言葉だけの否定が続いてしまっていた。

 

「おぉ…!中々良いじゃないか!散々焦らされた甲斐があったな!おまえも、期待していたんじゃないのか!?えぇ!?こんなに飲み込みよってからに!!」

 

そんなことを言いながら、男は私を激しく犯していく。大きな打ち付け合う音が、出したくもない水音が、私の中に大きく残っていく。男の言葉が、行為の音が理性が掻き消えていく私の中に残っていく。

 

「もう少し、奥に届くようにしてみよう……か!!」

 

「お゙っ…!?」

 

男は私の両足をさらに押し倒し、そして体重をかけていく。体重をかけ、より強く私に押し込んでいく。男の性器がさらに奥の方に入っていき……私の、子宮へと届く。

 

「や゙、め゙ぇ゙………!!!」

 

声もろくに出せやしない。子宮の入口を突かれた際の快楽は、私の脳を確実に壊していくほどのものだった。本来、こんな所を攻められてしまえば激痛が走る筈である。しかし、私の体は既に痛みすらも快楽に完全に変えてしまうほどに壊れてしまっていたのか…その激痛が、あまりにも心地よく感じてしまったのだ。

 

「あ゙…!ぐっ…!お゙ぁ゙…!」

 

「ははは…!随分と良さそうな顔をするじゃないか!!どれだけマゾヒストなんだお前は!!」

 

「ぢ、が゙……!お゙ぉ゙!!」

 

「何が違う!無理矢理に等しい犯され方をされ、子宮まで攻められて!!それでそんなトロトロの顔を見せてるのはおかしいだろう!!」

 

「じで、な゙い゙ぃ゙!」

 

もはや反射的な返事。必死に叫んで、必死に否定して。だが、それはあまりにも薄い壁でしか無かった。簡単な一撃があれば、それはいとも簡単に壊れてしまうものだった。

それがわかっているかのように、男は動きながら…1枚の手鏡を私に見せつける。

 

「ほら!見ろ!!」

 

「あ゙…!?」

 

手鏡の中に映っていたのは…鏡で幾度となく見た私の顔。だが、その顔は私ですら見たことがない、私の顔だった。顔は紅潮し、涎は垂れ、そして媚びるかのような表情で私は『そこにあった』。

男との行為で、快楽を得て、媚びるかのような声をあげる。今まで並べられてた事実の中に男との行為で蕩けた表情を出すというのが追加される。たったそれだけで……私の心は、ポッキリといった。

 

「あ゙ッ……!!ん゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!お゙んッ!?あ゙ッ!!」

 

「喧しい!!」

 

子供のように騒ぐ私に、一突き。そこからは早かった。私の心はぐちゃぐちゃになり、壊れた心に染み込むかのように快楽が侵食していく。気持ちいい、きもちいい、キモチイイ━━━━

 

「ひぎッ!!あ゙ッ!お゙ッ!!ひぎゅゔゔゔゔゔゔゔゔ!!!」

 

「もう何度イった!?だがまだイかせてやる!何度も何度もイかせて、騎士から完全な牝奴隷へと仕立ててやる!!」

 

「お゙ぉ゙!!ん゙お゙ッ!!ゔお゙ぉ゙ぉ゙!!!」

 

「まずは処女喪失記念だ!!このまま、奥の、奥へと……出す、ぞ……!!」

 

「ん゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

side?

ジブリルは、入口を叩くだけだった肉棒が出される直前に一気に子宮に入り込み…そしてそのまま中へと吐き出された。男の精液が染み渡るかのように彼女の中に入っていき…そして彼女も一気に絶頂へと達した。元々壊れた心にこの絶頂がトドメとなり…彼女は放心してしまう。

 

「あ……う……」

 

ピクピクと痙攣する彼女に、男は未だ満足出来ていないような表情を向ける。それだけ、彼女の体が良かったのだ。故に男の肉棒は未だ勃起したままであり……彼女の中に再び入れるのは、予想しやすいことだろう。

 

「お゙ッ…!?」

 

「まだまだ締まりがいいな…!」

 

肉の打ち合う音。響く水音。1度目に出された白濁液が、男の動きによって掻き出されていく。1度目よりも反応は鈍くなってしまっているが、明確に違うのは反抗しなくなったこと。

心は折れ、快楽に堕ち、思考は錆つき動かなくなる。クールで、自らの信念を持っていたであろうジブリルという存在は、散々に男達の手によって『雌』を開発された後に…肉棒によって、自らを『穴』だと認識させる。

 

「あ゙…お゙…!」

 

「起き、ろ!!」

 

「あ゙ぐ゙ぅ゙ッッッ!!?」

 

男による明確な一突き。それだけで潮を噴き、ジブリルは無理やり呆けていた意識を戻される。そして、突きつけられる現実。更には先程までの行為を再びはっきりと認識してしまい━━━━━

 

「あ゙……?!あ゙ッ!い゙、ぐ゙ぅ゙!?」

 

「もうイったのか!!この淫乱め!!」

 

激しい行為は、更にジブリルの精神を削っていく。『元騎士』というジブリルの属性は、男の興奮を更に更に煽っていく。その煽りによって激しくなった行為でジブリルは絶頂に絶頂を重ね、脳を破壊されていく。

 

「ほら、また出してやる!受け止め、ろ…!」

 

「お゙お゙お゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙お゙ぉ゙お゙お゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙!!!??」

 

そして、すぐに二度目の射精を放たれる。そして、深い絶頂を与えられる。再び潮を噴き出し、ジブリルは元の彼女では考えられないほどの、無様な顔を晒していた。

 

「お゙……あ゙……」

 

「…なんだ、気絶したか…まぁいい……暫くは飼っててやるからな」

 

快楽に蕩けた顔を、自らの飼い主に向けるジブリル。これから彼女は国の騎士としての彼女ではなく……1匹のメスとしての生活を送ることになるだろう。手には剣ではなく肉棒を握り、そして自らの生を王ではなく主に捧げるのだ。

これにて、彼女の生活は……終わりである。以降彼女が元の主に会うことは、未来永劫無いだろう。会うとすれば……王であった少女と共に飼われるか、その王であった少女に買い直され飼い直されるか、である。



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