魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~ (ショーン=フレッチャー)
しおりを挟む

プロローグ 第1話 AD2001 はじめまして、そして、さよなら

新参者故、不手際があるでしょうが、温かい目で見守ってください。



照り付ける8月の太陽の下、一人の少女がブランコをこいでいる。

彼女だけ冬の曇り空の下にいるような表情だ。それもそのはず、彼女の家は大変なことになっているのだ。

父が仕事で大けがを負い、意識不明の重体。母と兄姉は間もなく開店予定の喫茶店の開店に向け大忙しなのである。

少女は邪魔をしないよう一人で公園にいる。そのため他に友達のいない少女はこうして一人でいるしかないのだ。

 ふと、隣からギターの音が聞こえてくる。

隣には銀髪銀眼で和装ともケルト風とも言い難い格好の同年代の少年がいた。

彼は歌っている。

 聞いたことの無い歌だった。

だけどいい歌であることは少女にはわかった。

歌い終わると少女は静かに拍手した。

なんとなく、そうしたくなったからだ。

 

「おおきに」

 

 少年は静かに京ことばのイントネーションで答える。

 

「こ、こちらこそなの」

 

 少女が返答する。その声は少したどたどしい。

根がコミュ障なのだろうか。

 

「一つ聞きたいことがあるんやけど、ええかぁ?」

「な、なに?」

「高町なのはっちゅう子を探しとるんやけど、あんた知らんかぁ?」

「わ、私がなのはなの」

「そら良かったぁ、すぐに見つかって」

「?」

「ああ、こっちの話や。俺はお宅のお父さんの知り合いの息子さんでなぁ、お見舞いに来たんやけど、どうもそれどころではなくてなぁ」

「何があったの?」

「幼い末娘ほっぽり出して何しとん、とダディとお母ちゃんがお宅にガチの説教かましとるところなんですわ。そんで俺は件の末娘を探しに来たんやけど」

「?」

「あー、要するになのはちゃんをお家に呼んで来いっちゅう話や」

「わかったの、でも私がいてもじゃまじゃない?」

「邪魔なもんですか、むしろ主役やで。さ、行きましょか」

「え?」

「え、やない。生憎俺は土地勘が無くてな、方向は分かれど道が分からん。悪いんやけど『翠屋』まで案内してくれへんか?」

「わ、わかったの」

「名前を言うてなかったなぁ、俺はレイ=金剛=ダイアモンド。レイと呼んでくれんか」

「私は高町なのはなの、レイくん」

「気安く呼ぶな」

「!?」

 

 

 

 

 

 かくして、少年と少女は翠屋へと向かう。

翠屋では英国紳士と京女に正座させられた母と兄姉がいた。

その様子にぎょっとするなのは。

 

「お説教は終わりで?」

 

 レイが英国紳士と京女に問いかける。

 英国紳士、レイの父であるデビッドが口を開く。

 

「ああ、今丁度な。限のいいところで来てくれた」

「さよか」

 

 レイは後ろに隠れているなのはをそっと前に促す。

 なのははおっかなびっくり前に出る。

 なのはの母、桃子がなのはの顔をじっと見る。

 

「なのは……、ごめんなさい……!」

 

 桃子は席を切ったように泣き始め、なのはに抱き着いた。

 なのはもそれにつられて泣き始める。

 なのはの姉、美由希も涙を隠しきれていない。

 兄の恭也はようやっと目が潤んでいる。

 

「全く、面倒臭い一家や」

 

 京美人、レイの母である櫻子が独り言ちる。

 

「でも、ええ一家やないですか」

 

 レイが言葉を返す。

 確かに今、高町家は家族としてしっかりと結びついているように見えた。

 それを見ながら、金剛=ダイヤモンド家の3人は静かに頷くのだった。

 

 

 

 

 

 それから半年後、高町家では普通の日常が繰り広げられていた。

喫茶店のマスターとなった父、パティシエの母、高校生の兄、もうすぐ中学生になる姉、そしてもうすぐ小学生になるなのは。

そこには普通の日常があった。

 

「ただいま入ってきました速報です。ブリティッシュエアウェイズ機墜落事件の情報が入ってきました。繰り返します、ブリティッシュエアウェイズハイジャック事件の情報が入ってきました。この墜落で飛行機に乗っていた日本人はレイ=金剛=ダイアモンド君6歳、レイ=金剛=ダイアモンド君6歳が搭乗しているとの情報が入ってきました。安否に関してはまだわかっていません。繰り返します……」




 いきなり安否不明になる主人公。
 次回、出番はあるのでしょうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 AD2003 人間の条件、化物の条件

 主人公は行方不明。
 ヒロインは未登場。
 そもそもこの作品を読んでくれている人がいるのか……。
 


 その日、海鳴市郊外の廃工場は人で賑わっていた。

といっても集まっているのはガラの悪い連中ばかりなのだが。

 

「なあ、俺らの目的ってこの紫髪の嬢ちゃんだけだよなあ、見られたからって言ったって他のガキ攫うの面倒くないっすか?」

「何言ってんだよ、こっちの金髪はバニングスの令嬢だ、それにこの二人のお友達なら親はいっぱい金持っているはずだろ? ついでに稼ぎゃあいいんだよ、ついでによ」

「それもそうっすね」

 

 下卑た会話を繰り広げる連中にアリサ・バニングスは憤慨し、月村すずかは恐怖し、高町なのはは戦慄した。

 もう二人誘拐された子供がいるのだが、銀髪で帽子をかぶった二人はなぜか寝ている。

 ソフト帽をかぶった少年には額に縦に傷がある。

 少女はカンカン帽をかぶった前髪ぱっつんだ。

 2人は呑気に寝息を静かに立てている。

 その様子に3人は呆れ、わずかにではあったが緊張がほぐれていた。

 

「ちょっと! あんたたちこんなことしてただで済むと思ってんの!」

「ただで済むからこんなことしてんのさ」

 

男の1人がアリサに拳銃を向ける。アリサはひっと息をのむ。

 

「俺らのスポンサー様は偉大な方でよ、ここまでやらかしても俺たちの安全を確保してくれるのさ。優しくて涙が出てきそうだ。そうら、スポンサー様のお出ました」

 

 男の声と共に白スーツの男が入ってくる。

 

「氷村のおじ様……?」

「久しぶりだな、すずか」

 

月村すずかは怪訝な顔で白スーツの男、氷村を見つめる。

 

「氷村のおじ様、どうしてこんな……」

「いや、なに君の家に話があるのさ。だというのに君の家は一向に私の話を聞いてくれないからね。こうするしかなかったのさ」

 

「何がこうするしかなかったよ! こんなことして!」

「黙れ」

 

 男たちが一斉に銃を構える。

ひいっと悲鳴が上がる。

 

「やめて! みんなに手を出さないで!」

 

すずかが泣きそうな顔で懇願する。

 

「それは月村の返事次第だ。夜の一族を統べるのが誰なのかそれがはっきりしてからだ。それにしても、そのような下等種どもとつるんでいるとは、月村も落ちたものだな。吸血鬼の、夜の一族の誇りを忘れた面汚しが」

 

 氷村の言葉が放たれた瞬間、遂にすずかは静かに泣き崩れた。

 

「吸血鬼……?」

「そう! 人間を遥かに上回る知力と体力! それを維持する代償としての吸血衝動! 紛れもなく私とすずかは夜の一族、吸血鬼さ」

 

 なのはの言葉を受け、氷村は歌うように己の出自を語る。

すずかの涙を気にしないかのように。

 

「だというのに! この僕を差し置いて月村を頭にするだと! 信じられない! 誰よりも優秀なこの僕が! 夜の一族のトップに立てないなんて! しかも人間と融和だと? 有り得ない! 我々と人間の間に築けるのは上下関係だけ、友情も愛情も幻想でしかないということが分からないのか! 現にすずかは君たちに隠していたじゃないか、自分が吸血鬼であることを。この時点で対等な関係など築けないというのに」

 

「……それが何だっていうのよ」

「うん?」

「それが何だっていうのよ、このクズがっ!」

 

 アリサが勢いよく啖呵を切る。

 

「黙って聞いていたけど、全然大したことない理由じゃない! 単に自分がトップに立てなかったことへの僻みでしょう! あんたがトップじゃなくて正解よ!」

 

なのははぽかんとし、すずかは顔を上げる。

 

「あんたはすずかとは違うわ、ええ比べるのもおこがましいわ!」

「アリサちゃん……」

「わ、私だって! すずかちゃんをいじめる人は許さないの!」

「なのはちゃん……」

「フフフ……、ハハハ! 真実を知ってもなおそんなことが言えるとは、想像力の乏しい餓鬼どもだ! だがもうじきわかるだろうよ。そら、お客様のお出ましだ」

 

 氷村の言葉と共に、廃工場の入り口に人影が現れる。

若い男女が2人ずつとスーツ姿の西洋人に和服美人が帯同している。

 

「随分と大所帯じゃないか、ええ月村忍、高町恭也。ああ、さくらも来ていたのか」

 

「氷村! 馬鹿な真似はやめて!」

 

 同行していた女性、綺堂さくらが声を上げる。

 

「馬鹿な真似? それは月村の方に向かって言うべき言葉だろう? ああ、君もそちら側だったね」

「氷村とやら、今すぐアリサを、その友達を解放しろ!」

 

 震えた声で叫ぶのは金髪の青年、アリサの兄ケントである。

氷村の冷たい視線や多数の銃器にやや怯えるもその姿は毅然としている。

 

「解放? それは月村の返答を聞いてからだ。だがその様子では……」

 

 ぶぱぶぱぶぱぶぱぶぱぶぱぶぱぶぱ

 

「もしも願いが叶うなら~♪ あなたと行きたいレインボー♪ どんだけ好きかと聞かれたら~♪ おませな妄想アイロニー♪」

 

 どこからか力の抜けるような音楽と訳の分からない歌が延々と流れてくる。今までの緊迫した空気はどこへやら。

 

「だれだ、こんな訳の分からん雑音を流しているのは!」

 

全員が音源を探す。

それは銀髪の少年の帽子からだった。

帽子が上下に割れてそこにステージとファンシーな時計があったのである。

ステージ上では女子高生が歌い踊っている。

 

「「「「「「なにあの、アレ!?」」」」」」

 

全員が、いや英国紳士と京美人以外がツッコむ。

その直後銀髪の少年と少女が目覚める。

 

「妄想アイロニー、ということは3時か。不埒物を処分するにはええ時間帯やな」

「この縄の縛り方甘いのではないか? こう、締め付けるときの痛みが無いのがなぁ」

 

 少年は氷村を睨みつけ、少女は縄の縛り方にダメ出しをしている。

妄想アイロニーは流れ続けている。

 

「さっきまでの話は聞かしてもろたで。ずいぶんとまぁご立派な言い分やな。氷村とやら」

「その前にその雑音を止めろ」

「自分たちは強く賢いから人間は餌として生きるのが当然? そんな訳あるかいな。始皇帝も真っ青の傲慢っぷりやな」

「雑音を止めろ」

「どれだけ姿形が人間と乖離していようとも、友達になれるのならそれは人間で、姿形が人間でも、他人を食い物にするんは化物や。あんたは間違いなく、化物やで」

「その雑音を止めろぉーーー!」

 

 少年の言葉か、それとも妄想アイロニーのせいか、氷村は激高して少年に向けて発砲した。

 

「きゃあああああああ!!!」

 

 誰かの悲鳴が響き渡る。

 

「そんな……」

 

ケント・バニングスが絞り出すように声を出す。

 

「有り得ん……、有り得んッ!」

 

氷村は戦慄した。

 

なぜなら銃弾は少年の掌で停止していたからだ。

 

「なぜだッ! なぜ弾が止まっているッ!」

「そら、うちらの息子やからなぁ。拳銃に負けるような軟な鍛え方はしとりまへん」

「それより、いいのか? 目を離しても」

「な、何を」

 

 氷村が呟いた途端、暴風が氷村の両脇をすり抜けた。次の瞬間、悪漢共が吹き飛んでいた。

 

「人より賢い? 人より強い? それがどないした、俺らの一族は1400年も昔からそんな連中と戦ってきたんやで」

 

 少年の言葉に氷村は我を取り戻す。

 

「お、お前らは一体……」

「英国王立魔術協会理事禁術部部長、ダイヤモンド家当主。デビッド=金剛=ダイアモンド」

「神祇省外道部部長、金剛家当主。金剛=ダイアモンド=櫻子」

「両人が嫡子、国際魔術結社(International Magic Society)所属レイ=金剛=ダイアモンド。氷村遊、お前さんは文句なしの地獄行きや」

 

 少年、レイ=金剛=ダイアモンドの口角が吊り上がった。

 それを見た氷村は僅かに慄く。

 

「魔術師だと……!」

「左様、アンタ、間違うた相手に喧嘩売りましたなあ」

「くっ、だがここで全員殺してしまえばいいだけの事」

「出来ますかなあ」

「黙れ! おい、お前ら、何のために金を出したと思っている! さっさとこの餓鬼を始末しろ!」

 

 そういわれては動かざるを言えない悪漢共。

 銃を構えてレイを取り囲む。

 

「アフーム」

「仕方ないのう」

 

 アフームと呼ばれた銀髪銀眼の少女が気怠そうに呟く。

 

「ふんぬぬぬぬぬぬ、バリアー!」

 

 アフームが叫ぶと同時に手から光が溢れ出る。

 たちまちのうちになのは達を虹色のシャボン玉のようなもので包み込む。

 

「「「な、なにこれ!」」」

「「「「「「何か出た!?」」」」」」

「気合があれば何でもできる。銃弾を跳ね返すバリアーだって張れる」

「「「「「「いや、無理でしょ!」」」」」」

 

 全員から総ツッコミを喰らうも、平然とするアフーム。

 

「ならば俺も、フルアーマーモード!」

 

 レイが叫ぶと同時にレイが光に包まれる。

 光が晴れるとそこには新聞紙で出来た鎧で全身を覆ったレイがいた。

 

「「「「「「小学生の工作かよ!?」」」」」」

「ただのこけおどしだ、やってしまえ!」

 

 誰かの掛け声と共に四方八方から銃が撃たれる。

 

「なのは!」

「すずか!」

「アリサ!」

 

 兄姉たちの悲鳴が響き渡る。

 思わず目をつぶるなのは達。

 しかし、銃弾がバリアーや鎧を貫通することはなかった。

 

「あ、ありえねえ」

 

 悪漢の一人が呟く。

 全員無傷で立っていたからだ。

 

「これは、奇跡なのか」

 

 ケントが呟く。

 

「いいや、必然さ」

「我らが魔術に隙は無し。戦車砲にも負けぬよ」

 

 デビッドと櫻子が平然と言う。

 

「レイ! とっとと片づけてしまいなさい」

「イエス! ダディ!」

 

 レイが声を上げると同時に、奇妙な構えをとる。

 

「貴様らには銃弾を馳走になった。こちらもお返しせんとなあ。千客万来『ダマスカス回転寿司』!」

 

 レイの周りに魔法円が現れたかと思うと、そこから四方八方に皿に乗った寿司が飛んでいく。

 

「「「「「「なにこれ!?」」」」」」

 

 全員がツッコんだ瞬間、レイの姿がぶれる。

 レイが高速で移動し、悪漢の一人に接近したのだ。

 ひっと悲鳴を漏らす悪漢。

 にやりと笑うレイ。

 

「あたたたたたた!」

 

 掛け声と共にレイが悪漢の口に高速で寿司を詰めていく。

 

「「「「「「何やってんのこの子!?」」」」」」

 

 寿司で口いっぱいになった悪漢はなぜか気絶するのだった。

 

「まず1人」

((((((こ、怖え~))))))

 

 悪漢共は恐怖を覚えた。

 悪漢の一人が悲鳴を上げながら逃げ出そうとする。

 彼の頭に寿司が激突する。

 彼はそのまま倒れ込み動かなくなる。

 

「さあ! 心行くまで寿司を御馳走しましょ! 有難く思い!」

 

 

 

 

 

「さてと、妾達は安全な所へと避難するかの」

 

 アフームに促され、バリアーごと移動するなのは達。

 バリアーの向こうでは寿司が舞い、レイが悪漢共の口に寿司を詰めていく。

 一方で恭也と氷村が戦っている。

 荒れ狂う寿司の嵐の中、互いに一歩も引かない様子だ。

 恭也の剣戟と氷村の拳舞が飛び交う。

 しかし、恭也が優勢である。

 やがて寿司の雨が止む。

 途端に恭也と氷村の戦いが激化する。

 

「無事についたようやな」

 

櫻子が5人の前にかばうように立つ。

ブレッドは非戦闘要員である若者たちの方にいる。

 

「っ! そういえば、アイツは!」

 

 アリサがレイの方を気にする。当のレイは悪漢共を地面に並べている。

 

「な、何をする気だ?」

「記憶消去と改鋳を行う気か、あれだけの人数を同時には初めてだろうに」

 

ブレッドの言葉の通りレイが行うのは記憶消去と改鋳の魔術である。

地べたに並んだ悪漢共に呪文を唱えながら頭を金属棒で殴打していく。

 

「ジョビジョバー! ジョビジョバー!」

「いや、アレ、大丈夫なの?」

「由緒正しい記憶に関する魔術の作法だ」

「ああ、そうなの……」

 

 ブレッドの言葉に忍は呆れたように呟く。やがて作業が終わったのかレイが合流する。

 

「いやぁ、あれだけの人数は息がキツイですわぁ」

 

 レイの衣服は返り血で染まっていた。

 

「よう持ったな」

「いや、アレただ殴っているだけじゃ……」

「魔術や」

「いや、でも」

「魔術や」

 

なのははこれ以上何も言えなかった。

恭也と氷村の戦いは佳境を迎えようとしていた。

いくら若いとはいえ恭也はそうそう『神速』を多用できるわけでもない。

一方の氷村は碌に喧嘩もしたことの無い坊ちゃん育ちである。

何とかスペック差で持っているものの、戦いの経験という意味では恭也に劣る。

何か一つ、この拮抗を崩す何かが互いにとって必要だった。

 やがて氷村に疲れの色が見え始める。

 恭也はそれを見逃さなかった。

 すかさず『神速』を使う。

 恭也の視界が変化する。

 世界がゆっくりと回転する。

 刹那の見切りが氷村に出来る筈も無く、氷村は敗れ去った。

戦いの決着はここについたのである。




 読んでくれた方は是非感想をお願いします。
 一つの感想が作者の力になります。
 質問も受け付けますので、ぜひいろいろ書いて下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 AD2003 友達が出来た日

 前回のあらすじ
 誘拐されました♡


「さて、悪党どもはおねんねで、主犯のナルシストはお兄さんに倒され、これで一件落着ですかな」

「え、ええ、そうね」

 

 レイの言葉に動揺しながらも同意するさくら。

 平然と立っているこの少年がさっきまで行っていたことを考えれば、さもありなんである。

 

「記憶改鋳したからいつでも警察に送れますえ。どないします?」

「ホントにできてるの?」

「これでも魔術の腕はそこそこです故。今両親のチェックを受けていますが、僕の感触では無事に全員完了したと思うんですがねえ」

 

 悪漢共に何やら魔術をかけて回る、金剛=ダイヤモンド夫妻。

 やがて終わったのか、レイ達の方へと戻ってくる。

 

「全員出来ていたぞ、よくできたな、レイ」

「お褒めに預かり恐悦至極」

 

 一同が一応和やかな雰囲気になったとき、氷村の高笑いが響き渡る。

 

「わはははははは! 殺せ! 自動人形共! こいつらを殺せ! 跡形もなく無残に、残酷に殺してやれ!」

 

 その言葉が出た途端、工場の奥からメイド服姿の女性数人が出てくる。

 

「穏便に済ませてやろうと思ったが、もはや許さん! 殺す! 殺してやる! 全員残らずだ!」

「よく回る口です事」

 

レイが冷たく言い放つ。

4人のメイド服姿の女性たちはその手に日本刀を携えている。

 全員が一斉に襲い掛かる。

 人間ではありえないスピードで接近してくるメイドたちに恐怖を覚えたのか、なのは達は目をつぶる。

忍たちは彼女たちをかばわんとする。

恭也は目をかっと見開き対応しようとする。

次の瞬間、大地が爆ぜた。

 

「地雷魔術を仕掛けてみました」

 

 声の主はレイである。

 自動人形たちは足を吹っ飛ばされ動けなくなっている。

 

「な、人間だったらどうする気だ!」

「関係ないもん♪」

 

 恭也の指摘に我関せずといった態度のレイ。

 

「んだとこのド外道がーーー!!!」

 

 氷村の顔にレイの蹴りが入る。

 

「「「「「「お前のことだー!」」」」」」

 

 その一撃で氷村は昏倒する。

 これで一件落着か、と胸をなでおろす一同。

 しかし、レイと恭也のの鋭敏な感覚は何かを捕らえていた。

 

「まだ、おるな、そこの奴、出てこい」

 

レイが声をかける。

現れたのは一体の自動人形だ。

 

「イレインか」

「お兄さん、ご存じで?」

「最強の自動人形といわれている機体だ。まだ氷村が所有していたのか」

「ほう」

 

 レイが鼻を鳴らす。

 

「マスターの命に従い、排除します」

 

 イレインが二刀を構え、突撃する。

 恭也が構える。

 その前にレイが動いていた。

 

「はいドーン!」

「バヘマッ!」

「「「「「「手、デカッ!?」」」」」」

 

レイの右手が突如巨大化して、デコピンでイレインを吹き飛ばす。

 

「何というか、無茶苦茶だな」

 

 恭也が呟く。

 

「それが我々虚空戦士(ハジケリスト)という生き物なのですよ」

 

 レイがそういうと、イレインの方を見る。

 イレインは立ち上がり、レイの方を見やる。

 

「殺す! 殺してやる! そこのガキも! 全員だ!」

「あらま」

「まさか、感情の暴走!? こうなったイレインはだれにも止められないわ!」

 

 さくらが叫ぶ。

 

「成程、これは厄介な」

「君! 感心していないで、逃げるぞ!」

「いやあ、逃げられんでしょう。向こうさん、始末する気満々ですんで」

 

 イレインは左手の得物を鞭に変えている。

 

「一つお聞きしますが、あれをスクラップにしてもかまいませんね?」

 

 レイがさくらに問いかける。

 

「え、ええ、問題はないけど」

「ならよろしい」

 

 そういうとレイの指先に、水の球が現れる。

 

「水符『真夏のウォーターハザード』」

 

 高速で、水の弾幕がレイの背後の魔法円から放たれる。

 イレインは避け切ることが出来ず、直撃してしまう。

 

「がああああああ!」

 

 イレインは腰から真っ二つになってしまう。

 がしゃりと、イレインの体が崩れ落ちる。

 

「正面から突っ込んでくるなんて、あほな人。いや、人やないか」

「そういう問題ではないと思うが。それにしても、良く一撃で倒せたな」

「水圧マシマシの弾幕ですから。硬度は相当なもんですえ」

 

 恭也はそうか、とだけ返事をすると、イレインに近づいていく。

 イレインはバチバチと火花を上げていた。

 

「こうなってはもう動けないな」

「一応直す事も出来るけど、とにかく判断待ちね」

 

 そういうと恭也と忍は氷村を抱える。

 

「こいつは身内で処分を下すわ。当主に反目したんだもの、極刑は免れないわ」

「そうしてくれ。関係のない子まで誘拐したんだ。夜の一族的にはアウトだろう」

「そうですね」

 

 さくらとデビッドが氷村の処分について話している。

 レイはそそくさとアフームの方へと向かう。

 

「お疲れさん、ようやってくれました」

 

 そういうとレイはアフームの頭を撫でる。

 

「むはー、この瞬間のために生きてるのー」

 

「「「何だかオヤジ臭い」」」

 

 3人娘にツッコまれてレイはようやく撫でるのを止める。

 

「あの、あなたは私達が怖くないんですか?」

 

 すずかがレイに問いかける。

 

「怖くないとも、吸血鬼なんて。夜の一族なんて。逆に聞くが、君達は俺が怖くないんか? 簡単に自動人形を破壊できる力を持った俺が」

 

 3人は首を横に振る。

 

「そんなわけないじゃない、アンタは私達を助けてくれた。どうして怖がる必要があるのよ」

「命の恩人だから! 大丈夫なの!」

「私も、色々助けてもらっちゃったし」

 

 アリサ、なのは、すずかがレイに感謝の意を述べる。

 

「そういうこと。俺にとって夜の一族は敵にならんの。俺は一度真祖吸血鬼に会うたことがあるが、あれのプレッシャーとカリスマは半端なかったで。さもありなん、て感じやったな」

「アンタ一体どうゆう人生送ってるのよ」

「魔術師やから、神秘の存在は良くも悪くも隣人なんや」

 

 アリサの苦言を意に介さず、レイは言葉を返す。

 

「皆さん、申し訳ないのだけど、このまま月村邸まで来ていただけないかしら。説明したいことがあります」

 

 忍が声を上げる。

 

「まあ、そうなりますなあ」

「我々はもちろんついていくが」

 

 櫻子とデビッドがいの一番に賛同する。

それに続いて全員が同意を示す。

そして、全員で月村邸へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「わーい、にゃんこじゃー!」

 

 月村邸についた一行。

 早速アフームが大量の猫に興奮する。

 

「待て! 猫の身体能力は日本刀を持った人間と互角と聞く。すなわちこの状況は!」

 

 レイに言葉にはっとするアフーム。

 

「ここは、死地……!」

「左様、気を抜けば待っているのは死やで……」

「そんなわけないじゃない」

 

 アリサのツッコミが入り、一同は居間で話し合いをする。

 

「何の話でしたかな、確か、部長のヅラ隠蔽事件の話でしたかな」

「違うわ」

 

 レイの発言を切り伏せる忍。

 

「話したいことは夜の一族の掟についてです。私達の秘密を知ったものは、共に歩むか、記憶を失うかのどちらかを選択しなければなりません」

「そんな……」

 

 なのはが悲しそうな声を出す。

 

「我々金剛=ダイヤモンド家は最初から夜の一族の味方だ。秩序ある生活を送るうちは味方であると誓おう」

「「「右に同じく」」」

 

 デビッドの言葉に賛同する、櫻子、レイ、アフーム。

 

「すずかは友達よ。吸血鬼だろうと何だろうと知ったこっちゃないわ」

「アリサちゃん……」

「私だって、すずかちゃんの友達だもん! そんなの関係ないよ!」

「なのはちゃん……」

「アリサが白といったら烏も白だ」

「ケントさん……」

「……一同私達の味方ってことでいいのね。安心したわ。覚悟はしていたけど」

 

 忍が肩をなでおろし、ほっと一息つく。

 

「ええ人たちやないですか。良き縁を結びましたな」

「ええ、勿体無いぐらいだわ」

 

レイの言葉に忍は同意する。

 

「それにしても、誘拐発生から到着までのプロセスが早いですな。どういう訳で?」

 

 レイの質問に恭也が答える。

 

「君たちが誘拐されてすぐに氷村から脅迫状が届いたんだ。忍から連絡が入り、さくらさんと一緒に向かっていた時に、ケントと金剛=ダイヤモンド夫妻に会った」

「僕はアリサが帰りが遅いから探していたところ、金剛=ダイヤモンド夫妻と出会い、一緒にお互いの探し人を探していたんだ。そこに恭也たちが現れて。すずかちゃんが誘拐されたことを知ったんだ。アリサも巻き込まれているんじゃないかって心配になってダウジングを使ったんだ」

「ダウジング?」

 

 アリサがケントの話に疑問を覚える。

 

「ああ、我がバニングス家に伝わる秘術さ。いずれアリサも習うことになるだろうね。おっとこれは秘密にしてもらいたいんだ。ダウジングが使えることをね。話を戻すよ、僕はダウジングを使ってアリサ、すずかちゃん、なのはちゃんの居所をダウジングしたんだ。そしたら3人とも同じところにいることが分かったんだ。金剛=ダイヤモンド夫妻の息子さんたちも同じところにいることが分かって、こうしてみんなで向かったわけさ」

「成程」

 

 レイが納得したように頷く。

 

「それよりも気になることがあります。あなた達、金剛=ダイヤモンド家の皆さんが海鳴に一体何の用事ですか?」

 

さくらが疑問を呈する。

 それに答えたのは櫻子だった。

 

「ふむ、ここで言わぬは不義理かもな。ようござんしょ、私達の目的は来年海鳴で起こるであろう事件の解決のためです」

 

 どよめきが起きる。

 一同に不安が広がる

 

「事件だって!」

 

 ケントが声を上げる。

 

「左様、複数の予言者が同じことを言うてはりました。来年、海鳴という町で常識を覆すような事件が起こると。その事件を解決できるんは額に傷のある子供だけ、すなわちうちの息子という訳なもんで引っ越しのために来たんですよ」

 

「事件とは一体、何が起こるんです?」

 

 忍が櫻子に詰め寄る。

 

「さあ? 常識を覆すとしかわからんもんで。息子だけに任せるんは心配ですけど、これも修行だと思って任せることにしたんですよ」

 

「修業って、大丈夫なんですか? 息子さんって、今いくつ何ですか?」

 

「今年で8歳になります。ついこの間博士号を取得しまして」

 

「「「「「「嘘ぉ!?」」」」」」

 

「マジで」

 

「あの、博士号って何なの?」

 

 なのはが疑問を呈する。

 それにこたえるのは忍だ。

 

「博士号ってのはね、大学院ていう大学の上の学校を卒業したことを言うの」

 

「へえ、それじゃあ、頭いいんだ!」

 

「頭いいどころじゃないわよ! 本物の超天才よ!」

 

「いやあ、照れますなあ」

 

 レイが頭をかく。

 しかしすぐに居住まいを正して全員に向き直る。

 

「本日をもって、海鳴で起こるであろう事件の解決に尽力を尽くすことになりました。レイ=金剛=ダイヤモンドと申します。何分未熟者です故不手際が目立つかもしれませんが、よろしくお願いします」

 

 場がぴりっとした雰囲気になる。

 恭也や忍は何かとんでもないことが起きるのではないかという漠然とした不安が渦巻き始めていた。




 読んでくれる人がいてくれて幸いです。
 もっと読者増えないかなあ。
 どうやったら増えるのかなあ。
 あ、次回から本編入ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1部 AD2004 運命の年 第1章 何色でもない少女たち 第1話 ドラマティックは突然に

 前回のあらすじ
 何やら事件のヨ・カ・ン♡


 朝、それはさわやかな一日の始まり。

 それは誰であってもそうであってほしいものである。

 

「おはよう、皆の衆」

「「「おはよう、アフー……、耳から血が滝のように出てるーーー!!!」」」

「今日もすがすがしい朝じゃのう」

「「「気付いて! 耳が大変なことになってることに!」」」

 

 そして隣のレイには血が直撃している。

 

「「「レイくんも大惨事!」」」

「それより機能のテレビ見たかの? まさかダニエルがあんなことになるなんて」

「「「鼻からも出てきたーーー!!!」」」

 

「ダニエルががばごぼぐべぐびがべごぶ」

「「「口からも!? 病院行った方がいいよ!」」」

 

 レイが懐から杯を取り出す。

 

「「「何する気!?」」」

 

 レイはアフームの口から溢れ出る血を杯て受けると、一気に飲み干した。

 

「「「飲んだ!?」」」

「甘露!」

「「「そんなわけないでしょ!」」」

 

 これが彼女たちの日常である。

 

 

 

 

 

 昼休み、隣のクラスのレイと合流したなのは、アリサ、すずか、アフームは一緒にお弁当を食べていた。

今日の授業で将来の夢がテーマに出たのである。

 

「あたしは何らかの形で会社に関わっていたいわね、ケントが継ぐとしても、あたしも経営とかしたいのよ」

「私は、工学を勉強したいかな、それから家の会社にかかわっていたいし」

 

アリサとすずかは明確なビジョンを持っていた。

 早熟な二人は、早くも己の道を歩もうとその道を選び始めていた。

 

「わたしも、翠屋を継ぐのかなあ。でも……」

 

 なのはは漠然とした未来しか描けなかった。

 無理もない、9歳の子供に将来のビジョンなど簡単に描ける筈も無かろう。

 

「妾はもちろんピチカートファイブの4代目ボーカルじゃな。野宮真貴を超えるのじゃ」

「俺は実家を継ぎながら金融業や不動産業に手を出し、違法すれすれのスリルを楽しむんや」

「アンタらねえ……。てかアフームアンタさっきと言ってること違うわよ。さっきは宝塚の端役って言ってたじゃない」

「レイくんも、その夢黒すぎない? もっと夢のあること言おうよ」

 

 レイとアフームは相変わらずハジケた答えを用意していたのであった。

 アリサとすずかのツッコミももっともである。

 

「……なのははもう少し具体的な夢を持ったらいいんじゃない?」

 

 アリサの言葉に対し、レイが反論する。

 

「いや、夢を持つのはええけど、無理に持つ必要は無いと思うで。将来の夢なんてころころ変わってもええやろ」

「でも、夢がないと目標に向かって努力できないじゃない」

「夢や目標がある奴はそれでええ。せやけど、無い奴は探すところから始めんと。んで、探すのが億劫なら日々を一生懸命生きる。夢や目標なんて人それぞれ、馬鹿にせんと応援してやらんとなぁ」

「レイの言う通りじゃな。妾達にはそれぞれ家業がある。それ故具体的なビジョンが描きやすい。じゃが全ての家がそうとは限らぬし、全ての者が家業を継ぐとは限らん。夢があるということはある意味では幸せなことかもしれんの」

「……いつもこのくらい真面目ならいいのに」

「「それが出来ないのが我々虚空戦士(ハジケリスト)なのです」」

 

 なのはの呟きは無情にも否定されるのであった。

 

 

 

 帰り道、たわいのない話をしながらなのは、アリサ、すずか、レイ、アフームの5人は帰る。

 

「……す、け……」

「ねえ、何か聞こえない?」

 

 すずかの一声で全員が耳をそばだてる。

 

「たす……、け……、て……」

 

 か細い声が5人に届く。

 

「聞こえた! こっちからだわ!」

 

 アリサが先頭を切って声の方向へと駆け出していく。

路地裏で5人はけがをしたフェレットを見つける。

 

「これは……」

「ちくわ大明神の御使いや」

「フェレットでしょ」

 

 このフェレットは近くの動物病院に無事保護された。

 

 

 

 その日の夜、高町なのはは一人夜の街を走っていた。

昼間の声が、強く聞こえてきたからだ。

それにさっきアリサとすずかからメールが来た。

内容は声の件についてだ。

三人の家から動物病院はなのはの家が近い。

いてもたってもいられずになのはは駆け出していた。

やがて、動物病院にたどり着くなのは。

入った瞬間、妙な感覚と音がなのはを出迎えた。

その瞬間、世界から色が消えた。

そして、なのはの目に映ったのは黒い影から逃げる昼間のフェレットだった。

 

「大丈夫!?」

 

なのははたまらずフェレットに駆け寄る。

 

「来てくれたの……?」

 

 フェレットは弱弱しい声を放つ。

 

次の瞬間、黒い影がなのはに向かっていく。

 

「きゃあああああああ!!!」

 

 たまらず悲鳴を上げるなのは。

衝撃音がする。

しかし衝撃がなのはに届くことはなかった。

 

「間一髪やな」

「助けに来たぞ!」

 

 レイとアフームがそこにいた。レイの手には散弾銃が握られている。

 

「奴は俺らが引き付ける。フェレットはん! 説明を!」

「とにかくこの場を乗り切るために頼むぞ! とりあえずなのははフェレットと外へ逃げろ!」

 

 そういうと2人は黒い影に向かっていく。

 

「レイくん! アフームちゃん!」

「案ずるな! 俺達には戦いの心得がある!」

「このような事態は慣れっこじゃ!」

 

 そういうと2人は懐から何かを取りだす。

 長く茶色いひも状のそれは甘辛い匂いがした。

 

「「さあ、かかってこい! かんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょうかんぴょう!!!」」

 

 2人はかんぴょうで黒い影を打ち据え、縛り上げたりする。

 

「何あれ!? それよりも君には資質がある。お願い、僕に少しだけ力を貸してっ!」

「し、資質って……?」

 

 フェレットの言葉になのはは訳がわからず首を傾げる。

 

「僕はある探し物のために、ここではない世界から来ました。

でも、僕一人の力では想いを遂げられないかもしれない。……だから、迷惑だと分かっているんですが、資質を持った人に協力してほしくて……」

 

そう話すと、フェレットは腕の中から飛び降りた。

 

「お礼はします!必ずします! 僕の持っている力を、あなたに使ってほしいんです。僕の力を、魔法の力を!」

「ま、魔法……?」

「「かんぴょうかんぴょうかんぴょう!!!」」

 

 レイとアフームは長いかんぴょうを鞭のように操り黒い影を相手にしている。

なぜかアフームはかんぴょうで自分の体を縛っている。

すでに動物病院は半壊状態である。

 

「お礼は必ずしますからっ!」

「お、お礼とかそんな場合じゃないでしょ!?」

 

 フェレットがそう言ってくる。

 

「ど、どうすればいいのっ!?」

「これを!」

 

フェレットは首輪につけていた紅玉を口にくわえなのはに渡す

 

「温かい……」

「それを手に、目を閉じ、心を澄ませて、僕の言うとおりに繰り返して」

 

 なのはは言われたとおりに行動をした。 

 

「いい? いくよ!」

「……うん」

「我、使命を受けし者なり」

「我、使命を受けし者なり」

「契約のもと、その力を解き放て」

「ええと、契約のもと、その力を解き放て」

 

 なのはが契約の言葉を発していると、赤玉が脈動しているのをなのはは感じていた。

 

「風は空に、星は天に」

「風は空に、星は天に」

 

 どんどん紅玉は脈打っている。

 

「そして、不屈の心は」

「そして、不屈の心は」

 

 そして、二人の声が重なった。

 

「「この胸に!」」

「「この手に魔法を、レイジングハート、セットアップ!」」

『Stand by ready set up』

 

 すると、なのはが掲げて持っている宝石から光が立ち昇る。

 

「なんて、魔力だ……」

「ふえ~!? どうすればいいのっ!?」

「落ち着いてイメージしてっ!君の魔法を制御する、魔法の杖の姿を! そして、君の身を

守る強い衣服の姿を!」

「そ、そんな、急に言われても、えっと、えっととりあえずこれで!」

 

 すると、なのはが次に目を開けたらイメージしていた衣服を着ており、手には自分がイメージした杖が握られていた。

 

「成功だ!」

「え? え!? 嘘!? ほんとにいろいろ変わってる!?」

 

 なのはは状況を飲み込めずに目を丸くしておろおろしていた。

 

「なんやその姿は、まあええ、援護を頼むで」

「こいつ、中々しぶといのじゃ! 2人ではキツイぞ!」

 

 レイとアフームはユウガオの実で攻撃している。

 

「「ユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオユウガオ!」」

 

「それで、私はどうしたらいいの?」

「なんだあれ……、ある意味凄い……、ってそうですね、簡単な呪文は心に浮かぶだけで魔法が使えます。でも大きな力を必要とする魔法は呪文が必要なんです」

「呪文……?」

「心を澄ませて。心の中にあなたの呪文が浮かぶはずです」

 

 なのはは目を閉じる。

 

「うん、いける! リリカルマジカル、封印すべきは忌まわしき器、ジュエルシード! ジュエルシード、封印!」

『Sealing mode set up』

『Stand by ready』

「リリカルマジカル。ジュエルシードシリアルXXI――封印っ!」

『Sealing』

 

 杖から魔力の光が発射され、黒い影に直撃すると、黒い影は消え去り、後に残ったのは綺麗な青い宝石だけとなった。

 

「それは……?」

「はい。これが、僕が探していたジュエルシードです。レイジングハートで触れてもらえますか?」

「こ、こう……?」

 

 なのはが杖を近づけると、ジュエルシードが杖に吸い込まれた。

 

『No.XXI』

 

そして、なのはの格好も私服へと戻る。杖もいつの間にか宝石に戻っている。

 

「終わったの?」

「あなた方のおかげで、無事に封印できました。ありがとう……ござい……ます」

 

 お礼を言うと、フェレットが気絶する。

 

「解決したようやな」

 

 レイ、アフームがなのはに駆け寄ってくる。

 

「フェレットはんは……、気絶したか。いろいろ知ってそうな様子やからもっと話をしたかったんやけどな。まあええ、なのは、俺にそいつを預けてくれんか?」

「ふぇ?」

「うちなら設備も整ってるし、具体的な話も聞ける。それに、そっちはそれどころや無くなるからなぁ」

「え?」

 

レイが見つめる方向には高町史郎と恭也がいた。その顔は呆然としている。

 

「これは、やりがいのある事件になりそうや」

 

 レイはにやりと笑った。

 

「これは、つぶ貝のうまい寿司屋のようじゃ」

 

 アフームもまたにやりと笑った。

 




 読んでくれている人がいる、それだけが私の力になります。
 感想や評価をぜひ、やったことない方は練習だと思ってやってみてください。
 私はリアクションが欲しいのです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 あなたの隣の非日常

 前回のあらすじ
 謎の喋るフェレットから貰った魔法の力。
 かんぴょう巻き。
 しかもいきなりの親バレって、原作と違うじゃん!



 初めての変身から翌日の放課後、高町家、バニングス家、月村家、が海鳴市内の高級マンションの高層階にある金剛=ダイアモンド家に集合していた。

これから始まるのは昨日の件についての説明だろう。

誰もが神妙な顔で説明が始まるのを待っていた。

やがて、ドアが開き、金剛=ダイアモンド親子と一人の少年が入ってくる。

その少年ははちみつの様な黄金色の髪を持ち、翡翠のような緑色の目をしていた。

 

「皆さんお集まりいただきありがとうございます。ではこれから地域の電気を見守り隊の会合を始めるとしましょか」

「「「「「「違う違う」」」」」」

「冗談はここまでにして、これから海鳴で起こるであろう事件について話し合うとしましょか」

 

 レイが口を開く。

 

「司会進行は私が行いますがよろしいですね? では、始めさせていただきます。最初に紹介します。本件の最重要参考人、ユーノ・スクライア君です」

 

 金髪の少年、ユーノが頭を下げる。

 

「ユーノ君、ここまでに至るまでのあらましを」

「わかりました。改めまして、スクライア族のユーノです。遺跡発掘を生業としています。ここに至るまで、僕は次元航行船であるジュエルシードの運搬をしていました」

「ちょっと待った! わからない単語が多すぎる! 一つ一つ説明が欲しいんだが」

 

 史郎が話を遮る。

 

「わかりました。まず前提条件としてこの世界には魔法があります」

「といっても家で使こうとる魔術とは全然違います。それは先ほど確認済みです。高度に発達した科学が魔法という形で現れた、と思ってください」

「魔法のおかげで光速を越えた移動ができるようになりました。それが出来る船に僕は乗っていたんです。それでジュエルシードというのはロストロギアという旧時代の遺物です。何らかのエネルギー源であるとは思われると思われますが、よくわかっていません。僕はそれを今回の依頼主に運んでいたんです。その最中、船が事故に遭いました。その時、ジュエルシードが船外に放り出されてしまったんです。思わず僕はそれをつかみに行き、船外に放り出されてしまいました。それで、気付いたらこの街にいたんです」

「それからどうなったの?」

 

 忍が質問する。

 

「しばらくこの街でジュエルシード探索をしようと思いましたが、身体も魔力も十分とは言えませんでした。そのため小動物の姿になって回復に努めつつ、現地の魔導士に救援を求めていました。」

「じゃあ、あのフェレットさんは!」

「そう、僕です。ですが誤算がありました。この世界が魔法の無い世界だったということです」

「さらに誤算があって、救援を求めた結果、反応したのが小学生5人やったということです」

「なのは達か、それにお前も」

「そうです」

 

恭也の回答にレイは頷く。

 

「以上が本件のあらましです。ほんでもって、ここからが本題です。ユーノ君の所有していたデバイスのレイジングハート、あぁ魔法発動のための補助装置、杖のようなもの思ってください、それがですな、なのはをマスター登録してしまいまして。現状ではなのはの方がユーノ君よりもマスター優先度が高いことになってしまいまして。要するになのはやないとジュエルシードを回収できんという訳でして」

「「「「「「えっ」」」」」」

 

 全員が驚く中、なおレイは話を続ける。

 

「現状、ジュエルシードを回収するのにレイジングハートの使用は不可欠。それがなのはをマスターとして認識しとる。これが問題なんですわ。えぇ、こら問題です。この事件、俺とアフームとユーノ君だけで解決しよ思うたら、なのは、いやアリサにすずかも巻き込みかねんのですわ、どないしましょ」

「どういうことだ? 巻き込みかねないというのは」

 

 ケントがレイに問いかける。

 

「すずかとアリサがユーノの念話を拾ったということは、2人にも魔法の素質があるちゅうことです。つまり、レイジングハートのマスターになる可能性がある、という訳なんですわ」

 

 全員が頭を抱える。

 

沈黙を破ったのはジュエルシードを感知したユーノだった。

 

「ジュエルシードが発動した!」

「何やと! 急いで向かうで、レイジングハートの状態は!」

「うん、ゴメン、セットアップできない」

「ハァ? こないな時になにを」

「Solley, but my muster is Nanoha Takamathi. Please take her me」

「ジョーダンはよしこちゃん! この場になのはを連れていけるか!」

「But……」

「私なら、出来るんだよね……」

「なのは?」

 

 なのはは小さくつぶやく。美由紀がそれに気づく。

 

「私、ユーノ君を手伝う! じゃないとユーノ君困るでしょ!」

「確かに困るけど、それでも君は巻き込めない! ああ、どうしたらいいんだ!」

「早ようせい! レイジングハート! マスターはユーノ・スクライアや! とっとと登録しなおしぃ!」

「But……」

 

 会議は踊り始め、全く進むことはなかった。だが、史郎の一喝が入ると一気に静まり返った。

 

「レイくん! うちの娘は誰に似たのか非常に頑固だ。だからこうなっては意地でもやるだろう。レイくん、うちの娘を傷物にしないでくれよ?」

 

 殺気を露にした史郎がレイに迫る。すでに何人かが怯えている。

 

「レイ、同じ妹を持つ身だ、あとは分かるな?」

 

 恭也も同じようにレイに殺気を飛ばす。レイは丹田に力を籠めると言い放つ。

 

「無論、嫁入り前の娘さんに酷いことが出来ますかいな。ご安心を『兄貴の誓い』に則り、この約定、違わぬものとしましょう」

 

「ねえゴメン、『兄貴の誓い』って何?」

 

 アリサのツッコミに構うことなくレイは続ける。

 

「レイの兄貴、それは何よりも重いぞ」

「ケントの兄貴、同じ兄貴として妹そばで守ってやれぬ恭也の兄貴の無念、如何程か!」

「っ! そうか、済まない恭也の兄貴」

「いいんだ、我ら三兄貴生まれし日違えど」

「「「……妹を思う志は同じ」」」

((((((ねえなにこの三国志的なノリ、ついていけないんだけど))))))

 

 かくしてレイ、アフーム、ユーノ、なのはによるジュエルシード回収チームが結成

された。

 

 

 

 ジュエルシード発動の現場は神社だった。

 発動体は熊ほどもあろうかという大きさの狼に似た姿をしている。

 その近くには気絶した中年女性がいる。

レイは中年女性を抱きかかえ、神社の方へと運んでいく。

 

「この人は俺が守る! その間に封印を!」

「原生生物を取り込んでる。気をつけて!昨日のよりも手強くなってる!」

 

ユーノの注意を聞き、なのはは唾をのむ。

 

「なのは!早く!」

「え、何を?」

「昨日の服と杖を、早く着替えるんだ!」

「え、ど、どうするやって変身するの?」

「我は使命をから始まる、起動パスワードを!」

「え〜〜!あんな長いの覚えてないよ〜」

 

発動体はなのはに向かって襲いかかる。

 

「なのは逃げるんだ!」

 

するとなのはの手が光を放つ

 

「レイジングハート?」

『Stand by Ready. Set up』

 

レイジングハートが宝石状態から杖に変化する

 

「パスワードなしで起動させた……。あ、なのは! バリアジャケットも!」

「う、うん」

『Barrier Jacket』

 

光に包まれるとなのはの姿が昨夜と同じ白い服になる。

 

『Protection』

 

桜色の壁と化け物がぶつかり激しい音が鳴る

 

『Condition:All green』

 

化け物が壁に弾かれ倒れる

 

「あの衝撃をノーダメージで……、やっぱりあの子はすごい才能を持ってる」

「まさかここまでの才能があるとはのう、びっくりじゃ」

「思ったよりいたくない……。えと、封印ていうのをすればいいんだよね。レイジングハートお願い」

『All right. Sealing Mode. Set up』

 

昨日と同じように光の帯が巻き付き化け物の顔に数字が浮かび上がる

 

『Stand by ready』

「リリカルマジカル、ジュエルシード、シリアルXVI、封印!」

 

化け物が光に包まれ消える。

残ったのはジュエルシードと恐らく取り込まれていた子犬が眠っていた。

ジュエルシードがレイジングハートの中に吸い込まれる

 

「ふぅ、これでいいのかな?」

「うん、これ以上ないくらいに」

「完璧じゃったな。そうじゃろう、レイ?」

「うむ。まさかここまでスムーズにいくとは思わなんだ。これなら頼りにしてもよさそうやな。発動体の強さもおおよそ分かった。収穫は大きいで。ああ、ご苦労様でした」

「ご苦労様でした、なの」

「妾の出番は無しか。まあ、何もないのが一番じゃがな」

 

 その後、レイの口八丁で中年女性の記憶を改鋳したあと、意気揚々と引き上げるのであった。

 

「うーむ」

「どないした、アフーム」

「今回はハジケが足りんかったのではないか?」

「言うな!」




 日に日に読んでくれる人が増えて嬉しい限りです。
 皆さん、評価を、感想をお願いします。
 作者は皆さんの疑問にお答えします。
 質問、どしどしお待ちしてまーす。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 世はまさにでんぢゃらす

 前回のあらすじ
 史郎公認でジュエルシードを集めることが出来るようになったなのは。
 尊い犠牲を出しながらも無事にジュエルシードを封印したのだった。
「いや、誰も犠牲になってないの!」


 サッカーというスポーツは今や老若男女問わず話題となる紳士的なスポーツである。

プレイするも観戦するもいいスポーツだ。

 隣にフーリガン、しかもトビウオの着ぐるみを着ているフーリガンがいなければの話だが。

 

「殺せ殺せ! 10番を殺せ!」

「そこじゃ、逝け! 潰してしまえ!」

「「殺れ殺れ~!」」

 

レイとアフーム、レイの6つ下の妹であるアウラとアリアがトビウオの格好をしながら過激なヤジを飛ばしている。

その様子をなのは、アリサ、すずかは遠巻きに引いている。

 

「フッ……、来たか」

「ユーノ君は誰なの?」

 

 ユーノはサッカー漫画に出てくる謎のオヤジっぽい行動をとっていた。

 今日は高町史郎率いる翠屋JFCの練習試合。

観戦席はカオスである。

 

 

 

 

 

 試合は翠屋JFCが2-1で勝利した。

現在は翠屋で祝勝会である。

その場にはなのはたちもいる。

レイは史郎の手伝いをしている。

レイにとっては世話になっている礼のつもりである。

 

「レイくん、すまないね、カッパとの交渉を引き受けてもらって」

「いえいえ、こちらこそいつもお世話になっとりますから。この時期はカッパは出産ときゅうり栽培の準備で過敏になるんです。話し合いで済んで上々ですわ」

「そ、そうか……。ていうか、トビウオになる必要は?」

「カッパといえばトビウオ、鶴に松と同じくらい風流な組み合わせですわ」

「そうなんだ……」

 

 史郎は考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 なのはたちのテーブルにはいつものメンバーがそろっている。

話題は魔法とユーノの変貌についてだ。

当のユーノは人間態で呑気にパスタを食している。

会話の口火を切ったのはアフームだ。

 

「それにしても意外じゃったな、アリサが炎熱変換、すずかが氷結変換持ち、ユーノが虚空戦士(ハジケリスト)になるとは」

「となると、デバイスの用意はどうなるんや? ユーノ」

「そうだね、チューニングに時間がかかるし、ソフトウェアも専用の物を用意しなければいけないから、時間も費用も掛かるね。それに、そもそも僕が無事に帰れるかどうか……」

「だ、大丈夫だって、管理局? に連絡はいれたんでしょ?」

「そうよ、すずかの言う通りよ、私たちのデバイスは後回しにしていいわ。デバイスが無くても簡単な術式なら使えるんでしょ? なら届くまでなしでやってやるわよ。そこまで気を使わなくていいわ」

「……すずか、アリサ、ありがとう。元気と鼻毛が出てきたよ」

 

 そういうユーノの鼻から50センチ程の鼻毛が飛び出してきた。

 

「「「何で!?」」」

「何の! 俺も!」

 

 そういうとレイはまつげを伸ばした。

 

「「「どゆこと!?」」」

 

 

 

 

 

 ふと、なのはの魔力が有り得ないものを捕らえた。

翠屋JFCのキーパーからジュエルシードらしき気配を感じたのである。

 レイとアフームもまた感じ取っていた。

この和風カルボナーラの隠し味は昆布だしであることを。

 なのはは迷った。このことを伝えるべきかどうかを。

 レイとアフームも迷った。隠し味の正体をばらすべきかどうかを。

 そしてなのはは迷った末、黙っていることにした。

 レイとアフームは迷った末、黙っていることにした。

他に誰も気づいていないようだったからだ。ジュエルシードも昆布だしのことも。

 

 

 

 

 

数時間後、町は阿鼻叫喚の渦と化していた。

巨大な樹が突如として現れ、根が街を覆いだす。

ジュエルシードの仕業と判断したユーノ、なのはは異変の中心である大樹へと飛んでいた。

レイとアフームは妹を送り届けていたため不在であるが、先程念話で直に来ると連絡があった。

なのはは違和感を話しておくべきだった後悔していた。

きっと暴走しているのはさっきのジュエルシードだろう。

なのはは焦って速度を上げる。

ユーノは慌ててついていく。

 

「急がないと……!」

 

 なのはが急ぐあまり視野が狭まっていた。そのせいで目の前から迫る大樹の枝に気が付かなかった。

枝がなのはに襲い掛かる。

 

「きゃあああああああ!!!」

「「火符『マグマミキサー村田のドラムソロ』!」」

 

 炎が枝を焼き尽くす

 

「「マグマミキサー、マグマミキサー!」」

「レイくん! アフームちゃん!」

「マグマミキサー?(大丈夫か?)」

「マグマミキサー!(妾たちが来たからには安心して封印するがよい!)」

「普通にしゃべって!」

「……マグマミキサー(でも、ここからジュエルシードまでは樹皮に覆われて届きそうもないよ)」

「ユーノくんも!?」

「なら樹皮をはがせばええ」

「普通に話せるの!?」

 

 なのはの怒涛のツッコミを意に介さず、素早く策を組み立てるレイ。

 

「問題は再生速度を上回る火力やけど……」

「それは妾が用意しよう」

 

 アフームが手を上げる。

 

「行くぞ! 童話『マッチ売りのプリティアフームちゃん』!」

「マッチで!? 無理でしょ! てか自己主張強いよ!」

「はーはっはっは! 燃えてしまえ! 何もかも!」

「そんな話じゃないでしょ!?」

 

 アフームが放った火が大樹の樹皮を焼いていく。

 その速度は確実に再生速度を上回っていた。

 

「今や! なのは封印を!」

「……わかったの! リリカルマジカル……ジュエルシード封印!」

 

 桃色の極大な閃光がジュエルシードに向かって打ち込まれる。

 

「なんつーバカ魔力……」

「これ妾達いらなかったのではないか?」

「奇遇やな、俺も同じ事を思っとった」

 

 

 

 

 

 全てが終わった後、なのはは後悔を告白した。

 

「本当は、翠屋にいた時ジュエルシードに気付いていたの、でもみんな気付いていなかった

から気のせいだろうって、ほっといたの、話していればこんなことにはならなかったのに」

「それはどうやろか、もし話したとしても、その場で何が出来たかはわからん。それでも話してくれれば対策もとれたかもしれん。結局は結果や。封印は出来た。人的被害もゼロ、俺たちはこの失敗から学ぶことが出来た。それが全てや」

「うん、それはいいんだけど、何でバレリーナの格好をしてるの?」

 

 夕陽を背にバカ3人が舞う。それを冷めた目でなのはは眺めるのであった。




 日に日に増えていくUA数を眺めることが僕の楽しみとなっています。
 As編までは書き溜が出来ていますので、どうぞお付き合いください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 対立は世の常

 前回のあらすじ。
「さて! 続いてはスポーツですね、のコーナーです! アフームさーん!」
「はーい! 今日のスポーツですねはこのようになっていまーす!」
 スポーツ新聞を広げるアフーム。
「「「「「「わかるかーーー!!!」」」」」」


 今日の放課後は月村邸でお茶会。

 ということでいつものメンバーでたくさんの猫と共にお茶会を楽しんでいた。

 お茶にはうるさい英国と京都育ちのレイもこの時ばかりは何にも言わずお茶会を楽しんでいた。

 

「いつまでもくよくよしてんじゃないわよ。せっかくのお茶会が台無しになるわ」

 

 大樹の件での失敗が拭えないなのはにアリサが苦言を呈す。

 

「あの時は相談されても誰も動けなかったと思うわ。それでもなのはが失敗だと思うのなら、次はどうするべきかわかるわよね?」

「これでも心配しているんだよ? 私たちじゃ一緒に回収できないけど、その分のサポートはしようって決めたの。だから何か悩みがあるんだったら遠慮なく言ってね」

「なのはは溜め込みやすいからなあ、吐き出せる相手がおるんや。遠慮なく言ってしまえ」

「……うん」

 

 アリサ、すずか、れいの言葉になのははゆっくりと頷く。

 ユーノは猫と戯れながら話を聞いていた。

 

「ユーノ、あんたもよ」

「え?」

 

 突如として話を振られたユーノは虚を突かれた顔をする。

 

「あんたも溜め込みやすそうなんだから、遠慮なく私たちに言っていいのよ」

「私たちもう友達でしょ」

「せや、同じ虚空戦士(ハジケリスト)として、相談はいつでも受け付けたる」

「……うん! ありがとう」

 

 ユーノは初めてできた同年代の友達の言葉に感動していた。

 例えるなら甲子園出場をかけた県予選の決勝でリトルリーグ時代からの親友兼キャッチャーから激励をもらったピッチャーのような心境だった。

 

 

 

 

 

 お茶会の最中、それは突然のことだった。

 ジュエルシードの反応がしたのだ。

 

「空気読まないわね。とっとと回収してきなさい」

「いってらっしゃい」

 

 アリサとすずかに見送られ、4人は森へと入っていく。

 目的地でそれを見つけた時、4人は唖然とした。巨大な子猫がそこにいたからだ。

 

「何じゃ……、コレ」

「多分、子猫の『大きくなりたい』という願いが特に歪むことなく叶ったんじゃないかな」

 

 アフームの疑問にユーノが答える。

 

「それなら回収は楽そうやな。気を引くんは任せとき。巨大猫じゃらしで気引いたる」

 

 そういってレイが取り出したのは竹の先端に楕円球モーニングスターが付いたものだった。

 よくしなるが俗にいう狼牙棒である。

 

「それはどう見ても凶器でしょ!?」

 

 なのはにツッコミを入れられても意に介さず、レイとアフームは狼牙棒を左右に振り巨大ネコの気を引く。

 うまくいったのか猫は興味を示し、前足を伸ばす。その先はレイとアフームだったが。

 

「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」」

「二人ともー!」

「ああっ、重っ、でもキモティー!」

「にくきうが、にくきうが、幸せー!」

 

 心配するなのはをよそに肉球を堪能する二人。

 

「いいからとっとと封印するの」

「いいな~」

 

 呆れるなのはと、羨むユーノ。

 封印の準備をするなのは。

 その時だった。背後から一筋の光が巨大猫に向かっていき、着弾、爆発した。

 

「「何事―!?」」

「え!?」

「何だ!?」

 

 全員が光の発射方向を見る。はるか遠く、電柱の上に金髪黒衣の少女が黒い杖を携えている。

 

「バルディッシュ、フォトンランサー、電撃」

『PhotonRancer.FullAutoFire』

 

 さらに数十の魔力弾が猫に押し寄せる。

 悲鳴を上げながら巨大猫はその場に倒れ込んだ

 

「な!魔法の光、そんな……」

「レイジングハート!お願い!」

 

 なのは以外の魔導師の存在に驚くユーノ、なのははレイジングハートを使いすぐに変化し、巨大猫に迫る追撃の雷光を障壁で防ぐ

 

「……! 魔導師」

 

 相手は攻撃をやめて近くの木の上に降り、こちらを見下ろす。

 金髪のツインテールに赤い瞳の少女だ。

 

「同系の魔導師、ロストロギアの探索者か」

「あぅ」

 

 警戒を強めるユーノ、なのはは少し疲れている。

 レイとアフームは肉球から抜け出そうともがいている。

 

「バルディッシュと同型のインテリジェントデバイスが2つ」

「バル、ディッシュ?」

 

 バルディッシュという名前を聞き、なのはは少女の持つ黒と金の杖を見る

 

「ロストロギア、ジュエルシード」

『Scythe Form. Setup』

 

 少女が発した言葉に反応したのか彼女の杖、バルディッシュが変形し金色の鎌が形成される。

 

「申し訳ないけどいただいていきます」

 

 少女の言葉と共に雷纏う一閃が放たれる。なのはは空を飛んで、ユーノはしゃがんでかわす。

 

「なんで、なんで急にこんな?」

「……答えても 多分、意味が無い」

 

 1度離れて互いに距離をとる

 

『DeviceMode』

『ShootingMode』

 

 2人のデバイスが形を変える、互いに砲撃型になった杖を相手に向ける

 

『DivineBuster.StandBy』

『PhotonLancer.GetSet』

 

 魔法を発動準備状態にしてにらみ合う、倒れていた猫が起き上がる。

 それになのはが気を取られ目線を相手から外してしまう。

 それが決定打だった。

 

「ごめんね」

『Fire』

「はっ!」

 

 気づいた時には遅かった、少女の放った砲撃はなのはを吹き飛ばす

 

「なのは!」

 

 黒衣の少女が巨大猫に迫る。それに立ちふさがる1つの影がある。

 

「行かさへんで」

 

 レイである。

 

「くっ、そこをどけ!」

『Photon Lancer. Full Auto Fire』

 

 多数の雷光がレイに迫る。

 

「相殺する! 土精をもって制する、土符『それは無限のライク・ア・ローリングストーン』!」

 

 回転する石が雷光を打ち消す。

 

『Order?』

「ロストロギア、ジュエルシード、シリアル14。封印」

『Yes. Sir』

 

 杖を上に上げると光の柱が伸び空に穴が開く。

 その穴から光の槍が猫に降り注ぎ光に包まれる。

 

「貰たぁー!」

 

 レイがジュエルシードに手を伸ばすも、ジュエルシードは黒い杖に吸い込まれていった。

 そこに残されていたのは子猫だけだった。

 黒衣の少女達はレイたちを一瞥すると去っていった。

 

「おのれ、おのれぇぇぇぇぇー!」

 

 レイの慟哭が響く。この日彼らは敗北した。たった1人にである。

 

「この恨み、晴らさで置くべきか……」

「彼女たち、何の目的でジュエルシードを……」

 

 ユーノの疑問は青空に吸い込まれていった。




 狼牙棒と言ったら、水滸伝の秦明が有名ですね。
 それはそうと、ハジケた文章というものはなかなか難しい。
 ギャグを考えるのも大変だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 温泉はオアシスたり得るか

 前回のあらすじ。
 敗北、以上。
「「「「「「もっと書くことないの!?」」」」」」



 ゴールデンウィークのある日、高町家、バニングス家、月村家に金剛=ダイアモンド家が加わっての温泉旅行の日である。

 移動は高町家、バニングス家の用意したワゴンなのだが、それに納得する虚空戦士(ハジケリスト)はいない。

 唸るエンジン音、響くレバーとドリフト。

 三つの風が峠を駆ける。

 彼らは走り屋。

 遊園地やデパートの屋上にあるアレで海鳴の山を行く。

 

((((((普通に車乗ったらどうなんだろう……))))))

 

 この後2,3回接触し、爆発もしましたが、無事に宿にたどり着きました。

 

 

 

 

 

 男湯にて。

 

「こうしてみると、全員何らかの形で鍛えているのが分かるな」

「そうですねぇ、男湯にしては華があるんやないですか?」

「意外だったのはユーノだな、結構筋肉質なんだな」

「遺跡発掘って体力勝負なんだよ。特にうちの一族のようなフィールドワーカーにとって体は資本で商売道具だしね。それでもやはり皆さんには劣りますけど」

「いやいや、よく鍛えられていると思うよ。幼いうちから筋肉をつけすぎると骨の成長を阻害するから過剰な筋トレは慎むべきだけど、そのくらいならいいんじゃないかな」

「そう言われると何だか照れますね、士郎さんみたいな体の大人ってあこがれますし」

「それは分かるよ。僕はどちらかというと細マッチョ型だけど、だらしない体の大人にはなりたくないしね」

「ケント兄さんは線が細い人やからなぁ」

「そういうレイくんもよく鍛え上げられてると思うぞ。だがその年で傷が多いのはどうかと思うがな」

「恭也兄さん、武を嗜むものとして生傷はつきものでっしゃろ。ま、流石に好んで傷こさえる真似はせんので」

「それもそうだ」

 

良く鍛え上げられた男たちの温泉は終始筋肉の話であった。

 

 

 

 

 

 風呂から上がり女性陣と合流して部屋へと戻る途中で、とある女性ととすれ違った。

  その瞬間、彼女が急に殺気を飛ばしてきた。

 

(今のところは挨拶だけね)

 

 突然の殺気と念話に慄くなのはたち。

 

(忠告しとくよ。子供はいい子にしてお家で遊んでなさいね。おいたが過ぎるとガブッとするわ――)

 

 女性は突如驚く。

 レイが殺気を返してきたのだ。

 

「レイくん、どうした?」

「あ、何でもないですよ」

 

 恭也にそう返すとレイは念話を返す。

 

(おいたが過ぎるんはどっちの方やろなぁ)

「さ、部屋戻りましょ」

 

 レイに促され全員で部屋に戻る。

 女性は一瞬びびったもののすぐに平静を取り戻し、立ち去る。

 そして、念話で通信するのだった。

 

 

 

 

 

 夜、ジュエルシード暴走の兆候を感じたなのはたちは現場へ急行していた。

 道中はおおむね順調であった。

 レイとアフームが謎の途中離脱をした以外は。

 

「見い! 幽霊や!」

「よっしゃゴーストハントじゃ!」

 

 そんな感じで別方向へと行ってしまったのである。

 その後の道中は順調であった。

 先に黒衣の少女と昼間の女性にジュエルシードを取られているという点を除けば。

 

「あーらあらあらあら、子供はいい子にって言わなかったっけか?」

「それを、ジュエルシードをどうするつもりなんだ! それは危険なものなんだ!」

「さーね? 答える理由が見当たらないねぇ」

 

 ユーノの質問を軽く受け流す女性

 

「それにさ、私親切に教えたよね。いい子にしてないとガブッといくよって」

 

 すると突然、女性の髪が伸び腕と足は人の物から鋭い獣の爪をはやす。

 体中がオレンジ色の毛に包み込まれ。女性は大きな狼に変わっていた

 

「やっぱりアイツあの子の使い魔だ!」

「使い魔!?」

「そうさ、私はこの子に作って貰った魔法生命。製作者の魔力で生きる代わりに命と力の全てを使って守ってあげるんだ。」

 

 狼はなのは達と少女のあいだに立ちふさがる

 

「先に帰ってて、すぐに追いつくからさ」

「うん、無茶しないでね」

「オーケー!」

 

 少女に返事をし、狼は跳躍しなのは達に襲いかかる。それをユーノが障壁を作り阻む。

 

「なのは、あの子をお願い!」

「させるとでも思ってんの!?」

 

 狼はユーノの障壁を前足の爪で障壁に傷をつける

 

「やらせてみせるさ!」

「移動魔法? まずい!」

 

 2人はユーノの移動魔法で消える。残ったのは2人の魔法少女となった。

 

「おや? 終わったのか?」

 

 がさがさと茂みからアフームが血塗れで出てくる。

 

「「きゃあああああああ!!!」」

 

 二人の少女の悲鳴が響く。

 彼女たちは知らない。

 これらが全て熊の返り血だということを。

 

 

 

 

 

「今のは……、おい! 何があった!」

「どーせレイかアフームがハジケたんでしょ。心配ないない」

 

 狼とユーノの戦いは膠着していた。

 しかしユーノ単独では攻撃もままならない。

 お互いに何か、一手必要だった。

 その一手は意外な形でもたらされた。

 

「時速120km!」

「うわああああああ!」

 

 レイがトラックに乗り高速で突っ込んできたのだ。

 悲鳴を上げる狼。

 トラックがユーノと狼、両者を分断する。

 

「助太刀いたす」

「レイ! 助かった!」

 

 トラックからレイが降りる。

 そこへ狼が襲い掛かる。

 しかしレイはそれをするりと躱すと、逆に狼の腹部に蹴りを放つ。

 

「横隔膜キック!」

「キター! 伝家の宝刀横隔膜キック!」

 

狼はレイの蹴りを受け、吹き飛ぶ。

 

「のう、ユーノ」

「何だい、レイ」

「タッグマッチの醍醐味は?」

「……ツープラトン!」

「その通り!」

 

 次の瞬間レイが駆け出す。

 ユーノがそれに続く。

 狼がレイの前に立ちふさがる。

 レイがにやりと笑ったかと思うと、高く飛びあがる。

 

「なっ!?」

 

 狼はそれを見上げる。

 その隙にユーノが近づいてくる。

 背後では着地したレイが迫ってくる。

 

「ゲンコ!」

「足ピン!」

「「クロス・ボンバー!!!」」

「……ぐはぁ!」

 

 狼は何故か吐血した。

 そういう気分になったからだ。

 

 

 

 

 

 2人の魔法少女の戦いは魔力弾の打ち合いと化していた。

 はじめ、話し合いで解決しようとしたなのはであったが。

 

「言葉だけじゃきっと何も変わらない。伝わらない」

 

 しかし少女に拒絶され交渉は決裂。

 互いのジュエルシードを賭けた決闘となったのである。

 

「くっ、こんな時に空が飛べれば……」

 

 歯噛みするアフーム。

 しかし、アフームは思い出したように閃く。

 

「そうじゃ、妾には翼があるではないか! 心の翼が……!」

 

 アフームは飛んだ。

 磔にされた聖者が天に上るように、両腕を伸ばし、手首で羽ばたきながら。

 その顔はとても晴れやかだった。

 

「なのはー! 助けにきたぞー!」

「きゃあああああああ!!!」

 

 有り得ない飛び方をするアフームになのはは思わず悲鳴を上げる。

 

「邪魔をするな!」

 

 黒衣の少女の電撃がアフームに襲い掛かる。

 アフームは変態的な軌道でそれを避ける。

 

「なんか、イライラする……」

「さあ! 反撃じゃ!」

 

 しかしアフームの言葉とは裏腹に彼女は何もしない。

 

「……攻撃手段が一切なしじゃ」

「「ええええええええええええ!!!」」

「ああ、翼が……」

 

 アフームは涙と共に力なく落ちていく。

 

「「何がしたかったの!?」」

 

 2人のツッコミが夜空に響き渡る。

 この後、砲撃の打ち合いをなのはが制すも、首元に鎌を突き付けられ、なのはが敗北。

 ジュエルシードを1個盗られた。

 黒衣の少女はジュエルシードを取ると地上に降りる

 

「帰ろう、アルフ」

 

 少女の言葉に狼、アルフは人型に戻り少女の元に飛んでいく。

 レイとユーノも慌ててアルフの後を追うと、なのはが少女に名前を聞いていた

 

「待って! 私は高町なのは! あなたは!」

「……フェイト、フェイト・テスタロッサ」

「あの、私は……」

 

 少女、フェイトはなのはの言葉を聞こうともせずに飛んでいった

 

 




 さあ君も心の翼で飛んでみよう!
 次回、レイの秘密が明らかに!?
 問うご期待!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 分かり合えないから傷つけあう

 前回のあらすじ。
 男湯で 筋肉の華 咲き乱れ   マッチョ芭蕉
「「「「「「誰!?」」」」」」



 学校にて、レイは頭を抱えていた。

 ノートには様々な論理記号が書き込まれ、授業のことは一切書かれていない。

 やがて、結論が出たのか、顔を上げる。

 そして大きく息を吐く。

 誰もこの天才の所業を咎める者はいない。

 咎めた所で聞く手合いではないのだ。

 今は丁度算数の時間だ。

 彼にとってはわざわざ話を聞くまでもない話である。

 担任も彼に話を振る気配はない。

 以前話を振り、割り算から純粋数学の問題の話をしようとして遮られたことがある。

 それ以来、この若く気弱な担任はレイをどう扱うべきかという難しい問題に直面しているのである。

 レイはそれを逆にありがたく思っていた。

 数少ない研究の時間を邪魔しないでくれるのだから。

 

 

 

 

 

「なのは、なのは!」

「ふぇ?」

 

 アフームがなのはを呼ぶが、なのはは気の抜けた返事をするだけである。

 

「やはり気になるのかの、マイケル富岡の現在が」

「違うよ! ……フェイトちゃんのことだよ」

「そうであったか、失敬失敬」

「フェイトって誰よ」

 

 アリサが話に入ってくる。

 すずかも一緒だ。

 

「うむ、フェイトというのはな、昨今妾達の頭を悩ませているジュエルシード強奪犯じゃ。何の目的で集めているのかわからない上、本人が話す気が毛頭なさそうなので交渉できず、レイも困惑している」

「そんな子がいるんだ」

 

 すずかが頷く。

 

「私は、フェイトちゃんがどうしても悪い子には見えなくて、どうしてジュエルシードを集めているのか知りたいの」

「妾やレイとしても、ジュエルシードは危険物。勝手に持っていかれるのは困る。それにやっていることは犯罪じゃ。どこぞの誰かは知らんが、人の土地で勝手に動かれるのは業腹じゃとレイも言うておった」

「珍しいわね、レイが怒っているなんて」

「それだけ、今回の件で神経を使っておるのじゃろう。ハジケる時間が減って妾はつまらぬ」

「下手すりゃ地球の危機だもんね。そりゃレイくんも気を遣うよ」

「アイツは変なところで真面目だからねえ」

「うん、レイくんが相当イライラしているのは私も見てて分かるもん。フェイトちゃんが話してくれたら全部すっきり解決できるのかな」

「どうじゃろうか、なのはの言う通り、まるっと解決するのが理想じゃ。じゃが妾達は幼い。出来ることは限られておろう。妾もせいぜい出来ることはタンゴを踊ることしか出来ぬ」

「それの何が役に立つのよ。ああ、もう! 私がデバイスを持ってたらとっちめて話を聞きだすのに!」

「アリサちゃん、ちょっと過激だよ。でも私も話してくれない人にはイライラするかな」

「そうだよね、すずかちゃんもそう思うよね。どうしたらフェイトちゃんは話してくれるのかな」

「話してくれるような状況、そんなものがあるのじゃろうか」

 

 4人とも頭を抱える。

 アフームが突然口を開く

 

「合気道の達人塩田剛三曰く、合気道で一番強い技は自分を殺しに来たものと友達になることだそうじゃ」

「それが何なのよ」

「フェイトと友達になれば、話してくれるかもしれん」

「どうやって?」

「さあ? 妾にはわからぬ」

「「「ダメじゃん」」」

「一概にダメとは言えぬかもしれんぞ。巨大猫の件では何も話してくれんかったが、温泉のときには名前を言うてくれた。これは大きな一歩じゃ。もしかしたらフェイトは誰かに話したがっている可能性もあるかもしれん。次に会ったときに何を話すかが大事じゃな」

「そうだね、アフームちゃんの言う通りかも。私達だって出会いは最悪だったし」

「そうなのか? そういえば妾は其方たちがどのように友達になったのか知らぬ。参考までに教えてくれんか?」

「もともと私がすずかのカチューシャを羨んでつかみ取ろうとしたのが始まりだったのよ」

「そこになのはちゃんが止めに入って、なのはちゃんとアリサちゃんが喧嘩になって」

「その最中にすずかちゃんがやめて! って叫んだの。それで仲直りして」

「それで今に至るってわけよ」

「不思議じゃのう、出会いというのは。何が縁を結ぶかわからん。妾達もそうじゃ。出会いは誘拐事件からじゃったな。それが今では無二の親友じゃ。全く合縁奇縁とはよく言うたものじゃ」

「そうね、それだったらフェイトと友達になることもできそうな気がするわね」

「そうだよ、なのはちゃん。フェイトちゃんと友達になろう。そうすれば前に進めるかも」

「うん、そうだね。次にフェイトちゃんに会うときは私の思いを伝えてみる。言わなきゃ伝わらないもん」

「そうじゃ、その意気じゃ。妾達も応援するぞ。みんなで友達になりに行こう。レイも含めてな」

 

 

 

 

 

 その日の夕方。なのはとフェイトは1対1で空中戦を繰り広げていた。

 ジュエルシードの強制発動を感じ取ったなのはたちは現場に急行し、そこにいたフェイトたちを発見。

 ジュエルシードは封印したものの、なのはに襲い掛かるフェイト。

 ユーノを抑えるアルフ。飛べないために応援に徹するしかないレイとアフーム。三様の戦いが繰り広げられていた。

 

「私がジュエルシードを集めるのはユーノ君の捜し物だから、私はそのお手伝いで……だけど、お手伝いをするようになったのは偶然だったけど今は自分の意思でジュエルシードを集めてる。自分の暮らしてる街や自分の周りの人達に危険が降りかったら嫌だから」

 

 なのははフェイトに自分の気持ちを伝える。

 

「これが私の理由!!!」

「……、私は」

「フェイト!答えなくていい!!!」

 

 口を開こうとするフェイトにアルフが叫ぶ

 

「優しくしてくれる人達のとこで、ぬくぬく甘ったれて暮らしてる様なガキンチョになんかに、何も教えなくていい!私たちの最優先事項はジュエルシードの捕獲だよ!」

「誰が甘ったれや」

 

 その声に全員が振り向く。

 レイが怒気を孕んだ声を出したのだ。

 

「自分らだけが不幸やと思うな! みんなそれぞれ不幸なんや。それを、自分らだけが不幸な言い様、とんだ思い上がりやなぁ!」

「う、うるさい! 私らのことを何にも知らんくせに!」

「知らん? ああ知らんとも! だって自分ら何にも教えてくれへんもの! 教えてくれんくせにわかってくれ? 虫がええにも程があるわ!!!」

 

 怒気がオーラとなって膨れ上がる。怒りのオーラにジュエルシードが反応する。

 

「ジュエルシードが暴走する!」

 

ユーノが叫ぶ。

と同時に暴風が吹き荒れ、両者のデバイスに罅が入る。

 

「そんな……、どうしよう」

 

 なのはが力なく慌てる。

 

「このままだとまずい、封印を!」

「なら俺がやる、けじめはつけんとなぁ」

「でもレイには手段がないんじゃ」

「手段ならある! ただ反則なんやけどな。これやると俺しかジュエルシードを扱えんようになる」

 

 そういうとレイは懐から銀色のカギを取り出し、ジュエルシードに向かって構える。

 

解放者の鍵(Remoeter’s Key)、ジュエルシードを封印せよ!」

 

 鍵がジュエルシードに刺さる。そのまま鍵を右回転させロックをかける。するとジュエルシードの暴走が止まっていく。

 

「暴走が、とまった……?」

 

 レイはジュエルシードを掴み懐に入れる。

 

「このジュエルシードは俺が預かる。せやから」

 

 レイの首元にボロボロの金色の鎌が突き付けられる。

 

「力づくで奪おうったってそうはいかん」

 

 鍵で鎌が払われ、レイは背後のフェイトを蹴る。直撃したフェイトは吹き飛ばされる。

レイにアルフが迫る。

レイは襲い掛かる爪をするりとすり抜けると、懐に潜り込む。

 

「秘技『くすぐりアタック』!」

 

 レイがアルフの脇腹をくすぐる。

 その隙にアフームがアルフの背後に周っていた。

 

「からのバックドロップ!」

 

 アフームがアルフを投げ飛ばす。

 

「というわけで、こいつは俺が貰てくで」

 

 そういうとレイは早々にその場を去る。アフームもレイについていく。後に残された面々はそれを呆然と眺めるしかなかった。




 次回、皆待望のあの男が登場!
 物語が加速していくぞ~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 3人目は常識人だといいなぁ

 前回のあらすじ。
 父さん、アルフの一言がレイの逆鱗に触れたようで……。



 早朝の高町家の道場では、恭也と美由紀が朝稽古をしている。

 今日は珍しくなのはが道場にいた。

 何か思うとことがあるのか、物憂げな顔をしている。

 

「どうしたんだ、なのは」

 

 恭也がなのはに話しかける。

 

「お兄ちゃん、稽古はいいの?」

 

「今のなのはの方が大事だ。何があったのか、教えてくれないか」

 

 なのははぽつり、ぽつりとフェイトについて話し始めた。

 

「話を聞いてくれないのは、つらいよね」

 

 美由紀が静かに呟く。

 

「でも大丈夫、いつかきっとなのはの思いは通じるから」

「ほんの少しのきっかけで、分かり合える時がきっとくる。それまで強く呼びかけ続けるんだ。そうすればいつかきっと届く」

 

 なのはは頷く。

 きっとフェイトに私の思いを届けて見せる。

 そう胸に誓って。

 

 

 

 

 

 あるビルの屋上、アルフとフェイトがおり。フェイトの手にはケーキの箱があった。

 

「お土産はこれで良し、と」

「甘いお菓子か、こんな物あの人は喜ぶのかね?」

 

 そう言いながらアルフはケーキの箱をフェイトの代わりに持つ。 

 

「わかんないけど、こういうのは気持ちだから」

「そんなもんかね」

 

 フェイトの言葉に素っ気なく返すアルフ。

 

「…事件転移、次元座標。876C 4419 3312 2699」

 

 フェイトが座標を口ずさむと2人の足元に魔法陣が現れる。

 

「3583 A1460 779F 3125、開け誘いの扉。時の庭園、テスタロッサの主の元へ」

 

 そして魔法陣はアルフとフェイトを包み3人はその場から消えた。

 

 

 

 

 

 とある次元空間、そこに白を基調とした巨大な船のような物体が存在した。

 

「みんなどう? 今回の旅は順調?」

「はい、現在第3戦速にて航行中です。目標次元には今からおよそ160分後に到達の予定です」

 

 その船の中で緑髪長髪の女性の質問に男性オペレーターが答える。

 

「前回の小規模次元振以来特に目立った動きはないようですが、2組の捜索者が再び衝突する危険は非常に高いですね」 

 

 続けて別の男性オペレーターが目的地での状況を説明する。

 

「そう」

 

 女性は返事をしながら自分の席らしき椅子に座る。

 

「失礼します。リンディ艦長」

 

 すると、リンディ艦長と呼んだ女性スタッフが運んできた紅茶を机の上に置く

 

「ありかと、エイミィ。そうねぇ、小規模とはいえ次元振の発生は…ちょっと厄介だものね。危なくなったら急いで現場に向かってもらわないと。ね、クロノ」

 

 渡された紅茶を飲みながらリンディは傍らにいる黒髪の少年に声をかける。

 

「大丈夫、分かってますよ艦長。僕はそのためにいるんですから」

 

 少年、クロノは任せろと言わんばかりに自信よく答えた。

 

 

 

 

 

「たったの4つ……、これはあまりにも酷い」

 

 椅子に座った女性が呟く。

 女性の視線の先には両手を縛られたフェイトがおり、フェイトの身体中は鞭で叩かれた傷があり、所々服も破けている。

 

「はい。ごめんなさい母さん」

「いいフェイト?貴方は私の娘、プレシア・テスタロッサの一人娘。不可能な事などあってはダメ」

 

 女性、プレシア・テスタロッサはフェイトに近づき命令するように語りかける

 

「こんなに待たせておいて上がってきた成果がこれだけでは母さんは笑顔で貴方を迎えるわけにはいかない。分かるわね? フェイト」

「はい、分かります」

「だからよ。だから、覚えてほしい。」

 

 プレシアは自分の持つ杖を一本鞭に変える。

 

「もう二度と母さんを失望させないように」

 

 フェイトの顔が恐怖に染まる。

 

 そしてプレシアは手に持った鞭をフェイトに振り下ろした。

 鞭を叩く音が響く度フェイトの悲鳴が響き渡る。

 その声をアルフは壁越しに聞こえてくるそれから耳を塞ぎ、怒りと恐怖で震えていた。

 いつの間にか鞭の音が消えている。

 部屋の中からプレシアの声が聞こえてくる。

 

「ロストロギアは、母さんの夢のためにどうしても必要なの。貴方は優しい子だから、躊躇ってしまうこともあるかもしれないけど、邪魔にするものがあるなら潰しなさい! どんな事をしてでも! 貴方にはその力があるのだから」

 

 鎖が消え、フェイトは倒れこむ。

 

「行ってきてくれるわね? 私の娘、かわいいフェイト」

「はい。行ってきます、母さん」

 

 プレシアの言葉に僅かに体を起こし返事をするフェイト。

 

「暫く眠るわ。次は必ず母さんを喜ばせてちょうだい」

「はい」

 

 そう言い残しプレシアは奥の部屋へと消えていった。

 プレシアが居なくなったあと立ち上がったフェイトはプレシアが座っていた椅子の横にあるテーブルを見る。

 そこにはフェイトが母のために買ってきたケーキの箱が置かれたままだった。

 

 

 

 

 

 金剛=ダイアモンド家のリビングは香の煙で充満していた。

 

「こんなことが……」

 

 一人の女性が驚いている。

 

「すごいよね、魔法とは全然違うのに」

 

 宙に浮いた半透明の少女の声ががこの世のものではないところから響く。

 

「これで証明はええやろ? 問題はここから先、どうやって元に戻すかや。といっても実際に見るまでわからんが、大体の予測はつく。そのための準備がいるな」

 

 レイは封印したジュエルシードを手の内で弄びながら2人に語りかける。

 

「……本当になおるんだよね?」

 

 少女が不安そうに呟く。

 

「今のままやとキツイが、協力してくれるんやったら。いくらでも直しようはあるで」

「私に出来ることがあれば何でも申し付けてください。そういう契約ですから」

「私だって、出来ることがあるならなんだってするよ」

「その言葉が聞きたかった! それなら……」

 

 2人に指示を出すレイの顔は、悪い顔をしていた。

 

 

 

 

 

 海鳴海浜公園。そこにジュエルシードがある。

 何のいたずらか、ジュエルシードが発動する。

 なのはたちはそれを察知して現場に急行した。

 そこにはフェイトとアルフも来ていた。

 ユーノが結界を張るのを合図に戦闘が始まる。

 

「へぇ!生意気にバリアまで張るのかい」

「うん、今までのより強いね。それにあの子もいる」

 

 暴走体の姿は木をモチーフにしているようだ。地面から根を生やして近づけないようにしてくる。

 

「飛んで避けて!」

「絡まったー!」

「お助けー!」

 

 ユーノの助言空しく、レイとアフームは見事根に捕まる。

 

「アークセイバー。いくよバルディッシュ!」

『Arc Saber』

 

 フェイトはバルディッシュを振り魔力刃を放つ。

 魔力刃は根を切るが本体には障壁を張って防がれる。

 しかし根を切られたのが痛いのか暴走体は苦しそうな声を出す。

 

『Shooting Mode』

 

 暴走体が怯んでいる隙になのはは砲撃の準備をする。

 

「撃ち抜いて!ディバイン!」

『Buster』

 

 なのはの砲撃が放たれる。

 暴走体は障壁を使い防御するが、耐えきれないのか体が沈む。

 

「貫け轟雷!」

『Thunder Smasher』

 

 更にフェイトも砲撃を放つ。

 暴走体は2人の砲撃を防ぎきれず、その体を光らせて消滅した。

 そこからジュエルシードが光の中から現れる。

 

『Sealing Mode. Setup』

『Sealing Form. Setup』

「ジュエルシード、シリアルⅦ!」

「封印!」

 

 封印魔法によってジュエルシードの輝きが弱まる。

 

「あの根っこ、煮物にしたらええ味しそうやったなぁ」

「ああ、確かに!」

「「何の話をしてんの!?」」

 

 なのはとフェイトが同時にツッコむ。

 

「ジュエルシードには刺激を与えたらけないみたいだ」

「うん、昨夜みたいなことになったらレイジングハートもフェイトちゃんのバルディッシュも可愛そうだもんね」

「だけど、譲れないから」

「私は、フェイトちゃんと話をしたいだけなんだけど」

『『Device Mode』』

「私が勝ったら……ただの甘ったれた子じゃないって分かってもらえたら。お話し聞いてくれる?」

 

 黙ったままバルディッシュを構え直すフェイト、次の瞬間2人は距離を詰めてデバイス

を振るう。

 

「ストップだ!」

 

 2人のデバイスがぶつかる寸前、1人の少年が現れ割って入る。

 

「ここでの戦闘は危険すぎる!時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおう……」

「「来るんが遅いんや(じゃ)ボケーーーッ!!!」」

 

 レイとアフームのダブルドロップキックが少年、クロノに炸裂する。

 

「「「ええええええええええええ!?!?!?」」」

「はてさてどうなることやら」

 

 ユーノの声が空に吸い込まれていく。夕日は澄んだ赤い色だった。




 評価がなかなかつかない……。
 次回、レイ、ア-スラで大暴れする。
 明日もサービスサービスぅ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 交渉人 レイ=金剛=ダイアモンド

 前回のあらすじ。
 きんぴらごぼうが食べたいな。



「オラオラ! 時空管理局様のご到着やー!」

「全員武器を捨てて投降せいやー!」

 

 キックでのびたクロノを振り回しながらレイとアフームが悪人面で叫ぶ。

 

「フェイト! 撤退するよ、離れて!」

 

 アルフが全員の足元に魔力弾を放ち、土煙を巻き上げ煙幕代わりにする。

 

「おっと逃がさん、奥義『分身ディフェンス』!」

 

 レイが一瞬で回り込み、フェイトとアルフを分身で足止めする。

 

「いや、普通に空飛ぶけど……」

「Oh my god!」

 

 フェイトとアルフは空を飛んで逃げていく。

 

「逃げるなー! 逃げる奴は撃つぞー!」

 

 婦警のコスプレをしたアフームが二丁拳銃で背後からフェイト達を撃つも当たらない。

 

「何してんの!? やめて! 撃たないで!」

 

 なのはの叫びでクロノが目覚める。

 分身する少年、婦警コスの少女、場はまさにカオスであった。

 

「大丈夫、直に慣れますよ」

 

 ユーノがクロノの肩に手を置き、サムズアップする。

 その顔はいやににこやかである。

 

「あの、全員いいかしら」

 

 どこからともなく妙齢の女性の声が聞こえる。

 見ると空中にモニターのようなものが映し出され、そこに緑髪の女性が映し出されている。

 

「ちょっと話を聞きたいから、クロノ、皆さんをアースラまで案内してもらえないかしら?」

 

 

 

 

 

 クロノ・ハラオウンは内心憤然としていた。

 駆け付け早々に蹴り飛ばした銀髪の少年少女、レイとアフームは悪びれる様子もなくアースラ艦内を観察している。

 彼等は自分たちを虚空戦士(ハジケリスト)といった。

 だからと言って何をしても許されるわけでもない。

 

虚空戦士(ハジケリスト)だからと言って何をしてもいいわけないだろう」

 

 クロノはそういったが、その言葉はきれいに無視されてしまった。

 その行為がクロノのはらわたを煮えくり返す。

 白い魔導士、なのははそんな彼らを咎めてはいたが、聞き入れないとわかると、あきらめたようにため息をついていた。

 きっと彼女はいつもこのような目に遭っているのだろうと思うと、クロノはその心労をいたわりたい気持ちでいっぱいだった。

 

(こんな辺境の次元世界に虚空戦士(ハジケリスト)がいたとは初耳だ。第6次元文化圏だけじゃなかったのか)

 

 第6次元文化圏とは、第6管理世界ブリリアントを中心とした7つの次元世界の事である。

 虚空戦士(ハジケリスト)はこの世界に多数生息しており、虚空戦士(ハジケリスト)の96%がこの文化圏に属しているといわれている。

 他の世界からは『地獄』と、虚空戦士(ハジケリスト)からは『天国』と呼ばれている文化圏である。

 やがて、彼らは艦長室の前につく。

 

「艦長、お連れしました」

 

 精神を整え、クロノは声をかける。

 

「「「「へ?」」」」

 

 中に入った4人は素っ頓狂な声を上げる。

 そこにあったのは、盆栽に茶道具、鹿威しといった和空間であった。

 もっとも、どこか違和感を感じる造りではあったが。

 

「お疲れ様。まぁ4人ともどうぞどうぞ楽にして」 

 

 まだ混乱しているものの言われるままに座ると抹茶と羊羹が出された

 

「それじゃあお話し、聞かせてもらえるかしら。でもその前に自己紹介ね、私はこの船、次元空間航行艦船アースラの艦長、リンディ……」

「こかきくけここけかぁーーーーーーっ!!!」

 

 突如としてレイが叫びだす。その体からは怒りのオーラが噴出する。

 

「えっ、何、何!?」

 

 なのはが驚くのも無理はない。

 あまりにも突然のことだったからだ。

 

「いかん! レイはこの中途半端な和空間を見て怒りのあまり我を忘れておる!」

「「「どーゆーこと!?」」」

 

 アフームの説明はさらに混乱を招く。

 

「何を隠そうレイは裏千家家元から直々に茶の手ほどきを受けた茶人! お茶にはうるさい系男子! 故にこの空間が許せんのじゃろう。見るがよい、怒りのあまり千利休を召喚しておる」

「何で!?」

「「誰!?」」

 

 レイの帽子が割れて、千利休が上半身を出している。

 その額には青筋が浮かんでいる。

 

「詫びも無ければ寂びもない、数寄の要素が何もない。これでは宗匠の怒りを買うも同然」

 

 利休の目が見開かれる。

 

「喝ぁーーーーーーっ!!!」

 

 その瞬間、辺りが光で包まれた。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」」

「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 光が部屋を飲み込んだ。

 光が晴れると、何ということでしょう、中途半端な和空間は見事な茶室へと早変わり。

 盆栽、鹿威しの配置も計算され、ここに小宇宙が体現された。

 すっかり落ち着きを取り戻したレイが茶を点てている。

 

「あの、私がもてなす側じゃ……」

 

 リンディの言葉に、射殺すような目線で答えるレイ。

 

「あ、ハイ、すいません」

 

 もはやこの場の主導権を誰が握っているかは明白だった。

 

 

 

 

 

 ユーノから今回の一件の経緯、クロノとリンディから時空管理局についての説明が終わった。

 レイの立てる茶は素人の舌にも優しい味であった。

 

「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収に持ちましては時空管理局が全権を持ちます」

「「「「え」」」」

 

 突然の決定に反応が出来ない3人。

 レイだけが微笑みを崩さない。

 

「君たちは今回のことは忘れて元通りに暮らすといい」

「でも、そんな…」

「急にそんなこと言われても…」

「それはあきまへん」

 

 反応できたのはレイただ1人。

 

「本件の解決に至って僕は国際魔術結社(International Magic Society)から全権を委任されとります。時空管理局さんには申しありまへんけど、正式な手続きをもって僕から委任を申し渡すまで介入せんでもらえんでしょうか。」

 

 これにはリンディも面を喰らう。

 

「それに、僕はどうもあなたたちを信用しきれへん。重役出勤かました挙句、高圧的な態度で現地協力者に対応した。中途半端な方法で懐柔しようとした。どうせこの後、こちらの好意に付け込んで協力を取り付けようとしたんでっしゃろ?」

 

 レイの言葉にリンディは内心ぎくりとする。

 さらにリンディとしては優秀な魔導士に唾をつけておこうという魂胆もあった。

 だが、リンディはそれを9歳の少年に暴かれたことに動揺してしまう。

 

「ふむ、なら今の僕からいえることはたった一つです。『地球なめんな』。なんで、委任は無しの方向で」

「そんな話が通るか!」

「クロノ!」

 

 クロノが声を荒げる。

 

「ロストロギアの回収と保管、時空犯罪者の取り締まりは時空管理局の仕事だ! IMSだったか? そっちにそれが出来るとは思えない!」

「出来ますえ。ただしこちらのルールに従ったうえで」

「信用できないな、10にも満たない子供に全権を委任する組織なんて」

「そのセリフ、そっくりそのままお返しします。13歳の執務官殿」

「何だと!」

「クロノ!」

 

 リンディがクロノを諫める。

 

「っ! 申し訳ありません。艦長」

「こちらも言い過ぎましたわ。申し訳ありまへん」

 

 慇懃無礼な態度でレイが謝り返す。

 その様子にリンディは顔をしかめる。

 

「私達はあなたがIMSでしたか? そこから本当に全権を委任されているのか疑問に思っています。何か証拠のようなものはあるでしょうか」

「持っててよかった全権委任状」

 

 レイが懐から一枚の書類を取り出す。

 それはIMSから送られてきた全権委任状だった。

 

「これには時空管理局との交渉についても全権委任するという旨が書かれとります。勿論本物ですよ」

 

 リンディは全権委任状を受け取ると、仔細にそれを眺めた。

 クロノも全権委任状を覗き見る。

 

「これは……」

「どうやら本物のようですね。確かめる手段がありませんが、少なくとも偽物とは言い難いでしょう」

「ご理解いただけてほんにおおきに」

 

 レイは全権委任状をリンディから取り返すと、再び懐にしまった。

 

「それで、ジュエルシードの回収の権限についてですが……」

 

 リンディがレイに話しかける。

 

「ふむ、こちらとしても管理局の手は借りたいのですよ。ただしこちらにも面子というものがありましてな、その辺、ようわかりますやろ」

「……ええ、痛いほどに」

「全権委任は不可能ですけど、協力体制を築くことは不可能やないです。我々と時空管理局の協力をもって事件解決にあたるんがよろしいかと」

「……それが一番無難でしょうね。わかりました、時空管理局はIMSに協力を申し出ます」

「IMS代表としてその提案を受け入れます。ほな、書面で確約してもらいましょか」

 

 そういうと、レイの帽子がプリンターとなって書類を吐き出し始める。

 

「その帽子、どうなっているんだ?」

 

 クロノが疑問に思う。

 

「いやんエッチ。そこは男の子の秘密の場・所♡ 余計な詮索はしないでちょ」

 

 その一言で場が凍り付く。

 レイはそれを気にしないかのように、書類を取り上げると、読み上げる。

 

「主文、国際魔術結社(International Magic Society)、以下甲は時空管理局、以下乙の要請を受け入れ、甲乙間でのジュエルシード捜索における協力体制を築くことをここに宣言する。甲代表、レイ=金剛=ダイアモンド。と、提督殿、ここに署名を」

「ええ、わかったわ」

 

 リンディは書類を受け取ると、さらさらと署名をする。

 

「はい、これで我々は協力を築くことになりました。作戦行動の際は俺を呼んでくださいね。作戦立案にはかかわらんといかんもんですから」

「大丈夫なの?」

「安心してください、これでもIQは216あるもんですから」

 

「くそっ! 負けた! 僕213だ!」

 

ユーノが悔しそうに畳に拳を叩きつける。

 

「いや、両方凄いからな!?」

「ユーノ君もすごい頭良かったんだ……」

 

 クロノとなのはがレイとユーノの頭脳に驚嘆する。

 

「それで、その子たちはどうするのかしら?」

 

 リンディが示す方向には、話についていけないなのは、のんびりと茶を楽しむアフームとユーノがいた。

 

「ああ、彼女らはこの後意思確認しますよ。茶飲んどる方は参加するやろうし。それに、あの子にはずいぶん助けられましたしなぁ。なんか報酬を考えんと」

 

 

 

 

 

 その日の夕方、アースラから戻ったレイはその足で高町邸へと向かった。

 目的は作戦参加の意思を固めたなのはの代わりに史郎たちを説得するためである。

 高町家の面々に時空管理局の介入と、協力体制の構築の件を話したレイは、なのはが作戦に加わりたい旨を話した。

 

「なのはは出来ることを最後まで責任もってやり遂げることを望んでいます。僕としても信用できる人物がいた方が有難いので、嬉しいのですが、何分相手は巨大組織です。僕もできる限りなのはを守ることを誓います」

「お父さん、お母さん、お願い! このまま投げ出すのはいやなの!」

「僕からもお願いします! なのはの不利益なことにならないよう気を付けますので!」

 

 史郎は目を閉じ、熟考する。

 やがて考えがまとまったのか、静かに口を開く。

 

「レイくん、ユーノ君。頑固だが娘をよろしく頼む」

「レイ、わかっているな」

 

 恭也の問いにレイは目配せで答える。

 

「兄貴の誓いを違えるつもりは毛頭ありまへん」

「それが聞けて良かった」

「なのは、後悔しないようにやるのよ」

 

 桃子の言葉に頷くなのは。

 こうしてなのは、ユーノ、レイ、アフームは管理局に協力することになったのである。

 




 現在、空白期を書いているのですが、原作がないといくらでも書けることに気付きました。
 もういくらでも盛れる盛れる、ギャグも設定も。
 やっぱり主人公がなのはからレイに移った所為かな。
 原作部分は非ギャグキャラの出番が多いから、ギャグが挟みづらい。
 かと言ってレイを活躍させすぎるのもなあ。
 レイにはそこそこ苦労してもらわないと困るんだよなあ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 近づいていく、決戦は金曜日

前回のあらすじ。
 千利休がブチ切れた、数寄の無い部屋にブチ切れた。



 アースラ内部ではある模擬戦の内容が映し出されていた。

 4人それぞれの総当たりでの模擬戦だ。

 名目は訓練として、実際は彼らの情報を得るためである。

 

「ほへぇ、みんなすごいねぇ」

「ああ、これだけ出来れば十分戦力として期待出来るだろう」

「クロノ君とどっちが上かなぁ?」

 

 オペレーターのエイミィ・リミエッタがクロノをからかう。

 対するクロノは憮然としつつも返事をする。

 

「4人の実力は認める、だけど僕は自分が負けてるとは思ってない」

「だねぇ、何てったってアースラの切り札なんだから」

「からかうのもいい加減にしろ」

 

 クロノはそっぽを向くのに対しエイミィはクスクスと笑いながら再びその映像の方へと目を向ける。

 するとちょうどレイとアフームの決着が着いたところだった。

 

「この2人は……、なんかすごいんだけど」

「ああ、何かが違う。お互いに全力じゃない。それだけ隠したいことが多いんだろうな。ていうかなんだ、ゴボウしばきあい対決ってふざけているのか」

「ええ、そうね。この2人は政治や外交で動いているもの。手札を全て見せるような真似はしないでしょう。レイくんの魔術という技術は私たちの魔法とは異なる。なるべく対策されたくないのでしょうね。もっとも、見せてくれた札だけでも十分すぎるほど強いのだけど」

 

 リンディが2人の感想を補足する。

 その手には砂糖入り緑茶が握られている。

 レイが見たらキレられる代物だ。

 すると、ジュエルシードの反応がレーダーに現れる。5人の出動が要請された。

 

 

 

 

 

 今回の暴走体は巨大な烏だ。

 

「ユーノ、あれ縛れるか?」

「ちょっと今のままじゃ無理かな、速すぎるし、レイはどう?」

「俺も難しいなあ、あのスピードじゃ縛れるもんも縛れん」

 

 ユーノとレイが話し合う。

 しかしすぐに作戦がまとまる。

 

「なら引き付けて動きを止めるしかないな」

 

 そう言うと全身にハンペンを張り付けると、巨鳥に相対する。

 

「さあ、こい大烏。このプロテクターでもって貴様を止めてやろう!」

「大丈夫なの、コレ!?」」

「アフーム! 引き付けぃ!」

「了解じゃ!」

 

 レイの合図でアフームが大烏に魔力弾を放ち、挑発する。

 巨烏はまっすぐ4人の方へと向かってくる。

 

「さあ、来い! 受け止めたるわ!」

 

 レイが気合を入れて、巨鳥に立ち向かう。

 やがてその嘴がレイに激突する。

 

「レイくん! 大丈夫!?」

 

 なのはの声にレイが反応する。

 

「大丈夫や、プロテクターのおかげで助かったわ」

 

 その腹には見事な風穴が空いていた。

 レイが巨鳥を掴んでいる。

 

「貫通してるーーー!!!」

「ほい、バインド」

 

 なのはとのツッコミを意に介さず、ユーノはバインドを大烏にかける。

 

「「「さあ、封印を!」」」

「え、う、うん」

 

 困惑するもなのははジュエルシードを封印する。

 無数の光の帯が巨鳥に突き刺さり巨鳥の悲鳴と共にジュエルシードが摘出される。

 飛び出したジュエルシードにレイジングハートを向けると、ジュエルシードはそのまま吸い込まれていった。

 

「さて、戻るとしますか」

「まだ、穴空いてるよ!」

「じょ、状況終了です……ジュエルシード・ナンバーVIII無事確保。お疲れさま。4人とも」

「「「「あ、はーい」」」」

「ゲートを作るね、そこで待ってて」

「分かりました、というかレイそろそろ戻りなよ」

「もう戻っとる」

「「「「「「いつの間に!?」」」」」」

 

 いつの間にか腹の穴がふさがっているレイを見て、アースラスタッフの顔は引きつる。

 

「優秀だけど……、私では持て余しそうね。なのはちゃんだけならねえ」

 

 リンディの呟きは船の駆動音に掻き消されていく。

 事実、虚空戦士(ハジケリスト)は管理局内にもいるが、彼らを制御できる上司は全くいない。

 優秀なのは事実なのだが、それをうまく使いこなすかは別問題なのである。

 その頃、クロノとエイミィはあるデータを見ていた。

 そのデータはフェイトその使い魔アルフのもの。

 ここ数日の間に管理局が発見したジュエルシードを二個も奪われてしまっている。

 感知も出来ない事から相当強力な結界を張っている事が容易に想像出来た。

 そして問題はそのファミリーネーム、テスタロッサだ。

 

「かつて追放されてしまった大魔導師と同じファミリーネーム、か」

「じゃあその人の関係者なのかな?」

「分からない、本名とも限らないしこればっかりは何とも……」

 

 そしてフェイトの事を気にしているのは何もクロノ達ばかりではない。

 アースラに帰還したなのはは少し浮かない顔をしていた。

 

「なのは?」

「もしかしてフェイトの事かの?」

「うん、現れないなって」

「ジュエルシードを集めていればいずれ必ず会う事になるじゃろう」

「うん、そうだね」

 

 なのはとアフームはフェイトの悲しそうな眼が思い浮かべた。なぜあんな眼をしているのか。その訳を知りたいと、一層強く思うのだった。

 

 

 

 

 

 大烏戦からさらに数日、互いに手に入れたジュエルシードは2個づつとなった。

残りは6個を残すところとなった。

地上は全て探し終えたので、残すは海中だろうというのが管理局側の見解であった。

捜索の手伝いをしていたレイもそれには同意していた。

 

「うーん、見つからないなー」

 

 キーボードをたたきながらエイミィが呟く。

 

「あまり根を詰めすぎんと、見つかるもんも見つかりませんで」

 

 レイがティーセットを持ち運びながら寄ってくる。

 

「はい、お茶どす、熱いんで気ぃつけてつかあさい」

「ありがとう、気が利くねえ」

「いえいえ、こっちも結果が出んのは心苦しいですから」

「レイくんはすごいねえ、戦闘だけじゃなくてバックヤードでも大活躍じゃない」

「いえいえ、むしろこっちの方が得意なんですよ、僕」

「そうなの? あの強さだったらAランク魔導士なんてあっという間に倒せそうなのに、ずるいなあ」

「強うないと家を継げんもんですから、大変ですよ。下手に色々出来ると、一つ一つが中途半端になりかねんもんですから」

「そういうものかなあ、色々出来る人ってあこがれるけどね」

「万能の天才か、器用貧乏になるかは、当人次第ですから」

 

 レイはコンソールを覗きながら、茶をすする。

 

「見つかりませんか」

「全然見つかんないよ」

「この辺りは海流が乱れまくってますからなぁ。故に『海鳴』、潮が激しいときには文字通り海が鳴く」

「どっか1か所に固まっていると楽なんだけど」

「そんな都合のええことが……」

 

 突然艦内にアラームが鳴り響いた。

 

『エマージェンシー! 捜索域の海上にて大型の魔力反応を感知!』

「……ありましたな」

「うん……」

 

 

 

 

 

 モニターにはフェイトとアルフが映っている。

2人は巨大な魔方陣を展開している。

 

「強制発動、か。無茶なことを」

 

 レイが呟く。そこへ、なのはたちが現れる。

 

「これは……」

「フェイトちゃん!」

 

 モニターには6つの竜巻が映る。フェイトとアルフは翻弄されながらも封印しようとしている。

 

「あの、私急いで現場に」

「その必要はないよ、放っておけばあの子は自滅する」

 

 なのはの言葉をクロノは否定する。

 

「仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たした所で叩けばいい」

「でも、」

「今のうちに捕獲の準備を」

「「「了解」」」

 

 無情にもジュエルシード捕獲に動くアースラスタッフに困惑するなのはたち。

 

「提督殿!」

「私達は常に最善の選択をしないといけないわ。残酷に見えるかもしれないけど、これが現実」

 

 アフームがリンディに詰め寄るも、なしのつぶてである。

 

「最善、ねぇ。なら僕も最善を尽くしますわ」

 

 レイが声を上げる。

 

「今すぐ転送の準備を、現場に出ます」

「レイ! 話を聞いていたのか!」

 

 クロノが大声を出す。

 

「聞いとりました。そちらはジュエルシード確保に向けて動いてどうぞ。こちらは人命救助と地球を救うために動きますんで」

「レイくん!」

 

 なのはの歓声が上がる。

 

「なるほど、そちらの言い分も最もや、ジュエルシードを最優先すればな」

 

 レイがじっとりとクロノとリンディを睨みつける。

 

「こっちは目的が違うんで。こっちの目的は土地の安全や。あのままでは地球が潰されかねん。あくまで共同捜査ですよね、なら地球全権の僕が命令しても問題ないはずや。頭2人おるんやから」

「レイ! 転送の準備できたよ!」

 

 ユーノの声にレイが振り向く。

 

「ようし! 今行く!」

 

 去っていくのレイの後姿をアースラスタッフは見つめているしかなかった。

 

「そう言えば、レイくんとアフームちゃんって飛べたっけ」

「あ……」

 

 エイミィのつぶやきがアースラに混乱をもたらすのであった。

 

 

 

 

 

 空を落ちていく5人、一直線にフェイトとアルフのもとへと向かっていく。

 なのははデバイスを展開する。

 

「そういえば、レイくんとアフームちゃんは!?」

 

 なのははここで2人が飛べるかどうかに思い至るのである。

 なのはは思い返す、2人が空を飛んだことは一度もないことに。

 なのはは慌てて2人を見る。

 そこには、帽子からタケコプターの様なプロペラを生やしたレイとアフームがいた。

 

「飛べるの!?」

「「頑張れば」」

「頑張って済む問題じゃないよ!」

 

 そんな4人の登場をフェイトとアルフも察知した。

 

「フェイトの……邪魔をするなああああっ!!」

 

 アルフが体を縛っていた電撃を振り払い飛びかかるもユーノに止められる。

 

「なに!?」

「違う、僕達は戦いにきたんじゃない!」

 

 そしてすぐさまユーノは動いた。

 

「とにかく今は封印のサポートを!」

 

 そう言って魔法陣から鎖を伸ばし竜巻を縛り付けた。

 

「俺もサポートに回ろう! 捕獲『夏休み最終日の昆虫採集』!」

 

 レイが虫取り網の様な魔力をジュエルシードにかける。

 虫取り網が虫籠の様に変化してジュエルシードを包み、逃そうとしない。

 

「さあ、お二人さん! あとは任せましたえ!」

「フェイトちゃん、手伝って! ジュエルシードを止めよう!」

 

 レイジングハートから光の帯が放たれバルディッシュへと吸い込まれていく。

 

『Power charge』

『Supplying complete』

 

 先ほどまで刃も維持できなくなっていたバルディッシュが回復し、修復される。

 なのはの魔力がフェイトに分け与えられたのである。

 

「二人できっちり半分こ」

 

 ユーノ、レイにアルフまで加わったバインドはぎりぎりのところで踏ん張っていた。

 

「今のうち! 二人でせーの! で一気に封印!」

 

 そう言ってなのはは飛び立つ。

 

『Shooting mode』 

 

 それを阻もうとするように襲い来る多くの雷。

 だがそれもアフームの弾幕が的確に撃ち抜いていく。

 おかげでなのははただただ真っすぐに空を飛ぶだけで済み回避行動は一切取ってない。

 そして魔法陣を足場になのはは空中に立つ。

 

『Sealing form, setup』

「バルディッシュ……?」

 

 相棒が突然変形した事に驚くフェイト。

 

「ディバインバスター・フルパワー、いけるね?」

『All right, my master』

 

 魔法陣が広がる。対しフェイトの足元にもまた金色の魔法陣が浮かび上がり広がった。

 

「せーの!」

「サンダー!」

「ディバイン!」

「レイジ!!」

「バスター!!」

 

 金色の雷が落ち、桜色の砲撃が飛ぶ。

 二つの力は一つとなり大きな爆発と衝撃を生んだ。

 そんな中、海中から光と共に六つのジュエルシードが浮かび上がって来る。

 そのジュエルシードを見ながらなのはは思う、フェイトについて、自分がどう思っているかを。

 

「友達に、なりたいんだ」

 

 正直に、真っすぐに伝えるのだった。

 その時だった。レイの第六感がアラートを流した。ばっと上空を見る。紫色の雷が迫っていた。

 

「防御『ヘキサグラムシールド』!」

 

 正六角形の板がレイの目の前に展開されるが、紫電は容易に貫く。

 

「ぎゃああああああ!!!」

 

「レイくん!」

 

 レイは見事こんがり肉へと変貌していた

 

「「「「「「何で!?」」」」」」

 

 全員に紫電が襲い掛かる。落ちていく6人。

 そんな中フェイトを回収したアルフは真っすぐジュエルシードの方へと向かう。

 それをいつの間にか到着していたクロノによって阻まれる。

 

「邪魔を……するなあああああっ!!」

 

 吹き飛ばされるクロノ、アルフは急いでジュエルシードに目を向けるが3つしかない。 既にクロノが三つを回収していたのだ。

 

「う、あああああ!!」

 

 アルフは叫びながら魔力弾を海面に打ち付ける。

 すると特大の水しぶきがあがった。

 気が付いた時にはフェイトもアルフもその姿を消していたのだった。




 どうやったら読者が増えてくれるか、試行錯誤中。
 感想も評価も増えるといいな♪
 質問疑問待ってまーす♡


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 バカサバイバー

 前回のあらすじ。
「竜巻警報発令! 竜巻警報発令! 付近の住民は落ち着いて避難してください!」



 アースラ艦内、リンディとレイが睨み合っている。

 先の意見の相違の所為である。

 お互いに最適な落としどころを探り合っているのだ。

 その緊迫した空気に誰もが口をつぐみ、息をのんでいた。

 やがて同時に大きくため息をつく。

 リンディが先に口を開く。

 

「今回の件は互いの目的の違いが生んだものでした。もう少しそちらに配慮するべきでしたね」

「いえ、こちらこそ勝手な真似をしました」

「これ以上この件については掘り下げないことにしましょう」

「それがお互いのためになりますな」

 

 ようやっと全員の顔に安堵の表情が浮かぶ。

 

「次は無いようにしましょう」

「そうしましょう」

「さて、問題はこれからね」

 

 リンディが話題を変える。

 

「クロノ、事件の大元について何か心当たりが?」

「はい、エイミィ、モニターに」

「はいはーい」

 

 どこからかエイミィの声が聞こえると会議室の机の真ん中に立体映像が現れ1人の女性が映る。

 

「あら、彼女は」

「そう、僕らと同じミッドチルダ出身の魔導師。プレシア・テスタロッサ。専門は次元航行エネルギーの開発。偉大な魔導師でありながら違法研究と事故によって放逐された人物です。先程の攻撃魔法と魔力波動も一致しています。そしてあの少女フェイトは恐らく…」

「フェイトちゃん、あの時母さん、て」

 

 クロノの説明になのはが先程のことを思い出す。

 

「親子、ね……」

「その、驚いてたって言うより、なんだか怖がってるみたいでした」

 

レイは黙って何やら思案している。

 

「エイミィ、プレシア女史についてもっと詳しいデータは出せる?」

「はいはい! すぐに探します」

 

 しばらくして再びエイミィの声が響きだす。

 

「その駆動炉ヒュードラの事故が原因で地方の研究所に、事故に関しても色々揉めたらしいです。しばらくは辺境で研究をしていたらしいですがしばらく後に行方不明になって、それっきりのようです」

「家族や行方不明になるまでの行動は?」

「その辺は綺麗さっぱり抹消されてます。本局に問い合せて調べてもらってます。一両日中には結果が送られるそうです」

 

 エイミィの報告を聞き、手を顎に当てるリンディ

 

「……あれだけの魔力を使った後では向こうもそうそう動きは取れないでしょう。その間にアースラのシールド強化もしないといけないし」

「貴方達は一休みしておいた方がいいわね、一時帰宅を許可します。ご家族と学校に少し顔を見せておいた方がいいわ」

 

 

 

 

 

 どこか薄暗く不気味な空間、そこでフェイトは傷だらけになって倒れていた。

 そのような状態のフェイトにアルフが慌てて駆け寄る。

 体の至る所に鞭による傷が刻まれて最早痛々しいなどと言う状態ではない。

 アルフは部屋の奥を睨み付ける。

 一方プレシアはと言うとフェイトを傷つけた事など気にする素振りも見せずにジュエルシードを眺めていた。

 

「たったの9個、これで起動出来るかどうか、分からないわね」

 

 突然プレシアが咳き込む、すると真っ赤な血がその口から吹き出し床を汚す。

 口元を押さえていた手も真っ赤に染まっていた。

 

「あまり時間はないわ、私にもアリシアにも……!」

 

 すると突然部屋の壁が轟音を立てて崩れる。

 立ち込める煙の中現れたのはアルフだった。

 プレシアは無反応のままジュエルシードに意識を傾けている。

 アルフは一歩、また一歩とプレシアを目指して歩いてくる。

 そして一飛びの間合いに入った瞬間、飛びかかった。

 だがそれはプレシアが張った障壁により容易く阻まれる。

 それでもアルフは何度もぶつかり、障壁を破壊する事に成功した。

 障壁を破ったアルフは怒りに身を任せてプレシアの胸倉を掴む。

 

「あんたはあの子の母親で! あの子はあんたの娘だろ! あんなに頑張ってる子に、あんなに一生懸命な子に、何であんな酷い事が……ッ!?」

 

 この時アルフは気づいた、プレシアの目が虚ろであることを。

 彼女には自分の言葉なんて欠片もその心に届いていない事に。

 もはや彼女の意識はジュエルシード以外に向いていなかった。

 本能的に危険を感じ後退しようとした時にはもう遅かった。

 プレシアの一撃がアルフの腹部に直撃しアルフの体は軽々と吹き飛ばされる。

 

「あの子は使い魔の作り方が下手ね、余分な感情が多すぎる」

「ぐ、うぅ、フェイトは、あんたの娘は、あんたに笑ってほしくて優しいあんたに戻ってほしくてあんなに……!」

「フン」

 

 アルフの必死の訴えはプレシアにはまるで届かない。それどころか取り出した杖をアルフに向ける。

 

「邪魔よ、消えなさい!」

「……ッ!」

 

 プレシアはアルフに魔法を放った。

朧げな意識の中アルフは必死に転移呪文を唱える。

アルフは光に包まれ転移した。

 

 

 

 

 

 放課後、なのはたちはバニングス邸にいた。ここでアルフらしき橙色の毛の狼が保護されたと聞いてきたのである。

 

(アンタらは……)

 

 アルフが念話で話しかけてくる。

 

「これ以上話さなくてええ、傷に障ります」

「あんた、温泉のときに念話してきたやつね。なんでそうなってるのかわかんないけど」

(アンタらがいるってことは管理局の連中も見てるんだろ)

(時空管理局のクロノ・ハラオウンだ。正直に話してくれるなら悪いようにはしない。もちろん君の主、フェイト・テスタロッサのことも)

(なら、全部話すよ。でも約束して、フェイトを助けておくれ!あの子は何も悪くないんだ!)

(約束しよう)

 

 クロノの返答を聞いて、アルフはこれまでの事情を話し始めた。

 

(君の話と現場の状況、そして彼女の使い魔アルフの証言を聞く限りこの話に嘘や矛盾は無いようだ)

(クロノ、プレシア・テスタロッサはどうするのじゃ?)

(僕らは艦長の命令があり次第、プレシアの逮捕に変更する事になる。君たちはどうする)

 

 アフームの質問に対するクロノの返答は公僕のそれだった。

 

(私は、私は、フェイトちゃんを助けたい! フェイトちゃんが悲しい顔は私もなんだか悲しいの。だから助けたい! 悲しいことから。それに友達になりたいって伝えたその返事をまだ聞いてないしね)

(右に同じく。ここにいる連中全員が同じ気持ちや)

(分かった。フェイト・テスタロッサについては君たちに任せる)

(なのは、だったね。頼めた義理じゃないけど、お願い、フェイトを助けて。あの子、今本当に一人ぼっちなんだよ)

(うん、大丈夫、任せて)

 

 

 

 

 

 朝が来る。全ての決着をつけるために、少年少女たちは海浜公園に集う。

 

「ここならいいよね。出てきてフェイトちゃん」

『Scythe. Form』

 

 突然バルディッシュの声が聞こえ、全員がそちらを見ると電灯の上にフェイトが立っていた。

 

「フェイトもう辞めよう。あんな女の言うこともう聞いちゃダメだよ!このままじゃ不幸になるばっかりじゃないか…だからフェイト!」

 

 アルフが説得を試みる。しかしフェイトはゆっくりと首を横に振る。

 

「それでも私はあの人の娘だから」

 

 フェイトの変わらぬ意思を聞くとなのはは変身する。

 

「ただ捨てればいいって訳じゃないよね。逃げればいいって訳じゃもっとない。…切っ掛けはきっとジュエルシード、だからかけようお互いが持ってる全部のジュエルシードを!」

『Put Out』

 

 レイジングハートから11個のジュエルシードが現れる。

 

『Put Out』

 

 同じくバルディッシュからも9個のジュエルシードが現れる

 

「それからだよ…全部、それから」

 

 なのはとフェイトが構える。

 

「私達の全てはまだ始まってもいない。だから、本当の自分を始めるために……始めよう。最初で最後の本気の勝負!」

 

 アフームが前転しながら、二人の間に割って入る。

 

「ファイッ!!!」

 

 レイがコングを鳴らす。

 決闘が始まる。

 




 今日はハジケ度数が低いなあ。
 でも安心してください、明日はたっぷり出番があります。
 そう言えば、UAが1000人を突破しました。
 ひとえに読者の皆さんのおかげです。
 今後も応援よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 思い出がいっぱい

 前回のあらすじ。
 なのはVSフェイト! いよいよ開幕! したりしなかったり!
「「「「「「どっちだよ!?」」」」」」



「さあ始まりました世紀の魔法少女同士の対決。実況は私レイ=金剛=ダイアモンドと」

「解説のユーノ・スクライアでお送りします」

 

 全員で結界を張った後、レイとユーノは実況解説をしていた。

 アフームはラウンドガールとして待機している。

 

「アンタたちっていつもこうなのかい?」

「いつも、かどうかは分からんが、楽しいぞ?」

 

 アルフの質問にアフームが答える。

 一方アースラでも始まった2人の戦いをモニター越しにクロノとエイミィが見ていた

 

「始まったみたいだね…」

「あぁ、エイミィ。準備の方は問題ないか?」

 

 エイミィの言葉に頷きつつ確認をするクロノ

 

「うん。あの子の帰還先の追跡準備は出来てるよ。それと次元魔法による別次元からの攻撃の追跡も大方準備完了」

 

 サムズアップをしながら笑顔で答えるエイミィ。

 だがその顔は直ぐに真面目な顔に変わる

 

「でも、あのことなのはちゃん達に伝えなくて良かったの?プレシア・テスタロッサの家族とあの事故のこと」

「勝ってくれるに越したことはない、それに今はなのはを苦しませたくない」

 

 エイミィの質問にクロノは少しその顔に影を落としながら答えた。

 

 

 

 

 

「杖同士の鍔ぜり合い、接近戦から始まる戦い」

『Photon Lancer』

「ここでフェイトが仕掛ける。解説のユーノさん」

「はい、フェイトとしては得意の速攻戦術でなのはを沈めたいところ。先制を取って有利な状況に持ち込みたいところでしょうね。しかしなのはも負けてませんよ」

『Divine Shooter』

「ファイア!」

「シュート!」

「なのはも攻撃を返す! いや、この子本当に魔法に触れて1月ちょいなのでしょうか!」

「昨日、戦術を練りましたからね。対フェイト戦に限って言えば相当の対策がとれるはずです」

「なのはがランサーをかわす。なのはの弾は追尾弾だ。フェイトこれをシールドで防ぐ!」

「お手本のような流れですね。お互いタイミングを探り合っています」

「シュート!」

「今度はなのはから仕掛けた!」

『Scythe Form』

「しかしフェイトこれを鎌で切り裂くのか。1つ、2つ、3つ! 最後は避けた。さあこのままインファイトか!」

「なのははインファイトが苦手ですからね。いい手です」

『Round Shield』

「なのは楯で防ぐを選んだ!」

「定石道理ですね。フェイトがこれを貫けるかどうか」

「ここでさっきの1発がフェイトを襲う! フェイト痛恨のミス!」

「避けるべきではなかったですね。この一発が流れをどう変えるか」

「ああっと! フェイトがなのはを見失う! これは痛い!」

「ここからどう出るでしょうか」

『Frash Move』

「せえぇぇぇぇぇぇい!!!」

「なのはまさかのインファイトー!」

「これは意外だ! 砲撃でいくと思ったのに!」

「何という魔力の大爆発。2人とも大丈夫か!」

「これは分からなくなってきたなぁ~」

『Scythe Slash』

「フェイト仕掛けた! だがなのはも紙一重で避ける!」

「今のでダメージが少ないのは痛いですね」

「おおっと、今度はフェイトが仕掛けてきたぞ」

『Fire』

「危ない危ない危ないぞなのは! ギリギリのところで防ぎ切った!」

「流れがフェイトの方に向いてきましたね」

(初めて会ったときは、魔力が強いだけの素人だったのに)

 

 フェイトは内心焦っていた。

 なのはの成長スピードを見誤っていたのだ。

 しかし誰が想像できるだろう、魔法と出会って2月にも満たない少女がここまで戦えるようになるとは。

 

(速くて、強い。迷ってたら、やられる!)

「おおっとここでフェイトが巨大な魔方陣を展開だ」

「ここで決める気ですね」

『Phalanx Shift』

「間違いないこれは大技だー!」

「ライトニングバインド」

「おっとなのははバインドで動けない」

「なのはがこれを堪え切れるかが勝負ですね」

「アンタら呑気に解説していていいのかい!? フェイトは本気だ!」

「神聖なる決闘の邪魔をするものは神であろうと許されぬ」

「決闘の行末を見守ることこそ実況解説の役目」

「……一応ありがとう、手を出さないでくれて。全力全開の一騎打ちだから。私とフェイトちゃんの勝負だから!」

(でも、フェイトのそれは本当にまずいんだよ!)

「平気!」

 

 なのはは強気でフェイトに立ち向かう。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

「来るぞ大技がー!!!」

「まだ実況してんのかい!!!」

「フォトンランサー・ファランクスシフト! 打ち砕け、ファイヤ!!!」

「決まったーーーーーー!!!!!!」

 30近い魔力球から魔力弾が打ち出され、その全てがなのはに殺到する。

なのはの姿は爆発の煙で見えなくなる。

「なのは!」

「フェイト!」

「どうなった、これは!」

 

 フェイトは左手に魔力を集中させる。

 油断なく止めを刺す構えだ。

 やがて煙が晴れる。

 そこにはしっかりとなのはが立っていた。

 

「高町なのはが生きていたー!」

「まさか、耐えきるなんて」

「いった~、打ち終わるとバインドも解けちゃうんだね、今度はこっちの……」

『Divine』

「反撃来るか!」

「番だよ!」

『Buster』

「キター! なのはのターンだ! フェイトも魔力弾を投げるが、無駄無駄無駄! シールドで防ぐしかない!」

「フェイトは消耗してますからね。耐えきれるかどうか」

(直撃!でも、耐えきる。あの子だって…耐えたんだから!)

「耐えられるかフェイト! 手袋とマントはもうだめだ~!」

 

 やがてなのはの砲撃が止まる。

 

(フェイト?)

「耐えた~! だが息も絶え絶えだぞ!」

「いや、すごいですね。よく耐えた」

「しかしなのはの攻撃は終わらない」

「受けてみてディバインバスターのバリエーション!」

『Starlight Breaker』

「来たぞ高町なのはの必殺技!」

「フェイトがこれにどう出るか」

「バインド!?」

「が、動けない! 現実は無情!」

「これが私の全力全開! スターライト、ブレイカーーー!!!!!!」

「きまったぁぁぁぁぁぁ!!!」

「な、なんつーバカ魔力!」

「うわあ、フェイトちゃん生きてるかな?」

 

 アースラのクロノとエイミィもフェイトの安否を心配する。

 撃ち終わったなのはは肩で息をしている。

 飛行魔法も切れかけている。

 一方のフェイトは気絶したまま海へと落ちていく。

 

「フェイトちゃん!」

 

 なのははフェイトを追いかけて海へと飛び込もうとする。

 その前に海がせりあがり、フェイトが海中から現れる。

 

「水符『ウォーターベッドの恋人』。この勝負、高町なのはの勝利!」

 

 アフームがフェイトを助けていた。なのはは安心したのかため息をつく。

 

「ん……」

「あ、気づいた? ごめんね……大丈夫?」

「……うん」

「私の……勝ちだよね」

「……そう、みたいだね」

『Put Out』

 

 バルディッシュからジュエルシードが排出される。

 これで決着、というところで邪魔が入る。

 紫電が天から降ってきた。

 

「いかん!」

 

 アフームが楯になるように割って入る。

 

「んほおおおおおお!!!!!!」

 

 紫電がアフームに直撃して、服が破け、素肌が露わになる。

 その素肌には縄が巻き付いていた。

 

「「「「「「何巻いてんの!?」」」」」」

 

「下着代わりの縄が無事で何よりじゃ」

「「「「「「下着の代わりなの!?」」」」」」

 

 そんなやり取りをしている間にジュエルシードが消えていた。

 

「エイミィ! 追跡は!?」

「もちろん! しっぽ、掴んだよ!」

 

 アースラでは予定通り次元間の追跡を成功させる。

 

「よし、すぐに艦長に座標を」

「割り出し完了!送信!」

 

 驚くほどのスピードでプレシアの居場所を割り出し司令部に送る。

 それを受け取ったリンディはすぐに指示を出す。

 

「武装局員、転送ポットから出動!任務はプレシア・テスタロッサの身柄確保です!」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 20人近い局員がプレシアの居る時の庭園に転移する。

 その頃プレシアは喀血していた。

 

「くっ、やはり次元魔法はもう体が持たない。それに今のでここも見つかった」 

 

 口を手で抑えながらプレシアは横のモニターを見る。

 そこには気を失ったフェイトを抱えるなのはとフェイトの様子を見るアルフ、撤収作業を進めるレイとユーノ、見悶えるアフームが映し出されていた。

 

「フェイト、あの子じゃやダメだわ。そろそろ潮時かもね」

 

 プレシアはそんな言葉をこぼすのだった。

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

 

 リンディが労いの言葉をかける。

 

「それから、フェイトさん。初めまして」

 

 リンディに声をかけられるがフェイトは手に持っている、ひびの入った待機状態のバルディッシュを見つめている。

 

(母親が逮捕されるところを見せるのは忍びないわ。なのはさん彼女をどこか別の部屋に)

(あっ、はい)

 

 念話でリンディに頼まれ、なのははフェイトを連れて行こうとする

 

「フェイトちゃん良かったら私の部屋に…」

「総員、目標を発見!」

 

 1人の局員の声に反応するフェイト。

 モニターには大勢の局員と椅子に座るプレシアが映されていた。

 

「プレシア・テスタロッサ。時空管理法違反、及び管理局艦船への攻撃容疑で貴方を逮捕します!」

「武装を解除してこちらへ」

 

 局員の通告を無視するプレシア、数人の局員が奥の部屋に調査をしに入っていく。

 

「2班は向こうを我々は奥の部屋を捜索する」

「こっちに何かあるぞ!」

 

 局員達がある扉に気づき扉を開ける。

 

「な!? こ、これは……」

 

 中に入った局員達は驚きの声を上げるモニターから見ていたなのは達も驚く。

 フェイトは声すら出ていない。

 そこには大きな円筒形の装置の中に浮かぶ金髪の髪の少女。

 その姿はフェイトと瓜二つの顔をしていた。

 

「私のアリシアに触らないで!!!」

 

 いつの間にか現れたプレシアによって1人の局員が吹き飛ばされる。

 

「撃て!」

 

 隊長らしき男の声に従い数人の局員がプレシアに攻撃を行う。

 だがそれはプレシアには届かず打ち消される

 

「煩いわね……」

 

 そう言いながら左手を前に出すプレシア。

 次の瞬間部屋にいる局員だけでなく突入した全局員に雷が降り注ぐ

 

「いけない!エイミィ、局員達の送還を!」

 

「りょ、了解です!」

 

 リンディは倒れた局員達を直ぐにアースラに転移させる

 

「アリ……シア?」

 

 フェイトは先程プレシアの言ったアリシアと言う名前を呟いている。

 

「もうダメね、時間が無いわ。たった9個のロストロギアではアルハザードに辿り着けるか分からないけど…」

 

 愛おしそうな目でアリシアと呼ばれた少女が入っている装置に触れる。

 するとプレシアは首を回しモニター越しにこちらを見る

 

「もういいわ、終わりにする」

 

 プレシアの声が司令室に響く

 

「この子を亡くしてからの暗鬱な時間を、この子の身代わりの人形を娘扱いするのも。聞いてるかしら? あなたの事よフェイト」

 

 フェイトがビクリと体を震わせる。

 

「せっかくアリシアの記憶をあげたのにそっくりなのは見た目だけ。役たたずでちっとも使えない、私のお人形」

 

 重くなる空気の中でエイミィが口を開いた。

 

「最初の魔力炉の事故の時にね、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの。彼女が最後に行っていた研究は使い魔とは異なる…使い魔を超える人造生命の生成」

 

 エイミィの説明に驚くなのは達、そして話は続く

 

「そして死者蘇生の秘術。…フェイトって名前は当時彼女の研究に付けられた開発コードなの」

「あら、よく調べたわねそうよその通り。」

 

 エイミィの説明を聞いてプレシアが言葉をつなぐ。

 

「だけどダメね、ちっとも上手く行かなかった。作り物の命は所詮作り物…失ったものの代わりにはならないわ。アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。アリシアは時々わがままも言ったけど私の言うことをとても良く聞いてくれた」

「やめて……」

「アリシアはいつでも私に優しかった」

 

 ガラスの筒を撫でながらプレシアは言葉を続ける。

 

「フェイト、やっぱり貴方はアリシアの偽物よ。せっかくあげたアリシアの記憶も貴方じゃダメだった」

「やめて、やめてよ!」

 

 なのはの声が大きくなる。だがプレシアは止まらない

 

「アリシアを蘇らせるまでの間に私が慰みに使うだけのお人形。だから貴方はもういらないわ。どこえなりとも消えなさい!!!」

 

 フェイトの目には涙が溜まっていく。

 

「お願い!もうやめて!!!」

 

 フェイトの頭には優しい頃の母の記憶と自分に鞭を叩く記憶が巡り巡っていた。

 

「いい事を教えて上げるわフェイト。貴方を作り出してからずっとね、私は貴方が、大嫌いだったのよ!!!」

 

 フェイトの手からバルディッシュが零れ落ち、フェイトも力が出ずに座り込む。

 

「フェイトちゃん!」

「フェイト……」

 

 なのはとユーノがフェイトに駆け寄る

 

「アハハハハハハ!!!」

「言いたいことはそれだけか?」

 

 レイの声が艦内に響く。

 

「さっきから聞いていれば随分と身勝手な言い訳、ご苦労さん。さて、あんたも物理学を学んでいるならわかるやろ。同種の元素を配合した2つの物質の相違性とエントロピーを」

 

 プレシアが息をのむ。

 

「どんなに同じ材料を持ってきたとしても、全く同じもんを作れることはない。どんなに同じ材料を持ってきたとしても、一度崩れ去ったもんがすっかり元通りになることはない。あんたはそれをわかっているはずやろ? 俺が分かるんや、物理学者であるあんたに分らんはずがない」

「煩い」

「そもそも、死者蘇生なんという禁術、不確定が過ぎる。そんなおとぎ話にすがらねば生きていけんのか?」

「煩い!」

「アンタの行動には矛盾が多すぎる。一体何を隠しとるんやろなぁ」

「煩い! 煩い! 煩い! もういいわ! 始めるとしましょう」

「た、大変です!これを見てください!」

 

 エイミィがモニターを切り替えると、複数のモニターに時の庭園の各所が映し出される。

 すると地面から無数の機械兵器が現れる。・

 

「これは…」

「時の庭園より傀儡兵の反応確認!60、80!さらに増加します!」

「プレシア・テスタロッサ、貴方は一体何をするつもりなの?」

 

 リンディの問いにプレシアが答える。

 

「私達は旅立つのよ!失われた都、アルハザードへ!!!」

 

 9個のジュエルシードがプレシアの周りに現れる。

 

「この力で旅立って、取り戻すのよ。全てを!!!」

 

 ジュエルシードが光を放つ。

 

「次元振です!規模は…中規模以上!」

「ジュエルシード9個発動!次元震、更に強くなります!」

「転送可能な距離を維持したまま影響の少ない区域に移動を!」

 

 アラームが鳴り響く中、挙げられた報告に対して命令を出すリンディ。

 そんな中プレシアの笑いが司令室に響く。

 その顔は狂気に染まっている。

 

「私とアリシアはアルハザードで全ての過去を取り戻す!」

「過去は過ぎ去るのみ、現在はただ在るのみ、未来は向かってくるのみ。待っておれ、プレシア・テスタロッサ。俺が貴様に現実というものを叩き込んでやろう」

 

 レイの口角が不気味に吊り上がった。




 この回は非常に頑張りました。
 特に実況解説の部分。
 次回より第12話を全5話でお送りします。
 え、意味が分からない?
 つべこべ言わず読めや!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 運命は混迷の扉の中

 前回のあらすじ。
 なのは勝利。接戦を制するは新魔法。
「「「「「「何このスポーツ新聞の見出しみたいなの!?」」」」」」



「クロノ君どこへ?」

「現地に向かう。元凶を叩かないと」

「私も行く!」

「僕も行こう」

「分かった」

 

 プレシアが引き起こした次元断層を食い止めるため、クロノが向かおうとする。

 それについていこうとするなのはとユーノ。

 

「悪いが、俺は残る」

「レイ、なぜ……」

「やることがある。それが終わったらすぐに向かうわ」

「やることって何だ?」

「……仕事や。直さなあかんもんが仰山あるんでな。フェイトについては任せぇ。全部きっちり直したる」

「……任せるぞ」

「任せぇ、アフーム、先行っとれ」

 

 レイに見送られるクロノたち。フェイトは呆然自失のまま座っている。

 アルフがそれについてい励まそうとするも、何も出来ないでいる。

 

「フェイト、元気を出せ」

 

 レイがフェイトと同じ目線になるよう座る。

 レイの睫毛6本が長く伸び囚人たちが懸垂の様に捕まっている。

 鼻の上には看守らしき小人が竹刀をもって立っている。

 

「「「「「「フェイトさん、元気を出してください!」」」」」」

「「「「「「フェイトさん、元気を出してください!」」」」」」

「「「「「「フェイトさん、元気を出してください!」」」」」」

「バカヤロー! そんなんでフェイトさんが元気になるか!」

「「「「「「フェイトさん、元気を出してください!」」」」」」

「「「「「「フェイトさん、元気を出してください!」」」」」」

「「「「「「フェイトさん、元気を出してください!」」」」」」

 

 看守が睫毛を竹刀で叩くと、その振動で数人の囚人が落ちていく。

 フェイトはそれを呆然と眺めていた。

 

「そうですよ、それでフェイトは元気になりませんよ」

 

 フェイトとアルフは聞き覚えのある声にはっと上を見上げた。

 そこにはレイの帽子から上半身を出した猫耳の女性がいた。

 

「リ、リニス……?」

「はい、リニスです」

「な、何でここに……?」

「私も色々あったんですよ。それより行かなくてもいいんですか?」

「え?」

「プレシアのところへ行かなくてもいいんですか?」

「でも、母さんは、私のこと、いらないって……」

「フェイト、お前は母親に死ね言われたら死ぬんか?」

「え?」

 

 レイの質問に面食らうフェイト。

 

「俺は今回の事件はどうにも腑に落ちん。プレシアは何か重大な嘘をついているような気がするんや。俺はそれを暴きに行く。フェイト、お前さんはどうしたい? プレシアのお人形のままでいるか、娘としていくのか。今ここで選ばんと後悔するで、きっと」

 

 レイの頭からリニスが足を出す。そして2人は転送ポートへと向かう。

 

「待って!」

 

 フェイトが叫ぶ。

 

「生きていたいと思ったのは母さんに認めて貰いたかったから、それ以外に生きる意味なんかないと思ってた。それが出来なきゃ、生きてちゃいけないんだと思ってた。…捨てれはいいってワケじゃない、逃げればいいってワケじゃ、もっとない。」

 

 フェイトの手にはボロボロとなった待機状態のバルディッシュが握られている

 

「私達の全てはまだ始まってもいない」

 

 バルディッシュが杖に変わる。

 だがその姿は全体に罅が走り、今にも壊れてしまいそうだ。

 

「私、まだ始まってもいなかったのかな? バルディッシュ」

 

『Get Set』

 

「ならこれから始めればええ。フェイト・テスタロッサはここから始まるんや」

 

 レイが振り返り、手を差し出す。

 魔力の譲渡が行われ、バルディッシュが修復されていく。

 

「私達の全てはまだ始まってもいない」

 

 フェイトはバリアジャケットを身につけ、レイの手を取る。

 

「だからホントの自分を始めるために、今までの自分を終わらせる」

 

 魔法陣がフェイトの足元から広がる。4人は時の庭園へと転移した。

 

 

 

 

 

 時の庭園内部ではなのは、ユーノ、アフーム、クロノが傀儡兵と交戦していた。

 魔力弾が、魔力刃が、バインドが飛び交う。

 

「チッ、数が多い!」

 

 クロノの悪態をよそに次々と湧いて出てくる傀儡兵。

 彼らの中に焦りが生まれる。

 その焦りが決定的な隙を生んだ。

 なのはの背後に斧を持った傀儡兵が現れる。

 

「なのは! 後ろ!」

 

 ユーノの叫びでなのははようやく気付く。

 しかし気付いた時にはもう遅かった。

 斧がなのはに向かって振るわれる。

 

「きゃああああああ!!!」

 

 その瞬間、何かが傀儡兵にぶち当たり、風穴を開けた。

 

「待たせたな! 諸君!」

 

 そこにいたのは、数多の猫に率いられし伝説の車両、ピクルストレインである。

 先頭車両にはレイがいる。

 

「「「何だアレ!?」」」

「あれはピクルストレイン! 希望の未来を掴むことが出来るという伝説の列車だ!」

 

 ユーノが説明口調で叫ぶ。

 

「ぷしゅー」

「ああっ! ドアが閉まる! 待って、僕等の夢と冒険……」

 

 ピクルストレインに駆け込むユーノとアフーム、そこに傀儡兵の攻撃が入る。

 

「「「ぎゃああああああ!!!」」」

((((((当然の結果だ……))))))

「なのは、大丈夫?」

「フェイトちゃんこそ、もう大丈夫なの?」

「私は平気、母さんに確かめなくちゃいけないことが出来たから」

 

 再会を喜ぶなのはとフェイトに対し、クロノの顔は渋い。

 

「レイ、彼女は一体何者だ?」

 

 クロノがリニスを示す。

 

「初めまして、元プレシア・テスタロッサの使い魔のリニスです」

「プレシアの使い魔だと! 何でレイと一緒に居るんだ!?」

「話せば長くなるのですが……」

「時間がない! 今は味方という認識でいいんだな!」

「ええ、私としてもプレシアは止めたいですから」

 

 頷き合うクロノとリニス。

 しかしその時間が隙を生んでしまった。

 いつの間にかなのはたちは傀儡兵に囲まれている。

 

「今ので囲まれてしまったぞ。どうする」

「どうするも何も、こういう時は一点突破と相場が決まっとります。まあ、俺に任せといてください。魚符『ドキッ! 魚だらけの鳥人間コンテスト』!」

 

 レイを中心に魚型飛行機の弾幕が傀儡兵を襲い始める。

 一体、また一体と傀儡兵が破壊されていく。

 

「今や! 全速前進!」

 

 全員で目的の方向へと走っていく。

 障害となる傀儡兵は弾幕でおしゃかになるか、攻撃を喰らって壊れるかであっという間に包囲網を突破していた。

 いつの間にか駆動炉へと続くエレベータの前にたどり着いていた。

 しかし、レイとリニスが途中ではぐれたのかいない。

 

「あの二人、追いついて置いて……、まあいい、急ごう。ここからは二手に分かれよう」

 

 駆動炉を止めるチームにはなのは、ユーノ、アフームが。

 プレシアに向かうのはクロノ、フェイト、アルフ、である。

 クロノは考える。

 レイとリニスの行方である。

 この10日間、レイ=金剛=ダイアモンドという人物を観察して分かったことは、彼は無意味な行動はとらないというものであった。

 全ての行為に意味がある。

 一見無駄だと思われるバカな言動も後々になって意味が解るものが多かった。

 それ故、はぐれたのも何か意味があるのだろう、とクロノは考えた。

 今は彼を信じるしかない。

 クロノは先頭を切ってプレシアの元へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

 その頃プレシアはリンディと念話で会話をしていた。

 

「忘れられし都、アルハザード。そこに眠る秘術は存在するかどうかすら分からないただの伝説です!」

「違うわ、アルハザードへの道は次元の狭間にある! 時間と空間が砕かれた時、その狭間に滑落していく輝き。道は確かにそこにある」

「随分と分の悪い賭けだわ、貴方はそこに行って一体何をするの? 失った時間と犯した過ちを取り戻す?」

「そうよ、私は取り戻す。私とアリシアの過去と未来を! 取り戻すのよ…こんなはずじゃなかった、世界の全てを!!!」

 

 その時、突如背後の瓦礫が吹き飛んだ。

 中から現れたのは頭部から血を流しているクロノだった。

 

「世界はいつだってこんなはずじゃない事ばっかりだよ! ずっと昔からいつだって、誰だってそうなんだ! こんなはずじゃない現実から逃げ出すか、それとも立ち向かうかは個人の自由だ! だけど自分の勝手な悲しみに無関係な人間を巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない!」

 

 クロノの言葉がプレシアに突き刺さる。

 だがプレシアは癇癪を起こしたように雷を撃とうとする。

 だがそれは空中から降り立った一人の少女の姿を見る事によって止められた。

 降り立ったのはフェイトとアルフ。

 二人はプレシアの姿を真っすぐ見据えている。

 

「何をしに来たの」

 

 そう言い放つプレシアだがフェイトは怯まない。

 

「貴女に言いたい事があって来ました」

 

 フェイトは語る。

 

「私は、アリシア・テスタロッサじゃありません。貴女が作ったただの人形なのかもしれません、だけど私は、フェイト・テスタロッサはあなたに生み出してもらって、育ててもらった貴女の娘です」

 

 フェイトは真っすぐな眼をして真っすぐな言葉を放つ。

 

「だから何? 今更あなたの事を娘と思えと?」

「貴女が、それを望むなら。それを望むなら、私は世界中の誰からもどんな出来事からも貴女を守る。私が貴女の娘だからじゃない。貴女が私の母さんだから」

 

 ふと昔の記憶が蘇った。それはアリシアに誕生日のプレゼントは何がいいか聞いた時の事。

 

「うーんとね……あ、私妹が欲しい!」

 

 そう言ってアリシアは笑っていて、困りながらも約束をしてしまった自分がいた。

 楽しかった日々の中のほんの一ページに過ぎないから今まで気づかなかった。

 けれど確かに約束して今、目の前にはアリシアと瓜二つのフェイトがいる。

 だがそれが今更なんだと言うのだろう。

 もう戻れない、例え手を差し伸べられているとしてもその手を取る資格はないのだから。

 だからプレシアは狂気の仮面を被る。

 

「くだらないわ」

「っ! まずい!」

 

 クロノが言うが早いか再び時の庭園が揺れ始める

 

「艦長!庭園が崩れます。戻ってください!この規模なら次元断層も起こりませんから!クロノ君達も早く!崩壊までもう時間がないの!」

「了解した! フェイト・テスタロッサ! 2人共!」

 

 エイミィからの指示に従いフェイト達に声をかけるクロノ、だがフェイトはプレシアを見つめたまま動かない。

 

「私は向かうアルハザードへ、そして全てを取り戻す!」

 

 プレシアの足元が崩れ虚数空間にアリシアの入った器ごと落ち、なかった。

 プレシアの背後から人影が現れる。

 

「おいおい、家族を置いて、どこへ行こうというんや?」

 

 現れたのはリニスと、解放者の鍵(Remoeter’s Key)を携えたレイだった。

 

「時の庭園、封印完了。これ以上の崩壊はさせへんで」




 我ながらニッチな分野ではあると思います。
 ボボボーボ・ボーボボ、クトゥルフ神話、ファイブスター物語、ちょぼらうにょぽみ。
 これを機にこれらの作品を知っていただけると幸いです。
 え? これらの要素がまだほとんど無いだろうって?
 まだ彼女たちと邪神を絡ませるわけにはいきませんよ。
 邪神の本格参入は第2部第3章までお待ちください。
 現在ここを執筆中です。
 作者が一番書きたかったところ!
 ここの反応次第で、Stsまでやるかどうか決めたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12.2話 聞き分けの無い人々

前回のあらすじ
 時の庭園、崩壊、せず!



 遡ること数分前。

 クロノたちとはぐれたレイとリニスはプレシアの書斎にいた。

 

「確実にここにあるんやな?」

「はい、プレシアが証拠として残してあるはずです」

「ならちゃっちゃか探すとしますか。崩壊が進まんうちに」

「ヒュードラの資料はここに固まっています。恐らくその中にあるのでは」

「ならそこを重点的に探すとしますか」

 

 レイとリニスはあるものを探していた。

 それはレイの推理を裏付けるものである。

 

(アルハザード、ねえ。嫌な奴を想像してしまうわ。まさかネクロノミコンと関係があるとは思えんし)

 

 レイはリンディとプレシアの会話を聞きながら資料を漁る。

 

(虚数空間も、奴に見えて敵わん。全ての時空に隣接しているとは、まるで一にして全、全にして一そのもののようや)

 

「見つかりました!」

 

 リニスが声を上げる。

 リニスの手にはヒュードラの設計図が2枚握られていた。

 

「どれどれ」

 

 レイが二名の設計図を子細に眺める。

 プレシアの元では今クロノが声を張り上げている。

 レイは設計図を比べ終えると、一つ大きくため息をつく。

 そして思い切り口角を上げる。

 

「予想通りや」

 

 レイはそう呟くと、設計図を放り出しプレシアの元へと向かうのだった。

 

「急ぐでリニス! プレシアは死ぬ気や!」

「っ! はい!」

 

 リニスが慌ててレイの後についていく。

 レイは胸元から解放者の鍵(Remoeter’s Key)を取り出す。

 

「そろそろ足元が覚束なくなってきおったな」

 

 

 

 

 

 駆動炉を封印し終えたなのは達が合流する。

 

「役者は揃ったようやな」

 

 レイが声を上げる。

 

「あなた、どうやって、いったい、崩壊を。それに、リニスまで、どういうこと?」

「黙れババア! 手札を晒す阿呆がどこにおる!」

 

 プレシアの疑問を一喝する。

 

「私がここに居るのは彼に、レイに助けられたからです。そして彼との契約によりここに居ます。プレシア、あなたを止めるために」

「私を、止めるため? 下らないわ、あなたたちに何が出来るというの」

「妊娠と出産と授乳以外なら何でも」

 

 レイのジョークに全員の力が抜ける。

 

「お前そんなこと言ってる場合か!」

 

 クロノのツッコミが入る。

 

「おかしい、この必殺ジョークが通じんとは」

「「「「「「時と場所を弁えて!」」」」」」

 

 次の瞬間、レイの顔の横を電撃が通過する。

 プレシアの攻撃だ。

 レイの頬に切り傷が刻まれ、血がつうと流れる。

 レイはにやりとほくそ笑んだ。

 

「「「「「「レイ!」」」」」」

「「レイくん!」」

 

「俺の必殺ジョークでそんな反応をする奴は初めてや」

「黙りなさい。私を止めた気でいるようだけど、まだジュエルシードはこちらにあるのよ。これでアリシアを復活させることが出来るの。邪魔をしないで頂戴!」

「いんや、邪魔させてもらいます。今のあんたにアリシアを会わせるわけにはいかんからなあ。大切なことを見失い、無視しようとしているあんたには」

「っ! 黙りなさい!」

 

 プレシアの電撃がレイに襲い掛かる。

 レイはそれをするりとかわすと、プレシアに向かって突進する。

 レイはリボルバーを2丁、右手に白、左手に黒いリボルバーを構える。

 プレシアが召喚魔法を使い、成人男性大の傀儡兵を召喚する。

 

「っ! 不味い!」

 

 クロノが声を上げる。

 しかしレイは意に介することなく、傀儡兵に銃撃を試みる。

 放った魔力弾は傀儡兵の体に弾かれる。

 

「ほう」

 

 レイはそう呟くと、にやりと笑う。

 

「それは私が所有する傀儡兵の中でも最高傑作! 倒すには並みの魔導士が100人は要るわよ。あなた一人ではどうすることもできないわ」

「ほう、そんなら確かめさせてもらいますわ。俺が一体何人力なのかを」

 

 レイは懐から六角如意金剛棒を取り出すと、六尺ほどに伸ばす。

 

「さあて、傀儡兵君、簡単に壊れてくれるなよ。久々に手ごたえのありそうな相手なんやから」

 

 

 

 

 

 プレシアの猛攻になのは達は動けないでいた。

 障壁を張り、耐えるも、前に進むことや攻撃すら困難であった。

 ただ一人、アフームを除いては。

 アフームはプレシアの弾幕をひょいひょいと躱していく。

 ゆっくりと、だが確実に前進していた。

 プレシアに焦りの表情が現れ始める。

 

「ああ、もう! 当たりなさい!」

「じゃが断る」

 

 飛び跳ねるように電撃を躱すアフーム。

 そこへプレシアの誘導弾が襲い掛かる。

 

「これならどうかしら!」

「危ない!」

 

 フェイトが思わず叫ぶも、アフームの表情に焦りはない。

 2、3ステップを踏み、誘導弾をかわす。

 アフームをすり抜けた誘導弾は曲がり切れずに床に衝突したり、互いにぶつかり合って消滅する。

 

「今度はこちらの番じゃ!」

 

 アフームの両手にはラーメンの湯切り用のざるが握られている。

 中には熱々の麺が茹でたてのまま入っている。

 

「ホワッチャアアアアアア!」

「あっつう! 熱い!」

 

 熱々のゆで汁が障壁を通過してプレシアにかかる。

 

「あれは、質量攻撃として認識していいのだろうか……」

 

 クロノが疑問に思う中、アフームの熱湯攻撃は第2波に及んでいた。

 

「美味『紅茶の美味しいラーメン屋』!」

 

 熱々のティーバッグを振り回すアフーム。

 熱がるプレシアは攻撃に集中できない。

 

「うおおおおおお!」

 

 その隙をついてアルフがプレシアに接近を試みる。

 しかしその爪は障壁に阻まれ通らない。

 

「くそっ!」

「邪魔よ!」

 

 プレシアの杖が振るわれ、電撃が2人を襲う。

 

「がああああああ!」

「ん気持ぢいいいいいい!」

 

 プレシアの電撃に苦しむアルフに対し、アフームは周囲がドン引きするほど快感に身を悶える。

 

「あの、アフーム? 大丈夫?」

 

 見かねたフェイトが声をかける。

 

「心配するでない。妾はドMじゃ」

 

 頬を赤く染め、荒い息でアフームは答える。

 フェイトにはその言葉の意味は解らなかったが、碌でもない意味であることは容易に想像できた。

 

「なら、これならどう!」

 

 プレシアの杖が鞭へと変化する。

 プレシアが鞭をふるう、狙いはフェイトだ。

 フェイトは恐怖で身を縮こませる。

 目をつぶりぎゅっと耐えるフェイト。

 乾いた鞭の音がする。

 しかしフェイトに鞭が襲うことはなかった。

 

「大丈夫かの?」

 

 アフームがその身を挺して守ったのだ。

 

「アフーム!? 大丈夫なの!?」

「心配するでない、妾は痛みを感じぬ体質なのでな」

 

 再び鞭が振るわれる。

 狙いはクロノだ。

 

「くっ!」

 

 しかしクロノに鞭が届くことなない。

 再びアフームがその身を挺して守ったのだ。

 

「ハア、ハア、その鞭を見ていると、こう、SMへの趣味嗜好がむらむらと湧き上がってくる! さあ打ち込んでくるがいい! 強く打ち込んでくるがいい! ボロボロになるまで打ち込んでくるがいい!」

 

 荒い息でプレシアに迫るアフーム。

 プレシアは恐怖を感じた。

 これほどの恐怖は己の寿命を悟った時ぐらいであった。

 それほどまでに目の前の少女は恐ろしく映った。

 いくら攻撃しても当たることがなく、攻撃が当たっても快感に変えてしまう。

 プレシアはすっかり戦意を喪失してしまった。

 しかし、かろうじてかぶっていた狂気が彼女を奮い立たせる。

 

「そんなに痛いのが好きなら思う存分味あわせてやるわ!」

「待ってました!」

 

 アフームが狂喜を満面に押し出す。

 プレシアは気圧されるも、必死に狂気を取り繕うのだった。

 

 

 

 

 

 レイと傀儡兵との戦いは、レイの腹にカジキマグロが突き刺さるという形を迎えていた。

 

「何でですか!?」

「くっ、おのれ、まさか野生のカジキに襲われるとは、不覚」

「何故ここにカジキがいるのですか!?」

 

 リニスのツッコミが響き渡る。

 

「ふむ、硬い、早い、強いの三拍子そろったお人形やな。これは手強い」

「レイさん! 手助けを!」

「いや、要らん。この程度、倒せんで金剛=ダイヤモンド家を継げるか」

 

 傀儡兵が動く。

 レイはじっと動かずにその挙動を観察する。

 傀儡兵の剣戟がレイに襲い掛かる。

 レイは手にした如意棒でそれを防ぐ。

 5合近く打ち合うと。傀儡兵が離れる。

 先程からそれの繰り返しだ。

 レイから仕掛けることはない。

 カウンターで打ち返すことはあっても、自分から仕掛けに行くことはしなかった。

 傀儡兵が魔力ビームを放つ。

 レイはそれをひらりと躱す。

 すぐさま傀儡兵が動き、レイに切りかかる。

 レイがそれを躱し、防ぐ。

 レイがカウンターを傀儡兵の胴に決める。

 しかし、傀儡兵の体に傷がつくことはなかった。

 ふうとレイが一つため息をつく。

 

「いやあ、参った参った。これでは千日手やないか」

「ですから、手助けすると!」

「要らん。それに何ができる? 俺の骨すら断ち切る打ち込みを跳ね返す手合いに」

 

 それを言われリニスは憮然とした。

 それと同時に、目の前の少年の実力が自分とは隔絶していることに気付かされた。

 

「なら、どうするというのです!?」

「切り札を切る」

 

 レイはこともなげに言う。

 

「今まで観察して分かった。こいつは強い! 硬いし速い。しかしそれだけや。厄介なギミックがあるわけやなし、非常にシンプルな手合いや。この手合いに必要なのは純粋なスペック差。これから一時的にそれを引き上げる」

 

 そういうとレイは手で印を結ぶ。

 

「願い奉る、願い奉る。雷神よ、我は汝の僕なり」

 

 傀儡兵が切りかかってくる。

 

「汝が僕、雷の吸血鬼を我が身に宿し給え」

 

 レイは剣をするりと避ける。

 

「我は汝が僕なり。雷の元素を宿し僕なり」

 

 再び傀儡兵が切りかかる。

 

「我は雷の吸血鬼なり。我が血の一滴で身を替え給え」

 

 レイはそれを危なげなく避ける。

 

「急急如律令!」

 

 唱え終わると同時にレイの体が変質していく。

 レイの体から電気が迸る。

 

「この姿は1分しか持たん。早々に決めるで」

 

 傀儡兵が切りかかる。

 しかしレイは避けようとしない。

 

「危ない!」

 

 リニスが思わず叫ぶ。

 レイの体を捕らえたその剣は、いともたやすくその体をすり抜けた。

 

「え!?」

「今俺の体は雷の元素のみで構成されとる。従って物理攻撃の類は俺には効かん。そして」

 

 傀儡兵の体からバチバチと音を立てて電気が走る。

 

「触れれば超高圧電流が襲い掛かる」

 

 傀儡兵の体は高圧電流に触れたことで制御が困難になっていた。

 動く様子が見えない。

 

「さて、とどめといきましょか」

 

 そう言うとレイは傀儡兵に向かって突進する。

 

「右手に電子ジャー!」

 

 レイの右手に電子ジャーが現れる。

 

「左手に電子レンジ!」

 

 レイの左手に電子レンジが現れる。

 

「エレクトリックパワーボム! ぶっ壊れろ!」

「何ですか!? この攻撃!?」

 

 レイは両手の家電製品を思いきり傀儡兵の頭部を挟むように叩きつける。

 傀儡兵の頭部はひしゃげ、原形を失う。

 ふらふらと制御を失い、倒れ込む傀儡兵。

 やがて、傀儡兵は爆発する。

 爆炎を背にレイは静かに言葉を発するのだった。

 

「お前さんは強かった。だがハジケが、足りんかったな」




 全5話構成なのでこのようなタイトルになりました。
 それよりも、みんなラヴクラフトを読んだことはあるかな?
 私の自宅にはネクロノミコンが4冊あるぞ!
 エイボンの書だってあるんだ!
 皆も魔導書を読んで、このくそったれた人生を変革しよう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12.4話 目覚めし者たち

前回のあらすじ
 ドM、覚醒。



「もう、嫌……。誰かどうにかしてよ……」

 

 プレシアは童女の様に泣きじゃくっていた。

 

「まだか!? おかわりはまだか!? 早う! 早う鞭を!」

 

 アフームは全身をくねらせながら、プレシアに鞭の催促をする。

 

「誰か、助けて……」

 

 プレシアの心はすっかり折れていた。

 大魔導士と謳われたプレシア・テスタロッサもドM相手は初めてだったのだろう。

 目の前には攻撃を快感へと変えている少女がいる。

 他の連中を攻撃しようとしても、自分から当たりに行くその様は滑稽を通り越して恐怖だった。

 プレシアはがっくりと膝をつく。

 その目には涙が浮かんでいた。

 

「何とかして……」

 

 プレシアが呟いたその瞬間。

 

「新手の悪霊確認!」

「あひぃぃぃぃぃぃん!」

 

 レイがバズーカをアフームに向かってぶっ放したのだ。

 

「「「「「「ええええええ!?」」」」」」

「おいおい、何を勝手に楽しんでるんや」

「す、済まぬレイ。目的をすっかり忘れておった」

「そう、俺たちの目的、ねずみ講の勧誘にな」

「「「「「「犯罪だよそれ!」」」」」」」

「違うじゃろう、妾達の目的は法外な値段で布団乾燥機を買わせることじゃろう」

「「「「「「それも犯罪だって!」」」」」」

「レイもアフームも何を言っているのやら、僕たちの目的はこの家の金品を漁ることだろう?」

「「「「「「ユーノ(くん)が一番悪いよ!」」」」」」

「とまあ、冗談はここまでにしておいて」

「置いた冗談は妾が預かっておこう」

「プレシア・テスタロッサ、気は済んだか?」

 

 プレシアは答えずに、レイから目を逸らす。

 レイは手を後ろに組むと、静かに語り始めた。

 

「えー、今回の事件、非常に不可解な点がありました。プレシア・テスタロッサの動機です。果たして彼女が本当にアルハザードに一縷の望みをかけていたのでしょうか? 一流の科学者であった彼女が一か八かの賭けに出るでしょうか?」

「何が言いたいんだ」

 

 クロノが口を挟む。

 

「僕はですね、今回の事件がどうもちぐはぐでしょうがなかった。しかし、ある人物を中心に据えるとしっくりくることが分かったんです」

「それは……?」

 

 なのはが問いかける。

 レイは頷くと、口を開いた。

 

「フェイト・テスタロッサ。彼女こそ、今回の事件の要だったんです」

 

 全員に動揺が走る。

 

「マッジで~」

 

 アフームがギャル口調で返す。

 

「順を追って説明しましょう。俺の推理をね」

 

 レイの口角がにやりと上がった。

 

「事件の発端は26年前のヒュードラ事故。あの事故でプレシア・テスタロッサは病魔に侵され、アリシア・テスタロッサは亡くなった。そのアリシア・テスタロッサのコピーが、フェイト・テスタロッサ。ここまでは皆さん周知の事実でしょう」

 

 フェイトがその顔に影を落とす。

 なのはが心配そうにその顔を覗き込む。

 レイは意に介することなく推理を展開する。

 

「おそらくですが、プレシア・テスタロッサ、あなたの病状は相当ステージが進行しているのではないでしょうか?」

「……ええ、そうよ」

「となると問題は残されるフェイトになりますな。9歳の幼子が1人で生きていけるとは思えん。そのためには何かしら保護責任者がいる。しかしその伝手はない。恐らく当初の計画では全く違った青写真が描かれとったんでしょうな」

 

 プレシアはだんまりを決め込む。

 

「しかしここで計画が狂う、ジュエルシードが手に入らなかった。あまつさえ辺境の次元世界にばらまかれてしまった。ここで計画は変更される。ジュエルシード探索の過程で管理局に保護されるように仕向けるように。その際彼女に一切の責が及ばないように虐待しているという事実を付け加えて」

 

 プレシアの目が見開かれる。

 プレシアがレイの方を見る。

 

「じゃあ、母さんは」

 

 フェイトが顔を上げる。

 

「この事件は最初からフェイト・テスタロッサを生かすために仕組まれた事件やったんですよ」

「……違うわ」

 

 プレシアが呟く。

 

「私はアリシアを蘇らせるの、そのためにジュエルシードが必要で、私の体では取りに行けないから、フェイトを利用しただけ。それが事実よ」

「プロジェクトF.A.T.E.、死者をコピーすることで蘇生を実現する計画でしたか? フェイト命名の理由は、記憶の転写に失敗したから、別人格となってしまったから。それでも、あなたにとっては娘やった。違いますか?」

「……違うわ。あの子は道具よ、アリシア復活のための道具なのよ」

「いい加減にしんさい!」

 

 レイが声を荒げる。

 

「いつまで現実から目を背け続ける気や! 逃げんな! 娘から逃げんな! あんたは、娘から母親を奪うんか!」

「仕方ないじゃない! 時間がないのよ! 私にはもう、残された時間がないのよ」

 

 プレシアの慟哭が響き渡る。

 

「じゃあ、どうすればいいわけ!? 私はどうしたらよかったのよ!?」

「そんなこと知るか!」

「「「「「「ええーーーっ!?」」」」」」

「だが、時間は作れるで、あんたが己の罪と向き合う時間くらいはな」

「……どういうこと」

 

 レイの口角がにやりと上がる。

 

「あんたは最後の最後で幸運を掴めるんや。この俺が、あんたの病気の進行を遅らせ、アリシアを生き返らせると約束しよう」

「「「「「「はい!?」」」」」」

「今、何と言ったの?」

 

 プレシアがレイに聞き返す。

 

「あんたの病気の進行を遅らせ、アリシアを生き返らせると言ったんや」

「馬鹿なことを言うな! 死にかけの人間を治す事も、死者の蘇生も、不可能だ!」

 

 クロノが声を荒げる。

 

「今回ばかりはそれを可能にする方法があるんや。それに、俺は冗談は言っても嘘は言わん!」

「いや、結構嘘ついている気がするの」

 

 なのはのツッコミを意に介さず、レイは話を続ける。

 

「ただしこれは約束してほしい、報酬の件や」

 

 プレシアがごくりと唾をのむ。

 

「報酬はあんたが所有している魔法関連の雑誌、論文等の閲覧を無制限で許可してもらうこと! あんたの蔵書を余すことなく俺の目に触れさせることや!」

「……それでいいの?」

「俺が大金を積んでも欲しいもんや」

「……わかったわ。それでいいのなら」

「! 交渉成立やな」

 

 レイは満面の笑みで答える。

 

「レイくん! あなた何を要求したか分かっているの!」

 

 リンディがたまらず声をかける。

 

「わかっとります。あくまで個人用にとどめます。僕としても急激なブレイクスルーは望むところやない。地球人類が自らの手で発見してこそや」

「だといいのですが……」

「これでも科学の子、哲学はしっかり身についとります」

 

 レイが自信たっぷりに言う。

 

「では早速アリシアの蘇生に取り掛かるとしますか」

「今ここで出来るのか!?」

 

 クロノの驚愕をよそにレイはいそいそと準備を進める。

 

「まあまあ細工は流々仕上げを御覧じろ、ってな。まずは肉体を温めて細胞を活性化させると同時に皮膚から栄養を吸収させるキエエエエエエ!」

 

 そういうとレイはいつの間にか用意された風呂桶にポッドの中身ごとアリシアを勢いよく移し替える。

 なのはは風呂桶の中身を見る。

 風呂桶には野菜がゴロゴロと入っており、ブイヨンの香りがする。

 

「これブイヤベースだ!」

「ブイヤベース?」

「地球のお料理。簡単に言うと野菜スープなの」

「「「「「「野菜スープ!?」」」」」」

「ちょっと! 丁寧に扱って頂戴!」

「設定温度は40度、さあてまずは肺の水を抜く!」

 

 プレシアの非難もどこへやら、レイはアリシアの胸に手を置く。

 

「ハンマーカンマーハンマーカンマーハンマーカンマーハンマーカンマーハンマーカンマーハンマーカンマーハンマーカンマーハンマーカンマーハンマーカンマーハンマーカンマー」

 

 するとアリシアの口から液体があふれ始める。

 

「成程、あの呪文は液体をコントロールする呪文なんだね」

 

 ユーノが納得したように頷く。

 

「いや、別に関係ないんやけど」

「「「「「「じゃあ何で唱えた!?」」」」」」

「ノリで」

「「「「「「ノリ!?」」」」」」

「ブイヤベースの温度も丁度良くなってきたな、アリシアの体温が上がるまで待つ、と。その間にプレシアはん、あんたの診察を済ませてしまいましょ」

「……ええ、わかったわ、でもこの病気は治ることがないわ」

「それは俺が判断することです。いいからいいからー信じて信じてー」

 

 いつの間にか用意された椅子にプレシアを座らせ、レイは診察を始める。

 

「スキャン! ……ふうむ、リンカーコアらしき器官に異常な膨らみが見えますな。癌のようなものか。よくもまあ今日まで生きてこれたもんですわ」

「言ったでしょう、この病気は治ることがないって」

「これは俺でも、持って10年が限界でしょう」

「嘘!? そこまで延ばせるの!?」

「上手くいけば、ですがね。後はあなたの気力次第です。俺が出来ることは膨らみを抑えることだけ、切除は出来まへん」

「それでもお願いするわ、ここまで来たら何だって試してやるわ」

「その意気です。気合が無ければ治るもんも治りませんで。しかし、今は少々時間が足りひん。先にアリシアの蘇生を仕上げてからプレシアはんに取り掛かりましょ」

 

 そういうとレイはアリシアの入った浴槽に近づく。

 何やら複数の装置をアリシアに取り付けていく。

 

「全身の温度は、うん、丁度ええな。後は心臓にパルスを送って、と」

 

 アリシアの胸に電極が取り付けられている。

 

「スイッチオン」

 

 びくんびくんとアリシアの体が痙攣する。

 

「んーやや強めやけどこれくらいやないと厳しいからなあ。後は蘇生呪文やな」

「「「「「「今までの科学的な部分は何処へ行ったの!?」」」」」」

「アフーム、準備するで」

「はいな!」

 

 そういうとレイとアフームはギターを取り出し歌いだす。

 フリッパーズギターの『カメラ! カメラ! カメラ!』だ。

 

「「「「「「どう考えてもそれ蘇生呪文じゃないよね!?」」」」」」

 

 きれいなハモリで歌いきると、2人は満足げに頷くのだった。

 

「やれることはやった、あとは結果を待つだけや」

「「「「「「どこが!?」」」」」」

「さあてと、ちょいと休憩でもしますかな。おやつにしましょ」

「「「「「「呑気だな!」」」」」」

「え!? おやつ!?」

 

 ブイヤベースからざばりとアリシアが起き上がる。

 

「「「「「「ホントに生き返った!?」」」」」」

 

 プレシアは体をわなわなと震わせる。

 夢にまで見た光景が目の前にあるのだ。

 アリシアが生きて、ドーナツを頬張っている。

 

「これおいしい! どこの店の?」

「俺の手作りや」

「マジで!? 器用だね」

「ア、 アリシア?」

 

 プレシアがアリシアに声をかける。

 

「あ、お母さん。ヤッホー私生き返ったよ」

「「「「「「軽っ!」」」」」」

 

 プレシアがアリシアに勢い良く抱きつく。

 

「アリシア、アリシア……」

 

 その声は涙声に代わっていく。

 

「お母さん、無茶しすぎだよ、もう」

 

 そう言うアリシアの目にもうっすらと涙が浮かんでいた。

 アリシアもプレシアを抱き返すのだった。




 フリッパーズギター、好きですね。
 1stアルバム収録の『ボーイズ・トリコに火をつけろ』がお気に入りだったりします。
 こんな感じで私の好きな曲が作中に出てくることがあります。
 是非、私の年齢を考察してみてください。
 正解した方には715フレッチャーをプレゼント!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12.6話 病は気から

前回のあらすじ
 アリシア・テスタロッサ復活ッ! アリシア・テスタロッサ復活ッ! アリシア・テスタロッサ復活ッ! アリシア・テスタロッサ復活ッ! アリシア・テスタロッサ復活ッ!



 泣きじゃくりながら必死にアリシアを抱きしめるプレシア。

 うるんだ目で抱きしめ返すアリシア。

 

「チェック」

「ほう、そう来たか」

 

 ユーノとレイはチェスを指していた。

 

「こんな時に何してんだ、君達は」

 

 クロノのツッコミを意に介さず、チェスを指し続ける2人。

 アリシアが口を開く。

 

「お母さん、言わなきゃいけないことがあるでしょ、フェイトに」

「そうね、そうよね」

 

 プレシアはアリシアを離すと、フェイトの方へと向き直る。

 

「フェイト、ごめんね、ごめんね……」

 

 プレシアはさめざめと泣きながら、フェイトを抱きしめる。

 

「なあ、結局何が真実だったんだ?」

 

 アルフが疑問を口に出す。

 

「プレシアは母親だった。どうしようもなく母親だった。それが真実です」

 

 リニスが答える。

 アリシアの服が用意され、アリシアは着替えている。

 ぱんぱんとレイが手を叩く。

 

「あ、さて、そろそろプレシアはんの病気の回復と参りましょか」

 

 プレシアは涙をぬぐう。

 

「そうね、お願いできるかしら」

「お任せあれ、と言っても下準備はとっくに整っているんやけどな」

 

 そういうとレイはプレシアの背中をさする。

 

「ふうむ、ここか」

「何がだ?」

「プレシアはんの病気悪化の原因は娘を失ったことによる狂気、精神状態がリンカーコアに悪影響を及ぼしていたんや」

「そうだったの!?」

 

 プレシアが驚愕する。

 

小魔力(オド)、いやリンカーコアは精神と深くリンクしているという研究結果が地球にある。実際それは臨床済みや。リンカーコアの異常は外的要因やからうかつには手を出せん。しかし狂気によって異常発達した部分は回復できる。狂気を払うことでな。プレシアはんの狂気は大分払われた。後は最後の一滴まで絞り出すだけなんやけど」

「じゃあ、お母さんは!」

「余裕で生きられるで」

 

 アリシアがレイの言葉を受け満面の笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、リンカーコア取り出してください」

「「「「「「出来るか!」」」」」」

「えー簡単やのに」

 

 そういうとレイとアフームは胸を扉の様にパカリと開き、リンカーコアを取り出すのであった。

 

「「「「「「人間技じゃない!」」」」」」

「なら、これでどうにかしましょ」

 

 そういうとレイは解放者の鍵(Remorter’s Key)を構えるとプレシアの胸に突き刺した。

 

「リンカーコアよ、肉体から解放されよ」

 

 ずずず、とリンカーコアがプレシアの体内から出てくる。

 プレシアはその様子に目をひん剥いて驚く。

 プレシアのリンカーコアには黒い腫瘍のようなものが取り付いていた。

 

「うん、これ払って小さくしてしまいましょ」

「大丈夫なの!? 大丈夫なの!?」

 

 慌てるプレシアに対し、レイは冷静そのものである。

 

「まずは清めの塩を振ります」

 

 レイは妙に堂に入ったポーズ、塩振りおじさんのポーズで塩を振る。

 

「「「「「「そのポーズの意味は!?」」」」」」

「次にオリーブオイルをかけます」

「「「「「「何で!?」」」」」」

「これも大切な儀式や」

 

 オリーブオイルがリンカーコアにかかると、腫瘍から怨嗟の声と共に狂気が出てくる。

 それに比例するかのように腫瘍が小さくなっていく。

 

「出た! プレシアの狂気!」

「「「「「「何か出てきた!?」」」」」」

「後はこれを祓い清めるだけ! 大丈夫! 俺は神職の息子! 将来の宮司や! これぐらい払って見せるわ!」

 

 そういうとレイはオーク材の杖と大幣をもって狂気に向かっていく。

 

「悪霊退散! 悪霊退散!」

「「「「「「まさかの物理!」」」」」」

 

 レイは杖と大幣で狂気をぶん殴っていく。

 

「「悪霊退散! 悪霊退散!」」

 

 アフームも加わり、狂気に対するリンチは一層激しさを増す。

 堪らず狂気は一瞬の隙を突いて逃げ出す。

 

「「あ!」」

 

 逃げていく方向はジュエルシードの方だ。

 

「不味い! ジュエルシードと反応すればえらいことになる!」

 

 レイは無反動砲を構えると、狂気に向かって撃つ。

 

「南無三!」

「ちょっと!」

 

 クロノの制止は届かず、砲弾が爆発する。

 

「「「やったか!?」」」

 

 レイ、アフーム、ユーノは固唾を呑んで見守る。

 黒煙が晴れていく。

 そこに何かがいる。

 黒い雷だ。

 プレシアの姿を模した黒い雷がそこにいた。

 

「あかん、狂気とジュエルシードが反応しおった! しかも9個も!」

「ヤバい! これはヤバい! どれくらいヤバいかというとジャズバンドの中にタコがいる、これくらいのヤバさかな」

「「「「「「全然わかんないよ!」」」」」」

 

 ユーノのたとえにツッコみつつも全員臨戦態勢に入る。

 

「アリシア、アリシアァァァァァァ!!!」

 

 発動体が叫ぶ。

 その迫力に全員の間に怯みが生まれる。

 

「あれがプレシアの狂気の本質、か。えらいもんが生み出されてしもうたな」

「どうするのじゃ、レイ。生半可な攻撃をしては逆効果になりかねんぞ」

「決まっとる、いつも通り、祓い清めるだけや!」

 

 そういうとレイはオーク材の杖と大幣をもって駆け出していく。

 

「一気に決める!」

 

 レイは発動体に向かって接近していく。

 巨大な盾の裏に隠れながら慎重に。

 

「「「「「「めちゃくちゃ慎重だー!」」」」」」

「アリシアァァァァァァ!!!」

 

 発動体の放つ黒い雷がレイを襲う。

 

「ぎゃああああああ!!!」

「レイくん! 大丈夫!?」

 

 なのはが声をかける。

 

「ああ、この通り、平気や」

「「「「「「骨になってるー!!!」」」」」」

 

 レイの体は骨と化していた。

 

「ちっ、あれでは迂闊に近づけんぞ」

「近づけば雷、どうすればいいのやら」

 

 アフームとユーノが策を組み立てようとする。

 

「だったら、遠距離からの砲撃で! 行くよ、フェイトちゃん!」

「うん!」

 

 フェイトとなのはが息を合わせ、砲撃を放つ。

 

「ディバインバスター!」

「サンダーレイジ!」

 

 2人の砲撃が発動体に迫る。

 しかし、2筋の砲撃は発動体が展開した障壁に阻まれるのであった。

 

「そんな……」

 

 なのはの声は力を失う。

 

「アリシアァァァァァァ!!!」

 

 発動体がなのはたちの方へと電撃を放つ。

 技術も何もないただの放電であるが、その威力は大地を穿つほどであった。

 

「おいおい、マジかよ」

 

 アルフが冷や汗をかきながら呟く。

 

「近づくことは不可能、遠距離砲撃も効かない。となると、どうしたらいいのか」

 

 ユーノが必死に策を組み立てようとする。

 しかし有効なアイデアが浮かばない。

 一方のレイは静かに発動体を見据えている。

 そして、口を開く。

 

「一か八か、スターライトブレイカーに賭ける! 少なくともあれが俺たちの中での最大威力の攻撃や! 全員でなのはのお膳立てをして、なのはは魔力の収束に集中! これで行く!」

「大博打じゃな」

「それしかないか……」

 

 アフームとクロノがレイの策にしぶしぶ同意する。

 

「なのはは一刻も早く魔力の収束をするんや! 限界までな!」

「妾達のハジケで食い止めて見せる!」

 

 レイ、アフーム、ユーノが発動体に向かって駆け出していく。

 キラキラとエフェクトが3人にかかる。

 フェイトとクロノはなのはを守るようにじっとなのはの前に立つ。

 両脇をアルフとリニスで囲んで守っている。

 

「「「君の瞳に乾杯」」」

 

 3人はホストになって発動体を食い止めようとした。

 

「「「「「「100%食い止められないよ!」」」」」」

「「「ぎゃああああああ!!!」」」

 

 雷撃を3人が襲う。

 

「「「なんのまだまだー!」」」

 

 3人は立ち上がり、次なる手を打つ。

 

「全力でハジケ切って見せるわー!」

 

 アフームの叫びに呼応したレイとユーノは互いに頷き合う。

 

「うおおおおおお! エアギター! エアギター!」

「弾いてるようで弾いてなーい! 匠、匠なの!」

「「「「「「変な方向にハジケたー!」」」」」」

 

 再び雷撃が3人を襲う。

 

「「「ぎゃああああああ!!!」」」

 

 そうこうしているうちに、なのはの砲撃の収束が完了する。

 

「みんな! 行くよ!」

 

 なのはの掛け声と共に中央を開ける。

 

「お願い、通って! スターライトブレイカー!」

 

 桜色の砲撃が発動体に向かって撃ちこまれる。

 発動体は障壁を展開して、防御しようとする。

 やがて、発動体は障壁ごと砲撃に呑まれていく。

 誰もが固唾を呑んで行方を見守る。

 やがて煙が晴れる。

 そこには確かに、発動体が立っていた。

 

「そんな……」

 

 フェイトの声から力が失われる。

 誰もが諦めていた。

 ただ一人を除いては。

 

「……切り札(ジョーカー)を切るか」

「「「「「「え?」」」」」」

 

 レイの呟きに全員が反応する。

 

「正直切りたくはなかった。これは諸刃の剣、下手をすれば味方を巻き込みかねん。けど、そうも言ってられん!」

 

 レイは解放者の鍵(Remorter’s Key)を構えると、天に掲げた。

 

「開け、聖門『聖金剛領域(ダイヤモンドワールド)』!」

 

 レイが解放者の鍵(Remorter’s Key)を右に回す。

 すると解放者の鍵(Remorter’s Key)の先端から世界が書き換わっていく。

 

「これは、一体?」

 

 リンディが声を上げる。

 あっという間に世界は花畑へと変化していた。

 レイは発動体を睨みつける。

 

「みんな、その魂、開放してもらうで」




 ヤバいな、感想が来なさ過ぎて、モチベーションが保てない。
 UAを眺めることしか出来ないよ……。
 みんなこの作品をどう思っているのだろう?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12.8話 出ちゃった♡ 聖金剛領域(ダイヤモンド・ワールド)

 前回のあらすじ。
 開門! 聖金剛領域(ダイヤモンド・ワールド)


聖金剛領域(ダイヤモンド・ワールド)とは一体……?」

 

 全員の疑問をクロノが先陣を切って言う。

 

聖金剛領域(ダイヤモンド・ワールド)とは、俺が作り出した神聖な空間。ここでは『魂の解放』こそが全て! 魂を解放したものは精神の奥に眠りし真の力を使うことが出来る。魂を解放できぬものはこの世界に拒絶され、最悪の場合死に至る」

 

 全員の生唾を呑む音が聞こえる。

 

「皆の者! 死にたくなければ魂を解放せよ!」

「でも、どうやって……」

「ユーノを見よ」

 

 アフームに言われて全員がユーノを見る。

 そこにはパイナップル缶を開けているユーノがいる。

 

「ふんふんふんふふ~ん」

 

 パイナップル缶を開け終わるとユーノはそれを勢いよく頭からかぶった。

 

「パイナポー!!!」

 

 続いて上半身を露にする。

 

「パイナポー!!!」

 

 そして己の胸にパイナップルを貼り付け踊るのだった。

 

「パイナポー! パイナポー! パイパイパイパイパイナポー!!!」

「「「「「「これが魂の解放なのかーーー!?!?!?」」」」」」

「そんな皆のためにプレゼント・フォー・ユー」

「何かな♪ 何かな♪」

「ペナントどすえ」

「いらんわ!」

 

 アフームの突きがレイの鳩尾に入る。

 

「グハッ!!!」

「「「「「「何この流れ!?」」」」」」

 

 一方ユーノはキムチ相手に歴史の授業をしていた。

 

「何だよ! せっかくの授業参観なのにうちのクラスは変なガキ一人かよ!」

 

 レイはキムチを釣りあげようとしている。

 

「「「「「「何してんの!?」」」」」」

「ちっ、朴んとこのガキ取り損なった~」

「「「「「「朴って誰!?」」」」」」

「ハイここで問題! 維新の三傑の一人で、改名前を桂小五郎というのは誰!」

 

 しいん、と水を打ったような静けさが場を包む。

 

「ってキムチが答えられるわけねーだろ!!!」

 

 ユーノは教卓を破壊する。

 

「木戸孝允です」

 

 答えたのは朴だった。

 

「「「スゲェーーーーーー!!!!!!」」」

 

レイ、アフーム、ユーノはキムチを頬張りながら驚愕する。

 

「ちなみにアフーム、お前のキムチ朴やで」

「気分悪いわーーー!!!」

 

 魂の解放はなおも続く。

 発動体は動こうにも魔法が使えず、困惑していた。

 

「今や地獄送り!」

 

 レイが発動体を巨大な黒ひげ危機一髪に押し込む。

 

「オラァ!」

「チッ!」

 

 アフームとユーノが剣を刺しながら飛び出さないことに舌打ちする。

 

「俺はここやー!」

「ガアアアアアア!」

 

 レイが巨大なハンマーでタルごと発動体を破壊する。

 

「お前はルール無用の悪逆非道なのかー!」

 

 ユーノが叫ぶ。その瞬間、タルが爆発し、4人が空中に吹き飛ばされる。

 その状態でアフームがレイにキン肉バスターを、ユーノが発動体にキン肉ドライバーの構えをとる。

 そしてそのまま落下していく。

 

「「マッスルドッキング!」」

 

 レイと発動体は吐血する。

 

「脱出!」

 

 アフームは転がるようにその場から離脱する。

 

「さーて、食事にするかの」

 

 アフームが取り出したのはご飯である。

 ここでアフームはあることに気付く。

 

「納豆がなーーーい!!!」

 

 アフームは駆け出す。

 

「納豆ーーー! ご飯に納豆かけねば死んでしまうーーー!」

 

 そのまま川へと飛び込む。

 

「なぜ貴様はイワナなのじゃ!!!」

 

 そういってつかみ取り、叩いているのはアユである。

 

「アユじゃー!!!」

 

 アユをぶん投げるアフーム。

 

「よくあるよくある」

 

 女豹のポーズをとるアフーム。

 

「うおおおおおお! ご飯の敵ー!!!」

 

 日本刀を上段に構えたアフームが駆け出す。

 その先にいるのはユーノだ。

 

「キエエエエエエ! スコップ神拳!」

 

 ユーノが剣先スコップを構えて待ち構える。

 2人の得物がぶつかり合う瞬間、和太鼓が打ち鳴らされる。

 

「特上本マグロ3点握り、特上本マグロ3点握り、今だけ特別にお流しします」

 

 レイの掛け声と共に、巨大特上本マグロ3点握りがアフームとユーノを轢く。

 

「「ぎゃああああああ!!!」」

 

「「「「「「全然意味わからーん!」」」」」」

 

 異口同音にツッコむ声が響く。

 

「くそっ! 魂の開放!? さっぱり訳が分からんぞ!」

「何なのこれ!? なんなのこの世界!?」

 

 クロノとプレシアは苦悩する。

 この状況を理解できるものがいるとしたらそれは立派な虚空戦士(ハジケリスト)であろう。

 

「うわああああああ!」

 

 アフームが突如叫びだす。

 

「レイ! 妾は其方に一言言いたい事があったのじゃーーー!!!」

「グハァ!!!」

 

 アフームがレイの前髪を思いきり引きちぎる。

 

「でも言わない」

「ならばこの思い(帽子)、取ってきてくれー!」

 

 レイが帽子をぶん投げる。

 

「わかったー!」

「お前さんは何も解っちょらーん!」

 

レイがアフームに膝蹴りを喰らわせる。

 

「そう、俺のことなど誰にも解りはしない……」

「突然ですがここでクーイズ!」

 

 ユーノが司会となってクイズ大会が始まる。

 

「「「「「「あれ!? 私たち回答者!?」」」」」」

 

 なのは達が回答者席にいつの間にか座らされている。

 

「問題! どうしてこの世界から戦争が無くならないんでしょうか!」

「「「「「「すっごい抽象的な上、答えのない問題が来た!」」」」」」

「戦争を武力集団同士による交戦状況と定義すると、戦争の目的は様々ではある。資源、面子、様々な理由が戦争にはあるが、私は嫉妬と傲慢の感情が戦争に発展すると考える。特に嫉妬は戦士階級同士の争いを理解するのに丁度いい感情であると私は考える。古来より戦争を主導してきた……」

「うるせぇーーー!」

 

 ユーノが回答しているレイを殴り飛ばす。

 

「警部殿! 警部殿! ドッキングシステム完了!」

 

 レイが両腕を開く。

 

「ドレミファソラシーーードッキング!」

 

 アフームがレイの右脇にくっつく。

 

「ドレミファソラシーーードッキング!」

 

 ユーノがレイに左脇にくっつく。

 

「「「ダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバ」」」

 

 3人はポーズを変えていく。

 

「「「お誕生日おめでとう」」」

「「「「「「……誰の?」」」」」」

 

 その様子にあきれ返るなのは達。

 

「グアアアアアア!」

 

 発動体が突如として苦しみだす。

 

「魂を解放できなかったようやな。あくまでプレシアの狂気、意識の一部分やったということか」

 

「どういうこと?」

 

 なのはがレイに問いかける。

 

「あれに魂など宿っとらんということや。それ故この世界から拒絶された。存在そのものが消えかかっとるんや」

「じゃあ、今なら!」

「砲撃も通るな、という訳で、封印は任せたで! お2人さん!」

 

 なのはとフェイトは顔を見合わせる。

 

「なのは!」

「うん、いくよフェイトちゃん!」

 

 2人が杖を構える。

 

「「祓い給え、清め給え! プレシアの狂気よ現世から尽く去ね!」」

 

 レイとアフームがオーク材の杖と大幣を構える。

 

「「浄化『クリーンアップ・ユア・ハート』!」」

 

 虹色のハート型の弾幕と砲撃が発動体に迫る。

 発動体は障壁を張ろうとするも、それはボールペン字講座を受ける主婦へと変化してしまう。

 

「無駄や、精神の解放を伴わない攻撃は全て資格取得のための勉強へと変化する」

「「「「「「意味わかんない」」」」」」

 

 砲撃と弾幕が発動体を飲み込む。

 やがて、砲撃が止むと、そこにはジュエルシードが9個、宙に浮いていた。

 

「いくよ、フェイトちゃん!」

「うん!」

「「ジュエルシード、封印!!!」」

 

 なのはとフェイトのデバイスから、光の帯が伸び、ジュエルシードを包み、突き刺さっていく。

 1個、また1個とジュエルシードの封印が為されていく。

 そして、9個すべての封印が終わった。

 なのはとフェイトはその場にへたり込む。

 レイはジュエルシードに近づくと、9個全てを拾い上げる。

 

「執務官殿! ジュエルシード21個全て回収完了しました!」

 

 レイが敬礼する。

 すると、プレシアがへたり込む。

 

「終わったのね、何もかも」

「ええ、悪い夢は終わりました」

 

 アフームが後ろに手を組んで、語りだす。

 

「これから始まるのは家族と共に過ごす、心地いい現実です。これからあなたには困難が待っていることでしょう。ですが、あなたには2人の娘がいます。きっとあなたの力の源となるでしょう。負けないでください。このどうしようもない世界に」

 

 アフームがプレシアに微笑みかける。

 

「見てください、この美しい夕日を! これにて一件落着ですね」

「「「「「「最後になぜかアフーム(ちゃん)が締めたーーー!」」」」」」




 皆さんが期待しているであろう、邪神の登場は第2部第3章までお待ちください。
 そして、現在そこを執筆中です。
 力が入りすぎて相当長くなっています。
 そして、第2部第3章では様々な秘密が明かされます!
 ていうか皆さんは気になることはないのかな?
 この物語の最大の謎、アフーム=Z=シルバーについて。
 特に説明もなくレイのそばにいるのですが。
 彼女には重大な秘密があるのですが、分った方は7150フレッチャーをプレゼント!
 そして次回第1部第1章完!
 ご期待ください!
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 名付けるまでもない友情

前回のあらすじ
 アフームが締めました。



「レイ、君は一体どこまで知っていたんだ?」

 

 アースラに帰還後、クロノがそんなことを言った。

 

「何のことや?」

「今回の君の動き、初めからプレシアの目的や状態が分かっていなければ動きようがない。極めて不自然だ」

「私が教えた、では不満ですか?」

 

 リニスが口を挟む。

 

「プレシアだけならそれでいい、問題はアリシアを蘇生させた件だ。何故的確に処置できた?」

「ふむ、その疑問は最もや。ようござんしょ、答えましょか」

 

 レイが居住まいを正すと同時に、全員がレイに注目する。

 

「ふむ、どこから話したらよいものか、それは今年の1月のことやった。うちのベランダに1匹に猫が倒れとった。余りにも不自然な上、魔術的作用が施されておったから誰かの使い魔かと思うた。俺は回復した猫、リニスから次元世界と魔法について聞いた」

「あの時は驚きました、私を使い魔と見抜いたと思ったのですから正体を表したら驚かれまして。地球の使い魔は変身することがないと知ったのはその時です」

「俺はリニスから事情を聴き、回復するまでうちに置くことに決めた。別に彼女の思惑なんて知ったこっちゃないし、手伝う気もなかった。フェイトが介入してくるまでは」

「プレシアがジュエルシードを求めていたことは知っていました。私としては当初、ジュエルシードを回収しに来た管理局の船に乗ってプレシアを止めに向かう心算でした」

「フェイトの介入によってプランが大きく崩れた。同時にこれは俺達にとってチャンスやった。上手くいけばプレシアの元へと一直線に行けるかもしれんかったからな。問題はフェイトとどう接触するかやった。ま、それも管理局の介入で不可能になったんやけどな」

「同時に私が表に出るタイミングを逃してしまったのです」

「さて、俺はこの時期にアリシアと接触しとる。ああ、意味わからんという顔をしとるな。正確にはアリシアの生霊と接触しとったんや」

「い、生霊?」

 

 ユーノが声を上げる。

 

「うむ、フェイトそっくりの生霊やったから驚いた。聞けば、アリシアこそ今回の事件の要やないか。このままいけば間違いなくプレシアと接触することになる可能性が高い。そしてプレシアは一流の科学者と聞く。そこで俺は計画を立てた。今回の一件をまるっと解決することでプレシアから魔法技術をいただく計画をな」

「そのタイミングで私とレイの間に共闘関係が結ばれたのです」

「プレシアに恩を売る方法は2つ、彼女の病気の回復とアリシアの蘇生、この2つを実現することやった。俺はリニスからプレシアの体の状態を事細かく聞き、プレシアの病気が内部魔力の異常であるとこまで突き止めた。アリシアの蘇生についても同様や、生霊やから肉体はかろうじて生きていることが分かる。過去の蘇生の実例からいくつか参考になりそうな事例をピックアップして準備をしただけや」

「一つ疑問がある。アリシアのことを生霊と言った。肉体が死んでいないと言った。なぜ彼女は生きていたんだ?」

 

 クロノの問いにレイは顎に手を添える。

 

「ふむ、これは俺の推測なんやけど、アリシアは生まれた時からリンカーコアに異常があり魔法が使えなかったと聞く。ヒュードラ事故の際、発生した高密度の魔力線がアリシアのリンカーコアに好影響を及ぼしたのかもしれん。そして彼女が本来持っていた魔力が彼女の肉体を生かし続けていた。と考えるんが自然やろな。何しろ昔の事や、誰も知らん」

 

 レイはふうとため息をつく。

 

「そのヒュードラの事故やけど、どうも偶然とは思えん。人為的なミスの可能性がある」

「何だって!」

 

 クロノが声を上げる。

 

「俺はヒュードラ事故のことをリニスから聞いた時、プレシアがこう発言したのを聞いたそうや。『納期が近いのに何考えてんのよ』『あんな材料と構造で実験なんて馬鹿げてる』とな」

「それが一体何だというんだ」

「これが真実だとすると、恐ろしい真実が浮かび上がってくる。ヒュードラは人為的なミスによって引き起こされた人災や、ということがな」

「それは、本当なのか」

「俺の推理を裏付ける資料がプレシアの書斎にある。ヒュードラの設計図や。当初の計画と実際の施工の2枚がある。プレシアに問いただしてみい。きっと俺と同じことを言うで」

「それが真実だとするならば、プレシアは司法取引で減刑される可能性がある。君はそこまで読んでいるのか!?」

「テスタロッサ家には幸せになってほしいからなあ。幸せのおすそ分けや。それに、誰が損をしたというん? 管理局も、テスタロッサ家も、もちろん俺も含めて」

「……恐ろしい奴だよ、君は」

「はっはっは、何のことやら」

「……結局どういうことなの?」

 

 なのはが声を上げる。

 

「誰も損せずみんなハッピーエンド。それか今回の事件の結末や、ってこと」

「そう! それはよかったの!」

 

 なのはが満面の笑みを浮かべる。

 

「ああ、やめて、そんな目で私を見ないで。この知識欲で薄汚れた私を見ないで……」

 

 レイがなのはから目線を逸らし、一人芝居を打つ。

 

((((((何やってんだコイツ……))))))

 

 アースラクルーの心は一つになった。

 

 

 

 

 

 数日後、本局へ向けて出航することになったアースラの見送りのため、海浜公園へとなのはたちは集まっていた。

 

「俺たちが一番最後か」

「その様じゃな」

 

 そこへレイとアフームが到着する。

 下半身キャタピラのサイボーグとなって。

 

「「「「「「わああああああ!!!」」」」」」

「どうしちゃったのその体!?」

 

 リンディが2人に声をかける。

 

「せっかくの見送りやからな、おしゃれの一環や」

「そんなおしゃれ聞いたことないわよ!」

 

 それを聞いた2人はしぶしぶ元の体に戻るのだった。

 

虚空戦士(ハジケリスト)って一体どういう体の構造してるのかしら」

 

 リンディの呟きに誰もが苦笑いするしかないのだった。

 そこへプレシアがレイに話しかける。

 

「あの、ありがとう。私たちのためにここまで骨を折ってくれて」

「何のことや? 俺は今まで世のため人のために働いたことは一度もないで」

「そこまで謙遜することはないじゃない……。でもあなたが動いたおかげで私は多くのものを失うどころか、得ることが出来たわ。娘を、家族を、寿命をね」

「あんさんが満足ならそれが何よりです。僕の信条に従って動いたまでですから」

「信条?」

「救える命は可能な限り救う。力ある者の責任でもありますから」

「強いのね、あなたは」

「まだまだです、まだまだ、発展途上ですよ」

「いいえ、強いわあなたは。心が強い。そしてちょっと変な子。私は死ぬまで恩を忘れないわ」

「貰うもんは貰いました。それ以上は受け取れませんえ」

「本当に魔法と次元世界の知識でいいの? とてもあなたの年ごろの子が欲しがるものじゃないようだけど」

「僕にとっては値千金の品物です。魔術師であり、物理学者でもある僕が喉から手が出るほど欲しいもの。全力を尽くしますわ」

「素直じゃないのね」

「さあ、何のことやら」

 

 一瞬の沈黙が2人を包む。

 されど、この沈黙に不思議と気まずさはなかった。

 

「そうそう、お返しするものがあります」

「? 何かしら」

「リニスを、お返しします」

「!? いいの?」

「そういう契約ですから。それに、リニスも古巣の方がいいでしょう。うちは人手が足りているんで」

「……そうね、うちはこれから忙しくなるからね。でもいいの? 貴重な魔法知識の情報源よ」

「それは、プレシアはん、あんさんから頂きました。もう十分足りてます」

「そう、あなたがそれでいいというのなら、リニスにも確認しないと」

「もういますけどね」

 

 そういうとレイは背後を振り向く。

 プレシアも続いて振り向くと、そこにはリニスがいた。

 

「リニス、あなた」

「プレシア、もう一度、あなたに仕えてもよろしいのでしょうか?」

「ええ、ええ、勿論よ。あなたは私たちの家族なのだから」

「ほんなら、マスター契約の譲渡を」

 

 レイとプレシアの間に契約の譲渡が行われる。

 

「ほんなら、僕はこれで、積もる話もあるでっしゃろ」

 

 そう言うとレイはなのはたちの方へと向かう。

 プレシアはその背中がいやに大きく感じるように見えた。

 

 

 

 

 

「レイ!」

 

 レイがなのはたちのところへ向かう途中で、クロノとリンディに呼び止められる。

 

「おや、執務官殿、提督殿」

「良かったわ、出向前に話すことが出来て」

「なにか、問題でも? 外交ルートの件で? それとも報酬の件で?」

「そっちじゃないわ。単純にお礼が言いたかったのよ。あなたのおかげで随分私たちの思惑を超えてハッピーエンドにさせてくれたから」

「俺は職務を全うしただけにすぎません」

「でも本当に報酬がデバイス作成キットとデバイスの材料、炎熱変換と氷結変換用のソフトウェアで良かったのか?」

 

 確認するクロノにレイは静かに答える。

 

「なのはとアフームは特に欲しがりませんし、俺も欲しいもんは手に入りました。あともう二人、資質のある子たちがおるんで、その子たちのためのデバイスを作ってやった方が建設的です」

「完成品をこちらで用意することもできるけど?」

「作ってみたいんですよ、デバイスを。それにこっちでデバイスの整備が出来た方がお互い楽になると思いますえ?」

「……そうだな、君の言う通りだ」

「そろそろよろしいですか? フェイト達に挨拶せんと」

「これだけは言わせて頂戴、今回の件でのご協力感謝します」

「こちらこそ、色々無理言って申し訳ありまへんでした」

「エイミィから連絡を預かっている。レイくんのおかげでバックヤードがすんなり動きました、本当にありがとう、だと。僕からも言わしてもらおう、ご協力感謝する」

「いえいえ、こちらこそ」

 

 3人は敬礼する。

 レイは敬礼を解くと、フェイト達の方へと歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

「レイ! 遅いではないか!」

「すまん、色々あってな」

 

 アフームが遅れてきたレイをなじる。

 

「みんなあらかた言いたいことは言ってしもうた、あとはレイだけじゃ」

「さよか、ほんなら挨拶していきますかね」

 

 レイがフェイト、アリシアの前に立つ。

 

「レイ! ありがとう! お母さんを治してくれて」

 

 アリシアがいの一番にレイのお礼を言う。

 

「いやいや、これもビジネスや」

「だとしても! レイのおかげで皆ハッピーになれたんだから! だよね、フェイト」

「うん、レイがいなかったら、こんな気持ちになることはなかった。本当にありがとう」

「そうか? そんなら良かった。頑張った甲斐があったもんや」

 

 満面の笑みを浮かべるフェイトとアリシアに笑顔で返すレイ。

 

「そうそう、渡すものがあるんや」

 

 そういうとレイは懐から何かを取り出す。

 

「旅立ちのお守り、カルロス・サンタナや」

 

 レイが取り出したのはおっさんの顔をした怪獣の人形だった。

 

((なにコレいらない))

「「あ、ありがとう」」

 

 引き攣った笑顔でカルロス・サンタナを受け取るフェイトとアリシア。

 

「ボタンを押すと喋るで」

「謝れー! 俺に謝れー!」

((本気でいらない))

 

 謎のアイテムに困惑するフェイトとアリシア。

 その様子になのはは困ったような笑顔を浮かべるしかない。

 

「何かもらってばかりだね」

 

 フェイトがそう呟く。

 

「いやいや、こっちもプレシアはんから仰山もらいましたさかい、お見送りの引き出物くらい心地よく受け取ってくださいな」

「けど私達だってお礼がしたいよ」

「それは出世払いでええて。俺は気にせん」

「じゃあ、将来レイが困っていたら助けてあげるからね」

「私も、レイの助けになりたい」

 

 フェイトとアリシアの言葉にレイはそっと微笑む。

 

「じゃあ、そん時はそん時な。無論、俺も2人が困ってたら助けるけどな」

「じゃあ、お相子じゃん」

「友達ってそういうもんやろ?」

 

 レイの言葉に2人ははっとする。

 

「そうか、友達かあ」

「友達、何だね、私達」

「あら? 嫌やった?」

「「全然! すごく嬉しい!」」

「ならよかった」

 

 全員で笑い合う。

 しかし、別れの時というものはやってくるのもである。

 

「そろそろ時間だ」

 

 クロノが出航時間を告げる。

 それぞれが思い思いの別れを告げる。

 なのは、レイ、アフームを残し、全員が転送陣へと乗る。

 

「また会おう、次元世界の友人達よ」

 

 レイが声をかける。

 それと同時に転送が始まる。

 フェイト達が手を振る。

 なのはたちも手を振り返す。

 レイとアフームに至っては帽子から『See you again』という横断幕を掲げている。

 転送陣の光が強くなり、全員の転送が完了する。

 3人は空を見上げる。

 

 

「行きますか」

「……そうだね」

 

 3人は歩き出す。

 5月ももう終わろうとしていた。

 初夏の風が3人の間をすり抜けていった。




 祝、第1部第1章完!
 次回は話の都合上入れざるを得なかった話を入れ、それから第2章へと入ります。
 第2章はAs編です。
 全2章で第1部は終了します。
 皆さん、応援ありがとうございます!
 まだまだ謎の多い作品ですが、これからも読んでいってください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1.5章 夏なんです 第1話 真夏のショートショート3連発

 今回お送りするは、話の都合上入れざるを入れないエピソード。
 特に意味は無いかもしれないけれど、この後の展開に関わる話なので、読んでいただくと幸いです。


『新デバイスお披露目』

 

 

 

 レイからアリサとすずかのデバイスが完成したという話が出たのは、1学期最後の日であった。

 管理局からの報酬で手に入れたデバイス作成に必要な道具や材料を用いて、やっと今完成したのである。

 

「これでようやっと、2人も魔法が使えるようになるな」

 

 そういうレイの顔は満足げであった。

 

「それにしてもずいぶん時間かかったわね、普段のレイならもっと早く用意してそうなもんだけど」

「そうだね、ちょっと慎重が過ぎるような気がするけど」

 

 アリサとすずかは時間がかかったことに疑問を禁じ得ない。

 

「言うても1月半やで、資料読み込んで、原理理解して、組み立てて、それをするのにずぶの素人が掛けた時間が。それを思うと早いと思わへんか」

「それもそうね、ごめんなさいね、変なこと言って」

「いやいや、そう思うのも当然やろ。それに、なのはのレイジングハート並みの性能を出そうと思うたら、自然と時間がかかってなあ」

「「「そこまでやったの!?」」」

「まあ、仕上げはこの後CMの後で、ってな」

 

 

 

 

 

 放課後、金剛=ダイヤモンド邸に集合した5人は早速デバイスを確認することにした。

 

「これが、アリサ専用のデバイス、サンシャインホープ。ほんでもってこっちがすずか専用のデバイス、ムーンライトドリームや」

 

 オレンジ色の太陽を模した待機状態のデバイス、サンシャインホープと水色の三日月を模した待機状態のデバイス、ムーンライトドリームがレイの掌からアリサとすずかに手渡される。

 

「早速セットアップしてみい。バリアジャケットと杖については本人のイメージが元となる。しっかりイメージしてな」

 

 2人は頷くと、声を合わせる。

 

「「セットアーップ!」」

『『Stand by ready set up』』

 

 2人を光が包む。

 やがて光が晴れると、2人の衣装は変化し、バリアジャケットとなっていた。

 アリサは片手杖、すずかは身の丈ほどもある両手杖を携えている。

 

「どうやら成功したみたいやな」

 

 レイは満足げに頷く。

 

「以上はあらへんか?」

「ええ、大丈夫そうだわ」

「うん、こっちも大丈夫」

 

 アリサとすずかから無事にセットできたことを確認すると、レイは一つ大きくため息をついた。

 

「いやあ、一仕事ついたわ。これで後は論文の読み込みに集中できるもんや」

「アンタってやっぱり科学者なのね」

「そうどす、俺は物理学者。そんでもって魔術師や。異世界の科学的な魔法なんて魅力的な研究対象、手を付けんわけにはいかんやろ」

「レイくんにとっては魔法は研究対象なんだね」

「せやで、せやからちょっとお前さんらとは魔法へのアプローチが違うんや。せやから俺のデバイスは無し。システムが異なるからなあ」

「そんなことより、みんなで空飛ぶの!」

 

 なのは待ちきれなくなって声を上げる。

 

「わかったわかった、すぐに行こうではないか」

「あれ、レイくんとアフームちゃんも飛べるの?」

「「気合でどうにか」」

「「「出来るわけないでしょ」」」

 

 結界を張った5人は早速空を飛ぶ。

 最初は不慣れだったアリサとすずかも、しばらくすればきちんと飛べるようになっていた。

 夏はまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

『ユーノ・スクライアの使命』

 

 

 

 とある次元世界、ここでスクライア一族は遺跡発掘を行っている。ユーノももちろんここにいる。

 

「いやあ、大量大量。副葬品がこんなにあるなんて。しかも保存状態もいいし、色々解りそうだ」

 

 齢9にして、ユーノは博士号を持つ考古学者である。

 すでに一人前として扱われるユーノに同年代の友達は全くいなかった。

 孤独故に、年少故に、孤児であるが故にユーノは遠慮しがちなところがあった。

 しかし、同様に博士号を持つ天才、レイや精神年齢の高いなのは、アリサ、すずか、アフームらとの触れ合いと友情がユーノを変えた。

 虚空戦士(ハジケリスト)として目覚めたのもその一つだ。

 スクライア一族の元へ戻った時の驚かれようと言ったら、ユーノは今思い出しても愉快な気持ちになる。

 

「この形状は、数学的に見ても面白そうだ。レイが見たらどう思うだろう」

 

 いつかレイと一緒に仕事をしてみたい。

 考古学と数理物理学、全く異なる分野のコラボレーションが何を生み出すのか。

 ユーノはその時が来るのを胸を弾ませて待っている。

 

 

 

 

 

 その日はスクライア一族にとっての祭日である。

 何でも、一族の祖が出立した日を記念した日だそうである。

 普段は遺跡を漁る者達も、今日は休んで一族の歴史に思いを馳せる。

 そんな中、ユーノは長老に呼ばれていた。

 

「お呼びですか」

 

 恐る恐るユーノは長老のテントに入る。そこにいたのは長老一人であった。彼の家族は誰もいない。

 

「おおユーノや、こっちへ来なさい」

 

 長老に促され、ユーノは2人っきりのテントに座り込む。

 

「ユーノ、お前はいい出会いをしたようだな」

 

 おそらくレイたちのことであろう、とユーノは思った。

 

「いい出会いがいい変化をもたらす。お前はそれをしかと感じたことじゃろう」

 

 ユーノは力強く頷く。

 

「ユーノよ、これはお前が成人するまで秘密にしておくことであったが、わしも老い先短い、それにお前は成長した。言ってもよかろう。お前は一族を離れ遠い旅をする運命にある。その旅は一族の悲願にかかわる旅じゃ」

 

 ユーノは絶句した。衝撃の事実が次々と放たれたからだ。

 

「占いババを知っておるじゃろう。ババはお前が生まれた時、今の予言を受け取った」

 

 占いババというのは、スクライア一族のシャーマンである。

 

「そして、我が一族の悲願は、一族の歴史に大いに関係がある。この歴史は代々族長の身に受け継がれてきた秘密、それをお前に教えよう」

 

 ユーノは居住まいを正した。

 

「スクライア一族の祖は元々ある国の宰相を務めていた。大公の位をもらい、国を支えたという。その国の名はブリリアント帝国!」

「ブリリアント帝国!? 第6次元文化圏を余さず支配したあの!?」

「左様、戦乱のベルカをものともせずにしながらも、一夜にして消え去った大帝国。我らはその大公の末裔なのだよ」

 

 再びユーノは絶句した。

 

「我らがなぜ放浪を続けているのか、それは大公の悲願にある。それは皇帝家の末裔を探し出すことにある」

「でも、確かニュートラル皇帝家はすでに滅んだのでは……」

「滅んではおらぬ! 皇帝には2人の弟君がおられた。お2方は密かに亡命なされたのじゃ。いずことも知れぬ場所へな」

「……なぜ居所が分からないのですか?」

「伝わるところによると、急いで逃がすために、適当な転移を行ったと言われておる。故に居所がつかめんのじゃ」

「じゃ、じゃあ一族の悲願というのは」

「うむ、我らスクライア一族の悲願、それは皇帝家の末裔を探し出すこと。そして、ブリリアント帝国の復興である」

 

 ユーノは三度絶句した。

 

「長老にのみ伝えられる言葉がある、世が乱れ、悪しき神々が封印から解かれしとき、鍵を携えた皇帝が蘇る、と」

「鍵を携えた皇帝……」

 

 一瞬、ユーノの頭にレイの姿が浮かんだ。しかしユーノはかぶりを振って否定する。

 

「ユーノよ、お前はきっと皇帝とかかわることになる。一族の悲願に近づくのだろう。そのためには力がいる! ミッド式ではない、帝国に伝わる魔道術式が! 古のブリリアント式魔法をお前に伝授しよう」

 

 ユーノは生唾を呑みこんだ。

 これから訪れるであろう過酷な運命に覚悟するかのように。

 

 

 

 

 

『海鳴の三兄貴』

 

 

 

 兄貴とはある種の概念である。

 それでありながらそれは計測できる力のようなものでもある。

 1000Brほどもあれば、立派な兄貴としてカウントされるだろう。

 しかし、ここの兄貴たちは違う。

 何れも100000Brを超えるほどの兄貴力を持っているのである。

 

 

 

 

 

「つまり兄気とは、兄貴力が具現化したものなんですよ」

 

 これは三兄貴が兄貴の誓いを契る少し前の話である。

 レイ兄貴は翠屋で恭也兄貴、ケント兄貴に兄気の秘密について話していた。

 

「その兄気の力は強いのか?」

 

 恭也兄貴がレイ兄貴に問いかける。

 

「人によりますな、僕の兄気の性質は『金剛』、肉体を、精神を、物体を硬化し、強化する能力です。シンプルであるがゆえに強力であることは間違いないでしょう」

「では、僕らの兄気の性質は一体何だろう?」

「では、引き出してみましょか。お2人の兄貴力は相当なものです。命の危機と知りながら妹を助けに行くその覚悟は、高い兄貴力が期待されます」

 

 そういうとレイ兄貴は2人の兄貴の手を取ると、兄気を込める。

 

「これが、兄気……」

「感じる、力の高まりを……」

 

 恭也兄貴とケント兄貴は早速兄気に覚醒したようである。

 

「感じるのです、兄気の高まりを……」

 

 レイ兄貴が兄気を導いていく。

 その様子をなのは、すずか、アリサ、アフームが呆れつつも眺めていた。

 

「なのは、アリサ、今一体どういう気分かの?」

「なんか、お兄ちゃんが変な宗教にはまったんじゃないか心配になるの」

「私も、大体兄気って何なのよ」

「具現化した兄貴力、と言えばわかるじゃろうか」

「「「全然わかんない」」」

「! 見るがいい、兄気に目覚めるぞ!」

 

 みると、恭也兄貴とケント兄貴が兄気を習得したのか、ゆっくりと目を開ける。

 

「成程、理解した、これが兄気というものか」

「不思議な気分だな、なんというか、全てを理解したような、そんな気分だ」

「「「何か悟ってるー!」」」

「お2人共、性質は分かりますかな」

 

 レイ兄貴の一言に恭也兄貴とケント兄貴が頷いて答える。

 

「ああ、俺の性質は『剣閃』。肉体強化と、剣の強化のようだ。やりようによっては斬鉄も出来る様だ」

「僕の性質は『火焔』。兄気を焔に変えることが出来る様だ。体に纏うことも出来るみたいだ」

 

 3人の兄貴は頷き合う。

 

「「「我ら生まれし日違えど、妹を愛する心は同じ!」」」

「「「何か誓い合ってるーーー!」」」

「なんて感動的な場面なのじゃ。まさか『兄貴の誓い』が見られるとは」

「「「知ってるの!?」」」

 

 こうして、三兄貴はその仲を確かめ合ったのであった。

 その後も彼ら三兄貴は兄貴の修業を続けているという。

 

「「「兄貴の修業って何!?」」」




 遅ればせながらあいまいみー9巻とFSS DESIGNS 6 XROSS JAMMERを買いました。
 ちょぼ先生キレッキレだし、永野先生はいい仕事するし、言うことなし!
 あーあ、読者数伸びねーかな。
 あ、次回より、第2章が始まります。
 第1部も折り返し、乞うご期待!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章 明けない夜は無い 第1話 アクシデントは突然に

 第1部第2章始まります!
 相変わらずレイの出番がない……。
 まあ主人公がなのはだしねえ。
 レイが主人公の話になるのは第2部以降です。


 6月3日。ある家ではささやかな誕生日パーティが計画されていた。

 たった3人だけのパーティ、主役は2人、八神はやてとあすかの姉弟である。

 もう1人は家政婦のエストという女性である。

 

「もうすぐ4日になるな」

 

 はやてが呟く。今の時刻は23時55分を回ったところである。

 

「「5、4、3、2、1、0」」

 

 その瞬間、本棚にあった、鎖を巻かれた本が輝き始めた。

 

「な、何事!?」

「はやて! 何があった!?」

「姉君! 大丈夫ですか! 魔力反応が!」

 

 あすかとエストが部屋に駆け込んでくる。

 本が空中を舞い、ページがめくれる。

 そして輝きが一層増した。

 思わず3人は目を覆う。

 光が晴れるとそこには4人の男女が片膝をついて跪いていた。

 

「闇の書の起動を確認しました」

「我等、闇の書の蒐集を行い、主を護る守護騎士にございます」

「夜天の主に下に集いし雲」

「ヴォルケンリッター。何なりとご命令を」

 

 物語が、動き始めた。

 

 

 

 

 

「地球は久しぶりだな、出来れば何も無い時に来たかったが…」

「仕方無いよ、事件がいつ起きるかは私達が決めてる訳じゃないから。」

 

 クロノとテスタロッサ家の面々は揃ってモニターを眺めていた。魔導師連続襲撃事件。

 最近頻繁に起こっている事件であり、同一犯の可能性が高いと管理局は見ていた。

 

「AAクラスですら何も出来ずに敗れる程の相手だからな、なのは達が心配か?」

 

 フェイトは小さく頷く。

 

「大丈夫だ、なのはだって弱くない、それに頼れる友達がついているんだ。2名怪しいのがいるが……」

「「「「「ああ……」」」」」

 

 とある2人の銀髪がふざけている模様が想像される。

 なんだかんだで一番平気そうな連中ではあるのだが。

 

「心配いらないって。ここに古代史の専門家が要るんだから。数学の天才と組めばどんな問題だって解決さ」

 

 ユーノはのんびりと炬燵に入りながら答える。

 何故炬燵があるのかについてツッコむ者はいなかった。

 

「だといいんだが……」

 

 クロノの呟きはアースラの駆動音に掻き消されていった。

 

 

 

 

 

 早朝の高町家近くの公園で、高町なのははいつも魔法の朝練をしている。

 春の一件から、毎朝続けている習慣だ。

 アリサやすずか、レイにアフームは自宅で、朝練しているという。

 今は空き缶を落とさないように魔力弾を当てる訓練をしている。

 

「コントロール……」

『Eighteen. Nineteen. Twenty. Twenty-one』

「アクセル……!」

 

 なのはのその言葉と同時に魔力球はさらにスピードを増す。

 カン、カン、カンと音を立てながら空き缶はどんどん高く宙を舞う。

 

『One hundred』

 

 その言葉を最後に空き缶と魔力球は共に下に落ちていく。そして最後の仕上げだ。

 

「ラスト!」

 

 最後、なのはの目の前辺りまで落ちてきた空き缶を魔力球で吹き飛ばす。

 空き缶はそのまま宙を舞い、近くのゴミ箱をへと一直線、かと思いきや僅かに外れ地面を転がった。

 

「あー……」

『Don't mind, my master』

「にゃはは、ありがとう」

 

 なのははそう笑うと空き缶を拾いゴミ箱に入れた。

 

「今日の練習、採点すると何点かな?」

『About eighty points』

「そっか」

 

 なのはは、今日の反省をしながら帰路につく。

 もうすぐ新たな戦いが近づいていることを知らずに。

 

 

 

 

 

 夜中。空中から海鳴の街を見下ろす影が二つあった。

 一人は赤い服を纏った幼い容姿の少女、もう一人は青と白の体毛に覆われた狼。

 少女の方は目を閉じながら何かを探していた。

 

「どうだ、ヴィータ。見つかりそうか」

「いるような……いないような」

 

 ヴィータと呼ばれた少女はそう呟くと手に持ったハンマーを肩にかける。

 

「この街でたまに感じるやけに大きな魔力反応……それが8つ。そいつらが捕まれば1人20ページと考えて一気に160ページぐらいはいきそうなんだけどな」

「そうだな……分かれて探そう、闇の書は預ける」

「OK、ザフィーラ。あんたはしっかり探してよ」

「心得ている」

 

 そう言ってザフィーラと呼ばれた狼はどこかへと飛び去った。

 そしてヴィータと呼ばれた少女もまた準備に入る。

 少女はハンマーを振るう。

 

「封鎖領域、展開」

『Gefängnis der Magie』

 

 その音声と共にヴィータの足元には三角形の魔法陣が浮かび上がる。

 瞬間、街は結界に包み込まれた。

 

「魔力反応! 大物見っけ、行くよグラーフアイゼン」

『Jawohl』

 

 少女は相棒であるハンマーの返答に頷くと飛び出した。

 

 

 

 

 

 それはまさしく突然だった。

 

『Caution. Emergency』

「え?」

 

 部屋でいつも通り宿題をやっていたなのはに対しレイジングハートから警告が飛ぶ。

 只事じゃない事を瞬時に判断したなのはが立ち上がろうとしたその時、感じた事のある、知っている違和感がなのはを襲った。

 

「結界!?」

 

 慌てて外を見る。するとレイジングハートからさらに警告が飛んできた。

 

『It approaches at a high speed』

「近づいてきてる……!?」

 

 慌てるなのは。

 

(なのは! 今の感じたか!)

 

 レイから念話が飛んでくる。

 

(うん! 何かが近づいてきているみたいなの! どうしよう!)

(焦らんでええ、なのはは近づいて来とる奴の対処を頼んます)

(レイくんは?)

(もう一人、仕掛けてきおったからそいつの相手をする)

 

 

 

 

 

 レイは屋外で黒肌白毛の大男と対峙していた。

 互いに距離を取り、隙を窺い続けている。

 アフームはレイの妹を守るために家に籠っている。

 

「あんさん、金目的の強盗?」

「違う!」

「あら、なら何が目的や? ただ暴れたいだけとちゃうやろ」

「……おとなしく魔力をよこせ。そうすれば危害は加えない」

「ふうん、なら対価に何をよこす? 知識やったら上等やけど」

「……すまないがこちらから支払えるようなものはない」

「あっそ、なら交渉決裂や」

 

 そういうとレイの胸が開き、リンカーコア、魔術師はこれを小魔力(オド)と呼ぶ、が露出する。

 その前には小人達がリンカーコアを守るように立ちふさがっている。

 

「洛西高校ディフェンス部主将! 近藤真二! 全国1位のディフェンスで、守り切って見せる!」

「「「「「「洛西ファイッ! 洛西ファイッ!」」」」」」

 

 いつの間にか帽子が割れ、応援団やチアリーディング部が応援している。

 

「……ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 大男はレイに襲い掛かる。

 

「こい大男! この鉄壁の守りを崩せるか!」

 

 レイもまた相手を待ち受けようとする。

 戦いが始まった。

 

 

 

 

 

「グラーフアイゼン、カートリッジロード!」

『Explosion. Raketenform』

 

 そんな音声を流しながらグラーフアイゼンと呼ばれたハンマーは形を変える。

 自分の知るデバイスとはまた違うその変化になのはは動くのも忘れただただ驚いた.

 

「ラケーテン……!」

 

 ハンマーに取り付けられたロケットから魔力が勢いよく噴射されヴィータがグルグルと回る。

 そして数回転した後、先ほどまでとは比べ物にならない速さでなのはに迫った。

 最初の一撃はどうにか躱す。

 しかしヴィータの速度はさらに増し、第2撃へと移る。

 これは躱せないと判断しなのははすぐさまラウンドシールドを展開する。

 

「あっ!?」

 

 シールドはあっという間に粉々に砕け散った。

 それでもレイジングハートを構えどうにか踏ん張るものの、レイジングハートは割れてヒビが入った。

 だが驚いてる暇はない。

 

「ハンマアアアアアアアアアッ!!」

 

 そのままヴィータは力任せに魔力が噴射されたハンマーを振るう。

 

「きゃああああああっ!?」

 

 吹き飛ぶなのはの体。

 なのははそのまま近くのビルの窓へと突っ込んだ。

 ヴィータがなのはへ追撃をかます。

 なのははプロテクションで防ぐしかない。

 グラーフアイゼンがプロテクションを砕く。

 切っ先がバリアジャケットをかすめるにとどまったが、それでも、なのはの武装はすっかり解除されていた。

 息を切らすヴィータ。

 グラーフアイゼンの柄部が再び伸縮し中から薬莢の様なものが排出される。

 その間に呼吸を整えたヴィータはゆっくりとなのはに近づく。

 なのはも力を振り絞りレイジングハートをヴィータに向けるが視界がぼやけ、狙いが定まらない。

 その間にもヴィータはグラーフアイゼンを掲げる。

 ヴィータがグラーフアイゼンを振り下ろそうとして目を瞑るなのは。

 金属同士のぶつかる音が響き、攻撃が来ないことに不思議に思ったなのはは僅かに目を開く。

 なのはの前に居たのは黒いマントを羽織った金髪の少女。

 少女はヴィータの攻撃を手に持った杖で受け止めていた

 

「ごめんなのは、遅くなった」

 

 そう言いながらなのはの肩に手を置く人物、なのはその手を辿り顔を見る

 

「ユーノ君…」

 

 そこに居たのはユーノ・スクライア

 

「くっ、仲間か」

 

 数の不利を感じ後ろに下がるヴィータ

 

『ScytheForm』

 

 金髪の少女の杖の形が変わり鎌のような形状になる

 

「友達だ!」

 

 フェイト・テスタロッサがそこにいた。




 現在執筆中の第2部第3章は作風が暗いし重いですが、この作品でやりたいことが詰まっています。
 その所為か非常に長くなる!
 具体的に言うと、9話まで戦闘シーンが無い!
 代わりに頭脳戦、心理戦が繰り広げられます。
 だけど10話以降は怒涛の展開が続く予定です。
 レイの秘密、アフームの秘密、色々なものが暴かれることになります。
 皆どんな予想をしているのかなあ、聞かせてくれると有り難いです。
 疑問質問待ってまーす。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 嵐の素顔

前回のあらすじ。
 洛西高校ディフェンス部、敗北。


「フェイトちゃん!」

「私たちもいるよ!」

「アリシアちゃん! アルフさん!」

 

 思わぬ増援に喜色満面のなのは。

 さらに遅れてもう2人。

 

「何これ、どういう状況よ」

「ええと、フェイトちゃんとアリシアちゃんかな、あの2人」

 

 アリサとすずかである。

 

「ちょっと待てよ、これはいくら何でも増えすぎじゃねえか?」

 

 ヴィータは苦笑する。

 だがその顔に悲壮感はない。

 すでに一点突破で離脱する算段は出来ている。

 だがしかし、アルフの方が早かった。

 瞬く間にバインドで四肢を縛られる。

 

「終わりだね、名前と出身世界、何より……目的を教えて貰うよ」

 

 バルディッシュをヴィータに向けるフェイト。

 その時であった。突如として現れた桃髪の剣士によってフェイトは弾き飛ばされた。

 

「シグナム?」

 

 さらにアルフの方にも迫る影が一つ。

 影の正体はレイを襲った大男、その大男はアルフに蹴りを入れて吹き飛ばす。

 さらにシグナムと呼ばれた剣士は己の剣を高々と掲げる。

 

「レヴァンテイン、カードリッジロード」

 

『Explosion』

 

 その音声と共に剣の一部がスライド。

 剣は炎を纏い、シグナムはその剣を持ち構えを取る。

 

「紫電一閃!」

 

 一瞬で詰められる距離。

 避けきれないと判断したフェイトはバルディッシュで防ごうとするが、シグナムの剣はいとも容易くバルディッシュを両断した。

 そしてそこに容赦なく放たれる第二撃。

 

『Defensor』

 

 咄嗟にバルディッシュが魔力による防御壁を張ってくれたがフェイトの体はその衝撃に押し負け近くにビルに叩きつけられる。

 慌ててフェイトを助けに向かおうとするアルフ。

 だがその前には先ほど現れた大男が立ちふさがっているためとてもじゃないが援護にはいけない。

 そこに橙色の12の光輪が襲い掛かる。

 放ったのは黒い格好で覆面をつけたなのはたちと同世代の少年。

 傍らには橙色の服を着た少女がいる。

 

「相手は相当の手練れのようだね。みんな気を付けて! 僕はなのはを診ているから!」

 

そういうと、ユーノは結界を張る。

 

「回復と防御の結界魔法。そこから出ないように」

 

「ユーノ君はどうするの?」

 

「フェイトの治療に行く。なあに、僕だってパワーアップしているんだ」

 

 ユーノがファイティングポーズをとる。

 その背中はすでに漢のものであった

 

 

 

 

 

「どうしたヴィータ、油断でもしたか?」

 

 フェイトを吹き飛ばした後、シグナムはバインドで動けないヴィータの元に行き現状を聞いていた。

 

「うるせえよ、こっから逆転するとこだったんだ」

「そうか、それは邪魔をしたな。済まなかった」

 

 シグナムは軽く謝ると手を前に出し魔力を込める。

 するとアルフがかけたバインドはヒビが入り砕け散った。

 

「だが余り無茶はするな。お前が怪我でもしたら我らが主も心配する」

「わーってるよ」

 

 主を引き合いに出されヴィータは少し不満そうに顔を横に向ける。

 

「それから落し物だ」

「うぅ?」

 

 しかし何かを頭に乗せられ見上げるヴィータ。

 それは先程なのはによって壊された帽子とうさぎのぬいぐるみだった。

 

「破損は直しておいたぞ」

「……ありがとう、シグナム」

 

 綺麗に直った帽子を触りながらお礼を言うヴィータ。

 するとシグナムは視線を周りに配る。

 下ではアルフがザフィーラと激しい打ち合いを行っている。

 黒い剣士と橙色の少女がアリサとすずかと戦っている。

 

「あすかとエストもなかなかやるな」

「流石は黒騎士だな」

「状況は5対5」

「いや、もう1人ヒョロそうなガキもいた。5対6だ」

 

 シグナムの言葉を訂正するヴィータ

 

「そうか、だが一人増えた所で我らベルカの騎士に」

「負けはねぇ!!!」

 

 シグナムの言葉にヴィータが大声を上げると、2人は降下する。

 その中、ヴィータは背中を探ると驚きの声をあげる

 

「闇の書がない!?」

 

 

 

 

 

 その頃、フェイトはアリシアの介抱を受けながら、ユーノの治療を受けていた。

 

「ありがとうユーノ」

「バルディッシュも」

 

 そう言いながらユーノは近くに転がっている、二つに分かれたバルディッシュの上部分を見みつめる

 

「大丈夫。本体は無事」

『Recovery』

 

 そう言いながらバルディッシュを拾い上げるフェイト。

 バルディッシュは光に包まれ折られた部分が元に戻る

 

「ユーノ、この結界内から全員同時に外に転送出来る?」

「うん、アルフと協力出来れば何とか」

 

 アリシアの提案は未知の敵との戦いは長引けばどうなるかは分からない、そのためにここは撤退する、というものだった。

 

「私達が前に出るからその間にやってみてくれる?」

「分かった」

「アルフもいい?」

(ちょいとキツイけど何とかするよ。みんなもいるしね)

「それじゃあ、頑張ろう」

「「うん」」

 

 

 

 

 

 やがて戦いは膠着状態に陥った。ヴィータ対アリシア、シグナム対フェイト、ザフィーラ対アルフとユーノ、黒騎士あすかとエスト対アリサとすずかという構図だったのだが、いつの間にか双方に分かれ、陣を構成していた。

 戦いの中でヴィータとアリシアが、シグナムとフェイトが名前を交換したりしたのだが、ここまで数があると戦いというより合戦のような有様になっていった。

 お互い肩で息をしながら、様子を窺っている。そこへ1つの影が均衡を崩すかのように現れる。

 サーチライトが突然焚かれ、花火が上がる。

 ビルの屋上にステージが設けられ、そこに1つの影がある。

 

「Lades & Gentleman! Who am I? 我こそは超時空プリンセス! アフーム=Z=シルバーなり!」

((((((無駄に凝った演出だー!!!))))))

「助けに来たぞ! みんな!」

 

 アフームがポーズを決めながら登場する。

 

「あれ、レイは?」

 

 アリシアの一言でアフームの顔が曇る。

 

「レイは、先程の戦いで敗北し、魔力を奪われてしもうた。その結果、こんな姿になってしもうたのじゃー!」

 

 そういうとアフームはトマトの水煮缶を取り出す。

 パッケージにはレイの姿が印刷されている。

 

「「「「「「嘘でしょ(だろ)!?!?!?」」」」」」

「嘘やないで」

「「「「「「喋った!?」」」」」」

 

 トマト缶からレイの声がする。

 

「おのれ大男め、俺から魔力を奪った挙句、トマト缶に姿を変えるとは!」

「いや、それに俺は関係ないだろう!」

 

 ザフィーラが叫ぶ。

 

「問答無用! 俺の怒りを喰らうがいい!」

 

 そういうとトマト缶がひとりでに開き、赤い光が漏れる。

 

「赤茄子『トマティーナ流星群』!」

 

 赤い光が天へとほとばしり、天からトマトの弾幕が降ってくる。

 敵も味方も関係なく。

 

「「「「「「きゃああああああ!!!」」」」」」

「地獄絵図だ!!!」

 

 ザフィーラの叫びはまさにその通りであった。

 

「全員トマト臭くなってしまえー!」

「なんて迷惑な技だ!」

(さて、時間は作ったで、なのは)

(うん……、みんな、私が結界を破壊するからその隙に転送を!)

「なのは!」

「大丈夫なの!?」

(大丈夫、スターライトブレイカーで撃ち抜くから!)

 

 なのはの前に魔法陣が現れる。

 

「レイジングハート!カウントを!」

『OK』

 

 なのはの周りに魔力が集まる

 

『count 9 8 7 6 5 4 3』

 

シグナム達も高まる魔力に気づくがトマトの雨によってなのはに近づくことが出来ない

 

『3 3 3』

 

「レイジングハート大丈夫!?」

 

 壊れたラジオのように同じ数字を言い続けるレイジングハートをなのはが心配する

 

『No problem』

 

 普段よりもノイズ混じりの声で応えるレイジングハート

 

『count 3』

 

 再びカウントダウンを始め、なのはがレイジングハートを振り上げる

 

『2 1』

「ッハ!!?」

 

 すると突然なのはの動きが止まる

 

「なのは?」

 

 スターライトブレイカーが放たれないことに疑問を持ったフェイトがなのはを見て固まる。

 

「あっ、あぁ……はっ」

「「「「「「なっ…!!!」」」」」」

 

 なのはの胸から人間の腕が生えていた。

 

「しまった、外しちゃった」

 

 なのは達から少し離れたビルの屋上、そこに謎の穴に手を入れていた金髪緑衣の女性がそう言葉を発する。

 女性が謎の穴から手を過ごしだけ引くとなのはの胸から生える腕が引っ込み、もう一度押し込むとなのはの体から光の玉、リンカーコアが表れる

 

「なのはーーー!、」

 

トマトの雨の中フェイトが慌てて駆け寄ろうとするがシグナムが立ちはだかる。

 

「リンカーコア、捕獲。蒐集開始!」

 

 女性がそう言うと持っていた本が光ると真っ白なページに文字が表れ、更に次のページも文字が埋まっていく。

 するとなのはの体から出た光の玉が小さくなる。

 だがなのははその状態でも魔法を放とうとする。

 

『count 0』

「スターライト、ブレイカーーー!!!」

 

 放たれた巨大な魔力砲。

 それは一直線に真上の障壁に向かい貫く。

 障壁は粉々に砕け散った。

 

「障壁消失!! 映像来ます!」

 

 アースラでも障壁が破られたことにより今何が起こっているか、現場の映像が映り、その詳細な情報が届く。

 

「な、なにこれ!?どうゆう状況?」

 

「これは、こいつら」

 

 映り始めた映像を見てエイミィは戸惑う。

 それもそうだ。トマトまみれなのだから。

 だがクロノはモニターに映るシグナム達を見て何か思い出す物があった

 

 

 

 

 

 最後に力を振り絞ったなのはは手からレイジングハートを落とし倒れる

 

(結界が解かれた!離れるぞ!)

 

 結界が消えたのを感じたシグナムが仲間達に撤退を命ずる

 

(心得た)

(シャマルごめん、助かった)

(うん。一旦散っていつもの場所でまた集合)

 

 女性、シャマルは念話を終えると個人転送を使い、シグナム達もそれに続き転送を開始する

 

 

 

 

 

「あぁ、逃げる! ロック急いで! 転送の足跡を…」

「やってますが……」

 

 エイミィは別の次元に飛ぶ6人を追跡しようとするが上手くいかない

 

「ッ!アレは!!」

 

 そんな中、1つのモニターに映った1冊の本にクロノは声を上げる。

 

「ダメです、ロックが外れました…」

 

「ああ!もう!……ごめんクロノ君。しくじった、クロノ君?」

 

 追跡が失敗し横にいるクロノに謝るエイミィ。

 だが何も言わないことを不思議に思いエイミィはクロノを見る。

 

「第1級捜索指定遺失物。ロストロギア、闇の書」

 

 クロノの拳には力が入り僅かに震えていた。

 

「クロノ君、知ってるの?」

「ああ、知ってる。少しばかり嫌な因縁があるんだ」




 うちの主人公、レイくんはチート主人公なのでしょうか?
 どうも、負けシーンが目立つからそうは見えなくて。
 最近のトレンドは苦労しない主人公らしいけど、うちのレイくんは苦労することになるからなあ。
 特に第2部第3章では有り得ないくらいの苦労をしょい込むことになるんです。
 それこそ、人生設計が狂ってしまうような目に遭います。
 それ以降も政治やらなんやらで苦労することになるのですが。
 いいよなあ、他の主人公は強いだけで楽できるんだから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 引っ越し音頭はいいのかい?

前回のあらすじ。
 トマトっておいしいよね。
 え、トマト嫌いだって?
 貴様はトマト地獄行きじゃー!



 アースラに回収されたなのはは真っ先に管理局本局医務局に送られた。

 レイ以外は全員シャワーを浴びるよう言われた。

 トマト臭かったからだ。

 

「検査の結果、怪我は大したことないそうです。ただ魔導師の魔力の源、リンカーコアが異様な程小さくなってるんです」

送られてきた検査結果をエイミィはリンディに報告する。

「そう、じゃあやっぱり一連の事件と同じ流れね」

「はい、間違いないみたいです。休暇は延期ですかね……流れ的にウチの担当になっちゃいそうですし」

 

 肩を落とし少し残念そうに言うエイミィ。

 

「仕方ないわ。そういうお仕事だもの」

「アハハ」

 

 リンディに言われ愛想笑いをするしか出来ないエイミィだった。

 

「それより、トマト臭いわね」

「レイくんの仕業ですから」

「そのレイくんは?」

「今はホウレンソウの缶詰めになってます」

「何で!?」

 

 

 

 

 

「こんなトマトまみれの再会で申し訳ない」

「全くよ、レイ、アンタは反省しなさい。ああ、フェイトとアリシアよね? 私はアリサ・バニングスよ。それでこっちが」

「月村すずかです」

「アリシア・テスタロッサだよ~。それで妹の」

「フェイト・テスタロッサです」

「うむ、顔合わせは済んだか。もうちょいしたらなのはのところに行くかの」

「それはいいんだけど、アンタはいつになったら缶詰から戻るのよ」

「……誰か開けて」

「「「「「イヤ」」」」」

「ユーノ? 開けてくれへん?」

「レイ、僕は珍しく怒っているよ。なんで鯖缶じゃないんだい?」

「「「「「そこ!?」」」」」

「鯖は塩気が多いかと思って」

「「「「「何その理由!?」」」」」

「なら許す!」

「「「「「許すんだ!?」」」」」

「……君たちは一体何をしているんだ」

「あ、クロノ、今レイを人間の姿に戻すところなんだけど、やってみる?」

「誰がやるか」

「なら妾がやろう!」

 

 そういうとアフームは缶切りを取り出す。

 

「げっへっへ、今すぐその姿を露にしてくれるわ」

「あの、優しくしてな……」

「オラーーー!」

「イヤーーー! 汚されるーーー!」

「クロノ! 君は何か思うことはないのかい!? 今この場で犯罪が行われているんだぞ!」

「いや、缶を開けているだけだろう……」

「それもそうだね」

「ユーノ、アンタすっかりハジケに染まって……」

 

 ホウレンソウ缶が開けられる。その瞬間、煙がもうもうと出てくる。

 

「何だこれは!」

「開放してくれてありがとう。私はホウレンソウ缶の精霊」

「「「アラジンと魔法のランプ!?」」」

「「「何この展開!?」」」

「歯に詰まったゴマを取ってくれー!」

「「「「「「願いショボッ!」」」」」」

「私は別に誰かの願いをかなえることはない」

「「「「「「しないの!?」」」」」」

「それよりなのはのところへ行かへんのか?」

「「「「「「行きまーす」」」」」」

 

 

 

 

 

 医務室の戸を開けるやいなやクロノは医師から話があるという事で出て行ってしまった。

 今、場は静寂に支配されていた。そんな中言葉を発したのはなのはだった。

 

「あの……ごめんね、折角の再会がこんなで……怪我大丈夫?」

「こんなの全然……それよりなのはが」

「私も全然平気、皆のおかげだよ」

 

 そう言って立ち上がろうとするなのは、だがどうにも足がふらついてしまう。

 そんななのはを支えたのはフェイトだった。

 

「ごめん、まだちょっとフラフラ……」

 

 支えてもらったなのははフェイトの顔をジッと見つめる。

 

「助けてくれてありがとう、フェイトちゃん。それからまた会えてすごくうれしいよ」

「うん。私もなのはに会えてうれしい」

 

 そう言って抱きしめ合う二人。

 その光景を微笑みながら見ていると横からアフームが言った。

 

「何かこっちは蚊帳の外なんじゃが」

「直接ぶつかり合ったあの二人にしかない世界があるんやろ」

「ハイ二人ともイチャイチャしない」

「「べ、別にそんなことしてないもん!」」

「語るに落ちたわ」

「語らなくてもすでに落ちてたけどね、二人だけの世界に」

「上手い! アフームさん、ユーノさんに座布団1枚」

「すまない、ようやく話が終わった」

 

 クロノの到着でようやく収拾がついたのであった。

 そしてなのはの回復を待ってから一行はデバイスルームへと向かう。

 全員のデバイスの破損が激しいのでチェックしているのだ。

 到着したデバイスルームではプレシアが作業を行っていた。

 

「あら、お帰りなさい、そして久しぶりと初めましてかしら。フェイトとアリシアの母のプレシアよ」

 

 顔合わせと自己紹介がすんで、デバイスの話に移る。

 

「破損状況は?」

「正直あまり良くないわね……」

 

 プレシアが言うには自動修復をかけてはいるが部品交換等が必要なレベルの破損なのだそうだ。

 以前ジュエルシードを巡る戦いの時も破損はしたがそれ以上のダメージという事なのだろう。

 さらにアルフがふと気になった事を口に出す。

 

「あの連中の魔法、何か変じゃなかった?」

「確かに……なのは達とも俺の魔法とも違かった、いやなのは達の魔法に近いがどこか違うと言った方が正確か」

「あれは、多分ベルカ式だ」

「「「「「「ベルカ式?」」」」」」

 

 ユーノの説明によるとベルカ式とはその昔ミッド式と勢力を二分した魔法体系だそうだ。

 広域や遠距離をある程度度外視して対人戦闘に特化した魔法体系なのだという。

 そして優れた術者は騎士と呼ばれるらしい。さらにプレシアが続ける。

 

「最大の特徴はカートリッジシステムと呼ばれる武装ね。儀式で圧縮した魔力の弾丸をデバイスに組み込んで瞬間的に爆発的な破壊力を得る。危険で物騒な代物よ」

「機構に負荷がかかるわけやしな」

「そう、だからベルカ式のデバイスはアームドデバイスと呼ばれ、頑丈な造りになっているの」

「頑丈やから対人でも有効と、なぜ廃れたんやろ、ああ、戦乱が終わったからか」

「どういうこと?」

 

 なのはの問いにユーノが答える。

 

「戦乱が終わったことで騎士の持つ戦闘力が危険視されたので排除されたのと、需要が無くなったから騎士になる術者がいなくなったというのが今の説。レイよくわかったね」

「こっちにも同じような話があるんでな」

 

 全員がその話を聞きたそうにする中、クロノが横槍を入れる。

 

「おっとフェイト、アリシア、そろそろ面接の時間だ」

「あ、うん」

「面接?」

「2人の保護監察官さ。ついでと言っては何だが君たちも来てくれないか」

「他のはともかく、俺とアフームは魔導士やないんやけど」

「興味があるらしくてね、管理局との交渉担当ならあっておいて損はないと思うが」

「そんなら、同行させてもらいますわ」

 

 クロノの案内に従いなのはたちはその後ろを着いて歩く。

 やがてクロノの足が止まり目の前の扉が開いた。

 

「失礼します」

 

 クロノに続いて全員が部屋に入る。

 

「久しぶりだな。クロノ」

「ご無沙汰しています」

 

 そこにいたのは優しそうな顔をした男性だった。

 彼の名前はギル・グレアム提督、何でもクロノの指導教官だった人物らしい。

 彼に促されるまま、ソファに座り話が始まる。

 話題はテスタロッサ家についてから始まる。

 やがて話題はほかの面々にも及ぶ。

 

「そう言えば君たちは日本出身だったね、懐かしいな」

「おや、日本にいらっしゃったことがおありで?」

 

 レイが質問をする。

 

「いや、私は君たちと同じ地球生まれだ。イギリス人だよ」

「おや、奇遇ですな。僕も半分はウェールズの、ケルトの血が入っとるんです。失礼ですがご出身は?」

「スコットランドさ。あの世界の人間の殆どは魔力を持たないが稀にいるのだよ。私やなのは君のように高い魔力資質を持つ者が。それだけじゃない、レイくんの様に魔術という独自の魔法技術があることも知られ、今管理局内では注目度が高まっている世界なんだ」

「ほう、評価してくれるんはありがたいですな」

「君が管理局との交渉の窓口だね。気を付けなよ。海千山千の手練れでいっぱいだから」

「ご心配なく、魔術師にとって権謀術数は飯の種なもんですから。きっちり仕込まれとりますえ」

 

 話が進む中、グレアムは居住まいを正す。

 

「フェイト君、アリシア君、君達は彼等の友達なんだね?」

「「「はい」」」

「約束してほしい事は一つだけだ、友達や自分を信頼してくれる人間の事は決して裏切ってはいけない。それが出来れば私は君の行動について何も制限しない事を約束するよ、出来るかね?」

「「「はい、必ず」」」

「うむ、良い返事だ」

 

 面接が終わり、全員が一礼して席を立つ。

 最後にクロノがグレアムに報告する。

 

「提督、もうお聞きおよびかもしれませんが、先ほど自分達がロストロギア『闇の書』捜索、捜査担当に決定しました」

「そうか、君がか、私が言えた事ではないが無理はするなよ」

「はい」

 

 

 

 

 

「さて、皆もう聞いてると思うけど私達アースラスタッフは今回、ロストロギア闇の書の捜索及び魔導師襲撃事件の捜査を担当することになりました。ただ、肝心のアースラが暫く使えない都合上、事件発生地の近隣に臨時作戦本部を置くことになります。分割は観測スタッフのアレックスとランディ」

「「はい!」」

「ギャレットをリーダーとした捜査スタッフ一同」

『はい!』

 

 リンディの決定に返事をするアースラの局員達

 

「司令部は私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさんとアリシアさん。以上の3組に別れて駐屯します」

「ちなみに、司令部はなのはさん達の保護を兼ねて、なのはさんのお家のすぐ近所になりまーす」

「「!」」

 

 最後の報告を聞いたなのはとフェイトは互いの顔を見る。

 

「あら、ここ俺んちのあるマンションや」

「本当じゃ、とんだ偶然もあったもんじゃのう」

 

 全員が顔を見合わせた。

 

「それ、本当?」

 

 リンディの質問にレイは頷く。

 

「ええ、間違いなく」

「すごい偶然ね……」

 

 プレシアの呟きに全員が同意するのであった。

 この後、フェイトとアリシアの聖祥小転入が発表されたが、これ以上の驚きはなかったという。




 現在執筆中の第2部第3章は大変なことになります。
 多分皆さんが予想もしなかった展開になるんじゃないかなと思っています。
 それくらいの超展開が延々と続く予定です。
 それに従ってレイとアフームの秘密も明かされていくのですが、皆さんは疑問に思ったことはないのでしょうか?
 何故レイは飛行機事故に巻き込まれたのか?
 何処からアフームはやってきたのか?
 何故この二人は違う苗字なのに同じ屋根の下に住んでいるのか?
 全ての秘密は第2部第3章で明かされます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 新戦力、刮目せよ!

 前回のあらすじ。
 トマトの臭いがこびりついて離れない。


 八神家の朝は早い、八神はやては目覚めると傍らで寝ているヴィータを起こさないよう車椅子に乗り込む。

 リビングではシグナムとザフィーラがソファで寝落ちしたのか、寝息を立てている。

 キッチンではエストが朝食の準備を始めようとしている。

 

「仕方ないな」

 

 はやてはシグナムとザフィーラに毛布を掛けると、エストの方へ向かう。

 

「おはよう、エスト」

「おはようございます、姉君」

「あすかは?」

「マスターはいつも通り型稽古です」

「真面目やなあ」

 

 庭ではアームドデバイスの魔力剣バッシュと実体剣ダッカスを手に素振りをするあすかがいた。

 

「ほな、朝ご飯の準備しよか」

「はい」

 

 やがて、準備の音でシグナムとザフィーラが目覚める。

 

「ごめんな。起こした?」

「あ、いえ」

「はいシグナム。ホットミルク。温まるよ」

「ありがとう、ございます」

「ザフィーラにもあるよ。ほら、おいで」

 

 はやてから差し出されたカップを受け取るシグナム。

 すると扉が開きエプロンを片手にシャマルが入ってくる

 

「すいません!寝坊しました!」

「おはようシャマル」

「おはよう! あぁもう、ごめんなさいはやてちゃん」

「ええよそんなん」

「おはよ」

 

 シャマルがエプロンを付けてキッチンに入ると騒がしくなって起きたのかヴィータもリビングに入ってくる

 

「うわぁ、めっちゃ眠そうやな」

 

 瞼を擦りながら答えるヴィータに微笑むはやて。

 そんな光景を見ながらシグナムは手に持ったカップに視線を落とす

 

「……暖かい、な」

 

 

 

 

 

 その日、レイだけが管理局に呼ばれていた。

 本局に着くやいなやデバイスルームへと通される。

 そこにはリンディとプレシア、それともう一人女性がいる。

 

「来てくれたわね、紹介するわ。彼女は管理局のデバイスマイスター、マリエル・アテンザよ」

 

 リンディが女性、マリエル・アテンザをレイに紹介する。

 

「よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしゅうお願いします。さて、僕を呼んだ理由は?」

「まずは、本件、便宜上闇の書事件と呼ばせてもらうけど、地球との協力体制をきっちり構築しておきたいの。前回はそれで色々あったしね」

「色々ありましたなあ」

 

 レイとリンディは遠い目をする。

 

「それで、細かいところを色々と詰めておきたいのよ」

「成程、それは構わないんですけどなぜここで?」

「もう一つの用事の話よ、先の戦闘でみんなのデバイスが破損したでしょう。その時にデバイスが要求したパーツがあるのよ」

「それは?」

 

 答えたのはマリエルだった。

 

「CVK-792、俗にいうカートリッジシステムです」

「カートリッジシステムってあの、アームドデバイスの」

「そうです」

「インテリジェントに組んで大丈夫なんですか?」

「一応前例はあるんですが、使用するのが子供ですから、データがなくて」

「でも組み込むんでしょう?」

「それはもちろん!」

 

 マリエルは自信満々に答える。

 

「まあ、相手と同じ土俵に立つために同じ武器を求めるんは間違っとらんのですけど、体への負担が重そうですわ。僕としては反対なんですがねえ。まあ、必要そうなんでお願いしますけど、何で僕にその話を?」

「あなたはサンシャインホープとムーンライトドリームの製作者でしょう。制作して日が浅いし一応あなたの許可が欲しかったのよ」

 

 プレシアの答えにレイは納得する。

 

「成程、なんなら、ホールドアップを僕が受け持ってもええですよ」

「それは助かります!」

 

 マリエルが大声を上げる。

 

「5個もデバイスがあるんですよ! それをプレシアさんと二人で全部ホールドアップするのは骨が折れますって!」

「ははあん、そういうことですか。まあ、ええでしょう。僕も勉強になりますし。受け持ちますよ。ホールドアップ」

「ありがとうございます! こんな素敵なデバイスを作れる人、一度会ってみたかったんです!」

「ほう、評価してくれるんは有難いですわ」

「変形機構といい、各武装の特徴といい、使用者のことを考えた造り! 加えて浪漫の詰まったデザイン! よくわかっている人だなって思っていたんですよ!」

「恐縮です。処女作でこんな評価されるとは」

「処女作! これはこの後の作品がどうなるか気になります!」

「マリエル、この辺にしときなさい。それじゃあ、細かい話は部品が届くまでかしら」

 

 リンディがマリエルを諫める。

 

「そうですな、受け持つんは?」

「私がなのはちゃんのレイジングハート、プレシアさんがフェイトちゃんのバルディッシュと、アリシアちゃんのグレイブを」

「僕がサンシャインホープとムーンライトドリームを担当すると。わかりました」

「レイくんは初めてだろうし、私と一緒にやりましょう」

「マリエルはん、ありがとうございます」

「それじゃあ、政治の話と行きましょうか」

「ほな、そういうことで」

 

 そういうとレイとリンディは退出する。

 この後まとめられた合意内容が最初の管理局と地球の条約となるのである。

 

 

 

 

 

「さて、皆さん、今日からこのクラスに転校生が来ます」

 

 3年2組はどよめきに包まれる。

 

「入ってきてください」

 

 入ってきたのは金髪紅眼の美少女だった。

 

「アリシア・テスタロッサです。仲良くしてね」

 

 クラスがわっと湧き出す。

 

「あ、レイだ」

 

 アリシアがレイに気付く。

 

「おお、こっちのクラスはアリシアやったか」

「うん、フェイトは1組」

「さよか、1組はほかの面子がそろってるで」

「そっか、じゃあお姉ちゃん安心だね、フェイトがクラスになじめそうで」

「ねえ、テスタロッサさんとレイくんはどういう関係なの?」

 

 クラスの女子が聞いてくる。

 

「アリシアでいいよ、1組に妹がいるから。レイとの関係か~。お母さんの同僚で、命の恩人かな?」

((((((レイって何者なんだろう……))))))

 

 ますますレイの正体がわからなくなる3年2組であった。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、はやてちゃんの病院の付き添いお願いねシグナム」

「あぁ、ヴィータとザフィーラはもう?」

「ええ」

 

 そう言いながら箱を手に取り開けるシャマル、中にはカートリッジの弾丸が入っている。

 エストと共にカートリッジに魔力をこめていくのだ。

 

「カートリッジか」

「ええ、昼間のうちに作り置きしておかなきゃ」

「すまんな、お前達に任せっきりで」

「バックアップが私達の役目よ。気にしないで」

「姉君のこと、よろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

「うーん、やっぱり余り成果は出てないかなー」

 

 海鳴大学病院、診察室の一室で少し困った顔をする担当医師の石田と話を聞くはやてとシグナム。

 

「でも、今のところ副作用も出てないしもう少しこの治療を続けましょうか」

「はい、えっと、お任せします」

「お任せって、自分の事なんだからもうちょっと真面目に取り組もうよ」

「あ、いやその…私、先生を信じてますから」

 

 はやての言葉に目を丸くする石田。

 その後石田は、はやてには部屋から出てもらいシグナムと2人で話を始めた。

 

「はやてちゃん、日常生活はどうです?」

「足の麻痺以外は健康そのものです」

「そうなんですよね。お辛いと思いますが私達も全力を尽くしています」

 

 ため息を漏らしながらも話を続ける石田。

 

「これから段々、入院を含めた辛い治療になるかもしれません」

「はい、本人と相談してみます」

 

 そう答えるシグナムの顔は何故か石田に対して申し訳なさそうであった。

 

 

 

 

 

 放課後、なのはたちと別れ帰路につくフェイト、アリシア、レイ、アフーム。

 

「あの人たちって本当に悪人なのかな」

 

 アリシアが呟く。

 

「悪の定義にもよるな。法を犯した者が悪ならば、連中は悪や。せやけど、本質的に悪という訳でもないようにも思える」

「どうして?」

「殺しという効率のええ方法をとらんからや。それに襲撃の際に、罪悪感を感じているかのような振る舞いをした。本質的には善人やけど、悪として行動しなければならない。そのジレンマに苦しんでいるようにも思える」

「よく見ていたね」

「トマト缶は視野が広いんや」

「どうして、闇の書なんてものがあるんだろう」

「どうした。急に」

「闇の書がなければ、こんな事件が起こらないのに」

「人の欲望は尽きぬ、闇の書がなくとも別の悲劇が生まれよう」

 

 アフームがぼやく。

 

「俺たちに出来ることは、対症療法でしかない。それでも全力を尽くすんや。うまくいくと思わなければ、何事も為せんよ」

「うん、いいこと言ってるつもりかもしれないけどさ、何で2人共そんなド派手なの?」

 

 レイとアフームは宝塚のトップスター的な格好であった。

 

「「格好良くない?」」

「「すんごい不自然」」

 

 

 

 

 

 とある次元世界、岩肌の大地には時折空から雷が落ちる。

 突如、巨大な亀のような怪物がうめき声を上げ大地に倒れる。

 その怪物の剣山のような甲羅の上にはヴィータが息を荒らげていた。

 すると怪物からリンカーコアが現れる

 

「闇の書、蒐集」

 

 ザフィーラが持っていた闇の書が魔力を取り込む。

 

「今ので3ページか……」

「くっそー、でっけえ図体してる割にリンカーコアの質は低いんだよな。まぁ、魔導師相手よりは気楽だし効率もいいし」

 

 そう言いながら自身のデバイスにカートリッジを装填し終えるヴィータ。

 

「次行くよザフィーラ」

「ヴィータ、休まなくて大丈夫か?」

「平気だよ、私だって騎士だ。この程度の戦闘で疲れるほどやわじゃないよ」

 

 そう言い歩き出すヴィータの後ろをザフィーラは黙ってついて行くのだった。

 

 

 

 

 

「無事、完治!」

「デバイスも完全修復じゃ!」

 

 管理局本局の医務局で先程まで検査を受けていたなのはは元気よく完治を報告した。

 アフームがデバイスを全員に配る。

 先程までレイが仕上げていたのだ。

 そして全員でアースラまで戻る。

 

「そっか、良かったー今は何処?」

「2番目の中継ポートです。あと十分ぐらいで戻れると思います」

「そう、じゃあ戻ったらレイジングハート達の説明を…っ!」

 

 突然画面向こうからアラーム音が鳴る。

 

「ああ、こりゃまずい! 至近距離にて緊急事態!」

『都市部上空にて捜索指定の対象2名を捕捉しました。現在、結界内部で対峙中です』

「相手は強敵よ。交戦は避けて外部から結界の強化と維持を!」

「ハッ!」

 

 状況報告をする局員に相手を足止めするように命令するリンディ

 

「現場には執務官を向かわせます!」

 

 

 

 

 

 結界に閉じ込められたヴィータとザフィーラは周囲を10数人の武装隊に囲まれる。 

 

「管理局か、」

「でも、チャラいよこいつら。返り討ちだ!」

 

 そう言いグラーフアイゼンを構えるヴィータ。

 だが、局員達は2人から離れる。

 

「上だ!」

 

 困惑するヴィータだがザフィーラに言われ上空を見上げると無数の魔力刃とそれを操るクロノがいた

 

「スティンガーブレード・エクスキューションシフト!」

 

 掲げたデバイスを振り下ろし100を超える魔力刃が2人に襲いかかる

 それに対しザフィーラが手を前にかざし障壁を展開する。

 魔力刃は障壁とぶつかり無数の爆発を生み煙に包まれる

 

「はぁ、はぁ、少しは…通ったか?」

 

 僅かだが手応えを感じるクロノ、少しずつ煙が晴れる。

 クロノの予想通り攻撃は障壁を貫きザフィーラの腕には3本の魔力刃が突き刺さっていた。

 

「ザフィーラ!」

「気にするな、この程度でどうにかなる程軟じゃ、ない!」

 

 ザフィーラは腕に力を入れ刺さった魔力刃を砕く

 

「上等!」

 

 ヴィータは上空のクロノを睨みつける。

 クロノも自身のデバイスS2Uを構える

 

『武装局員、配置終了! オッケー? クロノくん!』

「了解!」

 

 通信越しにエイミィが武装隊の状況を報告する

 

『それと今、現場に助っ人を呼んだよ!』

 

 

 

 

 

 結界内部のビルの屋上。そこには8人の少年少女がいる。

 

「あいつら!」

 

 気づいたヴィータが声を上げる。

 

「ようやく来たか!」

 

 クロノが見上げる。

 

「レイジングハート!」

「バルディッシュ!」

「グレイブ!」

「サンシャインホープ!」

「ムーンライトドリーム!」

「「「「「セットアップ!」」」」」

『『『『『Set up』』』』』

 

 細部の変わったバリアジャケット、追加されたカートリッジシステム。

 その変化に気付いたヴィータが声を上げる。

 

「あいつらのデバイス、アレってまさか」

 

 戦いの火蓋がが再び切って落とされる。




 2月も終わりですね。
 かと言って特に何かあるわけでもないのですが。
 着々と読者が増えていて私は嬉しい限りです。
 もっと増えないかなー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 小さな願い、大きな誤算

前回のあらすじ。
 新デバイス完成! レイとアフームは無いけど。



「みんな落ち着いて聞いてね、みんなのデバイスに新しいシステムを積んでるの」

「新しい……」

「システム?」

 

 誰もがそれとなく呟く。

 

「その子たちが望んだの。自分の意思で、自分の思いで」

 

 なのはたちは己の相棒に目を向ける。

 

「呼んであげてその子たちの新しい名前を」

 

 全員が呼ぶ、己の生まれ変わった相棒を。

 

「レイジングハート・エクセリオン!」

「バルディッシュ・アサルト!」

「グレイブ・アサルト!」

「サンシャインホープ・ブレイズ!」

「ムーンライトドリーム・フロスト!」

 

 その瞬間、バリアジャケットが、杖が、新たな形となって姿を現す。

 その形にヴィータとザフィーラは驚く。

 見覚えのある機構がそこにあった。カートリッジシステムだ。

 

『『Assault form, cartridge set』』

『Flare mode, standby ready』

『New moon mode, standby ready』

『Accel mode, standby, ready』

 

「私達は貴方達と戦いに来たわけじゃない。まずは話を聞かせて」

「闇の書の完成を目指している理由を」

 

 構えるヴィータとザフィーラに対しあくまで話し合いを望むなのは達。

 

「あのさ、ベルカの諺にこういうのがあんだよ。和平の使者なら槍は持たない」

 

 それをヴィータはにべもなく突っぱねる。

 

「成程、それは道理やな」

 

 レイがその言葉に同意する。

 

「どういう意味?」

 

 なのはの質問にレイは答える。

 

「交渉の場に寸鉄を帯びる奴は信用できん、といったところやろか」

「大体そのような話だ。それとヴィータ、それは諺というより、小話の落ちだった気がするのだが」

「う、うるせえ! いいんだよ、細かいことは!」

「そうそう、細かいことはどうでもええ。大事なのはそっちは交渉のテーブルに着く気はないということやな」

「当たり前だろ」

「ならばこちらにも考えがある。何が何でも平和的に交渉で解決して見せる! これが俺の覚悟や!」

 

 次の瞬間、レイは服を脱ぎ棄て、ビキニ姿となった。

 

「夏! 先取り!」

「「「「「「何やってんのお前!?」」」」」」

「次の夏はグラデーションが来る!」

「真面目に交渉する気あんのか!」

 

 場が完全に緩み切ったとき、結界が破られ、侵入してくるものが3名。

 

「シグナム、あすか、エスト……」

「すまない遅……、うわあ変態!」

「あいつアホちゃうか」

「誰が変態や!」

「「「「「「お前だよ」」」」」」

「レイの筋肉! ぺろぺろ! ぐへへ」

 

 トライバイセップスでポージングするレイとその上腕二頭筋を舐めるアフーム。

 

「……みんな、手は出さないでね」

 

「作戦通りじゃな、よかろう、なのはの一騎打ちはいつものことじゃ」

 

 アフームの言葉が口火となって全員が散開する。

 なのは対ヴィータ、シグナム対フェイトとアリシア、アルフ対ザフィーラ、アリサ対黒騎士、すずか対エストといった状況になる。

 

「では我々は闇の書探しと行きますか」

 

 レイ、アフーム、ユーノ、クロノは闇の書を持っているであろう、もう一人の騎士を探すことになっていた。

 しかしクロノが疑問を呈する。

 

「しかしいいのか? 君たちの実力なら、騎士の相手をした方がいいんじゃ」

「今回の場合、勝っても負けても困るからなあ。なるべく時間を作るかつ早く探し出すならこの布陣がベストや」

「君がそういうならそうするが」

 

 そういうと4人は散開する。

 それぞれの戦いが繰り広げられる中、シャマルが結界を見つめていた。

 彼女は今ザフィーラと念話している。

 

(状況はあまり良くないな、シグナムやヴィータが負けるとは思わんがここは退くべきだ、シャマル何とか出来るか)

(何とかしたいけど局員が結界を維持してるの、私の魔力じゃ破れない!)

(止むを得ん、アレを使うしか)

(分かってるけど、でも……)

 

 その時、カシャンとシャマルの後頭部に何かが突きつけられた。

 突然の事にシャマルは思わず念話を止めてしまう。

 

(シャマル? どうした、シャマル)

「捜索指定ロストロギアの所持、使用の疑いで貴方を逮捕します。抵抗しなければ弁護の機会が貴方にはある。同意するなら武装の解除を」

 

 後ろにいたのはクロノだった。

 シャマルを発見したクロノは密かに高度を下げ後ろから接近、デバイスを突き付けたのである。

 これで事件は終わりかと2人を見つけたレイはゆっくりと接近する。

 だがクロノの後方に魔方陣が現れる。

 

「執務官殿! 後ろ!」

「え?」

 

 クロノのさらに背後に出現した何者。

 咄嗟の事にクロノは急いで振り返ろうとするが遅かった。

 気が付けば腹部には蹴りが入れられクロノは吹き飛ばされていた。

 隣のビルのフェンスに叩きつけられるクロノ。

 

「くっ、仲間?」

「エイミィ、今のは!?」

「分かりません! こっちのサーチャーには何の反応も、なんで、どうして?」

 

 突然の出来事に大慌てになるアースラの面々。

 クロノを蹴り飛ばしたのは仮面の男だった。

 それは管理局の網に引っかかることなく現れたのだ。

 

「執務官殿!」

 

 レイはクロノを心配しつつも、仮面の男を見やる。

 

「お前は何者だ! 連中の仲間か!」

 

 クロノの問いに仮面の男は答えない。

 返事はシャマルの足元の魔方陣だった。

 

「させるか!」

 

 レイとクロノは両側から挟み撃ちにしようとする。

 それを仮面の男は回し蹴りで文字通り一蹴して見せた。

 

「こやつ、強い!」

 

 レイの感想ももっともだった。

 この男は体術のみで2対1という不利な状況を渡っているのである。

 レイが、前衛を、クロノが後衛に回り仮面の男に相対する。

 

「六角如意金剛棒」

 

 レイがどこからか六尺ほどの金属棒を取り出す。

 それを振り回して仮面の男に立ち向かう。

 クロノも魔力弾で応戦する。

 しかし全ての攻撃がいなされるか、防がれるかで決定的なダメージは与えられなかった。

 

「捕縛『キャッチ・ザ・レインボー』!」

 

 籠目上の網が仮面の男を捕らえる。

 しかしそれすらも力業で突破されてしまう。

 

「ならば蜘蛛『スパイダーウェブ乱れ撃ち』!」

 

 今度はか細い糸で縛り上げようとする。

 しかしそれもまた破壊されてしまう。

 

「あかん、手詰まりや」

 

 レイはさっさと白旗を上げる。

 

「闇の書よ、守護者シャマルが命じます。眼下の敵を打ち砕く力を、今、ここに。」

 

 シャマルが砲撃の準備をする。

 仮面の男が守っている。

 最早止めるすべはない。

 

「今は動くな」

「何!」

「時を待て、それが正しいとすぐにわかる」

「訳の分からないことを!」

「おるよね、訳わからんこと言うて黒幕ムーブする奴」

「お前も変なことを言うな!」

「撃って、破壊の雷!」

『Beschrieben』

 

 魔力球から雷が放たれ、結界を破壊し始める。

 

 

 

 

 

「すまん、テスタロッサ! この勝負預ける!」

 

「シグナム!」

 

 

 

 

 

「ヴォルケンリッター鉄槌の騎士、ヴィータ。あんたの名は?」

「なのは、高町なのは」

「高町なぬ、なぬ、ええい!呼びにくい!」

「逆ギレ!?」

「ともあれ勝負は預けた! 次は殺すかんな! 絶対だ!」

「あっ、えっと。ヴィータちゃん!?」

 

 

 

 

 

「仲間を守ってやれ。直撃を受けると危険だ!」

「えっ? あ、ああ」

 

 

 

 

 

「結界が壊れる。ここまでやな」

「どういうことよ!」

 

 

 

 

 

「勝負ここまで。私たちは引きますので」

「何で! どうして!」

 

 

 

 

 

 各所で戦いが終わろうとしている。

 結界が割れ、雷が降り注ぐ。

 その間に守護騎士たちは去っていったのだった。

 

 

 

 

 

 戦いが終わった後、ハラオウン家兼時空管理局出張司令部でミーテイングが行われていた。

 カートリッジシステムの説明の後、話は守護騎士についてに移っていった。

 

「問題は彼らの目的よね」

「えぇどうにも腑に落ちません、彼らがまるで自分の意思で闇の書の完成を目指していると感じますし」

「それって何かおかしいの? 闇の書ってのも要はジュエルシードみたく凄い力が欲しい人が集めるもんなんでしょ? だったらその力が欲しい人のためにあの子達が頑張るって言うのもおかしくないと思うんだけど」

 

 アルフの疑問にクロノとリンディが答える。

 

「第一に闇の書の力はジュエルシードみたいに自由な制御の効くものじゃないんだ」

「完成前も完成後も純粋な破壊にしか使えない、少なくともそれ以外に使われたという記録は一度もないわ」

「それともう一つ、闇の書の守護騎士達の性質だ。彼らは人間でも使い魔でもない」

 

 その言葉に一同は驚く、だがクロノの言葉は続く。

 

「闇の書に合わせて魔法技術で作られた疑似人格、主の命令を受けて行動するただそれだけのプログラムに過ぎないはずなんだ」

「意思疎通のための対話能力は過去の事件でも確認されてるんだけどね、感情を見せたって例は今まではないの」

 

 だがそこでまた新しい疑問が湧く。

 

「でもあの帽子の子、ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしてたし」

「シグナムからもハッキリ人格を感じました」

「感情がないなんて風には到底見えなかったよな」

 

 誰もがその言葉に頷く。

 さらにフェイトは言う、シグナムは仲間のため主のために為さねばならない事があると言っていた、と。

 それを聞いたクロノは少々暗い表情を見せるのだがそこにリンディが助け舟を出した。

 

「まぁそれについては捜査に当たってる局員の情報を待ちましょうか」

「転移頻度から見ても主がこの近辺にいるのは確実ですし案外主の方が先に捕まるかもしれません……それにしても闇の書についてもう少し詳しいデータが欲しいな」

 

 そう言ってクロノの目線はユーノに向けられる。

 

「ユーノ、明日から少し頼みたい事がある」

「え? 別にいいけど……」

「何? 何するん?」

 

 クロノのユーノへの頼み事とは何なのか。

 レイは気になる様子で尋ねるもはぐらかされるのであった。




 そういえば、うちの主人公はリリなの世界にいるくせにデバイスを持っていないんですね。
 まー必要としていないってのもありますけど、それ以前にコイツのスタンスを表してもいるんですよね。
 それについては、後程明らかになります。
 それがこの作品の特徴であり、他の作品との差別化でもあります。
 ていうか、レイは一兵卒ってキャラじゃないですよね。
 どちらかというと指揮官なんです。
 だからこの人、チート能力で無双する気が全く無い。
 だから負けるときは負けるんです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 願いはある、未来はない

 前回のあらすじ。
 仮面ってなんか厨二臭いよね。


「シグナム、はやてちゃんもうじき帰ってくるそうよ」

「そうか」

 

 はやてとの電話を終えたシャマルがシグナムに話しかける。

 現在八神家にはシャマルとシグナムザフィーラ、エストがおりヴィータとあすかがいない。

 

「ヴィータちゃんは、まだ?」

「かなり遠出らしい。夕方には帰るそうだ」

 

そう言いながらシグナムは冷蔵庫を開ける。

 

「貴方は? シグナム」

「何が?」

「大丈夫? だいぶ魔力が消耗してるみたいだから」

 

 シグナムの体調を心配するシャマル。

 

「お前達の将は、そう軟弱には出来ていない。大丈夫だ」

 

 そう言いながらペットボトルを取り出しシグナムはソファに座る。

 

「貴方も随分変わったわよね…昔はそんな風には笑わなかったわ」

「そうだったか?」

「貴方だけじゃない。私たち全員、随分変わったわ。皆、はやてちゃんが私達のマスターになった日からよね」

 

 シャマルは、はやてと出会った日のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 6月3日午後9時5分八神家。

 広い家には車椅子の動く音と幽かに洗い物の音がする。

 車いすの音の主、はやては固定電話の前で止まると留守電再生ボタンを押す。

 

『留守電メッセージ、1件です。……もしもし?海鳴大学病院の石田です。えっと、明日ははやてちゃんとあすかくんのお誕生日よね。明日の検査の後、お食事でもどうかなーと、思ってお電話しました。明日、病院に来る前にでもお返事くれたら嬉しいな。よろしくね。……メッセージは以上です』

 

 石田先生からのメッセージを聞き少し笑顔になるはやて、返事は明日にしようと考え車椅子を動かし寝室に向かう。

 その後車椅子からベットに移り、ベットに横になりながら本を読む。

 

「あ、もう12時…」 

 

 読書に夢中になり過ぎ時計の時刻はもうすぐ日付が変わる時間になっていた。

 時計の針全てが12時を指す。

 そしてそれは目覚めた。

 後ろにある本棚から紫の光が輝きだす。

 不思議に思ったはやては振り返ると鎖に縛られていた1冊の本が光を放っていた。

 

「なに…?」

 

 突然のことに不安になるはやて、すると本はひとりでに浮くとはやての元に近寄ってくる。

 短い悲鳴をあげるはやて。

 本は自らを縛めた鎖を破壊すると、ページが開かれる。

 しかしページは全て空白で何も書かれてはいない。

 

『Anfang』

「あぁ、ああ……!」

 

 本が閉じ突如言葉を喋りだす光景に理解が追いつかないはやて。

 さらに自分の胸から半透明な球が出てきて更に混乱する。

 光が自分と本との間で球は止まると突然強い光を放ち部屋を包む。 

 

「つぅ……!?」

 

 あまりの眩しさに目をつむるはやて。

 光が弱まりゆっくりと目を開くはやての前には4人の男女が跪いていた。

 

「闇の書の起動、確認しました」

「我ら、闇の書の蒐集を行い。主を守る守護騎士にございます」

「夜天の主の元に集いし駒」

「ヴォルケンリッター、なんなりと命令を」

 

 現れたシグナム達は主の命令を待つ。

 ふとヴィータが顔を上げはやてに近づく。

 

(ねぇ、ちょっとちょっと)

 

 念話で跪いたままの3人に話しかけるヴィータ。

 

(ヴィータちゃん! シー)

(でもさぁ)

(黙っていろ、主の前で無礼は許されん)

 

 それにシャマルとシグナムが注意する。

 

(無礼って言うかさ。コレ)

 

 これまでの出来事にはやての頭はパンクしていた。

 駆け付けたあすかとエストが声を発する。

 

「なんや、この状況……」

「あの方々には覚えがあります。闇の書の守護騎士かと」

 

 2人を確認した守護騎士たちは身構える。

 

「何奴!」

「あいつ、黒騎士の女だ! きっとそこのガキが黒騎士だ!」

「いかにも、この方が私のマスターたる黒騎士です」

 

 ヴィータの指摘にエストは答える。

 

「黒騎士、貴様何者だ! なぜ主の家にいる!」

「俺は弟や! そこで伸びている八神はやての双子の弟、八神あすかや!」

「なっ!」

「主の、弟……」

 

 この騒ぎではやては目覚めるのだった。

 

 

 

 

 

「そっかー、この子が闇の書ってもんなんやね」

「はい」

 

 気絶から覚め、今の自分の状況を説明されたはやては手に持つ闇の書を見る。

 

「うーん、とりあえず分かったことが1つある。闇の書の主として守護騎士みんなの衣・食・住、きっちり面倒みなあかんゆうことや。幸い住む所はあるし、料理は得意や。皆のお洋服買ってくるからサイズ図らせてな?」

「「「「………」」」」

 

 それからしばらくの間、はやてと守護騎士達は静かで平穏な日々を過ごしていった。

 

「主はやて、本当によろしいのですか?」

「…何が?」

「闇の書のことです」

 

 シグナムははやてに闇の書について聞いた。

 

「貴方の命あらば、我々は直ぐにでも闇の書のページを蒐集し、貴方は大いなる力を得ることが出来ます。この足も治るはずですよ」

「アカンて」

 

 はやての足に触れながら確認するシグナム、しかしはやては首を横に振る。

 

「闇の書のページを集めるにはいろんな人にご迷惑をおかけせなあかんのやろ?」

「っ!」

「そんなんはアカン。自分の身勝手で人に迷惑をかけるんは良くない。私は、今のままでも十分幸せや。父さん母さんはもうお星様やけど。遺産の管理とかはおじさんがしっかりしてくれてる」

「お父上のご友人、でしたか?」

「うん、おかげで生活に困ることもないし。それに、今は皆がおるからな」

 

 そう言いシグナムに抱き着くはやて、シグナムも少し驚くが黙ってそれを受け入れる。

 

「はやて!」

「どないしたん、ヴィータ?」

 

 ヴィータが2人に近寄ってくる。

 

「はやて、冷凍庫のアイス食べていい?」

「お前、夕食をあれだけ食べてまだ食うのか!?」

 

 ヴィータの発言に呆れるシグナム

 

「うるせぇな、育ち盛りなんだよ! はやてのご飯はギガうまだしな!」

「しゃーないな、ちょっとだけやで?」

「うん!」

 

 元気よく返事をし、ヴィータは台所に向かう。

 

「シグナム?」

「はい?」

「シグナムは皆のリーダーやから約束してな?」

「はい?」

「現マスター八神はやては、闇の書には何も望みはない。私がマスターでいる間は闇の書のことは忘れてて」

 

 シグナムの目をしっかりと見て話すはやて。

 

「皆のお仕事は皆で仲良く家で過ごすこと、あすかとエストも含めてな、約束できる?」

「誓います。騎士の剣にかけて」

 

 

 

 

 

 しかしその平和な日々は終わりを迎えようとしていた。

 

「命の危険?」

「はやてちゃんが」

「ええ…」

 

ある日、病院の診察に行った後、部屋に残されたシグナムとシャマルは石田から聞かされた話に驚きを隠せないでいた。

 

「はやてちゃんの足は原因不明の神経性麻痺だとお話しましたが、この半年で麻痺が少しずつ上に進んでいるんです。この2ヶ月は特に顕著で、このままでは内蔵機能の麻痺に発展する危険があるんです」

 

 話を聞き2人はある確信を持った。

 原因は闇の書だ。

 闇の書の覚醒がはやての病状を加速させていたのだろう。

 

「助けなきゃ……」

 

 夜、2人にもはやての状態について話し、重い空気の中ヴィータが呟く。

 

「はやてを助けなきゃ!シャマル!シャマルならはやてを治せるだろ!?」

 

 瞳に涙を溜めながら縋るようにシャマルを見る。

 

「ごめんなさい。私の力じゃどうにも…」

「なんでだ、なんでなんだよ!」

 

 だが、シャマルに首を横に振られヴィータは大声を上げながら泣き崩れる。

 その様子を見てザフィーラはシグナムに視線を向ける。

 

「シグナム」

「我らに出来ることはあまりにも少ない」 

 

 手に乗せているレヴァンティンを軽く握るシグナム。

 

「主の体を蝕んでいるのは、闇の書の呪い」

 

 レヴァンティンを待機状態から展開し掲げる。

 それを見てヴィータ達も己のデバイスを掲げる。

 

「はやてちゃんが闇の書の主として真の覚醒を経れば…」

「我らの主の病は消える。少なくとも、進みは止まる!」

「はやての未来を血で汚したくないから人殺しはしない。でも、それ以外なら…なんだってする!」

「その話、俺たちにも乗らせてくれ」

 

 あすかとエストが物陰から姿を現す。

 

「はやてに生きていてほしいのは俺たちも一緒や。俺たちも共犯にさせてくれ」

「だがお前は主のたった1人の血のつながった家族なんだぞ! 危険な目には合わせられん!」

 

 シグナムの懇願をあすかは一蹴する。

 

「その気持ちは嬉しい。シグナムの立場なら同じことを俺も言うやろ」

「なら!」

「でも聞けん。当の昔に覚悟はできとる。はやてを治すためならなんだってする、てな」

 

 あすかの覚悟に守護騎士たちは胸を撃たれる。そして6人の思いがひとつになる。

 

(申し訳ありません、我らが主、ただ一度だけ、貴方との誓を破ります)

 

 そして6人は、はやてから授かった騎士甲冑を纏い別の世界に転移する。

 シグナム達の闇の書の蒐集が始まった時だった。

 

 

 

 

 

 仮面の男襲撃の翌日。

 本局の廊下を歩くクロノ、エイミィ、ユーノ、レイの姿があった。

 

「4人がかりで出てきたけど大丈夫かな」

 

 理由目的があってここに来たとは言え戦力を割いてしまった事がクロノにとってはやや気がかりだった。

 

「まぁモニタリングはアレックスに頼んできたし」

「戦力は十分やろ、それに情報収集に人手を割かん方がどうかしとるで」

「それはそうなんだが」

 

 クロノは自分とレイ双方を相手にして軽くあしらって見せたあの男は危険だと考えていた。

 それに仮面の男も加えれば向こうの戦力は7、対し残してきた戦力は6。

 自分やユーノが加われば数の上で優位に立て、戦術である程度の実力差も覆せるかもしれないが今の状況ではそうはいかない、戦術眼を持った現場指揮官がいないのだ。

 そうなればパワーアップしたなのはやフェイト達でも敵わないだろう、それを気にしていた。

 

「そういえば今回は闇の書について調査をすればいいんだよね?」

「あぁこれから会う二人はその辺に顔が利くから」

 

 そして4人はとある部屋へと入っていく。

 

「リーゼ。久しぶり、クロノだ」

 

 その姿を見ていたのは二人の耳と尻尾の生えた女性達、その片方が突然クロノに飛びかかり抱き着いた。

 

「クロ助 お久しぶりぶり~」

「ロッテ、は、離せコラ!」

「何だとコラ、久しぶりに会った師匠に冷たいじゃんかよ~」

「ア、アリア、これを何とかしてくれ!」

「久しぶりなんだし好きにさせてやればいいじゃない、それに満更でもなかろう?」

「そ、そんなわけがってうわあああああああっ!?」

 

 助け船を求めたのに見事に断られクロノは軽く絶望した。

 一向に離れてくれないロッテと呼ばれた女性に対し慌てふためき餌食になっている間にエイミィがもう一人の女性に近寄る。

 

「リーゼアリア、お久し」

「ん、お久し」

 

 そんな挨拶を交わしていると弟子であるクロノをたっぷりと堪能したロッテがエイミィに気が付く。

 

「リーゼロッテ、お久し」

「おぉ、エイミィお久しだ。ん? なんかおいしそうなネズミっ子とヘビっぽい子がいる。どなた?」

 

 おいしそう、そう言われてユーノは思わず引きつった笑みを浮かべる。

 レイもまたヘビと言われて微妙な顔をしていた。

 とりあえずその場にいる面々はソファに座る。

 

「なるほど、闇の書の捜索ね」

「事態は父さまから伺っている、出来る限り力になるよ」

 

 そんな中ユーノとレイは小声でエイミィに説明を求めた。

 主に目の前にいる女性二名について。

 彼女達はリーゼアリアとリーゼロッテの姉妹、クロノにとっては魔法と近接戦闘の師匠らしく魔法教育担当はリーゼアリアが近接戦闘教育担当はリーゼロッテが行っていたらしい。

 そして二人はあのグレアム提督の双子の使い魔でもあると言う。

 ちなみに元となった生物は猫だという。

 それを聞いた後手を振られたユーノは引きつった笑みを浮かべながらも手を振り返す。

 そうこうしてる内に話は進む。

 

「実は今回の頼みは彼等なんだ」

 

 ユーノに一斉に向けられる視線、そして放たれた第一声は。

 

「食っていいの!?」

「いっ!?」

「あぁ作業が終わったら好きにしてくれ」

「なっ、おい。ちょっと待て!」

「あの、痛くしんといて……」

「あんたはいいや」

「ガビーン」

 

 最早ぐだぐだである。

 だがそんな慌てふためくユーノとハジケるレイを見て一同は笑うのだった。

 それはそれとして本題が何なのかリーゼアリアが聞く。

 

「それで頼みって?」

「彼等の無限書庫での調べものに協力してやってほしいんだ」

「「ふーん」」

 

 再び向けられたリーゼ姉妹の視線にユーノは緊張のあまり思わず喉を鳴らすのだった。

 

「ユーノ、リラックスや、どんな時もハジケ魂を忘れんと」

「レイ、うん、そうだね。ハジケていないと」

「という訳でハイこれ、生インゲンジュース」

「わあい僕これ大好物! 頭脳労働にはこれが一番、ってんなわけあるかー!」

 

 今度はリーゼ姉妹の顔が引きつる番であった。




 この作品のオリキャラ3号、八神あすか君のモデルは、ファイブスター物語の黒騎士です。
 皆さんファイブスター物語は読んだことがあるのでしょうか。
 その人ならわかるネタで彼は構成されています。
 分からない人は、ぜひ読んでみよう!
 理解するのに時間がかかるぞ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 現実なんて壊れてしまえ

 前回のあらすじ。
 レイの見た目がヘビっぽいことが判明しました。


 レイとユーノが無限書庫に旅立った翌日、一行はフェイトとアリシアの携帯を選ぶためにショップにいた。

 

「レイ曰く、新しいものを買うときは、スペックよりも直感を大事にした方がいいそうじゃ」

「そうかもね」

 

 アフームの言葉にすずかは頷く。

 

「でもスペックは大事よ、カメラの画素数や、メモリの量は使いやすさにつながるし」

「それもまた道理じゃ」

 

 アリサの言葉にアフームは同意する。

 

「「じゃあ、何を選べばいいの?」」

 

 フェイトとアリシアはすっかり混乱していた。

 

「妾がおすすめするのはコレ!」

「「「「「「パパイヤじゃん!?」」」」」」

「基礎スペックが高いからの、使い勝手はいい方じゃと思うぞ」

 

 パパイヤが中割れする、中は液晶画面とボタンがある。

 

「「「「「「ほんとに携帯だった!?」」」」」」

 

 

 

 

 

 一方無限書庫ではリーゼ姉妹が唖然としていた。

 何しろつい先ほど検索魔法と並列思考(マルチタスク)を覚えたばかりの少年が猛スピードで書物を仕分けしているのである。

 

「外れ、外れ、外れ、外れ、当たり、外れ、外れ、外れ」

 

 姉妹は当たりと言われた本と外れの本を読み比べてみる。

 成程当たりの本に比べ、外れの本は情報量が少なく、大したことは書いていない。

 

「これ、私達いる?」

 

 リーゼロッテの呟きももっともである。

 目の前の少年2人で一体何人分の情報検索を行っているのやら。

 

「レイは情報の仕分けとまとめが上手いね、下手すりゃ僕より上だよ」

「速読と並列思考(マルチタスク)の数はユーノが上やな、こればっかりは年季の差やろうけど」

 

 2人の天才少年が互いの健闘をたたえ合う。

 

「やっぱりもう少し深層に行きたいね」

「うむ、ある程度は分かるが、それ以上を追うには深く潜る必要がありそうやな」

「「という訳で深層突入の許可を」」

 

 リーゼ姉妹の顔が引き攣るのだった。

 

 

 

 

 

 海鳴市ハラオウン・テスタロッサ邸ではなのはたちが待機しつつフェイトとアリシアに携帯の使い方を教えていた。

 そこにエイミィが帰ってくる。

 

「おかえり! エイミィ!」

「うん、ただいま。あ、みんないらっしゃい」

「お邪魔してます。エイミィさん」

「「「お邪魔してます」」」

 

 エイミィは玄関で軽く挨拶をしキッチンに向かい買ってきた食材を袋から出しながらなのは達に聞く。

 

「艦長、もう本局に出かけちゃった?」

「うん。アースラの武装追加が済んだから試験航行だって、アレックス達と」

「て事は、アルカンシェルか、あんな物騒なもの、最後まで使わずに住めばいいんだけど」

 

 嫌と言わんばかりの顔をするエイミィ。

 アルカンシェル、時空管理局が保有する艦艇武装の中でも最大級の威力を誇る魔導砲であり、その一撃はアースラ程の時空航行艦を簡単に葬り去ることが出来る代物である。

 

「クロノくんもいないですし…戻るまではエイミィさんが指揮代行らしいですよ」

「責任重大だね」

 

 なのはがリンディからの伝言を伝えると、子犬状態のアルフがジャーキーを食べながら呟く。

 

「ぐっ、それもまた物騒だ。まっ、とはいえそうそう非常事態なんて起こるわけ……」

 

 言い切るよりも早くアラーム音が部屋に鳴り響くと、空中にモニターが浮かぶ。

 EMERGENCYと言う文字列が現れる。

 

「……起っちゃったみたいですね」

「フラグ乙、じゃな」

 

 手に持ったかぼちゃが音を立てて転がった。

 

 

 

 

 

 無限書庫の深層は危険であると言われている。

 それだけではなく貴重な資料が収められているため、無闇に立ち入らせないようにしているともいわれている。

 その深層をレイとユーノは進んでいた。

 周囲は武装局員で固められている。

 おっかなびっくりの武装局員に対し、レイとユーノはわくわく顔であった。

 何しろ彼らは人類未踏破の偉業に挑戦しようとしているのである。

 それは無限書庫の底に行くというものであった。

 きっかけはレイの一言だった。

 

「もっとも古い情報って、何やろ?」

 

 その一言が、ユーノの考古学魂に火をつけた。

 名目は闇の書の情報で侵入したのだが、彼らの冒険者スピリッツが冒険へといざなった。

 本が紙から羊皮紙、パピルス、木片、竹簡、粘土板、石板と変化していく。

 

「成程、封鎖するわけや。ここには人類の歴史が詰まっとる。下手に侵入されでもしたら、都合の悪い歴史が公開されてしまうなあ」

「確かに危険だね、権力者にとっては毒が詰まっているようなものだよ」

 

 天才2人は人類の歴史を眺めながら奥へ奥へと進んでいく。

 

「ここまでの資料の数、管理システムがあってもおかしくないと思うんやけど」

「毒を封じるときに一緒に封じたんじゃない?」

 

 やがて、最深部にたどり着く。そこにはレイにとって見慣れたものがあった。

 

「何で、これが……」

「レイ、どうしたの?」

 

「このマーク、我が家の紋章と家紋と同じ、金剛六芒星(ダイヤモンド・ヘキサグラム)や」

 

 無限書庫の底に刻まれたそのマークは正六角形の頂点を全て結んだ六芒星と六方十字を組み合わせた形であった。

 

「でもこれって、ブリリアント帝国ニュートラル王家の紋章でもあるんだよ!」

「どういうことや、偶然の一致とは到底思えん!」

 

 その時だった、扉から音声が流れる。

 

『複数の人物を認識、開門します』

 

 六芒星の中心、正六角形が開く。

 

「行ってみるか」

「うん」

 

 2人は開いた穴へと入ろうとする。

 慌てて武装局員が引き留め、安全確認をする。

 中には笠と腕で構成された機械が数多くある。

 

「おそらく管理システムだろうね」

「しかも戦闘もこなせそうや」

 

 一番奥にはカプセルの中に入った緑髪の女性がいた。

 

『ようこそ! 人類の英知、無限書庫管理センターへ! 管制人格のソフィアと申します。あなた方は何を求めに来ましたか?』

「これは……」

 

 誰ともなく呟き、誰もが絶句する。

 

『もしかして私の体ですか? いや~ん、エッチィ♡』

 

 全員がずっこける。

 

「こいつハジケリストか!」

 

 レイが叫ぶ。

 

『おやぁ、この中に私のマスターとしてふさわしい人がいますねぇ~』

「しかも融合機≪ユニゾンデバイス≫!?」

 

 ユーノが叫ぶ。

 

『そ~れ~は~、お前だーーー!!!』

 

 ソフィアが勢いよくカプセルを突き破り、ユーノの前に立つ。

 

「結婚してください」

「「「「「「結婚!?」」」」」」

「這いつくばって靴を舐めろ、そうすれば考えんでもない」

「「「「「「ヒデェ!」」」」」」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 そういいながらソフィアはユーノの靴を舐める。

 

「「「「「「した!?」」」」」」

 

 

 

 

 

 呆然としていたエイミィを正気に戻し、現在の状況を確認するなのは達。

 現在モニターにはシグナムとザフィーラ、黒騎士とエストが映っている。

 

「文化レベル0、人間は住んでない砂漠の世界だね、結界を張れる局員の集合まで最速で四十五分、まずい状況だよ」

 

 見つけたはいいが局員の集合までそれだけかかるとなれば逃がす確率はかなり高い。

 そんな中フェイトとアリシアとアルフが顔を見合わせて頷き合う。

 

「エイミィ、私達が行く」

 

 続いてアリサとすずかも同行を申し出る。

 

「私も行くわ」

「私も、3人だけじゃ足りないし、数の優位は欲しいでしょ」

 

 それを聞いたエイミィは暫し考え込んだ後コクリと頷き

 

「うん、お願い。なのはちゃんとアフームちゃんはバックス、ここで待機して」

「はい」

「うむ」

「行くよ、バルディッシュ」

「グレイブもいい?」

『『Yes, sir』』

「気を付けるのじゃぞ」

「うん」

「任せなさいって!」

 

 アフームは送り出しながらも、ある懸念を抱いていた。

 仮面の男についてだ。先の戦いで、経験豊富なレイとクロノのコンビを前にして一蹴してのけた仮面の男。

 正体不明のその存在が乱入すれば数の優位は簡単に崩れる。

 つくづく最悪な状況だとアフームは思った。

 こんな時レイがいれば、少なくとも足止めか時間稼ぎは出来るだろう。

 では自分なら? 少なくともレイの様にしぶとく戦える自信はない。

 感じる胸騒ぎを抑え込みつつアフームはモニターに目をやるのだった。

 

 

 

 

 

「ヴィータが手こずるわけだな……少々厄介な相手だ」

 

 目の前にいる長い体を持った巨大生物、それを相手にシグナムはやや苦戦を強いられていた。

 そしてカードリッジシステムを使おうとしたその時、背後から巨大生物の尾が飛び出し、さらに触手が伸びる。

 完全に不意をつかれたシグナムはその触手に縛られてしまう。

 

「しまった……ッ!」

 

 どうにか逃れようとするが巨大なだけありその力は強く逃れる事が出来ない。

 そんなシグナムを仕留めようと巨大生物はその鋭い尾の先端を突き出す。

 

『Thunder blade』

 

 それは空から降り注ぐ雷の剣によって防がれた。

 その雷の剣を放ったのはフェイトだ。

 フェイトはさらに手を振り上げる。

 

「ブレイク!」

 

 すると雷の剣は爆発し、巨大生物は倒れるのだった。

 一方ザフィーラの方にもまたアルフの姿があった。

 

「ご主人様の事が気になるかい?」

「……お前か」

「ご主人様は一対一、こっちも同じだ」

「シグナムは我らが将だが主ではない」

「あんたの主は闇の書の主、っていうわけね」

 

 対峙するアルフとザフィーラ。そしてフェイトとシグナムもまた対峙する。

 黒騎士にはアリサが、エストにはすずかが相対する。

 アリシアは後詰めだ。双方状況は一対一を複数作る形になった。

 

『フェイトちゃん、助けてどうするの!? 捕まえるんだよ!』

「あ、ごめんなさい。つい」

「礼は言わんぞ、テスタロッサ」

「お邪魔でしたか?」

「蒐集対象は潰されてしまった」

 

 そう言いながらシグナムはカードリッジを装填する。

 

「まぁ悪い人の邪魔が私の仕事ですし」

「そうか、悪人だったな、私は」

 

 ぶつかり合う互いの視線。

 そんな中再び警報が鳴り響く、もう一か所で問題が発生したのだ。

 エイミィは慌てながらもう一か所の方をモニターに映す。

 そこに映っていたのはヴィータの姿、その手には闇の書が握られていた。

 

「本命はこっち! なのはちゃん、アフームちゃん!」

 

「はい! でもその……」

「ん?」

「一対一が良い、そう言いたいんじゃろ?」

 

 なのはの言いたい事をアフームが代弁した。

 その言葉になのははただ頷く、エイミィはこんな状況下でそんな悠長な、と言っている。

 

「エイミィ、ここはなのは一人に任せるがよかろう。まだあの仮面の男が出て来ておらん、どちらに現れるか分からんが警戒が必要じゃ。奴が現れればその時は妾が出よう」 

 

「分かったよ、それじゃあなのはちゃんお願い。引き続きアフームちゃんは待機で」

「はい!」

「了解じゃ」

 

 去り際なのははアフームに近づいてくる。

 そしてありがとう、と告げて出ていった。

 こんな時レイならどうするだろうか。

 もっといい策を提示するのでは? 

 考えても、出てこなかった。

 今この場に彼がいないことが激しく悔やまれた。

 

 

 

 

 

 管理局本部、ある一室でリンディはグレアム提督と話をしていた

 

「久しぶりだね、リンディ提督。闇の書の事件、進展はどうだい?」

「なかなか難しいですが、上手くやります」

 

 闇の書の件について聞かれ、それとなく答えると紅茶の入ったカップを手に取り口に運ぶ。

 

「君は優秀だ。私の時の様な失態はしないと信じているよ」

「夫の葬儀の時、申し上げましたが。あれは提督の失態ではありません」

 

 カップを机に戻しグレアムに視線を戻す。

 

「あんな事態を予測できる指揮官なんていませんから 」

 

 穏やかな口調で話すリンディ。それをグレアムは無言で見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 その頃、無限書庫で闇の書に関する情報を集めるユーノとレイ。

 手伝いとしてリーゼロッテがベルカ関係の書籍の山を運んでくる。

 レイはソフィアと共に端末をいじりながら作業をしている、チアガール姿で。

 

「リーゼロッテさんは前回の闇の書の事件を見てるんですよね?」

「うん、ほんの11年前の事だからね」

「その、本当なんですか?その時にクロノのお父さんが亡くなったって…」

 

 闇の書を調べるにあたりユーノが最初に目を通したのは、前回の闇の書の事件だった。その報告書から知った事をロッテに聞く。

 

「……ほんとだよ。私とアリアは父様と一緒だったからすぐ近くで見てた」

 

 書籍を宙に浮かし当時のことを話すロッテ

 

「封印したはずの闇の書を護送中のクライド君が、あっクロノのお父さんね? クライド君が護送艦と一緒に沈んでいくところ」

「すいません。嫌な事を聞いてしまって」

 

 暗い顔をするロッテを見て謝るユーノ。

 

「ううん、一応けじめは付けてるからね、っと」

 

 特に気にした様子も見せないロッテ。

 するとロッテの通信用の端末がアラームを鳴らす

 

「あ〜、ごめん。もう教導の時間だから戻らないと」

「いえ。元々忙しいのに付き合ってもらってありがとうございます」

「いいのいいの。それじゃ頑張ってね~」

 

 手を振りながら無限書庫を後にするロッテ。

 それを見送りユーノは再び手がかりを探し始めるのだった。

 レイは静かに見送るだけだった。

 

「ツッコミは無しかい」

 

 

 

 

 

 それぞれの戦いは激化していた。

 フェイトとシグナムは切り結び合う。

 アルフとザフィーラは拳をぶつけ合う。

 黒騎士とアリサは剣を交わし合う。

 エストとすずかは遠距離で攻撃を飛ばし合う。

 その様子をアリシアは見ながらも周辺を警戒していた。

 いつ仮面の男が出てくるかわからないからだ。

 レイとクロノを一蹴した相手に勝てるとは思わなかったが、時間稼ぎくらいは出来るだろうとは踏んでいた。

 一方なのはとヴィータはドッグファイトへと移行していた。

 

「ディバイン、バスター!」

 

 しかし、なのはの砲撃は突如現れた仮面の男によって防がれてしまう。

 

「アフームちゃん!」

「うむ!」

 

 エイミィに促され、2人は出撃しようとする。

 しかし出撃はかなわなかった。

 フェイトとアリシアの胸から手が伸びていた。

 その体を貫いていたのは、仮面の男だった。




 オリキャラ4号のソフィアさん登場。
 この人は第3部以降で活躍する予定です。
 この人が封印された経緯も第3部で明かされる予定です。
 この人のせいでユーノ君が思いっきり強化されます。
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 未必の故意は悪ですか?

 前回のあらすじ。
 ユーノ、パワーアップを果たす。


 あの後、アリサとすずかもまた魔力を蒐集された。

 仮面の男に気を取られている間に、エストによって蒐集されたのだ。

 4人はすぐに本局医療局に運ばれた。

 残る面々はアースラに集合していた。

 

「医療班の報告では、みんなリンカーコアに酷いダメージを受けてるけど命に別状はないそうよ」

「私の時と同じように闇の書に吸収されちゃったんですね…」

「アースラが稼働中で良かった。なのはの時以上に救出が早かったから」

「だね……」

 

 4人の無事を聞き安心するなのは達、すると俯いていたエイミィが口を開く。

 

「2人を転移させた後、駐屯所の管制システムがクラッキングであらかたダウンしちゃって。それで指揮や連絡が取れなくて……ごめんね。あたしの責任だ」

 

 エイミィの謝罪に少し静まる会議室。

 それを破ったのはアルフとアフームだった。

 

「んなこったないよ! エイミィがすぐシステムを復旧させたからアースラに連絡が取れたんだし、仮面の男の映像だってちゃんと残せた」

「ギリギリで妾も割り込むことが出来た。あの場では最善だったと思うぞ」

「2人とも、ありがとう」

「でもおかしいわね? 向こうの機材は管理局で使っているものと同じシステムなのに、それを外部からクラッキングできる人間なんているものなのかしら?」

 

 空中に現れた仮面の男の映像を見ながら呟くリンディの言葉にエイミィが反応する。

 

「そうなんですよ!防壁も、警報も、全部素通りでいきなりシステムをダウンさせるなんて」

「少しありえない事ですよね」

 

 アレックスもエイミィの言葉に同意する

 

「ユニットの組み換えはしてるけど。もっと強力なブロックを考えなきゃ…」

 

 顎に指を当て考え込むエイミィ

 

「それだけ凄い技術者がいるって事ですか?」

「仮面の男は2人居た、なら、あの2人をサポートする奴が居る可能性はもちろんあるね」

 

 なのはが目の前に座るアリアに聞くとアリアもそれを肯定する。

 

「外部からではないかもしれんな」

 

 アフームが呟く。全員が驚きをもってアフームを見る。

 

「レイならどう考えるか、妾なりに考えてみた。管理局の防御システムは次元世界最高峰なのじゃろう? それを突破できるハッカーなど数が知れておるはずじゃ。外が駄目なら内側から、レイならそういうことも言いそうじゃ」

 

 全員にどよめきが走る。

 

「すまぬ、考えすぎかもしれん」

「アフームちゃん、貴重な意見をありがとう。アレックス! アースラの航行に問題は無いわね?」

「はい。問題ありません」

「では、予定より少し早いですが、これより司令部をアースラに戻します!各員は所定の位置に」

『はい!』

 

 リンディの決定に全員が返事をする。

 

「と、なのはさんとアフームちゃんはお家に戻らないとね」

「うむ」

「あ、はい。でも…」

 

 思い出したように2人を見るリンディ。

 アフームは直ぐに返事をするがなのはは少しためらう様に返事をする。

 

「大丈夫よ。フェイトさん達のことは私たちが見ているから」

「…はい」

 

 リンディに諭されなのはは少し悩んだ顔をするがしっかりと返事をした

 

「それじゃあ、会議は終わりです」

 

 

 

 

 

 八神家にて。

 

「助けてくれた、ってことでいいのよね」

 

 シャマルがぽつりと呟く。

 

「少なくとも、奴が闇の書の完成を望んでいるのは確かだ」

 

 腕組みをしながらシグナムが答える。

 

「完成した闇の書を利用しようとしているのかもしれんな」

 

 狼形態のザフィーラが意見を述べる。

 

「ありえねぇ! だって、完成した闇の書はマスター以外には使えないじゃん!」

 

 ヴィータが声を上げる。

 

「完成した時点で主は絶対的な力を得る。脅迫や洗脳が効くはずも無いしな」

「まあ家の周りには厳重なセキュリティが張ってあるし、万が一にもはやてちゃんに危害が及ぶことはないと思うけど」

「念のためだ、シャマルは主のそばを離れん方がいいな」

「うん」

「ねえ、はやてが闇の書を完成させてさ、はやてがマスターになってさ、それではやては本当に幸せになるんだよな」

 

 ヴィータの言葉に顔を見合わせる一同。

 

「何だいきなり」

「闇の書の主は大いなる力を得る。守護者である私たちはそれを誰よりも知っているはずでしょう」

「そうなんだよな、そうなんだけどさ、私は大事なことを忘れている気がするんだ」

 

 その場が言いようのない空気に包まれる。

 

「私の記憶では、あなたたちの認識や記憶に不備があるとは思えません」

 

 エストが言葉を発する。

 

「闇の書について多くを知るわけではないですが、少なくとも、魔力蒐集をやめる理由はありません」

 

 その時だった、はやての部屋の方から何かが倒れる音がした。

 向かうと、はやてがベッドから落ちている。

 

「病院! 救急車を!」

 

 

 

 

 

 アースラでは、ユーノから現時点での調査報告が行われていた。

 

「うん、ここまでで分かったことを報告しとく。まず、闇の書というのは本来の名前じゃない。古い資料によれば、正式名称は夜天の魔導書。本来の目的は、各地の偉大な魔導士の技術を蒐集して、研究するために作られた、主と共に旅をする魔導書。破壊の力を持ったのは歴代の所有者の誰かがプログラムをいじったからだと思う」

「ロストロギアを使って、むやみやたらに莫大な力を得ようとする輩は今も昔もいるってわけね」

 

 リーゼアリアが話に割り込む

 

「その改編のせいで、旅をする機能と、自動修復する機能が暴走しているんだ」

「転生と無限再生はそれが原因か」

 

 クロノが考え込む

 

「古代魔法ならそれくらいはありかもね」

「一番ひどいのは持主に対する性質の変化。一定期間収取がないと持主自身の魔力や資質を侵食し始めるし、完成したら持主の魔力を際限なく使わせる。無差別破壊のために。だから、これまでの主は完成してすぐに……」

「ああ、停止や封印の方法についての資料は」

「それは、今レイが調べてる。だけど、完成前の停止はたぶん難しい」

「何故?」

 

 クロノが質問する。

 

「闇の書が真の主と認識した人間でないと、システムへの管理者権限は使用できない。つまりプログラムの停止や改変が出来ないんだ。無理に外部から操作しようとすれば主を吸収して転生しちゃうシステムもはいってる」

「そうなんだよね、だから闇の書の永久封印は不可能って言われてる」

「元は健全な資料本が、何というか、まあ」

「闇の書、夜天の魔導書もかわいそうにね」

 

 リーゼロッテとエイミィがそれぞれ同情する。

 

「調査は以上か」

「現時点では、まだいろいろ調べてる。流石無限書庫、探せばちゃんと見つかるよ。それに、管理システムも復活したしね」

「ていうか、あたし的には君達がすごい。すっごい捜査能力」

「そう言えばレイはどうしているんだ」

 

 クロノがレイについて聞く。

 

「ああ、レイは今夜天の魔導書の再現を試みてるよ」

「何でそんなことを……」

 

 エイミィが呆れたように呟く。

 

「レイ曰く、どう直せばいいのかシミュレーションするからだって」

「アイツ、闇の書を直す気でいるのか!」

 

 クロノが叫ぶ。

 

「すごいよ、あの子。もう古代ベルカのプログラム言語をマスターしちゃった」

「相変わらず、規格外の頭脳なんだから」

 

 リーゼアリアは驚き、エイミィは呆れつつも驚く。

 

「不可能を可能にする方法を考えるのが僕たち頭脳労働担当の仕事だからね。今は資料調査が僕、夜天の魔導書の直し方をレイが担当しているよ。今は一分一秒が惜しいみたいで、報告を僕に丸投げしてきたからね」

「上手くいきそう?」

「どうだろう? レイのことだから煮詰まるまで何も言ってこないだろうし、今は順調じゃないかな」

「順調も順調や」

 

 バニーガール姿のレイが話に入ってくる。

 

「レイ、作業はいいのか?」

「今は小休止。なあにこの分なら闇の書を夜天の魔導書に直せそうや。てかツッコミは無しかい」

「本当か!」

 

 叫ぶクロノ。

 

「上手くいけばな、それよりクラッキングの件や。やはり俺は内部犯やと思う」

「どうして?」

 

 エイミィが質問する。

 

「タイミングが良すぎるんや。外部からやろうもんならそれこそ何時間も前から準備をせんとあかん。だけど内部からなら十分もかからん。もちろん理由はこれだけやないで。ファイヤーウォールの突破形跡がないこともあるな。どんな優秀なハッカーも自分の足跡を消すんは大変な作業や。その足跡が無いっちゅうことは、やっぱり内部犯行やろ」

「……だとしたら誰が一体」

 

 クロノが考え込む。

 

「気になることがある。仮に仮面の男と今回のハッカーが同一グループやとすると、そいつらの動機が分からん。目的は闇の書の完成ちゅうことは分かる。しかし、なぜ完成させる必要があるんか、それが解らん。もう一つ。今回集めた闇の書の資料やけど、どうも固まって保管されとる」

「それの何がおかしいの?」

 

 エイミィの疑問ももっともだ。

 

「すでに誰かが1回調べたように思えるんや。そして、前回の資料も一緒に置かれとる。一般の文書の中に管理局の公文書。余りにも不自然や」

「考えすぎじゃないのか?」

「考えすぎならそれでええ、問題はそれらを見落とすことでどれだけの被害を俺たちが被るかや」

 

 

 

 

 

「お見舞い、かの」

 

 昼休みにアリシアと合流したなのはたちはお昼ご飯を食べながら、すずかが最近できたという友達について話をしていた。

 すずか曰く、図書館で出来たというその友達は病状が悪化し入院することになったという。

 それを先程彼女の弟から伝えられたのである。

 

「弟って私のクラスにいたんだ、八神あすかって男の子。レイと双璧を為す2組の関西弁男子だよ」

「はやてちゃんも関西弁だったし、やっぱり関西の人って、言葉に愛着があるのかな」

 

 すずかが疑問に思う。

 

「レイ曰く、畿内、ああ関西のことじゃが、日本の中心だった誇りがあるんじゃよ。特に京都はな」

「そうなの、日本って一国の中での言葉の違いが大きいわよね。単語すら違うのって大変だわ」

「それよりお見舞いは?」

「「「「「もちろん行く」」」」」

 

 

 

 

 

 とある次元世界、雨が降り、雷が走る赤い空の中ヴィータは海の上を飛んでいた。

 

(何かがおかしいんだ…こんなはずじゃないんだって私の記憶が訴えてる)

 

 何か大事な事を忘れていると、引っ掛かりを感じるヴィータ。

 だが、それを振り払うようにアイゼンを構える。

 

(でも…今はこうするしか無いんだよな)

 

 海が大渦を巻く

 

「はやてが笑わなくなったり、死んじゃたりしたら、やだもんな!」

『Ja』

 

 ヴィータの叫びにアイゼンが応えると渦の中から巨大なタコのようないくつもの目を持つ魔導生物が現れる。

 

「やるよ!アイゼン!!!」

 

『Explosion』

 

 柄が伸縮しヴィータの魔力が爆発的に増える。

 

「ギガント!!! ブッ潰せーーー!!!」

 

 巨大化したアイゼンを振りかぶりヴィータは魔導生物に向かう。

 

 

 

 

 

 時空管理局本局、ギル・グレアム提督は自身の書斎で闇の書のデータを見つめているとアリアとロッテが入ってきた。

 

「父様。あんまり根を詰めすぎると体に毒ですよ」

「そうだよ」

「2人か、どうだい様子は?」

 

 働きすぎを諌められ肩を竦めながらグレアムは2人に現状を聞く。

 

「まぁ、ボチボチですね」

「クロノ達も頑張っていますが闇の書が相手ですから、一筋縄では…」

「そうか。…すまんな、お前達まで付き合わせてしまって」

 

 突然、グレアムは俯き2人に謝るとアリアとロッテは身を乗り出す

 

「何言ってんの父様!」

「私達は父様の使い魔。父様の願いは私達の願い」

「……ありがとう。2人共」

 

 励ましてくるアリアとロッテにグレアムは笑顔を見せる。

 

「大丈夫だよ、デュランダルも完成しているし」

「今度こそ、闇の書の封印を成功させましょうね」




 うーむ、シリアスなシーンが続く。
 うまい具合にハジケられない。
 現在執筆中の第2章第3部もシリアスな話だからなあ。
 ていうか、皆この作品のことどう思ってます?
 大分原作よりなのは認めますが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 クリスマスと言ったら山下達郎と竹内まりや

前回のあらすじ。
 ハジケが足りなかったなあ。


 12月24日、朝。今日は修業式である。

 

「ねえ、みんな、はやてちゃんへのプレゼント用意してくれた?」

 

 今日の放課後、サプライズではやてのお見舞いに行くのである。

 すずかは皆にプレゼントの確認をした。

 

「モチのロンや」

「妾たちを舐めるでない」

「当然用意したわ」

「「「「うん」」」」

 

 全員が持ってきていることを確認したすずかは満面の笑みで答える。

 

「あ、アリシア、教室でこの話題はせんようにな」

「なんで?」

「八神弟に聞かれると計画がおじゃんになるからな」

「そっか、じゃあ気を付けないと。こういう秘密の計画ってワクワクするね」

「せやからサプライズは楽しいんや。むしろ計画中の方が楽しいかもしれん」

「アンタの行動がサプライズみたいなもんだからね」

「アリサ、お前さんはそんな風に思っとったんか」

「全員思っているわよ」

「「「「うん」」」」

 

 アリサのツッコミに何も言えなくなるレイとアフームだった。

 

 

 

 

 

 放課後、はやての病室では守護騎士とあすかとエストが集まっていた。

 

「はやてゴメンね、あんまり会いに来れなくて…」

「ううん。元気やったか?」

 

 謝るヴィータにはやては気にしてないと声をかけ頭を優しく撫でる。

 その姿を見てシグナムとシャマル、エストは微笑み、あすかは満足げな顔で幸せな時間を過ごしていた

 するとコンコンとドアを叩く音がする。

 

「こんにちはー」

「あれ? すずかちゃんや」

 

 その声に守護騎士たちは戦慄する。

 

「はーい!どうぞー!」

 

 扉が開き、サンタ服でジョジョ立ちを決めるレイとアフームが守護騎士たちの目に入る。

 

「「メリークリスマスッ! 祝わずにはいられないッ!」」

 

 場が凍り付く。

 守護騎士たちは目の前の奇妙な言動となのはたちの存在に、なのはたちは守護騎士たちの存在に、それぞれ言葉を発することが出来なかった。

 沈黙を破るのはやはりこの2人であった。

 

「ツッコミがないと寂しいのじゃ」

「みんなどないした、あまりの世間の狭さに驚愕しとる場合やないで」

 

 全員が何とか我を取り戻す。

 

「初めましてやな、俺はレイ=金剛=ダイアモンド。弟さんとはクラスメイトや」

「あっ、八神はやてです。いつも弟がお世話になってます」

「ちょっと、はやて、やめてくれ」

「おうおう、あすか君、いっちょ前に恥ずかしがりおって。いつものクールな態度はどないした?」

「やめんか! めっちゃ恥ずいわ!」

「珍し、こんなあすかは初めてかもしれんわ」

「けっけっけ、はやて嬢、男というもんは女の前ではかっこつけたがる生き物なんですわ」

「これはええこと聞きました。情報おおきに」

「いえいえ、今後とも御贔屓に」

「……あんたらは何をしてんの」

「悪徳商人ムーブをな」

 

 アリサのツッコミが入ったところで話が本筋に戻る。

 

「それより、今日はみんなどないしたん?」

 

 はやてが訪問してきた理由を尋ねるとすずかとアリサは腕にかけていたコートを取りプレゼントを見せる。

 

「「「「「「サプライズプレゼント!」」」」」」

 

 差し出されたプレゼントに目を輝かせるはやて。

 

「今日はイブだから、はやてちゃんにクリスマスプレゼント」

「俺たち全員で選んだんやで」

「ホンマに!? ありがとうな!」

 

 何とか繕いながらサプライズを成功させようとする。

 

「あ、みんな。コート預かるわ」

 

 シャマルが場を和ませようと気を利かす

 

「念話が使えない、通信妨害を?」

 

「シャマルはバックアップのエキスパートだ。この距離なら造作もない」

「あなた達、守護騎士が此処に居るとゆうことははやてちゃんが闇の書の…」

 

 病室に備え付けのクローゼットにコートをかけながらフェイトはシグナムと、アリシアはシャマルに周りには聞こえない声で話す。

 無言の返答だったがそれは答えを言っているようなものである

 

「えっと、あの、そんなに睨まないで…」

「睨んでねーです。こうゆう目つきなんです」

 

 なのははヴィータから一方的な拒絶を受け落ちこむ

 

「ヴィータ! 嘘はアカン。そんな悪い子はこうやで!」

 

 するとはやてがヴィータの鼻をつまみお説教をし始める。

 その光景に緊張がほぐれクスクスと笑いが起きる。

 

「お見舞いしてもいいですか?」

「ああ」

 

 フェイトがシグナムに聞くと少しの間のあとシグナムが許可を貰い、はやてへのクリスマスサプライズは一応の成功を収めた。

 

 

 

 

 

 お見舞いが終わり病院を後にしたなのは達はあるビルの屋上でシグナムとシャマルに呼び出され、シグナムから話を聞かされていた

 

「はやてちゃんが闇の書の主…」

 

 分かってはいたがシグナムから告げられた話に動揺を隠せない8人

 

「悲願はあと僅かで叶う」

「邪魔するのなら…はやてちゃんのお友達でも」

「待って!ちょっと待って!ダメなんです!闇の書が完成したらはやてちゃんは……」

 

 戦闘態勢をとるシグナム達になのははユーノとレイが調べた情報を話そうとする。

 だが突如アイゼンをもって現れたヴィータの強襲になのはは障壁を張り防御するが吹き飛ばされフェンスに激突する。

 飛ばされたなのはに気を取られたその一瞬、シグナムはレヴァンティンで斬り掛かるがフェイトとアリシアは後ろに飛んで下がる。

 

「管理局に我らが主の事を伝えられては困るのだ」

「私の通信妨害範囲から出す訳には、いかない!」

 

 シグナム達の姿が先程までの私服から騎士甲冑に変わっていく

 

「ヴィータ、ちゃん」

「邪魔、すんなよ、もう後ちょっとで助けられるんだ。はやてが元気になってアタシ達の所に帰ってくるんだ!」

 

 涙を流しながらなのはを睨むヴィータ

 

「必死に頑張って来たんだ、もう後ちょっとなんだから……邪魔すんなーーー!!!」

 

 ヴィータはカードリッジをロードし、アイゼンを振り下ろす。大きな爆発が起き炎と煙が上がる

 

「はぁ、はぁ……ちぃ」

 

 息を切らすヴィータは炎の中から現れたなのはに舌打ちをする。

 バリアジャケットを着たなのはに怪我はなく、バリアジャケット自体にも目立った損傷はない

 

「悪魔め」

 

 思わずそんなことを口にするヴィータ

 

「悪魔で、いいよ」

「Axel Mode Driveignition』

 

 レイジングハートを展開し構えるなのは

 

「悪魔らしいやり方で。話を聞いてもらうから!」

「それはあきまへん!」

 

 突如として全員が包帯で縛られる。レイの仕業だ。

 

「「入院『病院ではお静かに』!」」

「何のつもりだ!」

「どういうこと、レイくん!?」

 

 シグナムとなのはが声を上げる。

 

「ここで俺らが争ったところで何のメリットもあらしまへん。むしろ奴らに付け入る隙を与えることになりかねん」

「ふざけるな! もう少しで、もう少しではやてが!」

「うん、わかっとる。闇の書を完成させるんやろ。そうすればはやて嬢の体は治る。そういうことやろ?」

「だったらどうして!」

 

 ヴィータの叫びにレイは静かに答える。

 

「確かに体は治るかもしれん。それ以上に色んなもんを失うことになるがな」

「嘘だ! 大いなる力があれば失うものなんて……」

「なら、力を手に入れた後、主たちはどないしたん?」

 

 レイの言葉に守護騎士たちは黙って呆然とする。

 

「やはり、な」

「どういうことだ、なぜ覚えていない!」

 

 シグナムの慟哭にもレイは眉一つ動かさない。

 

「闇の書が完成した時、守護騎士は再蒐集される。どうやら記録通りのようやな」

「レイ、1から説明したら?」

 

 アリシアがレイをじっとりと睨みつける。

 アフームは縛られていることに興奮している。

 

「アアッ、いいっ! ナイス縛りッ!」

「うーむ、説明してもええんやけど、今のこいつらが受け入れるかどうか。せや! お前さん方、夜天の魔導書という言葉に心当たりは?」

「夜天の、魔導書、……なんかぼんやりとあるようなないような」

 

 ヴィータが呟く。

 

「ビンゴ。記憶は完全には失っとらん。夜天の魔導書。闇の書へと改悪される前の名前。本来の名前、心当たりあるやろ?」

 

 守護騎士たちが頭を抱える。

 その様子をレイは静かに見守る。

 

「夜天の、魔導書……」

 

 あすかが呟く。

 次の瞬間、仮面の男が現れる。

 

「お出でなすったか!」

「すでに拘束されているか、なら話は早いな」

「ところがぎっちょん!」

 

 レイが全員の拘束を解く。

 

「何のつもりだ!」

 

 シグナムがレイに向かって叫ぶ。

 

「こいつらの目的が俺の予想通りなら、守護騎士が狙われる!」

 

 いうが早いか、仮面の男が守護騎士たちやなのはたちにバインドをかけていく。

 

「よくわかったな、さて、どうする?」

「貴様をぶっ飛ばす! 六角如意金剛棒!」

 

 レイが金属棒を取り出し。仮面の男へと突撃する。

 

「加勢するで!」

 

 まだバインドを掛けられていないあすかも剣を構えて、仮面の男へと切りかかる。

 仮面の男はそれらをシールドで防ぐ。

 そこにもう一つの影が背後からレイへと襲い掛かる。

 

「レイくん! 後ろ!」

 

 なのはの叫び声よりも速く、仮面の男の拳がレイの背中へと届こうとする。

 

「見切ったり!」

 

 レイの背中が開き、多数の砲塔が顔をのぞかせる。

 帽子が開き、司令官らしき老人が座っている。

 

「撃て」

「集中砲火ー!」

 

 砲撃が背後の仮面の男に直撃する。

 その反動でシールドを破り、一撃、正面の仮面の男へとお見舞いする。

 

「やはり、2人おったか。そしてその正体も見破った!」

 

 仮面の男たちはレイたちから距離を取り、集まる。それをレイは好機ととらえた。

 

「喰らえ! 野猫撃退『ペットボトルフラッシュ』!」

「「「「「「それに何の意味が!?」」」」」」

 

 全員のツッコミが水入りペットボトルと懐中電灯を構えたレイに向けられる。

 その光を浴びた仮面の男たちは変身魔法が解け、本来の姿が露わになるのであった。

 

「あれは……」

「リーゼロッテさん!? リーゼアリアさん!?」

 

 なのはたちは驚愕する。

 今までサポートしてきた仲間が、犯人だったのだから。

 

「くっ、まさかばれちゃうなんて」

「でも、闇の書はここにある!」

 

 リーゼロッテの手には闇の書がある。

 

「いつの間に!?」

 

 シャマルが悲鳴を上げる。

 

「最後のページは、不要となった守護者自らが差し出す。これまでも幾度か、そうだった筈だ!」

 

 リーゼアリアが闇の書に魔法を施す。

 

「「させるか!」」

「邪魔だよ!」

 

 レイとあすかがリーゼアリアの邪魔をしようと飛び掛かる。

 それをリーゼロッテが守る。

 

「「「「ぐああああああ!」」」」

 

 守護騎士たちが1人、また1人と消えていく。

 

「一手遅かったか!」

「悪いけどみんなにはおとなしくしててもらうよ!」

 

 2人はリーゼロッテに蹴り飛ばされた後、バインドを掛けられる。

 そのまま全員まとめてピラミッド型の結界、クリスタルゲージに閉じ込められる。

 そして、2人はなのはとフェイトに変身し、残っているヴィータとザフィーラを連れ去ってしまう。

 

「あかん、最悪の事態になってまう」

「どうすればいいの!?」

「何とかしてバインドとこのゲージを破壊せんと!」

 

 なのはとフェイトに変身したリーゼ姉妹がはやてを召喚する。

 

「誰が壊す!」

「俺がやる!」

「あすかくん!」

 

 はやての前でヴィータとザフィーラが消されていく。

 はやての顔が絶望に染まっていく。

 

「マスター! あの技を!」

「わかっとる! 溜めがいるからちょっと待て!」

 

 はやてを膨大な魔力が包み込む。

 リーゼ姉妹ははやてから離れていく。

 

「喰らえ! M・B・T(マキシマム・バスター・タイフォーン)!」

 

 衝撃音と共にゲージが破られる。

 

「バインド全員解き終わったで!」

「急ぐぞ!」

 

 全員がはやての元へと駆け付ける。

 しかし、はやての姿はすっかり変貌していた。

 

「また、全てが終わってしまった、いったい幾つ、こんな悲しみを繰り返せばいい……」

 

 長い銀の髪、黒の騎士甲冑を纏い背中からは漆黒の翼がはえている

 

「「はやてちゃん!」」

「「「「「「はやて……」」」」」」

「まさか……あれがはやてなんか!?」 

「我は魔導書。我が力の全ては……」

『Diabolic emission』

 

 女性が手を上げると巨大な魔力の塊が現れる。強大な魔力に全員体を強ばらせる。

 

「主の願いを、そのままに……」

 

 魔力が収束し小さくなる

 

「闇に沈め」

「来るぞ!」

 

 収束された魔力が解放させ周囲を巻き込みなのはたちに迫る。

 

『Full Moon Mode, Round Shield』

「防御『川西部長の絶対防御圏』!」

 

 すずかがフルムーンモードで障壁を作り、レイが段ボールと新聞紙でバリアーを張る。

 全員がその後ろに隠れると更に全員でシールドを強化する。

 次の瞬間、攻撃が障壁にぶつかる。

 だが、魔力は障壁ごと全員を飲み込むのだった。




 クリスマスと言ったら山下達郎の『クリスマス・イブ』と竹内まりやの『素敵なホリディ』ですよね。
 後、稲垣潤一の『クリスマスキャロルの頃には』とかも聞きたくなります。
 皆さんはクリスマスソングと言ったら、何を思い浮かべますか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 運命なんてら・ら・ら

 前回のあらすじ。
 はやて、闇堕ち。


「くっ、フルムーンにスペルカード、段ボールにガムテープで補強した最強の盾が破られるとは……」

「「「「「「それじゃダメでしょ!」」」」」」

「しかしとんでもない魔力量じゃ。まともにやり合えば負けるのは確実じゃ」

 

 アフームの言う通り、正攻法で勝てる相手ではないことは全員感じ取っていた。

 そこにユーノとアルフが現れる。

 

「「みんな!」」

「ユーノ君!」

「アルフ!」

 

 だがこれで状況が好転するとは言い難かった。

 

「結界か……!」

「前と同じ閉じ込めるやつだね」

「やっぱり、私達を狙ってるんだ……」

「今、クロノが解決法を探してる。援護も向かっているんだけどまだ時間が」

「それまで私達で何とかするしかないか……」

「目的は、はやての救出。そのためには奴さんの意思をくじく必要がある。策は任せい。奴さんを悲劇の運命から救い出そうやないか」

 

 

 

 

 

 一方この状況を引き起こしたリーゼ姉妹はと言うと、少し離れたビルの上で状況を見守っていた。

 姿は仮面の男に戻っている。

 

「持つかな、あの9人は」

「暴走開始の瞬間までは持ってほしいな」

 

 そんな会話をしていると突如として周囲に光の粒子が上がる。

 何事かと思っていると光の縄が二人を縛り上げる。

 そこにやってくる人物が一人。

 

「ストラグルバインド……相手を拘束しつつ強化魔法を無効化する」

 

 そこにいたのは黒衣の魔導師、クロノだった。

 クロノはさらに説明を続ける。

 

「あまり使いどころのない魔法だけどこういう時には役に立つ」

 

 そう言って杖を振るう。

 

「変身魔法も強制的に解除するからね」

「「うああああああっ!?」」

 

 仮面の男達が光に包まれ、変身魔法が解除される。

 

「クロノ、この……っ」

「こんな魔法教えてなかったんだがな……」

「一人でも精進しろと教えたのは君達だろう、アリア、ロッテ……」

 

 

 

 

 

 クロノはリーゼ姉妹を捕縛後移送、グレアム提督共々局員に監視させる事にした。

 そこでクロノはグレアム達から話を聞いていた。

 

「リーゼ達の行動は貴方の指示ですね、グレアム提督」

「違う、クロノ!」

「私達の独断だ、父さまは……」

「……ロッテ、アリア、いいんだ。クロノはもうあらかたの事を掴んでる、違うかい?」

 

 グレアムの問いにクロノは答えない。

 だがその沈黙は肯定とも受け取れた。

 クロノは喋りだす、今まで調べその末に掴んだ事を。

 そして最後に一言。

 

「見つけたんですね? 闇の書の永久封印の方法を。転生機能を持つ闇の書を封印するには、主ごと封印する必要がある…八神はやてが罪人になる前に封印を実行しなければならない。そう言う事ですね」

 

 グレアムは言う。

 両親に死なれ体を悪くしたはやてを見た時心は痛んだが運命だとも思ったと。

 はやての生活の援助をしていたのも永遠の眠りにつく前くらい幸せにしてやりたかったからだと。

 

「封印の方法は闇の書を主ごと凍結させて次元の狭間か氷結世界に閉じ込める、そんなところですね」

「そう、それならば闇の書の転生機能は働かない」

 

 これまでの闇の書の主達もアルカンシェルで蒸発させてきたりしてきた、それと何も変わらない。

 

「クロノ、今からでも遅くない、私達を解放して」

「違法だと分かっているのにみすみす自由にする訳には行かない」

「アンタの父さんだってそんな決まりのせいで死んだって言うのに! そんなに決まりが大事なのか!! このまま暴走して何もしなかったら星ごと撃ち抜く破目になる事位わかってるんだろ! アタシ達が何もしてなくたって、こんな悲劇がずっと続くだけだ! アンタはそれでもいいの!?」

 

 だがクロノは首を縦には振らなかった。

 

「その時点ではまだ闇の書の主は永久凍結をされるような犯罪者じゃない、違法だ」

 

 ロッテは食い下がる、だがそれはグレアムによって止められた。

 クロノは席を立つ。

 去り際にクロノはさらに言う、法以外にもそのプランには問題があると。

 凍結の解除はそう難しくない、どんなに守ろうと隠そうといつかは誰かが手にして使おうとするだろうと。

 それよりかは今進行している修復プランの方がよほど建設的だ、と

 

「現場が心配なので、すいません、一旦失礼します」

 

 そんなクロノをグレアムが呼び止めた。

 そしてアリアに言う。

 

「デュランダルを彼に」

 

 リーゼ姉妹はやや渋ったがやがてスッとクロノの前にそれを差し出した。

 

「どう使うかは君に任せる、氷結の杖、デュランダルだ」

 

 

 

 

 

「スレイプニール……羽ばたいて」

 

『Sleipnir』

 

 闇の書の意思が背中の羽をはためかせ空に羽ばたく。それが開戦の合図だった。

 

「全員、作戦通りいくで!」

 

 レイの掛け声で散開する。

 レイの作戦とは、まずは高機動で囲んで叩く、というものである。

 相手の出方が分からない以上対応しやすい状況を作る必要がある。

 それがレイの考えだった。

 手始めに左右からレイとあすかが金属棒と剣で接近戦を挑む。

 2合3合と打ち合う。

 そこへアルフとユーノのバインドが掛けられる。

 しかし、砕け、の一言でバインドは無残にも破られる。

 そこへなのはとフェイトの砲撃が放たれる。

 

『Plasma smasher』

「ファイア!」

『Divine buster, extension』

「シュート!」

 

 放たれる二つの魔力砲は勢いよく闇の書の意思へと迫る。

 だが、闇の書の意思は一切よけず、盾、の一言だけで展開された二枚の盾で防ぎ切った。

 そして攻撃へと移る。

 

「刃を以て、血に染めよ」

『Blutiger Dolch』

「穿て、ブラッディダガー」

 

 実体化するは血の色をした鋼の短剣。

 それらは闇の書の意思の360度周辺に出現したかと思うと一斉に放たれ高速で全員に迫る。

 しかし、それが届くことはなかった。

 

「目には目を、弾幕には弾幕を! 某メイド長用スペルカード発動や!」

「「幻夜『誰も知らないワンナイトラブ』!」」

 

 レイとアフームが同時にスペルカードを発動させる。放たれた弾幕が赤い短剣を弾いていく。

 

「弾幕の張りが甘い。近接も型がない。ということはやはりそうなるな」

「何故邪魔をする」

 

 闇の書の意思が問いかける。

 

「ん? 何故? そら決まっとるやろ。あんたが間違っとるから、助けなあかんもんがおるからや」

「そうか、邪魔をするならばお前も、ブラッディダガー」

『Blutiger Dolch』

 

 今度はレイの方向へ向けて短剣が放たれる。

 

「なんの! 弾幕ごっこで鍛えた俺のチョン避けを見るがええ!」

 

 それをレイは細かく動いてかわしていく。

 しかし1本だけ回避不能の短剣がある。

 

「「「「「「レイ(くん)!」」」」」」

 

 全員に悲鳴が上がる。レイに短剣が刺さる、その瞬間レイを光が包み込む。

 

「必殺の喰らいボムや、浄化『12人の怒れる清掃業者』!」

 

 掃除道具を模した弾幕が闇の書の意思に襲い掛かる。

 

「「「「「「何この技!?」」」」」」

 

 しかし、闇の書の意思は動ずることなく盾で防いでしまう。

 

「ノーカンや、ノーカン! 弾幕は避けんか!」

 

 レイがわめくも闇の書の意思は次の行動へと移った。

 

「咎人達に滅びの光を」

 

 浮かび上がるのは桜色の魔法陣。

 そして集まるは周囲の魔力達、ここにいる全員があの魔法を知っていた。

 その特徴的な輝き、魔力が集まっていく動作。

 

「まさか……」

「あれは……」

「……おいおい、そんなのアリか」

 

 誰もが絶句する。

 誰が予想しただろうか、他人の魔法を使えるなど。

 

「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ」

「スターライトブレイカー……!?」

 

 なのはの言葉の通りそれは間違いなくスターライトブレイカーだった。

 

「貫け、閃光」

「全員退避ーーー!!!」

 

 レイがあらん限りの大声で叫ぶ。

 その瞬間を待っていたかのように各々がめいめいの方へと逃げていく。

 スターライトブレイカーの射線にはいらないように気を付けながら。

 

「みんな、こんなに離れなくても」

「至近で喰らったら防御の上からでも落とされる。回避距離を取らなきゃ!」

 

 フェイトの実体験の籠った力説に全員が同意する。

 

「射線が俺の方に向いとるやないかーい!」

 

 残念なことにレイがターゲットのようだ。

 

「スターライトブレイカー」

「いややー! 死にとうないー!」

「ひどいの!」

「こうなったらあの技しかないわ!」

 

 レイが覚悟を決め、スターライトブレイカーに相対する。

 

「鬼面『オラオラオーラ』! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 

 レイは謎の凄味を発する。

 ただそれだけである。

 

「「「「「「口だけだー!」」」」」」

 

 全員防御を固めながらツッコむ。

 桜色の魔力法にレイが飲み込まれていく。

 その衝撃が全員の防御を削っていく。

 

「レイは!? どうなったの!?」

 

 アリサの声と共に煙が晴れる。

 そこにレイの姿はない。

 

「そんな……」

 

 すずかが悲痛な声を上げる。

 

「俺はここやー!」

 

 上空から声がする。

 見上げるとそこにはたんこぶをこしらえたレイが空を舞っている。

 

「「「「「「タンコブ1個ーーー!?!?!?」」」」」」

「本日2度目の喰らいボムや! 喰らえーッ! 沈没『タイタニック・ラブストーリー』!」

 

 空から船のような弾幕が降りてくる。

 闇の書の意思はそれを盾で受け止める。

 

「下からも喰らうがええ! 噴火『パニック・イン・ポンペイ』!」

 

 アフームが下から突き上げるように弾幕を放つ。

 それもまた盾で受け止められる。

 

「それを待っていた!」

 

 レイとアフームが闇の書の意思の懐に入り込む。

 

「「極悪奥義『苦巣愚離』!」」

 

 レイとアフームが闇の書の体をくすぐり始める。

 

「ッ! やめろッ!」

 

 集中を乱された闇の書の意思の盾は制御を失い、消え去る。

 そして弾幕が襲い掛かる。

 レイとアフームは避けながらなのはたちの元へと戻る。

 しかし、直撃したはずの闇の書の意思にダメージらしき形跡は見られなかった。

 

「「うそーん……」」

 

 落ち込むレイとアフーム。そこにエイミィから念話が入る。

 

『みんな、クロノ君から通信! 闇の書の主に……はやてちゃんに投降と停止を呼びかけてって!』

 

 その言葉に全員が顔を見合わせて頷く。

 やることは決まった。

 

「攻撃は無し! いつでも回避できるようにして呼びかけるように! 安心せい! 俺は暗黒面に落ちた友人への呼びかけ近畿大会ベスト64や!」

 

「「「「「「何その大会!?」」」」」」

 

「ちなみに妾はベスト32じゃ」

 

「「「「「「すごいの!? それ!?」」」」」」

 

「優勝は僕です」

 

「「「「「「ユーノ(君)が!?」」」」」」

 

 そして、念話で呼びかけ始める。

 

(はやてちゃん、それに闇の書さん止まってください! ヴィータちゃんを傷つけたの私達じゃないんです!)

(シグナム達と私達は)

「我が主はこの世界が、自分の愛する者達を奪った世界が悪い夢であってほしいと願った。我はただそれを叶えるのみ、主には穏やかな夢の内で永久の眠りを。そして愛する騎士達を奪った者には永久の闇を」

「闇の書さん!」

「お前も、その名で私を呼ぶのだな」

「ッ!!」

「下や!」

 

 レイの叫びと共に全員が宙に浮かび上がる。

 すると地面は割れ中からは触手が飛び出す。

 触手は全員の体に素早く巻き付くと締め上げる。

 

「それでもいい、私は主の願いを叶えるだけだ」

「願いを叶えるだけ? そんな願いを叶えてはやてちゃんは本当に喜ぶの!? 心を閉ざして何も考えず主の願いを叶えるための道具でいて貴女はそれでいいの!?」

「我は魔導書、ただの道具だ」

 

 だがなのはは食い下がる。

 誰もが見逃さなかった。

 闇の書の意思が涙を流しているのを。 

 

「この涙は主の涙、私は道具だ。悲しみなど……ない」

「「バリアジャケット、パージ!」」

『『Sonic form』』

 

 フェイトとアリシアがバリアジャケットをパージし、その余波で絡まっていた触手が吹き飛ぶ。

 

「「「秘技『縄抜けマジック』!」」」

 

 レイ、アフーム、ユーノは縄抜けの要領で触手から抜け出す。

 

「悲しみなんてない……? そんな言葉をそんな悲しい顔で言ったって誰が信じるもんか!」

「そうよ、アンタには間違いなく心があるはずよ……ただの道具なんかであるはずがない」

「そうだよ、貴女にも心があるんだよ。悲しいって言っていいんだよ!? 貴女のマスターは、はやてちゃんはきっとそれに応えてくれる優しい子だよ!」

「だからはやてを解放して、武装を解いて! お願い」

 

 暫しの沈黙が場を制する。

 答えが返って来るまで全員は待ち続けた。

 しかし、突如として地鳴りが響き、火柱が上がる。

 

「早いな、もう崩壊が始まったか。私もじき意識を無くす、そうなればすぐに暴走が始まる。意識のあるうちに主の望みを……叶えたい」

『Blutiger Dolch』

 

 その言葉と共に闇の書が光を放つ。

 そして闇の書の意思が手を構えた瞬間、なのは達の周囲に血の色をした鋼の短剣が出現する。

 

「闇に、沈め」

 

 その言葉を放った瞬間、短剣が射出され、大きな爆発を起こした。

 

「プロミネンスウォール!」

『Prominence Wall』

 

 しかし、それで沈むわけがなかった。

 アリサの防御で全員無事である。

 

「この……駄々っ子!」

『Sonic drive』

「言う事を……」

『Ignition』

「聞けっ!!」

「フェイト! くっ!!」

「お前達も我が内で眠るといい」

 

 次の瞬間、光が全員を飲み込もうとする。

レイが、アフームが、あすかが、他の面々を突き飛ばしたことで彼女たちは無事だった。

しかし彼らは闇の書の意思に飲み込まれてしまう。

 

「あすか!」

「レイくん!」

「アフーム!」

「全ては…安らかな、眠りのうちに」

 

残された面々はただ名前を叫ぶことしか出来なかった。




 もう少しで、もう少しで、オリジナルストーリー編が始まる!
 多分ですが、相当長くなることは確実です。
 皆さん、覚悟してください。
 相当な原作改編やオリジナル設定があります。
 何ていうか、我ながらやりすぎた感が凄いぞ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 クリスマス・キャロル

 前回のあらすじ。
 タンコブ。


 レイ達が消え、固まっていたなのは達だが、すぐさまエイミィに確認をとる。

 

「っ! エイミィさん!」

(状況確認! 4人のバイタル、まだ健在!闇の書の内部空間に閉じ込められただけ。助ける方法、現在検討中!)

 

 エイミィの報告に少しだけ安心した顔をするなのは達だが顔を引きしめ闇の書を睨む。

 

「我が主も、あの子達も、覚めることない夢の内に終わりなき夢を見る。生と死の狭間の夢、それは永遠だ」

「永遠なんて無いよ……」

 

 闇の書の言葉になのはポツリと呟く

 

「皆変わってく、変わっていかなきゃいけないんだ。私も、貴方も!」

 

 闇の書は何も答えず、そのまま戦いが再開された。

 

 

 

 

 

 闇の書に取り込まれた四人は何もない空間を漂いながら、まどろんでいた。

 彼らは今、夢の中にいる。

 幸せな日常の夢に囚われようとしているのだ。

 その様子を闇の書の意思ははやてのそばで眺めている。

 彼女にはハジケが解らぬ。

 それ故、レイが口角を吊り上げたことに気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 海鳴市近海の海上、闇の書と戦うなのは達は苦戦を強いられていた。

 

(リンディさん。戦闘地を市街地から海の上に移しました。市街地の火災をお願いします!)

(大丈夫。今、災害担当の局員が向かってるわ)

(それから闇の書さんは、駄々っ子ですが何とか話は通じそうです。もう少しやらせてください)

 

 なのはは闇の書に目を離さないよう見ながらリンディとの連絡をとるとレイジングハートを持ち直す。

 

「いくよ!レイジングハート」

『Yes. My master. Reload』

 

 空になったマガジンを取り外し新たなマガジンを装填する

 

「マガジン残り3本…カートリッジ18発。スターライトブレイカー、撃てるチャンスあるかな?」

『I have a method. Call me Exelion mode.』

「ダメだよ!アレは本体の補強が済むまで使っちゃダメだって…私がコントロールに失敗したら、レイジングハート。壊れちゃうんだよ!?」

 

 レイジングハートの提案に戸惑うなのは。

 だがレイジングハートの意思は変わらない。

 

『Call me. Call me, my master』

 

 迷っていたなのはの顔が覚悟を決めると闇の書が話しかける。

 

「お前も、もう眠れ」

「何時かは眠るよ。でも、それは今じゃない。はやてちゃんも蒼馬くんもあすかくんもレイくんもアフームちゃんも助ける……それから貴方も!」

 

 レイジングハートから空薬莢が排出される

 

「レイジングハート。エクセリオンモード…ドライブ!」

『Ignition』

 

 レイジングハートの形状が変化し、より槍に近い形態に変わる

 

「繰り返される悲しみも、悪い夢も。きっと終わらせられる!」

『Photon lancer, genocide shift.』

 

 闇の書の周りに無数の魔力弾が生み出され2人は睨み合い、次の瞬間、空に無数の光が飛び交った

 

 

 

 

 

(眠い……眠い……)

 

 少女、八神はやてはそう思いながらもそっと目を開ける。

 すると目の前にいたのは、見た事のない長い銀髪と赤眼が特徴的な綺麗な女性がいる。

 

「そのままお休みを、我が主。貴女の望みは全て私が叶えます。眼を閉じて心静かに夢を見てください」

(私は……何を望んでたんやっけ……)

「夢を見る事、悲しい現実は全て夢となる。安らかな眠りを」

(そう……なんか?)

「私の本当の……望みは……」

 

 はやてはぼうっとした頭で必死に考える。

 自分の望みは本当にそんなものだったかを。

 

「私が……欲しかった幸せ」

「健康な体、愛する者達とのずっと続いていく暮らし、眠ってください、そうすれば夢の中で貴女はずっとそんな世界にいられます」

 

 その言葉にはやてはゆっくりと首を横に振る。

 

 そしてスッと眼を閉じ開いた時には先ほどまでボーッとしていたその瞳には光が灯っていた。

 その瞳で真っすぐ前を見据えながらはやては言う。

 

「せやけど……それはただの夢や」

「ただの夢でも、幸せであることは変わりません。ご覧ください」

 

 そういうと女性は3つのモニターを表示させる。

 それは3人の夢だ。

 

「彼らは安らかに、幸せを享受しています。それの何が問題なのでしょう」

 

 あすかの夢は家族の夢だった。

 はやてがいる、エストがいる、シグナムがいる、ヴィータがいる、シャマルがいる、ザフィーラがいる、そして両親がいる。

 家族と過ごせることがあすかの幸せだった。

 アフームの夢の舞台はなんともムーディーな空間だった。

 そこには三角木馬やら、鞭やらが散乱している。

 アフームはベッドの上で縛られ、目隠しされ、ギャグを噛まされていた。

 そこに人影が現れる。

 レイが鞭を手にしてアフームに迫る。

 

「ああ……、夢のような心地じゃ……」

「変態やーーー!!!」

 

 はやてが叫ぶ。

 

「何ですか! この娘の夢は! まごうことなき変態ではないですか!」

 

 女性が叫びながらアフームのモニターを縮小する。

 

「さて、最後の夢は」

 

 レイのモニターが拡大される。

 

「あの~、バレーやりたいんですけど」

「「意味わからーん!」」

 

 ゾンビがバレーボールをしているではないか。

 

「お前ら! 大会まであと1週間だ!」

「「「「「「監督!」」」」」」

 

 レイが監督としてゾンビたちの前に現れる。

 

「監督、森田の腕が取れました!」

「セロハンテープでくっつけとけ!」

「「セロテープで!?」」

「監督、川澄の首が取れかけてます!」

「ホッチキスはあるか!」

「「ホッチキス!?」」

「って、何やこの夢はーーー!!!」

「全くや!」

 

 レイがゾンビを火炎放射器で一掃する。

 

「よくも人の夢を覗いてくれたな! この落とし前どう責任つけてくれんねん、おお!?」

「ガラ悪ッ!」

「なんで、わかるのですか!?」

「今そっち行きますさかい、首洗って待っておくれやす!」

「なぜ舞妓はん!?」

「まさか!? 夢から覚めるなど、しかもここに来るなど不可能だ!」

 

 しかし、レイが懐から解放者の鍵(Remorter’s Key)を取り出し、かざすとモニターがドアの様に開き、レイがその姿を現す。

 

「来ちゃった♡」

「嘘ぉ!」

 

 銀髪の女性が取り乱すように叫ぶ。

 

「さて、こうして顔を合わせるんは初めてか? 闇の書、いや、夜天の魔導書」

「どういうことや? 話が見えんのやけど」

 

「はやては何も知らんかったな。OK、かいつまんで説明するとやな、闇の書は正式名称を夜天の魔導書というんや。ほんで歴代の主の誰かがプログラム弄った所為で闇の書という最悪の魔導書が完成したわけや。ほんで俺はそれを直そうと奮闘中やったんやけど」

「闇の書が起動してしまった、という訳やな」

「ビンゴ。それで、捉えられ、先程まで夢を見させられていたんやけど、俺の道具でここに来たっちゅう訳や」

「は~、ようわからんけど凄いわ」

「あなたは一体何をしにしたのですか、何故邪魔をするのですか」

 

 銀髪の女性がレイに問いかける。

 

「邪魔も何も、俺はただ地球を守りたいだけ、闇の書を夜天の書に戻したいだけや。それをあんたが邪魔しとんやろが」

「私はただ主の願いをかなえるだけ。邪魔なのは貴様の方だ」

「私、こんなん望んでない。貴女も同じはずや! 違うか?」

 

 はやてが叫ぶ。

 

「私の心は騎士達の感情と深くリンクしています、だから騎士達と同じように私も貴女を愛おしく思います。だからこそ貴女自身を殺してしまう自分自身が許せない、自分ではどうにもならない力の暴走、貴女を侵食する事も暴走して貴女を喰らい尽くしてしまう事も止められない」

「……覚醒の時に今までの事少しは分かったんよ、望むように生きられへん悲しさ、私にも少しは分かる、シグナム達と同じや。ずっと悲しい思い、寂しい思いしてきた。せやけど忘れたらあかん」

 

 そう言ってはやては女性の頬に手を伸ばし優しく触れる。

 

「貴女のマスターは今は私や、マスターの言う事はちゃんと聞かなあかん」

 

 そう言うと二人の足元に魔法陣が浮かび上がる。

 さらにはやては続けた。

 

「名前をあげる。もう闇の書とか呪いの魔導書なんて言わせへん。私が呼ばせへん」

 

 女性の眼に涙が溢れ零れ落ちる。

 

「私は管理者や、私にはそれが出来る」

「無理です……自動防御プログラムが止まりません、管理局の魔導師が戦っていますがそれも……」

「あきらめんな! 不可能など理論さえ示せば可能になる!」

「……止まって」

 

 はやては小さくそう呟いた。

 魔法陣の光がさらに強くなる。

 すると現実世界の方でも異変が起こった。

 

 

 

 

 

「何……?」

 

 先ほどから闇の書の意思の様子がおかしい事に気づくなのはたち6人。

 

「外の方、えっと管理局の方! そこにいる子の保護者、八神はやてです!」

「「はやてちゃん!?」」

「「「「はやて!?」」」」

「え、その声はすずかちゃんにアリサちゃん、なのはちゃんにフェイトちゃんにアリシアちゃん、かな?」

「うん、そうだよ。色々あって私達闇の書さんと戦ってるの!」

「ごめん、みんな。何とかその子止めてあげてくれる? 魔導書本体からはコントロールを引き離したんやけど、その子が止まらないと管理者権限が使えへん。今そっちに出てるのは自動行動の防御プログラムだけやから」

 

 そこにユーノとアルフが飛んでくる。

 ユーノは告げる、現状残されたたった一つのシンプルな策を。

 

「みんな! 分かりやすく伝えるよ、今できる事をみんなが出来ればはやては外に出られる」

 

 三人は驚きながらも大人しく言葉の続きを待つ。

 

「どんな方法でもいい、目の前の子を魔力ダメージでぶっ飛ばして! 全力全開、手加減無しで!」

「流石ユーノ君、分かりやすい!」

『It's so』

「うん、シンプルでいいね」

「ええ、それなら何とかなりそう」

 

 全員が杖を構える。ありったけの力をぶつけるために。

 

「エクセリオンバスター、バレル展開、中距離砲撃モード!」

『All right. Barrel shot』

 

 レイジングハートから衝撃波が放たれる。

 それに当たった瞬間、闇の書の意思の体を不可視のバインドが縛り上げた。

 

「エクセリオンバスター、フォースバースト!」

「バルディッシュ!」

「グレイブ!」

『『Zamber form』』

「サンシャインホープ! プロミネンスでいくわよ!」

『All light』

「ムーンライトドリーム、でっかいの行くよ!」

『O,K』

 

 全員それぞれが必殺の一撃の構えを取る。

 魔力を込める、ありったけの魔力を。

 ユーノに言われた通り全力全開の一撃を加えるために。

 それぞれの魔力はまるで比例するかのように高まっていく。

 

「ブレイクシュートッ!!」

「「雷光一閃ッ!!」」

「プロミネンススマッシュ!」

「フルムーンバースト!」

 

 それらは全く同じタイミングで一気に放たれた。

 5つの魔力は途中で混じり一つとなり強大な魔力砲となりて周囲を光で包み込んだ。

 

 

 

 

 

「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る。強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール――リインフォース」

「新名称リインフォース認識、管理者権限の使用が可能になります……ですが防御プログラムの暴走は止まりません、管理から切り離された膨大な力がじき暴れだします」

「んー……まぁ何とかしよ」

「そのために俺らがおるんやからな」

 

 はやての前に一冊の本が出現する。

 それをはやては優しくそして愛おしそうに抱きしめた。

 

「行こか、リインフォース」

「はい、我が主」

 

 こうしてはやては光の中に包まれていった。

 

 

 

 全力全開の一撃を放った後、7人は宙に浮かびながら様子を見ていた。

 すると橙の魔方陣が現れ、そこからとあすかが出てくる。

 

「マスター!」

 

「心配かけたな! エスト!」

 

 しかしレイとアフームはまだ出てこない。

 

『皆気を付けて! 闇の書の反応まだ消えてないよ!』

 

 エイミィから告げられた案の定の言葉を機にその場にいる者は一斉により警戒を強める。

 すると海の中から巨大な闇としか言いようのない何かが吹き出してきた。

 距離を取る五人、そこに再度通信が入った。

 

『皆、下の黒い淀みが暴走が始まる場所になる。クロノ君が着くまで無闇に近づいちゃ駄目だよ』

 

 戦いは終局へと確実に近づいていた。




 この作品のヒロインであるアフームちゃんはドMです。
 真っ当な人格を期待しないでください。
 この作品の中心人物である、金剛=ダイヤモンド兄妹はどっか頭のねじが外れているので付き合っていられますが、まともな人には劇物みたいな存在です。
 そんなアフームちゃんもいずれは母になります。
 最も、子供達も両親の影響を受けたせいか、真っ当には育たないようで……。
 ていうか、そこまで書くのにどれくらいかかるだろう……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 悪夢が終わるとき

 前回のあらすじ。
 八神はやて、復活ッ! 八神はやて、復活ッ! 八神はやて、復活ッ! 八神はやて、復活ッ! 八神はやて、復活ッ! 八神はやて、復活ッ! 八神はやて、復活ッ!


 光の中、はやてと夜天の魔導書は浮かんでいた。

 

「管理者権限発動」

 

「防衛プログラムの進行に割り込みをかけました、数分程度ですが暴走開始の遅延が出来ます」

 

「うん、それだけあったら十分や」

 

 はやての周囲に4色の光が発生する。

 

「リンカーコア復帰、守護騎士システム破損修復」

 

 その言葉を口にした瞬間四色の光はその強さを増す。

 そして近場のビルの屋上に四つの魔法陣が浮かび上がった。

 そこから出てくるのは守護騎士達。

 さらにはやては言葉を紡ぐ。

 

「おいで、私の騎士達」 

 

 突然眩い光が空に昇り海を穿った。

 そして気が付いた時には光の球体の周囲に4人の守護騎士が立っていた。

 

「我ら夜天の主の下に集いし騎士」

「主ある限り我らの魂、尽きる事無し」

「この身に命ある限り、我らは御身の下にあり」

「我らが主、夜天の王、八神はやての名の下に」

 

 その言葉を受けながら光の中ではやては言う。

 

「リインフォース、私の杖と甲冑を」

「はい」

 

 はやての体に服が纏われ目の前には一本の杖が出現する。

 はやてはその杖を掴んだ。

 すると光の球体は一瞬で砕け散る。

 

「はやてちゃん!」

 

 その姿を見て喜びの声をあげるなのは。

 そして宙に浮かぶなのは達を見て微笑みを浮かべるはやて。

 そこから杖を高々と掲げる。

 

「夜天の光よ、我が手に集え。祝福の風リインフォース、セーット・アップ!!」

 

 その言葉を合図としてはやての服装はさらに変化を遂げる。

 それに加え帽子が追加され背中には漆黒の三対の翼。

 髪は白銀色に変化していた。

 この姿こそが五人目の騎士リインフォースと融合したはやての新たな姿。

 夜天の魔導書の主と守護騎士がここに揃った。

 その後魔法陣の上ではやてと守護騎士達は向かい合う。

 

「……はやて」

「……すみません」

「あの……はやてちゃん、私達」

 

 各々が謝罪の言葉を述べる、述べようとする。

 そんな中ではやては笑顔でこう言った。

 

「ええよ、皆分かってる。リインフォースが教えてくれた、そやけど細かい事は後や。今は」

 

 はやてはさらに笑みに優しさを込める。

 

「お帰り、皆」

 

 その言葉だけでヴィータは感極まって泣きはやてに抱き着いた。

 もう会えない、そう思っていた。

 だが会えた、こうして再び家族が揃う事が出来た。

 他の騎士達もそれぞれがそれぞれの形で噛みしめる、こうして再び優しい主の下に返ってこれた喜びを。

 

「あっ、レイくんとアフームちゃんは!?」

 

 なのはが声を上げる。

 その瞬間、銀色の魔方陣が展開される。

 

「やっと出てきた!」

 

 すずかの声と共に2つの人影が現れる。

 

「ふわぁ~あ、まだ眠いプリン……」

「姫、最終決戦です。このガルナーザ、微力ながら最後まで助力しますぞ」

「「「「「「誰!?」」」」」」

 

 現れたのは、ファンシーな格好をした少女と、筋骨隆々の男であった。

 

「うん、いくよ、レイレイ、フィフィ」

「「ピキューピキュー」」

「「「「「「いた! なんかマスコットっぽいポジションでいた!」」」」」」

 

 レイとアフームはなんか妖精っぽい感じで姫につき従っていた。

 

「……水を差してしまうようですまないが、時空管理局執務官、クロノ・ハラウオンだ」

 

 クロノは言う。

 時間がないので簡潔に説明させてもらう、と。

 その場にいる面々はただジッとその言葉を聞く。

 

「あそこの黒い淀み、闇の書の防衛プログラムが後数分で暴走を開始する。僕らはそれを何らかの方法で止めないといけない」

 

 そこで、とクロノは停止のプランは現在二つあると提示する。

 

「一つ、極めて強力な氷結魔法で停止させる」

 

 そう言って取り出したのはデュランダル。

 クロノがグレアム達から託されたものだ。

 

「二つ、軌道上に待機している艦船アースラの魔導砲、アルカンシェルで消滅させる」

 

 クロノは問う。

 これ以外に何か良い方法はないかと。

 闇の書の主とその守護騎士達に意見を求めたのだ。

 そこにシャマルが手を挙げる。

 

「えーっと、最初のは少し難しいと思います。主の無い防衛プログラムは魔力の塊みたいなものですから」

 

 さらに他の守護騎士達が続ける。

 

「凍結させてもコアがある限り再生機能は止まらん」

「アルカンシェルも絶対ダメ! こんなところでアルカンシェルを撃ったらはやての家までぶっ飛んじゃうじゃんか!」

 

 その言葉を聞いた一部の面々はぎょっとする。

 強力なものだとは聞いていたがそこまでの威力を有しているとは想像していなかった。 なのははユーノに問う。

 

「そ、そんなに凄いの……?」

 

「発動地点を中心に百数十キロ範囲の空間を湾曲させながら反応消滅を起こさせる魔導砲……って言うと大体分かる?」

「あの、私もそれ反対!」

「同じく、絶対反対!」

「反対に決まってるわ!」

 

 なのは達が反対に回る。

 それも当然だ、規模からしてこんなところでアルカンシェルをぶっ放せば海鳴全体が被害に遭いかねない。

 そうすれば全部が消える、学校も家も大切な人達も。

 それを許容できる者なんて誰一人いなかった。

 

「僕も艦長も使いたくないよ、でもあれの暴走が本格的に始まったら被害はそれより遥かに大きくなる。暴走が始まると触れたものを侵食して無限に広がっていくから」

 

 ポク、ポク、ポクと木魚の音がしだす。

 みると、一休さんの格好をしたレイが思案しているではないか。

 木魚を叩いているのはアフームだ。

 

「あの、何をしているのかしら」

 

 シャマルが問いかける。

 

「見ればわかるであろう。レイは今この問題を解決しようとしておるのじゃ」

「解決って、たった一人でアイデアが出るわけ……」

 

「IQ216の天才物理学者を舐めるでないわ! 直にアイデアが降りてくるであろう!」

 

 その瞬間、チーンと鐘の音が鳴る。

 レイは変顔をしている。

 

「「「「「「何その顔!? ひらめいたの!?」」」」」」

 

『皆! 暴走臨界点まで後十五分切ったよ!』

 

 エイミィから通信が入る。

 

「レイ! 策があるなら早く言え!」

 

 クロノがレイに策を話すよう促す。

 

「まあまあ執務官殿、慌てない、慌てない。一休み、一休み」

「言ってる場合か!」

「もう、せっかちなんやから。策といっても大したもんやない。防衛プログラムを転移できるサイズまで削って、それを宇宙空間に転移、そのままアルカンシェルでドカーン。アルカンシェルの破壊原理が、急激な酸化現象ではなく空間縮退による原子崩壊だからこそできる策や。エイミィはん、当然いけるやろ?」

(フッフッフッ、管理局のテクノロジー舐めてもらっちゃあ困りますなー。撃てますよー、宇宙だろうが何処だろうが!)

「ならば良し! あとは障壁の強度を確かめるだけ! いっけー!」

 

 そういうとレイは魔力弾を蹴り飛ばす。

 ガン、と音を立てて魔力弾が障壁にぶつかる。

 障壁に罅が入る。

 

「成程、必殺技1発分か。分担すればいけそうやな!」

 

 レイがにやりと口角を上げる。

 

「なんとまぁ……相変わらずものすごいと言うか」

「計算上では実現可能ってのがまた怖いですね……。クロノ君、こっちの準備はオッケー!暴走臨界点まであと10分!」

 

 作戦の内容を聞き呆れた声を出すリンディ。

 エイミィも同意しつつクロノに残り時間を警告する。

 

「実に、個人の能力頼りでギャンブル性の高いプランだが、まぁ……やってみる価値はある!」

「防衛プログラムのバリアは、魔力と物理の複合4層式。先ずはソレを破る!」

「バリアを抜いたら本体に向けて私達の一斉砲撃で、コアを撃つ」

「そしたらユーノ君たちの強制転移魔法でアースラの前に転送!」

「最後はアルカンシェルでプログラムを消し飛ばす」

「OK! 策は成った。後は実行するだけや。シャマルはん、進行役をお願いします。この流れの通りに進めて下さい」

 

 そんな中クロノはひっそりとグレアム提督に映像付きで現場の状態を伝える。

 

「提督、見えますか?」

『あぁ……よく見えるよ』

「闇の書は呪われた魔導書でした、その呪いはいくつもの人生を喰らいそれに関わった多くの人の人生を狂わせてきました、あれのおかげで僕も母さんも、あれに関わった多くの被害者遺族もこんなはずじゃない人生を進まなきゃいけなくなった、それはきっと貴方もリーゼ達も……」

 

 クロノはデュランダルを取り出す。

 

「失くしてしまった過去は変える事は出来ない」

『Start up』

 

 デュランダルはカード形態から杖へと姿を変える。

 クロノはそれを決意を胸に強く握りしめた。

 

「だから……今を戦って未来を変えます!」

『暴走開始まで後二分!』

 

「あ、みんな」 

 

 突然声をかけられてなのは達は一斉にはやての方を向く。 

 

「シャマル」

「はい、みなさんの治療ですね……クラールヴィント、本領発揮よ」

『Ja』

「静かな風よ、癒しの恵みを運んで」

 

 暖かく優しい光が9人を包み込んだ。

 するとあっという間に傷や受けたダメージが無くなっていった。

 

「湖の騎士シャマルと風のリング、クラールヴィント、癒しと補助が本領です」

「凄いです」

「ありがとうございます、シャマルさん」

「助かります、これならまだまだ行けそうだ」

「これで成功確率が上がるな」

 

 アルフやユーノ、ザフィーラもまた気合を入れる。

 

「アタシ達はサポート班だ、あのウザいバリケードを上手く止めるよ」

「うん!」

「あぁ」

 

 そうこうしているうちに海から闇の柱が吹き出し始めた。

 

「……始まる」

 

「夜天の魔導書、呪われた闇の書と呼ばせたプログラム。闇の書の闇……」

 

 柱が消える。と同時に黒い淀みは大きく膨れ上がった。

 やがて淀みは膨らみ過ぎた泡のように割れ中から怪物が飛び出す。

 その姿は一言で言えば異形、蒐集した生物の特徴があちらこちらから飛び出しており、生物としての形を成していない。

 

「チェーンバインド!」

「ストラグルバインド!」

「縛れ、鋼の軛!」

 

 三人がかりで周囲の触手を一掃する。

 痛いのか、それとも怒っているだけか分からないが闇の書の闇は吠えた。

 

「さらに動きを封じるで! アフーム、合わせぃ!」

「わかっておるわ!」

「「蜘蛛『真冬のハングリースパイダー』!」」

 

 網が黒いよどみ近くの触手を根元から捕らえ、動きを封じる。

 

「ちゃんと合わせろよ、高町なのは!」

「ヴィータちゃんもね!」

「鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン!」

『Gigantform』

 

 グラーフアイゼンのサイズが一回り以上大きくなる。

 ヴィータはそれを振り回す。

 

「轟天爆砕! ギカントシュラーク!!」

 

 さらに振り下ろす瞬間、そのサイズは闇の書の闇とほぼ同等にまで巨大化した。

 ぶつかり合う障壁とグラーフアイゼンだがそう拮抗する事なく障壁は砕け散る。

 まずは1枚。

 

「高町なのはとレイジングハート・エクセリオン……行きます!」

『Load cartridge』

 

 足元に桜色の魔法陣が浮かび上がる。

 その状態でレイジングハートを高々と掲げるなのは。

 そして光の翼を生やしたレイジングハートを構えた。

 

「エクセリオン……バスター!!」

『Barrel shot』

「ブレイク……シュートッ!!」

 

 桜色の魔力砲が放たれる。

 魔力砲はなのは目掛けて放たれた触手も巻き込みながらバリアに炸裂。

 音を立てて2枚目の障壁が砕かれる。

 

「次、シグナムとテスタロッサ姉妹!」

「剣の騎士シグナムが魂、炎の魔剣レヴァンティン……そのもう一つの姿」

『Bogenform』

 

 レヴァンティンの姿が変わっていく。

 剣でも蛇腹剣でもないもう一つの姿、それは弓だった。

 シグナムは魔力の弦を引く。

 

「翔けよ、隼!!」

『Sturmfalken』

 

 矢のように放たれる刃。

 それは障壁へと一直線に向かっていき、大きな爆発を起こす。

 それと同時に3枚目も砕け散った。

 

「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュ・アサルト……行きます!」

 

 金色の魔法陣が浮かび上がる。

 まずは一閃で触手を粉砕する。

 

「撃ち抜け、雷神!」

『Jet Zamber』

 

 長々と伸びた魔力刃が障壁と衝突し切り裂く。

 

「私の番だね! 行くよ、グレイブ・アサルト!」

『Jet Zamber』

 

 触手が生えるよりも早く、金色の魔方陣と共にアリシアの魔力刃が5枚目の障壁を切断する。

 

「次、あすかくんとアリサちゃんとすずかちゃん!」

「いくでエスト、ユニゾンや!」

 

 あすかとエストがユニゾンして、あすかの髪に橙色のメッシュが入る。

 

「いくで、ダブル・タイフォーン!」

 

 あすかの両手にそれぞれ握られたバッシュとダッカスがうなりを上げて風を纏った回転する衝撃の刃を放つ。

 回転は交差し、6枚目の障壁を突き破る。

 

「次はあたしの番ね、サンシャインホープ・ブレイズ!」

 

 アリサが掲げた弓に不死鳥を模した炎が現れる。

 

「行きなさい、フェニックスバースト!」

 

 不死鳥が障壁に衝突する。

 火の粉と共に障壁が割れていく。

 

「行くよ、ムーンライトドリーム・フロスト!」

 

 すずかが構えた楯の周囲を冷気が渦を巻く。

 

「ブリザードスマッシュ! 行けー!」

 

 氷の魔力と吹雪の砲撃が最後の障壁を突き破る。

 ところどころ闇が凍り付いている。

 闇は触手からの砲撃で反撃を試みようとする。

 

「盾の守護獣ザフィーラ、砲撃なんぞ撃たせん!」

 

 ザフィーラの放つ魔力の刃が触手達を次々と突き刺していく。

 

「はやてちゃん!」

「彼方より来たれ、やどりぎの枝、銀月の槍となりて、撃ち貫け」

 

 はやての足元に浮かぶは白い魔法陣。

 周囲に浮かぶは七つの光。

 

「石化の槍、ミストルティン!」

 

 光は順番に放たれ闇の書の闇を穿つ。

 すると突き刺さった部分から徐々に石化が始まっていく。

 そして人型の部分が石化し崩れ去った瞬間、闇の書の闇はまた形を変えていく。

 これではキリがない、そう思えるが攻撃が通っているのは間違いなかった。

 

「レイくん! アフームちゃん!」

 

「「任された! 凍結『永久凍土(アイスバーン)』!」」

「俺さー、この前クラスの女子からー、木村拓哉に似てない、て言われてさー」

「妾もー、工藤静香に似てるって言われたー」

「「お似合いじゃねー」」

 

 その瞬間、世界が凍った。

 闇の書の闇もその動きを止めている。

 

「「「「「「凍ったーーー!!! イヤ確かに寒かったけども!」」」」」」

「……行くぞ、デュランダル」

『OK, Boss』

「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて永遠の眠りを与えよ……凍てつけ!」

『Eternal Coffin』

 

 空気が瞬時に冷え海が凍っていく。

 それに合わせて闇の書の闇も凍っていく。

 だが、闇の書の闇はまだ動く。

 氷を突き破り変形して暴走を繰り返す。 

 

「行くよ、フェイトちゃん、アリシアちゃん、レイくん、アフームちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、あすかくん、はやてちゃん、」

「「「「「うん!」」」」」

「あぁ!」

「「うむ!」」

「全力全開! スターライト……」

「「雷光一閃! プラズマザンバー……」」

「完全燃焼! インフェルノ……」

「絶対零度! スノーストーム……」

「俺だけの剣技! トリニティ・タイフォーン……」

「「これがラストスペル! 完全無欠『ブリリアント・ヘキサグラム……』」

「ごめんな……お休みな。響け終焉の笛、ラグナロク」

「「「「「「ブレイカー!!!」」」」」」

 

 10人の砲撃がまとまり、一つの砲撃となって闇の書の闇に迫る。

 そして大きな光の柱を上げた後に巨大な爆発を起こした。

 やるべき事は全てやった。

 あとは仕上げだけである。

 

「本体コア露出、捕まえた!」

「長距離転送!」

「目標軌道上!」

「「「転送!!」」」

 

 コアが軌道上へと転送されていく。

 そして軌道上では既にアースラがアルカンシェルを展開して待ち構えていた。

 既にキーは差し込んである。

 

「命中確認後、反応前に安全距離まで退避します、準備を!」

「「「了解!」」」

「アルカンシェル――発射!!」

 

 リンディのその言葉と同時にアルカンシェルは放たれた。

 光が闇の書の闇を貫く。

 そして皆が空を見る中、一瞬の静寂の後、大きな爆発を起こした。

 

「完全消滅を確認、再生反応ありません!」

「準警戒態勢を維持、もう暫く反応区域を観測します」

「了解、ふぅ……」

 

 それから暫くして地上にいる面々にも通信が入る。

 エイミィからだった。

 

『というわけで、現場の皆、お疲れさまでした! 状況無事に終了しました!』

 

 とりあえず一同はふぅと息を吐く。

 

「……成功した。俺たちの勝利やー!」

 

 レイが叫ぶ。それにつられて周りから歓声が上がり始める。その時だった。

 

「はやて!」

 

 ヴィータの声が響く。

 何事かと思いそちらに目を向けると、はやてが気を失っていた。




 次回、第1部最終話!
 みんなお待ちかねの原作ブレイクの時間だ!
 レイが起こす奇跡を刮目せよ!
 そして感想を寄越せ!
 みんなー! オラに感想を書いてくれー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 Are you ready?

 前回のあらすじ。
 最終決戦! 完! でももうちょったけ続くんじゃ。


 一旦アースラに戻った一同。

 はやてを寝かせるとクロノがなのはたちに話しかけてきた。

 

「夜天の書の破壊?」

「どうして!? 防御プログラムはもう破壊したはずじゃ……」

「闇の書……夜天の書の管制プログラムからの進言だ」

 

 クロノが答える。

 

「管制プログラムってなのは達が戦ってた?」

「防御プログラムは無事破壊出来たけど夜天の書本体がすぐにプログラムを再生しちゃうんだって」

 

 ユーノはさらに続ける。

 今度ははやてを侵食する可能性が高い、夜天の書が存在する限りどうしても危険は消えないと。

 そこからさらにクロノが言う。

 

「だから闇の書が……防御プログラムが消えている今の内に自らを破壊するよう申し出た」

「そんな……」

「でもそれじゃシグナム達も……」

「いや、私達は残る」

 

 そこに現れたのはシグナム、シャマル、ザフィーラ。

 

「防御プログラムと共に我々守護騎士プログラムも本体から解放したそうだ」

「それでリインフォースからなのはちゃん達にお願いがあるって」

「お願い……?」

 

 リインフォースからのお願いを聞いたレイは激高した。

 

「直す方法ならある! 俺の頭脳があれば夜天の書を完全復活できることなど容易いことや! それでもか! それでも破壊されたいんか!」

「……これ以上主はやてに負担をかけるわけにはいかない。それに、確実に復活できるわけではないのだろう? それよりかは確実なはずだ」

「……チッ、勝手にせい、この自殺志願者が。俺は寝る」

 

 そういうとレイはずかずかと仮眠室へと歩いて行った。

 誰もがそれを眺めているしかなかった。

 

 

 

 

 

 雪が降る高台でリインフォースは一人待っていた。

 そこにザッザッと雪を踏みしめる音が7つ。

 なのは、アリサ、すずか、フェイト、アリシア、アフーム、ユーノの7人だ。

 

「あぁ、来てくれたか」

 

 リインフォースは優しい笑顔で出迎える。

 

「リインフォース、さん」

「そう呼んでくれるのだな」

「……貴女を空に還すの私達でいいの?」

「お前達だから頼みたい、お前達のおかげで私は主はやての言葉を聞く事が出来た。主はやてを食い殺さずに済み騎士達も生かす事が出来た。感謝している、だから最後はお前達に私を閉じてほしい」

 

 そう言いながらリインフォースはキョロキョロと周囲を見回す。そして一つだけ尋ねて来た。

 

「あの少年は?」

「レイ君は……」

「レイなら来ぬよ。声をかけても返事すらせんかった」

「そうか……彼にも感謝の気持ちは伝えたかったのだがしょうがないな」

「あの……はやてちゃんとお別れしなくていいんですか?」

 

 その言葉を聞いた時、リインフォースの眼が揺らいだ。

 

「主はやてを……悲しませたくないんだ」

 

 大切だからこそ、悲しませたくないからこそ何も言えず消えたい。

 それがリインフォースの願い。

 主を大切に思うが故の彼女なりの心遣いだった。

 

「お前達もいずれ分かる……海より深く愛し、その幸福を守りたい者と出会えればな。いや、もう心の内では分かってるのかもしれないが」

 

 そう言われてしまうと何も言う事が出来ない。

 今の言葉だけで、その表情だけでどれだけリインフォースがはやてを思っているのか理解出来たが故に。

 そこで6つの足音が聞こえてきた。

 ふとその足音の方に目を向けるとそこには守護騎士達とあすか、エストの姿が。

 

「そろそろ始めようか、夜天の魔導書の終焉だ」

 

 魔法陣が敷かれる。

 ベルカの魔法陣を中心に前後左右に橙色、紫色、桜色と金色の魔法陣。儀式は着々と進んでいった。

 そこへ。

 

「自殺志願者は何処やー!」

 

 パトカーが突っ込んできた。

 

「グハッ!」

 

パトカーは容赦なく逃げ遅れたリインフォースを轢く。

 

「「「「「「何事~!?」」」」」」

「リインフォース!?」

 

 パトカーの中から声がする。はやての声だ。

 

「リインフォース! 大丈夫か!?」

「あ、主、なぜここに……」

「俺がここまで運んだんや」

 

 パトカーの運転席からレイが降りてくる。

 レイは後部座席からはやてを降ろすとリインフォースのところまで車椅子を押す。

 

「リインフォース、止めて! 破壊なんかせんでええ! 私がちゃんと抑える! 大丈夫や、こんなせんでええ!」

「主はやて、良いのですよ」

「いい事無い! いい事なんか何もあらへん!」

「随分と長い時を生きてきましたが最後の最後で私は貴女に綺麗な名前と心をいただきました」

 

 さらにリインフォースは言う。

 騎士達も貴女の傍にいる、何も心配はないと。 

 

「心配とかそんな……」

「ですから私は笑って逝けます」

「……! 話聞かん子は嫌いや! マスターは私や、話聞いて! 私がきっと何とかする、暴走なんかさせへんって約束したやんか!」

「その約束はもう立派に守っていただきました」

「リインフォース!!」

「主の危険を祓い、主を守るのが魔導の器の務め……貴女を守るための最も優れたやり方を私に選ばせてください」

「せやけど……ッ!?」

「何が最も優れたやり方や、俺には最も愚かな選択にしか思えん」

「何だとッ!」

 

 ヴィータがレイにつかみかかろうとする。

 シグナムがそれを制する。

 

「俺がせっかく夜天の書を直す方法を見つけてきたというのに、それを拒否して安易な自殺を選ぶ。確かに自壊すれば確実にはやての体は助かるやろ。せやけど心はどうや? 大切なもんを失う悲しみをしょってはやてに生きていけと? これ以上はやてから奪う気か? この臆病もんの自殺志願者! 不忠もん!」

「何だと、テメェ! お前にリインフォースの何が分かるんだよ!」

 

 とうとうヴィータがレイにつかみかかる。

 

「何もわからん。全てをあきらめた奴のことなど何もわからん。悪いが俺は最後まで足掻くで。誰に何と言われようと、完全無欠のハッピーエンド目指して這いずり回る覚悟はとっくにできとんねん。これ以上、命を無駄にするような真似はせんといてな」

 

 レイの顔は愁いを帯びていた。

 

「俺は昔飛行機事故に巻き込まれたことがある。生き残ったんは俺一人。みんな生きたかったやろ、必死に足掻いとったわ。俺も足掻いた。運よく俺だけ生き残った。せやから俺は安易に死んだらあかんと思うとる。それは命に対する侮辱、あの事故で死んだ人たちへの侮辱や。せやから俺の目の黒いうちは、目の前で命を侮辱するような真似はさせへん。あんたはどうしたい、リインフォース。生きて、生きて主を見守ることこそ本懐やろが!」

 

 誰も何も言えなかった。

 ヴィータが静かにレイの襟首から手を放す。

 

「……私を、直せるのか?」

 

 リインフォースが静かに口を開く。

 

「直すとも」

「本当か?」

「十中八九、俺の予想通りなら、直せるとも、いや、予想が外れても直す」

「……羨ましいな、そう言い切れる強さが」

「俺は強くはない。根拠があるから言えるだけや」

「……頼む、私を生かしてくれ!」

「リインフォース!」

 

 はやての顔が明るくなる。

 

「その言葉が聞きたかった!」

「「「「「「ブラック・ジャック先生!?」」」」」」

 

 いつの間にかレイはブラック・ジャックのコスプレをしている。

 

「まずは夜天の書の現状を確認せねば、ここに夜天の書をセットしてくれへん?」

 

 レイの帽子が上下に開く。そこには機械的なブックスタンドがある。

 はやては恐る恐るそこに夜天の書をセットする。

 

「解析開始! ガンバレ、ガンバレ、ガンバレ、ガンバレ、ガンバレ、ガンバレ、ガンバレ」

 

 レイからカタカタと機械音がする。

 レイの口からパーフェクトと書かれた紙が吐き出されていく。

 

「チャンスターイム!」

 

アフームはその紙を箸で掴もうとする。

 

「ていっ! やあっ! とうっ!」

((((((何をしているんだろう……))))))

「せいやぁ!」

 

 アフームが紙を掴むことに成功する。

 

「オメデトウゴザイマス、3メートル60センチデス」

「こんなものかの」

 

 レシートの様に紙が切り取られる。

 アフームはその紙をじっと眺めている。

 

「どうやら、レイの予想通りのようじゃな」

「正しく、これなら直すのは容易や」

 

 いつの間にか戻っているレイ。

 その手には夜天の書が握られている。

 

「さて、修復プログラムを用意するとするか」

 

 そういうとレイは複数の液体の入った瓶とシェーカーを用意する。

 レイは鮮やかな手つきで、液体をシェーカーに入れ混ぜ合わせる。

 そしてグラスに液体を注ぐと、リインフォースの前に差し出す。

 

「修復プログラム、セイント・ルチアです」

「「「「「「酒じゃんッ!!!」」」」」」

 

 総ツッコミが入る。

 リインフォースは困惑している。

 

「え? え?」

 

 レイは笑顔のままバーカウンターに立っている。

 

「え?」

 

 リインフォースの困惑は続く、その時だった。

 

「早よ飲めや!」

 

 レイがグラスの中身をリインフォースにぶちまける。

 

「「「「「「ええーっ!?!?!?」」」」」」

「飲めや! 俺の酒を飲めや!」

「飲まんか! レイの酒が飲めんというか!」

 

 レイとアフームが瓶の中身をリインフォースにぶちまけていく。

 

「「「「「「何してんの!?」」」」」」

「ふざけるな!」

「「ぎゃああああああ!」」

 

 リインフォースが魔力を放出し、2人を引きはがす。

 

「全く、こんなもので治るはずが……」

 

 次の瞬間、リインフォースの体が光に包まれる。

 

「な、何や!?」

「プログラムが無事に発動したようやな」

 

 はやては驚愕する。

 光が晴れるとそこには、巨大な銀色の鳥がいた。

 

「「「「「「巨大な鳥になったー!!!」」」」」」

 

 巨大な鳥は一つ大きくいななくと、卵を一つ生んだ。

 

「「「「「「卵産んだ!」」」」」」

「おめでとう……、無事に生まれてきてくれて……」

「主はやて!? 何を言っているのですか!? ここはツッコむところでは!?」

 

 シグナムがはやてに詰め寄る。

 

「うるへー、ワシの勝手じゃボケ」

「「「「「「主(はやて)がグレた!」」」」」」

 

 八神家の面々は揃って困惑する。

 現在、はやては度重なる超展開についていけず、本能が理性を打ち負かしてしまったのだ。

 

「はやて、気をしっかり!」

「はやてちゃん!」

「主はやて!」

「はやて!」

「姉君!」

「はっ、うちは一体何を」

 

 はやてが正気に立ち返る。

 すると巨大な鳥は天高く飛び去って行った。

 

「えっ、ちょっ、どこ行くん!?」

 

 そして鳥は空中で大爆発を起こすのであった。

 

「「「「「「自爆したーーー!!!」」」」」」

「そう言えば卵は!?」

 

 はやての言葉に気付いた皆が卵の方を見ると。

 

「「温泉卵♪ 温泉卵♪」」

 

 レイとアフームが卵を茹でている。

 

「「「「「「何してんの!?」」」」」」

 

 すると卵に罅が入る。

 

「熱ーーー!!!」

 

 中からリインフォースが殻を突き破って出てくる

 

「「「「「「リインフォース出てきたーーー!!!」」」」」」

「はあ、はあ、熱い!」

「気分はどうや? プログラムに不備はあるか?」

「それは……、無い、完全に消えている」

「……大成功や」

 

 歓声が上がる。

 はやてが涙を流しながらリインフォースに抱き着く。

 

「……これでええ」

 

 レイが満足そうに。静かに呟く。

 闇の書をめぐる戦いはここに終わりを迎えたのであった。

 

「そういえば、あのプログラム? は一体何だったんだ?」

 

 クロノがレイに質問する。

 

「ああ、あれは融合機の機能を取り換えるプログラムや」

「あんな大掛かりな事をしといてそれだけなのか!?」

「何を言うか、厳正なるシミュレーションの結果導きだした答えや。プログラム改鋳によって変質した融合機機能を正常なものと取り換え、変質した機能を安全に破棄する。そこまでやって初めて安心できるもんや」

「じゃあ、最後の自爆は」

「変質した融合機機能を破壊したんや」

「……君には参るよ」

「そらどうも」

 

 

 

 

 

 その日の夜、クリスマス商戦を乗り切った翠屋でささやかなパーティが行われていた。

 高町家、月村家、バニングス家、金剛=ダイヤモンド家に加え、今年はテスタロッサ家、ハラオウン家、八神家も参加している。

 

「いい国を作りとう御座りまする~」

「「「「「ヘイ! 1192 1192 鎌倉幕府! 1192 作ろう鎌倉幕府!」」」」」

((((((夜なのにこのテンション……))))))

 

 レイ、アフーム、ユーノ、アリア、アウラの5人がハードロック調の何やらよくわからない歌を歌っている。

 本人たちは余興のつもりかもしれないが。

 

「なあ、レイくんたちっていつもこうなん?」

「残念なことに、いつもこうよ」

「うわあ、大変やなあ」

 

 はやてとアリサが天を仰ぐ。

 やがて曲が終わる。

 

「えー、闇の書事件解決を祝っての記念ソング『ばくふ』。いかがでしたでしょうか」

「「「「「「これ事件解決を祝ってたの!?」」」」」」

「続いてはクリスマスにふさわしい曲を。キング・クリムゾンで『Discipline』」

「「「「「「クリスマスと全然関係ない!」」」」」」

「みんな、キング・クリムゾン聞こうぜ! ちくわと一緒に!」

「クリスマスと言ったらちくわじゃ」

「「ちくわー、ちくわー」」

((((((どうしようこのカオス))))))

 

 レイ達はちくわをもってはしゃいでいる。

 その有様についていけないなのは達。

 そんな中、レイがはやてに近づいていく。

 

「楽しんどるか?」

「おかげさまで」

「俺らのテンションが邪魔しとるんやないかと思って心配したけど、その様では大丈夫そうやな」

「わかっとるんやったら、やめたら?」

「それが出来んのが我々虚空戦士(ハジケリスト)なのです。っとそれより、これから足も回復してくるやろうし、俺から別口で贈り物があるんや」

「え? 何?」

 

 レイの発言に誰もが興味津々になる。

 

「さあ! 今回紹介するのはこちら! 電動エアロバイク!」

「「「「「「ジャパネット!?」」」」」」

「このエアロバイク、漕がなくても勝手に動いてくれる優れもの。弱った足でも大丈夫!」

「これは助かるわ」

「試しに乗ってみ?」

 

 レイに促され、はやてはシグナムの助けを借りてバイクに乗る。

 

「おお、これはええな。これで足のリハビリになりそうや」

「これからの時期、寒くなっていくから、上着も用意したで」

 

 そういってレイが用意したのは特攻服である。

 

「「「「「「何で!?」」」」」」

「気合を入れるためのハチマキも用意したぞ」

 

 そういってアフームが用意したのは天下布武と書かれたハチマキである。

 

「「「「「「何そのセンス!?」」」」」」

「後このエアロバイク、音楽鳴んねん。ポチッとな」

 

 レイがボタンを押すと、嶋大輔の『男の勲章』が流れ出す。

 

「「「「「「明らかに意図的だろこれ!」」」」」」

「そして旗を指して……、完成!」

 

 見事にレディースと化したはやてが誕生したのだった。

 

「姐御! サトミの敵を取って下せえ!」

「誰が姐御や! サトミって誰!?」

「ナイスツッコミじゃ、これなら世界を狙えるぞ」

「世界で誰と戦うん!?」

 

 その様子にヴィータが噴き出す。

 それをシグナムがたしなめる。

 

「ヴィータ失礼だぞ」

「すまねえ、でもよ、こうやって笑い合える日が来るって、思ってたか?」

「いや、正直ここまでたくさんの人に囲まれることすら予想できなかった」

「だろ? 感謝しないとな」

「ああ、彼らには感謝しかないな」

 

 レイとアフームのボケにツッコむはやて。

 その身を案じるリインフォースとあすか。

 誰もが、闇の書事件が平穏無事に解決したのだと思った。

 夜は更けていく。

 もうすぐ新しい年がやってこようとしていた。




 第1部完!
 いやあ、長かった。
 ここまで続けられたのも読者の皆さんのおかげです。
 本当にありがとうございます。
 次回より第2部が始まります。
 第2部は10歳から12歳までの期間の出来事を書いていきます。
 乞うご期待!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2部 金剛石の神話 第1章 NC0066 キング・オブ・ハジケリスト 第1話 発端

 今回から第2部開始!
 レイ視点での物語が増えます。
 今回は少々短め。
 



「地球での事件に虚空戦士(ハジケリスト)が関与してたって?」

 

 第6地上本部長モーリーン・クロフォードは秘書のニオにそう尋ねた。

 

「はい、噂レベルですが、その可能性があると」

「何だい、噂レベルかい。そんなんであたしの耳に入れるんじゃないよ」

「噂と言っても信憑性は高いです。現に事件を担当した執務官や提督による現地の声が聞こえてきますから」

「あの2つの事件は管理局内でも相当有名だからね。ハラオウン親子は相当名声を手に入れたんじゃないのかい」

「ええ、特に闇の書事件を永久に解決したと言い切れるほどの活躍をしたわけですから」

「だろう、どうやったのか知らないが、上手くやったもんだ」

「その件に、件の虚空戦士(ハジケリスト)が関わっているとの情報があるのです」

「闇の書の解決にかい? まさか、あの事件でかかわったのは9歳のガキ共だっていうじゃないか。ただの魔力が大きいだけのガキだろう?」

 

 ニオはかぶりを振る。

 

「それが、その例の虚空戦士(ハジケリスト)が永久解決に寄与したそうなんです」

「まさか」

「彼が無限書庫でプログラムを組んでいたのを幾人もの局員が見ています。彼は見るたびに衣装が変わっており。ある時はチアガール、ある時は着ぐるみといつ着替えたのかわからないほど早着替えを行ったそうです」

「その組んでいたプログラムってのも気になるが、意味もないのに早着替えをするそのハジケっぷりは本物としか言いようがないね。本物ならね」

 

 モーリーンはいつの間にか、その虚空戦士(ハジケリスト)に興味津々となっていた。

 第6次元文化圏以外の虚空戦士(ハジケリスト)は珍しいなんてものではない。

 今までほとんど見つからなかった、レア中のレアである。

 

「出来ることなら資料映像が欲しいねえ。そいつが本物と分かる奴が」

「そういうと思って用意しておきました」

「流石ニオちゃんだ。こういう時は仕事が早い」

 

 モーリーンはニオが用意した資料映像を見る。

 用意されたのはレイとアフームによるゴボウしばきあい対決と、ジュエルシード発動体との戦い、トマトの雨が降る映像。そして闇の書戦での映像である。

 モーリーンはひとしきり映像を眺めると、やがて口を開く。

 

「ああ、本物だ。近年稀に見る虚空戦士(ハジケリスト)だよ、この2人は。しかもただハジケているだけじゃない。しっかりと目的をもって敵と相対している。最近は見かけないタイプだ」

「やはり厳しい環境が彼らを育てたのでしょうか」

「そうだろうね、うちは否が応でも虚空戦士(ハジケリスト)が多い、一概には言えないが、この2人は相当上位に食い込むと思うよ」

「おまけに、彼らは強い」

「ああ、強くてハジケている。彼らならいずれ長らく空位だったキング・オブ・ハジケリストの座を明け渡してもいいかもねえ」

 

 モーリーンの発言にニオは眉をひそめる。

 

「外部の人間がキングになるというのは相当な反発があると思いますが」

「言わせたい奴にゃ言わせときゃいいさ。単にあたしらの実力がないだけだろう。弱者の戯言なんか気にする必要なんてないのさ」

「……それが出来るのは一部の強者のみです」

「この子たちはきっとその一部さ。会えばわかる」

「では、セッティングしますか?」

「ああ、頼むよ。これだけの逸材だ、他のところじゃ扱えないだろうさ」

「それなんですが、彼、地球側の外交官になったそうで、引き抜きは難しいかと」

「……オーマイガッ!」

 

 

 

 

 

「ほんならこれで合意ということで」

「ええ、お願いします」

「こちらこそ」

 

 2月も半ばという頃、地球ではなのは達の管理局での勤労条件を取りまとめており、今やっと終わったところである。

 地球側の代表としてレイとデビッド、櫻子が、管理協側の代表としてリンディとレティ・ロウランがこの会見に臨んでいた。

 会談の中心はレイと管理局の人事担当であるレティが執り行っていた。

 櫻子とデビッドはあくまでレイの補佐という形である。

 レティは当初この幼い外交官の手腕を甘く見ていた。

 リンディから再三の警告を受けたにもかかわらず、合意内容はやや地球に有利な条件で取りまとめられてしまったのだ。

 合意内容としては、中学卒業までは嘱託魔導士としてフルタイム勤務を行わないこと。

 管理局からの無理な勧誘は行わないこと。

 何よりも本人たちの意志と体調が最優先とされた。

 さらに、怪我した時のために保険も適用するよう求められ、レティは泡を食った。

 ここまで矛盾なくしかも地球側有利に事を進められては、管理局としては意地でも要求を通したい部分があった。

 それすらも、レイの手によってあらかじめ読まれていたのか、すんなりと通され、レティは役者の違いを思い知ったのだった。

 櫻子とデビッドもほとんど口を挟むことがなかったから、レイの思惑通り、いや、地球の思惑通りに事が進んだのは間違いないであろう。

 

「僭越ながら、お食事の方をご用意させていただきましたので、よろしければどうぞ」

「え、ええ頂きます」

 

 そういうと、金剛=ダイヤモンド親子は席を立った。

 レティは小声でリンディに言った。

 

「あなたの言うとおりね、舐めていたらこの様だわ」

「でしょう、彼、政治力ヤバいくらい高いのよ」

「それで虚空戦士(ハジケリスト)なんでしょう。参っちゃうわ」

「この程度で参ってもらうのは困るわ、彼、戦っても強いんだから。この地球で起きた2つの事件も、彼無くしては完全な解決には至らなかったと思うほどよ」

「上の連中はどう思うかしら」

「彼を脅威に感じるとは思えないわね。ただの子供と侮って、痛い目を見るのが見えているわ」

「今回はこの程度で済んで良かった、と思うべきかしら」

「今回はこちらの要求も通っているし、さほど悪い結果ではないと思うわ。でもこの後が辛いわね、彼、目的のためならえげつない手を打ってくることもあるから」

「想像するだに怖いわね」

「そうよ、何考えているのかわからないから、恐ろしいのよ」

 

 そうこうしているうちに、レイから食事の準備が整ったとの知らせを受ける。

 リンディとレティはレイについていくのであった。

 

「こうしてみるとただの上品な男の子なのに」

「あんな恐ろしい外交官になるのかしら」

 

 やがて食堂につくと、そこにはアフームが待ち構えていた。

 

「ようこそ、妾のディナーショーへ」

「「ディナーショー!?」」

「食事と共に音楽を味わっていただきたく、こうしておもてなしする所存じゃ」

「ささ、どうぞお席へ」

 

 レイに促され、席に座るリンディとレティ。

 

「早速最初の曲は、キング・クリムゾンで『21st Century Schizoid Man』」じゃ」

「お楽しみに」

 

 奏でられるハードなイントロにリンディとレティの頬は軽く引き攣るのだった。

 

 

 

 

 

 地球と管理局との勤労条件合意がまとめられてから数日後の放課後、レイはあすかに呼び出されていた。

 屋上で相対する二人。

 互いに会話はない。

 やがて、あすかが口を開く。

 

「レイ、お前に聞きたいことがある」

「何や」

「転生者、という言葉に聞き覚えはあるか?」

 

 転生者という言葉にレイが目を丸くする。

 

「ということは、お前さんもか」

「! やはり、お前も転生者か!」

「お互いにその様やな」

 

 レイが頷くと、あすかは丹田に力を籠める。

 

「一つ聞きたいことがある。お前はこの世界で何をする?」

「どういう意味や?」

「俺はこの世界で剣が振れるからこの世界にいる。剣を振るうために転生したといってもいい。お前の目的は何や? 何がしたくてこの世界に居るんや?」

 

 レイは少し思案すると、口を開いた。

 

「俺はこの世界に危機が迫っていると聞いて、それを解決するよう頼まれたんや」

「危機!? それは一体何や!」

「さあ? それは分からん。それを解決するために俺はこの世界で力を手に入れた。ご丁寧にバックストーリーまでつけてな。この世界で俺が為すべきことは世界の危機を救うこと。それはどうやら俺の転生前に身に着けた知識が役に立つんやそうや」

「お前は一体、転生前に何をしてたんや?」

「それは、内緒。それよりも、お前さんは生前、黒騎士にあこがれとったんか、何代目が好きなん?」

 

 急に話を振られて、面を食らうあすかだったが、ちょっと頭をひねった後、答える。

 

「ドラグーン公は理想的な黒騎士だと思う。またグラード・シドミアンもいい黒騎士だと思う。エストが殉じる位やからな。デコースは、賛否はあるが一流の騎士であることは間違いないな。俺は割と好きや。ちょっと決められんな、これは」

「なかなかのFSSフリークなようで。やっぱ好きな機体は?」

「バッシュ! ダッカスだな。俺の剣も同じ名前だ」

「旧設定の懐園剣みたいやったな、お前さんの剣は」

「そう! バッシュは魔力剣で、ダッカスは実体剣にしてもらったんや。おかげで、ミッド式もベルカ式も両方使えて便利やで」

「後は剣技か。FSSの剣技を使えるようにしたんやな」

「そう! でも流石にかーちゃんキックは習得できんかった」

「あれはなあ。女の強さの象徴みたいなもんやから。お前さんに習得は出来んよ」

「俺はイマラかーちゃんにはなれんのか」

「無理無理、男に母親が出来るとしたら、それは最早別の何かやで」

 

 2人は笑い合う。

 

「せやなあ、あとは炎熱、電気、氷結の三種変換が出来るようになったくらいやな」

「ほう、大したもんを要求したんやな」

「そうでもないさ、ただ、俺は剣を振れればいいだけ。そのついでに人助けが出来れば丁度ええってもんや」

「無欲やなあ。俺も大概やけど」

「お前はどうなんや。どういう特典をもらったんや?」

 

 あすかの言葉にレイは一瞬で真面目な顔になる

 

「……まずは俺を虚空戦士(ハジケリスト)にすること。それと、俺が考案した魔術の設定を持ち込むこと」

「その設定とはなんや?」

「それは言えん。これは世界の危機にかかわる話やからや」

「なあ、世界の危機って一体何なんや? お前は何を知っているんや?」

「……俺が知っているんはそれが起こるということだけ。いつ、どこで起こるんは分からん」

「なんやそれ」

「お前さんも気を付けとき。いつどこで何が起こるかわからんのやから」

 

 レイの目はいつになく真剣そのものだった。




 皆さんはキング・クリムゾンを聞いたことがありますか?
 前回も出てきたけど、私は好きです。
 ファイブスター物語を読んだことがありますか?
 あれは面白いです。
 好きなものを好きと言い切る強さを皆さんが持てますように。
 誰かの趣味を笑わない世界が来ますように。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 計測

 前回のあらすじ
 キング・クリムゾンとファイブスター物語、それと便座カバー。


「さっぱりわからん」

 

 シグナムが呟く。

 

「シグナム、何が分からないの?」

 

 シャマルがシグナムに問いかける。

 

「金剛=ダイヤモンドの強さだ。奴の強さが今ひとつわからんのだ」

「そうなの? あの子もはやてちゃんと肩を並べて戦えるほどの強さがあると思うけど」

「それは間違いないだろう。リインフォースが放ったスターライトブレイカーを凌いだだけでも評価は出来る。問題は攻撃面だ」

「どういうことだよ」

 

 ヴィータが話に入ってくる。

 

「奴の本気の攻撃というものはどれだけの威力があるのか、それが解らんのだ」

「つまり、防御は分かるが攻撃の強さが分かんねえ、ってことか?」

「ああ、防御面でのしぶとさは本気の闇の書を相手にしても生身で凌げるほどだ。恐ろしい防御力と回避力だ。私も攻撃を当てられるかわからん。いや、当てたとしてもそれで仕留められるとは思えない」

「シグナムがそんなこと言うなんて珍しいな」

「何かわかりやすい指標でもあればいいのだが」

「ほんなら、明日俺が聞いてこようか?」

 

 あすかが話に入ってくる。

 

「俺とレイは同じクラスやし、何か記録を残してあるかもしれん。明日それとなく聞いてみてみるわ」

 

 

 

 

 

「考えてみれば、そんなものは取ったことが無いかもしれん」

 

 翌日、早速あすかはレイに質問した。

 しかしその回答はにべもないものだった。

 

「公的な記録としてはPT事件のときの模擬戦があるが、ただゴボウでしばきあっただけやし」

「ゴボウでしばきあいって何や」

「となると、公的に俺の能力を測ったことがないから、わからんな」

「そうか……」

 

 あすかは目に見えて落ち込む。

 折角目の前の強者の一端に触れることが出来そうというのに、それが叶わなかったのである。

 

「だったらさ、測ってもらったら?」

 

 アリシアが話に入ってくる。

 

「レイとアフームの強さを管理局的に測ってもらうの。なんか、リンディさんが言ってたけど、管理局ではレイの事舐めてかかっている連中が多いらしいよ」

「ほほう、それはいいことを聞きましたな」

 

 レイが悪い顔をする。

 

「レ、レイ?」

「つまり向こうさんは俺を取るに足らんガキと思うとるんやな。そうかそうか、そんなら舐めた口聞けん様にしてやりましょ」

「うわあ、相当悪い顔してる。レイ、これ外交と関係あったりする系?」

「モチのロンや。それに舐められっぱなしは、性に合わん。何が何でも、向こうさんをぎゃふんと言わしたる」

 

 あすかは後悔し始めていた。

 もしかしたら自分はとんでもないことを言ってしまったのではないのだろうか。

 これが地球と管理局との外交にどう影響を及ぼすのか、あすかには想像もつかなかった。

 

 

 

 

 

「準備はいいかしら?」

「いつでもええですよ」

「こちらは準備万端じゃ」

 

 管理局本局で用意された試験場ではレイとアフームが開始を今か今かと待っている。

 リンディがマイクを取りながら計器モニターを眺めている。

 モニタールームではなのは達だけではなく、管理局の高官たちも来ていた。

 今回の試験が外交に与える影響というものがどれだけのものか、あすかは肌で感じ取っていた。

 

「これの結果次第で、外交関係が変わるんかな」

 

 あすかが呟く。

 

「少なくとも、レイ個人に向けられる感情は変わるんじゃないかしら。これだけの実績と強さがある。それは大きなカードになりうるわ」

 

 アリサが答える。

 

「それに、強さだけじゃなくて頭の良さも伝わるかもね。そうしたら、管理局としてはレイくんを無碍にできなくなるかも」

「そうしたら、どうなるの?」

 

 なのはが疑問を呈する。

 

「地球と管理局の関係が良くなるのか、悪くなるのかは外交関係者次第だけど、管理局が地球を舐めなくなるのは確実ね」

「そろそろ始めます。よろしいですか」

「「いいですとも」」

 

 レイとアフームが返事をする。

 

「今回計測するのは、地上機動力、空中機動力、攻撃力の3つ、それに加え、実際に模擬戦を行ってもらいます。よろしいですね」

「「いいですとも」」

「それでは地上機動力の測定を行います。よろしいですね」

「「いいですとも」」

「……森田一義アワーじゃないんだから」

「「あはははははは」」

 

 抑揚のない声で笑うレイとアフーム。

 その様子に管理局の高官たちは眉をひそめる。

 その中に第6地上本部長モーリーン・クロフォードがいた。

 

(さあ、見せてもらうよ。そのハジケ力)

 

 モーリーンは密かに期待していた。

 彼らのハジケ力がどれだけのものかを生でよく知ることが出来るのだ。

 2人の計測が行われていると聞いていの一番に見学を申し出たのがモーリーンだ。

 

「それでは、始め!」

 

 リンディの掛け声と共に数多の魔力弾がレイとアフームに襲いかかる。

 レイとアフームの顔に焦りはない。

 いつも通り避けていくだけである。

 最小限のステップで弾幕を躱していく。

 おおっ、とどこからか歓声が上がる。

 

「相変わらずすごいよね、レイとアフームの回避力は」

 

 フェイトが思わず口に出す。

 

「そうね、あの子たちの回避力は次元世界でも屈指のものじゃないかしら」

 

 プレシアがフェイトに答える。

 

「なんでも、弾幕ごっこという競技で鍛えたそうで、弾幕の回避には一家言あるそうです」

 

 リニスが話に入ってくる。

 そうしている間にも、レイとアフームは魔力弾を回避しながら前進していく。

 前後左右に細かく動きながら確実に前進する様は最早芸術地言っても過言ではなかった。

 

(何だい、ただ回避が上手いだけじゃないか、全くハジケていない)

 

 モーリーンはがっかりした。

 目の前の2人が何かをやらかしてくれるのではないかと期待していたのだが、結果はこの有様である。

 仕方なくモニターを眺め続けていると、それは突然起こった。

 

「It’s show time!」

 

 レイが突然叫んだのである。

 その瞬間、モニターが変化し、音楽が流れ始めた。

 軽快なユーロビートに上下左右の矢印が流れてくるモニター。

 背景は極彩色で彩られ、その中でレイとアフームがステップを踏んでいる。

 ステップを踏むたび、流れてくる矢印が点滅する。

 

「「「「「「これダンレボだ!」」」」」」

 

思わずなのは達がツッコむ。

管理局の高官たちもざわざわし始める。

 

(まさかモニターを変化させちまうとは、予想外だよ)

 

モーリーンは密かに喝采を送った。

 

「わあ、これは予想外です。変化するのがモニターの方だなんて」

 

 ニオが感嘆の声を上げる。

 やがて試験が終了すると同時に、音楽が終わる。

 

 被弾率 0%

 ステップ成功率 100%

 得点 47

 

「「「「「「少なっ! そして微妙な数!」」」」」」

「やったー47点やー!」

「最高記録更新じゃー!」

「「「「「「これで喜ぶの!?」」」」」」

 

 この状況に顔を引きつらせるリンディ、しかし、すぐに平静を取り戻す。

 

「……10分間の休憩の後、空中機動力の測定に入ります。よろしいですね」

「「いいですとも」」

「「「「「「もういいから!」」」」」」

 

 

 

 

「それでは空中機動力の測定に入ります。よろしいですね」

「「はい」」

((((((あっ、普通に返事した))))))

 

 そういうとレイとアフームは帽子からプロペラを生やし、空中に浮き始める。

 

「それでは、始め!」

 

 リンディの掛け声と同時に、再び魔力弾がレイとアフームに襲い掛かる。

 しかし、その躱し様は、余裕すら見受けられる。

 隙あらばグレイズを狙うほどだ。

 

「相変わらず余裕ありまくりやな」

 

 はやてが呟く。

 

「私のブラッディダガーを簡単に避け切る程です。あの程度の弾幕では話にならないかと」

 

 リインフォースが答える。

 

「普通の管理局員なら、被弾していてもおかしくない、誘導弾すら避け切るのは至難の業だと言えよう」

 

 ザフィーラが感心する。

 

「じゃあ、2人が普段やっている弾幕ごっこってどれくらいなん?」

「私が実際に喰らった弾幕は、ようやっと人1人分の隙間を避け切るようなそんな密度の弾幕を無数に撃つものでした」

「えっ、それヤバない?」

 

 リインフォースの発言に驚愕するはやて。

 

「ええ、私は避け切ることが出来ませんした」

「うち対抗できるやろか、ていうか、クロスレンジもロングレンジも行けるレイくんとアフームちゃんって、ヤバい?」

「はやての言う通りヤバいよ」

 

 ヴィータが話に入ってくる。

 

「映像見たけどさ、アイツらどの距離でも隙がねーもん。あいつらの攻略法は絶対に自分の得意な距離を保ち続けること。それ以外に攻略できる方法が見当たらねーよ」

「うちの場合、距離詰められたらおしまいやしな。ていうか、あの2人を近づけさせないようにする自身があらへん」

「俺の場合もそうやな、アウトレンジから一方的に撃ち込まれたら詰む。あいつらはそれが出来る」

 

 あすかもレイとアフームを強敵として認識していた。

 いや、彼らのことをよく知る立場の者たちはいずれもレイとアフームを強敵として認識しているだろう。

 そうこうしているうちに、レイとアフームは飛行機に変形していた。

 

「「「「「「飛行機になってる!?」」」」」」

 

 カクカクと右へ左へ上へ下へ直線移動しながら弾幕を避けまくる2人。

 

「「「「「「有り得ない機動してる!?」」」」」」

(ほう、変形もこなすとは、なかなかのハジケ具合じゃないか)

 

 モーリーンはこの結果に満足していた。

 短時間にツッコミを何度も生ませる2人のハジケ力に感嘆していた。

 やがて試験が終わる。

 2機の飛行機は静かに着陸すると、その姿を元の姿に戻す。

 

「それでは、10分後に攻撃力測定に入ります。よろしいですね」

「「イエスマム」」

 

 

 

 

 

「それでは、攻撃力の測定に入ります。よろしいですね」

「「いつでも、どうぞ」」

 

 レイとアフームの目の前には直径1メートル、高さ3メートルのコンクリート円柱がそれぞれでんと置かれている。

 

「目の前のコンクリート柱に最大威力の攻撃をぶつけてください」

「「了解」」

 

 レイとアフームはそれぞれ用意されたコンクリート柱の前に立つ。

 

「妾からでええかの?」

「どうぞ」

 

 先に披露するのはアフームだ。

 

「最大威力、最大威力、のう」

 

 アフームは少し思案すると、閃いたように指を立てる。

 

「炎の精、雷の精、氷の精、風の精、水の精、土の精。我が声に応え、猛り狂え」

 

 アフームが精霊の名前を唱えるたび、マゼンタ、イエロー、シアン、グリーン、ブルー、レッドのエネルギー体がアフームの周囲に現れ、回転を始める。

 やがて、エネルギー体は一つに纏まり、虹色と銀色ともつかぬ不思議な光を放つエネルギー体と化す。

 

「六元精符『エクストリームアフームちゃんスペシャル』!」

「「「「「「技名!?」」」」」」

 

 エネルギー体がアフームの手によって打ち出される。

 エネルギー体はコンクリート柱を飲み込み、跡形もなく消滅させる。

 それだけではない、後ろの床も数十メートルにわたってえぐられている。

 誰もが絶句した。

 その威力は魔導士ランクSランクオーバーと言っても過言ではなかったからだ。

 

(技名もハジケているが、威力もハジケていやがる)

 

 モーリーンは密かに喝采を送った。

 

「やはり古代ブリリアント術式だ。何故2人が古代の術式を」

 

 ユーノが呟く。

 

「私にはわかりかねます。予測はいくらでも立てられますが」

 

 ソフィアがユーノの疑問に答える。

 

「問題はどうやって純粋な術式を保ち続けられてきたかなんだよ。いくら伝統を大事にするとは言っても、何らかの変化があって然るべきなんだ」

「それは、本人に確かめるべきでは?」

「多分知らないと思う。レイの両親に聞いてみたいところだけど」

 

画面の中ではレイが涼しい顔をしている。

 

「さて、どないしましょ。同じ事は出来るが、それでは芸がない。ふむ、少し意匠を凝らしてみますか」

 

 そういうと、レイは呪文を唱え始める。

 

「炎の精、雷の精、氷の精、風の精、水の精、土の精。我が声と血に応え、猛り狂え」

 

 アフームのときと同じようにエネルギー体がレイの周囲に現れ、回転を始める。

 レイは六尺ほどの長さにした六角如意金剛棒を掲げ、エネルギーの渦を纏わせる。

 

「六元精符『エレメンタルチェーンソー男の13日の金曜日』!」

 

 レイが棒を振り回す。

 エネルギー体を纏った棒がコンクリート柱に接触する度、豆腐の様にコンクリート柱は切り裂かれていく。

 レイが、ひとしきり棒を振り終えたころには、コンクリート柱はその面影を無くしていた。

 再び誰もが絶句する。

 

(あの子はさっきと同じことが出来るといったね。全く末恐ろしいよ)

 

 モーリーンは冷や汗をかいた。

 

「……攻撃力測定を終わります。30分後に模擬戦を行います」

 

 リンディはかろうじて声を出す。

 この状況を生み出した元凶2人は、早速くつろぐのだった。




 第3部が少しづつ形になり始めている今日この頃、如何お過ごしですか?
 実はまだ第2部は書き終わっていません。
 結構な分量になるのは間違いなく、同様に、情報量も相当濃いと思われます。
 実は最近執筆意欲が失われつつあります。
 皆さんの応援が私の力になるので、感想や評価をお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 模擬戦

 前回のあらすじ
 ダンレボとゼビウス。


「それでは、模擬戦を開始します」

 

 レイとアフームに相対するは、シグナムとヴィータ。

 2人はこの役目を自分から引き受けてくれたのであった。

 レイとアフームの実力を、脅威を直接肌で感じるいい機会だからだ。

 シグナムもヴィータもレイとアフームの脅威は伝聞でしかわかっていない。

 

(どれだけ恐ろしい相手か見極めさせてもらうぞ)

 

 シグナムは気合十分といった面持ちでレイとアフームを見据える。

 一方のレイとアフームはあくまで自然体を崩さない。

 レイはピアノの前に座り、アフームはスタンドマイクの前に立っている。

 

「「いつでもどうぞ」」

(((((((何の準備だ!?))))))

 

 リンディは引きつった顔のまま、号令をかける。

 

「それでは、始め!」

 

 号令と同時にシグナムとヴィータは距離を詰めてくる。

 

((絶対に距離を開けたら、弾幕で袋叩きにされる!))

 

 それが二人の共通認識だった。

 それをレイが想定していないわけがなかった。

 

「「音色『星色くじら12号の出航』!」」

「「!!!」」

 

レイとアフームは距離を詰め切られる前に後退し、スペルカードを発動する。

 シグナムとヴィータに鯨を模した弾幕が襲い掛かる。

 

「これをいつも避けてんのかよ!」

「道理で回避能力が化物になるわけだ……!」

 

 高密度の弾幕にヴィータは悪態をつき、シグナムは感嘆し、管理局高官たちは見とれていた。

 計算された弾幕の配置に誰もが息を呑む。

 

(普通ならここまで芸術性を高める必要性はない。全く持って無用の長物さね。それをあえてやる、そこがハジケているね)

 

 モーリーンは弾幕をこのように評価していた。

 

「わあ、きれいですね、これ何か意味はあるんでしょうか?」

 

 ニオが思わず感嘆の声を漏らす。

 

「何もないよ、きっと。ただ魅せるためにやったんだろうさ。全く持って無意味だよ」

「無意味って……」

「そう、無意味さ。相手をしとめるならあんなに弾幕を張る必要は無い。それをあえてやっているんだ、全くハジケてるねえ」

 

 やがて弾幕が終了する。

 シグナムとヴィータは肩で息をしながら、レイとアフームを見据える。

 

「どうだ、耐えきってやったぞ」

 

 シグナムの一言にレイは拍手をもって答える。

 

「お見事、この程度では倒れんと思うておりました。本気で仕留めるんなら、もっと難易度を上げるんですが、それをやるんはあまりに無粋。こっからは楽しい楽しい殴り合いと行きましょか」

「心配するでない、妾達はどの距離も戦えるのでな」

「すぐにそんな口聞けないようにしてやるよ! シュワルベフリーゲン!」

 

 4弾の鉄球がレイとアフームに襲い掛かる。

 

「「なんの! 紙符『紙ヒコーキ風に乗って』!」」

「「「「「「無理でしょ! 紙ヒコーキって!」」」」」」

 

 レイとアフームの両手から4機の紙ヒコーキが放たれる。

 紙ヒコーキと鉄球がぶつかり合い、爆発する。

 

「「相殺!」」

「うおおおおおおお!」

 

 ヴィータが吠え、アフームに突撃する。

 

「来るか! 鉄槌の騎士! ならばこちらもハンマーで相手してやろう!」

 

そう言ってアフームが取り出したのは、2尾のサンマだった。

 

「「「「「「それサンマーーー!!!」」」」」」

 

 ハンマーとサンマが交錯する。

 

「テートリヒ・シュラーク!」

「味覚『大根おろしは控えめに』!」

 

 十字に交差されたサンマとグラーフアイゼンの柄がぶつかり合う。

 火花が散り、互いの視線が交差する。

 

「くっ、わざわざ懐に潜り込んでくるとか、正気じゃねえ」

「正気ならずんば大業ならず。妾達はいつでも本気でハジケておるのじゃぞ」

 

グラーフアイゼンの柄とサンマが弾け合う。

上にかちあげられるグラーフアイゼン。

 それを隙と言わんばかりに、アフームが仕掛ける。

 

「魚雷『サンマミサイル』!」

 

 手に持っていたサンマをヴィータに投げつける。

 

「うおっ!」

「サンマだけに?」

 

 ヴィータはそれを展開した盾で防ぐ。

 サンマは着弾すると、爆発する。

 爆風が晴れると、そこには無傷のヴィータがいた。

 

「やはりこの程度では倒れぬか」

「当たりめーだ! ベルカの騎士を舐めるなよ!」

「ならばこう返そう。金剛=ダイヤモンドを舐めるな、とな」

 

 見合って、再び両者は激突した。

 

 

 

 

 

 一方、レイとシグナムの戦いは膠着していた。

 レイは飽きたのか、けん玉をしている。

 

(隙だらけに見えて、まるで隙が無い。厄介だ)

 

 シグナムはレイを冷静に分析できた、それ故、手を出すことが出来なかった。

 

(シュトゥルムヴィンデで牽制するか? 否、躱され、カウンターを喰らうのがオチだ。ここはシュランゲフォルムで行く!)

 

 シグナムはレヴァンテインを蛇腹剣、シュランゲフォルムに変える。

 そして刃でレイの周りを取り囲む。

 

「ほう、そう来ましたか」

 

 レイに焦る様子はない。

 

「どうした、自慢の機動力を潰されたのだぞ」

「この程度で俺を封じたとでも? 片腹痛いわ」

 

 レイは破顔する。

 

「その余裕いつまで続くか!」

「ならば踊りましょう、フロイライン。リードは俺に任せて」

「ほざけ!」

 

 連結刃がレイに襲い掛かる。

 しかし、レイは最小限の動きでそれを躱し続ける。

 変幻自在の連結刃が六方からレイを苦しめんとする。

 しかし、レイは涼しい顔だ。

 シグナムの方が苦しい顔をするくらいだ。

 

「当たれ! 当たれっ!」

「ほれほれ、鬼さんこちら、ここまでおいで、てな」

 

 レイにはシグナムを挑発する余裕すらある。

 しかし、シグナムがここでにやりと笑う。

 レイはそれを見逃さなかった。

 

「かかったな! シュランゲバイセン・アングリフ!」

 

 連結刃に魔力が走り、広範囲の破壊を生み出す。

 連結刃で囲んだ空間内はシグナムの生み出した爆発で包まれた。

 

「これなら効くはず……!」

 

 シグナムは確信していた。

 回避不能の攻撃ならば、レイを仕留めることが出来るのではないか。

 それも、幾多もの敵を屠ってきたこの技なら、という自信もあった。

 爆発による煙が晴れる。

 そこにはレイの姿はなかった。

 

「!?」

 

 シグナムは辺りを見回す。

 そこにはレイの腕が飛んでいた。

 

「……は?」

 

 シグナムの判断が一瞬飛んだ。

 もしかして勢い余って殺してしまったのではないのだろうかという疑念が沸き起こった。

 しかしそれもすぐに立ち消えてしまった。

 

「怪奇『ゾンビ殺人事件』! 体バラバラになって逃げさせてもらいました!」

「「「「「「バラバラでも生きてるーーー!?」」」」」」

「貴様本当に人間か!?」

「失敬な! 俺は何処からどう見ても人間やろ!」

((((((そうは見えないんだよ!)))))))

 

 全員から総ツッコミをもらったレイ。

 レイの体は頭手足胴体に分かれ、空中を自在に飛んでいた。

 

「合体!」

 

 レイの頭の掛け声と共にレイの体が集まっていく。

 

「完成!」

「「「「「「手足バラバラ!」」」」」」

 

 レイの体は肩に足が、腰に腕がくっついたりとバラバラに合体していた。

 

「くっ、まさかあのような方法で避けるとは」

「どうします? 諦めます?」

「まさか、何としてでもお前に一太刀入れてやる」

「そう来なくては」

 

 レイの口角が吊り上がった。

 シグナムはそれに妙な寒気を覚えた。

 

 

 

 

 

 上下左右にグラーフアイゼンが振るわれる。

 アフームはそれを危なげなく回避していく。

 その顔には余裕すらある。

 一方のヴィータは顔に焦りが出ている。

 特異な距離であるはずのショートレンジやクロスレンジでこうもあっさり躱されると、流石に腹が立つ。

 

「いい加減、当たれよ!」

「じゃが断る」

 

 だがアフームはヴィータの怒涛の攻撃に回避しか出来ていない。

 アフームとしても攻撃を入れたいところではあったが、その隙を作らせてくれないのである。

 アフームは後退しながら、冷静に攻撃できるチャンスを窺う。

 一方のレイとシグナムの戦いも同様の状況になっていた。

 シュベルトフォルムへと戻し、高速の連撃でレイを追い詰めんとするシグナム。

 冷静に回避しながら決定的なチャンスを窺っているレイ。

 後退に後退を重ね、やがてレイとアフームの背中がくっつきあう。

 

「あら」

「なんと」

 

 シグナムとヴィータによる挟み撃ちが完成してしまう。

 2人はカートリッジをロードしていく。

 

「もう逃げられんぞ」

「これで年貢の納め時ってな」

 

 しかし状況が悪くとも、レイは不敵にも笑っていた。

 

「レイ、どうする?」

「ああ、こらピンチやな。どないしましょ」

 

 シグナムとヴィータはそれぞれの愛機を構え、必殺の一撃を放つ。

 

「轟天爆砕! ギガントシュラーク!」

「飛竜一閃!」

 

 巨大化したハンマーと、砲撃相当の斬撃がレイとアフームを襲う。

 2人を中心に爆発が起こる。

 やがて爆風が晴れていく。

 そこには、透明な輝くオーラを纏ったレイが立っていた。

 アフームはいない。

 

「まさか、俺に兄気を使わせるとは。流石は守護騎士といったところか」

 

 レイはグラーフアイゼンを片手で支えている。

 

「な、何だよそれ、何しやがった!」

「兄気とは一体!?」

「兄気とは、兄貴の修業によって身につく、妹への思いの具現化! 俺の兄気の性質は『金剛』! 一定時間、俺は相当な身体能力を得る!」

((((((意味わからん……))))))

 

 未知の技能に困惑する管理局高官たち。

 その中でモーリーンだけが静かに爆笑していた。

 

「まったく意味の分からないことしやがって! 益々欲しくなるじゃないか! これで外交官でなかったらねえ」

 

 シグナムはやっとあることに気付く。

 

「シルバーは何処だ!?」

 

 レイはそっと天を指す。

 シグナムとヴィータが上を見上げると、そこにはスペルカードを構えたアフームがいた。

 

「この瞬間を待っていた! 風雷符『風神雷神ゲートウェイ』!」

 

 上空より雷と風の弾幕が3人に襲い掛かる。

 シグナムとヴィータは盾を展開して防がんとする。

 レイは何の気なしに避けていく。

 硬化してくる弾幕の密度は今までのものとは比べ物にならず、モニターではほとんど何も見えなくなっていた。

 

「捕まえた」

 

 レイがシグナムとヴィータの腕をつかむ。

 そして一気に加速しながら落ちていった。

 

「まさか、貴様!」

「そのまさかよ!」

 

 シグナムの言葉に狂気的な笑みで答えるレイ。

 

「「やめろー!」」

 

 シグナムとヴィータの声がシンクロする。

 レイは狂気的な笑みを浮かべながら落下の加速度を上げていく。

 

「墜落『平成のバブル崩壊パニック』!」

 

 高速で地面に衝突する3人。

 上から降り注ぐ弾幕と相まって、辺りには土煙がもうもうと立ち上る。

 やがて土煙が晴れると、そこには動けなくなったシグナムとヴィータ、頭から地面に突っ込んだレイが現れた。

 

「「「「「「相打ちーーー!?」」」」」」

「最後に立っているのは妾のみ。よってこの勝負。妾とレイの勝ちじゃな」

「そこまで! 模擬戦を終了します!」

 

 リンディの掛け声と共にレイとアフームの実力計測は終わったのだった。

 

 

 

 

 

「ハラオウン提督さんよ、ちょっといいかい」

 

 模擬戦終了後、モーリーンがリンディに話しかける。

 

「ちょいとあの子たちにねぎらいの言葉をかけてやりたいんだがいいかい?」

「え、ええ構いませんが」

「そうかい! あの子たちは非常に優れた虚空戦士(ハジケリスト)だからねえ。仲良くしておきたいんだよ」

 

 モーリーンは優しそうな笑みを浮かべるのだった。




 ここのところ暖かい日が続いていますが、急激な気温の変化に体がついていきません。
 しばらくは書き溜を放出する日々となりそうです。
 なかなか執筆が進まないなあ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 邂逅

 前回のあらすじ
 兄気、開放。


 リンディに案内され、モーリーンとニオはレイとアフームの控室に向かっていた。

 

(第6地上本部長、モーリーン・クロフォード。彼女もまた虚空戦士(ハジケリスト)。ならレイくんたちに興味を持つのも当然よね)

 

 リンディはモーリーンの目的を図りかねていた。

 引き抜きではないだろう。

 公的にレイとアフームは地球の外交官であることが確定しているからだ。

 リンディはモーリーンの目的が虚空戦士(ハジケリスト)としての興味だと思っていた。

 やがて、2人の控室につく。

 ドアからはどんちゃん騒ぎが漏れ聞こえてくる。

 

「朝までフィーバー!」

「ウルティマ、ウルティマ、マジック!」

 

 リンディはため息をつき、モーリーンは高笑いをした。

 

「元気だね! 全く。虚空戦士(ハジケリスト)はこうでなくちゃあ」

「はあ、全く。どうして2人はいつもこうなのかしら」

 

 リンディはドアを勢いよく開ける。

 

「2人共! もう少し静かにしなさい!」

 

 すると、中にいたのは、レイの体にシップを張るアフームだった。

 その様子に一切のフィーバーの様子はない。

 

「フィーバーしてないの……?」

 

 レイとアフームは打ち止め、打ち止め、と申し訳なさそうにする。

 

「おや、そちらのご婦人は」

 

 レイがモーリーンに気付く。

 

「なあに、ただのババアさ」

「何を言っているんですか。第6地上本部長、モーリーン・クロフォードさん」

 

 リンディの発言にレイとアフームは目を丸くする。

 

「第6地上本部長! いや、これはこんな姿で申し訳ありまへん。地球の国際魔術結社(IMS)の外交部のレイ=金剛=ダイヤモンドと申します」

「同じく外交部のアフーム=Z=シルバーですじゃ」

 

 レイは急いで上着を羽織る

 

「堅苦しい挨拶はいらないよ。あたしも虚空戦士(ハジケリスト)。今回は見事なハジケを見せてもらった礼を言いに来たのさ」

「いやいや、お見苦しいものをお見せしてしまって申し訳ない限りです」

「そう、恐縮するもんじゃないさ。その年では見事なもんさ。これからの成長が楽しみだよ」

「そういって下さると幸いです」

 

 レイとアフームは頭を下げる。

 

「それよりもさ、お前さんの実家って宗教やってるんだろ? あたしもそうさ、宗教家なのさ」

「へえ、噂にはお聞きしてましたが、虚空教団でしたか? 次元世界第2位の」

「そうさ、お前さんとは宗教家としても話してみたかったところさ、如何だい、互いに問答と行こうじゃないか」

「望むところ!」

 

 そういうとレイとモーリーンはこけしの様な姿となり。ポヨンポヨンと跳ね回る。

 

「え?」

 

 リンディの驚愕をよそに、2人は接近する。

 

「リポミダン」

「F」

 

 問答終了。

 そしてポヨンポヨンと離れていくのだった。

 

「え?」

 

 リンディは状況がつかめない。

 

「まさか、ここまで一致するとはねえ」

「ええ、驚きです」

 

 モーリーンとレイの間でのみ何かが通じ合ったようである。

 

「まさか、ここまで家の教義と虚空教団の教義が一致するとは」

「全く同じ信仰を掲げているといってもいいだろうね。神々も同じとは驚きだよ」

「あの、一体何が」

「わからぬか提督殿。レイの実家の教義と虚空教団の教義がまるっきり同じということが判明したのじゃ。これは驚くべきことである」

「なんでわかるの?」

「わからぬか? 魂で」

「わからないわよ」

 

 リンディは理解することに匙を投げる。

 

「うちの伝承では、両家の初代は異邦人らしき記述があります。もしかしたらそちらからの次元漂流者だったのではないかと」

「ああ、その可能性は高いねえ。今となっては確かめようがないが」

「ええ、確かめようがありませんが」

 

 レイとモーリーンは互いに微笑み合う。

 

虚空戦士(ハジケリスト)は虚空教団の帰依者でなきゃいけないというルールはない。だがほとんどの虚空戦士(ハジケリスト)が帰依者だ。まさか、異郷の虚空戦士(ハジケリスト)が帰依者とはねえ」

「僕も驚きです。そもそも両親の実家の信仰が似ているだけでも驚きだというのに、次元世界でまさかルーツとなりうる事柄に出会うとは」

「この出会いは奇跡かもねえ」

「ええ、奇跡でしょう。両親へのお土産話が出来ました」

「別にあたしとしてはそちらに信仰にケチをつけるつもりはないさ。それどころか協力したいぐらいさね」

「僕も同意見ですが、こればっかりは両親と話をしないといけないことなので」

「ああ、そうだねえ、正式に外交を結んでからかねえ」

「では、交流していただけるので?」

「急いで内部をまとめるさ。なあに、うちは基本的にこういうことは早いのさ」

「助かります。まだ他の次元世界とはほとんど交流がないものですから」

「お互い、いい相手になるといいね」

「こちらとしても、そうありたいものです」

 

 レイとモーリーンは互いの国交について急速に話を進めていく。

 それは上手くいっているようであった。

 

「地球に我々の信仰があったとは、不思議な話ですね」

「……そうね、奇跡みたいな話ね」

「奇跡ですよ、これは」

 

 ニオとリンディの温度差は激しかった。

 感動するニオに対し、リンディはここまでの流れが全く分からなかった。

 

(第6地上本部、いや、第6次元文化圏は魔境と呼ばれる場所。虚空戦士(ハジケリスト)の巣窟。レイくんなら大丈夫かもしれないけど、他の人達はどうなんでしょうね)

 

 第6次元文化圏とは、第6管理世界ブリリアントを中心とした7つの管理世界の総称の事である。

 この文化圏での信仰は虚空教団が占めており、聖王教会が入り込む隙間はない。

 また、近代ブリリアント式魔法を使用すること、虚空戦士(ハジケリスト)が多数存在することで知られ、他の次元世界とは一線を画す世界なのである。

 ある種の独立性を保った文化圏であり、地上本部もまた独立性が高いのである。

 現在の第6地上本部長モーリーン・クロフォードは虚空教団の上級司祭でもあり、政教どちらの分野でも強権を握っている女傑である。

 

「言っとくけど、うちの上級管理職の連中は揃って上級司祭共さ。政治と宗教は切っても切り離せないんだよ。そこは理解してくれよ」

「ええ、最大限配慮します。僕の家も宗教ですから」

 

 この女傑に対して一歩も引かないレイの交渉力にリンディは舌を巻いていた。

 これがさっきまでハジケていた少年なのだろうか。

 リンディにはどちらの顔がレイの本性なのかわからなかった。

 

「さて、政治の話はここまでだ。あたしはお前さんに頼みがあってきたんだよ」

「頼み、ですか」

「ああ、お前さんほどの虚空戦士(ハジケリスト)ならきっとやってくれるんじゃないかと思ってね」

「それは一体?」

「キング・オブ・ハジケリストの称号を取ってきてもらいたいのさ」

「……僕は外部の人間ですよ」

「ほう? それが何なのかわかったみたいだねえ」

「恐らく、虚空戦士(ハジケリスト)の頂点を示す称号なんでしょう? ならば虚空教団に正式に属していない僕が取りに行くわけにはいきまへんよ」

「いや、お前さんはあたしたちと信仰を同じくするものだ。問題はないよ。いや、問題なんてないことにしてやる。異郷で信仰を保ち続けてきた一族の末裔だと言えばみんな諸手を挙げて賛成してくれるだろうさ」

「鷹揚なんですね、そちらは」

「だから、他の地上本部に比べて犯罪率が低いのさ。それより、引き受けてくれるかい?」

 

 レイは少し思案する。

 そこにアフームが口を挟んでくる。

 

「レイ、妾は引き受けてもいいと思うぞ。これはレイの信仰と実力を試すチャンスでもある」

「……アフームがそういうなら」

 

 レイは顔を上げると、モーリーンに向き直る。

 

「その話、お引き受けする方向性で行こうと思います。詳しい話は持ち帰ってから検討しますので」

「そうかい! それは有難いねえ。何しろキングの座は100年近く空位なのさ。キングにふさわしい虚空戦士(ハジケリスト)がいれば何としても唾をつけたいところさ」

「僕は外部の外交官ですよ。とられてもいいんですか?}

「おかしなことを言うね、お前さんは我々の同胞だろう? 信仰を同じくするね」

 

 レイとモーリーンの間に火花が散る。

 

「キングになっても手心は一切加えまへんで」

「そうでなくちゃあ。神々に誓ってそうしてくれ」

「ええ、神々に誓って」

 

 レイとモーリーンは互いに笑顔を見せた。

 リンディはそれを見て背筋に悪寒が走った。

 

 

 

 

 

「……とまあ、こんな話があって、第6地上本部とは良好な関係を築けそうなんや」

 

 翠屋では新たにはやて、あすか、を加えたいつものメンバーがいつものようにお茶をしていた。

 今日の話題はこの前のレイとアフームの能力測定の話である。

 

「そういえば、レイくんの家って、どっちも宗教だっけ」

 

 すずかが思い出すように言う

 

「左様、母方が神社、父方がドルイドや」

「よく結婚できたなあ。こういう家って結婚相手に厳しそうなイメージあるけど」

 

 はやてが不思議そうに言う。

 

「それがな、父方の教義も母方の教義もそっくりやったから両家共にすんなり事が行ったんや。それに加え、今回の虚空教団ともそっくりと来た。偶然やないなこれは」

「ホント、偶然にしては出来過ぎよね。その教義が何なのか知らないけど」

 

 アリサがレイに同意する。

 

「そもそも、私達、レイがどういう宗教やってるのか知らなくない?」

 

 アリシアが声を上げる。

 

「確かに、それに、お寺と神社の違いもよくわかんないし、そういうのレイは詳しそうだよね」

「詳しいどころか、当事者やからなあ。よう知っとるで」

 

 フェイトの疑問にレイは自信満々に答えられると太鼓判を押す。

 

「お寺は仏教の施設。神社は神道の施設や。宗教が違うんや、宗教が」

 

 へえ、と声が上がる。

 

「うっとこの母方は神社やから、神道の家や。言うても日本は神道と仏教入り混じってしもうたからなあ。俺もお寺は行ったりするで」

 

 再びへえ、と声が上がる。

 

「違いは分かったけど、じゃあ、レイくんの家はどういう教えなの?」

 

 なのはが疑問を呈する。

 

「うむ、うっとこと虚空教団が同じ教義やイデオロギーを掲げているんはさっき話したな。

 固有名詞を虚空教団に合わせるんやけど、これらは同じ神話を伝えているんや」

 

「神話?」

 

 あすかが声を上げる。

 

「左様、それは非常にシンプルな神話でな、一説にはグノーシス主義の元になったとも言われているんやけど、それはどうでもええか。その神話によると、この宇宙を作った神様はこの宇宙を適当に作ったもんやから罰を喰らって封印されてもうたんや。そんで宇宙は適当に作られたもんやから混沌としていて、神々の世界の悪影響を及ぼしかねんかった。それを何とかしたのが、アタラ・ゾーという神様で、自らの6柱の娘を送り込んで宇宙に秩序をもたらしたんや。それが火の神クトゥグア、雷の神クトゥドェ、氷の神クトゥクヒ、風の神クトゥシャ、水の神クトゥピェ、土の神クトゥジィや。これらを秩序六神と呼ぶんや。ほんで宇宙に秩序がもたらされるわけやけども、それが気に入らんかったんが、宇宙を創造した神の子供たちや、彼らは新たにこの宇宙の内部で神を作り、この宇宙を混沌とさせようと暗躍したんや。それに対抗して秩序六神も生命が生まれる星に現れては悪い神々に対抗できる力を与えてきたんや。そしてとうとう、神々の戦争が始まってしまうんや。この戦いで秩序六神は敵の瘴気に中てられて、狂ってしまうんや。この時、わずかな理性をもって自分たちの一部を混ぜ合わせて、新しい神様を作るんや。しかしこの神様も狂ってしまったんで、仕方なく封印されることとなったんや。戦いは一応善い神々の勝ちで終わったんやけどその被害は尋常やなくてな、悪い神々は封印され、善い神々は引き籠ってしまいました。これがうっとこと虚空教団に伝わる神話や」

 

 へえ、と頷く声がする。

 

「これでもかいつまんで説明した話やで。大筋は合っとるけど」

 

 誰もが呆けたようにしている。

 

「アンタねえ、いつもこれくらい真面目でいなさいよ。あんたの神々はどういう教えしてんのよ」

 

 アリサが苦言を呈する。

 レイとアフームは顔を見合わせて答える。

 

「「汝、ハジケよ、と」」

 

 

 

 

 

 第6次元世界ブリリアント首都、ヘキサグラムは今夏である。

 次元船ポートではバカンスに出かける人、バカンスに来た人でごった返していた。

 そこに小学生の一団が現れる。

 入国管理官がパスポートの提示を求める。

 

「ヘキサグラムには観光で?」

「ええ、その様なものです」

 

 随分真っ白なパスポートだと管理官は思った。

 この年でスタンプまみれのパスポートというのも珍しいが。

 

「それではよい旅を」

「おおきに」

 

 銀髪銀眼の少年、レイが礼を言う。

 小学生の一団はポート内をきょろきょろと見回す。

 すると、ポート出口付近で見知った顔を見かける。

 

「皆さんようこそいらっしゃいました。ブリリアントへ!」

 

 モーリーンの秘書、ニオだ。

 

「しばらく、お世話になります」

 

 レイが代表して挨拶をする。

 ここに、キング・オブ・ハジケリストをめぐる物語が始まろうとしていた。




 ここのところ体調が優れません。
 執筆も思うようにうまくいかない日々が続きます。
 心身共に健康でないと執筆出来ないものですね。
 皆さんも体調には気をつけてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 合宿

 前回のあらすじ。
 バブル崩壊! 氷河期到来!


 プレシアは、ニオが運転する車内でここに至るまでの経緯を思い返していた。

 このブリリアント行きは元々、レイとアフームのキング・オブ・ハジケリスト挑戦と外交訪問が目的だった。

 しかし、第6地上本部長モーリーン・クロフォードがレイに友達を呼んでバカンスを過ごしてもいい、と声をかけたため、こうしてなのは達もブリリアントに来ることが出来たのである。

 プレシアは彼女たちの引率としてついてきているのだ。

 元々道理の分からぬ子たちではない、それ故、引率は楽なのだが、場所が問題なのである。

 虚空戦士(ハジケリスト)の楽園、第6次元文化圏の中心、この世で最もハジケている都市、ヘキサグラムである。

 レイのおかげで健康を取り戻したプレシアであったが、この旅で別の健康問題を抱えることになるのではないかと、心配になるのであった。

 

「見えてきました、あれが第6地上本部です」

 

 ニオがそういうと、目の前に巨大なビル群が現れる。

 

「あれが……」

 

 レイが呟く。

 

「到着したら、金剛=ダイヤモンドさんは本部長以下幹部の皆さんと面会していただきます。他の皆さんは別室で待機していただきます」

 

 この旅の目的は、地球と第6次元文化圏との外交が第一である。

 レイは丹田に力を籠める。

 

「レイ、今から力を籠めてどうする。リラックスじゃ、リラックス」

「ああ、せやな」

 

 プレシアは一応安心した。

 レイが年相応に緊張しているのを見たからだ。

 

(そういえば、レイくんって筆頭外交官なのよね)

 

 プレシアは年不相応な彼の役目に、彼の気苦労を慮った。

 当のレイの顔はヒョウタンツギみたいになっていた。

 

(……どういう感情なのかしら)

 

 

 

 

 

 第6地上本部大会議室では、幹部が勢揃いしていた。

 その中心にはモーリーンがいる。

 ドアがノックされる。

 ニオと共にレイが入室する

 

「金剛=ダイヤモンド様が到着なされました」

「久しぶりだねえ。調子はどうだい」

 

 モーリーンは何の気なしにレイに声をかける。

 

「ええもう、調子が良すぎて怖いくらいですわ」

 

 レイが微笑む。

 

「本日はお時間を作っていただき誠に有難く存じ上げます。こちらが国際魔術結社(IMS)の回答となっております」

 

 レイが手元の書類をモーリーンに送る。

 モーリーンが中身を改める。

 緊迫した空気が室内を覆う。

 やがて、モーリーンが顔を上げる。

 

「見事だね、その手腕。こちらの要求もそちらの要求も無理なく叶えようとした結果だろう? そうさね、こういうのをあたしたちは求めていたのさ。いいとも、これで調印しよう。進めてくれよ」

「はい、有難うございます」

 

 レイは頭を下げる。

 

「あまり御客人を待たせるもんじゃないからね、やることはさっさと終わらせるよ。さて、次はお前さんのキング・オブ・ハジケリスト挑戦についての話だったね」

 

 レイの態度が引き締まる。

 レイだけではない、幹部全員がそれを待っていたかのように目の色を変える。

 

「まずはその実力をこいつらの前で見せてくれないか? そうさね、テーマは『墓参り』だ」

「わかりました」

 

 そう言うと、レイは静かに目を閉じる。

 

 

 

 

 

 真夏の昼の墓場というものは人がいないものである。

 その中に人影が一つ、レイだ。

 レイがある墓の前に立ち止まる。

 レイが墓に手を合わせる。

 そして手提げカバンからうどんとめんつゆを取り出す。

 レイはうどんを墓にぶちまけると、更にめんつゆを上からかけていく。

 

『うどんそなえて 母よ 私もいただきまする   種田山頭火』

 

 レイは散らばったうどんを必死の形相で口に入れていく。

 遠くでセミの声がしていた。

 

 

 

 

 

「「「「「「ぐはっ!!!」」」」」」

 

 モーリーンを含む幹部全員が吐血する。

 

「大したハジケ力だ……」

「これは合格だな……」

 

 幹部たちは早々にレイの実力を認め始めていた。

 

「どうだい、挑戦を認めてもいいじゃないかと思うんだけどねえ」

 

 モーリーンが幹部たちに問いかける。

 

「「「「「「異議なし!」」」」」」

「ということだ、お前さんの出自は全員知ってる。その上でだ、お前さんにキング・オブ・ハジケリスト挑戦を認めようじゃないか」

「有難うございます。光栄です」

「なあに、あたしたちはただ優秀な虚空戦士(ハジケリスト)に目を付けただけさ。お前さんが外部の外交官だろうと関係ないよ。優秀な虚空戦士(ハジケリスト)はそれだけで尊敬されて然るべき存在だからね」

 

 モーリーンはにっと笑みを浮かべる。

 レイも微笑みで返すのだった。

 

 

 

 

 

「それでは皆さん、こちらがヘキサグラム宮殿になります」

 

 案内人に連れられ案内されたのは、ニュートラル王朝の宮殿、ヘキサグラム宮殿である。

 レイ達はここに観光に来ていた。

 そして、同時にここでユーノと合流することになっていた。

 ユーノは現在ヘキサグラム宮殿で仕事をしているのだ。

 

「みんな!」

「「「「「「ユーノ(君)!」」」」」」

 

 一向に気付いたユーノが駆け寄ってくる。

 

「お仕事はいいの?」

 

なのはの質問にユーノは答える。

 

「ああ、もう僕の出番は終わりかな。後は現場の皆さんにお任せってところかな。僕もレイの手伝いが出来そうだよ」

「ここで一体何の仕事をしていたの?」

 

 フェイトがユーノに質問する。

 

「宮殿の隠し通路の発掘さ。文献を漁っていたら、隠し通路らしきものを見つけたんでね」

「「「「「「隠し通路」」」」」」

「うん、何に使われていたのか、何の目的があったのか、これだけで十分論文が掛けそうだよ」

「着々と成果を上げているのね」

 

 プレシアがユーノを羨む。

 彼女もまた学者なれば、論文の重要性は十分理解している。

 

「ええ、今のところはこの発見だけでも論文を書いてしまおうと思います。そのためにもバカンスに参加させてもらおうかな」

「大歓迎やで、ここんところ働き詰めやったんやろ? 一息入れるんも大事やで」

 

 全員がレイの言葉に頷く。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 

 ユーノも加わり、ヘキサグラム宮殿観光を続ける。

 

「この宮殿はニュートラル王家の居城だけでなく、神殿としても使われていたんだ」

 

 ユーノが宮殿についての蘊蓄を語る。

 

「この建築様式は世界でも珍しい、第6次元文化圏だけの様式でね、蜘蛛の巣状の廊下に中央には360度回転する玉座と正六角形状に宮殿が構成されているんだ」

「それはまた珍しいどころか、独特やな」

 

 ユーノの蘊蓄に話を合わせるはレイばかりで、他の面々はただただ驚くばかりであった。

 壁に架けられた絵画や彫刻、独特な意匠に見とれていた。

 

「こうしてみると、本当に不思議な空間。昔の宮殿ってどんな感じだったのかな」

 

 アリシアが太古の宮殿に思いを馳せる。

 

「それはきっと大賑わいだったと思うよ。ニュートラル王家は他の王家に比べて鷹揚だったと聞くし、代々高名な虚空戦士(ハジケリスト)を生み出してきたから、毎日が騒がしかったと思うよ」

虚空戦士(ハジケリスト)としてはこのような場所に来れて感激やな。かつての虚空戦士(ハジケリスト)達がどのように過ごしていたのか気になるなあ」

「そうじゃな、ここは生活の場だけでなく、祈りの場でもある。その観点から見ても、本当に素晴らしいと思うぞ」

 

 すっかりただの観光客と化したレイとアフーム、その様子にみんなはこう思うのだった。

 

((((((いつもこうならいいのに))))))

 

「でも、こうしてみると、ハジケの中心地ってわりにハジケた作品が少ないような気がするなあ」

 

 はやてが勘づく。

 

「ああ、そっち系の作品は隣の美術館に収容されてるよ。後で見に行こうか」

((((((あるんだ……))))))

 

 なのは達は察した。

 絶対ツッコミ疲れするだろうってことを。

 

 

 

 

 

 ニュートラル・ハジケ美術館。

 ここは、王宮に所蔵されていた美術品を中心に展示してある、第6次元文化圏最大の美術館である。

 なのは達はここに足を運んでいた。

 

「これがかの有名な『シャイニングキノコ狩り』だよ」

「「「「「「無駄に神々しい……」」」」」」

 

 王族がキノコ狩りをする様子を画いた名作なのだが、如何せん無駄に精密な筆致でキノコ狩りをかいているものだからシュールな印象を受ける。

 

(『不快になるダルマ』……?)

 

 なのはが見つけたのは『不快になるダルマ』という作品である。

 

「祈願」

(想像以上に不快なの……)

 

 無駄にダンディーなダルマになのはは微妙な気持ちになる。

 

「ん? 犬?」

 

 ヴィータが見つけたのは『犬?』という作品である。

 

「注意書きがあるな、何々、こちらは犬だと思われますがこちらでは判断が尽きません。お客様の目で判断してください、だって?」

 

 ヴィータはその作品を見る。

 

「どう見ても木じゃねえか……」

 

それは木製の犬っぽい何かだった。

 

「ちゃんと四つ足と耳があるのが腹立つ」

「ベニヤです」

「喋った!?」

 

 フェイトが眺めているのは『部屋片づけなさい』という彫刻だった。

 掃除機を持つ母親と、ひっくり返る息子という構図の彫刻だ。

 

「もっといいモチーフはなかったのかな……」

 

 フェイトは無駄に肉感のある彫刻に困惑していた。

 

「ほう、『剣術指南』か」

 

 シグナムが見つけた絵は剣術の様子を画いた絵である。

 しかしその絵の剣術は尻に剣を挟むという異様なものだった。

 

「何故尻に挟む……」

 

 アリシアが見つけた彫刻は『DOGEZA』というタイトルである。

 その彫刻は均整の取れた男が全裸で土下座をしているというものであった。

 

「うわあ、無駄に美しい。妙にかっこいいのが腹立つ」

 

 すずかが眺めているのは『雪の女王』という絵だ。

 しかし描かれているのは雪中でカーニバル衣装に身を包む女の絵だ。

 

「タイトルと内容が一致してない……」

 

 アリサが見つけたのは白と黒のコントラストのみで描かれたモダンアートのような作品だった。

 

「こんな真面目な作品もあるのね。ん、この作品は1分ごとにライトアップします、ですって。印象でも変わるのかしら」

 

 やがてライトアップする。

 すると、黒だと思っていたのは忍者だった。

 

「うわあ、台無し……」

 

 シャマルが見ている絵は『麻酔』という絵である。

 しかし、内容は寝ている患者に機銃掃射しているものであった。

 

「何で、患者に機銃掃射してるのかしら……」

 

 はやてが見つけた彫刻は『腹ちねり』というものである。

 腹をちねる男とちねられている男の彫刻だ。

 

「何のためにこれを作ったん……」

 

 ザフィーラが見ているのは『ボグリングの獣』という絵である。

 過去にボグリング地方を荒らしまわった獣の絵だという。

 

「なぜこんなにファンシーに描いたのだ……」

 

 その絵は子供向けかと思うほどファンシーだった。

 

 あすかが見つけたのは『剣聖』という彫刻だ。

 

「何故下半身が出ているんや……?」

 

 何故か、その像は豪奢な上半身とは逆に下半身は一切何も身に着けていなかった。

 

「これは、『母子像』ねえ」

 

 プレシアが見ている絵は『母子像』という絵である。

 

「いや、何人いるわけ!?」

 

 何故か子供を抱える母親がたくさん描かれている。

 非常に細かいため、後ろの方に至ってはほとんど何も見えない。

 

「『夜天の騎士たち』……か」

 

 リインフォースが見つけた絵はヴォルケンリッターを描いたものである。

 

「一人多くないか……?」

 

 1人余計な、仮面にローブ姿の人物が描かれている。

 

「『姉弟』ですか」

 

 エストが見ているのは2人の人物の彫刻である。

 

「何故ジョジョ立ち何でしょう……。擬音も彫ってあるし」

 

 その彫刻はなぜかジョジョ立ちだった。

 

「……ほう」

 

 レイとアフームは巨大な絵の前で立ちすくんでいる。

 やがて、みんなが先に進んだのを気付いたのか、慌てて追いかける。

 その絵のタイトルは『新神の誕生』というタイトルだった。




 あー書くことが無い。
 あー執筆意欲が無い。
 気怠さを感じる、そんな日々です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 試練

 前回のあらすじ。
 Emerson Lake & Palmarの『Pictures At An Exbition』を聞きながら。


「キング・オブ・ハジケリストに挑戦するには7つの試練を越えねばならん」

 

 ホテルの朝食の席で、レイがキング・オブ・ハジケリストについて語る。

 

「俺が獲得したのは試練への挑戦権であって、キングへの挑戦やない。試練に合格すればキングへの道が開かれるそうや」

「そうって、確かなことは分かってないの?」

 

 アリサがあいまいな表現に苦言を呈する。

 

「何しろ100年もの間キングの座は空位なんや。それに従い、虚空教団のトップも不在ということになる。確かなことは歴史に埋もれてしもうたんや」

「僕も無限書庫で文献を漁ってみたけれど、書いてあることがバラバラで何が真実かわからないんだ。仕方ないから試練をこなしていくしかないよ」

 

 レイとユーノが肩をすくめる。

 

「その試練ってどんなの?」

 

 アリシアが質問する。

 

「その7つの試練はそれぞれ番人がおる。彼等の出す難題をクリアすることで試練合格となるわけや。その試練の内容がどんなものかは知らん」

「一説によると人によって異なるらしいからね、ただし公表されている試練が一つだけあるんだ」

「何それ?」

 

 フェイトが尋ねる。

 

「「7つ目の試練、星を100周しろ」」

「「「「「「どう考えても無理だよね!?」」」」」」

「いや、出来る見当はついとる」

「「「「「「そーなの!?」」」」」」

「問題は俺の気力と体力の問題なんやけど、それは全ての試練を終えてからでええやろ」

 

 レイはナプキンで口を拭く。

 

「みんな、俺のちょっとしたわがままに付き合うてくれてほんにおおきに」

「いまさら何を言うとるんや。友達の晴れ姿を見に行くんは当然やろ」

 

 はやてが感謝を述べるレイにさも当然といったふうに返す。

 

「そうか、友達か……」

 

 レイはふっと微笑む。

 

「さあ、まずは最初の試練、火の試練や。向かうは第30管理世界、マゼンタ」

 

 

 

 

 

 第30管理世界マゼンタは別名火の世界とも呼ばれている。

 平均気温が高く、夏場は焼けるように熱いことで、その分冬は暖かく、雪はめったに降らないことで有名である。

 レイ達はここにある火の試練場へと向かっていた。

 火の試練はバルミナ火山にあるという。

 レイ達は火山を上っていく。

 やがて、試練場だという洞窟を見つける。

 こういう場が慣れているのか、ユーノは全員分のヘルメットを用意していた。

 洞窟を進んでいくと、やがて溶岩が湧きたつ場所へとたどり着く。

 なのは達は思わず汗を拭く。

 

「この環境、なんだか歌いたくなってくるな」

「「「「「「は?」」」」」」

 

 レイが妙なことを言い出す。

 レイがギターを取り出すと、突如としてレイ、アフーム、ユーノの3人は歌いだす。

 何故かドリカムの『未来予想図Ⅱ』だ。

 サビまで歌うと、溶岩が湧きたち、溶岩から謎の生物が現れる。

 

「我の眠りを妨げるのは誰じゃ~」

「「「「「「何か召喚したーーー!!!」」」」」」

 

 驚愕するなのは達。

 

「落ち着け! こんな時のために『うれしい! たのしい! 大好き!』を練習したやろが!」

 

 レイの一喝で、ドリカムの『うれしい! たのしい! 大好き!』が歌われ始める。

 すると、謎の生物は溶岩の中へと戻っていくのだった。

 

「「「「「「戻っていった!」」」」」」

 

 すると、溶岩からまた新たな人影が現れる。

 

「キング・オブ・ハジケリストの挑戦者かな。俺は火の精霊イグニス。試練を受けるものを待っていた」

 

 レイ達は歌うのをやめない。

 

「ちょっと、試験官みたいな人が出てきたけど!」

「大丈夫なの!? 大丈夫なの!?」

 

 慌てるなのは達に対し、歌うのをやめないレイ達。

 

「成程、これは見事にハジケている。しかし、この試練を乗り越えることが出来るかな。火の試練! それは君のエンジンを見せることだ!」

「「「「「「意味不明!」」」」」」

「はいよ」

 

 そう言うとレイの胸が開き、中のエンジンが顔を出した。

 

「「「「「「あるんだ!?」」」」」」

「こ、これは! 伝説のV3型エンジンじゃないか!」

 

 レイのエンジンは筋骨隆々の男たちが回し車の中で走っているといったものだった。

 

「「「「「これエンジンなの!?」」」」」」

「ん! よく見ると、これ、コード繋がってないじゃないか」

 

 イグニスはコードの不備に気づく。

 

「あの、皆さんなんで走っているんですか」

 

 イグニスが男達に尋ねる。

 男たちは顔を見合わせると、にっこりと答えるのだった。

 

「「「趣味です」」」

「グハッ!!!」

 

 イグニスが吐血する。

 

「フフフ、成程大したハジケ力だ。いいだろう、そのハジケを認めよう! これを受け取り給え」

 

 そう言うとイグニスがレイに何かを手渡す。

 それはマゼンタ色のトゲトゲしたボールだった。

 

「このハジケボールを7つ集めることでキングへの道が開かれる。さあ! これは次の試練への門だ! 行き給え!」

 

 イグニスがそう言うとマゼンタ色の魔方陣が現れる。

 

「随分と親切やな」

「わざわざ次元世界を移動するのは面倒だろう? 何事も効率さ」

「その言葉、全国の経営者に聞かせたいのう」

 

 レイ達は魔方陣の上に乗る。

 

「さあ! 次の試練へ向かうがいい!」

 

 その言葉と共にレイ達は転送されたのだった。

 

 

 

 

 

 第31管理世界レッドは赤い惑星の異名を持つ星である。

 大地は鉄分の多い赤土か、砂漠で覆われている。

 その砂漠の洞窟の中にレイ達は転移した。

 

「ここが次の試練の場か」

 

 レイが呟く。

 

「そう! ようこそ土の試練へ! 私は土の精霊テッラ。久々の挑戦者に胸が高鳴ります!」

 

 今度の精霊は女性形のようだ。

 

「して、今回の試練はいかなるものか?」

「焦らないでください。私の試練はこちら! 『仲間と素敵な旅をしろ』です!」

「「「「「「どんな試練だよ!?」」」」」」

「わかったで!」

「「「「「「わかっちゃうの!?」」」」」」

 

 そう言うとレイは謎の構えをとる。

 

「旅という指示、ここは砂漠、ならこいつらとの旅しかない!」

 

 そう言うとレイは三蔵法師のコスプレをしたのだった。

 『西遊ブタ』が始まった。

 

「「「「「「西遊ブタ!? 全部八戒だ! 馬もブタだし!」」」」」」

 

 悟空、八戒、悟浄の格好をしたブタとブタの顔をした馬を引き連れ天竺へと旅をするレイ三蔵。

 それから半年後、ブタたちは見事に回鍋肉となったのであった。

 めでたし、めでたし。

 

「「「「「「調理されてるーーー!!! これめでたいか!?」」」」」」

「グフッ! なんて素敵な旅なんでしょう、これは認めざるを得ません」

「「「「「「そう!?」」」」」」

 

 テッラは喀血し、片膝をつく。

 

「これは土のハジケボールです。これをもって次の試練に向かうといいでしょう」

「おおきに」

 

 レイは赤いハジケボールを受け取ると懐にしまう。

 

「さあ! この調子でどんどんハジケボールを集めるで!」

 

 

 

 

第32管理世界、イエロウ。

ここで雷の試練が受けられる。

 レイ達は雷の精霊トニトルスから試練を聞かされていた。

 

「雷の試練は、ショッキング映像の提出だ」

「「「「「「どんな試練だよ!?」」」」」」

「ならばこの映像しかあるまい!」

 

 レイがトニトルスにビデオカメラの映像を見せる。

 

「うわあ、コレヤバすぎだろ……。お前らこの年でこんなハードなことしてんのかよ」

「「「「「「何!? 何が映ってるの!?」」」」」」

「悪りい、これはお前らに見せらんないわ。刺激が強すぎる」

「「「「「「何なの!? 怖いよ!?」」」」」」

「タイトルは『レイとアフームのほのぼの夜のお散歩』です」

「やべえな、ほのぼの感が一切無え。すげえハジケてやがる」

「「「「「「どんな映像だよ!?」」」」」」

「よっし、お前らのハジケを認めよう。雷のハジケボールだ。持ってけ」

「あざっす!」

 

 レイは黄色いハジケボールを受け取ると恭しく礼をするのだった。

 

 

 

 

 

 第33管理世界グリーン。

 ここで行われるは風の試練である。

 

「私は風の精霊ウェントゥス。風の試練は、扇風機の前であーってしてみることです」

「「「「「「何その試練!? 意味不明!?」」」」」」

「ええんか? 俺は扇風機の前であーってする世界大会6位入賞やで」

「「「「「「すごいの!? それ!?」」」」」」

 

 レイは扇風機の前に四つん這いになると、喉を鳴らし、息を整える。

 

「あーーーーーー♪」

 

 レイはきれいなボーイソプラノで扇風機の前で声を出す。

 

「なんと理想的なフォーム。美しい声。ここまで美しい扇風機の前であーっは聞いたことがありません」

「「「「「「そーなの!?」」」」」」

「その美しさに免じて風のハジケボールを差し上げましょう」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 

 レイは緑色のハジケボールを受け取ると、演歌歌手の様に何度も例をするのだった。

 

 

 

 

 

 第34管理世界シアン。

 ここでレイ達は氷の試練を受けていた。

 氷の精霊グラキエスより試練の内容を聞かされていた。

 

「氷の試練、それはこのシャンツェからスキージャンプすることだ」

「「「「「「素人には無理!」」」」」」

「何事も挑戦! 男なら何でも試してみるもんや!」

 

 そう言うとレイはシャンツェのスタート台に座る。

 

「目標はK点越え!」

「「「「「「無理だって!」」」」」」

 

 しかし、突如として吹雪いてくる。

 

「ん! 天候が悪くなってきたな! ジャンプ中止。仕方ないから試練は別のな」

「いいや! 飛ぶ! 俺は飛ぶで!」

「「「「「「何言ってんの!? 無茶だって!」」」」」」

 

 そう言うとレイは、スタート台から立ち上がり、滑り降りていくのであった。

 吹雪の中、レイは飛ぶ。

 滑空しながら降りていくレイ。

 テレマークを決めた瞬間、背後が爆発するのだった。

 

「「「「「「何で!?」」」」」」

 

 爆発の中から雪男が現れる。

 

「「「「「「どゆこと!?」」」」」」

「雪男狩りじゃあ!」

 

 レイは散弾銃を手に雪男に突進する。

 

「「「「「「何してんの!?」」」」」」

 

 五分後、そこには相打ちとなったレイと雪男が倒れていた。

 

「「「「「「相打ちになってるーーー!!!」」」」」」

 

 氷の精霊グラキエスは拍手をする。

 

「よくぞ氷の試練を突破した!」

「「「「「「これ突破したの!?」」」」」」

「氷のハジケボールをやろう」

「有り難き幸せ」

 

 レイはシアン色のハジケボールを受け取る。

 

「次が最後や、気合入れていくで!」

 

 

 

 

 

 第35管理世界ブルー。

 表面積の9割が水のこの惑星でレイは最後の試練を受けていた。

 

「私は水の精霊アクア。最後の試練である水の試練へようこそ」

 

 誰もがごくりと喉を鳴らす。

 

「水の試練、それは感動の涙を流す事です」

「「「「「「そーなの!?」」」」」」

「ビデオでもええんか?」

「いいですよ」

「「「「「「いいの!? 条件安い!」」」」」」

 

 レイは早速ビデオを回す。

 その映像はクマが爪楊枝で歯の詰まりを取っているシーンだった。

 

「くぅぅ! 泣ける! ジェニファー!」

「「「「「「今のどこに泣ける要素が!?」」」」」」

「なんて感動的な映像何でしょう。私も泣けてきました」

「「「「「「アンタもか!」」」」」」

「試練合格です、水のハジケボールを差し上げます」

「やったぜ」

 

 レイは青いハジケボールを受け取る。

 

「これで残す試練は1つ、星を100周するのみ」

「ホントにできるの?」

 

 なのはが心配そうにレイに問いかける。

 

「ん、まあ何とかなるやろ。策はあるしな」

 

 レイはにやりと笑う。

 しかし、皆の不安はぬぐえないのであった。




 今日は久々に執筆が進んだ。
 とはいえ、数百字だけだけど。
 明日はきっと書けるよね。
 感想お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 決戦

 前回のあらすじ
 試練合格。


 ヘキサグラムスタジアムでは多くの観客が今か今かとその時を待ちわびていた。

 スタジアムの特設ボックスではなのは達が妙な気分で座っていた。

 

((((((どうしてこうなったんだろう……))))))

 

 事の次第はレイが6つのハジケボールを集め、ヘキサグラムに戻ってきた所から始まる。

 次元ポートでは数多のマスコミが待ち構えていた。

 目的はレイである。

 100年ぶりにキング・オブ・ハジケリストが生まれようとしていることがどこからか漏れたのである。

 呆然とするなのは達を尻目に、スター気取りで報道陣たちの質問に答えていくレイ。

 その姿にはどこか貫禄がある。

 そこから急に最後の試練をスタジアムで行うことが第6地上本部によって公表されたのである。

 レイは一夜にしてスターとなったのだ。

 そして現在に至る。

 ボックスにはなのは達と一緒にモーリーンもいる。

 モーリーンは静かに紅茶を飲んでいる。

 

「レイくんの情報ってどこから漏れたんだろう」

 

 すずかが一番の疑問をとうとう口にする。

 

「それはあたしが漏らしたのさ」

 

 答えたのはモーリーンだった。

 

「ここ100年で6つの試練を全て攻略した虚空戦士(ハジケリスト)は片手で数えるほど。そのいずれもが最後の試練で散っていった。それでもあたしたちは期待してしまうのさ。次こそ誰かがやってくれるってね。その次の誰かが現れたのさ、皆の前で挑戦してもらいたいと思うのは悪いことかい?」

 

「でも、レイくんの挑戦は私達のほかに誰もついてこなかったはず。誰がいち早く情報を届けていたの?」

 

 なのはが当然の疑問を呈する。

 

「僕が撮影していたからさ」

 

 答えたのはユーノだ。

 

「挑戦前に本部長から直々に頼まれてね、レイにも確認を取って撮影していたのさ。勿論皆の顔は映してないよ。視聴者が求めているのはレイのハジケだからね」

 

 納得する面々。

 

「! どうやらそろそろ始まりそうだ」

 

 モーリーンが言うと、司会者の声が響き渡る。

 

「レディース&ジェントルマン! いよいよキング・オブ・ハジケリスト挑戦をかけた偉大な挑戦が始まります! 最後の試練、星を100周出来るか! 今まで幾多もの虚空戦士(ハジケリスト)が挑んできたこの挑戦に新たな挑戦者が現れた。史上最年少、10歳での挑戦は無謀とみるか若さととるか。1つの次元世界を救ったそのハジケ、ここで見せてくれ。誰も為しえなかったこの偉業、今日達成されるのか。それではご紹介しましょう。今回の挑戦者、レーーーーーーイ=金剛=ダイヤモンド!」

 

 万雷の拍手とファンファーレと共にレイが現れる。

 一輪車に乗って。

 

「「「「「「一輪車!?」」」」」」

 

 レイは一輪車でスタジアムを1周すると。中央のステージに上がる。

 一輪車から降りることなく。

 

「「「「「「乗ったまま!?」」」」」」

「さあ、レイ君! 意気込みの方は!」

「そうですね、今日は体調、気分どちらをとっても最高のコンディションではあるので、いい結果が残せるんじゃないかと思います」

「そうですか。我々も期待しています」

「有難うございます」

「それでは準備の方お願いします」

 

 レイはスタートラインに立つ。

 

「それでは、世紀の挑戦。キング・オブ・ハジケリスト第7の試練、星を100週しろ。スタートです!」

 

 ピストルが鳴らされる。

 それと同時にレイの体をオーラが包み、一輪車ごと空高く浮かぶ。

 

「「「「「「一輪車の意味は!?」」」」」」

「Let’s go!」

 

 レイが指を鳴らすと、レイの体がぶれた。

 いや、高速で移動しているのだ。

 十数秒後、レイの姿が露わになる。

 レイは自転車に乗って飛んでいた。

 

「「「「「「自転車!?」」」」」」

「速い! これはもしかしたらいけるのか!」

 

 再びレイがその姿を現す。

 三輪車に乗って。

 

「「「「「「車輪増えてる!!!」」」」」」

 

 その後も、レイの乗る乗り物はどんどん発展していった。

 文明の発展を表現しているかの如く。

 30周をを過ぎたあたりで、ようやくエンジンが登場した。

 70周を過ぎたあたりで、魔力エンジンに切り替わった。

 

「頑張れ、あと少しだ! もう少しだ!」

 

 司会者が檄を送る。

 誰もが固唾を呑みながら、天を見上げている。

 そしていよいよ100周目が来た。

 空の彼方からやってくるは、宇宙戦艦だった。

 

「「「「「「宇宙戦艦!?」」」」」」

 

 宇宙戦艦がスタジアムの上空で停止する。

 下部ハッチが開き、光と共に中から誰かが降りてくる。

 レイと数人の管理局員だ。

 レイには手錠が掛けられている。

 

「次元航行法、並びに速度違反で逮捕だ」

「「「「「「捕まってるーーー!!!」」」」」」

 

 やがて地上に降り立つ。

 

「でもそんなの関係ナッシング!」

 

 レイはぴょいんとラインを踏み越える。

 会場から割れんばかりの拍手と歓声が響き渡る。

 星を100周、達成したのだ。

 なのは達もその偉業達成に喜ぶ。

 

「やってくれたねえ。あたしは今歴史の目撃者となった。こんなに嬉しいことはないよ」

 

 天から光が振りそそぎ、7つ目の無色透明のハジケボールが現れる。

 レイは6つのハジケボールを取り出すと、天へと放り上げる。

 

「出でよ! キング・オブ・ハジケリスト!」

 

 7つのハジケボールは回転しながら光を放つ。

 一際強い光が会場を包む。

 誰もが目を覆う。

 光が晴れると、ハジケボールから龍が出現していた。

 

「「「「「「龍が出たーーー!!!」」」」」」

「俺の歯並び直してくれーーー!!!」

「「「「「「神龍じゃないよ! てか願い事ショボ!」」」」」」」

「我はハジケドラゴン。貴様が真にキング・オブ・ハジケリストにふさわしいかどうかを見極める最後の試験官である」

「何やと?」

 

 会場がざわつき始める。

 

「どういうこと!? 7つの試練で終わりじゃなかったの!?」

 

 アリサが叫ぶ。

 

「どうやら違うみたいだねえ。あたしたちも勘違いしていたよ。今まで7つの試練を合格した奴がいなかったんだ。分からないのも仕方ないと言ったら怒るかい?」

 

 モーリーンの言葉になのは達は何も言えなくなる。

 

「我が最終試験の前に貴様には万全の体調でいてもらわなければ困る。ここに食事を用意した。まずは腹ごしらえするといい」

 

 ドラゴンがそう言うと、レイの目の前に食事が用意される。

 

「これはおおきに」

 

 その食事にはこれでもかと毒の錠剤が盛られていた。

 

「「「「「「殺す気満々だーーー!!!」」」」」」

「美味い美味い、グハッ!」

「「「「「「食べてる!?」」」」」」

「このラムネみたいなの、中々ええアクセントやな。刺激的や」

「「「「「「それ毒だよ!」」」」」」

 

 その様子を見てドラゴンは目を細める。

 

「やはりこの程度の罠には引っかからぬか」

「当然や」

「「「「「「モロ引っかかってましたけど!」」」」」」」

「さて食事も済んだことやし」

 

 誰もが息をのむ。

 これから激戦が始まろうとしているのだと、誰もが予感していた。

 

「食後のティータイムや」

 

 会場の全員がずっこける。

 

「ククク、我を前にしてその余裕。王者の風格にふさわしい。これは期待できるな。我を失望させるなよ」

「そちらこそ、100年も経ってて錆びついていたら困るで」

 

 両者の気が高まっていく。

 ぴりぴりと空気が震える。

 

「お互いなんて気だ……。油断していたら持っていかれそうだ……。うわあ!」

 

 ユーノが後ろに吹っ飛ぶ。

 

「ユーノ君は何をしているの?」

 

 なのはは冷静にツッコむ。

 

「さてまずは食後の腹ごなしだ。こいつを相手にしてもらおう!」

 

 そう言うと、ドラゴンは小型の龍を召喚して差し向けてきた。

 

「出るまでもないってか? 舐めてもらっては困るで。行け! ゆっくり勇儀!」

 

 レイは帽子から一本角の鬼のような生首のようなものを召喚する。

 

「「「「「「何か召喚した!?」」」」」」

 

 小型の龍とゆっくり勇儀は組み合い、力比べをする。

 しかし、その見た目の可愛さから、どうにも緊張感というものが見られない。

 

「「和む……」」

「「「「「「真面目にやってよね!!!」」」」」」

 

 レイとドラゴンは揃って和んでいたが、総ツッコミで我に返る。

 

「仕方ない、ここは数で押させてもらおう」

 

 そう言うと、ドラゴンはさらに小型の龍を召喚する。

 

「マスター! 目には目を、数には数だ! こっちもみんなを呼ぶぜ!」

「「「「「「喋れたの!?」」」」」」

「招集! ゆっくり軍団!」

 

 ゆっくり勇儀の持つケータイからゆっくり達に一斉に連絡が入る。

 一方その頃、ゆっくり霊夢はガソリンを頭からかぶっていた。

 ゆっくり魔理沙は首をくくろうとしていた。

 ゆっくり咲夜は風呂場で手首を切ろうとしていた。

 ゆっくり妖夢はビルの屋上の柵を越えていた。

 

「「「「「「一匹たりとも来ねーだろ!」」」」」」

「「「「「「ゆーーーっ!!!」」」」」」

「「「「「「めちゃくちゃ陽気に来たーーー!!!」」」」」」

 

 ゆっくり軍団とチビ龍軍団が激突する。

 互いに携帯ゲーム機を構える。

 それぞれ通信相手を見つけては、対戦がはじまる。

 ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ。

 

「「「「「「ナニコレ!? 怖いんですけど!」」」」」」

 

 突如として爆発が起こり、数体のゆっくりが吹き飛ぶ。

 

「大したことありませんね」

「「「「「「龍側名人いた!」」」」」」

 

 チビ龍軍団一のゲーマーがその姿を現した。

 

「ジョウトウデス」

「「「「「「ゆっくり側ロボいた!?」」」」」」

 

 ゆっくり側からはなんとロボットが登場する。

 

「ハッハー! この『UPNUSHI』はどんなゲームも一瞬で攻略してしまう超高性能AIを積んであるんや! さあ行け! 『UPNUSHI』! 奴らを蹂躙するのだー!」

 

 レイが黒い笑顔で高らかに号令をかける。

 

「ア……」

 

 ゲーマー対ロボの対決は、ロボの自滅で終わった。

 

「弱グハァ!!!」

 

 レイは衝撃のあまり吐血する。

 

「ククク、これが我と貴様との差だ」

「そんなもの、いくらでも乗り越えたるわ。ジャイアントキリングはお家芸。あんたを倒し、キング・オブ・ハジケリストに俺はなる」

「その意気だ!」

 

 しかし、レイが不利な状況であることは変わらない。

 なのは達は心配そうに見つめている。

 

「レイくんは、勝てるのかしら」

 

 プレシアが不安そうに呟く。

 

「勝つとも。レイはいつだって勝利を引き寄せてきた。今回だって勝つに決まっておる」

 

 アフームが力を込めて言う。

 まるで不安を隠すかのように。

 

「戦いがハイレベルすぎる。ここまでの戦いは歴史上そうあるもんじゃない」

 

 モーリーンが食い入るようにスタジアムを見つめながら言う。

 

「そうですね。これは歴史に残る戦いです。レイが初めて挑んだのだから」

 

 ユーノが息を呑む。

 

 誰もが感じていた。この戦いは生半可な戦いではないということを。




 皆さん、体調には気を付けてください。
 私は思いっきり崩しています。
 何とか頑張って治すので、皆さん、感想とか書いて下さい。
 きっと私の力になると思うので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 王者

 前回のあらすじ
 レイ、逮捕される。


 レイは椅子に縛られ、熱光線を浴びせられていた。

 

「くっ、なんて奴だ、もう奴は4日もこの拷問に耐え一言も喋らん」

「有り得ない、人間じゃないぞこいつ。鬼だ、鬼の子だ」

 

 2人の男がレイの耐久力に恐れおののいている。

 

「あれほど眩しい熱光線を一睡もできず浴び続ければ普通なら発狂もの。それが奴は何だ、気を失うどころか隙あらば我々を殺す気まんまんじゃないか」

 

 この時、レイが初めて反応した。

 

「!? 今誰かまんまんっていいました?」

 

 エロトーク大歓迎。

 

 

 

 

 

 

「グハッ! フフフ中々やるではないか」

 

 ドラゴンはレイのハジケに吐血する。

 

「どうや、俺のハジケの味は」

「フフフ、攻めるばかりがハジケではないぞ、少年。次は我のハジケを喰らうがいい」

 

 

 

 

 

 夜中、一人で住宅街を歩くドラゴン。

 

(腹減ったな)

 

 ふと見ると、餃子の自動販売機があるではないか。

 

(買ってみるか、餃子)

 

 コインを入れ、ボタンを押すドラゴン。

 軽快なお囃子と共に出口から囃子が出てくる。

 そして餃子が出てきた。

 

「餃子です」

 

 その言葉と同時に、餃子は天高く舞い上がるのであった。

 

(……食いたかったな、餃子)

 

 

 

 

 

「ガフッ! フッ、この程度、耐えきってやったわ」

「なかなかやるではないか、そう来なくてはな」

((((((なにこれ))))))

 

 なのは達は困惑していた。

 我々は一体何を見せられているのだろうか、そんな気分であった。

 

「なんてハイレベルな戦いなんだ……」

「ああ、妾達では入ることも出来ぬ」

「「「「「「わかっちゃうの!?」」」」」」

 

 ユーノとアフームはこの戦いを理解しているようだ。

 

「強さが分かるのも実力のうちってね。2人ともいい線行っているんだが、あと一歩足りなかったね。かくいうあたしもそうなんだけどさ」

 

 モーリーンは冷や汗をかきながら戦いを見つめる。

 

「貴様ほどの虚空戦士(ハジケリスト)ならば、これが解らぬはずがない。行くぞ! 5腕時計!」

「なんのレンガ!」

「ほう、ならばここはボンドで行かせてもらおう」

「なっ! これではリップクリームが使えん!」

「そこにしょうゆを出す。この意味が解るな?」

「くっ、龍神コンボか! ならばここは焼き芋を使う!」

「なっ! 焼き芋だと! しかも2本!」

「秋姉妹バンザーイ!」

 

 光と共に決着がつく。

 

「くっ、我の負けか……」

「焼き芋の有無が勝敗を分けたな」

「アンチルールにより我はしょうゆをかぶる。明細表を切れ! 次のステージの選択権は貴様にある!」

「明細表は切らん。使い方が分からんからな」

「馬鹿な! 自殺行為だぞ!」

「リップクリームがあればそれでええ」

「成程HP回復にあてるという訳か。ならば我はライトサイドから攻めさせてもらうとするかククク」

「チッ、卑怯な」

((((((……全然わからーん!?))))))

 

 なのは達はレイとドラゴンの戦いを理解することが出来なかった。

 

「レイが焼き芋を使っていなかったら、僕たちまで被害が及んでいた」

「「「「「「そーなの!?」」」」」」

 

 ユーノが冷や汗をかく。

 

「このバンダナを身に着けるんだ! さもないと死ぬぞ!」

 

 ユーノとアフームから受け取ったバンダナを前にどうしていいか分からなくなるなのは達。

 

(考えろ、戦いには必ずルールというものがある。一見意味不明だが、必ずルールというものが存在するはずだ、考えろ、考えろ!)

 

 シグナムは必死にこの戦いを理解しようと努めていた。

 

「それでは第2回戦を始めます」

「いつでもどうぞ」

 

 ドラゴンが尾の先にクマのストラップをつけて、両腕だけで全身を支えている。

 レイは机に頭を挟まれながら、足裏に優勝カップを乗せている。

 

「「「「「「全然わからーん!!!」」」」」」

 

 クマのストラップが優勝カップに収められる。

 

「「ポン!!!」」

 

 一陣の風が2人の間をすり抜けていく。

 

「2回戦目は引き分けか」

「せやけど、俺はこの戦いでジョアを3つ手に入れたで」

「全然わからーん!!!」

「どうしたん、シグナム!?」

「主よ、わからないのです! この戦いが!」

「うちも、わからんよ」

 

 はやては早々に理解することをあきらめていた。

 

「ほらもう目を離したすきに何してんのかさっぱりやわ」

 

 はやての言葉と共にシグナムは崩れ落ちる。

 一方レイとドラゴンは両手首を縛り、吊り下げた状態で、吊り下げられたジャガイモを口で奪い合っていた。

 

「表参道、表参道」

「ルーブル、ルーブル」

 

 この戦いも決着つかずで流れることになる。

 

「3回戦目も引き分けか」

「結局キムチはお流れか、仕方あるまい」

 

 なのは達は理解することをあきらめた目でこの戦いを眺めていた。

 

「3回戦目も引き分けとは、なんてハイレベルな戦いなのじゃ」

「うん、レイが取った1回戦目が効いているとはいえ、流石ドラゴン。一歩も引けを取らない戦いだ」

「全くだね、このままあの子の優勢勝ちという訳にはいかなさそうだ。どちらかが次、必ず仕掛けるよ」

「「何だって!?」」

 

 モーリーンの言葉に反応するアフームとユーノ。

 

「お互い体力の限界がきている。ドラゴンが決着を早めようと決闘(デュエル)を挑んだのはいいが、1回戦目であの子が勝っちまった。だからここまでの泥仕合になっちまったのさ」

 

 モーリーンの言葉通り、レイとドラゴンは荒い息をしている。

 

「どうやら貴様には運がなかったようだな」

「何!?」

「たった今我は握力計を手に入れた。その意味が解るな?」

「……龍神コンボの完成か!」

「そうだ、これで貴様には万に一つの勝ち目が無くなったわけだ」

「……まだ俺には焼き芋がある」

「焼き芋ごときに何ができる!」

 

 龍神コンボの効果で焼き芋が割られてしまう。

 

「! 焼き芋が!」

 

 ユーノが声を上げる。

 焼き芋の断面が露わになる。

 それはきれいな黄金色と紫色だった。

 

「!? 2色だと! まさか!」

「この瞬間を待っとった。貴様の龍神コンボは止められん。ならばそれを乗り越える方法を探すのみ。そして見つけたんや。蜘蛛の糸をな」

「だ、だが2色の焼き芋だけでは!」

「忘れたか? 俺がゆっくりを従えている事を。来い! ゆっくり静葉とゆっくり穣子!」

「「ゆーっ!」」

 

 2体のゆっくりがレイの帽子からその姿を現す。

 

「あ、あああ」

「光の芋と闇の芋、2つの芋が合わさりて陰陽の狭間を行かん! いくで! 神へと至る12の言葉! シイタケ、紅葉、栗、イチョウ、コンタクトレンズ、汗拭きシート、免許証、電子辞書、ピルケース、尿瓶、いかだ、女子高生!」

「あああ」

「今こそその姿を顕現せよ! 無限陰陽神! アウトゥムヌス・ソロル!」

 

 2体のゆっくりが芋から放たれた2色の光に包まれその姿を変える。

 それはまさに女神だった。

 赤と白と黒の三色で彩られた女神がその姿を現した。

 

「「「「「「ド凄いの召喚したーーー!!!」」」」」」

「神の召喚、だと! まさか実現させるとは!」

「貴様の龍神コンボを上回る神の召喚! 形勢逆転や!」

「いや! まだ終わってはいない! 消臭スプレーがある! これで防御は完璧なはず!」

「残念やけど、俺は3色ボールペンを持ってるんや。消臭スプレーは使えんで」

「な、何だと……!」

「止めや! アウトゥムヌスインパクト!」

 

 アウトゥムヌス・ソロルから光線が放たれる。

 龍神はそれを黙って受け入れるしかなかった。

 

「……見事だ」

 

 そう言い残し、龍神は光線の中に消えた。

 光線が晴れると、そこには何も残されていなかった。

 

「終わった、のか?」

 

 レイが片膝をつく。

 そこになのは達が駆け寄ってくる。

 

「「「「「「レイ(くん)!」」」」」」

「みんな」

「大丈夫か! 体は無事か!」

「大丈夫や。ちょっと疲れただけや」

 

 すると龍神のいたところに何かが落ちていることにレイが気付く。

 レイは近づいてそれを手に取る。

 

「これは……」

 

 それは黄金で出来たネックレスだった。装飾はなく、シンプルにHとだけ純金の文字が掛けられている。

 

「これは、間違いない! キング・オブ・ハジケリストの証だ!」

 

 ユーノが叫ぶ。

 

「「「「「「ええっ!?」」」」」」

 

 みんなが驚愕する。

 まさかこんなシンプルなものだとは思わなかったからだ。

 レイはそれを自らの首にかける。

 

「キング・オブ・ハジケリスト、レイ=金剛=ダイヤモンド! ここにあり!」

 

 レイが高らかに名乗りを上げると、会場から割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。

 ここに、新たなキング・オブ・ハジケリストが誕生したのだった。

 

 

 

 

 

 それからは怒涛の日々だった。

 相次ぐ報道陣からの取材の依頼。

 テレビ出演の依頼。

 多くの仕事をこなして1週間後、ようやく帰る前日になって休みが手に入ったのであった。

 ブリリアント屈指のリゾートビーチでレイ達は僅かなバカンスを楽しんでいた。

 

 レイとあすかは一足先にビーチに立っていた。

 ただし、レイは宇宙服を着ていたが。

 

「お前暑くないんか?」

「意外と快適」

「……そうか」

 

 あすかはツッコミを放棄していた。

 

「ツッコんでくれんと寂しい」

「お前常にそれを求めてんのな」

虚空戦士(ハジケリスト)にとってツッコミは愛ある行動やから」

「意味わからん」

 

 あすかは同い年でありながら偉業を達成した友人を誇りに思うと同時に嫉妬していた。

 かくいう彼も唯一無二の称号『黒騎士』を持つのだが、彼は未だ己を未熟と考えていた。

 

「どんな気分や? 虚空戦士(ハジケリスト)の頂点というのは」

「現実感がないな。今だ夢の中にいるみたいや」

「でも現実やろ?」

「ああ、ここにあるものは現実や」

 

 レイは首にかかっているキング・オブ・ハジケリストの証を掴む。

 

「キング・オブ・ハジケリストは虚空教団の教主でもある。従って俺は宗教家としての最高位の称号を手に入れてしまったことになる。参ったなあ、俺はまだ修行中の身やのに」

「まだ、強くなる気か?」

「いんや、神職として、ドルイドとしての魔術の修業や。無論まだまだ強くはなる。せやけどもっと精神の修業もせんとなあ。魔術師として、宗教家としてはそっちを疎かにするわけにはいかん」

「精神か、剣を振ることしか出来ん俺にはどうしたらいいのかわからない分野や」

「剣術でも必要やと思うで。心技体揃ってこその武の道や。武の目的の一つには神羅万象との和合という側面もある。それはいわゆる神との合一であったり、悟りを得るといったことかもしれん。武を極めるということは、人生を極めるということかもしれん」

「そうか、なら目指して見るんもええかもな」

「俺も宗教家として目指す部分や。お互い頑張って目指すか?」

「……せやな」

 

 あすかはこの友人には敵わないと思ってしまった。

 同時に、この頭のいい男が目指すものが自分と重なっていることがどうしようもなく嬉しかった。

 そこへ、水着に着替え終えた女性陣が現れる。

 

「「「「「「おまた……、何で宇宙服!?」」」」」」

「これこれ、これを待っとったんや」

 

 そう言うとレイはようやく宇宙服を脱ぐ。

 

「さて、皆俺のキング・オブ・ハジケリスト獲得に付き合うてくれてほんにおおきに。ささやかなれど今日はここを貸し切りにした! 思う存分海で遊ぶがええ! 思いっきり真夏の海でハジケるがええ!」

「「「「「「おーーーっ!!!」」」」」」

 

 誰ともなく天に拳が突き上げられる。

 夏はまだ半ば、されど、歴史と思い出に残る夏になった事は間違いないだろう。

 

「のう、レイよ」

「何や?」

 

 アフームがレイに話しかける。

 

「キングとなった気分はどうじゃ?」

「……最高に興奮するわ!」

 

 そう言うとレイとアフームは揃って海へと駆け出すのだった。




 うう、体調が回復しないよー。
 この一週間で数百字しか進んでいない。
 皆さんも季節の変わり目には気を付けてください。
 マジで、健康は大事です。
 ところで、次回から第2章に入ります。
 お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章 NC0067 ゼスト隊 第1話 酸いも甘いも噛み分けた人妻達の午後

 今回から第2章開始!
 舞台も登場人物もガラッと変わるぞ!


「厄介な奴をよこしてくれたな! レジアス!」

 

 ゼスト・グランガイツ一等陸尉は声を荒げる。

 その剣幕にオーリス・ゲイズは身をすくめるのだった。

 

「何なんだこいつらは! キング・オブ・ハジケリストだと! さらに管理外世界の外交官とはふざけているのか! 何故こいつらを隊に加えなければならん!」

 

 激しい様相のゼストに対し、この部屋の主であるレジアス・ゲイズ少将は苦々しい顔で静かに答える。

 

「上からの命令だ。とりわけ、第6地上本部長からのな」

「よその地上本部だろう。わざわざ干渉してくる理由がない」

「それがだ、キング直々に現場が見たいということだそうだ。しかもブリリアントでは特別扱いされるのが目に見えているから、他の地上本部で体験したいとのことだそうだ」

「それでここにお鉢が回ってきたという訳か!」

「……そうだ」

 

 ゼストは一つ大きくため息をつくと、感情を整える。

 

「何故うちだ?」

「わからん、上からお前のところに配属されるように言われた。恐らくカーテンの奥の奥からの指示だ」

「……最高評議会か」

「上の連中の考えていることは分からん。我々に出来ることはこの2人を無事に半年間預かることだけだ」

「彼らの実力はどうなんだ?」

「資料映像がある。オーリス、出せ」

「はい」

 

 オーリスがモニターを展開し、レイとアフームの映像を出す。

 

「映像は昨年撮影された、キング・オブ・ハジケリスト獲得直前のものだ。スペックは化物としか言いようがない。回避力、攻撃力はとんでもない上、実際の戦闘でも歴戦の騎士を翻弄するだけの実力を持ち合わせている」

「何なんだこいつらは……。常識外れだ」

「常識の欄外の存在だよこいつらは。虚空戦士(ハジケリスト)のトップだぞ。まっとうな奴のはずがあるまい」

「お前の嫌いなタイプだな」

「ああ、こういう才能の塊は駄目だ。地上の平和は多数の凡人で支えられているのだ。一部の天才が称賛され、凡人が埋もれるようではいけない」

 

レジアスは椅子にもたれかかる。

 

「全くもってその通りだ。彼らには世間の厳しさというものを味わってもらった方がいいかもな」

「思いきり味あわせてやってくれ。彼らには謙虚さが必要だ。天才という生き物にはな」

「任せてくれレジアス。この半年間で彼らを変えて見せるさ」

「頼りにしているぞ。地上の平和は我々が支えているということを思い知らせてやらねばな」

 

 

 

 

 

「本日は連絡事項が2つある。まずはアルピーノが育休から復帰した」

 

 ゼストの隣に立つメガーヌ・アルピーノが頭を下げる。

 それて同時に隊員達から拍手が起こる。

 その中には彼女の長年の相棒であるクイント・ナカジマもいた。

 

「続いて、本日から半年間、我が隊に出向してきた者たちがいる。2人共、挨拶しなさい」

 

 ゼストに促され、銀髪銀眼の少年少女が一歩前に出る。

 

「ニャニャーニャ、ニャーニャ」

 

 開口一番の猫語にゼスト以下隊員たちの力が抜ける。

 

「人間の言葉で話してくれ」

「もう、いけず何ですから。改めまして、キング・オブ・ハジケリストにして、第92管理外世界の外交官をしています、レイ=金剛=ダイヤモンドと申します。半年間という短い間ですが、よろしゅう御頼み申します」

「同じく外交担当のアフーム=Z=シルバーですじゃ。短い間ではあるが宜しく頼み申し上げる」

 

 メガーヌのときより力のない拍手が起きる。

 

「ふむ、反応が薄いですな。ここは一発ギャグでも」

「要らないからな」

「いけず」

 

 早速ハジケようとするレイを制止するゼスト。

 ゼストはこの少年が本当にかの天才少年なのかどうかわからなかった。

 言動こそふざけているものの、基本的には礼儀のしっかりした少年少女ではある。

 

(本性が掴めん)

 

「あの、キング・オブ・ハジケリストとは何でしょうか?」

 

 隊員の一人が手を上げ、質問する。

 ゼストはレイに目配せする。

 

「答えてやれ」

「はいな、キング・オブ・ハジケリストというんは虚空戦士(ハジケリスト)の頂点にして虚空教団の教主でもある唯一の称号なんです。すなわち、第6次元文化圏では僕は地上本部長と同等、いや、ある意味ではそれ以上の権力を持っとることになります」

 

 隊員達の中でどよめきが起こる。

 

「あの、何故うちに来たんですか? 普通なら第6地上本部に頼むはずなのに」

「ふむ、その意見ももっともです。その理由は僕が権力で特別扱いされるんが嫌いな人間やからです。特別扱いされるんなら僕個人の才能で特別扱いされたいんです。権力を振りかざすんは僕の主義に反します。それに僕はまだまだ未熟、さらに成長を促すためにも現場を知ることは必須と考え、関係各所に働きかけ、最前線であるこの隊に出向することになったのです」

「妾はレイと同じ景色を見たいが故についてきた。それに、世間を知ることは己を知ることにつながる。良き修業になると思うたのでな」

 

 ゼストは、この少年少女が才能に溺れるタイプではないように思えた。

 とはいえ、彼らの資質が異常であることもまた事実。

 今まで挫折したことがないのだろうとゼストは2人を評した

 

「質問は以上か? ではこれから訓練に入る。ナカジマ、お前は金剛=ダイヤモンドとシルバーにこの隊のやり方を教えるように。それでは始め!」

 

 

 

 

 

 レイとアフームの出向から1週間が経った。

 ゼストは2人の認識を改め始めていた。

 訓練は真面目に行うし、頭の回転が速いのか、連携もうまい。

 何より、今日まで力に任せた行動を一切取っていないというのは驚きであった。

 ただしちょいちょい挟まれるハジケた言動には悩まされてはいたが。

 なんだかんだで2人は隊に馴染み始めていた。

 

「今日の訓練は、模擬戦を行う。金剛=ダイヤモンドとシルバー対ナカジマとアルピーノで行う。他の者は模擬戦を題材にミーティングを行う。分かったな」

「「「「「「はい!」」」」」」

「それと金剛=ダイヤモンド、シルバーなんだその恰好は」

「「ホオジロザメです」」

 

レイとアフームはホオジロザメの着ぐるみを着ていた

 

「……模擬戦のときは脱ぐように」

「チッ、ツッコミは無しか」

「寂しいのう」

 

 レイとアフームはいそいそと着ぐるみを脱ぎながら、模擬戦の準備をする。

 その様子を見ながらゼストはため息をつくのだった。

 

(本性が分からん)

 

 

 

 

 

「こちらの準備は整ったわ」

「いつでもOKよ」

 

 クイントとメガーヌが準備が整ったことを告げる。

 

「こちらも準備万端です」

「後は火を入れるだけじゃ」

「「何の準備をしているの!?」」

「「BBQですが、何か?」」

 

 ゼストは呆れつつもこの戦いを見守っていた。

 この戦いでレイとアフームの本性が見抜けるかもしれないからだった。

 

(この戦い如何で敵か味方かがはっきりするだろうな)

「それでは、始め!」

 

 ゼストの号令と共に模擬戦が始まる。

 

「いつも通りいくわよ! ウイングロード!」

 

 クイントの掛け声とともに、緑色の帯状の魔力、ウイングロードが展開される。

 それに合わせてメガーヌが己の使い魔、インセクトを複数飛ばす。

 

「狙いは……成程、まずは蚊トンボから落とす」

 

 そう言うとレイの帽子が開き、空母のような甲板になる。

 

「第6空挺団! 作戦開始!」

「「「「「「アイアイサー!」」」」」」

「「何それ!? どうなってんのその帽子!?」」

 

 レイの頭上から飛行機が飛び立つ。

 

「「「「「「いざ勝負!」」」」」」

 

 しかし、第6空挺団のぼろ負けだった。

 

「「弱っ!」」

「うう、スターフォックスなら負けないのに」

「この雑魚共が!」

 

 第6空挺団の弱音にレイの一喝が響く。

 そこにクイントの拳が襲い掛かる。

 しかしその拳はレイによって防がれた。

 

「今のが隙だとでも? 読みが浅いですよ、奥さん。腕力『アームレスリング太郎の東海道五十三次』!」

 

 レイが腕をひねるとクイントがぐるりと宙を回転する。

 

「嘘! この子のどこにこんな力が!?」

「ガリュー!」

 

反対側からメガーヌの使い魔、人型の蟲ガリューが接近してくる。

 しかし、アフームもまた備えていた。

 

「ビ~チクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチクビーチク!」

 

 アフームがガリューの乳首と思しき個所を執拗に攻める。

 未知の感覚にガリューは困惑する。

 

「何なの今の技!?」

「人呼んで乳首の戦乙女、ビーチクガール」

「「何それ!?」」

「次はこちらが攻める番や。そちらの道を利用させてもらいましょか」

 

 そう言ったレイは首から下を車に変形させて発進する。

 

「「どうやったらそうなるの!?」」

 

その隙にアフームも車になり発進する。

 

「あの二人、まっすぐこっちに来る!」

 

 メガーヌが叫ぶ。

 

「先に後衛を潰そうってわけ? そうはさせないわ!」

 

 クイントがレイを追いかける。

 

「ガリュー! 女の子を追って!」

 

 ガリューは頷くがアフームを見失っていた。

 ガリューには変形したアフームを認識できなかったのだ。

 

「ああ、もう! だから虚空戦士(ハジケリスト)は! ガリュー、戻って!」

 

 ガリューは頷くとメガーヌの元へと戻る。

 しかし、レイとアフームの方が速い。

 

「風っ! 今俺達は風!」

「ヒャッハー!」

 

 メガーヌは世紀末スタイルの2人の突撃をじっくりと見据えている。

 2人と接触する寸前、メガーヌは横っ飛びで衝突を回避する。

 

「後衛だから動けないと思った!?」

「いや、計算通りや」

 

 そう言うとレイとアフームは急ブレーキをかけUターンする。

 狙いはクイントだ。

 

「クイント!」

「真っ向勝負ってわけ、面白い!」

 

 3者によるブルファイトとなった。

 近づいていく距離。

 

「「奥義『轢き殺し』!」」

 

 レイとアフームがスーパーカーに乗ってクイントを正面から轢く。

 

「バハマッ!!!」

「愛車に傷がついてしまったではないかー!」

「グハッ!」

「理不尽だ!」

 

 アフームの拳がクイントに入る。

 

「奥義『レイちゃんの高速人妻縛り術』」

 

 そこへレイがクイントを拘束する。

 

「まず1人」

「クイント! ガリュー! 行って!」

 

 メガーヌがガリューを送り出す。

 

「アフーム、任せた!」

「任された! 焼却『バーンオンファイア夏の虫』!」

 

 炎の弾幕がガリューとメガーヌに襲い掛かる。

 

「ちょっとコレ何この量! ガリュー! 避けて!」

「そうそう、弾幕といったら避けるものなんや。決して防ぐもんやない」

 

 レイが炎の弾幕を避けながらガリューに接近していく。

 

「! まさか狙いは!」

「気付いたところでどうします?」

 

 レイがガリューに肉薄する。

 手には六尺ほどの六角如意金剛棒が握られている。

 

「乱馬『火中天津甘栗拳 棍バージョン』!」

 

 高速の突きがガリューを襲う。

 ガリューは衝撃と共に吹っ飛び、炎の弾幕を浴びて動かなくなる。

 

「ガリュー!」

「おっと、人の心配をして大丈夫なのか?」

「そうそう、今動けるんはあんた一人だけやで」

 

 レイとアフームに挟まれる形になったメガーヌ。

 クイントは拘束から抜け出せない。

 ガリューは動けないくらいのダメージを負っている。

 

「……降参するわ」

 

 メガーヌは静かに両手を上げた。

 

 

 

 

 

「この戦いをどう見る?」

 

 模擬戦終了後のミーティングで、ゼストは隊員たちに問いかけた。

 隊員の一人が手を上げる。

 

「私は虚空戦士(ハジケリスト)が何をしてくるのかわからない点が、今回の勝敗を分けた点だと思います。戦いにおいて予測は大切な要素です。それを一切させない虚空戦士(ハジケリスト)の戦い方は非常に苦しいものがあると思います」

「だそうだ、ナカジマ、アルピーノ、お前達は戦ってみてどう思った」

「そうですね、悉くこちらの予想が当たらないものですから、思うがままにされていたと思います。それに、車で轢かれるなんて予想できます?」

 

 クイントが憤懣やるかたなしといった雰囲気で言う。

 

「私も、まさか同じ土俵に上がってくるなんて予想もしなかったわ。ウイングロードを利用して戦うなんて、事前にある程度打合せしていないと無理なんじゃない? ていうか、この子たちの前でウイングロードを使うの初めてよね。なんで対応できたの?」

 

 メガーヌが訳が分からないといった顔で言う。

 

「だそうだ。金剛=ダイヤモンド、シルバー、何か言うことはあるか」

「妾はただレイの指示通りに動いただけじゃ。具体的な作戦など妾にはわからぬ」

 

 アフームはレイに説明を丸投げする。

 

「ふむ、そうですな、今回の目的としてはまず各個撃破と、連携の分断というんが頭にありました。確か2人は学生時代からの仲だそうで、その2人の連携を崩すんには相手の予測を上回る必要があります。相手としては羽虫に気を取られている隙に挟み撃ちにするつもりやったんでしょう。なんで早々に羽虫には別の奴の相手をすることで、こちらは集中して警戒できたわけです。後は流れで」

「「「「「「流れでどうにかなる話!?」」」」」」

虚空戦士(ハジケリスト)とはそういうもんです。相手の策や土俵にあえて乗り、それを上回ることこそ俺の得意技なもんで」

 

 レイは得意げに鼻を鳴らす。

 

「じゃあ、車に変形したのも」

「流れです」

「先にクイントさんを狙ったのも」

「流れです」

「最後の弾幕も」

「流れじゃ」

 

 隊員たちはぽかんとする。

 それもそうだ、戦いのほとんどをその場の流れで片付けられては考察のしようがない。

 

「じゃあ、戦う前に決まっていたことって、何?」

 

 隊員の一人が質問する。

 

「初めての相手と戦うときにすることは2つ、様子見と地形確認!」

「全く持ってその通りだ」

 

 ゼストが頷く。

 

「今回の戦いは終始金剛=ダイヤモンドが支配していたと言えよう。戦いはその場の空気を支配したものが勝つ。みんなも心に留めておくように」

「「「「「「はい」」」」」」

 

 ゼストの言葉に全員が頷く。

 

「それにしても翻弄されたわ。流石はキング・オブ・ハジケリストね」

「ホント、なんでわざわざうちに来たのよ、もっと活躍できるところはありそうなのに」

「最前線でなければ意味がないんです」

 

 レイを評価するメガーヌとクイントにレイは意味ありげな笑顔を浮かべるのであった。




 大分体調が回復してきました。
 近いうちに執筆再開できそうです。
 ……感想来ないなー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 それは……きっと愛

 前回のあらすじ
 2人は出向中!
 業務は丸投げ!


 首都防衛隊の業務はクラナガン市内における魔法強行犯罪の検挙と摘発が業務である。

 読者諸兄に分かりやすく伝えるとすると、警視庁の機動部隊のようなものと考えていただければいい。

 言ってしまえば実働のプロであり、暴力犯罪には必ず呼ばれる部署である。

 この日、ゼスト隊は逃走する強盗犯を追いかけていた。

 しかし、強盗犯は速さに自信があるのか、中々捕まらない。

 クイントはウイングロードを展開してガリューと共に追いかけるも、強盗犯にどんどん差をつけられてしまう。

 そこへ、レイとアフームが木馬に乗って強盗犯を追いかける。

 木馬はジェットエンジンがついているせいか、有り得ない速度で強盗犯を追いかける。

 しかし、その差はなかなか埋まらない。

 

(ちっ、速さが足りん。このままではエンジンが焼け付いてお釈迦になる)

 

 レイは心の内で舌打ちすると、犯人をじっと見据える。

 後部座席に乗るアフームは心配そうにレイを見つめる。

 

「……アフーム、これを犯人に撃ってくれ」

 

 レイがアフームに吹矢を手渡す。

 アフームは頷くと、吹矢を構え、強盗犯に向けて撃った。

 しかし、針は強盗犯の服に刺さっただけで、何の効果も強盗犯に与えられなかった。

 

「エンジンがもう駄目や。止まる!」

 

 そう言うとレイはエンジンを停止させる。

 その瞬間、木馬は大爆発を起こすのだった。

 

「「「「「「何で!?」」」」」」

 

 隊員たちの総ツッコミが沸き起こる。

 レイとアフームは真っ黒焦げになっていた。

 

「おのれ犯人め、卑怯な真似を」

「「「「「「多分それ犯人関係ないよね!?」」」」」」

 

 一方レイは帽子からパラボラアンテナを出して何やら交信していた。

 

「コウシンチュウ、コウシンチュウ」

「「「「「「何してんの!?」」」」」」

 

 そこへ、ゼストが現れる。

 

「誰も捕まえられなかったか、くそっ!」

「隊長殿、悔しがるんはまだ早いですよ」

 

 レイがゼストに言う。

 

「さっき種を蒔きました。すぐにでも犯人は見つかりますよ」

「何だと!」

「細工は流流、仕上げを御覧じろ、ってな。今はまだ逃走中。奴が動きを止めた時がチャンスや」

「金剛=ダイヤモンド、お前は一体何をした?」

「なあに、古典的な手です。そしてすごく有効な手です」

 

 レイはにやりと笑う。

 全て計算通りであるかのように。

 

 

 

 

 

 強盗犯はほくそ笑んでいた。

 金は手に入るわ、管理局は撒けるわで見事に犯罪計画通りの事が進んだのだ。

 後はこの金を隠して、ほとぼりが冷めたころに回収する。

 完璧な計画だ、完璧すぎて笑いすら起きてしまう。

 強盗犯はにやけそうになる顔を必死でこらえながら住宅街を歩く。

 

「おいおい、どこへ行こうというんや? 銀行強盗はん」

 

 目の前に銀髪銀眼の少年が現れる。

 よく見れば先程自分を追いかけてきた管理局の少年ではないか。

 慌てて後ろを振り向く。

 そこには多数に管理局員が待ち構えていた。

 また前方を見る。

 さっきよりも人数が増えている。

 強盗犯は上に逃げようと上を向く。

 そこには、壺を持った少女が天から落ちてきた。

 

「逮捕しちゃうぞ!」

 

 少女の掛け声と共に強盗犯の頭に壺が被せられる。

 強盗犯は壺を取ろうとするが、なぜか外れない。

 

「クックック、貴様には散々苦労させられたのでな。この熱した鉄の棒を押し付けるくらいはええやろ?」

「「「「「「ダメでしょ!」」」」」」

「え~、じゃあ用意したスタンガンも?」

「「「「「「ダメに決まってる!」」」」」」

「じゃあ妾が用意したこの氷柱で己奴のケツの穴からぶっ刺してやるというのも?」

「「「「「「殺しにかかってるよね、ソレ!」」」」」」

「あれもダメ、これもダメ、全く世知辛い世の中になったもんや」

「コンプライアンスを順守するのは大変じゃのう」

「「「「「「コンプライアンスとかの問題じゃないから!」」」」」」

 

 強盗犯はあまりの恐ろしい会話に腰が抜けてしまった。

 

「とりあえず、強盗犯は逮捕やな、一課の皆さんに引き渡すとしますか」

 

 強盗犯が捜査一課に引き渡される。

 この時、レイは思った。

 

(この瞬間、犯人に勢いをつけてカンチョーしたらどうなるんやろなあ)

「論功行賞、論功行賞♪」

 

 アフームは初めての逮捕に浮かれていた。

 

「さて、皆戻るぞ」

 

 ゼストに促され、隊員たちは隊舎へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

「成程、発信機か」

「ええ、犯人の服に吹矢で発信機を取り付け、それを追ったんです」

 

 ゼストはレイから何をしたのかについて報告を受けていた。

 

「発信機は魔術で構築した魔力の針。それを相手の体に浸透させることで気付かれずに相手の体そのものが発信機になるわけです」

「そんな技術が……」

 

 ゼストは驚いていた。

 自分たちが学んできた魔法とは異なる体系の魔法技術にである。

 

「僕は大規模な破壊よりも、これの様な細やかな技術の方が得意なんです。それに、便利ですしね、こうした技術は持っていれば持っているほど」

「確かにそうだ」

 

 ゼストはレイに対する認識を変えつつあった。

 この少年は戦闘もこなせるが、それ以外の技術を用いることに長けている。

 チームに一人いれば、痒い所に手が届く存在だろう。

 実際に彼はいかなるポジションもこなせることが訓練で分かっている。

 人より知識があり、更に経験を積もうとするその姿はゼストにとって多少は好ましく映った。

 

(才能に溺れているどころか、うまく乗りこなしている)

 

 ハジケた言動さえ目をつぶれば完璧超人といってもいいだろう。

 

(しかし、キング・オブ・ハジケリストなんだよな)

 

 ゼストはこの少年が第6次元文化圏の最高権威を持っていることがいまだに信じられなかった。

 普通にしていれば、人当たりの言い、大人しい少年ではあるのだが。

 

「報告は以上か?」

「ええ、後は報告書の通りです」

「わかった、下がっていい」

「お疲れの出ませんよう」

 

 そう言うと、レイはゼストのデスクから離れる。

 

(報告書も完璧に仕上げるんだよなあ)

 

 ゼストは鍛えがいの無いこの少年に物足りなさを感じていた。

 自分のデスクに戻ったレイは一つ大きなため息をつく。

 

「報告は終わったの? 早いわね」

 

 クイントが話かけてくる。

 

「ええ、大して書くこともなかったもんで」

「何言ってんのよ、今回の逮捕はレイくんのおかげで出来たようなものじゃない」

「そうでしょうか、僕はただ発信機を取り付けただけなんですがねえ」

「それがすごいのよ、どこで身に着けたのよ、そんな技術」

「実家で教わりました」

「そういえば、レイくんの実家って、魔法の名家なんだって?」

 

 メガーヌが話に入ってくる。

 

「ええ、まあ、両親ともに1400年続く家ではあります」

「「1400年!? ちょっと想像もつかないわね」」

「レイの家は魔術の家としては最古級じゃ。それ故、他の家からも一目置かれておる。レイはその跡取り息子なのでな、両家の魔術をこれでもかと叩きこまれておる」

 

 アフームがまるで自分が褒められたかのように言う。

 

「魔術だけでなくて、武術、礼法、教養も叩き込まれております。正直詰め込みすぎかもしれませんが」

「いやいや、その年でその立ち振る舞いは凄いわよ。余程厳しい躾だったんじゃない?」

 

メガーヌがレイに問いかける

 

「意味が分かれば、頭に入ってきます」

「その意味を理解できるのがすごいわよ。家の娘達にも見習わせたいわ。元気ばっかり有り余って」

「ははは、うちの妹達もそんなもんです。少々元気が余り過ぎてる。そこが可愛いんですが」

 

 レイが時計を見る。

 

「おや、もうこんな時間、参りましたな、ポートの時間に間に合いそうもない」

「大丈夫?」

 

 クイントが声をかける。

 

「ええ、いざとなればホテルを使用しますんで」

「ダメよ、子供だけでホテルなんて」

「そうは言いましても」

「うちに泊まっていきなさいよ。困っている同僚を見擦れるほど鬼じゃないわ」

「しかし、旦那さんに迷惑では」

「いいのよ、連絡すればいいし。それにOKするに決まってるわ」

「いやしかし申し訳ないですよ」

「泊っていきなさいよ、心配なのよ、子供だけでホテルなんて」

「……そういわれるのでしたら。お言葉に甘えまして」

「出た! 京都人のコミュニケーション『3度断る』~。レイのこれは久々じゃ」

「何それ?」

 

 メガーヌが疑問をぶつける。

 

「奥ゆかしい京都人のコミュニケーションじゃ」

「そう、随分面倒くさいわね……」

 

 

 

 

 

「まあそういうことならゆっくりしていきな」

 

 ナカジマ家で待ち構えていたのはクイントの夫、ゲンヤだった。

 

「「お邪魔します」」

「待ってな、今飯用意してやっから」

「ありがとうございます、わざわざすいまへん」

「なあに、いいってことよ」

 

 すると、ゲンヤの影から2つの影が見える。

 レイとアフームは屈むと、その2人に向かって挨拶をする。

 

「初めまして、お母さんの同僚の、レイ=金剛=ダイアモンドです」

「同じく、アフーム=Z=シルバーじゃ」

「ギンガ・ナカジマです。8さいです」

「スバルです。6さいです」

「はい、よろしく」

「大分手馴れてるわね、妹がいるせいかしら?」

 

 クイントがギンガとスバルを抱きかかえる。

 

「かもしれませんなあ」

 

 レイは何の気なしに言う。

 

「先シャワー浴びてしまいましょ、その間に夕飯が出来てると思うから」

「あ、僕は後で」

「そお? じゃあアフームちゃんは?」

「家主を置いてシャワーは浴びれんよ」

「ここはお客様から浴びてもらわないと」

「いやいや、ここは家主が」

「……このやり取りまたやる気?」

「それがマナーですから」

 

 結局、アフーム、レイ、クイントの順で入ることになった。

 

 

 

 

 

「おや、シチューですか」

「おう、たっぷり食いな」

 

 夕食はシチューだった。

 レイ達はテーブルに着く。

 

「細君には負けます」

「やっぱりか?」

「僕も大概健啖家ですけど、細君には参ります」

「うちはクイントだけじゃなくて娘たちもよく食うからなあ、ほれ、鍋がこのサイズだ」

 

 ゲンヤが示した鍋の大きさは寸動サイズであった。

 

「ワアオ、エンゲル係数が大変そうで」

「エンゲル係数?」

「家庭の支出における食費の割合です。地球ではよう使われるんです」

「ほう、案外平気だ、お互い稼いでいるし、近くに安くて大量に買えるディスカウントがある。工夫すりゃどうとでもなるもんだ」

「御見それしました」

 

 レイはスプーンを口に運ぶ。

 物音は一切立たない。

 アフームもまた物音を立てずにシチューを食べる。

 

「相変わらず上品ね、やっぱり厳しくしつけられているのかしら」

「ええ、マナーは特に、一つ一つの所作に気を付けるように言われとります」

 

 レイが音を立てることなくシチューをすくう。

 

「おかげでどこへ行っても恥ずかしくない子供が出来上がりましたわ。よそで恥をかかないのは本当にありがたいのじゃ」

 

 アフームもまた音を立てることなくシチューを口に入れる。

 

「うちの子たちもこれくらい厳しくしつけた方がいいのかしら」

「いやあ、ここまでは別にいいと思うぜ。だがせめて口の周りを汚さないようにしてくれればいいんだがな」

 

 クイントとゲンヤが娘たちの躾を口に出す。

 

「女の子は元気な方がいいと言っとりませんでしたけ?」

「前言撤回、上品さも必要だわ」

 

 

 

 

 

 レイとアフームは食べ過ぎたことを気にして、天むすになっていた。

 

「ねえ、それなあに?」

 

 そこへスバルがキング・オブ・ハジケリストの証を指さし尋ねる。

 

「これは世界一の虚空戦士(ハジケリスト)に送られる。世界一ですよってことを表すアイテムなんや」

「へー、世界一なんだ」

「そう、俺は世界一の男」

「「すごーい」」

「ふふん、せやろ、世界一やから筋肉だってある。見よ! このセクシーボディを!」

 

 レイはいきなり上半身裸になると、アドミナブル・アンド・サイのポーズをする。

 10歳とは思えぬ腹筋が現れる。

 ギンガとスバルはぽかんとする。

 

「子供たちに変なもの見せないで」

 

 クイントが冷たくツッコむ。

 

「ならば妾も見せてやろう、キングの相棒のハジケを」

「いや、いいから」

 

 クイントの制止も聞かず、アフームは全身に力を籠める。

 すると、アフームの背中から白黒一対の羽が生えたのであった。

 

「「「「羽生えた!?」」」」

「堕天使……!」

 

 その後、本当に堕天使シェムハザが降臨する事態になったが、レイ渾身の土下座でどうにかなった。




 書けた……!
 久々に物語が進んだ……!
 この勢いで第3章を書き終えてしまおう!
 それが終われば第3部だ!
 皆! 感想書いてくれよな!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 虎穴に入らずんば虎子を得ず

 前回のあらすじ
 帰れない、2人を残して。


「これは緊急の極秘任務だ。終わっても誰かに話してはならない。分かったな」

 

 ゼストの声がブリーフィングルームに響く。

 誰もが緊張した面持ちでゼストの話を聞いている。

 その中にレイとアフームがいる。

 2人の顔は妙に青い。

 

(死亡フラグがビンビンに立ってますがな)

 

 レイはこの事件に嫌な予感を感じていた。

 むせかえる死臭にレイは吐き出しそうになる。

 しかし、それをぐっとこらえ、ゼストの話を聞く。

 

「目標地点に到着したら、隊を二つに分ける。私が率いる潜入班と、地上班だ。潜入班のメンバーは……」

 

 レイは潜入班、アフームは地上班だ。

 

(のう、レイ、気付いているかの)

(気付かんはずがあるか。死亡フラグやろ)

(ああ、ビンビンじゃ)

(ビンビンやな)

(どうする? 妾達に何が出来る?)

(一応警告はしとく、後は野なれ山となれとしか言いようがないわ)

(適当じゃな)

(仕方ないやろ)

 

 作戦の説明が終わる。

 

「以上が本作戦の説明だ。何か質問はあるか」

 

 レイが手を上げる。

 

「この作戦には何か嫌な予感がします。何か良くないことが起きる、そう占術にも出ています」

「それは確かなのか。根拠はあるのか」

「僕の占術はよう当たるんです。とりわけ、悪いことに関しては的中率が96%です」

「……心に留めておこう。全員、気を引き締めるように。相手はS級次元犯罪者で違法研究者、ジェイル・スカリエッティだ。どんな手を使ってくるか分からない。気をつけろよ」

「「「「「「はい!」」」」」」

「他に質問はあるか」

 

 ひとしきり質問が終わった後、ゼストは一時解散を促す。

 

「それでは、一時解散とする。1時間後に転移だそれまでに集合しておくように」

 

 隊員たちが席を立つ。

 レイとアフームはむせかえる死臭に我慢できず、トイレに駆け込む。

 トイレでえずきながらレイは決意を固める。

 

(絶対に死者は出さん。何としてでも、死者を出してなるものか)

「大丈夫か?」

 

 隊員の一人がレイに声をかける。

 

「ええ、大丈夫です。ちょっと悪い想像が働いたもんで」

「そうか、あまり考えすぎるなよ」

「ええ、おおきに」

 

 そう言うとレイはトイレから出てくる。

 背後に悪霊を引き連れながら。

 

「「何か取り憑いてるーーー!!!」」

「心配してくれてほんにおおきに」

「「気付け! 背中に何かいることに」」

「もう、気分はすっきりしました。仕事しましょ」

「「大丈夫なのか!?」」

 

 悪霊と共にレイはトイレを去る。

 残された隊員二人は顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 第8無人世界。一面砂漠のこの世界に、不審な人工物が発見されたことが、今回の任務の発端である。

 打ち捨てられた研究施設に明かりがともっていること、そこで発見された謎の機械、それがスカリエッティ製である可能性が高かったのだ。

 それ故どうも、ジェイル・スカリエッティにかかわる施設らしいことが分かり、一刻も早い確保をするために、ゼスト隊に極秘緊急任務として送られてきたのである。

 

「あれか……」

「その様じゃな」

 

 アラビア風の衣装に身を包んだレイとアフームが砂山越しに双眼鏡で施設を眺める。

 

「その恰好はなんだ」

「「雰囲気作りです」」

「いらん」

「「いけず」」

 

 ゼストに冷たいツッコミを受け、渋々元の服に戻る2人。

 

「ここから先は敵地だ。気を引き締めていけ」

 

 声を出せないため、静かに頷く隊員達。

 静かに研究施設へと突入していく。

 一見すると、研究施設はもぬけの殻のようではあった。

 しかし、レイの観察力はそれを見逃さなかった。

 

「砂が払われとる。最近までここに居た用やな」

「本当か」

 

 ゼストが確認に来る。

 クイントやメガーヌも寄ってくる。

 

「ええ、これを見てください。一件カモフラージュされとりますが、これはハッチです。下と繋がっとるはずです」

「ここから入れるか」

「どうでしょう。大きさとしては機械の出入り用みたいですし、人用の入り口があるはずです。探してみましょ」

 

 そう言うと全員で入り口を探す。

 

「む、これではないか」

 

 アフームが出入り口のハッチを見つける。

 

「ナイス。大きさ的にもそれっぽいで。開け閉めできるフックもついとる。連中慌てて逃げたか? 随分とおざなりやな」

「何でもいい、スカリエッティに繋がるかもしれないんだ、急ぐぞ」

 

 ハッチが開けられ、レイ、ゼスト、クイント、メガーヌ含む潜入班が次々と中へ入っていく。

 アフーム達地上班はそれを見守りながら。周辺の警戒をする。

 アフームは天を仰ぎながら、不安そうに呟く。

 

「天気がいい。なのに随分と嫌な風が吹く」

「気のせいじゃないの?」

「だといいのじゃが」

 

 隊員の一人に気のせいといわれても、アフームの心は晴れなかった。

 

 

 

 

 

 地下を進むゼスト達隊員たちは、電気をつけることなく進んでいた。

 全員暗視魔法を使用している。

 ゆっくりと、だが確実に彼らはこの施設の容貌を明らかにしていた。

 打ち捨てられた機械類、地を覆う埃、錆びついた配管、全てがこの施設の不気味さを演出していた。

 ふと、ゼストが何かに気付く。

 

「見られているな」

「隊長殿も気づきましたか。見張られていますね」

 

 レイもその気配に気づいたようである。

 

「数は1、現れたり消えたりする。実に不思議な手合いや」

「全員、気をつけろ。ここには何かある」

 

 生唾を飲む音が聞こえる。

 全員気を張っているのがレイには感じられた。

 

(ううむ、良くない傾向やな。みんな硬くなっとる)

 

 レイとしてはここで一つハジケたいところであったが、そこをぐっとこらえる。

 この任務がどれだけ重要なものか、わかっているからだ。

 かろうじて理性が今は勝っているが、まるで酸欠になったフグの様にレイはハジケを欲していた。

 

(ああ、ハジケたい。思いっきりハジケたい)

 

 レイはもうすぐ禁断症状が出るんじゃないかと不安になった。

 

「おや、あれは」

 

 見ると、大部屋への入り口のようだ。

 気を付けながら中へと入っていく。

 どうやら主要研究施設なのか、様々な機械類が所狭しと並んでいる。

 

「金剛=ダイヤモンド、解析を」

「はいな」

 

 そう言うと、レイは巨大なモニターの前に立ち、電源を入れる。

 

(あー作業すると落ち着く)

 

 レイはデータを抜き取る作業に没頭することで、何とか精神の安定を図っていた。

 

(なんか面白いもん見つからんかなあ)

 

 隊員たちは周囲の機械類を眺めながら、データ発掘が終わるのを待っている。

 レイは一つ大きなため息をつくと、コンソールを叩くのであった。

 レイは用意したハードディスクにデータを移していく。

 それと並行しながら、面白そうなデータを探していた。

 

「結構長く使っとったみたいですな、データが多い多い」

「いくつか見れるか」

「待ってください、どうぞ」

 

 レイはいくつかデータのウインドウを開く。

 

「……うむ、やはり戦闘機人プラントだったか」

「戦闘機人というと、あの?」

「ああ、戦闘用に改造された人間。ジェイル・スカリエッティの研究テーマでもある」

「検体名SEINですか、ここで作られたのはこの子だけみたいですね」

「でもいないということは完成している可能性が高い」

 

 ゼストとクイント、メガーヌがモニターを眺めながら呟く。

 

「! これは……」

「レイくん、何を見つけたの」

「これを見てくんさい」

 

 レイはウインドウを開く。

 その内容にゼスト以下隊員たちは驚愕の表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 地上ではアフーム達が周辺警戒をしていた。

 しかし、何も起こらないせいか、隊員たちの気に緩みが見え始める。

 アフームは天を仰ぐ。

 

(良くない傾向じゃな、緩みが見える)

 

 ふと、アフームの第六感が働く。

 

「誰じゃ! そこにおるのは!」

 

 アフームの一言で全員の気が引き締まる。

 

「何故バレたの? 私のシルバーカーテンは完璧なはず」

 

 茶髪に眼鏡の少女が突然現れ、驚愕の声を上げる。

 彼女の前に、紫髪短髪の女性と銀髪長髪眼帯の少女がいる。

 彼女たちも驚愕の表情を浮かべている。

 

「なに、ただの勘じゃ」

「勘って、そんな非科学的な!」

「正確に言えば、気配がするのに姿が見えなかったのでな、やはり幻術の類であったか」

「ただの術じゃないわ」

「その様じゃのう、解除のアクションが異様に短い。異能力じゃな?」

「わかったところで何の意味があるの? あなた達はここで死ぬの、何にもできずにね」

「そうか、魂胆が見えぬが、恐らくスカリエッティの関係者じゃな?」

「フン、答える理由はないわ。死になさい」

 

 茶髪の少女がそう言うと、建物が震え、轟音が響く。

 

「いかん! 建物ごと潰す気か!」

「わかったところで何ができる!? そのまま無様に死になさい!」

「全員、妾のそばに集まれ! 早く!」

 

 アフームに促され、近くによる隊員達。

 それと同時に、建物が崩れ、全員生き埋めになるのであった。

 

 

 

 

 

 上から轟音がする。

 振動が部屋を包む。

 

「やられた! 連中、俺らを生き埋めにする気や!」

 

 レイが叫ぶ。

 

「生き埋めだと! じゃああのハッチは」

「もう使えないでしょう」

「ならば上をぶち抜いて」

「建物の残骸がなだれ込む可能性があります、お勧めできません」

「じゃあどうしろと!」

 

 ゼストが大声を上げる。

 

「どうもできないよ」

 

 聞き覚えの無い少女の声がする。

 その声はいつの間にか現れた、セミロングの水色の髪の少女から発せられていた。

 

「何者だ!」

「戦闘機人セイン、ドクターの命であんた達を監視していた」

 

 場に緊張が走る。

 

「あんたたちは何もできないまま、生き埋めになる運命しかない。諦めたら?」

 

 歯噛みする隊員たち。

 しかし、レイだけは静かに口を開く。

 

「アンタは? どうやってここから出るん?」

「心配いらないよ、出る方法はあるから」

「ということはあんた一人だけ助かる方法がある、ということやな。成程、監視役としてぴったりや」

「レイくん! 今は雑談している場合じゃないでしょ!」

 

 クイントがレイをたしなめる。

 建物崩壊による振動が収まっていく。

 

「これは完全に埋められたね、これで助かる方法は無くなったよ」

 

「まだ、通信で助けを呼べれば……」

「そうそう、この周囲には強力なAMFと通信ジャマー結界を張っているから、助けは呼べないよ」

 

 絶望が隊員たちの間で広がった。

 

「それじゃあ私はこれで失礼するね」

 

 セインが地面に吸いこまれていく。

 

「ちょい待ち」

 

 レイが呼び止める。

 帽子が開いており、中には掃除機を持った老婆が立っている。

 

「……何それ」

「おそうじばあさん! スイッチオン!」

「はいな!」

 

 掛け声とともに恐ろしいまでの掃除機の吸引が始まる。

 すさまじい吸引力がセインを地面から引きはがそうとする。

 

「くっ、だけどこのまま潜れば」

 

 だが、それは叶わない。

 セインは潜ることが出来ず、地面に下半身を留め置かれた状態になった。

 その状態で状況は拮抗する。

 

(くっ、体が引き千切られそうだ。あの掃除機にどんな力が)

 

 セインは全身の力を込めて、潜ろうと試みる。

 しかし、体はびくとも動かない。

 ふと、セインはレイの方を見る。

 レイはボウリング球を構えていた。

 

「え?」

 

 セインの頭は理解が追い付かず、真っ白になる。

 

「あの、レイくん? 何する気?」

 

 メガーヌがレイに尋ねる。

 レイは真っ黒な笑顔を浮かべる。

 

「目の前にピンがあるやろ? 人間ボウリングの時間や」

「ひっ」

 

 レイはにちゃあと気味の悪い笑顔を浮かべる。

 

「ちょっとそれは残酷すぎるわよ!」

「やめなさい! それは人に向けるもんじゃないわ!」

 

 クイントとメガーヌがレイを制止しようとする。

 

「うるへー! 今の今までハジケられんかったんや! ここでハジケんで何時ハジケる! レッツボウリング!」

 

 セインは慌てて潜ろうとする。

 しかし、体はびくとも動かない。

 

(動け! 動け! 私の体!)

 

 しかし、無情にも刑の宣告はなされてしまう。

 

「ええい、邪魔や!」

 

 レイの目からビームが放たれ、クイントとメガーヌを攻撃する。

 

「「きゃあ!」」

「さあ! レッツボウリング! な・か・や・ま律子さんー!」

 

 ボウリング玉がセインに向かっていく。

 

「いやああああああ!!!」

 

 ボウリング玉がセインの腹部に激突する。

 

「おぶ!!!」

 

 その瞬間、セインの体が浮き始める。

 そして、セインの体が地面から離れていく。

 

「ああああああああ!!!」

 

 セインは、掃除機に吸い込まれていくのだった。

 

「「「「「「吸い込んでどうする気だ!?」」」」」」

 

隊員たちが一斉にツッコむ。

 

「そら、まあ、馬鹿と鋏は使いよう、ってね」

 

レイがくるりと隊員達の方を振り向く。

 

「「「「「「あ」」」」」」

「うおおおおおお!」

 

 言うまでもなく、隊員たちはゼスト含め全員掃除機の餌食となったのであった。

 全員を吸い込んだ後、一人レイは周囲を確認すると、にやりと口角を上げた。




 急激に暖かい日になりましたね。
 皆さん、体調は大丈夫でしょうか。
 僕は宜しくありません。
 皆さんも気を付けてくださいね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 データに出来ない

 前回のあらすじ
 おそうじばあさんよ、アンタ、張り切りすぎだぜ……。


 崩れ去った研究施設を前に、3人の女性がそれを眺めている。

 

「セインからの通信が途絶えたわ」

 

 茶髪と眼鏡の少女、クアットロが呟く。

 

「やられたか」

 

 紫短髪の武人然とした女性、トーレが答える。

 

「相手はどうやってセインを倒したんだ。こういっては何だがセインを拘束することは不可能のはずだ」

 

 銀髪で眼帯を付けた少女、チンクがクアットロに質問する。

 

「映像を確認する限りでは掃除機に吸い込まれたわ」

「「は?」」

 

 困惑するトーレとチンク。

 

「私だって訳わかんないわよ! でも事実なのよ! 帽子が開いて、掃除機構えた老婆がいて、それに吸い込まれた。どう考えてもアイツは虚空戦士(ハジケリスト)だわ」

虚空戦士(ハジケリスト)……、ドクターからもらった戦闘データの中には含まれていないな」

 

 クアットロの言葉にトーレが反応する。

 

「そこまで厄介な相手なのか? 虚空戦士(ハジケリスト)というのは」

 

 チンクが疑問を呈する。

 

「さあ? 魔導士連中と大差ないでしょ。私達戦闘機人の敵ではないわ」

「そう、だな」

 

 クアットロは虚空戦士(ハジケリスト)を大した脅威とは考えていなかった。

 彼女自身虚空戦士(ハジケリスト)をよく知っているわけではない。

 とはいえ、相手はただの人間なのだ。

 自分達戦闘機人の相手になるとはつゆとも思っていなかった。

 

「セインはどうする」

「任務を達成できなかった奴の事なんてどうでもいいわ。それより、人造魔導士の素体にするために、死体を回収するわよ」

「姉としては、助けた方がいいと思うのだが」

 

 チンクがクアットロに異を唱える。

 

「どうやって助ける気よ。あいつは地面の下なのよ。嫌よ、わざわざ地面を掘るなんて。それに、ほっといても問題ないわ。見つかりっこないもの」

 

 チンクは苦々しい顔で死体回収に向かおうとする。

 その瞬間、地面が揺れた。

 

「な、何だ!」

「ただの地震でしょ」

 

 しかし、地震にしては長く細かい振動が続く。

 地面がひび割れ、何かが出てくる。

 

「「「……つくし?」」」

 

 それはつくしだった。

 

「春一番『恥ずかしがり屋のつくしんぼ』!」

「「「ぐああああああ!」」」

 

 突如として大量の巨大つくしが地面から湧き出る。

 その中にはつくしのコスプレをしたレイもいた。

 

「お礼参りや、顔拝みに来たで」

「嘘でしょ、あの状況から地上に出てくるなんて」

 

 クアットロが冷や汗をかく。

 

「だが奴一人のようだ、ここで仕留めれば問題ない」

「誰が一人と言うた」

 

 トーレの言葉を受け、レイが指を弾く。

 その瞬間、瓦礫が持ち上がる。

 瓦礫の中から巨大要塞が現れたのだ。

 

「「「な、何だと!」」」

 

 レイはほくそ笑む。

 

「ザーイガース」

 

 要塞が吠えた。

 

 

 

 

 

 ゼスト達は掃除機に吸い込まれた後、謎のパイプの中を滑り落ちていた。

 パイプは右へ左へと蛇行し、方向感覚を狂わせる。

 やがてゼスト達は開けた空間へと出る。

 そこには地上にいた筈の隊員たちがいた。

 

「「「「「「隊長!」」」」」」

「お前達、何でここに、それにここは一体?」

 

 ゼストに続いてクイントやメガーヌといった潜入班のメンバーもパイプから出てくる。

 

「ようこそ、無敵要塞ザイガスへ」

 

 アフームの声がする。

 アフームは巨大なモニターの前の椅子に座っていた。

 

「無敵要塞、ザイガス?」

「左様、我々地上班は謎の集団の襲撃を受けて生き埋めになるところだったのじゃが、間一髪無敵要塞ザイガスを召喚することに成功してな、こうして全員で避難していたのじゃ」

「さっぱり意味が解らんが、助かったという認識でいいんだな」

「この中にいる限りな」

「あの、私達レイくんに吸い込まれたはずなんだけど、どうしてここに繋がってるの? 物理的におかしくない?」

 

 メガーヌが疑問をぶつける。

 

「そんなこと妾が知るか!」

((((((ええ~))))))

「とはいえ、無敵要塞ザイガスを召喚した後、レイから念話がきてな、こちらの状況を教えたらあのパイプが出てきた。レイがそなた達をここに送ったのは間違いないじゃろう」

「その、レイくんは?」

 

 クイントがレイの所在を訪ねる。

 

「モニターを見るがよい」

 

 全員でモニターを眺める。

 そこにはガジェットと戦うレイがいた。

 

「さて、妾も出るとするかの」

「危険だ! 相手は戦闘機人かもしれないんだぞ!」

「わかっておるわ、じゃがな体が疼いて仕方ないのじゃ。早うハジケたくて堪らないのでな。それに妾はキング・オブ・ハジケリストの相棒じゃぞ? 生半可な手段で死ぬと思うたか」

 

 アフームは舌なめずりをする。

 妙に色気のあるその行為のせいか、彼女を死地へと送る緊張のせいか、生唾を飲む音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 クアットロは愕然としていた。

 目の前で繰り広げられている光景が現実とは到底思えなかったからだ。

 ガジェットを召喚して、レーザーの一斉掃射で片が付くはずだったのに、目の前の少年は全てのレーザーを避けるどころか、あまつさえ両手に持った手鏡で跳ね返している。

 レーザーを全て避けることすら非常識なのに、手鏡ごときでレーザーを跳ね返されることも非常識だった。

 跳ね返されたレーザーでガジェットが一つ、また一つと壊されていく。

 

「どうしたどうした! 退屈すぎて欠伸が出るわ!」

 

 レイは堂々と戦闘機人たちを煽る。

 彼女たちはその煽りに乗ってしまった。

 

「お望み通り、数を増やしてあげるわ!」

 

 クアットロはさらにガジェットを召喚する。

 チンクは憮然とした表情でナイフ、スティンガーを投擲する。

 

「流石にナイフは跳ね返せまい!」

 

 それにチンクのIS(インヒュレーション・スキル)ランブルデトネイターでスティンガーを爆弾に変えてある。

 触れれば爆発するナイフ相手ならさしもの相手も殺せるのではないだろうか。

 だが、その期待はあっさり裏切られた。

 レイは更に回避速度を増し、ガジェット撃墜数を増やしていく。

 その中にはスティンガーも含まれていた。

 

「ほう、爆発するナイフか。これは危険やな」

「わかったところで何ができる!」

 

 ランブルデトネイターには遠隔操作能力もある。

 確実に当てられるとチンクは考えていた。

 しかし、それ以上にレイの動きはトリッキーだった。

 

「回避『マーマーディフェンス』!」

 

 レイが突如として姿勢を変える。

 前傾姿勢になり、両手を広げる。

 

「マーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマー」

 

 何やら意味不明なことを叫びながら、シャカシャカと足を動かし、全てのレーザーとスティンガーを避けていく。

 スティンガーはレイを追いきれず、全弾レーザーに当たり爆発する。

 

「「「有り得ないっ!!!」」」

 

 トーレ、クアットロ、チンクの声が重なる。

 そこへ無敵要塞ザイガスから何かが飛んでくる。

 

「突撃隣の晩御飯!!!」

 

 巨大しゃもじを構えたアフームだ。

 着弾と共に砂が舞い上がる。

 

「「土符『砂漠の土用波』!」」

 

 舞い上がった砂が弾幕へと変化して、ガジェットを潰していく。

 

「ナイスタイミングや。そろそろ回避も飽きてきたんでな」

「ナイスタイミングじゃろ? もっと褒めてよいのじゃぞ?」

「はいはい、これが終わったらな」

 

 レイとアフームが背中合わせになる。

 

「もう勝った気でいるつもり? 数ではこっちが上なのよ」

「たった一人を仕留められん人達の言うことは違いますなあ」

「「「貴様っ!!!」」」

 

 トーレとチンクが接近戦を仕掛けてくる。

 

「デカ女は俺がやる」

「なら妾はあの小娘じゃな。髪色といい長さといい、妾とキャラが被っていて不愉快じゃ」

 

 レイとアフームはそれぞれの獲物に向かっていく。

 トーレは8枚のエネルギー翼、インパルスブレードを展開し、超高速でレイに接近する。

 これならば行けるとトーレは踏んでいた。

 甲高い金属音が鳴る。

 しかし、トーレの攻撃はあっさりとレイに防がれてしまう。

 

「貴様、本当に人間か!?」

「速いだけか? 力もあるな。成程単純に強いタイプやな、あんた」

「くっ! 舐めるな!」

 

 トーレは離脱すると、攪乱する様にレイの周りを高速で飛行する。

 

「そんな手段、いくらでも破りようがあるで。拡散『とろろフィールド』!」

 

 レイの帽子からスプリンクラーの様にとろろが噴き出る。

 トーレの全身にとろろがかかっていく。

 

「ぐああああああ!」

 

 トーレの動きが止まる。

 

「さらに追撃や、迫撃『納豆インパクト』!」

 

 動きを止めたトーレに納豆バズーカが襲い掛かる。

 ねちゃねちゃとした納豆のせいで、トーレの動きは鈍る。

 

「ご自慢の機動力もこうなってはおしまいやな」

「くっ、この程度で!」

「ほう、まだまだ目から火は消えていないと見た。そう来なくては!」

 

 レイの顔は狂喜満面であった。

 

 

 

 

 

 チンクとアフームの戦いは、アフームが一方的に殴る展開となっていた。

 スティンガーは全て避けられ、自慢の爆発も相殺されてしまう。

 チンクはいとも容易く懐に入り込まれていた。

 

「貴様は! 妾と! 髪色と! 長さが! 被っておる! キャラ! 被りは! 許せんのじゃー!」

「何を言っているのかわからんぞ!」

 

 アフームの鉄拳がチンクを襲う。

 重く鋭い拳がチンクにダメージを蓄積させていく。

 

「何故だ! 何故ここまで良い様にされる!」

「どうもこうも、それが実力の差という奴じゃろう」

「舐めるな!」

 

 チンクは決死の手段に出る。

 手に構えたスティンガーをアフームに突き出す。

 アフームがそれを避けると、チンクはスティンガーから手を放し、わずかに投擲する。

 近距離での爆発はしたことはないが、この少女を引き離すにはこの手段しかないと思った。

 スティンガーが爆発する。

 チンクは後ろに転げるように飛ぶ。

 

「はあ、はあ、これなら奴も!」

 

 チンクはアフームの爆殺を確信していた。

 

「ふむ、随分と思い切った手段に出たのう」

 

 爆煙の中からアフームの声が聞こえる。

 チンクの顔が絶望に染まる。

 

「これでも、駄目なのか」

「間一髪このアーマーが間に合っていなかったら危ないとこじゃった」

 

 アフームは段ボールで出来たアーマーを身に着けていた。

 

「段ボール!?」

「さて、ここまで抵抗するのじゃから、妾も容赦なく攻めてもよいのじゃろう。このキャラ被りめ!」

「だから何を言っているのかわからん!」

 

 

 

 

 

 トーレは空中を高速で移動しながら容赦なくレイを責め立てる。

 しかし、レイは冷静にそれを六角如意金剛棒でいなしていく。

 

「反撃させる隙も与えんか、これは厄介」

「貴様、何故反応できる!」

「そら、あんた、神経系を強化しましたから。あんたが機械で強化したようにこっちも魔術で強化したんや」

「だとしても!」

「そこまで自信あったんか? ならそれも今日で終わりやな。よかったなあ世界の広さを知ることが出来て」

「貴様!」

 

 トーレは冷静さを失いつつあった。

 当たらない攻撃とレイの口撃が合わさって、トーレのフラストレーションを最大限まで高めていたのだ。

 だからそれに気づかなかった。

 

「廬山昇龍破―――!!!」

 

 アフームの一撃によって打ち上げられたチンクに。

 気付いた時にはもう遅かった。

 トーレはかろうじてチンクを避ける。

 

「アターック!!!」

 

 レイによってチンクがトーレに打ち込まれる。

 

「「ぶ!!!」」

 

 チンクとトーレが衝突する。

 この時トーレは気付いた。

 己の体に何かが絡まっていることに、それがチンクとトーレを結び付けていることに。

 

「これは、糸か!」

「ご明察、といってももう遅いで。俺はお前さんが高速機動型と分かったときから細く強靭な糸を垂らしながら戦っていたんや。あんたが気付かないくらいな。さて、お遊びはおしまいや」

「ま、待て!」

 

 トーレは珍しく敵に懇願した。

 しかし、それは聞き入れられなかった。

 

「蜘蛛之巣『ハングリー・スパイダー・クラッチ』!」

「「ぐああああああ!」」

 

 糸が蜘蛛の巣状になり、トーレとチンクを極め上げる。

 

「そのまま落ちろ! ダンクシュート!」

 

 レイのココナッツクラッシュを喰らい、地面へと落ちていくトーレとチンク。

 落下方向にはクアットロがいた。

 

「! 逃げ……」

「逃がさんぞ」

 

 アフームがクアットロの背後に回る。

 

「貴様も地獄行きじゃーーー!」

「ぐはっ!!!」

 

 アフームのげんこつで地面に埋められるクアットロ。

 落下してきたトーレとチンクと衝突し、砂煙を巻き上げるのだった。

 レイが地上に降りてくる。

 

「戦闘機人だか何だか知らんが、貴様らは人間を舐めすぎや」




 か、書ける……!
 今までのスランプが嘘のように書ける!
 ようし、このまま第3章完結まで頑張っちゃうぞー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 舌先三寸の正義

 前回のあらすじ
 ネバネバネバネ~バ。


「イエ~イ、勝った勝った~!」

「人間舐めんな~!」

 

 砂に埋まった戦闘機人たちを眺めながら、レイとアフームは思いっきり煽っていた。

 戦闘機人たちはゆっくりと立ち上がり、2人を射殺すように見つめる。

 しかしレイとアフームはそれを意に介そうとしない。

 

「「「貴様らは、殺す!」」」

「あれあれ~、いいのかなあ~、こっちには人質がおるんやで」

 

 レイがそう言うと、無敵要塞ザイガスのドーム部分が開き、中から三角木馬に拘束されたセインが現れる。

 セインは悲痛なうめき声を上げながら必死に抵抗する。

 

「ふん、簡単なお使いもこなせないような奴なんていらないわ」

「姉としては助けた方がいいと思うのだが」

 

 クアットロは見捨てる発言をし、チンクは助けようと提案する。

 

「私はどちらでもいい」

 

 トーレは興味が無いようだった。

 

「ふむ、賛成1、反対1、どちらでもない1か、意見統一せいやーーー!!!」

 

 レイがバズーカを戦闘機人たちに打ち込む。

 

「「「ぐああああああ!」」」

「ちっ、どうせ逃げられるんや。ここは武士の情け、見逃したる」

 

 レイが手元のスイッチを押すと、三角木馬が浮上し、戦闘機人たちの方へと飛んでいく。

 

「「「え」」」

「ああああああ!!!」

 

 三角木馬が戦闘機人たちのいる地点に着弾し、大爆発を起こす。

 

「「「「ぎゃああああああ!!!」」」」

「見逃すとは言ったが、逮捕せんとは言うとらん。おとなしくお縄を頂戴されるんやな」

 

 レイがロープを手元でぱんと鳴らす。

 

「まだよ! まだ手はある!」

 

 クアットロはまだ足掻こうとする。

 

「新型ドローンか? 奴らに効くとは思えんが」

「このままではドクターに合わせる顔がないわ! 何としても奴らを始末する!」

 

 クアットロの声と共に多脚戦車のような形のガジェットが2体召喚される。

 

「……無駄なことを」

 

 レイの呟きにクアットロが反応する。

 

「殺す! 殺してやる!」

 

 ガジェットの鎌がレイに襲い掛かる。

 それをレイは危なげなく避けると、二丁拳銃で鎌のついたアームを吹き飛ばした。

 

「だから言うたのに」

 

 レイとアフームはスペルカードを構える。

 

「「土符『デッド・オア・アライブ回転流砂』!」

 

 回転する砂の渦が2つ巻き上がり、ガジェットを貫通する。

 ガジェットは2、3歩よろけると、爆散する。

 爆発の後には、ガジェットの残骸が残るのみで戦闘機人達はいなくなっていた。

 

「逃げられたか」

「その様じゃな」

 

 レイとアフームは一つ大きくため息をつくと、無敵要塞ザイガスに向かって歩きだした。

 

 

 

 

 

 研究施設で採取されたデータの中にあったのは、レジアス・ゲイズとジェイル・スカリエッティとのやり取りであった。

 

「どういうことか説明してもらうぞ、レジアス!」

 

 首都航空隊、管理官室。

 ゼストが眼前のレジアスを睨みつける。

 レジアスの前にはスカリエッティとのやり取りが突き出されている。

 レイは手を後ろ手に組み、ふらふらと部屋を歩く。

 

「これは僕の単なる想像なんですが」

 

 レイが口を開く。

 

「あなたはスカリエッティから技術提供を受けていたのではないのですか? その見返りに、捜査状況をリークしスカリエッティを逃がしていた」

 

 レジアスの目が見開かれる。

 

「その目的は、地上本部の戦力増強。違いますか?」

 

「仕方なかったんだ……」

 

 レジアスが絞り出すように声を出す。

 

「今の陸には金がない、人もいない。全部海の連中に持っていかれてしまう。そんな中成果を上げるにはこうするしかなかったんだ」

「犯罪者と手を組んでもか!」

 

 ゼストが激高する。

 

「お前だってわかるだろう! 今の陸がどうしようもない状況であることくらい! そんな中上からは成果を求められる! マンパワーではどうしようもないところまで来ているんだ! これ以上成果を出すにはこうするしかなかったんだ……」

「だからと言って、犯罪者と手を組む理由にはなりまへん」

 

 レイがぴしゃりと言い放つ。

 

「僕も今の陸がええ状態であるとは到底思えまへん。陸には安定した状態でもらわないと地球としても困ります。あなたはそれを裏切ったんです。下手をすりゃ、犯罪者を誘致する所だったんですよ」

「ならわしはどうすればよかったんだ!」

「……今の海偏重の状況は広域次元犯罪者の増加が原因だと思われます。その捜査を海のみで行っている組織体制がこの歪みを生んでいると僕は考えます。順当に偉くなるしかない。組織改革できるくらいには。それぐらいしか僕には思いつきません」

「それには、時間がかかるだろう……!」

 

 レジアスが静かに怒りをにじませる。

 

「ええ、時間がかかります。それが組織というものです。あなたはよくわかってらっしゃるのでは? それに我慢できなかった、あなたの弱さが招いた錆ですよ」

 

 レジアスの体が小さく震える。

 

「とはいえ、このメールだけではあなたをどうこう出来んのですがねえ」

「……そうだ、お前を罰することはこのままでは出来ん」

 

 ゼストが苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「管理局は身内に甘いようで、少なくともあなたは今のままだと降格された後、ほとぼりが冷めたころにしれっと元の地位に返り咲くんでしょうな」

 

 レイがぼやく。

 

「そんなことはさせまへんで。あんたには相応の罰を受けてもらう。せやから今は罰は与えん。罪の意識に苛まれ続けろ、レジアス・ゲイズ」

 

 レイの迫力に、レジアスはたじろぐ。

 

「そういえばあんた、以前俺の友人達を犯罪者呼ばわりしたな。あんたも犯罪者のくせに」

 

 レジアスは膝をついた。

 

 

 

 

 

「何だこれは」

 

 ジェイル・スカリエッティはクアットロやセインから提出された映像を眺め呟いた。

 

「ドクター、任務を達成できず申し訳ありませんでした。いかなる罰も受け入れます」

 

 クアットロが苦々しく、絞り出すように声を出す。

 

「いや、私の認識が甘かったようだ。まさか虚空戦士(ハジケリスト)がこんなに厄介なものだったとは。いや、厄介なのは魔術師の方か? いずれにせよ、前提が間違っていた。お前達の責任ではないよ。私の見通しが甘かっただけだ」

 

 ジェイル・スカリエッティは静かに言い放つ。

 

「これで私たちの情報が管理局に流れた、がこちらもキング・オブ・ハジケリストと魔術師の情報を手に入れることが出来た。非常に得難い情報だったよ。戦闘データとしては誰もが羨むものだろうね。私たちの情報と引き換えにしてもいいくらいのデータだ。むしろ良く帰ってきてくれた。ここで捕まると更なる損失を追うことになるからな」

 

 スカリエッティの言葉は何処か事務的な雰囲気を含んでいる。

 

「ところで、彼らとの戦いはどうだったかね、直にやり合った感想を聞きたい」

「意味不明でした」

 

 トーレがいの一番に口を開く。

 

「私の速度を見切るのはまだわかります。私の力を受け流すのもまだわかります。しかし、攻撃方法が訳が分からない! 妙にドロドロしているし、痒いし、ねばねばしているし、なぜあんなもので攻撃しようと思ったのか理解に苦しみます」

「私の場合も似たようなものです。異常なまでの回避力と防御力は厄介そのものとしか言いようがありません。それにシェルコートを貫通するほどの拳を連続で打ち込んでくる攻撃力。我々戦闘機人のスペックを上回っているのが謎です。あれは人間じゃない」

 

 チンクが不愉快そうに話す。

 

「そうよ、人間じゃないわ! あの回避力! 360度ガジェットに囲まれておきながらレーザーを全て回避するってどういうことよ! あまつさえ手鏡で跳ね返すなんて。手鏡よ! 手鏡! あんなので跳ね返されるなんて末代までの恥だわ。それにⅣ型をあんな一瞬で壊すなんて。もう、何なのよアイツら!」

 

 クアットロは憤然とまくしたてる。

 

「私としては、なんで私を捕まえられたのかが不思議でしょうがないです。ディープダイバーは完璧な能力ですよね? なんで掃除機でどうにかできるんです? しかも人間ボウリングって、あれ完璧に人間として終わってる奴のすることです。あいつ人格がおかしいとしか思えません」

「「「それには同意する」」」

 

 セインの感想に3人は異口同音に同意する。

 

「人格も、行動も何もかもがおかしい、か。理性ある狂人といったところか。これは厄介だ。ククク、この世界は退屈だと思っていたら、とんだ研究対象に出会ってしまったようだ! 虚空戦士(ハジケリスト)、しかもキング・オブ・ハジケリストか! 異世界の魔法技術か! これは面白い! 私はまだまだ人の可能性というものを見くびっていたようだ。これだけでも大収穫だ。よく生きて帰ってきてくれた」

 

 スカリエッティは喜色満面といった様子で天を仰ぐ。

 

「そういえば、もう一つ見つかった研究施設があったな。どうせあそこも管理局の手が入るだろう。そこで鬱憤晴らしではないが、ちょっと仕掛けてみようじゃないか」

 

 スカリエッティが不敵な笑みを浮かべる。

 その様子に戦闘機人たちは妙な頼もしさを覚えた。

 

 

 

 

 

時空管理局本局、カーテンの奥の奥、最高評議会。

360度を覆うモニター群の中に、円筒形の水槽が3つ置かれている。

水槽の中には脳髄が1つずつ入っている。

 

「議長、スカリエッティがゼスト隊の始末に失敗しました」

 

 『書記』と記された水槽から声がする。

 

「とんだイレギュラーだ。原因は」

 

 『議長』と記された水槽が返事をする。

 

「第92管理外世界からの出向者です。キング・オブ・ハジケリストのレイ=金剛=ダイアモンド。それと同等の虚空戦士(ハジケリスト)アフーム=Z=シルバーが戦闘機人、並びにガジェットドローンを退けました」

「予定ではどうだったかな」

 

 『副議長』と記された水槽が問いかける。

 

「ゼスト隊の生き残りは全員人造魔導士の素体として活用する予定でした。また、メガーヌ・アルピーノの娘をスカリエッティに引き渡す予定でした」

「大いに計画が狂ったな」

「他に奴に提供できる素体はないか」

「いくつか見繕ってレジアスを通じて送り込ませます」

「これ以上レジアスとスカリエッティを近づけすぎるのはやめておこう。すでにつながりはばれた。新たな窓口を作ってやらなければならん」

「レジアスは分かりやすい男だったからな。御するのは楽だったが。次の奴はどうしようか」

「それもいくつか見繕いましょう」

「レジアスにはまだ正義でいてもらわなければ困る。地上の人間には人気があるからな」

「そう、我々が時空管理局だ。我々が管理するのだ」

 

 

 

 

 

「これでよかったのか?」

 

 廊下を歩く中、ゼストが呟く。

 それは自問自答のような問であった。

 

「他にどうもできんでしょう、証拠としては弱すぎるんですもの。それよか、利用する方が現状としてはええと僕は思います」

 

 ゼストの顔が苦々しく歪む。

 

「隊長の思いも解ります。ですが、この件を終わらせるには、管理局は複雑怪奇になりすぎた。一筋縄ではいかんことになってもうたんです」

「……どうしてこうなったんだろうな」

「管理局の上層部の考えは僕にはわかりません。ですがいくつか言えることがあります」

 

 レイはゼストに向き直る。

 

「いずれ管理局は破綻します。それも近いうちに。そうなったとき、この世界に正義はあるんでしょうか?」

「……あると信じたい。正義は管理局にあるんじゃない。誰もが持ち得るものだ」

「それが舌先三寸の弱々しいものでも?」

「……それでも、俺は正義があると信じたい」

 

 無言で廊下を歩く二人。

 

「もうすぐお前達の出向期間も終わるな」

「そうですな、終わってみれば早いもんでした」

「次が最後の仕事になるのか」

「ええ、また戦闘機人関連で?」

「ああ、海の連中が見つけたらしい」

「かなり大規模な編成になるそうですね。見知った顔ばかりでした」

「海のハラオウン提督を中心とした編成だそうだ。俺たちも先の経験から呼ばれた」

「なら、存分に働かんと。海ばっかりという訳にも行きまへんからなあ」

「ああ、これ以上レジアスに悪事を働かせるわけにはいかん」

「ええ、何事も無ければええんですが」

 

 レイが遠い目をする。

 合同任務まであと1週間である。




 いつの間にかUAが5000人を超えていました。
 いやあ、めでたい。
 この勢いで何とか完結を目指します。
 それにしても、今回はハジケ成分が足りないなあ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 フォーリング・エンジェル

 前回のあらすじ
 果たして、この世に正義というものはあるのでしょうか?


 とある無人世界でスカリエッティ製のガジェットらしきものが見つかった。

 それを見つけたのは巡航中のアースラだった。

 すぐに本局に連絡をし、陸と共同で作戦に当たるようにとの命令が下った。

 作戦に加わるのは首都防衛隊ゼスト隊である。

 

「ゼスト隊ってレイくんとアフームちゃんが出向している隊だよね」

 

 エイミィが呟く。

 

「そうだ、あの2人がいる隊だ。あの2人は迷惑をかけていないだろうか」

 

 クロノがゼスト隊の面々の胃を心配する。

 

「大丈夫じゃない? 噂だけど、手柄を上げているみたいだし、かなり馴染んでいるんじゃないかな」

「だといいんだが。あの2人のハジケに対応しきれているのかどうか」

「それはある。凄い心配。だってレイくんってキング・オブ・ハジケリストになったんでしょ。そのハジケって結構ヤバくない?」

「アフームも同等の虚空戦士(ハジケリスト)だからな、そう考えるとヤバいな」

「ヤバいよね、私達でも対応しきれなかったもん。おまけに政治的にヤバい立場になったでしょ。ヤバい、私ヤバイしか言ってない」

「虚空教団の教主だからな、本人はまだ修行中だと言ってはいるが、その影響力は絶大だ。既に第6次元文化圏では英雄扱いだそうだ」

「私達とんでもない子を見つけちゃったね」

「ああ、とんでもない奴を見つけてしまったものだ」

 

 アースラは現在、なのは達を迎えに行くために地球に向かっている。

 その後、本局でゼスト隊と合流し、目的の次元世界へと向かうのである。

 クロノとエイミィはこの事件もつつがなく終わると考えていた。

 それが気の緩みであったことを後にクロノは思い知ることになる。

 

 

 

 

 

 海鳴海浜公園、転送ポジションに一番乗りしたのはテスタロッサ姉妹であった。

 

「私達が一番か~」

 

 アリシアが呟く。

 

「あっ、フェイトちゃんとアリシアちゃんや」

 

 そこへ八神家の面々がやってくる。

 すっかり走れるようになったはやてが駆け寄る。

 

「なのは達はまだか?」

 

 ヴィータが問いかける。

 

「うん、まだみたい」

 

 そこへ、なのはとアリサとすずかが走ってくる。

 

「お待たせなの!」

「おせーぞ、なのは」

「うちら今来たばっかやん」

「それを言うなら私達もだよ」

 

 全員で笑い合う。

 そこへ空中にモニターが現れる。

 映っているのはエイミィだ。

 

「みんなお待たせ! 今から転移するから魔方陣に乗って!」

 

 エイミィの指示に従い、全員魔方陣の上に乗る。

 そのまま、アースラへと転移されるのだった。

 

 

 

 

 

 なのは達を拾ったアースラはその足で本局へと向かった。

 そこでゼスト隊と合流するためである。

 

「本日は宜しくお願いします」

「こちらこそ、お邪魔します」

 

 リンディとゼストの間で挨拶が為される。

 

「そう言えば、レイくんとアフームちゃんは迷惑をかけてはいないでしょうか」

「いや、2人には助けられていますよ。出来ることならずっと居て欲しいぐらいですね」

「そういえば、レイくんとアフームちゃんは、うわっ!」

 

 リンディがレイとアフームを見つけた時、思わず驚いてしまう。

 何故なら、レイが見るからに不機嫌そうにしていたからだ。

 

「あの、レイくんは一体どうしてこんな状態に?」

「それが、朝書類を確認していたら、いきなりこうなってて、私も何が何だか」

 

 リンディもゼストも困惑する。

 

「あの、レイくん。一体どうしちゃったの?」

「……提督殿。お久しぶりです」

「お久しぶり、ってあなた見るからに不機嫌よ。何があったの」

「……俺が皆の嘱託シフト管理をしているのはご存知ですよね。俺が不在の間、やたらとシフト入れてる奴がいて、そいつに対する怒りが抑えられなくて」

「それが原因なの?」

「ええ、このままでは俺の管理不行き届きで事故が起きるかもしれん。そうなったときのことを考えると、怒りが」

「わかるわ、わかるけど今は抑えて。これから大事な任務でしょう。抑えて」

「そう言われましても、内側から湧き上がってくるこの怒り、汲めども汲めども湧いて出てくる。この怒りが石油ならどれほど良かったことか」

「確かにそうだといいけど、今は何とかして!」

「仕方ない、妾が何とかしよう」

 

 そう言うとアフームはレイの背中を開き、配電盤の様な装置を露にする。

 そしていくつかのつまみを回し始める。

 

「何をしているんだ?」

「レイの感情を抑えているのじゃ。このつまみを回して、と」

「大丈夫なの!? 大丈夫なの!?」

 

 つまみを回す度、レイの表情や目の色、舌の長さが変化する。

 

「これで良し! しばらくは怒りを感じぬはずじゃ」

「ハイ、モウ大丈夫デス」

「「全然大丈夫じゃなーい!!!」」

 

 レイの口調はなぜかロボットの様な片言になっていた。

 

「行くぞレイ」

「畏マリマシタ」

 

 何かが変化したレイを見送りながら、ゼストとリンディは呆然とする。

 

「……作戦準備をしなければ」

「……そうですね」

 

 2人は打ち合わせのため、艦長室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ブリーフィングルームでは、アースラ武装隊、なのは達、ゼスト隊でひしめき合っていた。

 それでも、談笑するには十分な広さである。

 そこへ、レイとアフームが現れる。

 レイはなぜかギターを背負っている。

 

「あ、レイ! アフーム! どう、し、たの?」

 

 アリシアが、不機嫌そうなレイを見つけ、言葉によどむ。

 レイが、ギターを鳴らす。

 

「この中に一人! シフトを大量に入れとる奴がおる。お前や!」

 

 レイはなのはを指さす

 

「えっ!」

 

 なのはは驚きのあまり、声が上ずる。

 

「確認したら驚いたで。お前さん休日のほとんどに仕事入れとるやないか。休み全くない月もあったで。どういうことやこれは」

 

 レイの追及になのはは俯く。

 

「これ、自分でいれたな? どういうつもりや! 休むのも仕事の内やで! 少しは自分を労われ! リアル見せてやろうか!」

 

 突然の大声に、アースラ武装隊も、ゼスト隊も思わずレイ達の方を向く。

 レイはなのはに向かって拳銃を構える。

 

「このことを史郎はんと桃子はんは知っとるんか? 後で説教してもらうで! 大体お前さんはな!」

「レイ! 落ち着くのじゃ! ほら、メロンパンじゃ!」

 

 アフームが袋に入ったメロンパンをレイに嗅がせる。

 

「イエ~ス、イエ~ス」

「そうじゃ、落ち着くのじゃ。ここは森の中、大自然の中じゃ」

「イエ~ス、イエ~ス、うっ!」

「イッた! 今イッたぞ!」

((((((なにこれ))))))

 

 レイは荒い息をしながらも落ち着きを取り戻したようである。

 

「ハアハア、俺は心配なんや。お前さんが体を壊さんか、疲労で注意力散漫になって重大な事故につながらんか。お前さんは大事な預かりもんなんや。怪我無く事故無く家に帰さんと俺の責任になる。せやから少し過敏になってしまうんや。今は出向中とはいえ本来の責任は俺に課される。恭也兄さんとの約束なんや、お前さんを無事に家に帰すんは。分かってくれ」

「……うん」

 

 レイの言葉になのはは頷く。

 

「帰ったら、スケジュール確認や。とりあえず来週は全休な。俺が頭下げれば済む話やから」

「でも、向こうに迷惑がかかっちゃうの」

「ええんや、俺達はまだ子供やから迷惑かけてええんや。向こうさんも解ってくれるって。いざとなったらリアル見せればええんやから」

「「「「「「それはダメ!!!」」」」」」

 

 大音響で突っ込みが入る。

 

「他のみんなもスケジュール確認するで。俺がいない間、皆乱れがちや。特にフェイトとアリシア、執務官試験のためにも少々減らした方がええと思うで」

「「え~」」

「えーやない。合格率が30%とは言え、きちんと勉強すれば受かるもんなんや。俺も勉強みるから頑張ろ! はやても少々入れ過ぎや、夜天の書の主として責任感じんのはええけど、それで体壊したら元も子もないで。あすかとエスト、お前らが止めろ」

「俺に止められると思うか」

「そこを何とかするんが家族の役目やろが、剣ばっか振ってないで心の研究もせい。アリサとすずかは特にいうことなし。スケジュール完璧や」

「でしょ。過ぎたるは猶及ばざるが如し、っていうでしょ」

 

 アリサが胸を張る。

 

「左様、皆中道を歩めよ。偏るんは宜しくあらへん。働きすぎも休み過ぎも毒や。出向期間が終わったら、また、きっちり管理するからな!」

「「「「「「はーい」」」」」」

 

 レイは一つ大きくため息をつくと、周囲に向かって頭を下げた。

 

「すいまへん、お見苦しいものを見せてしもうて」

「レイくんってこういうの厳しいのよね。責任ある立場って大変ね」

「なんていうか、同世代なのに保護者感がすごいわね。やっぱり立場って大事なのね」

 

 クイントとメガーヌが緊張した場をほぐさんと、レイに話しかける。

 

「そうじゃな、特にレイは旧家の跡取り息子じゃ。家を背負うということはそれだけの責任を負う。レイ程外聞を気にする奴もおるまいて」

「左様、人からどう見られているか、それは政治も同じや。狐狸妖怪ひしめく政財界で戦い抜くには大変な労力を必要とするもんでな」

「「だったらハジケた言動はどうなのよ」」

「「それはそれ、これはこれ。それが私達虚空戦士(ハジケリスト)なのです」」

 

 そこへ、ゼストとリンディが入ってくる。

 

「皆さん、席について下さい。これから作戦会議を始めます」

 

 

 

 

 

 本作戦は、アースラ武装隊、ゼスト隊による混成部隊を2つ作る、2方面作戦である。

 なのは達も2部隊にそれぞれ振り分けられた。

 レイが所属する部隊には、クイント、クロノ、なのは、アリサ、フェイト、はやて、ヴィータ、リインフォースがいる。

 もう一方にはアフーム、メガーヌ、ゼスト、すずか、アリシア、あすか、エスト、シグナム、ザフィーラが所属する。

 レイは正直不安であった。

 このような編成は不和の種になりやすいし、何より、なのはに明らかに疲労の色が見える。

 レイはこの作戦が上手くいくには、それぞれの大人の対応が必要なのではないかと考えていた。

 同時に、なのはのフォローが必要であるとも。

 

「ねえ、レイくん」

 

 クイントがレイに話しかける。

 

「あの白い子、大丈夫? 体幹の軸がぶれているわ。相当疲労がたまっている」

「ええ、さっき注意したとおりの話です。出来る限り僕もフォローするんで、そちらもサポートお願いします」

「わかったわ、気をつけてね」

 

 両部隊が転移され、作戦が開始される。

 目標地点まで、両部隊が徒歩で接近していく。

 誰もが周囲を警戒しながら、行軍する。

 もちろんなのはも周囲を警戒する。

 とはいえ、警戒しながらの行動は精神的疲労をもたらす。

 今のなのはに常時気を張り続けるということは苦行にも等しかった。

 

「なのはちゃんは警戒から外れた方がいいわ」

 

 クイントはそう提案した。

 

「大丈夫、です」

 

 なのはは不安定な体で答える。

 

「どう見ても大丈夫じゃないわ、辛いんだったらバックヤードに戻って……」

「大丈夫です! 私はやれます!」

 

 なのはが強い口調で断言する。

 フェイトとヴィータも心配そうに見つめているが、こういう時のなのはが何を言っても聞かないのをわかっているのか何も言わない。

 クイントはレイを見る。

 レイは肩をすくめ、首を横に振った。

 

「行きましょう」

 

 クイントは一つ大きなため息をつくと、作戦を再開した。

 その瞬間、空気が変わった。

 周囲に魔方陣が展開される。

 そこから大量のガジェットが召喚された。

 

「敵襲じゃー! 敵襲じゃー!」

 

 レイが櫓に上り、半鐘を鳴らす。

 全員戦闘態勢に入る。

 しかし、AMFのせいか、うまく魔法が使えないものが続出する。

 

「ええい! 厄介な!」

 

 レイがスペルカードを発動する。

 

「味符『無味無臭餃子新発売』!」

 

 無数の餃子が弾幕となってガジェットを破壊していく。

 

「レイ! 助かった! 全力で退避! 作戦を中断する!」

 

 クロノが号令をかけると同時に局員たちは元来た方へと退避していく。

 一瞬、なのはは出遅れた。

 それが隙だった。

 なのはの目の前に多脚戦車の様なガジェット、Ⅳ号が召喚される。

 

「なのは!」

 

 フェイトが叫ぶ。

 レイがなのはに駆け寄る。

 なのはは突然のことに固まってしまう。

 なのはにⅣ号の鎌が迫る。

 レイがなのはに飛び掛かり、鎌は宙を切る。

 しかし、もう1本の鎌が、2人を貫いた。

 

「なのはーーー!!!」

「レイーーー!!!」

 

 フェイトとヴィータの慟哭が辺りに響いた。




 第2章もいよいよクライマックス。
 次回で第2章が終了します。
 第2部は短いって?
 いやいや、第3章が渾身の作の上、結構長くなっていますのでご安心を。
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 スターレス・アンド・バイブルブラック

 前回のあらすじ
 レイとなのはは腹部を貫かれるのでした。



「なのはーーー!!!」

「レイーーー!!!」

 

 フェイトとヴィータの慟哭が辺りに響く。

 

 レイの背中から鎌は突き刺さり、長さ的にもなのはまで届いているだろう。

 鎌が引き抜かれる。

 レイの体から血が噴き出る。

 レイの羽織る着物が真っ赤に染まっていく。

 しんがりを務めていたクロノとクイントが駆け寄る。

 

「レイくん! レイくん!」

「なのは! しっかりするんだ!」

 

 2人が声をかけた時、レイがむくりと起き上がる。

 

「レイくん! 起きちゃダメ! 血が!」

 

 クイントの制止も聞かず、レイは起き上がる。

 レイはじっとなのはを見つめる。

 なのはは荒い息をし、白いバリアジャケットを赤く染めている。

 どうやら貫通していないのか、地面に血だまりは無い。

 その姿を確認すると、レイは目を閉じる。

 

「レイ! しっかりしろ!」

 

 クロノがレイを気付けようとする。

 次の瞬間、レイから凄まじいほどの怒りのオーラが噴出した。

 

「願い奉る、願い奉る、我が血をもってこの娘を癒し給う」

 

 レイが言葉を紡ぐと同時にレイの口から血が溢れ、なのはの傷がふさがっていく。

 

「願い奉る、願い奉る、我より流れいずる血をもって、彼の機械を潰せ」

 

 次の瞬間、火が、雷が、氷が、風が、水が、土がガジェットを襲い、スクラップにしていく。

 一瞬で辺りはガジェットの残骸で埋め尽くされてしまった。

 レイは己の傷を撫でる。

 いつの間にか、鎌で刺し貫かれた傷は塞がっていた。

 レイは口の中の血を吹き出すと、立ち上がる。

 

「レイ! 安静にしていろ! すぐに回収するから!」

 

 クロノがレイに安静を促す。

 しかし、レイは怒りのオーラを噴出させたまま前方を見つめる。

 すると、ガジェット召喚に使われたのと同じ魔方陣が現れる。

 再びガジェットが大量に召喚される。

 

「なのはを連れて行って下さい」

「お前も来るんだよ!」

「俺はストレス解消してから行くんで」

「何を言っているの!? あれだけ血を流しておいて! 貫通してたわよ!」

「もう、平気です」

「そんなわけないだろう! いいから戻って治療を受けろ!」

「なら、この怒りは何処にぶつければええ!!!」

 

 レイが怒号を飛ばす。

 

「俺は! 一体どうすればこの怒りを治めることが出来るんや!」

 

 その迫力にクロノとクイントは気圧される。

 

「丁度ええんや、こいつら潰して、ストレス解消のサンドバッグにするには」

 

 レイは六角如意金剛棒を構えると。ガジェットに向かって突撃する。

 そして、めちゃくちゃにそれを振り回し始めた。

 

「怒符『ローリングレイちゃん2006』!!!」

 

 その動きに型は無かった。

 ただひたすらにストレス解消のためだけに暴れているだけだった。

 それだけでガジェットは破壊されていく。

 間合いの外のガジェットは怒りのオーラが形となって破壊活動をしていく。

 ひとしきり暴れ終わった後、残されたのはガジェットの残骸だけだった。

 レイは肩で息をする。

 そのまま、レイは意識を失い、倒れ込む。

 クロノとクイントは慌ててレイを支えると、急いでアースラへと運び込むのだった。

 

 

 

 

 

 時空管理局病院。

 現在なのはとレイの手術が行われていた。

 誰もがなのはとレイの回復を祈り、手術室の前を離れない。

 そこへ、プレシアとユーノに連れられて高町家と金剛=ダイヤモンド家の面々が現れる。

 それにいち早く言づいたのはリンディだった。

 

「リンディさん! なのはとの容体は!」

「レイはどのような状態なんです?」

 

 史郎と櫻子がリンディに詰め寄る。

 

「……現在手術中です。詳しいことはまだ」

 

 その時、手術中のランプが消える。

 手術が終わったのだ。

 ドアが開き、ストレッチャーに乗せられたなのはが医者とともに現れる。

 

「「「「「「なのは!」」」」」」

「「「「「「なのはちゃん!」」」」」」

 

 全員がなのはに駆け寄る中、リンディは執刀医に話を聞く。

 

「なのはちゃんの様子は……」

「応急処置が効きましたな、思ったよりも容体は安定しています」

 

 誰もがほっと胸をなでおろす。

 

「しかし、リンカーコアの一部と脚部への神経が損傷しています。時間をかければ治るでしょうが、しばらくは魔法を使えないでしょうし、歩くことも困難になるでしょう」

 

 全員の顔色が変わる。

 なのははまだ麻酔で眠っている。

 なのはがこの事実を知ったらどうなるか、想像に難くなかった。

 

「そういえば、レイはどうなってます?」

 

 櫻子が執刀医に問いかける。

 

「そちらは別の者が担当しています。まだ、終わっていませんか」

 

 レイが手術を受けているのは隣の手術室である。

 そちらのランプはまだ点灯したままである。

 すると、ランプが消灯する。

 手術室からレイが出てくる。

 

「「「「「「レイ!」」」」」」

「「「「「「レイくん!」」」」」」

 

全員がレイに駆け寄る中、リンディは執刀医に話を聞く。

 

「レイくんの様子は……」

「何なのあの子。あれで生きてるっておかしくない? それに内蔵のマスコットキャラが自動で修復しているし。内臓のマスコットキャラって何だよ!」

 

 その言葉に、誰もがレイが本当に人間かどうか疑わしい目で見る。

 

虚空戦士(ハジケリスト)って一体何なの?」

「それを言葉で表現するのは不可能じゃし、無粋じゃよ」

 

 アリサの疑問はアフームによって答えになっていない言葉で返された。

 

 

 

 

 

「そうですか、レイくんがなのはを……」

 

 事故当時の状況をリンディとクロノから聞いていた高町家と金剛=ダイヤモンド家。

 史郎が詳細を知って思わず呟く。

 

「レイが間に入ったことでなのはちゃんの傷が浅くて済んだ。レイはよくやったよ」

「それでこそ金剛=ダイヤモンドの男や」

 

 デビッドと櫻子がレイを称賛する。

 

「この度はなんとお詫び申し上げればよいか……」

「顔を上げてください、リンディさん。このような仕事に就いていれば、いずれ起きうることです。私も経験がありますから。とはいえ、私が皆にこんな思いをさせていたのだと思うとやるせない気持ちがあります」

 

 リンディのお詫びに史郎は顔を上げるように言う。

 

「我々IMS外交部としてもお詫びを申し上げます。お預かりしたなのはちゃんを守り切れませんでした」

「頭を下げないでください。レイくんの方が大ごとじゃないですか。それなのに頭を下げてもらっては困ります」

 

 頭を下げるデビッドと櫻子に困惑する桃子。

 

「息子は、レイはあの程度では死にません」

「死にませんって……」

「それよりも、我々にはなのはちゃんを怪我させた責任が生じます。補償は必ず行います」

 

 櫻子が桃子に力強く言う。

 

「我々、時空管理局も出来る限りの補償は致します」

「それよりも、なのはとレイの容体だ。2人は本当に大丈夫なんだろうな」

 

 恭也が不安そうな声を上げえる。

 

「大丈夫じゃ。なのははレイの応急処置が効いたし、レイもそう簡単に死ぬクチではない。大丈夫じゃ、きっと大丈夫じゃ」

 

 そう言うアフームの声は震えていた。

 その様子に誰もが陰鬱な気分になるのであった。

 

 

 

 

 

 なのはが目を覚ました時、目の前は真っ白だった。

 真っ白な天井が映っていた。

 

「気が付いたか」

 

 隣から聞きなれた声がする。

 レイの声だ。

 首だけを動かし横を見ると、ベッドの上に座り本を読むレイがいた。

 

「こ、こ、は……」

「管理局病院。お前さんは手術が終わったところや」

「しゅ、じゅ、つ?」

「左様、覚えとらんのか?」

 

 なのはは思い出していた。

 巨大なガジェットに襲われたことを、レイに助けられたことを、そして、自身の腹に痛みが走ったことを。

 なのはは思わず自身の腹をさする。

 そこには鈍い痛みと共に縫ったような跡があることに気付いた。

 

「俺がおらんかったら、どうなっていたことか。全く、普段から休養をきちんと取らんと、こういう時に動けんのやぞ。これからは気を付けるんやな」

「レイ、くんは?」

「ん?」

「レイくんは、大丈夫なの?」

「この通り、ぴんぴんしとるわ」

 

 そう言いつつ、レイは腹の傷を見せる。

 赤く、痛々しい傷がそこにはあった。

 なのはは自分にも同じような傷があるのかと思うと、ぞっとした。

 同時に、それを何とも思わないレイに対し、わずかではあるが恐怖を抱いた。

 

「なんで、なんで、何も言わないの。私のせいなのに」

「責める理由が無いもんでなあ。それよりも助かって良かった気持ちの方が大きいわ」

 

 なのははレイを理解できなかった。

 どうしたらここまで懐の大きいことが言えるのだろう。

 

「私のせいで、私のせいでレイくんまで怪我したのに、なんで」

「必要以上に自分を責めるな。健康に悪いで」

「なんで、そんなに強いの」

 

 レイは意表を突かれたような顔をする。

 

「知らんがな」

 

 なのはは何も言えなかった。

 

「そんなの知るわけないやろ。強さの意味も解らん餓鬼にそんなこと聞かれても困る。まだ麻酔が効いとるせいで変なこと考えてしまうんやろ。寝てしまえ。寝て気分すっきりしてしまえ」

 

 レイは再び手元の本に目線を向ける。

 なのははそれを見ながら次第に意識が遠のくのを感じた。

 それは絶望感にも似ていた。

 

 

 

 

 

 それはいつものように境内を掃除していた時だった。

 博麗霊夢は何者かが結界を越えてきたことを感じ取った。

 侵入者は博麗神社の真後ろからやってくるようである。

 

「霊夢! 感じたのか!」

 

 スキマから八雲藍が現れる。

 彼女もまた異変を察知したのだろう。

 霊夢は頷くと、大幣を構え、侵入者を待ち構える。

 がさがさと草木が揺れる。

 現れたのは四つ足の何かだ。

 

「「獣!?」」

「妾じゃよ」

 

 侵入者の正体は四つ足で移動するアフームだった。

 その顔は妙に上気している。

 

「なんだ、アンタだったの」

「久しぶりじゃのう、博麗の巫女、賢者の式よ」

 

 アフームは二本足で立つと、2人と挨拶を交わす。

 

「で? 何のような訳? アンタの相方は?」

「相変わらず素っ気ないのう。でなければ博麗の巫女など務まらんか。レイは今入院中じゃ。妾はレイに頼まれ書状を届けるよう頼まれたのじゃ。一枚は八雲紫殿に渡すように言われておる」

「では、私が預かりましょうか」

「藍殿、ではお任せしよう」

 

 アフームは藍に手紙を渡すと、もう一枚手紙を取り出す。

 

「霊夢殿にも渡すよう言われておる」

「私にも?」

「うむ、レイ曰く近々起こるであろう異変にまつわる話だとか」

「あー、それでか、今朝私の勘が働いたんだ。異変にまつわる何かが起こるって。この手紙の事だったのね」

「左様。レイ曰く、この異変は防ぎようがない。じゃが被害を抑える事は出来るとのことじゃ。その方法を記してあるとのことじゃ」

 

 アフームは霊夢に手紙を渡す。

 そこへ、桃色の髪の道士服の女性が現れる。

 

「霊夢! 大丈夫ですか! 今結界に異常が!」

「大丈夫よ。原因はあの子だから」

「お騒がせして申し訳ない、茨華仙殿」

 

 アフームはその女性、茨木華扇に頭を下げる。

 

「あなたでしたか、して何ようです?」

「この手紙を渡すようレイから頼まれたのでな、華扇殿にも渡すよう言われておる」

「私に、ですか。ありがとうございます。そう言えばあなたの相方の姿が見えませんが」

「入院だって、何があったのよ。正直アイツはそう簡単にくたばるようなタマには見えないんだけど」

「レイは、少女をかばって腹を刃物が貫通する大怪我を負ったのじゃ。もう平気なのじゃが、病院が離してくれなくてな、退屈しておるよ」

「刃物で腹を貫通って、何があったのよ。想像するだに痛々しいわね」

 

 霊夢は身震いする。

 

「そのあたりの経緯は話せば長くなる」

「じゃあいいわ」

「言うと思った」

 

 アフームは肩をすくめる。

 

「それでは妾は今日中に手紙を届け終えねばならん。これで失礼する」

「ふむ、一応聞いておくが、どこに届けに行くつもりだ?」

 

 藍がアフームに問いかける。

 

「紅魔館、白玉楼、永遠亭、守矢神社、地霊殿、命蓮寺、神霊廟、後戸の国。幻想郷の有力者のところにはすべて回るつもりじゃよ」

「随分ハードスケジュールね」

「それだけレイもこの異変を危険視しておると言うことじゃ。出来る限り多くの勢力に伝えねばならぬ程な」

 

 そう言うとアフームは霊夢たちに背を向ける。

 

「あ、そうそう、アンタの母親達は元気が有り余っているわ。問題を起こさないからいいけど。顔出しておいた方がいいんじゃない」

「そうじゃな、お使いが終わったら顔を見せるとするかの」

 

 そう言うとアフームは博麗神社から飛び立つのであった。

 3人はアフームを見送る。

 

「では私はこれで失礼する」

 

 藍がスキマを通じて紫のところへと向かう。

 霊夢と華扇は手紙を広げ、中身を改める。

 

「九頭龍異変、ねえ」

 

 霊夢と華扇は空を見上げるのだった。




 前回と今回のタイトルはキングクリムゾンの曲からつけたのですが、皆さん気付いたでしょうか。
 それよりも次回から第3章が始まります。
 物語全体としては佳境部分にあたり、そして今作品の方向性を決定づける部分に当たります。
 さらに第3章では幾多もの謎が明かされます。
 そして皆さんが恐らく予想しないであろう展開が待っています。
 乞うご期待!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章 NC0068 C事件 第1話 預言と脈動する石

 渾身の力作、第2部第3章開始!
 とくとご覧あれ!


 この世にはおよそ人智の及ばぬ事象が存在する。

 この事件もまた、人智が及ばぬが故に起きた悲劇であろう。

 

 

 

 

 

「なんでしょう、これは」

 

 カリム・グラシアが呟く。

 彼女の希少技能(レアスキル)予言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)に新たなページが追加された。

 それによって以下の文章が翻訳された。

 

「集めてはならぬ脈動する石が九つ全て集まるとき異郷の海底より空腹の神が蘇る

 それを食い止めるは解放者にして皇帝なる者女神と共に新たな神話を紡ぐ

 空腹の神と解放者にして皇帝なる者一度死して再び蘇る

 そして世界の中心で互いに殺し合うであろう」

 

 それは、今までの文章の中で最も難解な文言であった。

 

「意味が解りません」

 

カリム・グラシアを含め誰もがこの文章の意味を完全には理解できなかった。

 脈動する石、というものを聞いたことも無ければ管理局のデータベースにも存在しない。

 異郷というのが何処かもわからないし、空腹の神というのもよくわからない。

 解放者にして皇帝なる者とはいったいどのような貴公子なのかすら掴めない。

 女神というのも抽象的過ぎて特定できない。

 一度死して蘇る、という言葉も額面通り受け取るには荒唐無稽だ。

 世界の中心とは何処だろうか、そもそもどの『世界』なのだろうか。

 この予言をいかにして解釈するか、誰もが頭を悩ませていた。

 

「どうしましょう」

 

 カリムはぼそりと呟く。

 原則として彼女の予言は管理局上層部に公開されることになっている。

 しかし、このような預言では彼女の正気が疑われてしまう。

 下手をすれば、今後の活動に支障が出るかもしれない。

 今回の予言は聖王教会上層部の頭を苦しめることになってしまったのだ。

 今まで預言を的中させてきただけに、今回の予言では回答が得られないとわかると、彼女の在り様すら問われることになる。

 

「シスター・カリム、あなたの予言の扱いが決まりました」

 

 彼女の上司がいつになく硬い面持ちで言う。

 

「今回の予言は解読途中ということにして、公開することにします」

「それで納得なさるのでしょうか」

「納得しようがしまいが、そうするしか今はありません」

 

 カリムは何も言えなかった。

 

「あなたも納得できていないようですね。私もです。ですが、管理局とうまくやっていくには、あなたの名誉を守るにはこの方法しかありません」

「何故、何故私は預言の力をもって生まれてきたのでしょう」

「……それは誰にも分らないことです」

 

 この時点で、預言を正確に理解できた人物は1人もいなかった。

 後になって、全てが明るみになったとき、ようやく彼女含め多くの人々が理解できたのであるが、そのことを今の彼女は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 ユーノ・スクライアは現場派の考古学者である。

 故に危険な目には何度も遭遇してきたが、その度に自らを成長させていった。

 現在、ユーノはとある古文書から遺跡の位置を特定し、早速発掘していた。

 この発掘作業には他のスクライア一族の面々も関わっている。

 

「う~ん、間違いなくこの位置なんだけどなあ」

「いかがいたしましたか、マスター」

 

 ソフィアがユーノに尋ねる。

 

「この地図を見てくれないか。今発掘している遺跡のマッピングなんだけど」

 

 ユーノが地図を取り出す。

 

「ここ、この空白地帯に何かがありそうなんだ。その空白地帯が目の前のこれ」

 

 ユーノが目の前の壁を指さす。

 

「入り口が見つかればなあ」

「何かお手伝いできることがあればいいのですが」

「いやあ、日常のことをやってくれるだけで助かってるよ。無限書庫の管制人格にやらせる仕事じゃないけど」

「ですよね~。最近無限書庫らしい仕事なんて、この遺跡の情報検索ぐらいでしたし、なーんか一気に情報検索するような仕事ってないもんですかねえ。管理局の皆さんは私達を軽視してますし。ハラオウンさんぐらいですよ。よく利用してくれるのは。軽い無茶ぶりも多いですけど」

「いつかあの腹黒野郎に原因不明のおできが出来る呪いでもかけてやろうか」

「やり方知ってるんですか?」

「知らない」

 

 2人は笑い合う。

 

「いや~しかし、見つからない! この空間の手掛かり!」

「テキトーに掘ります?」

「だったらいっそのこと全部爆破しちゃうさ」

「ヒュー、流石マスター!」

 

 2人は再び笑い合う。

 

「「何か出ろやーーー!!!」」

 

 2人はいきなり怒り狂い、壁面を蹴る。

 すると、ガラガラと壁面が崩れる。

 

「……マスター」

「……見つけちゃったね」

 

 ユーノは急いで他の一族を集めると、早速空白地帯の調査を始めた。

 

「ここは、まるで祭壇だ」

 

 ユーノが呟く。

 

「では奥にに何かあるかもしれないですね」

「その可能性は大いにある」

 

 やがて奥へとたどり着く。

 最奥部は広くなっており、祭壇という予想を裏付けるものでもあった。

 部屋の中央には何かが安置されている。

 

「「「「「「これは……」」」」」」

 

 誰もが口をそろえる。

 それは伝説の物でしかなかったからだ。

 青く苔むしていながらも、赤く輝きながら心臓の様に脈動する石。

 それは数多の古文書に記されながらも、実在が確認されなかった石であった。

 これがのちにハートストーンと名付けられるロストロギアと人類のファーストコンタクトだった。

 

 

 

 

 

「ハートストーン、ですか」

 

 ミッドチルダ地上本部機動二課、課長室でヴィクトリア・マーシュ二等空尉は新たな仕事を申し付けられていた。

 

「ああ、新しいロストロギアが見つかったんだ。お前、今新しい仕事ないだろ? どうだい、やってみる気はないか」

 

 課長が進めてくれた仕事は、かつて彼女の母親や祖母が探し求めていたロストロギアを集める仕事だ。

 そのことを彼は知らないが、これはきっと偶然では片づけられない力が働いているに違いない。

 ヴィクトリアは満面の笑みで引き受ける。

 

「やります!」

「そうか、かなり長期の仕事になるから、その分の手当はつくし、他の仕事は入れないようにする。しっかりやれよ」

「はい!」

 

 

 

 

 

 夏、海鳴市、金剛=ダイヤモンド邸。

 ここは、地球と管理局の外交拠点でもある。

 アフームとアウラとアリアはこの家でレイのピアノ演奏を聴いていた。

 曲はEL&Pのトリロジーだ。

 何を隠そう、レイ=金剛=ダイアモンドはプログレマニアである。

 演奏の最中、管理局用の通信端末が入電する。

 レイは演奏を止めると、空中にモニターを展開する。

 

「あ、キリン大好きめかぶ太郎先輩」

「クロノだ。ていうか誰だそいつ。それより仕事の話だ」

 

 クロノのツッコミと共に仕事の話に入る。

 

「ユーノの奴が新たなロストロギアを発見した」

「聞きましたえ、えらく興奮しとりましたんで急速冷凍光線を浴びせて海に流しましたわ」

「何やってんだお前は。それでな、今回発見したのと同じものが複数あるとのことで、アースラと地上本部の機動二課で協力体制を敷いて全て回収することになったんだ」

「ほうほう、その手伝いをいつものメンバーに頼みたいと」

「話が早くて助かる。そういうことだからスケジュールを調整してほしい」

「はいはい、任せときなはれ。ふうむ、比較的楽そうな仕事ですなあ」

「そうじゃな、これならなのはのリハビリにもってこいなのではないかの」

 

 アフームが話に入ってくる。

 先日なのはは無事に足を含めて完治したばかりである。

 まだ仕事はしていない。

 なのはの件があって以降、レイのスケジュール管理は緊縮を増した。

 以前より仕事の量を減らしたので当然不平が出たが、なのはのことを持ち合いに出して何とか納得してもらった。

 

「なのはか……」

 レイが呟く。

 事故の日以来、なのはとレイの間には溝が生まれていた。

 なのはが目覚めた時のやり取りのせいかとレイは考えていたが、どうもそれだけではないらしい。

 それは、なのはが目覚めたと聞いて、皆が駆け付けた時の話である。

 皆がなのはの心配ばかりするので、レイは拗ねてドジョウになって白目を剥きながらウーパールーパーを舐めていた。

 

「あー楽しー! ウーパールーパー舐めるの楽しー!」

「アンタね、構ってほしいならまともな行動をとりなさいよ。もうすっかりいつも通りじゃない」

 

 アリサにツッコミを入れられただけで、それ以降レイに声をかける者はいなかった。

 この時点でなのはは自分の足とリンカーコアについて聞かされていた。

 

「なのは、大丈夫? 気を落とさないで」

 

 フェイトが心配そうに声をかける。

 

「大丈夫だよ。ちゃんとリハビリすれば治るっていうし、早く治してまた頑張らないと」

 

 その言葉に一同は不安を覚える。

 

「頑張りすぎないでね。なのはちゃんはそう言うところがあるから」

 

 すずかが釘を刺す。

 

「うん、大丈夫だよ。無理はしない。無理したら同じことになっちゃうもんね」

 

 その言葉に一同はほっと胸をなでおろす。

 

「ちゃんと治せば、またみんなの役に立つよね」

 

 レイはその言葉に何かひっかかりを感じた。

 それは幽かな違和感ではあったが、なのはの闇を暴くには十分だった。

 

「この世に役立たずなんておらんよ。みんな何かしらいつも誰かの役に立ちながら生きとるんや。今は直す事だけを考えんさい」

 

 レイがなのはに声をかける。

 

「……レイくんはいいよね、何でもできて。デバイスも作れて、頭もよくて、戦うのも上手だし、いろんなところで活躍してる。この前も部隊のピンチを救ったんでしょ。すごいよね、大活躍してる。でも、私は何にもない」

「何もないてこたあないでしょう」

「ううん、何にもない。フェイトちゃんを助けたのも、プレシアさんを助けたのも、アリシアちゃんを助けたのも、夜天の書を直したのも、リインフォースさんを助けたのも、みんなレイくんのおかげじゃない! 私何かした? 魔法しか出来ることはないし、魔法を撃つことしか出来ていない! 魔法がなきゃ私なんて……」

「なのは!」

 

 レイが一喝する。

 

「今の発言を取り消せ。それは史郎はんと桃子はんに、皆に失礼やぞ」

「ねえ、魔法の使えない私に価値ってあるの?」

「噴!」

「グべ!」

 

 レイはなのはの首を締めあげると、そのまま昏倒させた。

 

「麻酔完了」

「「「「「「思いっきりCQCだよ!?」」」」」」

 

 この日以降、なのはとレイの間にぎくしゃくした雰囲気が流れるようになったのである。

 なのはの闇を図らずもレイが暴くことになってしまったが故であった。

 先日やっと退院したなのはの出迎えにもレイは渋々向かう始末であった。

 表面では取り繕っていても、水面下ではかみ合っていないことが誰の目にも明らかな状態であった。

 

「どないしたもんかね」

 

 レイがぼそりと呟く。

 

「ん? 何がじゃ?」

「いや、何でもあらへん。それよりもスケジュールの方やけど、なのはにも参加させようと思うんやけど、どうやろか」

 

 レイの提案にクロノは乗る。

 

「いいんじゃないかな、このくらいの仕事なら復帰後初の仕事としていい感じになりそうだ」

「ほんなら、それで組んどきますわ。フェイトとアリシアは執務官試験があるんで抑えめにするとして、他に要望は?」

「いや、それでいい、君に任せる。それより、なのはとの関係修復が大事なんじゃないのか」

 

 痛いところを突かれてレイは苦い顔をする。

 

「……どうにかしますよ、どうにか」

「レイにしては弱気な発言じゃな。そこは断言するところじゃないのかの」

「断言できるほどの根拠があらへん。人の心は複雑怪奇やから」

「言い訳乙じゃ」

「酷いこと言わんといて」

「あーもういいか? そろそろ時間だから」

「その前に一つだけ。今回回収するロストロギアはどんなもんや? 詳しくは聞いとらんもんでな」

「ああ、いいとも、資料を送ろう」

 

 新たにウインドウが開かれ、ロストロギアの情報が出てくる。

 

「ロストロギア、ハートストーン。命名者はユーノ・スクライアだ。外見は赤く、心臓の様に脈動しているのが特徴のロストロギアだ。強い魔力を発している。材質は不明だ。既存物質には当てはまらない性質を持っている。聞いているのか?」

 

 レイはハートストーンの画像を見たまま呆けている。

 

「執務官殿。これは集めたらあかん代物や。今すぐ、回収を中止してくれへんか」

 

 その顔は今までにないほど真剣なものだった。




 いきなり不穏な空気が漂い始めておりますが、皆様どのようにお過ごしでしょうか。
 今回から始まる第2部第3章は私が最も力を入れて妄想したパートであります。
 それ故完成には相当な労力を要しました。
 楽しんでいただければ幸いです。
 感想お待ちしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 届かないメッセージ

 前回のあらすじ
 人間関係って、複雑ですねえ。


「集めてはいけないってどういうことだ?」

 

 クロノはレイに問いかける。

 

「……いまIMSは来たるべき大事件に向けててんやわんや何や。そのハートストーンとやらとこの大事件に関わるあるアイテムが非常に酷似しとるんや。ええか、それを絶対に地球に近づけるんやないで。もし、それが本物なら、えらいことになる」

「えらいことって、お前がそんなに恐れるなんて珍しいな」

「恐れるも何も! 相手は神や。そのハートストーンとやらは神の心臓の可能性が高いんや」

「神って、ああ、地球の魔法は神の力でもあったな」

「左様。その神々の中で、恐るべき眠れる神が一時的に目覚めるタイミングがもうすぐやってくるんや。その対策準備で今IMSは大忙しなんや。もしも、ハートストーンが地球に持ち込まれたらと思うと、ああ、最悪や」

 

 クロノは頭を抱えるレイを見ても、今一つ実感がわかなかった。

 クロノにとって、いや、管理世界の住人にとって神とは存在しないものであり、魔法は技術なのだ。

 レイの様な、地球の様な神秘を基盤とした魔法体系とは根本的に異なるのである。

 

「その、神が目覚めると具体的にどうなるんだ?」

「……地球上のあらゆる生命の精神が狂う。そんな特殊な精神波が放たれる。精神が弱いものは一発で影響を受け、精神が錯乱して、あらぬ事件を起こす可能性がある」

「それは……」

「それが世界規模で起こるんや。一体何人が犠牲になるんやろなあ。ああ、恐ろしゅうて堪らんわ」

 

 レイは白目を剥き、舌を高速で出し入れしながらガタガタと震える。

 

「お前大丈夫か?」

「大丈夫に見えるか? 頼むからこれ以上俺の精神を破壊するような真似はやめてくれんか? ハートストーンは集めてもええから、地球には絶対に近づけん様に! これだけは確約してくれんか! 頼んます!」

「わ、わかった」

 

 クロノはレイのあまりの豹変ぶりに若干引いていた。

 レイが何をそんなに恐れているのかさっぱりわからなかったが、地球との関係を考えると、拒否は出来ないという結論に至った。

 

「艦長には話を通しておく。とにかくハートストーンを地球に近づけさせなければいいんだな」

「それでお願いします。こっちは地球文明存亡の危機なもんで」

「大袈裟じゃないのか」

「大袈裟なもんか! 前回の100年前の覚醒時には短時間とはいえ、それなりの被害が出たんや。今回の覚醒時間は相当長いことが予想される。そうなった場合、どれだけの影響が出て、被害が出ることか。最早地獄でしかないわ」

「そ、そうか、頑張ってくれ」

 

 クロノはそうとしか言えなかった。

 

 

 

 

 

「珍しいわね、レイくんがそこまで取り乱すなんて」

 

 リンディはクロノから報告を聞き、そう漏らした。

 

「ええ、本当に。予定通り派遣はするようですが、絶対にハートストーンを地球に近づけないようにと約束されてしまいました」

「そのあたりは問題ないわ、地球が関わることはないようですし、それに、地球上に乗り込む理由もないですしね」

 

 リンディはお茶を一口すする。

 

「あのう、相手は管理外世界なんですよね。なんでそこまで気を使わないといけないんですか?」

 

 ヴィクトリアが疑問の声を上げる。

 

「相手は将来管理局に入局してくれるであろう金の卵を管理しているんです。それに、彼はキング・オブ・ハジケリストでもあります。第6地上本部とは深い繋がりを持っています。更に一筋縄ではいかない敏腕外交官でもある。彼の機嫌を損ねるということは金の卵を割るということでもあるんです」

「それに、彼は優秀な科学者でもあります。既に魔法技術について深い理解を得ているでしょう。仮に敵に回った場合、相当な対策をされてしまうことは必至です。彼にはそれが出来るコネや組織力があります」

 

 クロノとリンディはレイを評し、ヴィクトリアに説明する。

 

「要するに相手はとんでもない能力と立場を持っているってことですね。うわあ、敵に回したくない」

「でしょう? だから要求を呑むのよ。別に要求を拒めば即戦争という訳ではないわ。でも彼との関係をこじらせるのは本意ではないのよ」

「わかりました」

 

 ヴィクトリアは事態を理解する。

 

「でもそれにしては、要求の理由が神って、科学者らしくないような気がするんですが」

「それは僕も彼らしくないと思いました。しかし、過去の事例があるようで、どうも根拠のない話ではないようなのです。それに今の彼はIMSの指示に従って動いているみたいなんです。巨大組織が与太話で動くとは到底思えません」

「私も同感です。彼は聡明な子です。彼が何を恐れているのか私達には想像もつきませんが、彼を安心させることで優秀な嘱託魔導士を派遣してくれるのであれば、無理のない範囲で要求を呑むくらいは出来ます」

 

 リンディは再びお茶を飲む。

 

「予定通り、嘱託魔導士が派遣されますので、後はユーノ君が文献を集めてくるのを待つだけですね」

「ええ、彼曰く、情報が散逸しているから纏めるのに時間がかかると言っていたが、どれくらいかかるんでしょうね」

「無限書庫の管制人格がついていますから、そうかからないとは思うのですが」

「だといいですね」

 

 ヴィクトリアも出されたお茶に口をつける。

 どうやら彼女の口に緑茶は合わなかったようだ。

 

 

 

 

 

 数日後、ユーノとソフィアが資料を纏めてアースラへと乗り込んできた。

 

「確認できたハートストーンの数は残り8つ。大体の位置は特定出来ました」

「これで全部なのか?」

「恐らくね」

 

 渡された資料を手にクロノはユーノに質問する。

 

「文献にあるハートストーンの数はここにある8つ。それと僕が見つけたものを含めて9個。現在所在が確認できるのは以上です」

「ご苦労様。それにしても、結構な数があるのね」

「ええ、調べてみて驚きました。意外と数があるんです」

「今まで見つからなかったことに驚きだな」

「全くだよ」

 

 リンディとクロノはその数の多さに舌を巻く。

 

「マーシュ二等空尉、かなり長期間の任務になりそうですが、よろしいですか?」

「はい、上司からの指令は受けていますので、大丈夫です」

 

 ヴィクトリアは問題ないと答える。

 

「それでは、ハートストーン回収任務を開始します。クロノ、レイくんにスケジュールの確認を」

「わかりました」

 

 そう言うとクロノは席を立つ。

 

「それにしても、レイは一体何を恐れているんだろう。これのどこが恐ろしいのか」

 

 ユーノは資料に映っているハートストーンを眺めてそう呟いた。

 

 

 

 

 

 2つ目のハートストーンの発掘を開始するということで、レイはアリサ、すずか、あすかを派遣した。

 レイの意図としては、この仕事内容如何でなのはの派遣を決めるつもりである。

 

「仕事内容は、ユーノ君の護衛、発掘作業の手伝いになります。業務中はユーノ君の指示に従ってください」

「「「はい」」」

 

 リンディの言葉にアリサ、すずか、あすかは返事をする。

 

「それじゃあよろしくね。作業中は無防備になりがちだから」

 

 ユーノの言葉に頷く3人。

そしてヴィクトリア、ソフィア含む6人は遺跡へと転移する。

遺跡は天日に晒され、赤茶けた土壁が乱立していた。

 

「この遺跡にあるんか」

 

 あすかが呟く。

 

「この遺跡のどこかに、だけどね。ある程度候補は絞られているから、一つずつ回っていこう」

「わかったわ、それにしても何だか頼りがいがあるわよ、今のユーノ」

 

 アリサがユーノを褒める。

 

「うん、なんだかインディ・ジョーンズ教授みたい」

 

 それに続くすずか。

 

「映画の主人公だよね、見たことあるよ」

 

 ユーノは満更でもない様子で、地図を見ながら目的のポイントを目指す。

 やがて目的のポイントにたどり着く。

 

「ここが第一ポイント。今から発掘するから一人手伝ってくれる?」

「んじゃあ俺がやるわ」

 

 あすかが名乗りを上げる。

 アリサとすずかは周辺警戒だ。

 ユーノがレーダーを頼りにロストロギアの波動をチェックしていく。

 

「この真下だ」

 

 ユーノが場所を特定したので、二人で発掘していく。

 瓦礫をどかし、土を掘っていく。

 

「結構体力使うな、コレ。疲れるわ」

 

 想像以上の肉体労働にあすかは音を上げる。

 

「まだまだこんなもんじゃないよ。まだあと2か所残っているからね。今日中に全部回るよ」

「うへえ」

 

 そういうユーノの顔は涼しげである。

 

「ほんと、インディ・ジョーンズだね」

「本業が出来て生き生きしてるわね」

 

 すずかとアリサが呟きながら周辺を警戒する。

 しかし、周辺に生き物の気配はない。

 やがて、目的のものにぶつかる。

 ユーノが丁寧にそれを掘り出していく。

 残念ながらそれはハートストーンではなかった。

 

「残念」

「とりあえず次に行こうか」

「その前に休憩させてくれんか。疲れたわ」

「あすか、このくらいで音を上げてもらっては困るよ。まだ2か所残っているんだよ」

「そう言われてもな……」

「そうか、君はレディに肉体労働させるような鬼畜ゴミクズ野郎なんだね」

「そこまで言われる必要あるんか!? 俺!?」

「そんなあすかには僕特性のドリンクで疲労回復してもらおう。市販の栄養ドリンクにもずく酢、青汁、もぎ(ピー)てぅをたくさん入れた疲労回復に効果ばっちりのね!」

「ちょっと待て! 何入れたお前!? もぎ(ピー)てぅって何や!?」

「つべこべ言わずに飲めや! オラ!」

 

 ユーノはあすかの口に無理矢理ドリンクを流し込んでいく。

 抵抗できず、飲んでしまったあすかの体が発光していく。

 

「「「何!? 何が起こるの!?」」」

「うわああああああ!?」

 

 発光が収まると、あすかの体はまるでデビルマンの様になっていた。

 

「「「きゃああああああ!」」」

「何!? 何が起こってるの!? 俺の体!?」

「さて、次のチェックポイントに向かうとしますか」

「ねえユーノ? 俺は一体どうなっているのかな?」

「進化したのさ」

 

 かっこつけて言うユーノ。

 

「こんな進化したくないわ!」

「でも疲労はとれたでしょ」

「取れたけどさあ! 力も湧いてきてるけどさあ!」

「さあ、次のポイントへレッツゴー!」

「待て! 俺の体をどうにかしろ!」

 

 あすかの体は3か所目でハートストーンが発掘されると同時に元に戻りました。

 

 

 

 

 

 真っ暗な空間に突如としてスポットライトが焚かれる。

 照らされているのはレイだ。

 周りは暗くてよく見えないが、すり鉢状の会議場になっているようである。

 レイはすり鉢の底、議場の中央にいるようである。

 

「管理局が、Cの心臓を発見、回収するようだな」

「はい、決して地球に近づけさせないよう確約させました」

「頼むぞ、もし仮に本物だった場合、それを連中がかぎつけた場合、恐ろしいことになる」

「解っています。不安材料は悉く排除していきます」

 

 中年男性の質問にレイはすらすらと答えていく。

 続いて女性の声がする。

 

「この件で管理局と対立する可能性はありますか?」

「……管理局がCの心臓を全て集めようとしなければ、対立することはないでしょう」

「その可能性は?」

「……限りなく低いと言わざるを得ません。もし、Cの心臓があることが分かれば確実に彼らは回収に移るでしょう」

「交渉でどうにかできませんか?」

「出来る限りのことは致します。ですがあまり期待しないでいただきたい」

 

 レイは苦々しく回答する。

 別の男性の声がする

 

「管理局との交渉は貴殿に一任している。我々は来るべきCの復活に向けて対策をしている最中だ。努々気を抜かん様に」

「解っております」

「……ところで、貴殿が保護しているAZについてだが、彼女と彼女の母親達の協力は得られそうか?」

「問題なく、昨年より交渉を続け、色よい返事を貰っています」

「彼女たちの現在の状態は?」

「未だ本来の実力の2割しか戻っていません。急いでも当日までに戻るとすれば3割が限度かと」

「それでどれだけのことが出来る」

「都市一つの破壊であれば十分かと」

「それでCは殺せるか?」

「……分かりません」

「そうか、彼女たちは現在幻想郷だったな」

「ええ、そちらで力を取り戻すまで生活してもらっています」

「当日の件は賢者たちと話はついているな?」

「勿論です」

「それならば良し。当日の段取りについては貴殿に一任しよう」

「畏まりました」

 

 レイが頭を下げる。

 それと同時にスポットライトが消される。

 闇と静寂が空間を支配した。




 どうやらレイくんは暗躍を始めたようです。
 具体的に何をするのかは追々。
 彼の思惑とは裏腹に事態は進行していきます。
 それから、もぎ(ピー)てぅは美容と健康にいいので皆さんぜひとも摂取してください。
 私も毎日飲んでいます。
 おかげで第3章が完結しました。
 ……それでも体調を崩すんですけどね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 邪教の跡、預言者の踊り

 前回のあらすじ
 健康のために、もぎ(ピー)てぅ。


 3つ目のハートストーン収集に同行したのはなのは、フェイト、はやての3人だった。

 ユーノとヴィクトリアに同行した3人は今、遺跡の回廊を歩いている。

 壁面には壁画が描かれている。

 その内容はなのは達には一切わからなかった。

 

「ここはとある宗教団体が儀式に使っていた場所なんだ。壁画はじっくり見ない方がいいよ、こう言っては何だけど胸糞悪い内容だから」

 

 ユーノの言葉にひっと慄く3人。

 しかしヴィクトリアは意に介した様子はない。

 壁画は魚の顔をした亜人が何やら儀式をしているような内容である。

 文字も彫り込まれているが、それがいったいどのような言語なのか皆目見当もつかない。

 文字自体も不可解な曲線で構成されており、全く内容をうかがい知ることが出来ない。

 デバイスの翻訳機能もこの文字はお手上げのようだ。

 

「ユーノ君はこの文字分かるん?」

 

 怖さを紛らわせるためか、はやてがユーノに話しかける。

 

「いいや、全く。でも絵から読み取れることは多いからね」

「ここ、ユーノは来たことあるの?」

 

 フェイトの問いにユーノは答える。

 

「いいや、ここの壁画は有名だから大学の資料で見たことがあるだけなんだ。実物を見るのは初めてだよ」

「そんなに有名なの?」

 

 なのはの疑問にユーノが答える。

 

「ここは次元世界でも屈指の悪名高い秘密宗教の儀式場なんだ。何故悪名高いかは察してね。文化人類学的には興味深いサンプルではあるけれど、嫌悪感を持たれやすいことをしているから」

 

 3人はそれで通じたのか、何も言わず身震いした。

 

「これから向かうところはまさにそれが行われた場所なんだ。全く、クロノの奴めこういうとこに女の子を向かわせるもんじゃないよ。あのクソ雑魚ナメクジ野郎め、デリカシーが無さすぎる」

「「「「言い過ぎじゃない……?」」」」

 

 やがて巨大な扉の前にたどり着く。扉にも意匠が施されており一枚のイコンのようであった。

 

「はいじっくり見ない、精神に異常をきたしても知らないよ」

 

 ユーノが恐ろしいことを言うので3人は再び震え上がる。

 

「ユーノ君は大丈夫なの?」

 

 なのはが問いかける。

 

「僕はほら、もうすでに汚染されてるようなもんだからさ」

「「「ああ……」」」

「え、何、どういうこと?」

 

 ヴィクトリアが話についていけず、困惑する。

 

「ユーノは虚空戦士(ハジケリスト)だから」

「成程」

 

 フェイトの回答に納得するヴィクトリア。

 その間にユーノは扉を開ける。

 

「みんな、行くよ」

 

 扉の先は円形闘技場のような造りとなっていた。

 だだっ広い空間に5人だけというのは何やら奇妙な感覚すら覚える。

 

「このどこかにハートストーンがある。このレーダーを頼りに見つけ出すよ」

 

 ユーノが懐から取り出したレーダーにはロストロギアの位置を特定する機能がある。

 

「「「ちくわじゃん!?」」」

 その見た目はどう見てもちくわであった。

 

「えーと、どう反応したらいいのかしら」

 

再び困惑するヴィクトリア。

 

「ツッコめばいいと思うよん」

 

 ちくわから声がする。

 

「「「喋った!?」」」

「さあて、見つけるとしますか!」

 

 ユーノが意気込む。

 その様子を数多くの彫像が見下ろしている。

 その形は、タコともイカともつかぬ頭部、類人猿のような胴体。そしてコウモリのような翼を備えていた。

 その形をなのはたちが見ることはなかったのは幸運だろうか。

 

 

 

 

 

「クロノ貴様ー!」

 

 任務終了後のアースラ艦内。

 ユーノがクロノにシャイニングウィザードを決める。

 

「「「「「「何やってんの!?」」」」」」

「よくもあんな精神衛生上よろしくないところにみんなを放り込んでくれたな! 少しは気を使うこととかできんのかー!」

「ぐああああああ!」

 

 ユーノがクロノにコブラツイストをかける。

 

「「「「「「やめなよ!」」」」」」

「そ、そうはいっても、これからいろいろな任務をするうえで必要な経験だろう! 気味が悪いからという理由で任務を放棄できるか!」

「だったらもうちょい人員出せや! アースラに武装局員はいるだろうが!」

「こ、これも経験だと思って」

「理由は聞いた! だが気に食わん!」

「「「「「「理不尽だ!」」」」」」

「マスター、お疲れ様です」

 

 ソフィアがユーノに話しかける。

 

「ああ、ソフィア、無事発掘できたよ」

「それは何よりです」

「そっちはどうだい、進んでいるかい?」

 

 ソフィアの仕事は発見した文献からハートストーンの位置を精査することである。

 

「ええ、先程全資料の閲覧を終了しました。これから精査です」

「それは何より」

「それと気になる情報が」

「何だい?」

「聖王協会のカリム・グラシアの預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)に気になる記述が」

「ハートストーンにかかわる記述かい?」

「ええ、早急に耳に入れておくべき情報かと」

「聞かせてくれますか?」

 

 リンディが話すよう促す。

 

「わかりました。皆さんよろしいですね」

 

 全員が頷く。

 

「集めてはならぬ脈動する石が九つ全て集まるとき異郷の海底より空腹の神が蘇る

 それを食い止めるは解放者にして皇帝なる者女神と共に新たな神話を紡ぐ

 空腹の神と解放者にして皇帝なる者一度死して再び蘇る

 そして世界の中心で互いに殺し合うであろう」

「「「「「「はい?」」」」」」

「このような預言が為されていました。なお、現在解読中とのことです」

 

 誰もがぽかんと呆ける。

 

「なあ、意味わかる?」

 

 はやてが皆に問いかける。

 誰もが首を振る。

 ユーノですら肩をすくめる。

 

「何なのそれ、まるで意味が通じないわ。何なのよ空腹の神って」

 

 ヴィクトリアが呟く。

 

「……固有名詞から一応推理できそうだけど、これ本腰入れないと無理かも」

「ユーノ、わかるのか」

 

 クロノがユーノに問いかける。

 

「あくまで推理だよ。この解釈が正しいかどうかなんて誰にも分らないしね。それでいいなら少し時間をくれれば全文の解釈を作るけど」

「……頼めるか。どうも引っ掛かることがある」

「了解。多分その引っ掛かりはレイの態度だね?」

「ああ、レイがハートストーンを集めるなと言っていた。この予言を知らないのにだ。何か引っ掛かる」

「その勘、信じてみるよ」

 

 

 

 

 

「……そうか、回収は止められないか」

「ええ、向こうさんにはこちらの本気度が今一つ伝わらなかったようで」

 

 八雲紫の呟きにレイが答える。

 

「こういっては何ですが、あなたも管理局に物が申せる立場なのでしょう? あなたの持つ外交ルートを全開で駆使すれば、不可能ではないのでは?」

「それをやったらおしまいです。伝家の宝刀どころではありまへん。それに部署が違いますから、話が通るかどうか。僕の顔が効くのは、あくまで一部署なんです。全体に聞く顔は持ち合わせておりまへん」

 

 八雲藍の問いにレイは答えていく。

 

「無理矢理事を為せば歪みが出る。貴様はそれを恐れているな? 随分ともどかしい顔をしているぞ」

「ははは、わかりますか。いやあ、管理局という組織は複雑怪奇。折角手に入れた権力も宝の持ち腐れですわ」

 

 摩多羅隠岐奈に指摘され、乾いた声で笑うレイ。

 

「今回の異変は貴方が鍵、幻想郷だけでなく、外界にも危機が迫っている。そして貴方自身にも」

 

 紫に指摘され、レイは冷や汗をかく。

 

「6年毎の死の運命……」

「レミリア・スカーレットが貴方に告げた運命。その6年目が来ている。貴方はそれを乗り越えなければならない」

「苦しい話です。世界の危機と己の危機、同時に攻略せねばならんものですから」

 

 レイは出されたお茶に手を付ける。

 

「旧き神の結界は張り終えました。外界でもあらかた張り終えたのでしょう?」

「ええ、しっかりと張りましたよ。ほとんどの結界に関わりましたから」

 

 藍に確認され、レイは確りと頷く。

 

「問題は管理局が地球にある心臓を取りに来ないかだ。それについてはどうなんだ?」

「……僕の予想では十中八九取りに来るでしょう」

「対立は?」

「……必至です」

 

 隠岐奈に質問され、レイは言葉を噛み殺すように答える。

 

「外の連中だけで守り切れるかしら?」

「個人的な意見を申しますと、多分無理です。最強の戦闘魔術師集団である我が家を全員駆使させて、漸く守り切れる。但し、一回のみですが」

「誰もが貴方ほど神の寵愛を受けているわけではない。寧ろ実力を維持し続けていることの方が奇跡といっても過言ではないわ」

「恐縮です。恐れながら、技術、知識提供の代償に、幾人か幻想郷の住人を借り受ける事は出来ないでしょうか」

 

 紫との会話で出たレイの意見に賢者達は目を丸くする。

 

「それは、どういうことか分かっているのね」

「無論、最終手段ですが。備えておきたいのです」

「我々としても黙って見ているわけにはいかない。この九頭竜異変、解決のためなら喜んで手を貸そう」

「私も同意見よ。貴方ならば外界でも一時的に幻想郷を再現出来る。その力を使うのね」

「それ以外にも備えることはたくさんありますが、それも行います」

「お前は一体どれだけの策を講じるつもりなのだ?」

 

隠岐奈の問いにレイは口角を吊り上げ、答える。

 

「無論、僕が安心できるまで」

 

 

 

 

 

 聖王教会の一室。

 クロノとユーノ、カリムが頭を突き合わせていた。

 議題は例の預言についてである。

 

「集めてはならぬ脈動する石が九つ全て集まるとき異郷の海底より空腹の神が蘇る

 それを食い止めるは解放者にして皇帝なる者女神と共に新たな神話を紡ぐ

 空腹の神と解放者にして皇帝なる者一度死して再び蘇る

 そして世界の中心で互いに殺し合うであろう、か」

 

 クロノが預言内容を呟く。

 

「我々ではこの予言内容を解読する事は出来ませんでした。ユーノ・スクライアさんでしたか? あなたが解釈を持ってきたと」

「はい」

 

 ユーノが頷く。

 

「これは僕の友人、第92管理外世界、地球で外交官とキング・オブ・ハジケリストをしている者の言葉なんですがね」

「存じております。虚空教団の教主になられた方ですね」

「ええ、彼曰く、今地球ではある神が復活することで地上が大混乱するそうなんです。彼は今その対応に追われているのですが、その彼がハートストーン収集を止めるよう進言したんです。僕たちが予言を見つける前にです」

「そのことが何か関係があると」

「はい、彼は根拠もなく物事を恐れる人物ではありません。その彼が取り乱すほど恐れている。ですから、この件は恐らく事実なのだろうと思われます。預言にある異郷が地球の事なら、1行目の解釈はこのようになります」

 

 カリムはユーノをじっと見つめる。

 

「脈動する石がハートストーンの事だとして、これは本来集めてはならないものであること。そして全部で9つあること。そして、地球のその神にまつわる何かであることが分かります。友人曰く、神の心臓らしいのですが」

「神の心臓、ですか」

「あくまで、らしいですがね」

 

 ユーノは肩をすくめる。

 クロノはため息をつく。

 

「まとめると、ハートストーンは謎の神の心臓だから集めてはならない、ということか?」

「ま、そうなるね」

 

 カリムは考え込むそぶりをする。

 

「わかりました、では2行目の解釈はどうなっていますか」

「そうですね、キーワードは解放者、皇帝、女神です。解放者というのは虚空教団に伝わる英雄の事です。彼は未来に現れる英雄で人の時代最後の英雄で、神代の時代を復活させる存在であると言われています」

「解放者が、既に存在していると?」

「恐らく」

 

 カリムとクロノが目を見開く。

 

「続いて皇帝という言葉。解放者にして皇帝という表現から、彼はブリリアント皇帝の末裔である可能性が高いでしょう。過去の次元世界で皇帝を名乗ったのは数あれど、虚空教団の関りという点では、ブリリアント皇帝である可能性が高い」

 

 クロノは顎に手を添える。

 

「続いて女神、これは恐らく虚空教団で信仰されている神々のうちのどれか、だと思われます。火の神クトゥグァ、水の神クトゥピェ、風の神クトゥシャ、土の神クトゥジィ、雷の神クトゥドェ、氷の神クトゥクヒと、それを生み出したアタラ=ゾー、秩序六神から生み出され解放者によって解放される次世代の神アフーム=ザー。これのどれかでしょう。聖典では神々の性別は明らかにされていないけど」

 

 カリムは驚きのあまり舌を巻く。

 

「これを踏まえて2行目を解釈すると、ハートストーン収集は解放者にして皇帝なるものによって邪魔される。そして彼は女神と行動を共にしているらしい。こうなりますね。聖王教会の予言なのに虚空教団の話ばかりだ」

「全くです。我々では解読できないはずです」

 

 カリムがため息をつく。

 

「では3行目はどうなっている?」

 

 クロノが尋ねる。

 

「これに関しては字面通りに解釈するしかない! あと4行目も! 空腹の神と解放者にして皇帝なる者一度死して再び蘇る、そして世界の中心で互いに殺し合うであろう、ってね」

「世界の中心ってどこでしょう?」

 

 カリムが尋ねる。

 

「さあ? 虚空教団的にはヘキサグラムだけど、これと言い切れる自信は無いよ」

「無いのかい」

「無い! 何で一度死んでから蘇るのかも、互いに殺し合うのかも分かんにゃい! これが僕の限界! 分かったかコノヤロー!」

「「何で最後投げやり……?」」

 

 高笑いするユーノに困惑するクロノとカリムであった。




 どうやらきな臭くなってきました。
 謎の像は一体何を現しているのか?
 レイくんは管理局との対立を想定しているようですが、一体なぜなのか?
 6年毎の死の運命とは一体何なのか?
 謎多き預言の解釈はこれで合っているのか?
 全てはいずれ明かされます。
 待て次回!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 既に封印された石

 前回のあらすじ
 事態が動いてるぞコノヤロー!


「ふうん、じゃあ、レイとアフームはしばらく学校を休んでいるんだ」

 

 ユーノは発掘作業をしながら返事をする。

 

「そうなの、何でも今修羅場らしくて、世界中の魔術師が大忙しみたいなの」

 

 すずかと話をしながらも、ユーノの手が止まることはない。

 

「学校は随分静かになったよ、あの2人がいないだけで」

 

 アリシアがそう言うと、ユーノは額の汗を拭く。

 

「話を聞く限りじゃあ、地球の危機らしいからね」

「そうなんか! 何で何も言うてくれんのやアイツらは」

 

 あすかが憤然と言う。

 

「余計な心配させたくないからじゃない? それに対応しているのがIMSだから、皆とは直接関係を持たないからじゃない?」

「そう言えばIMSの依頼は受けたことがないかも」

 

 アリシアが思い出すように言う。

 

「となると、皆の力が必要な案件じゃないわけだ。魔術が使えないと対応できないんじゃない?」

「そうなのかなあ。レイくんはあんまり私達に頼らないから、どうなっているのかわからないよ」

「レイってプライド高そうだしね、私達に頼った事なんて1度もないかも」

「あいつ、出来んことがほとんど無いからなあ」

 

 ユーノの採掘は続く。

 

「その、レイくんって子は何者なの? 話を聞く限りでは、なんかとんでもない子みたいなんだけど」

「「「文字通りとんでもない奴です」」」

 

 ヴィクトリアの質問にすずか、アリシア、あすかが異口同音に答える。

 

「身体能力抜群、生命力は異常、物理学博士号持ち」

「1400年続く旧家の末裔で跡取り息子」

「そんでもって地球における管理局との外交の責任者や」

「「「それでキング・オブ・ハジケリスト」」」

「……規格外ってことは分かったわ」

 

 ヴィクトリアは溜息をつく。

 そうしている間にもユーノは採掘を続ける。

 

「む!」

 

 ユーノは何やら手ごたえを感じる。

 丁寧に掘り進めていくと、その姿が明らかになっていく。

 

「間違いない、ハートストーンだ」

 

 ユーノがハートストーンを持ち上げる。

 全員がそれを覗き込む。

 

「ん?」

 

 ユーノは違和感を感じた。

 

「これ、もうすでに封印されてる……」

「「「「「え?」」」」」

「なんでだろ、封印したまま放置って」

 

 ユーノの疑問の意味を正確に理解できる者はこの中にはいなかった。

 

 

 

 

 

「さて、今回皆さんをお呼びしたのは他でもありまへん。異変解決経験のある皆さんに頼みたいことがあるからです」

「それはいいのですが、何故あなたは水着で全身にワカメを巻き付けているのですか」

 

 妖夢のツッコミを意に介さず、レイは博麗神社に集めた面々を眺める。

 博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜、魂魄妖夢、東風谷早苗、鈴仙・優曇華院・イナバ、射命丸文が集められている。

 

「それは、九頭竜異変の事か?」

「魔理沙さん、あなたは気にならないのですか、彼の格好を」

「妖夢さん、幻想郷では常識に囚われてはいけないのですよ」

「早苗さん、これは常識とかそういう問題ではないと思います。彼の正気を疑います。鈴仙さん何とかなりませんか」

「どう波長を操ったら正気になるのかさっぱりわからないわ」

 

 鈴仙ですら匙を投げるほどレイの格好は異常だった。

 

「話を進めてくれる? それほど暇じゃないのよ」

「あら珍しい、貧乏巫女が忙しいなんて、どういう風の吹き回しかしら」

 

 咲夜が霊夢を皮肉る。

 

「そうだぜ、時間は有限だ。さっさと進めようぜ」

「ええ、私も新聞づくりがあるものですから急いでもらわないと困ります」

 

 魔理沙と文が進行を促す。

 

「それでは進めさせていただきます。今回の九頭竜異変、首謀者は外の世界にいるため、直接解決する事は出来ません。出来ることは異変が終わるまで耐えるだけです」

「ええ、それはあんたの手紙で知ってるわ」

 

 霊夢がぶっきらぼうに言う。

 

「我々は異変の規模を縮小させるため、世界各地で結界を張ってきましたが、どうも最悪の事態を想定すると折角張った結界が無駄になる可能性があるのです」

「まさか、そんなことがあるわけないじゃないですか」

 

 早苗が乾いた笑い声を上げる。

 他に笑うものはいない。

 

「あなたの6年毎の死の運命と照らし合わせると、そうなる可能性が高いのかしら?」

 

 咲夜がレイに尋ねる。

 

「それだけやないです、管理局がCの心臓を集めておる。それを横から掻っ攫うものがいてもおかしくないでしょう?」

「相手は宇宙に居るんでしょう? どうやって掻っ攫う気ですか」

「そうですよ、それにあまり現実的ではないと思います。被害妄想が過ぎるのでは?」

 

 妖夢と鈴仙がレイの意見を一蹴する。

 

「……これは独自ルートで手に入れたとある預言なんですがね、

集めてはならぬ脈動する石が九つ全て集まるとき異郷の海底より空腹の神が蘇る

それを食い止めるは解放者にして皇帝なる者女神と共に新たな神話を紡ぐ

空腹の神と解放者にして皇帝なる者一度死して再び蘇る

そして世界の中心で互いに殺し合うであろう」

 

 博麗神社を沈黙が覆う。

 

「お前はこの散文の1行目を重視しているな? 海底より空腹の神が蘇る、ってところ」

「そうです。それに加えて、3行目の空腹の神が一度死して再び蘇るという文面、これは明らかに奴の復活を示唆しています」

「あやや、それが真実だとしたらとんでもない話ですねえ」

 

 文がのんべんだらりと言う。

 

「このように最悪の事態が起きる可能性が高まっているんです。それを回避するためにもあなた達の力を借りたいのです」

「それだけじゃないでしょう、あなたは死を恐れている。自分に降りかかる死を」

 

 咲夜がレイに指摘する。

 

「この預言にある解放者ってのはお前の事だろう? この予言が成就するってことは、お前は一度死ぬことが確定するわけだ。そして3行目が成就しなかった場合、お前は永遠に彼岸の住人となるわけだ。違うか?」

 

 魔理沙がレイに尋ねる。

 

「……ええ、そうです。僕はこの予言が中途半端に成就することを恐れています。それならばいっそ、預言を成就させないようにしてしまえばええ。奴の完全復活も俺の死も全て起きないようにして見せる。そのために貴方達の力を借りたいのです。NOとは言わせまへんよ。幻想郷の存亡がかかっているのですから」

「そんな大げさな」

 

 早苗がレイの発言を笑い飛ばそうとする。

 しかし、早苗と共に笑うものはいなかった。

 

「あんた、手紙に書いていたわよね、九頭竜異変の影響で人間が妖怪化する可能性があるって。それだけじゃないわ、妖怪が異常行動を起こして人間を殺す可能性もあるって。奴が完全復活したらそうなるんでしょう?」

 

 霊夢が真剣な目でレイを見つめる。

 

「それは、幻想郷の秩序が崩壊することになるじゃないですか!」

「そうだぜ、だから笑えないんだ」

 

 ここにきてようやく事態を飲み込めた早苗に真剣な顔をする魔理沙。

 

「奴の復活は幻想の崩壊につながると師匠が言っていました。それは世界が終わるも同然だと」

「幽々子様も同じことを言っていました。だからレイさんには協力する様にと」

「お嬢様もパチュリー様も同じことを言ってたわ。この一件は幻想郷だけの問題ではない。世界全体の問題だと」

「だから神奈子様も諏訪子様も私をここに送ったのですか。あなたに協力させるために」

 

 全員がレイを見る。

 

「あやや、これは困りました、新聞のネタになるかと思ったら、こんなのネタに出来るわけないじゃないですか。天魔様直々の指令だと思ったら世界規模の大事件に巻き込まれるとは。これも美人記者故の宿命でしょうか」

「それを言うたらこの件を望む望まんと関わらんといかん俺の立場はどうなるんです。俺、この異変の中心人物何ですえ」

「密着取材させてくれるなら、協力しますよ」

「取材させたるから、手貸してくれんか。それで世界が救えるなら、俺の命が助かるんなら安いものですわ」

「ええ、宜しいですとも。商談成立ですね」

 

 レイと文が握手を交わす。

 

「私も、協力しますよ。良き修業になるかもしれませんし。それに、幽々子様に言われてますしね」

「私も協力するわ。師匠に言われているし」

「私も! もちろん協力しますよ! 異変解決は巫女の仕事ですから!」

「私もお嬢様に異変解決に向かうよう命令を受けました。本件の解決の一助となりましょう」

「私も参加だ。今回の異変の元凶を直接殴れない分すっきりしたかったんだ。体動かせるならいくらでも協力するぜ」

 

 妖夢、鈴仙、早苗、咲夜、魔理沙が協力を表明する。

 霊夢だけが渋い顔をする。

 

「私は幻想郷から出られないのだけど?」

「今回特別に、外界に幻想郷を再現することに成功しまして、紫はんのスキマと隠岐奈はんの後戸の合わせ技で幻想郷と地続きの空間を作ることに成功したんです」

「それなら」

「ええ、幻想郷の総力を挙げて作戦を立てることが出来るわけです。何が何でも、預言を成就させるわけにはいかん。どんな手を使ってでも」

 

 レイの口角が不気味に吊り上がった。

 

 

 

 

 

「解析結果が出ました」

 

 エイミィの声がアースラのブリーフィングルームに響く。

 

「施された封印は直前に施されたものであること、術式によるものではないことが判明しました」

「術式によるものではないってどういうこと?」

 

 ヴィクトリアが尋ねる。

 

「恐らく希少技能(レアスキル)だと思われますが、誰が施したのか判明していません」

「ごく最近って言ってたが、大体どれくらいなんだ」

 

 クロノの質問の後、若干の沈黙が訪れる。

 

「……驚かないで聞いて、封印が施されたのは、発掘される3時間前。本当に直前に施されているの」

 

 その言葉に一同驚愕する。

 

「3時間前!? マジで!?」

「ちょっと待て! 意味が分からない。3時間前に封印が施された? 掘り返した後も無いのに? どういうことだ?」

 

 ユーノとクロノがうろたえる。

 

「分かんないよ! でも解析結果ではそうなってんだもん! 艦長! 信じてくれますよね! 事実なんですよ!」

 

 エイミィが泣きそうな声で言う。

 

「え、ええ信じます。嘘をつく理由がありませんからね。それよりも問題は、誰がどのようにして、何の目的で封印を施したかです」

 

 リンディの言葉に全員頭を抱え込む。

 この時ユーノは並列思考(マルチタスク)を駆使して、セントラルユーノ会議を開いていた。

 

「今日の議題はウェットティッシュと乾パンの違いについて! MVPにはこのポンカンをプレゼント!」

「同じものじゃないかな」

「そうだよ(便乗)」

 

 そこへ破壊神ユーノが現れ、虐殺の限りを尽くし始める。

 

「ヤッピー♡」

「ぎゃああああああ!!!」

「何だアイツ!」

「ここは拙者に任せるでござる」

「あなたは武士THEユーノさん!」

 

 しかし、武士THEユーノは破壊神ユーノの火炎放射で焼き尽くされてしまう。

 

「おろろ、こんなことなら声優イベントのチケットを予約するんじゃなかったでござる……」

「武士THEユーノさん! そんなこと言ってる場合じゃないですって!」

「企画変更! あいつを倒した奴にポンカンをプレゼント!」

「どうしよう」

「いやだなあ」

 

 そんな中、司会ユーノを殴りつける猛者ユーノがあらわれる。

 

「オラーーー!」

「そうか! 司会から直接奪えばいいんだ!」

「頭いいなアイツ」

 

 ユーノの脳内はカオスなことになっていた。

 

「う~ん、う~ん」

「大丈夫か?」

 

 唸るユーノにクロノが話しかける。

 

「う~ん、武士THEユーノさん……」

「何を言ってるんだお前は」

「ユーノ君は放っておきましょう」

 

 リンディは冷たく言い放つ。

 とはいえ、誰もこの問題を解決できなかった。

 

「犯人も、動機も、方法も不明。一体どうなっているんだ」

「預言をそのまま信じるなら、解放者にして皇帝なるものがやったんだろうけど」

「一体そいつは何者なんだ?」

「さあ?」

 

 クロノとユーノはすっかり思考の袋小路にはまり込んでいた。

 

「埒が明かないわね、犯人に繋がる痕跡があればいいのだけど」

「それが、何一つとして残っていないんです。犯人は何の痕跡も残さずに封印だけをしたんです」

 

 ヴィクトリアの呟きにエイミィが答える。

 

「犯人の目的はハートストーンに封印を施すことだとしたら、動機の辻褄は合います」

「「「「確かに」」」」

 

 リンディの推理に全員が頷く。

 

「問題は方法と、どこから情報を手に入れたかなんですけどね」

「そこなんです、そこが最大の問題なんです」

 

 クロノが指摘した通り、犯人がどうやって情報を得、封印を施したのかがわからなければ犯人を特定する事は出来ない。

 それがわかる情報は何一つ見つけられていなかった。

 この問題を解決するにはもっと情報が必要だった。

 しかしその情報がどこからもたらされるのか、それは誰にも分らなかった。




 物語の謎が深まる中、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 ハートストーンはどのようにして封印されたのか?
 レイは幻想郷と組んで何をしようとしているのか?
 果たして封印した犯人は誰なのか?
 謎が謎を呼ぶ展開となってきました。
 是非ともセントラル脳内会議を駆使して展開を予想してみてください。
 感想、お返事待ってまーす。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 穴だらけの推理、穴の無い対策

 前回のあらすじ
 武士THEユーノさん……。


 4つ目のハートストーンを発掘するため、とある次元世界に降り立った、ユーノ達。

 発掘活動と称し、ユーノはなぜかだだっ広い荒野にライン引きで石灰の線を引き始めていた。

 その様子を無言で見つめるなのはやヴィクトリア達。

 

「これって発掘活動なのかしら?」

「「「違うと思います」」」

 

 ヴィクトリアの疑問に、異口同音に即答するなのは、はやて、アリサ。

 ユーノが描いているのはどうやら魔法円のようなもののようだ。

 

「最近、ユーノ君が分からないよ……」

「安心しなさい、私達も分からないから」

 

 困惑するなのはにアリサは慰めにもならないことを言う。

 そうこうしている間に、ユーノのライン引きが終わる。

 続いてユーノは何やら呪文を唱え始める。

 

「「「「何やってるんだろう……」」」」

 

 困惑を通り越して呆れ返るしかない。

 すると魔方陣が光り、謎の怪物が召喚される。

 

「「「「何か召喚してるーーー!!!」」」」

「私は森の民ヤムー」

「「「「喋った!」」」」

「これをどうぞ」

 

 そう言うとヤムーの舌が伸び、そこからハートストーンが現れる。

 

「それではさようなら」

 

 そう言うとヤムーは蒸発する様に光と共に消えていくのだった。

 

「あ、そうそう、この欠片は一か所に纏めておいて置かず、必ず距離を置いて保管する様にして下さいね」

 

 そう言い残し、ヤムーは消えるのだった。

 

「発掘終了! さあ、戻ろうか」

「ねえ、最後に何か言ってなかった?」

 

 アリサの言葉にユーノは俯く。

 

「……一応胸にとどめておくよ。森の民ヤムーは真実のみを語るから」

「「「「ユーノ君は何を知ってるの?」」」」

「知ってる事だけさ、さあ、戻ろう。これも封印処理がされている。一体誰が……」

 

 

 

 

 

 スポットライトが焚かれる。

 レイの姿が露わになる。

 前回と同様、すり鉢状の会議場の中心にレイがいる。

 相変わらず周囲は暗く、何も見通せない。

 

「幻想郷との交渉はどうなっている」

 

 野太い男性の声がする。

 

「順調に進んでいます。派遣人員についての交渉も済んでいます」

「そうか、全ては順調に進んでいるようだな」

「恐縮です」

「幻想郷再現計画の方はどうなっている」

「そちらの方も問題なく。実験は成功しています」

「それでは、手筈通りサンボーンに幻想郷を再現できるという訳か」

「ええ、テストは行いますが、順調にいけば問題なく幻想郷を再現できるかと」

「見事な手腕だ」

「恐縮です」

 

 続いて老女の声がする。

 

「管理局はどのような状況ですか」

「先程、4つ目のCの心臓を確保したことがわかりました」

「ああ、なんてこと!」

「私の独断ですが、Cの心臓に処理を施しています。私の力がどこまで及ぶかわかりませんが、保険として」

「続けて頂戴、不安材料は取り除くに限るわ」

「畏まりました。処理は続けます」

 

 今度は若い男性の声がする。

 

「こういっては何だが、皆さん神経質になりすぎでは? 確かに奴は恐ろしいですが、適切な対処をすれば防げるのでしょう?」

「そうもいかない事情があります。特に私にとっては」

「……君の6年毎の死の運命については聞き及んでいる。例の預言の件もだ。君が特にこの件については神経質になっている気がする。確かに死は恐ろしいが、過剰に恐れているような気がするよ」

「私は出来る手を全て打っているだけです。万に一つの抜かりのせいで、世界に危機をもたらすわけにはいきませんから」

「管理局がCの心臓を蒐集しているからといってそれが奴の完全復活に繋がるとは限らないし、管理局がサンボーンのCの心臓を手に入れに来るとも限らない。過剰に恐れることで外交に支障をきたすことも問題だと思うのだが」

「そちらについては問題ありません。適切な外交処理を行っています」

「君は管理局がCの心臓を手に入れに来ると思っているのかい?」

「……十中八九確保に向かうでしょう」

「それを外交ルートで潰す事は出来るかい」

「難しいでしょう。向こうにとっては辺境の管理外世界としか考えていませんから。仮に実務担当がそう思っていなくとも、彼らは組織の人間です。上からの命令には背けないでしょう」

「こじれるのは必至か」

「ほぼ間違いなく」

「なら最後にものを言うのは武力か。我々魔術師は研究者だからね。戦闘は本分じゃないし、戦闘魔術師の数も減っている。質だって良くはない。君達ぐらいだよ、質を維持し続けているのは」

「恐縮です」

「その君達が幻想郷に援軍を頼んだ。そこまでしないと勝てない相手かい?」

「我々だけでは勝つでしょう。しかし、最終的には負けるでしょう」

「それは、規模の問題かい?」

「はい。出来ることなら、ある程度勝った上で講和に持ち込むのが最善ですが、そうもいかない可能性が高い。皆様にはミッド式魔法とベルカ式魔法の情報をお渡しします。これを活用していただきたい」

「頑なに情報公開を拒んできたのに、今更かい?」

「事態がそれだけ逼迫していると思って頂きたい」

「君も大変だね」

「それほどでもありません」

 

 レイが頭を下げる。

 別の女性の声がする。

 

「今回の事件は予想していたものより大きく変化しました。あなたが持ってきた情報は有益でしたが、事態が大きくなり過ぎたようです。その部分をあなたに一任する形になっています。その双肩に世界の命運がかかっていることを努々忘れることの無いよう」

「承知しています」

「勿論、あなた自身の命もね」

 

 レイが再び頭を下げると、スポットライトが消える。

 闇と静寂が空間を包んだ。

 

 

 

 

 

「解析結果が出ました」

 

 エイミィの声がブリーフィングルームに響く。

 

「前回と同じ封印です、封印されたのも発掘から約3時間前。前回と全く同じです」

「決まりだな、これは明らかに何者かが目的をもって封印をしている。これは事件だ」

 

 クロノが腕組みをして言う。

 

「問題は誰が、どんな方法でやったかなんですがね」

 

 ヴィクトリアが言うと、全員頭を抱える。

 

「それなんですけど、誰がやったかについては判ったかもしれないんです」

「それは本当か!」

 

 クロノが声を上げる。

 

「うん、だけど、驚かないで。現在管理局に登録されている封印系の希少技能(レアスキル)を片っ端から当たってみたら、一つだけ一致するパターンがありました」

 

 エイミィは一息つくと、再び話し始める。

 

「レイ=金剛=ダイヤモンド、彼の所有する解放者の鍵(Remorter’s Key)とパターンが一致したんです」

 

 どよめきが起きる。

 

「レイと、一致した!?」

「まさか、レイがやったというのか!」

「結果ではそう出ているの、これは間違いないよ。何度も確かめたもん」

 

 誰もが驚愕を隠せない、ヴィクトリアを除いては。

 

「それの何が問題なの? 彼が犯人で確定じゃないの?」

「……問題は、方法と、彼の立場です」

 

 リンディが重々しく口を開く。

 

「まず、彼がどのような方法で犯行を行ったのかが解りません。周囲に何の痕跡も残さずにハートストーンだけを封印した方法が分からなければ彼を逮捕する事は出来ません」

「そんなの逮捕してから吐かせればいいだけじゃないですか」

 

 ヴィクトリアの反論にクロノは首を振る。

 

「それは出来ない。彼は地球の外交官だ。余程のことがない限りこちらから手を出す事は出来ない。もし、証拠不十分のまま逮捕すれば、外交問題になりかねない」

「面倒臭い相手ね」

 

 ヴィクトリアが不満そうに呟く。

 

「そうだ、面倒臭い相手だ。自分の立場を盾にしている。それだけじゃない、やっていることも軽犯罪だ。違法渡航も、勝手な封印も」

 

 クロノが忸怩たる思いをぶつけるように言う。

 

「とにかく、今のままではレイを逮捕する事は出来ないし、逮捕したところで送検も出来ない。何としても、証拠を集めなければ」

「問題はまだあるよ。どうやってレイが情報を集めているかも問題だよ」

 

 ユーノの指摘に一同頷く。

 

「情報を手に入れる方法、次元世界を移動する方法、周囲に何の痕跡も残さずにハートストーンだけを封印する方法。それらが分からなければレイくんを逮捕する事は出来ません」

「一体どうやって……」

 

 クロノの呟きに答えられるものはいなかった。

 

 

 

 

 

「ぬわああああああん、疲れたんもおおおおおおん」

「随分とお疲れのようじゃな」

 

 ソファに寝っ転がるレイにアフームは声をかける。

 

「そりゃそうよ、IMSと幻想郷を往復しながら、管理局の機先を制してCの心臓を封印しとるんやから。ああ、体が3つあればええのに」

「まるでヘカーティア殿じゃな。ま、実際便利そうではあるが」

「便利やろなあ、あー羨ましい」

「……ある程度は人に任せる事は出来んのか? 見ていると心配になってくるぞ」

「俺にしか出来んことが多すぎるからなあ。それに、動いとらんと不安で仕方がなくなってくるんや。止まれんよ」

「レイは心配症じゃからな」

「常に最善を尽くすだけや。備えあれば憂いなし。今までも、そうやって俺は生きてきた」

 

 アフームは床に正座すると、ポンポンと膝を叩く。

 

「膝枕、するかの?」

「……お願いします」

 

 レイはアフームの膝に頭を乗せる。

 

「あー何もしたくない。でも何かしなくちゃいけない。何この二律背反」

「珍しいのう、レイが甘えてくるなんて。いつもは妾が甘えてばかりじゃからなあ」

「包容力のある男も時には甘えたくなる夜もあるんや」

「そんな夜を共に過ごせる女がいて幸せじゃな」

「ああ、勿体無いぐらいに」

 

 無言のまま時間が過ぎていく。

 時計の音だけが部屋に響く。

 そこへ、アリアとアウラ、使用人の女性が部屋から出てくる。

 

「「おなかすきましたー、姉上ー。あ、兄上お帰りなさい」」

「ただいま、そろそろご飯にしますか」

「そうじゃな」

 

 レイはむくりと起き上がると、テーブルへ向かう。

 アフームは少し名残惜しそうにすると、立ち上がり、テーブルに向かう。

 

「今日の夕餉は何ですか?」

 

 レイが使用人の女性に聞く。

 

「今日はカレイです。煮つけにしました」

「ほう」

 

 そう言いながらレイはテーブルに箸を並べる。

 その背後には棺の様な柱時計がでんと置かれていた。

 その時計には文字盤が無く、4本のねじれた針が不規則に回っていた。

 

 

 

 

 

 5つ目のハートストーン発掘現場。

 

「どーしてまた封印されているんだーーー!!!」

 

 ユーノの叫び声が辺りに響き渡る。

 

「ユーノ君、大丈夫?」

 

 すずかが声をかける。

 

「これ絶対情報漏洩してるって。どこからか漏れてるって」

「ねえ、何の話?」

 

 アリシアが声をかけてもユーノの様子は変わらない。

 

「これは管理局の威信にかかわる大事件やでーーー!!!」

「お前、頭大丈夫か?」

 

 あすかの声すら今のユーノには届かない。