物間こころの生存戦略 (こころたん)
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1話

 

 

 

 諸君、転生という言葉を知っているだろか? もしくは憑依という言葉は? 私は知っていたが、それが我が身に起こるとは思っていなかった。ましてや僕のヒーローアカデミアの世界だなんて考えてもみなかった。こんな死亡フラグ満載な世界でどうしろっていうんだろうか?

 

「今日はお祝いよ、こころ。"個性"がでたのだし。寧人も一緒に祝いましょうね」

「うん」

 

 そう、この世界で私は物間寧人の妹として転生した。金髪碧眼でタレ目ののさわやかなルックスを持つ少年の妹だ。物間寧人の"個性"は体に触れた者の個性をコピーし、五分間使い放題になる。同時に二つとかは使うことが出来ない。

 タイミングよく使い分ければ様々な攻撃に対応可能であり、かなり強力な個性である反面、誰も人がいない環境であった場合無個性状態になってしまう可能性もある。

 そんな彼の妹、物間こころとして転生した私の"個性"は感情を操ること。容姿は夜目では薄紫色がかって見えるピンク色のロングヘアに、同じ色の瞳と睫毛。感情を操る上にこの容姿、もうわかる人はわかるだろう。私は秦こころの容姿と力を持って転生した。

 この能力を使えば雄英高校は無理だけど、他の高校でヒーローにもなれるし、凶悪な(ヴィラン)にもなれる。何故なら殺意や憎悪の感情を与えればその後に起こることは容易く予想できる。もしくは愛情や親愛といった感情を抱かせ、私のいいなりにもできる。所轄、お姫様プレイということもできる。あれ、思ったよりもチートな力だと思う。対人戦最強なんじゃないだろうか?

 さて、これからどうするか……このまま雄英高校に行ったとして、(ヴィラン)との争いによって殺される可能性が高い。これから一般人として頑張るか……いや、無理だな。(ヴィラン)に殺される可能性が高すぎる。それに(ヴィラン)連合やオール・フォー・ワンとかいるんだしな。

 オール・フォー・ワン……寧人……いいな、こうなればやるだけやってみようか。リスクとリターン。それを考えると一度命をかけるだけ。ハイリスクハイリターンな賭け。これに勝てば人生は怖くない。そのためにやることは色々あれど、まずは"個性"を強化してお兄ちゃんを言いなりにする。

 お兄ちゃんにもちゃんと報酬は渡す。だから、いいよね? こころのために命をかけてね。

 

「なんだ? 寒気が……」

「お兄ちゃん、お願いがあるの」

「なんだ?」

「動物を飼いたいから、お父さんとお母さん、説得するの手伝って」

「いいぞ。誕生日プレゼントにそれがいいといったらいけるだろう」

「ありがとう」

 

 お母さん達は私のお願い通りにペットを飼ってくれた。可愛らしいワンコを買ったので、その子を使って実験する。私の"個性"として認識されているのは魅了。四歳になった時、幼稚園で周りを魅了して全員を従わせ、崇めさせた。後々、いろんな人が来て同じ症状になってヒーローの人がきて捕まったけれど、"個性"の暴走として処理してもらえたのでよかった。

 なのでワンコを魅了ということにして感情を操り、私への好意をかなりあげた。すると吠えて唸っていたのがすりよって甘えてくる。撫でてあげてもふもふしていたら、"個性"が切れて離れていく。また"個性"を使って可愛がってを繰り返していく。

 "個性"を使い続けると気持ち悪くなって吐きそうになるけど、我慢して使い続ける。すると気を失って寝てしまう。ベッドに連れ込んでやっていたので、ただお昼寝しているようにみえる。"個性"は使い続けるほど強化されていくので、徹底的に鍛える。

 

 

 

 

 幼稚園の時は玩具の取り合いで喧嘩している子達を感情を操作し、友愛の感情をあげて仲良くさせる。相手が好きになるはずが、出力調整をミスして愛し合うレベルになってしまったけれど、まあいい。園児同士でキスしても問題ないし、罰だと思えばいい。こころは知りません。

 ちなみに幼稚園ではこころのことに干渉しないように無関心という感情を全員に植え付け、その間に"個性"を使い続けながら筋トレやランニングを行う。幼稚園で一人だけのぼっちになるけれど、小学校でも変わらずにこんな感じでいく予定だ。こころという存在を残さないためと、修業の邪魔されないためだ。

 

 

 

 六歳になった。小学校に入学した私、こころは青のチェック柄の上着に長いバルーンスカート。上着には胸元に桃色のリボン、前面に赤の星、黄の丸、緑の三角、紫のバツのボタンが付いている物を着ている。

 スカートを囲む顔のような模様は穴になっており、よく見ると足が覗ける。また靴には左右で違う色のリボンが付いている。

 東方の原作通りの恰好だけど、仮面はまだない。さて、小学校だけれど、正直やることもない。お兄ちゃんより年下なので原作キャラもおらず、精神年齢の違いから子供すぎる。また、TS転生したせいで男は嫌いで女の子は好き。ただ、色々と煩わしいので君臨もしないし、東方のこいしちゃんのように感情を操って無意識を操るような感じで無関心にさせる。これによって授業を抜け出しても問題ない。出席だけ確認したら、後は好き勝手なことをやる。全授業を無視してひたすら運動場で走りまくったり、プールで泳ぎまくったりして、体力がなくなってきたら飼育小屋で感情を操って支配下におき、整列させて芸をさせたりする。

 学校の中に蟻を見つけたら、憎悪の感情を与えて互いに殺し合わせる。色々な感情を操って実験していく。蟻で終われば次は蝉など虫で、その次は動物で。対象が大きくなり、意識がはっきりとしているほど操作するのは難しくなる。それでも四歳の時から限界いっぱいまで操作しているので持続時間はどんどん伸びていっている。

 

 

 

「あ、こころちゃんいた!」

 

 今日は飼育小屋から兎達を外に出して芸をさせ、それを携帯で録画している。この携帯は高額な高性能機で、買ってもらった。家ではお手伝いをよくする良い子だし、5年分のお小遣いとお年玉をいらないといってお願いした。

 

「何か用?」

「相変わらず無表情だね! 先生が探してたよ? また抜け出したって!」

「飼育係だから」

 

 どうやら、"個性"が切れたようなので、ストップウォッチを確認する。昨日より5分ほど伸びている。

 

「兎さん、すごいね。これ、なに?」

「組体操」

「撮ってるの?」

「後でネットにあげる」

「楽しみにしてるよ」

「うん」

 

 休憩が終わったので、一緒に教室に戻って出席を取ったらまた感情を操ってから運動を再開する。そんな風に生活していたら……怒られた。先生が両親に電話して、授業を抜け出していることを知らせたのだ。

 

「こころ、どういうつもり」

「授業、無駄。運動してた方が有意義」

「無駄って……」

「まあまあ。こころ、勉強というのは……」

「待ってて」

「え?」

 

 両親を無視して、部屋から答案用紙を持ってくる。それを両親に渡してあげる。

 

「見ての通り、歴史以外の全教科満点。だから、歴史は出ているし、テストは全部受けてる。小テストがあるかどうか、ちゃんと確認もしてる」

「これは……」

「でも、友達ができないわよ」

「? 別にいらない」

 

 小首をかしげて告げると、お母さん達はすごく驚いたようでどんなに大切かを説いてくる。

 

「時間の無駄。合理的に鍛えないと強くなれない」

「いや、それは……って、もしかしてずっと"個性"の訓練をしてるのかい?」

「そう。抜け出すのにも使ってる。練習する時は自分にも使ってる」

 

 自分の感情を操って怒り状態にし、集中力を高めてひたすら訓練。辛い訓練でも徹底的に鍛えられる。

 

「自分に? まさか……」

「こころ、自分に使うのは絶対にやめなさい」

「なんで?」

「わかってないのかもしれないが、ここしばらく……こころが笑ったところを見たことがない」

「笑ってるよ?」

「表情が変わっていない」

「……嘘……」

「本当だ。鏡をみてみなさい。小さい頃はちゃんと笑っていた」

 

 慌てて鏡をみると、無表情な人形のような綺麗なこころの姿がみえる。感情を操作し、喜びを最大にする。でも、心の中で喜んでいても、顔には一切でない。まさに東方の原作通り、感情が表にでない。頬っぺたを触ってもなにもおきない。柔らかいけど動かない。

 

 やってしまった!

 

 すぐに感情を操作して冷静になる。もうこれは諦めるしかない。ある意味では秦こころに近づけたと思えるのだからよしとしよう。鏡に不安そうな両親が映ったので、振り返って告げる。

 

「大丈夫。問題ない。何かを得るためには何かを捨てなければいけない。感情の出し方なんてどうとでもなる」

「いやいや、大丈夫じゃないから!」

「お医者さんにいきましょう。これは強制だからね」

「む~」

「無表情で頬っぺたを膨らませてもわからないわよ」

「じゃあ、条件がある」

「条件?」

「習い事がしたい」

「習い事ね。なにかしら?」

「能楽と薙刀、覚えたい。ヒーロー目指す予定だから」

「いいでしょう」

「じゃあ、病院だ」

 

 さて、病院で検査を受けたけれど解決方法はとくにない。リハビリをするしかないということだけれど、頑張ってやってみよう。このままいけば感情すらわからなくなるかもしれない。それとお兄ちゃんも感情を操作して一緒に特訓させる。狙っていることをするには戦闘能力が必須だから。

 

 

 9歳になり、能楽もしっかりと覚えて踊れるようになった。他にも体力や筋肉がついてきたので、どんどん頑張る。後、狐の仮面とか買ってもらった。これで感情がわからないと言われることが軽減できる。両親もすでにわからず、身振り手振りで教えている。お兄ちゃんなんてもう諦めて聞いてくるようになった。高圧的だけど。

 薙刀は自分の身長なみのをなんとか持てるようになったぐらい。成果はあまりないけど、計画がうまくいけばなんとかなる。あと、合気道もならいだした。身体が小さいこころには便利だから。

 

「お兄ちゃん、五分程度じゃ駄目。最低でも三十分維持できるようにして」

「いや、無理だって」

「もっと怒りの感情をあげてあげる」

「ちょっ!?」

「解除するには私の"個性"をコピーし、30分耐えること。それまで使い続ける」

「ひぃいいいぃぃぃっ!」

 

 5分じゃ計画に使えない。それは困る。

 

「私は他にも色々とやるから頑張って」

 

 ネットで動画を公開している。動物の動画やこころが狐の面をつけて踊っている姿とかを流している。結構人気。扇子を使って踊ったり、現代の音楽に合わせて歌いながらやってる。

 

 

 

 

 14歳。物間こころ、中学三年生。お兄ちゃんは雄英高校のヒーロー科に入学した。私はちびっ子で、身長146cmくらいしかない。これは長年幼いころから鍛え続けてたせいだから仕方がない。今年は計画遂行の年なので、これからのこころの人生が全てかかっている。

 すでに雄英体育祭も終わり、お兄ちゃんは林間合宿へと向かって(ヴィラン)連合に襲われた。その翌日。こころの方もすでに準備は終わっているので、お兄ちゃんを連れて襲われた人が眠っている神野に向かう。

 

「ここで何をするんだ?」

「ふふ、お兄ちゃんはこころのために頑張って欲しい。お礼はするから」

「いいけど、なにするつもりなんだ?」

「ここでしばらく探索だよ。こっそりと廃工場を探すの」

 

 しばらく廃工場の場所を探し、発見したので近くで監視を続ける。ただ、一人じゃ大変なので動物を使って監視する。しばらく近場のホテルなどで変装道具を用意して待機する。

 フードつきローブとマスク、サングラス。これでいい。

 

 

 

 

 鳥が飛んできた。監視させていた子なので、これでいい。それに爆発が起き出した。どうやら神野の悪夢が始まったみたい。

 

「お兄ちゃん、行くよ」

「は? 馬鹿だろ、お前!」

「大丈夫。大丈夫。なにも問題ない」

「こころ、どういうつもり……」

 

 お兄ちゃんに"個性"を使い、冷静沈着にさせ、同時に魅了も使う。これで私に従ってくれる。

 

「さあ、いこう。これからの未来のために」

 

 二人で周りの認識を崩してからホテルを出て、楽しい馬鹿みたいな戦いを見る。この世界の頂上決戦のような物。こんなのがいる世界に私が生き残るにはアレが必要だ。

 

「終わるまで暇だから、救助活動でもしましょう。言い訳にもなりますし」

「……わかった……」

 

 救助活動しながら、ベストのタイミングまで待つ。怪我人を含めて、一般市民の感情を操作して冷静に避難させる。恐怖など感じさせない。効率的に合理的に避難と救助を行う。感情を操れるということはその存在の居場所が感情のエネルギーとして感じられるのでわかる。お兄ちゃんと一緒に救助していく。

 こちらに何か言ってくる警察官は魅了し、手伝ってもらう。同時に警察の人を魅了し、死角の場所に誘導する。そこで変装してからまた出会い、怠惰の感情を増幅させる。そこで服を借りてお兄ちゃんに着せてそのまま移動する。私は怠惰な人を隠し、しばらく待つ。

 

 オールマイトがかなり不利だ。私も手伝ってあげよう。周りの人達の感情を束ねてオールマイトにあげる。これが力になるか、わからない。それでも彼は右腕を壊し、左腕で殴り、また右腕。これでオール・フォー・ワンは倒れた。さて、最終フェーズだ。お兄ちゃんは警察の服を着てオール・フォー・ワンに近付いて触れる。そして、警察の人達と収容装置に入れていく。

 すぐにお兄ちゃんが戻ってきてくれた。

 

「首尾は?」

「できた。すぐに渡す。もう時間がない」

「お願い」

 

 お兄ちゃんに抱き着き、こころは中に入ってくる力に歓喜した。試しにお兄ちゃんからコピーを奪い、返す。それから、私の"個性"、感情を操る"個性"をお兄ちゃんに渡し、すぐに回収する。これで計画は完了。私がやったのはお兄ちゃんの"個性"、コピーでオール・フォー・ワンを手に入れ、それでオール・フォー・ワンの"個性"、オール・フォー・ワンを回収。そして、回収したオール・フォー・ワンをこころに与えた。コピーしたものは消えたけれど、私の中にオール・フォー・ワンは確かにある。

 

「やった、やった、手に入れた。この世界で最強の力を……あははははは」

「こころ?」

「ああ、お兄ちゃん。ご苦労様。服を変えて眠っているこの人と交代しましょう」

「わかった」

 

 それから、お兄ちゃんの魅了を解除して私も着替えて救助活動を手伝っていく。といっても、ろくに手伝わせてもらえないので家族が死んだかもしれないから、確認させて欲しいとお願いし、死体を一つ一つ確認していく。その時、まだ残っている"個性"を回収していく。死んだばかりの死体なら、回収はしっかりとできた。

 その回収した中から増強系の"個性"をお兄ちゃんに与えた。

 

 

 

 

 



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2話

 

 

 

 

 オール・フォー・ワンを手に入れたこころはしばらく寝込んだ。やはり、手に入れた大量の"個性"を整理し、合成しなければならない。それに使えない"個性"がいっぱいある。

 

「ん~~」

 

 お兄ちゃんは全寮制になったので、こころは両親と三人暮らしです。といっても、仕事が忙しいので、基本的に一人です。食事を終えたら学校にいきます。

 久しぶりに学校で暇になった。主だった懸念だったオール・フォー・ワンを手にいれたので、修行もそこまでしなくてもいい。そんなわけで、ヒーロー関係の読書をしていたら面白い法律があった。それはヒーロー仮免許試験について。

 

 

 次の目標が決まったので、こころは黒色の着物に赤いスカートという服装に狐の仮面を用意する。それからパスポートを使って海外に移動する。海外では飛び級制度がある。それはヒーロー免許もかわらない。

 ヒーローの本場、アメリカで活動する。神野の悪夢で手に入れた"個性"の中で通訳と瞬間記憶の個性があったので、それを使って会話も問題ない。

 ここは日本じゃないので、"個性"も使える。それでも免許は必要だ。だから、本屋でヒーロー試験や法律に関する本を購入して瞬間記憶で覚える。それから、ヒーロー免許の試験はまだ先だったので、諦めよう。まあ、ヴィジランテとして活動しますか。いや、法律を見る限り、サイドキックは免許がいらない。代わりにヒーローが責任をとらないといけないみたいだ。

 ブラックな企業を探し、そこに向かう。

 

「餓鬼が何用だ?」

「今から数ヵ月雇ってください。できたら、ヒーロー免許も欲しいので推薦を」

「実力次第だな」

「自信があります」

「そうか。なら、ちょうどいい試験がある。こいつを達成してこい。そうしたらキルミーベイベーに入れてやろう」

「わかりました。服装とかは自由ですか?」

「自由だ。なにがあっても自己責任。それがアメリカだ」

「了解」

 

 最初の仕事がマフィアを追い払うということだった。その街に最速の移動手段として、ワープの個性持ちに運んでもらえた。逃がさないためだろう。

 

 依頼にあったマフィアの本拠地に用意した黒色の着物に赤いスカートという服装で、狐の仮面をつけて乗り込んだ。扉を開けて中に入ると同時に感情を使って好感度をマックスにして操る。並ばせて一人一人"個性"を貰ってから、全てを吐いてもらって、それをレコーダーで記憶。そのあと、"個性"を解除して、筋力増強×3で加速して物質生成で作った薙刀で斬り伏せていく。

 

「なっ、なんだいまのは……」

「俺は何を話した……」

「てめえの"個性"か!」

「あなた方の個性は消しました。これで終わりです。大人しく投降すれば命は保証します」

「ま、まじで"個性"が使えねえ!」

「撃てっ、うてぇぇ!」

 

 拳銃の弾丸が放たれてくるので、それを視力強化で弾丸を斬る。なんてことはできないので、罪悪感などを与えて銃弾をそらさせる。そのまま脚力強化をして接近して手足を切断する。これで制圧を完了。

 

「制圧完了しました。敵の本拠地が判明したのでそちらも潰しに行っていいですか?」

『構わない。任せる。移動は頼め。それと録画を忘れるな』

「了解です」

 

 ワープしてもらい、堂々と叩き潰す。狐の仮面を横につけ、身体能力で接近して触れて"個性"を奪うついでに殴るか蹴り飛ばし、薙刀で斬る。マシンガンの嵐は正直、まだ無理なので認識を無関心を植え付けて"個性"を奪って罪悪感を増幅して罪を告白させる。

 一時間ほどかけて全員を捕らえ、警察につき渡してから事務所に戻る。

 

「これ、提出の録画です」

「ふむ。お前の"個性"はなんだ?」

「私、こころの個性は感情を操る"個性"です」

「感情だと? "個性"を消しているようだが?」

「はい。それは副産物です。使えないと思いこませているだけです。永遠にですが」

「それは……このおまえを認識していないのはなんだ?」

「こころにかんして無関心になるよう操作しています。なので奇襲し放題ですね。ただ、"個性"を消すには触れないといけません」

「なるほど。自白させたのは罪悪感を増幅したのか」

「はい」

「いいだろう。お前の"個性"は対人戦ではかなり有効だ。採用しよう」

「ヒーローへの推薦は可能ですか?」

「可能だ。むしろ、単身でマフィア一つ潰せるような奴は特に歓迎される。まあ、前線にでなくとも、その能力で自白させてくれるとありがたい」

「では、そちらをメインにします。ただ、対象が壊れてもしらないので、犯罪者だけにしてくださいよ」

「ああ、わかった。それと泊るところはこちらで用意してやる。少し待ってろ」

「はい」

 

 ホテルは監視のためでしょうが、助かるのでお任せです。一応、両親に連絡してからお風呂に入って寝ます。

 

 

 その次の日、早速お仕事をもらいました。刑務所に入っている死刑囚や連続殺人犯などで実験をして、得られた情報が事実かどうか確認するそうです。子供なので相手は口と身体の一部以外は拘束具で隠されていましたが、触れて"個性"を貰って感情を操作します。例え、精神耐性系をもっていても、オール・フォー・ワンで手に入れてからやれば問題ありません。

 連続殺人犯はぺらぺらと喋ってから、気を失いました。彼はもうただ聞かれたことを答えるだけの存在になりました。

 

「確認しろ! 遺体が埋まっている可能性が高い!」

「はい!」

「では、次の人に……」

「わかりました」

 

 凶悪犯を自白させるだけの簡単なお仕事。たっぷりのお金と名声に加え、さらには凶悪犯たりえる強力な個性が手に入るなんと素晴らしい職場なの。もうにっこにこでお仕事毎日頑張ります。

 そして、日が経つにつれて凶悪犯はどんどん刑罰が重い連中になっていきます。とりわけやばい犯罪者は放射性分裂光(ガンマ・レイ)をもっていた。これは非常に美味しかった。

 監獄でのお仕事がなくなれば、特別にヒーロー免許を頂けました。私のお蔭で犯罪者の拠点を根こそぎ破壊し、隠し財産も含めて犯罪など全てを吐かせるのでもはや貢献度は計り知れないのです。

 こころの容姿も含めてもはや一種のアイドルですよ。あ、扇子を持って踊ったり歌ったりもしているのでアイドルでしたね。あと、こころの戦闘シーンが放送されたりもしています。自撮り棒を持って“マフィアのアジトに潜入して殲滅してみた”とかやったら大うけしました。小さな子供がマフィアのお宅に侵入してその人達と一緒に写真を撮ったり、扇子を使って舞ながらマフィアを叩き潰すのです。そして、殴った人は情報を吐かせます。ちなみにあくまでも録画なので、やばいところは編集です。あと、突入した時に政治家と会ってた時は一緒に確保しました。

 そんな風に動画もあげてたら、政府の人達にビザが切れるから帰れって言われました。延長はできないらしいです。

 

「なんでできないんですか? これでも、トップヒーローに入ってますよね? もしかして、政治家を16人くらい監獄に叩き込んだのが駄目だったんですか?」

「それだ。暗殺計画がもちあがっているそうだ。もしくは監禁しろってな」

「正気ですか? こころを捕らえるとか、殺すのはともかくとして無理だと思いますよ」

「だろうな」

 

 感情を支配するということはそれだけ強力だ。どうあがいても、こころに操られる。そして、そうなったら相手は破滅する。こころに容赦という言葉はありません。後、感情を操るということは狂戦士を作り出すのも容易いということで、"個性"のなくなった死刑囚を狂戦士にして叩かせようという計画も持ち上がっているそうです。拒否しましたが。

 

「しかし、人気もあるから殺すのも問題だ。買収しようにもお金はすでに持ってるしな。両親や家族に手を出したら……」

「一族郎党生きていることを後悔させますよ」

 

 フォークにつきさしたソーセージを食べながら告げてあげます。実際に家族を使って脅そうとしてきた奴等は社会的にも精神的にもぶち殺してあげました。こころちゃんの信者はいろいろなところにいますからね。たった二ヵ月で裏世界じゃアンタッチャブルとか言われ出すぐらいです。手だし禁止。出会ったら即逃げるか、それが無理なら自爆しろと言われているそうです。流石にこころも死んだ人からは情報は取れませんので。

 

「で、ビザを理由に日本に押し付けろってこった。まあ、ほとぼりを冷ます意味もあるんだろうけどな」

「日本のヒーロー協会に免許の申請して、渡してくれたらいいですよ」

「大丈夫だ。日本もオールマイトがいなくなったから、その代わりになりそうな存在で、日本人である君を歓迎するそうだ」

「ならばよし。っと、最後に倒したい人がいるので、その人だけ倒してから帰りますね」

「誰だよ、それ」

「合成持ちです」

 

 こころちゃんはアメリカで最後のお仕事をします。大企業の御曹司で色々とやらかしてくれている人です。その人はお金の力とかで揉み消していましたが、アメリカから出るついでに潰していきます。

 

 

 真っ正面からビルに入り、"個性"で好感度を最大にし、愛情や依存度も最大に変更。さあ、全てを吐け。堂々と警察の方々と入り、摘発していきます。他国に密輸していたり、人身売買していたり、真っ黒でした。ちなみにアメリカのヒーローは摘発したり、捕らえた(ヴィラン)の財産の一部が報酬になったりするので、大企業とか潰すとすごくウハウハなのです。

 

「さて、欲しい"個性"も手に入れたので、お土産買ってか~えろ」

 

 お土産をいっぱい買って、日本への飛行に乗ったら……爆発した。チャーターしたので、被害はすくない。こころは瞬間再生で無事、飛翔の"個性"で空を飛んでパイロットの救助。助けが来るまで待ったほうがいいのだけど、その前に沈むのでこのまま移動しよう。この二人を助けないといけないしね。

 

「肉体再生、生命力強化、感覚共有、肉体共有」

 

 痛みが全身に襲うけれど、二人もすぐに治療が終わった。なので後は抱えて走る……なんてことはしない。その辺の大型魚を捕まえる。鮫がいたので、感情を操って日本まで送ってもらう。途中でクジラをみつけたので、今度はそちらに乗って移動。

 そんな風に移動していたら、ヘリが飛んできた。どうやらクジラが近付いてきたから報道しにきたみたい。気にせず日本に到着。クジラさんにお礼を言ってから別れ、パイロットの人達を病院に入れてから帰る。

 

「ただいまー」

「こころ生きてたのね!」

「よかったっ!」

「……なんで爆発した飛行機から生きて生還してるんだ? 乗っていなかったのか?」

「変なお兄ちゃん。こころがあの程度で死ぬわけないよ。そのために生存戦略を頑張ってるんだから」

「そ、そうか……」

「そういえば、アメリカでお世話になってた事務所の人達もあの程度で殺せたら苦労しないって言ってたわね。思わず怒ったのだけれど……」

「アジトごと自爆なんてよくあるし」

 

 ほとんど無傷なこころちゃんなので、どんな身体能力をしているんだとか言われたことがある。人間、リミッターを外したら大概はなんとかなると伝えておいたけどね。

 さて、日本に戻ったのでわたあめを食べる。やっぱり美味しい。わたあめは至高のお菓子。

 

 

 

 

 




こころちゃんにとって最大の敵は"個性"を奪うオール・フォー・ワン。それがなくなれば感情を操る力はかなり強力です。


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3話

 

 

【過去】

 

 

 オール・フォー・ワン

 

 

 "個性"を使おうとするとすぐに銃口が向けられる。けれども、思考することぐらいはできる。そんなわけで、僕は大事な事を考えていた。

 やはりおかしい。いくら考えても僕の中から大事な物が消えている。僕がオール・フォー・ワンであるという最大の理由が消えている。何時消えた?

 オールマイトとの戦いの時は確かにあった。それは間違いない。では、戦いが終わり、僕がここに運び込まれる間に消えたことになる。しかし、消えるなんておかしい。それはありえない。つまり、盗まれたということだろう。では、どのタイミングで盗まれた? ボクの"個性"から考えて、盗むには最低でも接触。比較的に軽くて体組織を摂取しないといけないはずだ。

 

「ふむ」

 

 思いだしてみる。倒された後、僕に触れたのは警官だけだ。その警官の中に犯人がいる。誰だ、誰なんだい?

 思いだし、交差すると怪しいのがいた。警官にしては若すぎる上に見覚えのある人物が僕に触れてきていた。彼は確か、物間寧人。"個性"はコピーだったはずだ。わざわざヒーローが解説してくれていた。なるほど、理解した。僕のオール・フォー・ワンをコピーし、その力で本物を盗んでいったのか。それだけではないな。あのタイミングからして虎視眈々と狙っていたのだろう。僕が疲弊し動けないタイミングを。

 今思えばオールマイトの最後の一撃。あれはおかしかった。オールマイトは想いを束ねたといいながら、限界を軽く超えていった。逆に僕には諦めや諦観などの感情が急に襲ってきた。精神系に対する"個性"はあれど、あの時はオールマイトの相手に忙しくて使っていなかった。それでも問題はなかったのだが、オールマイトと攻撃しあっている時に対応はできない。

 いやはや、これはまいった。僕としたことがしてやられたよ。まさか、僕があずかり知らぬところで死柄木弔とは違う後継者が現れるなんてね。これでオール・フォー・ワンとワン・フォー・オール、そして死柄木弔の三つ巴か。とっても楽しそうだ。

 オールマイトが来たら教えてあげようか。死柄木弔以外の僕が居ることを教えてあげよう。

 

 

 

 

 

 物間寧人

 

 

 

 

 僕の妹は正直、狂っていると思う。わけもわからない存在に恐怖し、ただひたすらに"個性"を鍛え続ける。例えそれで自らの感情を犠牲にしてもだ。実際、生まれてから"個性"が発現する五歳まではよく笑い、感情が素直にでる子だった。でも、"個性"が出てからはかわりだした。表情が抜け落ち、まるで狂気に憑りつかれたかのように常に"個性"を使い続ける。そんなんだから、当然友達もいないし、本人もそれをよしとしている。それどころか、"個性"を使って自分に向けられる感情を無関心にしてまで鍛え続けていた。

 それでも僕にとっては可愛い妹で、大切な子だ。だから見捨てたりはしないし、僕も他の人には色々と言われてきた。コピーの"個性"なんて他に人がいなければ役立たずだと。ヒーローなんか無理だと言われた。

 だけど、夢かどうかはわからない。ただ、目的に向かってただひたすらに鍛え続けているこころがいる。だから、僕もヒーローをなにがあっても目指すと決めた。

 でも、僕は軟弱だ。こころと喧嘩しても個性なしで瞬殺される。殴ろうとしたら、その次の瞬間には天井が見えていて、関節技を決められる。平均より小さく、増強系でもないこころにだ。それに成績も悪い。

 だから、恥を忍んでこころにヒーローになりたいと言ったら、喜んで一緒に訓練をしようと言ってきた。うん、それが間違いだった。こころに組まれた訓練メニューは容赦がない。最初にやってみたら、逃げ出したくなって逃げた。でも、そのせいでこころは僕に"個性"を使ってきた。逃げられず、感情を支配され、訓練大好き、勉強大好き、という風に操作された僕は……こころと同じく徹底的に鍛え上げられた。おかげでテストは平均90以上をキープ、武術もならって個性の強化も繰り返した。

 ただ、訓練が終わったら無表情ながら一生懸命に感情を伝えようとしてくるこころや、甘えてくるこころが可愛いのでそれだけが救いだ。

 

 

 ただ、こころの計画を甘く見ていた。(ヴィラン)に襲撃され、急に呼び出されたと思ったら、神野に行くと言われてそこでしばらく過ごして地獄を見た。オールマイトと敵の首魁の戦い。足がすくんで恐怖で動けなくなった。漏らしそうになったところを、こころが冷静になるように感情を操作してくれた。

 それから、こころの言う通りに動いた。警察官の服を奪うなんて犯罪だが、後で説明してもらえばいい。あの戦いに関することなのだということで僕はこころを信じた。これが操作された感情なのかはわからないが、こころのことを信じずして何が兄か。

 その後、言われた通りに敵の首魁に触れてオール・フォー・ワンという"個性"をコピーし、それを使って大元のオール・フォー・ワンをボクに移す。ここで"個性"を使ったら暴走する可能性もあるので、怪しまれないように他の警官と一緒に収容し、逃げる。これだけ現場が混乱していれば怪しまれることなんてほぼない。

 こころにオール・フォー・ワンを与え、こころの感情を操作する"個性"を僕に移す。そして、それをもとに戻す。これで安全にこころはこの"個性"を使える。

 それから最後に警官の服を水で洗って内側の指紋や汗などを洗い流して、警官に着せてから水をぶっかけて二人で彼の服を触りながら声をかけて脱がしていく。そして、タオルをあげて服をしぼりながら、こころは救助に向かってもらう。これで多少、僕達の指紋などがついていても誤魔化せる。それに彼は正面から変装したこころをみていないので、頭に落ちてきた水入りバケツで意識が朦朧としていたと教えれば解決だ。

 

 帰ってからこころに聞けばオール・フォー・ワンという危険な存在について説明を受けた。これからタルタロスと呼ばれる監獄に収容されるだろうけど、脱出してくる可能性もあるし、オール・フォー・ワンを奪っておきたいと言っていた。そのタイミングがここだけなのだと。そして、計画通りになった。僕は手伝ったお礼として筋力増強をもらった。この"個性"を使っても見た目は変わらないので便利だ。

 その後、僕は全寮制に入った。両親の仕事の関係でこころが一人になるが、何を思ったか、アメリカに渡った。そこでヒーローみたいなことをしているらしい。動画が送られてきて、見たら吹いた。

 

「ぶっ!?」

「物間、どうしたんだ? またA組に対する悪ふざけ……幼女? おまえ、こんな趣味が……」

「馬鹿か君は。これは妹だ。ほら、写真」

 

 家族で撮った写真を見せてやる。こころが四歳の時に撮ったのと、雄英高校の入学式の時に撮ったのだ。

 

「へ~妹さんいたんだ」

「ああ、そうだよ。で、今はアメリカにいるんだが……こんな動画が送られてきてな」

「……マフィアのアジトに潜入? 冗談だよな?」

「……」

「嘘……」

 

 実際に潜入し、こころを認識していないマフィアを倒し、潰していく動画だった。銃撃戦もあるが、それでも圧倒的な力だった。それはオールマイトと戦っていた恐怖の首魁よりは実力が低い。そう思っていたけれど歌って舞いながら倒しているので現実感がないのが原因かもしれない。

 

「しかし、可愛い子だね」

「そうだろう? まあ、問題もあるんだけどね~」

「問題?」

「ぼっちなんだ。友達もいないんだよね~」

「そうなの?」

「いっつも"個性"の訓練しかしていなかったんだよ。服もほとんど同じ物しか着ていないな。ああ、この服装はコスチュームみたいな感じか」

「あってみたいわね」

「帰ってきたら知らせるよ」

「お願いね」

 

 動画はチェックしておこう。しかし、仮免許試験があるから、今はこっちに集中しよう。そう思ってたらしばらくしてこころが帰ってきた。

 

 

 



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4話

 

 

 アメリカから帰ってきて久しぶりに安心して眠れた。そのはずが周りが暗い。それにいっぱい仮面が浮いている。

 

「……なにこれ……?」

 

 ぐるぐると回っている様々な仮面。その仮面には一つ一つ感情が存在している感じがする。一つ一つにこころが集めた"個性"が入っているみたい。仮面を手に取って確認してみると、不思議な感じがする。

 とりあえず、合成してみよう。筋力増加など増強系を合わせて金剛力、回復系や治療系など作っていく。それに秦こころっぽい"個性"を組み合わせる。感情を操るだけじゃなくて、飛翔の"個性"や弾幕を作る"個性"を作る。防御系も障壁や精神耐性を習得した。複数あった仮面が一つになった。秦こころの力を持つからか、仮面という感じになっているみたい。

 まあ、もう使うこともほとんどないかもしれない。強力な"個性"も手に入れたし、襲われても撃退できる。オール・フォー・ワンだけじゃ足りなかった部分を補えた。オール・フォー・ワンだけだとひょんなことで攻撃されて、身体が吹き飛んでも再生できないしね。でも、今なら大丈夫。精神系の対策もできたし、操られることもない。そして、何より"個性"を奪われることもない。

 なんという素晴らしきことか。これでなんの恐怖も抱かず遊べる。友達も作れるし、表情を動かすために頑張れる。友達に関しては寂しくても作らなかった。友達になって人質にされたら大変だしね。お母さん達はどうにか助けられるとは思うけど、それも運が良ければだし、守るものは少ない方がいいからね。

 こころは本物の秦こころと違って妖怪でもなければ付喪神でもない。ただの非力な人間。それを補うために頑張ったし、沢山の"個性"を集めた。守る力は充分。

 

「こころ、起きなさい」

 

 声が聞こえてきたので、目が覚める。この歳になって一緒に寝るのは恥ずかしい。

 

「おはよう……」

「おはよう。ご飯を食べましょう」

「……うん……」

 

 食事をしてから、お母さんと食事をしていると電話がかかってきた。それはヒーロー公安委員会からだった。

 

『ヒーロー公安委員会です。物間こころさんですか』

 

 ヒーロー公安委員会なら、お茶目にこころちゃんっぽく挨拶した方がいいよね。これからこころっぽくするのだから。演じる必要はないのだろうけど、はっちゃける。

 

「ふっ、ふっ、ふっ、我こそは物間こころなるぞ」

『随分とお茶目ですね。もっと危ない人かと思っていたのですが~』

「余裕がでたからね!」

『なるほど。まあ、いいでしょう。えー免許などについてお話がありますので、こちらに来ていただきたいのです。あ、それと入国管理局と警察の方にもこちらに来ていただいていますので、そのつもりでお願いしますね。迎えもよこしますんで』

「拒否権はあるのー?」

『ありますが、手続きを色々としてもらわないといけません。主に爆破事件についての調査や漂流者扱いですので、署名を頂かないといけない書類があります』

「いっきまーす」

『はい、お願いしますね』

 

 食事を終えたので部屋の中でお出かけの準備をする。こころの、私の正装である秦こころの服装に着替えるよ。着物はコスチュームなだけだし。あ、ちゃんとお面は頭に斜めでつけておく。後、念の為に防犯ブザーも持たされているので、そっちも装備しておく。今のこころちゃんはこいしと変わらない身長だしね。

 

「お母さんはどうするのー?」

 

 リビングに戻ってお母さんの入れてくれたミルクを飲む。それからテーブルにぐてーと身体を預ける。

 

「なんだか雰囲気がかわったわね」

「もう怖いのはなくなったからー」

 

 ふにゃふにゃになりながら、返事をする。こころとして生きてきた十四年間。ずっと気を張って訓練ばかりをしてきたしね。

 

「そうなのね。まあいいわ、私もいくわ。こころはまだ未成年なんだから」

「ん~ありがとー」

 

 久しぶりにお母さんとお出掛け。結構楽しみ。お母さんはぐてーとしている私の後ろで髪の毛を梳いて整えてくれる。しばらくして迎えがきたので、ヒーロー公安委員会に向かっていく。

 

 

 

 そこでやってきていた入国管理局の人には漂流したことで書かなきゃいけない書類があった。主に失くしたパスポートの再発行をお願いしたり、警察の人と一緒に事情説明だね。この時に爆弾のことも聞かれた。最後にヒーロー免許について説明を受ける。

 

「さて、物間こころさん。ヒーローネーム、秦こころ。アメリカのヒーロー免許は……ありませんよね」

「吹っ飛んだからねー」

「よく無事でしたね、本当に」

「感情を操って限界を超えればなんとかなるよー。ためしてみる?」

「それはいいです。それよりも免許についてですが……限定つきでお願いできますか?」

「限定つき?」

「あなたの"個性"は危険すぎます。まず一つとして他人への使用は限定させていただきます」

「そうだよね」

「はい。他人に使う時は他のヒーローの許可をもらってください。あ、ちなみに許可なく一般人に使用した場合、容赦なくぶち込みます。(ヴィラン)に関しては使用していただいてかまいません。ただ、感情を破壊するのは許可がないと駄目です」

「はーい」

「それと、こちらでも監獄にいる凶悪犯の対処をお願いしたいのですが……」

「う、うん、大丈夫だよ……」

 

 オール・フォー・ワンに会いたくない。でも、仕方ないね。

 

「それと試験を受けてもらいますし、雄英高校にも通ってもらいます。あそこにはイレイザーヘッドがいますからね」

「私の"個性"を消せるからだねー」

「そうです。つまり、ヒーローとしての活動は放課後限定といった感じになりますが、あなたはまだ中学生ですからね。義務教育がありますのでそちらは諦めてください。幸い、あなたは中学生三年生だ。見学といった感じにさせてもらいます。ただ、決して入学ではありませんので、席は前の学校のままです」

「……お母さん、いい……?」

「ええ、構いませんよ」

「ありがとう」

「では、これでいきますね。いや~よかったよかった。あ、一つ忘れていました」

「?」

 

 小首をかしげる。

 

「それとその限定免許では事務所は持てません。ちゃんとしたヒーロー免許ではないので、他のヒーロー、この場合はイレイザーヘッドや雄英高校の教師達、ヒーロー公安委員会であなたの活動を審査してから限定を外させていただきます。これはアメリカと日本との違いからでる処置ですので、ご理解とご協力をお願いします。なので活動はこちらが用意するヒーローの事務所と協力してお願いします。頑張ってくださいね」

「は~い」

 

 あと契約書なども書いて免許を準備してもらう。これで"個性"を発動できる。ただし、一般人への使用は禁止。これは元々なので大丈夫。活動が放課後限定で、どこかの事務所に所属しないと駄目。でも、逆に言えばヒーローとして活動しなかったらいいだけなんだよねー。

 

「ああ、そうそう……あなた、神野にいたそうですね」

「……うん、いたけど……」

「そこで怪しい人をみませんでしたか? 警察官が一人、襲われたみたいなんです」

「みてないよ?」

 

 怪しい人? 私、こころのことだから見てはいない。

 

「そうですか。あなたは"個性"を消すことができるそうですね」

「正確には使えなくするってだけだよ」

「なるほどなるほど。わかりました。それでは本日はありがとうございました。免許ができるまでお待ちください」

「はい」

 

 それから、ヒーロー公安委員会で待っている。お母さんはお仕事の電話で外にでていった。暇なので足をぶらぶらさせていると、向こうから骸骨の人がやってきた。

 

「やぁ、こんにちはお嬢さん」

「ひっ!?」

 

 "個性"はまだ免許を貰っていないので使えないし、防犯ブザーの紐を握ってじりじりと下がる。

 

「待ってっ! それちょーまって! 私、ヒーローだから!」

「ヒーローにも変態はいるっ! 私を誑かしてお持ち帰りする気なんだ!」

「ないから、ないから!」

「じゃあ、偽物?」

「本物だよ! ほら、これ免許!」

 

 オールマイトの免許を見せてもらうけど、どう見ても別人だよね。

 

「やっぱり偽物っ!」

「勘弁してよ! というか、気付いてるよね! そろそろガチで止めて! 視線がかなり痛いんだよ!」

「は~い。楽しかったー」

「ほっ」

 

 防犯ブザーから手を離す。

 

「改めて自己紹介をしようか。私は雄英高校に勤めているオールマイトだ。こちらに来ていると知って資料を渡しにきたよ」

「そうなんだ、ありがとう」

「ちゃんとお礼が言えて偉いねー」

 

 オールマイトが自然な感じで私に触れてきた。頭を撫でてこようとしたので弾く。

 

「こころ……私、こう見えても14歳なんだけどー」

「それはごめんね……」

 

 オールマイトを見上げると、こちらを怖い表情で睨んでいた。見詰め返すと、すぐに優しい感じになった。

 

「もしかして、やっぱりロリコン? 結婚したとかしらないし」

「違うよ! それより、君には一応カウンセリングを受けてもらう。これは教師を含めて全員が受けているよ。色々とありましたからね」

「はーい。あ、そうだ。どうせなら、雄英高校にお兄ちゃんがいるんだけど、それを教えてよー」

「いいよ。物間少年は……」

 

 

 

 

 

 

 オールマイト

 

 

 

 私の話に楽しそうに聞いていく彼女は無表情だが一見普通の幼い女の子のようだ。だが、その精神性には歪さがある。オール・フォー・ワンに告げられた神野の悪夢に介入し、私達を出し抜いた第三者の存在。その者が何をしたのかはわからなかったが、オール・フォー・ワンが僕のあずかり知らない後継と言ったことから、奪われたのは奴の"個性"だろう。

 ありえない。そう思いたかった。だが、調べないわけにはいかない。そこで塚内君に頼んで神野の悪夢について調べ直した。するとそこに緑谷少年達以外に物間少年と物間少女がいたことが確認されている。

 そこで皆で考えた。物間少年の"個性"を使えばオール・フォー・ワンを奪えるのではないか、と。天文学的な可能性ではあるが、あの場に彼がいたのなら偶然に偶然が重なって可能だったんだろう。いや、そうじゃない。警官のことも考えると事前に予定されていたことだろう。

 次に調べたのは神野の悪夢以降に"個性"が消えたりした存在がいないかということ。調べていくと日本にはいなかった。そう日本には。アメリカにいたのだ。"個性"を消すことが可能な存在が。それが彼女、物間少年の妹、物間こころ。感情を操る危険な"個性"を持ち、あの場にいてオール・フォー・ワンを手に入れることが可能な存在。兄から譲られたのなら、全てはわかる。それに神野の悪夢以降、物間少年の身体能力は格段に上がっている。だが、それだけだ。故に一番怪しいのはこの一見、十一歳前後に見える幼い少女のみ。彼女の危険性はアメリカでの活動が証明している。

 たった二ヵ月足らずでアメリカのトップヒーローの一人になっている。もっともこちらは凶悪犯の自白を引き出した功績からだ。それでも彼女自身の力はあの動画をみるかぎり、恐ろしい力だ。

 いや、彼女がオール・フォー・ワンを手に入れていたのなら、もっと強力になっているだろう。なにせ凶悪犯から自白を引き出す時に触れて"個性"を消しているようだから、かなりの数の"個性"が彼女に渡っているはずだ。それも凶悪犯の"個性"が、だ。

 

「なんですか、そんなに見詰めてきて……やっぱり、ロリコン?」

「違うから! まったく……それより、君達は神野にいたんだよね? そこで救助活動をしていた」

「そうだよーお兄ちゃんがヒーロー志望だからね」

「しかし、何故アメリカにいったんだい?」

「日本だと"個性"が使えないし、どうせ家にいても一人だから試してみたくなったの」

「なるほど……」

 

 これは厄介だ。もし、どちらにしても神野の悪夢のすぐ後ならばそこまで問題じゃなかった。容易くどうにかできた。だが、既に複数の"個性"を大量に所持しているとなると話が変わってくる。もしも戦えば被害がかなりでてしまう。ましてや、アメリカでも凶悪な犯罪者として名をあげた連中の個性ならなおさらだ。私はすでに動けなくなった。もちろんエンデヴァー達でどうにかできるかもしれん。だが、物間少年と同じく彼女はまだ幼い少女だ。まだ矯正はできる可能性が十分に高い。

 

「こころ」

「お母さん」

「あなたは……オールマイトっ!」

「これははじめまして。実は雄英高校の資料を持ってきましてね」

 

 しっかりと挨拶してこれからのとを話して別れる。それからヒーロー公安委員会の建物からでて、待っていた塚内君の車に乗って移動する。

 

「どうでしたか、彼女は……」

「限りなく黒に近いが、灰色かな。そっちはどうだった?」

「こちらも調査が終わった。物間寧人君の調査は正直、空振りだった。彼はコンプレックスこそあるが、至って普通の少年だったよ」

「では、やはり……」

「ああ、問題は物間こころの方だ。彼女の成績は至って普通。だが、教師達に確認したら、彼女の成績は全てテストの成績だった。テストの時以外は常に抜け出し、運動場やプールでひたすら運動を続けていたり、"個性"を使って訓練をしていたようだ。それも四歳の時から毎日、狂ったように」

「それは……」

「止めようとしても、感情を操られたのか基本的に教師達は無関心を突きとおした。また、この"個性"の関係上、証拠もあげられない。録画映像も存在しないし、基本的に内面にしか発動しないからね。

 そして、神野の悪夢に兄を利用したのか、協力したのかはわからないが、オール・フォー・ワンを手に入れたんだろう。それからアメリカに渡り、"個性"を手に入れた。これが日本で行われたのなら、まだ気づけて止められたんだが……」

「まさか、海外で堂々と"個性"集めをするとは思わなかったからね」

「やっぱり彼女が一番怪しい。状況証拠でしかない。それも"個性"を集めることにかんしては犯罪ではなく、政府機関からの依頼という合法的な手段だ。特に洗脳系の"個性"は証拠をみつけるのがほぼ無理にちかい。それこそ殺人などの大きな犯罪を犯していないとね」

 

殺人なら精神鑑定を行い、今までの性格と乖離していたらそこから切り込める。ただ、それも洗脳などの場合だ。物間少女の場合はあくまでも感情を操って結果を導き出しているだけで、あくまでも外からしたら本人の行動と思われるので現行犯で逮捕するしかない。といっても、証拠能力は低い。それこそ機械を使って操られたことを証明しないといけない。

 

「どちらにせよ、彼女も少年も未成年だ。これから上手く導けばいい。それに思っていたよりも明るいようだ」

「こちらが聞いた限り、暗い少女で何かに追われているような感じだったらしいが……」

「もしかしたら、オール・フォー・ワンのことを知っていたりしたのかな?」

「はっはっは、それはないだろう」

「そうかな。全ては計画されていたことだとしたら、どうやって彼女達はそれを知ったのだ?」

「……これはまだまだ調査が必要だな。アメリカにも人をやらねばならない。忙しくなるぞ」

「そちらは任せたよ。私は彼女のことを相澤君に伝えないと……」

「それもそうだが、もう一つ。彼女をどこのヒーロー事務所に接触させるんだい? へたなところに入れたら危険だろう」

「サーのところを紹介するよ。彼ならどうにかやってくれるだろう」

 

 彼には緑谷少年のことも含めて迷惑をかけるだろうが、頑張ってもらうしかない。それに私達もこのまま黙ってみているつもりはない。精神操作を立証する方法だって事前に準備しておけばしっかりとあるのだから。

 

 

 

 

 




日本の警察、舐めちゃ駄目。バレてます。そりゃ、神野の悪夢の後で海外とはいえ個性を消していたら、知ってる人には怪しまれるでしょう。こころちゃんは心の安静を手に入れるために"個性"を手に入れるのを優先したのが駄目でしたね。


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5話

時系列はたぶんあってると思いますが、あまり気にしないでくださいね。
前の話、少し修正しました。
感想にありましたが、雄英に飛び級して入学したわけではありません。オープンキャンパスとはいいませんが、職場体験や、そんな感じの扱いなので基本的に席は前の学校のままです。なので課題の提出などがあります。
入国などに関してはパスポートの再発行を頼んだことにしました。人道的なことから、漂流しても一定期間は外国でも大丈夫なようですね。
誤字修正させていただきました。明日の更新は微妙です。


 

 

 

 ヒーロー公安委員会に行ってから数日後、雄英高校にはまだ行っていないけれど、カウンセリングや精密検査とか受けて、中学校に事情を説明してカリキュラムや必要なプリント、課題などを貰った。

 雄英高校に通うけど、入学ではなくあくまでも体験学習の一環。そのため、課題の提出などをしないといけない。面倒だけど義務教育だから仕方ない。

 

 

 今まで毎日お母さんがずっと一緒だったけれど、今日はお仕事が入ったみたいで、出先で別れることになった。なにか離れたくないみたいだったけれど、どうしたのかな?

 

「ちゃんと帰れる?」

「帰れるよー」

「本当に? 心配なんだけど……」

「心配……?」

「そう、心配なの」

 

 心配……心配……ああ、心配。不安なんだね。不安って……まあいいや。

 

「大丈夫、大丈夫。うん、いけるいける」

「そう? 何かあればヒーローを呼ぶのよ?」

「ヒーローはこころだよ? それに行く場所もヒーロー事務所なんだけど」

「ああ、そうだったわね。でも、危ないことはせずに人を助けて逃げることを優先するのよ? 危ないことは他の人に任せたらいいからねえ」

「よくわからないけど、わかった」

「気をつけてね」

「うん。またねー」

 

 お母さんは電車に乗ってお仕事に向かったので、私は……エンジョイする。お小遣いもあるし、まずは美味しい物を色々と食べないとね。

 

「おじさーん、アイスちょーだい」

「あいよ」

 

 トリプルのアイスを食べながら携帯端末で事務所への最短距離を移動する。裏路地を通っていると、目の前から小さな女の子が飛び出してきてぶつかってしまう。彼女から漂ってくる感情は恐怖、絶望、怯え、苦痛などなど負の感情が伝わってくる。

 

「大丈夫? これ、食べるー?」

 

 手足に包帯を巻いた角のある可愛い女の子にアイスを口につけてあげる。食べ出すので、そのまま彼女のことを考える。この子はどこかで見覚えがあるけど覚えていない。一般人に間違いはない。けど、両手両足に包帯を巻いていて、虐待の可能性が大きい。こんな可愛い子を虐めるなんて許せないよねー。

 緊急事態だから"個性"を発動させ、彼女の私への信頼、好感度、愛情を最大値にして事情を聴く。

 

「お姉ちゃんに教えて」

「う、うん……」

 

 教えてもらったことは彼女がされていたこと。これはあれだね。実験体にされてる。彼女を抱えて急いで逃げる。同時に携帯端末で連絡を取ろうとしたら、近付いてくる気配がある。ここで周りを巻き込んで"個性"を発動させれば助けられるけれど、暴れられたらその後の被害が大きくなる。制圧してしまえればいいけれど、まだヒーロー事務所に行って契約を結んでいない。それに精神を壊して吐かせることはできるけれど、それはヒーロー公安委員会の許可がいる。その間に逃げられる可能性もある。本当に限定免許って面倒。

 

「助けてほしい?」

「……たすけて……」

「わかった。じゃあ、今からお姉ちゃんがあなたに魔法をかけてあげる。それとあなたの大事な物、少し借りるからね」

「お願い、します……」

「これでもヒーローだから、助けるよー!」

 

 決めた。今回は別の方法で頑張ってみよう。オール・フォー・ワンの力を最大限に発揮すればいけるはず。まずは私は手に入れた"個性"で霧を出し、私達の姿を見えなくする。そこから色々と"個性"を発動させていく。

 

 

 

 

 

 怖い怖い。凄く怖い。助けて助けて。目の前にいる薄紫色がかって見えるピンク色のロングヘアに、同じ色の瞳と睫毛に助けを求める。でも、彼女は無表情でこちらを見詰めて、ふらふらと立ち上がって去っていく。だから、私も必死についていく。後ろから怖い人達がきてる。裏路地をでると、誰かにぶつかった。そこには緑色の髪の毛の人。

 

「ごめんね、痛かった?」

「あ……」

 

 怖い、怖い、どうしたらいいの。お姉ちゃんは無表情のまま、そのまま走っていった。

 

「立てない? 大丈夫?」

「帰るぞ、エリ。っと、うちの娘がすいません。遊び盛りで怪我が多いんですよ。困ったものです」

「またフードが取れてるぞ」

 

 もう一人増えて色々と話している。私はただ怯えているだけ。

 

「自分が何者かになる、なれると本気で思ってる」

 

 私は慌てて彼のもとに移動する。

 

「待って、なんで……」

 

 私はそのまま抱き上げられて連れていかれる。

 

「壊理、わがままはもうよせよ。お前は計画の核なんだから。頼むからもう、俺の手を汚させないでくれ」

 

 腕の包帯が外されていく。それから身体を抉り取られて泣き叫ぶ。でも、許してなんてくれない。泣き叫び、助けを求める。

 

 

 

 

 

 

 サー・ナイトアイ

 

 

 

 

 今日来るはずのアメリカ帰りのヒーローが来ない。私の時間を徹底的に無駄にしてくれる。子供らしいが、これでよく務まるものだ。

 

「サー、緊急連絡です。見回りでミリオン達が対象と事故りました」

「わかった。すぐに行く。お前は小娘を待っておけ」

「わかりました。でも、事故の可能性がありますが、探さなくてよろしいのでしょうか?」

「構わん。聞いていた通りの存在なら、問題は無い。だが、一応連絡はしてみるか」

 

 ヒーロー公安委員会と警察に連絡を取り、両者がつけている監視に確認させる。一人三十分から一時間交代で10人、貼り付けてある。その外側にバックアップとして20人。そこからドローンや監視カメラなどを使って監視を行っている。抜けられるはずはない。

 

『対象が霧か煙かをだしたので一次見失いましたが、現在は捕捉しています』

「サポートアイテムの可能性か個性かはわからないか」

『はい。ただ、その直前に一人の少女を抱きしめていました。それからすぐにその場を去っているので、奪われた可能性があります』

「わかった。現在位置を教えてくれるか?」

『そちらにインターンシップに来ている雄英高校の二人をつけているようです』

「……もしも、だが……迷っている可能性はあるかね?」

『無表情でわかりませんが、挙動はかなり不審ですね。あと、プリントをよく見ていますが、それを確認したところ、そちらの事務所のアクセスについて書かれていました』

「連絡しろっ!!」

『あははは』

「失礼。取り乱した。ありがとう。これから問題児も含めて迎えにいく。監視をよろしく頼む」

『こちらこそ、お願いします』

 

 すぐに移動し、バブルガールとミリオン達の下へと移動し、詳しい情報を聞いていく。

 

「すみません! 事故りました! まさかあんな転校生と四つ角でばったりみたいな感じになるとは……」

「いや、これは私の失態。事前にお前たちを“見て”いれば防げた」

「とりあえず無事で良かったよ。下手に動いて怪しまれたら危なかったかも……」

 

 話を聞いていると、知崎に娘がいるとのことを聞いた。とても怯えていたそうだ。

 

「バブルガール、こっちは任せる。私はもう一人の問題児の方へ行く」

「わかりました」

 

 問題児はすぐ近くにいた。彼女は私の顔をみるなり、こちらに近付いてくる。薄紫色がかって見えるピンク色のロングヘアに、同じ色の瞳と睫毛で服装は青のチェック柄の上着に長いバルーンスカート。上着には胸元に桃色のリボン、前面に赤の星、黄の丸、緑の三角、紫のバツのボタンという特徴的な恰好をしている。ただ、聞いていた話と違って報告通りおどおどしている。

 

「なにを……」

 

 そう思って聞こうとすると、彼女はプリントを私の方に合わせ、顔と写真を確認していく。

 

「しているんだ!」

「ひっ!?」

 

 ビクッとしてから彼女はそのまま走っていった。意味が分からない。いや、待て。これはもしかして……そういうことなのだろうか? もしそうだとしたら、未来を確認する前に逃げられたのは厄介だ。それに予想通りなら無暗に追うのは悪手だ。

 

「こちら、サー・ナイトアイ。念の為、確認したいことができた」

『はいはい、こちら監視担当。どうしましたか?』

「見ていたのだろう。物間こころの家族……いや、資料によれば雄英に仮免許を持った兄がいたな。その者に出動要請を頼む。彼女を保護するように頼む。くれぐれも穏便にな」

『了解しました』

 

 これでいい。これでどちらに転んでも問題はないだろう。

 

 

 

 

 物間寧人

 

 

 

 僕は呼び出され、車で送ってもらった。するとそこにはこころが震えながらダンボールを頭から被り、周りを伺っていた。

 

「迎えにきたよ」

「っ!?」

 

 ダンボールがビクッと動いたので、そのまま近付いて抱きしめる。

 

「もう大丈夫だよ。なんせ、この僕が守ってあげるからね!」

「……ほん、とう……?」

「ああ、任せるといい」

 

 ダンボールを取ると、涙目でこちらを見上げてくるこころ。なんだろう、こういうのもいいね! 

 とりあえず、そのまま抱きしめて昔にやったように頭を撫でてあげる。

 

「さて、帰ろうか」

「う、うん……でも、あの……」

「ああ、大丈夫だよ、何も心配いらないから」

「ん……」

 

 とりあえず、雄英の寮に向かおう。それとお母さんにも連絡を入れて着替えを用意してもらおう。

 車に乗ると、こころは腕に抱き着いてくるので、そのままにさせる。

 

 

 雄英に入り、寮にこころを連れていく。すぐに取り囲まれたけど、嫌な予感しかしないよねー。

 

「おいおい、誘拐してきたのかよ!」

「可愛い幼女ですぞ」

「物間、アンタ……」

「待とうか。拳藤はわかってるだろ」

「妹さんだよね?」

「そうだ。といっても、紹介は後だ。数日、僕の部屋で預かるから」

「ちょ、それは……」

「そうですぞ!」

「家族だから大丈夫。それにちょーと事情があるんだ。そうだね……じゃあ、拳藤、君さえよければ監視として僕の部屋に一緒に泊まってもいいよ? もちろん、塩崎さんでも小大さんいいけどね」

「ちょ!?」

「ん、構わない」

「確かに監視は必要でしょうからね」

「男子はなしか」

「当然だろう。僕の大切な守るべき妹なんだからね」

「わかった」

「まあ、今から少し事情を聴かないといけないから、一時間……三〇分くらいは二人っきりにさせてもらうよ。その間、予備の布団とか着替えを頼んでいいかい?」

「いいわよ」

「ん」

 

 話はついたので、僕の部屋に一緒に入る。おっかなびっくりついてくる彼女をベッドに座らせて、僕は椅子に座る。

 

「それじゃあ、話をしようか。今度はどんな計画か――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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6話

原作15巻以降のネタバレが多分に含まれます


 

 

 イレイザーヘッド

 

 

 

 物間寧人からブラドキング先生を通して連絡がきた。面倒だが、物間こころのこともあるから行くしかない。

 

「物間、来たぞ」

 

 寮の部屋の扉を叩いて声をかける。

 

「は~い、今あけまーす」

 

 部屋の中から女の声がしてくる。不思議に思っていると、扉が開いて中を見るとB組の拳闘と小大がいた。床には二人の物と思われるバッグがあり、布団が敷き詰められている。

 

「おい、お前ら。不純異性交遊は認められねえぞ」

「違いますよ!」

「ん。一緒に寝てるだけ」

「そうだね。一緒に寝ているね」

「アウトだろ」

「言い方! 事実だけど! これはアレです、こころちゃんに物間が変なことをしないように……」

「ふむ。まあ、いい。入るぞ」

「どうぞ」

 

 中に入ると女子の荷物が結構しめている。大きなぬいぐるみもあって女の子の部屋といった感じだ。物間の荷物はほぼ全てが端に寄せられている。

 肝心の妹はパソコンの前で一生懸命に自分が映る動画を見ながら真似をして身体を動かしている。そして、ふらついてこける。それを物間や小大が支えている。まるで小さな子供の世話をしている感じだ。

 

「どういうことだ? "個性"が暴走したのか? それなら俺を呼んだ理由もわかるが……」

「いえ、そうじゃありません。先生に"個性"を消してもらいたいのですが、それは今ではありません。とりえず、先生自身の目で今のこころを確認してもらいたかったのでお呼びしました」

「わかった。確かにこれは異常事態のようだ。詳しく聞こうか」

「ありがとうございます。二人共、こころを連れてお風呂にでもいってきてくれないか? 流石に僕じゃ無理だからね」

「OK,任せて」

「ん。いってくる」

「こころもいいね。汗かいてるから綺麗にしておいで」

 

 頷く彼女をそのまま二人が連れていき、俺と物間だけが残ることになった。

 

「先生、とりあえず座ってください。紅茶でいいですか?」

「いらん。さっさと話せ」

「わかりました。端的に言いますが、あの子はこころではありません」

「だろうな」

 

 俺が聞いた物間こころは無表情だが、あんな幼子みたいな感じじゃない。14歳だと聞いているし、なによりオール・フォー・ワンを奪う計画を立てるような存在だとは思えない。

 

「あの子の正体は知りませんが、名前は壊理(えり)。話を聞いた限り、死穢八斎會(しえはっさいかい)にいるオーバーホールに何度も身体を抉られ、再生されていたそうです」

死穢八斎會(しえはっさいかい)か。ヤクザの連中だな」

 

 緑谷と透形がインターンシップにいっているサー・ナイトアイの事務所が担当していた案件だな。昨日、協力要請を頼まれたが、まだ返事をしていなかった。

 

「入れ替わったのか」

「はい。ご存知の通り、こころの"個性"は感情を操ります。どのように操ったのかは知りませんが、認識をずらしたのかもしれませんね」

「感情以外にも操れる可能性がある、と」

「あくまでも可能性ですが、先生の方がよく知っていると思いますよ。こころは気付いていませんが、凄いファンの方々がいるみたいですから」

 

 こいつ……俺達が物間こころを監視しているのを知っていやがるな。しかし、本人に告げていないということはどういうつもりだ?

 

「話を戻します。こころは彼女から助けを求められたので、ヒーローとして行動しています。おそらく、彼女から話を聞いて戦闘するよりも確実に彼女を保護することと、相手を一網打尽にすることを考えたのだと思います」

 

 組織を相手にするのなら、こちらも頭数はいるか。ましてや逃がさないように潰すつもりなら必要だろう。

 

「それで、入れ替わったのはわかった。助けに行くのか?」

「行きませんよ」

「なに?」

「こころを助ける必要はありません。僕が頼まれたのは彼女の保護と先生達への伝達だけでしょう。もちろん、後方支援はしますよ」

「てっきり助けに行くと思ったんだがな……」

「いらないでしょう。あの子は生きることを何よりも優先している。だから、危なくなったら、なりふり構わず逃げてきますよ。その時に制圧してくるかはわかりませんが……」

 

 生きることを優先か。そういえば人を殺すことはしていないな。精神的に壊したことはあるようだが、それも時間経過で回復していっているとアメリカから連絡が来ている。自分が生きることを優先するが、犯罪者でも命までは奪うつもりがない、か。これならまだ矯正はできそうだ。それに見知らぬ幼子の代わりに自己犠牲をするのなら、ヒーローとしての適正もあるにはあるのだろう。気まぐれかもしれないが、それはこれから調べればいい。それにヒーローとして活動してくれる方が効率がいい。

 

「で、合図は何かあるのか?」

「"個性"を消せば伝わると思います。それにこころのことですから、犯罪者には容赦しないはずです」

「そうなると……メッセンジャーを送ってくるか」

「はい。その可能性が高いです」

「つくづくスパイ向きな奴だな」

「あの子はパンドラの箱ですからね」

「パンドラの箱ね……」

 

 開ければ災厄があり、その中に希望がある……かもしれない。この場合、災厄とは二代目オール・フォー・ワン。希望はトップヒーローか。

 

「ああ、そういえば先生に聞いてみたいことがありました」

「なんだ?」

「タルタロスって破られると思いますか?」

「タルタロスか……」

 

 死刑すら生温い重犯罪者を収監する厳重監獄だが、破れるかどうかと言われれば難しいだろうが、可能だろう。

 

「不可能ではないだろうな。この世に絶対はないからな」

「そうですよね。手数さえあれば可能でしょうし」

「言ってみろ」

「まず、兵隊を用意し、爆弾などで日本各地に同時多発テロを起こします。それでヒーローや警察の手を集め、その間に襲撃すれば不可能ではないと思います。特に相手にはワープ系の"個性"持ちがいますからね」

「そうだな。確かに人数がいれば可能だろう。だが、今の所は大丈夫だと思うぞ」

「ありがとうございます。これで安心できます」

 

 オール・フォー・ワンがでてくる可能性か。こいつらがどれだけ奪ったかによるが、最大の脅威が無くなっているとしたらかなり助かるのは事実だな。

 

「さて、話は聞いた。じゃあ、本人は保護していることだし、他のヒーローと協力して救助に向かう」

「妹をお願いします」

「任せろ。必ず助け出してやる」

 

 部屋から出て携帯でサー・ナイトアイの事務所にかける。

 

『はい、こちらナイトアイの事務所のバブルガールです』

「イレイザーヘッドだ。ナイトアイはいるか? 重要な情報がある」

『お待ちください!』

 

 少し待つと、すぐに代わってくれた。

 

『どうしました?』

「物間こころは偽物だった。中身は壊理という6歳の女の子だ」

『やはりですか。では、彼女は現在その子の身代わりとなっているんですね』

「だろうな。向こうから連絡が入ってくる可能性もあるが、あちらに暴れてもらうことも可能だろう」

『知らせる方法があるのですね?』

「ああ、ある。俺が"個性"を解除したら向こうに知られるだろうということだ。確定かはしらないがな」

 

 それに加えて、物間こころがどんな"個性"を使ったかはわからないが、下手をしたら完全になりきっている可能性もある。そうなると、要救助者には変わりない。

 

『懸念事項はありますが、参加していただけますか?』

「ああ、もちろんだ。それと本人から聞いたかぎり、本拠地にいたらしいが、あれから移動させられている可能性もある」

『了解です。一応、表向きは壊理という少女の救出作戦とし、ヒーローには事前に知らせておきましょう』

「わかった。それじゃあ、明日にでもそちらに向かう」

『お願いします』

 

 

 

 

 

 

 次の日、サー・ナイトアイの事務所の会議室。そこで連中について説明を受け、死穢八斎會(しえはっさいかい)という指定(ヴィラン)団体についての説明を受ける。

 

「レザボアドッグスと名乗る強盗団の事故ですが、そちらで腑に落ちない件があり、ナイトアイの指示を受けて調査していました。そして、調べたところ、ここ一年以内の間に全国の組以外の人間や裏稼業の連中との接触が急増しています。おそらく、組織の拡大と資金集めのためでしょう。そして、彼等が(ヴィラン)連合と接触していた事実が判明しました」

「連合が関わるってんで俺や塚内にも声がかかった。塚内は他の目撃情報が入ってな、そっちに行ってる」

 

 グラントリノが説明している中、次にとんでもないことをファットガムが言いだした。うちの生徒が関わっているようだ。

 

「"個性"を壊す薬、これを連中が使っていた。幸い、"個性"は一日で回復したが、病院で診察を受けたら個性因子が傷ついていた」

「それだと、回復しない場合がありますね。俺の"個性"は一次的に因子を止めているだけですが、傷を負わせるとなると破壊までいける可能性があります」

「中身は?」

「霧島君が身を挺して一発だけ手に入れてくれた。それを解析したら、中から人の血ぃや細胞が入っとった」

「えええええ」

「別世界のお話のよう……」

 

 人由来の"個性"による"個性"の破壊。かなり厄介だな。それが物間こころの手に移っている可能性がある。

 

「オーバーホールは対象の分解・修復が可能な力です。そして、一度壊し、治す"個性"。"個性"を破壊する弾。以上のことから死穢八斎會(しえはっさいかい)が関係すると思われます。また、情報が入ってきました。イレイザーヘッド」

「ああ、了解だ。まず連中は子供から血と細胞を抉り取り、それを弾丸にしている。治療はオーバーホールの"個性"でだ。その子供についても確認されている」

「その子供にはそこの二人が遭遇した時に手足全体に包帯が巻かれていたようです」

「おぞましい……」

「随分と詳しいな」

 

 生徒には刺激が強すぎたのか、青い顔をしてやがる。まだ早かったかも知れないな。

 

「想像しただけで腹ワタ煮えくり返る!! 今すぐガサ入れじゃ!!」

「こいつらが子供を保護してりゃあ、一発解決だったんじゃねーの?」

「すでに保護はされています」

「「「は?」」」

「え? え? 保護されてるんですか!」

「サー!?」

「実は彼等の前にあるヒーローと彼女は接触していたようで、そのヒーローが現在、彼女の身代わりとなっています。イレイザーヘッド、お願いします」

「ヒーローの名前は物間こころ。アメリカから帰ってきた奴で、ヒーロー免許は限定だ」

「限定なんてあったか?」

「特別に作られた奴だ。そいつはまだ14歳だからな。つまり、ヒーロー公安委員会のお墨付きって奴だ」

「あの、物間って、もしかして……」

「物間寧人の妹だ。現在、物間寧人が妹として雄英で保護している。当然、校長にも連絡して防衛体制を強化してもらっている」

「あの時の少女か! すぐにいなくなったと思ったら、そういうことか……」

 

 あの時点で制圧してくれていれば楽に済んだ……とはいえないか。まだガサ入れの準備もできていなかったし、"個性"を壊す弾のことなんて知らなかったしな。ベストはそれでオール・フォー・ワンを破壊することかもしれないな。

 

「そのヒーローの"個性"はなんなんだ?」

「感情を操る"個性"だが、強化されている可能性もある。感情を操って無関心にさせるぐらいはわかるが、今回は最低でも俺達の認識を書き換えている」

「感情を操るってかなり危険な"個性"ね」

「でも、(ヴィラン)を捕縛するにはとっても有効な"個性"ね。ヒーローとして素晴らしい力よ」

 

 まあ、性格に問題はある奴だが、ヒーローとしての実力はかなり高い。

 

「兄によれば連絡が送られてくるはずが、送られてこない。本当なら構成員の一人の罪悪感を操作して、こっちに垂れ込ませるぐらいは平気でやる奴だ。実際、アメリカではその手法も使われている。だが、以上のことを考えて強くなった"個性"が暴走している可能性か、それとも操られた可能性も否定できない」

「暴走の場合の解決策は?」

「俺が消せばいい。一旦停止させればそれで問題ないだろう」

「あ、相澤先生。もしかして、それって秦こころちゃん?」

「そうだな。確か、ヒーローネームがそれだ」

「だったら役に、その女の子になりきりすぎてるんかもしれないです」

「どういうことだ?」

「動画で見たんやけど、能楽や演劇とかもやってて、演技の雰囲気とかすごいらしいんです。トランス状態とかいうの……感情を操作しているからやろうけど……」

「もし、その女の子に演技をしてのめり込みまくってたら……」

「まあ、要救助者認定で大丈夫でしょう」

「せやな」

「賛成!」

「誰だろうと、助けを待ってくれているのなら、守ります」

「そうだね。やることはかわらない」

 

 緑谷と透形は張り切っているな。無理もない。

 

「とりあえず、彼女は戦力に数えずに救助。最悪、イレイザーヘッドに"個性"を強制解除してもらい、思いだしてもらいます」

 

 一般人の救助作戦よりヒーローの救助作戦の方がましだ。しかし、本当に大人しくしているのかね?

 

「ちょっといいか?」

「塚内か。どうした?」

「実は、彼がやってきてね……」

「ど、どうも……」

 

 どうやら、ギリギリでピースが整ったようだ。

 

 

 

 壊理(こころ) 少し時間は巻き戻る。

 

 

 

 痛みで目が覚める。両手と両足が痛くてほぼ動かない。

 

「ヤッホー、壊理ちゃん。玩具で遊んでないね。何か欲しいものはないかな?」

「……あ……」

「ん?」

 

 両手を伸ばして頬っぺたにふれる。

 

「アナタが欲しい」

「え?」

 

 好感度と罪悪感、信頼感を最大値に。組織に対する信頼感を最低に。死穢八斎會(しえはっさいかい)などへの感情を最低にし、ヒーローに対する感情を最大にしてから、指示を耳元で呟いてあげる。

 

「壊理、どうやらそいつを気に入ったようだな」

「っ!?」

 

 やばい。すぐに感情を操作して、壞理ちゃんから読み取った感情値に戻す。でも、現状は同時発動している"個性"が二つなのでまだなんとかなる。三つで危険。四つ目からは異形になる。五つ目からは身体が崩壊する。三つ目からは瞬間再生を入れないと絶対に駄目。オール・フォー・ワンは同時にすくなくとも十個以上の"個性"を同時発動していた。本当に化け物だと思う。感情を操作する"個性"から巻き戻す"個性"に変更する。変身する千変万化の"個性"は外せない。

 

「……あ……」

 

 ガタガタと震え、壊理ちゃんに成り切る。

 

「サンプルがたりねえ。来い」

「あの……」

「なんだ?」

「いえ、今の間に子供が好きそうなお菓子とか買ってきてもいいですか? ご褒美があった方が子供は喜ぶでしょう。終わったらアイスとか、ケーキを食べさせてらいいと思うんですが……だめですかね?」

「ああ、なるほど。構わない。だそうだ、頑張れるか?」

 

 こくこくと頷く。

 

「良い子だ」

 

 連れて行かれ、手足どころから身体のほとんどが捥がれて、オーバーホールされた。

 

「? なんか変な感じがしたが……まあいいか。元の壊理になるように治せばいい」

 

 怖い怖い怖い痛い怖い怖い痛い痛い怖い怖怖い怖い怖い痛い怖い怖い痛い痛いい怖い痛い怖い怖い痛い痛い怖い怖い怖い怖い怖い怖い痛い怖い怖い痛い痛いい痛い怖い怖い痛い痛い怖い怖い怖い痛い怖い怖い痛い痛い。

 タスけて、助けて助けて、苦しい辛いっ、いやっ、いやぁあああああああぁぁぁぁっ!

 

 

 

 

 




 こころちゃんの思惑。変身して壞理ちゃんは逃がしつつ、証拠の確保とタイミングを見計らってオーバーホールを回収したらいいよね。勝とうと思えば勝てるし、"個性"を使えばなんとかなる!(慢心

 結果:壞理ちゃんの演技のために感情もすべて先に助けた時と同じにする。
 その状態で全身オーバーホール。やったね、こころちゃん! 若返ったよ! なお、記憶の錯乱など当然おきます。


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7話

短い。次が本番。オーバーホール難しい


 

 

 

 

オーバーホール / 治崎廻(ちさき かい)

 

 

 思ったよりもかなり早かったが、英雄症候群のヒーロー共がやってきたようだ。だが、こういう時のために対策もしてある。鉄砲玉として八祭衆を用意した。奴等が時間を稼いでいる間に壊理もろとも全て運び出して隠し通す。

 

「壊理、移動するぞ」

 

壊理の部屋に入ると、壊理はベッドの上で表情が抜け落ち、虚ろな瞳をしていた。オーバーホールにミスったのか? だが、今は考えている暇はない。

 

「来い」

 

腕を掴んで抱き上げ、補佐であるクロノに渡す。二人で歩きながら途中で(ヴィラン)連合の連中にも指示を出し、ヒーロー共の足止めをさせる。その間に必要なデータは持ちだし、それ以外は全て処分する。

 

 

 

 このまま逃げられるかと思ったが、邪魔が現れた。そいつはこの間、出会ったヒーローの見習いだ。振り返って話を聞きながら、天井を確認する。

 

「少し話を聞かせてもらってもいいですか?」

「あの時の学生か。やはり来たか……しかし、すぐに来れる道ではないはずだが?」

「近道したんで……その子を保護させてもらいます」

「あの時は見捨てたのに事情がわかったらヒーロー面か、学生さん。壊理は保護されることなんて望んでいない。この子にとってお前はヒーローじゃないんだよ」

「だから来た」

「伝わらないならいい。死ね」

 

八祭衆の二人。酒木と根本に任せればいい。俺達は先に行く。歩いている最中に根本が吐かせた奴の"個性"は透過。それでここまできた理由がわかった。

迫ってくる感覚に振り向くが、すでにおらず横に一瞬で現れていた。

 

「治崎!」

 

身体を仰け反らせることで攻撃を回避する。しかし、同時に壊理ごと蹴られてクロノが吹き飛ばされる。壊理だけは透過させたようだ。

 

「……ぁぅぁ……」

「お前、この子になにをした」

「……」

「答えないか。まあいい。どちらにしろ、この子はもう決して悲しませない。俺がこの子のヒーローになるから!」

「汚いな……戻ってこい壊理。どうせお前は人を壊すように生まれてきた」

 

汚い血を拭いながら、壊理を見る。壊理は相変わらず無表情で俺とアイツを交互に見ているだけだ。何かがおかしい。

 

「お前の行動一つ一つが人を殺す。呪われた存在だ」

「自分の子になんでそんな事が言えるんだ!」

「俺に子などいない」

 

壊理の反応は変わっていない。恐怖を感じているようだが、迷っている。まあ、いい。地面に素手で触れて分解し、無数の杭として修復する。壊理ごと攻撃したが、アイツは胴体を投下させて杭を防ぎ、壊理を持ち上げてダメージを防いだ。どうやら、"個性"だけじゃないようだ。どちらにせよ、今の修復で逃げ道は塞いだ。周りに厚い壁を作ったからな。

 

「この子ごと……」

「どうせ治せばいい。この状況下では壊理が怪我したら、治せるのは俺だけだ。抱えたままじゃ透過で逃げられない。俺と戦うか?」

「その"個性"もコイツを撃ち込まれりゃ、消えちまいやす」

「壊理を狙え」

「了解」

 

クロノが拳銃で"個性"を壊す銃弾を放つ。奴はマントを身体に撒きつけるように回転してずらした。そのまま壊理を置いてクロノを殴り飛ばした。地面を透過しているから、壊しても意味はない。ここは壊理を攻撃する。

 

「確かに治崎、お前は強い。だけど、俺の方が強い!!」

 

背後から壊理を攻撃する前に殴られる。だが、まだ手はある。懐から弾丸の入ったケースを根本に投げる。

 

「撃てっ!」

 

壊理に向かって連続して撃たれた二発の弾丸は奴が割り込んで自ら一発を喰らった。残った先に放たれた一発はそのまま壊理に命中した。だが、これは壊理にとっては問題ない。そもそもが壊理の細胞であり、"個性"なのだから。そのはずだ。

 

「なんだ、なにが起きている!」

 

壊理の身体が変化していく。

 

「っ!?」

 

クロノの身体が投げられ、受け止めてオーバーホールする。すると瞬時に接近してきた奴に殴られる。腕でガードしたが、少し吹き飛ばされる。

 

「相手をよく見て動きを予測するんだ! 何もこれまでの全ては無駄になったわけじゃない! 俺は依然、ルミリオンだっ!」

 

手で触れようと迫るが、蹴り飛ばされる。バク転の要領で地面を串刺しにする。変化する壊理を攻撃すれば、ヒーローは守る。奴もそうだ。脇腹を杭で貫かれた。

 

「ヒーローになりたかったか、壊理を助けたかったか、ルミリオン」

「いいや、違うね。俺が助けたのはこころちゃんだ!」

「なに? 壊理……」

 

壊理の姿をみると、髪の毛の色がピンク色のロングヘアに、同じ色の瞳と睫毛へと変化していく。

 

「どういうことだぁああああああああああああぁぁぁぁっ!?」

「勘違いしているようだから言ってやる。俺達が助けに来たのは壊理ちゃんじゃない! 自らを身代わりにして壊理ちゃんを救い出したヒーローの仲間を助けにきたんだ! 最初から壊理ちゃんはすでに保護されている! つまり、お前の計画はすでに潰えているんだよ!」

 

信じられない言葉に思いだす。そして思いだした。霧のせいで一瞬、壊理とぶつかって話していた壊理とあの餓鬼を見失った。あの時に入れ替わったのか。そして、すでに壊理は俺が手を出せないようなところに保護したと。なんだ、つまり俺の計画はあの餓鬼に粉々にぶっ壊されたと……

 

「ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 

湧き上がる怒りに叫び声をあげると、横の壁をぶっ壊されて出て来た奴に殴り飛ばされる。

 

「ナイトアイ、確保を!!」

「後ろにいます! でも、攻撃を受けて"個性"が……」

「凄いぞ……凄いぞルミリオン……」

 

地面に手をつけ、"個性"を発動させる。だが、発動しない。

 

「いい加減にしろよ、お前らっ!!」

「ルミリオンがここまで追い詰めた。デク、このままたたみかけるぞ!!」

「起きろクロノォッ!!」

「っ!? デクっ!」

 

 クロノが"個性"を発動させ、大人のヒーローを串刺しにする。これで"個性"が使えるようになった。分解し、再構築して串刺しにしてやる。だが、これだけじゃ足りない。根本を自らに取り込むようにオーバーホールし、融合させる。俺と共に行こう。こいつらを皆殺しにしてやる!

 

 

 

 

 

 



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8話

たぶん、これで少しはわかりやすくなったと思います。


 

 

 気が付いたら空に光る星々に照らされた世界に一人だけで立っていた。周りを見渡せばなにもない。考えてみてもどうしてここにいるのかわからない。そもそも私が誰なのかもわからない。

 不思議に思いながら、足を進めようとする。するとパキッという音と共に足の裏になにかを感じた。

 しゃがみ込んで踏んだ物を手に取って確認してみる。それは手に持つと次第に弱く光りだしてくる。

 

「……お面……?」

 

 拾ったのはお面の欠片だった。それがいっぱい地面に転がっている。よくわからない。でも、大切な気はする。そう思いながら掲げて首を傾げたり、齧ったり、舐めたりしてみる。特に変化はない。色々と試していると、こちらに駆け寄ってくる気配を感じて振り返る。やって来たのは腰近くまである白い髪の毛で赤い瞳。頭の右側に茶色味掛かった角がある仮面をつけている小さな女の子。彼女の服装は色味のないボタン留めのワンピースで、手足にはびっしりと包帯が巻かれている。彼女にはどこか見覚えがある。でも、それが誰かはわからない。

 

「……お姉ちゃん……大丈夫……?」

「……誰……?」

「……覚えて、ないの……? えりだよ? お姉ちゃんが助けてくれた女の子の"個性"……」

「……うん……覚えてない……」

「……記憶も、壊れた……? 再構築、されたから……?」

 

 よくわからないけど、大人しく待っている。お姉ちゃんと言われたから、姉妹なのかもしれないし。暇なので他の欠片も拾ってみて、重ね合わせてみる。ピッタリと合わさったけれどなにも起こらない。

 

「……? それ、なに……?」

「……これ、落ちてた……仮面……?」

「仮面……変な形」

 

 確かに凹凸がいっぱいあって、普通の仮面じゃない気がする。というか、仮面だと認識できるのはおかしな感じだと思う。水晶とかそんな感じなのに。

 

「これ、戻してみよう」

「ん。でもなにも起きない」

「数が足りない? 違う、力が弱い……戻してみる」

 

 えりちゃんが力を発揮すると、目の前が真っ白になっていく。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 小さな黄色い園児の服を着たピンク色の髪の毛の女の子が楽しそうに他の同じ年くらいの子供と遊んでいる。なんだか楽しそうに見える? 楽しそうってなんだろ?

 映像を見ていると、大人の人が迎えにきて金髪の男の子と一緒にお外へとでていく。男の子は大人の人と手を繋いで歩き、女の子は背負われている。そんな状態で進んでいると前からやってきた白い車が横から飛び出してきた車にぶつかって三人のところに飛んでくる。

 三人は無事だったけれど、ぶつかってきた車からでてきた人は腕が筒のような物になっていて、そこから礫を放ってくる。三人が必死に隠れていると、その人達は白い車の中の人を殺して、積んであった銀色のケースを持って別の車に乗ってどこかへと走っていった。

 白い車から血塗れの人がでてきて、三人の前で倒れる。それはピンク色の子供に覆いかぶさり、彼女の顔や身体が真っ赤に染まっていく。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 気が付いたら元に戻っていた。手に持っていた仮面は手の中にある。これはまだ欠片だとわかるし、さっきのが私の記憶だとも理解できた。

 

「大丈夫?」

「うん、大丈夫」

 

 私に抱き着いてこちらを心配そうに見上げてくる壊理ちゃん。とっても可愛いくてつい頭を撫でてしまう。すると安心したのか、微笑んでくれる。

 

「よかった……どうだった……?」

「これ、記憶がみれた」

「なら、集めよ……?」

「ん」

 

 とりあえず、集めてみる。ただ、結晶体みたいな奴以外にも仮面の欠片がある。こっちは普通の仮面だった。今はまず結晶体のほうを集めることにする。記憶がないのは嫌から。

 暗い中、壊理ちゃんと一緒に仮面の欠片を拾い集めて合わせてみる。今度の仮面は明るい感じだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 家族と一緒にテーブルの上にある豪華な料理とケーキを囲んで先程の小さな女の子が蝋燭の火を吹き消していく。それから渡されるプレゼントの一つにあるぬいぐるみに頬っぺたを擦りつけていく姿がある。

 そのあと、兄と母とお風呂に入り、家族四人で一緒のベッドで眠る。女の子の手には熊のぬいぐるみが握られていた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 結晶体の仮面が大きくなった。これは私の記憶で間違いない。私の成長の記憶だと思う。じゃあ、別の仮面はなんだろう?

 

「えりちゃん、これ何……?」

「これはえりと同じ、"個性"の人だよ」

「"個性"の人?」

「私達は"個性"に残る持ち主の記憶や感情でできた残留思念って奴なの!」

 

 指を立てて胸を張りながら説明してくれる壊理ちゃんは背伸びしている感じで可愛い。

 

「そっか、ありがとう。後回しでいいかな?」

「いいと思うよ」

 

 拾い集めていくと、中にはなんだか嫌な予感がする結晶体の仮面の欠片があった。それも拾ってみる。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 今度は車を襲った奴が目撃者を消しにきて一緒にいた友達やその両親が目の前でキメラ(ライオンに蛇の尻尾、グリフォンの下半身の姿に変身した奴)に食べられた。次に狙われ、口に入れられて噛まれる瞬間にお兄ちゃんが身を挺して私を助けようとしてくれた。でも、相手に腕を振るわれて吹き飛んでいって全身から血を出していた。

 泣きわめきながら、お兄ちゃんの下へと向かおうとすると爪で捕まれて上に放られる。そして、口を大きく開けて私を食べようとしている。口の中は血だらけで友達の一部が歯に挟まっている。口の中に落ちていき、牙が迫ってくる。その時、筋骨隆々な人がきて吹き飛ばして助けてくれた。それから、お兄ちゃんが無事だと知ってほっとしたのか気絶した。

 その後は気絶して病院に連れていかれ、なにもかも忘れていた。同時に前とは違うような人格になっている感じがした。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「顔が真っ青だけど、大丈夫?」

「うん、大丈夫、大丈夫……」

 

 不思議と身体が震えてくる。何故かわからないけれど無性に寒い。思わず身体を抱きしめると、その上から壊理ちゃんが抱き着いてきた。

 

「これであったかい……?」

「うん」

「よかった。それと怖がらなくても大丈夫だよ……ここにはえりも、他の人もいっぱいいるから」

「……うん……」

 

 壊理ちゃんに抱きしめられてから少しして、お礼をいうとにぱぁと笑ってくれた。小さな女の子に抱きしめられると、何故か顔が真っ赤になる。これ、なんの感情だろうか? わからない。とりあえず、一緒に次の仮面を集めて記憶を見る。それにしてもなんだか、ほぼ球形の結晶体になってきた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 一人の女の子が"個性"に覚醒し、最初とは別の幼稚園で崇められていた。前のことは覚えていないみたいだけど、なにかを感じているのか、別の記憶を思いだしたのか、言動が変わり、"個性"をひたすらなりふり構わず鍛えるようになった。お兄ちゃんもそれに触発されたのか、一緒に頑張って鍛えだした。

 

 そして時は経ち、暴れ狂う(ヴィラン)とそれを止めるヒーローの激しい戦いが終わった瞬間、(ヴィラン)の方の"個性"をこのために鍛え続けていたお兄ちゃんがコピーして奪い、それを妹に与えた。

 

 妹はアメリカに渡り、"個性"を集めていった。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 無数の仮面を集めて記憶の断片を見ていくと、わかったのは私は感情を操る"個性"と"個性"を集め、与える"個性"を手に入れたこと。そして、沢山の"個性"、仮面を集めたこと。

 

「これで完成?」

「多分……?」

 

 目の前には球体の結晶体がある。でも、これで完成とは思えない。なんだか、仮面の一部なような気がする。

 

「でも、他に結晶体の欠片はない……」

「なら、仮面を直したらいいと思うよ」

「それもそうか」

 

 ここにある仮面はそれぞれ持ち主だった存在の記憶もあるみたいだし、頑張って直していこう。壊れたままだったら可哀想だし。可哀想ってなんだっけ?

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 壊理ちゃんと一緒に仮面を直すと、私だけが別の場所に飛ばされた。

 

「おや、君は迷子なのかな?」

 

 記憶を見るはずが、スーツ姿の男性から声をかけられた。この仮面はやっぱり私の物じゃないみたい。多分、この人が仮面、"個性"の残留思念なのかな?

 

「……わからない……」

「そうか。それは困ったね。ふむ、疲れているようだし休憩してはどうだね? 僕とお茶をしようじゃないか」

「お茶?」

「ああ、そうだ。駄目かな?」

「いい」

「それはよかった」

 

 すぐにテーブルと紅茶が用意され、コップを渡される。それをちびちびと飲みだすと、周りの景色が変わってリアルな映像が映し出される。まるでその映像の中に入ってその人達と一緒に体験するみたいな感じ。このストーリーは"個性"を持つ兄と"個性"を持たない弟のお話。

 

「これは僕の記憶だ。解説してあげるから一緒に見ようか。その方が君も使いこなせるようになるだろう。僕としてもどうせなら使って欲しいからね。だからこそ、現状は受け入れられない。君が本来持つ"個性"ばかり使っているしね」

「ん」

 

 不老になり、裏社会の魔王となった兄とその兄を止めるために力をストックする"個性"と譲渡する"個性"を合わせた弟の後継者達の戦い。

 

「君は僕の後継者ではなく、(オール・フォー・ワン)になれる。一緒に魔王を目指さないかい? 君の"個性"があれば、なんだってできるんだ」

「自分では目指さない?」

「それを君が言うのかい? オリジナルから僕を奪っておいて?」

「そうなの? そうなのか」

 

 確かにこの人のオリジナルから"個性"を奪った。なるほど、確かにこの人の言う通り、私がなるべきなのかもしれない。

 

「そうだよ。まあ、捕まっちゃったわけだし、別にいいんだけどね。それにすでに僕は君だ。僕達は一つになったのだから」

「怒ってない?」

「怒る? ありえないね。君は長年、僕を奪う計画を立てて見事に実行した。僕が全く動けない時を狙い、この時以外は成功しないと断言できるほどベストなタイミングで奪っていった。これはとても素晴らしいことだ。僕とオールマイトを出し抜いて自ら僕の後継となったんだから」

「違う。それは私じゃない」

「いいや、君さ。記憶を失くし、感情を失くそうともね。むしろ、魔王には感情がない方がいいかもしれないね。僕はそれで失敗したのだから」

「ん、わかった」

「そうだ。良い子だ。と、言っても君の好きにするといい。僕はここから見ているだけだ。今は他の"個性"を直し、彼等の記憶を旅してくるといい。それが僕達を使いこなすためには最低限、必要なことだからね」

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 元の場所に戻った。手にはしっかりと修復された禍々しい仮面が握られている。じーと見詰めていると、ぽふっという音がしそうな感じで壊理ちゃんが抱き着いてきた。

 

「大丈夫、でした?」

「うん、お茶をもらった」

「いい人だった……?」

「わかんない。ただ、仮面を直して"個性"に残った記憶を旅してくるといいって教えてもらったよ。手伝ってくれる?」

「ん。もちろんだよ」

 

 壊理ちゃんと一緒に散らばっている仮面の欠片を拾い集めようとしたら、手に持つ仮面が邪魔だと思った。すると仮面が勝手に浮かび上がって周りを漂いだした。よくみるとさっきの結晶体も浮いている。これで両手は空いたのでいっぱいある欠片から二人で一生懸命に合わせて正解を探していく。数えてみたら全部で三千百九十三個も欠片があるのでとても、とてもつらい。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 次に完成したのは仮面は狐の仮面。その人は千変万化の"個性"を持つ女性で、稀代の詐欺師だった。狐の獣人に化けたその人の(ヴィラン)名は玉藻。その名の通り、千の姿を持つかのように自由自在に化けられ、能力もそれに準じる。"個性"こそないけれど、身体能力などはそれと同じ。物にすら化けられるのでとてもすごい"個性"。

 

「いらっしゃいませ、お嬢さま♡ わらわ自らが歓迎してあげるわ♡」

 

 チャイナドレスのようなレオタードみたいなぴっちりとした白い服を着て羽衣みたいなのを持った、絶世の美女と呼ばれるにふさわしい人が迎え入れてくれた。彼女の尻尾は九本もある狐、白面金毛九尾を擬人化した綺麗なお姉さんが待っていた。

 

「ささ、お話ししましょう? 大丈夫、少しだけ身体を借りるだけですわ♡ 大丈夫、なにも問題ありませんの。ホ―――ッホホホホホホホ♡」

「帰る」

「待って、待ってくださいまし!」

 

 縋り付かられたので、仕方なく一緒に映像を見ていく。するとこの人も古くから生きていて、時の権力者の妻となり、利用して色々とやったみたい。特に策謀とかが好きて、五桁に及ぶ人が犠牲になっている。間接的にはもっと犠牲者がいる。中国にいたらしいけれど、見付かって敗北してアメリカに逃げてきたみたい。そこで同じようにしようと思ったら、あちらか連絡がきていてヒーローや政府の人達と皆で騙して捕らえられた。本人はタルタロスみたいなところに入れられても逃げおおせる自信があったみたいで、余裕綽々で残っていた。でも、前の私が入ってきて"個性"で感情を操って大好きにさせ、色々と余罪を吐かせた上に"個性"を奪われて今はもうどうしようもなくなった。"個性"がなくなり、姿を維持できなくなったのか、そのままおばあちゃんになったらしい。つまり、この人はさっきのお兄さんと同類だった。あっちの方が悪だったけど。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あんな風になっちゃ駄目だよ?」

 

 あったことを伝えていくと、壊理ちゃんも仕切りに頷いてくれた。

 

「お姉ちゃんもだよ?」

「う~私も?」

「うん。だって、お姉ちゃんはえりのヒーローだもん」

「そっか、そうだよね……」

 

 抱き着いてきて頬擦りしてくる壊理ちゃんの頭を撫でながら可愛がっていく。その後、二人でお話ししながら直していく。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 次の仮面はまた違った。こちらは正義の味方(ヒーロー)を目指していた人だった。その人の"個性"は放射性分裂光(ガンマ・レイ)を持っていて、正義のために、より多くの人を助けるために少ない人を犠牲にし、沢山の人を殺してきたみたい。

 英雄と詠われていたけれど、次第にそれは理解されないようになっていき、投獄された。

 

「私は彼に憧れ、大を生かすために小を殺し続けた。その結果、3812人をこの手で斬って捨て、さらに大量の人を"個性"で薙ぎ払った。私の"個性"を使うなら気をつけろ。被害は尋常ではないぞ」

「ん」

「そして、なによりあの二人、狐とオール・フォー・ワンは絶対に信用するな。奴等は君を魔王に仕立て上げるつもりだろう。だが、そうなれば孤立し、一人になる。君の大事な兄は君から離れ、奴の弟のようになるだろう。それは不幸なことであり、どちらも幸せになれない。それとも、君は兄のことは嫌いか?」

「……わからない……でも、一緒にいたいとは思う……」

「感情はまだ戻らないか。だが、その気持ちは大切な物だ」

「わかった。大事にする」

「それと油断と慢心は駄目だ。常に鍛錬を続け、限界を超え続けるんだ。諦めそうになったら、まだだ! と唱え、できると信じ、何が何でも達成してみせると心に決めて挑めばいい。特に君の"個性"とならば相性は抜群だ」

「やってみる」

「ああ、それでいい」

 

 軍服を着て刀を振るい続けた彼はあの人と同じく、身体はぼろぼろで監獄の奥深くに収容されている。心は壊してある。聞くことは聞いたから、ただ安らかに眠るようにしてあるみたい。

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 さっきの軍服のお兄さんについても壊理ちゃんに話す。

 

「行き過ぎた正義はだめ……?」

「そういうことなのかな……?」

 

 二人そろって地面にぺたんと座りながら不思議そうに小首をかしげる。同じ身長なので、可愛らしい顔もみれる。いや、少し私の方が上になった? 誤差だけど。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 次の仮面は火の海だった。その人は瞬間再生の"個性"を持つ人。白い髪の少女で家族を政治家やその政治家と繋がっていたヒーローに奪われ復讐に命を賭けた。そして復讐相手の一族郎党を皆殺しにしようとした結果、街一つを燃やし尽くして逮捕された不死身の人。

 

「おい、お前、私と遊べ。ここは退屈だ」

「ん、遊ぶ」

「久々に楽しませてもらおう」

 

 遊びは炎のボールを蹴り合って焼き尽くされたら終わり。互いに瞬間再生の"個性"を使っているので大丈夫。

 

「いいか、炎は友達だ。だが、操るのを失敗したら私みたいに大惨事だ。くれぐれも気をつけろよ。もっとも、私はもうぶっ殺してやったから気にしていないがな」

「ん、了解」

 

 実際、火事で街一つを焼き尽くした彼女は死刑になるはずが、殺せないので投獄された。イレイザーヘッドを呼ぼうかどうかということまで検討されたが、ヒーローに殺害させるのはどうなのだということで、そのまま投獄されている。また、彼女の口から語られた理由が理由であり、そういう扱いになった。カウンセリングを施し、"個性"が消えたのなら名前や顔など戸籍も含めて変更し、監視下であるが、普通の生活を送れるようにする予定らしい。

 

「こんなこともできるぞ」

 

 炎で動物を作ってくれる。リクエストすればいろんな物を作ってくれた。芸までやってくれた彼女はいい人。

 

「あと、狐は胡散臭いから信じるな。それとあの青年は……自分達のことを投影してお前達で試すつもりだ。だから、言う事は半分聞いて、他は流しておけ。あくまでも、お前がどうなりたいかによる。それを忘れるな。常に考え続けろ」

「考える」

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それからも自分の記憶と"個性"の人の記憶をみて、仮面を集めていく。中には襲ってくる人もいたので、必死に逃げたり、応戦したりして仮面を手に入れていった。でも、ほとんどの人が好意的だったりする。皆、監獄の中は退屈していたみたいで、使え、もしくは身体を寄越せと言ってくる。そういう人はやっぱりいる。

 

「ふぅ~やっと、集まってきた」

 

 無表情でガッツポーズするぐらい、周りにはいっぱいの仮面が浮いている。私が集めた大切な仮面達。その仮面を使って一つの仮面を作り上げる。その中心に丸い結晶体をはめ込むと完成した。最後の人は決まっている。

 仮面が光輝き、仮面からでた光が人の形をして頭に仮面が装着される。

 

「我こそは物間こころ。よくわからないけれど感情を司る者。私だけは知っている。実はこの中にドッペルゲンガーのオカルト持ちがいる事を」

「それはもう終わった。ドッペルゲンガーは千変万化の人」

「お姉ちゃんが二人……」

 

 今度は現実(?)なので壊理ちゃんもいる。

 

「自分が二人……こういう時はどういう表情をすればいいのかはわからない……」

「私達の感情は制御が狂い、壊れている。だから、治さないといけない」

「どうすればいい……?」

「決まっている。私と最強の称号を賭けて戦え! 違った。どちらが本物の物間こころか、証明するために戦え! 融合すれば自ずと治るであろう!」

 

 目の前のこころは虚空から光の薙刀を生み出した。私も同じように放射性分裂光(ガンマ・レイ)を薙刀の形にして構える。すぐに駆け抜けて薙刀を振るう。でも、あっさりと避けられてカウンターで身体を吹き飛ばされた。瞬間再生の"個性"で火を纏いながら復活する。すぐに突撃するけれど、転ばされて刺される。

 

「ふぎゃっ!?」

「ふふふ、なっていない。そんなのでは私に勝てないぞ!」

「お姉ちゃん達、頑張って!」

 

 壊理ちゃんはどちらも応援してくれるみたい。どちらも私だし、しかたないね。

 

「むぅ……こうなったら、こう」

 

 仮面を掴んで彼を憑依させ、お願いする。すると私の服装が軍服に変わっていく。

 

「"個性"は"個性"に任せるのが一番」

「卑怯なっ!」

「我は気付いた。この戦い、絶対に勝たなけばいけないと」

「気付くの遅いぞ!」

「というわけで、お願い」

「了解した」

 

 仮面から声がして、私の身体が勝手に動く。遥か前から振るわれる薙刀は極光の光線を放ち、全てを焼き払う。その光は防ぐことができず、透過して肉体にダメージを与える。でも、残っていた仮面から復活してくる。私にはこんなことはできない。精々が薙刀で斬るくらい。

 

「肉体的ダメージなど、我には無意味、無駄、無価値なのだ」

 

 相手の薙刀を薙刀で受け止め、全力で戦う。瞬きする前に五回も攻撃し、弾かれる。同時に相手が扇子を振るって炎を放ってくる。

 

「まだだ!」

 

 炎ごと光線で消し飛ばし、復活する前に仕掛ける。でも、その前に小さな姿で飛び上がり、瞬時に大きくなってこちらに九本の尻尾で攻撃してくる。

 

「ふははは、お前では絶対に私に勝てない。物間こころではな」

「……なら、最終手段。えりちゃん、お願い」

「……ん……」

「卑怯な!」

 

 取り出したるは壊理ちゃんの"個性"の仮面。失う前の私が借りている"個性"。つまり、巻き戻せばいい。

 

「……?……」

「えりちゃん?」

 

 壊理ちゃんは一点を見詰めていた。そこには映像が現れていた。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……ぁぅぁ……」

「お前、この子になにをした」

「……」

「答えないか。まあいい。どちらにしろ、この子はもう決して悲しませない。俺がこの子のヒーローになるから!」

「汚いな……戻ってこい壊理。どうせお前は人を壊すように生まれてきた。お前の行動一つ一つが人を殺す。呪われた存在だ」

「自分の子になんでそんな事が言えるんだ!」

「俺に子などいない」

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 外の映像みたい。変化した私が捕まっていて、連れていかれそうになっている。そんな中、私を一度は見捨てたヒーローが助けにきてくれた。彼は私ごと殺そうとしてくる相手と戦い、奪い返してくれる。私のために必死になる彼の姿はとてもカッコイイ。それはまるでお兄ちゃんみたいでヒーローに間違いない。

 

「頑張れ」

「頑張れー?」

「……あ……」

 

 私と私と壊理ちゃんの三人で観戦していると、放たれた弾丸の二発の内、一つが間に合わずに私に命中し、もう一発は彼にあたった。それはどうやら"個性"を巻き戻して壊す"個性"で……周りの仮面が割れた

 

「あっ、あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」

 

 集めに集めた仮面が粉々になってぐちゃぐちゃになった。どんなものか把握はできないけれど、とってもいっぱいある。多分、五桁は超えている。

 

「こふっ」

 

 目の前の私も血を吐いて倒れ、ひび割れていく。

 

「くそぅ……絶対に気付かれ、なければ勝てたのに……後は、まかせ……」

 

 ぱたんと倒れて身体が消え、残されたのはパキンッと砕かれた仮面の破片だけ。なんだか水滴が頬っぺたを伝っていく。

 

「お姉ちゃん……大丈夫。なおるよ……?」

「えりちゃん……?」

 

 壊理ちゃんは無事だった。元々壊理ちゃんの"個性"だから無事だったのかもしれない。そうじゃなければ私はもう終わっていた。言われた通り、慢心と油断は絶対に駄目だと思う。

 

「一緒になおそ?」

「う、うん……」

 

 水滴を流しながら、壊理ちゃんと二人で一つ一つ直していく。大量にあるそれらは何が何がわからない。でも、一つ一つ整理していくと新しい仮面ができる。壊れた仮面同士がくっつけた場所から融合していった。むしろ、前のは絶対にできない。だって1582324もあるもの。

 

「まぜまぜ、まぜまぜ」

「合成、あった」

「……くっつけるー」

 

 合わないのはどうしてもあるので、他のと合わせて仮面を作っていく。壊理ちゃんが無事で本当によかった。

 最終的に完成したのは直径約10センチメートル(4インチ)程のほぼ球形の結晶体で、不揃いな大きさの切子面を数多く備えている。色はほぼ漆黒で、ところどころ赤い線が入っている。多面体の仮面といっぱいの仮面。この多面体の仮面が物間こころの物。色々と混ざったけれどきっと大丈夫。

 

「……噛んでも舐めても、咥えてもなにもおきない。どうしよう?」

「……仮面だから、かぶるとか……?」

「なるほど」

 

 もしかしたら、気付かれなければ絶対に勝てないというのは、仮面を攻撃するか、被らないといけなかったのかもしれない。仮面は残ってたし。

 

「おっ、おおおお。なんだか力が湧いてくるー」

「よかったね」

「うんーでも、使い方がわからないー」

 

 直し終わったけれど、感情がわからないのでそれがどう働くとかがわからない。なので外にいる奴を見ることにする。するとなんだか身体の奥底からふつふつと何かが湧き上がってくる。それは仮面達も一緒みたいで、全会一致でこれからやることが決まった。たとえ相手がなぜか知らないが叫んでいても関係ない。やられたらやり返す。瞬間再生の"個性"と放射性分裂光(ガンマ・レイ)を合わせたゲヘナの炎で焼き尽くしてやれ。ってみんなが言ってた。

 

 

 

 

 




壞理ちゃんは大天使

こころちゃん
記憶はなんとかもどってきているけれど、封印した記憶もみた。感情はほぼなくなり、理解できなくなっている。

壊れて合成され、再構築されたのでペルソナをしゅうと……げふげふ


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9話

先に謝っておきます。ごめんなさい。


 

 

 

 

 

 

 荒い息が聞こえてきた。意識を覚醒させる。目の前には身体の中、精神世界で見た金髪のお兄ちゃんの一人が涙を流しながら、私の手を引いて通路を壁に手をつきながら歩いている。身体はぼろぼろで、もう限界みたい。なぜぼろぼろになってまで頑張るのかは全然わからない。

 

『わからなくていいよ。彼等は愚か者だからね』

『そうですわ』

『いや、駄目だろ』

『ヒーローだからこそ、命を賭けて頑張っているんだ。君を助けようとしている。しかし、この程度では駄目だな。もっと限界を超えねば……』

『いや、見た限りだと肋骨は折れているし、血液も大分失っているのだが……』

『どうとでもなる。決めたのならば成し遂げるだけだろう』

『『一理ある』』

『ないわよ♡ それ超越者だからこそいえるだけなのよん?』

 

 いつの間にか周りに青い炎を纏いながら浮かびだした四個の仮面が好き勝手に言ってくれる。

 

「こころちゃん……身を……隠し……後続を、待つんだ……! 大丈夫、何十人って人が、君を助けようと動いて……いる……だから、君は大丈夫だ……」

 

 隠れる? 隠れて待てばいいの? でも、それは駄目だよね。決めたもん。ヒーローのお兄ちゃんはここにおいていっても大丈夫だと思うし、いこう。

 

「壞理の偽物っ! お前のせいでこいつらが、一般人が大勢死ぬ! 壞理を取り戻すまで俺は止まらないっ! 戻ってこいっ! そうしたら貴様だけで許してやるっ! それとも大量に人が死ぬのが望みか!」

 

 声が聞こえてきて、身体の底からわからないものが湧き上がってくる。身体が勝手に震えて歯がガチガチと鳴って涙がでてくる。

 

「大丈夫、だ。君は俺達が守る、から! 君のヒーローになるんだっ!」

 

 抱きしめられ、震えが収まってくる。

 

「……わかった……」

「よかった。じゃあ、隠れ……」

「ばいばい」

「え?」

 

 彼の手を離し、そのまま通路を戻っていく。

 

「まっ、待つんだっ! 行っちゃ駄目だっ!」

 

 通路を歩き、光が漏れている明るい場所にでる。そこは地面が割れて無数の杭や崩れた瓦礫ばかりで歩きにくい。

 

「なんでっ! 駄目だ! 先輩と一緒に逃げてっ!」

 

 緑色の髪の毛の人がこちらに叫んできた。たしか、緑谷出久だったかな。彼の記憶で見た。

 

「……」

「流石は英雄症候群の病人。一般人の犠牲は許容できないか。なら、望み通り殺してやる」

「……? 望んでないよ……?」

「なに? こいつ一人でどうにかなると思っているのか?」

 

 白いスーツ姿の人は死にそうで、もう一人の人も死にそう。上で何かしているみたいだけど、どうなるかわからない。

 

「思わない……」

「なら、お前はどうするべきだ?」

「……倒す……? お前、許さない。バラバラにした……」

「ほう。俺もお前を許せない」

「……そう……」

「ああ、だから死ね」

「駄目だっ、僕が相手をする!」

「黙ってろ」

「……逃げるんだっ! 彼女をたたかわせてはっ、ごほっ!?」

「サーっ!」

 

 血を吐いて必死に止めようとしながら近付いてくる人。私はそれを無視して宙に浮かびながら、互いに仮面をぶつけあってる中から一つを手に取り、それを右の頭につける。装備した仮面はマスクみたいな機械みたいな仮面。

 

「『ふふふ、ふははははははははっ』」

「なんだ? この声、聞き覚えが……」

「狂ったか?」

 

 私の声と同時に仮面からしっかりとして声が聞こえる。それは青年の声ではなく、機械の合成っぽい変な声。

 

「『狂った? ああそうだね。狂ったよ。君のお蔭だ。感謝しよう。何故ならこれで僕は復活でき――あいたっ!?』」

 

 みると、他の仮面が彼の仮面をげしげしと叩いてきている。

 

「『嫉妬は見苦しいぞっ!』」

『黙れっ、貴様などにやるわけないだろう!』

「五月蠅い、真面目にやれ」

 

 仮面を掴んでペシンと地面に投げつけようとする。

 

「『待った待ったっ! わかったよ、真面目にやる』」

「皆も真面目にする」

 

 仮面達が頷いて大人しくなったので、改めてあちらを見ると怒り狂ったように地面に四本もある手を突き、分解と再構築を行ってこちらに杭を放ってくる。

 

「『ふむ。これは燃やすか? いや、彼の"個性"で吹き飛ばせば……』」

 

 身体が勝手に動いて手をむける。でも、何も起こらない。

 

「『君達、力を貸してくれないかな?』」

『『だが断る』』

「『ほう……いいのかね? このままだと大切な僕達の身体が傷付くが……?』」

「別にいい」

『ちっ』

 

 背中から炎が溢れでて翼を形成し、羽ばたいて距離を取る。

 

「馬鹿なっ、"個性"が二つだと!?」

「"個性"が二つ? それにあの声……まさかっ!?」

「『おや、気付いたかい? 緑谷出久。そうだ、僕だ』」

「まっ、まさかっ、オール・フォー・ワンっ!」

「『正解だ』」

 

 楽しそうに笑う彼が私の"個性"を使った。彼等の知らない感情を増幅したみたい。それだけで彼等は顔を真っ青にしていく。

 

「オール・フォー・ワン、これ、なに?」

「『教えてあげるから僕のことは先生と呼びなさい。これは恐怖と絶望だ。今、彼等にとってここは数十倍に高められた重圧が押しかかっている』」

「これが恐怖と絶望……覚えた。違う、思いだした」

 

 地面に這いつくばり、ガタガタと震える羽虫共とヒーロー。ヒーローまでやったのは何故かわからないけど、あの人は死にそうだからヒーローは解除して対象からはずす。

 

「『おや? 何故……』」

「ヒーロー、助ける」

「『むっ、そうか。いいだろう。物間こころがそれを望むのならば、僕はそれに応えよう。では、身体を本格的に操作させてもらうよ』」

「ん」

 

 身体が勝手に動いて、アイツ、オーバーホールの下へと歩いていく。

 

「オール・フォー・ワンんんんんんんんんんんんんっ!!!!!!!!!」

「『なにっ!?』」

 

 右の頬っぺたを緑谷出久に思いっきり殴られ、私は錐揉み状に吹き飛んでいく。杭をいくつも破壊し、壁に激突して腕が折れ、首が変な方向にいってとまった。

 

「お前にこれ以上、"個性"を奪わせ……あれ?」

 

 身体中からどばどばと血がでて意識が遠のいていく。身体が勝手に動いて身体中に痛みを感じる中、起き上がって頭を掴んで位置を調整していく。

 

『代われっ!』

「『ああ、頼む。かよわい少女の身体というのを忘れていたよ』」

『失策だな』

『これは手厳しい。ここまでもろいとは思わなかったんだ』

 

 お面が炎の翼があしらわれて白い可愛らしい仮面に変わる。同時に身体が炎に包まれて綺麗に()()()()()()()()()()、傷一つない綺麗な身体で再誕する。

 

「……はっ、はだかぁぁぁぁぁっ!?」

「『あー服までは作れん』」

『しかたないですわね♡』

 

 今度は狐の仮面になって身体が変化していく。狐耳と尻尾が生えて巫女服になった。

 

「何故、巫女服?」

「『趣味ですが、なにか?』」

「趣味なら仕方ない」

『『いいのか!?』』

 

 別にいい。それよりも今はわからない。なんで攻撃された? ヒーローなのに? ヒーローから攻撃された? ううん、なぜ、殺された? 助けにきたヒーローに? それにオーバーホールの味方をした。

 

『ああ、それはね……』

「……そうか、あのヒーローは偽物か……」

「え?」

「なら、排除しよう。英雄の仮面。敵を排除して……全力でやっちゃえ、正義の味方(ヒーロー)

『了解した。我が依代よ』

『あー服は維持しておいてさしあげますわ♡』

「『頼む』」

 

 私の口から男性の声が出る。そして、虚空に掌を突き出して握り込むと光の薙刀が出現する。

 

「『薙刀は使いずらい。刀でいかせてもらう』」

「好きにして」

 

 薙刀が二本の刀となる。そして、駆け抜けようと英雄さんが一歩を踏み出し、力を入れて――こけた。

 

「痛い」

『なにやってますの!』

『おいこら』

『これはない』

 

 あちら側も唖然としている。私は思わず涙目になりがら、震える声で呟いてしまった。

 

「『身体がひ弱すぎる上に身長もかなり下がっている。感覚が狂いすぎているのが原因か』」

『なら、アタシがやってやろうか?』

「『いや、必要ない。なに近接戦闘ができないのなら放てばいいだけだ。それに感覚が狂っているのなら適応させればいいだけだ。“勝つ” のは俺だ。それはなにもかわらん』」

 

 そう言ってから、最適化をはじめだした。

 

「『俺は、おまえ達のために生き、おまえ達のために死のう。この身のすべては皆を幸福にするために在る。 輝く明日を、誰もが笑顔で生きられるように……願うからこそ、必ず往こう。未来をこの手で切り拓くのだ』」

 

 身体の中から力が溢れ出してくる。同時に身体が黄金色に光り輝いていく。それはまるでお星さまのようでとっても綺麗。

 

「『創生せよ。天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星。巨神が担う覇者の王冠。太古の秩序が暴虐ならば、その圧制を我らは認めず是正しよう。勝利の光で天地を照らせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる。

 百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。鍛冶司る独眼よ、我が手に炎を宿すがいい。大地を、宇宙を、混沌を――偉大な雷火で焼き尽くさん。

 聖戦は此処に在り。さあ人々よ、この足跡に続くのだ。約束された繁栄を新世界にて齎そう。

 超新星(メタルノヴァ)――天霆の轟く地平に、闇は無く(ガンマレイ・ケラウノス)』」

 

 黄金色の光熱が刀身を纏い、それを構える。

 

「覚悟はいいか、偽物のヒーローとオーバーホールよ。ここが貴様等の終わりだ」

『これ、詠唱は必要なのかね?』

『イメージを固めるためですのよ』

『自己暗示か。なるほど』

 

 振るわれた一撃は偽物とオーバーホールに対して、その場から一振り。ただそれだけ。だけど、黄金の極光は全てを透過して焼き払う致死の一撃。

 回避不可能なそれは、上からの一撃で天井が壊れることで降り注ぐ瓦礫に命中し、透過する。しかし、それはあくまでも黄金の極光だけ。狙った対象は別なので瓦礫が彼等にあたって位置がずれた。それと私の両腕が沸騰して爆発した。すぐに新しくなったけど。

 

「『ふむ。幼子の身体では強化をしても無理か』」

 

 英雄さんは努力して努力して地獄を超えるような特訓で身体を鍛え、さらには強化を沢山重ね続けて戦ってきた人だから仕方ない。

 

『当たり前だ馬鹿者! ああもう、まともな奴がいない!』

『聞き捨てなりませんね。私が代わってさしあげましょう』

『ろくな戦闘能力ないだろ』

『おほほほほ』

『アタシが出る』

『いや、僕がもう一度……』

「わかった。順番。不死鳥の仮面」

 

 背中に炎の翼がでてくる。それから周りを見渡してから空を飛んでいく。まず向かったのは怪我人のところ。

 

「『おい、大丈夫か?』」

「……やは、り……おー、るふぉー、わんを……」

「『喋るな。いいか、我慢しろよ』」

「ナイトアイになにをしているっ!」

 

 小さな手で白いスーツの人の傷口に触れて、そこを燃やしていく。

 

「がはっ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 偽物が飛び込んでくる。でも、不死鳥の仮面なら大丈夫。

 

「『アタシに任せな』」

「オールフォーワンンンンンンンンンンンンンンンンっ!!!」

 

 一瞬で炎の壁ができて防いでくれる。その間に白いスーツの人を抱き上げて翼を広げる。

 

「『脱出先はあそこか。飛ぶぞ』」

「ん、お願い」

 

 翼を使って浮き上がり、炎を噴出しながら進む。すると炎の壁が風圧で吹き飛ばされた。

 

「まてぇええええぇぇぇっ!」

「『鬱陶しいな』」

 

 炎をたっぷりと放つと、相手が風圧で吹き飛ばしてくる。それで下にいくのに、今度は風圧を下に向かって放って追いついてくる。でも、こっちも風圧で吹き飛ばされてきた炎を翼で受けてさらに上昇する。

 

「逃がすかっ! ごみ共がっ!」

 

 オーバーホールもこちらを追ってくる。逃げられるよりはましだからいい。(ヴィラン)を二人連れて外に飛び出す。目的地をすぐにみつけた。

 

「あそこに救急車」

「『わかった。ありがとう』」

「助ける。こころはヒーローみたいだから」

「『ああ、それがいい。私のオリジナルもそっちの方が喜ぶだろう』」

「ん」

 

 壞理ちゃんも喜んでくれるし、一石二鳥とかいう奴。加速して救急車の前に降り立つ。

 

「『要救助者一名。大量出血と臓器破損。一応、焼いて止血をしてあるが、すぐに輸血を頼む』」

「りょ、了解しました!」

「急げっ!」

「ま……待って……」

「『アタシは(ヴィラン)の相手をしてくる』」

「お気をつけて!」

 

 空に飛び上がると、戦況は混沌としている。地面が壊れてヒーローが突入したのに、対象二人が上にでてきて暴れている。一人はオーバーホール。仲間の(ヴィラン)と融合して巨大になった。たぶん、とっても強い。

 

「『さて、どうするか……どうしたい?』」

「ん~オーバーホールは潰す」

「『それは大前提だ』」

『提案がある』

「なに?」

『オーバーホールを奪おう。あの力は使える』

「やだ」

『駄々をこねないでくれ。いいかい、あの力は攻撃にも治療にも使えるんだ。わかるかい? ヒーローになるにも、(ヴィラン)になるにしても使える力だ。ヒーローになりたいのなら、それぐらい飲み込まなくてはいけないよ。なにせヒーローは守る物が多いからね。それにだね……』

 

 先生に言われたことで、決めた。嫌だけれど、人命優先。記憶は消去してやったらいい。

 

「でも、どうやって近付く?」

「『それはアタシとこころが協力すればいい。感情を操ってやればいいだろう』」

「無理。あのおっきいの、ぐちゃぐちゃ、よくわからない」

『他人を取り込んだせいで割合が崩れている可能性がある』

『感情がいっぱいですのね♡』

『というか、今は感情が理解できていないようだから、無意識を操ることは難しいのではないかね? 無関心にかかわる感情、興味をどうやって教えるのだね? 短時間では難しいだろう』

『ですわね』

『だからこそ、僕は正面突破といこうじゃないか』

『作戦プランは?』

『このまま上空まで上がって全力で降下。途中で狐に代わって肉体を杭に変更。徹底的に硬くなって相手の体内に入る。そこでおそらく壊れたり死ぬだろうから、不死鳥で復活。その後は僕が"個性"を奪う』

「『アタシの力があればできるが、痛いぞ。こころは我慢できるか?』」

「できる」

『これはこころ自身にやらせるべきだろう。私達はあくまでサポートに回ろう。そうでなくては成長しない』

『まあ、いいだろう』

 

 他の皆も納得してくれたので、主導権を私が取る。壞理ちゃんは大人しくしているけど、彼女にも頼もう。

 

「壞理ちゃん、あれ戻して分離させるよ」

『うん。お姉ちゃんに任せる。えりもあいつ嫌いだし』

「ん、やっちゃおう」

『やっちゃう』

 

 翼を広げて全力で飛び上がる。雲の上についたら、Uターンして降下する。翼から炎を噴出させ、加速する。速度が乗ったら千変万化で硬くて重い金属に変化して落下。気分は隕石。

 目標は偽物と戦っているから、それでいい。巻き込んでもいいので始末する。

 

「お前達は壞理の力をわかっていない! 壞理は単に肉たちを巻き戻すだけではない。もっと大きな流れ、種としての変異が起こる前に戻せるのだ! この間違った世界から個性因子を消すことで正常な人類へと戻すことができる、世を正す力だ! 価値もわからん餓鬼に利用できる代物じゃない!」

「関係あるかっ! 目の前にいる小さな女の子一人救えないで――皆を助けるヒーローになれるか! あの子も、オール・フォー・ワンから助け出してみせる!」

 

 全力で殴り飛ばされる瞬間、オーバーホールに私が着弾して身体を炎に変える。そのタイミングで偽物が殴り飛ばしてきた。

 

『偽物というわけではないんだが、面白そうだから黙っていよう』

 

 オーバーホールの中でごろごろと転がりながら、中を燃やして奴の"個性"を貰う。

 

『慰謝料ですわね。乙女の身体を弄りまわした代金は高いのでわよ♡』

『拷問された上に"個性"を一度壊されたしな』

『どうでもいい』

『貰える物は貰っていこうじゃないか』

『それがいい』

 

 全会一致なので、オーバーホールを手に入れた。それから壞理ちゃんの"個性"で撒き戻してオーバーホールをバラバラにする。

 

『ああ、どうせならこうするといい』

「ん」

 

 それから、試しに分解と再構築で手足がない状態にして死なないようにして放置する。

 

「お前の"個性"は頂いた。これから無個性として生きるといいよ」

「おっ、オール、フォー、ワンンンンンンンンンンンンンンンンッ!!!」

 

 オーバーホール、治崎から離れて次は偽物を無力化しに進む。といっても、すでに足は壊れて折れているし、変色している。腕も同じく。ぼろぼろの巫女服は廃棄し、自分のヒーローとしての姿に変化する。蝶々があしらわれた黒い着物に赤いスカート。薙刀を作り出して、ゆっくりと近付いていく。

 

「偽物、排除しなきゃ……」

「デク君!」

「麗日さん離れてっ! この子はオール・フォー・ワンに操られてる!」

「? 操られてなんてないよ?」

 

 言われた言葉に小首をかしげる。

 

『操ってはいないね』

「じゃあ、まさか自分の意思で……」

「これは、この子達は私の大切な"個性"なんだから。そんなことよりも、オーバーホールの内通者、(ヴィラン)を倒さないと」

「まっ」

 

 放射性分裂光(ガンマ・レイ)でできた薙刀を振り下ろす。これで彼は後遺症が残って逃げられても(ヴィラン)としての活動はできない。

 

「?」

 

 手にあった薙刀が消滅していた。それどころか、仮面も消えている。不思議に思ってみると、麗日と呼ばれた女の人が男性を抱え上げていた。

 

「物間こころ、緑谷が(ヴィラン)とはどういうことだ。説明しろ」

「オーバーホールを無力化し、捕らえようとしたら邪魔をされた」

「それは……」

「殴り飛ばされて一度死んだ。だから、(ヴィラン)と判断した。ヒーローとしての行動に間違いはない。多分」

「わかった」

「「先生っ!」」

「まあ待て。緑谷、話してみろ。なにがあった?」

「実は、彼女はオール・フォー・ワンに操られていて……」

「もしかして、奴と同じ"個性"を持っているということか?」

「違います! いえ、それもあるんですが、それどころじゃないんです! 彼女の仮面にオール・フォー・ワンが入っていて、僕に話しかけてきたんです! それにあの場にいた全員に対して"個性"を使ってきて、ものすごい恐怖と絶望が襲ってきて……その後オーバーホールの”個性”を奪って殺そうとしたんです! だから、それを止めようと殴り飛ばして……その、オール・フォー・ワンじゃあれぐらい平気なはずなのに予想以上に飛んで行って……」

「再生系が無ければ即死だった。違う、死んで蘇ったからこれも正しくない?」

 

 でも、よくよく考えたら仮面を狙って殴ってきたのかもしれない。

 

「物間こころ、オール・フォー・ワンの人格は出せるか?」

「だせる」

「操られたりは? 奴は悪の親玉だ」

「しない。身体を使わせても優先的制御権は私にある。それに私の中にはヒーローもいる」

「わかった。聞いた話じゃ、どっちもやっちまってるじゃねえか。とりあえずだ、物間こころ。緑谷は(ヴィラン)じゃない。ましてやオーバーホールの内通者でもない。ただ、オール・フォー・ワンを近くでみていたせいで操られていると思ったんだろう」

(ヴィラン)じゃない?」

「そうだ。だが、罰は与えないといけないかもしれん。しかし、それはお前もだ。申請されていない”個性”。それやオール・フォー・ワンについてだ。神野の悪夢についても……」

「覚えていない」

「は?」

「よく覚えていない。オーバーホールに壞理ちゃんに再構築された。そのせいで記憶を喪失してあやふやに思いだした。でも、その後に個性を破壊する弾丸を撃たれた。どうにか修復できたけど、ぼろぼろ」

「おい、待て。まさか……」

「すくなくとも、感情はわからない。訂正。恐怖は覚えて。絶望はまだよくわからない」

「そういうことか……わかった。これだけは聞きたい。お前は何をめざす? ヒーローか? (ヴィラン)か?」

「おかしなことを聞く。そんなのはすでに決まっている」

 

 偽物……じゃない。緑谷出久に触れて巻き戻す。腕も怪我も綺麗に治して、答えずに踵を翻してこの場を去る。いかないといけないところがある。

 

「待って! そのごめん。僕は……」

「いい。(ヴィラン)じゃなくて、助けようとしてくれていたのなら気にしない。理由も納得できた。あれは間違われても、多分仕方ない。それにどうせ、痛かっただけだから」

「で、でも……」

 

 何か言われる前にこっちから聞きたいことを聞こう。

 

「あの金髪のヒーローのお兄ちゃん、どこ?」

「先輩のこと?」

「それ。治療する」

「それなら、あっちやで」

「ありがとう」

 

 移動したら、すでにいなかった。探しまわってもどこにもいない。聞いてみたら、病院に向かったみたい。なので、私もそちらに移動する。

 

 

 

「未来は変わった。本当なら緑谷は黄金の光に包まれて……死んでいた。ミリオも手足がなくなっていた。だが、この通りだ。ミリオ、緑谷。君達が未来をかえた。大丈夫。お前は誰よりも立派なヒーローになっている……未来だって変えられる。だが、この……未来だけは……変えてはいけない……だから、笑って……」

「「「うう……」」」

「元気とユーモアのない世界に明るい未来はやって来ない」

「『ふはははは、実にいい。実にいい表情だよ、オールマイトォ!』」

「っ!?」

 

 病室の窓を分解して中に入り、再構築して元に戻す。炎の翼も消してやる。

 

「その声、その喋り方はオール・フォー・ワンっ!」

「『そうだ。僕だ。せっかくなので見学にきてやったよ。お涙頂戴の三文芝居をね』」

「貴様っ!」

「こころちゃん……?」

「いや、彼女は……」

「あの、もしかしてこころちゃんだったらナイトアイを助けられますか!」

「『ああ、可能だ。だが、僕がそれをすると思うのかい? オールマイトが苦しんでいる姿が大好きな僕が? ありえないね! ああ、そうだとも。僕だったらありえない』」

 

 喋っているのを無視して、ナイトアイに近付く。彼は私をしっかりと見詰めてくる。

 

「『僕がここに来たのは彼の"個性"を貰うためだ!』」

「させないぞ、亡霊めっ!」

 

 身体に触れて分解し、再構築する。

 

「『あ、それ間違ってるよ。そこはだね……』」

 

 先生に教えてもらいながら、悪いところは全部綺麗にして身体を作りなおす。筋肉も増やしておく。

 

「やっぱり……」

「ど、どういうことだ?」

「確かにオール・フォー・ワンは治療しないでしょう。でも、彼女、こころちゃんは違うんです。僕だって治してもらいました」

「治療完了。これで多分、きっと大丈夫」

「『感謝するがいい。僕が……って、何をする! まだ話していたんだ!』」

 

 仮面を掴んで外し、私の身体の中に入れる。次に取り出すのは壞理ちゃんの仮面。エネルギーは使えなかった"個性"の欠片でいい。そもそも私の中の個性因子はいっぱいある。”個性”を奪うというのは個性因子を奪うことなのだから。

 

「次、金髪のお兄ちゃん、たしかルミリオン」

「あ、ああ……」

「助けてくれてありがとう」

「ヒーローとして当然だよ。でも、僕は君をちゃんと助けることができなかった」

「ううん、そんなことはない。あそこで、無個性の状態でも頑張ってくれたからこそ、私は、私達はこのままヒーローとしていくことにした」

 

 ルミリオンに抱き着いて、壞理ちゃんの"個性"、巻き戻す個性を発動させる。戻すのは個性が壊れる前まで。結構な量の個性因子が非活性化していく。でも、しっかりと個性は戻った。

 

「凄いと思ったから。多分、これは……憐憫?」

「「「ちがうよ!」」」

「憧れだと思うな……」

「憧れ……これが……」

「ところで、その、その姿のままなのかね?」

「? 再構築していないだけ。変化もしていない。壞理ちゃんと遊ぶならこのままがいいのかもしれないから」

「そうか。それでお願いがあるんだ。私の身体は治せないかな?」

『絶対に駄目だ。断固拒否しなさい』

「……先生が嫌だって駄々を捏ねてる」

『こねてない!』

「そっか、だめか……」

「でも、そんなの私の知ったことじゃない」

『ちょっ!?』

「ヒーローなら助ける。だから、治してあげる」

「「本当!」」

「それはすごく助かる」

「でも今は駄目。ナイトアイは緊急事態。オールマイトは緊急じゃない。だから、人体構造の勉強をしっかりとしてからじゃないと駄目。オールマイトの治療は先生は手伝ってくれない。だから、待ってて」

「わかった。そういうことなら、待っていよう」

「治療行為をするには医師免許が必要。頑張らないと」

「アタシが教えてあげるよ。その"個性"は便利だからねえ」

「いいこと教えてあげる。材料を用意したら、若返りが可能」

「っ!? いいね、いいね! よろしく頼むよ!」

「ん」

 

 助けるべき人は助けた。お礼をしないといけない人にもちゃんとした。これで後は壞理ちゃんに"個性"を返すだけ。心に穴が空くけれど仕方ない。

 

 

 

 

 

 




緑谷君の行動ですが、まず感情を操られて冷静ではなくなっています。絶望と恐怖の中でなんとしても助け、オーバーホールを奪われることを防ぐために死力を尽くして限界を超えて動きました。そうじゃないと、解除されたとはいえ影響が色濃く残っている状態では動けません。
また、問答でオール・フォー・ワンだと認めているのも理由の一つです。以上のことから"個性"を複数持ち、肉体的にも強いと判断してかなりの力で殴りました。
ですが四歳児の身体では岩盤を割るような威力に多少強化しても耐えられるはずなどなく、即死ダメージです。ましてや、長年の筋トレなど筋肉狂化などすべてresetされているのでこころちゃん、身体では最弱です。
ただ、不死鳥の"個性"でアレイズ、蘇生復活が働きます。完全に治すには不死鳥の仮面が必要です。
ちなみに閣下は閣下ですが、完全に本人というわけではないとお思いください。再現するのは難しいのです。
ちなみに内部良心仮面は不死鳥の仮面こともこたんのみ。閣下こと英雄の仮面はあれです。言われる通りに進んだら、犠牲がいっぱいでる。正義の味方はどこかで狂ってますからね。衛宮しかり、閣下しかり。自己犠牲の精神が半端ないです。


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10話

 

 

 

 私、物間こころは四歳児の身体で現在、壞理ちゃんと一緒に雄英高校でお世話になっている。なので今日も今日とて校長先生のところに遊びに来ている。

 

「もふもふ、もふもふ」

「もふもふ~ふかふか~」

「あっ、あっ、そこはだめっ、らめっ、そのてはっ! あぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ソファーの上で私と壞理ちゃんに挟まれて身体をもふられ、悶えている校長先生、ネズミっぽい何かの動物の根津さん。"個性"、黄金の癒し手(ゴッドハンド)動物殺し(ビーストキラー)弱点攻撃(クリティカルアタック)。これらの効果が混ざり合ってできた"個性"もふもふさいきょーを手に入れた。疲労回復などの効果があるマッサージ効果など様々な効果が発揮。

 

「……獣は即落ち……」

「はうんっ」

 

 二人でたっぷりとなでまわして気持ちよくしてあげます。

 

「遊び場、つくっていい……?」

「いいから、もっとしておくれ~」

「おー」

 

 つやつやのもふもふにしてから、用意した書類にハンコを貰ってから移動する。

 

「お姉ちゃん、何をするの?」

「遊び場を作るのー」

 

 用意した書類は雄英高校の敷地の一部使用許可証。これで壞理の遊ぶ場所を作れる。雄英高校、遊ぶ場所が全然ないから、皆に相談したら作ってしまえばいいと教えてくれた。幸い、設計をはじめとした"個性"もあるので、それを使って作ればいい。自我は目覚めていない"個性"もいっぱいあるけれど、使えないことはない。例えば高速演算、思考加速、並列思考、建築、設計、測定、強度計算など変な"個性"が合わさった高速設計というのができた。高速思考とか思考加速などなど"強い個性"が設計にしか意味をなさなくなった。他にも手から爆弾を生み出す爆弾魔(ボマー)が花火を生み出すだけになったりした。この花火の"個性"は強制的にお空に花火が上がる。以上。ダウングレードが激しい奴がいっぱいある。絶対音感が絶対に外れる音になる破壊音とかもあった。こちらはいらないのでこれから作るのに与えて廃棄する。

 逆にグレートアップしたのは美声、歌声、高品質化、歌唱の個性が合わさって天衣無縫の歌声になった。歌うだけでとってもすごいことが起こる。後は植物操作や急速成長などもある。

 

「やってきました、森!」

「森~!」

 

 雄英高校の敷地にやってきた私、こころと壞理ちゃんの二人は準備していく。まずヘルメットと子供サイズの迷彩服を着る。頭のキャップライトも用意する。

 

「探検?」

「そうだよーこっちー」

 

 訓練のために広場になっている場所に移動し、広場にカメラをいっぱい用意して配信を準備する。それから壞理ちゃんに説明して取り出したのは小さな種。それを広場の真ん中入れて、火で作った動物達を配置して準備を完了。後は少し離れてから開始する。

 

「じゃあ、はじめるよー」

「ん、がんばる」

 

 配信を開始。

 

「……やあやあ、我こそは幼児化しているヒーロー秦こころなるぞ!」

「……その妹の、えり、です……」

「というわけで、今回は二人でお送りするよー」

「よろしく、お願いします……」

 

 生放送の配信なので、すぐにお客さんはこないけどいい。それに配信は記憶を失ってからははじめてだからね。

 

「今回、私達は雄英高校の敷地に許可を取って入ってきましたー」

「これ、許可証、です……」

 

 ちゃんと画面に二人分の許可証をみせる。名前の部分は隠してある。

 

「というわけで、雄英高校を夕方からの探検だよー、がんばろー」

「おっ、おー」

 

 腕を振り上げてから、一緒に手を繋いで進んでいく。林道を抜けると、そこには広場があり、広場の中心では炎の動物達が周りながら飛び跳ねて怪しげな儀式をしている。

 

「なんだろ、これ……?」

「……動物さん……お姉ちゃんの……」

「しらないよー?」

「う、うん……」

「それより、動物さんが手招きしてるから、いってみよー」

「わ、わかった」

 

 二人で輪に加わって一緒に踊っていく。録画しているのは固定した映像から取る。編集ではなく、定期的にカメラを入れ替える。

 

「動物さん達が真似をしろだって。えっと、こうかな?」

「しゃがんで、両手を合わせて……」

「飛び上がりながら開く。んーぱっ!」

「んーぱっ!」

 

 やってみると中心部から凄い勢いで木がでてきて、急速に成長していく。それはとっても、とっても大きな大樹です。私達も慌てて下がりました。炎の動物さん達は消滅しています。

 

「なにこれ、たのしー」

「お、お姉ちゃん、大丈夫なの?」

「へいきー」

 

 何度も繰り返し、大樹は187メートルまで成長しました。やったね!

 

「なっ、なんということでしょう。儀式によってとっても大きくて太いものになりました……」

「ん、太くておっきい……」

『あーそれはまずいな』

 

 カメラを持って、映像を切り替えて上の方も見せるけど凄く大きくてみえません。生い茂る葉っぱが邪魔です。

 

『計算は終了しましたわ♡』

 

 ありがとう。設計はできてたけど、調整は終わった?

 

『僕がやっておいた』

『アタシも監視してあるから大丈夫だ』

 

 ならよし。

 

「えりちゃん、カメラを持って周りを見てきて。こころはこのあたりを調べるからー」

「ん、わかった」

 

 カメラを持っててててと走っていく壞理ちゃんを見送ってから、手をついてオーバーホールする。地下も含めて作っておいた。

 

「わわ、お姉ちゃん、木が一瞬消えちゃった!」

「う、うん、そうだね……それに扉が現れたよ!」

「あ、本当だ!」

 

 無表情なので驚いたように両手を使って一生懸命に表現する。えりちゃんも凄く驚いてくれている。

 

「ふれてみよー」

「う、うん……」

 

 さっさと触れる。だって、このままだと教師の人がくるからね。

 

「ひぅっ!?」

「あ、あいた……」

 

 10メートルクラスの扉が開くと、中は光が降り注ぐ綺麗なエントランスがみえる。

 

「ど、どうしよ……?」

「探検だよ! 私達は探検隊だからね!」

「そうだったね、うん。いってみよう」

 

 二人で手を繋いで中に歩いていく。すると、勝手に扉が閉まった。大樹の中は空洞になっていて、上からステンドグラスを通して色とりどりの光が降り注ぐ。壁は螺旋階段や棒、ロープやネットなどが空中に取り付けられ、植物でできたゴンドラやリフトている。それにエントランスの床はぷにぷにでトランポリンのように跳ねる。

 

「『ようこそ、いらっしゃいませ♡。ここは大樹の迷宮。頂上にたどり着けばご褒美がありますわ。ただし、たどり着けないと帰れませんのでお気をつけて。また、鬼さんがでてきますので絶対に捕まらないように頑張ってくださいな』」

「お、お姉ちゃん……?」

 

 不安そうにに聞いてくるけど、大丈夫。千変万化で発音は変えているし、カメラには映らないようにしている。元に戻ってから壞理ちゃんの手を掴む。

 

「えりちゃん、頑張ろう。大丈夫。私が守るからね」

「う、うん……」

 

 二人でまずはゴンドラに乗ってみる。リフトは怖いからね。ゆっくりと登ってしばらくすると、衝撃を感じる。下をみると大きな門が壊されて沢山の人が入ってくる。

 

「おっ、鬼が現れたよ!」

「え? あれは……」

「鬼だよ。お・に・な・ん・だ・よ?」

「う、うん……」

『捕まったら説教だろうしな』

『アッハッハッハ、確かに鬼だね』

「ワォオオオオオオオオオオオォオォォォンッ!!」

 

 入ってきたのは当然、雄英高校の誇る(ヒーロー)達。私と壞理ちゃんの逃走劇の幕が開く。

 

「なんとしても捕まえろ! 生放送されてるぞ!」

「うふふふ」

「おいたがすぎるぞ」

 

 そんな時、上から横断幕が降りてくる。そこには頂上に到着すると若返りの薬などがあることが書かれている。

 

「探せ、この世の秘宝は最上階にある。だって」

「おー」

「おー」

 

 二人でゴンドラから降りて走る。でもすぐに追いつかれるので、壞理ちゃんを抱えて手摺から飛び降り、空いている手でロープについている結び目を持つ。そのままスーと反対側に移動し、外の通路にでる。外も螺旋階段になっているので、逃げる。

 螺旋階段が終わって、中に戻るとそこには空中に円柱の上があるだけ。それを通って反対側にいかないといけない。下をみれば鬼さん達も頑張って登ってきている。でも、様々なギミックが邪魔をしている。落とし穴とか、階段の上から落ちてくる丸っこい玉とか。この玉は水風船でぶつかると油が溢れて階段が使えなくなる。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫。とんでみよう」

「う、うん」

 

 一緒にジャンプすると、横から柔らかい丸太に殴られて壞理ちゃんと一緒に落ちていく。

 

「ちょぉぉぉぉぉっ!?」

「救助しろぉおおおおっ!?」

「間に合わないっ!」

「というか、あいつ飛べるよな……」

 

 そのまま下まで落ちると、どんどん床に沈んでいって次の瞬間には上に弾かれる。落ちるよりも前の高さに移動し、私は壞理ちゃんを抱きながら袖からワイヤーを放って空中にいくつかある蔦の手摺に引っ掛けて別の通路に移動する。

 

「た、たすかった・・・・?」

 

 目を瞑っていた壞理ちゃんを強化した肉体で抱き上げて急いで走る。なぜなら床が壁に引っ込んでいっているから。しかも、前にはギロチンが複数降りてくる危険エリア。ちなみにこのギロチン、当たっても首は吹き飛ばないけど床は空いているのでそのまま落ちるか、中央に放りだされる。

 

「ひゃあああああぁぁぁっ!?」

「だい、じょう、ぶっ! 抜けたっ! はぁっ、はぁっ、はぁ……」

 

 全部生放送なので少し手元のカメラと繋がっているスマホをみると凄い人数の人が見ていた。

 

【なにこれ、サスケ?】

【鬼ってどうみてもヒーローだよな】

【彼女達にとっては鬼だろう。捕まれば説教まったなし】

【これは雄英高校の新施設のお披露目会?】

【もしくは勝手に放送しているか……てか、景品やばくない? 若返りとか】

【欲しい】

【こころちゃん、必死。可愛い】

【というか、こころたんが小さくなってるから、若返りって納得できるな】

【……雄英高校に入るために頑張ろう】

 

 休憩を終えたので、壞理ちゃんを抱えて走る。カメラは壞理ちゃんにお任せ。正直、登れば登るだけガチになってきていやらしい感じになってくる。それでも螺旋階段が終わり、天井を抜けるとそこはフロアだった。

 

「……ボス部屋? それとも休憩場所?」

「……花畑、綺麗……」

 

 そのフロアは一面花畑で、天井は植物で覆われている。真ん中に巨大な花の蕾があった。その蕾が開くと、そこには緑色の肌をした裸の少女がいた。ただ、下半身は花に隠れていてみえない。アルラウネだ。

 

「いらっしゃいませ。主様」

「主様?」

「……」

 

 やばい。ボスとして作ったのに主様とか呼ばれちゃった。ここはどうする? どうすればいい?

 

『感情を操作したことにすればいい。どうせ、彼女には"個性"を与えないといけないのだから』

 

 なるほど。そうしよう。

 

「そう、私が主のこころ。だから、ここの先に行かせて?」

「いいでしょう。ではこちらへ」

「大丈夫、かな?」

「大丈夫だよ」

 

 真ん中まで歩いてアルラウネの葉っぱに乗ってみる。それから彼女が差し出してきた手を握ろうとすると、手に口付けをしてきた。同時にオール・フォー・ワンを使って植物系の個性などを与えていく。6個の"個性"をそれぞれの個体に与えておく。この花の中、実は六体のアルラウネが一体の振りをしているだけなのです。

 

「では、お連れします」

「ありがとう」

「またね」

「はい。またのお越しをお待ちしております」

 

 蔦で身体をぐるぐる巻かれて持ち上げられ、植物が開いていって新しい階層へと到着した。どうやら、これで50階みたい。やっと半分。

 

「追いついたぞ!」

「残念でした。ここは通しません! 通りたければ私を倒していきなさい!」

「ちっ!」

 

 相澤先生やハウンドドック先生、エクトプラズム先生が追いついてきた。でも、アルラウネが時間稼ぎをしてくれるので大丈夫。

 

 

 

 

 それから二時間。ようやく天辺に到着した。ほとんどトラップだけで、襲ってくるはずのモンスターは襲ってこない。感情を操作したということにしたから大丈夫。

 

「とう、ちゃくぅぅ!」

「やったー! やったよ、お姉ちゃん!」

 

 満面の笑みを浮かべる壞理ちゃんを見ていると、なんだか知らない感情が湧き上がってくる。

 

「なんで笑ってるの?」

「嬉しいからだよ?」

「これが嬉しい感情……」

 

 確かに壞理ちゃんの感情の一部の値が高くなっている。

 

「お姉ちゃんは嬉しくない?」

「私は……」

 

 私の感情を見て、壞理ちゃんのと合わせると確かに私も嬉しくなっていると思う。他の感情も色々とある。

 

『それは達成感とかだね』

『やれやれ、感情を教えるにしては大げさすぎないか?』

『フォロワーも増えて丁度いいじゃないか』

「ん、私も嬉しい」

「だねー」

 

 ご褒美はーと周りを見渡すと、そこは壁がなく手摺だけがあった。天辺は平らな上に沢山のテーブルが置かれており、中央に円形の植物とその周りにカウンターがあってお店がある。そのカウンターの先に下半身が植物でできた金髪の美人な女性が立っていた。

 

「ダンジョン攻略おめでとうございます。私はこのダンジョンの管理者、ドライアド。ご褒美に一人だけ年齢を操作し、身体を作り変える権利を与えましょう」

「どうする?」

「お姉ちゃんをお願い、します。お姉ちゃん、えりを助けるために小さくなったし……」

「ありがとう。じゃあ、いってくるね」

「ん、いってらっしゃい」

 

 ドライアドの隣に移動して作り出された扉に入る。そこはただの倉庫。もちろん、カメラなんて入れてない。

 

『はい、男共は見ないように』

『わかっている』

『はいはい』

 

 すぐにオーバーホールを発動して元の年齢……といっても140㎝ちょいぐらいの元の身長に戻す。服装は何時もの青のチェック柄の上着の上に赤色のセーターを着て、さらにダッフルコートを着る。

 着替え終えてから鏡を見て、もとのこころに戻ったことを感じる。

 

『おかえり、こころ』

「ん。まだ完全じゃないけどこれでいい」

『そうか』

 

 外に出ると、壞理ちゃんが抱き着いてくるので頭を優しく撫でてあげる。

 

「こちらでお食事をしながら、景色をご覧ください」

「わかった」

「わ、美味しそう……」

 

 テーブルに出されたのはリンゴジュースと、切り分けたリンゴをはじめとしたスイーツ。黄金の林檎とか、すごいと思う。あ、後空に花火を上げておく。

 しばらく花火を壞理ちゃんと一緒にはしゃぎながら見学していると、ぼろぼろな先生達が上がってきた。

 

「みーつーけーたーぞー」

「やっと、やっと追いつけたわ……」

「ぐっるるるるるぅ!」

「皆さん、お疲れ様でした。どうぞ、飲み物と食べ物を用意してあります」

「ああ、ありがとう。だが、その前に……もの」

「生放送中ですよ、イレイザーヘッド」

「……まずは放送を切れ」

「ふっふっふっ、残念ながらこころを怒ることはできないのだ!」

 

 椅子から飛び降りて、どうどうと先生達を指差してやる。

 

「なに?」

 

 ぶちぎれ五秒前の相澤先生に書類を掲げてみせる。

 

「なぜなら、ここに校長先生の許可証があるからだよ、明智君!」

「誰が明智だ! 貸せ!」

 

 相澤先生がしっかりと読んでいく。ハンコも本物だ。ただ、もふもふで頭が回っていない時に通しただけだけどね。

 

「校長? 何故許可したのですか? しかも放送まで」

「待って、待つんだ! 僕だってここまでの規模だなんて知らなかったさ! 遊び場を作りたいから許可をあげただけなんだよ!」

「まあまあ、いいじゃない」

「ミッドナイト先生……しかしですね……」

「いや、この施設、安全性もちゃんと考えられているし、生徒の自主訓練にはいいんじゃないかしら?」

「いや、"個性"を使ったら危ない……ああ、"個性"禁止なら確かにいい鍛錬になりますか。なるほど、あくまでもアスレチックとして作られていると……」

 

 ここはこころが身体を遊びながら鍛えるために設計した施設だから、他の人も"個性"無しなら訓練になると思う。

 

「ボス部屋だけは"個性"有りにして、それ以外は無しにすればいいだろうね。ははっ」

「それにこのフルーツもジュースも美味しいわ。お酒もあれば最高だと思うわよ」

「勤務中ですよ」

「もちろん、勤務が終わってからよ。直通ルートはあるかしら?」

「外にゴンドラがありますよ」

 

 ドライアドが指差す方向には確かにゴンドラが止まっている。あれで下までいけるみたい。

 

「他にも滑り台もあるので楽しめると思います」

「校長先生、どうですか?」

「んーモニターは僕達が体験したし、よし、採用しようじゃないか。授業中は先生の立ち合いのもとで"個性"有り。放課後は"個性"禁止で、先生の立ち合い有りでボス戦だ。景品はそうだね……食券とかでいいんじゃないかな。ランチラッシュ君もここを手伝ってもらったりしてもいいし……若返りは……」

「それは無理ですわ。先着一名様だけです。今のところは、ですが」

「というわけだ。イベントを企画してもいいね。ああ、来年の雄英体育祭はここを使おう。どうせこころ君は参加禁止だしね」

「えー」

「プロが参加したら駄目だよ」

「ですね」

「残念」

 

 とりあえず、話はついたので先生達も椅子に座ってテーブルの上のフルーツを食べ、ジュースを飲んでいく。結構ぼろぼろだったのは植物たちが結構強いというのもあるけれど、罠などで基本的に分断して徹底的に弱点をついていくからだよ。

 

「よーし、こころちゃん、久しぶりに歌と踊りを披露しよう。これがエンディングだね。動画投稿には必須だし」

「おー」

 

 全力で舞いながら歌う。花火が上がり続ける中、声量でも負けずに、むしろ花火を利用して歌っていく。

 

「これも充分に文化祭の目玉になりそうですね」

「確かにアイドルデビューできそうですね」

 

 アルラウネ達がやってきて、植物操作で楽器を作り上げて演奏してくれる。どうせなので壞理ちゃんと一緒に踊りながら歌って楽しんでいく。

 

「校長」

「なんだい?」

「これ、卒業試験に使いませんか?」

「君は鬼だね。ヒーローの君達が"個性"有りでギリギリ登ってこれるのを卒業試験にするのかい」

「もちろん、事前情報はありですし、告知して挑ませればいいですから」

「なるほど。じゃあ、それでいこうか」

 

 歌い終わったので、そろそろ帰って寝ようかと思う。

 

「えりちゃん、帰りは滑り台でいい?」

「うん、楽しそう……」

「だねー」

「危険はないんだろうな?」

「そこの手摺を飛び降りたら、全部滑り台だよ?」

「なに?」

 

 この手摺の外は全部滑り台で、普通に落ちた程度だと反り返りもあるので確実に滑り台に入るようになっているし、コースも一つ一つ違うのでぶつかることも大丈夫。抱き合って降りたら同じ場所にいくけどね。

 

「じゃあ、お先にいきます」

「ん、ばいばい」

「エンディングだったけど、放送はこのままにして最後は滑り台! いっくよー」

「えい!」

 

 手摺から飛び降りて、下の滑り台に乗ってぐるぐる外周や内部を回って降りていく。本当はハングライダーとかパラグライダーとかを設置しても楽しそうだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変よ……これを見て……」

「こ、これは……なんという、なんということだ! ノーカットで生放送だと! おのれヒーローっ! やってくれるではないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




探検隊・・・・やらせじゃないとはいっていない。
オーバーホールの"個性"を悪用。ちなみに廃棄先はトレント。破壊的な音をまき散らかして攻撃してくるぞ! 具体的にはFATEのエリザベートやジャイアン。
雄英高校に新しい訓練所ができました。"個性"無しで挑みましょう。そうすれば強くなれます。限界を何度も突破しないと攻略はできません。


ゆぐゆぐダンジョン
制作:物間こころ
設計:オール・フォー・ワン、閣下
監督:もこたん、玉藻
監修:閣下


まだださん育成プログラム。これさえクリアーすれば君もプルスウルトラだ! ちなみに攻略できたら第一線で十分に活躍できるレベル。超一流には届かない。



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11話

 

 

 根津

 

 

 

 ネズミなのか犬なのか熊なのか、誰もわかならい校長、根津さ! 皆、元気にしているかな? 僕はとっても元気だよ。だってウハウハだからね!

 

「で、校長。今回の件はどういうことですか?」

 

 雄英高校校長室で他の先生達も集まってきている。僕達の手には物間こころから提出されたゆぐゆぐダンジョンの設計図とトラップとエネミーのデータ(仮)が存在している。この(仮)は自動更新されるのでハッキリ言って意味ないからだね。

 

「どうもこうも、僕が彼女に依頼して作らせた。それだけさ!」

「……本当に?」

「まあ、彼女の"個性"を把握するために餌として与えた理由もある。彼女達が遊び場を欲しがるように()()し、僕を満足させれば土地の使用許可をあげると言ったんだよ。彼女のバックにいるであろう連中なら、彼女を鍛えることを優先すると同時に彼女のことを考えて壞理ちゃんでも動ける内容にすると計算していた。結果は大成功。僕の想像を超える訓練所……いや、彼女達にとっては遊び場か。それができあがった。それも無料でね!」

「うわぁ……」

「コスト削減か」

「いくらセメントス先生がいるとはいえ、市街地や救助訓練にしても慣れがでてくる。かといって、大規模に改造するととてもじゃないがお金がかかりすぎる。ない袖は振れないのだよ。ははっ」

 

 正直に言って、今年は事件だらけのせいで赤字だからね。毛の艶がなくなるどころか、毛根が抜けたりして禿げてきたところすらあったんだ。

 

「ふふふ、みてくれよこの毛の艶! そしてふさふさの毛! 彼女が治してくれたんだ! ストレスがなくなったよ!」

「治療系の"個性"も合わさっていたんですか」

「みたいだね。"個性"名はもふもふさいきょー。獣系統にしか効かないという微妙な"個性"になったらしい。ハウンドドッグ先生には有効だろうね」

「……あとで行ってみるか……」

 

 行ってみるといいさ。とっても気持ち良くしてくれるよ。

 

「で、話を戻すけど、ゆぐゆぐダンジョンは使えそうかな?」

「使えるでしょう。難易度はかなり厳しいですが、逆に言えばこれを攻略できれば確かな実力を得られます」

「無個性でもクリアできるレベルと設計図には書かれているが、いけると思うか?」

「無理。と言いたいが、私は可能だと思う」

「オールマイト先生はそう言うけど、コイツは逸脱者を作り出すためのものだよ。何度も壁を越えることが大前提の難易度だね。計算したけれど、これをクリアするには最低でも小隊編成で限界を超えてようやくだよ。僕達がそうだった。これを一人でクリアするとか、全盛期のオールマイトとは言わないでも、それに近い力がないと無理だろうね」

「あー俺が足を引っ張ってましたしね」

「相澤君のは仕方ないよ。相手、"個性"じゃないしね」

「純粋な物理攻撃だもんねえ」

「"個性"で作り出されていても、それが植物として"個性"から離れたらどうしようもない」

 

 ミッドナイト先生の言う通り、あそこの敵は基本的に意図的に突然変異させられた植物だからね。ボス戦では効いたけれど、他のトラップやエネミーはあくまでも"個性"の扱いじゃない。もしくは一瞬だけ"個性"の扱いになっているのかもしれない。下手をしたら、一つの生命体の身体の中というかもしれないしね。

 

「どちらにせよ、このダンジョンは使える。(ヴィラン)連合との戦いで僕達は油断していた。今一度鍛えるにしても、学校の敷地内にあるのは非常に助かる。それにさ、他のヒーロー達を呼んでここで訓練してもらった映像を使って授業すれば生徒達にも充分な旨味になるだろう」

「校長、商売にする気ですか」

「この施設を使わせるかわりに講義を一時間から二時間だけしてもらう。WINWINな関係じゃないか」

「確かにその通りですね」

「さて、物間こころについてだ。ここ数日彼女の様子を確認していたけど、知能がかなり退化していたよ。流石に四歳児とはいわないけれど八歳くらいかな。容易く誘導が可能だ。今は戻ったみたいだからわからないけどね」

「それって危険じゃないですか。確か、あの子の中にいるヒーローって極端な人ですよね」

(ヴィラン)を容赦なく殺すヒーローだったような……」

「彼がオール・フォー・ワンを止めてくれているか……あれ、待って。確か、あの子って重犯罪者から"個性"を手に入れてたから……」

「悪に傾くほうが多いか」

「一応、教えてもらった"個性"はリストにして公安にも送ってあるけど、バラバラになったせいで自分でもよくわかっていないみたいだ」

 

 しかし、こう考えるとこれからのためにむしろヒーローを引退した人の"個性"や一般人の"個性"を集めさせるのも手かもしれないね。悪の成分を薄めるために。老衰の人達や後継者がいない人から集めれば……いや、僕が考えることじゃないか。一応、提案だけは公安に投げておこう。

 

「メインの"個性"は彼女本来の"個性"、感情を操る"個性"とオール・フォー・ワン、放射性分裂光(ガンマ・レイ)、千変万化、不死鳥、オーバーホール、高速設計ぐらいだね」

「オール・フォー・ワンも危険だが、戦闘で考えると放射性分裂光(ガンマ・レイ)の危険度が極めて高いな」

「回避不可能の即死攻撃に近いしね」

「肉体系の天敵だ。私でも彼を相手にしたら、相打ちの可能性が高い。本当によく倒せたもんだ」

「持久戦らしいよ。ただひたすらミサイルや銃弾を叩き込んで遠距離持ちのヒーロー達で攻撃する。それでも六日で七割は殺されたみたいだね。ちなみにその戦闘後は現在も汚染されていて立ち入り禁止さ、ははっ」

「化け物だなぁ」

「ちなみに彼女はそれを超える可能性がある。しかも、自爆しても復活できるという……」

「なにその歩く核弾頭。やめてよね」

「ははっ、まさに人類最終兵器だね!」

「倒せる可能性があるのは相澤君だけか」

「対抗策を持っている可能性もありますよ。いえ、すでに対策をされている可能性すらあるでしょう。俺の感情が操られていれば終わりだ」

「まあ、大丈夫でしょう。物間君と透形君がいれば、そうそう踏み外さないわ。しっかりと教育すればだけれど……」

「それは僕達の仕事だ。っと、明日は臨時の全校集会を開くよ。内容はあのゆぐゆぐダンジョンについて。景品は食券や、彼女のオーバーホールかな。こっちは依頼しないといけないけれど……勉強の方はどうだい?」

「まだまださね。人にやらせるのは危険……と、言いたいんだが……すでに人体の構造は覚えきっているよ」

「へぇ……」

「あの子、千変万化でその人に変わってから、肉体を燃やして再生して覚えるとかいうふざけた方法を取るんだよ。アニメの影響で」

「あ、アニメ?」

 

 リカバリーガールに聞いてみたら、炎の中から片手を突き上げて出てくるヒーローのシーンが気に入ったようで、そんな感じで遊びをかねて身体の構造を勉強したようだ。他にもまねっこをして遊んだりもしているようだ。まあ、いいか。他にも色々と決めないといけない。全校集会でヒーロー科の子達に仕掛けないといけないしね。

 

 

 

 

 

 次の日、全校生徒の前に立って僕は彼等に説明していく。

 

「ゆぐゆぐダンジョンはヒーロー科、普通科、経営科など科と学年によってランキング制度を導入することにしたよ。毎月報酬をあげるから、頑張ってくれたまえ。あ、放課後はボス部屋以外は"個性"使用禁止だからね。授業で使う時は先生次第だ。あくまでも戦いの感覚を掴んだり、身体を鍛えたりするためのものだ。それと成績次第ではヒーロー科への転入を認めるし、成績にも加点するから、そのつもりでいてくれよ」

 

 全員の眼がギラギラとこちらを見詰めてくる。景品は全て豪華な物だ。例えば一ヶ月デザートプレゼント券などなど色々とある。

 

「ああ、経営科の者達はゆぐゆぐダンジョンにある休憩エリアで店をだしたりするのを認める。サポート科と一緒にやるように。お金はでないけれど、雄英ポイント、略してUPを使うことにする。このポイントで商売をしてくれ。稼ぐ方法はダンジョンを段階的にクリアすることやミッションの達成だ。皆、頑張ってくれたまえ」

「ありがとうございました。次に紹介する人物がいる」

 

 周りをみると、彼女達がいなかった。そう思ったら、上から巨大な奴が降ってきた。それも笑いながら。

 

「HAHAHAHAHAHA、わたしがぁぁぁぁぁぁきたぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 台の上に着地した巨大な筋肉が沢山の存在は頭の上に小さな女の子を乗せている。

 

「「「「オールマイトォォォォッ!」」」」

「あれ? でも、あそこにいるのは……」

「え?え?」

「いや、あれは……」

「アレは私だ。そして、これも私だ。そうだろう、諸君! アレは私に見えるかね!」

 

 指差してアチラに視線を集める。オールマイトは困ったように頬をかいている。その間に今度は姿が変わって透形の姿に変わっている。

 

「えーと、前をみるように」

「?え?」

「先輩?」

「脱ぎます!」

「「やめろぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」」

「とう」

 

 ばさっと服を掴んで引っ張ったと思ったら、今度は身体が開いて中からミッドナイト先生が現れる。そして、胸にある服のボタンをぷちぷちと外して……

 

「やめなさい!」

「あいた」

「お姉ちゃん……」

 

 ミッドナイト先生が後ろからハリセンで叩いた。

 

「むぅ、こうすれば喜ぶって本に書いてあったのに……」

「どこの本かしら?」

「お兄ちゃんの部屋にあった」

「物間?」

「お前……」

「待ってくれ、濡れ衣だ。そんな本、妹達が一緒にいる部屋に置くわけないだろう。きっと誰かが入れたんだ」

「そういえば、少し前にA組の峯田達遊びにきていたような」

「えーとりあえず、物間と峯田は生徒指導室に出頭するように。あと、遊ばなくていいからさっさと自己紹介しなさい」

「はーい」

 

 やれやれ、本当に悪戯好きのようだ。

 

「あの、えりっていいます。よろしく、おねがいします……」

「「「よろしくーーー」」」

「昨日の動画の子だ。やっぱりここにいた」

「ってことは……」

 

 そう思っていると、ミッドナイト先生に化けていた彼女が飛び上がってくるりと空中で回転すると狐の仮面に狐の尻尾、それに狐の耳をした赤いセーターに茶色のダッフルコートを着た桃色の髪の毛を持つ人形のような綺麗な無表情の女の子が現れた。

 

「……やあやあ、我こそはきっとたぶん、ヒーロー、秦こころなるぞ。まず、私と最強の称号を賭けて闘え!」

「「「「ええええええええええ」」」」

 

 

 そして、彼女の小さな手が鋭い刃の剣に変わる。同時にヒーロー科の生徒達が身体を震わせて膝をついていく。これは恐怖の感情を増幅したのかな?

 

「ふっふっふ、その程度でヒーローを目指すなど、片腹痛い……」

「あの、お姉ちゃん、痛いの? 大丈夫?」

「あ、痛くないよ? 本当だよ? だから、心配しなくていいよ?」

「う、うん……」

 

 ヒーロー科の生徒達は殆どが膝をついている中、立ち上がったのはビッグスリーと呼ばれる三人だけだ。やはり経験の差はでかいね。

 

「遊びはそこまでにしろ」

「はーい」

 

 彼女が両手を叩くとヒーロー科の子達は何度も荒い息を繰り返し、全身から汗を流していく。彼等が体験したのはあの両手の剣で斬り刻まれる恐怖だ。相澤君が考案したこれはヒーロー科全てに効率よく体験させるためのものだね。

 

「さて、他の科はわからないだろうが、ヒーロー科諸君には彼女に頼んで濃密な殺気と恐怖を体験してもらった。それを克服できなければヒーローになれると思わないことだ。それと改めて自己紹介しろ」

「はじめしてー、アメリカでヒーローやってた物間こころだよ。ヒーローネームはさっき言った通り、感情を司る者、秦こころ。身体は小さく見えても14歳、女の子で複数の"個性"を持ってる。よろしくねー」

 

 自分のほっぺたを人差し指で動かして笑顔を作ろうとしている。

 

「こっちは妹の壞理ちゃん。基本的に一緒に雄英高校の中を徘徊して遊んでるから、仲良くしてねー。泣かしたら、食べちゃうぞー

 

 口に指を入れて頬っぺたを広げる姿は無表情だが可愛らしい。しかし、その後ろの尻尾の先が大きな狐になって同じように口を大きく開けている。そこは人なんか丸呑みにできそうな感じだ。

 

「あれ、笑えなかった?」

「冗談に聞こえないわよ」

「うー悪戯するぐらいだよー。だから安心してね。一日、ずーと笑い続けるだけだよー」

「それ、拷問でしょうが!」

「あっはっはっは、子供を泣かすのが悪いんだよー。あ、でもトリックオアトリートにしよう。そうしよう。お菓子がもらえるよ、壞理ちゃん!」

「お菓子……じゅる」

 

 彼女は壞理ちゃんを抱き上げて台から降りていく。お菓子を常備していたら大丈夫みたいだね。

 

「はい、雄英で預かる二人でした。何か有ったら直ちに連絡するようにお願いね。それとこの子達への質問は受付ません。片方は現役のヒーローだけれど、日本の法律に疎いところもあるからね。それでも仲良くしてあげるように」

「では続いて……校内での無許可による動画撮影、写真撮影などは禁止する。撮影する場合は教員の許可を取った場所で行うように。他になにかありますか?」

「あります。寮内を含めた持ち物検査をするわよ。子供に悪影響を催す物は全て没収します」

「そんなぁあああああああああああぁぁぁぁっ!」

 

 うん、これは仕方ないよね。しかし、娯楽が少ないのも駄目だろうし、うーん。そうだ!

 

「こころ君」

「はい。何時もニコニコあなたの横に這いよる混沌、こころです」

「無表情だけどね。まあ、いいや。温泉って作れるかな?」

「温泉……不可能じゃないと思うけど、機械の構造がわからない」

「その辺はパワーローダー先生と相談してくれないかな」

「……ん、治療系の"個性"があればいいかも」

「持ってないのかい?」

「もふもふさいきょーだけ」

「まあ、普通の風呂と遊べるプールを作ってくれ。プールは水中訓練や救助訓練とかもできるようにしてくれるといいかな」

「……お金、とるよ……?」

「う……いくらだい?」

「えっと、撮影機械の代金とか。後舞台も作りたい」

「わかった。経費で落としてあげるから、それで頼むよ」

「ん、任せて」

 

 なんだかゾクリとしたけれど、まあ大丈夫だろう。ははっ、そうに違いない。

 

 

 

 

 

 請求書

 カメラ各種:992万。

 マイク各種:399万。

 音響各種:425万。

 編集機器各種:284万。

 その他:359万。

 合計:2459万円+税

 

 

 

 

 

 

 

 うがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 

 

 




こころちゃんに頼る? 代価は必要だ


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12話

 

 

 ふっふっふっ、ついに手に入れた私だけの超高性能ドローンカメラ! 画素数は憶単位。他の性能も素晴らしく、ドローンも自動撮影や自動で回避するシステムを搭載。静音性もばっちりで、いらない音は消える。他にも編集用のパソコンとかも色々と買った。

 でも、温泉旅館と温水プール施設を作った代金にしたら安いと思う。工事費だけで億単位いくらしいし。内装とかは玉藻さんに相談して高級感溢れる仕様にしてあるし、とってもいい感じ。効能とかは植物作成を利用して肌がツヤツヤになったり、染みや傷が勝手に消えるようにしておいた。

 そして、今はもう一つ作った施設、舞台で私は動画配信しながら舞っている。声をだしながら、左右にステップを踏みながら、片手で薙刀を振るい、もう片方の手で扇子を開く。

 

「わん、つー、わん、つー」

 

 観客席側にある大きなスクリーンには私の映像が映し出されている。それを見ながらまねっこをしていく。感情を失う前の私の技術は高く、まだ追いつけない。

 

『身体を再構成された弊害か』

『でしょうね。ですが、私がしっかりと人への魅せ方というものを教えてさしあげますわ♡』

「お願い」

 

 一通り身体を動かしてから、次は玉藻に演技指導をしてもらう。ついでに英雄の師匠にも身体の動かし方を、先生には戦略や戦術を、不死鳥さんには炎の使い方を習う。身体を壊す勢いで鍛えていく。

 

『はい、そこ違います。あと四度あげてください』

「こう?」

『そうです』

『だが、それでは動きに隙が生まれる』

『色々と試すしかないねえ……』

 

 扇子を振り回すと同時に炎を出し、薙刀を振るうと光の軌跡を残す。薙刀を空中に投げてバク転する。落ちてくる前に消滅した薙刀の代わりに扇子をもう一つ作ってそれで舞っていく。炎を操作して火の龍を空へと放つ。それらは空で複数に分かれて花のようになって散っていく。

 

「ふぅ……」

『では、次は歌いながらやってみようか。更に仮想敵を出そう。不死鳥君、頼むよ』

『あいよ。でも、大丈夫か?』

「ん。頑張る」

 

 掻いた汗を腕で拭ってから、また動く。仮想敵の火の敵を薙刀で斬り、扇子の炎で吹き飛ばしていく。相手側は不死鳥に操られているのでどんどんやってきて襲い掛かってくる。まるで殺陣みたいになっていけれど、ようしゃなく殺しにかかってきている。普通の人なら即死間違いなしな火力。

 相手が二メートルあるバッファローになって突撃してくる。それをステップで躱しながら身体を独楽の様に回転させながら薙刀で切断する。袖が動きによって動き、火の粉が舞う。

 

【なにこの訓練動画。やばすぎるんだけど】

【アメリカのヒーローってこんなことしてるの?】

【あっちはヒーローの死亡率も結構高いし……納得できる】

【こころちゃん、どうみても複数の"個性"を使っている件】

【炎と感情を操る。後は光か。他にもあるのかな?】

【昨日、植物系の動画をあげてた】

【歌も凄い。いや、歌自体は要練習か。でも、声が凄くいいな。無表情だけど】

【そこがまたいいんじゃないか! それにしても、和服で鎖骨を滴る汗……いい】

【わかる】

 

 ドローンによる自動配信も問題ないみたいで、コメントがいっぱい流れていっている。

 

『日本のアニメを見ましたけど、歌いながら戦う物がありましたよね。あんな感じでやってみましょうか♡』

『ああ、あれか。昔にあったなあ……』

 

 仕方ない。もっと歌おう。それにマルチタスクの訓練にもなるし。

 

「ブラック★ロックシューター~~」

 

 髪型を左右非対称のツインテールに変えて、服装も千変万化で変化させる。それで歌いながら戦っていく。ロックキャノンはないから、炎を収束して砲撃として放つ。放射性分裂光(ガンマ・レイ)はちょっと危険すぎるから仕方ない。

 

『こっちも遊んでやるか』

 

 相手が私と同じ炎の姿となって襲いかかってくる。しかもご丁寧に先生があちらについた。その上、師匠もあちら側だ。こちらの味方は玉藻だけ。玉藻も私の演技指導がメインなので四面楚歌。

 

『ほらほら、右に意識が集中して左ががら空きだよ』

「っ!?」

『そっちに気を取られたら、今度はこちらだ』

 

 相手側は放射性分裂光(ガンマ・レイ)を容赦なく放ってくる。身体が吹き飛んで壁に激突する直前に反転して、壁を蹴って突撃する。身体には再生を表す炎が噴き出していく。

 限界を超えて力を発揮する。想いは力。だからこそ、私にもできる。全力の一撃。放射性分裂光(ガンマ・レイ)で作った薙刀に炎を纏わせて思いっきり投擲する。炎を推進力に変えて持っている手ごと燃やして放ったそれは馬鹿みたいな速度で炎を貫いて観客席に激突して減り込んでいった。

 

「あっ」

『消さないと駄目だよ』

「ん」

 

 消したら貫通しきる前に止まったので、オーバーホールで修復して"個性"訓練は終わり。

 

「じゃあ、次はゆぐゆぐダンジョンで身体を鍛える」

【まだやるのか!】

「まだまだ序の口。"個性"を鍛えたら、次は身体。そして休憩して"個性"を鍛えて、また身体。繰り返し」

【ヒーローってとんでもねえな……】

【ヒーローになろうかと思ったけど、俺には無理です】

【現実的に無理だろ……】

「為せば成る、為さねば成らぬ何事も」

【無理】

 

 千変万化で綺麗な服装に着替える。一瞬だけ発光して着替えたら、何故かコメント欄が高速で流れていった。

 

【見えたっ!】

【嘘だ!】

【いや、輪郭だけは……】

【10歳くらいの子なのに……】

【ばっか、だから魔法少女なんだろ!】

【変態ばかりか……】

『ばかばっかって言ってみてくだい♡』

「ばかばっか……?」

【その台詞はっ! ルリルリだと……】

 

 姿が大きめの白色のシャツに紺色のスパッツに変わっているので、そのまま走る。ただ、白色のシャツの裾が長いのでスパッツがほぼ見えていない。でも、たいして邪魔にならないのでそのまま走っていく。

 

 ゆぐゆぐダンジョンに到着したら、機械に雄英高校のIDカードを入れて中に入る。現在、放課後ではなく授業中なので使われている。その場所は一階のエントランスに表示されているMAPで確認できる。そこからコースを選択する。選択するコースは"個性"は使用禁止なので、勢いで駆け抜ける。

 目の前の螺旋階段を走って登っていると、突如横の壁から無数の弾丸が顔の高さで放たれてくる。咄嗟に左腕を上げてガードする。炎を出せば防げたけれど、"個性"使用禁止なのでそのまま防ぐ。一発一発は成人男性が身体を仰け反らせる程度の威力のそれは、140㎝ぐらしかなくて体重も軽い私にとっては一発で身体が持っていかれる。ましてやそれが一斉に数十発も飛んでくるのでそのまま下へと落ちていく。

 空中で身体を回転して柔らかい床に着地する。掌の中を確認すると、種の弾丸だった。それらは地面に落ちると発芽してまた種の弾丸を飛ばしてくる。

 

「これ、子供には辛い」

『この程度、攻略せずしてヒーローにはなれん』

 

 弱音を心に仕舞いこんで、すぐに螺旋階段に戻る。先程の位置に近付いたら、今度は上から降ってきたので、バックステップで回避する。よくよく見ると弾丸を放ってきた蕾の位置が変わっている。同じ場所に配置して死に覚えを防止されているみたい。作った私だけれど、この難易度は大変。

 速度は銃弾より遅い程度。身体能力で攻略する必要はあれど、装備の使用は禁止されていないのでなんとかなる。

 

『道具などに頼るな。これが生死を賭けた戦いならば構わん。だが、これは訓練であり、死ぬことはない。ならば己の肉体でのみ攻略してみせよ』

『スパルタだね。だが、賛成だ。この程度は道具なしで行ってみようか』

『頑張れ、頑張れ♡ あ、何時でも身体は貰ってさしあげますのでギブアップなら言ってくださいな♡』

『まあ、死なないし頑張れ』

「……ふぅ……いく……」

 

 踏み込んで加速し、急停止して弾丸をやり過ごし、また加速して通り抜ける。背後から弾丸が飛んでくる。スライディングして回避すると、額のすぐ上を通り過ぎていく。弾丸の充填までのタイムラグを利用して身体を回転させて腕立ての要領で飛び上がり、振り向こうとしたら弾丸が飛んできたのでバク転でぎりぎり回避し、天井を蹴ってなんとか先に進む。

 今度は上からゴロゴロと大きな玉が転がり込んでくる。急いで吹き抜けにある複数の蔦に向かってジャンプし、蔦を掴んで向こう側に移動する。その途中で蔦が狙撃されて切られ、落下していく中、冷静に判断して切れた蔦を使って向こう側に放って設置されている手摺の棒の一つに絡めて移動。蔦が外れる前に反対側に到着した。そう思ったら、今度は目の前に植物でできた人型が現れて蔦を鞭のように放ってくる。

 

「っ!?」

 

 一撃で身体が吹き飛ばされていく中、床を掴んで爪を立てながら必死に衝撃を殺す。身体中に痛みが走るし、爪が割れたけれど無視する。相手は植物人間。打撃は効かないけれど弱点がちゃんとある。その弱点は頭部にある赤い球体と足の裏から床に生えている蔦。その蔦を千切れば勝てる。ただし、基本的に相手の攻撃は直撃すれば即死攻撃扱いで吹き飛ばされたり、巻き付かれてそのまま吹き抜けにポイ捨てされる。つまり、見極めていなさなければならない。ちなみに時間をかけると弾丸を放つ蕾も現れるので難易度は酷い。

 

「えい、えい、おー」

 

 走って前に出る。振るわれる両手の蔓の鞭を見極めて打撃を横から入れて弾き、中央に飛び込んでいく。背中から打たれるのを我慢し、自ら前に飛ぶことでその衝撃も合わせて加速して赤い球体に触れて、足裏を相手の身体につけて全体重をかけて引き抜く。背中から激痛を感じるけれど無視。引き抜くと植物人間は蔓の束になって消えて、そのまま床に吸い込まれていく。

 

「うー痛いー」

 

 後ろを見ると、背中のシャツがばっさりと切れていて背中に鞭の跡が残っている。両手も弾いたせいか、皮膚がやぶれて血がでている。でも、その()()でしかない。この程度で止まるならヒーローなんてもってのほか。この世界で生きていくことすらできない。

 でも、このままだとまずいのでシャツを脱いで引き裂かれた部分をさらに引き裂いていく。裂いた物を両手に巻けばまだ戦える。

 

『ちょっと待ちなさい! これ、放送中なのですよ!』

『あー胸を隠せ、胸を』

「ん」

 

 胸にもさらしのように巻いて続きをする。コメントをみたらすごい勢いでコメが流れていくけれど、それはどれも心配とか、そんな感じのもの。でもよくわからないからそのまま進む。大丈夫。腕が折れても足さえ無事ならどうとでもなる。腕ならたとえ千切れても問題ない。でも、足は駄目だ。動けなくなる。そうなれば的になって死ぬだけだよね。

 進んでいくと、今度はギロチンが複数あり、空中の足場を移動する感じだった。でも、これの攻略方法はギロチンの刃の横にある取っ手を掴んで登っていけるようになっている。たぶん、これが最短ルート。そんなわけで行ってみよう。まだいけるから。

 その先にあったボス戦で腕が折れた。折れた腕で攻撃したけれど最終的に両腕と片足が折れて、口だけでアルラウネの喉に噛みついて抉り取ってやった。流石にこれ以上は無理なのでコンテニューして、復活。

 システム的に私みたいな非力な幼女が無個性モードでやる設定ができていなかった。普通の鍛えた高校生を設定されていて、全身打撲程度ですまされるはずが、私では骨折になってしまった。まあ、被害が出る前に判明してよかった。不死鳥で再生して終わりだから。

 

【危険すぎじゃね?】

【小さな子供用にできてないのか。そもそも"個性"を使ったクリアが前提の難易度なのでは?】

【つまり、こころちゃんが自分から縛りプレイをしていると。まあ、植物だし火を使えばすぐだろうし、わからなくはない】

「……これから、お手本をしてもらう」

【お手本?】

「師匠、お願い――

 ―――心得た」

【仮面変えた?】

 

 師匠に身体を任せてお願いしてみた。弾丸は全て最小限で避けるどころか、撃つ前に接近して握り潰し、植物人間の攻撃は掠りもせず全て見極めて回避し、赤い球体を引き抜いて倒す。ボスすら手数の関係で時間がかかったぐらいだ。

 

「見本はこれだ。精進せよ」

【【【無理だろ!】】】

「おー」

 

 一つ思った。身体を師匠に任せて徹底的に鍛えてもらってから、身体を返してもらって復習すれば効率がいいのではないだろうか。話してみると、それでいくことになった。ただ、他の人にも任せてみると、皆がそれぞれ"個性"が有りなら先生を除いてかなり強かった。しっかりと使い方を身体に教え込んでもらい、"個性"の使い方を座学でレクチャーしてもらって実戦した。先生が例外なのは、相手は"個性"を持っていない上に他の"個性"が使えないから。あくまでも一人という扱いだし、先生にとってこの訓練は天敵。それでも私よりも断然強く、普通に上までいってたけど。実戦経験は大きかった。

 

 

 

 



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13話

難しい!


 緑谷出久

 

 

 

 僕が全力で殴ったことで吹き飛び、壁に激突して腕が折れて首が変な方向にいっている。彼女の身体中から赤色の液体が溢れ出し、そのまま動かなくなる。残ったのは片手に残る柔らかい物を殴った感触と何かが折れた音。そして、血塗れの両手。

 

「……ひどい……ヒーローなのに……なんで、殺した……」

 

 声が聞こえて振り返ると、いつの間にか首が折れて身体から血を噴き出している幼い桃色の髪の毛をした女の子が近くにいた。彼女は骨がでて血塗れになっている両手で、振り返った僕の頬っぺたを抑え込んでくる。ぬめっとした生暖かいそれが僕の頬っぺたに塗りつけられていく。

 

「ひっ!?」

 

 驚いて後ろに飛び退ると、今度は後ろから抱きしめられた。そして、耳元で囁いてくる。

 

「あなたは偽物」

「ヒーローじゃない」

「人殺し」

「まだ生きたかったのに……」

「なんで私は死んであなたは生きてるの……?」

 

 いつの間にか無数の彼女によって身体を掴まれて引き倒されて、押さえ込まれる。

 

「「「「偽物偽物偽物」」」」

「「「「シネシネシネ」」」」

「「「「人殺し人殺し人殺し」」」」

 

 馬乗りにしてきた目から血を流している女の子に首を絞められる。

 

「いっぺん、死んでみる……?」

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁああああああああああああああああぁぁぁぁっ!?」

 

 ガバッと起き上がる。はっはっはっと荒い呼吸を繰り返し、恐る恐る首元を触れてみる。なにもない。

 

「ゆ、夢か……」

 

 落ち着いてくるとものすごい汗をかいていることがわかった。まず起きてから着替えを用意して風呂場へと移動する。この寮は防音もしっかりとしているから大丈夫だ。

 

 

 裸になって冷たいシャワーを浴びながら、意識を覚醒させる。鏡に映った僕の顔はすごく青ざめていて、とてもじゃないが普通じゃない。ふと視線を下にやると――両手が真っ赤だった

 

「うわっ!?」

 

 慌てて下がって壁にぶつかって鏡を見る。赤い液体がそこら中にあり、頬を手で拭ってみると両手も頬っぺたも赤い血が付着していた。鏡をふと見ると、そこには血塗れの女の子が映っていた。

 

「おい、緑谷、悲鳴が聞こえたけど大丈夫か?」

「え? 切島君……あ、あれ……」

「鏡がどうしたんだ?」

「ううん、なんでもない。ちょっとこけちゃって」

「しっかりしろよ」

 

 差し出してくれた手を掴んで起き上がる。血塗れだったなんてことはなく、普通に僕の手だった。鏡にも彼女は映っていない。

 

 

 

 

 放課後。ナイトアイヒーロー事務所に出向いたら、サーは退院して事務作業をしていた。流石にヒーローとしての活動は控えていて、リハビリをしている。なので、今は基本的に透形先輩達と見回りだ。でも、そこには彼女もいる。

 

「あれなに?」

「あれはねー、とーってもおいしいーお魚さんだよー」

「お魚さん?」

「甘いよー」

「甘いお魚さん、食べたい。いい?」

「はっはっはっ、見回り中の買い食いは駄目! といいたいけれど、えりちゃんはついてきてるだけだからね。いいよ、買ってこよう!」

「やった!」

「やったー!」

 

 僕が殺した少女、こころちゃんは両手をあげて無表情で飛び上がって喜びを表現する。顔に表情が一切でないから、身体を使ってのボディーランゲージをしているようだ。僕はこんな元気で無垢な女の子を殺してしまった。確かに彼女はオール・フォー・ワンを宿している。でも、それは彼に操られていたわけじゃない。自分の意思でコントロールしていたんだ。

 

「あ、こころちゃんは駄目だよ」

「にゃんと!」

「だって、えりちゃんはついてきてるだけだけど、こころちゃんはヒーローとしてのお仕事だからねー」

「納得の理由。仕方ない。諦めるー」

 

 しょぼーんと両手を下にやってだるそうにするこころちゃんは……視線をガラスケースに入ったテレビを見た。

 

「緊急の臨時ニュースです。(ヴィラン)によって○○空港を発進したHL579便がハイジャックされました。(ヴィラン)の要求は先の事件で捕らえられた死穢八斎會の若頭、治崎廻の釈放を求めており……要求に従わないと、飛行機を街に落とすとのことです」

「中に人質がいる上に飛行能力を持つヒーローは数がすくなく……」

 

 とんでもない内容が伝えられていた。事件はまだ終わっていないってことか。

 

「お、お姉ちゃん……」

「大丈夫だよーお姉ちゃんに任せてー! んしょ」

「行くのかい?」

「こころはヒーローだからね。だから、えりちゃんをお願いー」

「任せてくれ。緑谷君もいいよね?」

「もちろんです」

「じゃ、いってくるー」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

 えりちゃんを肩車した先輩と一緒に見送る。彼女は炎の翼を広げ、空高くへと飛び上がっていく。

 

 

 

 



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14話

 

 

 

 

 飛行機が街に落ちてくる。そんなことになったら、乗っている人どころか、落ちてきた場所に居た人もいっぱい死んじゃう。それは駄目だと思う。だから、こころは空を飛んで目的の場所へと移動する。

 空を飛んでいると、鳥の翼をしたお兄さんがいた。彼は飛行機の周りを旋回していて、色々と試している。

 

「こんちにはー」

「ああ、こんにちは。君は俺と同じヒーローだね。たしか秦こころだったかな?」

「私は感情を操る者、秦こころー。ヒーローとして助けにきた!」

「うん。無表情で言われても伝わってこないな。ゼスチャーでなんとなくわかるが。まあ、いいや。俺だけじゃどうしようもなくてね。協力してよ。その"個性"、何時まで飛べるかわからないし。というか、"個性"が二つ?」

「二つじゃないよ、いっぱいだよ」

「そっ、そうか。君なら飛行機の中に入れるかな?」

 

 できるかどうかと言われれば可能。だからこそ来た。

 

「大丈夫、こころにお任せー」

「そうか。俺だと周りを飛ぶしかできないから助かる」

『陽動をお願いすればいいよ』

『オーバーホールで貨物室の扉を開けるのですから、気圧の変化などで機体がゆれるはずです』

「陽動をお願いー」

「わかったよ。どんな感じがいい?」

「機体を揺らして欲しいの。できる?」

「問題ない。任せるよ」

「こころにお任せ」

「じゃあ、作戦開始だ」

「おー!」

 

 鳥さんが飛行機の前方に移動したので、こちらも炎の翼を使って格納庫の方に移動して触れる。少しすると飛行機が揺れ出した。おそらく、コクピットの前でウロチョロしたんだろうね。よーし、ここも行こう!

 

「オーバーホール」

 

 格納庫の扉に穴を開けて、その周りを厚めにしてから中に入る。そして、中に入ってからオーバーホールをもう一度使って今度は綺麗に戻す。この時、飛行機はとってもグラグラと揺れたけれど、鳥さんがやってくれたことで特に気付かれていない。

 扉のセンサーとかはあるだろうけど、中央に穴が空くとは思ってないだろうし、計器の異常は一瞬だけ。監視カメラがあったら別だけど。

 

『はい、代わりましょう』

「うん」

 

 さて、続いて狐の仮面をかぶって千変万化で肉体を霧に変化させる。玉藻さんにお願いしてそのまま進んでいく。染み込むようにして格納庫から通路に出てる。通路には見張りの人が数人いて、乗客の人達は震えながら席に座っている。

 

「さっきの揺れはなんだ?」

「どうやらヒーローのホークスがコクピットに近付いてきたらしい」

「馬鹿だろ。こっちには人質がいるんだぞ」

「まったくだ。また周りを飛ぶようになったそうだぞ」

 

 床に薄っすらと這わせてから、中央にいる見張りの辺りに霧を集め、元の姿に戻す。

 

「私、秦こころ。貴方達のすぐ後ろにいるの」

「っ!?」

「ラブ&ピースだよ」

「だっ……おっ、おおっ、こころちゃんっ!?」

 

 両手をピースにしながら、指の端で頬っぺたを笑顔の形にする。同時にハイジャック犯を含めて乗客の感情を操作して、親愛、信愛など愛情関係の感情を最大に設定した。それと犯人は罪悪感や依存に関する感情も上げて、客やアテンダントは冷静にさせる。

 

『こういう時は客に犯人側の人が混ざっていることもある』

「犯人さん、話して。それと乗客の中に犯罪をした人も教えてー」

 

 客も全員、罪悪感を最大にして全て吐かせる。すると客の中にはいなかったけれど、アテンダントの人が爆弾を持ち込んでいるのがわかった。爆弾に関してはオーバーホールで分解して、それから犯人の人達をその人達の服とか武器とかをオーバーホールで手錠などに変えて拘束し、オール・フォー・ワンで彼等の”個性”を貰ってからその内の一人に千変万化でなってコクピットに移動する。

 

「おい、騒がしかったが何かあったのか?」

「乗客が少し暴れただけ。それよりそっちは?」

 

 犯人の一人の肩に手をつきながら、個性を貰って聞く。

 

「相変わらずホークスが飛び回ってるだけだ。このまま街に落ちるから逃げる準備をしておけ」

「わかった。でも、逃げる必要はないの」

「なに?」

 

 姿を変えて感情を操り、こころのお人形さんに変える。

 

「あ、アンタは……」

「私は秦こころ。ヒーローだから、安心して。もう制圧したよ」

「それは良かった……」

「いや、全然よくねえよ!」

 

 パイロットの一人が叫んだ。

 

「どうしたの?」

「燃料がもうない。このままだと墜落する」

「なるほど。大丈夫、なんとかする。機体のコントロールだけお願い」

「わ、わかった」

「た、頼む」

 

 今度は普通の扉に移動してオーバーホールであけて、炎の翼で空を飛ぶ。下の方に移動して筋肉増強などの"個性"を使いながら必死に抱える。

 

「なにをやってるんだい?」

「安全は確保できたけど、燃料がないからこのまま墜落するって。だから、大丈夫そうなところに降ろそうと思うの」

「なるほど」

「鳥さんは空いた扉から一人一人救出していってほしいの」

「了解だ。任せてくれ」

 

 物凄く重い。今は燃料が少しあるのでましだけど、すぐに限界がくるし、視界が段々と暗くなってくる。

 

「……まだ、まだぁっ!」

 

 感情を操作して限界突破状態にして、全力を超えた600%の出力で炎の翼を展開して、必死に海まで運んでいく。

 

 

 

 

 



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15話

 

 

 

 

 

 飛行機が落ちてくる。ハイジャックしたとネットで犯行声明が出され、目的地と言われた場所にいた人々は街角で必死に助けを願う中、空に膨大な炎が現れた。

 そして、飛行機が停止したのか、報道のヘリコプターが近付いてその様子を捉える。そこには小さなヒーローの女の子が背中から巨大な炎の翼を広げて必死に飛行機を動かしていた。

 

「誰だよ、あの子……」

「ヒーローなんだよな?」

「ホークスもいるけど、手を出せてないな」

「炎のせいだろう」

 

 そんな風に見ていると、女の子の表情がどんどん悪くなっていく。それはそうだろう。いくらなんでも、小さな女の子があんな巨大な物を壊さずに持ち運ぶなど無理だ。そんな時、歌が聞こえてくる。

 

 

 

 こころ

 

 

 

 頑張っているけど、海までは出力が全然足りない。人を救助するという誓約がある限り、こればかりはどうしようもない。不死鳥の出力も足りていない。私の身体がまだ使いこなせていないのだと思う。だからか、限界を超えて炎を出し続けていると、身体が焼けて炎になってくる。このままじゃ身体が持たない。

 

『これはどうなるんだい?』

『死にはしない。身体が炎で構成されるようになるだけだ。アタシの力はここからが本番だ』

『でも、それって人間を確実に止めてますわよね?』

『当然。文字通りの生ける炎になるからな』

 

 それでも、助けるまでは止まるつもりはない。そう私が決めて感情を操作し、固定した。だから――

 

「……まだ、まだ……いける……」

 

 ――諦めない。諦めるなんて選択肢は存在しない。人から外れる? そんなもの、千変万化で人の形を整えればいいだけ。むしろ、生きることを最優先にするのならば好都合。

 

「だから、身体を燃やせ、不死鳥っ!」

『ったく、どうなっても知らねえぞ』

 

 それが人々に望まれているヒーローという存在。私が目指し、憧れているのだから仕方ない。

 

『面白い。ならば力を貸してやろう。不死鳥、お前がメインだ』

『わかった』

『こころ、詠唱をする。行くぞ』

「うん」

 

 身体の中から聞こえてくる二人の声を聞きながら、一緒に詠唱をしていく。

 

「『『天昇せよ、我等が守護星――鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため』』」

 

 唱えだすと身体の中で何かが変わった。まるで三人が一つになるみたいに。

 

「『『荘厳な太陽(ほのお)を目指し、煌く翼は天駆けた。火の象徴とは不死なれば、絢爛たる輝きに恐れるものなど何もない。勝利の光で天地を焦がせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる』』」

 

 その状態で身体が作り替わっていく。まるで炎を使うための身体になるみたい。

 

「『『絶滅せよ、破壊の巨神。嚇怒(かくど)の雷火に焼き尽くされろ。人より生まれた血脈が、英雄の武功と共に、汝の覇道を討ち砕く。天霆(てんてい)の轟く地平に、闇はなく。蒼穹を舞え、天駆翔。我が降誕の暁に創世の火を運ぶのだ』』」

 

 合わさり一つになった。私は彼女で、彼女は私。家族を殺されたことで自らを復讐の炎と化した存在。その彼女を私の力を持って光の存在に作り替える。

 

「ゆえに邪悪なるもの、一切よ。ただ安らかに息絶え、我が力となれ。我等は天空を統べるが如く、銀河に羽ばたけ不滅の不死鳥。果てなき未来をいざ往かん―――創世神話(マイソロジー)は此処にある。超新星(Metalnova)――森羅超絶、赫奕と煌めけ怒りの救世主!(Raging Sphere Savior)

 

 周りに火の粉が舞い、私の全身から炎を噴き出させて翼の出力を上げる。翼の炎は30メートルを超えるほど大きくなる。一度羽ばたくだけでかなり移動できる。

 

『完成?』

『これ、不死鳥と完全融合かい』

『そうだが、まだだな。やれるところまで試してみよう。こころ、いけるな?』

「いける。私は止まらない」

『よかろう』

 

 英雄の仮面をつけ、詠唱を始める。

 

「『創生せよ。天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星。巨神が担う覇者の王冠。太古の秩序が暴虐ならば、その圧制を我らは認めず是正しよう。勝利の光で天地を照らせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる。

 百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。鍛冶司る独眼よ、我が手に炎を宿すがいい。大地を、宇宙を、混沌を――偉大な雷火で焼き尽くさん。

 聖戦は此処に在り。さあ人々よ、この足跡に続くのだ。約束された繁栄を新世界にて齎そう。

 超新星(Metalnova)――天霆の轟く地平に、闇は無く(Gammaray Keraunos)』」

 

 炎の翼が虹色の翼に変化した。それは触れたありとあらゆるモノを撃ち滅ぼす破滅の翼。放射能分裂光と炎が一体化した戦略兵器。どちらもとっても相性がいいからできたみたい。

 

「……月光蝶……?」

 

 綺麗な蝶の羽にしてみたらとっても綺麗だった。でも、同時に身体の中から引き裂かれて塩漬けにされ、ドリルで掻き回されるような激痛が襲ってくる。それでもしっかりと耐える。

 

『これはやばいのか、わからないね。正直、劣化している感じもするが……』

『不死性を得ていますし、触れたら終わりの面攻撃と見えない光線の攻撃。どちらも危険ですわね♡』

「『『どうでもいい』』」

『そうですわね。どちらにせよ、後ろの炎が振れないようにしないと汚染されて周りが死の大地と化しますよ』

「『『了解』』」

 

 海の近くまで飛んでいき、飛行機を降ろす。すぐに星辰光(アステリズム)、"個性"を解除して飛行機の上に座る。

 身体を確認すると色んなところから出血している。でも、炎が噴き出して治療されていくので放置でいい。軽く身体を動かしてみるけど、今まで以上に身体が動いていく。

 

『どんな感じだい?』

「今までよりはいいよ。動きやすい」

『そうか』

『君の身体の中に変な物体ができているのだが……』

『そうですわね。これはなんなのでしょうか?』

『それなら私が知っている。俺が物間こころの体内にオリハルコンを生成し、骨と置き換えた』

『なんだい、それは?』

『簡単に言えば"個性"の因子を増幅する物質だと思ってくれていい。俺が研究し、作り上げたデータを基にしている。当然、俺の体内にも設置して研究を重ねていた』

『安全なのか?』

『安全だと思うか? 身体の中に異物があるのだぞ?』

『こころはいいのか?』

「私は問題ない。それに不死鳥がいれば大丈夫」

『そ、そうか……これは少し嬉しいな』

 

 とりあえず、救助活動を手伝う。ゆっくりと怪我なく、確実に救助するために歌に乗せて感情を操作し、安心させて避難させる。

 

 

 

 

 

 その日、飛行機を気にして空を見詰めていた人々やテレビを見ていた人は見た。炎の化身……そんな馬鹿みたいな存在。圧倒的な存在感と膨大な熱量を放っている。まるでそれは太陽のようで、近づけばそれだけで蝋の翼は溶けて消えていく。

 実際、ホークスも近づけずに距離を取っていた。飛行機、ジャンボジェット機をこころが持っていた場所は溶けて変形している。いや、それは前だけではなく全部だ。ただ、内部まではたっしていなかった。

 

「まるで神話のようだ……」

「あの子、なんなんだ……」

 

 理解できない。人の力を軽く超えている。それでも恐れるのは一部の人達のみで、ある程度の人々は歓迎する。なぜなら、オールマイトという平和の象徴がいるからだ。それも普段なら受け入れられず、化け物のように思われる可能性があった。だが、現状はオールマイトがもう戦えなくなって引退し、日本中に不安が渦巻いている。そこに同じヒーローであり、オールマイト並みの規格外が現れたのだ。彼等は物間こころに希望を見る。それによって感情がこころに集まることで彼女の行動方針が決まっていく。

 

 

 

 




ヘリオスが不死鳥にあってると思ったからやった。今では後悔して……

正義のためならば、身体の改造など容易く行い耐えろ。閣下ならできたぞ。
生きたままオリハルコンを肉体に埋め込むなど過度の強化を施すのは凄まじい激痛に襲われるのだが、閣下は気合で耐えたぞ。
通常の状態でこの"個性"ガンマ・レイを発動した場合、自らも被爆するという欠陥品以外の何物でもない欠点を閣下なら・・・以下略。

New 
こころちゃんの個性因子が一時的に激減しました。
肉体が異形型に変更されました。
こころちゃんの属性が無属性から光に変更されました。
こころちゃんは悪の敵となることを誓いました。
こころちゃんは必殺技【超新星――森羅超絶、赫奕と煌めけ怒りの救世主】を習得しました。
こころちゃんは必殺技【超新星───天霆の轟く地平に、闇はなく】を一部習得しました。
こころちゃんは必殺技【月光蝶(?)】を習得しました。


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