現実は漫画よりも奇なり (プリントハヤシ)
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「がっこうぐらし……?」

現実は小説よりも奇なり。みたいな言葉があるけど、別にそんなことは全然無いと思う。そもそも小説と現実、つまりはフィクションとリアルを比べること自体がナンセンスだ。怪奇さで言えば絶対に本の方が勝るに決まってるだろう。

 

決して僕は現実がつまんないとかそう言う話をしたいわけでもないんだよ。それぞれ良いところがあるし、僕たちは本から学んだことを現実に輸入していけばいいんだ。

 

そう、この道端に落ちているこの本もだ。

 

「……なんでこんなところに本が?」

 

高校一年生の春、入学して早一ヶ月の今日、僕は丁度登校路についていたんだが、そんな僕の目の前に一冊の本が立ち塞がったのだ。ただの本なのに、立ち塞がったと言うのも変な表現かもしれないけれど、その日はなぜか無視して通り過ぎればいいやなんては何故か思わなかった。

 

「……」

 

辺りを見渡してから僕はその本を拾う。なにやら、表紙には可愛いらしい女の子が描いてある。

 

「がっこうぐらし……」

 

今僕が呟いた、それがなにやらこの本のタイトルらしい。今は朝の7時15分で、まだ朝礼には時間に余裕があるし、ちょっとくらい、とそう思い近くにあった公園へと向かおうと足を踏み出した。

 

 

公園のベンチに腰掛け、先ほどの拾ってきた本を読みながら僕は目を丸くしていた。

 

「……面白いな」

 

中身は漫画で、僕は今まで漫画は本の中ではあまり読んだことは無かったがこれがまた面白い。

 

主人公の”ゆき”が学校で楽しい日常を送るといった物語かと思いきや、その楽しい生活は全て彼女の妄想だった……そんなところか

 

「僕は、今まで主人公と同時に語り手である登場人物のゆきに虚実へと誘導されていたってことか……これは著者に一本とられた気分」

 

しかし、まさか所謂SFパニック物だとは思いもしなかったな。1話目でここまで引きが強いと続きが気になるところだが、このくらいにして学校へ向かわないと遅刻しちゃうしな。

 

「……この本は公園のベンチに置いておこうかな」

 

道端に戻しておくのもなんだしな。それに、もし持ち主が拾いに来て、踏まれたあとのついた本があっても嫌だろうし。

 

結局、僕はチャイムの10分前には学校に到着することができた。

 

 

 

 

入学して友達が多いというわけではないが、隣の席になった男子とは仲良くなれたし最近は結構学校は楽しい。

 

それに特にこの学校は凄いんだ。そういえば、今朝読んだ漫画で主人公のゆきが”まるで学校は一つの国みたい”言っていたのに僕は確かにとうなづいたっけな。

 

「高校の授業のペース中学とくらべるとやっぱ早いな……」

 

僕はそう呟きながら廊下を歩き、あるところへと向かっている。その場所とは、図書館だ。ここの学校の図書館はとくに凄い、なんでもあるんだ。放課後ここに寄っていくのが僕の最近のひそかな楽しみだ。

 

「やっぱり、静かな場所で一人でってのは落ち着くな」

 

別に、一人が好きってわけでも大人数が嫌いってわけでもない。騒がしいのもちょっとうっとしいが楽しい。でも、やはりこういう時間が必要なんだ。僕に限らなくてもみんなそうだと思う。音楽を聴いたりテレビを見たり、そして散歩したり。それがたまたま僕は本だっただけに過ぎない。

 

「……」

 

こうやって、本棚を歩きながらたまたま目に入った本を読むって結構好きなんだよね。そう思いながら俺は本に手を伸ばした。すると

 

「あっ……」

 

誰かの手が僕の視界にはいり、その瞬間お互いに手をバッと引っ込めた。

 

「どうぞ」

 

僕はそう言いながら、その手の持ち主の方へと目をやるとクリーム色のショートヘアに宝石みたいな青い瞳をもった少女の姿がそこにはあった。

 

僕は一瞬目を見開いた。何故だか、確実に初対面なはずなのに彼女とは初めて会った気がしないのだ。妙な既視感が僕を襲い、その場から少したじろいでしまう。

 

「い、いえ!私は大丈夫なので……お先にどうぞ」

 

そんな僕を気にする様子などもなく彼女は手のひらをこちらへ向け本を進めてくるのだが、僕もこの本はたまたま目に入っただけだし別にすごく読みたいとかいうわけでもない。

 

「僕こそ平気です。どうぞ、それに……ちょっと君の方が早かった」

 

そう言って僕はその本を棚からとり彼女に手渡した。

 

「そ……そうですか?」

 

折れた彼女はもじもじとしながら本を受け取ろうと手を伸ばす。

 

「あっ、じゃあ……」

 

受け取ったと思ったら、彼女はそうだと人差し指を立てて

 

「私が読み終わったらこの本渡しに行きましょうか?私、すぐ読んじゃうので」

 

別に、新しいのを探すからいいよ。なんて言うのもあれだし僕はその提案に頷いた。

 

「クラスとかって……?」

 

「1年a組です」

 

「あっじゃあ私達同い年ですね」

 

どうやら、彼女は隣のクラスの一年生らしい。もしかしたらこの一ヶ月で廊下ですれ違っていたのかもしれないな。

 

「じゃあ今日は僕はこっちの本を読んでみようかな」

 

「あっ……その本」

 

せっかく図書館にきたんだ、違う本でも読もう。そんな気持ちで僕が手を伸ばした本に彼女はなにやら反応を見せる。

 

「知ってるの?」

 

僕がそう聞けば

 

「うん。面白い」

 

と、微笑んでくれた。

 

「そりゃ楽しみだ」

 

僕もそれにはおもわず笑みがこぼれた。

 

僕たちが仲良くなるのに時間はかからなかかった。たんに本好きと言うだけでは趣味も違う可能性があるが、なんと僕たちは趣味も合うし話が弾んだ。弾み過ぎて図書館じゃマズイなと思い図書館を後にするが、終始彼女は笑っていた。無論僕もだった。

 

「じゃあ、私そろそろ帰るね」

 

「うん。また明日」

 

「この本読みやすくて薄いから今日中に読んで明日渡すね」

 

「だから、ゆっくりで大丈夫だよ」

 

気づけば互いに、敬語で話すことはなくなった。聞いたところによれば、ほんの趣味が合う人間が彼女にもいなかったらしく話し相手ができて嬉しかったらしい。僕も同じ気持ちだった。

 

「ううん、早く君にも読んで欲しくて……」

 

「そ、そう」

 

僕はそういう彼女からとっさに目をそらしてしまった。なんかちょっと恥ずかしくて。そんな僕を見て彼女も恥ずかしくなってしまったようで

 

「そ、そうすれば!……また感想言い合えるでしょ」

 

ツンとそっぽを向いて、またねと僕に吐き捨て歩いていった。少々僕らは本の読みすぎかもしれないな。

 

 

 

 

僕は帰路についていた。ちょっと学校で彼女と喋り過ぎたせいか、空がいつもより少し暗い。

 

「にしても……彼女どこかで」

 

僕は未だに彼女に対して謎の既視感があり、頭を悩ませていた。そんな時に僕は今朝拾った漫画を読んだ公園を通ったのだ。

 

「っ……!」

 

僕は急いでベンチへとかけより、漫画がまだあることを確認する

 

「まだあった…!」

 

ペラペラと漫画のページをめくり、僕は目を見開いた。

 

「そっくりだ……」

 

そうだ思い出した。作中、主人公のゆきに”みーくん”と呼ばれるその登場人物の一人である女の子は今日の彼女と瓜二つなのだ。もはや偶然という言葉では言い表せないほどにだ。

 

なんか、春なのにゾクリと寒気がした。

 

というか、図書館であった彼女の名前聞いてなかったな……まあ、僕も名乗らなかったのも悪いけど。

 

「まあ、でも偶然としか言いようがないよな……なんせ僕が生きるこの世界はーー」

 

ーー現実なのだから。

 

僕はため息をついた後、本を見つめる。

 

「……」

 

今日一日誰も拾いにこなかったんだ……今日中に読んでまた返すから……

 

「ちょっと借ります……!」

 

僕は好奇心に負けて漫画”がっこうぐらし”を手に取った。

 

現実は小説より奇なり。この後本を借りたことによって自分がこの言葉を信じざるをえない状況に合うことになるとは、僕はまだ予想だにしなかった。

 

 




この作品中に出てくる漫画学校ぐらしは分厚い一冊にアニメ版の世界線の内容が漫画で収録されている設定です!


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現実に睨まれたカエル

やっと2話目です!感想をくれた方とお気に入り登録してくれた方ありがとうございます!


「どうしたんだよ?朝から机に突っ伏して」

 

隣の席の山本がそういうように、僕は朝から気分が乗らない。というのも昨日は夜更かしをしてしまったからだ。もちろん、昨日借りてきた漫画がっこうぐらしを夜更かしで読んでいたためである。僕は読むスピードが遅いにもかかわらず、つい第3話まで読み込んでしまった。

 

あの本は不気味で仕方がない。ちなみに内容は本当に面白い。恐怖の種類が狂気的なものというか、それに極限状態に抗う登場人物たちを見て僕も1日を大切に生きよう。そう思うような作品だ。しかし、もっとも僕が不気味と思った理由は別にある。

 

まず一つ、あの漫画の舞台についてだ。彼女たち登場人物が通う高校は少しばかり特殊で、屋上には畑にソーラーパネルさらには貯水池、そう本当にまるで国みたいなんだ。そんな本当に漫画の中のような学校あまり無い。

 

しかし、僕が通うこの巡りヶ丘高校はそれらが全てある。あまりにも多い共通点に鳥肌が立ったほどだ。そして、さらに不気味な点がもう一つ。

 

登場人物についてだーー

 

「ねー、あの子が君に話があるって」

 

急にだがクラスメイトの女の子に肩を突かれ、僕は机から顔を上げた。その子の指を指す方向に目をやれば、例の昨日の彼女が片手に本を抱えてやってきていたのだ。

 

丁度いい。僕はそう思って席を立つ。

 

「誰?隣のクラスのやつ?」

 

頭の後ろで手を組みながらそう問いかける山本には

 

「そうだよ。ちょうど昨日知り合った子で」

 

と、だけ言っておいたが僕は彼女の名前すら知らない。そう、名前が聞きたい。彼女の名前はなんだ?この疑問が、さっき話途中だった漫画がっこうぐらしの不気味な点のもう一つに大きく関わる。

 

彼女は似すぎているのだ。作中で主人公にみーくんと呼ばれる登場人物に瓜二つなんだ。

 

正直、そんな小説じゃあるまいし現実世界で"そんなこと"があるなんてありえないことなんかわかっている。でも、僕は何故か好奇心と変な直感が入り混じるなんとも言えない感情に支配されていた。

 

"そんなこと"と言うのは、つまりあの漫画がっこうぐらしがこの世界の未来を描いたものなんじゃないかって僕はそう思ってしまったんだ。それこそ人々は僕にこう言うだろう。本の読みすぎだ、と。僕もそう思う。でも先程言ったように僕の直感がなんか、危険信号のようなものを発しているのだ。

 

偶然なら偶然なのが一番なんだ。だから僕は安心したいから、確かめたいだけなんだ。僕は漫画がっこうぐらしを読んで今僕が生きるこの日常がやっぱり、好きだから。それに、これからももっと彼女と本の話をしたいし……

 

「あ、昨日の!廊下から呼んでくれれば良かったのに」

 

僕がそう言うと、彼女は目を逸らし頰をかく

 

「ごめん、だって君の名前知らなくて」

 

「そういえばそうだった。僕たちまだ自己紹介もしてなかったのか」

 

「うん」

 

「昨日は君と話してるのが楽しくて……つい自己紹介を忘れちゃってたよ」

 

「ちょっ……なに恥ずかしいこと言ってんの」

 

僕的には別に思ったことを言っただけなのだが、急に彼女からは目を逸らされて、手を前にだして照れたような表情で昨日約束した本をこちらに差し出してきた。

 

「ありがとう」

 

僕は、本を受け取って微笑んだ。素直に嬉しかったのだ。改めて彼女と友達になれた、そんな気がして

 

「面白かったよ、その本。さっそく読んで感想はやく聞かせてね」

 

「わかった。楽しみにしてる」

 

「あっ、それとその本読んだらまた私に返して。私の名前で図書室で借りてるから」

 

「了解。じゃあ、読み終わったらそっちのクラスにいくよ。……あっ、そうなるとやっぱり自己紹介が必要だ。僕は江古達也改めてよろしく」

 

さあ、ここからが本番だ。ただの自己紹介だと言うのに胸の音が体に響く。

 

「ふふっ。だね。私は直樹美紀、よろしく」

 

直樹……美紀……

 

自分で疑っていたことなのに、僕はちょっと驚いてしまって彼女をじっと見つめてしまう。

 

「ど、どうしたの……?」

 

それには彼女も眉をしかめ首を傾げている様子だ。

 

「美紀……か……」

 

「い、いきなり下の名前っ……!」

 

僕の口からは思わずそう溢れて、彼女はその言葉に顔を赤くする。どうやら勘違いされてしまったようだけど、僕は別に彼女の名前を呼ぼうとしたわけではない。ただ、美紀なら"みーくん"と呼んでも違和感はあまりないな。そう思ったのが声に出ててしまったのだ。

 

「ご、ごめん」

 

まあ、それでも僕もそんな女の子慣れしてるかなんて言われたらそんなことないし、もっとも、僕は上と下の名前どちらで呼ぼうが呼ばれようがあまり気にしないのだが、彼女の赤い顔を見ると僕もたしかに下の名前で呼ぶなんて柄にもないことをして少し恥ずかしくなってしまい、謝った。

 

「いや、別に良いんだけどさ……ちょっとびっくりしちゃって、謝ることなんかじゃないよ」

 

「そう?……じゃあなんかよく呼ばれているあだ名とかってあるの?」

 

僕は頭を書きながら笑顔でそう言ったが、その返答に僕は耳を傾ける。それも、かなり集中してだ。

 

「うーん……特に無いかな……普通に苗字か名前かも」

 

「そっか」

 

別に"みーくん"と呼ばれてる訳では無いらしいな……たしかに、"みーくん"ってのは彼女の柄では無い感じもするかもしれないが……

 

「ちなみに、僕は皆んなからはエゴちゃんって呼ばれてる」

 

「……私は遠慮しとく」

 

「ははっ、別になんて呼んでくれてもいいよ。じゃあ、本ありがとう。またね」

 

引き気味にそう言う彼女に僕はそう言って席へと戻った。

 

 

 

 

……やっぱり僕の考えすぎか?いや、作中のみーくんは2年生。仮にあの漫画が本当に未来のことを描いたものだとしてもあのパンデミックが起こるまであと1年ある。

 

「たった一年か……」

 

いや、だから違う。現実世界でそんなことあるわけがないんだ。僕はそれを証明したいんだ。そんなことないことを確かめたい。

 

「それに、今日は楽しみがあるからな」

 

彼女、美紀にもらった本を片手に放課後僕は帰ろうと階段を降りながらあくびをした。……でもそういえば今日、あんま寝ていないんだっけな。

 

「あ、いた!めぐねぇ!」

 

フワッ。

 

僕は、またあの不気味な既視感に襲われることとなる。目を見開き、今階段ですれ違った女の子の方へと振り返る。

 

「あっ……」

 

あの特徴的な羽の生えたリュック、変な帽子、小さなフォルム。あんな奇抜な子他にいるもんか。僕は階段を上がり、その子を追いかけた。

 

「あなたはっ……!ゆきさんですかっ!?」

 

「えっ!?そうだけど、だ……誰?め、めぐねぇ!」

 

驚いた表情でその子は僕からたじろいた。

 

「あなたは……新入生?」

 

「めぐねぇってたしか……」

 

その生徒を庇うように前に出てきたのは、紫の髪の先生……

 

「っ……」

 

この人も僕は知っている。佐倉先生こと"めぐねぇ"だ。二人とも漫画がっこうぐらしに登場していた登場人物である。

 

「そ、そんなことが…….」

 

だんだんと息が荒くなる。突如現れた奇妙な現実に睨みつけられた僕はなんとその場から一歩も動けない。そのくらいの衝撃があった。もはや、偶然なんて考えは僕のなかから消えたのだ。

 

「ちょっと……!あなた大丈夫!?」

 

そんな僕の様子を見てか、佐倉先生は僕の肩を掴んでそう問いかけた。

 

「あっ……すいません……!ちょっと、僕やらなきゃいけないことを思い出して……!」

 

僕は、先生の手を振り払い走り出した。

 

「え!?まって……いっちゃった。あの子丈槍さんの知り合い?」

 

「え?ううん……なんであの人私の名前なんか知ってるんだろう……?」

 

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

早く帰って、がっこうぐらしを読まないと。

 

ーー現実は小説よりも奇なり。

 

「くそっ!!その通りじゃないかっ……!」

 

僕の疑いはさらに深くなり、ものすごいスピードで風を切る僕は息がどんどん上がっていく。その日は初めて家まで全力疾走をすることになったのだ。

 

 

 




もしかしたら、展開が遅いかもしれませんが……温かく見守ってくださるとありがたいです


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めぐねえに相談

感想をもらったりして、これを読んでこう感じてくれるんだと新鮮な気持ちでいっぱいですありがとうございます!ぜひ気軽に感想どしどし下さい!


「直樹美紀……完全に一致しているな……」

 

それこそ徹夜である。"ゆき"と"めぐねぇ"に遭遇した僕はエナジードリンクを片手に漫画がっこうぐらしを読みあさっていた。震える手を抑えながら、1ページずつ丁寧に……

 

「それと丈槍由紀、佐倉めぐみ……」

 

全てを読み終え、僕は一息つくのだがまだ心臓は音を立てている。変な緊張状態が続きあくびの一つも出ない。だが、これだけは言わしてほしい

 

「間違いなく、傑作だ」

 

よくあるゾンビものはアクションシーンを楽しむ要素が強い気もするが、がっこうぐらしは少しコンセプトが違う。極限状態の人間のモラルというのに重点を置いている。かなり、面白い作品だ。キャンピングカーで学校を後にした彼女らはいったいどうなってしまうんだ……?

 

是非とも続きがみたい。

 

「まあ、そう思えるのはこの漫画がフィクションだったらの話だけど……」

 

もしも、これが後の真実を描いたものだとしたら……?考えるだけで恐ろしい。そんはずないのに、僕の中の僕が本能的にそういうのだ。

 

僕は、これからどうすればいい……?

 

頭を片手で抱え机に伏せながら、ずっとこの考えが頭の中を支配する。皆んなに逃げろと伝えればいいのか?

 

「無理だっ……!こんなの普通のやつからみたらイタズラとかにしか見えない……!」

 

そもそも確証が無いんだ。……そうだよ。イタズラだ!イタズラだったのか。なんで僕はもっとはやく気がつかなかったんだ?

 

ちょっと考えてみればこの漫画は美紀とゆきさんとめぐねぇ共通の知り合いが描いたものかも知れない。……きっとそうだ、そうに違いない。

 

「もう、寝よう……」

 

がっこうぐらしの横に置いてある美紀から借りた本を横目に見ながら僕は呟いた。なんか今日はもう疲れてしまった。

 

「一日だけ借りて、がっこうぐらしは公園に返すつもりだったけど結局二日間も借りちゃったな……」

 

顔を俯けたまま、僕は明日公園に漫画がっこうぐらしを返しにいこうと思い、いつも学校にもっていっているリュックにしまおうと漫画に手を伸ばす。

 

「……ん?」

 

しかし、僕の手は漫画を触ったような感触はなかった。違和感を感じ机の上でしばらく手を滑らせば、やっと本らしきものを掴むことに成功した。……だが

 

「これは……美紀から借りたやつか」

 

もっとも、がっこうぐらしはもっと大きい筈だ。僕はようやく頭を上げ、漫画があった方に目をやる。

 

「は……?」

 

すると、どうしたことか漫画がっこうぐらしが全く見当たらないのだ。

 

「おい!?なんでだ!?」

 

あまりにも突然の出来事に、僕は軽くパニックに陥っていた。今日はあまりにもいろんなことが起きすぎて頭がいまにもパンクしそうだ。

 

しかし、いくら探しても先程までそこにあった漫画は見当たらない。

 

「クソッ……!」

 

流石に勝手に借りて無くしたなんてそれはないだろ。というかなんだ?急に消えなかったか?確かに僕は机の上に置いたのに……

 

「……つかれてんのかな」

 

僕はそう呟いて、今度こそ寝ようとベッドの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

漫画突然消えるっていう、あれから数日がたたった。きっと、新学期早々新しい環境に来たせいでちょっと疲れていたんだろう。そう思って僕は最近ちょっと長めに睡眠をとっていた。そのこともあって美紀にも本をちょっと長めに借りるよと伝え、今日までねと言われたのだ。

 

「ごめん、待った?」

 

ホームルームから1時間後、誰もいない廊下。僕は隣のクラスの教室の入り口で、腕を組みながら壁に寄りかかる美紀に声をかけた。

 

「ううん、平気」

 

相変わらずスカしてんな。そう思わせるような素っ気なさの感じる返事に僕はちょっと安心した。何故だかわからないけど、彼女をみるとやっぱり今日も平和だなって思うんだ。本の話になるとわかりやすいほどテンション上がるくせに、普段はクールでボーイッシュな女の子。それが直樹美紀だ。

 

……漫画で見た分彼女の内面も普通の人より、理解している。伊達に読書好きじゃないというわけだ。心情理解ならそこそこできる。

 

でも、妙だな……美紀とまた本について語れるというのに今日はなんか変な気持ちだ。

 

「はい、遅れてごめん、貸してくれてありがとう」

 

そう言って本を手渡す

 

「……!どうだった!?」

 

美紀はこの本に勢いよく手を伸ばし、彼女からしたら身長の高い僕の顔を除こむと同時に興奮気味で感想を聞いてくる。

 

「近い近い……」

 

「ご、ごめん……!」

 

僕が手でそう訴えると、目をすぐに逸らし頰をかきながら僕から少し距離を取る。少し間が空いたが僕は少し微笑んで

 

「面白かったよ」

 

そう言った。

 

「……本当に?」

 

「え?」

 

嘘だとでも思われたのだろうか、僕はちょっと驚いて"え?"と素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「なんで?」

 

「……なんか、今日私と一回も目を合わせないから」

 

腰に手を当てながら、ジトりとこちらを睨む美紀の言葉を聞いて僕はハッとした。先程から感じていた変な気持ちの正体に気がついたのだ。

 

「いや……目を合わすの恥ずかしくて」

 

「江古君そんなキャラじゃないでしょ」

 

僕は咄嗟に嘘をつくが、美紀はそれを一刀両断した。

 

僕は美紀を直視出来ない。

 

僕は彼女の内面を少しばかり知りすぎたのだ。漫画の中で酷い目にあって泣いていたのを僕は見てきたから。

 

ある人はでも、本の中の話だろ?と言うかも知れないが漫画の世界であっても、本の世界の中でも彼女は生きていたのだ。……精一杯非日常に抗って生きていた。

 

「なんか悩みでもあるなら、私が聞くよ」

 

いつのまにか、いつものクールな美紀が戻ってくる。今のようにその時折見せる彼女の優しさに僕は少しすがってもいいのだろうか?彼女にならちょっと僕の不思議な体験を話してもいいかな、そう思えたのだ。

 

「実は……」

 

もしかしたら信じてもらえないかもしれない。そうだ、そしたら冗談ってことにでもすればいい。そうしよう。

 

僕が口を開き始めたその時だった。

 

「あらあら、こんなところでどうしたの?」

 

「うわぁ!?」

 

紫色の髪の毛、大きな瞳、そしてフワフワとした独特の雰囲気。僕はその人物をみてなんと少しばかり大きな声を出して驚いてしまった。

 

「ちょっと……うるさい。あ、先生こんにちは」

 

美紀はそんな俺に構わず、先生に挨拶を交わしている。

 

「はうっ!ゴメンね驚かせたつもりはないんだけど……今日は私が戸締りの係りで……」

 

手をわたわたと動かし僕に謝る先生。なるほど、だから一年生の階にめぐねぇがいるのか。なんて冷静な判断はこの時の僕にはできなかった。この人は特別なんだ……この人を見ると……

 

「ゾ……ゾンビ……」

 

僕は微かに震える声で一人つぶやいた。もっともその声は二人に聞こえていない。だが、僕の目の前にいる美紀は心配そうにこちらを見つめる。

 

「え、江古君……?」

 

「ちょっと君顔色悪いけどどうかしたの?」

 

先生の方なんかは僕の肩を持って顔をこちらに向かせる。本当に生徒思いのいい先生だ。もっと余裕があれば僕はそう思えた。でも、先生を見ると僕はあのおぞましい"彼ら"の映像が脳裏に浮かび上がり離れない。

 

「ぐっ……あっ……」

 

この人は今普通の人間だ。漫画のあれはフィクションだ。現実とは関係ない。関係ない。関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない

 

「あっ!いた!めぐねぇ!」

 

僕の思考を遮るかのように、突如響いた高い声。この声を聞いたのはおそらく2度目だ。そう、丈槍由紀である。

 

「こ、こら丈槍さん!ダメでしょ追試中に教室でてきちゃ!」

 

「えへへ……あれ?そこに居る君は……この前の」

 

おそらく、教室で補講をやっていたであろう彼女は僕に指をさしてそう言った。

 

「あ、あぁ……どうも」

 

僕も我に返り、会釈を返す。

 

「丈槍さん!話を聞いてますか!?」

 

「えぇ〜?だってめぐねえ遅いんだもん!もう解き終わっちゃったよ!」

 

丈槍由紀は先生が大好きだ。こうやって二人を見ていても仲が良いのがわかる。窓からは夕日が先生に戯れる丈槍由紀を照らし、いつもの日常のキラリと光る一瞬を切り取ったようなそんな光景に見えた。

 

後にこの二人がこれから離れ離れになるなんてそんなことあっちゃダメだ。

 

その様子を見てそう思い、僕はやっぱり証明したくなったのだ。僕が生きるこの現実は平和だと。僕の奇妙な直感を真っ向から否定たい。……逃げちゃダメだ。

 

「先生」

 

僕はやっと先生を直視しながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「あっ!具合は大丈夫なの!?」

 

心配そうにこちらを見つめる先生に僕は頷く。そして続けて

 

「大丈夫です。心配かけてすいません。それよりちょっと、先生に相談したいことがあるんですが良いですか?」

 

と、軽く頭を下げる。

 

「う、うん!良いわよ!」

 

先生は得意のふわっとスマイルで僕の申し出を承諾してくれた。

 

「わ……私には相談してくれないの?」

 

髪を触りながら不機嫌にいきなり、そう呟いた美紀は僕の肩をポンと叩く。僕は、すぐ様こう返した。

 

「勉強の相談なんだ。心配してくれてありがとう美紀」

 

「それならいいよ」

 

「今日はごめん、ちょっと疲れてたみたいだ。また今度いっぱい語り合おう」

 

そう言って僕は先生の方を振り返えろうとしたら、美紀はまだ僕の肩から手を離さない。

 

「美紀?」

 

「勉強だったら、私だって少しなら教えてあげられるから……」

 

僕は少し恥ずかしそうにそう言う彼女を見て、この子の泣く姿なんて見たくないな。そう思ったのだ。こんなに、優しい子なのにあんな漫画みたいな目に合うなんて……

 

「ありがとう」

 

僕はまた美紀の目を見てそう言えたのが嬉しかった。

 

 

 

 

「ごめんね。待たせちゃった?」

 

誰もいない教室で、僕は座っていると佐倉先生は現れた。丈槍由紀の補講が終わったのだ。定時はとっくに過ぎているというのに先生も面倒見がいい。補講の後にたった一人の生徒の為に相談を受けてくれるというのだ。人がいいにもほどがある。

 

でも、僕は今から先生にちょっと酷いことをしてしまうかもしれない。だけど、これは僕にしかできない事なんだ。今やらなきゃ後悔する。

 

それこそ"がっこうぐらし "から学んだことだ。真実から目を背けてはいけないんだ。

 

「それで……えっと」

 

「江古です」

 

「江古君ね!覚えた!ごめんね、新入生はまだ全員覚えれてなくって……」

 

「気にしないで下さい」

 

「それで?勉強の相談よね?高校の勉強って中学と比べて大変よね!先生もその気持ちよくわかるな〜。何処かわからないところでもあった?」

 

もちろん勉強の相談なんてのは嘘だ。ニコニコとペンを手に持って僕の目の前に腰を下ろす先生に僕は耳元で囁いた。

 

「先生は"緊急避難マニュアル"というのをご存知ですね……?」

 

今僕が見ている平和は、虚像か?実像か?

 




彼はやっと、真実へと踏み込み出しました。"知る"ことは本当に勇気のいる事だと思います。それが自分一人ならなおさら。


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現実を睨み返したカエル

前にも言いましたが、この小説ででてくる、漫画がっこうぐらしはアニメの世界線であるため漫画ほどマニュアルについては触れていない設定にしてあります


真剣な表情で先生・めぐみを見つめる江古とは対極にめぐみはキョトンとした顔で首を傾げた。

 

「えっと……?勉強の相談っていうのは……」

 

「はい、勉強ですよ。これからを生き抜くためのね」

 

「……え?」

 

事前に勉強の相談という名目で呼び出された彼女が江古の言葉にうまく反応できないのも無理はない。いまいち会話の噛み合わないからか、少しばかりなにやら変な空気が二人の間に流れていた。

 

(緊急避難マニュアルって確か、以前上司先生が前に言っていた校外秘の職員用緊急避難マニュアルってやつかな?)

 

めぐみは生徒の江古の言う緊急避難マニュアルについて自身の記憶を探る。別に隠す事でも無いし(存在自体は)、かつめぐみ自らもあまりそれについて深く知らない。江古の質問の真の意図など考える間も無くめぐみは口を開いてしまった。

 

「緊急避難マニュアル……江古君のいう通り確かに存在します。けど、あれを開封するには非常事態の場合など条件が付いていた気がするわ」

 

(緊急避難マニュアル……実在しているのか)

 

出来れば実在しないで欲しかった。そう思い肩を落とす江古。これで彼の奇妙な直感をまた一つ肯定する証拠がまた一つ増えてしまったのだ。

 

「先生、僕の相談というのはその緊急避難マニュアルを僕に読ませていただきたいと言うことについてなのですが」

 

「え……でもあれは職員用だし……!詳しい事は教えられません!」

 

席を立ち、グイっとめぐみの目の前まで顔を近づけ威圧をするかの様な顔で緊急避難マニュアルを読ませろと言う江古にめぐみはワタワタと手を動かし慌てながら対応する。

 

「"職員用"……か……」

 

すると、江古はボソっとそう呟く。唇を噛みしめ微かにしかしながら明確に、何かが彼の心の底から湧き上がってきた。

 

(この気持ちはなんだ???ダメだ……抑えろ……)

 

江古のそんな様子を見てか、めぐみはいつものふわっとした笑顔で

 

「大丈夫よ……先生達は何かあったら貴方達生徒は絶対に守るわ!」

 

(何かあったら……つまり、この先生はマニュアルの中身を知らない……)

 

ここで江古は内心ホッとしたのだ。これで内容を知っていたとしたら、そしてその内容があの大感染災害に関わる事でそれを僕ら生徒に隠していたとしたら、おそらく彼は彼女のことを許すことはおろか、このまま会話を続けることさえ出来なかったであろう。

 

しかし、江古はマニュアルの中身を知りたいのだ。決定的な、何かを探すことで自身の直感を否定し平和の証明が欲しいのである。マニュアルが存在すると言うだけで絶望を決め打ちとするにはあまりにも浅はかである。

 

「ありがとうございます……それで、マニュアルは今は何処に?」

 

「確か職員室の棚に……って!見ちゃダメだめですからねっ!しっかりとアレには開封指示が……」

 

江古は思い通りの行かない展開に思わず苛立つが、彼の思いどおりにいかないのも当たり前だ。めぐみにとって、いや……人間にとって災害とは地震や台風などいつ起こるかが分からないものと言うのが先入観としてあるのだから。もっとも疑惑でありその疑惑を隠そうしているが、これから生物災害が起こるで"あろう"と考えて話をしている江古とめぐみ今確実に別世界を生きていた。つまり、めぐみがここで上司と本誌の開封指示を守るのは社会に生きる大人として当然であるといえる。

 

「僕たちを守るなんて、口では簡単に言えますよね」

 

「え……」

 

江古自身もそれは理解していた。しかし、彼もまだ高校一年生。いつもは無愛想やクールと言う言葉が似合う江古だが、だんだんと焦りと苛立ちを隠せずにいた。それを見てめぐみもだんだんと謎の不安が募る。

 

(この子は本当に苦しそうな顔をしている。一体何に悩んでいるのだろう……私が教師としてしてあげられる事は……)

 

「……っ」

 

自分の言葉にハッとして江古は気まづそうに俯いてしまう。

 

「すいません、前言は撤回させて下さい」

 

「……いいのよ。先生もごめんね」

 

「い、いえ!先生が謝ることでは……!」

 

面と向かって生徒を守る。たかが口約束、しかしされど口約束である。面と向かって言ってしまえば毎年入れ替わる年下の赤の他人に面と向かって口に出すことができる人などそう多くない。そうやって江古はめぐみに対して尊敬の念を感じながらも、でも、それでもやっぱり"何"から守るかも理解していない目の前にいる大人に少し無責任だと感じてしまっているのだ。彼はそんな自分に嫌悪感を抱き歯を食いしばった。

 

「私で良ければまたいつでも相談乗るよ、一人で溜め込んじゃダメだよ」

 

江古の肩をポンと叩きそう言った。江古自身も先ほどとは違うなにか暖かいものが胸の底から感じていた。

 

(やはりこの人は、偉大だ……これ以上僕の自己満足に巻き込んではいけない)

 

「ありがとうございます、僕もどうかしてました。また、お願いするかもしれません」

 

「う、うん!先生は君達生徒の味方ですからね!」

 

「……頼もしいです。ところで今日先生は戸締り当番というのを聞きましたが、この教室を閉めたあと鍵を僕が職員室まで運びますよ」

 

「え、大丈夫よ。もう遅いし帰らないと」

 

「いえいえ、わざわざ先生の貴重な時間を割いてもらったのでなにか手伝わせてください。そう言えば、佐倉先生がまだ学校にいると言う事は職員室はまだ窓が空いているんじゃないですか?僕が窓の戸締り手伝いますよ一人じゃ大変でしょうし」

 

「そこまで言うなら……お願いしちゃおうかな」

 

めぐみも江古の申し出が少し嬉しかったのだろう。頰を描きながら笑顔でそれを了承したのだった。江古の企みなど知らずに。

 

 

 

 

 

夜中の1時の事だ。彼、江古はなんとこの時間に外出をしていた。

 

「確か、ここの窓だ……」

 

ガラガラとある建物の窓を開け、真夜中江古はそこに侵入することに成功する。ある建物というのはもちろん学校だ。彼が先生に戸締りの役目を申し出たのはこのためである。いやまあ、感謝半分、このため半分ってとこだろうか。

 

"確か……教室の棚に……"

 

先生の言葉から思うに壁際にあるあそこにマニュアルがあると見て間違いないだろう。そう考えながら江古は、マニュアルを少し拝借してコピーを取ったあとまた今日中にまた元あった場所に戻してしまおうとしていた。

 

(荒らされたりなんてなければ監視カメラなどもまず確認しないだろうし、万が一のために顔も隠してある)

 

「もし、校外秘密が先生のせいで漏れたなんて事は絶対にダメだしな……僕が僕の手を汚さないといけない」

 

何かを手に入れたいなら、何かを切り捨てなければいけない。これは常識である。普段なら切り捨てる対象はお金だが、今回はお金で解決できる問題ではない。今彼が賭けているのは自身の名誉であるのだ。

 

「これだ……本当にあった。職員用緊急避難マニュアル……」

 

(これで僕はやっと知ることができるんだ。さて、どうだ。僕は今現実を生きている!)

 

江古は静かに開封し、ページをめくり始めた。

 

 

 

 

「ふざけやがって……!ぶざけやがって……!」

 

江古は声を殺そうとしながら歯を食いしばっていた。それもそのはず、目の前にあるのは、紛れもなく生物災害についてのマニュアルであり、漫画がっこうぐらしで起きた出来事を彷彿とさせる内容がその冊子にはかかれていたのだから。

 

何かが、江古の心そこから湧き上がっていた。色で言えば紛れもなく黒であろう。この瞬間彼は先ほどの恵みとの会話で抱いたこの感情の正体を理解することになる。

 

「これは……怒りだ」

 

(僕たちは……巡りヶ丘高校に通う生徒は大人達に騙されながらずっと生きてきてきたっていうのか!?そして、非常事態に僕たちは切り捨てられる。まだ、生物災害の可能性があると分かっていればなんとかなったかもしれないのに……!首謀者の立ち位置を守るため権力で抑えられ、一部の教師と生徒達は自衛をするための手段を知らないまま漫画で見たあの惨劇が起きたっていうのか!?狂ってるぞ……こんなのなんか……なんというか)

 

「ヤバイぞこれは……!!!」

 

(これはもう決め打ちだ……一体、いつから僕は、いや僕たちはこの現実を平和だと錯覚していたんだ……?)

 

そう、たった今江古の奇妙な直感が完全に肯定されてしまったのだ。彼たち人類が見ていた今までの平和な世界は虚構に過ぎなかった。実物などなにも見えていなかった、見ていたのはただの陰であり、それを見て平和だと錯覚させられていたのだ。

 

……瞬間、この奇妙な現実に睨まれていた彼はギロリとそのノンフィクションを睨み返した。なにかが、吹っ切れた様に。

 

「なにか、あるはずだ。僕は未来を、絶望を知ってしまったんだ。……僕にしかできないことがなにかあるはずなんだ」

 

血走る目に、これでもかと眉間にシワが集まる。江古は何かを決意した様な目で

 

(そういえば、あの漫画に僕の姿は無かったな……僕のことだ、きっとすぐ死んだんだろう……)

 

「これが、運命だというのなら僕は抗い続けてやる……僕は生き残るぞ……!!!」

 

そう一人つぶやいた。

 

 




やっと、絶望を受け入れることができず、自身の直感を否定しようとし続けてきた彼でしたが、ついに絶望を受け入れました。


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