転生したらFateの世界でした (前神様)
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プロローグ

俺は悪でいい。そう思うようになったのは、いつからだったか。原点がどの辺からだったのか今は覚えていない。ただ、分かっていたのは人の悪意も善意も見過ぎた上で俺が出した答えの果てがこれだったという事だ。

 

誰かの笑顔のために足掻く自分の愚かしさも重ねてきた罪の重さも良く理解している。だがそれでもと、窮地に立っている誰かに救いがあるのならばと傲慢にも走り続けてきた。

 

結果、良くも悪くも俺は自身を捨てきれなかったのだろう。偽善であっても善人でありたいとそうあるべきだと考えていた。それでもその度に裏切られてきた。

 

理想をいかにして体現したとしても、努力の果てに得たものが望んでいたものと違うなどと幾度もあった。

ならばといつしか俺はこう考えるようになってしまった。

 

「全ての悪意を引き受ければいい」

 

正義と称してこのまま、救い続けたとしても何も残せない。だが悪意は別だ。明確な悪の元凶がこれだと分かれば人々は力を合わせて悪を倒そうと励む。

 

光と闇は必然的に反するのだから当然と言えば当然だ。俺の死に様はその結果語るまでもなく死刑判決だった。だがそれでも俺は満足だった、少しでもその方針が間違っていると気づいてくれたのなら、自分はああ言う風にはなりたくないと感じてくれているのであれば他に何もいらなかった。

 

俺に明確な正しさという概念は持っていない。ただ持っていたのはやらなければいけないという義務的意識と自己満足だけだった。

 

救いたいから救ったというのは、少し違う。俺はきっとそうやって誰かを救っている、自分ではない誰かを見て憧れたのだろう。

 

持ちえなかったものだから、今まで出来なかったことだから。

 

青年期、俺にも友と呼べるものはいた。だが、そいつ等も結局俺は最後まで信じきれなかった。

 

「どうせ上辺だけの付き合いだろうと」

 

「友達などという都合のいい解釈をして好き勝手に振る舞うその在り方に」

 

俺は多分うんざりしていたのだろう。元々人間という生物があまり好きではなかったのだ。これは別に親の愛情を知らずに育ったとかそういう話ではない。ただ、憎み憎まれる。殺されるなら殺す。人間の業や行ってきた罪の数々を俺は見すぎたのだろう。

 

苦しくないわけではなかった、辛くないわけでもなかった。ただあったのは、何年もたち、それこそ上に立つものとして自覚があるのにも関わらず平気な顔をして罪を重ねているヤツらに酷く絶望してしまっただけなのだろう。

 

もし、来世というものがあるなら。

次こそは、全ての人間を救いたいと願う。



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第1話 転生

何故か気付いたら俺は全く知らない人間になっていた。この人間が辿ってきた人生は曖昧だが、覚えている。

 

名前は、衛宮 隼人。年齢は12歳。過去の記憶によれば衛宮切嗣は養父のポジションらしい。この時点で気づいたのだがどうやら俺は前世の記憶にある「Fate」の世界線に来てしまったらしい。ただ1つ目覚めた俺が気になったのは、神様とやらの書き置きなのかは分からないが、机の上に置いてある弓兵が描かれているArcherと書かれたカードと紙が置いてあったことだ。

 

「前世で非道な扱いを受けたアナタには余りにも、辛い選択肢を選ばせてしまった。償いと言えるかどうかは分からないが、転生させてもらった。このカードは夢幻召喚というものが出来るカード。魔力を流し、インストールと唱えれば貴方は、英霊エミヤの力を限定的にだが行使することが出来る。だが注意して欲しいことがある、それはこのカードを一度使えばカードは消滅し、置換魔術の影響により強力な力を使う度、徐々に英霊エミヤに置き換えられていくという事だ。サービスで君の魔力量を固有結界が日に50回使える程度に増やしておいた。これからもし修行をするならより増えるだろう。君の人生に幸あれ」

 

驚いた。と言うより、やりすぎだと感じた。固有結界50回分って俺の魔力量人間レベルではないのでは…。一先ず俺が、やるべき事は衛宮切嗣に魔力操作や強化魔術なんかを教わることだな。魔力の扱い方なんてものを俺は知らない。俺の願いの為にも何より必要なことだ。

 

過去について少し話すのであれば、俺は衛宮士郎と同時に拾われたらしい。俺の場合セイバーの鞘…聖遺物こそ埋め込まれなかったが、魔力量の多さから自発的に強化魔術がかかっていたらしく(恐らく死なないように神様が仕込んだ)倒れていたということだ。

 

その後、同時期に拾われた俺達は兄弟のように過ごしていた。料理も当番制だった。ある日偶然だが、士郎の将来の夢について聞いた時に

 

「俺は切嗣の様な"正義の味方"になりたいんだ」

 

と言っていた。このことから察するに、士郎の運命はこの時点で決まっているようなものだろう。

 

ある夜

 

「切嗣さん、俺にも士郎に教えている魔術を教えてください」

 

「隼人もか…。仕方ない、士郎この前教えて上げた事継続しているんだろう?」

 

「あぁ、って事は俺が教えてもいいのか!?」

 

満面の笑みの士郎に反して、酷く切嗣は顔がやつれているな。死期が近いのかもしれん。

 

「しょうが無いだろう?隼人も士郎に似て、頑固な部分があるからね」

 

士郎は苦笑しながらコチラを見てきた。

 

「隼人…先ずは魔力を感じるところからだな。じゃあ俺が送ってみるから感じて見てくれ」

 

そう言うと士郎は俺の背中に手を当てて、フンっと言うと何やら神経を撫でられているような感じがした。

 

「これが…魔力」

 

「おぉ!初めてで魔力を感じとれたのか、すげぇな。俺でも2日は掛かったのに」

 

「次は投影魔術だね、コツは士郎にも話したけど物の骨組みや材質をしっかり理解した上で魔力に乗せて形成するんだ」

 

やってみるとこれまた難しい。構造の理解とは簡単に言うがかなり難しい、鉛筆とかだと単純なんだが精密機器とかだと上手くいかない。

 

「難しいだろ?俺もこればっかりは1週間くらいかかったんだぜ?」

 

自慢げに士郎に言われながら思い出したが、そう言えば士郎は、鞘が入ってて起源が剣だったような…。一旦投影魔術は置いておいて次の強化魔術を教えて貰った。

 

「簡単に言うと強化魔術と言うのは、何かに対して効果を強くする魔術なんだ。例えばそうだね、この石。これだとより固くしたり、豆電球だとより明るく…とかね?イメージ的には組み替えるみたいな感じかな?魔力で補うと言った方がいいかもしれないね」

 

「――――同調、開始(トレース・オン)

 

「嘘だろ1発!?」

 

「…これは驚いた、士郎でも3ヶ月はやってるんだけど成功率あんまり高くないんだ」

 

「そうなのか…」

 

アニメで言ってた事そのまま口にしながらやってたからか?所詮、士郎の真似事に過ぎないんだが…。

 

「士郎は強化魔術を中心に、隼人は投影魔術を中心にって所だね。互いに足りないところを補っていけば自ずと出来るようになるよ」

 

そう言った、次の日切嗣は息を引き取った。聖杯の呪いがあったと知っていたがまさかこんなに早いとは。葬式の日、俺は泣かなかった。涙を流すような感情が俺自身にもう残っていなかったのか、それとも人間の生死など、どうでも良くなるくらいに絶望してしまっているのか。

 

「爺さん…」

 

隣では士郎が涙を流していた。当然だろう、命の恩人が無くなってしまったのだから。

 




一応主人公の設定なんですが、プリズマイリヤの美優兄の様に1度カードを使うと力を使う度に英霊エミヤになっていくという設定なんです。(外形及び思考性も含む)
ただ、魔力量は読んでいただければわかると思うんですけど糞ほど多いという設定にしちゃいました。(後付設定)


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第2話 冬の日

 

あれから5年が経った。俺は来たるべき"聖杯戦争"の為に修行を続けてきた。勿論高校にも通っている。穂群原学園、士郎と同じ現在高校2年生。

 

もうすぐ例の戦いが始まる頃だと思う。部活動は、士郎は弓道部。俺は剣道部をしていた。だが、時期をみて俺は辞めている。

それもこれも、聖杯戦争のためだ。

 

「今日辺りか…、士郎俺は先に学園に向かうから戸締りよろしくな」

 

「え?もう行くのか?」

 

「あぁ、弁当は調理台の方に置いてあるから」

 

それだけ言うと、外に出る。今日は出来るだけ早く学園に行かなければいけない。やることがあるためだ、倉で見つけた魔力感知の書物からやり方は学んだ。何回か試した後、使えるという事は理解している。それに現時点でも、念の為学園内は調べておいた方がいいと思ったからだ。俺が知っている限りだとこの時点で仕掛けられている可能性もあるからな。

 

「どうやら今の所は何も無いみたいだ、だが安心は出来ないな」

 

ライダーのマスターである間桐慎二の事だ。何かやらかしてくるに違いない。用心しなければな。

 

~放課後穂群原学園~

 

士郎視点

 

慎二に弓道場の清掃を頼まれた俺は、仕方なく掃除をしていた。気づいたら日も沈み始めていて辺りは暗くなってきていた。

 

「ふぅ意外と広いから困る…、まぁ後は床を拭くだけなんだけど」

 

弓道場は俺も日頃から使っていたが、意外と汚れが溜まっていたのだと改めて実感した。見た目綺麗でも案外溜まるんもんだな。まぁ、もしかしたら学園だと清掃は週1とかかもな。

 

「よし、終わった」

 

清掃道具を在るべき場所に戻した後、自分の鞄を持って外に出る。

 

「あ、そういや今日の晩飯当番俺だったな…。急いで帰らないと隼人が待ってる」

 

そんな事を思いながら校庭を通り過ぎようとしていたら奇妙な音がした。鉄と鉄がぶつかり合うような音。音がした方へ目を向けると赤い服の男と青い服の男が凄まじい勢いで闘っていた。この事態にすぐに異常だと感じた俺は、そっと逃げるように右足を後ろに下げた。すると

 

「誰だ!!」

 

青い服の男に気づかれた。俺は急いで校舎に向かって走る。相当走った後、ふと後ろを振り返ったがいなかった。

 

「撒いたか…」

 

「残念だったなぁ、坊主」

 

「なっ!?…っ」

 

為す術もなく男が持っていた槍で貫かれた。貫かれた箇所からは膨大な量の血液が溢れ出ていた。

 

「胸糞わりぃが仕方ねぇ、恨むんなら今日この時間帯に出くわした自分の運命を恨むんだな」

 

最後に聞いた男の発した言葉はそれだけだった。

 

~隼人視点~

 

「この場所が良さそうだな」

 

俺は放課後になった後、校庭が見えて尚且つ気配が悟られにくい場所から観察することにした。今この時点で俺がカードを使って士郎を救うことは簡単なんだが、そうすると俺の知っている辿るべき本来の歴史とは違うものになってしまう為迂闊に手出しは出せない。それにこの時点でどの程度俺の握っている情報と異なっているか調べる必要もあるしな。

 

「お、どうやら始まったみたいだな…」

 

アレが、士郎の成れの果て本物のアーチャーか。成程、迫力が全然違うな。投影魔術然り体のしなりから手慣れているのがわかる。一方でアレがランサーか。

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)、あの槍はヤバいな。こうなった今になってはよく分かる。流石の槍さばき、ココからだと早すぎてよく見えないな。

 

っとどうやら士郎も気づいたみたいだ。呆気なくバレたか…ランサーが追い始めた、遠坂も気づいてアーチャーを先行させて追っていく。

 

「しかしこの先、俺が戦闘無しで士郎を見守り続けることは難しくなるだろうな。かと言って使うのも癪に障るが仕方ねぇ…」

 

元々俺には自由意志などない。この体がエミヤとなろうと構いはしない。

両者の目線が完全に外れた今、このタイミングで使う他ないと思った。後々カードを使ったことがバレても仕方ないしな。この世界には存在しないハズのものだしな。

 

「インストール」

 

すると足元に何かしらの魔術刻印が、現れたと思ったら消え、次の瞬間俺は赤原礼装を纏ったエミヤと化していた。

 

「よぅ、お前さん何者だ?さっきまでこっち見てたろ?」

 

「別にただの一般人さ?」

 

「嘘つけ、さっき変な魔術使ってただろうが!」

 

先程まで向こうにいたはずのランサーが気づくとはな。やはり、英霊は侮れない。

 

「だが、俺はサーヴァントを所持していないし別にそちらに向けて魔術を使ったわけじゃない」

 

「とはいえ、お前はさっきの戦いを見ていただろう?」

 

「それはそうだが?」

 

多少焦りもした、何よりランサーがこちらに来たということは、アーチャーが追ってきている可能性が高い。

溜息を吐くとランサーは口を開いた。

 

「それに、お前の存在は歪だな。力は英霊のそれに近い、だが元は人間だな」

 

「そこまで見抜くとは思わなかった、所で君こそ何の用だ?俺は攻撃もしていないし口に出してもいない」

 

「そういう事を言っているんじゃなくてだな?はぁ、もういいわ。面倒くせぇ…お前今から俺についてこい」

 

「さっきの小僧を追わなくていいのか?殺し損ねてるぞ」

 

「ありゃ今は駄目だ、アーチャーがいるしな」

 

どうやら俺が連れていかれるのは教会らしい。恐らく言峰綺礼に会わされるのだろう。

 

「すまん、言峰。変な坊主がいたもんでな、どうにも俺の手には負えん…」

 

「君は、参加者か?少年。いや、見た所サーヴァントは居ないようだが」

 

ランサーを見やる言峰。ランサーは溜息を吐きながら答えた。

 

「はぁ、コイツ見た目人間のくせして…英霊のソレに力が近いんだよ。多分俺が攻撃した所で返り討ちにあう可能性が高い、かと言って野放しにってのも無理な話だろ?って事で判断つけにくくてな」

 

「なるほど、では少年…取引なんだが君は教会サイドの人間に限定的にならないか?」

 

「と言うと?」

 

「君ほどの逸材であれば、こちら側としては協力してくれることの方が敵対する事よりも好ましい。と言うのは建前なんだが、正直イレギュラーは出来るだけ無くしたくてね?」

 

「嫌にあやふやじゃないか、アンタもルールを破っているようなものなのにな…。まぁいい、条件と俺が手にする権利は」

 

「君には今回、サーヴァントの情報の秘匿と人畜無害な一般人を巻き込まぬ様にして欲しい、無論私からもランサーには攻撃しないよう命じるが」

 

サーヴァント情報を他のマスターに知られるのは困る、と言うのは理屈にあっているが一体どういうつもりだ。これではあまりにもコチラ優先の取引だが。

 

「それで良いのならやるが、本当にいいのか?」

 

「構わんよ、それに脅威は少ない方が好ましい」

 

不気味な笑みを浮かべつつこちらを見てくる神父。挿し絵でもそうだったがそのワカメヘアー流行ってんのか?

 

「じゃあ俺はもう行くからな」

 

「あぁ、よろしく頼むよ少年」

 




早く戦闘描写を書きたい!だけど当分なさそうで困る、介入するタイミングとか色々難しくて…。
隼人がランサーとアーチャーの戦いを見ている場面ですが強化魔術を目に使っているため遠くまで見えるようになっているのです。その為立ち位置的には高台の所から眺めている設定で、ランサーにバレた経由としては魔力感知されたのもあるのですが偶然アーチャーから逃げる際に見つけたということです。(尚アーチャーにはバレなかった模様)


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第3話 遭遇

 

クラスカードを使用したことによって、俺の服装は英霊エミヤのそれと全く同じものになっていた。それだけではない、彼の魔術回路、戦闘経験の記憶等も俺に引き継がれてきた。

 

まさか、元々知っていたはずのエミヤの記憶を実際に体感することになるとは思わなかった。想像していたよりも壮絶で、希望等どこにも無く理想に辿り着いたはずなのに何一つ得られなかった男の末路。

 

「これが自己犠牲の果て、俺のあったかもしれないもう1つの可能性…1度彼とは話をしてみたい」

 

俺とエミヤはどこか似ている。士郎と兄弟になれたのはもしかしたら、そういうことが関係しているのかもな。

 

「よぅ」

 

「ランサー?どうしたまだ何か…あぁ」

 

「察しが早くて助かる、あの坊主を始末しに行かねぇと言峰がうるさいんだよ」

 

恨めしそうにこちらを見てくるランサー。手を出す気は無いんだがな…。

 

「あー、言っておくが俺はお前らの戦闘には介入しない。介入できなくもないが、別に現時点で手を出しても何もいい事はないからな」

 

ホッと息をつくランサー。そんなに今の俺はヤバいのだろうか?ランサーとは家の門の前で別れて俺は外から戦闘を観察しておくことにした。と言っても、さすがに中の様子が分からないと不味いので、ちょうど少し家から離れた場所にあった電柱の上から見ることにする。

 

「お手並み拝見という所かな…、っとあっちから魔力反応…アーチャーと遠坂凛か」

 

まぁこの位置からだとバレる事は無いだろう。そう思い、目線を外し再びランサーを見る。どうやら正面突破して突っ込んで行ったようだ。士郎も俺と毎日組み手や投影魔術、強化魔術の行使速度勝負をしていたため腐っても魔術回路は前世で見た士朗よりもマシになっているとは思うが所詮は、半人前の魔術士。魔力量以前に魔力回路自体上手く使えていない。

 

「ほぅ、チラシを丸めて強化魔術を使うか考えたな。だが、その程度では」

 

普通の用紙に強化魔術をかけた所で所詮はただの紙切れ。直ぐに破ける。予想通りランサの一撃をなんとか凌いだみたいだが倉に吹き飛ばされた。

 

「この後はセイバーと契約か、おっ出てきた」

 

凄まじい勢いでランサーを圧倒していくセイバー。

 

「流石だな、セイバーは…」

 

だがランサーが宝具を放った事で手負いになってしまう。

 

「ココで退散ねぇ、しかしセイバー良くあれを凌いだものだ。そうだな…ランサーに戦ってみた感想でも聞きに行くか」

 

ランサーを追っていくと向こうも気づいたみたいでこちらを向いて立ち止まった。

 

「どうだった?小僧は?」

 

「参ったねまさか、セイバーを召喚されるとは思わなかった。さすがに肝が冷えたぜ」

 

「だろうね、彼女はある意味特別な存在だ。精々気をつけることだな、ではな」

 

ランサーとの会話を早々に切り上げて遠坂たちの方を見るとどうやらセイバーに、遭遇したみたいだ。おいおい令呪を使ったぞ、実際に見ると愚かな行為だな。アレは。

 

「今の内に自宅に戻る準備をするか、一先ず服装を変えないと」

 

投影魔術により、元の制服を複製し着直す。エミヤの記憶を受け継いだお陰で多少イメージに融通が聞くようになった。

 

「家に上げるのか…頃合いだな」

 

このタイミングで家に戻る。何ら不思議に思われることもないだろう、元々アルバイトも短期で請け負ったりしていたから帰宅時刻はバラバラなのだ。

 

「…っと」

 

自宅の前に戻ってきた途端、アーチャーが現れた。

 

「貴様か、先程見ていたものは」

 

「はて、なんの事やら?俺は衛宮士郎の兄だが?」

 

「フン、知らぬと言うのならば別に何も言うまい。だが、そもそも衛宮士郎に兄はいないはずだ。貴様は何者だ?」

 

「確認してくればいい、衛宮士郎に兄がいるかどうか本人にな」

 

「話にならんな…お前が衛宮士郎の兄だと言うのならそれを証明してみろ」

 

証明と来たか。ならばアレしかあるまい。

 

投影、開始(トレースオン)

 

俺は木の棒を投影した。剣を投影することなど無論可能だ。俺が本当の意味で投影魔術を行使した場合、勘のいいアーチャーの事だ。何かあると思われるに違いない。

 

「…そんな事ではなんの証明にもならんが、まぁいい…好きにするといい」

 

そう言うとアーチャーは再び屋根の上に戻って行った。玄関の扉を開ける前に深呼吸。なるべく自然に見える様にいつも通りに接するつもりだ。

 

「ただいま」

 

リビングの方からドタドタと遠坂と士郎がやってきた。

 

「お帰り隼人、遅かったな」

 

「そうか?いつも通りだろ。ってか士郎その格好コスプレか何か?」

 

そう言うと士郎は服装を見直すと途端に慌てだした。

 

「あ…あぁ!これはそうなんだよ!最近ハマっててな!」

 

「にしては血生臭いが…」

 

「ま、まぁ凝ってるんだよ」

 

「ふーん、まぁいいけどな。それであっちの子は?」

 

すると、奥に控えていた遠坂凛が近づいてきた。実物はより一層美人だった。

 

「初めまして、私は遠坂凛と申します。学年は衛宮君と同じです。衛宮君、こちらの方は?」

 

「俺の義理の兄弟の衛宮隼人、遠坂…勘違いしてるかもしれないから先に言っておくけど、同学年だからな?」

 

「嘘っ!?全然歳上に見えたわ、いえ悪い意味は無いんですけど」

 

「ははっ、よく言われるよ。俺の事は隼人って呼んでくれたらいい」

 

そうして、取り敢えずリビングの方へと移動することになったのだが、もう少し隠す努力はしなかったのか。窓ガラス散らばりすぎだろ。だが、敢えてこの事について触れておかなければ後々面倒な事にも繋がりかねない。

 

「士郎…この窓ガラスどうしたんだ?」

 

「あ…えっ、えっと遠坂と部屋で枕投げしてたら本気になり過ぎて俺が何回かぶつかって割れたんだ」

 

その言い訳は、さすがに無理があるだろうと思いつつ遠坂の方を見るとカバーしに来た。

 

「そうなんですよ、士郎が私にセクハラ紛いな事をしたもので…」

 

それはフォローになって無いぞ…。寧ろ士郎の社会的地位殺しに来てんだろ。二人とも言い訳下手くそすぎだろ。てか、遠坂は眉間にシワよってて士郎の言い訳にイライラしてたんだな…。助け舟を出してやるか。

 

「まぁ良いんだけどさ、それより2人はこれから何処かへ行くんじゃないのか?」

 

「え?いや別に…」

 

「そうでした!私たちコレからちょっと外食の約束をしてたんでした、失礼します」

 

「え!それ俺聞いてないんですけど…ちょっ遠坂引っ張るのやめて!うぁぁぁぁ!!」

 

引きづられていく士郎を横目で見送りつつ、再び赤原礼装を展開する。すると視界の端に金髪の女の子が見えた。

 

「貴殿は何者だ?マスターの兄弟だと言っていたが…」

 

しまった。そう言えばこの時点でセイバーがいたんだったな。

 

「君こそ誰なんだい?士郎の彼女さんかな?」

 

敢えて何も知らない風を装う事にした。

 

「それは、質問の答えになっていない。魔力を抑えていても無駄だ!マスターは騙せても私の目は騙せない、あなたの魔力量は明らかに異常だ」

 

「やっぱり、無駄か。別に騙そうとしていた訳じゃない、ただ無駄に知る必要も無いと思っていてなセイバー」

 

セイバーの問いに対して、あっさりと返す。この時点での、セイバーの服装は普通に戦闘服だったのでやる気満々なのがヒシヒシ伝わってきた。

 

「どんな意味があってその魔力量を抑えているのかは分かりません。ですが、士郎に危害を加える気は今の所無いのですね?」

 

「別に今後も邪魔はしないさ、俺はただ君たちの戦いを見届けるだけだ。そんな事より士郎を追わなくていいのか?アイツも何かと勘が鋭い。それ故、セイバーお前が居ないとなれば疑問に思われるかもしれないぞ?」

 

そう言うとセイバーは俺の目の前から去っていった。騎士王…それもアーサー王から、あれ程威圧的に話されるとは。俺もまた随分と嫌われたみたいだな。

 




投稿を初めてさして、日も経っていないのに閲覧が増えててストックをついつい投稿しちゃってやばくなってきました。ストック切らさないように頑張って投稿します。宜しくお願いします。(尚今週は多忙につき気絶して投稿してない日が出るかもしれません!ご了承ください)


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第4話 開幕

気づいたらUAやら、お気に入り数やら増えててびっくり致しました。嬉しい事に評価までして頂けるとは…。これからは、一応更新日時としては11時投稿という事でお願いします。(11時になっても更新がない日は察してください、ゆ…許して!!)
最後まで付き合って頂ければ幸いです。
本編はコチラです↓


セイバーを見送った後、2人を追尾しようとも考えたがこの姿が見られてしまった手前それは悪手だろう。

 

「大人しく晩飯でも作っておくか」

 

今晩の戦闘は、士郎にとっても大きな経験になるだろう。今まではただ使うだけだったが、今回は違う。考慮し、見極め、戦闘における使い方を知る。それに今回俺がいたらイリヤスフィールが出くわさない可能性がある。

 

「頑張れ、士郎」

 

士郎視点

 

半ば強制的に遠坂に引きづられて外に出ると、遠坂は少し焦っているように見えた。

 

「…っ!!」

 

「何焦ってるんだよ、遠坂!別に焦らなくたってよかったじゃないか!あれじゃ、余計不自然に思われるぞ」

 

すると、遠坂は胸ぐらを掴んできた。

 

「衛宮くん、あれは何!」

 

「あれって何だよ」

 

「貴方の兄弟の隼人の事よ!」

 

切羽詰まった表情で、聞いてくる遠坂に俺は驚いていた。

 

「隼人の事?」

 

「えぇ、人間として、いいえ魔術師が持ってていい魔力量じゃないわ!貴方は気づかなかったかもしれないけどアレは、明らかに異常よ」

 

遠坂が言っていることが、いまいち理解出来なかった。隼人が異常だとしたら何故、俺と切嗣が今まで気づかなかったのか。

 

「例えるならそうね…英霊が何人か同時に居るような者よ、出くわしたら最後助からないレベルの」

 

驚きを隠せない俺だったが、そう言えばとセイバーを家に置いてきてしまっていたのを忘れていた。

 

「マスター」

 

「なっ…セイバー!」

 

「すいません、所用で少し外していました」

 

セイバーはそれだけ言うと、隣に並んで歩いていた。

 

「隼人のことは置いといて、さっきの続きだけれど、今から教会にあなたを連れて行ってあげるから聖杯戦争についての詳細はエセ神父にでも聞きなさい」

 

「何でそこまでしてくれるんだ?普通これから敵になるやつのことなんか助けないだろ?」

 

「別にただ助けた手前、何も知らずに死んだら後味悪いってだけよ。それに衛宮君の家には隼人がいるでしょ?家で、その話の続きをしようにも無関係の人間は巻き込めないもの」

 

「意外と律儀なんだな」

 

何食わぬ顔で遠坂について行くとそこにあったのは、普通の教会だった。そこの扉の1つを開けるとそこにいたのは一人の男だけだった。

 

「再三の呼び出しにも応じぬとも思えば変わった客を連れてきたな。彼が7人目というわけか、凛?」

 

薄気味悪い表情を浮かべている神父を見た俺は、遠坂の名前を呼んでいたため後ろを振り返った。だが遠坂が何も言わないため、仕方なく俺が1歩前にでた。

 

「私は言峰綺麗。君の名はなんと言うのかな?7人目のマスター」

 

「衛宮…士郎」

 

「衛宮?ふっ…ふっふっ… 」

 

俺の苗字を聞くや否や笑い始める神父。正直少し不快だ。

 

「衛宮士郎…君は、セイバーのマスターで間違いはないか?」

 

不意の問いに、俺は少し考えた後話し始めた。

 

「確かに俺はセイバーと契約した、だがそんなことを言われてもマスターとか聖杯戦争とか俺には点でわからない。マスターっていうのが、ちゃんとした魔術師がなるものなら、他にマスターを選び直した方がいい」

 

「なるほど…これは重症だ」

 

「その辺、1から躾てあげて」

 

「ほぅ、良かろう。お前が私を頼ったのはこれが初めてだ…衛宮士郎、マスターというものは他人に譲れるものでは無いし、なってしまった以上辞められるものでもない。マスターとはある種与えられた試練だ、その痛みからは聖杯を手に入れるまでは解放されない。衛宮士郎、君が巻き込まれたこの戦いは聖杯戦争と呼ばれるものだ」

 

「7人のマスターで殺し合うっていうふざけた話だろ?」

 

「全ては聖杯を得るに相応しいものを選抜するための儀式だ」

 

儀式だと?それに今聖杯と言ったなこの神父は。

 

「聖杯って…まさか本当にあの聖杯だって言うんじゃないだろうな?」

 

「この街に現れる聖杯は本物だ、その証拠の1つとしてサーヴァント等という法外な奇跡が起きているだろう?これだけの力を持つ聖杯ならば持ち主に無限の力を与えよう…ものの心眼などその事実の前には無意味だ」

 

「なら何だって聖杯戦争なんてものをさせるんだ?それだけ凄いものならみんなで分ければいいだろう?」

 

「もっともな意見だが聖杯を手にするものはただ1人。それは私たちが決めたのでは無く"聖杯"が決めたことだ」

 

どういうことだ?聖杯戦争って言うのは神父達が取り決めたことじゃないのか?

 

「全ては"聖杯"自体が行うこと、彼らを競わせ、ただ1人の持ち主を選定する。それが聖杯戦争だ」

 

「納得いかないな、1人だけしか選ばれないにしたって殺すしかないって言うのは気に食わない」

 

「殺すしかないってのは誤解よ、衛宮君。この街に伝わる聖杯って言うのは霊体なの。霊体である以上私達には触れられない、つまり他のマスターのサーヴァントを聖杯に近づけさせないように撤去する事が聖杯戦争なの、だからマスターを殺さなければならない、と言う決まりはないの」

 

「衛宮士郎1つ訪ねるが、君は自分のサーヴァントを倒せると思うか?サーヴァントはサーヴァントを持ってしても破り難い、ならばどうするか?実に単純な話だろう?如何にサーヴァントが強力であろうがマスターが潰されればそのサーヴァントも消滅する。であれば?」

 

簡単な話だ、マスターを倒した方が早い。

 

「それじゃあ、逆にサーヴァントが先にやられたら?聖杯に触れられるのはサーヴァントだけなんだろう?ならサーヴァントを失ったマスターには価値がない」

 

「いや、令呪がある限りマスターの権利は残る…例えば主を失い行き場に迷ったサーヴァントがいれば再起の可能性が残るという事だ。だからこそマスターはマスターを殺すのだ」

 

「じゃあその令呪を今ここで使い切ったら?」

 

「たしかにマスターの権利は失われるな、最も強力な魔術を行える令呪を無駄に使う…等という魔術師がいるとは思えないが、いるとしたらそいつは半人前どころか、ただの腑抜けということだろう」

 

またしても、薄気味悪い笑みを浮かべる神父。

 

「さて、それでは初めに戻ろう…衛宮士郎。君がマスターを放棄するというのなら、それも良かろう。令呪を使い切ってセイバーとの契約を断てばよい、その場合君の安全は私が保証しよう」

 

「何だってあんたに、安全を保証されなきゃいけないんだ」

 

「私は繰り返される聖杯戦争を監督するために派遣された、マスターでなくなった魔術師を保護するのは監督役の最優先事項だ」

 

繰り返される?どういうことだ、聖杯戦争って言うのは今に始まったことでは無いのか?

 

「前回が10年前であるから今までで最短のサイクルという事だ、過去に繰り返されてきた聖杯戦争は尽く苛烈を極めてきた。マスターたちは己が欲望に突き動かされ、ただ無差別に殺し合いを行った」

 

「じゃあ聖杯を手に入れたマスターが最悪のやつだったらどうするんだ?」

 

「聖杯に選ばれたマスターを止めるすべ等、私達にはない。何しろ望みを叶える万能の杯だからだ、それが嫌だと言うのなら衛宮士郎。君が勝ち残れば良い、君が勝ち残れば少なくとも無差別な殺人者に渡ることはなくなるだろう」

 

「俺には戦う理由がない」

 

「では、聖杯を手に入れた人間が何をするか。それも興味が無いのだな。ならば、君は10年前の出来事にも関心を持たないのだな」

 

「10年前?」

 

「そうだ、前回の聖杯戦争の最後に相応しくないマスターが聖杯に触れた、そのマスターが何を望んでいたのかは知らない。我々に分かるのは残された災害の爪痕だけだ」

 

「待ってくれ…」

 

途端に思い浮かべたのはあの最悪の厄災。1面の炎と死にゆく人々。

 

「大丈夫?衛宮君」

 

「あぁ…」

 

少しふらつきながらも、どうしても聞いておきたいことがあった。

 

「今まで聖杯を手に入れた者はいるのか?」

 

「一時的に本物を手にした男はいた」

 

「そいつは一体どうなったんだ?」

 

「どうにもならん、その聖杯は完成には至らなかった。馬鹿な男が至らぬ感傷に流された結果だよ、聖杯を表すだけなら簡単だ、7人のサーヴァントが揃い、時が経てば聖杯は現れる。凛の言う通り、確かにほかのマスターを殺める必要は無い。だがそれでは、聖杯は完成しない。アレは自らを得るにふさわしい持ち主を選ぶ、故に戦いを回避した男には聖杯など手に入らなかった」

 

「要するに、他のマスターと決着を付けずに聖杯を手に入れても無意味ってことでしょ?前回、1番最初に手に入れたマスターは甘ちゃんだったのよ」

 

「話はここまでだ、聖杯戦争に参加するか否かここで決めろ」

 

そんな事は決まっている。こんな不毛な殺し合いに意味などないのだから。

 

~教会前~

 

「喜べ少年、君の願いはようやく叶う。分かっていたはずだ、明確な悪がいなければ君の望みは叶わない。例え、それが君にとって容認しえぬものであろうと、正義の味方には倒すべき悪が必要なのだから」

 

そう言われた、神父の顔は心底薄気味悪いものだった。

 

帰り道の途中で、遠坂が突然こちらを振り返った。

 

「衛宮くん、悪いけどここからは1人で帰ってくれる?ここまで連れてきてあげたのは、貴方がまだ敵にもなっていなかったからよ、でもこれで衛宮君もマスターの1人」

 

「俺遠坂と喧嘩する気なんかないぞ?」

 

「参ったなぁ…これじゃあ連れてきた意味が」

 

「凛、倒しやすい敵がいるというのにそれを見逃すとは愚かな選択だ。それとも何か、君はまたこの男に情けを掛けるつもりか?」

 

再びあの赤いヤツ、遠坂がアーチャーと呼んでいたヤツが現れた。

 

「アーチャー…でもコイツには借りがあるじゃない?それを返さない限り気持ちよく戦えないってだけよ」

 

「ふむ…また難儀な。では借りとやらを返したのなら呼んでくれ」

 

そう言うとアーチャーは霊体になって消えていった。

 

「遠坂、借りってもしかして」

 

「そうよ、形はどうあれ衛宮君は令呪を使ってセイバーを止めたでしょ?」

 

「遠坂、意外と律儀なんだな。俺、お前みたいなやつは結構好きだ、じゃあな」

 

そう言って帰路に着こうとしたら、前方に何やら巨大な男?と女の子がいた。

 

「ねぇお話は終わり?」

 

「バーサーカー!?」

 

遠坂が確かにそう呟いたことを俺は聞き逃さなかった。



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第5話 初戦

隼人視点

 

妙な気配を感じた俺は、後ろを振り返り何もいないはずの空中を睨みつけていた。いつまで経っても姿を表さない為、コチラから話しかけることにした。

 

「何の用だ?」

 

「何、少し手伝って欲しいものだと思ってな」

 

アーチャーが目の前に現れた。

 

「俺に手伝えることなんてないと思うが?」

 

「また…わかりやすい嘘をつく、私は先程のお前とセイバーとの会話を聞いていたのだが?」

 

「全てお見通しということであれば、俺に何を手伝えと言うんだアーチャー?」

 

意を決して聞いてみることにした、大方見当はついているが。

 

「何、簡単な事だ。バーサーカー相手では、例えセイバーと言えど抑えきれまい。だが例外もいる、英霊と同等の力を持つお前がいれば多少はどうにかなるだろう?」

 

簡単な事と言うがバーサーカークラスには、どのサーヴァントでも不利だと思うのだが。何より俺が至らぬ干渉をして士郎の成長に妨げが生じたら元も子もないのだが。

 

「俺が戦闘に介入した所で、状況は変わらないのではないか?何より俺の力は、近接向けではない」

 

「中距離戦ではどうだ?貴様も強化魔術、投影魔術の使い手ならば問題はないと思うが」

 

「何にしてもアーチャー、お前に俺の技を見せてしまうことには違いない。俺は別に聖杯戦争なんてものに興味はないし、わざわざ俺が戦闘を行うことで手の内を見せてしまうのは、こちらに損しか無い」

 

どうやら、俺とセイバーの会話は聞いていたみたいだが、察するに、俺の魔力量に関しては理解していても、戦闘技術については理解していないように思える。

 

「そうだな、ではこうしよう。今回の協力を受けてくれるのであれば今後衛宮隼人、貴様が敵対しない限り私達はお前に戦いを強制しない。要するに、お前から力を借りることもまた進んでお前を殺そうとすることもしなくなるという事だ」

 

好感触だ、だがまだ足りない。俺の力をほんの一部とはいえ見せるのだ。それ相応に対価は必要だろう?

 

「もう1つ条件を出してもいいか?」

 

「ほぅ、条件を呑むかどうかは別として、聞くだけなら良かろう」

 

「遠坂凛から英霊召喚の方法について聞き出して欲しい 」

 

「聞き出して欲しい…とは?もはや英霊は7人召喚されている、今更そんな事を聞いてどうなる?」

 

「安心しろ、ただの知識欲だ。別段おかしな事を聞いている訳でもないし、知りたいと思うのはだろう?」

 

少しの沈黙の後アーチャーの答えはYESだった。

 

「…致し方ない、了解した。私とて今は急いでいるのでな、それに凛の家には英霊召喚について纏めてある本が1冊…書斎に置いてあったはずだ。それで良ければ渡そう」

 

渋々と言った様子のアーチャーを横目に冷や汗が止まらない俺。英霊相手に交渉の真似事をしたのは初めての事だ。

 

「話を戻すがアーチャー、バーサーカーを抑えるということでいいんだな」

 

「あぁ、構わない。最終的には私が遠距離からの射撃による一撃を与える手筈だからな、では私は所定の位置につく」

 

知っているとも、俺の中でもあのシーンは印象深かった。カラドボルグ。ケルト神話に登場する魔剣の一種。士郎を殺しかけた武具、と言っても本物には到底敵う代物ではないのだろうがな。

 

「やれやれ、仕方の無いこととはいえ面倒な事になったな」

 

士郎視点

 

「こんばんわお兄ちゃん、こうして会うのは2度目だね?初めまして凛?私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、アインツベルンって言えば分かるでしょ」

 

「アインツベルン…」

 

濃い霧の中、現れた少女の名はイリヤと言うらしい。気になったのは遠坂がアインツベルンという名を知っているかのように反応したことだ。

 

「驚いた、単純な能力だけならセイバー以上じゃないアレ」

 

「これは凄まじいな、あれ一体だけで他の6騎を敵に回せるぞ?」

 

「力押しでなんとかなる相手じゃないってことね、アーチャーここはあなた本来の戦いに徹するべきよ」

 

「だが、守りはどうする?凛ではあれの突進は防げまい」

 

「こっちは3人よ、凌ぐだけなら何ともなるわ」

 

「了解した…」

 

そう言うとアーチャーの気配は消えた。

 

「衛宮君、逃げるか戦うかあなたの自由よ…けど出来るなら逃げなさい」

 

「じゃあ…殺すね、殺っちゃえバーサーカー」

 

そう言うとバーサーカーは凄まじい声量で奇声を上げながらこちらに突っ込んできた。俺はあまりの勢いに気を取られ動けずにいたが、どこからともなく飛んできた魔術的な何かによってバーサーカーの動きが一時的にだが止まった。だが…

 

「嘘、効いてない!衛宮君」

 

「はぁ!!」

 

セイバーが、俺がバーサーカーに襲われる寸前で剣戟により防いでくれたようだ。続いて、バーサーカーとセイバーの戦いが繰り広げれられるが双方共に引けを取らない。いや、セイバーが押されている。

 

「あれの何処がバーサーカーだって言うのよ!」

 

「さぞ高名な英霊なのだろう、狂気に飲まれようと失われぬ太刀筋、感服する他ない」

 

「アーチャー!援護」

 

遠くで狙撃してあるはずのアーチャーの矢が飛んでくるが、全く持ってバーサーカーに効いていない。その後もセイバーとバーサーカーの戦いは続くが完全にセイバーが劣勢だ。

 

「不死身か…」

 

「トドメね、潰しなさいバーサーカー」

 

イリヤがバーサーカーにトドメを指すように指示を下した途端

、そいつは現れた。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

謎の仮面を被った、黒装束の何者かが確かにそう呟いた。両手には二本の剣が、たしかに握られていた。

 

「フッ…」

 

そいつは、持っていた剣をバーサーカーへと放ったが、当然バーサーカーが所持していた剣によって弾かれてしまう。

 

「誰かは知らないけど、チャンスよアーチャー」

 

遠坂は持っていた宝石を投げ、魔術的な何かによってバーサーカーを一時的に拘束し、アーチャーが攻撃を仕掛けたが全く持って効いていない。

 

「追いなさいバーサーカー」

 

「いいアンタは逃げるのよ!」

 

遠坂はそう言ってセイバーとバーサーカーを追って行った。

 

「何も出来なかった…!」

ただの人間如きが、戦えないレベルの超常の存在を目の前にした俺は情けなく、そう思ってしまった。

 

「セイバー…」

 

セイバーとは未だ付き合いは浅いが、それでもこの馬鹿げた殺し合いに終止符を打つためにかわした縁だ。誰かを見捨てることなんて俺には…

 

「一緒に戦うって決めたばっかりじゃないか!!」

 

セイバーたちを追って俺も走った。森に入っていくと俺が目にしたのは凄まじい戦闘痕の数々。

 

隼人視点

 

流石に士郎にバレてもめんどうなので格好だけでもどうにかしようと移動しながら投影魔術によって服装を変える。セイバーの方へ近づいていくとバーサーカーに対して現在劣勢らしい。

 

「セイバーがピンチか…どれ手助けぐらいはしてやるか」

 

俺は、干将莫耶を投影すると高速でバーサーカー目掛けて投擲した。気づいたバーサーカーはすぐさま打ち消すが、数秒判断が遅かったな。凛の指示によってアーチャーの矢が降ってくる。だがどうやら全く持って効いていないらしい、その後も猛攻は続くが、攻めきれずにいた。

 

俺の目的は一応、遠坂と士郎を守る事なのでこの場合無理してバーサーカーと戦わなくても良い。戦いを続ける2人は移動してしまったので、俺は遠坂を追うことにした。

 

「あら、怖い怖い、口上もなしに襲いかかってくるなんて。それともそれが遠坂の流儀なのかしら凛?」

 

「開戦の狼煙を上げたのはそっちでしょ?それとももう一度自己紹介でもしてくれるのかしら?」

 

「自己紹介?そうね、あのお兄ちゃんなら考えないことも無いけど、あなたじゃ、気が乗らないわ。そもそもここで死ぬ人間に何を語れというのかしら?」

 

ガンドで応戦をしているようだが、防戦一方じゃないか。なるほど、今度は正面から撃ち合うのか。

 

「使い魔の形状が変化した!?」

 

鳥から剣に変わったか、アレでは部が悪かろう。仕方あるまい。

 

「ふっ!」

 

再び干将莫耶を高速で打ち出し無力化する。

 

「助かったわ、貴方は誰なの?」

 

「俺の正体よりも先ずは、セイバーを追わなくていいのか?」

 

「言われなくても分かってるわよ!」

 

そう言うと遠坂はセイバーを追って行った。すると、別れ道で士郎と再開したようだ。

 

「衛宮君!?何でここに居るの?いるだけ邪魔ってわからない?」

 

「そんな事あるものか、体がある限り出来ることはあるはずだ、それに俺はセイバーと約束したんだ、一緒に戦うって」

 

「あのね…」

 

すると近くから戦闘音が聞こえてきた。恐らくセイバーとバーサーカーのものだろう。近づいてみると分かったことだが、先程まで劣勢だったのはわざとで、遮蔽物のある墓地へとわざわざ誘導させたということか。

 

「遮蔽物のない場所であれと戦うのは自殺行為よ、だからこそセイバーはこの場所を選んだ、衛宮君からバーサーカーを遠ざけることを兼ねてね、けどこんな戦いになったらアーチャーの援護は期待できない、けど相手はアーチャーの矢さえ無効化する怪物だもの。援護なんて初めから無意味なのよ」

 

「アーチャーの弓…」

 

凄まじい戦いの中、セイバーは一瞬聖剣を実体化させてトドメを指したかのように思えたがアレはまだ死んでいない。俺の引き際もこの辺りか、役目は果たした。

 

「見事だ、だがそれではまだ足りない…」

 

「自己再生?いやこれはもはや、時間の巻き戻しに近い、不死の呪いか!」

 

「セイバー!」

 

士郎がセイバーを連れてバーサーカーから離れる。

 

アーチャーの放った宝具によって辺りが吹き飛んだがバーサーカーは死んでいない。

 

「つまらない事は初めに終わらせようとも思ったけど、いいわ。今日はこの辺で勘弁してあげる」

 

そう言うとイリヤスフィールとバーサーカーはどこかへと行ってしまった。士郎も打ち所が悪かったのか、倒れてしまう。

 

「約束は果たした、失礼する」

 

俺は一言だけ言うとその場から立ち去った。

 




アカンで投稿時間間に合わへん…。バーサーカー描写アニメ見ても難しいから言い回しが今回下手くそです。(許して迫真)


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第6話 記憶

バーサーカー戦後、俺は士郎たちより一足早く家に戻ろうと急いでいた。

 

「アーチャーのヤツめ、離れていたから被害は出なかったものの。もう少し近ければ俺まで巻き込まれる所だったぞ?」

 

「私が何だって?」

 

丁度、反対側のビルの屋上にアーチャーがいた。

 

「げっ、アーチャー…」

 

「そんな事より、何だその格好は?」

 

「変装のつもりだが?士郎は兎も角、無関係の人間を巻き込むのはお前のマスターの主義に反するんじゃないのか?」

 

実の所、士郎に戦闘に参加していた"正体不明の何者か"が俺だとバレると、その後の展開が色々と変わる可能性があるが故に、したくもない格好をした訳だが。

 

「気を遣ってくれるのは嬉しい限りだが、生憎凛はその辺の魔術師よりも格が違う。貴様が魔術を使った瞬間に何者であるか等バレていてもおかしくはない、だが約束は約束だ。受け取るがいい」

 

そう言ってアーチャーは1冊の本を渡してきた。

 

「これが…」

 

「そうだ、英霊召喚について纏めてあるものだ。そうだな、ついでにこれも渡しておこう」

 

アーチャーが投げてきたのは複数の宝石。

 

「これを何故俺に?宝石魔術など習得すらしていないが?」

 

「サービスだ…っと言っても重要そうなものではなく適当に置いてあったものを取ってきただけだがな。何…凛とて助けられた身だ、その様なものをくれてやったとて大した痛手にはなるまい」

 

英霊以前人としてどうなのだろう、その行為は…。だがまぁ、経緯はどうあれ、くれると言うのであれば、ありがたく頂いておくとしよう。

 

「ではマスターが呼んでいるので失礼する」

 

「あぁ、ではな」

 

取引終了後、自宅へ戻る。不自然に思われない様自分の部屋に戻る。しばらくすると、遠坂とアーチャーの話し声が聞こえてきた。

 

「凛、この様な男放っておけばいいのではないか?」

 

「そうもいかないでしょ、大体今日一日は見逃すって言ったじゃない?」

 

「致し方あるまい、この男はどこに寝かせればいい?」

 

「そっちの居間でいいでしょ?」

 

遠坂はそういうと、ちょうど俺の隣の部屋に士郎を寝かせたようだ。

 

「士郎を治療する前に、セイバー。あなたに私の服一着あげるわ」

「しかし、凛。私はあなたにそこまでしてもらう訳には」

 

「いいのよ、どうせもう着てないものだったし。クローゼットの中で使われずに置いておくよりも着てもらった方が助かるもの」

 

「そういう事なら…」

 

渋々と言った様子で受け取ったセイバー。

 

「それで、士郎の容態は…」

 

「これまた、ぱっくり言ってるわね…」

 

士郎の背中には、ざっくりと傷跡が入っていた。

 

「凛、何とかならないのですか?」

 

「一応試してみるけど、治癒魔術に関しては、自信ないのよ私…」

 

「待ってください凛、士郎の傷が!」

 

「嘘!?殆ど塞がって来てるわね…」

 

あっという間に傷は殆ど塞がっていき、浅い傷だけが残った。そのため、処置としては包帯を巻くだけで済んだ。

 

「俺も少し仮眠を取るか」

 

俺の意識は深い闇の中へと沈んで行った。それは聖杯戦争始まって以来初の夢だった。

 

             I am the bone of my sword.

 ―――――― 体は剣で出来ている。

 

Steel is my body, and fire is my blood.

 血潮は鉄で 心は硝子。

 

 I have created over a thousand blades.

 幾たびの戦場を越えて不敗。

 

      Unknown to Death.

 ただの一度も敗走はなく、

 

      Nor known to Life.

 ただの一度も理解されない。

 

     Have withstood pain to create many weapons.

 彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。

 

Yet, those hands will never hold anything.

 故に、生涯に意味はなく。

 

    So as I pray, unlimited blade works.

 その体は、きっと剣で出来ていた。

 

 

要するにこれは、カードを使用したことによって得た英霊エミヤの記憶が今回の戦闘によって一部解放されたのか。あの時カードと同調した時は大まかな内容しか流れてこなかった。

 

何も無いはずの丘で、何度も剣を刺している男の姿がそこにはあった。その男の表情は、複雑そうだった。助けられなかった、助けたはずのものでさえ裏切られ、再び殺す事を強いられた。

 

この終わることの無い地獄を何故自分は見せられているのかとふと疑問に思う。答えは簡単だ、これは何れも俺のあったかもしれない可能性だからだ。経緯は違えど、似たような経験は生前あった。

 

これ以上は、踏み込んでいい問題ではないと。頭では理解している、だがそれでも苦しんでいる目の前の人間を見捨てる事など俺には出来なかった。

 

だから何度も助けた。何を犠牲にしたとしても、そいつが幸せならそれで良いとその結果だけを求めて、慈善行為を繰り返し続けた。一時は全てを助けた気にもなっていた、だがそれは傲慢だった。

 

確かに、本当の意味で救えた人間は数人いた。だが、その他は違う。人の主観は常に変動する、状況が最高の状態で保たれるはずなどない、俺自身それはわかっていたことだ。いつかこの報いが来るのだろうと、見捨ててきた、いくつかの過ちは俺に牙を剥くのだろうと。

 

人間らしく憎むこともあった、こいつなど助けなければよかった。この程度の存在に俺は頭を悩ませていたのかと。だがそれでも俺は理想の形であり続けた。

 

その結果がそれだ。皮肉なものだな、英霊エミヤとは似ても似つかない、全てを救うという理想こそが英霊エミヤだとしたら、絶対悪と成り果てた前世の俺はどうなのだろうな。

 

今回も形はどうあれ、士郎があぁ言う運命を辿るというのであれば、何があっても士郎を死なせないように悪になるのかもしれない。だが、それもいいのかもな、善と悪は必然。例え、俺の理想の形と士郎の理想の形が反していて相容れぬ存在になってしまったとしても。

 

「…胸糞わりぃな、こんな夢見たくなかったんだがな」

 

士郎がどうなっているか気になったが、どうやら遠坂が部屋にいるようだ。

 

「お疲れの様だし、朝飯作っておくか」

 

寝間着から普段着に着替えた後、部屋の戸を開けてリビングの方へ向かう。

 

「朝飯の前に顔を洗うか」

 

洗面台の方に行き顔を洗い、歯磨きもついでに済ます。

 

「何だこれ…」

 

鏡を見て気づいたことだが、俺の頭髪は現代日本人らしく黒髪なんだが1部分、色が脱色して白くなっている。

 

「大した、力は使ってないって言うのに」

 

少し頭痛がしたが、振り切って朝飯を簡単に作る。一応3人分だ、俺とセイバーと士郎。遠坂はどうやら、帰宅したみたいだ。

 

「ごめん、隼人遅くなったー。昨日も晩飯作れなくてすまなかった」

 

「別に気にしてないよ、それよりそちらの方は?」

 

セイバーを紹介する様に促すと、士郎の挙動が少しおかしくなった。

 

「あ、えぁ、切嗣の親戚の子でさ、留学でしばらく家に泊まることになったんだよ!」

 

下手な言い訳をする士郎に対してセイバーは冷静だった。

 

「失礼、隼人…だったか?あなたの事をこのまま士郎に隠し通すのは正直難しいと思う、もし良ければ話をしてくれないだろうか?」

 

「"事"と言うのは、具体的に役目みたいなものを指すものなら話せないことも無い。答えを言っているようなものだが、1度聞けば、俺はセイバー達に肩入れすることも難しくなる。それでも聞いたいのか?」

 

無言で頷くセイバーに対して士郎は又もや慌てている。

 

「待ってくれ、事ってなんだよ?そもそも、何でセイバーの事知ってるんだよ!」

 

「士郎、それは今から話すことを含めて聞きたいということか?」

 

ここで、ようやく士郎も頷きを返す。

 

「では、話そうか。俺の役職について」

 

あくまでここで話すのは、役職についてだけだ。特別なことを話さないのであればルール上問題は無いはずだ。

 

「俺は、聖杯戦争において今回限定的な立場ではあるが、教会に雇われた"裁定者"の立場にある」

 

「なるほど、これまでの行動。そして、昨日の一件はそういう事だったのですね」

 

セイバーは納得の言った様子だが、士郎はご不満の様子。

 

「申し訳ないんだけど、"裁定者"って何だ」

 

「"裁定者"とは聖杯戦争を取り締まる役割を担う人物のことです。今回士郎の兄である隼人は言わば、私達サーヴァントまたはマスターを、ルールで禁じている事を破ったものに対してペナルティを与えるもののことを指します」

 

「もう一つ質問なんだけど、もしかしなくても昨日俺たちの前に現れて、助けてくれたのは…」

 

「それは、俺だ。あの時は色々と事情もあったし、何より正体不明だったからギリギリセーフだったんだよ」

 

本当は、間接的に関わるのもアウトだったと思うが、あの神父もルール破って参加してんだからこれくらいは別にいいだろ。

 

「それで、お前ら色々話し合わなくていいのか?」

 

「これから会議しようと思ってたんだよ。丁度いいから、裁定者である隼人にもいて欲しい、聞きたいこともあるから」

 

渋々、俺も席に座り聞く体制を取る。




進むにつれて途方もなく立ちどまりそうになっております。最近、私の悩みは白髪が増えたことです。まだ、年齢若いはずなのにどんどん白髪になってきてもうコレ何てエミヤ(語彙力)。
あと、バレンタイン(笑)と言うリアルイベント(憎悪)がありますが当然今年も母チョコ貰いました。美味しかったです。


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第7話 探索

 

「私達、サーヴァントは英霊です。英霊であるが故に正体を明かすということはその弱手をさらけ出すことになります」

 

「そうか、だからセイバーなんて呼び名で本当の名前を隠しているか」

 

「はい、聖杯に招かれたサーヴァントは7人いますが、その全てがクラスに応じて選ばれているのです」

 

「クラスって剣士とか弓兵とか?」

 

「そうです、聖杯は予め7つの器を用意してあらゆる時代から呼び出せる。それが7つのクラス、セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーです」

 

「セイバーは、剣に優れた英雄だからセイバーとして生まれたってことか」

 

「ですが裏を返せばそれが、セイバークラスの欠点でもある。例えば敵が自身よりも白兵戦に優れている場合、士郎ならどうしますか?」

 

「正面から戦っても勝てないなら、真っ当な戦いなんて仕掛けない」

 

「そういう事です、加えて私たちサーヴァントには宝具がある。ランサーの槍やアーチャーの弓、それに私の剣などがそれに該当します。宝具とは言わば切り札です、ですが宝具の発動には相当な魔力量が必要になります」

 

「つまり、むやみやたらに使えない?」

 

「そうです、また発動の際には宝具の真名を明かさなければ行けません、つまり宝具を使えばそのサーヴァントの正体がわかってしまう危険性があるという事です」

 

宝具然り、名前然り、結局英霊ってのは正体がバレると対策されてしまうからな。

 

「セイバーが剣を見えなくしているのはその為か」

 

「その事で、お願いがあるのです。本来サーヴァントはマスターにのみ真名を明かし対策を練ります。ですが、士郎は魔術師として未熟です。優れた魔術師ならば士郎の思考を読むことは容易でしょう…ですから」

 

「名前をあかせないってことか」

 

無言で頷くセイバーは俺から見ても申し訳なさそうにしていた。

 

「分かった、セイバーの宝具の使い所はセイバー自身の判断に任せるよ、っとそうだその服はどうしたんだ?」

 

「これは凛がくれたものです、霊体になれない以上普段着は必要だろうと」

 

どうやら、会議はここで終了のようだな。

 

「悪いが士郎。俺はこの後行くところがあるんでな、この辺で失礼させてもらうがいいか?」

 

「待ってくれ、最後に一つだけ聞かせてくれ。その…なんて言うか今後も暇な時でいいから稽古に付き合ってくれないか?」

 

なんだその程度の事俺が断るとでも思ったのか?

 

「別にそれくらいはいつでも付き合うさ、それではな」

 

士郎と別れたあと、俺は急ぎで教会に行く。あんまり目立つ真似はしたくないが致し方あるまいと強化魔術を使ってさらに加速させる。

 

「よぅ」

 

「ランサーか、ちょうど良かった。俺に何か用があるんだろう?」

 

「すまねぇな、どっかの馬鹿がやらかしているみたいでな。言峰にお前を呼んでくるように言われたんだよ」

 

恐らくは今朝ニュースにも流れていたあれの事だろう。

 

「了解した、ではこのまま向かおう」

 

~冬木教会~

 

「来たか」

 

教会前で、既に待ち構えていたエセ神父。

 

「それで、俺を呼び出した理由は今朝ニュースで流れてた会社の調査か?」

 

「そうだ、ランサーに言って周囲の魔力を調べさせたがどうやら規模から考えて英霊のもののようだ。よって、社内に生存者がいるかもしれん」

 

確か契約では、一般人を巻き込んではならないという事だったと思うが、それを仕掛けた英霊はまた随分と性格がねじ曲がってるな。

 

「つまり、調査の目的としては1番に人命救助、2番に正体の追求ってことだな」

 

「あぁ、もしその英霊に遭遇した場合の対処は君に任せるよ」

 

それだけ聞くと俺は急ぎでその会社へと向かった。

 

(確かに魔力を感じる…。だがこれは別の…遠坂凛か)

 

俺はビルの屋上まで跳躍すると予想通り、遠坂凛とアーチャーがいた。

 

「夜分遅くにすまない」

 

「なっ!?あなた!」

 

そう言えば、遠坂には話していなかったな。まぁ、どうせバレていたんだろうからどうでもいいけど。

 

「俺は"裁定者"だ、ココには言峰に言われて調査に来た」

 

「ただものでは無いとは思っていたけど…そうね、まぁいいわ。教えてあげる、今回このビルで騒動を犯した大馬鹿は恐らくはキャスターよ」

 

「だろうな、薄々分かってはいたが情報提供感謝する」

 

「待ちなさい、昨日バーサーカーと戦っていた時に助けてくれたのってあなた?」

 

不意にアーチャーを見ると、言うなよって顔をされたので俺は違うという事にした。

 

「もし、そうなら今後ああいうのは控えた方がいいわ。裁定者として参加するのはルール破りみたい所あるから」

 

「真面目か!っとついつい反応してしまったが、昨日俺は君たちの戦闘に介入していないぞ?」

 

「あくまで誤魔化すつもりなら敢えて聞かないでおくわ、その代わり衛宮君に伝言お願いできる?次あったら敵同士よってこと」

 

それまで聞くと、俺は再び跳躍を行い教会の方まで戻っていった。

 

 

 

士郎視点

 

俺は会議を終えた後、藤ねぇからの呼び出し(弁当届けるだけ)により学校に行こうとしたんだが、何故かセイバーも着いてくることになった。

 

「んで、無事渡し終えたわけだが…あれ?セイバーは?」

 

校内に入っていくのが見えたため、追っていくと葛木先生がいた。

 

「葛木先生!」

 

「衛宮か」

 

咄嗟に言い訳を述べた。

 

「その…この子は俺の知り合いで見学に来たというか…」

 

「外国からの留学者は初めてだ、入学すれば周りから注目される。衛宮、知り合いなら気を遣ってやれ。それと校内は土足厳禁だぞ?」

 

予想外な事を言われて拍子抜けする俺に対して葛木先生は、どこかへ行ってしまった。

 

その後セイバーに校内を案内するように言われ、渋々付き合ったが日が沈む頃になってようやく帰宅することが出来た。

 

セイバーの事を紹介したら、今日は何故か桜と藤ねぇも泊まることになった。




昨日は投稿休んでました(申し訳ない)。流石に体が持たないのもあったんですけど何よりも先ず原稿を書く時間が圧倒的に足りなくて、今回も短めで、ごめんなさい。これから頑張っていくから(白目)。それと誤字脱字報告の方もありがとうございます。私としてもできるだけ誤字脱字が出ないよう精進いたしますので、応援の方よろしくお願いします。<(_ _)>


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第8話 在り方

 

俺は、ビルの1件についての報告をエセ神父に知らせた後、食材が切れていたことを思い出して買い出しに出かけた。

 

「今日はお好み焼きかな…」

 

そう思いながらスーパーに入り、具材をあれこれとカゴの中へと投げ込む。

 

「具材よし、調味料の補充分よし」

 

順番に確認作業を行い、レジへと向かう。今日は特売日だったので、どうしてもこの予定は、外せなかったのだ。どちらかと言うとあのエセ神父の依頼の方がついでなのだ。

 

「まぁ、どうせ士郎達は今日遅いだろうし具材を冷蔵庫に入れて下準備が済んだら魔術の訓練でもするか」

 

一応、今日はお泊まりイベントが発生すると予め知っていたので人数分作れるように色々と手を回したのだ。お好み焼きならあんまり難しくないし、前世でも鉄板焼きに通うくらいには好きだったのだ。

 

「こんなものか、案外下準備だけならそんなに時間はかからないか」

 

焼く工程だけは、後の方がいいだろうと思った。どうせ人数は多いのだし囲んで焼いた方が絵にもなるだろうと踏んだからだ。

 

「んじゃまぁ、やりますか」

 

まずは、基本である解析の魔術から。次に、強化、投影の順で行なっていく。無論あのカードの影響によりイメージに綻びは無く、程なくして全ての工程を終える。ただ一つ例外を除いて。

 

「俺には、衛宮士郎の様な理想は持ち合わせていない。だから決定的に剣を振るうための精神力の弱さは仇になっている」

 

そう、それは所謂魔術の最奥である"固有結界"が使えないことを指す。俺の心象風景その全てをさらけ出すなど、おぞましくて表現出来たものでは無い。

 

「…。答えは既にある、だが」

 

口にすることは簡単だ。前世の歪んでしまった己の形と転生して変わってしまった己の形。両方とも捨てきれはしない。結局俺は、ただの人間なんだろう。

 

「恐らく、この言葉は神様とやらが人間の俺にふさわしい呪文を選んだ結果なんだろうな。俺の用いるこの詠唱は、俺の今までの在り方…そしてこれからも俺の進もうとしている道を実によく描いている」

 

そうだな、もしコレが本当に意味しているのであれば出来るはずだ。唱えよう、我が詠唱の一部を。

 

「体は…悪意で出来ている」

 

予想通りというか、なんと言うか。少し呆れてすらいる、俺の投影した干将莫耶は形こそエミヤのそれと同じだろう。だが中身は別物だ。

 

エミヤのソレを遥かに超える、憎悪の塊によって形成されたソレは、比べるまでもないほどに研ぎ澄まされている。根本的な技術は同じハズなのに在り方が違うとこうも違うものなのか。

 

「なるほど…つまりはこの在り方を貼り続ける限り、根本はエミヤの投影のハズのものが歪に変化し、俺のオリジナルのものになるということか」

 

粗末なものだ。己のような醜悪な人間が作ったものが、コレとは。まさに俺にふさわしいものだ。魔力に干将莫耶を霧散させると新たに今度は弓を投影してみせる。

 

「いい加減、揺るぎようのない事実を自覚するべきだ」

 

この詠唱を神様とやらが与えたということは、つまりその在り方を俺が途中で放棄することは無いのだと理解しているのだろう。

 

それはそうだ、俺はエミヤの様に、他人を憎むことなく自己を憎むという在り方は出来なかった。

 

半端に人間の家族というものを知っていた俺は、他者に対して憎悪を向ける場面などいくらでもあった。それも数回じゃない、それくらいで終わるものなら俺の悪夢はとっくに醒めていたんだろうさ。

 

「人間、いつ死ぬかなんて分からないもんな」

 

そのタイミングで玄関の方から音が聞こえた。おそらく士郎たちだろう。空を見ると既に日は落ちていた。

 

「ただいまー」

 

「ただいま隼人君!今日お泊まりするからねぇ!」

 

「暫くぶりですね、隼人さん。私も今日は、泊まらせていただきますね」

 

「…」

 

上から順に士郎、藤ねぇ、桜、セイバーの順で次々と喋っていく。セイバーだけは何故か日本語わかりませんよ?って顔されて若干ショックだった。さっきまで思いっきり話してたよね?

 

「おかえり、4人とも。今日はお好み焼きにしてみたんだけど下準備は済んでるから、あとは焼くだけだよ」

 

「ありがとな、じゃあ俺が焼くから隼人はお皿の準備でもして待っててくれ」

 

士郎からの支持によって一先ず並べていく。セイバーは何故かこちらを睨んでいた。

 

「隼人と言いましたか?少し話があります、こちらへ」

 

リビングから縁側に呼び出されたので、仕方なく立ち上がりついていく。

 

「魔力の残滓を感じます、何か魔術でも使ったのですか?」

 

「あぁ、悪いな。投影魔術を使わせてもらった、何ていうか日課みたいなものだ」

 

「日課ですか?先日のバーサーカー戦で、あなたの戦い方はまるでアーチャーの様でした」

 

セイバーも気づいていたのか?隠すような事でもないが、敢えて表沙汰にする必要性もない。

 

「つまり何が言いたいんだ?」

 

「士郎の様に未熟な魔術師ならば、分からなくもありません。ですが、あなたは違う。投影魔術というものが、どの程度で達人の域に出るのかは分かりかねますが、士郎とあなたを比べるのであれば天と地ほどの差が開いています。それで、何故訓練する必要があると?」

 

「身の安全の為と言うのもあるが、実の所は将来俺が成すべき事のためにそれは必要なんだ、俺がこれから歩む道は、ただ一度の失敗も許されないのだから。だからこそセイバー、日課の事については目を瞑っていただきたいのだが」

 

「仕方ありませんね、あなたの向上は士郎にとってもいい見本になると思いますし」

 

その瞬間俺は、皮肉だが少し苦笑いしてしまった。確かに投影の剣としての機能だけなら見本になるかも知れないが、組み込まれる憎悪は違う。昨日までの俺の剣ならまだ、良い。だが、俺はもはやエミヤのそれとは別物だ。そんな男の剣を真似るなどあってはならない。

 

「納得してくれるなら結構、それよりも早く戻らないとお好み焼き無くなるぞ?」

 

すると、セイバーは余程お腹が空いていたのか走って向かっていった。どんだけ食い意地張ってんだよ…。




次回戦闘シーン入れる予定です。(誰がとは言わないけどね)それと、この一週間もしかしたら更新ができない日が多いかもしれないです。申し訳ない<(_ _)>


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第9話 ライダー戦part1

「士郎…この感じから察するに、久しく剣を握っていないんだろう?」

 

俺は、士郎の朝稽古に付き合う為に竹刀を振るっていた。

 

「っ!なんで分かったんだ?」

 

「打ち込みを通じて分かるさ、お前は弓、俺は剣の部活動に精進していたでは無いか」

 

お互いにお互いを高め合うために、俺たちと言うよりは、俺は弓よりも剣を取った。俺の中心は剣で、士郎の中心は弓だ。どちらを取ったと言っても、結局どちらも俺はやり続けていたから変わりはないんだが…。

 

「何より、士郎。その構えは合っていないんじゃないか?」

 

「…」

 

「違和感はあるようだな、それを自覚しているだけまだマシだ。その違和感の答えが出せたらまた呼んでくれ。それまで俺との稽古はなしだ」

 

少し突き放すように士郎にアドバイスを送り、家を出る。あのまま家にいると、士郎の前にセイバーに何かされそうだからな。

 

「それにしても…」

 

俺は通学路を歩きながら、あの事を考えていた。そうつまり、英霊召喚の事だ。アーチャーから貰った、1冊の書物の1部には触媒が必要だと書かれていたが生憎俺には触媒なんてものは持ち合わせていない。

 

俺の技術はクラスカードの影響により、会得したものであり、当然その置換魔術という物にも理解している。

 

擬似的にクラスカードを作ることは可能だ。かと言ってそれを使用したところで恐らく触媒にはなりえないのだろう。何より聖杯が受けつけない。

 

「っと…」

 

そんなことを考えながら、歩いているとあっという間に学園についた。

 

「遠坂は…まだ来ていないみたいだし、葛木先生も来ていないようだ。今こそこれは、実験をするチャンスだろう」

 

そう思い、屋上へと向かう。途中で間桐慎二とか言うワカメに挨拶された後煽られて、ブチ切れかけたが大丈夫だ。

 

「さて、あまり時間もないし、さっさと始めるか」

 

俺は書物通りに魔法陣を書き宝石を魔力で溶かしながら唱える。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

一言一句間違えのないように完璧に言い終えた。だが、俺の前には誰も現われなかった。当然と言えば当然だ。本来サーヴァントは、触媒によって選別されるのだから。召喚儀式に何も持ちえなかった俺ではやはり、最初から無理があったのだろう。

 

「失敗したか、期待はしていなかった訳では無いけど出来なかったものは仕方ない」

 

頭を切り替えて、魔法陣を消していく。 屋上から降りていき自分の教室まで戻る途中で遠坂に出会う。

 

「その顔から察するに士郎から話しかけられでもしたか?」

 

「そうよ、本当神経逆撫でされてる気分だわ!」

 

憤慨中の遠坂は、ブツブツ言いながらクラスへと入っていった。

 

「さて、俺も教室に戻るか」

 

~放課後~

 

最後の授業を終え、生徒達が帰宅していく中で俺は再び学校がよく見えるビルへと移動した。

 

「魔力反応…あれは遠坂と士郎か?せめて、一般人は巻き込まないでくれよ。ん?」

 

渡り廊下にあのワカメ…間桐慎二がいた。何やら女生徒と談笑中みたいだが、あの娘の魔力が吸われている。

 

「あのワカメも面倒な事をしてくれる」

 

そこへ来た遠坂と士郎。宝石魔術で女生徒の命を助けたか。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

俺は弓を複製すると、そのまま士郎の付近にいた魔力反応に向けて放つ。

 

「ふっ!」

 

しかしライダーの持っていた武器に弾かれる。さらにライダーは、遠坂に向けて武器を放つが士郎が身を呈して守った。ライダーは、1時撤退したようだがどうやら士郎は傷を負ったまま追うらしい。

 

「さすがに見過ごせないか…」

 

森に入っていく士郎を見終えた後、追うように俺もついていく。

 

「大した事ないな、他のサーヴァントに比べたら迫力不足だ」

 

「いいえ、そこまでです。あなたは初めから私に捕われているのですから」

 

士郎の右腕に刺さった武器により縛り上げられるとそのままライダーは士郎の体を拘束する。

 

「ライダーのサーヴァント警告に来た、無関係の人間を巻き込むな」

 

「あなたは?」

 

「俺は衛宮隼人。教会から派遣された裁定者だ、もしこれに同意されない場合実力行使で行かせてもらうがいいか?」

 

「実力行使とは私も舐められたものですね、ただの人間如きに」

 

瞬間、ライダーの鎖が飛んでくるが干将だけを投影して全て弾く。

 

「この程度では俺を殺すことなど不可能だ」

 

「…」

 

分が悪いと思ったのか、ライダーは何も言わずに去っていった。

 

「士郎、遠坂も直にくるそこで待っているといい」

 

何か言いたそうな士郎だったが、直ぐに状況を把握したのか

俺の後を追って来なかった。

 

役目も終わり帰路に着こうと移動をしていた時に気づいた。

 

「ん?今左手に違和感が」

 

ちくりとした痛みがしたため左手の甲を見るとそこには、マスターの証である令呪が刻まれていた。

 

「ってことは、サーヴァントが顕現したってことか」

 

立ち止まりふと目の前を見ると、とてつもない魔力を感知した。

 

「このまま、無言で居ても話は進まないだろうし一先ずお茶でもどうかな?」

 

「顕現に時間が掛かってしまい、申し訳ございません。サーヴァントアヴェンジャー。召喚に応じ参上致しました」

 

正直空いた口が塞がらない状態だ、本来顕現しないはずのモノが現れるとは思えない。

 

「もしかしなくても、神様らしからぬ人が貴方を送り出したのでは?それにその口調じゃなくてもいいよ」

 

「よく分かってるじゃない、話は簡単よ。私がこの世界に顕現出来たのは、主が私の存在を認めてくれたからよ。本来、存在しないはずの、正規とは違う私はそのまま消えるだけだったんだけど、あなたの生い立ちを見て主が私を送り出したのよ」

 

「いや、でも俺は触媒とか持っていないわけで」

 

「持っているわよ、触媒。アンタの存在そのものよ。確定してしまった在り方を曲げる事はほぼ不可能…。善の反転である悪の性質を兼ね備えている、アンタにだけ私を召喚することが出来たのよ」

 

つまり、触媒無しで召喚出来たけどこのサーヴァントは俺のお目付け役みたいな感じか?

 

「もう一つ言っておくと、伝言を預かってるわ」

 

『色々考慮した結果、やっぱり君には幸せになって欲しいと思ってね。もし、サーヴァントを召喚させるようなことがあるならと思って準備はしていたんだ、お節介かもしれないけど1つよろしく頼むよ。追記1人だけとは言ってないよ』

 

「ん?ちょっと待ちなさいよ、聞いてないわよ!!」

 

えっ、つまり顕現するサーヴァントは1人ではなくて2人だということか。そう思っていると今度は右手にも令呪が浮かび上がった。

 

「サーヴァント、ルーラー。召喚に応じ参上致しました。宜しくお願いします、マイマスター」

 

「げっ!!」

 

同一人物が2人も…。さすがにセイバーとかに殺される気がしてならない。てか異例過ぎないですか、神様…。

 

「げっ!とは、なんですか?げっ!とは。持っとこう貴方はお淑やかに出来ないものですか」

 

「はいはい、お人好し聖女様は言うことが違うわねぇ。で?アンタの触媒はなんだったのよ?」

 

「あなたと同じですよ、真逆の方ですが。それに彼は今回裁定者の立場にあります」

 

「あの〜お二人さん?喧嘩は結構なんですけど、せめてその…なんて言いますかサーヴァントってバレないように服装とか変えません?セイバーさんにバレた時には俺の身が持ちそうにないんで」

 

すると、2人は人目もあるだろうという事で霊体になってくれたもののすぐ近くでずっと言い合いをしてる。

 

「これはまた、厄介なことに首を突っ込んだな…」

 




お気に入り数も気づけば3桁に入り、何ともまぁこんな駄作にと思う気持ちもありますがそれだけ期待されるってことなんですね(ポジティブ)。最近、勘違いしていたんですが、UBWのアニメを見返すとライダー戦って1回じゃないんかよ!と。今回出したサーヴァントは、皆さんお気づきかと思われますが、あのサーヴァントです。今後の展開にも必要になるので、序盤のこの辺りで呼んでおくのが良いかと思いまして、召喚しちゃった。テヘッ!


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第9.5話 買い物

「あのさ…一応着いたんだけど希望とかあったらお願いします」

 

『じゃあ私、あの黒いパーカーがいいんだけど』

 

とアヴェンジャー。

 

『何を言っているんですか貴方は!あっちの清楚な服の方がよっぽど、いいです!』

 

『はいはい、聖女様は清楚キャラで行きたいのね』

 

『なっ!貴方はちょっとそこに座りなさい、お姉ちゃんとして貴方を説教します!』

 

『座るわけないじゃない、そもそも霊体なんだから見えないんじゃないの?』

 

『見えてますよ、バッチリ。そのご満悦な表情がね!』

 

着いてからずっと、この調子でかれこれ何時間同じやり取りを繰り返し続けている。閉店時間も狭まってきているので、俺は取り敢えず女の子物の服を籠に詰め込みレジへと向かう。途中で2人が

 

『あっ!ちょっ!』

 

とか

 

『待ってくださいマスター!』

 

とか言われたが構わず購入。俺は高校に入ってからアルバイトもしていたので、資金力はあるのだ。その為、適当に選んでも数はあるので後で選んでもらえば済む話だと思い店を出る。

 

「ふぅ…何とかなったな」

 

『なってないですよ!』

『なってないわよ!!』

 

「そんなに、言うことか?確かに勝手に選んだのは悪いと思ってるけど…でもあのままだったら閉店時間になる所だったんだよ?それに、2人が言ってた服も全部買ったし」

 

『いい所あるじゃない』

 

『マスター感謝します』

 

美人2人に言われるとこう、グッとくるものはあるが別に感謝されるような事でもないと思う。これは言わば、俺の我儘に2人を付き合わせているだけなのだから。そもそも俺には、そんな風に感謝される資格はないのだ。

 

「マスター、今なにか自虐的なことを思いましたか?」

 

突然、霊体を解くルーラー。

 

「いや、思っていないが…」

 

「嘘ですね、啓示で直ぐに分かりましたよ」

 

「だと思ったわ、忘れたの?私たちの媒介の事。私達二人ともあなたのことよく知っているのよ?良い意味でも悪い意味でも」

 

そう言えばルーラーは俺の善性を、アヴェンジャーは俺の悪性を媒介にしているんだったな。って事は神様はこの2人に余計な記憶を見せたんじゃないだろうか?

 

「もし良かったら何だけど、具体的に2人が見た記憶教えてくれたり?」

 

「嫌よ!」

「嫌です!」

 

そんな、いたずらっ子みたいな笑みで言われても困るんだがな。

 

「言わないにしても、取り敢えず霊体のままでもいいからこの中から適当に選んで着てほしいんだけど」

 

当然卑猥な発言をした俺にはもれなくビンタが来る。2人に猛反対されたので、仕方なくビルの屋上から中に入った場所で着替えてもらうことにした。

 

「着替え終わったけど…」

 

「…///」

 

何故にルーラーは、そんなに照れてるの?おかしくない?俺何もしてないよね!!

 

「ねぇ、アヴェンジャー。俺別に何もしてないよね?」

 

すると、邪悪な笑みを浮かべてこう言い放った。

 

「何かしたんでしょ?私のお姉ちゃんに…。」

 

「お前こういう時だけそういうこと言うのな…。ルーラー、おめでとう。お姉ちゃん認定されたぞ?」

 

「やっと、分かり合えたのですね妹よ!」

 

「ちょっ!抱きつかないでくれます!?何しれっと嘘ついているんですか!!」

 

新しい服装は、2人とも統一していてペアルック。黒と白を基調とした服だ。

 

「なぁ、本当にそれでよかったのか?」

 

「良いのよ、これ以外には私達二人に当てはまるものなんてないもの」

 

「そうです、それに白黒はっきり別れていた方が分かりやすくていいでしょう?マスター」

 

見分けが着くという意味では、確かに分かりやすくはある。しかも、これはこれでよく似合っているから何も言う気は無いけど…。

 

「それでさ、2人の呼び名についてなんだがその…」

 

「別になんでもいいわよ、あーでも、アンタ絶望的にネーミングセンスがないのよね…そうね、私は真名を隠せればいいんだしオルタでいいわよ」

 

そう俺のネーミングセンスの無さは、前世からなのだ。犬の名前にベムとか付けてたからな。何処の妖怪人間だよ…。

 

「では私はどうしましょう?」

 

「アンタは普通にジャンヌでいいんじゃない?真名明かす事になるけど、裁定者って言う設定なんだし」

 

「えぇ!?それ言ったら、同じ顔のあなたも真名バレる事になりますよ!?それに、裁定者ってバレたらマスターの隠そうとする行為自体が無駄になってしまいますよ?」

 

「着いたらお互いに自己紹介できる様にお願いします…」

 

小声で、しかも何故か敬語を使ってしまった。それくらい2人の表情は怖かった。てか、この修羅場いつまで続くんですかね?

 

~衛宮家~

 

「あー…士郎?こちら今日から一緒に住むことになった…」

 

「「ジャンヌです」」

 

「…」

 

沈黙。そりゃそうだろ、訳分からん女の子2人がいきなり住むってなったら普通この反応だよ。

てか、真名言ってるようなもんだろソレ。

 

「ま、まぁ俺もセイバーを住まわせているから反対はしないけど…それにしても瓜二つだな姉妹?」

 

「あー…、まぁ一応な?彼女たちは、教会から派遣されて来た俺と同じ裁定者なんだ」

 

隠すつもりもないけれど、セイバーさんの眼差しが鋭いので一応サーヴァントだと言うことは伏せておく。

 

「士郎、少し隼人と話をしたいので先に準備をしておいて貰えますか?」

 

「準備って…あぁ、さっき言ってた稽古つけてくれる話だな!分かった、さっきに行って待ってる」

 

案の定、セイバーさんに呼び出しをくらったので待機する。

 

「こうして居ても、時間が過ぎるだけです。仕方ありませんね、単刀直入に聞きます。その方々はサーヴァントでしょう?」

 

「そうだ、俺が呼び出した。だが嘘はついていないぞ?誰も一言も人間だともサーヴァントだとも言っていないし、裁定者ってのも本当だ」

 

「隼人、貴方は何がしたいのですか?それだけの力を持ちながら何故士郎を助けようとしないのですか」

 

そんなのは簡単な話だ、今回の俺の役目はそういう者になってしまったからだ。世界の干渉力というのも働いているのかもしれないが、基本的に裁定者という役割になってしまった以上はどうしようも無く平等性を保たなくてはならない。

 

(言っても仕方あるまい、理解が追いついても気持ちが追いつかないって顔してるしな。)

 

「そうだな、確かに兄弟として士郎を救いたいという気持ちもある。だが、それ以前に今回の出来事は士郎にとって大きな成長に繋がるハズだ。幾度の死闘の果てに得るものが恐らくある、それを分かって欲しいと思う反面、こちら側に来て欲しくないと思ってしまう。来てしまえば必ず後悔する、そういう未来の姿が見えるんだよ俺には」

 

「つまり、魔術の真髄を理解して欲しいがために手を出さないと?」

 

「その通りだ。セイバー少しアドバイスを送っておこう。士郎の投影魔術は今はまだ眠った状態で完全には起動していない、それを起こすには士郎自身の魔術回路を本来あるべき形へと戻した上で見本となる…この場合は、アーチャーにでも手合わせをお願いすれば今よりは随分マシになる」

 

不機嫌そうなセイバーは、道場へと向かっていった。




主人公が何故バラしたかについてですが、ジャンヌ達が真名を、名乗った時点で諦めたためです。下手な言い訳するより良かったじゃない?セイバーが毎回主人公に対して敵対的なのは、人間味を失っているような発言を時折する主人公に対して嫌悪感を持っていたり、そもそも主人公に対してのセイバーの心境としては
「莫大な力を持った人じゃない何か」
と思っている事から自己のマスターである、士郎を守るため防衛本能が働いているという設定です。


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