怪盗Kの野望 (野良犬)
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スタートライン

魔法世界にある街、グラニクスに近いオアシスで対峙する二つの影。

ひとつは、薄い金色の長髪で筋肉質の大男。周囲に無数の大小様々な武器を突き立て、真剣な表情で相手を見つめている。

名はジャック・ラカン、伝説の傭兵剣士である。

もうひとつは、ラカンと対峙するには明らかに身体が小さく頼りなかった。体長30cm前後、全身が真っ白な体毛で覆われており尻尾の先だけ黒くなっている。

オコジョである。どう見ても、オコジョである。

何を血迷ったのかこのオコジョ、ラカン(バグ)を相手に立ち向かおうとしていた。

名はアルベール・カモミール、とある野望を抱きラカンに弟子入りしたオコジョ妖精である。

 

 

ラカンはニヤリと笑いながら告げる。

 

「これが、最後の試験だ。乗り越えてみせな」

 

「旦那には感謝してもし足りねぇっス。故郷を追われ、魔獣に襲われて、行き倒れていた俺っちを拾ってくれたばかりか、秘技・秘奥義や旦那印のオリジナル体術まで伝授してくれた。本当にありがてぇッスよ」

 

「拾ったのは正直気まぐれだったし、技を会得出来たのは、お前が死に掛けながらも諦めなかったからだぜ?それに、俺はお前みたいな馬鹿な夢を…いや野望を持った大馬鹿野郎は嫌いじゃないんでな」

 

カモは短くも長い、そして果てしなく濃密な一年を思い返す。幼い頃から抱いていた夢がラカンと出会い、その卓越した技を見た瞬間、野望へと変化し弟子入りを頼み続けた。地獄も生温い修行で死に掛ける事が三桁を超えようとも絶対に諦めなかった。

全ては野望の為に。

そして今、最終試験が始まろうとしている。

 

「さあ、御託はもういらねぇ。()ろうぜ。カモ!」

 

(おう)よ!」

 

気合をぶつけ合う一人と一匹。試験開始直後、先手を取ったのはラカンだった。

 

「オラァッ!!!」

 

周囲の武器をカモ目掛けて全力で投擲するラカン。轟音をあげながら飛来する剣群。それをヒラリヒラリと冷静に避け続けるカモ。決して慌てず機を窺う姿は、虎視眈々と獲物を狙う野生動物を思わせる。

 

「どうした!そのままじゃ何時まで経っても終わらねぇぞ!!」

 

「なら、今度はこっちからいくッスよ!」

 

ポンッと白い煙で姿を隠すカモ。煙が晴れるとそこには無数のカモの群れ。

その数1000匹。

『分身の術 KAMOversion』 

かつて、ラカンがナギと初めて戦った時に見た技を見様見真似で覚え、それをカモ専用に改良し面白半分で教え込んだ技である。分身の攻撃力は極小であり耐久性もヌイグルミ程度だが、その分大量の分身を生み出せるのだ。

カモの群れは一糸乱れぬ統制された動きで目標(ラカン)にむかって突き進んで行く。しかし相手は歴戦の戦士。ひとつ武器を投げる毎に100匹前後のカモ達が吹き飛んでいく。

それでもカモは諦めない。ここは、野望のスタートラインですらないのだから。

瞬く間に数を減らし残りは後8匹。ラカンとの距離は後1m。渾身の力を込め一斉に飛び掛るカモ達。しかしそれも。

 

螺旋掌(らせんしょう)!」

 

ラカンの右手が飛び掛るカモ達を全て掴み取り、地面に叩き付け押し潰す。砕けた地面に出来上がったクレーターの中で、グッタリして倒れている最後に残ったカモ。

「終わったか」と、ほんの僅かに気を緩めた瞬間、倒れているカモの下の地面から白い影が飛び出し、前屈みになっていたラカンの側頭部をすり抜けていく。

後ろを振り返るとそこには赤い布を銜えたカモがいた。それを確認したラカンはニカッと笑いながらカモに言う。

 

「よし!合格!!」

 

「ありがとうございやした!!」

 

 

最終試験に無事合格した数日後、旅立ちの時がきた。

合格祝いのマジックアイテムとラカン10級の『ひょーしょーじょー』をもらい出発するカモ。

ようやく辿り着いたスタートラインを前にカモは宣言する。

 

「全世界に散らばるお宝(パンツ)達よ!俺っちは必ずお前達を手に入れてみせる!厳重に護られた秘宝クラス(美女・美少女)お宝(パンツ)も!入手不可能と言われている至宝クラス(吸血姫)お宝(パンツ)も!ひとつ残らず掻っ攫う!!大怪盗(パンツ神)に俺っちはなる!!!」

 

 

 

これは旧世界・魔法世界の歴史に大いなる(汚)名を残す大怪盗(下着泥棒)になる一匹の紳士(変態)の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アルベール・カモミール

この短編の主人公。
本来ネギの使い魔になるはずだったがラカンとの出会いにより変態度が天元突破。
新旧両世界で幅広く活動し多くの女性達に羞恥と怒りを与え、とばっちりを受けた男性達に頭を抱えさせた。

座右の銘は「白に始まり白に果てる、漢一匹パンツ道」

「女性用下着(使用済み)に囲まれて過ごしたい」という夢を抱き
「ありとあらゆるパンツを手に入れてみせる」という野望に至った。

カモ独自のお宝(パンツ)ランクがあり、
通常のお宝=外見年齢10~50歳の一般女性
秘宝クラス=災厄の魔女・第三皇女・アリアドネー総長・褐色スナイパー・眼鏡っ娘剣士など
至宝クラス=真祖の吸血姫・魔界の姉妹姫・水の6・火の2・水の17・墓所の主など
このように独断と偏見と危険度で随時更新される。




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活動場所・グラニスク

こんなバカ話をお気に入りにしてくれた紳士達に感謝の念を送る野良犬です。

短くはありますが、どうぞ御笑覧あれ。


ラカンのオアシスから出発したカモだったが、グラニクスへの道の途中で立ち往生していた。

 

「邪魔だなぁ…これ」

 

目の前には3m程の岩。左右は崖であり、どうやら上のほうが崩れたようで道を塞いでしまっていた。

 

「回り道すると今日中に街に着けねぇな。……仕方ねぇ」

 

岩に近づき前足でトン、と軽く突く。すると岩はボンッ!、と爆発し小石程度の大きさに砕け散ってしまった。

最終試験でカモがほぼ無傷だったのは、この技のおかげである。

 

『爆砕点穴』

 

本来、土木作業で岩石・岩盤・地面などの破砕作業をするための技だが、カモは分身を出す際の煙に紛れて爆砕点穴(威力・小)で穴を掘って地面に隠れつつラカンの足元まで移動。

分身の目を通して隙を伺っていたのだ。

ちなみに、螺旋掌によるクレーターがあと数cm深かったらオコジョ風ミートソース的な事になっていた。

 

岩を片付け、その日の昼にはグラニクスへ到着。これからの活動に必要な物を揃えるため、カモは人混みの中へ紛れ込んで行く。

 

「まずは活動資金の調達からだな」

 

 

 

~~オコジョ行動中~~

 

 

 

刺青巨漢スキンヘッド・トサカ頭チンピラ・褐色眼鏡ノッポ・小太りマフラー・怒髪黒マント・角刈りグラサンの集団から愛の募金活動(本人の了解なし)を行い懐が潤ったカモは、幾つかの店を回り買った物を腹に付けた袋に詰め込んでいく。

 

『魔法の小袋』

 

ラカンから貰った合格祝いの品で、総収納重量2t・収納物に保存魔法が自動で掛かる保存機能・どこにでも付けられるマジックテープ機能・使用者の身体のサイズに合わせて袋の大きさを変えられる伸縮機能などなど、多数の機能が詰め込まれた割と高級な魔法具である。(類似品に『勇者の道具袋』や『狩猟者の道具箱』などもある)

 

 

「大体こんな所か…………ッ!!」

 

満足そうにしていたカモが急に辺りを忙しなく見回し始める。

 

「感じる、感じるぞ。……この感覚、近くに一人いる!!」

 

標的を定め走り出すカモ。徐々に速度を増し、常人には影も捉えられないほど加速して行く。やがて一人の女性を捕捉する。その女性を見た瞬間。

 

「 悪 魔 眼 鏡 っ 娘 キターーーー!!!」

 

額に一番・三番と書かれた分身を二匹出し、縦一列に並んで大興奮しながら突撃するカモ。

 

「秘技・無音脱がし術、ジェットストリームアタック!!!」

 

この秘技を学んだ時、無音脱がし術はカモの理想の技だったが体格の問題でどうしてもタイムラグが発生してしまう、という欠点が発覚した。一度は妥協すべきか悩み続けたカモだったが、唐突に閃いた「手が足りないなら増やせばいいじゃない」的結論でこの連係技を完成させた。

 

一番の分身が障害であるスカートを捲り上げ背中にメッセージカードを貼り、本体のカモが無音脱がし術でパンツを脱がし即小袋にしまい、三番の分身がスカートが降りる前に先ほど買ったオコジョでも使える超小型カメラで絶景を撮影し、被害者の女性に気付かれること無く猛スピードで離脱していく。

 

初の盗みが成功し調子に乗ったカモは、そのまま次の獲物に向かって去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

被害者その1 司会娘の場合

 

大勢の人混みの中、露店を冷やかして回っている眼鏡をかけた褐色の肌の魔族の女性が一人。

彼女は普段、自由交易都市グラニクスの有力者であるドルネゴスが経営している拳闘場で、審判兼実況担当として働いている。

今日は久しぶりの休日である為、仕事着である露出度の高い水着の様な服ではなく、タ-トルネックのセーターにスカートという格好をし、散歩しながらウィンドウショッピングを楽しんでいた。

 

(今日の露店はアタリの店が多いわねぇ。……あっ!あのブレスレットいいなぁ。あっちの指輪とピアスのセットもいいなぁ。迷う、迷うわぁ)

 

あっちへフラフラ、こっちへフラフラと歩いて行く。その時、突然彼女のスカートが強風にでも煽られたかの様に捲れ上がる。

 

(えっ!?ちょ、まっ!?)

 

慌ててスカートを押さえながらも、疑問に思う彼女。

 

(今、風なんて吹いてなかったよね?…う~ん?何か気分も削がれちゃったし、今日はもう帰ろっかなぁ)

 

ウィンドウショッピングをやめ、スカートを直しながら自宅へ帰る彼女。

その一部始終を見ていた人物がいた。

 

 

露店の店主である。

彼は、獣人の中でもかなり目が良い種族であり、目の前で起こった事が全て鮮明に見えていた。

若く美人な女性のスカ-トが捲れれば思わず視線を向けてしまうのは男のサガ。店主も例外なく目を向ける。だが、店主は思わず自分の目を疑った。

 

引き締まったふともも、丸く形の良いお尻。ここまではいい。スカートが捲れれば普通に見える物だし、むしろ眼福モノだ。問題なのはここからだ。

無かったのだ。()()()が。本来、下半身を覆っているはずのソレが何処にも見当たらない。女性がそれを気にしている素振りは無い。思わず「ノーパン健康法?」と呟いてしまった店主は悪くないだろう。

 

こちらに背を向けスカートを直しながら去っていく女性。店主はその背中に何かが貼られているのに気付いた。

 

【 貴女のお宝 確かに頂きやした。 by怪盗K 】

 

そのメッセージカードを見て店主は驚愕した。

動き続ける相手に気取られる事なく、パンツを脱がせ持ち去るという絶技に。

女性は気にしていないのではなく、気付いていないのだという事に。

 

目を瞑れば先ほどの出来事が脳裏に焼き付いている。店主はかなりだらしない顔をしながら、

(イイモノ拝ませて貰いましたっ!ありがとうございますっ!!)

と怪盗Kなる人物に感謝と畏敬の念を送るのだった。

 

 

そして自宅へ帰った彼女は、自分がノーパン状態で街をうろついていた事に気付き、混乱と羞恥で部屋の中を転げ回り、その衝撃で剥がれ落ちたカ-ドを見た後、全力で床に叩きつけ怒りに燃えたのは当然の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




野良犬は思いました。

毎日投稿や一週間投稿してる作者さん達 マ ジ ス ゲ エ

文字数4000以上とか書く作者さん達 テ ラ ス ゲ エ

どうやって書いてんだろ?


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