IS世界のMS少女 (LIA)
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1話

アーマーガールズプロジェクトのユニコーンガンダム少女を予約し、ついでにAGPシャルロット(制服版)をポチったら、なんか脳内で謎の化学反応が発生しました

ノープロットかつ勢いで書いてますのでいろいろ不安定になると思いますが楽しんでいただければ幸いです


 ふと気づけば、そこは見覚えの無い部屋だった。

 

「やあ、気づいたかい。早速だけど、君に頼みたいことがある」

 

 どこぞの金持ちの書斎を思わせる、本棚が壁際を埋め尽くした部屋。毛足の長い絨毯にマホガニー製と思われる重厚なデスク。

 席に着いてこっちを向いてるのは、部屋の雰囲気にそぐわないホスト風のチャラいイケメンにーちゃん。

 

 ――オレは、死んだはずだ。

 

「ああ、そうだ。キミは風邪をこじらせた肺炎が急激に悪化して自室で一人寂しく死んだ。それは覚えているだろう? そんなキミの魂をボクが拾い上げて此処に呼び寄せた」

 

 ――魂?

 

 ふと、視線を下げる。見下ろせば見慣れたはずの体は無く、皮張りの一人掛けソファが目に入った。

 どうやら自分は体の無い意識だけの存在としてここに居るようだ。……感情が、揺れない。

 

「錯乱されても困るのでね、こちらで強制的に平静になるように処置させてもらっている」

 

 ――頼みたいことがあると言ったな。それはなんだ。

 

 動揺が無いのが非常にキモチワルイ。だが、こうしていてもはじまらないのも確かなので先を促す。

 

「話が済んだらちゃんと元に戻してあげるよ。心配しなくていい。それで、頼みというのはだね

 

 キミに、別の世界に転生してもらいたい」

 

 ――……は?

 

「転生先は『インフィニット・ストラトス』転生に際しての希望は3つまで受け付けよう。

 なにか質問は?」

 

 いろいろと聞きたい事はある。まず……。

 

 ――なぜ、オレなんだ?

 

「ぶっちゃけて言えば誰でも良かった。キミじゃなくてもいい。断る権利はちゃんとある」

 

 ――断った場合、オレはどうなる。

 

「その場合は通常の死者の処理に戻される。生前の記憶を漂白され、輪廻の輪の中に還っていくだけさ。そしてボクはまた、別の魂に話を持ちかける。実際断った魂もいたしね」

 

 ――じゃあオマエは、神かなにかなのか。

 

「まああながち間違っても無いかな。ボク自身は中間管理職みたいな立ち位地だけど」

 

 ――転生させる目的は何だ。

 

「思考実験。という名の娯楽さ。『ボクたち』の中には暇を持て余しているものも多くてね。

 あまりに刺激が少ないと磨耗して消滅してしまう。んで、そうなると世界の維持管理に不具合が出てしまうんだ」

 

 ――要は見世物か

 

「一般人を参加させるタイプのバラエティ番組あるだろう? ああいうものだと思ってくれ」

 

 ――……この話、受けた場合のメリットは? あとデメリット。

 

「デメリットはアレだね。プライバシーの侵害かな? まあ常に他者の目を意識した行動をとられても面白くないから、この項目に関しては記憶封印を掛けさせてもらうけど。

 メリットは記憶を引き継いで人生をもう一度やり直せるだけでもだいぶ破格だと思うけど? あとあれだ、転生特典」

 

 ――……特典?

 

「ああ、以前参加者に「ならチートをよこせ!」って言われてしまってね。それはそれで面白くなるからそれ以降渡すようにしてるんだ。数は3つ、内容は応相談」

 

 何度も行ってるのかこの野郎、と内心思うも、やはり不思議なくらい冷静なままだ。ともあれ、質疑応答を続けよう。

 

 ――転生したあとはどうすればいい?

 

「好きに生きればいいんじゃないかな。こっちとしてはキミがどう生きるのかを観賞できればそれでいいし」

 

 ――転生先で死んだらどうなる?

 

「こっちに戻ってきて観賞してた方々からの感想を伝えて、あとは通常の死者と同じように処理。参加してくれたことへの感謝としてその次の生で運が良くなるように祝福をかけておしまい、かな。まあウケ次第なところもあるけど」

 

 ……破格といえば、破格。デメリットらしいデメリットが殆ど無い……と思うのは感情が抑制されているからか? しかし実際転生した後は見られていることを認識できなくなるわけだから、主観的にはほぼ無いとも言える。

 

 ――特典は、応相談、と言ったな

 

「受けてくれるのかい?」

 

 ――……ああ、受けよう

 

「OK、ありがとう。さて、どんな特典が欲しい?」

 

 その言葉に改めて考える。

 思い返すのは生前のこと。自分は体が弱かった。ちょっと運動すればすぐ熱を出し、学生時代の体育は殆ど見学。成人して就職してからも年に一度は風邪などの病気で休みをとっていた。

 アレルギー持ちで食べられないものもあったし、花粉症もひどかった。

 ……よし、最初の1つはコレだ

 

 ――健康で健全な体をくれ。遺伝病や花粉症などのアレルギー、虫歯なんかにかからない、アホみたいに頑丈な体を

 

「病気に一切かからない、でいいのかい?」

 

 ――ああ、それでいい

 

 ふむ、とホストっぽいのは一つ頷き、問題ない、それじゃあ二つ目は?と返してきた。

 

 再び考える。

 転生先は『インフィニット・ストラトス』。タイトルと同名のマルチパワードスーツによって女尊男卑へと傾いてしまった世界。かわいい女の子たちがわんさと出てくるハイスピード学園バトルラブコメディ。

 となると、男に生まれるのは却下だ。せっかくのメカ、即ちISに触れられない。かといって、女に生まれても今度は女の子とキャッキャウフフできない。……そこ、煩悩塗れとか言うな。煩悩無くして何が人生か。萌えと燃えは心の必須栄養素です。

 ……コホン

 肉体が無いので意味は無いが、気分だけでも咳払いして気を取り直す。

 ISに触れたければ、原作主人公の織斑一夏と同じように男でもISを操縦できるようにしてもらえばいい。しかしそれでは男性操縦者を巡るもろもろのトラブルに巻き込まれてしまう。ならば女性としてIS操縦者を目指した方がまだ面倒は少ないかもしれない。

 狭き門ではあるが、可能性はあるはずだ。

 では女性として生まれた場合のデメリットはなんだ。言うまでもない、女の子とニャンニャンできなくなることだ! できなくなることだ!

 それ以外だと、女尊男卑の風潮から比較的デメリットは少なくなる……はず。

 そこでふと、思いついたことを訊ねてみる。

 

 ――運命とか、因縁とか……そういうものも特典として操作できるか?

 

「できるよ。実際別のケースだとその世界の主人公の幼馴染として隣の家に引っ越してくる、という運命を特典にした者もいた。おかげで本来は1人しか居ないはずの幼馴染が12人とかいう事態に陥ったけど」

 

 おーけー、ならばイケるかっ!?

 

 ――可愛くて性格のいい同性愛嗜好の女の子たちとめぐり合う運命をくれ。

 

「……ほう?」

 

 ――可愛くて性格のいい同性愛嗜好の女の子たちとめぐり合う運命をくれ。あ、1つ目に付随する形で女の子に生まれるようにもしてくれ。

 

「いや、二回言わなくていいから。めぐり合うだけで良いのかい?」

 

 ――ああ、性格よくても相性が悪いというのはあるだろうし、仲良くなるのは自分でやらないと意味が無い。オレは過程も大事にしたい派なんだ。

 

「そうか。キミの趣味嗜好は置いとくけど問題は無いよ。『そういう』女の子と出会ったら分かるようにした方がいいかい?」

 

 よし通った……っ!

 

 ――ああ、いや……そうだな……わからなくていい。悩んだ末に秘密を打ち明けられる、というシチュも、萌える。

 

「そうかい」

 

 流しやがったな。まあいい、3つ目だ。

 ・

 ・

 ・

 ……お、おもいつかない……?

 いや待て、慌てるな。まだ慌てるような時間じゃない。思いつかないなら、今までの願い2つをフォローするようなのを考えればいいんだ!

 

 1つ目、は特にフォローするような内容じゃないよな。健康に暮らしたいがための特典だし。

 じゃあフォローは2つ目か。当たり前といえば当たり前か。いくら女尊男卑に傾いたといえども、同性愛は忌避される可能性が高い。ならば考えよう、どうして忌避されるかを!

 ……子どもが出来ない?

 うんそうだよな、子孫をのこせないのはまずいもんな。となるとフォローすべきはここなんだが……どうやってフォローするか……っ。

 

 ――3つ目だ。

 

「なんだい」

 

 ――同性間で子供が作れる技術が発明されるようにしてくれ。

 

「……ほう」

 

 ――……無理か?

 

「いいや、問題ない。キミ自身がその技術・能力を持つ、という形ではないんだね?」

 

 ――ああ。オレだけが恩恵にあずかるのではダメだ。みんなで幸せにならないとな。

 

「……ふぅん。いいだろう。特典は一度決定したら変更できない。コレでいいかい?」

 

 ――ああ、かまわない。

 

「よし。では最後に、転生したら前世の記憶や人格などが戻ってくるのは3歳の誕生日だ。その後は好きに生きてくれ」

 

 ――ああ、わかった、世話になったな。

 

「なに、いいさ。それでは二度目の人生、楽しんでくれたまえ。終わったら、また会おう」

 

 ぼんやりとした眠気が意識を覆っていく。転生のための処理が始まったのだろう。

 

「ああそうだ、キミが転生する世界にはキミ以外にも転生させた者たちがいる。彼ら彼女らはキミと同じく、特定の傾向を持った者たちだ。仲良くするも敵対するも好きにするといい」

 

 なんかチャラにーちゃんが言ってるがうまくいしきできない。

 そうして、オレは転生した

 

 

 *

 

 

 ふと気づけばわたしは『雪菜=シュネーライン』として生きていた。

 ・

 ・

 ・

 雪菜?

 なんかどっかで聞いたような名前……?

 …………っ!?

 

「ぎゃる~しょんっ!?」

「ほわっ!? え、なになにっ!? どうしたの雪菜っ!?」

 

 側にいたアッシュブロンドの美人なおねーさんがおどろく。……おねーさん?いやちがう、この人は自分の母親だ。

 そしてわたしは『雪菜=シュネーライン』

 前世において、ガンダムエースという雑誌で連載されてたMSGというイラストコラムの主人公にして、さまざまなモビルスーツの意匠を施した衣装を着せられていた、MS少女その人である……っ!

 

 

 

 いまは、3歳児だけど




転生者人物名鑑
●雪菜=シュネーライン
前世はSDガンダム世代のガノタだった。
現在3歳児。

転生特典
●病魔無効
肉体強化系。ありとあらゆる病気にかからず、肉体的に常にベストな状態を保つ。
疲労や怪我からの回復速度も早い。ただし心因性の病には効果が無い。
細菌・ウイルスを始め、遺伝病や生活習慣病、アレルギーに虫歯などにもかからないが、保菌者・キャリアーにはなりうるので注意が必要。

●同性愛者ホイホイ
因果律操作系。男女問わず周囲に同性愛者が寄ってくる。
雪菜自身には誰がそうなのかわからないし、また自身の性癖に無自覚な者も呼び寄せる
目覚めさせるわけではない。

●同性間繁殖技術の確立
世界律操作系。原作開始時期くらいには技術が確立されるようになる
IS世界くらい科学技術が発展していれば特に不自然な所も無くごく自然に確立される……のだが。
実は男女間の対立を煽ってより社会情勢を悪化させかねないド級の厄ネタ
当然のことながら雪菜は気づいていない。



1話というよりはプロローグ。楽しんでもらえたなら幸いです


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2話

明貴美伽のMS少女アートワークスの2巻そろそろ出ないかな、と思ってます。
ガンダムエースでの連載ももう結構長いし、出せるくらいの点数は溜まってるよね?


 さて、3歳の誕生日に記憶が戻ってからはや2年と少々。現在5歳児なわたし、雪菜です。

 

 いまわたしがなにをやってるかというと。

 

「あははははは!」

 

 走ってます。

 

「あはははははは!!」

 

 ご近所を。

 

「あはははははははは!!!」

 

 全力で。

 

 いや待ってくれ。ちゃうねん。おかしくなったわけちゃうねん。

 チートや! このチートボデーがいけないんやっ!

 なにせこのチートボディ、いくらハシャぎまくっても息が切れて疲れるだけで翌日には一切疲労を残さない。当然のことながら熱が出て寝込むとかそんな体調不良はけして起こさない。

 当たり前といえば当たり前なのだが、前世では幼児期からしょっちゅう熱を出して寝込んでた身としてはひたすら全力で動き回っても、たっぷりご飯を食べてぐっすり眠れば翌日にはまた全開で動き回れるというのが楽しくて仕方が無いのだ。

 

 なので全力で遊び呆けてても仕方ないよね!

 セミ取りのために木に登って高さ3mから落ちても!

 紅葉して落ちてくる葉っぱを空中で捕まえようとして歩道走ってた自転車とぶつかっても!

 公園の池にやってきた鴨を餌付けして捕まえようとして池ポチャしても!

 

 わたし、のっとぎるてぃ!!

 

 あ、ちなみに住んでるのは日本の片田舎です。こんな時代でも自然が豊富に残ってるのに都心には電車で一本で行けるという立地です。

 田舎ちがう? いやでも家の周り田んぼとか畑ばっかだし、お隣の家まで20m離れてるんだよなぁ。まあおかげで遊ぶ場所には事欠かない。野山を駆け回るなんて、前世でも機会が無かった。体調的な意味と場所的な意味の二つで。

 でもって、アッシュブロンドな髪と苗字から察しがつくと思うけどわたしは日本人じゃない。日独ハーフだ。

 おかん共々世話になってるのは私の父方の祖父母であるらしい三河のじいちゃんとばあちゃんのとこ。このへん、なんか深い事情があるらしいんだけどわたしには教えてくれない。なぜおとんが居ないのかも。

 まあ、たぶん幼児にはまだ早いと思って教えてくれないだけだろう。よっていまはひたすら遊び倒すっ! 今日はテレビで見たパルクールの再現(っぽいもの)だ!

 

 

 

 そうやって遊んでたら上空を何かが通過していき、サイレンの音が響き渡った。

 ……? あ、白騎士事件ってこの頃だっけ? 原作ってよく憶えてないんだよなぁ。

 

 

 *

 

 

 しょーがくせーに、なりましたーっ! いや保育園にもちゃんと通ってたけどね。

 白騎士事件以降、世間はてんやわんやだったようだけど、幼児にはんなもんかんけーなく遊んで過ごしてておりました。

 それよりも、とにかくひたすら外を走り回っては面白そうなものを見つけるとソッコで突っ込んでハシャイでたらいつの間にか近所のやんちゃ坊主どもが舎弟になってた件について。ガキ大将を目指してたつもりはないんだけどなぁ。

 

 そんな女の子とは思えない遊び方をしてるわたしに、ついにおかんがキレました。

 

 とは言っても声を荒げて叱り飛ばしてきたわけじゃあない。

 もっとおそろしい策略を仕掛けてきたのだ。

 

 この時期になると、おかんが何をお仕事にしてるのか教えてくれるようになった。ガッコから親の仕事を調べようという宿題が出たので聞いてみたら教えてくれた。

 なんと、服飾デザイナーだというのだ! すげー! おかんすげー!

 で、「どうせなら、ママのお仕事見学しに来る?」 なんて言われたのでホイホイ着いて行ったのだ。その先に何があるかなんで気づかずに。

 

「はーい雪菜ちゃーん、こっち向いてー」

 

 パシャリ

 

「はいじゃあちょっとしゃがんでー。そうそうそのままー」

 

 パシャリパシャリ

 

「いいわーいいわー。笑顔そのままー」

 

 パシャリパシャリパシャリ

 

 あい、雪菜です。

 げんざい羞恥刑に処せられております。

 

 おかんの職場である服飾メーカーに見学に連れてってもらい、ガッコの宿題として提出するノートにいろいろと聞いたことを書きつけたあと、ふと、こんなことを言われました。

 

 「モデルやってみない?」と……。

 

 当然断りましたよわたしは。なにが悲しゅーて動きにくいひらっひらーのふりっふりー、を着なくてはならんのか。されど逃げ場はありませんでした。おかんの手によって塞がれてしまったのです。

 

「雪菜ちゃーん、ママ最近ちょっと雪菜ちゃんに言いたいことあるかなー」

 

「な、なにかなおかんー」

 

「もうちょっと、女の子らしさ身につけよっかー」

 

「い、いえすまむっ!」

 

 あのえがおはこわかったとです、はい。

 まあそんなわけで。服飾メーカー『ネェル・アーガマ』の新作カタログにキッズモデルとしてわたしの写真が使われることになってしまいました。おのれー。

 ちなみに、そのカタログを見たよそさまから仕事の依頼が来たそうですが断ってもらいました。恥を広げる気は無いんじゃい! けどおかんの要請だけは断りきれず、その後もネェル・アーガマのカタログモデルとしてだけお仕事することに。

 社員の身内だから報酬は安いんだけど、それでも子どもに渡すのはちょっと躊躇う金額がわたしの専用口座に振り込まれるようになりました。うん、これは将来必要になるときまでとっておこう。

 

 

 社名には、突っ込まないぞ。

 

 

 *

 

 

 小学3年生になりました!

 わたしの通う小学校では、3年生になるとクラブ活動なるものが行われるようになります。週に2・3回放課後に集まってわちゃわちゃやるのです。擬似部活動みたいなもんだね。

 で、わたしは何に入ろうかちょいと迷った結果、バスケ部にしてみました。

 

 思い出してないぞー?

 【少女はスポコン! コーチは□リコン!?】なんてフレーズ、思い出してないぞーぅ?

 

 さて、そんなかんじで新学期も一ヶ月あまりが過ぎ去り、バスケ部の活動でちょっと遅くなった帰り道をスーパーの駄菓子コーナーで買ったゴムボールでドリブルしながら帰ってたときのこと。近道として通り抜けようとした団地そばの小さな公園にクラスメイトがいるのに気がついた。

 あのちょっとぽっちゃり体格にふわふわの癖毛は……たしか馬場さん、だとおもう。あんまクラスの女子覚えてないんだよ、男子とばっかり遊んでるから。バスケ部の仲間は別だけど。で、その馬場さんが1人ブランコに座ってゆらゆら揺れてたので声を掛けてみることにした。いやだって、もう結構遅い時間だぞ? 放課後遊び呆けてた悪ガキどもも家に帰る時間だぞ?

 

「どした、こんなところで」

 

 隣のブランコに座るまでこっちに気づいてなかったらしい彼女ははっ、と俯かせていた顔を上げて驚いた表情を見せてくる。そんなに意外か? わたしが声かけるの。女子には優しく接してるつもりだったんだがなぁ。

 

「あ、シュネーライン……さん」

 

「もう遅いぞ。帰んなくていいのか?」

 

 そう問いかけるとまた俯いてしまう。あー、こりゃ家でなんかあったな? ほれほれ、おじさんに話してみんさい。

 

 んで、聞き出してみた所、パパとママがけんかばかりでいやだ、帰りたくない、とのこと。内心で(あちゃー)とか思ったけれど、こうなったらもう愚痴を聞くだけ聞こう、とぽつりぽつりと零れ落ちてくる言葉にうんうんと相槌打ってひたすら聞き役に徹する。

 30分は聞き続けたか、ちょっとすっきりした様子の馬場さんに、こんどはこっちから言葉を投げかける。

 

「んでさ、それ。そうやって馬場さんが考えたり感じたりしてること。ちゃんとパパとママに言ったか?」

 

「……え?」

 

 思ってもみなかった。そんな顔でふるふると首を横に振る馬場さん。

 

「やっぱさ、家族だから言わなくてもわかることってあるじゃん? でもさ、逆に家族だからこそ言わなくちゃわかんないこともあると思うんだ」

 

 だから、自分はこう感じた、こう思った、こう考えた、っていうのをはっきり伝えるのは大事だと思うんだ、と締めくくる。

 ……うん、いまひとつよくわかってない顔だなこれ。ともあれ、親御さんに話しかけることは忘れんな、と念押ししたあと家まで送っていくことにする。ちょうど馬場さんの自転車もあることだし、2人乗りだぜヒャッハーァ! とかやろうとしたらすっころんだ。そういえば、わたし転生してから自転車乗ったこと無かった……っ!

 あああ、泣かないで泣かないで。だいじょーぶだいじょーぶ、ちょっと手のひらすりむいただけじゃないこんなのツバつけとけば治るよ! 治るよ!!

 後日聞いた所によると自分の怪我よりわたしが血ぃだくだく流してたことにびっくりして泣いてたそうな。まあ転んだときに庇ったらとんがった石でざっくり切っちゃったもんなぁ。つーてもたかだか皮一枚だし、3cmも切ってないんだけどなあ。ま、それはともかく馬場さんの家で手当てしてもらいました。でもこのくらいの怪我はいつものことなんだけどな。

 そんでついでとばかりにごはんご馳走になっちゃって、さらに夫婦喧嘩で馬場さん――呼びにくいな、薔子ちゃんだからショーコと呼ぼう――が居心地悪い思いしてたと伝えて仲の改善を促してみたり。まあ、がきんちょ1人の言でなにが変わるわけじゃなかろうが、こういうのはまず動いてみるもんさ。やるだけやってみようや。

 

 

 

 で、ショーコとつるむようになって3ヶ月が過ぎた結果。馬場さんちのパパさんは見事に通院患者にジョブチェンジしました! わたしのせいじゃないぞ!?

 いや、夫婦喧嘩の原因は元キャリアウーマンだったママさんがショーコも手が掛からなくなってきたから仕事に復帰したいと言い出したことで。それをパパさんが、いや、君がきっちり家を守ってくれてるから僕は安心して仕事が出来るんだ、出来ればこのままでいてくれないかと反対。それでまあ、ちょっとエスカレートしそうになってたわけだけど、ショーコとわたしの意見で歩み寄りを見せてたわけだ。

 

 ところが好事魔多し。

 どこで聞きつけてきたか知らんが『女性の権利を主張する主婦の会』とかいう女性団体……市民団体? が夫婦の間に割り込んできた。いわく、女性の働く権利を認めないつもりか、とかなんとか云々。で、パパさんを攻撃し始めた。

 これがまたいやらしいと言うか陰湿なやり口で、あっという間にパパさんは追い詰められて職場を自主退職させられた挙句に気鬱を患って病院のお世話になるハメに。そしてパパさんがそんなになっちゃったから結局ママさんが働きに出ることに、と。

 わたしはひたすらショーコのフォローに奔走するので手一杯な状況。いやだってあいつらショーコの方にまでちょっかいかけてきていらんこと吹き込もうとしたり、誘導尋問仕掛けて余計なこと言わせようとしたりでうっとおしいことこの上なかったんだもん。

 じいちゃんばあちゃんの伝手やらPTAやらを通じて連中に対しての注意喚起はしてみたけれど、PTAって基本ママさんの集まりじゃん。逆に連中に同調しちゃう人も出てくる始末で……。

 

 うーん、子どもの身の限界を感じさせられたぜ。

 

 で、そんなこんなでママさんが働いてパパさんが療養という状況になっちゃったし、ショーコも軽く対人恐怖症気味になっちゃったので彼女の面倒はうちでみることに。とはいってもまあ学校から帰ってきて夕方まで預かるくらいでたいしたことじゃないけど。

 それでも慣れてるわたし相手じゃないとショーコの方に負担掛かるしねぇ。

 

 それからはバスケ部がある月・水・金はクラブ終わるまで学校の図書室で待っててもらって、そうじゃない日はうちに直帰して、一緒に本読んだりお絵かきしたりゲームしたり。

 学校の勉強以外で本を開くのはちょお久しぶりなのでコレはコレで楽しんでる。

 だからそこ、こっそり「雪菜が女の子らしい遊びをしてくれるようになったのが不幸中の幸いだわ……」とか言ってるんじゃないよおかん。

 そもそも、わたしは前世ではオタクだった。今でもその気質は残ってるので、こういうインドアな遊びも好んでいるのだよ。今までは体を動かす欲求の方が強かったからそっちを優先させてたけど、それもバスケ部で解消させられるようになったし。

 ちなみにバスケ部では上級生に混じって練習してます。幼児期から暴れまわってたせいか練習についていけちゃうくらい体力ついてたんだよねえ。おかげでクラブ内ではスタミナお化け扱いされとります。

 そうそう、家のお手伝いもちゃんとやってるZE? なんで掃除洗濯お料理なんかのスキルも地味に上達中じゃ。まあコレに関してはおかんとばあちゃんの教え方が上手いからだろうな。

 

 さて、馬場さん家の一件以降、新聞やネットニュースなんかもチェックするようになったけど連中、たまに問題を起こしているようで。 うちのご近所だけでなく、他所の土地でも揉め事を起こしているんだが、あんまり取り上げられてない。問題になっても、無罪放免か驚くくらいの軽い罰で出てきてる。

 これはあれかな。いよいよ女尊男卑主義が表面化しだしたかな。

 うーん、ガワだけとはいえ同じ女性として、こういう声が大きくて人の迷惑顧みない連中と同一視されたくはないなぁ……。

 

 

 *

 

 

 さて、5年生になった今年度、いよいよあのイベントが開催される。

 

 そう、第1回モンド・グロッソである。

 

 日本代表は原作でもおなじみ織斑千冬。選考会の様子も放映されてたけど、うん、他の連中じゃ相手にならんね! 真面目にレベルが違いすぎて鎧袖一触どころじゃなかった。まさしく指先一つでダウンさレベル。

 この調子なら日本の優勝はカタいな、とお風呂上りのほこほこモードで牛乳飲みながら中継を見る。

 1回戦第1試合からいきなり織斑千冬の登場か、うわ暮桜マジ綺麗な桜色……とか余裕持って観戦出来てたのも対戦相手が出てくるまでだった。

 

 対面には全身装甲が主流の第1世代において珍しく顔を始めとした各部の素肌が露出したIS。

 深紅に小豆色が各部に入っているその機体は、他のものに比べるとひどく小さかった。なにせ暮桜で全高3m越えるのに、こちらは2m強くらい。左手には縦に長く引き伸ばした八角形の実体シールド、右手にはメイン武装となるビームライフル。

 何より目を引くのが、頭部ユニットのV字型ブレードアンテナ。

 

 どう見てもガンダムですありがとうございました。それも明貴美○デザインのMS少女版です。あとカラー、それキャスバルガンダムだろおい。

 製作はアナハイム・エレクトロニクスだそうです。

 極めつけに、パイロットはインド代表のララァ=スンさんです。

 もうどこからつっこんだらいいのかわからないよ。

 当然のごとく思いっきり牛乳吹きましたが、なにか。

 

 そうやってむせている間にあっという間に試合が終盤戦に突入。展開早過ぎやしませんかねぇ?

 

 なんてボケを挟める余地が無いくらい双方ぼろぼろになっていたのには驚いた。

 ガンダムは頭部ユニットと右腕部を喪失。シールドを捨てて左手にビームライフルを装備しなおしていた。ハイパーセンサーに不調が出ているのか、暮桜を見失ったらしくゆっくりと周囲を見渡している。

 一方の暮桜も両脚部を喪失。背部のスラスターも完全に沈黙しており、もはやPIC制御でしか移動できないようだ。当然、機動戦なんて望むべくも無い。

 

 

 暮桜がゆっくりとガンダムの上を取る。ガンダムは気づいていない。

 

 そしてPICを切って自由落下、重力を利用しての斬撃か。

 

 瞬間、ビームライフルの銃口が跳ね上がって暮桜を捉える。間髪入れずに発砲。

 

 斬撃と射撃、お互い同時に被弾。そのまま地に横たわる両者。勝敗は判定に委ねられ……。

 

 

 勝ったのは暮桜だった。

 

 

 結局、第1回モンド・グロッソは織斑千冬の優勝に終わった。

 暮桜に傷を与えたのはガンダムだけという有様だった。2回戦で戦ったアメリカ代表なんて修理が終わってない暮桜相手に10秒持たなかったもんなぁ……。

 なにはともあれ、大いに盛り上がった第1回大会だった。暮桜vsガンダム戦は今大会ベストバウトに選ばれ、末永く語り継がれることになったのだった。

 

 しかしなにをどうやったら暮桜の背中にガンダムハンマーを当てられるのか。

 試合の映像を何回見直してみても良くわからないんだけど……?

 

 

 *

 

 

 小学6年生。ついに最終学年である。

 うちの学校では6年生女子を対象に身体測定と平行して簡易IS適性検査を行っている。

 

 で、本日その検査結果が返ってくるわけだ。

 ぐっと身長が伸び、あちこち膨らんだり引き締まったりしてけしからんボディを獲得してかわいやらしく成長したショーコと2人、たあいないおしゃべりしながら先生に呼ばれるのを待つ。

 程なくして名前を呼ばれたので教卓まで行って検査結果の書かれた紙を受け取り、中身を見ずに席まで戻る。こういうのは「せーの、」で見せ合いっこするのが楽しいのだ。

 周囲の喧騒ををBGMにショーコが受け取ってくるのを待つ。ついでに、去年同じクラスになって以来やたらと突っかかってくる浜田さんちの香奈ちゃんも待っててやる。彼女、何が気にいらんのかことあるごとに勝負を挑んでくるのだ。まあ、競い合うのも楽しいから受けて立ってるんだけど。こんかいは当然のごとく適性ランクの高さで勝負らしい。これ、細かい数値出たっけ?

 

 で、3人揃って誰から開く?と目配せしあう。こういうときに真っ先に動くのは香奈だ。

 公共料金の用紙みたいになってる紙を端っこからそっと開き、

 

 「見なさい! Bランクよ!」

 

 と高らかに宣言。おお~~……と教室がどよめく。小学生でBとかすげーな。マジ才能あるんじゃねーのこいつ。続いてショーコが開封。

 

 「あー、Cだったー」

 

 とちょっぴり残念そう。いやいや、Cでもじゅうぶん高いから。うちのクラス女子15人中4人しか居ないからいまんところ。

 で、最後に残ったわたしが開封、目を通す。

 

 凍りつく。

 

「……? 雪菜ちゃん?」

「なによ黙っちゃって。そんなに悪かったの?」

 

 にやにや笑いの香奈がわたしの手の中から用紙をひったくって目を落とす。同じように動きが止まる。

 横から覗き込んだショーコも同じく。

 様子がおかしいわたしたちが気になったのか、他の女子もわたしの検査結果用紙を見る。悲鳴が上がった。

 

 

 簡易IS適性検査結果:S

 

 

 …………What’s?

 




人物·用語集

●シーナ=シュネーライン
雪菜のおかん。服飾デザイナー。作中名前出てないけどここで。
雪菜が頭が上がらない人そのいち。
名前の元ネタはZ+C1少女『椎奈ちゃん』

●馬場薔子
雪菜の幼馴染ポジ。彼女のおかげで雪菜は女の子らしくしてられます。
いなかったら山猿ですよ雪菜は。
実は6年生時点で身長162cmのEカップという規格外ボディの持ち主。
名前の元ネタはロザミア=バダム

●浜田香奈
雪菜が気に入らなかったので突っかかってみたらバスケ勝負に持ち込まれたクラスメイト。
ひたすら走り回らされて動けなくなるまで勝負を続行させられて以来、ほどほどのところで切り上げることにしている。
名前の元ネタはハマーン=カーン

●IS適性Sランク
正確には機動兵器適性:S。これがIS世界に合わせて変質したもの。
あらゆる機動兵器に適応し、その特製を理解しつくし、その性能を十二分に発揮させる資質。
その才能を正しく開花させ、時と場所に恵まれれば歴史に名を残すことも不可能ではない。
実は雪菜が前世から持ち合わせていた天稟の才。もっとも前世では平和な日本に生まれた上に病弱だったため正しく宝の持ち腐れであった。
『かみさま』からのチートではない正しい意味でのギフトなのだが、雪菜本人はチートの一部だと誤解している。


 *


 主人公、初志をきれいさっぱり忘れ去るの巻。
 たまにはこういう残念主人公がいても良いと思うんだ。


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3話

ガンダムビルドファイターズに触発されて積んでたガンプラをちまちまと組んでます
ドーベンウルフ格好良いよドーベンウルフ。ZZ版も出るそうだし、ぜひともガザDとズサをHGUC化していただきたい。

あとこないだ出たVガンダムをリア・シュラク隊仕様で塗装したら見事に色を間違えました。
胴体の青部分は紫に置き換わってるのな……。←ネイビーブルーで塗った。


 さて、簡易IS適性検査でわたしがSランクの適性を持っていると判明して1週間が過ぎた。

 少々騒がしい1週間だったと言わざるを得ない。

 まず翌日には全校に噂が広まっていた。その次の日にはご近所にまで噂が浸透していた。3日目にはかの名門校、聖マリアンヌ女学園を始めとしたIS学園への進学率の高さを売りにした学校からのスカウトがくるようになった。1日飛ばして5日目にはIS関連企業からも話が来た。まあこれはとりあえずツバつけとこう、くらいの意味合いだろうけど。

 

 まあそこはいい。たいした問題じゃない。個人的にはうっとうしいけど、人の口に戸は立てられないし、スカウトマンたちのお仕事はスカウトだ。そこに文句つける気はない。

 しかしながら6日目。すなわち昨日の一件はさしものわたしもどっと疲れた。

 

「う゛~~あ゛~~……」

「どうしたの雪菜ちゃん?」

「おお、ショーコおはよう~。なぐさめておくれー」

 

 登校して早々に机に突っ伏してるとショーコがやってきた。これ幸いとばかりに手を伸ばすとなんの疑問も持たずに抱きしめてくれた。おお柔こいのう柔こいのう。ふへへ、幼馴染の役得じゃのうこれは。

 しかしショーコがランドセル背負ってるとインモラル臭がすさまじいな。

 

「おはよ。朝っぱらから何やってんのよあんたたち」

「おはよう香奈ちゃん」

「おはよーかなーん」

「かなーん言うな。で、なによ。つかれた顔して」

 

 何があったか、なんて。言ってしまえば一言で済む。祖父母からの連絡が来たのだ。母方の。

 

「……いいことなんじゃないの? それは」

「だよね?」

「ふつうに声が聞きたくなったから電話したー、とかならわたしもこんなに疲れてないっての」

 

 10何年かぶりに連絡してきたおかんのおとん、すなわち祖父はどこから聞きつけたのか、わたしがSランク適性を持っていることを知っており、尚且つ日本に居たのではその才能を生かせない、ドイツに移住しろと言ってきたのだ。当然のことながらおかんがぶちギレた。ドイツ語で淡々と会話してたのが余計に恐怖を煽る。

 

 うん、ちょおこあかった。

 

 え、っと。それはともかく。

 そもそもの話。なぜにおかんが祖国ドイツを離れて日本で暮らしてるのか。なぜおとんが居なくて、なのにおとんの実家である三河家にお世話になってるのか。わたしはその辺の事情を知らずにいままで過ごしてきたわけだけど、今回おかんのほうのじいさんが連絡入れてきたので良い機会とばかりに一通りの事情を聞くことになった。

 

 で、聞き終えた感想はただ一言。おかんまじ鬼畜、だ。

 

 なんでも、ドイツに留学していたおとんがバイトでおかんの家庭教師をしたのが出会いのきっかけだったとか。で、おとんに惚れたおかんはおとんに果敢にアタックしたけど梨の礫。まったく相手にされなかったそうだ。

 まあそらそうだ。いい年こいた大人の男が、12も年下の少女の言うことなんて真に受けるわけが無い。

 それでも諦めきれなかったおかん。いろいろ思いつめた挙句にひどい行動に出た。一服盛ったのだ。そしてそのまま一発ヤって必中、わたしを身ごもったそうな。

 で、堕胎できなくなる時期まで隠し通した後、両親に大暴露。おかんの実家は軍人の家系だったとかで、厳格な家庭だったために余計に大混乱。じいさんが勢いで勘当だと言い出したのをこれ幸いとありったけの貯金を手に家出、そのままおとんの元に転がり込んで、日本にまでついていったそうな。

 そんなこんなですったもんだのあげく、おとんも絆されたのか覚悟を決めたのか、責任とって結婚しようとした矢先に事故死。異国日本でひとりぼっちになったおかんを引き取ったのがおとんの両親、つまり三河のじいちゃんばあちゃんだ。

 それからおかんは専門学校に通って手に職を付け、学校の先輩が興した会社に就職して現在に至る、と。

 

 ……これ大体おかんのせいだよね? 不屈のメンタルと無双のバイタリティの持ち主と言ってしまえば聞こえは良いけど、諸悪の根源おかんだよね? 若気の至りってレベルじゃねぇぞ。あと三河のじいちゃんたちも人が良すぎるだろう常考……。

 そこらへんに冷たいツッコミを入れたらやらかしてた自覚はあったらしくマジヘコんでた。うん、本気で反省しような? 前世での知識と経験があるからさっくり受け入れられたけど、これ普通はわたしが盛大にグレるルートだかんな?

 

 そんなようなことをお昼の給食の時間と昼休みを使って話したらショーコもかなーんもしょっぱい顔になりました。うん、飯時にする話じゃないね、めんご。

 ま、おかん悪行はさておいて、ドイツのじいさんからの要請はきっぱり断ったしとりあえずは片が付いた、ということで。

 

 とか思ってたのがフラグだったみたいで。

 

「……もしかして?」

「はい、ゆうべも電話かかってきました……」

 

 翌朝、再び机に突っ伏してるわたしがいました、まる

 

「なんだか妙に熱心なんだよなあ。そこはかとなく切羽詰ってるっぽい雰囲気も漂ってるし」

 

 なんとなく不穏な空気を感じつつ、夏物用の写真を撮りに撮影所に向かうわたし。ええ、まだカタログモデル続けてますがなにか? 妙に評判良いらしくてやめるにやめられないんだよ。最近は小中学生向けの下着とかまで扱うようになって羞恥心がマッハなんですがマジで。

 まあ現物支給で下着とか回してもらってるからこっちも助かってるけどさぁ。『ファーストブラの選び方講座』とか本気で勉強になったと同時にマジ泣きしそうになったんだけど。程々にしてくれませんかねぇ……。

 

 

 *

 

 

 そんな感じで数日過ごしてみたものの、やはりドイツのじいさんからの電話攻勢は止まず。

 どうにもストレスを感じつつ勉学に励んでたら先生に呼び出されました。

 

 さいきんはもんだいおこしてないよ!?

 

 ちがった。なんでもわたしにお客さんだとかで応接室に。

 ドアをノックしてもしもーし。いらえがあったのでなるべく神妙にしながら入室。

 ……? 今の声、なんか聞き覚えが……?

 

 応接室で校長先生と談笑していた相手はわたしの入室に気づくと、ソファから立ち上がって大きく手を広げて歩み寄ってきた。

 

「やあやあはじめまして! 君が雪菜=シュネーライン君かい」

 

 見事な金髪と上背がありながらもすらりとした体躯を包む仕立ての良いスーツ。

 そして何より、聞き覚えのある勇者王ヴォイス。

 

「僕はムルタ=アズラエル。アナハイム・エレクトロニクス社代表取締役だ」

 

 ちょっとまて。

 

「そして早速だが」

 

 思わぬ人物との遭遇にこちらが硬直してるのに構わず、彼はおもむろに片膝をつく。すぐさまもう片方の膝も床に。

 

「君に頼みがある」

 

 両の手を前につき、そのまま頭も下げて――

 

「どうかわが社でIS乗りとして働いてくれないだろうか――っ!!」

 

 見事な、土下座を完成させたぁ――っ!?

 

 

 *

 

 

 

 しばしのち、どうにか正気に戻ったときにはすでに校長先生は退室していた。

 おいこら校長先生、出会い頭に女子児童に土下座かますような不審人物と二人きりとかなに考えてんだ。

 とか思ってたらアズラエル氏がネタばらししてくれた。

 

「なに、僕の土下座はそういう『特典』だからね。彼を責めるのはお門違いさ」

 

 ……『特典』だと……っ!?

 

「そう、精神抵抗判定に失敗したら僕の頼みを一つ聞かなければいけない。そういう特典さ」

 

 お仲間なんだから、わかるだろう? 言外にそう言っている。ということはやはり……。

 

「ああ、僕も転生者だよ。雪菜=シュネーライン君」

 

 アズラエル氏の言うことには、この世界には結構な数の転生者が居るらしい。

 しかも皆程度の差こそあれすべからく『ガノタ』で尚且つガンダム関係のキャラクターと同じ容姿と名前なのだそうだ。

 ちなみに、この世界にはガンダムシリーズというアニメ作品群は存在しない。それっぽい感じの、リアルロボット作品の草分け、みたいな作品はあるのだが。

 

 あれはあれで面白かった、うん。

 

「ということはもしかして、あのインド代表の……」

「ああ、ララァ君もそうさ。彼女の特典のひとつは『超人的な勘』だ」

「……にゅーたいぷ……?」

 

「ではないよ。どちらかというと某騎士王の直感スキルだ。条件さえ揃えば限定的な未来予知すらやってのける、極め付きに強力な特典さ。

 ま、それはともかくとして本題に入ろうか」

 

 うちの会社でIS乗りやらないかい?

 

 

 *

 

 

 アズラエル氏がわたしを見つけたのは、やはり先日の簡易IS適性検査だったそうだ。あの検査の結果はIS委員会に一纏めに保存される。そして各国の委員会で情報を共有されるのだそうだ。

 まあ、大半の転生者は目立つ行動をとりまくるので、わたしのパターンは比較的穏便なほうらしいのだが。

 それはともかく、その検査結果などという情報の閲覧はIS関係者でなければ出来ない。なのになぜドイツのじいさんが知りえたのか。

 どうにもめんどくさいことに、ドイツ軍内部の派閥争いが関係しているらしい。

 

 ドイツ軍には『黒ウサギ隊』というISを使った特殊部隊が存在している。

 基本表には出てこないがこの部隊、ある種の実験部隊だそうで人体改造やらデザインベビーやらといった少々倫理的に問題のある出自の人間ばかりで構成されているらしい。

 ……ISってそういう要素もあったんだー……。<だいぶ内容忘れてる

 で、そういうモノに否定的な軍人も一定数存在してるそうで。そういった一派が彼女たち『人工の天才』を掣肘するために『天然の天才』を欲しがり、白羽の矢が立ったのが……。

 

「わたしですか……」

「そういうことだね。むこうさん、だいぶ追い詰められてるみたいでね。このまま放置しておくと少々強引な真似をしてくるかもしれない」

「で、助けてやるから自分とこに来い、と?」

「いやだなあ。ギブ・アンド・テイクだよ」

 

 HAHAHA、とわざとらしく笑ってみせる。……まあなんだ、社長自らやってきてるあたり、まだ誠意がある方か。なにせAE社と言えばこの世界でも巨大企業である。

 アメリカはデトロイトに本社を置き、太平洋ソロモン諸島に研究所を持っている。

 基本IS関係の研究開発は、国からの補助を受けないとやっていけないほど金を食うはずなのに、AE社はソレを必要としない。ISの研究開発で得た技術・ノウハウを転用して汎用特殊作業車両『レイバー』を開発。世界中で販売して巨額の富を稼いでいるのだ。

 

 おいガンダムどこ行った。

 

 そうして得た金で米国以外の国の研究揮発にも資金援助を行い、引き換えに得た技術とノウハウをさらに転用してあちこちのIS関連事業に食い込んでるとか。

 だからインドと台湾がここ開発のIS使ってるのか……。

 その手は長く伸びてて、欧州のイグニッション・プランや国連軍内部にさえ伝手を持っているらしいのだから恐れ入る。

 

 そんな超巨大企業だ。やろうと思えばいくらでもわたしを手に入れる手段はあるはず。

 それなのにまずはこうして話を通しに来て……おい待て、出会い頭に土下座ってたよなお前。

 

「君の精神抵抗力抜けなかったんだから無問題だと思うんだけどねぇ」

 

 ふざくんな。

 

 まあ、それはともかく。まずはお引取り願うことにした。

 正直ISには多大に興味がある。だけど、いまの私の胸中はバスケでいっぱいなのだ。我ながら、ここまでバスケットボールにはまり込むとは予想外だったけど。

 

「そうかい、それは残念だ」

 

 そう言って立ち上がるアズラエル氏。その表情は余り残念そうには見えない。

 

「とりあえずドイツのほうはこちらで押さえておくよ。お仲間が不本意な状況に陥るのはこちらとしても面白くないしね。

 ただ、最後に一つ」

 

 

 宇宙の彼方を、見たくはないか?

 

 

 アズラエル氏が最後に残したその言葉は、不思議なくらい私の心に響いていた。




転生者人物名鑑
●ムルタ=アズラエル
元はSEED世代のガノタ。SEEDでガンダムシリーズに足を踏み入れた後、ファースト世代の薫陶を受けて種アンチに転向。某ちゃんねるなどで大暴れしていたという黒歴史を持つ。
いまは落ち着いており、SEEDシリーズが好きな自分も受け入れている。
特典は『DO☆GE☆ZA』『商才チート』『黄金率:B』。商人プレイがやりたかったらしい。

 *

字数が安定しません。小学6年生編が終わったらIS学園編まで飛ぶはず。
早いとこバトルを書きたいが、自分の力量で書けるかは不安です。


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4話

艦これはじめました。昨日(12/17)からですけれど。

最初の建造でいきなり長良がでて、最初の出撃で神通がドロップして
この二人を主軸に試行錯誤してたら3~4時間くらいで
足柄(建造)・天龍(建造)・由良(ドロップ&建造)・龍田(建造&任務報酬)・川内(建造)・那珂(建造)とわりととんとん拍子に戦力が揃ってしまいました。
あ、レシピは足柄さんがレア駆逐艦レシピ。それ以外はみんなALL30で建造できました。
駆逐艦はいろいろぽろぽろ出てくる上にダブりまくりなのでろくに数えてませんw
とりあえず1-2までクリアしたのでしばらくはデイリー建造&開発だけで遠征とレベリングかなぁ、と。ハイパーズ求めて1-1及び1-2を回すかー。


 先月から発生してる雪菜ちゃん周りの騒ぎはいまだに沈静化して無いようでした。

 でも、ドイツのおじいさんからの電話は無くなったようで、ちょっとホッとした顔をしていました。そのかわり、こんどは別のことで悩んでいるようです。

 

「……ねーかなーん」

「かなーん言うな。なによ」

「わたしいつまでこうしてればいいのさ」

 

 香奈ちゃんがあぐらかいてる雪菜ちゃんの膝の上にすっぽり収まって、背後から両腕を回して抱きかかえるようにして手をおへその下に当ててもらってカイロ代わりにしてます。

 雪菜ちゃん体温高いからくっつくとあったかいんだよねえ。

 ちょっぴりきつい印象のお姉様系美少女の香奈ちゃんの背中にぴったり張り付く(見た目だけは)清純派妹系美少女の雪菜ちゃん。なんだかいけないふいんきでどきどきします。

 あ、ケータイで写メっとこう。

 

 ゴールデンウィークに入って、大量の宿題が出たので雪菜ちゃんちに集まってお勉強会です。

 けれど、香奈ちゃんがお月さまが来た、とかでぐったりしてたので雪菜ちゃんをカイロ代わりにしておなかを暖めているのです。

 

「勉強できないんだけど」

「あんたどうせ宿題終わらせてるんでしょうが」

「まあね」

 

 普段の言動がやんちゃぼうず系のくせして雪菜ちゃんは勉強もできるのです。ちょっとずるいです。

 

「ショーコ~、助けておくれ~」

「んーと、宿題見せてくれたら」

「それはダメ。自分でやんなさい」

 

 こーゆーとこ、割と真面目さんです。そういえば授業中も男子見たく騒いだりしないよね雪菜ちゃんて。

 

「……で」

 

 それからしばらく。黙々と宿題を片付けていた香奈ちゃんがひと段落つけたのか、シャーペンを置いてまだ背中にひっついてる雪菜ちゃんに問いかける。

 

「……んあ?」

 

 ねてたらしい。おのれー。

 

「あんた、何か迷ってるでしょ」

「……なんのことかなー」

「下手な誤魔化しはやめなさいよ」

 

 香奈ちゃんの鋭い切り替えしに沈黙する雪菜ちゃん。いいぞもっとやれ。雪菜ちゃんがここしばらく悩んでいるのには周囲の人間みんなが気づいていることです。それを相談してくれないのは寂しいのです。いけずさんめ。

 

 んー、とかあー、とか唸ってた雪菜ちゃんも観念したのかぽつりぽつり話し出した。

 

 なんかぐだぐだ言い訳がましかったけど、ようするにISとバスケ、どっちを取るかで悩んでたらしい。ISを取るならAE関係のとこ。バスケを取るなら地元の強豪中学に行きたいのだとか。

 

「なんでAE1択なのよ」

「他の所はあんまり面白くなさそうで……というよりも、物足りなさそうでさ」

「聖マリアンヌとか選択肢としては良いと思うんだけど?」

「普通にIS関係の仕事に就きたい、てんならね。聖マリアンヌからIS学園は鉄板だろうなあ」

 

 それだと面白くない、って顔に書いてるよ雪菜ちゃん。

 

「それにさ、バスケのほうにも未練、あるしさ」

 

 ちょっとだけ。ちょっとだけ、目を伏せて言う。あ、これ嘘ついてるときの癖だ。

 香奈ちゃんと顔を見合わせ、ひとつ頷いて、せぇーので声を合わせて。

 

「「ばぁーか」」

「ひどっ!? いやほんとにひどくないっ!?」

「ふん、つまんない嘘吐くからでしょうが」

「いや嘘って」

「大方、私がバスケ始めたのはあんたがきっかけだから~、とか考えてるんでしょ。でも残念でした。私がやりたいのはあんたをへこませてキャン言わせることよ。あんたが別のものに力入れるってんならそっちで叩きのめしてやるだけよ」

 

 おもわず沈黙するあたしと雪菜ちゃん。うん、この発言はアレだ。なにやっても着いてくから覚悟しとけ宣言ですよね。うっかりすると凄い重い台詞だよね?

 思わず目を見合わせるあたしたちになによ、って顔を向ける香奈ちゃん。

 

「ん、いや。そっか、そっかぁ……」

 

 いまだ抱きついたままの香奈ちゃんの背中に顔を伏せる雪菜ちゃん。めずらしい、照れてる。

 

「あんがと、かなーん」

「だからかなーん言うなっての」

「あたしも雪菜ちゃんのやること、応援するよ?」

「うん、ショーコもありがとう。そーかー、叩きのめしに来てくれるかー……。

 ――着いて来れるか?」

「はっ、そっちが着いて来いってのよ」

 

 顔を伏せたまま、問いかける雪菜ちゃんににやりと笑って返す香奈ちゃん。うん、この二人はこうだよね。

 

「うん、ふふ。なんだろ、すごいホッとした。すげー爽やかなかんじ。こんなすがすがしい気分にさせてくれた二人にはなんかお礼しなきゃなー」

「あ? いいわよ別に。あんたからお礼とか……こらちょっ!? どこに手を入れて……っ!?」

「うんうんえんりょすんなー。服の上からじゃなくて直接擦ってやるわー。……ぐへへ」

 

 はいセクハラモード入りましたー。雪菜ちゃんたまにすごいすけべだよね。

 

 

 

 どったんばったん騒ぎ始めた二人が雪菜ちゃんのおばあちゃんに雷を落とされるまで、あと5分。




南山でした。違う、難産でした。
一番短いですが、このあとまで書くと最長になるので切りました。
IS関係は次回で。

あ、香奈も薔子もまだ自覚無いですがガチのひとです。


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5話

何とか間に合いました。本年はお世話になりました。
来年もよろしくお願いいたします。


あとHGUCガンダムF91買いました。
量産機カラーに塗ろうと思うんですが、何色が一番馴染みますかね?
スパロボとかGジェネとかで色違うんですよね。


 夏休みである。

 

 ゴールデンウィークのあの日、親友2人に背中を押される形で決心したわたしはまず家族に本心を打ち明け、理解を得るところからはじめた。

 この時期、ISは第1回モンド・グロッソの影響もあって世界的な大ブームを巻き起こしていたが、実際関わりを持とうとする意外に難しいものがあった。

 考えても見て欲しい。もともとは宇宙開発用に作られたはずがその有用性から軍事に転用され、さらにはスポーツへと姿を変えていったのである。ぶっちゃけ心理的抵抗があるというかモータースポーツのように敷居が高い印象があるのだ。長いこと戦争してない日本だと尚更である。

 しかもわたしの場合、国内のIS関連学校に入学したいというのではなく、海外の企業からのスカウトを受けたいという話なので親からしてみれば余計に心配になる話である。

 当然のことながら話し合いは紛糾。喧々諤々な怒鳴りあいに……はならなかったけど、ちょっとケンカみたいな状態に。転生してから家族大好きっ子になってるわたしとしてはこの状況が長く続くのはかなり嫌なので早々に切り札を切らせて貰うことにした。

 

 助けてアズラエも~ん

 

 「デジタルなモンスターみたいな呼び方やめてくださいよ」とちょっとばかり嫌そうだったけど協力を取り付けることに成功。そこからはわりとあっさり気味だった。

 福利厚生も勉学も、AE社の力でしっかりフォローすると確約してもらい、さらに私自身の言葉でもって熱意をぶつけた結果、しぶしぶながらIS乗りとしてAE社所属になることを認めてもらえた。

 基本的にはAE社所有のIS研究所で寝起きしてテストパイロットとして働き、義務教育は家庭教師に通信教育で賄うということに。学籍自体は研究所がある島に建ってる学校に在籍。学校に通う頻度は少なくなるんじゃないかな?

 さて、説得成功したとはいえ早々簡単に納得できるはずもない今回の一件。いったいどういう環境で働くことになるのか、この目でしっかり見てみたいという話がばあちゃんとおかんの二人から飛び出してきた。

 親としては当然の主張だろう。そんなわけで小学生最後の夏休み。AE社見学ツアーと相成りました。

 あ、ショーコとかなーんもついてきたよ。

 

 

 *

 

 

 そんなわけでソロモン諸島の空の玄関口、ホニアラ国際空港に到着である。最近は成田のみならず羽田からも国際線が発着してるのが助かるなぁ。うちからだと羽田の方が近いんだよ。

 初めての飛行機&海外旅行でうかれぽんちってるショーコとかなーんをあしらいながら迎えの人を探すと『Welcom! 三河家ご一行様』と書かれた看板を持った二人組を発見。同時にむこうもこっちを見つけたらしく近寄ってきた。

 

「三河家ご一行様ですね? お迎えに参りました、ノエル=アンダーソンです」

「同じく、レイコ=ホリンジャーデス」

 

 ゲームキャラキター!? アズラエル社長曰く、ガンダム系作品登場キャラは基本転生者だそうだからこの2人もそうなんだろうなぁ、と思ってたらパチリとウィンクされた。どうやらわたしの想像通りらしい。

 そのウィンクをどういう意味に取ったのか、ショーコがぎゅっとわたしの腕を抱きしめてきた。おおう、柔らけぇのう。

 

「では、わが社所有のIS研究所までご案内いたします。皆様、どうぞこちらへ」

「乗換えてばかりですケド、もうスコシだけお待ちくださいネ」

 

 そんな2人の案内で飛行場の端にあるヘリポートへ向かうわたしたち。何でも離島を一つ丸ごと買い取って使ってるのだとか。セキュリティ保持とか安全問題とかでいろいろあるんだろうなぁとか思いながらも、前世及び今生通して初のヘリコプター搭乗にテンションが上がってしまうわたしなのでした。

 あんまりショーコたちのこと言えないね!

 

 

 *

 

 

 IS研究所は、ちょっとしたひとつの街でした。

 メインの研究施設のみならず、所員が暮らすための寮だけじゃなく、家庭持ちのために小規模ながら住宅街があり、ショッピングモールなどの各種商業施設に娯楽産業、病院や消防に所員子弟のための学校まである徹底振り。へたすると一生ここで暮らしていけるんじゃ? てくらいの施設が充実していた。

 到着初日は移動疲れがあるだろうということですぐに来賓用の宿泊施設送りにされたものの(そして実際疲れてたので飯と風呂を済ませたらみんなあっという間に寝てしまった)翌日からはあちこちを見学させてもらった。

 案内はノエルさんとレイコさん。こっそり確認したところやっぱり転生者だそうで、ノエルさんは飛び級で大学卒業してアズラエル社長の秘書、レイコさんは学生バイトの身ながら既に内定決定してるそうで。優秀だなぁ、と思う反面こーゆー雑事をやらせて良いのかと申し訳なく思ったりも。

 

「ああ、いいね別ニ。気にしなイ気にしなーイ。……ワタシがいないとノエルがなにやらかすかワカったモンじゃないし……」

「やーねぇレイコったらもう。何もしないわよ、今は」

 

 今はつったぞおい。

 不穏な発言に引っ掛かるものを感じて改めてノエルさんを観察してみれば。こっそりショーコとかなーんに対してハァハァしたり鼻息荒くしたりよだれ垂らしたり……それでいながらうちの家族やhshsされてる当人たちには一切気取らせないあたり無駄にハイスキルを発揮してたわけで。

 ……能力のある変態ってたち悪いんだなぁ、とつくづく思わされましたよええ。

 

 ちなみにこのノエルさん、わたしの家庭教師役をやる予定なんだぜ?

 

 

 *

 

 

 さて、初日は移動。2日目は周辺施設の案内ときて、3日目はいよいよ研究所内の見学をさせてもらえることに。

 とは言っても来客用パスでは対して見れるもんもなく。そうして連れて行かれた先は実際にISを動かして各種テストをするためのアリーナ。その格納庫にはAE社開発の第1世代量産型IS『ガンダム・マイルド』こと、略称GMが鎮座ましましておりました。

 

「……これジェガンだよね?」

「GMです」

「いやこれジェガンだよね?」

「GMです」

「いやいやジェガ「GMです」ん、って被せたなおい」

 

 まあわたしとノエルさんとのやり取りはさておき。

 目の前に置かれたテスト用に黄色く塗装されたGM(見た目はジェガン)にテンション上がりまくりのわたしたち小学生3人組。そんなわたしたちにノエルさんが一言。

 

「じゃ、乗ってみましょうか」

「「「……はい?」」」

 

 なんで3機もあるのかと思ってたらそういうことかい!

 なんたるサプライズ! 素敵!!

 渡されたISスーツを手に更衣室に駆け込むわたしたち。おかんたちはISの調整をしていた技官の人に連れられて管制室に移動です。

 

「ただいマー」

「あらレイコ、どこ行ってたの?」

「ああウン、更衣室に隠しカメラが仕掛けられてたから撤去してきタ」

「……なん……だと?」

「やっぱりお前カ」

 

 ……聞こえなかったことにしておこう、うん。

 

 

 *

 

 

「うはははははははははははは!!」

 

 ISジェガン(わたしの中ではこう呼ぶ)を装着してアリーナに出てきて1時間。わたしはアリーナの空を悠々と飛んでいた。

 最初のほうこそ管制室からの指示で操縦に慣れるための準備運動みたいなことをしていたのだが、30分くらいでさっさと慣れてしまった私はこうやって自在に飛び回り始めた。

 いやすげー! ISマジすげー!! この爽快感はクセになるぜェーーっ!

 ちなみにショーコとかなーんはまだ歩いたり走ったりジャンプしたりしてます。IS初搭乗だとアレが当たり前のはずである。改めて思うけどチートボデーすげーな。あ、2人が飛び始めた。かなーんの方はまだしっかり姿勢を保てているけど、ショーコはちょっとふらついてる。うっかりすると制御が乱れた勢いで集中が途切れてあらぬ方向に吹っ飛んでいきかねないので手を取って補助してやる。

 

「雪菜ちゃんありがとー」

「どういたしましてー」

 

 で、そのままさらに30分ほどゆらゆらふわふわ飛んでいたらわたしたちが出てきた格納庫とは反対側の扉から何者かが格納庫に飛び出してきた。

 

《楽しそうね。アタシも混ぜてよ》

 

 プライベートチャンネル、だったか。通信を繋いで声を掛けてきた相手は……ぴんく?

 

「……だれだおまえ」

《あら、ご存じないかしらぁ?》

 

 わたしたちが纏っているジェガン(GM言うな)とは違う、ピンク色に染められたスマートなISを身に纏ったロングヘアの女が笑って言う。

 

《アタシこそ、IS乗りとしてチャンスを掴み、アイドルマスターの座へ駆け上がっている、超時空シンデレラ、ミーア=キャンベルちゃんよぉ!》

 

 びっびっびっばっばっ! と気合入れてポーズ決めてそんなことのたまってくるピンクいの。あ、口で「キラッ☆」とか言いやがった。

 

《かえれ淫乱ピンク》

《ちょっ!? 誰が淫乱ピンクよっ!!》

《……え、アイドルってお偉いさんとえっちなことして仕事とってくるのが基本なんじゃないの?》

《違うわよ! なにその思い込み! ていうか隣のお友達がサンタさんは居ないと知らされた幼稚園児みたいなショック受けた顔してるからやめたげなさいよ!!》

 

 あ、やべ。ついうっかり社会の暗部を彼女たちの前で暴露してしまったぜ。だがこれだけは言わせて貰う。

 

《でもピンクは淫乱というのは定説って物の本に》

《どこの本よそれ!》

《山本君が竹やぶから拾ってきた本に載ってた》

《誰よ山本君って!?》

 

 横の2人、あーあいつかーみたいな顔しない。

 

《ま、まあいいわ。あなたたち、うちに見学に来た子たちよね?》

「あ、はいそうですー」

 

 目の前のピンクいのに律儀に返答するショーコは真面目さんでかわいいなぁ。というかこいつも間違いなく転生者だよなー。

 ちなみにプライベートチャンネルで話しかけてきてるミーアさんに対してショーコは肉声で返答してる。わたし? なにげにさっきからプライベートチャンネルを使いこなしてますよ。

 

《じゃ、せっかくここまで来たんだし、ちょっとおねーさんと遊んでいかない?》

《気をつけろ2人とも。こいつ……肉食系女子だっ!?》

「「ええっ!?」」

《まちなさいよ!? なんかひどい誤解してない!?》

《ISの装甲の隙間から見えるISスーツがものっそいえぐいデザインしてるんだけど、そこんとこなにか言い訳は?》

《なによ! アタシの美貌を際立たせる良デザインじゃない!》

 

 原作でミーア=キャンベルが着てたステージ衣装からスカートを取っ払ったデザインのISスーツをそう評価するか。すげーな。股間とかすごいきわどい角度してるんだけど。眼福眼福。

 

《もう! 話が進まないじゃない!》

「雪菜ちゃーん。せっかくだからあのお姉さんにいろいろ教えてもらおうよ」

「そうね。先輩の言うことはためになるはずよ」

 

 まあ、2人がいいと言うならわたしからも否やは無い。

 

《で、なにするんですか淫乱ピンク先輩》

《だからそれやめてってば! ……ん、そうね。鬼ごっこなんてどう? ISの機動制御に慣れるのにはいいと思うんだけど》

 

 ひとつ咳払いして気を落ち着けたミーア先輩(一応先輩だからね)からはしごくふつーの提案が飛び出してきた。おかしいな、転生者なんだったらもっと無茶振りしてくるはず……。

 

《なんか変なこと考えてない? いくらなんでも素人に無茶させないわよ》

 

 まあ、それもそうか。

 そんなわけでまずはわたしたち3人が逃げる側で。

 

《で、さっきから気になってたんですけど、そのISってもしかして……》

《あ、わかる? これぞ先日発表されたばかりの新型機、ストライクガンダム! そのアタシ専用機として調整されたストライク・ルージュよ!》

《第2世代機じゃねーかふざけんなーーーっ!!》

《なによ、エールストライカーつけてない素の状態なんだから文句言わないの。じゃ、はじめるわよー》

《くっそぜってー逃げ切ってやるぁーっ!》

 

 

 *

 

 

 鬼ごっこが始まって30分以上が経過。

 ショーコとかなーんはあっさり捕まってしまい、5分のインターバルを置いた後、再度空に上がってきたけれど再びとっつかまって、それを何回か繰り返したら体力の限界に来たらしく格納庫に引っ込んでいった。で、わたしはというと最初のほうで1回捕まって、インターバルを置いてからはひたすら逃げ回っている。くっそこのピンク上手ぇ!

 途中から微妙にルールが変わって、相手の背中に触れたほうが勝ちというルールになった。

 んだけど、さっきからぴったりと背後に張り付かれて振り切れねぇ! さすが専用機を与えられるだけはあるなぁおい!

 

《ほれほれー、どうしたー。追いついちゃうぞー》

 

 うぜぇ! けどこっちには言い返す余裕もない。機体の性能差もあるけれど、それ以上に向こうがこっちの飛行ルートを巧みに誘導してる。

 

《じゃあそろそろー……決めるわよー》

 

 やばい! 相手から伝わってくるプレッシャーに本気の色が混ざり始めた。このままじゃ手も足も出ないままに終わる。……それはいやだ! せめて一刺ししたい!

 何か手は無いか高速で脳みそを回転させる。とはいえ、今日始めてISに搭乗した素人に良い考えなんか思いつかない……いや、まて。ひとつ思いついた。

 第1回モンド・グロッソでかのララァ=スンが見せた不可解な機動。暮桜の背中にガンダムハンマーをぶち当てた際のアレだ。大会直後から謎機動として散々に検証されたため、今では大体のからくりが判明している。

 とどのつまりは、両足に備え付けられているスラスターを片方だけふかし、姿勢が不安定になった所にPIC制御と手足を振り回した際の作用・反作用――AMBACと呼ばれる機動制御技術だ。名付けたのはもちろん、ララァ=スンである――を併用し不規則な機動を描いて『落下』するという……いうなればIS版『木の葉落とし』である。

 ララァ=スンはこれに瞬時加速を組み合わせて暮桜の背後を取ったのだ。

 それをいま! この場で! やってみせる!

 背後から伸びてくるストライク・ルージュの手。コレをギリギリまでひきつける。

 ……まだ。……まだだ。まだ……ここ!

 

「だりゃあ!」

 

 自然と口から気合の声が漏れる。思いっきりふかした右足のスラスターを中心に手足を振り回して半回転、そのまま真下に落下。PICですら消しきれないGがわたしの体に襲い掛かるも、歯を食いしばって無視。姿勢を立て直して上空を振り仰いで、頭上を通り過ぎたはずのピンクのISを探す……いない?

 

《ざぁんねん》

 

 ハイパーセンサーが告げる。

 

《木の葉落としとは、流石のアタシも驚かされちゃったけど》

 

 わたしが探す、当該ISは。

 

《でも、あの機動技術はアタシも使えるのよねぇ》

 

 背後にいる、と。

 

 

 *

 

 

 香奈です。更衣室の空気が最悪です。

 

「ぐす、ひぐ。うっく。うっく……ひぐっ」

 

 雪菜がガン泣きしてます。

 雪菜がガン泣きしてます。大事なことなので2回言いました。ISスーツから着替えもせずに薔子の胸に顔を埋めてマジ泣きです。雪菜が泣く所なんてはじめて見た。

 ……なんだろう、このムラっとくる気持ちは……。

 んで、更衣室の床に正座してるミーアさんと困った顔のノエルさんとちょっと眉根を寄せて不機嫌顔のレイコさん。雪菜のママとおじいちゃんおばあちゃんはちょっと苦笑い気味。

 

「素人相手に泣くまで追い込むとカ。ミーアは鬼畜ネ」

 

 レイコさんの鋭い一言にミーアさんの肩がびくん、と跳ねます。

 

「いや、あの、その、あれはあの、つい……」

「つい、で泣かすのカ。とんだいじめっ子ネ」

 

 ぐがっふ、と変な声を上げてミーアさんが胸を押さえました。心に何か刺さったようです。

 と、そこで雪菜のママがまあまあ、と止めに入りました。今回は力量差もわきまえずに突っかかっていった雪菜が悪い、とバッサリです。

 まー、実際木の葉落としとかいうよくわかんない動きをしれっと返されてとっ捕まって以降、軽く10回以上はミーアさんに挑んでは負けまくって。しまいには泣いちゃったわけだから……うん、雪菜ザマァ、だわこれ。

 

「わかってる、よっ。わたし、が、よわい、って。で、でもっ、くやしい、じゃん、っかぁ!」

 

 しゃくりあげながらのその台詞にママさんが「しょーがないわねぇ。ホントに負けず嫌いなんだからあなたは」と薔子から雪菜を受け取って抱きしめ、背中を優しく叩いてます。

 

「雪菜ちゃんが泣くのって久しぶりだなぁ」

「そうなの?」

「うん。雪菜ちゃん、3年生のときにバスケット始めたでしょ? そのときからパワーとスピードはあったんだけど、上級生の人に軽くあしらわれちゃって」

「それで泣いちゃったと?」

「うんうん」

 

 ショーコぉ~~……となんか恨みがましい声が聞こえてきたけど無視無視。

 

「とにかク、ミーアはいっぺん謝っテ」

「すんませんっしたー!!」

 

 土下座する勢いでミーアさんが頭下げるけど「別にいいわよそんなの~」とママさんが軽く流しちゃった。雪菜自身も「いいっ。べつ、っに。あんた、が。悪いわけ、じゃない、しっ」とぐすぐすいいながらもゆるしてる。こりゃ単純に悔しいからなんだろうなぁ、泣いてるの。

 

「つっ、次、は! 勝つ、かんなっ! おぼえてろっ!」

「え? あ、ああ、うん。……うん。

 いいわ。いつでも受けて立ってあげる。楽しみにしてるからね!」

 

 雪菜の泣きながらの宣戦布告に、ミーアさんはちょっとあっけに取られてたけど、すぐに気持ちを切り替えてにやりとわらって返答した。

 ……かっこいいけど、正座したままじゃ締まらないなあ。

 

 

 *

 

 

「……ムルタか」

『やあ、どうだい彼女は。見てたんだろう?』

「……いいね。うん。実に良い。よくもまあ、こんな逸材を見つけ出したものだ。感謝するよムルタ。

 彼女が居れば行程の3割は省ける。ミーアくんに掛かる負担も、かなり軽減できるだろうし……。

 なにより、あの天災に対しての目晦ましに最適だ」

『そうかい、ソレは良かった。君の方はどうだい』

「至って順調さ。ここからはミーアくんには頼めない仕事になるからね、彼女を呼んだところさ」

『お、そうかい。もうそこまで進んだのか! いや、流石に仕事が速いね!』

「ははは、そうじゃなきゃわざわざ特典を貰った意味が無いよ」

『それもそうだ! じゃあ、そっちのことは任せるよリボンズ』

「ああ、朗報を期待してくれ。

 

 ……待たせたね」

「なぁに、構わんさ。それで? オレは何をすればいい?」

「君には亡国機業に潜り込んでもらおうと思ってね。」

「ほぉう! そいつはまた剛毅な依頼だ」

「向こうに持って行くコアとISは用意しよう。『赤』と『青』と『金』、どれが良い?」

「あー、そうだな……。赤も魅力的だが……ここはやっぱり金だろ」

「わかった、手配しよう。それと、これも持って行きたまえ、いざというときの助けになるだろう」

「……!! おい、こいつはまさか……っ!?」

「そう、そのまさかさ。擬似ISコア……いや、こう言おうか。擬似GNコア、と」

「……マジか」

「マジさ。さあ、仕事を頼むよ。アリー=アル=サーシェス」




転生者人物名鑑と用語辞典

●ノエル=アンダーソン
『電子の妖精』『アトラスの錬金術師』『真言立川詠天流』
X世代、というよりは08小隊世代。さらに言えばナデシコ世代。
電子戦チート、に見せかけたエロチート。レイコが体張って止めてなかったら何しでかすか分かったモンじゃない女。
最近は『生やす』研究と『穴を開ける』研究が異様に捗っているらしい。

●レイコ=ホリンジャー
『ATフィールド』『螺旋力』『異能生存体』
スパロボからGジェネへとハマっていったゲーム世代。ガンダム戦記シリーズは全部プレイ済み。カードビルダーにも相当突っ込んだが、結局大将になれなかった。なのに転生したらレイコ、本人割とマジで泣いたらしい。
生存チートでAE社の秘密兵器枠。本気出せば生身で宇宙に放り出されても平気だし、素手でISに勝てる。
でもビビリでM気質のためいまいち全力を発揮しきれない。最近のお仕事はノエルの玩具になること。何ヤっても壊れないので重宝されている。

●ミーア=キャンベル
『超銀河シンデレラ』『アルト姫』『アイドルマスター』
00世代。というよりはマクロスF世代。マクロスFでロボット物に始めて触れてドハマリした。
アイドルになるためにIS乗りになるという本末転倒人間。しかし、早乙女アルトとほぼ同等の技量を持っているため、腕は立つ。
本名キム=ミナ。台湾代表候補生である。

●リボンズ=アルマーク
『イノベイター』『アンサートーカー』『聖闘士』
ファースト世代にして00フリーク。知力チート枠にして最終兵器枠。
いろいろたくらんでる

●アリー=アル=サーシェス
『ネイキッドスネーク』『ニンジャ』『笑う女豹』
原作キャラがTSしてるぜ枠。逆シャア世代だがガノタとしての濃度は薄め。その分軍事オタだったりSFオタだったりと別方向に濃い。
いろいろと工作中

●GM(ガンダム・マイルド)
AE社開発の第1世代量産型IS。見た目はジェガン。
能力的には可もなく不可もなく非常に扱いやすくタフな機体。ビームライフルとビームサーベルが標準装備のため、打撃力に優れる。

●ストライクガンダム
AE社開発の第2世代量産型IS
背中のストライカーパックを変更することでどんな戦況にも対応できるマルチロール機体。AE社の魔改造によって、原作のストライカーのみならずザフトのウィザードやシルエットも装備できる。
性能的には第2世代最後発のラファール・リヴァイブをも上回り、もっとも優れているのだがその分操縦性は劣悪。一部のエース以外からの評価は散々である。が、エース専用機としてみれば第3世代機をも凌ぎえるポテンシャルを有している。


 *

 ちょっとながくなりました(白目
 どれくらいの長さで切ればいいのかいまいちつかめていません。


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6話

ようやく投稿です。お待ちいただいたみなさま、大変申し訳ありませんでした。
年が明けてからはひたすら仕事と艦これの日々。たまにアニメチェックしたりV2ガンダムを青く塗ったりしてました。カムイかわいいよカムイ。

それではお待たせいたしました。楽しんでいただけたら幸いです。


 さて、夏休みが終わって2学期が始まり、わたしの生活はすこしばかり様変わりした。

 まずは学業。IS研究所内では日本語が公用語だが、ソロモン諸島自体は英語が公用語だ。ゆえに英会話を完璧にマスターするべくノエルさんから送られてくる課題をこなす日々が始まった。

 とはいえもともと学校の授業で初歩的な、中学英語の予習みたいなことはやってたし、そもそもわたし自身前世からの繰り越し分があるので実はそこまで苦労はしていない。おかんの影響でドイツ語は習得してたこともあって、別言語の習得もそんなに敷居高くないのだ、心理的に。

 

 そんな風に学業に比重を傾けると、当然ながらスポーツの方はおざなりになる。

 よってバスケ部の練習には出てるけど、試合関係からはすっぱりと手を引いて出場しなくなった。

 

「ら、なんか「潰し屋雪菜が引退した!?」って噂になってるでござる。どゆことよ?」

「そりゃまあ、あんたこの近辺のバスケ関係者の間じゃそれなりに有名人だし。それが試合に出てこなくなったんだから話題になって当然じゃない?」

「いや、そこじゃなくて。『潰し屋』なんていう物騒なあだ名のほうに疑問が。いつの間に付いたのさこれ。『葛城小の豆タンク』とか『ちび戦車』とか言われてんのは知ってるけど」

「あー……」

「それは……」

 

 なんか知ってんな? きりきり吐けやこら。

 

「去年の2学期の試合覚えてる?」

「ほら、あんたにしつこくダブルチームかけてきたアレ」

「あーあーあー、覚えてる覚えてる。ウザかったけどちょっと面白かったな」

 

 当時はドリブルで相手ディフェンスを華麗に抜き去るのにハマってたんだよなぁ。

 

「で、あの試合でマークに付いた2人をさんざんに振り回してスタミナ切れに追い込んだでしょ」

「パスとかフェイントとか、なんかいろいろやってたよね」

「アレはアレでいろんなやり方試せて楽しかったな!」

 

 どーも相手さん、わたしがドリブルで吶喊するしか能の無いワンマンフォワードだと思ってたくさい。んなことねーのに。

 

「それで最終的には相手チームみんなバテバテで、整列して挨拶するのもまともにできなくなるくらいへとへとになるまで追い込んだでしょ?」

「いつのまにかラン&ガンみたいなことになってたなー」

 

 結局あれ以降、うちのチームの基本戦術はラン&ガンである。さすがに最初から最後までフル出場で走り回り続けられるのはわたしだけだけど、他のメンバーも小学生離れしたスタミナ持ってるんだよなー。て、ちょいたんま。

 

「あー、もしかして?」

「うん、あの試合が原因でバスケが嫌になっちゃった子がいたらしくて」

「やめちゃったと」

「そのとおりよ」

 

 これは潰し屋言われるかなあ。

 

「で、わたしに気を使って秘密にしてた?」

「「うん」」

 

 その気遣いはありがたく受け取っておこう、ということでこの話はしゅーりょー。さ、テキストの続きやるべ。

 と、この場はこれで終わったのだけど。後日別のチームの友達から「お前ほんとにバスケやめるの!?」と連絡が入ってきた。この件、意外にあちこちで話題になってるみたいなのでうわさ話の鎮火と勉強三昧で溜まったストレスの発散もかねてちょっとしたバスケイベントを開催することに。

 まあイベントといってもたいしたものじゃない。市民体育館を借りて知り合いのチームに招待状出してみんなでひたすらバスケしよーぜ! という、それだけのものだ。カテゴリ分けするなら交流会というやつだろうか? ちがうかもしれん。

 顧問の篠塚先生(40代女性:学年主任兼務)を始めとして色んな人の手を借りてどうにかこうにか手筈を整え、開催決行。さいわい、当日は参加チームにも恵まれた。

 慧心学園初等部女子バスケットボール部が参加表明してきたときにはたまげたけどな!

 

 後年、転生で色んな世界を渡り歩いてる人と知り合いになった時に聞いた話によると。この世界、基幹設定はインフィニット・ストラトスだけれど、矛盾を起こさない範囲で他の作品世界も混入してるのだとか。主に日常系萌え4コマ作品とかスポーツ物とか。割とよくある話らしい。

 その人の実体験の中にはクロサギと闇金ウシジマくんとナニワ金融道が混ざってたはずなのに気がついたらガンスリンガーガールとコッペリオンとシュピーゲルシリーズが混ざった世界に変質していった例とかもあったらしい。なにそれこわい。

 

 ま、このときはまさかの展開にびっくりしたけど、改めて考えてみればバスケしに来たんだから一緒にバスケやればいいだけの話じゃん? という結論に至って普通に迎え入れてたけどなー。

 交流会そのものはおおむね成功だったといえる。午前中はてきとーに組み合わせ決めて試合して、お昼ご飯食べたらチームメンバーをシャッフルして試合してみた。すげえ勢いでぐだぐだになってちょお笑った。でもまあ、参加してた連中も普段一緒に居るチームメイト以外と組んでバスケすることに何かしら得るものがあったようでよかったよかった。

 まあ、お昼のときにちょっとトラブったけどな。

 お昼は各自用意してくるように伝えていたけど、念のためこっちでも用意してた。朝4時起きしてひたすら握って揚げたおにぎりとから揚げの山だけど。あと麦茶とスポーツドリンク、およびグレープフルーツとりんごとオレンジの果汁100%ジュース。それらをでん、と置いて好きに食え、と。男子もいたから全部片付くだろうと思ってた。

 そしたら「うちの子はおにぎりはツナマヨしか食べないんです! 招待した側なのに用意してないなんてどういうつもりなんですか!」とか言い出したおばさんがひとり。しらんがな。肝心の娘さんの方は「やめてやめておかーさんやめて」と涙目になってました。そういや最近お母様方のモンペ率が上がってるとか篠塚先生愚痴ってたなぁ……。

 まあそんなトラブルもあったけど、交流会はとりあえずは成功と言っていいだろう。そろそろ撤収すんべー、と思ってたら慧心の子から話しかけられた。

 

「あの、わたしと勝負、しませんか?」

 

 主人公の子だったでござる。たしか……港、じゃないや湊さん。ちゃん付けでいいか。なんか1on1でやりたいそうなので最後の締めに勝負することに。とりあえず10本先取ルールで。

 結果は10-8。わたしの負けである。床にへたり込んで酸素スプレー口に当て、ぜーぜー言ってた湊ちゃんとまたバスケしようと約束し、メルアドを交換した所でタイムアップ。体育館の使用時間が迫ってきたのでそこで交流会終了で解散。

 実に有意義なイベントでした。

 

 

 

 *

 

 

 小学生最後の大イベントといえばこれ、修学旅行である。行き先は鎌倉に2泊3日。昔は京都・奈良だったらしいのだけど、何年か前の児童がやらかしたらしくてそれ以後鎌倉が定番になったそうな。まあそんなことはともかく旅行を満喫するとしよう。

 1日目はほとんど移動だけで終了。お宿のお風呂で「ショーコの乳はわたしが育てた(キリッ」とか言ったらすごい勢いでショーコに視線が集中したあと、大浴場がざわめいてみょんな雰囲気に包まれた。

 ふむ。やはりここはこの空気を作った私が率先して場を動かすべきだろう。胸の高さに構えた両手をわきわきと蠢かせて一言。

 

「……育てようか?」

 

 ざぱっ

 

「のひゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 冷水! 冷水はまずい!? 

 

「なにあほなこと言ってんのよ」

 

 おおう、香奈ちゃんマジクール……。

 その冷たい視線にちょっとビビリはいったので素直におふざけをやめる。でもかなーんも結構あるほうだよね? うちら3人の中じゃわたしが一番背丈も乳サイズも小さいんだが? ああ、規格外と比べちゃって自分を過小評価しちゃってるんですねわかります。

 そんなふうにほっこりした視線を向けてたら人を殺せそうな勢いでやぶ睨んできたのでそそくさと体を洗い流して湯に浸かる。

 

「ああそうだ」

 

 洗い終えてとなりに浸かってきたかなーんに対して、コレだけは言っておかねばと思い口を開く。

 

「尻も素敵だよ?」

 

 づどんっ

 

「ごげぱっ!?」

 

 鼻にっ! 鼻にお湯がっ!?

 

「なにを騒いでいるのあなたたちっ!」

「「「「「「騒いでいるのは雪菜ちゃんだけで~す」」」」」」

 

 うらぎられたっ!?

 その後、篠塚先生に正座で説教くらったのはいうまでもない。

 おのれー。

 

 

 *

 

 

 2日目。

 この日は午前中は学校が決めた観光名所を回り、午後から班ごとに分かれて自由行動だった。駆け足ながらふたつみっつ見学して回った後、鎌倉大仏さまの前で一旦解散、各自あちこち見て回るというところでショーコが不調を訴えた。

 

「……おなかいたい……」

 

 見れば足を伝う赤い滴。ソッコで近場のトイレ借りておかんに持たされてる『女の子の必需品入れ』からアレコレ取り出して処置を済ませて先生の所へ。途中、香奈に残りの班員(男子3人)を連れて近くの土産物屋に連れてくように道順書いたメモを渡して指示。あの武器屋に行かせとけばおとなしくなるだろ。それでも騒ぐようだったら鉄拳制裁もやむなしと許可を出しておく。

 で、担任の有田先生と保健の増川先生んところに行ってかくかくしかじか。このタイミングで初潮とか間が悪かったねー、とショーコを慰める。

 

「それにしてもよく対処できたわね、シュネーラインさん。えらいわ」

「まあ、わたし自身もう2年になりますし。慣れました」

 

 最初んときにはマジパニックになりました。根気強く落ち着かせてくれたばあちゃんありがとう。

 

「えっ?」

「?」 「有田先生?」

「シュネーラインさんって……生理、来てたの?」

「……有田先生っ!!」

 

 はい、増川先生の説教入りましたー。

 いや、わたしの普段の言動が山猿だからってソレは無いんじゃないかな有田せんせー。そんなふーにいらんひとこと言っちゃうから一部から嫌われてるんだよあんた。この迂闊さがあるから卒業後の進路について話が出来ないんだよなぁ……。今現在、私が卒業後に渡航することを知ってる教師は校長先生と教頭先生、学年主任の篠塚先生と保健室の増川先生の4人だけなのである。

 

 で、先生方に送ってもらってお宿に。増川先生に貰った痛み止めを飲ませてショーコを布団に寝かせ、わたしはその隣で持ってきた文庫本を開く。鏡の国のアリスの原語版である。これがけっこう英語の勉強に役立つのだ。もともと、ルイス=キャロルが子どもに語り聞かせた即興のお話がベースになってるから難しい単語や構文は無いし、韻を踏んだ言い回しなんかが読んでて楽しい。

 そうしてもくもくと読み進めてるともぞもぞと布団がうごめいてショーコがこっちを向いた。寝入ってはいなかったらしい。

 

「ごめんね雪菜ちゃん」

「んー、なにが?」

「えっとその、せっかくの修学旅行なのにあたしこんなんなっちゃったし」

「まあ、間が悪いなあとは思ったどね。でも、おめでたいことなんだから気に病まなくていーよ。帰ったらお赤飯炊いたげる。楽しみにしてて」

「そのその、つき合わせちゃってるし」

「ショーコが一緒じゃないとわたしが楽しくないんだよ。言わせんなはずかしい」

 

 しれっと言うとむしろショーコの方が照れたのかうつぶせになって頭から布団を被ってしまった。そのまましばらくもぞもぞしてたけどひょこ、っと顔を出してきた。

 

「あのね雪菜ちゃん」

「んー?」

 

 文庫本のページを捲りながら応える。

 

「あたし、いやな子かも」

「どうしてまた」

「……あのね」

「うん」

「せっかくの修学旅行なのにね。こんな形になっちゃったけど、雪菜ちゃんを独り占めできて……うれしいなぁ、って思っちゃったの」

 

 ……やべ、キュンときたぞ。なにこの娘かわいい。考えてみれば香奈と同じクラスになってからはずっと3人でつるんでたなー、と思い返す。

 とりあえず文庫本にしおりを挟んで置いて、ショーコの横に寝っ転がる。

 そのまま、こっち向いたショーコのほっぺたを両の手のひらでむにむにとこねまわす。

 

「かわいいこと言ってくれるじゃんかもー」

「やぁん、や~め~て~よ~」

 

 そのまましばらくジャレてたら、わたしの方もなんか眠くなってきた。

 くぁ、と思わずあくびを漏らすとショーコもちょっと眠そうだ。

 

「みんなが帰ってくるまで時間あるし。寝ちゃおうか?」

「そうしよっか」

 

 んじゃ、おやすみなさい。

 

 

 

「……ねちゃった?」

 

 

 

 ちゅっ

 

 

 

 *

 

 

 

 さて、ちょっとしたトラブルもあったものの無事修学旅行も終わり、日々勉学に(ストレス解消の)スポーツに励む日々。クラスの男子の間ではなんか一時期木刀がブームになってたけどまあ、男子ってそんなもんだよね。修学旅行んときに行かせた某土産物屋さんのせいじゃないと思いたい。

 エクスカリバーかっけぇ……とか呟いてたのは聞こえなかった。聞こえなかったかんな。

 

 で、クリスマスにショーコと香奈に手編みの毛糸のパンツ(3人分おそろい)を贈って引っ叩かれたり、年始に3人で着物着て写真撮ったり。バレンタインに手作り友チョコをプレゼントして香奈に完勝したりしながら日々は過ぎ去り、ついに小学校を卒業した。

 卒業式の日に有田先生を始めとしたほかの教師児童に私の進路を話したら本気で驚かれた。どうして話してくれなかったのと有田先生に詰め寄られたけど「だって先生口軽いじゃん」と返答したらマジで傷ついた顔してたけど……いままでの言動を省みような?

 そうそう、ショーコと香奈は聖マリアンヌ女学園に進学が決まった。一般入試で合格してみせたのだ。なんだかんだ言って一緒に勉強してたのでがりがり学力が上がってったんだよなー。

 

 そうしてわたしは一路南へ。

 AE社所有のIS研究所へと旅立っていった。

 

 それからの3年間は特に語るほどのものでもない。

 

 ひたすら基礎訓練を繰り返し地獄を見た1年目。

 今日からは応用だと言われて3色覆面やララァ師匠にしごかれてより深い地獄を見た2年目。

 ようやっと一人前と認められて様々な実験や実践にかりだされては精神的にキツイ思いをしながら別ベクトルの地獄を見た3年目。

 

 しんどいけれど楽しくもあった日々は瞬く間に過ぎ去り、15歳の冬。

 いよいよ原作が始まろうとしていた。




人物事典

●湊ちゃん
ゲストキャラクター。実はクロス世界ですよということを示す記号として登場。
実は慧心学園初等部女子バスケットボール部側にも別口の転生者が居たのだが、互いに相手側の原作を詳しく知らないため特に絡むことが無かったという裏設定が。
ちなみにスラムダンクとハーレムビートともクロスしており、この時期に原作が終了、および進行している。

●篠塚先生
40代半ばの既婚女性。バスケ部顧問で学年主任。
厳しくて怖がられつつも慕われている。最近保護者からの妙なクレームが多くて頭が痛い。
元ネタはルペ=シノ

●増川先生
30代前半未婚女性。保健室の先生。
美人だが仕事にしか興味が無い。最近独身男性教師からのアプローチがウザい。
元ネタはセイラ=マス

●有田先生
20代後半未婚女性。雪菜たちの担任。
美人で気さくでおっぱいおおきい。
だが粗忽と言うか迂闊と言うか、いらん一言が多い人なので敵も味方も多くていまいち信頼しきれないタイプの先生。
元ネタはフレイ=アルスター


 *

バスケ交流会のシーンでひたすら書いては消し、書いては消してました。途中で「これISだよ」と気づかなければモット時間が掛かっていたかもしれません。
ともあれ、UA5000・お気に入り160件越えたのは読んでくださっている皆様のおかげです。ありがとうございます。

次からはIS学園編。AE社IS研究所での修行編はキンクリします。書いてたらきりが無いので。


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7話

PS3の超ヒロイン戦記と恋姫無双の格ゲー買いましたが、プレイする暇がありません。
ジムスナイパーK9も作る暇がありません

でも艦これはプレイする
それでは7話、お楽しみください


 ふと、喉の渇きをおぼえて目が覚める。

 布団から身を起こせば、もう3年近く住んでいる2LDKの自室だった。身じろぎする気配を感じて横を見れば、あられもない格好でタオルケットに包まるミーアが横たわっていた。

 

 ――――またヤっちゃった……っ。

 

 額に手を当てて嘆息する。彼女とこうして褥を共にするのもコレが初めてじゃない。もう4……5回目だったかな? 『失恋したミーアちゃんを慰めようの会』が開催されるたびにこうして押し倒されてはご乱行に及ぶ羽目になっている。

 ことの始まりはここで生活を始めて数ヶ月経った頃。ちょうど日本では夏休みに入った頃だったか、IS学園に通っている彼女は専用機の調整などもあって研究所に泊り込んでいた。そんな中、付き合ってた彼氏に振られたとかで基礎訓練課程でぼろぼろになって休んでいたわたしのところに泣きついてきたのだ。なんぼ疲労困憊だったとはいえ、泣いてる女の子を無碍にするのはわたしの矜持が許さない。部屋に招き入れてお茶とお菓子でもてなして愚痴を聞いていたのだ。

 

 そこに酒を持ち込んだバカがいた。

 ノエルである。

 

 少し話がそれるけど、転生して趣味嗜好が変わるというのはよくあることだろう。わたし自身、根っからのオタク系インドア派だったのがスポーツ少女へと転身を遂げているし、周囲の転生者たちも多かれ少なかれその傾向があるとのことだ。

 そしてわたしの場合、もっとも趣向が変わったのがアルコールに関することだった。

 前世においてはビールの350ml缶を1本飲み干しただけでべろべろに酔いつぶれ、翌日にはひどい二日酔いを引き起こしていたというのに。今生ではチートボデーの恩恵か、それともおかんから受け継いだ独逸の血がそうさせるのか、いくら呑んでも潰れるということが無かった。まさしく「ビール? 水だろ」という言葉を体現したのだ、自分自身で。

 無論、酔いはする。心地よい酩酊感に包まれることはあったがそこ止まり。潰れることも、前後不覚になるほど泥酔することも無かったのだ。これはこのとき始めて自覚した。

 そして、自分の酒癖についても自覚したのだ。ぶっちゃけ、酔ってるときは気が大きくなってなんにでもOK出しちゃうとか、マジヤヴァイ。 酔ったミーアが泣いてるのを「さあ、わたしの胸でお泣き」とかいって縋り付かせてあやしていたまではよかった。……そのまま発情したあいつに押し倒されても「……慰めてあげる」とかぬかしたあん時のわたしを殴り倒したい。

 

 翌朝、朝チュン状態で正気に戻って放心していたわたしたちは互いにこの件については忘却しようと約束を交わし、こうなると見越していた元凶(ノエル)をげちょげちょになるまで殴り倒して録画機材を完膚なきまでに破壊したのだった。

 後日、報復でヤツが作製した触手生物がみっしり詰まったプールに突き落とされてひどい目見たけど。気持ちよすぎて死にそうになるとか何処のエ□ゲだ。おかげでその後しばらくの間麺類を見るだけで濡れるようになって大変だったんだぞ。

 

 ともあれ、この一件以来絶対外で酒を呑まないようにしようと心に決めたのだった。うっかり合コンなんかに参加しようモンなら、程よくへべれけになった所に土下座かまされてあれよあれよという間にホテルに連れ込まれて美味しく頂かれかねん。

 そしてなにを血迷ったか、ミーアのやつはそれからも度々失恋しただのなにがしかの失敗をしただのと理由をつけてはうちにやってきてはノエルとレイコさんを巻き込んで酒盛りするようになってしまった。そして大体にゃんにゃんするハメになっていた。そのへんについて一度レイコさんに愚痴ったら「いや、お前が甘やかすからだロ?」と素で返された。げせぬ。

 

 

 そんな風に過去の経緯を思い返していたら眠気も去って完全に目が覚めた。窓の外は日の出前の藍色、ちょっと早いけど朝ごはんの準備でもしとこう。どうせみんな二日酔いだろうから軽いヤツで良いよね。

 その辺に放り投げられてたパンツを穿きなおしてリビングに。湿ってて気持ち悪いががまん、どうせ後でシャワー浴びるんだしそのときに着替えよう。リビングには空き瓶・空き缶に囲まれてレイコさんとノエルが寝てた。どうもヤってる最中に寝落ちしてしまったらしくノエルがタコのごとくレイコさんに絡み付いててうなされてた。ため息一つ吐いて常備してある結束バンドで手早くノエルを拘束する。なんかこういうのも上手くなってしまったなあ。

 レイコさんがうなされなくなったのに満足して洗顔と歯磨き。ノエル? 背中越しに手足を海老反り姿勢で拘束したのが苦しいのかうめき声をあげ始めたけど知るか。放置だ放置。で、さっぱりしたのでキッチンでお湯を沸かす。やかんを火に掛けて、その間に昨夜の酒宴の後始末。今日はゴミの日じゃないからしばらく保管しとかないといけないなぁ。

 そんなふーにがさがさやってたら他の3人も起き出してきた。

 

「……おはよぅ~……。あたま、いたぁい……」

「はいおはよう。そりゃあゆうべあんだけ痛飲してたら当たり前でしょ」

「あの、なんで私拘束されてるの?」

「……二日酔いにならないお前が、心底羨ましイ……」

「それもお酒の醍醐味でしょうに」

「無視された!?」

 

 うるさいよノエル。

 

「コーヒーとうめぼし湯、どっちがいい」

「コーヒー。苦いノ」

「……うめぼし湯。すっぱぁいの……」

「私は「お前には聞いてない」ひどい!?」

 

 お湯が沸いたのでキッチンへ。途中でノエルの体につま先引っ掛けて仰向けにひっくり返す。「肩が!? 腰が!?」と騒ぎ始めたけど知らん。コーヒーとうめぼし湯を淹れて持っていく。ミーアとレイコさんに手渡して、ノエル用のマグにもコーヒーを淹れてやってたので腹の上に置いてやる。

 

「熱っ! 熱いっ!?」

「こぼしたら火傷するから気をつけてね」

「だったらこんな所に置かないで!?」

「……ノエルうるさい……。頭に響くからやめてぇ……」

「扱いがひどい!? あ、でもちょっと気持ちよくなってきた……」

 

 余裕があるな。もうちょっと放置してても大丈夫か。

 そんな風に思いながら朝食の準備。とはいってもゆうべの酒盛りで冷蔵庫の中は空に近い。買出しに行かなきゃならない。今日が1日オフで助かった。まあ、だからゆうべ宴会やってたわけだけど。

 とりあえず残ってた食パンをトースターに放り込み、フライパンに油を引いてほうれん草のおひたしが残ってたので卵でとじる。手抜きだけどさっと作れてそこそこ栄養価が高いんだ。文句は言わせん。

 焼きあがったトーストに自家製マーマレードを添えて卵とじと一緒にリビングに持って行き、オレンジジュースを人数分淹れて、顔を赤らめて達しようとしていたノエルの腹の上からマグカップを取り上げて拘束を解いてやる。ちょうど良いタイミングだったみたいでまた「ひどいっ!?」って言われたけど知るか。床汚されても困るんだよ。汚したら掃除させるけど。

 

 で、もさもさ朝飯食ってたらスタンバイ状態のPCから呼び出し音が。いつもはケータイに連絡入ってくるんだけど、今日はわたし達4人がここに集まってるからスカイプの方を使ったんだろう。とりあえず備え付けてるウェブカメラに適当な布を掛けてから回線を繋ぐ。

 

「おう、起きてるか雪菜。……って、映像来てないぞ?」

「おはようございます、アストナージさん。みんな起きてますよ。さすがに寝起きであられもない姿なんで映像はごかんべん」

 

 実際、わたしはパンツいっちょの上に愛用のエプロン(ライムグリーンで胸元にハロが刺繍されてる)だし、ミーアもレイコさんもTシャツ着ただけとかワイシャツ羽織っただけとかいう格好だ。ノエルに至っては全裸だし。こんな情景アストナージさんに見せたら夫婦間に亀裂が入りかねん。せっかくの新婚さんにそれは不憫というものだ。

 あ、この布ノエルのパンツだ。まあいいか。ちゃんとカメラ遮られてるみたいだし。

 

「ああそっか、そりゃすまん。すまんがちょいと緊急だ。テレビつけてくれ」

 

 なんじゃらほい? と思うが緊急と言うからにはなんかあるんだろう、テレビテレビ~、とリモコン探してたらミーアがつけてくれた。

 

『緊急のニュースです。昨日、日本において男性のIS搭乗適性者が発見されました……』

 

 ……あー、こういうことか。

 

「原作、はじまっちゃうのねぇ……」

 

 ぽつりと呟いたノエルの言葉が全てを表していた。面倒ごとになるんだろうなぁ、コレ。

 

 

 そして1週間後、二人目も発見されたと報道された。

 

 

 

 *

 

 

 

「それにしても、最近私に対してあたりがきつくないかしら?」

「そうカ?」

「というか、付き合いが長い人ほど私の扱いがぞんざいなような……」

「あの、今までの自分の所業を思い返してみてくださいね?」

「……初物おいじゅうございました!!」

「こめかみに膝ぶちこむだけでとりあえず矛を収めてくれる雪菜はかなり人間できてると思うんダ」

「あそこまで性欲に忠実じゃなければ普通に良い人なんだけどねノエルも」

 

 

 

 *

 

 

 

「鹿児島から来ました、飛鳥慎です。よろしくおねがいします。趣味はモータースポーツの観戦、特技は剣道です。ISとか勉強してなかったんで、いろいろわからないんですけど機会があれば教えてください」

 

 ぺこり、と一礼して着席。まばらに拍手が上がるけど、大半の女子は興味でらんらんと眼を輝かせたままこちらを注視している。正直生きた心地がしねー。

 転生してからはや15年。鹿児島のじいちゃん家で剣術に明け暮れてたせいで、IS搭乗適性を特典として貰ってたことをすっかり忘れてた。だから、真由に連れられてISがらみのイベントに行かなければ適性が発覚せず、こんなふうにIS学園に放り込まれることも無かったんじゃないかと思う。

 思うがまあ、過ぎたことはしかたがない。前向きに行こう。今は入学初日のロングホームルームの時間、TVアニメで言う第1話Aパートのシーンだ。

 出席番号が本来の主人公、織斑一夏より前だったから先に自己紹介する羽目になって緊張したが、隣に座ってる銀髪の子が「趣味と特技は? あとなんか一言!」と書いたノートを見せて助け舟を出してくれたおかげで何とか無難にこなせた。

 あんがとな、という意図で片手を立てて見せると向こうも気にすんな、と(いう意味だと思う)笑顔で手を振ってきた。

 ……かわいいなあ。こんなかわいい娘、原作に居たっけ?

 

 そんなふうに首を傾げてると主人公の番になった。童顔巨乳の山田先生に促されて起立し、自己紹介しようとしたけど周囲のクラスメイトからの無言のプレッシャーに気おされている。わかる、わかるぞ。がんばれ!

 と、心の中で応援してると、隣の銀髪ちゃんが指先で机を叩いて主人公の注意を引く。あいつの目線が向いたら、さっきも活躍したノートを見せた。思わぬ助け舟の登場にホッとした顔で「織斑一夏です。特技は家事全般、趣味は……まあ、ゲームしたり漫画読んだり? とにかく右も左も分からないけどよろしくお願いします!」と原作とは違う自己紹介で乗り切った。

 

「クラスメイトに助けられたな。感謝しておけ」

「げぇっ! 関羽!?」

 

 ずぱぁん、とすごい音がした。

 

「誰が三国志の武将か」

「むしろ呂布だよね?」

「あー……」

 

 隣から聞こえてきた呟きに思わず同意の声が漏れた。あ、これやべぇ。

 即座に繰り出された連撃に頭を抱えて痛みをこらえるオレと銀髪ちゃん。

 

「誰が反骨の相か」

「そ、ソッコで反骨とか出てくるあたり……実はけっこう三国志好き……?」

「付き合いで憶える機会があっただけだ馬鹿者」

 

 さらにもう一撃。銀髪ちゃんは完全に沈黙した。

 

 そうして、1組担任織斑千冬先生の訓示に女子一同(一部除く)が嬌声を上げたあと早速授業が始まった。前の席の主人公・織斑一夏はIS学園から貰った参考書を間違って捨てたとかで折檻の一撃を喰らってた。オレもまあ、参考書を捨てはしなかったが、それでもこの内容を消化するのに難儀している。そんで休み時間に金髪縦ロールですわ系のセシリア=オルコットにちょろっと絡まれながらどうにかこうにか授業を乗り切って放課後である。

 

「……つかれた……」

「疲れたなあ……。あ、オレ飛鳥慎。改めてよろしく」

「おう、織斑一夏だ。一夏でいいぜ」

「ああ、オレもシンって呼んでくれ」

 

 すぐに移動する気にならなくてだらだらダベってたら山田先生登場。このひと本当に癒し系だなぁ。

 ともあれ、一夏が寮に強制移住だとかで部屋番号を伝えに来たそうだ。オレ? オレは実家鹿児島だから最初から寮に入ることが決定してたよ。

 そんなわけで連れ立って学生寮へ。後ろからぞろぞろ女子がついてくるけど努めてシカトだシカト。気にしてたら身が持たない。

 寮は2人とも1025.だよなー。男子が2人いるんだから相部屋は当たり前だよな。共同生活にあたって、シャワーの時間やらなにやら軽く打ち合わせして、とりあえず腹減ったからメシに行こうぜ、と表に出たらちょうど左右の部屋からも人が出てきた。

 

「い、一夏っ!?」

「おお、箒。お前隣なのか、よろしくな」

「あら薔子、雪菜」

「あ、香奈ちゃん」

「やっほー、かなーん」

「かなーん言うなっ!」

 

 おおっと、なんか一気に騒がしく。というか面識ある同士ばかりかよ。とりあえず、ご飯食べに行くんだったら一緒に行かないか、と1024の銀髪ちゃんの提案で6人でぞろぞろと移動する。

 ……銀髪ちゃんの同室の子、でけえなあ。いや、胸もだけど背丈も。オレも一夏も170cm超えてるのに、ソレよりも確実に目線一つ分は高いぞ。

 ともあれ、食堂に着いて各々食事の準備をして空いてたテーブルに集合、自己紹介だ。

 

「じゃあまずは私からね。1026号室、3組の浜田香奈よ。よろしく」

「え、ええと。同じく1026号室、1組の篠ノ之箒だ」

「じゃ、俺な。1025号室の織斑一夏、1組だ」

「オレも1組、1025号室の飛鳥慎」

「あたしは1024号室、3組の馬場薔子です」

「最後にわたしか。1024号室、1組の雪菜=シュネーライン。よろしく。呼び捨てでいいよー」

 

 ……やっぱ容姿も選考基準に入ってるだろこの学校。3人とも原作での一夏ヒロインズに負けず劣らずだぞオイ。

 3組の浜田はきりっ、とした美人さんだ。末広がりのボブカットにすらりとしたスタイル。巨乳というほどではないが普通にある胸。篠ノ之箒と同系統だけど、こっちは生徒会長とかクラス委員長とかやらせたら似合うタイプか。

 同じく3組の馬場は長身爆乳、山田先生にも引けを取らない胸にオレらより高い身長。それでいながら下がり眉で雰囲気的にはのんびりした大型犬、といった感じだろうか。

 そして同じクラスのシュネーライン。こいつは文句無しの美少女だ。短く揃えた銀髪からはアホ毛が跳ねてて、大きなたれ目気味の瞳は光の角度によっては金色にも見える薄めのヘイゼルカラー。身長は篠ノ之に僅かに届かないくらいで、女子としては平均くらい? だけど横に居る馬場がでかいから相対的に小さく見える。胸ははっきり言って貧乳。でも服の上からでもふくらみがあるのは確認できる。

 そういえばコイツは制服改造組だ。リボンタイじゃなくてネクタイ締めてるし、穿いてるのもスカートじゃなくてキュロットだ。総合的な印象は明るく元気なスポーツ少女、といったところか。

 

「おう、よろしくな雪菜」

「……一夏、お前すげぇなあ」

「わたし、名字呼び捨てにされるもんだと思ってたんだけど……。というか、男子には女子の名前呼び捨てってハードル高いもんだと思ってたんだけどさぁ……最近の男子ってこうなの?」

 

 こっち見んなシュネーライン。そんなことねぇから。そして一夏は気づけ、篠ノ之が凄い目つきで睨んでることに。ああほら、浜田と馬場が苦笑してるじゃねーか。

 それからはまあ、わいわいとおしゃべりしながら晩飯食ってた。香奈と雪菜(オレも全員から名前呼んでいいと許可貰った)が割と話し上手で、上手く箒にも話を振って会話に参加させてた。

 彼女たち3人は小学校からの幼馴染だそうで、境遇が近い箒もわりと話に乗れてた。よかったな、原作みたいなぼっち気味なモッピーにはならなさそうだ。

 

 で、メシ食い終わったら解散して部屋へ戻る。女子4人は大浴場に行くそうだ。オレらは交代で備え付けのシャワーだよ。羨ましいなちくしょう。

 とにかく、シャワー浴びてさっぱりしたらベッドに転がって参考書を読みながら一夏とまたダベる。意外に話すことがあるもんだ。とはいえ、オレも一夏も今日一日で結構な精神的疲労を憶えている。いくらも話さないうちに睡魔がやってきてそのままばたんきゅー、だ。

 

 

 明日からの学園生活も平穏無事に過ぎて欲しいもんだが、そうも行かないんだろうなぁ……。




 転生者名鑑
●アストナージ=メドッソ
『開発チート』『ラーニング』『超幸運』
0080及び0083世代のガノタ
元はメカオタ系アニメーターで出渕裕とカトキハジメの大ファン
レイバーを開発・普及させ、GMのデザインをジェガンにしたのはこの人の功績
何気にAE社でもトップクラスの重要人物。最近若くて美人でエロい嫁さん貰った。もげろ

●飛鳥慎
『IS搭乗適性』『スーパーコーディネイター』『ラッキースケベ』
ガンダムSEED DESTINY世代のガノタ
割と重度の厨二病患者だったが、転生して祖父にしごかれているうちに治った
彼の祖父はスーパーコーディネイターの身体能力と学習能力を持ってしても歯が立たないほどの示現流の達人だったのだ

 解説
●ミーアちゃんなんで失恋してしまうん?
『超銀河シンデレラ』で恋愛運にマイナス補正
『アルト姫』で同性からの好感度にプラス補正
相乗して録でもないことになってます

●ノエルひどくね?
彼女の性格のモデルは『実行力のある音無小鳥』
良い人ではあるんだ、良い人では。


 *


雪菜はちゃんと専用機持ってます。多分次回でその辺の話が出来るはず。
何か疑問などがありましたらどうぞ


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8話

ねんどまつしんこうなんてきらいだ(うつろ
HGCEストライクルージュもHGBFクロスボーン魔王も作れない……

すごいおまたせしました、もうしわけありません


 虚空を切り裂いて飛翔する。

 周囲は深い濃紺の空。眼下には青く広がる球面。わたしは今高度200kmという高高度、成層圏すら超えた、熱圏と呼ばれる領域を飛んでいた。

 

「センサーに感あり。間に合ったよ」

『OK。それじゃ、ミッションスタートね』

 

 胸元に抱え込んだ相方、ミーアがプライベートチャンネル越しに応える。今回わたしたちが派遣されたミッションは、マシントラブルによって急激に高度を下げて『落下』しようとしているISS(国際宇宙ステーション)をサポートし、無事に地表に落着させることである。

 

 IS、インフィニット・ストラトスが実用化されたこのご時世でもISSは現役だった。

 いやむしろ、宇宙開発用として開発されながら軍事転用されてしまったISのあおりを受けてその重要度はいや増していたのだろう。

 NASAも、JAXAも、ロスコスモスも、IS開発に予算を取られてなお、苦しい台所事情の中コツコツと、地道に研究開発を続けてきたのだ。そんな彼らの努力の象徴。宇宙開発という分野の知の結晶であり研究施設であるISSが著しく高度を下げていると連絡が入ったのが6時間前。

 もともとISS自体は普通に稼働していても大気と重力の影響で徐々に高度は下がっていくものなんだそうだ。それを高度が約280km付近に来たあたりでISS備え付けのスラスターやプログレス補給船なんかのサポートを受けて高度をあげる、という行為を年に何回か行っていた。

 今回はISSを構成するモジュールの一つ、ズヴェズダのスラスターを使って高度を上げる予定だったのだが、何が原因なのか逆噴射に使う予定のスラスターが稼働せず、それどころか別の位置の姿勢制御用小型スラスターがてんでバラバラに噴射を初めてしまい、搭乗員は大混乱。そのまま高度を上げるどころかむしろ急激に高度を下げていったのだそうだ。

 このままだと大気圏再突入ルート、それも突入角度が深すぎて燃え尽きること確定だとかで各国の宇宙開発機関は大混乱。ISSそのものも大事だけど、そこに詰めている人員もまた替えのきかない貴重な人材だ。IS万歳なこのご時世にわざわざ宇宙開発したいなんて変人一歩手前の熱意をもって研究に従事してくれたベテランたちを一気に6人も失うわけにはいかないのだ。

 

 で、解決方法をあれこれ協議した結果、ISに受け止めてもらうという結論に達したのだけれど、この方法にもやはり問題があった。ぶっちゃけ、軍事用ISでさえ高度200kmとかいう高高度にまで移動してISSを受け止めるとなるとスペックが足りなかったのだ。

 ただでさえ秒速7.7kmで移動しているISS。軌道予測して待ち構えてもかなりきっついものがある。

 まあ、そもそも軍部の人間が軒並み尻込みしたという事情もあるらしいのだがそこらへんの詳しい事情は知らない。知らない方がいい。たぶん、きっと。

 

 そこに手を挙げたのがわれらがアナハイム・エレクトロニクス社である。

 わたしとミーアがテストしていた新型ガンダムが投入されることになったのだ。

 

『3,2,1、エンゲージっ!』

「接触成功!」

 

 即座にあらかじめ支持された位置、落下していく方向にISS表面を這うように移動しながら内部に通信を繋ぐ。

 

「お待たせしました。こちら、AE社所属。スターゲイザーガンダム、救助に参りました」

『同じく、ハイぺリオンガンダム到着です!』

『すまない、そしてありがとう。このような危険な任務につき合わせてしまって』

 

 あらいい声、とか言ってんじゃねえよミーア。

 

「いいえ、人類の英知の結晶、失うわけにはいきませんでしょう。では、本格的な作業に移ります。搭乗員の皆さんはしっかりと体を固定していてください」

 

 そのままISSの底面まで移動、底の部分に手をついて背部で二つに分割して細かく機体制御に使っていたメインスラスターをもとのリング状に戻してアームを伸ばして足元に展開。

 一方、ミーアの方はというと互いを繋いでる連結索が切れないよう注意しながらわたしの足元に横たわる。

 

『うん、いい角度。良い眺めだわー』

「うるせえ踏むぞ」

 

 おまえさっきから人の尻捏ね回しやがって帰ったらおぼえとけ。

 

『はいはい。そんじゃまあ、やりますか』

「はいよ。 ――ヴォワチュール・リュミエール、全力稼働」

『アルミューレ・リュミエール出力全開』

 

 

 

「『ガンダム! 最大パワー!!」』

 

 

 

 *

 

 

 

「納得できませんわ!!」

 

 ふぁっ!? ……いかん、ねてた。

 ゆうべはショーコのたわわに育ったおっぱいをひたすら愛でてたらついつい夜更かししちゃったんだよなー。途中で寝落ちしちゃったのは悪かったかな。そのせいか昔の夢見ちゃったぜ。

 昔といっても半年も経ってないけど。あのあと無事アリゾナの砂漠にタッチダウン成功させたのはいいけど、それから事後処理に忙殺されて一か月くらいろくに寝れなかったのが大変だったなー。

 それはともかく、寝てるのを叩き起こせなかった織斑せんせーが「つまらん」的な顔してたのをスルーして声の主の方を見やる。

 英国代表候補生、セシリア=オルコット嬢が何やら気炎を上げていた。

 

「いいですか!? そもそも、クラス代表は実力あるものがなるべきです! そしてそれはわたくしであり、強いて他に挙げるならばそちらのシュネーラインさんくらいのものですわ!!」

 

 おっと矛先がこっちに向いたぞーぅ。一夏やシンをはじめとしてクラスメイト達もこっち見てるし。とりあえず口を開かにゃいかんか。

 

「……あー、知ってるんだ」

「ええ、ええ、存じ上げておりますわシュネーラインさん。あなたがハロウィン事件を解決した一人だということ」

 

 ざわり、と教室の空気が揺れる。あーめんどいことになるかなー、と思ったその時、鋼の救世主が!

 

「え、なんだそれ? ハロウィン事件って」

 

 うん、一夏。お前ある意味すごいよ。

 ほれ、オルコットさんがぷるぷるしてる。

 

「あ、あ、あ、あなたねぇっ!」

「あー、一夏。さすがにその発言はオレも聞き流せねえぞ。テレビ見てなかったのか? 結構な大騒ぎになったんだけど」

「えーと、いつごろの話だ?」

「ハロウィンつっただろ。起きたのは去年の10月31日。解決したのは11月1日未明」

「あー、じゃあ知らねーや。そのころ志望校決めて受験勉強に取り掛かった時期だからテレビとか新聞とか全然見てなかった」

「……おまえなー……」

 

 話を聞いてたオルコットさんが顔真っ赤にしてはる。というかほかのクラスメイト達もちょっとあきれた表情だ。まー、こういうタイプの人って必ず一定数いるもんだけどね。

 

「あー、まあなんだ。追及はその辺で。まあ、興味ない人の認識なんてそんなもんだよ」

 

 前世でも一つ目のロボは全部ザクだと認識してる人とかいたしな。アイルトン=セナは知っててもミカ=ハッキネンがわかんなかったりさ。

 

「あ、ということは雪菜もなんかすごい肩書持ってたりするのか?」

「うん? んー、どうだろう。わたしはあくまでAE社企業専属搭乗者、てだけだしなぁ」

「企業専属?」

「ほら、昨日オルコットから聞いただろ、代表候補生がうんぬんって。あれと同じようなカテゴリ分けだ」

「オリンピック代表候補と実業団選手の違いみたいなもんだけどねー。一般的には代表候補生の方がすごいんだよね」

「公式デビューで宇宙ステーション抱えて超長距離飛行なんていうど派手なマネした人が何か言ってますわ……」

 

 はいみんな、おおーとか言わない。

 つか公式デビューがあの一件だっただけで非公式にはいろいろやってたんだけどな。

 

「ま、まあともあれ? このように実績あるわたくしやシュネーラインさんがクラス代表を務めるのが筋というもの。それを物珍しいからといって極東の……」

 

 あ、お国批判に移行した。

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一不味い料理何連覇だよ」

「なっ……!?」

「料理以外でもネタには事欠かないよな。パンジャンドラムとか」

 

 やめたげて。パンジャンドラムのことに触れるのだけはやめたげて。

 

「わ、わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

「アンタが言うな!」

「最初にバカにしたのはそっちだろうが」

「あー、オルコットさんや。自分は良い、人は駄目の鬼ルールは反感買うだけだよ?」

 

 この発言にはさすがに突っ込まざるを得なかった。まわりの級友たちも苦笑いである。

 そしてオルコットさんは顔真っ赤である。これはくるかなー?

 

「決闘ですわ!!」

 

 はいお約束きましたー。

 

「英国代表候補生、セシリア=オルコットの実力を知らしめて差し上げます!」

「いいぜ、四の五の言うよりわかりやすい」

「こっちもだ。さんざんよその国バカにしといてただで済むと思うなよ」

 

 なんか盛り上がってる。

 私としては正直クラス代表なんかには興味はない。興味はないけど英国のブルー・ティアーズは直接見てみたいんだよなぁ。そういう意味ではちょうどいい機会かな。

 

「おーけー、こっちもその挑戦受けた」

 

「話は纏まったな。では、1週間後の放課後にオルコット・シュネーライン・織斑・飛鳥の4人による試合を行う。場所は……第3アリーナが空いてるな。押さえておこう。では授業を始めるぞ」

 

 今の今まで黙って成り行きを見守ってた織斑せんせーが〆た。ここまで沈黙を保ってたということはどう転んでもいい経験になると踏んだからかな? 山田せんせーは場の雰囲気に呑まれてあわあわ言ってたけど。

 

「シュネーラインさん、あなたのスターゲイザーガンダムとの戦い、楽しみにしてますわね」

 

 一夏とシンに挑発的な言葉を投げてたオルコットさんがこっちにも声をかけてきた。男子二人に対するよりもだいぶ当たりが柔らかいのはこっちをそれなりに認めてるからかな?

 でも彼女にはちょっと悪いんだけど……。

 

「あ、スターゲイザー持ってきてないよ」

「え?」

「だってあれ理論実証機だもん。必要なデータ取り終えたからもう解体しちゃったよ」

「えええ!?」

「ああ、試合に関しちゃ心配いらないよ。ちゃあんと、ウチの新型を用意してるから」

 

 企業専属は、伊達じゃないんだZE☆

 

「授業を始めると言ってるだろうが」

 

 轟音が4発轟きました。

 

 

 

 *

 

 

 

「ああ織斑、お前の専用機だが用意に少々時間がかかる」

「はい?」

 

 3限目。始まると同時の織斑せんせーのお言葉。

 どうやら一夏の専用機を学園が用意するという話のようだ。それを聞いてまたクラスメイト達が騒ぎ始めたところでわたしのカバンの中から着信音が。

 

「……シュネーライン……」

「あ、あはははは……すいませぇ~ん……」

 

 とりあえず電源切るべく携帯を取り出し、誰からかかってきたか確認してみると……げ、社長だ。

 

「すいません先生、ウチの社長からなんでちょっと出てきていいですか?」

「……さっさと出て終わらせて来い」

 

 許可を得たので教室を出て電話に出る。

 ・

 ・

 ・

「せんせ~……」

「なんだ、シュネーライン」

「ウチの社長が先生と1組のみんなに話がしたいそうで……」

 

 やめてくださいその「厄介ごとを持ち込みおって」という目。

 わたし悪くねぇ! わたし悪くねぇ!! とりあえずさっさとスピーカーモードに切り替えて通話できるようにする。

 

『やあやあお久しぶりです織斑先生! AE社のムルタ=アズラエルです!』

 

 あ、シンが吹いた。……まあ、転生者だったらここ驚くところだもんね。やっぱりあいつ転生者だったか。

 周りの生徒たちもざわざわしとる。

 

「……お久しぶりです。ご用件は?」

『HAHAHA! そんなに嫌がらないで下さいよ。今回ご連絡差し上げたのはそちらに通う男子生徒の専用機についてです』

「織斑の専用機については……」

『ええ、存じてます。学園からの発注で倉持技研が開発するとか。そちらではなく、もう一人の方です』

 

 オレ!? とかシンが驚いてる。

 

「……まさか」

『ええ、ウチが用意することになりました』

 

 周囲のざわめきがさらに大きくなる。

 

「しゃちょーしゃちょー、ウチ、男性操縦者にはかかわらない方針じゃなかったの?」

『ああ、雪菜か。もちろん、僕自身関わるつもりはなかったよ。役員会でも同意を得ている』

 

 ここで周りの娘たちが「なんで?」という顔になってきたのでちょっと説明してやる。

 まあ要はパイの奪い合いである。現状、ISコアは467個しかない。それを世の女性約30億人で取り合ってる状況なわけだ。ここで一夏やシンといった男性操縦者が登場した。

 彼らから得られたデータを応用して男性でもISを操縦できる技術を確立できたとして、467機のISを奪い合うのが30億から60億になるだけでしかない。

 ゆえにウチの会社はまずコア量産の研究の方を優先させているのだ。そちらを確立させてから研究を始めても遅くはないし、よそが男性でも操縦できるようになってたとしてもそこらへんは取引でどうとでもなるとウチの会社は考えているわけだ。

 

「だからまー、ウチはそこらへん静観の構えだったはず……なんだけど?」

『なんだけど。……よその会社がなあ』

「なにか?」

『いえね? 彼ら二人のISに使うコアは日本政府が供出してくれることになってるわけですが』

「それは知ってます」

『ええ。で、コアを提供するんだから開発するところはこちらで指定させろと』

「うんうん」

『それで織斑くんの機体は倉持技研で開発するように依頼を出したわけですが……飛鳥くんのほうがだね』

「オレ嫌な予感がしてきたぞ」

『コアは提供するからどこが開発するかは話し合って決めろと』

「「「なげたの……!?」」」

 

 マジか日本政府。屑いな。

 ……いや、シンを放り出してでも一夏のほうに確実に関わりたかった……ということか?

 

『でまあ、そんなふうにエサを投げられたら喧々諤々。会議は踊りまくって大荒れ、その様子をウチの担当者はニヤニヤして見てたらしいんだけど』

「性格悪いなリュミーン」

『「もういっそあそこに押し付けてデータだけ貰おうぜ」という結論で一致団結しちゃったらしくてね』

「リュミーンザマァ」

『まあそう言わないでくれないか。会議終わった後急性の胃潰瘍で病院に担ぎ込まれたから』

 

 マジザマァ。でもまあ納得はできた。

 

「それで、飛鳥の機体はそちらが?」

『ええ、わがアナハイム・エレクトロニクス社が責任もってご用意させていただきましょう。とはいえ、さすがに新型を右から左にポン、と用意することはできませんが……』

「彼は1週間後に試合を控えています。それに間に合わせることは?」

『ふむ、それでしたら……そうですね、間に合わせになりますが、ストライクを1機、用意しましょう。データ取りのための機材を積んだものになりますが』

「あ、ええと、なんかスンマセン」

『いやいや、こちらこそすまないね。せっかくの男性操縦者に間に合わせなんかで。でもストライクも良い機体だよ。そこは心配しないでいい』

 

 3日後の放課後までには学園に届けると約束して通話は切れた。

 で、オルコットさんがこれでまともな勝負になりますわね! とか挑発して織斑せんせーにひっぱたかれてた。そんな騒動を尻目にわたしの携帯に更なるメールが。

 ……アズにゃんめ、厄介ごと押しつけやがって。あとでナタルさんにあることないこと吹き込んでやる。




あれこれ解説

●ハロウィン事件
大体本文中で語った通り。
発生から5か月以上が経った現在でも原因が不明。そのためネット上などではAE社のマッチポンプなのではないかという風説が某天災ウサギ(元凶)の手により流布されている。
そういう小細工してるせいでノエルに所在をつかまれては逃げ出す羽目になっているのだが。

●王留美
転生者関係ない現地産の人。AE社の渉外担当。腕利きだがちょっと性格悪い

●ナタル=アズラエル
アズにゃんことムルタの嫁さん。現地産の人である。
アズにゃんもげろ

 *

そしてこんどはしんじんきょういくなのさうふふ


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