偽典ドラゴンボール・或る戦闘民族の衰滅 (ミナミミツル)
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前編

 これは地球育ちのサイヤ人、孫悟空がこの世に生を受ける以前の物語である。

 

 

 惑星ベジータ。宇宙でも指折りの戦闘種族として恐れられるサイヤ人の星。

 あえてそこに近づこうとするものは少ない。降り立つはおろか、近くを通り過ぎるだけでも危険とされている星だ。

 たった一人だけの乗員を乗せた小さな宇宙船が目指していたのは、そんなサイヤ人の星であった。

 

「なんだ?」

 初めにその宇宙船に気が付いたのは管制を担当する非戦闘員のサイヤ人だった。

 見慣れぬ宇宙船が近づいてくるのを見て顔を顰める。

 モニターに映し出された宇宙船を顎でしゃくって、隣の同僚に尋ねた。

「おい、こんなのが来るって聞いてたか?」

「いや……そんな予定はない。たぶん道に迷った旅行者かなにかだろ。ここがどこか知らないアホだ」

「だよな。下に伝える」

 管制官のサイヤ人は、通信器のスイッチを押して、不審な宇宙船が近づいてくることを発着場の誘導員たちに伝えた。

「『誘導員、そっちに変な宇宙船が降りてくる。乗ってる奴は一応殺すな。あとで調べる』」

『了解』

 

 管制官がそんなやり取りをしている丁度そのとき、その背後を通りかかったのは浅黒い肌のサイヤ人だった。

 隆々と発達した筋肉と体中についた傷は、彼が歴戦の戦闘員であることを示している。

「どうした。何かあったのか?」

「あっパラガス大佐」

 若い管制官は少々緊張して答えた。

 同じサイヤ人でも戦闘員と非戦闘員ではその強さは全く違う。ましてや佐官級ともなれば、数々の文明を滅ぼしてきたサイヤ人のイメージをそのまま具現化したような存在だ。

「何でもありません。どうやら旅行者か何かが迷い込んだらしくて」

「旅行者?」

 モニターに映った宇宙船を一瞥したパラガスの目が大きく見開かれた。

「……バカな! あの宇宙船は旅行者などではない!」

「えっ」

「ボケてないで今すぐ戦闘力を計測しろ! 早く!」

 パラガスに叱りつけられた管制官はビクビクと怯えながらコンソールを操作し、宇宙船の中にいる人間の戦闘力を精査する。

 画面に表示された異常な戦闘力を見て、管制官は思わず声を上げた。

「な、なんだこれ……パラガス大佐、ど、どうしましょう?」

 管制官が振り向いた時、もはやそこにパラガスの姿はなかった。

 

 

 その宇宙船が乱暴に発着場に着陸すると、誘導員のサイヤ人は不機嫌そうに唸った。

 宇宙船のハッチが開かれて中の人間が出てくると、光線銃を構えて告げる。

「手を挙げてこっちへ来い。妙な真似はするな」

 宇宙船から現れた男は、その言葉を完璧に無視してこう言った。

「よお。ベジータ王に会いに来たんだが、いるか?」

「はあ? イカれてるのかお前? 死にたくなきゃ口を閉じろ」

「よせっ!」

 誘導員の声を遮るように荒々しい怒声が響いた。

 その声の主はパラガスである。

「銃を下ろせ! お前らが敵う相手ではないわ!」

 

 パラガスはその場にいたサイヤ人たちを押しのけて男の前に立つと、厳しい目つきで宇宙船から現れた男の姿を観察した。

 斑に黒の混じった灰色の髪、服の上からでもわかる鍛えこまれた体躯。

 そしてサイヤ人とはまた違う、毛量の多い太い尾……。

 全身から発される只ならぬ気配に、パラガスのうなじの辺りが僅かに震える。

 恐れからではなく、戦いの予感を感じた戦士の本能が武者震いを起こしたのだ。

 くくっとパラガスは短く笑う。相手が名乗らずともパラガスには男の正体がはっきりと分かっていた。

「まさか一人で敵地に来られるとは、噂に違わぬ豪胆ぶり。感服しましたぞ。人狼族のオズマ王子」

「話が分かる奴が来てくれて助かる。ベジータ王に用があるんだ。会わせてくれよ」

 オズマと呼ばれた男が微笑むと、その口元から発達した犬歯が覗く。

 戦闘民族サイヤ人の星で無法を通そうとする男もまた、戦闘民族と呼ばれた種族であった。

 

 

 およそ生物は環境に適応しようとする。

 その結果、似通った環境、似通った生活サイクルで暮らす生き物が、全く別の種であるにも関わらず、体の姿形や機能が似る――収斂進化と呼ばれる現象である。

 戦闘種族として知られるサイヤ人は、強靭な体、細菌やウイルスに対する優れた抵抗力、死に瀕した際の超回復など数々の特徴を持つ。

 中でも最も特異な能力は、月が真円を描くとき爆発的な戦闘力の上昇と共に巨大な大猿へと変化する変身能力だろう。これらの能力がサイヤ人を比類なき戦士足らしめている。

 だが、宇宙は広い。

 戦闘種族と呼ばれた一族はサイヤ人だけではない。

 まるで鏡合わせのようにサイヤ人と似た特性を持つ種族がいた。それが惑星ミットの人狼族である。

 そして似た能力と、ピタリと重なり合った生態的地位(ニッチ)を共有するがゆえに、両者の関係は最悪だった。

 仮にサイヤ人が隆盛したのなら、それはすなわち人狼族の衰退を意味する。その逆もまたしかり。

 

 バンッという音とともに王座の間の大扉が開かれた。

 広間の奥は階段状の高台となっていて、その王座には文字通りサイヤ人の頂点に立つベジータ王が頬杖をついて来訪者を見下ろしている。

 その階下にずらりと居並ぶのはサイヤ人の将軍や重臣たち。誰も彼もが油断なくオズマを睨みつけていた。

 しかし、そんな視線など意に介さず、オズマは悠々と歩を進める。その足取りは自信さえ伺えた。

 実際、若き人狼族には怖いものなどこの世になかった。

 

「よう。こうして会うのは初めてだな。サイヤ人のベジータ王」

 オズマは王座のベジータ王を見上げると、会釈すらなく話かけた。

 カっと頭に血が上ったサイヤ人の将軍の一人が思わず口を挟む。

「貴様っ、王の御前だぞ! 平伏しろ!」

「なんでだよ。俺はベジータ王の家来じゃないぜ」

 あまりにも抜き身な言葉。

 無礼な若造にサイヤ人たちは一斉に色めき立ち、今にも飛び掛からんばかりに殺気立つ。

「やめろ」

 ベジータ王の厳かな声がサイヤ人たちを制止した。

 その声は静かだが重々しく広間に響く。

「……人狼族の王子がたった一人でこの星に来るとはいい度胸だな」

 ベジータ王はまるでオズマの器量を測るかのように言った。

 対するオズマは、よく通る朗々とした声で答える。

「へっ。俺が手下を率いてここに来れば、話し合いより先に戦争が始まるだろうが。それに、一度は直接アンタに会ってみたかったからな」

 若輩ながらサイヤ人の王に大して物怖じしない態度に、ベジータ王は僅かに眉を釣り上げる。

 それを知ってか知らずか、王座のベジータ王を見上げ、さらにズケズケとオズマは言った。

「それにもう王子じゃない。この間親父が死んでな、今は俺が正式な人狼族の王、オズマ・ゾム十二世だ」

 ベジータ王は喉を鳴らして一度唸ると、オズマに向かって訊ねた。

「……それで何の用だ、人狼族の王?」

 

「これまでの俺たちの関係は、まあ、良くはなかったな」

 オズマはそう言ったが、だいぶ控えめな表現である。両者が矛を交えたのは一度や二度ではない。

「けど、昔のことは一旦水に流して、新しい関係を作るときが来たんじゃねえか? 少なくとも、しばらくの間は」

「しばらくとは?」

「決まってるだろ。コルド軍を潰すまでだ」

 その一言が語られた瞬間、サイヤ人の将軍たちはざわつき、ベジータ王は大きく息を吐いた。

 それだけでオズマがここに来た理由は十分理解できた。

 

 全宇宙の支配者を自称するコルド大王とその配下の軍勢。彼らは桁違いに強かった。サイヤ人よりも。人狼族よりも。

 サイヤ人はその力の前に膝を屈し、人狼族もまた同様の運命を辿ろうとしていた。

 オズマが惑星ベジータに現れたのは、まさにそのようなときであった。

 

「悪くない提案だと思わねえか? 一緒にあいつらを片付けようぜ」

「一緒にだと?」

 ベジータ王は卓越した戦士であると同時に戦略家の一面も併せ持っていた。

 コルド軍の打倒はサイヤ人の悲願であるが、自分より一回りも二回りも若輩の提案に即座に乗るほど浅はかではない。

 ふん、とその提案を鼻で笑った。

「既に我々はコルド大王と同盟を結んでいる。コルド軍は貴様らの(・・・・)敵だ。我々を利用するつもりだろうが、どんな理由があって我々が貴様らに手を貸してやらねばならん?」

「同盟? 物は言いようだな。俺には隷属に見えるんだが。逆に聞きたいんだが、お前らは今のままでいいのか?」

「サイヤ人とコルド大王は友好的な同盟関係だ。それ以上言うことはない」

「友好的だと? コルドの使いっ走りがか!?」

 オズマは噛みつくように言った。しかしベジータ王は冷ややかに返した。

「その威勢だけは誉めてやろう。だが、それだけでは戦には勝てんぞ。そんなことでは無謀なだけの戦いで自滅するだけだ」

 まるで教師が出来の悪い生徒を窘めるような言葉だった。

 ベジータ王もオズマの提案には興味があるはずだが、伸るとも反るとも言わず、のらりくらりと躱している。

 無謀だ、戦争には勝てないとは言いつつも、『誰と』戦争するかは言っていない。ベジータ王の言葉はあくまで一般論の範疇であり、自分たちがコルド軍に勝てないとは言わない。

 その煮え切らないような態度に逆にオズマの方が苛立ち始めていた。

 

「威勢だけじゃねえ。人狼族には奴らを倒すための秘密兵器がある」

「ほう、それは初耳だ。だが、そんなことを我々に言っていいのか? 味方になった覚えはないぞ。本当はそれをサイヤ人に向けるつもりだったのではないか?」

「……俺たちの秘密兵器はサイヤ人には使わねえさ。というより使っても意味がないしな」

「一応聞いておこう。それはどんな玩具だ?」

「今はこれ以上言えねえ! 俺たちと組むっていうなら詳しいことを教えてやる」

 ベジータ王は大口を開けて笑った。

「ふははは! 口だけの秘密兵器を信じて貴様らと組むだと? 絵空事だ、馬鹿も休み休み言え!」

「馬鹿はどっちだ! ああ!? ベジータ!」

 オズマが感情を剥き出しにして吠えた瞬間、オズマの体から迸るようにオーラが溢れ出て周囲を威圧する。

「このままいけばコルド軍はお前らの力を利用してさらに強くなるぞ! そうなったら誰も倒せねえ! そして宇宙に敵がいなくなった時……お前らはゴミの様に捨てられる!」

「……」

 ベジータ王は押し黙っていた。オズマはさらに続ける。

「いいか、よく考えろ。戦いがなけりゃ戦闘種族なんかなんの価値もねえぞ。俺がコルドなら絶対そうする。そして勝ち目があるのは今だけだ。俺たちと組め。それ以外生き残る方法はない!」

「……オズマ王」

「なんだ」

「言いたいことはそれだけか? 用が済んだらさっさと帰れ」

「お前本気か、ベジータ!? 自分が何を言ってるのか分かっているのか?」

「その言葉、そっくりそのまま返してやろう。この星から生きて帰れるだけ、ありがたいと思え」

 いつの間にかオズマのオーラは萎えしぼんだように消えていた。

 ほんの一瞬だけ苦悶の表情を浮かべたオズマは吐き捨てるように言う。

「分かったよ、サイヤ人は敵ながら骨のある連中だと思っていたが、俺の買いかぶりだったらしい。お前らは好きなだけコルドの召使いをやってろ」

 さっと踵を返し、オズマは王座の間を後にした。

 

 ばたん、と大扉が閉じられると、重臣の一人がベジータ王に進言した。

「陛下、よろしいのですか? このまま奴を帰しても」

「放っておけ」

「で、では、このことを早くコルド大王さまに知らせなくては……」

「奴らの為にそこまでする義理はない」

 ベジータ王はうんざりした調子で言った。

 

 王でなく個人の立場で言えば、ベジータ王はコルド軍に震え上がっている部下たちよりも、むしろオズマの方が好ましいとさえ感じていた。

 今は敵わずとも、自分は虎視眈々とコルドの命を狙う気概までなくしたつもりはない。

 それでもオズマの提案に乗らなかったのは、敵地に一人で乗り込むオズマの猛々しさが仇となると感じたからだ。

 きっとあの若者は死ぬことなど怖くないのだろう。だから易々と自分の命を賭けられる……たぶん自分の種族の命運も。

 血気に逸りすぎていて、仲間とするには危険な男。それがベジータ王の見立てだった。

 もし仮に、この提案を持ち出したのがあの若者ではなく、先代のオズマ王だったら……幾たびも自分と覇を競ったあの男であったら、どうしていたか……そこまで考えてベジータ王は考えを打ち切った。

 死人のことを考えるなど、詮のないことだ。

「人狼族がコルド軍とぶつかってくれるというなら、結構なことではないか。奴らがコルド軍の幹部の一人でも殺してくれたら、その分だけ我々の価値も上がるというものだ。オズマのこせがれのお手並み拝見といこうか」

 

 

 オズマはコックピットに腰を下ろして目的地を惑星ミットに設定すると、あとは全ての操作をコンピュータに丸投げして、怒りを忘れるよう目を瞑る。

 加速した宇宙船が一瞬で大気圏を突破し、来たときと同じくオズマの宇宙船は乱暴に惑星ベジータを後にした。

 

『それだけでは戦には勝てんぞ。そんなことでは無謀なだけの戦いで自滅するだけだ』

 ベジータ王の言葉がオズマの心に重くのしかかる。

 つい先日、オズマは同じ意味の言葉を言われていたのだ。

 彼にそう警告したのは、先代の人狼族の王……つまりオズマの父親である。

 

 

 僅かに欠けた月が浮かぶ晩。

 簡素な東屋で一人瞑想していた王に、オズマは詰め寄っていた。

「コルド軍とは戦わないだと? 本気で言ってるのか親父?」

「そうだ」

 老王はこともなげにそういった。

 髪はすっかり白くなり、その顔は多くの戦いで付けられた傷よりも、年月によって付けられた皴の方が目立つようになっている。

 ただその瞳だけが燻る熾火のような底知れぬ深い輝きを持っていた。

 だが、その目に睨まれても怯むことなくオズマは食い下がる。

「ふざけてるのか? ここにきて臆病風に吹かれるとは、狂狼と呼ばれたアンタらしくもないな」

「ふざけてこんなことを言うか。コルド軍とは戦わん」

「『デパーン』はどうする気だ。もう殆ど完成してるんだぞ。このまま使わずにしまっておく気かよ?」

「その通りだ。どこかに隠しておけ。いつか役に立つかもしれん」

「いつかだと? 俺は納得できねえな」

「納得しろ。これは王の決定だ」

「ふ、王か……」

 オズマが深く溜息をついた。

「なぁ親父、そろそろ引退する時が来たんじゃないか? 今のアンタは老いぼれて戦いにビビってるように見えるぜ」

「……戦いを求めるお前の気持ちは分からぬでもない。だが意気込みだけでは勝てぬ相手がいる。一族を率いる者は滅亡の道を避ける義務があるが、お前のやろうとしていることは無謀な蛮勇だ」

「へえ、王の義務と来たか。だがそれをいうならコルド軍に服従するのが滅亡の道でなくて何だ? あいつらは宇宙から邪魔者を一掃したらすぐに俺たちを滅ぼすぞ」

 くっくっくとオズマは自嘲気味に笑う。

「だって俺たち、戦うしか能がねえもん」

「何と言おうと決定は変わらん。(わし)の決定は絶対だ」

「ちっ。じゃあやっぱり引退して隠居するべきだな、親父」

「教えてなかったか? 人狼族の王に退位はない。王は死ぬまで王だ」

 老王の言葉に、オズマは大げさな身振りで肩を竦めた。

 まるで道化のような振る舞いだが、それはオズマが本当に悲しんでいることを隠すジェスチャーであった。

 父が死ぬまで王だというのなら、自分が王になって一族を率いる方法は一つしかないではないか。

「かぁー。そいつはクソみてえな掟だな、特にアンタにとってはな!」

 

 オズマは一気に全身に力を漲らせた。

 その瞬間オズマを中心に爆発に似た衝撃が走り、老王の座る東屋を吹き飛ばす。

 石造りの東屋は瞬時に崩壊したが、その時にはもうそこに王の姿はなかった。

 

 親父め、思ったより反応が良いじゃねえか。

 それが率直な感想だった。

 まるで空中に見えない壁があるように、白髪の王は空中で直角に跳ね曲がりながらオズマに迫る。

 そのスピードも中々のものだった。

 流石、俺の親父だ、とオズマは感心しながら、まるで他人事のようにその動きを目で追っていた。

「ちぇい!」

 ドスンと重い音がして老王の掌底がオズマの腹部にめり込んだ。

 広げた両足が轍を作りながら、オズマの体が十メートルほども後方に吹き飛ばされる。

「どうした! 老いぼれの拳一つ躱せんようでは人狼族の王になどなれんぞ!」

「あー……一発貰ったのは詫びの印だ。これからアンタにすることへのな」

 父親の実力は戦闘民族の長として申し分ないものだった。老いてなおその力は戦闘力にして八千は下るまい。

 だがそれでも、息子であるオズマに通用するレベルではなかった。

 

「はっ!!」

 オズマの姿がジワリとボヤけ揺れ動いた――老王にはただそうとしか見えなかった。

 全く動きを認識できない。当然回避もガードもできない。

 攻撃されたと気づいたのは、息子の拳が自分の胸をぶち抜く音聞いてからだった。それはまるで大きな果実を割ったような音……。

「がぁぁぁ……」

 いままで体験したことのない痛みに老王の顔が歪む。

 それでも口中から血を滴られながら、老王は最後の言葉を綴った。

 死ぬとしても最後に言っておかねばならいことがある。

「ぐぐぐっ。見事だ……我が息子よ。だが、それでも……コルドと戦うのはよせ……」

 それだけ言って力なく大地に倒れそうになった老王をオズマは優しく抱きとめた。

 そして抱擁したまま、オズマは老王の耳元で呟く。

「何と言われようと俺の考えは変わらねえよ。(おれ)の決定は絶対なんだろ?」

 その言葉に返事をする前に、老王は事切れていた。

 

 

 いつの間にか眠っていたらしい。

 間もなく目的地に到着することを報せる宇宙船のコンピュータのアラーム音でオズマは眼を覚ました。

 右手にはまだ父親の胸を抉った感触が残っている気がする。

「ちっ。どいつもこいつも、いつまで経っても人を小僧扱いしやがって」

 その時惑星ミットから通信が入った。

『オズマ様、こちらで誘導いたします』

「おう」

 オズマはぶっきらぼうに答えた。

 そして宇宙港の管制に誘導されるまま、オズマの宇宙船は着陸場に降り立つ。

 

 ドアが開いてオズマが出てくると、サイヤ人に勝るとも劣らない人狼族の精鋭たちがずらりと並びオズマを出迎えた。

 その中の大半はオズマから見れば年長者である。しかし歴戦の重臣の視線に囲まれても、オズマは気負った様子を見せずいつもの調子で言った。

「いやぁ~……いい話だと思ったんだけどよ、断られちゃったよ。サイヤ人はコルドの靴磨きを止めねえとさ」

 オズマがそういうと、人狼族たちは尖った牙を覗かせて笑った。

 中でもオズマに近い若い世代の人狼族は無邪気ささえ感じる顔でサイヤ人を嘲笑する。

「やっぱり! 猿どもにはそれがお似合いですね、オズマ様」

 そう言ったのはレーバという名の戦士である。オズマより三つ年下の名門出身の上級戦士であり、オズマが幼いころから弟分として可愛がっていた間柄だ。

 オズマは微笑みを見せて答えた。

「いやいや、俺は嘆かわしいよ、レーバ。あの名高いサイヤ人が猿回しの猿にまで落ちるとはよ」

 その皮肉にレーバはキャッキャと子犬のように笑う。

 

「では、当初の予定通りの計画ということで宜しいですか。オズマ様」

「おう」

 オズマの言葉に腕を曲げ敬礼の姿勢を取ったのは人狼族でも一際巨漢の男だった。彼の名はカルヴィン。王家の人間を除けば人狼族最強の男であり、時には王に代わって軍を率いる重鎮である。

「まあ戦力的にはちょいと厳しくなったが、その分頼りにしてるぞ」

「はっ! この命に代えても人狼族に勝利を!」

「ふん、死なないで勝ちをくれよ。王の命令だぜ」

 オズマの軽口にもカルヴィンは大真面目に答える。

「御意!」

 

「さて、ラムはいるかー? おーい、ラーム?」

「はい……ここに」

 オズマが呼びかけるとおずおずと進み出たのは女の人狼族であった。もっともその戦闘力は並みの戦士など比較にならない水準であり、女ながら上級戦士の末席に名を連ねている。

 そしてもう一つ、戦士には珍しく彼女は科学技術にも通じていた。人狼族の使ういくつかの宇宙船の設計に携わったこともある。

「『デパーン』の方はどうなっている?」

「はい。艤装は完了し、現在最終調整を行っています……」

 彼女の声は消え去りそうなほど小さかった。文武両道の秀才なのだが、なぜか気が小さいのである。

 オズマも慣れたもので、ほとんど無意識に聴覚を集中して彼女の声を拾う。

「そうか。『デパーン』は作戦の要だ。実戦投入までに少しでもバリアの出力を上げる方法がないか考えといてくれ。絶対に破壊されるわけにはいかねえからよ。頑丈なことに越したことはねえ」

「はい……」とラムはやはり小さな声で答えた。普通なら不安になるとこだが、オズマはラムを信じて頷き返す。

 

 その時、その場にいた重臣たちの中にオズマは意外な人物を見つけ、目を丸くした。

「タン老師(せんせい)!? おいおいマジかよ」

 視線の先にいたのはひょろりと背の高い痩身の老人だった。

 オズマの祖父の代から仕えていた老臣であり、数多の戦場を駆け抜け、さらにオズマや先王に戦い方を教えた指南役でもあった。

 近頃は体調が優れず、寄る年波には勝てないと半ば隠居していたはずだが……。

「一世一代の大戦(おおいくさ)と聞いて、この老いぼれもいてもたってもいられなくてのう。ま、クソイジイでも何匹か敵を道連れにして死んだらめっけもんと考えて、どうか連れてってくれんかのう」

「タン老師が戦場で死にたいっていうなら、俺は止めえねえさ。存分に暴れてくれ」

「ひゃっひゃ、すまんのう、王様!」

 

 オズマはもう一度集った臣下見渡すと、全員に聞こえるよう大きな声で言った。

「聞いての通りだ! サイヤ人はいねえが作戦に変更はない! コルドの居場所が確認でき次第、俺たちはコルド軍に総攻撃を仕掛ける! いつでもいけるよう準備しておけよ。ミットの人狼族の戦いぶりを全宇宙が見ているぞ!」

「おおおおっ!」

 獣の吠えるような掛け声が惑星ミットの空に響いた。

 戦闘民族の誇りをかけた戦いが始まる。

 

 



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後編

 開戦の狼煙となったのは耳をつんざく轟音だった。

 惑星コルドNo.12という素っ気ない名前を付けられた星の軌道上に、千を超える宇宙船の群れが突如として出現し、それらが宇宙的速度のまま地表へと降り注いだのである。

 灼熱の流星となった宇宙船が、無防備な都市に爆音と破壊をまき散らした。

 しかし、本当に危険だったのは流れ星となった宇宙船などではなく、大気圏に突入すると同時に船を乗り捨てて降下した、狼たちである。

 

「レーバ! お前の部隊は奴らの目を潰せ。レーダーと発電施設を破壊しろ!」

「了解!」

「残りは俺に続け! コルドを引きずり出すぞ!」

 オズマが雄たけびを上げると、そこかしこで人狼族の雄たけびが響き渡る。

 怒号とともに人狼族たちはコルド大王の拠点となっていた都市を強襲した。

 

「な、なんだこいつら!?」

「一人一人が戦闘力千を超えているだと!? 五千を超える反応も一つや二つではないぞ! ま、まさかこいつら戦闘民族の……」

 侵攻に気づいた都市の防衛部隊が、わらわらと人狼族の前に現れた。

 しかし、それら末端の兵は予期せぬ襲撃に明らかに動揺し、何より人狼族を止めるための戦力が圧倒的に不足していた。

「そのまさかだよ」

 防衛部隊の生き残り前には、すでに何十人もの戦闘員を屠っていたオズマが立っていた。

 無意識のうちにコルド軍の戦闘員はスカウトスコープをオズマに向け、その戦闘力を測定する。

「戦闘力一万六千、一万八千、一万九千……バカな、まだ上がっ」

「そんなビビる必要はねえよ」

 戦闘員が測定を終える前にオズマの腕から放たれた気弾が、その場にいた戦闘員を消滅させた。

「数値がいくつだろうと、手前らには関係ないからな」

 

 電撃のようなスピードでコルド軍を蹴散らしながら人狼族はコルドの宮殿へと進撃していく。

 しかし、流石に相手は宇宙の帝王を名乗る男の軍である。第一陣はなんなく蹴散らしたが、次に現れた第二陣の戦闘員の質はがらりと変わっていた。

 人種はバラバラであるが、戦闘民族である人狼族と近い水準の戦闘力――それぞれが宇宙中から集められた猛者であろう。

 そのうちの一人――魚のような鱗の肌の異星人が前に進み出ると、示し合わせたようにオズマも進軍を停止させ、前に進み出た

「何者か知らんが、ここまでだ。このカーマ様の手にかかって死ぬことを光栄に思え!」

「こっちのセリフだ。どこの誰だよ、お前は!」

 二人は気を解放させると、次の瞬間にはぶつかり合っていた。

 それを合図に、対峙していた二つの軍団も大地を震わせ激突する。

 

 

「騒がしいな」

 宮殿の最奥で王座に座る、雄々しい二本角の大巨漢――宇宙の支配者を自称するコルド大王は、宮殿を揺らす地響きに対しぽつりとそう漏らした。

「相手は何者だ?」

「はっ、はい! 斥候の報告によれば相手は惑星ミットの人狼族のようでして……」

 おずおずと侍従がそう答えると、コルド大王は片目を目を吊り上げた。

「ふ、丁度人員整理を考えていたところだ。その程度の相手に敗れるような者は我が軍に必要ない」

 コルド大王がそう言ったタイミングで、唐突に部屋の照明が一斉に消えた。

 恐らく人狼族に発電施設を破壊されたのだろう。

 すぐに予備電源に切り替わり、再び照明は点灯したものの、コルド大王は苛立たしげに尻尾を床に叩きつける。

「例え勝とうが、不甲斐ない戦いした者も必要ないがな」

「さ、左様で」

 侍従は苦笑いを浮かべ同意する他なかった。

 

 

「はああっ!」

「ケェェェェッ!」

 気合を込めながら激突したオズマとカーマは、空中で手四つになりながら互いの力を測りあっていた。

 互角の状態からオズマの力が僅かに勝る。一瞬の隙をついて手を下に引くと、その瞬間ハイキックを放った。

 吹っ飛んでいくカーマに追撃するべくオズマは間合いを詰めるが、相手はその前に態勢を立て直し、カウンター気味にエネルギー弾を放つ。

 驚異的な破壊のエネルギーが込められた光球がオズマの鼻先を掠め、肉の擦れるじゅっという音が聞こえた。

 ちっと舌打ちしながらオズマも連続でエネルギー弾を放つ。

 一発、二発、三発、四発、五発六発七発八発九発十発十一十二十三十四十五十六十七十八十九二十……。

「かあああああああっ!」

「!?」

 オズマの猛攻は途切れない。

 カーマがその意図に気づいたときはもう遅かった。

 一発一発の威力がかなりのものに加え、途切れなく打ち込まれる気弾の閃光は目を塞ぎ、鳴りやまぬ爆音は耳を潰す。

 不意に攻撃が止んだとき、カーマはオズマの姿を見失い、完全に無防備な姿を晒していた。

「ど、どこに消え……」

 ズバンッ。

 その言葉を言い終える前に、渾身の力を込めたオズマの手刀がカーマの首を刎ねていた。

 

「ハァハァ……クソっ」

 オズマは思わずそう自分自身を罵った。

 たった今倒したのは中々の強敵だった。おそらく幹部級の敵であろう。しかしコルドのたかが一配下に過ぎない。

 情けねえ。手下の一人を相手に手こずって、肩で息してやがる。

「中々やるようだな。流石惑星ミットの人狼族といったところか」

「あ?」

 オズマが思考を打ち切り、声のした方に顔を向けると、さらに何人もの相手が控えていた。

 しかも一人一人が先ほど戦った相手と同等の気迫を感じる。くそったれめ。

「だが、そろそろ限界かな? くっくっく。いくら戦闘種族とはいえ、月のないこの星に攻めてくるとは馬鹿な奴らだ」

「おう。俺もそう思うぜ。俺たちが月のないところで戦うなんて馬鹿のすることだ」

 息を整えながら、オズマはあからさまな嘲笑に答えてやった。

「だから、持ってきてやったぜ、月」

「なに……?」

 

 まだ昼だというのに、いつの間にか惑星コルドの大地は薄暗くなっていた。

 地表を照らす太陽が何か巨大なものに遮られ、徐々に欠けていっているのだ。

 コルド軍の兵たちの動揺をよそに、やがてすっぽりと太陽を覆い隠し日食を引き起こしたものの正体こそ、人狼族の切り札、人工衛星『デパーン』だった。

 人工衛星といっても地球人の想像するような代物ではない。

 直径約五百キロの小惑星をベースに、星間移動用のブースターと全方位を覆う強固なバリアシステムを持った移動要塞である。

 特筆すべきは恒星からのエネルギーを吸収し、地表上にブルーツ波と呼ばれる電磁波を放射するシステムを搭載していることだ。

 

 太陽の代わりに人工の月が浮かび、その月は白く淡い光で地上を照らす。

 するとその光を浴びた人狼族の戦士たちに恐るべき変化が生じた。

 体は見る間に膨張し、鼻先は獣のように突き出て、その頬から覗くのは鋭い牙である。腕は前足となり、伸びた体毛が全身を覆う。

 人狼の名の通り、月が暴いた彼らの本性は、山のような巨躯の狼だった。

「ウォォォォォォォォォッッ!!」

 獣と化したオズマが鬨の雄たけびを上げると、それに応えてあちこちで巨狼の遠吠えが響く。

 それは数々の星を征服してきた、死の咆哮だった。

 オズマは目の前のコルド軍の幹部たちに狙いを定めると、それらを本能の命ずるまま引き裂いた。

 

 

「……だ、第二、第三防衛ラインも突破されました。このままのペースではあと十分足らずでここに来るかと」

 部下の報告に、コルド大王は溜息で答えた。呆れてものも言えぬといった風情である。

「ギニュー特戦隊」

 ぶっきらぼうに呟くと、瞬時に大王の前に進み出た五人が特徴的なポーズをとって答える。

 中でもリーダー格のギニュー――二本の角に紫の肌をした、筋骨隆々の異星人は並々ならぬ熱意と忠誠をもって大王へ一礼した。

「はっ! すぐに奴らを蹴散らして御覧に入れます!」

 

 溢れる自信を漲らせ、ギニュー特戦隊の五人が出陣しようとしたまさにそのとき。

「お待ちなさい」

 丁寧な、そしてぞっとする冷たい響きの声が王座の間に響いた。

 声に続いて現れたのは、浮遊する椅子(フローターポッド)に腰かけた小さなコルド大王の生き写し。大王の息子であるフリーザだった。

「ここまで健闘する相手に、私も少し興味が出てきました。人狼族とやらの相手は私がやりましょう」

「……はっ」

 そう答えたものの、ギニューとしては困ったことになった。

 大王の息子であるフリーザの命には勿論従わねばならぬ。だが、自分たちに出陣を命じたのはそのコルド大王なのだ。

 どうすればよいか助けを求めるギニューの視線に気が付いてコルド大王が口を開いた。

「それではギニュ」

「ギニュー特戦隊の皆さんは」

 慇懃な、それでいて有無を言わせぬフリーザの声が、コルド大王の言葉を遮る。

「私が人狼族の相手をしてる間にあの目障りな月を破壊なさい。それでよろしいですね?」

 フリーザはちらりと父の方へ向いた。その目にはややもすると憎しみともとれる反抗的な色がある。

 その目に気づいていないのか、あるいは気づいていながら喜んでいるのか、コルド大王は笑いながらフリーザの言葉を追認した。

「フハハハハ! フリーザの言うとおりにしろ、ギニュー!」

「ははーっ!」

「……では参りましょうか。早くしないとお出迎えに間に合いませんからね」

 背後で行われるコルド大王とギニューのやり取りには目もくれず、フリーザの乗ったフローターポッドは、音もなく王座の間を後にした。

 

 強い戦闘力反応が五つ、こちらに向かってくる……。

 人工衛星デパーンのブリッジで待機していたラムはレーダーの反応が示す反応に表情を硬くする。

 外にはデパーンを防衛する部隊が展開しているはずだが、下級や中級レベルの戦士では例え巨狼になっていても歯が立たないようだ。

 あれが恐らくギニュー特戦隊……コルド軍最強のエリート部隊。

「……ここは頼みました。私が出ます」

 非戦闘員たちにそう告げたラムは、ブリッジを後にした。

「……」

 ブリッジから外に通じるハッチまで。もう幾度となく往復したことのあるはずの通路が、今日はやけに長い気がする。

 相手は格上も格上だ。

「……」

 ラムの背後でエアロックの扉がピシャリと閉まる。

「ギ、ギニュー特戦隊が来る。私たちを殺すために……そしてデパーンを破壊するために……」

 その体は小さく震えていた。

「……私がオズマ様に任されたこのデパーンを……壊す?」

 だがラムは臆病者ではない。恐怖に晒された時、その恐怖に立ち向かうからこそ戦闘民族の戦士として選ばれたのだ。

「ゆ……許さないわ。許さないわよぉぉぉ! ギニュー特戦隊ッッ!」

 普段の彼女とは程遠い、ヒステリックな叫びをあげると、ハッチが開いてエアロック内へ猛烈な風が舞い込んだ。

 風を抱いたラムの髪が大きくなびく。

 もう恐怖はなかく、ただ戦いへの昂揚だけがあった。

 

「おっ前から何か来るな」

 ピピピという安っぽい電子音とともにギニューの顔につけられた通信兼戦闘力測定器(スカウター)――そのプロトタイプは、デパーンからやってくる大きな戦闘力の存在を察知した。

 戦闘力を表す数値は凄まじい速度で上昇し、ある一点を超えた瞬間、過負荷に耐えられなくなったスカウターは焼けこげる匂いとともにバンッという音を立てて爆発した。

「ほう中々強いぞ!」

「下からもです! 何か俺たちを追って上がってくる!」

 そう報告したのは特戦隊の一人であるジースだ。その顔につけられていたスカウターもやはり爆発している。

「ふっ。コルド大王様とフリーザ様に我らの力を示すいい機会だ。行くぞ! ギニュー特戦隊!」

 空中でスペシャル・エリアル・ファイティングポーズと名付けた奇妙なポーズをとると、次の瞬間五人は二手に分かれ、それぞれ上方と下方に向かった。

 

 

「ウォォォォォォォッッ!!」

 雄たけびを上げて狼の姿となったラムは敵影に向かって突進した。

 電光を超えるスピードで全速力で降下しながらも、ラムの狙いは決してぶれない。

 補足した敵の動きをを正確に捉え、その体に噛み砕くべく、大きく口を開く。

 巨狼となったラムの戦力は戦闘力にして五万を超える。

 その一撃から逃れられるものはいない――今日、という日が来るまではそうだった。

 

 激突の瞬間、衝撃が大気中を駆け巡り、必殺の一撃は初めて防がれた。

 ラムは驚愕して目を見開く。

 両腕で牙を掴み、噛み砕かれるのを防いだのはギニュー特戦隊の中でもパワーとタフネスに優れる男リクーム。

 双方の力は拮抗していたが、精神的に余裕があるのはリクームの方だった。

 ラムの動揺をよそに、当然だといわんばかりに唇を釣り上げる。

「ほう、中々やるじゃねえか!」

「がああああああああっ!」

「おっ」

 咆哮と共にラムの口から激しい閃光を伴う怪光線が吐き出された。

 回避する間もなく、小さな惑星ならば欠片さえも残らないほどのエネルギーがリクームの全身に浴びせられる。

「がああああああああぁぁぁぁっっ!」

 閃光は丸々三十秒も周囲を照らし続け、そのあまりの威力は大気を通じて人工衛星デパーンをも揺るがした。

 

「へっへっへ。躾のなってないワンちゃんだぜ」

「!?」

 攻撃が収まったと同時に耳障りなだみ声が聞こえ、ラムは耳を疑った。

 今の攻撃は紛れもなく全力の一撃だった。それをまともに受けてまだ戦えるというのか……。

「お返しだ! リクーム・イレイザーガン!」

 まるで先ほどの光景が逆になったかのように、今度はリクームの口中から吐き出された怪光線がラムの体を焼き焦がした。

 全身に痛みが走る。しかしラムは歯を食いしばってリクームの攻撃に耐えた。こちらだってまだ戦える!

「グルルルルル……!」

 歯を剥き威嚇しながら間合いを詰めようとした時、無数の光弾がラムの体を打ち据えた。

 その攻撃を放ったのは小柄ながら多彩な特殊能力を持つ特戦隊の一人グルドである。

「がああっ!」

 ラムは怒りに任せその前足でグルドを引き裂こうとした。

 しかしその攻撃は無様にも空振り、グルドはいつの間にか背後に回り込んでいる。

 ラムは素早く反転し、今度は牙を突き立てようと大口を開く。

 だが、歯の噛み合うガチンという音がして、またも空振り。

 奇妙な感覚だった。攻撃が当たる瞬間グルドの姿が消えるのだ。

「おい、どこを見ている。俺様はここだぜ?」

「ウウウウウ……!」

 唸りをあげながらラムはグルドの動きを観察しようとした。

 何かがおかしい。

 しかし、今度こそは見切る。今度こそ、この手で引き裂いてやる。

 怒りの咆哮を上げラムはグルドに飛び掛かった。

「グアアアアッ!」

 ラムとほとんど同時にグルドも甲高い声で気合を発する。

「きえええええーーーっ!!」

 

 巨狼の爪が届いていたのなら、グルドの体はバターのように切り裂かれていただろう。

 だがその爪がグルドの体に触れる刹那、不可視の力がラムの動きを完全に封じ込めていた。

「が……が……!」

 全身に力を込めて、ラムはその戒めを打ち破ろうとした。しかしどうやっても体が動かない。

 目の前に敵がいるのに動けない。狂おしいほどのもどかしさを感じながら、ラムは身を軋ませた。

「ぐ……が……!」

「中々楽しめたがこれまでだな。リクーム・ウルトラ・ファイティング……」

 金縛りにされたラムの目の前で、リクームは不思議なポージングをしながら悠々と気を練り上げる。

「……ボンバァァァァ!!」

 その声と同時にリクームは、溜め込んだ気を一気に解放した。

 放出された莫大なエネルギーは一瞬で膨張し、凄まじい大爆発を引き起こす。

 目も眩む爆発が収まった時、力尽き焼き焦げた狼の死体が一つ音もなく地上に落下していった。

 

 

 ラムがリクームとグルドと戦っていた頃、それの少し下方でギニュー特戦隊のジースとバータと戦っていたのは人狼族の新鋭レーバである。

 ラムよりさらに一回り上の戦闘力を持つ青年は、特戦隊二人を相手どり互角以上の戦いを繰り広げていた。

「クラッシャーボール!」

 特戦隊の一人ジースは、練り上げた気弾をバレーのスパイクのように放つ。

 放たれた気弾を紙一重で躱しながら、レーバは一気に間合いを詰めてジースへと腕を伸ばす。

 とっさに防御したものの、まるで鉄のこん棒で殴られたかのような鈍い衝撃がジースを襲った。 

「ぐっ! あの巨体でなんてスピードだ、このヤロウ……」

「はぁぁぁぁ……」

 無数の火花が散る攻防の合間に、巨大な狼は深く息を吐くとニヤリと笑う。

「はははは、口ほどでもないね。これがあのギニュー特戦隊かな!」

「貴様!」

「落ち着けよジース」

 そう言って仲間を宥めたのは特戦隊一の巨漢にして、その体格に似合わぬ超スピードを誇る青肌の異星人バータである。

「準備運動は終わりだ。そろそろ俺たちも思いっきりやろうぜ」

「ちっ。こんな野郎に本気を出すとはな」

 バータの何気ない一言は、レーバのプライドに障った。

 思わず首をかしげて聞き返す。

「誰の動きを見切ったって?」

「勿論オレさまの目の前にいる犬っコロの動きに決まっているだろう……ギニュー特戦隊! 青いハリケーンッ!バータ!」

「ギニュー特戦隊! 赤いマグマッ!ジース!」

「ふふふバカだなぁ! 宇宙最速の種族、人狼族のスピードを思い知れっ!」

 

 レーバが叫んだ刹那、体長二十メートル近い大きさの巨狼は残像だけを残し周囲から消えた。

 同時にベータの眼球がギロリとレーバを追って動いたかと思うと、バータもまた姿を消す。

 戦う両者の姿が消えたまま、ドンドンとぶつかり合う拳撃の音だけが周囲の大気を揺るがしていた。

 

 超高速の戦闘。それは思考や意識が圧縮された濃密な時間の中での戦闘である。

 その時間の中でレーバはえも言えぬ至福を味わっていた。

 何度打ち合い体をぶつけあっても、パワーもスピードもこちらが優っている。

 自分はギニュー特戦隊にだって勝てる!

「ガアアアアアッ!」

 これまでにないスピードで空を駆け、レーバはバータへと突撃した。

「甘いっ!」

 声など聞こえるはずのない高速戦闘の最中、レーバはバータがそう叫ぶのを聞いた。

 刹那バータの速度がさらに一段階上がる。

 闘牛士のように身を翻してレーバの攻撃を避けると同時に、交差の瞬間バータはレーバの横顔を殴り飛ばす。

「がっ! なに?」

 ダメージよりも速さで負けたことがレーバの癪に障った。

 怒りに燃えるレーバは首を伸ばして迫るが、やはり後退するバータの速度の方がほんの僅かだけ速く攻撃が届かない。

 数値の低い戦闘力の人間たちからすれば、その差は無きに等しい程度の差である。

 しかし圧縮された密度の濃い時間の中、身を削るギリギリの攻防においてその差は果てしなく大きかった。

 レーバにはバータの動きは見えている。だが体がそれに追い付かないのだ。

「クックック、宇宙最速の人狼族か。ならば今日からオレが宇宙一のスピードを持つ男だ!!」

 全身からオーラを爆発させたをバータが迫る。

 それを噛み砕こうとレーバは牙を剥いたが、一瞬早く懐に潜り込んだバータのパンチが腹部に突き刺さった。

「おっ……よ、よくも」

「よそ見していていいのか?」

「な……」

 懐で囁くバータの言葉でレーバが状況に気が付いた時には全てが終わっていた。

 いつの間にか回り込んでいたジースがレーバの尾を斬り落としていたのだ。

 尾は人狼族の力の源である。それを切り裂かれた今、人工衛星から降り注ぐ光はもはやレーバに力を与えない。

 ガクンと体が震えたかと思うと、変化が始まった。狼の姿から人の姿に戻っていく過程で、大量の力が失われていくのがレーバ自身にも分かる。

「これで終わりだな」

「へっ最速の称号だけ貰っていくぜ」

 レーバが最後に見た光景はそう自分を嘲笑するバータとジースの顔だった。

 青い風が吹くと、鮮血と共にもぎ取られた戦士の首がころりと落ちた。

 

 迎撃を部下に任せたギニュー隊長は、一人デパーンに向かって高度を上げていた。

 そしてついに目の前までたどり着くと、小手調べの気功波をデパーンに向かって放つ。

 しかし、デパーンのバリアシステムは衛星本体にぶつかる前に、その攻撃を難なく弾き返してしまった。

「ほほう。流石にそれなりの準備はしてあるようだな……」

 フッフッフ、と笑いながらギニューは全身に気合を込めた。

 通常ではありえないほどの急激な戦闘力の上昇が起こり、周囲の大気がビリビリと唸りを上げる。

「ひっ……」

 デパーンのブリッジで非戦闘員達が短い悲鳴が上がった。

 デパーンのバリアシステムはおよそ戦闘力十万の攻撃を受けることを想定している。しかしその時観測されたギニューの戦闘力はその想定を遥かに超えていた。

「はああああああっ!!」

 ギニューの野太い叫び声と共に、瞬く閃光が走る。その一撃はデパーンのバリアを一瞬で貫通し、急激に膨張した光はデパーンそのものを飲み込んだ。

 惑星コルドに現れた月は、一瞬火の玉のように燃え上がったかと思うと、大爆発と共に跡形もなく消滅した。

 

 

 地上ではさらに凄惨な戦いが起こっていた。いや、果たして戦いと呼べるものだろうか。

 

 なんだ?

 何が起こった?

 オズマは自分にそう問いかけていた。状況の理解が追い付かない。

 つい先ほどまで自分たちはコルド軍を圧倒していた。それが……ただの一撃。ただの一撃で状況が変わった。

 アイツは一体なんだ!?

 

 オズマはコルドの血族らしい小さな男を凝視した。

 突然現れたあの男が右腕を軽く横なぎに振るったかと思うと、その動作の先にいたものは、人狼族も、コルド軍も全て切り裂かれたのだ。

 一瞬で大地に血の海が出現し、生き残ったのは僅かな殺気を察知して空へと逃れた自分とカルヴィンの二人だけ。

 ギニューをも超える戦闘力……恐らくあれがコルド軍の最高司令官……。

 

 両軍を虐殺した男は死体で積み重なった血の海をゆっくりと渡りながら、熱を全く感じさせない冷え切った目で、オズマとカルヴィンを見上げる。

「ほう。二人も逃れましたか」

 その目で見つめられた瞬間、オズマの体はかつて味わった事のない感情に揺さぶられた。恐怖である。

 オズマがコルド軍最強の男――フリーザに戦慄したその時、突然引き裂かれた狼の死体がばっと宙に舞った。

 骸の山に潜み機を窺っていたタン老師の奇襲である。

 フリーザの背後から飛び掛かった老戦士のタイミングは完璧といって良かった。

 しかし次の瞬間、フリーザかの指先から発せられた一筋の光がタンの体を貫いたかと思うと、即座に激しい爆発を引き起こし、老狼をその場にいくつも転がっていたのと同じ肉片へと変えた。

 うめき声を上げる暇さえ与えぬ作業的な殺人だった。

 

「ク……クソ。あ、あの化け物は一体なんだ!」

「姿形から見てコルドの一族でしょう。だがこれはあまりにも強すぎる……」

「まだだ……やるぞ! カルヴィン!」

「はっ!」

 二匹の狼は勇気を奮い起こし、体中に力を滾らせた。

 カルヴィンは絡みつく恐怖を振り払うようにただ全力で空を走る。

 巨狼の中にあって一際巨大な黒狼は、歯を剥き出しにしてフリーザへと迫った。

 

 再びフリーザの指先から死の光線が放たれる。

「来たっ!」

 それはまさに瞬きほどの速さで訪れる死……しかし二頭の狼は必死でフリーザの光線を避けると、お返しとばかりに口から極大の破壊光線を放った。

 その攻撃は惑星コルドそのものを吹き飛ばすのに十分な威力だったが、それだけの攻撃を前にしてもフリーザはただ怪しく口の端を釣り上げただけだった。

「ふ」

 フリーザが嘲るような表情で手をかざすと、フリーザの周囲を囲むように巨大な半球体のバリアが出現した。

 次の瞬間、千の雷が一斉に落ちたかのような轟音と爆発が惑星コルドに響き渡ったが……それだけだった。

 フリーザのバリアはまるで雫をはじく傘のように、オズマとカルヴィンの破壊光線はあっけなく防いでいた。

「……!」

「く、く、くっ! クソったれがあああああ!!」

 オズマは先の攻撃でずいぶん消耗していたが、それでも残ったなけなしのパワーをかき集めさらに練り上げようとしたその時、突如隣にいたカルヴィンが肉片に変わった。

 突然カルヴィンの体が爆ぜたとしか言いようがない現象だったが、唖然としながらも、オズマはその原因を目で追うことができた。

 

 なんてことはない。

 あのコルドの血族がただ近づいて殴っただけだ。

 ただ問題は、指から放つ光線などより、あのコルドの血族本体の動きの方が遥かに速い……というだけ。

 まるであの男の纏う冷たい雰囲気が触れたかのように、オズマの背筋が粟立つ。

 

「があああああああああああああああああっ!!」

 戦慄を否定するかのように本当に一個の獣になったかのようにオズマは咆哮を上げ、フリーザへと躍りかかった。

 サイヤ人に勝るとも劣らぬ戦闘種族、人狼族の雄たけび。

 それは宇宙の至る所で死と恐怖をまき散らしてきた。あらゆる存在がその雄たけびに震え上がった。

 そしてこの時のオズマの咆哮は、それまでの人狼族の歴史でも最も力強く、最も覇気に満ち、最も熱い叫びだった。

 しかし、この時対峙していた男にとっては、何一つ感じるものがなかった。

 まるで熱というものを持たないかのように叫びを無視して、ゆるりと歩を進める。

 

 牙がフリーザに届く前に、オズマの頭部が跳ね上がった。

「ぎっ!」

 視界が暗転し途切れかけたオズマの意識を闘志が繋ぐ。

 冗談じゃねぞ。ここまでくるのに親父まで殺したんだ。そう簡単にやられてたまるか。

 

 次の攻撃は……多分わき腹を蹴られたのだろう、とオズマは思った。

 体が勢いよく吹き飛び、痛みで息ができなくなった時ようやく攻撃されたことに気づいた。

 そのまま受け身も取れず地面に叩きつけられたが、その衝撃のおかげで意識を保つことができた。

 ズキズキと体が痛む。だが痛むということはまだ生きているということだ。

「おやおや、まだ生きているのですか? なかなかしぶといですね」

 コルドの血族がこちらを見下して笑う。

 追撃が来る。離れないとまずい。距離を取らなければ。

 頭ではそう思っていたが、体はその命令を拒否した。逃げられるわけがない。

 反対に、オズマは気を練り上げると、これが最後とばかりに口から破壊光線を放った。

「ウウウウオオオオオオオオオッッッ!」

「ほう。これはこれは」

 命を削る覚悟で振り絞った最後の一撃でさえ、フリーザには僅かに表情を和らげるという反応しか引き出せ事はできなかった。

「ほっほっほ」

 フリーザが軽く手を振ると、オズマの全身全霊を込めた一撃はあっけなく霧散する。

「……ッ」

 全然効きやがらねえ。だが何度でもやってやる。さあもう一度だ。クソっ! さあやるぞ。

 

 オズマが自分にそう言い聞かせもう一度気力を振り絞ろうとしたとき、背後で凄まじい爆発が起こり、激しい閃光が惑星コルドの大地を照らした。

 途端にドクン、と心臓が強く脈打つ。

 全身から力が抜けていき、それに比例するかのように、巨大な狼の姿であったオズマの体はみるみる縮み、人間の姿へと戻っていく。

 原因は言わずもがな、ブルーツ波の光を放射していた人工衛星デパーンが破壊されたのだ。

 

 つまりラムとレーバも殺されたか……!

 体から力が抜けていく以上に、心に絶望が広がっていく。

 背後には同胞の屍の山。空から降り注ぐ月の残骸。

 みんな死んだ。ラムもレーバもカルヴィンもタン老師も。

 親父も、秘密兵器も、将軍たちももういない。

 みんな俺が地獄に叩き落したんだ……。

 

 膝をつきながら、オズマは完全なる敗北を悟った。

 負けた。どうしようもねえくらい惨敗だ。

 結局、父やベジータ王が正しかったということか。コルドに組み敷かれるのが人狼族やサイヤ人の歩む運命だったのか。

 コルド軍と戦うのは間違いだったのか。

 

「中々の強さでしたよ」

 絶望に打ちひしがれたオズマにフリーザは奇妙なほど穏やかに話しかけた。それはまさに悪魔の囁きである。

「どうです? このまま殺されるより私の部下となって働きませんか?」

 オズマは思わず吹き出しそうになった。

「はっ……俺はずいぶんアンタらのところの連中を殺したんだぜ。そのことを分かって言ってるのか?」

 指摘されてようやくフリーザはそのことを思い出したようだった。

「ああ、そのことですか。もちろん貴方たちが部下たちを殺した事については目を瞑りますよ。どうせ生きててもゴミでしたから。それよりあなたが部下になってくれた方がずっと役立つでしょう」

「……ありがとよ」

 オズマは心の底から安堵した。

 絶望の淵にあって、フリーザの言葉はただ一つの救いだった。

 

 負けはした。

 だが、聞いたかベジータ。聞いたか親父。俺は間違ってはいねえぞ。絶対に。

 こいつやコルドは、やっぱり俺たちをすり切れた雑巾みたいに捨てる。なのに戦わずに滅ぶなんて、そんなことはできねえ。

 膝をつきながらオズマはこちらを見下ろすフリーザを見上げ、力強く宣言した。

「テメーの部下なんか死んでも御免だ」

「はあ、あなたもゴミですか」

 フリーザの指先から一条の光が奔り、オズマの心臓を貫いた。

 

 

「待てよ……!」

 フリーザがその場から去ろうとして踵を返した瞬間。

 オズマは二つの足で立ち、フリーザを呼び止めた。

「……まだ、生きてるぜ」

 ゴボゴボと口から血を垂らしながら、オズマはフリーザをあざ笑った。

 それはオズマの最後の意地であり。命尽きるまで相手に歯向かうという矜持がオズマを支えていた。

「かははっはは……しはっ支配者サマでも、なんでも思い通りにならねえな……俺はまだ生きてるぜ……ゴホッゴホッいつかお前を」

「しつこいですよ」

 眉間にしわを寄せたフリーザは右手から気功波を放った。

 苛立った分少しだけ力を込めて放たれたその攻撃は、今回の戦闘で敵味方双方が使った全エネルギーの総和に匹敵するほどの威力が込められている。

 恐るべき攻撃の輝きが収まった時、そこにオズマという男が存在した痕跡は皆無であった。

 

 もう狼の雄たけびは聞こえない。

 ただ冷たい静寂だけがあった。

 

 エピローグ

 

 宇宙から人狼の雄たけびが消えて5年後。

 

「第七星域で起きた反乱ですが、先ほど鎮圧が完了しました」

「そうですか。ご苦労様です、ザーボンさん」

 側近のザーボンから報告を受けたフリーザ――コルド軍改めフリーザ軍となった組織の総帥は、何かを考えこむように暗黒の宇宙を眺めたまま答えた。

「なにか変わったことはありませんでしたか?」

「いえ、特には……あっ」

 そう言いかけてザーボンはあることに思い至った。

「なにか問題でも?」

 フリーザが窓から目を離しザーボンの方を振り向いた。

 その目に射すくめられただけで、ザーボンの背筋が震える。

 しかし、別に大した事でははずだ、殺されるほどではないと自分に言い聞かせ、ザーボンは慎重に言葉を選ぶ。

「そういえば、反乱者の中に何人か人狼族がおりました。もちろん始末したので、問題になるほどではないと思われますが……」

「人狼……? ああ、そういえばいつか戦ったことがありましたね。確かサイヤ人に似た戦闘種族……」

 そこまで言ってフリーザは呆れるように溜息をつく。

「全く、父の仕事の甘さには反吐が出ますよ。グダグダと交渉など試みたせいで先制攻撃を許し、その上多くの人狼族は母星を離れ宇宙のどこかに消えてしまった……おかげでこうして私が尻拭いをしなければいけないとは!」

「……はっ」

 フリーザの機嫌を損ねるような答えは出せず、かといってあからさまにコルドへの批判に同意することもできないザーボンは曖昧に返事をした。

 その微妙な態度に気づいたそぶりもなく、フリーザはさらに続ける

「全ては父の判断の遅さが原因……ですが、私はそのように甘くはありませんよ。不要になったゴミは奇麗に片づけて見せます」

 そこまで言ってフリーザは一転して笑顔を見せた。

「知っていますか、ザーボンさん? どんな醜い星でも消える時は美しく輝くんですよ」

「は、はい」

 フリーザの真意を測りかね、ザーボンは再び歯切れ悪く頷いた。

 一体、このお方は何を考えているのだろうか。

「ふふふザーボンさん、サイヤ人たちに召集命令を出しなさい。全てのサイヤ人は惑星ベジータにて待機せよ、とね」

「!?」

 その言葉でフリーザの意図に気が付いたザーボンは思わず目を剥いた。

「で、では、惑星ベジータを……」

「ええ。戦闘種族とやらは反抗的ですからね……人狼族もそうでした。そういえば、最後の男を殺す時に何か言いかけてたような気もしますが」

 フリーザは一人ごちるように呟いた。

「まあどうでもいいでしょう。それより奇麗な花火が見られるといいですねえ。フフフ」

 

 

 To be continued……?

 



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