光の女神 (うどん麺)
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プロローグ 終焉、転移

 

 

 

俺は転生をした。

 

いきなり何を言っているんだ?と思うかもしれないが、したんだ。それが紛れもない事実。

 

しかし、転生した先が最悪だった。2110年。未来の日本に産まれた俺は河野観月(こうのみつき)と言うらしい。

 

それは別にいいのだ。ただ、未来に転生しただけと言うならば前世よりも暮らしは良くなると思っていた。その通り、確かに暮らしはよくなった。ただ、それは俺が富裕層と言われる階級に産まれたからであった。

 

それに、既に地球は有毒な空気で覆われており、専用のマスクをつけていなければまともに外にも出れない最悪な未来であった。

 

ここでだ。俺は気づいてしまった。ここが、オーバーロードの世界だと。

 

一瞬は歓喜した。そう。ほんの一時期だけは。しかし、俺は貧困層の暮らしを、いや、労働環境を見てしまった。

 

それを一言で表すなら、奴隷。それが一番相応しいと思えるような労働環境だった。俺は吐き気がした。

 

俺の生きていた世界ならば、ここまでは酷くない。それこそ、ブラック企業と呼ばれるような会社でさえ、ここよりは数倍もマシに思える。

 

しかし、やはり富裕層に産まれたが故の使命だろう。やはり、俺は人を扱う立場の経営者となった。そう、父親の後を継いだのだ。その時俺は20歳。つまり、2130年。その時、『ユグドラシル』は最盛期を迎えていた。勿論、俺もやっていた。自分の心を癒すために。

 

もう、オーバーロードの世界だとかそんなのはどうでも良くなっていた。ただ、ひたすらにこの地獄のような世界から逃げたくて、ゲームにのめり込んでいった。

 

そんな俺を父親は可愛いがってくれた。俺が不安にならないように最大限のサポートをしてくれた。俺の手腕もあってか、父親のサポートもあり、俺の会社は日本でも有数のものになった。何故?それはこの世界で食料を生産したから。この、死の大地では植物は育たないが、専用の外界から隔離した栽培施設で育てたそれは、より良い食を求める人々に瞬く間に広まり、それは世界に及んだ。つまりはそう言うことだ。人間は食べ物には言うことを聞く。

 

半ば逃避するようにゲームに入り込んだ俺は、ゲームでは女のアバターを使った。何故?それは、現実と切り離す為。少なくとも、違う世界であると自身が認識するため。

 

だから、金もつぎ込んだ。幸い、金なら腐るほどある。何せ、社長だ。それも大企業の。だからだろう。俺の心には不思議と余裕があった。

 

だって、父親も母親も、こんな俺をとても愛してくれたから。それだけで俺の心は支えられた。だから、ゲームに安心してのめり込めた。

 

そうして、所謂廃プレイヤーと呼ばれる、最初期からプレイするプレイヤーとなった俺のメイン種族は“女神”。この種族に至るまで様々な苦労があった。

 

人間種から初め、下級天使に転生し、更にそこから熾天使(セラフ)へと階級を上げた。この階級上げはとても苦労した。それこそ、最上位に至るまでにゲームを始めてから丸三年もかかった。これを、たった三年と取るか、三年もと取るか人により別れるだろう。しかし、このあと女神に転生するのが一番大変だった。

 

 

その条件、『七罪の魔王』の内、どれか一体の単騎討伐。

 

これが無茶苦茶だった。俺は原作の設定でこれらがワールドエネミーだと知っている。だから、これの単騎討伐がいかに無謀か理解している。今まで、俺が知る限りワールドエネミーは討伐されていない。

 

当初、女神への転生フラグを知った俺は舞い上がった。いや、正確には魂の昇華という設定だが。

 

だからこそ、俺はそのワールドエネミーを倒すために最大限準備と努力をした。

 

そのワールドエネミーと戦うに際して、一番幸運だったのは俺の主な職業(クラス)が信仰系で、相手の弱点だった事だろう。

 

そして、成し遂げた。プレイヤースキルを要求されるのは勿論のこと、様々な回復アイテムやバフアイテム。このワールドエネミー戦だけで課金額が十万を越える。

 

しかし、俺は女神、『神』に至ったのだ。勿論、ゲーム内であるため偽りの神と言うのは確かだけど。

 

それでも、この女神と言う種族はぶっ壊れだった。先ず明らかに可笑しいのがこれの種族スキル。

 

『聖光の女神』このスキルだけで、信仰系の位階魔法と超位魔法の威力及び効果範囲に250%の補正。しかもパッシブだった。

 

他にも防御系だと『天界の加護』これは、相手の合計レベルに関わらず全ての物理的、魔法的ダメージを問わず30%カットする。それは防御貫通の攻撃も関係ない。これもパッシブである。

 

そして、俺のメイン職業は『神聖の神子』これも、取得条件が面倒だったがそれはここでは割愛する。その効果は主に信仰系超位魔法の回数制限撤廃。その代わり元々の上限回数以降の超位魔法発動は魔力を消費するが。それでも異常に強力だ。それに、私はガチガチの後方能力構成(ビルド)なのだ。勿論魔力量の桁が違う。多分、モモンガのそれより多いだろう。いや、確実に多いと言える。他にも神器装備や世界級アイテムの効果でとてつもないことになっている。

 

神器『女神の御衣(ミュイア・ナ・バンディア)』胴防具であるこれは、完全に布であるが、その防御力は神器の名に恥じない。

 

武器はワールドアイテムを使わなくもないが、強力過ぎるため神器を普段使いしている。その名は『煌々の聖光(グリッター・カナ・ネオーミ)』。素材は何とも分からない光の集合体。

 

 

 

 

他にも多数あるが、多すぎるのでここでは割愛しよう。

 

既に2138年。今年でユグドラシルは正式サービスを終了する。俺は最後までかつての仲間と共に造り上げたギルドに居る。果たして異世界に転移することが出来るかは分からないが、俺はその時を待つ。

 

 

 

 

そして、その時は─────────過ぎた。

 

 

 

 

 



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1話 現状把握

 

 

ふ、ふふ。俺は、いや、『私』は賭けに勝った。

 

確証はなかったけど、やはり、転移できたようだ。既に、サービスは終了した。そして、私はここに残っている。心臓と言う臓器は種族ゆえか無い。でも、なんと言えばいいかは分からないけど、私は生きている。そう感じることができる。

 

しかし、まさか本当に転移できるとは・・・・興味深いが、まずはこの世界が何時なのか知る必要がある。モモンガと同時期ならばそれで良し。もし、六大神や八欲王かそれ以前の時期ならばやはり協調はしにくい。描写がほとんど無いからどうなるのかも予測が出来ないから不安だ。

 

「ミカエル、居ますか?」

 

私はロールプレイを忘れずに丁寧な口調でこのギルド、『トゥワイライト・オブ・ゴッズ(神々の黄昏)』の『セクト・エンジェル(七天使)』の一人、四大天使の一人、ミカエルを呼び寄せる。

 

そもそも、このギルドはアインズ・ウール・ゴウンとは正反対の天使及び神官系の種族のプレイヤーのみのギルドで、最盛期ではメンバーたったの12人で『十二聖天』と名乗り、ギルドランキングでは10位に入ったトップギルドだ。それゆえ、集めたワールドアイテムは10を越えて、かのアインズ・ウール・ゴウンに伍するギルドまでに隆盛した。

 

そして、ミカエルとはその時に作成した私の子供だ。勿論、女である。

 

「お呼びでしょうか、我が主よ。」

 

そうして私の目の前に現れたのは三対六枚の羽を腰辺りから生やし、黄金の髪を腰まで伸ばした絶世の美少女。

 

三対六枚の羽は最高位の天使である熾天使の証。羽は純白に黄金が降り掛かったように少し黄金味を帯びている。

 

彼女は私の前に膝間付く。

 

そんな彼女に私はあくまでも冷静に事実のみを告げる。

 

「ミカエル。現在、我が界使の殿はユグドラシルではない別の場所に転移しました。ので、ミカエルに命じます。配下の智天使(ケルビム)以下数体を連れて周囲五キロ以内の調査を命じます。尚、他の生命体と接触したら攻撃は禁止。相手から攻撃された場合は殺さず無力化を命じます。出来るならばここに連れてきて下さい。分かりましたか?」

 

「委細承知致しました。我が主よ。このミカエルが必ず為し遂げますので、どうか今しばらくお待ちを。」

 

「分かったわ。それでは行ってきなさい。」

 

「はい。」

 

 

そう言いミカエルは飛び去った。

 

一人残った私は他の天使を呼び寄せることにした。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

界使の殿最上階神界の間。

 

そこにはセクト・エンジェルのミカエルを除く全てが集まっており、その何れも女性であった。

 

「皆、良く集まってくれました。現在、我が界使の殿は異界に転移しました。ので、ミカエルに周囲を探索してもらっています。ミカエルが居ないのはそう言う理由です。さて、それではここに呼んだ訳ですが・・・・・・先ずはラファエル。」

 

そう言うと私の前に出てきて膝間付くラファエル。彼女の長い蒼い髪が揺れる。

 

「ラファエルには諜報を命じます。各眷属をこの世界の町に放ち情報を集めて下さい。」

 

「はっ。了解した。我が主よ。」

 

そして彼女は下がる。

 

「次はウリエル。」

 

そう呼ぶと出てくるのは少女を連想させる背の低い熾天使。

 

「あなたにはこの城の認識阻害を担当してもらうわ。魔法は出来れば効果の永続するものを頼むわ。」

 

「分かりましたぁ。主様ぁ。」

 

「さて、次はガブリエルよ。」

 

出てきたのは眼鏡を掛けている一見お姉さんの雰囲気を放つ熾天使。

 

「ガブリエルには全天使の統括を頼むわ。巧く纏めてね。」

 

「分かりました。この私にお任せください。」

 

さて、とりあえずはこのくらいかな。

あとはミカエルが帰還するのを待つだけだ。

 

「さて、残るカマエル、ヨフィエル、ザドキエルは各守護領域に戻り最大限の警戒体制を敷いて欲しいわ。」

 

『はっ。お任せを。』

 

「それじゃあ各自持ち場について下さいね。」

 

そう言った直後に天使達はこの場から消失、『転移』した。

 

彼女たちにはこの界使の殿を自由に転移出来るように設定してあったのでそれが効力を発揮したのだろう。

 

そういえばプレイヤー自身にも設定が出来た筈だ。尤も、ゲーム内では完全にロールプレイの為の設定作りに過ぎないが、ここでは現実となる。

 

そして、私が設定した中にこんな1文がある。

 

 

『全ての光を集約した至高の女神。』と。他にも六対十二枚と言う量の羽も設定した。今は展開してないだけで、ゲーム時代も見た目の為に羽は四対八枚の羽を着けていた。

 

そして、アイテムボックスから手鏡を出して改めて私の姿を見る。

 

装備と相まって少しのエロティシズムを生んでいるプロポーションに、左右対称に整っているお人形のような顔。本物のエメラルドを嵌め込んだかのような瞳。そして、見るだけで目を細めてしまいそうな眩しい金髪。

 

全てが整っている黄金比の身体は正に女神そのもの。

 

さて、と深く玉座に腰を沈めミカエルを待つ。

 

その姿はやはり神の威光を地上に知らしめるような雰囲気であった。

 

 

 



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2話 現状把握2

 

 

暫く私はこの世界について、物思いに耽っていたらミカエルが調査を終えて帰ってきたようだ。

 

「只今帰還致しました。早速ですがご報告させていただきます。」

 

「頼んだわ。」

 

「先ず、周囲ですが少なくとも調査範囲の五キロ圏内は完全な草原でした。他に建造物もありません。ただ、私の索敵スキルでは更にその先に地上構造物を発見しましたが、生物が居るかは不明です。」

 

「続いて、生命体ですがこちらも五キロ以内では特筆した生物はおりません。居て小動物が少数でした。」

 

そうか・・・・・・と、なるとここはカッツェ平野の可能性が高いか。それに、その構造物というのがもしもナザリックだったならば今のところこちらから接触するのは控えたい。ま、やはり初手は情報収集に限る。

 

とは言え、これだけの距離なら直ぐに気付かれるだろうし、直ぐに向こうから接触してくるのは想像に難くない。その場合はこちらもそれ相応に対応するだけなのだが・・・・・・それよりもナザリックが転移してからの時間が気になる。もし、ナザリックが先に転移しているのなら少なくとも100年は経っている筈だ。もしかするともっと200年とか300年も後かも知れないが。私としては同時転移が一番望ましいのだけれど・・・・兎に角、ナザリックとの敵対は絶対に無しですね。未知の異世界なのだから敵対するよりは協力しないと。

 

「それで、他には?」

 

「はい。その、セバスと名乗る竜人と出合って、それで来て欲しいと頼まれたのですが・・・・流石に断りました。で、どちらにも創造主が居ることが分かりまして上奏した次第です。」

 

まさか!?もう会ったのか!!いや、いや、状況を考えればおかしくはない。それで、セバスか・・・・と言うことはナザリックも転移したばかりと考えるべきか?

 

「それで、相手の創造主の名前は分かったの?」

 

「いえ、そうかは分かりませんがアインズ・ウール・ゴウンと言ってはいました。」

 

ふむ、これで取り敢えず接触は確定だね。あとは、どちらから接触するかだけど、アポなんて取れやしないからな・・・・

 

「そうですか・・・・・・」

 

本当にどうしようか・・・・こちらから行って攻撃されるのはゴメンだからなぁ。まあ、モモンガも攻撃しないように言っている筈だが・・・・まあ、良い。こちらから行くとしますか。

 

「分かりました。こちらから接触しましょう。取り敢えずそのアインズ・ウール・ゴウンへの使者として下級天使にメッセージを届けさせますので用意してくださいね。」

 

「分かりました。直ぐに用意いたします。それでは失礼いたします。主よ。」

 

さて、私もモモンガ宛の書簡を書きますか・・・・

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

 

ナザリック地下大墳墓

 

 

 

「以上になります。」

 

そう言い終えるセバス。

 

「ご苦労だった、セバス。」

 

それにしても他のプレイヤーか・・・・やっぱり転移していたのか・・・・それにしても、ミカエル。

 

まさか、あのミカエルなのか?あのトゥワイライト・オブ・ゴッズ(神々の黄昏)の。

 

そうだな、やはり恐らく実力ではこちらより上だろうから、敵対は避けないとな。

 

「セバス、改めて命じる。そのミカエルと名乗った天使とその仲間への一切の敵対行動を禁止する。それを全ナザリック内部に通達せよ。もし、向こう側から接触があれば私の元まで直ぐに通すこと。」

 

「はい。モモンガ様。それでは私はこれにて。」

 

そうしてセバスは立ち去った。

 

「しかし、あの天使のギルドか・・・・確か、ギルド長だった“シエル”はワールドエネミーを単騎で倒した化け物だった筈だ。下手に敵対したらこちらが立ち直り不可能な打撃を被るかも知れない。さて、どうしたものか・・・・・」

 

 

モモンガもモモンガで悩んでいたようだった。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

私はミカエルの元に転移して書簡を渡した。

 

「ではこれを天使に持たせて向こうに渡してきてください。もし、攻撃されたなら別に下級天使ですから構わないですが、最大限の警戒体制を敷くようにしておいてください。まあ、万が一ですから。」

 

「分かりました。主よ。」

 

そうして転移するミカエル。

 

「これで、上手く行くと良いのだけれどね・・・・」

 

シエルの呟いたその声は誰もいない空間に溶けるのだった。

 

 

 



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3話 接触



接触といいながらアインズさんは一切出てきません。




 

 

 

手紙はちゃんと届いただろうか?

 

 

今私の頭の中を占めているのはその思考ばかりだ。要するに、他のことを考えている余裕がない。

 

だからなのか、既に転移から1日が経とうと言う時間になっていることにも気付かなかった。

 

 

 

さて、今更ながらだけれど私は転生者なのだ。少なからずオーバーロードを知っている。ので、ある程度の出来事ならばまだ少しだが覚えている。とは言え既に数十年も経っているので微々たることしか覚えていないし時系列も曖昧だ。

 

しかし、どちらにしろ転移するという事実は分かっていたのだから私は望み薄ながらになるべく通貨や回復アイテムやスクロールを貯蓄するようにしていた。今としてはそれが役に立つと思いたい。少なくとも、お金に関してはこのままの消費で行っても数十年は持つ計算だが、早めにこの世界の通貨を手に入れる方法は確立しておきたいのが本音だ。と、言っても本当に転移したばかりだからそんなことを今心配しても意味がない。それよりも今はナザリックとの関係の構築が第一だ。

 

それと先ほど、偵察に向かわせたラファエルの眷属を通じて第一陣の報告を受けた。取り敢えずは一番近い町の名前とかだ。で、そこから分かったのが、ここが地図上ではバハルス帝国に属しているということ。確かナザリックはギリギリリ・エスティーゼ王国側の筈だ。それと、記憶している限りでは後にナザリックは帝国よりになる筈だからこちらとしても帝国に傾倒しようと思っている。別に国の後ろ楯があるのに関しては悪いことは無いと思うから。

 

まあ、別にそんなの無くても良いくらいに戦力はあるしね。それに、万が一なら“アレ”を出してしまえば大抵は直ぐに終わる。ただ、強すぎてこの世界が半分消えるかもだけど・・・・・・それだけがネックだね。まあ、私自身がこのギルドの最高戦力なのだけど、それは今は別にいい。

 

ああ、それと何でこんなにも情報収集が早いかと言うとね、ラファエルってこの時を見越して作成した天使だから、戦闘とかは60レベル並みだけど諜報とかに関したらそれこそ右に出るものは居ない。それに、その為に彼女の眷属も諜報に特化させてるんだしね。

 

他には今、この城に偽装してくれているウリエルは完全なサポート特化。味方に強力なバフや回復支援をしてくれる。敵にはデバフに回復阻害にのオンパレードだ。実は敵にすると一番めんどくさかったりする。特に、多対多の場合はその強さが一番発揮される。それほどに敵にしてみれば厄介で、味方にとっては頼もしい存在だ。

 

そして、全ての天使を統括しているガブリエルは智謀に秀でている。とは設定で、能力的には特殊性が高い。基本的に熾天使クラスの天使を複数同時に召喚したり、地形を操ったりとその戦い方は千変万化だ。それ故、私個人としては一番戦いたくはない相手だと思う。

 

そして、最後はミカエル。彼女は私が最も力を入れて創った。結果的に、その熾天使の名に相応しい圧倒的な火属性の火力を手に入れた。その最大火力は私ですらHPを一撃で半分を割られる威力だ。勿論、それは私が何もしてない場合だが、それでも種族スキルとかでダメージはかなり減衰させているのにも関わらずその威力なので中々侮れない。他にも回復も可能で、彼女自身も高い自動回復力を誇っている。

尤も私の場合はMPの自動回復力が異常になっている。それがどれだけかと言えば、職業スキルにより制限回数を魔力消費で超過できる超位魔法を一発撃てるようになるまでの時間がたったの10秒だ。その10秒という基準は私が使える超位魔法の中でも最も凶悪な効果を発揮する魔法で、その消費魔力は私の全魔力の5%にも及ぶ。

たったの5%?と思うかも知れないけど、ユグドラシルで“魔力お化け”と言われた私の魔力はレベル100になってからは尽きたことがない。それもこの異常なMP自動回復があることが大きい。

で、その最凶の超位魔法と言うのがユグドラシルの全プレイヤーを以てしてチートだと言わしめたもの。

 

その名も『終焉ノ神煌(エンドレス・グルーム)』。

 

内容は聞くに堪えないが、まあ、一言で言うならば世界を滅ぼす威力。とだけ。

 

多分、それを使ったらこの世界が半壊する。うん、冗談でも何でもないんだけど・・・・・

 

よっぽどの事がないと使わないよ。それに、使うにしてもちゃんと対策はある。別の魔法(超位魔法)と使えば多分被害は最小で抑えられる。それも物的だけ。人的は敵の事だから大丈夫。

 

 

さて、今頃モモンガはどうしてることやら・・・・

 

 

 

 

 

 

 



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4話 接触2

 

 

 

ナザリック地下大墳墓

 

 

ここ、第十階層の『玉座』には現在、ギルド長のモモンガを始め、第一~三階層守護者のシャルティア・ブラッドフォールン、第五階層守護者のコキュートス、第六階層守護者のアウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレ、第七階層守護者のデミウルゴス、守護者統括のアルベド、プレアデスのセバス・チャンを始め、ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ、シズ・デルタ、ソリュシャン・イプシロン、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータと、ナザリックの主戦力が勢揃いだった。

 

そんな、迫力と圧力が頂点の中でモモンガがゆっくりと話し始めた。

 

 

 

「先程、セバスからあるものを受け取った。既にこの中には知っている者も居るかもしれないが、我々の他にここに転移してきた別のギルドから書簡が届いた。」

 

 

モモンガのその威厳たっぷり(魔王ロールプレイ)の発言にセバスを除いた守護者から驚きの声が漏れる。尤も、セバスも始めはたっぷりと驚いていたのだが、それを知るのは本人とモモンガの二人だけだ。

 

 

「うむ、驚くのも最もだが、ここにはそれ以上のことが書かれている。それは、もうひとつのギルド、『トゥワイライト・オブ・ゴッズ(神々の黄昏)』と言うのだが、そこの戦力は我がナザリックに匹敵する、あるいは上回っていると考えられる。」

 

 

守護者達はモモンガのその衝撃的な暴露に驚きの気配を隠そうともしない。特にアルベド等は強硬にそれを認めようとはしていないが・・・・・・

 

 

「落ち着け!!─────よし。皆のそのナザリックを思う気持ちはとても嬉しく思う。が、相手側の方の戦力がナザリックに伍するのもまた事実。しかも、相手が最上級天使、即ち熾天使クラスが少なくとも七体も居る。相手に回すのは得策ではない。それに、私としては同じく転移してきたプレイヤーとは事を構えたくないと思う。無論、相手が敵対するのならばその時はそれ相応の対応を取らせて貰うが・・・・この書簡を見た限りではそんなことはない。寧ろ我々にとっても歓迎すべき内容ではあった。そこで、皆に問いたい。相手側と義を結ぶか否か。」

 

モモンガのその意思表示に真っ先に反応を示したのは、ナザリックの頭脳でもあるデミウルゴス。

 

「意見具申宜しいでしょうか?」

 

「うむ、言ってみろ。」

 

「ありがとうございます。それでは、私としては義を結ぶのが宜しいかと思います。相手が熾天使なのも一応理由としては入りますが、現状、満足に情報も得ることが出来ません。それに、ナザリック内の資源にも限りが御座います。尤もこれはそうそう無くなることは無いですが。そして、相手方と義を結ぶに当たって有益なのは何よりも情報を共有できることです。もしかするとこちらの知り得ない情報を持っているやもしれません。私からは以上です。」

 

デミウルゴスからの説明を聞き終わると、モモンガは鷹揚に頷いた。

 

「うむ。他にはあるか?」

 

「では私からも。」

 

そう名乗りを上げたのはアルベドだった。

 

「私としても、デミウルゴスには賛成ですね。」

 

それを聞いて一番意外に思ったのはモモンガだった。何故なら、先程相手の戦力がこちらに匹敵すると言ったときに一番激昂したのがアルベドだったからだ。

 

「相手の戦力もそうですが、やはり情報が足りていません。転移したばかりで分かりませんが、相手も何かしら情報があるのではないでしょうか?こうして書簡を送ってくると言うことはそれなりに余裕のあるものだと考えます。」

 

「確かに。」

 

そう言い、モモンガはふと思い出す。それはユグドラシルでシエルがワールドエネミーの単騎討伐を成し遂げた事だった。その時のその情報は瞬く間にユグドラシルのみならず、その攻略サイトやネットに広まった。なんせ、ワールドエネミーの単騎討伐だ。あの、ワールドチャンピオンですら不可能といわしめるワールドエネミーの単騎討伐だ。それで、ニュースにならないわけがなかった。その時、モモンガはまだアインズ・ウール・ゴウン内でギルド武器作りに仲間と奔走していた。その合間にネット上にアップされた彼女の戦いを見て、魅了された。

 

その、プレイヤースキルの高さ。恐らく、アインズ・ウール・ゴウンに所属しているワールドチャンピオンのたっち・みーさんですら及ばないだろうと思えた。それと、その魔法一発一発の威力の高さ。超位魔法が炸裂する度にあのワールドエネミーが仰け反っている。AIですら仰け反るのだからその威力は想像を絶する。

 

兎に角、モモンガは心のどこかでこう思っていたのだ。

 

『シエルさんに会ってみたい。』

 

と。

 

 

「他には?」

 

 

と、モモンガは問いかけるが名乗りを上げるものは居ない。流石に、守護者トップ2が賛成に回ると意思決定になるらしい。それに、モモンガが義を結ぶと言っているのだ。

 

モモンガに対して絶対の忠誠を誓っている彼等が反対する筈もなかった。

 

これにより、ナザリックは全会一致で義を結ぶ事に決定したのだった。

 

 



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5話 接触3

 

 

 

私が書簡を送ってから大体1日位が過ぎた。

その私の元にはモモンガからお返しの書簡があった。

 

それには要約すると、このような内容だった。

 

次の朝、両ギルドの丁度中間地点で話をしよう。と。その際の条件としては、勿論のこと敵対は禁止。他に連れてこれるNPCは各1人のみ。他にも魔法の使用禁止等があった。

 

これで漸くナザリックと協力していけると思うととても嬉しく思えた。流石に、他にプレイヤーがいてそれと協力出来なかったら少し哀しい。なので、無事に話し合いが出来るようでとてもホッとしている

 

さて、勿論、連れていく1人は決めている。ミカエルだ。恐らくモモンガはアルベドを連れてくるだろうと思う。

 

そうと決まったのだから取り敢えずは対談に向けて準備することにした。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

モモンガは書簡を送り終え一息ついていた。

 

転移してから守護者及びプレアデスからとてつもない忠誠心を向けられているモモンガは気苦労が絶えないのだ。何故なら、わざわざ上位者ロールをしなければならないので、いつも気を張り詰めて気が気でないのだ。それに、アンデッドになった影響で気持ちの昂りは直ぐに抑制されるので落ち着かない。こうして、自室で一人でベッドに寝転んでいるのが至福の一時だった。

 

 

「ふぅ~。やっぱり、守護者達の忠誠心が重すぎるんだよなぁ。あれじゃあ俺が死ねと言ったら絶対自害するんだろうなぁー。それよりも、シエルさんに会うの楽しみだな。やっぱり敵対しなくて良かった。俺じゃ、多分太刀打ちすら出来ないからなぁ。やっぱりワールドエネミーの単騎討伐なんてヤバすぎなんだよなぁ。」

 

 

と、このように普段は見られない姿のモモンガがみられる。今は愚痴とかをこぼしているが。

 

 

「うーん。やっぱりアルベドを連れていくか、デミウルゴスを連れていくか・・・・・・アルベドでいいかな?いや、やっぱりデミウルゴスか?うーん、やっぱり安心出来るデミウルゴスにするか。アルベドには悪いけど・・・・後で俺が行ってあげれば大丈夫かな?」

 

と、デミウルゴスを連れていく事に決めたようだった。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

そして、次の日の朝。ここ、カッツェ平野のあるところ。ナザリックと界使の殿の丁度中間地点では不自然な事に4つの純白の椅子と1つの長机が用意されており、そこには人為らざる者が4名集まっていた。

 

その4人とは勿論、シエル、ミカエル、モモンガ、デミウルゴスの4名である。ここには話し合いのために集まっていた。

 

 

「初めまして。私がアインズ・ウール・ゴウンギルド長のモモンガです。こっちは守護者のデミウルゴスです。」

 

「ご丁寧にどうも。私はトゥワイライト・オブ・ゴッズ(神々の黄昏)のギルド長のシエルです。こちらはセクト・エンジェル(七天使)の一人のミカエルです。」

 

「ありがとうございます。さて、こちらに来ていただいたと言うことは賛成ですね。」

 

モモンガが確認するようにシエルに問いかける。

 

「ええ、勿論です。現状私が確認している中で出会えたプレイヤーはあなただけです。モモンガさん。そして、プレイヤー同士で争えば被害が想像が付かないのは明白。それも、過去に10位以内に入っていた両ギルドが争えばそれはもう・・・・後は分かりますよね?」

 

「はい、はい。それはもう。ですから、このように対話で解決できてとても良かったですよ。さて、このような話しはここまでにして少しは雑談でもしましょう。私、こう見えてシエルさんに会うのを楽しみにしていたんですよ。」

 

モモンガのその発言はシエルに取っては意外なものだった。てっきり、シエルはモモンガはただ単に有名なだけの自分を知っているだけと思っていたからこのようにモモンガに興味を示されるのは想定していなかったのだ。尤も、有名さで言えばモモンガも負けていない。かの有名な1500人の対ナザリック連合。そしてそれを退けたナザリック。そのギルド長のモモンガともなればユグドラシルでも知らぬものは居ない。まあ、悪名高いが。

 

「へぇ!そうだったんですか!私も実はモモンガさんに会うのを楽しみにしていたんですよ!その、1500人の大部分を殲滅したモモンガさんに会ってみたかったんです。」

 

と、このように嬉々として会話の弾んでいる両者を見たミカエルとデミウルゴスはさぞ驚いた顔をしていた。両者ともここまで友好的に進むとは思っていなかったのだろう。だからか、二人に感化されたのか二人も話し始めた。

 

「デミウルゴスさん。私はあのように主が楽しそうに話すのは他の主と話す時だけだと思っていましたが・・・・デミウルゴスさんの主と話している主はとても楽しそうに見えます。」

 

「ええ、私も同じくですよ。ミカエルさん。我が至高のモモンガ様がここまで楽しそうに会話する所を見るのは他の至高の御方々と話している時以来ですよ。私としても、やはりこのように成功して良かったと思います。」

 

「同意します。やはり、協力していけると思いますね。両者がこのように友好的に出来ました。なのでこのまま上手くいきますよ。主を信じていますから。」

 

「ええ、同じく私もモモンガ様に忠誠を誓っておりますから。」

 

と、両名も中々ウマの合うようで会談はとても良い雰囲気で進むのだった。

 

 



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6話 接触4

 

 

 

「いやぁ、それにしてもまさか、シエルさんがこんなにも気さくだとは思いませんでしたよ。もっと、私の中ではクールで、厳格なイメージだったんですがね。」

 

モモンガは私のことをそう言ってくる。はっきり言ってしまうと、そう言われるのは予想外も良いところでそんなのは全く思っていなかった。確かにロールプレイでそんな風に捉えられてもおかしくは無いような気もしたけれどまさかモモンガがそう思っているとは私は到底思わなかったのだ。

 

「そうでしょうか?私としてはモモンガさんこそもっと、こう、なんと言うか怖いイメージがありましたけど?」

 

私が意趣返しにとモモンガにそう反撃した。すると、少々面喰らったようにモモンガは答えてくれた。

 

「そ、そうでしょうか?私も確かにそう言うロールプレイをしていたのでイメージ的にはそうなんでしょうけど・・・・私自身はそんな怖くはないと思いますよ?」

 

「確かに。そうですね。今話していてそんな怖い感じなんて全くしませんしね。むしろ、私としてはとても好意的に思いますよ。ええ、今まで出会ったプレイヤーの中でも上位に入るくらいには。」

 

私がそう言うとモモンガは嬉しそうに(と言っても表情は変わらないが)した。

 

「そう言って貰えると助かりますよ。なんせ外見が外見ですからね。今は複雑な気分です。」

 

まあ、そりゃそうだろうと思う。今はデミウルゴスが居るから言えないだろうけど、モモンガは元々人間なのだ。それが突然アンデッドになってしまい、寝ることも食べることもまして性欲すら失ってしまったのだ。まあ、私も似たようなものだが。寝ようと思えば寝られるが特に寝る必要はないし、こちらも食べようとすれば食べれるが食事の必要もない。性欲は・・・・微妙だが今のところそういう気分になることはない。元男とは言えね。

 

「それは、心中お察しします。私も似たようなものですからね。さて、そんなことよりもここからは情報交換と行きませんか?」

 

ここで私は話題を急転換させ一気に話題を変える。すると、モモンガも案外のってくれたようで応じてくれた。

 

「ええ、勿論です。と、言っても我々はまだ殆ど分かっていませんが・・・・」

 

「まあ構いませんよ。困ったときはお互い様です。取り敢えずは私からある程度の情報を提供しておきますね。」

 

と、前置きをしてから、私自身がミカエル達から受けた報告を重要なものを除いてモモンガに伝えていく。

 

 

「───────と、まあ、このような感じですね。私もまだまだ情報を十分には掴めていませんのでこのくらいしか分かりませんが。」

 

と、シエルはこのように言うが、モモンガとしては大変に驚くべきことであった。

 

少なくともまだ転移してから僅か2日だけなのにも拘わらず、周辺の地理や人間の都市、国家、勢力の情報をもたらされたのだ。

 

モモンガはその行動力と諜報能力にとても驚くと同時に感心していた。

 

「いえ、そんな。十分過ぎる程の情報ですよ!!逆によくそんな短時間でそれだけの情報を集めれましたね!!?」

 

と、モモンガはこのように驚いてせっついてくる。

 

「まあ、私のギルドに諜報に特化した天使が居るものですから、それくらいならば集められる範囲です。」

 

「それは凄い!────と、すみません。少し興奮しすぎました。」

 

「お気になさらず。私としてはどこかの国と関係を持ちたいと考えています。その方がより情報が手に入れられると思いますし、何よりも格段にこの世界で動きやすくなると思います。そこで、提案なのですがある程度この世界のことが分かってきたらバハルス帝国と縁を持ちませんか?」

 

「バハルス帝国、ですか?確かその国はこの世界で最も繁栄を謳歌している国でしたか?」

 

モモンガが確認するように尋ねてくる。

 

「ええ。そうです。何よりも私たちのギルドに最も近い国ですから。もうひとつ、リ・エスティーゼ王国もありますがそちらは貴族の腐敗に加え裏組織に国を牛耳られているような状態ですから、私としてはそちらから金を巻き上げる方針で行きたいですね。なんなら、国家を取り込むと言うような形で。」

 

私がそこまで切り込んだ計画をモモンガに暴露すると、彼はとても驚いたようだった。

 

「ええっ!?もうそこまで考えてるんですか?流石に早計じゃ・・・・まだこの世界の住人の強さもはっきりしてませんし、何よりもまだ情報が少なすぎます。」

 

「そりゃあ、ね。何も今すぐとは言ってないよ。然るべき時にね。ちゃんと準備し、情報を集めてからじっくりと。」

 

「まあ、そうですね。どちらにしろこの世界の国か人に接触しないといけませんからね。ともかく、我々はこれで一蓮托生です!これからは仲良く協力していきましょう!!」

 

「ええ!!勿論です!!さて、こうして同盟が決まったのだし少しそちらにお邪魔しても良い?」

 

私がそう言うと驚いたような彼だったが、少し思案した後に結論を出した。

 

「うーん、私としては構わないです。来てくれるのなら歓迎しますよ。そうだ!折角ですしお互いのギルドを親善訪問すると言うのは!?」

 

モモンガはこのように画期的な提案をしてくる。正直、私としてもそれはとても魅力的に思う。

 

「ええ!!そうしましょう!そうすればよりお互いに協力していけると思います!」

 

 

こうして未定ながらお互いの親善訪問が決まったのだった。

 

 

 



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7話 接触5

 

と、両者の会話を聞いていてミカエルとデミウルゴスはとても驚いたものだった。

 

普段あのように楽しげな姿を見せることがない両者。その純粋に会話を楽しんでいる姿を見るのはどちらともにとって新鮮で何よりも敬愛すべき主人が楽しまれているという事実にただただ心酔するのみなのだ。

 

それはそうとシエルとモモンガはもはやミカエルとデミウルゴスがいることも憚らず以前のペースで話してしまっているのでもはや何ロールとも付かない素が出てしまっている。今さら取り繕おうとも無駄なことだったが・・・・両名とも取り繕うことすら忘れているようで、それだけ話しに没頭しているということ。ので、別にミカエルとデミウルゴスが話してしまっても良いのだが二人はこの主人の楽しそうな状況に水を差さまいとして、頑なに話そうとはしない。とはいえ、内心では話したい気分でもあるのだが。

 

と、そこで漸く話が終わったのか急にミカエルに話しかけるシエル。

 

「ミカエルも、さっきから黙ってるようだけどそちらのデミウルゴスさんと話しても良いのですよ?多分、私達が話してたから話そうにも話せなかったのかも知れないけど、私達は気にしてませんよ。」

 

と告げた。続いてモモンガもデミウルゴスにこう言った。

 

「デミウルゴスも別にミカエルさんと話しても構わない。何、別に煩わしいなんぞとは思わんから存分に話すと良い。」

 

とこのように、両者とも何故かここだけ女神、魔王ロールプレイをするのだったが。それに気づかない様子のミカエルとデミウルゴスであった。

 

「お気遣い有り難う御座います。主よ。」

 

「モモンガ様。私ごときにそのような寛大な処置を・・・・・・このデミウルゴス、その慈悲深さに感涙を得ません。」

 

と、デミウルゴスの方は些か過剰な反応をしたからかモモンガは少し引いていたがそれは些細な問題なのだろうと思うシエルである。

 

ともあれ、主人からの直々の許しを得たのだ。そのご厚意を無駄にはしまいと、いや、無駄にしたら不敬に当たると考えた二人はやや唐突にではあるが話を始めた。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

やがて、話も終わりその頃には何故か夕方だったのは驚いたが、それだけ話し込んだということだろう。何せこれでトゥワイライト・オブ・ゴッズ(神々の黄昏)とアインズ・ウール・ゴウンの両ギルドの親交は、僅か4名ではあるが深まったと言えるだろう。特にシエルとモモンガは意気投合しユグドラシル時代の出来事をあれやこれやと話し合っては運営への愚痴をお互いに言い合い、この世界でのこれからの展望を話したり、そのときにモモンガは世界征服を仄めかし、シエルがそれに食い付いてきたのは余談だが。とにかくとても良い会談で終わった。

 

親善訪問の件はおいおい両ギルド間で調整するとし、一先ずは両ともに情報収集に努めしばらくはこの世界を観察する事に決めたのだった。

 

場所は界使の殿の最上階。神界の間。配下にとっては(シエル)の座する神聖な空間であった。

 

 

 

そこにはやはりセクト・エンジェル(七天使)が集められており、その他にも新しい顔ぶれがあった。

 

神界の間の後方に膝間付く彼女らはこのトゥワイライト・オブ・ゴッズ(神々の黄昏)での『十二聖天(プレイヤー)』の近衛を務める。その名も『聖天の守護天使《ガーディアンエンジェル・オブ・ザ・ホーリーメイン》』。

 

何とも長い名前だが仕方がない事だ。全力で考えた結果がこれなのだから。

 

と、その内容は十二聖天(プレイヤー)一人一人が作成したNPCで、そちらも全てレベル100だ。

 

そんな技が成せるのもこのギルドのメンバーの少なさ故であり、他のギルド。それこそアインズ・ウール・ゴウンでさえ不可能だろう。何事にも限度があるのだ。それではセクト・エンジェル(七天使)とは何なのだと言われれば、それはただ十二聖天(プレイヤー)がその場のノリと酔狂で作り上げた存在で、その構成は第一エノク書からミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルであり四大天使とされている。それに加え偽ディオニュシオス文書よりカマエル、ヨフィエル、ザドキエルの三天使を加えて七大天使とされていて、そこから取ったものである。

 

因みにだが、エノク書の方の三天使はラグエル、ゼラキエル、レミエルである。

 

全てキリスト教からであり、シエルとしては別に天使の名を冠するのならどの宗教でも神話でも良かったのだが結局はこのような形になった。どういう経緯かはここでは省略しよう。まあ、一言で言うなれば他のメンバーの意向。とだけ。

 

そんな彼女らは実は(ミカエルを除く)セクト・エンジェル(七天使)よりもガチだったりする。何せ、メンバー一人一人が好みで作り上げた結果がちょっとユグドラシルでも物議を醸す事態を引き起こす切っ掛けとなったのは今では良い思い出だ。それくらいにはチートである。

 

その『聖天の守護天使《ガーディアンエンジェル・オブ・ザ・ホーリーメイン》』の構成人員は先ず、シエルが作成したのがアテナ。ギリシャ神話に登場する軍神の名を冠している。他の名前もそうであり、ギリシャ神話の女神の名を冠している。

 

序列は無いが、名前順に綴ると、アテナ、エイレーネ、エリス、カリオペ、ガイア、クレイオー、デメテル、ニケ、ヘスティア、ヘカテー、ヘラである。

 

それぞれ順に軍神、平和の女神、不和の女神、雄弁・叙事詩の女神、大地の女神、歴史の女神、農業・豊穣・結婚・社会秩序の女神、勝利の女神、炉の女神、月・天地・下界・魔法を司る女神、結婚の女神だ。

 

勿論それに応じて能力構成がそうである訳もなくそれぞれメンバー好みの能力構成となっている。

 

そんな彼女らが今、たった一人になった主に膝間付いている。

 

 




設定盛りすぎましたかね?



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8話 創造主と子

 

「よく集まってくれました。天使達。これから私が告げることは全て事実です。私は────トゥワイライト・オブ・ゴッズ(神々の黄昏)はアインズ・ウール・ゴウンと同盟を締結しました。相手のギルドはアンデッド中心ですが問題ありません。これからはこの世界を共に歩みます。なので相手ギルドに所属している全てに損害を与えることは禁止します。勿論敵対行為もしてはなりません。さて、セクト・エンジェル(七天使)は各自持ち場に戻って下さい。引き続き諜報も頼みますよ、ラファエル。」

 

「はっ。勿論です。我が主よ。」

 

そう言った後、セクト・エンジェル(七天使)はこの場を去り各自持ち場に戻ったのだろう。そして、この場に残るはガーディアンエンジェル・オブ・ザ・ホーリーメイン《聖天の守護天使》の十二天使である。

 

「さて、会うのは久し振りですね。アテナ、それに他の皆さんも。」

 

「はい。お久し振りで御座います。我が創造主様。」

 

うーん、創造主様って呼ばれるのはちょっと痒いかな?

 

「アテナ、私のことは普通にシエルと呼べば良いですよ。」

 

「分かりました。シエル様。」

 

「それは他の皆さんもそうですからね。」

 

と、他の天使にもそう伝えておいた。で、私がこのギルドの最高戦力である彼女達を召集したのにはちゃんと理由がある。現状、彼女達の火力はこの世界では過剰も良いところで正直言って使いどころに困るのが本音だ。だが、まあ、腐らせて置くのも勿体無い戦力ではある。なので別に全員を使うことはないと思うが私の守護天使であるアテナ位は側に置いておこうと思っている。

 

で、使い道としては主にこの世界で冒険者として活動する際のメンバーとしてだ。彼女達ほど強ければ私も安心できるし彼女達ならばこの世界のモンスター相手でも手加減が可能だ。セクト・エンジェル(七天使)はそれぞれに役職があるので共に行動するのは不可能だし、ミカエルは“アレ”の監視役なのでおいそれと連れ出す訳にもいかない。“アレ”もいずれ表に出すかもしれないがそれを出すのは本当に一度も無い方が一番良い。何せ“アレ”はナザリックの“第八階層のあれら”と同じくらい────いや、それ以上に代償も大きい。

 

ともあれ“アレ”は私ですら互角かそれ以上の戦力だ。現在はこの界使の殿の地下に封印しているが、ユグドラシル時代では一度だけその姿を表に出して戦力確認したのだが、それだけで雨あられのように運営にチートだと抗議が殺到したレベルだ。正直この世界で使うにはそれなりの準備をしてからか、それかこの界使の殿内で使うかの二択になる。

 

まあ、今はそれはどうでも良い。

 

それで、連れていくのはアテナは確定としてもう一人連れていきたい。

 

アテナは前衛のガチビルドなので出来ればバファーが良いのでヘカテー辺りが妥当だろうか。

 

「それで、皆をここに呼んだのは私と共にこの世界を冒険するのに選ぶためですが・・・・申し訳ありませんがその人数は私の方で二人と絞らせてもらいました。それも、その内の一人はアテナでもう一人はヘカテーにしようと思っているのですが・・・・どうですか?」

 

私が少し不安げにそう告げると、思っていたような反対は起こらずに意外とすんなりと受け入れてくれた。とても優しい。で、肝心のアテナとヘカテーはとても喜んでいる。

 

「はわわぁー!!わ、私がシエル様と一緒に・・・・・」

 

等とヘカテーが少し頬を赤らめてモジモジしているのは少し可愛いとは思った。

 

かというアテナも満更では無さそうに少し顔を赤くして嬉しそうにして、ぶつぶつと何か呟いているがそういう識別スキルを保有していない私には何を言っているのかは分からなかった。

 

「他の皆はご免なさいね。でも、私は皆のことは好きだからね。」

 

と、私が少し涙目になりつつそう言うと守護天使達のテンションは最高潮になった。

 

曰く、『涙目のシエル様チョー可愛えぇー!!』らしい。

 

私としてはそんなつもりで涙目になったのではないが・・・・あくまでも自然と湧き出た涙ではあるし。

 

「皆さん、ありがとう。さて、それじゃあ皆さん各自の居室に戻って下さいな。アテナはちょっと私のところに残ってね。」

 

と、少々女神ロールが崩れたが何とかその場をしのいだ。

 

 

 

そして、十一の天使が去った後残ったのは勿論私とアテナ。

 

「シエル様、私に何かご用でしょうか?」

 

「いえ、ちょっと貴女と話したくなってね。貴女は産まれたときの事を覚えてる?」

 

「ええ、ええ。勿論です。鮮明に覚えておりますよ。あの、光輝く中、シエル様に、他の主の方々に見守られながら産まれたのを。今ではとても喜ばしい出来事でした。私にとって一番の思い出です。」

 

そう、か。やっぱりこの世界になってから自我を持てばそれまでのゲーム内での記憶もある程度は引き継ぐというのか。

 

「そうでしたね。私も貴女を(つくる)ときの気持ちの昂りは今でも忘れられません。勿論、とても良い思い出です。ギルドの皆と協力して貴女達を作り上げ、全てが揃ったときには宴会もしましたか・・・・これからも改めて宜しくお願いしますね。アテナ。」

 

「はい。勿論です。シエル様の為にならば何処までも着いていく所存ですから。」

 

「ふふ・・・・そうね。」

 

私はそう言いながらアテナに軽く抱擁をした。

 

私の突然のその行為に少々驚いたようなアテナだったが直ぐに私のそれを受け入れ、アテナも優しく私に抱擁を返してくれた。

 

 

 



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9話 カルネ村

 

 

 

ナザリックと同盟を結んでから数日が経った。その間私はラファエルからの逐一の報告や、アテナやヘカテーに癒されたり、ミカエルに癒されたりと色々していた。

 

ナザリックのモモンガからも逐一メッセージを受けていて情報の共有等はしていた。こちらとしてはありがたい限りだ。

 

で、先ほどラファエルより緊急の連絡があって、どうやら眷属を忍ばせていた村────カルネ村が謎の騎士団に襲われているとのことだった。

 

別にそんなことはどうでも良いが、損得勘定で決めてしまえば助けた方が有益ではある。助けたという名目で人間達と友好関係を結べるかもしれないし、今以上の情報を望むことも出来る。

 

尤も、それを行うにはやはりナザリックとの共同戦線になりそうだけれども。

 

 

「それで、いかが致しますか?我が主よ。」

 

と、凛とした声音で私に意向を尋ねてくるのは勿論今私に報告をしてくれたラファエル。

 

「そうね・・・・私としては助けに入って友好関係を築くというのが一番のシナリオだと考えているけど、ナザリックの出方次第ね。もし、ナザリックも行くのならば共同戦線を張る。ナザリックが行かないのならば向こうに連絡を入れた上で単独で介入しましょう。これはチャンスですからね。上手く行けば更なる情報やあわよくばこの世界の金銭も得られるでしょう。ですから、直ちにメンバーを選定します。向こうに行くのは私とアテナ、ヘカテーですね。彼女達には完全武装で来るように伝えてください。」

 

「承知した。我が主よ。」

 

それだけ言い残してラファエルは二人を呼びに行った。

 

さて、こちらはこちらでモモンガに連絡を入れますか。

 

私は会談の時に登録したモモンガへの伝言(メッセージ)を行使する。

 

「モモンガさん。聞こえていますか?シエルです。」

 

と、伝言は念話では無いのでこのように声を出す必要があるが問題なく使えるので重宝している。

 

「ああ!シエルさん!何ですか?」

 

「えーと、そちらでは確認しているか分かりませんが近くの村が襲われている様なので、そこを助けて情報を得ようと思っているのですが・・・・どうですか?」

 

「村ですか。それならこちらでも確認は出来てますよ。丁度今、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で確認したばかりですよ。それで、少し考えた結果我々も行くことにしたんですが・・・・折角ですから一緒に行きましょうか。」

 

「ええ、そうですね。折角ですからね。」

 

こうして初の共闘が決まったのだった。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

カルネ村の外れ。

 

 

 

「ちっ!手間かけさせやがって!」

 

そう毒づくのは帝国兵に偽装した法国の工作部隊員の一人。そんな彼の目線の先にはここまで走って逃げてきた娘。エンリ・エモットとその妹のネム・エモットの二人だった。

 

しかし、その姉の背には深い裂傷が刻み込まれておりその様子から剣で斬られたのだろう事は容易に想像が出来た。

 

「お姉ちゃん!!」

 

ネムはそう叫ぶが姉の反応は薄い。せいぜいが妹を自分の身で庇うのが精一杯だった。

 

「ネム・・・・私は、大丈夫、だから、お願い、逃げて・・・・」

 

「嫌だよ!お姉ちゃんも一緒に逃げようよ!!」

 

そのようなやり取りも既に姉は息も絶え絶えと言った様子で、その命は今にも尽きそうな程に弱っていた。

 

そんな様子の二人にも死は刻々と近づいてくる。その剣を振り上げ、まさに下ろそうとしたその時────男の動きが止まった。

 

その男の驚愕の視線で見詰める先には黒い異様な渦が二つも出現していたのだ。

 

そして、その片方の渦から出てきたのは───人間の手ではない、骸骨の骨のみの手だった。

 

そして、もう片方の渦からは普通の人間の手が。しかし、それは全身が出てきてから言葉を失うのだった。何故なら──────その出てきた人物。シエルの背からは六対十二枚という枚数の羽を広げ神々しく降臨する神の姿があったからだ。

 

そして、もう一方。そちらにはまさに死を体現したような、豪華なローブを着込み、その空洞の目を妖しく赤く光らせるスケルトン(オーバーロード)が出てきた。

 

その光景はまさに、天と地獄が隣り合うような光景だった事だろう。

 

しかし、それを語り継ぐ者はこの場にはいない。

 

 

 

そして、スケルトン(モモンガ)がたった一言。

 

心臓掌握(グラスプ・ハート)

 

それだけで、今にも剣を振り下ろそうとしていた男は事切れて地に倒れ伏した。

 

そして、神々しく輝く女神も一言。

 

過剰回復(オーバー・リカバリー)

 

そして、もう片方控えていた男の肉体が腐り始め、やがてその肉体は消滅した。

 

 

そんな光景を目の前で見せられた姉妹だが、そこに恐怖はなく、ただただ状況に着いていけずに混乱する姿のみがあった。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

うわぁー、めっちゃ弱いなぁー。

 

 

シエルは死んでいく人間(殲滅対象)を見てそう思う。

 

「たかが第八位階魔法で死ぬなんて弱すぎでしょう・・・・」

 

「ええ、本当にそうですね。何でしょうね?この人たちの装備、お粗末にも程がある気がしますがね。」

 

「まあ、別にいいです。」

 

それよりも。とシエルは姉妹の方に振り返り

 

中傷治癒(ミドル・キュア・ウーンズ)

 

その一言だけで、あれだけの瀕死の傷を無に返した。

 

それを驚くような目で見るエンリとネム。そんな狼狽している彼女達に一言。

 

「貴女達は助かりました。」

 

と、シエルは告げるのだった。

 

 

 



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10話 カルネ村2

 

 

 

「貴女達は助かりました。」

 

 

目の前の天使様のその一言ではっ、と気が付きました。背中の痛みが完全に引いて、更には帝国の兵士も死んでいることにも。

 

私はとにかく目の前の天使様にお礼をしなくてはと思いました。

 

「あ、あの、天使様!!私と、妹を助けて下さりありがとうございますっ!!」

 

私は出来る限りの感謝を伝えた。それを聞いた天使様は鷹揚に頷いてこう言って下さいました。

 

「無事だったようで何よりね。それで、貴女達はここの村の子ですか?」

 

「は、はい!そうです。あっ!そ、それで、村が帝国兵に襲われてて、それで、お父さんが・・・・」

 

私はとっさのことでしどろもどろになりながら天使様に今の状況を伝えました。

 

「そうですか・・・・」

 

それだけ言うと天使様はアンデッドの方に振り返り何かを話していた。そして暫くするとまたこちらに振り返った。

 

「あの、天使様。あちらの方は?」

 

私が聞いたのは勿論あのアンデッドのことだった。

何で天使様と一緒に居るのかが分からなかったから聞いてみたのですが。

 

「ああ、あのアンデッドのことなら心配する必要はないわ。彼は私の友人だしそれに生者への憎しみもないから大丈夫ですよ。────っと、アテナ達も来たようですね。」

 

天使様がそう言って振り向いた先にはあの黒い渦から出てくる、この世の者とは思えない程に美しい天使様が二人も出てきた。そして、もう一方の方の渦からは恐らく女性だろうと思えた、全身鎧の人が出てきた。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

取り敢えず皆揃った事だしそろそろ村に向かおうかな。

 

と、そう思ったのでモモンガに話し掛ける。

 

 

「モモンガさん。そろそろ村に行きましょうか。」

 

「ええ、そうですね。っと、一つだけ試したいことがあるので少し待ってもらえませんか?」

 

「ん?別に良いですよ。」

 

「ありがとうございます。───中位アンデッド作成───」

 

 

モモンガがそう言うと黒いもやみたいなのが発生して綺麗な死体(モモンガが心臓掌握(グラスプ・ハート)で殺した方)に纏わりつき、無理やり肉体を改造しているような気持ち悪い光景の後にデスナイトとなった。

 

「デスナイトよ、あの鎧と同じものを着た騎士を殺せ。」

 

モモンガがもう一方の、私が過剰回復(オーバー・リカバリー)で殺して、既に骨と鎧のみになってしまった死体を指差しながらデスナイトに命令した。すると、何とデスナイトは守るべき筈の主人を放置してさっさと騎士を殺しに行ってしまった。

 

「えっ・・・・」

 

そりゃ、こっちもえっ、だよ。何でデスナイトが先に行っているんですか?確かに、殺せと命じたのはモモンガですけど・・・・

 

「仕方ありません。私達も後を追いましょう。」

 

そうやって村に向けて飛んでいこうとしたその時、背後から声を掛けられた。

 

勿論、村娘の二人だった。それにアルベドが怒鳴りそうになるのをモモンガが制してから続きを促す。

 

「あの、貴殿方のお名前をお聞かせ下さい。」

 

その言葉に、モモンガは少し思案しているようだったので私から名乗った。

 

「私はシエル。たまたまここに来た女神よ。」

 

そして、モモンガは───

 

「我が名はアインズ・ウール・ゴウン!ナザリック地下大墳墓の主だ!」

 

と、大袈裟に名乗った。

 

 

 

■■■■

 

 

 

村までの道中。何故モモンガにギルド名を名乗ったのかと聞いてみると、『この世界にも他にもプレイヤーが居るかもしれないから、それに気づいてもらうため。』らしい。まあ、他にも目論見はあるのだろうけど・・・・

 

 

と、そうこうしているうちに村の中心部に着いたようで、そこには集められた村人と、絶賛騎士を蹂躙しているデスナイトの姿があった。

 

「デスナイトよ、そこまでだ。」

 

モモンガ、(もとい)アインズは魔王ロールで威厳のある低い声でそう命令すると、今の今まで縦横無尽に蹂躙していたデスナイトはピタリと止まった。

 

その一声で、その広場にいる全ての人間(どうでもいい存在)がこちらを見上げた。

 

あれ?私ってこんな思考してたっけ?まあいいや。

 

「私の名はアインズ・ウール・ゴウン。ナザリック地下大墳墓の主だ。」

 

と鷹揚に名乗りを上げた。

 

「そこな騎士の諸君。まだ私と戦いたいかね?」

 

その言葉に騎士達は察したのだろう。この存在(アインズ)が先ほどのアンデッドよりも圧倒的な上位に居る存在なのだろうと。それからは早かった。各々は助かりたいが為に一目散に逃げ帰り、あっという間にここには騎士は居なくなった。

 

この場に残るのは村人達と、広場に不気味に佇まうデスナイト。そして上空に待機する私達だった。

 

それから私達はゆっくりと地上に降りて来た。

 

 

「この村の代表者は誰かね?」

 

アインズがそう問いかけると、一人の壮年の男性が出てきた。

 

「あの、私がこの村の村長ですが・・・・あなた様は一体・・・・」

 

「ふむ、私は通りすがりのマジックキャスターだ。何、この村が襲われているのを見つけてね、助けに入った次第だ。─────無論、ただとはいかん。少しばかりの金銭と情報を頂こう。」

 

と、このように営利目的にした方が怪しまれにくいと思ったのか、アインズは対価を要求した。

 

あ、勿論私もアインズも偽装してるから、アインズは嫉妬のマスクを、私は羽を仕舞っている。勿論アテナ達も。

 

そして、これからカルネ村との交渉が始まる。

 

 

 



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11話 カルネ村3

 

 

 

私はエンリ・エモット。カルネ村に暮らす普通の村娘です。

 

ある日、何時ものように過ごしていると少し村が騒がしいことに気付きました。そしてそれは直ぐに情報として伝わって来ました。何と、帝国兵が村を襲撃していると言うのです。

 

それを聞いたお父さんが私を守るために家に匿って守ろうとしてくれたのですが、やはり見逃されませんでした。やがて帝国兵が家にやって来て問答無用でお母さんを切り殺してしまいました。

 

私にはそれが怖くて怖くて、それを見まいと必死に目を反らしました。

 

そんな蛮行に対してお父さんが抵抗しましたがやはり、剣で刺されてしまいました。

 

そんなお父さんは私とネムに逃げろと言いました。幸い、私とネムの近くには兵士は居なくて私の足でも逃げることが出来ました。

 

しかし、やはり女子供の足では直ぐに追い付かれてしまい、私は背中を斬られてしまいました。

 

本当に、その時は死んだ方がマシだと思えるほどの痛みが私に襲いかかりました。でも、それでもネムだけでも助かるようにと必死にネムを庇いましたが、数回斬りつけられて私の意識は今にも途切れてしまいそうで───その次の瞬間です。兵士がその振り上げた剣を振り下ろそうとしたとき────その兵士が硬直して私は不思議に思いました。

 

どうやら兵士は私を見ていません。更にその後ろ。だから私も辛うじて動く首を頑張って後ろに振り向けました。

 

そこには(絶望)がありました。その絶望から放たれたたった一言。それだけで兵士は死んでしまいました。

 

正直、恐怖よりも混乱が打ち勝っていました。目の前で行われた一連の行為が頭に入って来ませんでした。

 

そしてやがて、もう一人居るのにも気が付きました。そちらは先程の絶望とは対照的に、光に溢れる存在でした。直感的に私はその存在を天使様と思いました。あれほど神々しい存在は天使様だけだと思いましたから。

 

そして、その天使様も一言。それだけでもう一人いた兵士も肉が腐り果て死んでしまいました。正直、そちらの方が恐怖を煽るような死に方だったと思います。何せ、肉が腐るのを生で見てしまいましたから。

 

でも、それでも天使様はこちらに近づいてきて私に何か一言を言っただけであっという間に私の傷を癒してしまいました。

 

 

 

 

一方、アンデッドの方は何と天使様の友人だと言うのです。ですが、命の恩人の方々ですので私はそれを信じました。

 

天使様が出てきたお二方の天使様と話している内に、アンデッドの恩人?が近づいてきて私にいくつか質問をしてきました。

 

魔法を知っているか?とか、マジックキャスターを知っているか?とか。

 

私がそれに答えた後にその人?が何か唱えると私とネムの周りを囲うように透明の膜が張りました。そこに何かを渡され、それがどう言った物かを説明された後に、その人は天使様の方に向かいました。

 

そして、天使様と何かを話している内により衝撃的な光景を見てしまいました。何と、人間がスケルトンになってしまったのです。今度こそ恐怖してしまいました。もしかしたら私もああなってしまうのでは?という恐怖が私の頭を支配しました。しかし、その考えとは裏腹に、天使様と恩人のアンデッドが行ってしまいそうになったので、私は咄嗟にお二方のお名前を聞きました。

 

すると、天使様は少し微笑みながら『シエル』と名乗って下さいました。そして、アンデッドの方は重厚な声で『アインズ・ウール・ゴウン』と名乗って下さいました。

 

私はそのお名前を忘れないよう、お二方の姿が見えなくなった後も頭の中でお二方のお名前を反芻するのでした。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

あれから主に私が村長さんに質問をして、ここがどんな場所なのか、彼らが何者なのか、それと金銭の価値を説明してもらった。

 

そして、もらった金貨等はアインズと折半することになった。

 

「アインズ様、シエル様。どうやらこの村に何者かが近づいてきているようです。」

 

そう報告するのはアインズの守護者のアルベド。何故、私にも様付けしているのかと言うとアインズがそう言うように命じたから。私としては別に様付けじゃなくて良かったんですけどね。アルベドも嫌々そうに言っていますから。

 

「ふむ、そうか。村長さん。一緒に広場に来てもらえませんか?」

 

アインズのその提案に村長はただ肯定するだけだった。

 

 

 

 

それから暫くすると馬に乗った、先程とは違う装備の兵士が数十人やって来た。

 

「村長さん。彼等が誰だか分かりますか?」

 

「え、えぇ。あの方達は王国兵士の方々で、先頭に居られるのは王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ様です。」

 

ふぅーん。王国戦士長かぁ。

 

「それはどれ程の強さですか?」

 

おぉー、ざっくりと切り込んでいくねぇ。

 

「戦士長様は周辺国家最強と言われておりますが。」

 

「ふむ、そうですか。取り敢えず彼らと接触しましょう。彼がどんなものか見てみたいものですからねぇ。」

 

と、アインズと村長さんがそう話していると後ろからアテナが私に報告してきた。

 

「シエル様。あの戦士長とやらですがはっきり言って弱いです。30レベル位ですので。」

 

「やっぱりね。まあいいわ。それでもこの世界ではそれなりの強さなのでしょうから、会ってみる価値は十分にあるわね。」

 

 

こうして、アインズとシエルは王国戦士長を待ち構えるのであった。

 

 



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12話 カルネ村4

 

 

刻一刻とカルネ村に迫る多数の影があった。それはガゼフ・ストロノーフ率いる騎兵であり、彼らは周辺で襲われている村を助けに向かってはそこに人員を残してきた為に現在では僅か少数であるし、消耗もしている。

 

そんな彼等は次なる襲われている村。カルネ村へと向かっていた。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

どうやら来たようですね。

 

僅かに見えた影を捉えそう思う。

 

 

やがてその影は段々と大きくなり、こちらに来るのがはっきりと分かる。

 

そして、馬上から男は名乗りを上げた。

 

「――私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を退治するために王の御命を受け、村々を回っているものである」

 

と、中々迫力のある自己紹介だったが。

 

「村長だな。」

 

ガゼフはそう一言述べた後、矢継ぎ早に次の言葉を紡いだ。

 

「そちらの方は誰だ?」

 

「────」

 

「はじめまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われておりましたので助けに来たマジックキャスターです」

 

そう、村長がアインズの事を紹介する前に名乗った。

 

すると、それを聞いた戦士長は馬上から降りて何と頭を下げてお礼を述べた。

 

「村を救っていただき感謝の言葉も無い」

 

「いえいえ。実際は私も村を救ったことによる報酬目当てですから、お気にされず」

 

「では申し訳ないが、どのような者達が村を襲ったのか、詳しい話を聞きたいのだが?」

 

「私は構いませんが、村長さんはどうですか?」

 

「いや、私も構いません」

 

「では聞かせてもらおう」

 

「構いませんが、色々と詳しくご説明した方が良いでしょうし、長話になるといけません。イスにかけてお話をしませんか?」

 

「ふむ……一理あるが……」

 

「それにこの村に来た騎士のほとんどを殺しました。しばらくは暴れないのではと愚考します。その辺りのご説明も必要でしょう」

 

「なるほど」

 

あれ?私、忘れられてない?と思ったのは間違いだろうか?思えば、私のことは一切紹介されてないし、またガゼフも気にしていない。もしかしなくても私、ボッチ?

 

そう思っていた矢先、ガゼフがいきなり話し掛けてくるものだからちょっと驚いてしまった。

 

「失礼、貴女は?」

 

「私はシエルと言います。私もこの村を助けに入ったマジックキャスターですね。」

 

やはりそれを聞いた戦士長は頭を下げてお礼を述べるのだった。その態度には感心するものがある。王国戦士長ともなればそれなりの地位に居るだろうが傲ることなく、素直にお礼を言えるのは私も素直に感心したのだ。

 

「貴女もですか。本当にありがとう。」

 

「いえ、私も正直言えば営利目的ですのでね。」

 

「それでもですよ。本当に感謝に堪えない。」

 

それからまぁ、ガゼフがデスナイトについて尋ねて、アインズがそれに答えて説明して(危ない部分もあったが)事なきを得た。

と、思えばまた問題というものは転がり込んでくるもので、何と偽装していた帝国兵はスレイン法国という国の工作部隊だと言うのだ。今さらそれが分かっても意味はないが。いや、どちらにしろ私達には関係はなかった。何故なら、どこの国の部隊だろうが敵対する以上は変わりはない。それがどこの国であろうと関係のないことだった。今回、それがスレイン法国という名の国だっただけだ。

 

まあ、しかし、気がかりではある。そのスレイン法国とやらが何を目的に帝国に偽装してまで王国の村を襲っているのかだが。それは戦士長に任せることにした。どうせ、国の揉め事に首を突っ込んで良いことなんて一つも有りはしないから。

 

暫くすると話はついたようで、アインズがこちらに来た。

 

「どうでした?アインズさん。」

 

「シエルさん。ええ、まあ上手く行ったと思いますよ。中々あのガゼフという人には好感が持てますね。ああいう人は私は好きですよ。」

 

と、意外とアインズには好評の性格であったようだ。

 

「ええ、私もそう思うわ。まあ、だからと言ってどうこうと言うわけではないんだけれど、アインズさん。先程アテナから報告を受けたんですがね、どうやらこの村を囲うように武装した集団が近付いている様なんですね。まあ、状況から考えるにスレイン法国の輩だとは思いますが。」

 

私がそこまで言うとアインズは少しばかり驚いたようだった。

 

「そうですか、困りましたね。どうしましょうか。取り敢えず私は戦士長にでも報告して来ますね。」

 

「はい。お願いします。」

 

 

それから成り行きでこの村を守るという約束をガゼフと交わしたのだが、ガゼフにあのマジックアイテムを渡しているところを見るに、アインズ直々に潰しにかかるみたいですね。かという私もここに居るだけではつまらないのでこっそりと着いていかしてもらいますが。

 

さてさて、王国戦士長殿はどこまで戦えますかね。まあ、30レベル台ならばこの世界ではそこそこ戦えるのてしょうが・・・・多勢に無勢ですかね。敵との戦力差は如何ともし難いですし。

 

でもまあ、王国最強が見られるのなら良しとしましょうか。

 

「アインズさん。私も一緒に行きますからね。」

 

「えっ?あ、ああ、はい。」

 

と、アインズのそんな間の抜けた返事を聞いて、ああ、この人、ちょっと緊張してるよ。と思うシエルだった。

 

 

 

 



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13話 カルネ村5

あの後、アインズがガゼフを見送った後私は遠隔視(リモート・ビューイング)を使い、ガゼフと法国の部隊との戦いを見ていたが、確かにガゼフは強いが、それ以上に相手も強いしそれに隊長格の男はガゼフと同じかそれ以上の手練れだろう。尤も方向性は全く違うが。

 

「ふむ───やはりここまでか。」

 

遂にガゼフが膝をついた。もはやガゼフ・ストロノーフには戦う体力など残っていない。現状、気力のみで立っているようなものだ。

 

「さて、私も行きましょうか。」

 

そう言ってアテナとヘカテーを連れて転移する。

 

 

 

 

「あれ?シエルさんも今来たんですか?」

 

どうやらアインズもガゼフと入れ替わりで今来たようだった。

 

「ええ、はい。」

 

そこで、私は念話に切り替えてアインズに話し掛ける。

 

『すみません、アインズさん。今回はちょっと私に任せてもらえませんか?上手くいけば情報をたんまりと得られると思うので。』

 

『え、はい。そう言うことなら構いません。私達は防御に徹するので。』

 

『すみませんね、わざわざ。』

 

そういい終えて念話を終える。

 

その間律儀に待ってくれていた法国の皆さんだが遂に堪忍袋の緒が切れたようで、隊長とおぼしき男がこちらに怒鳴ってきた。

 

「一体何者だ!!貴様ら!」

 

随分な物言いだと思った。そちらがこの村を襲ってきたのではないかと言い返したい気分だが、我慢だ我慢。

 

「汝等に告ぐ。」

 

私は鷹揚に女神のロールプレイで話し掛ける。

 

「即刻この村から立ち去るといい。さもなくばこの私が天罰を下さん。」

 

私がそう言うと男は激昂したようで更に怒鳴ってきた。

 

「ふざけるなよ、そんなに調子にのっておいてただで済むと思わんことだ!全天使を突撃させよ!!」

 

男がそう言うと召喚された天使が此方に向かってきた。

 

下位天使支配(ドミネイト・レッサーエンジェル)

 

私がその魔法を唱えるとすべての天使が停止した。この魔法はその名の通り、下位天使を全て支配するものでそこに例外はない。これの上位に上位天使支配(ドミネイト・アークエンジェル)がある。そちらならば第八位階までの天使を支配できる。

 

「なっ、何だ!!?おい!天使達よ、敵を攻撃せよ!!」

 

男は天使にそう命令するが、全ての天使はこちらの支配下にあるので動くことはない。

 

さて、そろそろかな。

 

そう頭の中で言って、私は六対十二枚の羽を顕現させた。

 

「なぁ!・・・・天使、様・・・・」

 

「もう一度言う。汝らよ。まだ戦いを挑むか?」

 

「も、もも申し訳ございません!!天使様!!」

 

「ふむ、それは何に謝っているのか?」

 

「そ、それは天使様に対する数々の無礼を・・・・」

 

はあ?謝る相手が違うだろう。

 

「まあいい。汝らは何を目的にこの地に参った?正直に申されよ。」

 

「それは、ガゼフ・ストロノーフの抹殺、です。」

 

「ふむ、─────」

 

 

その時だった。空間にピシッ、という音が迸った。

 

『シエルさん。どうやら彼等は監視されていた様です。私の攻勢防壁に引っ掛かりました。』

 

すかさずアインズがそう報告を入れてきた。

 

『ありがとうございます。これで更に情報を引き出せます。』

 

「どうやら汝らは監視されていたようだな。して、心当たりは?」

 

私が男にそう問いかけると男もわからない様子で酷く焦っているように見えた。

 

「な、なぜ?本国が私を監視?」

 

「どうやらソナタにも事情は分からぬようだな。そう言えば汝の名前をまだ聞いていなかったな。名を何という?」

 

「わ、私はニグン・グリッド・ルーインと申します。法国で陽光聖典の隊長を務めております!!」

 

陽光聖典ですか・・・これはまた聞き出せそうですね。

 

「陽光聖典と────他に法国にそういう組織はあるのか?」

 

「は、はい!他にもあります。」

 

「そうか。」

 

どうやら法国は厄介そうですね。敵に回したのは間違いでしたかね?

 

「そ、それで!天使様!是非とも天使様にお返ししたい物が!!」

 

そう言いながらニグンは懐から一つの水晶を取り出した。

 

ふむ、たしかあれは魔封じの水晶でしたね。

 

「これには威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)が封じられております。これをお返しします。どうか、我々にお慈悲を。」

 

と、半ば祈るように。それこそ信心深い信者が神に赦しを請うような(実際にそうであるが)姿であった。

 

それにしても、魔封じの水晶をそんな低位階の魔法に使うなんて勿体無いにも程がある。もっと最低でも第八位階の魔法でも込めておくべきなのに。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

シエルさんに任せてホントに良かったなぁー。

 

そう思うアインズである。

 

────いやぁ、シエルさんの女神ロール中々様になってるなぁ。

 

とか、

 

────スレイン法国の奴等って神を信仰してるんだなぁ。

 

とか、

 

────この世界の人類ってビーストマンとか言うやつらに追い詰められてるの!?

 

とか、様々な事を思ったアインズだが、一度途中で攻勢防壁が発動したのには少しだけ意外だった。まさか、こいつらが国から監視されてるなんて思わなかったから。まあ、そのお陰で更に情報を引き出せたのだが。

 

結局、シエルさんは彼等が定期的にわたしたちに情報を提供することで今回は見逃すと手を打った。彼等は貴重な情報源だからわたしにとっても文句のない決定だった。

 

 



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14話 束の間

 

 

 

あれより、スレイン法国との一件を片付けた私達はカルネ村に軽く連絡要員を残して、一路ギルドへと戻った。結局アテナとヘカテーを連れていった意味は殆ど無かった気がするけど、まあ今はそれは良いとしよう。

 

取り敢えずこれでこの世界の初接触は好感触で終えることが出来たので安心して一息つけると言うものだ。

 

「今度はどうしようかなぁ。」

 

ふとそう言ってしまうが、はっきり言ってこれから次のこと等は考えてもいなかった。せいぜいがナザリックと協調して行こう。ということ位で他には特にはなにも考えていなかったのだ。

 

まあ、アテナとヘカテーと共にこの世界に存在する冒険者になって活動する。という方針はあるが、それ以外は全くの白紙で取り敢えずこの世界の情報を集めているという状態が原状だ。

 

「そうだねぇ。私的にはスレイン法国が気になるんだけど────先ずはバハルス帝国からからなぁ。それに、アインズは多分、リ・エスティーゼ王国で活動するだろうしね。」

 

実際にそうなるかは知らないがまあ、そうなるだろうと思う。確かに王国は金を稼ぐにはもってこいだが。主に八本指とかの件でね。そこに関しては既にラファエルの手に及んでいる所だ。今のところラファエルの諜報網は帝国、王国、法国に加え、聖王国、竜王国、ドワーフ国にまで及んでいる。竜王国とか中々気になる所だけど、いささか距離があるし、何よりビーストマンに滅ぼされかけてるとか。

 

更には最近ではアーグランド評議国とか言うのも耳にしている。流石にその国の情報は多くはない。今のところその国名と位置位しか情報はない。

 

私としてのこれからの戦略としてはやはりリ・エスティーゼ王国を取り込む方針で、多分私が女神だと言うことを全面に押し出せばスレイン法国も言うことを聞いてくれそうだ。

 

バハルス帝国は今のところ手の出せる余地は無いが、いずれこの帝国にも何かしらのアクションは起こしたいものだ。

 

第一優先目標としてはリ・エスティーゼ王国の掌握だ。具体的には八本指を制圧、支配下にすれば王国での大抵は通るだろう。その為に後ろ楯だがスレイン法国を利用したい。どうやらスレイン法国はリ・エスティーゼ王国を解体したい様子だったし、その為にバハルス帝国と争わせようとしている。その証拠が先の偽装襲撃なんだしね。で、スレイン法国だけど天使とかに随分と信心深いから私の言うことを聞いてくれそうなんだよね。ラファエルによるとかの国はビーストマンなる敵から人類を守るために様々な国に部隊を派遣しているようだし。

 

だから、それを盾に譲歩を引きずり出す。まあ、プラン変更だ。当初、バハルス帝国にギルドがあったため帝国に協力してもらおうかとも思ったけど、介在の余地は(今のところ)無さそうだし、それならば私の種族的に信仰の対象であるスレイン法国ならばと思った訳だ。実際に言うことを聞いてくれるのかは疑問に思うが交渉してみる価値はあるだろう。上手くいけば傀儡なり、支配下なりになってくれるだろう。まあそれはおいおいでいい。今はこの世界を楽しみたいし、そんな面倒事は後回しにするのが一番だ。

 

そうと決まれば早速冒険者になるための幾らか準備をしておこうと早速取り掛かることにした。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

「なんやかんやで上手くいくもんだなぁ。」

 

一人アインズはそう独り言をこぼす。

 

先日のスレイン法国相手のシエルさんの交渉を思い出してみて思う。

 

「いやはや、まさかシエルさんがあそこまで凝って女神のロールをするなんてねぇ。」

 

まあ、そのお陰で情報をたんまりと引き出すことが出来たんですが。

 

実際、アインズの考えでは脅して情報を引き出すことが作戦だったし、どのみち殺すつもりであった。まあ、一人二人は魔法の実験に連れ帰ろうとも考えていたが。それもシエルの見事なロールにより無に帰した。その代わりにこの世界の様々な情報や状況を引き出すことが出来た上に、更に今後も情報を提供させることに成功した。いわば支配下だった。

 

彼等は恐らく天使様(シエルさん)に屈したのだろうな。何だかんだで天使か神のことを信仰しているんだろうし。

 

そんなことを考えている間に時間も過ぎた様で、アルベドがやって来た。

 

「アインズ様。先の件の処理は完了致しました。」

 

「うむ、ご苦労だ。さて、これからだが私は人間の街に向かいそこで冒険者になろうと思う。」

 

それを聞いたアルベドはかなり驚いたようでアインズに理由を尋ねた。

 

「まあ、理由としては更にこの世界の情報を得る為だ。他にも色々あるが─────」

 

ホントは楽しみたいだけなんだよなぁ。と、アインズは心中そう思う。

 

アインズ。いや、ここでは敢えて鈴木悟と言おう。

 

鈴木悟はこの異世界に来てからというもの、守護者達には過大な忠誠を向けられ、休む暇もなく、だから彼はこの世界を純粋に楽しみたいと思っていたのだ。

 

「─────主には私の名声を広げるためだ。」

 

と、内心とは関係なく無難な事を言った。

 

それを聞いたアルベドは何故か尊敬の眼差しで己の主人を見つめてこう言った。

 

「流石はアインズ様!!御自ら下等種族(人間)共の住みかに向かい支配されるのですね!!」

 

と、狂喜乱舞していた。これにはさしものアインズも宥めて宥めて、説得し、それは違うと言うことを説明したのだった。

 

前途多難だなぁ。

 

アインズはそう思った。

 

 



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15話 冒険者

 

 

「やはりこんなものですか。」

 

彼女の目の前にはギガントバジリスクだった骸が転がっていた。

 

「大したことはありませんね。まぁ、高々30レベルの雑魚ですからね。これだけで昇格できるなんで冒険者組合も甘いですね。」

 

その美貌とは裏腹に少々毒舌な彼女はトゥワイライト・オブ・ゴッズ(神々の黄昏)のギルド長のシエルだった。

 

その傍らには供のアテナとヘカテーがいた。

 

「まあ、この世界のレベルに合わせればそれでも十分なんでしょうね。魔法で一撃だったけど。」

 

他の冒険者が居たら卒倒しそうな話の内容だが、そもそもギガントバジリスク自体の数が少なく、滅多な事では遭遇しないしそもそもギガントバジリスク自体を倒せる冒険者は多くない。少なくともこの世界のレベルに合わせると、だが。

 

そもそも、難度90程度の相手にシエルが手間取るはずもない。数日前、冒険者登録してからその日の内にミスリル級冒険者に到達するという偉業を成し遂げた彼女たちはエ・ランテルでは有名だ。そして、今に至っては既にオリハルコン級冒険者だった。しかし、それでは納得しないのが彼女たちで現在はアダマンタイト級冒険者に昇格するためにギガントバジリスクの単騎討伐という、この世界の住民なら到底できない、しかし彼女たちにとっては片手間以下で出来る雑事をしていた。

 

そして、それを見届けるためにわざわざ同行していた冒険者が居た。それは『蒼の薔薇』と呼ばれ、王国ではかなりの人気を博しているアダマンタイト級冒険者パーティーだった。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

「なぁ、ラキュース。あいつら一体何モンだ?俺にはただバジリスクと遊んでる様にしか見えねぇんだが?」

 

そうかなり男っぽい口調で話すのはガガーラン。彼女は蒼の薔薇の前衛タンクだ。

 

「生憎と私にもそういう風にしか見えないわ。少なくとも彼女たち。『聖光』はお遊び以下で相手してるんでしょうね。私には少なくともそう見えるわ。イビルアイはどうかしら?あんなこと出来る?」

 

そう言う彼女はこの蒼の薔薇のリーダーのラキュース。魔剣の保持者でアインドラ家の令嬢ということでも有名だ。

 

「少なくとも私には不可能だ。ギガントバジリスク相手に一対一で勝てはするがあんなに余裕をかまして勝つのは出来ないと言っておく。まして、連戦なんてとんでもないな。まあ、二体位ならば連戦しても大丈夫だろうがな。」

 

こう言った彼女はイビルアイ。常時仮面をつけていてその素顔を知るものは殆ど居ない。実は彼女は200年ほど前に『国堕とし』と呼ばれた吸血鬼なのだがそれを知るものはこの世界に僅かばかりしか存在しない。

 

「しかも、あの先程見た魔法は少なくとも第六位階は越えている。かの有名な帝国のフールーダ・パラダインに匹敵する、或いは越える実力者と見るべきだと私は思う。私があの人たちと戦っても勝ち目がないのが分かるくらいには。」

 

それを聞いた蒼の薔薇のメンバーはそれほどかと思った。

 

チーム内でもイビルアイの実力は飛び抜けており、そんな彼女にそこまで言わせた聖光。エル、アテナ、ヘカテーの3人を見た。既にそのギガントバジリスクも死に体でもはや動きすらしてない。よく見ないと一見只の死体のように見える。

 

「どうやら終わったようね。それで、どうかしら?彼女たち。」

 

「ああ、俺ぁ文句はねぇな。実力も恐らくこの世界でも最上位だろうし、品行も良い。」

 

「私も構わない。」

 

「私も良い。それよりもエルを押し倒したい。」

 

「私も。ショタが居ないのが残念。」

 

「はぁ、お前らなぁー。」

 

ガガーランが盛大なため息と共に向けた視線の先の双子。ティアとティナ。彼女たちはこの蒼の薔薇でも飛びっきりの変わり者と言うか変態で、ティアは極度のショタ。ティナは極度のレズというキャラがとても濃い双子であった。

 

しかも仲間入りした切っ掛けがラキュースを暗殺しに来たと言うのもそうだ。まあ、その時にティナがラキュースを襲おうとしたのは余談?だが。

 

「ティナ。ダメよ。彼女たちを襲っちゃ。いくら貴女の好みでもそれは私が許さないわ。」

 

「残念。」

 

と、一見すると別に残念がってはいなそうなティナだった。実は内心凄く悔しがっているがそれを知るのは仲間内のみである。

 

「それじゃあ全員一致ということで、組合には昇格を推薦しておくわ。皆の名前を出しても大丈夫よね?」

 

「問題ない。」

 

と、このようにシエル達の昇格は決まった。

 

 

 

■■■■

 

 

 

「ねぇ、アテナ、ヘカテー。あの子。確かイビルアイと言ったかしら?彼女、吸血鬼みたいだけど隠してるのかしらね。何よりこの世界では相当な実力者だしこちらに引き入れたいわね。何か案はある?」

 

「そうですね。やはり、彼女たちは硬い絆と言うもので結ばれている様なので普通に引き抜くのは不可能でしょう。それこそ深い絶望でも与えて心情的に此方に引き入れない限りは。彼女たちの場合、イビルアイが吸血鬼だと言うことを伝えても受け入れてしまいそうですから。」

 

そうやってヘカテーが答えるが、案外とエグい事を言うもんだ、と思ったシエルだった。

 

「ヘカテー、貴女、意外ととんでもないことをさらりと言うのね。まあ、良いわ。彼女が強いと言ってもあくまでもこの世界の基準に照らし合わせればだから、その程度ならギルドに沢山居るから別に無理して取り込む必要は無いわ。それよりも早く戻りましょうか。」

 

そうやって少々物騒な話を打ち切って蒼の薔薇の方に向かうシエル達だった。

 

 



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16話 冒険者2

 

 

 

エ・ランテル市内

 

 

その街のある場所に人だかりが出来ている。その様子からは何かあったと言うことが伺える。しかし、この場合はその人だかりの中の中心人物達が居た。

 

それは蒼の薔薇のメンバーと聖光のエル、アテナ、ヘカテーだった。蒼の薔薇は大陸で有名であるし、聖光はその異例の昇格スピードとその美貌で有名だった。少なくとも既に王国と帝国の一部では広まっている。

 

そんな有名な二つの冒険者チームが一緒にいるのだ。逆に人だかりが出来ない方がおかしい。だから、シエル達が移動するにつれて群衆も移動するという、少々周りからしたら迷惑なことになっていた。流石に忙しいのか渋々離れていく人もそれなりには居たが、それでも彼女たちと同じ冒険者はついてきている。冒険者達はそれぞれ羨望の眼差しや尊敬の眼差しで彼女たちに視線を送っている。彼等からすれば蒼の薔薇と聖光は雲の上の人なのだ。そして冒険者ならば目指す目標でもある。が、しかし、実力の差は如何ともし難くて特にシエル達との実力差ともなれば月とすっぽんの度を大幅に越えていてもはやどうこうのレベルではない。そもそも種族さえ違う。

 

「ねぇ、ラキュースさん。これ、どうしようかしら?」

 

シエルが本当に困ったという風にラキュースに答えを求める。

 

「済まない。これは私にもどうしようもない。力ずくは私の主義ではないのです。」

 

「勿論それは分かっていますし、私もそうですよ。だからこうするんです。ヘカテー、お願いします。」

 

「分かりました、エルさん。魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)完全不可視化(パーフェクト・インビシブル)

 

ヘカテーがそう詠唱すると周りから見ればたちまち私達の姿が消えてしまった事だろう。この完全不可視化(パーフェクト・インビシブル)は第七位階の魔法で、第九位階の完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)には劣るが、それでも姿と気配はほぼ完全に遮断し、また声を出しても大丈夫。まあ、こちらから攻撃したら解除されるのは隠蔽系魔法に共通することだ。これはユグドラシルでは不完全であまり好んで使われなかったが、この世界ならこれでも見つけられる存在は両手の指に収まる程だろう。

 

「これで周りから見えていないですよ。ただ、あまり大声で話さないのとこちらから接触すると魔法が解除されるので注意してくださいね。」

 

少し戸惑っている様子の蒼の薔薇の人達にそう言うと流石はアダマンタイト級冒険者と言うことだろう。直ぐに状況を理解した様子だった。

 

「ああ、そう言うことか、済まないな助かったよ。」

 

「どういたしまして。さて、ここからは飛行(フライ)で飛んでいきましょう。」

 

と言ったが、蒼の薔薇ではそれを使えない人もいるのでまた魔法効果範囲拡大化を使って全員に効果を行き渡らせてギルド前まで飛んできた。

 

それから魔法効果消散(マジックエフェクト・ディシペイション)を使って完全不可視化を解除した。その際にまた蒼の薔薇のメンバーに驚かれたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

それから冒険者組合で昇格の為の小さな式年みたいなのを終えた後にアダマンタイト級冒険者のプレートを渡されて晴れて新たなアダマンタイト冒険者の仲間入りをした聖光ことエル、アテナ、ヘカテーの3人。それは直ぐに皆の知るところになる。情報が波及するのは電子メディアが無いこの世界でも早いもので、人の口伝てに直ぐに広まりそれは勿論貴族や王族の耳にも入ることになった。

 

 

 

■■■■

 

 

 

「ふむ、新たなアダマンタイト級冒険者か。」

 

そう呟いたのはこのリ・エスティーゼ王国の国王のランポッサ三世だった。

 

「はい。どうやらあの蒼の薔薇の推薦もあったと聞いております。」

 

「蒼の薔薇か。確かにその蒼の薔薇の推薦ならば実力も確かだろうな。」

 

「その通りですね。後は、エ・ランテルのアンデッドの一件を鎮圧した『漆黒』も近々アダマンタイトにも昇る実力者と聞いています。今この王国から新たなアダマンタイト級冒険者が現れたのは対外的にも誇れる事でしょう。」

 

「うむ。そうだな。しかし、バハルス帝国との例年の戦争ではこちらの被害が大きいと聞いているが、それを差し引いて帝国には誇れるか?」

 

「それは····」

 

執政官は言葉に詰まってしまう。

 

幾ら自国内で人類最高戦力であるアダマンタイト級冒険者が誕生したとはいえ、毎年のカッツェ平野での王国と帝国の戦争ではその物量の差にも関わらず敗北している。王国はその物量故に敗北ではないと言い張っているが、一部の良識派の貴族はしっかりと敗北と捉えている。

 

故に、外交的に帝国に敗北している王国ではアダマンタイト級冒険者の誕生というカードは正直言ってあまり使い物にはならないと思われる。

 

それに冒険者とは国により縛られないものであるから、ただ単にその国で誕生したという結果だけが残り別にその国にそのまま戦力になる訳ではない。まあ、レエブン候と元オリハルコン級冒険者の関係もあるが、それはレエブン候個人の交友関係に依るものだからただ善意の加勢なのであくまでも個人の戦力と数えられる。

 

「はぁ。私はこの国を守れるのだろうか·······」

 

国王のそのため息と共に吐き出された一言がこの玉座に重く響くのだった。

 

 



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17話 冒険者3

 

 

 

王都リ・エスティーゼ、ロ・レンテ城内、ラナーの居室。

 

そこには現在、ラナー王女と交友関係のある蒼の薔薇のメンバーに加えて聖光の姿も見られた。

 

彼女たちはラナー王女から呼ばれてこの王城に来ていた。

 

 

「わざわざ私達を呼んで下さりありがとうございます。」

 

「いえいえ、私が勝手にしたことですからお気になさらず。それよりも紅茶、どうぞ。」

 

そう言いながら私に紅茶を勧めてくるラナー王女。見た目は完全に黄金の二つ名に恥じない美少女で品行も良いのだが、どこか底の知れない女だと感じた。まあ、王女様に会うのなんて前世と今世を合わせても初めてだからこんなものなのかもしれないけどね。

 

「ありがとう。それで、ラナー王女と蒼の薔薇の皆さんの付き合いはそこそこ長いのですか?」

 

「ええ、そうね。」

 

「主にアインドラ家とは王家も懇意にしているからその関係に依るものが大きいと思うわ。」

 

と、ラナー王女の肯定に加えて説明してくれるラキュース。

 

「そうなんですね。」

 

「はい。それで、話は変わりますが皆さんはアインズ・ウール・ゴウンという名をご存じですか?」

 

と、ここで唐突に話題転換をしたラナー王女。勿論私はアインズについては知っている。何せ同盟も結んでいるしプレイヤー同士だからね。多分、ガゼフからの情報が来ているのだろう。

 

まあ、ここは知らぬ存ぜぬを通すしか無いよね。

 

「うーん、私は名前くらいなら聞いたことはあるわね。確か、カルネ村を救ったマジックキャスターだと聞いていますが。」

 

そう答えたのはラキュース。彼女は貴族の令嬢故にそこまでは知っているらしい。

 

「私も名前くらいは聞いたことがあるな。具体的に何をしたかは知らないが。」

 

と、答えたのはイビルアイ。

 

他のガガーラン、ティナ、ティアは知らないようだった。

 

「聖光の皆様はどうですか?」

 

こちらにも質問してくるラナー王女。

 

『ヘカテー、アテナ。私たちは知らないで突き通すわよ。』

 

『分かりました、シエル様。』『了解しました、シエル様。』

 

このように念話でアテナ達と口裏を合わせて答えることにした。

 

「私も聞いたことはありませんね。恐らくアテナもヘカテーも知らないと思いますよ。」

 

「ええ、エルさんの言う通り私は存じません。」

 

「私も同じく。」

 

と、順にシエル(エル)、アテナ、ヘカテーの順だった。

 

「そうですか。ありがとうございます。」

 

「でもよぉ、ラナー王女。そのアインズ何とかってのがどうかしたのか?」

 

と、王女に対してかなり失礼な口調だがそれを本当に気にしていない様な風でさらりと流した。

 

「ええ、実は戦士長の話では戦士長以上の実力者だと言うことで、方向性は違いますが戦士長よりも強いと言うことです。先の襲撃もそのアインズ・ウール・ゴウンというマジックキャスター一人で撃滅したようですから。それと、そのマジックキャスターと共にいたシエルという名の女性の情報も聞いていますがこちらは詳細不明です。」

 

「ふーん。シエルねぇ。エルに名前が似てるなぁ。」

 

「そうね。そんな偶然もあるものね。」

 

と、一見は冷静に答えているようだが内心そうではない。

 

───しくじった!!偽名とか安易なやつにしたせいでバレそう!!とか思っている。

 

しかもアテナとかヘカテーは名前そのままだが、彼女たちの情報が出回らなかったのは幸運だっただろう。

 

「あら?エルさん、少し顔がひきつっていますよ?」

 

「そ、そうですか?私、王女様に会うのが初めてなものですから少し緊張しているのですよ?これでも。」

 

「あら、そうでしたか。それはすみません。配慮が足らず。では少しでも緊張を解すために私のことはラナーと呼び捨てで構いません。わたしもエルと呼ばせて頂きます。」

 

と、なんか呼び捨てで呼び会うことが確定してしまった。まあ、私としても堅苦しいのは嫌だから良いんだけど。

 

「分かりましたよ、ラナー。」

 

「ええ、それで良いんですよ、エル。」

 

と、そう言うとなんだか変な空気になってしまった。

 

「あー、お二人さん?ちょっと何かが違うような気がするんだけど?」

 

と、そんな空気に耐えられず切り出したラキュースである。

 

「いや、ごめんなさいね。まさかこんなにも微妙な空気になるとは思わなかったから。」

 

と、言い訳をしてみるエル。

 

「そうでしょうか?私は別にそんなに変な感じはしませんでしたが?」

 

と、天然なのか分かってボケているのかわからないラナー王女の曖昧な回答だが、まあ面白い王女様だと思っているエルである。

 

「そう言えばエル達と言えばギガントバジリスクの単騎討伐でしたか?凄いですね。私には良く分かりませんが、それでもとても凄いことなのは分かります。」

 

「ありがとうございます。」

 

「そうだよなぁ。ホントにギガントバジリスクの単騎討伐やっちゃう奴だからなぁ。ホントに人間か?」

 

「ふふ、この姿を見ても人間でないと思いますか?」

 

と、現在は羽を展開していないので見てくれは完全に人間のそれである。

 

「ま、人間にしか見えねぇな。それでギガントバジリスクの単騎討伐なんてやらかすんだから相当なモンだぜ。全く。」

 

と、称賛しているのか呆れているのかわからないガガーランのその言葉に思わず苦笑してしまうエル。

 

「まあ、良いでしょう。さ、続けましょう。まだまだ時間はあるんですから。」

 

そのラナーの言葉を聞いてまだ続くのかと思うエルである。

 

 

 



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18話 スレイン法国乗っ取り計画

 

 

 

はぁ。やっと解放されましたよ。あの王女、何かと話が長いんですよね。しかしまあ、この王国の詳しい内情まで聞けて結果オーライでしたが。

 

あの王女様どうやらこの国が終わると思っているようですね。それに、この国がどうなろうと知ったことないと言った風な態度でしたし。それに、八本指でしたね。それの対処を表だってしているようですが本人はどうでも良いようでしたし。

 

「シエル様?」

 

おっと、しまった。少々考え事をし過ぎたかな?

アテナが私のことを呼んだ。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、その先程から何かずっとお考えの様でしたから。」

 

「そうね。あの王女について考えていたわ。」

 

「あの王女、と言うとラナー王女の事ですか?それなら彼女は民衆から『黄金』と呼ばかなり支持を持っているようでしたよ。」

 

「それは私も知っているわ。ラファエルから報告は受けているからね。でも、私の想像が正しければあの王女、裏の顔は相当そうよ。何せ、あのクライムとか言った王女の専属の護衛に近づいたメイドが城から姿を消しているという噂も聞きましたからね。多分、あの王女は護衛の事を愛しているのね。だから近づいた邪魔なメイドを消した。私はそう考えるわ。」

 

と、自身の推論を述べるシエル。

 

実際そのようなことなのだけれど、ラナー王女の場合は一種のヤンデレのような状態と言ってしまった方が正しいだろう。クライムのことはラナーは何にも優先して(それこそ祖国よりも)守りたい、手に入れたい、愛したい存在で、何よりも大切にしている。なのでラナーにとって王女と言う地位はラナーの望みであるクライムとの結婚と言うのには邪魔なものでしかない。王女と元スラムの平民ではどうやっても釣り合いは取れないからである。なのでラナーは政策を打ち出してはそれが上手くいかないように工作して自分の地位を貶めようとしているのだが、何故かそう上手くはいかない現状に納得していないラナー。民衆からの支持を集めすぎて第二王子のザナックやレエブン候から等の上級貴族からは疎まれている。なので本人としてはそれで追放されるのならクライムと一緒に国を出て静かに暮らそうと思っている。しかし、それが原因で殺されては元も子もないのでそこら辺は巧くやろうと思っているラナー王女。

 

「それは流石に深読みし過ぎでは?」

 

「確かにそうかもしれないわね。今の話は取り敢えず頭の隅にでも置いておいて下さいね。さて、私は今から少しギルドに戻りますがあなた達はまだしばらくの間今まで通りに活動して置いてくれる?」

 

「はい。私は構いません。シエル様のご命令ならば如何様にも。」

 

「私も構いません。シエル様の思うままに。」

 

と、アテナもヘカテーも納得してくれた様でホッとした。私としてはこれからは一旦冒険者としての活動は中断して法国の取り込みの段取りをもっと煮詰めたいと思っているし、その為にギルドに籠りっぱなしの諜報担当のラファエルにも指示はしておきたいし、法国を取り込む為にギルドの力を遺憾なく注ぎ込む予定です。

 

「ありがとう、二人とも。それじゃあ暫くは王国と帝国の両国で活動しててね。また追って指示は伝えるからね。」

 

「分かりました。」

 

それから私はギルドに転移門(ゲート)でギルドに向かった。

 

 

 

 

 

 

「さて、何日ぶりかなぁ。」

 

と、数日ぶりに戻ってきたギルドにそうこぼす。

 

「お帰りなさいませ。主よ。」

 

「あら、ミカエル。あなた私を出迎えてくれたの?」

 

「はい。勿論です。」

 

「それじゃあ私をラファエルの所に案内してくれるかしら?」

 

「了解しました。」

 

そうやり取りを終えて私はミカエルの後を着いていく。

 

「こちらです。」

 

と、手で場所を指し示して教えてくれるミカエル。その場所は確かラファエルの私室だったかと思い出した。

 

私はノックもせずに部屋に入った。そこには恐らく眷属からの報告を纏めているのだろうこちらに気付いた様子もないラファエルの姿があった。

 

「ラファエル、失礼するわよ。」

 

と、私が声を発すると初めてラファエルはこちらに気付いて少し驚いた様子をしたが、直ぐに何時もの冷静な態度に戻った。

 

「主か。ご帰還なされたのか?」

 

「ええ、そうよ。今帰ったわ。それで貴女に指示をするためにここに来たのよ。ミカエルに案内してもらってね。」

 

私がそう言うとラファエルは得心がいったようで頷いた。

 

「そうでしたか。それで、私にどのようなご命令を?」

 

「ええ、今貴女に複数の国家の情報収集をさせているけど、一時スレイン法国以外の眷属を最低限以外を全てスレイン法国に差し向けて情報操作をして。主に前に報告があった六大神とか八欲王、十三英雄とかの評判を探るのと、天使に対しての信仰心の深さ、それに政府。それらを主に調べてほしいの。それで、情報操作はエルフ国が王国と同盟を探っている、とか兎に角そんな感じのデマを流してくれるだけで良いわ。それをこっちが上手く使うから。」

 

「了解した。主よ。しかし、そのスレイン法国がどうかしたのか?主がそこまでするなんて······」

 

「ああ、それなら私がちょっと法国を乗っ取ろうかな、と思ってね。あの国なら多分神様とかそう言うのを信仰しているだろうし、それならば事実神である私が降臨すれば乗っ取れるかなってね。それに、前に会った陽光聖典とか言う特殊部隊とも面識あるしいざとなったら彼等に何とかしてもらえばいいでしょう。彼ならばそれなりに法国にも影響はありそうでしたから。」

 

斯くしてシエルはここで法国の取り込みを決定したのだったが、それがどのような結果を生むのかはまだ誰も知らない。



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18.5話 スレイン法国への影響

 

 

 

あの指示をしてから暫く(大体一週間)経ったがスレイン法国ではある一つの噂が広まっていた。それは民衆レベルから既に法国の上層部までに及んでいた。

 

その噂とは勿論シエルがラファエルに命じて広めさせたエルフ国がリ・エスティーゼ王国と同盟を探っていると言う情報。勿論それはデマであるが、気乗りしたラファエルはついでにそこにバハルス帝国も加えていた。その為にいささか信憑性が低くなるものだが、そもそも帝国に関してはどうやってもエルフ国と同盟を結ぶには至らない。帝国でのエルフを含む亜人の地位は最低だしその為帝国に居るほぼ全ての亜人は奴隷と言う身分に落ち着いている。それに他に僅かに居る亜人も白い目で見られると言うのが帝国の日常だった。

 

だから法国の上層部ではその同盟と言うのを帝国に対しては多分従属だろうと決めていた。そうするならば帝国にも利益があるし、体裁も保てる。大方同盟(隷属)を盾にエルフ国から大量に奴隷を召し上げるのだろうと予測をつけている。

 

そも、法国ならば万が一にもエルフ国が王国と帝国の両方と同盟を結んでしまっても勝ちは揺るがない。少々面倒なだけで両方を相手にしても余裕で勝てる戦力はあるのだ。主に漆黒聖典のメンバーになる。ただ、彼等はその最強と言う称号と共にその存在を世界から秘匿している。なのでおいそれと戦争に駆り出すのには今までの秘匿してきたのを無にしなければならない。

 

今までは全てを闇の中に包んできたその存在を一度表にしてしまえば恐らく噂は広まるだろう。案外人と言うのは情報収集に長けている。それこそ、どこからともなく情報を持ってきては広めてあっという間に都市レベルに広まる。若しくは村だが。それからは国に広がる。そうなっては最早秘匿など出来る筈も無くなる。其れほどには表に出すリスクはある。

 

まあ、現時点で同盟は『もしも』の話でありそれが実現する確率は限りなく低いが······シエル達ならば3国の全面戦争に持っていきかねない。それこそ魔法で上層部を操ってしまえばどうとでもなる。王国に至っては既にラファエルの眷属が上層部にまで及んでいるがそれに気付ける王国ではないのだ。今のところどの貴族にも気付かれた様子はない。あの王女にも。

 

ともあれ、結果として法国はどちらにしろ情報収集に励むしかなく、警戒せざるを得ない状況と言うのに変わりはない。その為、最高神官長以下の高位役職のメンバーは一同に会して議論を重ねていた。

 

「やはり、その同盟と言う話がどこから出てきたのが気になる。同盟の話にしては出てくるのがいきなり過ぎる。どうも話に信憑性がないのだ。そのところ意見の有るものは?」

 

そう言ったのはスレイン法国での最高の地位にある最高神官長。

 

「それでは私から。その同盟の件ですが王国との同盟に関してはどうやら信憑性が高いですね。王国の八本指と繋がっている貴族の屋敷からその様な書類が出てきましたから。残念ながら現物はありませんがエルフ国が奴隷を提供すると言う条件で結ぶ様ですね。確かに今のエルフ国の状態ならば呑み込まざるを得ない状況ではありますが······」

 

「そうだな。王国がどういう考えかは分からんがその話を聞く限り私には一部の貴族の暴走としか思えんが?」

 

「ええ、ただその貴族が中々どうして国王に顔が利く様で全面戦争に持ち込まれかねないのですよ。全く、戦力比も読めない王国には困ったものです。」

 

「まあそれは仕方ない。王国はビーストマンとは直接対峙することなんて無いんだ。恐らく世界で一番平和な国だろう。まあ、治安は世界でも随一で悪いだろうがな。要するにそう言うことだ。平和な王国には戦争を知るすべが無い。毎年のカッツェ平野の戦いでは負け続きのようだがそれでも殆どの貴族がそれを敗北とも思っていないそうだ。そういう国なんだよ。王国とは。」

 

「まあ、確かにそうですが······と、王国の件はそれくらいでして、バハルス帝国ですがそちらに関しては今のところ何とも言えません。帝国がエルフ国を助けて利があることは恐らくエルフ国を隷属下に置けること、奴隷を今よりも安易に入手出来ることですが、はっきりいって帝国が我が国との戦力比を誤ることなど有りませんでしょう。まさか王国ほど酷い筈はありませんし。それに現在の皇帝はやり方がどうあれ間違いなく名君ですしね。周りも優秀だそうです。恐らくはデマでしょう。」

 

「うむ。それに関しては私もそう思うがな。まあ、どちらにしろ警戒するに越したことはない。恐らく王国の方は目先の利益に我々に喧嘩を売ってくるのは間違いないだろう。帝国はその確率は限りなく低いがまあ一応は情報収集を継続させる。」

 

「分かりました。後はもう噂程度の事なのですが天使を見たとの噂が。」

 

「天使?それならば陽光聖典が召喚出来ただろう。」

 

「いえ、そうではなく······あくまでも噂程度ですが神のごとき存在を見たとどこからかは分かりませんが情報が······」

 

「ふむ······まさか、『ぷれいやー』なのか?」

 

「い、いえ、流石にそれは分かりません。『ぷれいやー』の方ならばそのお力によりかなり目立たれると思うのですが······」

 

「そうだな、確率は低いだろうがそれに関しても情報を集めさせろ。私としては神と言う存在には会ってみたいが無論もしその様な存在が居られたとしても手出しは無用。神の怒りには触れぬように。その存在を消されたくなければな。天国にも昇れなくなる。では、今回はこれで解散とする。」

 

最高神官長のその一言で会議はお開きとなり、それぞれの持ち場に戻るのだった。

 

 



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