業の軌跡 (蕾琉&昇華)
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1.プロローグ

閃の軌跡にオリ主をねじ込んだ小説となっていますが、オリジナル展開が組み込まれています。
また私達の趣味嗜好による展開ですので、この作品は閃の軌跡本作に添っての展開で出来るだけいこうと思っていますが、ねじ曲げることがあります。了承ください。
上のような内容でも、問題ないという方はこのままお進みください。


 クロスベル併合一週間前。

 とある地下施設にて、

 

「OZ.11目的地に到着。これより該当情報を捜索する」

 

 艶のある銀の髪に薄く紫がかったショートヘア。そして光を反射しないような漆黒のコートを纏い、腕に未知の金属でできた怪しい光沢のある腕輪を着けた一人の男がたっていた。

 その男は誰かと通信をしていた後、奥にあった大きなコンピューターに触り始めた。

 

「おい、そこの。何をしている?」

 

 そこに風の剣聖と呼ばれる剣士が来た。

 男は驚いた様子はなく、落ち着いた様子で剣聖を向く。

 顔は整っていて、中性的な顔立ちと衣服から、女子にも見えるが雰囲気は男のものだったので男と呼んでいるのだろう。

 

「......」

 

 男は無言のまま型を取ると男の手に両刃大剣が現れた。

 男は両刃大剣を片手で持ち、距離を積めて来る。

 剣聖は刀を鞘に入れたまま、間合いを計り、男との距離が腕を伸ばせば届くようなほど近付いた。

 剣聖は目にも止まらぬ速さで鞘から刀を抜き放つ。男は今度は驚いたようで表情を少し驚愕に染めながらも、両刃大剣を高速で動かし、居合い抜きの容量で放たれた音速の刃が男に迫るが、男は落ち着いた様子で両刃大剣を器用に片手で操り、音速の刃を軽々と弾くが、剣聖も弾かれた勢いのまま、後ろに飛び退く。

 

「風の剣聖と遭遇、このまま迎撃する」

 

 また、男が誰かと通信をしていると、両刃大剣が消え、次の瞬間には槍戦斧が握られていた。

 剣聖は「風」とまで言わせるほどの速さを誇る「二ノ型」を使い、光速で男に接近する。しかし、先ほどの動きが霞んで見えるほど速く槍戦斧を叩き付ける。

 剣聖は自身の速度が速すぎるため止まれず槍戦斧の一撃をまともに受ける。

 しかし、根元に近かったため威力は低かった。はずなのだが、骨が悲鳴をあげる。

 

「ぐふっ!?」

 

 剣聖は吹き飛ばされ、吐血する。

 男は槍戦斧を大上段に構え、とどめを指すために一気に接近する。

 距離がみるみるつまり、槍戦斧が振り下ろされる。寸前に銃声が響き、魔導弾が飛んで来る。剣聖ですら回避する事の出来ないであろう、致命的なまでに絶妙なタイミングで飛んで来た弾丸。しかし、それに気付いた男は容易くそれを避け。大きく後ろに飛び退く。

 弾丸を放ったのは、白髪の女性で、息を乱しているところを見る限り、相当急いで来たのだろうか、そして、その後ろからは、黒い髪の男と、茶髪の女性が来ていた。

 

「......データ送信を完了? ......了解。撤退する」

 

 男はそういうと、丸い何かを取り出し、地面に叩き付ける。

 丸い何かは割れ、濃い煙が発生し、その煙が晴れた頃にはその男はいなくなっていた。

 

「ふぅ、やっぱり疲れるな。灰め、派手に暴れたな? あんな警戒してるか普通」

 

 俺は思わず愚痴ってしまった、俺は結社〈身喰らう蛇〉に〈黒の工房〉から貸し出されており、結社の一人としてクロスベル地下にある〈ジオフロント〉に潜入し、機密情報を取ってこいと言ったものだったのだが、本来幹部クラスの連中に出すような難易度だった。俺は愚痴りながら、クロスベル郊外を歩いていると、不意に後ろから、

 

「君がシオン君だね?」

 

 声をかけられた。

 俺は振り向きながら、ボウガンを召喚し、声をかけて来ただろう男に向ける。

 

「あんたは......翼をもがれた皇子が俺に何の用だ?」

 

 声をかけて来た男は仮面をつけ、いつもの紅いコートと金髪が目につく男だった

 

「只の勧誘だよ、七組に入らないか? って言うね」

 

 俺は不信に思いながらも話を聞く。

 

「リィン君達は修羅場をくぐり抜けそれなりには強くなっている。しかし、彼らにはまだ経験が足りない。だからこそ、経験豊富で話の通じそうな君を選んで話しかけたんだよ」

 

「経験豊富って、俺はまだ二十年も生きてないぞ?」

 

「嘘はわかってるよ」

 

 そう、笑いながら言いつつ、

 

「百年とちょっと生きてる君が一番よかったんだよ、どうかな?」

 

「はあ、俺は工房の存在だ、まあ大丈夫だろうがな」

 

 そう言いつつ、ボウガンを戻し、しっかりと向き合う。

 

「俺に新旧七組のお守りをしろと言っているんだろ?」

 

「ああ、そうだな。頼めるか?」

 

 俺は深々とため息をつき、苦笑しながらうなずき、背を向けて歩き出す。

 

「それじゃあ頼む。これから彼らは激動の波の中心に行くことになるだろう。その時に助けてやってくれ」

 

 そう、背中に向けて声をかけられた。俺は返事を返さずにその場から去った。

 その後、ことの顛末を工房長に話し、了解を得ることが出来た。

 

 

*

 

 

 俺がジオフロントに潜入して数日後にクロスベルは併合された。

 その後クロスベルを狙っていた、カルバード共和国との戦争、後に〈北方戦役〉と呼ばれる戦争が始まり、俺はまたリィンと共に動くことになった。

 

 

*

 

 

 北方戦役から一年、国内は激動の時代を迎え、リィン達が卒業したトールズ士官学園は第二皇子、セドリックが入学したため、問題児達を集めた、第二分校を設置し、俺はそちらに入学させられた。

 そして俺は第二分校が設置してあるリーブスに降り立った。

 ライノの花はまだ咲いておらず、少しさみしい感じはするものの、駅には俺と同じ制服を来た生徒らしき男女がおり、その中にリィンも見つけた。

 リィンは俺より速く駅を出て、町並みを見ていたかと思うと茶髪で小柄な女性と話し始めた、おそらく小柄な女性はトワさん、本校の元生徒会長で、とある人物に依頼され護衛をしていた時もあったため知りあいではある。

 このタイミングで話しかけるのもあれだが、俺はリィン達に近付いて行くと、トワさんがこちらに気付き、リィンもつられてこちらを向く。

 

「よお、北方戦役以来だな灰、それにトワさんもお久しぶりですね」

 

 挨拶をすると苦笑しつつも、リィンは返してくれた。

 

「ああ、久しぶりだな......それにしても、何でシオンがここにいるんだ? それにその制服はまさか」

 

「そのまさかだよ、灰。あの人にお前達のお守りをしてくれって、頼まれたんでな」

 

 リィンは苦笑しながら、よろしく。と言い、少し情報交換をして分校に一緒に行くことになった。

 これから新旧七組は激動の波に飲まれて行くことになるのだがまだまだ後の事だ。




どうだったでしょうか?
主人公の身体的状態です。

名前 シオン・アルテミア
目 藍色   髪 銀髪「薄紫」
身長 173cm    体重 71.4kg
OZ.11  年齢 161歳

と言ったところです。
いろいろと突っ込みどころがある設定ですが、気にしないでいただけたらありがたいです。
それではまた。


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2.一章

やっと一章です。
遅くなってすみません(>_<)


分校につき入学式が始まったが、分校長がまさか、オーレリアだとは思っていなかった。

オーレリアの話は中々のものだった、

オーレリアの話が終わり、クラス分けが始まった。

IX組をトワさんが、Vlll組をランドルフが、そして、俺が配属された組がVll組でリィンがそれぞれ担当することになっているらしく、担当の教官がそれぞれの場所で生徒達を集めている。

そしてリィンも、

 

「えっとそれじゃあ、シオン・アルテミア、ユウナ・クロフォード、クルト・バンダール、アルティナ・オライオン、今名前を呼ばれた生徒はここに来てくれ」

 

そう、呼んでいたので、すたすたと近付いて行く。回りには、アルティナと他の二人も来ていた。

 

「えっと、君たちはVll組、特務支援科として俺と共に活動してもらう。俺はリィン、リィン・シュバルツァーだ、よろしく頼む」

 

リィンは俺達に短い自己紹介をした後、

 

「これから、オリエンテーリングをするんだが、各自武装は持っているな?」

 

俺はそれにうなずき、アルティナもうなずき返す。クルトとユウナは戸惑いながらもうなずき、リィンにつれられて、校舎裏まで歩いていった。

 

校舎裏の奥には、巨大な施設があった。

 

「これは、あっちでの旧校舎みたいなもんか?」

 

「ああ、これから、この中でオリエンテーリングを行う。皆、準備はいいか?」

 

俺は無言で頷き、アルティナも無言のままうなずく。

クルトとユウナは戸惑いながらもうなずき、リィンはそれを確認すると、校舎裏の施設に入って行った。俺達はその後を追って入って行った。

 

「なぜ銀哭(ぎんこく)がいる。それがいるなんて聞いていないぞ?これではテストの意味がないではないか」

 

校舎裏の施設に入るとそこには白衣の学者と制服の上にコートを羽織った女子がいた。

 

「シュミット博士、それは俺も今日聞いたんです」

 

リィンが説得をしているが、シュミット博士はどこかに行ってしまった。

コートを羽織った女子があたふたしている中、リィンが戻って来た。

 

「シュミット博士があれじゃあなぁっ!?」

 

リィンが話し始めたその時、床が傾き、俺達は下に滑り始めた。

 

「ここまで旧校舎と同じ仕様か」

 

俺とリィン、アルティナがゆっくりと滑り落ちているが、ユウナとクルトは中々の速さで落ちて行っている上に、軽くパニックになっているようだ、

 

「姿勢を低くして、着地をしっかりとしろ!」

 

リィンはユウナ達に指示を飛ばすが、パニックになっているユウナ達はするすると落ちて行く。アルティナは〈クラウ・ソラス〉を呼び、ゆっくりと落ちて行く。

 

俺達が下まで落ちきり、着地をしっかりとすると、クルトがユウナに胸を押し付けられながら、倒れていた。

ユウナは立ち上がって顔を真っ赤にしてうつむいているが、クルトは真顔で立ち上がり、

 

「言い訳はこの際いらないだろう、遠慮なくやってくれ」

 

胸が当たっていたことに対し、言い訳をせず-クルト自体、悪いわけではないのだが-やってくれと言う。ユウナはそれを聞き、ぷるぷると身を震わせながら、

 

「しゅ、殊勝な心掛けじゃない、そんなに叩かれたいならっ!!」

 

ユウナは左手を振り上げ、

 

ぱちぃぃんっ!!!

 

振り抜き、クルトの右頬に綺麗に入る。

クルトの右頬はユウナの手の形に赤くなり、少し痛そうだ、俺はクルトを呼び、導力魔法《ティア》をかける。

 

「ありがとう」

 

クルトは頬をさすりつつ、リィンの方を向き、俺もリィンの方向を向くと、

 

「クルト、大丈夫か?」

 

「はい、シオンが治癒魔法にかけてくれたので、大丈夫です」

 

リィンはそれを聞いて苦笑しながら、

 

「えっと、それじゃあここの説明を...」

 

『聞こえるか?ここはアインヘル小要塞と言う、殆どテストにはならんだろうが魔獣を配置している。最奥までさっさとこい』

 

リィンがここのことを説明しようとしたタイミングでシュミット博士が一方的に話して来た。

俺は何か言おうとしたが、ぶつっと一方的に切られ、リィンに俺は説明を求める。

 

「えっとだな、ここの名前は〈アインヘル小要塞〉と言って、シュミット博士が作った実験施設だ、俺達はここの最奥までたどり着くことがこのオリエンテーリングの終わりだ、ここまではいいか?」

 

「はい」

 

ユウナは微妙な表情でうなずき、

 

「大丈夫です」

 

クルトは特に表情が変わらずうなずく。

 

「私は特に問題ないです」

 

アルティナは無表情のままうなずく。

俺も何も言わずにうなずく、リィンはそれを認め、説明を続ける。

 

「ここでは、戦闘の能力を図るが、まずはこれを」

 

そういうと、リィンは俺達に少し大きめの主結晶回路(マスタークオーク)を渡して始めるが、俺はもらえなかった-元から持ってはいるが-のでリィンに文句をいいに行く。

 

「おい、リィン、俺のはないのかよ」

 

「いや、シオンは持ってるだろ自分のを、マスタークオークは配布されたアークスllの中央にはめてくれ」

 

リィンは俺を適当にあしらいながら、他の三人に説明を続ける。いや、まあ、これからの内容は少しはわかっているが、

俺が何だのかんだのと考えている間に、他の三人はアークスllとの同調が終わったようだ。

 

「これで、〈リンク〉が使える。これからこのオリエンテーリングを進める中で大切になっていくから、覚えておくように」

 

「わかったから、そろそろ進もうぜ、リィン。そういえば、自己紹介がすんでなかったな、俺の名前はシオン、シオン・アルテミアだ、少し前には銀哭(ぎんこく)なんて呼ばれてたが、詳しくはリィンに聞いてくれ」

 

俺はユウナとクルトに向かって自己紹介をする。

するとアルティナも、

 

「私はアルティナ、アルティナ・オライオンです。よろしくお願いします」

 

自己紹介をし始め、ユウナもクルトも自己紹介を始め、全員が終わると、リィンが口を開いた。

 

「えっと、それじゃあ皆の武装を見せてくれるか?」

 

そう言って、太刀を抜き、両手で持つ。ユウナは腰につけていたトンファーらしきものを取り出す。

クルトは背中につけていた鞘から二刀流の剣を取り出す。

アルティナはクラウ・ソラスを呼び出し、背に漂わせる。

俺は、弓を召喚し手に持つ。

 

「皆、準備はいいか?...これより、アインヘル小要塞の攻略を開始する!」

 

「応!」「了解しました」

 

俺とアルティナがすぐに答える中、ユウナとクルトは戸惑いながらも、

 

「「りょ、了解です」」

 

そう言って、アインヘル小要塞の奥に向かって、進み出した。

 

少し進むと、魔獣が六体徘徊していた。

 

「さっそくいたな」

 

「だな、総員準備はいいか?リンクを試す、いい機会だアークスを確認しておくように」

 

「「「「了解」」」」

 

リィンに返事を返し、弓を構える。

リィンが走りだし、それに気付いた魔獣はこちらを向き威嚇してくる。

魔獣は飛び猫と呼ばれる、背中に翼のある猫のような姿をしており、よく見る魔獣だが、ふざけてかかると痛い目を見ることで有名な魔獣だ。

俺は弓に魔力を使って創り出した矢をつがえ、放つ。

放たれた矢は高速で飛び、飛び猫の右の翼を吹き飛ばす。

翼を吹き飛ばされ体勢を崩された飛び猫に完璧なタイミングでリィンが追撃を加え、絶命する。

まずは一匹、ユウナ達三人も一匹を倒し、これで残りは四匹。俺は弓に新たな矢をつがえて狙いもまあまあに放つ。

高速で飛ぶ矢は異常な軌道を描きながら飛び猫の一匹の眉間に深く突き刺さり、絶命する。リィンは他の一匹に接近し、反応する前に翼を切り裂き、体勢を崩す。すると、俺の体感時間が極限まで引き延び、リィンの動きが手に取るようにわかり、最も最適な軌道を描き、飛び猫に追撃を加える。

眉間に吸い込まれて行った矢は貫通し、地面に突き刺さる。

これで四匹を倒し終わり、次に向かおうとするが、すでにユウナ達が倒し終わっており、全員が息をつく。

 

「さっきの感覚が〈リンク〉。不思議な感覚」

 

ユウナが息を整えながらそう呟く。

 

「共鳴できるか不安だったが意外と大丈夫だったな」

 

「はい、問題なく動作してますね」

 

俺の呟きに反応したアルティナがそれに答え、その場に弛緩した空気が漂う。

 

「そういえば、シオンだったっけ、銀哭って呼ばれてたけど、何?銀哭って」

 

ユウナが何気なく言ったその一言が俺とリィン、アルティナの表情が一瞬固まる。が、少し間を開けて俺は口を開く。

 

「銀哭は俺が呼ばれていた名前だよ。昔にな」

 

そういって、弓を持って立ち上がる。

 

「まあ、このオリエンテーションが終わって話す機会が来たらしっかりと答えるよ」

 

俺がそう言うとリィンとアルティナはなんとも言えないような顔で先に進み出す。それを見たクルトとユウナは追って歩き出す。俺はその後ろについて歩き出す。

 

そして少し進むと奇怪な魔獣が数匹いた。全身がゼラチンのようなものでできていて、触角のようなものの先に淡く発光する何かがついている魔獣だ。

 

「オルゲン種か、俺は弓のままでいいか」

 

そういい、矢をつがえる。リィンは太刀を構え、アルティナは〈クラウ・ソラス〉を呼び出し戦闘状態になる。

 

「そんじゃまずは俺から。貫通最強化(オーバーペネレイト)

 

音速の速さに到達した矢が、オルゲンの核を貫き奥にいたオルゲンまでも貫通する。

一匹目は絶命し、二匹目は体の三分の一が吹き飛んでいて他に二匹はこちらに反応し近付いてくる。

俺は大きくバックステップをとり後退しつつ、リィンが前に素早くでて三分の一が吹き飛んだオルゲンの核を切り裂き絶命させる。アルティナ達は三人で一体を倒していた。

俺は思いきって弓から大剣に切り替える。

 

「!?シオンそれは!!」

 

リィンが俺を止めようとするけども俺は止まらない。一体のオルゲンに近付き大剣を振り抜く。

 

オルゲンは反応することなく体の三分の二以上を消失させ絶命した。

 

「ふぅ、スッとしたぜぇ。全部殺ったか?」

 

俺は両刃大剣を消しながら、周りを見る、リィンとアルティナは呆れた目でこちらを見ている、ユウナとクルトは驚きの表情でこちらを見ていた。

 

「シオンさん、それを使われたら私達がいる意味がないと思うのですが」

 

アルティナに少しジト目でそう言われる。リィンはハア、とため息をつき、ユウナとクルトは、状況が理解できていないようだ。

 

「悪い。でもなぁ、手応えが何も無いからさー。仕方ないけど」

 

ハア、とため息をつくとリィンにこずかれた。解せぬ。

そのままリィン達は歩き出した、やはり解せぬ。

 

 

少し歩くと大部屋に出た、そこには八匹の見るからに固そうな殻を纏っている虫がいた。俺は両刃大剣を呼び出すがリィンに止められる。解せぬ。

 

「次は導力魔法(アーツ)を試すか。全員アークスを取り出してくれ」

 

そう言い、リィンはユウナ達に詳しく説明をしている、その間に俺はしぶしぶ両刃大剣を消し、銃双剣を呼び出し感触を確かめる。

 

「説明は終わったか?」

 

リィン達に聞く。リィンは渋い顔をしながら、うなずく。

 

「んじゃ、導力魔法(アーツ)を溜めときな、俺が前に出よう」

 

答えは聞かずに、硬虫の集団に飛び込む、リィン達はアークスを起動させ導力魔法(アーツ)を展開し始める。

俺は暴風のように暴れまわり、脚や触角等を主に狙い動きを鈍らせ、タイミングを見計らいその場から一旦引く。

そして四人が導力魔法(アーツ)が一斉に放たれる。

 

『エアストライク!』『ファイアボルト!』

 

それぞれの導力魔法(アーツ)が四匹の硬虫に突き刺さり絶命させる。

そして俺は絶命した硬虫以外の四匹の硬虫に弾丸が突き刺さり、動きが大きく鈍る。そこに四人の得物が更に襲う。

リィンの太刀が身体を切り裂き、ユウナのトンファーが硬虫を叩きへしゃげさせる。クルトの双剣が致命傷を叩き込み、アルティナのクラウソラスのレーザーが硬虫を爆殺する。

硬虫を全滅させ、得物をそれぞれが解除する。

 

「とまあ、硬い魔獣にも的確にダメージを与えることのできる手段が導力魔法(アーツ)だ、覚えておくこと」

 

リィンがまとめ、一旦収まる。

俺は得物を軽く振り、いまだに手応えが無いことに不満を覚えながらも得物を消す。リィン達は既に歩き始めており、俺はそれを追う。

 

それから、十分ほど少要塞を探索し、最奥の前まで来たらしく、回復装置があった。優しいなーなんておもった。

俺は弓を呼び出し、手に持つ。矢を生成し、つがえ扉の前に立つ。すでに回復はしたため、後はこの奥にいるボスを倒すだけだろう。

 

「いいか?行くぞ」

 

俺は周りに確認し、扉を開け、即効で中を確認する。

最奥の部屋は今までより大きく奥には上に続く階段があった。

 

「終点に何もいないわけないよな。来るぞっ!」

 

そう言うと、部屋の中心に巨大な人型の何かが現れた。

 

「あれは、魔煌兵!まさかシュミット博士が!?」

 

魔煌兵はさまざまな種類がいるが、今現れた種類は人型に限りなく近く、腕の部分が肥大化している種類だ、

 

「さすがに、これは騎神か?リィン」

 

「ああ、来い、灰の騎神...『騎神の使用は禁止だ。想定はしていない』」

 

灰の騎神を呼び出そうとしていたリィンは動きを止める。

 

『アークスllには新しい機能がある。それを使用すれば勝てないことはあるまい』

 

シュミットがそう言いブツッと音がした、俺は両刃大剣を呼び構える、リィンはアークスを呼びすると、

 

「《ブレイブオーダー》起動!」

 

そう言い、辺りに赤色の波が起きたかと思うと、周囲に広がり俺達を包み込む。

それと同時に体の内から力がわき出る。

 

「総員、これより魔煌兵〈オルトヘイム〉を討伐する。各自全力を尽くしてくれ!」

 

「よっし、やってや...『銀哭貴様は戦うな』...あー、わかったよ!」

 

俺はシュミットに止められ、観戦することになった。

 



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3.二章

どうも昇華です。
今回の大半はオリジナルとなっています。なんででしょうなHAHAHA。 
とまあ茶番はここまでにして今後も多くのオリジナル展開があると思われます、と言うか入れます。
それでも見ていただけるのであればありがたいです。
それでは、本編をどうぞ。


オルトヘイムとの戦いは熾烈を極めていた。高い身体能力と長いリーチを活かした戦法のオルトヘイムに対し、リンクとブレイブオーダーを巧みに使い攻め続ける。

リィンの高い戦闘能力とそれをサポートするアルティナ。そして果敢に攻めるユウナとクルト、それぞれがしっかりと役割をこなして行った結果、今オルトヘイムのいないこの部屋が戦いの結果をものがたっている。

 

「お疲れ様とでも言っておこうか、リィンにアルティナ、ユウナにクルト」

 

「ああ、ありがとうシオン」

 

唯一まともにたっていられているリィンが答える。俺はアルティナ達に特殊な治癒を施す。

 

「これは?疲れがなくなっていく?」

 

「特殊な術だよ、疲れがあったら困るからな」

 

そう言い、俺は武装を呼び出しリィン達に突きつける。

 

「何を言いたい?」

 

リィンが太刀を再度構えながら俺に問いかける。勿論わかっているのだろうがアルティナ達に意味をわからせるためだろう。

 

「そうだな、俺はお前達Ⅶ組のお守りを任されたわけだ」

 

俺はアルティナ達をそれぞれ見ながら言う。俺が本気だとわかったのか顔を緊張で固める。

 

「しかし、守られる側が弱ければ守る意味などないからな、お前達の素質を見極めさせてもらう」

 

俺は武装の一つである片手剣をリィンに向ける。

 

「いいか?今のままだといつか、そう遠からずに死ぬ。確実にだ」

 

俺が死ぬと断言すると、ユウナとアルティナが目に見えて青ざめる。

 

「だからこそ、今ここで見極めさせてもらう。さっさと武器を構えな」

 

俺は殺気を押さえずに直接ぶつける。

リィンはその殺気を受けリィンが太刀をしっかりと構える。

 

「総員、武装を構えろ」

 

「っ!?でも。さっきまで一緒に...」

 

「そうです、シオンは仲間では?」

 

「だからだ、シオンはああいうのだし、本気だ」

 

リィンはわかっている、俺はどうすることも出来ない。こうやって直接戦ってしか図ることが出来ない。だから!

 

「速く武器をとれ!こんな始まりで足踏みしている暇はねぇんだよ!」

 

俺は怒気を殺気に滲ませながら怒鳴る、そして片手剣と片割れの大楯を呼び出す。

 

「...総員、武装を構えろ」

 

「あーもうっ!わかりましたっ!」

 

「了解しました、シオンさんを敵対者と再確認します」

 

「シオン、後でしっかりと君のことを聞くとするよ」

 

四人が自身の武装を構え、臨戦態勢にうつる。

 

「俺は銀哭(ぎんこく)シオン・アルテミア。これからの激動の時代の荒波に耐えられるか、見極めさせてもらおう!」

 

俺が剣を向けるとリィンが前衛に出て斬りつけてくる。残りの三人は後衛として導力魔法(アーツ)を起動している。

リィンの太刀による上からの斬り下げを召喚した大楯で防ぎ、押し返す。

 

『『『ファイアボルト!』』』

 

リィンが押し返された勢いのまま交代しその合間に起動を完了したユウナ達の導力魔法(アーツ)が飛んで来るがそれを全て片手剣で切り裂き大きくバックステップをする。

 

「万象〈劫刻〉」

 

着地をしたタイミングで地面に手をつけ術式の起動符(パスワード)を呟く。

 

「っ!全員下に気を配れ!」

 

そうリィンが言った瞬間、地面から俺の腕の太さはあるだろう金属でできた槍が恐ろしい勢いで突き出てくる。

 

「うわわっ!?」

 

「これが例のっ!?」

 

「くっ、これはっ!」

 

リィンが先に警告したこともあって被害は少ないが、少なくないダメージが加わった。

 

「へぇ、さっきのを避けるのか」

 

俺は少しギアを入れる、一番近くにいたユウナに大楯を前にしてタックルをする。

大きくユウナは後ろに下がるが、それを待っていた俺はユウナに向けて空になった右手を突きだし静か言う、

 

「刻旋〈業烙〉」

 

右手から溢れる魔力が剣を形取り、ユウナに殺到する。

ユウナは面で押してくる剣に顔を青ざめさせるがその前に出てきたアルティナがクラウソラスのバリアを張り防ぐ。

 

「はあぁぁぁぁっ!!」

 

「おぉぉぉぉぉっ!!」

 

俺が右手を突きだしていた隙に左にリィン、右にクルトの形で挟み撃ちをしてくるが、

 

「甘いな」

 

俺が大楯を地面に突き立て、

 

「宝陣〈剛霹〉」

 

特殊な防御陣を張り、攻撃を防ぐ。

リィンとクルトは大きく飛ばされる、が空中で体制を建て直し、着地をしてすぐに飛び込んで来る、俺は一旦後ろに飛び退き、クルトに向かって飛び込む。

クルトは咄嗟のことだったが素早く双剣を振るい、俺を近付けさせまいとしたのだろうが俺はその剣を片手剣で逸らし、更に懐に入り込む。

 

「なっ!?」

 

クルトの驚きが聞こえてくる、が無視してタックルをする。

 

「ぐうっっっ!!」

 

綺麗に入ったタックルはクルトを吹き飛ばし背中から壁に激突させる。クルトは剣を地面に突き立て、それを支えにして立ち上がる。

俺はそれを視界の端に入れながら後ろから振り下ろされる太刀の斬撃を少し体を動かしつつ、間に片手剣を差し込み太刀をそらす。

しかしリィンはそらされたまま体を独楽のように回し回転した勢いのまま再度斬りつけてくる。

俺はそれを大楯で正面から迎え撃つ。

リィンは太刀の刃を立て、強引に斬る。

ガギィィィと金属が擦れる音を響かせながらリィンは太刀を振り抜く。

俺は大楯越しに来る衝撃で手を震わせる。

 

「やるじゃねぇか、リィン!!」

 

俺は叫びながら片手剣で連撃を繰り出す。

それをリィンは太刀を巧みに操り、弾き、そらし、全てをさばかれる。しかし更に踏み込みより速く強い斬撃を繰り出す。さすがに二連続の連撃はさばききれなかったのか少しダメージが通る。

 

「ぐうっ!」

 

リィンは大きく後ろに跳び一旦体制を立て直す。俺はその間に片手剣を上にかざし、

 

「洗蕾〈天月〉」

 

詠むと、上に魔方陣が発生しそこから光輝く弾丸が大量に発生し降り注ぐ。

それをリィン達は避けているが地面に着弾した光弾が小さな爆発を生じさせ、直撃はなくともダメージを積み重ねる。

 

「おいおい、これぐらいは耐えきってくれよ?」

 

そういいながら俺はアルティナに接近し、片手剣を横に薙ぐ。それをアルティナは後ろに飛んで避けながらクラウソラスの鉄拳を繰り出してくる。俺はそれを大楯でそらしてさらに懐に入り込み片手剣をつき出す。アルティナはそれを横にステップをして避ける。

 

「ふぅん、まあまあだな」

 

俺はアルティナの着地したタイミングでシールドバッシュをする。それをアルティナはクラウソラスのバリアを張って防ぐが衝撃は逃がせずに吹き飛ぶ。

それを俺は追撃せずに後ろから斬りかかってきたクルトの双剣を片手剣の一閃で弾き飛ばす。そのままがら空きの胴体に剣を手放した拳を叩きつける。

 

「ガハアッ!?」

 

拳をがら空きの胴体に叩き込まれたクルトは面白いように吹き飛び地面に叩きつけられるが受け身をとりつつ、すぐに俺に向かってくる。その途中で転がっている双剣を拾い上げその要領で切り上げてくる。

俺はそれを後ろに下がって避けるがそこには、

 

「甘いです」

 

クラウソラスの鉄拳を後ろにひいているアルティナが構えていた。

俺がどうにか避けようとする前にクラウソラスの鉄拳が振り抜かれ、俺に直撃する。左腕から何かが砕ける乾いた音がし、俺は吹き飛ばされ、途中で体制を立て直し左腕を支えにして立ち上がる。

 

「やるじゃねぇかアルティナ」

 

俺は再度大楯と片手剣を呼び出す。

しかし体制が崩れておりアルティナに意識が行っていたこともあり、横に接近していたユウナに即座に対応できず、ユウナのガンブレイカーの殴打をまともに受けてしまい体制が大きく崩れる。

そこに完璧なタイミングで避けることの出来ない一撃をリィンが繰り出す。

俺はリィンの太刀の一閃を胴に受け、大きく後ろに飛ばされる。

空中で体をひねって着地し、武装を解除する。

 

「へぇ、やるな。まあ合格点だろう。次で最後だ、耐えきってみせな?」

 

俺は不敵に笑い、手を地面につけて、術式を完成させるための譜を詠み始める。

 

『我は業。激しく猛りし業火にて、神をも屠る大いなる刃』

 

俺が譜を詠み始めたのを見て、アルティナはクラウソラスの〈ブリューナグ〉を使い、ユウナのガンブレイカーから数多くの弾丸が発射され、俺を止めようとするが、それら全てが俺にたどり着く前に効力を失う。

その間にクルトとリィンの全力の一閃が迫るが、俺と数メートル前で何かに阻まれ弾かれる。

 

『すべてを燃やし尽くす業火を大いなる刃に刻み付け、世界を喰らい尽くす力となる!!』

 

そこまで詠むと回りに衝撃波が発生しリィン達を吹き飛ばす。

 

『万象《業哭》!!』

 

そう叫び、手を地面から離す。すると俺から半径二十メートル程まで魔方陣が発生する。

 

「全員全力で身を守れっ!!!」

 

リィンがそう叫ぶと同時に魔方陣から人一人なら引き裂けそうなほど大きな金属の槍や刃が大量に現れる。

それがリィン達を巻き込んで天井につくまで盛り上がり。一気に消滅する。

そして槍や刃が消えたあとにはぼろぼろになりながらも立ったままのリィン、ユウナ、クルト、アルティナがいた。

 

「はぁ、はぁ、どうよ!立っているわよっ!」

 

ユウナが満身創痍としかみえないながらも気丈に俺に大声で言う。

 

「ユウナの言うとうりだ!僕達は戦える!」

 

クルトも満身創痍ながら剣を俺に向け言う。

 

「私もまだ戦えます!」

 

アルティナははあはあと息を乱しながらもクラウソラスを操作し続けている。

 

「だそうだぞ?シオンまだやるか?」

 

リィンは傷こそついてはいるがまだまだ戦えそうだ。

俺はその姿を見て満足できた。俺は武装を解除し、

 

「いいや、十二分だよ。俺は旧新Vll組を認めよう」

 

そう言う。そうするとリィンを除く新Vll組はへなへなと座り込んだ。

 

「あはは、こうなるよな。でも、認めたんだろ?」

 

「ああ、今後来るであろう激動の時代に飲み込まれるだけにはならないだろうよ」

 

俺はリィンと話をしていたが、

 

「まあまあなデータが取れた、さっさと出ていくがいい」

 

そう言ってシュミット博士はどこかへと歩いていく、

 

「ご、ごめんなさい!」

 

パーカーの少女はそう言って頭を下げ、シュミット博士を追っていく。

 

「みんな大丈夫か?たてるか?」

 

「あー、少し待ってくれ」

 

リィンが皆に聞くが俺の最後の攻撃がなかなか痛手だったらしくたてそうにないので、俺は戦闘を開始する前に施した秘術を施し、疲れや怪我を治す。

 

「どうだ?」

 

「便利だなそれ」

 

「いや?使用制限があるからそこまで便利ではないぞ?」

 

俺の秘術を三人に施した後、なぜかリィンは三人を並ばせて、

 

「さてと、いろいろあったが、最後にだ、君たちに最後に問う。Vll組に入りたいか?」

 

おっとこれは旧Vll組の教官サラ・バレスタインが行ったと言われる最後の問いではないか?

 

「私は入りたいです!帝国がなんだとかいろいろ言っていて私にはよくわからないですけど、貴方を見返したいので!」

 

「?まあ、ユウナこれからよろしくだのむぞ」

 

「僕も入らせてもらいます。元より修行をするつもりで来ました。ならばより実戦に近いここがいいかと」

 

「ああ、よろしく頼む。それでアルティナ、お前はどうするんだ?」

 

「私はリィン教官のサポートをすることが任務なので」

 

「違う、俺はアルティナの意思を聞きたい。何かしらここにいたいと思えることを探しだしてくれ」

 

「私がここにいたいと思えること」

 

「ちょっとリィン教官!?こんな小さな子に」

 

「ちょっと黙っておけ」

 

「あいたっ!?ちょっとシオン!?」

 

「私がここにいたいと思えることはすぐには思い浮かびません、だからそれを見つけ出すためにVll組に入ります」

 

「うん。そんなのでいいさ。で?シオンは?」

 

今までの話を他人事のように聞いていた俺はいきなりふられた話に反応できなかった。

 

「うん?俺か?」

 

「ああ、シオン、お前にも聞いておきたい」

 

うーんと言われてもな、

 

「まあ、理由は無いがリィンが教官としてできるかを見ていきたいからだな」

 

「え、そんな理由か?」

 

「ああ、そんな理由で十分だろ?」

 

そう俺が言うと笑いが起きた、

 

「さてと、それじゃあ新Vll組はここに始動する!」

 

「「「「はい(応)!!」」」」

 

そうして俺は新Vll組の生徒として暮らしていくことになった。

 

 

「そういえばシオンの武装ってなんなの?」

 

俺はユウナにそんな質問を受けていた。

 

「そういえば私も聞いたことがありません」

 

アルティナまで興味を持っているようでまったく変わらない表情が少し興味の色を浮かべていた。

 

「俺のはこれだな」

 

特に隠す必要もないので左手首に密着している妙な光沢を放つ金属の腕輪を見せた。

 

「これがあんな武装に?」

 

「ああ、こいつは戦女神(アテナ)いくつかの武装を登録することで即座に呼び出せたり特殊な力があったりとする。古代遺物(アーティファクト)だ」

 

俺がユウナ達に説明をするがよくわかっていないらしい、それを見ていたリィンがため息をついて、教卓に向かう。

 

「はいはい、それじゃあLHR始めるぞ」

 

そういい、俺たちは席に座る。

 

「まず明日のことだが、明日の3、4時限目に機甲兵使用訓練を行う。各自しっかりと操作方法を確認しておくと」

 

「俺のドラッケンは運びこまれているだろ?」

 

「あ、ああ。それから明後日は自由日だ何をするにも自由だが、部活を始めろと言うことを言われただろうし、それも頭に入れておくこと」

 

「「「「はい(!)」」」」

 

そうしてLHRは終わり俺はアルティナにつれられて部活をしたいと言う場所を周り見てみたが俺が特に気になる部活はなかったが、アルティナは水泳に興味を引かれているようだ。

 

そして時間はすぐにすぎ、俺とアルティナは寮に戻っていた。

そして俺はキッチンに立って三十個程のオムライスを作っていた。

 

「さてと、これで三十個作れたな、おーいできだぞー?」

 

俺がそう言うと、トールズ士官学園第二分校の生徒すべてが食堂に入ってきた。

 

「とりあえず一列に並んで」

 

俺はそう言って全体をまとめながらオムライスを皿にのせて渡していく。そうやって配膳で十分程かかり、俺は自分の分を持ってアルティナ達がいる席に向かう。

 

「遅かったですね」

 

「そりゃな、全員分作って配ったんだから、お前達も手伝ってくれたらいいのによ」

 

「あはは、ごめんごめん。美味しそうでさ」

 

そういった雑談を交わしながらオムライスを食べ終わり、生徒達は部屋に戻り、俺が皿を洗い直していると、リィン達、教官組が入ってきた。

 

「ふぅ、疲れたな。ってアルテミア!?」

 

「なんだ?ランドルフ俺がいたらおかしいか?」

 

俺は入って来るなり驚くなんて失礼な、

 

「ほれ、リィン達の分も作っといたんだよ、早く食べな」

 

俺は六人分のオムライスを皿にのせてリィン達の前に置く。

 

「速く食べな、俺が寝るのが遅くなる」

 

俺がそう言うとリィンはありがとうといい、オムライスを食べ始める。

 

「美味しい、普通に美味しいよ」

 

「そうか、ならよかったよ」

 

俺はぶっきらぼうに答えながらもリィン達の席の前に座る。

 

「ふむ、貴方がこのようなものまで作れるとは意外でした」

 

「そうか、味わってくれ」

 

オーレリア分校長の称賛をうけ、俺は礼を言って腕輪を外す。

 

「うん!とっても美味しい!」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

トワさんの称賛をありがたく受けて、手のなかで腕輪をもてあそぶ。

 

「いや、うまいぜ。どうしたらこんなうまいもん作れるんだ?」

 

「練習したら作れるようになったな。うまいならどんどん食べな」

 

俺はランドルフの言葉に答え余っていたオムライスを一つ渡すと更に食べ始める。

 

「うむ、美味しいが、本当にお前がつくったのか?」

 

「応、もちろんだ」

 

ミハイル少佐の疑わしいと言う目を受け流しながら、戦女神(アテナ)の形状を変えてネックレスにする。

 

「これからの激動の時代。分校が何をするのかは大体わかっているつもりだ」

 

俺はオムライスを食べている教官組に話し始める。

 

「俺はあいつに言われたからな、分校よりも新旧Ⅶ組を優先するつもりだ」

 

オムライスを食べていた教官組は匙を動かすのを止め話に聞き入る。

 

「俺は無駄に生きている。この体もずっと使われてきた。だからこそ染み付いた動きや、相手の考えを読み取る力もある、だからだ。必要な時は俺を頼ってくれよ?」

 

俺の言葉に驚いたように表情を変える教官組、俺はそれを見て苦笑しながら、

 

「前の俺だったらこんなことは言わなかっただろうし、あいつに言われても分校には来なかっただろうよ。俺が変わったのは旧Ⅶ組の皆の影響だろうな。だから俺はここに来たんだ、必要な時は俺を頼ってくれよ」

 

俺はそう言って席を立ち、食堂の扉に手をかけると、

 

「待ってくれ」

 

リィンの声がした、俺は振り替えると、

 

「なんだ?皿はシンクに置いといてくれ」

 

「いやそうじゃなくて、シオンは俺達の仲間なんだいつでも頼らせてもらうぞ?」

 

リィンがそう言って拳をつきだしてきた。

 

「はぁ、お前のそう言うところは変わらないよなリィン」

 

俺はリィンのつきだした拳と一直線になるように拳をつきだす。

 

「ふふふ、若いな」

 

「若くはねぇよ」

 

オーレリアがからかうように言ってきたのに対して素早く答えながら、俺は食堂を出た。

 

「ははは、楽しくなりそうだ」

 

俺は自分の頬が予想以上に上がっているのに苦笑してしまった。




いかがでしたか?
閃の軌跡シリーズは終わるとのことですが、次回作があることを信じている昇華です。
私の好きなキャラはミュゼなんですけどね、登場が遅いんですよねー。
まあ、メインはアルティナですし、今後登場するまで書き続けます。
更新は遅くなったり速くなったりとランダムですけどこれからも見ていただけたら幸いです。
ではまた次回に。


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4.三章

意外と早く更新出来ました。


俺の朝は基本的に速い。

太陽が登るのと同時に起き、朝飯を作ってすぐに食べ鍛練をする。のが俺の朝の日課だったんだがなー、ここでするには危なすぎるんだなーこれが。

そんなわけで俺がやっているのは俺の異能、無機物を精製する能力を使っていろいろな物を作っている。

例えば直剣、形はいろいろあるが基本的には両刃、刃渡り60cmほどのごく普通の直剣。

他にはダガー、ごく普通の両刃で刃が短いタイプ。刃が鋸のようになっていて敵に致命傷を与えることに特化した対人用のタイプ。俺の魔力を消費して作り出すことをしている。

小物だったりも作ることができて鍋やフライパンなどの調理器具、ブローチやバングルだったりも作れるので一回やり始めると楽しくて止まれない。

 

そんなわけで一心不乱にブローチだったりを作っていると、

 

「ふぁぁぁ、あっ、シオン君、おはよう」

 

上からおりてきたトワさんが俺に気付き挨拶をしてきた、

 

「おはようございますトワさん」

 

「うん、おはよう。それにしてもそこにある恐ろしい数のバングルだったりは何かな?」

 

「見ての通り、バングルですよ」

 

「うーん、どうするの?」

 

「廃棄ですかね」

 

会話は続くが内容はひどい。乙女であろう年の女性と見た目だけはまだまだ若い青年の会話にしては色気が無さすぎる。

バングルをどうするかと言う話の時点で色気があるわけもないのだが、

バングルの彩飾できないかとか、どうやって売ったらいいだろうかとかそんな話ばかりだが話が弾んで行くところを見るとなかなか噛み合っているのだろう。どんどんと盛り上がっていく。

そうして夢中になって大量生産したバングルやブローチの使い道を考えていると、

 

「おはようございますトワ先輩。それにシオンも」

 

「あ、おはようリィン君」

 

「おはようリィン」

 

リィンがおりてきた、気配から感知していたが、

 

「で?それは何なんだ?」

 

リィンは呆れたといった表情で俺が大量生産したバングル達を見て言う。

 

「見ての通り、俺の鍛練の賜物だよ」

 

「何でそうなる?」

 

「仕方ねぇだろ。こんなん作るしか無かったんだよ」

 

俺は片手でバングルを弄びながらリィンに投げ渡す。

 

「っ?これは?」

 

「俺謹製の暴走を抑える腕輪だよ」

 

俺は次はペンダントを作り出し、トワさんに渡す。

 

「それは俺謹製、まあ銀哭シリーズとでも言うか、まあ、その銀哭シリーズのアクセサリを持ってる人物と念話ができる効果がある」

 

「え、じゃあリィン君やシオン君と?」

 

「まあ、そうなりますね」

 

俺は渡したいものを渡したのでバングルやブローチを箱に積めて持つ、

 

「あ、ごめんシオン君」

 

「いいえ、俺が大量生産したんで」

 

俺は箱を物置に置き元から置いておいた鞄を持ち、

 

「それじゃ先に分校に行っとくんで」

 

「あ、うん」

 

「あ、それと作りすぎたから朝飯余ったんだよ食いたいならくいな」

 

「あ、ああ。ありがとうな」

 

俺は手をヒラヒラと振って寮をでる。

 

 

シオンが寮を出てすぐにユウナ達三人が起きてきた。

シオンが作って行ったナポリタンを食べたが訳のわからないぐらい美味しかった。年の功と言うものだろうか?

 

「うん、うまいな何でこんなうまいもんつくれるんだ?」

 

「さあ?年の功じゃないかな?」

 

隣に座ってきたランディの問いに疑問系でしか答えられない、あれは本当に訳のわからないからな戦闘でも生活でも完璧だからなー。少し抜けてたりするところもあったりするが。

 

「よく考えれば俺も完璧には知らないんですよね」

 

「やっぱりお前でもか」

 

「はい、すいません」

 

俺はナポリタンを食べようとナポリタンをすくったとき、

 

「そうだろうな」

 

目の前にシオンの作ったナポリタンを皿に盛ってきたオーレリア分校長が座った。

 

「オーレリア分校長」

 

「うむ、私も詳しくは知らんのだが、シオンさんは暗黒時代が終わってすぐに眠りについたと言っていたな。シオンさん曰く暗黒時代から百年は寝ていたらしい」

 

「そんなことが、俺もそこまでは聞いて無いですね」

 

オーレリア分校長の話には気になる部分があったがそれにしてもシオンは規格外だ。敵に回ったときの厄介さは見に染みてわかっている。そして今の状態では全力を出せないと言うことも。

 

「まあ、私自身シオンさんから聞いた話では無いのだが」

 

「え?」

 

「ふふふ、それではな」

 

オーレリア分校長が最後に含みのある言い方をして何処かえと行った。皿の上にあったはずのナポリタンがなくなっていたのは目の錯覚だろうか?

 

「ま、まあ、それでもあいつは化け物だってことだな」

 

「うーん、シオンは何でもできるし化け物って次元なのかな?」

 

「わからねぇや」

 

結果としてシオンは訳のわからない人物と言うことで話は終わった。

よく考えてみたら俺もシオンのことを深くまで知らない、と言うかほとんど知らない。

シオンから聞いた話だと千年前ぐらいに造られた人造人間の中で唯一成功した者。らしくあの頃にまともに人間の形を持ち、知能が発達していたのはシオンだけ立ったらしい。その後知能がしっかりとしてきた時に能力がわかり、少しの暗躍をして暗黒時代の始まる前まで寝ていたらしい。

 

「うーん、俺自身もシオンをしっかりと理解できていないのか」

自分にそう結論をつける。

 

「ははは、そうか!」

 

ランディは大きく笑い、俺もつられて笑う。

そうして明るく朝食を終え、寮を出る。向かうは分校しかないのだが。

 

 

「これぐらいでいいか」

 

俺は周囲に散らばっている金属塊を集めて消却する。分校の校庭で俺は大剣を片手に立っている。

俺は一人、鍛練と称してゼムリア鉱、モドキの硬度が異常な謎鉱石を作り出し、それに舞うようにして連撃を繰り出していた。

武装を途中で切り替え止まることのない舞を繰り出し、ゼムリア鉱モドキに全力で攻撃を加えていき、三分ほどしてようやく砕く。

手は軽く痺れており、武器がカクカクと震えている。

体が思うように動かず、武装の切り替えだったりは上手く行くのだが、なぜだか体が上手く動かない。

 

「はぁ、上手くいかないな」

 

俺は自分の手のひらを見る。武器を振っている者の手のひらとは思えないほど綺麗で、柔らかい。すべすべとしていてシワやマメなどは無く、貴族のご令嬢のような手のひらだと自分で思う。

 

「さて、もう一回すr...」

 

「おーいシオン君ー」

 

俺は大剣を持ってもう一度ゼムリア鉱モドキを作り出そうとしたとき声を掛けられた。

俺は大剣を消し、後ろを向くとそこにはトワさんが手を振っていた。

 

「朝から鍛練?」

 

「はい、前みたいに上手く動けないので」

 

トワさんは俺の元まで走って来るとそう聞いてきた、俺はその問いに答えるとトワさんはニコニコと何が嬉しいのかずっと笑っている。それに俺の顔をずっと見上げているような状態で、だ。

 

「何か俺の顔についてますか?」

 

「ううん、ただシオン君の顔をしっかりと見たことなかったから」

 

「......そうですか」

 

「うん、そうだよ」

 

トワさんは身長が低く見上げる形で俺の顔を見るのだが、表情のコロコロと変わるトワさんを見ていると思わず笑ってしまう。

俺はトワさんと話しながら校舎に入る。俺はすぐに別れて、Ⅶ組の教室に入る。まあ、誰もいるわけはなく。俺は小説を複製してそれを読む、ロゼの伝承を描いた大衆向け小説だが意外とロゼの特徴をとらえていて面白い。本物と全く違う性格なのも、

 

「あ、シオン」

 

俺が一人小説を読んでいると教室に入ってきたユウナが俺に気付きそう呟く。

 

「おはようユウナ」

 

「うん、おはようシオン」

 

ユウナは笑って俺に返す、ユウナは俺の隣で勉強を教えたりしている。そんな事がありユウナとは仲がいい。

 

「おはようございますユウナさん、シオンさん」

 

「ん、おはようアルティナ」

 

「おはようアル」

 

ユウナが教室に来てすぐにアルティナが来た。ユウナからアルと呼ばれているらしくアルティナも嫌では無いらしい。

 

「おはよう皆」

 

そのアルティナの後ろからクルトが来る。

 

「皆集まってるのか?速いな」

 

そしてクルトが教室に入ってすぐにリィンが入ってくる。

 

「おはようございます、リィン教官」

 

「ああ、おはようアルティナ」

 

「おはよう、リィン」

 

「ああ、ナポリタン美味しかったよ」

 

「「おはようございます。......」」

 

「あ、ああ。おはよう二人とも」

 

リィンに対してそれぞれが挨拶をし、リィンは教卓に立つ。

 

「えっと、それじゃあHL(ホームルーム)を始める。アルティナ」

 

「はい...起立、気を付け、礼、着席」

 

アルティナの号令に従い、頭を下げ椅子に座る。

 

「さてと、それじゃあまずは今日の三、四時限目だが、Ⅷ組と合同だ」

 

ふーん、ランドルフのところとかまあ、楽しめそうだな。

 

「それと、シオンについてだ」

 

「「「っ......」」」

 

「......え?俺?」

 

空気が弛緩する。いや、何で俺なん?何も言うことは無いんだけど。

 

「いや、あるだろ。シオンの元々いた場所だったり、シオンの能力についてだったり」

 

「あ、それ?」

 

「それだよ」

 

リィンのツッコミが冴え渡り、次々と俺の言葉にツッコミを入れていく。

 

「あー、それかー。まあ、いいけど」

 

俺は渋々立ち上がると、リィンと入れ替わりに教卓にたち、左手首に同化している腕輪を見せる。

 

「それはっ!?」

 

「まさか、あれが?」

 

「えっ!?何、それ?」

 

リィンを除く三人の反応はそれぞれ、クルトは俺の腕と同化している腕輪に驚愕し、アルティナは腕輪について思考し、ユウナは何なのか全くわかっていない様子だ。

 

「これが俺の武装、戦神之腕輪(アテナ・オブ・リング)。複数の武装を複写し、呼び出す古代遺物(アーティファクト)だ」

 

そう言って俺は腕につけている腕輪(アテナ)を見せる。その腕輪はズズズと腕から離れ腕から外す。

 

「俺は人造人間(ホムンクルス)でな、体の構造が特殊でな、暗黒時代前から生きてた」

 

「「暗黒時代前っ!?」」

 

そりゃ驚くだろう、何せ暗黒時代は八百年前ぐらいに始まったんだから。

 

「それで、体の構造が特殊ってことはな、こういうことだ」

 

俺はそう言って指をパチンッ、と鳴らす。それがトリガーとなり俺の体が発光し、変化していく。

 

「こういうわけだ」

 

発光が収まり俺の姿を見れるようになる。そうして見えた俺の体は少し縮み、体が男から女の特徴を持つ体になる。いわゆる女体化が出来るのだ。

 

「え?シオン、だよね?」

 

「応、声とかは高くなってるし」

 

俺は制服の前を開けて膨らんだ胸を解放する。

 

「胸もあるしな」

 

「あわわっ!?何でみんなの前で!?」

 

「え?ダメか?」

 

「ダメでしょ!」

 

なぜか怒られユウナにはしっこに連れていかれた。クルトとリィンが顔を赤くしてそむけていたがなぜだろうか。

 

「うーん、まさかこんなところにシオンの弱点が」

 

ユウナは呆れたようにため息をつきながら俺を見てくる、俺はユウナは制服を折ったりしてとりあえずの形でまともな状態にした。

 

「え、えーとだな。そんなわけでシオンはいろいろと特殊な訳だが、まあ、基本的にはお前達より経験豊富だ。頼ってやってくれ」

 

「いや、頼ってくれとは俺は言ってないぞ?」

 

「さて、それじゃあHL(ホームルーム)は終了だ。アルティナ」

 

俺のツッコミは無視され、アルティナが号令をかける。俺は渋々それに従った。

 

 

三・四時限目  機甲兵実習訓練

 

「さて、それじゃあそれぞれ、自分に合うタイプを選んでくれ」

 

ランドルフがⅦ組とⅧ組の生徒にいい、それぞれで『ドラッケン』や『シュピーゲル』、『ヘクトル』、『ケストレル』にそれぞれで乗り込み操作する。

俺はそれを片目で見ながら左手首と同化している腕輪(アテナ)に触れ、呼ぶ。

 

「こい、『機甲異端兵(ドラッケン・エレーティコ)!』」

 

俺の呼び掛けに反応した腕輪(アテナ)が白緑色に一瞬光ると、俺の背後に巨大な魔方陣が展開され、巨大な人形の影が浮かび上がる。ゆっくりとそれは実態化し、純白の装甲に手首や脇部分、足首に淡く光る白緑色のライン。甲冑を纏った騎士を大きくしたような姿の人形が現れる。

 

「なっ、何でこいつがこっちにある?」

 

「俺が呼び寄せたからな」

 

「そ、そうか......ってシオン!?お前何で女化してるんだよ!?」

 

「......」

 

「無視かよ!?」

 

ランドルフが俺にそう聞いて来るがそれも無視して俺は『異端兵(エレーティコ)』に乗り込む。

胸部のハッチが開き、中に乗り込むと腕輪(アテナ)と『異端兵(エレーティコ)』を繋ぎ内部機構を俺と接続する。

 

『あーあー、聞こえるか?』

 

「ああ、聞こえるぞ!」

 

俺のマイクテストにリィンが答え、俺は『異端兵(エレーティコ)』を起動する。

 

人形の全身に力が巡り、力強く立ち上がる。

装甲の基本的な部分は『機甲兵(ドラッケン)』と同じだが、〈異端〉と言われる理由は手甲部分と脚部装甲の厚さだ。

手甲部分は通常の厚さの倍はあり、指の装甲は拳を握りしめると板のようになるように装甲がつけられており、脚部装甲は通常よりすこし厚いぐらいだが、空気抵抗が少なくなるよう鋭利なフォルムの脚部。

 

「これは、ドラッケン?」

 

アルティナの呟きが聞こえる、ゆっくりと腕を動かし、感覚を取り戻すため型を取る。北斗流と呼ばれる格闘戦を想定した流派。すこしかじるぐらいだったがまだ感覚は残っていたらしい。

型を取ったままゆっくりと左腕を下げて溜めをつくると、

 

『ハッ!』

 

正拳突きを繰り出す。ブォン!と風を切り裂く音を盛大に鳴らしながら鋼の拳が繰り出される。

周囲に動かされた空気が風となって荒れ狂いユウナ達の髪がバサバサと荒れる。

俺は繰り出した拳を下げ、型を解く。

 

『ふぅ、こんなところか。やっぱりドラッケンが一番だ』

 

俺はそう呟いて、機甲兵から降りようと膝をつかせるための操作をしようとしたとき。

 

『おい、アンタ』

 

『ん?俺か?』

 

ヘクトルから声をかけられる、その声は男子の声ですこし雑だった。

 

『ああ、アンタだ。アンタ強そうだからな。すこし戦ってくれよ、灰の騎士の仲間なんだろ?』

 

『ああ、まあな』

 

そう言ったヘクトルは奇妙な形の鎌、いや、ヴァリアブルアクスを取り出し構える。

俺は北斗流の構えを取る。

 

「おいお前ら!何しようとしてるんだ!?」

 

『何って模擬戦ですけど』

 

「いや、あのなぁ......」

 

『いいじゃねぇかよ、ランドルフ教官。俺はこいつをいち速く試したいんだ』

 

「あー、わかったよ。さっさとしろよ?勝利条件は機体の小破でいいな?」

 

『はい』

 

『ああ、いいぜ』

 

ランドルフが頭をかきながら俺とヘクトルの間に来ると、

 

「そんじゃ、模擬戦・開始(バトル・スタート)!!」

 

そう宣言した瞬間にヘクトルが突進してくる。咄嗟のことに反応が遅れヴァリアブルアクスの振り下ろしを咄嗟に腕を間にいれ防ぐ。が、押され後ろに飛ぶ、ヘクトルはヴァリアブルアクスをそのまま地面に叩きつけたかと思うとヴァリアブルアクスの鎌の部分が外れ追撃が来る。

 

『予想外過ぎるなっ!』

 

俺は空中で身を捻りながら鎌と持ち手を繋ぐ鎖を掴み牽引する。

 

『化け物かよっ』

 

ヘクトルからそんな声が聞こえるがその声は笑っているように聞こえた。

俺は着地と同時にヘクトルに向かって走りだす。瞬く間に距離は詰まり俺は溜めていた右を突き出す。

ヘクトルは急いで回避をしようとするがヘクトルの機動力の低さが仇となり右腕に突き刺さる。が、腕が伸びきるギリギリだったため威力が完全に発揮された訳ではなく、装甲を軽く破壊する程度にとどまった。

俺が拳を突きだしたまま硬直していたため、それを隙ととらえたのか、ヴァリアブルアクスを振り上げたヘクトルが突進してきて振り下ろす。俺はそれの間に腕を挟み込む。そして先ほどと同じように吹き飛ばされる......訳ではなく、ヴァリアブルアクスがするりと俺の腕の上を滑っていく。

 

『んなぁ!?』

 

『残念、チェックメイトだよ』

 

そしてがら空きになった胴体に左こぶしが突き刺さる、が直前に体を後ろに倒していたのと装甲が厚かった事から小破させることは出来ず、ヘクトルは体勢を立て直すが。

 

『いっただろ?チェックメイトだと』

 

次に高速で繰り出された回し蹴りが先ほどかすった胴体と同じ部分に厚く、鋭く加工された踵が突き刺さる。

装甲に踵がすこしめり込み吹き飛ばされる。

なんとかして踏みとどまるが、

 

「そこまでっ!」

 

小破をさせることが出来たのだろう。ランドルフが止めヘクトルは止まる。

俺も『異端兵《エレーティコ》』に膝をつかせ胸部の

ひハッチが開き、中から出る。

 

「ふぅ」

 

長くのびた髪が身体を震わせることでバサバサと音を立てて荒れ腰にまでとどく黒髪が綺麗になる。

 

「アンタやるな、さすが灰の騎士の仲間だ」

 

声がした向き、ヘクトルのいる方向に茶髪の少年がヘクトルから降りて来ていた。

 

「いいや、下手したら負けてたよ。特にあのギミックは凶悪だね、あぶなかったよ」

 

「けっ、そうかよ、そんじゃな楽しかったぜ」

 

そう言うとヘクトルから降りた少年は何処かへと歩いて行く。あれ?授業中じゃ?

 

「おい!アッシュ(・・・・)!......ちっ、あいつ」

 

やっぱりダメだったらしい、でももう何処かに行っちゃったし、あらら。

 

「すまなかったなシオン、アッシュはああいうところがあるんだ。まあ、根は真面目なんだが」

 

「いえ、大丈夫ですよ俺も楽しかったですし」

 

「お前......誰だ?本当にシオンか?」

 

俺が普通-のつもりなだけであって男シオンと比べるとなかなかに差のある言葉使いだが本人はそう思っていない-に答えているとランドルフが俺の顔をのぞきこんで言う。解せぬ。

 

「いや、シオンですけど。この姿だったらなんとなくこんな口調になるんですよ」

 

「そ、そうか。まあ、アッシュのことは悪く思わないでくれ」

 

「ええ、俺自身が楽しかった訳だし、特に悪くは思っていませんよ」

 

「そうか。ならよかったよ」

 

俺が答えるとランドルフは満足げに答える。

俺はそれを横目に見ながら他の生徒達の訓練を見る。Ⅶ組はユウナが『ドラッケンⅡ』クルトが『シュピーゲル』に乗り込み、リィンの操る『灰の騎神(ヴァリマール)』と戦っていたがリィンが上手くあしらっていた。

 

「なあ、シオン」

 

「何ですか?ランドルフ」

 

「いや、またあいつらと会うことになったらどうするのかを聞いときたくてな」

 

ランドルフは俺に視線を向けているが主に意識は機甲兵達に向いている。

 

「そうだな、優しく迎え入れてくれるならありがたいが、敵対するなら俺は遠慮なく叩き潰す。それだけですよ」

 

「そうかよ、お前らしいな」

 

「まあ、あのお人好しだしななんとなく迎え入れてくれそう」

 

「ははは!そうだな」

 

そうして前と変わらぬような会話を交わし俺達は笑い会う、訓練が終わるまで少しだが会話を交わした。

そして訓練は終わり、その後特に何もなく終わる。

 

 

 

 

そして翌日、自由行動日、俺は支度を整え寮を出る。白に紫がかった髪、男の姿でだ。

 

「さてと今日も頑張りますか」

 

そうしてはじめての自由行動日が始まった。

 




どうも、蕾琉です。
いかがでしたか?
前回、昇華が言ったように、更新は不定期ですが、一カ月以内には更新出来ると思います。
よろしければ、感想や評価など、よろしくお願いします。
では、また次の作品で!


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5.四章

お久しぶりです。昇華です。
更新がここまで遅くなってしまい誠に申し訳ありません。
テストが被ったりスマホが壊れたりといろいろあったんですよ、ええ。言い訳ですけど......
次からは出来るだけ速く出来るように頑張ります、ええ勿論。
今回は長めとなっております。詳しく言えば一万三千字ほどです。後今見返したら時系列がおかしくなっていました。すいません。

それでは本編をどうぞ


自由行動日。

 

俺は朝から起きて朝飯(分校の教師と生徒全員分)を作り、朝のリーブスに出ようとしたとき、ポストに何かが入っているのが確認できた。

 

「ん?なんだこれ?」

 

そこに入っていたものは、

 

『これは皆の依頼の中から選別したもののまとめた用紙だよ。依頼頑張ってねシオン君!

                   トワ』

 

書かれていた内容を何度か読み返して意味を理解しようと奮闘するが、全く脈絡が無さすぎて混乱する。

とりあえずトワさんの説明書きと同封されていた依頼用紙を確認してみるが、

 

「クルトはまあ、あいつらしいし理解できるが......もうひとつはなんだこれ」

 

一つめのクルトからの依頼は、模擬戦をしてくれと言う簡単なものだったがもうひとつが頭おかしいんじゃないかと思うものだったが。

 

『機甲兵の運用テスト  依頼者-G・シュミット

内容 機甲兵の調整が終わったのでテストをしたい。貴様なら生身でも機甲兵と戦えるだろう』

 

いや頭おかしいだろ!?生身ってなんだよ!それに依頼者がシュミットってところも信用できない。だって研究しか頭にないあいつだし、まあ、やれないことは無いだろうからやるが。

 

「さてと、それじゃあ1日始めますか」

 

頬を叩き、寮の扉に手をかけた。

 

 --依頼。クルトとの模擬戦--

 

クルトとの模擬戦をグラウンドには既に双剣を持ち、素振りをしていたところに声をかけて依頼について話していた。

 

「ありがとう、僕の依頼を受けてくれて」

 

「うん?特に感謝されることでもないと思うが」

 

「いいや、君は十二分に強い。そんな君と戦えるならそれは感謝するべきことだから」

 

「そうか、ま、気にするほどのことでも無いしさっさと始めるか」

 

そう言って俺は剣を呼び出す。

その剣は装飾などは一切なく、相手を斬るための刃に、手を守るための鍔、そして剣を振るうための柄だけの武骨な片手剣。

それを左手で持ち、中段で構える。

それを見たクルトは双剣をヴァンダール流のなかなか見ない型をとる。

 

「いくぜクルト」

 

「ああ、宜しく頼む」

 

お互いに動くことなく依頼、俺との模擬戦が始まる。

先に動いたのはクルトの方だった。

俺に向かって走って接近し、双剣を振るう。それを片手剣で反らしながら、がら空きの腹に拳を突き刺す。

 

「ぐふぅっ!?」

 

鳩尾にもろに拳を受けたクルトは大きく体を曲げ動きを止める。そこに俺のハイキックが刺さる。

そのまま吹き飛んだクルトはどうにか体勢を建て直し着地する。しかし、息を整える暇すらあたえずに上からの振り下ろしを叩き込む。ギリギリで双剣を交差させて防ぐが体が大きく沈みこむ。

いったん剣を上げ、バックステップを取って下から振り上げる。それをギリギリで避けるクルトは、苦し紛れに双剣を振るい、大きく距離を取る。

しかし、それを俺は許さない。

右手に作り出した短刀を持ち投げつける。それはクルトの脇腹を軽く掠める。

さらにその上から片手剣を叩き付け、追撃を加え、それを防御したクルトに対してその上からまた片手剣を叩き付ける。

 

「うっ!?っはぁぁああぁぁぁっ!!」

 

何度も叩き付けられる片手剣の威力に押され始めるクルトだが、双剣で片手剣を弾きそのまま綺麗な連撃をくりだす。

上から、袈裟懸け、一文字、等々複数の角度から斬撃が狭い来るがそれを反らし弾き生まれた空間に体をねじりこんで回避する。攻撃が終わったタイミングでカウンターを決めようとしたが、素早く振るった双剣に防がれる。

そのまま弾かれ、カウンターを受け浅く腹を裂かれるが素早く後ろに下がり、精製したナイフを投げて牽制する。

 

「『我が求は三色の武具!』」

 

左手の掌をクルトに向けて、真に世界に影響を及ぼす言葉を紡ぐ。

すると俺の背後に赤い宝石で型どられた大剣と青い木を削られて作られた片手剣そして緑の液体で形成されている槍が現れる。

それは大剣、槍、片手剣の順にクルトに向かって飛来する。クルトは双剣を交差させ、飛来する武器に突っ込む。

 

 

前から来る大剣の振り下ろしを双剣の片方で反らしながら避けるが、槍が前方から複数に分裂して襲い掛かってくる。

致命傷になるものは剣で切り裂き、掠める程度のものは避けずに前進する。

負けたくないと言う気持ちが体を前に前にと進ませ、頭の中をクリアにしてシオンに迫る。

目の前には先ほど反らした大剣が横凪ぎに振る事前行動に移っていた、それを加速して根本の方で受けることで威力を軽減し、かつ双剣を両方使って強引に大剣の動きをずらす。

大剣を切り抜けた先には片手剣の連撃が待っていた。

双剣で剣を叩いて方向を反らし、刃を滑らせることで事なきを得て、さらにシオンに接近する。後少し、後一歩でシオンに届く。その寸前に双剣が止められる。

双剣を止めた物の正体は先程弾き飛ばした槍の形状をした液体が壁のように形を変えシオンを守っていたのだ。

弾かれるようにして大きくバックステップをとり、迫り来る大剣と片手剣を避け、加速する。また現れる緑の壁にクロスを描くようにして切りつける。

切りつけた時に双剣に陰と陽の力をこめていたため、容易く緑の壁を貫通し、クロスした陰陽の斬撃が飛ぶ。それはシオンに直撃し、大きく吹き飛ばす。が空中で体勢を建て直し軽々と着地し、またもやクルトに向かって掌を向ける。

 

「『我が望みしは七色の武具!』」

 

前回とおなじような言葉を詠むシオンの背後に七色の武器が現れる。赤の大剣、青の片手剣、緑の槍は先程と同じものだ。残りの四色は黄色の気体が集まって型どる槌。紫色の骨が組合わさり出来た鎌。橙色の肉で出来た醜悪な刀。黒い土が集まり姿を為す弓と矢。これら七つの武装が展開され、一斉に襲い来る。

はじめは橙色の肉の刀。幅の広く、右上から斜めに振り下ろすような斬撃。

双剣で刀の刃を反らしながら距離を詰めようとするがシオンは大きくバックステップをとりつつ黄色の槌が大きく広がり叩き潰さんと振り上げる。

それをさらに加速することでそれを避けきり、赤い大剣と青い片手剣、そして紫色の鎌が一斉に角度を細かく変え、お互いの邪魔をしないような絶妙な方向から刃が迫る。

最もリーチの長い大剣を右手の剣で火花を散らせながらも弾く、その後にワンテンポ遅れる形で来た片手剣を左手の剣を下から上に振り上げる形で青い片手剣に当て軌道をずらして安全地帯を作り出し、正面から真っ二つに切り裂こうと振り下ろされた鎌の刃を引き戻した双剣で滑らせ、速度を緩めることなくシオンとの距離を詰める。シオンは焦ることなく緑の槍を壁のように展開し、黒い弓で矢を打ち出すことで牽制してくるがそれを双剣を高速で振るうことで打ち緒としたり箆を斬ることで無効化したりとしていくが少しずつ集中力がなくなりはじめ、動きが鈍り始める。

先程までは極限まで集中することで無駄がなくなり最適で最高の行動が取れていたが少しずつ動きにブレが出始める。

体を掠める矢が多くなるが既に接近し緑の壁のすぐ近くまで接近しきった。

 

「『レインスラッシュ!』」

 

様々な角度から流れるように繰り出す連撃で緑の壁を破壊し、その奥にいたシオンと視線があう。

素早く振り抜かれた片手剣を双剣で受け止め、鍔迫り合いとなる。

激しく火花を散らしながらお互いに力を込め会う。勝ったのはクルトだった。

大きく弾かれたシオンに全力で攻撃を叩き込む。どうにかして片手剣で捌こうとしているが徐々に押され始め、ついには片手剣をクルトに弾き飛ばされ片手剣が宙を舞う。

そしてそのまま左手の剣でシオンのがら空きの胴を薙ぐ。

鮮血を胴から溢れ出させながら大きく吹き飛び、ゴロゴロと転がる。

そのままゆっくりと立ち上がったシオンの制服は切り裂かれた部分の下。シオンの生身が見えるようになっており、先程クルトに切られた胴は体の組織が時間を巻き戻すかのようにして繋がって行く。

クルトは全力を出した反動か片膝をつき息を荒らげる。

シオンは切られた胴に回復術を施し、傷を塞ぐ。

シオンに手を貸されたクルトはゆっくりと立ち上がり、感謝を告げて何処かへと行く。これでクルトからの依頼は完了したと、シオンが一息をついたとき、

 

「む、シオンか。ちょうどいい今から調整を始めるからな、待っておけ」

 

シュミット博士に捕まり、シオンはグラウンドで待機することになった。

 

 

     ーーG-シュミットの依頼ーー     

 

「『で、何でシオンがいるんだ?』」

 

シュミットが連れてきたヘクトルからランディの声が聞こえる。

 

「俺とお前とで戦ってデータが欲しいんだとよ」

 

「『お、応。それでお前の異端兵(エレーティコ)はどうした?』」

 

ごく普通の疑問に俺は首を振ると、察したかのようにため息をつく。

俺は大剣を召喚して片手で持ち背後にも複数の武装を展開し、全力で戦える構えをとる。ランドルフも戦うことを決めたのか両手でしっかりと戦斧を握り、構える。

 

「ようやく始めるのか、さっさと始めろ」

 

そう言ってくるシュミットを思わずにらみつけながらヘクトルに意識を向ける。まずもって真っ正面から打ち合えば力で押される。技でどうにかして凌ぐしかないか、

 

「それじゃ行くぜ?ランディ!」

 

「『ああ!かかってこい!』」

 

戦闘の開始はお互いの掛け合いから始まった。

正面から向かうのではなく一旦バックステップを取り辺りの空間に干渉し剣や槍などを一斉に精製、射出する。

しかし戦斧を振るうだけで大半が弾かれ、残った武具も装甲を薄く傷付けるぐらいで終わり、一気に接近したヘクトルの大上段から振り下ろされる戦斧の横を大剣で全力で叩き反らす。左側にそれた戦斧の脇を一気に加速してすり抜け、大剣から二丁銃剣に切り替え脚の関節部を狙って振り抜くがギャリギャリギャリィ!と火花と嫌な音を立てるものの関節に決定的なダメージを与えるには至らずにすぐさま足元から離れ、複数発弾丸を関節に叩き込むも強化されているのか中々通らない。

小回りが効き、回避し続けカウンターをヘクトルの脚に向かって叩き込み続けているが異様なまでに強度が高く、ダメージが通っているように全く見えない。

こちらもランディの戦斧を弾いたり、滑らせて軌道をずらしたりして事なきを得ているものの当たるのは時間の問題で、徐々に追い詰められていく。

ランディも手加減することなく攻めて来るため攻勢に出ることが出来ず防戦一方となり、戦斧の一撃を受け止め続けた大剣にはヒビが入り、現在はまた別の大剣を精製して戦っている。背後に展開していた複数の武装も使い続けた結果ヒビが入ったり砕けてしまったりとして新たなものに変わっている。

一方のランディが操るヘクトルは数分にも及び攻撃を受けているもののかすり傷程度の傷があるだけで全くと言って良いほどダメージが通っていない。

俺は制限があるなかで全力を出しているが制限を外さないとおそらく負けてしまうだろう。

 

「さっさと全力を出せ、制限を掛けていては倒せんぞ」

 

俺の迷いを見透かしたように投げ掛けてくる言葉に思わず苦笑いがこぼれる。

 

「わかったよ、制限だろ?外してやるよ!」

 

シュミットの少し挑戦的な物言いに反発するような形で力を解放することを決める。

意識するのは体の心の奥底の枷、それを外す。

全身を包み込むどす黒い覇気。薄く紫色がかっていた髪は真っ白に変わり、薄水色の瞳は赤黒く濁り始め黒く濁ったアメジストのような色に染まる。

 

「いくぞ?ランディ」

 

呟いた言葉はランディに届いたらしく戦斧を構える。しかしその構えはいつも以上に緊張したもので、俺を警戒しているらしい。

ゆっくりと右手を上げ横に振る。それを合図に背後におびただしい数の武具が精製、展開される。

そして左手には呼び出した暗黒時代の頃から使い続けている究極の大剣、唯我独尊・椿を喚び出し、持つ。

そして一歩目を無造作に踏み出す。

しかしその一歩でヘクトルの目の前に一瞬にして接近する。原理は簡単で、今の場所と一歩先の場所とヘクトルの目の前を結びつけただけ、縮地方なんて呼び方もされる戦闘技術の一つだ。ほとんどの人間は出来ないような代物だが。

しかし咄嗟に反応し戦斧を大剣との間に挟み込めるランディも十二分な力を持っている。

お互いに拮抗した状態だったが俺が強引に振り抜いたことでヘクトルの体勢が崩れる。

そのタイミングで指を鳴らす。

すると、俺の背後に十数個の武具が精製され、一斉に飛び出す。体勢の崩れたヘクトルに向かって放たれた槍や槌などの装甲の厚い兵器に対して効果的な武具で追撃する。

いままでは通らなかった槍や槌はしっかりと装甲にキズをつけた。

しかしランディの巧みな操作と戦斧の扱いでほとんどが当たらず、しっかりと当たったのは僅か四本だった。

投擲するだけではなく、精製した槍や斧を空いている右手で持ち、ヘクトルの膂力から放たれる戦斧の連打を、弾き反らし、砕かれながらも直撃を避けながら反撃に精製した武具を射出する。

動きは少しずつ早くなる。枷を外した後の力に馴染んできたため動きが最適化され少しずつヘクトルにキズが増えていく。そして、全力で振るった大剣がヘクトルの持つ戦斧を砕く。そのまま追撃を決めようともう一歩を踏み込んだ時、

 

「そこまでだ!いいデータがとれた。私はアインヘルで研究をする。それではな」

 

シュミットが止め、パソコンを持って裏のアインヘル小要塞に続く道を歩いて行った。

 

「ふぅ、終わりがなんだか釈然としないがいいか」

 

枷を再度かけ直し、どす黒い覇気が無くなり髪は紫色がかり瞳は薄水色に戻る。

ランディはヘクトルから飛び降り、こちらに向かって歩いて来る。

 

「お疲れ、ランディ。巻き込まれたのか?」

 

「ああ、シュミットに今日の朝から捕まっててな。もう昼だろ?さすがに疲れたぜ」

 

お疲れ、と声を掛けておき俺はランディと別れ、することもないのでアインヘル小要塞に向かって歩いて行く。すると途中で電話がかかってきた。

 

「どうした?リィン」

 

『シオン?繋がったか』

 

電話をかけてきた相手はリィンだった。電話をなぜかけたのかと聞くとこれからアインヘル小要塞に行くから俺に来てほしいと言うもので、それを伝える為だと言っていた。といってもすぐそこなので少しくつろいで向かった。

 

 

俺がアインヘル小要塞についたときにはすでにリィンがいた。その両脇には白と黒の対称的な少女がいて、白い方の少女は俺に気付くと、

 

「お兄ちゃーん!!」

 

お兄ちゃんと叫びながら飛び付いてくる。

 

「何でここにミリアムがいるのかは聞かない。

と言うか元気過ぎるだろ。ミリアム」

 

俺よりも頭一つ分背が低く、少し緑がかった水色の短髪。藍色をメインとしつつ、白いラインの入った帽子。肩から腕までが白く、真ん中が黄色く左右が藍色で脇が開いている服、水色のポーチに、灰色と側面の白いホットパンツ。太ももを半分ほど隠した少し薄い黒のハイソックス、そしてジッパーの周囲が水色で他は白のロングブーツと言った動きやすい服装の少女。

ミリアム・オライオン、アルティナの姉と言った位置付けで俺の妹と一応はなる。

とりあえず頭を向けて撫でてアピールをしてきたので、よしよしと撫でておく。アルティナがなんだかしてほしそうに見ている気がするが気のせいだ気のせい。

 

「久しぶり!お兄ちゃん!」

 

「応、久しぶりだなミリアム」

 

落ち着いた雰囲気のアルティナとは真逆で、はつらつと言った印象を受ける。

かわいらしい笑顔を浮かべるその様子は天使と言った言葉を思い起こさせる。

 

「にしても、何でアインヘルに連れてきたんだ?もっと他にあっただろ、カフェとか雑貨屋とか」

 

「どっちも行ったんだが」

 

「お、応。お疲れリィン」

 

苦笑いを浮かべるリィンを労いながら、なぜだか引っ付いて来たアルティナも撫でていると、

 

「ふむ、〈白兎(ホワイトラビット)〉に〈黒兎(ブラックラビット)〉そして銀哭に灰の騎士と、データを取るには十分だな」

 

シュミットがこちらを見ながら歩いて来る。

それからミリアムに向けてのアインヘルの説明と今回のアインヘルの軽い説明、それと下に降りる方法についてと複数の説明を受けた後に一人の少女を紹介された。

何でもシュミットの弟子でギミックだったりの解説を各所でしてくれるとのこと。

名前はティータ、ティータ・ラッセル。分校の制服の上からパーカーを羽織り、艶やかな金髪を腰まで伸ばし後ろで纏めている。前に二房垂れてもいる。

 

「ど、どうぞよろしくお願いします」

 

どうも緊張しているようでガチガチだったのでとりあえず落ち着かせといた。近くで見れば俺が銀哭だとわかったようで少しだけだが落ち着いてくれた。

ティータは上の部屋に向かい、俺達は入って来た部屋の奥、昇降機のある部屋に入った。

昇降機の扉の横側には〈Lv.0〉と表示されたモニターとキーボードが付けてあり、それをカタカタと操作して昇降機の進む先を〈Lv.1〉に変える。

 

「よし、設定変更完了」

 

「ありがとうシオン。それじゃあアルティナ、ミリアム、準備はいいか?」

 

リィンは左右にいる少女達に問いかける。

 

「もちろん大丈夫です」

 

アルティナは冷静に返す。

 

「もっちろん!早く行こーよ!」

 

ミリアムは輝かしい笑みを浮かべて腕を振り上げる。

 

「シオンもいいか?......って聞くほどのことじゃ無かったな」

 

リィンは苦笑しながらそう言い、昇降機の扉を開ける。

まずミリアムが入り、続いてアルティナ、そのつぎはリィン。そして最後に俺が入る。

扉は音を立てずに閉まり、ゆっくりと動き出す。

 

 

アインヘル小要塞〈Lv.1〉に到着した俺達は昇降機から降り、武装を取り出す。リィンは太刀を、俺は大剣を、ミリアムとアルティナはそれぞれ戦術殻を呼び出してゆっくりと進む。

最初の小部屋でギミックの説明を受け、短い通路を抜け最初の大部屋に着く。

そこにはスッポンと竜を混ぜたような魔獣が三匹いた。

他の部屋に繋がるような通路は一つ、それとよくわからないシャッターが降りた通路が二つあった。

スッポンのような魔獣をこちらをロックオンしており、威嚇を繰り返している。

 

「とりあえず、やるか」

 

「ああ、二人とも行くぞ!」

 

「うん!」「はい!」

 

ミリアムとアルティナの声にあわせて俺が一番前に出る。アルティナと俺が、リィンとミリアムが〈リンク〉する。

まずは突進、噛みついて来たスッポンのような魔獣の攻撃を身を捻って避け、反撃に顔面を斬りつける。右目を切り裂いて大きく体勢が崩れたタイミングでアルティナと位置を入れ換える。

アルティナは戦術殻(クラウ・ソラス)の剛腕を魔獣の頭部に叩き込んでいた。それによって脳は破壊され、絶命した。リィン達は二匹を相手取りうまくさばいていた。

背後から奇襲を決めたアルティナにあわせて魔獣の頭上に大剣を精製、脳天を貫く。

リィン達二人はもう一匹を仕留めており、大部屋の魔獣はいなくなった。

大部屋に入って来たところから右手の方しか道が続いておらず、その先にはゼラチンで出来た不定形型の魔獣が七体ほどいたが俺が前に出て注意を引きつつ、準備が整ったところで下がり、アーツの一斉掃射で殲滅した。

その部屋には他の部屋に続くような通路はなく、一つだけ通気孔(ダクト)があった。

 

「よし、入るか」

 

そう言った俺のことをジト目で見てくるアルティナと対称的にもう入ろうとしているミリアムの姿に思わず苦笑が漏れる。それから少し話してミリアム、アルティナ、俺、リィンと言った順番で潜ることになった。

通気孔(ダクト)の中は狭く這いずって進む。ミリアムは見えるとかそう言ったことは気にしないのでずんずんと進むが、アルティナは気にする為目線を反らしながら進めと念をおされ前に進みずらい状況ながらも通気孔(ダクト)を抜けた。

通気孔(ダクト)を抜けると小部屋になっていて、グラスドローメと言うらしい先程の部屋にもいた魔獣が今度は三匹いた。今回は全員で攻撃やクラフトを行い封殺した。

通路はシャッターで閉じられていたが近くの端末でシャッターを上げて進んだ。進んだ先の部屋には蜥蜴と蜻蛉を足して二で割ったような姿の魔獣が四匹とグラスドローメと言う魔獣が四匹と、合計八匹の魔獣が部屋を徘徊していたが近くにいた一匹の魔獣に発見されたことを皮切りに八匹の魔獣が一斉に向かってくる。

 

「一斉かよっ!?」

 

「さすがに八匹はきついかと!」

 

「わわわっ!?」

 

「シオンっ!」

 

リィンは冷静に俺に視線を向ける、その視線の意味を理解した瞬間に指をパチンと鳴らす。その瞬間に魔獣達の頭上に一斉に精製される武装。ドローメの上には刃のついている大剣や片手剣、曲刀に刀と言った武装が、蜻蛉のような魔獣には槌や鎌、槍等の甲殻に対しても効果のある武装がそれぞれ選別され精製、射出される。

上空から打ち出された武装が魔獣を切り裂き、叩くが、即座に精製したため殻を砕いたり粘液の体がはぜるが致命打には程遠く足を止めるだけだった。しかし十二分な時間を稼いだ俺は白黒の妹と位置を変わる。

 

「頼むぞっ!ミリアム!アルティナ!」

 

「りょーかいっ!任せてお兄ちゃん!」

「了解です。『クラウ・ソラス』」

 

背後の戦術殻から放たれる二筋の光線は直進し、魔獣を巻き込む爆発を引き起こす。

ドローメは体の八割が蒸発し、ドグネックフライヤーと言うらしい蜻蛉のような魔獣はほぼ大半の殻がなくなり、中の肉は爆散している。

それでもしぶとく生き残る魔獣はいるのだが、そこには俺がしっかりと魔力を込めた-さっきの足止め用の違う-確実に止めを決めにいった武装が突き刺さる。一匹ごとに十本程の剣、槍、槌、矢が突き刺さる。射出した武装四十本はしっかりと魔獣の息の根を止めた。必要以上に痛め付けてだが。

 

「よし、感覚も上々と」

 

魔力を込めた精製は久々だったので上手くいくかは分からなかったが予想以上に上手くいった。魔力の消費もそこまででは無いので、制限がかかっている状態だと言うことを鑑みれば及第点には乗るだろう。

十二分な成果に頷きながら先に進んでいた三人を追う。

その先でも複数の魔獣と出会ったものの感覚をある程度取り戻せた俺が精製した武装の一斉掃射で大半が片付き、最奥前に到達する。

そこで一旦休憩を挟み、武装の確認、クオーツの確認を行った後、最奥の部屋に入る。

 

最奥の部屋には何もいないが中心に異様な魔力の渦を感じた。おそらくトールズ本校の旧校舎にあった遺跡の模倣だろう。全員が中心に向かうと数歩歩いたタイミングで魔獣、いや、魔物が姿を現す。

巨大な体躯は青く、頭からは巨大な角が左右に生えており、前屈みになった体には金の線が走っている。

両腕が長く発達しており、地面につけて自重を支えているが、脚自体もしっかりとしている事から腕による攻撃も可能だと思われる。

なんて俺が冷静に相手を観察していると猫背になっていた上体をあげ息を吸い込む。これから予想されるのは吐息(ブレス)咆哮(ハウル)か、どちらにしろ先制の機会を与えてしまったことを反省しながらバックステップを取る。ミリアムとアルティナは戦術殻でバリアを張りながら耳を塞ぐ。リィンは俺と同じでバックステップを取っていた。

俺達が全員行動に移ったワンテンポ後で魔物は口を開ける。その口から放たれたのは咆哮(ハウル)。しかしそれはこちらにダメージを与えるものではなく、魔物自身を強化する特殊なもの。

俺達がそれを理解した時にはもう遅く、すぐちかくにいたミリアムとアルティナに向かって身体能力の強化された魔物が突っ込む。

鈍重そうな見た目からは想像も出来ないほど速く接近し、豪腕を凪ぎ払う。二人をバリアの上から吹き飛ばし、追撃を決めようとしたところで大楯を呼び出して間に入り込み、豪腕の一撃を食い止める。が、あまりの威力に体勢が崩され、その上から腕の骨が軋む程の威力の剛腕を連続で叩き込まれる。異様なまでに威力の高い連打を大楯を構え、真っ正面から受け続ける。アルティナ達はバリアの上から受けたとは言え異常なまでの威力の一撃をまともに受けたため追撃を受ければ危うい。だから回復するまでの間誰かが注意を惹き続けなければいけない。しかしリィンは刀で守るには適せず俺は大楯を呼び出すことが出来るので俺が注意を惹き付けることになったのだが、身体強化を施したであろう魔物のラッシュを真っ正面から受け止め続けて三十秒ほどがたった時点で腕の骨が限界を迎えた。

大楯を構えていた両腕のうちメインで支えていた左腕に激痛が走る。と同時に片腕だけでしか支えていなかった大楯が弾かれる。左腕の再生が始まるがもう一度大楯をしっかりと構える余裕もなく、咄嗟に差し込んだ大楯ごと殴り飛ばされる。

右腕の骨は複雑骨折を起こし、大楯越しに殴られた肋は二、三本折れた。全身を激痛が駆け巡るが空中で体勢を建て直し、壁に激突するのを防ぐため魔力を使って綿を精製する。衝撃を吸収出来るように三十センチほどの厚さで俺がぶつかるだろう壁に設置する。

衝撃を綿のクッションで吸収し、俺は即座に復帰する。左腕は既に再生が終わり、肋も後数秒で終わる。右腕こそ複雑骨折なので時間はかかるが後二十秒もあれば完璧に治るだろう。

しかしそれまでの間ミリアム達が戦わないといけない。あの高医療の攻撃を防ぎながらだ。さすがにそれは無理だろうと急いで復帰しようとするが、俺の目に写るのは初撃に比べて遅い攻撃を繰り出していた。

それを受け止めるミリアムは吹き飛ばされずにそのまま豪腕を弾き返す。そこから考えられるのは身体強化が消えたと言うこと。

俺は左腕を横に振るう。それと同時に魔力を大幅に消費する。することはしっかりとした性能の武装、十本の剣を二秒程で精製する。それはミリアムが後ろに下がったタイミングで一斉に射出され、魔物を串刺しにする。

両腕に二本ずつ両足に二本ずつ、頭と胸の中心に一本ずつ突き刺さるが、両腕と両脚には根本まで深々と突き刺さったが、胸の中心には軽く、頭は弾かれた。それに徐々に腕と脚に刺さった剣は押し出されて行く。胸の中心に刺さった剣にいたってはすぐに抜けた。しかし傷自体は残っており、血も流れているが動きを阻害している感じはない、痛覚はあるだろうが極端に鈍いのだろうか?しかし攻撃が通るのならば叩き続けるだけ、俺達は一斉に攻撃を繰り出す。

 

「緋空斬!!」

 

鞘に入れていた太刀を居合い切りの要領で放った緋色の鎌鼬は魔物の胴体を深々と傷付けるが、いまだに致命傷には至っていないらしくいまだに攻撃を繰り返そうとするが、

 

「いっけー!ガーちゃん!!」

 

「クラウ・ソラス!」

 

ミリアムとアルティナの戦術殻から繰り出される剛腕の殴打と鋭い豪腕の一撃をまともに受け、大きく動きが止まる。そこに俺は両手で大剣を持ち、地面に擦り付け、火花を上げながら突っ込む。

咄嗟に咆哮(ハウル)をあげ、身体強化を施したが、そのときには既に懐に入り込んでいた。

 

「剛破断!!」

 

魔力を流し、切れ味を底上げした上で一気に振り上げる。

地面を擦りながら振り上げることで居合いを再現し、硬い肉体を右脇腹から左肩に向かって切り上げる。

硬いはずの体表は魔力を流し、切れ味を上げたことで切り裂き、居合いの勢いそのままに体を二つに切り分ける。

上半身と下半身は別れ、両方の断面から血が溢れ出すのかと思えば粉々に-光を反射して煌めく程には-霧散する。

振り上げた形から大剣を下ろし、辺りに新たな魔獣、もしくは魔物が現れる気配がなくなったのを確認して大剣を消す。

 

『ふむ、十分だ。そこでアインヘル小要塞Lv.1は終わりだ......最後の魔物、〈スオウ〉は少なくとも苦戦以上するように強化していたのだが。まあいい、十分なデータは取れた。さっさと出ていけ』

 

俺が大剣を消し、他の三人も武装を解除したタイミングでシュミットが放送を入れてきた。出ていけと言われたので最奥の部屋からでて、魔獣のいなくなった小要塞を歩き、昇降機を使って上がる。

シュミットはおらず、ティータに謝罪と見送りを頂いてから小要塞を出る。

 

 

すっかりと日の暮れていた為ミリアムを駅まで送り、リィンとアルティナとも別れ、寮に戻る。時計は六時を示していて、未だに他の生徒はあまり寮に戻って来ていないが部活をしてそれなりに疲れて帰って来るだろう。

とか言いつつ、なかなかいる生徒と教師陣双方分の料理を作るのが地味に楽しくなってきた。献立も食べたい物を聞いて回れば尽きること無く出てくるのだからありがたい。と言うわけで今日はコーンスープとハンバーグ、野菜炒めの三品に大量生産されたプリンと様々な味のゼリーがデザートとして付いてくる。米は各自自由、取る量もハンバーグ以外は自由と言ったバイキング風の夕食を一時間で人数分に+αで作り終える。

 

「おっし、おーい!!出来たぞ!!冷める前に食べろ!!」

 

食堂ではなくリビングにいるだろう生徒に向かって大声とまでは行かないがそれなりに大きな声で呼ぶ。

すると食堂の扉が勢いよく開き、Ⅷ組とⅨ組、そしてⅦ組の面々が入ってきた。献立を確認して目星をつけて一気に料理を取っていく。恐ろしい勢いで無くなっていく料理に苦笑しながらリィン達Ⅶ組の座っていた机に付き、先に取っていた料理を食べ始める。

カチャカチャとナイフとフォークが皿に当たる音と楽しそうに喋る声が食堂を包み込み、和やかに夕食は進む。

 

それからは食べ終わった人から食堂を出ていき、就寝前の自由時間を過ごす。その時俺はと言うと、皿洗いを何人かに手伝ってもらい-フレディと言うⅧ組の男子とティータに手伝ってもらった-ゆっくりと湯に浸かっていた。

 

「ふぅぅ~、癒されるぅ~」

 

体を洗い、湯船に肩まで浸かっている姿は機甲兵を操る時に浸かっていた女体。しかし風呂は男風呂。いつもは男の姿でいるのでさすがに女体とはいえ女風呂に入るのもどうかと思って男風呂に入ることにした。

肩を風呂の縁につけて体を伸ばす。それなりにある胸は湯船に軽く浮かびリラックス仕切った体はだらしなく垂れる。

目を閉じて湯に浸かり、体をほぐしていると、ガラガラと音がして誰かが入ってくる。

 

「なっ!?何でこっちに女子がっ!?」

 

「ん?」

 

目をうっすらと開けて誰が入ってきたのかを見る。

赤い髪に生徒にしては鍛えられた身体、そしてその身体に入った無数の傷痕。

 

「なんだ、ランディか」

 

生徒ならいざ知らず、教師で知り合い、そしてこの姿を知っているランディなら大丈夫だとそのまま体を伸ばしきる。

 

「なんだ、じゃないだろ!」

 

「んー?別にいいだろー?」

 

「いや、まあ......じゃないだろ!?お前姿!」

 

ランディはどうしても俺と入りたく無いらしく、風呂場から脱衣場に逃げようとする。が無駄に枷を外して身体能力を上げ後ろから抱きつくようにして逃がさない。ギュッ!と密着を強める。

 

「なっ!?おい!?」

 

「ふふふ、このまま出ていけばヤバイぞ?」

 

「脅迫紛いのことをするなっ!後速く離れろっ!」

 

「なら一緒に風呂に入れ!」

 

無理矢理離そうとするランディだが、枷を外して身体能力を無駄に上げている俺を剥がすことの出来ないと観念したのか、俺に捕まったまま風呂に入る。

渋々と言った感じで風呂に入ったランディだったが、湯船に浸かったらそんなことを言えなくなった。

 

「ふふふ、久々にお前と入るな、ランディ」

 

「ああ、そうだな。で?男の姿にはならないのか?」

 

「ん?なんだ、豊満な胸にしか興味はないと?」

 

「そういう訳じゃないが、男風呂で湯船に浮かぶ胸はなんだか違うんだよ」

 

「そうか、まあ、風呂上がったらだな」

 

「最後までじゃねぇかよ」

 

下らない話をしながら身体をほぐす。

少し浸かってから身体を洗うために上がる。ランディは風呂に浸かったままだったが俺が強引に上がらせて、俺がランディの背中を流す。

最初に胸でしてやろうかと聞いたら

 

「普通に流せ」

 

と普通に返された、面白くない。まあ、さすがに胸では恥ずかしかったからやらないけど。

とまあ終始ふざけながら風呂を楽しんだ。

そして結局女体のまま脱衣場を出て、リビングに向かう。女体があることを知らないⅧ組とⅨ組の生徒はあんな生徒居たっけ?と話し合っていた。

特に触れる必要があることはなく四階の教師陣の部屋がある階の階段から最も遠い部屋の右隣、何部屋か開いていた部屋の一つに俺の個室がある。俺が個室なのは男子生徒の部屋に余りが無かっただからだと。

俺は俺のベッドにダイブする。慣れていない枷を外して、久々に魔力を消費してと、周りにはわからないように気丈に振る舞っていたが、体が重い。風呂場で疲れがとれたのかと思っていたがそうでもなかったらしい。

俺はベッドにダイブした後で衣装を変える。

白いパーカーに短パン。いわゆる寝間着だ。

俺はベッドの上でそのまま力尽きる。瞼がゆっくりと降りてきて視界が真っ暗になる。そして意識も暗闇に落ちていく。




いかがでしたか?
うーん、この小説は戦闘描写が下手すぎる。何でランキングに乗るような方々はあんなに上手いんでしょう?謎です。(単純明快)
私自身ランディさんが凄く好きなんですよね。ええ。主人公は性別自由自在ですから。まあ、正妻はアルティナなんですよね......ハァ。

それではこれぐらいで、評価、感想等を頂けたらありがたいです。また次回に合いましょう。


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6.五章

こんにちは、昇華です。
更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
更新するたびに謝罪をしている気がします、更新が遅くなるのが悪いんですけどね、ええ。
そんなわけでこちらもようやく更新させていただきます。楽しんでいただけたら幸いです。

それでは本編をどうぞ、


 自由行動日から数日がたったある日の午後。機甲兵達を格納している倉庫の横にある駅にて分校生徒が大きなボックスにさまざまな荷物を積めた状態で待機していた。

 

「よし、Ⅶ組! 準備は万全か?」

 

 銀髪の中に薄く紫がかった珍しい色の髪を持つ少年は全体を取り仕切っていた。

 

「ええ! オッケーよ!」

「オッケーです」

 

 ピンク色の髪の活発そうな少女と、回りに比べ頭一つ分背の低い銀髪の少女が答える。

 

「Ⅷ組! そっちは!」

 

 銀髪の少年が手にしている紙には恐らく経理などを得意とする文官ですら目を剥くような量の情報が乗っていた。

 全体で使う予算。それから各学科で使われる備品の予算。機甲兵の運用に対しての注意に予備部品の数、値段、どこで仕入れてきたのか等、上げれば切りの無い数の情報がびっしりと並んだ紙にはチェックや追加でかかれた情報、書いてある備品以外の備品等事細かに書いてある。それとにらめっこしながら生徒に的確な指示をだし、纏め上げていた。

 

「ああ! 終わってるぜ!」

「こっちは大丈夫だ!」

 

 金髪で荒々しい印象を受ける青年にと青い髪を短く刈り上げた体のがっしりとした青年が少年に答える。

 

「最後! Ⅸ組!」

 

 再び複数の箇所にチェックを入れながらさらに声を張り上げる。

 

「こちらも準備完了ですわ」

「じゅ、準備完了です!」

 

 薄い緑色で艶やかな髪に紫色の瞳のお嬢様のような雰囲気を纏った少女とおどおどとした薄い栗色の髪を短く切り揃えた少年が答える。

 

「よし! 各自自分の役割を果たせば十分に余裕が出来る! 〈デアフリンガー号〉が来るまで休憩だ!」

 

「「「「「「了解!!!!」」」」」」

 

 銀髪の少年がそう締め括り、生徒達は思い思いの休憩をとる。それを遠目から見ていた教師陣、リィン達同行班は苦笑していた。

 

「さすがだな。ああやって指示を出しながら細かいところまで見ている」

 

「ああ、敵の時は厄介だが、味方になれば頼もしいなんてものじゃない」

 

「アハハ......シオンさんが手伝ってくれるお陰で経理とかの方でも助かってるし、本当に凄いよね」

 

 各々の感想を言いながら銀髪の少年、シオンに目を向ける。クラスの備品の確認だけでなく機甲兵などの専門的な知識がなければわからないものでも確認出来るのだから凄まじい。

 

「トワ、ほい」

 

「ひゃっ!? シオンさん!? 何ですかっ!?」

 

「あ、いや、とりあえず明細書の確認と備品の選別が終わったから明細書渡しに」

 

 シオンがトワに手渡した紙にはびっしりと備品の数、不足分、費用等々、プロにやらせてもここまでは出来ないだろう精度の内容が書かれており、それを渡されたトワも驚きを通り越し、苦笑いが出ている。

 

「とりあえず、ありがとうございます」

 

「んー、どれどれ......うーん、さっぱりだ」

 

 シオンがトワに渡した明細書をシオンの肩口から見るランディだったが、全くわからなかったらしく、頭を掻きながら苦笑する。

 ランディだが普通の明細書であれば理解はできるぐらいには頭はいいのだ、しかしシオンの作った明細書が恐ろしく細かく、本来では書かれないようなことまで事細かに書かれていたためランディは理解出来なかっただけで、ランディの頭が悪いわけではない。

 

「さてと、そろそろ来るかな」

 

 トワに明細書を渡したシオンは駅にある時計を見てそう呟く。時計盤は六時半過ぎを示していた。

 シオンが呟いて一分も立たないうちに銀色の導力列車が駅に入ってきた。先頭と最後尾の車両には銀色の、角の生えた鹿のレリーフがついており、帝国を感じさせる見た目となっていて全七車両の導力列車、〈デアフリンガー号〉が到着した。

 先頭車両、これから向かう先を考えると最後尾の車両の扉が一つ開き、女性が一人出てくる。彼女は灰色の制服を身に纏いピシッと敬礼をする。少し揺れた水色の髪は後ろで一つに纏めてあり、理知的な瞳がこちらを射抜く。

 

「お久しぶりです、リィンさん。〈デアフリンガー号〉の引き渡しに参りました」

 

 彼女は鉄道憲兵隊特務少佐のクレア・リーヴェルト。鉄血の子供と呼ばれる何人かの内の一人で氷の乙女(アイスメイデン)とも呼ばれている。

 

 

 俺は他の生徒達と共に荷物を運び込みそーっとしていたが見つかり話に加えられていた。

 

「シオンさんがリィンさんの生徒とは、想像出来ませんね」

 

「まあ、本当にシオンが生徒しているところを見るとギャップがありすぎるけど」

 

「クレアは相変わらずか、いや、少佐に昇格はしたか」

 

「ええ、そうですね。まだまだ技量では及びませんが」

 

 少しぶっきらぼうに答えるがそれでもいいのかクレアは少し嬉しそうに会話を続ける。俺はクレアから渡された〈デアフリンガー号〉についての情報を纏められた紙を眺める。最高速度だったりは書かれているが耐久性等は書かれていない、どこまで耐えれるのか実験しないといけないな。

 

「シオンー! 積み終わったよー!」

 

 クレア達の話に付き合わされていた俺にユウナの声が届く。

 

「ん、わかった! クレア達、積み終わったらしいからとりあえずは目的地に向かわないか?」

 

 どうにかしてここから逃げ出したかった俺はクレア達にそう提案する。

 

「そうですね......それでしたらリィンさん、話は〈デアフリンガー号〉の中で(・・・・・・・・・・・・・)

 

 しかし、その後の予想外の言葉に俺は硬直してしまった。

 

 

「シオンさん! 私に銃を創ってください!」

 

「だぁー!! わぁったから離れろっ!」

 

 〈デアフリンガー号〉に乗り込み、目的地、セントアーク付近の街道に向かって出発して数十分後、〈氷の乙女(アイスメイデン)〉と呼ばれる程に冷静な筈の彼女は俺に抱き付くようにして冷静さを失っていた(キャラ崩壊を起こしていた)

 

「あはは、シオン君は人気だね」

 

「これを人気と言っていいのかはわからないが......ハァ」

 

 近くで見ていたトワが苦笑する程にクレアが冷静ではない(キャラ崩壊を起こしている)のだ。

 俺の隣で尻尾をブンブン! と激しく振る犬のような幸せオーラ全開のクレアをちらりと見て目が合うが、一旦無視してトワ問いかける。

 

「そう言えば、俺の分の部屋を取れないんだろ?」

 

「ああ、それは、その、すいません」

 

「あ、全然大丈夫だぜ? 再確認だし」

 

 本当に申し訳なさそうに謝るトワに困惑しつつもどうにかして宥めてクレアの方を向く。

 

「さて、クレア。銃を創って欲しいって言ったけど、今の銃じゃ駄目なのか?」

 

「今の銃もいいんですけど、やはりシオンさんのオーダーメイドの方が......いいんです」

 

「......ハァ、わかったけども形状や性能で何か注文はあるか?」

 

「いえ、特には無いです。シオンさんに創って貰えれば」

 

 クレアのその言葉に苦笑しつつも銃を創り始める。部品ごとに分けて少しづつ、丹精を込めて創り出す。徐々に出来ていくパーツを嬉しそうに眺めるクレアを横目に部品の精製に集中する。そして二時間程したときには魔導銃が一丁、完成していた。

 場所が三号車の食堂等になっているからか、人が集まり、俺が銃を創るのを見ていた。クレアに渡した時には拍手を全員がして、輪の中心にいたクレアは頬を少し赤らめくすりと笑う。

 俺はそーっと輪から抜け出して一息つく、クレアの持つ魔導銃に興味が行っている間にソファーに腰掛けて、手首に同化している腕輪(アテナ)をそっと撫でながら強張った身体をほぐしていると、目の前のソファーに赤毛の男が、ランドルフがどっさと腰をおろす。

 その手には二つのコーヒーカップが握られており、片方が俺の前に置かれる。

 

「お疲れさん、ほれ、砂糖はいるか?」

 

「あ、ランドルフ。サンクス、砂糖はいいよ、ブラックの方が好みだしな」

 

 コーヒーを持ってきてくれたランドルフに感謝を伝えつつ、ずずず、とコーヒーを啜る。ブラックコーヒーならではの苦味が口いっぱいに広がっていくが、その苦味が美味しく感じるのだ。

 コーヒーの味を楽しんでいたとき、不意に霊脈の乱れを感じた。

 

「......? どうした?」

 

「いや、霊脈が乱れたようなんだが......気のせいか......」

 

 しかし、すぐにその気配は霧散してしまい感じれなくなってしまった。ランドルフは俺の言葉を聞いて怪訝そうな顔をしたが、感じれなくなった事を伝えると、少し注意するか、と言い砂糖を入れたコーヒーに口を付ける。

 二人ともゆっくりとコーヒーを味わっているとリィンとトワが話ながら歩いていたので声をかけると二人ともソファーに座り、話をしていると、

 

『マイクテスト、マイクテスト、あー、あー。教官三人とシオン・アルテミアは二号車の会議室まで来るように』

 

 放送が流れ、全員が一斉に立ち上がる。クレアは魔導銃を撫でるようにして見ており、それぞれ生徒達も会話に花を咲かせていた。

 俺達は今後のことについて考えつつ二号車の会議室に向かって歩いていった。

 

 

 二号車、会議室に集まった俺達はミハイルから実習の予定についての説明をうけ、すっかり暗くなってしまった外を窓越しに見ながら四人で思い思いの飲み物を飲みながら実習について考えていた。

 

「セントアークか、あそこの霊脈は大きいからな。何が起こるかわからない」

 

「シオンの口からそんな弱気な言葉が出るとはな」

 

「まあ、そうだな。基本的にシオンは強気な口調が多いし、どうしたの?」

 

「あのな、俺も今は弱体化してるんだ。全力の〈劫炎〉とやりあえば確実に封殺されるぐらいには弱い」

 

 俺の言葉にはぁ、とため息をつくリィンとランドルフを睨みつつ、コーヒーを啜る。

 

「私は、その〈劫炎〉って人は誰か知らないけど、演習中には来てほしくないな」

 

「さて、どうだろう。結社が動いているんだったらあいつが来る可能性もあるが」

 

 無いだろう、と付け加えてコーヒーを飲み干す。そして手元にあったスイッチを押すと、

 

『あー、あー、テステス。明日は朝早いので、生徒の皆は自室に戻って休息をとって明日に備えてね』

 

 トワの声で放送が流れる。目の前に座っているトワはえっ? と声を漏らし、俺を見る。

 

「前に言ってって言ったときあっただろ? あのときに録音したんだよ。古代遺物(アーティファクト)使ってな」

 

 コーヒーをずずず、と啜り、さらっと爆弾を落とす。

 

「「古代遺物(アーティファクト)ぉ!!??」」 

 

 リィンとランドルフに怒鳴られるが、素知らぬ顔でそっと席を立とうとするが腕を掴まれ強引に座らせられる。

 

「何の古代遺物(アーティファクト)を使ったんだ?」

 

「何って、神秘目録(アースメモリア)だが?」

 

神秘目録(アースメモリア)?」

 

 俺とリィン達との間に出てきた未知の単語にトワが反応する。ここはランドルフに説明してもらおう。

 

「ん? 俺が説明? はいはい。トワちゃんは知らねぇか、神秘目録(アースメモリア)ってのはどんなものでも記録していつでも見れるようにするものなんだが」

 

「その記録を弄くったり出来るんだよ」

 

「おいっ! 俺の説明を途中で奪うんじゃねぇ!」

 

「悪い悪い、ま、あいつら(・・・・)も俺が古代遺物(アーティファクト)を使うのを認めているし、大丈夫だろ」

 

 俺は軽い口調でそういって、ヒョイッとソファーから立ち上がる。まだ話があると腕を掴もうとリィンが立ち上がって腕を伸ばすが、その時には既に後方列車に続く扉の前に俺はいた。

 

「んじゃ、俺はもう寝るわ。ちょっとこの体でいるのが辛くなってきたんでな」

 

「あ......そう言えば......」

 

「ま、そんなわけだ。明日はカレーな」

 

「ちょっ......」

 

 何かを言おうとしたリィンを無視して四号車に移る、六号車で寝ようと思っていたためゆっくりとした足取りで後方列車に向かって歩いて行くが、途中で足を止め、ごほごほと咳をするが、

 

「あ? 血か......」

 

 押さえた手にピチャッと音を立てて血がつく。思った以上に体にガタが来ていたことに舌打ちをして六号車に向けて歩き出すが、

 

「あれ、シオン? どうしたの? ......っ!? どうしたのその血!」

 

「どうしたのですか? って! 吐血をっ!?」

 

「ああ、大丈夫大丈夫、吐血なんてよくあるし。体を休めれば大丈夫だよ」

 

 ユウナの声に反応して部屋から出てきたアルティナも俺の掌についていた血を見て急いで教官を呼ぼうとするが、俺が手を振って制止する。少し説明をして呼ばれるのは防いだ。あいつに心配されるなんて本末転倒だ、あいつらが安心している為に俺は来たと言うのに。

 軽い自嘲をしながら六号車までたどり着く。体を保っているのがついにきつくなったのか体が女体になる。倦怠感に包まれていた体が少しだけ軽くなった。

 

「ふむ、その反応はシオンか。どうした? やけに反応が希薄だが」

 

「ん、そう言えばヴァリマールもいたんだったけ。まあ、リィンに言わないのなら」

 

「む、まあ、隠し事ぐらいは良いだろう。それでどうしたのだ?」

 

「ん、この頃魂を磨り減らし過ぎてな。体がうまく構成出来ないんだ。そのせいで不調をきたしていてな、この頃は少なかったんだが」

 

 そう言いつつヴァリマールに寄りかかるようにしてずるずると座り込み、ふうーと息を吐く。

 

「ちょっと今日はもう寝るよ。おやすみヴァリマール」

 

「ふむ、おやすみと返しておこう」

 

 やはりどこか独特なヴァリマールの返答に苦笑しつつ、冷たいヴァリマールの装甲を背にして目を閉じる。すぐに意識は細くなっていき、暗闇に落ちていく。

 




いかがでしたか?

今回は少なめの字数で更新しました。
未だに謎が多いオリ主ですが、これから書いて行こうと思っています。
拙い文章ですが、これからも楽しんでいただけたら幸いです。

感想、評価等待っています。

それではそろそろ、次の話で!


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7.六章

こんにちは、昇華です。
久々の投稿です。
これから演習に入りますが細かく区切って投稿したいと思っています。
それでは本編をどうぞ



 霊脈の乱れを感じ意識が覚醒する。

 

「ん、ふぁぁ......」

 

 両腕を上げ、固まった体を伸ばしてほぐす。背後にはひんやりとした金属のような何かがあり、少し周りを見ればここが〈デアフリンガー号〉の最後尾の貨物用の車両だとわかった。

 なぜこんなところで? と疑問はあるもののゆっくりと立ち上がる。

 

「ふむ、起きたか」

 

「うわぁっ!?」

 

 すると背後から少し硬い声が響き、思わず飛び退く。

 声のした背後、そこには鈍い光沢を放つ騎士の姿をした人形兵器、騎神〈ヴァリマール〉がいた。

 

「む、なぜそうも大きな反応をする?」

 

「......悪い、思い出した」

 

 この頃不調だった体を休ませるため、比較的魔力の多い騎神の近くに半場本能的にヴァリマールの側で寝た昨日の夜のことを思い出し、さっきの反応を謝る。

 その行動にヴァリマールは「なぜ謝る?」と小首を――動かないが――かしげた。

 俺はヴァリマールに気にしなくていいとだけ言い、前方の車両に向かおうとして、ふと意識が覚醒する前に感じた霊脈の乱れを感じたのかヴァリマールに聞くが答えは否だった。

 

 

「......ぉい.....おい、リィン起きろ」

 

 シオンが起きて数十分後、二号車の一室、リィンとランドルフに割り当てられた部屋でランドルフがリィンを起こしていた。

 

「ん......ふぁぁ......ランディ......?」

 

「応、おはよう。もう見えてきたぞ」

 

 目を擦り欠伸を漏らすリィンに苦笑しながらランドルフは車窓に視線を向ける。

 そこには紫色の綺麗な花と遠くには白亜の建物。セントアークが見えていた。

 

「もうそろそろ演習地に着くらしいぞ。生徒たちも起きてるだろうし俺達も支度しないとな」

 

 そういってベッドから立ち上がったランドルフはいつもの衣装に着替え、先に行ってるぜ、と手を振りながら部屋を出ていく。

 リィンは車窓に映る景色を少し見た後、いつもの衣装を身に纏い太刀を腰に下げる。

 向かうのは三号車、恐らく皆がいるであろう所だ。

 

 

 リィン達が起きてくる数分前、三号車では生徒達が車窓近くに寄りそこに映る景色を見つめていた。

 俺はと言えばコトコトとカレーを煮詰めていた。導力魔法を応用して匂いが充満することはないがほんのりとは漂っているらしく味見をさせてくれと複数の生徒が来た。

 Ⅶ組はクルトは起きてきているがユウナとアルティナはこちらに来ていない。

 アルティナは基本的に朝は早いので大丈夫なはず、と言うことはユウナが寝坊を? そう疑問に思っていると四号車に続く扉がスーっと開き、いつも通りのアルティナとその後ろから髪がボサボサになり、眠たそうに目を擦りながらユウナが三号車に来た。

 

「おはよう、アルティナとユウナ」

 

「クルトさんもおはようございます」

 

「ふぁぁ~、おはよー......あいたっ!?」

 

「ギリギリに起きてくるな、後、髪ぐらい解かしてこい......はぁ、クルト、ユウナの髪解いてやれ」

 

 俺は女子らしくないユウナに思わずため息を漏らし、造り出した櫛をクルトに投げ渡す。

 なぜ、と言いながらもユウナを座らせ髪を解き始める、ユウナは恥ずかしそうにしているが静かに黙ってクルトに解いてもらっている。

 その様子をうなずきながらカレーを煮詰めていた鍋の蓋を取り、おたまでゆっくりと混ぜる。

 

「シオンさんおはようございます」

 

「ん、アルティナか、おはよう......っと髪がはねてるぞ? 動くなよ?」

 

 キッチンに入り横まで来ていたアルティナを見ると髪がピョン、とはねていて、それを導力魔法を使って元に戻す。

 

「ありがとう、ございます......こんな事に導力魔法を使っていいんですか?」

 

「んー、俺としてはアルティナぐらいにしか使ってないし......特別に、かな?」

 

「特別に......え、ッ!?!?」

 

 なぜか顔を赤らめ、キッチンから出ていくアルティナに首をかしげているとユウナにため息をつかれた。

 なぜ? と聞こうとしたとき生徒達から声が上がる。

 車窓を覗いてみれば白亜の建物がやけに近付いていた。

 

 

 リィン達も三号車に来てセントアークの駅を通り街道沿いの地図に乗っていない線路を通り南サザーラント街道の脇にある小さな平地に列車を着けた。

 

「鉄道憲兵隊用に整備された土地か、よく使う許可を出したな......」

 

「今後活躍するであろう人材の育成の為にと」

 

 朝食の準備を終わらせ他の組を見ながら漏らした独り言に返答があった。

 俺が後ろを振り向けばそこにはクレアがいた。

 

「おはようございますシオンさん。カレーいただいてもいいですか?」

 

「おはよう、カレーなら食っていいぞ」

 

 ほんのりと笑みを浮かべ挨拶をしてくるクレアにおはよう、と返しカレーを皿に注ぐ。それにスプーンをさしてクレアに渡すと嬉しそうに笑みを深め、はふはふと美味しそうに頬張る。

 

「あ、シオン! リィン教官に呼ばれてるよ?」

 

「ん、ユウナか。わかった。皆にカレー振る舞っといてくれ」

 

「私も行くんだけど!?」

 

「だったら......クレア、頼めるか?」

 

「はい! 任せてください!」

 

 やけにテンションの高いクレアにカレーを任せ、〈デアフリンガー号〉の二号車の会議実に向かった。

 

 

「ま、ようするに依頼をもらってこなせばいいんだろ?」

 

 俺の説明をうけ内容を理解しているシオンがわかりやすいように噛み砕いて説明する。

 

「各地の責任者、ここだったらハイアームズ公からもらった依頼をこなせばいい。わかったか?」

 

 シオンの説明にうなずくユウナ達を見ると大丈夫だと判断し、話を終えて〈デアフリンガー号〉を出る。

 

「今から南サザーラント街道を通ってセントアークに向かうが、クレア小佐にも一緒に来てもらう」

 

「皆さん、よろしくお願いします」

 

 クレアさんに挨拶をしてもらい俺達は南サザーラント街道に出た。

 魔獣が歩き回る街道を歩く俺達は大きく二つに別れた。

 俺とシオンとクルト、ユウナとクレアとアルティナの二つだ。

 

「シオン、君は人間なのか?」

 

「お、面白いこと聞くな......これは、言っていいのか?」

 

「俺に聞かれてもな......」

 

 クルトの質問に苦笑する俺とシオンは少し迷いながらも本当のことを言うことにした。

 

「人間かどうかだったら人間だ。人造人間だがな」

 

「人に造られた人間......?」

 

「ああ、ま、必要になれば話すけど。今は知らなくていい」

 

 そう言うシオンは真剣な表情で、クルトもそれ以上は聞こうとしなかった。

 徐々に白亜の城壁は近づいていた。

 

 

 セントアークに入り、俺達はハイアームズ公に依頼を受けとるため、館を訪れていた。

 ちょっとした世間話の後に依頼を受け取り、執務室から出た俺達は依頼を確認する。

 一つ目は教会からの以来で薬草を採集。

 二つ目は貴族からの依頼でとある魚が欲しいとのこと。

 そして最後の三つ目が迷い猫の捜索。

 

「必須依頼は薬草の採集だけ。他の二つも受けてもいいが時間なんかも考えてユウナ達で決めてくれ」

 

「私達で?」

 

「俺とリィンを除いた三人で決定してくれ、それのサポートを俺達がする.......って聞こえは良いが要は経験を積ませたいんだと、俺達の教官がな」

 

 そう言って後ろを振り向けば、それは言わない約束だったと抗議をしてくるリィンをなだめる。

 

「と言うわけで、よろしくな」

 

 

 数分して段取りを決めたユウナ達にしたがい、まずは迷い猫を捜索した。

 バラけて捜索し、アルティナが会社跡地で猫を見つけ、無事飼い主の元に連れていくことができた。

 その後重要項目として渡されていた「謎の魔獣」についても情報を集めていた時に酒場でリィンの同級生のヴィヴィと出会い、北サザーランド街道で機械の駆動音のようなものを聞いたと情報を得た。その途中で綺麗な景色を写真で撮ってきてくれと頼まれた。

 それを快諾し、俺達は西サザーランド街道に向かった。整備された街道を歩いてイストミア大森林に向かった。

 

「ついたな......」

 

「凄い......」

 

 濃厚な魔力の漂うその森は木々の間から木漏れ日が漏れていた。

 

「ここの奥地にエリンの花が咲いているって大司教は言っていたし、さっさと行くか」

 

 そう言って俺が一歩踏み出したとき、空間が震え、振動が襲う。

 先頭の俺に向かって放たれた振動を盾で防ぎ、導力魔法(アーツ)を使った魔獣に向けて短刀を投げつける。

 短刀は飛び猫のような魔獣の額に深々と突き刺さり、魔獣は断末魔をあげ消滅する。

 素早く全員が武装を構え、消滅した魔獣の後ろから同種の魔獣が五匹現れる。

 

「全員! 構えろ! 来るぞっ!!」

 

 リィンの声にあわせて、俺とユウナ、クルトが前に出る。

 片手剣を召喚し、右手で握り締め、先頭にいた魔獣を真っ二つに切り裂く。

 その横から俺にキックをしようとした魔獣をクルトが双剣で斬り、動きの止まったところにユウナのガンブレイカーが突き刺さる。

 人間の半分ほどの大きさしかないその魔獣はガンブレイカーの衝撃に耐えられずに吹き飛び、近くにあった木の幹に激突し消滅する。

 残りの四匹が俺に向かって導力魔法(アーツ)を打とうとするが俺の投擲した剣が一匹の魔獣に突き刺さり、魔法の構築が止まる。そうして動きが鈍ったところに精製された剣が魔獣の命を刈り取る。

 そのして一匹を殺している間に残りの三匹が導力魔法(アーツ)を完成させ、俺に放とうとする。が、リィンの背後からの攻撃と、クラウ=ソラスの〈ブリューナグ〉によって二匹が消滅し、残りの一匹は立て続けに仲間が倒され目に見えて動揺していたところをクルトとユウナの同時攻撃をまともに受け即死した。

 

「お疲れ、ナイスコンビネーションだ」

 

 リィンがユウナ達を誉めている間に、俺は一本の剣を精製した。その剣は普通の場所で精製した際には含まれるはずのない〈時〉と〈空〉と〈幻〉の属性が含まれていた。

 

「おい、ここ、上位属性(・・・・)が働いているぞ」

 

「っ!? 本当か?」

 

「ああ」

 

 俺の言葉にその恐ろしさを知っているリィンとアルティナの顔が真剣さをます。

 

「ね、ねぇ、その上位属性ってなに?」

 

 上位属性のことを知らないユウナ達が俺にそっと聞いてきたので耳打ちをするような小さな声で教える。

 

「上位属性ってのは霊脈が乱れている場所だったり特殊な場所で発生するもので〈時〉〈空〉〈幻〉の三つの属性があって、普通より効きやすかったりするんだ。

 後はあり得ないような事が起きたりな」

 

 俺の説明にユウナが顔をしかめ、クルトの顔に緊張の色が浮かぶ 

 

「ま、注意して進めば大丈夫だろ」

 

 俺の言葉にリィンが頷き、慎重に進むことになった。

 

 

 それから数回魔獣と戦い、綺麗な景色をアークスで取り、奥へと進むこと一時間。

 

「ここが最奥か......?」

 

「そうみたいだな、エリンの花もあるしさっさと取って戻ろうぜ」

 

 開けた場所まできた俺達はエリンの花を見つけ採取していた。

 俺は少し離れたところで濃厚な魔力(マナ)を吸収する。身体中に巡る魔力が弱まっていた体を癒し、力が戻ってきたような感覚と共に視界が変わる。

 漂う魔力(マナ)やユウナ達の力が視界の中で色として見える。

 

「これで一安心か......」

 

 本来の武器との繋がりを感じ、俺はリィン達の元に行こうとしたとき、視界にユウナ達のものとは違う異質な色が、魔獣の力が映った。

 

「リィン! 魔獣だ!」

 

「っ!? 全員! 武装を構えろっ!」

 

 俺がリィン達の元にたどり着いた時、四匹の蜘蛛型の魔獣が取り囲むようにして現れる。

 全員が急いで武装を構え、魔獣と対峙する。

 蜘蛛型の魔獣が一斉に動き出し、俺達は即座に前衛と後衛に別れる。

 

「来い」

 

 魔獣と距離を積めながら呟く。

 左手に光が一瞬で集まり、前に使っていた大剣を一回り大きくした大剣の形を成した。

 振れば大剣がとどく距離まで積めた俺は大剣を片手で振るう。

 それは魔獣の攻撃しようとした前肢を斬り飛ばし、返す刃で魔獣の頭部を叩き斬る。

 頭部をやられ絶命した魔獣は消滅し、その後ろから俺を狙っていたのだろう魔獣が俺に向かって飛びかかってくるが、既にその姿を捉えていた俺は魔獣に向けて掌を向けていた。

 

「刻旋〈焔滅〉」

 

 魔方陣から複数の刃が高速で構築され地獄の焔が刻まれた刃が魔獣の硬い殻を容易く貫通し、内側から焼き焦がす。

 

「感覚はじょうじょ......じゃないな」

 

 その感触からしっかりと力が戻ったのかと思えば全身を倦怠感が襲い、咳き込む。その時に吐血するのはもはや普通に思えた。

 リィン達を見れば残りの二匹の魔獣を倒していた。

 俺がなかなかうまくいかないことに苦笑を漏らし、エリンの花を集めた籠を取り、リィン達の元に行こうとしたとき、ドクンと大きく心臓が脈を打ったような感覚を覚え、辺りを見れば花や葉は緋色に染まり、リィンが胸を抑えて呻いている前に、膝より下まで伸びたブロンドの金髪と真紅の瞳の幼い姿の、よく見知っている少女がいた。

 

「ふむ、力を抑えきれないようじゃな......ってシオン!? なぜここにおる!?」

 

「久しぶりだな、疑問は後でわかるだろうよ」

 

 不意にこちらと目が合い焦ったように慌てる少女に近付き落ち着かせるように頭をポンポンと撫でる。

 

「今はリィンの力を抑えてやってくれ」

 

「あ......ん、わかった。任せるのじゃ」

 

 そう言って少女はリィンに近付き、首元に口を寄せる。そして数秒でリィンの赤黒い力のオーラが霧散し、胸の痛みも消えたのか、表情がやわらぐ。

 少女は何かをリィンに呟いた後、俺にギュっと抱きついてどこかへと転移していった。

 それと同時に景色の緋色が消え、ただの森へと戻る。

 

「あれ? リィン教官にシオンも、どうしたんですか? 集まって」

 

「あ、いや何でもない。エリンの花も採取できたことだし戻るか」

 

「「「はい!」」」

 

 リィンの色は少し濃さを増し、何か力を得たのだろう。

 しかし俺も魔力(マナ)を回収できたことによって身体が安定したことで全力で戦うこともできるようにもなった。

 イストミア大森林を出た俺達は大司教の元へと向かった。




お久しぶりです、昇華です。

筆が進まないのもすべてグラブルが楽しすぎるせいだ! (責任転嫁)

なんてふざけず、投稿遅くなりすいません。次の更新は早めたいとおもいます。


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8.七章

こんばんわ、昇華です。

四ヶ月も更新していなかったのか......(焦って書いたのは内緒)
全てグラブルとアイスボーンが面白いせいだ! 間違いない......
本当に申し訳ありません。離れないでくださった読者の方には本当に感謝しかありません。

それでは本編をどうぞ!


 エリンの花をラムゼン大司教に渡し必須の依頼を終わらせた俺達は謎の魔獣の調査のため、北サザーラント街道に出た。

 

「ヴィヴィが言っていたのはこの先だ、魔獣にも注意しながら進むぞ」

 

「「「了解!」」」

 

「......ああ、了解した」

 

「どうした? シオン」

 

「いや......少し考え事をな」

 

 シオンの少し含みのある答えに俺は違和感を覚えながらも俺は刀の鞘をしっかりと握り、街道を進む。

 魔獣と複数回接触し、戦闘になったものの難なく撃退し奥まで進んだが......

 

「機械の駆動音のような音は聞こえないな」

 

「そうね、魔獣はいるけどよく見る種類だし......」

 

「ヴィヴィさんの情報が間違っていたのでしょうか......?」

 

 他の街道に繋がる道は封鎖されていて、調査はできないし、そちら側から聞こえてきたと言う情報はない。

 

「......火薬の匂いがするな」

 

「「!!」」

 

 しかし、シオンの言葉に俺とアルティナは弾かれたようにシオンを見る。

 シオンは剣を一振りと鞘を一つ呼び出し、それをしっかりと握り、横路に入っていく。その後ろを俺達は武器を取り出してついていく。

 舗装されずに草が生い茂る道をゆっくりと歩き奥へと進むと、少し広い場所に出た。

 

「火薬の匂いはまだ奥に続いてるな......っ!?」

 

 ヒュンヒュンと風を切る音と共にシオンに向けて明確に狙った銃弾が複数飛んでくる。

 それをシオンは後ろに下がりながら左手に握っていた直剣で直撃しそうなものを弾き飛ばして被弾を避ける。そしてシオンが睨み付けている方向からは機械の駆動音のような......いいや、機械の駆動音が鳴り響く。

 そしてシオンが睨み付けていた方向からは緑色の魔獣......ではなく、世界中を暗躍する秘密結社〈身喰らう蛇〉が生産した人形兵器が三機現れた。

 人の脚を少し大きくしたような機械仕掛けの脚の上に楕円形の頭部に相当する部位があり、その両脇にはガトリングガンが搭載されていて対人を想定されたものだと言うことがわかった。

 

「全員武器を構えろっ!!!」

 

 俺の言葉に慌てて武装を構える三人を尻目になぜか直剣で三体の人形兵器に一人で向かって行く。

 人形兵器から放たれた計十二発のミニロケットを直剣で全て瞬く間に切り落とし爆発を背にして一体の人形兵器に接近、両脇のガトリングガンを切り飛ばして残った胴体を蹴りあげ人間で言うところの心臓に当たる部位を直剣で貫き、そのまま導力魔法(アーツ)をゼロ距離で放ち、一体を破壊する。

 その爆発の影に隠れて俺達は人形兵器に突撃をする。先頭にいたユウナが左側にいた人形兵器が乱射したガトリングガンを横に大きく飛んで避け、ガンブレイカーの機構を利用して遠距離から牽制する。

 そしてユウナに意識が――あるのかはともかく――向いていた人形兵器の背後に素早く回り込んだクルトはその胴体に両手の剣で斬りつけるがギャリギャリッ! と嫌な音を立てて表面に傷をつけるだけにとどまる。

 クルトにとっては思ってもみないことだったのか動きが止まり、その隙にもう一体の人形兵器がクルトを横合いからガトリングガンが掃射される、寸前にリィンが脚を太刀で斬り飛ばし体勢を崩させ、そこにアルティナがクラウ=ソラスで追撃を決めて動きを止める。

 その間に俺はもう一体の人形兵器を達磨にしていた。胴体部分だけになった人形兵器を直剣で貫き、確実に止めをさす。

 三体の人形兵器の動きは止まり周りの安全を確認して武装を解除する。そして辺りを探索していたときだ、

 

「おや? 若い人達がこんなところで何してるんだ?」

 

 ガッチリとした体つきと柔らかい物腰、そしてその身から発せられるリィンに近い雰囲気を放つ男が奥から現れた。

 

「あ、私達はトールズ士官学園第二分校の者で、実地研修をしていたところでした」

 

 リィンはその雰囲気に気がついていないのか軽く世間話をしたあと俺達が来た道をその男は歩いていく。俺は警戒している雰囲気を出さないままその男が見えなくなるまで警戒し、先ほどの遭遇で覚えた気配も感じなくなったことで俺は警戒を解く。

 リィンは既にさっきの男が来た道を進んでおり、警戒をしていた様子はなく、先に行っていたユウナ達を追っていた。

 俺は直剣を消して、男が歩いて行った道を見る。そこに男の気配はもう無く、リィンの俺を呼ぶ声に俺は気配を探るのを諦めてさっき男が歩いてきた道に向かって走り出した。

 

 

 男が歩いてきた道の奥は行き止まりになっており、何も無いように思えたが、行き止まりの崖の下、そこに大量の破壊された人形兵器が無造作に落とされていた。見えただけでも十体は破壊されており、さっきの男がしたのでは......とリィン達は思考を走らせるが情報が少なすぎるせいか途中で諦め、色々と謎は残ったもののその場を離れることを決め、セントアークに戻ることになった。

 街道を戻ってセントアークに入った俺達はセントアークで達成することのできる依頼は終わり、紡績町パルムに移動することになった。距離もそこそこあるため地下鉄を使おうとしたのだが、

 

「ん? 人集りができてるな......あそこ、駅じゃないか?」

 

「何かあったのか......? あ、ヴィヴィ!」

 

 俺の言葉に反応したリィンが人集りの中にヴィヴィがいるのを見つけ、声をかける。

 

「あ、リィン君。それに新Ⅶ組の子達も......」

 

「ヴィヴィ、一体何があったんだ? 地下鉄を使いたいんだが......」

 

 リィンとヴィヴィが話し込んでいる間も俺は思わずあの男の気配を探る。俺の知らない、おそらく起動者(ライザー)だと思われる男の気配は感じることができない。

 

「皆、聞いてくれ。地下鉄のことなんだが、脱線があったらしく歩いて行くしかない」

 

 その言葉にユウナは目に見えてゲンナリし、クルトは表情にこそださないものの少し嫌な雰囲気が漏れる。アルティナは〈クラウ=ソラス〉があるため特に雰囲気にかわりはない。俺も暗黒時代に帝国内部を走り回った――比喩でも何でもなくだ――からか、ここからパルムまでなら苦ではない。

 

「それと、パルムに行く前に教会に寄ってもいいか? 何かあるらしいんだ」

 

「「「?」」」

「俺はいいぜ」 

 

 リィンの言葉に俺以外の三人が首をかしげるが、俺はヴィヴィから何かを言われたのだろうと肩を竦めながら了承する。

 結局三人も了承し、教会に向かったのだが......

 

「これは、ヴァイオリンの音か......」

 

 すぐに聞こえてきたのは綺麗なヴァイオリンの音。やけに落ち着く不思議な力を持った音色が教会から響いてくる。

 その音に耳を傾けながら教会の扉を開く。ちょうど教会に入ったタイミングで演奏が終わったのか拍手が聞こえてくる。

 入り口付近で止まっていた俺達は演奏を聞いていた人が出ていく中、礼拝所にいたヴァイオリンを持っている青年に俺とリィンは気がつく。

 青年もこちらに気づいたのかヴァイオリンを足元に置いてあったケースに入れてこちらに歩いてくる。

 

「やぁ、リィン。久しぶりだね」

 

「エリオットこそ、今は帝国を回ってるんじゃないのか?」

 

 エリオット・クレイグ。目の前でリィンと楽しそうに会話をする青年はリィンと同じ本校Ⅶ組の卒業者、二年前には敵対したり協力したりした今でこそ交遊関係にある相手だ。

 

「シオンも久しぶり、今はリィンの生徒なんだってね。ミリアムから聞いたよ」

 

「おう、久しぶりだなエリオット」

 

 人懐っこい笑みを浮かべながら俺に寄ってくるエリオットにいつも通り返しながらさっきまで引いていたヴァイオリンに目が行く。やけに見たことあると言うか......

 

「シオンが作ってくれたヴァイオリンだよ。ずっと使ってるよ」

 

「そうか......いつでも変えていいんだぞ?」

 

「ううん、僕用に作っているから使いやすいし、それに......シオンが丹精込めて作ってくれたから」

 

「そうか......ならよかったよ」

 

 頬をほんのりと赤くしながら照れくさそうに言うエリオットに俺は素っ気なく答えるしかできない、少々顔が熱いのは気のせいではないだろう。恥ずかしそうにされるとこちらまで恥ずかしくなる。

 その後、エリオットは子供にヴァイオリンを教えるため教会の一室に入っていった。そこから綺麗な音色が聞こえてきたのを確認して俺達は教会を出た。

 ここからパルムまではそこそこの距離があるが、今から行けば二時間ぐらいは向こうでも行動できる時間が取れるだろう。リィンもそう考えていたのか俺と視線が合い頷く。

 

「今から南サザーランド街道を通ってパルムまで向かう。途中で演習地に寄ってから行くわけだが、徒歩になる」

 

 リィンの言葉にユウナは嫌な顔をする。クルトとアルティナもユウナ程ではないものの明らかに嫌そうな雰囲気が漏れ出る。

 

「脱線のせいで地下鉄が使えないからな......今から出れば暗くなる前には戻れそうだが」

 

 俺は近くの時計を見てそう呟く。俺の言葉にえー、とユウナの抗議するような声が帰ってきた。

 

 

 いやいや言いながらもついてくるユウナに苦笑しながら南サザーランド街道に出た俺達を出迎える人物がいた。

 

「セレスタンさん、どうしました?」

 

「ハイアームズ様からご命令をいただきまして......」

 

 セレスタンさんがそう言って目線を向けた先には艶やかな肌の馬が三馬。

 

「地下鉄が止まったと言うことで急遽馬を用意させていただきました」

 

 セレスタンさんの言葉に目に見えてユウナ達の目が輝く。

 

「ありがとうございます」

 

「いいえ、実習、頑張ってください」

 

 セレスタンさんに感謝を伝え、俺達は馬に乗った、乗馬経験のあるシオンとクルトと俺が手綱を握り、シオンの後ろにはアルティナが、クルトの後ろにはユウナが乗る。

 俺が出発したのに続けてクルトとシオンも出発する。

 それから十分もかからずに今日の朝歩いて通った道を通って演習地についた。

 演習地でミハイル少佐に脱線事故について報告し、今からパルムに向かうことを伝えて、実習地から出た俺達は南サザーランド街道を南下していった。

 

 

 南サザーランド街道を南下すること三十分、既に二時を迎えていた頃にパルムに到着した。

 道中で地下鉄の脱線事故の現場に落ち合わせたがその頃には脱線事故も収まっており、ちょうど地下鉄が動き始めた頃だった。

 既に近くに来ていたヴィヴィから聞いた話だと落石によって起きた事故らしく落ちてきた石を撤去し、すぐに脱線事態はどうにかなったらしい。

 少しして事故現場を離れた俺達を見るような視線をパルムに向かう途中に感じたものの、確認することはできず、記憶に留めておくことにした。

 

「ここが、ガイウス達が最初に実習に来た町......」

 

「そうだな、紡績や染物で栄えている。近くには霊脈も通ってるから資源も多い。近くには......いや、何でもない」

 

 何度も来たことがあるため解説するかのように喋るが少し考えて口を閉ざす。

 

「「「?」」」

 

「忘れてくれ、どうせそこに行くことはないだろうし......さて、それじゃあ機械仕掛けの魔獣の、人形兵器の情報を集めるか」

 

 俺の言葉にリィンも頷き、酒場、雑貨屋、教会と回って行った。教会でリィンの同級生で導力技師のミントと出会いアグリア旧道の方に向かって何か白い物体が三つ、空を飛んで行ったらしい。

 ミントにありがとうと言い、教会を出てアグリア旧道に向かおうとしたとき、視界に道場が入った。

 

「あれは......ヴァンダール流の......?」

 

「ん? ああ、だね」

 

「寄るか? クルト」

 

「......いいの?」

 

 クルトの問いに俺達四人は一斉に頷く。それを見てクルトは一瞬呆気にとられたように動きが止まり、そして嬉しそうに少しはにかむ。

 

「ありがとう、皆」

 

 クルトはそう言ってヴァンダール流の道場の扉を開ける。そこには大剣を持った男が三人いて、大剣を一心に振るっていた。そこに俺達が入ってきたので男達は振るっていた大剣を近くに立て掛け、クルトに深々と頭を下げる。

 

「クルト坊っちゃん、お久しぶりですね。どうぞごゆっくりしていってください」

 

「そんなに畏まらなくていいよ、今日は人が少ないみたいだけど......」

 

「そうですね......ですが今日は特別講師がいらっしゃるので、今のうちに素振りでもしておこうかと思いまして」

 

 特別講師と言う言葉が引っ掛かるが俺達はクルトの気がすむまで道場で待っていた。

 十分ほどクルトは道場にいた男達と会話を交わし、別れを告げて俺達と一緒に道場を出た。

 

「さて、そんじゃアグリア旧道に向かうか」

 

「染物の原料もアグリア旧道にあるらしいから、皆で探しながら行くか」

 

「「「了解!」」」

 

 これからを確認した俺達がパルムを出たのは三時を過ぎた頃だった。

 

 




いかがでしたか?

現状での強さの図

普通のマグバーン>>オリ主>デュバリィ、シャーリー>>リィン(人形兵器大型)>越えられない壁>アルティナ>クルト、ユウナ(人形兵器中型)

上のような考え方で書いています。

さてさて、ようやく話が進んできましたがSwitchで閃の軌跡3が発売されると聞いて急いで書き進めたいと思っている所......

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