皇軍魔導士七尾理奈 (ガバエイム衛生兵)
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蒼島の戦い 蒼島の戦い①

20世紀、皇国軍は蒼島《ピンインタオ》で帝国軍と戦闘を繰り広げていた。戦闘は日を追う毎に激しさを増し、犠牲者を増やしていった。争いは空にまで及び戦闘機や魔導士が戦っている。今までの突撃戦術は意味を成さず毎日新たな戦術が生み出され、それが塗り潰される新たな戦争。大規模徴兵、大砲、自動小銃、塹壕、毒ガス、戦闘機。そう、今まさに人類初の世界中を巻き込んだ総力戦が起きているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激戦区から僅かに離れ、塹壕上空。

「女性というのはまったく未知で恐ろしくそして魅力的だ」

短髪の少女が双眼鏡を覗きながらそう呟く。だが少女は兵士にしては幼すぎる。肩には身長に不釣り合いな小銃が掛かっており、それが少女の幼さを強調している。

「【七尾】、急にどうした。それに貴様だって女だろう」

隣で浮いている青年魔導士は不思議そうに聞くと七尾は「女でも女について理解するのは非常に難しいのさ。何せ秋の空だからね。南條」と答えた。

南條は難解な顔をしながら話を続ける。

「そう言えば帝国軍のあの魔導士を知っているか?」

「あぁ、彼女だろ。近い歳の子の話題だから知ってるよ。だけど今の私たちには関係無い。関係しているのは共和国軍くらいかな」

七尾はその帝国軍の少女に興味を持っていなかった。答えがはっきりとしているからだ。その少女は私と同じ「2周目」だ。そもそもあの戦績だって、戦局を放置していたらあの帝国が滅びる事を知っていての事だろう。私もあの未定形に連れてこられたのだから。

こちらに生まれ変わってから時折、幻聴紛いの声が聞こえる。未定形の声だ。奴はいつも「信仰をせよ」と私に囁く。耳障りだ。奴は神を気取った陰湿なストーカーだ。未定形の息の根を止められるのであれば私はどんな手段を使ってでもそれを完遂する。

「七尾!」

南條の怒鳴り声に近い声が七尾の耳に刺さる。

「なに?」

「なにじゃない!通信を聞いていなかったのか!敵魔導中隊がこっちに飛んできてるんだぞ!」

「は!?先に飛んでいったこっちの部隊は?」

「全滅だ!今残っている魔導士は我々5人だけだ」

南條のあの言い方からしてこちらの本日中の増援は臨めないのだろう。あ、そう言えばうちの海軍の輸送船が昨日帝国軍に沈められたらしい。なんだか最近悪い事が起きている気がしてきた。

「まぁ、頑張ろうよ」

七尾がそう答えると南條は呆れながら「貴様はこういった時程そうだ。いつも落ち着いている。心底羨ましい」と言ったがそれは違う。何も考えていないだけだ。七尾をひとしきり羨ましがった後に南條は小銃に銃剣を取り付け七尾もそれに続くように銃剣を取り付ける。後ろにいる3人の候補生達に七尾はひとつ命令を出した。

「あー、候補生の3人。最低1人は仕留めて。それから危なくなったら死なないように気を付けるように」

「たったひとり!?少尉!俺はもっと撃破出来ますよ!」

候補生の1人が威勢良く答える。この時、七尾は彼は死ぬなと思った。彼の声が大きくなったのは気合いが入っているのではなく、緊張で全身に力がガチガチに入っているからだ。

帝国の魔導中隊は予想していたよりも早くこちらに向かっており、こちらの塹壕が潰されるのも時間の問題だろう。彼らは確実に塹壕を潰し我々をハエのように叩き落とす気でいる。それならば我々が先に彼らを潰してやれば良い。

「南條、奴らは何人だ」

「20人。やれるか?」

「勿論」

七尾がニヤリと笑うと彼女の宝珠は青白く光り初め高速で飛び、敵を討つ為に中隊へ突っ込んでいった。

「なんだあの魔導士は!」

銃剣を構え猛スピードで飛んでくる七尾を見て敵の中隊長は驚いていたが中隊に七尾を撃つように命じる。彼らから飛び出した銃弾が彼女を貫こうとするが高速回転をしこれを回避。彼らが再び彼女の姿を見たとき彼らの仲間の1人は頭を無くしていたが頭はすぐに見つかった。

「まずはひとり」

七尾は敵魔導士の頭を持っている。

「…っ!撃てっ!」

今度は先ほどより低速で動いているものの、結界で銃弾から身を守りながら術式を狙い敵を牽制。そうしている間にひとり、二人と七尾は敵を減らしていった。二人目の頭に銃弾をめり込ませた辺りで南條たちが追い付き、敵は更に減っていった。

「くたばれ!くたばれ!」

先ほどの声の大きい候補生が息を荒くしながら乱射している。やはり私の予想通りだ。彼は緊張しきっている。

「伍長!お前は撤退しろ!そんなに興奮していたら当たる的も当たらない!」

「そんな事ありまっ!」

反論仕切る前に彼の頭は飛び散った。やっぱりだ。やっぱり興奮する奴はすぐに死ぬ。当たり前の事だ。興奮すると周りが見えなくなる。兵士にとって周りを正確に判断するのは基本中の基本。基本を守らなかった彼が死ぬのは必然だ。

「七尾!伍長は死んだ!」

「あいつが悪い!」

敵を半分程削るとブゥゥゥーーン!という大きな音が近づく。戦闘機のエンジン音。友軍機が機銃を敵魔導中隊に撃ちながら颯爽と登場してきた。戦闘機の機銃掃射により敵魔導中隊は壊滅。残った敵たちは撤退していく。我々は生き残る事ができた。

安全圏に帰る途中、南條に「ひとりで突っ込むな」と七尾は叱られた。

「分かってるよ」

「何度目だ。まったく。いつか死ぬぞ」

南條にこんな風に言われているとなんだか兄妹のようだ。南條、見てみろ。後ろで二人の候補生が微笑んでいるぞ。

「まぁ、善処するよ」



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蒼島の戦い②

あの戦闘から数時間後、南條率いる我らが魔導小隊は魔導大隊長より今後の指令を受けている。壮年の大隊長の顔には深いシワと傷が刻み込まれており、誰が見ても歴戦の軍人と分かるがそれと同時に穏やかさも持ち合わせていた。

「南條君たち偵察小隊は明日より偵察範囲を広げ、敵残存兵力を探し出してくれ」

「了解しました!」

南條は勢い良く敬礼をする。いつ見ても南條の敬礼は綺麗だなと感じつつ七尾も敬礼する。

「二人とも、もう下がって良い。今日はご苦労であった」

テントから出ると二人の候補生が土産を持ってきた表情で七尾と南條を待っていた。

「どうしたの?」

「南條小隊長殿、七尾副小隊長殿!良い知らせが入ってきました!」

「何だ。言ってみろ」

南條がそう聞くと候補生は私たちに付いてくるように言ったので言われるまま行くとそこは捕虜の一時収容所の面会室であり、向かいの椅子にはつい数時間前まで戦っていたはずの敵魔導中隊長が座っている。

「少し前に哨戒中の歩兵が大量の爆薬を持っていたこいつを拘束したとの事です」

二人の候補生は私たちに敬礼をすると出ていった。中隊長は不服そうな顔をしており、とても情報を吐くとは思えない。一体どうするべきなのだろうかと考えていると南條が穏やかに話し始めた。

「君の発言は非常に重要だ。分かるかね?」

「…」

「別に話さなくても良い」

「え?」

敵中隊長が思わず驚いたが七尾もなぜ南條がそんな事を言ったのか理解できないでいる。

「君が別に話さなくたって私は俺は別に困らない。何故なら我々は探し物を探すのが得意だからだ。だが、話さない事で不利益を被るのは君だけだ。分かるか?」

南條は息継ぎをせずにそう言い切ると勢い良く自身の拳銃を机に置き素早く安全装置を外すと再び話を始めた。

「話さないのならこれで貴様の手を撃つ」

その話し方は非常に穏やかであり、とても恐ろしいものである。すると南條は机に置いた拳銃を拾い中隊長の頭を机に叩き着ける。無論、拳銃を彼の手に押し付けた状態で。

「答えろ。貴様らの魔導部隊はどこにいる」

南條がそう聞いても中隊長は話す素振りすら無く、私は少しだけ関心しているがすぐに正気に戻り南條に拳銃を向けるのをやめるように言う。

「南條、よせ!国際法違反になるぞ!それに規則を破るのはお前らしくない!」

そう言って南條を静止しようとすると南條は私の肩をつかみ耳元で囁く。

「七尾、分かっている。それにこれは銃弾は入っていない。国際法上これは尋問になる。心配をするな」

「分かった。私は南條を信じる」

七尾がそう答えると南條はありがとうと言い、「尋問」を再開した。

数時間後、外を覗いてみると日が登っておりいつの間にか次の日がやって来ている。それでも彼は一切情報を話さずただただ尋問に耐え続けているのだ。南條もそろそろ痺れを切らしかけており、引き金を引くのも時間の問題になり初めている。南條はこれを見越して銃弾を拳銃から抜いていたのだろう。苛ついているのはなんとなく感じられたが表情や態度からは苛立ちはあまり漏れていない。それでも、疲れは見えた。そこで私は南條の肩を叩き「もう良い」と言って彼を面会室から追い出して代わりに私が中隊長に話を始めた。

「話す気なんかはじめから無いんでしょ?」

「…」

「別に良いよ。あんたが話さなくたって私たちは見つける自信があるから」

「…君はどうして軍にいるんだ。まだ小さいだろ」

尋問が始まってから数時間も経ってようやく彼は口を開き私に質問をした。これは大きな進歩だなと七尾は考える。

少し考える素振りを見せ、相手が更に考えそうな答えを出す。

「やっと話した。そっちの方の魔導士と理由は多分同じだと思うよ」

「どういう事だ?」

七尾はその質問には答えず、監視をしていた下士官に彼の尋問は終えたと伝えるとその下士官は彼を元の場所へと連れていった。彼がいなくなったのを確認すると七尾は面会室から出て、外で待っていた南條に成果を報告する。

「成果は無し。大人しく探そう」

「分かった」

彼のようなタイプの人間は精神力が異常に強い。どれだけ長時間の尋問をされても、どれだけ過酷な拷問を受けたとしても情報を話すことは無い。正直、尋問や拷問もするだけ時間の無駄となるので私は早々に切り上げたのだ。しかし、あてが無い時はどうするべきか。こういった場合非常に面倒だが有効な方法がある。これは1周目も使った事がある。非常にシンプルだ。それらしい場所をひとつひとつ確認する事。いわゆるローラー作戦だ。

「よし、しらみ潰しだ!」

「分かった。連隊長殿に掛け合ってみるがあまり期待はしないでくれ」

「大丈夫だよ南條なら。お前頭良いし」

七尾がそう言うと南條は軽く手を上げ、自信が無さそうに連隊長のいる司令部へと歩いて行った。南條の事だ。なんとか話を着けて歩兵に探させる事が出来るだろう。さて、南條が話をしている間に私は眠らせて貰おう。南條も眠いのかも知れないが私だって眠いのだ。南條も話が終わって戻ってきたら眠るように言おう。そう誓いながら私は眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠りに就いてからしばらく経つと誰かが私を揺らしている事に気が付いた。私も少し意固地になり、狸寝入りをしているととうとう私を揺らしている奴は突き飛ばした。

「私の眠りを邪魔するな!」

「七尾!起きろ!」

南條が少し不機嫌な顔をしているがそれと同時に嬉しそうだった。私の予想が当たったらしい。

「どうだった?」

「歩兵連隊を丸ごと使って本拠地を探す事になった」

「よし!出撃だ南條!」

「待て七尾。作戦は後日だ。我が小隊の今の任務は拠点周辺の哨戒だ」

「分かったよ。お兄ちゃん」

「うわ!やめろ!寒気がした!」

仕方がない。今日はそれで我慢しよう。しかし、これから敵に決定的な一撃を加えられると思うと心が踊る。私は嬉々として出撃準備を整え、空へ飛んでいった。



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