皇軍魔導士七尾理奈 (ガバエイム衛生兵)
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蒼島の戦い 蒼島の戦い①

20世紀、皇国軍は蒼島《ダンランタオ》で帝国軍と戦闘を繰り広げていた。戦闘は日を追う毎に激しさを増し、犠牲者を増やしていった。争いは空にまで及び戦闘機や魔導士が戦っている。今までの突撃戦術は意味を成さず毎日新たな戦術が生み出され、それが塗り潰される新たな戦争。大規模徴兵、大砲、自動小銃、塹壕、毒ガス、戦闘機。そう、今まさに人類初の世界中を巻き込んだ総力戦が起きているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激戦区から僅かに離れ、塹壕上空。

「女性というのはまったく未知で恐ろしくそして魅力的だ」

短髪の少女が双眼鏡を覗きながらそう呟く。だが少女は兵士にしては幼すぎる。肩には身長に不釣り合いな小銃が掛かっており、それが少女の幼さを強調している。

「【七尾】、急にどうした。それに貴様だって女だろう」

隣で浮いている青年魔導士は不思議そうに聞くと七尾は「女でも女について理解するのは非常に難しいのさ。何せ秋の空だからね。南條」と答えた。

南條は難解な顔をしながら話を続ける。

「そう言えば帝国軍のあの魔導士を知っているか?」

「あぁ、彼女だろ。近い歳の子の話題だから知ってるよ。だけど今の私たちには関係無い。関係しているのは共和国軍くらいかな」

七尾はその帝国軍の少女に興味を持っていなかった。答えがはっきりとしているからだ。その少女は私と同じ「2周目」だ。そもそもあの戦績だって、戦局を放置していたらあの帝国が滅びる事を知っていての事だろう。私もあの未定形に連れてこられたのだから。

こちらに生まれ変わってから時折、幻聴紛いの声が聞こえる。未定形の声だ。奴はいつも「信仰をせよ」と私に囁く。耳障りだ。奴は神を気取った陰湿なストーカーだ。未定形の息の根を止められるのであれば私はどんな手段を使ってでもそれを完遂する。

「七尾!」

南條の怒鳴り声に近い声が七尾の耳に刺さる。

「なに?」

「なにじゃない!通信を聞いていなかったのか!敵魔導中隊がこっちに飛んできてるんだぞ!」

「は!?先に飛んでいったこっちの部隊は?」

「全滅だ!今残っている魔導士は我々5人だけだ」

南條のあの言い方からしてこちらの本日中の増援は臨めないのだろう。あ、そう言えばうちの海軍の輸送船が昨日帝国軍に沈められたらしい。なんだか最近悪い事が起きている気がしてきた。

「まぁ、頑張ろうよ」

七尾がそう答えると南條は呆れながら「貴様はこういった時程そうだ。いつも落ち着いている。心底羨ましい」と言ったがそれは違う。何も考えていないだけだ。七尾をひとしきり羨ましがった後に南條は小銃に銃剣を取り付け七尾もそれに続くように銃剣を取り付ける。後ろにいる3人の候補生達に七尾はひとつ命令を出した。

「あー、候補生の3人。最低1人は仕留めて。それから危なくなったら死なないように気を付けるように」

「たったひとり!?少尉!俺はもっと撃破出来ますよ!」

候補生の1人が威勢良く答える。この時、七尾は彼は死ぬなと思った。彼の声が大きくなったのは気合いが入っているのではなく、緊張で全身に力がガチガチに入っているからだ。

帝国の魔導中隊は予想していたよりも早くこちらに向かっており、こちらの塹壕が潰されるのも時間の問題だろう。彼らは確実に塹壕を潰し我々をハエのように叩き落とす気でいる。それならば我々が先に彼らを潰してやれば良い。

「南條、奴らは何人だ」

「20人。やれるか?」

「勿論」

七尾がニヤリと笑うと彼女の宝珠『スクナビコナ伍式』は青白く光り初め、敵を討つ為に中隊へ猛スピードで突っ込んでいった。

「なんだあの魔導士は!」

銃剣を構え猛スピードで飛んでくる七尾を見て敵の中隊長は驚いていたが中隊に七尾を撃つように命じる。彼らから飛び出した銃弾が彼女を貫こうとするが高速回転をしこれを回避。彼らが再び彼女の姿を見たとき彼らの仲間の1人は頭を無くしていたが頭はすぐに見つかった。

「まずはひとり」

七尾は敵魔導士の頭を持っている。

「…っ!撃てっ!」

今度は先ほどより低速で動いているものの、結界で銃弾から身を守りながら術式を狙い敵を牽制。そうしている間にひとり、二人と七尾は敵を減らしていった。二人目の頭に銃弾をめり込ませた辺りで南條たちが追い付き、敵は更に減っていった。

「くたばれ!くたばれ!」

先ほどの声の大きい候補生が息を荒くしながら乱射している。やはり私の予想通りだ。彼は緊張しきっている。

「伍長!お前は撤退しろ!そんなに興奮していたら当たる的も当たらない!」

「そんな事ありまっ!」

反論仕切る前に彼の頭は飛び散った。やっぱりだ。やっぱり興奮する奴はすぐに死ぬ。当たり前の事だ。興奮すると周りが見えなくなる。兵士にとって周りを正確に判断するのは基本中の基本。基本を守らなかった彼が死ぬのは必然だ。

「七尾!伍長は死んだ!」

「あいつが悪い!」

敵を半分程削るとブゥゥゥーーン!という大きな音が近づく。戦闘機のエンジン音。友軍機が機銃を敵魔導中隊に撃ちながら颯爽と登場してきた。戦闘機の機銃掃射により敵魔導中隊は壊滅。残った敵たちは撤退していく。我々は生き残る事ができた。

安全圏に帰る途中、南條に「ひとりで突っ込むな」と七尾は叱られた。

「分かってるよ」

「何度目だ。まったく。いつか死ぬぞ」

南條にこんな風に言われているとなんだか兄妹のようだ。南條、見てみろ。後ろで二人の候補生が微笑んでいるぞ。

「まぁ、善処するよ」



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蒼島の戦い②

あの戦闘から数時間後、南條率いる我らが魔導小隊は魔導大隊長より今後の指令を受けている。壮年の大隊長の顔には深いシワと傷が刻み込まれており、誰が見ても歴戦の軍人と分かるがそれと同時に穏やかさも持ち合わせていた。

「南條君たち偵察小隊は明日より偵察範囲を広げ、敵残存兵力を探し出してくれ」

「了解しました!」

南條は勢い良く敬礼をする。いつ見ても南條の敬礼は綺麗だなと感じつつ七尾も敬礼する。

「二人とも、もう下がって良い。今日はご苦労であった」

テントから出ると二人の候補生が土産を持ってきた表情で七尾と南條を待っていた。

「どうしたの?」

「南條小隊長殿、七尾副小隊長殿!良い知らせが入ってきました!」

「何だ。言ってみろ」

南條がそう聞くと候補生は私たちに付いてくるように言ったので言われるまま行くとそこは捕虜の一時収容所の面会室であり、向かいの椅子にはつい数時間前まで戦っていたはずの敵魔導中隊長が座っている。

「少し前に哨戒中の歩兵が大量の爆薬を持っていたこいつを拘束したとの事です」

二人の候補生は私たちに敬礼をすると出ていった。中隊長は不服そうな顔をしており、とても情報を吐くとは思えない。一体どうするべきなのだろうかと考えていると南條が穏やかに話し始めた。

「君の発言は非常に重要だ。分かるかね?」

「…」

「別に話さなくても良い」

「え?」

敵中隊長が思わず驚いたが七尾もなぜ南條がそんな事を言ったのか理解できないでいる。

「君が別に話さなくたって私は俺は別に困らない。何故なら我々は探し物を探すのが得意だからだ。だが、話さない事で不利益を被るのは君だけだ。分かるか?」

南條は息継ぎをせずにそう言い切ると勢い良く自身の拳銃を机に置き素早く安全装置を外すと再び話を始めた。

「話さないのならこれで貴様の手を撃つ」

その話し方は非常に穏やかであり、とても恐ろしいものである。すると南條は机に置いた拳銃を拾い中隊長の頭を机に叩き着ける。無論、拳銃を彼の手に押し付けた状態で。

「答えろ。貴様らの魔導部隊はどこにいる」

南條がそう聞いても中隊長は話す素振りすら無く、私は少しだけ関心しているがすぐに正気に戻り南條に拳銃を向けるのをやめるように言う。

「南條、よせ!国際法違反になるぞ!それに規則を破るのはお前らしくない!」

そう言って南條を静止しようとすると南條は私の肩をつかみ耳元で囁く。

「七尾、分かっている。それにこれは銃弾は入っていない。国際法上これは尋問になる。心配をするな」

「分かった。私は南條を信じる」

七尾がそう答えると南條はありがとうと言い、「尋問」を再開した。

数時間後、外を覗いてみると日が登っておりいつの間にか次の日がやって来ている。それでも彼は一切情報を話さずただただ尋問に耐え続けているのだ。南條もそろそろ痺れを切らしかけており、引き金を引くのも時間の問題になり初めている。南條はこれを見越して銃弾を拳銃から抜いていたのだろう。苛ついているのはなんとなく感じられたが表情や態度からは苛立ちはあまり漏れていない。それでも、疲れは見えた。そこで私は南條の肩を叩き「もう良い」と言って彼を面会室から追い出して代わりに私が中隊長に話を始めた。

「話す気なんかはじめから無いんでしょ?」

「…」

「別に良いよ。あんたが話さなくたって私たちは見つける自信があるから」

「…君はどうして軍にいるんだ。まだ小さいだろ」

尋問が始まってから数時間も経ってようやく彼は口を開き私に質問をした。これは大きな進歩だなと七尾は考える。

少し考える素振りを見せ、相手が更に考えそうな答えを出す。

「やっと話した。そっちの方の魔導士と理由は多分同じだと思うよ」

「どういう事だ?」

七尾はその質問には答えず、監視をしていた下士官に彼の尋問は終えたと伝えるとその下士官は彼を元の場所へと連れていった。彼がいなくなったのを確認すると七尾は面会室から出て、外で待っていた南條に成果を報告する。

「成果は無し。大人しく探そう」

「分かった」

彼のようなタイプの人間は精神力が異常に強い。どれだけ長時間の尋問をされても、どれだけ過酷な拷問を受けたとしても情報を話すことは無い。正直、尋問や拷問もするだけ時間の無駄となるので私は早々に切り上げたのだ。しかし、あてが無い時はどうするべきか。こういった場合非常に面倒だが有効な方法がある。これは1周目も使った事がある。非常にシンプルだ。それらしい場所をひとつひとつ確認する事。いわゆるローラー作戦だ。

「よし、しらみ潰しだ!」

「分かった。連隊長殿に掛け合ってみるがあまり期待はしないでくれ」

「大丈夫だよ南條なら。お前頭良いし」

七尾がそう言うと南條は軽く手を上げ、自信が無さそうに連隊長のいる司令部へと歩いて行った。南條の事だ。なんとか話を着けて歩兵に探させる事が出来るだろう。さて、南條が話をしている間に私は眠らせて貰おう。南條も眠いのかも知れないが私だって眠いのだ。南條も話が終わって戻ってきたら眠るように言おう。そう誓いながら私は眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠りに就いてからしばらく経つと誰かが私を揺らしている事に気が付いた。私も少し意固地になり、狸寝入りをしているととうとう私を揺らしている奴は突き飛ばした。

「私の眠りを邪魔するな!」

「七尾!起きろ!」

南條が少し不機嫌な顔をしているがそれと同時に嬉しそうだった。私の予想が当たったらしい。

「どうだった?」

「歩兵連隊を丸ごと使って本拠地を探す事になった」

「よし!出撃だ南條!」

「待て七尾。作戦は後日だ。我が小隊の今の任務は拠点周辺の哨戒だ」

「分かったよ。お兄ちゃん」

「うわ!やめろ!寒気がした!」

仕方がない。今日はそれで我慢しよう。しかし、これから敵に決定的な一撃を加えられると思うと心が踊る。私は嬉々として出撃準備を整え、空へ飛んでいった。



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蒼島の戦い③

「あぁ、爽やかな朝だ。飛んでいて気持ちが良い」

朝からの出撃はしばらくぶりであり、私は気分が高揚していた。それを落ち着かせるかのように朝特有の涼しい風が私の頬を撫で、精神を日本刀のように研ぎ澄まさせる。息を吐くと白い息が飛び出して後方へと飛んでいく。やっとだ。やっと蒼島の戦いの終止符を付けることができるのだ。やっと一段落できるのだと考えながら南條を見るといつも通りの難解そうな表情をしていた。多分彼なりの考えがあるのだろう。二人の候補生はというと一度戦闘を経験したからなのか前回程は緊張していなく大分落ち着いている様子である。 かなりの時間飛んでいるが周辺は至って平和で地上を歩いているのは友軍の歩兵のみであり、それ以外といえば投降してくる本隊からはぐれた帝国軍の兵士ぐらいだ。これでは遊覧飛行と変わらない。七尾はそう考えながらも頭のどこかでこの状態が続いて、違う部隊が本拠地を見つけて自分達は後片付けをするだけなら良いのにと思っていたが遊覧飛行もそう長くは続かなかった。

遠くを見つめてみると鳥のような何かが飛んでいるのに七尾は気付き、悪い予感がしながら双眼鏡で覗くと予想的中。鳥のような何かは敵魔導士だった。幸運な事に彼はこちらに気付いてなく、本拠地に帰る途中のようであった。

「追跡してくる」

七尾はゴーグルを装着すると敵魔導士のストーキングを開始した。

「小隊長殿、副小隊長殿ひとりで大丈夫なんですか?」

伍長が不思議そうにそう聞くと南條は呆きれ顔で「七尾は人数が少ない方が気楽で良いらしい」と答えると伍長僅かながら不満そうな表情を浮かべている。

「副小隊長殿は出世する気が無いのでしょうか」

「だろうな。この小隊も本来は優れた魔導適正を持っているあいつが小隊長になる予定だったのに柄じゃないと言って辞退したんだ」

「不思議な人ですね」

「それは俺が一番分かっている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七尾が小隊から離れて数十分後先程の帝国魔導士を捕捉し、気付かれないように気を付けつつ追跡を続けていた。敵も警戒しているのかしきりに周りをキョロキョロと見渡し、怖がっているようであり、敵の本拠地が近くにあるのではないかと七尾を期待させる。双眼鏡で再び敵を良く見てみると負傷しているらしく帝国軍の人員の少なさを示しており、この戦いの終わりを告げているようだ。

捕虜にしたらすぐに手当てをさせなければと考えていると敵は休憩をする為なのか廃墟と化した市街地へと消えていった。

「本拠地はこの辺りなのか?」

七尾は背負っている通信機を使い、南條に報告をする。

「こちら七尾。敵魔導士は市街地に消えた。繰り返す、敵魔導士は市街地に消えた。これより私も着陸し追跡を再開する」

「こちら南條。了解した。無理はするな」

「了解」

なるべく音を立てないように地面へ足を着け、ゴーグルを外す。この市街地が僅か二月前までここが人々で賑わっていたとは到底信じられない。七尾は銃を構えながらそう思っている。もし、敵がこちらに気付き攻撃しようとしたら間違いなく撃たなければいけない。私だって手負いの敵を殺すのは御免だ。出来ることならば天寿を全うさせたい。

「今日は殺したくないんだ」

適当な建物に入るとカランという缶の落ちる音が聞こえ、ゆっくりと二階の扉を開けると1人の魔導士が包帯を巻いていた。彼女は私に気付くと咄嗟に拳銃を向けた。不味い、殺さなければいけなくなる。

「待て!殺す気は無い!」

私は慌ててライヒの言葉でそう叫ぶ。だが、敵の言葉をそう易々と信じる訳は無く、まだ拳銃を向けている。

「え?子供?」

彼女は案の定の反応をしてきたので私はそれをあまり気にせず、無作法に彼女の隣に座る。

「ライヒにだっているでしょ?私くらいの年の魔導士」

「そうだけど。それでも信じられない」

「信じるしか無いよ。目に見えるものはある程度真実だからね」

彼女はかなり落ち着いたらしく、威嚇する獣のような表情から穏やかな表情へと変わっていったがそれでも拳銃を離さない。まだこちらを恐れている訳だ。まぁ普通だ。むしろ敵同士が座って話しているこの光景の方がよっぽどおかしい。彼女を見ると血が滲み、健康な状態とはいえない。だから敵が隣に座っていても落ち着いているのだろうか。それとも諦めているのか。どちらが正しいのかは私には分からない。

軍隊で最も尋問や拷問を受けやすいのは誰だか分かるだろうか。勿論、受けやすいのは多くの情報を持っている者つまり士官が受けやすい。だから第二次世界大戦末期の日本軍は階級章を外し、階級が分からないようにしていた。そしてそれと同じ事が今ここでも起きている。そう、彼女の戦闘服には階級章が付いていないのだ。つまり、この戦いも終わりが近いという事だ。

そしてこの時私はあることに気付いた。彼女は諦めているのではなく、落ち着いているだけだったのだ。まるで負けるのが分かっていたかのように。

「あなた、なんて名前?」

「私は七尾。あなたは?」

「ガーデルマン」

ガーデルマンは自身の名前を言うと両腕を出した。縛れという事らしい。私も素直な人間だ。ガーデルマンの両腕を縛り、通信機で南條に報告をした。

「こちら七尾。敵魔導士をひとり拘束した。そっちに合流する」

「こちら南條。了解した。何か情報を持っていると良いんだが」

ここで通信が切れる。するとガーデルマンは私に微笑みこう言った。

「本拠地の場所なら教えるわ」




今更のキャラクター紹介

七尾理奈(ななおりな)
本家同様にこちらの世界に転生してきた。こちらの世界では捨て子であったがある寺の住職に拾われ養子となる。二歳の時に前世の記憶を取り戻し、枢軸勝利という歴史に変える為軍を志す。
非常に優秀な魔導適正を持っており、若冠6歳にして士官学校の入学を許された。
所属
第22魔導大隊(第18師団)

南條英敏(なんじょうひでとし)
軍人一家に生まれた秀才。幼い頃から英才教育を受けており、士官学校を首席で卒業。魔導適正があった為、魔導士官となる。丸眼鏡。所属は七尾と同じ


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蒼島の戦い④

「それでその魔導士が情報を持っているという事か?」

市街地に到着した南條がガーデルマンを監視するように見ながら七尾に聞くと七尾は「そうらしい」と答え、帝国軍の拳銃を観察していた。尺取り虫のような部品を上部に装着しているこの拳銃は七尾も1周目に博物館で見たことがあり、少し感動もしている。これを戦利品にしようか。七尾の頭に一瞬そういった考えが浮かんだが賊と同じ事をするのかと自らを叱り、帝国軍の拳銃を南條に預ける事にした。彼が一番信頼できるし盗む事も無いだろうと考えたからだ。

「変な形の拳銃だな。それより、本拠地を教えると彼女は言っていたが七尾に話したのか?」

南條も拳銃を見ると私と同じ感想を言った後すぐに本題に戻った。やっぱり南條は真面目だな。

「いや、まだ。小隊長が来るまでは話さないと言っていたから。ほら、ガーデルマン。小隊長が来たぞ話してくれ」

七尾がガーデルマンに話すように勧めると昔話をするかのように始めた。

「そうね。まずはこちらの魔導士の数について話しましょうか。残りの数は私を含めてたったの2人、制空権はそちらに支配されたわ。歩兵は三千人、壊滅状態よ。それからこれを渡しておくわ」

そう言うとガーデルマンは南條に本拠地が標された地図を渡した。良かったな南條、勲章ものだぞ。私がそう思いながらニマニマしていると南條が「七尾、勲章ものだなとでも思っているだろ」と言ってきた。彼はエスパーなのだろうか。

「情報が手に入ったのは有難い。だが貴様は俺たちに味方を売るような真似をしたんだ?」

「売るなんてとんでもない。味方を守る為にやっているのよ」

ガーデルマンは飄々としていた。特に嘘を付いている様子も無いなと七尾は考えていたが、南條はガーデルマンを疑っている。冷静に考えればガーデルマンはかなり怪しい。もしかしたら彼女は我々を罠にはめるかもしれない。だが、それにしては妙に誠実さが感じられるのだ。確証は一切無いが七尾はそう感じたのだ。

「俺がこの情報を信用できる証拠は?」

「あら、嘘を付いている人間がこんなにも落ち着いているとでも思うの?」

ガーデルマンが南條に子供をたしなめるようにそう言うと南條の眉間にシワが入り、更に難解そうな表情にした。

「だがそれでは証拠には、」

「南條、彼女を信じてみれば?責任は私が取るからさ」

「ウーム。しかしなぁ」

「なるほど、南條は私を信頼出来ないと。士官学校で周りに友人と呼べる人物がいなかったお前の数少ない友人である私を信頼出来ないと」

私がふざけるようにそう言うと南條は違うとすぐに否定した。そもそも南條は真面目すぎる。

だから士官学校でかなりおしゃべりな私くらいしか友人が出来ないのだ。あの頃はなかなか面白かった。何せ1度南條は小児性愛者なのではないかという噂が士官学校に流れ、南條は教官室に引き摺られていくわ、私は女子の士官候補生に同情されるわでなかなかの騒ぎだった。まぁ、仕方が無かったのかもしれない。南條も南條で私が近くにいても嫌な顔をしなかったのだから。ただ、私にとってはクソ真面目な友人としか見えないが他の奴らから見ると南條は南條英敏とは見られておらず陸軍中将である彼の父親、南條英勝《ひでかつ》の息子としか見ていないらしい。それでは周りがあまりにも不憫だ。南條は非常に正義感の強い私目線では善人なのにそれを気付く奴がなかなかいないのだから。

「七尾、負けたよ。そいつの情報を信じるよ」

「それは良かった」

「あの、小隊長殿」

ひとりの候補生が話の腰を折ってしまい申し訳ないとでも言いたげに南條に何かを質問したがっている。

「ん?どうしたんだ」

「司令部より通信です。日が暮れたので戻れと」

「了解した。土産を手に入れた事だしな」

我らが魔導小隊は重要な情報を土産に司令部へ意気揚々とガーデルマンを連れて飛んでいった。

そして運命の翌日、皇国軍の士気は非常に高まっておりどんな事が起きても勝てるような頼もしさをその心に備え、燃えるかのように陸軍旗や師団旗、連隊旗を振るい本拠地へと行軍を開始した。無論我々魔導部隊も最前線で戦う事になる。この戦いに勝てば帝国軍の植民地であるこの蒼島が手に入り、皇国は列強に並ぶ強力な国力になる。そうすればこの国の軍が解体されないかもしれない。それならば更に身体に力が入る。高揚する戦意がこの小さな身体から溢れだしそうだ。そう考えながら武者震いしていると南條が私に「怖いのか?」と変な事を聞いてきたのですぐに私が「ひとりで敵の魔導中隊に突撃する奴が怖がると思うか?」と答えると南條は「そうだった」と笑った。 そうこうしている内に敵の本拠地が見えてきた。やっぱりガーデルマンは嘘を付いていなかったのだ。帝国軍は疲弊しているものの、対空砲や機関銃を備えた塹壕を構えて我々を討とうとしているので決して油断は出来ない。そこから両軍のにらみ合いが始まり数十分経ってその沈黙を破ったのは皇国軍だった。銃声が辺りから鳴り初め、それを皮切りに蒼島の戦いの終止符を打つ為の戦いが始まった。

「さて、私たちも対空砲を潰しますか」

「七尾、前みたいに突っ込んでいくなよ」

「南條、私は成長する女の子だよ?」

「あー、そうだな」

南條は私の最後の一言をどうしても耳に入れたくないらしく、適当にあしらってきた。全く、女の子は傷付きやすい事を知らないのか。中身は男だけど。そういった風にひとりでボケながら七尾は対空砲を撃っている兵士の頭に照準を合わせた。



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蒼島の戦い⑤

当たり前の事のように小銃の引き金を対空砲を撃っている兵士に向けて引く。するとごく当たり前に弾が発射され、その兵士の頭から血などが飛び出し死ぬ。戦場では良くある話だ。それを皮切りに敵塹壕への攻撃を開始する。銃弾に魔力を込め塹壕に撃ち込むとまるで手榴弾のような爆発が起き、敵が何人か吹き飛ぶ。そういった工程を何度か行うと塹壕に友軍の歩兵たちを侵入させる事が出来た。敵の死体が少しずつ増え、勝利に近づいていた。だが、友軍も僅かながら犠牲者が発生しており、私も真下で殺されそうになっている味方の歩兵を何度か助けた。彼らは一様に感謝してきたが感謝をする時間があるのであれば早く銃を拾い、敵を倒してくれと思ってしまった。私は私が少し恥ずかしかったが、もしかしたら私は照れているのかもしれないとも七尾は考える。

戦闘が開始してからしばらく経つがあと数時間はかかるなと私は思っていたが、他の小隊の隊員達も同じような事を考えていたらしい。これを終わらせるには大火力で一気に叩くのが最良の手段だ。だが、数日前厄介な事に大量の砲弾を積んだ皇国軍の輸送艦が帝国軍の駆逐艦に沈められた為、砲弾が底を付いている。つまり、砲撃支援をする事が出来ないのだ。だから歩兵や私たち魔導士でと攻めていくしかない。それならば我々が出来る限り素早く作戦を進め、早く本土に帰るまでだ。

「よし!やるぞ!」

私は自身に喝を入れると敵塹壕への激しい攻撃を再開した。そして再び隙を作り、地上で戦っている歩兵にそれを教える。

「あそこから突撃出来るぞ!」

「了解しました!魔導士殿!」

歩兵はそこから敵の塹壕に侵入し、隠れている兵士を倒していく。そんな事を何度も繰り返していた。その時ふと「神とやらに祈ってみるか」と考えた。だが、未定形に頭を下げるのは御免だ。それならばすべての銃弾を敵に向けて撃ち込み、銃剣のみで斬り込みにいって玉砕した方がずっとましだ。

「七尾、砲撃支援が出来ない時貴様ならどうする」

「南條は私がそういった事を考えるのが苦手なのを忘れたのか?」

私がそう答えると南條は呆れるように「苦手だというのは嘘だな。軍刀組だろ」と言ってきた。確かに私は軍刀組だ。だが、教本通りに答えただけなので実戦で上手くいくとは限らない。事実、南條は私よりもよっぽど柔軟に小隊を動かせる。だから私は小隊長を辞退したのだ。

「頭脳労働は南條の担当だ。私は敵を倒すしか能が無いし、南條は賢いし。まぁ、あれだよ。砲撃と同じ事をすれば良いんだから魔導士全員で魔力を込めた弾を塹壕に撃ち込めば良いんじゃない?」

「それだ七尾!思い付くじゃないか!」

まさか私の適当なアイデアが採用されるとは、とうとう南條も自棄になってしまったのだろう。可哀想に。

「南條、疲れてるの?」

「安心しろ俺はまともだ」

そう言うと南條は通信機で周りの魔導士に私のアイデアを伝えだした。やめろ、なんだか教科書の落書きをみんなに見られたみたいで凄く恥ずかしいから。まぁ、こんなふざけた意見が通る訳が無い。9歳児の思い付いた事だしな。

「ダメだったろ?」

「七尾、みんなが賛成したぞ!」

「えぇ、」

そして南條の通信を聞いた味方の魔導士達が続々と集まってきた。その光景は今にでもワルキューレの騎行が流れ出しそうである。それよりも何故私のようなほぼ新入りのアイデアが通ったのだろうか。それが分からないが考えれば考えるだけ無駄なのだろう。おそらく私の目は色々と投げ出した目をしている。あぁ、考えるのが面倒だ。もう良いや、やろう。そう思いながら我々は銃を構え、魔力を込める。その時の光と音はさながら黙示録のラッパ吹きであり、地上の敵兵達の表情は見えないが震え上がっている事だろう。

「撃てぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

壮年の魔導大隊長の声を合図に一斉に撃ちだす。さて、考えて貰いたい。魔力を込めた弾の威力は手榴弾を超える。そんな弾が1度に数十発撃ち込まれる。地上はどうなるだろうか。簡単に言えば元々地獄のような場所が更に恐ろしい場所へと姿を変えるのだ。阿鼻叫喚。そんな言葉が似合う場所へと。

そんな事も何度も行った。すると敵は見えなくなり、歩兵による後片付けとなった。塹壕があったはずの場所は跡形も無く潰され、全く違う地形となっている。

「私達は勝ったのか?」

「恐らく、俺達の勝利だ」

「これで本土に帰れるよ」

「あぁ。そうだな」

これでふかふかの布団で眠る事が出来る。前線の固いベッドは腰に悪いからしばらくは勘弁して貰いたい。9歳で腰痛持ちなんて笑えないぞ。そう考えていると口からあくびが漏れだすと釣られて南條もあくびをした。

「伝染った」

南條はそう言うと涙を拭きながら塹壕があった場所をじっと見ている。私はそれが不思議に感じ「なんで地上をジロジロと見てるの?」と聞いたが南條は答えなかった。ただ見ているのだ。

司令部に戻ると今までの疲れがやって来たのか地面に座り込んで眠りかけてしまった。

「やっぱり、私は幼いんだね」

「そうだな。貴様はたまにそれを忘れている。だから無理をするなと言っているのだ」

「優しいな、南條は」

「そうか?」

「それに謙虚だ」

私は常々南條は周りの奴らを良く観ていると感じている。部下のちょっとした事に気が付くから的確な判断を下せる。だが、人を見る目はあまり無い。現に少し前に死んだ候補生を南條は優秀な奴だと評価していたが、その候補生は誰がどう見ても頭に血が上りやすいポンコツだった。そう、南條は人を見る目以外は非常に優秀なのだ。

まぁ、何がともあれ私たちの仕事はこれで終わりだ。私は仮眠を取るとしよう。




軍刀組とは
首席者や次席以下、卒業席次上位数名の事。要は成績優秀者です。


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迺天 迺天①

魔導大隊が帝国軍の塹壕を叩き潰してから数日後、帝国蒼島軍が全面降伏した事により蒼島の戦いが終結。皇国軍の華々しい勝利となった。私と南條は敵本拠地を発見したとして陸軍大本営から「功五級金櫻勲章」の叙勲を受ける事になった。つまり、私の考えていた「勲章ものだな」というのは現実になったという事だ。そんな訳で私はしばらくぶりに軍服に袖を通す事となった。

「南條少尉及び七尾少尉。貴殿らの蒼島の戦いの武功に対し勲章が与えられる」

師団長殿がそう読み上げると南條と私の左胸に勲章を付け、私と南條は敬礼をした。叙勲を受けるのは気分が良いが、どうも緊張してしまうのだ。

これでしばらくはやる事が無くて平和だなと考えていたが私は非常に面倒な噂を思い出した。現在、皇国は国民政府の近くに迺天という租借地を持っており迺天軍が駐屯しているのだがそこの総監「石岡謙治」が国民政府の領土を少し頂こうとしているらしい。だがそんな事をしたら国民政府も黙っていないし国民政府と戦っている隙に連邦が迺天に攻めてくるかもしれない。つまり両挟みになってしまうという事だ。敵が苦しむのを見るのは別に問題は無いがいざ自分たちの国となるとそれは非常に問題だ。もしも迺天軍が迺天で何か行動を起こしたとしたら大本営も何かしらの対処をしなければならない。でなければ面倒な事態に陥る。つまり、私は再び戦場に行かなければいけなくなるという事だ。噂であれば良いのだが。

そんな感じで蒼島の戦いで勝利を治めてから数ヶ月後、七尾は軍大学にいた。というのも士官学校を卒業してから1年程経った士官は1度強制的に軍大学を受験させられる。仮に不合格であっても再受験出来るが受験出来るのが少尉と中尉だけのうえ、軍大学を卒業しないと中佐から上に上がれないのだ。

「しかしよく私が合格したと思います」

「そう自分を卑下しない方が良い。実力があったから入れたんでしょ?」

「栗林殿は優しいですね」

「敬語はやめて。名字だけで良いから。数少ない同性なんだからさ」

そういえば受験日の1ヶ月前からは睡眠時間が4時間を切っていたな。我ながら良く頑張っていたな。七尾はそう思い出していると何かに足を引っ掻けて分厚い教本を数メートル先に投げ飛ばし、それが私たちを横切る男の顔に命中してしまった。

「すみません!大丈夫ですか?」

私がそう聞くと彼は自身の顔をさすりながらヒビの入った丸眼鏡を拾う。

「しばらくぶりだな。七尾」

「南條か。すまない、眼鏡壊しちゃったな」

「別に気にするな。避けられなかった俺が悪いのだから」

「弁償させてくれ。そうしないと気が済まない」

「駄目だ」

そう言うと南條は足早にその場を立ち去ってしまった。七尾は少し寂しい気持ちになりながら分厚い教本を拾い、栗林を見ると少し困り顔になっていたので理由を訪ねると栗林は私と知り合ってから私が何度も教本を落としていると指摘してきた。確かに軍大学で使う教本は辞書並みに大きく分厚いのが多く、私のような幼女が持つには苦労する。さて、どうするか。私は少し考えると簡単に解決法が浮かんだ。リュックに入れれば良いのだ。そうだ、何故そんな簡単な事を思い付かなかったのだろうか。そうしていると栗林に「何か良いの思い付いた?」と尋ねられたのでその案を伝えると納得した表情を浮かべながら私の方を見ると思い付くのが遅いと言う。確かにそうだ。もっと早くそれを行っていれば南條の眼鏡が壊れる事は無かったのだろう。そう思うと自身の頭の回転の遅さを思い知らされる。まだまだ私も経験不足だな。もっと色々な事を知らなければ。

翌日私は早速、教本をリュックに入れて移動する事にしてみた。ごく当たり前の事なのだがやはり両手が空いていると体にかかる体感の重さもかなり違う。しかし、この見た目でリュックを背負うとなんだか小学生に見えてしまうのだ。年齢的に小学生に見えるのが正しいのは知っているがそれに少し抵抗感があったものの実用性には変えられない。そう私自身に言い聞かせながら歩いていると栗林を見つけた。

「やぁ、小学生みたいじゃないか」

「栗林は私が気にしていることを随分と正直に言うんだね」

「悪気は無かったよ?」

「栗林のそういう所は好きだし嫌いだよ」

「あら、どっち?」

「どっちも」

幼い魔導士に女軍医。ただでさえ女性の少ない陸軍。それも更に女性率が下がる軍大学ではかなり目立っている。その上私の左胸に付いている勲章の略章となる緑の紀章と蒼島の従軍章のお陰で更に目立つ事となっている。南條も付けているものが同じなのだが、陸軍中将の息子なので注目されていたからか今までとあまり変わらないようだ。軍人一家の長男というのも大変らしい。

今日はひとつ大きなイベントがある。軍大学では様々な課程があるのだがそのひとつに自身の兵科とは違う兵科での研修というものがあり、誰がどの兵科で研修を行うのかというのが今日発表されるのだ。だからなのか周りの学生たちも妙に浮き足だっている。私と南條は恐らく歩兵科での研修になるのだろう。航空科は魔導科と似た兵科なので最もあり得ないだろうが。そう考えながら発表の掲示板に向かう途中南條と出会った。眼鏡は買い換えたのか予備があったのかは分からないが新しいものに変わっている。

「おはよう、南條」

「まだ頭が少し痛い」

「あれは本当に済まなかった。だから今日から教本はリュックに入れて持ち運ぶ事にしたよ」

私がそう言うと南條は私を見て年相応だなと笑いながら言ってきたので本当に怒っていないようだ。そういえば南條が怒っている時は口も聞いて貰えなかったな。

「それはさっき栗林にも言われたよ。やっぱりそうなのかな」

「そうだな」

さて私はどこの兵科で研修をするのだろうか。そうワクワクしながら発表の掲示板を見る。結果は案の定歩兵科であったが面倒な事に研修先が最近話題の迺天軍第39師団だ。何でも石岡は南條の父親と犬猿の仲らしく、大本営も2人を引き離す為に石岡を迺天軍総監にしたそうだ。それにその息子の友人、絶対何か言われる。石岡本人でなくともその側近だとか迺天軍の師団長とかに。だが命令に背く訳にはいかない。卒業できなくなるし。多分今後これより嫌な事はやって来るだろう。それならそれの予行練習とでも思ってしまえば良い。そう考えると気が楽になってきた。

「お、南條はどこだった?」

「第1師団だ。七尾はどこだ?」

「第39師団」

「そうか。迺天軍か」

「やっと本土に帰ってこれたのにまた大陸だよ。でも南條の方が大変なんじゃない?」

第1師団の研修に行ける学生はほとんどおらず成績優秀者しか行けないので将官確定と言われているので南條はかなりの秀才である事が証明されたという訳である。迺天軍は知らない。

「あ、理奈。それに昨日の人だ」

「夏美、彼が私の話に出てくる南條だ。南條、彼女が栗林。軍医だよ」

「そうか、済まない。教官殿に呼ばれているんだ。また今度」

南條は忙しそうに歩いていってしまった。

「理奈の友達は随分素っ気ないんだね」

「会話に無駄が無いだけだよ。根は優しいから」

「なるほど」

私はその日の夜のうちに腐らないものだけ、荷物の用意を進める事にした。日用品は少なめでも大丈夫だろう。どうせ迺天でも売っている筈だ。

そして翌週、私は同じ師団で研修を行う軍大学生数人と共に本土と植民地を繋ぐ輸送船に乗っていた。だが船に乗る前に数日間列車に揺られ、植民地に到着した後もまた数日列車に揺られる事になるので道のりはまだまだ長い。この面倒な移動での唯一の幸運は栗林がいる事だろう。そして現在起きている身近な不幸は私の隣の学生のひとりが船酔いに襲われ今にも吐きそうになっている事だ。

「オエェ…」

耐えきれなくなってしまったのか彼はとうとう海に向かって吐いてしまった。

「あいつ大丈夫かな」

「ただの船酔いでしょ?大丈夫大丈夫」

成る程、彼はあと数時間の地獄を味わうという訳だ。そう思うとこれ程までに船酔いしない自分自身がとてもありがたいものに感じるのである。南條はとっくに第1師団での研修を始めている事だろう。軍大学からは徒歩で数分しか離れていないのだから。全く羨ましい限りだ。景色は前方に大陸の半島が見え、後方は海が広がる。列車に揺られるまであと数時間と言った感じだ。

「平和だなぁ」

「理奈、戦争は終わって無い。現に欧州では激しい戦闘が続いてるし、合衆国が参戦したら更に激しくなると思う」

【合衆国】。私にとってそれは非常に恐ろしい存在だ。皇国と同等かそれ以上の技術力を持ちながら豊富な資源もある。皇国がいつ合衆国と戦ったとしても必ず白旗を挙げる事になるだろう。できれば戦いたく無い相手だ。だが時間はまだある。ゆっくりと考えれば良い。子供はそんな事を考えなくていいんだ。子供だもん。

そう考えていると船内放送が流れる。

『軍大学生に告ぐ。あと1時間程で半島に到着する。各自準備をしろ』

「理奈、そろそろだね」

「だな。でもあと何日かは列車に揺られるんだよね」

「まぁ、そうなるよ」

そうしている内に輸送船は港に到着し、学生達は待ってましたと言わんばかりに降りていく。するとその船を取り囲むように「果物はいかが?」「弁当はいかが?」と商人が集まってくる。忙しいので当然断るのだが、そんな程度では無論引き下がる訳は無く、私は栗林に手を引かれてようやく商人の軍団からの脱出に成功できた。

そうしている内に我々はさっさと半島から迺天に繋がる東迺天鉄道に乗車し、再び迺天へ向かっていくのだ。本を何冊か持ってきて本当に助かった。これのおかげで栗林との話題の種もそれなりに補給でき、会話に困らない。だが、世界的に軍事的緊張が続いているからなのか話題が自然と欧州関連、特にライヒの話題が主になっていた。

「理奈、車内販売だよ。何かいる?」

「じゃあ、サイダー水を」

栗林は販売員にそれを伝えるとサイダーの瓶を2本手渡した。どうやら栗林もサイダー水を買ったらしい。

「それで、ライヒの魔導士は強かった?」

「そうだね。恐ろしく強かった」

「えー?何人も撃墜したのに?」

栗林は目を見開き、わざとらしく驚く。

「あれは南條達の援護があったから。無ければ死んでたよ」

「理奈は謙虚だね」

栗林は時折、私を褒めてくれる。私が幼いからだろうか。答えを知る気も必要も無いが、少しだけ不思議に思っている。そんな小さな疑問に踊らされている私をよそに栗林は私から借りた魔術に関する分厚い本を熟読している。何故、魔導士でないのに魔術を学ぶのかは謎だ。

東迺天鉄道は特にこれといったトラブルも起こさず、燃料補給を挟みながら数日程掛けて私達は迺天に到着した。



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迺天②

『発展途上の街』それが迺天の第一印象だ。人は多く、賑わっているが人々の服装が少し古いのである。

「おい!お前ら!降りろ!」

突如として私達に怒号が飛んでくる。その怒号の主はどうやらこの大尉のようだ。何をこんなに怒っているのかは分からないが物凄い怒り具合だ。そして私を見るなりずんずんと偉そうに歩いてくる。

「お前が七尾か!」

「はい。本官が七尾少尉です。大尉殿」

七尾がそう答えると大尉は七尾の勲章の略章を見ながら舌打ちをし、顔を近付ける。

「その勲章はどの変態から貰ったんだ?」

要するに私の金櫻勲章を羨ましがっているらしい。

「鼻の高い空を飛ぶ変態を何人か撃墜したら貰えました」

「ふざけるな!」

大尉は非常に不機嫌な態度で怒鳴る。

急に子供の私に凄んできて一体どういうつもりなのだろうか。七尾は答えを助けを求めるように栗林へ目線を送るが栗林も意味が分からないといった具合だ。ふと大尉の軍服を見てみると右胸には軍大学卒業徽章が付いておらず、それとなく察する事が出来た。どうやら彼は軍大学に入れず腐ってしまった奴のようだ。だから軍大学生である私達に八つ当たりしているのだ。恐らく無関係の部下にも当たっているのだろう。戦場でどの部下に背中を撃たれるか見物だ

私達が大尉に急かされながら駅を出ると軍用のナンバープレートを付けた車が待機しており、足早にそれに乗り込み、十数分経つともう駐屯地に到着した。見た目は普通の駐屯地なのだが、七尾は僅かに違和感を抱いた。これは少し前まで戦場にいたからこそ分かるものであった。そう、この駐屯地にいる将兵の雰囲気と戦場の将兵の雰囲気が一致したのだ。確かに今は戦争中だが、この駐屯地は現時点では後方中の後方。ここまで緊張した空気が漂っているのは明らかに異常だ。

「ほら、さっさと司令殿に挨拶しろ。第39師団長でありここの司令でもある、『澄田治朗』閣下だ」

大尉が再び私達を睨む。彼は恨まれるかも知れないと考えた事は無いのだろうか。

私達がひとりひとりそれらしい挨拶をした所で澄田閣下は口を開く。

「戦争で誰しもが忙しい時に良く来てくれた。第39師団は君たちが一人前の将校である事を期待している」

師団長を初めとして、それから私達はお偉いさんへの挨拶周りが始まった。

殿や閣下などに延々と挨拶回りをしているのでそれが終わる頃にはすっかり終業の時刻になっているのだ。そんな具合に研修の1日目は終了し、私は師団が予め用意してくれた宿舎の個室でベッドに沈み込んでいる。

「はぁ、もう3日くらい人と話したくない」

そう呟くと急に眠気が襲ってきた。長旅の疲れも溜まっているのだろう。少し目を閉じるとすぐに眠りに着いた。

私はある夢を見た。とても不吉な夢だ。どこかの線路が爆発し、列車が横転。誰がどう見ても大惨事だ。その列車から立派な格好をした燃えた男が這い出てきて私の方を見てこう言った。

「過ちを繰り返してはいけない。君は結末を知っている筈だ」

「何の話だ」

「力を持った者が誤った欲を抱けば、多くの人々が死ぬ」

男は焦げた唇を微かに動かしそう言う。

「どうすればその過ちを繰り返さずに済むんだ」

「それは…」

男が何かを答えようとした瞬間に炎は更に燃え上がり、遂に答えを聞く事は叶わなかった。そして、奥には凶兆の知らせのように巨大な熊が立っている。

そこで私は汗を大量にかいた状態で目を覚ました。なんて最悪の夢なんだ。これも未定形の仕業なのだろうか。それでもはっきりしているのはあの男が実在し、このままでは殺されてしまうという事だ。七尾はそう考えながら汗を手で拭い窓を開けると迺天の夜の街並みが広がっていた。本土の都市部よりは明かりは少ないものの、そこには穏やかさがありそのお陰で夢の事を少しだけ忘れる事が出来たのだった。

すると誰かが扉を叩く音が聞こえた。扉を開けると栗林が立っており、外で何か食べないかと私を誘ってくれたので私は喜んで外出した。

「さぁ、理奈。私の奢りだからドンドン食べて」

栗林がそう言うと早速注文を始める。私も品書きを見てそれらしいのを注文すると給仕はかしこまりましたと頭を下げ、厨房へと消えていく。

「そういえば、どうして理奈は軍に入隊したの?それもそんな年齢で」

「すべて偶然だよ。故郷での健康診断でたまたま魔法が使えた事が分かって、たまたま士官学校に入学出来る学力があっただけ」

「じゃあ、特に深い理由は無かったんだね」

栗林は首を傾げながら納得する素振りを見せる。そうしている内に作られた料理がテーブルに運ばれてくる。料理にあまり詳しくないので細かい事は分からないが、近くに遊牧民の国があるからだろうか羊肉を使った料理のようだ。それから淡水魚の煮付け、水餃子などが置かれた。給仕は「ごゆっくりどうぞ」と言うと再び厨房に消えていった。

「理奈、食べようよ」

「そうだね」

七尾は羊肉の炒め物を口に運ぶ。

「やっぱり美味しい。羊の肉は昔から好物だ」

「でも、癖のある臭いだよね」

「それを差し引いても美味しい」

「理奈は変わっているよ」

しばらく迺天料理を楽しんでから、私たちは店を後にした。

「理奈」

帰り道の途中で栗林は突然真剣な表情になる。

「どうしたの?」

「何か悩んでるなら、私に相談して。かなりうなされてたから」

「聞こえてたのか。とりあえず今は大丈夫。ありがとうな」

「どういたしまして」

そんな具合に私たちの迺天研修1日目は終了した。

帰ってすぐに寝たからなのか、それとも慣れない場所で眠ったからなのかは不明だがあまり眠る事が出来ず、七尾は普段より1時間程早く起きてしまった。無理やり眠ろうと再び布団に潜り込むがそれでも眠れないので七尾はとうとう布団から這い出て、窓を開けた。すると朝の新鮮な空気が部屋を満たし、七尾の僅かに残っていた眠気を吹き飛ばす。まだ日の昇りきっていない街並みも気分の良い薄暗さのお陰で昨夜とはまた違った表情を七尾に教えてくれた。

「しかし、あの大尉は随分と器の小さい奴だったなぁ。子供相手にムキになって。プライドってものが無いのかね」

突如出来た時間は誰にとっても扱いに困る。それは七尾にとっても例外ではなかった。そのせいでつまらない奴の事を思い出してしまった。かといって眠気もすでに吹き飛んでおり、余計に始末が悪くなっている。そこで七尾はまだ終わっていなかった荷物の整理を始めた。整理と言っても必要な教本やその他資料などを自身の机に置く程度なのですぐに終わってしまう。数分後、七尾は小さな音量でラジオを聞いていた。何故、迺天の将兵達があそこまで気を張り詰めていたのか知るためだ。

「駄目だ。自動放送のクラシックしか流れてないな」

結局七尾は予め持ってきた小説を読んで時間を潰していた。

しばらく経ってから時計を見ると出発の準備をするべき時間になっており、七尾はそそくさと軍服に着替え、自室を出た。

「あ、おはよう」

「おはよう。栗林」

七尾が部屋を出るのと同じタイミングで栗林も部屋から出て来た。

「今日からだね。連隊教練」

「だね。栗林と同じ連隊で助かったよ」

「私も理奈と一緒で嬉しいなぁ」

栗林はいつもそうだ。自分が言ったら照れてしまうような事を平気で言う。それが栗林の良いところなのだ。「天真爛漫」、そんな言葉がとても似合う。だが、私は栗林が軍医学校に入るより前の事はひとつも知らない。知ろうとしても毎回はぐらかされてしまう。だから私も知ろうとはしないようにしている。それが栗林の為になるというのなら尚更だ。

「さ、行こ。理奈」

「あぁ、行こう」

七尾と栗林はふたり仲良く職場へと向かっていった。ようやく始まる研修は昨日とは違い、駐屯地ではなく大砲をいくら撃っても迷惑が掛からないような大規模演習場で始まるのだ。

「福原連隊長殿。本日よりよろしくお願いします。本官は栗林中尉です」

「小官は七尾少尉です。連隊長殿、よろしくお願いします」

「よろしく。栗林君に七尾君。そんなに緊張をしなくて良い」

連隊長殿は微笑みながらそう言った。年齢は30代半ば位だろうか、少し若いという印象だ。

「この演習場は広い。馬を用意したから乗りなさい」

この時、七尾は嫌な汗をかいていた。原因は分かっている。七尾は天才的に乗馬が下手なのだ。背が低いのもあるが、それ以上に乗馬に関するセンスが徹底的に欠けている。だから士官学校の乗馬の授業の際は馬にしがみつくのが精一杯で危うく落第しかけたという嫌な思い出がある。その際は騎兵に関するレポートを提出する事によって難を逃れたが、とにかく乗馬は苦手だ。だが特に気にしてはいない。何故ならば私は魔導士であり、騎兵ではないからだ。

「どうした七尾君。乗らないのか?」

福原殿が心配そうに私を見つめてくる。まずい。覚悟を決めなくては。そう考えていると馬も同情してくれたのか姿勢を低くし、乗りやすくしてくれた。随分と賢い馬だ。

「いえ、乗ります」

賢い馬に跨がると馬は立ち上がる。すると、いとも簡単に落下し尻餅を付く。無論私だ。周りでは何とも言えない空気が漂っており、非常に恥ずかしくなってきた。

「仕方がない。私の前に乗りたまえ」

福原殿はそう言うと自身が乗っている馬に私をひょいと乗せてくれた。39師団の人たちはあの大尉を除いて良い人ばかりだ。変な心配をするべきでは無かった。上司の個人的な考えがそう易々と遠い部下に届く訳が無い。

「すみません」

「謝る事は無い。私も格闘術で落第しかけた事がある。出来ない事があるのは人として当然だ」

福原殿がそう言ってくれたのは七尾にとって救いであった。やはり上に立つ者はこの位の器が無くては。しかし、魔力適性があって本当に助かった。仮に乗馬がそれなりに出来てもこの体格では足手まといになってしまう事は目に見えている。それに戦場での馬の出番は徐々に無くなっていくのだろう。車両の方が扱いやすいうえに馬と比べて面倒も見やすいからだ。

「さぁ、行くぞ。研修はこれからだ」

といった感じにやっと研修が始まるのだ。




~キャラ紹介~
栗林夏美
陸軍軍医。七尾曰く「天真爛漫」。胸が大きい事を気にしている。


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