ワラキー異世界渡航劇 (ロザミア)
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超次元ゲイムネプテューヌ編
異世界からどうも、監督気取りの主人公です


やりたいからやる。それがクロスオーバー。
友人に提案されたので投稿しました。


今俺の目の前には殺すべき敵……グレートレッドがいる。

抑止力の龍、星に属する龍……と言えば聞こえは良いが、実態はかなりの自分本意であり、その為なら他人を利用することに心も痛めない屑だ。

 

俺の娘、フリージアも利用され、俺は今までで一番怒りに満ちている。

 

タタリを使い、抑止力の力を封じ込めた今。

ここで殺さねば何をしでかすか分からない。

 

娘たちは、友は、俺を信じて送り出した。

ならば……応えねば。

 

この時のために用意した対グレートレッド用決戦兵器『黒い銃身』。

それを手に持ち、銃口をグレートレッドに向ける。

 

「いいや、幕だ。

奈落に落ちる役者に次はない。

その闇で、永久に訪れることのない再演を待つがいい。

何、消えた先は心地のいい場所だろう。」

 

『ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』 

 

グレートレッドは最後の足掻きとばかりに自身の最大の攻撃をしてくる。

その巨大な口から俺を容易く飲み込む程の破壊の息吹。

 

くらえば一堪りもあるまい……だが!

 

「君のようなド三流が決めて良い脚本など1つもありはしない……!!」

 

『ガァァァァァァァァ!!』

 

その息吹に、グレートレッドの口に向けて、俺は一発の弾丸を放つ。

どれだけの威力があろうと…それを打ち消す力を使えば怖くもない!

 

弾丸はまっすぐと息吹に突っ込み、それを打ち消し──

 

 

 

 

 

 

 

──瞬間、黒い穴が出現する。

 

 

 

「─なっ…!!?」『ぬ──!?』

 

弾丸と息吹はそれに意図も容易く呑み込まれ、俺たちもまた、それに引き寄せられる。

力が強い!?俺の、ワラキアの力でも吸い込まれる!?

 

ふざけるな!ここまで来て、予測不能の事態なんぞ…!!

 

『ハ、ハハ、ハハハハ──』

 

 

 

 

『ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!残念だったな!ズェピア・エルトナム!私はまだ死ぬべきではないのだ!運命は私に味方したぁ!ハハハ!去らばだ!今度こそ、貴様を消し、正しい方向へと修正してくれる!この世界をなぁ!』

 

「グレートレッドォォォォォッ!!!」

 

そうして俺たちはこの世界から…

 

 

姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……はい…グレートレッドを殺しきれなかったワラキーです……クソ!

 

クソ、クソ!このままだとフリージアたちが……!

 

しかも、どういうわけかワラキーの力を使えねぇ!

 

この黒い穴も何処に繋がって……いや、どの次元に通じているか分からない!

 

クソ、流されるままかよ…!

 

グレートレッドも何処かに行っちまったし…でも、あの様子だとアイツも成す術がないらしい…そのまま隕石にぶつかってくれ、頼む!

 

気持ち悪い…これが次元間の移動か…意識が保てなくなってきやがった……そこまであのくそ蜥蜴に味方するのか、運命っていうのは!

 

ああ、くそ……このままだと……皆との約束が……

 

 

 

─最後に見たのは、暗い空間を照らし出す、光だった。俺はその光に手を伸ばして、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お姉ちゃん……」

 

失意の底にうちひしがれる少女が一人、ある世界にいた。

 

ゲイムギョウ界の四つの大陸に一人ずつ存在する女神という存在であり、少女もまた、女神の資格を持つ候補生……女神候補生の一人であった。

 

少女の名は、ネプギア。

少女には愛する家族がいた。それは姉であり、ネプギアのいるプラネテューヌの守護女神であるネプテューヌ。

 

守護女神たちの敗北。

 

それは衝撃的なニュースであった。

ゲイムギョウ界を脅かす犯罪組織マジェコンヌを打倒するべく、四人の守護女神と候補生の中で唯一女神化が出来るネプギアは黒幕と思われる人物のいるギョウカイ墓場へと行き、紅い女神と戦った。

 

しかし、四人の守護女神と一人の女神候補生は敗北し、捕らえられた。

 

何が足りなくて、何が足りていたのか。

何も分からないまま……。

 

しかし、自身は救出された。

姉、ネプテューヌの友人であるアイエフとコンパが救ってくれたのだ。

 

ならば姉も、と思ったが……

 

どうやら救出出来たのは自分一人だけだった。

 

救出されたネプギアがすべきことは本人も分かっている。

このゲイムギョウ界に再び平和をもたらさなくてはならない。

 

しかし、ネプギアには問題があった。

 

(勝てるわけがないよ…お姉ちゃんたちでも歯が立たなかったのに、私なんかじゃ……)

 

一つのトラウマを抱えていた。

圧倒的な差をつけられての敗北。

そして、その結果が姉たちが捕まるという内容。

トラウマになるには十分だった。

 

だから、アイエフたちは少しの間だけ、そっとしておこうという結論になった。

その少しの間で精神的ダメージが和らぐのならと思ったのだ。

 

しかし、それでも和らぐ事はなかった。

自分の部屋で、ベッドの上で一人。

また涙を流す。

どうすればいいの、と

 

「う、ぅぅ……ぐすっ……お姉、ちゃん…!」

 

そんなネプギアに、変化が訪れる。

 

トラウマを克服したわけではない。

 

自分の今いる場所に、一つの変化が起こった。

 

黒い穴が、自分の部屋の真ん中で出現した

 

「えっ……!?」

 

それを見たネプギアは驚いた。

自分の部屋にそんなものが現れれば誰でも驚くだろう。

 

しかし、驚くのはそれだけではない

 

「だ……誰か出てくる……!?」

 

ずるりと、人が穴から落ちてきたのだ。

姉かもしれないと期待したが、そうではなかったことに落胆しつつも、落ちてきた人を見る。

落ちてきた人は男のようだった。

どうやら気絶しているようで、まだ意識は覚める様子がない。

 

黒い穴も、男を吐き出してすぐに消えてなくなった。

 

「……ぁ、だ、大丈夫ですか!?」

 

一体なんだったのかと呆然としていたがすぐに目の前の男の容態を確認しないとと思い、うつ伏せで倒れている男を仰向けにする。

 

「グレー…ッド……」

 

「グレー…?と、とりあえずコンパさんに見せないと……!」

 

ネプギアは多少引きずる形にはなるが男をコンパの元へと連れていく。

これから、その男とネプギアたちが意外と長い時間を過ごすのは、誰にも分からない。

 

「こ、コンパさん!」

 

「ギアちゃん!?」

 

「ネプギア!?アンタもう大丈……って誰!?」

 

「分かりませんけど、倒れてたので…コンパさん、お願いします!」

 

「は、はい!分かりました~!」

 

「一体どうなってんのよ~!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……知らない天井だな」

 

意識が回復すると、そこは知らない天井だった。

いや、本当に知らないんだけど……

 

何処だ、ここ?

 

冥界の何処かって訳でもなさそうだし……

 

いつの間にか未来に飛ばされていた?

次元の狭間ならあり得なくはないが……

 

いや、それよりも……

 

「グレートレッド……!!」

 

深い憎しみを込めて、あの蜥蜴の名を呼ぶ。

更に苛立つことに高笑いして何処かへ行きやがった。

俺と同じ穴に呑み込まれていたから同じ場所に転移したと思うが……だとしたら、この世界が危ない…!

 

俺のせいで、見知らぬ誰かに被害が……

 

自然と拳に力がこもる。

 

「…しかし、ここは何処なんだ……………あれ…」

 

そこで俺は違和感に気付く。

 

おかしい。

これはおかしいぞ。

 

どうして……俺の声が戻っている?(・・・・・・・・・)

 

俺は言い知れぬ恐怖を感じた。

 

どうすれば……何か、確認する方法は…姿は変わってないかもしれない。

 

ベッドから起きようと思ったその時、扉が開く。

 

誰か入ってきたようだった。

 

「あ、起きたんですね」

 

「君、は……」

 

「ま、まだ起きちゃダメですよ!さっきまで倒れてたんですから!」

 

「倒れて…そうか、君が助けてくれたのか。なんとお礼を言えば良いのか…」

 

「いえ…」

 

入ってきたのは淡い紫の髪をした女の子だった。

アクセサリーなのか、白い十字の……うん?

何処かで見た覚えが……ダメだ、思い出せない。

 

「…すまない、鏡を見せてもらっても……?」

 

「え、鏡ですか?えっと……ありました、手鏡でいいですか?」

 

「ああ、ありがとう…………!?」

 

そこで見たものは、信じられないものだった。

 

黒髪、閉じていない目、少し冴えない顔。

声にしたってそうだ……

 

何故増谷ボイスではない!?

何故俺の姿が戻っている!?

 

自然と震える手に、少女は心配そうに話しかけてくる。

 

「あ、あの、大丈夫ですか……?」

 

「…あ、いや……大丈夫、大丈夫さ…そう言えば、名乗ってなかった…俺は」

 

……ズェピアと、名乗るのか?

嫌だが、俺のこの姿の名前は……

 

クソ、思い出せん。

 

…仕方ないか。

 

「ズェピア・エルトナム・オベローン。長いからズェピアでいい。君の名前を、聞いても?」

 

「ズェピアさんですね。私はネプギアって言います」

 

困った風に笑いながら、少女は自分の名を名乗った。

ネプギアねぇ、ユニークな名前じゃあないか

 

ん?ネプギア?

ネプギアって言ったか?

 

今聞いた名前と、俺の想像するキャラの名前が一致する。

 

ってことはここは……!

 

超次元ゲイムネプテューヌの世界か……!?

 

マジで次元越えたのかよ!

おいおいおいおい、待てよ?そうなると俺、帰る手段わからねぇぞ!

 

「な、何ということだ……」

 

「あの、本当に大丈夫ですか?」

 

「……いや、そうだな…ネプギア」

 

「は、はい…」

 

「……異世界から来たと言えば、信じてくれるか?」

 

「…え……えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

当然だよなぁ、驚くよなぁ……

 

でも、信じてもらわないと…

ネプテューヌとかにも会えればよりこの世界から戻る方法も見付かりやすくなるし……

 

そう考えているとドタドタと足音がする。

ここを目指しているようで、すぐにその足音の主は姿を見せた。

 

「どうしたのネプギア!?」

 

「ギアちゃんの声が聞こえたから来ました…って起きてますぅ!?」

 

「彼が例の…」

 

えっと…アイエフに、コンパ…イストワールだったか。

プラネテューヌお決まりの面々だぁ、わぁい、ここゲイムギョウ界だぁ……

 

うわぁ、帰るのどうしよう……イストワールさんに頼ろうかな……

 

ていうか、すっごく失礼かもしれないけど言いたいことがあるんだ。

アイエフさんにね。

俺はアイエフさんの方を向いて

 

「……遠坂凛?」

 

「誰よそれ?」

 

「いや、何でもない」

 

言った~マジで言っちゃったー。

似てるよね?何がとは言わんが、似てるよ

 

「それで、ネプギアはどうして慌ててるの?アンタ、何か言ったんじゃないでしょうね?」

 

「…ネプギアにとっては恐らく、言ってしまったのかもしれない。多分、皆にもだと思うよ」

 

ああくそ、口調が安定せん。

 

ワラキーだよの挨拶できなくなるじゃん!

どうすんの、俺?

 

まあ、そんな事は仕方がない。

俺たちは互いに自己紹介をして、ネプギアを落ち着かせてから事情を話し出した。

 

そして、説明が終わると皆して難しい顔をしだす。

だ、だよねぇ……

イストワールさんがずっと黙ってるのが一番怖いんだよなぁ!

 

「それで、本来の姿はもうちょっと違うの?」

 

「そうだな……違う。結構違うな、きのことたけのこの論点並みに違う」

 

「微妙に分かりにくい違い出すな」

 

「すんません」

 

「エルエルは吸血鬼なんですか~?」

 

「こう見えてな。羽とかはないけど血とか飲むぞ?まあ、常に飲むわけではないし……気に入らないやつのをいただいたことはある。ゲロマズ」

 

「ゲロマズなんですねぇ……」

 

あれ酷い味だよ。

あれなら鉄パイプかじってる方がマシだよ。

心が清いと美味いんでしょうね、うん。飲む気しねぇ

 

てか、エルエルってなんだ。

エルトナムからとってエルエルか、コンパさん?

 

ズーちゃんよりマシか…

 

「えっと……異世界って、ゲイムギョウ界とは違うんですか?」

 

「かなり違うな、女神のような存在が統治していたりはしないし、そもそも地球と呼ばれる星だからね……」

 

「女神の統治がない……」

 

「……私もいいですか?」

 

「構わない」

 

「ありがとうございます。ズェピアさんはそのグレートレッドという存在とこの世界に来たとのことですが…

その龍はどのような存在なのかを教えてくれますか?」

 

「グレートレッドについてか…正直、口にするのも忌々しいが、今は仕方無いしな。」

 

俺は四人にあの蜥蜴がどんな存在か語った。

すっげぇ嫌でしたけど!嫌でしたけど!!

 

その後、俺は頭を下げた。

四人は戸惑っている様子だが、俺が悪いのは確かなのだ。

 

「すまなかった……俺がアイツを倒せていれば…」

 

「で、でも、ズェピアさんのその『黒い銃身』があれば倒せるんですよね?」

 

「……」

 

「ズェピアさん…?」

 

きっと俺は今、苦い顔をしている。

そもそも、何故俺があの龍に対して『黒い銃身』のみならずタタリによる隔離等のオーバーキル紛いの事をしたのかを話さねばならない。

 

ネプギアの不安そうな顔が俺の罪悪感をより強くする。

 

「実はそういう訳でもないんだ」

 

「どういうこと?話を聞く限りじゃ、『黒い銃身』はそのグレートレッドを倒すために造り出した兵器なんでしょ?」

 

「ああ……だが、それはあの龍の権能…先程話した抑止の力を封じる事を前提とした、ね。つまり、十分な準備の元、俺はアレを倒せる段階にまでいけた」

 

「…それが『黒い穴』によって倒せず、この世界にまで来てしまったということですか」

 

「その通りだ……だが、倒す方法は思い付いた」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「この世界の技術があれば、可能となるかもしれない…だが、100%ではないことは今のうちに言っておく」

 

「なるほど…」

 

一つの驚異を必ずではないが倒せることが分かり、皆安堵の表情だ。

だが……やっぱり暗い雰囲気だな。

 

「そちらの事情も、良ければ聞かせてもらえないか?

俺で良ければ手伝えるかもしれない」

 

「こちらも話そうと思っていました。皆さんもしっかりと聞いてください」

 

そこから聞かされたのは、何となく予想していた事であった。

四女神達が捕まっていること、シェアと呼ばれるこの世界独自のエネルギーが犯罪組織マジェコンヌに集まっていっていること。

対抗するには女神たちの妹、女神候補生の力が必要不可欠であり、同じくゲイムキャラと呼ばれる存在の力も必要とのことだ。

 

ここまで聞いて分かったこと。

 

(よりにもよって超次元ゲイムネプテューヌmk2ですか!?内容分からないんですけど!?)

 

リメイク版は愚か、リメイク前すらしたことないわ。

 

ヤバイ、力になれないよぉ……

 

ハイスクールD×Dの世界は意外と行けたけどここでもやれるかなんて分からないよぉ……

 

もうだめだ、おしまいだぁ…逃げるんだぁ…戦える訳ないyo……!

 

……いやでも…

 

俺はネプギアを見る。

どうやら、話の通りなら、ネプギアは心細い状態、トラウマを抱えていても仕方ない。

姉であるネプテューヌが大好き、らしいしな……

少女が頑張ろうとしているのに、俺が頑張らないというのか?

 

……どうなんだ、それは。

 

…うん、分かった!

 

「……そういうことなら、俺も手伝おう」

 

「…お願いしようとは思っていましたが、よいのですか?」

 

「俺に出来ることがあればになるけどな。それに、各地を巡れるなら、それに越したことはない」

 

「そうですか…ありがとうございます、ズェピアさん」

 

「感謝したいのはこっちなんだけどな…」

 

「?取り合えず、私はゲイムキャラの行方を追いますので、何か分かり次第、連絡しますね」

 

イストワールはそう言って飛んでいってしまった。

ベッドにずっと居るのも怠いなぁ……でも、起き上がろうとするとネプギアがなぁ…多分、コンパもなぁ……

 

助けてネプ子ぉ!

 

「まあ、何はともあれよろしく頼む。アイエフ、コンパ、そしてネプギア」

 

「はいですぅ!」

 

「ま、よろしく頼むわね。頼りにしてるわ」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

「俺たちは、ランサーズだ!」

 

「デュエルもしないし、カードゲームもしないわよ!」

 

「分かった、分かった…遠坂はすぐ怒るんだなぁ」

 

「だからぁ……」

 

 

「その遠坂ってのも誰よぉぉぉ!!?」

 

 

ツッコミ役がいるなら俺はボケ役になるしかない。

そういう決まりがあるのだ、俺の中では。

アイエフ、頼んだぞ!持ち前のツッコミ力を見せてやれ!

 

(問題は、今の俺の強さとネプギアの精神面だな……)

 

突然ボケをシュートした事でツッコまざるを得なくなったアイエフに、それを楽しそうに眺めるコンパ、少し浮かない顔をするネプギア。

うん、取り合えずケア出来るところまでやっていこう。

後は流れで何とかなるなる。

 

突然ゲイムギョウ界に迷いこんだ俺は、この世界であのクソ蜥蜴を始末することを決め、家族の待つ世界に戻ることを決意する。

それでもすぐには帰れそうにないが…まあ、そこは許してくれよ。




多少原作と違っても、生暖かい目で見てください。


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監督気取り、クエストへ

やあ、皆。

俺だ、ワラキー…の姿じゃないけどワラキーだ。

 

さて、先程協力すると言ったのはいいが、問題は山積みだ。

アイエフがそう言えば、といい、俺に一つ質問してくる。

 

「アンタ、武器は?」

 

「………………あっ」

 

「あっ……って事は無いのね」

 

「どうするんですか?」

 

「普段の姿だと、爪とかが一番の武器だったんだ。今の姿だと何処まで力があるか分からないし…ううむ、持っといた方がいいよな。といってもな……」

 

「それだとマトモに剣も振ったことないわね」

 

「その通り、いやあ、参ったね」

 

「参ったね、じゃないわよ。どうするの?」

 

「まあ、取り合えずは素手でいくよ。

下手に武器持つよりは良い動きすると思うよ、うん」

 

「不安ね…」

 

「エルエル、無理はしちゃダメですよ?」

 

「…そうだな、無理しない範囲で何とかするさ」

 

心配してくれるなんて有難い。

 

でも、筋力は吸血鬼のそれだと思うんだけどなぁ。

タタリの力は感じるし、全部が消えた訳じゃないと思うんだが……むぅ。

 

そもそも、何でワラキアの夜の力が発揮できなくなったのか……ワラキーの何十分の一位の力しかないよ。

 

まあ、やっていけるとは思うけど…

どうだろう、案外ド派手に動くからな、ここの人たち。

 

それより、ネプギアが心配だ。

3年も捕まってたらしいし、かなりの差を感じて負けたらしいし。

 

俺も、そういうときあったし、気持ちはわかる。

 

でも、いきなり話し掛けて、お悩み相談なんかしたら気持ち悪がられそうだし。

様子を見るべきか。

 

「…ところで、起き上がって良い?動いといた方が俺としてはいいんだけど」

 

「体に違和感はないです?」

 

「この姿事態がもう違和感ありありだけど、他はないよ。体に慣れるためにも、頼むよ」

 

「分かりました、でも、無理はダメですよ~?」

 

「うん、分かった」

 

俺は許可を得たので立ち上がり、自分の服装を改めて確認する。

 

…ワラキーの服装はどこいったし?

今の俺、青いジャージ一式じゃん。

体育する人じゃん。

 

何でだろーとかネタでしないし。

 

ええ……って顔になってるよ俺。

 

「動きやすい服……だな、うん……」

 

「元々そんな格好でしたよ?」

 

「マジか…マジか…」

 

「凄い落ち込みようね」

 

「ダサいじゃん……」

 

「否定はしないわ」

 

「…くそぅ、で、でも俺にはまだ戦闘という挽回の機会がある!そこで男を見せれば見直すんだなぁ!」

 

「ハイハイ、無茶はすんじゃないわよ。それと、ここを案内するから、準備が出来たら来なさいよ」

 

「アイちゃん、待ってくださーい!」

 

そう言って、大丈夫そうだと判断したのかアイエフは出ていく。コンパも一緒に出ていくが……ネプギアは出ていかない。

何でだ?

 

「あの、ズェピアさん」

 

「ん?」

 

「ズェピアさんはグレートレッドを倒すんですよね」

 

「まあ、この世界に蜥蜴と一緒に来たのは俺だしな。

俺がやらないと」

 

「……どうして?」

 

「え?」

 

「どうして戦おうって、思えるんですか?」

 

「……どうして、か…」

 

グレートレッドを倒す。

それがどれだけ困難か、俺はよく知ってる。

 

どんな奴かも皆には教えた。

 

何でだろうか。

別に、いけないなんて考えたことは一度としてなかった。調子に乗っていたのかもしれない。

だけど、負けるとは微塵も考えたことはなかった。

 

…一つだけ答えを持ってはいる

 

「単純な答えだよ、ネプギア。家族だよ」

 

「家族、ですか?」

 

「俺は自分勝手な考えを持っていてさ、家族が大切で、大切で仕方がないんだ。だから、俺は家族の邪魔になるグレートレッドを消そうとした。決められた運命なんてそんなのは誰でも嫌だ。俺たちは考えられる…研鑽ができるんだよ。なら、それに敷かれたレールの通りに進まず、逆らってもいい」

 

「だから倒そうとしたんですか?」

 

「まあ、そういうことになる。……結局、俺たちは何処かで願いをぶつけなきゃいけない。その時がどんな局面かは知らないけどね。俺にとってのそれはグレートレッドを倒す時なんだろうさ」

 

「願いを、ぶつける……」

 

ネプギアはその後、考え込んでいた。

まだ答えは出ないだろうけど、その考えるという行動が大事なんだよ。

 

そうやって、運命に逆らう方法を模索してきた。

 

あの蜥蜴が決めた線路を、誰が好き好んで通る?

 

俺は真っ平ごめんだ。

そんなのはお断りだ。

 

「今はまだ、答えを焦らなくていい。

でも、いつか……そうだな、俺がこの世界にいる間に、聞かせてほしいもんだ」

 

一瞬だけ戸惑ったが、もうここまで喋ったし、変な所で臆病になるわけにもいかねぇ。

というか、俺にもプライドがある。

 

俺は微笑んでネプギアの頭を撫でる。

 

「ひゃっ!?」

 

突然撫でられて驚いたのか少し声をあげるネプギアに悪い悪いと手を離す。

 

「悩んでいるのを見ると、どうもな。すまない」

 

「い、いえ、大丈夫、です」

 

慌てた様子で大丈夫と告げるネプギア。

ちょいと馴れ馴れしかったなと俺は反省する。

 

「そうか?…よし、それより、ちょっとこのプラネテューヌを案内してくれないか?アイエフが言ってたときから気になってたんだよね」

 

「は、はい!」

 

まあ、何はともあれ、暗い気分のままでいさせても仕方がない。

アイエフたちも連れて明るくいこう。

そう、今はそれがいい。

 

「そうと決まれば行くぞー」

 

「あ、待ってください!」

 

「どうした?」

 

「あの、吸血鬼なんですよね?太陽って…」

 

「平気さ平気。ズェピアさんは特別なのだよ~」

 

「は、はぁ……」

 

飄々として、歩いて部屋を出る。

歩いて分かった事は、体が多少重い。

太ってるわけではないんだが、死徒の体が、とても優秀だったからか……

 

まあ、そこは慣れるしかないか。

何かの拍子に戻るかもしれないしな。

 

そうして、俺たちはアイエフたちのいる所にまで行った。

 

「やっと来たわね」

 

「待ってました~」

 

「すまない、遅れた。それで、案内って言ってたけど全部じゃないだろ?」

 

「まあね。そんな事してたら日が暮れるわ。

だから、今日はギルドへ行くわ」

 

「ギルド?…クエストか?」

 

「当たり。そっちの世界でも似たのがあるの?」

 

「いや、ゲーム知識みたいなもんさ」

 

「ああ……なるほど」

 

ギルドかぁ、クエスト……

なるほど、アイエフさん優しいじゃないのよ。

 

早く体を慣らせ、そういう意図ですね?

 

ふっふっふ……

 

「何気味悪い笑み浮かべてんのよ…」

 

「いやいや、それより、行こうぜ」

 

「何でアンタが仕切るのよ」

 

「そう言うなよ、遠坂」

 

「遠坂じゃないって言ってんだろっ!?」

 

「あだぁ!?」

 

アイエフのツッコミによる背中叩きは俺に大ダメージ!

痛い、痛いよぉ……

 

何て奴だ、俺の機体に損傷を……!

 

そんな俺とアイエフの様子をコンパは微笑んで見ていた。

 

「二人は仲良しですね~」

 

「だろ?」

 

「ちょっと?私とコイツの何処をどう見たら仲良しに見えるのよ!?」

 

「待て、アイエフ」

 

「何よ、変なこといったらもう一発叩き込むからね!」

 

「何、俺たちはチームだ。チームは信頼関係があってこそ連携が可能となる」

 

「まあ、そうね」

 

「つまりな、俺たちは今、チームとしての第一歩を歩んでいるというわけなのだよ。アイエフ君」

 

「なるほどね、こうした会話から絆が生まれて、息の合った戦闘が出来るって訳ね……」

 

「理解できたようだな」

 

「ええ、理解したわ……」

 

 

「アンタと私はまだ知り合って間もないから信頼も何もあったもんじゃないってことがね!!」

 

「たわばっ!?」

 

背中に対して鋭い一撃!

あまりにも痛いツッコミに俺は涙が出そうだ。

 

くそ、コイツ、何というツッコミ力だ……!

 

「容赦ないっすね……」

 

「何良いこと言った感じになってんのよ。ったく……

戦闘で良いとこ見せるんでしょ?」

 

「…アイエフ、ツンデレだな?」

 

「ちょっとは真面目になれっ!!」

 

「やばたにえんっ!?」

 

容赦ない腹パンが俺を襲う!

腹は……アカンて……

 

「あーもう…ほら、コンパ、ネプギア。そこの馬鹿は置いてさっさと行くわよ」

 

「……え?あ、はい!」

 

「あー、急ぎ足で行かなくてもギルドは逃げないですよアイちゃ~ん!」

 

三人とも、蹲る俺を放って行ってしまった。

 

……作戦は失敗か。

 

どうも、ネプギアのトラウマは深刻らしい。

俺じゃなくて、アイエフたちも何とかしようとは思ってるが、どんな風に接すればいいか分からない感じか…

 

「中々の一撃……よし、行くか」

 

俺は立ち上がり、アイエフたちを追う。

くそぅ、それにしても置いてかなくてもいいじゃないか

 

俺、まさか、期待薄状態かよ

 

……泣きますよ?

 

にしても……

 

何だってこんなに弱くなってるのか、俺は。

後、プラネテューヌはとても近未来的で、素晴らしかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、来たわね」

 

「来たわねって、置いてったのお前だよ?そりゃ、俺だって悪かったけど、置いていくのは泣くよ?」

 

まあ、少し建物とか見てたから遅れたんだけど。

 

「泣くの?」

 

「無理です」

 

「じゃあ、平気ね。さて、クエストをやるわけだけど……」

 

「クエスト……ですか」

 

「ああ、ネプギアもクエストは初めてなの?じゃあ、初めて同士、ズェピアとは仲良くね」

 

「は、はい!」

 

あれぇ、何で俺には厳しいのにネプギアには優しいの?

 

あれか、女子同士は優しさが大事なのか?

はぇー、つっら。

このままだと俺は精神的に死に絶えますね

 

「エルエル~」

 

「…なんだ、どうしたコンパ?」

 

「エルエルも、私たちの仲間ですよ~」

 

「……コンパ…!お前は天使だ……!」

 

「あわわわ!?エルエル泣いてますぅ!?」

 

あれ、おかしいな。

涙が出てきたぞ?あはは、まだ俺は感動すらしてないのになぁ。

ああ、これが悲しみの涙……

 

「あー、悪かったって…」

 

「俺、仲間?」

 

「仲間よ、仲間。変に弄ったりしないからそっちもあまりネタに振り切れないように…」

 

「よし、仲間発言いただきました~遠坂、ありがとう!俺たち仲間だもんな!クエストも頑張ろうな!」

 

「なぁっ!?まさかの泣き真似!?仲間を騙してんじゃないわよ!あと遠坂言うなぁ!」

 

ざまぁみろ、俺をいじるとこうなるのだ。

ク、クク、演技派主人公の座はネプテューヌにもやれんなぁ!

あ、ネプギアはそのままの真面目で純粋な君でいてね。

 

「ごめんごめん」

 

「全くもう…!…いい?今回の受けるクエストはこれ……っていうかこれしか無かったわ」

 

「過疎り過ぎでは?」

 

「それだけマジェコンヌの影響が強いのよ」

 

「なる。んで、クエストの内容は……」

 

「【スライヌ】の討伐クエスト、ですね…」

 

スライヌ?スライム、ではなく?ヌ、ではなくてム?

 

犬みてぇな名前だな!

 

「【スライヌ】って、何でですか?」

 

「数が増えすぎてるから減らしてくれって依頼ね。

まあ、今回はネプギアとズェピアのリハビリでもあるし、丁度良いんじゃない?」

 

なるほど、やっぱりな。

俺のリハビリ…まあ、そうだな。

俺もこの体での戦いは初めてだしな。

 

「……素朴な疑問をよろしいですかね、アイエフさん」

 

「言っとくけど、変なボケならツッコミ拒否よ」

 

「いや、【スライヌ】って名前なのか?【スライム】じゃなくて?」

 

「【スライヌ】よ」

 

「ああ、そう……」

 

「でも、油断はしちゃダメよ。放っておくと増えていくんだから、あいつら」

 

「でも、アイちゃん。【スライヌ】はそんなに強くないから大丈夫ですよ?」

 

「それでも油断したら命取りってことなんだろ、気を付けていこう……ネプギア、大丈夫か?」

 

「………あ、はい、大丈夫ですよ!」

 

…心配だな。

あんまり無理はさせないようにしないと。

俺はアイエフにだけ聞こえるように声をかける

 

「アイエフ」

 

「何?」

 

「ネプギアに無理をさせないよう俺たちでフォローしよう」

 

「…分かってる、でも、リハビリも兼ねてるから…」

 

「まあ、そこは仕方無いか…」

 

「二人とも、何を話してるです?」

 

「あ、ああいや、ちょいとこのバーチャフォレストがどんなところか聞いていたんだよ」

 

「そ、そうよ、だから決して怪しいことは……」

 

「そうなんですね~…」

 

チョロいぜ……!

恐らく、アイエフもそう思っているはずだ。

多分!

 

「さあ、軽く終わらせて帰りましょ!」

 

「はいです!」

 

「はい!」

 

「はーい」

 

「アンタは緊張感を持ちなさいよ…」

 

「分かったよ遠さ…OK、その拳を下ろせ、な?アイエフさん」

 

「はぁ…ふざけすぎないようにね」

 

「はい……」

 

「レッツゴーです!」

 

こうして、我々ゲイムギョウ界救い隊はRPG定番の雑魚モンスター、【スライム】ならぬ【スライヌ】を討伐しにバーチャフォレストへと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、バーチャフォレストについた俺たちは、【スライヌ】君を探しているのだが……

 

「あ、見つけました!」

 

「ヌラ?」

 

「これが……【スライヌ】か」

 

ネプギアが見付けたらしく、そこへ向かうと……

 

すっげぇ分かりやすい姿です。

【スライム】の姿に犬耳とか生やしてやがる……

 

スラ犬じゃねぇか。

 

【スライヌ】は何匹も居て、正直こうも多いと愛嬌がある姿でも気持ち悪く感じる。

 

「こんなにいるなんて…骨が折れそうね」

 

「頑張るですぅ!」

 

「往きます!」

 

「拳でこれ殴るのか…」

 

アイエフはカタールを、ネプギアはビームソードを。

コンパは巨大な注射器……注射器ぃ!?

 

い、いや、待て、落ち着け、ズェピア・エルトナム・オベローン。

この程度で狼狽えるな。

アトラス院院長兼死徒二十七祖は狼狽えない!

 

俺は冷静に、極めて冷静に拳を構える。

 

「アイエフさんよ」

 

「何よ?」

 

「あれを殴ればいいのか?」

 

「…気持ちはわかるけど、我慢しなさいよ」

 

「……はい」

 

「ヌラァァァ!」

 

「って、ズェピア!後ろ後ろ!」

 

アイエフが焦ったように後ろだと言ってくるので、その言葉に任せて、振り向き様に拳を振るう。

 

「ヌラァ!?」

 

「あ、力はこれくらいか」

 

「う、うわぁ…」

 

拳がヒットした【スライヌ】は地面へ落ちた瞬間消え去った。

アイエフさん、ドン引きしてるとこ悪いけど、そっちの【スライヌ】も悲鳴あげながら斬られとりますやん…

 

コンパの方は……

 

「えぇい!」

 

「ヌ、ラァ……」

 

あ、やめよう。

見てるだけで怖くなってきた。

吸血鬼ですけど、あれは駄目だ。

 

あれで生身の人間を刺した日にゃ、病院に行けなくなるかもしれない。

 

ま、まあ、普通に戦えてるようだしいいか。

 

ネプギアは……

 

「や、はぁ!」

 

「「ヌラァ!」」

 

「ふっ!」

 

「「ヌラァァァ…」」

 

「やりました!」

 

どうやら大丈夫そうだ。

2体同時に斬り倒していく姿は美少女の姿も合わさり華麗だ。

 

タタリは人を出すことすら出来ないほどに弱まっているが、全くもってやりにくい。

 

今まで死徒の身体能力とタタリに頼りすぎた。

 

「数だけは多い!」

 

「ヌラ!?」

 

「ヌボァ!?」

 

「うわぁ、変な声出てる……」

 

黒い銃身なら今も持ってるが、まるで反応しない。

俺を、ズェピア・エルトナム…ワラキアの夜と認識できていない。

 

…参ったな。

 

「ぬ、ヌラァァァァ……」

 

「ああ、逃げちゃいます!」

 

「逃がすか…って早!?」

 

「追うわよ!」

 

「はいですぅ!」

 

一匹の【スライヌ】が逃げていくので、追うが、中々速い。

何て奴だ…逃げ足の特性を持ったメタル系モンスター並の逃げ足の速さだ!

 

しかし、それもここまでよ。

ようやっと追い付いた俺たちは、今度こそ仕留めんとそれぞれ構えるが……

 

「様子がおかしいです!?」

 

「ヌ、ヌラララ……」「ヌラァ!」「ヌラヌラ…」「ヌラ」

 

「まだこんなに居たなんて…しかも、これって……」

 

「まるで、合体ですぅ!?」

 

「ドラ○エじゃねぇか!」

 

スライヌが大量に集まり、合わさっていく。

そうして、一体の巨大な【スライヌ】……

 

王冠がねぇ!じゃあデカい【スライヌ】だから【ビッグスライヌ】じゃねえか!

 

「ヌッラァァ……」

 

「うわ野太」

 

「驚くところそこじゃないでしょ!…にしても、こうなると面倒ね…でも、丁度いいわ。ネプギア!」

 

「何ですかアイエフさん?」

 

「おいまさか」

 

「いつかはやるんだから、今やった方が良いでしょ。

ネプギア、『変身』してあのデカブツを倒しなさい」

 

「変身、ですか……?」

 

「女神化よ、女神化。女神化しちゃえば、あれくらい余裕でしょ?」

 

「女神化……女神、化……。……ッ!!」

 

様子がおかしい。

うわ言のように喋るネプギアに駆け寄ろうとする。

 

すると突然、ネプギアは震えだす。

 

「……い、いや……嫌…無理です……そんなの…ッ!」

 

「ネプギア!大丈夫か!」

 

「イヤ、私じゃ、無理です!」

 

「くっ…アイエフ、コンパ!そのデカブツを頼む!」

 

「わ、分かりましたぁ!アイちゃん、ギアちゃんをいじめちゃダメですよぉ!」

 

「別にいじめた訳じゃ…うぅ、謝るのは後!今はコイツを倒すわ!」

 

【ビッグスライヌ】をアイエフたちに任せ、俺はネプギアの元へと駆け寄る。

 

ネプギアは頭を抱え、膝をつく。

駄目だ、まだ早すぎた!

 

トラウマが女神化を出来なくしてるんだ!

 

ネプギアに声をかけるが、聞こえていない。

深刻だな……どれだけ強かったんだ、そいつは。

 

……仕方無い、今はまず!

 

「ネプギア!」

 

「!ズェピア……さん…ごめんなさい、私なんかじゃ、無理だったんです…!」

 

「…ネプギア、いいか?」

 

「……?」

 

「お前は一人か?」

 

「一人じゃ、ないです…アイエフさんに、コンパさん、いーすんさんに…ズェピアさんがいます…でも、私なんか……」

 

「大丈夫、大丈夫だよ。そんな、どうしても挫けてしまいそうな時に俺たちがいる」

 

「で、でも……!」

 

泣いて、怯えているネプギアに優しく語りかける。

目線が同じになるよう、片膝をつく。

 

「俺たちは、お前をそんな時、必ず助ける。お前が俺たちを仲間だと言ってくれるなら、何時だって助ける」

 

「……なんで…」

 

「言ったじゃないか。俺は、自分勝手なんだ」

 

頭を軽く撫でた後、ニッと笑い立ち上がる。

 

「お前を助けるのだって、俺がしたいからするんだよ」

 

「…」

 

「だから、お前もお前がしたいことをしろ」

 

仲間、だなんて。

一度裏切った俺が言っていい台詞じゃないかもしれないけど。

それでも伝えたかった。

 

この世界で得た絆は確かにある。

 

それを捨てるような男ではないつもりだ。

 

こんな男に言われても嬉しくないだろうけど、まあ、そこは仲間補正ってことで一つ。

 

アイエフたちの方を見る。

思ったよりかは体力があるらしく、【ビッグスライヌ】は何度も体当たりを仕掛けている。

 

まあ、避けられて反撃されてるけど。

加勢するか、さっさと終わらせなきゃな。

 

「アイエフ、待たせた」

 

「別に居なくても大丈夫よ」

 

「すぐに終わらせたいんだろ?」

 

「…まあ、ね!」

 

「ヌラー!」

 

「しつこいですぅ!」

 

拳を握る。

いけるか。

今のアイツの体力なら……

 

「往くぞ、これを喰らってみろ!」

 

「ヌラ?」

 

「必殺!」

 

俺は、デカブツへと接近し、そして──

 

 

 

 

「─(FGO参戦)を逃したワラキアパンチ!!」

 

「ヌラァァァァ!!?」

 

取り合えず、悲しみを込めて全力で拳を振り抜く。

 

見事にヒットした【ビッグスライヌ】は叫びながら吹っ飛び、消え去った。

 

「─ふぅ。よし、完璧な勝利だ」

 

「いや今の適当な技名はなんだぁぁッ!!」

 

「タピオカパンッ!?」

 

「ああ!エルエルの決めポーズ中に蹴りが!」

 

「ハッ、しまった…つい……」

 

背中に、蹴りが!?

アイエフ、貴様ぁ、俺の背中に恨みでもあるのか!?

 

「わ、悪かったわよ…」

 

「いや構わないんだけど…流石にそのツッコミは予想外だった…ぐぉぉ……!」

 

「あ、あの……ズェピアさん……大丈夫ですか?」

 

おずおずと、ネプギアが話しかけてくる。

もう大丈夫なのか?とアイエフとコンパは心配そうに見ている。

 

「あいててて……どうだ?」

 

「えっ?」

 

「中々、やるもんだろ俺たち。頼ってくれちゃっていいんだぜ?」

 

「─」

 

背中を擦りながらニッと笑う俺に、ポカンとした表情で俺を見つめ─

 

 

 

「─はいっ!」

 

─次の瞬間には花のような笑顔を見せてくれた。

 

 

まあ…これが見れただけ、良しとするか……



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監督気取り、絆を深める

今回はワラキー視点以外もあります。

メガミラ楽しいですねー。
ヒロテューヌもゲットできましたしね。

アイエフの欠片が全く集まらないのが不満かな(ガチャ弱者)


やあ、皆。

俺だ、ワラキー……っぽくない格好になってるけどワラキーだ。

 

この前は大変だったな。

ネプギアのトラウマが再発して、戦闘なんて到底不可能な状態になってしまってたし。

今は、大丈夫っぽい。

 

にしても……

 

『中々、やるもんだろ俺たち。頼ってくれちゃっていいんだぜ?』

 

…キザいな~!

後から思い出すと恥ずかしい事結構言ってたぞ。

うっわ、マジでうっわ。

 

ワラキーの姿の時ならもっと考えて発言するのにこっちだと後先考えずに発言すっからこうなっちまった。

 

そんな俺たち仲間だもんげ!発言をした俺はプラネテューヌ教会に四人で戻ってそこら辺で頭を抱えている。

 

「んで、いつまでそうしてるのよ」

 

「この恥ずかしさが消え失せるまで……」

 

現在、このプラネテューヌ教会には俺とアイエフ、そして調べものをしてるイストワールしかいない。

というのも、ネプギアとコンパは買い出しに出掛けたからだ。

主に、俺もいる分の食料とかもろもろを買いにな。

いやほんと申し訳無い。

 

そして、教会で自己嫌悪に陥っている俺にアイエフが呆れている、というわけだ。

 

「長引くフラグじゃない」

 

「あんな台詞、俺でも言うとは思ってなかったんだよ!自然と口から出たんだからさぁ!」

 

「別にいいじゃないのよ。そんな恥ずかしい台詞だった?」

 

「俺にとってはな」

 

「そう。……でも、やるじゃない、アンタ。少し……ううん、結構見直したわ」

 

唐突な見直した発言に困惑した俺は頭抱えるのをやめてアイエフを見る。

微笑んでらっしゃる。どないしたん?

 

「なんだ、突然?」

 

「戦闘で見直す発言したのはアンタでしょうが。

正直な話、アンタの事結構疑ってたのよ、私」

 

「まあ……それは当然だろ。突然異世界から来ましたとか行ってたらヤバイ奴にしか見えないさ」

 

「そうね、否定しないわ。…でも、ネプギアを助けてくれたし、戦闘面も中々だったし、頼もしいわ」

 

「そうかねぇ…」

 

「人が褒めてるんだから素直に受け取りなさいよ」

 

「…そうだな、そうしとく。いやぁそれほどでもない」

 

「調子に乗らない。力だって戻ったわけじゃないんでしょ?」

 

「ぐぬ、確かにそうだが……ああ、力が戻れば、すぐにでもあの蜥蜴を始末できるのにっ!」

 

あの高笑いと次こそ殺す宣言を思い出した瞬間に腹が立ってきた。

あのくそ蜥蜴ぇ……あの時撃ち殺せなかったのがここまで悔しいとはっ。

 

俺が蜥蜴に苛立ちを募らせているとアイエフが難しい顔をしだす

 

「でも、不思議よね」

 

「何がだ?」

 

「アンタの力よ。シェアに影響される女神でもないのに、どうしていきなり使えなくなったのかしら」

 

「それは……分からないな。そもそも、コイツが俺を認識してくれないのが一番辛いところだ」

 

「それって、『黒い銃身』よね。武器に意識でもあるの?」

 

取り出した『黒い銃身』を苦々しい顔で見る俺にアイエフが聞いてくる。

俺はそれに苦笑しながら首を横に振る。

 

「そういうわけじゃないが、『黒い銃身』にはセキュリティを施してあるんだ。ズェピア・エルトナムのみを認識するセキュリティがな」

 

「でも、認識しないのよね…何でなの?」

 

「多分、コイツは俺をズェピア・エルトナムだと認識していないんだ」

 

「…力が戻らないから?」

 

「多分な。俺の中にあるタタリが微弱すぎるのかもしれないな」

 

「そんな事あり得るの?」

 

「普通ならあり得ない」

 

そう、タタリが使えなくなるなんてあり得ない。

だが、何かの拍子に俺はタタリを行使できなくなった。

力の一端すら、使えなくなったのだ。

 

「グレートレッドが何かした…とも思えない。

アイツなら、今のうちに俺を殺してるはずだ」

 

「謎は深まるばかりってこと…」

 

「まあ、お前たちを手伝ってる間に戻るかもしれないし、大丈夫さ」

 

「もし戻らなければ?」

 

「いいや、戻す。戻さなきゃ、ならないんだ。

じゃなきゃ、あの子達に顔向けできない」

 

信じて送り出してくれた皆を裏切ることだけは出来ない。しちゃいけない。

俺が、俺であるためにも、あの時を取り戻すためにも。

 

俺はワラキアの夜の力が必要なんだ。

 

諦めるわけにはいかない。

今だって、戦う力は残っている。

 

「─(決意)はまだ、この手の中にある」

 

手を握り締め、自分がいることを再確認する。

 

よし、と思い、アイエフの方を見ると、呆然と俺を見ていた。

 

「どうした?」

 

「…え、いや……また自分から言ってるなって思っただけ。それより、問題はアンタの武器よ」

 

「武器?」

 

状態回復したアイエフがそう言ってくるが、はて……俺に武器か。

首をかしげる俺にアイエフは呆れた風にため息を吐く。

 

「馬鹿ね、今回は【スライヌ】だったからよかったけど、堅い装甲の相手にも素手で往く気?

籠手とか着ければいいのよ」

 

「あ、そうか籠手か…」

 

籠手と言えば、『赤龍帝の籠手』だが。

 

まあ、拳でやってくなら必要だよな。

 

「明日、探してみましょう」

 

「アイエフ…優しいな」

 

「ば、何急に言ってんのよ!?これくらい当たり前でしょ!」

 

「ソウダネ」

 

「その片言は何よ……」

 

殴る、蹴るが俺の戦闘法になるのか。

よしよし、やってやんぜ。

 

「ただいまです~」「ただいま!」

 

「あ、帰ってきたわね」

 

「おーう、二人とも」

 

「エルエル、良い子にしてましたか?」

 

「俺は犬かっ」

 

「ズェピアさん!」

 

コンパの天然ボケにツッコミを入れていると、ネプギアがこちらへ走り寄ってくる。

おう……元気が良いな?

 

「ど、どうした?」

 

「いえ…えっと、ただいまです!」

 

「ああ……おかえり」

 

何となく、頭を撫でておく。

すると、嬉しそうに目を細める。

 

…一体、どうしたんだ?

 

「えへへ…」

 

「エルエル、ギアちゃんと仲良しですぅ」

 

「いや、仲良しって言うか……」

 

「……」

 

何だこの可愛い生き物。

おいおいどうしたというのだ、ネプギアよ?

 

アイエフがネプギアを撫でてる俺に近付いてくる。

 

「甘えさせてあげなさい。多分、そうした方がいいわ」

 

「……分かった」

 

もしかして、甘える相手が俺になった感じか?

結構印象よかったのか……あの臭い台詞……

 

だけど、精神面での助けになれるのなら、いくらでもなるさ。

 

「エルエル、お夕飯になったら呼びますね」

 

「OK、ありがとな、コンパ」

 

「いえいえ~♪」

 

余程俺とネプギアが仲良くなったのが嬉しいのか、笑顔で行ってしまった。

 

「ズェピアさん」

 

「ん?」

 

「頑張りましょうね。ゲイムギョウ界を救うこと、そして、グレートレッドを倒すこと!」

 

「……そうだな」

 

元気になってくれたネプギアを嬉しく思いつつも少し不安な俺はそれを紛らす為にももう一度頭を撫でた。

 

……さて、どうしたもんかな?

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

ズェピアさんは不思議な人です。

 

私、ネプギアがズェピアさんと話して感じた第一印象はそれでした。

異世界から来たというのもそうですけど、吸血鬼でありながら血を好まないこと、優しいこと。

他にもありますけど、最初に感じたのは不思議だ、という事だけでした。

 

お姉ちゃんたちを助けて、ゲイムギョウ界を救わなきゃいけない。

そんな考えとあの時何も出来ずに負けたトラウマが私の中を埋め尽くしていました。

 

多分、ずっと呆然としていたと思います。

 

でも、アイエフさんたちはそんな私たちを見捨てず、一緒にいてくれました。

ズェピアさんも、本当は自分の事でいっぱいな筈なのに私たちに協力してくれました。

 

クエストに行った時、私なんかが役に立てるのか、私で勝てるのかと不安がありましたが、そんな不安と剣を振っている時は忘れることが出来ていました。

それが自分の恐怖から逃げていることも、分かっていながら。

 

そして、アイエフさんに女神化をするように言われたとき、その恐怖と直面しました。

女神化しようとした瞬間、犯罪組織マジェコンヌに負けた時が頭に浮かんだのです。

 

『攻撃とは、こうするんだ!!』

 

何も出来ず、やられただけの私。

傷一つつけることもなく、捕らえられた私。

 

それが鮮明になった瞬間に、私は女神化することを放棄したんです。

その場で、膝をついて泣いて怯えることしか出来なかった。

 

でも、それでもズェピアさんたちは私を見捨てるような事はしなかった。

 

ズェピアさんは私に駆け寄って、優しく、それでもって意思を伝えるように

 

『俺たちは、お前をそんな時、必ず助ける。お前が俺たちを仲間だと言ってくれるなら、何時だって助ける』

 

そう言ってくれました。

アイエフさんたちもそう言ってくれたと、今はそう思います。

でも、そんな事を言われても怖い私はなんで助けてくれるのか、なんで見捨てないのかと思いました。

でも、私が発することが出来た言葉はなんで、という疑問の声だけでした。

 

だって、まだ会って間もないのに、どうしてそこまで優しくしてくれるのか分からなかった。

 

ズェピアさんは、質問の意図を察してくれたのか、笑顔で

 

『言ったじゃないか。俺は、自分勝手なんだ』

 

『お前を助けるのだって、俺がしたいからするんだよ』

 

そう、伝えてくれたんです。

 

その後、アイエフさんたちに加勢して【ビッグスライヌ】を討伐したズェピアさんを、私は呆然と見ていました。

 

その姿は、私にはとてもかっこよく見えた。

 

迷いのない目に、拳。

ズェピアさんから、自分は力の大半を失っていると聞いた。

でも、どれだけ力を失っても意思だけは消さないと決意のこもった顔を、ただ見ているだけだった。

 

その後、我に返った私はアイエフさんに鋭いツッコミを貰ったズェピアさんに駆け寄った。

 

ズェピアさんは、背中を擦りながらも笑顔で私に

 

『中々、やるもんだろ俺たち。頼ってくれちゃっていいんだぜ?』

 

と言いました。

 

その時に私は決めたんです。

 

─この人のようになりたい。

 

この人のように、真っ直ぐと前を向いて生きたい。

この人のように、貫き通す覚悟を得たい。

 

そう、心に誓ったんです。

 

でも…その、そう決めたんですけど、ズェピアさんの優しさに今日は浸りたいなぁって、思っちゃって。

 

さっきだって、自分から駆け寄ったりして、撫でられたりして……!

 

撫でられたときなんて胸の内が暖かくなったし……

 

今日だけ、今日だけだから。

明日はもう、勇気を出して頑張って見せるから。

 

だから…その優しさに甘えることを許してください。

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

ネプギアと二人で、俺は何を話したもんかと考えていた。

ネプギアは顔がちょっと赤いし、熱でもあるのかと心配したが、大丈夫だと言われたので、本人が言うなら大丈夫だろうと判断した。

 

でも、なぁ……どうしよう、この空気。

 

「ズェピアさん」

 

「ん?」

 

そんな事考えてたらネプギアから話し掛けてきた。

 

「ズェピアさんは、ずっと戦ってきたんですか?」

 

「うーん……ずっとじゃないな…家族と過ごした穏やかな日々もあったしさ」

 

ずっとではない。

そりゃ、フリージアを守るために戦ったり、目的のために仕方無く戦ったりはした。

でも、それでもかけがえのない日々を忘れたことは片時もなかった。

 

あの日々があったからこそ、俺は完成されたのだ。

あの日々を、もう一度取り戻すために頑張ってこれたのだ。

それも、あと少しで……この旅が終われば、終わる。

俺の方程式も、完成する。

 

ネプギアは、家族と聞いてから、自分にも思うところはあるのか暗い顔になる。

 

「家族の方……待たせてしまってるんですよね…」

 

「こらっ」

 

「あたっ!?何するんですかぁ!」

 

暗い顔なんて、見たくないのでデコピンを一発。

額を抑えながら怒るネプギアに俺はジト目を向ける。

 

「お前がそんな顔しても仕方無いだろ?それに、姉ちゃんを助けるんだから、暗い顔すんなよ。前を見ようぜ」

 

「……ズェピアさんは、強いですね」

 

「俺は…強くなんかないよ」

 

俺は強くない。

断言できる。

俺はきっと、何処までも弱い男だ。

 

家族が居ないと、立てもしなかった。

友が居ないと、剣を取れなかった。

 

でも、一人じゃないからこそ、頑張れた。

 

「俺は強くなんかないよ」

 

我ながら情けないことを穏やかに言っている。

でも、弱かったから。

 

「弱かったからこそ、手に入った物もあるんだ。

きっと、強いだけだったら、今の俺はない」

 

家族がこんな弱い俺を支えてくれた。

だからこそ、立ち上がって、未来へと進める。

過去も、今も、未来も。

ずっと家族がそこに居るから走れる。

 

「俺はずっと、見たかったから」

 

「見たかった、ですか?」

 

「うん……俺は、俺の願いの答えが見たかった。

自分の組み上げた方程式が、計算の果てに何があるのかを知りたかったんだ」

 

だから駆ける。

足を止めずに、走れる。

一人の俺を大切にしたいあまり、世界すら破壊しようとした子と願いをぶつけ合ったからこそ、俺はあともうちょっとと走れる。

 

そこに、俺の求める答えがあると信じれる。

 

「皆がいれば前を向いて走れる。誰でもできる事しか、俺には出来ない」

 

「…それが強いんだと思います」

 

願いを見つけ、それの答えを得る。

誰でも出来ることだ。

どんな願いでも、答えはある。

 

そこにどんな答えがあるかは分からない。

でも、万人はそれを得てきた。

誰でも出来ることを、俺は必死に頑張っている。

 

ネプギアは、そんな俺を強いと言う。

 

「そうかな?」

 

「はい」

 

ネプギアは俺を見つめて肯定する。

 

「誰でもできることは、誰でも出来る訳じゃないんです」

 

「そりゃそうだけど…」

 

「だから、何度倒れても、立ち上がって進むズェピアさんは、強いと思います」

 

…優しいなぁ。

あげた分以上に返ってくる優しい言葉に、ちょっと嬉しくなる。

 

強いと言ってくれる。

嬉しいことだ。

今日得た縁に、また助けられた。

 

そんな気がする。

 

「ありがとう」

 

「私も、ありがとうございます」

 

「仲間、だもんな」

 

「はい!」

 

何となく、心が軽くなる。

この世界にも俺を肯定する人がいる。

 

それが分かったからなのかもしれない。

 

「……よかったよ」

 

「え?」

 

「少しでもお前の重荷を背負えてるようでさ」

 

「あ……」

 

「これからも、頼ってくれよ?」

 

「…はぃ、ありがとうございます、ズェピアさん」

 

何で俯いてる?

色々あったし、疲れたのか?

まあ、忙しかったもんな

 

「二人とも~ご飯ですよ~」

 

「あ、はーい!」

 

「飯か、楽しみだ」

 

コンパに呼ばれ、二人で待っているであろうアイエフとコンパの所へと行く。

イストワールもいるだろうしなぁ

 

あー、疲れた。

 

……にしても、向こうは平気かねぇ?

時間が経てばタタリは消えるだろうし、空白の時間もとっくに誤魔化しが効くようにしといたけど……

 

オーフィス達が心配だけど、教授もいるしな。

大丈夫だと信じよう。

 

心配事は無くならないが、気にしすぎても仕方無いので思考をそこで打ち切る。

全員で食べた夕食は、美味しかった。




何だかんだで、本編終盤から来た主人公なので精神面強めです。



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監督気取り、覚醒する?

今回、展開が急です。


やあ、皆。

俺だ、ワラキー……と言いたい。

姿は違うので元ワラキーになってしまう。

 

昨日はネプギアたちと絆を深めることに成功した。

やったぜ。

そうそう、ネプギアは夕食の時に皆に謝ってから一言言ったんだ。

 

『皆さん、今日はごめんなさい…でも、明日は絶対に女神化も成功させて見せるので、見捨てないでください!』

 

多分、ずっと不安になっていたのは見捨てられてしまう事だったんだろう。

俺もその時は驚いたからな。

頼っても良いですかとかならまだしも見捨てないでは予想外だった。

 

アイエフとコンパ、イストワールはそれに

 

『見捨てるわけないでしょ。…明日も頑張りましょ』

 

『ギアちゃんはもっと、私たちを頼って良いんですからね?』

 

『ネプテューヌさんたちが捕らえられてしまったのは全て私のミスです…ネプギアさんに重責を負わせてしまっているのに、そのような真似はできませんよ』

 

イストワールに関しては、申し訳なさが滲み出ていて凄かったが、それは仕方ないと思う。

でも、イストワールも必死だったんだと思うし、責められない。

 

ネプギアは皆の言葉を聞いて嬉しそうにしていたし、よかった。

 

やっぱり、言葉を重ねるより気持ちを伝え合えた方がいいよな。

 

まあ、そんな事があった昨日だが……

 

「ねえ、こう、拳にはめる武器とかない?」

 

「拳にか?そうだな……これなんてどうだ?」

 

「あ、よさそう…ズェピア、ちょっとこれ装備してみなさいよ」

 

「あいよ」

 

アイエフと一緒に武器屋に来ていました。

探してみたが、そういった類いは無かったのでこちらに足を運んだわけだ。

 

店主に渡されたガントレットを装備してみる。

 

なるほど、重すぎる訳でもない、頑丈そうだ。

誰にも当たらないようにジャブ、ジャブ…

 

「いいな、これ」

 

「気に入ってもらえたか」

 

「ああ。いくらなんだ?」

 

「こんぐらいだな」

 

「案外安いな…」

 

「じゃあ、これでいいのね?」

 

「おう、これ買った!」

 

「毎度あり!」

 

というわけで、俺にも武器が手に入ったぞ。

こぉんな素晴らしい装備は元の世界のどこを見ても見られんぞ。ファーハハハハハ!

 

「これで一先ずは安心ね」

 

「おう。これで俺も必殺技を出せるぜ」

 

「ゲームじゃないんだから…」

 

「まあ聞け。その名も…ガントレットハーデス!」

 

「何よそれカッコいいじゃないのよ!」

 

「え、うん……」

 

凄い食い付き。

まさか、こいつ……同志(中二病)!?

 

いや、待て。

アイエフは確かに携帯電話を何個も所有しているし時折変な反応を示すが、まさか……

 

「私も何か思い付いた方がよさそうね!」

 

「あ…(察し)」

 

「何よ?」

 

「イエ、ナンデモゴザイマセンアイエフサマ」

 

「様!?しかも片言だし……」

 

これは、まさか……いや待て、まだ片鱗が見えてるだけだ。完全にそうだとは

 

「そ、それより!早く戻ろうぜ!?」

 

「?そうね、戻って、イストワール様の話を聞かないと」

 

これ以上長引かせると嫌な予感がしたので教会に戻ることに。

店主からはドン引きの目線をいただいた。いらない。

 

そんでもって、イストワールが昨日の朝、俺たちにゲイムキャラの居場所が分かったと言ったので、準備を終えてから聞くことに。

とりあえずさっさと終わらせたが、何処にいるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌ教会

 

「皆さん、集まりましたね」

 

「はい、イストワール様」

 

「それでは、プラネテューヌのゲイムキャラの居場所をお伝えしたいと思います。」

 

俺たちはイストワールの前へと集まり、話を聞いている。

 

「ゲイムキャラはどうやら、バーチャフォレストの最奥部にいるみたいです」

 

「最奥部…モンスターも手強そうだ」

 

「はい、十分に気を付けてください」

 

「だな、そんじゃ皆、バーチャフォレスト最奥部に行って、ゲイムキャラの助けを得るぞ!」

 

「アンタが仕切ってどうすんのよ!」

 

「ゴッホ!?」

 

背中に一撃!

俺の背骨が折れたらどうする馬鹿者!

 

くっそぉ……

 

「あいてて……まあ、分かった。それならリーダーはネプギアにしよう」

 

「え、私ですか!?」

 

「おう。その方が色々と良さそうだ」

 

「ギアちゃん、ファイトです!」

 

「コンパさんまで!?うぅ…分かりました、頑張ります!」

 

「頑張ろ頑張ろ~」

 

そうと決まれば出発。

イストワールからのエールを背に、俺たちはバーチャフォレスト最奥部を目指す。

 

「俺、これが終わったら…」

 

「死亡フラグを立てようとするな!!」

 

「グフ!?……て、あれ、そこまで痛くない」

 

「わざと軽くしてんのよ」

 

「アイエフの優しさを身に染みて体験したぜ」

 

「なら、ボケの頻度を下げてよね」

 

「あいあい」

 

「やっぱり二人とも仲良しですね~」

 

「ですね、コンパさん」

 

「……まあ、仲間だし、否定はしないわ」

 

「ツンデレしろよ!」

 

「はあ!?何で正直に言ったらそんなこと言われなきゃならないのよ!」

 

「お前のキャラがツッコミキャラだけになってしまうだろうが!」

 

「お前のせいでしょうがっ!」

 

「たわばっ!?」

 

今度は普通に痛かった。

 

容赦ないっすね、アイエフ先輩……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーチャフォレスト最奥部まで、着いた。

 

そこで、汚染という凶暴化に近い変化をしたモンスターと戦ったが、まだ余裕で倒せる。

 

皆、そこまでの消耗もなくここまで来れた。

 

これで突然『貴様らこんなところでノコノコと何をしている?』とか筋肉ムキムキの男が出たりしなければ平気だ。

 

「さて、ゲイムキャラは何処かねぇ」

 

「そうですね……最奥部も広すぎる訳じゃないので見つかるとは思うんですけど……」

 

ネプギアと話しつつ、最奥部を探索するが……取り合えず手当たり次第って感じだ。

 

ちなみに、隊列はアイエフが先頭で俺とネプギアが真ん中、コンパが後ろだ。

先頭で平気かと聞いたが問題ないとの事。

 

まあ、諜報員だって言ってたし、引き際をミスる事はないだろう。

 

すると、アイエフが止まった。

おっ?見つけたか?

 

「……何か聞こえるわ」

 

マジですか。

俺たちは静かに耳を澄ませる。

 

……確かに!

 

「何か叩くような音がするな……!」

 

「はい!」

 

「嫌な予感がしますぅ……」

 

「取り合えず、行ってみましょう」

 

全員で、そこへと急ぐ。

 

そして、音の発生源を発見した。

 

刀…でいいのか?それでディスクを破壊しようとしているスッゲェ不健康そうな肌の色をしていて、黒いフード付きにネズミのような鼻や耳がついている緑色の髪をした女がいた。

 

「って、あれがゲイムキャラか?」

 

「そうだとしたら、止めないと!そこの人、やめてください!」

 

「ああ?何だァてめぇら!邪魔するんじゃねぇよ!」

 

チンピラぁ!

すっげぇチンピラ!

 

「おいヤンキー、その刀を捨ててこちらへ来なさい、親御さんが悲しむぞ!」

 

「テメェ、警察か!」

 

「そうだ!」

 

「違うでしょうが!」

 

「ブレイン!?」

 

頭に、頭に拳骨……!痛い!

アイエフさん、遠慮が消えてきてますよ!?

 

取り合えず、チンピラは刀でディスク…多分、ゲイムキャラを壊すのを中断して俺たちの方を向く。

敵意むき出しだ。

 

「何でこんなことするんですか!?ゲイムキャラさんが壊れたら、ゲイムギョウ界が……!」

 

「何でこんなことするか、だァ?

こいつぁ、我々マジェコンヌにとって目障りなヤローらしいからなぁ…消すのは当たり前だろ?」

 

「アンタ、マジェコンヌの一味なの?」

 

「へっ、教えてやる義理はネェが…まあいい、耳かっぽじってよく聞きな!」

 

「ふざけんな綿棒だって持ってきてねぇぞ!」

 

「誰も耳掃除しろって意味で言ってねぇよ!!」

 

「え、でもかっぽじってって…」

 

「ズェピア、アンタは黙ってて?」

 

「はい」

 

何て威圧感だ……グレートレッドにすら臆す事がなかった俺が震えている!?

何てやつだ……

 

「もういいか?…犯罪組織マジェコンヌが誇るマジパネェ構成員、リンダ様たぁ……」

 

「構成員ってことは下っ端か」

 

「下っ端ですね」

 

「下っ端ね」

 

「下っ端さんです」

 

「なっ……!?だ、誰が下っ端だぁ!?誰が!?」

 

俺たちの下っ端発言に下っ端(リンダ)は憤慨した。

でも、構成員って下っ端……ですし?

 

「うるさいわよ、下っ端のくせに。さっさとそこを退きなさい。下っ端のクセに生意気よ!」

 

あの、アイエフさん?今ちゃっかりと写メ撮りました?

証拠ですか?現行犯ですか?

 

これがプラネテューヌのやり方か……

 

「下っ端さん、お願いですから邪魔しないでほしいです」

 

コンパさん、貴女結構毒舌ですね……

 

あ、俺も便乗すべき?

 

「下っ端……職を得れなかったからマジェコンヌなんかに……!」

 

ネプギア!?

お前何てこと言ってるんだ!?

確かに、職を選べない人は望まない職場に行く人もいるけどそれはあんまりだよ!

 

「……大丈夫だ、下っ端。俺にも、辛い時期はあった……だけど、その内気に入らない仕事も楽しくなってくる!大丈夫だぞ!」

 

「テメェはテメェで慰めにもならないことを言ってんじゃねぇ!?下っ端下っ端連呼しやがって……!!

ゲイムキャラよりも先にテメェらをぶっ倒してやらぁ!」

 

リンダは苛立ちが頂点に昇り、怒りの表情で刀をこちらへと向け、襲い掛かってくる。

 

ガントレットさんがなければ即死でした

 

「くっ、コイツ強い!?」

 

「力があるな……」

 

「どうしてあんな攻撃でも強く思えてしまうです!?」

 

「……もしかして」

 

「ネプギア、気づいたか?」

 

「マジェコンヌのシェアが、それほどゲイムギョウ界のシェアよりも強いって事ですよね」

 

「多分な……」

 

シェアの差がこんなにあるだけで強化されるのか。

こりゃ、ヤバイ。

 

おまけに、俺の力も戻っていないしネプギアの女神化もない。

 

「何だ何だァ?人を下っ端呼ばわりした割には弱ぇな…マジェコンヌの邪魔をしたらどうなるか、その体に教え込んでやるよ!」

 

俺たちは結構、ピンチだった。

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

どうしよう……このままじゃ。

 

負けてしまう、そう思ってしまうほどに下っ端の力は強かった。

 

マジェコンヌのシェアが下っ端に力を与えているんだ…

でも、ここで負けたらゲイムキャラが…ゲイムギョウ界が……お姉ちゃんが!

 

「負けるわけにはいかない!」

 

「何度来ても、同じだぁ!!」

 

「キャァァ!?」

 

下っ端に向かって、ビームソードを振るうけど、簡単に弾かれてズェピアさんたちの方へ吹き飛ばされる。

 

「「「ネプギア!(ギアちゃん!)」」」

 

吹き飛ばされた私をズェピアさんが抱き止めて、アイエフさんとコンパさんが駆け寄ってくる。

 

全力でやっているのに……!

 

やっぱり女神化しか……

ズェピアさんが本来の力を出せない今、私がやらないと……!

 

「ッ……!!」

 

そうしようとした瞬間、また、私の脳裏にはあの時の声がした

 

『女神の力とはこの程度か…』

 

『攻撃とは、こうするんだ!!』

 

「ッ…ダ、ダメ───」

 

やっぱり無理だと口にしてしまいそうになる。

違う、違う!

私はもう、決めたの!

 

「もう、私は……」

 

「ネプギア?」

 

負けるわけにはいかない。

昨日の決意を、憧れた心を嘘にするわけにはいかないの。

 

心配そうに見つめてくるズェピアさんが見える。

怪我はないかと焦るコンパさんが見える。

歯が立たないことを悔しがるアイエフさんが見える。

 

「大丈夫です……ズェピアさん、アイエフさん、コンパさん。私、やります!」

 

「ネプギア、アンタ……」

 

「ギアちゃん、まさか…!」

 

「…いけるのか?」

 

「……はい!」

 

立ち上がり、女神化をすると宣言する。

大丈夫なのかと不安げに見てくる二人と、出来るのかと問うように見てくるズェピアさんに、笑いかける。

 

昨日の誓いを胸に、昨日までの臆病でいた私から変わるの!

 

私の願いを、ぶつける。

守りたい、助けたい、救いたい。

 

その為なら、恐怖だって!

 

「全て、断ち切って見せます!これが、私の─」

 

 

 

「─『変身』!!」

 

「な、何だとぉ!?」

 

その言葉と共に、私を中心に光が溢れる。

 

決意と、覚悟が私に力を貸してくれる!

 

「女神、ネプギア!願いを胸に、いきます!」

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

俺は今、目の前の光景に目を奪われている。

ネプギアが立ち上がり、女神化をすると伝えた。

 

大丈夫なのか?出来るのか?

昨日だって出来なかったじゃないか。

そんな思いがなかったとは言わない。

少なからずあった。

 

でも俺は、そう宣言したネプギアの瞳を見た。

決意のこもった瞳だ。

それを見るのは、二回目だった。

 

一回目は、オーフィス。

二回目は、ネプギア。

 

それを見て俺は、いけると確信した。

 

「これが、女神化……」

 

ネプギアの姿が変わった。

ネプギアの淡いピンク色の髪が輝く。

白い衣装の背中には機械的な翼からも光があふれていた。そして、光が収まると同時に水色へと変化した瞳。

 

手に持つ武器も変わっている。

これが、女神の力か!

 

「ど、どうして、女神の力を取り戻すんだ!?」

 

「…貴女が、ゲイムギョウ界を壊すなら、私は!

ゲイムギョウ界を守るために、貴女を倒します!」

 

「くそが!」

 

リンダは悪態をつきながらネプギアへと向かっていく。

だが

 

「遅い!」

 

「な、はえぇ!?」

 

ネプギアは下っ端を上回る速さで接近。

もう既に、技の準備に入っていた。

 

「これで、終わりです!音速剣、フォーミュラーエッジ!」

 

その名の通り、素早い斬撃が下っ端に襲い掛かる。

マトモにくらった下っ端は吹き飛ばされる。

刀も持てない位にダメージは入った。

 

「くっ、くそ!?このままじゃ───

 

 

 

──何てな」

 

焦っていた様子の下っ端は、ニヤリと笑うと、懐からディスクを取り出す。

何だ、あれは……?

 

「いざって時のために持ってきて正解だったぜ…あの赤い龍から貰ったモノ、見せてやらぁ!」

 

「赤い龍…!?グレートレッドか!?」

 

「あーそうそう、そんな名前だったなぁ…ほらよ!」

 

ディスクを無造作に投げると、そこから赤いオーラが流れ出る。

ディスクが光り、光が収まると……

 

「何だと……!?」

 

「あれは……ドラゴン……!?」

 

「こんな時に……!」

 

「エルエル、あれは何ですか!?」

 

赤く、東洋の龍のように細長い体をして、尚且つ異様な呪いの気配。

上半身さえも龍のそれとなっていて、最早堕天使の面影すらなく、龍と化した皮肉の存在。

 

「サマエル……!」

 

「へぇ、コイツはそんな名前なのか……じゃあ、サマエル!あの女神どもをぶっ倒しちまいな!」

 

「─■■■■■■■■!!」

 

「くっ!?」

 

サマエル…龍殺しが何故!?

しかも、マジェコンヌに手を貸していたなんて……!

 

マズイ、あれの毒はネプギアたち女神でも辛いなんてもんじゃない!

 

あれと戦えば、ネプギアが…アイエフが、コンパが!

 

クソ……どうすればいい!?

 

「■■■■!」

 

「ッ、何て重い攻撃……!」

 

「ネプギア、駄目だ!逃げろ!」

 

「でも、逃げたらゲイムキャラさんが!!」

 

「■■■■■!!」

 

「あっ───!?」

 

何度も手に持つ武器でサマエルの攻撃を捌いていたが、痺れを切らしたのか尾を払う攻撃によって武器が弾かれ、無防備となってしまう。

 

マズイ!?

 

「ネプギアァァァァァ!!」

 

「ズェピア、待ちなさい!?」

 

「エルエル!!」

 

俺は走った。

ネプギアの元へと全速力で。

幸い、そこまで遠くはない!

 

間に合え、間に合え!

 

「■■■■──!」

 

「間に合え……!」

 

サマエルは止めとばかりに毒の舌を伸ばす。

 

俺はネプギアに手を伸ばし、そして……

 

 

 

 

 

「─ズェピア、さん……?」

 

「─が、ぁ……!!」

 

ネプギアを押して、代わりに攻撃を受けることに成功した。

 

舌は俺を簡単に貫いた。

そして、それ(・・)はきた。

 

 

「─■■■■」

 

「─ぁ、ギィアァアァァア……!!」

 

 

 

毒だ。

サマエルの毒。

原初の罪を犯した龍殺しの毒を、俺はその身に受けた。

 

焼けるどころではない。

体が溶けているのではと錯覚するほどの痛み。

 

「─ハハ、マジかよ、スゲェ…サマエル、スゲェよ!」

 

下っ端の言葉が耳に入らない。

 

死。

それを感じた。

 

死徒の、体なら、耐えきれると思ったけど、やっぱり無理だったか。

 

「ぁ───ズェピアさん!!」

 

「ァァァ、ガ、ハァ……!」

 

血を吐く、刺された腹からも血が止まらない。

まずい、死ぬ。

 

こんなところで死ぬ。

 

「ちょっと!冗談じゃないわよ!しっかりしなさいよ!?」

 

「エルエル!死んじゃダメです!」

 

治療をしてくれてるのか。

傷による痛みが少しだけ和らいだ気がする。

でも、毒は消えてくれない。

 

サマエルの毒は特殊だ。

あらゆる毒よりも質が悪い。

 

皆が皆、涙を流す。

 

血に濡れることも構わないで、ネプギアは倒れている俺を抱いている。

コンパだって、治療を必死に続けている。

アイエフも、道具を使って……

 

「ズェピアさん、しっかり、お願い…まだ死んじゃいやだ……まだ何も返せてない!」

 

「ネプ…ギア…!」

 

手を伸ばし、頬に触れる。

触れてから、俺の手にも血がついてるのに気付いて、やってしまったと思った。

 

ネプギアはそんな俺の手を手に取り、頬に当てる。

 

「ズェピアさん…まだ、答え見せれてないです…!」

 

「そうよ!家族の所へ帰るんでしょ!?」

 

「そうです!絶対、帰しますから!」

 

「ぁ、あ……そう、だな……」

 

帰る。

そうだ、帰らなくちゃ。

 

『ズェピア』『友よ』『ズェピア!』

 

家族、家族の所へ。

死ねない、死ねない、死ねない死ねない死ねない死ねない───

 

俺が死んだら、ハッピーエンドが、無くなる

 

でも、どうやって……

 

死ぬ、これは絶対に死ぬ。

 

 

 

 

ふと、脳裏に誰かが浮かんだ。

 

『おや、諦めるのかね』

 

─あ?

 

『まだ倒すべき相手がいるのでは?』

 

─ああ、そうだよ

 

『ならば、まだ諦めてはいけない。さあ、この手を取りたまえ』

 

─何だ、お前、肝心なときに来なかったくせに

 

『君も悪い。いや、君が悪いのだが』

 

─後で、説明してくれるのか?

 

『勿論、私と君は──』

 

俺は、その手を、伸ばしてくる手を取る。

そして、伸ばしてきた手も、掴んだ俺の手を握り返す。

 

微笑みが、見えたと思う。

 

ああ─お前か───

 

 

 

 

『─相棒だろう?』

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

「ズェピアさん……?ズェピアさん、目を開けて…」

 

「ッ~アンタッ!!」

 

「何だよ……向かってきたのはソイツだろうが」

 

ズェピアさんの目が閉じて……

待って、逝っちゃ駄目。

 

折角、女神化を見せれたのに、決意を見せれたのに!

平和になったゲイムギョウ界を見せれてもいないのに!

 

私、まだ……

 

「ズェピアさん……うぅ…いや、いやぁ……!」

 

手を握り、死んでいないと否定する。

まだ、手は暖かい。

 

コンパさんも、無言で必死に治療を続けている。

 

 

「──ァ」

 

「─え?」

 

手が、握っている手が、ピクリと動いた気がした。

 

「ズェピアさん…?」

 

「──ゴホッ」

 

呼び掛けると、今度は、咳き込むような声が聞こえた。

 

私とコンパさん、そしてアイエフさんはそれを確かに聞いた。

 

そして、次の瞬間

 

 

「─グレート、レッドぉ……!!」

 

 

グレートレッドの名前を恨むように呼びながら目を覚ましたのです。

 

「ズェピアさん!」

 

「エルエル!」

 

「ズェピア!」

 

「いだ!?あだだだだだだだ!?待って!痛い!?」

 

「あっ」

 

目を覚ましたことが嬉しくて抱き締めてしまったけど、まだ怪我は治ってないことを思い出してすぐにやめました。

 

「いってぇ……でも…!」

 

「ズェピアさん!?立っちゃ駄目です!まだ怪我が……!」

 

「そうよ、まだ安静に…」

 

「そうですよ!」

 

「ネプギア、アイエフ、コンパ」

 

立とうとしたズェピアさんを止めようとしたけれど、名前を呼ばれ、私たちは止まってしまった。

 

だって、今まで聞いた声でも何か違和感があったから。

 

何かが、混じったような。

二人分の声が聞こえたような。

 

そんな気がした。

 

そして、ズェピアさんは立ち上がり、私を見て微笑んだ。

 

「ありがとう、礼を言おう」

 

「ズェピアさん、ですか?」

 

「ああ、そうだとも…ズェピア・エルトナム・オベローンだ」

 

雰囲気が違う。

いつものような雰囲気とはまるで違うズェピアさんに私たちは戸惑う。

 

そして、ズェピアさんは下っ端とサマエルと呼ばれたドラゴンへと向き直る。

 

「な、なんで生きてやがる!?」

 

「■■■、■■■■!?」

 

サマエルが、怯えてるように見えたのは、私だけなのだろうか。

下っ端は死んだと思った人が生きていて驚いているけど、サマエルは震えているように見える。

 

「ああ……とても、痛いとも。とてもね…屈辱だ」

 

「は、はぁ?」

 

「このような力しか出せず、あまつさえ、己の不始末で少女が危うく死にかけた。庇えたからよかったものの……ああ、屈辱だ」

 

やっぱり、聞こえる。

もう一人の誰かの声が。

 

「アイエフさん、コンパさん、聞こえませんか?」

 

「え、ええ……」

 

「エルエルがもう一人いるですか…?」

 

困惑するしかないが、私たちに分かることが一つある。

 

「しかし、感謝しよう、エデンの蛇。君のお陰で今ようやく、何故タタリが使えなかったのかを思い出した」

 

「■■■■■!?」

 

「お、おい!サマエル!どうしたんだ!?」

 

「君が、私を刺し、殺そうとしたお陰だ……礼として、本来の私が、君を滅ぼそう。ネプギア」

 

「は、はい!?」

 

「君は下っ端を頼む。私の世界の敵は、私が倒す」

 

「わ、分かりました!」

 

「頼んだよ。さあ、サマエル───」

 

ズェピアさんはこの上なく楽しそうに笑う。

血に濡れながら笑う姿は吸血鬼のようだった。

 

ズェピアさんが、ノイズのような何かに染まっていく。

 

いや、ノイズだ。

ザザザと音を立てながら、ズェピアさんは姿を変えていく。

 

そして、ノイズが消えた時には

 

 

 

 

 

「─命に保険はかけたかね?」

 

全く知らない姿。

面影すら残らない姿と声で、サマエルへと笑いかけた。




何故元に戻れたのかは次回。
案外簡単な理由です。


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監督気取り、謎がわかる?

チュートリアルで殺されるサマエルとかいう怪物


やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

そう、ワラキーだ……ク、クク、ハーハハハハハ!

戻った、ついに戻ったぞ!

 

クックック……何て素晴らしい!

 

この体になってから、前の体とは大違いだ。

やはりな……死徒に近い肉体と、完全な死徒の肉体では差が出るのは当たり前だ。

 

『喜んでいるところ悪いが、そう良いニュースばかりではない』

 

─うおっ!?お前、急に話しかけてくるなよ!?

 

話しかけてきたのは俺の中からだった。

 

ワラキアの夜の人格。

タタリと一緒に戻ってきたようだ。

 

『いやなに、気味の悪い笑い声が響くものでね』

 

─ああ、それはすまん。それで、どういうことだ?

 

『うむ、何故かは分からんが、君は今のその姿にずっとはなれない』

 

─はい?

 

『私にも分からないのだがね。何かの概念が邪魔をしているのか、さて……』

 

─何てこった…もうグレートレッドが悪いってことでいいな!

 

『君が良いならいいが』

 

─おし。もう一つ聞きたいことがある

 

『何かな』

 

─サマエルの毒はどうしたんだ?俺の体から無くなっているが……

 

『ああ、それなら──』

 

 

 

 

『─こちら側で黒い銃身の銃弾の効果を元に造った薬を入れてあげたが?』

 

─何やってんのぉ!?

 

え、マジ?こいつ何やっちゃってんの?

最悪その内容だと俺死ぬじゃん。

無許可で何投与してんの!?

いや、そもそもどうやって投与したし!?

 

『ほら、この間二秒弱だがサマエルが待ってくれないぞ?』

 

─この野郎、後で問い質してやる!

 

『ハハハ』

 

ハハハじゃないよこの馬鹿野郎……

 

まあいい。

さて、時間制限があるなら仕方無い。

さっさと終わらせよう。

えっと、サマエル君は確か…舌が特殊耐性の化け物ぉだよな?

 

じゃあ、あれをこうして……

 

あ、面倒だ。

撃っちゃえ♪

 

「─『黒い銃身』よ、眼前の敵を撃ち滅ぼせ」

 

『黒い銃身』を取り出す。

セキュリティが俺を認識する。

 

やっと認識しやがったかポンコツが。

あとで改良の余地ありじゃねぇか。

 

「─■■■!!」

 

「キヒ…ヒヒヒヒ!」

 

怯えて触手の舌を伸ばしてくるサマエルに笑いが止まらない。

クク、ご都合主義に身を委ねるのは酷く不愉快だが、ネプギア達への説明が最優先だ。

その為にも死ね。

 

「撃ち抜けっ!!」

 

黒い一発の弾丸がサマエルの伸びてくる舌へと放たれる。

銃声が聞こえたときにはもう遅い。

 

弾丸は舌へと当たる。

 

「■■■■■────」

 

舌が弾丸に当たると同時に粒子となる。

対グレートレッド用決戦兵器やぞ、テメェなんぞ即死だ。

 

粒子は舌を伝い、頭、上半身、下半身。

最後に、尾の先端にまで来たときにはサマエルという存在は消え失せていた。

 

さようなら、この世界の糧となるがいい。

 

「ハァッ!」

 

「ガッハ……!?く、くそ……覚えてろぉぉぉぉ!!」

 

あちらも、あっさりと終わったらしい。

 

まあ、そう信じて任せたんだし、そうでなきゃ困る。

 

下っ端は遥か彼方へと吹き飛ばされ、悪役の負け台詞を残し、サヨナラーした。

 

よしよし。

さて、声を掛けますかね

 

「ふぅ……」

 

「ネプギア」

 

「ひゃ、はい!?」

 

「お疲れさま、君の勇姿、この目で確と見ていたよ」

 

「え、と……」

 

あれ、どうしたんだネプギア。

何だか、あれだな…反応が薄いっていうか

 

「あの、ズェピアさん、ですよね?」

 

「間違いなく、ズェピアだ」

 

「それが、本当の姿ですか?」

 

「…どう言えばいいのか」

 

本当にどう言えばいいのか。

だってこれは本当の姿だと言われてもそうだよとすぐには答えられない。

あの時はそう説明したが……

 

「……うむ、こちらも真実の姿ではあるが、あちらもまた、真実だ」

 

「そうですか…」

 

…うーむ、もしかして……

ワラキアの夜の姿に戸惑ってるのかな。

まあ確かに、突然俺の姿も声もこうなればな。

 

アイエフとコンパを見ると、やはりというか戸惑ってる。

 

仕方無い。

 

『戻るのかね?』

 

─まあ、その方がいいだろ?後、説明してもらうからな?

 

『了解した。まあ、しばらく私は黙っているとも。もちろん、見る真似もしない』

 

─そうしてくれ

 

ワラキアとの会話をやめて……この状態、どうしよう?

 

『死徒化』にするべきかな。

女神化を真似てだが。

技名風にしとけばなりやすくなるかもだし

 

死徒化を解除して、元の姿に戻る。

血とかも無くなり、元通り。

やったぜ。

 

「…よし。改めて、お疲れさま、ネプギア。よく頑張ったな」

 

「っ……ズェピアさん……!!」

 

「うおっと」

 

労りの言葉を言うと、女神化を解除して泣きそうな顔をして俺の胸へと飛び込んできたので、受け止める。

 

しっかりと抱き締めてくるネプギア。

…背負わせてしまうところだったのを、再認識して、自己嫌悪する。

 

「ズェピアさん…!生きているんですよね!ズェピアさん!」

 

「生きてるよ。……悪かった」

 

「本当です!もう、会えなくなるかと思いました…!

う、ぅ……!」

 

「ごめん…もう、こうならないようにする」

 

胸の中で、泣くネプギアに謝り、俺も抱き締める。

 

本当に、馬鹿野郎だなぁ俺。

ああするしかなかったとはいえ、悲しませるなんてよくない。

こうならないようにこの状態でも強くならないと。

 

「ネプギア、格好よかったよ」

 

「…そんな事言っても、今日は許しません!」

 

「別にそんなわけじゃあ……」

 

「ふんだ」

 

「……」

 

可愛いなおい。

ふんだ、て言ったよ。

 

説得を諦めた俺は今日は何をされるか分からないと思うのであった。

 

「もういいかしら?」

 

「アイエフ、コンパ……心配かけて悪かった」

 

「そうですよ!今日は医務室で絶対安静です!」

 

「はい……」

 

「ったく…でも、良かったわ生きてて。取り合えずお疲れさま」

 

「アイエフ…ありがとな」

 

コンパは泣きながら叱ってくるし……

アイエフも、こうは言ってるが、泣いた跡が見えてるからな。

皆、俺のために泣いてくれたのは嬉しいような悲しいような。

 

〔…私もよろしいでしょうか?〕

 

「「「「ひぇ!?」」」」

 

な、何だ!?俺まで変な声出ちゃっただろ!?

幽霊か!?やめてくれよそういうの弱いんだよ!

 

ネプギアだってビクッとしたぞ。

 

誰だと思ったら、先程下っ端に叩かれていたゲイムキャラのディスクが光っていた。

 

ネプギアも、俺を抱き締めるのをやめて、ディスクに話し掛ける。

 

「…貴女が、ゲイムキャラさんですか?」

 

〔はい、その通りです。助けていただき、ありがとうございます〕

 

「守れたようでよかったですぅ」

 

「ええ、取り合えず最悪な事態は回避できたようでよかったわ」

 

〔はい。…そちらの貴方も、ありがとうございました〕

 

「いや、俺は別に。俺の世界の奴がこの世界に迷惑をかけてるからな…謝りこそすれど感謝なんて」

 

〔いいえ、結果的に貴方は私を助けてくれたのですから、感謝させてください〕

 

「ズェピア、素直に受け取りなさい」

 

「……分かったよ」

 

〔はい。それで…私が眠っている間に、世界は大変なことになっているようですね〕

 

眠ってたのか。まあ、叩かれてたのに反応しなかったしな。

 

「そうなんです。それで、ゲイムギョウ界を救うためには貴女たちゲイムキャラの力が必要なんです!

どうか力を貸してくれませんか?」

 

〔……いいでしょう。元より、そのつもりでしたし、プラネテューヌの女神候補生。貴女ならば間違った道には歩まないと信じます。さあ、受け取りなさい〕

 

「何の光!?」

 

「ネタ挟まないっ!」

 

「グボログボロ!?」

 

「叫び声にしても無理がありますぅ……」

 

ディスクが光を放ち、その光が紫のディスクとなり、ネプギアの手へと置かれる。

 

「これは……」

 

〔『パープルディスク』といいます。これに、私の力を託しました。……どうか、ゲイムギョウ界を救ってください〕

 

「…はい!任せてください!」

 

〔ありがとうございます。……では、私は再び力を蓄える為にも眠りに就きます…〕

 

そうして、ゲイムキャラは光と共に消えた。

 

「……よし、帰るか」

 

「はい!そうですね!」

 

「…ところで、ネプギア。一つ良い?」

 

「アイエフさん、どうしたんですか?」

 

「いやその……その顔と手とかについた血なんだけど……」

 

「へ?」

 

ネプギアはそれを聞いて自分の手を見る。

そして、次の瞬間顔が青ざめていく

 

「キャァァァァァァ!!?」

 

「うわ、ビックリした」

 

「ビックリしたじゃないわよ!元はと言えばアンタが流した血でしょうが!」

 

「そんな血を流さない生き物じゃないんだから理不尽な!?」

 

「早く戻って洗いましょうねギアちゃん」

 

「は、はい!急がなきゃ~!」

 

「「て、おい!二人とも!?」」

 

俺とアイエフはコンパとネプギアに置いていかれた。

その後、二人で顔を合わせてから苦笑する。

 

「帰るか」

 

「そうね。ったく、あの二人は……」

 

こうして、俺たちは最初の試練を乗り越えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌ教会に到着したぜ。

 

ふぅ、無事に帰ってこれたな。

無事ではないが

 

─んで、ワラキア

 

『説明だろう?といっても、この世界での君の変身……死徒化の原理を教えるくらいしかないが。毒については聞かないでくれ』

 

─十分だ

 

ってか、分からなかった言ってたのにもう、分かったの?理解度高いなおい。

 

『そうかね。では、説明しよう』

 

というか、それを教えてもらわないと説明するときの俺が困るからな。

 

『簡単に言うと、女神化と似たようなものだ。

君の場合はシェアではなく、自分の魔力を大量に消費してあの姿になる』

 

─制限時間もあるのは何でだ

 

『吐いたリソース分と言えば分かるかね?』

 

─あー、なるほど。要するに、この世界だと魔力を消費しなきゃなのね……この姿だとタタリが使えないのは?

 

『それは恐らく、君自身がリミッターを掛けたんだろうね』

 

─はぁ?

 

俺がリミッターを?

何でそんな?

 

『あの時、この世界に飛ばされた時、君は己の力を守るために、無意識に鍵を掛けたのだ』

 

─なら、もう使えても……

 

『というのが一つ』

 

─へ?

 

『まさか一つだけだと思ったのかね?』

 

─く、こいつ……!?

 

『それで、もう一つだが……そもそも、君の体では容量が足りない』

 

─……そうかぁ……

 

容量か。

まあ確かに。

世界を覆える程の力を俺個人の、転生前の体に入りきるとは思えない。

なるほど、欠片も使えないのはそういうことか……

 

『理解できたかね?では、私はこれで…』

 

─おう、ありがとうな

 

『構わないよ……ああ、それと。ネプギア、だったか?あまり乙女を泣かせるものではないよ、君』

 

─……分かってるよ

 

…泣かせないようにしないとな。

やっぱり、笑っていてほしいし。

心から笑えるように、頑張るか。

マジェコンヌと繋がってるなら、必ずアイツと最期は殺し合う。

そういう運命だ。

 

この手の中の宝物(大切な人たち)を、溢しはしない。

 

大丈夫。

 

「ズェピア!」

 

「ん、おう、どうした?」

 

考え事に耽っていたらアイエフに名前を呼ばれた。

いかんいかん。

 

「どうした、じゃなくて…イストワール様のところへ報告しに行くわよ」

 

「ああ、すまん。ネプギアたちは?」

 

「念入りに体を洗ってるわ。」

 

「悪いことしたなぁ……」

 

「そう思ってるなら、無茶はやめなさいよね…悲しむわよ、私たちもだけど、あの子はより一層」

 

「……だな。って、私たちもって……デレたな?」

 

「うっさいっ!!」

 

「ゴファ!?」

 

照れ隠し、いただきました……

拳骨痛い…どうも、ツッコミの時は俺の防御力を貫通するらしい。

何それ怖い。

 

とにかく、イストワールの所へ行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、二人とも」

 

「ただいま戻りました、イストワール様」

 

「ただいま」

 

「ネプギアさんたちから話は聞いています。

無茶をしたようですが、ゲイムキャラから無事協力を得れたようですね。女神化も出来たようですし…それに、ズェピアさんも力が戻ったとのことですが」

 

無茶を~の部分で俺を心配そうに見てくるイストワールに悪い、とだけ言っておく。

こんなに心配されるなんて、恵まれてるな、俺は。

 

「皆が揃ったらいろいろと説明がしたいし、俺のことは待ってくれ」

 

「……分かりました。しかし、無事でよかったです」

 

「ご心配をお掛けして、申し訳ありません」

 

「いえ、私は戦ってもいないので大丈夫ですが、ズェピアさんは体に異常は?」

 

「それなら、大丈夫だよ」

 

「よかった……」

 

本当に心配していたんだな。

あーもう、こんなに色んな人たちから心配されるなんて

無かったし……むずむずするな。

 

「た、ただいま戻りました!」

 

「戻りましたですー!」

 

「はい、二人とも、おかえりなさい」

 

「はい、いーすんさん!」

 

「あ、エルエルとアイちゃん、戻ってきたんですね」

 

「置いていかれたわ、ねぇ?」

 

「置いていかれたなぁ?」

 

「そ、それはぁ……ごめんなさいです」

 

「すみませんでした…」

 

二人して顔を合わせて、よしと頷く。

謝罪頂きました。

 

「…いいわよ別に。」

 

「実は気にしてないし、平気だよ」

 

「……それでは、ズェピアさん、説明をお願いしても?」

 

「ああ、そうだった……皆には聞いてほしいことがあるんだ」

 

「力の事ですか?」

 

「おう、その通りだコンパ。今回、戻ったと思っていた力なんだが……実は結構面倒なことになっていた」

 

四人はそれに首をかしげる。

面倒なこととは、って感じだな。

まあ、これは俺にしか分からないし、仕方無い。

 

「俺の姿が元に戻ったが…あれのことは『死徒化』と命名するが…そうだな、見せた方が早いか」

 

「お願いします」

 

「よし……」

 

─いけるか?

 

『少しだけならいけるだろう。君の魔力もそう多くはない事は理解してくれ』

 

─はいはい

 

「『死徒化(変身)』!」

 

瞬間、俺にノイズがかかる。

ザザザと音を立てながら、ワラキアの夜の姿へと変わる。

 

ノイズが晴れた時にはもうあの時と同じ姿だ。

 

変身完了!

 

「さて、これが私の姿…ワラキアの夜の姿だが」

 

「さっきも見たけど、変わりすぎじゃない?ねぷ子の比じゃないっていうか……」

 

「エルエル、かっこよくなってますよ~」

 

「そうかね?そう言って貰えるならば光栄というものだ」

 

「うぅん…やっぱり、違いすぎて慣れません…」

 

「すまないね、ネプギア」

 

「い、いえ!これから慣れていきます!」

 

「ふむ…」

 

「どうやら、女神化と同じようになるらしいですが…」

 

「うむ、その通りだ。ただし、この姿の時はシェアではなく魔力を消費する。消費した魔力の分だけこの姿は持続するが……それが過ぎれば」

 

またノイズが俺にかかる。

今度は、転生前の体へと。

 

「こうなるわけだな」

 

「女神化と殆ど一緒ね…この世界に来てからその原理になっちゃったとか?」

 

「あり得るな。それに、タタリもこの状態だと使えないことも判明したしな……それで、他にもあるんだ。

グレートレッドが犯罪組織マジェコンヌに協力しているようでな……」

 

「…でも、何でグレートレッドはマジェコンヌに?」

 

「そうです、エルエルの話だと独善的だけど正義感はあったようですし……」

 

「ああ、それなら簡単だ」

 

すっごいムカつくけど理由はわかる。

 

「単に、俺を潰しに掛かるならマジェコンヌに協力した方が効率的だからだろうな。アイツは、人の心を理解しやしない…だから、死後の魂すら利用しようと思える。マジェコンヌの下っ端は悪党だったが、グレートレッドは外道だ」

 

「とんだ厄介者ね……」

 

…娘を利用したのもそうだが、この世界の関係ない人にまで危害を及ぼすなら容赦はしない。

絶対に、この世から存在もろとも塵にしてやる。

 

突然、袖を引っ張られる。

 

そちらを見ると、ネプギアが不安そうな目を向けていた

 

「ズェピアさん、考えすぎは良くないですよ?」

 

「……悪い。怖い顔してたか?」

 

「はい、プリンを食べられたときのお姉ちゃんみたいな顔でした」

 

「比較対象の差よ……ハハハ」

 

思わず笑う。

プリンを食べられたときのネプテューヌと今の俺が同じくらいか。

そりゃ、怖いだろうなぁ

 

「…んで、多分、この先も事あるごとに今回みたいにグレートレッドが間接的に邪魔してくるかもしれない。多分、俺がお前らと居るからだな……悪い。もし嫌だったら」

 

「嫌じゃないです!」

 

「ネプギア…」

 

「嫌じゃないですから!私たちは、仲間だって言ってくれたじゃないですか!自分を切り捨てる考えはやめてください!」

 

「そうよ、私たちだって怒るときは怒るわよ?」

 

「ですです!」

 

「ズェピアさん、貴方が自分をどう思っているのかは分かりません。ですが、私たちは貴方の事を見捨てることは出来ません」

 

「アイエフ、コンパ、イストワール…」

 

…ヤバイな、涙が出てきた。

この姿は、涙腺まで弱いのか?

 

切り捨てた方が、絶対に楽なのに、だってのに皆は…

 

「…ありがとう!これからも、宜しく頼む!」

 

「はい!」

 

「よろしくです!」

 

「よろしく…たまにはボケ放棄してよね、頼むから」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

この世界で得た仲間は優しくて、とても強い。

それを、改めて知った俺は、頭を下げた。

 

皆が、笑顔で迎えてくれた。

俺はどうやら、一人にならなくていいようだ。



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監督気取り、黒の大地へ

fgo編書いてんのかって?
書いてるよ!書いてるけど設定難しいんだよぉ!

正直ネプテューヌ編の方がやり易いことこの上ないんだよぉ!




説明を終えて、皆に改めて迎えられた俺。

それでも、まだ話は終わらないのでしっかりと聞くことにする。

 

「イストワール…それで、次はどうすればいいんだ?」

 

「はい、それについてなのですが…皆さんには明日、ラステイションに出立していただきたいのです」

 

「ラステイション…?」

 

「女神ブラックハート様が治めている国よ」

 

「なるほど…」

 

ラステイションに行く理由……

 

「ゲイムキャラか……?」

 

「はい、それもありますが、もう一つあります」

 

俺が聞いてみると、正解だったらしく頷いてくれる。

しかし、もう一つあるとな?

何だろう。

 

「もう一つ、ですか?」

 

「女神候補生です」

 

「ラステイションにもいるのか」

 

「ええ、その女神候補生にも協力してもらいたいのです。やはり、戦力は多い方がいいですから」

 

なるほど、確かにそうだ。

女神化出来る候補生が一人でも多く居れば勝率は上がるだろうしな。

 

皆、納得って感じだな。

 

「分かりました、頑張ります!」

 

「はい、お願いします、ネプギアさん。それに、皆さんも」

 

「はいです!」

 

「はい」

 

「頑張るゾイ」

 

「アンタは真面目に返事出来ないのか!」

 

「あうちっ!?」

 

く、くそ、今度は膝に蹴りだと!?

痛い、痛いよそれは!

 

あまりにも容赦のない一撃に涙を浮かべてしまうのであった……

 

「ぉぅ……!」

 

「ったくもう……」

 

「エルエルは懲りないですねぇ……」

 

「真面目な雰囲気は苦手なのかな……」

 

その通りでございますネプギアさん。

 

イストワールもこの光景には苦笑する。

 

「あだだ……じゃ、じゃあ、イストワール。今日はもう解散ってことでいいか?」

 

「はい、今日はもう休んでください」

 

「おう……では、さらばー…って、コンパ?何で腕を掴むんですか?」

 

「医務室行きますよ~」

 

「え?待って?俺不調ないよ?待って?折角部屋を設けて貰ったのに、医務室のベッドなの?

ネプギア、助けて!」

 

「その件はズェピアさんが悪いです」

 

「アイエフ!」

 

「今回は甘んじて受け入れなさい」

 

「イストワール!」

 

「ま、まあ……見てもらった方がいいのは事実ですから……」

 

「何て事だ……!」

 

「はい、じゃあ、行きますよ~」

 

「嫌だぁぁ!堅いベッドは嫌だぁぁぁ!!」

 

本当は、お布団がいいんだい!

実は元の世界の方でも俺は布団なんだ!

日本人だからね!

 

ベッドォォォォ!!

 

そうして抗っても、謎の補正がかかったコンパに勝てるわけもなく、俺は本日ベッドで寝ることを強要された。

 

ちなみに、怪我とかは無くなってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンパ、恐ろしい子……

 

ベッドの上で座ってそう思う。

 

あの後、しっかりと体を洗った俺は今日は安静にしてくださいと言われたので仕方なくこうしている。

 

座ってるのは何でかって?寝ながらだと考えられないからだよ。

 

そもそも、謎は残ったままなんだからな。

 

「俺の姿と死徒ズェピアとしての姿……やっぱり、この世界の法則に引っ張られたのか?神の特典はあくまであの世界での法則に沿って与えられたものだし、その特典事態が変化したのか……?」

 

『随分と、難しく考えているね』

 

─そうは言うけどな……

 

『今考えても仕方無い。それに、今は安静にしておけと言われたろうに……夜なのだから寝たまえ』

 

─吸血鬼が言うことか?

 

『私はそうでも君は人だからね』

 

─あーはいはい…

 

そうした方がいいかな。

何だかんだで疲れたしな。

 

明日は絶対に朝飯作ってやる。

 

『また張り切ってるな』

 

─俺の家事スキルを見せるチャンスだ!

 

『好きにしたまえ』

 

そう言ってから、ワラキアの声はしなくなった。

 

……寝るか。

ベッドで横になる。

横になった途端、すぐに眠くなってきた。

 

あー…おやすm───

 

 

─そのまま夢の世界に旅立とうと思ったら、扉が開いた。

 

ヒエッ…(恐怖)

幽霊ですか?

 

怖いには怖いが、何かされるまえに姿を拝んでやる。

 

そう思って、ベッドから顔を出す。

 

「あ……ズェピアさん、起きてたんですね…」

 

そこに居たのは不安げな表情のネプギアだった。

パジャマ姿ですか、可愛いなおい。

 

何回俺に癒しを与えるの?

何度も俺の傷付いた心を癒してくれて恥ずかしくないの?ありがとう

 

「どうした、ネプギア」

 

「いえ……その…」

 

甘く言葉に出来ないのかモゴモゴとしている。

 

それを見て、俺は何となく既視感を覚える。

 

何となく、昔の…怖い夢を見たときのフリージアもこうだった。

 

起き上がって、再びベッドの上に座る。

 

「怖い夢でも見たか?」

 

「あ…はい、その…ズェピアさんが、居なくなっちゃう夢を見て、それで……」

 

「なるほどな…」

 

それほど、あの時不安だった訳か。

 

…あの時の自分を殺してやりたくなるが……

 

でも、あの時はあれしか無かった。

そう諦めておく。

 

取り合えず、ネプギアを安心させなくては。

 

「取り合えず、座りなよ」

 

「はい……隣、良いですか?」

 

「うん?まあ、いいけども……」

 

「じゃあ、失礼して……」

 

ネプギアはおずおずといった様子で俺の隣に座った。

 

「ごめんな、そんな夢見るくらい、心配かけちゃってさ」

 

「…本当です」

 

「でも、あの時は、あれくらいしか考えられなかった。

ネプギアを助けなきゃって思って、それで体が動いてた」

 

「それでも…」

 

「分かってる。心配掛けたのは事実だし、これからはもう、そんな無茶はしない」

 

「……約束、ですよ?」

 

そう言って、小指を出して俺を見つめるネプギアに、俺も小指を出す。

 

「ああ、約束だ」

 

「破ったら、どうしますか?」

 

「無難に、何か言うことを聞くよ」

 

「何でもですか?」

 

「何でもだ」

 

「ちゃんと、聞きましたからね」

 

小指を絡ませて、約束をする。

もしかしたら、破るかもだけど…その時は許して…くれないか

 

「それで、その…怖くて、一人で寝れなくて」

 

「アイエフたちと一緒に寝ればよかったんじゃ?」

 

「……ズェピアさんが、いいです」

 

お、おう……?

かなり好感度が高いが……

 

って、そうじゃなくて。

 

顔を赤くさせながら両手で俺の片手を包むネプギアに、俺は拒むとかそういうことを出来なかった。

 

「俺は良いけど…」

 

「いいんですか!?」

 

「お、おう……」

 

「じゃあ、お、お願いします……」

 

「いやそこまでかしこまらなくても……」

 

何かそこまでされると逆に意識するからやめない?

ていうか、強く握るの、やめない?

 

という訳で、二人で横になって、寝るが……

 

…すごい密着されるんですけど……?

 

え、何これ?

そこまで密着する?

当たってます、何がとは言いませんけど当たってます。

 

寝れないんだけど!?

 

「ネプギア?」

 

「あ、やっぱり、駄目ですか……?」

 

「……いや、大丈夫だよ」

 

その泣きそうな目を向けられると離れてくれとか言えないじゃないですかヤダー!

 

参ったな、その目で誘われちゃ断れない(七夜風)

 

取り合えず、気を紛わらす為にも頭を撫でておく。

 

ネプギアはそれを拒まず、むしろ嬉しそうに目を細める。

癒しかな?

 

「ズェピアさん……おやすみなさい……」

 

「ああ、おやすみ」

 

しばらくして、ネプギアの寝息が聞こえる。

撫でるのをやめて、俺はため息を吐く。

 

「……寝れない」

 

ああ、これが今日の罰か……

でも、ネプギアの寝顔は可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝が来た、希望の朝が。いや、俺にとっては絶望の朝といったところか……。

何故なら、ネプギアが一向に離してくれないのだ。

 

これを見られでもしたら……

 

「エルエル~起きてますか~?」

 

アア、オワッタ……!

 

コンパが入ってきて、俺のところまでやってくる。

あ、ダメだ、見られる。

いや、待てよ?

 

そもそも、やましいことはしていない。

これはワンチャン生き残れるのでは?

 

『君は何をいっているんだ?』

 

─ノーチャン?

 

『ノーチャン』

 

あ、ふーん……

 

「お、起きてます」

 

「安静にしてたみたいで、よかったですー……?」

 

ニッコリとしていたコンパが俺に抱きついて寝ているネプギアの顔を見た瞬間笑顔が消え去る。

 

「待ってくれ、これには訳が……」

 

「ご……ご……」

 

「ご?」

 

「ごゆっくりですぅぅぅぅぅっ!」

 

「だぁぁ!?違う!待ってくれ!話を─」

 

顔を赤くして、ちゃっかり扉を閉めて出ていった。

 

アア、オワッタ……!(二回目)

 

「……んん……ズェピアさん……?」

 

「お、おはよう……ネプギア…」

 

「はい……おはようございます」

 

寝起きのネプギアが挨拶を笑顔で返してくる。

天使や……でも、今はそれどころではない!

 

殺される……俺、殺される…逃げるんだ、勝てるわけがないよ……アイエフに殺される……!

奴は伝説の超ツッコミ人なんだぁ……!

 

ドン、と強い音を立てて扉が開く。

 

「ズェピア?」

 

「ヒエッ」

 

─そこには、鬼がいた。

 

「アンタ……」

 

「あれ、アイエフさん…?どうしたんですか?」

 

「ネプギア…アンタもそうだけど……」

 

「ま、待とうぜ?俺は何もしてない!誓っても良い!」

 

「ええ、私も何もしてないって信じてるわ」

 

「な、なんだ……「でもね?」ッ!」

 

「アンタやネプギアにその気が無くても、単に一緒に寝ただけでも……」

 

アイエフは、そのまま近付いてくる。

 

アイエフさん?目が、赤いです。

心なしか、赤いオーラが……

 

『なるほど、これが紅赤朱かね!?』

 

─上手いこといったつもりか!?

 

「─はっ!?」

 

気付いたときには遅かった。

 

手が、俺の顔へと迫り、掴んだ。

 

なんだ、この力は!?

死徒の力でもこれほどのパワーは……!?

 

「借リルワネ?」

 

「は……はいぃ……」

 

待って?ネプギアさん?俺を犠牲にしたぁ!?

 

あ、引っ張られる。

待って、死にたくない。

 

ズルズルと顔を掴まれたまま医務室からアイエフと共に出ていった。

 

 

「─ギィヤァァァァァァァァ!!?」

 

その後、断末魔が響き渡ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やあ、皆さん。

俺です、ワラキーです。

 

一つ、この世界で分かったことがあります。

 

元の世界と同じ基準で生きていたら、死ぬ。

 

「健全な男女がそうやって軽々しく寝るな、分かった!?」

 

「はい」「すいませんでした……」

 

多分、俺は生きている。

鳩尾にガマリエルぶつけられた並に痛いが、生きている。

 

ネプギアも一応、同罪との事で怒られた。

 

しっかりと、何で一緒に寝ることになったかも説明した。

しかし、それはそれとして、とのこと。

 

「全く…コンパから聞いたときは焦ったわ」

 

「でしょうね」

 

「コンパさん……」

 

恨めしく俺たちはコンパを見るが、まあ、悪いのは俺たちである。

多分

 

「はうぅ、でも、エルエルがギアちゃんと寝てたからですぅ」

 

「コンパもいいから……ハァ、取り合えず、朝食食べて、準備できたらラステイションに向かうわ。分かった?」

 

「分かりましたアイエフ姐さん!」

 

「もう一発いっとく?」

 

「ごめん」

 

アイエフは怒らせたら怖い。

これが俺とネプギアの共通意識だった。

 

あの時、死を覚悟した。

 

『まさか、ツッコミという力にあれほどの……』

 

とか言ってる奴がここにいますし。

 

取り合えず、俺たちは朝食を食べ、各自準備を終えてラステイションへと出発したのだ。

 

イストワールの手配してくれた飛行機でなぁ……!

今までで一番、行き方普通だと思いました。

 

徒歩とかでも色々あったし。

 

快適な空の旅でしたね、ええ。

 

取り合えず、アイエフにラステイションはどんな場所かを聞いといた。

重工業が盛んだとか何だとか。

 

フゥン、なるほどね?

 

黒い銃身強化に役立ちそうだぜ…

 

ただ、教祖の事を聞いたときにあまり良い顔をされず、会えば分かるとの事。

問題のある教祖なのか?

 

コンパとネプギアは何だかんだでラステイションを楽しみにしていた。

ネプギアは特にスゴい。

機材がどうだとかで目を輝かせていた。

ネプギアさんや、まさか機械マニアですか?

 

そんなこんなで着きました。

重厚なる黒の大地、ラステイション!

 

「第2章って感じだ」

 

「何言ってんのよ」

 

「こっちの話こっちの話。んで、教会に行くのか?」

 

「いえ、まずはギルドに行くわ」

 

「…面倒で行きたくないんだろ?」

 

「…ほら、行くわよ」

 

「おいぃ……」

 

アイエフさんよぉ……。

まあでも、情報収集ならギルドだし、シェアの回復も出来るしな。クエストやることは大事。

古事記にも書いてある。

 

さて、ギルドへと思ったが、コンパとネプギアが来ねぇ。

あれぇ?と思ったが、未だ目を輝かせていた。

 

「ここが、ラステイション…!ここなら、欲しかった機材があるかも…」

 

「何買おうか迷います…!」

 

「「……ハァ~」」

 

二人してため息。

ええい、遊んでいる暇はないのじゃ。

 

「コラ、今はそんなことしてる場合じゃないでしょ?」

 

「我々は勇者なのじゃ…世界を救うのじゃ……」

 

「うぅ……」

 

「ですよね……私たちが頑張らないとラステイションもなくなっちゃうかもですし……頑張ります!」

 

目に見えて落ち込んでいるが、気持ちが分からないわけでもない。

俺とアイエフだって娯楽はしたい。

だがしかし、優先事項はきっちりしないとね

 

「ほら、行くわよ」

 

「はいです……」

 

「分かりました…」

 

「凄い落ち込みようだな…」

 

そうして、俺たちはギルドへと向かった。

 

そこで、新たな出会いがあることは、まだ分からない。




ラステイション、それはツンデレの国。
もうね、性癖に刺さる人は多いはずなんです。
でもね、私がツンデレ書けると思ってるの?(自信なしクソザコナメクジ)

感想待ってます


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監督気取り、交渉する

やあ、皆。

俺だ、ワラキーだ。

 

さて、ラステイションのギルドへと着いた俺たちはちょいとギルド内の現状に落胆している。

 

「過疎ってるな~……マジェコンヌの影響はラステイションにも、か…当然っちゃ当然か」

 

「これじゃ情報収集も出来そうにないしね」

 

「でも、シェアは回復させないとです!」

 

「そうですよ、二人とも。あ、私、クエスト貰ってきますね」

 

「ああ、俺も行くよ」

 

ネプギアと俺は情報収集は二人に任せてクエストを取りに行った。

さぁてお仕事だな。

 

元の世界だと討伐といったも胸糞悪い依頼ばかりだったし、ここのはマシだ。

 

「「すいません、クエストを貰いに来たんですけど……え?」」

 

「息ピッタリじゃねぇか」

 

ネプギアがカウンターまで行ったが、後ろにいた俺はもう一人、ネプギアと同じくらいの少女がカウンターへ行ったのを見た。

 

お?と思って見ていたら、見事にハモった。

 

「あんた達もクエストを?」

 

「そういう貴女も?」

 

「ポーゥ、新キャラ登場ダナ?」

 

「うわ、変な奴…」

 

「泣くぞ」

 

「心折れるの早ッ!?」

 

「お前に分かるか、この痛みが、苦しみが、憎しみが?俺の場を整えようという一心で放ったネタが無惨にも打ち返され、己の身に致命傷となった時の……辛さがッ」

 

「何か凄い血涙流しそうな顔で語られてるけど、それって単にネタに乗ってもらえなかったことへの八つ当たりよね!?」

 

「ぐほぁ!?」

 

「ず、ズェピアさん!」

 

俺は的確な少女の返しに崩れ落ちる。

間違いない……こいつ、出来るッ!!!

 

立ち上がり、ふっと笑いかける。

 

「な、何よ?」

 

「強き者よ、君の名前を聞かせてくれないか」

 

「つ、強き?……ふふん!そこまで言うなら仕方無いわね!アタシはラステイションの女神候補生 ユニよ!」

 

「「女神候補生!?」」

 

「え、何よ!?二人してそんな驚いて……?」

 

馬鹿な…メインが当たった!?

自信満々といった様子でユニと名乗る、黒髪ツインテールの少女は俺たちの驚きの声に驚く。

 

ネプギアは顔を輝かせてユニの手を取る。

 

「貴女がラステイションの女神候補生なんだよね!?」

 

「そ、そうよ?あんた達は何なのよ?」

 

「私はネプギア!プラネテューヌの女神候補生なの!」

 

「そんで、俺はズェピア・エルトナム・オベローンだ。長いから好きに呼べ」

 

「っ、プラネテューヌの、女神候補生……?(というか、名前長ッ……!)」

 

「私たち、ユニちゃんのこと探してたんだ!」

 

「アタシを、探してた…ですって……?」

 

「……(ん?)」

 

様子がおかしい。

ネプギアは興奮しているからか、分かってないが、ユニの顔にどんどんと影がさす。

 

「待て、ネプギア─」

 

「ユニちゃん、お願い!私たちと一緒にゲイムギョウ界を救おう!お姉ちゃん達を助けるためにも──」

 

 

 

 

「─ふざけないでよっ!!」

 

 

 

 

「えっ─?」

 

「……」

 

やっぱこうなったか。

様子がおかしいと思ったら……

 

ユニは叫び、ネプギアの手を強引に振りほどく。

 

顔を俯かせていたが、こちらを…正確には、ネプギアを睨むように顔をあげた。

 

「アンタが……アンタがプラネテューヌの女神候補生だっていうなら…!」

 

「ユニ、ちゃん?」

 

「アタシは、アンタを認めない!認められない!

ねえ、何でアンタなの!?何で、あの時連れて行ってもらえたのがアンタなのよ!……アタシなら、上手くやれた!お姉ちゃん達が捕まるような事はさせなかった!!」

 

怒りをぶつける。

そこに、周りの目なんて気にする余裕はない。

涙を浮かべながらも、困惑するネプギアにひたすら怒りをぶつける。

どうして自分じゃないのかと。

 

俺は、黙ってその会話を見ている。

 

俺に介入する隙なんて、そこにはない。

 

「確かに、私はあの時、何も出来なかったけど…でも、だからこそ、私は……!」

 

「黙ってよ…何もできなかったのは事実でしょ!?

アタシは、アンタと協力なんかしない!するもんですか……絶対に!!」

 

「あ……ユニちゃん!」

 

「やめておけ、ネプギア」

 

協力を拒否し、逃げるように走っていったユニを追いかけようとしたネプギアの腕を掴む。

 

「でも、ズェピアさん!」

 

「…ユニの言い分も分かる。そうだろ?」

 

「ッ、はい……ッ」

 

悔しそうに顔を歪ませ、俯かせるネプギアに俺は優しく頭を撫でる。

この子が悪い訳じゃない。ユニが悪いわけでもない。

間が悪かった。そうとしか言えない。

あ、じゃあグレートレッドが悪いで良いや

 

会話が聞こえていたであろうアイエフ達も終わるまで傍観していたのだろう。

こちらへと駆け寄ってきた。

 

「ネプギア、今お前が会いに行っても火に油を注ぐだけだ。だから、ここは俺に任しちゃくれないか?」

 

「ズェピアさんに…?」

 

「何、ちょっとああいうのを見てると放っておけないってやつでさ。まあ、俺の」

 

「自分勝手な考え、ですよね。…お願いして、良いんですか?」

 

「仲間だろ、適材適所って奴だ。それに、連絡手段はあるだろ?」

 

「そう、ですね……ズェピアさん、お願いします。

私たちは、ゲイムキャラさんの情報を集めます」

 

「おう。……って訳だ、二人とも、ネプギアのこと頼むな」

 

「勝手に話進めちゃって……でも、そうね。分担した方が早いでしょうし、頼むわ」

 

「ゲイムキャラさんは私たちに任せてくださいです!」

 

「頼もしい限りだ……マジェコンヌにも気を付けろよ。

出会う確率はそっちの方が高いだろうからな」

 

「分かってるわ、もしまた会ったら容赦しないんだから……!」

 

おおう、怖いなぁアイエフさん。

 

「さて、んじゃ、また!」

 

「はい!」

 

俺は走って外へと出た。

ゲイムキャラはあっちが上手くやってくれるだろうしな

 

こっちも頑張るゾイ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走って、走って、走った。

頑張って、ユニを追いかけた。

 

ぶっちゃけ、会話に時間かけすぎた。

 

でも、何も言わずに行くと怒られるからな。

 

幸い、ユニの足はそこまで速くなくて、追い付くことには成功した。

 

でもまさか、ベンチで座って落ち込んでるとは。

教会にいるかと思ってたが……

 

まあ、いい。

 

「よう、ユニ」

 

「えっ…?あ、あんたは…!」

 

「久し振りだなぁイーノック」

 

「誰がイーノックよ!?アタシはユニだって名乗ったしさっきあんたも名前呼んだでしょ!」

 

「ですよね」

 

「ですよねって……で、何の用?ネプギアを手伝えって言うならお断りよ」

 

「いやいや、単に鼻☆塩☆塩…話をしようと思ってな」

 

「何?あんたマトモに喋れないの?」

 

「そんな訳…………………………………………ないよ」

 

「今の間は何!?」

 

「うるせぇな、カボチャをテメェの頭に差し替えてやろうか!?」

 

「キレ方!?何そのあんパンの頭をしたヒーローみたいな感じの嫌がらせをされなきゃならないのよ!

あーもう!真面目に話をしなさいよ!」

 

ユニは苛立ちながら話をするなら真面目にしろと言ってきた。

何だよ……結構元気あるじゃねぇか……へっ

 

俺は隣に座る。

 

「……話って?」

 

「……お前があそこまでネプギアに怒りを向けた理由は聞かなくても分かる」

 

「分かるって…あんたに、何が分かるのよ!置いていかれて、帰ってこなかったのよ!?しかも、その時、一人だけ女神候補生が一緒に行ったって聞いたときは…!」

 

「悔しかったか?」

 

「っ、そうよ!アタシはなれなかったのに、あいつはなれた!でも、アイツは負けて、なのにアイツだけ助かった!ねえ、何でお姉ちゃんじゃなくてアイツなの!?

何でアイツじゃなくてアタシじゃなかったの…!?

何でよ……!」

 

俺に涙を流しながら言うユニを見て、何となく昔の自分が重なった。

同情、ではない。ただ、おかしくなる前に言いたいことがあった。

きっと、俺がやらなくても、俺がいなかったとしてもユニはネプギアと仲直りして仲間として戦うとは思う。

 

俺がやろうとしてるのは余計なことかもしれない。

 

でも、俺は自分勝手なんだ。

 

「お前は何でだと思う?」

 

「そんなの…」

 

「ネプギアがお前より優秀だった、か?」

 

「っ……」

 

「そんな事はないと思うぞ」

 

「じゃあ、何でなのよ!」

 

「じゃあ、俺からも一つ聞くが、どこが優秀だと思った?」

 

「え……」

 

「ネプギアの何処が優秀だと思ったんだ?」

 

「それ、は……」

 

「分からないわな、俺も分からん」

 

「…は?」

 

威圧的な声が隣でする。

まあ、分かるよ。

 

でもな、分からんもんだよ、これは。

 

「そもそもさ、焦りすぎだったんじゃないか」

 

「アタシが……?」

 

「そう、ユニ、お前は姉をどう思っていた?」

 

「突然何よ……お姉ちゃんは、完璧な人だったわ。

何をしても、そつなくこなして、ラステイションの人たちを愛していた。あの人は、誰よりも完璧だった」

 

「じゃあ、追い付かなきゃって焦りはあったか?」

 

「……無かったとは、言えない。完璧なお姉ちゃんの妹だから、私も強くなくちゃいけない。早く女神化して、追い付かなきゃいけないって思ってた…」

 

「だろ?」

 

「……でも、何で分かったのよ」

 

「経験がある、と言うべきか。俺にも家族がいたんだがな。その子、どんどん日を追う毎に衰弱って言うか…まあ、弱くなっていったんだ」

 

「……大切な人?」

 

「大切な人だな。きっと、あの時は何よりも手放したくなかったと思う。……だってのに、その子、死んじゃってさぁ…また会おうって約束取り付けて居なくなったんだわ」

 

「……そう」

 

昔話をする。

もう何百年前かすら覚えてない。

でも確かにあった話。

 

「それから、俺はやるべきと定めたことを一心不乱に走った。その時から…オーフィスって言うんだけどな?

その子がおかしくなりだしてさ。今思えば、ちゃんと時間を作ればよかったと思ってる」

 

「その子はどんな人なの?」

 

「家族だ」

 

「家族……」

 

「オーフィスはあの子が死んでから、失う事に対する意識が強くなったんだろうな。俺に狂気に近い優しさを向けてくるようになった」

 

平気な顔で、他人の体を貪る蛇を造りだし、渡し、骸にした。

それを笑顔で渡してくるのだ。

俺のためになると。

 

あの時はゾッとした。

教授がいなければどうなっていたか。

 

「それで、どうなったの?」

 

「凄い喧嘩してさ、仲直りしたんだ。でも、それまでずっと、俺はあの子の心に気づけなかった。あの子は俺に気づいてたのにな……だから─」

 

俺はユニをしっかりと見て、強い意思を込めて言う。

 

「─お前は俺のようにはなるな。焦りが全てを見えなくするんだ。お前には、まだ落ち着けるチャンスがある」

 

「落ち着ける、チャンス……?」

 

「走りすぎるなってことだ。一度、息を整えて、考えるんだ。あの時どうだったか、今をどうすべきかを」

 

「……」

 

「それが決まるまでは、俺が居てやるよ。といっても、ネプギア達がやること済ませたら戻っちゃうけどさ」

 

俯いて考えるユニに笑いかける。

自分から動かないと、真に成長はできない。

 

後は、少し支えてやるくらいしか出来ない。

お節介が過ぎるかもしれない。

でも、ユニの背中は昔の俺のようで、見ていられなかった。

姉に近づくために必死に頑張りすぎて、その結果に何を取り零したのかを分からないで破滅…なんて、嫌だし。

 

きっと、そうはならないんだろうけど、それでも俺は心配だったから。

 

「……一回、帰るわ」

 

「そうか」

 

「そうか、じゃないわよ。あんたも来るの!」

 

「…ああ、はい。なるほど」

 

「そうよ!あんたから言ったんだから…仕方無く居させてあげるわ!」

 

あ、はい。

でも、少しは気分が軽くなったようだ。

よかったよかった。

 

……というか、思えば、あの時の俺って相当な無茶したような。

いやでも、オーフィスに腕千切られたり、全身の骨砕かれたり、腹に腕ぶちこまれただけだしそうでもないか。

 

ツンデレかぁ……大丈夫かな、耐えられるかな、俺…

 

そうして俺は、ユニと共に教会へ向かった。

 

……ん?教会?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラステイション教会にやって来たけど…あー、うん。

どうなるんだ、俺。

 

「やあ、ユニ。今日は早く帰ってきたんだね」

 

「……ええ」

 

「あ、どうも」

 

「ああ、これはどうも。君はプラネテューヌの女神候補生と共にいた人かな?」

 

「なるほど、調査済みか?」

 

ユニの所まで来たのは中性的な顔立ちで、男か女かよく分からない人だった。

やけに親しいが、もしかしてとは思うが、多分合ってるかな。しかし、情報の早いことで

 

「目的まではまだ分からないけどね。僕はラステイションの教祖をしている、神宮司ケイ」

 

「俺はズェピア・エルトナム・オベローン。長いだろうから好きに呼べ」

 

「じゃあ、ズェピアと呼ばせてもらうよ。それで、君はプラネテューヌの女神候補生と一緒にいないのは何故かな?」

 

「まあ、成り行きって奴さ。何となく、ついてきただけだから、お気になさらず。ユニからの許可は得てる」

 

「ふむ、そうか。別に拒む理由もないし、構わないけどね。それで、君たちがラステイションに足を運んだのは何故か聞いても?」

 

「ああ」

 

それから俺は一通り話した。

ケイはそれを聞いて、なるほどね、と言った。

 

「プラネテューヌはそうすることを選んだか…」

 

「そういうことだな。それで、どうだ?ラステイションのゲイムキャラの情報、教えちゃくれねぇか?」

 

「教えても良いが…君はこの情報に『価値』をつけるとしたらどうする?」

 

……そういう手合いか。だからユニも俺を連れてきたのか?

だが、そうさな。

これは不利だな。

元より情報を提供される側だしな。

 

まあ、とりあえずは

 

「そちらが集めてほしい物とかを集めよう。この労働とその労働によって手に入れた物、それでどうだ?」

 

「…なるほど、君はいい交渉の相手になってくれそうだ」

 

「そりゃどうも。交渉成立だな」

 

「ああ、君たちがこちらの提示する素材を持ってきてくれれば情報を渡そう。さて、欲しい素材だが…『血晶』と『宝玉』だ」

 

「『血晶』、『宝玉』ね……OK、時間は多少かかるが手にいれることは約束しよう」

 

俺とケイは不敵に笑いながら握手をする。

食えないやつだ。

恐らく、この二つはレア素材の類い。

なぜ欲しいかは分からないが、何かの開発に使うんだろうな。

 

だが、まあいい。

それはラステイションの問題だ。

俺たちは情報が手にはいればそれでよし。

 

「まあ、それはそれとして教会の一室を貸そう」

 

「ありがたい」

 

「ああ……後は、ユニも同行させて構わないよ」

 

「マジか?」

 

「えっ?ケイ!ちょっと!」

 

「良いじゃないか、いい経験になると思うよ」

 

「……もうっ!分かったわよ!ズェピア、行くわよ!」

 

「はいはい」

 

ユニは怒ってそのまま出ていってしまった。

一度帰ると言ったらこれだもんな。

体を動かすついでにモンスター退治か。

 

ま、それで『血晶』か『宝玉』が手にはいればいいがな。

 

そうして、俺も出ようとしたその時だった

 

「ユニを頼むよ」

 

「……任せとけ」

 

意外と普通に心配なのかと思った。

だが、任せてもらおう。

ズェピアさんがいれば、解決さ

 

その後、ネプギアたちに連絡したら、感謝の言葉と、無理しないでくださいという言葉をいただいた。

『血晶』はこちらが、『宝玉』はネプギア達が担当することになった。

分担って、大事。

 

何やかんやで和解できるといいなと思いつつ、俺はユニとモンスターを倒しに出掛けた。

 

でもさ、これってモンハンのマラソンに似てない?




ユニちゃんが若干弱気ですが、すぐに強気に戻ると思うのでズェピアパパの活躍を見ながらお待ちください。

あ、感想待ってます


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監督気取り、黒の女神と共に

やあ、皆。

俺だ、ワラキーだ。

 

現在、俺はセプテントリゾートへと来ております。

 

「何ボサッとしてるのよ」

 

「ここにあるのかなぁって」

 

「さあね。クエストついでに来ただけなんだから、知らないわよ」

 

「へえ、なるほど」

 

クエスト周るついでに集められればいいという効率思考ですな?分かりますよ。

俺もそれやってたから

 

「ユニはそのライフルが武器か」

 

「ええ、そうよ。あんたは?」

 

「これですね」

 

「ガントレット…拳ね。それなら、前衛後衛がはっきりしててやりやすいわ」

 

「だろう?俺たちは無敵のコンビだぜぇ~旦那~」

 

「旦那じゃないわよ!そんな事より、あんた戦えるんでしょうね?」

 

「勿論、吸血鬼ですよ?パーフェクトに戦ってやるぜぇ」

 

「はあ?吸血鬼って……馬鹿じゃないの?第一、吸血鬼なら太陽に当たったら死ぬじゃない」

 

「ごもっともっちゃごもっともなんだけど…特別な吸血鬼はいるから」

 

「…妄想?」

 

「酷い!ユニは俺を信じられないのか!?」

 

「いや、普通に考えていきなり吸血鬼とか言われても信じないでしょ」

 

「だな。じゃあ頑張るか」

 

「開き直んな!」

 

「ぐはぁ!?」

 

ら、ライフルで殴ってくるとは思わなかった……

しかも、背中だし……!

 

さ、さて……おう、痛い……ここらのモンスターを倒す事が最優先なのだ。

ネプギアたちは多分、別のダンジョンだろうし、会うことはない。寂しいんだよなぁ……

 

ぶっちゃけ、死徒化すればモンスターなんてすぐに倒せるけど、最悪を想定しておいて、この体でも動けるようにしないと。テイルズシリーズのジュード君並には動けるようにしないと!

 

無理だ!

 

「さて…頑張るか」

 

「足引っ張らないでよね」

 

「足引っ張ってだって?」

 

「引っ張るなって言ったのよ!」

 

「元気だなぁお前」

 

「こ、こいつ……!」

 

「あ、モンスターだ!」

 

「モンスターって……ドルフィンじゃない!」

 

「イルカすら殺すのか、最近のゲイムギョウ界は…」

 

「ボケてる場合じゃないわ!あれは危険種よ!」

 

「危険種って…イルカがですか?」

 

あの見た目がですか……?

いやどうみても……あ、正面向いた。

うわ、凶暴な面してる。

 

「危険種な顔してますね」

 

「あんた、余裕そうね?」

 

呆れたように見てくるのはあれですか、振りですか。

まあ、銃使う人はあれだもんな、結構掛け合いとか好きだもんな。

 

「お前がいるからな」

 

「は、はぁ!?」

 

「──!」

 

「おい、突っ込んできたぞ」

 

「あんたが騒ぐからでしょ!」

 

「お互い様ってことで一つ」

 

まあ向かってくるなら殴ってやる。

ワラキーの力が無くてもやれるところ見せてやるぜ。

 

「ともかく、前衛後衛、はっきりしててやりやすいんだろ?狙い撃ってくれよな、ユニさんよ!」

 

俺は構え、突っ込んでくるドルフィンにアッパーをかます。

フゥ!当たった、固い!

 

あまりダメージはないのか、ドルフィンは顔を振って近くの俺を攻撃しに来る。

 

しかし、銃声と共に、ドルフィンは怯んだ。

 

「あんたに言われなくても…アタシは女神候補生よ!

こんな奴に遅れを取るわけないのよ!」

 

「…頼もしいじゃないか!」

 

自信ある態度に違わぬ狙いの澄まされた一撃に頼もしさを感じた。

 

怯んだ隙を逃す事はない。

俺はそのまま、ドルフィンの顔面を殴る、蹴る、時には叩く。

 

いやあ、あれです、吸血鬼の筋力ってこういう時便利。

殴ったときの痛みとか感じないもの。

 

まあでも、流石にやられてばかりでないのは危険種といったところ。

じたばたと暴れて俺は離れざるを得ない。

 

ワラキー時のラッシュなら倒せるだろうが、今の俺ならダメージはそこまで高くはないか。

 

俺よりもユニが厄介と思ったのか、ユニへと突撃する。

 

「ちょっと、私を放っておかないでよ~アナタ~!」

 

「──!!」

 

「キモッ!」

 

そのまま通すはずないけど。

通り過ぎようとしたドルフィンにドロップキックで横に吹っ飛ばし、ユニが罵倒と共にライフルから何発も弾丸を放ち、全弾命中。ビューティフォー……

 

ドルフィンさんもこれは致命傷だったのか、消え去った。

 

危険種……哀れなり。

 

「泣くぞ!」

 

「泣けッ!」

 

「ああんひどぅい……」

 

「ハァ……お疲れ様」

 

「!ああ、お疲れ、ユニ。ナイスショットだった」

 

「あんなの、出来て当然よ」

 

「またまた~照れちゃって」

 

「はぁ!?照れてないっての!いいから、このままクエスト終わらせるわよ!」

 

「はいはい……素直じゃねぇなぁ」

 

「何か言った?」

 

「なーんも」

 

「ふん!」

 

そのまま、一人先へ進んでしまうユニにこのまましっかりと立ち直れればいいと思いながらついていく。

 

この後、クエストは無事完遂したが『血晶』は手に入らなかった。

これは強敵ですね……

多分、他の場所にいるか、それとも…まだ倒してないモンスターがいるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらズェピア、応答頼む」

 

『はい、ネプギアです!体は大丈夫ですか?』

 

Nギア、というこの世界の携帯をネプギアから渡された俺は現状の確認をしたく、ネプギアに連絡をいれる。

ネプギアはすぐに連絡に応じてくれ、体の心配をされて苦笑する。

 

「今のところ快調だな。そっちの調子はどうだ?」

 

『まだ『宝玉』は手に入ってませんが、ある場所を知ってる人には会えました!』

 

「へえ、そうなのか?俺の方はまだまだだけどな…どんな人だったんだ?」

 

『はい!ファルコムさんって人なんですけど……』

 

それから、色々聞いたが、そのファルコムという冒険者からバーチャフォレスト最奥部で見たとのことでこれから向かうらしい。

 

あちらは順調らしく、こちらも嬉しくなる。

というより、その事を楽しそうに話すネプギアに自然と笑みが浮かぶ。

 

出会い話を楽しく話してくれるなら、それはいい縁となることだろう。

事実、良いことがあったんだから、間違いない。

 

『あ、すいません…そっちも忙しいのに、話し込んじゃいました』

 

「いや、いいよ。…良い出会いだったんだな」

 

『はい!』

 

「ハハハ、なら、その縁を大事にな」

 

『はい。ズェピアさんの方も頑張ってくださいね!』

 

「おう、頑張るよ」

 

『じゃあ、また後で!』

 

「ああ」

 

そうして、通信を切って空を見る。

晴れている空は綺麗で、何となく、心が洗われる。

 

……あっちは、どうなってるんだろうか。

 

「心配だ……」

 

主に、オーフィスが。

何かやらかしちゃってないか。

 

「何が心配なのよ」

 

「ん、ああ…終わったか?」

 

空を見るのをやめてギルドから戻ってきて話しかけてきたユニの方を見る。

ユニにはネプギア達と連絡を取りたいと言ったら『好きにしたら?アタシはクエストの報告するから』と言われたので報告を任せて連絡を取っていたのだ。

ユニには悪いことをした。

 

「ええ。それで、連絡はもういいの?」

 

「ああ、あっちは順調、だそうだ。俺たちも先越されないように頑張らないと」

 

「そんなの、当然でしょ。…あんたはネプギア達といないで寂しくないの?」

 

「寂しくないといえば嘘になるな」

 

「……そう」

 

明らかに暗い顔をするユニに苦笑する。

 

「別にお前と居たくない訳じゃないぞ?」

 

「そんな事聞いてないわよ!」

 

「じゃあ、俺が居たいってことでいいよ」

 

「あ、あんたまたそういうこと言って……!…もういいわ、それで何が心配なの?ネプギア?」

 

「それもあるが……ああ、ユニには話してなかったな?俺って実はゲイムギョウ界出身じゃないんだ」

 

「うわ……あんたそこまで妄想が現実と混同してたの?」

 

「お前なぁ…」

 

ドン引きしているユニに確かに突然こんな事言ったらそう思うかもしれないがとは思う。

でも、事実だし。

 

納得してもらえるように、尚且つ、色々省いて座りながら説明した。

 

まあ、まだ信じられない感じだが……

 

「信じてもらえねぇかなぁ……」

 

「あまりにもぶっ飛び過ぎてて普通信じないわよ」

 

「まあ、俺もそうは思うけどさぁ」

 

「……でも、話が本当なら家族が待ってるのよね?」

 

「まあ……信じてくれるのか!?」

 

「半々よ。あんたがそんな龍と戦ってたなんて信憑性ないし……姿も今とは違うとか」

 

「グレートレッドのことは仕方ないが、姿云々なら証明できるが」

 

「ふーん…」

 

「興味無さげだなぁ…」

 

「そういう訳じゃないわ。でも…聞きたいことがあるのよ」

 

「聞きたいこと?」

 

何だろうか。

一通り話した筈だが……?

 

「あんた、何でそんな平然としているの?」

 

「何でって?」

 

「家族を置いて、この世界に来ちゃったんでしょ?

なのに、そうして飄々として…なんでそうしていられるのよ」

 

そう聞かれて、何となく、考える。

俺としては、暗い雰囲気が苦手だからこうしているだけで真面目でいるつもりだが。

でも、ユニはそれが納得できないとの事。

 

……まあ、分かる。

実際にあっちの事が心配で仕方がないところはある。

 

「心配だよ」

 

「だったら、何でよ?焦らないの?自分が居ない間に何かあったらどうしようとか、思わないわけ?」

 

「思わないかな」

 

「ッ、何で!?」

 

「家族だから」

 

「…何よ、それ。どういうことよ」

 

「家族だから、心配しない。俺がしばらく居なくとも皆大丈夫だよ。そんな柔な奴等じゃない。そりゃ、一時期拗らせてたけど…仲直りしたし、約束もした。

それだけで、俺たちは十分だよ」

 

俺たちの紡いだ物語は、絆は、少し離れた程度で裂けるものじゃない。

だって、俺の家族は皆優しいから。

 

優しさで世界を壊そうとした龍神。

優しさで一歩引いた視線で支えてきた混沌。

優しさで皆を繋いでくれた人間。

 

そんな、優しさで満ちた家族だ。

 

「だから、ちょっとの心配だけで良い。

俺は、必ず帰るんだから」

 

「…変な奴」

 

「ええ?今の真面目に答えたじゃないか」

 

複雑な表情をしたユニに変呼ばわりされた。

何でさ、俺真面目でしたよ。

酷いや酷いや

 

「だって、いつもはふざけた態度なのに、こういう時だけそんな態度で……でも、根底には家族への信頼がいっぱいで……羨ましいわ」

 

辛そうに笑ってそんな事を言うユニに、何となくだがさせたかった顔じゃないなと思った。

気がついたら、俺の手はユニの頭に置かれていた。

 

「何よ突然……?」

 

「ユニなら出来ると思うぞ」

 

「私にも…出来る?」

 

「家族を信じて、頑張る位出来るさ。俺が保証する」

 

「出来るかな、アタシに。今まで、完璧なお姉ちゃんに追い付けなくて、怖くなってたアタシに」

 

不安そうなユニにもう少しエールを送ろうと思い、頭を撫でながら笑って

 

「出来る出来る絶対できる!頑張れ頑張れやれるって!もっと熱くなれよ!」

 

「最後まで真面目な態度維持しなさいよ!」

 

「おうふっ!?」

 

頭を叩かれた。

痛い。

ひょっとしたらアイエフとタメを張れるかもしれぬ。

逸材だな……

 

「でも……」

 

「ん?」

 

「ありがと」

 

「…おう!」

 

今度はしっかりと笑顔でお礼を言ってきた。

よし、成功……でいいのかな。

 

絆が深まった。そんな気がした。

 

「よし、じゃあ『血晶』探しに行こうぜ」

 

「そうね、とっとと見付けるわよ!」

 

「手当たり次第にやってく感じになるけどな」

 

「うっさい」

 

「はい」

 

「セプテントリゾートはまた後で行くとして、他の場所行くわよ!」

 

「おk」

 

仕方ねぇ、他の場所に行ってやるぜ。

でも、今日行ける範囲か……まあ、地理はユニの方が詳しいし、任せよう。

 

そんで、次はどうやらリピートリゾートに行くらしい。

わぁ、海だぁ。ズェピア海大好き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で、海だ。リピートリゾートだ!

何て言いにくい名前なんだ!

 

「おっし、程々に探索するぞ」

 

「さっきと同じで、前衛は任せるわよ」

 

「任せろ」

 

「よし、じゃあ……あれ?」

 

ユニが何か見つけたようだ。

俺もそちらを見る

 

そこにいたのは……

 

「何でまたここに来なきゃならねぇんだ……ゲイムキャラとか何処にいんだよ…結局見つからねぇじゃねぇか!」

 

あ、あいつは……

 

マジェコンヌの……り、り……下っ端!

ええい、ここでも邪魔をするか!

邪魔はさせんぞぉぉ!!

 

「おいコラァ!下っ端ぁ!!」

 

「うおぉ!?誰が下っ端だ!って、て、テメェは!?」

 

「何?知り合い?」

 

「知り合い……でいいのかな…とにかく、アイツは犯罪組織マジェコンヌの…り……下っ端だ!」

 

「リンダだよ!テメェ、ふざけんなこの野郎!?

一度名乗ったのに忘れんじゃねぇ!」

 

「良いじゃん別に!」

 

「良くねぇ!人の名前は覚えろよ!」

 

下っ端、リンダがそれっぽい事言ってくる。

くそ、下っ端の癖にマトモな発言すんじゃねぇ!

 

「マジェコンヌ…なら、逃がすわけにはいかないわね」

 

「気を付けろ、何してくるか分かったもんじゃない」

 

「ガキ一人は良いとして、あの男相手かよ……!」

 

「ガキだってさ」

 

「は?……頭きた!後悔させてやるわ!」

 

(チョロい)

 

悪態をつきながら刀を構えるリンダの言葉をユニに伝えると、イラッと来たのかユニは後悔させてやる宣言。

 

そして、ユニを中心に光が集まる。

 

め、女神化ですか?

オーバーキルぅ……

 

女神化したユニは、黒かった髪の色は白くそまり、顔の横でくるくると巻かれている。

ネプギアと違い、黒いプロセッサであり露出も多い。

 

武器も、ライフルというより……うーん。

ユニよりもデカい銃でこれだ撃たれるのかと思うと可哀想だ。

 

「アタシたちがあんたを倒す!」

 

「なっ、女神候補生だなんて、聞いてねぇぞ!」

 

「言ってないし」

 

「くそ……使わざるを得ない状況ってか……!」

 

リンダは二枚のディスク……内一枚は赤いオーラを放っている。

それを投げる。

ディスクより現れたのは……

 

「フェンリルと……何よアイツ?」

 

「おいおい……こっちの世界のフェンリルかよ…」

 

「二体とも、頼んだぞ!あばよ!」

 

ゲイムギョウ界のフェンリルとハイスクールD×D世界のフェンリルだった。

神殺しの牙か、女神ならば相性は最悪だろう。

 

リンダは二体に任せて逃げ出す。

俺たちは当然、追おうとはするが二体に阻まれて逃がしてしまった。

 

「あんたの世界のフェンリルって……」

 

「ああ、気を付けろ。強いぞ……もっとも…ユニにはその牙が当たるとは思うなよ、犬が」

 

─おい、やるぞ

 

『構わぬとも。だが、気を付けろ。フェンリルは素早いからね。弾丸が当たるとは思わないことだ』

 

─分かってるよ

 

俺は魔力を大量に消費する。

緊急用にあと一回だけ変身出来るようにリソースを残し、残りを全部使う。

 

「ユニ、お前も女神化出来るように、俺も変身できるのさ」

 

「変身って、まさか!?」

 

「そのまさかだ─」

 

 

「─『死徒化(変身)』!」

 

ノイズが俺を覆う。

姿が、変わる。

 

ノイズが晴れれば、いつもの、俺!

 

呆然とそれを見ていたユニだが、すぐに勝ち気な笑みに戻る。

 

「本当だったのね、あの話。…じゃあ、行くわよ!」

 

「ああ、開幕といこう!」

 

「グルル……!」

 

「──!!」

 

二体の大狼、ここで狩らせてもらう。

 

……にしても、こっちに来てからこの姿でも力下がってんのは、仕方無いのかな。仕様が違うもんな。

 




ネプテューヌ世界のワラキアの夜状態とハイスクールD×D世界のワラキアの夜状態だと大きく差があります。
仕様です。

ポケモンでいうとLv100からLv40位にまで下がってます

感想、待ってます


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監督気取り、倒れる

あー…筆が進むぜ!

今回はユニ視点もあります


女神化したユニと死徒化した俺。

対する相手はこの世界のフェンリルと俺の世界のフェンリル。

これからはネプテューヌ世界のをNフェンリル、ハイスクール世界のをHフェンリルとしよう。

北欧の獣をコピーしたのか……だが、何のつもりだ、グレートレッドの奴……

 

まるで俺を試しているように小出しにしている。

 

フェンリルとサマエルを同時に出せば俺でも苦戦はしたのに一体ずつ。

 

……どういうことなんだ。

 

「ガァゥ!!」

 

「おっと、危ない、カット!」

 

「ギャゥ!?」

 

流石の素早さで俺を爪で引き裂きに来るHフェンリルに、危なげなくヒラリとかわし、手首を上にくいっとあげる。

 

すると、俺の手より巨大な黒い爪がHフェンリルを切り裂く。

だが、浅い。

 

爪痕を残すに留まり、Hフェンリルは警戒して後ろに下がる。

交代とばかりに後ろにNフェンリルが巨体でのし掛かりに来る。

 

「させるわけないでしょうが!」

 

「──!!」

 

「ナイスアシストだ!」

 

ユニがNフェンリルに巨大な銃から発射されたレーザーで撃つ。

だが、こちらも危険種だ。

貫通はしてないが効いている。

 

「ふん、当然よ!」

 

「そうかね?」

 

「ガァ!」「──!」

 

二体とも息を合わせたかのように俺とユニを挟み込み、Nが爪で俺を、Hが牙を使いユニを攻撃してくる。

 

「ユニ、合わせたまえ!」

 

「ええ、狙い撃つわ!」

 

ユニの肩に触れてNとHの真横へと転移。

エーテライトで二体の前肢を縛る。

縛った頃にはユニが持つ巨大な銃…後に教えてもらったがクロスマルチブラスターというらしい。以降はXMBと略す。

XMBのチャージが終わったようだ。

 

「ぶち抜けぇぇぇぇ!」

 

ユニの叫びに呼応するようにXMBから極太のビームが発射される。

 

XMBのビームは二体を飲み込み、水平線の向こうまで向かっていった。

 

うわぁ……

 

ビームが消えた時には、Nフェンリルの姿は消え去っているが、Hフェンリルはボロボロになりながらも立ち、俺たちを睨み付けている。

 

が、それも力尽き、倒れることで出来なくなる。

そして、Hフェンリルは赤い粒子となって消えていった

 

「…終わったわね」

 

「ああ、私たちの勝利だ」

 

「それにしても……」

 

ユニが急に俺の周りを歩いてジロジロと見る。

え、なに?モデルショーかなにか?

 

「あんた、変わりすぎじゃない?」

 

「そうかね?どちらかと言うとこちらの姿の方が長いのだが」

 

「違和感しかないわ……」

 

「似たようなことを言われたな。それよりも、ユニ」

 

「何?」

 

「お疲れさま、君との共演はよき物だった」

 

手を差し出す。

ユニはキョトンとしていたがそれも一瞬で、握手に応じる。

 

「悪くはなかったわ」

 

「素直じゃないな君は」

 

「ふん!」

 

顔をぷいと横へ向けるユニに苦笑する。

 

「……む、時間か」

 

「え?」

 

俺にノイズがかかり、元の姿へと戻ってしまう。

 

「うおっ───!?」

 

「きゃっ───!?」

 

すると、どっと疲労感が襲い掛かってきた。

予期せぬ疲労感に、体が前に倒れてしまう。

 

当然、ユニにぶつかってしまう訳で。

 

「わ、悪いユニ…体が急に重くなって……」

 

「い、いい、いいから退きなさいよ!」

 

「ごふぅ!?」

 

ユニのパンチが顔面にクリティカルヒットし、俺は吹っ飛んだ。

 

まあ、これはされても仕方無い。

ユニもまた女神化を解除し、元の黒髪に戻った。

そして、顔を赤くしてこちらへと歩いてやってくる。

 

「急に倒れないでよ!変態!」

 

「すまん…今のは俺が悪かった」

 

「……ほら、立ちなさいよ」

 

座り込む俺にユニが手を差し伸べる。

 

俺はそれにありがとうと言って手を握り、立ち上がる。

……でも、ヤバイな、ここまでくるか。

 

「別に、あんたがここで座り込んでモンスターの餌になったら女神候補生として気が引けただけよ」

 

「そっか……」

 

「ちょっとあんた、フラフラじゃないの…大丈夫?」

 

「どうやら、『死徒化』して動くとそれなりの反動が来るらしい…」

 

眠気というか、体が重い。

ワラキアの夜の姿の負担、こんなにヤバイのか……

 

『当たり前だろう?君のその姿のスペックとあの姿のスペックでは差がありすぎるからね』

 

─分かっててやりやがったなこいつ……

 

『君は口で説明するより実際に分からせないといけないタイプだからね』

 

─ぐっ、その通りだから何も言えない

 

ユニに体を支えてもらい、何とか立てているが……

 

「とにかく、教会に帰るわよ。早く帰って休みなさいよね」

 

「ああ、悪い、苦労かける…」

 

「しっかりしなさいよ。あんたがその調子じゃ何だかやりにくいのよ」

 

「まだ知り合って一日だってのに、優しいな」

 

「感謝しなさいよね、アタシが優しくするなんて滅多に無いんだから」

 

「そうだな……ありがとう、ユニ。助かるよ」

 

「……ふん、元気になってから言いなさいよ」

 

「手厳しい…」

 

そうして、ユニの肩を借りながら俺たちはラステイション教会まで戻っていった。

こうなると弱いな、俺。情けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラステイション教会まで戻ってきた俺は、宛がわれた部屋にまでユニの肩を借りながら入った。

 

「よいしょっと……あー疲れたわ……」

 

「悪い、ここまで疲労感が来るとは思ってなかった…」

 

ベッドに座らされて、ユニは伸びをする。

悪いことしてしまった、今度お詫びをしないと…

 

「だからいいって。早く寝ちゃいなさいよ」

 

「……ああ、そうするよ」

 

「全く…明日、動けそうなら見つけるわよ」

 

「そう、だな。頑張ろう」

 

ユニはそう言って部屋から出ていった。

出ていったあと、俺はベッドに横になる。

自分からケイに提案したくせにこの様だ。

何が死徒だって話だ。

人に御高説垂れといてこの様…悔しいなぁ

 

ああ……何だか、眠気が…凄く……

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

出ていった後の部屋の扉をもう一度開ける。

こっそりと入る。

ベッドからは規則正しい寝息が聞こえる。

 

どうやら、アタシが出ていった後、すぐに寝たらしい。

 

「……寝顔は可愛いわね」

 

何となく、ポツリと呟く。

 

目の前で寝ている男の寝顔を見て、苦笑する。

全く、人が苦労して運んだのに呑気な寝顔して。

 

「……ズェピア・エルトナム、か」

 

最初の出会いはラステイションのギルドだった。

あの時、まだネプギアがプラネテューヌの女神候補生と知らずに居たからアタシは普通に接していた。

何でこんな小さい女の子がとも思った。

 

ズェピアに対する第一印象は、頭おかしい奴だった。

 

今思うとそれも取り繕ってるだけなのかもしれないけど。

 

ネプギアが女神候補生と分かってから、アタシは感情を抑えきれなかった。

何で戻ってきたのがお姉ちゃんじゃなくてネプギアなのか、とか何で女神化出来たのがあんただったの、とか。

 

酷いことを言ったとは思う。

 

でも、それを言ってしまうくらいアタシにとって女神たちの敗北は衝撃的なモノだった。

何をしても完璧にこなしてきたお姉ちゃんが負けるなんて思ってもいなかった。

 

ケイから聞かされたときは、茫然自失としていたと思う

 

それからはずっと自分を追い詰めるようにクエストに行ってシェア回復に努めた。

 

女神化が出来た時も、嬉しさが込み上げてこなかった。

 

『どうして、今なのよ……!!』

 

痛いくらいに手を握りしめていた。

どうして、あの時じゃなくて今なのかと。

 

自分は所詮、出来損ないなのかと。

何をしてもお姉ちゃんに一歩どころか三歩も遅れるアタシじゃ、救えないのかと悔やんでいた。

 

お姉ちゃんという存在が憧れであると同時に強いコンプレックスを抱いていた。

完璧に近づける訳がないと。

 

姉に張り付く妹でしかないと。

 

…ネプギアに散々なことを言った後、アタシはギルドから逃げるように走り去った。

女神たちを、ゲイムギョウ界を救うと決意のある目で言われたときに、アタシの心は限界だった。

 

あの目を見ていると自分が惨めに思えて仕方なかった。

 

だから逃げ出した。

 

……逃げ出したのに。

 

一人だけ追ってきた馬鹿がいた。

それが今ベッドで寝ている男、ズェピアだった。

 

ズェピアはボケをかましてきて、それにツッコミをいれるという構図が自然と出来上がった。

でも、真面目に話始めると印象は崩れた。

 

怒りを向ける理由は分かると言われた時は、我慢できなかった。

会って間もない男に理解されてたまるかと怒鳴り、自分の劣等感を吐き出してる途中で、さらに口を挟んできた。

悔しかったのかと言われ、図星だった。

 

悔しかった。

凄い悔しかった!

何でアタシじゃないのと、何で何でと泣きながら叫んだ

 

吐き出さないと、何かが崩れそうだった。

 

だけど、アイツはもう一歩アタシの心に踏み込んできた。

 

『お前は何でだと思う?』

 

その問いに、答えようと思ったが喉に詰まった。

 

アイツは確信めいた顔で

 

『ネプギアがお前より優秀だった、か?』

 

怖くなってきた。

自分の心を見透かすような目が。

 

でも、アイツは退くことはなかった。

アタシの怯える目を見ていたはずなのに。

 

そうは思わないとアイツは言った。

何処が優秀だと思ったとも聞いてきた。

 

また答えられなかった。

 

けれど、頬を掻きながらアイツも俺も分からないと言った。

何なんだろう、こいつは。

 

『そもそもさ、焦りすぎだったんじゃないか』

 

焦りすぎ。

そうなのかもしれない。

 

それから、アイツはアタシに質問を混ぜながら真面目にアタシの心と触れ合ってきた。

心地よくなってきてたと思う。

 

何でそこまで分かるのかを聞いた。

それで、いつの間にかアイツはアタシに自分の過去を話し出した。

 

それは家族との話。

もう一緒にいれなくなった人との話や、他にも一緒にいた家族の話。

喧嘩もした、でも仲直りもした。

 

そんな話を聞かされた。

ずっと走り続けて、失敗したこともあったと言うアイツに、大変な事があったんだろうと思った。

 

そうして、アイツはアタシに

 

『─お前は俺のようにはなるな。焦りが全てを見えなくするんだ。お前には、まだ落ち着けるチャンスがある』

 

『走りすぎるなってことだ。一度、息を整えて、考えるんだ。あの時どうだったか、今をどうすべきかを』

 

『それが決まるまでは、俺が居てやるよ。といっても、ネプギア達がやること済ませたら戻っちゃうけどさ』

 

そう言うアイツに……彼は何だか泣きそうだった。

焦っては何も見えなくなる。

 

そう言われて、心が軽くなった気がする。

 

それから、教会に一緒に帰って、ケイと交渉する彼に顔に出さないよう驚いたり、クエストに一緒にいったりした。

 

その中で、気になったことがあった。

 

彼にも待っている家族がいる。

別世界から来たとか言ってるが、それはまだ分からない。でも、信じてもいいとは思う。

 

なら、尚更焦らないのは何故か分からなかった。

 

アタシならお姉ちゃんの元に帰ろうと必死になる。

 

なのに、彼は大丈夫と言った。

 

何故だと問い詰めれば家族の絆は柔じゃないと言ってきた。

ずっと過ごしてきた家族の絆。

それを信じて、何も起こるわけがないと断言した。

 

『だから、ちょっとの心配だけで良い。

俺は、必ず帰るんだから』

 

迷いのあるアタシとは違う。

そう思った。覚悟の差を感じた。

信頼の差を感じた。

 

アタシはお姉ちゃんにそこまでの信頼を寄せられていたのかな。

 

羨ましいと言ったら、アタシにも出来ると言ってきた。

 

ベッドで寝る彼を見ながら、自分の頭に触れる。

 

撫でながら、出来ると断言した彼が眩しく見えた。

 

「…だから、あんたが弱ってるのを見ると、嫌なのよ」

 

リピートリゾートで見た『死徒化』。

姿も声も強さも全然違う。

 

でも、優しさは彼だった。

 

だから安心して背中を預けられた。

連携ができたときは嬉しかったと思う。

 

その後、フラフラになって弱った彼を見たときは心が痛かった。

 

で、でも、倒れこんできた事はまだ許してないんだから

 

ベッドの端に座って、彼の手を握ってみる。

 

「…暖かい」

 

…たった一日でここまで惹かれるなんて思わなかったけど、悪くはないかなって思う。

不思議な男。

 

だから、早く元気になってよね。

元気じゃないと調子狂うじゃない。

 

早く、見付けなきゃね。

ネプギアよりも早く見つかったら、アタシたち二人の方が凄いって事じゃない。

 

明日は活躍してやるんだから。

 

ふふん、見返してやるんだから。

ネプギアも、あんたも。

 

自分でも驚くくらい優しい笑みを浮かべた後、部屋を出ていく。

 

「─おやすみなさい、ズェピア」

 

聞こえてないだろう彼に、そっと言ってから。




この男、たった一日でこれだけの好感度を獲得してやがる……

感想待ってます。


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監督気取り、揃える

体が気だるい。

起きてまず感じたのはそれだった。

 

しかし、その気だるさに負けてはダメ。

俺はベッドから起きて、背伸びをする。

…っはー、今日もいい天気☆

 

…さて、やあ、皆。

俺だ、ワラキーだ。

 

昨日はみっともないところを見せてしまった。

 

まさか死徒化にあんなデメリットがあったとは……

でも、この姿が強くなればそのデメリットも多少軽減されると見た。

 

『その通りだね。まあ、そもそもの差が……』

 

─だまらっしゃい

 

ともかく、頑張らないと。

 

「今日も元気に頑張るゾイ」

 

そんな事喋ってたら扉が開いた。

親父ぃ、なんだぁ……?

 

ユニが入ってきて、起きている俺を見た瞬間に

 

「うわ、起きてる」

 

なんて言ってきた。

起きちゃ悪いかこのやろう。

 

「ユニか。というか、うわって言うな」

 

「ふん!……それで?もう大丈夫なの?」

 

「ああ。心配かけたな」

 

「別に……心配なんてしてないわよ」

 

ツンとした態度だが、優しさを隠しきれない少女に笑ってしまう。

 

「はいはい。……そんで、今日こそは『血晶』を見つけたいな」

 

「ああ、それなら良いお知らせよ」

 

「えっ?」

 

「あんたが寝た後、少しだけ街で聞き込みしてたのよ。夜でもなかったし、暇だったからね。

そしたら、セプテントリゾートのテコンキャットが持ってるらしいわ」

 

「テコンキャット……ていうか、セプテントリゾートかよ」

 

「まあ、テコンキャットはあの時見つからなかったしね」

 

「だな……よし、さっさと見つけちゃおうぜ!」

 

「そうね……と言いたいけど。シャワーと朝ご飯食べちゃって」

 

「あ、はい」

 

そうだった。

昨日はすぐに寝てしまったから飯はおろかシャワーすら浴びてない……!

 

俺は急いでシャワーを浴びることにした。

というか、腹へったことにすら気付いてない俺に呆れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたぁ!」

 

「ホントね。ほら早く、セプテントリゾートに行くわよ!」

 

「おう。…にしても、手伝ってくれてるだけなのにここまでしてくれるなんて、悪いな」

 

「……別に、あんたを手伝ってるんじゃないわ。ラステイションの為にもなるから手伝ってるのよ」

 

「そうなのか」

 

「ケイが素材を要求してきたってことはそういうことなのよ」

 

「へぇ…」

 

まあ、分かってはいたけど……利用されるのってあんまりいい気分にはならないな、やっぱり。

 

利用って聞くと蜥蜴野郎を思い出してムカついてきた。

 

ケイはあのくそ蜥蜴とは違うからいいけどもね。

 

朝ご飯は、美味しかったです。

でも、出来れば俺が作りたいです。

腕が鈍る。

 

でも、私情は後。さっさと見つけねぇと!

 

俺たちはセプテントリゾートのテコンキャットを倒して『血晶』を取りに行くのだった。

 

「ところで、朝食はユニが?」

 

「そ、そうよ、悪い!?」

 

「いや、美味かった」

 

「そ、そう……よし!

 

「どうした?」

 

「別に何も!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、やって来ましたセプテントリゾート。

へっへっへ、テコンキャットの野郎は何処だ。

 

俺たちを苦労させた分攻撃してくれる。

 

「テコンキャットちゃーん、出ておいで~」

 

「それで出てきたのが危険種ならどうするのよ」

 

「そんときはまた…」

 

「それで倒れたのは誰か、忘れたの?」

 

「……よし、探すか」

 

「ハァ……」

 

溜め息吐かんといてくださいユニさん!

忘れてた訳じゃねぇし。

このズェピアさんが忘れるとでも?

あり得んなぁ……

 

……正直すまんかった

 

「でも、今更なんだけどさ」

 

「何よ」

 

「俺たちって二人パーティだろ?」

 

「そうね」

 

「これで万能型いたら完璧だったなぁって」

 

「まあ確かにね。アタシとあんたも射撃と拳の一辺倒だし」

 

「RPGでもこういう型の奴いたら助かるよな」

 

「アタシに不満でもあるっての?」

 

「いや、ないどころか助かりまくりなんだよなぁ。

俺が万能型だったらなぁって」

 

「結局二人パーティじゃない」

 

「あ……」

 

「あんた、馬鹿ね」

 

「やめてください、泣いてしまいます」

 

「泣けば良いのに」

 

「ぐはっ……」

 

二人で喋りながらダンジョン探索をしているがテコンキャット氏は何処なのだ。しかも、ユニの言葉に棘が…

 

がっくりと項垂れる

 

厳しい。

くそ、俺は馬鹿じゃないんだ。

俺はズェピアさんだぞ、馬鹿な訳がないの!

 

『えー?本当にござるか~?』

 

─その声でそれはやめて。頼むから

 

『そうかね。ところで、あれが噂のテコンキャットかね?』

 

「ん?あ、居た」

 

「え?何処よ……あそこね!」

 

ワラキアの言葉で顔を上げると、テコンキャットが二体ほど居た。

 

あの、ユニさん?ライフルの発射準備早くないですか?

 

「先手必勝よ!」

 

「ちょ、おま」

 

「──!?」「──!──!?」

 

「よし」

 

ライフルから放たれた一撃がテコンキャットAに当たる。テコンキャットAは唐突な攻撃に混乱している!

というか、今のでやられないとは、やるなあの猫。

 

ユニは不意打ち成功にガッツポーズ。

 

「不意打ちとは卑怯なり…」

 

「何言ってるのよ、勝率あげるのは普通でしょ」

 

「まあ、せやな?」

 

「何かムカつく言い方ね…ほら、来たわよ!」

 

「よっしゃ、お前らを倒して、任務完了だぜぇ!」

 

ぶち殺す!(若本)

 

俺は向かってくるテコンキャットBを蹴り上げる。

トラエラレマイ(トキィ)

俺の蹴りは吸血鬼の身体能力を使った蹴りだ。

早さが違う。

 

「ユニ!」

 

「言われなくても!」

 

ユニが蹴り上げられたテコンキャットBに銃口を向け、二、三発放つ。

 

全てがテコンキャットBへと命中し、テコンキャットBは塵のようにやられた。

所詮、屑は屑なのだ……

 

残るテコンキャットAは混乱が解けたようで、俺たちを攻撃するべく駆けようとしたが…Bをユニに任せてすぐにAの所にまで走った俺の助走をつけた鉄拳により、倒れた。

 

「やったぜ」

 

「まあ、こんなもんよね。さて……」

 

「『血晶』ちゃんはあるかねぇ」

 

テコンキャットたちがやられた場所を探す。

すると……

 

「あった!」

 

「ふう……長いようで短かったわね」

 

「まあ、よかったよ。ありがとう、ユニ!」

 

「だから別にいいって言ってるのに…でも、そうね」

 

はい、と言ってそっぽを向いて拳をこちらへ向けてくる。

俺はハハハと笑って拳をトン、とぶつける。

 

チラリとこっちを見て、微笑んできたので思いっきり笑顔を返す。

 

「ほら、帰るわよ」

 

「ああ、そうだな」

 

「嬉しそうね?」

 

「嬉しいさ、こうして手に入ったし…お前と仲良くなれたしさ」

 

「ふん、アタシと仲良くだなんて、生意気よ」

 

「なら、生意気で良いよ」

 

「…仲良く……ふふっ

 

「どうした?」

 

「なな、何でもないわよ!」

 

「ふーん……?」

 

まあ、気になるが、何でもないならいいか。

 

そんなこんなで、意外とあっさり手に入ったので、ユニと俺はラステイションへと戻ることにした。

 

順調だと後が怖いな……。

 

ああ、そうだ、聞いておかないと。

戻る途中で、俺はユニに話しかける。

 

「なあ、迷いは晴れたか?」

 

「…そうね……まだ、あと一歩踏み出したいのよ」

 

「あと一歩…ネプギアか?」

 

「……あんたって、妙なところで勘が鋭いわよね。心が読めたりしない?」

 

「しないな」

 

でも、そうか。

ネプギアか。

……ユニは自分の迷いを晴らすためにもネプギアに用があるのか

 

「…そうよ、アタシは今のアタシから成長するために、ネプギアと戦いたいの」

 

「必要なのか?」

 

「そうね、必要よ。ネプギアと戦って、吹っ切れたいのよ」

 

「吹っ切れたいか……なら、しょうがない」

 

「止めないのね?」

 

「止めない。第一、止めたら止まるのか?」

 

「ないわね」

 

「ほらやっぱり、まあいいんじゃないかな……」

 

要は、自分が否定していたネプギアと戦って、今の自分という殻を破りたいんだろう。

その気持ちは分かる。

 

家族を、ゲイムギョウ界を助けたいと心から願うであろうネプギアと戦えば、ユニの迷いは晴れる。

 

なら、止める理由がない。

 

「俺も元の世界に戻るために止まらねぇからよ…お前が進もうとする限り、その先に俺はいるぞぉ!だからよ……止まるんじゃねぇぞ……」

 

「何で死にそうな声で言うのよ」

 

「そういうネタです」

 

このネタで大人気になった男がいるねん。

いやほんと、なんだろうね、あれ。

 

「頑張れよ、ユニ」

 

「ネプギアを応援はしないの?」

 

「してるけど、お前に言っても困惑するだろ」

 

「もしそんなことしたらあんたの事軽蔑するわ」

 

「辛辣ぅ……」

 

何はともあれ、ネプギアたちが帰ってきたらになりそうだな。

 

……あっちは大丈夫なのかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、二人とも」

 

「ただいま、ケイ」

 

「『血晶』、手に入れて来たわ!」

 

「おや、随分と早かったじゃないか」

 

何となく、白々しいと思った。

ラステイションにまで帰ってきた俺たちは教会まで行ってケイに約束の素材のひとつを渡す。

 

大して驚いた様子もなくケイはそれを受け取って微笑む

 

「これで……」

 

「『宝玉』、取ってきました!!」

「戻ってきたわ!」「ただいま戻りましたですぅ!」

「とうちゃーく!」

 

「うおぉ!?」「ひぁぁ!?」

「…揃ったようだね」

 

び、ビックリした。

ケイが喋っている途中で扉が開いてネプギアたちの大きな声が響く。

 

俺とユニはみっともなくビビり声が出てしまった。

 

ケイは苦笑してネプギアたちの方を見ていたが。

 

いやまて、貴様誰だぁ!?

ネプギアとアイエフ、コンパにもう一人……

赤いスカーフ、ライダースーツ……誰だよ?

 

「戻ってきたみたいだね」

 

「はい!『宝玉』、手に入れてきました!」

 

ネプギアはケイと話しているが、アイエフとコンパ…そして、誰かさんは俺たちの方へと来た。

 

「あら、ズェピア。あんた達も『血晶』手にいれたのね」

 

「エルエル達に負けちゃったです……」

 

「負けちゃったか~…」

 

「いや、自然といるけどお前誰だ!?」

 

「ネプギアの新しい仲間?」

 

「私?」

 

「お前以外に居ないだろ!名を名乗れ!」

 

「ふっ……名乗れと言われたからには名乗ってあげるわ!」

 

ライダースーツの女はポーズの取り、ドヤ顔で自己紹介を始めた。

 

「私は日本一!このゲイムギョウ界を支配しようとする悪、マジェコンヌを滅する正義のヒーローよ!」

 

「日本一は私達がピンチの時に助けてくれて、そのまま仲間になったのよ」

 

「頼もしいです~」

 

「そ、そう……」

 

「なるほど……仲間の危機を助けてくれてありがとうな、日本一」

 

「いいのよ、私はヒーローなんだから!」

 

おおう、ここまで来るとカッコよく見えてしまうな。

 

しかし、新しい仲間……来たぜ。

これはもう、素晴らしいぞ。

 

ん、待てよ?

これ元に戻ったら五人パーティ……あっ(察し)

 

「頼みます!パーティから外すのだけは勘弁を!」

 

「どうしたのよ急に」

 

「五人パーティなんて!スタメンから外すのだけは勘弁を!」

 

「ゲームのやりすぎか!!」

 

「ぐほぁっ!?」

 

「あっ……」

 

さ、流石はアイエフさん……俺に丁度いいダメージのツッコミ……これが伝説の超ツッコミ人……!

 

ていうか、ユニは何でそんな残念そうな顔なんだ…

 

「アンタねぇ……日本一が仲間になったからって控えとかいかないんだからね?」

 

「そ、そうか……よかった…もしそうなれば俺は日本一を…いや、これから増える仲間を恨まなければならなくなる。」

 

「大丈夫よ!私は恨まないわ!」

 

「日本一、話ややこしくしない」

 

「分かったわ!」

 

「素直かっ!」

 

思わずツッコんだ。

ハッ、俺がツッコミを……馬鹿な、滅多なことではしないのに。

なんだこいつは……只者ではない!

 

「ツッコミを入れる羽目になるとはな…俺はズェピア・エルトナム・オベローン。ズェピアと呼んでくれ」

 

「よろしく、ズェピア!」

 

「ああ。さて、話は後でするとしてだ……」

 

「ズェピアさん!」

 

「うおっとぉ!?」

 

ケイ達の方を向くと、ネプギアが俺の名前を呼びながら抱き付いてきたので驚きつつも受け止める。

 

「ただいま、ズェピアさん!」

 

「…おかえり、ネプギア」

 

笑って言うもんだから俺もつられて笑ってしまう。

ついでに頭を撫でるとまた嬉しそうに目を細める。

 

「えへへ…」

 

「アンタ、懐かれてるわねぇ」

 

「それはアイエフとコンパにも同じだろうさ」

 

「だと良いんだけど…」

 

「ユニ」

 

「……何よ」

 

「何度も言うことになるが、ありがとな、協力してくれて」

 

「別に……それより、ネプギア!」

 

ビシッとネプギアに指差すユニに、ネプギアはそんなユニに驚く。

 

「は、話しかけてくれた!」

 

「い、今はそんなこといいのよ!それより!ネプギア、アタシと戦いなさい!」

 

「な、何で?」

 

「何でもよ!」

 

「でも、私はユニちゃんと戦う理由が無いよ!」

 

「アタシにはあるわ」

 

「でも……」

 

「ネプギア」

 

「ズェピアさん?」

 

俺はこのままだと長引くなと思い、ネプギアに話しかける。

ネプギアは困惑した様子で俺に顔を向ける。

 

「戦ってあげてくれ。ユニの為にも」

 

「……」

 

「ユニに必要なことなんだ。俺からも頼むよ」

 

「…ユニちゃんに必要なことなの?」

 

「そうよ……アタシが、強くなるためにも必要なのよ」

 

「そっか……」

 

ネプギアはしばらく瞑目した。

次に目を開けた時には、困惑や混乱の色は見られなかった。

 

「分かった、戦うよ。ユニちゃん!」

 

「ふん、最初からそうしなさいよ。…リピートリゾートで、明日待つわ!」

 

ユニはそう告げて、自分の部屋まで行ってしまった。

 

「終わったかい?」

 

「ああ、部屋を貸してくれてありがとうな」

 

「構わないよ、こちらも欲しいものは手に入ったしね。それで、追加報酬として今日一日、ここで泊まっていくのはどうかな?」

 

片目を閉じて俺にそう聞いてくるケイに苦笑する。

何というか、大変な奴だな。

 

「じゃあ、頼む」

 

「そう言ってくれると思っていたからもう既に用意してあるよ」

 

「準備がいいな……」

 

「ありがとうございます、ケイさん!」

 

「ありがとうです!」

 

「取り合えず、その部屋でそっちとこっちで何があったかを話し合いましょう」

 

「おお、情報交換!正義っぽい!」

 

「誰でもやるからな、それ」

 

そんなツッコミをしてから、俺たちは割り当てられた部屋へと向かった。

ちなみに、俺は一人部屋です。

当たり前なんだよなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、俺の部屋に集まっての情報交換をした。

死徒化して動くとかなりの負担が来ること、ラステイションのゲイムキャラもまた、狙われていること。

ゲイムキャラに関してはマジェコンヌの下っ端のリンダが居たからという確証のない理由だが。

ネプギア達からは、女神化を出来なくする手段がマジェコンヌにはあるとの事、後はコンパが鼠を治療して、その鼠がマジェコンヌだったこと。

 

ていうかその鼠が襲ってきたらしい。

鼠……喋るのか。それってもしかしてディ

 

「それ以上はやめなさい!消されるわ!」

 

「ぐほぁ……!?」

 

鳩尾ぃ……!

は、早い!?俺でも見えなかった……!

 

「アイちゃん、どうしたです?」

 

「ツッコミを入れないと消される予感がしたわ…何でかは分からないけど……」

 

「うーん?」

 

「まあ、いいのよそれは。それで、ネプギア、アンタ本当に戦うの?」

 

「はい、ユニちゃんと明日、全身全霊で戦います!」

 

「意味があるとは思えないけど…それに、ゲイムキャラの件もあるし」

 

「ま、何かあれば俺達で何とかすればいいだろ!な?」

 

「そうそう、マジェコンヌが来ても私たちなら勝てるよ!正義は勝つ!」

 

「悪が栄えた試しなし」

 

「「いえーい!」」

 

「仲良いわねアンタら…」

 

ツッコミを入れてしまう相手である日本一だが、いい奴なので仲良くなれるのは当たり前なのだ。

アイエフは呆れて、コンパは嬉しそうだ。

 

「にしても、マジェコンヌは鼠すらも雇うのか」

 

「余程仕事がブラックなのかしら」

 

「可哀想ですぅ……」

 

「きっと、何処にも雇ってもらえなかったからマジェコンヌに……」

 

「正義の私でも職に関しては何も言えないわ…無念!」

 

俺から言い出した事とはいえ、あまりにもあんまりです

 

これが世界って奴か。

結局、ブラック企業に入ったら最後なのかもしれない…

 

「それで、死徒化についてだけど……」

 

「今回で女神化より少し使いにくい事が分かりましたね」

 

「でも、エルエルが強くなれば多少使いやすくなるですよ」

 

「私はその死徒化っていうのを知らないけど鍛えればいいの?」

 

─どうなんだ?

 

『概ねそう思ってくれて構わない。まあ、生半可な鍛えようではあの疲労感はまた来ると思ってはおきたまえ』

 

「…まあ、そうだな。俺のこの体が強くなれば負担は軽減されるが……」

 

「そんなに時間は取れないしね……」

 

「旅の道中でモンスターを倒していくくらいしか無いですね」

 

「だな……」

 

困ったもんだ。

元の世界に戻ってもこれだと恨むぞ。

 

「でも、モンスターを倒していくと鍛えられるわよ」

 

「危険種とか狩りまくればいけるか……?」

 

「エルエル、無茶はダメですよ?」

 

「はい……」

 

まあ、それでやられたら元も子もないしな。

俺としては効率よく体が強くなる方法はないか気になるが……ううん。

 

「それじゃ、明日に備えて今日は各自自由よ」

 

「じゃあ、私は少しお買い物に行ってきます~」

 

「正義っぽい行動してくる」

 

「人助けと言え!」

 

「そうそれ!」

 

コンパと日本一は行ってしまった。

にしても、あそこまで正義を志すなんて、いい奴だなぁ

 

アイエフはやることがあるらしく、何処かへ行って、残ったのは俺とネプギア。

 

「なあ、ネプギア」

 

「何ですか?」

 

「明日のユニとの戦い、全力でやってくれよ」

 

「…はい、分かってます」

 

「それで終わったら仲直りするんだぞ」

 

「何だか、ズェピアさんはお父さんみたいですね」

 

「そうかな?」

 

「はい、でも、私は……」

 

「うん?」

 

「な、何でもないです!それより、ズェピアさんは何かしないんですか?」

 

慌てて何でもないと言うネプギアに俺は本当かなと思った。

ネプギアは話題を無理矢理変えるように俺はどうするのかと聞いてきた。

 

「俺か…俺はそうだな、無理して明日に響いても困るし、ここで暇潰してるよ」

 

「そうですか。……じゃあ、私もここにいます」

 

「何か買いたいものとか無いのか?」

 

「あるにはあるんですけど、今はいいです」

 

「……無理してないか?」

 

「してないです」

 

「そうか」

 

あまり深入りしてもよくないし、俺は何も聞かないことにした。

ネプギアもユニも女神候補生であることを除けば普通の女の子なのだ。

だからこそ、こういう時は自由にすればいいと思う。

 

だから、何も聞かない。

したいことをすればいい。

ここに居たいならそうすればいい。

 

「…ズェピアさん、聞きたいことがあるんです」

 

「それは今聞かなきゃいけないことか?」

 

「はい、今聞いておきたいんです」

 

「そうか、なら、どうぞ」

 

「ありがとうございます。ズェピアさん」

 

真剣な空気を察した。

何を聞かれるのか……

 

「ずっと気になってました。ズェピアさんはグレートレッドを倒したら帰るんですよね」

 

「ああ、そのつもりだけど」

 

「どうやってですか?」

 

「……どうやって、か…」

 

まさか、今それを聞かれるとは。

いや、聞くか。どう帰るかなんて言ってなかったし、気になってたよな……

 

ネプギアは俺の考え込む姿に苦笑する。

 

「考えてなかったんですか?」

 

「いや、そうじゃないんだけどさ…確率が低いんだ」

 

「方法があるんですね」

 

「あるにはある……だけど、まだ確信が持てないんだ」

 

「あの黒い穴ですか?」

 

「ああ、あの穴が開いたらもしかしたらってレベルだ」

 

正直、これも見込みは薄い。

それはグレートレッドも考えているはずだ。

 

だったら、どうやって帰るか……

転移で帰れないから世界間移動の装置でも作るとか?

 

「……ううん、取り合えず、考えてはいるんだ」

 

「そうですか……私達も、ズェピアさんが帰れるように何か出来ないか考えますね!いーすんさんも考えてくれてますし」

 

「本当か?ありがたいな…まあ、それならそれでグレートレッドを倒さないとだな」

 

今度こそ、絶対に消してくれる。

 

……課題多いなぁ……

 

「そこまで心配してくれて、ありがとな」

 

「ズェピアさんは、私を助けてくれました。もちろん、アイエフさんやコンパさんもそうですが…でも、女神化が再び出来るようになったのはズェピアさんのお陰です。だから、私はその恩を返したいんです」

 

「…俺がやってあげられたのはただ背中を押すことだけ。女神化が出来たのは間違いなくネプギア自身の勇気が恐怖に勝ったからに他ならない……だから、恩なんて感じなくてもいいんだぞ」

 

ここまで言ってくれるネプギアに感謝の念を感じる。

だけど、きっと俺なんかが居なくても女神化をすることは出来たと思う。

それこそ、アイエフが何とかしたと思うんだ。

俺がした事の中に余計なことは必ず入ってたはずだ。

 

だけど、この世界に来た以上、俺は傍観なんて出来ない

 

だから自分勝手に、見てられないから言葉を送った。

 

けれども……そこまで言ってくれるのは嬉しい。

嬉しいという気持ちを伝えるのは難しいので頭を撫でることで伝える。

 

「…なら、私も私がしたいから手伝いたいんです」

 

何というか、頑固だなと思った。

人の事は言えないと思うが、頑固だ。

 

「そっか、なら、仕方無いな」

 

「はい、仕方無いですよ」

 

「じゃあ、俺が帰る方法、一緒に見つけてくれるか?」

 

「任せてください!皆、ズェピアさんを助けてくれると思いますよ」

 

「ハハハ、そりゃ、いいな」

 

暖かい。

ああ、暖かいなぁ。優しい子だ。

陽だまりみたいに、自然とそこへ寄りたくなる。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして!」

 

そう言って、二人で笑い合う。

こうして、言葉をしっかりと交わすだけでいいんだ。

 

…どうして、お前はその手段を講じなかったんだろう。

 

俺は、疑問を一つ抱いて、ネプギアと談笑して過ごした




感想、待ってます


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監督気取り、決闘を見る

戦闘なんて書けるかよぉ!!(作品内容を見ながら)




やあ、皆。

俺だ、ワラキーだ。

 

今日はユニとネプギアの対決日であり、ゲイムキャラと会う日だ。

ケイ曰く、ラステイションのゲイムキャラと上手く話がいくことを祈ってるだそうだが……?

 

何はともあれ、リピートリゾートまで俺たちは来た。

 

ユニが待ってるとの事で早々に準備を終わらせてきたのだぜ。

ていうか、結構早くからリピートリゾートに来てるのかアイツ…

 

「ねえ、ネプギア。本当にやるの?」

 

「はい。やらなきゃいけないと思うんです。

それでユニちゃんと分かりあえればいいです」

 

「そうは言うけど……」

 

「まあ、アイエフの気持ちは分からなくもない。こんな時に女神候補生同士が戦うなんて、とかの気持ちは分かる。」

 

「なら止めてよ。アンタ、むしろやれって言ったわよね」

 

「分かるけど、ネプギアともユニとも少しとはいえ時間を共にした俺はこうした方がいいとは思ったんだよ。

それに……対人戦は少しでもやっておいた方がいい」

 

「エルエル、マトモな意見です~…でも、エルエルが居るとはいえ、私たちだけでマジェコンヌの襲撃を防げるか不安ですぅ……」

「そうよ、前みたいにサマエルとかいう怪物が出ないとも限らないわ」

 

「何が来ても大丈夫よ!暗い気分になっているといざって時に動けないわ!」

 

「そうそう、日本一の言うとおりだ。やる前からそうネガネガするな」

 

日本一と二人でコンパとアイエフに出来ると伝える。

最初から諦めちゃいけない。

そうして挫折していくと後戻りが出来なくなる。

 

アイエフはハァと溜め息をつき、呆れた様子で言ってくる。

 

「…はいはい、今回はアンタに従うわ。でも、もしヤバくなったら決闘なんて止めて、二人を加勢させるわ」

 

「対処できなかったら一環の終わりですぅ」

 

「まあ、それは仕方ない。それでいいな?」

 

「はい!」

 

「いい返事だ」

 

「そうと決まれば、早く行くわよ!」

 

「近くにいると思うけどな」

 

という訳で、近くで待っているであろうユニの元まで俺たちは急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったじゃない」

 

「待たせたな!」

 

ユニの元まで、意外と距離がありました。

というか……

 

「ユニ、後ろのは……」

 

「ゲイムキャラよ」

 

「ここでやるのか!?」

 

「ええ、それがラステイションのゲイムキャラからの頼みだったからね」

 

「どういうことですか?」

 

〔それは私が説明しよう、プラネテューヌの女神候補生とその仲間達〕

 

ネプギアの疑問の声に答えるように、ユニの後ろから声がした。

どうやら、本物のラステイションのゲイムキャラのようだ。

 

〔聞けば、決闘をするとの事らしいな。そして、私の協力を望んでいるとも聞いている〕

 

「そうよ。それと決闘に何の関係が?」

 

〔正直に言うと、私は協力するわけにはいかない〕

 

「な、何でですぅ!?」

 

〔私はこのラステイションを守る使命がある。その使命を果たすためには力を貸すわけにはいかない〕

 

「でも、決闘の場をここにした意味がわからないわ」

 

日本一の言うとおりだな。

その使命を放棄しないと決めたゲイムキャラがどうして決闘の場を決めたのか?

 

〔私はこの決闘に判断を委ねようと思う〕

 

「というと?」

 

〔私には使命がある。それは果たしたい。だが、守るだけでは守れないものもあるのは確かだ。逆もまた然り。故に、この決闘でプラネテューヌの女神候補生が勝てば力を貸し、ラステイションの女神候補生が勝てばこれまで通りにこの地を守る〕

 

「これはユニちゃんの成長するための戦いです。

それを利用するような事は……賛成しかねます」

 

確かに、力があれば託すに値すると判断できるが、利用しようという魂胆なのは良くないとは思う。

ユニを除く皆は良くない顔をしている。

 

俺はユニに問うことにした。

 

「……ユニはいいのか?」

 

「いいわ」

 

「本当にいいんだな?」

 

「しつこいわよ、ズェピア。あんたの言いたいことは分かる。でも、アタシは決めたの」

 

「…そっか」

 

「ユニちゃん……」

 

迷うことなく、それを良しとしたユニに俺はもう何も言うことはなかった。

これ以上口出ししたら良くない。

 

ネプギアは心配するようにユニを見ている。

ユニはそんなネプギアを見て、ライフルを向ける。

 

「そんな目をしないで、これはアタシが決めたこと。

構えなさい!アタシが、女神候補生の中で一番だということを教えてあげる!」

 

「…分かった、決めたことなら、私は何も言わない」

 

ネプギアもまた、ビームソードをユニへと向ける。

俺たちはゲイムキャラの側まで移動して戦いを見ることにした。

こうしていれば、襲撃が来てもすぐにはゲイムキャラに害は来ない筈だ。

 

「これでいいの?」

 

「二人が決めたことだ。元より俺達が止めるのは御門違いだろう」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「心配か?」

 

「当たり前でしょ」

 

「だろうな。でも、見守ってみよう。いい方向に傾くさ」

 

「……まあ、ここでやるなら、近寄りにくいだろうし、いいんだけど」

 

「エルエルはどっちが勝つと思うですか?」

 

「私はネプギアかな!」

 

「日本一はネプギアを応援か。……うーん…俺はどっちも応援したいんだけどなぁ」

 

どちらも応援したいけど、片方しかダメなら……

いや、でも……

 

「うーん……」

 

「迷ってるわね」

 

「どっちも勝ち筋がしっかりあるからな……」

 

「そうなんですか?」

 

「圧倒的に力量が離れてるわけでも相性が最悪な訳でもないからな」

 

だから、どっちが勝つか俺にもわからない。

 

俺は二人を見ながらそう言う。

 

「さあ、ネプギア、やるわよ」

 

「うん、ユニちゃん、全力だからね」

 

二人がそうして、目を閉じる。

全力。

そう言うからには、ならないといけない。

互いの誇りある姿に。

 

「「『女神化』!」」

 

二人に光が集中する。

互いが自身のプロセッサユニットを身に付ける。

 

そして、武器も二人に合わせて変化する。

ネプギアはビームガンブレードを。

ユニは大人一人分の大きさの銃器を。

 

「容赦はしないわ、撃ち抜いてあげる!」

 

「なら、それよりも早く斬るだけだよ!」

 

二人の同時女神化を、そしてこれから始まる決闘を静かに見る。

 

先手はネプギアだ。

ビームガンブレードは確かに遠距離もできるが、ユニ相手にそれは愚策だ。

ユニの方が遠距離での力量は遥かに上。

 

だからこそ、速さを活かして接近をした。

そして、距離が縮まるのはすぐだ。

 

「ハッ!」

 

「甘い!」

 

「なら、これで!」

 

「くっ……!」

 

ネプギアが横薙ぎに斬りかかるが、ユニはそれを後ろに跳び避けてビームを発射する。

ネプギアはユニの方まで地面を蹴って接近するときに体を捻りスレスレで回避。

そして、ユニに踊るように斬りかかる。

反撃を許さない怒濤の連撃に、ユニは銃器でガードしつつチャンスを窺う。

 

「せい、や、ハァ!」

 

「舐めんじゃ、ないわよ!」

 

「きゃっ!?」

 

ユニは強引に銃器を押し出し、ネプギアの体勢を崩すことでチャンスを得る。

ネプギアを蹴りで吹っ飛ばし、そこへ透かさず三発放つ。

吹っ飛ばされると綺麗に着地し、三発のビームを横に走って回避。

ユニは何発もネプギアへと放つがそれを尽く回避する。

回避しながら、ビームガンブレードでビームを発射するがユニもまた避ける。

「ちょこまかとぉ!」

 

「っ、そこっ!」

 

「っぁ!?」

 

痺れを切らしたのか、ユニがネプギアの居る位置に放った後、予測したかのように避けた先にも放つ。

ネプギアの右肩にそれが当たるが、それに怯まずビームを放ち、ユニの左腕にヒットする。

 

片や右肩を撃たれた、片や左腕を撃たれた。

互いにヒットした箇所がどう響くか。

 

「一進一退ね…」

 

〔……ふむ〕

 

「お前から見て、あの二人はどう映る?」

 

〔二人の実力に差はないと感じる〕

 

「そうか、なら後は一歩踏み出すのがどちらかになるな」

 

「はうぅ、二人とも怪我が……」

 

「……ねえ、後一歩って事はより強い一撃を叩き出せるかってこと?」

 

「そうだな、そう取ってもらって構わない。

日本一はどう……」

 

「……」

「わぁおガン見」

 

日本一は二人の戦いを見ることに集中している。

というより、何か盗める点があれば盗む気か?

向上心があることで……

 

「ハアァァァ!」

 

「こ、んのぉ!」

 

「負けるわけには、いかないの!」

 

「アタシだって!」

 

ビームを弾きながら、進むネプギアにユニは頭と足、腕を狙っての連射。

これにネプギアは頭への射撃をブレードでガード。

足への射撃を咄嗟に横へと転び回避。

腕への射撃をさらにガード。

 

何という反射神経だ。

俺じゃ無理です。

 

「っ、ふ───!!」

 

「なっ……!?」

 

低姿勢になり地面を蹴ってユニに迫る。

その速さは先程の速さとは段違いだった。

気が付けばユニの構えている銃器の目の前にネプギアがユニの顔を見上げ、ビームガンブレードを構えた状態で居た。

 

「両腕を使って……!」

 

「あの子無茶をして!」

 

そう、負傷している腕もブレードを持った状態。

痛いだろうに、それを気にしないような顔だ。

 

「これでっ!!」

 

「っ─!!」

 

ネプギアが斬り上げて、銃器を弾き飛ばす。

片腕で持っていた銃器が弾き飛ばされ、地面に転がる。

相棒を手放してしまったユニは、無防備となった。

 

そのまま、ネプギアはユニへとビームガンブレードを─

 

 

 

 

「トドメッ!」

 

 

 

 

─振り下ろした。

 

それをマトモに喰らったユニは…

 

「く、ぅ……!」

 

膝をついて、女神化が解除される。

これを意味することは……

 

「勝負ありだよ……ユニちゃん」

 

「っ…ええ…負けよっ……!」

 

武器を突き付け、宣言するネプギアにユニは顔を悔しげに歪めて敗北の宣言をする。

 

…一歩を踏み出したのはネプギアだったか。

 

ネプギアはそのまま緊張が切れたのか座り込んでしまう。

 

俺は二人の元へと歩いていく。

ユニのライフルを持って。

 

「二人とも…お疲れ様」

 

「…はい、ズェピアさん」

 

「……」

 

ネプギアはやりきったような笑顔で。

ユニは何も喋らず、俯く。

 

「ネプギア、よく頑張ったな」

 

「ありがとう、ございます…」

 

「そして、ユニ」

 

「っ、何よ…!」

 

「悔しいか?」

 

「当たり、前でしょ!」

 

片膝をついて、ユニの相棒を差し出しながら聞く。

ユニはライフルを受け取って、涙声で言う。

 

悔しい。

当たり前か……。

ついでに言えば、チャージする時間も無かったからな。

 

俺はユニの頭を撫でる。

 

「…前、進めそうか?」

 

「…誰に、言ってんのよっ。それくらい、余裕…なんだからっ……!」

 

「流石ユニだな」

 

「…うんっ」

 

そうして、しばらく、ユニは泣いた。

頑張ったと思う。

何はともあれ、これでユニは前へと進める。

今までの自分よりも強い自分へと。

 

ユニは涙を拭い、立ち上がる。

 

「もういいのか?というか、痛くないのか?」

 

「痛いわ、すっごく」

 

「うっ、ごめんねユニちゃん……」

 

「いいわよ。それよりネプギア」

 

「なに?」

 

「アタシの方こそごめんなさい」

 

「え?何で?肩の事なら…」

 

「違うわよ!…何でお姉ちゃんじゃなくてあんたなのかって事、言っちゃったじゃない」

 

「……あ!あれの事!あれなら、大丈夫だよ」

 

「そう、なの?」

 

「うん!」

 

許していたようだ。

というより、気にしてはいたけど、言われても仕方無いと思っていたようだ。

 

……大丈夫かな、ネプギア。

 

「でも……」

 

「じゃあ、仲直りしようよ!」

 

「え?」

 

「お互い、この事はもう気にしないで、仲直りしよう?それで、一緒に頑張ろう?」

 

ネプギアはそう言って、笑顔で手を差し出す。

握手を求めている。

 

ユニはそれを見て、困惑していたが……

 

「ええ!」

 

「これからもよろしくね、ユニちゃん!」

 

「こちらこそよろしく、ネプギア!」

 

「イイハナシダナー!」

 

俺はこの友情劇を見て、感激した。

戦ったあとに互いを認めあい、そして仲を深めていく。

凄くいい……!

 

そこへ、アイエフ達が近寄ってくる。

コンパは治療治療と駆け寄ってユニとネプギアの怪我を診ている。

 

〔決闘、最後まで見届けさせてもらった〕

 

「おう。それで、協力してくれるんだな?」

 

〔ああ、二人とも見事だった〕

 

「そりゃ良かった」

 

「全く、負けたらどうする気だったのよ」

 

「考えてなかった!」

 

「おいっ!」

 

「ニャンパスッ!?」

 

「うわぁ、凄い蹴り……」

 

あ、アイエフさん……そんな、痛い……また背中…

 

俺の背中が悲鳴をあげたが、最早日常風景なのか誰も気にしない。

泣きそう

 

「ハァ…でも、こうして協力は得られたしいっか」

 

「そ、そうだぞ……うごぉ……」

 

「ズェピア、結構いい蹴りだったけど平気?」

 

「これくらい日常茶飯事です……」

 

「日常になるほどくらってるんだ……」

 

日本一、引くな!

俺だってな、好きでツッコミをこの身に受けているわけじゃない!

 

そんなこんなで、コンパの治療が終わったようだ。

 

「もう、あんまり怪我しちゃダメですよギアちゃん、ユニちゃん!」

 

「は、はい!すみません!」

 

「はい……」

 

〔…いいかな?〕

 

「あ、はい!ゲイムキャラさん!」

 

〔…では、プラネテューヌの女神候補生。

お前にこの力を…ラステイション、いや、ゲイムギョウ界を頼むぞ〕

 

「何の、グホォ!?」

 

「二度目はやらせないわ」

 

アイエフの容赦なき腹パンが俺を襲う!

そんな、馬鹿な!?先読み!?

 

ゲイムキャラから一つの黒いディスクがネプギアの手に

 

〔『ブラックディスク』だ。ここ、ラステイションの力……使ってくれ〕

 

「はい!」

 

「よかったわね、ネプギア」

 

「うん!」

 

ユニとネプギア…仲良くなったなぁ。

嬉しいよ。

 

「ふう、何はともあれ、一件落着……」

 

「よかったですぅ……」

 

「マジェコンヌの襲撃も、結局無かったしね」

 

「このままドンドン行こう!」

 

そうして、俺達は無事に次の目的地へと進路を進めることが──

 

 

 

 

 

「いや、見事だったな」

 

 

 

 

 

─出来るわけでは、なかった。

 

一人の拍手の音が聞こえる。

俺達は全員、その音の方向を見る。

 

そこに居たのは……

 

「お前、は──!!」

 

「よう、タタリ。この世界(・・・・)を楽しんでるようだな?」

 

一人の男だった。




出てきた男は誰なのか。

次回、『監督気取り、その全力』

お楽しみに。

そして、感想待ってます


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監督気取りとアカシャの蛇

タイトルが違うって?
格ゲーにも掛け合いはあるでしょ?あれです、あれ。

タイトルで察してください。
出てくるのは、ハイスクールで出したかったけど出すとやることが教授よりヤバイ漫画版の強さの彼です


俺の視界に映ったその男。

俺はそれを知っている。

そして、それは……元の世界の者ではなく。

 

『まさか、彼を使うとは』

 

ワラキアが一度、あの世界で出会っている。

 

白いシャツを全開にして、血色の悪い白の肌の男。

 

「お前は……──」

 

「姿は俺の知るタタリとは違うが…まあそれはいいか。

元々タタリは姿形に拘らない性質だからな……

お前は死徒二十七祖十三位の力を持っているのは確かなんだからな」

 

「アンタ、何者……?」

 

「おっと、歳を取っちまうとどうも独り言が多くなる。許してくれよ?これでもそこの吸血鬼の力とは同郷なんだ」

 

「ズェピアさんの?」

 

「ま、世界が違うがな。ついでに、そいつ事態の性格云々も違うと来た。こりゃ楽しそうじゃねぇか!」

 

「よく分からない事ばっかり……ズェピア、どういうことなの?……ズェピア?」

 

アイエフたちは一言も喋らなくなった俺を見る。

俺はしばらくして、目の前の男に対して言い放った

 

 

 

「─ネロアさん……でしたっけ?」

 

「いやちげぇよ!?貴様もか!貴様も俺をそう呼ぶか!?」

 

いや、待ってくれ。

名前ネタをやりたかっただけなんだ。

そこまで泣くな。

泣きながら怒るな。

 

「人気投票0さん、何故ここに……!?」

 

「何?俺の事嫌いなの?お前が俺の知るタタリとは一癖も二癖も違うのは分かったけどそこまで言うの?

お前に分かるかぁ!?ラスボスをしたと思えば人気投票はまさかの0!混沌の旦那でさえ人気はあったのに俺はあれだ!嫌がらせとしか思えねぇ!」

 

「アッハイ」

 

「何か可哀想ですぅ……」

 

「ふぅ……」

 

俺は一息ついて、皆よりも二、三歩前に出る。

こうして会話してるとはいえ……こいつは危険だ。

 

ミハイル・ロア・バルダムヨォン。

死徒二十七祖、その番外(・・)

朱い月……真祖に近かった男。

アカシャの蛇、無限転生者……名は多い。

 

真面目に厄介だ。

 

ロアは俺の警戒の目を感じたのか先程までの雰囲気はどこへやら。

 

互いに真面目な雰囲気へと変わる。

 

「それで?どうしてこの世界にいるとは聞かない。

……何故、ここへ?」

 

「分かりきってる事を聞くか?」

 

「それもそうか…グレートレッドによって、お前はこの世界へと現れた。そう、夢現の力によって」

 

「その通り、頭が回ってきたなタタリ。平凡な男だと思っていたが、その知識は無駄じゃないらしい。

そう、俺はあの龍によって復元された個体だ。

腹立たしいことではあるが…何、心の理解が微塵も出来ない龍を間近で見られるのは乙なものだぜ?」

 

ヒヒヒと笑いながらそう話すロアに敵であることを再認識する。

元より、ワラキアの夜とこいつは合わない。

火に油の関係だ。

 

教授が如何に人付き合いがよかったかが分かる。

 

「今のところアレに付き合ってはいるが…まあ、それも一つの楽しみなだけでね。一番は、お前らだ」

 

「私達、ですか?」

 

「その通りだとも御嬢さん。俺はお前らがどうこれから先の困難を乗り越えるのかを見るのが楽しみなのさ。

女神という、神代にて生きる存在がここまでの文明を発展させてきた…面白い観察対象じゃないか」

 

「ネプギアたちは観葉植物でもなんでもない。

種族を除けばただの少女に他ならない。

訂正しろアカシャの蛇」

 

「おいおい、タタリ。随分と肩入れするなぁ?

俺達死徒が、どのような存在かを忘れたか?

いや、そうだった、お前は混ざりものだったな」

 

これだ。

この分かっているという顔。

これが好かない。

確かに、こいつは生きてきた年数ならば遥かにワラキアを凌駕する。

だが……

 

「お前のような龍によって再現されただけの死に損ないが、全てを知っていると?」

 

「知っているとも。お前よりもこの世界の内情、有り様、構築、存在を知っている。

お前は外面を知れても内面を知れない。娘達のいる世界はどうだ?それが原因でお前たちは全てを失いかけた」

 

「……」

 

「それがお前の欠点、短所、弱点へと繋がる……

今でさえ、そうだろう?お前は本当の中身を仲間にぶちまけたか?」

 

「黙れ」

 

「おっと否定かぁ!その否定は肯定にも繋がるぞ?」

 

「お前も似たようなもんだろう。結果的にお前は死んだ。魔眼に打ち勝てない時点でお前はタタリよりも欠陥品だ」

 

「あーそれ言っちゃう?それなら言い訳として器というワードを提示するが、如何に?」

 

…チッ。

 

だが、悔しいことにその通りだ。

内面を推し量ることが出来ないのは確か。

俺がそれで失敗したのをこいつが知ってるのは蜥蜴が与えたな……!

 

「ズェピアさん……」

 

「……」

 

「そんなにその女神候補生が大事か?」

 

「世界を救う鍵だ」

 

「だから側にいるのか?あたかも、助言者のように」

 

「そういう訳じゃない」

 

「じゃあ、家族の元へ帰るのに手っ取り早い近道だからか?」

 

─こいつ

 

『感情を揺さぶられ過ぎだ。君の得意とする相手ではない。私と変わるかね?』

 

─お前も同じだろう

 

『君よりは演じられるが?』

 

─……チッ

 

そうだが、もう少し待ってほしい。

俺は確かに、ネプギアたちについていけば帰る見込みはあると考えてはいる。

だが、迷惑をかけてしまっているのも事実で、それを解決したいとも思っている。

 

「グレートレッドの問題は俺が蒔いてしまった種だ。

摘み取るのは蒔いた本人である俺であるべきだろう」

 

「確かにな。だがお前、まるでしっかり仲間だと断言しないじゃないか?」

 

「……」

 

「おいおい、どうしたよ?旦那を含めて三人を家族だと断言できるのに、そこの娘どもは仲間だとは断言しない。おかしいな?まるでお前の心は認めてないように見える」

 

「違うな」

 

「ほう?」

 

「俺はネプギア達を仲間だと思っている。

どれだけお前が言おうと、俺にとって、仲間だ。

ただ、今更そんな当たり前なことを言わないといけないのか?」

 

皆を見て、そう言うと皆何でか安堵したような顔をする。

 

「え、皆さん?あの……」

 

「…大丈夫よ?」「エルエルは仲間ですよね!良かったです~…」「やはり正義は悪に染まらないわよね!」

「その…少しだけ、そうなのかなと不安に…うぅ」

「あ、アタシは疑ってないから!ホントよ!?」

 

……。

 

「お前も苦労してるんだな」

 

「やめろ!何処かの英雄目指そうとした馬鹿を思い出す!財布以外の厄ネタを俺にぶつけようとするな!

オイコラ人気投票ZERO、何そんなお前も俺の同類なのか?みたいな目をしてる!ズェピアさんもっと人気だったからね!?」

 

「分かってる。四季ロアさんは分かってるから安心しろ」

 

「うるせぇ!!」

 

あーもう!

話が進まない!

 

『だから言ったろうに』

 

─もういい!

「『死徒化』!!」

 

俺はもうムシャクシャして死徒化をする。

姿をワラキアに。

 

そして、更に俺の不機嫌さが増す。

 

「君のせいで、舞台が滅茶苦茶だ。いくら人気がないからと言ってももう少し弁えて舞台に上がりたまえよ」

 

「人気は悪くねぇだろ人気は」

 

「なら、真面目にしてほしいのだが?」

 

「ああ、はいはい……そんじゃま、手っ取り早く言わせてもらうが…そのブラックディスクとそこにいるゲイムキャラを寄越してもらおうか」

 

頭を乱雑に片手で掻いてから面倒そうに俺達にそう言ってくる。

やっぱりそれが狙いか。

 

それを聞いた皆はゲイムキャラとネプギアを守るように武器を構える。

 

「…ま、だろうと思ったがな」

 

「当たり前よ、アンタがあのグレートレッドの再現した男ならマジェコンヌの仲間ってことじゃない」

 

「そうです、私達が守るです!」

 

「マジェコンヌということは悪!悪に渡すわけにはいかないわ!」

 

「ネプギアは…アタシが守るんだから!」

 

「……という訳だが?」

 

「ハァ……まだ生きられる命を無駄に燃やすねぇ」

 

未だに面倒そうにしているロアはそれでも俺達を一人で相手取れる強さを持っている。

あんなでも死徒の姫であるアルトルージュすら撃退できた過去を持つ男だ。

 

器が変わっても、強さの変動はそこまででもない。

 

はっきり言って…辛い勝負だ。

だが、この体を後の負担を度外視すれば……?

 

ネプギアとユニは全力で戦った。

アイエフとコンパは女神達を助けるために命を懸けて救出へ向かった。

日本一は一人でマジェコンヌに立ち向かった。

 

俺は……まだこの世界で全力といえる全力を出さなかった。

 

なら、今なんじゃないか。

 

『本気かね?流石に無事を保証しかねるが…それに勝てるかどうか』

─グレートレッドからの強化は確実に受けているだろうしな。だが、俺は決めたことを曲げられないもんでさ

 

『娘のために世界を呑み込む位だからね』

─そういうことだ

 

「という訳で、手出し無用だ」

 

「は!?」

 

「ズェピアさん!?」

 

「へえ、計算高いお前なら、確実な策を用意すると思ったが…」

 

「計算はやめていないとも。常に果てを目指している」

 

「集団でかかれば勝てる可能性があるかもだぜ?」

 

「今の彼女達では荷が重い」

 

「それでお前一人が犠牲か」

 

「犠牲、犠牲か。…ふむ、死ぬ気は毛頭ない。

かといって、負けるつもりも毛頭ないが」

 

「傲慢な奴だ。早死にするぜ?」

 

「君のような姑息な蛇が、私を殺すと?」

 

「殺せるとも」

 

「不愉快極まりないな、即刻ご退場願おう」

 

そうだ。

不愉快、それ以外何もない。

 

なので、殺す。

 

俺は途中乱入が出来ないように隔てる形で結界を張る。

皆が慌てて走るが、結界の方が早かった。

 

「ズェピア!あんた何してんのよ!?」

 

「そうですよ!ズェピアさん!無茶はしないって…!」

 

「ああ、それか。…いやどうもすまない、こう見えて約束を忘れてしまうような男でね。今回もそういうことだと思ってくれ」

 

「そんな……!」

 

「許してくれ、皆…」

 

ネプギアの悲痛な声に心が痛むが、それはそれだ。

 

これは、俺がやりたいことだからね。

後で何だって聞いてやるさ。

 

「ハッ!喜劇悲劇何でもござれってか?」

 

「いいや、ただの男の意地だよ」

 

「姿形に拘らないタタリが男の意地とは、自虐すら千変万化か」

 

「さてね」

 

そうだな、これは得難い体験だ。

教授以外の祖と戦えるとは。

 

そう、これは俺が次のステップに進むために相応しい。

 

「私の舞台に、不老不死を掠め取る蛇など必要はない」

 

「お前のような若造が創れる舞台なぞありはしない」

 

ラウンド1……ファイトってか?




感想、待ってます。


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監督気取り、その全力

感想がなぁ、来るとなぁ~力が増します(露骨な要求)


時間差で俺へと迫ってくる雷。

カバラ系列の一つ、数秘法(ゲマトリア)

確かに強力な魔術だ。

 

初代ロアが相手なら、これよりも更に恐ろしい魔術だったに違いない。

 

蒼崎青子曰、古い魔術ではあるが…まあ、魔術は元々古いからね。

 

それを身を翻して避け、時にはこちらもタタリを用いた火球等で相殺している。

 

「どうしたタタリ、攻めが弱いじゃねぇか!

こんなんじゃ物足りねぇなぁ!?」

 

煽りながらも攻めの手を緩めないロア。

俺はどうしたもんかなと思う。

 

あっちは嫌なことに魔眼の類いも持ってる。

直死とは違うが、似たようなものだ。

つまり、アイツからしたら俺は弱点だらけなのだろう。

 

ワラキアの夜に直死の魔眼は通用しない。

 

そうだね、初代だね。

今はバリバリ効くだろうね。

 

だが、攻めに転じないとあちらが有利なのは変わらないか。

俺はタタリでロアの左右から教授と七夜を出現させる。

 

「キャスト!」

 

「おっと、旦那と志貴の偽者か!

だが、これじゃあ俺には傷一つも─」

 

ロアは当然、数秘法(ゲマトリア)による雷で即座に一掃する。

だが、この短時間が俺にとって必要なもの。

 

そう、安全にロアへと接近できる。

 

「カット」

 

「うおっとぉ!」

 

「逃がさないぞ蛇。cat!」

 

「チッ─だが!秘雷針!」

 

「ギィ……!」「がっ……!」

 

爪を避けたロアを更に追い詰めるようにロアの足元から黒い竜巻を発生させる。

だが、ロアもただでは食らわない。

タタリを行使している俺に雷をぶつけてきた。

 

そして、互いに軽傷ではすまないダメージを負う。

 

……けれど、互いの傷はあっさりと癒えた。

 

「カット!カットカットカット…カットカットカットカットカットォォ!!」

 

「ヒュゥ!これはどうよ!?」

 

タタリを用いた爪により何度も切り刻む。

ロアもまた、雷と体術で俺を殴り、焼く。

 

「ぬぅ……!」

 

「こいつは効くなぁ!中々いい攻撃だ!」

 

どちらも死徒の上位に位置する者。

そう簡単に死ぬことはおろか傷が残ることもなし。

 

だが、それにしても気掛かりだ

 

「何故、『過負荷(オーバーロード)』を使わない」

 

「お前のそれと違って消費があるんでね…引き出しの多い旦那やお前と違って応用性が低い俺は大人しく切り札は残しておくもんさ」

 

「そうして負けても知らんが?」

 

「ハッ!出し所を見誤るようならとっくに死んでいるな」

 

過負荷(オーバーロード)

ミハイル・ロア・バルダムヨォンが到達した固有結界。

効果はその名の通り、魔術に過負荷をかけるもの。

他にもできるだろうが、単純にこれが強い。

先程の数秘法(ゲマトリア)による雷に割く魔力に過負荷をかければ威力は馬鹿みたいに跳ね上がる。

 

それを使わないということは……まだ本気じゃない。

 

「そもそも、お前と俺では力に差がある。まだ全力出してねぇのにこれじゃあ張り合いがねぇな、タタリ」

 

「ならば、早々に私を倒せば君の目的は果たせるが…」

 

「確かにそうだが……違うな、俺の本当の目的は別だタタリ」

 

「何?」

 

「ま、半分は達成されたし……そろそろ、一発だけ勝負をして帰るとするか」

 

淡々と、いくぜ?と言ってくるロアに俺は警戒度を高める。

元々警戒してるけど、それでもだ。

 

一発だけという言葉…何をしてくる?

 

奴の現在位置はタタリで即座に吹っ飛ばせる。

だがそれはアイツも分かっている筈……

 

過負荷(オーバーロード)を使わない…いや、使う気がないな

 

となると……

引き出しから出す技は……あれか?

 

 

─突如、ロアの姿が雷となって消える。

 

やはり、瞬雷!

俺は俺の目の前まで来るであろうロアに黒い銃身を向ける。

 

「やはりか……!」

 

「これは読むだろうな、だが──」

 

 

 

─だが、黒い銃身から銃弾が放たれることはなかった。

 

 

 

何故、と思う事はない。

簡単な話だ。

俺は拘束されている(・・・・・・・)

 

雷が俺を縛る。

 

「いつの間に……!」

 

「それこそ簡単な話だ。今お前に接近するときに魔力をこっちにも割いておいただけだ」

 

魔術の二重発動か。

精度、素早さ、そしてこの拘束力…

 

「さて、程度は分かった。タタリ、お前が強くなるのに一つ助言をしてやる。ありがたく受け取れよ?」

 

「冥土の土産という奴かね」

 

「おいおい後ろ向きな考えはその体由来か?

まあ聞けよ…お前はまだタタリの本質を理解しちゃいない」

 

「何?」

 

「食い付いたな」

 

俺が、タタリの本質を?

そんな馬鹿な……。

 

ロアはわかってるというのか?

 

「思い出せよ…タタリはいつから『ズェピア・エルトナム・オベローン』の姿になるための力になった?」

 

「───。」

 

「本来なら死徒同士の戦いってこともあって殺すに限るんだが……今回は見逃してやる。

死徒二十七祖として、お前はまだ未熟にすぎる」

 

「ッ……!」

 

「やはりその様子だと旦那は何も言わなかったか。

まあ、旦那は人付き合いもいいが空気も読めるからなぁ……」

 

……まさかこいつに諭されるとは。

俺が、タタリの本質を見誤ってた……。

 

そうか、そういうことか……!

 

「まあ何にせよ、次に会うときはもうちょいマシになるんだな……」

 

俺の体が浮き上がる。

雷の拘束が俺を浮かせている。

 

この技は……ああくそ、抜け出せん。

拘束すると同時に術を縛っている?

 

「四つの福音を以て汝を聖別す──」

 

まずい、マズイ!

この状態でそれはマズイ!

 

俺の周りを魔法陣が4つ、出現する。

それから発せられる魔力は桁違いだ。

 

 

 

「─怒号を以て神意を示せ!」

 

 

天の崩雷。

相手を縛り、四方向からの雷で敵を攻撃する技。

 

それが俺に襲いかかる。

当然、防ぐ手段などなし。

俺はネプギア達のいる方を確認する。

 

…まずい、泣かせてしまっている。

ああ、くそ、欲張らなきゃよかった。

 

 

「ガァァァァァ……!!」

 

 

肉が焼かれる感覚、手足が痺れ、動けなくなる感覚。

 

それら全てが一瞬にして俺に襲いかかる。

 

ダメージがデカすぎて俺の体がピクリとも動いてくれない。

 

「ぐ、ぉぉ……!」

 

「おいおい無理すんなよ立てる気力があるのは認めてやるが力が入ってねぇなぁ」

 

強制的に結界が解除される。

皆が駆け寄ってくる。

 

カッコ悪いところを、見せている。

 

「ズェピアさん!」

 

「安心しろ、プラネテューヌ…だったよな?そこの女神候補生。加減はそこまでしてねぇがそいつも死徒だ。

そう易々と死にはしない」

 

「貴方は、何が目的なんですか!」

 

「ブラックディスクを寄越せとか言ったと思えば別に構わないと言って、目的は他にあるなんて、ふざけているの?」

 

皆が怒っている。

何故俺に怒らない?

いや、後でか。

治療を受けているが、体はまだ動きそうにない。

 

ロアはユニの言葉にヒヒヒと笑う。

 

「ふざけてないとも。

俺は至って真面目だよガンガール。

だが、そう、俺は先程いった成長が見てみたいだけだ

魂の成長、未完成故に最適化されていく器の姿をな」

 

「だが……君の『永遠』にそれが意味を成すのか?」

 

「勿論、意味はある。この世界に姫君は居ないが楽しむ要素は腐るほどあるからな」

 

「あくまでズェピアを含めてアタシ達は観察対象に過ぎないってこと?」

 

「俺のお前らへの評価を改める事態があればそうじゃなくなるが、今はそうだな」

 

「悪の研究者め!」

 

「いいねぇそれ、そう呼んでくれても構わねぇぜ?」

 

転生による永遠。

それの更に上のステップがあるのか?

他人への転生、それによる自我の掌握。

 

それの上のステップ?

 

あくまで観察対象。

その言葉に嫌悪感が増す。

だが、俺は勝てなかった…。

 

弱くなっているのもあるがワラキアの力を誤認している事が一番の要因か。

 

「まあ、何はともあれ収穫はあった。俺はそろそろお暇させてもらうか」

 

「……私達は、貴方を必ず倒します」

 

力量差を知った。

そして、見逃された。それも意図的にだ。

屈辱的だ。

 

だが、それでもネプギアはしっかりとロアを見捉えて言った。

 

ロアはネプギアを一瞥してから去っていく。

 

「その日を楽しみにさせてもらおう」

 

こうして…アカシャの蛇、ロアが参戦したのだった。

 

それは俺達にとっても、マジェコンヌにとっても……或いは、グレートレッドにとっても変化をもたらすのかもしれない。

 

そう、今はまだ分からないが…。

 

しかし、俺には一つだけ気がかりが残る。

 

─おい。タタリの本質の件、分かっていたのか

 

『無論、私は君の言うタタリそのもの。

いや、タタリを管理するプログラムだ。誰よりも理解し、誰よりも近くにいる』

 

─なら、なんで教えてくれなかった?

 

『教えれば、君は分かったかね?』

 

─……

 

『つまりはそういうことだ。今一度、タタリを知るために人としての生を味わうといい。何、私は君の味方だ。それは保証しよう』

 

─……分かった

 

ワラキアは分かって俺に教えなかった。

教えても真の理解を出来ないと思ったからだ。

 

つまりは、俺自身が未熟なことに他ならない。

 

悔しい。

堪らなく悔しい。

勝てなかったことも、本質を理解できていなかったことも!

 

そうして、傷が癒えた頃に姿が元に戻った。

手を空へと伸ばす。

自然と、出そうとする声が震える。

 

「……ああ、悔しいなぁ…!」

 

「ズェピアさん……」

 

「……今は帰りましょう。後味悪いけど、まだやるべきことは残ってるんだから」

 

「エルエル?立てますか?」

 

「ほら、肩貸すよ」

 

「ああ……悪い……!」

 

「本当よ、あんな無茶な戦いして、アタシ達の気にもなりなさいよ!」

 

「……悪い」

 

ユニの説教にただ謝るしかない。

調子に乗りすぎたのかもしれない。

 

今まで負けという敗けをしなかった。

知ることがなかった。

 

だが、それを今知った。力での挫折を味わったのだ。

 

「…頑張るよ、俺」

 

「……そうよ、アタシ達に言葉投げ掛けてるんだから、あんたも頑張りなさいよ」

 

「ああ、頑張る。……ありがとう、皆」

 

……だからこそ、強くなる。

理解し、掴み取る。

 

タタリの本質を、すぐにでも。

 

そう決意していたら、ネプギアが笑顔になってこちらを見ていた。

 

「ズェピアさん」

 

「え、あ、なん……でしょう?」

 

何故か、声に覇気がある。

おかしい、体が震えているぞ?

日本一、どうしたんだ?何かヤバイもの見てる顔して

 

「約束、破りましたね?」

 

「………………あっ」

 

「帰ったら覚えていてくださいね」

 

「……はい」

 

これからラステイションで起こるであろう説教に、俺は身を震わせるしかなかった。

 

あ、そういえば何でも言うことを聞くんだった。

財布が……!

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

ギョウカイ墓場、ある一帯。

そこに、一人の男と一体の龍がいた。

 

赤く、紅い龍は帰って来た男を睨む。

 

「どういうつもりだ、アカシャの蛇」

 

「おいおい、どういうつもりも何もああした方がいい」

 

「どういうことだ」

 

「分からないか?ッハァ!これだからお前は理解度が薄い!人の心が理解できず、人の世を知れぬ龍には道化しか似合わないぞ?」

 

「……」

 

男、ロアの言葉に龍、グレートレッドは押し黙る。

 

ロアは続けざまに聞く。

 

「俺も一つ聞かせてくれねぇか?何故タタリ達に差し向ける魔物の強さが微妙なんだ?お前なら、それこそ自身の分身を産み出すのも容易だ。弱っていてもな。

わざわざ(・・・・)そうする理由はなんだ?」

 

「……──」

 

 

 

 

「分からない」

 

 

 

「そりゃまた、何故?」

 

グレートレッドは何かを考えるように言葉を発する。

そこにかつて自分本意の思考は存在しなかった。

 

ズェピア・エルトナムを滅ぼす。

それだけが龍の考えを埋めていた。

 

だが、一つだけ気掛かりだった。

 

「何故、運命に逆らう?

私が定める運命、それが間違っているとすれば…何故不確かな未来へと足を伸ばす?理解が出来ない。

ズェピア・エルトナムは私という脚本が不要と言った。それは抑止に任された私の存在意義を否定する言葉だ

何故?何故なのか……分からない。分からないが……」

 

グレートレッドは遠くを見つめる。

その目が何を見ているのか。

 

ロアはそれを訝しむように見るだけだ。

 

()を見ていれば……分かるのだろうか…

人の心、人の存在意義を。そして、私を……

私は、知りたい。

定めを無視し、尚突き進もうとする精神、在り方を」

 

「…そうかい。まあ、本来ならそんなものどうだっていいが、この世界にはまだ調べたいものが多くある。

解明するまでは付き合ってやるよ」

 

ロアはそう言ってまた一人で何処かへと去っていった。

グレートレッドはそれをチラリと見てからまた遠くを見る。

 

「教えてほしい、平凡なる男よ。

何故、私はこうも考えることを放棄できないのか。

私は抑止に、主に見放されたのならば……」

 

 

 

─どう生きればいい?

 

 

 

龍もまた、迷い子であった。



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監督気取り、少女と一日を

やあ、皆。

俺だ、ワラキーだ。

 

ラステイションに戻ってからネプギアにこっ酷く怒られた。当たり前だが、他の皆にも。

ただ、その中でもネプギアは涙を浮かべながら俺に怒るもんだから脳に焼き付いている。

 

浅はかな行動を取ったとは思った。

どうしても確かめたかったという理由で約束を反故にしたのは申し訳ない。

 

ケイにはしっかりと全てを報告した。

ゲイムキャラの力を借りることが出来たこと、ロアの存在等、全てだ。

 

ケイは報告を聞いてから

 

『取り敢えず、今は女神候補生とゲイムキャラの協力を得ることを優先して動けばいいと思うよ。

その中で、色々と見付けるだろうからね。

次はルウィーに向かうといい。あそこの女神候補生達の協力を得れるかは……分からないけど』

 

『女神候補生……』

 

『達?』

 

『ふふふ……頑張ってね』

 

あの意味深な笑みはなんだというのか……。

いやまあ、大体の予想はついている。

 

という訳で、今日からルウィーへと向かっている…訳ではない。

まだラステイションに居るし、ついでに言うと俺は教会の自分の部屋にいる。

 

ネプギアと一緒に。

…何でかというと、まあ、約束を破った罰らしい。

それに、ルウィーに向かう前に各々で揃えるものを揃えてしまおうという話になったのだ。

そう言ったアイエフは次の日に行くということになった。

というか、寒いらしいので暖かい服装はするべきとのこと…俺?うん、まあコートは買ったよ。ついでに服も。

 

いつまでもあれじゃあねぇ……

 

それで、朝の買い物が終わってからネプギアと一緒にここにいるわけだ。

 

「それで、ネプギア?」

 

「何ですか?」

 

「罰らしいけども、俺は何すれば?」

 

「うーん……」

 

「考えてなかったのか」

 

「仕方ないじゃないですか!私こういうことはしたことないんですから!…でも、今日はあまり何処かに行かないでください」

 

不安げにそう言ってくるネプギアに俺は了承するしかない。

余程、あの時不安にさせてしまったのだろう。

何となく、頭を撫でる。

もう癖だな、これ…オーフィスにも無意識にやってたし

 

「ごめんな。そんで、分かったよ。今日は何処にも行かない。ここに居ればいいんだな?」

 

「はい!」

 

「でも、ネプギアはいいのか?」

 

「私は大丈夫です!」

 

「そっか」

 

それ以上は何も聞かなかった。

本当は何処かに行きたいのかもしれないが……

俺には分からない。

今の俺には、何も。

 

不意に、手に暖かい感覚がした。

ネプギアの手が俺に重ねられている。

そのまま、両手で包まれる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「えっと……何が?」

 

「昨日のロアって人に言われたことを気にしてるんですよね?」

 

「…まあ、な。事実だから何も言い返せなかった」

 

「タタリの本質を理解していない……でしたっけ」

 

「ああ、だから俺は弱いともな。…ロアはふざけているが死徒二十七祖と同格の存在だ。加えて、地頭もいい。アイツの指摘はもっともだった」

 

あの時の言葉が甦る。

 

〔思い出せよ…タタリはいつから『ズェピア・エルトナム・オベローン』の姿になるための力になった?〕

 

つまり、力の有り様から違う。

長い時を生きているせいか、前世の事も中々に思い出しにくくなっている。

その弊害で何かを履き違えている?

 

考えられるとするなら死徒化そのものの在り方になる。

 

……。

 

延々と考えているとネプギアが俺の名前を呼ぶ。

俺はそれにどうした?と聞くと

 

「ズェピアさんは、タタリがどんなものかを把握しきっていないという事ですよね」

 

「そうなるな」

 

「なら、もう一度タタリの事を口に出して説明してみてください」

 

そう言ってきた。

口に出して……か

 

確か、前もネプギア達に説明したな。

口に出すことで思い至る可能性もあるか。

 

「分かった。…タタリは、元々はこんな使い勝手のいい物じゃなかった。それは覚えてるよな?」

 

「はい、改良したんですよね」

 

「ああ、噂等の悪性情報を元にタタリはその噂の人物になることができる」

 

「でも、それを改良した結果、任意でその能力が使えるようになった」

 

「そう。改悪にならなくてよかったよ…」

 

それからもタタリについて話していった。

ネプギアはタタリの説明を質問を交えながら聞いてくれた。

 

けれど……

 

「うーん……駄目だな。よく分からない」

 

「タタリに不備は無さそうですけど…あるとしたらズェピアさん側に問題があるんですかね?」

 

「恐らくな。……うぅん……よし、やめた!」

 

「やめちゃうんですか!?」

 

「ずっと考えてちゃ疲れる!だから、今はやめた!」

 

『君は其でいいのかね?』

 

─駄目かなぁ…

 

『まあ、構わないよ。答えは意外と身近なのだがね…』

 

─そうなのか?

 

『ヒントをあげるとするなら、やはり〔姿〕だろうね』

 

─姿……か。あー、出かかってるような

 

『ふふ、取り敢えず、今日はやめておくといい。

明日からしっかりと考えることだ』

 

……そうするか。

 

「ズェピアさんがいいならそれでいいですけど…」

 

「悪い」

 

「謝ることじゃないですよ」

 

「……それでさ、暇だけど、どうする?」

 

「あ、それなら……その…一緒に「ズェピア!」え?」

 

「ユニ?どうした?」

 

突然ユニが扉を開けて入ってきた。

一体どうしたというんだ……?

 

「アイエフ達から聞いたのよ、あんたが珍しい銃を持ってるって」

 

「黒い銃身の事か?これ、そんな珍しいかな?」

 

「ちょっと見せてくれない?」

 

「構わないけど……」

 

俺は黒い銃身を取り出してユニに渡す。

凄い食い付きだな……まあ、その性質上弾も特殊だからな。

 

手に持ってそれを様々な角度から観察している。

 

「へぇ…古い見た目に反してかなり複雑なのかしら…」

 

「分かるのか?」

 

「マニアというか扱ってる者としての勘も交えてだけど……これ、使えない?」

 

「無理だな、死徒化した俺じゃなきゃセキュリティのせいで撃つことすら出来ない」

 

「厳重ね、それじゃあ結構危険な代物なのかしら」

 

「弾が当たりさえすれば、殆どのモノが原子レベルまで分解されるかな」

 

「かなり危険じゃない」

 

「だからこそ、俺しか扱えないんだよ」

 

「ふぅん…ところで「ユ ニ ち ゃ ん ?」──」

 

ネプギアがユニを呼んだ途端、ユニは固まり、徐々に恐怖に染まる。

ど、どうしたんだ?

 

もしかしてネプギアの顔が怖いとかそんなか?

いやでも普通に呼んでたぞ?

 

「ユニちゃん」

 

「は、はい!」

 

「私、ズェピアさんに約束を破った罰の途中だったんだけど…申し訳ないけど、今日はここまでにしてくれないかな?」

 

「分かったわ!じゃあねズェピア!」

 

「お、おう……」

 

勢いよく黒い銃身を俺に返して出ていったユニに俺は呆然と見てるしかなかった。

……ネプギア、どうしたというのか

 

「ズェピアさん、それでその、罰なんですけど…」

 

「う、うん」

 

いかん、何言われるか緊張してきた。

財布が軽くならなければいいのだが……。

 

心なしか顔が赤いネプギアは意を決したように言う。

 

「うー……罰として!私に膝枕されてください!」

 

「はい?」

 

それは罰ではないのではないか?

普通に考えて、男からすればネプギア程の可愛い女の子の膝枕なんてご褒美の類いだ。

 

どうしちゃったのか……。

 

「えっと、それでいいのか?」

 

「はい!それがいいんです!」

 

「まあ、そう言うことなら良いんだけどさ…」

 

「じゃあ、はい、どうぞ」

 

積極的な態度で膝枕の準備を完了させたネプギアに疑問を覚えながら、横になって頭を膝に置く。

 

……静かな時間が過ぎていく。

 

「ネプギア?」

 

「はい?」

 

「本当にこれでいいのか?無理してるんじゃないか?」

 

「……いいえ、これでいいんです」

 

「そうなのか……?」

 

少しして、俺がこれでいいのかと聞くと穏やかで優しい声でネプギアは俺の髪を撫でながらこれでいいと言う。

 

ネプギアの顔は今見えないが…何だろう?

 

「こうしていると……ズェピアさんがいると感じられるんです」

 

「──」

 

ようやく気付いた。

そうして、俺は馬鹿だと自身を嫌悪した。

 

気丈に振る舞っていたが、ずっと怖かったんだ。

あの時も泣いてたじゃないか。

こんな男にも涙を流してしまう女の子だと知っていたのに。

 

俺は何でそうやって手遅れになってから気付く。

 

「無茶をして、自分勝手で、優しく振る舞って。

……そうして傷付いて、私達がそれをどんな思いで見ていたか」

 

「……」

ネプギアの口調が強くなっていく。

 

「私は、頼りないですか?私達は、そんなに頼りないですか?」

 

「そんな事は─」

 

「じゃあ……お願いですから、もっと頼ってください!仲間だと思うなら、私達よりも先に行って一人で傷付かないで下さい…!」

 

「ネプギア……」

 

俺は頭を動かしてネプギアの顔を見る。

すると、顔にぽつりぽつりと雫が落ちる。

ネプギアは泣いていた。

 

俺に、一人で行かないでくれと願いながら。

 

「ズェピアさんは、焦っています…家族の元へ早く帰らないといけない、グレートレッドを倒さなきゃいけない……自分が悪いからって、そうして一人で解決しようとして、私達を置いていくんです」

 

「それは…」

 

「私は、嫌なんです……ズェピアさんがそうして一人で行っちゃうのが、怖くて仕方がないんです……!」

 

悲しみをぶつけられる。

俺が焦っていた。

そうなのかもしれない。

 

今思えば、ロアに一人で挑んだのも、そうなのかもしれない。

 

……俺は、また泣かせてしまったんだな。

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

私を辛そうな顔で見るズェピアさんに言葉を吐き出す。

一人で、一人で戦って、傷付くこの人を見たくない。

もっと頼ってほしい。もっと仲間だと思ってほしい。

 

もっと───もっと、私を見てほしい。

 

そう願い、ズェピアさんに涙を流す。

 

だって、傷付く姿を見て苦しいから。

頼ってくれていいと言ってくれた人が、頼ってくれないのが悔しいから。

 

ロアに一人で挑んで、わざわざ結界で私達が乱入できないようにした時、壁を感じた。

力量、それもあるけれど…一番は心の壁だった。

 

そうして負けて、所々焼けたズェピアさんを見て、怖くなった。

この人を失ってしまうと、思ってしまった。

 

一人で突っ込むような真似はやめてください、とその日は説教をしたが、その後は自室で震えていた。

 

本当は、あの人に抱き付いて寝てしまいたかった。

居なくなってしまうも思ってしまったときには震えが止まらなかった。

お姉ちゃんやアイエフさん達がそうなっても私は震えると思うけど、それでもあの時は異常だった。

 

怖くて、涙を流して、名前を呼び続けていた。

疲れて、寝てしまったけど、起きたときには早く顔をみたいと思った。

顔にも行動にも、仕草にも出さずに心掛けていの一番にズェピアさんの姿を確認したときは心が軽くなった。

 

生きていると分かったからなのかどうなのかは分からないけど……それでもよかった。

 

「私、もっと強くなりますから!私だけじゃなくてアイエフさん達も一緒に強くなりますから!

貴方が頼ってくれるようになるために強くなります……だから、お願いですから……私達をもう少し信じてください!」

 

少しでも、少しでも心に近付きたかった。

いつか帰ってしまうのは分かっている。

それでも、この世界でもこの人の助けになる人はしっかりといると教えたかった。

 

分かったことが一つあるんです。

この人の分かった、は分かってない可能性があること。

 

だから、伝わるように必死に伝える。

 

そうして、ズェピアさんは手を伸ばしてきた。

その手はいつものように頭に置かれるのではなく頬へと当てられた。

そのまま、私の涙を親指で拭う。

 

「──…ああ、そうか」

 

一言、何かに気付いたかのようにズェピアさんは私の顔を見る。

先程の辛い顔は穏やかな物へと変わっていた。

 

分かってくれたのかな。

 

「ネプギアは、強いなぁ」

 

「私は、強くなんか……」

 

「強いよ。…うん、焦ってた。ごめんな、ネプギア」

 

「ズェピアさん……」

 

「ハハ、これじゃユニにも謝らないとだ」

 

「ユニちゃんにも……?」

 

「焦りすぎだって言っちゃってさ。人の事言えないのにな、俺は。でも放っておけなかったからさ」

 

「そう、ですか」

 

何となく、ユニちゃんも大変だったんだな、と思った。

それと同時にユニちゃんの話をするズェピアさんに不満を感じた。

何でだろう、でも、何だか嫌だ。

 

「ズェピアさん」

 

「ん?」

 

「今は、罰の最中ですよ。…他の子の話は禁止です」

 

「…そっか、罰なら仕方ない。心地がいい罰だな」

 

「心地いいんですか?」

 

「何だか、安心する」

 

頬を膨らませて、駄目ですと伝えると笑ってそう言うものだから少し恥ずかしくなる。

涙はいつの間にか止まっていた。

 

安心する。

……そっか、そう思ってくれてるんだ。

何だか嬉しい。

 

「私も、安心します。貴方と二人の時間が」

 

「…それは恥ずかしいな」

 

「そうなんですか?」

 

「まあ、うん。色々とね」

 

ズェピアさんの恥ずかしそうな顔なんて初めて見た。

心の壁、少しは越えられたかな?

 

……強くならなきゃ。

ズェピアさんも、私も、皆も。

そうして、お姉ちゃん達やゲイムギョウ界を救うんだ。

 

でも、今は少しだけ休息を。

 

この人にも、私達にも、それくらいは必要です。

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

頭を撫でるのはよくやるが、撫でられるのはそんなに無い。

……ネプギアの言葉は、俺の心にとても響いた。

 

愚かだ、何という愚かさだろう。

俺は仲間だと言いつつ、真にそれを理解できていなかった愚者だったのだ。

これでは申し訳が立たないどころか、会わせる顔がない

 

…ネプギアは、何処と無く、オーフィスと似ている。

俺に泣きながら言葉を吐き出すネプギアを見て、俺が思ったのは其だった。

 

タタリで世界を覆った時、オーフィスは今まで隠してきた意思を爆発させた。

それはあまりにも優しい願いだった。

俺を休ませたい。その為に全てを消し去ろうとした。

手段はあれかもしれないが、その目的は俺にとっては感謝をせざるを得ない。

だが、それを認めるわけにはいかなかった。

 

だから、喧嘩をした。

そして、仲直りをした。

 

……結果、この世界へときた。

 

悪いことだとは思わない。この世界の人々と会えたことで俺にとっての結論が変わることだろう。

それに、この温かい人達を守りたい。

 

俺にも、それをしてもいいだろうか?

世界を壊そうとした俺が守るという尊い行為をしていいものか?

 

…いや、関係無いか。

俺は俺だ。元より誰にも運命を縛られるつもりはない。

守りたいから守る。

それでいいだろう。

 

今までそうしてきただろうに、何を俺は。

原点を見直せ、■■■■。

 

俺は、何を守りたくてそうしたのかを。

俺は、尊いモノを守りたかったから、ああしたんだろう

なら、俺はこの世界の尊いモノを守りたい。助けたい。

 

「…必ずお姉さん達を助けような」

 

「はい!」

 

涙を拭った後の目は少し赤かったけど、俺はそれが綺麗に見えた。

…でも、どうしてこの子の涙を拭いたいと、思ったんだろう。

 

それも自然とやった行為だった。

 

この子の笑顔を見ていたい、そうも思った。

俺は、それを悪いものとは思わなかった。

 

……うん、この世界で俺が頑張ることは、そういう願いでいいんじゃないか?

 

ああ、ようやく、願いを見つけた。

この世界で、したいと思うことを。



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監督気取り、白の大地へ そして──

指が折れかけたから投稿します(謎)

というか、一時とはいえランキングに載ってたけどどういうことなの……


やあ、皆。

俺だ、ワラキーだ。

 

昨日はまあ、なんだ……

うん、罰だったから仕方ない。

 

え、一緒に寝たのかって?

いやもう鬼を見たくないんで……

 

「……ふぅ」

 

ベッドから出て、伸びをしてから窓から外を見る。

晴れてるようだ、善きかな。

 

……でも、ネプギアがあそこまで俺に歩み寄ろうとしてくれたんだ。俺も、そうしないと。

 

俺は馬鹿だったけど、それでもまた大切なものを見付けられた。

 

まだ帰れそうにないけど、それでも待っててくれるかな、皆。

 

空に向けて、手紙を送るが如く。

俺はあちらの世界にこちらの世界から思いを送る。

だが、届くことはないだろうな。

 

悲しいが、帰ってからしっかりと話さないと。

 

扉を開けてから部屋をもう一回だけ見て、世話になったなと思い出ていく。

何だかんだでいい部屋だった。

 

「おはよう、ズェピア」

 

「アイエフか、おはよう。見たところ、俺は遅かったか?」

 

部屋を出たら、アイエフが話しかけてきた。

早起きだな。もう着替え終えてら。

 

アイエフは俺の問いに首を横に振る。

 

「私が早起きなだけよ。目が覚めちゃったってやつ」

 

「なるほど…」

 

「…昨日、ネプギアと何を話したの?」

 

「皆で頑張ろうって話したな。後は、タタリの事を一緒に考えてた」

 

「ふーん…答えは出たの?」

 

「まだかな。もう少し、時間がかかる。ごめんな」

 

「謝ることじゃないでしょ」

 

アイエフは苦笑する。

 

「アンタが出すべき答えを急かして何になるって話よ」

 

「確かにそうだけど…」

 

「それに、アンタは抱えすぎよ」

 

「え?」

 

ずいっと迫るアイエフに俺はたじろいだ。

ネプギアにも同じようなことを言われたからドキッとした。

 

「馬鹿なんだから、グレートレッドだとか黒い銃身だとかタタリだとか…もっと気を抜いて考えなさいよ」

 

「いや、それはちょっと」

 

「それぐらいしてもいいってこと。アンタは一人じゃないんだから」

 

「……アイエフ」

 

「それとも、私達には相談もできない?」

 

「……ハハ、皆優しいんだからなぁ」

 

「分かったんなら、いいわ」

 

「うん、ありがとな」

 

優しいな、アイエフ。

俺には勿体無い仲間達だ。

 

そうだな、難しく考えすぎていた。

 

少し問題を深刻に考えすぎていたのかもしれない。

確かに深刻ではあるけど。

 

考えても仕方ないことも考えていた。

キャラじゃないな、そんなの。

 

「ネプギアだけがアンタを見てるわけじゃないって事、忘れないでよ」

 

「……そうだな、俺は恵まれてる」

 

「なら、その分何かで返しなさい。ほら、行くわよ」

 

「ああ」

 

アイエフが行くので、俺もついていく。

何だか、毎度こんなで情けないな、俺。

そろそろ、ちゃんとしたところ見せないと。

 

名誉挽回しないとな。

 

『君、そう言うのならそれこそタタリを使いこなせるようになるべきでは?』

 

─うぐ…頑張るよ

 

『うむ、そうしてくれたまえ』

 

ワラキアから指摘されてしまったので若干苦しくなるが、仕方無いことなので言い訳せずに受け止めて、少し距離が離れてしまったので急ぎ足で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよーう!」

 

「うわ、朝から元気ね……おはよ」

 

「おはようユニ、起きてたのね」

 

「こんなの何時も通りよ」

 

ユニがいたので、朝の挨拶。

 

ユニは早起きなようだ。

ネプギアも早起きなんだけど、こんなに早くはないだろう。

だって今、4:00らへんだもん……ユニ、普段がこれなんて恐ろしい子……!

 

社会人だったんで経験ありますあります……

 

「昨日は……」

 

「ああ…あれは…ちょっとあんたのせいじゃないって言うか、アタシが悪かったから」

 

「だから、今もう一回見るか?」

 

俺は黒い銃身を取り出してユニに見るかどうか聞く。

 

「いいの?」

 

「いいさ、どんどん質問してくれてもいい」

 

「…うん!」

 

ユニは黒い銃身を受け取って、じっくりと見て触りどんなものかを確認する。

 

何だか、その姿は俺が最初に造っていた時を思い出してしまって。

自然と笑ってしまう。

 

ユニは突然笑いだした俺にどうしたのよ?と聞いてくる。

 

「ハハハ、いや…造ってた時の俺に似てるなって。

俺も、そうやって見て、触って…精一杯に造ってた」

 

「そういえばあんたが造ったんだっけ…」

 

本当は、アトラスの誰かが造ったものだ。

ズェピアかもしれないし、他の誰かかもしれない。

でも、『その』黒い銃身は俺が理想のために造り上げた物で、色々な想いが詰まっている物だ。

だから、これは

 

「そうだな、うん、俺が造った」

 

そう、俺の自信作に違いない。

 

ユニはそれを聞いて、微笑んでから黒い銃身をもう一度見る。

 

「そんな清々しい顔をして言うんだから、銃も嬉しいでしょうね」

 

「そうかな?」

 

「ええ、きっと想いが詰まっているんでしょ?」

 

「そう、だな。うん、色んな想いが詰まっている。俺だけじゃなくて、皆の」

 

「そう……」

 

「……だったら、さっさとグレートレッド達やマジェコンヌを倒して帰らなきゃね」

 

ずっと俺達の様子を見ていたアイエフがそう言ってくる。そうだ、そのためにも強くならんとな。

 

この体も鍛えれば悪くはないはずだ。

勿論、タタリの本質も理解してみせる。

 

「ああ、絶対に倒そう!」

 

「……それで、ユニはどうするの?」

 

「え、来るんじゃないのか……ってそうか、そうするとラステイションが……」

 

「ええ、ゲイムキャラが力をあんた達に渡した以上、アタシはいけないわ。……でも、ずっと行けないなんて事にはならないから」

 

「…おう!」

 

「それまでは、ね」

 

「ええ」

 

絶対に駆けつける。

意思を示してくれたユニに俺は笑顔で親指を立てる。

それまでは任せろという意思を、俺も示す。

アイエフも、笑みで示す。

 

珍しい組み合わせの三人だが仲間だ。

意思表示くらい楽勝だ。

 

そうした後、ユニが黒い銃身を返してきた。

 

「もういいのか?」

 

「ええ、アタシには使えないってのは昨日の時点で分かってたし…」

 

「そうか」

 

本来なら、黒い銃身も強化しなきゃならないが…やめとこう。

まだ大変だろうしな。

また来たときにしよう。

 

朝早く起きるもんだな。

得をしたというか、何というか。

早起きは三文の徳とは言うが、あながち間違いではないようだ。

 

「よし、やるか」

 

「何をよ?」

 

「朝食を作るであります!」

 

「……ああ、そういえばずっとご飯作りたいって言ってたわね」

 

「料理できるの?」

 

「こう見えて、家族に料理を教えたのは俺なのだよ、二人とも……家事スキルは高いのだ、ヘケッ」

 

「味の保証は?」

 

「そんな疑うの?二人が俺をどんな目で見てるのか気になってきたんだが?」

 

「「馬鹿ね」」

 

「あぁぁぁ……そういう事言うのか!なら、見せてやろう!エリート監督の圧倒的家事力を!」

 

俺は…スーパーワラキアだ。

舐めるなよぉ!チャァァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味しいです!」

 

簡単にトマトスープとか、チキンサラダとか…まあ、作ってみた訳だが。

その間に皆起きてきて、顔とか洗ったりした後席について俺の作った朝食を食べてくれている。

皆驚いていたが食べてみたら、今みたいに笑顔になっているネプギアみたいに絶賛である。

 

ふっ……どうよ?

そんな顔をユニとアイエフに向けると

 

「まさかここまでとは……うぅ」

 

「悪かったって、そんな顔向けないでよ」

 

「そうだろ?俺だってこれくらいは楽勝なんだぜ?」

 

「エルエルは主夫さんですぅ」

 

「結婚はおろか彼女すらいませんがね……!」

 

「でも、美味しいわ!」

 

「日本一…素直は美徳だ。お前はそのままでいてくれ……!」

 

「?うん」

 

降参を宣言した二人にドヤ顔をかましているところにコンパの鋭い一撃が俺の心を粉微塵に砕いた。

そして、日本一の素直な一言が俺を癒してくれた。

俺は涙してそのまま染まらないでくれと願う。

というか、色物は増えすぎてはいけない。

え?日本一はもう色物では、だと?

 

うるせぇ、そんなこと分かってんだよ!

でもなぁ、素直さまで消したら取り返しつかないだろぉ!?

 

「……それで、ケイ。ルウィーの現状は?」

 

俺はふざけるのもそこまでにして、一緒に食べているケイにルウィーがどうなっているかを聞く。

このラステイションみたいにマジェコンヌの被害がないというのはあり得ないだろう。

 

だから、マジェコンヌの侵食具合を確かめる。

 

「ルウィーは今、かなりマジェコンヌの手が入ってしまっているらしい。ここ、ラステイションと同じかそれ以上とはルウィーの教祖から聞いたよ」

 

「そんなにか…」

 

「女神候補生も頑張ってはいるらしいけど…まあ、あれだと出来ることは知れているだろうね」

 

「そんな言い方しなくても…」

 

「事実だよ、といっても納得はしないだろうけど…見た方が早いだろう。僕の言い分は尤もだと思うだろうからね」

 

「それで、ゲイムキャラについては……」

 

「それはラステイションの教祖でしかない僕には知り得ないよ。ノワール達なら知っていたかもしれないが」

 

「ルウィーの教祖様に聞くしかないですね…」

 

「大丈夫、成せばなるよ!」

 

ルウィーもかなりヤバイの一歩手前か…もう既に、か。

何にせよ、あちらの教祖と女神候補生達に会わないことには何にもならなそうだ。

 

だからといって、気持ちを急がせても仕方無い。

そりゃ、焦りもあるにはあるが、それで転んでしまっては目も当てられない。

 

今は、食事に集中しよう。

 

…千差万別、か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルウィーは遠いので、列車に乗って行くらしい。

ラステイションもしばらくはおさらばか。

プラネテューヌにも一度戻りたいが我慢だな。

 

ケイは見送りには来なかったが、ユニは来てくれた。

まあ、ケイは教祖だし忙しいんだろう。

俺達が渡した素材で何作るかは気になるが。

 

今、ネプギアとユニが話をしている。

せっかくできた候補生の友達だもんな。

 

「アタシはまだまだだって思い知ったし、もっと強くなるわ」

 

「私も強くなるよ。お姉ちゃんが驚くくらい強くなる!」

 

「…頑張りなさいよ、ネプギア!」

 

「うん!ユニちゃんも、頑張ってね!」

 

何とも微笑ましい光景。

おおう。俺こういうのに弱いんだよ……

 

俺達は少し離れた所から二人を見ていた。

 

「青春だなぁ」

 

「爺か!」

 

「エルエルは吸血鬼だから年齢的にもお爺さんですぅ」

 

「あれ、だったらもっと優しくした方が……」

 

「やめて?コンパ、俺は吸血鬼だけど見た目これだから!精神的にも爺に見えるか?

日本一もやめて?いつも通りに接して?」

 

俺の精神がルウィーになる。

冷たくなるからやめて。

接し方が爺へのそれになったらもう俺はダメになる。

 

「それで?ケイには許可を得れたの?」

 

「黒い銃身だろ?まあ、何要求されるかはその時によるがな」

 

「やっぱりそこはムカつくわね」

 

「まあまあ……」

 

ケイにもう一つだけ頼んだことがある。

それは少し後になるが黒い銃身の強化をする際にラステイションの施設を貸してほしいということだ。

流石に難しい顔をされたが、出来ればと伝えたら

 

『その時次第かな』

 

とのこと。

貸すのはいいが、代価は貰うということだろう。

 

ハア、次は要求難度を下げてくれるといいが。

 

その事にちょっと不安に思いつつ、二人を見ていると話は終わったのかネプギア達がこちらへ来た。

 

「皆さん!」

 

「おう、行くか。ユニ、頑張れよ」

 

「あんたもね。人の心配の前に自分の事よ」

 

「お厳しいことで。ま、その通りなんだけどさ」

 

俺とユニは握手をする。

勝ち気な目だ、いつものユニだな。

心配はいらなそうだ。

成長が早いというか、何というか。

 

まだ話をしたいが、列車は待ってはくれないようでもう乗らないといけないみたいだ。

 

「またな」

 

「またね、ユニちゃん!」

 

「マジェコンヌには気を付けなさいよ」

 

「怪我にもですぅ」

 

「悪に屈しちゃ駄目よ!」

 

「ええ、またね、皆!」

 

俺達は列車に乗り込み、最後にもう一度手を振る。

 

そうして、俺達は一時的にではあるが、別れた。

さあ、気持ちを切り替えていこう。

 

次の目的地は、ルウィーだ。

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

「…行っちゃったか」

 

列車は走っていき、すぐに見えなくなってしまった。

別れはアッサリだなと思い、アイツと握手をした手を見る。

 

新しい悩みができても、アイツは大丈夫なようで安心した。

アタシも頑張らないとね。

 

お姉ちゃんを助けるくらいに強くなってやるんだから。

 

友人と約束した手前、無様は晒せないものね。

 

少し寂しいのは確かだけど、もう会えない訳じゃない。

 

「さて、戻ろう」

 

アイツらが戻ってきたときに見違えるほど強くなってやるんだから。

 

それにしても、ネプギアは気付いてないようだけど……自分の気持ちなんだから、自分で気付けばいいかな。

 

そう思いながら、アタシはラステイションの教会へと戻っていった。

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

列車に乗り、俺達の席に座るが…いいな。

移ろい変わっていく光景、ラステイションが夏とすればルウィーは冬か。

秋を飛ばしての冬景色へと変わっていく。

 

俺はそれを座りながらただじっと見ていた。

 

「…この光景を、直接見せてあげれたらなぁ」

 

「家族にですか?」

 

「ああ…きっと喜ぶだろうなって」

 

「…皆で来ればいいんですよ!」

 

「え?いや、でも…世界を越えてか?」

 

「はい!皆でまたこっちに来て、それでまた乗りましょう!」

 

「また…か」

 

ネプギアが言ってるのは、確率的には低すぎる。

世界を越えるなんて、それこそ…奇跡的だろうに。

俺が来れたのも場所とか諸々の条件が偶然噛み合ったからであって……

 

「いいじゃない、それで」

 

「うんうん、家族皆で平和になったゲイムギョウ界に!」

 

「ですね~」

 

「…そうだな、その時が楽しみだ」

 

「はい!」

 

「ああ」

 

そうだな、確率とか…理屈じゃないか。

気持ち一つで世界くらい跳べるさ。

 

それぐらいの気概見せてやんよ

 

あー……一度でいいから皆の顔を見たい……

フリージアは体調とか大丈夫かな……

オーフィスはギスギスしないでやれてるかな……

教授は店の管理とか大丈夫かな…

 

あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"……

 

自然と、ため息が出てしまう。

 

「ハァ~……」

 

「どうしたの?元気になったかと思えばため息なんてして」

 

「皆しっかりと早寝早起きして三食食べて歯磨きとかして風呂とか入ってるか心配で心配で……」

 

「アンタって親馬鹿ね……」

 

「確かにフリージアは料理できるよ?でも、無理してないか……オーフィスもさぁ…あの子、あんなことした手前心配なんだよ…教授はまだ平気だと思うけど…」

 

「不安がどんどんと出てますね……」

 

「エルエル、パパモード入ってますぅ…」

 

「これは重症ね」

 

「早く帰って確かめるためにも…グレートレッドの野郎を粉微塵にするゾ」

 

「忙しいやつ……」

 

こらそこぉ!呆れるなよ?

俺だって忙しないのは分かってるんだから。

 

家族への愛を叫ぶのを日頃我慢してるんだからこれくらいの愚痴は許してよ!

今言うことかと言われたら何も言えないけどさ。

 

「ま、ズェピアは放っておいて……」

 

「うぉい」

 

「そろそろルウィーみたいよ」

 

アイエフは視線を窓にやり、ルウィーが近いと教えてくれた。

 

「マジか、雪合戦楽しみですね」

 

「いや子供の旅行に来たわけじゃないでしょうが!」

 

「タコスッ!?」

 

チョップが俺の頭に落とされる。

鋭い一撃…こいつ、洗練されてきているだと…!?

 

あの短期間でここまで強くなろうとはな

 

「威力が上がってやがるなアイエフ……」

 

「私のツッコミは威力測定器か何かかっ!」

 

「仲がいいね二人とも」

 

「アイちゃんはエルエルの事気に入ってるです」

 

「そうなんですか?」

 

「違うから!これはネプ子がボケで私がツッコミだったから自然と身に付いたスキルだから!」

 

「そうだぞ、コンパ。厳密には逆だ。俺がアイエフを気に入っているんだ。なあ遠坂?」

 

「だからその遠坂って誰よ!?そして恥ずかしげもなくそんな事を言うな!」

 

「サム!?ゲタン!」

 

二連撃だと!?

しかも、見えなかった……こいつ、ツッコミながら成長してやがる!

 

「あーもう…ほら、さっさと支度する!」

 

「はいです!」

 

「先生、バナナはおやつに入りますか?」

 

「それ以上ボケるなら窓から列車とお別れすることになるわよ?」

 

「はい」

 

「日本一さんは何か暖かい物とかないんですか?」

 

「寒さなんてへっちゃらよ!体を動かせば温まるもの!」

 

「これがアウトドアの人間か…」

 

俺はこの運動すれば温まるの精神を本気で言っている日本一に尊敬の念を抱いて、コートを出しておく。

まあ、俺も寒さとか平気なんだけどな…死徒便利だね。

 

「さて、お次は夢見る白の大地、か…」

 

何にせよ、やれることをやるだけだ。

いつか帰れると信じて、突き進む。

 

それが俺にできる事なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

三人の人の姿があった。

そこは本来、誰も寄り付かぬ場所。

二体の生物がかつて棲んでいた場所。

 

少女がとある位置で立ち止まる。

 

「……!」

 

「どうしたの?」

 

二人目の少女が一人目の小さな少女に問い掛ける。

 

「見つけた、薄い反応ではあるけど…ここから突然消えている」

 

「となれば…なるほど、理解したぞ」

 

「本当?」

 

三人目の男が、小さな少女にああ、と頷く。

 

「この空間は特殊だ。それこそあらゆる次元の境界に位置するほど曖昧であり、それでいて世界同士の衝突が起こらない為の壁としての役割をしている。ならば、その壁が一時的に強大な力同士がぶつかることによる壊れたなら?」

 

「そこに吸い込まれる形で消えたって事?それだと…」

 

「もう一度壊せばいい?」

 

小さな少女は腕をぐるぐると回す。

可愛らしい動作ではあるが少女からすればその拳を振るえばこの空間に穴を開けるくらい造作もないだろう。

 

しかし、男はそれを止める。

 

「それをすれば最悪、世界が消失するだろうな。

であれば、奴の帰還を見守る位にしか我らには出来ん」

 

「そんな……」

 

「だが、一つだけお前になら出来ることがある」

 

「…我に?」

 

小さな少女は男に首を傾げる。

二人目の少女もまた、同じく。

 

「『オーフィス』、お前のその無限の力を使う時が来た。それを以てしても出来ることはあまりにも小さいがな……」

 

「無限…我の……やる、教えて」

 

「気休めにしかならんが?」

 

「それでも、やる。『カオス』、どうすればいい?」

 

カオスと呼ばれた男はクク、と笑う。

それでこそ貴様だとばかりに。

オーフィスと呼ばれた少女はどうするのかを今か今かと待ちわびている。

 

「ならば、『フリージア』。貴様の力も借りるぞ」

 

「私にできる事があるならやるよ!」

 

フリージアと呼ばれた少女は、やる気に溢れた瞳で男を見る。

 

カオスは、更に笑みを深める。

やはり面白いとばかりに。

 

「ふっ、では奴の…『タタリ』のいる世界へプレゼントを送るとしよう」

 

「うん!」「ん……!」

 

世界への干渉。

どれだけの事をしようとしているのかを全員が理解している。

不可能に近い事だ。

だが、それでも全員がやると決めたのはやはり──

 

 

 

 

 

「家族の一時を待ってるよ、ズェピア」

 

「貴様が居なくてはつまらんからな。獣も寂しがる」

 

「ん、我達は何処に居ても……家族だから」

 

 

 

 

 

─全員が一人の馬鹿な男の言う家族だから、なのだろう




家族バカは伝染する。

ご指摘や感想等、くれると嬉しいです


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監督気取り、立ち向かえ──

キングプロテアが来なくて辛いです。
倒したから回せば手にはいるという思考はゴミのように捨てられた……




寒い国から放送をお送りしておりまーす。

えー現在のルウィーの気温は知らん。

天候は雪後に雪となっております。

 

「寒いわね…」

 

「だが、辿り着いたぜ、ルウィーによぉ…俺達のサッカー人生はここから始まるんだぜ」

 

「いや、ゲイムギョウ界を救いなさいよ」

 

「雪だるま作ってからでいい?」

 

「子供か!」

 

「おっさんですね」

 

「童心にかえってる余裕があるなら働け!」

 

「ゴボウ!?」

 

「エルエルも懲りないです~」

 

はい、早々に一発いただきました。

何てこった、もうこの一撃が俺の目を覚ますものと化してやがる。

まさか、俺はドMだった?

 

やめよう、気持ちよくはないけど、娘にまで言われた覚えがあるからやめよう。

 

「……日本一さん、本当に寒くないんですか?」

 

「平気よ?」

 

えっへんと胸を張る日本一を見て、本当に寒くないというのが分かった。

俺も死徒だから平気だけど、一応着込んでます。

何でかって?

ちょっと人間気分かな?

 

というか、何だか向こうが騒がしい。

 

人が結構集まってるが、誰かが演説でもしてるのか?

 

「ちょっと気になるな、行ってくる」

 

「え、ちょっと!」

 

「悪い、先に教会に行ってても構わないからさ!」

 

「また勝手にそんな事言って…!」

 

俺はアイエフ達に言ってから人だかりへと向かった。

 

かなりとは言いがたいが…それなりには集まっているな。

見ていた俺は少しだけ近寄ることにした。

誰が演説してるのかだけでも確認を……

 

そう思って近寄っていくと、足が誰かに当たってしまった。

 

「うわっと……」

 

「きゃっ……!」

 

誰がぶつかったのかを確認すれば、それはまだ小さい女の子だった。

こりゃいかん。

 

「わ、悪い…不注意だったな……立てるかい?」

 

「ぅ、うん…(おどおど)」

 

俺は謝ってから手を差し出す。

女の子は少し怖がりながらも俺の手を握って立ち上がる。

 

「怪我はないか?頭とか打ってはないか?」

 

「……(こくり)」

 

「そうか、良かったぁぁ…ああ、自己紹介をしておくと、俺はズェピアって言うんだ。さっきはごめんよ」

 

「私は…ロム、です」

 

「ロムか、よろしくな。……親御さんは居ないのか?もしくは、姉とかは……」

 

「えっと、その…」

 

話し辛そうだ。

人見知りが激しいのかそれとも恥ずかしがり屋なのかは知らないが、少し踏み入りすぎたな。

 

「あー…ごめん、言いにくいなら言わなくていいよ。

誰かとは来たのか?」

 

「うん…」

 

「そっか。ここは人が多いから、はぐれたのか……」

 

「……お兄ちゃん?」

 

「お兄ちゃん、だと……?」

 

待て、俺はロリコンではない。

妹が居たらなぁとかは昔考えたことはあったしそう呼ばれてみたいという願望はあったけどもロリコンではない!断じて無い。

 

んー……でも、呼びやすいのがそれならそれでいいか。

何となく、妹ができたみたいで嬉しいですし。

 

娘はいたが妹は居なかったので新鮮である。

 

ロムは心細いのか俺の裾を握っている。

まあ、はぐれるよりはマシか……

 

演説、聞こえないかな……?

ロムには悪いが、少しだけ聞こえる所まで進む。

 

「マジェコンヌに入ればマジェコンが使い放題!

女神なんかもう古い古い!今の時代はマジェコンヌでしょ!」

 

聞こえた。

しかも、この声下っ端……リンダの声か!

 

「……ハァ…」

 

「お兄ちゃん……?」

 

「ロム、少しだけ離れる、いいかな?」

 

「う、うん……」

 

「悪い、そこの広いところで座って待っててくれ」

 

俺はロムを置いて、さっさと人を掻き分けて進む。

そして、リンダの姿を確認した。

チラシを配ってるが……どう見ても宗教勧誘ですね。

 

俺も近付くことにした。

 

「マジェコンヌに入るなら今だよ~!」

 

「えー?本当にござるか~?」

 

「そう疑うなら一度……げぇ!?テメェは!」

 

「ズェピア・エルトナム・オベローンです。よろしくお願いします」

 

「ああこちらこそよろしくお願いします…じゃねぇ!

しかも名前なげぇ!何だってこんなところにテメェがいるんだ!?」

 

「あれは今から36万年前か…」

 

「いや長生きし過ぎだろぉ!」

 

「ツッコミありがとう。それで?お前何してんの?

言葉次第によっちゃ泣くぞ」

 

「泣かせるじゃなくて!?」

 

「うん、泣く」

 

「面倒だなテメェ!?」

 

何だこのツッコミ力は。

下っ端でさえこの力……マジェコンヌ、侮れぬな。

 

「ま、茶番はここまでだ。マジェコンヌ、布教活動はやめてもらおうか」

 

俺は構える。

ぶっとばす準備は出来ている。

死徒化をすればいいんだろうけど、無闇に使うとよろしくないからな、あれは。

逃がすつもりはない。独房に入れてくれるわ!

 

「チッ……かくなる上は……!オラァ!」

 

「うお、危なっ!?」

 

リンダは鉄パイプを俺に投げてきた。

 

避ければ人に当たる。

なので、俺は鉄パイプを掴むか防ぐしかなくなったわけで。

安全のために掴むことにした。

 

しかし、投げたと同時に走ったリンダには対応できなかった。

 

「きゃぁっ!?」

 

「なっ…ロム!」

 

「へっへっへ……」

 

リンダはロムを抱え、人質にしてしまった。

小さい女の子だぞ……何て事を!

 

ロムは苦しいのか必死に暴れるが……

 

「暴れんじゃねぇ!」

 

「ひっ……」

 

リンダの荒い言葉に怖がって動けなくなってしまった。

 

「卑怯な真似を…!」

 

「これならテメェが変身しようがどうしようもねぇだろ?動くなよ…?アタシが逃げるまで、動くんじゃねぇぞ?」

 

「苦しい……」

 

「その子は関係ない子供だぞ!」

 

「へっ、悪党にそんな言葉が通じるかよ!」

 

ジリジリと後ろへ逃げるリンダに俺は追うことができない。

動けばどうなるか……。

 

俺の判断ミスだ。

ロムを俺の側に居させておけば……!

 

歯痒い思いで拳を握る。

痛むが、知ったことではない。

 

リンダの勝ち誇った笑みを睨むことしか出来ない。

 

 

「ロムちゃんを離せぇぇぇ!!」

 

「な、ぐぁぁ!?」

 

「ひゃ……!」

 

「ロム!」

 

 

 

リンダの額に氷がぶつかるまでは。

 

氷がヒットしたリンダはロムを手放してしまい、ロムは地面に落ちてしまう。

 

俺は慌てて駆け寄って、ロムの安否を確認する。

 

「大丈夫か!?」

 

「う、うん…それより…」

 

「ってて……何だってんだよ!?」

 

ロムは無事みたいだ。

俺は安堵し、次に誰があの状況を打開したのかを確認するべく辺りを見回す。

 

「ロムちゃんに酷いことして、許さない!」

 

そこにいたのは、ロムとそっくりな見た目をした少女だった。

いや、髪色は同じく茶髪だが長さはロムより長いな。

双子だろうか?

 

「ラムちゃん!」

 

「ロムちゃん、大丈夫?わたしが来たからには安心よ!」

 

「うん!」

 

「……よし!」

 

しかし、あんな小さな子が勇気を振り絞ったのだ、今度は俺の番だ。

 

俺は立ち上がり、リンダに向き直る。

 

「形勢逆転、お縄について貰うぞ!」

 

「ガキんちょが邪魔しやがって……!」

 

リンダは今度こそ刀を構える。

周りにいた人達がそれを見て悲鳴をあげる。

 

「ロムと…ラムだったな?危ないから下がってるんだ」

 

「…ううん、大丈夫!(キリッ)」

 

「わたし達だって強いんだから!」

 

ロムとラムが自信満々にそう言ってから、二人に光が集まる。

 

この、現象は……!

……ケイが言っていたのはこの事か!

 

「これは……!」

 

光が消える頃には、二人の姿が大きく変わっていた。

 

ロムは髪が青く瞳がピンクで、右側の髪が少し長い。

ラムは髪がピンクで瞳が青く、左側の髪が少し長い。

 

女神候補生達……予想通りだが、なるほど……!

 

「女神候補生が二人か!」

 

「な、何だとぉ!?」

 

二人はお互いの杖をリンダへと向ける。

 

「このルウィーの女神候補生であるロムちゃんラムちゃんがやっつけてやる!」

 

「うん、やっつける!」

 

「何だってんだ、こりゃぁ……!」

 

「形成、さらに逆転だな…!」

 

「チッ……!?」

 

「ロム、ラム!俺が殴るから援護を!」

 

「うん!」「仕方無いわね!」

 

俺はリンダへと接近する。

ロムとラムには遠距離からの援護を頼んだ。

さあ、年貢の納め時だ……!

 

俺はリンダに拳を振るう。

しかし、刀で弾かれる。

だが、ロムとラムが……

 

「馬鹿が、マトモに戦う訳ねぇだろっ!」

 

あれは……!?

 

「ハッ、閃光玉……!?」

 

リンダは接近する刀を振るうでもなく懐から取り出した玉を地面に投げ捨てる。

 

そして、光が俺達の視界を支配した。

 

「きゃあ!?」「何!?」

 

「くそ!!」

 

俺は見えないながらも手を伸ばすが……

 

手は何も掴まずに空を切る。

 

そして、視界がようやく戻るが……

やはりリンダの姿は消えていた。

 

「くっそ…逃げ足は早い!」

 

「お兄ちゃん、待って…そこ」

 

「ん?」

 

「足跡があるわ!ロムちゃん、行くわよ!」

 

「あ、待って、ラムちゃん!」

 

「二人とも!?」

 

ラムがリンダのと思われる足跡を追って行ってしまい、ロムはラムを追いかける形で行ってしまった。

 

俺もすぐに追おうとしたが

 

「ズェピア!」

 

「アイエフか?」

 

後ろを振り返ればアイエフ達が走ってきた。

 

「人が逃げてきてたから何事かと思ったけど何があったの?」

 

「マジェコンヌのリンダが居たんだ。そこに出くわして色々あって今追おうとしていた。ルウィーの女神候補生達は先に行ってるんだ!」

 

「ルウィーの!?早く行きましょう!」

 

「マジェコンヌ…悪は私が裁くわ!うおぉぉぉ!!」

 

「エルエル、アイちゃん!日本一さんが行っちゃいましたです!」

 

「ええい、早く行くわよ!」

 

「おう!」「はい!」「はいです!」

 

俺達はさっさと走っていった日本一に遅れないように走った。

何も起こらないように祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルウィー国際展示場、その東館。

足跡を辿ればそこに行き着いた。

 

日本一にギリギリ追い付いた俺は呼び止める。

 

「日本一、先走るなよ!」

 

「ズェピア?あ、ごめん、つい…」

 

「心配なのは分かるが、それで何かあったら俺は悲しいぞ。行くなら、皆で、な?」

 

「そうね…ええ!」

 

俺と調子が元に戻った日本一に少ししてからアイエフ達が追い付く。

コンパは大丈夫だろうか?運動が得意というわけではないだろうし……

 

あれ、思ったより平気そう?

 

「ようやく追い付いたわ……ここね?」

 

「ああ、まず間違いないだろうな」

 

「じゃあ、行きましょう!」

 

「はいです!皆で、マジェコンヌをやっつけるですよ」

 

「正義の名の元に悪を倒すわ!」

 

「正義執行してやるぜぇ!」

 

「こんな時にふざけない!」

 

そうして俺達は中へと進んでいく。

 

モンスターがちらほら見えるが、構っている暇はない。

ラムとロムが心配だからな、さっさと行く。

 

しばらくして、ロムとラムの姿を確認し、そのすぐ後にリンダも確認した。

 

どちらも傷がないからようやく追い詰めたといった様子か?

 

「ロム、ラム!無事か!」

 

「お兄ちゃん?」

 

「やっと来たのね!」

 

「げ…多勢に無勢ってレベルじゃねえぞ!?」

 

「やい、犯罪組織マジェコンヌ!悪が栄えた試しはないわ!ここで倒してやる!」

 

「ク……!?」

 

流石に人数差による不利を感じずにはいられまい。

逃げ出しても捕らえられる人数ですね、勝ったわ(慢心)

 

「大人しく投降しろ」

 

「へ……誰がそんな事すっか!アタシにはまだこの手があんだよ…!」

 

リンダがそう言って取り出したのはラステイションやプラネテューヌの時と同じ赤いディスク。

あの蜥蜴ぇぇぇ!!

 

「モンスターディスク…それもグレートレッド製か!」

 

「そうさ!ほらよ!」

 

リンダがそれを翳すと赤い光を発し、光が徐々に形を得ていく。

そして、その光は黒く染まる。

 

その黒が形を得ていく様は、まるで……

 

「ッ……!」

 

「まだ、大きくなるの…!?」

 

ネプギアの驚愕は尤もだ。

だが、俺はこの形を知っている。

 

この翼、尾、そして…その赤を。

 

お前まで、お前までもそうなるか……

 

〔オ、ォォ、ォオオオ……!!〕

 

サマエルとフェンリル。

あの二体は確かに強い。

特にサマエルはドラゴンという種には必ず勝てる存在だ。

 

だが、俺にとって、今から出てくるのは強さだけではない。

 

〔この肉を持つ感覚、檻から解放される感覚……!〕

 

「これは、まるで…」

 

「…ドラゴン……!」

 

「赤い、ドラゴン……!」

 

「怖い…」

 

その巨大さは二度見た。

 

かつての大戦の時に遠くより見たのが一度目。

対話をするために直接あったのが二度目。

 

〔久方ぶりの肉体、震える力!そして…喰い千切りたくなるほどの敵!!〕

 

それは、俺を睨み付ける。

 

そうか、お前はあの時のお前か。

憎いだろうな、そうだろう。

 

あの子の一生を見てないお前は、俺を憎いままだろう。

 

「…お前までそうなるのか──」

 

グレートレッド……お前は俺に何をさせたい…?

 

俺もまた、その存在を睨み付ける。

俺の世界において、それは恐れられる物。

 

赤と白のドラゴン。

その赤のドラゴン…

 

 

 

〔ズェピア・エルトナムゥゥゥゥゥ!!!〕

 

「─……ドライグ…」

 

 

 

赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)』ドライグ。

奴は俺に、御執心のようだ。

 

俺は、お前の心を知った。

あの時の後悔を聞いた。

なのに、これはないだろう!

 

お前はもう、暴虐のドラゴンではないだろう……!

だというのに、これは……何て酷い。

 

俺は戦意を失ったわけではない。

だが、勝てるのか?

 

今の俺はグレートレッドに一息で殺される程弱い。

その俺に、こいつを…倒せるのか?

 

俺は皆を見る。

ドライグの力に震えるのが何人かいる。

当たり前だ。こいつは格が違う。

何せ、肉体がある。

 

何としても、皆を逃がして──

 

 

 

「─ズェピアさん!」

 

「!」

 

「また一人で抱え込んでましたよね」

 

「……ネプギア」

 

 

ネプギアが俺の名を呼んだ。次に手を握って来た。

彼女の目には諦めの色が無かった。

 

他にも、よく見れば震えてはいるが皆負けるものかと睨み返している。

 

……また一人で考えてたな。

 

「悪い、癖が出てさ」

 

「良くないですよ」

 

「ああ……──頼りにしてもいいか?」

 

「─はいっ!」

 

ネプギアは笑顔になる。

ああ、馬鹿だな、俺。

 

どうやら俺は、頑張れるようだ。

 

ハハハ、俺は笑顔に弱いのかも。

 

「皆、やれるか?」

 

「流石にヤバイけど…倒せない訳じゃないんでしょ?」

 

「それに、このまま逃げたらルウィーが危ないですぅ」

 

「どうあれ、正義のために戦うしかないって事ね!」

 

「ロムちゃん、やれる?」

 

「怖いけど…ラムちゃんが頑張るなら、私も頑張る!」

 

「──ああ」

 

美しい物を見ている気がする。

 

弱気になってた俺に戦う意思をくれた。

なら、やるしかないじゃないか。

 

全く、我ながら単純な男だと思う。

 

〔羽虫どもがうじゃうじゃと……踏み潰してくれる!〕

 

「それは駄目だな、ドライグ」

 

俺はドライグに指差し、ニヤリと笑う。

笑え、俺。

これが絶望的な状況でも、笑え!

 

 

「お前は、俺達が倒す!!」

 

 

そして戦え、この世界での願いのために。

俺が、俺達が守るんだ!




小さい子が勇気を出している。
なら、カッコ悪い所は見せられない。





感想やご意見待ってます。


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監督気取り達、赤へ挑む

俺とネプギアは変身する。

ドライグと戦うには全員で掛かっても苦戦どころか敗戦する可能性は高い。

というのも、こいつは自身の力を倍加するからスペックとかは宛にならない。

アルビオンはまだ楽な部類だが、ドライグは自己強化をしまくるから辛い相手だ。

 

だが、差は気合と作戦で埋める。

 

変身した俺を見て、ドライグの憎悪がより一層強くなる。

 

〔ズェピア・エルトナム…!!貴様は殺す!

必ず、喰ってくれる!〕

 

「やらせません……私達が、貴方を倒します!」

 

「ドライグ…君の憎悪は分かるとも。

だが、その憎悪を持ち出すということは…君は変われなかったドライグということだ」

 

〔何を訳の分からぬことを……!〕

 

「簡単な話だ。その憎悪は、フリージアを侮辱し、かつての感想を伝えてくれた君さえも侮辱した憎悪だ………とても許せることではない。本来ならば、私だけが取り掛かるべき事だ……だが、舞台整理は全員の仕事だからね、君という粗悪品を役者全員で始末するとしよう!」

 

〔吸血鬼風情が俺を愚弄するか!かつての貴様ならばまだしも今の貴様に俺と戦う資格などありはしない!

潔く朽ち果てるがいい!!〕

 

ドライグの口から炎が溢れ出す。

龍のブレス、それは古来からの災厄の一撃。

受けたものはまず只ではすまない。

 

三回の倍加をしたドライグのブレスならば尚更だ。

まだ上がるというのだから質が悪い。

 

それが今、放たれた。

 

「合わせろ!」

 

「はい!」「うん……!」「分かったわ!」

 

「「「「ハァァァァァァ!!!」」」」

 

俺とネプギア、ロムとラムはそれぞれが遠距離で放てる攻撃で一番火力のある物を放つ。

俺は悪性情報を質量のある奔流として放ち、ネプギアはマルチプルビームランチャー…MPBLからビームを放つ。

ロムとラムはそれぞれの杖から氷の魔法を放つ。

それらが赤龍帝のブレスへと向かい、ぶつかる。

 

僅かにだが、押しているぞ!

 

〔ぬぅ!?何故俺が押し負ける!?〕

 

「そんなもの決まっている!」

 

「ゲイムギョウ界を救いたい!」

 

「「ルウィーを守りたい!」」

 

「己の願いのために戦うのだ!それを、貫き通す覚悟こそが、君の炎に打ち勝つ力となる!」

 

〔─舐めるなぁァァァァァぁ!!〕

 

「今だ、アイエフ、日本一!」

 

「ええ!」「合点よ!」

 

「コンパ、申し訳無い、歯痒いだろうが!」

 

「私は看護師です!回復は任せてですよエルエル!」

 

コンパは戦わせられない。

何故ならコンパは回復役だからだ、コンパが倒れてしまえば、俺達は回復もできずにやられてしまう。

その為にも、後ろに居てもらう!

それを理解しているコンパは回復の用意は万全だ。

頼もしいな!

 

アイエフと日本一がドライグへと駆ける。

今、この瞬間においてドライグはブレスに意識を割いている。

今ならば接近戦で殴れる訳だ。

二人は素早いから、引き際を誤るとは思えない、だから任せる。

信頼して任せる。

 

二人はドライグの腕を狙う。

日本一のドリルが鱗を削り取り、アイエフのカタールが削り取られた部分を斬る。

 

そして、その僅かな痛みが重要だ。

 

〔ぐぬ、羽虫風情がぁ!!〕

 

─意識を腕に向けた!

 

「力を振り絞るぞ!今が好機だ!」

 

「うん!」

 

「頑張る……!」

 

「いきます!」

 

俺達はさらに力を込める。

腕に意識を僅かでも向ける。

それは倍加を続けていても隙であることに変わりはない。

この数秒でミスをしたな!

 

ブレスをどんどんと押していく俺達の合わせ技。

ドライグもそのミスに気づき、再度力を込めるがもう遅い!

 

俺達の技がブレスを押し切り、ドライグの顔に当たる。

押し切る瞬間にアイエフと日本一も退いたようだ。

 

当たった瞬間、それは爆発し、ドライグの顔を包み込んだ。

〔ぐ、ぬぅおぉぉぉぉ!!?〕

 

苦痛の声をあげるドライグに効果はあったようだと確信する。

 

だが、あれで倒せるとは思っていない。

大戦時代、どれだけの犠牲が出たかを知っている。

四大魔王も、聖書の神も死んだ。

多くの者が死んでいった。

 

どれ程の強さだったか……。

 

……だが、かなりの出力を出したのも事実だ。

まさか、たった5回の倍加でここまでの消費を強いられるとは。

 

女神候補生達も辛そうだ。

 

「かなりの威力だったけど…」

 

「ど、どう……?」

 

「いや……まだだ…」

 

 

 

〔─貴様らァァァァァぁ!!〕

 

 

 

煙が晴れるとそこには怒りに身を震わせるドライグがいた。

その顔は先程の攻撃でボロついている。

だが、ドライグ自身はまだやれそうだ。

 

自信ある一撃だったんだけどなぁ……!

でも、少しだけ回復はできた。

こういう時、回復係がいるとありがたいな。

 

『だが…このままでは』

 

─ああ

 

「うわわ!?」

 

「まだまだ余裕って感じね……!」

 

「それに、まだ強くなってるわ!」

 

「反則…!(イラッ)」

 

「ズェピアさん、何か手はあるんですか…?」

 

「ある」

 

確かに、先程の作戦で一撃を与え、ダメージは与えた。

かなりのダメージだったろう。

だが、足りない。

 

足りない分は、監督が補う。

 

「先程よりも重労働間違いなしの作戦となる。

構わないか?」

 

「それで、勝てるんですね?」

 

「ああ、勝てる。確実にね」

 

「なら、やるしかないでしょ」

 

「あのドラゴンさんを倒さないとルウィーが危ないです。私達で倒すですよ!」

 

「…他の皆も同じよ、ズェピア。皆が正義を背負ってるんだからね」

 

全く、最高の仲間だ。

じゃあ、やるか。

分割思考、限界展開。

 

〔ズェピア・エルトナムだけではない、貴様らも喰い殺してくれる!!〕

 

ドライグが動き出す。

倍加は恐らく8回。

ってことは、一発即死か。

 

「ネプギアは私と動くぞ、決定打を撃てるのは君と私だけだ。ロムとラムは魔法でドライグの注意を惹き付けてくれ。アイエフと日本一が一番の労働となるが?」

 

「任せなさい」

 

「まだまだ動けるわ!」

 

「よし、ならばロムとラムを抱えながら走ってくれ。

二人の足ではすぐに追い付かれる。君達もドライグの倍加がこれ以上かかればキツい。コンパ、君には…これを」

 

俺はコンパにあるものを渡す。

 

「これは……」

 

「君がこの作戦の要だ。……使い方は?」

 

「分かります!」

 

「よろしい。……では、私が合図をしたら、頼む。

それまでは隠れながら動いてくれ。常にドライグの頭が見えるようにね」

 

「はいです!」

 

「では、作戦開始だ!!」

 

全員が頷き、作戦通りに別れて動き出す。

アイエフと日本一は素早くロムとラムを抱えて走り出す。

ロムとラムが氷を造り出し、それをドライグにぶつける。

 

〔この程度、痒いわ!蝿どもめ…!〕

 

「こっちこっち!」

 

ドライグは予想通り二人を狙ってブレスを吐く。

動き回る二人に抱えられているから当たらないが、いずれは当たる……それまでに。

 

俺はアイエフたちと逆方向に一緒に飛んでいるネプギアに話し掛ける。

 

「MPBLのチャージは?」

 

「もう少しです。……ズェピアさん」

 

「……怖いかね?」

 

「…っ」

 

よく見れば、武器を持つ手は小刻みにだが震えている。

当たり前だ、この作戦の要はコンパだが、最終的に倒すのは俺とネプギアだからな。

 

失敗したらどうしようと考えるのは普通だろう。

俺だって怖い。

 

だから、俺は近付いて武器を持っていない手を握る。

 

「ズェピアさん……」

 

「大丈夫だ、君だけが背負うんじゃない。私も、皆も背負う」

 

この戦いは辛い。

だからこそ、勝たねばならない。

正直な話、人でなしと言われるだろうが他人の命なんてどうでもいい。

ただ、その他人の中に、ネプギア達が含まれているのなら…ついでで守る。

俺が出来るのは大切な人たちを守ることだけだ。

正義の味方になれるのは、その時だけ。

 

ネプギアは、俺の手を強く握り返す。

 

先程の弱気な顔はどこへやら、そこにあるのは強い眼差しだった。

 

「もう大丈夫かね?」

 

「はい…ありがとうございます!やっぱりあなたの手は…温かいです」

 

「ハハハ、照れることを言う。私に出来るのは、戦闘以外ならこれだけだからね。さて、気持ちを切り替えよう」

 

「はい!」

 

さて……上手くいってくれよ……!

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「キッツいわね……!」

 

私、アイエフはロムと呼ばれた少女を抱えて走っている。

後ろにはドライグと呼ばれるドラゴンのブレスが地面に激突していた。

あの場にいたらどうなっていたか……なんて考える余地もない。

 

まさか、ドラゴンから逃げるために女神候補生を抱えて走る日が来ようとは思わなかった。

女神化してるから飛べばいいとは思っていたけど、ズェピアの方が正しかったみたいね。

 

あのドライグって奴、あの巨体で速く動けるなんて反則にも程がある。

 

「日本一、無事!?」

 

「まだまだ走れるわ、そっちは?」

 

「私もまだ平気といえば平気よ。諜報員の運動量ではないけどね……!」

 

「大丈夫……?」

 

「構わないわ。貴方にも負担はあるわけだし、お相子でしょ?」

 

抱えているロムから心配の声が聞こえたので微笑んで見せる。

まだまだやれるっての。

 

ズェピアではなく私達から始末することを考えている今のうちにひたすら走る。

ロムとラムが注意をこっちに向けてくれるけど、二人もどこまで持つか……

 

〔ちょこまかと鬱陶しいゴキブリどもめが!!〕

 

ドライグは私達に巨大な火球を何度も放ってくる。

私と日本一は当たらないように方向を変えながら走る。

後ろから轟音が鳴り止まなくて眠くはならなそうね…

 

「ロムちゃん!」

 

「うん!」

 

「「ブリザードランス!!」」

 

二人が力を合わせて巨大な氷槍を生成して火球を放ったばかりのドライグに命中させる。

 

けれど、あまりダメージは見込めないようね。

 

〔ええい……!ならば……──ふん!!〕

 

ドライグは苛立ちが頂点に達したのかその場で地面を強く殴る。

 

 

 

─瞬間、ルウィー国際展示場が揺れた。

 

 

 

「くっ!?」

 

「これは……っ!」

 

「きゃあっ!?」「ひゃあっ!?」

 

あまりの振動に走れず、転んで倒れてしまう。

二人して抱えていた女神候補生を手放してしまった。

 

マズイ……!!

 

〔さあ、これで逃げれまい…皆殺しだ、小娘ども!!〕

 

揺れが収まった時にはドライグが既に私達に追い付き、その口から炎を溢れさせる。

 

この距離でそれを放たれたら……!

 

作戦が失敗?

そんな事には、絶対にさせない。

 

何か、手が……!

 

そうこうしている内に、ドライグは私達を確実に殺しきる準備が出来たらしい。

 

〔この世から、完全に消え失せるがいいっ!!〕

 

そうして、ドライグの口から地獄の業火が──

 

 

 

 

 

「今だっ!!」

 

「はいですっ!!」

 

─放たれる前に、ドライグの顔の前で閃光が弾けた。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「ズェピアさん!!」

 

「ああ、放て!!」

 

俺はアイエフ達に炎が放たれる前に、ネプギアのチャージが完了したのでコンパに合図を送った。

 

いつでも使えるようにしていたのか、コンパはその合図と共にそれを投げた。

 

俺が渡したもの──閃光玉を。

 

持っていたものではない。

急造の品だ。

タタリを用いて、それに情報を与えて本物同然の偽物を造り出した。

ぶっつけ本番だったが、上手くいった。

 

俺は俺の能力を信頼して、仲間を信頼した。

 

結果は、勝ちだ。

 

〔ぬぅあ!?〕

 

「今よ!」「ええ!」

 

アイエフと日本一が即座に二人を抱えて逃げ出す。

 

そして、俺とネプギアの位置は、ドライグの背中だ。

ここで大技を放てば、お前といえどデカい傷は確定だろう。

 

そして、ネプギアはその背中へMPBLを向ける。

 

 

「マルチプルビームランチャー最大出力!いきます!」

 

〔何、上だと!?〕

 

ドライグが気付いたがもう遅い。

MPBLから先程よりも極太のビームが放たれる。

 

それはドライグが動くよりも早く、ドライグの背中に当たる。

 

〔グァァァァァァァァァ!!?〕

 

ドライグもこれには堪らないようで、背中に叩き付けられた事もあってその巨体が地面へと沈む。

 

だが、まだ生きている。

 

放たれ続けるビームを喰らいながらもまだ。

 

だから俺は、その背中へそれ(・・)を向けた。

赤い龍に向けるのは、二度目だ。

 

俺がそれを放てなかったのには理由がある。

まず、その鱗の耐久だ。

これではそれを貫けない。

そして、次にドライグ自身の身体能力。

倍加し続ける体がこれを避けれない訳がない。

 

だからこそ、決定的瞬間を待っていた。

 

「『黒い銃身(ブラック・バレル)』、展開。

その写し身を消し去ろう!」

 

〔ズェピア・エルトナム…また、貴様か…ガァァ!?〕

 

黒い銃身を向け、その弾丸を放つ。

 

それは傷だらけで鱗の耐久も何も気にする必要はない背中へと、真っ直ぐ進んでいく。

 

 

 

〔貴様が、俺の死になるなど………!!〕

 

 

 

弾丸は、ドライグの背中を撃ち抜いた。

 

俺とネプギアは降りて、仲間達の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、無事か!」

 

「ええ、何とかね……」

 

俺とネプギアはアイエフ達の元へと向かい、アイエフから無事という報せを聞いて安堵した。

炎が少しでも当たっていたらと考えるとゾッとする。

 

アイエフと日本一は疲労感からか座り込んでしまった。

ロムとラムもまた、寄り添うように壁に背を預けている。

コンパはそんな四人を診ている。

 

「皆、異常はないですよエルエル」

 

「そうか、良かった……」

 

「……あれで、勝ったの?」

 

「ああ、勝ったとも、その証拠に……」

 

〔が、ぁァァ……!〕

 

ドライグの苦痛の声が聞こえて、全員がそちらへ顔を向ける。

そこにあったのは、悲しい姿だった。

 

 

 

〔消えて、いく……俺が、俺の体が……!〕

 

ドライグの尾が、粒子になり、消えていく。

痛みは想像を絶するだろう。

炎を放つ余裕もないようだ。

 

俺は、ドライグへと近付いていく。

 

「ズェピアさん!」

 

「すまない、ケジメでね」

 

「…大丈夫、ですよね?」

 

「勿論だとも」

 

腕を掴んで止めてきたネプギアに微笑む。

俺は手を離してくれたネプギアの頭を撫でてからドライグの元へ向かう。

 

当然ながら、近づいてくる俺を睨み付けてくる。

 

「やあ、ドライグ」

 

〔ズェピア・エルトナム……!貴様、だけは許さん…〕

 

「許さなくていいとも。私は、許されようとは思っていない。……君を殺し、次へと進ませてもらう」

 

〔この、俺が……何故だ!何故この肉体でも勝てない!?〕

 

「それは、最期の疑問かね?」

 

〔答えろ!何故だ!何故、俺は……!〕

 

既に、下半身は消え去ってしまったドライグが、血を吐き出しながら問い掛けてくる。

鬼気迫る声で聞いてくる。

俺はそれに対して真剣に答える。

 

「簡単なことだとも。

君は独りで、こちらは仲間がいた。それだけだよ」

 

〔…大戦の時の繰り返しと、そう言いたいのか……俺と白いのは貴様らのような矮小な存在の群れに封印された。その繰り返しと?〕

 

「さあ、それは君の想像に任せよう。」

 

〔…力だけではないというのだな、この世は〕

 

「君が味わった通りだと思うがね。

だが、昔私が言った通り、龍の摂理はもう私達の世界では適応されない」

 

〔純粋な力のみで生きていられる時代は既に古い…─〕

 

ドライグは何かに気付いたように、睨むことすらやめてぐったりと顔を地面へと置いた。

 

〔ああ、そうか。俺は──〕

 

 

 

 

 

〔──時代に、殺されたのか〕

 

 

 

 

 

その言葉を最後に赤龍帝と呼ばれ、恐れられた龍は消えた。この最後の問答で、答えを得られたのなら、それはそれで結構だ。

俺も、タタリによる答えを得られた。

 

「…移り行く世界、変わり続ける人の世。無数に存在する恐怖の形。君はそれに殺された、か」

 

俺はそうして、死徒化を解除する。

しかし、俺は忘れていた。

いや、俺たちは、か。

 

俺は、体が突然重くなり倒れ伏す。

 

「「「「あっ」」」」

 

「えっ?」「あれ?」

 

「……忘れ、てた……!」

 

……死徒化した状態で動くと戻ったときにかなりの負担が来ることを忘れていたのだ。

ロムとラムはそれを知らず、キョトンとする。

知っている四人は……

 

「全く、締まらないわね……」

 

「でも、エルエルらしいですよ」

 

「うんうん、所々抜けてるところがズェピアらしいわ」

 

「あはは……」

 

苦笑している。

……恥ずかしいな、これは。

ロムとラムは困惑しながらネプギアに聞いて、ネプギアはそれに答えると二人とも安堵していた。

 

皆無事で良かった。

これは俺も体を張った甲斐があるというものだ。

 

だけどさ……

 

「あのぉ……誰か助けちゃくれませんかね……?」

 

俺の体、動かないからモンスターに襲われる前に起こしちゃくれませんかね!




タタリの答えを得たワラキー。 その答えとは?
次回に続く、続くったら続く。

感想、ご指摘があればください。
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監督気取り、お疲れ

どうも……あ、ごめん、挨拶も辛いわ。

 

取りあえず、ワラキーです……。

はー、つっら……(疲労感)

 

もうダメ、動けない。

 

「おう…おう…」

 

「何だか元気のないセイウチみたいになってるわね…」

 

「仕方無いですよ、動きすぎると戻ったときの反動はすごいでしょうから……」

 

「日本一……重くないか?大丈夫か?」

 

「平気よ!疲れてはいるけど運べないほどじゃないわ!」

 

日本一に担がれている情けない男がここに一人。

俺ですね……はい。

ロムとラムも疲れはてているようでアイエフとコンパに背負われている。そんで、寝てる。

ネプギアは平気らしいが、多分、皆沈むように寝るだろうな、これ。

 

しかし、ドライグを倒せたときにヒントを得られた。

恐らくは正解だろうが……まさかこんな事だったか。

 

「エルエル、今にも寝そうですぅ」

 

「頭働かせて、タタリ使いまくって、動き回って……

正直、風呂入るのも辛いです……」

 

「かなり重症ね、これは」

 

「アイエフと日本一も動き回ったろうに……」

 

「まあ、今は倒れちゃ駄目だからね…」

 

「そうそう、本当は寝たいけどね」

 

「二人とも、お疲れさまです…」

 

疲れによる気だるさを隠しきれない皆はルウィーの教会まで歩く。

多分、ルウィーでも国際展示場の異変は察知してるとは思うが……教祖と話すの、明日じゃダメかなぁ……?

 

やはり、俺も歩こう、日本一に負担を強いるのは良くない。

そう思って体を動かそうにも腕しか動かない。

 

「無理しない。頑張ったんだから、素直に運ばれてなよ」

 

「うぐぐ…………」

 

「大人しくしてなさいって」

 

「はい……」

 

無念。

俺はそのまま、ルウィーの教会までぐったりとした様子で背負われたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルウィー教会

 

そこに着いた我々は教祖の姿を探す。

ついでに双子も起こそう。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん。起きて、ルウィー教会に着いたよ?」

 

「んぅ……」

 

「ぅぅ…… 」

 

二人とも、目を擦って起きる。

そして、周りを見渡すと……

 

「あ、帰ってきたのね!」

 

「よかった……」

 

「おー……教祖は誰か知らない……?」

 

「お兄ちゃん、まだぐったり?」

 

「ぐったりです……」

 

「取りあえず、ズェピアはここに……ほい」

 

日本一に座れる椅子に置かれた。

俺は取りあえず、動けないことだし座っておこう。

喋れはするが早く寝たい。

 

双子は寝たこともあってか元気そうだし…子供っていいなぁ。

俺の右隣にアイエフ、更にその隣に日本一が座る。

 

ネプギアとコンパは別のところに座る。

やはりそれなりに疲れてるな。

 

「あー……絶対明日は走れないわ」

 

「筋肉痛は凄いかもね」

 

「諜報員がやることじゃないもんな。日本一は…ヒーローがやること?」

 

「今回はヒーローっぽかったわ!」

 

「ぽかった、じゃなくてヒーローだよ」

 

走ってたときの二人は結構かっこよかった。

あのキリッとした目付きはスゴいわ。

 

ドライグの火球を走りながら避ける様はアクション映画のようだったし……

 

「ロム、ラム!」

 

「あ、ミナちゃん」

 

「ただいま~!」

 

あ、教会の奥から誰か来た。

長い水色の髪で赤い縁の眼鏡をした女性で、ロムからはミナと呼ばれている…女神候補生と仲がよろしいのか。

 

ただ、そのミナと呼ばれる女性は明らかに心配している顔だ。

 

「ただいまじゃないですよ!地震も起こったというのに何処にいたんですか!?」

 

「あー……落ち着いてくれ」

 

「貴方達は………いえ、ロムとラムを連れてきてくれたのですか?」

 

「そうなる。少しくたびれているのは許してくれ」

 

「構いません、二人が無事なのも皆さんの…」

 

「ああいや、そういうわけでもないんだ、これがさ」

 

「それはどういう…?」

 

俺はミナさんにこれまでの経緯を教えた。

すると、段々と顔が青ざめていき、顔を俯かせてロムとラムに近付いていく。

 

「ロム、ラム」

 

「は、はい」「ミナちゃん、怖い……」

 

「ドラゴン…それもとても強い個体と戦ったらしいですね?」

 

「でも、勝ったのよ!」

 

「お兄ちゃん達がいたから勝てた…(ぶいっ)」

 

「そうですか、それは凄いですね。よく頑張りました……と、言いたい所ではありますがっ!」

 

ミナさんはとても怒っていた。

心配混じりの怒り。

きっと母親みたいな存在なのだろう。

 

「殺されてしまう可能性もあったのですよ!女神候補生といえど貴方達は子供なのですよ?」

 

二人をとても心配していたのは最初にロムとラムの名前を呼んだときにしっかりと分かった。

 

二人も危険なのは分かっていたからか少し申し訳ないといった雰囲気だ。

取りあえず、説教を止めよう。

皆どうしていいか分からないって顔だし。

というか、疲れてるので……

 

「ストップストップストーップ!ストップ高!」

 

「ストップ高は違うだろ!」

 

「痛い!?」

 

アイエフさんナイス。

ミナさんは俺の方を向いてくれた。

 

「あー、ミナさんでいいですよね?」

 

「はい、西沢ミナです。ここ、ルウィー教会で教祖をしています」

 

「俺はズェピア・エルトナム・オベローン。

ズェピアと呼んでください。

俺達がどんな一行かは多分、先程の説明で理解していただけたかと思いますが……まあ、彼女たちを責めないであげてくれませんか」

 

そう言うと、ミナさんは困ったような顔をする。

まあ、せやろなぁ。

 

「子供であるのはこちらも理解しておりますが…女神候補生でもある。彼女達はその自覚が少なからずあるからこそ、ドライグから逃げずに共に戦ってくれたのでしょう。

それに、言ってましたよ、ルウィーを守りたいってね」

 

「……」

 

「お兄ちゃん…(キラキラ)」

 

「ズェピア……!」

 

「しかし、子供であるこの子達がそのような危険な事をしたのは事実。こちらもそれに関しては何も言えません。二人の娘がいる身としては痛く気持ちは分かります。ですが、一つだけ……褒めてあげてください。

結果としてではありますが、二人は二人にとって大好きなお姉さんの国、ルウィーを守った。それもまた事実なんですから」

 

「……そうですね」

 

俺も、フリージアやオーフィスが二人でグレートレッドに挑もうものなら泣いてでも止める。

というか、それをさせたくなかったから俺一人で行ったんだし。

だからミナさんのロムとラムを叱ろうとするのはとても分かるのだ。

 

けれど、二人のお陰で勝てたのは事実。

だから、個人としては褒めてほしい。

 

ミナさんは俺の気持ちを理解してくれたのか、二人に向き直る。

 

「ロム、ラム…二人のしたことは危険であったのには変わりません。ですが、二人がルウィーを守ってくれたのもまた変わらぬ事実。…よく頑張りましたね」

 

「「ミナちゃん!」」

 

二人はミナさんに笑顔で抱き付いた。

ミナさんもまた、笑顔で抱き止める。

 

俺はそれを見て、自然と頬が緩む。

 

「アンタも親なのね」

 

「今更かよ?」

 

「話は聞いていたし、その手の愚痴も聞いたわよ?

でも、さっきのアンタは父親って感じだったわ」

 

「…父、か」

 

アイエフに言われて、二人の娘に思いを馳せる。

フリージアは確かに俺を父親的立場の人と見てくれているだろう。

だが、オーフィスは……。

 

ふぅ、そう思うと、俺は失格なのかもな。

 

「俺は父親というにはまだまだだよ」

 

「なら、頑張んなさい」

 

「ズェピアは父親としてはまだまだかもだけどヒーローとしてはいい線いってるよ!」

 

「マジ?」

 

「マジ!」

 

「仮面ライダーになるときが来たかぁ」

 

「やめなさい」

 

「あっはい……」

 

止められたのでライダーは断念します。

ワラキーはやはりバーサーカー……。

狂化連中より狂化してるとか言われるだけはある。

 

今日の戦いの事を話している双子とそれを聞いているミナさんを見ながら、くすりと笑う。

 

〔ズェピア、今回はどう?〕

 

〔まずまずの出来だ。日々精進だよ、フリージア〕

 

〔ん、フリージアの料理、上手くなってる〕

 

〔そう?えへへ……〕

 

簡単に昔を思い出せる。

あの頃のような光景だ。

 

「……今日のところは一件落着ってことで」

 

「そうね、重労働だったけど…少し良い仕事したかも」

 

「こういうのを見れるのがヒーローの特権だよね」

 

「分かるわ~めっちゃ俺分かるわ~」

 

「でしょ?」

 

「子供を助けて、怪人を倒した後に親の所まで送り届けたりして、親子がひしりと抱き合って喜ぶ光景…いいよなぁ。助けたって実感沸くよな」

 

「うんうん!それでそれで──」

 

「皆!」

 

日本一が更に語ろうとしたとき、ラムが俺たちを呼ぶ。

日本一は少し残念そうにしてたが、何の用かと気になってるようだ。

 

ロムとラムは一度互いの顔を見て、頷きあってからもう一度こちらの方に笑顔を向ける。

その後ろにはミナさんも笑顔で立っている。

 

「「今日はありがとう!」」

 

「皆さんのお陰でルウィーは守られました、ルウィーの守護女神ホワイトハート様に代わり感謝します」

 

「えっと…どういたしまして!」

 

「こちらこそ、手伝ってくれてありがとです!」

 

いち早く反応したネプギアとコンパに続くように俺たちも笑顔を向ける。

 

「─こういう感謝が、ヒーローの原動力になるんだろうね」

 

「そうだな」

 

「感謝されて、悪い気はしないわね」

 

ヒーローは柄ではないけど、悪くはないなと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、本当はゲイムキャラ等の話をしたかったが疲れが抜けそうにはなかったので後日改めて来ることにした。

宿はミナさんが手配してくれて、感謝感激である。

 

それで、部屋を割り当てられたのだが……

 

「ズェピアさん、体は大丈夫ですか?」

 

「寝れば大丈夫。明日には回復するさ」

 

ネプギアと一緒とは、どういうことだ。

 

いやまあ、事の経緯は簡単だ。

俺は一人部屋にしようとは思ったのよ。

でも、まずコンパがそれは駄目だと言って看病しますと言ってきた。

看護士が言うんだし、従った方がいいかなと思って了承しようとしたんだが……

 

『わ、私がやります!』

 

と、ネプギアが焦った様子で立候補してきたのだ。

コンパはそれに困惑したが、その後何を思ったのか笑顔で了承。

こうして俺とネプギアは一緒になった。

 

ちなみに、その間アイエフは日本一に取り抑えられていた。

まあ、一緒に寝なければいいのだ。

 

もう風呂も入った、夕飯も食べた。

寝るだけなのだ。

 

「それで、何でネプギアは立候補したんだ?」

 

「…嫌でした?」

 

「いやいや!嫌じゃないよ!でも気になってさ」

 

「本当ですか?」

 

「本当だって!ネプギアみたいな女の子に看病してもらえるのは個人的に嬉しいしな」

 

「そ、そうですか?」

 

「うん」

 

「そうなんですか……えへへ

 

「うん?」

 

「何でもないです!」

 

慌てて何でもないと言ったネプギアが気になりはしたが何でもないなら、まあ……といった感じで俺は気にしないことにした。

 

「えっと……何となく、私がやりたいなって」

 

「というと?」

 

「あの時、手を握ってくれたじゃないですか。

……温かくて、落ち着いたんです。

その、お礼…みたいな?」

 

「ハハハ、何だそれ」

 

「笑わないでくださいよぉ!」

 

「ハハハ……でも、それなら俺だって感謝してもしきれないんだぜ」

 

「え?」

 

〔また一人で抱え込んでましたよね〕

 

「あの言葉が…俺の意識をしっかりと覚ましてくれた。礼を言うなら、俺もなんだ」

 

「…ズェピアさん」

 

「頼もしいよ、ネプギアみたいな女の子がいると…何だか頑張れる」

 

「え、そ、それってつまり……」

 

「相棒みたいなもんなのかもなぁ」

 

「……うぅ」

 

「どうした?」

 

ネプギアは俺の相棒発言にがっくりと項垂れる。

一体どうしてしまったのか。

 

「何でもないです……相棒で良いですよ……今は

 

「そうか?」

 

「はい」

 

「そっか、頼りにしてるぜ、相棒!」

 

「はい!」

 

何だか残念そうではあったがすぐに笑顔になるネプギア。うんうん、この笑顔だよ。

守りたいって感じになる。

 

「さて、そろそろ寝よう」

 

「はい、おやすみなさい、ズェピアさん」

 

そうして、ネプギアは自分のベッドまで行き、寝た。

疲れもあったからか、すぐに寝息が聞こえる。

 

……お疲れ様。

 

俺もまた、ベッドで横になり、天井を眺める。

 

「……タタリ、その本質……」

 

『答えは出たようだね』

 

ワラキアが俺に話しかけてくる。

唐突ではあったが、本人としては早く聞きたかったのだろう。

 

─ああ。──だろう?

 

『素晴らしい回答だ■■■■。それを理解したのだ、君はもうタタリを使いこなせるだろう』

 

─そうだな

 

どうやら、当たっていたようだ。

そうか……そうだよな。

 

俺が欲した特典は、それだもんな。

 

ズェピア・エルトナム・オベローン(ワラキアの夜)の容姿と能力だもんな。

何もおかしな点はない。

 

何と言うことか、こんなことにも気付いてなかったとはお馬鹿な。

 

『今日はもう疲れたろう。寝ると良い』

 

─ああ、おやすみ

 

 

ワラキアの夜、か。

だとすれば……

 

 

「─ズェピア・エルトナムで居続けるのは、おかしいのかもしれないな」




ドライグとの戦いを通じて答えと新たな絆を得たワラキー。
その答えと絆は、今後どう活かされるのか。

次回に続く。

感想やご指摘、待ってます


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監督気取り、尾行。そして──

どうも、ロザミアです。
更新のペースがいつも通りになりそう。

まあ、張り切りすぎよくないからね。

では、どうぞ


疲れは吹き飛んだ!(挨拶)

 

やあ、皆。

俺だ、ワラキーだ。

 

色々と朝はごたごたしたのでカットカット。

現在は宿屋を出て皆でルウィー教会まで向かっている。

さて、今日でゲイムキャラを見つけられるといいんだがね。

ロムとラムは知らないと思うし、ミナさんに聞くしかないか……。

 

それにしてもアイエフ、大丈夫かなぁ……。

というのも…

 

「にしても、アイエフ…大丈夫か?」

 

「日本一がぴんぴんしてるのがおかしいと思うわ…」

 

「え、そうかな?」

 

「そうよ」

 

「アイちゃん、やっぱり宿屋で休んでた方が…」

 

「大丈夫よ、動けないほどじゃないし」

 

「無理はしないでくださいね、アイエフさん」

 

「ありがと、ネプギア」

 

アイエフは筋肉痛です。

はい、俺の作戦のせいですね。

本当に申し訳ない。

 

「取り合えず、教会に着いたら座ってると良いよ」

 

「そうさせてもらうわ」

 

まあ、俺も俺で疲れてはいる。

吹き飛んだ気になっているだけで本当は体痛い!

 

いや、まあ……当然なんだけどね。

 

にしたって、本当に解せない。

何がというと、グレートレッドの事だが。

 

「グレートレッドめ……いつまでマジェコンヌに元の世界の奴等を渡すんだ……」

 

「というより、マジェコンヌ幹部が動かないのは分かりますけど、グレートレッドが動かないのは分からないわ」

 

「絶対に何かある。ロアの介入も今のところないけど、確実にな。ルウィーのゲイムキャラの協力を得るのも楽ではないかもな」

 

「ですよね……」

 

「ラステイションの時と同じで、ルウィーのゲイムキャラにも事情はあるかもしれないからな」

 

「もしそうなら、どうするです?」

 

「まあ、その時はその時で何とかしよう」

 

「またそう適当に……」

 

「そう言わないでくれよアイエフ姐さん」

 

「姐さんじゃないっての!」

 

「ひでぶ!?」

 

鳩尾……!

やばいって、これは痛いです。

だが、残念ですねぇ!

 

俺は死徒だから打たれ強いのだよ。

……まさか、これも見越して?

 

アイエフ、恐ろしい子……!

 

「あ、教会見えてきたよ」

 

「お、おう…いてて……」

 

そんなこんなで着いたようだ。

寒いだろうし、さっさと入るかな。

 

俺達は教会の中へと入る。

 

うむ、昨日の時と様子は同じだな。

よかったわ、昨日の内に何かあったら怖いし。

 

「やってまいりましたルウィー教会」

 

「さあ、教祖様にもう一度会うわよ!」

 

「そうだな」

 

俺達は教会の人にミナさんとの面会の許可を得ようと思い、探すが……

 

「皆さん、来てくれたのですね」

 

「ミナさん!」

 

「他の職員を探していたらご本人が来てくれたな」

 

ミナさんがこちらまで来てくれた。

まるで予知してたかのようだぁ……。

 

だが、探す手間が省けたな。

 

「本日のご用件は…分かっています。この地のゲイムキャラの所在ですね?」

 

「はい、その通りですけど…どうして?」

 

「ラステイションの教祖から昨日連絡が来まして。

皆様にはルウィーを救っていただいた恩があります……ですが……教えることは出来ません」

 

「それはルウィーのゲイムキャラには何か役目があるからですか?」

 

「はい」

 

ミナさんは俺の問いに頷く。

その役目を放棄させるわけにはいかないということか。

 

……ふむ。

 

「なら、こちらが自力で探しますが?」

 

「構いません」

 

「分からないわね…教える事が出来ないのに探索は許すの?」

 

「発見なさっても協力を得ることは出来ないでしょう。もしそうなれば……」

 

「そうなれば?」

 

「申し訳ありませんが、これも教えられません」

 

ううむ、なんと言うことだ。

困りに困ったぞ。

 

「ふぅ……教えられないなら仕方ない。

ロムとラムは元気ですか?」

 

「ええ、二人ともとても。」

 

「それはよかった。子供が元気なのは良いことですから……では、俺達はこれで」

 

「エルエル、いいんですか?」

 

「いいも何もないさ。教えてもらえないのは仕方無いんだから、探し出すしかない。な?ネプギア」

 

「はい、私達で見つけましょう!」

 

「協力を得れなくても理由は聞きたいものね。

そうと決まれば行くわよ!」

 

日本一の言葉に全員が頷く。

何となく、こうなるとは思ってたしな。

 

「ロムとラムが元気ならよかったです。あまり無理はしないでくれと伝えておいてください」

 

「分かりました、伝えておきます。…お気を付けて」

 

「はい。ではまた」

 

そうして俺達は教会を後にした。

 

教会を出た俺らは広場にまで来て、どうするかを考える。

 

「さて、どうするか」

 

「あまり時間をかけていられないです」

 

「マジェコンヌが先に見つけて壊しちゃうかもだしね」

 

「手分けして探すか、それとも全員で動いて安全にいくかだな。ネプギア、どうしたい?」

 

「へ、私が決めるんですか?」

 

「アンタがこの中でのリーダーなんだから当然よ」

 

「私がリーダー……えっと…それじゃあ───」

 

少し考えてからネプギアが提案したのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ズェピア、焼きそばパン買ってきなさい」

 

「いや待てや」

 

「何よ?」

 

「何よ、じゃないだルルォ!?俺が焼きそばパンを買わなきゃいけないのは何でだ!」

 

はい、寒い中張り込みしてる我等ゲイムギョウ界救い隊ですけども……

アイエフが飽きてきたのか張り込みしてる時の警察ごっこしだしました。

 

何でこうなったかと言うとだ、ネプギアの提案がマジェコンヌの動きを追えばゲイムキャラに辿り着くかもしれないとのことで、各員バラバラで張り込みしてマジェコンヌのメンバーを見付ければ全員に知らせるという事になってるのだ。

 

俺とアイエフがペアになった。

くじでな。というか、よく持ってたね、くじ。

もうツッコまないよ。

 

「お前は取り合えず座ってろっての。そんで、その双眼鏡で遠くまで見て下っ端見つけたら連絡するのだ」

 

「やってるわよ。ていうか、幹部が来たらどうすんのよ」

 

「俺に言わないでくださいよ」

 

「はいはい……あら?」

 

「どしたん?」

 

最初は目視だったが双眼鏡を使って何処かを見だしたアイエフに見つけたのかを聞く。

 

「あのフード……やっぱり、下っ端よ!一般人のお婆さんと接触してるわ!」

 

「マジェコンを渡す気か?取り合えず、バレないところまで近づくぞ」

 

「ええ、私はネプギア達に知らせるからアンタは先に行ってて」

 

「了解した」

 

俺はアイエフを置いて下っ端…リンダの近くまでこっそりと近付いていく。

さっさと捕らえればいいんだが…いや、ここは様子見といこう。

 

リンダはどうやら、お婆さんの荷物をもってあげてるようだ。

意外と優しいのか。

 

「ありがとうねぇ…歳を取ると昔は持てた荷物も重く感じてねぇ」

 

「気にすんなって婆ちゃん。老人なんだから無理すんなよ」

 

「優しいんだねぇ……ああ、ここが家だからもういいよ、ありがとう」

 

「そうかい?」

 

……見る限り、善良な人なんだよなぁ。

 

「ところで、婆ちゃん。マジェコンって知ってるかい?」

 

おや?

 

「何だいそれは?」

 

「知らないのかい?勿体無いよ婆ちゃん!

最近じゃ女神なんてもう古いんだ!今はマジェコンの時代だよ!周りの皆もマジェコンを使ってるんだ」

 

何て悪徳商法なんだ……

ご老人すらマジェコンに染めようとするとは…

んんん、許さーん!

 

「そうなのかい?年寄りになると流行も分からなくてねぇ……」

 

「じゃあほら、物は試しでこのマジェコンを──」

 

「待てぇい!」

 

「な、誰だ!?げぇ!?」

 

俺はマジェコンを渡そうとするリンダを止めるべく声をあげる。

リンダはそれを聞いて振り返り、出会っちまったみたいな顔をする。

 

「御天道様が許しても、このズェピア・エルトナムが許さんぞリンダ!てめぇを独房にぶちこんでやるぜぇ!」

 

「悪役ブーム!?しかもゲス顔!?」

 

「ヒャッハー!お婆ちゃん!そいつは詐欺師だぜぇ!女神様は今でも時代だぜぇ!」

 

「そうなのかい?」

 

「そうだぜ!お婆ちゃんみたいなご老人をいい人顔で騙そうとしてたんだぜ?まんまとハマっちゃいかんぜぇ」

 

「あらあら……」

 

お婆さんはあんまり悪いことはしちゃダメだよとリンダに言ってから家に入っていった。

お婆さん……なんて優しい。

そういや、俺の婆ちゃんも優しかったなぁ…よく一緒に温泉に行ったなぁ……

 

うっ…(泣)

 

「ケッケッケ……さあ、お縄につく時間だぜぇリンダぁ……!」

 

「何でテメェがチンピラになってんだよ!しかも妙にうぜぇ顔だし!」

 

「だってほら、たまにはネタに走らないと頭疲れるし……」

 

「いや知らねぇよ!」

 

「まあ、とにかく……その程度の戦闘力じゃ今の俺の相手にはなれないぜ?貴様とは天と地ほどの差があるのだ!」

 

「んだとぉ!?」

 

「ふるるる……俺に敵うと思ってるようるるね」

 

「口調変えんな!ったく、構ってられるか!」

 

リンダはそのまま逃げていってしまった。

 

見失わない程度に隠れながら尾行する。

クク、貴様がボロを出したとき、それが終わりの時間だぜぇ……!

 

「ズェピアさん!」

 

「おお、ネプギア。それに皆、来てくれたようだな。

見るが良い、あそこにいるのが下っ端、リンダだ」

 

「よぉし、それじゃ引っ捕らえて─」

 

「待て待てぇい!アイツがボロを出してくれるまでは様子見だ。民間人にマジェコン勧めてる時は止めても良い」

 

「むむむ……分かったわ」

 

「助かる」

 

「エルエルが見張ってるときは何もしなかったですか?」

 

「いや、お婆さんに親切にしてると思ったらマジェコン勧めてたな」

 

「最低ね」

 

「下っ端は辛いのだよ、アイエフ」

 

「親玉の類いに言われても嫌味にしか聞こえないわよ」

 

「親玉だなんて……ソンナワケナイヨー」

 

「ズェピアさん片言です……」

 

「ろっとぉ!」

 

雑談はここまでさ。

さて、リンダ君よぉ……早く貴様の上司からの連絡を受け取ってくれよ?

 

じゃないと俺は泣くからネ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ悪党!」

 

「またテメェらかよぉ!くそっ、今日は厄日か!?」

 

「お前が悪である以上、いつでも厄日さ!」

 

「ええいそれっぽい事言ってんじゃねぇ!くそ、逃げるが勝ちだぜ……!」

 

これで三回目。

悟られちゃうから早くして(焦)

 

「逃げたけど……後どれくらいこれを続けるの?」

 

「オラにもわかんねぇ。けど、いつまでもルウィーにいるとは思えねぇ」

 

「アンタは何重人格なのよ!」

 

「八重!?」

 

「多いですぅ」

 

「あはは……でも、いつまでもこうしていたらよくないのも事実ですよね……」

 

「いてて……だから早くリンダが別の行動を起こしてくれるのを期待してんのさ」

 

早くしてほしいもんだな。

俺達はまだリンダを尾行している。

さて、いつになったら起こるのか。

 

「……ん?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、アイツ…連絡手段と思わしき携帯を取り出したぞッ…そして、あの表情は間違いない…あれは、上司との会話ッ!」

 

「喋り方がおかしいですぅ……」

 

「さあ、内容を聞き取って見せるぞッ!」

 

俺達は黙ってリンダの様子を見る。

そして、その通信の内容を聞き取ろうとする。

 

まあ、リンダの声しか拾えないが

 

 

「はい……世界……迷宮……分かりました!」

 

 

うん、わ"か"ん"ね"。

 

「アイエフ殿、世界と迷宮って単語が聞こえたであります」

 

「世界、迷宮?……この辺だと…世界中の迷宮かしら?」

 

「え?世界樹の迷宮?」

 

「それ以上言うとアンタは死ぬわ」

 

「はい」

 

なんだ、今のアイエフは……!?

凄味を感じたぞッ!!

 

ま、まあ、とにかく世界中の迷宮ね。

 

「さっさと先回りしてゲイムキャラを守るとするか」

 

「お話も聞かないと……」

 

「何はともあれ、行くわよ!」

 

「悪に遅れは取れないものね!」

 

そうして俺達は世界中の迷宮へと急ぐのであった。

にしても、上手くいくとは思わなかった。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

ある一室にて、【誰か】が何かの映像を見ている。

 

「……これがあの龍の言っていたズェピア・エルトナムか……なるほど、確かに脅威になり得る存在だ。

それに、このサマエルというモンスターを一瞬にして消し去ったあの銃……」

 

映像にはズェピア達一行が映っていた。

【誰か】は、それを睨むように見ている。

 

「女神どもを捕らえても抗う候補生ども…そして、女神化と同じような変身をする吸血鬼か」

 

【誰か】は映像を一頻り見た後、立ち上がる。

 

「ルウィーのゲイムキャラは確実に消さねばならんからな。これは出向くしかないか」

 

【誰か】はそう言った後、部屋を去る。

 

行き先は、ルウィー。




世界中の迷宮へと向かう一行。
しかし、不穏な人物もまた、ルウィーの地へと向かう。
一行はゲイムキャラを守りきれるのか!?

次回、超次元ゲイムネプテューヌmk2 withワラキー
『監督気取り、ブロックダンジョンへ』

次回もまた、見てくださいね。


ご指摘や感想がございましたら是非ください。
励みとなります。

……そろそろアンケートでもするか


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監督気取り、ブロックダンジョンへ

どうも、ロザミアです。

今回は新しいキャラが出ます。

では、どうぞ


世界中の迷宮……通称、ブロックダンジョンにやってきた俺達一行はとにかく先へ先へと進む。

ルウィーのゲイムキャラを先に見つけないと壊されちまう。

それに、どうやら重要な役目を担っているらしいしな。

 

という訳でおはようか?こんにちわ?こんばんわ?

まあ、俺達はおはようだがな!ワラキーだ。

 

モンスターもそこまで強くはないから苦戦はしないし……死徒化するにしても試したいことがあるからな。

まだやらないで済むのは助かる。

 

「ゲイムキャラさーん!何処だァァァァ!!」

 

「前に叫ぶなって言ったでしょうが!!」

 

「ウゴハァッ!?」

 

「うわぁ、鳩尾……」

 

「だ、大丈夫だ、問題ない。つってもこのくらいの勢いで探した方がいいのは事実だし」

 

「マジェコンヌの奴等に見つかったらどうすんのよ!」

 

「あっ」

 

「忘れてたんですね……」

 

「エルエルは忘れやすいです……」

 

「やめろ、その哀れみの目を向けるなぁ……!」

 

「ロアと同じような反応になってる……」

 

やめてくれ、その目は俺に効く。

コンパさん流石っす……強さとかじゃねぇ、精神に痛みを与えてくる。

これが看護師の力だとでも?

くそ、俺が持ってるのは錬金術とか吸血鬼とか位…精神攻撃は無い!

 

強すぎる、俺には勝てない……。

 

〔そこにいるのは誰ですか……?〕

 

「ふおぉ!?」「ひゅぃ!?」

 

あまりにも唐突な誰かさんの声に俺とネプギアは驚く。

心臓が跳ねたってレベルじゃねぇぞ。

 

しかし、今の声はまさか……

 

「アンタら凄い驚きようね……でも、叫んだのは無駄じゃなかったらしいわ」

 

「居ました、ゲイムキャラさんです!」

 

「先に会えて良かったわ!」

 

どうやら、ゲイムキャラに会えたようだ。

歓喜である。

てか、こんなに早く会えるとは思わなかったぞゲイムキャラァ!

 

ラステイションのゲイムキャラはあんなに時間がかかったのに……

 

〔貴方達は?〕

 

「プラネテューヌの女神候補生とその仲間達ってとこかな。ルウィーのゲイムキャラで間違いないか?」

 

〔ええ、私がルウィーのゲイムキャラですが…そうですか、貴女はプラネテューヌの女神候補生なのですね〕

 

「プラネテューヌを知ってるんですか?」

 

〔はい。私は元々、プラネテューヌのゲイムキャラでしたから〕

 

「何ぃ!?」

 

「プラネテューヌの!?」

 

「でも、プラネテューヌにはゲイムキャラが居たわよ?」

 

「同じ国に2体のゲイムキャラになっちゃうですよ」

 

「難しい話は分からないんだけど……」

 

〔どうやら、説明をした方が良さそうですね〕

 

「是非頼む」

 

困惑する俺達にルウィーのゲイムキャラは顔があればクスクスと笑っているような声だ。

 

しかし、元々はプラネテューヌのゲイムキャラって…んん?だとするとルウィーのゲイムキャラはどうなって?

 

〔ルウィーのゲイムキャラ…つまり、私がこの国の守護を務める前の存在はルウィーのシェアの減少が著しくなっていた頃に消えてしまったのです〕

 

「ゲイムキャラが消失って……あり得るのか?」

 

「古の女神が創り出したのがゲイムキャラなら、シェアが大きく影響してしまう女神同様ゲイムキャラも影響を受けてしまうんじゃないでしょうか…」

 

〔その通りです。我々もまた、シェアなくしては存在できない……そして、今のプラネテューヌの守護女神は当時のルウィーを憂い、私をこの国のゲイムキャラとなるように頼んだのです〕

 

「お姉ちゃんが…!」

 

「ネプ子の奴、そんな事をしてたの……」

 

「ねぷねぷ……」

 

〔そうして、私はルウィーのゲイムキャラとなり、ルウィーの守護とルウィーの教祖に頼まれた使命を遂行しているのです〕

 

「なるほどな……」

 

つまり、俺たちが出会ったプラネテューヌのゲイムキャラは後任のゲイムキャラだったのか。

かなりやばかったんだな、昔のルウィーは……。

 

〔それで、私にどのような用でしょう?〕

 

「ああ、そうでした。実は─」

 

そこから、ネプギアはゲイムギョウ界の現状を教える。

ルウィーのゲイムキャラはそれを静かに聞いていた。

 

〔…そのようなことが。守護女神全員が捕らわれるとは……〕

 

「お願いです!貴方の力を私達に貸してくれませんか?お姉ちゃん達を助けて、ゲイムギョウ界を救うにはそれしか無いんです!」

 

〔…すみません、了承しかねます〕

 

「やっぱり、ミナさんに頼まれたことが断った理由か?」

 

〔はい〕

 

俺の質問に肯定する。

分かってはいたがどうしたもんかな……

 

皆も、どうしようかと困り顔なのだ。

 

「それならその理由だけでも教えてほしい。

俺達も、分からないで帰るのは辛いんだ」

 

〔それでしたら構いません。私が協力できない理由、それは───〕

 

 

 

「──古代兵器の封印、だろう?」

 

 

 

『ッ─!』

 

俺達は突然ゲイムキャラの言葉を遮り、答えを知ってるとばかりに話す誰かの声を聞き、振り向く。

 

感知できなかった…ここまで鈍ってるとは。

ロアの時もそうだが、かなり弱ってるぞ俺。

 

「ぁ、あ……!」

 

「ネプギア?」

 

「あな、たは……!」

 

「久しいな…プラネテューヌの女神候補生。

その様子だと、多少は力を付けたと見える…まあ、多少だがな」

 

そこにいたのは紅い女神だった。

手に持つ武器は鎌か。

 

何にせよ、マズイ。

あれは強い……今の俺やネプギア達よりも圧倒的に。

死徒化すれば持ちこたえられるだろうが……

 

「へへ、流石はマジック様!あんな奴等余裕ですよね!」

 

「リンダ!お前が呼んだのか!」

 

「んな訳あるか!」

 

「確実にそこのゲイムキャラを消す為に来た。

それと……今後計画の邪魔になるであろう貴様らもな」

 

チッ、やる気かよ。

だが、はいそうですかとやられる訳にもいかない。

抵抗して、活路を見出だしてやる。

 

……横にいるネプギアを見る。

少し震えているな。トラウマの元凶はこいつで間違いないか……。

 

「マジック、だったか。お前の目的は俺達とゲイムキャラの抹殺か」

 

「マジック・ザ・ハードだ。

冥土の土産として覚え、死ぬが良い」

 

「会話する気無しかよ」

 

「して何になる?」

 

「ズェピア…どうするの?間違いなくリーダー格よ」

 

全員が武器を構えるが、勝負になるかどうか。

加えて、ゲイムキャラも守らないといけない。

 

「ルウィーのゲイムキャラ、お前は古代兵器の封印をしてるんだな?」

 

〔はい……私が破壊されれば、あれが目覚めてしまいます……〕

 

「……となると、逃げられないか」

 

「元より、逃がすつもりもない」

 

「観念して、降伏しな!」

 

「うっさい下っ端!」

 

……。

やるしかない、か。

だが、ロアの時同様、全力で行っても……

 

『全力?あれが君の?』

 

─今は漫才やってる時間はない。言いたいことがあるならさっさとしてくれ

 

『やれやれ、せっかちな役者だ。

いいだろう、言わせてもらうとも。

まさか、君の全力があれとは言うまい?』

 

─出せる出力の関係上、あれが一番…

 

『あれはタタリの本質を理解しきれなかった君だ。

今は違うだろう?よく考えたまえ、君はワラキアの夜の力を持っている』

 

─それは分かってるが…

 

『ズェピア・エルトナムではない』

 

─…今やって、出来る確証がない

 

『おや、まさか……出たとこ勝負が出来ない性なのかね?』

 

─あ?

 

何だぁ?てめぇ……?

こいつ、俺を煽ってやがるなぁ。

 

そういうこと言われて動じる俺だと思ってんのか?

 

動じる訳ないだrめっちゃムカつくわこの野郎!

 

俺があんな鎌持ったなんちゃって女神に殺されると思ってんのか?

おいおいタカシ、ビビってるってか!?

 

怖いです!

死神ってのはああいうのを言うんだなぁ……

元の世界の状態の俺なら恐怖心は無かったろうに。

これも弱くなったからこそ、か。

 

……だけど、弱くなったからこそ得られた物がある。

仲間を得られた。

この力の意味を知れた。

 

また守る意味を、また戦う理由を見つけられた、

 

─やるぞ

 

『出来るのかね?』

 

─要は、イメージだろ?

 

必要なのは、情報とその形だ。

それを想像する。創造する。

そう、ワラキアの夜の力はそうあるべきもの。

 

俺は俯く。

諦めたのではない。

こうすることで落ち着けて、覚悟を決められる。

 

今までとは違った姿、力だ。

だが、今必要なのは、速さ。

 

「ズェピアさん?」

 

「……なあ、皆」

 

「何?」

 

「今から変身をするが……それは俺じゃないかもしれない。

今までとは違う俺かもしれない。

それでも──」

 

「大丈夫ですっ!」

 

「今更何言ってんのよ。もう姿が違くても驚かないっての」

 

「エルエルは、エルエルですよ」

 

「姿は違えど心は同じよね!」

 

「……やれやれ」

 

けれど、それでこそ。

そう信じてくれるから、その信頼の目を向けてくれるから。

俺は強くなれる。

 

「変身する気か。例のあの姿になるがいい。

完膚なきまでに叩き伏せ、絶望し、殺してやろう」

 

「いやいや……今回は役者違いでね」

 

「何?」

 

─起きろ

 

俺は自分のタタリ(内なる力)に語りかける。

今まで応えたのは一人だけ。

それもその筈だ。

それしか見ていなかったんだから。

 

けれど、今は違う。

 

『─何だ、ようやく気付いたのか、アンタ』

 

聞こえたのはワラキアの声ではなく、青年の声だった。

ようやくかと呆れたような声色でソイツは俺に喋る。

 

─悪かったな。どうにも手違いでな。…力を貸してくれ

 

『へえ、俺で良いのか?って…そうか、まだ俺だけか』

 

─ああ、お前だけだ。ズェピア・エルトナムの姿じゃないタタリは、まだお前だけ。

 

『相手は?』

 

─女神様だ

 

『化け物専門の殺し屋に神殺しを最初にさせるか?』

 

─玩具も付けるが?

 

『ああ、あれか。…いいだろう、どの道いつ消えるか分からぬ霞のような力だ。使うと良い』

 

了承はとれた。

ならば、後はなるだけ。

俺の体が変わっていく。

ザザザ、とテレビの砂嵐のような音を出し、姿を変えていく。

視界が、重くなる。

 

「タタリの本質ってのを理解したの……?」

 

「いつもと姿が違います」

 

「ふむ……」

 

マジックは興味深いのか何もせずに見ている。

それならそうしているが良い。

 

その分だけ後悔させてやる。

 

手に自然とナイフが握られる。

服装もまた、ズェピアとは違う服装へ。

 

視界に映る物全てを視て、感じる。

 

─空が、落ちるようだ

 

『おいおい、へばるなよ?』

 

─へばるもんかよ。これが、あの視界…─に触れた視界

 

恐ろしい。

確かに、恐ろしいものだ。

 

だが、こんなものに屈するわけにはいかない。

家族の元へ帰るまで、死ねない。

 

やがて、明確な色を持ち、姿が見えるようになる。

 

「─ああ、殺人はしても、殺神はないな」

 

「ズェピアさん、ですか?」

 

「ネプギアか」

 

「はい。えっと、その姿は……」

 

「ああ、確かにズェピアだ。けれど、この姿はちょいと違うな」

 

 

 

「─七夜。七夜 志貴だ」

 

 

 

この体の感覚、そして頭に入ってくる動きの情報。

そう、これは正しく遠野志貴にとっての悪夢。

 

七夜 志貴だ。

 

「志貴さんですね」

 

「やっぱ人格多くない?」

 

「そう言われると痛いんだが……まあ実際、姿ごとにそれぞれの意識ってのは存在するしな」

 

「何だか、若々しいです」

 

「ナイフが武器ってクールね」

 

「そいつはどうも」

 

うん、皆も少しだけ違和感を感じてるかもだが接してくれる。

だからこそ頑張れるってもんだ。

 

「無駄話は済んだか」

 

「待っててくれるとは悪役根性の高い」

 

「どのような姿になろうと、私を倒すことは不可能だ」

 

「さて、それはどうかな?」

 

「ほう?」

 

ナイフを逆手に構える。

自然と獰猛な笑みになってしまうのは、引っ張られてるからだろう。

 

マジックを視て、気付くのは……そうだな。

かなり切れやすそうだ。

 

「玩具ってのは時に人を殺すのに適した道具になるもんさ」

 

「そのナイフで、私の喉元を切り裂くと?」

 

「躍りは拙いが、それだけは得意でさ。一つ殺られちゃくれないか?」

 

「志貴…さん、殺しはダメですよ!」

 

「ああ、理解してる。ただ、その気でいくとだけね」

 

全員、構えてるな。

ネプギアも女神化して、マジックへ武器を向ける。

 

「女神候補生…それも、私に何も出来なかった雑魚がまた向かってくるか」

 

「前の私とは違います!貴方を倒して見せる!」

 

「それに、私たちだっているのよ!」

 

「ですです!」

 

「悪の組織の親玉、覚悟!」

 

「ふん……せいぜい楽しませるんだな」

 

マジックもまた、鎌を構える。

リンダも警戒しないとな。

 

『さて、やりますかね』

 

─ああ、全力でいこう

 

 

 

「さあ──殺し合おうぜ!」

 

「死ぬのは、貴様らだ」

 

そうして、俺達は新たな力を手にぶつかり合う。




という訳で、新しい力を得たワラキー。
というより、忘れていた感じですかね。

ご指摘、質問、感想がございましたらください。


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殺人貴は女神と踊る

どうも、ロザミアです。

前回のあらすじぃ!
ブロックダンジョンにてゲイムキャラを見つけたワラキー一行。
しかし、ゲイムキャラから話を聞いている途中に犯罪組織マジェコンヌのリーダー『マジック・ザ・ハード』が現れ、ゲイムキャラとワラキー達へと襲い掛かる。
そして、ワラキーもまた新たな力。
『タタリ─七夜志貴─』へとなり、戦いへ挑むのだった!



刃と刃がぶつかる音が鳴り響く。

腕に伝わる振動、横に縦にと振るわれる命を狩る為の武器をナイフを振るう事で逸らし、防ぎ、弾く。

七夜志貴の本来のスペックなら既に腕にガタが来ている頃合いだが、そこは死徒としてのスペックでカバーする。

 

「はぁ!」

 

「目障りだ!」

 

だが、俺は一人ではない。

仲間がいる。

俺の隙を埋めるようにネプギアが飛び出し、MPBLで斬りかかる。

だが、対峙する敵、マジックもまたそれを振り向き様に鎌を横に振るうことで弾く。

 

アイエフ達にも参加はしてほしいが…アイツらの目的は俺達の抹殺の他にゲイムキャラの破壊だ。

だから、リンダを警戒してもらうためにもその場で守ってもらっている。

 

「くっ!」

 

「その程度か?温い!」

 

「蹴り穿つ…!」

 

「鬱陶しい!」

 

「悪いね、こっちは何がなんでも勝たなきゃならないもんでさ!」

 

「チッ、だが!」

 

「ぐっ……元気だねアンタ!」

 

そのままネプギアを蹴ろうとする所に俺が割って入り即座にマジックの横腹を蹴り、吹っ飛ばす。

その途中でマジックに腕で足を防がれた上、硬質化でもしたのか足に嫌な痛みが生じる。

 

…しかし、流石は七夜…素早い動きが出来る。

 

七夜の体術……使ってみると分かるが無茶苦茶な動きだ。

言うなれば、今している動きに追加で別の動きをその場でしろという無茶ぶりを出来てしまうようなもの。

だからこそ人外を狩れてきたということでもあるが。

 

マジックを追い詰めているようにも感じなくはない。

だが、アイツは本気できていないことは分かりきっている。

それに、俺を警戒して深入りしてこない事もあって決定だになりにくい。

 

「貴様……その目は何だ」

 

「ん?ああ、これか。何、ちょっとした玩具だよ。

女神特有の無茶苦茶な武器でもなければ、便利なもんでもない。ただ、少しだけ…そう、少しだけ『死』が視えるってだけでさ」

 

「死が視える……?」

 

よく分かっていないようだ。

当たり前か。

これは、インチキだ。

同時にそれでしかない物でもある。

 

「直死の魔眼っていう、面白味のない眼でね。

万物には等しく死ってのがある。それに触れやすくなる眼なだけさ」

 

「志貴さん、それって……!」

 

「何故正気を保てている?そのような眼を常に発動していれば狂うだろう」

 

あらゆる物の死が視える。

それは強いとは思われるかもしれない。

だが、同時に精神、脳に負担になるのは事実。

当たり前だ、どんな物にもってことはつまり、大切な人の死も視えちまう。

 

ネプギアの死の線が、視える。

それをなぞるようにこのナイフを振るえば、紙を破るように簡単に切れてしまうだろう。

 

諸刃の剣なのだ、これは。

だけど、正気でいられる。

 

「まあ、狂っちまいそうな程の激物なのは否めないが……俺を信頼してくれている奴や、俺の帰りを待ってくれる奴がいるんだ。それの為なら狂わないなんて簡単な条件、余裕だろう?」

 

「…ズェピアさん」

 

「……ふん、何はともあれ、貴様らとの遊びはここまでにしておこう」

 

「本腰入れて来るか…!ネプギア、あっさりやられるなよ!」

 

「分かってます!」

 

明らかに威圧感が強くなった。

これは、まずいか?

 

『奴さん、相当俺らが邪魔らしいな』

 

─負けるわけにはいかない

 

『お人好しなことで』

 

─うっさい

 

仲間の為だ。

お人好しな訳じゃない。

それくらい、分かってほしいもんだね。

 

「ふっ─!」

 

「疾ッ─!」

 

マジックと同時に動く。

互いに一瞬だけ速さが音を越える。

向かうは、前にのみ。狙うは、喉元。

 

「チッ、速さは互角か……だが」

 

「っ、女神といえど、人外は人外か……!」

 

「力ならば、私が上のようだな──ぬっ!?」

 

「私もいることを忘れないで!」

 

「候補生風情が……」

 

再び鎌とナイフの刃がぶつかり合う。

だが、力では負けているせいで押されていた。

踏ん張って押しきられないようにしているとネプギアがMPBLでビームをマジックの横から放つ。

 

後ろに跳ばれて避けられたが、直ぐ様ネプギアはマジックへと飛翔し、MPBLを振るう。

これもまた、鎌により防がれる。

力量差はネプギアも把握している。

少しだけの拮抗の後、弾き飛ばされてしまう。

だが、拮抗しているとき、俺は見た。

 

ネプギアが俺を見ていたのだ。

 

(ああ、任せてくれ……!)

 

俺に時間をくれたのだ。

僅かながらも確実にこの牙を奴に届けるための時間を!

 

「弔毘八仙──!」

 

七夜志貴のアークドライブ。

つまりは、ゲージ技に当たる技。

閃鞘・迷獄沙門。

 

マジックに向かって真っ直ぐステップ。

ふざけているわけではない。

こういう体術なのだ。

 

「これは…!」

 

マジックが驚いているが、別に驚くことではない。

残像が発生しているだけ。

それだけのステップなのだ。

 

だが、メルブラをやったことがある人は分かると思うが、何だこれは体術なのか?な動きをするのが七夜暗殺術である。

それに死徒の身体能力を上乗せする。

 

人外の身体能力を持った男が人外を殺すための術を用いてくる。

 

ただそれだけで人外からすればどうしようもなく悪夢なのである。

よって、メルブラにあるようなゆっくりなステップではない。

マジックに届くまで、たった2秒。

 

咄嗟に鎌で防ぐ体勢を取るが、甘い。

ガー不なんだ、この技。

 

「─無情に服す!」

 

「ぐっ!?」

 

「やった……!」

 

(浅いか……!?)

 

直死の魔眼によって捉えた鎌の『線』とその先にあるマジックを斬る。

腹をかっ捌く筈が、どうやら体を少し横に移動させられたか、横腹を少し裂くに留まった。

 

惜しいが、鎌は潰せた。

鎌ごと斬られたマジックは横腹を抑えつつ、後ろの俺を睨む。

 

「貴様……!」

 

「確かにアンタには力で負ける。

だが、技術と仲間では俺の勝ちらしい」

 

「……侮っていたのは認めよう。だが……!」

 

「何……!」

 

「消えた…!」

 

マジックが突如として消えた。

今のは、転移か!

 

俺はすぐにゲイムキャラを守っている皆の方を見る。

 

「な、アンタは!」

 

「やめてくださいですぅ!」

 

「下っ端とモンスターを倒した所に突然現れるなんて卑怯よ悪党!」

 

「ふん、やかましい連中だ!」

 

〔っ─!〕

 

「くぁっ!」「キャア!」「うわぁッ!?」

 

「皆さん!」

 

「チッ、アイツ!」

 

マジックは本来の目的の方を優先したようで、ゲイムキャラの方まで転移し、アイエフ達を衝撃波でこちらへ吹き飛ばしてから持ち手が斬られた鎌を手にゲイムキャラへと近付く。

 

「さ、流石はマジック様……!」

 

〔くっ……せめて候補生に力を──〕

 

「させんッ!!」

 

〔ぁ───〕

 

「やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

マジックが鎌を振り下ろす。

 

動けないルウィーのゲイムキャラにその刃は吸い込まれていき──

 

 

 

 

「……呆気ない物だったな?」

 

「あ、ぁ……」

 

「そんな……!」

 

「貴様……!」

 

 

 

 

─ゲイムキャラの破片が飛び散る。

 

守り切れなかった。

その事実を俺の頭はすぐに理解する。

 

このままでは、ゲイムキャラが封じていた古代兵器が……覚醒する。

 

マジックはゲイムキャラの破片を見ながら興味を失ったように視線を外し、俺達へ向ける。

 

「さあ、覚醒するぞ。犯罪神様が創り出した女神を殺すための兵器が!」

 

「流石、マジック様!」

 

瞬間、全体が揺れる。

 

この揺れ、古代兵器の封印が解かれたからか。

だとしたら、どれだけの数を封印してたって言うんだ!

 

『流石に厳しいね、これは』

 

─けど、ここで逃げたら、ルウィーだけじゃなくゲイムギョウ界が危ない

 

『その眼にも限界はある。忠告してやるが、今から現れるであろう奴等を視すぎるなよ。

脳が破裂するぞ』

 

─分かってる

 

揺れが収まる頃、マジックの方に上から巨大な何かが降りてくる。

 

「これが、古代兵器キラーマシンだ!」

 

キラーマシンと呼ばれた機械は機械でありながら禍々しい気配を放っていた。

にしても、キラーマシンって……あれだ。

 

初代のラスボスが竜なゲームに出そうだな。

 

「キラーマシン…」

 

「とてつもなく大きいです……!」

 

「だが……っ、デカいだけはあるか」

 

「志貴さん!大丈夫ですか……?」

 

「どうしたの?」

 

「ククク……やはり負担は無視できぬようだな?」

 

「ハッ、たかだか脳が破裂しかけてるだけだろ?

破裂自体してなけりゃ、ノーリスクさ。

体にガタが来てなけりゃデカいガラクタ程度、解体してやる」

 

頭痛がするが、問題はない。

ただ許容量をオーバーしかけてるだけだ。

問題は、ない。

 

「アンタ……」

 

「何、少し意地になって見栄を張りたいなんて、餓鬼臭いだろう?まあ、気にしないでくれよ。

それより……助けなきゃだろう?」

 

「志貴さん……でもっ」

 

「何、消滅してないってことはまだ生きてはいるだろうさ。なら、破片を手に入れるぞ」

 

「…はい!」

 

よし、やる気はあるな。

 

「威勢はいいな。だが…キラーマシン!」

 

〔…………〕

 

「……」

 

「……」

 

「…壊れてるんじゃないですか?」

 

マジックの呼び掛けに応じないキラーマシン。

マジックはキラーマシンを見ると、ピタリと静止している。あらぁ。

 

ネプギアの一言に、更に場が沈黙する。

どういうことだ?

動くには動いていた筈だが……

 

封印されている間に経ってしまった年月で使えなくなってしまったのか?

 

「キラーマシンさーん!起きてくれよ!」

 

〔……〕

 

「起きないです」

 

「チャンス?」

 

「おいおいおいおい…!起きろってんだよ!オラァ!」

 

「蹴って直るなんてそんな古典的な……」

 

〔ギ、ギ──〕

 

「やりましたマジック様!」

 

「よくやった」

 

「へへ!」

 

どうやらキラーマシンはアナログテレビだったようだ。

困った、動き出してしまった。

赤いモノアイが光る。

 

「キラーマシン、奴等を殺せ!」

 

〔命令、承認──排除開始──〕

 

「おいおい……ご都合展開にも程があるだろう」

 

「壊しても構わんぞ?まだ他にも数千といるのだからな」

 

「数千!?冗談じゃないわよ!」

 

「話してる場合じゃなさそうよ!」

 

遂に動き出したキラーマシンは、巨大な腕に持つ鈍器に近い剣を二つ持ち、俺達に襲い掛かってくる。

 

「せいぜい遊んでいるが良い……目的は果たした。

私は戻る。」

 

「はい!マジック様、お疲れ様です!」

 

「…上手くやるんだな」

 

「はい!」

 

マジックはそう言ってリンダにこの場を任せて去っていった。俺を睨み付けながら。

 

目をつけられたな、こりゃ。

 

「もう一仕事やるとしますかね」

 

「刃が通らなそうだけど……」

 

「それを通すための代物はあるんでね」

 

「それじゃ、任せたほうが良さそう?」

 

「そうだな、任せてくれ。だが、巨大ロボットとの戦いなんだ、殺りたい奴はいるんじゃないか?」

 

「悪のロボットとの戦い、燃えるわ!」

 

「ほら」

 

「ハァ……分かったわ。下っ端は私とコンパで倒すからキラーマシンは日本一とネプギア、七夜で倒してちょうだい」

 

「承りました、お嬢さん」

 

「だ、誰がお嬢さんよ!?」

 

少し気取った呼び方にアイエフは顔を赤くして怒る。

 

─おい、何してくれてんの?

 

『何、ちょいとばかしからかってみたくなってね』

 

─後でお怒り受けるの俺なんだけど

 

『そこはモテる男の専売特許って奴さ。

よかったじゃないか、腕をもがれないだけマシッてもんだろ?』

 

─いや腕を…ってお前知ってるのかよ!

 

『アンタの中にいるんだ、知るなと言うほうが無理だろう?』

 

くっそこのポエマー……

殴れるなら殴ってるのに。

 

『そんな暇あるならさっさとあれを解体するんだな。

そろそろ維持できなくなってくるぞ』

 

はいはい。

 

実際、魔力リソースを割いての変身だからな。

残り時間的にも全力でいかないと。

 

「さて、第二ラウンドといこうか。からくりを斬る日が来るとは思わなかったが…」

 

「固そうな見た目だけど…私のドリルは天を突くドリル!悪のロボットなんて砕いちゃうんだから!」

 

「一部のファンに怒られそうだからやめた方がいいぞ、それ」

 

「そう?」

「それより、志貴さん!無理しちゃダメですからね?」

 

「分かったよ、約束だもんな?君に言われちゃ断れない」

 

あーくそ!

コイツに口調引っ張られる!

思わせ振りな口調だからやめろってんだよぉ!

 

『なら、解除すれば良い。その瞬間倒れて足手まといだろうがね』

 

─こ、こいつ……!

 

『クク、そら、来るぞ!』

 

─絶対に仕返ししてやるからなぁ!!

 

〔女神、確認……抹殺、抹殺、抹殺……!〕

 

「往きます!」

 

俺たち三人は、キラーマシンを倒すべく向かっていった。




目覚めてしまった古代兵器、キラーマシン。
マジックを退かせることは出来たが今度はキラーマシンが襲い掛かる。

次回、超次元ゲイムネプテューヌmk2 with ワラキー
『殺人貴、線を斬る』

ご指摘、質問、感想がございましたら是非ください。


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殺人貴、線を斬る

どうも、ロザミアです。
fgo編も編集してるのに、何でか分からないけど気が付けば1.5部になってるのは何故だろう?

今回は変化球いってみます。
ではどうぞ


駆ける。

地面を踏み、蹴り、壁を伝う。

からくり仕掛けで一撃でも貰えばこの体では醜い肉塊へと成り果てることだろう。

一撃即死、大いに結構。

有名でベタだが、当たらなければ問題はないのだ。

 

その点と殺しにおいては七夜志貴の体は優秀だ。

七夜の体術を用いれば、一歩で10㍍は容易いという。

反則な動きだと思うが、そうでなくとも人外とのスペック差を考えればまだ彼方の方が有利なのが苦しいところだ。

 

幸い、このダンジョンはブロックの形をした遮蔽物が多い。壁もまた同じ形状と来ている。

迫る鈍器()を壁に跳ぶ事で避ける。

どうにも、通常攻撃の効きが薄い。

ナイフは当然ながら、ネプギアのMPBLのビームや斬撃を受けてもびくともしない。

 

というか、日本一のドリルが一番効果的なのは用途の違いか?

けれど……その堅牢さも、この眼の前では紙同然だ。

 

「よっと。斬る!」

 

〔ガガ…左腕損傷率40%をオーバー〕

 

また剣を回避して左腕の『線』を斬る。

すると、まるで効いていなかった俺のナイフが豆腐を切るよりも楽に斬れてしまった。

まあ、大きすぎるから一部を切り離せた程度だが、キラーマシンからすれば40%の損傷らしい。

 

こうして一手二手先を打ってようやく腕一つの少しの損傷。

参ったな、これだと間に合わない。

 

七ツ夜だと斬り切れない─!

 

『加えて、後少しでこのデカブツとの刺し合いも終わっちまう。口惜しいと思わないか?

人でないにしても、あっちは機械の癖に分不相応に殺意をぶつけて来てくれる。なら、此方も脳髄が砕けるほどの気持ちでデートに応えなきゃならんと思うんだがね』

 

─黙ってろ殺人貴

 

殺人嗜好の男が話し掛けてくる。

話す声は愉しげだ。

もっと視ろ、もっと動け、もっと殺意をぶつけろ。

そう伝える男に黙れとだけ言う。

 

『オイオイ、人の技を使っておいて業は無視とはいただけない。柵を捨てずにそのスペックを活かせないで死んだら閻魔に斬りかかるぞ?』

 

─分かってる。分かってるから少し黙れ

 

そちらの価値観までコピーする気は毛頭ない。

ワラキアがどれだけ協力的か分かる位に言うことを聞いちゃくれない。

 

『ああ、ネプギアだっけか。あの子に負担を掛けたくないんだろ、お前(・・)

 

─だからなんだ

 

『観客から役者になった割には中々我儘だな。

ここで姿が元のお前に戻ればどうなるか……』

 

─だからこそ、こうして奴を仕留めるかを考えてる

 

『分かっちゃいないな、お前。そんなんだから腹の皮一枚しか斬れなかったんだ』

 

何を言いたいのか。

先程まで力を貸してくれていたとは思えないほど苛立つように話す七夜に困惑する。

 

『自惚れるなよ。お前は借り物の力でしか個を示せない男だ。なら、自分に相応しい領分を知れよ』

 

─領分って…

 

『お前が今使ってる体は俺だ。だからこそ分かる。

このまま殺り合っても時間切れで退場間違いなしだ。

俺一人で、それも時間制限ありで出来る事なんざ高々脳天串刺しにして解体する程度だ。巨大な機械を即時解体なんざこのナイフ一本じゃ出来るわけがない。

そんな事実も認識できないとは言わせない』

 

たわけが、と毒を吐く自分の内の力に思考がクリアになる。

つまりは、一人で突っ走るな。

そう言うためだけにコイツは俺に話し掛けてきた。

 

─お前、素直じゃないな

 

『誰かさんの反転なものでね』

 

─…悪かった。少し周りが見えなくなるのは悪い癖らしい

 

『熱を持つのは構わないが、もう少し弁えて欲しいね。踊れる舞台もそれじゃ転ぶ』

 

─はいはい

 

『分かったらさっさとやりな。足りない分は補え。

それが出来ないようなら、未熟も未熟だ。

ま、俺が言えた口ではないだろうがね』

 

─だろうな

 

それを断って殺ったお前が言える口では断じてない。

だから、俺は感謝と同時に憤慨する。

 

まあ、いいか。

 

結局、俺はダサいまま。

それがらしいと言われればそれで終わりだが……。

カッコ悪くはなりたくはない。

 

だから、軌道修正(お願い)のお時間だ。

 

「ネプギア、日本一」

 

「すいません、私の火力じゃ倒せないみたいです……」

 

「私もごめん!」

 

「ああ、構わない。というより謝罪すべきは俺だ」

 

「え?」

 

「長ったらしく喋る時間もない。素早くいこうじゃないか」

 

「えっと……どういうこと?って危ない!」

 

〔ギ、ギギ───!〕

 

話してるところをキラーマシンが腕を振り上げてから勢いよく振り下ろす。

あまりにも鈍い攻撃なので全員で左へと跳んで避ける。

 

「それで、どうすればいいの!?」

 

「どうもこのナイフじゃ斬れるところまで斬れない。

だから、頼みがある。ネプギア、その武器を貸してくれないか?」

 

「マルチプルビームランチャーを、ですか?」

 

「ああ、さっさと斬るならそれが一番だからな」

 

「え、それだと私は?」

 

「日本一はあのデカブツを引き付けてくれ。

出来れば、そうだな…あの壁端までいけるか?」

 

「モチのロンよ!」

 

「古いですよ……」

 

日本一は笑顔で承諾してキラーマシンへと突撃していった。

 

「さ、ネプギア。貸してくれ」

 

「でも、私は……」

 

「することがない、か?」

 

「はい……日本一さんと志貴さんに任せて、アイエフさんやコンパさんも戦ってるのに……」

 

「それは違うな」

 

「え?」

 

俺はネプギアのMPBLを持つ手に自身の手を重ねようとして、やはりやめる。

それを悟られないように、話を続ける。

 

「剣を交えたりするだけが戦いじゃない。

応援だとか、そういう事だって一つの戦いだろう?

俺がネプギアのこの武器を持って、戦うってことはネプギアの想いを背負って戦うってことだからな。

そうだな……武器に想いを込めると、一緒に戦っている気分になるらしい」

 

「武器に……」

 

「それに、そうしてくれたら女神様のご加護ってのが働きそうだ」

 

「うーん…候補生の私じゃそれは期待できないかも……勝てるんですよね?」

 

「勿論、無理をするなって方は守れる自信はないが、アイツを解体しろってのなら守れる」

 

「出来れば約束の方を大事にしてほしいんですけど…でも、はい、分かりました」

 

そうして、ネプギアはMPBLを渡してくれた。

 

……思ったよりも軽い。

片腕で振り回せそうではある。

 

日本一の方を見ると、全然平気そうだ。

しっかりと誘導もできている。

少し任せてしまってもいい気がしてきた。

 

いや、しないけど。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「いってらっしゃい、志貴さん」

 

俺はそう言って、走る。

 

やはり、速い。

後数歩で間に合うくらいには。

あー、これはサマエルの時に欲しかったな。

あの痛みを味あわずに済んだのに。

 

「よう、日本一。楽しんでるかい?」

 

「いやぁこれはちょっと楽しむ余裕はないわ!

七夜と違って壁は走れないしね!」

 

「何、もしかしたら出来るかもしれない」

 

「流石に無理!」

 

「く、は、は!なら仕方無いな。代わろうか」

 

「後は頼むって言えば良い?」

 

「そうだな、後は任せてもらう」

 

「分かったわ、じゃあ、武運を祈る!」

 

日本一はネプギアのところまで撤退した。

よし、気兼ねなくやれるな。

 

いや、まあ……最適解が今回は俺だっただけで、本来は分からないけど……うん、気にしても仕方無いね!

 

〔目標、変更──〕

 

「あー…そもそも形が悪いんじゃないか?殺戮兵器ってんなら、腕を一つや二つ、増やすべきだろう」

 

〔目標抹殺、抹殺、抹殺──!〕

 

「会話を楽しむ機能はないようで─!」

 

さあ、しっかりと視ろ。

理解しろ、死を。

 

目の前のデカいだけの機械を視て、『線』を捉える。

後は、それを斬るだけ。

 

キラーマシンが横薙ぎに腕を振るう。

 

それより少し高く跳んで避けながら、腕の『線』をMPBLで斬る。

ナイフでは斬りきれなかったが、今度は全部いけた。

 

〔ガ、ガガ──損傷率、拡大──〕

 

「中々デカいな、斬り甲斐はある」

 

等しく、この眼は死を与える。

 

「斬刑に処す」

 

その言葉を皮切りに、俺は奴より速く動く。

壁を伝い、もう片方の腕を斬る。

続けて肩にあたる部分を斬り落とす。

 

足腰は無いので、残念ながら後は体だけ。

 

〔ギ、ギギ──〕

 

「終わりだ……ッ!」

 

奴の反応速度を更に超える。

 

頭が痛むが、後少し。

 

俺は最後に、奴の真上まで跳ぶ。

羽もない、浮遊もできないのにただ、ジャンプするだけで軽々と巨体より上へ跳べるとは、恐れ入る。

 

俺は、MPBLを両手で振り下ろしながら落下する。

巨体の『線』を斬る。

とても堅い体なのだろう。

女神を殺すための強さを持ってはいるのだろう。

 

だから、反則を使う。

直死の魔眼という、反則を。

 

「機械だろうと、例外はない」

 

〔ガ、ガ────機──停───〕

 

キラーマシンは、言語機能すら壊れたのか、喋りきる事も出来ず、爆発した。

 

勿論、俺は爆発の範囲外まで逃げたが。

 

「しかし下手だね、どうも」

 

本当に下手だ。

こんな方法すら思い付かなかったとは。

ハァ~……皆に謝りたい気分だ。

いや、皆は訳分からんと思うだろうが。

 

「き、キラーマシンが!くそぉ!覚えてろよぉぉぉ!」

 

下っ端ことリンダも可哀想な事に負けてしまったようで逃げていった。

悲しいね……連敗記録。

 

「下っ端の癖に生意気なのよ」

 

「ギアちゃん達も終わったようです!」

 

二人とも目立った怪我はないな。

それに、回収も終えたようだ。

なら、さっさと逃げるに限る。

 

俺もネプギアと日本一の元へ戻る。

 

「凄い動きだったわ!こう、ズバッていって、シュババって動くの!」

 

「すまん、分からん」

 

「お疲れ様です、皆さん!」

 

「ああ、お疲れ様……と言いたいが、早いとこ逃げた方がいいな」

 

「悪のロボットから逃げるなんて屈辱だけど…数的に真っ向からは危険だものね」

 

「そういうこと。ほら、返すよネプギア」

 

「ありがとうございます!えっと…使いやすかったですか?」

 

「ん、まあ思ったよりは軽かったな」

 

「そうですか…よかった」

 

そりゃ、重くて出来なかったらまずいからな。

本当によかった。

アイエフ達もこちらへと来る。

 

「さ、ゲイムキャラの欠片も回収できたし、ルウィーへ戻るわよ!」

 

「そうだな」

 

「……何か楽ね、その姿だと」

 

「流石にそれだけだと何が楽か分からないな」

 

「ボケに回ることが無いからよ。ほら、いつもだとボケが多くって……」

 

俺達はそうしてブロックダンジョンからルウィーへと戻る。

戻る途中で、爆弾発言が起こった。

 

「ああ、なるほど……理解してるよ。コイツは底抜けの阿呆だからな」

 

─おい、また勝手に

 

『何だ、否定はできまい?』

 

─ぐぬぬ……!

 

『ま、付け足しはしてやるか…』

 

─あん?

 

「そーそー……何度私がツッコミを入れたか」

 

「ま、許してやりなよ。コイツなりの大切な奴との接し方なのさ。不器用ってやつだ」

 

「ふーん……」

 

─おま!?

 

『く、は、は!こうされるのが嫌なら、もっと己を鍛えるんだな?』

 

この野郎……中々に曲者だ。

あんまり、頼りたくねぇ~……

 

しかも、コイツに体使われてるし

 

『お前が言うなと言っておこう』

 

「エルエル、意外と可愛いところがあるです~」

 

「志貴さん、勝手に言ってよかったんですか?」

 

「構わないさ。こっちは力を貸してやってるんだ。

少し位遊んでもいいだろう?」

 

「侵害してる気がするけど……いいのかな?」

 

良くないですねぇ。

 

「ところで、変身解除はしないの?ネプギアはしたけど……」

 

「それをしたら、一人動けない役立たずが増えるからな」

 

「ああ……」

 

「でも、脳が……」

 

「何、別に特にデカいのを視ている訳じゃないんだ。

死にはしないさ」

 

そう言って、俺は速度を速くして先に歩いていく。

後ろから歩を早めて来るのが分かるが、今は皆を視ているのが辛かった。

 

また頼るのを忘れてたってのもある。

だけど……

 

『諸刃の剣。正に言葉の通りだろう?』

 

七夜の言葉に無言で肯定する。

 

ここまで眼を抉りたいと思ったのは、初めてだ。

ここまで人を切り刻みたいと思ったのは、初めてだ。

 

正気を保つ。

さっさとルウィーへ戻らなければ。

戻ったら、すぐに解除しないと。

 

どこまでも不憫な体なのだ、元の俺の体は!

 

人間の体がここまで疎ましく思えるとは。

死徒の力があるだけの人間の体……なまじ人の力では無いからこそ焦燥感というのが生まれる。

残りの魔力を変身に割いて、ルウィーに到着するまでの時間を作る。

 

今、解除したら疲れだけじゃないのまで来そうだ。

 

嗚呼、儘ならない。

全くもって、儘ならない────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズェピアさんが七夜志貴さんに変身して、もう何十分と経つ。キラーマシンを見たときに、一瞬だけ顔が苦痛に歪んだのを私は見ていた。

 

だけど、志貴さんは私の武器を、MPBLを貸してくれと頼んできた。

 

直死の魔眼と呼ばれる特異な魔眼。

それは志貴さんが言うには『死』が見えるという。

あらゆる物の死が───

 

それは、どれだけ怖い世界なのだろう。

私には到底理解できない世界なのは分かった。

それに、あの苦痛に歪んだ顔を見れば、脳による負担の大きさは想像を絶するだろう。

 

きっと、私や他の人の『死』が見えていたのかもしれない。

 

……今回、あくまであの人は武器を欲していた。

志貴さんの性格も出ていたのかもしれない。

だけど何より、少し怖かった。

 

 

─俺に殺らせろ

 

 

そう、目が言っていた。

顔は優しげで、言葉も気を遣ったような言動。

それでも、あの不気味なまでに青い瞳は、殺意を灯していた。

 

マジック・ザ・ハードがこちらへ向けてきた殺意。

それと同じような殺意を。

 

斬られるのは私なのかもしれないと思った。

一瞬だけ、思ってしまった。

 

顔に出さないで、送り出せたのは今でも不思議だった。

 

キラーマシンを倒して、戻ってきたときの目は普通の志貴さんだった。

 

あれは、あの眼は…志貴さん本来の性格が浮き彫りになった眼なのだろうか?

ズェピアさんはあんな眼にはならない。

そもそも、変身した時は目が閉じてるのだけど…

 

ズェピアさんが変身をする度に怖くなる自分がいる。

どんどんと違う人になってるようで。

本来のあの人の優しさが塗り潰されていくようで。

今回は、青かった。

前回までは、黒かった。

 

私の思い違いだと言うのは分かっている。

そもそも、タタリによる変身はズェピアさん本来の力だから。

でも、まるで─────

 

 

────そのタタリに、侵食されているようで。

 

 

そうして、変身した後に解除して、体に負担が訪れる。

倒れて、皆に心配されながらも呆れられて苦笑するズェピアさんを見て…安心する。

 

ああ、元に戻ってよかったと。

 

もし、志貴さんが変身を解除しても、ズェピアさんの姿に戻ってなかったら、私は。

あの優しい手の温もりを、撫でてくれる手が来てくれないと思うと、私は。

 

きっと、それを────────「ネプギア?」

 

「!あ、はい!何でしょうアイエフさん?」

 

「何でしょう?じゃないわよ。話し掛けても上の空だったわよ、今のアンタ」

 

「そ、そうだったんですか?」

 

「自覚無かったの?」

 

「えと……考え事のし過ぎかも?」

 

「皆疲れてるですよ。エルエルも休ませないと……」

 

「今回も動いたもんね~……」

 

「ですね……」

 

今、おかしな事を考えた気がする。

 

流石に疲れてるのかも……。

頭を左右に振ってから思考をリセットする。

 

考えすぎは良くない。

 

「あ、そうこう歩いているうちにルウィーね」

 

「近い方で安心したわ……」

 

「じゃあ、教会に行くですよ!」

 

「ですね。……?」

 

ハァ、と疲れたように話す三人と、ゲイムキャラさんが心配な私。

でも、私は志貴さんを見て、何か違和感を覚える。

 

志貴さんは、何をするわけでもなく立ち止まっている。

 

嫌な予感がした。

 

「志貴さん、大丈夫ですか?」

 

私は先程まで私達よりも先に歩いていた志貴さんの所まで歩く。

アイエフさん達も、違和感を感じたのか一緒に来てくれた。

 

「志貴さ──」

 

私は志貴さんの隣まで歩いて、志貴さんに話し掛ける。

いや、話し掛けようとした。

 

突如、私の頬に手が触れる。

どうしたのだろうと思う暇は、なかった。

 

触れてるその手は、震えていたから。

 

「──ぁ、ぐ──ハ、ハ──ネプ─ギア──?」

 

突然元の姿に戻って、目から血を流し、笑いながら私の頬に触れているズェピアさんを見て、そこから先を言えなかった。

 

「ズェピアさん……!?」

 

「あ、ああ……よかった……『線』が見えない……

ア、ハハハハ…ネプギアの、皆の、死が見えない──」

 

「ズェピアさん、しっかりしてください!」

 

「エルエル!」

 

「やっぱり、無理してたんじゃない!」

 

「変身の影響!?」

 

大きな汗がズェピアさんの顔にいっぱい流れている。

目を見ると、焦点が合っていない。

 

それに、怖がっているような顔だ。

 

私は、私の頬に触れている手に自分の手を重ねる。

ズェピアさんがしてくれたように。

 

しっかりしてと声をかける。

 

「ああ……!コンパ、日本一、アイエフ……皆、『線』が見えない……視えない……!」

 

やっぱり、あの変身は無理があったんだ。

志貴さんの変身は、負担が大きかったんだ。

体としての疲れもあるだろうけど、精神的な疲労が専門的でない私でも見れば分かる。

 

あの眼は、よくない眼だ。

 

「ああ、触れても、大丈夫……」

 

「大丈夫、大丈夫ですから…ズェピアさんは、ズェピアさんですから……」

 

「ああ…ああ…!」

 

「…ギアちゃん、支えながら教会まで行くですよ」

 

「はい……!ズェピアさん、立てますか?」

 

私の問いにこくりと頷いて立ち上がるズェピアさんを、私は横から支える。

もう片方はコンパさんが支えている。

 

「先に行って、説明して部屋を用意してもらうわ!」

 

「支えるのは私とコンパさんで平気ですから日本一さんもお願いします!」

 

「了解よ!」

 

アイエフさんと日本一さんは教会まで走っていった。

疲れてるだろうけど……今は、この人を。

 

二人で支えながら教会を目指して歩く。

 

「大丈夫、大丈夫ですからね」

 

「エルエル、しっかりするですよ。私達がついてますから」

 

「…怖い、怖いんだ……」

 

「ズェピアさん……」

 

「怖い。…怖い、怖い……」

 

「エルエル……」

 

教会に着いて、ミナさんに案内された部屋に行って寝かせるまで、ズェピアさんは虚ろな眼差しで何度も怖いと言っていた。

 

 

 

 

──明日になっても、ズェピアさんは目を覚ますことはなかった。




直死の魔眼による世界の視え方の違い。
それは決して常人が耐えうる世界ではない。
そして、その常人の枠に、『■■■■』が入っていない道理は無く。
異常な力を持っていようと、所詮は唯人に過ぎない男は、視た世界に耐えきれずに倒れた。

しかし、それでも運命は男を突き動かす────


次回、超次元ゲイムネプテューヌmk2 with ワラキー

『遥か彼方からの贈り物 前編』


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遥か彼方からの贈り物 前編

体が沈んでいく。

深い深い、(精神)の底へと、ゆっくりと、されど確実に沈んでいく。

 

それは心地が良い感覚だった。

何もする必要はない。

ただ、この感覚に身を委ねるだけで安心感を得れる。

何かをする必要はない。

 

(…────)

 

ゆっくりと、目を開けてみる。

既に海面は見えない。

横を見ても、同じ光景が続くだけ。

 

そんな当たり前を見て、何となく微笑む。

暗い暗い、海の底へ。

 

だが、ふと思う。

 

何時から、自分はこの海へと沈んでいるのか。

何故、沈んでいるのか。

そもそも、沈むまで嫌なことがあったのか?

 

(────ぁ)

 

ゴポリ、と息を漏らす。

 

思い出した。

 

それと同時に、自分の姿が不確かから確かなものへ。

正確な声と形を得る。

 

(ああ、ああ────)

 

そうだ。そうだ。

自分は、俺は。

耐えられなかったのか。

 

あの世界に。

 

駄目だった。

結局、足を引っ張る。

弱くなった俺は、確かに強さを得はした。

だが、それと同時に脆くなってしまった。

 

前の俺なら、家族のみを重視していた俺なら。

きっと、こうはならなかった。

 

何て、無様──。

 

だけど、これでよかったのかもしれない。

 

今の俺は、足手まといだったろう。

変身して強くはなれる。

だが、それも一時のものだ。

それが終われば、動けもしない役立たず一人。

 

だから、これでもう、ネプギア達に苦労を掛ける必要はない。

 

そう思えば何となく気が楽になる。

 

……グレートレッドは、どうしよう。

今の俺じゃ、勝てない。

タタリで世界を覆うことも出来ないのに、勝てるわけがない。

 

でも、あの子達なら勝てるのでは?

だって、あの子は主人公だ。

勝つのは法則だろう。

 

だから、元々俺が頑張る必要なんて無いのでは?

 

(──いや、それは流石に最低)

 

今のは流石に無い。

自分の問題まで押し付けるようになってはオーフィスにすらゴミを見るような目で見られることだろう。

 

戻らないと。

 

きっと、皆心配してる。

 

(──駄目か)

 

そう言い聞かせても、体は浮上してくれない。

恐らく、脳事態が世界を見るのを拒否している。

自分の意思すら通じない拒絶。

 

どうすればいいのか。

 

ああ、何ということだろう。

体を制御すら出来ないとは。

今の俺は、こんなにも────

 

 

 

───無力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日になったのに、ズェピアさんは元気な顔を見せてくれない。

何処かで間違えた。

あの時、送り出さなければよかった?

あの時、変身を無理矢理でも解除させればよかった?

あの時、あの時、あの時、あの時、あの時、あの時。

 

自分の心の中にあった言葉を、吐き出せばよかった?

 

「ズェピアさん……」

 

眠っているズェピアさんの手を握り、声をかける。

返事はない。

でも、温もりを感じることは出来た。

 

それだけが私を安心させる。

それだけが私を満足させる。

 

お姉ちゃんが居ない。

甘えてしまう。

この人の優しさに溺れてしまいそうになる。

 

「どうして……?」

 

この人についていたくなるのは何故だろう。

 

頭を撫でられると嬉しくなる。

お姉ちゃんが抱き付いてくる時も嬉しいけど、それとは少し違う。

ぽかぽかする?

 

どうしてだろうか。

 

どうして、この人が他の子と仲良く接してるのを見て焦りが生まれてしまうのか。

どうして、無意識のうちに不機嫌になりそうになるのか。

 

黒い感情は今まで抱いたことはある。

でもこれは違う。

これはもっと黒いもの。

 

ドス黒い感情ともいうべきもの。

 

「…怖い」

 

その感情が自分から出ているものだと分かったら、怖くなる。

自然とズェピアさんの手を強く握る。

いつもは握り返してくれる手も今は力がない。

 

それが、居なくなってしまうという恐怖を生み出す。

 

コンコンと、部屋の扉がノックされる。

誰だろう?

 

『ギアちゃん、入っても良いですか?』

 

「…コンパさん。はい、どうぞ」

 

「失礼します。……エルエルは、起きないですか?」

 

「はい……」

 

「そうですか……」

 

コンパさんは心配そうにズェピアさんを見る。

 

「ズェピアさん、このまま起きないんでしょうか……」

 

「そんな事は無いです!精神的疲労と肉体的疲労が一気に来て寝込んでるだけだと思うです。だから、近い内に目を覚ますですよ」

 

「そう、ですよね……」

 

目を、覚ましてくれますよね。

ズェピアさんは、なんだかんだ言って無事に戻ってきますよね?

 

戻ってきて、くれるよね?

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

ルウィー 広場。

 

「寒っ。寒すぎると思うんだが?吾輩、このままでは凍えてかき氷ならぬかき猫になってしまうであるよ」

 

「ん、つまらない冗談はやめる」

 

猫と思わしき……猫?うん、猫。

猫が寒がる仕草をして愚痴るとそれについている少女が興味無さげに周りを見る。

 

「冷たい反応だにゃ~ドラゴンガール?

もう少し家族への情というか、ノリというか…そういう漫才的な個性を出してくれてもいいのよ?」

 

「そういうのは間に合ってる」

 

「付き合い悪いにゃー……吾輩、拗ねちゃうよ?

まあ、にしてもマイフレンドのプレゼントである吾輩達はこのお国で油売ってる暇はにゃいのであーるが……む、にゃにぃ!?」

 

「?どうしたの?」

 

猫?が唐突に驚きの声をあげたので探し物が見つかったかと思った少女は猫?に問う。

 

「ルウィーわんにゃんカフェとは吾輩の生き残ってしまった忌々しき猫本能を燻るであるな?という訳で行っとく?」

 

「行かない。お金、ない」

 

「この前悪党から巻き上げたばかりじゃにゃいのよ」

 

猫?の言葉に少女は顔をそらして口笛を吹き出す。

無表情で。

猫?はそれを見たときに察した。

 

「……」

 

「このバカガール!もしやラステイション焼肉定食とやらに全部注ぎ込みやがったな!あの資金は我々が順当に使おうと決めたマネーじゃにゃいの!

それを全部使ったのだな!?」

 

「カフェに注ぎ込もうとしてるのに言われたくない」

 

「いや焼肉定食に全部使ったお主にも言われたくにゃいわ!」

 

哀れ、資金が尽きた猫?はわんにゃんカフェを前に膝をつく。

周りの子連れの母は見ちゃいけませんと子供の目を手で隠しながら汚物を見るような目で通り過ぎていく。

 

「吾輩の猫合コンがみ・ず・の・あ・わ♥」

 

「ドンマイ?」

 

「シィット!…こうしてはおられません。

吾輩達のソウルフレェンドを探さなくては…とんでもない事になるであーるよ!」

 

「どうなる?」

 

「人々が恐れる死にかた。

一般的には飢え死に。吾輩的には貧乏死という訳よ」

 

「……!早く探す!」

 

「これが飯に命かけてる少女の心ってやつかにゃー…」

 

所々常識的な猫?の発言に少女が焦る。

この焦りは間違いなくそのソウルフレンドに飯を集る気間違いなし。

 

猫?は探しているソウルフレンドに同情する。

 

ついでに己にも同情する。

 

「もしかして、お困り?」

 

「お?」

 

「…………誰?」

 

そんな二人に話し掛ける奇特な人間がいた。

二人は同時に首をかしげる。

しかし、猫?は煙草を持っているため可愛さは相殺されて寧ろマイナスである。

 

「誰だ何だと聞かれれば答えてあげるがヒーローの定め!私はゲイムギョウ界のヒーロー、日本一!

何となく困ったオーラを醸し出す貴方達に話しかける1ヒーローよ!」

 

「汝、話し掛ける相手をメニー間違えるぞ、マジで」

 

「……───ズェピアの匂い」

 

「にゃ、にゃにぃ!?この僕アカに出たら意外と個性強そうな女子に我等がソウルフレェンドのスメ~ルが?

いやぁfate出身じゃにゃいけど運命感じちゃうよ吾輩」

 

二人の何となく嬉しそうな雰囲気に日本一は問題解決かと首をかしげる。

こいつら皆首をかしげる。

 

しかし、日本一はズェピアという名前を聞いてハッとする。

 

「貴方達、ズェピアの知り合いなの?」

 

「めっちゃ知り合いなんですよねこれが。

吾輩達は浅草でキャットフードを貪ったフレンドよ」

 

「我は違う」

 

「ズェピア…友達は選んだ方がいいよ……」

 

今は眠っている友人兼仲間に同情を送る。

 

少女は日本一にぐいっと近付く。

無表情で。

日本一はそれに少し気圧される。

 

無表情だからである。

 

「ズェピアの所に案内する」

 

「えっと、友達、なのよね?」

 

「魂を分け合った家族でもあるのよこれが。

我等はアニメを5日ぶっ続けで視聴したファミリー!」

 

「うるさい」

 

「ギニャァ!そんな猫相手に拳振るわなくてもにゃぁ!?」

 

「取り合えず、案内する」

 

「うーん……分かったわ!」

 

日本一は難しく考えるのを放棄して教会まで案内することにした。

煙草を吸ってる奇妙な猫?と無表情でついてくる黒髪の少女は、日本一についてくる。

猫?は少女に引き摺られる形でだが。

 

「あー床つめてぇ……これではネコ・アローラの姿になってしまう……」

 

何ともなさそうなのは気味が悪いが、悪いやつでは無さそうなので気にしないことにした。

 

「ズェピア……やっと会える」

 

「ヤンデレ醸し出すのやめにゃい?今回の吾輩達の出番今回と次回が終わればしばらくにゃいよ?いや、吾輩に至っては一生無い可能性が微れ存な訳でへぶっ!」

 

「空気を読む」

 

「いや、それ、吾輩、だけじゃ、にゃい──地面に何度も顔叩きつけるのやめてくんにゃい?」

 

「楽しい」

 

「わぁお加虐趣味……」

 

「うーん……これ、大丈夫よね?」

 

日本一は若干不安になりながら、歩を止めることは無かった。



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遥か彼方からの贈り物 中編

どうも、ロザミアです。

今回はですね、9000字を少しオーバーしました。
何てこったい。

という訳で中編です。
どうぞ


日本一さんが気分転換に買い物に出掛け、アイエフさんがゲイムキャラさんを直せる人を探してる中、私とコンパさんは二人でズェピアさんを看ている。

 

ロムちゃんとラムちゃんも心配で様子を見に来てくれたけど、二人とも寝てるだけのズェピアさんに寂しそうだった。

 

一向に目を覚ましてくれないズェピアさんに、私はただ座って静かに寝ている顔を見るだけ。

 

私もゲイムキャラさんを直せる人を探しますと言ったけど、アイエフさんに

 

『アンタはズェピアについててあげて。

アイツ、アンタの事を特に気に入ってるだろうし……目を覚ますかもよ?』

 

それを聞いて……正直、嬉しかった。

 

でも、この人の一番大切なものは家族の人達。

そう分かってしまうから、同時に悲しい。

 

「ギアちゃん、はい。ココアですよ」

 

「ありがとうございます、コンパさん」

 

コンパさんから貰ったココアを飲む。

甘くて、温かい。

 

コンパさんが隣に椅子を持ってきて座る。

 

「ギアちゃんは大丈夫ですか?」

 

「はい、私は平気です」

 

「…エルエル、寝坊助ですね~」

 

「はい……いつも起きるのも遅いですし」

 

「きっと、夢の中で遊んでるですよ」

 

「ズェピアさん、ゲーム好きそうでしたもんね」

 

「そうです」

 

プラネテューヌでゲームを見たとき、顔を輝かせていたのを覚えている。

 

『何じゃあこのゲーム……何て素晴らしい形なんだぁ……俺の世界のゲームなぞ、所詮、先の時代の敗北者じゃけぇ……』

 

落ち込みながらも喜ぶという器用なことをしながらゲームをしていた。

流石に、お姉ちゃんのやってないゲームはやらせてはいないけど、心から楽しんでいたのは覚えている。

 

「ギアちゃんは、エルエルの話をするとき楽しそうです」

 

「そ、そうですか?」

 

「ねぷねぷの話をするときとはちょっと違う楽しそうな顔です」

 

「う、うぅ……」

 

「顔を少し赤くして、嬉しそうに──」

 

「わーわー!そ、そんな顔してないですよ!」

 

「えー?」

 

からかう時のコンパさんは少し意地悪だ。

というより、ズェピアさんへの何気ない一言とかえげつなく感じる。

普段はおっとりとしてるから余計に。

 

「エルエルの事、好きです?」

 

「え……?私が、ズェピアさんのことを?」

 

「はいです」

 

「え、と……」

 

どうなんだろう。

 

聞かれて、考える。

確かに撫でられて嬉しいし、一緒に寝たときは心臓が五月蝿いくらいだった。

一緒にいるときは安心するし、笑顔を見るとこっちも自然と笑顔になる。

無茶や無理をしていると泣きたくなるし、怪我をしてまで動く姿は思わず抱きついてでも止めたくなる。

 

泣いていた私の元へ、来てくれた人。

 

……でも、どうなんだろう?

これを好きと思っていいのかな?

好きって、なんだろう。

 

コンパさんに、取り合えずズェピアさんに対しての気持ちを言ってみた。

すると、コンパさんはニコニコと笑う。

 

「ギアちゃんは、大好きなんですね~」

 

「そうなんでしょうか……」

 

「じゃあ、ユニちゃんとかがエルエルとくっついてたらどう思いますか?」

 

思い浮かべる。

ユニちゃんがズェピアさんと一緒にいて、一緒に笑って話して。

それで──

 

そこまで想像して、ドス黒い感情が沸き上がる。

それは、嫌だ。

 

「……嫌です!」

 

「それじゃあ、一緒に居たいって思うです?」

 

「えっと……はい」

 

「好きって、そういう事なんじゃないです?」

 

「…うーん……」

 

そう、なのかな。

でも、本当に?

 

「でも、甘えたいだけな気がします」

 

「うーん……ギアちゃんにとってエルエルは仲間ですか?それとも、それ以上?」

 

「それ以上……」

 

多分、それは恋人とかの関係になりたいかって事。

…一緒に何処かへ出掛けて、一緒にお店でご飯を食べたりして、キスをしたりする。そんな関係。

少し、想像してみる。

ズェピアさんに告白されたら、嬉しいかどうか。

 

『ネプギア、好きだ』

 

え、でもズェピアさんって直球で言う人かな?

もう少し遠回りな形で言いそう。

でも、告白してくれたらそれは家族の人達と同じくらい大切だと思ってくれてるかもしれない訳で……

 

それは、とても嬉しいと思えて……

胸の内が温かくなる。

 

 

「───そっか」

 

 

─これが、好きって事なんだ。

 

 

自覚したら、顔が熱くなる。

 

「え、あ、うわぁ……」

 

「どうしたですか?」

 

「今まで、ズェピアさんにしてた事を思い出したら……恥ずかしくて……」

 

それに、ユニちゃん達に向けてたのって嫉妬って事だよね……

最低だ、私……。

 

「それに友達に、嫉妬してたなんて……」

 

「ギアちゃん…好きな人が取られるのは誰でも嫌ですよ」

 

「うう……そうですか……?」

 

「はい、今度から気を付ければいいです」

 

そう、だよね。

それに、一々嫉妬してたんじゃ、重いし……。

 

うん、 ズェピアさんもそれは嫌だろうし……気を付けよう。

もっと、話をしたい。

もっと、笑い合いたい。

 

「…もっと、一緒に居たいです、ズェピアさん」

 

「……エルエル、早く起きるですよ」

 

私は、貴方を待ってます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルウィー教会。

そこまで二人?一人と一匹を案内した(日本一)は教祖である西沢ミナと話をした。

 

教祖の方もちょうどプラネテューヌの教祖から話を聞き終わった所のようだった。

 

「えっと……はい、プラネテューヌの教祖からの説明で大体の理解はしました。つまり、貴方方はズェピアさんの世界の家族ということですね」

 

「ん、そう」

 

「中々物分かりがいいねぇチミ。でも、その真面目なキャラはこの先の人気投票という荒波で生きていけるかというとそれはまた別のハ・ナ・シ」

 

「は、はぁ…」

 

少し困った風な教祖に内心私も同じ気持ちだった。

煙草を吸ってる奇妙なネコにそれを膝に乗せて短い返事をする黒髪の少女。

この二人はズェピアの家族だって話だけど…

 

すっごい変ね!

 

「それで、ズェピアに会わせてあげたいんだけど…いい?」

 

「それは構いませんが…とても話せる状態ではないですよ?」

 

「うむ、それはそこのどこぞの当主と張り合える胸のヒーローから聞いているから安心なさい。

吾輩達も長くここには留まれにゃいからね」

 

今聞き捨てなら無い単語が聞こえた気がするけど気のせい気のせい。

 

そう、ヒーローに胸なんて必要ないんだから!

 

「という訳でヒーローガール!吾輩達をソウルフレンドの所までの案内よろしく頼もう!お礼にこの非売品激レアDVD『二十七キャット、世界征服三秒失敗!』をくれてやろうではにゃいか!」

 

「要らないけど任せなさい!」

 

「ナチュラルに吾輩の贈り物を拒否しやがるとは汝中々辛辣orナイス判断と言わざるを得ないのである…」

 

「ん、ありがとう」

 

「これくらい、感謝されることじゃないわ!えっと…」

 

「おお、吾輩としたことが自己紹介を忘れるとは。

これはハードディスク内のお気に入り画像を親に見られて消されるくらいの大失態なのです」

 

「我、オーフィス」

 

「若干のスルーを感じるが吾輩いじけてにゃいよ……

ふっ、クールな自己紹介をしたドラゴンガールの手前、無様な自己紹介は出来ぬな」

 

何だか気合いを入れてるけど普通に自己紹介をしてほしい。

そう思ってしまう私と教祖は間違ってないはず。

オーフィスは膝からネコを降ろす。

 

降ろされたネコはファイティングポーズを何故か取る。

 

「生まれは冥界、年齢不詳、職は店主で順風満帆!

旨くて激辛拉麺を、お客の口に放り込む。

寄せる世間の不条理も、不死身の体でライディング~

そう、我こそは二十七キャットのコピぺの一角!

ジョージ意思のネコカオス!」

 

「あ、うん……」

 

「カオス、滑ってる」

 

「分かってはいたけど二番煎じに等しい台詞はやめようぜゴッド(作者)

 

「それ以上いけない」

 

「え、えっと……日本一さん、二人をお願いしますね」

 

「ええ、任せて。ほら、行くよ!

 

「ん」

 

「ああ、髭を引っ張るのはやめようね、引っ張るならせめて吾輩の温もりを感じられる手にしてね」

 

「嫌」

 

「あ、ダメ?ですよねー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり起きない。

何時になったら起きてくれるのか。

 

「頬を叩けば起きたりしませんかね……」

 

「しないと思うです。もうしましたから」

 

「コンパさん?」

 

「何も言ってないですよ?」

 

「そ、そうですか……」

 

何だか、笑顔で何かを言っていたような。

ズェピアさんの右頬が何となく赤いし……

 

気のせいだよね。

 

そうしてズェピアさんの様子を見ていたら、扉がノックされる。

アイエフさんかな?

 

『ネプギア、お客さんが来てるんだけど入れて良い?』

 

「お客さんですか?」

 

日本一さんの声がした。

お客さん?私にかな?それともコンパさん?

それとも、ズェピアさんに?

 

「はい、入ってどうぞ」

 

「じゃあ、あんまり騒がないようにね?ってうわわ!」

 

「イダダダ!引っ張りすぎるとネコのか弱い腕がもげる!吾輩にM体質はナッシングなのであまり激しくはするのはNGと言わせてほしい!」

 

「ズェピア」

 

「きゃっ…だ、誰?」

 

黒髪のワンピースを着た女の子が黒い……ネコ?でも、本人は自称してるし……ネコさんを引き摺りながらズェピアさんの寝ているベッドに飛び込む。

 

私が何者か聞くと、女の子はこちらに首を向けて顔をずいっと近付けてくる。

 

「……」

 

「な、何?」

 

「──ズェピアの匂いが、特別濃い」

 

「に、匂い!?」

 

「やっと解放されたかと思えばこれ。いやぁ、吾輩達だけが来たのは間違いだったのか、それとも吾輩の脳細胞が貧弱なのか」

 

ネコさんが見た目と同じくらい意外と渋い声で何かを言っている。

 

「待ちなさい、ドラゴンガール。彼女は吾輩達というスペシャルゲストを知らないから、ここは自己紹介をすべきだと吾輩のイルカ並の知能が告げておる」

 

「……我、オーフィス。こっちはカオス」

 

「あ、はい。オーフィスちゃんとカオスさんだね。

私はネプギア。こちらはコンパさんだよ」

 

「よろしくです。それで、お二人はどうしてエルエルに?」

 

「ズェピアの家族で、ズェピアに会いに来た」

 

「えっ……」

 

オーフィスちゃんの言うことに少し理解が遅れる。

家族……?

 

会いに来たって事は……迎えに来たってこと?

 

「エルエルのご家族さんですか?じゃあ、エルエルの元いた世界から来たってことですか?」

 

「ん、そう」

 

「まあ、吾輩達もソウルフレンドを迎えに来たかったが……それは叶わないお約束にゃのよ、これが」

 

「そう、なんですか?」

 

カオスさんの発言に少し安堵してしまう自分がいる。

やっぱり、まだ離れたくないんだ、私。

 

カオスさんはうむ、と頷くと椅子に座ると話し出す

 

「まあこんな見た目だけどシリアス的雰囲気に入るんにゃけど、こうして来れたは来れたけども、吾輩達は本当の吾輩達ではないのだよ」

 

「我とカオス、力だけの存在」

 

「つまりどういうこと?」

 

「約二日前かそこらでようやくこの次元への道を当てたもう一人の家族の協力もあってここに来れるようにはなった。それは理解するであるよ。しかーし、本当の吾輩達が入るには少し小さすぎたのよ」

 

「繊細な世界の裂け目だった。我達がそのまま入ったら他の次元にまで影響、出てた」

 

「故~に本当の吾輩達…もう本体で良い?…はそこで寝腐ってるソウルフレンドの助けになる力だけを送り込んだって訳よ。正確には吾輩はこのドラゴンガールの補佐なだけにゃのだけど」

 

「じゃあ、貴方達でもズェピアさんを連れ戻せない?」

 

「そう言うことにゃね。偶然空いた穴がソウルフレンドと赤蜥蜴を吸い込むほどだったってだけなのよ。

…まあ、しかし、吾輩達が来て正解だった様子」

 

片目を開けて、ズェピアさんを見るカオスさん。

何となく、心配してるのかな?

 

オーフィスちゃんはズェピアさんの額に手を当てて目を閉じる。

私達は何をしているのかよく分からないので静かにそれを見守る。

 

やがて、目を開けたオーフィスちゃんはカオスさんの方を向く。

 

「ふむ、どうであったかな?」

 

「器が力に追い付いていない。だから眠ってる」

 

「ああ、なるほど」

 

「タタリがズェピアさんよりも強いってことですか?」

 

「うむ、説明すると少し長くなるがよろしいかね?」

 

「お願いするです」

 

「承知したメロン少女よ」

 

カオスさんは椅子から降りてズェピアさんのベッドに立つ。

ズェピアさんを踏んづけてはいない。

 

「だが、その前にここで起こったソウルフレンドに関することを全て教えてはくれまいか?憶測で語りたくはないのでね」

 

「はい、分かりました──」

 

私達はカオスさんとオーフィスちゃんにズェピアさんがゲイムギョウ界に来てから起こったことを話した。

グレートレッドの話をするとオーフィスちゃんの無表情が少しだけ怒ってるように変化していたけど…ちょっと怖いかも

 

全部話し終えるとカオスさんがやはりか~と喋り出す。

 

「タタリの本質を理解した弊害であるな。

確かに、その本質を理解することでよりタタリを使いこなせるようになるのは事実。ですが、彼のボディーは元々は人間。今も、何かシステムに障害が起こっているのか死徒の身体能力を持ってるだけの人間の体って訳よ。今から一人語り始まるから画面の前の君、少し耐えてくれたまえ」

 

「死徒化した時のスペックの元はこの人間の時のスペック。それを幾らか倍増ししたスペックだから疲れも現れるって訳よ。まあ、鍛えればその疲れも幾ばくかは晴れるだろうけどにゃー。

けれども、それはズェピア・エルトナムという所謂いつもの姿であればの話。七夜志貴は本質を理解したが故に出来てしまった新しいフォルダという話」

 

「新しいフォルダを既にズェピア・エルトナムボディーで満帆な器に入れたらどうなるか?

当然、こうしておかしくなる。しかも直死の魔眼とかいう中二心満載な眼まで入れれば許容オーバー、爆発寸前って事であーる。これからもその新しいフォルダさんが増えるであろうなぁ。わざと見えないようにされていた力を今回の特殊環境で見えてしまったわけだから」

 

「要するに、このままだと寝たままな訳よ!

よろしい?よろしいね。よし、理解した!」

 

カオスさんの話を聞いて、納得した。

元々ズェピアさんはあの姿だけを使えるだけだった。

それが、ゲイムギョウ界に来てから何かの手違いで使えるようになってしまった。

タタリの本質を理解したから体に収まりきらない程の力になってしまった。

 

「はい、理解しましたけど…オーフィスちゃんはどうやってズェピアさんを助けてくれるんですか?」

 

「ん、我の力を少し与える」

 

「え、それだとより許容量をオーバーしちゃうんじゃ…」

 

「うむ、そこを説明するとだね。その力を、許容限界を引き上げてくれるように与えるのだよ」

 

「そんな事できるですか?」

 

「普通なら無理。でも、我は無限」

 

「今の台詞を補足すると、無限の力を使ってそうするって事ですな」

 

「取り合えず、ズェピアは起きる?」

 

「ん、起きる」

 

「よかった~……」

 

「アイちゃんに知らせてくるです!」

 

「じゃあ、私が教祖に知らせるわね」

 

コンパさんと日本一さんがそう言って出ていく。

よかったぁ……本当に、よかった……!

 

オーフィスちゃんは、二人が部屋を出た後、私の方を向く。

 

「…1つ聞かせてほしい。ネプギアは、ズェピアの事、好き?」

 

「え?」

 

「答えて」

 

「吾輩のいる中で、しかもソウルフレンドが寝てるのにこんな女子会開くとはニャブン!?」

 

「これで起きてるのは二人」

 

「え、えぇ~……」

 

「それで、どうなの?」

 

カオスさんが後頭部を殴られてベッドに倒れる。

……気絶してるっぽい?

 

嘘は許さないという目で、オーフィスちゃんは私に聞いてくる。

きっと、この子もズェピアさんが好きなんだ。

私よりも、前から。

 

そんな子が、私に真剣な様子で聞いている。

なら、私も真剣に答える。

 

「うん、好きだよ」

 

「…そう」

 

「オーフィスちゃんも好きなんでしょ?」

 

「好き。ズェピアの為なら、世界だって壊すし塗り替える……つもりだったけど、もう懲りた」

 

「やろうとしたんだ……」

 

でも、出来ると思ってしまうくらいの存在感は感じる。

本当にやろうとしたんだろう。

 

「家族に迷惑かけたから。…もっと普通に攻めようと思ったけど、ライバル登場に驚いてる」

 

「そっか」

 

「でも、悔しいけど、ネプギアの方が今は有利。

状況的に、我は干渉できない。…でも負けない」

 

「私も負けないよ。ズェピアさんが帰ることになっても……その前に」

 

「ん、じゃあ頑張るといい」

 

「止めないんだ」

 

「ライバルだけど潰すような真似はしない。

それに、もしかしたら『そういう願望』が無いとも限らない……」

 

ズェピアさんを見るオーフィスちゃんは優しげな笑みを浮かべている。

 

「ズェピアは…この人は、優しい人。

本来のこの姿のこの人は、弱くて、脆い。

それでも家族の事だけは手放すことはしないし、助けるためにどんな傷を背負っても頑張る…。

変なところで頑固で…願いを押し通すために、家族の願いを否定するときだってある」

 

「…」

 

私はそれを静かに聞く。

オーフィスちゃんはズェピアさんの髪を愛しそうに撫でながら、話を続ける。

 

「ズェピアにとってのハッピーエンドは誰か一人でも欠けちゃ叶わない願い。ずっと走って、ずっと迷って……そうしてようやく得た願い。

ぶつかり合った我だから分かる…この人は馬鹿な人」

 

「そうなんだ」

 

オーフィスちゃんはうん、と頷く。

 

「そんな人だからこそ、カオスやフリージア、我…皆がこの人を見捨てない。帰りを待ってる。

我がしてあげられるのは、この人に我の力を少し与えて中身を強くしてあげる事だけ…心は強くなれない」

 

だから、とオーフィスちゃんはズェピアさんから視線を外して私を見る。

その優しげな目を、私にも向ける。

 

「ネプギアが、この世界でこの人を支えてあげて。

我達は力をあげたら居なくなるけどネプギアは違う」

 

「…うん、任せて。ズェピアさんがここでの用事を終わらせて、オーフィスちゃん達の元へ帰るまで支えるよ」

 

「ん、お願い」

 

「私からもお願いしても良いかな?」

 

「何?」

 

「─帰ったら、おかえりって言ってあげてね」

 

「─ん、分かった」

 

そっちの世界には居ることは出来ない。

オーフィスちゃんがこの世界に来れないように。

きっと、私も行けないだろう。

 

一目見てみたいという気持ちはある。

ズェピアさんの住む世界を。

でも、それは出来ない。

 

欲を言えば、この世界にずっと居てほしいとは思うけど……

ズェピアさんは帰るだろう。

 

「カオス、起きる」

 

「……殴られた吾輩に謝罪なしとは傲慢の獣であるな汝?吾輩、泣いちゃうよ?」

 

「大丈夫、カオスは強い子混沌の子」

 

「いや子供宥める風に言っても誤魔化されにゃいよ」

 

「それより…ズェピアを直す」

 

「……もういいのであるな?」

 

「ん、早くする」

 

「ふむ……では、お主が消えると同時に吾輩も消えるとしよう」

 

「オーフィスちゃん……」

 

「ネプギア」

 

オーフィスちゃんの力を与える。

それはつまり、力だけの存在である今のオーフィスちゃんが消えるということ。

 

私は折角友達でいて恋のライバルを得れたのに、その子が消えてしまうことに悲しみが隠せない。

 

そんな私にオーフィスちゃんは私の名前を呼ぶ。

 

「我が消えても、本体の我が記憶してる。

大丈夫、お願い、聞いたから」

 

「…うん!」

 

「こういう時ズェピアから教えて貰ったことがある─」

 

オーフィスちゃんの体が光り出す。

今から、ズェピアさんの中へと入るんだろう。

力を譲渡するために。

 

最後に、オーフィスちゃんは笑って─

 

 

「─またね(・・・)

 

 

と言って、ズェピアさんの中へと消えていった。

 

「……うん、またね」

 

私も笑って、オーフィスちゃんに別れを告げた。

でも、また会える。

 

さようならじゃなくて、またね、だから。

 

終始見守っていたカオスさんは煙草を取り出してベッドから降りる。

 

「では、お主も行くとしようか」

 

「え、何処にですか?」

 

「何処にとは面白い話であるな。話を聞いたところ、ゲイムキャラとかいうのを直さねばならんのであろう?

ほら、こういうイベントが終わった後は大抵、次の進展があるものなのです」

 

「でも、ズェピアさんが…」

 

「何、ソウルフレンドはその内起きる。

それまでは、吾輩がソウルフレンドの代わりを務めるとしようではありませんか。

よくある、限定ゲスト参戦のお知らせって奴よ」

 

「何だか、お姉ちゃんみたいな事言うんですね」

 

「ほう、汝の姉も吾輩のようなメタを張り付けた存在ということか。であれば意気投合どころかキャラ奪い合いの戦争になるので現状いなくてセーフという訳ですな」

 

変なことを話すカオスさんにちょっとついていけない。

というか、お姉ちゃんはここまで変な姿してない。

 

うん、でもズェピアさんの家族が言うのならその内起きるよね。

何もせずにいると、それこそ叱られそう。

頑張らないと。

そう思って立ち上がるとNギアから音が鳴り響く。

 

取り出すと、アイエフさんからの連絡だった。

 

「はい、ネプギアです!」

 

『ネプギア、ゲイムキャラを直せるかもって子を見付けたわ!』

 

「本当ですか!?今から皆と行きますね!」

 

『ええ、広場で待ってるわね』

 

「はい、後でまた!」

 

アイエフさんとの通信を終えて、Nギアをしまう。

 

その後カオスさんを見ると

 

「では、行くとしようか」

 

「はい!」

 

私とカオスさんはズェピアさんの寝ている部屋を後にする。

…ちゃんと起きてくださいね、ズェピアさん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とか意識を保ってはいるが、困ったな。

ワラキアに呼び掛けても返事もない。

これは詰み、という奴では……?

 

(ツケが来た、か)

 

旧魔王派を全員殺したり、はぐれとはいえ元は幸福を口授すべき悪魔を殺した俺への罰なのかも知れない。

…それでも、あの蜥蜴だけは殺さないと。

 

容量限界の体に鞭打ってでもあの蜥蜴を始末しなくては俺は自分を許せない。

 

(だってのに──)

 

(意識)はうんともすんとも言わない。

動いてほしいのに、起きたいと思っているのに海に沈む

 

このまま、俺はこの海の底まで沈んでいくのか?

 

そんなのは、お断りだが…体が言うことを聞かない。

 

死ぬのが怖い訳じゃない。

怖いのは別だ。

 

家族を残して死ぬこと、仲間に重荷を背負わせてしまうこと。

それだけが怖い。

ネプギア達にグレートレッドやロアを押し付ける?

否、否である。

 

それだけは、いけない。

 

(動け、動けってんだよ、このポンコツが!)

 

だからもがく。

必死に浮上しようと動く。

 

 

─そうして、1つの変化が起こる。

 

 

(……────光?)

 

 

海に光が差し込む。

暗いだけの哀しい海に、光が。

 

その光から、誰かが泳いでくる。

 

(──)

 

ああ、そんな。

どうして?

 

この世界でも、俺を助けてくれるというのか?

 

俺は、手を伸ばす。

その子もまた、俺に手を伸ばしてくれた。

 

沈んでいくだけの俺の手を掴む手が、懐かしくて。

 

 

─ズェピア

 

 

(─ああ)

 

 

また、家族に助けられるとは。

そして、帰ってもいないのにまた会えるなんて。

 

穏やかに笑って、俺を引き上げてくれるこの子に俺もまた穏やかに笑う。

 

(久し振り──オーフィス)

 

俺がそう言うと、オーフィスはただ静かに頷いて引き上げるスピードを上げた。




ワラキー家初期メンバーの二人が再会する。

家族は彼を見捨てない。
何故なら、彼が見捨てなかったから。
無限の龍神の力が少ない時間で彼に残す言葉とは。

そして、女神候補生達と共に短い時間だが行動するカオスの力や如何に。

次回、超次元ゲイムネプテューヌmk2 with ワラキー
『遥か彼方からの贈り物 後編』


感想、質問などがあればくださると作者はBLOOD HEATします


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遥か彼方からの贈り物 後編

どうも、ロザミアです。
今回も文字数多めになってます。

では、どうぞ


浮上した先に待っていたのは館の中だった。

 

これは俺の精神の世界。

映し出すのが簡単なのがこの館だっただけの事。

ああだが……

 

「久し振りの我が家といった感じだなぁ…」

 

オーフィスとこの館で出会い、俺のこの世界での活動が本格的に始まった。

そう、あの出会いは運命であった。

誰もがそのような運命と出会う。俺もまた、そうだった

 

オーフィスが俺よりも先に歩いてソファーに座る。

 

「座って」

 

「分かったよ」

 

俺はオーフィスに言われるまま隣に座る。

嬉しそうにしているのが分かる。

無表情だけど、それを読み取れるだけの年月を共に生きているからな。

 

「すぐ戻ってこれなくてごめんな」

 

「不測事態なら仕方ない。帰ってきてくれる?」

 

「ああ、必ず。…でもさ」

 

「ここで得た仲間。…大切なもの、増えた?」

 

「…ああ」

 

「そっか」

 

くすりと笑いながらこちらを見るオーフィスに俺も笑う

 

家族以外に得れた同じ位守り通したいと思った物。

今のゲイムギョウ界で得た絆、縁…。

それはとても尊い物だ。

俺はそれを守りたい。

 

「オーフィス。どうやってここに?」

 

「カオスもいる。ネコだけど」

 

「……え、ネコカオス?」

 

頷くオーフィス。

ネタキャラ化してまで来たのか教授…

 

「それに、我も本当の我じゃない」

 

「どういう事だってばよ」

 

「この世界に来れたのは我とカオスの一部の力」

 

「…つまり、あの二人は来れなかったから力だけを送ったのか」

 

教授は付き添いなのかな。

……それでも、ありがたい。

 

「フリージアが分割思考でようやく割り出したけど、もう穴は小さかった。だから力だけを送ったの。

…貴方の器じゃタタリの全ては入りきらなかった。

だから、我はそれが出来るようにこの力を与えに来た」

 

「無限の力の一部って…逆に俺の体が爆発するんじゃ」

 

「大丈夫。無理矢理だけど(容量)を上げるだけ」

 

「知ってはいたけど何でもありだな…いいのか?」

 

「うん、貴方の為なら」

 

「っ……!」

 

俺は笑顔で構わないというオーフィスを抱き締める。

力だけの存在がその力を与える…それはその存在の死を意味する。

それを理解していて、それでもいいなんて。

 

家族が大事だというのに。

力だけの存在だからって家族の姿をしてるんだ。

俺は、辛い。

 

オーフィスも抱き返してくれた。

自然と、涙が出てくる。

 

「ズェピア、愛してる」

 

「知ってるよ…!」

 

「…でも、応えてくれない?」

 

「俺は、父親、だから」

 

「でも、我は、好きだよ?」

 

「…ごめんな…!」

 

「…うん」

 

未だ、恋心を俺に向けてくる娘に謝罪する。

オーフィスは背中を擦ってくれる。

 

「大丈夫…大丈夫…」

 

「でも、お前が…お前を犠牲にするなんて……!」

 

「犠牲じゃないよ」

 

「犠牲だろ…だって、消えるんだぞ……!」

 

「犠牲じゃない。我は無事だよ」

 

この子は何を言っているんだろう。

俺は久し振りにオーフィスの言葉を理解できていなかった。

 

「今度は、我が助ける番。我が、貴方の中で支える。

我の声はしないかもしれないけど、傍に居るから」

 

「っ、ああ…!」

 

「ん、分かったら、泣き止む」

 

「…これでいいか?」

 

「十点」

 

「何点中?」

 

「我風に無限点中十点」

 

「手厳しいもんだ」

 

何とか涙を拭って、抱擁をやめる。

手厳しい採点とは裏腹に嬉しそうな顔。

 

「じゃあ、我から二つ言いたいこと。それを言えば……また、あっちで待ってる」

 

「ああ、なんだ?」

 

「カオスに伝えてほしい。

カオスまで消えなくていいって」

 

「…分かったよ」

 

教授なりの優しさだったんだろうが、余計なお世話だったらしい。

後で慰めておこう。

 

「最後に、しっかり女の子の気持ちを考えること。

変なところで鈍感なズェピアには大事な事。

復唱して」

 

「えっと…?」

 

「復唱して!」

 

「はい!しっかり女の子の気持ちを考えること!」

 

「ん、よろしい」

 

駄目だ、今のオーフィスには別の意味で勝てない。

何か、従わなきゃいけない感じがする!

くそぅ、俺はパパだぞぅ……!

 

でも、これが言いたいことだったのなら…この奇跡もしばらくはお別れか。

 

その予見通り、オーフィスの体が光り出す。

 

「オーフィス…」

 

「また泣きそうにならない。

待ってる人が向こうだけじゃなくて、ここにもいる。

…さっさと行くこと!」

 

「うおぉ!?」

 

オーフィスは泣きそうになる俺に活を入れるように体の向きを無理矢理変えて強く掌で背中を押す。

そのまま、俺は扉まで吹っ飛ばされる。

 

「そこを開ければ、こことはしばらくお別れ」

 

「この扉を…っ、なあ───」

 

その言葉を聞いて、俺は他に方法は無いのかと聞こうとして、振り向こうとするが

 

 

 

「───行ってらっしゃい」

 

 

 

ズルいじゃないか。

それを言われたら、何も言えない。

だってそれは、いつもオーフィスが行ってくれるときの声色だったから。

 

だから、俺は振り向けない。

ただいまは、今じゃない。

 

俺は扉を開けて、一言。

 

「──ああ…行ってきます……!」

 

そうして俺は、この部屋から出ていった。

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

カオスさんを連れてルウィーの広場まで行った私達はアイエフさんともう一人子供?を見つけたので声をかけました。

 

「アイエフさん!」

 

「来たわね…って何その…何?」

 

「ネコですの」

 

「いや、あれをネコは無理があるでしょ。どうみたってワレチューの同類か何かでしょうが!」

 

「そこのツッコミすることでこの作品での存在感を確かとする中二少女よ。それは、あれかね?

実は吾輩がタイプムーンからの刺客、ネコカオスちゃんと知っての言葉かね?吾輩傷付くなぁー!

吾輩知ってるのよ?そこのコンパ氏がコンパイr」

 

「アウトォォォ!!それ以上言わせないわよ!?

それ以上壁を壊すと殺されるわよ!」

 

「おっと…ついこの作品をぶっ壊してやろうと思って重大なる事実を暴露してしまうところであったか」

 

「えっと……ネコさん、どういうことです?」

 

「気にしたら負けという事ですよレディ」

 

「うーん?ネコさんがそう言うなら、気にしないですけど……」

 

「あはは…」

 

苦笑するしかない。

というより、本当にそこの女の子は誰なんだろう。

 

「あの、貴方は?」

 

「がすとは、がすとですの」

 

「ほう、吾輩はサイゼ派であるのだが。

まあしかし、自己紹介をされたのだから吾輩もすべきなのは自明の理科系男子…我こそはネコk」

 

「私はネプギアで、こちらはネコカオスさん、コンパさん、日本一さんです!」

 

「よろしく!」「よろしくなのです」「…」

 

話がややこしくなる前に先に私が紹介した。

話を聞くと、がすとさんは錬金術師であるらしく、直せるかもしれないと言ったらしい。

 

コンパさんも錬金術師がどんな方かは知ってるらしい。

そして、がすとさんはこう見えて凄腕との事。

 

「現物を見せてほしいですの」

 

「はい、これです!」

 

「詐欺師だったりしないでしょうね?」

 

「む、確かにがすとはお金は大好きですの。

でも、時と場所は考えますの。

……ふむふむ、これは…多分、直せると思いますの」

 

「本当ですか!?」

 

「ただ、素材が必要ですの」

 

「どんな素材?」

 

「これだと、『レアメタル』と『データニウム』が必要ですの」

 

「それじゃあ早速行きましょう!」

 

私がそう言うと、皆が賛同してくれた。

アイエフさんもまだがすとさんを信用してないけど仕方無しといった風に苦笑する。

 

「じっとしてるよりはマシか…ネプギア、ズェピアは?」

 

「その内起きます。ですよね、カオスさん?」

 

「にゃにゃにゃ…うちの最強担当を信じるであるよ」

 

「…行きながらでいいから話聞かせなさいよ?」

 

「はい!」

 

じゃあ早速、その二つの素材を手に入れに……!

 

「待つですの」

 

「何です?」

 

「素材の場所、分かるですの?」

 

「「「「あっ」」」」

 

「やれやれですの」

 

「いやはや、お先真っ暗になるところであったな」

 

危うく、ラステイションでの悲劇が再来するところでした……。

でも、教えてもらえるし、大丈夫…だよね!

 

「…そのネコも来るの?」

 

「当たり前だのクラッカーだな」

 

カオスさん、戦えたんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルウィー国際展示場に来た私達は目当てのモンスターを探す。

がすとさん曰く、ここと世界中の迷宮が怪しいらしい。

がすとさんに何かあったら困るので、ルウィーで待って貰うことになったから、私達が頑張らないと。

 

後、アイエフさんにはしっかりと話した。

すると、健気な子ねとだけ言って、それっきり何も言うことは無かった。

 

「ネコさん、寒くないですか?」

 

「なぁに、吾輩は特殊訓練を受けたスパルタネコであるから寒さには完全なる耐性があるのだよメロン少女」

 

「羨ましいです~」

 

「でも、その体にはなりたくないわ」

 

「ヒーローにすら遠ざかれる吾輩はやはり引きこもってるべきなのでは?」

 

「関係無いから」

 

皆仲良しで何よりです。

ズェピアさんも、ここにいたらカオスさんと一緒にボケてアイエフさんからツッコミを受けてたのかな。

 

「あれじゃない?」

 

「硬いな見た目だけど…」

 

「こういう相手は吾輩得意なんだよね。ほら、ドラ○エとかでもさ、かぶとわりは基本じゃん?

そういうのをやりまくった吾輩には楽勝なのは当然よ」

 

「あ、危ないですよ!」

 

カオスさんは硬い殻に身を包んだモンスター、『メタルシェル』に歩いていく。

でも、自信満々だし、もしかしたら……?

 

「ようパル○ェン、元気?吾輩?吾輩は最近録画してたアニメ全部消されたからげんなり気味よ。ユーは?」

 

『……』

 

「ああ、コミケで目当ての同人誌買えなくて引きこもってる?吾輩分かるよ、それ凄い分かる。

でも、吾輩はこの前それ買えた身だからさぁ」

 

『…!』

 

「怒るなってブラザー。吾輩と汝の仲じゃないの。

今度特別に貸してやっから汝の持ってるレアメタルをくれたりしない?」

 

『…、……』

 

「それは俺の家宝?ならば仕方無い!我等はやはり戦いの宿命に囚われしライバル!

吾輩とお主、勝てば望むものが手に入る!

昔ながらの海賊流儀で行くとしようぜ!

んじゃ、やっとく?」

 

『ニックキュー!』

 

「ファイっ!うおぉ!吾輩の15分間で培ったかぶとわりを喰らえぃ!」

 

『……』

 

何故か会話が成立して、『メタルシェル』が何故か喋って唐突に戦闘が始まってカオスさんがその拳でかぶとわりという技を放つ。

 

…全く効いてないみたいです。

 

「汝ベリー硬すぎにゃい?防御ダウンエフェクトもねぇし、自分サレンダーいいっすか?」

 

『…』(ふるふる)

 

「ああ、ここOCGだから認めない?そう……。

ああ、ちょっとタンマ!吾輩日を改めてもう一回挑戦───ギニャァァァァァァァ!そんなネコに本気出されてもにゃぁぁぁ……!!」

 

カオスさんは土下座して許しを請うように降参を宣言しるけどモンスターがそれを許すわけもなく、全力の体当たりをぶつける。

カオスさんはそれにやられてしまい、こちらまで吹っ飛んで来た。

 

「…えーと……」

 

「この馬鹿ネコ!空気を壊してやられてんじゃないわよ!」

 

「正直、いけると真面目に思ってた時代があった……」

 

「ネコさん、やられちゃいましたです…」

 

『…!』(グッ)

 

何となく嬉しそうな『メタルシェル』にこれから集団で倒すのは気が引けてしまう。

けど、やるしかないし、この空気のままなのも嫌なので皆で武器を構えて戦闘を始めた。

 

「ネコさんの仇は取るですよ!」

 

『…!?』

 

「何となく謝らなきゃいけない気がするけど、やられてください!」

 

…少し罪悪感を覚えるのは、気のせいじゃないと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に世界中の迷宮に来た私達。

レアメタルはゲットしました。

その代わり、何か哀しいものを背負った気がします…。

 

「ネコ、アンタはもう戦うんじゃないわよ?」

 

「あれば吾輩のせいじゃにゃいよ。もっとおぞましいシナリオのせいだってば」

 

「ハァ…」

 

「カオスさん…あまりふざけすぎるのは良くないですよ」

 

「む?それ取ったら吾輩に何が残るのか…

真面目にやればよいのだな?」

 

「ところで、ヒーロー的勘を言いたいんだけど、あれだったりしない?」

 

真面目、真面目と何度も呟いているカオスさんは置いといて…

日本一さんの指差す方を見ると、そこには巨大な人の顔のモンスター…『川島教授』……だったっけ?

 

「キモいわね」

 

「でも、頭をよくしてくれそうな顔してるですよ」

 

「それより、早く倒すわよ!キラーマシンが増える前に早くね!」

 

「それもそうですね…カオスさん?」

 

カオスさんがいつの間にか『川島教授』の前に立っていた。

アイエフさんは額を抑えて溜め息。

 

「ちょっと、アンタまた…」

 

「ゆ、許せん……!」

 

「アイエフさん、何だかカオスさんが怒ってます!」

 

「ハァ?何でよ?」

 

プルプルと震えて怒りを抑えきれないといった様子だった。一体どうしたんだろう?

 

「吾輩と同じようなカオス度しやがって許せんぞぉ!

この教授!吾輩が直々に葬り去ってくれるわぁぁぁ!」

 

「待ちなさい!また吹っ飛ばされて終わり──」

 

アイエフさんの言葉を遮るようにカオスさんの目がキランと光る。

え、一体何が──

 

 

「ネコ、ビィィィィィィムッ!!」

 

 

「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

「ハァァァ!?」

 

「ビーム!カッコいいわ!ヒーローっぽい!」

 

私とコンパさん、アイエフさんはカオスさんが目から黒いビームを放ち、『川島教授』を撃破したのを見て驚愕した。

日本一さんはビームに目をキラキラと輝かせて興奮している。

 

『川島教授』が倒れた場所には『データニウム』と思わしき物が落ちていた。

 

「にゃにゃにゃにゃ…これで吾輩こそカオス界のゴッドとして君臨できるというわけよ!」

 

「いやいやいやいや!待ちなさい!何でネコがビーム出してんのよ!」

 

「それ言ったら魔界の技とか撃てるチミもおかしいんじゃね?まあ、これ気にしてたらメルブラで生きていけないよアイエフ君」

 

「メルブラって何よ!?しかも私のはしっかりと習得した技だから!」

 

「ただのメイドとか割烹着のドクターとか小学生が死徒とやりあえる世界に決まってんじゃーん。

吾輩の出身ゲーね、これ。

てか、それは元々ヒ○の技じゃん?他にもリ○ル・ス○ーの技じゃん?」

 

「それ以上世界の法則に突っ込むなダメネコォォ!!」

 

「ぐほぉぁ!?ネコに対して容赦ないツッコミ……

ソウルフレンドが悶えるのも納得の強さというもの…

く、お主には景品としてこの拉麺屋『泰山』の無料券をくれてやるわ!」

 

「いやいらないわよ!」

 

二人を見ていると何となく、ズェピアさんとのやり取りに似ているなと思って、家族は似るものなのかなと思うと自然と笑えた。

 

私は『データニウム』を回収してから二人に話し掛ける。

 

「回収できましたし早く戻りましょう!」

 

「…そうね、時間も有限だものね」

 

「キラーマシンに気付かれる前にルウィーに戻るですよ!」

 

カオスさんも何だかんだで強い事が分かったし、早く戻って、がすとさんに直してもらわないと!

 

私達は目覚めてるかもしれない他のキラーマシンに見つかる前に急いでルウィーへと戻るのだった。

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

「行っちゃった」

 

でも、そうしたのは我。

だから、悔いとかはない。

 

我は本物の我じゃないから、構わない。

 

……でも。

 

「あの時抱き合った温もりは、我のもの」

 

これだけは本物の我には秘密にしておく。

後は、好きにするといい。

 

…折角ベッドとかあったんだし、もう少し何かしてもよかったかも?

 

「…それは、駄目だから」

 

ストレートに行きすぎて良くない。

 

……うん、もういい。

あんまり長く居ると寂しくなるだけだから。

それに、約束したから、こっちでもズェピアは平気。

 

取られないかだけ心配だけど、そこは本物の我に任せるとしよう。

 

あっさりと、けれど濃い時間を過ごせた。

それだけで十分。

後はもう、現実の時間だから。

 

 

 

─夢から覚めるときだよ、ズェピア

 

 

 

頑張ってね。

それで、帰ってきておかえりと言わせて──





ご指摘や感想、質問があればくれると作者は喜びます


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監督気取り、おはようございます

どうも、カーマが当たって嬉しいロザミアです。

タイトル見たら思うこと

─ああ、こいつはタイトルのセンスが皆無なんだな

ではどうぞ


ルウィーに着いて、がすとさんに頼まれていた素材を渡す。

がすとさんは渡された素材を確かめてから頷いてこちらを見る。

 

「ご苦労様ですの。これでゲイムキャラを直せますの」

 

「よかった~…」

 

「それはすぐ出来るの?」

 

「素材さえあれば後は簡単ですの。がすとを信じるですの」

 

「お願いしますです」

 

「さあ、真理の扉を開くのだ、がすとよ。

吾輩が神を手にするためにも、にゃぶん!?」

 

「ふざけてないの」

 

頭にチョップを落とされたカオスさんは頭をさすった後に煙草を吸いだす。

……猫って煙草吸えるんだ。

 

あ、コンパさんが煙草を取った。

 

「ネコさん、体に悪いから駄目ですよ!」

 

「ちょ、返せ!吾輩の素敵アイテムを返せメロン少女よ!」

 

「駄目です!私が目を光らせている間は煙草なんて吸わせないですよ!」

 

「ぐぬぬ…この世界のドクター枠はお主だったりするのか!」

 

うん、コンパさんにカオスさんは任せてがすとさん達の会話に加わろう。

 

……そういえば、ズェピアさんが吸血鬼の姿は錬金術師でもあったとか言ってたような。

 

「それじゃあ、やるとしますの」

 

「此処で、ですか?」

 

「さっさとやる方がそっちにとっても好都合だと思うですの。寒くもないし、ここでやるですの」

 

「そりゃ、そうだけど…」

 

「待てぃ、あったカフェレストラン!」

 

「そっちのガストじゃないですの」

 

「ええいそんなことはどうでもよろしい!

吾輩の紳士なハートがそれはやめておけと囁いているのよこれが!

汝はヌクヌクと教会でやるべきなのである!」

 

ま、マトモな事を言ってる!?

さっきまでコンパさんと言い合っていた筈のカオスさんがいつの間にか来たのも気になるけど、それよりもマトモなのに驚きです。

 

「いいですの?」

 

「ま、ネコもこう言ってる事だし教会でやりましょう」

 

「そうですね、急ぎすぎるのも良くないですし…」

 

「うむ、さて、早く教会に行くとしようか」

 

「ネコさん、早く残りの煙草も渡さないと痛いですよ」

 

「Oh…では、吾輩は先に行っているのでゆるりと来るがよろしい!」

 

「あ、待ってくださいです~!」

 

カオスさんとコンパさんは走って教会まで行ってしまった。正確には、カオスさんがコンパさんから逃げて、だけど。

 

「行っちゃいましたね…」

 

「忙しないですの」

 

「まあ、ツッコミしなくて済むのはありがたいわ…」

 

「アイエフ、帰る道中も凄かったもんね」

 

「役が定着してるですの」

 

「うっさい、ほら行くわよ」

 

「はい」

 

アイエフさんはうんざりとした様子(でも、満更じゃないのは私も日本一さんも分かってる)でルウィー教会へと歩いていくので私達も一緒に。

 

…ズェピアさん、起きてるかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教会に着いた私達はミナさんを探していると、カオスさんとコンパさんがラムちゃんとロムちゃんと一緒にいました。

…カオスさんは、ラムちゃんに弄られてますけど。

 

「うにゃぁぁ!?やめ、やめるのだやんちゃ系幼女!

ネコカオス愛護団体に訴えるぞ!」

 

「うっさい変なネコ!教会で暴れまわってコンパを困らせて許さないんだから!」

 

「ラムちゃん、ネコさん可哀想…(オロオロ)」

 

「ナイスですよラムちゃん!さあ、その煙草を処分しますです!」

 

「にゃ、にゃんだとぉ!?意図せずして2対1の構図ができるとかシナリオはどうなっている!?」

 

ラムちゃんに拘束されて、コンパさんがカオスさんの煙草を没収しようとにじり寄って、それをロムちゃんがオロオロと見ている。

……どうしよう、これ。

 

「放っておくわよ」

 

「ええ!?」

 

「別に実害出る訳じゃないし、いいのよ。

それより、ゲイムキャラの事はこっちで説明するからアンタはズェピアの所に行って様子見てきてちょうだい」

 

「おお、名案!」

 

「あのネコ、少し気になるですの。やっぱり解剖して……」

 

「物騒なこと言わないでよ!?」

 

「錬金術師としては気になって仕方がないっていうジョークですの」

 

「えっと、じゃあ、見てきますね」

 

「ええ、お願いねネプギア」

 

私は、アイエフさん達にゲイムキャラさんの事を任せてズェピアさんの寝ている部屋まで少し急いだ。

 

オーフィスちゃんの事、疑ってる訳じゃないんだけど心配なものは心配で。

 

すぐに部屋の前に着いた私は、扉をノックする。

 

「ズェピアさん、ネプギアです。起きてますか?」

 

……。

 

返事がしない。

まだ起きてないのかな……。

 

取り合えず、中に入って様子を見ないと。

 

「失礼します」

 

扉を開けて、中へ入る。

ズェピアさんの寝ているベッドまで行くと、まだ寝ているズェピアさんが居た。

 

「ズェピアさん…」

 

もう少しで起きないだろうか。

あれから少し時間は経ったし、オーフィスちゃんも頑張ってると思うし。

 

ベッドの横にある椅子に座って、少し様子を見る。

 

早く起きて、また声が聞きたい。

 

私はズェピアさんの手を握る。

温かいけど、動いてはくれない。

 

何時になったら、目を覚ましてくれるんですか。

皆、心配してますよ。

 

目を閉じて、両手で握ったズェピアさんの手を額に当てる。

早く、起きてと願いながら。

 

…馬鹿だな。

こんなことしても、意味はないのに。

 

そう思って、目を開ける。

 

そして、絶句する。

 

「ぁ──」

 

「…」

 

私は、目が合った。

 

目を開けたときには、上を向いたままだったのに。

既にその顔は、目を開けてこちらをじっと見ていた。

 

起きたと思って、喜ぶ。

 

喜ぶ、筈だったのに。

 

「…」

 

その目は、黒く、濁っていて。

 

目が合った時、ズェピアさんは握り返してきて。

 

その口が、三日月のように笑って───

 

「ぁ、ズェピア、さん…?」

 

「…」

 

そんな、オーフィスちゃんは失敗したの?

 

今のズェピアさんは、凄く、怖い。

今までのような優しさも消え失せた只々怖い顔をして。

 

「ネプギア」

 

「ぇ、ぅぁ……?」

 

ようやく発した声は誰かの声が何重にも重なって聞こえて、色々な感情の声が聞こえて。

 

自然と、私は声も体も震えていた。

 

あの時のズェピアさんは、何処に───

 

「なんちゃって」

 

「え──」

 

え?

 

「いや、おはようございますネプギアさん!

大復活ズェピアさんでございますよ!

やっぱ俺がボケないとね!」

 

「ぇ、な……!」

 

「起きて早々渾身のギャグ!

ホラー編って感じでタタリを使ってまでやってね!」

 

こ、この人は……!

 

私は握られていない方の手を離し、握り締める。

 

今のズェピアさんは目がいつものように黒いだけで光があるし、顔も怖くないし、声も何時も通り。

 

「あ、あれ?」

 

ズェピアさんはようやく気付いたのか困惑したような声を出す。

困惑したいのはこっちです。

 

「あの~…ネプギアさん?」

 

「……んの」

 

「へ?」

 

「ズェピアさんの……!」

 

「え、KO☆BU☆SHI?ま、待て!」

 

「ズェピアさんの馬鹿ァァァァァァァ!!!」

 

私は拳を力一杯握り締めて、それをズェピアさんの顔めがけて放つ。

 

その拳はズェピアさんの顔にしっかりと当たり、ズェピアさんをベッドから床へと吹き飛ばして叩き付けた。

 

「うごっはぁぁぁ!!?」

 

「ハァ…ハァ…!ズェピアさん!!」

 

「お、おう…じゃなくて、はい…!」

 

殴られたことで悶えているズェピアさんに私は近付く。

やり過ぎたと思ったのかズェピアさんは申し訳なさそうにしている。

 

「ズェピアさんは、本当にっ……!」

 

「わ、悪かっ──うおっ」

 

「ずっと、ずっと心配してたんですからね…!」

 

慌てて謝ろうとするズェピアさんに聞く耳持たずに私は抱き付いた。

 

ああ、温かい。

ちゃんと、起きてくれている。

 

こんなにも嬉しいことはない。

思わず、泣きそうな声になってしまうのも、仕方がないんです。

 

ズェピアさんも抱き返して、頭を撫でる。

 

「ごめんな」

 

「本当ですよ…!また無理をして、それで倒れて……目か覚めなかった時、どれだけ不安だったか!」

 

「ごめん」

 

「起きたと思えば、怖がらせるし…」

 

「いやホントその、ごめんなさい」

 

「ふふっ」

 

「ん?」

 

私はまた慌てて謝るズェピアさんがおかしくて、笑ってしまう。

 

「もう大丈夫ですか?」

 

「ああ、もうあんなことで倒れないよ」

 

「オーフィスちゃんと、しっかり話しましたか?」

 

「ああ。やっぱり会ってたんだな」

 

「はい」

 

「そっか。あの子もこの世界を少しでも見たんだな」

 

子の成長を嬉しがる親のように、ズェピアさんは優しく笑う。

やっぱり、家族に会えて嬉しかったんだ。

 

「心配かけたな、それに寝過ぎたようだし」

 

「お寝坊さんですよ、ズェピアさん」

 

「ぐぬぬ…この失態は取り返すから、許してちょーよ」

 

「変な謝罪ですけど…許します、相棒ですから!」

 

「いいのかそれで?」

 

「いいんですよ、それで」

 

「そうか、なら、それでいいよ」

 

そこまで怒ってる訳じゃないからいいんです。

今は、ただこの人の鼓動を聞いていたい。

 

……あれ?

 

これって付き合ってる感じがしますよね?

恋人ってこんな感じだったりしますよね?

 

(これはもう、相棒というより恋人の関係に近いんじゃ)

 

そこまで考えて、やめた。

 

告白もしてないのに舞い上がるのはよくない。

というより、オーフィスちゃんに失礼だからやめた。

 

勢いに任せて何してるんだろう私。

 

「ネプギア、その」

 

「はい?」

 

「ずっとこの状態っていうのはよろしくないので離れてもらえると助かる…」

 

「あ、すいません。すぐに退きますね」

 

「ああいや、謝るのは俺の方だから…」

 

「もうその件は許しましたから、これ以上はやめましょう?」

 

「うっ、はい…」

 

弱気な感じのズェピアさんをもう少し見たいと思ってしまったけど、これ以上はまた誰かに見られて勘違いされそうだから退くことにしました。

 

立ち上がったズェピアさんは何から話そうかと考えている様子だったので、私から話題を振ろうと思って話し掛けます。

 

「もう大丈夫って言ってましたけどタタリはどうなったんですか?」

 

「ん、ああ…オーフィスのお陰でこの体でも少しならタタリを使えるようにはなったみたいだ。

それ以上をやるならまた変身しないといけないが、以前ほどのデメリットは発生しないはずだ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「それは良かったですね!」

 

「そう、だな」

 

「取り合えず、アイエフさん達の居る所まで戻りながらこれまで何があったか説明するのでついてきてください」

 

「ああ、分かった」

 

私はズェピアさんが寝てる間に何があったのか細かく説明しながらアイエフさん達の居るであろう所まで向かう。

 

ミナさんの仕事部屋に居るだろうから、そこに向かってるけど…合ってますよね?

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

マジか、とネプギアの話を聞いた俺は思った。

 

俺の寝ている間に教授を連れてゲイムキャラを直す為の素材を手に入れに行っていたなんて。

 

それに、錬金術師 がすとか。

○○のアトリエ…あ、口出し厳禁?ですよね。

 

とはいえ、錬金術師というのなら興味が出てきた。

 

「会うのが楽しみだな」

 

「そうなんですか?」

 

「錬金術師なんだろう?俺も、錬金術で色々と造ったりしてたから興味が少々ある」

 

「錬金術って面白いんですか?」

 

「まあ、飽きないという事においては事欠かさないよ」

 

「へぇ~…」

 

ネプギアは錬金術をよく知らないからか曖昧な反応だ。

 

まあ、だよね。

 

そうこう話を聞いている内に着いたようだ。

ネプギアは扉をノックする。

 

「ネプギアですけど、居ますか?」

 

『はい、入ってきてどうぞ』

 

「はい!失礼します」

 

部屋からミナさんが入室の許可をくれたので入る。

 

「失礼しま~す…」

 

「「「「ズェピア(エルエル)(お兄ちゃん)!」」」」

 

「うおぅ!?」

 

入った瞬間、日本一とコンパ、ラムとロムが嬉しそうに俺の名前を呼ぶ。

ミナさんはミナさんで静かに微笑んでいる。

かなり心配かけたようで、心苦しい。

 

じっと俺を見ているのが『がすと』、だろうか。

想像してたよりも小さい。

ネプギアからの話でも小さいとは聞いていたが。

 

「皆、心配かけて…ごめ、ん…」

 

謝罪しようとしたらアイエフが近寄ってくる。

俯かせながら来るから怖い。

 

「…ッ!」

 

俺の前まで来たアイエフは俺の右頬を平手打ちする。

かなりの音が響いた。

俺にも、頬の痛み、そして心に痛みが走る。

 

アイエフの顔はまだ見えない。

 

「…アイエフ」

 

「確かに、アンタのタタリは強いわ。

女神化と同じぐらい、それは認める。

でも、これ以上変身してその後倒れるようならもう使わせないわ!」

 

「分かってる」

 

「本当に分かってる?アンタが無茶をしたら悲しむ奴が居るってこと。…本当に分かってるの?」

 

「アイちゃん、ギアちゃんも怒ったと思うですし、あんまり…「コンパは黙ってなさい!」はうぅ…」

 

「いい?ネプギアも分かってるだろうけど、こいつの分かってるは分かってないのよ。

だからルウィーで倒れたんじゃない」

「それは擁護できないかな、私も」

 

「はい」

 

ネプギアは短く返事をする。

日本一も苦笑して、反省しなよと目で伝えてくる。

ロムとラム、勿論ミナさんも何でこうなったかは知ってるのだろう。

だから、何も言わずに見ている。

 

「それで?」

 

「ああ、しっかりと反省したよ」

 

「…そう。ならいいのよ」

 

怒ってるだけじゃない。

アイエフは纏め役だからこそ、こうして俺をひっぱたいてでも叱ったのだろう。

 

顔を上げたら、彼女は不安そうな表情をしていた。

 

彼女のこんな顔はサマエルに腹を抉られた時以来だった。本当に申し訳無い。

 

「あんまり、心配かけないでよ」

 

「ああ、ごめん」

 

「ったくもう…ごめんなさい、時間取らせ過ぎたわね」

 

「もういいですの?」

 

「痛い目見たんだから、多少は懲りてるでしょ」

 

がすと以外は事情を把握してるからか何も言わなかったが、がすとも察してたのだろう。

ルウィーのゲイムキャラを直すのに必要な素材は俺が居ないときに集めたらしいし、後はここで直すだけだろう。

 

自己紹介もそれが終わってからで良いはずだ。

 

ミナさんがアイエフに構いませんよと言う。

 

「さて、話も終わったようですし…がすとさん、修復にはどれ程掛かりますか?」

 

「そこまでの時間は掛からないですの」

 

「では、今からでもお願いします」

 

「分かったですの。作業はここで?」

 

「ええ、お願いします」

 

直すのには時間は掛からない、か。

凄腕ってのは本当らしい。

 

「それなら、俺達はどうすればいいんですか?」

 

「幸い、キラーマシンはまだ少ししか動き出していません。ルウィーを攻めるにしてもまだ時間は掛かるでしょう」

 

「それまでは待機ですか」

 

「はい。修復が完了したらブロックダンジョンまで向かってください」

 

「分かりました!」

 

「私たちも一緒に行くわ!」

 

「行く…!」

 

「ロム、ラム…」

 

流石に不味いだろうとミナさんを見る。

 

「構いませんよ」

 

「いいのか?」

 

「戦える者はルウィーには居ます。

ホワイトハート様…ブラン様のルウィーを守るのはこの子達だけではないのです」

 

「ミナちゃん…!(キラキラ)」

 

「ありがとう、ミナちゃん!」

 

「その代わり、無事に戻ってきなさい。いいですね?」

 

「うん!」

 

無事に戻ってこい、か。

俺達にも言えることだな。

 

話は良い感じに終わったし…って待て。

教授は?

 

「どうやら、話は終わったようだな諸君」

 

「ああ、教授…」

 

後ろから久し振りに聞くジョージボイスが嬉しくなり振り向く。

 

そこには、カオスはカオスでもネタ方面のカオスなネコが居た。

 

ああ、そうだった。

そういえば、そうなってましたね……。

 

「ふっ、友よ。オーフィスはどうやら、貴様を起こすのに成功したようだ」

 

「その体で真面目に話されても…まあ、そうだな。

ありがとな、教授」

 

「何、私は可能性があったから手を出しただけのこと。礼を言うならば、戻ってから言うのだな。

さて、オーフィスがそうなったのならば私もまた…」

 

「ああ、それだけどさ」

 

「む?」

 

「一緒に居ても喧しいから消えなくて良いってさ」

 

「……え~?」

 

一気に場の空気が変わる。

真面目から混沌へ。

それは、ジョージボイスが気の抜けたような声を出したからに他ならない。

 

「吾輩の存在放置な訳?」

 

「そうなるな」

 

「汝らのパーティにINするの?」

 

「ですね」

 

「煙草は?」

 

「駄目です!」

 

「録り溜めしておいたアニメは?ドラマは?」

 

「おじゃんね!」

 

「拒否権は?」

 

「ない(にっこり)」「あるわけないでしょ」

 

教授…カオスネコは皆の言葉にがくりと崩れ去る。

 

新たな仲間が出来た。

こんな姿になっても、教授は弱くない。

獣自体は普通に出せそうだし。

 

「まあ、これからよろしく頼むよ、教授」

 

「ぬぅ…吾輩はネコらしくそこら辺で温もっても」

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

アイエフはため息をついてツッコミが増えそうねと疲れた様子であった。

いやー何の事かな。

ワラキーさん誰が悪いのか分からないなぁ…(目逸らし)

 

何はともあれ、事態は良い方向に進んでるようだ。

よしよし、良いことぞ。

 




無事に目が覚めたワラキー。
しかし、常に良いことばかりではない!?

次回、超次元ゲイムネプテューヌmk2 with ワラキー
「監督気取り、ルウィー防衛戦!」

「真の戦いはこれからだッ!」
「真面目にやんなさいよっ!?」


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監督気取り、ルウィー防衛戦!

どうも、ロザミアでっす。

どう頑張ってもこの監督のせいで真面目になりきれない……どういうことだ。





やあ、皆。

俺だ、ワラキーだ。

 

教授がロムとラムに人形のように扱われてるのをアイエフがノリノリで良いぞもっとやれと言ったときは今後はもう少し抑え目でいこうと思った。

 

だって、ほら、あの時は闇が深いっていうか心の底から喜んでいたのが恐ろしかったというか。

 

とにかく、アイエフと教授はそのままにしておくことにした。

哀れ教授。

 

ネプギアとコンパは二人で仲良く話してる。

特に仲良いな、あの二人。

コンパは優しいから懐かれてるんだなぁ。

 

「まあ何にせよ、がすと次第か」

 

椅子に座って、自身の手を見ながら言う。

 

オーフィスのお陰で強くなれた…筈だ。

実感はあまりないが。

何せ、やったことはないがやり方は頭にあるだけの状態だ。

 

沸く筈もない。

 

これでまた、迷惑が掛かったらどうしたもんか。

 

「頑張るしかないか……」

 

「何を頑張るの?」

 

「へあっ!?お、おお日本一か……脅かさないでくれよ」

 

俺の独り言を拾った誰かに驚いて話し掛けてきたのが誰かを確認するとそれは日本一だった。

日本一はごめんごめんと笑って俺の隣に座る。

 

「脅かしたつもりはなかったんだけどね。

で、何を頑張るの?」

 

「何って、迷惑かけないように頑張ろうって……」

 

「んー……迷惑かぁ」

 

「何かおかしな事言ったか?」

 

「ううん、他人に迷惑をかけるのはよくないもんね」

 

「何か言いたげだな」

 

「うーん……何て言うのかな……」

 

うんうんと悩み始めた日本一に俺は待つ。

そっちの言葉が出るまでいくらでもとは言わないが待とう。

 

やがて思い付いたのか話し出す。

 

「他人には駄目だけど……私達にはいいんじゃないかな」

 

「仲間には迷惑をかけていいって訳じゃないだろうに」

 

「そりゃそうだけどさ。

少しくらい迷惑かけても、どうにか出来るって思ってもいいんじゃない?」

 

「そういうもんかな?」

 

「助け合うもんでしょ、仲間ってさ」

 

「……そうか。そうだよな」

 

手を取り合って助け合う。

それが仲間。

 

友や家族は持ったが仲間は持ったことがない。

俺に足りないのはそれなのかもしれないな。

ここは、それを埋めてくれる。

 

……移住先、ここにするか?

 

「じゃ、俺がなんかしちまったら頼むよ」

 

「私もやらかしちゃったら頼むわ。皆にも言ってあげてね」

 

「そうするよ」

 

「特に、そういうのはネプギアに言いなよ?

あの子、ズェピアの事になると凄いから」

 

「す、凄い……?まあ、日本一が言うならそうなんだろうな……」

 

な、何か怖いな。

そんなに俺が無茶すると凄いのか?

 

確かに、無茶した後のネプギアは凄味っていうか…

頷かないと後悔しそうな何かがあるッ!

 

後でしっかり言って安心させないとなぁ~。

 

「ありがとな、日本一」

 

「いいのいいの、貴方がそうしてると落ち着かないっていうか……調子出ないのよ!」

 

「落ち着かないはいつもだろ?」

 

「そう思われてたの!?」

 

「そうだよ(肯定)」

 

「ちょっとショックだわ……」

 

「でも、良いところだと思うよ俺は」

 

「そう?」

 

「おう」

 

「ならいっか!」

 

笑顔に戻った日本一に単純な奴だなぁと逆に感心する。

実際、日本一の空気を読まない発言には助かってたりはするんだが。

暗い空気を吹き飛ばしてくれたりな。

もしかしてわざとやってたり?

まさかな。

 

ホント、ヒーローみたいな奴だな。

暗い気分を察知したりしてない?

タイミング良すぎだぜ。

 

さて、やる気出すとしますかね。

 

「がすとのゲイムキャラ修復が終われば俺達の仕事だな。つっても、何すればいいんだか」

 

「私にはさっぱり!でも、ゲイムキャラが直ればキラーマシンはまた封印されるのよね。

となると、それまで護衛みたいな?」

 

「あり得そうだな。報酬はいくら貰えるのかのぉ…」

 

「寝泊まりできる場所提供されてるからそれでよくない?」

 

「それもそうか」

 

「そうそう。野宿よりマシだよ」

 

「そうな……野宿よりマシだな……」

 

「何で遠い目してるの…」

 

「いやちょっと、元の世界での野宿思い出して……」

 

あれは、嫌な経験だった。

まさかね、野宿すると決め込んだ時にね、YAMAの化け物に襲われるとはね。

 

流石の俺も焦りましたよ。

 

エーテライトが無ければ即死だった。

 

そんな事を思い出していると外への扉が開いて、そこへ誰かが慌ただしく入ってくる。

慌ただしく入ってきた男性は焦っている様子だ。

俺達はただならぬ様子だと思い男性に近寄る。

 

「きょ、教祖様は!?」

 

「落ち着け、何があった?」

 

「も、モンスターがルウィーに何体も迫ってるんだ!」

 

「何ですって!?」

 

「キラーマシンの復活はまだまだな筈じゃ……!」

 

「……モンスターの姿は?」

 

「姿?獣型が多かったな……」

 

「方角は?」

 

「ブロックダンジョンの方からだ。生息域が違う種もいた」

 

「そうか……」

 

なるほど、時間稼ぎか。

ディスクから出したモンスターはマジェコンヌの奴等の言うことを従うしな。バッチも無しに。

 

お前ら人間じゃねぇ!

 

取り合えず、皆に俺の考えを伝えた。

 

「キラーマシンが復活するまでの時間稼ぎって事はいずれそのモンスターの群れの中にキラーマシンが追加されるって事じゃない……」

 

「加えて、こっちに攻めてきたってことはバレてますよね……」

 

「ゲイムキャラを完全に破壊してやろうって魂胆ね」

 

「守らなきゃ!(ふんす)」

 

「ルウィーは私たちが守るのよ!」

 

ロムとラムが躍起になる。

頼もしいとは思うが、まだだ。

 

「数は?」

 

「20そこらだが中型と大型が多い。

それに、増えているようだった」

 

「後ろからどんどん、ね」

 

「……だとすると、ルウィーを守りきれば我々の勝ちというわけですね」

 

「ミナちゃん!」

 

ミナさんが話を聞いていたのかこちらへと歩いてくる。

確かにルウィーを守ることは同時にゲイムキャラを守ることになる。

こちらはがすとがゲイムキャラを修復すればいいのだから。

だが、マジェコンヌの奴等は違う。

 

折角目覚めさせたキラーマシンという大量殺戮兵器をまた封印されるかもしれないのだ。

ならば、ルウィーごとゲイムキャラを破壊しに来るのは合理的と言える。

 

「でも、私達やルウィーの戦える人達だけじゃ住民を避難させながら戦うなんて数が足りないですよ……」

 

「……いや、適役って奴だコンパ」

 

「え?」

 

「クククク……つまりこれが吾輩の出番という訳であるな」

 

俺の肩に重いような軽いような体重がかかる。

わざわざそこに来るのは黄色い鼠ポジションになりたいのかな。

 

教授はドヤッとした顔で己を指差していた。

指分からないけど。

 

「どういう事よバカネコ!」

 

「そうよ、勿体振らないで早くしてちょうだい」

 

「ふっ、だから汝らはそのような慎ましきモノしか天から授からなかったのだまな板共!」

 

「あ"あ"!?何ですって!?」

 

「グハッ……!」

 

「に、日本一ぃぃぃぃ!!?」

 

悪意あるくそネコの発言が、現役ヒーロー日本一を傷付けた。

俺は声をかける事しかできない……!

 

アイエフは般若のような顔だし、ラムは石のように固まっている。

ロム?ロムは首を傾げている。そのままの君でいてね。

 

「この防衛戦、主役は吾輩ということなのよこれが。

まあ、吾輩?FGOにも声優的に参戦しちゃってる型月古参声優な訳なのですよ。

寧ろ今まで主役というスポットラァイトに当たらないのはおかしいという訳なのですが……」

 

「メタい、メタいよ教授」

 

「つまりどういうことですか?」

 

「教授~しっかり説明頼むよ~」

 

「む、時間も迫ってるし仕方無い。

つまり、吾輩の能力である『666の獣』を防衛に当たらせる訳よ」

 

「ろ、666の獣?」

 

「うむ。吾輩の本体である『私』には劣りまくりな獣ではあるがそれでも魔獣は魔獣。

強さはそこいらのフェンリル位こんがり肉を量産させながらでも簡単にゃのだよ」

 

そう、だからこそ教授は適役なのだ。

こと防衛戦となると666の獣は強力な物となる。

 

何せ、殺しても湧いてくるのだ。

本体である教授を倒さない限り無限湧きする。

 

それも、あちらの世界の神器の上位に位置する神滅具の『魔獣創造』の魔獣細胞から創られる魔獣だ。

分体のネコカオスでも強さは落ちても不死性は健在だ。

 

ただ……

 

「なら、数はこっちの勝ちって訳ね」

 

「にゃのですが……」

 

「何よ、まだ何かあるの?」

 

「実はですね、吾輩、こう見えて肉体維持に獣を大半使用しておりまして……ぶっちゃけ少ししか貸し与えられません。」

 

「ハァ!?」

 

「あちゃー……」

 

「あちゃーって、エルエル分かってた感じです?」

 

「予想してたって感じだ。そうでないことを願ってたんだが……」

 

「どういう事?(はてな)」

 

「ああ……」

 

元々、無理して分体を世界を越えて渡らせた訳だから中身がボロボロな状態なのだ。

オーフィスはそれを無限の力で誤魔化し、教授は獣の因子で誤魔化していた。

 

それを今もやっていて、戦闘に出せる魔獣は少ない。

 

それでも魔獣を貸し与えられるのは頑丈なのかどうなのやら。

 

そう説明すると皆納得したようだ。

 

「とにかく、数は揃った。

後は、俺達がどれだけ被害を出さずに抑えられるかだ。つまり……」

 

俺は『ルウィー防衛戦』と書かれた旗を取り出す。

 

「真の戦いはこれからだッ!」

 

「その旗どっから持ってきた!?」

 

「おっとタタリが滑った……」

 

まあ、気を取り直して……

 

「さあ、行こう!」

 

「もしもの為にここにも獣を数体配置するが、連絡するのだぞ教祖」

 

「はい、皆様お気を付けて!」

 

ミナさんも戦えるようだ。

一先ず、ここは獣とミナさんとかに任せよう。

 

俺達は外に出て、状況を確認する。

避難はもう始まっていて、ルウィーの民は素直に避難場所まで向かっている。

 

少し前から避難勧告はしてたってことか。

 

魔物の気配がうじゃうじゃしやがる。

奴さん必死だな。

 

「正念場ってヤツか」

 

「ズェピアさん、大丈夫ですか?」

 

ネプギアが話し掛けてくる。

それは、戦っても大丈夫なのかという問い。

 

ふっ、俺が無理して戦うとでも?

そうだねごめんね。

 

でも平気だ。

娘が俺を助けてくれたからな。

 

「大丈夫さ、心配ならペアで動くか?」

 

「そうさせてもらいます」

 

「OH……」

 

信用ない…いやまあ当たり前ッちゃ当たり前だけども!

 

ぐぬぬ……。

でも、心強い。

ネプギアだけじゃない、皆が。

 

俺は気を取り直して丸太を持つ。

 

「皆!丸太は持ったな!?」

 

「その丸太どっから持ってきた!?」

 

「そこにあったから……」

 

「……もういいから、さっさと続き頼むわ」

 

「あ、はい……。

よし、行くぞぉっ!」

 

「締まらないなぁ……」

 

「エルエルらしいです」

 

「お兄ちゃんが残念な性格でも、私は応援してる(ニッコリ)」

 

「やめて、何か、やめて」

 

「ぐだぐだじゃない!もう!」

 

「あはは……」

 

「吾輩は悪くないとだけ言っておく」

 

そんなこんなでぐだぐだだけどルウィー防衛戦……

 

始まりまっせ!

 

 

「……いや丸太は置いていけぇ!」

 

「くそっ!ツッコミ魔人が!」

 

「真面目にやんなさいよっ!?」

 

 




─ナゼなに女神のコーナー─

ネプ「え、何これは……(困惑)」

ワラ「これは出番が中盤からじゃないと出てこれない四女神の為のコーナーだよ。」

ネプ「いや、こんなコーナー作る暇あるなら話どんどん投稿して私を出してよ!」

ワラ「んな事出来るならやってんだよなぁ……」

ネプ「ええ~……まあいいや。このコーナーで、気になる部分を私が聞けばいいんだね?」

ワラ「そうそう。頼むわ」

ネプ「それなら、一つだけ。タタリでの変身……女の子にもなれるの!?」

ワラ「なれますね」

ネプ「うわっ……」

ワラ「嫌なんで引いた?」

ネプ「だって、女の子の体になってあんなことやこんなことをねぷねぷーってやってるんでしょ?」

ワラ「いややらねぇよ!どんな気持ちでやればいいんだよ!?」

ネプ「またまたぁ……私だったら男の子の体になったら絶対気になるもん!つまり、主人公たる君も同じなのは、ね?」

ワラ「ね?じゃない!大体それして俺に得がないだろが!」

ネプ「うわぁ枯れてる……あ、もう時間だね。
次回の超次元ゲイムネプテューヌmk2 with ワラキーは?」

ワラ「このノリで次回予告ですかそうですか……
教授の助力もありルウィーの防衛は順調かと思われたが、そこにまた奴が現れる!」

ネプ&ワラ「次回、『監督気取り、真意を図る!』」

ネプ「で、結局はどうなの?」

ワラ「しつこいよ!?てかナゼなにしろよっ!?」


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監督気取り、真意を図る

こっちの更新久しぶりぃ!

あまりにも久しぶりだからギアちゃんのゲームやってます。
というか、ギアちゃん可愛いよ。
アイちゃん?あれはアイエフさんだから…


巨体に見合わぬ速さで接近してきたN(この世界の)フェンリルが獲物を無慈悲に砕くための牙を俺へと向ける。

当然ながら、喰らってやるほどのお人好しでもないしそういった趣味は持っていない。

 

「インストール。」

 

『怪力』を自分に宿し、拳を握る。

普通の人間なら反応しきれずに殺られるが、俺は違う。

一応、この身は死徒だ。

 

「ふんっ!」

 

「──!?」

 

横に跳んで、俺が先程まで立っていた位置にNフェンリルの牙が空振る。

振り向くNフェンリルの顔面に拳を全力で叩き込む。

 

拳を受けたNフェンリルはそのまま吹き飛んで、別のモンスターにぶつかった後に消えた。

 

これが、オーフィスのお陰で俺用に調整されたタタリ。

プリヤとかのインストールに近いと思う。

 

タタリで再現できる力を俺の許容量に収まる程度に宿させてくれる。

欠点は再現できる力に限りがあるって事と宿せるのが最大二つって点だな。

 

だが、疲労で倒れる心配はなくなった。

こっからがワラキーの活躍劇よ!

 

ウワハハハハハハ!

 

と内心舞い上がってる俺の横にビームが通りすぎる。

後ろを見ると、別のNフェンリルが近くまで接近していた。

 

「ズェピアさん、油断大敵ですよ!」

 

「すまん、助かった!にしても…かれこれ7体目だぞ……他の皆も倒してるってのに減らない…どれだけディスクがあるんだって話だが…」

 

「それも、フェンリルのようなモンスターを大量に……何かあると思いませんか?」

 

「何か、か……─ネプギア、避けろ!」

 

「ッ!」

 

俺は魔力の反応を察知してネプギアに避けるように言うとネプギアは飛んできたソレ(・・)を避ける。

 

魔力…!

マジックかと思ったが、飛んできたのが雷っていうのならアイツしか居ない!

 

「ロア!」

 

「ご名答!会いたかったぜ候補生御一行!」

 

「ロア…!貴方が主犯ですか!」

 

ロアの名を呼ぶと、ロアが嬉しそうにこちらへと歩いてくる。

チッ、ネプギアと俺の二人でこいつを相手か。

 

前回の敗北を思い出し、苛立ちが沸き上がるがあれは俺の自業自得でもあるのですぐにそれは消える。

 

ネプギアの問いにロアはあー違う違うと言う。

 

「俺は手伝いさ。主犯はマジックだ。

グレートレッドの奴が俺を貸し出したって訳だ。」

 

「…って事は、最初からこうするつもりだったのか。」

 

「そうだとも。どれだけお前らが強くともキラーマシンが数千も送り込まれたら厳しいだろ?俺も嫌だねそんなの。」

 

「なら、もう一つ聞かせてください。」

 

「お?」

 

「グレートレッドの狙いは何なんですか。」

 

ネプギアは俺も気になっていたことをロアに聞く。

 

ロアはその質問を待っていたかのように片手で顔を抑えて笑いだす。

 

「クク、あの龍はお前にお熱だぜタタリ。」

 

「だろうな。」

 

「それに、お前が見たらどんだけ不愉快になるのやら、あの龍を見たら、な。」

 

「は?」

 

「いやなに…今のアレはそれこそ迷える子羊のようだ。」

 

「…あの蜥蜴が?迷う?」

 

自然と、ごく自然と俺は疑問を抱いた。

 

そんなの、おかしいだろう。

 

「今更、何を迷ってるって言うんだ。

運命だとかを一々重視する正義面が今更何を?」

 

「さあな。ていうか、当たり強いな。」

 

「アイツには殺意しかないもんでね。」

 

「そうかい。まあ、教えることは教えてやったんだ。

さっさと死んじゃくれねぇか?」

 

「お断りします!」

 

「前は負けたが、今回は制御も出来る。加えて、二対一だ…卑怯とは言うまいね?」

 

「おいおい、そりゃ俺らの特権だろう?それが正義のやることかよ!」

 

「ハッ!俺だって元々はヴィランです~」

 

「ズェピアさん、自慢事じゃないです。」

 

ネプギアさん、そこは言っちゃ駄目です。

か、家族の為にしたことだから……(震え声)

 

「今からこの拳でてめぇをブスりと突き刺すぅッ!」

 

「何こいつ、数日で何があった?」

 

ロアが引いているが、そんな事はどうだっていい。

今重要なのはこの蛇野郎を粉微塵にすることだ。

無論、俺だけじゃ勝てないかもしれない。

 

自虐に近いが、俺は一人じゃ戦えないんだ。

 

常に、誰かが居てくれた。

隣でも、後ろでも、心の中でも。

 

そのお陰で俺は戦える。

答えを見つけようと必死になれる。

そうして生きてきた。

もしかしたら、別の可能性もあったかもしれないが…それこそ、もしかしたらだ。

 

「ネプギア。」

 

「はい、一緒に戦いましょう!」

 

「ああ、頼りにしてるよ。」

 

「…やはり、気に食わねぇな。」

 

ロアはとてもうざったいとばかりに目を細める。

性悪の蛇が何を思おうがどうでもよろしいのだが。

 

「前まであんな弱っちかったお前が、女神の候補生一人と共に戦えば勝てる?思い上がりも甚だしい!」

 

「お前前提から間違ってるな。」

 

「何?」

 

「お前、俺がお前に勝つとか言った?」

 

悔しいが、こいつに勝てるなんざ思っちゃいない。

だが、負けるとも思っちゃいない。

 

簡単な話、引き分けになら持ち込めるかもしれない。

 

0(出来ない)1(かもしれない)へと引き上げてくれた(オーフィス)相棒(ネプギア)に感謝する。

教授にはいつもいつも頭が上がらないです。

 

「私達はあくまで時間稼ぎです。

そちらが全てのキラーマシンが復活するまでの時間稼ぎなら、こちらはゲイムキャラさんが修復されるまでの時間稼ぎです!」

 

「そういうこった。打てる手は打ってあるんだよ。」

 

「やってくれるじゃねぇか。

って事は、マジックの奴の負けは濃厚って訳だ。」

 

「こっちには優秀な錬金術師がいるんでね。」

 

「んだよ、負け戦なんざつまらねぇじゃねぇか。」

 

「悔しいかこの蛇野郎。」

 

「いや、全く。それより帰っていい?」

 

「あ、すいませんウチの店途中帰宅禁止なんですよ~」

「えーマジ?」

 

「マジマジ。」

 

「なら仕方ねぇ、な!」

 

「うおっとぉ!」

 

ロアが数秘法による雷を俺に放つ。

ギリギリで避けたが、当たったら痺れびれでは済まないですよありゃ。

 

「タタリを制御し、強くなったのは誉めてやる。

だが、果たして俺に勝てるかな?」

 

「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!」

 

「そう上手く事が行くとでも─チッ!」

 

「ズェピアさん、あまり濃い会話しないでください!」

 

「あ、はい……すいません。」

 

ネプギアがMPBLからビームを放ち、ロアはそれに反応して避ける。

その後、叱られてしまった。

 

「一人で先行しないでくださいね。

オーフィスちゃんに怒られますよ?」

 

「それは勘弁願う!」

 

娘に怒られるのは精神崩壊待ったなしなのでしっかりとしなければ。

 

ロアはほう、と感心したような声を出す。

 

「随分と頼もしくなったじゃないか。

あの時は泣いてばかりだったってのに、何がそこまで変えた?」

 

「もう、怯えるのは嫌だから。」

 

ネプギアはしっかりとした声で答える。

 

「涙を流してばかりの私じゃいられないから。

この人を支える私になりたいんです。

だから、もうくよくよしてばかりじゃいられません!」

 

「…なるほど、心の強さって奴か。

根性論だとかは好きじゃないんだがなぁ。」

 

「だけど、それでネプギアが強くなったのは事実だ。」

 

「…女神は人間と精神構造が同じらしい。こちらの世界とはかなり毛色が違うようだ。」

 

「神性はあるが、それでも人としての心もある。

それがこの世界の女神と女神候補生だ。」

 

こういう強さは俺にはない強さだ。

俺にはそういった、支える強さを持っていない。

支えられてる自覚はあるが。

 

ロアは面倒そうに頭をガシガシと掻く。

 

「そも、俺が何をしても無駄なわけだ。

お前と誰か一人の実力者を配置すれば俺は動けない。

加えて、旦那の獣と他の連中がモンスターを倒して回ってる。

あーメンドくせーメンドくせー!

ここら一帯焼き払った方が早いなぁ!」

 

「やるなら全力で阻止するぞ。」

 

「誰がやるか。

消費がデカい事を態々隙晒してやるわけねぇだろ。

女王(マジック)さんには悪いがここは撤退を……」

 

ロアが言い切る前に言葉を止める。

そして、途端に顔を顰める。

 

一体どうしたんだ?

 

想定外の事態でも発生したのか?

 

「タタリ、アンタ相当好かれているらしいな。」

 

「は?マジックに?」

 

「んな訳あるか。女王(マジック)さんならどんどんと力つけてやがるぜ?

じゃなくてだな……猛烈なファンがアンタに会いに来るぜってこと。」

 

「ズェピアさんにファンなんていたんですか?」

 

「ネプギア?俺一応主役だったからね?

んん、んで、猛烈なファンってのは誰の事だ……?」

 

俺はマジェコンヌにファンを作った覚えはない。

まさか、下っ端……はないな。

マジックでもないならお手上げだ。

 

該当するなら……

 

そこまで考えて顔が引きつる。

「おいおい、冗談はやめろ。」

 

「嘘ならよかったんだがなぁ。」

 

この場所に来るのか?

阿呆だろ、馬鹿じゃねぇの?

 

死にに来たの?

いや、死ぬの俺なんだけど。

 

マズイな、このままだとネプギアもそうだが他の皆が危ないぞ……!

 

「ネプギア、皆に避難を──」

 

 

 

─瞬間、空間に皹が入る。

 

 

「チッ……!」

 

「あれは……!」

 

前兆。

憎い相手であり、哀れみを向ける相手であり、相互理解が出来ない相手。

 

それが現れる前兆だ。

皹の入った空間が次第に砕ける。

 

目に入ったのは『()』だった。

 

視認したとき、俺は自らが気付かぬ内に血が出る程拳を握りしめていた。

 

 

 

『─その姿が、本来のお前か。

ならば、初めましてだな転生者。

そして、女神候補生。』

 

 

 

何より、コイツにこの姿を視認されたのが何よりも苛立ちを募らせる。

 

テメェが原因だろうが、と。

俺は心の内で毒を吐く。

 

空間の皹からソイツは現れた。

 

赤く、巨大な龍。

俺の世界での最強の一角。

オーフィスが勝てなかった龍であり、抑止の龍。

 

俺はネプギアを自分の後ろに隠すようにして上から見下ろす奴を殺意を込めて睨む。

 

 

「─猛烈なファンは、お前か。」

 

『ああ、私だ。』

 

 

睨まれた奴は、嬉しそうな声で俺達を見下ろす。

 

俺に会えたことが嬉しいのか?

俺を今すぐにでも消せるからか?

 

それにしては、穏やかだ。

 

あの世界から消える直前でさえ殺意があったというのに今はそれを感じない。

 

『とても会いたかった。

答えをもたらしてくれる転生者よ。

ただ一人、私を殺そうとした憎き男。

そして──』

 

圧倒的な存在感だった。

力が制限されている今だからなのもあるが、前に見た印象が崩れ去る。

 

憎しみはあるだろう。

怒りもあるだろう。

 

だというのになぜ目の前のコイツは穏やかなんだ?

 

なあ、教えてくれよ──

 

 

『─私と同じく新たな見解を得た男よ。』

 

 

 

─【真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレートレッド(クソ蜥蜴)さんよ。




─ナゼなに女神のコーナー─

ワラ「結局続いたこのコーナー。
ナゼなに女神のコーナー、始まるよ!
今回のゲストはゲイムギョウ界でも人気キャラの一人!ユニの姉でもあるノワールさんです。」

ノワ「ラステイションの守護女神、ノワールよ。
それで、今回は凄い展開が早かったけど。」

ワラ「巻きでいこう巻きで、とのこと。
ほら、早くしないと作者が死ぬからね。」

ノワ「この前車と生身がぶつかってたものね。」

ワラ「『痛かった』とのことだ。まあ、これくらいは日常茶飯事だから問題ないな。」

ノワ「大問題よ!大体、交通事故起こすくらいなら車に乗るなって話よ。」

ワラ「まあ、最近怖いよな……ラステイションは安全そうだよな。ノワールはしっかりものだから。」

ノワ「当たり前よ。」

ワラ「さて、このコーナーはゲストの女神が疑問に思ったことに答えていくコーナー。
まあ、読者の質問があればそれも答えるんだけど……この作者にそんなものは来ないッ!」

ノワ「自分で言うこと?
……じゃ、私の疑問よね?なら、グレートレッドよ。
今回ようやく出てきたけど、あれは何なのよ。」

ワラ「クソトカゲェッ!の事か。
マトモな質問でよかったわ。
んじゃ、解説だ。一言でいうなら『己の正義を押し付ける抑止の龍』だな。」

ノワ「質が悪いのは分かったわ。」

ワラ「こっちの作品及び『─計算の果てに何があるか─』では抑止力の生み出した龍という扱いだな。
んでもって、運命を操れる能力を持っている。
この世界だとどうかは知らないがマトモに戦っても強い厄介な奴だな。」

ノワ「勝てるような存在には聞こえないわね。」

ワラ「まあ、俺の場合は誤魔化しに誤魔化したからなぁ……それは本編で言及したか、するかもな。
んで、クソトカゲェッ!は自分の操る運命こそ正しいと信じて疑わない奴でな、前作でもそれでうちの娘を隔離したりとかな。」

ノワ「ええ……。
取り合えず、これまでのグレートレッドはそうだったって訳ね。
でも、今回は何だか違うわね?」

ワラ「どうなろうと殺してやるぅぅぅッ!(日本兵)」

ノワ「殺意高いわね……じゃ、そろそろ終わりよ。」

ワラ「ういっ。」


ノワ&ワラ「次回、超次元ゲイムネプテューヌmk2 withワラキー!
『赤龍変容』!次回もお楽しみに!」

ノワ「さて、そろそろルウィー編も終わりね。」

ワラ「リーンボックスとかどうすっかね?」


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赤龍変容

ロザミアです。

今回、不快感が出る人がいるかもしれませんのでご注意。
まあ……多分、そうでもないとは思いますけど。





 

相容れない存在というのは誰にだってある。

どんな小さい存在でも、それがとても疎ましく思うものだ。

 

俺にとってのそれは目の前にいる。

 

だが、それは俺の知る奴とはどこか違う。

 

「おい。」

 

『なんだ?』

 

「お前に何があった?」

 

『それはお前が一番知っているはずだ。

私がお前を知りたいように、お前もまた私を知りたい。そこにどのような感情が入り交じっているのかは私にはまだ、理解できないがな。』

 

目の前の龍、グレートレッドは穏やかに話す。

だが、周りからすれば巨大な赤い龍が現れたのだからパニック状態だ。

 

ネプギアはグレートレッドに敵意が無いのが分かったのか俺の隣まで来てグレートレッドを見上げる。

 

確信を得る。

 

「感情を得たのか。」

 

『ああ、そうだとも。

あの時、私はようやく人の感情と呼べるものを獲得した。あの怒りが、憎悪が、私を新たなステージへと進ませてくれた。感謝しよう、ズェピア・エルトナムよ。』

 

「お前に感謝されたって吐き気しかないね。

お前がしたことは許されない。

それは分かっているんだろう?なら、何故今来た。」

 

俺は黒い銃身を取りだし、グレートレッドに向ける。

 

グレートレッドは前のように焦ることはなく、それを見ても穏やかだ。

 

『そうだ、私がしたことは魂を弄ぶ外道のすること。

─だが、それがどうした?』

 

「貴方は、それをして何とも思わないんですか!?」

 

『……私には、使命がある。』

 

「抑止力のか。」

 

『抑止力?ああ、そうだな……私の親に該当する抑止力が私に与えた使命とこれはほぼ同じだ。

だが、これは私が感情を得て改めて自らの意思で決めた使命だ。』

 

抑止力から解放されたからか、独自の感情を得て独自の使命を得たようだ。

厄介な。

機械的な頃の方が楽だったろうに。

 

『私が人間を……否、世界を管理する。

そして、私の定める運命で平穏に死なせる。』

 

「……一応、どうしてそうなったか教えてもらってもいいか。」

 

『いいだろう。……ロア、作戦は失敗だ。

お前は戻るといい。』

 

「俺が来た意味がわかんねぇなぁこれじゃ。」

 

『可能性を見れただろう。』

 

「……変に賢しくなりやがって。」

 

ロアはそう言って俺達を一瞥した後に去っていった。

 

……フェンリルが増えていない。

グレートレッドが何かしたのか?

 

『話をするのに無粋なものは要らない。

あちらのディスクに干渉させてもらった。』

 

「……そっか、あのディスクはグレートレッドのだから干渉するのも自由なんだ。」

 

「何でもありだな。」

 

『誉め言葉として受け取ろう。

では、私の身に何があったのかを話すとしよう。』

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

ズェピア・エルトナムと共にこのゲイムギョウ界へと落ちた日。

私が落ちたのはギョウカイ墓場だった。

そう、マジェコンヌの奴らがいて、女神達が捕らえられているあの場所だ。

 

私はお前を滅ぼすことのみを考えていた。

だからこそ、マジェコンヌと手を結んだ。

私の力が上手く作用しないから、という理由もある。

 

ロアを再現し、元の世界のモンスターをこちらに再現という形でディスクに納めた。

 

しかし、その作業をしている中で冷静になった。

冷静になって考えた。

 

私は、何故ここまでお前を滅ぼすことばかり考えているのか。

抑止力に見放され、ここへと来た私は何なのだろうか。

何故明確な未来よりも不確かな運命を選ぶのか。

 

考え出した時、私の思考はそれのみを考えていた。

 

だから私はお前を観察した。人を観察した。

お前は人としての弱さを抱えているのに人としての強さを保っている。

同時に化物の弱さを抱え、化物の強さを保っている。

そんなお前を観察すれば、何かが分かると思ったのだ。

 

そうして私は感情を学び、人を学んだ。

過去見てきた悪魔や堕天使、天使やドラゴンを思い出せば、行動の理由が分かった。

 

私はようやく、自分の今の感情が虚しさだと分かった。

 

使命も何もかもを失った私にはもう何も残されていない。

復讐という一時の感情に呑まれていた私の行動は虚しいものだと気付いた。

 

故に、また考えたのだ。

私はどうするべきなのかと。

理由がほしかった。

この無意味とも呼べる行為の理由を。

復讐という空虚な穴しかもたらさない物よりも明確な理由が。

 

人を理解したときにその疑問は解消された。

自らの命題が決まったのだ。

 

沸き上がったのは歓喜と使命感。

私は何としてでもこれを達成しなければならない。

 

そう、それこそがあらゆるものの運命の運営だった。

 

元より私はそれを為すために生まれた。

だが、もう親の意思は関係ない。

私は私だ。

私という個が手にした命題。

人類と人外の価値を理解し、汚さを理解し、素晴らしさを理解した私の見つけた使命だ。

 

私が未来を修正し、確定させる。

 

あらゆるものを私が管理し、世界を平和へと導く。

 

それが私の使命だ、ズェピア・エルトナム。

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

『人も人外も、全てを私が定めた運命の線路へと進ませ終わりなき世界へと変える。

全てを私が管理する。』

 

……本気のようだ。

本気でこいつはそうする気だ。

言葉の一つ一つに感情が宿っている。

 

俺もネプギアもそれを聞いて冗談とは思わない。

 

だからこそ、それを許さない。

 

「それをしてお前に何になる。」

 

『報酬があるか、ということならば問題はない。

私の管理する世界。これこそが私への報酬となる。』

 

「人一人の運命だけでなく、全ての生命の運命……そんなの、許されません!何でそんな事をしようと思えるんですか!感情を得て、理解したなら……それがどれほど酷いことなのか分かっている筈です!」

 

『理解した。理解した上での裁定だ、女神候補生。

私は人を、人外を理解した……だからこそ私が管理するのだ、愚かで浅ましい発展をした間違った世界を修正するために!』

 

「間違った世界だと?」

 

『そうだ、私は修正する。

あの世界に戻り、世界の深奥を操りあの戦争からな。

あの時から世界は間違えたのだ。』

 

「……仮にそうだとしても、お前が、お前なんかが変えていいものじゃない。」

 

大層な目的だが、下らない。

本気でそう思っているのなら、こいつの印象は変わらない。

 

クソ蜥蜴はクソ蜥蜴だった。

それだけだろう。

 

「どんなに愚かであっても、それが犠牲の下で成り立っているのなら誰にも否定できないはずだ。

その時代を生きて、その時代で死んだ奴等がどんな奴等かなんて知らないし興味はない。

だが、人の世も人外の世も……ただ機械的に見ていたお前に変えていいものなんてない。」

 

『誰の許可も要らない。私は私がすべきと判断したからするのだ。

停滞を選んだ人外は全て、あの時あの場所で滅ぶべきだったのだ。』

 

「結局変わらない。お前はどこまで行っても独り善がりの屑だ、クソ蜥蜴。」

 

『……やはり、お前と私は相容れない。

何故私の使命を否定する。

お前の言い分では繁栄は犠牲が無ければあり得ないと言っているも同然だ。』

 

「そう言ってるんだよ、理解できないか?

あの世界も、この世界も……何かの犠牲がある。

醜い犠牲もあるかもしれない。

だが、それでも尊いものはある。」

 

『犠牲に尊いなどあるものか。

私はその犠牲の二文字が無い永遠に発展する世界にすると言っているのだ!無いに越したことはなかろう?』

 

「……悲しい世界です。」

 

『なに?』

 

俺が言うよりも早くネプギアが悲しそうに言う。

グレートレッドは訝しげにネプギアを見下ろす。

 

「私は、世界とか運命とか……そういった大きすぎるものを完全には理解できません。

でも、そうなってしまった世界は悲しいと思います。」

 

『……何故、そう思う?』

 

「誰かに決められてしまう運命。

決められている本人には分からないけど、操り人形と同じです。

機械のように、ただ運命の線路を歩くだけの人生が正しいとは思えません。」

 

『星そのものを捨て去る前に、私が正常な路線へ導くと言っているのだ!』

 

「捨てるだけが人なんですか?

捨てるのが人なら、拾うのも人です!

全ての人が何かを捨ててしまうのが世界なら、全ての人が何かを拾ってくれるのも世界です!

貴方は人の醜さと人の優しさを否定しています!

それだけじゃありません……貴方は貴方が正しいとは思えるかもしれない者すら否定しています!」

 

確かに理解したのだろう。

今まで理解できなかった物を理解できた。

 

だが、それだけだ。

物事を理解するのは誰でも出来る。

その先が大事なんだ。

 

だから、こいつのはもう性根なんだろう。

 

『私が、正しいと思える者……』

 

「積み上げられた物全てを否定するような貴方が正しい訳がありません!」

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──」

 

『ご意見ありがとう、女神候補生。

だが、いくら善良な言葉を投げられても響かないな。』

 

何とも思わず、自分こそが正しいと思うのは……こいつの根底から来る物だ。

感情を得ようと変わらない。

いや、感情を得て変わったのがこれなのかもしれない。

 

『ただまあ、多少面白い点は見つけられた。

そこだけは感謝しよう。

……まあ、それだけだよ、この会話は。』

 

だとすれば……何とおぞましい存在なんだろう。

こいつは『黒』だ。

損でもって、俺は分からないがネプギア達は間違いなく『白』だ。

 

笑うような声でグレートレッドはネプギアへ言葉を返す。

まるで、必死に反論する子供を馬鹿馬鹿しいと見下す大人のように。

 

だから、俺は黒い銃身(ブラックバレル)の弾丸を放った。

怒り任せの弾丸はグレートレッドの巨体へ向かっていくがグレートレッドは自身の巨体に弾丸が当たる前に避けられる。

あの巨体で避けるのは気持ち悪い。

 

『危ないな。』

 

「そのままくたばればよかったのにな。」

 

『それほどまでに私を殺したいか。』

 

「すっごく殺したいね。」

 

『それは私がお前にとって敵であるからか?』

 

「それもある。」

 

『も?』

 

「俺はな、クソ蜥蜴。」

 

黒い銃身(ブラックバレル)をクソ蜥蜴に向ける。

 

「俺もここに来て色々と変われたと思う。

俺は家族だけじゃなく、大切で守りたいと思うものを得られた。確かに、お前の言うように新たな見解を得れた……と思う。」

 

「ズェピアさん……」

 

「家族のためなら世界を塗り替えるのだってやってやるし、その他大勢を壊すのだって厭わない。

だけど、そんな俺にも得れたものがある。

それは仲間だ。お前が感情を得たように、俺も仲間を得れた。」

 

『魔王は違うと?』

 

「アイツらは友人だ。仲間にはなれない。」

 

アイツらは、俺とは違う。

寧ろ、俺は要らないだろう。

精々、話し相手になれるくらい。

俺に出来るのはそれくらい。

 

「お前のその性格はとことん俺を苛立たせくれる。

戸惑うことなく発砲できるくらいにな。」

 

『お前が先程向けてきた怒りとは別のものを感じる。

同じ怒りの感情だ……だが、中身が違うな。

それはなんだ?』

 

図々しいとはこの事か。

殺意を乗せた怒りを何ともないような様子で俺の感情を探りに来る。

 

別にそれくらい教えたって構わない。

 

「家族に対してしてきた行いへの怒り。

それが今までの俺の怒りの中身だ。

これは、仲間に対してお前が今やった事への怒りだ。

お前は、屑だ。

茶番をしていたかのような態度しやがってさ。

気に食わない。

俺の仲間を、相棒を馬鹿にした事が気に食わねぇ!」

 

『……ハ、ハハ、』

 

グレートレッドが感情の乗った声でくつくつと嗤う。

 

『ハハ、ハハハ!怒り、そう怒りだ!

そうだ、人間も人外も怒りという感情が剥き出しになった時が一番恐ろしく感じる!

そうだ、その感情をもっと見せてくれ!

私に、怒りを教えてくれ!

もっと、もっとだハハハハハハハハ!』

 

「─狂ったか、お前。」

 

『狂う?私が?否、これが私だ、グレートレッドだ!

感情を得て、より私という個を確立させた!

そうだ、お前の、お前らの感情が私をより私としての存在を確立させてくれる!』

 

狂っている。

そう思ってしまっても仕方がない。

だって本当に嬉しそうに笑っているのだ、あの化物は。

 

龍の姿をしたナニカ。

そう言うしかない。

これを聞いているのは俺とネプギアだけじゃないだろう。

なんせ、かなりデカい声だ。

 

しかし、グレートレッドは突然笑うのをやめてこちらをまた静かに見下ろす。

それが更に異様さを際立たせる。

 

『さて、今回のところは去るとしよう。』

 

「今なら……殺せるのにか?」

 

『今はまだ惜しい。

まだ、お前から学べる感情はある。

私は、全てを学んだ後に行動を起こすのみ。』

 

「学ぶ事のためにマジェコンヌに属しているんですか……?どうして、貴方はそこまで……ッ!」

 

『おお、いい怒りの感情を感じる。

そうか、女神候補生だけでなく、他の者もか。

これはいい、益々興味深いぞ。

もっと、私に感情を教えてくれ──』

 

グレートレッドはそこに居なかったかのようにパッと消えてしまった。

 

……厄介な事態になったな。

マジェコンヌとロアだけでも面倒なのにそれ以上に面倒な案件だ。

 

「─ぁ……」

 

「ネプギア、大丈夫か!」

 

奴が消えた所を睨んでいると隣にいたネプギアが座り込む。

女神化も解けて、酷く疲れた様子だ。

俺は膝をついて目線を同じにする。

ネプギアは恐ろしいものを見たような顔をしていた。

 

安心させようと思って手を握ると、手が震えている。

それどころか、体も少し震えている。

 

そりゃ、そうだよな。

あんなのマトモじゃない……狂ってる人よりも恐ろしいものを見た。

 

「アレが、グレートレッド、なんですよね?」

 

「ああ、あれが俺の解決すべき案件だ。

……怖かったか?」

 

「……はい、とても。」

 

「そうか。……よく、頑張った。」

 

俺は震える手をもう少し強く握る。

 

足音が聞こえる。

それも、何人も。

多分、皆だろう。

 

なら、モンスターはもう発生してないんだろうな。

それだけは、よかった。

 

 

 

─その後、ホワイトディスクが修復されたと大急ぎで来たミナさんから俺達は聞いたが素直には喜べなかった。

 

心に妙にまとわりつくモヤモヤが俺達に不安という感情を植え付けたからだ。

 

それでも、俺達はルウィーを守りきった。

 

それだけは確かだ。




─ナゼなに女神のコーナー─

ワラキー「はい……やって参りました、ナゼなに女神のコーナー。コーナー担当のワラキーです。
今回のゲストは、ルウィーということでね。
ホワイトハート様ことブランさんに来てもらいました~」

ブラン「ルウィーの守護女神、ブランよ。」

ワラキー「今回は……うん、筆が乗ってたな。」

ブラン「作者がやりたい放題してたわね。収集つくの?」

ワラキー「わ"か"ん"ね"。
まあ……完結はさせるだろうさ。」

ブラン「ならいいのだけど。……で、質問よね?」

ワラキー「何かあります?」

ブラン「ノワールがグレートレッドについては質問してしまったし……そうね、なら、現状の犯罪組織について教えてちょうだい。」

ワラキー「状況整理だな。
あー……マジックがリーダーで、撃退された後鍛えてるとかなんとか。
んで、グレートレッドがロアを再現して協力してるってのが今のところ分かってる情報だな。
目的についてはよく分かってないな。」

ブラン「そもそも、どうしてグレートレッドはマジェコンヌに協力してるのかしら?」

ワラキー「感情を見やすいからじゃないかねぇ。
マジェコンヌってだけで色々な反応するからってあるのかも。」

ブラン「傍迷惑な存在ね。そんなのがルウィーに危害を加えていたなんて……」

ワラキー「怒ってるか?」

ブラン「かなりね。
……それで、もう1つ聞きたいのだけれど」

ワラキー「ほいほい、何です?」

ブラン「モンスターにもコミケみたいなのはあるの?」

ワラキー「……」

ブラン「……」

ワラキー「はい、では次回の超次元ゲイムネプテューヌ mk2 with ワラキーは!」

ブラン「ちょっと……?」

ワラキー「グレートレッドが去り、ホワイトディスクが修復されてキラーマシンを再度封じ込める事に成功した俺達はルウィー教会へと戻る。
そして、次に目指すはグリーンハートの国であるリーンボックス!」

ブラン「……おい」

ワラキー「次回、『監督気取り、緑の大地へ』!
次回もまた見てくれよな!」

ブラン「無視すんじゃねぇぇぇぇ!!」

ワラキー「やめろぉ!俺は知らない!
あの混沌としたナマモノに聞いてくれぇぇ!!」


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監督気取り、緑の大地へ 1

どうもー足の親指の爪が剥がれてめっちゃ痛いロザミアです。

今回は久しぶりにこちらを投稿しますよ。
完走は義務だから(使命感&満足)


はい、どうも。

皆久しぶりだな。

ワラキーさんだ!

 

まー前回はキチガイを超えた更なるキチガイとなった糞蜥蜴と会話したんだが……

あの後ホワイトディスクがキラーマシンを再度封じることに成功した。

んで、お礼というか現状の事態をかなり重く見たルウィーのゲイムキャラは

 

『封印がもう少し安定すれば力をお貸しできますのでそれまでルウィーに留まっていてくださいませんか?』

 

と言ったので比較的に精神にダメージ薄い俺が了承しておいた。

 

アイエフ達は怪我もあまりなかったが遠目とはいえグレートレッドを見たからか少し険しい顔をしていた。

威圧感はあるからな、あれ。

 

ロムとラムは張り切っていたな。

決戦のときは呼んでね、と言ってたので頼もしい限りだ。

 

ネプギアが一番ダメージデカいんじゃないかな。

必死に話していたのにそれを一蹴された訳だからな。

俺がどうにか出来るとは思えないけど……出来るだけ励ましてみよう。

 

滞在期間も然程無い筈だからな。

 

んで、糞蜥蜴絶許マンの俺はというと

 

「あ、お兄ちゃん……料理?」

 

「ロムか。どうしたんだ?」

 

「起きちゃって……」

 

「なるほど。

皆のためにシチューでもと思ってな」

 

「シチュー……美味しそう(わくわく)」

 

「だといいんだけどな~」

 

現在、キッチンでシチュー作らせてもらってます。

ルウィーって少し寒いからな、こういう温かい物を食べたら元気でるかなって思ったわけですよ。

 

楽しみにしてる子もいるし、絶賛するほどのシチューにするしかないな。

 

忘れられがちですけど、ワラキー一家の料理の師匠は何を隠そう俺なのだよ。

ここで不味いのは出せねぇですね!

 

「手伝えることある?」

 

今は何かを手伝いたいのだろう。

ここでしなくていいと言うのも気が引けるし簡単なのを頼もうかな。

 

「お皿は出せるか?」

 

「それくらいなら出来る」

 

「なら、頼もうかな」

 

「任せて(ふんすっ)」

 

口数があまり多くないロムを昔のオーフィスと重ねてしまうが、そんなに似てはいないなと思い考えを捨てる。

にしたっていい子である。

今は捕まっている姉の分まで頑張ろうとする姿勢。

子供でなければ本気で応援して手伝いたいのだが……そうはいかないのが現実。実際問題、子供が戦うこと事態がおかしいのだ。

力があれば戦っていいって訳ではない……いや、そうなるとネプギアもそうなんだが。

いそいそと皿を用意するロムを見つつそう思う。

 

無力感って、やっぱ堪えるな。

 

おおっと、いけない。

最近シリアス多すぎるからコメディ路線へ変えたいというのに俺からシリアス入ってどうする。

 

「切り換えなくては」

 

「どうしたの?」

 

「シリアス路線になりすぎだな俺と思い始めた今日この頃……俺は(路線変更を)頑張ることに決めた」

 

「……うん、頑張って」

 

「任せておけ、俺が(重い雰囲気を)何とかしちゃる」

 

「無茶は、ダメだよ」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「不安」

 

「あれー?」

 

不安って言われましたよ、不安って。

俺ってそんなに頼りない?そうだとしたら悲しいかも。

 

「ところで、どんなシチュー?」

 

「普通にビーフシチューにしようと思ってるけど、何か要望はあるか?」

 

「ううん、無いよ。楽しみ(わくわく)」

 

「そうか~」

 

もう少し我儘でもいいのにいい子だ。

頭を撫でるとロムは嬉しそうに目を細める。

 

「ラムは?」

 

「ラムちゃんはまだ寝てる」

 

「そうか。……ロムは大丈夫か?」

 

「?」

 

首を傾げる。

ああ、内容を薄くしすぎたか。

 

「ああ、ごめん。不安になったりしないのか?」

 

「不安?」

 

「大きな龍が出てきただろ?」

 

「うん、凄く……怖かった。お兄ちゃんも?」

 

「そりゃ怖かったさ。俺の場合なんて目の前に来たんだぜ?」

 

「ネプギアちゃんも怖かったのかな……」

 

「……そうだな、怖かったと思う」

 

じゃなきゃ、震えたりしないだろう。

勇気を振り絞って糞蜥蜴と会話をしたのにアレだ。

思い出したら苛立ちを通り越して笑顔になりそうになる。

 

「ラムは?」

 

「ラムちゃんは『今度見付けたら倒してやるんだから』って言ってた」

 

「強気だな~」

 

というか、啖呵きれるの凄いな。

ラムさんって呼んだ方がいいだろうか?

尊敬するわ~

 

というか、ロムも怖かったのに決戦には呼んでねって言ったのか。内気なだけじゃないとは恐れ入った。

将来が凄そうだなぁ……

 

その後もワクワクといった様子のロムと話しながらビーフシチューを作った。

今思えば、朝からビーフシチューはやらかしたかもしれない……

 

「ワラキー は ビーフシチュー を つくったぞ!」

 

「美味しそう」

 

「そうであろう、そうであろう!美味い、と思う」

 

「自信はないんだ……」

 

「皆の舌に合うか不安でしょうがないなぁ」

 

「味見はした?」

 

「したよ?」

 

「美味しかった?」

 

「まあ、それなりに」

 

「なら、大丈夫」

 

「ロムに言われると、そう思えるな」

 

でも、ちょっと不安なのでもう一度だけ味見をしておいた。

ロムもするかと聞くと、皆と食べるまで楽しみにしておきたいそうでやめておいた。

 

まあ、後は皆が起きてくるまで待つかな。

 

早く起きたから作ったけど、ロムが起きたってことは皆もそろそろだろ。

というか、子供なのに早起きで偉いな。

俺なんて子供の頃はめっちゃ遅く起きてましたよ。

 

後は待ってようと言って、皆をロムとゆっくり待つとしよう。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「アンタたち、早すぎ」

 

俺達の次に起きてきたのはアイエフだった。

アイエフは俺達を見つけた途端、呆れた様子でそう言った。

そんなこと言われましてもね。

 

「それほどでもない」

 

「アンタは良いにしても子供は寝かせなさいよ……」

 

「眠れなかったから、平気」

 

「まあ、あんなことあった後だし、そういう子もいるだろう」

 

「……それもそうね」

 

「そうそう。アイエフよ、賢くなれたな」

 

「ふんっ!」

 

「ゴポォ!?」

 

「うわぁ……」

 

鳩尾は、あかんて……

一瞬視界が白くなりましたねぇ……これは、また強さが上がってる!?

 

「馬鹿な、戦闘力がコレほどまでに上昇しているとは……!」

 

「なんてパワー(そわそわ)」

 

「ほほほ……素晴らしいですよぉアイエフさん!」

 

「ふざけるのも大概にしなさいよ……?」

 

「はい」

 

「お兄ちゃん、めっ」

 

「はい……」

 

「私の時よりダメージ入ってるのは何でよ」

 

「少女のめっには心を粉砕する力があるんだぞ……」

 

オーフィスにやられた時は寝込んだくらいだぞ。

 

アイエフは溜め息をつく。

一体どうしたんだってばよ?

 

「アンタが無駄に元気で疲れんのよ」

 

「地の文を簡単に読まないでくれませんかね」

 

「じゃあ、少しは落ち着け」

 

「はい……」

 

キツめに言われたので落ち着くことにした。

具体的にはしょぼんとしてる。

 

そんな俺にアイエフはちょいちょいと手招きをしてきた。

ロムに聞かせるのが憚れる内容か?

 

俺はロムに少し話してくるよと言ってからアイエフと共にキッチンルームを出る。

 

「どうした?」

 

「アンタ、何ともないのね」

 

「蜥蜴…グレートレッドの事か」

 

アイエフは頷く。

何ともない……そう見えるのだろうか。

見た目の変化はあまり見られないという意味でだろうな、この場合は。

 

心境は別として。

 

「アンタの宿敵なんでしょ?もっとこう……不安になってたりしてるのかと思ってたわ」

 

「こう見えてかなり不安だぞ」

 

「そうなの?いつものような調子だったから面倒になったな程度にしか考えてないのかと思ってたわ」

 

「流石にそこは適当になれない。アイツを倒すのが俺の目的だしな」

 

「そう……」

 

「強いのは分かってるし、勝てる勝てないの土俵に立ててないのも分かってるよ。でも、何か方法を見つけて倒さないと皆が危ない……最悪、俺一人でどうにかするさ」

 

「その黒い銃身(ブラックバレル)で?」

 

「無理だって言いたいか?」

 

「アレを見て、出来るとは思えないのが本音よ」

 

「だろうな。なら、いっそやばい爆弾()でも作ってみるか?」

 

「国とか諸々度外視していいならやってもいいかもね」

 

「……だよな」

 

二人して溜め息をつく。

苦笑いしか浮かばない現状に、割りきるしかない。

 

やれることをやっていくしかないんだ。

 

「何はともあれ、平気そうで何よりよ」

 

「心配どうも。そういえば、他は平気か?」

 

「コンパは大きい蜥蜴さんですとか言ってたし、日本一は正義感燃やしてたから心配要らないわ」

 

「ネプギアは?」

 

「さあ……私が見た限りだと昨日は少し気疲れしてる程度に見えたわ」

 

「そうか……分かった。何かあったら教えてくれ」

 

「……アンタってさ、やっぱ変よね」

 

「なんだよ急に」

 

真面目な顔で失礼なこと言いやがるよ。

そんなに変ですか、そうですか。

 

「いつもはふざけた態度なのに、やるときはやるっていうか……達観してるっていうか」

 

「達観?そりゃ、あっちだと結構長生きしてるからな」

 

「ふーん……ずっと生きるって苦労しそうよね」

 

「生きる以上、付いて回ることだよ。何かをするってことは何かを払わなきゃだからな、俺はそれが普通より多いってだけさ」

 

「真面目ね~根は」

 

「失礼なやっちゃ、さて、そろそろ戻ろう」

 

「そうね。……二度目か三度目か分からないけど、あんま抱え込まないでよね」

 

「へいへい」

 

「分かってるんだか……」

 

分かってるよ。

泣かせるようなことは極力したくないから。

 

まあ、しちゃうんだろうけどさ。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「戻ってきたです」

 

「起きたか、皆」

 

「おはようございます、ズェピアさん」

 

「おはよー」

 

「うん、おはよう」

 

ネプギアもしっかりと居た。

よかった、思ったより精神的ダメージは少ないようだ。

あー、安心したわぁ……

 

「今日は下民どもの為に我が飯を作ってやったぞ!

崇めよ、そして讃えよゲホォ!?」

 

「おぉう、ツッコミスーパーキックを背中に……我輩でも受ければあの世に没シュート間違いなしですな」

 

「あ、アイエフ……!」

 

「あ、ごめん足が滑った。それで、何か?」

 

「イエナンデモゴザイマセン……!」

 

背中を押さえながらアイエフを恨めしく見るとアイエフがイイ笑顔をしてたので何かを言うのをやめておいた。

あれは、いけない。

殺される。

 

「くっ……ズェピアボディは超回復である、問題なし。

それはそうと、ネプギア、大丈夫なのか?」

 

「はい、心配してくれてありがとうございます」

 

「いや、大丈夫ならそれでいいんだ」

 

「ズェピアさんは?」

 

「俺は平気。元々、あんな発言されても『蜥蜴が更にキモくなってて草』みたいな感じだったしさ」

 

「思ってたより軽いんですね……」

 

「だってなぁ……どうにもならんでしょ、あれはさ」

 

もうなんつーか。

行くとこまで行った的な感じだった。

狂いに行ったっていうかさ。

 

結局はエゴ、勝手を押し付けることを究極的に自己肯定するようになっちまったんだ。

もうあれは、やるところまでやるだろう。

 

目先の問題の俺を消してからだろうけど……アイツ、どうしようね?

 

何はともあれ、心配だったネプギアも平気そうで安心だ。

というより、俺が心配のしすぎだったか?

ネプギアは強いし……少し切り替えた方が良さそうだな。

 

まあ、取り合えず朝御飯ですな。

 

……あ、教授いるじゃん。

足りるか、これ?

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「我輩の食欲、侮らないで貰おう」

 

「おいバカやめろ、少しは自重しろください教授!」

 

「ネコ一匹で食いすぎでしょ……」

 

「バカネコ、大食いだったのね」

 

やめてー!他の人がおかわりする可能性あるんだからその食欲抑えてー!

 

「ふぅむ、まあフレンドの要望には従うのが紳士ネコとしてあるべき姿。ここは抑えようではにゃいの」

 

「流石教授、話が分かる」

 

「もしかして、元の場所でもこうなの?」

 

「そうですけど」

 

「むしろ、あちらの方が性質上大喰らいであるな。

本体ってば666匹のワンちゃんを体に宿しちゃってるもんだから」

 

「ええ……」

 

「食費高そうですぅ」

 

「食費……労働……冥界……うっあたまが」

 

「傷は深そうね……」

 

そうか、帰ったら待ってるのか……あれが。

というか、俺って帰ったら三勢力に何言われっかな~他の神話勢力もうるさいだろうしなぁ……

 

家族団欒はしばらく出来ないだろうな。

 

雑談もいいけどそろそろ本題に入るか。

 

「さて、次に向かうのはリーンボックスか」

 

俺の発言にミナさんは頷く。

 

「はい、リーンボックスのゲイムキャラの協力を得ることが出来れば皆さんの目的は1つ達成となるでしょう。ですが……」

 

「やっぱりあっちの状況は良くないのね?」

 

「ええ……リーンボックスもまた女神を失ってマジェコンヌの影響が強いとあちらの教祖から聞いております。加えて、リーンボックスには候補生がいません」

 

「それは……」

 

かなりまずい状況といえるな。

今までは候補生の存在が民衆の心を保ってた所もあった。けれどリーンボックスにはその候補生すらいない。

教祖だけではとてもではないが保てないだろう。

 

リーンボックスの教祖はかなり優秀なようだ。

 

「ルウィーのゲイムキャラは?」

 

「封印は順調だそうです。これなら明日には安定化するでしょう」

 

「そうですか……なら、今日のうちに出来ることをしておこう」

 

「ルウィーのシェア回復ですね」

 

「それもあるけど、道具とかもね」

 

「では、私はリーンボックスの教祖にもう一度連絡を取っておきましょう」

 

「頼みます。ミナさん、リーンボックスにはどう向かえば?」

「ラステイションに一度戻って、それから船ですね」

 

「ルウィーからは行けないんですか?」

 

「それが昨日の襲撃で……列車は動くのですが……」

 

申し訳なさそうにミナさんは言うが、仕方ない。

むしろ、あの襲撃で列車が生きてるだけでも凄い。

 

ラステイション……一度、ユニとケイに顔を出しておこうかな。

 

「よし、取り合えず今日は自由行動ってことで……」

 

「そうね。で、アンタはどうするの?」

 

「クエスト行こうかなって」

 

「動けるの?」

 

「大丈夫、変身して長時間動かなきゃいいだけだからな」

 

「じゃあ、私も行きます!」

 

「そう、それならその馬鹿の事頼むわよ?」

 

「任せてください!」

 

「せめて馬鹿ってのは否定してよ」

 

がくりとしながらも間違ってないしぐうの音も出ないので受け入れる。

悲しいけど真実なのよね、これ。

 

ま、まあ……取り合えずこの力にも慣れないとだからクエストに行こう!早く行こう!すぐ行こう!

 

「じゃあ、私とアイちゃんは道具の買い足しです!」

 

「それなら私も行くわ」

 

「日本一とコンパ、アイエフは買い物……教授は?」

 

「あーじゃあ我輩部屋戻って寝てるからにゃぶん!?」

 

「バカネコはわたしたちと一緒よ!」

 

「一緒(にこにこ)」

 

「我輩、ここに来てから顔面に衝撃が何度来たか覚えてないのである……ここはファミリーとして助ける気はないかね?」

 

「うんじゃあ頑張ってな……」

 

「ナチュラルに見捨てられて我輩に真の味方はいないということが判明した」

 

その状態のあんた疲れるんだもん……

シリアスを消し飛ばす何かじゃん、あんた。

 

何なん?ネタかシリアス、どっちか100%しかないの?

譲二はこれだからなぁ……

 

にしても、俺とネプギアの二人か。

何気にクエストで二人は初めてだな。

気でも遣われたかのようにあっさり決まったのだがどういうことなの……

 

「うん、取り合えず準備が終わったら俺とネプギアは行くから……頑張ってね」

 

「置いてくというのか!この愛らしさ抜群のネコボディを!?我輩を置いていくと動物愛護団体が黙っちゃいないぞ!」

 

「問い合わせて現物見たら処分に来るでしょうね」

 

「我輩の退路が全て塞がれた……」

 

よし、今日は無視るぞー。

全力で教授を無視る。

今日はクエストに生きる、紅玉集めに走らなきゃだから……(物欲センサー)

 

さてと、準備して行きますかね。

リーンボックス、無事だといいけどな……




今回は(ナゼなにのコーナーは)ないです。

次回に続く!


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監督気取り、緑の大地へ 2

はいどうも、ロザミアです。

いや~危うく網膜剥離になるところでしたよ……我ながら、不幸すぎる。

さて、ネプッていきましょう


教会の中で椅子に座りながら今後のことを考えて待つ。

リーンボックスのことは気にしても仕方ない。

ミナさんに任せるしか俺らにはできない。

 

他のことと言えば……ラステイションとプラネテューヌか。特に、プラネテューヌは大丈夫なんだろうか?

 

気になってしまうと確認したくなってしまう。

あ、そういえばNギアでイストワールに連絡できるのでは?聞くだけならタダだし、善は急げだな。

 

俺はNギアを取りだし、連絡先一覧を確認する。

 

「Oh……そんな都合よくはないか」

 

『まあ、いずれ戻るだろう?』

 

─そうだけどなぁ

 

『それまでは、別のことを考えたまえ』

 

─はいはい

 

毎度思うが、ちょっとアストラルな感じがしますね。

いつか俺と私でオーバーレイするのか?

もうしてるんだよなぁ……

 

「ズェピアさん、お待たせしました!」

 

「来たか、よし、行こう」

 

「はい!」

 

ネプギアが準備を終えて来たのでギルドへ向かう。

クエスト受けてシェアを回復させないといけない。

 

マジェコンヌに奪われたシェアを取り戻すには民衆にまだ女神たちは負けてないって思わせないとな。

いや、負けちゃって捕まってるんだけどさ。

そこはほら、女神の妹たちは懸命に戦っているって思わせないと。

 

「シェアか~」

 

「シェアがどうかしたんですか?」

 

「うーん、シェアってこの世界だと国に必要なエネルギーなんだよな。女神に力があるのもシェアのおかげだし……力の源って感じだし面白いなって」

 

「やっぱり、ここで生きている私からすれば普通でもズェピアさんからするとこっちの世界の仕組みは珍しいんですね」

 

「そりゃあな。信仰をエネルギーに変えるなんてどうやればいいのか分からないし……意思を力に変えてるようなもんだからな。応用も効くときたら面白いとしか言い様がない」

 

黒い銃身にも使えないかな、なんて思ってたりする。

ケイとかに相談してみよう。

 

というか、ネプギアのMPBLは自分で作ったんだっけ?

だとしたら何という技術力だ……Nギアもだろ?

ワラキー自信なくしちゃうわ~

 

閑話休題。

ギルドに着いた俺達はどんなクエストがあるかを確認する。

 

「討伐系が多いな」

 

「突然大量のモンスターが現れたからでしょうか……」

 

「多分な」

 

あの蜥蜴ロクなことしないな。

まあ、取り合えずモンスターをある程度倒してほしいらしい。

報酬も中々良い。

 

「よし、これを受けよう」

 

「ですね、頑張りましょう!」

 

「ハハハ、張り切りすぎないようにな」

 

ルウィーの外を出た周辺か。

こりゃ、怖くて外も出られないわな。

 

よぅし、やってやりますかね。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「確かに、多いな」

 

「ですね……」

 

ここら辺だけでなくルウィー国際展示場とかブロックダンジョンで見られるモンスターもいるな。

赤蜥蜴は生態系にもダメージを与えるのか……

もう(害悪は)アイツ一匹でいいんじゃないかな。

 

死ねぇ!(建前)死ねぇ!(本音)

 

俺とネプギアはそれぞれの得物を構え、モンスターに先制攻撃した。

もちろん僕は先制攻撃するで、拳で!

 

「ふん!」

 

「──!?」

 

見事俺の拳は狼野郎の横腹を捉えクリーンヒット!

混乱する狼もといフェンリルに更にもう一撃!

 

「インストール、『怪力』!オラァ!」

 

「──!」

 

「これで、トドメです!」

 

体に強力な一撃を見舞われたフェンリルは体勢を崩し、そこにネプギアの鋭い剣による攻撃によりフェンリルは呆気なく倒された。

 

先手必勝とはまさにこの事。

絶対に勝てるかは分からないが、戦いが有利に進むのは間違いない。

 

「まず一体」

 

「はい、このままやりましょう!」

 

「ああ、油断せず確実にいこう」

 

そこからはネプギアは女神化してパープルシスターとなって戦った。

というか、普通に強いもんでサポートとかしか出来なかった。泣きそう。

 

ま、まあ?俺はゲームなら万能キャラだから?

今回はサポートをしたってだけでね?

 

勝ったと思うなよ……(もう勝負ついてるから)

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

今更ながら、MPBLはどんな構造なんだろう。

そう思い始めてるワラキーです。

 

うん、何はともあれ、その辺のモンスターはある程度倒した。

クエストの内容的に十分だろう。

大勢の住民からの依頼だったようなのでシェアも少しは回復するだろう。やったぜ(達成感)

 

「お疲れさん、いい連携だったな」

 

「はい!相棒ですから!」

 

やだなにこの娘凄く可愛い(今更)

 

笑顔でいうネプギアに俺は自然と頭を撫でていた。

 

「えへへ……」

 

「っ……!っっ……!!」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや……尊いなぁって」

 

「?」

 

尊くて尊死しそうになるが死徒パワーで耐えきる。

タタリは不滅なんで尊さでは死にません。

 

まだ85%しか機体にダメージが入ってないじゃないか!

 

「そういえば、さっきのがオーフィスちゃんのお陰で新しくなったタタリですか?ルウィー防衛の時も使ってましたね」

 

「ああ、タタリで再現できる一部だけを俺の体に能力として扱うことができる……といっても本当にごく一部だけだ。教授の獣を身に宿すこととかは出来ない」

 

「それでも、扱いやすくなりました!柔軟に対応できるようになったわけですから」

 

「まあ、そうだな。うーむ、なら問題はないか……」

 

「そうですよ。それにオーフィスちゃんから貰った力なのに文句なんて言ったら駄目ですよ!」

 

言われてみればそうだ。

俺はなんてことを……その身で償う他ないというのか……一体何で償えば─「恋人になっt」─帰ってからなんか奢ろうそうしよう。俺はなにも聞かなかった。

 

「それもそうだ。取り合えず、クエストは終わったし戻るとしよう」

 

「はい」

 

会話を打ち切り、俺達はギルドへと向かう。

なんか進展があるといいけどなぁ……

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

ギルドへ戻り、クエスト達成の報告をして報告を受け取った後俺たちは教会へと戻った。

傭兵なんだ、何があるかわからんからな……身の丈に合った依頼を受けないと死ぬぜ。

 

まあ、冗談は置いておくとして……

現在は少し休憩したいので二人して座ってる。

 

「クエスト、無事に終わってよかったですね」

 

「そうだな、何もないのが一番だって改めて感じるよ。さて、皆の様子でも確かめますか」

 

「そうですね、リーンボックスについても何か分かったかもしれませんし……」

 

「俺はラステイションが心配だけどなぁ」

 

「ユニちゃんやケイさんがですか?」

 

「ケイは……まあ、そこまで心配はしてない」

 

あの腹黒の事だ。

心配しなくても何とかするだろう。

 

「ユニが少し心配だ」

 

「そう、ですね……一人ですから……」

 

「まあでも、意外と普通にやっててツンツンしてるんじゃないか?」

 

「それも……あり得るかも?」

 

ツンデレ候補生だし、あり得ますな。

あ、ならそんな心配要らないな!(何故)

 

そうと決まればさっさと、ミナさんの所へ行くか。

 

アイエフたちも戻ってるだろう。

買い物だけで時間を掛ける性格してないだろ、アイエフも。

 

教祖の部屋の前まで来た俺とネプギア。

取り合えずノック。どうぞ、と聞こえたので失礼しますと言ってから入る。

普通だね、でも普通のことしない奴っているよね。

 

「ズェピアさんとネプギアさんでしたか、もうクエストを終えたのですね」

 

「ええ、それでリーンボックスの方との連絡は?」

 

「あちらの教祖とは話をしておきました。

現在、リーンボックスは治安があまり良くない様子……取り合えず皆さんの事は伝えておきました」

 

「ゲイムキャラについては……」

 

「すいません、そこまでは教えられないと……皆さん自身がリーンボックスの教会まで来れば話すとのことです」

 

「まあ、当然か……」

 

「ズェピアさん、そのっ」

 

「落ち着けって。急いでも仕方ないだろ?

ルウィーのゲイムキャラから力を貰ってないんだしさ」

 

「……そうですね、こういう時こそしっかりしないと」

 

「そうそう」

ラステイションにすぐに向かいたいのは分かるけど、焦っても仕方ない。

ちゃんと準備を整えておかないとな。

 

「では、お願いします」

 

「はい、お任せください。明日の列車の手配が済み次第、お知らせします」

 

「ありがとうございます!」

 

「それじゃあ、俺たちは少し休んでます」

 

「はい。……あ、そういえばカオスさんが……」

 

「放っておいて平気ですよ」

 

「……そうですか」

 

「では」

 

会話をやめて部屋を出た。

アイエフたちはまだ帰ってきてないのか?

珍しいこともあるもんだ。

そう長く一緒にいる訳じゃないけど買い物に時間掛ける奴ではなかった筈だし……

んー……まあ、待ってみますかね。

 

ネプギアに休んでていいと伝えたら自分も残ると言うので二人で待つことにした。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「ふーん……」

 

「ず、ズェピアさん」

 

どうも、ワラキーです。

今ちょっと審議中です。

アイエフたち待ってたんじゃないのかって?

来ましたよ?妙にいい笑顔のアイエフと困ったような顔の日本一とコンパは困り顔でね。

 

気になったので内容を聞いたんですよ。

そしたらね

 

『新しい携帯を買ったわ!』

 

アイエフぅぅぅぅ!!

 

「貴様ァァァァァ!!」

「わ、悪かったわよ!そりゃ、こんな時に呑気に携帯買ってる場合じゃないかもしれないけど……」

 

「羨ましいぃ!何で俺を誘わなかった!」

 

「えっ」

 

「えっじゃない!アイエフが好きなもんに走るなら俺だって走ってもいいじゃんかよぉ!」

 

(ズェピアさんはいつも変な方向に走ってると思います……)

 

(エルエル、元気ですぅ)

 

(いつものズェピアで安心ね)

 

「携帯については?」

 

「別にいいじゃん、そんな何個も持ち歩く位の携帯フェチなんだから咎めるのは悪いだろ?ほら、人の性癖に何か言うのは違うグボッホァ!?」

 

鳩尾一発、膝二発……馬鹿な、見えなかった?

俺の目が捉えられないほどのパワーとスピードだと……化け物がァ!

 

膝から崩れ落ちる俺にアイエフは冷たい目をして見下ろしていた。

 

「悪いかなと思ってたら、そんなこと考えてたのね…」

 

「ぐぉぉ……アイエフ、お前……!」

 

「やっぱり、アンタには果ててもらうわ。理由は分かるわよね?」

 

「じょ、冗談じゃ……」

 

 

 

 

 

「ギャアァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

とまあ、そんなこんなで翌日の朝。

列車の手配ができたとミナさんから昨日聞いた俺たちはロムとラム、そしてミナさんと一緒にルウィーの駅まで来ている。

 

え?昨日の茶番?

いや、痛かった。レベルがツッコミとかの時だけ上限突破してるのは流石というか何というか。

 

アイエフから携帯取ったらどうなるかなとか思ってたら恐ろしい笑顔を向けられてたし、触れちゃいけない項目に新たな一頁が刻まれたな。

後、死にかけの教授がラムに引き摺られてた。

 

ルウィーのゲイムキャラにはもう会いに行って力を授けて貰った。

 

『どうか、ゲイムギョウ界を救ってください』

 

そう言って、大事な力を俺達に授けてくれたのだ。

期待に応えるしかないな。

 

「皆頑張ってね」

 

「うん、ルウィーも頑張ってね」

 

「そっちも無理はしないように」

「バカネコ、変なことしたら駄目だからね!」

 

「我輩が何をしたというのだ……」

 

「あ、来たですよ!」

 

話しているうちに来たようだ。

これに乗ってラステイションに戻る。

その前に、暫しの別れだからな、しっかりと挨拶するか。

 

「ロム、ラム。お姉さんの大好きなルウィーを守ってやるんだぞ。戻ってきたとき、二人に託せるって思わせる位にな」

 

「うん……頑張る」

 

「そんなの当たり前なんだから!」

 

「ハハハ、頼もしい限りだ!」

 

「ズェピアさん、ネプギアさん、皆さんも……どうかご無事で」

 

「はい、ミナさんもありがとうございました!」

 

「ええ。……さて、もう少し話したいかもしれないけど、そろそろ乗るわよ」

 

「そうですね、早くラステイションに向かわないとです」

 

「次はリーンボックスに向けて全速☆前進よ!」

 

「ふぅん……では、また!」

 

「お世話になりました!」

 

そうして、皆列車へと乗った。

窓を覗くとロムとラムが笑顔で大きく手を振っていた。

ミナさんは微笑んで小さく手を振っていた。

 

うん、ルウィーは守れた。

ゲイムキャラの協力も得られた。

 

最高の結果じゃないか。

 

俺もまた三人に向けて手を振る。

 

「……ルウィーが遠くなっていきますね」

 

「なに、また来れるさ。それまで楽しみにしてようじゃないか」

 

「アンタにしては良いこと言うわね」

 

「名言の塊の俺への挑戦状か……受けてたとう、ただしデュエルでな」

 

「褒めてんだから素直に受けとれっ!」

 

「たわばっ!?アイエフぅ……!貴様、人を叩くなんてそれでもデュエリストか!?」

 

「リアリストよ」

 

「やっぱりアイちゃんとエルエルは仲が良いです」

 

「名コンビって感じ?」

 

「はぁ!?私じゃなくてネプギアでしょ!」

 

「わ、私ですか?」

 

「そうよ、私よりネプギアの方がこのバカを制御できるんだから」

 

「ホントかなぁ?(ゴロリ)」

 

君のツッコミに何度この身が悲鳴をあげたか知らないのか?ふっ、バカめ。

アイエフのツッコミ相手に生き残ってきた俺だ。

ネプギアの説得で沈む訳がない!

 

「ズェピアさん、あまりふざけないようにしましょう?」

 

「はい……」

 

無理でした。

その目は良くない。その上目遣いやめよ?

何か、心にクる。

 

ふぅ……落ち着いた。

そんなわけで、向かうはリーンボックス。

ついでにラステイション経由だからユニとケイの様子を見ていく。

 

目的、確認完了。

 

「よし、楽しんでいこうじゃないか」

 

「楽しめる状況じゃないけどね」

 

「分かっておらんなぁウォールガール。

そういう状況だからこそ笑うもの……つまり、苦しい顔してても仕方無いからゲラゲラ笑ってようぜって訳よ」

 

「……クソネコの言うことに同意するのはイラッと来るけど、一理あるわね」

 

「ま、気負いすぎても仕方ないじゃん?

笑って誤魔化して、何とかなりゃよしさ」

 

「ですね……」

 

「ヒーローはピンチな時ほど笑うっていうし、納得ね!」

 

「そうそう」

 

窓を眺める。

変わる景色を目に焼き付ける。

 

マジェコンヌの支配なんてされたらゲイムギョウ界はどうなるんだろう。

きっと、ろくでもないものだろう。

何せ、くそ蜥蜴もいるんだしな。

 

アイツという秩序によって構成される世界……

 

「……させないさ、絶対に」

 

俺達が、何とかするんだ。

 

さあ、目指すはリーンボックスだ。



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監督気取り、緑の大地へ 3

どうも、ロザミアです。
ポケモン楽しくて投稿が遅れました。

虫ポケモンはいいぞぉジョージぃ…




ラステイションについた俺達はすぐに教会に向かった。

リーンボックスにはすぐ行きたいもんだが、ケイやユニには会いたいからな。

それに、個人的にもケイとは話したいことがある。

 

オイッス!(古風挨拶)

俺だよ、ワラキーだよ。

 

ラステイションの活気は前よりは良くなってたしユニは頑張ってるようだ。

良いことだ、人の活気は自然と頬が緩む。

 

人間の活気がもどってきたねぇ!

そうだ!それでいい!(ハイテンション)

 

自然と笑みが浮かんだ。

ふと気付くと、隣を歩いてるネプギアが微笑んでこちらを見ていた。

 

「どうした?」

 

「いえ、何だか嬉しそうだなって」

 

「そう見えるか?」

 

「はい、とても」

 

「分かりやすいってことか。まあ……そうだな、人間はいい。特に、前進する人間は大好きだ」

 

「前進……今のラステイションの人達みたいな?」

 

「そう。停滞は誰でもできることだ、人も人外も停滞はいつでも選べる。けど、その停滞から前進するのはとても難しいことなんだ」

 

「止まることは……悪いことなんでしょうか?」

 

ネプギアの問いに俺は首を横に振る。

 

「進むだけが人じゃないのは百も承知だ。だから、止まるのは大事なことだ。後ろを振り向くのだっていい。

本当に重要なのは、そこから自分なりの答えをどう決めて歩き始めるかだ」

 

「私も、出来ますか?」

 

「出来る。だから、必死にならずゆっくりと着実に見つけるといい、使命じゃなく自分の『答え』を」

 

「……はい!」

 

ゲームとかでも何でもそうだけど、自分の答えってのを持っている。

決まったら、後は進むだけ。

見つけるのが大変なんだ。

 

「アンタ、本当に変なときに大人っぽいわよね」

 

「黙っててくれたのはありがたいけど、いきなりそれは酷くないっすかねアイエフさん……」

 

「でも、エルエルは深いことを言ってたです」

 

「答え、かぁ……私のマジェコンヌを倒してゲイムギョウ界の平和を取り戻すっていうのも答えで良いのかな?」

 

「自分で決めた事なら、答えなんじゃないか?

成就しろよ、己の答えに」

 

「何となくだけど、それは何かの名言かなにかでしょ?」

 

「何故バレたし……」

 

「何となくだって、女の勘?」

 

「あー……納得したよ」

 

「ソウルフレンドよ、心当たりがありまくりと見える」

 

「教授が言えた口か?」

 

「むむむ……」

 

「何がむむむだ!」

 

女の勘は侮れない。

というより、勘ってのは案外当たるものだ。

それも重要なのは特に。

 

フリージアやオーフィスなんてそういった勘は鋭かった。

時として当ててほしくないことも言うもんだから困ったりもしたな。

 

「そうこう話してたら着いたわね」

 

「ユニが居るといいんだがな」

 

「クエストに行ってるかもしれませんね。取り合えず、入ってみましょう」

 

「そうね」

 

「元気だと良いです」

 

「元気だろ。吹っ切れたアイツが早々と心が折れるとは思えないしな」

 

「じゃ、我輩はネットの波でサーフィンしてくるから……」

 

「逃げられると思うな!」

 

「最近我輩への当たりが強いなマイフレンド!?」

 

「まあ、いいじゃん。普段は俺の財布をネタにいじってくるし」

 

「根に持ってたとは我輩の脳細胞を以てしてもわからなんだ」

 

「そりゃ、持ってます。バリ持ってます。という訳でお邪魔しますよ~!」

 

「エルエル、家族には容赦ないです……」

 

「多分あれネコにだけだと思うわよ」

 

騒ぐ教授を無視して俺達は教会に入る。

 

中はいつも通り。

ただ、誰かがこちらに来る。

 

「やあ、早かったね」

 

「ケイさん!」

 

まあ、ケイだよな。

教会じゃユニかケイ位しか俺達に近寄ってこないだろ、ここだと。いや、他にもいるかもだけど……

前と変わらず元気そうで何より。

 

「リーンボックスに向かいたいんだね」

 

「ミナさんから連絡は来てたか。それで、すぐに出れるか?」

 

「いや、少し時間がかかる。マジェコンヌの影響が減ったのはつい最近でね、復旧とかもあるんだ」

 

「なるほどな……」

 

「ユニちゃんは?」

 

「ユニなら、クエストに行ってるかな。もう少しで戻ってくるとは思うけどね」

 

「そうですか……」

 

……今はまだいいか。

区切りがついてからにしよう。

リーンボックスもそうだがプラネテューヌも心配だ。

 

「なら、しばらく待つとしよう。頼めるか?」

 

「それくらいなら構わないよ」

 

「なんだ、特に見返りとか求めないのね」

 

「僕がどう思われてるか分かったよ。ゲイムギョウ界を駆けずり回ってるのはそっちだからね。これくらいはさせてもらいたい」

 

「アイエフ……」

 

「う、悪かったわよ……」

 

分からんでもないが口にしちゃいけんだろ。

まあ、アイエフも反省してるし、ケイも気にしてなさそうだからいいとしよう。

 

「待ってるつもりかい?」

 

「最近働き通しなんだ、休ませてくれ」

 

「そうかい、ならゆっくりと休むと良い」

 

「ありがとうございます!」

 

「となると、本当に暇な時間ね……」

 

「休んでる間にも悪に困っている人がいるかもしれないわ……」

 

「いや、ラステイションの今の状況を見るに、マジェコンヌの影響は徐々に無くなってきているようだぞ」

 

「そうなの?なら、ヒーローも休暇ね」

 

「道具もルウィーで買っちゃいましたし…各自自由行動です?」

 

「そうだよ(肯定)」

 

「我輩は?」

 

「そりゃお前、俺と一緒よ」

 

当たり前だよなぁ?(家族大好き)

俺としては教授としっかり話もしたいわけでね。

ネプギア達ともいいんだけどさ、やっぱり家族との時間を過ごすのも好きなわけで。

 

「いやいや、そこはお主、他にいるじゃにゃいのよ?

メカヲタとか、ツッコミ少女とか、メロン少女とか……」

 

「……え、なに?居たくないの?」

 

「何故急に寂しそうになるのだ……まあ、マイフレンドが家族団欒(猫)をしたいのであれば仕方無し」

 

「おお、流石は教授。俺達はズッ友だからな!」

 

「うわ古……というわけで、久し振りに家族水入らずで話したいのである」

 

「そういう時間は大事ですから、お気になさらず!」

「ま、たまにはあっちについて話しておいたら?

私たちは何かで暇潰してるから」

 

「そーです!あ、猫さんがたばこ吸わないように見ておくですよ!」

 

「了解、そういうわけで一服なしな」

 

「人でなしか貴様らはっ!」

 

「人間だよぉ?昔はねぇ!」

 

とりあえず、会話を打ち切って教授と部屋に引きこもる事にした。

た、たまには……変身の反動以外でゆっくりしてええやろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、話がしたいのだろう?」

 

「ああ、真面目モードで安心するよ」

 

部屋で二人を向かい合って座る。

ネコ状態だけど教授はちゃんと雰囲気は彼のままだった。

困ったことに、見た目で台無しだけど。

 

「ぶっちゃけ、この状況をどう見る?」

 

「ふむ、情を無くして言うのなら協力などやめて襲撃なりなんなりして技術を手に入れて無理矢理にでも戻るのが一番なのだがな。貴様はそれを望まぬだろう?」

 

「当たり前だろ、冗談でもやめてくれそんなこと。

家族じゃないけど皆大切な仲間だ……出来ることなら最後まで付き合いたい」

 

「仲間か……家族以外の者に鈍いのは何故なのか……」

 

「?」

 

「いいや、何でもない。ならば、このまま協力することだ。現状はいい方向へと進んでいる。このまま四つの国を協力関係へと導ければ帰還手段も手に入るだろう。

もちろん、マジェコンヌを壊滅させる方法もな」

 

「近道はなしか……」

 

「ミハイルもグレートレッドもそうだが、マジェコンヌの組織自体を倒さねば戦力差も厳しい。地道にやるしかあるまいよ」

 

「うへぇ……でもいいのか?ロアは教授からすれば盟友だろう?」

 

教授はそれにフッと笑う。

 

「確かに、ミハイルは創生の土を共に作り上げた盟友だ。だが、我々は死徒……ならばその在り方に従うまでのこと」

 

「割り切ってるな」

 

「何分、魔術師あがりなものでね」

 

「俺もそう出来れば楽だったのかなぁ……」

 

「戯けめ。貴様の『今』はその性格、行動によるもの。誇りに思うことはあれど貶すことなどあるまい」

 

「ハハ、手厳しい……そうだな、それが俺だ。

んじゃ、リーンボックスもこの調子でささっと助けてやろうぜ?ネプテューヌたちとも話してみたいしな!」

 

「まあ、私はお前に従うだけだ、創造主」

 

「家族だし、友だろ?」

 

「言葉にせねば分からぬか?」

 

「まあまあ。ていうかさ、教授は何だかんだで面倒見いいよなぁ。何で皆にはそう振る舞わないのさ」

 

気になってたことを聞いてみる。

教授は珍しく唸る。

 

「……それがだな。この姿に引っ張られているのか知らぬが、どうにも皆の前ではふざけていないといられない性質らしい」

 

「あー……まあ、うん」

 

「私のことはいいだろう。問題は貴様が帰還しないと何名かうるさい事この上無い!さっさと終わらせねば…大体貴様はフリージアという娘がいながら父親としての自覚が無さすぎるのだ。一度しっかりと結婚でもすれば見方も変わるかもしれん、しろ」

 

「いや、何でよ。そういうのやめようよ。俺なんて良いとこ『あーいい話し相手だなぁ』程度にしか見られないって。今だって皆から『ふざけてるけど頼れるな~』って感じだしさ。見て分かんないかなぁ……」

 

「おい、そこまでにしておけ。死にたくなければな」

 

「ぶ、物騒な……」

 

「ふん、もう少しオーフィスの言葉を考えることだな」

 

「ぐぬ、痛いところを突きよる……」

 

くそ、ネタキャラムーヴしてないときの教授はやっぱり辛口だった。

 

というか、教授の言うとおりだ。

どうしたもんかな。

しっかり女の子の気持ちを考えること、か。

オーフィスとかは家族だから分かるけどなぁ。

家族には敏感なのよな、俺。

 

「頑張るよ、そこは」

 

「……まあ、そこは私がとやかく言うことではあるまい。では、我輩は散歩に行くのである」

 

「ええ……落ち着きが足りません」

 

「猫だからな。さらばだ」

 

そこまで猫にならんでも……

というか、あんた猫じゃないだろナマモノだろ。

履き違えてはならない(戒め)

 

教授はそう言って部屋から出ていった。

 

一人になってしまった。

どうしたものか。

部屋を出て誰かいないか探してみようか。

 

「よし」

 

思い立ったら即行動。

部屋を出て、誰かいないかと歩く。

 

「ん、あれは……」

 

あそこで突っ立って携帯使ってるのはアイエフさん、アイエフさんじゃないか!

 

「おーい、アイエフ」

 

「あら、あのネコは?」

 

「話終わったから散歩だとさ」

 

「自由ね……それで、あんたは何してるのよ」

 

「暇なんで、誰かいないかと探してたんだ。アイエフこそ、コンパやネプギアと居ないで何してたんだ?」

 

「ちょっと今までの事を纏めてたのよ。イストワール様にもそろそろ報告しなきゃいけないし。勿論、アンタの無茶も書いてるわ」

 

「おいぃ……」

 

「自業自得ね。これに懲りたら……やめないか」

 

「よく分かってるじゃないか」

 

「まったくこの男は……」

 

そんな呆れの混じったため息つかれましてもね。

仕方無い、体が動いちゃったんだぜ。

 

「プラネテューヌは無事なのか?」

 

「まだね。ネプギアの存在が皆を元気付けてるのよ」

 

「そうか……俺達は支えになれてるのかね~」

 

「それはネプギアにしか分からないことよ。ただ、あの子が笑ってるならなれてるんじゃないの?」

 

「なるほど、そういう感じか」

 

「私も聞きたいんだけど、私たちはアンタの支えになれてる?」

 

「へ?」

 

「へ、じゃないでしょ」

 

再度呆れの混じったため息をつき、アイエフは話を続ける。

 

「結局私たちの都合に付き合わせちゃってるだけでアンタの帰るための道は見つかってない。口で大丈夫って言っても本当は……なんて考えちゃうのよ。だから、聞かせて。私たちは本当にアンタの支えになれてるの?」

 

「……」

 

真面目な雰囲気だ。

アイエフはアイエフで悩んでたのか。

それもそうか、アイエフはパーティーのまとめ役だからな。

 

責任を感じてるのか……

 

「なれてるよ。というか、アイエフたちがいなきゃ俺はどうすることも出来なかっただろうな」

 

「嘘つくならマトモな嘘にしなさいよ」

 

「嘘じゃないさ。いいか、アイエフ…俺はメンタル強くないんだよ。もっと言うと実力なんてない」

 

「『死徒化』とか持っておいて?」

 

「正確には俺の力じゃないからな。結局は借り物さ」

 

俺はズェピア・エルトナムには、ワラキアの夜にはなれない。

あの世界でハッキリと理解した。

だから、俺はズェピアであってズェピアではない。

姿と力が似てるだけの誰かにしかなれない。

 

借り物でしか自分の強さを保てない。

 

「俺は自分じゃなにも出来ない馬鹿なんだよ。誰かが一緒に居てくれて初めて頑張れる。そんな弱い奴なんだよ」

 

「…良くわからない部分もあるけど、やっぱりアンタは弱くないわ」

 

「あれぇ?そこはそうなのかもねとか言う感じでしょ?」

 

「どんな感じよ…そうやって自分の弱さを知ってる人は強いのよ。どうすればその弱さを無くすか、隠せるかを知ってるから…アンタは隠す方を選んだ。自分の弱さを見せたくないから」

 

「心読めるんじゃないか?」

 

「要らないわよそんなの。いい?アンタは弱くない。辛くても足を止めることを選ばないアンタは強いのよ」

 

「アイエフ…」

 

微笑んでそう言うアイエフ。

弱くない、か。

 

「それに誰かが居ないと頑張れないなんて普通じゃない。良かったわ、アンタにも普通なところがあって。馬鹿なところは認めるけどね」

 

「そこは否定してほしかったです…」

 

相変わらず手厳しいアイエフに安心する。

もう困ったらアイエフに相談しようかな。

お悩み相談所ですね。

 

「ま、私も気になってたのが分かってよかったわ」

 

「悪いな」

 

「いいのよ。それより、コンパとか日本一とも話したりしなさいよね」

 

「え、してると思うけど?」

 

「こんな会話はあまりしないでしょ?コンパにこの手の話はあまり出来ないと思うけど、なんか話題見つけて話しなさい」

 

「お、おう」

 

そうか、そういえばコンパとはあまり話してないな。

天然といえば変なの思い出すからだろうか。

それとも戦闘時の注射器が怖いからだろうか!ないな。

まあ、そうだな…何かいい話題見つけて話すかな。

 

それからしばらく、俺はアイエフと新技の名前について話し合った。

アイエフさん中二過ぎぃ!




何だかんだで一般人な部分もあるワラキーパッパ。

それでは次回予告

やめて!このままだとワラキーがリーンボックスで捕まっちゃう!アンタが捕まれば、誰があの蜥蜴を倒すの!釈明の余地は残ってる!これを乗りきればネプギアたちと旅が続けられるんだから!次回、『監督気取り、死す』
デュエルスタンバイ!


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監督気取り、大ピンチ!?

どうも、中指があらぬ方向へ曲がって死にかけたロザミアです。
死ぬかと思いました、色々と。

まあ、不幸話はさておいて、どうぞ。


各々の自由行動も終わりを告げる。

ユニが帰ってきたようだ。

久しぶりに会った気がするが、それほど経ってないので濃厚な時間を過ごしてたんだなとしみじみ思う。

 

「何か待たせちゃってたみたいね」

 

「顔を見ておこうかなって思っただけだから気にすることないぞ。元気か?」

 

「元気じゃなきゃクエスト行ったりしないわよ」

 

「それもそうかぁ」

 

「そっちも元気そうね。それで、今度はリーンボックスに行くの?」

 

「そうそう。んで、時間がかかるそうだからユニに挨拶でもしようかなって」

 

「なるほどね…ネプギアたちは?」

 

「出掛けてるよ。まあ、もうすぐ戻ってくると思うけどな」

 

「そう…」

 

「早く会いたいか?」

 

「…まあ、ライバルだから、様子くらい知りたいわよ」

 

「ツンデレいただきましたぁグボォ!」

 

みぞおちっ…!

無言での鳩尾パンチはノーガードな俺にクリーンヒット。

その場で蹲るが、何とか立ち上がる。

 

「な、ナイスツッコミ…」

 

「やっぱり真面目な態度に期待しちゃダメね」

 

「無情…あまりにも無情っ…!」

 

「アンタが悪いでしょ、アンタが。ユニ、代わりにありがと」

 

「いや、殆ど反射的だったし…それ言ったらアイエフは既に構えてたし…何か前より洗練されてない?」

 

「ルウィーで学んだわ…こいつの馬鹿さをね。だからそれに対応するために迅速な行動が必要になる…自然と洗練されるわ」

 

「何かごめんって感情と反射神経のトレーニングにされてることへの複雑な感情がない交ぜになってるんだけど!」

 

「「じゃあボケるな」」

 

「死ねと?」

 

「重症ね」

 

「ねぷ子が戻ってきたらボケが二人…」

 

嘆くアイエフは後でコンパに投げておこう。

それより、アイツらはいつになったら戻ってくるんだ。

日本一もいつの間にか居なくなってたし。

 

俺がボケで時間を稼ぐのにも限度が…え?やんなくていい?

ワラキー節をそろそろ見せろ?

じ、事件が起きたら出すかもね…

ワラキー的に本末転倒なことを考えていると教会の扉が開く。

 

「来たか」

 

「ユニちゃん!」

 

「ネプギア!」

 

ネプギアがユニの姿を確認した瞬間、嬉しそうに駆けてくる。

ユニも嬉しそうである…デレですね。

後ろにはコンパと日本一がいた。

荷物を持ってるところを見るに買い物でもしてたか。

 

「あれから大丈夫?怪我とかしてない?」

 

「平気よ。まだまだ安心できない状況だけどね」

 

「ネプギア、何してたんだ?」

 

「えっと、ちょっとだけ部品を…」

 

「部品?」

 

「はい、Nギアの機能を増やそうかなって思って!」

 

「なるほどな、となると、俺のとかも?」

 

「はい!まだ時間があるなら今のうちにやろうと思ってます」

 

「…えらいなぁネプギアは…」

 

頑張る姿勢にとても感動した俺はネプギアの頭を撫でる。

何か、あれだ。

感動するよ…俺、昔からこういう頑張る系に弱いんだよね。

 

「えへへ…」

 

「ところで、どんな機能をつけるのよ」

 

「それ、気になるわね」

 

「Nギアからビームが出るとか!」

 

「隠し武器ということか…日本一、眼の付け所が違うぜ…」

 

「あ、違いますよ」

 

「「ガーン…!」」

 

俺たちの夢は儚く砕け散った。

無情、あまりにも無情。

期待とはこのようなもの。刹那の内に消えていくものなのだ…

 

「相当ショックデカイわね…で、答えは?」

 

「通信機能の強化です。今までのはあまり遠くにいると連絡が出来なかったので今のうちにと」

 

「なるほど、流石だなネプギア」

 

「これからも何があるか分かりませんから!」

 

「備えあれば憂いなし、リーンボックスの治安がどれだけ悪くなってるか分からないからやれることはしておいた方がいいものね」

 

「やれることかぁ。俺も魔法使えた方がいいかね?」

 

「ルウィーの時に習うべきだったわね」

 

「くそぅ…攻撃呪文…!」

 

落ち込むのもここまでにしておいて…真面目に考えよう。 

ここは一つ、ワラキアに聞いてみますか。

 

─魔法、どうなん?

 

『私に聞くことでもないだろう。君があの世界で習得した物は私の力ではない、君の力だろうに』

 

─この世界でも使えるのか?

 

『流石にそこまでの強制力をこの世界は有してはいないだろう。君の魔力量ならば今まで通り使えるとも。…まあ、タタリと一緒に使うなら配分は考えたまえ』

 

詰まる所、今まで通り使えるそうだ。

今まで何してたんだろう、俺。

 

ま、まあ…大事に至るまえに気付けたのでよいではないか。

最近抜けてますよ、監督。

 

ん~、試してみるか。

 

「アイエフ」

 

「なに?」

 

「今から転移するから、適当に場所指定してみ?」

 

「は?転移?突然言われても…リピートリゾート、とか?」

 

「よし、リピートリゾートだな?」

 

「ちょっと、どこまでボケる気?冗談もそこまでに──」

 

ちょっとそれっぽく指を鳴らしてみる。

前はさっさとしてたから面白味に欠けてたし、こうした方が洒落てるかも?

 

一瞬の浮遊感と共に俺達は教会から姿を消す。

 

 

 

─それと同時に、リピートリゾートへと転移する。

うむ、感覚は前と同じ。

消費量的にも問題なし、と。

 

「うーん、何故便利なのを忘れてたのか…」

 

「ちょ、ちょ…」

 

「ふ、ふわっとしたですぅ…」

 

「凄いです、ズェピアさん!」

 

一応、こういったダンジョンを脱出する道具はあるけど、あれはダンジョン限定だ。

どうしようもないときとかに撤退手段として使えるから忘れてちゃ駄目だったのになぁ…

 

ため息をはいた後、困ったように微笑んだアイエフが目に映る。アカン、怒らせたか?

 

「…とりあえず、魔法は使えるってことね?」

 

「攻撃面の魔法はないけど、サポートは出来る筈だ」

 

「そう…ふぅ、アンタには驚かされてばっかりだけど、最近じゃ見方も変わるわね。アンタなら出来るんじゃって」

 

「クックック、俺も主人公であるからして」

 

大丈夫だった。

そうだよな、出来たからってツッコミ来ないよな。

よかったぁ…

 

「調子に乗らない。で、帰れるんでしょうね?」

 

「問題ナッシング。一度行ったことがある場所なら行ける。

…あれ、ユニ?大丈夫か?」

 

「…えっ?」

 

上の空なユニに話しかけると驚いたようにこちらを見る。

どうしたんだろうか。

何か負荷でもかかったか?

 

「転移で体が変になったか?」

 

「あ、ううん!大丈夫よ!…アタシは、大丈夫」

 

「そうか。なら、戻るぞ」

 

「そうしてちょうだい。ここから歩いて帰るのは面倒だもの」

 

「あいあいキャプテン」

 

座標とかは…問題なし。

じゃあ、戻りますか。

 

俺はもう一度指を鳴らす。

え、無駄行動?

無駄の中にも意味はあるんだよ。

 

再び浮遊感が来るが、気にせずに。

見える景色が海から教会の慌ただしい様子へと変わった。

 

「戻ってこれたっす」

 

「ややこしくなるから語尾つけないの」

 

「うぃー」

 

「ねぇ、ズェピア」

 

「ユニか、何だ?」

 

話し掛けてきたユニの様子はどこか焦りのようなものが見受けられた。

危うさがある焦りようだ。

躓いたら起き上がれなくなるような。そんな危うさ。

 

 

 

「─ちょっとだけ話したいことがあるの」

 

「…分かった」

 

「…?」

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

ユニの話に付き合うことにした俺は二人きりの方が話しやすいかと思い、教会を出て、少し歩いた先にあったベンチに座る。

ここは、前にユニの悩みを聞いたときの場所か。

 

「それで、話って?」

 

「…強くなるって、難しいのね」

 

「成長を感じられないか?」

 

俺の問いに小さく頷く。

 

「強くなろうと闇雲になるのはもうやめたわ。それじゃ強くなれないって気づかされたから…積み重ねるようにゆっくり強くなろうとした。でも…少しでも強くなれたのか実感が沸かないの。何が向上したのか分からないの」

 

「…」

 

「ネプギアたちが来たとき、嬉しかったわ。無事かどうか心配だったところもあるから。でも、分かっちゃったの。

ネプギアがアタシよりもどんどん先へと進んでるって」

 

「……」

 

「妬みとかじゃないの。ネプギアが強いのは知ってるもの。

でも…置いていかれてる感じがして、悔しくて…」

 

「……難しい悩みだな、それは」

 

本当に難しい悩みだ。

俺には、答えを出すことはできない。

俺は借り物の力ありきでの強さなのに。

いいこと言ったって道化にしかならない。

 

俺の力なんて、無いようなものだから。

だが、放っておけるかよ。

 

「難しい悩みだよなぁ………あっ」

 

あった。

そんなときが。

 

生前の俺が。

 

「俺も、ひたむきに頑張ってたときがあった」

 

「人間だったときの話?」

 

「そうだな…夢に向かって、ひたすら走ったときがあったよ。でも、俺は駄目だったんだ。」

 

大学で、それを学んで。

さらにその先へと行けると夢想してた。

でも、それは夢に過ぎなかった。

 

分かりやすく言うと、俺には才能はなかった。

夢を見て、夢を諦めることしか出来なかった。

 

「俺のしてきたことは何だったんだろうなって…挫折したときは思ったよ。普通の会社に就いて働いてるときもそう。

ゲームや漫画に逃げ出してるときも、そうだった」

 

「…あんたも、そんなときあったんだ」

 

「そんな時しか無かったよ、人の頃は。夢を掴める存在なんて一握りだと信じてしまったんだ。そんなことはないのに…けどな、その時の後悔や辛さが役に立つときだってあったんだ」

 

「後悔や、辛さが…?」

 

「ああ。夢を諦めた後悔が、見てきた夢を捨てる辛さが。

逆に、今の夢を諦めない…捨てないって気持ちに力をくれるんだよ」

 

「…」

 

「だからユニ…諦めちゃ駄目だ。

だって後悔を味わって、辛さを味わったじゃないか。

それを力に変えて頑張るしかない…大丈夫、お前の頑張りは報われる。俺が保証する」

 

「…もし、報われなかったら?後悔しか残らなかったら?」

 

不安そうに俺を見つめる。

その時は…そうだな。

 

「また、次に繋げればいいさ。どんなに絶望的な状況でも出来ることってのはあるもんだ。

結局は、人生なんて誰だって後悔だらけなのかもな。

だが、それの何が悪い?

どれだけ後悔しても、最後は負けなきゃいい。他人に、自分に負けないものを見つけたら今までの後悔は拭える…そう思うよ、俺は」

 

「負けないものを、見つける…アタシだけの」

 

そう言ってから、ユニはしばらく考え込む。

…道化だな、俺も。

言葉を並べ立ててばかりで…俺自身はこんなばっかだ。

 

そうして、悩みが晴れたのか立ち上がって俺の方へ体を向ける。

 

「そうね、あんたの言う通りやれることをやるしかないものね」

 

「そうそう、やることやってそれで駄目なら仕方ない。やらない後悔よりやった後悔だ」

 

「ええ、いつか誰よりも強くなって見せるわ!」

 

「その調子だ、ユニ。ユニは落ち込んでる姿よりもそういう張り切る姿の方が俺は好きだな」

 

「えっ!?」

 

「ん?」

 

おかしなこと言ったか?

いやいや、言ってない。

ちゃんと普通のこと言ったよ。

 

顔が赤いよ、ユニさん。

怒ってます?怒る要素ありました?

 

「あ、あんたねぇ…驚くから変なこと言わないでよね」

 

「ええ…何か言ったか?」

 

「言ったわよ!…ったくもう、ネプギアも大変ね…」

 

「まあ、確かに俺が相棒じゃ苦労かけるかもだけどそこまで言う?」

 

「相棒?」

 

「およ、言ってなかったか」

 

俺はユニにルウィーでの出来事を話した。

それを聞いたユニは大層驚いた様子だった。

 

「なるほどね、あんたの世界の強いドラゴンを倒した後、相棒って関係になったのね。ていうか、無茶も程々にしなさいよ」

 

「仰る通りです…」

 

「そういう奴だっていうのは分かってるつもりだけど心配させ過ぎて愛想尽かされても知らないわよ?それに、取り返しのつかないことになってからじゃ遅いんだから…」

 

「…そうだなぁ…うん、気を付けるよ。泣いた顔も見たくないしな」

 

「誰の?」

 

「皆だけど?」

 

「ふーん…」

 

なんだそのふーんって。

さっきからユニの反応が変だぞぉ…

 

俺なんかしちゃいましたか、そうなんですか?

 

何をしてしまったかを結構真剣に考えているとNギアから音楽が流れる。

取り出して誰からの連絡か確認するとネプギアからだった。

 

「どうかしたか?」

 

『ズェピアさん、船の準備が整ったそうなので戻ってきてください!』

 

「おお、了解。急いで戻るよ」

 

Nギアの通信を切る。

 

「案外早く準備が終わったのね」

 

「そうらしいな。また少しお別れだな」

 

「そうなるわね。ドタバタして忙しいわね、あんたたちは」

 

「まあ、世界救おうとしてますから」

 

「それもそっか…さ、戻りましょ。皆いるだろうしね」

 

「そうだな…」

 

お悩み相談も終わったし、教会に戻ろう。

待たせるのも悪いし、急ぎ目に俺達は教会へと戻る。

 

 

「…転移すればいいんじゃ?」

 

「あっ」 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

「待たせたな!」

 

「…普通、教会のど真ん中に転移する?」

 

「急いでたから座標は気にするな、ユニよ!」

 

「まあ、いいけど…」

 

「早速使ってるのね、転移。使い勝手がいいようで羨ましいわ」

 

「ハハハ、そうであろうそうであろう」

 

転移したら教会のど真ん中。

まあ、時間短縮ってことで一つ。

 

「戻ってきたようだね。もう行くのかい?」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

「いや、構わないよ。…ズェピア、前の話はリーンボックスの件が終わってからになるかな?」

 

「そうなるかな」

 

「分かった、それまで楽しみに待っておこう」

 

「ああ、俺も楽しみだよ。…よし、行くか」

 

「はい!」

 

「船まではあたしも行くわ」

 

「おう、ケイは?」

 

「僕はまだやることがあるから遠慮しておくよ。君たちの無事を祈るとするさ」

 

「おう、そっちも無理はしないようにな」

 

「…」

 

「…あの、ネプギアさん?そのどの口が言うんですかみたいな視線はやめてください…心に刺さる。コンパさんもやめて…精神攻撃やめて…」

 

「無茶なことを常日頃からするズェピアさんが悪いんです」

 

「ですです。心配する私たちの身にもなってほしいです」

 

「仰る通りでございます…」

 

「でも、それでもやめないのがズェピアよね」

 

日本一からも謎の信頼を頂いている…

くそぅ、泣くぞそろそろ!

 

「ははは、楽しそうで何よりだ。それと、そろそろ行った方がいいんじゃないかな?」

 

「そ、そうだな。よし、皆行こう!」

 

「逃げたわね」

 

「逃げたです」

 

「リーンボックスでは無茶しませんように…」

 

「皆大変なのね…」

 

後ろから色々と聞こえるが俺は聞こえない。

聞こえないったら聞こえない。

無茶してるんじゃないです。自分の望むように行動した結果無茶に繋がっただけです~

 

うん、分かってますけどね。

放っておけないっていうか何ていうかさ。

 

むむむ、もう少し気を付けておいた方がいい、よな~…

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

たどり着きました、港!

 

「船だぜ船…楽しみですよ」

 

「いい年して子供ねー…」

 

「男はいつでも子供なんだよ」

 

「アンタが子供なのは分かったから落ち着きなさい」

 

「そうだな。…それにしても、やっぱ俺の時代の船とは違うな」

 

「そうなの?アタシはこれを何度か見てるけどそっちはどんな感じなの?」

 

「何て言うのかなぁ…これよりゴツいかな。物とか建物とか…俺の世界より技術が上だよ」

 

「ふーん…」

 

ここに堕天使連中が来たらうるさそうだ。

というか、ろくでもないことになるのは確定的に明らかなのでNG。

 

もし来たらすみやかに消していただくべきと進言しよう。

 

「もう船には乗れるんだったな」

 

「楽しみです!」

 

「おお、コンパもか?」

 

「私も船はあまり乗ったことはないですから、皆と乗れるなんて嬉しいです!」

 

「なるほどな~」

 

俺も前世含めて船にはあまり乗ったことないからな。

それに超次元世界の船なんて興奮する。

ぶっちゃければどんな構造か解体して調べてみたいくらいに興奮する。

 

おっと…大事なことがあるんだった。

 

「ユニ、ついてきてくれてありがとな」

 

「い、いいわよ。アタシも相談に乗ってもらったし…」

 

「どんな相談をしたの?」

 

「それは…って内緒よ内緒!特にライバルのあんたに教えられないっての!」

 

「そ、そんな重大なことをズェピアさんに?」

 

「あー…まあ、心配するようなことじゃないさ。

もう吹っ切れたもんな?」

 

「ええ、前進あるのみって分かったもの」

 

うんうん、それでこそユニだ。

次会うときはまた一段と成長してるだろう。

前へ進む姿勢は大好きだ。

人間であろうとなかろうとそれは変わらない。

躓いたっていい、止まったっていい。

前へ進む意志をまた灯せるならばそれでいいんだ。

 

そういう『人』を俺は信じたい。

 

「お互い、頑張ろうね!」

 

「ええ、もっと強くなってみせるわ!」

 

「うんうん…いいなぁ。友情はいいなぁ」

 

「また年寄りみたいな…」

 

「でも、こういう場面はテレビで見てもいいと思うのよね。

特に、特撮とかヒーロー物にも欠かせないわ」

 

「日本一、その通りだ。人は友情や愛情があれば更に前へと…」

 

「はいはいアンタの人間好きは分かったから!さっさと乗るわよ!」

 

「船の人を待たせるのはよくないです。エルエル、早く乗るですよ!」

 

「え、何で俺だけ?えーー……」

 

「我輩たちは老人ってか!」

 

ワラキー、ショック。

もう少し優しさをくれてもいいのでは?

え、あまり邪魔するな?

あ、うん…そうだよね…老人が語っても誰得だよね。

 

大人しく船に乗りまーす…

 

「ズェピア!」

 

「ん?どうした」

 

「次会うとき、もっと強くなってるんだからね。

相棒のネプギアよりも強くなってやるんだからね!」

 

「ええ!?」

 

「それは楽しみだ!」

 

「ズェピアさんまで!」

 

「ハハハ、いいじゃないか、こういうの。期待してるよ!」

 

「うー…私だって、強くなりますからね!」

 

「望むところよ!」

 

いい関係だな。

きっと、ああいう関係が互いを高めていくに違いない。

一人勝手に頷いているとネプギアがこちらに来た。

 

「もういいのか?」

 

「はい、いつまでも話してるわけにもいきませんから。

私たちの出来ることをしに行きましょう」

 

「おう、やる気十分なようで何よりだ。

さあ、リーンボックス!は何が起こるか分からないから冷静かつド派手にいこう!」

 

「矛盾してるしリーンボックスの言い方がちょっとおかしくない?」

 

「あいちゃん、気にしちゃダメですよ」

 

「…そうね、今日はもうやめておくわ」

 

ツッコミすら来なくなった俺には無だけが残った。

いや、嘘だけど…空しいなぁ。

 

最後にユニに手を振っておく。

ユニも気付いたのか目立たない程度に手を振り返してきた。

ありがてぇ…

 

船もちょうど動き出したし、グッドタイミング。

さて…

 

「少し寝てるから着いたら起こしてくれ」

 

「分かりました!」

 

「どう起こした方がいい?」

 

「…いや、普通に揺すって起こしてくれればいいよ」

 

ボケそうになるが日本一にはボケが通じにくいのを思い出したので我慢して普通に起こしてもらうように頼んだ。

 

「んじゃあ我輩も適当にぶらついてるぞ。ここでベリィキュートな女性とコンタクトするのも船旅の嗜み…」

 

よし、椅子もあることだし座って寝る。

きっといい国さー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…揺すられる感覚。

なんだ、着いたようだ。

案外早かったなぁ。

 

「あー…あんまり寝れなかった」

 

「まあ、そんな遠いわけでもないしね。良く眠れた?」

 

「うむ、サンキュー日本一」

 

「良いってことよ!ほら、降りるわよ!」

 

「うぃ…ネプギアたちは?」

 

「私に任せて先に降りてるわ」

 

「おおう酷い…」

 

無情な世界もあるもんだと船から降りる。

さて、着いたぜリーンボックス。

他の国とはどう違うかを見てk「この人です!!」…はえ?

 

「ちょっと、君」

 

「え、何ですか?」

 

かなり素で聞き返す。

いや、だって見た目警官だよ?

ちょ待てよ

 

え、女の人泣いて俺のこと指差してない?

 

「この女性が君が財布を盗んだと言っている。荷物検査をさせてもらいたい」

 

「…ええ?いいですけど…」

 

と、とりあえず俺の荷物を見せるか…

えっと、マイ財布にNギアに………

 

「…この財布は…」

 

「それが私のよ!返しなさいよ!」

 

「あ、はい…って待て待て!返すのはいいけど俺は盗んでない!」

 

「白々しいぞ!証拠は出ているんだ、大人しくついてこい!」

 

「くっ…!」

 

確かにその通りだが、どういうことだ!?

俺は寝てた筈だ、操られたわけでもない…

 

『うむ、君が魔法を使ったわけでもないよ』

 

ワラキアもそう言ってるし…

考えられるのは一つだけだ。

 

このリーンボックスには俺を陥れたい誰かがいる。

 

そしてその誰かはネプギアたちの存在も知ってる筈だ…

同じかそれ以上の手を使うかもしれない…

 

「待ちなさい!」

 

「何だ、お前もこの男の仲間か?」

 

「そう「違いますよ」なっ…」

 

俺の仲間と言おうとした日本一を遮り、俺は否定する。

 

…なら、こっちも裏から動いてやればいい。

道具やなんやらは制限されるが能力は制限されない。

 

やりようはある。

 

「…そうか。なら、ついてきてもらおう」

 

警官は俺に手錠を掛けて連行する。

日本一の横を通りすぎる瞬間、日本一にだけ聞こえるように伝える。

 

「───」

 

「!ええ…!」

 

…表舞台はあちらに任せよう。

黒幕さんよ…俺を裏方にしようとはいい度胸だ。

 

仲間を引き連れてない時の俺は容赦しないぞ。

 

 

…ああ、ネプギア、大丈夫かなぁ。



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監督気取り、お悩みです

どうも、明けましておめでとうございまーす!
皆様、新年ですね、僕は新年嬉しいですけど金は新年ガチャで消し飛びました。


いやぁ…寂しいもんですね、一人とは。

そもそも、パーティーが居ないと悲しみのソロプレイですよ?俺には耐えられませんねぇ…

 

というわけでね。

やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

現在、牢屋に投獄された俺は一人虚しい時間を過ごしている。

というのも、あの後弁明の余地なく俺はこの牢屋へとぶちこまれたのだ。

何というか…余裕がなかったな、皆。

 

リーンボックスに来て早々逮捕とは、どうなってやがんでい。

 

「あー暇だ。暇で死んじゃうよ」

 

「うるさいぞ」

 

「そうは言うけど、俺無実だよ?無実なのに裁判待つだけってかなり過酷だよ?」

 

「証拠は出たんだ。諦めるんだな…ったく、ライブも近いっていうのにこれじゃ中止になっちまうよ」

 

「ライブ?」

 

「なんだ、知らないのか。近々、リーンボックスのアイドルの5pb.ちゃんがライブを開くんだ。女神様が負けても、まだ希望はあるって伝えたいんだと。何回もライブをして、ずっと頑張ってるんだ」

 

「泣ける話だねぇ、運営はやっぱりリーンボックス教会か?」

 

「ああ、教会の教祖自らが企画したんだそうだ。まあ、女神様の事を悪く言う奴等を許せないんだろうな」

 

…なるほど、教会企画のライブ…

まだ、情報は聞き出せそうかな。

 

「だけど、教会はその間ゴタゴタじゃないか?マジェコンヌに狙われたらヤバイだろう」

 

「…まあな。確かにそうだが、リーンボックスの治安は今や最悪だ。俺達が動いても、対処しきれないくらいに人々の心は荒んでいる。だから、一世一代の賭けでもあるんだろうな」

 

「…女神は負けてない、か」

 

「っと…話しすぎたな。付き合ってやったんだ、大人しくしてろよ」

 

「はいはい…」

 

まあ、大人しくするなんて性に合わないんでやりませんがね。

幸いタタリは使えるからな…どうするか。

 

─『あまり派手には動けないだろうね。ネプギアたちとも合流はやめておいた方がいい』

 

だろうなぁ。

変装しようにも、どう動くべきか。

 

でっち上げ自体、得意じゃないしな。

 

やれないことはないんだけどな。

問題は、あっち(ネプギア側)に何があるかの把握ができないことだな…

 

うーん、教授も居ないしなぁ…仕方ない、ここは外に出てから考えるか。

脱獄を平然とやるけど、まあ、これも平和のためデース。

 

まずは…俺自身の偽装だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ!?ズェピアさんが捕まった!?」

 

「遂にやらかしたのね…いつかはやると思ってたわ」

 

「あいちゃん、言ってる場合じゃないですよ!」

 

「そうよ、罪を誰かに擦り付けられて逮捕だなんて間違ってるわ!」

 

日本一さんからの衝撃的な発言に私達は困惑していました。

なんでも、ズェピアさんが財布を盗んで逮捕されたとか…

でも、寝てたのにそんなこと出来ないよね…?なら、日本一さんの言うように誰かが狙って…?

 

「私、今からズェピアさんの所へ行ってきます!」

 

「待ちなさい。今行っても仕方ないわ、ここはズェピア抜きで行動しましょう」

 

「そんな、あいちゃん、エルエルを見捨てるですか!?」

 

「そんなわけないでしょ。今は冷静になるべきよ。

第一、ズェピアの無実を証明する証拠もないんだから行っても無駄足…それに、行ったら行ったで向こうの思う壺よ」

 

「向こうって…マジェコンヌ?」

 

「愉快犯とかならそれまでだけど、ズェピア一人を狙っての犯行ならあいつらしか居ないでしょ。大方、厄介どころを落としていこうって算段でしょうね」

 

「それまでは…私達だけで何とかするしかないわね」

 

「そういうことよ。それに、あいつならふざけて看守を困らせて遊んでるだろうし気にしなくていいわよ。日本一もズェピアに頼まれたんでしょ?」

 

「…そうよ、確かに頼まれたわ」

 

日本一さんは悔しそうに拳を握りしめる。

今すぐにでもズェピアさんを助けにいきたいんだと分かる。

日本一さんは正義感が人一倍強い人だ、仲間を放っておける性格でもない。

そんな日本一さんが我慢をしている。

 

「ズェピアは…教会に向かえって言ってたわ。だから、私はズェピアを信じて教会に行くわ。それが最善だろうから」

 

「…じゃあ、さっさと行きましょう。ここの教祖に現状を確認しなきゃだしね」

 

アイエフさんは一人でさっさと教会の方へと向かっていく。

私達も慌ててついていきますけど…何だか、アイエフさん急いでる?

 

「ふふっ」

 

「コンパさん?」

 

「あいちゃん、ああ見えて怒ってるんです」

 

「え?」

 

「あいちゃんにとってもエルエルは大切な仲間です。そんなエルエルをこうして陥れた人にすっごく怒ってるんですよ」

 

「コンパ、何話してるの?」

 

「何でもないですよー」

 

「…まあいいけど」

 

怒ってる…そうだよね。

ズェピアさんは私達の大切な仲間なんだ。

アイエフさんも、心配で仕方ないんだと思う。

 

…皆、大切な仲間だからこそ、信じないと。

 

「…ん?ネコさんがいないです!」

 

「はぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

コツリ、コツリと小気味のいい音が路地裏に響く。

本来の姿で歩くのも久しく感じる。

あちらの自分は大分気疲れしているようだが、まだ問題はないだろう。

次元間でのパスが健在なのは同一の存在ゆえか。

 

それにしても…

 

「間抜けめ」

 

連れ戻す予定の男の失態に素直に毒づく。

わざわざ捕まる必要などあるまいに。

我々死徒が人の定めたルールに従う意味など無いというのに。

転移するなりエーテライトで意識を奪うなりすればよいものを。

合理的に考えればその場限りの妨害は踏み潰せばよいのだ。

 

「だが、それも奴の性格ゆえか…」

 

放っておいても問題はないだろうが…ここは少し手を出しておこう。

 

「問題は、主犯の存在。陥れるにしても早すぎる…情報網の広さを警戒するべきか…それとも」

 

周りを見渡す。

監視カメラの類いもないとなると…

 

「何処かと繋がり、何かに長けた者…もしくはそれなりの地位か」

 

何にせよ、バレないようにするには手間がかかるだろう。

それまでの手助け位ならば今の私にも出来るだろう。

 

体から一匹の鼠(神器のお陰で形を限定できる)を出し、奴のいる牢屋まで向かわせる。

幸い、奴の気配と魔力はこちらでも変わらぬようですぐに向かっていった。

 

「…さて、私は私で調査をするとしよう」

 

今の奴の仲間である女神候補生達の元へ戻るべく歩き出す。

まさか、死徒である私が神の味方をする日が来ようとは…人生とは数奇なものだ。

 

まあ、私は契約に従うまでのこと。

奴の終わりまではこの数奇な運命を楽しむのも一興だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

看守が行ったのはいいけど…結構こちら的には嫌なタイミングで戻ってくるんだよな。

 

「偽造出来ねぇ」

 

そう、肝心の偽造がまだ出来ないのである。

 

荷物の回収もしたいし…うーん…

 

「おい囚人」

 

「なんでっしゃろ」

 

「飯の時間だ」

 

「マ?嬉しいですね…シチューを所望します」

 

「シチュー?そんなもの、うちにはないよ…」

 

「そんな…生きる意味を失う…」

 

シチューも出せねぇのかよテメェの刑務所はよぉ!

普通でないのでは?いや、牢屋の飯とか知らんけど。

んなことしてる場合ではない。

脱出したいのである。

 

「パンで十分だろ」

 

「うわぁいパン、パン大好き…マーガリン…は?」

 

「あ?ねぇよんなもん」

 

「そんな…」

 

マーガリンもねぇのかよテメェの刑務所はよぉ!

まさか、不景気すぎて金が…

くそ、(刑務所が)貧乏だー!

 

仕方ないのでパンを食べることにした。

普通に美味かった。

パンってどこでもうまいんやなって…

 

そうして少し様子を窺っていると状況に変化が訪れる。

 

─チュー

 

「チュー?」

 

鼠と思わしき声が聞こえたので少し警戒。

鼠は苦手です。

 

周りを見れば、鉄格子の間から黒くて紅い目をした鼠が入ってくるではないか。

ヒェッ…逃げ場がない。

 

─チュー

 

「…ん?」

 

しかし、理性的な様子。

何となく、こちらを理解しているような…あっ。

 

「もしかして教授の?」

 

─チュー

 

肯定するような鳴き声。

よし、となると、話は早い。

看守が来たらお前を叩き付けてやる。

 

「飯は食ったか囚人」

 

あ、来た。

早いよー展開が早いよー。

 

取り合えず、教授の鼠に行けと指示を送る。

頷いた鼠は看守の方へとさっさと行った。

 

「ん?なんだこの鼠…は…」

 

「──」

 

看守の声が聞こえる。

しかし、その後、ブチブチという嫌な音が響く。

 

え、何?

 

「ひ、バケモ…」

 

「ギギィ」

 

「うわ、なにをするやめろぁぁぁぉ…!!」

 

…え、何が起こってるん?見えない位置でホラー始めないで?

 

看守の声は、聞こえなくなった。

代わりに鼠が何かの鍵を咥えて戻ってきた。

 

─チュー

 

…俺は恐る恐る鍵を受けとる。

取り合えず、迅速に動くことにした。

 

まず、俺の偽物を造り出す。

これは十秒もかからないで出来た。

次に、鍵を開けて俺の荷物がある場所を探す。

多分、看守の近くにあるはずだ。

 

…泡吹いて倒れてる看守は見ないことにした。

 

─チュー

 

先行していた鼠が箱を叩く。

 

取り合えず、教授を信頼している俺は開ける。

 

「お、あったよ。お手柄だな教授」

 

見つけたなら用はない。

俺は牢屋に戻って鍵を閉めてから鼠に鍵を渡す。

理解度の高い鼠は鍵を咥えて看守の方へ向かって、戻ってくる。

 

…よし。

 

「そんで、俺の姿だけでも…」

 

ワラキーになることによりぃ、誰にもバレなくなるのだ…!

天っ才ですわ…これはアトラス院院長。

誰も俺に知能で追い付けはしない(慢心)

 

というわけで。

 

「では、お暇させてもらおう」

 

転移。

場所はもちろんリーンボックスの港。

調査は、いい思い出がないんだけど…やるしかないな。

 

鼠ももちろん連れていく。

教授の鼠なら話は別だよ~

 

にしても、犯人は誰なんだか。

取り合えず、教会に向かうか?

…いや、ここは別行動だな。





─ナゼなに女神のコーナー─

ワラキー「はい、というわけでね新年明けましておめでとう。ワラキーも新年迎えましたよ。というわけでゲストはリーンボックスの女神 グリーンハートことベールさんです。」

ベール「はい、ご紹介に預かりました。
リーンボックスの守護女神ベールですわ。新年ですが、牢屋で迎えてましたわね。」

ワラキー「言わないでもらっていいかな!?ご、ごほん…ほら、質問プリーズ!」

ベール「と言われましても謎が多くてどれにすべきか…そうですわ、ここは次回らへんで質問させていただいてもよろしいでしょうか?」

ワラキー「保留系か。まあ、ありだな。分かった、次回に回そうか。では、次回予告をお願いしてもいいかな?」

ベール「リーンボックスにて行われるライブ…しかし、そこに5pb.ちゃんへのライブ中止の脅迫状!?犯人の思惑通りにすればシェアは無くなり国が崩壊…ネプギアちゃん一行と別行動中のズェピアさん、どうかリーンボックスを救ってくださいませ!
次回、『踊るゲイムギョウ界~リーンボックス大捜査24時~』!」

ワラキー「次回もまた、見てくれよな!…これ平気?」

ベール「今更ですわ」










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踊るゲイムギョウ界~リーンボックス大捜査24時~

別に(タイトル通り24時じゃ)ないです。

ところで、VVVだとネプギアちゃん出ないんですかね?
はえー…泣いていい?


港に転移した…周りに人確認!いません!

運がいい!幸運値高いぞ俺!

 

ワラキーの姿な俺は内面のテンションだけが高くなるスキル持ちなので中身うるさいぞ!

 

というわけで…

やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

短い牢獄人生でしたが今は脱獄人生ですね。

 

教会に行きてぇなぁ。

でも行ったらより面倒になるだろうからな。

ここは俺個人で動くか。

 

どうしたもんかな、と考えるが…ふと、ある貼り紙が目に留まる。

 

「…虎穴に入らずんば虎子を得ず…か」

 

 

 

 

 

 

 

 

リーンボックスの教会へとやってきた私たちは兵士の方に教祖に会いに来たことと事前に許可を頂いている事を伝えると快く入れてくれました。

 

あの後、ひょっこりとカオスさんが戻ってきて何をしていたのか聞いたら

 

『ちょっと煮干し買ってた』

 

とのことで煮干しの袋を手に持ってたので信じることに。

 

…でも、家族のズェピアさんの手助けをしてると思う。

 

「入れました…けど…」

 

「あーもう、うじうじしないの!」

 

「あうっ!?な、なにするんですか!」

 

ズェピアさんの事を思うと一緒に来たかったなと気分が沈んでしまう。

そんな私にアイエフさんが私の額を指で弾いた。

いわゆる、でこぴんをされた。

 

「あんまり暗くしてるとひっぱたくわよ。別にすぐにどうこうされるわけでもないんだから心配しないの」

 

「うむ、ツッコミ少女の言うとおり。そう心配せずともマイフレンドの事なので脱獄とかしてるかもしれぬぞ?」

 

「いや、ある意味それが一番ヤバイんだけど…」

 

「む、そうであるか?そうであるな」

 

「ハァ…この駄目猫は…」

 

「大丈夫よ!マジェコンヌを捕まえてズェピアの犯行じゃないって証明すればいいんだから!」

 

「そうですよ!だから、ギアちゃんも大好きなエルエルの為に頑張るです!」

 

「えっ、ええ!?」

 

突然暴露しないでください!?

 

…あれ、皆さんどうしてふーんって感じなんですか!?

 

「何驚いてるのよ。もう周知の事実でしょ」

 

「えっと、ネプギアはズェピアが好きなんでしょ?うん、何となくだけど私も分かってたわ!頑張って!」

 

「うむ、その、なんだ。我輩もこの肉球で応援してますね…」

 

「い、いやー!?どうして知ってるんですか!?私、言ってないのに!?」

 

「いや、アイツにあんなに引っ付いてたら分かるでしょ」

 

「そ、そんなに引っ付いてました?も、もしかしてズェピアさんにも!?」

 

「…いや、ないと思うわ」

 

「分からないじゃないですか!」

 

「あの馬鹿が分かるわけないでしょ。アイツがそんなに鋭そうに見える?」

 

「え…」

 

少し思い出してみる。

普段の様子や、かっこいい時とか…

 

…だ、駄目です。変なときに鋭いから…

 

「核心的な部分は鋭いじゃないですか!」

 

「あー…そうだった、アイツ…」

 

思い当たる節があったのかアイエフさんは額に手を当ててため息をつく。

アイエフさん、ズェピアさんのことになるとため息を一日に必ず三回くらいついてる気がする。

 

大丈夫かな?

 

 

「そろそろよろしいかしら?」

 

 

「はぅ!?」

 

突然話しかけられて驚いてしまった。

そうだった、リーンボックスの教会だから、騒いでたら迷惑だよね…謝らないと。

 

取り合えず、騒いだことに謝ろうと思って話し掛けてきた人の方を向く。

その人は、緑の長い髪が特徴的な綺麗な女性でした。

 

「す、すいません!騒いで迷惑でしたよね!すぐ出ていきます!?」

 

「出ていったら時間が無駄になるでしょ!…リーンボックスの教祖ね?」

 

「ええ」

 

「え?そうなんですか?」

 

「騒がしかったのは事実だけど、そんなことはどうだっていいの。確認だけど貴女達がルウィーの教祖が言ってた人達ね?」

 

「いかにもネコにも、我輩たちこそがこのゲイムギョウ界に笑いの嵐を引き起こす革命児ゲボォ!?」

 

「ええ、私達よ」

 

カオスさんの頭を踏みつけて冷たい眼差しを向けた後、笑顔で教祖さんに同意するアイエフさんに背筋がゾクッとする。

素直に逆らわない方が身のためだと思いました。

 

「そ、そう…アタクシはリーンボックスの教祖の箱崎チカよ。貴女達の目的は概ね把握しているわ…でも、こっちはこっちの問題の対処で忙しいのよ」

 

「どういうこと?ルウィーの教祖の話ではここに来れば貴女が話してくれるって聞いたんだけど?」

 

「事情が変わったのよ…これを読みなさい」

 

「手紙、ですか?」

 

「違うわ、脅迫状よ…」

 

「脅迫状です!?」

 

「もしかして、マジェコンヌが!?」

 

「…それが、分からないのよ」

 

「分からない?」

 

「あーもう!どこもかしこも問題ばっかりね!」

 

私達が話している間にアイエフさんは脅迫状の内容を読み終えたようで怒鳴り出す。

ストレスが爆発したのかは分からないけど、それなりの内容なのかな。

 

アイエフさんは私に脅迫状を無言で渡してから近くのベンチに座ってため息をはく。

私は手紙の内容を読み上げることにした。

 

「え、えっと…5pb.のライブを取り止めろ、さもなければ人質であるリーンボックスの民の…命は、ない…!?」

 

「人質!?」

 

「確かに、脅迫状であるがであるが…5pb.とは誰かね?我輩たちに教えてプリーズ」

 

「リーンボックスのアイドルよ。彼女がいるからリーンボックスのシェアはまだ無事なの」

 

「なるほど、リーンボックスの教会がプロデュースしているのはそれが理由なんですね」

 

5pb.さんが歌うことでリーンボックスへのシェアが集まる…でも、それでもずっとそのままだといずれマジェコンヌに…

 

そんなときに誰かから大事なライブを中止させようとする脅迫状…

 

「マジェコンヌかは分かりませんが、許せません。私たちにも協力させてください!」

 

「…見せておいてなんだけど、他国の問題よ?」

 

「今の状況で他国もないです!」

 

「…まあ、こんなこと知っちゃったし放っておけないわよね」

 

「そうです!折角のライブを取り止めるなんてよくないです!」

 

「こういう時こそヒーローの出番よ」

 

「まあ、我輩もマイフレンドの分まで活躍するのも吝かではなかったりする」

 

「…貴女たち…分かったわ。それなら、脅迫状の犯人の捜索及び確保に協力してちょうだい」

 

「はい!」

 

「…ごめん、連絡来たから少し出るわね」

 

「誰からです?」

 

「イストワール様からよ」

 

いーすんさんから?

どうしたんだろう…

 

アイエフさんは携帯を取り出して、教会を出ていった。

仕事の内容だから、聞かせられないよね。

 

 

 

 

・ 

 

 

 

 

教会を出て、そいつからの通話に出る。

 

「…もしもし?」

 

『もしもし…周りに人は?』

 

ため息をはく。

厄介事の気配しかしない。

 

電話の相手であるズェピアは私の呆れた様子に気づいていないようだ。

 

「念のため、ネプギアたちからは離れておいたわ。それで、どうしたの?犯罪者さん」

 

『すんません、勘弁してもらっていい?…あー、これから言うこと、秘密にしててほしいんだけどさ』

 

「脱獄したのね」

 

『そうそう…って何で知ってんの!?』

 

「予想的中ね。あのバカ猫も同じこと言ってたけど…何してんのよ、アンタ。脱獄とかバレたらヤバイじゃない」

 

『そうだな。で、それが何か問題?』

 

「…まあ、何となく準備しての脱獄なのは分かるけど…合流しないの?」

 

『そりゃ無理だ、申し訳無いけど。犯罪者な俺がいたら動きにくいだろ?俺は俺で行動するよ。んで、情報を共有したいんだが…』

 

「それもそうか…分かった」

 

私はズェピアに脅迫状の件と犯人探しに協力することを伝えた。

ズェピアもライブの件は知ってたようだった。

 

『なるほど…こっちでも調べておくよ』

 

「調べるって、どうやってよ?」

 

『何とかするさ』

 

「何とかって…」

 

『なぁに、俺を信じろ』

 

確証もなく自信満々にそう言うもんだから危なっかしいと心配になる。

じっとするとか出来ないのだろうか。

 

「…分かった、取り合えず何とかなったらもう一回連絡して」

 

『悪い』

 

「情報を纏める役が私しか居ないなら仕方ないわよ。ネプギアにも頼めないんでしょ?」

 

『こういったことは抱え込んじゃいそうでな。アイエフなら、問題ないだろ?』

 

「信頼されるのは嬉しいけど、そんな便利じゃないわよ」

 

『別に便利扱いしてないさ。こういったことを頼めるのはアイエフだけだからさ』

 

「調子のいいこと言って、バレても恨むんじゃないわよ?」

 

『その時はその時だ』

 

「まったく…切るわ」

 

『ああ、また後で』

 

携帯をしまって、教会に戻る。

情報の橋渡し…面倒だけどやってあげるわ。

代わりに一発ぶん殴んないと気が済まないけど。

 

さっさと終わらせてやんないとアイツも可哀想よね。

 

 

 

 

 

 

 

 

アイエフには世話をかける。

今度なんか奢ろうかなと真面目に思いました。

…いや、皆に奢るべきでは?

そうだよ、俺ってば皆に助けられてばっかじゃん。

 

おおっといけない、考えすぎてすべきことを忘れるところだったぜ。

ふっ、この作戦が上手くいけば脅迫状の件など一瞬よ。

 

聞き込みの結果、これが一番の近道である!

 

「うちに何かご用件でも?」

 

むむ、来たか。

 

どう入ったもんかと考えていたが手間が省けたぜ。ビビってたともいう!

 

「ああ、申し訳無い…どう入ったものかと思いましてね」

 

「なるほど。ところで、ご用件は?」

 

うむ、ミステリアスで…何というか、クールな女性ですね。

服装も何というか、ミステリアスですね!(センス皆無)

 

赤い髪が特徴的なクール美人は俺に用件を聞いてきた。

 

「いや何、この国を訪れたはいいもののあまりよろしくない状況…私でも出来ることはあるだろうかと思い、辿り着いたのがここだったというわけでしてね」

 

「ウチに入りたい、と?」

 

「ええ、無論怪しいのは承知の上。ですが、このリーンボックスを少しでも良くしたいと思うのは本心です」

 

「他にも候補はあったのでは?」

 

「ここが一番いいと勘が告げておりました」

 

言ってて大丈夫ですかね、これと思った。

ヤバい、表情動かないもんだからやりにくい!

 

クール美人は暫し考えた後に俺に視線を戻す。

 

「人手が足りないのも事実…歓迎します」

 

「本当ですか!」

 

「ええ、私はリーンボックス特命課のケイブ。よろしくね」

 

ま、まさかこれで通るとは…ゲイムギョウ界、優しい世界かよ。

移住先ここにしようかな…マジで

 

にしても、名前か。

ズェピア…だと捕まってる扱いだしね。

ここはもう1つの使い慣れてる名前で。

 

「虚夜件です。よろしくお願いします、ケイブさん」

 

「ええ、取り合えず、中に入って」

 

「はい」

 

…よし、順調だな。

後は誰がいるか、どんな役割が俺に割り当てられるか…

それで活動が変わるな。

 

にしても、そんなに大きくない施設だけど、どういうことだろうか。

 

そんな疑問は中に入った瞬間に解決された。

 

中に入ってまず分かったことは人が居なさすぎるということ。

次に、デスクの少なさだ。ケイブさんのを含めても四つほどしかない。

 

「ケイブさん」

 

「どうかした?」

 

「リーンボックス特命課のメンバーは何人いますか?」

 

「三人よ」

 

「うん?」

 

「三人よ。私とスカウト担当、人かどうかよく分からないので三人よ」

 

それは特命課として息をしているのか…?

というか、人かどうかよく分からないってなんだ。

精神異常者でもいんの?え、急に怖くなってきたよ俺。

 

「正直、貴方が来てくれて心強いわ…」

 

「でしょうね」

 

「ええ、だから貴方には私と同じでリーンボックスの安全を守ってほしい。戦闘の心得はあるわね?」

 

「勿論です。それと、一つだけいいでしょうか?」

 

「何?」

 

「今までずっとケイブさんだけが実働係だったと?」

 

「その通りね、それだけ?」

 

「…ええ、聞きたいことはそれだけです」

 

わー…俺ならやめるぜ…

ケイブさん、まさか聖人?

仏陀とかの類い?

 

尊敬するよ、本当に。

 

これは俺が働いて負担を減らす他あるまい。

 

世のため人のためっていうのは性に合わないけどこれも仲間のため。

ここは頑張りますかね。

 

「誠心誠意、頑張らせていただきます」

 

「期待してるわ、件」

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

「何が言いたい、グレートレッド」

 

─ギョウカイ墓場

 

そこでグレートレッドとマジック・ザ・ハードは話をしていた。

グレートレッドの話した内容にマジックはその真意を図ろうとする。

 

「そのままの意味だとも、マジック、我が同盟者。敵である奴等は今も順調に我々の喉笛へとその刃を近付けている。

そろそろ危機感を持つべきだろう?力だけで倒せない輩ならば、ここは──」

 

 

 

「─搦め手を使えばいいだけのことだ」

 

 

 

グレートレッドは邪悪な笑みを浮かべ、マジックに提案する。

 

 






─ナゼなに女神のコーナー─

ワラキー「まったく需要が見つからないナゼなに女神のコーナー、始まるよー。やはりネプとか付けるべきか?」

ベール「まあ、それだとネプテューヌの番組みたいな扱いになってしまいますわ」

ワラキー「そう言われるとこのままでいいか。はい、引き続きゲストはベールさんです。では、ベールさん、疑問点は見付かりましたか?」

ベール「うーん、メタ的な質問になってしまうのですが…」

ワラキー「まあ、ここは本編とは関係ないから言っていいですよ」

ベール「そうですか?では、エンドはいくつ作りますか?」

ワラキー「いやマジでメタいな。しかもエンドかよ…まあ、ネプテューヌシリーズではバッド、グッド、トゥルーがあるからな。でも、ここは普通に1つの終わりで満足してもらいたい。他作品とのワラキークロスオーバーもしたいしね」

ベール「FGOに関しては放置気味ですものね」

ワラキー「それ以上いけない。コホン、納得のいくエンドにはしたいので見てもらえると幸いです。それと、ご感想をいただけると作者のやる気が上がります」

ベール「露骨に感想を欲しがりましたわね…では、次回予告の方を。
特命課としてケイブと共に仕事をするズェピアさん。進展がないまま仕事の日々が続くものの、そこに意外な人物が!
そして、ネプギアちゃんたちにも進展が…
次回、『監督気取り、思わぬ再会です?』」

ワラキー「次回もまた、よろしく~!」


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監督気取り、思わぬ再会です?

ワラキーが再会するとは一言も言ってないZE。

そういえばネクストパープル皆さん当てました?
私は金が消し飛びましたけど当てました(白目)


やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

リーンボックス特命課。

そこで情報収集のために働いている俺は今日も今日とて近辺のモンスター退治。

基本的にケイブさんと二人でしているから楽で仕方ない。

一人で戦ってるだけあってケイブさんの実力は本物だ。

 

後は、犯罪者を捕まえたり…うん、俺も脱獄犯ですが、何か?

バレなきゃ犯罪じゃねぇんだよぉ!犯罪者ですけどね。

 

やはり、マジェコンとマジェコンヌによる無法化は進んでいるわけで。

困ったことにそいつらをひっ捕まえて聴取しても困ったことにマジェコンが便利だからとかしか供述しないのである。

マジ勘弁してください。

ライブまで時間がねぇんだ、これ。

 

「これで、今日の分は終了ですね」

 

「ええ、貴方のお陰で効率がいいわ」

 

「いえ、ケイブさんのお陰で自分も動きやすいです」

 

「そうかしら」

 

「はい!」

 

いい信頼関係を築けたし、離れるとき戸惑いそうですよ。

 

「じゃあ、戻りますか」

 

「そうね…ねえ、件」

 

「何ですか?」

 

「貴方もここに来て馴染んできたわ。そろそろ、手伝ってほしいことがあるの」

 

「えっと、犯罪者の検挙ではなく?」

 

「ある意味同じことね。取り敢えず、事務所に戻りましょう」

 

「分かりました」

 

ふむ、珍しく頼られてるか?

ここは話を聞いてから判断しよう。

俺にもやらなきゃならんことはあるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─リーンボックス特命課 事務所

 

戻ってきた俺たち。

早速ケイブさんの話を聞くとしよう。

 

「5pb.のライブは知ってるわね?」

 

「ええ、近々ライブをするということくらいですが」

 

「…そのライブを中止にしろっていう脅迫状が教会に数日前に届いたのよ」

 

「なるほど…だから」

 

えぇ…まさかの同じ案件追ってたんかい!

マジかぁ…知らなかったとはいえかなりのロスですよ。

 

「…ライブまで後何日でしたっけ」

 

「三日よ。」

 

「三日ですか…」

 

厳しいな。

三日で犯人を特定して捕まえなければならない。

 

取り逃したら何があるか分からない以上大胆な行動には出れない…慎重に、バレないように動く必要がある。

加えて、まだ影すら見えちゃいない。

捜査が進展しない理由…相手が隠れるのが上手いのもあるが…

 

ふぅ、と考えを纏めて一息。

 

「ケイブさん、俺を信用できますか」

 

「ええ、勿論。数日とはいえ仕事仲間だもの」

 

「そうですか…なら、教祖と会えますか?」

 

「出来ないことはないわ。でも、どうして?」

 

「この事件を解決する為には今ある情報全てを知らないといけない…そして、それを纏めた上で的確に指示を出せる人物も居なければならない」

 

「…まさか、件…貴方」

 

「─俺が、その司令塔役を請け負いましょう」

 

やるしかない。

この事件、全部を使わないと解決するのは無理だ。

今理解した。

犯人はとても巧みな位置に存在していることも…この事件のタイミングも。

 

「…でも、貴方はこの国の…いえ、そうね…貴方の頭の回転は早い。任せてもいいのね?」

 

「ええ、任せてください」

 

「すぐに話を付けるわ、強引にでも」

 

教祖には聞かなければならない事がかなりある。

ネプギアたちには…頑張って貰わないとな。

荒事になるのは間違いない。

ケイブさんがあちらに向かった後、Nギアを取り出してアイエフにメールを打ち込む。

 

『教会に向かう』

 

これだけでいいだろう、送信。

悪態つくだろうけどそこは許してほしい。

それに、まだ俺が脱獄してることはバレちゃいけない。

 

そうこうしているうちにケイブさんが話しかけてくる。

 

「すぐに向かいましょう!」

 

「分かりました」

 

やっと行けるな…リーンボックス教会に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『教会に向かう』

 

「は?」

 

その一文だけが送られてきたとき、思わず素っ頓狂な声を挙げる。

 

「どうかしましたか?」

 

「な、何でもないわ。ちょっとこれの調子が変だっただけで元に戻ったから…」

 

…あの馬鹿、何を思い付いたのか知らないけどいきなり過ぎる!

フォローしきれるか分からないって数日前に伝えたじゃない!

でも脱獄の事がバレる訳にもいかないし…

 

あーもう!何で毎回勝手なのよぉ…特命課に入ったからって好きに動きすぎよ…

 

…ずっと嘆いていても何も進まない、ここはアイツの考えを把握してからでも…

 

「少しいい?」

 

「あ、教祖様です!どうかしましたか?」

 

「ええ、少し前にアタクシの知り合いがこちらに来るって連絡があって…事件について協力してもらってるのよ」

 

時間的にも、ズェピアたちの事ね…

特命課にリーンボックスの教祖と親しい人物がいるのかしら?

 

「その人と協力すればいいんですね!」

 

「ええ。それと、一人じゃなくて二人よ。最近、才能ある新入りが入ったそうで、その人も協力させるとか」

 

「へ、へぇ…そうなの…」

 

特命課だと結構働き者なのね。

それはともかく、もしバレそうになったらどうしたものか。

誤魔化すにしても…

 

「チカ様、リーンボックス特命課がお見えに」

 

「こちらまで案内して」

 

「はい!」

 

「特命課?」

 

「課、の部分が係だったら難事件もパッと解決しそうな眼鏡が居そうであるな」

 

「…」

 

「アイエフ?どうかした?さっきから眉間に皺寄せて…考え事?」

 

「え?え、ええ…この事件について、少しね…」

 

聞いてきたのが日本一でよかったわ…

 

それよりも、もう来たの!?

まだどう誤魔化したものか思い付いてないわよ!

もうアイツに任せようかな…

 

先程のように、コンコンとノック。

教祖が入ってと言い、扉が開く。

入ってきたのは、赤い髪が特徴の女性、そして

 

「よく来てくれたわね、ケイブ。そちらが新入り?」

 

「ええ、彼が助っ人よ」

 

「初めまして、リーンボックスの教祖様。リーンボックス特命課所属、虚夜件です」

 

アイツだった。

何か、変装してるけど…まあ、そりゃそうか…

 

あんま心配しなくても良さそうね…

 

「ズェピアさん…?」

 

「えっ」

 

嘘、もうバレた!?

ネプギア、アンタいつの間に変装見極められるようになったの!?

 

だけど、その問いかけるような声にズェピア…件は

 

「失礼、別人と混同してしまっているようですが…私は違いますよ」

 

「あ、そ、そうですよね…すいません。私はプラネテューヌの女神候補生、ネプギアです!」

 

「はい、この度はよろしくお願いします」

 

…さらっと受け流したわね。

よかった~…

ていうか、あの変装してるときは固い感じなのね。

 

それに、真面目モードだし…

 

取り敢えず、一通り自己紹介を終えてからケイブとズェピアも交えて事件についての話し合いを再開する。

 

「それで、ケイブ。進展は?」

 

「それについては…件」

 

「はい。では、ネプギアさんたちの話を聞かせてもらっても?」

 

「私たちの、ですか?」

 

「マジェコンヌについて、とか。リーンボックスであったことを事細かに教えてください」

 

「えっと…分かりました。2日ほど前に、マジェコンヌの下っ端の人とネズミのワレチューさんに会ったんです。勿論、戦いになったけど…倒した後、今回の事件について聞いたんですけど『アタイたちはまだ何もしてねぇ!』って言われて…」

 

「本当かどうか怪しいけどね。それに、実は幹部が動いてた可能性もあるもの」

 

取り敢えず、補足は入れておく。

幹部が動いてもおかしくはないから、念のためだ。

 

件はふむ、と言ってから教祖の方へと視線を向ける。

 

「それと、教祖様にもいくつかお聞きしたいことがあります。」

 

「ええ、アタクシに答えられることなら」

 

「ありがとうございます。

まず、5pb.様のライブについてですが、場所は?」

 

「特設ステージでやってもらうわ。かなりの広さだから、人も多いでしょうね」

 

「なるほど、次に5pb.様が誰かから恨みを買うようなことは?」

 

「ないと思うわ。あの子、人見知りだからそもそも人と会話なんてそんなにしないもの」

 

「…では、教会以外に、アイドル等をプロデュースしてる会社は?」

 

「あるにはあるけど…数が多いわ」

 

教祖の言葉に、件は口角を上げる。

 

「…犯人の姿が見えてきましたね」

 

「まさか、他の会社の犯行だと言いたいの?」

 

「ええ、マジェコンヌが悪事を働いている今なら、矛先はそっちに向きやすい。そちらに罪を擦り付けた上で邪魔な5pb.様を消せる。加えて、多くある会社から自分を割り出すのは極めて困難だ…

まあ、これも私の憶測に過ぎません。ただ、少々過激すぎる事を考えればあり得なくはない」

 

「卑怯者ね!でも、マジェコンヌが関わってないって確証はないわ」

 

「その点も考慮した上で動きましょう。教祖様には我々と共に会社の去年から今年までの記録を調べてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「任せて」

 

「あの、私たちは?」

 

「貴女たちには5pb.様の護衛を。万が一を考えて、お願いします」

 

「はい!」

 

件は事前に考えていたかのように教祖や私たちに指示を出す。

頭脳派って本当だったのね。

 

というか、こいつ本当にズェピア?

似ても似つかないんだけど?

 

「なら、後で紹介しておかないとね…ケイブ、貴女の言う通り、優秀な人を見つけたわね」

 

「私自身、驚いているわ。まさか、ここまでなんて」

 

「…ふぅ、取り敢えず、この通りに動くことにしましょう。

…あの、ケイブさん?」

 

「どうしたの?」

 

「色々と勝手に決めちゃいましたけど、大丈夫でしたか?」

 

「今更ね。でも、皆従ってるってことは…そういうことよ」

 

「そうですか…よかった」

 

「自信を持ちなさい。貴方がしていることは間違ってないわ」

 

「だと、いいんですが…」

 

するべき事が決まったのにまだ釈然としない様子。

何かを考えているように見える。

 

ま、一度頭を休める時間を作るべきね。

 

「取り敢えず、行動は決まったから少し休憩にしましょう。

件、でいいのよね?貴方もそれでいいでしょ?」

 

「…そうですね」

 

「じゃあ、一度解散して少ししたらまた集まりましょう!」

 

ネプギアの言葉に皆が頷いて部屋から退出していく。

 

件も少し疲れたのか部屋から出ていく。

…さて、私も行きますか。

 

「では行くとしようか、厨二娘よ」

 

「なによバカ猫、アンタはここで寝てれば?」

 

「惚けんでもよろしい。我輩も一枚噛んでるのだからな」

 

「…そういうこと。なら、行くわよ」

 

「うむ」

 

バカ猫を連れて部屋を出る。

出てすぐ、右から私の名前を呼ぶ声がしたのでそちらに振り向く。

 

件が壁に背を預けてこちらを見ていた。

 

「よっす、教授も一緒か」

 

「無事こちらに合流できたようで何よりであるなソウルフレンドよ」

 

「まあな…取り敢えず、別の場所で話そうか」

 

「そうね。ここだと聞かれるし、それは困るものね」

 

「まあ、休憩だからな。カフェでもどうよ」

 

「ソウルフレンドが奢るなら考えてやってもいいけどにゃ~」

 

「…まあ、少し位なら。食い過ぎないでくれよ?」

 

「保証はしない!猫は気まぐれ、これテストに出るよ」

 

「はいはい、さっさと行くわよ」

 

少し、甘いものも食べたいし丁度いいわね。

 

アイエフもかよ、と財布を少し気にする様子のこいつにざまあみろと思っておく。

これに懲りたらこっちのことも考えて欲しいものね。

 

 

 

 

 

 

・  

 

 

 

 

 

 

近場のカフェに来た俺らは適当に注文をしてから話し合いを始める。

あ、どうも、ワラキー視点に切り替えだよ。

 

「は~疲れた」

 

「お疲れ様。それで、アンタはどう睨んでるの?」

 

「マジェコンヌのことか…」

 

「うむ、その事を考えてるようだったので我輩達だけでも意見を聞こうというわけだ」

 

「…正直、よく分かってない。アイツらがどう動くか…けど、間違いなくこの一件に関わってくると思う。」

 

どう動いてくるかまでは分からない。

けれど、あのクソ蜥蜴もいるんだ。何かしてくるに違いない。

いつものように来るか、それとも変わった作戦で来るか…

 

「何にせよ、来るのであれば取っ捕まえる」

 

「…特命課として仕事熱心なのは大変結構だけど、どうやめるつもり?」

 

「この一件が終わっても少しは滞在するだろ?その間に話を済ませるさ。ケイブさんはいい人だから、話せば分かってくれる筈さ」

 

「だといいけどね」

 

「まあ、あのクール娘は何となく人の機敏には疎そうな気配がしたので適当に言えば誤魔化せる確率約99.999%であるから問題ナッシングなので別の話題をしようじゃにゃいの」

 

「なんだ、また推理させる気かよ?」

 

「ぬかしよる。ソウルフレンドはまだ推理の途中であろうに」

 

「どういうこと?」

 

「まだ不十分ってことにゃのよ。今のままだとまだまだデンジャラァスな訳である」

 

「…そっか、脅迫状での『リーンボックスの民の命はない』…これね?」

 

「…まあ、そうだな。そこについて考えてはいる。だけど、リーンボックスの人たちを人質に取れるようなものが本当にあるのか………」

 

そこまで考えて、見落とし(・・・・)に気が付く。

 

そうだ、そうだよ。

ある、でもどうやって?

思わず立ち上がりそうになるが目立つことになると抑制する。

 

どうやってそれを実行する?

 

【特設ステージでやってもらうわ。かなりの広さだから、人も多いでしょうね】

 

箱崎チカの言っていた特設ステージ。

犯行が行われるとしたらここだ、間違いない。

 

だが、問題はそこでどうやって…?

 

けど、その方法(・・・・)なら間違いなくリーンボックスにいる全員を殺害することも可能だ。

 

「…ズェピア、アンタ汗がすごいわよ?何か分かったんでしょ?

私達にも話してちょうだい」

 

「…ああ、そうだな」

 

俺はアイエフと教授にその方法について話す。

 

「ここに来る途中でケイブさんに5pb.について聞いていた内容。

そして、俺の想像している犯行方法…当たっているのならライブを中止にするしかなくなる…!」

 

「ちょっと、脅迫状にはライブを中止しないとリーンボックスの民の命はないって…」

 

「そう、ライブを中止にしたらリーンボックスのシェアは間違いなくがた落ちだ。だけど、ライブをしたら…その日、リーンボックスは5pb.の歌声が聴こえてしまう。それが犯人の狙いだ」

 

「歌声が…?待って、もしかして犯人は…!」

 

「…これはマズイ事態、いや、最初から詰みに近い盤面だったということであるな」

 

教授とアイエフもその考えに至ったらしい。

顔が少し青ざめている。

 

 

 

「─歌声でリーンボックスを洗脳する。それが犯人の狙いだ…!」

 

 

 

何て屑野郎だ…!

希望を届けるための歌姫を絶望のどん底へと沈めるための悪魔にする気か!

 

リーンボックスはどうでもいいってのか!

 

「なんてこと…!すぐにでも教祖に知らせないと!」

 

「ああ、今すぐにでも動かないと手遅れになる…!」

 

「今日は徹夜ルートの構え間違いなし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─リーンボックス教会前 広場

 

「あ、貴女は…!」

 

「貴様一人か、女神候補生。ならば都合がいいな」

 

間違う筈がない。

私の目の前にいるのは私にとって、私たちにとって打倒すべき敵…

 

その人が不敵な笑みを浮かべて、武器も持たずに私の前にいる。

 

「なぜ貴女がここに…マジック・ザ・ハード!」

 

私はマジェコンヌのリーダー、マジックにビームソードを構える。

ルウィーで戦ったときよりも強くなってる…まだ力を隠してる状態なのに…!

今の私じゃ、女神化しても…

 

「そう構えるな。私は何もせんよ」

 

「そう言われて信じるとでも…!」

 

「ふっ、まあ戦っても構わんが…いいのか?ここの民が巻き込まれるぞ?」

 

「ッ…!ここに来た、目的は?」

 

そうだ、ここで戦えば全力を出さないといけなくなる。

そうしたら巻き込んでしまう…

 

戦う気配を未だに見せないマジックを警戒しながら武器をしまい、目的を聞く。

 

「少し助言をしてやろうと思っただけだ」

 

「助言…?今回の事件ですか?」

 

「そうなるな」

 

「何故敵の貴女が!」

 

「…あの龍は気に食わんからな」

 

「え…?」

 

忌まわしげに顔を歪めたマジックに私は疑問を抱く。

 

「我々には崇高なる使命がある。だが、あの龍は我々を利用して捨てる気と来た。意趣返しというヤツだ」

 

「この事件はグレートレッドが関わってる…?仲間なのに、何故私たちに加担するような真似を?」

 

「仲間だと?あれは違う。あれは異分子だ、貴様のところの吸血鬼のようにな」

 

「異分子…異世界から来たから?」

 

「そうだ。あれがどうなろうと私の知ったことではない。

それにやり方が気に食わん。だから貴様に情報をやろう」

 

「…その情報を信用するとでも?」

 

「ふっ、大分強かになったではないか?あの吸血鬼は独房の中だというのに強気だな。まあ、聞くだけ聞け。

この事件解決への鍵は…そうだな、答えを言っては面白くはない。

ヒントでいいだろう…」

 

この人は…!

きっと、ここで分からないで潰れるようならそれでいいと思ってるに違いない。

 

それに、何でズェピアさんの事を知ってるんでしょう…

あの場には下っ端さんも居なかったのに。

…もしかして…

 

「ヒントは、『音』だ。簡単だろう?」

 

「音…」

 

「これ以上の介入は目を付けられる。せいぜい足掻くことだな」

 

マジックはそう言ってこの場から消えました。

 

もし、本当に事件解決へのヒントなら…グレートレッドとマジェコンヌは利用し合ってる関係なのかな…

とにかく、一度皆にこの事を伝えないと!

 

教会へ急いで戻ろうと踵を返す。

 

「あ、ネプギア!」

 

「え?」

 

後ろからアイエフさんの声が聞こえたので振り向くと、アイエフさんとカオスさん、件さんが走って来た。

 

「どうしたんですか?」

 

「人質について分かったのよ!」

 

「本当ですか!?なら、私も皆さんに伝えたいことがあるので戻りましょう!」

 

「ネプギアさんも?…いえ、とにかく急いで戻りましょう。事は一刻を争います」

 

件さんはそう言って先に教会へと入っていきました。

私たちも続く形で入りますが…他の皆はもういるのかな?

出来れば、皆と共有したいし…

 

取り敢えず、チカさんのいる部屋に向かいましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─リーンボックス教会 会議室

 

「マジックに会った!?」

 

「はい…でも戦うことなく、ヒントを貰っただけでした」

 

「ヒントですか?今回の事件のです?」

 

ネプギアは神妙な面持ちで頷く。

マジック…まさか、ここに居たとは。

それに、一人だったわけか…かつてのトラウマだ。

克服したとはいえ、怖かったと思う。よく頑張ったと頭を撫でたいがここは我慢。

 

「それで、ヒントとは?」

 

「『音』、だそうです」

 

「…なるほど」

 

音、音ね。

そういうことか。

洗脳の方法はこれで二つに絞れたぞ

 

「それと、どうやらグレートレッドとマジェコンヌはあまり仲は良くなさそうです」

 

「突然やってきた訳だし、いいように使われてる感じだもの。

マジェコンヌ側はあまりいい気はしないでしょ」

 

ほう。

あのクソ蜥蜴、どこ行っても嫌われてるな。

お似合いだZE!

 

チカさんはネプギアの話を聞いた後、俺の方に顔を向ける。

 

「それで、人質について分かったそうだけど…?」

 

「ええ、普段ならば出来はしない…けれど今だからこそ出来る方法での人質の取り方です」

 

「なら、聞かせてちょうだい」

 

チカさんは急かす様子だ。

当然か、もう三日しかないんだ。

早くしないとリーンボックスがめちゃくちゃになる。

 

「犯人は5pb.様の歌を利用する気です」

 

「歌声を?」

 

「リーンボックス中に響かせる大ライブ…それなら、リーンボックスにいる人たちを洗脳することは出来る。ネプギアさんのヒントでそれをどう実行するかを二つに絞れました」

 

「流石ね、件」

 

「安心するのはまだ早いです。教祖様、マイクは5pb.様本人のでしょうか?」

 

「アタクシが用意したものよ。アタクシと5pb.しか触ってない筈よ」

 

「となると…スピーカーは?」

 

「スピーカーは教会の者たちで用意したものね」

 

「ビンゴです」

 

「…スピーカーに何かを仕込んでいる?」

 

ケイブさんの言葉に俺は頷く。

 

「小型の機械か何かでしょうね。それを通じて、皆を洗脳しようとしている…と私は見ています」

 

けれど、これで解決にはならない。

犯人を捕まえない限り同じことをする。

それではいけない。

 

「犯人に関してはまだ…ですが、ライブの時に何処かに姿を現す筈です」

 

「そこを叩くのね」

 

「ええ、ですのでここからは更なる作戦会議です」

 

ライブ成功のため、リーンボックスの平和のため。

そんでもってゲイムキャラの協力のためにバリバリ働かせてもらいますよ。

 

さて、懸念すべきはマジェコンヌだな。

奴等、どう動いてくる。

 

首突っ込んでくるなら騒ぎに乗じて…になるだろうが。

問題は誰が来るか、だな。

 

まあ、何にしてもライブの成功目指して頑張るぞい。




今回も何やかんやで長くなったけど、次回もこうなるかな…。
早くねぷ子出すんだよ!

次回、『監督気取り、ライブを守護る』


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監督気取り、ライブを守護る

デスリク2を普通にクリアして二週目を回っているロザミアです。
何で最初からハードを選んでるんだろう?




やあ、皆の衆。

俺だ、ワラキーだ。

 

ライブ当日。

やはりというか、5pb.のライブということもあって凄い人数だ。

まだ朝だってのにいるとは…ファンとは恐ろしいものよ。

昨日とかからいたのか?まさか、それよりも前?

 

作戦立てて、確実に犯人を追い詰めるために動いていたら3日なんてあっという間だった。

本当は俺もライブを間近で見たかったけど、仕方無い。

会場を一目見れただけでもよしとしよう。

 

「件、行くわよ」

 

「はい、アイエフさん」

 

「二人なんだからいつものように話してほしいんだけど」

 

「緊張してましてですね?」

 

「…まあ、アンタの場合はそのくらいの方がいいか」

 

「ずっと緊張してろと申すかアイエフどん」

 

「どんって何よ。それより、本当に犯人はリーンボックスにいるの?」

 

「ああ、間違いなく、犯人はリーンボックスで計画を実行する。

それに、俺の予想が正しいのなら…あちらも気付いてるだろうな」

 

俺の予想に、アイエフは呆れの表情。

 

「それなら、よく逃げないわね」

 

「さぁな。あくまで俺の予想だよ」

 

俺とアイエフはそうして港へ着いた。

 

二人行動をしてる訳、それはライブ会場への被害を少なくするためだ。

一人を差し押さえるなら大勢は刺激を与える。

二人でいいと俺が皆に言ったんだ。

 

港は俺達を除いて人がいない。

当然、会場へと赴いているんだろう。

大好きかよ、歌が。

 

「逃げなかったんですね」

 

俺は、俺達の前に立っている奴に話し掛ける。

 

「しかし…ここまで大胆な脅迫状を出すなんて事をしなければ犯罪は成功していたかもしれませんよ」

 

「貴方が脅迫状を教会へ送った犯人ね。大人しく投降すればまだ優しく済むわよ」

 

 

 

「それはできない」

 

 

 

目の前の黒いスーツを着た男はこちらへ振り向く。

左手に、赤いディスクを一枚持った状態で。

 

やはり、グレートレッド製のディスクを持ってるか。

となると…苦戦しそうだ。

 

「よくここにいると分かりましたね?是非、そちらの推理を聞かせてもらいたい」

 

「推理なんて難しいものじゃありませんよ」

 

まず、動機について始める。

この3日間、必死に調べてきたんだ。

間違えは許されない。

 

「貴方の動機…きっかけは随分と前になる。5pb.さんがまだ教会にプロデュースされてない頃、貴方は敏腕プロデューサーとして多くのアイドルを世に出してきた。…しかし、5pb.さんが教会にプロデュースされてから、殆どのファンはそちらへと流れていった…それこそ、5pb.一強とでも言えるくらいにね」

 

「しかし、それで私がこうするという理由にはならない」

 

「話は最後まで聞くもんですよ、プロデューサーさん」

 

「アンタから聞きたいって言ったんだから、大人しく聞きなさいよ」

 

「…それもそうですね」

 

続きを聞こうとする姿勢に戻った犯人に俺は話を再開する。

 

「勿論、貴方も彼女の歌の素晴らしさは理解している筈、認めてる。そうでしょう?」

 

「ええ、彼女は人を魅了する歌を純粋に歌える素晴らしい逸材ですよ」

 

だから(・・・)ですよ」

 

「…」

 

「調べたところ、貴方はアイドルたちに慕われる存在だった。多くのアイドルにね。なら、貴方はそのアイドルたちに少なかれ何かご相談を受けていたのでは?差し詰め、内容は最近出てきた売れっ子についてとかでしょうね。辞めた子もいたんじゃないですかね。

順風満帆だったアイドル生活に水を刺されたようなもんです」

 

「確かに、そのような相談も受けました。辞めてしまったアイドルも……なるほど、本当に私の事を調べてたんですね」

 

「はい、そりゃもう。3日かかりましたよ」

 

「…初めは、素直に認めていたんです。あんな綺麗な歌を歌える存在を私は知りませんでした…しかし、他の子は違う。厳しいアイドル業界を生きるのに必死だった。だからこそ、ぽっと出の彼女は目の上のたんこぶだったんでしょうね。相談に乗ったとき、かなりの激情をぶつけられましたよ」

 

「それが何度も続いて、貴方は思い付いてしまったんですね。

今回の犯行を」

 

男は頷く。

きっと、精神に余裕がなかったんだろう。

マジェコンヌにアイドル達からの相談、普段の仕事からの疲れ。

ストレスを溜めすぎると人はおかしくなる。

 

「一度、リセットしようと思った。そんなとき、タイミングよくあの方が現れたんです」

 

『私なら、その望みを叶えられる。君の願望は人を想う正しい行いだ』

 

「そう言って、私にこれを渡してきたんです。…いけない行いだとは、理解していました。ですが、止まろうとは思わなかった」

 

「自分よりも他人を優先した結果、貴方は犯行を決心した」

 

「アンタはそんなことしてアンタが育ててきたアイドルや同僚が悲しむとは思わないの?」

 

アイエフの言葉に犯人は首を横に振る。

説得は、無駄なのかもしれない。

それでも、可能性を捨てちゃダメだ。

 

「これは私が決めたことです。彼女たちは関係ない」

 

「そうですね。貴方が一人で決めて一人で実行したこと、それは否定しようのない事実だ。…ですが、他にやりようはあったでしょう?他でもない貴方こそ、誰かに相談するべきだった…親しい誰かに」

 

「綺麗事を言いに来たんじゃないでしょう」

 

「…本当にやめないんだな」

 

「くどいですよ。…ライブ開始まであまり時間がない。貴方がたを排除して実行させてもらいます」

 

結局、こうなるか。

 

間が悪かった、そうとしか言えない。

この人が悪いわけではない。

この人は自分を犠牲にする事を選んだ。

 

だが、それは間違いだ。

洗脳の果ての偶像信仰なんて、それこそ嘘にまみれてる。

 

彼は赤いディスクを投げると、ディスクは光り始める。

 

ディスクから現れたのは…この世の者と呼べるものではなかった。

 

「おいおい…?」

 

何でも利用する気かよあのクソ蜥蜴…!

 

『■■■■■■──』

 

気配として感じるのは、以前戦ったサマエルとフェンリル…後、その他複数の魔獣のものだ。

だが、目の前の存在は…その全てに該当しない。

不定形の怪物と化してしまっている。

 

目と思わしき物がいくつもギョロギョロと一点を見ることなく動いている。

口には牙のような物が見えるが形は酷く歪、そも、噛む為としての機能をあの口は失っているだろう。

手も脚もない、生物の原型を保てていない。

 

こんなものを生物と呼べるか?

 

「ズェピア、相当気味の悪いのが出たけど…?」

 

「これは…消さなきゃダメだ」

 

グレートレッド、お前は何をしたいんだ。

こんなおぞましい物を造って、何がしたい!

命に対する冒涜だろう…?

 

「私とアンタの二人だけ、勝つ算段はある?」

 

「俺が奴の注意を引き付ける。アイエフは物理以外での攻撃を頼む」

 

「魔法は得意じゃないんだけど…四の五の言ってられないわね」

 

「大丈夫、君の厨二魔法を信じてるからゴホォ!?」

 

みぞおち。

深く突き刺さる拳の威力はまた上がっていることが分かってしまった。それと同時に俺の頑丈さも上がってやがる…

 

「真面目にやんなさいよ!」

 

「イエス、マム!」

 

「やれ!!」

 

「っ、アイエフ!」

 

「くっ!」

 

「■■■■■!!」

 

不定形の怪物はおぞましい声をあげながら口からいくつもの触手を伸ばして俺達を突き刺そうとしてきた。

俺とアイエフは迫る触手を回避し、怪物を見る。

 

「■■■、■──」

 

ギョロギョロと動く目はいつの間にか俺達を捉えていた。

正気度が下がりそうな見た目だ。

早いとこ倒さないと…

 

それに、これの元になった魔物達が可哀想過ぎる。

解放してやらないと。

黒い銃身を撃つにしても、あの蜥蜴が対策を積んでないとは思えない。

確実に当てられるタイミングで放とう。

 

「さて、たまには主役らしく決めますか!」

 

「前みたいに死にそうにならないでよね」

 

「前みたいにと言えば、サマエルも元になってるから一撃即死の毒がある筈だ。当たるなよ?」

 

「上等よ、やってやろうじゃない」

 

「やる気に満ちているようで何より。ここで仕留めるぞ!」

 

「ええ!」

 

俺達は各々の武器を取りだし、怪物と対峙する。

 

インストール、『分割思考』『高速思考』

 

二つの能力を俺に宿す。

擬似的な未来視を可能とするそれはアトラス院で院長であった頃のズェピア・エルトナム本人のもの。

故に、的確かつ最善の判断を可能とする。

 

けれど、まだ一手が足りないと俺の頭が告げている。

 

…それでも、下手に使うわけにはいかない。

 

まず、様子見も兼ねて戦う。

俺とアイエフの攻撃がどこまで通じるのかを確かめなきゃならない。

 

相手の行動を演算しながら、怪物へと駆ける。

 

 

 

─いざとなれば使え、という頼もしい声を聞きながら。




あんまり長くならなかったけど、次回はクソ蜥蜴の生み出した怪物とのバトルです。

次回、『哀れな怪物に終わりを』


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哀れな怪物に終わりを

いぇ~いピースピース!

埼玉行って疲れましたロザミアです。
もう花粉症酷いんですけど、なんなんすかねぇ




潮風が頬を撫でる。

本来なら落ち着く海の香りも今は気を引き締まる為のいいスパイスとなる。

何本も迫る触手をかわして、いくつもある中の一つの目に拳を叩き込む。

 

「■■■■■■■──!!」

 

怪物はヘドロのような液体を撒き散らし、暴れながら悲鳴をあげる。

 

離れないと押し潰されそうな体躯。

 

一度距離をとる。

俺が後ろへ跳ぶのと怪物のいる地面にアイエフの魔法陣が浮かび上がるのは同時だった。

 

「ラ・デルフェス!」

 

瞬間、光の柱が怪物を飲み込む。

怪物の悲鳴がより強くなるがそれでも死を与える威力にはなり得ない。

 

─硬い

 

かなりの硬さだ。

目が弱点なのは間違いないが結構強めに叩かないと潰すことも儘ならない。

 

「攻撃は通るが…効きは薄いな」

 

「黒い銃身は?」

 

「今からタイムリミット付きの変身するか?」

 

「そこは直らなかったのね」

 

「こんなもんですよ、現実なんて」

 

「このままじゃじり貧ね…」

 

「え、無視?…まあ、確かにこのままだと攻撃を貰うのも時間の問題か」

 

「フェンリルって速いイメージがあったけど…あの体じゃ思うように動けないようね。完全に失敗作って感じ…」

 

鈍重な見た目ではあるものの触手の攻撃は正確かつ素早い。

あの目の届く範囲ならどこまでも触手を伸ばしてくるだろう。

それに加えて、サマエルの毒─龍殺しの毒は龍種でなくとも効果は抜群だ。

 

硬さもサマエル由来の硬さだろうか?それとも他の魔獣…

 

そちらを考えても仕方ない。

今は突破方法を…

 

「拘束できるなら…黒い銃身を撃てるんだがな」

 

「そういう道具は無いの?」

 

「俺を便利屋か何かと勘違いしてないか?あるけど…」

 

今の状態で使えるかどうか。

幸い、どう扱うかは長年使ってきてるんで分かるが、そもそもあれ、刺せる?

 

俺は一応目にギリギリ見えるくらいの糸を出す。

 

「それは?」

 

「エーテライト。これを刺せば、相手の情報を閲覧、ハック出来るんだが…さて、どう思う?」

 

「あの目に刺せればってとこかしら」

 

「まあ、そうなるな…援護頼むぞ」

 

「アンタ馬鹿なんだから突っ走ってればいいのよ。それは得意でしょ?」

 

「酷いなあ…その通りだけどさぁ!」

 

再び、怪物に向けて走る。

怪物は俺をギョロリと捉えると触手を何本も伸ばしてくる。

触手─左右と前─の攻撃をギリギリ避ける。

肌に触れないギリギリのライン。

分割思考と高速思考がなければできない回避だった。

 

安堵する暇はない。

もう少し。

 

何本も迫る触手をかわす、アイエフの魔法が俺じゃかわしきれない部分を対処してくれる。

 

今。

エーテライトを怪物の目に伸ばし、刺す。

 

「よし…っ!」

 

エーテライトを介して怪物の情報をハックしようとした瞬間、怪物はおびただしい程の触手を俺だけに向けてくる。

 

意識をそちらへと向けたが、遅い。

このままだと毒の餌食だ。

 

「─烈火死霊斬!」

 

炎を自身のカタールへ纏わせ触手を切り裂くアイエフを目にする。

素早い身のこなしと連撃に触手は焼き払われていく。

 

「早く!」

 

「ああ!」

 

アイエフに急かされ、意識を集中する。

 

怪物の情報へ意識が入り込む。

 

『■■■、■■!』

 

そこには、怪物の元になったであろう素体たちの姿。

サマエル、フェンリル、その他多くの魔獣。

 

全ての情報が俺へと向けられる。

ひたすらなまでの殺意。

呪詛に近い、相手をただ殺そうとする純粋な殺意が俺を突き刺す。

怒りもなく、悲しみもなく。

 

いらない情報を切り裂いていく。

脳が痛む。

一体だけでも多い膨大な情報を何体も混ぜたせいでこの空間自体が歪だ。

 

怪物の中枢に行くまでは脳の痛みを気のせいだと誤魔化す。

中枢さえハック出来れば、動きを止めれる。

 

 

 

「ズェピア!!」

 

 

 

「っ!?」

 

アイエフの言葉に意識を戻す。

触手が俺へと迫る。

捌ききれなかったか!

 

「くっそ!」

 

エーテライトを引き抜き、触手を転がって避ける。

危なかった…声をかけられるのが遅かったら死んでたな。

 

アイエフを見れば、標的がアイエフに変わったのかかなりの数が襲い掛かっていた。

 

「ちょっとは、大人しく!しなさいよ!」

 

苦悶の表情を浮かべながら炎を纏ったカタールで触手を切り裂き、捌ききれないのを避ける。

しかし、避けたところを見計らったように怪物はその先へ触手を伸ばした。

俺は咄嗟にアイエフへと駆ける。

 

「アイエフ!」

 

「っ、しま…!」

 

間に合うか?─間に合わせる。

 

分割思考をカットし、体術をインストールする。

 

まだ足りない。

例えアイエフの近くまで行けても、庇った瞬間死ぬ触手だ。

何か、盾になるようなものがないと…!

 

 

─『私の出番、ということか』

 

 

凛々しい声が俺の内側から聞こえる。

この声は…!

 

急いで対話を試みる。

 

─俺に、力を貸してくれるのか?

 

─『勿論』

 

即答だった。

貸さない理由はないとばかりに。

 

─『守る盾が必要なんだろう?ならば、束の間ではあるが助力しよう』

 

─俺は、ワラキアの夜だぞ

 

─『…他者を庇護しようとするその精神は、偽りではなかった。

例え、ワラキアの夜だとしても…悪用はしないと信じよう』

 

真っ直ぐな瞳を向けられている気分だった。

そうか。

この人物を理解できた気がする。

 

守ることに躊躇は要らない。

 

─力を貸してくれ

 

─『ああ、使ってくれ』

 

意識を向ける。

内側に、タタリに。

助力に感謝を込めて、力を引き出す。

 

姿を変える。

片腕に確かな重みを感じる。

ガードしようとするアイエフの前へ辿り着き、触手にそれを構える。

 

触手がそれに当たった瞬間、触手は弾かれた。

 

「っ…アンタ、その姿…」

 

 

 

 

「─我が盾は魔を弾く城塞なり」

 

 

 

 

怪物へと先端の杭を向ける。

怪物は本能的に感じ取ったのか呻き声をあげる。

守れた。

その事実に安堵する。

 

「如何なる策を弄そうと我が盾は不浄から護り、我が杭は邪悪を打ち砕く!造られし哀し子よ、その身の不浄の一切を払わん!」

 

「■■■■──!」

 

吼える怪物。

俺はアイエフに顔だけを向ける。

何にしたって、俺一人じゃ厳しい。

 

「すまない。守った手前、頼むのは恥ずかしいのだが…私だけではあれに撃ち込めない。君の助力を願いたい」

 

「…ええ…けど後で、自己紹介してもらうからね」

 

「なら、その為にも一撃で仕留めるとしよう」

 

地を蹴り、怪物へ接近する。

懲りもせず伸びてくる触手を切り払いながらも足を止めることはない。

アイエフの援護で撃ち漏らしも気にすることはない。

 

「やっちゃいなさい!」

 

「感謝する!」

 

正式外典ガマリエル。

ヴァイオリンを思わせる銃盾にして槍鍵、パイルバンカー。音律を以ってあらゆる不浄を弾く正しい秩序の具現。

盾の乙女の強さの一端を借り受けた。

 

ならば、魔を払うことに一切の不安なし。

 

あがきとばかりに牙で俺を抉り殺そうとしてくる。

だが…今は、この盾がある。

ガマリエルを構え、力を解放する。

牙が触れる瞬間、ガマリエルに紋様が浮かび上がる。

 

 

 

「祈れ、その魂に奇跡を宿すのなら!裁きの後に救われよう!」

 

 

 

「■■、■■■…─」

 

正式外典・原罪抱擁。

 

瞬間、魔を払う光が怪物を飲み込む。

苦しみから解放されたように、怪物は声をあげ、消滅した。

利用され、意識も混濁し…最後にあんな見た目になった怪物にこの光が救いとなることを祈る。

 

けれど、まだ終わってない。

俺は怪物が倒されてもう何も残ってないだろう犯人に近づく。

 

「…これ以上の抵抗は無駄だ。諦めろ」

 

「…そのようだ…ライブのスピーカーに仕込んだモンスターも倒したんだろう?」

 

俺はアイエフへ視線を向ける。

 

アイエフは携帯を取り出して、頷いた。

 

「ええ、無事に全部倒したそうよ。その証拠に──」

 

 

 

─ライブ会場の方向から観客たちのであろう歓声が聞こえる。

 

綺麗な歌声が、ここにまで届いていた。

 

そうか、これが5pb.の歌声か。

…なるほど、国民が支持するわけだ。

犯人の方へと視線を戻すと、諦めた様子で膝を着いていた。

 

その表情はどこか清々しさすら感じる微笑。

 

「やはり、彼女の歌声は素晴らしい…罪を、償います」

 

Nギアを取り出して、アイエフに渡す。

この姿だと色々と誤解されそうだからな。

 

「まったく……もしもし、ケイブ?ええ、犯人を確保したわ。件は少し無理したから休ませてるわ。平気よ…ええ、じゃあ、後でね。

これでいいのよね?」

 

「ああ、ありがとう。…さて、自己紹介だったか。

私はリーズバイフェ・ストリンドヴァリ、異端審問騎士団の団長だ」

 

「タタリの情報の一人ってことね。さっきは助かったわ、ありがとう。知ってると思うけど、アイエフよ」  

 

「よろしく、アイエフ。それと、この聖盾が役に立ったのならそれでいい。

この世界は私の知る世界とは丸っきり違うようだし、肩書きとか気にしなくていいし…まあ、元々考えてないんだけど」

 

「アンタ、見た目に反してずぼらだったりする?」

 

「分かるのか?特に考えないでいいから戦闘とか仕事は得意だけど、しなくていいならしたくないんだ」

 

「うわぁ、真反対…」

 

しばらく、リーズバイフェの意識に任せているが、本当にずぼらなんだなと感じた。

 

…彼女は俺ではないが、タタリに殺された人間だ。

そんな彼女が別世界とはいえタタリである俺に協力してくれるとは思っていなかった。

もしかしたら、最初はそうだったのかもしれない。

 

…俺の行動も、捨てたもんじゃなかったんだな。

 

「…さて、そろそろ交代だ」

 

「…アンタがいなかったら、危なかった。本当にありがと、リーズバイフェ」

 

「そこまで感謝されると恥ずかしいな。だが、まあ…もしまた話すことがあれば─」

 

 

─リーズと呼んでくれ

 

 

その言葉を最後に意識が俺に切り替わる。

姿が元に戻り、膝をつく。

どっと疲れが来た…

 

「キツそうね、肩貸す?」

 

「いや、このまま座らせてくれれば、平気だ」

 

犯人は観念してるし、問題はないだろう。

 

あー、疲れた。

本当に疲れた。

こういう事件はしばらく勘弁してほしいね。

 

「あっちの方が数が多くなるかもって予想は的中だったか。…もうしばらく頭動かしたくねぇぞ」

 

「慣れないことばっかしてたから、疲れも一際って感じね。…それで、この後どうするの?」

 

「…後の事は後!」

 

「考えるの怠いって言いなさいよ」

 

「アイエフなら言わなくても分かってくれると信じてる!」

 

「…ネプギアも大変ね」

 

何故そこでネプギアが出るのか…ああ、相棒だからか。

だよなぁ、この世界で一番心配くれてるのは間違いなくネプギアだと思う。

自惚れかもしれないが…それでもそういう存在はありがたいものなんだ。まだ死ねないっていう理由になれる。

 

駆けてくる足音が聞こえる。

来たか、皆。

 

「…ふぅ、よく、働いたな」

 

「お疲れ様。…寝てていいわよ」

 

「お見通しか…すまん、後は頼むわ」

 

「はいはい、さっさと寝なさい」

 

全く、気遣いが上手いんだか下手なんだか。

 

重くなる瞼に任せ、目を閉じる。

こちらへ来る足音を聞きながら。

力を貸してくれた盾の乙女に感謝を抱きながら。

 

俺は、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ会場での戦闘が終わり、アイエフさん達の元へと駆け付ける。

もう終わってるようで、犯人と思われる男の人は諦めた様子で座っている。

 

「アイエフさん!」

 

「ライブを聞いててもよかったのに、律儀ね」

 

「件さんとアイエフさんにだけ任せる訳にはいきませんから…件さん?」

 

「疲れてるのよ。そっとしてやんなさい」

 

「…そうですね」

 

件さんに近寄る。

本当に疲れて眠ってるようだった。

きっと、激しい戦闘だったんだろう。

 

そっと手を件さん…ズェピアさんの頭に乗せる

 

「お疲れさまです、ズェピアさん」

 

「…気付いてたのね」

 

「はい、何となくですけど…でも、私達に明かさないってことはバレたくなかったんだろうなって」

 

「そう。はぁ~無駄に体力使った気分!」

 

最初に出会った時から、ズェピアさんかもしれないという予感はしていたけど、途中から確信に変わった。

たまに見せる真剣な表情が、とても似ていたから。

 

それでも言わなかったのは言ってしまったらズェピアさんが大変だろうから。

こうして協力してるとはいえ脱獄しちゃってるわけだし…ケイブさんに知られたくはなかったんだろうなって。

 

「タタリ、使っちゃったんですね」

 

「今度はリーズバイフェっていう人になってたわね。一体どれだけ引き出しがあるのか知りたいくらいよ」

 

確かに、後どれくらい変身先があるのか気になる。

でも、ならないってことは疲れる以外にも何かあるんだろうな。

ルウィーの時の七夜さんが言ってたことだけど、それぞれに人格があるらしいから…許可、とか?

 

「貴方にはしっかりと法による裁きを受けてもらうわ。いいわね?」

 

「…はい」

 

男性は手錠を掛けられ、ケイブさんに連行されていく。

…晴れ晴れとした顔だった。

何かあったんでしょうか?

 

「何にせよ、これで一件落着ですね。ゲイムキャラの協力、得れるでしょうか?」

 

「ここまでやって駄目だとか言われたら砕く自信があるわ、私」

 

「だ、ダメですよ!リーンボックスのゲイムキャラさんから協力を貰ってようやくお姉ちゃん達を助けられるんですから!」

 

「冗談よ、真に受けないの」

 

うぅ、今日のアイエフさんは意地悪です。

 

私だって本当はズェピアさんと居たかったのに…!

いいなぁ…絶対、買い物とか付き合って貰おう、そうしよう!

 

「…ねぇ、ネプギア」

 

「何ですか?」

 

「アンタはいいの?」

 

「えっと…何が、ですか…?」

 

「このままねぷ子達を助けて、マジェコンヌとグレートレッドを倒して…そしたら、ズェピアは帰っちゃうのよ?想いを早く伝えるべきだと思うけど…」

 

「それは…」

 

「伝える機会を失うことの方が…私は辛いと思うわ」

 

アイエフさんはいつか来る別れの時の事を考えて私に言ってくれている。

改めて、周りを見ているんだと感じた。

 

確かに、お姉ちゃん達を助けたらマジェコンヌやグレートレッドとの戦いは更に激化して想いを伝える機会は増えるどころか減ると思う。

 

「心配してくれてありがとうございます。でも、今伝えてもズェピアさんを混乱させるだけだと思います…だから…」

 

「…そう。分かったわ。アンタがそう言うなら私は何も言わない」

 

「ありがとうございます。…えっと、それで…この後、ズェピアさんはどうします?」

 

「包み隠さずに言うに決まってるでしょ、バレることなんだから」

 

「で、ですよね…」

 

大丈夫かな、ズェピアさん。

 

膝に頭を乗せて、会場の方へ顔を向ける。

まだ、ライブは盛り上がっているようで人々の声がこちらにも聞こえてくる。

 

何はともあれ…お疲れさまでした。



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