アウトサイダー (クラクモ)
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MISSION01 私有地警備
アーマード・コア……略称AC。作中世界において最先端の武装人型ロボット。コア構想によって頭部や腕部を換装可能。原作ゲームにおける自機。二脚レッグパーツを使用した状態では高さ8m~10mほどの大きさ。無限軌道のキャタピラLGや四本脚のLG等もある。
MT……正式名称マッスルトレーサー。様々な形状がある基本的には非人間型である事が多いメカ。ゲームにおけるやられ役の位置付け。元々は作業用のロボットから発展し武装化したものも多い。
リグ……浮遊ホバーによる駆動で高い機動性を持つ車両の総称。ゲームにはプロジェクトファンタズマで戦闘車両タイプのコンバットリグが登場していた。作中に出てくる輸送リグはオリジナル設定。
パワードスーツ……2mから3m程度のサイズの機械の鎧。原作でもブースト飛行で飛び回りバズーカやミサイルを発射する戦闘用パワードスーツが登場。作中に登場するものはオリジナル設定。
レイヴン……人型兵器アーマード・コアを乗り回す傭兵の総称。
レイヴンズ・ネスト……中立的なスタンスの傭兵斡旋組織。傭兵の仕事はここを介して行われている。
C……読みはコーム。ゲーム内で使用されている通貨単位。おそらく危険な傭兵と金銭をやりとりする際のトラブルに対応した専用のネット通貨のようなものと思われる。
爆発音。
鈍く轟くそれが見渡す限りの荒野を震わせる。晴れた空に一筋描かれた飛行機雲の先で炎の花が咲いていた。
丸みを帯びた輸送機が機体を傾かせ、黒い煙を吐きながら大地へ堕ちていく。
「あの高度を飛ぶ輸送機に全弾命中か……怖いもんだ」
遠くへ向けたカメラアイが地平線から僅かに覗く人型の輪郭を拡大する。外部を映すヘッドディスプレイに表示されたのはアーマード・コア……自分では届かない強い力。
恐れや諦観、それにいくらかの羨望、複雑な思いと共に吐き出した言葉は荒野の風が装甲へぶつかる音に紛れた。
重く感じる頭を軽く振り思考を切り替える。ペダルを踏んで機械の脚を操り、岩肌を滑り降りて日陰に隠した車両へと近づいた。
自分の家でもある大型の輸送リグ*1の周囲を念のためにぐるりと回る。目視で異常が無い事を確認し側面ハッチを開放。強い日差しの下から薄暗いカーゴ内へと入り、ハンガーで身に着けていた機械の鎧から離れて通路を進む。
――ザザ……答せよ……206便、応答せよ……
操縦室へ入ると、傍受している無線から既に受け取り手の存在しなくなった通信が雑音混じりに漏れていた。
こんな何も無い荒野で待機するだけの安い仕事だ、ひとつ追加で稼がせてもらうとしよう。撃墜された輸送機はどうせこのまま荒野で朽ち果てるだけ。使えそうな機材や物資が回収できれば金になる……そう考えて、硬いシートに座りアクセルを踏み込んだ。
「こちらポイントB-37、そちらの寄越したAC*2が先ほどの
雇用主である組織から指示された周波数で報告を入れる。
『了解。 前と同様に可能ならばフライトデータの回収を頼む』
「データの回収だな、わかった」
確か情報を回収できた場合の追加報酬は2000C*3だったか? 二週間ほど前に似たような状況でデータを回収した知り合いの同業者がそんな事を嬉しそうに語っていた。2000Cは俺のようにACを持たない傭兵からすれば悪くない臨時収入となる。
幸い落下地点は現在地からざっと十数キロの僅かな距離。拡大した映像に写っている炎が輸送機の物資を焼き尽くす前に余裕を持って辿り付けるだろう。
「
ホバー走行で地面を滑るように進むリグの僅かな振動を感じながら、これまでの経緯を振り返ってみる。
現在受けている依頼は書類上
内容を聞いた時は中古の輸送用リグを拠点にしている自分にとって楽な仕事だと思った。まぁ始めてみれば、二ヶ月近くの間ずっと都市部から遠く離れた辺境の荒野で岩を見るだけの退屈なものだったのだが。
とにかく、もうすぐそれも終わる。
武装組織の度重なる襲撃によって、ターゲットとなっている採掘基地の防衛戦力は既に限界まで低下しているようだ。話ではもう明日にでもACやMT*4の部隊で採掘基地へと駄目押しとなる最後の攻撃をしかける予定らしい。長い仕事の中で多少は話すようになった組織のオペレーターには追加料金でそれへと参加しないかと誘われたが、断った。大きな輸送リグでは施設内部での戦闘には向いていない為だと相手には言ったが、実際の理由は違う。
この仕事はどこかおかしい、深入りしない方が良い……勘がそう囁く。監視と連絡のみ、しかも雇われた自分達外部の傭兵とは別に展開した組織本隊の活動を補助するだけという内容。最初は上手く事が進めば戦闘による消耗もなく勝ち馬に乗れる簡単な仕事だと思っていた。しかし有り余る退屈な時間を使って前後の状況を改めて整理してみると、その異常さが浮き彫りになってくる。
事の起こりは世界を二分していると言っても過言ではない、ある有名企業がこんな辺境にまでやってきたことだった。彼らは枯渇して寂れた小さな鉱山を買い取り、近場の地方都市を経由して結構な量の物資や人員を送り込んだ。企業の影響力を広げる目的であれば現地の住民を積極的に雇い入れる事が多いのだが、そういった雇用も無く。かといって鉱山に僅かでも残っていたかもしれない何らかの資源をどこかへ輸送している様子も無かったらしい。
そこへ今回の武装組織からの依頼である。
ターゲットである鉱山はそこまで規模は大きくないものの専属の防衛部隊が配備されている大企業所有の基地だ。そいつを相手に、小競り合いを繰り返しながら干上がるまで封鎖を続けられる装備と人員を揃えた武装組織とは一体何なのか。
先ほどの通信内容にしても似たような事が言える。本来この手の非合法組織は活動を続ける為の物資を喉から手が出るほど欲しがるものである。基地への補給物資を満載した輸送機をこれまでの間に何機か落としておいて、回収を指示するのはフライトデータだけ? 何の冗談だろうか。数日前からはMTよりコストのかかるACまで投入しているというのに、だ。
予想出来てはいるが……まったく、どれだけ資金力のある勢力がバックに居るのやら。ヘタに最後まで関わって、大企業子飼いのAC同士がやりあうような抗争なんぞに巻き込まれたらたまったものではない。浅い所でおこぼれに預かる程度にしておいた方が賢明というものだろう。
――ッザ……6便の航路で……未……認のACの反応……ザッ…………難信号を出した206便は既に撃墜された可……
輸送機の落下地点へと向かう最中、操縦席のスピーカーから再び傍受した音声が流れる。
――こちら第3……ザザ……次の補給計画は現在未定となっている。以上。
最近調子の悪い通信機から淡々とした連絡内容が聞こえたのを最後にブツりと通信が途絶えた。
基地の封鎖を開始する前段階として、敵企業の輸送部隊に対する大規模な襲撃を行ったと聞いている。その時の被害の大きさに企業の上層部が方針を変更したのだろう。この仕事を受けてから敵方の企業から送られてくる輸送機は傘下となる中小企業に所属したものばかりとなっていた。
こんな辺境まで事前の計画に無い大規模な増援部隊を送るコストもばかにならない、という事なのだろうか。あるいは既に切り捨ての決まっている基地に対して、「補給は行っていた」という名目にする為だけの人身御供か。
実際の所、あちら側でどういう話になっているのかは分からない。しかし護衛も無しに単機で隣の地域の空港からのほほんとやってくる輸送機の業者には哀れみを覚える。
「下請け業者の輸送機じゃ、捜索も出さないってか? 敵さんとは言え、可哀相にな」
最近増えてきた独り言が、空しく操縦室の中にこぼれた。
墜落した機体が煙を上げている地点に到着し、やや離れた岩陰へとリグを停車させる。
「レーダーには反応無し……熱源は燃えている輸送機のみ……っと。 よし、これでいいか」
念の為にリグを隠蔽モードへと切り替えた。動く家とも言える大きな車体を僅かに浮かせていた動力が切られ、地面へ緩やかに接地する。その事を確認して操縦席から立ち上がった。向かう先は先ほども使っていた自分の機体だ。開きの悪いドアを通り、短い通路を進みハッチを抜ければそれにたどり着く。
ハンガーに固定された3メートルにやや届かない高さの鉄の鎧。この業界でよく見かける飛行しながらの戦闘を目的としたコルセア系統のものほどスリムなものではない。やや旧式の骨太なパワードスーツをベースにして強引にACの頭部を接続した頭でっかちの改造機。
最初にジャンク屋で目にした時には酷い色物だと思ったものだ。しかしその為か値段は安く、気付けばこのアンバランスなパワードスーツを購入していた。ACへの憧れのようなものも在ったかも知れない。ただ、趣味に走った店のオヤジが自慢していたように、実際に性能自体はそう悪いものではなかった。今となっては仕事に欠かせない相棒とも呼べる機体となっている。
ディフォルメされたACのようなそれに近づき、前面装甲を大きく開いた胴の内部へと背中を預ける。機体の大腿部に足を納め、軽くペダルの動作を確認し、ベルトで身体を固定。いつものように始動キーを捻ればコンソール周辺に緑のランプが灯り、前面装甲が閉じていく。最後に装甲の開閉と干渉しないよう上を向いていたACの頭部が空気の抜ける音と共に下がり、上半身へ半ば被さる形でロックされた。
ACのHDに内蔵されたカメラアイがカーゴ内の映像を映し出す。僅かな油圧弁の開閉音の後に機械の手足に動力が巡り、ハンガーから立ち上がる。
やや長いがっしりした下腕の外側に装備された対装甲目標用のマシンガン。逆側の腕には簡素な物理シールド。胴体横に取り付けられたスモークグレネード。
「はぁ……やれやれ」
いくつかある最低限の武装を確認して小さく息を吐く。無人の荒野、付近には自分以外の反応は無い、レーダー範囲外も広範囲に渡って幾重にも友軍の手で封鎖済みだ。戦闘が発生しない事はほぼ確実な状況だというのに――
自分が戦い、抗い、逃げのびる事ができる。共に戦場を駆け抜けてきた機体に身を預け、その状態になった事への奇妙な安堵があった。
そんな自分に苦笑しながら脚部のローラーを低速で動かして外への出入り口へ近寄った。壁の操作パネルへとアクセスし、リグの側面ハッチを開放させる。
扉の開閉を示す黄色の回転灯がめまぐるしくカーゴ内を照らす中、次第に外の景色が露になっていく。
さぁ仕事だ、相棒。
『システム キドウ』
戦闘モードの起動を告げる無機質な合成音を聞きながら、赤茶けた荒野へと機械の足を踏み出した。
「あまり壊れていないな」
今回撃墜された航空機はやや古いタイプの中型輸送機だった。ただ分類上は中型とは言え、8m前後にもなるACを直立した状態で運搬する事も可能な規格の輸送機である。翼のあった破断面から煙を上げる輸送機はこちらのパワードスーツと比べれば見上げる程に大きい。
大きくひしゃげて簡単には開きそうにない機体の後部ハッチからの進入を早々に断念し、正面側へ向かう。遠目に確認した限りではコックピットの天井部分に穴が開いているように見えた。おそらく緊急用の脱出装置が不完全に作動でもしたのだろう。流石にこのパワードスーツを着用したままでは無理そうだが、人間一人なら簡単に機内へと入り込める筈だ。
回り込んだ先でコックピット上部へと肩の後ろにあるワイヤーアンカーを射出し、機体を引き上げていく。
「こいつは酷い」
歪んだ天井部分に取り付き、コックピットの内部を見て呟く。どうやら墜落の衝撃で機長と思われる男の頭がコンソールに激しく突っ込んだようだ。派手に飛び散った血がブスブスとショートしてそこかしこで煙を上げていた。
「…………クソ、通信関係は駄目か」
機体全体の破損が少なかった事で期待を抱いていただけに落胆が大きかった。航空機はその運用の都合上、地上用の機体よりもはるかに広範囲を索敵可能なレーダーを積んでいる。そして得られた多くの情報を処理する為に高性能な機材を必要としている。ようは、通信周辺の制御装置を持ち出せれば金になる……のだが。流石にこれだけ破損してしまっていては売り物にするのは無理だろう。
まぁいい、臨時収入の当てはそれ以外にもある。先ほど頼まれたフライトデータを入手できればいくらかの追加報酬が約束されているのだ。火が回ってくる前に最低限それだけは回収しておきたい。
補助モニターに表示される外部の環境情報を見るに、今居る機首付近では有毒ガス等の発生は無いらしい。脚部のアンカーを打ち込みパワードスーツを輸送機の上に固定して、装甲を開く。とたんに鼻をつく金属と血液の焦げた臭いに顔をしかめながら身を乗り出し、輸送機のコックピットへと降り立った。
何時なんらかの危険があるか解らない、手早く終わらせよう。財布や身分証を抜き取ったパイロットの死体を横に転がして作業スペースを確保する。座席の下部に内蔵された記憶媒体を取り出し、パワードスーツ内側の小さな収納ラックへと仕舞いこむ。後は機体後部にあるフライトレコーダー本体を回収できれば完璧だが、とりあえずこのデータだけでも金にはなる。
「……ぅ……」
唐突に、背後から声のようなものが聞こえた。
「ッ!」
瞬間的に振り向く。
ここから見える範囲に人影は無い。今の聞こえ方からして、コックピットから出て少し行ったあたりからのようだ。この型の輸送機のあの位置は……確か給湯室を兼ねた休憩スペースだったか? まさかあの高度から堕ちて生き残りが居たとは。
思い出してみると上空から制御を失って墜落したにしては緩やかな落下だった。機体も地面に突っ込んだ割にそこまでバラバラになってはいない。横でくたばっている初老の男はかなり良い腕前だったらしい。
先ほどまでは視界が確保された広い荒野での監視を行っていた。その間、消費を抑える為に機体頭部の補助センサー類を切っていたのが不味かったな。
いや、各所で爆発の残り火が燻っている現状では生体センサーでも正確にスキャンできたか怪しい。パイロットの服装を見る限りこの輸送機は非武装の民間向け業者の所属。同様に他の搭乗員も一般人だと判断してもいいだろう。
無論、基地へ送り届ける白兵戦力を乗せていた可能性もある。しかしそういった場合は乗客となる兵士がコックピット付近に居る可能性は低い。また、兵士が生き残っていた場合は、より早い段階で既にもう何らかの行動を起こしている筈だ。墜落から現在までに動きが見られなかった以上、恐らく声を上げたのは非戦闘員、ならば――
「誰か居るんですか? 助けに来ました!」
懐の銃へ手をやりながら壁に背中をつけ、救助者を装った声をかける。
――
――――返事は無い。
「…………」
足音を忍ばせてコックピットの入り口まで移動し、衝撃で半開きになっていた扉の影から通路を窺う。機体の後部へと続く通路は途中で潰れており、人が通れる状態ではなかった。最初の予想通り、声の主はすぐ近くの開いた扉の先にある簡易的な休憩室に居るのだろう。ならばそいつは副操縦士か、通信士か……どちらにせよ、そこまで警戒する必要は無い……か?
銃を抜き放ち、セーフティを解除してから傾いた通路へと身を晒す。数歩進み、休憩室の中へその辺に散乱しているガラクタを投げ入れる。室内に何の動きも無い事を確認してから覗き込んだ。
備え付けの小型の給湯設備と、簡易ベッドにもなる長椅子が向かい合うように2つ配置されたそう広くない部屋。薄いシートのようなものが散らばった長椅子の間の床に倒れている人影がある。
「大丈夫ですか?」
救助を装った建前から一応確認してみるも、これといった反応は無い。脈は……ある、インカムの付いたヘルメットにはどこかへ打ち付けたような痕跡は無し。続けて骨折の有無を調べるため手足に触れていく。
写真入りのネームプレートをつけたジャケットの下、清潔感のある白いシャツを内側から盛り上げているふくらみ、丸みのある腰。ぱっと見て身体の線が細いとは思っていたが、女か。
周囲にある薄いシート状のものが衝撃を緩和するエアバッグだったらしく、驚いた事にこの人物に怪我らしい怪我は無かった。まぁ気絶はしているのでそれなりのダメージは受けたのだろうが、それでも異常な幸運と言えた。
「…………」
念のために服の中も調べ、特殊なホルスター等で武器を隠し持っていないか確認する。
「ぁ…………」
無遠慮に肌を探られた女の唇から小さく僅かに、痛みによるものではない吐息が漏れた。手に残る柔らかさの余韻を味わいながら、少々服装の乱れた女を見下ろして考えをめぐらせる。
今受けている仕事は荒野の監視とフライトレコーダーの回収だけだ。敵対組織の直接的な排除は俺の仕事ではない。補給物資の基地への到着が妨害されている時点で、この状況での雇い主の目的は十分に達成していると言える。
……まぁ、構わないだろう。せっかくの生存者だ、始末するのは後でもできる。
なんといっても情報は金になる。下請けとはいえ、世界を二分する大企業に関わって仕事をしている一人の人間が見ていた基地や空港の物品の流れ。例えば他の機体が飛び立った時刻や方角、資材の搬入状態、届け先の各施設の特徴……細かい所では話題になっていた噂などだろうか、色々と得られるものはある。先ほど回収したデータに記載されている航路や積荷に関するものの他に、こうした生の情報というのも意外と馬鹿にならない。
今後の仕事の為だ。この女からそのあたりの情報を
「ここの所、ご無沙汰だったからな」
腰の後ろのポーチに入れてある特殊なアンプルを意識しながら呟く。
ぐったりと横たわる女はまだ若かった。あるいは操縦席で死んでいた機長と思しき初老の男に付けられた、入社まもない見習いでしかない可能性もある。大した情報は得られないだろうが、発育の良い肉体はその
シャツの袖を捲り、露出させた華奢な腕へと無造作に無痛針を突き刺す。そうして、小さなガスの噴出音が聞こえると共に女の肉体へ薬液が注入された。
「ポイントB-37、異常無しだ。 それと先ほどの
『ザッ……ポイントB-37了解。 現在他のポイントでも目立った動きは出ていない。 回収については了解した、いま上に確認する』
僅かな間だけ通信が沈黙し、すぐにまた繋がる。
『……こちらの哨戒部隊に渡してくれれば追加の報酬が出せるとの事だ。 時間まではそのまま警戒を頼む。 オーバー』
「ラジャー」
雇い主である組織の担当オペレーターと通信を終えて、一息吐く。クスリで眠らせた女をリグに連れ込んでから3時間が経過していた。
墜落の中で燃料の緊急投棄を行ったらしく、最初の想定よりも早い段階で輸送機の火は消えてしまっていた。なのでついでに積荷も頂戴しておこうと、輸送機の歪んで開かなかった後部ハッチを爆薬で吹き飛ばしたのが二時間前。適当に状態の良い物資を運び出しリグのカーゴへ積み込むのに1時間と少し。略奪や救助の痕跡を消す為に、残りの古くなりかけた爆薬を景気良く使って証拠隠滅を行う作業に30分。監視ポイントへ戻り一息ついたのがつい先ほど。
女はリグ内部の仮眠室で、目隠しを被せた上で手錠を使い両手を二段ベッドの枕側の柵へと拘束しておいた。現在コンテナカーゴに積んでいる居住用コンテナ内にはこういった事におあつらえ向きな大きいベッドもある事にはある。しかしあちらはあまり
異常が無い限り次の連絡は組織の哨戒部隊と交代になる数時間後、先ずは一戦という所か。
通信やレーダーに反応があった際には仮眠室に連絡が入るよう設定してから操縦室を出て、数歩先にある扉を開く。部屋へ入って直ぐの壁には操縦室から繋がるコンソールのモニターと操作パネル。操作パネルのある左手の壁側には一まとめになったトイレと簡易のシャワースペース。右手の壁沿いに置かれた二段ベッド。ベッドへ出入りする最低限の幅しかない通路の奥には簡素な棚、後は壁に服を掛けるハンガーがあるだけの狭い仮眠室。
下側のベッドには毛布を掛けられた女の姿があった。意図して作っておいた毛布の折り目は今居るポイントへ戻る前に二段階目の特殊なクスリを投与した時と同じ。意識を失ったままで身動きしてはいないようだ。
ベッドの横に立つと、脱がせて上のベッドに放り込んである女のジャケットやYシャツ、ジーンズが目に入った。連れ込んですぐに簡易機材を使用して行ったメディカルチェック、その時に触れた白い肌を思い出す。
毛布を剥ぎ取れば、それが変わらず目の前にあった。
こちらも、羽織っていた防弾ジャケットを脱いでハンガーに掛け、女の眠るベッドに上がる。二人分の体重を乗せた金属フレームが軋む音をたてた。シャツを脱ぎ、適当に丸めて壁の棚に放り込む。ベルトの金具を外し、ズボンと下着を一度に下ろして、股間の圧迫感を開放した。これからする行為への期待で上を仰いだソレに思わず苦笑する、我ながら無節操なものだとも思う。今日はこいつを十分に満足させてもらうとするか。
ニヤニヤと笑みを浮かべながら眠る女へ覆いかぶさり、無造作に目の前の柔肌へと手を伸ばす。
「んぅ…………ぅ……」
女の尻に手を回し、吐息とも声ともつかぬ小さな音を聞きながら、淡い茂みを隠している三角の布をずり下げていく。
女に投与したのはしばらく前の仕事で知り合ったとある研究員から入手した尋問用……という触れ込みのクスリだ。捕虜から情報を
つまるところ、そういう用途のクスリだった。そもそも女にしか効果が無いという時点で語るに落ちているというものだが。
部屋の照明に晒された肢体からは仄かな女の匂いがふわりと広がる。それだけで、どういう訳か無機質な室内に色がついたように感じられた。
「こいつは結構な上玉だな」
思考がぽつりと口から零れた。まぁ、そうでもなければリスクを冒してまでお持ち帰りする事は無かった訳だが……いやはや、こいつは愉しめそうだ。
成人を迎えたばかりの年頃だと思われる若い女。多少大きめという程で、薄い布越しに触れる指を押し返す張りと柔らかさを秘めたふくらみが男の欲望を昂らせる。もう二、三年もすれば中々の美人になるかも知れないやや幼さの残る顔つきは、現在でも十分に魅力的だった。これならば、さぞかし生唾モノの姿を拝ませてくれるだろう。
それを現実のものにする為にも、さっさと始めるとしようか。
ダメ押しに性的な感覚を高める作用のあるローションをモノに塗りこみ、女の脚を開き、あてがう。どうせ強引な行為だ、細かい事は後回しにしてまずは一気に。逸る心のままにひたりと閉じられたソコをぐにゅ、るるる……と押し広げながら腰を進め、ねじ込む。そのまま、グンと容赦無く股間の怒張を根元近くまで内部に納めた。
「ああ……」「ン、ぅ……」
粘膜が擦れ合う久方ぶりの感触に思わず漏れた声と、意識の無いまま強引に肉体を開かされた女の小さな呻きが重なる。
処女では無かった。
周囲の男はこんな良さそうな娘を放っておく馬鹿ばかりではなかった、というわけだ。過去付き合っていた男が居たのか、それとも現在も恋人が居るのか……まぁ、無意味な詮索か。この女を今抱いているのは、俺だ。
膨らむ興奮から、目の前の肢体をすぐにでも滅茶苦茶にしてやりたい衝動に駆られる。それをなんとか堪え、息を吐きながら……ゆっくりと腰を引き、同じ速度で奥へと進み、繰り返す。薬による眠りに囚われた女はまだ濡れている訳ではない。そんな女を乱暴に扱った所で大した快楽は得られない、ある程度の反応を引き出すべきだろう。
「……ぅ…………ん…………」
それに、それほど待つ必要が無いのはわかっていた。既にもうこうして、媚薬の意味合いを含んだ薬物に肉体を侵された上で膣の深くまで男を受け入れているのだ。本人の意思がどうであれ性的な器官へと途切れる事なく刺激を受け続けている事には違いない。
「んっ…………ぅ…………ぁ…………」
僅かに女の肩が動く。
じっくりと行為を続ける内に、組み敷いた肉体は少しずつ変わり始めていた。安静だった呼吸が次第に速くなり、何か運動をしているかのように、はぁはぁと音を立てるものへ。空調の効いた部屋の空気の中で、さらりとしていた肌にしっとりと汗を滲ませて。
焦らすような遅さではなく、追い込むような激しさでもない。そんな前後運動で女の内部を感じながら、色づき始めた肌に誘われるように手を伸ばした。
目指す先は薄いインナーを内側から盛り上げている形の良いふくらみだ。インナーの短い裾から覗くヘソのあたりから透ける布地と肌の間に入り込み、上に。女のきめ細やかな柔肌の触感とその内にある肋骨を手の平に感じつつ、目標に向かって進む。
「くくっ」
手のひらを潜り込ませたそこで、柔らかさに笑みがこぼれた。指をそれぞれに動かして、平均よりもいくらか大きなそれを揉む。男の脳に直接訴えかけてくるふにふにとした感覚に指が埋まる。
「……ふ……ぁ…………んぅ…………」
ああ……この極上の質感。激しく突き上げて揺さぶったなら、どれほど淫らな曲線を描くのだろうか。
期待を胸に、一頻り弄んだそこから更に上へと手を進める。捲れ上がったインナーとブラジャーが首までずり上がり、今まで感触だけを愉しんでいた乳房が露わになっていく。僅かに骨の陰影が窺えるくびれたわき腹、仰向けであっても十分な盛り上がりを見せる形の良いふくらみ、そしてその頂にある桜色の突起。
まだ若いわりにいやらしい肉体だった。
視覚情報というものは人間の認識の中でも大きいものなのだな、等としみじみ思う。たまらず、女の背中に腕を回して抱き寄せて、先ほどまでは布に覆われて見えていなかったそこに吸い付いた。折り曲げた体勢がややきついが、こんな肉体が眼前に晒されていたらむしゃぶりつかずには居られない。衝動に任せて、いつの間にかツンと立ち上がった突起に唇を押し付け、吸い、舌を這わせる。
「ぁっ……ふ、ぅん…………んん…………ンっ」
しばらく柔らかさを堪能し、そのあたりが俺の唾液で てらてらになった頃のこと。口に含んだ小さな乳首に軽く歯を当てながら嬲ってみれば、未だ目覚めていない女がヒクン、と一度大きく背中を反らせた。より多くの刺激を求めてすぐ前にある俺の顔に乳房を押し付けるような……実に興奮する反応だ。たまらずにゆったりとしたペースを乱して勢い良く腰を動かす。膣の深みへと突き入れたモノがくぅっと締め付けられる。気付けば……女の内部はローションとは異なる液体で濡れ始めていた。
もう、良い頃合だろう。
明らかな欲情を浮かばせてきている女の肉体にしっかりと腕を回して、沸き起こる獣欲のままに腰を打ち付けていく。眠ったままで反応の鈍い相手だとは言え、二ヶ月近くも異性に触れていなかったのだ。特に忍耐強い訳でもない自分がこれ以上我慢できるとは思えなかったし、既にその必要も無くなった。
ずちゅり……と、熱を帯びた穴の中を押し進み、女をより深く犯す。突きたてたソレよりも僅かに短い女の膣、無理なく届く子宮の入り口へと先端を押し付ける。
「ん、ふ…………ふっ、は……ぁ、はぁ……ぁ……んぁ……は、んっ」
女の吐息に喘ぎが混じり始めた。時おり思い出したかのように収縮する濡れた襞にぎゅうと締め付けられ、まるで俺自身が包まれているかのように錯覚する。その感覚の中でぬりゅうと腰を引き、抜けそうになる寸前でまた奥へ、一気に。
「ンっん……ぅ、ん…………はぁ、はぁ、はぁ……」
通常の眠りであれば既に目を覚ましている程の強い行為。しかし未だに最初の睡眠薬が効いているのか、女の意識は戻らなかった。説明書きによれば効果はもう切れていてもいい時間だが、やや小柄な女には少し量が多かったのかも知れない。
「……うぁ……っ……あ、ん…………うぅ……」
魘されるような声を漏らす女の吐息が湿り気を帯び、首が緩やかに右左へと振られる。
……はぁ、はぁ……
ともあれ、次第に大きくなっていく反応からして、目覚めの時は近いのだろう。女の腕を今も拘束している手錠に目をやりつつ、より激しく腰を使い、その肉体を貪る。どうせ起きた所で抵抗できはしない、俺に組み敷かれたまま、犯されるしかないのだ。
そうして――
「あっ、は……ぁ? えっ……ぅン!? んっ……」
女が目覚めた。突き入れたモノを包む締め付けがグっと強まり、こちらの腹の左右にまわされていた女の脚がピンと宙を蹴った。
耳触りの良い声だ。
初めて聞く声にそんな感想を抱きながら、動きを止める事なく女を抱く。より強くなった粘膜の接触で咄嗟に射精してしまいそうになるのを、奥歯を噛み締めて耐える。
「何、これっ……ふぁ、あっ!……や、やだぁ……あっ、あ」
眠りから浮上したばかりの意識に強い刺激を与えられ、混乱する女。輸送機に乗り会社の業務を遂行していた筈が、気付けば肉の悦びの真っ最中だ……なるほど、戸惑うのも無理はない。
「ひぁっ!? あっ……アっ! 止めッ、ンっ……あぁ、やぁっ」
構わず、突き上げた……そして何度もそれを繰り返す。
「くっ、は」
中で動く度に周囲を過ぎてゆく襞でギンギンになったソレを撫でられ、思わず声が漏れた。そして、その快感は女にも同様に、いやクスリの効果でそれ以上となって感じられているのだろう。腕に抱えた背中がしなり、女を拘束している手錠がガチャガチャと音を立てる。
……ちゅぷ……ぢゅぷっ……
「ぅあっ……ぁだ、駄目っ……んあっ……あっ! ……なんで、わたし、あぁ、だ、めぇ……っ!」
間近に見下す整った女の顔が、アイマスクをかけられた上からでも解る程に歪む。普段であれば見られるものではない崩れた表情ではあるが、それでいい……いや、それが良いのだ。都会育ちの可愛らしい澄まし顔の女が快感でこうも乱れる姿に、なんとも男の征服欲が満たされる。
「あっ……あぅっ、んッ! く、うっ……ぁん、ンっ、んっ、やぅ……あぁあっ!」
水音が耳に届く程に、女の中をリズミカルに突き上げる。目覚める前からの行為で肉体をすっかり発情させられていた女は、ほどなくして意味のある言葉を発しなくなった。おそらく無意識にだろうが、自分から腰をくねらせて肉欲に溺れていく。
クスリの効果か、元から好き者なのか。どちらだろうが構いやしない。
「ンっ、あん、アっ……あっ! あ、あぁっ……ふぁ……んんっ!」
……ギ ッ……ギ ッ……ギ ッ……ギ ッ……
深く、浅く……前後する動作に合わせて、女の悲鳴のような声が上下している。汗の流れる肌と肌が触れ合い、ぬらぬらと擦れ合う……その温度を求めて、より深くを突き上げた。女がビクンと大きく反応し、連動して揺さぶられた乳房が淫らに形を変える。
少し首を伸ばして誘うように弾むそこに吸いついた。舌で探れば小ぶりな乳首がコリコリになっているのが解る。女の確かな欲情を感じ、更に腰の動きを早めた。
「くぁっ、あっ……ぁ、イっ! あッ! あ、あっ、あっ……アっ、あぁッ!」
ぎしぎしと、
だから……という訳ではないが、いいかげんに、こちらも、限界だ。痙攣に似た反応を示し始めた女の深みへと腰を連続して細かく叩きつけ、一気に終わりに追い込む。
そのまま、せり上がる衝動に逆らう事無く――
「あッ! ひぁ、あっ! あぁっ…………っッ!?」
強く くびれを引き寄せ密着させた腰、その吸い付くような膣内で猛る欲望を解き放つ!
「ぁ、あぁああぁっ!!」
びゅく、びゅくりと奥底に注がれるソレの迸りを受けて、されるがまま乱されていた女もまた絶頂へと昇りつめる。
「あぁっ…………あっ……ああ……」
背中を反らせて腰をカクつかせる女。腕の中でぶるぶると震える柔らかな肉体を味わいながら、自分でも驚く量を女のナカへ吐き出していった。
「はぁ、はぁ……はぁ…………ふぅ」
仮眠室の狭いベッドの上。
熱く蕩けた肉体を力なく投げ出している女から身を起こし、ため息を漏らす。くちゃりと交わりの解かれたソコから白く濁った液体が垂れていき、皺の寄ったシーツに汗とは異なる染みを作っていく。男が良く知っている独特の臭気がそこから広がる。
まぁ、女でも馴染んだ臭いかも知れないな。
どうでもいい事を考えながら棚に用意しておいた飲料水のボトルに手を伸ばし、中身を半分ほど煽る。脚を広げたままの姿で、口を開き荒い息を吐いている女にも少しずつ飲ませた。
「……はぁ、っ……はぁ、はぁ……んく、んん…………んぐ……んっ、ぷぁ、はぁ、はぁ……」
行為で汗を流した肉体が水分を求めているのだろう。こくりこくりとしきりに女の細い喉が動いて、ボトルの中身を受け入れていく。クスリを使われた快楽で一時的に思考がトんでしまったのか、抵抗する事も言葉を発する様子も無かった。
まぁ、朦朧とした状態のまま目隠しをされて犯されたのだ、現状を正しく理解できているとも思えない。未だ眠りの中で、淫らな夢を見ていると思っている可能性すらあった。
そういえばまだ唇は味わっていなかったな。水を飲み干して枕へと頭を預けた女、そのふっくりとした半開きの唇に視線をやりながら今後を考えようとする、が。
とりあえず、次だ。
行為で艶めいた若い女の桜色の肌を前にしては、先の事など気にして居られなかった。俺のモノはつい先ほどあれだけ欲望を放出したにもかかわらず、既に大きさを回復し上を仰いでいる。まだ、足りない。
汗に濡れた肉体に手を掛け、2つ使用し女の頭上側でベッドの柵に絡ませてある手錠を基準に、くったりとした肢体を裏返す。
「んぅ……ぁ?」
うつ伏せにさせられた女が小さく声をもらした。
ふりんとした尻に手を伸ばし、軽く押すようにしてその肉の質感を堪能する。大きすぎず、小さすぎず、程よく丸みを帯びた……道を歩けば後ろ姿が周りの男の視線を集めるような、そんな尻だ。街中でそういった娘を見かけただけならばせいぜい目の保養にする程度だが、今のこの場はそれでは終わらない。まったく……つまらない仕事だと思っていたが、こんな役得があるなんて、な。
腰を両手で掴んで持ち上げ、膝を立たせる。突き出した尻の肉の下、脚の間から覗いて見える淡い茂みと僅かに開いた肉の裂け目。既に一度行われた行為によってべったりと濡れたソコが、男を誘っているように見えた。
こちらも膝立ちで肉体を近づける。支えた手を軽く引くようにすれば、力の入っていない女の尻がこちらの腰へと重みを寄せる。怒張が、ぬるんと体液に濡れた柔らかな太ももの間に入り込む。
後は、僅かに位置を合わせるだけで――
「っん…………あっ、んンっ!」
貫いた。
くぢゅ、じゅぷぷ……と猥雑な音が耳に入る。再び膣内を異物に侵され、一度達した後で熱を冷ましつつあっただろう女の肉体がヒクつく。くぅっとしなる腰が酷く艶かしい。見下ろした狭い背中には汗がひとすじ、尻の側から肩甲骨の間へと流れていった。
「ふぁ……ぁ、んっ」
軽く掴まれるような感触を受けながら腰を引き、また奥へ。浅くなった時に一瞬力の緩むソコが、深くなれば締めつけてくる。つきあたれば、女の吐息が跳ねる。
「ああ、いいぞ……」
きゅうきゅうと、動く度に俺を感じている事を示す女の様に笑みが浮かぶ。
……ギ ッ……ギ ッ……
ああ……そうだった、これこそが、自分がしっかり今を生きていると思わせる。荒い息遣いと雌の匂い、女のナカの熱、突き入れると共に自分のモノがぬらりと擦りあげられていく感覚。繋がっている、他者の命へ直に触れている。奇妙な
「あぅ…………あ、は…せん、ぱぁい……」
女が鼻にかかった甘い声で呟いた。グッと前へ押し付けた腰に密着している汗ばんだ尻がもぞもぞと動く。
初めてを捧げた男か、現在の恋人か。誰かは知らないが、ともかく
「違うな」
「えっ、あ、だれっ?」
短く否定を返すと、肌に触れる女の肉体に動揺が走る。
アイマスクを掛けられた女の視界は塞がれたまま。クスリの効果もある……このまま無言で、その先輩とやらを装って抱く事も可能ではあった。しかしそれではこの女をモノにしたと言えるのだろうか。そんな幼稚な征服欲が込み上げ、咄嗟に女の言葉を否定していた。
「覚えていないのか? 酷いじゃないか」
「ぁ……え? あぅ……んっ……だ、誰、ですか」
見えないながらも肩越しに振り向いて、こちらへと顔を向けようとしている女。
「俺だ。 俺が、わからないか?」
ひとつに繋がったままで会話が続く。
「大丈夫だ。 お前は知らない男とこんな事をするような女じゃない、解っているさ」
クスリによって生じる理由のない親近感が強くあるのだろう。混乱し、覚えていない自分が悪いのかと、行為を拒めないまま戸惑っている様子の女の背後から囁いた。
……ギ ッ……ギ ッ……
「あ……そう、です……ん、あっ……」
つぷり、ずぶり。目の前の柔肌を楽しむ事は止めていない。
言った内容が実際はどうなのかなど、知ったことではない。しかし、一般的に尻軽だと言われて喜んで頷く女はまず居ない。つまりは誰にでも当てはまる事を言っているだけだが、何であれ理解されていると感じる時、人の心は緩む。付け入る隙、という訳だ。
「んぅ……わたし、知らない人と……なんて、ぁ…んンっ!」
言葉の途中で不意打ち気味に腰をぐいと早めた。女のしなやかな肉体がビクンと硬直する。
「そうだ、だから……
尻を突き出し、反った背中へ優しく声をかける。
「わた、あッ、わたし、しって、知って……?」
「でなければお前はこうして感じたりはしない、そうだろう?」
太ももを指先でなぞりながら、女の深くを貫きながら、言葉を重ねていく。
「あぁ……ん……感じて、ンっ……私、ぅあ……あっ、わたし」
うわ言のように、女がこちらの言った言葉を繰り返す。
「ごめ、っ……なさい、わからなっ…ん、ぁっ…………ふぁ、あぁ……だれ、なの」
「安心しろ、今は混乱しているだけだ。 その内にヨくなる」
ゆさゆさ、ゆさゆさ。
ベッドが揺れている。女の尻はもうこちらの支えを必要としていない。こちらと話しながらも、女のナカは新たな体液を分泌させ始めていた。
「自分の名前は言えるか?」
女からの質問には答えず、試すように質問を返す。
「や、ぁ……ん、っなま、え……わたし、レミ……んぁ、レミナ・マール、ラン」
息を乱した女が途切れ途切れに答えたものは、ジャケットに付いていたネームプレートと同じ名だった。
この分ならば問題は無さそうだ。一応薬物の製作者からは男の声や体臭がトリガーとなり女の脳のどこだかに作用する等の事は聞いていた。ただ、今回初めて使うクスリなだけに、どの程度の効能があるのか自分では把握していなかった。しかし今のように覚えの無い男に目隠しされた状況で犯されながら、その上自分の問いかけた事を無視して一方的に為された質問に、こうも素直に答えるのならば十分だ。自白剤として聞いていた通りの効果を発揮する品なのだろう……無論、その
「クク……いいぞ、レミナ。 ちゃあんと覚えているじゃないか、いいコだ……」
喉の奥で笑いながら片手をベッドへついて女の背中に覆いかぶさる。近くなった肉体の下で揺れているふくらみへと残った手を回す。
「あっ……ンん……」
そこに触れると女の肉体が一瞬だけピクリとなった。構わず、下から乳房の重みを支えるようにしてやわやわと揉み、感触を手の平全体で味わう。
尻だけでなく、女の肉体はここも実に魅力的だ。平均より多少大きい程度にはあるが、女が小柄な事もあり、こうしていると早熟の果実を摘んでいるような背徳感があった。まぁ実際に、世間様に顔向けできない悪い遊びをしている真っ最中ではあるのだが。伝わる柔らかさと、一箇所だけツンと硬くなった感触のコントラストが何ともすばらしい。
「なら次は……仕事についた時の事だ、思い出せるか?」
腰を使い、再び欲情してきている女を揺さぶりながら質問を続ける。色々な意味でこれからが本番だ。
「んぁ、ぁ……はぁ、はぁ、し、仕ご、と? ぅンっ……うん、覚えて……るぅ」
クチュクチュと小さな水音が狭い仮眠室を満たしている中で、声を上ずらせて女が答えた。
さて、時間はまだたっぷりとある。じっくりと情報を吐き出してもらうとしよう……じっくりと、な。
照明の落とされた無人のカーゴ内。
彼が
――保護対象:独立遺伝系統保持者の性的興奮を確認
誰にも気づかれず、痕跡を残すことなく輸送リグの機能が掌握され仮眠室内のカメラが起動する。
「あっ……あっ、ン……んっ、あぁっ、あッ、アっ!」
――性交対象……検索中
何処かへと情報が送信され、男の下で腰を振る娘のデータが瞬時に返された。
――性交対象……市民ID:EC254210185 レミナ・マールラン
少し前、表立って活動していた
画一化されたものは一つの異常にすべてを壊されてしまう。
ヒトは、人類という枠の中で可能な限りの多様性を持つ事が望ましい。
また
全ては人類の存続の為に。
「ひぁ、あン……あっ、イっ、あっ! あッ、ぁいっ…いくッ……イっちゃ、あ……あぁあっ!」
……ちゅく……ぢゅっ、ちゅぷっ、ぢゅぷ、ぢゅぷっ……
カメラに映し出される映像の中で、顔を蕩けさせた娘が仰け反り何度目かの絶頂を迎える。
――独立遺伝系統の母体となる可能性:高
新規に作られた活動項目の内容から改めて注目されたのが彼であった。
彼は10年ほど前に少年の姿で突然シティ内へ現れた。彼は既存の登録された市民データの誰とも遺伝的繋がりを持っていなかった。しかし、彼の遺伝子は長い世代交代の中で形成されたとしか判断できぬ複雑さ、多様性をもっていた。
世界中の人間と遺伝的に繋がりがないという特殊性にも関わらず、彼はただのヒトでしかなかった。それは同じヒトの未知の可能性、全く新しいなんでもない普通の人間の血。
――市民ID:EC254210185を準保護対象へと設定
一つだけであった歯車の横で、また別の歯車が回り始める。
『N3の監視塔クリア』
声の背後で機関砲の音がする。
『やっとぉ? アタシはもうすぐ連中の拠点までついちゃうわよ』
懐かしい
『先走るなよ。 皆でタイミングを合わせるって言ってただろ』
『いいじゃない、どうせここは全部潰しておくんでしょ……って、ヤバっ』
ノイズ混じりに響く爆発音。
『おい、どうしたっ!』
『あー……■■■ごめんねぇ、ACが出てきた』
AC……アーマード・コア。
レイヴンと呼ばれる傭兵が駆るその人型兵器は、時に世界のバランスを崩す程の力を持っている。前情報には無かった相手だ、彼女の乗機である旧式のビショップが太刀打ちできる相手ではない。
実際に、そうだった。
『■■■っ、アンタは逃げて!』
それが自分の聞いた彼女の、相棒の、最後の声。
タイマーの電子音で目醒めた。
視界に映るのは当時彼女と雑魚寝していた大型トラックの後部座席ではなく輸送リグの仮眠室。
「……んぅ………ん……」
隣に感じる柔らかな温かさに目をやれば、そこには女の裸身がある。
タイマーの時刻は組織の哨戒部隊がやってくる1時間前に設定していた。べたついた身体をシャワーで軽く流してから操縦室へ向かい、席を外していた間の状況を確認する。当然だが、これといって通信も警報も鳴らなかったので何も起こってはいなかった。後は相手へ渡す記憶媒体を用意しておくだけだ。
レーダーが反応を捉えた。
反応は3つ、計測されたデータを見ても組織の哨戒部隊に間違いない。確か太刀風という名前だったか。彼らの機体は巨大な一輪バイクといった風体の戦闘車両だ。路面の状態を問わない軽快な運動性能はこのような荒野を巡回するには最適なのだろう。
『もうすぐそちらへ到着する。 受け渡しの準備をしておいてくれ』
操縦室からカーゴへ移動しようかと考えた所で丁度通信が入った。
「了解した。 リグの表で待機しておく」
そのまま行動を開始して、パワードスーツに乗り込み、荷物をアームで掴んで輸送リグの表へ出る。
外部マイクがエンジン音を拾い始めた。遠目に見えていたヘッドライトがこちらへと近づいてくる。ライトを灯しているのはこちらへの害意が無い事を知らせる意思表示か? それでいて他の二機は無灯火で距離を離して併走しているあたり、小隊リーダーの油断の無さが感じられた。
『待たせたか?』
「いや、そうでもないさ」
彼ら外回りの哨戒部隊とはもう二ヶ月近く、ほぼ毎日通信でのやりとりがあった。その為、互いの対応も気安いものである。
『お前らは周囲を警戒しておけ』
『了解』
無灯火の二機は止まらずに周囲を回り警戒を行うようだ。
残る一台は前方に停車した。隊長機と思われるその車体からタラップが降り、小隊リーダーの男が鞄を持って出てくる。多少いかついが、どこにでもいる風体の40ほどの男だった。
「ここに2000コームの入ったカードがある。 データはどこだ?」
「……ああ、このケースだ」
正直顔を晒して受け渡しを行うとは思っていなかった。これは今回の仕事ぶりの内容から、ある程度の信用を得ているという判断で良いのだろうか。そんな事を思いながら受け取ったカードを手元の機材に通し、内部の金額を確認する。
「オーケーだ。 それと、もし良かったらなんだがこれを――酒とタバコだ」
記憶媒体のケースを渡し、横に置いたダンボールを示して口を開く。これらは輸送機から手に入れた積荷の一部だ。俺自身は酒もタバコもやらないが、こういった時に渡す品としては丁度良い。
『ヒュゥ! 良いですね隊長、頂きましょうぜ』
『馬鹿、黙ってろって言われてたでしょ!』
言ったとたんに前に立つ隊長から通信の音声が聞こえた。通信を繋いだままで警戒をしていたようだが、どうにもお調子者の部下が居るようだった。
「やれやれ……仕方ないやつらだ。 せっかくの心遣い、頂いておこう」
隊長は軽く溜め息を吐くと、ケースとダンボール箱を担いで機体へ戻っていった。
『では我々は行く。 ……達者でな』
「そっちもな。 グッドラック!」
真面目そうな隊長のこちらを気遣う言葉に少し驚きながら言葉を返した。
『今度会ったら一杯おごるぜ!』
『またご一緒できると良いですね。 お元気で』
警戒をしていた二機が左右に機体を振ってそれぞれに別れを告げ、先行する隊長機に続いて去っていく。
追加のミッションを受けなかった俺は今日で彼等とはお別れだ。だからかは解らないが、意外にこういったやりとりを大切にしているようだ。
利益の為であれば雇われの傭兵なんぞ容易に切り捨てるのが企業というものである。そう思っていたが、彼等のような外部組織のそのまた末端では違っているのかも知れない。
まぁそれが、別の機会で敵になった時にどれだけ彼等の引き金を重くしてくれるかは、わからないが――
――所有の採掘基地が先日未明、テロリストの攻撃によって壊滅したとして激しい非難を表明し……
――基地が壊滅した
この御時勢、客観的なニュースなぞは存在していない。流している2つの企業チャンネルからは対称的な内容が報道されていた。
仕事を終えてからまだ数日だ。これだけ早いタイミングで世間に情報が流れるなんてな……どうやら深入りせずに正解だったらしい。
女は既にまともな交通機関のあるそれなりに大きなシティで降ろした。正直な所、惜しくなったのだ。あの黒髪の、この世界のどこにも存在していない故郷の面影を思わせる娘を始末してしまうのが。
乾燥した大地にリグを走らせながら思う。
クスリの影響で、効果が及んでいた数日間の出来事は女の記憶から抜け落ちる。しかし、強制的に、何度も、強く焼き付けられた好意と行為は完全に消える訳ではない。元々は情報を手に入れると同時に無自覚なスパイを作り出す為に開発された代物という話だ。意識の深い部分には親しい人間だという認識が残るものだと聞いた。
俺の立場は輸送機事故の現場に居合わせた善意の救助者となっている。少し悩んだが傭兵としての俺へコンタクトをとる方法も女に教えておいた。生かして、近くにおけば……あるいはまたあの魅力的な肢体を抱く機会も回ってくるだろう。
「く、ははっ」
最初の相棒を失ってから今まで、人間のパートナーは作らずにただ生きてきた。そんな俺が、まさかこんな事で明日の望みを持つなんて……な。その滑稽さに自嘲の笑みがこぼれる。
今回の仕事では勝ち馬に乗れたが、俺は何時死ぬかも判らないMT乗りの傭兵でしかない。せいぜい愉しみながら生きるとするさ。
生きられる所までは、ずっと。
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その時のこと
荒野の上空を進む輸送機のコックピット内。
小さな電子音と共に、画面へ一つの光点が現れた。
「む……?」
レーダーに映った反応を見て機長の男は目を細める。表示される情報はそれがAC……戦闘力の高い人型兵器であるアーマード・コアだと示していた。
ふと、つい先日に空港の知り合いに聞いた噂が男の脳裏を過ぎる。内容は航空輸送を行う同業者が何機か行方不明になっているという話だった。今回の届け先は紛争が激化している地域からは離れた辺境、また力のある大手企業からの斡旋でもあって安心していたが、裏を調べなかったのは軽率だったのかも知れない。
「機長さん、どうかしたんですか?」
「あー……お嬢。 もうしばらくしたら配達先に着きますんで、今の内にコーヒーでも用意してくれませんか?」
隣に乗っていた娘からかけられた声に僅かに考え、質問に応えず誤魔化すようにそう返す。
「ほらほら、あまり時間も無いので早い所淹れてくださいな」
「もう! 積み出し作業の間にトイレに行きたくなっても知りませんよ」
おどけるように急かせば、娘は小言を言いながらも席を離れ休憩室へ向かってくれた。
美しく成長した後ろ姿に目じりの皺が深くなる。養子というわけではないが、親代わりのような立場になってからもう何年経っただろうか。娘は、世話になった前の社長の忘れ形見は、気づけばもう成人を迎える年頃だ。
生きてさえいれば……この場を生き延びられれば、後は一人でも生きていける。そう信じた。
「(そうだ、これでいい)」
この機体の休憩室は、要人が利用する時の為にセーフティールームとして改装してあった。壁は厚く強固に、内壁は柔らかく、室内には非常用に衝撃を吸収するエアバッグも設置されている。これまで幸運にも襲撃や事故に遭うことは無かったので実際にその機能が使われた事は無い。しかし、少なくとも機体から突き出たコックピットに居るよりはずっと安全に違いない。
「こちらイーストマール輸送所属の206便。そちらのACの所属と目的を求む」
辺境の採掘基地へ消耗品を届けるだけという今回の輸送業務に、迎えがあるとは聞いていない。
あるいは単に、たまたま通りがかった無関係の機体である可能性もある。だが……もしそうでなかったとしたら? 危険が目前に迫ったとしても、亡くなった親に似て情の深い娘は自分だけ安全な場所へ隠れようとはしないだろう。
何も無ければ……取り越し苦労であるのならそれでいい。後で笑い話にでもしたらいいだけだ。
『…………』
しかし、届いている筈の通信に、返答は無かった。
『機長さーん、お砂糖はどうします?』
「ああ、それじゃあ多めにお願いしますわ……ミルクも、そうですね四個くらいたっぷりで」
『多めって。もう若くないんだから、甘いものの摂り過ぎで次の健康診断に引っかかるんじゃないですか?』
「かも知れないですなぁ……お嬢も健康には気をつけてくださいね。 いつまでも、元気で」
インカムからの声に祈りを込めて答えて、側面に並んだ操作パネルから彼女の居る部屋をロックする。
僅かな間。
自動操縦を切った直後だった。ほとんど聞く事が無い、ロックオンされた事を示す耳障りな警告音をコンソールが鳴らした。
ああ……本当に、彼女の親である前の社長には助けられた。あの人が居なければ、今日までの自分は無かった。ならば今度は、私の番だろう。恩を返す時が来たのだ。
守らなければ。
そして――
ロボ物に出てくるオペ子ってどうしてあんなに妄想を掻きたてられるんでしょう。
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