遊戯王GX~もしも十代にHERO使いの妹がいたら~ (カイナ)
しおりを挟む

遊戯王GX~もしも十代にHERO使いの妹がいたら~

 ここは童実野町。デュエリストならば知らない者はいないデュエルキング武藤遊戯出生の地であり、デュエル産業において世界的に有名な海馬コーポレーションのお膝元といえる決闘(デュエル)聖地(メッカ)

 そこの代表的な建物海馬ドームでは現在、未来のデュエル界を担うと言っても過言ではないエリート決闘者(デュエリスト)を養成する機関――デュエルアカデミアの高等部入学実技試験が行われていた。

 

「バトルザウルス! ダーク・ティラノで、相手プレイヤーにダイレクトアタック!!」

 

「なに!? 私の場にはビッグ・シールド・ガードナーと機動砦のギア・ゴーレムが存在するのだぞ!?」

 

「ダーク・ティラノは相手フィールドのモンスターが全て守備表示の時、ダイレクトアタックが出来るザウルス! いけ、レックス・ボンバー!!」

 

「ぐあああぁぁぁぁっ!!」LP2000→0

 

 超守備デッキと豪語されるデッキを前に、その自慢の守備を乗り越える豪快なダイレクトアタックを決め、恐竜の頭を思わせる柄のバンダナを巻いた筋骨隆々な少年の勝利が決定。少年は「やったドン!」とガッツポーズを決め、取り巻きらしい少年達からの声援を受けながら試験会場であるデュエルアリーナを後にする。

 

 そんな感じで実技試験が進んでいく中、それを見守る金髪をおかっぱのようにして後ろ髪だけは長く伸ばして一本に結んでまとめているという髪型をした色白の男性に、一人の男性が話しかけた。

 

「クロノス臨時校長。これで残るは受験番号1番のみです」

 

「おぉ、臨時校長。臨時は余計だけど良い響きナノーネ……おっとっと。分かりました、ご苦労デスーノ。ホッ、今年はあのドロップアウトボーイのような遅刻者はいないようナノーネ」

 

 色白の男性――クロノスは自身を示す肩書に恍惚、我に返って報告してきた男性にお礼を言った後、一年前を思い出して安堵のため息をつく。その後にふと気になったように、先ほど報告してきた男性の方を向いた。

 

「そういえーば、校長としての業務引き継ぎに手いっぱいで今年の受験生のデータはほとんど確認していなかったノーネ。せめて受験番号1番のデータくらいは確認しておきたいのデースガ?」

 

「あ、了解しました。こちらになります」

 

 クロノスに言われ、男性は受験番号1番の受験生の資料をクロノスに手渡す。クロノスも「拝見しマスーノ」とだけ言って資料を確認する。

 

「ギョギョッ!?」

 

 そして途端に目を丸くした。

 

「ア、アナータ! こ、この名前、それと顔写真は間違いないノーネ!?」

 

「え? あ、はぁ……間違いないはずですが?」

 

 クロノスがやけに血相をかけて問いかけ、男性は曖昧に頷く。クロノスは「こうしてはいられないノーネ!」と叫んで席を立った。

 

「受験番号1番の相手は私が直々にしてあげールノデス!」

 

 そう言って走り出すクロノスの顔はやけに活き活きとしており、一緒に実技試験を見守っていた教員組はぽかんとなる。しかし直後、そのクロノスがぴゅーっと戻ってきた。

 

「さ、流石に今回は自分のデッキは問題あるノーネ! 試験用デッキを貸してくだサーイ!」

 

「はっはい!」

 

 慌ててそう言ってくるクロノスに試験用デッキを入れたデッキケースを差し出し、その内一つをひったくるように取ってクロノスは再び走り去っていくのであった。

 

 

 

 ざわり、ざわり、と受験会場がざわつく。実技試験もほとんどが終わり、一番最後に実技試験をしていた受験生達のデュエルが奇跡的に同時終了した結果、残るは受験番号1番のみ。会場全ての注目が筆記試験トップクリアの受験生へと向けられることになっていた。

 

 [受験番号1番、遊城百代さん]

 

 受験生入場のアナウンスが聞こえ始め、受験生である受験番号1番の生徒がデュエルアリーナに入場する。と、見学の受験生が息を飲む音が聞こえた。

 入場した生徒は女子、それもかなりの美少女。栗色の髪を首にかかるかかからないか程度のセミロングに伸ばしており、緩やかなカーブを描くタレ目や鳶色の瞳の柔らかな輝きからも大人しそうな印象を受ける。平均からすれば小柄な体躯に分類されるだろう身長もまた大人しそうな印象を後押しするが、相反してその胸部はでんと盛り上がって存在を主張。心なしか男子受験生は、しゃなりしゃなりと優雅に歩く彼女の揺れる胸に目が釘付けになっているように見えた。

 

「ボンジョールノ!」

 

 準備が出来たクロノスが声を張り上げて挨拶。対して受験生は両手をスカートの前で重ね、ぺこりと頭を下げた。

 

遊城(ゆうき)百代(ももよ)です。今回はよろしくお願いいたします」

 

「シニョーラ百代。私はクロノス・デ・メディチ。学園では実技担当最高責任者であり、今はさらにデュエルアカデミアの臨時校長やってるノーネ!……ところでシニョーラ、ちょっと聞きたいノーネ」

 

 受験生——百代の丁寧な挨拶に対してクロノスも己の名前と身分を名乗り、その後心なしかやや前傾姿勢になって百代に問いかけ、彼女がこてんと首を傾げて「なんでしょう?」と聞き返す。

 

「今、デュエルアカデミアの一年にいる。遊城十代って知ってるノーネ?」

 

 その質問に百代はにっこりと嬉しそうな満面の笑みを浮かべてみせた。

 

「はい。遊城十代は私のお兄様ですわ」

 

「お、おおう。名前や顔の面影からまさかと思ったら、やっぱりナノーネ……しっかし、あのドロップアウトボーイの妹がまさか筆記試験一番の秀才トーハ、血の繋がりというのは当てに出来ないノーネ……」

 

「?」

 

 自分の予想が当たったクロノスは驚いたように声を漏らすが、「しっかし」からの後は声を潜めていたため百代には聞こえておらず、こてんと逆方向に首を傾げる彼女を見て気づいたようにゴホンゴホンと咳払いで誤魔化す。

 

「まあ、それはさておきナノーネ! これより実技試験を開始するノーネ! 実技試験は勝敗だけでなくデュエル内での戦術も評価対象となりマース。自分の全力を出し切ってデュエルするノーネ!」

 

「よろしくお願いいたします」

 

 クロノスの言葉に対し、百代はもう一度一礼してデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!!!」」

 

 そして二人の声が重なり、デュエルアカデミア高等部入学実技試験、最後のデュエルの幕が上がった。

 

「先攻はいただきます。私のターン、ドロー」

 

(ドロップアウトボーイのデッキはE・HERO、その妹である彼女のデッキは……)

 

 先攻を取った百代がカードをドローし、手札を確認する。その間にもクロノスは相手の使うデッキの正体を見極めようと眼力を強くしていた。

 

「私は[M・HERO 烈火]を攻撃表示で召喚!」

 M・HERO 烈火 攻撃力:1600

 

(やはりHERO!)

 

 百代の場に現れたのは真っ赤なプロテクター風のコスチュームに身を包み、頭にはバイザー型のヘルメットを被ったスタイリッシュな姿をした一人の英雄。その名前や特徴から彼女の兄――遊城十代が愛用するE・HEROの系譜である事は間違いなく、クロノスは僅かに笑みを漏らしていた。

 

「さらに場に一枚伏せてターンを終了します」

 

 

 M・HERO 烈火

 通常モンスター(漫画オリジナル)

 星4/炎属性/戦士族

 攻1600/守1000

 テキスト不明

 

 

「私のターンでぇす、ドロー!」

 

 クロノスも自身のデュエルコートからカードを一枚ドローし、手札を確認。

 今回のデッキは自身の魂のデッキである暗黒の中世デッキではなく、受験生のレベルを確かめるために調整された試験用デッキ。しかしそれは同時にデュエルの基本を押さえ、受験生にデュエルのイロハを教える役目も持っていた。

 

「私は[ギアギアーセナル]を召喚! このカードは自分フィールド上のギアギアと名のついたモンスターの数×200ポイント、攻撃力をアップする効果を持つノーネ! そしてギアギアーセナル自身もギアギアと名のついたモンスター。よって攻撃力が200ポイントアップするノーネ!」

 ギアギアーセナル 攻撃力:1500→1700

 

「烈火の攻撃力を上回った……」

 

「それだけではないノーネ! 私は手札から[ギアギアクセル]を守備表示で特殊召喚! このカードは自分フィールド上にギアギアと名のついたモンスターが存在する場合、手札から表側守備表示で特殊召喚できールノデス! そしてギアギアが増えた事でギアギアーセナルの攻撃力がさらにアップ!」

 ギアギアーセナル 攻撃力:1700→1900

 ギアギアクセル 守備力:800

 

 デュエルの基本の一つ、それはモンスターの召喚と特殊召喚。

 現在この世界においてデュエルモンスターズの主流であるビートダウンはモンスターがいなければ話にならない。しかしモンスターの召喚は一ターンに一度のみという制限があり、その制限を乗り越えられる特殊召喚を駆使するのはモンスター展開の基本中の基本。

 さらに今回はモンスターの展開を利用してアタッカーの攻撃力を上昇させると共に次の相手のターンを見据えて守りも固めるという攻守両立の構えを見せている。

 

「バトルナノーネ! ギアギアーセナルでM・HERO烈火を攻撃!」

 

「う……」LP4000→3700

 

 クロノスの場のモンスターが百代のHEROを破壊、その攻撃力の差分百代のライフが減少する。しかしその時彼女の場のリバースカードが翻った。

 

「リバースカードオープン[アージャント・ライン]! このカードは自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができ、自分の手札またはデッキからM・HEROという名のついたレベル4以下のモンスター一体を特殊召喚出来ます。私はデッキから[M・HERO ダスク・クロウ]を特殊召喚します!」

 M・HERO ダスク・クロウ 攻撃力:1200

 

 百代の発動したカードの効果によって現れるのは烈火と同種であるM・HEROの内、闇を司ると思われるモンスター。その姿にクロノスはふぅむと唸った。

 

「ではメインフェイズ2に入りマスーノ。私はギアギアーセナルをリリースし、効果を発動! ギアギアーセナルは自身をリリースするコトーデ、デッキからギアギアーセナル以外のギアギアと名のついたモンスター一体を表側守備表示で特殊召喚できるノーネ! 私はデッキから[ギアギアーマー]を守備表示で特殊召喚!

 さらにギアギアーマーの効果発動! 一ターンに一度、このカードを裏側守備表示にする事ができるノーネ! 私はカードを一枚セットして、ターンエンドナノーネ!」

 ギアギアーマー 守備力:1900(裏側守備表示)

 

 クロノスはギアギアーセナルのさらなる効果を使用し、攻守両立から守備特化へと戦術を変更。さらに今となっては裏側守備表示になったためステータスが確認できないが、先ほどリクルートされた時に見えたモンスターの守備力の高さに百代は生半では突破できない、と真剣な顔を見せていた。

 

 

 M・HERO ダスク・クロウ

 通常モンスター(漫画オリジナル)

 星4/闇属性/戦士族

 攻 1200/守 1000

 テキスト不明

 

 ギアギアーセナル

 効果モンスター

 星4/地属性/機械族

 攻1500/守 500

 このカードの攻撃力は、自分フィールド上の「ギアギア」と名のついたモンスターの数×200ポイントアップする。

 また、このカードをリリースして発動できる。デッキから「ギアギアーセナル」以外の「ギアギア」と名のついたモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する。

 

 ギアギアクセル

 効果モンスター

 星4/地属性/機械族

 攻1400/守 800

 自分フィールド上に「ギアギア」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは手札から表側守備表示で特殊召喚できる。

 また、このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、自分の墓地から「ギアギアクセル」以外の「ギアギア」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。

 

 ギアギアーマー

 効果モンスター

 星4/地属性/機械族

 攻1100/守1900

 このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。

 このカードがリバースした時、デッキから「ギアギアーマー」以外の「ギアギア」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。

 

 アージャント・ライン

 通常罠(漫画オリジナル)

 自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができる。自分の手札またはデッキから「M・HERO」という名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 しゅぴん、と華麗にカードをドロー。ドローカードを確認した後、百代は動く。

 

「バトルに入ります。私はダスク・クロウでギアギアクセルを攻撃!」

 

 闇の仮面英雄が主の指示を聞いて、ボロボロの漆黒のマントを翻して跳躍。落下の勢いを利用したパンチでギアギアクセルを粉砕した。

 

「ギアギアクセルの効果発動ナノーネ! このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、自分の墓地からギアギアクセル以外のギアギアと名のついたモンスター一体を選択して手札に加える事ができる。私は墓地の[ギアギアーセナル]を手札に加えるノーネ!」

 

 しかしただ破壊されるだけでは終わらず、さっきのターンに墓地に送られたギアギアーセナルを手札に戻し、手札を補充する。

 これぞデュエルの基本その2。手札というのはデュエルにおいてもっとも重要な、戦略の可能性を広げる大きな要素を占める。故に敢えて手札を減らすギミックに特化させたデッキでもない限りは手札を増やしておくに越したことはない。無論手札事故という悪い例外を除いてではあるが。

 クロノスは守りの一手を崩されつつも次のターンの戦略の可能性を広げ、手札の大切さを目の前に相対する百代だけではなく、デュエルアカデミアに受かるにせよ受からないにせよこれからもデュエルを続けていくだろう全ての受験生に見せようとしていた。

 

「さあ、バトルは終了。メインフェイズ2に移りマスーカ?」

 

「いえ、まだ私のバトルフェイズは終了していません」

 

「ヒョ?」

 

 クロノスの促しに対し、百代は静かにそう宣言。クロノスが思わず変な声を出すが、彼女は構わずに手札の一枚をデュエルディスクに差し込んだ。

 

「速攻魔法[マスク・チェンジ]を発動します。このカードは私の場のM・HERO一体を、同属性かつレベルが二つまで高い、融合デッキのM・HERO一体に変身させます。ダスク・クロウを変身!」

 

「な、なんナノーネ!?」

 

 ダスク・クロウが再び跳躍。クロノスが困惑している間にその最大点に到着すると彼の仮面から光が溢れ、その光が全身を包み込み黒い輝きと化す。

 

「変身召喚! [M・HERO ダーク・ロウ]!!」

 M・HERO ダーク・ロウ 攻撃力:2400

 

 そして重力に従い降りてきた仮面英雄の姿が変貌。黒い狼を思わせる仮面を身に着けた新たな英雄が、百代の場に参上していた。

 

「まだバトルフェイズのため、ダーク・ロウにも攻撃の権利があります。ダーク・ロウで守備モンスター、ギアギアーマーを攻撃します」

 

「ふむ。フェイズ移行やバトルフェイズ中の特殊召喚についてもきちんと学んでいるようナノーネ。ギアギアーマーの効果発動ナノーネ! このカードがリバースした時、デッキからギアギアーマー以外のギアギアと名のついたモンスター一体を手札に加える事ができるノーネ! 私は[ギアギアーノ Mk-II]を手札に加えるノーネ。そしてギアギアーマーは戦闘破壊され、墓地に送られマスーノ」

 

「いえ。ダーク・ロウの効果!」

 

 百代の攻撃に対しても狙い通りに手札増強に持っていくクロノス。しかし彼のプレイングを遮るように百代の声が響いた。

 

「ダーク・ロウがモンスターゾーンに存在する限り、相手の墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外されます!」

 

「なっ!? つ、つまりギアギアーマーは除外されるノーネ……」

 

「さらにダーク・ロウの効果を発動します! 一ターンに一度、相手がドローフェイズ以外でデッキからカードを手札に加えた場合、相手の手札をランダムに一枚選んで除外します!」

 

「にゃんとー!?」

 

 百代の宣言の瞬間、クロノスの手札が闇に包まれ、彼の手札が一枚消え去る。ただ攻撃するだけではない、予想を超える戦術にクロノスがくっと唸った。

 

「除外による墓地封じ、さらに相手のサーチに反応して手札を減らす。厄介なカードナノーネ……しかし、それは同時にあなたが墓地及び手札の重要性を熟知している証拠ナノーネ……」

 

「ありがとうございます。私はカードを一枚セットし、ターンを終了します」

 

「おっとっと。その前にリバースカードオープンナノーネ! [ギアギアギア]を発動! デッキからギアギアーノと名のついたモンスター二体を特殊召喚シマースノ! そしてこの効果で特殊召喚したモンスターのレベルは一つ上がる! 私は[ギアギアーノ]と[ギアギアーノ Mk-III]を特殊召喚!

 続けてギアギアーノMk-IIIの効果発動ナノーネ! このカードがギアギアと名のついたカードの効果によって特殊召喚に成功した時、自分の手札・墓地からギアギアーノMk-III以外のギアギアと名のついたモンスター一体を選んで表側守備表示で特殊召喚できマスーノ! ただし、この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化されマース。

 そしてギアギアーノMk-IIIの効果は一ターンに一度しか使用できず、この効果を発動するターン、私はギアギアと名のついたモンスター以外のモンスターを特殊召喚できないデスーガ、今はあなたのエンドフェイズ。この制約はほとんど意味がないノーネ!

 私はギアギアーノMk-IIIの効果で墓地から[ギアギアクセル]を特殊召喚するノーネ!」

 ギアギアーノ 守備力:1000 レベル:3→4

 ギアギアーノ Mk-III 守備力:1000 レベル:3→4

 ギアギアクセル 守備力:800

 

 クロノスの場に一気に三体のモンスターが並び、受験生たちが「おぉ!」と盛り上がる。これで守りを固めるもよし、これらを生贄に上級モンスターへ繋げるもよし。次のターンクロノスが取れる戦略に一気に幅が広がった状態で彼にターンが移る。

 

 

 ギアギアーノ

 効果モンスター

 星3/地属性/機械族

 攻 500/守1000

 このカードをリリースし、自分の墓地の機械族・レベル4モンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

 ギアギアーノ Mk-III

 効果モンスター

 星3/地属性/機械族

 攻1000/守1000

 このカードが「ギアギア」と名のついたカードの効果によって特殊召喚に成功した時、自分の手札・墓地から「ギアギアーノ Mk-III」以外の「ギアギア」と名のついたモンスター1体を選んで表側守備表示で特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

「ギアギアーノ Mk-III」の効果は1ターンに1度しか使用できず、この効果を発動するターン、自分は「ギアギア」と名のついたモンスター以外のモンスターを特殊召喚できない。

 

 M・HERO ダーク・ロウ

 融合・効果モンスター

 星6/闇属性/戦士族

 攻2400/守1800

 このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手の墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される。

(2):1ターンに1度、相手がドローフェイズ以外でデッキからカードを手札に加えた場合に発動できる。相手の手札をランダムに1枚選んで除外する。

 

 マスク・チェンジ

 速攻魔法(漫画版)

 自分フィールド上の「M・HERO」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。

 選択したモンスターを墓地へ送り、選択したモンスターと同じ属性でレベルが二つまで上の「M・HERO」と名のついたモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 ギアギアギア

 通常罠

 デッキから「ギアギアーノ」と名のついたモンスター2体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターのレベルは1つ上がる。

「ギアギアギア」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

「私のターン、ドロー! 私はギアギアーノとギアギアーノMk-IIIを生贄に捧げ、[エメス・ザ・インフィニティ]を召喚するノーネ!」

 エメス・ザ・インフィニティ 攻撃力:2500

 

 クロノスが取った戦略は後者。このままでは墓地を封じられ、サーチも碌に出来ずジリ貧。そうなる前に場を立て直そうと強力な最上級モンスターの召喚へと繋げた。

 

「バトルナノーネ! エメス・ザ・インフィニティでダーク・ロウを攻撃!!」

 

「くぅっ……」LP3700→3600

 

「そしてエメス・ザ・インフィニティの効果発動! このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動! このカードの攻撃力は700アップするノーネ! 私はカードを二枚セットしてターンエンドナノーネ!」

 エメス・ザ・インフィニティ 攻撃力:2500→3200

 

 

 エメス・ザ・インフィニティ

 効果モンスター

 星7/光属性/機械族

 攻2500/守2000

(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。このカードの攻撃力は700アップする。

 

 

 ダーク・ロウを破壊するだけではなく、さらに攻撃力をアップさせる。その光景を見た観客席にいる恐竜バンダナの少年が「このままじゃ、あのモンスターは際限なく攻撃力を上げていくドン!」とどこか悲鳴染みた声を上げた。

 さらに席に座って前の椅子に足を乗せるような形でふんぞり返ってデュエルを見物している、デュエルアカデミアの制服の一種である青い制服を着た、茶髪を刺々しく立てて下まつ毛の目立つ少年が「ふん、所詮は女か。クロノス教諭の前じゃあれが限界だな」と鼻で笑う。

 百代の場にモンスターはいない、対してクロノスの場には強力な効果を持つ最上級モンスターが存在する。そして先ほどから猛攻を仕掛けているように見えるが、未だに百代は彼にダメージを与えてはいない。モンスター効果を駆使した墓地や疑似的なサーチ封じといった小技は見せているが、まだそれだけ。それを成したモンスターが消えた今、彼女の圧倒的不利という状況に間違いはない。

 

(……客観的に見れば、間違いなくその通り。私は未だ無傷、私の場にはモンスターを破壊すればするほど攻撃力が上がるエメス・ザ・インフィニティが存在する。このままシニョーラ百代が防戦一方になれば、召喚可能なモンスターが尽きた瞬間ジ・エンド……それナノーニ)

 

 目の前には自身の切り札をワンターンで破られ、うつむいている身体を震わせている百代がいる。未だに相手にダメージを与えられず、こちらの場は全滅。さらに相手の場には強力なモンスターが健在。この状況では戦意喪失をしていてもおかしくはない。

 しかしクロノスはそんな自身の分析を心のどこかで否定していた。

 

(彼女が、それだけで終わるはずがない……そう思ってしまうノーネ)

 

 そう思う理由は簡単。彼はこの一年ずっと見てきていたのだ、どんな状況でも不屈の闘志で戦い抜くデュエリストの姿を。そのデュエリスト、目の前で相対する少女の兄――遊城十代、それと同じ血を引く彼女がこんなところで終わるはずがない。と彼のデュエリストの本能が叫んでいた。

 

「ふ、ふふ……うふふふ……」

 

 すると、百代の口から笑い声が漏れ出ているのに彼女は気づいた。

 

「ああ、ああ……ぞくぞくいたします……」

 

 身体が震えている。しかし恐怖しているわけではないというのを彼女が顔をあげたことで確信する。何故なら、恐怖している人間が恍惚の表情を浮かべて自らの身体を抱きしめているなんてありえないからだ。

 

「このままでは負けてしまう。そうなるとお兄様と離れ離れになってしまうかも……ですが、この次のドローでこの状況を大逆転できるかもしれない……ああ、そう思うとぞくぞくいたします……」

 

「うっわぁ……ナノーネ……」

 

 今にも溶けてしまいそうなとろりとした表情、その口元からはよだれが垂れており、はぁはぁと荒い息をしている姿にはさきほどまでのお淑やかさなどどこにもない。

 ある意味十代より重症かもしれないこの子、とクロノスは心中で思った。

 

「ああ、お兄様、私に力を……私のターン、ドロー!」

 

 どこかトリップしているようにふらふらとしながらも勢いよくカードをドローする百代。その軌跡に光が走り、ドローカードを見た百代の顔が喜色に染まる。

 

「リバースカードオープン[破損した仮面]! 墓地に存在するM・HEROを一体特殊召喚します。ただし、この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンの終了時に破壊されます。[M・HERO 烈火]を特殊召喚!」

 M・HERO 烈火 攻撃力:1600

 

 百代の場に再び炎の仮面英雄が参上。しかしその仮面のバイザー部分は片目部分が割れ、彼の片目が露出してしまっていた。

 

「続けて手札を一枚捨て、烈火を対象に速攻魔法[マスク・チェンジ・セカンド]を発動いたします。烈火を同じ属性で自身よりレベルの高いM・HEROに変身させます!」

 

 [とあああぁぁぁぁっ!!]

 

 烈火が大ジャンプ。その仮面が光に包まれて変化していき、彼の身体が炎へと包まれる。

 

「大変身召喚!! 出でよ、[M・HERO 獄炎]!!!」

 M・HERO 獄炎 攻撃力:2500

 

 炎が弾け飛び、HEROが着地。それは炎という漢字をモチーフにした仮面を顔に着け、全身に燃え盛る炎を思わせるプロテクターを纏った英雄の姿。そのレベルは8、先ほどのダーク・ロウを超え、エメス・ザ・インフィニティと同等の最上級モンスターである証を見せていた。

 

「M・HERO獄炎の効果! このカードの攻撃力は、自分の墓地のHEROと名のついたモンスターの数×300ポイントアップします。私の墓地に存在するHEROは四体。よって攻撃力は1200ポイントアップいたします!」

 M・HERO 獄炎 攻撃力:2500→3700

 

「む、エメス・ザ・インフィニティを上回ってきたノーネ……」

 

 獄炎が墓地に眠る仲間達の力を受け継ぎ、攻撃力をアップさせる。またも状況が逆転し、クロノスは無意識に笑みを見せる。

 

「続けて、魔法カード[マスク・チャージ]を発動します。このカードは自分の墓地の、M・HEROと名のつくモンスター一体とマスク・チェンジ一枚を手札に加える。私は墓地の[M・HERO ガスト]と[マスク・チェンジ]を手札に加えます。

 手札に加えた[M・HERO ガスト]を召喚し、[マスク・チェンジ]を発動! 変身召喚! 出でよ、[M・HERO ブラスト]!!」

 M・HERO 獄炎 攻撃力:3700→3400

 M・HERO ブラスト 攻撃力:2200

 

 突風(ガスト)の名の通り風を司る仮面の英雄が変身、新たに爆風(ブラスト)の名を冠する姿となって百代の場に一陣の風を吹かせた。

 

「M・HEROブラストの効果を発動します。このカードが特殊召喚に成功した場合、相手フィールドの表側表示モンスター一体の攻撃力を半分にする。エメス・ザ・インフィニティの攻撃力を半分にいたします」

 

「にゃんと!?」

 エメス・ザ・インフィニティ 攻撃力:3200→1600

 

 墓地のHEROの数が減ってもなお獄炎の攻撃力はエメス・ザ・インフィニティの攻撃力を僅かに上回っていた。しかしブラストの起こした暴風によってエメス・ザ・インフィニティの攻撃力が半減、ブラストでも破壊出来る数値まで落ち込んでしまう。

 

「続けて、ブラストのさらなる効果を発動いたします。一ターンに一度、500LPを払い、相手フィールドの魔法・罠カード一枚を持ち主の手札に戻す。伏せカード一枚を戻していただきます」LP3600→3100

 

 百代がクロノスの場に伏せられた魔法・罠カードの一枚を指差し、それを見たブラストが吹き上げるような風を起こすと、彼女の指差していたカードが煽られて吹き飛び、クロノスの手へと戻る。

 

「むぅ、上手くバック排除をしてきたノーネ……それデーモ、まだ伏せカードは一枚残ってるノーネ! ここで攻撃をするか否か、あなたの勇気を見せてもらうノーネ!」

 

「当然、攻撃いたします……ですが、その前にブラストを対象にして獄炎の効果発動! 一ターンに一度自分のメインフェイズに、自分フィールド上に表側表示で存在するM・HERO獄炎以外のHEROと名のついたモンスター一体を対象に発動できる。このターンのエンドフェイズまで対象のモンスターの元々の攻撃力分このカードの攻撃力をアップする! つまり獄炎の攻撃力はブラストの攻撃力、2200ポイントアップします!」

 M・HERO 獄炎 攻撃力:3400→5600

 

「攻撃力5600ナノーネ!?」

 

「ただし、この効果を発動したターン、このカード以外のモンスターは攻撃できず、このカードが守備表示モンスターと戦闘を行った場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。バトル! 獄炎でエメス・ザ・インフィニティを攻撃!!」

 [トアアアァァァァッ!!!]

 

 クロノスは攻撃力で相手の切り札を上回った事で舞い上がらず、冷静に攻撃前の伏せカード排除を狙ってきたことを評価しながら、相手の次の手を勇気という文言を使って問いかける。

 しかし百代はさらに己のマイフェイバリットカードに全てを託すかのように場の二体の英雄の力を獄炎に集約。そしてついに攻撃を指示、獄炎が掛け声と共に空高く跳躍する。

 その姿を見た瞬間、クロノスはニヤリと笑った。

 

「相手モンスターの弱体化、自分モンスターの強化、それらに驕らないバック排除の冷静な判断力。素晴らしいノーネ! しかし排除するカードと攻め時を誤ったノーネ! トラップ発動[聖なるバリア-ミラーフォース-]! 相手の攻撃宣言時に発動出来、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊するノーネ!」

 

 百代のプレイングを素晴らしいと褒めつつ、しかし手心は加えないとばかりにクロノスは伏せていたカードの正体を宣言する。

 攻撃のチャンスと逸って総攻撃を狙おうとすれば逆に全滅にもなり得るパワーカード。しかし攻撃宣言時に発動タイミングが限られている以上、攻撃前には充分に対処可能なそれはただモンスターだけを見ずに相手の伏せカードにも細心の注意を払う冷静さを忘れないことと正体不明の伏せカードを排除する時に狙うべきカードを見抜く洞察力を鍛えろという受験生へのメッセージだ。

 

「……ありゃ?」

 

 しかし続くのは呆けた声。クロノスが宣言した伏せカード[聖なるバリア-ミラーフォース-]が発動の様子を見せず、百代がくすり、と笑みを零した。

 

「獄炎のさらなる効果、発動ですわ。このカードが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠・モンスターの効果を発動できない」

 

「な、なんデスート!? 私の古代の機械(アンティーク・ギア)が有する効果ナノーネ!?……いやそれより強いノーネ!?」

 

 百代の宣言を聞いたクロノスが叫ぶ。彼の所有する魂のデッキ、そのメインカードである古代の機械(アンティーク・ギア)シリーズの大半には自身が戦闘を行う際の相手の魔法・罠の発動を封じる効果がある。しかし獄炎は魔法・罠に加えてモンスターの効果発動までも封殺するというのだ。

 つまりこの戦闘においてクロノスは防御の手段がなく、ジャンプの頂点に達した獄炎がこちらに足を向け、炎を纏った飛び蹴りの格好で向かってくるのをただ見ているしか出来なかった。

 

「ア、アワ、アワワワワワ!」

 

「参ります。必殺、インフェルノ・シュート!!」

 [セイヤー!!!]

 

 狼狽して右往左往慌てるクロノスだが既に彼に出来る事はなく、百代の決め台詞と獄炎の炎の飛び蹴り(インフェルノ・シュート)がエメス・ザ・インフィニティに直撃するのは同時。

 

「ギャーナノーネー!!!」LP4000→0

 

 獄炎の攻撃を受けたエメス・ザ・インフィニティが爆散し、その衝撃波と爆炎がクロノスへと降り注ぐ。獄炎の攻撃力5600に対しエメス・ザ・インフィニティの攻撃力1600、その差4000がクロノスのライフから削られて彼のライフはピッタリ0を指し示す。

 クロノスのデュエルディスクからブザー音が鳴り響き、このデュエルの終結を示すのであった。

 

 

 M・HERO ガスト

 通常モンスター(漫画オリジナル)

 星4/風属性/戦士族

 攻 1500/守 1600

 テキスト不明

 

 M・HERO ブラスト

 融合・効果モンスター

 星6/風属性/戦士族

 攻2200/守1800

 このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にする。

(2):1ターンに1度、500LPを払い、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを持ち主の手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 M・HERO 獄炎

 融合・効果モンスター(オリジナルカード)

 星8/炎属性/戦士族

 攻2500/守2100

 このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1):このカードの攻撃力は、自分の墓地の「HERO」と名のついたモンスターの数×300ポイントアップする。

(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

(3):一ターンに一度自分のメインフェイズに、自分フィールド上に表側表示で存在する「M・HERO 獄炎」以外の「HERO」と名のついたモンスター一体を対象に発動できる。このターンのエンドフェイズまで対象のモンスターの元々の攻撃力分このカードの攻撃力をアップする。この効果を発動したターン、このカード以外のモンスターは攻撃できず、このカードが守備表示モンスターと戦闘を行った場合、相手プレイヤーが受ける戦闘ダメージは0になる。

(4):このカードが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。

 

 マスク・チェンジ・セカンド

 速攻魔法(漫画版)

(1):手札を1枚捨て、自分フィールドの表側表示の「M・HERO」1体を対象として発動できる。そのモンスターを墓地へ送り、そのモンスターよりレベルが高く同じ属性の「M・HERO」モンスター1体を、「マスク・チェンジ」による特殊召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 マスク・チャージ

 通常魔法(漫画版)

(1):自分の墓地の「M・HERO」と名のつくモンスター1体と「マスク・チェンジ」1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

 破損した仮面

 通常罠(漫画オリジナル)

 自分の墓地からレベル4以下の「M・HERO」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 

 聖なるバリア -ミラーフォース-

 通常罠

(1):相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

 

 ざわり、ざわり、と受験会場が、特にデュエルアカデミアの中等部から見学に来ていた学生集団がざわつく。

 デュエルアカデミア高等部にて実技最高責任者をしているクロノス・デ・メディチの名前は中等部でも有名。そのクロノスが受験生の実力を確かめるための試験用デッキを使っていたとはいえワンショットキルを決められた事は、彼らにそれほどまでの困惑と動揺を生み出していた。

 

「ありがとうございました」

 

「あ、っと。こちらこそ、お疲れ様ナノーネ」

 

 しかしそんな喧騒を気にする事もなく、百代はデュエルディスクをデュエルモードから解除して収納モードに戻し、再び両手をスカートの上で重ねてぺこりと一礼。さっきのドロー前の妙なテンションが嘘のようなお淑やかさにクロノスは一瞬面食らった後、彼女のデュエルを労い、彼女の元に歩みを進めると彼女に右手を差し出す。百代もその意味を察したのか右手を差し出し、握手を行った。

 

「筆記試験は一番、実技試験は言うまでもなし……まあ、まだ確実には言えないデスーガ。恐らく、もうほとんど決まりナノーネ……むしろこれで落とす理由を探す方が難しいノーネ」

 

 少なくとも基本がしっかり出来ていることはデュエルに関する知識を見る筆記試験でトップを取っていることや今回のデュエルの中で分かる。

 そして実技試験である今回のデュエルの結果としては多少苦戦をしたものの相手の切り札級モンスターに対してこちらも切り札級モンスターを駆使してのワンショットキルによる劇的な大逆転。という評価に落ちつく。筆記試験も実技試験も落ち度を探すことが難しく、もはや合格は決定事項だ。

 その言葉に百代は嬉しそうに微笑んで「ありがとうございます」と答えた。

 

「とはイーエ、まだ確定とは言えマセーン。それに、これから何か問題を起こして合格取り消しという可能性だって大いにあるノーネ。試験で上手くいったからと油断はせず、清く正しい日常生活を送りナサーイ」

 

「心がけます」

 

 兄がドロップアウトボーイである事を知っているためかついつい口うるさく言ってしまうクロノスに百代もこくりと頷く。

 

「では、これで実技試験を終了するノーネ。お疲れナノーネ」

 

「はい。失礼いたします」

 

 クロノスの試験官としての最後の仕事に百代は彼から数歩下がって丁寧なお辞儀を見せると踵を返し、デュエルアリーナを出ていく。その動作一つ一つもお淑やかで、受験生の男子生徒諸君がポーッと見惚れているのが傍からの視線からでも推測できる。クロノスはまた一つ苦笑を漏らした。

 

「来年も、面白い生徒が増えそうナノーネ」

 

 

 

 

 

[お疲れ様だね、百代]

 

 デュエルアカデミアの実技試験が終了した帰り道。すたすたと歩く百代に何者かが声をかける。しかし彼女の周囲に人はおらず、しかし百代は虚空を見上げる。するとそこに異形の存在が姿を現した。

 おおまかなシルエットは人間といえる。しかしその背には巨大な翼が生えており、橙色と緑色のオッドアイだけではなく巨大な目玉が額に縦向きにくっついているその姿は異形といって差し支えないだろう。

 

「ありがとう、ユベル」

 

 見る人が見れば怯えそうな異形に対し、百代は先ほどまでと同じ微笑みを見せてお礼を返す。まるでその存在が近くにいるのが当たり前、というような彼女にユベルと呼ばれた異形もまたふふ、と笑う。

 

[あの男も言ってたけど、これでボク達もデュエルアカデミアとやら、十代と一緒の場所に行けるんだね]

 

「ええ、お兄様と同じ場所に」

 

 ユベルの何かに恋い焦がれたような上ずった声に、百代も頬を紅潮させ、目を閉じて高揚したような声色で漏らし、ほぉ、と息を吐く。

 その次に彼女は目を開く。その時、彼女の鳶色の瞳が心なしかどす黒く染まっているように見えた。

 

「ああ、この一年お兄様が側におらず、どれだけ寂しい思いをしたことか……今モモがお側に参ります、お兄様。ああ、お兄様と一緒に毎日デュエルが出来る……ああ、思い描いただけで今から胸が高鳴ります。ああ、お兄様……お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様——」

 

 どす黒い光を放つ鳶色の瞳。頬を紅潮させ、整った唇から発される上ずった言葉。まるで壊れたスピーカーのよう、声の強弱、イントネーション、テンポが全くの同一のまま、放っておいたら無限に繰り返していそうな彼女に、ユベルはクスリと笑みを零していた。




 こんにちはの方はこんにちは。初めましての方は初めまして、カイナと申します。
 最弱達の下克上に続き、思いついたので遊戯王GX小説書いてみました。今回のコンセプトはタイトルの通り、「もしも十代にHERO使いの(ユベルに認められたヤンデレブラコン)妹がいたら」です。え?何かがおかしい?なんのことですか?(すっとぼけ)

 まあ正直な話、「M・HEROでほぼ確実に存在するだろう融合モンスターの非OCGには炎属性のレベル8、地属性と光属性のレベル6があるし、漫画GXは特別編でエピローグまで終わってるからもう出るチャンスはないだろ」と思ってオリジナルで作ってみた。というのが一番の理由です。結局フィニッシャーの獄炎以外出せなかったけどね……。

 そして今回のクロノスにギアギアを使わせた理由は「流石に実技最高責任者であり一年経って色々成長したクロノスの暗黒の中世デッキを二年続けて受験生に負けさせるのはちょっと……今回のクロノスはドロップアウトボーイ相手といった油断や慢心もないし……そもそも百代を相手に暗黒の中世デッキ使う理由がない。十代の妹だから暗黒の中世デッキ使うとかただの私怨や嫌がらせと受け取られてもおかしくない」というファン的な見解から始まって、古代の機械と同じ地属性・機械族のカテゴリでそれなりに戦えそうなもの、なおかつ作中で書いたようにデュエルの基本を教えられる的な教師っぽくてそれっぽい理屈をつけられたからです。あのカテゴリってサーチ、サルベージ、リクルートといったデュエルの基本テクニックが詰まってますし。

 一応カテゴリとしては短編にしていますが、今回のお話は短期とはいえ連載を考えてはいます……考えて“は”います。(強調)
 十代に対するヤンデレブラコン書きたいし、もう一つデュエルを考えてまして。せめてそれくらいは書きたいなーと。何デッキを使うかなんていうまでもなし。(ククク)
とは言ってもあくまで短期です。続いたとしても原作でいう第二部、光の結社編が精一杯だし、この際言い切りますけど絶対そこまでいかない!むしろ斎王が出てくるかさえ怪しいです!少なくともデュエルネタがさっき言った一本しかないですから!
 元々が「十代に妹がいてM・HERO使ったら面白いだろうなー。M・HEROオリジナルで考えてみたしやってみるかー」という軽いノリで書き始めた事をご理解ください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デュエルアカデミア入学

 未来のエリート決闘者(デュエリスト)を養成する機関――デュエルアカデミア。その新入生を最初に出迎える埠頭に、数人の学生がたむろしていた。

 

「それにしても意外だな、十代。君が率先して新入生の出迎えに行こうと言い出すとは」

 

 黄色い制服――この学園において序列二番目に当たるラーイエローを示すものだ――に身を包む青年―—三沢大地の言葉に、この学園の序列最下位を意味するオシリスレッドへの所属を意味する赤色の制服を着た少年――遊城十代がにっと微笑んだ。

 

「そりゃ当たり前だろ! なにせ、俺の妹がデュエルアカデミアに合格したってんだから! しっかり歓迎してお祝いしてやるのは兄の務めだぜ!」

 

「え!? アニキって妹いたの!?」

 

 十代の言葉にその隣に立つ、十代と同色の制服を着た小柄な少年――丸藤翔がどうやら初耳らしく驚いたように声を上げた。

 

「ふん、貴様の妹だ。とんでもないデュエルバカには違いないな」

 

 黒色の制服――デュエルアカデミア本校の制服ではなく、同じデュエルアカデミアノース校の制服だ――を着ている少年――万丈目準が己のライバルである十代のデュエルバカを鑑みて鼻を鳴らし、次のこの場で唯一の女子である美少女――天上院明日香が苦笑する。

 

「でも、だから私まで呼んできたのね。納得したわ」

 

「おう。色々教えてやってくれよな、明日香!」

 

「はいはい」

 

 十代の言葉を明日香はあしらうように返す。しかしなんだかんだ兄として妹を気遣う姿勢を同じく兄を持つ妹として理解しているのは、その慈愛を見せる眼差しから察せられた。

 

「シ、シニョール達! 何してるノーネ!?」

 

「あ、クロノス先生にナポレオン教頭」

 

 するとそこに驚いたような声が響き、その声で気づいた翔がその相手に呼びかける。

 

「ク、クロノス(臨時)校長ナノーネ!」

「そんな事より、一体何をしてるのでアール? ムッシュ三沢やムッシュ万丈目、マドモワゼル明日香ならともかく。そこのドロップアウト二人はオンボロ寮で勉強でもしてるのでアール!」

 

 翔の呼びかけにクロノスは臨時を小声にしながら呼び方の訂正を促し、その横の小柄な中年男性――ナポレオン教頭が、あからさまに十代と翔を見下したような目で叱りつける。それに十代がむっとした顔を見せた。

 

「なんだよ、そんな事あんたには関係ねえだろ。俺は妹がここに入学したんだから歓迎してやりてえんだよ!」

 

「む、むぐ……」

 

 美しき兄妹愛とも称えられそうな理由を述べられては咄嗟の言い返しも浮かばないか、ナポレオンが沈黙する。

 

「お、船が到着したようだ」

 

 そこに船が到着したらしく、三沢が声をかける。

 

「おっとっと。じゃあシニョール達、せっかくいるんだからちょっと手伝うノーネ!」

 

「え?」

 

 クロノスはそう言うと脇に挟んで抱える形になっていた巻いた布を手近にいた翔に押し付け、翔もぽかんとなりながらその布を受け取る。

 

 

 

 

 

「みなさーん! ようこそデュエルアカデミアへ! ナノーネ!」

 

「歓迎するでアール!」

 

「何故俺までこんな事を……」

「あはは、まあまあ……」

 

 船から新入生が降り始め、クロノスとナポレオンが両手を大きく振って笑顔で新入生を歓迎する。その横で万丈目が苦々しげな顔を見せ、翔が苦笑交じりになだめていた。

 二人は現在「歓迎!デュエルアカデミア!」と書かれた横向きの垂れ幕をそれぞれ両端を持つ形で下げ、十代と三沢と明日香は各寮代表的な雰囲気でクロノスとナポレオンの横で「ようこそー!」と新入生歓迎の言葉を呼びかける。

 完全にクロノスとナポレオンの新入生歓迎を手伝わされていた。

 

「大体! こういうのは十代の役目だろ!」

 

「まあ、アニキは妹が来るっていうし。流石のクロノス先生も雑用押し付けるのは気が引けたんじゃない?」

 

 新しい生活が待っている学校で最初に見る光景が、あからさまな雑用を押し付けられている兄の姿というのは妹的に辛いものがあるだろう。それよりは笑顔で新入生を歓迎して手を振っている方がまだマシというものだ。

 

「ところでクロノス臨時校長」

 

「臨時は余計ナノーネ。どうしたノーネ、シニョール三沢?」

 

 笑顔で手を振って「楽しい学生生活にしよう!」と呼び掛けつつ、その呼びかけの合間にクロノスに問いかける三沢に、同じく笑顔で手を振っていたクロノスが聞き返す。

 

「いえ、クロノス臨時校長やナポレオン教頭が新入生を歓迎している理由を聞きたいのです。言ってはなんですが俺達の時はそんな事なかったような……」

 

「ムフフのフー。まあ、別に言っても大丈夫でしょう。実はですね、この学校にあのエd――」

「お兄様!」

 

 三沢の疑問にクロノスが答えようとした時、それを遮る勢いでの少女の声が響く。

 

「今度デュエルしようぜー!―—お、この声!」

 

 新入生への呼びかけをしながらその声に気づいた十代が、船から降りてちょっと歩いた先にいる生徒に向けて手を振るのをやめて船の降り口の方に顔と身体を向ける。

 そこに立っている、栗色の髪を首にかかるかかからないか程度のセミロングに伸ばした少女は鳶色の瞳をキラキラと輝かせていたと思うとこちらに駆け寄ってくる。

 

「わ、可愛い……って、お兄様?」

「まさか……」

 

 その少女の美貌に翔が見惚れた後に、彼女の言葉を思い出す。隣の万丈目も何かを察したように声を漏らした。

 

「お兄様、お久しぶりです!」

 

「おうモモ! 久しぶり!」

 

 思いっきり抱きついてくる少女に、十代もそう言って少女を受け止める。間違いない、さっきから言われていた十代の妹だ。

 

「ああ、お兄様。一年ぶりです……ああ、お兄様の声、お兄様の身体の感触、お兄様の体温、お兄様の匂い……お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様」

 

『……』

 

 モモと呼ばれた少女は十代に抱きつくだけでは飽き足らず、ぐりぐりと顔を十代の胸板に押し付けて頬ずりしており、それをしながらの言葉にその場にいるメンバーが額に汗マークを浮かべ明日香に至っては軽く引いていた。

 なお十代本人は「モモは相変わらず甘えん坊だなー」と言っており、特に気にしていない様子を見せている。

 

 [やあ、十代。元気そうでなによりだよ]

 

「よ、ユベル。お前も元気そうだな……ほらモモ、そろそろ離れろって」

 

「そんな、まだお兄様成分を補充しきれて――」

 

 ユベルと挨拶してから、困ったように笑いながらモモを優しく引きはがす十代に、モモが絶望したような表情を十代に向けるが、そこで彼女はふと視線を下にやり、十代の胴体を見るような視線になってぴたりと止まる。

 

「赤い……制服?」

 

「おう。俺はオシリスレッドだ。モモは女子だからオベリスクブルーの女子寮になると思うぜ? な、明日香」

 

「え、ええ……」

 

「……おかしい」

 

 モモの言葉に十代が事もなげに返し、明日香に確認を取るとさっきから引きっぱなしの明日香が曖昧に頷く。

 そこにモモの感情が消え去ったような冷たい声が響いた。

 

「お兄様はたしかに勉強が出来ないけれどその分デュエルの才能は抜群そのお兄様ならデュエルの腕だけでオベリスクブルーに行けてもおかしくはないむしろそれが当たり前これはまさかお兄様のデュエルの才能を嫉んだ何者かがお兄様を陥れたのではそんな事が許されるのかいえ許されてはならないしかし誰がそんな事をお兄様をオシリスレッドに縛り付けるためにはわざとお兄様の実技の成績を悪く改ざんするしかない実技実技といえばたしか実技最高責任者を名乗る何某が」

 

 突然何か言い出したかと思うと、ぐりんとモモの顔がクロノスの方に向く。しかし今までぴたりとまるで凍ったように固まっていた状態からの、例えるなら監視カメラがセンサーに反応してそっちを向いたような無駄のない機械的であまりにも急激な動きは不気味さが漂っている。

 しかも彼女の鳶色の瞳は何故か真っ黒に染まっている上に黒々しい輝きがその目から発されている。さらにその瞳を宿す両目はぱっちりと開かれて瞳孔も開いており、さらにその目から発される邪気以外はなんの感情も感じられない顔ははっきり言って見る者に恐怖を与えるような様相になっていた。特にその目で見られているクロノスなんて顔がやや青く染まっている。

 

「あー、なんか分かんねえけど落ち着けよモモ。俺、オシリスレッドが気に入ってるんだぜ? 赤い制服ってなんか燃える感じがするだろ?」

 

「……お兄様がそう言うなら」

 

 モモの独り言の内容を理解していないのかそう言う十代にモモがこくりと頷くと共に、彼女の目がタレ目に似合う穏やかな様子に戻り、その真っ黒に染まっていた瞳も鳶色に戻る。

 それからモモが渋々ながら十代から離れ、自分達の様子を見ていた翔達の方を振り向く。

 

「んで、皆。こいつが俺の妹のモモ!」

 

「遊城百代と申します。兄がお世話になっております」

 

 十代が明るく挨拶をすると、百代が両手をスカートの前で重ねてぺこりと頭を下げる礼儀正しいお辞儀を見せる。

 白色のキャミソールと薄紅色のカーディガンを合わせ、桃色のスカートを着用している姿は清楚と言ってよく。さらに本人の挙動もさっきまでの奇行が嘘のようなお淑やかさで、挨拶を受けたメンバーは沈黙、「これはどうもご丁寧に」とこちらもお辞儀をする事しか出来なかった。

 

「モモ、こいつは天上院明日香! 俺の仲間なんだ。モモが女子寮に入った後に困った時は明日香に相談したらきっとなんとかなるぜ!」

 

「十代ったら……天上院明日香よ……よ、よろしくね、百代さん」

 

 十代はまず明日香を紹介し、なんか女子寮関係丸投げされそうなセリフに明日香は呆れた後、百代に自己紹介と挨拶を返す。しかしさっきまでの奇行が尾を引いているのか、その笑みは若干引きつっていた。

 

「お兄様の仲間……よろしくお願いします。天上院先輩」

 

「あ、明日香でいいわよ?」

 

 それに対し、百代はそう呟いて明日香を一瞥した後、にこっと可愛らしい微笑みを浮かべて握手。明日香も皆がそう呼んでいるから名前で大丈夫だと返す。

 

「そんでこっちから翔に、万丈目に、三沢」

 

「ま、丸藤翔っす。よ、よろしくっす」

「万丈目準だ。ま、覚えておいてやる」

「俺は三沢大地。よろしく頼む」

 

 続けて男子勢を紹介。翔が頭をかいて照れた様子で、万丈目が腕組みをしながら、三沢が爽やかに微笑んで挨拶を返した。

 

「そ、それにしても。アニキにこんな可愛い妹がいたなんて知らなかったなー」

 

「……アニキ?」

 

 照れて頭をかきながらそんな事を言う翔に、百代が反応。翔を見つめる。その眼差しはやや冷たく、翔がびくりと身体を震わせた。

 

「あ、あーいや、僕アニキ……十代を尊敬してるんすよ。リスペクトってやつっす。ね?」

 

 その冷たい眼差しからくる威圧に翔は若干怯えを隠しながら説明。すると百代の眼差しから冷たさが消え、彼女はにこりと微笑んだ。

 

「まあ、お兄様を兄と呼ぶほどに慕ってくださるなんて嬉しいです」

 

「あ、あは、あはははは……」

 

 微笑む百代だが心なしか目が笑っておらず、翔も引きつった笑みで笑い続けていた。

 

「そうだ、モモ。翔とデュエルしてみたらどうだ?」

 

「え、アニキ!?」

 

「せっかくだしさ。いいだろ、翔?」

 

「……わ、分かったっす」

 

 突然の十代の提案に断り切れず翔もため息交じりに頷く。

 

「大丈夫なんですか、クロノス臨時校長」

 

「だから臨時は余計ナノーネ……まあ、船の到着も予定より早かったし、一回くらいなら多分問題ないノーネ」

 

 三沢の問いかけにクロノスは懐中時計で時間を確認しながら一回くらいなら大丈夫だろうと返答。十代が「決まりだな!」と微笑んだ。

 

「ほい、モモ。入学式で自分用の貰えるだろうけど、とりあえず今は俺のデュエルディスク貸してやるよ」

 

「お兄様のデュエルディスク……」

 

 十代は自分のデュエルディスクを百代に渡し、百代はそれだけで満足したような恍惚とした顔と声で十代のデュエルディスクを自分の左腕に装着してデッキをセット。翔もそれと対峙しながらデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!!!」」

 

 そして二人の声が重なり合い、それを合図にデュエルの幕が上がった。

 

「僕の先攻、ドロー! 僕は[ジャイロイド]を守備表示で召喚! カードを一枚セットしてターンエンド!」

 ジャイロイド 守備力:1000

 

 翔の場にヘリコプター型のビークロイドが出現し、守備の構えを取る。さらにその後ろに一枚のカードが伏せられた。

 

(ふっふっふ。ジャイロイドは一ターンに一度、戦闘によっては破壊されない。さらに僕の伏せカードは[スーパーチャージ]、ジャイロイドの戦闘破壊耐性で相手の攻撃を防ぎながらスーパーチャージでカードを二枚ドローする。このコンボで新入生を驚かせてやるっす!)

 

 翔は相手である百代や、デュエルが始まった事に気づいて興味を持って近づいてきたらしい新入生のギャラリーを驚かせる未来を思い描き、得意気な顔を見せていた。

 

 

 ジャイロイド

 効果モンスター

 星3/風属性/機械族

 攻1000/守1000

 このカードは1ターンに1度だけ、戦闘によっては破壊されない。(ダメージ計算は適用する)

 

 

「私のターン、ドロー。私は[M・HERO バソール]を召喚し、手札の速攻魔法[マスク・チェンジ]を発動します。バソールを融合デッキの同じ属性かつレベルが二つまで高いM・HEROに変身させます」

 M・HERO バソール 攻撃力:1000

 

 百代の呼び出した地の力を持つ仮面英雄が大ジャンプ、その身体が光に包まれ特に仮面が光を放つ。そして光に包まれた仮面英雄が着地すると同時、その光が弾け飛んだ。

 

「変身召喚! [M・HERO クリスル]!」

 M・HERO クリスル 攻撃力:2000

 

 バソールと同じ地の力を持つ新たな仮面英雄。それは水晶のような美しい鎧を身にまとい、巨大な鉱石をそのまま使ったような豪奢且つ巨大な盾を左手に持つ。対して右手にはこれまた美しい鉱石で飾られた短槍を持つ姿をしていた。

 

「バトルに入ります」

 

(攻撃力2000。ジャイロイドの守備力を上回ったけど一体だけなら作戦通りジャイロイドで防げる。まずこのターンはノーダメージでしのげる)

 

 バトルに入った段階で百代の場にモンスターは一体。翔は最初の作戦通りジャイロイドとスーパーチャージのコンボでこちらの被害はゼロに抑えつつ、手札を増やして反撃へと繋げようとする。

 

「M・HEROクリスルでダイレクトアタック!」

 

「え!? 僕の場にはジャイロイドがいるんすよ!?」

 

「クリスルはモンスターを無視してプレイヤーにダイレクトアタックが可能です。ただし、この時相手ライフに与える戦闘ダメージはこのカードの元々の攻撃力の半分の数値になります。クリスルの元々の攻撃力は2000、よって与えるダメージは1000ポイントになります」

 

「くっ。でも攻撃宣言時にリバースカードオープン[スーパーチャージ]! このカードは自分フィールドのモンスターが機械族のロイドと名のつくモンスターのみの場合、相手モンスターの攻撃宣言時に発動でき、自分はデッキから二枚ドローする! くあっ!!」LP4000→3000

 

 百代の宣言に翔は面食らいつつもリバースカードを発動、同時にクリスルの右手から投げられた短槍が翔の場のジャイロイドを無視して翔に直接突き刺さる。しかし翔も手札の補充に成功。当初の予定とは違ったが、最低限手札の補充だけは完了させた。

 

「クリスルの効果を発動します。このカードが戦闘を行ったダメージステップ終了時、このカードの表示形式を守備表示にできる。リバースカードを一枚セットして、ターンエンドです」

 M・HERO クリスル 攻撃力:2000→守備力:2500

 

 クリスルが姿勢を低く取りなおし、左手の巨大な盾を前に構えて守備を固める。さらにリバースカードを一枚伏せて彼女はターンエンドを宣言した。

 

 

 M・HERO バソール

 通常モンスター(漫画オリジナル)

 星4/地属性/戦士族

 攻 1000/守 700

 テキスト不明

 

 M・HERO クリスル

 融合・効果モンスター(オリジナルカード)

 星6/地属性/戦士族

 攻2000/守2500

 このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1):このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。この時、相手ライフに与える戦闘ダメージはこのカードの元々の攻撃力の半分の数値になる。

(2):このカードが戦闘を行ったダメージステップ終了時、このカードの表示形式を守備表示にできる。

(3):このカードが破壊された時、自分の墓地のレベル4以下の「M・HERO」と名のつくモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

 マスク・チェンジ

 速攻魔法(漫画版)

 自分フィールド上の「M・HERO」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。

 選択したモンスターを墓地へ送り、選択したモンスターと同じ属性でレベルが二つまで上の「M・HERO」と名のついたモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 スーパーチャージ

 通常罠

(1):自分フィールドのモンスターが機械族の「ロイド」モンスターのみの場合、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

 

「先手を取ったのは百代君か」

 

「フッフッフ。油断してはいけないノーネ、シニョーラ百代は筆記実技共にいう事なしの今年度の入学主席。しかーも、実技試験では試験用デッキを使ったとはいえこの私に勝ったタクティクスの持ち主ナノーネ!」

 

「クロノス先生に勝ったのか! すっげーなモモ! 兄として俺も鼻が高いぜ!」

 

 翔の守備をかいくぐって先手を取った百代に三沢が感心したように呟くと、クロノスがフフンと鼻を鳴らし得意気に宣言。その言葉に十代が嬉しそうに笑って百代に声援を送る。その声援を受けた彼女が胸を押さえて「はぁぅっ!」と奇声をあげふらついた。

 

「ところで十代、貴様の妹はそんなに強いのか?」

 

「え? ん~……強いとは思うぜ? 俺も地元にいた頃、町内デュエル大会であいつベスト8に入った事あるし」

 

「また微妙な戦績ね……」

 

「でも俺には一回も勝ったことねえからな~」

 

 さっきの攻防一回やクロノスに勝ったとはいえ試験用デッキでは実力を測り切れないと判断したか、兄である十代に直接問う万丈目。しかし十代の証言も曖昧というか微妙であり、明日香が呆れ顔になった。しかも十代に勝ったことがないらしく、万丈目まで微妙な顔を見せ始めた。

 

「ぼ、僕のターン、ドロー!」

 

 突然のダイレクトアタックや実技試験でクロノスに勝ったという部分で若干勢いに押されたか、どもりながらカードをドローする翔。しかしドローカードを見るとよしと頷いた。

 

「僕は[ドリルロイド]を召喚して、バトル! ドリルロイドでクリスルを攻撃するっす!」

 ドリルロイド 攻撃力:1600

 

 翔の場に出現した掘削機型ビークロイドが主の指示に従ってクリスルに突撃。しかしその攻撃力はクリスルの守備力を下回っており、周りの新入生がざわついた。

 

「驚いてるようっすね。でも甘いっすよ新入生! ドリルロイドが守備表示モンスターを攻撃した場合、ダメージ計算前にそのモンスターを破壊する! つまり守備力に関係なくクリスルは破壊されるっす!」

 

「なら、リバースカードオープン[フォーム・チェンジ]! 自分の場のM・HEROと名のつく融合モンスター一体を融合デッキに戻し、そのモンスターの元々のレベルと同じレベルでカード名が異なるM・HEROと名のつく融合モンスター一体を、マスク・チェンジによる特殊召喚扱いとして融合から特殊召喚します!

 クリスルをフォーム・チェンジ! 出でよ、光のM・HERO、[M・HERO ライト・ゴート]!」

 M・HERO ライト・ゴート 攻撃力:1800

 

 クリスルの姿が消え、現れたのは輝くような金色のプロテクターで全身を包む、山羊を思わせる仮面をつけた光の仮面英雄。

 その表示形式はドリルロイドの効果が通じない攻撃表示、さらにその攻撃力はドリルロイドを上回っていた。

 

「う、攻撃を中止するっす! リバースカードを一枚セットしてターンエンド!」

 

 このままでは返り討ちだと悟って攻撃を中止。リバースカードを一枚伏せてターンエンドを宣言する。

 

 

 ドリルロイド

 効果モンスター

 星4/地属性/機械族

 攻1600/守1600

 このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、ダメージ計算前にそのモンスターを破壊する。

 

 M・HERO ライト・ゴート

 融合・効果モンスター(オリジナルカード)

 星6/光属性/戦士族

 攻1800/守2400

 このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

 このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分のドローフェイズ時に通常のドローを行う代わりに、自分の墓地に存在する「M・HERO」と名のつくモンスター1体または「チェンジ」と名のつく速攻魔法一枚を手札に加える事ができる。

(2):1ターンに1度、自分のカードが除外された時に、除外されている自分の「M・HERO」モンスター1体を選択して発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

 フォーム・チェンジ

 速攻魔法(漫画版)

(1):自分フィールドの「M・HERO」融合モンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターをエクストラデッキへ戻し、そのモンスターの元々のレベルと同じレベルでカード名が異なる「M・HERO」融合モンスター1体を、「マスク・チェンジ」による特殊召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

「私のターン。このドローフェイズにライト・ゴートの効果により私はドローフェイズ時に通常のドローを行う代わりに、自分の墓地に存在するM・HEROと名のつくモンスター一体またはチェンジと名のつく速攻魔法一枚を手札に加える事ができます。私は墓地の[マスク・チェンジ]を手札に」

 

 百代は先程呼び出した英雄の力を使い、このデッキのキーカードを確実に手札に呼び込む。そして別の手札を取った。

 

「私は[M・HERO ファウンティン]を召喚して速攻魔法[マスク・チェンジ]を発動! 水属性のファウンティンを変身! 変身召喚、[M・HERO ヴェイパー]!!」

 M・HERO ヴェイパー 攻撃力:2400

 

「こ、攻撃力2400……」

 

 百代の場に新たな仮面英雄が登場。その水の力を司る英雄はトライデント型の槍を振るってポーズを決めた。突然出てきたそのモンスターの攻撃力に翔の頬が引きつる。

 

「バトルに入ります。ヴェイパーでドリルロイドを攻撃! フリアティクエクスプロージョン!!」

 

「ぐううっ!」LP3000→2200

 

「バトルは終了……私はリバースカードを一枚伏せてターンを終了します」

 

 ヴェイパーの投擲した槍がドリルロイドに突き刺さり、大爆発を起こして翔にダメージを与える。これで百代のバトルは終了、彼女は僅かに考えた後にカードを一枚セットしてターンエンドを宣言した。

 

 

 M・HERO ファウンティン

 通常モンスター(漫画オリジナル)

 レベル4/水属性/戦士族

 攻撃力1000/守備力1400

 テキスト不明

 

 M・HERO ヴェイパー

 融合・効果モンスター

 星6/水属性/戦士族

 攻2400/守2000

 このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

 このカードはカードの効果では破壊されない。

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 先程から押されっぱなしの翔が、悪い流れを断ち切ろうとするかのように勢いよくカードをドロー。ドローカードを見てにやりと微笑み、しかし落ち着くように深呼吸をしてから手札を取る。

 

「[パトロイド]を召喚して効果発動! 一ターンに一度、自分のメインフェイズに相手フィールド上にセットされているカードを一枚めくり、確認した後元に戻すっす! その伏せカードを確認させてもらうっすよ」

 パトロイド 攻撃力:1200

 

「う……伏せカードは[破損した仮面]です」

 

「よし、これならいける! 魔法カード[パワー・ボンド]を発動!」

 

「出た、カイザーと翔のキラーカード!」

「気をつけろよ、モモ!」

 

 翔の発動したカードを見た三沢が声を上げ、十代がモモに警告を飛ばす。

 

「僕は場の[ジャイロイド]と手札の[スチームロイド]を融合! 来て、マイフェイバリット、[スチームジャイロイド]!! パワー・ボンドでで特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする!」

 スチームジャイロイド 攻撃力:2200→4400

 

「ただし、このターンのエンドフェイズに翔君はこの効果でアップした数値分のダメージを受ける」

「アップした数値は2200、そして丸藤翔の残りライフも2200……」

「このターンで決めなければシニョール丸藤翔の負けナノーネ」

 

 一気に攻撃力4000オーバーのモンスターが出現したことに新入生がざわつく中、明日香、万丈目、クロノスが厳しい目でフィールドを見る。しかし翔の動きはまだ止まらない。

 

「それだけじゃ終わらないっす! パワー・ボンドにチェーンしてリバース・速攻魔法[非常食]を発動! パワー・ボンドを墓地に送ることで、墓地に送った魔法・罠の数×1000ポイント。つまり1000ポイントライフを回復するっす!」LP2200→3200

 

「上手い! これでパワー・ボンドのデメリットを受けても翔のライフは残る!」

 

「バトルっす! スチームジャイロイドでヴェイパーを攻撃! くらえ、ハリケーンスモーク!!」

 

 翔の攻撃宣言を聞いたスチームジャイロイドがポーッと汽笛を鳴らして煙を噴出。ヴェイパーの視界をくらませるとその煙の中からスチームジャイロイドが勢いよく突進、ヴェイパーを跳ね飛ばして粉砕した。

 

「くううぅぅぅっ!!」LP4000→2000

 

 さらにその衝撃は百代のライフをノーダメージから一気に半分まで削り取る。だが、翔はまだ手を休めない。

 

「さらに速攻魔法[融合解除]! スチームジャイロイドの融合を解除し、融合素材の[スチームロイド]と[ジャイロイド]を特殊召喚!」

 スチームロイド 攻撃力:1800

 ジャイロイド 攻撃力:1000

 

 スチームジャイロイドの姿がぶれて消滅した後、その融合素材となった二体のビークロイドが彼の場に出現。

 

「まだバトルフェイズは終わってないっす! スチームロイドでライト・ゴートを攻撃! この時スチームロイドの効果! このカードは相手モンスターに攻撃する場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする!」

 スチームロイド 攻撃力:1800→2300

 

「く……」LP2000→1500

 

 スチームロイドの突進が光の仮面英雄を破壊、これで彼女の場ががら空きになった。

 

「続けてパトロイドでダイレクトアタック!」

 

「どうせ破壊されるのなら、リバースカードオープン[破損した仮面]! 墓地に存在するM・HEROを一体特殊召喚します。ただし、この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンの終了時に破壊されます。[M・HERO ファウンティン]を守備表示で特殊召喚!」

 M・HERO ファウンティン 守備力:1000

 

「攻撃続行っす! いけ、シグナル・アタック!!」

 

 ファウンファウンファウンとシグナルを鳴らしながら、パトロイドが百代を守ろうと推参した水の仮面英雄に突撃し、破壊。

 

「最後にジャイロイドでダイレクトアタック!」

 

「く……」LP1500→500

 

 トドメにジャイロイドが百代本人目掛けて突撃、百代のライフをさらに削っていった。

 

「僕はカードを一枚セットしてエンドフェイズ、パワー・ボンドの効果でダメージを受けるっす……うぅ」LP3200→1000

 

 翔はカードを一枚伏せてターンエンドに移り、己の切り札のデメリットでダメージを受ける。

 

「ふむ。このターンで決められなかったのは惜しいが……」

「それでも、かなりの成長ね。非常食という保険があったとはいえ、一年前の翔君ならパトロイドの効果を忘れて、無防備にパワー・ボンドを使っていた可能性があったわ。もしそれを除去カードで対応されてたら目も当てられない」

 

 三沢と明日香がこのターンで倒しきれなかった事を惜しみつつも、相手の切り札を一気に破壊して形勢逆転したことや、一年前から見ていた同輩の成長を賞賛する。

 さらに周りの新入生も「あの先輩スゲー!」や「レッドの癖にやるな!」と翔に歓声を向け、翔も得意気な顔になっていた。

 

 

 パトロイド

 効果モンスター

 星4/地属性/機械族

 攻1200/守1200

 相手フィールド上にセットされているカードを1枚めくり、確認した後元に戻す。

 この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに発動する事ができる。

 

 スチームロイド

 効果モンスター

 星4/地属性/機械族

 攻1800/守1800

 このカードは相手モンスターに攻撃する場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントアップする。

 このカードは相手モンスターに攻撃された場合、ダメージステップの間攻撃力が500ポイントダウンする。

 

 スチームジャイロイド

 融合モンスター

 星6/地属性/機械族

 攻2200/守1600

「ジャイロイド」+「スチームロイド」

 

 パワー・ボンド

 通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから、機械族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする。

 このカードを発動したターンのエンドフェイズに自分はこの効果でアップした数値分のダメージを受ける。

 

 非常食

 速攻魔法

(1):このカード以外の自分フィールドの魔法・罠カードを任意の数だけ墓地へ送って発動できる。

 自分はこのカードを発動するために墓地へ送ったカードの数×1000LP回復する。

 

 融合解除

 速攻魔法

(1):フィールドの融合モンスター1体を対象として発動できる。その融合モンスターを持ち主のエクストラデッキに戻す。

 その後、エクストラデッキに戻したそのモンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を自分フィールドに特殊召喚できる。

 

 

「私のターン……」

 

 百代は己のターン開始を宣言しデッキに指をかける。しかしそこで彼女の動きが固まったように止まってしまう。

 無理もない、ライフはギリギリ同等と言えるが、相手の場には二体のモンスターと一枚の伏せカード。対してこちらのフィールドはがら空き。相手のモンスターの戦闘力は然程高くないとはいえ、このままでは敗北すらありえる状況だ。

 既に周りの新入生も目の前の先輩の勝利を疑いもしない雰囲気も、逆に百代敗北の雰囲気を強くしている。

 

「頑張れ、モモ!」

 

 しかしその雰囲気をものともしない、十代の声援が百代に届く。

 

「翔、たしかにお前もこの一年で強くなった! それはデュエルアカデミアに入学してから、ずっと一緒にいた俺が保証してやる!」

 

「アニキ……」

 

「でも」

 

 十代の褒め言葉に翔が嬉しそうな顔になる。しかし既に十代は百代に笑顔を向けていた。

 

「モモだって、俺が一緒にいなかった一年ですっごく強くなってるに決まってる! モモ、お前のデュエルを見せてくれ!」

 

「お兄様……」

 

 敬愛する兄の声援に、先ほどまで暗い顔になっていた百代の顔がぱぁっと輝いた。

 

「はい。お兄様の声援を受ければ百人力、参ります! 私のターン、ドロー!」

 

 百代は輝かせんばかりの笑顔でカードをドロー。ドローカードを見てにこりと笑った。

 

「私は魔法カード[マスク・チャージ]を発動いたします。自分の墓地の、M・HEROと名のつくモンスター一体とマスク・チェンジ一枚を手札に加える。私は墓地の[M・HERO ファウンティン]と[マスク・チェンジ]を手札に加えます! 手札に加えた[M・HERO ファウンティン]を召喚!」

 M・HERO ファウンティン 守備力:1000

 

「またヴェイパーに繋げるつもりか?」

 

(ヴェイパーが来るなら来いっす。僕の伏せカードは[魔法の筒(マジック・シリンダー)]、そんじょそこらの攻撃なら跳ね返して僕の勝ちっす!)

 

 三度現れる水の仮面英雄、その姿に万丈目が呟くと翔は己の伏せカードをちらりと見て守りは万全だと頷いた。

 

「まだです。私はファウンティンを生贄に捧げ、[M・HERO エレメンタルマスター]を特殊召喚!」

 M・HERO エレメンタルマスター 攻撃力:1600

 

 百代の場に現れたのは真っ白なタイツで全身を包んだような格好をして顔を隠す同じく白色の仮面を被った新たな英雄の姿。そのレベルは6を示していた。

 

「このカードは自分フィールド上に表側表示で存在するM・HEROと名のつくモンスター一体を生贄に捧げて特殊召喚出来ます。そしてこの効果で特殊召喚した場合、このカードの属性はターン終了時まで生贄に捧げたM・HEROと同じになる! ファウンティンの属性は水、よってエレメンタルマスターは水属性となります!」

 

 その説明と共に、自らを呼び出すための贄となった英雄の力を受け継いだかの如く、白色のタイツと仮面が全て水色一色へと染まる。

 

「[マスク・チェンジ]を発動! エレメンタルマスターを変身! 出でよ、レベル8[M・HERO アシッド]!!」

 M・HERO アシッド 攻撃力:2600

 

 エレメンタルマスターが変身し、水属性最上級の仮面英雄が彼女の場に降り立った。

 

「アシッドの効果発動! アシッドが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする! アシッド・レイン!!」

 

「そんな!?」

 ジャイロイド 攻撃力:1000→700

 パトロイド 攻撃力:1200→900

 

 アシッドが天空目掛けて銃を連射、放たれた水の弾丸が相手の場に酸の雨になって降り注ぎ、ビークロイドの身体を錆びさせて戦闘力を奪う。しかしそれだけではなく、撃ち抜かれた翔の場の伏せカードが全て破壊されてしまった。これで百代の攻撃を阻むものは存在しない。

 

「バトル! アシッドでパトロイドを攻撃! アシッド・バレット!!」

 

「うわああぁぁぁっ!!!」LP1000→0

 

 パトロイドに銃を向け、放たれた超高水圧の水弾がパトロイドを貫く。しかし水弾の勢いは治まらず、そのまま翔を貫いて彼にトドメを刺すのであった。

 

 

 M・HERO エレメンタルマスター

 効果モンスター(オリジナルカード)

 星6/闇属性/戦士族

 攻1600/守1200

(1):このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する「M・HERO」一体をリリースして特殊召喚出来る。この効果で特殊召喚した場合、このカードの属性はターン終了時までリリースした「M・HERO」と同じになる。

(2):一ターンに一度、自分メインフェイズに発動できる。デッキから「M・HERO」モンスター一体を墓地へ送る。このカードはターン終了時まで、この効果で墓地へ送ったモンスターと同じ属性になる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

(2)の効果は(1)の効果で特殊召喚したターンには発動できない。

 

 M・HERO アシッド

 融合・効果モンスター

 星8/水属性/戦士族

 攻2600/守2100

 このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

 このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。

 

 マスク・チャージ

 通常魔法(漫画版)

(1):自分の墓地の「M・HERO」と名のつくモンスター1体と「マスク・チェンジ」1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

 

『おおおぉぉぉぉ!』

 

 埠頭に集まっていた新入生や、騒ぎを聞いてやってきたのだろうか若干名の上級生が激戦に歓声を送る。

 

「あー……惜しかったっす」

 

 相手ライフを500まで削ったものの逆転され、悔しそうに座り込む翔。そんな彼に百代が歩き寄った。

 

「ありがとうございました、丸藤先輩」

 

「あ、ど、どうも」

 

 ぺこりと頭を下げる百代に、翔も慌てて起き上がると頭をかきながらこっちもぺこぺこと頭を下げた。

 

「流石はお兄様をリスペクトしていると語るだけありました。それにお兄様からの信頼を得ているようで……」

 

「あ、あはは……」

 

 心なしかやはり目が笑っておらず、翔は顔を若干青くして引きつった笑みを漏らす。

 

「はいはーい! いきなりの新入生歓迎デュエルはそこまでナノーネ!」

 

 そこにパンパンと手を打ってクロノスが割って入る。

 

「そろそろ新入生は移動再開するデアール!」

「あ、シニョーラ百代は新入生代表挨拶があるから一緒に来てほしいノーネ」

 

 ナポレオンが新入生の移動を促し始め、クロノスが百代に新入生代表挨拶があると言って一緒に来るよう呼ぶ。それに十代が驚いたような顔を見せた。

 

「え、モモって新入生の代表なのか!?」

 

「そりゃ入学主席だから当然ナノーネ。ほらほら、シニョール十代達ももう満足したでしょ? さっさと帰るなり、入学式見学したいならさっさと行くノーネ」

 

「当然見学するぜ! モモの晴れ舞台だもんな! 行こうぜ皆!」

 

 十代の言葉にクロノスがしっしっと追い払うように手を振ると、十代はそう言って駆けだす。翔が「あ、待ってよアニキー!」と言いながら後を追い、ここまで来たらついでだからと互いに顔を見合わせて笑い、三沢、明日香、万丈目もその後を追い始めた。

 

 

 

 

「それでーは! これよりデュエルアカデミア入学式を始めるノーネ! 私は本校の臨時校長を務める、クロノス・デ・メディチ。あと実技最高責任者もやってるノーネ!」

 

 デュエルアカデミアの講堂に新入生が集まり、入学式が開始。十代を始め、新入生に興味を持った上級生も講堂の後ろの方で入学式を見学していた。

 まず最初にクロノスが挨拶。一応ちゃんとした場のためきちんと臨時校長と名乗りながら、実技最高責任者も兼任していると念押しする。それから臨時校長のクロノスに続いて教頭のナポレオンを始め、各教師の紹介と場が続いていく。

 

「それでは、今年度の入学主席。シニョーラ遊城百代から生徒代表として挨拶してもらうノーネ!」

 

「はい!」

 

 クロノスの促しで百代が講堂の前に立ち、ぺこりと挨拶。その可愛らしさに男子生徒が見惚れ、百代はふぅと息を吐いて緊張をほぐしてから新入生代表挨拶を述べ始める。しかしその視線は心なしか見学している十代に向けられており、視線に気づいた十代も苦笑を漏らしていた。

 

「ちゅ、中等部トップであるこの僕を差し置いて、外部入学のくせに首席で新入生代表だって……」

 

 そのためか、百代は新入生の中で一人、自分を睨みつけ何事か呟いている生徒がいる事に気づいてはいなかった。

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な……斎王の予言によると十代はレッド寮にいるはず……斎王の予言が外れるなんて……」

 

 その頃、レッド寮で灰色のスーツに身を包んだ少年がそんな事を呟きながら右往左往しているのであった。




 好評により、続きを書いてみました。せっかくオリジナルのM・HERO考えたのに結局前回は獄炎しか出せなかったってのもありますし。
 それぞれ地属性のクリスルはダイレクトアタックと攻撃後の守備、さらに破壊された場合のサルベージで守りを固める堅実な守備型。ライト・ゴートはダーク・ロウのメタや牽制(ドローフェイズでのサルベージや除外トリガーのサルベージ)をイメージしました。で、エレメンタルマスターは漫画版マスク・チェンジだとレベル8を出すには一度レベル6融合M・HEROを経由する必要があるので負担軽減のために作ってみました。

 今回の相手が翔だったのはまあ妥当な相手というかなんというか……どうにかギリギリな感じでデュエル構成作りましたけど、逆にギリギリだろうと今の時点で新入生である百代が勝って許されそうなのって翔くらいなので……。

 そしてさらに次回に続く伏線的なものを入れて、まさかのエドをオチ担当にしたところで今回はここまでです。
 一応次回の構想も練れてはいるので投稿予定です。その後は知らないけど。

 では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新入生最強決定戦

 オシリスレッド。デュエルアカデミアの大別してオベリスクブルー、ラーイエローと合わせた三つの中で序列最下位に位置する階級。

 その扱いの悪さは学生が住まう寮にも表れており、オベリスクブルーは城のような豪華絢爛な寮、ラーイエローはペンションのような素朴ながら居心地よさそうな寮、対してオシリスレッドは築何十年と経っているだろう、よく言えば味がある、悪く言えばボロボロの木造アパートのような寮になっている程だ。

 さらにオベリスクブルーは全学生共用のデュエルスペース以外に最新鋭のソリッドビジョンシステムが導入された専用のデュエルスペースを有しているのに対して、オシリスレッドはそのボロ寮の敷地内のグラウンドに白線で描かれたデュエルスペース止まり。当然ソリッドビジョンシステムなんて導入されていないことが、デュエルを学ぶ学園の中でのオシリスレッドの扱いの悪さを示している。

 

 さらにはそんなオシリスレッドに所属している生徒は学園内でも差別対象になっており、普段ならそこに所属する生徒以外は近づかないレッド寮に、青色を基調としたオベリスクブルー、この学園におけるエリートを意味する制服に身を包んだ女子が、例のお手製感溢れる白線デュエルスペースで赤色の制服を着た、つまりオシリスレッドの生徒とデュエルをしていた。

 

「いくぜモモ! フィールド魔法[摩天楼 -スカイスクレイパー-]発動! E・HEROがその攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターとバトルする場合、攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000アップする! フレイム・ウィングマンで剛火を攻撃! スカイスクレイパー・シュートォ!!」

 

 平凡なグラウンドが月に照らされる高層ビルの立ち並ぶ摩天楼へと変化。その一際高いビルの屋上にそびえる避雷針で月を背に、オシリスレッドの生徒――遊城十代のマイフェイバリットヒーローと名高いフレイム・ウィングマンが立つ。

 そして十代の攻撃宣言と共にフレイム・ウィングマンが飛翔。炎を纏って急降下し、対戦相手――遊城百代の場にいるヒーローである剛火を粉砕した。

 

「フレイム・ウィングマンの効果発動! このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った時、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「きゃあああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 そしてフレイム・ウィングマンの右腕と一体化している龍の頭を思わせる武装から火炎が噴き出し、百代を呑み込む。それで彼女のライフポイントが尽きた事を示すブザーが鳴り響き、デュエルが終了したことでデュエルディスク内蔵のソリッドビジョンシステムが終了してフレイム・ウィングマンや摩天楼が消滅していった。

 

「へへっ、俺の勝ちだなモモ。ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 十代が得意気に笑ってガッツポーズを取り、続けて決め台詞と決めポーズを決める。しかしその後笑みが苦笑に変わる。

 

「でも、やっぱモモも強くなってるな。何度か危ないところがあったぜ……」

 

「はい。ありがとうございます、お兄様!」

 

 微笑みながらの十代の賞賛を受け、まるで神からのお告げでも受けた聖女のような目で笑顔を浮かべる百代。その美麗さにデュエルを観戦していたオシリスレッドの生徒が見惚れた後、嫉妬の視線を十代に向けていた。

 

「くそう、まさか遊城にあんな美人な妹がいたなんて……」

「しかも遊城の近くにいたいからってレッド寮の寮長室に寝泊まりしてるんだろ!」

「お兄ちゃん大好きな可愛い妹とか二次元だけだろうが!」

「うちの妹なんてこの前帰ったら“兄ちゃんウザいから近寄るな。ってか帰ってこなくてよかったのに”って言ってきたんだぞ!」

 

 地団駄を踏んで十代を羨ましがるレッドの生徒達。ちなみに十代は気づいていないし百代も十代に見惚れていて気づいていない。

 しかしそんな中、一人だけため息をついている生徒がいた。

 

「いや、でもさ……ああいう妹欲しい?」

『…………』

 

 その生徒――丸藤翔の言葉に他の面々が黙り込む。

 目の前にいるのはなんか黒々としたオーラを発しているようにも見えるヤバい目をして「お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様」と止めなければこのまま際限なく繰り返していそうな百代と、そのヤバさに一切気づいていない様子で笑っている十代の姿。

 

「しかもこの前、ちょっと興味を持ったからって寮長室こっそり見に行ったでしょ? もう忘れた?」

『…………』

 

 先程何者かが言っていたように、百代は本来オベリスクブルー、正確に言えば女子は全員そこに割り当てられるオベリスクブルーの女子寮に所属している。しかし本人が「お兄様の近くにいたいから」と勝手にレッド寮に押しかけてきた上に、前年度に一身上の都合で退職した(ことになっている)元オシリスレッド寮長である大徳寺の後任が決まっていないため無人になっている寮長室に勝手に住み着いているのだ。

 無論学校側は認めておらず、最初は女子寮の寮長である鮎川や先輩であり友人の明日香が連れ戻しに来ていたのだが、百代が「フシャー!」とまるで猫のように威嚇してきて頑なに離れようとしなかったり、力ずくで連れ戻してもまたすぐ脱走してレッド寮に戻ってくるため諦めて黙認という形になっているのが現状である。

 そして普段女子との接点がなく、しかも美少女が勝手にとはいえ住み着いたことに興味を持ったレッド寮の男性陣の一部がこっそり寮長室を覗きに行ったのだが、その全員が顔を真っ青にして以後寮長室に近づかなくなっていた。

 それを思い出した彼らは遠い目を見せ、口を開く。

 

「……あの妹はいらねえわ」

「遊城ってすげえな……」

「俺、あの子と一緒にいたら病む自信がある……」

「鈍感はすげえって話だな、うん」

 

 レッド寮生徒が異口同音に結論を示す。十代と百代は気づかずに笑い合っていた。

 

「頼もう!!!」

 

 その静寂をぶち壊す叫び声がオシリスレッドの敷地内に響いた。

 

「ん、なんだ?」

 

 十代が首を傾げながら声の方を向く。そこには青い制服を着た、茶髪を刺々しく立てて下まつ毛の目立つ少年が同色の制服を着た取り巻きらしい少年たちを携えて偉そうに腕組みをしている姿があった。

 

「なんだ、あんたら? 何か用か?」

 

「き、貴様! 先輩のようだがオシリスレッド風情が! 礼を弁えろ!」

「こちらの方をどなたと心得る! 去年デュエルアカデミア中等部をトップの成績で卒業したエリート、五階堂宝山さんだぞ!」

 

 十代の呼びかけに茶髪少年の取り巻きらしい二人が言葉を並べ立てる。去年くらいに見たような光景に翔が「なんか去年万丈目君に会った時を思い出すっす」とぼやいていた。

 

「へー? なんか万丈目みてえだな。んで、何か用か?」

 

「貴様如き落ちこぼれに五階堂さんは用などない!」

「五階堂さんが用があるのは貴様だ、遊城百代!」

 

 十代も翔と同じことをぼやいた後用件を尋ね、取り巻きAが十代に用はないと切り捨て、取り巻きBが百代を指差す。百代は呼ばれるような心当たりがないのか「はて?」と首を傾げた。ちなみにさっきの取り巻きAの言葉が気にかかったのか既に若干目が冷たい。

 そして今まで話すのを取り巻きに任せていたように黙りこくっていた、五階堂なる少年が百代を一瞥した。

 

「遊城百代、さっきのデュエルだがオシリスレッドの落ちこぼれ程度に負けるなんて、僕の想像通りだな」

 

「想像?」

 

 五階堂の言葉に百代がさらに目を冷たくさせながら聞き返す。ちなみにレッド寮のメンバーが「おいおい、あいつ遊城を知らねえのか?」や「遊城は去年カイザーと引き分けたんだぞ。新入生じゃ勝てなくて当たり前だろうが」とぼそぼそ喋り合っていた。

 

「ああ。筆記に関しては認めてやらなくもないが、所詮はそれだけの頭でっかち。実技試験ではたまたま勝てただけのまぐれで入学主席を奪い取っただけだということだってな」

 

「おい、その言い方はなんだよ? モモは実力で勝ったんだよ!」

 

 五階堂の言葉に十代が聞き捨てならないのか言い返す。しかし五階堂はふんとまるでその言い分を馬鹿にしているように鼻を鳴らした。百代の目がまた冷たくなる。

 

「入学式の日に港でオシリスレッドの二年生とデュエルをして、ギリギリで勝ったようだがそれでも苦戦していたらしいじゃないか。それで試験用デッキを使っていたとはいえクロノス教諭に実力で勝ったなんて信じられないね」

 

「なんだと!?」

 

 五階堂の言葉に今度はそのデュエルをしたオシリスレッドの二年こと翔が声を荒げる。しかし五階堂は気にせずに十代を指差した。

 

「大体、オシリスレッドの落ちこぼれなんかをリスペクトしている時点で大した実力じゃないって言ってるようなものじゃないか!」

 

 ブチィッ!と何かが切れるような音が聞こえる。さらに百代の方からなんだか禍々しいオーラが発され始め、場が一瞬で沈黙に包まれた。そしてその禍々しいオーラを放つ張本人――百代が感情が何一つ籠っていないような冷たい目で五階堂を見、口を開く。

 

「お話は分かりました。ではデュエルで白黒つけるとしましょう」

 

「元からそのつもりさ。既にクロノス臨時校長に許可を取っている。明日、全校生徒の前で貴様を倒して誰が真の主席なのかを証明してみせる! エリートであるこの僕の力でね!」

 

 彼女の禍々しいオーラに気づいていないのか、五階堂はそう言い残すと取り巻き二人と共に「はーっはっはっは!」とありがちな笑い声を残してレッド寮を去っていく。

 

「お兄様、ご安心を……お兄様を侮辱した罪、地獄の底で後悔させてやる……」

 

「あ~、別に俺は侮辱されたとか思ってねえんだけど……まあいいや。頑張れよ、モモ! あ、ユベルも頑張れよな!」

 

 [ああ、任せておいてよ十代……ただではすまさないからさ]

 

 禍々しい&怒りのオーラを放つ百代に対して十代は暢気なもの。ユベルにも声援を送っており、ユベルも妖しい笑みを浮かべながらそう返していた。

 

 

 

 

 

「みなすぁん、ようこそいらっしゃいデアール!」

 

 翌日。式典やイベントなどの大事なデュエルで行われる特設デュエルアリーナに全校生徒が勢ぞろい。その中央のデュエルスペースで百代と五階堂が対峙していた。そして進行を務めるらしいナポレオン教頭がマイク右手に挨拶を行う。

 

「今回行われるのは新入生最強決定デュエルデアール! 今年度入学主席のマドモアゼル遊城と入学次席のムッシュ五階堂! この二人のデュエルで今年度トップ二名の実力を見ることで、新入生はそれを目標に、上級生はそれに負けないようよりいっそうの努力をしてもらいたいデアール!」

 

「遊城百代! たかが一度のまぐれ如きでこの僕のデュエルアカデミア高等部トップ入学という栄光を邪魔した事、後悔させてやる!」

 

「そんな事私にはどうでもいい……お兄様を侮辱した事、後悔してもらう」

 

 ナポレオン教頭の口頭説明に続き、五階堂がびしっと指を百代に向けて突きつけるように叫ぶと、百代は一日経って多少は落ち着いたか、怒りのオーラを控えめに出しながらそう返す。

 

「それでは、入学次席のムッシュ五階堂の先攻で、デュエル開始デアール!」

 

「「デュエル!!!」」

 

「僕の先攻、ドロー!」

 

 ナポレオン教頭の合図で二人がデュエルディスクを構えて声を重ねる。

 そして続けて五階堂がデッキからカードをドロー、手札をさっと確認する。

 

「僕は[切り込み隊長]を攻撃表示で召喚し、効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札からレベル四以下のモンスター一体を特殊召喚する! [荒野の女戦士]を特殊召喚!」

 切り込み隊長 攻撃力:1200

 荒野の女戦士 攻撃力:1100

 

 五階堂の場に一気に二体のモンスターが並ぶ。しかしそれだけでは終わらないというように、五階堂は不敵な笑みを浮かべて二枚の手札を取った。

 

「僕はさらに手札から装備魔法[融合武器ムラサメブレード]と[稲妻の剣]を発動し、ムラサメブレードを切り込み隊長に、稲妻の剣を荒野の女戦士に装備! 二体の攻撃力を800ポイントアップ!」

 切り込み隊長 攻撃力:1200→2000

 荒野の女戦士 攻撃力:1100→1900

 

 五階堂の発動したカードの効果により、切り込み隊長の右腕が刀とそれから伸びた触手と融合、荒野の女戦士の握る剣に雷が宿る。さらに攻撃力も爆発的に上昇し、翔が「いきなり二体のモンスターに装備魔法っすか!?」と驚愕の声を上げた。

 

「僕はこれでターンエンド。さあ遊城百代、お前の化けの皮が剥がれる時だ!」

 

 ワンターン目から攻撃力2000近いモンスターを二体出したに等しい状況、五階堂は己の得意パターンなのか自信満々に微笑んでターンエンドを宣言した。

 

 

 切り込み隊長

 効果モンスター

 星3/地属性/戦士族

 攻1200/守 400

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。

 

 荒野の女戦士

 効果モンスター

 星4/地属性/戦士族

 攻1100/守1200

(1):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから攻撃力1500以下の戦士族・地属性モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。

 

 融合武器ムラサメブレード

 装備魔法

 戦士族モンスターにのみ装備可能。

 装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

 モンスターに装備されているこのカードは、カードの効果では破壊されない。

 

 稲妻の剣

 装備魔法

 戦士族モンスターにのみ装備可能。

 装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップし、フィールド上に表側表示で存在する全ての水属性モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 五階堂の挑発を百代は一切気にせずにカードをドロー。手札をさっと見るとフッと一つ笑みを浮かべた。

 

「フィールド魔法[サベージ・コロシアム]を発動。このフィールド魔法が存在する限り、フィールド上に存在するモンスターが攻撃を行った場合、そのモンスターのコントローラーはダメージステップ終了時に300ライフポイント回復する。さらにこのカードがフィールド上に存在する限り、攻撃可能なモンスターは攻撃しなければならない。そしてエンドフェイズ時、ターンプレイヤーのフィールド上に表側攻撃表示で存在する攻撃宣言をしていないモンスターを全て破壊する」

 

「攻撃と同時にライフを回復するカードか。さあ、かかってこい!」

 

 百代の発動した魔法の効果を素早く理解した五階堂は、その特性上戦闘を狙ってくると踏んでかかってこいと挑発。

 

「私はモンスターをセット、カードを四枚セットしてターンを終了する」

 

 しかし百代は残る全ての手札をセットしてターンを終える。翔が「えぇっ!?」と声を上げ、隣の席の十代は何かを察したように「あ~」と頷き、その他の観客達はざわめき始める。ナポレオン教頭が慌てて「静かにするデアール!」と呼びかけていた。

 

 

 サベージ・コロシアム

 フィールド魔法

 フィールド上に存在するモンスターが攻撃を行った場合、そのモンスターのコントローラーはダメージステップ終了時に300ライフポイント回復する。

 このカードがフィールド上に存在する限り、攻撃可能なモンスターは攻撃しなければならない。

 エンドフェイズ時、ターンプレイヤーのフィールド上に表側攻撃表示で存在する攻撃宣言をしていないモンスターを全て破壊する。

 

 

「く、くく……はっははははは!」

 

 会場内がざわめく中、五階堂は可笑しそうに爆笑し始める。

 

「手札事故とは、やっぱりお前の主席はまぐれだったようだな。僕のターン、ドロー!」

 

 得意気に笑い、カードをドロー。ニヤリと微笑んだ。

 

「しょうがない、エリートとして一撃で片づけてやる。僕は手札を一枚捨てて装備魔法[閃光の双剣-トライス]を切り込み隊長に装備! このカードを装備したモンスターは攻撃力が500ポイント下がる代わりに二回攻撃が可能になる!」

 切り込み隊長 攻撃力:2000→1500

 

 切り込み隊長の左手に握る剣が細身の光輝く剣へと変わる。その次の瞬間、彼の場の二体のモンスターが光に包まれた。

 

「僕は切り込み隊長と荒野の女戦士を生贄に捧げ、[ギルフォード・ザ・レジェンド]を召喚!!」

 ギルフォード・ザ・レジェンド 攻撃力:2600

 

 二体の戦士を贄に大剣を担いだ巨漢の戦士が出現。大剣を杖のようにして地面に突き立て、それを両手で支えるポーズになる。しかしそのプレイングに翔が首を傾げた。

 

「せっかく装備魔法を装備したのに、なんで生贄に?」

 

「ふん、所詮はレッドだな。ギルフォード・ザ・レジェンドの効果発動! このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する装備魔法カードを可能な限り自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターに装備する事ができる!」

 

 翔の怪訝な言葉を聞き取ったか、五階堂は高らかにそう宣言。同時にギルフォード・ザ・レジェンドも大剣を掲げた。

 

「墓地の融合武器ムラサメブレード、稲妻の剣、閃光の双剣-トライス、そして伝説の剣をギルフォード・ザ・レジェンドに装備! 攻撃力はムラサメブレードと稲妻の剣で800アップ、伝説の剣で300アップ、閃光の双剣-トライスで二回攻撃効果の代わりに500ダウン、しかし合計1400ポイントのアップだ!」

 ギルフォード・ザ・レジェンド 攻撃力:2600→4000

 

 ギルフォード・ザ・レジェンドの左腕がムラサメブレードと融合、右手には伝説の風格を漂わせる剣を握り、さらにその剣に雷が宿った二刀流の形に変化する。

 

「こ、攻撃力4000!? しかも二回攻撃可能!?」

 

「しかも、閃光の双剣-トライスは発動の際に手札を一枚捨てなければならない欠点がある。しかし彼はそのディスアドバンテージを装備魔法をコストにする事でギルフォード・ザ・レジェンドの効果に繋げて軽減してみせた」

 

「あ、三沢君。いたの?」

 

「いたよ!」

 

 いきなりの圧倒的な攻撃力と手数を両立させたモンスターの出現に翔が悲鳴を上げると、後ろの席に着いている三沢が彼のプレイングを解説。翔が振り向いて三沢の存在に気づくと彼もツッコミを返した。

 

「この二回攻撃で終わりだ! ギルフォード・ザ・レジェンドで守備モンスターを攻撃!」

 

 [はああぁぁぁっ!!]

 

 主の指示を受け、伝説の剣士が百代の場のモンスターに斬りかかる。剣と融合した左腕を掲げ、勢いよく振り下ろす。それは彼女の場のトマトのようなモンスターを容易く切り裂いた。

 

「破壊された[キラー・トマト]の効果発動! このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター一体を自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる!」

 

「チッ、しぶとい。だがサベージ・コロシアムの効果で僕のライフが回復する」LP4000→4300

 

 百代の場のカードの効果で五階堂のライフが回復。しかしそんな事気にしていない百代の頬が吊り上がった。

 

「さあ出でませ、我が相棒、我が魂の同胞。そして我がフェイバリットモンスター、[ユベル]!!!」

 [やっと出番か。待ちわびたよ、百代]

 ユベル 攻撃力:0

 

 彼女の場に現れたのは、彼女の仲間である精霊ユベルの姿。腕組みをして颯爽と彼女の場に現れたユベルは蠱惑的な笑みを浮かべて相手の場を見据える。

 しかし五階堂は小馬鹿にしたような笑みを崩していなかった。

 

「ふん、そんな攻撃力0の雑魚がフェイバリットだって? 所詮落ちこぼれの妹はブルーだろうと落ちこぼれだな。いや、女子というだけでオベリスクブルーにいるだけの落ちこぼれには変わりないか……トライスを装備したギルフォード・ザ・レジェンドは二回攻撃が出来る! これで終わりだ!!」

 

 五階堂が叫び、再びギルフォード・ザ・レジェンドが今度は右手の剣で攻撃しようと右手を振り上げる。

 

「この瞬間、トラップ発動[リビングデッドの呼び声]! 墓地のキラー・トマトを攻撃表示で特殊召喚!」

 キラー・トマト 攻撃力:1400

 

「ふん、今更何をしようが変わらない! ユベルを攻撃対象に、攻撃続行だ!!」

 

 百代の場に先程破壊されたトマト型のモンスターが出現。しかし五階堂は何も気にせずにユベルへと攻撃を続行した。

 

「あー……こりゃ、終わったな」

 

「ア、アニキ!? 諦めるなんてアニキらしくないっすよ!?」

 

 その光景を見た十代が呟くと、それをどう取ったのか翔が兄貴分へと訴えかける。

 

「んなこと言ってもさー……これ、モモとユベルの必勝パターンだし」

 

「……え?」

 

 十代の引きつった笑みでの呟きに翔が呆けた声を出す。その時、百代の場のカードがもう一枚翻った。

 

「トラップ発動[ナイトメア・デーモンズ]! 自分フィールドのモンスター一体を生贄に捧げる事で、相手フィールドに[ナイトメア・デーモン・トークン]三体を攻撃表示で特殊召喚する! ただし、ナイトメア・デーモン・トークンが破壊された時にそのコントローラーは一体につき800ポイントのダメージを受ける。私はキラー・トマトを生贄に捧げ、ナイトメア・デーモン・トークンを相手の場に三体特殊召喚!」

 

「は!? 仮にも攻撃力が高いモンスターを生贄に捧げただけじゃなく、僕の場に高攻撃力のトークンを特殊召喚!?……クク、血迷ったにも程があるだろう? まあいい……ギルフォード・ザ・レジェンド! 改めてユベルを斬り倒せ!!」

 ナイトメア・デーモン・トークン ×3 攻撃力:2000

 

 [はああぁぁぁっ!!]

 

 キラー・トマトが闇に包まれて消滅し、五階堂の場に三体の悪魔のトークンが出現。そのプレイングに五階堂は一瞬目を丸くした後、再び可笑しそうに笑って攻撃を宣言。ギルフォード・ザ・レジェンドの右手の剣が振り上げられる。

 

 [うわあああぁぁぁぁっ!!!]

 

 そして振り下ろされた伝説の稲妻の剣はユベルを間違いなく捉え、ユベルの悲鳴が響く。翔が「あー!」と叫び、十代が「あー……」と声を漏らす。

 

「僕の勝ちだ!」

 

 攻撃力4000のモンスターで攻撃力0のモンスターを攻撃。デュエルモンスターズの基本ルール上、これでワンショット・キルが成立。五階堂は己の勝利を疑わずにガッツポーズを取った。

 

 [……なーんてね]

 

 しかし百代の場で倒れていたユベルはなんでもなさそうに立ち上がる。しかも百代のライフポイントは無傷の4000を示していた。

 

「な、なんだと!? そんな馬鹿な……」

 

「ユベルは戦闘では破壊されない特殊なモンスター」

 

「だ、だけど、ダメージ計算は通用するはず!」

 

「それも通じない。ユベルの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。そして――」

 

 淡々と説明する百代は、そこまでいって端正な頬を口が裂けんばかりに吊り上げた。

 

「――フィールド上に表側攻撃表示で存在するユベルが相手モンスターに攻撃された場合、そのダメージ計算前に攻撃モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」

 

「な、なんだって!?」

 

 

「ギルフォード・ザ・レジェンドの攻撃力は4000……つまり4000のダメージ!?」

 

 百代の宣言に五階堂が驚き、翔がダメージ量を言い当てる。

 

 [さあ、痛みを分け合おう! ナイトメア・ペイン!!]

 

「ぐあああぁぁぁぁっ!!!」LP4300→300→600

 

 ユベルの効果により、五階堂のライフが一気に削られる。

 

「サベージ・コロシアムの効果で回復していてよかったですね?」

 

「ぐ、ぐぐ、くっそう! 僕はこれでターンエン――」

 

 百代の慇懃無礼な言葉が五階堂に突き刺さる。サベージ・コロシアムの効果で回復していなければ逆にワンショット・キルが成立しており、五階堂は悔しさに唸りながらターンの終了を宣言しようとする。

 しかしその時彼のデュエルディスクが警告を示すブザー音を鳴り響かせた。

 

「な、なんだ!?」

 

「サベージ・コロシアムの効果をお忘れなく」

 

「なんだって? サベージ・コロシアムの効果は攻撃後に攻撃モンスターのコントローラーのライフを300ポイント回復する。そして……あっ」

 

 ブザー音に驚く五階堂に、その警告の理由を知る百代が呼び掛け、五階堂はさっきのターン説明されたサベージ・コロシアムの効果を復唱。そこで思い出したように声を漏らした。同時に三沢も腕を組み、こくりと頷く。

 

「そう。サベージ・コロシアムがフィールド上に存在する限り、攻撃可能なモンスターは攻撃しなければならない。そして今五階堂君の場には三体のナイトメア・デーモン・トークンが存在する。あれらもまた彼の場に攻撃表示で存在するモンスター。故にサベージ・コロシアムの効果により、攻撃が強制される」

 

「しかも攻撃対象に出来るのはユベルだけ。ユベルの効果でダメージを跳ね返されたら……」

 

「一体につき2000、三体で6000……例え初期ライフでもワンショット・キルが成立するな」

 

「だから言っただろ? モモとユベルの必勝パターンだって」

 

 三沢が解説、翔がリアクション、十代がそう締める。

 

 [さあ、ナイトメア・デーモン・トークン! 僕に攻撃を仕掛けてこい!!]

 

 そのコンボ解説教室が終わるタイミングを見計らったようにユベルがそう叫んで額の目を輝かせると、ナイトメア・デーモン・トークンが操られたように攻撃を強制開始、ユベルに殴りかかる。

 

「ま、待て! 待つんだ!!」

 

 思わず五階堂が静止を呼びかけるが、もう攻撃は止まらない。ナイトメア・デーモン・トークンの拳がユベルの腹に突き刺さった。ユベルの顔が苦悶に歪んだ後、快感を得たようにとろけるような笑みを見せる。

 

「ユベルの効果により、ユベルは戦闘では破壊されず、私への戦闘ダメージも0になる。そしてナイトメア・デーモン・トークンの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 [ああ、いい痛みだね……お返しするよ。ナイトメア・ペイン!!]

 

「ま、待て、待ってくれ……うわあああぁぁぁぁっ!」

 

 もはや守ることすら出来ずにユベルのバーン効果が五階堂へと襲い掛かり、大爆発のソリッドビジョンが彼を包み込む。

 

「勝者、マドモアゼルゆう――」

「待ってください」

 

 だがこれで勝者は決定、とナポレオン教頭は勝者の名を宣言しようとする。しかしそれを百代自身が遮った。そしてソリッドビジョンで生み出された煙が晴れていく。

 

「……え?」LP6300

 

 そこにはライフがむしろ回復している五階堂の姿があった。しかしその当の五階堂本人ですら何が起きたのか分からないというように立ち尽くしており、自分の敗北どころか自分がまだ負けていない事すら把握できていないような様子で呆けていた。

 

「私はナイトメア・デーモン・トークンの攻撃宣言時、リバース・トラップを発動していた」

 

 百代がそう宣言。確かに彼女の場には一枚のカードが翻っていた。

 

「トラップカード[ヒロイック・ギフト]。このカードは相手のライフポイントが2000以下の場合に発動でき、相手のライフポイントを8000にして自分のデッキからカードを二枚ドローする」

 

 

「つまり、ナイトメア・デーモン・トークンが攻撃した時点で五階堂君のライフは8000になっていた。そこからユベルの効果でダメージを受け、サベージ・コロシアムの効果で回復。たしかにライフは6300になる計算だ」

 

「でもなんで? 放っておけば勝てたのに……」

 

 百代は五階堂に初期ライフの二倍ものライフを与える代わりにカードをドロー。三沢がライフ計算と解説を行い、翔が目前の勝利を捨てた事を不思議に思う。

 

「お兄様を侮辱した者が、そう簡単に楽になれると思うな……ユベル!」

 

 [ああ! さあ、残る二体のナイトメア・デーモン・トークンよ、攻撃してくるんだ!]

 

 百代とユベルの叫びで二体のトークンがユベルの魔眼によって操られ、ユベルに攻撃。

 

「[ナイトメア・ペイン!!!]」

 

「うわあああぁぁぁぁっ!!」LP6300→4300→4600→2600→2900

 

 そしてユベルの効果によって百代は無傷に終わり、大ダメージが五階堂に跳ね返される。

 

「これで全てのモンスターのバトルが終了する」

 

「く……僕はこれでターンエンドだ!…(…あのコンボは驚いたが、あのカードの効果はこっちから攻撃を仕掛けなければ発動しない……ここはデッキにある[流星の弓-シール]を引き当てるまで守備でしのぐ……)」

 

 8000まで回復したライフがあっという間に半分以下まで落ち込み、五階堂は悔しそうに唸ってターンエンドを宣言。しかしその頭の中ではユベルの弱点を推測、次の戦略を練り始めていた。

 

 

 キラー・トマト

 効果モンスター

 星4/闇属性/植物族

 攻1400/守1100

 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体を自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 

 ギルフォード・ザ・レジェンド

 効果モンスター

 星8/地属性/戦士族

 攻2600/守2000

 このカードは特殊召喚できない。

 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する装備魔法カードを可能な限り自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターに装備する事ができる。

 

 ユベル

 効果モンスター

 星10/闇属性/悪魔族

 攻 0/守 0

 このカードは戦闘では破壊されず、このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが相手モンスターに攻撃された場合、そのダメージ計算前に攻撃モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 また、自分のエンドフェイズ時、このカード以外の自分フィールド上のモンスター1体をリリースするか、このカードを破壊する。

 この効果以外でこのカードが破壊された時、自分の手札・デッキ・墓地から「ユベル-Das Abscheulich Ritter」1体を特殊召喚できる。

 

 閃光の双剣-トライス

 装備魔法

 手札のカード1枚を墓地に送って装備する。

 装備モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。

 装備モンスターはバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 伝説の剣

 装備魔法

 戦士族のみ装備可能。

 装備モンスター1体の攻撃力と守備力は300ポイントアップする。

 

 リビングデッドの呼び声

 永続罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

 そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。

 このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。

 そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

 ナイトメア・デーモンズ

 通常罠

(1):自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。

 相手フィールドに「ナイトメア・デーモン・トークン」(悪魔族・闇・星6・攻/守2000)3体を攻撃表示で特殊召喚する。

「ナイトメア・デーモン・トークン」が破壊された時にそのコントローラーは1体につき800ダメージを受ける。

 

 ヒロイック・ギフト

 通常罠

 相手のライフポイントが2000以下の場合に発動できる。

 相手のライフポイントを8000にして自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「ヒロイック・ギフト」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 百代が勢いよくカードをドロー。そのカードを手札に入れ、また別の手札を一枚取る。

 

「魔法カード[マジック・プランター]を発動。私の場に表側表示で存在する永続罠、リビングデッドの呼び声を墓地に送り、デッキからカードを二枚ドローする」

 

 蘇生対象を破壊せず、ナイトメア・デーモンズの発動コストとして生贄にしたため意味もなく残っていた永続罠を墓地に送り、ドローを加速。ドローカードを見てニヤリと笑った。

 

「パーツは揃った……このターンで決めるよ、相棒(ユベル)

 

 [オッケー]

 

 相棒(ユベル)へと声をかけ、ユベルも了承。百代はデュエルディスクにカードを差し込む。

 

「魔法カード[アドバンスドロー]を発動! 自分フィールド上に表側表示で存在するレベル8以上のモンスター一体を生贄に捧げる事で、デッキからカードを二枚ドローする。私はレベル10のユベルを生贄に捧げ、カードを二枚ドロー!」

 

 [フフフ……]

 

 その言葉と共にユベルが闇に溶け、まるで闇の水たまりのようなものが出現。その闇が二枚のカードを吐き出して百代の手札に加わる。己の切り札を自分から消し去るプレイングに会場内がまたざわつき始めた。

 

「フン、自分を守ってくれる切り札を自分から排除するなんてな。だがこれでお前を守るものは消えた! 次のターン覚悟しろ!」

 

「次なんてない」

 

 五階堂も厄介な壁であるユベルが消えた事で得意満面になり、次のターンでの一斉攻撃を宣言。しかし百代は静かに返し、それと共に彼女の場に伏せられたカードが翻る。

 

「リバース・マジック、[デーモンとの駆け引き]発動。このカードはレベル8以上の自分フィールド上のモンスターが墓地へ送られたターンに発動する事ができ、私の手札またはデッキから[バーサーク・デッド・ドラゴン]一体を特殊召喚する」

 

 ゴポリ、と闇の水たまりが音を立てて泡を噴き出す。ドロリ、と水たまりが粘着質になって百代の場に広がっていく。それは既に水たまりではなく闇の泉。

 

「さあ、相棒。今こそ生まれ変われ、狂いし竜の骸を呼び起こし、その魂に成り代われ!!」

 

 百代の口上と右腕を掲げるポーズに合わせて泉が爆発。

 

「出でよ、[バーサーク・デッド・ドラゴン]!!!」

 [ギョゴオオオォォォォッ!!!]

 バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力:3500

 

 泉の中から巨大なドラゴンが出現し、産声のように咆哮を上げる。しかしそれはまるでノイズが混じったような耳障りで気が狂いそうな雑音であり、周りの観客は思わず耳を塞いでいた。

 

 [フフフ、相変わらず妙な感じだねェ。でも、なンだか落ち着くような気もするよ]

 

 バーサーク・デッド・ドラゴンの中から聞こえてくるユベルの声。バーサーク・デッド・ドラゴンと一体化したユベルの声もノイズや震えが混じっているように百代の耳には聞こえていた。

 

(こ、攻撃力3500だと……だがギルフォード・ザ・レジェンドの攻撃力の方が上回っている。ナイトメア・デーモン・トークンを攻撃されても、バーン含めてもダメージは2300、まだ耐えきれる。返しのターンにギルフォード・ザ・レジェンドで攻撃して戦闘破壊、残るトークンの連続攻撃で終わりだ!)

 

 五階堂も耳障りな咆哮をむしろ間近で聞いているのだが、観客のように耳を塞ぐことはなく、むしろ戦意を絶やさないように戦術の思考を行っていた。

 

「速攻魔法[蛮勇鱗粉(バーサーク・スケールス)]を発動。私の場のモンスター一体の攻撃力を1000ポイントアップさせる。ただしこのターン相手プレイヤーに直接攻撃できず、このターンのエンドフェイズ時、攻撃力は2000ポイントダウンする」

 バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力:3500→4500

 

「な……」

 

 不思議な鱗粉が百代の場を舞い、それを浴びたバーサーク・デッド・ドラゴンが興奮して攻撃力が上昇。五階堂も自らの計算が狂い、怯んだように表情を引きつかせる。

 

「バトル」

 

 そして百代はバトルの開始を宣言。

 

「バーサーク・デッド・ドラゴンでギルフォード・ザ・レジェンドを攻撃! バーサーカー・ヘル・ブレス!」

 

「なに!? ぐああぁぁぁっ!!」LP2900→2400

 

 バーサーク・デッド・ドラゴンが頭をもたげ、口からブレスを放ってギルフォード・ザ・レジェンドを粉砕。五階堂にもダメージを与える。しかしわざわざ一番ダメージの低い相手を狙ったことに観客が怪訝な表情を見せていた。

 

「終わりだな」

 

 ただ一人、百代のデュエルを理解している十代を除いては。

 

「サベージ・コロシアムの効果で回復。そしてバーサーク・デッド・ドラゴンは相手フィールド上の全てのモンスターに一回ずつ攻撃出来る!」LP4000→4300

 

「な、なにぃ!?」

 

 

「バーサーク・デッド・ドラゴンでナイトメア・デーモン・トークンを攻撃すれば戦闘ダメージだけで2500、さらにナイトメア・デーモン・トークンの破壊時のバーン効果で800ダメージが追加される。実質一体破壊で3300のダメージという事になる」

 

「それが三体分……3300の三倍で9900って事っすか!?」

 

 百代の宣言に五階堂がのけぞり、三沢がライフを計算、翔が仰天のリアクションを取る。

 

「ま、待て! 待ってくれ!! やめろぉ!!!」

 

「やめろと言われましても、私もサベージ・コロシアムの効果でバーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃が強制されておりますので」

 

 五階堂が悲鳴を上げるが百代は構うことなく、むしろ慇懃無礼な態度でしれりと答える。バーサーク・デッド・ドラゴンもそれに応えるように一鳴きしてみせた。

 そして百代がギロリと五階堂を睨みつける。その目からは黒い光が漂い、さらに彼女を禍々しい怒りのオーラが包む。

 

「お兄様を――」

 [十代を――]

 

「[―—侮辱した罪、地獄の底で後悔しろォ!!!]」

 

「バーサーク・デッド・ドラゴンでナイトメア・デーモン・トークン三体を全体攻撃!! ゲブリュル・アイネス・フェアリュックト・ドラッヘ!!!」

 [ギャオオオオォォォォォッ!!!]

 

 百代の攻撃宣言と共にバーサーク・デッド・ドラゴンが咆哮。耳障りな咆哮に観客が耳を塞ぎ、その咆哮は物理的な威力を持つ衝撃波となって五階堂の場を蹂躙。彼の場の三体のナイトメア・デーモン・トークンが粉砕される。

 

「うわああああぁぁぁぁぁっ!!!」LP2400→-7500

 

 その合計ダメージは五階堂のライフを0にするどころか、ヒロイック・ギフトで与えられた初期ライフの倍でさえも瀕死に陥るほどのものだった。

 

 

 バーサーク・デッド・ドラゴン

 効果モンスター

 星8/闇属性/アンデット族

 攻3500/守 0

 このカードは「デーモンとの駆け引き」の効果でのみ特殊召喚が可能。

 相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃が可能。

 自分のターンのエンドフェイズ毎にこのカードの攻撃力は500ポイントダウンする。

 

 マジック・プランター

 通常魔法

(1):自分フィールドの表側表示の永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。

 自分はデッキから2枚ドローする。

 

 アドバンスドロー

 通常魔法

 自分フィールド上に表側表示で存在するレベル8以上のモンスター1体をリリースして発動できる。

 デッキからカードを2枚ドローする。

 

 デーモンとの駆け引き

 速攻魔法

 レベル8以上の自分フィールド上のモンスターが墓地へ送られたターンに発動する事ができる。

 自分の手札またはデッキから「バーサーク・デッド・ドラゴン」1体を特殊召喚する。

 

 蛮勇鱗粉

 速攻魔法

 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

 選択したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、

 このターン相手プレイヤーに直接攻撃できない。

 このターンのエンドフェイズ時、選択したモンスターの攻撃力は2000ポイントダウンする。

 

 

「勝者、マドモアゼル遊城!」

 

 今度こそデュエルが終了。ナポレオン教頭の宣言が響き、会場が歓声に包まれる。

 

「そんな、そんな馬鹿な……」

 

 五階堂は目の前の光景が信じられないという様子でガタガタと震えていた。

 相手はまぐれで入学主席を奪い取っただけ、デュエルアカデミアの中等部でトップを取った自分が負けるはずがない。そう思って五階堂は百代にデュエルを挑んだ。

 しかし現実は彼のライフが0を示し、対して相手のライフはサベージ・コロシアムの効果でさらに900ポイントライフが回復して合計5200。つまり一ポイントのダメージも受けていない事を無情にも示していた。

 

「相手はオシリスレッドの落ちこぼれに負けるような奴だ……それなのに、エリートである僕が負けるはずが……」

 

 顔を伏せ、下を見て必死で目の前の現実を否定しようとする五階堂。しかし中等部でトップを取った頭脳が現実を突きつける。自分は相手に一ポイントのダメージを与えてすらいない、そして同時に、自分は百代のカードの効果で何度かライフを回復し、そのおかげで敗北を免れてた。

 一つ、サベージ・コロシアム。あれは元々ユベルの効果を最大限に活かすために相手に攻撃を強制させるためのカード。多少ライフを回復させようと、それ以上のダメージを与えれば問題ないという脳筋染みた理屈で投入されたのだろうカードだ。

 しかし彼はユベルの効果を警戒せずにサベージ・コロシアムの有無に関係なく攻撃を仕掛けていた。つまり、もしもサベージ・コロシアムの効果による回復がなければ装備魔法で強化したギルフォード・ザ・レジェンドの攻撃力4000のバーンダメージを受けてあの時点で敗北していた。

 二つ、ヒロイック・ギフト。アレに関しては間違いなく、次のターンでの虐殺に繋げるための布石、彼をただ甚振るための罠に過ぎない。しかしそれで彼の敗北が阻止され、次のターンでの逆転を狙う希望を持てたのもまた事実。

 

 つまり、五階堂は実質百代のカードによるサポートがなければ三回敗北していたも同義。そしてそれなのに彼は百代に一ポイントのダメージを与えてすらいない。それほどまでの差が二人の間には存在していた。

 

「あ、あ、あああああ……」

 

 それを彼は理解してしまい、顔を上げる。百代がにっこりと微笑み、その横で異形の怪物――ユベルが同種の笑みを浮かべる幻覚を彼は幻視する。

 

「あ、ああ……」

 

 その笑みから思わず目を逸らす五階堂。しかしその先にも視線はある。

 五階堂が自分の華々しい勝利と真の主席の座を勝ち取る姿の目撃者とするべくして集めた全校生徒。

 

「み、見るな……」

 

 しかし実際に見せてしまったのは自分の完膚なきまでの敗北という醜態。視線から逃れるために必死で顔をあちらこちらに向けるが、360度逃げ場なく、全方向から降り注ぐその視線が彼に突き刺さる。

 ザリ、と五階堂は無意識に一歩下がる。ボキリ、と彼の中で何かが折れる。

 

「ぼ、僕を見るなああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 直後、五階堂は発狂したように叫んでデュエルアリーナを走り出ていくのであった。

 

 

 かくして、外部入学では主席合格という結果を残し、中等部トップの成績で高等部に編入した五階堂宝山を下したことにより名実ともに今年度新入生トップの座を確かなものとするという鮮烈なデュエルアカデミア高等部デビューを果たした遊城百代。

 

 これは後に「デュエルアカデミアの狂姫(きょうき)」と呼ばれる事になる少女の物語、その序章である。




 というわけで、「遊戯王GX~もしも十代にHERO使いの(ユベルに認められたヤンデレブラコン)妹がいたら~」。これにて終幕です。短い間でしたが応援ありがとうございました。

 ぶっちゃけまして、もうネタがありません!
 元々「オリジナルM・HERO作ったし書いてみよー」&「じゃあせっかくだし十代に妹がいたらって設定にして、せっかくだからユベルも持たせてヤンデレにしちゃえ!」というだけで書いてたんですから。そのオリジナルM・HEROもVS翔で出し切ったし、ユベルデッキによる虐殺もVS五階堂で書いた今、このお話を続ける理由がないと言いますか……ストーリーネタはホントにないし、これ以上無理に続けたところで絶対グダってエタる。そんなの作者も読者も誰も幸せにならない。
 というか本来は前編がVSクロノスでM・HERO、後編がVS五階堂でユベルを予定してまして、実はVS翔は思ったよりM・HERO出せなかったからM・HERO使用デュエルのカサ増しのために突っ込んだものですし。まあVS五階堂に持っていくための繋ぎというのもありますけど。

 さて、最終回を飾る相手は五階堂宝山君。アニメGXでは万丈目がスター発掘デュエルで戦った、中等部トップで装備ビート使いの男の子ですね。オリカがめっちゃあったけど、今回は使いそうにないしとオリカは全削除してOCGの戦士族装備カードに持ち替えさせました。
 んで、アニメでも最初は万丈目をリスペクトしてる様子だったけど、おジャマを使う万丈目に幻滅してからはレッドの落ちこぼれと見下す態度を取り始めたところから、その同じ落ちこぼれ(=遊城十代)をリスペクトしている百代にも、トップの座を奪われた事も含めて攻撃的に当たっているという設定です。
 だがしかし、百代を攻撃する流れで十代を侮辱するという百代にとって最大の地雷を盛大に踏み抜いたことで「テメーは俺を怒らせた」状態になった百代の前にサベージ・コロシアムで生かされ(ここは本来の動き通り)、ナイトメア・デーモン・トークンの自爆をヒロイック・ギフトで生かされ(十代を侮辱した相手を簡単に楽にさせないための特別プレイ)、最後はバーサーク・デッド・ドラゴンで蹂躙されて完敗。プライドと心をへし折られました。まあクロノス先生も丸くなったし、一年前の万丈目ほど酷い目には合わないでしょ、多分。
 この後へし折られたプライドを持ち直して十代にとっての万丈目的な百代のライバルポジションになるのか、それともへし折られたまま持ち直せず転落していくのか……それは僕にも分かりません。(意訳:どうせ今回で最終回だしと考えてない)

ちなみにバーサーク・デッド・ドラゴンの全体攻撃はユベルの第二形態第三形態がドイツ語である事から、「狂った龍の咆哮」になるようにドイツ語をネット検索して調べて繋げ合わせました。
自分はドイツ語はさっぱり分からないので、これで合ってるのかよく分かりませんが。間違ってても目を瞑っていて下されば嬉しいです。

 改めまして、本作はこれにて終幕。短い間でしたが応援ありがとうございました。ついでに遊戯王繋がりってことで新作を宣伝。
 もしも魔法少女リリカルなのはに興味があるならば、なのは×遊戯王という何番煎じか分からないクロス小説[魔法決闘リリカルなのはモンスターズ]をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF特別編:もしも十代に魔玩具使いの妹がいたら

 デュエルアカデミア。今日はここの入学式が行われる日なのだが二年生や三年生に参加の義務はなく、彼らはいつも通りの学園生活を続けている。

 そんな中、その学園のエリートという地位にあるオベリスクブルーの男子寮の入り口付近。そこに一人の見慣れない少女が紛れ込んでいた。

 栗色の髪を首にかかるかかからないか程度のセミロングに伸ばしており、緩やかなカーブを描くタレ目や鳶色の瞳の柔らかな輝きからも大人しそうな印象を受ける。平均からすれば小柄な体躯に分類されるだろう身長もまた大人しそうな印象を後押しするが、相反してその胸部はでんと盛り上がって存在を主張している。寮の入り口近くにいる男子学生が目を奪われる美少女だった。

 ノースリーブの白色を基調に青色の差し色がされた制服に青色のミニスカートは間違いなくデュエルアカデミアの制服。つまり彼女は今日ここに入学するという新入生の一人に違いない。

 

「や、やあ、君」

 

 するとそんな彼女に声をかける者がいた。彼女と同じ青色だがこちらは青色が基調になっている、デュエルアカデミアのオベリスクブルー男子制服を着た彼はしかし親切心というよりは彼女の大きな胸にチラチラと視線を向けている辺り下心で声をかけている様子だった。

 

「新入生だよね、どうしたんだい? 入学式があるんじゃないかな?」

 

「いえ、入学式はもう終わりました。寮に向かう前にお兄様に挨拶したいと思いまして……」

 

「あ、兄? そうなんだ。えっと、君の名前は? せっかくだ、僕が呼んできてあげよう」

 

 親切そうに振る舞う男子生徒に、下心が理解できてないのか、少女はニコリと微笑んだ。

 

「ありがとうございます。私は遊城(ゆうき)百代(ももよ)と申します」

 

「……遊城? というと、まさか兄って……」

 

「兄は遊城(ゆうき)十代(じゅうだい)と言います。お兄様なら間違いなくオベリスクブルーにいると思います」

 

 百代のニコニコ笑顔での言葉に対し、声をかけてきた男子生徒は唖然とした後、苦虫を噛み潰したような表情に変化する。

 

「あいつはこの寮じゃねえよ」

 

「はぁ?」

 

 吐き捨てるような言葉に百代はきょとんとした顔になり、呆けたような声を出す。そして男子生徒はフンと鼻を鳴らした。

 

「あいつはドロップアウトの吹き溜まり、オシリスレッドだよ……そんなクズ野郎が去年はカイザーと引き分けたなんて何かの間違いかイカサマやったに決まってやがんだ。なのにどいつもこいつも……」

 

「……」

 

 男子生徒のぼやきの意味はよく理解できないが、ドロップアウトやクズ野郎、イカサマやったなど聞き捨てならない言葉が聞こえ、百代の瞳から光が消える。

 

「どうだ? そんな劣等生なんかを探すより俺と遊ばないか?」

 

「デュエルしなさい」

 

「……はぁ?」

 

 男子生徒のナンパを切り捨て、百代が光の消えた目で男子生徒に勝負を挑む。

 

「あなたはお兄様を侮辱した。けして許せることではない」

 

 鳶色の瞳が黒く染まったような、そして彼女の後ろから謎の異形が睨みを利かせているような錯覚すら覚える男子生徒だが、直後フンと鼻を鳴らした。

 

「いいぜ、先輩としてデュエルアカデミアの洗礼ってもんを見せてやる。だが俺が勝ったらお前には一日俺に付き合ってもらうからな」

 

「ご勝手に」

 

 片やリスペクトする兄を侮辱された怒り、片や美少女と付き合いたい下心。全く違う思惑で二人はブルー男子寮入り口前でぶつかり合う事になるのだった。

 

 

 

 

 

「十代、大変よ!」

 

 レッド寮。この学園の序列最下位にあたるこの寮に、他寮であるブルー寮の制服を着た女子──天上院明日香が駆け込み、寮の一室のドアを開きながら呼びかける。それに声をかけられたレッド寮の制服を着た男子──遊城十代が彼女にきょとんとした顔を向けた。

 

「どうしたんだ、明日香?」

 

「それが、十代を探してる新入生の女の子が、ブルーの男子寮前でブルーの二年生と揉めてるそうなの!」

 

「俺を探してる新入生の女の子? って、それモモか!? あいつ寮に行く前に俺に挨拶に行くから待っててくれって言ってたのになんでブルー寮に行ってんだ!?」

 

「「モ、モモ?」」

 

 慌てている明日香にきょとんとしていた十代だが、明日香の説明を聞いてピンときたのかしかし驚いた声を出して立ち上がる。その言葉に明日香と、彼と同じ寮室に住む翔がきょとんとした声を出す。

 

「ったく、迷子にでもなったのか? しゃーねぇ、迎えに行くか……」

 

 はぁ、とため息をついて頭をかく姿はまるで世話の焼ける妹を相手する兄のようで、普段見せない十代の姿に明日香と翔はポカンとしつつ、寮を走り出て行った十代の姿を見送った後我に返ったように慌てて彼を追いかけ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 さて視点はブルー男子寮前に戻り、新入生が早速ブルーの生徒とデュエルをするという事からか噂はあっという間に広がり、二人がデュエルの準備を終えた頃には人だかりが出来ていた。やはり自分達が住む寮の目の前で行われるからかブルー男子が多いが、ところどころブルーよりは格下だがレッドよりは格上の所謂中間層であるイエロー寮の生徒の姿も見える。

 さらに明日香に連絡したのは彼女らなのか、明日香の友人であるジュンコとももえが、仮にも多少の交流がある十代の妹であり女子寮繋がりとしてはこれから後輩になるわけである百代を心配そうな目で見つめていた。

 

「レッドのクズの妹でもある新入生にハンデだ、先攻は譲ってやるよ」

 

「私は後攻の方が得意なんですが……ま、いっか」

 

 ブルー男子の言葉に百代はぼやきつつも否定するのも面倒だしと了承。

 

「「デュエル!!!」」

 

 そして二人の声が重なり合った。

 

「私の先攻、ドロー」

 

 受けたハンデ通り百代が先攻を取ってカードをドロー。六枚になった手札をさっと見る。

 

「私は[ファーニマル・ドッグ]を召喚し、効果を発動します。このカードが召喚に成功した時、デッキからファーニマル・ドッグ以外のファーニマルモンスター、[ファーニマル・オウル]を手札に加えます」

ファーニマル・ドッグ 攻撃力:1700

 

 彼女の場にポンッと姿を現したのはぬいぐるみの犬とでもいうような姿のモンスター。その姿に観客の女生徒が「可愛い」と黄色い声を上げ、さらに彼女はその犬の遠吠えによって呼び寄せられた、同じくぬいぐるみのフクロウのようなモンスターを手札に加える。

 

「さらに私は手札から[ファーニマル・シープ]を守備表示で特殊召喚します。このカードは私の場にファーニマル・シープ以外のファーニマルモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できます。私はカードを一枚セットし、ターンエンド」

ファーニマル・シープ 守備力:800

 

 さらにポンッと姿を現すのはもこもことした毛が可愛らしい羊のぬいぐるみ。その愛らしさに女生徒が「キャー」と黄色い声を上げた。

 

「ふん、所詮は見た目しか気にしない女か」

 

 しかしその姿にブルー男子はフンと鼻を鳴らして嘲笑を漏らしていた。

 

「お、あそこか?……って、ホントにモモじゃねえか!? おいモモ、何やってんだお前!?」

「わあ、女の子らしい可愛いモンスターがたくさんっす!」

 

「お兄様!」

 

 するとそこにオシリスレッドの制服を着た男子生徒──十代が到着。少し遅れて翔と明日香も追いつき、ついでにジュンコとももえが明日香に駆け寄るように彼らに合流した。

 ちなみにやってきて早々百代の場を見て「可愛いモンスターがいっぱい」と評した翔はその前の「女の子らしい」という言葉が気にかかったのか明日香やジュンコ、ももえに睨まれて必死に言い訳を並べている。

 

「お兄様に挨拶するために、この学園で一番強い生徒が集まると聞いたオベリスクブルーに来たのですが、そうしたらこいつがお兄様を侮辱し始めて……」

 

「あー、そういや俺オシリスレッドだって言ってなかったっけ……おーいあんたも妹が迷惑かけて悪かったなー」

 

 デュエル中にも関わらずデュエル中の百代と会話し始め、さらに形的には百代に喧嘩売られた形になるブルー男子にも軽く謝罪の声を出す十代に、ブルー男子は苛立ったように歯ぎしりした。

 

「オシリスレッドのクズが何エリートである俺と対等な口利いてんだ!? はん、まあいい。妹が無様にやられる姿を見せてやるよ! その次はお前の番だ! 俺のターン、ドロー!」

 

 十代のブルー男子的には無礼な振る舞いに彼は怒号を上げつつ、百代を倒した後は十代も倒してやると気合を込めてデッキからカードをドローする。

 

「俺は[インヴェルズ万能態]を召喚! さらに魔法カード[二重召喚(デュアルサモン)]を発動! このターン俺は二回の通常召喚が可能になる!」

インヴェルズ万能態 攻撃力:1000

 

 ブルー男子の場に黒い蓑虫のようなモンスターが現れ、さらに魔法カードの効果で召喚権を増やした彼の口にニヤケが走り、彼はさらに手札を取った。

 

「雑魚なんざ所詮上級モンスターの餌にしか役に立たねえんだよ! 俺はインヴェルズ万能態を生贄に捧げ──」

 

 黒い蓑虫が、突如地面に開いた黒い穴に吸い込まれ、その中から巨大な手が伸びて地面を掴む。

 

「──[インヴェルズ・ガザス」を召喚!!」

インヴェルズ・ガザス 攻撃力:2800

 

 地面を掴み、穴から這い出てきたのはまるでコーカサスオオカブトを思わせる三本の角を生やした黒い外皮の巨人。その口からは贄として喰らったらしいインヴェルズ万能態の破片が覗いており、観客の女生徒から「ひいっ」という悲鳴が上がった。

 

「インヴェルズ・ガザスの効果発動! インヴェルズと名のついたモンスター二体を生贄に捧げてこのカードの生贄召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する!!」

 

 黒き巨人が咆哮するとそれが衝撃波となって場を蹂躙。百代の場の二体のファーニマルを一度に破壊してしまう。

 

「リバースカードオープン[ファーニマル・クレーン]! 自分フィールドの表側表示のファーニマルが相手モンスターの攻撃または相手の効果で破壊され自分の墓地へ送られた時、破壊されたその自分のモンスター一体を手札に加え、自分はデッキから一枚ドローする。私はファーニマル・ドッグを手札に加え、さらにカードを一枚ドロー」

 

 しかし百代の発動したカードから出現したクレーンゲームのアームが地中へと伸び、地中に存在する墓地からファーニマル・ドッグを掴み上げて百代の元まで運んでいった。さらに一枚のカードドローのおまけつきだ。

 

「だがこれでお前の場はがら空きだ! インヴェルズ・ガザスでダイレクトアタック!!」

 

「っ……」LP4000→1200

 

 インヴェルズ・ガザスが拳を振りかぶって百代に殴りかかり、一気に彼女のライフが半分以上削られる。

 

「どうだ! 俺の超攻撃的インヴェルズデッキの破壊力は!? 俺はカードを二枚セットしてターンエンド!…(…俺の伏せカードの一枚は[侵略の波紋]、これでインヴェルズ万能態を蘇生して次のターン、インヴェルズ・ガザスも一緒に生贄にして手札の[インヴェルズ・グレズ]を召喚すればあいつが何を出そうが何を伏せようが関係ねえ。全部ぶっ壊して俺の勝ちだ……それにもし攻撃をしてきても……ククク)」

 

 先ほど弱者を餌にして百代の場を蹂躙したモンスターでもさらなる切り札の餌にする。まさに弱肉強食といえるプレイングを考えながら、彼はターンエンドを宣言。

 

「超……攻撃的?」

 

 しかしその中の言葉に百代が引っかかるように声を漏らした。

 

「防御カードの一枚も伏せられなかった相手を、仕留めそこなっておいて……超攻撃的、ですか?」

 

「ははは! 負け惜しみしか言えないのか!? 諦めてサレンダーして謝ればまあ、少しは優しく可愛がってやるぜ?」

 

 百代の言葉をブルー男子は負け惜しみと言い捨てて諦めろと挑発する。が、百代は諦めた様子もなくデッキに指をかけてデュエル続行の意思を示した。

 

「では、お兄様もいる事ですし……お兄様がいなかったこの一年で磨きをかけた……超攻撃的デストーイデッキの破壊力を見せてあげます」

 

「お、楽しみにしてるぜモモ!」

 

「はうっ!」

 

 キリッとした表情での、意趣返しか先ほどのブルー男子の台詞を繰り返した決め台詞だったのだが十代が声援を送ると途端に表情が崩れただけではなく崩れ落ちる百代。

 だが立ち直した彼女は嬉しそうに頬を蕩けさせつつも目は真剣なまま、鋭い「ドロー!」の掛け声と共にデッキからカードを引き抜いた。

 

「来た!」

 

 ドローカードを見てキリッとした表情に戻った百代は、それをそのままデュエルディスクへと差し込んだ。

 

「魔法カード[魔玩具補綴(デストーイ・パッチワーク)]を発動! デッキから[融合]と[エッジインプ・シザー]を手札に加えます」

 

 

「くるか?」

 

 百代が一枚のカードを発動しただけで、十代はこれから百代が何を見せてくれるのかとワクワクした顔を見せる。その顔に応えるように百代はさらに一枚の手札をデュエルディスクに差し込んだ。

 

「私は魔法カード[死者転生]を発動します。手札を一枚捨て、墓地から[ファーニマル・シープ]を手札に加える。さらに今墓地に送った[エッジインプ・シザー]の効果を発動します。このカードが墓地に存在する場合、手札を一枚デッキの一番上に戻すことで、このカードを墓地から守備表示で特殊召喚する」

エッジインプ・シザー 守備力:800

 

「ん? さっきのぬいぐるみみたいなモンスターに比べるとなんか毛色が違うっすね?」

 

「おう。きっとここからモモのコンボがスタートするぜ」

 

 百代の場に現れたハサミのようなモンスターの姿に翔が首を傾げると、十代がにっと笑ってそう答える。

 

「私は永続魔法[トイポット]を発動し、効果を発動します。一ターンに一度手札を一枚捨て、私はデッキから一枚ドローし、お互いに確認する。確認したカードがファーニマルモンスターだった場合、手札からモンスター一体を特殊召喚でき、違った場合、そのドローしたカードを捨てる」

 

 

「ドローしたカードなんて、そんなのほとんど運任せ……」

 

「いや、彼女のコンボならば百発百中だ」

 

「あ、三沢君。いたの?」

 

「いたよ!」

 

 百代の発動した永続魔法の効果を聞いた翔が声を漏らすと、いつの間にかそこにいた三沢が百発百中になると宣言。彼の存在に今気づいた翔の言葉にツッコミを返した後、ゴホンと咳払いをした。

 

「彼女はトイポットを発動する直前、エッジインプ・シザーの効果によって手札の一枚をデッキトップに戻している」

 

「……なるほど。その時にファーニマルモンスターを戻しておけば、トイポットの効果は百発百中」

 

「おう。モモの得意コンボだ」

 

 初見で百代のコンボを見抜いた三沢に明日香が感心したように答えると、既にそのコンボを知る十代も首肯を返した。

 

「手札を捨ててドロー。ドローしたカードはもちろんファーニマルモンスターである[ファーニマル・ドッグ]、よってそのまま特殊召喚し、効果を発動します。その効果で私は[ファーニマル・ベア]を手札に加えます」

ファーニマル・ドッグ 守備力:1000

 

「はっ、だが守りを固めるのが精一杯か? ま、所詮雑魚モンスターは壁か生贄にしか役に立たねえからなぁ」

 

「いえ。ここから反撃開始といきましょう」

 

 涼やかなその言葉と鋭く研ぎ澄まされた目が、挑発してきたブルー男子を射抜く。それにブルー男子が気圧されたように僅かに引くと同時、百代は己のデッキのキーカードであるカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「魔法カード[融合]を発動! 手札の[ファーニマル・ベア]とフィールドの[エッジインプ・シザー]を融合する!」

 

 彼女の呼びかけに現れるように出現するのはピンク色の可愛らしい熊のぬいぐるみのようなモンスター。その愛らしさもまたも女生徒から黄色い声が上がる。

 

「悪魔の爪よ! 野獣の牙よ! 神秘の渦で一つとなりて新たな力と姿を見せよ!」

 

 しかしそのぬいぐるみにハサミの悪魔が重なり合った瞬間、ぬいぐるみの姿が変貌する。

 身体が巨大化したと思えばその腕がバリバリと破れて中からハサミのような金具が出現してそれが腕と金具を繋ぐ。さらに腹部も横に割れて、腹から巨大なハサミが飛び出る。さらによく見ればぬいぐるみの顔の中からは何か得体の知れない赤い目が覗いていた。

 

「融合召喚! 現れ出でよ、すべてを切り裂く戦慄のケダモノ[デストーイ・シザー・ベアー]!!」

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力:2200

 

[ベアアアアアァァァァァァァッ!!!]

 

 見ようによってはグロテスクな姿に変貌したぬいぐるみの咆哮に、さっきまで黄色い声を上げていた女生徒がヒィッと悲鳴を上げる。

 

「ハ……ハッ、ご丁寧に融合召喚しておいて攻撃力たったの2200? 所詮はドロップアウトのクズの妹らしい雑魚モンスターだな」

 

 百代の目に気圧されていたブルー男子もデストーイ・シザー・ベアーのステータスを見て恐るるに足らずと嘲笑するが、対戦相手の嘲笑や観客の悲鳴を気にしていないかのように、特殊召喚の条件が整っていたためファーニマル・シープが再び彼女の場に姿を現して「メェ」と一鳴きした。

 

「ファーニマル・シープの効果発動! 自身以外のファーニマルを手札に戻し、自分の手札・墓地からエッジインプ一体を選んで特殊召喚する。私は場の[ファーニマル・ドッグ]を手札に戻し、墓地の[エッジインプ・シザー]を再び特殊召喚」

ファーニマル・シープ 守備力:800

エッジインプ・シザー 守備力:800

 

 百代の場で構えていた犬のぬいぐるみが光になって百代の手札に舞い戻り、入れ替わるように地中からハサミの悪魔が出現。

 

「さらに魔法カード[融合回収(フュージョン・リカバリー)]を発動、墓地から[融合]と融合に使用した[ファーニマル・ベア]を手札に加えます。

 そして再び[融合]を発動! 私は手札の[ファーニマル・オウル]とフィールドの[エッジインプ・シザー]を融合! 悪魔の爪よ! 煉獄の眼よ! 神秘の渦で一つとなりて新たな力と姿を見せよ! 融合召喚! 現れ出でよ! すべてを引き裂く密林の魔獣[デストーイ・シザー・タイガー]!!」

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力:1900

 

[ガオオオオォォォォォッ!!!]

 

 出現するのはデストーイ・シザー・ベアーと同じく腕や腹部からハサミが伸びた格好ではあるが、その素体となっているのは虎のぬいぐるみのモンスター。

 

「だが攻撃力はたった1900! そんな雑魚に何が出来る!?」

 

「これが出来ます。デストーイ・シザー・タイガーが融合召喚に成功した時、このカードの融合素材としたモンスターの数まで、フィールドのカードを破壊する」

 

「……なにぃ!?」

 

 

「融合はその性質上二体以上のモンスターを素材とする関係上、少なくとも二枚まで破壊できるわけか……なかなか便利なカードだ」

 

 デストーイ・シザー・タイガーの強力効果に悲鳴を上げるブルー男子を傍目に三沢は制限のない強力な破壊効果を絶賛。

 それをよそにデストーイ・シザー・タイガーの腹部にあるハサミがブルー男子の場目掛けて伸びていく。

 

「私が破壊するのは二枚の伏せカード!」

 

「ちぃ! トラップ発動[侵略の波紋]! 500ライフをコストに墓地からレベル4以下のインヴェルズである[インヴェルズ万能態]を特殊召喚!

 さらにチェーンしてもう一枚のリバースカードオープン[ライジング・エナジー]! 手札を一枚捨て、インヴェルズ・ガザスの攻撃力を1500ポイントアップする!」LP4000→3500

インヴェルズ万能態 守備力:0

インヴェルズ・ガザス 攻撃力:2800→4300

 

 破壊されそうになったリバースカードが翻り、それに呼び出された蓑虫が主の場で守備の体勢を取り、さらにインヴェルズ・ガザスの攻撃力が急上昇する。

 

「デストーイ・シザー・タイガーの効果はまだあります。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドのデストーイの攻撃力は、自分フィールドのファーニマル及びデストーイの数×300アップする。私の場のファーニマルは一体、デストーイは二体、よってデストーイ全ての攻撃力が900アップします」

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力:2200→3100

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力:1900→2800

 

「ハッ、残念だったな! 俺の伏せカードがなければ倒せただろうに! しかもお前の手札はもう雑魚二枚だと分かってる! もう何も出来ないだろ!…(…インヴェルズ・グレズを捨てさせられたのは計算違いだが、その程度どうにでもなる……)」

 

「では、補充するとしましょう」

 

「……は?」

 

 ブルー男子の指摘通り百代の手札は連続融合召喚によって大幅に消費し、さらにサルベージやバウンスをした事でその中身も判明している。だが百代はなんでもないようにそう答え、同時に彼女の墓地から一枚のカードが吐き出された。

 

「墓地の[ファーニマル・ウィング]の効果発動。自分フィールドにトイポットが存在する場合、墓地のこのカードと自分の墓地のファーニマル一体を除外し、自分はデッキから一枚ドローし、さらに自分フィールドのトイポット一枚を選んで墓地へ送り、デッキから一枚ドローできる。

 私はファーニマル・ウィングと墓地のファーニマル・オウルを除外してデッキから一枚ドロー。さらに場のトイポットを墓地に送って一枚ドロー。そしてトイポットの効果を発動、このカードが墓地へ送られた時、デッキからエッジインプ・シザー一体またはファーニマル一体を手札に加える。私は二枚目の[エッジインプ・シザー]を手札に加えます」

 

 

「トイポットの発動コストに捨てたカードを、トイポットとのコンボで使ったというわけね……無駄がないわ」

 

 サーチしたエッジインプ・シザーを含め実質三枚のドロー。いきなり増えた手札にブルー男子が唖然としていると、彼の場にクマのぬいぐるみが出現した。

 

「私は[ファーニマル・ベア]を召喚します」

ファーニマル・ベア 攻撃力:1200

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力:3100→3400

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力:2800→3100

 

「は!? お前は既に召喚を──」

「いえ、私はまだ召喚権は行使していません」

 

 モンスターが出現したことに驚いたブルー男子がそう指摘しようとするも、百代はそれを力強く否定。ブルー男子は「そんな馬鹿な!?」と叫んで思い返すも、はっとした顔になる。

 

「たしかに、手札から出てきたファーニマル・ドッグもファーニマル・シープも特殊召喚。他も大体融合召喚されたものだ、まだ彼女に召喚権は残っている」

 

 観客の三沢もそれを認めていた。

 

「だ、だが、そんな雑魚に何が出来る!? 攻撃力を上げたところで焼け石に水だ!」

 

「ファーニマル・ベアの効果を発動。自身を生贄にすることで、墓地から[融合]を手札に加えます」

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力:3400→3100

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力:3100→2800

 

「な、なんだと……し、しかもお前の手札には今……」

 

「その通り。魔法カード[融合]を発動、私は場の[ファーニマル・シープ]と手札の[エッジインプ・チェーン]を融合! 悪魔の鎖よ! 野獣の角よ! 神秘の渦で一つとなりて新たな力と姿を見せよ!」

 

 羊のぬいぐるみが鎖の悪魔に絡め取られると、その呪いを受けたようにぬいぐるみの姿が変貌していく。

 やはり身体が巨大化していくと共に美しい羊毛が薄茶色に汚れていく。さらにその四肢もフックや回転ノコギリのような禍々しい武器に変形していき、さらに身体に巻きついた鎖から伸びた鎖の先にも回転ノコギリが生成される。

 

「融合召喚! 現れ出でよ、すべてを封じる鎖のケダモノ! [デストーイ・チェーン・シープ]!!」

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力:2000→2900

 

[メエエエエェェェェェッ!!!]

 

 その耳障りな咆哮を聞いて、可愛らしかったぬいぐるみが次々と禍々しい姿に変貌していくという事実についに耐えきれなくなったのか数名の女生徒が卒倒。どうにか卒倒までは耐えたものの明日香も頬を引きつかせ、ジュンコとももえに至っては完全に引いてお互いに抱き合って怯えた顔を見せている。

 

「だが攻撃力は及ばない!」

 

「エッジインプ・チェーンが手札から墓地へ送られた事で効果発動! デッキからデストーイカード一枚を手札に加える。私は永続魔法[デストーイ・ファクトリー]を手札に加え、そのまま発動!」

 

 百代の背後に広がるのは何かの生産工場らしき設備。デストーイ・シザー・ベアーとデストーイ・シザー・タイガー、そしてデストーイ・チェーン・シープがまるで生まれ故郷を目にして喜ぶように耳障りな咆哮を上げて不気味に踊っていた。

 

「デストーイ・ファクトリーはデストーイの生産工場。墓地の融合・フュージョン魔法カードを燃料として稼働し、デストーイの融合召喚を可能とする。私は墓地の[融合回収]をデストーイ・ファクトリー稼働の燃料として除外する。デストーイ・ファクトリー、稼働開始!」

 

 主たる百代の命を受け、融合回収の魔法カードを燃料にガゴンと音を立ててデストーイ・ファクトリーが稼働開始する。

 

「フィールドの[デストーイ・シザー・ベアー]、手札の[エッジインプ・シザー]と[ファーニマル・ドッグ]を融合!」

 

 

「こ、今度はデストーイまで融合っすか!?」

 

 その融合素材として己の切り札カードであるデストーイを指定し、同時にデストーイ・シザー・ベアーがデストーイ・ファクトリーに吸収されていくと翔が驚きに声を上げる。

 

「すべてを切り裂く戦慄のケダモノよ! 悪魔の爪よ! 獰猛なる牙よ! 神秘の渦で一つとなりて新たな力と姿を見せよ! 融合召喚!! 現れ出でよ! 全てに牙むく魔境の猛獣[デストーイ・サーベル・タイガー]!!!」

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力:3200→2900

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力:3100→2800

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力:2400→3300

 

[グルルルルル、グオオオオォォォォォンッ!!!]

 

 デストーイ・ファクトリーから姿を現すのはまさしく古代に生きていたサーベルタイガーである禍々しいぬいぐるみ。仲間の登場に沸き立つデストーイ・シザー・タイガーとデストーイ・チェーン・シープに応えるようにデストーイ・サーベル・タイガーが不気味な声で咆哮する。

 その威圧感と咆哮に女生徒どころか観客の男子生徒まで一部失神していた。

 

「デストーイ・サーベル・タイガーのモンスター効果発動! このカードが融合召喚に成功した時、自分の墓地のデストーイモンスター一体を特殊召喚する! 舞い戻れ、[デストーイ・シザー・ベアー]!」

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力:2900→3200

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力:2800→3100

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力:3300→3600

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力:2200→3400

 

[ベアアアアアァァァァァァァッ!!!]

 

 しかもその咆哮に導かれたように融合素材として消えたデストーイ・シザー・ベアーが復活、再び咆哮を轟かせた。

 

「さらにデストーイ・サーベル・タイガーの効果! このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドのデストーイモンスターの攻撃力は400アップする!

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力:3200→3600

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力:3100→3500

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力:3600→4000

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力:3400→3800

 

 

「こ、攻撃力が最低でも3500……」

 

 四体もの融合モンスターが並んだ壮観な光景に、さらにそのステータスも二重の強化を得て豪快な数値となり、それを見た明日香が絶句しつつもどうにか言葉を述べる。だがブルー男子はクククっと笑みを漏らした。

 

「お、惜しかったな? 攻撃力は僅かに足らない。ま、雑魚にしちゃよくやった方だと褒めてやるよ。諦めてサレンダーすれば許してやらなくもないぜ?」

 

「いえ、まだです」

 

 だがブルー男子の言葉に対し、百代はニヤァと笑みを浮かべてさらにもう一枚の手札をデュエルディスクに差し込んだ。

 

「魔法カード[魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)]を発動。自分のフィールド・墓地から、デストーイ融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター一体を融合召喚する。私は墓地のエッジインプ・シザー、ファーニマル・ドッグ、ファーニマル・ベア、ファーニマル・シープを除外融合!」

 

「よ、四体融合だとぉ!?」

 

「悪魔の爪よ! 獰猛なる牙よ! 野獣の牙よ! 野獣の角よ! 神秘の渦で一つとなりて新たな力と姿を見せよ! 融合召喚!! 現れ出でよ、全てを狩り取る密林の狩人[デストーイ・シザー・ウルフ]!!!」

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力:3600→3900

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力:3500→3800

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力:4000→4300

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力:3800→4100

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力:2000→3900

 

[ウオオオオォォォォォン!!!]

 

 またも出現するのは狼のぬいぐるみをハサミで繋ぎ合わせたような不気味なぬいぐるみ。その咆哮と、彼女の場に完成した陣形を見たブルー男子の頬が引きつった。

 

「ご……五体の融合モンスターを、一ターンで……」

 

 

「すっげー! こんなの俺が地元にいた頃だと10回に1回出来ればいい方だったのに……成長したな、モモ! 兄として俺も嬉しいぜ!」

 

 

「ありがとうございます。お兄様!」

 

 絶句し、怯んでいるブルー男子を横に十代は目をキラキラさせて妹の成長を喜んでサムズアップを向け、それを見た百代もハートマークを乱舞させながらその声援に応えた後、すっとその目から感情を消したような冷たい瞳でブルー男子を射抜く。

 

「さあ、覚悟はよろしいですね? ゆきなさい、デストーイ・サーベル・タイガー。あいつを地獄に送る一助となれ」

 

[グオオオオォォォォォンッ!!!]

 

 主の指示を受けてデストーイ・サーベル・タイガーがインヴェルズ・ガザス向けて突進、インヴェルズ・ガザスもその突進を受け止めて力比べに持ち込む。

 

「相討ちっす!」

 

「いや、そうはいかねえぜ! やっちまえ、デストーイ・サーベル・タイガー!!」

 

 攻撃力は同等、そこから導き出される未来を翔が叫ぶと、隣の十代が拳を振り上げてデストーイ・サーベル・タイガーを応援。

 それに応えるようにデストーイ・サーベル・タイガーが力任せにインヴェルズ・ガザスを振り払うとその顔につけられた刃でインヴェルズ・ガザスを斬り裂き、最後には噛み砕いて惨殺した。

 

「な、なんで!?」

 

「モンスター三体以上で融合召喚されたデストーイ・サーベル・タイガーは戦闘・効果では破壊されないんだ!」

 

 驚く翔に、兄ゆえか妹の切り札の効果はよく知っているとばかりに十代が解説。

 これで彼女の場は一切の儀性が無いまま、モンスターは彼自身が雑魚と呼んだインヴェルズ万能態のみ、魔法・罠は空っぽ。さらに手札も尽きた事でほとんどがら空きとなったブルー男子は、まだ攻撃権が残る四体のデストーイが獲物を見定めるようにこちらを見ていて、さらにそれらに命令を下せる百代を恐れるような目で見ていた。

 

「そ、そんな馬鹿な……エリートである俺が、一年生なんかに……」

 

「ウルフ、仲間を呼びなさい」

 

[ウオオオオォォォォォン!!!]

 

 ガタガタと震え出すブルー男子に対し、情けはかけないとばかりに百代はデストーイ・シザー・ウルフに指示、デストーイ・シザー・ウルフが遠吠えを上げるとどこからともなくさらに三体のデストーイ・シザー・ウルフが出現した。

 

「な、なんだ!?」

 

「デストーイ・シザー・ウルフは融合素材としたモンスターの数まで一度のバトルフェイズ中に攻撃できる。私が融合素材としたのは四体、よって四回の攻撃権を得た」

 

 

「こ、攻撃力3900の四回攻撃って……」

 

「オーバーキルというレベルじゃないぞ……」

 

 一発で初期ライフでも瀕死になり、今のライフでは即死になる攻撃力でさらに四回攻撃。それだけでもオーバーキルだというのに、さらにそれと同等かそれ以上の攻撃力を持つモンスターも控えている。その光景に明日香と三沢が頬を引きつかせた。

 

「お兄様を侮辱したものがそう簡単に楽になれるとは思うな……ゆけ、我が僕(デストーイ)達、雑魚を踏み潰し、全てを蹂躙せよ。魔玩具行進(デストーイ・パレード)

 

[ベアアアアァァァァァッ!!!]

[メエエエエェェェェェッ!!!]

[ガオオオオォォォォォッ!!!]

[ウオオオオォォォォォン!!!]

 

 ビシッと指差し、攻撃を宣言。それと共にデストーイ達がまるで行進するようにブルー男子の場に向けて突撃。彼の場に唯一残るインヴェルズ万能態をデストーイ・シザー・ベアーが丸呑みにし、残る三体(とデストーイ・シザー・ウルフが率いる同族)が正真正銘がら空きとなったブルー男子目掛けて突進。

 

「ぎゃああああああああああ!!!」LP3500→-19800

 

 デストーイ達が突進の勢いのまま轢き潰し、一気に彼のライフは危うく-二万の大台に向かおうかというレベルに削られ、当然デュエルの決着を示すブザーも鳴り響いた。

 

 

 

 

 

「あ、ああ、あああああ……」

 

 デストーイに轢き潰されたブルー男子はうつ伏せに倒れていた状態からなんとか起き上がるも、その眼前で自分を見下すような視線を向けている百代を見ると途端に怯えたように顔を歪ませて腰が抜けたように倒れ込む。

 

「この程度でお兄様を侮辱するとは、身の程知らずが……」

 

 そう呟く百代の横に、背中から巨大な翼が生えた、橙色と緑色のオッドアイだけではなく巨大な目玉が額に縦向きにくっついている悪魔の幻影がブルー男子の目に見えたような気がする。十代が「お、ユベル」とか言っているがそれが彼の耳に聞こえる事はなかった。

 

「ひ……ひいいいぃぃぃぃっ!!!」

 

 その存在や、それを従える百代へ恐怖を感じたか、ブルー男子は最初は這う這うで、なんとか立ち上がって走り出してからも何度か転びそうにつんのめりながらその場を逃げ去っていった。

 

「すっげーなモモ! まさかワンターンキルしちまうなんて思わなかったぜ。一年間見てなかっただけで成長したじゃねえか。兄として俺も鼻が高いぜ!」

 

「ありがとうございます、お兄様!」

 

 十代もオベリスクブルーの百代からすれば先輩にあたる二年生をワンターンキル(しかも超オーバーキル)した事を賞賛し、百代も嬉しそうに頬を蕩けさせてお礼を返す。

 

「でも俺だって負けないぜ! これからレッド寮に戻ってデュエルだ!」

 

「はい!」

 

 自然な流れでデュエルの約束を取り付けた十代は百代を連れ、「いくぞ翔!」と翔に呼び掛けてレッド寮に向け歩いていく。その三歩後を百代はついていき、さっきまでの惨劇ともいえるデュエルに実はドン引きしてフリーズしていた翔は僅かな後に意識を取り戻して十代の後を追いかける。

 

「……これは、とんでもない新入生が来ちゃったようね」

 

「そのようだな……」

 

 その場に残った明日香と三沢はこの恐ろしいデュエルを見てブルブルと震えたり最悪恐怖に耐えきれず失神・卒倒した仲間達を見て、今年も大変な事になりそうだと嘆息したのであった。




 久しぶりに更新しました。まあ更新したっていうか、この前まさか完結一年経ってから感想を貰うとは思わず感想が来てビックリしながら、前々から思いついていた「百代がデストーイを使っている」っていう短編をせっかくの機会だからと書いてみただけなんですけども。
 実際、普段はお淑やかで可愛い系なんだけど十代が関われば途端にヤンデレて十代を侮辱した相手は容赦なく排除する百代なら普段は可愛いファーニマル、だけど戦う時は恐ろしいデストーイっていう二面性のこれって結構似合うなって思うんです。(笑)

 でもってどうせ続きを書くつもりないので思いっきりやらせてみました。(笑)
 ワンターンキル&融合連続によるオーバーキルレベルの戦力展開前提で考えると手札確認・調整がめちゃめちゃ大変でした……というか手札調整ミスって「あれ、もう未知の手札がない……この融合素材どこから来たんだ?」って書き終えた後の確認段階で気づいて書き直しを何度繰り返したか……。
 で、これでなんとか帳尻はあったはず……という結果が今回になります。(汗)

 そして先述通りこれの続きを書く予定はありませんのでご了承ください。
 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。