壊れたスマートフォン (ロキ)
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異国の王女

望月冬夜さん。

 

日本という国から来られた方です。

そんな彼の違和感を視たときにはすでに遅かったのかもしれません。

 

 

平穏を第一に望み、みんなに笑顔をもたらす。

出会ったときからそんなお方でした。

 

このベルファスト王国の王であるお父様が毒で倒れたとき、リカバリーという無属性魔法で救っていただきました。驚くべきことに全ての無属性を扱える、そんな素晴らしい才能の持ち主でした。

 

そのまま勢いのままに婚約してしまったこと、あれは若気の至りと言いましょうか。後悔したことはありませんが、今となっては恥ずべきことだと理解しています。

 

少しでもお役に立ちたくて、

冒険者になりました。

銃という武器を扱うようになりました。

フレームギアを扱うようになりました。

 

その旅の途中で多くの方と出会い、私と同じように冬夜様を愛する方も増えていきました。辛い思いもしたけれど、夢のような毎日でした。

 

様々な個人魔法で日本という国の物を見せていただきました。

 

あぁ、どうして気づかなかったのでしょう。

彼が神獣の方々を連れ、1人で行動することが多くなっていくことに。

 

次はどんな物を見せてくださるのか、みんなで楽しみにしていただけでした。

 

悪人を罰し、

悪とみなされた宗教を改革し、

悪であるフレイズを滅ぼしました。

 

誰もが彼を救世主と呼びました。

 

そして、

彼は正真正銘の神となりました。

 

転生というものをされるとき、最高神が体を修復されたそうです。そのときに、人としての器や魂をすでに失いつつあったのではないかと考えております。

 

彼が前世に綴るようなことをしていたのは、残された人としての思い出だったのかもしれません。私たちを好きでいてくれたのは残された人としての心だったのかもしれません。

 

彼は今も変わらず、私たちを愛してくれます。

彼が善とみなす人、すべてを愛してくれます。

 

彼の国では1人の女性を生涯愛するはずでした。

恋愛神のご加護は彼の身には重すぎたのでしょうか。

 

いえ、価値観を押し付けた私のせいなのでしょう。

 

 

少しずつ、彼の影響で私たちも変わっていました。

少しずつ、神に近づいているのでしょう。

少しずつ、人の心を失っているのでしょう。

 

私たち自身にはそれがわかりません。

本来100年という時しか生きられない私たちには、神の力は過ぎた力だったのかもしれません。

 

 

この魔眼で彼の違和感を視てしまったとき、ようやく気づいたとき、このベルファストに独り戻っていました。

 

未来に恐怖し、逃げたのです。

お父様たちは何も言わず抱きしめてくださりました。

 

 

他の皆様は一緒にこの世界から旅立つ頃でしょうか。

悪である私をもう彼は愛してくれないでしょうか。

 

彼の善悪の判断は、彼自身の気まぐれなのです。

 

 

神よ。

いえ、最高神様。

懺悔し続けます。

 

平穏を司る神となった彼を止めてください。

 

好きになるという、そんなありふれたことができない。

彼にとっての善人を愛することしかできない。

 

平穏を求めて永遠に足掻き続ける彼を止めてください。

 

どうか、そんな彼を普通の人に戻してあげてください。

 

 

 

このスマートフォンの電源はもう付きません。

 

ごめんなさい、気づいてあげられなくて。

ごめんなさい、

ごめんなさい、



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日本の高校生

東京のとある高校生に通っている、

そんなただの高校生だ。

 

ラノベやアニメ、他にはなろう小説を愛している。

もちろんそれが空想なのだとはすでに理解している。

 

俺にもそういうことに憧れていた時期もあった。

いわゆる中2病だ。

 

 

だから、

彼らを見たとき、

この男はハーレム築いていると畏怖を抱いた。

 

 

 

望月冬夜。 

同学年とはいえ、他クラスであるので面識は全くない。

 

そんな彼は、雷に打たれたとかで亡くなったはずだ。

そんな彼が、多数の美少女を引き連れて登校したのだ。

 

 

全員が転校生で隣のクラスである。

 

何人かいなくなった気がした。

気のせいか。

 

「誰が好みだ?」

 

「いや、誰って、希望の欠片もないだろ。」

 

「分かってないなぁ。俺はやっぱり姉妹かな!」

 

「2人もかよ。お前、甲斐性あるのか?」

 

銀髪の双子姉妹か。

彼女たちもそうだけど、どこ出身なのだろうか。

すでに違和感なく受け入れられているけれど。

 

 

 

家に帰ったときだった。

テレビで特集。

何人かの不良をニュースで叩き上げている。

 

女子を恐喝したとかなんとか。

プライバシーの欠片もないなと思った。

 

あれ、

こいつらって、うちの高校に通っていた気がする。

 

 

それから、

俺はニュースを帰宅したら必ず見るようにした。

 

ある国の政治家の汚職がいくつも放送された。

いくつかの戦争の平定がされた

原子核発電に代わる新エネルギーの発表がされた。

 

 

 

俺は新聞も見るようになった。

 

裁判での死刑が増えている。

神と呼ばれる人を崇めるような投書がよく見かけられた

 

特に、この町での犯罪検挙率が非常に増えてきた。

 

 

 

 

なんというか、町が静かになった気がする。

 

望月たちが歩けば、不良や通り魔が襲う。

それを人間離れした動きで見事に撃退する。

 

まるで恋愛ものの一場面を何度も見かけた。

 

望月は困っている女性と出合い、次々と救っていく。

美少女、女子高生、社長令嬢、キャリアウーマン、もう数えきれない。

 

いや、増えたり減ったりしている気がする。

初期メンバーと呼ばれる、異国の美少女たち以外、いつのまにかいなくなることが多かった。

 

 

 

戦争が各地で起き始めた。

フレイズと呼ばれる水晶のような宇宙人が暴れている。

現代兵器はまったく通用しないらしい。

 

俺たち市民は逃げ惑うことしかできなかった。

 

人型のロボット兵器、それが世界を救っていた。

 

俺は見ていることしかできなかった。

俺は無力なままだった。

 

破壊された町は一瞬で元に戻った。

俺の怪我もいつのまにか治っていた。

 

ありふれたスマートフォンもちゃんと電源がついた。

 

俺は、

俺にできることは、

 

動かないままの両親の前で泣き崩れる、

そんな彼女に寄り添う。

 

それだけだった。

 

俗にいう、美少女ではない。

それでも体が動いていた。

 

たぶんずっと誰かの力になりたかったのだと思う。

ちっぽけな俺でも役に立てるのだって。

 

 

今は、

そんな妻と人並みの人生を謳歌している。



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神を恨む王

ベルファスト王国第一王子、そんな肩書きを生まれながらに背負た。今となっては他国に比べても広大な土地を有する王国の王だ。

 

俺の名前は神から賜ったらしいが、改名したくらいだ。

それは姉上に関係する。

 

その神とやらが原因で修道院からめったに出ない。

儚げな笑みしか見たことがない。

 

そんな姉を守りたくて、将軍に師事した。

もちろん、教育にも手を抜くわけにもいかなかった。

 

その神とやらがこの世界を去ったとき、少しずつ世界に戦争が起き始めた。技術革新が起こり、民主制を掲げる国が増え始めた。

 

所詮はその神とやらがいなければ挽回するような関係だったのだろう。

 

 

ベルファストはそれほど強い国ではなかった。

獣人には身体能力で、妖精族には魔法で、人間は劣る。

 

そんな風潮を一変したのが銃だった。

 

すでに世界に蔓延したその兵器には魔力は必要はない。

練習すれば子どもでも打てる。

 

次々と開発されていく兵器に、父上たちは頭を抱えていたことは脳裏に焼きついている。それでも、俺はその力を大いに利用した。

 

姉上やミスミドを守るためだ。

 

もはや王国ではなく、帝国と名を変えるべきかもしれない。

 

ベルファストでは抑えられているものの、亜人の排斥が各地で起こっている。遠く魔族の住む地はかなり劣勢のようだ。ミスミドも例に漏れず、かの国民が奴隷として扱われることも増えている。

 

人間の方が科学に対して、受け入れることが早かったからだ。東方のイーシェンは凄まじい技術革新を今もなお続けていると聞く。

 

そんなイーシェンとは同盟を組もうと思っている。

 

最近では、豊富な資源を求めてミスミドへ進行する国も増えてきた。我がベルファストも彼らの力を借りて発展してきた。

 

だから、守ることは義務であって道理だ。

 

「それで、こんなとこにいていいのかしら?」

 

「結婚しよう。」

 

「はぁ、こんな年寄りのどこがいいんだか。」

 

そう呆れられることは何度目だろう。

この妖精族の女性は600歳を超えると聞く。

 

変わらない見た目は今の俺よりずっと若々しい。

 

 

 

そんなミスミドに危機が襲った。

聖域に棲むという竜が暴れ始めたのだ。

 

赤竜が亡くなり、後継者争いが起こった。

 

若い竜が今までの鬱憤を晴らすがごとく、近隣を襲い始めた。

 

俺がたどり着いたときには、満身創痍な彼女がいまだ戦い続けていた。王におるまじき行動をした。指揮を全て任せて己の拳で俺も戦い続けた。

 

 

「いまでも彼のことが好きかもしれないわよ?」

 

「知るか。お前の命を救ったのは俺だ。だから俺のために使え。」

 

「そう、強引ね。私好みよ。この余生、あなたのために使ってあげるわ。」

 

もう彼女は戦えないだろう。

それに安心してしまう俺がいる。

 

神とやらがいなくなって、戦場へ赴くことが多かった。

 

 

 

妖精族の半数が犠牲となり、生き残った者はベルファスト王都へ避難することとなった。

 

 

 

ベルファスト、ミスミドは絶対に侵させない。

この拳に誓おう。

 

スマートフォンとやらなんて必要ない。

 



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貰った物はスマートフォン

短編集、時系列はバラバラです


ぐぐぐっと背伸びをしてベッドから出て、朝の準備を始める。

 

セミロングの銀色の髪をサイドポニーで結び、赤と黒が基調なゆったりとした制服に着替える。鏡を見れば、なんていうか平凡な顔だなーって朝から気落ちしそうになってしまう。

 

「よしっ、今日も一日がんばるぞ!」

 

ベルファスト王国にあるリフレット、そこに私は住んでいる。

 

元々は田舎出身で、地主の三女だったんだけど、都会への憧れで飛び出してきちゃった。さすがに王都ほどじゃないけど、この町もかなり活気に溢れている。大きい街にしかない服飾店だってあるし、私の職場であるギルドも町の中心にある。

 

天気は晴れ。

集合住宅の1室から出れば、目の前に宿の『銀月』が目に入る。お恥ずかしながら、この町に来ることばかりで、後先考えずに飛び出してまして、仕事先の紹介ですらお世話になった家族が経営しています。

 

そして、こんな朝から、薄赤色のポニーテールな美少女が玄関前を箒で掃いている。

 

「やっほー、ミカちゃん!」

 

「おはよ、相変わらず朝が早いね。」

 

「それはミカちゃんもでしょー?」

 

「まあね。でも、前ほど忙しくはないけど。」

 

「あのイーシェンの人たちはもういないの?」

 

「国をつくるとか言っていたけど……」

 

「うんうん。もうなにがなんだかねー」

 

どんどん実力を上げた冒険者だとか、ハーレム王だとか、ともかく有名なんだけど、本当に王になるとは思わなかった。

 

ユミナ様と婚約中だし、ベルファストの次期国王かと思いきや、ナントカ国を作るとかなんとか。

 

 

「で、のんびりしてていいの?」

 

「わわっ、そうだった。いってきまーす!」

 

「はいよー、行ってらっしゃい」

 

お姉ちゃんみたいな人で、仕事で失敗する度に慰めてもらったなぁ。

 

 

ギルドが見えてきた。

すでに扉の前で待っている冒険者さんたちがいて、少し早足になる。同僚に挨拶をして、私も急いで仕事にかかる。他のギルドからの手紙を確認したり、ギルドに届いた依頼を確認して掲示板に貼り付けたり。お金のことは先輩がテキパキと計算している。

 

そして、時間になったと同時に、依頼を競い合うようになだれ込んでくる。簡単な依頼でそれなりの高収入を求めてきているのだ。やはり命に関わる仕事もあるので、選択肢が多い時間を誰もが狙っているのだ。

 

 

 

次々と、承認していく。

 

 

 

あー、やっと一息つける。

1時間も経たずに、ギルドはずっと静かになった。

 

いつも通り残った依頼は、初心者向けと高難度。遅れてやってきた冒険者さんたちは、掲示板を見て帰っていくか、その初心者向けでさえ受けるか、はたまた朝から酒を飲み始めるか。

 

「なぁー、お嬢ちゃん、暇ならこっちで飲まないか!」

 

「え、えーと…」

 

うぅ、まただ。

酒に酔った人が、よく私たちギルド職員にちょっかいをかけてくる。このギルドはまだマシみたいだけど、数えることすらイヤなんだけど、1年超えてるしもう100回目かも。

 

「何度も言いますが、仕事中ですので。」

 

「けっ、今日もお堅いことやつがいたのか。」

 

 

また1階に戻っていって、飲み直すのだろう。

ああいう人については先輩に任せっきりだ。

 

 

「あの、今日もありがとうございました。」

 

「構わないわ。でも、行き帰りは気をつけるのよ。」

 

「はい!」

 

なにかと気にかけてくれる先輩で、少し早い時間に上がらせてもらっている。

 

「そういえば、夫さんは?」

 

「一番に行ってしまったわよ。」

 

プロの冒険者さんともなると、朝の大騒ぎの中でするりとクエストを受注していく。私がいっぱいいっぱいな間にもう行ってしまったらしい。日帰りでできるクエストを選ぶところとか、先輩って愛されているなぁ。

 

 

「あの、登録を、できますか?」

 

「は、はい。もちろんです!」

 

珍しい服装の、ちょっと年下の男の子。

上質なジャケットを羽織っているし、貴族の人かもしれない。

 

あのイーシェンの人に、顔が似ている気がする。

 

「では、こちらの用紙に必要事項を!」

 

「……あの、」

 

「なんでございます、でしょう?」

 

「……読めません。」

 

「……はい?」

 

どこの国の人なのだろう。

私が知っている限りでは文字も言葉も同じなはずなんだけど。

 

身分が高そうな人なのに、読み書きができないなんて。

 

「えっと、えっと、……」

 

依頼掲示板も読めないとなると、この先やっていけるのかな。

剣も農具も握ったことのなさそうな綺麗な手だし。

 

まだ若いけど、何か冒険者にならなきゃいけない理由があるのかな。

 

 

ギュルルルル

男の子のお腹の音と、私のお腹の音が重なる。

 

 

あっ、朝ごはん抜いたんだった。

えっ、君って無一文?

 

君の持ち物はこの四角い板、だけ?

 

 

「……ごはん、奢りましょうか?」

 

「……必ず、返します。」

 

この男の子、心配になってきた

 



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